田中くんはけだるげをやめない (早見瞬)
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田中くんの春休み

最近になって田中くんを全巻一気読みしましたが、気になっていた二人の関係が進まなかったので筆(PC?)を取りました。

なるべく田中くんワールドを崩さずに昇華していきたいです。
温かく見守ってくださると幸いです。


 静かな朝。

 さえずりを奏でる小鳥。

 ふわふわと揺れるカーテン。

 外の木から落ちる木漏れ日。

 最高に気持ちの良い布団と毛布。

「……そっか、ここが天国。とうとう俺の人生終わったんだ……」

「終わってないわよ、お兄ちゃん」

「……ああ、莉乃。ここはいい所だよ」

 妹の莉乃の顔がぼんやりと見える。俺とよく似ている。

「死んでもいないのに勧誘しないでよ。ほら、起きてっ」

 今まで俺を満たしてくれていた天国が一変、冷たい場所になってしまった。ここが地獄か。

「ほら、朝ご飯冷めちゃう」

「……莉乃、布団回収はやめて」

「だめ、お兄ちゃん起きないもん」

 目きちんと開くと俺は床に落ちていた。莉乃が布団を引っ張ったせいで落ちたんだろう。

「ホットココア入れてあげるから」

「ん、ありがと」

 妹に手を引かれる兄というのはどうかと思ったけど、気にしてもどうにもならないからいいか。

 

 

「はい、ホットココア」

 テーブルに座ると俺を連れ出した餌のホットココアが置かれる。

「おのれ……次は負けない」

 今は三月の終わり。日差しは温かくても空気は少しひんやりとしている。そんなときにホットココアなんて出されると動かざるを得ない。

「お兄ちゃんもうすぐ二年生でしょ。しっかりしないと」

「莉乃はもうすぐ高校生だけど、昔からしっかりしてるよね。えらいえらい」

「……ふふっ」

 莉乃は昔から俺の面倒をよく見てくれているしっかり者。褒められるのには弱かったりする。

 

 

「四月から高校かぁ。早夜と高校離れちゃった」

「莉乃なら新しい友だちすぐできるよ」

「ちなみに太田さんも急な転校とかないの?」

「八つ当たりしないで」

 太田というのは俺の親友にして嫁(予定)。

「ていうかそれだと早夜ちゃんも遠くに行っちゃうよ?」

 早夜はそいつの妹。二人も親友らしい。

「うっ。それは思いつかなかった」

 抜けている所はやっぱり兄妹なんだと思う。

 

 

 次の日

「おはよ、太田」

「おお、久しぶりだな田中。元気だったか?」

 校門前で大木の様な男と出会う。俺の以下略。

「まあまあ」

「この時期は気候も安定していてとても過ごしやすいが、風邪にかかると治りにくいからな。気をつけるんだぞ」

 太田はいつも俺の事を気にかけてくれる。はやく嫁に来てくれないだろうか。

 校門をくぐったところで予鈴のチャイムが鳴った。

「っ! まずい、急ぐぞ田中!」

 急ぐぞと言いながら、俺はすでに太田の脇に抱えられている。ああ、まじさいこう……。

「……だれもいないね」

「ああ、今日が土曜日や日曜ではないということは確かだが……」

 太田タクシーのおかげで本鈴には間に合ったと思ったけど、いざ教室を開けて見ればそこには生徒の姿はなかった。あるのは綺麗に整えられた机だけ。

 

 

「どういうことだろう?」

「うーむ、これは……あ、そういうことか!」

「なにかわかったの?」

 急に手を打つ友人に驚きながらも聞いてみる。説明してもらおうじゃないか、この難事件の真相を。

「俺たちは今日から二年生になったんだ」

「ああ、そういえばそうだね」

「ということはクラスは変わっているはずなんだ。そして一年は登校日が違うんだ。」

「…………あ」

 そして肝心の二年のクラスでは俺と太田は別々になった。

 

 

 莉乃の八つ当たり恐るべし。

 

 




小説を書くときはずっと詰めて書いていたので空白行の使い方がおかしいかもしれません。
おや? と思ったら是非教えてください。よろしくお願いします。


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田中くんの太田ロス

田中くんの世界観を出そうと、田中くんに寄り添っていると
見事に物語が動かないんです……。
あーだるい。


「あ、おはよう、田中くん。遅かったね?」

「白石さん……おはよ」

 なんとか俺と太田はホームルームが始まる前に新しいクラスへとたどり着けた。

 そこを出迎えてくれたのは白石さん。

 おっとりとして優しい雰囲気でキラキラとしている彼女は学年の人気者だ。

「今ちょっとロミオとジュリエットな気分だから話しかけないで……」

「太田くんは残念だったね……」

 これから一体俺はどうすれば良いのだろうか。

 そもそも太田が今まで全部やってくれていたのが特別だったんだ。

 これからは俺が成長していくしかないんだ。

 ……だるい。

 

 

「ごめん、もう大丈夫。心配してくれてありがと」

 だからって女の子に心配をかけっぱなしてわけにもいかない。

「そ、そんな別にお礼言われるほどの事じゃ!」 

 顔を赤くしてあわあわと両手を振る白石さん。

 栗色の長い髪が揺れて、おっぱいも結構揺れて、男子の競争率はかなり高いそうだ。

「でも私もなるべく田中君のサポートしていくからなにか困った事があったら言ってね!」 

「ありがとう」

 本当にすごく良い子だ。どうして彼氏がいないんだろうか。

 

 

「おーい、田中ー。新学年最初のホームルームで寝られちゃうと先生心折れちゃうぞ~」

「あの、田中くん……さっきまで頑張ろうとしてたんですけど、疲れちゃったみたいで」

「そうかぁ。白石、太田の代りじゃないけど面倒見てやってくれ……」

「はい! 頑張ります!」

 夢うつつに俺の保護者が決まってしまったのは理解できた。迷惑かけないように、しない……と……スヤァ。

 

 

「田中くん。これから体育館で始業式だって、起きて」

「お昼食べないと夕方までもたないよ? 私のおかず少しなら食べられるかな?」

「明日から平常授業だから忘れものしちゃだめだよ?」

 

 

 結果から言うと、助けられまくった。

 白石さんは太田か、もしかするとそれ以上に面倒見が良いかもしれない。ていうかいいよねこれ。

 太田みたいにタクシーできない所以外は……。

 でもさすがに申し訳なさがこみ上げてくる。

「白石さん、いろいろしてくれてありがと。でも前も言ったと思うけど、俺はちょっとほっとかれるぐらいが丁度いいっていうか」

「うん、そうしてあげたいのは山々なんだけど、ほら……」

 ケータイの画面がこちらに向けられる。

 

 

『田中は気を抜くと周りから存在ごと消えてしまうから、済まないが白石。田中の事を見てやってくれ』

 

 

「僕は幽霊か何かなのかな。信じてもらえないと力を失う、みたいな」

「あ、あはは……」

 結局その後も白石さんはなにかと俺の世話を焼いてくれた。

 ほんとに良い子すぎて、俺の情けなさがすごい分かる。

 

 

 

 白石side

(ああ~! まさか太田くんがクラス離れて私が田中くんのお世話をする事になるなんて……。

 どうしよう、ほっといてって言われたのに結構ぐいぐい絡んじゃったな……疲れられたらどうしよう……)

 帰り道、私は好きな人との距離が急激に縮んだことに頭を抱えていた。

「おーっす白石。今帰り?」

「こんな時間までどうしたの~?」

「あ、きっちゃん、みよちゃん」

 背中をポンと叩かれ振り向くと、そこには私の友だちがいた。

 私より少し身長が高くてボーイッシュな吉高こと、きっちゃん。対照的に背が低くて可愛らしい三好こと、みよちゃん。

「うん、委員長の仕事でね……」

「そっか、お疲れさま」

「これあげるよ」

「あ、ありがと」

 みよちゃんからお菓子が手渡される。茶道部のみよちゃんはいつもお菓子を携帯しているのだとか。

 

 

「委員会の仕事ってそんなに大変なの?」

「それは大したことないんだけど」

「ははあん、さては例の恋の悩みですな?」

「う゛」

 なにを話すまでもなく悩みの種が暴かれてしまう。二人には私が恋をしていることはずいぶん前に話しているし、相談にも乗ってもらっている。話す前に悟ってくれると説明が省けて楽な気になる。

「ほほう、人気者白石さんは一体どんな進展を迎えたので?」

「噂のカレ、気になる……!」

「あ、あはは……楽しい話じゃないよ?」

 ニヤニヤしてはいるけど、二人は面白くもなんとも、というかつまらないはずの話をゆっくりと聞いてくれた。

(子どものころから二人と友だちだったら幸せだったろうなぁ)

 

 

 それから解決する訳でもないとりとめのない話を聞いてもらって、解散した。

 家に帰りベットに倒れ込むと、二人の優しさが胸にじんわりとこみ上げてくる。コミュ障で友だちのいなかった中学時代には考えられないことだ。

 もし田中くんと上手くいかなくても二人がいてくれるならなんとかなりそうだ。

 だからといって諦める訳じゃないけど。

「でも私、田中くんとどうなりたいんだろう……」

 

 

 去年の暮れに私は田中くんとの今の関係を大事にしようと決めた。

 でもあのときとはずいぶんと環境が変わってしまった。

「太田くんと田中くんがセットなのが基本だったからなぁ」

 むしろ私が踏みとどまっていた原因は太田君なのでは? おのれ太田……。

 なんて、去年に告白なんかしても絶対に上手くいかなかっただろうけどね、サンキュー太田。

 

 

 今の彼との関係はすごく楽しい。幸せだ。ずっと続いてほしい。

 でもこの千載一遇の機会を逃したくない自分も確かにいる。

 

 

 




誤字脱字、コメントなどお待ちしております


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田中くんの階段

短い小説なので手早く行きたいのですが、動きたくない田中くんとケンカしております。



「お、田中。昨日は俺がいなくても大丈夫だったか?今日からいつも通りの授業だから心配だぞ」

 またしても親友と校門で遭遇する。一年の時はかなり頼り切っていたから相当心配をかけたようだ。

「だ、い、じょ、う、ぶ……」

 その心配は見事に的中。

「全然大丈夫そうに見えないぞ!?」

「昨日……教科書大量に渡されたじゃん……あと体育館に行たりさ……それで筋肉痛……」

新学期ってどうしてあんなに物を渡したがるんだろう。宅配とかで送ってくれたらいいのに。

 

 

「お前の筋肉はそこまで衰えていたのか……なんかすまん」

 どうして太田が謝るんだろう。首をかしげると補足をくれた。

「一年の時にお前を甘やかしたのは俺だからな。少なからずの責任はあるんじゃないかと思ってな」

「それはさすがに考え過ぎだと思う」

「いいや、おれは今日からお前を甘やかさないと決めた!」

 いつになく熱のこもった声だ。確かに、嫁いでくれたら嬉しいけど現実はそうはいかないことは僕でも分かる。

「だからな、田中」

 俺もいい加減太田離れをしないといけないのかもしれない。

「まずは二階の教室まで上がろうな」

 だけどいまこの瞬間、ていうかこの階段は頼りたい。

 

 

「あ、田中くん、太田くん。おはよう」

「ああ、おはよう白石」

「おはよう」

 クラスの前まで来た所で、白石さんと遭遇。

「今日も担がれてるんだね……」

 あはは……と困った様に笑われるのも当然だと思う。

 結局太田離れをする事ができなかった俺は太田の小脇に抱えられてここまで来たのだ。否、連れてきてもらいました。

「……太田、下ろして」

「おお、筋肉痛は大丈夫か?」

「あんまり、かも」

 それでもなぜか抱えられ慣れた太田の脇から降りなおければいけない。そんな気がした。

「これが、太田離れ……?」

「それは良いことだな。できれば階段を上る前に目覚めて欲しかったとは言わないでおこう」

「言ってるじゃん……」

 

 

 そんなやり取りをしいてるうちに予鈴が鳴り始める。

「お、もうこんな時間か。じゃあ白石、あとは頼んだぞ」

「あ、うん! またね!」

「ありがとね、太田」

 二人で太田を見送る。こっちも先生が来る前に教室に入らないといけない。

「……う、うぅ…」

「だ、大丈夫!?」

 なのに筋肉痛で足がなかなか前に進んでくれない。せっかく太田が連れてきてくれたのに遅刻したら台無しじゃん。

 もう担任が見える所に来ている。あー、これは遅刻かもしれない。

「ほ、ほら田中くん! 頑張って!」

 見かねた白石さんが俺の手を引っ張ってくれる。

 どうしたんだろう。痛くて動けなかったのに、急に足が軽くなって代わりに手がものすごく熱くなった。

 他が痛くなったらその部分の痛みは忘れるってやつだろうか? さすが白石さん。

 

 




閲覧ありがとうございました。

誤字脱字あれば教えてください。ではまた。


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田中くんのお昼ご飯

ラブい文章ってすごく難しいですね。

砂糖を吐いてもらえるようになりたいですが、道は険しい……。




「ししょー! 一緒にご飯をたべましょー!」

「あれ、宮野さん。越前さんとは食べないの?」

「えっちゃんは今日お休みなんです……。だから一緒に食べましょー!」

 昼休みになって、一番前の席に座っていた宮野さんが僕の元へとくる。

 宮野さんは俺のけだるさを気に入り勝手に弟子入りしてきた元気な女の子。身長がかなり低いしこの天真爛漫も相成って同級生ということを忘れさせる。

「太田と約束してるから、一緒でいい?」

「もちろんです! 太田君とは一年生のとき以来会っていないなので楽しみです!!」

 この子、全ての言葉に「!」が付いてる……。二年生になっても台風みたいな子だ。ていうか台風そのものかもしれない。

「あ、あともう一人いい?」

「どなたです?」

 よし、いま「!」を回避した。

 

 

「白石さん。一緒にお昼たべない?」

「…………え、ええ!? 田中くん!?」

 数秒遅れて、かなり驚いた反応が返ってくる。そんなに意外だったかな。

「え、えええと、あの! 私でよろしければ!」

「大丈夫? 他の人と約束あるなら」

「全然平気! 行こう!行きましょう!」

 回避したはずの「!」がまたしても登場……。みんな元気いいなあ。

 

 

「おお、白石と宮野も一緒か。なんか今日は珍しいな」

「みんなと一緒にご飯食べたり遊んだりってなかなかないですからね~」

 四人全員が珍しくお弁当を持ってきていたので、集合場所は屋上。一足先に来ていた太田がレジャーシートを広げていた。

「太田くん、いつもこんなの持ち歩いているの?」

「いや、これは知り合いに貸してたのをさっき返されてな。丁度いいから広げたんだ」

「さすが太田くんです! すごいです!」

 

 屋上に吹く春の風がやたらと気持ちいい。日差しは雲の隙間から時々こぼれてくる程度だから暑くも寒くもない。

 

「さすが……俺の好きな気候……わか、って……」

「まあこの気持ちよさは認めるがここに来たのはあくまで飯を食う為だぞ、田中」

 そうは言っても眠いものは眠い。春眠暁を覚えずとはまさにこのこ……ぐぅ。

「た、田中くん起きて。ご飯食べないと午後の授業もたないよ?」

「残念だが、こうなった田中はもう起きないな」

「せっかくみんなでご飯なのに……」

 

 

「そーだ! こんなのはどうですか?」

 みんながコソコソと相談しているのがなんとなくわかる。イタズラの計画でもしているのだろうか、残念。俺はまだ落ちていない。

『えー! そんなのできないよ!』

『大丈夫です! これなら田中くんもイチコロです!』

『確かにあいつはそういうの好きそうだからなぁ』

 聞こえてると知らずに……。まあ宮野さんはともかく白石さんと太田には世話になっているし、ちょっとくらいおもちゃになるくらいいいか。

「ねぇ、田中くん起きて」

 白石さんが眠ってる態の俺にひそりと耳打ちしてくる。

 かなりこそばゆいし、良い匂が風に運ばれてくる。顔が崩れてしまいそうだ。

 

 

「起きないと……えっちなこと、しちゃうよ?」

「っ!?」

「おお~すごいぞ白石。その状態の田中を起こせたやつは初めてだ」

「白石さんすごいです!」

 やんややんやとはやし立てる二人。イラッとするけど、心臓の鼓動が異常なほどに跳ね上がる。

「太田、こういうの、もうやめて……」

 きっと次は心不全で死んでしまう。

 

 

「すまん。つい楽しくなってしまった」

「私もちょっと反省です。まさか白石さんが乗ってくれるなんて思いもしなかったものですから」

「そうだな。白石も変な事をやらせて悪かったな」

「ごめんなさいです……」

 反省する二人。しかし白石さんからの返事がない。

 怒った、とか? いやいや、実行してそれはないか。

「……ほああ! 気絶してます!」

「「なんで」」

 結局俺はお昼を食べれなかった。




えっちゃんはまだ動かせる自信がなかったので風邪を引いていただきました。

閲覧ありがとうございました。次回も読んで頂ければ幸いです。

誤字報告いただきました!ありがとうございます!


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田中くんの放課後

書けば書くほど、田中くんはなにを考えて生きているのか分からなくなります。

だるいからしゃべらないなんて人は存外多いかと思いますが、そういう人ほどいっぱい、色んなことを考えてたりしますよね。すごいです。

僕なんてほとんど一つのことしか考えてないというのに(恥ずかしいので言えません)


 あのあと白石さんの蘇生に成功して普通に授業を受けた。

 俺はいつもどおり放課後まで寝てたのは言うまでもなく。

「田中くん、お昼起こしてくれてありがとう」

「きにしないで、俺いつも助けてもらってるし」

 わざわざ俺の席までお礼を言いに来た白石さん。顔色は悪くないし声音も明るい、大丈夫なようだ。

 

「そ、そう。筋肉痛はもう大丈夫?」

「だいぶなれたよ。白石さんも気絶なんかしちゃったけど本当に大丈夫なの?」

 いくら大丈夫そうに見えても俺みたいに普段から眠気を抱えているならともかく、急に意識を失うってなんか怖い。

「だ、だいじょうぶ! 元気だから!」

「そっか……。ねえ白石さん」

「なに?」

「帰らないの?」

 白石さんは俺の隣にいるわけだけど、今は放課後。友だちじゃないとかそんなことは言わないけど、白石さんとは放課後ずっとおしゃべりをするような仲でもない。……たまにマックに行くから仲はわるくない、はず。

 

 

「うん、でも」

 この状況に彼女も違和感はあるようだ。なにか理由があるんだろうか。

「田中くん、いつこっちを向いてくれるかなって」

「……」

 気づかずに去ってくれればいいものを。と内心毒づく。

 俺は白石さんが話しかけてきてから一度も彼女の方をみていない。それが失礼とは分かっているのだけれど、こっちにだって事情がある。

「もしかして、昼間の……?」

 

『えっちなこと、しちゃうよ?』 

 

あのおかしなセリフが頭に残って、変に意識してしまう。ていうかなんで白石さんの方が平気そうなの……。

 

 

 そして悶々とした事情を抱える俺と目を合わせる事を諦めたくない白石さんは一緒に帰ることになった。

 太田は特売とかで先に帰ってしまったらしく、やむなく二人となった。おのれ太田……。

「……」

「……」

 校舎を出てからお互いずっと無言。俺としてはありがたいけど、いつも明るい人が黙ってしまうとそれはそれでやりにくい。ていうか申し訳ない。

「そういえば、白石さんも家こっちなんだね?」

「う、うん。さっき地図アプリ見たらけっこう近所だったよ」

「そか」

 質問はできても俺に気の利いたレスポンスとかは期待しないでほしい。

 なので頑張って口を開こうとすると余計な事をしゃべったりする。

 

 

「昼間に俺が起きなかったらなにしてたの?」

「ふぁ!?」

 聞きたい気持ちは正直あった。俺だって思春期の男子。

 だからっていま聞くことでは絶対ないよね……。

「ごめん、忘れてください。ほんとにごめんなさい」

 なにやってんだ俺……。普段性欲とか睡眠欲で滅多に顔を出さないくせに、こういう時に限って……。

「たっ! ……田中くんはどんなことされたい?」

「セクハラの処罰方法? できたら警察はやめてほしいかな」

「ち、ちがうよ! そ、その昼間の、ほう……」

 真っ赤になる彼女の頬はきっと夕焼けのせいじゃない。こんな時まで恥ずかしさを我慢して俺に気をつかって話しを合わせてくれるなんて、本当にすごい人だ。

 

 

「男なら、白石さんみたいな……かゎ……良い子にされるんだったらなんでも嬉しいよ」

 セクハラせずに、でも相手も傷つけることもなく、俺にしては珍しく気を使えたと思う。少し危なかったけど。

「じゃあ、俺こっちだから。また明日ね白石さん」

 早口に別れを告げて、その場を離れる。

 俺にしては珍しく、早足で。なんだかあの空気だと俺はおかしくなる一方だった……。

 本当にどうしたんだろうか。睡眠が足りてないのかもしれない、帰ったらゆっくり寝よう。

 少し走ったところで一つ思い出す。そういえば……。

「普通に、顔見れたな」

 羞恥が羞恥で上書きされたのかな?

 

 

 




閲覧ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


少し地の文を編集しました。


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閑話 みゃーのとえっちゃん

今回は宮野と越前のスピンオフです。
三人称の書き方に挑戦してみました。

二人とも行動が常識的ではないので扱いに手こずりました。


「みゃーのーーー!」

「えっちゃーーん!」

 

 校庭で感動的なBGMが流れそうなほどに、二人の少女が涙を流し、互いに抱き合う。

えっちゃんこと越前とみゃーのこと宮野は、越前の風邪の欠席と次いで土日を挟む事で三日という彼女達に取って長い別れを強いられていた。

 そして月曜日。二人は待ち望んだ邂逅を果たした。

 

 

「えっちゃん、もう身体はいいの?」

「ああ、バッチリだぜ!」

 腕を上げて二の腕を軽く叩く仕草はどうしたって男にしか見えないが、そんな彼女のかっこいいとも言える仕草は宮野のお気に入りだった。

「ほんとうにほんとうにほんと? 実はおっきな病気隠してたりしない? えっちゃんがいなくなったら……わ、わたし……っ!」

「わ、わー!? なくなみゃーのー! 元気だから、私元気だから!」

 心配かけてごめんなー! と声を上げ、背中を撫で頭を撫で、ひたすらに撫でる。

 

 

「ていうかそんなんでよく私がいない間平気だったな?」

 こんな宮野を見ていると、自分がいなかった時のことが気になって仕方がない。もしや今みたいに授業中に泣き出したりしていないだろうか……。

「う、うん。えっちゃんがいない間は心配かけちゃいけないと思って電話とかも我慢してたんだ……えへへ」

「みゃーの……」

 はにかむ笑う彼女に胸が熱くなるのを感じる。

 なんて健気なんだみゃーのっ。

「それに」

「ん?」

「太田くんとか田中くんが一緒にいてくれたからけっこう平気だったの!」

「……」

 胃が、痛くなった。

 

 

「えっちゃーーん!? 急にどうしたの!?」

「かまうな、みゃーの!」

 あたしはあいつらに言わなきゃいけないことがある! 

 走り去る越前を必死に追いかける宮野だが、彼女の歩幅は小さく全力で走って追いつけない。

 とうとう越前が角を曲がったところで姿を見失ってしまった。

「えっちゃん……どうして……」

 さっきまであんなに仲良く抱き合っていたのに。自分にいけないところがあったのだろうか。お見舞いのメールくらいはするべきだったのだろうか。もしや、ノってくれていただけで実は……ウザがられていたのだろうか……。

「ふえっ……えぐっ」

 考えると、思い当たる節が多すぎる。涙があふれて、止まらない。

「ひょっとして……こんなだから……?」

 もともと、彼女の隣に自分のようなちんちくりんが似合うとは思っていなかった。田中のところに弟子入りしたのも大人の空気を得て、越前と並ぶため。

 でも最近、そっちの成果は乏しい。そんな情けないやつに嫌気が差してしまったのか。だとすると、自分が捨てられるのも当然……そう、当然……。 

 大人はこういう所で納得しないといけないんだ……。

「で、でも……むりっ、だよおーーーー! えっちゃーーん!!!」

 

 

「宮野さん、どうしたの?」

「なにかあったかのか!?」

「し、ししょー、大田くん……」

 泣き喚く宮野の後に現れたのは、長身の太田とけだるい師匠の田中だった。

「ううっ……ふ、ぐっ……」

 感情表現が豊かだと自負はしているが、それでも泣き顔は見られたくなくて我慢する。

 しかしとっさに隠せるわけもなく、余計に痛々しい印象を与えてしまう。

「えっと、とりあえず泣き止んで宮野さん」

「ほ、ほら。お前の好きなイチゴ牛乳だ。まだ口をつけてないから宮野にあげよう」

 

 

「ぐすっ。イチゴ、ぎゅーにゅー……」

 大人を目指すために何度も何度も決別しては再び手を取り合った我が癒やし。でもその癒やしの成分には子どもっぽさがある。麻薬の様なもの……。私からえっちゃんを、大人らしいを奪う麻薬……。

 でも、飲みたい……どっちにしろえっちゃんはもう帰ってこない、私はもう捨てられてしまったんだ……。

 捨てられたんだ……。

「うわあああああん!」

 涙腺が崩壊してしまう。それは校内全てに響くのではないかという大きな声で。

 それはたやすく彼女の耳に届いた。

 

 

「どうしたみゃーーーのーーーー!」

 集まってきた野次馬をはねのけてくるのは、もちろん越前だった。

「え……ちゃ、ん?」

「どうしたんだみゃーのお前が泣くなんて! 誰かにいじめられたのかそうなんだな誰だそいつは言ってみろ私がぶっ殺してやる!」

 周囲を見渡す越前がすぐ側にいた太田と田中を見つけるのに時間がかかるわけもなく、標的は定まる。

「おまえらかあああああ!」

「ご、誤解だ越前!」

「問答無用! みゃーのを傷つける奴は許さん!」

 

 

 騒ぎが大きくなるに反して宮野は静かだった。

 落ち着いた訳でもなく、悟ったわけでもんなくーー。

(なんでえっちゃんが手当たり次第に暴力を振るっているの……?)

 ただ、混乱していた。

「お、落ち着いてえっちゃん! いったいなにがあったの!?」

「これが落ち着いていられるか! あたしは世界を滅ぼすんだ!」 

 親友が、自分を捨てたと思ったら魔王みたいなことを言い出した。なんかラノベみたいです!

 そして越前は大乱闘を繰り広げ、一週間の停学処分を受けた。

(休んですぐ停学なんて、おふくろになんて言おう……)

 べつに進学するつもりはないから卒業さえできればいいか。

 

 

「ごめんな、みゃーの。あたしが暴れたばっかりに説教されちゃって……」

 越前は宮野の前から消えたきとき、逃げたのではなくて太田と田中に礼を言いに行ったのだ、自分の親友を見ていてくれてありがとうと。それが帰ってきたら宮野が泣いていたので処理できず暴走したのだった。

 ちなみに説教後に本人らにそれを伝えると、まだ風邪を引いているんじゃないかと心配された。むかついたのでもう一発殴っておいた。

「えっちゃん、私たちずっと友だちだよね……?」

 おずおずと訪ねる親友に越前は胸がぐっと締め付けられるような感覚に襲われる。

「当たり前だぜみゃーの、こんな親友他にいねえよ! あ、なんなら結婚するか!?」

「……え、あ、あのー私は普通に男の子が……」

 まずい、ノリで変な事をくちばしってしまった。この子は変に真面目であまり冗談が通じない。

 スス……とゆっくり距離を取っていく宮野。

「まってくれみゃーの! じ、冗談、冗談だからぁ!」

 言っている間に宮野は背を向けて走りだしていた。

 それは走るというよりはスキップに近いものだった。

「そういやみゃーの。明日からまた休んじゃうけど大丈夫か?」

 本日二度目の絶叫と号泣を流す宮野は毎日家に遊びにくる事でなんとか落ち着いたのだった。

 

 




今回は読みづらかったと思います。閲覧ありがとうございました。


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田中くんの修学旅行先

今回は少し文量多いです。

加藤と志村が登場しますが、とくに加藤は文章にしにくい特徴の無さ(見た目)
二人は基本セットという印象なので描写が難しかった。毎回難い言ってる気が……気のせいだよねうん。


「なあ田中、お前はどこがいいと思うよ? 俺はハワイがいいな」

「バカかよお前。京都しかないだろ」

 俺の席の前から話かけてくる男子二人。志村と加藤。

 バカと言われた方が加藤で、バカと言ったほうが志村。

 加藤はかなりバカだけど良いやつで、志村はチャラいしメガだし茶髪だけどまあ良いやつだ。たまにうざいけど。

「……なんの話?」

 そもそもなにがバカなのだろう。

「修学旅行だよ修学旅行! もうすぐだろ?」

「え、はやくない? まだ二年生始まったばかりだけど……」

 こういうのって夏休み明けとかじゃなかったけ。

「二年生の始まりの暇な時期に、ってのがウチの校風みたいだぜ」

 

 

 どうやら午後の授業を使って行き先を決めるらしい。

 なんでもクラスごとに行く場所が違う方が当日先生が楽なのだとか。っておい。

 班を決めるならまだしも行き先が生徒任せってどうなんだろう。

「志村、昨日から楽しみ楽しみってうるさくってさ。夜中まで電話で寝かしてくんねーの」

「高二の修学旅行だぞ!? いつカワイ子ちゃんと何があるかわかんねーじゃねえか!」

「「ないない」」

「かーっ。冷めてるな~お前ら」

 冷めてるというか志村が熱すぎというか。女の子も逃げるだろうけどめんどくさいから言わない。

 

 

「彼女とかよくわかんないしな。付き合ってもデートとかめんどくさそう」

「俺も。気が合うね加藤」

「まったく盛り上がらねえなあ。まあいいや、田中は行きたいところとかねーの?」

 行きたいところか。まあせっかくの修学旅行だし少し考えてみよう。

 ハワイ……飛行機乗るのめんどくさそう、あとパスポートとかも。空港の人ににらまれるの怖いし。

 京都は、昔家族で行ったけど人混みに流されて迷子になった挙げ句、妹にめちゃくちゃ泣かれた。

 あのときの罪悪感は今でも忘れられない。

 だまっていると加藤が心配そうに訪ねてくる。

「まさか行きたくないとか言わないよな?」

 俺だってそこまでだらけるつもりはない。

「とりあえず移動がめんどくさそうだから、寝てる間に付く場所で」

「「行きたくないって事だろそれ」」

 

 

「ハワイは良いぞ田中! 日本人観光が多いから地元の人も日本語話せるってのに場所は海外! ブロンド美人がたどたどしい日本語と上目遣いで話しかけてくるんだよ。「イマ、コイビトハ、イマスカ……? ってな! うひょおおおおおお! 最高じゃねえか!」

「あ、田中。シャーペンの芯切れたから分けてくれよ」

「いいよ。HBだけど大丈夫?」

「よゆーよゆー」

「聞けよお前ら!」

 今日の志村はウザい日だ。

 

 

 そしてHR

「では指定された場所の希望を紙に書いてください」

 俺たちが話していたように完全に選択権はあるわけもなく、最初からいくつかの候補があげれていて、そこから選ぶ方式だった。

 ちなみに候補は三つ。沖縄、京都、北海道だ。ハワイはない。

 一番前の席でさめざめと泣いている志村が少しかわいそうな気がしなくもない。

 

 

 壇上に立つ白石さんがみんなに希望用紙を配り説明をする。学級委員の仕事なのかなこれ、先生は横で船漕いでるし……大丈夫なんだろうかこの学校。

 みんな悩みながらも書き終えて、それぞれ提出にいく。おれもいかないと。

「よろしく白石さん」

「あ、ありがとう田中くん……あの、田中くん?」

「なに?」

 紙を渡し終えたら後は自由時間も同然。だからはやく寝たい。

「……太田くんの家は無理だと思うよ」

「……マジ?」

 太田がいてくれたらご飯は出てくるし、片付けもしてくれるし、いろんな場所に運んでくれる、いいこと尽くしなのに。

 

 

 いや、条件だけなら莉乃がいるじゃん。どこにでもは連れて行ってはくれないけど、それ以外は太田と良い勝負だ。

「じゃあ俺の家で」

「そうじゃなくてっ。田中くんは修学旅行、行きたくないの?」

 寂しそうに言われると、なんかすっごい申し訳ない気分になる。

「乗り気ではないかも。太田タクシーも使えそうにないし」

 俺が修学旅行を楽しみにできない理由、それは太田ロス。あいつがいなければきっと俺はまた迷子確定だろうし、いろんな人に迷惑をかける。

 きっと行きたくないというより不安なのだろう。

「わ、私が付いてるから大丈夫だよ!」

 一際響く白石さんの声。

 驚いたクラスの視線が一気に集まる。

 

 

「お、太田くんほどには頼りないけど、田中くんもちゃんと楽しめる様に頑張るからっ。ずっと、ずっとずっと田中くんのそばにいるから!」 

 少し息を切らせて言う白石さんの目には少し涙が溜まっていた。

 そんなに楽しみで、面倒見るとか言われて断るとかはちょっとできそうにない。ていうか視線が痛い。

「わかった。俺も迷惑かけない様にするから。ごめんね、変な駄々こねて」

「あ、ううん! 私の方こそ押しつけがましくてごめんなさい」

「そんなことないから。あ、白石さんはどこに行きたいの?」

「私は北海道が良いなって思ってるけど」

「どうして?」

 北海道の楽しみといえば雪だけど、いくら北海道でもこの季節に雪は降っていないだろう。

 

 

「あのね、春の北海道って涼しくて過ごしやすいんだ。みんな京都とか沖縄とか派手なところが良いって思うだろうけど、そういうのんびりしたのも良いかなって」

「そっか。じゃあはいこれ」

 返された用紙をさっと書き直してまた白石さんに渡す。

「えっ。これって」

「うん、白石さんがそんなに行きたいならそれが一番かなって」

「い、いちばんって……」

 何で顔が赤くなっているのだろうか。たまにこの子の事が分からなくなる。

 

 

『二ー三組、北海道が良い奴は挙手!!』

『はい!』

 

 

 俺たちのやり取りを聞いていた号令をかけた志村をはじめとするクラス全員が、綺麗な挙手をしていた。

「え、え? みんないいの?」

 困惑する彼女に怒濤の拍手。人望ってすごいや。

「よかったね」

「うん、ありがと田中くん」

 手元にあったノートで顔を隠してお礼を言う彼女はとても可愛らしかった。

 

 




ダラダラした文章でしたが、読んで頂きありがとうございました。

そういえばふと小説情報を覗いたら投票してくれている方がいるではありませんか。それも高得点!

とても励みになります。その評価と期待を裏切らないように頑張っていきます。



誤字脱字あれば報告よろしくお願いします。


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白石さんの暴走

脱毛の広告ってウザいですよね。とくに動画のほう。


白石さんって中学までは地味で目立たないって設定でしたが、わりとテンション高めですよね。
動かない主人公より動かしやすくて楽しいです。


 白石家

 

 放課後、私は先日みたいに田中くんを待つことはなく、足早に家に帰った。

 太田くんがいたから一緒に帰る口実を見つけることができなかったていうこともあるけど。

 どっちにしろ今日は早く帰りたくて仕方なかった。勢いよく玄関を開けて自室に逃げ込む。

 ベッドに身を投げてようやく言える。

「私のばかやろーーー!! なに!? あの演説! キモいにもほどがあるよ、ばっかじゃないのばっかじゃないの! ていうかばーーーーーーかっ!」

 

 

 田中くんには呆れられて同情票入れられるし、みんなからは生暖かい拍手が送られるし……。

「完全に痛い子じゃん……」

 ずっと一緒にいるとかとくにやばい、あたしゃストーカーかよ。

 ーーやっぱり謝っとくべきかなぁ。

『田中くん、さっきは変なこと言ってごめんなさい』

 メールを打って、気づく。これがそもそも変なことなんじゃい?

 やっぱりやめとこう。うん、気にしてないのを装うのが一番だよ。

「じゃあこのメールも削除してっと」

 指が画面に触れようとしたときだった。

 

 

「ちょっとーさっきからなに騒いでるの?」

「うひゃあ!?」

 急に部屋のドアが開かれてびっくりする。

「もー。ノックくらいしてよお母さん」

「ごめんごめん。彼氏とメール中だったか」

「そ、そんなんじゃないから!」

 お母さんはすこしずぼらな人だけど、さっぱりした性格が私はけっこう好きだ。ときどきうざったいのはどこの家も同じだと思う。

「買い物行ってくるから留守番よろしく」

「うん、行ってらっしゃい」

 ドアが閉まりメールの途中であった事を思い出す。

「……今だけは嫌いになっていいかな、お母さん」

 

 

 再び見たスマホの画面にはメッセージがしっかりと送信され、既読マークがこれでもかという証拠を提示していた。

 

 

 それから夜になるまで田中くんからの返事はなかった。

 やっちまったよ私……。なにがこのままの関係でいいだよ、自分からたたき壊してるじゃん。

「あー、消えたい」

 もう何回この言葉をつぶやいただろうか。相も変わらずスマホの着信音が鳴ることもなく……

 

 

 ピロン

 

 

「うぎゃあ!」

 鳴ったーー! どうしよ怖くて見れない! 見たくないどうしよう!

 でも見ない訳にはいかない。内容がアレ、だったら死のう。

 バッと勢いを付けてスマホを開いてメッセージアプリを開く。そこには

 

『これでアナタもモテモテ! 脱毛半額キャンペーン!』

 

「死ねえ!!」

 スマホがベッドの上で大きく跳ねる。タイミングが悪いにもほどがある。

「なにやってんだろ私……」

 数時間も同じこと考えてたらそりゃ疲れるよね。

 

 

 ピロンッ

 

 

「もー、今度はなんのキャンペーンよ……」

 スマホを拾い、ポチポチと画面をいじる。

「どうせ誰も見ていないんだし」

 公式アカウントには返信はできても相手がそれを見ることはないのだそう。

 私のストレス発散のはけ口になってもらおう。そんな邪な考えで画面を叩き、思いっきり送信ボタンをタップ!

 文面はこんな感じになった。

『うるっせえよ! ばかやろーーー!!』

 はっはっは。我ながらキャラじゃなさ過ぎて笑える一文だ。

 少しすっきりした。今夜は良く眠れそうな気がする。

 

 

 ピロンッ! ピロンッ! ピロンッ!

 

 

「こ、今度はなに!?」

 もしや企業のアカウントでも見ている人はいたの!? そして怒ったとか!? 

 とにかく内容を確認しなきゃ。田中くんのときとは違う怖さで指が震える。

 な、なんか損害賠償とか名誉毀損とか言われたらどうしよう……。

 ああ、神さまっ。数秒前の私の行動をなかった事にしてください。

 おそるおそる開いた画面にはこう記されていた。

 

 

『白石さんどうしたの?』

『おれ、なんかひどいことしたかな』

『もしかして乗っ取り?』

『大丈夫?』

 

 

 返信は全部田中くんから来ていた。今も心配のメッセージがスマホを震わせる。私も震える。

 あ、あはははは。私は信じない、信じないぞ。そんな事があってたまるもんですか。

 画面を下に軽くスクロール。過去の内容がすぐに表示される。

 

 

『田中くん、さっきは変なこと言ってごめんなさい』

 

『なんのこと?』

 

『うるっせえよ! ばかやろーーー!!』

 

 それ以降は何回見直しても文面が変わることはない。

 

 …………………………………………。うん、死のう♪




閲覧ありがとうございました。
感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。



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田中くんの恐怖

前回投稿する前よりお気に入り登録も増えて評価も頂き、びっくりしております。白石さんパワーでしょうか?


田中くんの一人称は『俺』ですが、性格としゃべり方からして『僕』の方が合ってるとおもうんですよね。執筆の最中に僕とする事が多々ありま……。


「俺は今日死ぬかもしれない」

「なんだ!? まさか不治の病にでもなったのか!?」

 学校に向かう途中、曲がり角で偶然会った太田に昨日の話を聞いてもらうことにした。ていうか不治の病って。

「実は白石さんを怒らせちゃったみたいでさ」

「それとお前の死がどう関係するんだ? ていうかあいつが怒るところなんて想像つかないんだが」

「俺もびっくりした。昨日の夜にこんなメッセージが送られてきてさ」

 スマホを開き、内容を太田に見せる。人とのやり取りを見せるのはマナー違反かもしれないけど、今は緊急事態だから仕方ない。

 

 

「田中……しっかりと謝るんだ。白石だってもしかしたら機嫌が悪かっただけかもしれない、俺も一緒に謝ってやるから」

 さすが太田。持つべきは嫁だね。

「しかしこの文面では怒っているのは確かだが、なにに怒っているのかは分からないな。その後に返信はないし」

「だよね……。自分で考えろって事なのかも」

 とくに思い当たる節がないってのがまた怖い。もしも無意識のところで怒らせてしまったのなら自ら気づくことは難しい。

「たしかにそうだな。怒ってる内容を自分から言いたくなんてないし、ましてや向こうは察してほしい女の子ってやつだ」

 話しているうちに学校が見えてきた。

 彼女に会って一体なにを話せば良いのだろうか。考えただけでお腹が苦しくなってくる。

 

 

「…………あ」

「どうした! 心当たりあるのか!?」

 なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。俺って本当に、ばか。

「休んじゃえばいいじゃん。そうすれば色んな問題は解決して俺は寝るだけでいい」

 なんという妙案。いや当たり前の選択肢だけど近すぎるために気づけなかった。灯台もと暗しってやつだ。

「明日はやその次はどうするんだ? 言っておくが引きこもりなんて友人としてさせないからな」

「……」

「空を見上げても同じだぞ。ほら、真面目な白石ならもう来ている頃だろう。一緒に行ってやるから」

 次の策を弄する前に小脇に抱えられてしまう。これで退路は完全に断たれてしまった。ぐっばい、俺の人生。

 

 

「ふむ、白石はいないようだな……まだ来ていないのか?」

「なんか、すごい緊張するんだけど」

 もちろん俺だって本気で死が待っているとは思っていない。けど昨晩の彼女の様子は明らかにおかしかった。これからなにが起こってもおかしくない。

「あー! なにしてるんですかー!?」

「「っ!?」」

 急に呼びかかった声にびくりと背中が跳ね上がる。おそるおそる振り返るとそこには宮野さんがいた。

 一瞬だれもいないかと思ったがギリギリ視界の端に頭が見えた。ふう、俺じゃなきゃ見逃してたな。

「どーしたんですか? そんなにびっくりして」

「い、いやなんでもないんだ宮野……」

 胸を握り絞めて膝を震わせる太田。そういえばホラーとか苦手だっけ。

「宮野さん、白石さん見なかった?」

「自分からいくのか! 成長したな田中!」

 さっきのびっくりを一度死んだものとしてカウントしたらかなり気が楽になった。もう一回死ぬのも同じだ。やだやっぱり死にたくない。

 

 

 結局、宮野さんも白石さんを見ていなかった。白石さんは学級委員の仕事のために少しはやく登校している事が多かった。

 そんな彼女を今日はだれも見ていないという。

「癒やしが……俺の癒やしが……」

「あの笑顔のために毎日早起きしてるのに」

 クラスでは白石ロスが起き始めていた。主に男子で。

 

 

 まさか、怒った勢いでグレてしまったのだろうか。そうなると俺が原因だということがバレてしまったらクラスからどんな攻撃を受けるか分かったもんじゃない。今のうちに遺書を用意しておこうかな。

「お前ら、席に着けー」

 とうとう彼女が来ないまま、HRが始まる。

「気づいているとは思うが、実は今日は───」

 担任が教壇に手をつき、うなだれるように全員に告げる。

「白石は熱で休みだ……」

 告げられた瞬間、クラスの温度が五度ほどさがったのが分かる。みんなどんだけ白石さん好きなんだよ。

「あいつがいなきゃ、誰が私の代わりにHRしてくれるんだよぉ……」

 お前もか。

 ていうか風邪だったんだ、白石さん。なら昨日のメッセージはなにかの間違いの可能性があるし、返信がこないのも熱でそれどころじゃないのかもしれない。

 ていうか昨日不安になりすぎてほとんど眠れなかったんだ……ねむ……。 

 




応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。
これからも精進していきたいと思います。



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田中くんの爆睡

しんどくて家に帰ったら次の日の夜まで寝ていた。あのときの虚無感を表現できる語彙力がほしいです。


うっかり描写を忘れていたのですが、クラスの担任は女性です。オリキャラになります。
原作通りのおじいちゃん先生と読んでいた方はごめんなさい。


「田中ー。ちゃんと帰れよ~」

「太田タクシー呼んどいたからな~」

 意識の遠くでなんか呼ばれた気がする。

 ゆっくり目を開けると、窓からオレンジ色の光が教室を包み込んでいた。

「夕方……?」

 周囲を見ても他の生徒の姿はなく、どう考えても今は放課後だった。

 まじか、朝から今までずっと寝てたのか……。寝ることは大好きだけど、普段はしないほど長時間熟睡してしまった時はなぜだか罪悪感がある。

 

 

「起きてたのか、志村と加藤から起きないと聞いて心配になったぞ」

 教室の入り口から太田が入ってくる。やっぱり一日寝ていたのか……。

「昨日寝付けなかったから、たぶんそれだとおもう」

 ぐっと伸びをすると背中がボキボキなる。これかなり気持ちいい。

「それに白石も来なかったみたいだし、だれもお前を起こせなかったんだろう」

「そうだね、俺は思い知ったよ。俺はどうしたって他の人の世話にならないと生きていけないんだから、感謝の気持ちを忘れちゃいけなかったんだよ。そりゃ白石さんも怒っちゃうよ」

「……間違ってはいないが、それが原因じゃないと思うぞ」

だよね。

 

 

 

「なんだ。太田に田中、まだ残っていたのか」

「すいません、もう帰ります」

 だるそうに教室に入ってきたのは担任の教師だった。女性にしては背が高く、長い髪をバレッタでまとめている美人さんで見かけは大きな会社の秘書とかでも通じそうなのに、男らしい口調で二年の間ではちょっとした有名人だけど、有名なのは口調だけじゃない。

 HRで生徒に修学旅行決めを仕切らせて自分は寝るという豪胆っぷり。『わがまま姉さん』というのが裏のあだ名である。

 そして注意だけして帰るのかと思いきや、そのまま俺たちの方へと寄ってくる。

「なにか用ですか?」

「ああ、実は先生このあと昔の友だちと一緒に居酒屋に出張に行かなくちゃならなくてな。だれか代わりに白石の家にプリント持って行ってくれないかなぁって思って」

「いくらなんでもおかしいと思います、先生」

「俺でもそれはなめてるって分かる」

 気持ちはすごい分かるけど。

 白石さんに学校行事やらせるしプリント持っていくのめんどくさがるし、もしかして白石さんが体調崩したのってこの人のせいじゃないだろうか。それだと世話してもらってる俺も入ってるか。

 

 

「まあそう言うなって。先生だってこれでも苦労しているんだぞ?」

 どうして苦労の話になった。

「例えばだれかさんが丸一日寝ていたせいで、教頭に怒られたりな?」

「田中。今だけは目を背けるな。お前のけだるげが周りにどういう迷惑をかけるのか知る良い機会だ」

 耳を塞ごうとした手が後ろに回される。

「さらに各担当教科の先生達からも、起きないから注意のしようがないって私に注意するんだよ。六限あったから六人だぞ? よってたかって罪のない女性をリンチだぞ? あっはっはっは……これ、おかしいよなぁ?」

 ガシッ! と目を逸らす前に頭がわしづかみにされる。めっちゃ痛い。

「おおた……たすけ、て」

 ギリギリと頭が軋む音がする。このままだと輪ゴムいっぱい付けたスイカみたいなことになりそう。

「うーん。ここは普段の行いを正してやるべきかどうか」

「いいから助けて」

 太田は意外と優柔不断だった。

 

 




閲覧ありがとうございました。


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田中くんの推理ミス

お久しぶりです。なんやかんややっていたら一ヶ月も空いてしまいました。だれだよすぐに終わらせるって言ったの。


今回はキレが悪かったので二話連続更新です。僕の筆の弱さがよく分かる回です。


「で、来てしまったわけだが」

「そうだね。どうしようか」

 俺たちは担任の脅迫、もといお願いにより教えられた白石さんの家まで来ていた。そして立ち尽くしていた。

「どうしたもんかなぁ」

「こういうのって太田慣れてるんじゃないの? 女の子の友だち多そうだし」

「いやいや、話す間柄は多いが家まで行くような仲は流石に越前くらいなもんだ。しかも中学の頃までだ」

 理由はいたって単純。二人とも女子の家のインターホンを鳴らすという、男子にとってはかなり勇気が求められる状況だからだ。

 

 

「しかし頼まれたのはお前なんだしここは責任を発揮するところじゃないか?」

「なに言ってんのさ。俺に責任感なんてあるわけないじゃん。それに太田の方が多少なり慣れはあるんだからここは太田の方が……!」 

 二人して押し付け合いをしてかれこれ何分経過しただろう。

「仕方ない、このままでは埒があかない。あまり時間をかけすぎて夕飯の準備の時間に割り込んだら申し訳ないしない」

「そうだね。じゃあじゃんけんでいこうか」

 太田の気づかい所が白石さんではなく、母親だということは置いといて。

「じゃあいくぞ」

「「じゃーんけーん」」

 

「あら、お客さま?」

 

 雌雄を決する戦いに声が割り込む。二人で声の方向をみると、そこには一人の女性が立っていた。

「えっと……?」

「その制服うちの子と同じ高校よね? うちになにか用なのかしら?」

「あ、はいそうです。大田と言います。こっちは田中。白石さんの友だちで今日はプリントを届けに来ました」

 やっぱり白石さんのお母さんだった。ゆるっとふわっとした雰囲気がどことなく彼女を彷彿とさせる。

 ていうかやっぱり慣れてるじゃん。

 

 

「わざわざありがとう。そうだ、せっかくだから上がっていって」

 優しくお茶を勧めてくれる白石ママ。

 けど白石さんは風邪を引いているわけだし、そこに上がり込むというのはさすがに気が引ける。決して白石さんに会う覚悟ができていないとかそんなんじゃない。

 大田も同じことを考えていたのかパチリと目が合う。

「せっかくですが、白石さんも病気ですし……」

「ちなみに昨日作ったケーキがたくさんあるのだけれど」

「おじゃまします!」

「太田……」

 お菓子を出されたらこいつはもうだめだ。

 

 

「おじゃまします」

「はい、どうぞ」

「た、田中くん!?太田くん!?」

「あ、白石さん。おじゃまします」

 靴を脱いだところで、2階から降りてきた白石さんと出くわす。

 ゆったりとしたパジャマを着る彼女はいつもとちがう華やかさと柔らかい雰囲気が溢れていた。

「あなたのために来てくれたのよ」

「へ!?」

 なんか致命的に言葉が足りてない気がする。

 ていうかもしかしてあまり怒ってない? いや油断するな、俺はこいうところでハズレを引くタイプだ。

「あの、俺たちプリントを届けに来ただけなんですけど」

「ていうか私寝間着! 着替えてくる!」

 要件を聞かずに二階へパタパタと上がっていく白石さん。

「そそっかしい子ね。じゃあリビングに行きましょ」

 

 

「あ、トイレ借りてもいいですか?」

 プリントを渡してそのまま帰るつもりだったから、我慢していたのをすっかり忘れていた。少し恥ずかしさはあるけど、ここでやらかすのは人として死ねる。

「いいわよ。一階のは壊れているから、二階のを使ってね。場所も見れば分かると思うわ」

「ついでに白石にプリントを渡してきたらどうだ? ここまできて渡すのを忘れたなんてあったら俺たちはケーキ食べただけになってしまう」

「それもそうだね。じゃあすいません、ちょっと行ってきます」

 

 

「ふう、すっきり」

 二階に上がるとすぐにトイレの場所はすぐ見つかり、惨事に至ることはなかった。至ったら死ぬ。

「白石さんの部屋は、ここかな」

 ドアに飾られたプレートは名前はないけど、とても可愛らしくていかにも白石さんって感じだ。そのとなりにはなんの変哲もないドアが一つ。きっとお父さんかお母さんの部屋なのだろう。あるいは両方か。

「白石さん、田中だけど今大丈夫?」

『田中くん!? ちょ、ちょっとまってね!』

 あまりドアの近くに立ってると危ないのですこし離れていよう。となりのドアくらいまで下がれば十分だろう。

「お、おまたせ!」

「っ!?」

 勢いよくドアが開いた。俺の後ろから。

 

 

「ほ、ほんとにごめんね! 大丈夫?」

「いや、あんなところに立ってた俺が悪いから……」

 彼女の部屋にあげてもらい応急処置を受ける。ドアがぶつかった後頭部と、こけた拍子にぶつけたおでこの二カ所だ。

「お母さん、けっこうメルヘンな趣味なんだね」

「なんか、かわいいものならなんでもって感じなの。ごめんね、誤解させちゃって」

「もういいよ。それより白石さん、風邪はいいの?」

 彼女からは病気という印象を受けなかった。

「へあ!? う、うん!一日寝たら良くなっちゃった!」

 この焦りよう。やっぱりそうなのか。

「まあ俺も莉乃がいなきゃ毎日やるだろうしなぁ」

「? なんのこと?」

「ううん、きにしないで」

 日頃頑張ってるんだからたまにはしても良いと思う。ずる休み。

 




もう新キャラは出さないつもりでしたが、白石ママは都合上仕方なかったんです……。


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田中くんの怒り

ミスを指摘されて、羞恥から怒りがカ~ッと上がってくるあれ。熟語めいたものはないのでしょうか……

初めて僕の書く田中くんが感情らしい感情を出してくれました。未だに使いこなせていませんが、少しは本物に近づけてあげれたのかなと思いたいです。


 会話が途切れると、少し居心地の悪い空気になる。

 もう会話を引き延ばすのには限界だ。ていうか普通に話せているし、今日は機嫌がいいのかもしれない。よし、ここできめるっ!

「白石さん……」

「な、なに?」

「ごめんなさい」 

 言って、綺麗に土下座をする。いま太田に頼ることはできないし、かといって後回しにすればどんどん拗れる気がする。

「ど、どどどどうしたの急に!?」

「理由はごめん、まだわかってないんだけど。俺、白石さんになにか失礼をしちゃったんだよね? だからどうか殺生だけは勘弁して頂けないでしょうか」

 なんか変なしゃべり方になってしまった。

 

 

「……」

 白石さんからの返事がない。もしや謝り方が良くなかったのだろうか。

「あの、白石さん?」

 いい加減、反応がないので顔を上げると『ピロン♪』と場違いな音が鳴った。

「あっ! これはそのなんていうか! め、珍しくて!」

 慌てて否定する彼女の手にはスマホが握られていた。……なして?

「田中くんがそういうことするの貴重だなってつい、あ、あはは」

「それは、許してくれるってことでいいのかな?」

 おそるおそる聞いてみる。

 地雷がある場所は探しても見つからなかった。だったらもう突っ走ってしまおう。

「えっとね、田中くん」

「はい」

 たたずまいを直す彼女につられて、俺も曲がった背筋を伸ばす。なにこれ痛い。

「そもそもなんの話をしてるの?」

「……ん?」

 

 

「私、なにも怒ってないんだけど……」

 首をかしげる彼女は本当になにも知らないといった様子。大人がよくやる形だけ許しているのともちがうようだ。あれができる人ってすごいよね。

「じゃあ昨日のメールはなんだったの?」

「昨日……メール……ああ!」

「もしかして本当に乗っ取られたりしていたの?」

 一応、確認を取ってみるけど恐らくちがう。

「じつはその、あのときはむしゃくしゃしてて……」

「うん」

「適当に打った文章を間違って田中くんに送りました」

「それで?」

「そのあと弁明のメール打つのも忘れて、会いづらくて一日仮病してました」

「……」

 なんだそれ。

 

 

「……帰る」

「えっ」

 なんだろうこの感情。彼女に無礼を働いた自分を悔やんでいたけど、相手の方がよっぽど無礼だったなんて。

「じゃあおじゃました」

 かんだ。

「ぶはっ」

「~っ!」

 怒りと羞恥が混ざって余計に腹立たしくなる。

「ご、ごめん! でも今のは不可抗力だよ!?」

「わかるけど」

 腕をつかまれやむなく会話に応える。

 

 

「その、本当にごめんなさい……。田中くんがそこまで気にするなんて思いもしなくて」

「俺そこまで無神経だと思われてたの?」

 そんなことないと訴えるように俺の腕を握る両手がきつく締まる。

 まるで迷子のように握る手は、振りほどく事もできそうにない。思い切りやればできるかもしれないけど、それをするともうこの子と話すことさえなくなってしまう気がする。

 それは、今の怒りより大事なんだと思う。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい」

「はぁ。もういいよ」

 声を湿らせてポツポツつぶやく彼女を見て、ようやく冷静さを取り戻す。

「よくない」

「いいって」

「よくない」

 本人がいいって言っているのに、頑なに受け入れてもらえない。

「だって田中くん、まだ怒ってる」

「は? だから怒って」

 スマホを向けられるとシャリンと音がなる。

「怒ってる」

 画面をずいっと見せられて、驚く。

「うわ」

 

 

 ていうか引いた。俺の目はまるでこれから人を殺しそうなほどにすさんでいた。

「まって、これちがう。目が、固まってるだけだから、ホント」

 実際もう怒っていない。そのことを証明するようになるべく身振り手振りで柔らかい印象をアピールする。俺が悪い風なのは若干引っかかるけど。

「じゃあ、いいけど」

 拗ねた子どものように唇を尖らせて俯く。こんな白石さん、そうそうみれるもんじゃない。

 パシャッと今度は別の音が鳴る。それはもちろん俺のスマホからだった。

「これで許してあげる」

「と、撮ったの!? だめー! 消してー!」

「だれにも見せないから」

「うー!」

 体力は底辺の俺だけど、女の子に比べれば身長は高い方だ。だから高く上げた腕に白石さんが届くはずもない。

「ばか!」

 プリプリと怒るけれど全く怖くないどころかむしろかわいい。

「白石さんがそんなに感情的になるなんて珍しいね」

「田中くんに言われたくないよお! だれのせいだと思ってるの!」

「だれだと思う?」

「……ごめんなさい」

 いけない、また怖くなってしまった。怒りにはご退去願おう。

 

 

「ほんとにもういいよ。なんかどうでもよくなった」

「なんか、あまり釈然としないんだけど」

「怒ったままの方がいい?」

「調子にのりましたごめんなさい」

 ……片足くらいはいてもらおう。

 

 

「でも俺が女子に怖がられる日がくるなんてね」

「私も、こんなに怒鳴る日がくるんなて」

「かわいかったけどね」

「やめて」

 ペシッと頭がチョップされる。

「ふふふ」

 さっきのぴりついた空気がほどけていく。俺もなんだか笑いたくなってきた。

「あの、もういいか?」

「「!?」」

 僅かに開いたドアの隙間から太田の顔が覗く。

 

 

「いや! あまりに二人が遅いもんだから、お袋さんに見てくるように言われたんだ! け、決して会話を盗み聞きするつもりはなくてだな!」

「ちなみにどこから聞いてたの?」

「……言っても怒らないか?」

「怒るからいい」

 もう五年くらいは怒りたくない。目がすっごく疲れる。

「そうか、すまん。白石もごめんな」

「いいよ、ぜんぜん気にしてないから」

「白石さん?」

「太田くんはケーキの飲食と持ち帰り禁止ね」

「っ──」

 実質の死刑判決を下された太田は、綺麗な土下座をくりだした。効果はイマイチだ。

 

 

「おじゃましました」

「また明日」

「うんっ。二人とも来てくれてありがとう」

 俺はプリントをしっかりと渡し、太田はケーキの飲食と持ち帰りに成功したのでおいとますることにした。

「白石さん、仮病もほどほどにね。クセになるといけないから」

「それも田中くんには言われたくないよ」

 白石さんの頬がぷくっと頬を膨らむ。この表情は何度見てもかわいい。

 今日だけで、かなり白石さんの新しい部分を発見した。俺の知らない面の方が多いのだろうけど、なんだか、嬉しかった。

 

 

「白石ってあんな顔するんだな」

「ぷくってやつ?」

 帰路の途中、太田がポツリとつぶやいた。

「ああ、アレはいろんな男子が落ちてしまいそうだ」

「え、太田?」

「勘違いするなよ。俺のはただの考察だから、俺のはな」

「なにそれ」

「なんだろうな」

 そんなとりとめない会話を挟んで、俺たちの帰路もすぐに別れを告げる。

 

 

「じゃあ明日も学校にくるんだぞ」

「明日もってどういうこと?」

 ここしばらく俺は休んでいないはず。太田の言いたいことが分からない……夫婦なのに。

「筋肉痛とかで休みそうだからな、お前」

「さすがに白石さんに言っちゃったし、ちゃんと行くよ」

「そうか」

 それ以上はなにも言わずに太田は俺に背を向けてあるきだした。

 俺も帰ろう。もう夜も近いからお腹も空いてきた。

「──っ!?」

 一歩踏み出した途端、ふくらはぎに切り裂くような強烈な痛みが走る。

 後ろを見てみるとまだ太田の背中は見える。──よし。

 スマホを手早く操作して電話をかける。

『……どうした?』

 振り返り、うずくまる俺を見て怪訝な顔をされる。今しがた別れたばかりなのだからしょうがない。

「あ」

『あ?』

「足攣った」

『……』

 このときの、太田のなんとも言えない顔は生涯忘れることはないだろう。

 




閲覧ありがとうございました。

確約はできませんが、なるべくペースを上げていこうかと思います。他にもやりたい作品があるので。
手は抜きませんっ。


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白井さんの苦悩

やっぱり白石さんは書きやすい。今回はほとんど動きがないので退屈ですが、必要なプロセスなので致し方ない……。





 先日、田中くんと誤解と解消の一悶着があった。あの日ははからずも、私と田中くんの関係に変化をもたらす出来事となった。

「でもなぁ」

 その変化は決していい物とは言いえない。なぜなら──。

「あ、おはよ白石さんおやすみ」

 朝会えば素早く挨拶して、自分の席で速攻居眠り。

「授業のノート? 大丈夫やったから」

 授業中寝ずにきっちりと、ノートを取って。

「じゃあね白石さんまた明日」

 帰りに話し欠けようとしたら、そそくさと帰られてしまう。

 これはあれかな、避けられてるってやつなのかな……。

 いやいや、そうと決まったわけじゃない。田中くんが時折おかしくなるのは今に始まったことじゃない。きっとあれだ、また虫歯が痛くて喋りたくないとかそんな感じだ。

 

 

 けれど次の日もその次の日も変わらなかった。

「なんでなのぉ……」

 田中くんが帰ったあと、一人で机に突っ伏してため息を漏らす。

「嫌われちゃったのかな……」

 あの時は許してくれたけどやっぱり気が変って嫌になったとか、田中くんならなさそうでありそうだ。

 

 

「どうしたの白石? ため息なんか吐いて。全米が泣くよ?」

「そんな軽い全米は滅んでいいよ。きっちゃん」

 突っ伏していた顔を上げると私の机の前に、ボーイッシュな友だちのきっちゃんが立っていた。

「で、どったの?」

 直球に聞いてくるきっちゃん。余計なことは言わずに、本題だけ聞こうとしてくれる。

「それがさ……」

 そして私はそんな優しいきっちゃんに甘えることにした。

 

 

「なるほど……急に仲良くなったと思ったらよそよそしくなったと……」

「うん、やっぱり嫌われちゃったのかな」

「確認だけど、その相手って女の子じゃないよね?」

「なんでそうなるの!?」

「いやー、それどう考えても好き避けじゃないかなって。白石は経験ない? かっこいい人とか優しい人に近づきにくかったり、逃げちゃったりとか」

「経験はないけどわからなくはないよ」

 女の子特有の好きになった相手に対してとってしまう行動。

 確かにこの条件だときっちゃんの思う相手が女の子になるのも頷ける。男の子にあるのかは知らないけど。

「でもそれじゃ相手は私のこと好きってことになるよ。確かに距離は縮んだかもしれないけど、それはないと思うなぁ」

 田中くんの性格を考えたら余計にそうだよね。まあ私の想い人が田中くんということを話していないきっちゃんに分かってもらうのは無理だろうけど。

 

 

「でも脈ありだとおもうけどなぁ。田中」

「そうなのかなぁ。自信ないや」

「ははは。人気者の白石も自分の恋愛には弱いか」

「もー、からかわないでよ。」

「ごめんごめん」

 二人であははと笑い合う。こういう時の友だちってほんとに頼りになるなぁ。

 

 

「……きっちゃん、さっきなんて言った?」

「ん? 私の友だちが恋愛下手女子だけどどうしたらいい? って話?」

「そんなラノベみたいな話してないよっ。さ、さっき、わわわ、私の好きな人が、ち、ちゃなかくんって……」

「とりあえず落ち着きなよ」

 これが落ち着いていられるか。

「な、なななんでっ。言ってないはずなのに」

「いや、バレバレだし?」

「……本日は閉店します」

 落ち込む私を放置してきっちゃんはあっけらかんと話しを続ける。

「まあ決めてはこの前の修学旅行決めだよね。あんなにイチャラブされて気づくなって方が無理だよ」

 今までずっとバレてないとおもってたのに……。

 ……みんなが知っている……?

「ま、まって。みんなってだれ?」

「みんなはみんなだよ。少なくともクラスの中で気づいていないのは田中とか志村辺りくらいじゃないかな? 白石ファンクラブはなんとか理由をこじつけて否定しようとしてるみたいだけどね」

 私の恋愛は漫画の考察かなにかなのだろうか。

 

 

「……もう死にたい」

「生きろそなたは美しい」

 自分の事をそんなにかわいいと思えない私は死ぬべきか。

「でもそんなに伝わってると空気になって、やっぱり田中くんも分かるよね……。だから避けられてたんだ。あ、あは、あはははは」

「だからそれこそ好き避けでしょうに」

「……」

 正直そうだったらいいなとは思うけれど、私は昔と変わらない。自分に自信が持てない。

「なんなら本人に聞けばいいよ」

「なに言ってんの」

「うわあ、その顔よそでしちゃだめだよ」

 いけない、ダークサイドに落ちかけてる気がする。

 

 

「べつに告りにいけって言ってんじゃないよ。ちょっとジャブ入れるだけ。反応はきっちゃん様が直接見て確かめてあげよう」

 普段ならここで断っていたかもしれない。でもそれじゃあ今までどころか、マイナスでしかない。

「うん。やってみるよ」

「お、決断早いね。かっくい♪」

 私の返事にきっちゃんはニッと笑う。かっこいいのはどっちだか。

 

 

「じゃあ実行は修学旅行だね~」

「え、そ、そんな先なの?」

 てっきり明日にでもいくものとばかり。

「んー、もし本当に好き避けならちょっと時間空けた方がいいと思うよ。仮にいまから行ってこれ以上拗れたら大変だよ? 修学旅行」

「あー……」

 良くない結果が簡単に想像できる。

「だから、その時までちょっと距離を開けるべきだよね。近くなったら離れるに限る!」

「分かったよ、きっちゃん! 私頑張ってみる!」

「応援してるよ。じゃあ私は部活に戻るね」

 そう言って、颯爽と教室を出て行く彼女に私は深くお礼を申し上げるのでした。




閲覧ありがとうございました。


次回もよろしくお願いします。


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田中くんの目標

ぬるっと展開が進んでいきます。
思い切り決意! という展開にしたかったんですが、田中くんに拒否られました。


「太田……ちょっと助けて……」

「どうした? また足でも攣ったのか?」

 校舎を歩く中、俺は立ち止まり大田に声をかけた。

「そうじゃないけど、歩けない意味では同じかな」

 俺の膝はぷるぷると震えていた。

「つい十分ほど前からお前と一緒にいるが、なにがあったらそうなる」

「いや、今までの疲労がね……」

「疲労?」

 

 

 白石さんと一悶着あったあと、俺なりに考えたことがあった。

 俺のけだるげはもしかして迷惑をかけるどころではないほど酷いものかもしれないということ。

 まあだるいのは生まれつきだけど、人との付き合いくらいはちゃんとしようと、真人間みたいな答えに至った。

 

 

「田中が……真人間になるだと!?」

「まあ驚くよね。俺も自分でかなりびっくりしてる」

 かと言って急に真人間になれるなら苦労はしない。だからせめて、人に対しては誠実であるべきなんだと思う。

「うっ……ぐすっ」

「ちょ、大田? 何泣いてんの?」

「あの田中が、自分からけだるげをやめるなんて。これが泣かずにいられるか!」

「そういう扱いなのは知ってたけどさ」

なんかそう言われて泣かれるとすごい罪悪感があるんだけど。

 

 

「だから、今まで人にやってもらってたことを自分でやってみたんだ」

「えらいぞ、えらいぞ田中ぁ……!」

「でも慣れない筋肉たくさん使ったからさ、俺の足はもう小鹿なんだよね」

 いつ前のめりに倒れてもおかしくないレベルで。

「まあお前が頑張った結果だからな。今くらいは手を貸してやろう」

「さすが太田」

「今日は田中のけだるげ卒業記念だな。ちょっと担ぐくらいなんともないぞ」

「まって。卒業するなんて言ってない」

「そうなのか?」

 シュンと音を立てて落ち込む太田。目元が暗くなって怖い人にしか見えない。

「頑張ってみるってだけだよ。正直期待しないでほしい」

「そうか、すこし残念ではあるが、お前の第一歩には変わりないもんな」

 

 

「そういえば、白石には言ったのか? けだるげやめるの」

「言おうと思ったんだけどね。なんか言ったらやらなきゃって義務感湧いて、逆にやりたくなくなりそうだったからやめた」

 それにこういうのは態度で示すべきだと思うし。なんならこれでできなかった時の事を考えるとかなり辛い。

「白石さんも厄介事が減って喜ぶんじゃないかな」

「否定し辛いぞ、田中」

 それに修学旅行だってある。ちょっと歩いた程度で筋肉痛になってたら白石さんどころか班全体にも迷惑をかける。

 彼女が楽しみにしてる北海道も、そんなことで台無しにしたくない。

 

 

「あ、ししょー! 太田くん! いま帰りですか!?」

 正面の少し離れたところから元気百パーセントな声が聞こえてくる。この子はきっと誰かと人格が入れ替わってもすぐに分かるだろうな。

「みゃーの走るなって、危ないだろ……ってなんだ田中がいたのか。お前、みゃーのがこけたらどうすんだ!」

「ええ、なにその理不尽……」

 なんかスケバンぽい。

「そーだ! 今からえっちゃんと修学旅行の買い物行くんですけど、お二人もどうですか?」

「買い物かぁ。俺はもう揃えているから今から買う必要はないな。田中はどうだ? お前の事だからギリギリまで放置するんじゃないか?」

「太田、それは流石に失礼だと思う」

 担がれた状態で言って説得力があるのかは気にしない。

「す、すまん。さすがに修学旅行だもんな。田中もそれ相応の準備を」

「莉乃がしおり見て全部揃えてくれるから」

「……さっきの謝罪を返せか、けだるげやめる宣言はどうしたのどっちでツッコむか困るな」

 できればどっちも勘弁してほしい。

 

 

「まあ、あんまり白石に迷惑かけるんじゃねえぞ。じゃああたし達は行くから」

「あ、えっちゃん待ってよー! ししょー太田くんさよーならですー!」

 放課後の時間を邪魔されたくなかったんだろう越前さんは、宮野さんの手を引いて去って行った。越前さん、ぐっじょぶ。

「じゃあ俺たちも帰るか。あとあまり妹に準備をさせるんじゃないぞ」

「させてるんじゃなくて、させてくれないんだよ。お兄ちゃんは政治家の次に信用できないんだってさ」

「お前、本当は嫌われてるんじゃないのか……?」

 むしろ逆だと思うけど、やっぱり自信亡くなってきた。

「ちょっと今日はご機嫌取りしてみるよ」

 頷くと、保護者スイッチの入った太田タクシーはスピード違反を恐れないで飛ばした。結果、お巡りさんから注意を受けた。人を抱えるのは危ないと言われたけど、俺を歩かせるほうの危険性は聞いてもらえなかった。

 

 




閲覧ありがとうございました!


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田中くんの決意

田中くんと誰かの絡みを書いてるだけで千字越えちゃうんですよね。動いてほしいんですけどなかなかうまくいきませんが頑張ります。


「お兄ちゃん。明日の準備しておいたよ」

「ありがとう莉乃」

 明日に迫った修学旅行の準備が終了する。ていうか終了のお知らせがくる。

「我ながらいい妹を持ったよ。ほんとありがと」

「べつに、お兄ちゃんにやらせたらいつまでも終わらないだろうし。忘れものとかひどいだろうし」

 そうは言いながらも頬を緩ませる。世話をしておいてもらってなんだけど、将来ロクでなしに引っかからないか心配になる。

 

 

「明日、ちゃんと皆に付いて行ってね。お昼ごはんはあまり食べすぎちゃダメだよ。温泉が気持ちよくても寝ちゃだめだからね。それと」

 ここから三十分ほど、注意事項が続いた。覚えきれない……。

 

 

「迷子になったら班の人に連絡……お兄ちゃん太田さん以外に連絡先知ってる人いるの?」

 兄はボッチだと思われていた。

「大丈夫だよ。班の人は全員知ってるから」

「そう、ならいいんだけど……。班って女の人もいるの?」

「いるけど」

「……どんな人?」

「莉乃? 目がなんか怖いよ?」

 白石家で写メを撮られた俺の顔とよく似ている。なにが莉乃をここまで……。

「どんなって、普通だよ。さすがに俺を担げる人はいないよ」

「なんで女子の基準が太田なのよ……」

 俺の嫁なので。

「そうじゃなくて、どんな子がいるの?」

 そう言われて思い出す。名前を言ったところで莉乃にわかるはずもないから、特徴を思い返す必要がある。

「えっと、すごく元気な子とすごく優しい子。あとよくわかんない人」

「なにそれ」

「なんだろうね」

 

 

「優しい人ってどんな感じ?」

「この話まだ続くの?」

「いいから」

 まあ莉乃だってお年頃。兄の周りにいる異性は気になってしまうものなのかもしれない。荷造りもしてもらった事だし、少しだけ付き合おう。

「その人、最近までただいい人って思ってたんだけど、けっこう情緒不安定でさ」

「……一緒に行動して大丈夫なの?」

「ああ、そういう意味じゃない。まあ太田がいないクラスで俺の世話を引き受けてくれるほどには忍耐力あると思うから」

 ぶっちゃけた話し、せっかちな人とかだったら俺はかなり嫌なタイプだと思う。

「だったらなんで情緒不安定なの?」

「あー、ごめん。言い過ぎたかも……。なんかね、脱毛の広告? が来てキレて俺に怒りのメールが間違いで送られてきたんだよね」

「その人、絶対危ない人だよ? リストカットの後とかあったりしない?」

「違うから、莉乃」

「うう」

 俺の話し方が良くなかったんだろう。ひとまず莉乃の頭を撫でて落ち着かせる。

 

 

「お兄ちゃん、心配すぎるわよ……」

「その人に関しては大丈夫だって。元からかわいい人だったけど、最近よりそう思うようになったし」

「……は?」

「今まで怒ったりするところ見たことなくてさ、あまりそういう感情を見せない人だったんだけど、意外と怒りっぽくてさ」

「……」

「今話してたけど、割と普通の子だよね。そんな人が俺の世話してくれるとかありがたいの極みで」

「もういい」

 話の途中で莉乃は立ち上がる。

「莉乃? どうしたの?」

「べつに。明日、私休みだから自分で起きてね。おやすみ」

「えぇ……」

 なにかが莉乃の琴線に触れてしまったようだ。弁明をする間もくれず莉乃は部屋に閉じこもってしまう。

 流石にいろんな人に世話をされている兄に失望したのだろうか。そういえば莉乃って太田のこともあまり好きそうじゃなかったもんな……。

「やっぱり、頑張らなくちゃいけないんだな……」

 俺は扉が閉まった莉乃の部屋を見て静かに決意を固めた。




閲覧ありがとうございました!

ちなみに田中くんはまだ白石さんのことを普通にしては優しいよね、くらいにしか思っていません。少し彼女のかわいさに気づきつつあるようですが……?


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田中くんの修学旅行 そのいち

こんにちは、早見です。

スランプにかかっていました。小説の形を保てないほどに……。
今は徐々に回復してきています。

ペース上げるとか調子に乗った罰ですね、反省してます。

タイトル『そのいちは』、漢字で書くと罫線(─)かどうか分かりにくいのでひらがなにしました。誤字ではありません。




「田中くん! 見えてきたよ、牧場!」

「ん……もう?」

 肩を揺すられて、目を開けるとそこには決して自分の部屋や太田の家でさえ見ることのできない光景が広がっていた。同時に自分の太田家の好きさにびっくりする。

 周囲に建物がほとんどないためか、空が本来の姿であるように広々としている。少し視線を下ろせば綺麗な草原が広がっている。

「もうちょっと寝かせて……」

 俺は瞳に景色を一瞬だけ入れて、すぐにまぶた裏の暗闇に逃げ込む。

「えぇ……はやいよ……」

 気候がいいことは最高のお昼寝日和なり。

 

 

「こら田中! 白石さんに面倒かけるな!」

「そーだそーだ! 起きろ田中ー!」

 俺が座っているバスの座席をギコギコと揺らす志村と加藤。目覚めたばかりで俺の座ってない首もガクガクと動く。こいつら……。

「ふ、二人とも、無理に起こしちゃかわいそうだよ。まだ降りるまでは時間あるから……」

「いーや! どうせ降りてもコイツは同じ事言うんだよ。太田がいればそれでいいんだけど」

「そ、その時は私が担ぐから!」

「いやいやいや、アレは太田専用だからね?」

「でもさ志村、見たくね? 女子に担がれている田中。で、それを写メって太田に送るの」

「……お前、天才か?」

 人が寝ているのをいいことに、なんかすごく失礼な会話がされている。反論はできないけど。

 

仕方ない、身の安全の為に起きよう。

「あ、起きた」

「ようやく起きたか! 寝ぼすけめ!」

 後ろを振り向けばドヤ顔の志村が目に入る。

「志村」

「なんだ? 起こしてやった礼なら夜のポテチでいいぞ」

「今日の志村の枕はないと思え」

「なにその嫌がらせ!? じ、冗談じゃないか田中!」

 やいやい言う声を無視して俺は正面に座り直す。

 俺が耐えがたい苦痛、枕無し地獄だ。おもしろおかしく人の睡眠を妨害した罪を思い知れ。

 

 

「ご、ごめんね田中くん」

「なんで白石さんが謝るの。起こしてくれてありがとう」

 隣に座っていた白石さんに軽くお礼を言う。

「こういうとき、太田だと勝手に移動してくれるんだけど、これはこれでいいね」

 バスの車窓から見える景色はさっきと変わらず綺麗なままだ。志村への恨みが少し浄化された。

「そ、そっか! それならよかったよ!」

「どうしたの?」

 彼女は反対側の窓へと目を向けている。こっちの方が近くて見やすいのに、なにか面白いものでもあったのかな。

 

 

「ていうか白石さん、今日ポニーテールなんだね」

「うん。今日は牛の乳搾りもやるらしいから、先に括っちゃった」

「……そっか」

「田中くん?」

 咄嗟に窓へと目を逃がす。目の前であまりじろじろ見てしまうのは良くない。

 でも女の子の珍しいおしゃれをスルーするのもまた、良くないと思う。

「その……にあって「おー!白石さんポニテにしてる! すっげーかわいいじゃん!」

 後ろから志村の声が響く。背もたれにのしかかった衝撃でまた首がガクガクする。まだ座ってないのか。

「志村」

「田中もこんなかわいい子がかわいい髪型して隣にいるってのに、気が使えない奴だな~」

「今日布団で眠れると思うなよ」

「丸裸で寝ろと!?」

「え、お前寝るとき全裸なの?」

 志村の寝間着事情を無視するかのごとく、バスは目的地へと着いた。

 




感想、誤字脱字報告、あればよろしくお願いします。


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田中くんの修学旅行 そのに

こんにちは。白石さんがかわいくて仕方ない早見です。

昨日、小説の情報を覗いたら、投票やお気に入り登録がぐぐっと増えててびっくりしました。
スランプ明けにこれは本当に嬉しいです。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。

ちなみに評価のバーに赤いのがつくようになったんですよね。
いつもはアレを見て、いいなぁと思っていましたが、まさか僕の所にも来てくれるなんて(語彙力)
これからも精進続けて参ります。では。


「ねえ、これって夢なのかな」

「これが夢なんだとしたら俺は自分の夢力の無さを呪うよ」

「どうして、こんなことになっちゃったのかなぁ」

「だれの責任かと言えば、俺だね」

 白石さんの問いかけに俺は自虐的に答える。彼女が責める意味で言っているのではないと分かっていながらも、そう言わざるを得ない。

 まるでけだるげのユートピアだった景色が悲惨な姿に変わり果ててしまったのだから。

「世紀末の人の絶望もこんな感じなのかな」

「あはは……」

 もちろん俺たちのいる世界が壊れたとかそんなことはない。場所はさっきと変わらない北海道の牧場。ただ、目の前にはバケツどころか湯釜をひっくり返したような大雨が降っているだけだ。

 ついでに乗ってきたはずのバスも、志村も加藤も教師でさえ、いない。

 すぶ濡れの俺と白石さん二人だけで小一時間雨宿りをしているだけ。絶望するには、十分だよね?

 どうしてこうなったかと問われるなら、やっぱり俺が原因なわけで。

 

 

 一時間ほど前

「乳搾りをしたい人は集まってくださーい。全員にしてもらうことはできないので──」

 牧場に着いた俺たちは牧場の説明と施設の中をザックリと案内されて、メインイベントの乳搾りの今に至る。

「田中くん、大丈夫?」

「……たぶん」

 たぶん大丈夫じゃない。飛行機の集合時間に遅れないために莉乃に五時間くらいはやく起こされて(それでもギリギリだった)飛行機のめんどくさい手続きやらバスへの乗り込み、極めつけは止まったり歩いたりするシャトルランに似たこの施設内の移動。もう膝が笑ってきた。

「顔色良くないよ、ちょっと休もうっ。 せんせー! 田中くんバスで酔っちゃったみたいなんで休憩してきまーす!」

 おおざっぱな報告をして俺と白石さんはクラスの群れから離れていく。

「……あ、うん。りょうかい……」

 手をユラユラ振って応える担任の教師も顔色を悪くして壁にもたれかかっていた。アンタもか。

 あっちのほうがやばそうだけど、引率の先生が休んでいるわけにはいかないんだろう。いつものキリッとした姿はなくても、そこには踏ん張る大人の姿があった。

 

 

「先生ってすごいね」

「ほんと、尊敬する」

 施設を出てすぐ隣に、干し草が大量に積まれた場所に腰を下ろす。

 陽気な日差しと草の匂い。そして日陰。ここにある全てのものが俺を落ち着かせてくれる。

「白石さん、ありがと。もう大丈夫だからみんなのところに戻って」

 俺に付き合ったせいでせっかくの体験ができないなんて、申し訳ないどころじゃない。

 しかし彼女はフルフルと首を振る。

 

 

「別にいいよ。中学の時も来たんだ、北海道」

 ここじゃないけどね。と付け足す白石さん。

「あれ、牛さんのストレスにならないように人数制限あるから、経験者の私は譲らないと」

「そっか」

 なんて損な性格なのだろう。白石さん、いい人通り越して聖人かもしれない。

 

 

「それに好きだから」

 

 

「……は?」

 時間が止まったような気がした。

「好きなんだ~。この北海道の空気」

「─────────あ、言ってたね」

 たっぷりと考えて理解する。

 びっくりした、危うく変な勘違いをするところだった。

 この人は世話好きというだけで、俺が特別だとかそんなことはないんだから。

 でも他の男子なら絶対に勘違いしてただろうな。俺で良かったね、白石さん。

「えいっ」

 彼女は背中を干し草に預けると、んーっ! と伸びをする。

 思いっきり反り上がるもんだから、普段から大きいアレがさらに強調される。どんだけ無防備なの……。

 

 

 

「わ、これ気持ちいいね」

 視線を悟られないように、彼女のマネをして干し草に身を預ける。

「なにこの最高感……」

 場を和ませる程度の気持ちでやってみたら想像以上だった。

 草がふんわりと俺の身体を支えてくれて、優しい匂いが鼻腔をくすぐる。この場所はまさしく俺にとってのオアシス。メッカ。アルカディア。

 これが北海道の実力というやつか。ごめん、舐めてたよ北海道。

「あはは、田中くんの顔草まみれ」

「……ほんとだ」

 顔を触ると草がたくさんついてるのが分かる。

 でもいちいち取るのもめんどくさい。

「このまま草と一体化しちゃおうかな」

 そして俺は春の一部になるのだ。意味わかんない。

「牛さんに食べられちゃうよ?」

「そのとき、は、そのとき──」

 春の陽気に当てられ、疲労が和らいだ安息感からか、とんでもない睡魔が襲ってくる。

 いけないとは分かりつつも俺の意識は草よりも簡単に刈り取られてしまった。

 

 

 白石side

「ふう……」

 田中くんが寝たのを確認してため息をつき、彼を起こさないように静かに心の中で叫ぶ。

 さりげなく告っちゃったああああああ!!

 はず! はずかしいよ私! なんであなたは北海道が絡むといろんなこと忘れちゃうわけ!? そんなに私の事が憎いのか!? まあ私なんだけど!!

「ほんとよかったあ、すぐにごまかせて」

 

 

 彼は見かけ通り鈍感だし、前に恋愛に興味ないって言ってたから、たぶんそっちに結びつかなかったんだろう。 それはつまり

「異性として見られてないってことだよね、あはは……」

 自分でごまかしたくせに自分で自虐する面倒くさい私はどうすればいいでしょうか……。

 

 

「ほんと綺麗な顔してるなぁ」

 私の心を知る由もない彼はすぅすぅと可愛らしい寝息を立ている。

 女の子でさえ羨む白い肌に、小さい顔のパーツに反して大きい目は見惚れて止まない。

「この寝顔、すごく安心する」

 でも、ドキドキもする。

「なんか私も眠くなってきた……」

 そういえば、近しい人が寝てると自分も眠たく、なるんだっけ……。

「すぅ……」

 今が修学旅行の課外授業中なんて事は一切忘れて私も眠りに落ちた。

 巨大な暗雲が近づいている事もに気づかずに。

 

 




誤字脱字報告・感想などお待ちしております。

一部修正しました。


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田中くんの修学旅行 そのさん

こんにちは、早見です。

お気に入り登録の増え方が異常でビビってます。感謝感激です。





「ごめんね、私がうっかりしてたばっかりに」

「だから俺が悪いって」

 何度目になるかわからないこのやりとり。雨に濡れてバスに置いて行かれた責任を互いに奪い合う。

 荷物さえあればよかったんだけど、あいにく二人とも貴重品の類いはバスの中だ。

 

 

「せめて施設の人が残ってくれていれば……」

「牛さんはたくさんいるんだけどね」

 俺たちが雨宿りしている場所は牛舎の屋根になっている部分。人が出払っているのか扉は施錠されて、人の気配はない。

「でも、きっとだれか来てくれるよ。それまで頑張ろうね、田中くん」

 こんなときでさえ彼女は俺のことを心配してくれている。

 男として頼りなさ過ぎるのに怒りもしないで。そんな彼女だからこそ、俺もむずがゆい思いになる。

「俺が太田だったらか○はめ波とかで雨止ませることもできたのに……俺でごめんね、白石さん」

「田中くんは太田くんになにを期待してるのかな……?」

 少しでも笑いを。と思えば心配そうな顔をされた。こんなとき本当に俺じゃなくて志村とかだったら場を和ませるなんてわけない……と思ったけど濡れた白石さんに興奮して襲いかかるかもしれない。やっぱり俺でよかった。

 

 

「あ、でもいま着てるの体操服で助かったよ。他は全部お気に入りなんだ」

 白石さんが明るい声で言う。

 たしかにこれなら濡れても特に気にすることはない。寒いけど。

 なぜ俺は雨バリアーを習得していないんだ。

「そっか。早く帰って着替えたいね」

「チッ」

「し、白石さん?」

「ん、なに? 田中くん」

「いや、なんでも……」

 いま、彼女から到底似つかわしくない音が発せられた気がした。

 しかし彼女は呼ばれた猫のように首をかしげている。きっと気のせいか、俺の自責の念が幻聴を呼んだのかもしれない。

「チッ」

 絶対気のせいじゃない。

 白石さんからはそういう気配を感じないけど、やっぱり怒っているんだろう。俺に付き合ったばっかりにこんなことになったんだ。仕方ない。

 

 

「白石さん、なんとお詫びすれば」

 早めに謝ろう、そう思い隣に視線を向ける

「え? ……ッチ。ごめん、くしゃみが……」

 チと発すると当時に身を折る白石さん。ああ、舌打ちじゃなかったんだ……。

「ど、どうしたの? なんか魂抜けそうになってるよ!?」

「いやなんか力が抜けてきた」

「し、死んじゃだめだよ! た、たならっしゅ!」

「なにその役に立たなそうな名前」

 雪の中、主人を探すのが途中でめんどくさくなってその辺でくたばってそう。

 

 

 でも白石さんが震えているのを見ているのも心が痛む。フラン○ースの犬ほどじゃないけど。かといって俺たちの服は両方ずぶ濡れ。こんな時できることと言えば。

「ちょっと失礼……」

「へ!? た、ちゃ、ちゃ、ちゃちゃなかくん!?」

「え、大丈夫?」

 俺は白石さんの手を握ると、半端ない動揺が返ってきた。

 少しでも体温が高くなればと思ってやったけど、よくよく考えればなんかナルシストのやりそうなことだ。

 急にこんなことされたらそりゃ戸惑うよね。

「ごめん。嫌だよね」

 手を引き戻そうと力を抜く。でも手は戻って来なかった。

「……?」

「ぜ、ぜぜ、ぜんぜん、嫌じゃないよ」

 俺の右手は彼女の両手に包まれ、優しく握られていた。

 

 

 

「白石さん、その……」

「ごめん。もう少し、もうすこしだけ、このままでいさせて?」

 彼女の震える肩はこんな状況の恐怖からなのか、単純に寒いのか……。

 なにも言わず、なにも言えず、ただ彼女の体温だけが感じられる。

 そして会話がなくなると、その場から音が消えた。

 

 

 ……ん?

 

 

「雨、やんでるね」

 一時的な雨だったらしく、見上げると空には綺麗な空が戻っていた。

「あ、あの……田中くん」

「ん?」

「その、手……もう大丈夫だから、ありがと……」

「っ!」

 急いで自分の手を再回収した。

 白石さんに握られていたと思っていた手は、いつの間にか俺が握り返していた。

「その……ごめん」

「いえ、別にその……えっと……」

 さっきとは違う理由で彼女の顔を見ることができない。

 ていうか今の表情を見られたくない。だから口ごもる彼女もどんな顔をしているのか分からない。

 

 

「「……」」

 また会話が途切れて、北海道のおいしい空気がまずくなってきた時だった。

「お前らこんなとこでなにしてんだ?」

「「っ!!」」

 俺たちに気づいて声をかけてくれたのはトラックに乗った気のよさそうなおじさんだった。ていうかメシアだった。聖地だったり神様だったりまじここ天国。

「た、助けてください!」

「え、襲われとるんか?」

 白石さんも相当テンパっているようで。

 助けを求められたおじさんは「こいつ人襲えんの?」という目で俺を見ていた。襲えないです。

 

 

 バスに置いて行かれた経緯を話すとおじさんは俺たちをホテルまで送ってくれるという。

「ちょっと乗り心地は悪いが、勘弁してくれや」

 トラックの荷台に乗り込んでふと気づく。

「あれ、荷台って人乗せちゃいけないんじゃなかったっけ?」

「二人までなら大丈夫だった気がするけど……」

 白石さんとの空気も戻って、二人で首をかしげる。

「ここいらでそんなこと気にする奴はいねえよ。街中なら別だがよ」

 がっはっは! とおじさんは説明しながら笑う。

「まあ落っこちねえようにだけ気を付けてくれや」

 そう言ってトラックは走り出した。

 

 

「なんか、助かったね……白石さん?」

「コクリコクリ」

 荷台の縁に背を預ける彼女は船をこいでいた。

 すると、信号で止まった勢いで身体が反り返る。

「ちょっ!」

 あわや転落しそうになる彼女の身体を必死に支える。

「あ、あぶな……」

「ふぁ? ん~……」

「あ、白石さん。起きた?」

「すぅすぅ」

 起きてなかった。

 またずるりと音を立てると今度は俺の膝へと崩れる白石さん。

「これが一番安全なら仕方ない」

 だから太ももにくるこそばゆい感覚も、握られている俺の右手も、全部安全の為。

 決して俺が味わっていたいものではない。

 

 

「田中ー! 白石さん! 心配したぞ!」

「無事でよかったぁ」

 ホテルに着くなりクラスの皆が駆け寄ってくる。

「ごめんね、みんな。心配かけちゃって」

 オイオイと泣くクラスメイトをなだめる白石さん。この光景なんか宗教っぽい。

「田中もよく無事だったよなー。流石俺の親友」

 肩を組んできた志村に言う。

「いないことも気づかないのに?」

「ご、ごめんって! 担任がアレだったし、宮野さんが本格的に目回しちゃってさ。みんなてんやわんやだったんだよ」

「そーそー。んで気づくの遅れて担任が飛び出して行っちまうし、しまいにゃ停電。どうすることもできなかったんだよ」

「こっち停電してたんだ」

 ていうか宮野さん見かけないと思ったら酔ってたのか。弟子の体調不良に気づけないなんて師匠失格だ。これを機に破門を要請しよう。

 

 

 

 そのころ牧場。

「田中ー! 白石ー! どこだー!」

「置き去りにしてごめん! はやく旅館に帰って暖かい風呂に入ろう!」

「でーてーきーてーくーれー!」

 後の夜更けに半泣きの教師が牧場で収穫され、トラックで即日配達してもらったそうだ。




北海道の方言を勉強する時間がなかったのでほとんど標準語です。北海道の方、すんません。

そろそろ焦ってる田中くんを見たい所ですが僕の腕が追いつくか心配です。だって、田中くんだもの……。

※道路交通法はきちんと守りましょう。

誤字脱字あれば報告お願いします。


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田中くんの修学旅行~女子部屋~

こんにちは、早見です。

しばらく諸事情で更新を止めていましたがなんとか再開です。


「で、どうだったのよ?」

「なふいが?(なにが?)」

プチ遭難から救われた私は暖かな布団に入り、お菓子を咀嚼していた。修学旅行のポテチ、おいしい。

 

 

「呑気に菓子食ってんじゃねー! これは没収だ!」

「ああそんな! それが最後なの!」

「おだまり! そんな子にお菓子なんてもったいないわ!」

「みよちゃんはどのポジションなのかな!?」

 私ときっちゃんのやり取りを見たみよちゃんもよく分からない形で参戦してくる。

「その話、私も聞きたいです!」

「わぁ!? 宮野さん!? 寝てたんじゃないの!?」

「こんな面白そう……いえ、白石さんのピンチに寝てはいられません!」

 横になっていた布団がガバッと縦に起き上がる。

 この子面白そうって言った! 面白そうって言った!! 応援してくれていると思ったのに師匠のバカー!

 

 

「で、まさかほんとになにもなかったの?」

 ポテチが一時返却され、会話が最初に戻る。

 恥ずかしいけどこれは言わなきゃダメだよね……。普段の相談に乗ってもらってるんだからみんなにも聞く権利があるんだから。

「実はその……膝枕を……」

 うー! やっぱり恥ずかしいー!

「したのか!?」

「しーちゃんやる〜」

「お、大人です……」

 

「膝枕してもらう夢を見ました……」

 顔から火が出そうなのが自分でも分かる……いっそ燃やしてほしい……。

 

「……おい、みよスケ」

「は、ここに」

 きっちゃんはふんぞり返って、みよちゃんを呼ぶ。スケ?

「こいつのポテチを全部食え!」

「かしこまり~」

「なんでえええ!!」

「うるさーい! お前みたいなナマケモノに菓子などくれてやるものか!」

「ほんとにそれが今日最後のやつなのにー!」

言ってる間にもポテチはバリバリと音を立てて数を減らしていく。

 

 

「そんな悠長にしてたら誰かに取られちゃうよ?」

「ポテチは取られてしまいましたね」

 濁音は消え、パサりと乾いた音になってしまったポテチの袋に涙する。うっうっ……私のおやつ……。

「自分でも分かってるつもりなんだけど……」

 彼を目の前にすると、どうしたって羞恥心の方が上になってしまう。このままじゃいけないと思いつつも私はなかなか行動できないでいる。

 

 

「まあ取られるとは言ってみたけど、田中ってあんまりモテなさそうだよな」

「それを言われると複雑なんだけど……」

 喜んでいいのか、怒った方がいいのかコメントしづらい。

 でも確かに私がゆっくりとしていられるのは彼の非積極性が大きいだろう。

 

 

「え。田中くん、モテるよ?」

それはみよちゃんの呟きだった。

「……え?なんて?」

 

 

「モテるよ。田中くん」

 今度はちゃんとみんなに聞こえるようにハッキリと言う。

「な、なななななにを根拠にそんな」

「根拠ならあるよ」

自分のカバンから新しいお菓子を取り出しながら彼女は言う。

「私も最初は、けっこういいなーって思ってたから。あ、これポテチのかわりね」

「あ、ありがと…………はい?」

手渡されたチョコが手からポロリと落ちる。

「みよすけ……お前、そうだったのか……」

「う、うそ……みよちゃん、私今までなんてこと……」

「あ、いいなと思ったの最初の日だけだから」

 私頼りたい系だから運ばれる人はちょっとね。と付け加える。

「な、なんだぁ。びっくりさせないでよぉ……」

「私はなよっちい男は好きじゃないからなぁ。正直白石には悪いけど魅力がわからん」

「きっちゃんはサバサバしてるからね。たぶん田中くんの方も嫌だと思うよ」

「さすが本妻」

「しーちゃんこわーい」

 すかさずツッコミを入れたけど、自分でも驚くほどに言葉にトゲが出てしまった。

 うう、やり辛いなぁこの会話。黙ってるわけにもいかなかったし……。ていうかケンカしてもおかしくない言い方だったのに、みんな優しいなぁ。

 

 

 でもそこまで田中くんが高評価じゃなくてよかったとも思う。彼の魅力は私だけが知っていたい。なんて思うのは独占欲が強いのかな、私。

「あ、モテるってのにはちゃんと根拠があるよ? 一年の頃は他校から紹介してって頼まれた事もあったよ」

「うそ!? そんなサッカー部の部長みたいなことが田中くんに!?」

 あり得ない信じたくないでもなんか嬉しい!

「彼女作るのめんどいみたいなこと言ってたからその時は断ったんだけどね。無理に紹介して田中くんに嫌われるとなんか不幸になりそうだし……」

「あー、分かる。なんか座敷童的な空気あるよね」

「さっきから否定しにくいなあ、もお」

 でも意外だった。田中くんが少しでも異性に積極的な人だったらそのまま紹介されてあっという間にお付き合いに発展していたと思うと──うん、想像できない。

 

 

「まあそういう事もあるんだから、急いだ方がいいんじゃない? もちろん二人がゆっくり仲良くなってくれるのが一番なんだけどさ」

「恋愛ってタイミングっていうもんね」

「そうそう。両想いだった二人がちょっと相手の嫌なタイミングで告白しちゃって振られるとかね」

「あるある。気持ちが同じなら大丈夫ってのは少女漫画の幻想だよな」

「あとは相手からのアプローチを待ってもぜんぜん来ないからあっさり他の人に乗り換えちゃったりね」

「……二人とも、私をいじめて楽しい?」

 今の私はきっと半泣き状態だ。

「それだけ恋愛はなにが起こってもおかしくないってことだよ」

「もしくは、かわいい高校生大好きな素敵お姉さんに捕まったりして」

「それとも同じく他校の修学旅行生か。はたまた密かに思いを寄せるクラスの誰かか……」

「そ、そんなの漫画だけだもん! おやすみ!」 

 無理やり話しを打ち切り布団の中に潜り込む。 

 

 

「あーあ、拗ねちゃった」

「きっちゃんが大人げないから~」

「いや、子どもなのは白石さんじゃないかね?」

「うるさーい! もー!」

 二人とも焚きつけようとしてくれてるのは分かってる! でも私にだって耐久力というのがあるの! ていうかないの! どっちだよ!

 

 

「お三方、そろそろ静かにしてもらえると助かるです」

「うわ!? ご、ごめん!」

「そ、そういえば体調崩してたんだったね! よし寝よう!」

 普段見ることのない不機嫌な目の宮野さんに二人は従わざるを得なかった。

 あれ、でもさっきは元気に話を聞きたがってような気がするんだけど……でも一度も会話に入ってきてないような。あれれ?

 

 




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一部修正しました。


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田中くんの修学旅行 自覚

こんばんは、早見です。

小説とは短期間で集中して書かないと、ブレてしまう。
という言葉をネットで見かけたのですが、耳が痛いどころかちぎれそうです。


「なんでみんなあんなに人の話が好きなんだろ……。どうでもいいと思うんだけど」

 だれもいない夜の暗いロビーをぼやきながら歩く。

 俺は白石さんと二人だったのを男子達(とくに志村)からの質問攻めから逃げてきたのだった。

「ジュースでも買おう……」

 奴らが寝静まるまで、少し時間を潰さないといけない。かなり眠いけど今にも好きな人の話で徹夜しそうな奴らの元には戻りたくない。青春よ、滅びよ。

「好きな人、か」

 なんの意味もなくつぶやいた言葉はロビーの闇へと飲み込まれる。

 

 

 少し歩くと自販機が見つかる。

 この暗い中で、ぼんやりと光るそこはなんだかとても落ち着ける空間だった。ひょっとしてパワースポットだろうか。

 しかしそうじゃないことはすぐに気づく。いや自販機だからとかじゃなくて。

 

 ぺた。ぺた。と人の歩く音が響く。

 

 薄暗い廊下を点々と照らす非常口のライト。廊下全てじゃないにせよ、目が悪い人でもどこになにがあるか分かる程度のほの暗さ。だから人が来ればすぐに見えるはずなのに──なにも、見えない。

 ぞわり。全身の毛が逆立ち、足が震える。

 いつかテレビで見たような恐怖体験。やらせだと嘲笑したそれが形となって現れた。

 声を上げればいいのか、逃げればいいのか。なにをしたらいいのかわからない。

「うわっ」

 震える足が絡まり、その場で倒れる。

 すると得体の知れない「なにか」は好機とみたのか足音を早めてどんどん近づいてくる。

「──っ」

 なにもできなくて、ギュッと目を瞑る。

 

 

 でも、なにも起こらない。それどころか足音が消えた?

 ゆっくりと目を開けるとそこには小さい女の子がいた。

「ししょー? なにしてるんですか?」

「……あ、宮野さんだったの。なんかごめん」

「なにがです?」

 非常口のライトが照らしているのは廊下の端の方。つまり真ん中の下は真っ暗に近いということ。

 思わず幽霊と子ども扱いしたことをなんとなく謝っておく。 

 

 

「いや、ちょっと動くのが面倒くさくなったから一休みを」

「自販機の前で座るなんてやさぐれてる感じでかっこいいです!」

「ぐれてはないからね?」 

 でも今回ばかりはそういうことにしておこう。

「宮野さんはやっちゃだめだよ」

「どーしてですか!?」

 補導されるか誘拐されるから。とは言えなかった。

「でも座るならあっちにベンチがあったはずです。行きましょう!」

 そう言うと、俺の手を引っ張っていく宮野さん。

 

 

 ベンチに並んで腰を下ろして一息つく。

 こんな風に宮野さんと二人になるなんて珍しい。

「それで、こんな時間にどうしたの?」

「ちょっと友人が不甲斐なくて、怒りのあまり金髪になりそうだったので出てきちゃいました」

「宮野さんって地球の人だよね?」

 スーパー宮野とか絶望的に似合ってないからやめてほしい。

 ていうかこんな極楽とんぼの人に不甲斐ないとか言われるなんて、どんな人なんだろうか。

 

 

「時に田中くん。白石さんと「その話題、お茶かけられてもする勇気ある?」なんでもありません!」

 物わかりのいい子でよかった。

 それきり話しは途絶え、ジュースを飲む音だけが響く。

「……そんなに気になるもんなの?」

 思わず聞いてしまった。普段回っていない俺の頭が、夜でさらに回っていない。

「とっても!」

「理由を聞いてもいい?」

「それはもちろん師匠のことですから。ええとですね……太田くんとえっちゃんが手を繋いで歩いていたら気になりませんか?」

「なるね」

「それですよ。だれだって人の恋愛沙汰は気になってしかたないもので」

「あ、そうじゃなくてね」

「ふえ?」

 一人で納得しそうな宮野さんを制して会話を止める。別に流してもよかったけど、内容が譲れないものだった。

「俺が気になるのは太田の浮気事情だから」

 宮野さんがポカーンと顔文字が作れそうな表情になってしまった。いや大事でしょ。

「まあ今回の場合は相手が白石さんだからね。いやでも注目集まるか」

「そうですね。みんな野次馬ですから。私もですけど」

 

 

「田中くんは白石さんの事をどう思っているんですか?」

 思わず目を見開いた。

「お茶、かけてもいいですよ」

 微笑む彼女の瞳には優しさと、真剣さの両方があった。

「周りが騒いでうんざりしちゃう気持ちは分かります。でも、それで自分の気持ちにフタをしてしまうなんて、絶対、絶対にだめです」

 後悔してほしくないんです。そうつぶやいた彼女はどこか寂しげに見えた。

「宮野さん、もしかしてそんな経験があるの?」

「ありません!」

 立ち上がって、声高らかに吠える姿はなんだかとてもかっこいい。……いやないのかよ。

 

 

「実際、告白して付き合えたらって思いません?」

「なんで好きでしかも告白する事が確定なのさ」

「さあ、なんででしょう?」

 クスクスと笑う宮野さんに脱力する。今日の彼女には勝てる気がしない。さしずめスーパー宮野か。

 なら俺が負けてしまうのは道理だ。

 

 

「そんな想像をしなかったと言えばウソになるね」

 ていうか大半の男子は身近な女子で絶対にするから、妄想。

「でもね宮野さん。俺には無理なんだよ」

「……どうしてですか?」

「万が一に付き合えたとしてその後はどうするのさ」

「普通に付き合えばいいだけじゃ?」

「俺が普通に見える? 登校すら太田頼みの俺がどうやって異性と付き合うのさ」

「…………」

「デートだって途中でめんどくさくなるかもだし、そんなの女の子からしたら絶対いやじゃん」

 俺は男子として決定的かつ致命的にアレだ。だからそんな事が起きてもそれは最初の一日くらいでその後からは絶対に相手が嫌気を刺すに違いない。ならいっそのこと最初から異性と付き合わない方がいい。

「なるほど……」

「分かってくれた?」

 小さくため息を吐く。ここまで言えばいくら宮野さんでも理解してくれるに違いない。我ながらけっこう頑張ってしまった。だれか褒めてほしい。

 

 

「田中くんって、ヘタレ。なんですね」

「は……?」

 褒められるどころか貶された。

「だってそれビビってるだけじゃないですか。相手を愛する覚悟も愛される覚悟もない。それじゃあ確かに誰とも付き合うことができませんね」

 もはや、言い返す事ができない。

 

 

「でも悪いことではないんです」

 手が優しく握られて、宮野さんと目が合う。

「だれだって怖いですよ、そんなの。相手の気持ちも分からないし自分の気持ちだって分からなくなってくる。でも、そんなとても怖いのを乗り越えた先に、本物の愛があると思いませんか? みんな恋愛してもいいんですよ」

 見つめる彼女の瞳はどこまでも純粋で真摯で、言い訳を許さない力強いものだった。

「ましてや、ずっと面倒を見てきてくれた白石さんですよ? なに今さら? って話じゃないですか」

「それは……そうなんだけどさ……」

「ぷっ。ふふふふ」

「え、なに急に」

 

 

 俺が返事をしないでいると突然宮野さんが笑い出した。目を白黒させている間も彼女はずっと笑い続ける。

「いえ、ずっと大人だなと思っていた田中くんが今はずごく子どもっぽく見えて。なんかかわいいなって」

「やめてよ」

 思わず顔を背けてしまうけど、ぐいっと引き戻されてしまう。

 そして小さい手で俺の顔を固定したまま、彼女は言う。

「私のししょーなら、これからかっこいいところ、見せてくれますよね?」

「弟子認定した覚えないけどね」

「ていうか田中くん」

「今度はなに?」

 この状態は男子にいじられるよりも辛い。だからこれで最後と思いながら話しを促す。

「認めちゃってますよね? 白石さんのこと」

「……」

 

 

「ししょー?」

 宮野さんの呼びかけがすごく遠くに聞こえる。耳鳴りがする。息が、苦しくなる。

「ちょっ!? どうしたんですか!?」

 気づけば俺は彼女の手を振りほどいて走っていた。走るなんて自分が苦手とする最たるものなのに。

 でも今はそうしなきゃいけなかった。

 何かが自分の中で沸き立つのを感じる。

 知らない。こんなもの俺は知らない。

 逃走も長くは続かなくて、次第に足の速度は落ちて、とうとう止まる。

「はぁはぁ」

 胸が、心が痛い。顔が熱い。心臓がうるさい。手も足も震える。

 なにか良くない病気にかかってしまったんだろうか。自分の身体がありとあらゆる悲鳴を上げている。

「なんなんだよ、これ……」

 もう足は止まっているのに胸はどんどん苦しくなる。

 

 

 部屋に戻り、布団に潜り込む。ありがたい事に、みんな寝静まって静かだった。

 暗闇が俺を包む。いつもなら落ち着けるその空間も、温かい光で満たされている気がして落ち着かない。

 闇に飲み込まれたはずの言葉が、光に照らされていた。

 

 

 




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田中くんの修学旅行 観光タイム

こんばんは、早見です。

とうとう自分の気持ちに気づいてしまった田中くん。
しかし意識してギクシャクする彼の姿を描写するのが尋常じゃなく難しいです……。
取りこぼさないように頑張ります。



 夜が明け日が昇り、朝食を終えたクラス一同は街の一角に集められていた。

 全員がラフな格好をしていて、観光タイムを今か今かと待ちわびている。

「お前ら全員揃ってるな?」

「大丈夫だよ」

「はやくしてくれよ」

「ていうかホテル出る前にも確認したじゃん」

 この修学旅行のメインディッシュを目の前でお預けされて、不満が徐々に積もると、怒りに変わり始める。

 まったくみんな、修学旅行だからってそこまでピリピリしなくてもいいだろうに。

「うるさい! 昨日あんな事があったんだ。下手したらクラス全員強制送還だぞ!」

「「「……」」」

 先生の言葉に全員が一斉に俺を睨みつける。恐いから。ゾンビかよ。

 

 

「まあ過ぎたことはいいじゃないっすか。それより先生。あっちで高級牛肉食い放題が」

「各々、隣の市もしくは駅までいかないこと! なにかあれば私の携帯番号に連絡すること! 班の誰か一人でも欠けたら行動停止するように! 以上解散!」

 怒涛の勢いで場を締め括り、牛肉を求め去っていく先生に誰もが時間を忘れ──

「食い放題ってお昼からなんだけどマズかったかな……」

 たと思いきや全員、鬼の居ぬ間になんとやら。脱兎のごとくその場を離れた。

 

 

「どうなってもしらないぞ志村」

「なんだよ、ナイス機転だろ! めっちゃイケメン対応だろ! 女子惚れちゃダメだからな~?」

「あ、うん」

「別にそういうの求めてないから」

「ツッコんでくれよ!」

「え。まじで言ってんのかと思った」

「あそこで惚れるのは田中くんなんじゃない~?」

 素早く解散した後、志村、加藤、吉高さん、三好さん、白石さん、宮野さんで班が構成される。そこに俺は含まれていない。なぜなら……。

「み、みんな待って! 田中くんがダウンしてる!」

「ししょー! ご無事ですかー!?」

 俺は速攻でみんなに置いていかれていた。

 

 

 昨日のかなりの行動量に、身体が筋肉痛という悲鳴をこれでもかと鳴らしていた。

「ふ、ふたりとも。俺のことは気にしなくていいから。あとで先生に連絡してホテルで休んでるから」

 とくに白石さんにはあまり構ってほしくない。

 彼女とは顔を合わせづらいのもあるけれど、それ以上に昨日の今日で何度も迷惑をかけたくない。

「だめだよ」

 そんな俺の願いは即座に却下された。

「田中くんがいないなんて、絶対だめ」

 真摯に見つめる彼女の瞳は逸らすことを許さない。

 彼女はとても優しい。だから、勘違いなんてしちゃいけないんだ。

 これは白石さんにとって好意であっても、好の字になんの意味もないんだから。

 

 

「ほら。立って?」

「いや、えっと……」

「?」

 俺の心情を知るよしもない白石さんは不思議そうに首をかしげている。

 つい数時間前に、意識してしまった相手の手を簡単に握れるほど俺のは丈夫じゃない。

「どうしたの? ほんとに体調悪いの?」

 白石さんの目がどんどん心配の色に染まっていく。

 その表情に胸を締め付けられ、思考さえも停止しそうになる。

 不安げな彼女を見て……かわいいと思ってしまう俺はサドなのかもしれない。

 

 

 譲る気のない白石さんに根負けして手を取り立ち上がる。

 手が触れ合う。柔らかく、細い手が、自分の手の中にすっぽりと収まる。

「じゃあ、行こっか」

「え、あ……うん……え?」

「どうしたの?」

 歯切れの悪い返事が気になる様子の白石さん。

 勘弁して下さい。

 

 

 

「白石さん、いつまでにぎってるんですかあ? ししょーも赤いですよ~?」

 俺たちの状況をニマニマと眺めてる宮野さん。視線は握り合った俺たちの手へと向けられている。

「わ、わわわわわ!? ご、ごめん!!」

「い、いやべつに……」

 指摘されて急いで手を離す白石さん。

 これで早くなった鼓動が落ち着けられる。普段心臓にかからない負荷をかけている俺だから、気絶とかありえそう。

 そして北海道の風で手が急速に冷えていく。

「代わりに私がつないであげましょうか?」

「君はちょっと調子に乗りすぎ」

「い、いふぁいれすししょう~!」

 宮野さんのほっぺを思いっきりつねる。抗議のためにぶんぶん手を振ってるけど、知ったことか。

 

 

「白石さん、ムッとしてどうしたの? お腹空いた?」

「なんでもないです!」

 なにやら志村が白石さんに話しかけて怒られていた。これだからセクハラ野郎は。

 

「ほーら! みんな待っててくれてるから!!」

 その白石さんからのお叱りが入る。珍しく怒る彼女に俺も宮野さんも背筋が伸びる。

「あはは……ちょっと遊びすぎちゃいました」

「ほんとにね。宮野さん、集団行動ちゃんと守らないと」

「ししょーがそれを言いますか!? せっかく様子を見に来てあげたのに!」

「だからほっといてって言ったじゃん」

「その言葉、白石さんにも同じ事が言えますか? 言ってきていいですか?」

「……ごめんなさい」

「ふっふっふー」

 にんまり口角を上げる宮野さんに脱力する。この子にいじられるの、ほんといい気がしない

「こら二人とも!」

「「ごめんなさい」」

 さっき言った言葉を再び二人で重ね合わせる。怒った白石さんマジで恐い。

 

 

「おうおう田中~。見せつけてくれてんじゃねえか~」

 前に男子、後ろに女子と固まったところで志村が肩を組んで絡んでくる。うざ。でも白石さんの近くにいるよりはマシだ。

「田中、めっちゃ顔に出てる。友だちに向ける顔じゃないぞそれ」

「なに言ってんのさ。この班で男子の友だちって加藤だけだよ?」

「……うん、そうだったな! ごめん」

「おいおいおい! 酷すぎないかその会話!」

 酷いのはお前の態度だ。と言いたいところだけどせっかくの楽しい雰囲気を壊したくはない。

 ここは俺が大人になるしかないみたいだ。だけどその原因が志村にもあることをちゃんと伝えないと。

「志村……覚えとけよ」

「めっちゃ怒ってるじゃん。おい志村、謝っとけよ」

「軽いノリにそこまで言う……?」

 俺と加藤の追撃にがっくり肩を落とす志村。思った以上に効いてしまったけど別にいいや。

 

 

「ちくしょー! モテるお前らにいじりたい奴の気持ちが分かるかー!」

 一生分かりたくない気持ちだけど、その言葉を吐き捨てると同時に志村が走り出す。

「志村ー!」

 呼びかける加藤の声に彼は振り向かない。それでも加藤は親友のために言葉を紡ぐ。

「ちょっと小腹空いたからなんか買ってきてくれー!」

 絶対今言うセリフじゃない。

「お前なんか絶好だばかやろー!」

 一度足を止めた志村がもう一度走り出す。

 その走った位置がよくなかった。

 

 

「きゃっ!?」

 志村が走り出した場所は曲がり角だった。そんなところで走れば、事故も起きやすい。

「大丈夫ですか!?」

「あ、いえこちらこそ」

 素早く駆け寄った加藤が倒れた人に手を差し出し起こす。

「志村、こういうところだと思う」

「あ、えっと、その……」

 志村はなにをすればいいのか分からずにオロオロしているだけだった。

 こういう時ってどうすればいいか分からなくてフリーズするよね。

 

 

「ちょっとあんたらなにやってんの!」

「すいません、ここはどうかメガネの命一つでどうか……」

「い、いえ! こっちもよそ見してたし……て、あら?」

「え、うそ!?」

 駆けつけた三人の女子たちのうち、白石さんだけがお姉さんに対し違う反応を見せる。まさか知り合いなのだろうか。

 

 

「田中くん! この人!」

 腕を引かれ、お姉さんの前に引き出される。

「え、志村の命じゃ足りない?」

「そうじゃなくてこのお姉さん! ワックの!」

「あ……」

 気がつかない方がおかしかった。ぶつかったお姉さんは俺と太田がよくお世話になっているワクドナルドの店員さんだった。

 

 




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田中くんの修学旅行 観光タイムその2

こんばんは、早見です。

お気に入り登録がかなり増えててびっくりしました。ありがとうございます。
これからも頑張りますです。


 

 

 先を歩いていた男子達が騒ぎ出して、人にぶつかったのが見えた。

 想定外のトラブルに私たちは一斉に駆けだして相手の無事を確認して平謝り。それで事は終わると思っていたけど、予想外すら終わっていなかった。

「うそ!?」

 思わず声が上がり、何度も凝視する。

 やっぱりこのお姉さんワックの人だ!

 

 

「田中くんこの人! ワックのお姉さん!」

「あ、ほんとだ」

 引っ張りだした田中くんの目が少し大きく開く。やっぱり気づいてなかったんだ。

 って! 感動している場合じゃなくて!

「あ、あのすいません。お怪我は……」

 既に立ち上がりこっちを眺めるお姉さんの安否確認を改めて行う。

 感動のあまり、こっちからぶつかったという事を一瞬忘れてしまっていた……なにも言わないし怒ってるかも……。

 ていうかこれ志村くんが謝るべきじゃ……。

 

 

「大丈夫だよ。そんなにかしこまらないで」

 ふふっ。と微笑み私の無礼を気にもとめない大人の対応に、無性に恥ずかしくなってしまう。

「すごい偶然だね。こんな所でも君たちに会うなんて」

「あはは……」

 確立だけで言えば宝くじより高そう。

「あ、でも今日は大きい子はいないんだね?」

「太田……」

 お姉さんの話のフリに田中くんが寂しそうな反応をする。あ、太田シックだ。

 

 

「で、今は修学旅行の自由時間で……」

「へ~。実は私もね……」

「おい白石さんや。さっきから私たち置いてけぼりなんだけど」

「説明しろや~」

 一通り説明をすると、焦れた二人がヌルヌルと絡んできた。

「あ! ごめん! 忘れてた!」

「そ、そんなっ。忘れるなんてひどいっ」

「しーちゃん……友だちだと思ってたのに……」

 私のうっかりに二人が落ち込んでるけど、これに構うと長いなんだよなあ。

 

 

「あ、あああのお姉さん! さっきはそのあの」

「ぶつかった子だよね? こちらこそごめんね?」

「いいいいい、いえいえいえいえあのえっと」

 落ち着けよ志村。

 思わす呼び捨てにしてしまうほど志村くんはアレだった。存分にお姉さんを見習うといいよ……。

 

 

「おーい、転んだみたいだけど大丈夫?」

「そんな焦らなくてもゆるキャラは逃げないよ~」

「まったく、子どもなんだから」

「あ、みんな。ごめんごめん。 走ってたら高校生達にぶつっちゃって」

 またしても曲がり角の影から三人のお姉さん達が現れた。

「え、ええっと」

「ああ、この子達は大学の友だちでね。いま旅行してるところなんだ」

「そうなんですね~。じゃあそろそろ私たちはこの辺で……」

 こういう全く関係のないグループが一緒に居てもあまりいいことはない気がする。ていうか元ぼっちの私には限界が近いです。

 

 

「ちょっと待って!」

「な、なにか?」

 にこやかに解散しようとしたところで背の高いお姉さんに呼びとめられる。

 短髪にサバサバとした雰囲気はどこかきっちゃんに似ている気がする。あと胸が大きい……とても。

 その人は足早に寄ってきたかと思いきや、ずいっと田中くんに顔を近づけた。

 蛇に睨まれたカエルのように、田中くんが震えている。

 彼の反応なんてまるで知らないようにワックお姉さんに視線を向け

「もしかしてこの子って、いつもアンタが言ってたけだるげの……?」

「うん、そうだけd」

「めっちゃ美形じゃん! ていうかかわいい!」

 ……はいいいいい!? お姉さんまだ喋ってる途中だったよ!?

 言うやいなや、田中くんをその豊満な胸の中へ抱え込んでしまった。

 

 

「みんなも見てよ! すっごいかわいいよ!」

「ほんとだ~。こんなかわいい子いるなら早く紹介してよ~」

「いや、ただの常連さんだからね? 友だちとかじゃないからね?」

「そう言って自分で独り占めする気だったんでしょ」

「そんなのないから!」

「でも確かに。ここまで顔が整ってる男の子なんてそうそういないわよね」

「ね~キミ~彼女とかいないの~?」

 黒髪美人お姉さんと、宮野さんと同じくらい背が低くまったりとしたしゃべり方のお姉さん……お嬢さん? が参戦すると、田中くんはあっという間に飲み込まれていってしまった。

 

 

「お~すごーい。田中くんモテモテだ~」

「田中がモテるってマジだったんだな」

「ねえ! これって昨日みよちゃんが言ってたやつだよね!? どうなってるの!?」

「いやどうと言われましてもお客様……」

「私のカレに手を出さないで! って割り込んだら良いんじゃない?」

「もー! ひとごとだと思ってー!」

 できたらとっくにやってます!

 

 

「た、たなかぁ……。なんでお前だけそんな……」

「志村、元気出せって」

「お、爽やか少年のキミもかっこいいね! お姉さんと番号交換しない?」

「俺彼女いるんで大丈夫でーす」

「加藤てめえ! どんだけ贅沢してんだよ! ていうか彼女って俺知らねえぞ!?」

「言ってねーもん。うるさいから」

 男の子二人は役に立ちそうもない。なんとかして田中くんを救い出さないと!

 

 

 そうだ! こっちの女子も四人、向こうと数は同じ。みんなに一人ずつに相手をしてもらえれば!

「背が小さいなんて気にしなくていいよ~。服のほとんどはオーダーメイドだし~」

「べ、勉強になります!」

 言う前から、宮野さんが背の低い人の相手をしてくれていた。さすが師匠!

 あと二人。これは……いける!

「白石~私たちそこのカフェでお茶しているから終わったら呼んでね」

「しーちゃん頑張れ~」

「裏切り者ー!」

 二人とも冷たい! 鬼! あくま!

 

 

「あの、えっと……」

「ん~? どうしたのかな? お姉さんに囲まれて緊張してるのかなあ?」

 田中くんもなんとか抜けだそうとしているみたいだけど、上手くいっていないどころか、お姉さんたちの母性をくすぐってしまっている。

「ちょっと落ち着きなって。高校生に絡むなんて大人げないよ」

「いいじゃん。こんなかわいい成分補充できる機会なんてそうそうないんだから」

 言って、長身のお姉さんはまた田中くんを胸に抱き入れる。

 どうにかして助け出さないと。このままだと自由時間がめちゃくちゃにされてしまう。

 もう特攻するしかない。足と手に力を入れた瞬間、見えてしまった。

 お姉さんのおっぱいに微かに、口元を緩める田中くんが。見えてしまった。

 

 

 ブチリ。大切なモノが切れた気がした。

 

 

「いい加減にして!!!」

 その声が自分のものだと理解するのにずいぶん時間がかかった気がした。

 お姉さんどころか、行き交う人たちの空気でさえ、シン。と凍ってしまう。

 でも、どうでもいい。

「こっち!」

 彼を無理やり引き剥がし、その場を離れた。

 

 

「ちょ、白石さん」

 田中くんが止まると、引っ張っていた私の腕がツンと引かれる。

 私は振り返らないまま口を開く。

「ごめんね、余計なことして。あのままがよかったよね?」

 落ち着つくことのない感情は栓の壊れた蛇口のように、きつい言葉となって溢れ出す。

 自分でもわかっている。こんなこと言いたいわけじゃない。

 でも……抑えられない。

「あのままがいいなんてこと、ないよ」

「うそ」

「ほんとだよ。聞いて」

 いつになく彼の真剣な言葉。

 驚きのあまり私は振り返って彼の目を見る。いつも通り半目でけだるげだけれど、どこか強い意志を感じる。

 

 

「助けてくれてありがとう」

「う、えあ!?」

「ちゃんと分かってるから」

「な、ななななにが!?」

 いつの間にかさっきの怒りはどこかへ行ったのか、田中くんの目から逃れられなくなっていた。 

 ていうか分かってるって……。

「だから安心してよ」

 これは、そう思っちゃってもいいのかな……田中くんと、私の気持ちが同じだって思っていいのかな。

「でもびっくりした。白石さん、そこまで好きだったんだね」

「す、すすすすすすすきって!!」

 肩に手がポンと置かれ、彼との距離が僅か腕一本となる。

 これってそういう展開!? さっきから私の情緒が激し過ぎてなんかやばい!

「白石さん」

 鼓動がどんどん早くなって、息を吸うのもやっとの状態。きっと私は今なにをされても……。

「そんなに北海道が好きだったんだね」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 たっぷり。それはもうた───っぷりと考えました。

 彼の言ってることが理解できる人は今すぐ出てきて説明してほしい。

 

 

「……田中くん、分かってるってなにがかな?」

 聞かずにはいられなかった。聞かないと本当に取り返しがつかなくなりそうで。

「白石さん、あんなに怒っちゃうぐらい北海道好きなんでしょ? ごめんね、最初から言ってくれたのに。まさかそこまでとは思わなくて。それをあんなにみんなわちゃわちゃしてちゃ怒りたくもなるよね」

 わちゃわちゃって。その中心のキミが言うかね。

 

 

「うん。そうだね。好きだよ北海道」

「……どうしたの?」

「なに?」

 彼が指摘したのはきっと私の顔のごく一部。ほっぺた。

 べつにそうしたいわけでもないのだけど、空気がそこから抜け出してくれない。

 つまるところプクーっとしているのである。

「ぶはっ」

 肩を震わせて田中くんが吹き出した。

 いつか似たようなやり取りをした気がする。

「〜っ! もう知らない!」

 羞恥で包まれたこのときはそんなことを思い出せるほど心中穏やかじゃなかった。

 

 

 

 




誤字脱字報告数件頂きました。ありがとうございます。

お久しぶりです。
パソコンが壊れてしまったので執筆を続けることができなくなってしまいました。
今は新しい物を買う余裕がないので、年内の更新は難しいです。
来年必ず戻りますので、どうかその時はまた読んであげてください。
それではしばしお別れです。
2022年8月7日


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田中くんの枕投げ

早見、帰還しました!
待ってくれていた方、更新を止めてから読みに来てくださった方
たいっっっっへんっっっっお待たせしました!
今年からまた更新していきますのでどうぞよろしくお願いします。


 結局、あれから白石さんはホテルに戻ってからもプリプリしぱなしだった。

 ご飯の時に大盛りのいくらが出てきた時には子どもの様な瞳になって、俺の分もあげると、口をほころばせていたので、そう長くは続かないと思いたい。

 怒ってはいるけれど、嬉しいことは素直に喜びたい。そんな二極の感情で戸惑う彼女は見ているだけで心が癒やされた。まあ怒らせたのは俺でしかも理由の見当が付いてないんだけど。

「ていうか、どんだけ白石さんのこと考えてるのさ……」

 怒った顔も喜んだ顔も頭から離れない。

『認めましたね?』

 昨日の宮野さんの言葉が離れない。宮野ほんとうるさい。まじでうるさい。

 その通りだよ。そうじゃなかったらこの状態は病気かなにかだろう。

 

 

 夕食も終わり部屋に戻ってもなお、その迷走から抜け出すことは叶わなかった。

「なにいま白石さんって言った?」

「言ってない。おやすめ」

「はっはっは! 斬新な挨拶だな田中。どれ、昨日はいつの間にかいなくなっていたからな、今日こそは親友の俺が相談に乗ってやろうじゃないか! ま〜ったく、世話の焼ける友人を持つと苦労するなあ!」

 自慢げに語るやつはどんな言葉でも自分の都合のいいように解釈する特殊能力を持っている。だから俺は無視を決め込む。

 言いたいやつには言わせておけばいい。

 

 

「まあ美人なお姉さんに囲まれて嬉しいのはわかるよ? 俺だってあの立場なら喜んだだろうさ。でもな田中? それを見知った女子の前でやるのは男じゃあないのさ。例えどんな状況であれ男には我慢しなきゃならない場面てのがあってだな?」

 間違えた。こいつを消す方が早かった。

 

 

「加藤、枕投げしようよ」

「まだ話は始まったばかりだぞ田中! ここから先は俺の経験を踏まえた他じゃ聞けないようなありがた〜い話がだな」

 ギャーギャーと騒ぎ立てる志村に、俺は大人の対応をすべく、とびっきりの笑顔をつくる。

「今はそんなことより修学旅行でしかできないことをやろうよ」

「お、おお……なんだ急に」

「ごめん。今はまだ整理できてなくてさ、もう少し待ってほしいんだ」

「うおおおおお! 田中! 俺にできる事があったらなんでも言ってくれ! 愚痴でも振られ話でも!」

「振られる前提は酷いだろ」

 コイツの頭は大丈夫だろうか……。加藤でさえ呆れてるし。

「い、いやこれはつい言葉が思いつかなかっただけで!」

「慌てなくても大丈夫だよ志村。俺たちは友だちじゃないか」

「た、たなかぁ……」

「田中が成長しているだと……!」

 

 

「じゃあ志村、加藤。やろうっか」

「おう! 望む所だぜ!」

 空気が一変し、意気揚々と枕を構える二人。

「じゃあルール決めようか」

「ルール? 枕投げにいるか?」

 枕投げは大人数なら大量の枕が飛び交うだけで面白いけどこの部屋には三人だけ。つまり明確なルールがないとすぐに冷めてしまうだろう。

「簡単だよ。最初にダウンした人が負け。じゃあ、よーいどん」

「ぐふぇ!?」

 言うと同時に俺の枕は遠心力を帯びて志村の腹へと吸い込まれてる。

「あ、これじゃあ枕投げじゃなくて枕しばきだね。まあやることは変わらないしいいか」

「た、たなか……どうして……っ!」

「ちっ。しぶとい」

 せっかく人が楽に逝かせてやろうとしてるのに。

 

 

「加藤助けて! 田中の目が人殺しのそれだ!!」

「んー、でもお前が悪いしなあ」

「友だちを裏切るのか! チクショー! 彼女まで作りやがって! 俺に味方はいないんだ! うわーん!」

 男の泣き喚く姿ほどみっともないものはない。

「ていうか加藤、彼女いたんだね」

「あー、お姉さん達から逃げる時に吐いたウソだよ。そう言うと大半の人は諦めてくれるし。ていうか志村は俺と毎日部活だからわかるだろ」

「そんなイケメンテク使う時点で十分裏切りだよこんちくしょう!」

「お前はどうしてほしいんだよ」

「うるせー! 枕しばきだったな。それじゃあ俺も遠慮なくお前らをしばいてどぅふ!!」

「加藤、ナイススイング」

「田中もやるじゃん。正直枕を投げれるのかさえ疑ってたぜ」

「なんだろね、火事のなんとかかも」

 俺たちは志村という今は屍の上でグータッチを交わし、友情を深める。さらば志村。お前のことはあと五分ほど忘れない。

 

 

 志村が動かなくなったところで俺の気は少し晴れた。

「動いたら疲れた……飲み物買ってくる」

「いってらー」

 そう答える加藤は未だに志村をしばき続けていた。加藤もストレスが溜まってるのかな。

 

 

 

 昨日と同じ廊下にたどり着いた俺は腹を引きずり腕と膝を交互に地面に擦り付け、摩擦で熱くなっても前へと着実に進んでいく。

(まさか途中で体力が切れるなんて)

 自販機まで残り数メートルというところで、電源プラグを引っ込ぬいたように俺は崩れ落ちた。

 予想できなかったことではない。俺が枕をフルスイングなんてどう考えてもおかしいんだから。

 引き返そうにも、こうなった状態ではきっと部屋まで戻ることは叶わず、翌日には遺体となって発見されることだろう。推理小説か。

「あともう少し……!」

 しかしいま、その想像は無へと帰す。

 なんと俺は自販機にたどり着くことに成功していた。

 さあ栄養系のゼリーを買おう。それで明日まで保つはずだから。

「っ!」

 しかしその目的が果たされることはなかった。

「財布忘れた……っ!」

 ズボンのポケットをいくら探っても出てくるのはチリばかり。

 あ、もういいや、なんかめんどくさい。

 

 

 全てを諦めて四肢を放り出す。どーにでもなってしまえ。

 しかしどうしてだろうか。希に諦めてみると別の解決方法がパッと浮かんだりする。

 見上げる視線の先には暗くなった通路を赤く怪しく、さながらホラー映画のように照らしている物体がある。言うまでもなく非常ベルのアレである。詳しい名前は知らない。

「いやいやいやいや……いや?」

 アレ押したら、ひょっとして助かるんじゃない?




結局PCを新調することはできなかったのでiPadにキーボードをつけるという無理矢理な形になりました。
これが打ちにくいのなんの……
使いこなすにはまだまだ時間がかかりそうなので更新スピードもあまり期待しないでください。
誤字脱字あればお願いします。


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田中くんの因果応報

どうしよう、キャラクターたちが僕の想像を遥かに超えていく…………。


 一度気づいてはもう目を逸らすことができないそれは、悪魔の囁きのようだ。こういう世の中に数多くある誘惑に耐え抜いている人たちには尊敬の念を送りたい。自分を律することは本来とても難しいことなのだ。

 まあ非常ベルの誘惑に負けるやつは少ないだろうけど。

 押せば誰かはここに来るだろう。これだけ思案しといてなんだけど、高校生にもなってそんな人様に迷惑をかける事なんてしないんだけどね。

 ……でも待てよ? 俺が誰かに迷惑をかけるなんて今さらじゃ? 

 いやいやいやいや───うーん。

 

 

 試しにちょっと手を伸ばしてみよう。

 違うから。我が身可愛さに夜半にホテルをベルの音で包むつもりなんてないから。ただ本当に火事になったりするとこんな姿勢になってしまう可能性は少なからずあるだろう。そんな状態からでもベルを押す事ができるか知っておいて損はないはず。

 誰に聞かれる訳でもないのに心でいらない言い訳を重ね、俺はゆーっくりと手を非常ベルに伸ばす。いやこれ伸びの記録に挑戦してるだけだから。うっかり何かのボタンを押しちゃってもそれはきっと俺のせいにはならない。なぜなら事故なのだから。

「どうしたんですか? そんなところで」

 身がビシリと音を立てた。

 伸ばした手と同様にゆーっくりと振り向く。廊下といい人物といい、昨日のリプレイかのようだ。

 今日は幽霊仕様でない普通の宮野さんがそこにはいた。

 

 

「どうしたんですか? そんなところで」

「……ちょっと伸びをね。ほら、明日筋肉痛になったらよくないじゃん?」

 我ながら苦しい言い訳だった。救助のために非常ベルを押そうとしたなんて口の軽いこの子には絶対にバレたくない。みんなに言いふらされた挙げ句、事態を理解しない彼女だけには褒め称えられそうで怖い。

 まあこの子は単純そのもの。大して捻る必要もないだろうけど。 

「今日たくさん動きましたもんね! あ、太田くんなしだとししょーの行動範囲最高記録じゃないですか!?」

 うわ信じた。

 

 

 胸にチクリと罪悪感を抱くも、この絶好の機会を逃すわけにはいかない。

「宮野さん、そんな訳でお金貸してくれないかな?」

「どんなわけですか!?」

「財布忘れちゃってさ」

「なるほど分かりました! ししょーのためならどんとこいです!」

 あっさりと承諾した彼女はポケットから可愛らしい小さな財布を取り出す。この子いつか悪い大人にだまされそう。今は言わないけど。

「本当にありがとう。ついでなんだけどボタンを押してもらっていい?」

「わかりました! どれにします?」

「一番上のゼリーのやつを」

 よし、これでどうにか体力を回復させることができる。

「届きません!」

 んーっ!と背伸びをするけど彼女の手はまったく届いていなかった。

 仕方ない。それくらいは自分でやろう。

「あ」

 ぴ。がこん。

 限界まで伸びようとした彼女の身体は、自販機に向けて体重がのり、そのままボタンを押してしまう。

「ごめん。それ後で払うから」

「いえ大丈夫です!」

 宮野さんはそう言い切るけど、流石に俺の怠惰で出費をさせてしまうのは申し訳ない。

「なのですが……」

 いつもうんざりするほど元気な彼女がどうしたことか、歯切れが悪い。叱られるのを怯える子犬のようにシュンとしている。

 

 

「謝ることなんてないよ。ほら俺も立てたし、またお金を入れてくれれば」

「それが、そのおー……お財布の中にもう50円しか……」

「そっかそっか。大丈夫だよ宮野さん」

「ししょー」

 彼女の肩をポンと叩き、俺はこう告げる。

 

 

「これは神さまが、けだるげな俺に与えたけだるげ試練なんだ……。でもさ、試練ってそうそう乗り越えられるもんじゃないよね?」

 なんとか立とうとするけど、中腰の変な姿勢から動けなくなってしまった。

「し、ししょー?」

「時には乗り越えないことを選択することも大事じゃないかな。だから俺は明日誰かに発見されるまでここで朝を迎えることにするよ。じゃ」

 さすがに宮野さんも受け入れられないのか、なにやら叫ぶけど俺にはもはやそれを聞く体力さえ残っていない。ぐらりと体が崩れ、重力という万物が逃げられない法則に従い地面に吸い込まれる。ていうか普通にこけた。

「きゃんっ!」

 しかし俺の知る地面はぶつかったら痛い音がするはず。決して赤ちゃんの靴のような音は鳴らないはずだ。

 

 

「……そんなところにいると危ないよ」

「倒れてきたししょーに言われるのはとても心外です! あと重いです!」

 その理由は明白。地面と思って俺が突撃下のは宮野さんだったからだ。俺の腕力はとっさに自分の体を支えることなんてできないから、ホントの意味で下敷きだ。

 けど、女子と密着してる割にドキドキ感が薄い。

 ほどよい大きさといい、柔らかさといい、女の子の要素としては十分なはずなのになんでだろう。どころかほんの少し懐かしい気さえもする。これはいったい──あ。

「ねえ宮野さん」

「な、なんでしょうか?」

「俺の抱きまくらに就職しない?」

 太田が嫁で宮野さんが枕。最高なんじゃないだろうか。

「ほあたー!」

 お気に召さなかったのかべちっと、グーパンチが俺を襲う。痛くない。

「女の子押し倒して言うことがそれですか!? ししょーあんまりです!」

「だって、ちょうど良い大きさでさ……」

「あちょー!」

 またも頬からべちっと可愛らしい音が響く。

「もー! 早くどいてください! こんなところ見られたらさすがにまずいです!」

「そうしたいんだけどね、もう動けないんだよ。ごめんねパトラッシュ」

「うわーん! 乙女心傷つけられたうえに犬扱いされてどいてもらえませーん!」

 オイオイと泣き出す宮野さんはともかく、俺だってこの体勢はさすがに罪悪感がある。

 なんとかしなければならないとは思う。このままでは宮野さんと朝チュンすることになる。

 好きな人を認識した途端に別の女の子と同衾って、ギャルゲかよ。そんなゲームないよ。

「考えると体力が……」

 意識すら遠のいて、どんどん眠りへと落ちていってしまう。

 

 

「何してるのかな?」

 ぞわり。

 背中が冷や水を浴びたように跳ね上がる。

 すると体が重力を忘れたように浮き上がり、宮野さんと離れる。

 いくらなんでも身体が浮くなんておかしい。空腹の末にとうとう超能力が芽生えたなんて……。

「何してるのかな? 田中くん?」

 ことはなく、間違っても片手で首根っこを持ち上げて、こちらを色のない瞳で除き込んでる白石がやったなんてことあるはずがない……あってほしくないからセーブポイントからやり直させて……。

「に、にゃー……」

 とりあえず今の姿勢的にはそう答えるしかなかった。

 

 




誤字脱字あればお願いします。


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白井さんの爆発

え、白石さん……?


「に、にゃー」

 次のシーンではそれがなかったように済まされるギャグ漫画の世界だったら良かったのに。真摯にそう思いながら俺は猫に徹していた。

 理由はかんたん。こわいから、かなり。白石さんが。

「なにか言うことはあるかな?」

 俺を持ち上げたまま質問、もとい尋問が始まる。

 位置的に後ろにいる形になるので彼女の顔色を窺うことができない。

 とにかく洗いざらい経緯を話すしかない。

 

 

「……ふうん? それで?」

「えっと……全部だけど」

 事の経緯を説明して、いつものノリということを理解してくれたら解放されるはず。

「どうして宮野さんは泣いているのかな?」

「あー……」

 淡い期待叶わず。

 抱き枕と犬扱いがそんなにショックだったのか、宮野さんはシクシクと泣いていた。

 

 

「えっぐえっぐ」

「田中くん?」

「いや、これにはやむにやまれぬ事情が……ぐえっ」

 支えられていた力が抜け、地面へと自由落下する。自由落下ってなんか落ちたくて落ちてるみたいな感じがする。そんなことないか。

「宮野さん、大丈夫? 田中くんになにをされたの?」

「うぇ……た、田中くんに……乙女の純情を踏みにじられましたああああ! 私はどうしたってレディには扱われないのですー!」

 涙腺が崩壊しオイオイと白石さんにすがりつく宮野さん。

「田中くん、これでなにもしてないっていうのは信じられないかな」

 さっき説明するときに俺の失言には触れなかった。だとすれば白石さんには俺がウソでこの場をやり過ごそうとしているように見える事だろう。

 彼女の目は敵を見るそれだった。

 好きな人に、大切だと自覚したばかりの人にそんな目を向けられてきちんと喋れるわけもなく、事態はどんどん悪化する。

「田中くんに抱かれました!」

 まるで氷のひび割れがその場に響いたような衝撃が訪れる。おい宮野それはないだろ。

「えっと、半分くらい合ってるんだけどいろいろ誤解でさ……。まあ宮野さんがこんな感じに泣くのはいつものことなんだけど……」

 とにかくこの空気と宮野さんの言葉はマズい。なんとか言い訳でもなんでもしてごまかさないと。

 俺が手をこまねいていると、ありがたいことに空気は壊れる。まったく、望んでいない形で。

 

 

 何かが破裂するような音がした。それは場の空気だったのか、白石さんの堪忍袋の緒だったのか。

 その音がどこから発したのかはすぐに見当が付いた。遅れて左の頬がジンジンと痛む。

 俺は、殴られたのか。

 

 

「べつに抱いたって、襲ったなんて信じてないよ。でも……女の子が泣いてるのに、そんな言い方ってない!!」

「え、あ……」

「宮野さん、いつも泣いちゃうけど、だからって軽く扱っていいなんてこと、絶対にない」

 俺の喉はかすれ、声も上手く出ない。なにが起こっているのか、まったく理解できない。なにを言えばいいのかさえ分からない。

「あ、あのっ。確かに私泣いちゃいましたけどそのっ」

「大丈夫だよ宮野さん。部屋もどろ?」

 あまりの衝撃に涙を引っ込めた宮野さんが、弁明をしてくれるけど彼女にもはや聞く耳はない。

 何か言わないといけない。そうしないとこのまま全てが終わってしまうのを直感で理解した。

「白石さ」

「来ないで」

 だというのに、睨まれた俺はその場に立ち尽くし、二人は去っていく。

 でも、なにもできなかった俺は俺を肯定したい。

 怒って、泣いてる女の子にどうやったら話しを聞いてもらえるかなんて、分かるわけがないじゃないか。

 そして修学旅行の日程を残しながらも俺と白石さんが会話をする事はなくなった。

 

 

 

 

「あああああ、あ、あのっ! 白石さんっ! 私はそこまで気にしてないし、田中くんと仲直りをっ!」

 手を引く宮野さんはまるで綱引きのように私の腕を引っ張るけど、あえてそれに取り合わない。

「たしかに田中くんには抱かれ……あああこの言い方じゃなくって!」

「大丈夫だよ宮野さん。そこは分かってるから」

 どう拗らせたって気だるげの権化の彼がそんな若さ全力の行動をするとは思えない。

「でしたらなんで!!」

 悲痛な目で訴える彼女をみて、胸が痛む。かわいい子というのは実に卑怯だ。好きな人を引っぱたく怖い女には到底真似できない。

「ごめんね」

 何に対しての言葉だったのか。誰に対しての言葉だったのか。突然ポツリとこぼれた言葉は涙と同じで、勝手に落ちて消えていった。

「もう、一人で戻れる?」

「え……でも白石さんが」

「じゃあ、おやすみ」

 身勝手にあの場から連れ出した彼女にさえ、大した言葉もかけずに私はその場から逃げ出した。自分がなにを考えてなにをしたのか。そのことから逃げ出し、悪さをした子どものように布団を頭から被り、眠れない夜が明けるのだった。

 

 




違うんです田中くんも白石さんもほんとにいい子たちで良い子過ぎるが故なんでああああああああああ


更新までもーーーーーーーーーしばらくお待ちください……


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