五条悟の次に強いやつって言われたいじゃん (五条悟のディスク)
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起源創生編
プッチやん


たいていの異世界転生なんてエンタメとして、閲覧者として見るから楽しいのであって実際に当事者になったことを考えれば危ないったらありゃしない。

 

今まで触れたことのない常識を叩きつけられ、使いこなせる保証なんてされていない異能を与えられていわゆる原作キャラと戦う。何の異能もない平穏な世界でのうのうと生きていた自分が対等に戦えることなどあろうか。

 

さらに、実際にその世界に入るとなれば痛覚もあるし自身が思っているより楽じゃない。

 

ただ、そんな不思議体験ができたのなら、既に自身が死んでしまった後の話であるなら。物語を読んでいたものとして叶えたいことのために二度目の生を好きに生きてもいいんじゃないか。

 

なんてセンチになってみたがまさか本当に物語の世界、『呪術廻戦』の世界に生まれ変わるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

前世というべきかわからんが、まあ前世では絵にかいたようなテンプレの自動車事故で命を落とした。

 

後悔とか悔いがあるかといわれたら、まぁある。が、そこまで大したものじゃない。買ったばかりのゲームをまだクリアできていないとか、ずっと集めてたシリーズ物の漫画の完結が見届けられなかったとかその程度だ。

 

両親は絵にかいたようなロクデナシだった。父は身籠った母を捨てて気が付く前に霧散、母はストレスからか、夜遊びを頻繁に行うようになり育児を完全に放棄した。

 

そのため、俺は遠い親戚の爺さんに引き取られて育った。

 

ロクデナシから生まれた俺をそこそこまっとうに育ててくれた爺さんには感謝している。ただ、爺さんも病気で俺より早く死んでしまったので、これに関しても悔いは残っていない。

 

そんな前世を思い出したのは、いろいろあって家から追い出された時だ。

 

今回も例にもれずロクデナシの両親であったが、寝床と飯が出てくるだけまだましであったな、と。

 

追い出された理由としては、俺がいることでわけのわからない事象が発生するため、恐ろしくなりついには家から追い出した。という流れである。

 

俺には昔からほかの人には見えていないものが見えていた。少なくとも両親含めた他人はその存在に気が付いていなかったため、そう判断した。さらには俺がいる部屋の物体が急に天井に落ちた(・・・)り、触れたものが裏返った(・・・・)りしたのだ。

 

そんな原理不明の怪現象が発生するので、追い出されたということである。小学2年生のころの出来事である。

 

 

リュックに収まる程度の私物を持たされて家から閉め出され、鍵がしまる音を聞いたその瞬間にすべてを思い出した。

 

学校や病院でよく見かける異形、過去に一度だけ見かけた特徴的な黒い服を着た人。そうして耳にした「呪術師」という言葉。この世界が呪術廻戦の世界であると完全に理解した瞬間である。

 

 

さて、では自身に起きた一連の怪現象は自身の術式によるものだと思ってまず間違いない。そしてそれらの現象は見覚えがある。これも前世の読みものであった某奇妙な冒険の第六部で登場するキャラクターの能力。すなわち重力を支配する能力。

 

この世界は呪力を術式に流し込んで事象を引き起こす。おそらくは俺に刻まれた術式は重力制御で、それの制御ができていないため漏れだしたと考えるのが妥当だろう。

 

そしてなにより、重力だ。重力操作といえば様々な作品でのボスキャラや強キャラが使用する強力な能力だ。せっかくこんな能力を持っているんだ、使わなければもったいない。ただ、やはり餅は餅屋。術式を完全に扱えるようにするには当然それを専門に教えている機関にお世話になるのが一番手っ取り早い。しかし、こちらからコンタクトをとる手段はない。

 

だったらなるしかないでしょ。

 

 

『独学で術式を完全に習得した天才』、『五条悟の次に強い呪術師』

 

 

ってやつにさ。

 

 

 

 

 

原作は交流戦終わるかどうか位まで読んだ。なので術式についてはある程度の理解がある。あとはどれだけ自分に対してストイックになれるかだ。目標はC-MOONの再現とその他諸々重力使いができそうな能力の習得。呪霊に対して有効なのは術式による攻撃などの呪い。俺が引き起こす事象はおそらく術式によるものであるのであまり考えなくてよい。

 

となれば、あとは練習するのみ。目下の目標は呪力の火種になる感情をどっからもってくるか、にある。

 

成長記録のために日記でもつけてみようかな。

 

 

 

 

 

○月○日

 

家を追い出された際に、それなりの金を渡されたので当分はこれで生きていく。また、重力とかいうトンデモ能力を扱うため、万が一被害が出ないように郊外の森でしばらく暮らすこととした。

食費を考えると金がすぐに無くなりそうなので、サバイバルキットを一式そろえた。食料に関しては現地調達になると思う。

いきなり自分に能力を使うのは怖いので、石とかを使って慣れていきたいと思う。

 

 

○月○日

 

もしかしたら俺は天才かもしれない。火種をどうするかみたいに考えてたけど、どうにかなりそうだ。

今の現状に対する不満、あったかいご飯を簡単に用意できないストレス。自身が意識している中ではそこまでストレスを感じていなかったが、無意識下では相当ストレスだったようだ。負の感情を火種に呪力を生み出すという点に関しては問題はなさそう。

そうなると、あとは重力操作についてである。これがてんでうまくいかない。

おそらく重力といってもそれを現実に持ってくる具体的なイメージがないため、うまくいかないのではないかと思った。さっき釣り上げた魚を焼きながら考えてみる。

 

 

○月○日

 

重力とは引力、つまり引っ張る力であると自身の中で明確に定義することにした。例えば、石を垂直上向きに飛ばしたい場合は引力を作り出す核を上空に置いておく。こうすることで石はその引力に引っ張られて上向きに落ちていく。ただ、これだと動かしたい石以外も引力の影響を受けてしまうという問題がある。これについては、自身の呪力でマーキングした物体に作用すると設定することで解決した。

なんだか、夢に見た俺ツエーを再現できているようで楽しくなってきた。

 

 

○月○日

この世界に来て初めて遺体を見た。大きな木の幹から吊るされた男性の遺体。そばに転がっている土台にしたであろう脚立。そして垂れ流された糞尿。遺体がそのままというのもあれなので、弔ってやった。

直接手を触れることで犯人として疑われることを避けるために、練習がてら術式を使って現場を片付けることとした。遺体を吊っている縄は中心を起点にそれぞれ直線状反対の斥力を生み出すことで千切り、地球の重力に対して反対方向の引力を与えることで遺体をゆっくりと地面に下す。

人が一人入る程度の棺と同じ体積に呪力を付与しそのまま持ち上げて穴を掘り、浮かせた遺体に横向きの力を加えて穴の上に移動。あとは先ほどと同じ工程の逆で土をかぶせて埋葬。無念なことがあったかは知らないが、今の俺ができるのはここまで。

 

 

・・・・・

 

 

・・・

 

 

 

○月○日

 

当初目標に挙げていたC-MOONの能力の再現は完成した。ただこの程度ではまだ足りない。

もう少しいろいろ試行錯誤してみようと思う。

 

それと、最近妙な気配がするので気を

 

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猛烈な殺気。実際に呪霊と戦ったことはまだないが、それでもなお感じる大きな呪力と威圧感。日記をその場に放り出して重力操作を併用して水平方向に落ちる(・・・)。そうして先ほどまでいたところに振り下ろされる人間のサイズとは思えない大きな拳。見上げてみればそこにはいびつな球体に虫の複眼のように敷き詰められた人間の顔、そこから延びる計6本の腕を持つ怪異。

 

「これが呪霊...」

 

僅かに手が震えるが、こぶしを握りなおすことでそれを抑える。

 

対呪霊である術式であるが、肝心の呪霊に対する訓練はまだ一度もできていない。大変貴重な機会だ。これ程の呪霊と戦える機会はそうそうない。

 

それに、五条悟ならこの程度の呪霊は秒殺のはずだ。

 

 

ならその次に強い呪術師になる予定の俺も当然秒殺できなくては。

 

 

「かかってこいよ、ボコボコにしてやるからよ」

 

こうして生まれ変わって呪術師となった男、節 円李(ふし えんり)の初めての戦いが始まった。

 

 

 

 




作者はお気に入り登録とか評価とか目に見えて数字が出るとやる気が25乗になります。

ちなみにやる気は下限が2です。



訂正
術式の自覚の年齢についてご指摘がありまして、内容をわずかに変更しました。ガキにしては大人びてる感はありますが、そら前世の記憶があれば...ねぇ?

ちなみに、主人公のイメージはかっこいい・強いに憧れるアホです。


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ボコボコやん

はじめ三人称で最後一人称です

まじで書き方わからん





円李の知るところではないが、彼が修行の場として選んだ山は自殺の名所であった。

 

呪霊は人間の負の感情が溜まる場所に発生しやすい。また感情の大きさや規模、人口に比例してその強さもどんどん強くなる。

 

特に自殺の名所ともなれば、その場に渦巻く感情も大きく当然発生する呪霊も強くなる。さらに自殺スポットとして有名であれば気味の悪いという、人間の無意識下での感情がその呪霊をダメ押しとばかりに強くする。

 

呪霊の規模、使ってくる技。そして狡猾さ。今回、円李が対峙したこの呪霊は呪術師が定める階級でいうところの1級レベル。これは狡猾さや特級を特級たらしめる要因がないための判断。初見殺しによる精神破壊の術式という純粋な能力で判断する場合には特級に近いレベルに達するだろう。

 

単純な悪意のみではなく、その命を代償にばらまかれた負の感情は際限なく呪霊を強化する。

 

呪術を習いたてのガキが戦うべき相手ではないのは一目瞭然。ただし、それは一般的な呪術師の話だ。

 

彼が最終的に目指しているのは最強の次に最強の呪術師。

 

 

つまりは、そういうこと(・・・・・・)である。

 

 

 

 

 

「あっぶね!!」

 

後方に大きく飛び、体を捻りながら呪霊の拳のラッシュをギリギリのタイミングでかわし続ける。

 

引力を発生させる核、引石(いんこく)を周囲にばらまきながら人間離れした速度で木々を縫うように移動する。それに追随するように3本の腕が円李を追って飛んでくる。

 

「古典的な策だけど、こういうのはどうよ」

 

木々に張り付けた引石を稼働させる。森の隙間を通って伸びていた腕は、木々と複雑に絡み合った上に引石に固定され身動きが取れなくなった。

 

本体の様子を確認するために空に落ちる。そこにあったのは、残った三本の腕で周囲を薙ぎ払い動かすことができない腕の拘束をはがそうと暴れる呪霊の姿。

 

『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ』

 

「うるさ」

 

びっしりと並んだ口から放たれる耳障りな音を聞き流し、次の手を打つために呪力を練る。

 

 

ギロリ

 

 

そうつぶやいた瞬間、一体いくつあるのかわからない数の瞳と目が合う。

 

『オ、オレオレハ死ヌシカ...デキキナカッタノニ』

 

「やっばい...!」

 

『ドウシテオマエハイキテルンダァァ!!!』

 

何十もの光が瞬くと同時に、呪霊から顔が射出された。

 

それは誘導ミサイルのように俺のほうへ飛んでくる。回避運動をとるために重力を操作するが、上下左右前後のすべての方向から飛んでくる。

 

顔面誘導ミサイルの正体は、人間一人分の命。死を選択するほどの大きな恨みや絶望がそのエネルギーを何倍もの大きさに増幅させ、着弾した相手に術式を刻むとともに倍増した呪力により木っ端みじんに爆発四散させる能力を秘めた術式。

 

弾頭に触れられた時点で呪霊『百面怨業鬼』の術式、数十年かけてため込んだ感情をぶつけることで対象の精神を、内側から破壊する術式が発動する。

 

そんなことを知らない円李だが、直感でこれに触れてはいけないことを察知。

 

 

故に、自身の術式による正面突破。

 

 

右手で印を結び、初めての実践で放つ術式の名を告げる。

 

逆円環(さかえんかん)

 

その瞬間、円李を取り囲むように接近していた顔面は目が、鼻が、口が裂け文字通り裏返った。

 

そうして同時に、それぞれの顔面の中に置いた引石を起点にBB弾ほどの大きさまで圧縮する。途中、起爆した個体もあったが爆風ごと圧縮されそのすべてが無効化された。

 

「大切な顔なんだ、返すよ」

 

圧縮した球を呪霊に向けて打ち込む。いまだ自由である3本の腕を狙って放たれた球。接触した瞬間に圧縮した呪力を解放。円李を焼くはずだったその爆炎は本体である体もろともその腕を吹き飛ばした。

 

被害を出さずに呪霊をせん滅する。ならば、引石を用いた最大出力で無に収束させる。先ほど顔面の中に引石を正確に設置できたのは、構造が簡単かつ大きくなかったため、必要とされる呪力も大きくなかった。呪霊本体はとにかく巨大であり、加えて円李の射程範囲外。

 

よって、チリ一つ残さないように術式を打ち込むには近づいてその全容を正確に把握する必要がある。

 

引石の作用する範囲を広げて、引き込んだのち無に還してもいいのだが、まだそれほどの技量は持ち合わせていなかった。よって円李の取る戦略は、呪霊の中心に立ちその地点で今持てる最大の術式を打ち込む。

 

 

背後に呪霊の方向向きの力を受けて、最高速度で突っ込む。

 

呪霊は人間よりも簡単に、素早く欠損部位を回復できる。破壊されたことで自由となった体を持ち上げ、新しく腕を再生し握りつぶし叩き落すためにその腕を振るう。

 

しかしその腕に対して小さい円李は、最初にばらまいた引石から引力や斥力を受けて読みにくい軌道をとることでそれをかわす。

 

本体に向かってくることを察した呪霊は、一度腕をまとめ枝分かれするように6本の腕から何百という腕として『面』で押しつぶす行動をとった。

 

 

 

まだ、円李は実際に術式を対象に使ったことがなかった。練習や狩りの中で、練習として使うことはあったが実践の中で使ったのはこの戦いが初めてだ。

 

では、なぜこうも対等に、いや一級を凌ぐほどの戦いができるのか。

 

それは特級に近い分類にカテゴライズされる強さの呪霊とせめぎ合うことで、その才能が、呪術を扱うための能力がより美しく洗練されていったからだ。

 

本人は単なる生まれ変わり程度の認識ではあるが、生まれ変わったその体に備わっている才覚は並のレベルではない。

 

 

ただのハイセンスではここまでには成らない。

 

 

幾百の腕をかわし、払い、また呪力によって消滅させ前に進むたびにどうやって呪力を回せばいいのかを無意識下で理解する。

 

最強の次に最強となりうる術師であるということだ。

 

 

 

『シンデヨォォォオオオオ!!!!』

 

並べられた顔面をかき分けて現れた巨大な顔が大きく口を開き、触れるだけで蒸発してしまいそうな呪力が収束していく。

 

ついに自身が押されているのだと、このままだと祓われてしまうと自覚した呪霊は今までにため込んだ純粋な呪力によって広範囲を吹き飛ばす選択を選ぶ。

 

そして放たれた熱線を前にしても速度は全く落ちない。薄く伸ばした引石を盾のように展開し、射線のど真ん中を突っ切る。

 

熱線を防ぎ切った引石をドリルのような形状に変化させ呪霊の本体を貫く。

 

貫通するまでの時間から呪霊の中心を定め、とどめの術式を発動させる。

 

両の掌を合わせ呼ぶ術、それは

 

 

地爆天星(ちばくてんせい)

 

 

空間が軋む。

 

いまだ伸ばされるその腕を押しつぶし掬い上げるように大地が隆起し、本体の中心を目がけて収束していく。そうして圧倒的な引力のもと引き上げられた瓦礫は呪霊を覆いつぶし一つの大きな(ほし)を形成する。

 

点無(てんむ)ッ」

 

本体に集まっていた岩石や木ごと覆うように黒い幕が広がり、瞬きの間に点のように収束し消えてなくなった。

 

こうして、円李の初めての戦闘は周囲に広がるクレーターを残して終了した。

 

 

 

 

 

 

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(あっぶねーーーーーーーーーー!!!)

 

マジで危なかった、本当に死ぬかと思った!

 

何であんな大きいのが初戦なの?だいたい最初にかませ犬みたいのが出てきてとにかく戦えるって実感できるのが道理じゃないの?

 

(いやまてまて、俺は最強の次に強いやつになるんだ、これくらいはへーきへーき)

 

そう心の中で唱えて、戦闘を終えて一種の昂揚状態になっている己を落ち着ける。

 

なんでかはわからないが、自身の術式の使い方を誰に教えられたとかいうわけでもなく実感として理解できた。

 

閉じていた感覚が無理やりこじ開けられるような感覚。今の一戦を終えて、引力を用いた術式の扱いはほぼ完ぺきと考えていいだろう。

 

原作の地爆天星は最初に中心の核を破壊されると無効化されてしまうが、俺が術式として再現したこれは中心に置いた引石の座標を中心として術式を作用させる。あくまでも基準座標をとるために引石を置いているだけで、破壊されても一度発動したのであれば中止するための指示を出さない限りその地点めがけて物体が集まっていく。

 

先の戦いでは引石を破壊されることはなかったが、目論見通りうまく術が発動してよかった。

 

これで最強キャラが持つ圧倒的な範囲攻撃は完成でいいだろう。

 

次に目指すべきは小回りの利く技と、敵の攻撃を退ける防御を考えなくては。

 

 




誤字脱字報告してくださった方、感想を送ってくださった方、執筆の励みになりますありがとうございます。

感想・評価をいただけるとやる気が増幅します。




また今後登場するクロスオーバーでない技(出てくるかもしれないし出てこないかもしれない)としては

・相手に超重力をかけて拘束・圧殺
・ブラックホール的なもの
・対象にかかる重力の操作

採用するかは執筆している感じによります。

ではでは、またよろしくお願いいたします。


2020年11月29日
技募集が規約違反に引っかかってしまったようです。
感想にてコメントを送ってくださった方、申し訳ない。

2020年12月2日
普通に考えてあの規模の呪霊が二級はないですね。なので、その辺を編集しました。コメント欄での指摘、ありがとうございます。




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バレるやん

戦闘シーンについて、お褒めの言葉をいただきありがとうございます。
この調子で更新を続けていけたらと思っています。

よろしくおねがいしゃす。


 

○月○日

 

野営地あたりが無事だったため、多少汚れてしまったが日記も無事だった。

 

大規模な殲滅術式である『地爆天星』の調整を兼ねて、自身の野営していた場所を避けるように術式を発動させていたが、うまくいったようだ。

 

今後の目標としては、もっと機動的な動きをとるために術式を自身に用いることを主体に細やかな呪力操作を練習していこうと思う。

 

先の戦いから、呪霊の姿をはっきりととらえられるようになったので弱い呪霊を実験体に練習を重ねていこうと思う。

 

 

○月○日

 

空中浮遊、空中での立体的な機動による高速移動の方法を確立することができた。もしかしたら天才かもしれない。

 

さらに細かい呪力操作のために自分以外の物体を高速で移動させる練習をするとしよう。

 

これは、味方を連れて危険区画から離脱したりするときや単純に移動するときに必要な能力なのではと思ったからだ。また、これを応用すれば呪力をまとわせた瓦礫やそこらに落ちているものを使って、直接触れずにボコボコにできるようになるのではないかと思ったからだ。

 

今はまだ引石を置くことで引っ張ったり押し出したりして対象の物体に作用させているけど、最終的には間接的に作用させるのではなく直接運動をさせられるようにしたい。

 

 

○月○日

 

案外、自分の体以外はよくわからないもん。

 

マジでうまくいかない。

 

少し力んで消してしまうこともしばしば、動かしたい軌道をとることができない。ただ、五回に一回くらいうまくいくことがあるのでこればっかりは練習が必要になるだろう。

 

まぁ、今までが順調すぎただけで躓くこともあるでしょう。

 

あくまでも、最強ではないからと言い訳をさせていただくことにしよう。

 

 

○月○日

 

重力使いと言えばという技をつらつら書いてみようと思う。

 

・相手に超重力をかけて拘束・圧殺

 

・ブラックホール的なもの

 

・自身を起点とした物体の引き寄せと反発

 

・重力操作の延長で相手を無重力状態にして拘束

 

とかだろうか。

 

ただまあ、今まで扱えるようになった能力から考えると全部不可能ではないような気がする。

 

このまえのたくさんの腕への対応として使った引石を引き延ばした奴は、イメージとしては触れた瞬間に圧縮して消し飛ばすというのを限定的に行ったものだ。あまり処理能力をそちらに割きたくなかったので、自身に確実に当たるもののみに作用させるようにした。

 

またドリル状にして突っ込んだときは、表面上に斥力を作用させて穴をこじ開けた形になる。

 

触れた瞬間消し飛ばすブラックホール的なものは、攻守両方において有用であると思うのでまずはこれから研究してみようか。

 

 

○月○日

 

ブラックホール・ドリルってかっこよ

 

 

○月○日

 

とりあえず、触れたものすべてを表面上に引き込んで圧縮することで、触れた瞬間消し飛ばすシステムを実装してみた。

 

ただ、これには複数の工程があり、対応されるかどうかはわからないが若干のタイムラグがある。

 

やっぱり触れた瞬間作用するのがよさそうだが、当面はこれで行こうかと思う。

 

 

○月○日

 

ある程度自由が利くようになったとおもう。たぶんたいていの敵は瞬殺できると思う。

 

遠距離からチクチクし、近づいてくれば超荷重による圧殺にくわえて疑似的なブラックホールを再現した引石を交えた圧倒的火力。攻守における武器はあらかた出切った感じはする。

 

次に考えるべきは無敵の盾だ。

 

目標である最強、五条さんは無限を自身と対象の間に挟むことで完全な防御を可能とした。

 

では、俺はどうしようか。

 

応用次第では五条さんと同じような防御を作り出すことも可能だろうが、せっかくだしオリジナリティを出したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たぶん今夢の中にいるんだろうな。だってほっぺつねっても痛くないし。

 

確か、今日は豪勢に鹿肉のフルコースを食べて、うまくいかない防御術式をうんうんと考えて...そこから意識があいまいなのでたぶん寝落ちだろう。

 

(ここどこだ?)

 

あたりを見渡し、その異様な光景に息をのむ。

 

広がっているのはどこかの街並み。どこかはわからないが、人が歩き、車が走り、2階建ての家が並ぶ街なのだが何かがおかしい。

 

形容しがたい違和感。

 

そして気が付く。

 

太陽と月が交互に顔を出し、ありえない速度で時が過ぎているということに。

 

「ッ!?」

 

風が吹き、瞬きの間に先ほどまで昼だったはずが夜に。窓際に飾られた観葉植物は落葉と生成を繰り返し落ち葉の山を作る。

 

青年が食べようとしたハンバーガーは腐り、老人が箒で掃いても掃いても埃が溜まっていく。

 

その果てに、加速する世界に対応できないものは朽ちていき、消えてなくなった。

 

人が死んだ。その反射で吐き気を催すが、あくまでもこれは夢の中の話。実際に人が死んだわけではない。

 

そしてこの景色がまだすべてではない。俺には気が付かなくてはいけないことがある、その本質を見極めなくてはいけない。

 

風に吹かれ落ち葉が宙を舞う。そして、たまたまその一枚が俺の手のひらに舞い落ちる。

 

「消えない...?」

 

ほかの落ち葉は地面につくと同時に、風化していきチリとなって消えてしまった。しかし、この手の中にある葉は消えることなくその形を保っている。

 

俺の立っている場所も、ほかに比べれば少し小ぎれいである。俺に触れているないし俺の周囲にあるものだけ加速するときの影響を受けていない。そして、意識が明確にあるし、体を見回してもおかしな点はない。俺自身が変に早く年を取ったり、老化による身体的な影響も現れていない。

 

 

 

この無限に加速を繰り返す世界の中で、俺だけが完全に対応することができている。

 

 

 

これが俺に刻まれた術式の根幹。

 

そして心象の具体がこの世界。重力の力を完全に支配した先。

 

何と呼べばいいのかがわかる。

 

名を

 

 

 

 

 

暁月匆々(ぎょうげつそうそう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月○日

 

なんだかとても長い夢を見ていた気がする。

 

って書き出しだと内容覚えてないってことがよくあるよね。覚えてた。

 

たぶんあれを現実世界に持ってくるのが領域展開。極限まで重力を自在に扱えるようになった終点が時間操作だと思う。

 

話を戻して、防御の術式についてだ。防御用として転用するのであれば俺に近づくにつれて時間を遅くするのが完全に攻撃を防ぐ手段になりそう。五条さんとやっぱり似てしまうが、最強に近くなり形が洗練されるとこうなるということで納得しよう。

 

相対性理論的に、時間のずれを発生させることで疑似的な時間停止を限定的に再現する。

 

術式に対しても作用できるようになれば、事象が俺に届く時間を引き延ばすことで初見殺しの術式であっても俺には届かないという策を実現することもできそう。

 

あとは、対象選択の自動化とかできればいいよね。

 

 

 

 

 

○月○日

 

たぶん最強の次に最強になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルなどの建物が見えない森の中、完全に整備されていない道を車が走る。車内では、紙をめくる音とエンジンの音のみが響いていた。

 

「どうして窓は気が付くことができなかった」

 

「はい。どうやら残穢ごと消し飛ばされていたようで、呪力による探知にも引っかからなかったそうです。なので、実際に変化が出るまで気が付けなかったと」

 

「富士山のふもと、自殺者と世間からの畏怖によって呪霊が発生しやすい。定点的に観測をしていたはずだ」

 

「そういわれましても...かすかに揺れはあったそうですが、なんせ地震大国ですし」

 

呪術師を育てる学校である呪術高専の教師である夜蛾正道は補助監督の報告を聞き、大きくため息をついた。

 

事の始まりは霊峰富士周辺に点在する観測所からの報告だった。

 

一年の中で呪霊が活発になるシーズンがいくつかある。呪霊は負の感情の受け皿となりやすい場所で湧く。自殺の名所なんて言われている麓森林では階級の高い呪霊が発生することで知られていた。

 

それに対応するための観測所だ。

 

日本の情勢から危険とみなした時期に呪術師の派遣を要請するための機関。そこから挙げられた妙な報告。

 

曰く、『発生する呪霊が異常なほど減少している』とのこと。

 

観測所からのデータをもとに上層部が導いた考えは、特級個体による呪霊喰い。呪霊の中でも弱肉強食の関係はあり、強大な力を持った呪霊はしばしば呪霊喰いを行うことがある。こうして呪力とともに呪霊を取り込むことでより力を得ようとするものである。

 

特級呪術師は数が少ないうえに忙しい。そのため、今動くことができる一級呪術師である夜蛾が派遣されることとなった。

 

「それにしても、特級かもしれないんだろ。なんで俺一人なんだ」

 

「先ほども連絡しましたが、あくまでも特級呪霊が発生しているかの確認をしろとのことです。祓うことが目的ではないので夜蛾さんの判断で撤退してもらっても構いません」

 

「わかってるよ...ここで止めてくれ」

 

光が地面まで当たらないほどに生い茂った木々。夜蛾の立つそこはまるで大きく開かれた口のようだった。

 

「待っていたほうがいいですか?」

 

「いや、一番近くの道の駅で待っててくれ。3時間以内に帰らなかったら本部に連絡を頼む」

 

「わかりました、お気を付けて」

 

バタンとドアが閉まる音とともに、エンジンの音も遠ざかっていく。

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた呪霊がでてくるか...」

 

暗闇の中に足を踏み入れた





ということで夜蛾さんでした。
領域に関してはメイド・イン・ヘブンの強化版です。術式の名前は烏兎怱怱から。


これから星蒋体行って0巻の話行って原作1巻かな?

これで文句なしに五条さんの次に強いオリ主になりました。

アンケートを置きます。これによって話が変わっていくかも。



評価・感想をいただければ筆も早くなりますので、よろしくお願いします。


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スカウトじゃん

ランキング2位ありがとうございます。

また、評価と感想のほうもいただきやる気が持続しています。

今後ともよろしくお願いいたします。




 

 

 

「カゲヤマ、ハヤブサ、ヒビキ」

 

懐から手のひらサイズの人形を複数、抱えるくらいの大きさの二体の人形を取り出し、呪力を込めて放り出す。

 

両方とも夜蛾自身が作成した呪骸であり、独特の愛嬌を持っている。一昔前にはやったブサ可愛いとはこういうものをさすのだろう。

 

呪力の探知を行い、対呪霊の索敵に特化したネズミの人形のカゲヤマ。そのサイズに対して、夜蛾を持ち上げて高速で移動できる馬力を持つフクロウの人形のハヤブサ。音を用いた対象の無力化と妨害を行うことができる、拡声器を持ちヘッドホンをつけたデザインをしたカエルのヒビキ。

 

もし手に負えない特級呪霊であった場合、ヒビキが殿を務め、ハヤブサで撤退するという作戦だ。

 

前衛をヒビキに、後衛にハヤブサという布陣で森の中を慎重に進んでいく。

 

カゲヤマの索敵によって、周囲に呪霊がいないことが確認できたので、呪力で強化した体で森を駆ける。

 

本来ならば、呪霊がまばらにだが存在しているはずなのに一体もいないというのはおかしな話だが今はそのほうが都合がいい。

 

今回の夜蛾の任務はあくまでも特級の存在の有無。そして森は外で見るよりもずっと広い。それは複雑に植生する木々や方向感覚がわからなくなるという要因もあるかもしれないが、とにかく調査を進めなくてはならない。

 

それこそ日が落ちてしまえば万が一呪霊とぶつかったとき圧倒的な不利となってしまう。補佐監督に告げた3時間というタイムリミットは自身が満足に活動できる時間までを加味しての期限だったのだ。

 

走る、走る、走る。

 

ちょうど森の中心部に近づいたあたりだろうか。ふと中心を避けるように進路を切っていることに気が付く。中心の方角に進もうと思う度意識がそばにそれるのだ。

 

「帳か...?」

 

少し離れた場所から見れば、空間にかすかなゆがみがあることに気が付く。

 

「ヒビキ...術式起動、最大出力」

 

ここからはスピード勝負だ。最大出力で帳を破り中を調査したら即離脱する。これがもし特級呪霊が設置したものであれば、相当な実力だ。認識誤認を一級呪術師に付与する帳を張れるのだから、それもうなずける。

 

呪力が上乗せされた爆音が拡声器から放たれ、夜蛾と呪骸が通れる穴をこじ開ける。その瞬間にじわじわと穴がふさがっていく。

 

ハヤブサに持ち上げてもらう形で飛行し、帳の中に足を踏み入れる。

 

 

 

そこに広がっていたのは、隕石が落ちたのかと錯覚させるほどの大きなクレーターだった。

 

 

 

そして何よりも奇妙なのが、残穢が残っていないという点だ。

 

小さな村一つ沈みそうなほど大きなクレーターの上を周回しながらあたりを見渡す。

 

これほどの術式を痕跡一つ残さずに行使できる呪霊、間違いなく特級呪霊だ。まちがいなく今の夜蛾では歯が立たない。

 

しかし、そこはあまりにも静かだった。

 

そして驚くべきは、クレーターのふちだ。周回を飛ぶことで発見した。野営をした痕跡がある(・・・・・・・・・・)ことだ。

 

カゲヤマからの情報により少なくとも今は安全であると判断し、野営場所を調べる。

 

切り株に突き刺さったナイフや串などのサバイバルキット。木々を結ぶロープにつるされた衣服。横穴を開け枯葉が敷き詰められた寝床と思われる場所。そばに置かれているのは筆記用具と数冊のノート。

 

極めつけに乱雑にばらまかれた残穢。先ほどの静かすぎるクレーターに比べこの野営地は生活感であふれていた。

 

これがさすのは、呪霊ではなく人間がこの場所にいたということ。そして報告にない術式の行使。もしこれが呪詛師であればそれこそ太刀打ちできない。

 

だとすればここで活動をしていた呪詛師はどこに。

 

その時、

 

「ッ、ヒビキ!」

 

クレーターの被害がない方向から反応。何者かがそこにいる。

 

すぐにでも術式を放てるようにヒビキとハヤブサを従え、自身もすぐさま動けるように姿勢をとる。

 

 

カサ、カサ、カサ。

 

 

落ち葉を踏みしめて反応がどんどん近づいてくる。

 

そうして陰から姿を現したのは

 

「...熊!?」

 

そこには、大きな魚をくわえた熊。しかし、その熊は呪力を発していた。

 

(この熊が一連の騒動の主犯...?)

 

対峙したことのない状況に置かれ、一瞬気が緩んだ。その緩みによって、熊に気が向いていたため、夜蛾はその後ろに立つ少年に気が付けなかった。

 

「おじさん、何者?」

 

「しまった!」

 

ヒビキの射線を熊の後方に向ける。

 

「子供か?」

 

ちょうど中学生くらいだろうか。くたびれたシャツに半ズボン、橙色の髪をもつ少年が熊の後方から歩いてきた。

 

「君、何者かな?」

 

依然警戒を解かないまま少年に問いかける。

 

「...節円李。なにものって言われても人間?」

 

「どうしてここに?」

 

「育児放棄の親に捨てられたから?」

 

あれ(・・)をやったのも君かな?」

 

後ろのクレーターを目で指しながら問いかける。

 

「もしそうだって答えたら?」

 

「そうだな...聞くことがいくつか増えることになるだろうな」

 

今のところ少年が嘘をついている様子はない。さらには、少年の体から呪力が漏れていることも分かった。もし呪術師なら夜蛾の顔は知っているため、それなりの態度をとると思われるが、態度は初対面の人のそれである。

 

『あー、一ついいかな』

 

馬鹿な!?

 

 

 

(熊が、喋った(・・・)!?)

 

 

 

そういえばおかしかった。呪力をまとっている熊も十分おかしい。大規模のクレーターと身元不明の少年に気を取られていたため当たり前の事実に気が付けなかった。

 

『俺のことはそんなに気にしなくていい...っていっても無理か!』

 

 

ヒューと風が吹く。

 

 

「だからそのノリは無理だって言ったじゃん」

 

『いや、だって...』

 

そしてなぜ少年は当たり前のように熊と会話しているのか!?

 

この時点で夜蛾の頭は情報でいっぱいいっぱいだった。

 

「すまない、熊...のほうはいったい何者なんだ」

 

『俺はそうだな、この森の守り神的な感じかな。とりあえず、いろいろと説明したほうがよさそうだし?円李も久々に人と話すから緊張しちゃうだろうし。とにかくそこ座ってよ』

 

そうして切り株をまな板がわりに、サバイバルナイフで魚をさばき始めた。

 

 

 

 

 

どうやら、話を聞くことはできそうだった。

 

 

 

 

 

「そうだおじさん」

 

 

 

俺の日記、見た...?

 

 

 

そのとき、夜蛾はまだ子供である少年の圧に押されてしまった。

 

そして確信する、この一連の騒動はしゃべる熊でもなく、この少年によって引き起こされたものであると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あっぶねーーーー!!!!!!)

 

だいぶ若いが、年末番組で芸人をビンタしてそうなその顔。間違いない、一級呪術師の夜蛾さんだ。

 

そうだよな、普通に考えればこんなクレーターが空いてたら確かめに来るよな!

 

でもって日記!原作知識だったりスタンドとかこの世界にはないこと書いてあるし、見られること何にも考えてなかった!

 

マジでなんも考えてなかった、あぶな!

 

 

 

と、内心大慌てだったが初エンカウントはうまく対応できたんじゃないか?今の時系列てきに五条さんと会えるかいまいちわからなかったが、夜蛾さんがいるなら五条さんと接触できる時期にはいるんだろう。

 

いや同期とかだったらどうしよう、背中預けてもらったりした日には呪霊皆殺しにしちゃうよ。

 

と、いけない。まずは熊のことも含めて夜蛾さんに説明しないと。

 

呪術高専に行くためには、夜蛾さんに顔を覚えておいてもらえば安心だし。ここは嘘偽りなく吐いてしまおう。

 

 

まず熊。どうやらこの森の守護神的立場にいるらしい熊。純粋に考えれば、こんな大きな穴が開いてるのに気が付かれなかったのかって話。それは、この熊が認識疎外の帳をおろしていたのだとか。そのおかげ?か俺は中学生になるまで呪術師に悟られることなく森の中で暮らすことができていたようだ。

 

肝心の、この熊が何者かって話。

 

守護神と言っても、霊峰富士を守るための神なんだとか。といっても、最近は信仰も薄れてしまい俺が顔面だらけの呪霊とか戦っているときに手助けできるほどの戦闘力を備えてなかったかららしい。

 

熊の目的は一つ、富士をそのままに保つこと。完全に俺のしりぬぐいをさせる形になってしまった。今は、富士の樹海からエネルギーを供給してもらい、土地を再生させる術式のために準備している。

 

『いや、珍しい話ではないんだよね。君たち呪術師も知ってるとおもうけど、自殺の名所なんて呪霊がめっちゃ湧くの。そのなかでもわけわからない規模の呪霊が発生して、森がボコボコに破壊されちゃうの。だから神の力的なパワーで呪霊を倒して、森林再生の術式を使うんだけど...』

 

『ここ最近は呪術師って組織がちゃんと出来上がって、負の感情の管理とかを積極的にやってくれてるじゃん?そのおかげでそういうのもなかったからさ.....久々に長期休暇でもって気と呪力を抜いていた時にやばい奴がでちゃってね』

 

『そしたらたまたま森にいた彼が見事退治してくれたってわけ。本来は、俺がやらなきゃいけないのをやってもらったわけだからさ。ごはんとか縄張りとかも含めて俺が面倒を見てやろうかと思って、ここ最近は一緒に過ごしてたの』

 

とのこと。

 

熊のおかげで食料に困ることはなくなったし、食べられるものと食べられないものの見分け方も教えてくれた。さらには術式の面倒も見てくれたので、もう熊が親みたいなところはある。

 

一連の話を聞いていた夜蛾さんの顔が面白いことになっている。

 

骨まできれいに抜かれた塩焼きを食べ、どうやら少し落ち着いたようだ。

 

んん、と咳払いをしてこちらに向く夜蛾さん。

 

 

 

 

 

「では君は、呪術師ではないのか?」

 

ごく自然の質問。

 

最強の次に最強を目指すための重要なポイントだ。回答次第で今後が大きく変わるだろう。

 

ここからだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







というわけでオリキャラの熊でした。

そらあんな大規模の術使ったらすぐばれるでしょ、という問題を解決するための熊です。これ以上オリキャラは出ないかな(わからない)。

あと、オリ主がつかうのはブラックホール的な何かであると理解していただければと思います。

オリキャラは皆さんに想像してほしいのであえて詳しく描写はしない予定ですが、どうしてもっていう人のために

オリ主→某忍者組織の創設者
熊→玄関とかに置いてある熊の置物まんま

でお願いします。



前書きにも書きましたが、ランキングありがとうございます。

これからも応援していただけると幸いです。



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スカウトじゃん-2


昨日は大学とアルバイトのダブルパンチで更新できませんでした。

そろそろ原作行きたいなー





 

上位の階級の推薦であれば、変に疑われることもなく呪術師の界隈に参加できるだろう。さらには、いろいろと動きやすくなるためのパイプにもなる。

 

 

「では君は、呪術師ではないのか?」

 

 

大事なのは中身とはよくいうものだが、実は違う。

 

どうあがいても人間とは第一印象に引きずられてしまう。なのでこの初対面時の問答にどのように答えるのか。

 

上から二番目の階級にある一級呪術師である夜蛾との問答での答えは、今後の動きを左右するおおきな要素となるだろう。

 

さて、ではその問答に対する答えは

 

 

 

 

 

「そもそも呪術の明確な定義自体、熊に聞いたのが初めてです」

 

すっとぼけ、である。

 

俺の生まれはあくまで一般家庭である。物語によくある遠縁に関係者がいた、なんてオチかもしれないが少なくとも俺は周囲に関係者がいたとは思わなかった。変に話を捏造して後々ボロが出る危険を考えれば、知らないことにした方が何かと都合がいい。

 

運がいいことに、熊とかいう呪術師も知らなかったようなとんでも存在がいるのだ。その点で俺に疑いをかけることはないだろう。あってもまぁ口頭試問程度の疑いに留まるだろうし。

 

実際この世界で、初めて熊から呪術とかの界隈の言葉を教わったのは本当なので嘘は言っていない。

 

 

「そうか…では、呪術を用いて危害を加える気は?」

 

「ないです」

 

これも当然、No。

 

呪術師は、世の均衡を保つために呪術を用いて戦う者の総称だ。

 

今世での目標は最強の次に最強の存在になること。危害を加えるなんてことをすれば、五条悟と敵対することになる呪詛師側になってしまう。そも俺自身に人を殺めて気持ち良くなるなんて感性は持ち合わせていない。その点ではただの一般人と変わらない考えをしてるつもりだ。

 

ただし一つ決めてあることがある。それは命の線引きだ。どんなに頑張っても手のひらで救える命には限りがある。どんな最強だったとしても救える命の数には限りがある。

 

転生の際に得たこの術式は、無差別に人を助けるものでもなければ、瀕死の人を逆戻しできるものでもない。あくまでも、害となる呪霊を確実に祓うためのものでしかない。

 

ネグレクトにより人間性が冷たくなったかは知らないが、現状特に守りたいと思う人物はいない。

 

よって、強者らしく自分の手の届く範囲では、人助けを行う予定だ。

 

 

 

 

「これは私からの提案だ……呪術師として活動する気はないか?」

 

の問いに対して。

 

 

 

 

 

当然………

 

「力にはちょっと自信があります。こんなんでよければ、是非」

 

 

 

下手から出るYesが俺の答えだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てわけだから...何年かははっきり覚えてないけどお世話になった、熊」

 

『いや感謝するのはこっちのほうだよ。もう何回も言ったけど改めてありがとう、円李』

 

数少ない荷物をまとめながら熊と言葉を交わす。一応は土地神という立場のはずなのにペコペコと頭を下げるその姿を見て思わず笑ってしまう。

 

その姿(二足歩行の熊)でいるのもさらに拍車をかけている。

 

そして同時に、物語が物語でなくなったのだとはっきりと実感することができた。

 

「いろいろお土産ももらったし、もう言うなって」

 

『でもそうはいってもこれじゃ先代に顔向けできないしさ...いいからもらっていってくれ。俺らが持ってても使い道ないからさ』

 

というのも、富士樹海の守り神は代々その地の動物を依り代に受肉してその任に当たるらしい。今代は熊であったということ。また、性格も受肉先の動物の性格に引っ張られるらしく、こんな性格であるがゆえにいろいろとやらかしてしまったのだとか。

 

そんなわけで、謝罪の気持ちということでいろいろと持たせてもらった。荷物確認として広げられた風呂敷の上にはいろいろなものが置かれていた。

 

市場でならとんでもない高価な値段が付きそうな魚(呪力による対腐敗用のコーティング済み)や旬の果物。そして呪具と呪物。

 

先代の神の受肉先である鹿、その角を加工して作られた苦無(クナイ)

 

森の中心にある最も樹齢の高い大樹の枝。

 

そのほかにも神気に中てられた年代物の物品がいくつか。

 

総額にして億は余裕で超えるほどの一級品がボロボロの風呂敷に並べられていた。

 

『あとこれ』

 

「ん?なにこれ」

 

最後に渡されたのが、蓋にお札が張られた瓶。中にはところどころ目玉が埋まっている太いロープが詰められていた。

 

『それ、円李が戦った大型呪霊の核の一部』

 

これが呪霊発生の原因であり、一連の騒動のきっかけ。

 

熊が言うにはこの森で主に行われていたのは首つり自殺。そして首つり自殺を象徴するロープが感情を現世に留めてまとめるための引っかかりとなって形を成してあんな大型の呪霊になったのではないかと話していた。

 

最初、なぜこんなものを持っていくのかと思っていたが

 

『円李がどれくらいできるやつか。呪術師の総本山についたらそれを見せな。きっと一発でいろいろ察してくれると思うぜ』

 

と熊は言っていた。

 

いまいち要領を得ないが、熊が言うならそうなんだろ。知らんけど。

 

 

 

日用品よし、ため込んだ食料も夜蛾さんと一緒に全部食べた。熊からもらった物品を詰めた風呂敷よし。そして現状ド級の地雷である日記帳よし。

 

サバイバルキットと調味料一式はおいていくことにした。俺が来てからご飯を食べる時間が一番楽しくなった、と言われてしまい加えて荷造りのときに『持って帰っちゃうの?』と言わんばかりの視線を向けられたら、おいていかざるを得ない。

 

目は口ほどに物を言うとはまさにこのことだなと思った。

 

 

 

そして問題となるのは日記帳だ。幸い夜蛾さんに見られた痕跡はないし、本人も見てなかったといっている。

 

そんなに見られたらやばいなら燃やせって感じだけど、今世での自分の来歴というか軌跡が記されているものだし、自身の起源を思い出すためにはうってつけだと思ったので消してしまうのはなんだかと思ってしまった。

 

呪術師として活動するために落ち着いたら、術式を習うふりして封印の術式を習おう。

 

それと自身の術式を合わせて次は封印術の練習でもしようか。あとは、日記を開いた相手を呪う術式とか。最終的に口封じができればトントンでしょう。

 

ともかく今一番したいのは、自身がどれくらい強いのか。

 

呪術師最強を目指し、重力という様々なことができる能力を鍛え、現状できることは出し切った気がする。その鍛えた能力がどの程度なのかを測りたい。

 

「じゃ、いってくるわ」

 

『...いってらっしゃい。また遊びにおいで』

 

「おう」

 

荷物を背負いなおして野営地を後にする。

 

「準備はいいかな」

 

「はい、いろいろとよろしくお願いします」

 

クレーターを淵から眺めていた夜蛾さんに声をかける。

 

ここを中心に降ろされている帳については、内側から外に出るために特段何が必要ということではないことを告げて森の外へ向かう。

 

「今いくつだ」

 

「たぶん14」

 

これは熊に聞いた。さすがは土地神というわけで、俺が森に入った時期から何年が経過したのかを教えてくれた。

 

時間をあまり意識しない生活を何年かしていたので、なんだか時間という概念が懐かしくも思える。まるで、仙人(・・)のようだった。

 

「時期的にもちょうどだな。来年にはなるが、君は学校に通ってもらう」

 

「学校?」

 

「東京都立呪術高等専門学校、その東京校だ。もう一つ姉妹校として京都校がある。そこは、呪術師に必要なことを学ぶ場であると同時に呪術師の活動の拠点ともなってる。君には来年から呪術高専の1年としてそこに通ってもらう」

 

「...わかりました、よろしくお願いします」

 

キターーーーーー!!!

 

これは呪術高専入学確定演出!!!

 

まずは第一関門を突破!!!

 

 

 

 

いきなりわけわからん規模の化け物と戦わされてどうなるかと思ったが、最強の次に最強となるためのレールに乗れたのではないだろうか?

 

さーて、頑張っちゃうぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





というわけで原作前編はこれで最後になるかな?

次からはもっと原作キャラを絡ませます。

星蔣体の話は、なんとなく話の流れを立てているのでエタることはないと思います、たぶん。



高評価・感想ありがとうございます。小説投稿の励みになります。


ではまた。



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富士樹海異変の調査報告

もうちょっとだけ続くんじゃ





20□□年○月〇日

 

 

富士樹海異変の調査報告

 

 

 

 

上記表題に関して以下の通り報告する。

 

 

 

富士樹海衛星観測所より、呪霊の発生数が減少している現象を受け一級呪術師 夜蛾正道を派遣した。本件を受け□□□□□□から一級呪霊の発生に伴う呪霊喰いが起きている可能性が示唆された。以上より、夜蛾正道に富士樹海の偵察任務を伝達。樹海内の把握を第一とし、現場での撤退の判断は当人に委任。現場の状況により柔軟に対応し、調査内容の報告を厳とするものである。

 

 

・報告内容

 

1.土地神の存在について

 

富士樹海の土地神の存在を確認。これを以降熊と呼称する。熊と接触し、情報を得ることができた。

自殺事件が多く発生するため、特級呪霊が周期的に発生していたようだ。富士樹海の維持を目的とする熊により祓われ、また呪霊による被害を認識されないよう大規模な帳が展開されていた。この帳により今までの呪霊発生についても我々は感知することができなかった。熊に関する報告は資料を参照すること。

また、呪霊喰いとは別件の特級呪霊が発生していた痕跡が確認された。これについて項目3で報告する。

 

 

 

2.未登録の呪術行使痕について

 

残穢が残らないほどの大規模術式を行使することができる節円李と名乗る少年を保護。戸籍情報から節円李の身元を特定。節家の親縁に呪術師の家系は確認されなかった。節円李については資料-2を参照すること。

熊からの聞き込みより、節円李が単独で項目3で報告する特級呪霊を祓ったとの情報を得た。また、特級呪霊と対峙した際節円李は8歳であったとのこと。この年齢の時点で特級呪霊を単独で祓える術師として分類できるものであると推定する。

 

 

 

3.特級呪霊の発生について

 

節円李から提出された呪物を解析した結果、特級呪霊に分類される呪霊の核の一部であることが判明した。この特級呪霊を『百面怨業鬼』と呼ぶ。

五条悟による呪物に刻まれた術式解析の結果、接触した対象の精神を破壊する術式を持っていることが判明。条件を満たせば、本呪物を用いて百面怨業鬼を顕現させられる可能性がある。そのため、本呪物を特級呪物『怨業獄縄』として特級保管の管理庫に納める。

 

 

 

 

 

節円李に関してヒアリングを行った結果、呪詛師たらしめる要素は存在しないと判断する。使用できる術式も特級を相手に戦えるものであるため、呪術師として迎え入れるものとする。熊により呪術界における一般常識を学んだようではあるが、基本的な考えや倫理観の欠如等による問題を抑えるために東京都立呪術高等専門学校一年生として監視及び教育を行うものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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懐玉編
顔合わせじゃん


春、それは出会いの季節。

 

新しい学年での出会い、新しい学校での出会い、新しい環境での発見。

 

単純な人と人との関係性だけではなく、生活的要因での新しい発見もある。まさに始まりの季節にふさわしい時期である。

 

 

と同時に呪術師の界隈ではいわゆる繫忙期と呼ばれる時期にも相当する。

 

対人関係の変化、生活環境の変化は人間の無意識に相当のストレスがかかる。自覚し症状として発症する人もいれば、無自覚にとんでもないストレスを抱えている人もいる。

 

そういった負の感情は多くの呪霊の火種となり、また上位の呪霊が発生しやすくもなる。

 

なので冬から春の終わりにかけての期間、非呪術師の精神状態に振り回される呪術師という字面だけ見れば奇怪なことが起きるのだ。

 

 

話は戻る。

 

俺こと節円李は約一年間の自主学習期間を経てついに今日、東京都立呪術高等専門学校一年生として華々しいスタートを切るはずだった。

 

しかし今の俺は、都内オフィス街の中心にそびえたつ某大手企業が所有するビルディングの前で人を待っていた。

 

待合室として案内された教室で、新たな一年生として紹介されるはずだったのに、急遽予定変更とだけ告げられて補助監督の運転する車に揺られてここまで送り届けられた。

 

『円李君、急な予定変更になって申し訳ありません。自主学習期間にもやったと思うのですが、この時期は呪術師として忙しい時期です。本来なら、同じ一年生との顔合わせを行ってもらうのですが、さっそく任務の方に出てもらいます』

 

とのこと。

 

一年生となるのだが、肝心の五条悟が何年生かは教えてくれなかった。なぜ今世で五条悟を知っているのかって話になるが、ここもぬかりない。自主学習期間に、御三家について学んでいるときに話の流れで五条悟が出てきたのだ。転生者として抱える矛盾がまた一つ減って安心だ。

 

現地集合ののち、人員が集まったら情報を伝えるといわれたが約束の時間より10分ほど早くついてしまった。車を飛ばしてくれたおかげで早く着いたのだが、補助監督の方にはぜひとも法定速度というものを学びなおしてほしい。

 

今俺が抱えている不安としては、今回の呪霊の規模とどれくらい力を出していいのか、そして一年生が誰なのかという点だ。

 

両面宿儺の話が自主学習期間に出てこなかったので、おそらく原作での虎杖と近い学年というわけではないのではないかと個人的には思っている。一番問題なのが、五条さんの学生時代でもなければ虎杖の学生時代でもないその間の学生になってしまうこと。原作登場人物の誰ともかかわらない時期の一年生になること。関係性も中途半端になりそうだし、ここは避けたい...。

 

関係各所によってここら一帯は人払いが済まされている。そんな中でこちらに向かってくる足音。おそらくこの足音の主が今回現地で合流する呪術師なのだろう。

 

(たのむよー、たのむよー)

 

「おや、10分前行動ができるとは...五条先輩よりもはるかに好感が持てますね」

 

来た!!!!そして聞こえた『五条先輩』という言葉!!

 

声の方を見る。高身長にきれいに整った七三分け、鋭い目つきに全身からあふれる真面目ですと言わんばかりのオーラ。

 

(髪型違うしメガネもないからとっさにわからなかったけど、七海さんだ!!一番恐れていた原作キャラの誰もいない学年というのは避けられた。神は俺を見捨てはしなかった!!)

 

「しかし、声掛けに対して返事ができないのは減点ですね」

 

まぁ、返事でわけのわからないことを言われる方が面倒ではありますが、とため息をつきながら肩にかけたバッグを地面に下す。

 

 

おちつけおちつけ。

 

 

と自身に唱えることで先ほどまで昂っていた熱が一気に覚める(冷める)

 

「自己紹介が遅れてごめん..なさい、高専一年になる予定の節円李だ..です?」

 

「七海建人です。あぁ、敬語についてはなしでいいと思いますよ。私たち同学年になりますので」

 

ついオーラに当てられて敬語になってしまった。

 

「呪術には全然触れてなかった元一般人ですが、多分最強の次に最強です。よろしくお願いします。」

 

ちょっと今のかっこよかったんじゃないだろうか。

 

「うわさは聞いています、ぜひその活躍を見せてください」

 

 

 

・・・・あれ?

 

おっかしーな、もうちょっと反応があるかと思ったんだけど。というか最強の次に最強とかバカみたいな事言ってんじゃんはずかし。

 

 

ちなみにこの時の俺が知る由もないが、当時七海からは五条悟のような人間が増えそうだという悩みの方が大きく、まじめに俺の最強の次に最強という言葉を聞いていなかったそうだ。

 

 

そうして流れる沈黙が続くこと数分。車を置いてきた補助監督の方が駆け足気味で登場。

 

「お待たせしました、駐車場が混んでたもので」

 

「いえ、許容の範囲内です。今回の件の概要について説明していただいてもよろしいでしょうか?」

 

「よろしくお願いします!」

 

「今回の現場はここです」

 

そういい、眼前の高層ビルを見上げる。

 

「業界ではブラック企業で有名な、ヨツハシ電機の本社ビルですね。単純なオフィスとしてのみではなく、一般公開されている食堂やカフェテリアなども有名なのでまさにこのオフィス街の中心的な立ち位置にありますね。今回は、二級相当の呪霊が複数発生していると窓から報告がありました。心理的にも立地的にも中心にあるこの企業のビルを起点に呪霊が一気にあふれ出したようです」

 

「複数の二級呪霊相手に我々二人だけですか?ほかの呪術師は?」

 

「それに関してこちらも対応しました」

 

そうして補助監督の方が俺の方を見る。それにつられて七海さんの視線もこちらに向く

 

「彼、節円李はすでに一級相当の腕前を持つ呪術師です。被害を考えなければ、一人ですべてを殲滅できると思います」

 

すでに準一級呪術師として扱われていますとついでのように重要なことを話す補助監督のそれを聞いて目を見開く七海さん。

 

「それは本当ですか?」

 

「えー、術式に触れた瞬間即死する呪霊相手で勝ったことがあります」

 

あの時戦った呪霊、どうやら特級に分類されるものだったらしく、俺は小学生の段階であのレベルの呪霊と戦うことができていた。これを聞いて、七海さんの目つきが変わった。

 

「円李君はまだ室内での細かい制御が苦手なので、決定的なスキを作れる七海君とペアで今回の件に当たってもらいます。あと、君たちはあくまでも学生なので、もし手におえないと感じたのならすぐに撤退してください。現場の判断は七海君、君に一任します。節君は七海君の指示に従うように、何か質問はありますか?」

 

「ないです」「ありません」

 

「では、さっそくビルに向かってください。私は離れた地点で帳を落とします。何かあれば連絡してください、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

ビルの上空から補助監督によって帳が下ろされていく。

 

「行きましょう。作戦の組み立てとしては、呪霊はオフィスフロアである23階にいるようなので、エレベーターで20階まで登り、そこから23階に向けて非常階段を使って進んでいきます。何か質問は?」

 

「なし!」

 

初の同世代とのエンカウントだったけれども、これは大きなチャンスだ。初めての仕事、ここで自分が使えるやつだと証明して見せよう。ついでに七海さんとの距離を縮めて一緒にご飯行けるくらいの関係になるぞー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23階に上がった瞬間に円李と七海は走り出した。

 

『モシ、モォォオオシィ!!!』

 

いくつもの歯車が人型になるようにめちゃくちゃに組み合わされたような見た目の呪霊4体が、こちらと目が合うと同時に襲い掛かってきた。

 

呪霊は特徴の一つとして様々な形状を持つことが挙げられる。七海の術式の関係上、人型という寸法を規定しやすい形状の呪霊とは相性がいい。決定的な弱点を強制的に作ることができる七海を前衛に、円李は七海の補助や取りこぼしを抑えるように動く。

 

七海が襲い掛かる呪霊を頭、腕、足、胴体の6つの部位に切断し自由を奪う。そうして大きくはねた頭部を呪力をまとった脚で踏み抜き前へ進む。

 

円李は、広域制圧として超重力による押し付けを行おうと考えていたが、今立っているのが建物の上であり、どれほどの荷重に耐えられるかの判断ができないため選択から外した。術式による攻撃ではなく呪具を用いての攻撃に切り替える。呪霊がたつ範囲を中心に術式を作用させる。呪霊を構成する呪力、粒子にかかる重力に作用させ自身との間に相対的な時間のずれを作り。まるで時が止まったかのように動きを止めた呪霊の首を、熊に持たされた苦無『蕉鹿(しょうろく)』で撥ねる。

 

刹那のうちに4体の呪霊を祓った二人だが、そこで何かがおかしいと気が付く。

 

「普通呪霊って祓ったら消えるよね?」

 

「そうですね」

 

「じゃ、何で消えなッぶな!?」

 

体を大きくそらし背後から飛んできた物体をよける。それは、先ほどの呪霊を構成していた歯車だった。死骸から歯車が分離し、手裏剣のように回転しながら二人に襲い掛かった。

 

天重維谷(てんじゅういこく)

 

円李は多に対して圧倒的な力を持つが狭いうえに、床が抜け二次災害につながる可能性を危惧し対応できない。また、七海も術式の都合上これ程の物量をいっぺんに対処する技量を持ち合わせていない。ちょっとやそっとの荷重で底抜けしないことを願い術式を発動させる。飛来する歯車が圧倒的な引力によって床に叩きつけられる。

 

得物を構えを解かないまま七海が円李に問いかける。

 

「今のは術式ですか?」

 

「はい。1平方メートルあたりの重力加速度を弄りました。そこの呪霊だけ4Gですよ。きりがないならここでまとめて置いておくのが得策でしょ」

 

「素晴らしい判断です。これでこちらも状況を把握する時間が確保できる」

 

「これ、消そうと思えば消せますがどうします?」

 

「先ほどのように再び飛んでこられても困りますからね。できますか?」

 

「できます」

 

 

点無(てんむ)

 

 

歯車を覆うように膜が広がる。そうしてそのすべてをまとめてしまうと、圧縮され点となり、床の一部を削る形で消滅させた。そして感じる嫌な気配。なんとなくこんな簡単にことは済まないだろうと思っていたがやはり嫌な予感ほどよく当たる。

 

「素晴らしい術式ですが、まだ終わりではないようですよ」

 

「なんちゅー...」

 

フロアを見回すと、そこには二人を囲むように展開する先ほどと同じ見た目の呪霊が何十と立ち並んでいた。

 

 

 

 




オリ主君は五条先輩の一個下、ななみんと同期でーす。


戦闘スタイルのアンケートもご協力ありがとうございます。感想でもいろいろと聞くことができてうれしいです。ストーリーの流れは決まってるのですが、まだ細かいところが定まってないのでその辺も考えつつ更新していきます。

ぶっちゃけここに時間を使わずにさっさと原作に入りたいので次回、事の顛末をダイジェストでお送りいたしまーす。


感想・評価まじで助かってます。
おかげでモチベがまだあるっすよー((新田さん好き)

ちなハーレムは苦手なので(オチのつけ方が思いつかない)ないのですが、ヒロイン的な話は皆さん好きですか?ところどころ日常回を入れる予定なのでその延長に...

まあ書くとは言ってないんだけどね。


2020年12月3日
原作知識に関する内容の修正、作中内の単語についての修正


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生五条悟やん

高専の教室が並ぶ一般棟の一室で二人の男が菓子を広げ雑談をしていた。

 

「聞いたかい悟、今年の一年生は大変有望らしいよ」

 

呪霊操術の使い手で一級相当の実力を持つ呪術師の一人、夏油傑。

 

「あ?なにが」

 

欠伸をかましつつ興味なさげに聞き流すのは、若くして呪術界の御三家と呼ばれる五条家の当主となった実力者。自他ともに最強と認められる男である五条悟。

 

「二級呪霊を被害なしで祓ったんだって。まだまだ新人の一年生が二人だけで。今年は楽しくなりそうだね」

 

「別に大したことないやつでしょ、俺にはカンケーないって」

 

気だるげに机に突っ伏しサングラスをもてあそぶ五条を横目に、菓子を口に放り込んで話を続ける。

 

「片方は呪術師の家系らしいけど、片方は非呪術師の生まれなんだって」

 

「だからなんなの」

 

「教師とか一部関係者がこう言っててさ、現在最強を名乗ってる悟の耳は入れておこうかなって」

 

 

 

どうやら、最強の次に最強らしいよ

 

 

 

サングラスを弄っていた五条の手が止まる。

 

「どっちが」

 

「非呪術師の方、しかも基本的な呪術はすべて独学で修めたらしいよ。過去には特級寄りの一級相手に完封したこともあるらしい。そんなこんなで『独学で術式を完全に習得した天才』、『五条悟の次に強い呪術師』とか呼ばれててね、将来有望な呪術師としていま話題になってんの」

 

それを聞いて先ほどの態度から一変、新しいおもちゃを発見したような楽しげな表情を浮かべる。

 

「まだどんなもんかも知らない相手が最強名乗ってんのはすこしうぜぇな」

 

「先生から事の顛末書いてある報告書貰ってきたけど読むかい?」

 

返事もせずに書類を受け取って読む。

 

 

初の任務のターゲットは発見しづらい位置に潜む核を破壊しない限り、祓っても祓っても湧き続ける呪霊。それに対してビルの耐久性を損なわないよう重要な部分を残しフロアを丸々更地にすることで核ごと消し去ったらしい。

 

 

窓がとらえたのはこの表立って活動していた呪霊であり、討伐の難易度からもよく一年だけで対応できたものだ。

 

報告書を机の上に放って、残りわずかとなった菓子を一掴みにしてのみ込む。

 

「ぜひともお会いしてみたいものだね」

 

「一個下だし、すぐにでも会えるんじゃない?」

 

 

ガラガラと、微妙に立て付けの悪い引き戸が開かれ、五条・夏油ともう一人家入の担任を務める夜蛾が教室に入ってくる。

 

 

「お、夜蛾ちゃんじゃーん」

 

「こんにちは、夜蛾先生。家入はどうしたんですか?」

 

「五条はいい加減敬語を使えるようになれ。家入は仕事だ」

 

相変わらず相手にするだけで疲れる五条に頭を抱えつつ教壇に立つ。

 

「風のうわさで聞いたと思うが、今年の一年に入ってきたやつのことだ。本人の要望もあって、自身の実力を正確に測りたいらしい。そこで、高専の中でも折り紙付きの二人に面倒をしばらく見てもらおうと思ってな」

 

「それはその例の一年生だけですか?ほかの一年はどうするんです?」

 

「例の一年生だけだ。他は呪術師の家系からでてるから特別今更何かをするわけじゃない」

 

「その一年坊が呪術師の家系でもないパンピーの家の出で、かつどれくらいの実力かわからないから測ってほしいてことね」

 

夜蛾と夏油のやりとりを聞きながらサングラスを掛けなおす五条。

 

プロの呪術師でもない五条と夏油に依頼が来たのには理由がある。まず純粋な実力としてすでに前線で活躍していても申し分がない二人であるということ、加えて五条の瞳は特別製で目視した対象の術式を読み取ることができるので、能力を測るのに一番適している。

 

「いいよー、最強の次に最強を自負する新入生君には興味を抱いていたところさ、どうする?俺は今日中でもいいけど?」

 

「そういうと思って調整は済んでいる。早速案内しよう、ついてきてくれ」

 

先ほどまで広げていた菓子の袋を圧縮して球状にしたそれを放り投げ、教室を後にする夜蛾に続く。

 

きれいな放物線を描いて、ごみ箱に納まったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「って、ことだから。とりあえず好きに攻撃してみてよ」

 

「えっと、あの...なにが?」

 

「だーかーらー、最強の次の最強とか名乗ってる君をボコボコにしに来たの。ドゥーユーアンダースタン?」

 

いきなりのことに困惑する様子の一年生、節円李。

 

「そう焦るな。何の説明もなしじゃわかるものもわからなくなるだろ。あー紹介が遅れたな。今回節の相手をしてくれることになった五条悟と夏油傑だ。で、こっちが例の一年生の節円李」

 

状況を説明するように夜蛾が両者の中心に立ってそれぞれを紹介する。

 

「私は二年の夏油傑。で、こっちが同じく二年の五条悟。君の先輩にあたるね、よろしく」

 

「一年の節円李っす、よろしくお願いします。」

 

橙色の髪に外套のような服の上からもわかる筋肉質な体。聞いたところによると、幼少期は森で過ごしていたらしい。一般家庭出身とはどういうことなのかと問い詰めたくもなるが、そのような環境に身を置いていたのならその体の仕上がりにも納得がいく。

 

一歩前に出て挨拶とともに握手を求める夏油、その手を取ろうと円李も手を伸ばすがその手がすんでのところで止まる。

 

「これってもう始まってるんですか?」

 

「...驚いた、最近手懐けたこいつに気が付くとはね」

 

パチンと指を鳴らすと、握手のために差し出された腕を中心に空間が揺らぐ。そして夏油の腕から肩にかけてまとわりつく蛇のような形をした呪霊が姿を現した。

 

夏油の術式は取り込んだ呪霊を従え操る呪霊繰術。試しとばかりに呼び出した呪霊はつい先日の仕事のついでに取り込んだ呪霊だった。この呪霊はまとわりついた対象の呪力を取り込んで、自身の呪力を同化させる高い隠密性をもつ。また光学的な迷彩も備えており、気が付かず接近してきた相手に攻撃を行うという能力を持っている。

 

どこかで調子を見ておきたかったので、いい機会と思ったのだが。夏油の想定よりもできる一年であるようだ。

 

「まだ飼いならしたばっかとはいえ、そうそう気が付かれるものじゃないと思ったんだけどね。すごいよ君」

 

「いや、なんとなく嫌な予感がしたので...ありがとうございます?」

 

「あとその制服、かっこいいね。君が要望したのかな?」

 

「あ、はい。今戦い方をいろいろ模索中でして、もし武器を使ったりするんだったら隠しておけるような服がいいと思いまして」

 

「なるほど、いい選択だ」

 

突然現れた呪霊に対しても驚いた様子もない。加えて危機を察知する第六感、これは戦闘時に大きな力となってくれるだろう。

 

(さて、これが例の一年生ね...悟、君には彼がどう見えてるかな?)

 

後ろに下がり、小声で五条に質問する。

 

「たしかに面白い新入りだね。もしかしたら俺より強いかも」

 

そう話す相方の意外な反応に驚かされる。

 

「さて今度は俺だ。試しに撃ってみてよ、術式」

 

サングラスを懐にしまい、その瞳を輝かせ大きく伸びをしながら前へと進んでいく。

 

「そうですか...では、遠慮なく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヤッベー!!生五条悟!!生五条悟だ!!)

 

どうも、円李です。

 

まじもんの五条悟だ!!

 

黒地の布で目隠しって学生からじゃなかったんだ!!きゃー、サングラスとって歩くだけでも風格があるわ。やっば、このためだけに頑張ったといっても過言ではない。

 

落ち着け俺、こんなところでお終いじゃないだろ。

 

それにもういっこやばいのがその隣。なんか気が付かずやり取りしてたけど、この夏油さんって最初のほうから顔出ししてた呪詛師じゃないの?火山頭と目から枝が生えてるやつと話していたやつ。なんとなくラスボスっぽい感じしてたけど、なんなんだ?

 

学生時代は一緒だったんか?

 

怪しいところではあるが、俺の()が、現状危険ではないと告げているのでたぶん大丈夫だろう。あれかな、双子の兄弟がいるみたいな?

 

とにかく今は、五条悟との対決だ。どのカードをきるべきだろうか。高専の結界内だし、相手の大きさからとかも地爆天星とかは使えないし。かといって点無とか危なすぎるんじゃないか?

 

「ほらほら、なんでもいいよ。たぶん無意味だから」

 

 

かっちーん

 

 

この時期の五条さんってなんか無駄に柄が悪いというか、なんか、こう...ねぇ!?

 

こうなったら、やっちゃうからな?やっちゃうよ?

 

「ケガしても知りませんからね」

 

「だーいじょうぶだいじょうぶ。ほらほら、早く見してよ」

 

そうならやってやる。

 

まずはお手並み拝見だ。

 

五条悟を囲むように正方形状に呪力による線が走る。

 

天重維谷(てんじゅういこく)ッ!!」

 

掌印が成った瞬間、線で区切られた範囲内が陥没した。中でも、五条悟の立つ場所は他よりも若干深く沈んでいる。範囲内では無差別に倍以上の負荷が、指定したものには現在5G程度の負荷がかかるようになっているからだ。

 

当然指定するのは五条悟。

 

「ッ!?」

 

ガクン、と五条の膝が折れ視線が一気に下がる。

 

物理的に頭を地につけさせてやるつもりで術式を発動させたのに、なんと膝がつく程度で抑えやがった。

 

全身に呪力が巡ってるところをみると、呪力によって循環機能ふくめ体のすべてを負荷に耐えうるレベルまで強化して耐えているのだろう。しかし、それにしてもさっきみたいに余裕かまして立ってられる様子はない。

 

このままギブアップするまで押し付けて、先ほどの言葉を撤回させてやる。今に至るまでの道を甘く見られたみたいで悔しかったし、せめて参ったの一言ぐらいは引き出してやる。

 

そう思い術式の出力を上げようとしたその瞬間、景色が切り替わり眼前に若干の汗を浮かべる五条の顔が現れた。

 

「は?..ブフェ!?」

 

胴体に入る強烈な一撃。

 

なんでだ!?近接の自信がないから、安全な距離を保って術式を使ってたはずなのに!

 

そして目に入る一撃を入れた拳とは反対の手のひら。まるで何かをつかむかのように広げられた手のひらを見て察する。

 

(引き寄せられた!しかもほとんどの時間もかからずに!)

 

広げられたもう片方の手を拳に変え、刹那の間に二撃目が飛んでくる。これはまずい。呪力の乗せられた一撃、おそらく死にはしないが確実に戦闘不能になる。

 

躱すしかない!!

 

永永無窮(えいえいむきゅう)ッ!!」

 

自身に働く重力による負荷が切り替わり、同時に世界の時の流れからも外れる。

 

五条悟が降りぬいた拳の速度がだんだんとスローになり、最終的にはほぼ静止しているように見えるほど動きが遅くなった。

 

これが俺の術式の本質、時の加速を限定的に現実に持ってくることで再現した疑似的な時間停止。重力操作は副次的な効果に過ぎない。

 

領域の中では加速する時の中での完全耐性を得たが、ここは違う。あくまでも基本となる(ルール)は現実世界。術式を解けば体内と現実の時間とのズレから軽くはないダメージを受けてしまう。ゆえに、ダメージが無視できる程度の時間停止は約二秒。

 

停止した時間の中で二秒とは奇妙な感じがするが、とにかくその間に拳を避けて反撃をする。

 

先ほどの一撃を受けて、永永無窮をもう一度使うことはできそうにない。

 

 

これで終わらせる。

 

 

熊から教わったほぼ必殺の高威力を誇る体術の奥義。

 

打撃を入れるために延ばされた腕をつかみ、五条の体を引っ張る。そうして近づくとともにがら空きになった胴に目掛けて渾身の力を込めて肘を打つ。

 

六大開 頂肘(ろくだいかい ちょうちゅう)!!」

 

自身のみを包むように展開された領域、この中で放たれた一撃は簡易的な領域展延となり術式が多少甘くなっていた五条の胴体を打つ。

 

二秒経過

 

「ッガ!!」

 

運動場の端まで吹き飛ばされる五条。しかし

 

「いってーな...ひさびさに効いたぞ今のは」

 

胴を抑え、舌打ちとともに起き上がる最強(五条悟)

 

(今のでも届かないのか...)

 

全身から力が抜ける。

 

 

 

 

暗転

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





術式整理
・地爆天星-みんな知ってるあれ。広いところじゃないと被害がやばい
・天重維谷-重力による負荷を増加させる。波の相手だったら身動きも取れなくなる。
・永永無窮-ザ・ワールド
・点無-圧縮によって対象を消滅させる
・暁月匆々-領域展開、メイド・イン・ヘブンに似てる

くらい。

戦闘スタイルはまだ悩み中です。

ちなみに、体術は熊に仕込まれました。ただ、実戦経験は皆無なので構えをしていない人くらいにしか正確に当てられません。(戦えないとは言ってない、熊の設定が便利)

原作知識もうっすらとしか覚えてないです。なので、五条さんの術式のこともガバいし、夏油についてもよくわかってません。

あと、対五条戦についてもガバと感じる点はあるかもしれませんが、このころの五条はまだ原作ほど強くないので。そういうことで。





評価・感想ありがとうございます。みなさんの言葉で今のモチベが保たれてます。


もっとくれ




2020年12月5日
中一英語ができていなかったため訂正しました。まじで恥ずかしい。


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いろいろあったじゃん

次、キンクリして星蔣体の話に入ります。





 

 

 

木製の天井に時々点滅する蛍光灯。赤が窓の外に広がっていることから、だいぶ長い時間がたったのだろうと推測する。

 

「知らない天井だ」

 

「後輩君はアニメが好きなのかな?」

 

「一生のうちに一度は言ってみたいと思ってたので」

 

「面白い子だね...そうだ、痛みのほうはどうかな?治せる程度のものは全部直したと思うんだけど?」

 

痛む腹をさすりながら上体を起こす。

 

そういわれて、自身の体に意識を向ける。

 

五条さんから良い一撃をもらった場所はまだ鈍く痛む。しかし、永永無窮を使った後の基本の世界との時間のズレからくる全身へのダメージはほぼ消えていることに気が付く。

 

肌を見ても、健常な状態に遜色ない。

 

「大丈夫そうだね」

 

「ここまでしてもらってあれなんですが、どちら様で?」

 

きれいな黒髪のショートカットに、目元の泣きぼくろ。余りにも当たり前のようにそこにいるのだが、目の前にいる女性は完全に初対面のはずだ。

 

「自己紹介がまだだったね。家入硝子、ここ(呪術高専)の二年生。君が腹に一撃を入れて、一撃入れられた五条悟と同い年」

 

「節円李です。よろしくお願いします」

 

思い出した。家入さんは反転術式を他人に使える作中唯一のヒーラー的ポジションの人だ。この人も五条さんと同い年だったんだ。

 

 

若干響く痛みにもだいぶ慣れ、余裕が出てきたので今いる部屋を見渡す。

 

そこそこの広さの個室に、備え付けられた机と本棚。そして端に置いてあるのは、俺が森から持ってきた数少ない小物が詰め込まれたバックパックと風呂敷。

 

「なんかあったら、先生経由で呼んでよ」

 

そう言い残して部屋を出ていく家入さん。

 

一人の時間となり、いろいろとたまったものを吐き出すように大きく息を吐く。

 

そうだ。

 

あの五条悟と戦い、さらには一発入れることができたのだ。戦いが終わり、今更だが高揚感とともにやってやったのだという実感がわいてくる。まあ、全力の一撃はダメージを与えただけでダウンまで持ってくことはできなかったけど...。

 

でも、俺の術式が当たったのは意外だった。

 

五条さんの周りには、現実に持ってきた無限が展開されていて、あらゆる攻撃が通用しないはず。術式に関しても、無限に阻まれて五条さんまで届かないと思っていた。

 

しかし、実際に五条さんに膝をつかせることができた。

 

一応術式がはじかれる対策は考えていた。五条さんの立つ座標を定義して、その点を起点に術式を発動させるという作戦を採用したのだが、そのおかげか。それとも、まだ原作ほどの強さではなかったのだろうか。

 

たぶん後者。無限とかいうとんでもパワーをもってすれば、俺が定める座標を捻じ曲げるとかもできそう。それに、完全体の両面宿儺に対しても『勝つさ』と言い切る人間だ。通常の物差しで測っていい人間ではない。

 

やはり、まだ若いとはいえすでに最強たる素質はあったんだなって。

 

今後の目標としては、五条悟に一撃を加えることができる強さを目指す。

 

実際に戦ってみてその強さを実感することができた。自身が設定した物差しの調整もできたし、鍛錬の仕方とかも考えなくては。

 

 

......そうだ、あと性格!!!!

 

ニヒルな感じの五条悟にあこがれていたのだが、学生時代の五条さんはなんというか、むかつくというか精神を逆なでするというか...悪い人ではないんだろうけど、原作の五条さんとは違ったね。一人称も僕じゃなくて俺だったし。

 

まあ、あれはあれでかっこいいんだけど。

 

まだ十全な状態ではないけれど、ひとまず荷解きだけしておきたいのでベッドから降りて端に置かれた荷物を確認する。

 

最初の仕事でさっそく実戦投入した熊からもらった苦無。これじたい高い階級に区分けされる呪具らしく、四本のうち一本を呪術高専に預けている。

 

衣服なども少ないため、すぐに荷解きは終わった。

 

 

 

久々に、日記でも書くか。

 

 

 

 

 

 

○月○日

 

今日は初めての授業だった。といっても、一応通常の科目についてもやるみたい。

日記の保存方法についても本格的に考えなくてはならない。

ちなみに七海のことをななみんと呼ぶことにした。なんか呼びやすいし、数少ない同期なので親しみを込めてこのあだ名に決定した。

本人はすごい嫌そうな顔をしてたけど、本気の拒否はしてなかったのでこれで行くことにした。

(話をつづけるのが面倒だったとかじゃないよね?)

 

 

 

○月○日

同期が増えた。同じ非呪術師の家系出の灰原君だ。とにかく暑苦しいキャラというのが正しい評価だろうか。自己紹介の時点でその熱量に押されて、ななみんがすごい顔をしてたのが印象に残っている。

それと、結界術の授業があった。日記を隠す手段として使えると思うので頑張って習得したい。とりあえず、机に工作して引き出しの下板の穴から上蓋を開けないと中に仕込んである油に引火して日記が燃えるようにしておいた。最終的には俺以外が日記を開くとただのノートにしか見えないとかにしたい。こんなに厳重になっているだけでも怪しいからね。

 

 

 

○月○日

あの一戦以来、五条先輩にはよくしてもらっている。気に入られた、というのが正しいだろうか。夏油先輩と一緒に三人で出かけることが増えた。しかし、五条先輩と夏油先輩の間に入ってしまうのがなんか申し訳ない気がする。

あの二人は本当に仲がいい。お互いに相手のことを親友として認めている。将来はタッグでとんでもない戦力を誇る呪術師になるんじゃないだろうか。夏油先輩については、敵になるなんてマジで考えられないな。やっぱり双子とかそっくりさんなのだろうか?

でも、双子はいないって言ってた。どうなんだろ。

 

 

 

○月○日

一年の三人で取り掛かった仕事の帰り、嫌がるななみんを引きずって灰原と一緒にご飯を食べに行った。前に五条先輩と夏油先輩に連れてってもらったラーメン屋だ。王道を行く家系ラーメン。濃いスープが仕事終わりの体によくしみる。

ちなみに嫌がってたくせにななみんは替え玉も頼むし米と餃子も頼んでた。

 

 

 

○月○日

久しぶりに熊のところに遊びに行った。俺が過ごしていた野営地には小さな小屋が建っており、動物たちのたまり場のようになっていた。土産に持って行った調味料一式と新しい調理道具を渡した。家電は使えないと思ったので、登山用などの非電源で使い勝手がいいものを選んだ。

ただで帰るのももったいないので、術式についていろいろ教えてもらってから帰った。

あと、夜蛾先生の呪骸が転がっていた。どうやら夜蛾先生も定期的に来ているらしい。なんかやってるっぽいけど、何してるのかは教えてくれなかった。気になるが、楽しみにしておけと言われた。待とうと思う。

 

 

○月○日

とりあえず日記帳に呪術を仕込んでみた。ノートの存在を歪めて認識できなくなるというものだ。これは、熊が森に張っていた帳に用いられている技術を借りた。発案は俺だけど、ほとんど熊にやってもらった。ノートを視認したら術式が発動するので、閉じた状態ではそこまで大きな呪力を放たない。呪術師の手元にあるものとしてはごく普通の呪力しかないので特段怪しまれることはないだろう。

 

 

 

○月○日

二年生に気に入られたということもあり、定期的に指導をしてもらえるようになってしばらくたった。今日は夏油先輩に相手をしてもらったが、純粋な体術では全く歯が立たない。術式アリなら五分くらいで勝てるのだが、やはり潜り抜けてきた戦いの経験には勝てない。

夏油先輩いわく、体術は苦手なのかもねとのこと。戦い方を少し考えてみようと思う。

 

 

 

○月○日

夏油先輩風な戦闘スタイルをとることにした。近接格闘も練習するが、そこで足りない点を呪霊かなんかで補う。夏油先輩曰く、『式神使いとか近接が苦手な相手に対する勝ち筋って決まってるんだよね。近づけば勝てるって。だからこそ近接を鍛える。わかりやすい勝ち筋を作ってやると、簡単にノッてくるからね』と。

最悪術式でゴリ押してしまえば、そもそもそこまで追い込まれている時点でだいぶ負けてる。俺の得意とする中距離戦をより簡単に維持できるようにするための選択でもある。

まずは呪霊か式神を用意するところからだよね。

 

 

 

○月○日

残念なことに、俺は呪霊を従えて操れはしなかった。なので自分で作ることにした。記憶にあったゲームのキャラをモチーフにすることにする。たしかPS4にも移植されてたGRAVITY DAZEに出てくる猫。作中での一大ギミックである重力操作はこの猫、ダスティによるものである。重力を操れる俺にピッタリである。

さっそく夜蛾先生に相談した。目標としては、一級呪霊を瞬殺できる火力と呪力の補助タンク的な役割。あとは、よくある展開、俺がいないところで問題が発生した場合とかに現場にすぐ現れて対応できるように瞬間移動もしくは光速移動。これらを伝えた時に、すごい顔をされたが協力はしてくれるようだ。

 

 

 

○月○日

一年の実力向上のため、俺がななみんと灰原に稽古をつけることになった。現状、一年の中でも実力がだいぶずば抜けている俺が適任だったらしく、珍しくななみんからお願いしてきた。

数日前に、仕事で人を救えなかったことがだいぶ響いていたようだ。

今思ってみれば、初めてななみんに頼られたかもしれない。ぜひこの機会に強くなってもらいたい。

 

 

 

○月○日

式神作成の件を熊に持ち込んだところすごいノリ気だった。想定していた機能に関しても、俺の生得術式の応用ですべて実装できそうとのことで、かなり現実味が増した。

いけそうな気がする。

 

 

 

○月○日

式神が完成した。最近は徹夜続きで疲れたのでこんなもんで。

 

 

 

○月○日

五条先輩と夏油先輩と俺を指名した大きな任務があるらしい。式神を試験的に運用する機会としてもってこいだ。

とりあえず、明日話を聞いてからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、星蔣体編。


戦闘スタイルは二番目に投票数が多かったものになりました。

熊がいたとはいえ、対人戦闘経験が圧倒的に少ないのにゴリゴリの近接戦闘マンは無理があるかなって思った。







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原作(なお0,8,9巻は知らない)やん

感想より
>>時間系ラスボススタンドで仲間はずれにされてるキングクリムゾンがかわいそうだと思った(小並感

それな。なんかここまでそろってんなら実装したいよね。とくにここがオリ主含めて原作キャラの数少ない強化のきっかけなので。




まあ、気長に待ってて。






待ち合わせで指定された教室に向かう途中、家入先輩とすれ違った。

 

すれ違う時に、理由はわからないが「頑張ってね」とだけ言われた。

 

なんのことかと思ったら、こういう事ね。

 

すっげー入りにくいんだけど。なんか嫌な気配がする。具体的にはめっちゃめんどくさいことになりそうなんだが。

 

あれ?なんか呪力増えてね?もしかして教室の中でやりあう気?喧嘩ですか?

 

(あー、入りたくない)

 

あ、呪力が跳ね上がった。夏油先輩はだいぶ上の呪霊出したっぽい。あー、部屋一個吹き飛ぶかなーーー!

 

「円李か、ドアの前で震えてどうした」

 

夜蛾センセーー‼︎‼︎

 

なんてタイミングなんだ。あの二人、夜蛾先生の前では大人しくしてくれるってここ最近で知ったし。夜蛾先生が入ってくれれば喧嘩も起きずに済むでしょ!

 

案の定、夜蛾先生が入室した瞬間に爆発しそうだった呪力が消えた。

 

そんなんで治るんだったら喧嘩なんてすんなよー!

 

 

 

高専二年生は全部で三人、席を外した家入先輩の一つ余った座席について例の依頼とやらの概要を聞く。

 

「この任務はオマエ達三人に行ってもらう」

 

今回の任務は、呪術界の中でもトップに位置する人物の天元様からのご指名とのこと。

 

星漿体、天元様との適合者である少女の護衛と抹殺(・・)

 

「少女の護衛と抹消ォオ?」

 

訳がわからんと声を上げる五条先輩。俺も声はあげなかったものの、ほとんど同じような状態だった。

 

最終的に殺すんだったら守る必要ないじゃん。

 

なるほど、ついにボケたか。

 

「夜蛾先生、ついにボケたんですかね?」

 

「それな」

 

「次期学長ってんで浮かれてんだよきっと」

 

「あー、なるほど」

 

そういえばそんな噂聞いたな。中立の立場にあった富士樹海の守り神を呪術師側に引き込んだとかで評価されたらしい。そもそも、いままで発見できてなかった守り神見つけた時点でだいぶ大きな功績らしい。

 

「冗談はさておき」

 

「冗談で済ますかは俺が決めるからな」

 

夏油先輩の言葉を夜蛾先生が両断する。

 

「それにしても、天元様の術式の初期化ですか?」

 

「なにそれ」

 

術式の初期化については自習期間中に少し聞いたことがある。そんななか、五条先輩は知らんと疑問符を浮かべる。

 

オマエは知ってるハズだろと言わんばかりの空気が流れるが、構わず夜蛾先生は説明を続ける。

 

「天元様は"不死"の術式を持っているが、"不老"ではない。歳を重ね一定以上の老化を終えると術式自体が術者に作用してその肉体を創り変えようとする。"進化"、人ではなくなりより高次の存在となる」

 

「じゃあいいじゃん、カックいー」

 

五条先輩のように声に出したわけではないが、俺もじゃあべつによくない?と思った。そうして疑問に思っていたところに夏油先輩が情報を補足してくれる。

 

「問題はその進化だよ。天元様曰く、進化の間には意志というものが存在しないらしい。天元様が天元様でなくなってしまうと。高専各校や呪術界の主要拠点を覆う結界や呪霊に対する防御策を保持しない補助監督を守る結界などの術式は、全て天元様によって能力が底上げされている。天元様なしでは呪術師は機能しない。最悪の場合は天元様が人類の敵になる可能性もある」

 

だんだんと話が分かってきた。つまり何とかして進化を起こさないように天元様の能力を引き継げればいいと。そうすれば進化に伴う意志の喪失もなくなる。その引継ぎ先が天元様と適合するのが星蔣体と呼ばれる人間。

 

肉体情報の書き換えにより、老化した体が一新されれば術式も振出しに戻り"進化"は起こらない。

 

五条先輩がメタルグレイモンを引き合いにだした例えで一人納得している様子だったが、夏油先輩はいまいちよくわかってないようだった。ちなみに、ポケモン派だったので俺もわからなかった。

 

護衛ってことはまさか

 

「その星蔣体の少女の存在が第三者に漏れてしまった。いま少女を狙っている輩は大きく分けて二つ!」

 

 

天元様の暴走による現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団『Q』!!

 

 

天元様を崇拝する宗教集団盤星教『時の器の会』!!

 

「天元様と星蔣体の同化は二日後の満月!!それまで少女を護衛し、天元様の下まで送り届けるのだ!!失敗すればその影響は一般社会までに及ぶ」

 

 

 

心してかかれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもさー、呪詛師集団のQはわかるけど、盤星教の方は何で少女殺したいわけ?ほれ」

 

「あ、ありがとうございます...って何すかこれ」

 

五条先輩からジュースを奢ってもらった。放り投げられたそれの表面には『いちごおでん』とかいうおいしそうと欠片も思えないものだった。まあ、奢ってもらったので文句は言わずに飲む。

 

ニヤニヤとこちらを覗いてくる五条先輩にこぶしを飛ばす。ものの、無限に阻まれてピタッと止まる。

 

「まずい?」

 

「...まずいです」

 

「そうだろーねー。それで、悟の疑問だね。盤星教が崇拝しているのは純粋な天元様、つまりは星蔣体という不純物が天元様に混ざるのが許せないのさ」

 

「でも事前情報からですけど、盤星教は非術師の集団ですよね?そんなに警戒する必要あります?」

 

ぐびぐびと缶を傾ける五条先輩に代わって夏油先輩が答えてくれる。

 

「そうだね、警戒するのはやはり『Q』だろう」

 

「まあ、大丈夫でしょ。俺達最強だし、今回は円李もいるし。特級呪霊が出てきても秒で行けるでしょ。だから天元様も俺達を指名したんでしょ...なに?」

 

俺の向けた視線に気が付き、怪訝な表情を浮かべる五条先輩。いや、学生時代の五条先輩はこれでいいかと思ったがやはり指摘した方がいいだろう。これから偉い人(仮)に会うわけだし。

 

しょっぱいんだか甘いんだかよくわからん飲み物を飲み切る。

 

「おえ...えっと、ずっと気になってたんですけど。せめて目上の人に向けては一人称「俺」やめませんか?」

 

「円李はとてもいいことを言うね。悟、一人称は「私」、最低でも「僕」に改めるべきだ」

 

「あ゛?円李だって一人称「俺」じゃん」

 

「俺はちゃんと使い分けができるからいいんですよ。こうやって敬語で話せてるじゃないですか」

 

ジュース缶を圧縮し、わけのわからんといわんばかりの表情を浮かべる。まあ、唯我独尊を地で行くような人だし、敬語とかその辺の理解はマジでなさそう。

 

やはり、一人称を変えることでいいことがあるというアプローチの方がいいだろうか。

 

「そうだ、一人称が丁寧になれば怖がられにくいです」

 

よ、と最後まで言葉が続くことはなかった。保護対象の星蔣体が現在いるというビルから爆発音が俺の言葉を遮ったからだ。

 

爆発は窓際で発生しており、遠目から見ても壁ごと吹き飛んでいる様子が見えた。

 

「これでガキンちょ死んでたら俺らのせい?」

 

「そんなのんきなこと言ってる場合ですか、ほらあれ!」

 

俺が指さした先、爆破したビルから落下している人影。

 

「「あ」」

 

「もしかしてあれ、星蔣体じゃないですか?」

 

 

・・・

 

・・・・・

 

「俺行きます!」

 

多分、落下する保護対象をうまくキャッチするなら俺か夏油先輩。でも、単純な速度で考えたら俺の方が速い。

 

呪力により強化した脚での助走、十分な加速ののち自身に働く重力を制御して斜め上方向に落下する。星蔣体の少女にかかる重力を打ち消し落下を止め、抱きかかえる形で安全を確保する。

 

脈や呼吸などに異常は見られないことを確認して、ふうと息を吐く。とりあえず安全は確保できたようだ。

 

「とりあえず、下手人の顔でも拝んでおくかな」

 

簡易的な結界術で星蔣体の全身を覆う。一撃で崩壊してしまうという縛りにより、高威力な攻撃でも耐えることができるというものだ。逆に言えば、放り投げた小石でも破壊できてしまうが、呪術とはそういうものだ。

 

破壊した淵から敬礼をしながらよく分からない臭いセリフはいてるやつ、帽子に刻まれたダサいロゴのQという文字。マントに軍服とかマジでダサい。そして機能面もクソ、マント付けてるとろくなことにならん。ミスターインクレディブルを見ればわかる。

 

「なに、もしかして落下させただけで殺したと勘違いして悦に浸ってたわけ?」

 

「な!?」

 

「確実に殺したければ首を斬るなりすればよかったのに...そのへんの稚拙さも含めてまじでだせぇ。まずそのスーツ捨てて出直せ」

 

「ガキが、調子に乗るなよ。このスーツは我ら呪詛師集団"Q"の誇りであり覚悟の現れ。貴様のようなガキに分かってたまるか」

 

急に誇りとか抜かし始めた。何が言いたいんだ一体。というか、そういったものを表に出すなら全体に訴えかけられるようにわかりやすいデザインが基本じゃないの?しらんけど。

 

だせえ帽子を直すと同時に、呪力の量が増加する。手がふさがってるから余裕とでも思っちゃったりしているのだろうか。

 

「その制服、高専の術師だな」

 

「だったらなに?」

 

さて、このQとかいう組織の構成員はこれだけか?少なくとも、いくつかの護衛が突破されたのは間違いない。この程度の術師一人によるものとは考えにくい。

 

地上を見れば、建物の中に入っていく夏油先輩に、同じくセンスのないスーツを着た構成員と戦ってる五条先輩。この時点で二人以上いることは確定。

 

建物内に夏油先輩が入っていったので、ほかに構成員がいても呪霊で一気に制圧してくれるだろう。

 

「おい、こちらを見ろ」

 

「なにさ」

 

「ガキを渡せ、殺すぞ」

 

「弱いだけじゃなくて品もないと来た。人との話し方を勉強してからお願いしてくれよ」

 

 

 

ま、五条先輩のほうがガラ悪い時ある気がするけどね。

 

式神として完成した新しい黒猫を呼び出して戦闘姿勢をとる。まあ、この程度の相手なら黒猫を呼ぶ必要もないと思うけどね。

 

 

 

 

 

 




感想・評価・誤字報告マジで助かってます、ありがとうございます。

そしてありがたいことにそろそろ総合UA20万行きそうです!!

それもこれも皆様のおかげです、これからもこの作品をよろしくお願いします。




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任務の始動やん


原作完結するまで話を描き続ける予定ですので、今後もお付き合いしていただければ幸いです。


よろ。







「ごめんて!マジでごめん!!この件から手を引く!呪詛師も辞める!!!」

 

『ニャー』

 

俺に手を出した呪詛師集団Qの戦闘員の一人、コークンとやらは下半身から肩までが星屑を集めたような透明感を持つ肥大化した『黒猫』の体に取り込まれていた。

 

「なんか足とか指先の感覚がもうないんだ!もちろんQも辞める!そうだ猫カフェを開こう!猫と楽しく触れ合える喫茶店だ!猫の保全にもつながるしいいと思うんだけどどうかな!ね、ね!!!」

 

「猫カフェねぇ…少し時代を先取りしすぎな気がするけど」

 

「時代…?と、ともかく早くここから出してくれ!もう何もしないって誓うから!!」

 

「つーかマジでマントかっこいいと思ってたの?あんなカッコつけてたのに瞬殺されてるし。なんかこっちまで恥ずかしくなるわ。猫カフェはいいんじゃない?」

 

「そんなにいうからなんか俺もマントダサいんじゃないかと思い始めてきた!なんなんだオマエは!!!」

 

「女性の前で騒ぐのはどうかと思うよ?」

 

「なら早くこれ解除しろーーーーー!!」

 

「はい、人に頼む態度」

 

「ぐわーーーーーー!!!!!」

 

どうも俺です。

 

戦闘構成員らしいコークンなんですが秒殺でした。蜘蛛の糸みたいなのを操って戦う戦闘スタイルなんだけど、重力の前には無意味だった。

 

ぶふぇ、とかカエルの潰れた音みたいな悲鳴をあげてその場で潰れた。

 

術式で押さえつけてもいいが、呪力を無駄に消費するのも面倒だ。そこで、黒猫に仕込んだ十の術式その一つである体内に取り込んでの対象の拘束術式をつかうことにした。

 

ちなみにこの黒猫は現状俺の最高傑作の式神。名前はまじでそのまま『黒猫』。姿かたちはGRAVITY DAZEに出てくるダスティ。ただ、仕込んだ術式なども原作とは異なるのでそのままの名前を名付けるのはばかられた。

 

黒猫に仕込んだ術式は対象の捕獲や主に俺の補助をするようなものを中心に用意した。

 

その中の一つの術式は捕縛に特化している。黒猫はその姿を制限はあるものの自在に変化させてその内に対象を取り込むことができる。

 

結界の本質は境界を敷いて世界を分けることにある。黒猫に仕組んだのはこの結界術の応用だ。内側の時間の流れを現実世界からずらすことで、内側を異界化させる。次元がずれることにより対象を取り込んだところと取り込まないところを空間的に切り離す。こうすることで一切の抵抗ができなくなる。

 

そんなわけで、コークンは体の感覚が消えているとかいう不思議体験をしてもらっているわけである。

 

爆破された部屋の中には星蔣体のお付きの人らしき女性。

 

応接室らしき場所に残っていたソファに星蒋体の少女とお付きの女性を寝かせる。

 

「フ…」

 

「あ?」

 

身体の感覚を感じていないのはそれなりに恐怖のはず。現に先ほどまではそこから逃れようとモジモジ暴れていた。そのはずなのに、急に余裕の笑みを浮かべ始めた。

 

「どしたの、ここから俺に勝つ算段でもついた?」

 

「そうだ、たかが学生になぜここまで怯えなければならない。ここにはQの最高戦力であるバイエルさんが来ている!!さらに一級呪具を持った戦闘員もビル内部に待機している!!」

 

「なるほど、その人達が俺も倒して星蒋体も殺してくれると」

 

「そうだ!オマエなんぞあの人の前では」

 

「ねぇ」

 

話を遮るように声を出す。

 

星蒋体の確保の連絡を五条先輩と夏油先輩に送り、今ちょうど両人から返信が届いた。

 

本文はなし、メールに添付された写真のみが送られてきた。

 

顔中に殴られたような痕があり、ぐったりとした様子のスーツとピースを添えたツーショットの写真。

 

そして、何やら札の巻かれた弓を取り上げて同じく呪霊に体の半分を飲み込まれているスーツとピースを添えたツーショットの写真。

 

それを交互にコークンとやらに見せる。

 

「それってこの人たちのこと?」

 

 

 

 

 

 

「……この人たちですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘構成員が全滅、最高戦力バイエルのリタイアにより組織瓦解。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんなわけで、なるべく理子ちゃんには普通の学校生活を送ってもらいたい。私たちは学校内の動きやすい場所で待機、円李は学校外の警備をお願いするよ。何かあればすぐに連絡するように、いいね?』

 

「了解です。呪詛師を発見した場合は?」

 

『そうだね。可能であれば捕縛、最悪の場合は自分が生き残ることだけを考えてくれ。特に君の式神はそういったのに特化しているからね』

 

「かしこまです。天内のことは頼みます」

 

『そちらこそ、くれぐれもよろしく頼むよ』

 

パタン、とガラケーを畳んでポケットにしまう。そういえばこの時期はまだまだガラケーが主流か。

 

個人的にはスマホよりガラケーのほうが好きだったんでなんかラッキーである。ちなみにガラケーが好きだったのは、ガラケー型の小型ロボットと人間がサイバー犯罪に立ち向かう作品が好きだったが故である。

 

そういえば確か京都にメカメカしい奴がいたよな。携帯捜査官実現のチャンス来るか...?

 

天内に関してもだ、何としてでも最後の学校生活を送ってもらいたい。同化した後は、高専結界の礎となるためこれまでのような一般的な生活を送ることはできなくなる。であるならば、最後くらいは好きにさせてあげたい。

 

学校生活を邪魔させないようにするのであれば、そもそも呪詛師を学校に入れなければいい。護衛組三人の中で、索敵に優れている俺を外に配置するのはなっとくである。

 

というのも、俺はとんでもなく勘がいいのだ。

 

これはちょっと運がいいとかいうレベルではなく、簡単な未来予測に匹敵する。とくに敵対反応においてはとんでもなく敏感だ。理由はわからんが、夜蛾先生からは『幼少期のほとんどを呪霊が跋扈する大森林で生活していたから、第六感が鍛えられたのではないか』と言われた。が、真実はどうだかわからん。

 

今回事前にわかっている敵対勢力はQと盤星教の二つ。そのうちの一つはすでに崩壊しているので問題は盤星教のみ、とその他こちらが把握していない第三勢力。可能性としては全然あり得る。すでに二つの団体に情報が洩れているのであれば、それ以外にも事が伝わっている可能性はある。

 

いずれにせよ、こちらに対して明確に敵意を持っているのは間違いない。だったら、嫌な予感として感じることができるはず。

 

「とりあえず人目のないところだよな」

 

目標である天内は学校の中、ともあれば必ず学校に侵入してくる。天内の最後の学校生活のためにもここで潰しておく必要がある。複数人であることも考慮すれば求められるのはスピードだ。

 

さくっといくぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこのイカした丸眼鏡のじーさん、女子中学校に用があるなんて変態さんなのかな?」

 

嫌な予感が感じた方向に向かったところ、案の定変態がいた。そら女子中学校の壁に足をかけて見るからに侵入しようとしているおっさんがいたらもうそれは変態でしょ。

 

「その服装、そのボタン。呪術高専のもんだな?」

 

頭に巻いた手ぬぐい、紺色の甚平。こちらを視認した瞬間壁から離れこちらに対して構えをとり、呪符を用いて二体の式神を呼び出す。前後にそれぞれを配置し自身を挟むように配置する。

 

雰囲気も構えも素人のそれではない。

 

「じーさんさ、いい年なんだから家でおとなしく将棋でも打ってなよ」

 

「年上は敬うもんだぞ若造。それに、生きるには金が要るしな」

 

「ん?女子中の侵入と金稼ぎに関係があるんか?」

 

「おっと、いらんことを話したかな。お前さんをさっさととっちめて先に進ませてもらうわい」

 

盤星教の差し金か?それにしても金稼ぎってどゆことだ?考えられるのは盤星教がフリーの呪詛師に天内殺害を依頼したとか?

 

高専結界の維持に必要な人間だし、そういった意味では賞金付きで狙われてもおかしくはない。

 

やる気満々のじーさんだが、瞬殺してしまう。ごめん。

 

重力操作で負荷を増加させ、身動きが取れなくなった瞬間に黒猫で捕獲する。

 

今回の護衛任務においての主戦力は五条先輩と夏油先輩と俺の三人だが、これほどの任務だし俺たち以外の人も周辺に控えているはず。監督補助の人経由でこの呪詛師のおっさん回収してもらおう。

 

そのまえに情報を吐かせておこう。金稼ぎってどういうことか気になる、結局さっきのは俺の予測でしかないからね。

 

「さて、呪術戦もできずに完封しちゃって悪いね。ところでさっきの金稼ぎの件、教えてくんないかなって」

 

「.....こうもなってしまえばもうどうしようもないか。お前さんのせいで取り出すことができん携帯を見てみろ。そこに全部書いてある」

 

「面倒がなくていいね」

 

腕や足、言霊を警戒しての口といった体の各部分を黒猫で拘束したまま、甚平のポケットの場所だけ拘束を解く。

 

「ほいじゃ失礼~」

 

ポケットの中には何枚かの小銭と携帯電話。携帯電話の最新のメッセージに答えがあった。

 

天内の殺害に3000万円の賞金が掛けられていた。遺体がなくても殺害が確認できる証拠があれば3000万。なるほどそういうことか。金は一番簡単に人を動かす手段の一つだ。いくらかはわからないが仕事の内容が女子生徒一人を殺害なら呪詛師はこぞって仕事を受けるだろう。

 

ならば、ほかにも呪詛師がいると考えて動いたほうがいい。

 

次来るかもしれんし、備えておこう。幸い消費した呪力は大した量じゃない。とりあえず一人やりましたってメールを夏油先輩に送っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度はあきらかに変態じゃん」

 

「なんだおめえは?」

 

たぶん男かな?が電信柱の上に立って女子中学校をのぞき込んでいた。紙袋をかぶり、目と口にあたる部分を切り抜いたダサい被り物をした筋肉質の体。タンクトップに半ズボンという服装が変態度をさらに増加させている。

 

「あんたも金稼ぎが目的の呪詛師かな?」

 

「あん?お前も同業者(呪詛師)か?なら話は聞いてるだろ、3000万は俺のもんだ」

 

相手の呪力が励起し術式を発動させる。

 

ドロドロとした何かが空気より現れ形を作る。そうして現れたのは紙袋頭の変態のそっくりさん、この場合は分身とでも呼んだほうが正しいのだろうか。それも一体だけではなく俺を取り囲むように最初に立っていた変態も合わせて合計五人の変態が現れた。

 

「分身の術式か。いい術式ジャン、呪術師として働くっていうんだったら高専に紹介するけど?」

 

「人のためとか面倒なんだよ。それにこっち(呪詛師)の仕事のほうが儲かるんだ。知ってるか?人を殺して食う飯はうめぇんだ。3000万もあればしばらく何もしなくていいなぁ、今夜は鰻かな?」

 

前言撤回。

 

やっぱこんな変態と一緒に働くなんてこっちから願い下げだ。

 

術式の範囲を設定、大した相手でもないしこの住宅地一区画くらいでいいか。

 

「術式反転のもどきになるのかな。地球にいながら無重力を味わうといいよ」

 

一人を残してそのほかの三人にかかる重力に対する力の釣り合いを作ることで疑似的な無重力状態にする。大地から足が離れることで、物理的に身動きが取れなくなる。急に浮いたことで驚きとともに、手足をばたばたと動かす。さながら水中で溺れているかのような姿だ。

 

俺の術式は重力に作用するものである。強力であるがゆえに、広範囲に誰構わず術式を行使すれば呪力不足と同時に神経が焼き切れて死ぬ。そのため術式行使に伴い縛りを課すことで省エネ化と強化を行っている。この縛りというのは、術式の射程範囲を事前に決定しておくこと。これにより、必要となる呪力を制限し、範囲以外に攻撃できないという縛りによって威力を増加させる。

 

「な、なんだこれ!」

 

「重力操作の応用系、重力にとらわれない空間の再現。どこにも触れられないってことは力を加えられないってこと。子供相手だからって舐めてるとこうなるの」

 

浮かせた四人の分身?を一か所に引き寄せて思い切りぶつける。術式を解いて一度様子を見る。ぶつけられた三人は地面へと落下していくが、その途中でドロドロと空気に溶けていった。

 

殺してしまうのもあれだし、拘束してしまいたいが。

 

「これ、一人殺したらどうなるの?」

 

「お前に、俺は殺せない」

 

「そう...」

 

ドロドロとした何かが空気より現れ、分身として体を形成する。再び計五体のそっくりさんが俺を囲むように配置される。

 

殺せないとか自信満々だし、とりあえず一人やっておくか。

 

俺を囲んでいるうちの一人を屋根から引きずり降ろして地面にたたきつける。そのまま負荷を増加させて圧死させる。

 

「まず一人」

 

すぐ人数を補填するようにもう一人を増やすかと思ったが、いきなりのことにたじろぐばかりでなかなか増やす様子がない。ということは、分身を完全に破壊されると分身はすぐに出せないとか?式神使い?もし式神使いならば、こういった手合いの術式は術師本体を叩くのが一番だと相場が決まっているがそれもどうだろうか。

 

さっきの攻撃も、ランダムに狙った。あの中に術師がいればもしかしたら本人にあたるかもしれなかったのに、焦る様子もなかった。ということはここに術師本人はいないか、それとも全部本人だから逆にどれ殺されても問題ないとか?

 

どちらにせよ、完全に破壊すればすぐに分身を出せないようだし、一人を残して全員ここで潰しておこう。

 

今いる残り四人のうち三人を地面にたたきつけ、点無を用いて圧縮し消し去る。一瞬で分身が文字通り消し去られたことによって動揺している瞬間をついてとどめを刺す。呪詛師にかかる重力をこちら側に向けることで対象をこちら側に引き寄せ、衝突する勢いを活かして体術でボコボコにする。

 

動揺している間に不意を衝くことができたのもあり、あっという間に沈んだ。

 

さっきのじーさんの場合と同様に補助監督に引き渡し二人目も片付けたとメールを送る。

 

 

 

さきほどまで感じていたみえみえの敵意は全部なくなった。ただ、ずっと感じている不快感が全然なくならない。鋭い刃物を喉元に近づけられているかのような不快感。

 

何も問題が起きなければいいが...どうなるだろうか。

 

 

 

 

 

 





前書きに書いた通りです。今後もよろしくお願いします。

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ではまたこんど





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旅行に問題はつきものじゃん


全てに感謝






都内某空港 国内線窓口前

 

 

 

 

 

「ラッキー、ななみんより早く着いたわ」

 

待ち合わせ場所に指定した看板の前に立ち、携帯電話を開いて現在時刻を確認する。電車の関係上たまたま早く到着したため目的地に一番乗りだったようだ。

 

待ち合わせの相手は高専一年組の七海と灰原、間違えたななみん。財布に応急キット、いくつかの呪具と携帯電話。最低限のものを詰めたショルダーバッグを肩に掛けなおし、近くにいないかなとあたりを見渡す。

 

なんで空港にいるのか、それは当然星蒋体護衛の任務によるものである。

 

あの後、俺がボコした二人以外に呪詛師が何人かいたが学校に侵入させるまえに対応することができた。なので天内の最後の学校生活は満足に送れたようである。

 

これで万事解決、では高専に行きましょうとなり高専への移動のために車を取りにいった黒井さんが帰ってこないのだ。怪しいと思ったところで天内に不明のアドレスからメールが届き、その内容は黒井さんを預かったというものだった。車を取りに三人と離れたその時を狙ってさらわれてしまったと。

 

これに対して五条先輩は天内を最優先で高専に輸送、その後に五条先輩と夏油先輩が黒井さんを奪還という作戦を提示。しかし、天内がこれに猛反発。

 

 

『助けられたとしても!もし同化までに黒井が帰ってこなかったら?まだ、お別れも言ってないのに...!?』

 

 

と。現状俺たちに課せられている任務は星蒋体の護衛と抹消、さらには天内の要求はすべて応えること。であればあとは俺たちが頑張るしかあるまい。

 

それに伴って俺に下された指示。それは黒井さんの取引場所に指定されている沖縄の空港の防衛。呪詛師に占拠されることを防ぐために、天内一行が到着する前に沖縄に向かえとのこと。

 

そのために空港にやってきたというわけだ。

 

「いえ、残念ながら私のほうが先です」

 

看板の反対側から気だるげな眼をした七三分けこと七海建人と、対照的にぱっちりと開かれた眼の黒髪短髪の灰原雄。今回の空港防衛作戦には俺達一年が担当することとなった。

 

「看板とはいえ普通に考えれば窓口側でしょう。なんでわざわざ反対側なんですか」

 

「まあいいじゃないか!!こうして節と合流できたことだし!!」

 

相変わらず灰原は圧がすごい。焚火の前にいると肌の表面のみが焼ける感じするじゃん、灰原といる時ってマジでそんな感じ。ただまあ何か月も一緒にいればなれるもんだ。同じ

 

「沖縄の窓の話じゃまだ目立った問題はないそうだね。まぁ何もないのが一番だけどね。ね、ななみん!」

 

「次そのふざけた呼び方をすればいつもの店で一杯奢りの約束、覚えてますよね」

 

声をかけながら肩を組みに行くが荷物を持っている反対の手で払われてしまう。ちなみにいつもの店はラーメン屋だ。ななみんはグルメが大好きでラーメンなどはあんまり好きではなかったが、本当においしい店を案内してからはラーメンにもはまってくれた。

 

まぁ、その約束を判ったうえでやってるんだけどね。一緒にラーメン食べに行くの楽しいし。

 

「前回僕は仕事で行けなかったからね!今度は僕もつれてってくれよ!!」

 

「まあその話はあとでいいでしょう。時間に余裕があるわけでもありません、早いところゲートを抜けてしまいましょう」

 

ななみんがそういうとスタスタと歩いて行ってしまう。

 

当然ながら、飛行機を乗るにあたって刃物の持ち込みは厳禁だ。俺の呪具もななみんの呪具も一応は刃状のものであるため普通に通れば引っかかってしまう。なので、高専関係者が裏から手をまわして念のため飛行機内にも呪具を持ち込めるようにしてもらうのだ。

 

そのため、関係者入り口にいる補助監督と合流する必要があるのだ。

 

「そうだ節!件の少女はどうだったんだい?僕はてっきり夏油さんたちと一緒に護衛に回るのかと思ってたんだけどね!」

 

「ああそれね。星蔣体の女の子はなんというかまぁ、いい意味でどこにでもいる女の子だったよ。俺がこっちにいるのは、五条先輩と夏油先輩の判断。敵の勢力がはっきりとしていない今、先発組に人員を割いたほうがいいってことらしい」

 

「...なるほどね。ただまぁ、僕は燃えてるよ!!夏油さんに頼られちゃったら頑張るしかないよね!!」

 

「いえ、どう考えても一年に務まる任務じゃないでしょう。節君がいるとはいえ、敵勢力もわからないのに我々だけとは」

 

「そこはあれよ、先輩方に信頼してもらっているということで一つ」

 

はぁ、と大きくため息をついて足を速めるななみんを追いかけるように俺と灰原も続く。

 

何の問題もなく、飛行機に乗る。現時点で嫌な感じはしないので、ひとまずは無事に沖縄に到着できることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ沖縄そばで間違いなかったな」

 

ずるずると麵をすすり、威圧感を放つ肉を口いっぱいに頬張る。沖縄着の最終便であったためすでに23時を超えてしまっている。そのため空港からいったん外にでて24時間営業のフードコートにて腹ごしらえをしている。

 

ななみんは窓の人のところに行っている。

 

「このソーキそばもとてもおいしいよ!!」

 

「いやいや、灰原。左上の法則って知ってるか?」

 

そう左上の法則だ。横文字をなぞるとき、文は左上から始まる。日常生活でもそれが染みついているため、一覧表を見た時にも人間は無意識に左上から見る傾向がある(当社比)。そのため、メニューなどの表では一番お勧めしたいものや一番目立たせたいものを左上に配置しやすいのである。

 

まじでみんなも使ってみて欲しい。とくにラーメン屋にありがちな券売機方式もそうだ。左上におすすめがあることが多い。まぁ本人が食べたいものを食べるのが一番ではあるが。

 

店がおすすめするものであれば、失敗することもあるまい。

 

そんなことを考えているうちに汁まで全部飲み切ってしまう。

 

「随分と良い御身分ですね」

 

「お、ななみん。窓の人はなんて?」

 

「節さんにはもう今更という感じですね。窓の方から話を聞いてきました。現状、呪詛師と思わしき人物及び集団は確認できてないとのことです」

 

「なるほどね。ひとまず交代制で空港を守る感じになるのかな。明日の朝に先輩たち来るから最も気を付ける点は先輩たちの到着の時間と発着の時間だな」

 

お冷を一気飲みして一息つく。向かいを見れば灰原も汁まで全部飲み干していた。

 

「とりあえず、ななみんもご飯食べて一休みしてよ。俺先に空港戻ってるから」

 

そういってトレーを返却口に持っていこうとしたその時、肩をつかまれ歩みを止められる。

 

「待ってください。あなた今日一日中働きっぱなしでしょ。複数人の呪詛師と戦闘があったと聞いています、まず先に休憩するべきはあなたでしょう」

 

「そうなのかい!!だったらここは今のところまだ何もしていない僕が頑張る番じゃないか!?」

 

勢いよく椅子から立ち上がった灰原がななみんとは反対側の肩をつかむ。

 

「灰原君にも黙っていたと。いいですか、呪術師に求められるのはいついかなる時も冷静な判断ができるような余裕です。それに朝からずっと任務だったんですから、これから夜にかけても動くとなれば疲れも出てくるでしょう?護衛任務は明日までと聞いています。私たちは空港防衛任務だけかもしれませんが、節君。あなたはその後五条先輩と夏油先輩に合流するかもしれません。だったらなおさら今は休んでおくべきなんですよわかってますか。そもそも任務に合流するときも今私に聞かれるまでに状況を黙っていたことにも問題が――」

 

「あーもうわかったって!!」

 

かっこつけようとしたが、ななみんにはバレバレだった様子だ。ななみんに正論でボコボコにされるのは精神的に来る。それに、頼りになる同期がここまで言ってくれるんだ、素直に頼っておくとしよう。

 

「じゃ、お言葉に甘えて仮眠含めてもう少し休憩させてもらうよ。ただ、場所的にも休憩は空港で取らせてもらう。それに黒猫で探索もできるから、ななみんと灰原もしっかり休憩をとること。これでいい?」

 

完全には納得していない様子のななみん。多分本当だったら式神の運用も止めさせたいんだろうが、じつはそれほど心配するようなものじゃない。黒猫に関しても俺の術式と同様に黒猫が触れている空間の付近でしか術式が使えないという縛りで省エネと強化を図っているのでおそらく一般的な式神よりは負担は少ない。

 

「今黒猫を空港に送ったから、とりあえずななみんもごはん食べたら?久々に話でもしようよ」

 

そういって千円札をななみんに押し付ける。それに、何かあってもすぐに対応できる距離だし、俺の術式で初見殺しができる。

 

それに疲れているのはお互い様だ。この任務に高専の学生が選ばれるということは時間のある呪術師がいなかったということ。五条先輩や夏油先輩、俺は除くが慣れない任務でかつ慣れない飛行機の中にいたのだからそりゃ疲れもするでしょう。

 

「......まあぁそれでいいでしょう」

 

俺の千円札を手に、フードコートの受付窓口に向かうななみん。

 

しばらくしてなんだか俺が想定していた以上のものをトレーにのっけてななみんが帰ってきた。どんぶりからはみ出しそうな肉が乗った沖縄そばを始めとして腕にかけたビニール袋には沖縄限定のお店が提供するビッグサイズのハンバーガーにアイスクリーム。どんぶりの乗ったトレーにハンバーガーが入ったビニール袋とそれなりに重量のあるそれを片手に、もう片手で水を汲んだコップを持ち優雅に席に座る。

 

「合計1800円です。差分の800円は東京に戻ってからいつもの店でお願いします」

 

そういうと丁寧に手を合わせていただきます、と口にして割り箸を割る。先ほどの俺や灰原よりも早い勢いでトレーの上のものがなくなっていく。いつも思うが、この細身の体のどこにこんだけのモノをしまっておく胃袋があるのだろうか。不思議だ。

 

ななみんを待っている間に携帯電話を開く。

 

着信ボックスの一番上には夏油先輩からのメールがあった。

 

内容は空港近くのビジネスホテルにいったん泊まり、明日の朝の便で沖縄に向かうというもの。天内は黒井さんがいなくなったことに加え、不安によって終始浮かない様子だったがご飯はしっかりと食べてくれたらしい。

 

 

こちらのことは一年組にお任せください、明日の朝沖縄でお待ちしております、と。

 

 

「あ、そうだ。ななみーん?」

 

「なんですか」

 

パシャ

 

携帯電話の画面にはななみんがもっしゃもっしゃとハンバーガーを頬張っている姿と、すぐさま反応した灰原のピースサインが映っていた。

 

「うん、いい写真()だね」

 

「ちょっと待ってください、勝手に写真を撮るなんて聞いてないですよ。今すぐに消しなさいッ...!」

 

「一手遅かったね」

 

そうして携帯電話を奪い取ろうとするななみんにメール送信完了の画面を見せる。

 

額に青筋を浮かべて、何か言いたげに口を開くがやがて大きなため息をついて残ったハンバーガーを一口で頬張り、何もしゃべらずアイスを食べ始めた。これは少し弄りすぎたかもしれないな。これはいつもの店で特製餃子も追加しなきゃいけないかな、そんなことを考えながらななみんがご飯を食べ終わるのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





毎度どうもありがとうございます。

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それではまた次回




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フラグやん



メカ丸が動いてるとこ見るのが楽しみ





 

「お待ちしておりましたー。天内は昨日ぶりだね」

 

「ふん!こんなところでタラタラしている暇はないのじゃ」

 

「まぁまぁ理子ちゃん。彼らは私たちが問題なく沖縄に降りられるように空港を守ってくれていたんだよ。一応紹介しておくと、円李の後ろに立っている二人だね。七海建人と灰原雄だ」

 

「どうも、七海建人です」

 

「灰原雄です!!」

 

星蒋体ご一行が沖縄に無事到着しました。

 

もし飛行機が飛んでいるときに襲われたりしたら天内もろとも死んでしまうのではないかと少し心配していたのだが、まったくその心配は必要なかったようだ。気になって夏油先輩にメールしてみたところ曰く

 

『悟の眼で搭乗前に呪術師がいないかを確認したうえで、飛行中は飛行機機内と外をそれなりに強い呪霊で囲んでいるからね』

 

とのこと。確かにこの布陣であれば下手な陸路よりかはよっぽど安全だ。

 

「おっす円李」

 

「お疲れ様です、五条先輩」

 

「疲れてなんてないさ。学校では円李が呪詛師を潰してくれたおかげでなんもしてないし。しいて言うならあのガキんちょに振り回されて現在進行形で疲れてるとこ」

 

「誰がガキじゃ!!」

 

「はいはい...で、なんかあった?いまんところ俺の六眼にはなんも映ってないけど」

 

口ぶりから俺と別れた後に呪詛師による襲撃はなかったようだ。そろそろ例の呪詛師御用達のネットにも五条悟がいるって共有されているだろうし、さすがにある程度の実力者ならわざわざ突っ込んでくることもないだろう。

 

「呪詛師関係ではなんもありませんでした」

 

「ん?呪詛師関係()?」

 

「はい。今日の2時くらいですかね、自家用機と思われる小型飛行機が空港の離れた滑走路に着陸してました。それと補助監督の方に調べてもらったんですが、結構な量の荷物が朝一番に運び込まれてたみたいです。この辺が怪しんじゃないかと」

 

「...なるほどね。となれば飛行機に乗って黒井さんを連れて最小限の装備で沖縄に到着、朝一の荷物は追加の装備かな?」

 

たぶんそうだと思う。ただ、確証が取れないのと、今の俺では囲まれての攻撃には完全に対応できないため単独で乗り込むことができなかった。

 

敵が銃を持っていたとする。自身を境に時間の流れをずらし、疑似的に時を止めることができる永永無窮で射線を見切って躱せば問題がない。それが一人ならば。仮に全包囲されて射撃されれば時を止めたところでかわすことができないので被弾してしまう。今の俺と五条先輩との大きな違いは絶対的な防御を持っていないところだ。

 

永永無窮は格闘戦においては圧倒的な優位を確保することができる。が、こと多勢を相手にするとなるとどうしても勝ち切ることができない。

 

別に一人だけなら問題はなかったが、今回は黒井さんという人質がとられている状態だ。勝ち切ることもできないのに人質の心配までする余裕がないと思ったので、五条先輩と夏油先輩を待つことを選んだのだ。

 

まあ仮に先輩方が来なかった場合は、永永無窮で時を止めている間に黒井さんを奪還して高速で離脱すればいいだけだ。ただ、いかんせんこちらがそろえている情報が少なすぎる。

 

そういった点も考慮しての判断だ。

 

「おっけ、なんとかなるでしょ」

 

「流石ですね」

 

サングラスを外し、長旅で固まった肉体をほぐすようにその場で軽く準備運動をする。

 

「ま、サクッと助けてくるよ。なんたって俺らは最強だし」

 

そういってチラリと夏油先輩を見やる五条先輩。いやかっこよ。言葉遣いは汚いけどシンプルカッコいいわ。というか、結局天内はどうするんだろうか?

 

「天内はどうするんです?もしあれだったらこっちで対応しますけど」

 

「あー...あいつ俺らが信用できないからついてくるって。おかげで荷物が増えたわ」

 

確かに言いそう。

 

「増援が必要だったら呼んでください。建人も雄も自身が思ってるほど弱くないんで、ここ任せられると思いますし。純粋な火力と制圧能力だったら俺手助けできると思うんで」

 

ななみん呼びしてないのはなんとなく。空気的に正しく呼んだ方がいいかなって。

 

「まあ困ったら呼ぶわ。黒井さん奪還したら今日の午後三時の東京行きの便で高専に戻る。だから一年sの任務は今日の三時まで、俺たちが空港から出ていくまでだね」

 

「了解です、二人にも伝えておきます」

 

「じゃ行ってくるわ」

 

まるでコンビニで買い物をしに行くような軽さで入り口に向かう。それを見て夏油先輩も天内を連れてついて行く。

 

「お気をつけてー」

 

いっちゃった。

 

「さて、五条先輩から伝えられた内容について共有しておこうか」

 

そういって振り返れば、一層やる気に満ち溢れてそうな二人。おおかた、聞いていた星漿体の正体があんな年下の少女であったことが起因しているんだろう。それに彼女を護衛する先輩二人。ななみんは平常運転かもしれんが、灰原あたりは「僕も頑張らないと!!!!!!」って感じでいつもより暑苦しいことになってそう。

 

まあそれも夜まで。そこそこ気合い入れて頑張るとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異常なし、問題なし、呪詛師なし。

 

ちょうどお昼を回って一時頃。空港を行きかうのは家族づれの観光客にビジネスバックにスーツをまとった社会人、添乗員や空港のスタッフ等。実に平和的な景色が広がっていた。

 

ガラケーに入っている懐かしいゲームをポチポチしながら、黒猫を使って索敵する。しかし探しても探しても俺の勘に引っかかるような反応は見つからない。さっき来た夏油先輩からのメールでは、うまく事が進み黒井さんを奪還したので定刻通りに空港に向かうとあったし、呪詛師関連はあらかた落ち着いたと判断してもいいのだろうか。

 

ただ、油断は禁物。油断したところで大体失敗するのだ。

 

ゲームのステージをちょうどクリアしたところでちょうどメールを受信。差出人は五条先輩。あの人まじで連絡とか適当だしおろそかにするし、あったとしても口頭で手間のかからない電話しか来ないのだが。何があったんだろうか。

 

「休憩から戻りました。ここからは私と灰原さんが変わります」

 

「あれ、雄は?」

 

「今トイレですね。なので戻ってきてから交代ですか」

 

「うーい」

 

受信ボックスを開こうとしたときにななみんが休憩から帰ってきた。俺、ななみんと雄の二グループに分けて警備のローテーションを作っていた。今までは俺が順番だったので一番人通りの多いここで見張りをしていたのだ。

 

さて、ついでだし夜蛾先生に沖縄土産でも買っていこうかな。

 

席から離れる前に、ポチポチと受信ボックスに届いている五条先輩からのメールを確認する。

 

『もろもろの都合で東京戻るのは明日の朝。そんなわけでよろしく』

 

という短いメッセージ。

 

まてよ、つまりこれ大幅な予定変更だよな。今日の三時までだと思ってたのに半日くらい伸びるってことか。いやそれよりも、ななみんにこの予定変更を伝えるの俺じゃね?

 

ななみんは見た目からもわかるように超キッチリしている。手帳に予定は全部書き込むタイプだし、その日食べたものまで全部メモってある。とうぜんモチベーションを保つためのキーになっているのがスケジュール的な時間でもあるななみんに大幅な時間変更を伝える...?あ、もしかして一年の中で俺に送ってきたのってそういうこと?

 

恐る恐る目の前に立つななみんを見る。

 

「どうしたんです?」

 

あ、これ連絡行ってないな。間違いなく俺だけに届いてるなこれ。

 

「えっと...」

 

「歯切れが悪いですね、何か任務に問題でも発生しましたか?」

 

いいづらい---!!

 

「えー空港での任務なのですが......五条先輩から帰りは明日の朝にするって連絡がありまして...それにともなって我々も明日の朝まで」

 

ピキィ

 

あーなんか雰囲気変わったねぇ。

 

空気が変わった、なんかすんごい居心地悪いわ。これ俺のせいじゃないけどすんごい見られてるじゃんその目で見ないで見ないで...。

 

ピロリンとななみんの携帯が鳴る。メールが来ていたようで呪具の収められているカバンを俺が座っている椅子の隣に置くと携帯を開く。しばらく無言でメールを読んでいたが、返信をしているのかポチポチボタンを押した後に携帯を閉じてポケットにしまう。

 

「夏油先輩からメールが来ました。朝にした理由もわかりましたので」

 

「教えていただいても?」

 

結論から言うと五条先輩なりに考えた天内への気遣いの結果らしい。まず今日明日にかけて沖縄から東京にかけて天気が安定しているから、そして沖縄の方が東京に比べて呪詛師が少ないから。この条件なら、高専にこもるよりも、同化が行われる夜ぎりぎりまで沖縄にいた方がいいと判断したとのこと。

 

それに3000万の賞金の件もある。呪詛師御用達のサイトを確認してウラ取りした結果この賞金が取り下げられるのは明日の午前十一時。五条先輩と夏油先輩によるおそらく日本で一番安全な飛行機の機内で賞金の期限が切れた方がいいという点もある。

 

以上が移動を明日にずらした理由だと。

 

なるほど納得だ。

 

ただ、一つ。五条先輩無理してないかなー...。

 

さっき話してた時もなんか呪力の流れ感じたし、多分ずっと術式回してるよな。本当に今日帰らなくて大丈夫だろうか。

 

高専に入って気が付いたことがある。それは五条先輩についてだ。俺の知っている原作の五条先生ならずっと術式を使っていてもなんともないんだろう。なんせあの両面宿儺の完全体に対しても苦戦はするだろうが勝てると言い切った男だ。だが五条先輩はまだそこまでではない。ぶっちゃけ、この世界に来て術式を使ってみてわかったが、術式を使うのは相当疲れる。心身ともにゴリゴリ削られる感じがするのだ。

 

最初の虎杖の学校での伏黒がそうだったように、余裕がなければ術式を維持、行使することはできない。もし昨日からの護衛の間ずっと術式を解いてないとしたら相当消耗しているはず。まあ、ここら辺に関しては憶測になるからわからないがとにかく心配だ。

 

「まぁ、何にせよ私たちのやることは変わらないということですね」

 

「まあそういうことで。とりあえず休憩いってくるわ」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「うい~」

 

さてお土産さっさと買って仮眠取ろう。そんで夜は俺が当番かな。ぶっちゃけさっきも精度は格段に落ちるが索敵範囲を滑走路を含めた空港全土にして行ったが引っかかることはなかった。

 

このまま何もなければいいけれど、一体どうなることやら。

 

 

 

お土産といえばやっぱりちんすこうかな?

 

 

 

 

 

 




毎度どうもありがとうございます。そろそろフィジカルゴリラが出てきそうな予感がしてますね。何もないといいんですが...。


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それではまた次回




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やるやん

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


最新刊読みました。本当に辛いです。それなのに次巻が読みたくなる展開、毎週Twitterランドのみんなが阿鼻叫喚してた理由がようやくわかりました。本当に辛い。


そんなわけでついにフィジカルゴリラ登場買いです。ばちこり戦闘解であるのと三人称視点でお送りするものです。よろしくお願いします。





 

都心に集まるビル群、一斉に開発された団地の住宅地。円李は呪力と自身の術式を用いて文字通り最短距離を通って空港から呪術高専に向かって疾走していた。なぜ円李がこんなにも急いで移動しているのか、それは自身に備わった第六感が告げたからであり本人もいまいちよくわかっていない。

 

高専に早く帰らなければいけない、うまく言語化できない謎の衝動に駆られるままに円李は疾走する。

 

 

 

 

 

 

本日の朝一番の便で天内一行は東京に向かった。飛行機が無事に飛び立ったのを滑走路が見渡せるロビーから確認した円李、七海と灰原の一同。大きく息を吐いてやっと一大任務が終わったのだという実感がやってきた。「じゃぁ、せっかくだし俺達も沖縄の観光してから帰ろうか」と提案しようとしたその時、全身に電流が流れたかのような違和感に襲われた。

 

『戻らなければいけない』

 

次に東京に向かう便は一時間後、円李は最悪今から脚で東京に向かうことも選択に入れていた。しかしこんな悪寒が走るほどだ、天内をめぐっての戦いが起きるかもしれない。その場合に大きく消耗した状態で対面することになってしまう。それは避けたい、なのでおとなしく飛行機を利用して、空港から全力で高専に向かうことにした。

 

天内の護衛には五条先輩と夏油先輩のツートップが付いている。なので、そもそもこんなに円李が不安を感じることもないはず。しかし現状今までに感じたことのないような違和感が付きまとっている。

 

円李が想定する最悪のパターンが現実に起きてしまうかもしれない。それを防ぐためにも円李は急がなければいけないのだ。急いで空港に在中していた監督補助の方に飛行機のチケットと高専の本部に警戒するように連絡してもらう。

 

もちろん急に態度が一変した円李を察して七海と灰原も一緒に向かうと言ってくれた。しかし、ぶっちゃけた話二人とも円李ほどの機動力を持たないし、総合的な持久力を考えても最速についてくるのは難しい。

 

なので現状予測できる状況、公共交通機関を使ってで構わないからなるべく早く高専に来てほしいと伝えた後に、非常階段から屋上へと一気に駆け上がる。高速で飛翔する人なんて目撃されれば面倒なことになる。なので、黒猫を生み出すにあたり教えてもらった自身を包む程度の簡易的な認識疎外の結界術を発動させ屋上から高専の方角目掛けて飛び立った。

 

本当にいい同期を持った。もろもろの説明を終え、お願いした点についても納得のいっていないような顔をされたものの、必ず向かうと約束してくれた。

 

一番いいのは円李の感じていたことが、当人の思い込み、勘違いであること。実際にどうなのかは現場を見てみないとわからない。ぜひ勘違いであることを願いながら円李は一層速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛三日目(同化当日)

都立呪術高専 莚山麓

 

現在時刻 15:10

 

 

高専は呪術師を育てる学校であると同時に、全国に展開する呪術師の拠点でもある。当然、呪具である刀やその他もろもろ一般常識の内にないもの。銃刀法や倫理的な問題に触れたりするものまで扱うため、外界からは高専内部を観測することができないように様々な術式が張り巡らされている。

 

結界術とは、すなわち境界を区切ること。そのため術式の核になるものや境界をはっきりさせると同時に出入口となるものを術式の根底に据えることが多い。高専結界の場合は山のふもとから校門までにつながる参道に並ぶいくつもの鳥居がそれぞれ結界術の基底となっている。

 

円李は多少息が荒くなっているものの、術式による補助もあったため大きく消耗することなく高専の入り口までたどり着くことができた。

 

目の前には高専敷地内に至るまでにあるいくつもの鳥居のうち最後の鳥居。そこから見える景色はいたって普通の学校だ。鳥居をくぐるまで油断できない。大きく息を吐き、意思と呪力によって強制的に自身を落ち着かせる。

 

「...思い違いであってくれ」

 

意を決して鳥居をくぐる。果たしてそこに広がっていた景色は。

 

「なんだよ、これ...」

 

鼻の奥に絡みつくような鉄の匂い。目の前はいくつものクレーターが出来上がっており、その周りを球状の何かが大地をえぐったかのような窪みが残っていた。確か高専に関連する建物がいくつかあったはずだが、それらもすべてきれいに倒壊していた。

 

そして円形に広がる崩壊の中心。そこに人に害を与えるほどの脅威を持たない呪霊、蝿頭が群がっていた。まるで何かを隠すかのように。

 

単純に呪力を弾丸のように射出し、あたりにいる蝿頭を吹き飛ばす。その中にあったのは全身から血を流して沈黙する人、銀色の髪に呪術高専の制服、ポケットから零れ落ちた罅割れたサングラス。そこに倒れていたのは間違いなく呪術師最強の五条悟だった。

 

「五条先輩!!」

 

急いで駆け寄り、声をかけるが全く反応がない。脈はあるものの、わずかに感じ取れる程度の弱々しいものだった。ひとまず脈があることに安心するが、どう見ても安心できる容態でないことを思い出し最悪の場合を想定して持ってきていた救急キットを取り出して止血を行う。

 

しかしあまりにも出血が多い。このままでは傷がどうにかなっても出血死してしまう。一縷の望みにかけて造血剤と鎮痛剤を投与するが果たしてこれが本当に効果があるのか、円李には確信が持てなかった。

 

「...え、んりか...?」

 

「五条先輩!?」

 

血を吐き、こひゅーこひゅーと常人ではまずありえない呼吸音を出しながら目を覚ます悟。言葉を紡ぐたびに苦しそうにうめく姿を見せながらも円李はその体から呪力がうごめいていることに気が付く。

 

一体この人の体で何が起きているのか、そう考えていた円李の胸倉をつかみ悟は今動員できる最後の力を振り絞り状況を伝える。

 

「天与、呪縛だ。呪りょくの、ないやつが天内の...ところに行った。はやく...」

 

悟の体をできるだけ丁寧に地面に横たえ、全力で目的地に駆ける。天内が最終的に向かうのは高専施設地下の空間。その場には高専を包む結界や攻撃手段を持たない監督補助を守る結界などを運用・増幅を担っている天元様がいる。扉は天元様直々の術式によって隠されており、素人が簡単に見つけられるようなものではない。

 

地下空間に通じる扉を圧倒的な術式や人員によって守ることはできない。なぜならば、そうやって厳重に守るということはそこに大切なものがあると敵に伝えることに直結するからだ。そのため、術式によって隠されているだけで、数人の見張りがいるだけ。

 

今回の護衛任務を行うにあたり、悟と傑、円李は件の地下空間に通じる道を教えてもらっていた。その入り口には首を切断された二人の見張り。痛みに苦しんだ様子もないので、声を上げる間もなく殺害されたのだろう。今は一刻を争う、遺体を無視し奥に進む。

 

地下空間に向かう方法はただ一つ。地上と地下を繋ぐエレベーターのみ。

 

下に降りるためにボタンを押すが当然下に降りたっきりなのですぐに乗ることができない。そのため円李は、ホームドアをぶち破り真下に広がる穴にその身を投げた。どんどんと速度を上げて落下する円李に、さっき押したボタンにより上に向かってくるかご。衝突する寸前で落下速度を緩めてかごの天板に着地。天板と床板をそれぞれ破壊して通り抜け、そのまま落下をつづける。

 

「あの五条先輩をあんなにするやつって、どんだけだよ!」

 

そう、今この先に向かっているのは無下限術式という最強の盾を持つ五条先輩を瀕死に追いやった人間だ。まず間違いなく円李も無傷とはいかない。それでもやらなければならない。夏油先輩があの場にいなかったということはおそらく天内についているのは夏油先輩。もしかしたら夏油先輩がもう倒しているのではないかと考えるが、円李自身の直感がそれを否定していた。

 

そんなことを考えながら最下層に着地する。まずそこにいたのは正体不明の呪詛師ではなく、血を流して倒れる黒井だった。

 

「黒井さん!!」

 

しかし見張り二人とは違い、出血しているであろう箇所を押さえて倒れていた。意識はないようで放置しておけば同様に出血死してしまうことは目に見えていた。救急キットは上に置いてきてしまった。円李はごめんなさいと言うと、黒井のメイド服のスカートを引き裂き、出血部分を圧迫するように力を込めて結ぶ。これによってすぐに死んでしまうということは避けられるはずだ。

 

 

ドゴォォオン

 

 

先が見えない暗闇から音が響く。

 

この先で夏油と正体不明が戦っていると確信し、走るのではなく真横に落下していく。明かりが近づいてくる。円形に広がる天元様の空間につながるその回廊。円李が目にしたのは胸を十字に斬られた傑の頭を踏みつける男、そして頭から血を流して地に伏せる天内。

 

 

 

殺す

 

 

 

刹那、今までに感じたことのない不快感が円李の全身を突き抜けた。

 

呪術は負の感情をソースにして発動する。円李の呪力は幼少期から受け続けたストレス、無意識下でずっと感じていた負荷に対する感情を燃料にして生み出している。無意識に、その根底にある記憶が負荷を生み、呪力を生成する。

 

しかし、今円李の全身を駆け巡るのは今までとは比べ物にならないほどの純粋な殺意。それにより湧き出た呪力。

 

常人では対面しただけで意識を失いそうなそれを受けてもなお目の前の男は飄々とした佇まいでそこに立っていた。黒髪に唇にかかる傷、鍛え抜かれた肉体、その肩に赤子のような顔をした芋虫の形をした呪霊を乗っけている。重心の置き方、刀の構え方。戦わずとも黒髪が強者であることが見て取れる。

 

「これで三人目か。ったく割に合わねー仕事だよ」

 

黒髪こと伏黒甚爾は三人目が現れたことに苛立ちを覚えていた。別に勝てないからなんてつもりはない。目の前にいる呪術師、節円李については前に噂づてに聞いていた。富士樹海で見つかった呪術の天才、独学であの五条悟に迫った唯一の呪術師。しかし甚爾は円李に対しても勝てる自信があった。

重力、ひいては引力を操る円李の術式は確かに脅威であるがフィジカルで圧倒的優位にいるし、対円李戦を想定した呪具も念のためと持ってきている。事前の調査から用いる術式の幅が変わってなければ十分に対応できる自信があった。

 

「もう喋るな」

 

掌印を結び術式を発動させる。

 

「天重維谷」

 

円李の術式は対象に直接作用する類のものである。自分自身を原点として考える三次元上の絶対座標を用いて円李は術式を作用させる対象を設定していた。式神使いの爺さんや分身術式を用いたタンクトップと戦った時は、二次元での範囲指定によって術式を作用させていた。範囲の指定や対象の指定によって縛りを作り、出力を制御できるので便利な術式である。

 

富士樹海で戦った際に一度だけ使った必殺の術式、有機物無機物問わずに裏返らせる逆円環は点で座標を指定する。二次元のみではなく三次元での座標指定を術式を使う際に行うため、脳にかかる負荷が大きいため頻繁に使うことができない。

 

 

重力を操る術式、聞こえではとんでもなく万能な術式であるように聞こえるがこれには大きな弱点がある。

 

万物に言えることである。

 

「てめぇの術式は割れてんだぜぇ、当たる前に避ければいいってなぁ!!」

 

甚爾は肩にかけた呪霊から刀を引き抜くと、円李が範囲を指定し術式を発動させるコンマ数秒の間を見切り天与呪縛による身体能力を存分に用いて前進してきた。

 

(クッソ、やっぱばれてるか!!それにしても---)

 

「はっや!?」

 

円李が想定していた速度をはるかに上回る速度で前進する甚爾に動揺を受ける。しかし速いだけならいくらでもやりようがある、むしろ円李にとって未知となる術式を持たない相手であれば如何様にも対応できる。

 

永永無窮

 

自身の時の流れを現実世界から切り離し加速させ、相対的な時間停止を行う術式。目にもとまらぬ速さで振り下ろされる刀の軌道をしっかりととらえることができた。少ないとはいえ円李自身は全力で高専に戻ったこともあり消耗していた。ゆえに今の円李が止めることができるのはたったの2秒。その間にできることと言えばせいぜい刀を持つ手を弾いて斬撃を逸らすこと。

 

甚爾の手を打ったところで色あせていた世界が息を吹き返す。

 

(この隙に今持てる一撃を打ち込む)

 

腕を弾いたことによってできた空になった胴に向かって渾身の一撃、過去に悟と模擬戦をした時に放った熊直伝の技を構えるが、肘に当たる(甚爾)の体の感触を感じるよりも先に肩から首にかけて響く一撃によって大地に沈むこととなった。

 

体に力が入らない。永永無窮を使っていないはずなのに円李の目に映る景色がスローに、満足に動かない体を無理に動かして相手を見る。そこにはにやけた表情を浮かべ刀の柄を振り下ろした甚爾の姿が。

 

「なんか急に早く動いたと思ったら...それがお前の必殺技かぁ?俺の眼で捉えられる程度の速さなら、それに合わせてうごけばいいだけだよな!?」

 

ちょうど脚の振りやすい位置まで落ちてきた円李の頭部を思いっきり蹴り飛ばす。まるでボールのように吹き飛ばされた円李は、地面を何度かバウンドしながら大空洞の壁に衝突した。

 

何で、腕を弾いたはずなのに、それよりも術式中の俺の姿をどうやってとらえた?、俺が喰らった一撃は一体何なんだ。ちかちかする頭の中でいくつもの疑問が浮かんでは消えていく。円李の永永無窮はあくまでも自身の加速による相対的な時間停止、あくまでも疑似的な事象再現である。もし光の速度に匹敵する反応速度を持っていたのなら理論上術式中の動きを読み切ることも可能だ。事実、甚爾は天与呪縛により何重にも底上げされた感覚器官、そして備え付けられた第六感によって円李の動きを完全に捌いて見せた。

 

確実に致命傷ではあるが、寸前で呪力によって戦闘を継続するために重要な器官を補強していたため再起不能には至らなかった。血を吐きながら体勢を整えようとする円李にとどめを刺すためにゆっくりと甚爾は刀を構えなおして歩いてくる。

 

(...マズった、はやくなんとかしないと)

 

血を吐きながらもここから目の前の敵を倒すための手段を模索する。

 

圧倒的速度、術式を発動させる兆候からでも、いや発動させた後でも事象が起こる前に回避することができる圧倒的なフィジカル。そんな相手にもし兆候を見せずに術式を当てることができれば。

 

術式は自身の呪力を術式に流すことで発動する。そのためのきっかけとなるのが詠唱や掌印だ。術式の名を呼ぶことで術式を励起させる詠唱、手で術式を表す形を作り一種のルーティンとして術式を呼び出す掌印。これらをショートカットし、隠し術式を使うことができれば。

 

術式の兆候も隠す。術式が及ぶ範囲を絞るのではなく、対象を決定する。二次元的な面ではなく三次元的な点で相手を定める。

 

「さて、そろそろクライアントが約束した時間だからな。さっきの呪霊使いとは別にお前を殺したところでデメリットはない。さっさと死んでけ」

 

一歩、二歩、三歩。そこだ。

 

脚を踏み出したその瞬間、甚爾を襲う圧倒的な重力負荷。想像していなかった方向の負荷を受けたことにより体勢を崩し両ひざを地面につく。上半身も倒れることを望んでいたが、刀を地面に突き刺し杖代わりにすることで耐えて見せた。

 

「あっぶな、膝砕けるかと思ったわ」

 

「黙ってさっさと殺されろよ...!!」

 

円李が狙っていたのは確実にその場にとどめること。その場にいてくれれば座標を再度指定する必要もない。この場で終わらせる。

 

「逆円環ッ!!」

 

脂汗を浮かべながら負荷に耐える甚爾の胴が血に濡れる。メキメキと嫌な音を放ちながら肉が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ長くなりそうだったのでいったん切ります。


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それではまた次回。まじでこれどうやって勝てばいいんや...



2021年1月17日最新話との矛盾を修正


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奥の手はピンチの時に出るから奥の手やん


まあ今回のお話は、たかが転生者があの地獄をこんなうまく生きてくことはできないでしょっていう件についての答えです。






 

 

肉と骨がきしむ音が響く。圧倒的な痛みが甚爾を襲っているはずだが、その胴が完全に裏返ってしまう前に円李が指定した座標から大きく飛びのいた。術式の作用点から逃れたこともあり、致命傷ではあるが甚爾が再起不能なほどのケガをしたかと言われればそうはならなかった。

 

円李から距離を取り追撃がないことを確認した甚爾は武器庫呪霊から応急処置の呪符を取り出す。これは、巻きつけた個所の状態をそのままに保つもの、けがをそれ以上広げないため、本格的な治療が受けられるまでの状態保持を目的とするものだ。口に刀を咥え、いつ襲われても撃退できるように警戒を行ったまま患部に呪符を巻きつける。

 

ジグジグと体の中心をえぐるような痛みが絶えず甚爾を襲うが動けないほどではない。刀を構え肩をぐるぐると回しまだ動けるのだと確認をして円李のほうを見る。

 

壁に背を預けたまま項垂れる円李だが、さっきのこともあるのでその首を断ち確実に死んだことを確認するまで油断はできない。

 

刀を再度握り直したその時、指先がわずかに動いたように見えた。

 

刹那、地下空洞を埋め尽くす圧倒的な呪力。甚爾が動くよりも一手早く床の広い範囲が沈んだ。通常時では多少の負荷では問題なく動けただろうが、体の真ん中に傷がある状態ではそうともいかない。ここで甚爾は用意していた"念のため"を使うこととした。

 

特級呪具『飛来閃雷(ひらいせんらい)

 

材質不明、特殊な技法によって鍛えられた苦無。柄の部分には罅割れた呪符が巻き付けられ、刃は三叉槍の切っ先に似た形状をしている。この呪具の機能は至極単純、掌印をキーにして呪具の保有者を呪具のある地点に置換する形で瞬間移動させる。戦闘中の運用としては、苦無をばらまき状況に応じて瞬間移動をすることで攻撃の回避にも敵への接敵としても使うことができる。すべてで何本あるのかは明らかにされていないが、甚爾はその中の七本を所有していた。

 

円李の術式、天重維谷を回避する方法は簡単だ。円李が術式を発動させる際に行っている範囲指定により定義された地点から離れればいいだけだ。とはいえ、負荷の大きい状況でそこに気が付き離脱できたものは今までいなかったが。

 

甚爾は戦いの中ですでに飛来閃雷を仕掛けていた。

 

掌印を結ぶ。目指すは円李の横、無防備にあるその首。一太刀で首を切断する。

甚爾が睨んでいた通り、今回の術式の範囲は先ほど受けた重力負荷により沈んだ地面のあたり。円李の周辺の地面には変化がないことからそのあたりは術式の範囲外であろうと思っていた。転移ののち、急に負荷が消えたため若干バランスを失うが些末な問題だ。目の前には意外にもてこずらせてくれた呪術師、節円李の首。

 

「手間かけさせやがってよ...あの世で五条悟によろしくな」

 

そうして振った刀は意識がないはずの円李によって受け止められた。意識のないはずの円李が行動を起こす、刀を受け止めたのと反対側の腕を軸に回転し呪力によって強化された回し蹴りを放つ。甚爾はすぐさま掌印を結び離脱する。

 

転移した地点を瞬間で判断し、円李の方を向くが視界には呪力をまとった拳で埋め尽くされた。

 

ゴッ、と鈍い音を放ち円李の拳が甚爾の頬に刺さる。そもそもの身体能力に加え耐久力も底上げされている甚爾であったが流石に今の一撃は効いた。再び転移をし今度は甚爾が体勢を整える番となったがその先で円李が拳を振りかぶっているところだった。向かってくる拳を刀の刃で受ける。

 

(また速くなった!!)

 

先ほど刀の軌道をずらされた瞬間と同じ感覚。瞬きの間円李が高速で動いたのを感知、気づいたときには受けていると思っていた拳は刀の側面を打っており100万円ほどした名刀がへし折られていた。

 

刀は側面からの衝撃に弱い。当然甚爾もそれについては了承していたがここで刀折をされるとも思っていなかった。柄で受けるべきだったかと後悔するもののその後の判断は速い。折られた刀を円李に投げつけることでわずかに生じた隙、反対の手で飛来閃雷を振り牽制している間に武器庫呪霊から次の武器を引き抜く。

 

同じく特級呪具、天逆鉾(あまのさかほこ)。発動中の術式を強制的に解除するというもの。当然まとまった呪力を雲散霧消させることもできる。

 

この少しの時間で円李の戦闘パターンをなんとなくわかっていた。刀などの得物は使わない、加速により相手より早く呪力により強化した一撃を打つ近接型。そう思い込んでいた。先ほど戦った呪霊使いとは全く別、ここまで追いやられて式神の一匹も出さないのはそもそも持っていないからだと。

 

「...黒猫」

 

『ミャオォオォオォォォォオオンンンン!!』

 

円李の足元の影が大きく膨らみ形を成す。広がった影は甚爾の足元まで及び、影から甚爾を拘束しようといくつもの腕が伸びる。呪霊とは呪力によって形成された固体、であるならば天逆鉾で触れるだけで消し飛ばすことができる。甚爾を襲うすべての腕を切断しこの場から逃れようと掌印を結ぼうとするが指一本一本に影が絡むことで阻まれてしまった。

 

呪力を持たない甚爾は当然呪力を感じることはできない。しかし、底上げされた五感がわずかな変化を読み取り感知することのできない呪力を読み取り対応することができる。この刹那のやり取りで呪力を大きく放つ腕と最小限の呪力だけを持つ腕を混ぜ合わせ本命を斬られることなく瞬間移動のキーとなる手の自由を封じたのだ。

 

「ブラフかよ!!」

 

その指にまとわりつく影を消そうと天逆鉾を振るうが同様に隠された腕によっていつの間にか両腕の自由が奪われていた。床に広がった影は空間を侵食していき甚爾を取り囲むようにドーム形状を形成するように広がっていく。

 

時間のずれによる現実世界からの切り離し。甚爾はこの術式の全容を当然知ってはいないが、身動きが封じられている以上どんな攻撃だろうと致命傷になりえてしまう。意識がないはずなのに動いてくるなど底が見えない相手、今捉えている術式がすべてなのかもわからない状況ではなおさらだ。天逆鉾で触れることさえできればすべて消し去ることができる。ペン回しの要領で天逆鉾の持ち手を変え空へ放る。くるくると宙を舞う刃の柄をまるで曲芸師のように口で受け取り、拘束の緩かった足を筋力で無理やり自由にする。地面から延びるそれぞれの影を無理やり引っ張り天逆鉾で切り裂く。

 

自由になった手で再び天逆鉾を持つと、全身を覆うドーム状の影もろともすべて引き裂いた。そうして開けた視界、目前には苦無。

 

円李が黒猫の消滅と同時に放ったのは富士樹海を出る際に熊から貰った呪具の一つ、円李はただの丈夫でやたらと呪霊に対して切れ味抜群な苦無としか見ていなかったがその神髄はその程度ではない。

 

文字通り神の一部を加工して作られたそれは特級呪具に据えられるほどの効果を持つ。ある意味では天逆鉾の完全上位互換ともいえるその効果は、神の威圧。切っ先の方向にある術式を一定時間威風をもってして吹き飛ばす(・・・・・)

 

呪具とはあくまでも術式の込められた道具のコト。天逆鉾に関しても術式を強制的に無効化するという術式が込められた小太刀ということ。この苦無『鹿羅(ろくら)』は術式を文字通り一定期間吹き飛ばす。天逆鉾であれば刃から離れれば再び術式を行使することができるが、鹿羅は一定時間術式が使用不能となる。また、放たれた神気は術式を飛ばすだけではなく、人の意識をも吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

例えば木に生った林檎が枝から切り離されたらどうなるか。当然、万有引力の法則に従って地面に落ちていくだろう。

 

例えば視界の悪い夜道、段差があるがそこに近づいていく男性はそれに気が付いていない。おそらく彼は段差につまずいて体勢を崩すだろう。

 

あたりまえ(・・・・・)だ、至極当然の帰結だ。

 

これらの事象は結果を見ずとも事前に何となく予想ができるはず。これらは簡易的な未来予測であるといえる。今まで円李を幾度となく生存させてきた超人的な第六感の正体はこの簡易的な未来予測の積み重ねによるものだ。

 

視界に入ったすべての情報、体の皮膚やそのほかの感覚器官で得た情報。それらを組み合わせ後に起こる当たり前の事象を予想することにより危機を察知し、勘という形で円李の本能が彼に伝えていたのだ。

 

またそれらを処理するための頭脳も通常のものとは異なる。人間の頭脳はその機能の10%前後しか使われていない、それにたいして円李は脳機能の実に60%を無意識下で運用している。それにより常人では不可能な情報量の処理を行うことができる。また、これに加え術式の処理も行うとなれば戦闘時にかかる負荷は計り知れない。

 

その中で円李は無意識下で反転術式による治療を同時に行っている。円李の無意識下で行われていること、これは富士樹海の神々による一種の呪いであった。呪霊『百面怨業鬼』を祓った一件は円李が思っているよりも大事だった。当然であるが、あの場で呪術を覚えたばっかりのガキが特級に分類されてもおかしくないほどの力を持った呪霊に太刀打ちできるはずもない。あの時円李には富士樹海の守り神、土地神によるバフが与えられている状態であった。戦闘中に感覚が研ぎ澄まされ、急激に呪術の核心に近づくことができたのも、バフにより開かれた感覚が一秒一秒の経験をすべて吸収したから。

 

熊のせいであるとはいえあの場であの呪霊に対応できたのは節円李ただ一人、しかも戦う前の円李では『百面怨業鬼』に勝つことができるほどの実力はなかった。かといってこの場で呪霊を倒すことができなければ樹海を守ることもできず、現実世界でも多大な被害を出していたにちがいない。あの時、あの場で円李に倒してもらうしかなかった。

 

そこで体を持たない神々が下した判断は円李に圧倒的なバフをかけ、底上げされたその術式をもってして呪霊を祓って(殺して)もらうというものだった。

 

望んだとおりうまくことは進み無事呪霊を祓うことができた。本来であれば守り神である熊が果たすべき使命を、本人の自覚はないものの代わって請け負ったのだ。今も神々のバフが円李に根付いているのはこれらの件に関する正当な報酬だ。

 

また本来であれば受肉していない神々は現世に手を出すことはできない。もし手を出してしまったのならば、現世とその身がずれていくため運命を大きく捻じ曲げてしまうことにつながるからだ。そのため、円李は自発的に反転術式を使うことができない。

 

 

今の円李を突き動かすのは伏黒甚爾に対する圧倒的な殺意。意識を失ってなお突き進むのは殺意にかられた本能によるもの。受けた攻撃を解析しすべて自身の経験に変えて飲み込み、自身の術式と身体を最適化していく。

 

 

動きを止めることはできた。あとは節円李本人(・・)が決着をつけるべきなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハウリングのような嫌な耳鳴りとともに意識が戻る。

 

めちゃくちゃになった壁、大きく沈んだ地面。そして目の前には呪具を構えたまま白目をむく伏黒甚爾。

 

意識が戻ったことにより興奮状態が解かれ一気に体が重くなった。まるで底なし沼を歩いているかのよう、空気をかき分けて前に進みたった一度の術式で目の前の敵を殺害できるというのにその一歩は考えられないほど重かった。

 

「あとちょっとなんだぞ...ッ!!」

 

全身につけられた切り傷が痛む。

 

今自身が感じている痛み、そのすべては勘違いだ。今動けなかったら何のためにいまこの場に立っているのかがわからないじゃないか。そう自身に言い聞かせてゆっくりと進む。

 

「あ...そうだ、あっちからこっちに来てもらえばいいじゃん」

 

疲労と苦痛で今にもシャットダウンしてしまいそうな瞼を残り僅かな気力で開く。正常な判断ができない。樹海で領域展開の末端に触れたとはいえ今まで成功したことは一度もない。しかし、今ならできるのかもしれないという根拠のない自信があった。

 

残り僅かとなった呪力、今できるすべてをもって確実に甚爾を殺す。

 

これがうまくいったとしてもうまくいかなかったとしても、呪力は完全に空になるため何もできなくなるだろう。

 

 

 

のろのろと両手を合わせ掌印を組む。

 

自身の心象風景を描け、世界を呑み込め。

 

 

無限に加速し続ける世界、有機物の循環、無機物の劣化。

 

最も月に近い場所、ケープ・カナベラル。

 

 

「らせん階段、カブト虫、廃墟の街、イチジクのタルト、カブト虫、ドロローサへの道、カブト虫、特異点、ジョット、天使(エンジェル)、紫陽花、カブト虫、特異点、秘密の皇帝」

 

 

自然と円李の口からこぼれた14の言葉。これに意味があるのか、それは円李本人にもわからなかったが自然と口に出ていた。

 

風が吹く。破壊によって破片やほこりが円李を中心にして集まっていく。

 

「領域展開、暁月匆々(ぎょうげつそうそう)

 

 

 

今、無限の加速が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで何かやたらと勘がよかったりする理由の説明と決着でした。熊から貰ったものとかの説明とか今までばらまいていたものをぼちぼち回収できたんじゃないかと思います。


次の次くらいで0巻行くと思います。よろしくお願いいたします。



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ではまた次回。



2021年1月8日
ご指摘について、当世界線では脳の10%神話が事実であるということで一つ。

新刊では無下限術式の数学的な解釈について言及されていましたので、後々うまく書き換えると思います。



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死の淵にヒントはあるじゃん

懐玉編は次回で終わります。







伏黒甚爾は気絶していたその身に襲い掛かる脅威を察知し、本能で意識をたたき起こした。すぐさま状況判断のために視線を周囲に配るが、自身を取り巻く環境の異常を感じた。

 

先ほどまで自身が立っていた高専地下の大空洞ではなく、どこか見知らぬ土地だった。

 

「アメリカ...?」

 

右側車線で走る古い型式の車、道沿いに並ぶ店々のショーウィンドウに置かれた自由の女神像のフィギュア。サッカーボールを蹴る金髪の子供に日本人にはない鼻の高いご婦人、極めつけは掲げられた星条旗。

 

「これが噂に聞く領域展開ね」

 

呪術の極致、自身の生得領域を術式を込めて現世に持ってくる奥義。領域内での攻撃は必中となり、領域内に取り込まれた時点でほとんど詰みだ。しかし甚爾は領域をどうにかできる術をその手にしていた。

 

特級呪具、天逆鉾。

 

術式を強制的に無効化するこの呪具はすべての術式に対するジョーカーだ。当然術式の付与された空間を広げる領域展開でもその能力は有効でその領域を強制的に閉じさせることができる。

 

しかしそこで一つの疑問が浮かぶ。

 

領域が展開されているのになぜ必中の攻撃がまだ自身に届いていないのか。長い時間気を失っていたわけではないが、領域の中に連れ込まれた時点で死んでいてもおかしくはない。胴に開けられた傷に動かすたびに軋む痛みは領域展開より前に受けた攻撃によるもので今新たに受けた攻撃はない。

 

攻撃が来ないならむしろ好都合、さっさと領域を抜けて星蒋体を持って帰ったほうがいい。

 

地面に向けて天逆鉾を振り下ろそうとしたその時、金髪の子供が間違えてサッカーボールを蹴り上げてしまった。呪具を持っていないほうの手で宙を舞い向かってくるサッカーボールを受け止めようとするが、気が付いた時には左手がへし折られ破壊されていた(・・・・・・・・・・・・)

 

「...は?」

 

一瞬のことで理解が及ばなかった。光速に近い速さで動く円李の攻撃を見切れるのだ、理解はできないが状況は目で追えていた。とんでもない速さでサッカーボールが飛来して受け止めようとした左手もろとも砕いたのだ。

 

そうして明らかな異常に気が付く。

 

瞬きをする間に空に浮かぶものが切り替わる。雲一つない青空と太陽、輝く星々と満月。余りの速さで繰り返される天体運動によって太陽と月の光はそれぞれ帯となり空を駆ける。

 

さらに気が付けば左腕を含む半身が削られていた。頭上にあった看板が甚爾の左腕ごと巻き込んで落下していったためだ。驚くことに体外にあふれ出た血はすでに凝固しており、もう出血部分が止血されていた。飼っている呪霊もしっぽが巻き込まれた形にはなるが、まだ問題なく使える様子だが今はそれどころじゃない。

 

看板をよくよく見れば、接続部分が錆と風化によってボロボロになっていた。少なくとも甚爾が最初見たときはすぐにでも落ちてくるほど劣化は進んでいなかった。

 

歩行者用の信号機は瞬きの間に表示を変え赤と青に交互に点滅し、街頭の少女が持つアイスクリームは口をつける前に気化してなくなってしまった。そして公園の時計はありえない速度で回転していた。もはや長針の動きを目でとらえるのは難しいほどに。

 

「これが、無限に加速する世界。この世界に適応できるのはこの俺ただ一人」

 

目の前には先ほどまで戦闘を繰り広げていた呪術師、節円李。全身から血を流しなぜ立っているのかがわからないほどの傷を負っている。しかしさっきまで目の前には誰もいなかった。瞬きの間に気が付くことすら難しい速度で現れたのだ。

 

「この術式で今お前をこの場で殺す」

 

気が付けば今度は甚爾の背後に立っている。

 

なるほど、この世界に適応できるということは高速で飛来する物体には当然当たらないだろう。それすなわち円李自身が常にその速度以上で動けるということ。常にあの速度で動かれればこちらに勝ち目はないだろう。だが手がないわけじゃない。

 

「ハッ、こんなクソみてぇな世界はさっさと出るに限るよ」

 

何を言っているんだと目を見開く円李、ニヤリと笑みを浮かべる甚爾。そうして甚爾は自身の隠し玉の一つである天逆鉾を放り投げた。

 

すべての術式を無効化する特級呪具、それを捨てる行為を円李は理解できないがその真意に気が付いた時にはすでに手遅れだった。

 

サッカーボールに看板、アイスクリームや太陽。これらに共通するのはすべて生物ではないという点。時間を加速させるのであれば甚爾本人の時間を加速させて寿命を消して殺すなどの手段のほうが確実だろう。だというのに今まで甚爾が受けた攻撃は無機物の風化や加速による二次的な被害のみ。

 

円李のみがこの世界に適応できる。その他の生き物はこの世界に適応できず翻弄される。生き物でないものの時間のみが加速している、それを見抜いたが故の行動。

 

生き物である甚爾の手から離れた天逆鉾はもはやただの無機物。加速するときの流れにより、円李が止めるよりも先にこの領域内の地面を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今何時だ...」

 

呪力のないわけのわからん黒髪と戦って、それでどうなった?夏油先輩と天内の遺体が見当たらない。夏油先輩は無事なのか?天内はどうなったんだ?いまだに思考はまとまらないが、徐々に思考がクリアになってくる。全身のあらゆる個所が悲鳴を上げているが大きく怪我をした部分については黒の布が巻かれ応急処置が施されていた。この処置は誰がしてくれたのだろうか。

 

「おや、目が覚めたかな?」

 

声のするほうを見れば既視感、そこにはこちらをのぞき込むように家入先輩が立っていた。

 

「いえ、いり先輩?」

 

「はろー円李君。比較的意識ははっきりしてそうだね。今から治すからね~」

 

家入先輩は呪術師では現状唯一といっていいヒーラーだ。反転術式を他人へ行使することで傷や損傷を治癒することができる。

 

「夏油先輩と天内は」

 

「夏油ならさっき治してきたところ。五条のところに行くって言ってたかな。星蒋体についてはごめんわからないや」

 

「......っそうですか」

 

「たぶん夏油が応急処置して行ったんだろうね、やりやすくてたすかるわー」

 

あの黒髪は仕事と言っていたか。仕事とは何だろうか、天内の殺害だけか?いや、遺体がなくなってるところを見ると遺体の回収も仕事の内なのか?

 

どんなに考えを巡らせようと今の俺にとってはすでに後の祭り。もっと早くここに来れていたら、反転術式を俺が使うことができていれば。天内は死ななかったのかもしれないのに。

 

身体が疲労しているからだろうか、タラれば話にネガティブな思考がとめどなく溢れてくる。

 

 

反転術式、負のエネルギーである呪力を掛け合わせることで正のエネルギーを生み出す高等な呪力操作によって行使される。掛け合わせることによって生成されたエネルギーで肉体を治癒する。術式と呼ばれているがその実は、エネルギーによる単なる作用。生まれながらにして刻まれた生得術式とは異なり、ようは呪力と呪力の掛け合わせさえできれば反転術式は使えるということ。

 

しかし、家入先輩が唯一と呼ばれていることからもわかるように、呪力の掛け合わせの難易度は相当高い。

 

どうして俺は反転術式が使えないのだろうか、そんなことを考えているあいだに治療が終わったようだ。すでに痛みは気にならない程度まで収まっていた。

 

「何に悩んでるのかなんて私にはちっともわからないけど君にできる全力を果たしたんだろう?それともどっかで手抜きでもしたのな?」

 

「そんなことあるわけ...!!」

 

「だったら二度と同じ過ちを繰り返さないことだけを考えなよ、失われた命は回帰しないんだからさ」

 

家入先輩の言うことはもっともだ。でも、確かにそうだったとしても俺自身がどうしても納得できない。空港でわざわざ屋上を経由するのではなく最短で高専に向かえたら。いやもっと前だ。もしずっと天内たちと行動を一緒にしていたら。五条先輩と夏油先輩と一緒ならあの黒髪を退けることもできたんじゃないのか。

 

何が独学で呪術を極めた天才だ。たった一人の女の子すら守ることができない男を最強の次に最強だなんて言えるものか。

 

 

自分自身が納得できない限り、ずっと過去にとらわれ続けてしまう。納得できなければ前へ進むことすらできないのだから。

 

 

じゃあ死者蘇生でもできれば俺は納得できるのか。

 

嗚呼そうか、富士樹海で最強の次に最強らしく救える命は救うなんてかっこつけたが結局は自身の周りにいる人に死んでほしくないだけ。呪術師に満足のいく死などない、呪術師として戦うのなら民間人が無残な死を迎える姿を看取ることがあるというのもわかっていた。

 

結局俺には呪術師としての覚悟なんてなかった、ただ単に強くなれればいいとしか。強くなればみんな助けられると。

 

「そういえば円李君、君って反転術式使えたの?」

 

「いや、使えないですけど」

 

「ふーん...いやなんで致命傷じゃないんだろうなーって思ったんだけど、なんか反転術式の痕跡があるんだよね」

 

「……マジですか?」

 

「君、もし無意識で使ってたなら五条より天才だよ」

 

五条先輩も一向に使えなかった反転術式を使えただなんて。そうなればより一層なんであの場で使えなかったのだと考えてしまう。

 

『反転術式が使えるとね、いいことがあるんだよ。傷を治すだけじゃない、正のエネルギーっていうのは要は呪力の反対さ。術式の反転、術式の反対現象を持ってくることができるんだよ。といっても、俺もまだ練習してる最中なんだよねー。なかなかうまくいかんのよこれが。ちゃんと術式を起こせる確率は五分ってとこ。俺の術式の反対って言ったら弾くってかんじ』

 

ふと高専に入学して間もないときに五条先輩と話したことを思い出す。そうだ、俺の場合はどうなるんだろう。術式反転、俺の場合反対にあるものは何なんだろうか。

 

今日初めて領域展開をしてはっきりとわかった。俺の生得術式の正体は時間の加速。過去に時間に干渉するのは重力操作の延長だと思っていたが違う。相対性理論より時間の流れは重力の影響を大きく受けていることが証明されている。おそらく天重維谷などの重力を操る能力については、時間の干渉を現実世界に持ってきた際に生まれるずれを重力の大きさを変えることで埋めているのではないだろうか。

 

まあこれが本当に数学的にあってるかはわからない。そもそも呪術なんて言うよくわからないものを扱っているんだ、俺もあってる自身はない。ただ確かにわかること、それは俺の本質が時間の加速であるということ。じゃあその反対は?

 

「時間の巻き戻し...?」

 

そうだ、そうだそうだそうだ!!

 

時間の巻き戻し!単純な反転術式じゃもう天内を助けられないかもしれないけど、もし状態の巻き戻しができれば?

 

「家入先輩、死んだ人を反転術式で蘇生することってできますか?」

 

「うーん、私は成功例を知らないかな。私なりに考えたのは魂が霧散するからじゃないかなって。あれだよ、人が死んだときっていうのはだいたい20g軽くなるんだって。この20gが魂の重さなんじゃないかっていう話。まぁ体の中で溜まってたガスが外に出たとか科学的な解釈をしてる人がいるけど、呪術っていう非科学的な世界にいる私から見ればその考えは全然ありなんじゃないかなって」

 

魂、いやそれについても考えはある。この地下の大空間、ここにも当然結界が張られているだろう。事前の説明によれば、この空間は天元様直々に張った結界があるのだとか。結界とは要は境界を敷くこと。空間がしきられているのなら、天内の魂もまだこの場に留まっているんじゃないか。

 

家入先輩の行使した反転術式、正のエネルギーの具体に触れなんとなく感覚は掴めた(・・・)。できるかどうかじゃない、やれ。それ以外の結果は認められない、納得できない。

 

その時、家入先輩の携帯電話が鳴った。

 

「もしもし夏油?どうしたの?......うん、うん。さっきおきたところ、代わる?」

 

こちらをちらりと見た後に携帯を渡される。

 

「かわりました」

 

『円李か、無事でよかった。今理子ちゃんの遺体を確保したよ、今から高専に戻る』

 

「そのことですが、早急に薨星宮に戻ってきてください。天内も一緒に」

 

『何をするつもりだい?』

 

 

 

 

 

「もしかしたら天内を蘇生させられるかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薨星宮 参道

 

現在時刻 17:40

 

「無事で、よかったです」

 

声のした方を見れば包帯を巻かれ処置を受けただろう姿の黒井さんに天内の遺体を抱える夏油先輩、その後ろに五条先輩が立っていた。

 

数時間ぶりに対面した五条先輩は血を流してはいるものの、最初に応急処置をした状態より良くなっていた。ただ、明らかに雰囲気が以前の五条先輩と異なっていた。いったい何があったのか。

 

「……おい円李、蘇生ってどういうことだ」

 

「俺の生得術式の根本は時間の加速です。術式反転、物体の状態における時間の巻き戻しで天内を死ぬ直前の状態まで戻します」

 

五条先輩の質問に対してあくまでも成功体験の無い計画を説明する。

 

時間の巻き戻し、口で言うのは簡単だが本当にできるのかわからない。ただ今は一刻も早く処置に入ってしまいたい。

 

場所は最初に天内が倒れていた場所。その場にそっと置かれた天内の遺体を確認する。

 

損傷は頭部のみ。最初に天内が倒れていたところには血しか流れておらず、脳漿がぶちまけられたりはしていなかった。頭蓋骨の損傷?医療に明るくないことがここにきて悔やまれる。

 

ただ、体の一部が欠陥しているとかでないのであればむしろ好都合だ。状態の巻き戻し、亡くなった部分の修復は巻き戻しの範疇から外れる。

 

重いはずなのに体が軽い。耳鳴りが響くのに妙に思考がクリアだ。まさか漫画でいうところの覚醒回だったりするのだろうか?知ったこっちゃ無いが、今なら問題なく術式を行使できる。呪力の量も満足とは言えないが足りている。呪力と呪力、負のエネルギーを掛け合わして正のエネルギーを生成しそれを俺の術式に流し込む。

 

まるで時計を想起させるような円陣が天内を囲むように展開し、呪力が奔った。

 

しかしそこで気が付く。今の天内には圧倒的にエネルギーが足りない。呪力とかそういうのじゃない、生命が生きるという圧倒的なストレスをはねのけ前に進むための燃料、それが足りない。勘が告げる、このままでは蘇生できたとしても生前の天内とは言えない人形ができるだけだと。

 

どうすれば足りない分を補填できる、考えろ考えろ。

 

そこで黒髪が振るっていた刃が半分折れた刀が目に入った。

 

そうか、足りない分は俺自身で補えばいいんだ。

 

「おい円李、何をするつもりだ!」

 

先輩たちの止める声が聞こえるがもう止まれない。むしろここで止めてしまうことの方がなんだか恐ろしく感じる。

 

ゆっくりと、刃を左肩に当て

 

 

一閃。

 

 

切り離された左腕は地面に落ちる前に俺の呪力に呑まれ空間に溶ける。

 

凝固した血液が液体に戻り、天内の体内にむかって飛んでいく。まるで逆再生の映像を見ているかのよう。

 

 

 

 

 

 

術式は完了した。

 

 

しかし天内の状態を確認する間もなく俺の視界は真っ黒に塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





原作ではメイドインヘブンの効果中、エルメェスが出血は止まらないと話していますが、本作では出血は止まっていないがあふれ出た血がすぐに凝固することで結果的に止血状態になったという解釈です。



次回、日記形式でキンクリしてその次に0巻行きます。


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幕間-1
踏んだり蹴ったりじゃん


原作呼んでたんだけど、マジでつらい。みんな幸せになってほしい...


あと、定期的にランキングに上がっているようで。これも皆さんのおかげです、今度とも本作をよろしくお願いします。


2021年1月18日
感想欄での指摘や、差し替えたと思って差し替えられてなかった点を修正しました。


円李の日記

 

 

 

○月○日

起きたら腕亡くなってた、マジで違和感が凄い。

始めに眼があったのが天内だった。「目を覚ましたのじゃ!!」って叫んで走っていったのでマジでびっくりした。

 

無事に蘇生することができたようで安心した。あの様子だったら問題なく生きている状態に戻せたんじゃないか。

 

その後部屋に来た夏油先輩に諸々の説明を聞いた。なんと二か月も寝たまんまで目を覚まさなかったらしい。そして頭を下げられ、「理子ちゃんを救ってくれてありがとう」と、「もし私があの時倒していれば、円李の腕も失わずに済んだかもしれないのに」って。

 

確かに腕を一本失ったのはでかいけれど、未来ある少女を救えたのならそれでいいと思う。

 

腕がない分を補うためにも早く復帰しなくては

 

 

○月○日

自身に反転術式を行使してみたが、腕が治る様子はなかった。

 

俺の反転術式はなくなったものをはやすんじゃなくて、既存のものをもとの状態に戻すという形で結果的に治療になっているのではないかと思った。

 

だからこの場にない腕は戻らないし治せない。試したことはないし試したくもないけど、たぶん四肢が切断された意識のある人がいれば治せるって意味だと思う。

 

 

○月○日

念のためということで次の日も休みだった。明日から徐々に運動量を増やして体を慣らしていく形になるらしい。

 

暇になった時間でいろいろ考えてみた。どうして自分の腕を犠牲にしてまで助けようとしたのかって。考えてはみたもののはっきりとした答えは見つからなかった。思い出すのは自由の利かない身でありながら学校に行きたいと願う姿、そして行方と安否が不明になった唯一の家族を心配する姿だ。

 

たった数時間の付き合いだったとしても、俺にそれを切り捨てる勇気はなかった。多分それだけ。

 

お見舞いに天内が来てくれた。黒井さんも一緒だった。

 

学校にも通えているようで、日常生活に戻れたそうだ。その話を聞いただけで誰かを救えたんだという実感が出てきた。

 

 

○月○日

五条先輩からいろいろ聞いた。

 

俺達が表でやり合っている間にもう一人の星漿体(・・・・・・・・)が無事天元と合体したから天内はお払い箱だと。昨日天内を見た時に抱いた疑問はこれで解決された。もし星漿体が一人なら今頃天内は天元と合体してるはずで学校になんて行けるはずがない。

 

大義のために自身の人生をあきらめ、同化のための覚悟をした天内の意思を何だと思ってるんだ。

 

 

○月○日

あんなにイラついても数日間と時間が立てば感情が薄れてしまう。こればっかりはしょうがない。

 

近接戦を想定した動きをしてみるが、腕一本亡くなるだけでマジでバランスが取れない。たぶんこれ腕一本を慣れるより同じ重さの義手を用意する方が速いぞ。

 

今日は七海と灰原が来てくれた。組み手をしたがやっぱり片手じゃうまくいかない。二人にも謝られたが気にしないでほしいと伝えた。これに関してマジで何も悪くない。むしろ復帰のための特訓に付き合ってくれて感謝してる。

 

いろいろ術式についても特訓しないと。領域展開のための掌印は両手で行うため、このままだと領域展開を覚えたのに使えない。一番多く使う天重維谷や永永無窮など自身の体のみに作用する術式の掌印は片手なので問題ないが、地爆天星や点無に領域展開など対外に作用する術式の掌印が両手なのでこれらが一切使えなくなったということにである。

 

目下の目標は掌印のショートカット、何とかして掌印を使わずに術式を使えるように調整していかないと。

 

あと、反転術式にも慣れていかないといけない。片手で数えられるくらいしか反転術式を使える術師は少ない。他人に行使できるのは現状家入先輩と俺だけだ。生きていればどんな状態でも死なせはしない、ぐらいの自信を持てるようにしたい。

 

 

○月○日

五条先輩がサプライズと言って俺を誘拐した。

 

なんでも本家五条家の蔵に何か使えるものがあるかもしれないとのことらしい。

 

五条先輩は俺の腕については何も触れてこなかった。ただ、最初あったときに短く「ありがとう」って言ったきりだ。

 

あれ以来五条先輩も色々と模索しているらしい。

 

無下限術式の自動制御、赫と蒼の複数同時発動、長距離移動に領域について。領域展開について根掘り葉掘り聞かれたが、ためになるアドバイスができたかわからない。

 

五条家は禪院、五条、加茂の呪術界の御三家の一門。当然倉に納められているものも相当なものだと思ったのだが、どうやら五条先輩ありきの五条家らしく好きなもの持って行っていいよとのこと。

 

いろいろ見てみたが欲しいものは特になかった。そのあとは昼ごはんに回らないお寿司屋さん、夜ご飯に高級感あふれる料亭に招待してもらった。あんなにうまいものを食べたのは始めたかもしれない。そこで義手についても伝手を当たってみると約束してくれた。

 

五条先輩なりの気遣いなのかもしれない。当分回転寿司には行けない舌にされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月○日

実地に慣れるために受けた低級任務の帰り、胡散臭い人形作家に声をかけられた。どこから聞いたのか俺がいい義手を探しているのを知って訪ねてきたとのこと。

 

呪術師として登録はしていないが、呪骸作成に似たような術式を持つフリーランスの呪術師らしい。蒼崎とだけ名乗った女性は先日特級呪具を二つオークションで落札し、そのせいで明日の生活もままならないほどの金欠らしく義手の案件をぜひ任せてほしいと。金はとるが品質は必ず保証するとも言っていた。

 

しかし実績が確認できなければ頼むこともできない。そういうといくつかの写真を見せてくれた。その写真に写る人形はまごうことなく『人』だった。人に劣ることもなければ勝ることもない完璧な人形。久々に本気で驚かされた。家具もないコンクリートのむき出しの壁にただポツンと座るその人形は人にしか見えなかった。

 

この人なら任せても問題ないと勘が告げていたのでぜひお願いすることとした。とりあえず前金としてそこそこの値段を請求されたが、任務で稼ぐだけ稼いであまり使ってなかったため近所の銀行から引き出してそのまま渡した。

 

拍子抜けするほどに簡単な採寸の後解散となった。

 

一週間後には高専にお届けに上がるとのこと。

 

あの人は信頼できそう。

 

 

○月○日

もしかしたら熊から預かってた素材とかが使えるんじゃないかと思って連絡したら、是非使わしてほしいと連絡が来た。そのためもらったものもろもろを今日は蒼崎さんに渡してきた。

 

ものを見せた時目を見開いていたが、やはりすごいものなのだろうか。余った分をあげる代わりに料金を安くしてほしいと半分冗談で言ったら、むしろ買い取らせてほしいという想像していなかった回答が。もし呪詛師に貴重な呪物を渡すことになれば、と一瞬考えはしたものの悪い人じゃない気がするので大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

○月○日

義手が出来上がったので見せてもらった。人間の見た目そのままの義手は最初本当に切断した腕を持ってきたのではないかと驚くほどの精度だった。

 

試しに着けてもらったが、これが驚くほどになじむ。接続面が多少じくじくと痛むが自分の思った通りに動く。短い間ではあるが片腕で生活したため、両腕がそろった今再び違和感を感じるけど過去に両腕があった時の感覚とほとんど遜色ない。蒼崎さん曰くこんなにすんなりとはまることはほとんどないと。幼少期に過ごした富士樹海の素材を使ったことにより、体になじみやすく仕上がったのではないかと話していた。

 

さらにはいくつかのギミックも仕込んでいると。

 

物理的な作用を受けない場合が多い呪霊を捉えつかむことのできる手、そして予備武装として使える呪霊特攻を持つナイフが義手の中に仕込まれていると。手でつかめる大きさのもののみを掴める縛りによって一級呪霊程度までなら掴めると説明された。また、義手の中に呪力をため込むことができるため呪力を充填しておくことで足りなくなったときにそこから取り出すこともできると。イメージとしては充電式の電池だ。

 

また純粋な強度も高く攻撃を受けたりしても損傷しないとのこと。今まで通りの使い方をしても全く問題ないそうだ。

 

 

○月○日

五条先輩の新技お披露目会に呼ばれた。どうやら、無下限術式の自動制御を完成させたらしい。実際にデモンストレーションを見せてもらったが危険物の自動判別までもオートで行うようだ。

 

たいして俺はいまだに絶対的な防御を手にしていない。現状五条先輩と俺とを隔てる大きな壁が完成した瞬間である。

 

あと、特級呪術師に任命された。五条先輩と夏油先輩が任命されたのと同時だ。腕にも慣れなきゃいけないし、特級という階級上の最強格にもなったことだしガンガン任務を受けようと思う。義手の支払いに結構金かかったし。

 

あと、査定の段階では腕が一本なくなってることが大きく響いたらしい。が、反転術式を行使できる点や伏黒甚爾を撃退した件もあって特級へと昇格したらしい。

 

 

それとは別だけど、夏油先輩なんか瘦せたかな?

 

 

 

 

 

○月○日

俺、ななみん、灰原ご指名の任務が与えられた。明日から少し遠出をする。なんか灰原がやけにやる気満々だったけどなんかいいことでもあったのだろうか?

 

しかし、二級呪霊の討伐任務を我々一年にご指名するとは何でだろうか。まだまだ調子が万全ではないと考えた上からの気遣いだろうか。なんにせよ、体の状態が変わって間もないからこそ気を付けて臨みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月○日

二級呪霊の討伐任務と聞いていたが、騙された。

 

産土神信仰、土地神。呪霊としては特級に相当する呪霊だと思う。歪んだ地域信仰と、土地柄呪霊が集まりやすい状況が今回の呪霊を生んだと。土地と信仰と強く結びついた呪霊だった。

 

一応こちら側に死者は出なかった。

 

俺の反転術式によって戦う前の状態まで巻き戻した。しかし、灰原の右腕は消し飛ばされてしまったため、巻き戻すためのもともとの腕がなく戻してやることができなかった。これで事実上の引退だろう。

 

七海はどこも欠損していなかったので、五体満足の状態まで巻き戻せた。しかし、まだ目を覚まさない。

 

家入先輩曰く、反転術式はうまく作用してるし意識がないのも一過性のものでしばらくすれば目を覚ますだろうと。

 

依頼元が情報を誤ったのか、それとも故意に偽の情報を与えたのか。

 

なんだかとても疲れた。

 

 

 

 

 

 

○月○日

夏油先輩が村人殺して呪詛師になったらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場にいれば何か起きる、という漠然とした直感により俺は今カフェの屋外席に座っていた。こんな時はコーヒーでも飲んでいれば様になるのか、なんてわけのわからないことを考えながらクリームを多く追加してもらった抹茶ラテをちびちびと傾ける。いまだにコーヒーは飲めない。

 

「やあ、円李」

 

視線をあげればそこにはいつもと変わらない笑顔を浮かべる夏油先輩が立っていた。

 

「何しに来たんすか」

 

「君と話がしたくてね」

 

許可も足らず対面の椅子を引き席に着く。

 

「すいません、コーヒーのホットを」

 

店員ににこやかに注文する姿は俺の知る夏油先輩そのままで、呪詛師になったなんてますます信じられなくなった。

 

「単刀直入にいこう。円李、私とともに来ないか?」

 

一緒に?それは呪詛師として夏油先輩についていくってことだよな。疑問符を浮かべる俺に笑いながら言葉をつづける。

 

「いや、説明が先かな」

 

運ばれてきたコーヒーで口を湿らせる。

 

「たぶん硝子からある程度は聞いてるだろう?術師だけの世界を作ろうと思う。いや、少し違うかな。下等な猿を間引く。呪術師と非呪術師のバランスを適切にするっていうほうが正しいかな。呪霊は非術師から生まれる、極端な話全員が呪術師なら呪霊は生まれないってことさ。醜い思考から生まれる呪霊を間引くことにもつながる」

 

「それで?」

 

「私たちが命を懸けて必死に行っているのは対症療法に過ぎない。私が目指すのは原因療法、呪霊が発生する根源にメスを入れる」

 

「なぜそれで俺があなたに付いていくと思ったんですか?」

 

「それもそうだ.......円李、君はテレビのニュースで人が死んでしまったと聞いた時どう思う?」

 

「どうって言われても」

 

「心を痛めるかもしれないがあくまでも他人だ、しばらくすれば忘れる程度の痛みだ。だが灰原や七海はどうだ。呪霊による被害で死ぬのは君の知らない人間より君の身近にいる人間の方が多い。呪術師は知っての通り少ない、いずれ呪霊に対応できなくなる未来が見えると思わないか?」

 

 

 

「私たちは世界を呪霊から守るための部品だ、消耗品といってもいい。非術師は守られる、しかしその先に私たちが見る未来はなんだ、先はなんだ?呪術師が人を守って死ぬのは果たして正しいのか?」

 

 

 

「君は自分とかかわりを持った人に対して執着と言ってもいい感情を抱いているだろう?この先消えていくのは間違いなく君の近くにいるものだ。先日の産土神の件もそうだ、いつまでも自分たちが呪霊に勝ち続けられる保証はない。現に七海は昏睡状態で灰原はもう呪術師としてやっていくことはできない。幸運なことに死者はいないがこんな状況があってもまだ誰も死なないなんて言えるのか?」

 

 

 

「君の蘇生術式なら死んだ人をも生き返らせることができるかもしれない、しかしそれこそ対症療法だ。君がもし動けなくなったら、死んでしまったら。君の大切な人の保証はどうなる?」

 

 

 

夏油先輩の言葉はある意味正しいのだろう。しかし俺はどうしてもその考えを受け入れることができなかった。

 

「...そうか、じゃあ最後にだ」

 

コーヒーを一息に飲み干すと財布を取り出す。

 

「先日の特級相当の呪霊の討伐任務について一つ話しておこう。富士樹海で突如確認された正体不明、悟を瀕死までに追い込んだ伏黒甚爾を単独撃退した呪術師。そして条件付きとはいえ死者すらも蘇生させる反転術式の使い手。そう、君だ円李。上層部は君を恐ろしく思ったらしい」

 

「何が言いたいんですか」

 

「七海と灰原もろとも君を消すための虚偽情報だったってことさ。上層部に通ずる人間に吐かせた」

 

まぁもっともその術師も今はいないけれどね、と言いながら一万円札を俺の前に置く。

 

 

「私はね、円李。無垢なすべての命に救いを与える。それは呪術師だって例外じゃない。いずれ腐った上層部にも手を入れる。さて、これで私が君に話したいことは以上だ」

 

 

 

 

 

「この手を取れ、円李」

 

 

 

 

 

 

 

「君と私なら世界を変えられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳ない、あと一話だけ続きます。



というわけで。本作では天内の蘇生に先立ってもう一人星漿体がいることが同化後に公開されています。また、さらっと流しましたが一年s大ダメージです。

準一級のオリ主がいたのに大ダメージを食らったのは呪霊が原作より強かったという解釈でお願いします。たぶん地域振興によって生まれた呪霊って相当強いと思いました(神道とかいろいろ調べた結果)。


夏油先輩はたぶんどうあっても離反すると思いました。根底にあるのは呪術界を変えたいという意志で、遅かれ早かれ彼はいわゆる原因療法に必ず手を出すと思ったからです。

一応離反しないエンドも考えたんですがなんか自分が納得できなかったので没です。



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なにか始まりそうじゃん

幕間について感想で様々な考察やご感想をいただきました。ここは私も難産でいろいろこねくり回しながら書いたところでとんでもなく助かりました。

ちょこちょこ加筆を加えましたのでよろしければ前話を見てから本話を読んでいただければと思います。



再び日記でキンクリ


結構な時間を飛ばします。そろそろ次に進みたいと思いましたので。


では








〇月〇日

何の罪もない人を殺してまで作る世界に意味はないと思って手を払った。が本当にその選択でよかったのかはわからない。

 

俺は誰も死なせたくない。だけど夏油先輩の手を取ることもできない。

 

一体俺は何のために呪術師になったんだっけ。

 

始まりはただ物語の主人公みたいに、強くなって、誰かを助けられるようになりたかったんだっけか?

 

結局どっちにもなり切れない。

 

今思えばただ誰にも死んでほしくないだけだ。きっと根底に前世の自分が居続ける限り、俺はきっと本当の意味で呪術師のように狂えない。俺の中の価値基準は前世のなんもない平和な世界で形成されたまんま、呪術師としての新たな測りを見出すことができていない。

 

人が死ぬことを許容できず、傷つく姿を直視できない。

 

見たくないそれを実現させないために俺がやらなければならないこと、それは至極単純だ。

 

強くなるしかない。

 

甘えるな。たとえこの世界が物語の中だろうが俺が生き、人が生きている現実だ。

 

能力でどんなに優れていようと上には上がいることはもう散々知っている。

 

強くなれ。じゃなければ救える命も救えない。

 

ひとまず目下の目標は定まった。やはり俺は何かに向かって進むのが性に合っている。なんも考えないで済むから。

 

 

〇月〇日

灰原のお見舞いに行ってきた。利き手を失ったということで呪術師としては正式に引退するらしい。代わりに監督補佐になるとのこと。

 

義手を用意してあげれば何か変わるかと思って蒼崎さんに連絡を取ろうかと思ったが、繋がらなかった。

 

何とかしてあげたかったが、灰原本人からもういいといわれてしまえば俺がすることはもうない。

 

 

〇月〇日

七海にまず感謝された。助けてくれてありがとうって。なんか涙出ちゃった。

 

体に異常はないそうなので整い次第リハビリから入って復帰するとのこと。失ったものは小さくはないが、ひと段落したような感じがして肩の荷が下りた。

 

早かったら一週間以内には復帰できると担当医の方が言ってた。

 

退院したら高くてうまいレストランに連れていくと約束して別れた。

 

 

 

 

 

〇月〇日

今日は都会の夜景が見えるお高い焼肉屋に来た。

 

今日は俺のおごりだ、好きなだけ食べていいよって言ったら灰原なんて本当に容赦なくてびっくりした。言ってみたいセリフ上位を言えたことで少し感動しているすきにやられた。七海に関しては病み上がりだから多少は、と思っていたが前に一緒にご飯行った時以上によく食べる。

 

財布いつもよりパンパンにしてきてよかった。こんなかっこつけて払えないのは本当にダサいからね。

 

七海も体を慣らしながら順々に任務を受ける予定だと。灰原はもう監督補佐としての研修を始めたらしい。

 

各々がやること目指して頑張ろうって感じの決起集会になったんじゃないだろうか。

 

 

〇月〇日

五条先輩に絡まれている子がいた。面倒くさそうなので避けようと思ったら捕まった。

 

絡まれている子は伊地知というらしい。なんだか苦労人っていう概念が服着て歩いてる感じの子だった。さっそく五条先輩にパシられてたし。

 

何かと苦労しそう、強く生きて欲しい。

 

そういえば五条先輩の一人称が『僕』になってた。あんなに口調変えろって言われても変えなかったのにどうしたんだろうか。

 

夏油先輩が離反したことがきっかけで心境に変化があったのか、ただ俺にはそれが何なのかはわからない。たぶん理解することもかなわないだろう。

 

 

〇月〇日

五条先輩に稽古をつけてやるって言われたのでお世話になった。

 

技術面の技として『黒閃』を教えてもらった。一年時に教わらないのは純粋に必要とされるレベルが高いため、通常任務をこなすのに慣れてきたレベルとわかる二年の後半から三年にかけて教えるらしい。

 

黒閃とは、自身が放つ打撃に呪力を乗せることで威力を増幅させるというもの。呪力の上乗せを打撃との誤差を0.000001秒に抑えることで空間が歪み、爆発的な威力を持つ。その威力は通常の呪力強化による打撃の実に2.5乗という近接戦闘では抑えておきたい技術の一つだ。

 

この黒閃というのが戦闘面で大きな力となるそう。

 

しかし実際にやってみるとかなり難しい。初心者は呪力を流すことで全身に呪力を巡らせていることが多いため、打撃との呪力の上乗せに時間差がどうしても生まれてしまうというミスに陥りやすい。その点、俺はほぼ無意識に呪力を全身から漏らしていたため初心者的な悩みを抱えることはなかった。

 

だが、誤差を時間内に収めるのが本当に難しい。これから戦うことになるかもしれない圧倒的な相手に対しての技として必ず修めておきたい。

 

 

〇月〇日

五条先輩は最高で二回連続の黒閃を発動させた経験があるそうだ。

 

そんな五条先輩からアドバイス、曰く『時間操作の術式をうまく使えばいいんじゃない?』と。

 

確かにそれは盲点だった。呪力を時間内に調整するのではなく、呪力速度に合わせるように肉体を調整すればいいんだ。体外を纏う呪力の流れと体内の呪力の流れ。インパクトの直前で体内の時間を時間操作の応用で停止、呪力が乗った瞬間に再生。理論の中では100%黒閃を発動できるようになる。

 

領域展開とは異なり、黒閃の正体は呪力によって生まれる歪によるもの。つまり消費呪力量は莫大ではない。もし俺の攻撃がすべて黒閃になったなら。

 

今度こそ五条先輩以外に負けない呪術師になれるだろうか。

 

 

 

〇月〇日

狙って黒閃を出せるようになれた。五条先輩に勝負を挑んでみたものの、やはりまだ全然勝てない。領域展延による無下限術式の中和をもって、攻撃は通るはずなのにやはり技術面でまだまだ勝ることができない。

 

まじでバケモンだあの人。

 

展延を発動しているときは生得術式を使うことができない。うまい具合に無下限術式をオンオフするもんだから黒閃も本体に届かない。

 

試しに任務で呪霊に黒閃を使ったら木っ端みじんにはじけて死んだ。俺も大概バケモンかもしれない。

 

 

〇月〇日

そういえば俺の生得術式の名前を決めていないことをいまさらながら思い出した。

 

術としての技名みたいなものは決めていた。術式の名前が決まっていれば呼び出すときのイメージがよりまとまるので悪くはないが、術式開示による威力の底上げとしてはそこまで恩恵を受けることができない。

 

自身の術式のすべてを象徴する生得術式の開示による底上げがやはり一番効果があるそうだ。

 

適当にはいった喫茶店のカウンター席でうんうんと考えていた。

 

閃いた、なんかピキーンて来た。

 

『----繰術』

 

これで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

暫く日記書いてなかった。夜蛾先生が見かねて強制的に休みを取らされた。

 

ここ最近は高校と同じように一般的な授業を受け、時間があればすぐに任務に出て呪霊を祓って祓って祓って祓って祓いまくっていた。

 

もしすべての呪霊を消し去ったら夏油先輩が帰ってくるんじゃないかと空想してしまう。呪霊がいなくなれば、夏油先輩の企みも潰える。

 

聞いた話がある。

 

常人が抱えられる殺人はたった一度だけ。それは自身の命を絶つとき。二人以上の大義のない殺人はただの殺戮だ。当然すでに100人以上を殺めている夏油先輩は常人と定義することはできない。夏油先輩が帰ってきたところで昔のように接することはできないかもしれないが、これ以上誰かを傷つけることをしてほしくない。

 

ただの人間であった時の価値観が、これ以上知人が殺戮行為に及ぶことを許容できない。

 

だからこれは俺のわがままなんだろうと思う。

 

でも考えたところで答えが見えないから俺は祓い続ける。

 

いつもは最低限の睡眠で行動をしていたが、なんだか凄い疲れた。

 

とても眠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

高専を卒業した。

 

たった三人の卒業式だったが、五条先輩が遊びに来てくれた。今何をやってるのかと興味本位で聞いてみたところ、五条先輩はいろいろ企んでいることがあるそうで呪術高専の教師になるらしい。

 

俺はいったん呪術界から離れて旅でもしようかと思う。

 

夏油先輩と最後にあった日から、時間を見つけては報告に上がった呪霊を祓い続けてきた。術式が体になじんだとでもいうべきだろうか、低級とはいえ戦いを重ねるごとに実力が上がっているのを実感した。

 

なんか前世で見た作品にそんなんあった気がするわ。いろんなパターンのやつ倒して強くなる的な。

 

 

でも、ちょっと疲れた。

 

暫くゆっくりしたいと答えた俺に五条先輩は何も言わなかった。

 

灰原は監督補助として、七海もいったん呪術界から離れてサラリーマンを目指すと聞いた。

 

またご飯を食べに行こうと話して別れた。なんかしんみりとした空気で当分会うことはないみたいな感じになったが、意外とすぐに会いそうな気もする。

 

 

ひとまず太平洋沿いに南に向かってみようかなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

やはり海沿いと言えば海鮮だろう。

 

うまいものを食べると幸福指数が上がるとかなんとか。朝市の海鮮丼を食べたが、本当においしいものって口角が自然と上がるものなんだな。みんなといった焼肉もおいしかったが、一人になるとよりそれを実感できる。

 

今後の予定としては、日本を大きく周回して最終的には富士樹海で呪霊を祓いながらゆっくりしようかなと。

 

もともと海鮮は好きなので、海沿いを巡りながら海鮮を堪能しつつ行こうかなと思う。

 

 

 

 

 

〇月〇日

京都校に立ち寄ってみた。

 

やっぱり過去の情景が濃く残っている京都にある呪術高専校舎は東京校のものよりも規模が大きくなんとなく荘厳な感じがした。

 

とくにアポとかなかったし、外見を観光しただけで退散した。

 

京都に来たら和菓子を食べまくると決めていたので、明日早速行ってみようと思う。

 

 

〇月〇日

禪院家にお呼ばれした。なんでも京都に来ていることを聞いたので、話がしてみたいということで呼び出された。

 

別に断ることもできたが、五条家にならぶ御三家が気になったので行ってみることにした。

 

まず通されたのは大広間。いきなり当主が居座る大空間に案内されれば誰だってびっくりする。

 

禪院家現当主、禪院直毘人。

 

一目でわかる、実力者だ。小さな台座に体を預け、畳に坐した状態でおそらく酒が入っているであろう瓢箪を傾ける姿はダメ人間。しかし、御三家の一当主としてふさわしい力を持っているのは見て取れた。

 

何が目的で呼んだのかと聞いてみれば、非呪術師の家系から生まれたとは思えない俺の術式が欲しいのだと。急に言われたので思わず聞き返した。

 

直毘人と呼べと言われたので一応日記では直毘人さんと書いておく。直毘人さんの娘さんは禪院家の相伝の術式を引き継ぐことができなかった落ちこぼれなのだと。しかし、俺の術式を受け取る器程度にはなるだろうと。

 

簡単な話、その娘さんに婿入りする形で禪院家に来いということだ。

 

もちろんお断りしておいたが。しかし、呪術界の現状というかなんか嫌な部分を見てしまったような気持ちになり、いい気分ではなかった。

 

一人が嫌なら二人でもいいぞとか抜かしたので無視して部屋を出てやった。お茶うけに置いてあったお菓子は全部持って帰ってやったがな。

 

去り際に胸糞悪い話を聞かされた。

 

やっぱり呪術界上層部をいつか何とかしないとなとは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

西日本を一周してきて昨日、富士樹海に到着した。

 

樹海の中を適当に歩いていたら熊にあった。熊も変わった様子がなく、そして特に深く何も聞かずに俺を迎え入れてくれた。

 

俺がぶち明けたクレーターは、半分くらいが埋まっており元の形を取り戻しつつあった。自然の元の形になるように再生しているらしく、元々は破壊によって開けられたクレーターだったが、今はただの湖にしか見えない。

 

熊もだんだん面倒になってきたようで、もうこのまま湖にしちゃおうかなとか言ってた。

 

もう一日くらいはこのほとりでゆっくりしようと思う。

 

 

〇月〇日

呪具についていろいろ教えてもらった。昔ここから高専に進んだときに渡された呪具『鹿羅』についてだ。

 

黒髪と戦ってた時に、特に後半のほうは無意識だったこともあってはっきりと覚えてないが鹿羅の力を使った気がする。追い込まれた局面を打破した呪具でもあるからその力を何とか使いたいと思ったのだが、ずっと使えずだったのだ。

 

今日熊から説明を受けて初めて効果を知った。

 

切っ先で展開している術式を強制的に一定時間吹き飛ばす(・・・・・)術式を込めた呪具らしいのだ。

 

それを知ってもなおまだ俺は鹿羅を使いこなすことができず、やたらと切れ味のいい刃止まりだった。

 

熊にさらに話を聞くと、内包した呪力で術式自体を吹き飛ばすことで対象の術式を無力化しているとのこと。今の鹿羅は燃料がすっからかんになった車と同義らしい。

 

しかも、ただ呪力を込めておけばいいというわけではなく、神気に触れる必要があるらしい。ちょうど樹海にいるし、次外に出る時までに呪力が貯まればいいな程度に思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

だいぶ心の洗浄ができた。

 

そろそろ任務を受けるペースを戻してみようかと思う。最近は樹海に湧く呪霊を祓ったり、自殺をしようとする人をなだめたり、森林区画の整理や遭難して迷い込んだ人を案内したり。特に規則に縛られることなく適当に過ごしていた。

 

樹海の周辺には、樹海を監視する目的で高専が敷設した施設がある。そこに仲介してもらって任務を受けようかなと思う。

 

頑張ろう

 

 

 

〇月〇日

油断はしない。

 

今日は二級と一級の呪霊の討伐がそれぞれ舞い込んだ。

 

灰原たちの例もあるし、油断をせずに向かった。まあ瞬殺だったが。

 

熊へのお土産にフルーツタルトを買っていった。えらい喜んでたのでまた今度買って帰ってやろうと思った。

 

 

 

〇月〇日

成人になった。

 

成人式には当然呼ばれなかった。というかそもそも呼べないと思うが。

 

代わりに熊が祝ってくれた。木の実や魚のフルコースをふるまってくれた。以前残していったサバイバルキットと調味料を使って料理されたそれはなんだかとんでもなくおいしく感じた。

 

 

 

 

〇月〇日

仕事帰り、ちょうど七海とばったり会った。

 

その場のノリでご飯を食べに行くことになった。

 

七海は完全に呪術師を辞め、先日大手証券会社に就職することができたそうだ。今日はもろもろの契約と案内だけだったと。お祝いもかねて少しお高いところを提案したが、却下された。

 

向かった先は高専の時に通っていたラーメン屋。七海がここがいいんですとかたくなに譲らなかった。

 

なんだかあっという間に時間がたってしまった気がする。

 

短い時間だったがとても楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇月〇日

なんか起きそうな気がして樹海の観測所に足を運んでみれば、そこには目を隠すように包帯を巻きお茶を飲みながらくつろぐ五条先輩がいた。

 

曰く、面白い子が来たから副担任手伝ってくんない?とのこと。

 

聞いてみれば特級に分類される呪霊に愛された(憑りつかれた)男の子だと。

 

自身と向き合う時間も十分に取れた、そろそろ本格的に戻ってもいいかもしれない。

 

これ書いた後に荷造りをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々に空の境界を読んだことでだいぶ影響を受けてしまった。


次回から0巻




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東京都立呪術高等専門学校
ただいまやん


0巻行きます

お待たせしました。




 

 

久々に帰ってきたぞ、東京都立呪術高専。

 

ビルの群れが並ぶ同じ東京にあるとは思えない古風な建物が連なるかつて見慣れた場所に俺は帰ってきていた。

 

気が付けばもう26歳。卒業してからこれまで、高専から直接任務を受けるのではなく機関を通して間接的に受けていたので高専に来るのも本当に卒業以来だ。

 

七海や灰原とは定期的にあっているものの、五条先輩とはこの前久々にあったな。

 

やっぱり雰囲気変わったわ。

 

お調子者というか、学生時代の俺様感がなくなった。やっぱり夏油先輩の影響なのだろうか。

 

「俺が考えてもしゃーないって結論出しただろ、まったく」

 

気が付けば一般的には職員室と呼ばれる部屋まで来ていた。というのも、高専では基本在中している専任の教師がいるわけではなくあくまでも呪術師が先生として教鞭を振るっているためだ。

 

教師の数も少ないのでどちらかというと待合室的なイメージのほうが強いかもしれない。

 

「や、先日ぶりだね円李」

 

その待合室の中でもパーテーションで区切られた対談室に五条先輩はいた。二人掛けのソファーの真ん中にドカリと座り気さくに手を上げる。

 

「お久しぶりです五条先輩」

 

「そうだね。この前会ったって言っても卒業からマジでほとんど会ってなかったもんね」

 

ま、とりあえずお茶でも飲みなよといってペットボトルを俺に放り投げる。

 

普通こういうのって給湯器とかでその場で淹れるもんなんじゃないか、と口には出さないものの不思議に思いペットボトルのキャップを開ける。

 

「さて、早速だけど生徒の話をしておこうかな」

 

そういって渡されたのは顔写真と経歴の載った4枚の書類。

 

ネックウォーマーで口まで隠した短髪の男子、見覚えのある容姿の女子、見知りのパンダに内気で自信のなさそうな顔をした男子。

 

「一枚目から呪言師に呪具使い、パンダに最後の彼が特級呪霊に憑りつかれた子。ちなみに死刑にされそうなところを僕が拾った」

 

なるほどとうなずき改めて経歴をよく見てみる。

 

呪言師の狗巻棘。血が薄まり近年では対象を縛るほどの効果を持たない呪言師しか生まれなかったところに生まれた正真正銘本物の呪言師。それゆえに幼少期から無意識に術式を発動していたようだ。自身の術式の安全装置(セーフティー)として普段はおにぎりの具のみで会話するらしい。意味が分からない。

 

呪具使いの禪院真希。彼女とは昔にあったことがある。京都に寄った時に呼び出された禪院家であった。当主に「これと結婚しろ」って合わされたのが彼女。呪力がないため術式も使えない落ちこぼれだのひどい扱いを受けていたがまさか呪術高専に来ているとは思ってなかった。術式が使えない欠点を呪具で補っているということか。とんでもないガッツだ。妹のほうはどうなんだろうか?

 

「知り合い?」

 

書類を読む手が止まっていたからか、五条先輩に声を掛けられる。

 

「以前禪院家に呼び出されたことがあってその時にお見合いさせられました。ま、断りましたけど」

 

「...禪院の爺さんらしい」

 

大きくあくびをかますとソファーに全身を預けるようにしてだらける。

 

パンダ。こいつは知ってる。というのもパンダの作成に俺も一枚嚙んでいたからだ。パンダは突然変異呪骸という人形の体の中に呪いを宿す意思を持った無機物だ。夜蛾先生の最高傑作と言われるだけはあり対人でのコミュニケーションに優れ、戦闘面においても仕込まれたギミックで二級呪霊なら難なく、一級呪霊にでも殿は努められるくらいには強い。ちなみに俺と熊がパンダの作成を手伝っている。俺からは猫を作ったノウハウを、熊は呪いを宿す構造について。まさか高専に生徒として通っているとは思わなかったけど。

 

そして最後に愛された(呪われた)少年、俺と同じ特級呪術師に分類された乙骨憂太。呪術師として素人同然である彼が特級に分類された要因として考えるならやはり、憑りついている呪霊だろうか。特級過呪怨霊『祈本里香』、それほどに強力ということだろう。

 

「ちなみに憂太なんだけどね、純粋な呪力量で言ったら僕たちより上かもしれない。里香ちゃんが持ってる呪力なのかもしれないけど、憂太が特級扱いされてるのは里香ちゃんだけのせいじゃないと思うよ」

 

「なるほど...」

 

術式を見抜く六眼を持つ五条先輩が言うんだ、ちゃんと教えてあげれば間違いなく呪術師として化けるだろう。

 

「ちなみにまだ全然制御できないから死刑にされかけたんだけどね。高専来る前なんか憂太に手を出そうとしたいじめっ子たちをロッカーに詰めてたよ」

 

「マジですか」

 

「もじどーり、しかも四人。掃除用のロッカーにだ」

 

「じゃまずは呪いを本人に慣れさせるところからですかね。なんかしらの呪具にちょっとずつ里香ちゃんの呪力を流して戦わせて慣れさせるとか」

 

「奇遇だね、僕もおんなじこと考えてた」

 

「あとそうだ、質問があったんですけど」

 

「なに、どしたの?」

 

生徒のことはわかった。ただずっと気になっていたことがあるのだ。

 

「五条先輩、人にもの教えるの上手だし特級のこの子が増えたところで俺いらないんじゃないかなって思って」

 

黒閃を教えてもらったことや、過去にいくつか教えてもらったことから五条先輩がもの教えがうまいということは知っていた。頭もキレる。なんでわざわざ俺を呼んだのかずっと気になっていたのだ。

 

「あーそゆこと。憂太、秘匿死刑だったじゃん?それに強引に割り込んだことがきっかけで腐れ上層部が怒っちゃってさー。なんか僕に向けていろいろ工作されそうだったから、少し離れようと思っててね。僕だけならいいんだけどまだまだ新米の少年少女を巻き込むわけにもいかないじゃん?下手に引っ張るよりここで一旦締めといたほうがほうがいいと思ったから」

 

なるほど。

 

御三家の一角である五条家の主力、しかも悪しき伝統をボコボコに破壊しようとしてる五条先輩は保守派の人からは邪魔でしょうがないというわけだ。呪術規定による秘匿死刑を撤回させたのなら面目もつぶれるしなにより、反対派のやつに好き勝手されておとなしくもできないと。

 

ん、待てよ。

 

「それって彼らの面倒俺が見るってことですか?」

 

「んーーー」

 

どこから取り出したのか、煎餅をバキリと音を立てて食べる。

 

「つまりそういうことだよね」

 

 

副担任というよりかは臨時で担任をすることが決定した、いや決定はしていたが確認した瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、五条先輩がしばらく自由に動けなくなったこともあって代わりに来ました。同じく特級呪術師の節円李、よろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします~」

 

「すじこ」

 

ワンボックスカーに乗って今日行う呪術実習の現場に向かう最中、後ろの席に座る四人?に軽く挨拶をする。返事をくれたのは真希以外の三人。あるときに免許取っといたほうがいい気がして合宿制度でさっさと免許取ったのがここで役に立つとは。

 

ちなみにペーパーは怖いのでほぼ一日中車に乗るのを何日か繰り返し体にしみこませた。覚えのいい頭もあるので感覚的に操作は行えるようになっている。

 

後ろの席に生徒が座っており、二列目に憂太と真希、三列目に棘とパンダという並びで座っている。今日の実習のペア同士だ。

 

チラリとバックミラーを見る。

 

真希は窓際に肘をついて興味なさげに、憂太はずっとそわそわしっぱなし。棘はのど飴を転がしパンダだけ会話を返してくれた。

 

「パパ久しぶりだね」

 

「パパァ!?」

 

「昆布!?」

 

何を言い出すかと思えば、知らない人が聞いたら飛び上がるような呼び方をしてきて思わず車体がぶれる。幸いにも前後に車がいなかったので何の問題もなかったが不意の出来事に冷や汗を流す。

 

真希と棘が驚きの声を上げるのもしょうがない。憂太も想像ができないと口をパクパクさせている。

 

確かに共同制作を行ったのもあり見方によれば俺がパパと呼ばれるのは百歩譲って理解できるが、そこは主任の夜蛾先生じゃないだろうか。しかもなんでわざわざこのタイミングでパパ呼びしたのか。

 

まぁ世話焼きのパンダのことだ、なんか気まずい車内の空気を何とかしようと思った結果だろう。まったく無機物らしくないそれに苦笑する。

 

パンダの概要を開示してもいいものかと一瞬考えるが、概要くらいなら問題ないか。どうせパンダはパンダ程度の雑な紹介しかされてないだろうし。

 

「あーパンダの生みの親に協力したってだけ。パンダはパンダってしか紹介されてないでしょ?」

 

そういうとそれが聞きたかったといわんばかりに首を縦に振る憂太。

 

「まぁパンダはパンダなんだけどね」

 

感情がいったりきたりで面白いことになってた。優しい子なんだろうけどいじめられてそうだな憂太は。そのいじめっ子たちをロッカーに詰めたんだっけか?まあどちらにせよいい思い出ではないだろうし聞かなくてもいいか。

 

その後はパンダがうまい具合に会話をまわしてくれた。そうして今回の実習場所に到着。

 

今回の実習場所は某県のどこにでもあるような公立小学校。

 

「ここは?」

 

「君も通ったことがあるようなただの小学校さ」

 

憂太の問いに答えながら校門を抜ける。

 

「俺は五条先輩と違って教員免許も持ってないし、教師としてはまったくなので呪術師として状況を説明するよ。この小学校で呪いによるものと考えられる被害が発生している。児童が行方不明になっているんだ」

 

「行方不明ですか」

 

「神隠しだったり失踪事件は怪談としても有名だろう?そういうのは大概呪いによって攫われたケースがほとんどだ。ちなみに現在二人の生徒が行方不明」

 

学校や病院といった負の感情が集まりやすい場所では呪いが発生しやすい。負の感情と言ってもそのほとんどが『恥』だったり『後悔』だったり『嫌悪』といった日常的なものにとどまるため強大な呪いは発生しにくい。逆に『憎悪』や『殺意』がとどまりやすい、俺が経験した中では自殺の名所などはそれはもう面倒な呪いが生まれたりもする。

 

五条先輩曰く、今回の呪霊は今の生徒たちなら問題なく祓えると。偵察として猫も使う予定だし、最悪の場合俺の反転術式で生きているのであればどうとでもできる。

 

「君たちに課す実習課題、いや任務は呪いを祓い子供たちを救出すること。もし死んでいたら回収すること」

 

 

『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』

 

 

猫を作成するときに学んだ結界の知識、俺はある程度の結界術を取得していた。

 

「これは『帳』。外界とを区切る結界術の一つさ。内側で起こったことを外側の人間に感知させないためっていうのと、潜んでいる呪いを炙り出す効果もある」

 

早速呪霊が動き出したようだ。この学校の呪霊は随分と元気がいい。

 

「君たちのことを外から見てるよ。くれぐれも」

 

 

 

死なないようにね

 

 

 

そう言い残して帳の外に出る。去り際に猫を放っておいたので万が一があれば対応できる。

 

さて、同じ特級呪術師の乙骨憂太君はいったいどうするんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が鳴り響く。

 

中で起きたことが火種になりさらなる呪いの発生を防ぐためにある帳のおかげで直接は聞こえない中の様子を猫越しに観測する。

 

これが特級過呪怨霊『祈本里香』の姿。

 

しかもおそらくこれが本気じゃない。ただの強い呪霊が憑りついているだけで特級扱いはないだろうし。まだまだ隠された力が憂太にあるのかもしれないと考えると言葉にできない感情が俺を揺さぶる。

 

これは高揚なのだろうか。

 

あの気弱そうな少年がこのたった数十分でこんなにも変わるとは。

 

「立派な男だよ君は」

 

学校のほうを見ればちょうど帳が上がり、そこには行方不明だった児童二人と真希を抱えて地面に倒れこむ憂太の姿があった。

 

学校は二階から屋上にかけて吹き抜けのようになり校庭に瓦礫が散らばっていた。

 

「先生!みんなが呪いに!!」

 

児童二人はひどく衰弱しておりいつ死んでもおかしくない状態。真希については傷口に目玉のような文様が浮かび発熱状態の時のようにうなされている。

 

「お帰り、あとは俺に任せな」

 

傷口を媒介して発動する毒のような術式だろうか。なんにせよ、生きているならわざわざ病院に連れていく必要もない。

 

児童らが行方不明になったのは三日前。なので三日前の状態まで巻き戻す(・・・・)。高専卒業から自分なりに修行と改良を重ね、俺の反転術式は完全と言っていいほどまでに至った。対象は児童を構成するすべての要素、もちろん記憶も含めたすべてだ。こんな怖い思いなんてないほうがいいし、次の呪いの発生を防ぐための措置でもある。児童を囲むように呪力が奔り逆再生のビデオのように傷が消える。

 

術式反転によって巻き戻しを施し、時間のズレによって生まれる傷を反転術式の純粋な治癒で治す。術式反転と反転術式の組み合わせによって死んでいなければ健常状態に戻せる。時間のズレに対応できないことにより一定時間意識はないがそれもすぐに収まる。

 

真希についても呪いを受けていない状態まで巻き戻す(・・・・)

 

「こんなもんかな。みんな問題ない、今日の夜ご飯にまでには目を覚ますと思うよ。必要はないと思うけどいきなり家に送り返すのも誤解が生まれそうだからとりあえず病院に搬送しよう」

 

「そうですか...よかった」

 

全員呼吸も落ち着いた様子でただ寝ているよう、それを確認した憂太は大きく息を吐きひどく安心した様子だった。それと同時に自身の指を見て何かを考えているようにも見えた。

 

「なんか気になることでもあった?」

 

「......初めて自分から里香ちゃんを呼びました。それで少し思い出したんです、里香ちゃんが僕に呪いをかけたんじゃなくて、僕が里香ちゃんに呪いをかけていたのかもしれません」

 

「これは五条先輩が前に話してくれた言葉なんだけどね、愛ほど歪んだ呪いはないそうだよ」

 

憂太の言葉は言い切った形ではなかったが、半ば自分の中で確信するように言ったそれは真実のように思えた。拳を握り左薬指にはめた婚約指輪(幼いころの約束)を見つめ、覚悟を決めた表情をこちらに向ける。

 

「先生、僕は呪術高専で里香ちゃんの呪いを解きます」

 

 

そこにはもう自信のなさそうないじめられっ子はいなかった。

 

 

 

 

 

 




という感じでお送りしました。

ちょっと事情があって以前より更新がまばらになってしまってます。が、アニメをモチベに頑張っていこうと思ってます。

是非、燃料投下の意味でも評価・お気に入り登録・感想いただければと思います。


では




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動き出すじゃん

皆様のおかげでランキング入りしていました。

モチベが生きているうちにどんどん書いていこうかと思います。




暗闇を宙に浮く灯篭の光が照らす。

 

『特級過呪怨霊祈本里香の422秒の完全顕現』

 

『このような事態を防ぐために乙骨を五条悟に預けた。しかしあのものはあろうことか任務を任されたのにもかかわらず第三者に放り投げたと』

 

『申し開きは許さんぞ。五条悟ともども、どう責任を取るつもりだ』

 

俺を取り囲むように淡く光る襖が円形に広がっており、その裏から声が聞こえる。

 

なんか既視感があると思ったらあれだ。エヴァンゲリオンに出てくる会議室がこんな感じだったな。暗闇の中に番号が記されたモノリスがあってそこから声が聞こえるみたいな。ゼーレとの会議用だったか?

 

「放り投げたも何も、あんたらがそうなるように仕向けたんでしょうが。五条悟への仕返しもできる、もし里香ちゃんが暴走したら正式に叩く理由もできる。どちらに転んでもよかったんでしょう?」

 

『何のことだかわからんな』

 

「さいですか」

 

あくまでも認めないか。まあそらそうだろうな。自分が指示しましたなんて言うわけもない。

 

『そんなことを言っている場合か!祈本里香が暴走していれば街一つ消えていたかもしれないのだぞ!!』

 

「仮に暴走したとしても私の術式で暴走前に巻き戻しますよ。被害についても同様に私が抑え込むつもりでした。現状私たちが知りえている情報は一つだけ、出自不明(わからない)ということしかわからないんです」

 

祈本里香についての謎はそこだ。あれほどの膨大な呪力出力を持ち圧倒的な攻撃力を持つような呪いへと化けたのかがどうしても説明できない。呪術師の家系でもないただの一般家庭の少女があれ程に成ってしまったのか。

 

現在呪術高専関係者が総出で経歴をあさっているが、呪術的な儀式に参加したわけでも遠縁に呪術師がいたわけでもないということしかわかっていない。どこまでさかのぼっても、普通の少女でしかなかった。

 

「それに呪われている彼、乙骨君ですがね。呪術師として、いや人間として一歩前に進めそうなんですよ。なのでしばらく放っておいてほしいですね。里香ちゃんについてもなんもわかってないのに制御もクソもないでしょう?」

 

『成長だと?笑わせるな。制御を失う可能性と天秤にかけてみろ』

 

『左様。あくまでも乙骨の秘匿死刑が保留だということを忘れるな』

 

「ああそれですけどね。五条さんから伝言がありますよ。もしそうなれば乙骨側に付くそうです。当然私もあなた達みたいな過去にとらわれた人たちと共にする気はありませんからね」

 

『ハハハ、ずいぶんな言われようだな円李よ。どうだ、儂ならお前の後ろ盾になるが?当然条件はあるがな』

 

『おい、貴様!!』

 

「結構です、後ろ盾もクソも僕はあなた達を信頼も信用もしてないですから。もういいでしょう。では、これで失礼しますよ」

 

相変わらずここに来ると気分が悪くなる。特級になって以来、ごくたまに呼ばれることはあったが碌な思い出がない。

 

一瞬体が浮くような違和感。襲撃されることを恐れている彼らは集会の場所を異界化させた結界の中に隠している。そのためそこに行くためには呪術的な特別な方法を用いらなければならない。その特別な方法というのは簡単で呪術によって隠された門を通るといういたってシンプルなものだ。しかし、この門を通る瞬間に襲い掛かる感覚はいまだに慣れない。

 

気が付けば門の一つが隠されている墓場に立っていた。

 

「や、円李。迷惑かけるね」

 

「別に大丈夫です」

 

高専につながる通路の出口で待ち構えていたであろう五条先輩。

 

「...今日任務で遠出って言ってませんでしたっけ?」

 

「そんなことを言った気もするなぁ」

 

そう、今日の上層部への定期報告は五条先輩が行うはずだったのだ。しかし、当の五条先輩から任務で遠くにいるので代わりに出て欲しいと連絡が来たので代わりに出たのだが。やはり面倒ごとを押し付けられた形になったか。

 

「いやぁ先日引率してくれたの君だし、報告まで任せたほうがいいかなって思ってね。その様子じゃ、僕が伝えて欲しいことは伝えてくれたっぽいしね」

 

「そういうことなら嘘なんかつかなくても、普通に言ってくれたらよかったのに」

 

「ゴメンゴ」

 

「まあいいです。それでもろもろなんとかなったんですか?」

 

「うん。円李が少し代わってくれたおかげで全部片を付けて来たよ」

 

強引な横やりというか、五条先輩の我儘というか。好き放題やったせいでいろんな方面から目の上のたんこぶのような扱いを受けている。その中でも妨害に出てきた人がいたそうで、憂太とかに迷惑が掛からないようにいったん距離をとっていたというわけだが。片付いたようなら何よりである。

 

「で、今日は何ですか?」

 

「今回は棘ご指名の任務に憂太を一緒に行かせようと思っててね。引率を君に任せたい」

 

「監督補佐でもよくないですか?」

 

本物の呪言師であるとはいえ、まだ学生だし二級呪術師である棘ご指名の任務。五条先輩のフィルターもかかっているわけだしそこまで危険な任務であるとは思えない。通常であれば監督補佐が現場まで案内するものだが、俺がわざわざ出る必要はあるのだろうか。

 

「念のためってやつだね。先日の一件で里香ちゃんの存在も広く知れ渡っただろうし、もしもの時に守れる円李にお願いしたい」

 

「そういうことなら承知しました。お任せください」

 

なるほど、ただの可愛い生徒思いの良い先生というわけだ。

 

「詳しい話はその紙に書いてあるから」

 

そうして渡される書類。呪霊が確認されたのは都内郊外にあるシャッター街となったハピナ商店街、この商店街を解体してショッピングモールを誘致するための視察中に低級の呪いの群れが確認されたそうだ。音声が聞こえる範囲に一斉攻撃ができる呪言師の棘にもってこいの任務だといえる。低級であれば棘に返ってくるフィードバックも大きくはないだろう。

 

呪言師の姿を安全に憂太に見せるのにもいい機会になるだろう。とくに呪言は言葉で説明するよりも実際に見たほうが理解が早い。

 

そうして最後のほうに記載されている内容に引っかかる。そこに記された担当者の名前は伊地知とあったからだ。

 

「引率のところ、伊地知って書いてあるんですが」

 

「ああそれね。伊地知には僕から休暇をあげたよ、今頃絶叫マシーンを楽しんでる頃じゃないかな」

 

哀れ伊地知。顔見知りということもあって五条先輩に無理やり代わらされたんだろうな。それに伊地知みたいなタイプは絶対絶叫マシーンとか嫌いでしょうに。今度差し入れで胃にやさしいものでも持っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やられた!!

 

 

 

任務の間、時間つぶしのために入った喫茶店。小さく舌を打つとココアの代金を机に叩きつけるようにして置き、店から飛び出した。非呪術師から目視されない程度の認識疎外の結界を周囲に展開し、屋根を跳び最短で商店街に向かう。

 

久しぶりにどうしようも形容しがたい嫌な予感が奔ったため、棘と憂太の任務に猫を付けていたのだが今しがた俺のところに戻ってきた。

 

猫は影を媒体に呼び出す式神で、猫が俺の元に戻ってくるのは俺が呼び戻した時と祓われた(・・・・)時だけだ。今さっきも俺は猫を呼び戻そうとなんてしていない、ということは後者の理由によって猫が俺のもとに戻されたということ。猫は全体としては影を象徴する暗闇という名の不定形概念を猫の形に収束させただけの式神で極小までに圧縮した核を破壊しない限り祓うことはできないはず。核もいくつかデコイを紛らわせているのでそんな簡単に当てることはできない。

 

少なくとも今回二人が相手をすることとなる呪いが猫を潰せるなんてことはそれこそ万に一つあり得ない。

 

加えて戦闘を行った信号も感じなかった。これからわかることは特級である俺の式神を瞬殺できるレベルの呪霊、あと考えたくはないが呪詛師があの場にいるということだ。

 

「...帳!?俺が張ったやつじゃないぞ!?」

 

俺が張った帳ごとまとめて包むように別の帳が商店街に降りていた。それにこの呪力、間違えるはずがない。忘れるはずもない。

 

 

「夏油先輩ッ」

 

 

10年前。俺が東京都立呪術高専に通っていた時だ、それこそ毎日絡んでいた相手の呪力だ。絶対に間違えるわけがない。

 

呪術師から離反して呪詛師になって10年、痕跡は見つかっても行方をまったく掴ませなかった夏油先輩が今になって動き出した理由は何だ?なんで今なんだ。狙いは----

 

「憂太、それに里香ちゃんか!!」

 

夏油先輩の術式は呪霊操術。その真価はいかに強力な呪霊を従え、使役するかという点にある。特級に分類されるほど強力な呪霊である里香ちゃんを無視するわけがなく、可能であれば手中に収めたいと思うはずだ。夏油先輩のたくらむ選別のためにも火力は必要なわけで、圧倒的な力を持つ里香ちゃんはそれこそ喉から手が出るほど欲しいだろう。

 

そう考えれば、この場に夏油先輩が現れた理由にも納得がいく。

 

引率としてついてきたはずなのに、何という体たらく。想定していなかったなんて言い訳はできないぞ。

 

「とにかく中の状況を判断しないと...」

 

低級の呪霊を祓うには十分な時間が経っている。俺の張った帳は中にいる呪霊が消えれば解けるように設定しており、すでに呪霊を祓ったはずなのに二人の姿が見えないということはこの帳は内側から出ることができない帳だと考えることができる。ならば外側からなら簡単に壊すことができるはず。

 

単純に呪力を纏った拳で殴り壊す。振りかぶったその瞬間

 

「やぁ、久しぶりだね円李」

 

「本当にお久しぶりですよ、夏油先輩」

 

俺の背後、商店街に隣接した公園のベンチ。そこには腰を掛け手を振る黒の僧衣と袈裟を着た夏油先輩の姿があった。その姿はどこぞの僧にも見えるが今はそれどころじゃない。

 

「今いいところなんだ、邪魔するのはやめてもらっていいかな?」

 

「中に放った呪霊がそんなに気になりますか。そんなことより自分の心配をしたほうがいいんじゃないですか?」

 

術式行使のための範囲を定義する。周囲を取り囲むように呪力の線が奔り、いつでも術式が行使できる状態になってもなお夏油先輩は余裕を保ったままだ。

 

「何の備えもなしに私が特級呪術師の前に出ると思ったかい?それに君、結局体術じゃ私に勝てたことないじゃないか」

 

「......ここでひっ捕らえて連行します」

 

「そこで殺すって言えないところが円李の弱いところだよ」

 

あの頼もしい笑みではなく、自身の野望のためにはいかなる手段でも用いる呪詛師にふさわしい笑顔を浮かべ武器庫呪霊を袖から取り出す。四次元ポケットのようにほぼ無制限に体内にものをしまい込める特性を利用し、自身の体を飲み込む形で小さくなっていた呪霊を展開し戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







四級呪霊『感想くれくれ』


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先輩とは強いものやん

なんか筆が乗りまして。

2021年2月3日:オリ主が弱いという不具合を修正。夏油先輩のおなかに穴が開きました。あと停止できる時間の調整。







先手必勝

 

片手で掌印を組み術式を行使する。一瞬で戦闘行動を封じるために一転集中の最大出力で重力負荷をかけるが、いままでの呪術師としての経験をもとに危機を察知した夏油先輩にかわされてしまう。二連三連と連続で術式を行使するがどれも躱されてしまう。

 

「どうしたんだい?手に取るように狙いがわかるよ」

 

嘘つけ。今の術式の設定は範囲内乱数座標選択、自身を原点に取った時に考えることができる定義範囲内の座標を範囲付き乱数で指定した攻撃を混ぜているのだ。夏油先輩を捉えようとする本命の攻撃以外の乱数術式に俺の意図は介在していない。

 

しかし現にそのおとりも含めすべての攻撃を躱されている。やはり特級とされた呪術師ということだ。才能と培った経験が夏油先輩を守っている。

 

点で狙えないなら面を狙うしかない。呪力量と精度が上がった今でさえ面定義の術式行使は疲労を伴うため使いたくはなかったが短期決戦、絶好の機会を逃すわけにはいかない。

 

両手(・・)で掌印を組んで術式を行使する。

 

片腕の欠損により掌印を組むことはもう無理かと諦めていたがこの義手によって可能となった。要は掌印とは術式を呼び出すためのルーティンなのだ。つまるところ自分の意思をどれくらい固く持つことができるか。義手を自身の腕だと誤認することで通常通り掌印を組めるように自分を騙したのだ。

 

天重維谷(てんじゅういこく)ッ!!」

 

点ではなく面での制圧、当然術式範囲内にいる夏油先輩も先ほどのような素早さで動くことはできない。もし行動に制限を駆けられるなら確定で黒閃を使える俺にも勝機がある。さらには体内の時間加速による疑似的な時間停止、今の俺なら近接戦闘でアドバンテージがある。

 

一息で夏油先輩に迫る。全身に動きに不自由を感じるほどの負荷がかかっているはずのにいまだ余裕の笑みは絶えない。

 

一瞬で最高速度まで加速し夏油先輩に接近する。地面から触手のような呪霊が俺を捉えようと伸びるがそのすべてを押し潰して無力化する。

 

視線が逸れたその一瞬で展開された咢を開く龍型の呪霊が俺の視界のすべてを覆う。左の拳で黒閃を放ち爆殺、左手を引く形でより速度を増した右の拳で夏油先輩を殴り飛ばす。黒い閃光が胴を貫く。

 

当然重要な臓器のいくつかをまとめて消し飛んだため、当然致命傷だ。

 

「なんで立ってられるんですか...」

 

「これを見せるのは初めてじゃないと思うんだけどね」

 

不敵な笑みを浮かべながらパチンと指を鳴らす。空間が揺らぎ夏油先輩の体が一回り大きくなったように見えた。いや、正しくは全身を包むように呪霊が巻き付いていた。

 

「初対面の時に君が気付いた呪霊を見落とすなんて」

 

対象者の呪力と同化することでその姿を隠し、呪力的な感知にも光学的な感知からも逃れる高隠密性の呪霊。違いと言えば腕にまとわりつく程度のものが全身を覆ってもなお余裕があるほど大きいという点だろうか。

 

「君の重力操作の術式、その弱点だ。流石に私も点での負荷は耐えられなかったが、面となれば話は別だ。大きくはないものの負荷をかけてその間に君自身が攻撃を繰り出す。この術式の弱点はね、負荷の影響を跳ね返せるほどの力を持っていれば何の効果もないということなんだよ」

 

パワードスーツのように全身にまとわりつく呪霊が夏油先輩の一挙手一投足を物理的に強化しているというわけか。たしかに簡単に言えばただ重くなった程度、それを無視できるほどの力があればいつも通りに動けるというわけだ。全くの盲点だった。

 

それに空洞になっているはずの体でなぜ立っていられるのか。あの調子だと呪霊を使って生命器官を代行して補っていることだろうか。いたって平静に思えるが、若干の脂汗が見て取れる。この状況が長く続くことは夏油先輩的にも避けたいはずだ。

 

唯一効果がある『点』での負荷は避けられ当たらない、面での負荷も物理強化を受けている今効果は期待できない。点無による圧縮も対象の座標を定義できなければ当たらない。お昼過ぎの街のど真ん中であることから地爆天星も論外。となれば俺に残された手、それは俺が夏油先輩を上回る速度で動くこと。永永無窮による時間停止で距離を詰め、黒閃での一撃をもってして行動不能に持っていく。

 

 

できれば殺したくない(・・・・・・・・・・)

 

 

狙うは動きの基本、脚だ。それに天重維谷の面制圧の限界がこの程度だと思っているはず。使えるなら最初から使うと思うだろう。実際にはそれ相応の呪力を使うため出し渋った結果肉体強化で脱せる程度の負荷しか与えられなかった。

 

選ぶのは予備動作なしで使うために最も早く掌印のショートカットを実用化した術式。

 

永永無窮(えいえいむきゅう)

 

光の速度で動く俺と相対的に世界が停滞する。鳥も風も、水の流れに呪力になびく裾さえも停止したモノクロカラーの世界を駆ける。今の俺が止められる時間は高専時代から大きく伸び6秒、これだけあれば接近して脚を確実に狙って黒閃が放てる。

 

狙うは右脚の脹脛、動きの起点となる利き脚と胴を繋ぐ器官。多量出血によるショックがあったとしても反転術式で巻き戻せる。今は確実に夏油先輩を捉えることだけを考えろ。

 

残りコンマ数秒で拳を振りかぶる。何度も何度も練習をした呪力の流れを感じる。

 

黒閃

 

世界が色彩を取り戻すのと同時に一瞬だけ負荷を数倍までに引き上げる。完全に動きが止まった夏油先輩の右足を黒閃の一撃をもって吹き飛ばした。

 

次の一手を、前を向いた瞬間。夏油先輩の右脚に左側頭部を蹴り飛ばされた。一瞬の停滞、その後公園に生える木々をなぎ倒しながら一直線に飛んでいく。頭だけが取れてなくなるのではないかと疑いたくなる衝撃が俺を襲うが瞬時に行われた呪力による肉体強化によって致命傷を免れる。

 

光が瞬く頭を抱え、血を吐きながら何が起きたか考える。混乱する脳をリセットするために今さっき夏油先輩に攻撃をくらう前の状態まで体を巻き戻す。

 

間違いなく俺は夏油先輩の脚を吹き飛ばした。ないもので攻撃はできない、しかし現に右脚を振りぬいて俺の頭を蹴り飛ばした。

 

「だから円李、君は甘いんだよ。君は私を殺すつもりで攻撃を放つべきだった。少なくともこの呪霊を吹き飛ばすぐらいはしなきゃいけなかったんだよ」

 

僧衣の襟を正しながら何もなかったように人の脚とはいささか表現しにくい膨らんだ右脚をさすりながら歩いてこちらに向かう夏油先輩。

 

なるほどそういうことか。重力負荷を跳ね返すほどの出力を持つ全身を覆う呪霊、吹き飛んだ右脚の代わりとしてその呪霊を使ったというわけだ。確かに脚の自由を奪ったかもしれないが、本当の意味で奪うことはできてなかったということだ。

 

「殺しませんよ、俺は」

 

「...来るか」

 

「必ずここであなたを抑えます。夏油先輩」

 

全身に呪力が漲る。夏油先輩の帳の中に取り残された生徒のこともある、あまりここで時間をとっていられない。

 

一瞬で終わらせる。

 

想起するのは満月に最も近い場所。加速の始まりの地を現実世界に持ってくる。

 

対象は目の前、夏油先輩。加速する世界と夏油先輩の中に流れる時間の差によって生じる感覚の混濁を利用して意識を奪い無力化する。

 

「領域展開、暁月匆そ---」

 

空間が侵食され月と太陽が帯を引く世界が現れるが、目の前にいたはずの夏油先輩の姿が一本の苦無と入れ替わる形で忽然と消滅する。

 

「それは!?」

 

飛来閃雷(ひらいせんらい)』。特級呪具であるこの苦無の効果は対象との置換。俺の領域展開が捉える範囲外まで瞬間移動されたということだ。

 

『必中必殺の領域展開、さすがにそれを打開する術を私は持たないのでね。ここらへんで退散させてもらうよ。最近話題の里香ちゃんは見れなかったけど』

 

エコーのかかったような朧な声が脳内に響く。

 

『......またね、円李。悟によろしく、きっとすぐ会えるよ』

 

まるで電話越しに次会う約束をして別れるかのような軽い言葉。結果的に何もできなかったことに気が付く。

 

「クソッ!!」

 

地面に拳を叩きつける。小石が肌を切り裂いたのか、痛みともに血が流れるが治す気にもなれなかった。

 

「そうだ棘、憂太!!」

 

彼らは無事なのか、自身がやらなくてはならないことを思い出し走り出す。現場保存のため外から入れないように設定した帳を念のために降ろしてから商店街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のミスです。ずっと嫌な予感はしてたんです、もっと近い場所、商店街の中で控えておくべきでした」

 

「いや、タラれば話をしてもしょうがないさ。結果的に棘と憂太に大きな怪我もなく準一級レベルの呪いを祓えたんだ。今回は貴重な経験ができたということで次同じ事が起きないように努めよう」

 

職員室の隅、パーテーションで区切られた談話室で五条先輩に事の顛末を説明する。しばらくお茶を啜る音だけが響く。

 

「それで、ほかにもあるんだろう」

 

「...はい。夏油先輩が、あの場にいました」

 

あの呪力、間違えるわけがない。

 

念のため吹き飛ばされた右脚と現場検証から見つかった残穢を高専に登録してあるデータと比較して検査をしたが100%夏油先輩本人であると証明された。

 

「それに高専で保有していたはずの『飛来閃雷(ひらいせんらい)』の所持。六年前に紛失事件があったって聞いてたけど傑がもってたと」

 

「領域に閉じ込める前に逃げられました。俺は...」

 

「いや今回は傑のほうが一枚上手だったってことだ。流石は五人の特級の一人、円李の数少ない先輩ってわけだよ」

 

一息にお茶を煽り、お茶うけの煎餅の封を切る。

 

「それになんか嫌な予感がずっとするんです」

 

「嫌な予感、ね。傑の件もあるしその予感が当たる日は意外と近いかもしんないね」

 

ゴホンと五条先輩が大げさに咳をする。

 

「まあいつになるかわからないことをずっと警戒していても先にこっちが消耗するだけさ。今の呪術高専には最強の呪術師とその次がいるんだ。僕たちはいつでも動けるようにすることを第一に警戒をしていこう。それに今年は京都で交流戦だしねー。せっかくだし僕が京都で一押しのお店、円李に紹介しちゃうよ~ん」

 

明るくお道化る五条先輩の言葉についつい笑みをこぼしてしまう。やっぱり先輩として頼りになるなと思う。

 

「そうですね。それに京都校のほうにも連絡はしておいたほうがいいかもです。交流戦のついでに声掛けに行きましょうか」

 

「お、それいーね。楽巌寺のじいちゃんには何持ってこうか、是非喜んでくれるようなものがいいよね」

 

ニヤニヤと悪だくみをするときの表情を浮かべる姿にため息をつく。

 

上層部の中でもトップに立ち古い考えの保守派筆頭である京都校校長の楽巌寺校長は当然異分子たる五条先輩を毛嫌いし何度も邪魔をしてきた。同様に五条先輩も楽巌寺校長のことが大嫌いだ。

 

きっと喜ぶと書いて嫌がると読むようなものを選ぶに違いない。

 

この前みたいに生徒にまで影響が出ないほどほどにしてほしいと思うがどうだろうか。

 

五条先輩ならうまくやりそうと思う反面、加減を知らなそうとも思う。

 

そんなことを考えながら、いつの間にか前向きな思考に至っていることに気が付きやはり五条先輩にはかなわないと再確認したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このまま0巻完結まで走りたい。

ちなみにツイッターで本誌のネタバレをくらって悲しい。なんか海外に行ってそうな名前に惹かれてトレンドに飛んだのが間違えだった...

早く単行本出て欲しい(単行本派

ちなみにネタバレした奴は消します。

なんか本作に影響しそうなことがありそうですが、単行本で私が確認し次第訂正します。よろです。

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防御を手に入れたいやん

モチベが長続きしてるぞーーーー!!!!


感想でいただいたオリ主弱すぎ問題の不具合を修正しました。前話軽く見てからだと嬉しいです。まだまだだと思う方は理想のボコられ方を教えてください。






○月〇日

やはり俺に足りていないのは信頼を置ける絶対的な防御だと痛感した。

 

五条先輩の無下限術式。無限を現実に持ってきて相手の攻撃に超えることのできない『間』を挟む。

 

参考になるかもしれないということで五条先輩の術式についていろいろ質問してみた。曰く五条先輩に向かって進むにつれてだんだんと遅くなると。指数関数的に遅くなっていき最終的には近似で零になるほどまでに減速し、結果あらゆる攻撃は五条先輩に届くことはないのだと。

 

その時ひらめいた。

 

俺に向かって飛んでくる攻撃の速度を遅くすればいいのだと。俺の術式であれば五条先輩の絶対防御を再現することが可能だ。呪いに関してどうするかっていう懸念については問題ないと思う。

 

重力操作の術式は物理的なもの以外にもしっかりと呪術的なものにも作用することを知っているから。自分を対象とした相対的な時間停止ができるのであれば、飛来するものに流れる時間の操作もできるはず。

 

依然背中に走る冷たい感覚は無くならない。

 

早いところ最強の次に最強と名乗れるくらいにならなくては。

 

 

 

 

○月〇日

早速実用化に向けて実験をしていたのだが、思わぬ収穫があった。五条先輩の術式より言い方によっては優れているところかもしれない。

 

放り投げられた消しゴムに干渉して時間停止を行い停止を解くという一連の流れを何回かやっていたのだが、いずれもちぎれたりひびが入ったりと物体を傷つけたのだ。

 

俺が時間を止めた時と同じ現象、現実世界と対象の内部に流れる時間をいじったことによって生じるズレが破壊という形で影響しているのではないかと。

 

これにより、防御に加えて相手の攻撃をカウンターできるようになった。殴った相手の攻撃を停止させると同時に腕を破壊するみたいな。

 

傷ついて発動する術式とかだったらその都度に合わせて術式反転による巻き戻しを使えば問題ない。

 

意外にも早く完成してしまった。あとは五条先輩みたいにオートマで管理できるように調整していきたいと思う。

 

 

○月〇日

考えてみれば圧倒的な火力を持っていないことに今更ながら気が付いた。

 

重力使いと言えばなんか粒子をまとめてビームを撃つみたいな攻撃をするキャラとかアニメで出てくるけどそういうのを考えたことがなかった。

 

さらなる強化を目指して考えてみようか。

 

 

○月〇日

今日は交流戦に向けての戦闘訓練の実技授業を手伝うこととなった。

 

内容は至極単純、四対一。俺一人を相手に一年が全員で戦うというもの。京都校にいると噂の相手に対応するためのコンビネーションを鍛えるためだとか。

 

最も恐ろしいのはやはり呪言だ。当然呪言対策もしてある。自身の意識と体の動きが一致していないのを感知した瞬間に意識を除く体のすべての状態を三十秒前に巻き戻すという術式を発動条件付きで仕込んでおいたのだ。

 

しかし精度がまだ完璧でないことから、一瞬のスキが生まれてしまい憂太から一発受けてしまったがくらったものといえばその程度。

 

後は軽くボコボコにしてお終いだ。五条先輩からもボコボコにしてあげてと言われていたので特に問題はないでしょう。

 

流れとはいえ真希の薙刀をへし折ってしまったのでどっかでお詫びに行かないと。

 

 

 

○月〇日

憂太から呪力操作についてのアドバイスを請われたので自分ができる限りのことを教えてあげた。

 

教員免許も持っていないのでどういう伝え方をすればいいのか正解がわからなかったが自分が意識していることや気を付けていることを教えてあげた。

 

加えて黒閃を教えたのだが、なんと一回実演で見せたその次に何回か練習していた時に何回か出ていた。出しちゃったのである。その学習能力というか天性の感覚には驚かされた。

 

流石にまだ狙って出すことはできないようだ。

 

里香ちゃんのこともあるしもしかしたら俺や五条先輩に匹敵するようになるかもしれない。

 

そういえば真希へのお詫びとしてパンダを除く一年を連れてラーメンをおごった。他のやつらもついでだ。パンダについてはその外見ゆえに外に連れ出せないし基本ごはん必要ないし。

 

 

 

 

○月〇日

術式をよく知るためにも五条先輩にお願いをして相対性理論と量子力学の権威と呼ばれている大学の教授などとお話をする機会を用意してもらい、京都までやってきた。

 

結果的に分からないことしかわからなかったが、事象の仕組みや予測を聞くことは俺の強化計画の大きな糧となった。時間操作による具体的なイメージの確立や、ビーム攻撃のとっかかりができたことだろうか。

 

もう一週間もしないうちに交流会があるのでそこで合流するとしよう。

 

京都観光を楽しむと五条先輩には連絡しておいた。

 

 

○月〇日

交流会の前日、ホテルで朝起きたら身に覚えがない携帯電話が落ちてた。

 

俺が目を覚ますとカシャンカシャンと小さな機械音を立てて人型へと変形した。おでこにあたる部分に火の玉のマーク、眼にあたる小さな点からからくり人形のように縦に伸びる線によってできた四角形の口。

 

もはやほとんど覚えていない原作に出てきた中でも若干記憶の端っこにいるキャラ、メカ丸のマークに酷似した顔をしたロボットへと変形した。

 

その後、小さな機械に呼ばれるまま呪術高専京都校の地下室まで招かれた。そこにいたのは全身包帯まみれで片腕を欠損した男だった。

 

どうやら高レベルの反転術式を扱える一人として体を治せないかと相談された。

 

俺が行えるのは時間の巻き戻しに付随する状態の巻き戻し。聞けば天与呪縛による傷だそうで生まれた瞬間にこうなっていたとか。申し訳ないが俺にできることは少なかった。

 

代わりにここ最近で一番調子のいい日を聞いてその日まで体を巻き戻した。

 

こんなに苦しそうなのを見て見ぬふりはできなかった。連絡先を聞いておこうと思ったが、どうやらこのロマンあふれる携帯をくれるらしい。

 

通常の携帯としても使えるし何かあれば連絡もできるとのこと。

 

普通に嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

○月〇日

京都校との交流戦は憂太の力によって東京校の勝利で幕を閉じた。

 

あちら側には東堂とかいう化け物がいたが、一対多の状況でも憂太が勝ち切った。多対一はやっていたが一対多はあまり経験を積ませてやれなかったと少し反省した。

 

治療班として対応に走ったため結構忙しかった。なまじっかやれることが増えると任される仕事も比例して増えていくのがつらい。

 

真希の妹さんとも久しぶりに会ったがやはりやりにくい空気になった。真希のほうは訓練や授業もあってある程度距離感や対応がわかるがこちらはさっぱりだった。変にぎくしゃくしてなかったらよかったんだけど。

 

 

 

 

○月〇日

七海と久しぶりにご飯に行った。灰原は地方の任務の引率で外していたため二人で学生時代によく行っていたラーメン屋さんに行った。

 

久しぶりに会ったこともあっていろいろ話した。証券会社だったか忘れたがエリート街道まっしぐらだったところ、やはりクソはクソだと熱弁してた。

 

恥ずかしがって教えてくれなかったが、七海も小さくないきっかけがあって呪術師に戻ってきたのだと。

 

夏油先輩の話も共有しつつ、何事もないように俺たち大人が頑張らないとと話して別れた。

 

老けて見えると言ったら余計なお世話だとそっぽを向かれた。元気はまだまだありそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして季節は年の暮れに差し掛かる12月。

 

 

 

「さて、今日なんだけど。今日はまた郊外のほうに出て大きいサイズの呪いを祓いに行こうと思います。引率は例にもれず、忙しい五条先輩に代わりまして俺です」

 

「今日は四人なんですね」

 

「そうだね、いつもは大体2-2に分けて対抗って形でやらせてるけど今日は現場で複数の呪術師と共闘することを想定する実習だね」

 

校門に一年を集めて今日やることの説明を行う。

 

今日は先日発見された大型の呪いを祓いに行く。というのも、ちょうどいい任務があったので俺が選んだのだ。理由は今までにない寒気。今日明日あたりに何かあると考え、生徒をなるべく一か所で管理できるようにまとめておきたかったという理由がある。

 

「それじゃ、門出たところに車止めてあるから。行こうか?」

 

憂太や真希が肩に下げた獲物を背負いなおして歩き出したのを確認して門を出る。

 

「先生!」

 

「ん?」

 

憂太が俺の隣まで駆けてきて俺を呼ぶ。その表情は心なしか少し暗いように見える。

 

「なんか今日嫌な感じというか、変な感じがするんですけど...今日の授業でなんかありますか?」

 

「だから気のせいだって。だって憂太の呪力感知って超ザルじゃん」

 

「おかか」

 

「里香みたいなとんでもないのが常に隣にいたら鈍くもなるわな」

 

憂太の言葉を否定するパンダと棘。そうなるだろうと二人の意見を肯定する真希だが、俺には憂太の感覚のほうが正しいと思った。自他共に認める俺の直感と同じ、今日に限って声をかけてくるということは憂太もこの変わった空気を感じ取ったということだろう。

 

なんてこった、勘という面でもとんでもなくすぐれている。もたもたしてたら憂太に抜かれるかも、なんて考えながら一応は引率ということもあるし落ち着くように声をかける。

 

「うーん、俺が見たところ図体が大きいだけでそこまで危険な奴じゃないよ。今日見て欲しいのはそういった手合いとの距離の取り方を―――――横に跳べ!!

 

学生とはいえすでに呪術師として現場に出ていることもあり、俺の声と同時に全員が回避行動をとる。俺達が集まって歩いた場所に落ちてきたのは不思議に胎動する茶色の何か。

 

ギョロリと目が開くと同時に閃光を放ち爆発する。

 

瞬時に座標を定義、四方から力を内側に駆ける形で圧縮し同時に事象の巻き戻しも行いばらまかれた呪力と衝撃波を集め、あふれるエネルギーを上方に放って発散させ消滅させる。

 

開けた場所に降り立つのは二対四つの大きな羽をもちペリカンにしてはくちばしの袋の部分が大きく膨らんだ大きい鳥型の呪霊。

 

「先生、あれが今日祓う呪いですか」

 

「だとしたら隣の男は何なんですか?」

 

「こんぶ」

 

「あの男...関係者じゃないよな」

 

一年が各々戦闘準備をとるのを横目に前を見る。

 

五か月前、一月の中旬に会った時とまるで変わらない姿の夏油先輩が呪いの隣に降り立った。なくなったはずの右足は一見すれば何もないように見えるが、あの場だけ異質な感じがする。呪いを脚の形にまとめて詰めているのだろうか。

 

どちらにせよ、呪いを意のままに操れる夏油先輩ならではの手法だ。

 

「やぁ、また会ったね」

 

「今日はどういったご用件で?」

 

「内容を急くのはよくないよ。しっかし相変わらず呪術高専(ここ)は変わらないね」

 

鳥のくちばしが開かれ中から女子高生が二人にハートのニップレスをした変態(オカマ)が出てくる。呪力の流れ、おそらく夏油先輩の手下の呪詛師。一年は呪いから人が出てきたことに驚くと同時に、呪詛師の少女が写真でパンダを撮り始めたりとよくわからない空気が流れる。

 

「オマエら何者だ!侵入者は憂太さんが許さんぞ!!」

 

「こんぶ!!」

 

「憂太さんに殴られる前にさっさと帰んな!!」

 

「えぇ!?」

 

夏油傑という存在を知らず、今どのような状況であるかを認識していないが故のパンダの悪ふざけ。それに乗り気の棘と真希にも言いたいことはあるが先にため息が出てしまう。棘に関してはこんなに目に見える形で感情を出すのは珍しい。

 

刹那、視認するよりも早く移動し憂太の手を取り語り掛ける夏油先輩。その予想以上の速さに事の異常に気が付き一年に流れる雰囲気が瞬時に切り替わる。

 

自己紹介に始まり、やれ大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考えるだの、社会秩序のために呪術師が暗躍する世界は間違っているのだだの。

 

「一般社会の秩序を守るために呪術師が暗躍する世界、強者のほうが弱者に適応する矛盾が成立してしまっている...なんて嘆かわしい!!」

 

果てにはこぶしを握り、憂太の肩を組み演技じみた姿で夏油先輩の考える世の矛盾を熱弁する。まだ実地での経験が浅い憂太はいまだに事の変化を理解できずに呆けたままでいる。夏油先輩の言葉にはぁ、なんて気の抜けた返事をしている。

 

「万物の霊長が自ら進化の歩みを止めているわけさ...ナンセンス!!そろそろ人類も生存戦略を見直すべきだよ」

 

「それで夏油先輩は何が言いたいんです?」

 

「先輩?この人って先生の先輩なんですか」

 

「そうだよ、円李の大先輩。さて何が言いたいかだったね。君は僕の理想を語ったじゃないか、もう一度聞きたいってことかな。それもいいね」

 

 

「下等な人類を、非術師を選別し殺戮する。呪術師とその意志と共に生きる人間だけの世界を作るんだ」

 

 

何を言い出すんだと一年全員の目が見開かれる中、五条先輩と夜蛾先生を筆頭に何人もの呪術師が校舎からやってきた。どれも見覚えがある、すべてが準一級以上の呪術師だ。

 

「僕の生徒にイカレた思想を吹き込まないでもらおうか」

 

「悟~!!円李とはこの前会ったけど君とは久しぶりだね~!!」

 

「再会を楽しむのはその子たちから離れた後だ、傑」

 

悪そうな笑みではなく、純粋に友人と再会した時に浮かべる満面の笑みで五条先輩と対面する。

 

「今年の一年は粒ぞろいと聞いたが...なるほど君たち(悟と円李)の受け持ちか。特級被呪者に特級呪術師による合作の突然変異呪骸、呪言師の末裔。そして」

 

 

禪院家の落ちこぼれ

 

 

先の笑みから一転、廃棄物を見るような目で真希を見下ろし真希を威圧する夏油先輩。

 

「君のような猿は私の世界にはいらないんだから」

 

バシッ、と肩を組む夏油先輩の腕を払う。

 

「ごめんなさい、夏油さんが言ってることはまだよくわかりません。けど、友達を侮辱する人の手伝いは僕にはできない!!」

 

硬い意思を秘める眼を向けてそう言い放つ憂太の姿は、過去に見た姿とは全く変わって見えた。

 

時間停止を行い夏油先輩の間合いから憂太を引っこ抜き間に入る形で立つ。

 

「やっぱり夏油先輩、非術師皆殺しにするつもりでしょ」

 

「そんなことないさ。私は」

 

「どうでもいい。そんなこと僕がさせないさ。それより傑、いったいどういうつもりでここに来た」

 

「宣戦布告さ」

 

宣戦布告?戦争でも仕掛けるつもりなのか?一瞬の思考の間に夏油先輩の声が高専一杯に響き渡る。

 

 

 

お集りの皆々様!!耳の穴かっぽじってよーく聞いていただこう!!!

 

来る12月24日、日没と同時に!!

 

我々は百鬼夜行を行う!!!

 

場所は呪いの坩堝(るつぼ)である東京、新宿!!

 

呪術の聖地京都!!

 

各地に千の呪いを放つ

 

下す命令はもちろん"鏖殺(おうさつ)"だ

 

地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めに来い

 

 

 

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 




感想をたくさんいただきありがとうございます。

なんか盛り上がってきたわ。

ミゲルなぁ、どういじってやろうか...



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始まるじゃん

京都に五条先輩と伊地知がいます。純粋に圧倒的火力を持つ二人を東京にはおかないだろうと。




 

「今度こそ夏油という呪いを完全に祓う、ね」

 

東京の中心、新宿の大交差点のど真ん中に立ち先日の集会の様子を思い出す。

 

全国の呪術師関係者が集まって行われた集会、夜蛾校長を中心に行われた『百鬼夜行』に向けた準備の中で俺の直感に引っかかる点があったのだ。

 

五条先輩も話していた通り、今回の宣戦布告には不審な点があるのだ。

 

夏油先輩の術式は取り込んだ呪霊を操ることができる呪霊操術。高専時代から所持していた呪霊は申請があったためこちら側で概要を掴んでおり、系統的にそのほとんどが二級呪霊。宗教団体を呼び水に信者から呪いを集めていたことが調査によってわかった。だとしても一般の人間の負の感情から発生する呪いは確かに高くても二級に至るかどうか。

 

各地に千の呪霊、合わせて二千の呪霊をばら撒くのがハッタリとは思いにくい。

 

『OB、OGそれから御三家。アイヌの呪術連にも協力を要請しろ。今度こそ夏油という呪いを完全に祓う!!』

 

と夜蛾先生の気合の入った言葉で集会は終わった。

 

呪詛師に関しても大きく見積もって五十ほど。こちらの予想される規模であったら十分に勝算がある。夏油先輩の負け戦になりかねない。しかし本当に負けが見えている試合に正面からあの夏油先輩がやってくるだろうか。

 

気になる点というのがこれだ。

 

この新宿に来た時からずっと何かを見落としているような気がしてならない。

 

「そんなに難しい顔してどうしたのさパパ」

 

「しゃけ」

 

「だからパパと呼ぶな」

 

今回の戦争のバックアップとして参戦することになったパンダと棘が声をかけてくる。基本的に一年と二年は高専で待機命令なのだが、夜蛾先生のお気に入りと広範囲に術式を行使することでアシストに回れる棘は後方支援という形で参戦している。

 

「いやなに、一人めんどくさそうなのがいるなと思ってな」

 

心配させぬように努めて別の話題を振る。並ぶビル群の上、屋上の広告の上に立つ肌の黒い外国人。あの男から感じる雰囲気はほかの呪詛師を比べてもなかなかに異質だ。警戒するに越したことはない。

 

開戦の狼煙はまだ上がらない。お互いに対面したままだ。

 

(日本の中心地、夏油先輩が出てくるならこっちだと思ったんだけど)

 

そうして遠くの空、ビルとビルの隙間から大量の呪霊を乗せたジンベイザメのような呪霊が姿を見せる。おそらくあれが今回用意した呪いだろう。

 

「あれ」

 

そういえば、ふと思い出した情報が脳内を巡る。

 

夏油先輩の呪霊操術は自身の手元から、遠くとも自身から数メートルの距離でしか呪霊を展開できない。先日の高専へ宣戦布告しに来た時もそうだ。高専時代よりも呪霊の展開速度は上がったかもしれないが、遠く離れた場所で任意の場所に呪霊を展開することはできないはず。もしできれば呪術師を影から刺して減らすことだってできるはずだ。

 

だがあの大量の呪霊は何だ。今出したのか?

 

もし夏油先輩がこの場にいたとして、呪霊を出した後の行動は?ここにいたら距離的に京都に呪霊を展開できないのではないのか?

 

もしかしたら事前に大量の呪霊を展開しておき、ここに当人である夏油先輩はおらずどこか別のところにいるのではないか?

 

 

『そんなことを言っている場合か!折本里香が暴走していれば街一つ消えていたかもしれないのだぞ!!』

 

 

 

『今いいところなんだ、邪魔するのはやめてもらっていいかな?』

 

 

『最近話題の里香ちゃんは見れなかったけど』

 

 

 

『きっとすぐ会えるよ』

 

 

 

そうだ、そうだそうだ!!

 

この負け戦を勝ち戦にひっくり返す手札を我々、こちら側が持っているじゃないか。

 

五条先輩を驚かせるほどの圧倒的呪力量、広範囲に及ぶ強大な火力。呪霊を御する夏油先輩もまた操ることができる最強の切り札が。

 

「狙いは高専!! パンダ、棘!!」

 

「どうし―――」

 

「質問は無しだ、今から二人を高専にむけて光速で投射する」

 

「なんで!?」

 

「この前の男、夏油先輩はたぶん高専にいる。絶対に渡しちゃならないものがあるんだよ、頼みたいことは!!最悪の場合憂太と真希が死ぬ!!」

 

質問無しといった手前ではあるが、状況がわからなければ打てる手も打てない。主人たる憂太さえ無事なら里香ちゃんが夏油先輩の手に渡ることもないはずだ。

 

そんじょそこいらの呪いとは異なるレベルで呪われている憂太から呪い(里香ちゃん)を引きはがして手中に収めることはできないだろう。憂太さえ生きていればその最悪の場合もないだろう。

 

そしておそらくパンダと棘は夏油先輩に勝てない(・・・・)。俺の仕込んだ術式での強化とか呪言とかそんなんじゃない。夏油先輩は五人しかいない特級の一人、そうやすやすとやられてくれるわけがない。高専のすべては憂太に委ねられた。あの二人(パンダと棘)は起爆剤だ、ぶっつけ本番で里香ちゃんを御するための起爆剤。

 

こんな方法でしか現状を解決することができない事実に歯噛みをするが今はこれが最善手だ。

 

俺が直接高専に出向く手もあるにはあるがこれはこれで問題がある。この地には多くの呪術師がいるものの、こちらが勝ちきるには俺という人間がこの場に必要なのだ。それに五条先輩もこの異常に気が付いているはず、すぐにこちらに向かってくるだろう。京都には御三家の本家があるので呪術戦の戦力としては申し分ない。戦力の偏りを恐れて俺と五条先輩を別々に配置したわけだが、五条先輩ならすぐに戻ってきてくれるだろう。

 

 

内心で頭を下げながら術式を行使する。大柄なパンダも含むように直方体の形に呪力が奔り二人を囲んだ。

 

先日考えていた攻撃術式、粒子を光速で相手にぶち当てるという術式の応用。高専の方角に光速で発射した対象物(パンダと棘)に重力負荷をかけて無理やりまげて山なりに投射する。体にかかる負荷は事前に仕込んでおく反転術式で常に回復させる。瞬間移動とはちょっと異なるが一秒で地球を七周半する光速で移動すれば誤差だ。

 

「頼んだぞ!!」

 

「おう!!」

 

「しゃけ!!」

 

目標座標は高専、その中でも一等嫌な予感がする高専の中庭に設定する。二人を囲む空間に、体に呪力が充填される。

 

空に昇る呪力の残留を残しながら目前から二人の姿が消えた。

 

 

開戦

 

 

周囲に散漫していた呪力が集まり励起する。様子見をしているようだった呪霊たちが各々活動を開始した。

 

「お前らに構ってる時間なんてないんだよ!」

 

今回のために広範囲における人避けと認識阻害の帳が降ろされている。事前にお願いしたように帳の最大高度をかなり高くしてもらった。ここなら使える広範囲に及ぶ殲滅術式がある。この場に集まった呪術師が呪いに向けて攻撃を開始する中、新宿の上空に意識を向ける。

 

術式を行使するために掌印を組もうとしたその瞬間、異質な雰囲気を放つ縄が俺を襲う。

 

すべての攻撃に対して俺に進むにつれて相対的に遅くなるように作用するはずなのだが、減速空間を打ち消して越え俺の腕に迫る。接触する直前に、呪力で強化した腕でそれを弾いた。

 

「アンタノ相手ハ、俺ダヨ...特級」

 

「あいにくお前に構ってる暇はないんだよ」

 

案の定、俺の眼前には事前に厄介そうだとマークしていた外人術師が立っていた。手には様々な種類のひもが編み込まれているような縄の束。

 

絵にかいたような片言の言葉に多少の苛立ちを抱え、反撃する形で呪力を込めた打撃を放つ。しかし縄を用いた予測しにくい攻撃の軌道にそらされてしまった。 

 

その後も一手二手と攻撃を連ねるがどれも有効打には至らなかった。縄のせいというのも考えられるが、素の能力値でもこの男はかなりのやり手なのだと評価を一段階上げる。

 

(それに...さっきから感じてた違和感、正体はあいつじゃなくてあいつが持ってる()か)

 

さっきの呪力を帯びた打撃もそうだ。纏う呪力が解かれて霧散する、呪力が乱される。呪力だけじゃない、減速による停止術式を打ち消した点から術式をも乱す。

 

 

厄介だ。

 

 

呪具であるあの縄を取り上げてしまえばいいがそのための術式をも乱される。

 

相対的に時間のズレを任意に引き起こして胴に一撃を叩きこむ。そこに生まれた隙に渾身の回し蹴り。縄と体の動きを合わせることによって衝撃を受け流そうとするも、すべてを無力化することができずに後方のビルへと吹っ飛んでいった。いまの一撃を喰らったのならすぐには起きてこれないはずだし多少時間は稼げる。

 

黒閃を用いた攻撃でなら衝撃で倒せるかもしれないが、黒閃を使うには相当の精神力がいる。身体的なケガや消耗は反転術式によってすべてを無効化できるが、精神的なものは治癒することができないため皮肉なことにそれこそ時間の経過でしか癒すことができない。夏油先輩という親玉がまだ控えていることもありこの場で消耗することはできるだけ避けたい。

 

現状、こちらがアドバンテージを確保しつつ戦うことができている。高専にいるはずの四人のことも気になる。この状況を維持したままできるだけ迅速に無力化する。あの男さえなんとかできればあとはこの場にいる術師に任せて問題ないはずだ。今のうちに他の術師の手に余りそうな呪いを叩き潰しておこう。

 

交差点の真ん中にトラックほどの大きさの中型呪霊、ビルの屋上に寄生する大型呪霊エトセトラエトセトラ。こちらの損害はそれなり、此度の戦争においてまだ致命的とは言えないものの敵味方問わずに死人を出したくないという俺の意思を貫き通すためにはそろそろ決着をつけてしまいたい。

 

中型呪霊の相手をしていた術師を円形上外側に引き寄せて空間を作り圧殺する。大型に関しては術師の攻撃が届きにくいという点からなかなか攻撃が通らないことでこちら側が押され気味になっているだけで、圧倒的に強いわけではない。なので屋上との接続点になっている手の形状の柱を捻じり切ると地面に叩き落とす。俺の意図に気が付いてくれた術師が動いてくれているのであとは任せても大丈夫だろう。

 

あの男が飛んで行った方向に落下しながら、そこいらをうろうろしていた呪いを可能な限り叩き落す。中型の呪霊に関しては呪力の刃で切断し分割してほかの術師に任せる。

 

そうして吹き飛ばした先、線路沿いに並ぶ住宅街の一角に立つ。

 

「はぁ!?ミゲル、アンタ何してんの!!?」

 

「見テワカレ!!」

 

なるほど、この術師の名前はミゲルというのか。

 

そのミゲルとやり取りをしていたのは白黒と特徴的な女子高生二人、夏油先輩による宣戦布告の時に高専にも来ていた子と同じだ。

 

そしてその女子高生二人と対面するように立っていたのは

 

「灰原!?」

 

「円李じゃないか!!」

 

おそらく補助監督として参戦していただろう灰原が対面して立っていた。

 

灰原の隣に降り立ち呼吸を整える。

 

「状況は?」

 

「うん!あの子たちによる被害がそれなりにある!!僕がもう少し早ければ間に合ったのにね!!」

 

灰原の目線を追うと商店街の入り口にあたる門に首つりにされた補助監督の姿が三つ。幸いなことにまだ死んではいないようなので、首つりの縄を切断し落下の際の衝撃を反対側への引力を加えることで緩和して落下させる。合わせて反転術式による治癒を行う。

 

「助かったよ円李!!」

 

「さて、とりあえず後は目の前のかな」

 

「誰だよアンタ」

 

「邪魔するんなら吊るすけど」

 

対面する女子高生二人が手にはそれぞれの呪具と思わしきもの。黒のセーラー服の子は首にあたる部分に縄が締め付けられたてるてる坊主のような人形、シャツにセーターを着た子は残穢を感じるおそらく術式を行使するカギになるであろう携帯電話。見たところ補助監督を吊るしたのは黒の女子高生だろう。

 

「人を殺したことは?」

 

「まだ」

 

「ならまだ引き返せる。その力を人に向けちゃぁいけない」

 

初めて人を殺すという行為には莫大なエネルギーを要する。それは社会的に構成された生まれ持っての倫理や常識によって構成されたある種の壁を壊すことによって初めて殺害という行動を選択できるようになるからだ。逆に、一度人を殺すという経験をしてしまえばそれ以降は簡単に人を殺すことができてしまう。

 

文字通りまだ人としてやり直すことができる。

 

「....うっざ」

 

しかし帰ってきた返答は否定だった。

 

そうして少しずつ、しかし確かに自身たちが受けた扱いを話す。地図にも載ってない田舎町で呪術師がどのような扱いを受けているのか、そしてそんな地獄から彼女らを救い上げた夏油先輩の話。

 

「私達はあの人(夏油傑)が見据える世界を信じてる。誰も私達の邪魔はさせない!!」

 

「邪魔するやつは、吊るしてやる!!」

 

携帯電話のフラッシュが焚かれると同時に首に圧迫感を感じる。白色の目くらましに黒色の術式と考えるのが妥当だろう。縄が首を絞めつけようとするも、やがてほぼ停止しているかのように減速する。ほぼ完全に停止したそれを呪力で切断する。

 

白色の携帯電話に呪力が集まっていくのを感じる。おそらく先ほどのフラッシュはブラフで、次の攻撃が本命。カメラのレンズ部分に呪力が集中していることから、カメラの撮影で姿を収めた対象の干渉する類の術式だろう。なら対策はシンプル、カメラに映らなければいいのだ。

 

「灰原!!」

 

「応!!」

 

俺の考えをくみ取り灰原も動き出す。人差し指に纏った炎で縄を焼き切ると、そのまま今度は大地を切断するかのように地面に指をなぞる。その軌跡をたどるように、両者を分断する形で炎の壁が形成された。

 

補助監督は多少呪術の心得がある程度で実際に戦える人はわずかで、灰原は隻腕の身でありながらそれなりに戦える数少ないうちの一人。

 

熱炎術式(ねつえんじゅつしき)』、文字通り熱を操り火を操る術式。熱血キャラの灰原を体現するかのような術式だ。

 

完全に遮ることはできなかったとしても火炎の陽炎による揺らぎで正確に俺たちの姿をカメラでとらえることはできないだろう。

 

空を裂く音。

 

「そりゃ、()狙ってくるよな」

 

「バケモンガ!!」

 

呪力操作によるごり押しで炎の壁を抜けて飛んでくる縄を弾く。同時に、灰原もこの中では目前の男が一番実力があると判断し合わせて攻撃を仕掛ける。

 

しかし追撃を仕掛けようとした灰原の体の動きが不自然に鈍くなる。

 

白色を基調としたスマホケースが呪力で覆われ黒色へと変色し、呪具とかしたスマートフォンをカーブミラーに向けている姿が目に入る。

 

陽炎の壁を避けて通した射線に写った灰原があの白色の術式をくらった影響だろう。

 

出し惜しみはしていられないか。

 

呪詛師側とは異なり、こちら側は基本的に死人が出たらお終い。対夏油先輩の可能性を恐れて出し惜しみをして死人が出てしまえば負けだ。

 

「永永無窮!!」

 

世界の流れが止まる。

 

灰原のスーツを引っ張るように引き寄せて自身と立ち位置を入れ替えて前に出る。時間停止に加えて呪力の精密操作で精神力がゴリゴリ削られていくがガッツで何とかするしかない。

 

 

黒閃(こくせん)!!

 

 

世界が流れ出すと同時に先ほどの蹴りの時は時とは比べ物にならない速度で吹き飛び民家をいくつも突き破って飛んで行った。多少の違和感を感じつつ女子高生二人に向けた術式を呼び出す。

 

出力は通常の負荷の三倍、おそらくミゲルほど肉体面は秀でていないと判断し重力負荷をかける。そうして膝をつき地に伏せた二人から灰原が呪具(首つり縄とスマホ)を取り上げる。

 

「ぐ、何すんのよ!!」

 

「返して!!」

 

未経験の高負荷を受けてもなおもがく二人に近づき、額に指をあてて呪力操作の応用で意識を奪う。

 

あらかじめ呪詛師を拘束するための呪具を携帯していた灰原が片手で器用に意識のない二人を拘束する。

 

「助けてくれてありがとう!!と言っても助けてもらったことは見えてもいないんだけどね!!」

 

「こちらこそだよ。とっさに合わせてくれて助かった」

 

「どういたしまして!!さて、あの男の人はどうなったかな!?」

 

「...なんで黒閃ぶち当てたのに立ってんだよ」

 

「服ニモ編ミ込ンデ正解ダッタナ。ナカッタラ死ンデタカモナァ...!」

 

服にも武器の糸が編み込んであるせいで呪力が乱れて、その結果呪力によるひずみを利用する黒閃も起きなかったのか。

 

しかし、衣服の一部が剝げ肌が露出している箇所があった。それに加えて俺の術式を弾く代わりに煙を上げて短くなる縄。消えてなくなる代償に術式を無効化するのであればもうあちらに防御策は多く残されていない。

 

だが油断はできない。であれば

 

「灰原、ほかの補助監督のカバーに向かってくれ。さっきの感じだと、呪術師そっちのけで補助監督から狙ってるやつもいるかもしれない」

 

「わかったよ!!円李も死なないでね!!」

 

屋根伝いに消える灰原を見送り、次にミゲルに目を向ける。

 

作戦変更だ。一刻も早くこの場を収めて高専に向かう。

 

夏油先輩を倒し切ることはできなくても、五条先輩が到着するまでの時間稼ぎにはなるはずだ。今求められるのは一刻も早く教え子のもとに向かうこと。

 

「悪いがさっさと終わりにさせてもらうぞ」

 

「本気ジャナカッタノカ、フザケタ男ダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(夏油カラ聞イテイタ時間停止ニヨル確定攻撃。縄ノオカゲデ黒閃ハ防ゲタガ、ソレモモウ半分モノコッテナイ)

 

 

『円李はね、ある種の天才なのさ。原子レベルにまで干渉する無下限呪術を自由自在に操れるのは悟のもつ六眼あってのもの。対して円李も重力操作から転ずるあらゆる量子現象を操るけど特別な眼は持ち合わせていないんだよ』

 

『幼少期、円李は富士樹海の土地神の元、呪術を独学で磨きながら育ったそうだ、本人から聞いた話なんだけどね。そして神と時間を過ごしたものには神の気(・・・)が流れ込むわけだ。』

 

『そうして全く別の上位存在から祝福された体は文字通り人間離れした体へと移り変わっていくわけ。円李は人でありながら人という枠組みを脱しようとしているんだよ』

 

『まぁ、何が言いたいかって話なんだけど』

 

『甘ちゃんの円李のことだから死ぬことはないと思うけど』

 

『悟とは別ベクトルで最強だよ、円李は』

 

 

 

(ノルママデアト10分弱、死ヌコトハナイカ)

 

目前に見えるのはあきらかに先ほどより呪力を濃く纏う、片手で数えることができる特級呪術師、節円李。こちらに向けられた圧を前にして自然に脚が後ろに下がる。

 

「死ンダラ祟ルゾ!!夏油!!」

 

 

こうして、ミゲルの短くて長い対円李遅滞戦闘が始まった。

 

 

 





お久しぶりです。長らくお待たせしてしまいました。

この話マジでまとまらなくて考え続けるうちにモチベが死んでこのままだとよくないと思いいったん離れてました。

暫く更新は続きそうな気がしますので、今後も本作をよろしくお願いします。

あと、感想・評価ありがとうございます。いつも私の起爆剤になってくれています。ぜひよろしくお願いします。


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出オチじゃん

ミゲルだいたい一年ぐらい遅滞戦闘頑張ってたわ


 

とんでもない外れくじだ。

 

ミゲルは一つ一つが致命傷になりうる拳と脚を捌きながら舌を打つ。

 

夏油から聞かされていたが実際に対峙することで、目の前の男のやばさを感じることができる。

 

地球上に存在する限り生物や無機物問わずすべての存在を捉える重力を局所的とはいえ操る特級呪術師。節円李の本質は重力操作による攻撃ではなく、重力を操ることによる時間操作。タイミングを任意で操作することを可能とするその技術により、すべての攻撃が呪術師として一つの到達点である黒閃となりミゲルに襲い掛かる。

 

殺気を感じてから動くのでは遅すぎる、攻撃が通るすべての手に対応しなければ終わってしまう。すべてに意識を向けることによって自身の集中力が信じられない速さで削られていく。

 

(クソ、コノママジャジリ貧ダ!!)

 

余り余裕のない黒縄を振るい、先ほどのお返しとばかりに力のまま円李を吹き飛ばす。

 

(コレデ時間ハデキタ、考エロ!オレノ目的ハ勝ツコトジャナイ、アクマデモコイツヲコノ場ニトドメテオクコト!)

 

ずり落ちたサングラスを直して帽子をかぶりなおす。

 

攻撃の雨が止んだ瞬間を狙って、夏油が放った呪霊が数十匹と円李に襲い掛かる。円李が吹き飛ばされた先を呪霊の波が覆いつくすが、水風船のように弾け飛んで行ってしまった。

 

倒壊した建物の残骸の中でもひときわ大きなコンクリートの塊を蹴り飛ばしてその影は現れる。

 

「おいおいおい、貴重なその縄使っちゃったなおい」

 

何でもないような風体で円李は歩む。

 

「ウオ!?」

 

悪寒を感じ取りミゲルは大きく横に跳ぶ。元居た場所には大小さまざまな瓦礫が矢のように降り注いだ。もし少しでも遅れていれば下敷きにされて動けなくされていただろう。

 

余りにも派手に登場する円李に意識を向けられていた。

 

上を見ればいくつもの瓦礫が宙に浮いており、鋭いほうではなく()になっているほうをこちらに向けて狙いを定めていた。

 

「優シイナ、ドウヤラ本当ニ死ヌコトハナサソウダ」

 

「死ぬほど痛い目見てもらうがな」

 

「マッタク、勘弁シテクレ」

 

一瞬の静寂。

 

瓦礫が動くのと同時にミゲルは全身の強化に回していた呪力を脚に集め駆ける。

 

(ソウダ、アクマデモ時間カセギ。致命傷ニナリニクイ攻撃ヲシテクレルナラ上々、コノママ適当ニ避ケテヤル)

 

その時に気が付く。

 

(マテ、アイツハドコダ!?)

 

気づいたと同時に襲い掛かる腹部への衝撃。呪力が奔っているが、服に編み込んだ黒縄によって致命傷レベルの攻撃は致命傷にはならなかった。

 

連撃、黒縄と脚に回していた呪力を全身に巡らせて円李に対応する。

 

しかし無限にも思えるほど繰り出される攻撃を捌くことによってミゲルにはある気付きがあった。

 

(ソンナコトイッテモナァ...)

 

「いい加減にしてくれよ、俺は可愛い後輩のためにもさっさと高専にもどらなきゃならないんだから」

 

瞬間

 

また円李の姿が消失する。円李は命までは狙ってこないらしい。死ぬほど痛いことはあっても。

 

であれば円李は戦意の喪失か継戦不能を目標として動くはずだ。ミゲルに戦闘を放棄する意思は少しもないことは交わした拳によって察しているはず。よって消去法で

 

「クッ!!」

 

考える前に体が動く。円李が狙うのはミゲルの背後。

 

頭を下げ、振りかぶられた拳を躱して背後に向かって足を掃う。気絶を狙った当身、そうくるだろうと見当をつけていたため辛うじて動くことができた。

 

大きく飛び上がることでそれを回避した円李はお返しとばかりに踵を振り下ろす。降りかかる攻撃を両手で受けながら先ほどから感じていた違和感にミゲルは確信する。

 

(ヤハリソウダ、間違イナクコイツモ疲労ガキテル!コノ攻撃ダッテ術式ノトモナッテイナイタダノカカト落トシ!コレハ...)

 

黒縄を振るって改めて距離をとる。

 

時間操作によってすべての攻撃を黒閃へと転ずることができるというのに、今の円李の戦い方は鋭い攻撃に間に虚を突くように黒閃を混ぜてきている。

 

理由はどうあれすべての攻撃が黒閃でないのであれば黒網の消費量も抑えられてより時間を稼ぐことができるだろう。

 

行ける、何とかなるかもしれない。

 

若干の期待による高揚感がミゲルの心に湧く。

 

(イケル、イケルゾ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くっそ疲れた、なんだこの外国人呪術師は。

 

殺せないなら行動不能にしてしまえ。ミゲルとかいう男の背後をとった俺はとっておきでこの戦いを終結させた。

 

今だ煙が揺蕩う義手の人差し指。青崎さん謹製のこの義手に仕込まれた隠しギミックの一つ。銃だ。

 

ある程度の実力を持った呪術師には銃弾なんて効果がないだろう。所詮ただの物理ダメージである銃は呪力による身体強化で容易に耐えることができる。大きく吹き飛ばされても五体満足でいられるような身体強化によれば容易い。

 

元気があればだが。

 

身体強化も施せないほど疲れている相手、もしくは圧倒的に油断しているような相手に有効な攻撃手段。それが銃であると。

 

さらにこの銃は術式や呪力に全く依存しない、火薬で玉が飛んでいく由緒正しい銃である。呪力による感知にも引っかからないためなおのこと状況によってはハマる事だろう。

 

弾丸はミゲルの右太ももを貫き動きを止める。そのすきを狙って腕を捻って地面に伏せさせる。

 

言葉にすればあっけない終わりかもしれないが勝ちは勝ちだ。夏油先輩からの言葉から五条先輩並みに俺のことを警戒するはず。まさかこんなしょうもない手を打つとは思ってなかろう。

 

ミゲルを下に敷いて息を吐く。戦闘の余波で壊れ飲み物をばら撒く自販機からオレンジジュースと書いてある缶を引き寄せる。

 

カシュッという聞きなれた音が心地よく感じる。

 

久しぶりにとんでもなく疲れた、また大きく息をついてオレンジジュースを呷る。

 

「おい、何が目的だ」

 

空いた手で頭を小突きながらミゲルに問いかける。

 

「ヘ、夏油ガ言ッタトオリダヨ」

 

「いや違うだろ、だってこの場に夏油先輩いないじゃん。ねらいは乙骨君、だろ?」

 

「シランナ」

 

「ああそう」

 

携帯電話を取り出して時間を見る。自身が想定していたよりも時間を稼がれてしまったらしい。五条先輩からの連絡もないから、まだ状況は継続していると考えていいだろうか。

 

「さて、どうしようかな」

 

さっさと動くべきではあるがこの男、相当の術師だ。手を離した瞬間に逃げおおせるだろう。流石にこのレベルの男を無視できるほど楽観視はしていない。

 

信用のある誰かに引き渡してしまいたいがどうしたものか。

 

そう考えていた時、視界の端に火の粉が舞った。

 

「やぁ円李、かなりボロボロじゃないか!!」

 

俺ほどではないものの、全身に煤や汚れが見える灰原がそこにいた。

 

「おつかれ灰原。状況はどうなってる?」

 

「そうだね...戦局を読めるほどの人間ではないけどいわゆる撤退戦っていうやつに移行したように見えるかな!!」

 

「なるほどね」

 

その時、ひときわ大きな鳴き声と共に倒壊音が響く。まるで気を引くかのような行動にも見えるそれをみて、灰原の感じる撤退戦の雰囲気を実感する。

 

「結構な数がいたと思うけど、他の術師は大丈夫だった?」

 

「大丈夫じゃないね!かなり損耗させられた、硝子さんもかなり忙しそうだったよ!!」

 

一種の戦争であり、夏油先輩の目的が達成されるまでほぼ無限に呪霊が襲い掛かってくる様に最後まで戦う気力を奮い立たせて立ち向かい続けるのは難しいだろう。

 

「俺も向ったほうがいい?」

 

「どうだろうね、さっきも言ったけどもう撤退戦って感じだし。どちらかというと呪詛師を守る形で動いている感じだからね、ここからの猛攻はないんじゃないかな!!」

 

「おっけ...おいお前のところ、クソめんどいことしてくれたな。どうしてくれんだオイ」

 

呑み切ってからになった空き缶で文字通り尻に敷いたミゲルの頭をコツコツと叩く。

 

「俺ハ夏油ノ指示ドオリニ動イタダケ、シランナ」

 

もしかしたらこいつ、いいやつなのではなかあろうか。交わした言葉から純粋な悪意を感じないし、どちらかというと利害の一致だったり雇い雇われみたいな関係性を感じる。

 

どうするかはいったん五条先輩に判断を仰いだほうがいいだろうな。触れただけで術式を雲散させる呪具の作成に関するノウハウだったり関係者であるミゲルの扱いについて、上層部が入ってくればまた面倒なことになりかねない。

 

どうにか信頼できる(・・・・・)術師だけでとりあえず収容しておきたい。

 

「灰原、俺は念のためもっかい戻る。信頼できそうな術師と補助監督を、そうだな。それぞれ二人ずつ連れてきてくれ」

 

「わかった!じゃあ少しだけ待っててくれ、すぐ戻るよ円李!!」

 

灰原を取り囲むように炎が生じ、先ほどと同じように火の粉を残して姿を消した。

 

さて、あとは高専がどうなったかだな。

 

憂太の潜在能力は五条先輩に匹敵するようなレベルにあるんじゃないかと思っている。少なくとも技術の経験がない人間がたった数ヶ月で真希と打ち合えるほどの剣技に至れることはない。

 

起爆剤

 

取った手としては最悪だったかもしれない。夏油先輩にはかなわないとわかっていた。同期が傷つく姿をきっかけに呪力の本質に触れ、制御できるのではないかと思った。

 

「里香ちゃんに殺されても文句は言えないな」

 

俺に備わる第六感のような勘では最悪のケースには至ってないように感じ取っている。

 

携帯電話を見れば五条先輩から簡潔にメッセージが届いていた。

 

内容は『高専に合流した、問題なし』

 

とても短い量ではあるが、五条先輩がいるなら一人でもなんとかなるだろう。

 

 

 

なんせあの人は最強なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




呪術廻戦0上映おめでとうございます。

乙骨シンジ君とか言われてたけど、意外とそんなことないなと思いました。戦闘シーンがいい感じにマシマシにされていてめちゃよかったです。

そろそろ空き始める頃でしょう...



さて、大変お久しぶりです。書きたいことをつらつらと書いていた本作品、辻褄合わせが難しくなってしまいモチベの低下もあり離れていました。が、ありがたいことに感想をいただきまして投稿のほうさせていただきました。

とりあえず0巻何とかまとめて、本編も頑張りたいなと思います。



もしよろしければ評価・感想・お気に入り登録していただけると嬉しいです。

あと明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。


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幕間-2
ひと段落じゃん


たくさんのコメントありがとうございます。

あったけぇ...寒い中家にやっと帰ってきて飲む味噌汁くらいあったかい。


 

 

 

○月○日

 

やっと落ち着いたのでここ最近あったことを書いておこうと思う。

 

結論から言うと、夏油先輩の目論見は無事阻止されたらしい。東京高専一年は憂太を除いて大怪我ではあるものの、なんと憂太の反転術式によって事なきを得たらしい。

 

聞くところによると憂太の本質はどんな形にもなれる無形の呪力であり、しかも保有呪力量が五条先輩並みとのこと。潜在能力がとんでもないとは思っていたけれどもこれほどとは思っていなかった。

 

ちなみに夏油先輩の遺体は五条先輩に完全に任せた。俺もそれなりに仲良くさせてもらったが、やっぱり二人にしてもらいたい瞬間とかあるだろう。二人の中で納得できる終わり方はできたのだろうか?

 

個人的にはこの後のほうが大変だった。

 

まずは憂太にぶん殴られたことだ。特級である夏油先輩にパンダと棘がかなわないと知っていて時間稼ぎのために送り込んだこと、また二人が傷つくさまをきっかけにしようとしたことをわかっていたのにあの選択をとったことを打ち明けたからだ。

 

憂太のポテンシャルと里香ちゃんに賭けるしかなかったし、俺も五条先輩も向うことが難しい状況的に最善であるとその時考えた手であったが。「僕がうまくできなかったせいかもしれない、でももうこんなことはしないでください」と言われて左頬に鋭いのをくらってしまった。

 

常に生死がどうなるかわからないこの業界で、保証はできないが善処することで手打ちとなった。

 

憂太は自分のせいもあるといったかもしれないけれどそれは違う。

 

百鬼夜行の時にはそこまで考えが回らなかった。先輩が後輩を、先生が生徒を守ることは当たり前なんだよ。術式や技術で戦えるといっても君たちはまだ生徒だ、俺がもっと何とかするべきだったんだ。

 

言い訳はできない。

 

 

 

○月○日

 

大変だった。

 

何が大変だったかって医療班に強制的に運び込まれたことだ。

 

余りにも多く襲い掛かる呪霊に疲弊して戦うことをあきらめてしまった術師が多く出てしまった。そのため百鬼夜行の途中あたりから指数関数的に負傷者が増加していっていたそうだ。

 

そのため、最終的な負傷者はかなりの数になったのだ。

 

治療を行える術式を行使できる術師はとんでもなく少ない。汎用性の高い医療行為を行えるのは家入先輩と俺くらいだ。

 

俺の場合は欠損したものがそろっていること、あくまでもばら撒かれた血肉がその場にあればそれぞれをもとの場所に戻せるというだけの術式である。

 

生きていれば何とかしてやる、と豪語する家入先輩には遠く及ばないものの条件をそろえれば確実に治療することができる俺が起用されるのは当然の帰結であるともいえる。

 

そんなこんなでとんでもなく忙しく過ごしていた。

 

とりあえず今日はリラックスした一日を過ごすとしよう。

 

 

 

○月○日

 

とりあえず俺が担当した人は呪術師として継続して活動できなくなるような人がいたけれども、一応何とか生きてはいるしいずれは社会復帰できるそうだ。

 

なんと俺のもとに直接出向いてお礼を言いに来るような人もいた。

 

連行されたときはなんてこったと思っていたが、できることをきちんとすることができたんだと。助けられる命を助けることができたんだなと実感できた。

 

なんだかいいことが起きそうだったんで外に出れば500円玉を拾った。

 

間違いなく俺のほうに風が吹いている。

 

 

 

○月○日

 

ミゲルと会ってきた。

 

呪詛師側に立っていたということもあり、上側は牢にぶち込むかお得意の死刑にするつもりのやつらが何人かいたが、五条先輩が黙らせたらしい。

 

本人もあくまでも夏油先輩にスカウトされただけでもう呪術師を襲うつもりがないと明言しており、なんなら縛りを付けてもいいと言っていた。

 

まあ実質術式を完全に無効化できるような呪具があり、悪意を持って参戦していたならもっと被害は拡大していただろう。その特性ゆえに抵抗することもできず殺される術師がいたかもしれない、そう考えるとミゲルがああいうやつでよかったなと思った。

 

というか何十年かかければ術式を無効化できる呪具を作れる部族えぐいな。いつ保護という名の軟禁されてもおかしくないと思うんだけど....

 

そんなこんなでしばらく様子見で、許可が出れば釈放とのこと。

 

十分な実力者が監視につくことを条件に出してきており、俺にお鉢が回ってきたがいいように七海と灰原に押し付けて来た。

 

何が悲しくてゆっくりしたい年末に外国人呪術師と一緒にいなければならないのか。

 

サラリーマンから復帰してあまりたってない七海にはちょうどいい任務だろう。知らんが。

 

さっき携帯電話開いたら、『覚悟しておくように』というたった一文のメールが七海から来ていた。

 

まあ当分会う予定もないし、のらりくらりと躱させてもらおう。

 

 

 

○月○日

 

一年ズのお見舞いに行ってきた。パンダは夜蛾学長の応急処置ですでに見た目はいつも通りになっており、けがをしていた棘と真希に世話を焼いていた。

 

思った以上に元気そうだったので改めて安心した。

 

お見舞いの品は梨などの喉にいいとされているものを気持ち多めに構成された果物セットだ。

 

パンダはどうしてそんな手できれいに林檎が剥けるんだこらこっち向いてサムズアップするななんかむかつくだろ。

 

話をしているときに憂太とあった。少し気まずかったが、いつも通りでいいとのこと。

 

全員に俺の行きつけのラーメン屋で何を頼んでもいいことを条件にしてこの一件はもうおしまいだと話が付いた。これを機に食べまくってやると息巻いている一年生に楽しみにしておいて、と告げて帰った。

 

ラーメン屋は意外と高いからなぁ...

 

 

 

○月○日

 

事後処理だったりのもろもろが終了した。

 

朝のニュース番組では百鬼夜行の現場の一つであった新宿、新宿駅の周辺が流れていたがまるでいつも通りのように人々が行きかっていた。

 

いつもと違う点をあえて挙げるとするならばクリスマスが終わり年末に向けて忙しそうにする人が多く歩いているように見える。

 

年末は呪霊もあまり活発にならないし、百鬼夜行の一件もあったもんで特に功労者には年末の強制休暇が与えられている。

 

俺もよく休むように夜蛾校長に言われたためゆっくりしようと思う。

 

去年はなんやかんやで年越しそば食べられてないんだよなぁ...

 

とんでもなく忙しかったし、家でテレビ見ながら即席そば食べながら年を越すとしよう。

 

せめて残り数日は平和であってくれよ、なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、そっち忘年会には行けません。

 

いま、京都にいます。

 

呪術界の上下を横断する禪院家に誘拐されるような形でこっちの忘年会に参加させられています。

 

本当は憂太や一年のみんなと行きたかった俺おすすめのラーメン屋の味が恋しいけれど、今はもう少しだけ知らないふりをします(不可抗力)。

 

私が参加することでこの呪術界も、きっと誰かの人生を乗せるから。

 

 

 

 

 

 

「んなわけあるかボケカスッ!!」

 

羽織りを廊下に叩きつけてそう叫ぶ。

 

今日は12月31日、年末の大晦日だ。去年は紅白だったので今年はガキ使を見ながら引きこもり生活を謳歌してやろうと思っていたのになぜか円李は県は京都、禪院家の本家にいた。

 

意味が分からん。

 

前日、高専の職員室で一年間の資料の整理とまとめをしていた時のことだ。禪院家の使者が急に職員室に乗り込んできた。なんでも当主様であらせられる禪院直毘人が俺をご所望とのこと。

 

もちろん断ったが、通りすがりの五条先輩に行って来いと言われてしまった。

 

五条悟のおかげでお宅に節円李が向かうとその場で手紙まで用意して使者に持たせていた。

 

最近またいろんな方面で無茶したそうでツケが貯まっているのでこれを機に精算してやろうということらしい。円李ならそんじょそこいらの問題なら何とかするでしょうというお墨付きが全くありがたくない。

 

そんなこんなで今俺はここにいる。

 

たしかにご飯もおいしかったし、待遇もめちゃくちゃよかった。クソみたいな婚約話をまるで当たり前のことのように告げたことから倫理的な嫌悪感があったが現状はただの京都のお高いお宿と大差ない。

 

禪院直毘人一派と思われる人からはなんだか痒くなるような好意的な雰囲気があるんだがそれ以外からは時々刺すような視線を感じることが時々ある。

 

こんだけ大きな家となれば本家と分家だったり、内部での争いとかあったりするんだろうか。直毘人をよく思ってない人からすればこの催しはあまり気分がいいものでもないかもしれない。

 

慣れない和装でいるのもすこし疲れたのでこうして会場からでて、廊下に出てきたのだ。まじで帰りたい。

 

「やぁやぁ、特級サマは人気者でええな」

 

声のするほうを見ればこの場にはあまりふさわしいといえないような風体の男が立っていた。

 

ニヤニヤとした口元に釣り目気味ではあるが整った顔。なによりもこういった和の影響が強い場で金髪はかなり印象深い。

 

「えっと...あなたは?」

 

「おろ、まさか君。俺のことしらないん?」

 

ニヤニヤニヤニヤ

 

なんとなく全容を掴めないさまは狐のようだ。金色の狐目だし。

 

「俺は禪院直哉、君とタメや」

 

禪院直哉

 

その名を聞いて思い至る。せめて当主や権力的に実力のある術師や人間の名前だけでも覚えておくだけで、幾分か生きやすくなるよ。ということで聞いていた名前の中にあった名だ。

 

現当主である禪院直毘人の息子で、数いる兄弟の中でも一番の実力者。次期当主の有力候補。

 

「なんや、知っとるやんか。君考えてること顔に出やすいんやな」

 

「で、何の用ですかね...?」

 

なんだかまた面倒ごとな気がしてきた。

 

やっぱもう帰ろうかしら、そこまで広くもない我が家がなんだか恋しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 






日常回?を書いてみたいと思い挟みます。ゆうて次で終わりだと思いますが。



ランキング入りしてました、これも皆様のおかげです。見ていただきありがとうございます。

もしよろしければ、モチベに直結するお気に入り登録・感想・評価のほうをしていただければと思います。

では


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巻き込まないでほしいじゃん

また投稿していなかったため初投稿です。


 

 

 

「簡単な話や。腹も適度にたまったやろ、軽く運動でもどうや?」

 

「嫌です」

 

なんてことを言うんだ。

 

次の新しい年に向けて備える大晦日、誰もがゆっくりと過ごしたいと思ってやまない今日この日に手合わせだと?寝言は寝てから言ってほしい。

 

どうせこういう時に言う運動って一般的なランニングとかスポーツじゃなくて試合とか模擬戦闘とかだろ。とんでもないことだ。

 

相手は禪院家の次期当主として期待が集まっているあの禪院直哉。五条先輩の次に強くありたいと思い、相応の力を持っていると自負しているがそのレベルの相手になればケガを負うかもしれない。無傷であるにはそれなりに苦労するだろう。

 

まぁ負けるつもりも毛頭ないが。

 

元々俺はガキ使見て蕎麦食べながらごろごろして過ごす予定だったのだ。五条先輩の顔を立てるというのも理由だが、お世話になっていた分お返しするために今日この場にいるだけだ。

 

わざわざ面倒ごとをおっ被るなんてごめんなのだ。

 

「無駄な殺生はしない主義なの。必要じゃないなら拳は出したくないの」

 

「なんや、ケチくさいな。減るもんでもあるまいし」

 

「減るもんならあるぞ。俺の呪力と元気だ」

 

わざとらしく大きなため息をつく。頼む、心底やりたくない意思表示だ。伝わってくれ。

 

相も変わらずニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべながらこちらを見る直哉を伺う。

 

一体こいつは俺に何をしてほしいのだ。まさか本当に俺と戦いたいだけか?

 

「いやな、最近は呪術高専も質が下がったんやないかってな。教員の質でそこらの質も図れるんやないかと思ってな」

 

「なんて?」

 

想像していた言葉とは違ったため、俺は多少驚いた。

 

古いお家柄である禪院家。そういった一族では権威と実力こそがすべて、それに伴って五条悟の次位に強いと評判の俺とパイプを作るために持ち掛けてきたのだとばっかり思っていたのだが。

 

違うのか?

 

俺がそんなことを考えている間に次の言葉をつづける。

 

「東京におるやろ。禪院の落ちこぼれ、あんなのを在籍させてる意味あるんか?」

 

「今...なんて」

 

「真希ちゃんのことや。高専での設備も教員も限られてる。そんでもって呪術師は万年人手不足。学び舎としてのシステムを考えればより才能のある人間に重きを置くべきだと俺は思うんや」

 

「なるほど、実に効率的だ」

 

事もなげに言葉を繋ぐ。次第に自身の声が低くなっていくのを自覚する。

 

不快だ。不愉快だ。

 

いや、ただ俺を煽っているだけだ。のせられたら負けだぞ俺。一息入れて精神の荒波を沈めようと努める。

 

しかし直哉はそれを知っていてか、気づいているだろうになお口を開く。

 

「せやろ。あれは術式どころか呪力もない。見えもしない。そんなんの担任をしてるアンタの質を知りたい」

 

「親でもないだろ。そんな過干渉だと親でも嫌われるぞ」

 

「そうでもない、なんたって真希ちゃんとはいとこの関係。心配したって何らおかしくないやろ」

 

「そうか」

 

直哉の言葉を受け、俺の中に久々に明確な意思が芽生えた。

 

 

こいつは『わからせ』なければならないと。

 

 

大事な生徒、真希の意思のすべてを知っているわけではないが生半可な覚悟では呪術師はやっていられない。

 

呪力を持たず見えもしないその体では呪術師になぞ到底なれない。それでも彼女は立っている。

 

いとこだか身内だが知らないが、人の覚悟を踏みにじるこの男を許しておけないと俺は思ったのだ。

 

「いいよ。ただし、仮にもオマエ(・・・)は禪院家の次期当主になるかもしれない人間だ。ボコボコにしても問題ない確証が欲しい。現当主の禪院直毘人の許可があれば食後の運動に付き合ってやるよ」

 

 

「ぶちのめす」

 

 

 

 

 

 

 

 

直哉にとって円李はいまいち物差しで測れない男だった。

 

直哉にとっての物差しは実力。力をもつ存在を正しく評価し見定める。

 

直哉にとって力のない雑魚は守る価値もない。ましてや身内にいるだけでもストレスが貯まるような存在だ。

 

 

節円李。

 

 

五条悟に次ぐ実力者、直哉が至る事の出来ていない特級の地位につく呪術師の一人。

 

呪術界最強と比較できること自体が力を持つ人間である証拠であるが、直哉はいまだに判断しかねていた。

 

もちろん禪院本家以外にも家同士のつながりがあるため、古臭いネットワークを通じて話は聞いたことがあるがそれだけでは判断できないというのが直哉の考えだ。五条悟については家のつるみで実際に会ったこともあるが、なんせ円李とはこれが初対面だ。

 

そして実力があったとしてもそれをひけらかさない。実力を持つものが下のものを支配するのが当然という考えが染みついている直哉にとって少々理解しがたい存在が円李だ。

 

そんななかで自身の実力がどこまで通じるのか試してみたいという思いが今回の件の発端となった。

 

もし勝てなくても自身の心の中でもやもやしていた節円李という存在をはっきりとさせることができる、勝てればあの特級を下したという事実と共に禪院家次期当主としてより箔が付く。

 

直哉としては試合に持ち込むことができれば満足であった。

 

しかし知らない、すでに龍の逆鱗に触れるどころか踏みつけにして唾を吐いているような状況に陥っていることに。

 

途中からあきらかに不機嫌になっていることを知っていても、その原因に気が付くことができない。

 

なぜなら心の奥底から雑魚に価値がないと考えているからだ。

 

せいぜいが、おかげで余計な手加減をされないようになったラッキー程度に捉えている。それがどのような結末を呼び起こすとはわからずに。

 

当主である直毘人からの許可は驚くほどすんなり通った。

 

『好きなようにやるといい。特級の実力、しかと見定めさせてもらおう』と酒を片手に禪院家地下空間の上座に居座り観戦の構えだ。眼前の景色を肴に呑むつもりだ。

 

服装を改め対峙する。

 

「さて、ルールはどうする」

 

「戦意喪失するまででどうや。あとは...まぁ死なない程度でいこか」

 

「了解、いつでもいいぞ。かかってこい」

 

円李の全身から呪力が励起するのが見て取れる。ただ立っているだけにもかかわらず、全身を押しつぶすかのような威圧感が場に満ちる。

 

(舐めてんのか、それとも...まぁ譲ってくれるんなら行かせてもらおか)

 

直哉の持つ術式は現当主である直毘人が持つものと同じ【投射呪法】。

 

自身の視界を画角の中で自身が描く動きをトレースする術式である。現実的に可能な動きであれば、想像した通りの動きを無理やり実現できるという術式である。

 

1秒間を24等分したコマで軌跡を描きそれを後追いすることが投射呪法の本質である。使いこなすためには自身の運動能力や術式といった詳細な情報を知覚する必要があることが難しい点でもある。

 

節円李が持つ術式の一番の武器は万物を縛る力の向きと大きさを操る力である。一度とらわれてしまえば逃げることは難しいだろう。

 

投射呪法では1秒間の間で光速に達する、などの現実的に不可能な動きをトレースすることができない。逆に言えば再現可能であれば無理が効くともいえる。

 

「ほな行かせてもらうで」

 

先手必勝

 

五条悟に次ぐその力を見てみたいが、まずは様子見だ。

 

投射呪法による動きの具現により、淀みないスタートを切り円李に向かって駆け出す。仮にこの初動で決着がついたらそれはそれ、力を見るまでもないレベルだったというだけだ。

 

投射呪法は自身が再現可能の動きでなければ強制的な静止というデメリットがある。逆に再現可能であればいいということ、直哉は呪術界でも上位の呪力操作の精度をもってして強化した自身の状態を既定とすることでより再現度が難しい動きを具現させる。

 

しかし純粋な速度勝負では円李に勝つことができないことを直哉は知らない。

 

重力に干渉し、原子レベルに干渉する円李は簡易的な時間操作ができることを直哉は知らない。

 

投射呪法の基本的な戦術としては高機動、そして特性を活かして相手を行動不能にしたのち攻撃するというもの。投射呪法を発動できるのは自身と触れているもの。触れられた相手はほぼ確実に術者の想定した動きができないため、投射呪法の性質上触れただけで相手を短い間静止させることができる。

 

そして今まさに直哉が円李に触れようとするその瞬間、世界から色が消えて時間が引き延ばされる。

 

円李は目の前の男を観察する。

 

動きは悪くない、むしろ上から数えたほうが間違いなく早いだろう。速度も並みの術師や呪霊では歯もたたないだろう。しかしいかんせん円李と相性が悪い。

 

触れる寸前の手を避けて直哉の横に立つ。

 

「相手が悪かったな。もう絡んでくんなよ」

 

豪華な日本庭園にある大きな池の方をめがけて頬をぶん殴る。

 

流石に黒閃までしてはやりすぎだと思い呪力で強化した拳を振りぬいた。

 

世界に色が戻った瞬間に直哉は頭から池にダイブしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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