戦姫燈炎SYMPHOGEAR! (生粋の名無し)
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序章 別世界(シンフォギア)来る!
標的(ターゲット)0 プロローグ


なんとか作ってみました。期待はしないでください。
…あとこの作品のメインタイトル、自分で考えておいてなんかダサい気がする…


~2017年4月9日~

 

並盛町(なみもりまち)

 

 4月、それは新しい学校生活が始まる季節。この並盛町でも、新しい学校生活に浮き立っている学生が溢れていた。

 そんな町中を、少年と子供が一緒に歩いていた。

 

「はぁ…なんとか入学式を乗り切ったけど、疲れたぁ~」

「学校に行っただけでなにくたびれてやがる。そんなんじゃ立派なネオボンゴレⅠ世(プリーモ)になれねえぞ?」

「うるっさいな!というか、俺はマフィアのボスにはならないって言って…「うるせぇぞダメツナ」イデッ!」

 

 子供が少年の後頭部を蹴りつける。

 ダメツナと呼ばれた少年、ボンゴレファミリー改めネオボンゴレファミリーの次期ボス候補である高校生「沢田綱吉(さわだつなよし)(愛称:ツナ)」と、ボルサリーノをかぶり、黒スーツを着て胸元に黄色いおしゃぶりをつけた、ツナの家庭教師であり最強の殺し屋(ヒットマン)でありマフィア界最強の赤ん坊『アルコバレーノ』と呼ばれていた七人のうちの一人、晴のアルコバレーノだった子供「リボーン」は、ツナの学校が終わり、ツナの家でありリボーンが居候している沢田家に帰っている途中だった。

 

「まったく、いつまでそんな腑抜けたこと言ってやがる?お前はもう継承式をすませてんだ。あとはお前がネオボンゴレファミリーを作るって宣言すればすぐにネオボンゴレⅠ世になれるんだぞ?」

「だから、マフィアにはならないって何度も言ってるだろ!それに、継承式(アレ)は山本を襲ったやつを誘き寄せるためで、そもそも継承する直前に襲撃をうけてそれどころじゃなかっただろ!ていうかお前、呪いが解けてから身体が急成長してるんだから遠慮ぐらいしろよ!」

 

 リボーンは元々大人だったのだが、アルコバレーノの呪いによって赤ん坊の姿(大体2歳ぐらい)にされており、ツナの家庭教師になったときも赤ん坊の姿だったのだが、ツナが中学二年生だった頃に起こった「虹の代理戦争」の際、ツナや大勢の人々の手助けにより、他のアルコバレーノ共々呪いを解くことに成功したのだ。それ以降身体が成長するようになったのだが、通常の二倍の速さで成長しており、現在は5歳ぐらいまで成長している。そんな子供に蹴られるのだ、赤ん坊に蹴られるより断然痛いだろう。

 そんなやり取りをしていると、気付いたらいつの間にか家の前まで帰ってきていた。

 

「これぐらい屁でもないって言えるようになってみろ」

「ちょっ、待てよリボーン!」

 

 リボーンはツナの話を軽く受け流しツナをおいてさくさく家に入っていく。そんなリボーンのあとを追うようにツナも家に入っていく。

 

「ただいま「お帰りなさいリボーン!」」

「大丈夫!?帰り道、何もなかった!?」

「ああ、なにもなかったから安心しろ」

 

 家に入ると、ツナの言葉を遮って女性がリボーンに抱きつく。女性の名前はビアンキ、「ポイズンクッキング」を使って標的を殺す「毒サソリ」の通り名をもつ殺し屋であり、リボーンの四番目の愛人であり、リボーンと同じく沢田家に居候している人物の一人である。

 ツナがそんないつも通りのビアンキに苦笑いしていると、奥の部屋からツナの母親である沢田奈々(さわだなな)が顔を出す。

 

「あら、ツっ君、リボーンちゃんお帰りなさい!」

「ただいま、母さん。フゥ太達は?」

「フゥちゃん達はらうじくんと一緒に公園に遊びに言ってるわよ~。そういえば、ツっ君達のお友達が遊びに来てるからツっ君の部屋に案内しておいたわよ~」

「え?誰だろう…?」

 

 奈々の言う「お友達」が誰なのか不思議に思いながら自分の部屋に向かうと、

 

「うわ!?なにこの状況!?」

 

 床には拳銃や機関銃、手榴弾がいたるところに散らばっており、部屋の一角にあった黒い物体がツナ達の方を振りかける。

 

「お久しぶりです、十代目、リボーン様」

「ジャンニーニ!?なんでいるの!?」

 

 黒い物体の中にいた、部屋が散らかっている元凶の正体は、ボンゴレファミリー専属の武器チューナーであるジャンニーニだった。

 

「理由なんですが、本来の目的はリボーン様達の武器の点検のためなんですが、日本に向かう途中で一つ思い付いたことがありまして…「おい」どうしましたかリボーン様?」

「お前、俺の武器に変な改造してないよな?もししてたら…」

 

 リボーンはそういいながらジャンニーニに拳銃を突きつける。彼は一度、ジャンニーニに自分の武器を謎改造されたことがあり、それを未だ根にもっているのだ。

 

「は、はい!リボーン様の武器は何一つ改造してません!」

「ん?リボーンの武器は、てことは、他のやつは何か改造したの?」

 

 ジャンニーニの発言に違和感を感じたツナが質問すると、ジャンニーニが満面の笑みを浮かべ答える。

 

「はい!それがもう一つの目的です!」

 

 そう言いながらジャンニーニは、後ろにおいてあった武器を取り出す。

 

「それって、ランボの十年バズーカじゃん!」

「はい、十代目が帰ってくる前に遊びに出かけたランボ様に貸していただきました。このバズーカ自体は点検しただけですが、十年バズーカの弾を改造して、力の向きを変化させたんです!」

「え?それってどういうこ…と!?」

 

 ジャンニーニの答えに困惑しつつ近づこうとした直後、偶然足元に落ちていた手榴弾を踏み、後ろに倒れ床に頭を打ち付ける。そしてツナが踏んだ手榴弾はジャンニーニの方に飛んでいき、ジャンニーニの額にクリーンヒット。その反動によりジャンニーニが十年バズーカの引き金を引いてしまう。改造された十年バズーカの弾は、不運なことにもツナに向かって飛んでいく。

 

「え゛!ちょっ!」

 

 頭を打ち付け痛がっていたツナは急な展開に対処することが出来ず、十年バズーカの弾に当たってしまう。ツナの部屋を大量の煙が覆い尽くす。

 

「…ジャンニーニ、お前の言っていた、力の向きの変化ってどういうことだ?」

「本来の十年バズーカは、現在の自分と十年後の未来の自分を入れ換える─つまり縦の時空軸を移動しているんです。なので、その移動する力の向きを縦から横に、つまり平行世界の自分と入れ換えれるようにしたんです。なので、本来なら平行世界の十代目がいるはずですが…」

 

 大量の煙の中、腕で顔を覆いつつ、改造した内容について話すリボーンとジャンニーニ。煙が薄れ始め、視界がはれはじめツナがいたところを確認する二人。

 ツナがいた場所には─

 

 

 

 

 

 

─誰もいなかった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナが目を開くと、真っ白な空間の中、流されるように移動していた。

 

(俺、また十年後の世界にいっちゃうの!?)

 

 ツナは、以前経験した状況に似ていることからそう考えたが、

 

(でも、あの時とは違う感覚がする…それに、ジャンニーニは力の向きを変えたっていってたし…)

 

 そんなことを考えていると、徐々に光が視界を覆い始めた。

 

「俺、ホントどうなっちゃうのー!?」

 

 ツナがそう叫んだ直後、光が視界を埋めつくし、ツナは目をつぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~2015年8月1日~

 

とあるライブ会場

 

(やった!今日のオレはついてる!あのツヴァイウィングのライブに来れるなんて!)

 

 少年は心の中でそう叫んだ。彼は今、大人気のツインボーカルユニット「ツヴァイウィング」のライブ会場に親と一緒に来ていた。彼はツヴァイウィングの大ファンで、両親も同じくツヴァイウィングのファンなのだ。

 

(いつもダメダメな俺がこんな夢のような場所にいるなんて…もし、この幸運が一生分の運気を消費したものだとしても、もし今日死んだとしても悔いはない!…いや、やっぱり死ぬのは嫌だな…)

 

 彼は心で呟いた通り、体育の成績は全て最低評価、学力も下から数えた方が早いほどいつもダメダメなのだ。そんな彼がここに来れているのは、母親が応募していたライブのチケットが、偶然家族全員分当選したからだ。その事について彼が心の中で感謝していると、緊張からなのか、お腹が痛み始めた。

 

(あ、やっぱりツイてないかも…)「父さん、母さん…ごめん、ちょっとトイレいってくる」

 

 少年はそういって席を立ち、トイレに向かう。近くのトイレに入り、個室の鍵を閉めた直後、

 

 

 

 

 

 

彼の意識は途絶えた




なんとか書くことが出来ました。次書くかどうかは作者の気分と話の内容が思い付くか次第なのであまり期待しないでください。


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設定1 沢田綱吉

前に出した設定集にも書いていたツナの設定です。気分転換もかねてのせときます。


沢田綱吉(さわだつなよし)(ツナ)

 

(13歳(シンフォギア世界に翔ばされた際)→)15歳(物語スタート時・シンフォギア本編一期)→16歳(二期序盤から)→17歳(五期以降)

 

160cm

 

並盛高校一年→響と未来が通う中学校→私立リディアン音楽院の近くの高校

 

虹の代理戦争後、リボーンの鬼訓練やマフィアのいざこざに巻き込まれながらも仲間達と仲良く暮らしている。

 

リボーンに約二年間家庭教師(かてきょー)され(しばかれ)続けた結果、高校の学力は学年別順位の半分より上、中学の学力は最終的に80~90点代がとれる程に。

運動神経や身体能力は、これまで多くの強敵と戦った経験や、リボーンにいつも特訓と言う名のしばきを受けているお陰で、体育の授業で行われる種目の成績は上位10人に食い込むほどだが、何もないところで転んだり登校中犬に追いかけられたりと、根本的な所は変わらないのでクラスメート達からは未だ「ダメツナ」呼び。

未だに「マフィアのボスにはならない」と言っている。

死ぬ気の到達点に達したことにより死ぬ気丸を飲まないでも超死ぬ気モードになることができるようにはなったが、成功率はたった1%(ただし仲間が絶体絶命の状態だと100%成功する)。

ユニ、炎真、白蘭とはとても仲が良い(白蘭とは当初、これまでの行いから確執があったが、虹の代理戦争以降、ユニを連れてちょくちょく遊びに来て大空組でお茶会などをしていたら、いつの間にか仲良くなっていた)。

家事は10年後での経験や周りの人達の協力で、掃除、洗濯は一人でも行えるようになり、料理はある程度作れるようにはなったが、朝から一人で朝御飯とお昼の弁当を作るスキルと気力は持ち得てないので、親が朝からいないときの昼飯はもっぱらパンかコンビニ弁当。

リボーンのマフィア訓練のお陰(?)で、医療技術や潜入術等の技術をある程度習得しており、朝は5時に起きて早朝ランニングが習慣になり、最近は山本と了平と合流し、了平が行っているコロネロの特訓に巻き込まれるようになる。

超直感は、人の本質を的確に見抜けるようになり、人と戦うときは通常時でも初期の超死ぬ気モードの頃と同レベル(人間相手なら相手の行動をある程度読める)になっている。

ハイパーツナのスペック

死ぬ気の到達点に達した結果、戦闘力が大幅に上昇し、Ⅰ世に及びかねないほど強くなっている。

超直感は、機械相手でも未来予知に近い読み方が出来るようになった。




本編の続きは現在考えている途中です。投稿まで時間がかかると思います。


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標的(ターゲット)1 ツヴァイウィング

なんとかできました。辻褄合わせのため仕方がなかったとはいえど、少し下品(かもしれない)な表現があります。いちを自分なりにオブラートに包んでみましたが、気分を害したならすみません。


 浮遊感がなくなり、何処にいるのか確認しようとツナが目を開くと、目の前には

 

 

 

 

 

 

洋式のトイレがあった

 

 

 

 

 

 

「イヤ何で!?」

 

 ツナは困惑のあまり叫んでしまった。いつもならここでリボーンから「うるせぇぞダメツナ」と言われ蹴りの一つでも入っていただろうが、リボーンがおらず、周辺に人がいなかったことが不幸中の幸いだろう。

 

「ホントここ何処だよ!?しかも何故か服が制服から私服に変わってるし…ん?」

 

 自分が今いる場所や服装に対する疑問を口にしていると、ある違和感に気付く。

 

「あれ?俺の腕の長さってこれぐらいだったっけ?それに、目線の高さもいつもより低い気がする…」

 

 ツナは自分の違和感について述べて、一人考えていると、一つの可能性を思いつき、あわてて個室から飛び出し洗面所の鏡で自分の姿を確認すると…

 

 

 

 

 

 

「(ガーン||)身体が縮んでる!?というか、若返ってるー!!?」

 

 

 

 

 

 

 鏡に写し出された姿は、ちょうどリボーンがツナの家に家庭教師(かてきょー)に来た頃くらいまで若返った(といっても1~2年前だが)自分の姿だった。鏡には写っていないが、筋肉のつきかたも本来の姿のツナと比べると明らかに劣っている。その事にツナはまた叫んでしまう。

 

「あ!そうだ、荷物は!?」

 

 そして唐突に、ツナはもってきた鞄の存在を思いだし、急いで鞄の中身を確認する。

 

「よかった…携帯は電源がつかないけど、他の中身は無事みたいだ。偶然こっちに入れてた()()も無事みたいだし…」

 

 そういってツナは鞄の中から、手の甲の部分に「27」と刺繍された一対のミトンを取り出す。このミトンはXグローブと言って、通常時はなんの変哲のないただの手袋なのだが、ツナが「死ぬ気モード」になると形を変え、死ぬ気の炎を灯すことができるグローブになる。

 

「それに、VG(ボンゴレギア)も無事みたいだ…」

 

 そして自分の右手に視線をおとし、身につけているアクセサリーを見て安心する。

 

 

 

 

 

 

 VG(ボンゴレギア)とは、7^3(トゥリニセッテ)と呼ばれる世界の均衡を保つ存在の一角であるボンゴレリングと、(ボックス)アニマルと呼ばれる生物兵器の魂、そして初代ボンゴレのボスであるジョットの血:《罰》を使って、ボンゴレリングをVer.UPしたものである。

 VG(ボンゴレギア)は持ち主に一番適した形になっており、ツナのVG(ボンゴレギア)はリングの形をしている。そしてXグローブとVG(ボンゴレギア)を身につけた状態で「死ぬ気モード」になると、グローブの形状がさらに変化し、ガントレットになる。この二つはツナが戦う際に最も必要となるもので、VG(ボンゴレギア)のもとになったボンゴレリングに関しては世界の均衡を保つ存在の一つなので、もし紛失したとなると、考えるだけで生きた心地がしなくなる。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、飛ばされてもう五分は余裕でたってるよな?なのに元に戻らないってことは、あのとき(十年後の世界)みたいに妨害してる何かがあるのかな…?」

 

 安心したお陰で冷静さを取り戻したツナは、十年バズーカの本来の効果時間をとっくに過ぎていることに気付き疑問を口にする。

 

「色々気になるけど、今はここが何処なのか確認しないと…」

 

 そういいながらツナはトイレから出ようとするがその際に、学校の鞄を持ち歩いていたら目立つかもしれないと考え、掃除用具部屋に鞄を隠し、今度こそツナはトイレからでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヤバイヤバイヤバイ!急がないとライブが始まっちゃう!)

 

 彼女の名前は立花(たちばな)(ひびき)。ツヴァイウィングの大ファンである中学生だ。彼女は今日、本来は友人である小日向(こひなた)未来(みく)と一緒にライブ会場に来ているはずだったのだが、家の都合により未来が来れなくなり、一人でライブに来ていた。ライブ会場に来て、ライブが始まるのを待っていた響は、唐突に尿意におそわれ、今しがたまでトイレに籠っていたのだ。

 響は素早く手洗いを済ませ、急いでトイレを出ると、

 

「イタッ」

「イデッ!」

 

 トイレを出た先で人とぶつかってしまう。その際、響は尻餅をつくだけですんだが、相手はいきなりぶつかられたことに対処できず、床に頭を打ち付けてしまう。

 

「ああ!すいません!大丈夫ですか!?」

「イテテ…あぁ、大丈夫。こういうのなれてるから」

 

 響は慌てて無事を確認すると、相手の少年は頭をさすりつつも苦笑いしながら無事を伝える。その少年は独特な髪型をしており、身長等から恐らく自分と同じくらいの年ではないかと響は考える。

 

「君の方こそ大丈夫?」

「あ、はい!私は大丈夫!平気、へっちゃらです!」

 

 今度は逆に少年が響の無事を確認してきて、響は元気に答える。

 

「そっか、よかった……えっと…君、名前は?」

「私の名前は立花響!中学二年生!身長は「いや、そこまで話さなくていいから!」そう?」

 

 少年が名前を聞いてきたので、響は元気よく自己紹介し、いつものように自分のプロフィールも話そうとするが、すぐさま少年に止められる。

 

「よろしく、響…えっと、俺の名前は沢田綱吉。みんなからは『ツナ』って呼ばれてる。こ…えっと、響と同じ中学二年生だよ」

「よろしく、ツナ君!」

 

 響は目の前の少年:沢田綱吉(ツナ)の手を握り握手する。ツナは、響が唐突に握手してきたことに戸惑い、女子に手を握られるのが恥ずかしいのか顔を赤らめながらも響の手を握り返す。

 

「うん、よろしく!…ところでさ、響」

「ん?なに?」

 

 響はまだツナの手を握りながら、問いかけてきたツナに聞き返す。

 

「ここってさ、何処…だっけ?」

「え?そりゃあ『ツヴァイウィング』のライブ会場だけど?」

 

 ここに来ている人なら誰もが知っていることを聞かれ、なにを言っているのか、と不思議そうな顔をツナに向けると、

 

「あっいや、えっと…実はさ、俺、今さっきまでトイレで寝ちゃってたみたいでさ、まだ寝惚けてるのか、記憶が混乱してるみたいなんだ」

 

 普通の人ならここで疑問の一つぐらい覚えるだろうが、響は

 

「そうなんだ!」

 

 と、明るく答えた。

 

「なら教えてあげる!ここでは今日、『ツヴァイウィング』っていうツインボーカルユニットのライブが行われるんだよ!…あっ!?」

「ん?どうしたの?」

 

 響がツナにここで行われるライブについて簡単に説明した直後、あることを思いだし、空いている方の手で携帯を取り出し時間を確認する。(なお、未だに右手はツナの手を握っている)

 

「いけない!あともう少しでライブが始まっちゃう!」

「ちょっ?!響!?」

 

 響はライブ開始の時間が迫っていることに気付き、ツナの手を引っ張りながら会場に走る。ツナは響の行動に驚きのあまり声を荒らげる。

 

「この会場に来ているってことは、ツナもツヴァイウィングのライブを見に来たってことだよね!だったら一緒にみようよ!」

「いや、でも、それだと、響と一緒に来てる人の、邪魔になるんじゃ…」

「大丈夫!私、今日一人で来てるから!本当は友達と一緒に来るはずだったんだけど、その友達が家の都合で来れなくなっちゃってね…」

「あ…」

「だから心配しなくて大丈夫!それに、一人でみるよりも誰かとみる方が楽しめるからさ!」

 

 一瞬、顔に影をおとしたものの、すぐさま笑顔を取り戻し、心配しなくていいことを伝えツナを引き連れ走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(地雷踏んじゃった(またやっちゃった)かもしれないと思ったけど、問題無さそうでよかった…ていうかあぶねー!素で本来の年齢言うところだった!この見かけで高校生って絶対怪しまれる!…いや、響なら案外信じちゃうかも…?)

 

 目の前の少女:立花響に手を引かれながらそんなことを考えるツナ。そんなことを考えていると、通路の出口が近づいてきた。通路を出ると、響が言っていた通り、ここがライブ会場であることを理解する。そして客席を埋め尽くすほどの人の多さに呆気にとられてしまう。そんなツナに気付かず、響は自分の席と本来は友達が座っているはずだった席まで引っ張っていく。

 

「ッセーーー…フ!なんとか間に合った!」

「ホントにいいの?ここに座らせてもらって…」

「大丈夫大丈夫!本来は未来が座るはずだったんだけど、その未来が来れなくなって、誰も座らないはずだったからさ…」

(ヤバイ!やっぱり落ち込んでる!話をそらさないと…!)

 

 自分の発言(ヘマ)で響を落ち込ませてしまい、どうにかして元気にさせようと考えていると、騒がしかった会場内が徐々に鎮まっていく。ツナは今までライブなど行ったことはないが、そんなツナでも、鎮まり始めた理由が、ライブが始まる時間になった、ということは理解できた。

 

「ねぇ、響。ツヴァイウィングってさ、どんな人が歌ってる…んだっけ?」

「えぇ…?ツナ、まだ寝惚けてるの?」

 

 周りの人の迷惑にならないよう、できるだけ声を低くしながら響に問いかける。ツナの発言に響は呆れたように言い、その言葉にツナは苦笑いしか出来なかった。(その際にすでに響が自分のことを呼び捨てにしていたが気付いてない)

 

{ツヴァイウィングはね…「「「「「「「ウオォォォ!」」」」」」」}

 

 響がツナの質問に答えようとした直後、周囲から歓声が湧き上がり、その声の大きさにツナは耳を塞ぐ。何事かと周囲を見渡すと、人々の視線の先に二人の女性が立っていた。一人は髪が朱色で活発な雰囲気を纏っており、もう一人の青い髪の人からはクールな印象を感じた。

 

「あの朱色の髪の人が天羽(あもう)(かなで)さんで、青い髪の人が風鳴(かざなり)(つばさ)さん。あの二人がツヴァイウィングだよ!」

 

 会場の熱気と、会場に現れた二人の女性に呆けているツナに響が、視線の先にいる二人がツヴァイウィングであることを伝える。

 

(なるほど…『ツヴァイウィング』って名前は、二人の『翼』…奏さんの『天羽』と翼さんの『翼』からとったのかな?)

 

 ツナがツヴァイウィングの名前の由来に関して考えていると、先ほどまで活気にわいていた会場が再び静まり返る。それがライブが始まる合図だと気付き、ツナが正面の二人に視線を向けた直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツヴァイウィングのライブが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツヴァイウィングの歌で周りが盛り上がっているなか、ツナはすべての思考を止め、今後の不安やマフィアのことも全て忘れて、ただただツヴァイウィングの歌に聞き惚れていた。

 そして曲が終わり、周囲から歓声と拍手が沸き上がり、ツナの意識も現実に戻ってくる。

 

「ね!すごいでしょ!?」

「うん…すごいよ…」

(声も綺麗だし、歌詞の内容もすごくいい…そしてなにより、二人とも生き生きして歌ってる…二人とも、歌うことが心のそこから好きなんだな…)

 

 響が問いかけてきて、それにどこか気が抜けたような声で答え、心の中でツヴァイウィングの歌を絶賛する。どうやら、周りの人たちと同じようにツナの心もツヴァイウィングにつかまれたようだ。

 そして沸き上がる歓声のなか、ツヴァイウィングの二人が二つ目の曲を歌い始めようとした直後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場を強い衝撃が襲った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャア!?」

「な、なんだ!?」

 

 いきなり起こった衝撃に響が悲鳴をあげるなか、ツナはいきなりのことに驚きつつも、衝撃の震源地と思われる方角を見やると、視界にはいったのは

 

 

 

 

 

 

「ノイズだー!」

 

 

 

 

 

 

 そう叫びながら逃げ惑う人々と、触れた人を灰色の塊に変えている、人の形をしたオレンジ色の化け物だった。




次回はついにあれが起こります。あと、この作品のリボーンの時間軸ですが、中学二年生の6月から翌年の2月までの間に漫画本編の内容が起こったことになってます。因みに黒曜編が8月中旬、ヴァリアー編が10月~11月、未来編が11月(10年後の世界では9月~11月)、継承式編が翌年の1月、虹の代理戦争編が2月に起こったことになっています。


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標的(ターゲット)2 ノイズと絶唱、そして…

なんとかできましたが、ちょっと長くなっちゃいました。


「なんだ…あれ…」

 

 ツナは視界に広がる光景が信じられず放心していた。

 それも仕方のないことだろう。ライブ会場を襲撃してきた謎の生物のようなもの達が、逃げ惑う人々を襲い、触られた人は一人の例外もなく、全身が灰色になり、粉々に崩れ落ちているのだから。

 

(あの灰色の物体は…炭?まさか、あの化け物に触れた人は全て炭になっているのか!?)

 

 本来のツナであればすぐに「超死ぬ気モード」になり襲撃を阻止しにいっていただろうが、今のツナは珍しく冷静で、放心しつつも謎の襲撃者の特徴について考えていた。そんな時、

 

「なにボーッとしてるの!早く逃げないと!」

 

 隣にいた響が叫んだことで思考の海から戻ってくる。

 

「ねえ響!あいつらは…!」

「あれはノイズ!空間からにじみ出るように突然現れて、人間のみを大群で襲撃して、触れた人を自分もろとも炭素の塊に換える人類共通の驚異として11年前の国連総会で特異災害に認定された存在でしょ!?そんなこと、今の中学生は誰もが知ってるよ!?だから早く逃げないと…!」

 

 ツナが響に襲撃者について聞こうとすると、それよりも早く響が襲撃者ーノイズについて話す。そして席を立ち、近くの通路に向か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

─おうとした響を呼び止める。

 

(このままあの通路(あそこ)に向かうのは危ない気がする!)

 

 ツナの超直感が警鐘をならしていた。

 実際、呼び止めたのは正解だった。ツナが響を呼び止めて少しすると、向かおうとした通路には大勢の人が詰め寄せていた。

 もしツナが呼び止めていなかったら、と考えた響は一瞬で青ざめる。そしてツナ達からは見えてないが、大勢の人が通路に一斉に入った結果、何人もの人達が人の圧によって圧迫死していた。

 もし止められずに向かっていたら、響もその仲間入りをしていたかもしれない。青ざめる響を心配しつつ周りを確認していると、人々が詰め寄っておらず、ノイズからも離れた位置にある通路を見つける。

 

「こっちだ響!」

「うわっ」

 

 ツナは響の手を掴み、先ほど見つけた出口に向かう。後ろから聞こえる悲鳴や叫び声から逃げるように走り続け、通路まであと少しのところで、

 

「「あっ!」」

 

 目の前に突如、襲撃してきた個体とは別個体のノイズが現れ、ツナ達に襲いかかろうとする。響は尻餅をつき、ツナは反射的に響を庇うようにして覆い被さる。そして迫り来る死を前に目をつぶる。…だが、いつまでたっても死がこないことに気付き目を開くと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツヴァイウィングの一人である天羽奏が、謎のプロテクターを着て、槍状の武器でツナ達を庇うかのようにしてノイズの攻撃を防いでいた。

 

 

(何でツヴァイウィングの奏さんが…というかなにあの格好!?)

 

 ツナはなぜ奏が自分達のところにいるのか、どうして変な格好をしているのかが理解できず困惑してしまう。ツナが庇っていた響も似たような理由で困惑している。

 

「君達、大丈夫か!?」

 

 そんな二人に奏は無事かどうか聞いてくる。その声を聞いて、二人はなんとか持ち直し、

 

「は、はい」

「大丈夫です…」

 

と答えた。

 二人が無事なことを聞いた奏は一瞬安心した顔をしたが、すぐに気を引き締め、

 

「こいつは私が引き留める!その間に早く逃げろ!」

 

と叫んだ。それを聞いたツナはすぐさま立ち上がり、

 

「ありがとうございます!」

 

 と伝え通路に向かう。そして響も、ツナの後を追うために立ち上がった、その直後、奏の着ていたプロテクターのアーマーから

 

 

 

 

 

 

ピシッ

 

 

 

 

 

 

という音がたち、アーマーに亀裂が走る。

 その亀裂を見た直後、ツナの超直感が再び警鐘をならし始めた。

 

「伏せろ響!」

 

 ツナは超直感と本能にしたがいそう叫び、響の元に向かおうとするが間に合わず

 

 

 

 

 

 

奏が着ていたアーマーの一部が吹き飛び、

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 

その一部が響の胸に突き刺さった

 

 

 

 

 

 

「響ッ!」

 

 破片が刺さった響はその場に倒れこむ。それを見たツナは彼女の名前を叫びながら駆け寄る。

 

「おい、死ぬな!」

 

 そう叫びながら、奏も武器を投げ捨て駆け寄ってくる。

 

「目を開けてくれ!」

「響!なぁ、俺の声聞こえる!?聞こえるなら返事をしてくれ!!」

 

 倒れた響を起き上げ、ツナと奏は必死になって響に呼び掛けるが反応がない。彼女が倒れていた場所には大量の血がついており、今もまだ傷口から血が流れ続けている。そんな彼女にツナは声をかけ続ける。

 

「生きるのを諦めるな!」

 

 奏がそう叫ぶと、声が届いたのか、響の目が開き始める。

 

「ぅ…ぁぁ…」

「響!」

 

 響が目を開けたことに喜ぶツナ。だが、響の目からは徐々に光が失い始めており、目も半開き、傷口からも血が流れ続けている。

 響の意識が戻ったことに一瞬喜んだ奏は、すぐさま目を閉じなにかを考え始める。そして数秒たち、目を開いた奏の顔を見たツナは、彼女の覚悟が決まったこと、その覚悟がどの様なものかに気付く。

 

(奏さん、ここで死ぬつもりだ…!)

「少年」

「!…はい…」

 

 奏の意思に気づいた直後、奏に話しかけられる。

 

「この子をつれてここから逃げろ」

「…奏さんは、どうするんですか…?」

 

 逃げるよう言われたツナは奏にどうするのか問いかける。

 

「私のことは気にするな。今は逃げることだけ考えろ」

「奏さん…」

「この子を任せられるのは君しかいないんだ、頼む」

「っ!…はい…」

 

 そう奏に頼まれたツナは歯を食い縛りながら、響を抱きかかえて通路に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ありがとう、少年)

 

 奏はツナの姿が見えなくなったことを確認すると、心の中で彼に感謝した。

 

「いつか、心と体、全部空っぽにして、思いっきり歌いたかったんだよな」

 

 そう言いながら、彼女は落ちていた槍状の武器─ガングニールのアームドギアを拾い上げ、ノイズに近づいていく。会場の至るところにいたノイズは、いつの間にか一ヶ所に集まっていた。

 

「今日はこんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ。…だから私も、出し惜しみなしで行く」

 

 そういって奏はもっていたアームドギアを掲げる。その際に、アームドギアの一部が崩れる。

 

「とっておきのをくれてやる…『絶唱』」

 

 そういって彼女は『歌』を歌い始めた。

 

 

 

 

 

 

《Gatrandis babel zigguratーーー》

 

 

 

 

 

 

『絶唱』─それは装者の負荷を省みずに聖異物:シンフォギアの力を限界以上に解放する歌である─

 

増幅したエネルギーを、アームドギアを介して一気に放出する。その力の発現はシンフォギアごとに異なるが、共通して発生するエネルギーは凄まじく、ノイズを始めとするあらゆる存在を一度に殲滅し得る絶大な効果を発揮するが、装者への負荷も、生命に危険が及ぶほどに絶大。

 反動ダメージは装者の適合係数の高さに伴って軽減されるが、彼女の適合係数は低く、『LiNKER』と呼ばれる、聖遺物及びシンフォギアへの適合係数が基準値に満たない者を、投与することによって係数不足分を補い人為的に適合者へと成す、聖遺物の力と人体を繋ぐための制御薬を投与してシンフォギアを纏っているが、現在とある理由でLiNKERの投与を一時中断しており、このまま彼女が絶唱を歌い終わったら─

 

 

 

 

 

 

体が負担に耐えきれず、塵となって完全に消滅してしまうだろう

 

 

 

 

 

 

「いけない奏!歌ってはダメー!」

 

 絶唱を歌っている奏に、ツヴァイウィングの片翼であり、奏と同じシンフォギア装者である風鳴翼が絶唱をやめるよう伝えるが、奏はその忠告を無視して歌い続ける。そしてついに歌が終わる─その直前

 

 

 

 

 

 

奏の全身を激痛がはしる

 

 

 

 

 

 

「うぐっ!」

 

 その激痛によって、奏は絶唱を中断してしまう。唐突に襲ってきた激痛の原因は、絶唱を歌っている途中でLiNKERの効果が切れ、シンフォギアの負担が一気に降りかかった事が原因だ。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、ノイズの集団は奏に近づきはじめる。奏は、戦うために立ち上がろうとするが、痛みによって体がいうことを聞かず、立ち上がることができない。そんな彼女にノイズは非情にも近づいてくる。

 

「奏!」

 

 翼は奏の元に行こうとするが、それを阻むようにノイズが襲いかかってくる。

 

「奏逃げて!」

 

 翼はノイズを倒しながらそう叫ぶが、奏は動くことができない。そしてついに、ノイズの中で一番大きい個体が奏の元にたどり着く。そのノイズは、ゆっくりと腕を振り上げる。奏は死を覚悟し、絶唱を歌いきれなかったことと、自分の相方を一人にしてしまうことを後悔しながら目を閉じる。

 

「奏ぇ!」

 

 翼が相方の名前を叫ぶ。それを聞きながら奏は死が来るのを待った。…だが、彼女が死ぬことはなかった。いつまでたっても死がこないことに違和感を感じた奏が目を開くと、目の前には─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いマントを羽織り、手甲に『Ⅰ』の字が刻まれたグローブをはめ、額に橙色の炎を灯した金髪の男性─初代ボンゴレのボス『大空のジョット』が大型ノイズの攻撃を片手で受け止めていた。




ここまで見ていただきありがとうございます。前回投稿してた作品(設定集)を見てない人はなぜジョットがいるのかわからないと思いますが、それに関しては次回わかります。

追記(2020年12月21日)
誤字報告ありがとうございます!


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標的(ターゲット)3 Ver.Ⅰ世(プリーモ)

なんとかできました。ついにオリジナルがでます。


それは、奏が助けられる少し前─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナは響を抱きかかえ、通路を走っていた。その間もツナは奏のことを考える。

 

(あの人がなにをしようとしているのか俺には分からない…だけど、あのままだと本当に…っ!)

 

 通路を走り抜け、出口に向かっていると、後ろから微かに歌声が聞こえる。

 

(この歌声は、奏さんの…)

 

それを聞いたツナは超直感で気付く。

 

(この歌は歌わせちゃいけない気がする…まさか!これが奏さんの…!?)

 

 そう考えながら出口に向かうと、近くの広場に大勢の人が集まっていた。そしてツナは近くの人に駆け寄る。

 

「すみません!」

「ん?どうしたのか…な!?大丈夫かいその子!?」

 

 話しかけられた男性は不思議そうにツナの方を振り向いたが、抱きかかえられている響の傷を見て慌てて近寄る。

 

「すみません!彼女のこと、頼みます!」

「えっ、ちょっと!?君は!?」

 

 ツナは響をその男性に預け、意識を失っている響の頭を優しく撫でる。

 

(ごめん…響!)「会場に大事なものをおいてきたのでそれを取りに行ってきます!」

「あ!待ちたまえ君!」

 

 ツナは男性の制止を振り切り、会場に戻る。そして先ほど通ってきた通路に向かうと、遠目で奏を確認できた。

 

(よかった、まだ生きてる!それに、さっき聞こえた歌声も聞こえない…でも、膝をついてるし無事ではなさそう……っ!)

 

 ツナは奏が生きていることを確認して安心するが、その直後、奏に近づくノイズが視界にはいる。ツナはすぐにポケットから─トイレからでる際に鞄から取り出していたX(イクス)グローブと死ぬ気丸を取り出し、ミトン状態のX(イクス)グローブをはめようとした直後、ノイズが襲撃してきた際、なぜ「超死ぬ気モード」にならず、逃げの一手をとったのかに気付く。

 

 

 

 

 

 

(ダメだ!この(状態)だとVG(ボンゴレギア)に耐えきれない!)

 

 

 

 

 

 

 ツナの体は現在、リボーンが来てすぐの頃の状態まで戻っている─つまり、VG(ボンゴレギア)やボンゴレリング以前に、X(イクス)グローブの使い方すら体に馴染んでいない頃まで戻っているのだ。さらにVG(ボンゴレギア)は、作られた際、所有者の肉体にもっとも適した状態になり、そこから使用者が成長するにつれてVG(ボンゴレギア)も強化されている。そんなVG(もの)を今の状態で使ってしまったら、体が負担に耐えきれず、ノイズを倒しきる前に戦闘不能に陥ってしまうかもしれない。その事にツナの無意識領域と超直感が理解していたから、ツナ自身、気付かぬうちに「超死ぬ気モード」になっていなかったのだ。

 その事に気付き、どうすればいいのか考えている間にも、ノイズの集団は刻一刻と奏に近づいてきている。

 

(負担なんてこの際どうでもいい!このまま奏さんを死なせてしまったら、俺はっ!)

 

 

 

 

 

「俺は死んでも死にきれない!」

 

 

 

 

 

 

 ツナが覚悟を決め、再びX(イクス)グローブをはめようとした直後、VG(ボンゴレギア)についている石から光が伸び、ツナの額に小さなボンゴレの紋章を写し出す。その直後、ツナの意識はVG(ボンゴレギア)の中に吸い込まれる。気がつくと、十年後の世界でボンゴレの業を引き継ぐ覚悟が試される試練を乗り切った際に現れた空間にいた。だが、前回とは違い、Ⅰ世(プリーモ)以外誰もいない。いきなり意識が吸い込まれたことに慌てるツナに、Ⅰ世(プリーモ)─ジョットが話しかける。

 

Ⅹ世(デーチモ)─お前の覚悟、しかと受け取った。お前に力を貸そう…」

「え!?」

 

 ツナは、いきなり、初代ボンゴレのボスであり自分の先祖であるジョットから力を貸すと言われ驚きのあまり声を上げる。そんなツナに対しジョットは話を続ける。

 

「お前が「超死ぬ気(ハイパー)モード」になっている間、私の力─私の肉体を貸し与える」

「え、でもそんなのどうやって…あ!」

 

 そこでツナが気付く。

 

「ボンゴレリングの縦の時空軸!」

「その通りだ。縦の時空軸の奇跡で過去から一時的に私の肉体を現代のⅩ世(デーチモ)の肉体に重ねる─いわゆる憑依のようなものだ」

 

 ジョットは説明を続ける。

 

「私の肉体を憑依させている間は、身体能力が強化され、超直感(ブラッド・オブ・ボンゴレ)は、通常時のⅩ世(デーチモ)のハイパーモードの時よりもさらに強くなる。X(イクス)グローブの外見は、Ⅹ世(デーチモ)が『死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション』を使う際に変化する手甲が『Ⅰ』の状態だが、性能はVer.V.R.(ボンゴレリング)と同等だ。そして、『Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』は憑依する際に一緒に装備しており、『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』はⅩ世(デーチモ)の相棒の(ボックス)アニマルであるナッツの形態変化(カンビオフォルマ)を使わずに変化させることができる。だが、ボンゴレリングの縦の時空軸の力を使うために、VG(ボンゴレギア)を一時的に原型(オリジナル)のボンゴレリングに退化させる必要があり、その際にナッツの魂も一時的にボンゴレリングの中に収納されて召喚出来なくなる。それでもいいか?」

 

 性能などについて説明し終わり、ジョットはツナに問いかける。

 

「はい!─それに、力を貸してくれるだけでも、とてもありがたいです」

 

 ツナはそう言い、微笑む。

 

「─そうか…」

 

 ツナの言葉を聞いてジョットも微笑む。

 

「お前の技もいくつか使えるようになっている。─行ってこい!我が子孫よ!」

「!」

 

 ジョットがそう言った直後、ツナの意識は現実に戻ってくる。すぐにノイズの方を見ると、意識が吸い込まれる直前の位置にいた。どうやらジョットと話をしていた間、時間はほとんど進んでいなかったらしい。

 

「ありがとう、Ⅰ世(プリーモ)─いや、ジョットさん!」

 

 力を貸してくれた自分の先祖に感謝しながら、ツナは今度こそ手袋─X(イクス)グローブをはめ、フィルムケースから死ぬ気丸を一つ取り出し飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 ツナの額にオレンジ色の炎が灯る─

 

 

 

 

 

 

 すると、ツナの姿が変わる。

 身長が伸び、髪も金髪に。さらに服装も、私服からスーツに変わり、マントが羽織られる。そして手袋の形が変わり、手甲に『Ⅰ』と刻まれたX(イクス)グローブ─名付けるなら、『X(イクス)グローブVer.Ⅰ世(プリーモ)』といったところか─に変化、VG(ボンゴレギア)原型(オリジナル)のボンゴレリングに姿を変える。

 

 

 

 

 

 

─ツナは『超死ぬ気(ハイパー)モードVer.Ⅰ世(プリーモ)』になった─

 

 

 

 

 

 

 ハイパーモードになったツナは、今にもノイズに襲われそうになっている奏を確認し、X(イクス)グローブから死ぬ気の炎を噴射し、残像が残るほどの速さで奏の前に移動し、大型ノイズの攻撃を片手で受け止める。その直後、後ろで死を覚悟していた奏が目を開き、こちらを見て驚く。

 

「もう大丈夫だ」

 

 奏に向けてそう言い、ノイズを掴んでいた手を開く。そして一瞬にして大型ノイズの顔の前まで移動し、右手のグローブを『Ⅰ世のガントレット』に変化させ、『ビックバンアクセル』を放つ。『ビッグバンアクセル』をうけたノイズの顔は綺麗に消滅し、残った体も徐々に崩れ去っていく。奏は、いきなり現れた男が謎の武器と炎でノイズを倒したことに衝撃をうける。大型ノイズを倒したツナは奏の方を向く。

 

「残りのノイズは俺が倒す。だから─命を捨てる必要はない」

 

 ツナがそう言うと、奏は安心したのか、意識を失い倒れそうになる。ツナはすぐに奏の元に行き奏の体を支える。その直後、奏が纏っていたシンフォギアが徐々に消滅しはじめる。どうやらシンフォギアは負担に耐えきれなかったようだ。

 

(この人の体、何かが蝕んでいるな…)

 

 シンフォギアが消滅しはじめ、徐々に奏の素肌が露になっているなか、ツナは奏の体を触った際に感じた違和感に気付く。そしてシンフォギアの消滅が胸元まで来ているところで、ツナは自分が羽織っていた『Ⅰ世のマント』で奏の体を包む。そして抱きかかえ、会場内の比較的原型を保っている座席までつれていき優しく横たわらせる。そして再びノイズの元に向かう。

 

「かかってこい!」

 

 ツナがそう言い放つと共に、ノイズが襲いかかる。ツナは手甲でいなし、炎を瞬間噴射して回避しながら、隙をついて殴り、確実に倒していく。その間、ツナは思考をフル回転させる。

 

(響の話だと、ノイズは触れた人間を自分もろとも炭化させるらしいが、X(イクス)グローブで殴っても俺は炭化しない…何故だ……もしや)

 

 ツナはある可能性を思いつき、X(イクス)グローブを通して全身に死ぬ気の炎を纏い、近くのノイズにかかと落としをかます。すると、自分は炭化せず、ノイズだけが崩れ始めた。

 

(やはり、死ぬ気の炎を纏っている所は炭化しない!)

 

 ツナはさらに思考を回転させ、ノイズの特徴を解析しはじめる。

 

(恐らく、こいつらは炭化以外にも能力があるはず。それによって通常の攻撃を無効化しているな!)

 

 ツナはノイズの『位相差障壁』の存在に気付き、考えはじめる。

 

(恐らく、物理法則に干渉して状況によって状態を変化させているはず…そのせいで通常の銃器が効かないのだろう…だが、奏が纏っていたアーマーと死ぬ気の炎はその能力を貫通して相手にダメージを与える事できるようだ)

 

 ツナはノイズの能力について自分なりに纏める。そしてノイズを倒していくが…

 

(クソッ!数が多すぎる!)

 

 ノイズの数が予想より多く、倒しても倒してもわいてくる。対処できてはいるが、このままでは押しきられるかもしれないと思った直後、ツナはジョットが最後にいっていた言葉を思い出す。

 

(そういえば、「いくつかの技は使えるようになっている」といっていたが…本来のハイパーモードの時よりも強化された超直感なら…!)

 

 ツナはある作戦を考え、ノイズに向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じられない。それが翼が思った言葉だった。

 それもしょうがない。額から炎を吹き出している見知らぬ男が、奏を庇い、一瞬でノイズの眼前に迫り、シンフォギアを纏わずにノイズを倒したのだから。その際に奏が倒れそうになったが、その男が受け止め、着ていたマントを奏に着せて離れた場所に避難させていた。

 本当ならすぐにでも奏の元に行きたいが、邪魔をするようにノイズが迫ってくる。男は今もなおノイズを倒し続けている。その姿を、戦いながら観察していると、男が空中で止まりノイズに向き合う。

 

(何をするつもりだ…?)

 

 自分の方に来ていたノイズを全て倒しきり、男の様子を眺める。すると、男の額の炎がノッキングしているような動きをし始める。そして男はそのままノイズの集団に突っ込んでいく。

 

(無謀だ!)

 

 翼は男の行動にそう感じた。確かに、普通の人ならそう思うだろう。だが、その心配は必要なかった。

 男がノイズ達の目の前に降り立ち、地面に手をついた瞬間─

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

ノイズ達の足元が凍りつき、ノイズ達の動きを止めたからだ─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション』─それは、初代ボンゴレボスであるジョットが編み出した伝説的な技で、自らの死ぬ気の炎を強力な冷気に変換して対象を凍らせることができる。

 その威力は強力で多重層16300層まで凍らせるほどであり、氷は死ぬ気の炎のような超圧縮エネルギーのため通常は溶けることはなく、死ぬ気の炎以外での解凍は出来ない。

 そしてツナが考えた通り、死ぬ気の炎はノイズの『位相差障壁』を貫通する力をもっており、死ぬ気の炎を変換して作られた氷によって、ノイズ達は身動きがとれなくなった。

 

(これで()が定まった!)

 

 ツナが『死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション』を使ってノイズの動きを止めたのは、()()()を使うためだった。ツナはノイズ達から離れ、未だ戦っている翼が斜線上に入らない位置に向かい、準備をはじめる。

 

 

 

 

 

 

 右手を後ろに向け、柔の炎を放出し姿勢を制御し、左手に爆発的なエネルギーを持つ剛の炎をチャージし始める。本来であれば2つの炎の的確な制御が必要な技であり、専用のヘッドフォンとコンタクトディスプレイを用いなければ失敗して吹き飛ばされてしまう。

 だが、Ver.Ⅰ世(プリーモ)になったことで強化された超直感によってその二つを用いなくても力の調整ができるようになるのではないかとツナは考えたのだ。

 その考えは見事に的中。柔の炎の放出量と剛の炎のチャージ量のFV(フィアンマボルテージ)を完全に把握できている。

 その事を理解したツナは、右手にチャージしている剛の炎のFV(フィアンマボルテージ)を徐々に上げはじめ、それにあわせて左手から放出している柔の炎のFV(フィアンマボルテージ)も上げる。そして柔の炎と剛の炎が規定値─数値でいうと25,000FV─まで達し、左手をノイズに向け─

 

 

 

 

 

 

X(イクス) BURNER(バーナー)!!!」

 

 

 

 

 

 

 橙色の炎がノイズ達を飲み込む。放出された剛の炎は、ノイズ達を『死ぬ気の零地点突破』の氷もろとも包み込み─

 

 

 

 

 

 

 炎がおさまると、ノイズ達は一つ残らず消滅していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼は目の前で起こったことが信じられなかった。何せ、男がノイズ達の足元を凍らせたかと思ったら、ノイズから離れ、右手を後ろに向けて炎を放出し始め、少しして左手をノイズに向け、男が叫ぶと共に炎がノイズを飲み込むと、シンフォギアでしか倒すことが出来ない存在であるノイズが、完全に消滅していたのだから。

 その光景に放心していると、男─ツナは奏を抱え、翼の目の前に立っていた。それに気付いた翼は反射的に、数歩下がり身構える。

 

「彼女のことは任せた」

 

 そんな翼に対し、ツナはそう言って奏を引き渡そうとする。翼は最初、罠の可能性を考えた身構えていたが、ツナの目を見ると、心を優しく包まれたような感覚になり、気付けば構えを解き、ツナに近づいていた。

 ツナは翼に奏を託し、奏に着せていたマントを上手に取り外して羽織ると、その場から立ち去ろうとする。

 

「待て!お前は何者だ!その力はなんだ!?」

 

 翼は、立ち去ろうとするツナにそう問いかける。

 

「すまない…その質問に答えることは、今は出来ない……だが、あなたとはいずれまたどこかで会える気がする。そのときは、俺の事やこの力の事について全て話そう…」

 

 ツナはそう言って、グローブから死ぬ気の炎を噴射し、空を飛んでその場から離れる。

 離れていくツナの姿を、翼はただ見つめていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんなことが起こったからダメかと思ったけど、無事でよかった~!」

 

 ツナは今、最初に翔ばされた場所であるトイレにいた。ノイズを倒し、翼の元から立ち去った後、ツナは隠れて死ぬ気モードを解き、自分の荷物を回収するためこの場所に戻ってきていたのである。向かっている途中、ノイズの襲撃が起こったことで壊されたのではないかと考えていたので、とても安心したことだろう。

 

「それにしても…『ノイズ』、か…」

 

 ツナは、元の世界からもってきた鞄を回収し会場の出口に向かっている途中、そう呟く。

 

(あいつらと戦って気付いたけど…あいつらは生き物じゃなくて兵器に近い存在だ…お陰で遠慮無しで戦えたけど…あんな奴らがいつ出てくるか分からない世界か…俺、無事に戻れるかな?ていうか、そもそも元の世界に戻る方法すら分からないし…)

 

 考えるとどんどん出てくる負の思考の連鎖によってどんどん落ち込んでいくツナ。すると、

 

「ガウッ」

 

VG(ボンゴレギア)と融合しているツナの(ボックス)アニマル─ナッツがツナを励ますように吠える。

 

「そう…だよな。こんなところで落ち込んでてもダメだよな。それに、リボーンがいたら『情けねぇぞダメツナ』っていって来るだろうしな」

 

 そう呟き、顔を上げるツナ。すると、ちょうど出口の手前にいた。ツナは出口を駆け抜け、避難した人達の中に向かって走っていった。




大分長くなってしまった…なんか途中言葉混乱してそうな気がする…


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標的(ターゲット)4 学校と再会

すみません、遅くなりました。リボーンの言葉の部分はどうしても思い付かなかったので略しました。
前回の作品を自分で見てたら、ツナが戦ってるシーン読んでる途中、頭のなかにウルトラマンネクサスの「英雄」が流れ始めました。よくよく考えたら「英雄」のサビとツナって結構合いますよね。それに奏さんの台詞とネクサスの名言も似てますし。


─2015年10月1日─

 

「ここが、()()()()()()が通っていた学校か…」

 

 ツナはそう言って、ある学校の校舎を眺めていた。

 彼の身には、ノイズ襲撃から今に至るまで、いろんなことがあった。事件の後、事件現場に来た政府の人達から、事件の際に死亡した人のほとんどが、逃走中の将棋倒しによる圧死や避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死であること、そして─『()()()()()()()()()()が事件の際に亡くなっており、原因は数少なかったノイズによる消滅』であることを伝えられる。

 それを聞いたツナは、この世界が自分のいた世界ではないことを理解し、それと同時に…もし自分の体が若返っていなかったら大勢の人を救うことができたかも知れないこと、そして何より─この世界の両親が会場にいたことに気付けず死なせてしまったことに後悔した。

 落ち込んでいたツナだが、すぐにリボーンの言葉を思い出し、持ち直した。そして、この世界の自分の家で自分一人だけでも暮らすことを決意する。

 その後、政府の人達に自宅に送ってもらった際に、政府からの支援金や親の遺言などについて伝えられ、数日後、自分の通帳に入れられた金額を見て驚愕したり、事件の翌日から、いつもの習慣になっていた早朝ランニングを行うと共に、近くの山で「超死ぬ気モード」で特訓を始めたりと、いろんなことがあった。

 そんな中、彼が学校の存在を思い出したのは、事件から約二ヶ月がたった頃だった。体がXグローブの性能に完全に慣れた日の帰り道、登校中の学生を偶然見つけて、自分が学生だったことを思い出したのだ。そういう所はまだダメダメなままなのである。

 そんなこんなで、この世界の自分が通っていた学校に来たツナ。

 

「この世界の俺がどんなやつだったのか分からないけど、上手くやるしかない、か…」

 

 ツナはそう呟き、玄関に向かい歩いていく─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…少し焦ったけど、なんとかバレなかった…」

 

 一日の授業が終わり、学校の玄関を出たツナはそう呟く。最初はこの世界の自分を演じきれるか不安だったが、教室に入った際、クラスメイト達は親の事を心配されながらも、快く迎えてくれた。どうやらこの世界の自分は、自分と同じく「ダメツナ」と呼ばれていたようだ。お陰で演技をせずとも普通に過ごすことができた。

 しかし、ツナは気付いてないようだが、実は何度かクラスメイトに怪しまれていた。

 理由は、この世界にいたツナが勉強も運動もダメダメなのに対し、リボーン世界の(この)ツナはリボーンの家庭教師(かてきょー)によって中学の学力は上位十位の中に入るほどになっており、体育に関しては、肉体がリボーンが来る前の状態まで若返ったが、毎日「超死ぬ気モード」状態で体を鍛えているお陰で、通常時の運動神経が中の上くらいまでになっており、周りから見たら前とは明らかに変わっているからだ。

 それらの理由から怪しまれていたが、廊下を歩いていたらなにもないところで転んだり、階段を上っていたら足を踏み外し転がり落ちたりと、見事なドジっぷりを見せるツナを見てすぐに怪しまなくなった。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 ツナは家に帰るため歩き始めると、視界の端に見覚えのある人物の姿を見つける。

 

「ん?あれって…響?」

 

 視線の先には、ライブ会場でであった少女─立花響と、その友達─確か、未来といっただろうか─と思われる少女が、女子の集団に体育館の裏に連れていかれる所だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来は、怪我が治り、ようやく学校に来ることができた響と共に、同じ学校の女子達に体育館裏に連れてこられていた。二人が何故連れてこられたのか理解できず困惑していると、リーダー格と思われる女が、響に問い詰めたいことがあると言ってきた。

 その人の話によると、ライブ会場の被害者のひとりに、響の通っていた中学校の、サッカー部のキャプテンであり、将来を嘱望されていた一人の男子生徒がいたらしい。彼女達はその男子生徒のことが好きだった人達のようで、なぜ彼が死んで、取り立てて取り得のない響が生き残ったのかと責め立ててきた。

 

「響は何も悪くない!むしろ被害者なんだよ!?それなのに…そんなの理不尽すぎるよ!」

 

 響は、事件の際に生死の狭間をさ迷うほどの怪我をおい、退院した後も、周囲からの心ない中傷を受けたり、父親が、会社に行くといったまま行方をくらませたりと、事件によって多くの被害を受けていた。その事を知っている未来は、そう訴えた。

 だが、リーダー格の女は訴えに耳を傾けず、未来を突き飛ばして響に近づく。

 

「未来!」

 

 突き飛ばされた親友(未来)を心配し名前を呼ぶ響の目の前に、女が立つ。

 

「あんたなんか…いなくなればいいのよ!!」

 

 女はそう言い、腕を振りかざす。

 未来が殴られそうになっている親友()の名前をさけ─

 

 

 

 

 

 

「待って!」

 

 

 

 

 

 

─ぶ前に、女子集団の後方から声が聞こえた。

 未来が声が聞こえた方向を確認すると、そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ学校の制服を着た男子─沢田綱吉がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つい声を出しちゃったけど、どうしよう!?)

 

 女子の集団に連れていかれている響達を見かけた後、ツナは女子集団の後をこっそりつけ、響達のやり取りの一部始終を、影でこっそり確認していた。そしてリーダー格と思われる女子が、響に手を上げようとしたところを見て、反射的に止めに入ろうとしてしまったのだ。

 つい叫んでしまい、何て誤魔化そうか考えていると、

 

「誰、あんた?」

 

取り巻きの一人がそう言って睨み付けてくる。

 

「ヒィ!?」

 

 女子に睨まれてビビるツナ。その態度を見た他の取り巻きが、なにかを思い出したように話し出す。

 

「あぁ、あんた、うちの学校の二年の『ダメツナ』じゃん。そんなやつが何のよう?」

 

 女子集団と未来は、ツナのあだ名を聞いて、彼が何者なのかを理解するが、響だけは彼のあだ名を知らなかったようで、ライブ会場でツナとあったことを覚えてはいたが、何故『ダメツナ』と呼ばれているのか理解できなかった。

 ツナは多少怯えながらも、少しずつ響達の元に近寄りながら問いかけに答える。

 

「あ、いや、えと─さ、さっきみたいな理由で響に当たっても、それは、ただの八つ当たりなんじゃないかな…?」

「─あんたには関係ないでしょ!?部外者は入ってこないで!!」

 

 ツナの言葉を聞いたリーダー格の女は、声を張り上げる。その言葉を聞いたツナは、一度立ち止まり考える。

 

(今の状態のこの人を諭そうとすれば逆効果になりかねない─なら…)

 

 ツナはある考えを思い付き、リーダー格の女を見据える。その際、リーダー格の女はツナの目から圧を感じ、一瞬たじろぐ。

 

「─いや、関係あるから、部外者ではないよ」

 

 そう言ってリーダー格の女の方に歩き始める。その間、リーダー格の女は、あの『ダメツナ』に気圧されたことに驚き固まっていた。そして、ツナがリーダー格の女の前まで来る。

 

「な、なによ…」

 

 気圧されていたリーダー格の女は、なんとか声を絞り出す。ツナはリーダー格の女を見据えたまま、口を開く。

 

「俺は部外者じゃないよ。だって─俺も、ライブ会場にいたから」

 

 その場にいた、響以外の人達が驚きのあまり目を見開き、ツナを見る。

 

「それに、響と一緒にライブ見てたし、ノイズに襲撃された時も一緒に逃げたよ」

「…そういえば、少し前に、友達が『ダメツナが身内に不幸があって学校に来てない』って言ってたような…」

 

 ツナの言葉を聞いて、取り巻きの一人が友人から聞いた内容を思い出し呟く。

 

「うん…俺の両親もライブ会場にいて、ノイズの襲撃で、二人とも亡くなったんだ…原因は数少なかった、ノイズによる消滅だって…」

 

 ツナは、救うことができなかったこの世界の両親の事を考え、少しうつむくが、すぐに顔を上げる。

 

「誰かが死んだからって、他の誰かを憎んじゃダメだ。憎しみは、不幸しか生まないから…でも…」

 

 そこで一回言葉を切り、再びリーダー格の女を見据える。

 

 

 

 

 

 

「それでも、響を許せないなら─俺を憎んでよ」

 

 

 

 

 

 

 ツナはそう言い放つ。その言葉に戸惑うリーダー格の女。ツナは話を続ける。

 

「いたことに気付かなかったとはいえ、その人をおいて逃げた響が憎まれるなら、響と一緒に逃げた俺も同じだ。響のことを憎むぐらいなら─俺を憎めばいい」

「─っ!!」

 

 ツナの言葉を聞いたリーダー格の女は、行き場を失くしかけていた怒りを発散するかのように、ツナをおもいっきり殴る。

 

「ガッ!?」

 

 殴られたツナは、勢い余って体育館の壁に体をぶつける。それを見た響がツナに駆け寄ろうとする。

 

「ツナ「来ないで!」っ!」

「大丈夫…」

 

 近づこうとする響を制し、リーダー格の顔を見る。

 

「俺を殴って、憎しみや怒りが無くなるなら…いくらでも殴ってくれていいよ」

 

 ツナがそう言うと、一方的な暴力が始まった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─数分後─

 

「大丈夫、ツナ!?」

「大丈夫ですか!?」

 

 暴力の嵐が止まり、響と未来がツナに駆け寄る。リーダー格の女は、まだ怒りが収まっていない様子だったが、一方的に殴られても一切反撃してこないツナの異様さに恐怖を覚え、取り巻き達と共にその場から立ち去っていた。

 

「イタタタ…うん、大丈夫。これでもからだ鍛えてるから…それに、リボーンのしごきに比べたら優しい方だよ…」

「リボーン?」

 

 心配する二人に、体を鍛えていているから平気だと伝える。その際に、自分の家庭教師の暴力と比べたら生易しいということを口にして、それを聞いた響が不思議そうに見てくる。

 

「あ、いや!なんでもない!それよりも、二人は大丈夫!?」

 

 ツナは誤魔化すように響達に無事を確認してくる。

 

「あ、はい、大丈夫です」

「うん…大丈夫…」

 

 二人とも無事だというが、響は暗い顔をしていた。それが気になったツナは響に話しかける。

 

「どうしたの、響?」

「…ツナの両親も、ライブ会場に来てたんだね…」

 

 ツナはその言葉を聞いてどうして暗い顔をしているのか理解する。

 

「もし、あの時ツナを連れていかなかったら…っ!」

「ちょっ!響は悪くないよ!─俺自身、あの時親と来てたこと忘れてたからさ…それに、あの時響についていったから、響を助けることができたし…それにもし、俺が父さん達のところに戻ってたとしても、父さん達が死ぬ運命は避けられなかった気がするんだ」

 

 空を見上げながら、ツナは話を続ける。

 

「俺は、響についていったことに後悔はしてない。響に出会えたから助けることができたし─こうして、また会うことが出来たんだから」

 

 そう言って、ツナは響に微笑みかける。

 

「─ありがとうっ」

 

 周りからの誹謗中傷や父親の家出によって心を痛めていた響は、ツナの言葉を聞いて心が癒されたのか、感謝の言葉を伝え、嬉しさのあまり泣き出してしまった。

 その後、ツナと未来に慰められ、徐々に落ち着いてきた。

 

「そ、そういえば!ツナ、私達と同じ学校に通ってたんだね!知らなかったよ!」

 

 落ち着いてきた響は、ツナが同じ学校に通っていたことに驚いていたことを伝える。

 

「うん、俺も響と同じ学校だったことに驚いてるよ。─そういえば響、その子が家の用事でライブに来れなかった友達?」

「うん、そうだよ!」

 

 響の回答を聞いたツナは未来の方を向く。

 いきなり自分のことが話題に上がったことに一瞬怯んだが、すぐに立ち直り軽い自己紹介をする。

 

「初めまして、えっと…「ツナでいいよ」はい、ツナさん。私は小日向(こひなた)未来(みく)といいます。ライブとノイズの襲撃の際は、響と一緒にいてくれてありがとうございます」

「イヤイヤ、お礼なんてしなくても…それに、結果的に響を守れなかったし…えっと、俺の名前は沢田綱吉。みんなからは『ツナ』とか『ダメツナ』って呼ばれてます。よろしく」

 

 互いに自己紹介し、握手をする。

 

「えっと、立てますか?手を貸しましょうか?」

「いや、大丈夫。一人で立てるよ」

 

 未来が手を貸そうとするが、ツナはそれを制して一人で立ち上がる。だが…

 

「とっとっと!?」

 

立ち上がった際にバランスを崩し…

 

 

 

 

 

 

「アダッ!?」

 

 

 

 

 

 

後頭部を壁にぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 見事なダメツナっぷりを発揮して綺麗に頭をぶつけたツナを見た響達は、心配する気持ちよりもツナのダメっぷりさへの可笑しさが勝り、思いっきり吹き出した。

 ほとんどの学生が帰った学校には、楽しげな声が響いていた…




なんとか書き終わりました。あと今度、シンフォギアのDVD借りて観てみようと思います。なので本編はある程度原作に沿わすことができるかと思います。


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標的(ターゲット)5 クリスマスとセレナ

なんとかシンフォギア見始める前に書けました。このタイトルの時点で大体察する人が過半数ですよね。今回はツナ視点のみです。マリア視点は本編で書こうと思います。


2015年12月25日

 

 ツナが学校に通い始めて二ヶ月、この世界に来て四ヶ月がたった。

 一人暮らしにも慣れ始め、学校では響と未来の三人でよくつるむようになっていた。

 三人でつるむようになってから、ツナの昼食がもっぱらコンビニ飯か購買のパンであることを知った未来が翌日からツナの弁当を作ってくれるようになったり、放課後には響達に連れられ、二人がよく通う店『ふらわー』を紹介されたり、休日には響達がツナの家に遊びに来たりと、いろんなことがあった(ちなみに余談ではあるが、未来に弁当を作ってもらった際、母親である奈々以外の女性に手作り弁当を作られたことが(あまり)ないツナはとても喜び、『ふらわー』では、お好み焼きをひっくり返した際、まだ固まりきっていなかった部分が顔に飛んできて火傷しかけ、響達が遊びに来たときは、同年代の女子を家に上げることに耐性があまりついてないので内心ドキドキしたりと、ダメっぷりを発揮していた)。

 そんなこんなで時は過ぎ、ツナ達の中学校は今日から冬休みに入った。

 

「この世界に来てもう四ヶ月近くたつのか…リボーン達とは未だに連絡がとれないし、元の世界に戻る方法もまだ分かってないけど、必ず戻れるって信じるしかない、か…それにしても、またこの年でクリスマスを過ごすことになるなんてな~…しかも今回は俺と響達だけだし…」

 

 苦笑いしながらそう呟くツナ。

 ツナは現在、家のリビングの掃除をしていた。実は、昨日行われた終業式のあと、響の提案でツナの家でクリスマスパーティーを行うことになったのだ。料理や食材の買い出しは響達がしてくるようなので、自分は響達が来る前に使う部屋を綺麗にしておこうと考えたのだ。

 実はツナ、虹の代理戦争後、十年後の世界で仲間達と共同生活をしていた時、京子達女性陣が家事をボイコットして男だけで家事をすることになった際、まともに家事ができなかったことを思い出し、奈々や家事ができる周囲の人達に家事のいろはなどを教えてもらい、今では家事全般のことは上手になっている。

 そのお陰で掃除は一時間もかからずに終わり、床は埃が一つもなく、足を滑らせない程度に拭き上げられており、流しは水垢すら綺麗になくなっており、包丁や机、さらには窓もピカピカに。さらに家具と壁の隙間も掃除されており、たった一時間弱でリビングとダイニング、及び台所はとても綺麗になっていた。

 

「はぁ…疲れた~」

 

 掃除が終わり、リビングのソファで一息つくツナ。ふと、右手にはめている自分のVG(ボンゴレギア)─大空のリングを頭上に掲げ眺める。

 彼の肉体は今現在、X(イクス)グローブに馴染むことは出来たが、未だにVGは馴染んでいなかった。なので最近は、平日は朝のランニングから(朝食や学校に登校する準備のために)家に帰るまでの短い時間で、休日は響達が遊びに来ない日は何時間もかけてVGをからだに馴染ませる特訓をしている。

 ちなみに、ツナがいた世界では、並盛町の頂点にたっている並盛の風紀委員長であり、十代目(ネオ)ボンゴレファミリーの雲の守護者─本人は『ボンゴレの雲の守護者』と呼ばれることに不満を持っているが─でもある雲雀恭弥が、ツナのものとは形状が違うが同じVGである雲のブレスレットを身に付けていることから、大空のリングをつけて登校しても何も言われることはなかったが、この世界の学校ではさすがに校則違反になるので、普段は鞄のなかにしまい、持ち物検査の時には筆箱の中等に隠したりして登校している。休日は肌身離さず身に付けており、響達に見つかった際はファッションだと言いきった。

 そんなことを思い出し、ある程度の時間大空のリングを眺めていたツナは他にやることがないか探すため立ち上がろうとした。その時─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大空のリングがまばゆく光始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?なにナニ何!?」

 

 いきなりリングが光だしたことに慌てるツナ。そんな彼の視界を光が埋め尽くす─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が落ち着くとツナはその場にいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2011年12月25日

 

 光が落ち着き、目を開くツナ。そこは全く見覚えのない建物のなかだった。

 

「んなー!?また翔ばされた!?てかホント何処だよここ!?」

 

 ツナは、数ヵ月のうちに二回もいきなり見知らぬ土地に翔ばされたことに混乱して叫ぶ。周囲をある程度見渡したツナはなにかを思い出したかのように自分の体を見る。

 

「よかった…今回は若返ってないや。…てことは、今は2015年なのかな?でも、VGが光ってたから、ボンゴレリングの力が働いたんじゃ…?」

 

 そう呟きながら、ツナは出口を探すため歩き出す。そしてある程度歩き、少し疲れていると

 

「あれ…?何か聞こえる…」

 

 何処からか音が聞こえ、その音源を探し始める。そしてすぐに音源が壁の向こう側であることに気付き、耳を近づける。

 

「これは…歌?」

(あれ?俺、この歌を何処かで聞いたことが…)

 

 壁の向こうから微かに聞こえる音が歌声であることに気付き、どこかでその歌を聞いたことがあるような気がするツナ。どこで聞いたことがあったのか思い出そうとしていると、歌声が消える。その直後─

 

 

 

 

 

 

ツナの超直感が何かに反応する

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 嫌な予感を覚えたツナはすぐに後ろに飛ぶ。それと同時に、先程までツナが近寄っていた部分の壁が爆風と共に吹き飛ぶ。後ろに飛ぶと同時に爆風で吹き飛ばされたツナは、空中で身を縮め瓦礫を防ぎ、地面に叩きつけられる前に受け身をとって衝撃を軽減する。

 そして何が起こったのか風穴の先を確認すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠っているかのように地面に倒れて動かない黒い生き物と、薄いオレンジ色の髪をした少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナは身長から、少女が自分の一つ下ぐらいではないかと考える。そしてツナからは横しか見えないが、少女の顔を見て戦慄する。少女の目や口からは血が流れていたからだ。ツナはすぐに立ち上がり、少女の元に向かおうとする。

 その時、少女の近くを瓦礫の粒が通った。

 

(ヤバい、さっきの衝撃で天井にヒビが入ってる!急がないと…っ!)

 

 ツナは、その粒が天井のヒビからこぼれ落ちていることに感づき、少女を助けるために走り出す。そして走りながらツナは大空のリングをポケットにしまい、代わりにミトンとフィルムケースを取り出す。手袋をはめ、フィルムケースから死ぬ気丸を取り出して飲み、「超死ぬ気モード」になると同時に、天井が崩れる音が聞こえる。

 ツナはすぐさまXグローブから炎を噴射し、少女の元に急ぐ。そして瓦礫が少女を襲う─直前に、ツナは地面と平行になっている体制のまま少女を抱きかかえ、そのまま反対側に向かう。少女が向いていた先に他にも人がいたが、その人達からは少女は瓦礫に押し潰されたように見えていた。

 ツナは少女に負担がかからないようにしながら空中で体制を整え、壁の手前で着地する。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 ツナが呼び掛けるが、少女は反応しない。どうやら気を失っているようだ。ツナが再び呼び掛けようとした、その時。ポケットに入れていた大空のリングが再び光出す。そしてツナは少女と共に光に飲み込まれ─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が消えるとツナも少女もいなくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年12月25日

 

 再び光に包まれたツナは、気がつくと自分が助けた少女と共に自分の家に戻っていた。

 ツナは「超死ぬ気モード」を解除し、時間を確認する。どうやら飛ばされて戻ってくるまでの時間は自分が体験した時間と同じだったようで、数十分しかたっていなかった。そのことに一度安堵するが、すぐに少女のことを思い出し、状態を確認する。

 少女のからだには目に見える怪我はないようだが内部の負担が大きいようで、未だに意識を失っている。

 少女の状態を確認したツナは、あるものを思い出し二階の自分の部屋に向かい、箱型のものを持って戻ってくる。

 ツナが手に持っていたのは、この世界に翔ばされる少し前に、元・アルコバレーノの一人にして、彼のもつ天才的頭脳ゆえに「ダ・ヴィンチの再来」と謳われた男─ヴェルデから貰っていた医療キットだった。

 実は、アルコバレーノ達は(アルコバレーノ)の呪いを解いてくれたツナにとても感謝していて、虹の代理戦争以降、沢田家によく遊びに来るようになり、その際にヴェルデから性能実験─もとい、感謝の印として渡されていたのだ。因みになぜ持っていたのかについては、リボーンに「いつどんなことが起こるか分かんねぇんだ、もしもの場合に対処できるよう常備しとけ」と言われたからである。

 

 

 

 

 

 

 ここでヴェルデ製医療キットについて少し説明しておこう。

 この医療キットは、「大空の7属性」全ての死ぬ気の炎と、科学の最先端技術、そしてヴェルデの天才的頭脳の三つを用いて作られている。

 医療キットの中にはメインとなる装置の他に、いくつかの(ボックス)が入っており、ヴェルデにしては珍しく、取扱い説明書なんてものも入っている。

 メインとなる装置は、怪我人の状態をスキャンで確認し、自動で治療を行ってくれる。

 治療には「大空の7属性」を用いており、「雨の炎」で痛みを『鎮静』化、「嵐の炎」で壊死した細胞や体内に残る有害物質を『分解』、「大空の炎」で体内の病原菌を『調和』し、「晴の炎」で骨や肉体の細胞を『活性』させ治癒を早め、「雷の炎」を晴の活性で治療した骨をコーティングして『硬化』、傷口が大きいときは「雲の炎」で傷口の周りの細胞を『増殖』させ、「霧の炎」で損傷した臓器を『構築』させる。

 それによって人が手術するよりも早く治療でき、さらにこの装置は、自ら死ぬ気の炎を生み出しチャージするので、使用して数日たてば再び使用可能になるという画期的なものだ。

 だが逆にいえば、使用して数日間は使えることができない。そういうもしもの時のために、死ぬ気の炎を付与している医療道具が入った匣が入っているのだ。

 匣はそれぞれに対応した属性の炎でしか開かないのだが、ツナの持つ「大空」の属性は、対応した炎で開けたときよりも性能は劣るが、「大空の7属性」のなかで唯一全ての属性の匣を開けることができる。

 さらにリボーンの家庭教師(かてきょー)によっていくつかの技術を会得しており、その中には医療技術も含まれているので、もしもの時の治療も可能なのでとても相性がいいのだ。

 唯一の欠点としては、元々応急処置用として作られたため、腹などを大きくぶち抜かれたりしたら、臓器の構築よりも出血多量が原因で対処が間に合わなくなる可能性があるくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 医療キットを持ってきたツナは少女をソファに寝かせ、装置を取り出し治療を開始させる。手術を行っていれば一時間以上かかっていただろうが、いろんな行程を飛ばして肉体に直接死ぬ気の炎を干渉させて治療をした結果、治療は30分で終了した。

 治療が終わってから一時間近くがたち、少女が目を覚ます。

 

Де ...?(ここは…?)

「あ!目が覚めたんだね」

 

 少女が目を覚ましたことに安堵するツナ。だが、少女はツナを見たとたん警戒し始める。

 

Хто ти! ?? (あなたは誰!?)Де це! ??(ここは何処!?)

「ちょっ、一回落ち着いて!えーっと─Чи це правильно?(これであってるかな?)

 

 混乱する少女を落ち着かせるため、ツナは少女が話していた言語─ウクライナ語で話しかける。これもリボーンの家庭教師の賜物(?)で、ウクライナ語以外にも多くの言語を話すことができる(因みに英語とイタリア語は完璧)。

 少女は、ツナがいきなり自分と同じ言語で話しかけてきたことに一瞬驚いたが、すぐに頭を縦にふる。

 

Було добре…(よかった…)Ви розумієте японську?(君、日本語は分かるかな?)

Гм?(え?)─えっと、はい、分かります」

 

 少し発音が気になるところもあるが、少女は日本語で返す。少女が日本語で話せることを知ったツナはひと安心する。

 

「よかった、日本語が通じる…君、怪我は大丈夫?」

「はい、大丈夫です。私はセレナ・カデンツァヴナ・イヴといいます。えっと、あなたが私を助けてくれたんですよね?」

「まぁ、そういうことになるかな。俺の名前は沢田綱吉。よろしく」

「よろしくお願いします、沢田さん」

 

 互いに自己紹介をする二人。そして少女─セレナはツナに話しかける。

 

「そういえば、ここは何処ですか?」

「ここは日本にある俺の家だよ。それがどうしたの?」

 

 セレナの質問に軽く答えるツナ。

 

「今日はいつですか?」

「12月の25日だけど…」

 

 ツナの言葉を聞いたセレナは驚くが、ツナはなぜセレナが驚いたのかよく分かっていない。

 

「半日もかからずにアメリカと日本を移動するなんて…あなた、何をしたんですか!?」

 

 その言葉を聞いて意味を理解したツナは慌て始める。

 

「えーっと…そ、そうだ!セレナに聞きたいことがあるんだけど!」

 

 ツナは話をそらすためセレナに質問する。

 

「何ですか?」

「…君を助けたときに近くにいた黒い生き物はなに?それに、あの施設はなんなの?」

 

 話をそらされたセレナは不満そうな顔をしていたが、ツナの問いかけを聞いてすぐに真剣な表情になる。

 

「…このこと、誰にも話さないって、約束できますか?」

 

 セレナの表情から、ことの重大性を理解したツナは無言でうなずく。ツナが了承したことを確認したセレナは、ツナにシンフォギアに関することや、自分がいたF.I.S.施設のこと、そして黒い生き物は「ネフィリム」という完全聖遺物と呼ばれる存在であることを伝える。

 

「シンフォギアにネフィリム、か…」

「あのー…話した私がいうのもなんですが、あまり驚かないんですね?」

「いやー、俺、これまで何回も非日常的なことに巻き込まれてきたからさ、そういうのに慣れてるんだ」

「…何回も非日常的なことに巻き込まれたことがあるって、どんなところに住んでいたんですか…」

 

 あまり驚かないことに違和感を覚えたセレナは、ツナの答えを聞き呆れたような顔をする

 

「あ、あはは…そ、そういえばセレナって何歳なの?」

 

 再び口を滑らせたツナは誤魔化すように聞いてくる。

 

「えっと、二ヶ月前に13歳になりました」

「え?てことは十月生まれ?」

 

 セレナの答えを聞いて少し嬉しそうに問うツナ。

 

「はい、1998年の、10月15日生まれです」

「へぇ、てことは俺の誕生日の次の日なんだ…ん?1()9()9()8()()?」

 

 ツナは最初、セレナの誕生日が自分の誕生日のすぐ近くであることに驚いたが、セレナの一言に違和感を覚える。

 

「ねぇセレナ…今って何年か分かる?」

「えっと…2011年ですよね?」

 

 それを聞いたツナは、ボンゴレリングの力によって自分が四年前のアメリカに翔ばされていたことに気付き─

 

 

 

 

 

 

「過去の人連れてきちゃったーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 驚きのあまりつい声に出して叫んでしまった。それをセレナが聞き逃すはずもなく、

 

「ツナさん…今、過去の人がどうとか、言いましたよね?どういうことですか?」

 

 次は見逃さないと言わんばかりに、ツナに問い詰めてくるセレナ。ツナは最初戸惑っていたが、セレナの気迫によってツナが折れ、セレナに死ぬ気の炎のことやボンゴレリングの奇跡のこと、そして─自分がこの世界の住人ではないことを話した。因みに、ほとんどのことは話したが、自分が元の世界ではマフィアのボス候補であることは一切話してない。

 

「そんなことがあるなんて…信じられないです…」

「あはは…俺からしたら、シンフォギアなんてものがあるこの世界の方が信じられないよ」

 

 ツナの話に驚くセレナ。そんな彼女に苦笑いしながら話すツナ。

 

「そういえば、この世界のご両親は…?」

「…実は、この世界に来た日に、ツヴァイウィングっていうツインボーカルユニットのライブに行ってたんだけど、そこでノイズの襲撃にあって、その時に…」

「それは…ごめんなさい」

「いや、セレナは何も悪くないんだから謝らなくてもいいよ…」

 

 ツナがそう言い、その場が静まり返る。

 

「そ、そういえば、セレナは何処か行く宛があるのかな?」

 

 暗い空気を払拭するように、ツナがセレナにこの後どうするのか問いかける。

 

「それは…」

 

 セレナはそう呟き、すぐに黙りこむ。そんなセレナを見たツナはあることを決意する。

 

「もし、行く宛がないんだったら─(うち)に住まない?」

「え?」

 

 ツナの発言に驚くセレナ。

 

「俺の家、元の世界では母さん以外にも5人ほど居候してる人がいたから慣れてるし、この家、俺一人で住んでるから部屋が何ヵ所も余ってるんだ。それに─君がいた場所って、どこかの研究所だったでしょ?もしそこの人に、今現在、セレナが生きてることがバレたら、何されるか分からないし…だから、セレナが大丈夫なら…」

 

 そう言ってセレナに確認をとるツナ。驚いていたセレナはその言葉を聞いて、ツナに微笑み

 

「─はい、よろしくお願いします!」

 

そう返した。その答えを聞き、笑顔を見せるツナ。

 

 

 

 

 

 

 だが、玄関から聞こえたインターホンの音によってその場で固まってしまう。

 

 

 

 

 

 

(そういえば、今日は家で響達とクリスマスパーティーするんだった!)

 

 そこでようやく響達との約束を思い出したツナ。

 

「おーい、ツナー!いるんでしょー!早く鍵開けてー!」

「食材買ってきたよー!」

 

 外から響達の声が聞こえ、セレナを隠れさせようとするが、その際にカーペットで足を滑らせ─

 

「ギャーーー!」

 

机の角におもいっきり頭をぶつけてしまい、痛みのあまり叫んでしまう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 そんなツナを心配するセレナ。

 

「どうしたのツナ!?」

「外まで声が聞こえたけど大丈夫!?」

 

 響達はツナの叫び声が聞こえ、ベランダに回り込んだ。そして─

 

 

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

 

 ツナは現在、リビングで正座させられており、響と未来は、怒りの形相で正座しているツナを睨み付けていた。響達がセレナを確認した後、立ち直ったツナはすぐに玄関の鍵を開き響達を家に招き入れたが、すぐに二人から有無を言わさず正座させらたのだ。

 

「それじゃあ、彼女が誰なのか…」

「説明して貰えるかな…?」

 

 そう言ってツナに詰め寄る二人。

 

「え、えっと…」

 

 そんな二人にどう説明しようか考えていると、セレナが二人に近づいてくる。

 

「はじめまして…えっと、響さんと未来さん、でしたっけ?」

 

 ツナに詰め寄る二人に、ツナが玄関で二人の名前を読んでいたのを思い出しそう問いかけるセレナ。

 

「う、うん」

「そうだけど…」

「それじゃあ改めて…始めまして、響さん、未来さん。私はツナさんの従妹の『沢田セレナ』って言います」

 

 戸惑う二人にそう答えるセレナ。それを聞いたツナは驚き声を出しかけるが、どうにか飲み込むことに成功する。

 

「ツナの…」

「従妹?」

「はい。ツナさんとは子供の頃からの家族ぐるみの仲だったんですが…」

 

 そこで一度区切り話を続ける。

 

「実はこの前、私の家族が交通事故で全員亡くなったんです…その葬儀の時に、私は父から『困ったときは、ツナくんの家族に頼りなさい』と言われていたことを思い出して、ここに住ませて貰うために今日伺ったんです」

 

 話が終わると、響と未久はセレナに同情したような顔になっていた。

 

「そうなんだ…─そうだ!セレナちゃんはツナから許可は貰えたの?」

 

 悲しそうな顔をしていたが、すぐに笑顔になってセレナに話しかける響。

 

「はい、ちょうど響さん達が来る前に…」

「そっか、よかったね!もしツナが変なことをしてきたら、いつでも私達に頼っていいよ!」

「(||ガーン!)俺って、響達からそんな目でみられてたの!?」

 

 落ち込むツナに、響は「冗談だよ冗談」という。そのやり取りをみて、未来とセレナは笑いだし、ツナと響もそれにつられて笑い始めた。

 ある程度笑いが収まると、響がセレナに、一緒にクリスマスパーティーをしないか提案してくる。セレナはその提案を快く受け入れ、ツナは一度、セレナに住む部屋を紹介させるといって、セレナを連れて階段を上がる。

 

「ごめんねセレナ、あんな嘘つかせちゃって…」

「別に気にしないでください。ツナさん、隠し事や嘘、あまり得意じゃ無さそうですし」

「ウグッ」

 

 図星をつかれ、たじろぐツナ。セレナはそんなツナを見て少し笑ってしまう。

 

「…えっと、響達が来て色々あったけど改めて、これからよろしく、セレナ」

「よろしくお願いします、ツナさん」

 

 その後行われたクリスマスパーティーは四人で楽しんだ。

 セレナがツナの家に住むことになってから、ツナの弁当はセレナが作ってくれるようになった。その事に未来が最初、不満そうな顔をしていたが鈍感なツナはなぜなのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

そして時が過ぎていく─

 

 

 

 

 

 

 正月などの祝い事の日は四人で集まって祝ったり、セレナの姉であるマリア・カデンツァヴナ・イブが歌手としてデビューしその事にセレナが大喜びしたりといろんなことがあり、そして─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナは再び高校生になった




ヤバい、なんかすごい文字数になってしまった…
これで序章は終わりです。一つ設定集をあげてから本編を書こうと思います。


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設定2 序章終了時点(本編開始前)登場キャラ及び細かい設定

名前の通り設定です。以前の妄想設定集の設定を少しいじりました。あとシンフォギア見始めましたが…やっべ、最初だいぶん違うわぁ…こ、この世界はツナが来たことで少し因果が変わってるのででで(慌)


登場キャラ設定

 

立花(たちばな)(ひびき)

 

15歳(一期)→16歳(二期・三期)→17歳(四期終盤以降)

 

私立リディアン音楽院高等科一年

 

性格などは原作通り。

本編開始二年前のライブ会場でツナと知り合う。尚、入れ替わる前のツナとは同じ学校だったが互いにあったことはない。

ノイズ襲撃の際、ツナと一緒に逃げ、逃げた先でノイズの襲撃から奏に助けられるが、奏が纏っていたガングニールの破片が刺さり瀕死の重傷をおう。

事件が落ち着き、退院後学校に復帰し、いじめられているところをツナに助けられ、それ以降、響・未来・ツナの三人でよく行動するようになる。

それにより、ツナの存在が小日向未来と同じ心の支えになる。未来が「ひだまり」なら、ツナは「大空」。

未来とツナのことを大切に思っており、ツナに対しては淡い恋心を抱いているが、本人は気付いていない。

 

 

 

 

 

 

天羽(あもう)(かなで)

 

18歳(一期)→19歳(二期・三期)→20歳(四期以降)

 

生存キャラその一。

本来ならノイズ事件で絶唱を行い、ガングニールと共に消滅する筈だったが、別世界のツナが来たことにより改変。

響に破片が刺さるところまでは同じ(ただしツナも一緒にいた)で、ツナ達を逃がし、絶唱を歌い始めるが、途中でシンフォギアの負担に身体が悲鳴をあげたため中断、ノイズの攻撃を受けそうになっていたところを、ツナに助けられる。

その後、気を失い、変身が解除されガングニールだけ消滅した。

その際、ツナが奏に『Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』を着せた結果、『Ⅰ世のマント』に付与されていた大空の「調和」によって、奏の体を蝕んでいた「LiNKER」が調和され体内から消滅した。

死にはしなかったが、シンフォギアとLiNKERの負担が重く、昏睡状態になる。

 

 

 

 

 

 

風鳴(かざなり)(つばさ)

 

18歳(一期・二期)→19歳(三期以降)

 

私立リディアン音楽院高等科三年

 

天羽々斬(あめのはばきり)の適合者。

奏は生きてはいたが、本編開始時点でも昏睡状態だったことから性格や言動は原作通りに。

事件の際に奏を助けたことには感謝しているが、ツナが逃げる際に言っていた「その時」がいつなのか、モヤモヤした気持ちでその時を待ち続けている。

 

 

 

 

 

 

小日向(こひなた)未来(みく)

 

15歳(一期・二期)→16歳(三期・四期)→17歳(五期以降)

 

私立リディアン音楽院高等科一年

 

大体の設定は原作通り。

事件の時に自分の変わりに響の側にいてくれたツナに感謝している。

ツナのことは、最初は学校などの噂からあまり良い印象を持っていなかったが、関わっていくうちにツナの本質に気づき始める。

響とツナのことを大切に思っており、ツナに関しては淡い恋心を抱いている。

恋心だと気付いてない響に対し、未来はその感情に気づいてはいるが、表に出さないようにしている。その事から、ツナの家でセレナを見つけたときは響よりも怒っていた。

セレナがツナの弁当を作ることになった際は少し膨れていた。

 

 

 

 

 

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

 

14歳(一期)→15歳(二期序盤から)→16歳(五期以降)

 

ネタバレ及び生存キャラその二。

アガートラームの適合者。

本来なら本編開始の六年前、暴走したネフィリムを休眠させるため絶唱を歌い、ネフィリムの休眠に成功させた後、絶唱の衝撃で崩壊した瓦礫の下敷きになり死亡していたが、別世界のツナが来たことにより改変。

瓦礫の下敷きになる直前に、ボンゴレの縦の時空軸の奇跡によってこの時代に翔ばされてきたツナによって助け出された直後、ツナと共に元の時代(ツナがいた時代)に翔ぶ。

絶唱の負荷をおっていたが、適合者だったことで消滅はせず、元の時代に戻ってすぐにツナが元の世界から持ってきていた医療キットを使って治療した結果、大事にはならなかった。

その後、目が覚めた後、ツナにシンフォギアなどのことを教える。

その際、ツナの言動に違和感を覚え、それについて問い詰めた結果、主要人物のなかで最初に死ぬ気の炎やVG(ボンゴレギア)について知ることになる(マフィアについては教えられてないが、ツナがまだ何か隠していることには気づいている)。

説明が終わった後、セレナの身を案じたツナから一緒に住むことを提案され、それを了承、沢田家最初の同居人となる。

セレナ・カデンツァヴナ・イヴが生きていることを隠すため(響達には隠すことを決める前にバレたが)、学校には通わず、偽名として「沢田セレナ」を名乗ることになる。

ツナの登校が始まってから、朝御飯と弁当の両方を作る余裕のないツナの代わりに弁当をセレナが作るようになる。

セレナはツナの従妹で、家族が交通事故で亡くなり、よく親に「何かあったらツナの家族に頼れ」と言われていたので引っ越してきた、ということになっている。

自分のことを助けてくれたツナに感謝しており、彼の家に居候し始めてからツナに恋心を抱くようになる。

ナッツにはすぐに懐かれた。

マリアがデビューした際はとても喜び、今では大ファンになっている。

 

沢田綱吉

 

シンフォギア(この)世界に翔ばされてから約二年、再び高校の入学式に参加することになるとは思わなかった。

二年間の自主特訓の結果、肉体をX(イクス)グローブについでVGも使いこなすことができる状態まで戻せた。

偶然出てきたナッツがセレナにすぐ懐いたことには少し驚いた。

高校入学時の成績は入試合格者上位十位以内。その事から教師陣からは期待されていたが、成績や運動神経は優秀なのに休み時間などではダメダメなことから、入学前にも関わらず、ツナのクラスメイト予定の人と教師陣から『ダメツナ』と呼ばれるようになる。

現在の高校の全学生成績順位は奇跡的に27位。

家光達が死んだことによる政府からの援助金と、ツナのために二人が貯めていた貯金と遺産金、シンフォギア世界のツナの貯金を合計すると、高校まで行って卒業しても、数年間は自由に暮らせる額になっている。生活費に使っているが、別の世界の自分と言えど、他人のものなので使っていることに罪悪感を抱いている。

 

 

ツナが元の世界から持ってきたもの

 

『死ぬ気丸』

お馴染みのツナが「超死ぬ気モード」になる際に服用する錠剤。元の世界の高校が始まる際にリボーンから、もしもの場合を考えて大量に持たされていたが、一年間ほとんど毎日、特訓のために一日一個ずつ消費していた結果、途中で使用を控え始めたが数少なくなっている。

X(イクス)グローブ』

ツナの必須アイテムの一つ。もしものために常時ポケットにいれている。通常時の見た目はなんの変哲もないミトンなので持ち物検査では引っ掛からない。秋冬の季節は手袋の変わりにもなり、持ち物検査では中に大空のリングを隠して登校する。

『大空のリングVer.X(イクス)

ツナの必須アイテムの一つ。休日はいつも身に付けているが、学校がある平日は鞄のなかに入れて持ち歩き、持ち物検査の日には制服の裏に作った胸ポケットに隠して登校する。秋冬の時期はミトン状態のXグローブで隠すようにして身につけ、登校している。たまにナッツが出てくるが、大体はセレナの膝の上で撫でられている。

『ヘッドフォン及びコンタクトディスプレイ』

ツナの十八番である『X-BURNER』系列の技を使うときに必要なアイテム。持ち物検査の日以外は普通に鞄に入れて持ち歩いているが、持ち物検査の日は家において登校しており、その際の管理はセレナが行っている。

『レオン製のベスト』

レオンに作られた特殊な繊維で出来たベスト。伸縮自在で温度調節も優秀なので、春夏秋冬中高一貫して着ることができる。対衝撃性能も優秀で、並の攻撃ではダメージを着用者に通さない。

『ヴェルデ製医療キット』

詳細は標的(ターゲット)5を参照。

『携帯電話』

なんの変哲もないガラケー。だがこの世界に翔ばされて以降電源がつかず使い物にならなくなったので、政府の支援金で新たに携帯を買い、ガラケーからスマホに乗り換えた。

『筆記用具などの勉強道具』

なんの変哲もない勉強道具。筆記用具はこの世界でも中高でこれを使っている。

『京子お手製のお守り』

いつも持ち歩いている大切なお守り。こちらも偶然カバンにいれていたお陰で紛失は免れた。学校にいくときも朝トレをするときも必ず身に付けていっている。




本編は一話にアニメ一本分ーーつまり番外編である隠し弾とプロローグを抜いた、アニメ一期から五期まで合わせて全65話で終わらせることが出きればと思います。一シーズンが終わったら次のシーズンまで少し時間を開けようと思います。あと通常は週に四話上げられればと思っていますが、今週は都合により、8話上げることになるかもしれません。誕生日イベントですが、気分が乗れば、本編終了後にでも画像をもとに、隠し弾EXとでも名付けて作るかもしれません。

追記
セレナとツナの設定部分に書き忘れがあったので付け足しました。

追記(4/23)
ツナが持ってきたもののところにお守りのことを付け足しました。


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『戦姫燈炎SYMPHOGEAR!』ルナアタック来る!
標的(ターゲット)6 日常の終わりを告げる鼓動


なんとかできました。クッソ長くなったなぁー…ガチ疲れたっす

でも、出来れば今日もう一本上げられればとも思ってます。


~2017年4月9日~

 

 学生の新たな学校生活が始まる日である4月の今日、この作品の主人公であるツナこと沢田綱吉は…

 

A.M.8:30

 

「やべー!入学式早々遅刻するー!」

 

 彼にしては珍しく、学校に遅刻しそうになっていた。

 なぜ彼が遅刻しそうになっているのか。その理由は、今日もいつものように朝のランニングを行っていると、『偶然』野良犬と鉢合わせ、一時間以上もの間追いかけ回された挙げ句、自ら足を滑らせ川に落ちてしまった。その後、野良犬に長い時間追いかけ回されたせいで家からだいぶん離れており、ずぶ濡れのままさらに一時間以上かけて家に戻り、シャワーを浴びたり学校の準備をしたりしていたら、こんな時間になっていたのだ。

 

「何で今日に限ってこんなにツイてないのー!?」

 

 走りながらそう叫ぶツナ。

 そして走り続けること数分、学校まであと少しというところまで来た。

 

「ハァ、ハァ…これなら、なんとか間に合うかも…」

 

 そう呟き、少しペースを落として学校に向かっていると

 

「ん?あれって…」

 

 近くの木に誰かが上っていた。その人物を確認するため、ツナが近づくと…

 

「よしよーし、もう大丈夫だからね~」

「んな!?響!?なにやってるの!?」

 

 木に上っていたのは、ツナがこの世界に来て初めてあった少女であり、今では親友といっても過言ではないぐらいの仲になった少女、立花響であった。彼女はツナの声に気付き、木の上から彼を見下ろす。その腕には猫が抱えられていた。

 

「あ、おはようツナ!いや~、この子が木から降りれなくなってたからさ~」

「はぁ…ホント、響は人助けが好きだな。…いや、猫は人じゃないか…」

 

 響の癖をよく知っているツナは、彼女の言葉を聞いてあきれ果てる。あきれ果てるツナに苦笑いしていると

 

「あわ!あわわ!」

 

 木の上でバランスを崩し始め

 

「うわー!」

「え、ちょっ─グエ!」

 

 響は猫を抱いたまま木の上から落ちてしまい、響の下にいたツナは、仰向けの姿勢で押し潰されるような形で響の下敷きになってしまう。

 

「イッツツ…あ!ツナ、大丈夫!?」

「ゲホッゲホッ…な、なんとか…響の方は…?」

 

 響は自分のクッションになったツナを気にかかるが、ツナは少し咳をしたあとどうにか無事であることを伝え、逆に響の無事を確認してくる。

 

「私の方は大丈夫。猫ちゃんも無事だよ」

「そっか、ならよかったよ」

 

 響達が無事であることを聞き、ひと安心するツナ。だがあることを思い出し、鞄から急いでスマホを取り出し、電源をつける。すると画面には

 

『08:55』

 

と表記されていた。

 

「ヤベー!急がねーと!」

 

 そう言いながら響にもその画面を見せる。するとそれを見た響も慌て始め、すぐに立ち上がりリディアン音楽院に向かい走り始める。それを見たツナも自分が通う高校に向かい走る。

 

「私、呪われてるかもー!」「俺、やっぱツイてねー!」

 

 二人は互いにそう叫びながら学校に向かい、そして─

 

 

 

 

 

 

「立花さん!」

「あ、アハハ…」

 

 響は案の定遅刻し、教師に怒られていた。ちなみにツナの方はというと─

 

 

 

 

 

 

「お、遅刻か沢田。なんだ?犬にでも追いかけ回されたか?」

 

 ツナの担任は心配しつつも笑いながらツナにそう言ってくる。見事に正解している担任の言葉にツナはただただ苦笑いするしかない。

 

「いや、もしかしたら川にでも落ちたんじゃないですか?何せ、勉強や運動は優秀なのに、他のことになるとダメダメな『ダメツナ』ですから!」

「「「「「アハハハハ!」」」」」

「ア、アハハ…」

 

 そしてクラスメイトにこれまた図星をつかれ、さらに自分の愛称を言われたツナは乾いた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァー、疲れたー!入学初日からクライマックスが百連発気分だよー。私呪われてる~…」

「半分は響のドジだけど、残りはいつものお節介でしょ」

 

 授業が終わり、苦言をこぼす響に幼馴染み兼保護者であり、同じ寮のルームメンバーでもある小日向未来がそう訴える。

 

「人助けと言ってよ~、人助けは私の趣味なんだから~」

「響の場合、度が過ぎてるの。同じクラスの子に、自分の教科書貸さないでしょ?普通」

「私は未来から見せてもらうからいいんだよー」

 

 そう言って響は笑う。そんな響に未来は少し不満そうな顔をして

 

「バカ…」

 

 響に聞こえない声でそう呟いた。

 

「おお!?」

 

 響は未来の言葉に気付かず、机の上にあったポスターを目の前に掲げる。

 

「CD発売はもう明日だっけ!?」

 

 そう言って手に持っていたポスターを抱き締める。

 

「やっぱ格好いいな~翼さんは!」

 

 そう呟く響を見て微笑む未来。

 

「翼さんに憧れて、リディアンに進学したんだもんね。たいしたものだわ」

「だけど、影すら御目にかかれなかった…」

 

 未来が、響がリディアンに入学した理由に少し呆れつつも、努力して入学することが出来たことを称賛するが、響は不満げに返す。

 

「そりゃあトップアーティストなんだから、そう簡単に会えるとは思ってないけどさ」

 

 そう呟き、胸元にある、音符の『f』の形をした傷跡を見て、ライブ会場で自分を助けてくれた『ツヴァイウィング』の二人のことを思い出す。そして退院後に自分が聞いた話は、大勢の人が世界災厄である『ノイズ』の犠牲になったということだけであることを思い出し、自分が見た光景は幻だったのかと物思いに耽る。

 

(私が翼さんに会いたいのは、あの日何が起こっていたのか、分かるような気がしているから…あの日一緒にライブ会場にいたツナは何も話してくれないし…)

 

 そこで響は朝のことを思い出す。

 

「あ、そういえば今日の朝、学校に急いでるツナと会ったよー。ツナにしては珍しく慌ててた。ツナの方は学校間に合ったかな~」

「え?そうなの?ツナにしては珍しいね?」

 

 響の言葉を聞いた未来は不思議そうにしながら考える。

 

「…朝のランニング中に、野良犬にでも追いかけ回されたのかしら?」

「もしかしたら、そのあと自分で足を滑らせて川に落ちて、びしょ濡れで一時間近くかけて家に帰ってたりして!」

 

 ツナのことをよく知っている二人は、彼の身に起こったことを見事に的中させる。伊達に二年間近く三人でつるんで親友にまでなっているわけではないのだ。

 そんなツナはというと…

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

 

 ちょうど学校の校門を通るところだった。

 

「なんだろ?風邪かな?それとも響が噂でもしてるのかな?」

 

 見事に後者が的中しているが気付いていないツナは、そのまま帰宅の途に入る。

 

「あ、そういえば明日は『ツヴァイウィング』の新曲が出るんだっけ」

 

 帰る途中、先ほど響が言っていたこととほぼ同じようなことを呟くツナ。彼は元々音楽は好きな方で、元の世界では通学路でよく演歌を聞いていたが、この世界に来た際に『ツヴァイウィング』の歌を聞いて、彼女達の大ファンになってしまい、今では通学路や朝のランニングでは、よく『ツヴァイウィング』の曲を聞きながら登校やランニングを行うようになっていた。

 

「にしても、また高校の入学式に出ることになるなんてな~」

 

 そう呟いて、この世界で過ごした日々を思い出すツナ。それと同時に、元の世界の家族や仲間達のことも思い出す。

 

「…みんな、元気にしてるかな…」

 

 最後にそう呟くと、そのまま家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 リディアン音楽院近くの山に大量のノイズが発生し、戦闘員と思われる隊員たちが攻撃を行っていた。しかし、銃弾もミサイルも全てノイズを通り抜けてしまう。

 

「やはり、通常兵器では無理なのか!?」

 

 隊員の一人が、自分達の無力さに悔しさをにじませていると

 

 

 

 

 

 

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

 

 

 

 

 

 

 どこかから歌声が聞こえ、回りを見回していると、上空をヘリコプターが通りすぎていく。そしてヘリコプターが大型ノイズの近くで旋回すると同時に、一人の女性が飛び降りる。そして降下していく女性の回りに光の輪が現れ、光が女性を包み込むと、外見が変化し、女性はそのまま地面に降り立つ。そしてその女性─風鳴翼にノイズたちが近づいてくる。すると彼女の纏うシンフォギア─天羽々斬の脚部のブレードが展開される。

 

『翼、まずは一課と連携しつつ、相手の出方を見て─「いえ、私一人で問題ありません」翼!』

 

 翼は命令を無視し、日本刀状のアームドギアを取り出す。

 

()りなさい!夢想(むそう)(たけ)(ほのお) 神楽(かぐら)(かぜ)(めっ)散華(さんげ)せよ」

 

 翼が歌い始める。

 逆立ちと同時に横回転し、展開した脚部のブレードで周囲のノイズを切り裂いていく。

 

逆羅刹

 

 逆羅刹である程度ノイズ達を倒すと、空高く舞う。

 

嗚呼(ああ) (きずな)にすべてを()した 閃光(せんこう)(けん)よ」

 

 空間から大量の青いエネルギー剣を具現化し、上空から落下させ広範囲を攻撃しノイズ達を殲滅していく。

 

千ノ落涙

 

 地面に着地すると、大型ノイズの方を向く。すると翼の持っていたアームドギアが変形し、大剣状に変化する。

 

()()()わずに (いな)()飛沫(しぶき)()てよ」

 

 大型ノイズに向かって走り、空高く翔び上がり、アームドギアを振るい、巨大な青いエネルギー刃を放ち大型ノイズを両断する。

 

蒼ノ一閃

 

 翼が着地すると、両断された大型ノイズが一瞬炭化したあと、爆散し、シンフォギアのアーマーから蒸気が噴出される。そして翼は残っているノイズに向かい走り出した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自衛隊、特異災害起動部による、避難誘導は完了しており、被害は最小限に押さえられた、だって」

 

 次の日の朝、食堂で未来はご飯をガツガツ食べている響の前で、携帯のニュースを読み上げていた。

 

「ここから、そう離れていないね」

「うん…」

 

 未来の言葉に同意し、一度食べる手を止める響。すると周囲が先程までとは違ったざわつきを始める。

 

「ねぇ、風鳴翼よ!」「芸能人オーラ出まくりで、近寄りがたくて…」「孤高の歌姫と言ったところね!」

 

 その言葉を聞いた響は、勢いよく立ち上がり振り返ると、偶然通りかかった風鳴翼が目の前にいた。憧れの存在を目の前にして、息を飲む響。翼はそんな響の方を向く。

 

「あ、あの…」

 

 響は緊張のあまり、手に持っていた茶碗と箸ごと手を震わせる。すると翼は無言で自分の口元を指差す。

 

「へ?」

 

 それを見た響は自分の口元に視線をおとし、指で確認すると─

 

 

 

 

 

 

ご飯粒が二つほど引っ付いていた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ~…もうダメだ…翼さんに完璧可笑しな子だと思われた…」

「間違ってないんだからいいんじゃない?」

 

 朝の食堂での出来事以降、今日一日ずっと落ち込んでいた響がそう呟くと、未来は辛辣な感想をのべる。

 

「それ、もう少しかかりそう?」

 

 響は未来にそう質問する。

 

「うん…ん?あぁそっか、今日は翼さんのCD発売だったね…でも、今時CD?」

 

 未来は昨日、響が言っていたことを思い出し、なぜCDなのか問い返す。

 

「う~るっさいな~、初回特典の充実度が違うんだよ~CDは~」

「だとしたら、売り切れちゃうんじゃない?」

 

 嬉しそうにしながら未来の問いに答えた響だが、それを聞いた未来の一言で勢いよく起き上がり、未来をおいてCD屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 その頃ツナは、

 

「今日はなんとか遅刻せずに登校できたけど、疲れたな~…」

 

 そう呟きつつも、彼もCD屋に向かっていた。

 

「昨日のノイズ事件、リディアンからあまり離れてなかったけど、響達は無事だったかな?」

 

 朝のランニング中に、以前「超死ぬ気モード」の特訓をしていた山が封鎖されていたことと、ランニング後の朝食中のニュースを思い出し、響達の心配をするツナ。すると、ちょうど昨日、響と登校中にであった場所で彼女を見かけた。呼吸を荒くしていることからどうやら走って来たようだ。

 

「あ、響じゃん。どうしたんだそんなに慌てて?」

「急がないと、CDの初回特典が無くなっちゃう!」

 

 響の言葉を聞いて彼女が急いでる理由を理解したツナ。すると突然

 

「ツナも翼さんのCD買いにいくんでしょ!?なら急がないと!」

「え!?ちょっと、響!?」

 

 そう言って響はツナの手をつかみ全力で走り出す。初回特典などはついてくれば嬉しくはあるが、別にそこまで固執していないツナは、響の行動に驚き制止しようとするが無視され、響につれられ街に向かった。

 

「ハッハッ、CD!ハッハッ、特典!」

 

 そう呟きながらツナを引っ張り走る響。ツナは、体力はだいぶついている方だが、響に無理矢理に近い形で引っ張られていることから少し疲弊している様子。

 そしてリディアンから少し離れたコンビニの角を曲がったところでやっと響が立ち止まり息を整え始め、ツナも呼吸を整える。

 

「ハァ、ハァ…ちょっとは、落ち着きなって…」

「ハァ、ハァ…ア、アハハハ…ごめんごめん…」

 

 そんな会話をして、息を整えると歩きだそうとする二人。だが、目の前の光景を見て立ち止まる。二人の目の前には─

 

 

 

 

 

 

いたるところに()が散らばっていた─

 

 

 

 

 

 

「「ノイズっ」」

 

 その灰を見たツナ達はその原因に気付く。すると

 

 

 

 

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 

 

 

 

 どこからか悲鳴が聞こえ、声がした方に向かうと、ノイズに追われる少女がいた。響はすぐさま少女の元に駆け寄り、手をつかんでツナの元に戻ってくる。

 

(とにかく、できるだけ響達からノイズを遠ざけないと…!)

 

 そう考えたツナは

 

「こっちだ、ノイズ!」

 

 おびき寄せるように叫び、響達から離れていく。その作戦は成功したようで、何割かのノイズは離れていくツナを追いかけ始める。

 

「ツナ!?」

「コイツらは俺がどうにかする!今のうちにその子をつれて早く逃げろ!俺は大丈夫だから、心配しないで!」

 

 そう言って、ツナはノイズをつれて走り去っていく。ツナの後ろ姿を心配そうに見ていた響だったが、ツナの言葉を思い出し、すぐに少女の手を掴み、ツナが逃げた方向とは逆の方向に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況を教えてください!」

 

 とある施設の作戦指令室に入ってきた翼は現状を確認する。

 

「現在、反応を絞り混み、位置の特定を最優先しています」

 

 確認してきた翼に、隊員がそう話す。それを聞いた翼は、ノイズの反応を映すモニターを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ…ここまで離れれば、人目にもつかないし、響達に見られたりもしないだろ…」

 

 囮役としてノイズを引き付けつつ、街の人々が被害に会わないように裏路地を利用して逃げ回っていたツナは、響達がいた所からだいぶ離れた場所まで来ていた。空を見上げると、ほとんどの色を黒が占めており、夕日は沈みかけていた。

 彼は息を整え、ノイズ達の方を向く。ノイズは徐々にツナとの距離を縮めていく。

 彼は静かに鞄からヘッドフォンとコンタクトディスプレイ、ポケットからミトンと大空のリングを取り出し、身につける。そしてフィルムケースから死ぬ気丸をひとつ取り出し服用する。

 

 

 

 

 

 

─彼の額にオレンジ色の炎が灯る─

 

 

 

 

 

 

 それと同時にX(イクス)グローブの下に隠れた大空のリングがまばゆく光り、Xグローブの形状がガントレットに変化する。そして彼の雰囲気が変化する。

 

「いくぞ」

 

 ツナはそう言うと、一瞬にして先頭にいたノイズの元に近寄り、顔と思われる部位を容赦なく殴る。殴られたノイズは空高く上がり、炭になって消滅する。

 ツナは攻撃の手を止めない。最初のノイズを倒した彼は直ぐ近くにいたノイズ達に「Xカノン」を連射する。

 Xカノンをくらったノイズは一瞬にして炭化し消滅する。ノイズは反撃しようとするが、ツナは一瞬にしてノイズ達から距離をとる。そんな彼にノイズ達は体を槍状に変形し飛んでくる。それに対し、ツナは

 

「ナッツ!!形態変化(カンビオフォルマ) 防御モード(モード・ディフェーザ)!!『Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』!!!」

 

 大空のリングからナッツを呼び出すと、『Ⅰ世のマント』に変化させ、ノイズ達の攻撃を防ぐ。ノイズの『位相差障壁』に干渉することができる死ぬ気の炎と、すべてを『調和』する「大空の炎」によって、『Ⅰ世のマント』に触れたノイズは位相差障壁を無効化され、「大空の炎」によって空気と「調和」され崩壊する。

 それを見た残りのノイズ達は、一ヶ所に集まり融合を始め、大型ノイズに変化する。

 ツナは大型ノイズに一切怯まず、ノイズを倒すための準備を行う。

 

「形態変化 攻撃モード(モード・アタッコ)!!『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』!!!」

 

 形態変化(カンビオフォルマ)の状態を変化させ、マントを消し、右のガントレットを『Ⅰ世のガントレット』に変化させ、死ぬ気の炎を『Ⅰ世のガントレット』に収束させ、大型ノイズの眼前に移動し

 

「ビッグバンアクセル!!!」

 

 球状に収束した死ぬ気の炎を纏った拳をノイズの顔に叩きつける。するとノイズは殴られた部位が爆発し、炭化して崩れ落ちる。大型ノイズの崩壊を見届けたツナは、周囲にノイズが残っていないこと確認すると、形態変化を解除する。

 

「これで俺がおびき寄せた分は終わりか…急いで響の元に向かわないと─っ!」

 

 ツナが響を探すため周囲の確認を行おうとした直後、工場の方から光の柱がたった。それを見たツナは、その光は響が起こしたものだと『超直感』で感じた。

 

「ナッツ!形態変化!」

 

 すぐにツナはナッツを形態変化させ、戦いで使った時とは違う、手の甲にボンゴレの紋章が刻まれたガントレットに変化する。ツナはナッツの形態変化が完了すると同時に、ものすごい速さで光の柱がたった工場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 ツナと分かれたあと、響は少女を引き連れ路地裏を走っていた。だが─

 

「嘘!?」

 

 路地裏を出ると、そこには大量のノイズが待ち伏せていた。ノイズは徐々に響と少女に近づき始める。

 

「お姉ちゃん!」

「大丈夫、お姉ちゃんが一緒にいるから…」

 

 少女は怯えて響にしがみつく。響は声を震わせつつも少女を安心させるためそう呟く。そして周囲を確認し、少女を抱き寄せて目の前の川に飛び込んだ。そして響は少女を抱き締めたまま川の向こう岸に向かう。そして数分後─

 

「ハァ、ハァ…シェルターから、離れちゃった…」

 

 川を渡りきったあと、響は少女を背負い、工場地帯まで走って来ていた。

 だが、走り続けたことによる疲労から躓いてしまう。その際に背負っていた少女も放り投げられた。

 響は息を整えようとしつつ、自分達が来た方向を確認する。すると

 

『生きるのを諦めるな!』

 

 かつて奏に言われたことを思い出す。そして立ち上がり、再び少女を背負って工場の中に逃げ込む。

 

(あの日、あの時、間違いなく私は、奏さん(あの人)に助けられた)

 

 逃げつつも、心のなかで言葉を紡ぐ。

 

(私を救ってくれたあの人は、とても優しくて、力強い歌を口ずさんでいた)

 

 そして梯子を上りきり、少女と一緒に仰向けに倒れこみ息を整える。

 

「…死んじゃうの…?」

 

 少女がそう呟く。それを聞いた響は、上半身だけ起き上がり、少女に微笑みかけ、首を横に降る。『君を死なせないよ』と言わんばかりに…

 だが、響が後ろを向くと、その希望を打ち砕くように、大量のノイズが迫っていた。それを見た響は後退り、少女は泣きながら響にしがみついた。

 

ドクン…

(私に出来ること…!)

 

 ノイズはどんどん近づいてくる。

 

ドクン…

(出来ることがきっとある筈だ…!)

 

 近づいてくるノイズを見て、少女は響に強くしがみつく

 

ドクン…

「生きるのを諦めないで!」

 

 響が少女を抱き締めながらそう叫んだ。その直後─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─頭の中に歌が聞こえた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響はその歌を口ずさむ…

 

 

 

 

 

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 

 

 

 

 

 すると突然、彼女の胸元─『f』型の傷跡が光り始め、光の柱が天高く上った。

 

 

 

 

 

 

「反応絞りこめました!位置、特定!」

「ノイズの輪っか内に、高出力エネルギーを検知!」

「波形の照合、急いで!」

 

 隊員の報告を聞いた女性─櫻井了子は、すぐさま照合を開始させる。

 

「まさかこれって…アウフヴァッヘン波形!?」

 

 その波形の正体を確認した了子はモニターを見上げる。するとモニター上にひとつの単語が現れる。

 

《GUNGNIR》

 

 それを見た男─風鳴源十郎は

 

GUNGNIR(ガングニール)だとぉ!?」

 

 驚きのあまり叫んだ。そして彼の後ろにいた翼は、自分のパートナーであった天羽奏の、消滅した聖遺物の名を見て、ショックを受けていた─

 

 

 

 

 

 

 響が、自分の体を光の球体のようなものが覆っていることに驚いていると、彼女の心臓を伝って、細胞が変化を始めるーー

 響が苦しみ始める。そして彼女の服がプロテクトスーツに変化すると、背中から二度、機械のようなものが飛び出し、アーマーが装着される。そのアーマーは、かつて奏が纏っていたものと、とても酷似していた…




本編見てから標的0の内容を少しいじることにしました。

追記(5/25)
フォント変換してみました。


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標的(ターゲット)7 連行と正体─そして再会

なんとか書きはしたけど、あまりにも長すぎて途中で切りました。続きはできるだけ速く上げれるよう努力します。


「新たなる適合者…」

「だが、一体どうして…」

 

 特異災害対策機動部二課にて了子と源十郎が困惑するなか、翼はモニターに写し出された響を─正確には、響が纏っていたシンフォギアを食い入るように見つめる。

 

(そんな…だってそれは、奏の…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?えええ!?なんで!?私、どうなっちゃってるの!?」

 

 ノイズに囲まれている中、シンフォギアを纏った響は、自分の姿を見て困惑を露にしていた。そんな中、響と一緒にいた少女は─

 

「お姉ちゃん格好いい!」

 

 響のことを、ヒーローでも見ているようにキラキラした目で見ていた。

 響はそんな少女の顔を見ると、すぐに気を引きしめ、歌い始めた。

 

「絶対に…離さない この繋いだ手は」

 

 響が少女に手を差しのべ、少女はその手を掴んむ。

 

「こんなにほら 暖かいんだ ヒトの作る温もりは」

 

 そして少女を抱き締めながらも、響は歌い続ける。

 

(そうだ…なんだかよく分からないけど、確かなのは…私が、この子を助けなきゃいけないってことだよね!)

 

「共鳴するBrave mind!」

 

 そう思いながら、響は少女を抱えてノイズとは反対の方向に飛んだ。だが、

 

「うわわわ!?なに!?」

 

 思ったより高く飛んでしまい、空中でバランスを崩し、そのまま落下していく。だがすぐに体制を整え、両足で着地する。

 

「紡ぎ合いたい魂」

 

 着地した響は上を見上げると…

 

「100万の気持ち…さぁ ぶっ飛べこのエナジーよ」

 

 大量のノイズが落ちてきていた。それを見た響は足に力をこめ

 

「解放全開! イっちゃえHeartのゼンブで」

 

 横に飛ぶ。転がって少女への衝撃を軽減しつつ、ノイズを回避することが出来たが、目の前には大量のノイズがいた。それを見て響は立ち上がる。

 

「進むこと以外」

 

 形を変えて突撃してきたノイズをジャンプで避けるが、飛びすぎてしまい工場の建物の壁にぶつかってしまう。

 

「見つけたんだよ 心の帰る場所」

 

 そのまま地面に落ちそうになるが、配管を掴みなんとか停止する。だが建物の影から大型ノイズが現れ、響達を叩き潰そうとして来る。

 

「Yes届け! 全身全霊この想いよ」

 

 響は攻撃を回避し地面に降り立つ。だが、後ろには大量のノイズが。

 

「響け!胸の鼓動!」

 

 ノイズの一体が響達に飛びかかってくる。それを見た響は拳を握りしめ、

 

 

 

 

 

 

「未来の先へ…」

 

 

 

 

 

 

 ノイズを殴った。すると、殴ったノイズは炭になって崩壊していく。

 

(…私が、やっつけたの…?)

 

 響がその光景に驚いていると、ノイズ達の後方からバイク音が聞こえ、ノイズを吹き飛ばしながら向かってくる。そしてバイクに乗っている女性が、風鳴翼であることに気づく。

 翼は響の横を通りすぎ、大型ノイズに向かっていく。そしてバイクを足場にして空高く飛んだ。バイクはそのままノイズにぶつかり爆発する。

 

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

 

 翼は聖詠を歌いながら降下していき、響達の前に着地する。

 

「呆けない、死ぬわよ!」

 

 翼は響にそう注意した。

 

「あなたはここでその子を守ってなさい!」

 

 先ほどの言葉に怯む響にそう言って、翼はノイズ達に向かっていく。

 

「翼さん…?」

 

 翼の体を光が包み、シンフォギアを換装する。そして走りながらアームドギアを取り出す。

 

「去りなさい!夢想に猛る炎 神楽の風に滅し散華せよ」

 

蒼ノ一閃

 

 翼は攻撃の手を緩めない。

 

「嗚呼 絆にすべてを賭した 閃光の剣よ」

 

千ノ落涙

 

 二つの技であらかたのノイズを殲滅し、残りのノイズ達に突っ込む翼。

 

「すごい…やっぱ翼さんは…「あ!」!?」

 

 その光景に響が見惚れていると、少女が声を上げ、後ろを振り向く。すると、大型ノイズが響達に迫ってきていた。

 翼はその大型ノイズを倒すための大技を使うため、空高く飛んだ。すると─

 

 

 

 

 

 

彼女の横をすごい速さで何かが通りすぎていった

 

 

 

 

 

 

「ナッツ!!形態変化(カンビオフォルマ) 攻撃形態(モードアタッコ)!!『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』!!!」

 

 響は、大型ノイズの後方から、聞き覚えのある声を聞き、ノイズを見上げると─

 

バーニングアクセル!!!」

 

 爆発音と共に、大型ノイズの腹部が消し飛んだ。そしてノイズが崩壊していき、響がノイズを倒した人物を確認すると…

 

「大丈夫か、響」

「ツナ…なの…?」

 

 自分の親友である沢田綱吉が、いつものツナとは全く違うオーラを纏い、額に炎を灯し、空中を飛んでいた。

 そして翼も、彼を離れた場所から見ていた。

 

(身長や服装、髪の色、手につけている武器も違うが、顔や額に灯っている炎の色は、あの時奏を救った男と同じ…彼は一体…)

 

 翼は、ツナが何者なのかを考えていた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、一度自分の鞄を取りに戻り、現場に戻り「超死ぬ気モード」を解除したツナが響に問い詰められていると、特異災害起動部と名乗るもの達が現場に現れ、響達がいた場所にはすぐに厳重警戒網がしかれ、炭の撤去や怪我人の手当てが行われていた。響が助けた少女は、その時に来た人に保護され、暖かい飲みものを渡されていた。その少女を響とツナが見ていると

 

「あの、暖かいもの、どうぞ」

「あ、暖かいもの、「どうも…」」

 

 二人は女性ーー友里あおいから、暖かい飲み物を渡される。

 二人はそれをのみ、響の緊張が解けると、彼女が纏っていたシンフォギアが突如解除され、バランスを崩す。

 

「響!?」

 

 ツナは響に手を伸ばそうとするが、それよりも速く翼が響を後ろから支える。

 

「ありがとうございます…あ、ありがとうございます!」

 

 響は一度お礼をいったあと、翼の顔を見て再び頭を下げる。そんな響を見てツナは苦笑いする。

 

「実は、翼さんに助けられたのは…実は二回目なんです!」

「二回目…?」

 

 その場を離れようとした翼は、響の言葉を聞いて振りかえる。そんな彼女に響は笑顔を見せていると

 

「ママ!」

 

 声がした方を向くと、少女が母親と思われる女性に抱きついていた。

 

「…あの子のお母さん、見つかってよかったな…」

「うん…」

 

 二人が親子を眺めていると、女性が親子に同意書を差し出し、書類の説明を始めた。機械のような説明を続ける女性に親子は呆けた顔をし、ツナと響は苦い笑みをうかべる。

 

「えっと…」

「じゃあ、私たちもそろそろ…」

 

 そう言ってその場から立ち去ろうとすると─

 

 

 

 

 

 

 翼を中心に、黒服に黒のサングラスを着けた男達が立ちふさがっていた。

 

「あなた達をこのまま帰すわけにはいきません」

 

 翼がそう話す。

 

「「えぇ!?なんで!?」ですか!?」

「特異災害起動部二課まで、同行していただきます」

 

 ツナ達の訴えを無視しそう説明する翼。その直後、気づけばツナと響の手に手錠がはめられていた。

 

「え?」

(この人、速い!超直感は反応したけど、体が反応出来なかった!)

「すみませんね、あなた達の身柄を、拘束させていただきます」

 

 それぞれの反応をする二人に、手錠をはめた張本人ーー緒川慎次はそう伝え、二人を車に案内する。

 

「なーんでー!?」

 

 響は現状を理解できず、そう叫ぶしかなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、学院に?」

 

 廊下を歩きながら響が質問するが、緒川はなにも答えず、歩き続ける。

 手錠をかけられたツナ達が緒川達に連れられて来た場所は、響と未来、そして翼が通っている私立リディアン音楽院だった。

 響が緒川に話しかけている間、ツナは暗くて見えづらくはあるが、初めて女子校に入ったことに緊張して学院内を見回していた。

 

「あの…ここ、先生達がいる中央棟、ですよね?」

 

 響は再び質問するが答えは返ってこない。そしてそのまま通路を歩き、突き当たりにあるエレベーターに乗り、緒川が端末をスキャンさせる。するとエレベーター内が変形し、それに驚くツナと響。そんな二人を無視して翼は近くに現れた取っ手をつかむ。

 

「あの…これは…」

「さ、危ないから掴まってください」

 

 響が代表して質問をすると、緒川からなにかに掴まるよう指示される。

 

「えっと…」

「危ないって…」

 

ツナと響がそう呟いた直後─

 

 

 

 

 

 

「きゃーーー!?」「んなーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 エレベーターが急降下を初めたため、二人揃って叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 ジェットコースターの急降下のような動きが収まり、ある程度落ち着きを取り戻した響が笑みをうかべる。

 

「愛想は不要よ」

 

 そんな彼女に翼がそう忠告する。その直後、視界が開け、いろんな模様が入った壁が露になる。それをみた響は驚きつつもどこか楽しそうな声を出していたが、ツナは模様をみた瞬間、違和感を覚えた。

 

(なんだろう…この壁を見ていると、なんだか嫌な予感がする…)

「これから向かうところに、微笑みなど必要ないから」

 

 ツナが考えていると、翼がツナ達にそう伝える。それを聞いた二人は、どのような場所なのか息を飲んだ─のだが。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ!人類最後の砦、特異災害対策起動部二課へ!」

 

 

 

 

 

 

 エレベーターの扉が開くと、大歓迎ムード全開で出迎えてくれた。

 

(翼さんが言ってた雰囲気と全く違うじゃん!?)

 

 奥には『ようこそ2課へ』とかかれたプレートが取り付けられていた。響はその光景を見て固まり、ツナは翼から聞いていた印象とは全く違うことに内心ツッコんでいた。その状況をみた翼は指を頭に添え、緒川は苦笑いしていた。

 

「さぁさぁ笑って笑って!お近づきの印にスリーショット写真…」

 

 固まっていた響と内心ツッコんでいたツナに了子が近より、スリーショットをとろうとしてくる。そこで響が立ち直り、了子から離れる。

 

「い、嫌ですよ!手錠をしたままの写真だなんて、きっと悲しい思い出として残っちゃいます!」

「イヤ響、ツッコむところそこじゃないだろ!?」

 

 響の言葉を聞いたツナは、ついに口でツッコミを入れる。

 

「それに、どうして初めて会う皆さんが、わたし達の名前を知っているんですか!?」

 

 そう言って、天井から吊るされている『熱烈歓迎!立花響さま・沢田綱吉さま』とかかれたプレートをみる。

 

「我々二課の前設は、大戦時に設立された特務機関なのでね。調査などお手のものなのさ!」

 

 弦十郎がそう言うと、横から了子が鞄と学生証を持って現れる。

 

「「ああー!」」「私の鞄!」「俺の学生証!どこで落としたんだ!?」

 

 それが自分のものであると気付き叫ぶ二人。ツナに関しては、どこで落としたのか全く分からず頭を抱えていた。

 

「なーにが『調査はお手のもの』ですか!鞄の中身、勝手に調べたりして!」

「えっと、勝手に人のものをみるのはいけないと思いますが、学生証を回収してくれたことは、ありがとうございます」

 

 弦十郎に問い詰める響に対し、ツナは、自分の情報を勝手に見たことは許せることではないが、回収してくれていたことには感謝していることを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 その後、緒川が二人の手錠を外し、解放される。

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

 響は緒川に感謝をのべる。

 

「いえ、こちらこそ失礼しました。そういえば、沢田さんは連行中、やけに静かでしたね。普通の人なら、立花さんのような反応をするだろうに…」

「いやぁ、なんと言うか…こういうハプニングは何度も体験したことがありますし、手錠をはめられたの二回目なんで、初めてのときと比べたら少しなれたのかなって…」

「以前にも手錠をはめられたことがあるなんて…なにか悪いことでもしたんですか?」

 

 少し気が緩んでいたのか、緒川の質問にうっかり口を滑らせてしまう。ツナの言葉を聞いて緒川がさらに質問してくる。それをどうはぐらかそうか考えていると、弦十郎が近づいてくる。

 

「では、改めて自己紹介といこう。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている!」

「そして私は、出来る女と評判の櫻井了子!よろしくね」

 

 弦十郎と了子が自己紹介をしてくる。

 

「「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」」

 

 そんな二人にツナと響も頭を下げるが、ツナは了子からただならぬ気配を感じていた。

 

(なんだろう、この人…優しそうな雰囲気だけど、完全に信用しちゃいけない気がする…)

 

 ツナが了子を少し警戒していると、弦十郎が話を続ける。

 

「君たちをここに読んだのは他でもない、協力を要請したいことがあるのだ」

「「協力?」」

 

 それを聞いて、響は先ほどの現象を思い出す。

 

「教えてください!あれは一体、なんなんですか?」

 

 弦十郎達にそう質問する響。すると了子が響に近寄ってくる。

 

「あなたの質問に答えるためにも、二つばかりお願いがあるの。最初の一つは、今日のことは誰にもナイショ。そしてもう一つはーーとりあえず脱いでもらいましょっか?」

「え?」

「んなー!いきなりなにいってるのこの人!?」

 

 了子の発言を聞いて慌てるツナ。

 

「検査のためで脱いでもらうだけだから大丈夫だ。安心したまえ。…さて、響くんのことはこれでよしとして、一番の問題はーー君だ、綱吉くん」

「え?」

 

 検査のためだと知りひと安心するも、すぐに自分の話になり、戸惑うツナ。

 

「あの時、君の額に灯されていたり、ノイズを倒すときに使っていたあの橙色の炎はなんなのだ?」

「えっと…それは…」

 

 ツナは弦十郎に詰め寄られ、話すか話さないか迷っていた。その時─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なに戸惑ってやがるツナ。そんなんだからダメツナって呼ばれんだぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人だらけの空間に似つかわしくない、だがツナにとってはこの世界に翔ばされてから今まで、一番聞きたかった子供の声が響いた。

 

「な!?どこからだ!?」

 

 周りの人達が音源を探すなか、ツナはすぐに音源がなんなのか気付き、今まで身に付けていたヘッドフォンを目の前のテーブルに置く。するとヘッドフォンの横から映像が投影され、黒スーツを着てボルサリーノをかぶりおしゃぶりをつけた、周りから見れば異様に見えるが、ツナにとってはとても見覚えのある子供が写し出された。

 

『チャオっす』

「「「「「子供?」」」」」

「リボーン!」

 

 ツナは自分の家庭教師の姿を見て泣き出しそうになる。

 

『よぉダメツナ、()()たっても変わらずダメダメそうだな』

「っ!うるっさいなぁー…」

 

 リボーンの言葉を聞いたツナはすぐに涙を引っ込めるが、それと同時にあることに気づく。

 

「おいリボーン!お前今()()って言ったか!?」

『おう、そうだ。お前がそっちに翔ばされたあと、こっちの世界では一日しかたってねーぞ』

「嘘だろ!?俺はこっちの世界に来てもう二年近くたつんだぞ!?」

「すまない、話の腰を折るようで申し訳ないのだが、君たちは一体何の話しをしているのだ?」

 

 ツナは自分がいる世界と元の世界との時間の違いを訴えていると、ツナとリボーンの会話を聞いていた弦十郎が話しかけてくる。

 

「あ、いや!これは、その…」

『それにしても…』

 

 弦十郎の問いかけに戸惑うツナを無視して、リボーンは響と翼を見てーー

 

『ダメツナの癖に、別の世界で二人も愛人を作るなんてやるじゃねえか』

「「え?」」

「んなー!何言ってんだお前!?二人はそういうのじゃないから!それに俺は今も京子ちゃん一筋─ヒッ!?」

 

 とんでもないことを言い出すリボーンにツナがつっこみ、自分がまだ京子ちゃん一筋であることを言おうとした直後、先ほどのリボーンの言葉で困惑していた響がものすごいオーラを発し始める。そのオーラに翼だけでなく弦十郎でさえ怯んでしまう。

 

「ねぇ、ツナ?『京子ちゃん』って誰?」

「えっと、そのー…(なんで響が京子ちゃんの名前を聞いて怒ってんのー!?)」

 

 響がツナに詰め寄り、ツナはなぜ響が怒っているのか理解できず、気迫に気圧されている。その光景をみたリボーンは

 

『なに女に睨まれたくらいで怯んでんだ。そんなんじゃ立派なボスにはなれねーぞ』

 

 という。それを聞いたツナは

 

「うるっさいな!ていうかそもそも、俺はマフィアのボスには絶対にならないって─あ」

 

 リボーンに反論するが、つい自分が一番教えたくないことを自分の口で話してしまう。すぐに気づいたが時既に遅く─

 

 

「「「「「マフィアのボス!?」」」」だとぉ!?」

 

 その場の全員に自分の正体がばれてしまった─




ついにバレました。次は説明多めです。


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標的(ターゲット)8 現状確認と不協和音

なんとか出来ました。だけど…区切ったら逆に多くなった気がする…


 いつものノリと懐かしさでついリボーンと口喧嘩してしまった結果、自分がマフィアの跡継ぎであるをしゃべってしまったツナはその後、響と特異災害対策起動部二課─通称『特機部二』の人達に、自分がこの世界の住人ではないこと、自分がこの世界に来たのは二年前のツヴァイウィングのライブが行われていた日であること、そして─自分が、元の世界では伝統・格式・規模・勢力すべてにおいて別格といわれるイタリアの最大手マフィアグループ『ボンゴレファミリー』の十代目次期ボス─もとい、『ネオボンゴレファミリー』の初代ボス候補であることを伝えた。

 

『まあ、こいつは俺が家庭教師(かてきょー)を始めた時から、「マフィアのボスにはならない」ってずっと言い続けてるがな』

「そりゃそうだろ!誰が好き好んでマフィアのボスなんか…『口答えしてんじゃねぇぞダメツナ』ヒィ!?」

 

 映像越しで拳銃を突きつけられ怯えるツナ。そんな光景に周囲の人々は困惑していたが、誰よりも速く立ち直った弦十郎が代表として質問を始める。

 

「話しているところすまないが、君は一体…?」

『そういや自己紹介をしてなかったな。チャオっす!俺の名はリボーン。そこのダメツナの家庭教師で、最強の殺し屋だぞ』

 

 リボーンが自己紹介をするが、それを聞いた特機部二のメンバー達はさらに困惑し始める。

 

「子供なのに、家庭教師でヒットマンだと…?」

『そのことについて話すと時間がかかるから、他のことも平行させながら話を続けるぞ』

 

 そう言ってちゃっかり話の主導権を握ったリボーンは、まず最初にツナから話を聞く。

 

『まずはツナ、お前がこの世界に来たのは二年前の8月だったんだな』

「う、うん…そうだけど…って言うか、どうやってそっちの世界からこのヘッドフォンに繋いでるんだ?そもそもいつから繋いでたんだ!?」

 

 ツナはリボーンの質問に答えたあと、リボーンにどうやって接続しているのか等を聞く。

 

『ダメツナの癖に俺の話を邪魔するとは、いい身分になったもんだな「ヒッ!」一つ目の質問の答えは、お前の死ぬ気の炎が確認されたからだ。それによって別の世界にいるお前のヘッドフォンの周波数と会わせることが出来たんだぞ。そして二つ目の質問の答えは、お前が緒川に連行されるところからだぞ』

「ってことは、ここでの会話は全部聞いてたのかよ!っていうかちょっとまて、死ぬ気の炎を確認できたから繋ぐことが出来たって言ったよな?」

『そうだぞ、何度も説明させるな』

「でも俺、この世界に翔ばされた日にハイパーモードになったんだよ!それにそれ以降も特訓のために何度もハイパーモードになってたし!」

 

 それを聞いたリボーンは考え込み、数秒後、顔をあげる。

 

『…そういえば、お前のいる世界がどんな世界か話してなかったな』

 

 そう言ってリボーンは話を続ける。

 

『元の十年バズーカの弾の効果が、現在と未来の被弾者を入れ換える縦向き力だとすると、お前がくらったジャンニーニが改造した十年バズーカの弾は、その力の向きを縦から横に─つまり、平行世界の被弾者を入れ換えるシステムだったんだ。だから本来であれば平行世界のお前がいたはずなんだが、そこには誰もいなかった…その後、すぐに白蘭に連絡を取って他の平行世界のどこかにいないか探してもらったんだが、見つからなくてな…そのあと、守護者達やネオボンゴレファミリーの同盟ファミリーであるシモンファミリー、キャバッローネファミリー、ミルフィオーレファミリーに加えて、ヴァリアーの連中や他のアルコバレーノ達にも頼んで必死になってお前を探してたぞ』

「アルコバレーノ達も!?─そっか…俺、多くの人に迷惑かけちゃったな…って言うかおい、リボーン。『ネオボンゴレファミリーの同盟ファミリー』てなんだよ!?」

『その言葉通り、俺が勝手に同盟の傘下にした奴らのことだぞ』

「お前、なに勝手にそんなもん作ってんだよ!?」

 

 リボーンの自分勝手っぷりに怒鳴るツナ。リボーンはツナの訴えを無視して話を続ける。

 

『さて、話を戻すぞ。白蘭から他の平行世界にお前がいないことを聞いたあと、ジャンニーニが作った設計図を確認したら、一部設定を間違えていてな。それが原因でお前が平行世界ではなくマルチバース─多次元宇宙に翔ばされたんじゃないかって話しになったんだ』

「マルチバース?」

 

 聞きなれない言葉にツナが首をかしげる。

 

『マルチバースってのは、複数の宇宙の存在を仮定した理論物理学による論説─まぁ、お前みたいなダメダメなやつでも分かりやすく簡単に説明するなら、俺たちがいる宇宙世界の地球が7^3(トゥリニセッテ)の元になった石によって作られたことに対して、マルチバースには神様によって作られた宇宙世界もあれば、魔力によって作られた宇宙世界が存在しているって説だ』

 

 その説明を聞いて、ツナは何となく理解することが出来た。それと同時に、弦十郎は説明中に出たある単語に疑問を抱く。

 

「リボーン君、7^3とは一体なんなんだ?話を聞く限りでは、それの元になったものは君たちの世界にとって、とても重要な存在らしいが…」

『7^3というのは、「ボンゴレリング」・「マーレリング」・「(アルコバレーノ)のおしゃぶり」の各7つ計21個の存在の総称だ。ちなみに名前を聞いて気づいただろうが、そこにいるツナがつけているリングの元になったものは「大空のボンゴレリング」だぞ』

 

 そうしてリボーンは、死ぬ気の炎のこと、大空の七属性のこと、VG(ボンゴレギア)のこと、ボンゴレリング・マーレリング・虹のおしゃぶりのそれぞれの象徴のこと、7^3の原石のこと、そして─アルコバレーノの呪いのことを教える。

 

「ってことは、本来のリボーン君は元々は大人だったってこと?」

『そうだ。呪われるまえの俺はとてもかっこよくて女にモテモテだったんだぞ?』

 

 途中までほとんど理解できていなかった響が、リボーンにアルコバレーノの呪いのことについて質問すると、リボーンは自慢げにいう。

 

「別世界に、死ぬ気の炎と呼ばれる超圧縮された生命エネルギー、そして世界を作る基盤となった石を使って作られた存在、か…なんとも信じがたい話だが、もしその話が本当なら、その7^3と呼ばれるものは、こちらの世界の『完全聖遺物』と呼ばれるものと同じ存在になるぞ…」

『その完全聖遺物っていうのはよくわかんねえが、ツナが二年前に戻って体も若返ったのは、恐らくボンゴレの縦の時空軸が干渉したからで、本来の俺たちの世界の時間軸とそっちの世界の時間軸は同じだと思われるな。だからお前がこれまで死ぬ気の炎を発生させても連絡が取れなかったんだと思うぞ』

 

 そう言うとリボーンはツナの方を向き再び質問を始める。

 

『そういえばツナ、二年前の8月1日というと、まだお前は骸と戦ってない頃─つまりハイパーモードとXグローブを使ってなかった頃じゃねえか。そんなんでよくハイパーモードになれたな?』

「それは、ジョットさんが力を貸してくれたから…」

Ⅰ世(プリーモ)がか?』

 

 ツナが出した名前に不思議そうに返すリボーン。

 

「すまないが…その、ジョットとは誰なのだ?」

『それはな…「大丈夫ですか十代目!?」』

 

 ジョットについて質問してきた弦十郎にリボーンが答えようとした瞬間、映像に誰かがわってはいる。

 

「獄寺くん!?」

 

 その正体は、ツナの嵐の守護者であり親友でもある、自称:ツナの右腕の『獄寺(ごくでら)隼人(はやと)』だった。

 

『ご無事で何よりです、十代目!』

 

 獄寺がツナの無事を安心していると、さらに映像にツナの知り合いが写ってくる。

 

『無事かツナ!?』

 

 ツナの雨の守護者であり親友の一人でもある『山本(やまもと)(たけし)』。

 

『ボス、大丈夫?』

 

 ツナの霧の守護者の片割れである眼帯をつけた少女、『クローム髑髏(どくろ)』。

 

『極限に無事か沢田ー!「うっせぇ!耳元で叫ぶんじゃねぇ芝生頭!」なんだとタコヘッド!』

 

 ツナの晴の守護者でありツナが思いを寄せている女性『笹川(ささがわ)京子(きょうこ)』の実の兄である、『常時死ぬ気男』こと『笹川(ささがわ)了平(りょうへい)』の三人が写った。

 

「山本、クローム、お兄さん!皆元気だった!?」

『「うん、元気」「本来心配される側のツナが心配している俺たちを心配するなんて、おかしな話だわな」「だが、それが極限に沢田らしいぞ!」』

 

 ツナの質問に、三者三様の反応を見せる。

 

「アハハ、そうだったね。俺が心配される側だったよ…皆、心配かけてごめん!」

『「いえ、十代目が謝らなくても!?」「そうだぜ、俺たちは親友なんだから気にするな!」「うん…」「俺は極限に心配したぞー!」』

 

 ツナの謝罪に、これまたそれぞれの反応を見せる四人。すると…

 

『おい、お前ら』

 

 四人の後ろからリボーンの声が聞こえる。その声を聞いた四人は振り返る。

 

『俺の話を遮るとはいい度胸じゃねぇか…獄寺・山本・了平、お前らは今からネッチョリコースだ。クロームは今後、気を付けるんだぞ』

「「うげっ!」」「ぬお!?」

「は、はい」

 

 そう言ってリボーンは男三人の意識を奪い、器用に三人同時に引き吊り始める。するとその時

 

『ハァ、ハァ…えっと、どういう状況?』

 

 新しい人物の声が聞こえた。その声の主は、ツナの大親友─

 

「炎真!?炎真なのか!?」

『ツナ君!無事かい!?』

 

 シモンファミリーの十代目ボス『古里(こざと)炎真(えんま)』だった。ツナの声に反応し、炎真が映像に現れる。そんな彼の顔は傷だらけだった。

 

「炎真、その傷どうしたの!?」

『あ、これ?実はツナ君を探してたら、偶然放し飼いされてる犬の尻尾を踏んじゃってね…』

「んなー!?俺やっぱり迷惑かけちゃってるー!?」

 

 炎真の怪我の理由を聞いてそう叫ぶツナ。

 

『大丈夫だよ、犬に追いかけられるのはなれてるから』

「でも…」

『ホント、お前らダメダメコンビが揃うとろくな話しにならねぇな』

「うるさいな!」『アハハ…』

『ジョットのことやまだ伝えてないことはまた明日にでも話すぞ』

『「じゃあ通信切るからな」「ちょ、私からもお話をーー」プツン』

 

 リボーンがそう言い、引きづられている三人が映像の端に消えると、映像が切れた。切れる直前にジャンニーニの声が聞こえたことから、今まで喋っていなかったが、どうやら通信が繋がったときからリボーンと一緒にいたらしい。

 リボーン達と、映像越しとはいえ久しぶりに会えたことに喜んでいたツナだが、すぐに周りの空気に気づく。

 

「なんというか…すみません…」

「…まあ、綱吉くんのことは今日はここまでにして…響くんは検査を行ってもらおうか!」

 

 弦十郎はその場の空気を変えるようにそう言って、まだ情報が処理しきれていない響を検査室につれていった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー…」

「お帰りなさいツナさん。こんな時間まで何処に行ってたんですか?」

 

 響が検査室につれていかれた後、特機部二の人達から解放されたツナが家に帰ると、同居人である沢田セレナ─セレナ・カデンツァヴナ・イブが心配そうに話しかけてくる。

 

「実は今さっきまで特機部二の人達に連行されてて…」

「特機部二─特異災害対策起動部二課にですか?どうしてそんなところに…」

 

 ツナが出した名前に不思議そうにするセレナ

 

「…響が、シンフォギアを起動させた」

「!?」

「多分、ライブの事件の際に響の体に残った、奏さんのシンフォギアの破片が起動したんだと思う…」

「そうですか…」

 

 そしてツナは帰り道に起こったこと、特機部二での話を話す。ツナから二年前のライブ会場での出来事を聞いていたセレナは、響がシンフォギアを起動させたことに複雑そうな顔をした。

 

「…ツナさんは」

「え?」

「ツナさんは、どうしたいんですか?」

 

 暗に「協力するのかしないのか」と聞いてくるセレナ。ツナは少し考え込み

 

「…響は多分、協力を求められたらすぐに受けると思う。あいつの趣味(人助け)は病気と言っていいくらいだから…そしたら響は、ノイズと戦うために戦場に行くことになる…俺は、親友が危険な場所に行くのを黙って見ていたくない!もしそれで響の身に何かあったら…俺は!」

 

 そう話すツナ。それを聞いたセレナは微笑む。

 

「…それでこそ、ツナさんですね」

『お前らしい覚悟だな、ツナ』

 

 急に自分の家庭教師の声が聞こえ、すぐに鞄からヘッドフォンを取り出す。するとヘッドフォンから再び映像が投影され、リボーンが映る。

 

「んな!?お前いつから!?」

『お前が「響がシンフォギアを起動させた」って言ってたところからだぞ』

「また最初から聞いてたのかよ!?」

 

 映像が投影された直後は驚いていたが、ツナの反応を見たセレナはすぐに写し出された人物が誰なのかに気づく。

 

「あなたが、ツナさんの家庭教師のリボーンさんですか?」

『ああ、そうだぞ。ところでお前は…』

「はじめまして、セレナ・カデンツァヴナ・イブといいます。今は『沢田セレナ』という偽名を使って、ツナさんの家に居候させていただいてます。あなたの話はよくツナさんから聞いてますよ」

「ちょ、セレナ!」

 

 自己紹介をして、よくツナからリボーンの話を聞いていることを話すセレナ。

 

『よろしくなセレナ。それで、ツナは俺のことなんて言ってた?』

「ツナさんからは、いつも厳しくて容赦ない鬼のような家庭教師だけど─いざというときは一番頼りになる─一番信頼している方と聞いています」

「ちょ!その話は恥ずかしいから話さないでって…!」

 

 セレナの話を聞いたリボーンは『ニヤッ』とする。

 

『ダメツナにしては嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。それに免じて最初の説明に関しては見逃してやる』

 

 そう言ってリボーンは話題を変える。

 

『そういえばツナ─セレナは何者だ?』

「え!?な、なんでそんなこと…」

『お前の家に居候してるヤツはだいたいが訳ありだからな。セレナも訳ありなんじゃねえかってな』

「それ自分のことも入ってるって分かってるのか!?」

 

 リボーンの言葉につっこむツナ。

 

『それに、偽名を使ってる時点で訳あり確定だろ。どうなんだ?』

「えと、そのー…」

 

 話すか話すまいか悩んでいると

 

「私が自分で話しますよ」

「セレナ…」

 

 セレナが自ら説明を申し出る。そしてセレナは、自分が六年前─ツナから見たら二年前に助けられたこと、シンフォギアのこと、ノイズのこと、ネフィリムのことについて話した。

 

『なるほどな…確かに、それが事実なら7^3は、さっき弦十郎が言っていた完全聖遺物の枠に入らなくはないな…それにしても、シンフォギアやら聖遺物やら、そっちの世界は獄寺が聞いたら喜びそうな世界だな』

「あー…確かに。獄寺くん、そういう話大好きだからなぁ…」

 

 リボーンの言葉に同感するツナ。すると突然リボーンが

 

『そういやセレナ。お前ボンゴレ入らないか?』

「え?」

 

 セレナをボンゴレに勧誘し始めた。

 

「んな!?お前、この世界の人にもマフィアの勧誘するなよ!」

「マフィア?」

「─あ」

 

─ツナ自身のドジによって本日二回目となる正体バレが起こった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夕方、ツナは緒川につれられ再び特機部二本部に向かっていた。

 あのあとセレナに、今まで隠してきた秘密─自分がマフィアのボス候補であることを伝えたが、セレナは少し驚きつつもどこか清々しい顔をしてくれた。どうやらセレナは、ツナがまだなにか隠していることに気づいていたらしく、それを教えてもらってスッキリしたらしい。それを聞いたツナは隠していたことがバレていたことにショックを受けていた。

 ツナがそのことを思い出していると、特機部二本部につく。そこには響が─昨日と同じ手錠をつけられて、既についていた。

 

「なんで響はまた手錠かけられてるの!?」

「それはこっちが聞きたいよ~!」

 

 そんな話をしていると

 

「それでは~!前日のメディカルチェックの結果発ぴょ『その前に昨日話損ねた分について話すぞ』ちょっとー!」

 

 響の検査結果を伝えようとした了子の話をリボーンが遮る。話を遮られ不満そうにする了子。それを見ているリボーンは、周りから見たらいつもと変わらない顔だが、ツナはリボーンが了子を警戒していることに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは昨日の夜、セレナにマフィアのことを話した後のことである─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえばツナ、お前、櫻井とかいうヤツに少し警戒していたな?どうしてだ?』

 

 リボーンが特機部二でのツナの違和感について聞いてくる。伊達に二年近くツナの家庭教師をしているわけではないのだ。

 

「俺もなんでか分からないんだけど…直感が、『あの人のことを信用しきってはダメだ』って言ってる気がするんだ…」

 

 ツナはリボーンにそう伝えた。

 

『…お前の()()がそう言ってるってことは、信用してはいけない()()()があるってことだろ。…わかった、俺も櫻井には警戒しておく』

 

 リボーンはツナの直感─『超直感(ブランド・オブ・ボンゴレ)』が反応していることを聞き、真剣な声でそう言った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのことで、リボーンは了子を警戒しながらも話を続ける。

 

『まずは昨日言っていたジョットに関してだな』

 

 そう言ってリボーンはツナの方を向く。

 

『ジョットは、ボンゴレファミリーを作った創始者─ボンゴレⅠ世(プリーモ)にして、そこにいるダメツナの曽曽曽祖父にあたる人物だ』

 

 響と特機部二の主要人にそう伝えるリボーン。

 

『ボンゴレファミリーの前身は自警団でな。その自警団を作ったのがジョットだったんだ。ジョットは気に入った人物は誰であろうと受け入れる人物で、初代ファミリーのメンバーは国王・ライバルマフィア・宗教家などなんでもありだったとされていて、実際に初代守護者メンバーには、幼馴染や御曹司、異国人、貴族、さらには秘密諜報部のトップなど、いろんな分野の人物が選ばれていたぞ』

 

 そこで一度話を区切り、再びツナの方を向く。

 

『そしてジョットの容姿だが、残念なことにそこにいるツナと瓜二つだったらしいぞ』

「一言余計だ!」

『実はツナだけじゃなく、ツナの守護者達もジョットの守護者達と瓜二つでな。マフィア界では「初代ファミリーの再誕」と言われるくらいだぞ』

 

 そこで翼と弦十郎があることに気付く。

 

「すまないリボーン君!ジョットの容姿について詳しく教えてくれないか!?」

『ああいいぞ。話によれば、顔はそこのダメツナと瓜二つで、髪は金髪、戦闘時はスーツの上に特殊なマントを羽織り、手甲に『Ⅰ』が刻まれたグローブをはめて戦っていたらしいぞ』

 

 ジョットの容姿を聞いた弦十郎は、足りなかったピースがようやく見つかったような感覚になった。そしてツナの方を向く。

 

「綱吉くん…君は昨日、二年前のライブ会場でジョットに力を貸してもらったと言っていたな」

「は、はい…」

 

 弦十郎の気迫に気圧され、素直に答えるツナ。ツナの返事を聞いた弦十郎は確信をつく。

 

「ということは、あの時ノイズを倒して、奏くんを助けてくれた青年は─綱吉くん、君だな?」

 

 そう言う弦十郎。彼の目を見たツナはもう言い逃れ出来ないと理解し、真実を話す。

 

「…はい、そうです。あの時奏さんを助けたのは、ボンゴレの縦の時空軸の奇跡でジョットさんの体を貸してもらった俺です」

 

 それを聞いた翼と弦十郎は安心したような、どこか悲しそうな顔をする。二人の顔を見たツナは、気になってはいたが今まで聞かなかったことを質問する。

 

「そういえば…奏さんは今、何処にいるんですか?」

 

 その質問を聞いた翼は、歯を噛み締める。それを見たツナが嫌な予感を感じた直後、弦十郎が口を開く。

 

「…奏くんはあのあと、病院に送られたが…体の負担が大きく、今もまだ昏睡状態で病院に入院している」

 

 それを聞いたツナは、あの時すぐにハイパーモードになれなかった自分の不甲斐なさを悔やむ。だが、次の言葉を聞いてその気持ちは吹き飛ぶこととなる。

 

「俺は君に感謝している。彼女はまだ昏睡状態だが、もしあの時君が彼女を助けていなかったら彼女は死んでいたかもしれない。それに、君が彼女を助けたときに着せたマントによって、彼女の体を蝕んでいた『LiNKER』と呼ばれるシンフォギアの制御薬が調和されて体の負担がだいぶ軽減された。お陰で手術も可能になったのだ─本当に、ありがとう!」

 

 弦十郎はツナに感謝を伝え、頭を下げる。それを見たツナはまさか感謝されるとは思っておらず、固まってしまう。

 その場が静まり返った。

 数秒間沈黙が続き、了子が暗い雰囲気を打ち消すように声を上げる。

 

「さ、さぁ!暗い空気はここまでにして!響ちゃんのメディカルチェックの結果発表をしましょう!」

 

 了子がそう言うと、スクリーンに画像が浮かび上がる。

 

「初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼ見られませんでした~!」

「ほぼ、ですか…」

「そうね、響ちゃん(あなた)が聞きたいのはそう言うことじゃないわよね」

 

 そうして弦十郎達は聖遺物のこと、シンフォギアのことを説明する。

 

『なるほどな…昨日弦十郎が言ってた完全聖遺物ってのはつまるところ、言葉通り完全な状態の聖遺物ってことか。確かに説明どおりだと、7^3は聖遺物として扱われなくはないな』

 

 リボーンは知らなかったふりをしてそう答える。

 

「─だからとて、どんな歌、誰の歌にも、聖遺物を起動させる力が備わっているわけではない!」

「翼さん…」

 

 了子がシンフォギアのことを話した直後、今まで黙っていた翼が口を開く。静まり返るなか、ツナが翼の名前を呟く。すると弦十郎が立ち上がり響達に近づく。

 

「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる!それが、翼であり、君であるのだ!」

 

 そう説明する弦十郎。その後、了子が質問はないか聞いてきて、響は全く理解できてないとこたえ、それに同感する特機部二の隊員。

 その後了子が、自分が聖遺物からシンフォギアを作り出す技術である『櫻井理論』の提唱者であることだけでも覚えておくよう伝えたあと、響がなぜシンフォギアを使えたのかと質問すると、響の心臓付近に食い込んでいる破片が、奏の纏っていたシンフォギア『ガングニール』の破片であり、それがシンフォギアを起動させる鍵となったのではないかと言う。

 

(やっぱり、あの時の破片が…)

 

 ツナは予想が当たり渋い顔をする。そんな時、了子の話を聞いた翼が、倒れそうになりながら部屋を出ていく。

 

「翼さん!」

 

 ツナは翼のことが心配になり、あとを追った。

 ツナが翼を追い部屋を出ると、彼女はすぐ近くの自販機の前でうなだれていた。

 

「翼さん…」

 

 ツナが翼に話しかける。

 

「君は…「沢田綱吉です」そうか、沢田か…」

「あの…「君には感謝している…」え?」

「もし君があの時、奏を助けてくれていなかったら、奏は本当に死んでいたかもしれない…本当に感謝している…しているのだが…」

 

 翼の言葉を聞いてなんとなく察するツナ。

 

「…もし、俺があの時、すぐにでも戦える状態だったら、奏さんは…!」

「…気に悔やむ必要はない。無理だったことはしょうがないからな…」

 

 沈黙が訪れる。すると部屋から響が出てきて─

 

 

 

 

 

 

「私、戦います!なれない身ではありますが、がんばります!一緒に戦えればと思います!」

 

 そう言って、握手するために手を前に出してくる。

 そんな彼女を見た翼は、眉間に皺を寄せ、響から顔をそらす。そのことに響が戸惑っていると─

 

 

 

 

 

 

警報がなり始めた─

 

 

 

 

 

 

「ノイズの反応を確認!」

「本件を我々二課で預かることを一課に通達!」

 

 ツナ・響・翼の三人が指令室にたどり着くと、すでに弦十郎達が対応していた。するとモニターにノイズ出現地点の座標が表示される。場所はリディアンから僅か200mしか離れていなかった。

 

「迎え撃ちます!」

 

 翼がそう言って指令室を出ていく。それを見た響も現場に向かおうとする。

 

「待つんだ!君はまだ…」

「私の力が、誰かの助けになるんですよね!シンフォギアの力でないとノイズと戦うことが出来ないんですよね!?─だから行きます!」

「響!」

 

 そう言って響も指令室を出ていく。そのあとをツナも追おうとする。

 

「綱吉くんも待つんだ!君からもまだちゃんと協力の確認を…」

「…響は、人助けが趣味でしてね…きっと、喜んで協力を受けてくれますよ」

 

 そう言ってツナは振り返る。

 

「俺は、響が─親友が危ない場所で戦っているのを黙ってみていたくない!それに、もしあいつの身になにかあったら、未来に顔向け出来ない…そして何よりも俺自身を許せない!ここで黙って見ていたら─俺は死んでも死にきれない!」

 

 そう伝えると、ツナは響のあとを追った。

 

「危険を承知で誰かのためになんて、あの子達、いい子ですね」

「ーー果たしてそうなのだろうか」

 

 弦十郎はそこで一度話を区切る。

 

「響くんは、翼のように、幼い頃から鍛練を積んできた訳ではない…ついこないだまで、日常の中に身を置いていた少女が、『誰かの助けになる』だけで、命を懸けた戦いに赴けるというのは─それは、いびつなことではないだろうか…」

「つまり、あの子もまた私たちと同じ、こっち側ということね…」

「そして何より、綱吉くんだ…彼は大勢の人のためではなく、自分の親友のために戦場に赴いた。そして、彼の顔からは確固たる覚悟を感じた…戦場に赴くというのに、その覚悟に一切の揺るぎが見られなかった…恐らく、いくつもの修羅場を乗り越えてきたのだろう…あの若さで、彼は一体どれだけの修羅場を経験しているのだろうか…」

 

 弦十郎の言葉に、指令室は静まり返った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はノイズ発生地点に変わる。

 避難誘導も行われ、そこには翼と大量のノイズが残っていた。遠くからは避難勧告が聞こえている。

 ノイズは突如融合を始め、大型のノイズに変化する。翼はそれに怯まず、聖詠を歌う─

 

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

 

 翼の体にシンフォギアが換装される。

 

(はやて)()るごとき(やいば) (うるわ)しきは(せん)(はな)

 

 歌を歌いながらノイズに迫る─

 ノイズの背から羽のようなものが飛んでくる。

 

(よい)(きら)めいた残月(ざんげつ) (かな)しみよ 浄土(じょうど)(かえ)りなさい…永久(とわ)に」

 

 それを回避するが、羽はブーメランのように向かってくる。それを脚部のブレードで切り裂き、ノイズの後方に着地する。それを追うようにノイズも振り返る。翼はアームドギアを大剣状に変化させる。

 すると、シンフォギアを纏い、上空から降ってきた響がノイズに蹴りを入れる。

 

「翼さん!」

「っ!」

 

 そして落下する響と入れ替わるように翼が高く飛ぶ。響は役に立って嬉しそうな顔をしていたが、それとは反対に翼の顔はどこか怒っているようだった…

 落ちていく響を、ハイパーモードになったツナが回収する。

 

「ハアアア!」

蒼ノ一閃

 

 翼の一撃は大型ノイズを真っ二つにし、ノイズは爆散した。

 

 

 

 

 

 

「翼さーん!」

 

 ツナに下ろしてもらった響が、翼のもとに駆け寄る。その後ろからハイパーモードを解除したツナも来る。

 

「私、今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります!だから─私と一緒に戦ってください!」

「─そうね」

 

 翼はそう呟くと、響に振り返る。

 

 

 

 

 

 

「あなたと私─戦いましょうか」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、翼は響に刀を向けた…




初めて10000文字越えたよ…やべぇ…


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標的(ターゲット)9 すれ違う想い

ちょっと書き方変えてまとめてみました。


~2017年5月~

 特機部二の指令室のモニターには三人の戦闘映像が流れていた。

 これまでの経験をいかしてノイズを殲滅していく翼と、持ち前の戦闘センスと超直感を巧みに利用して倒していくツナ。

 それに比べ、響はノイズから逃げ回るばかりでまともに倒すことが出来ていなかった。

 

「…一月たっても、噛み合わんか…」

「ツナ君の方は、逃げ回る響ちゃんの代わりにノイズを倒したり、翼ちゃんの戦い方を一回見ただけで、彼女の動きの癖を見抜いて、翼ちゃんの邪魔にならない立ち回りをしてサポートしてるけどね」

 

 弦十郎と了子はそんな会話をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響、寝たら間に合わないよ?」

 

 リディアン専用の寮にて響が、未来にそう言われて一瞬目を開くがすぐに机に顔を乗せる。

 彼女は今、学校のレポートを書いているのだが、最近の疲れから眠気が襲っていた。

 そんな響を心配する未来。

 

「平気、へっちゃら…」

「へっちゃらじゃないよ…」

 

 響はいつもの口癖を言うが、未来が言うように平気には見えない。そして眠気に襲われ目を閉じ、一月前の出来事を思い出す─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたと私─戦いましょうか」

「翼さん!?」

 

 翼はそう言って響に刀を向け、自分の親友に刀を向けられ、戸惑うツナ。

 

「そ、そういう意味じゃありません…私は、翼さんと力を合わせ…」

「分かっているわそんなこと」

「だったらどうして…」

 

 立ち直った響が翼に問いかける。

 

「─私があなたと戦いたいからよ」

 

 翼は響にそう言いきった。響が困惑する中、翼は話を続ける。

 

「私は、あなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、『風鳴翼』が許せるはずがないっ!」

 

 そう言って刀を構え直す。

 

「あなたもアームドギアを構えなさい!それは、常在戦場の意思の体現…あなたが、何者をも貫き通す無双の一振り─ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えて御覧なさい!」

 

 戸惑う響に覚悟を示すように言う翼。そんな翼を見たツナは、彼女がどこか悲しそうな顔をしているように思えた。

 

「覚悟とか、そんな…私、アームドギアなんて分かりません…分かってないのに構えろなんて、それこそ全然分かりません!」

 

 響は、アームドギアの出し方が分からないことを伝える。すると翼は刀を下ろし、後ろを振り返り距離を開けていく。

 

「…覚悟を持たずに、ノコノコと遊び半分で戦場(いくさば)に立つあなたが…奏の─彼女の何を受け継いでいるというの!?」

 

 そう叫び、空高く飛ぶ。

 

「去りなさい! 夢想に猛る炎 神楽の風に 滅し散華せよ」

 

 空中で投擲したアームドギアが巨大な刃として形成され、その後部を蹴り込み切先で響に突貫する。

 

天ノ逆鱗

 

 それを見たツナは響を守るためポケットから死ぬ気丸が入ったフィルムケースを取り出そうとした。その直後、

 

「止めんか!」

「おじさま!?」

 

 駆けつけた弦十郎が拳でアームドギアを止めた─いや、正確には─

 

(この人、拳圧だけで止めてる!?)

 

 弦十郎に止められたアームドギアが消滅する。

 そして弦十郎が足に力を入れた瞬間、足元がへこみ、数メートル先まで道路のアスファルトが破壊された。

 崩壊したアスファルトの上に翼が落ちてくる。それと同時に水が吹き出し始めた。どうやら今の衝撃で水道管が破裂したらしい。

 

(踏み込んだだけでアスファルトどころか配水管も破壊するとか、この人ぜったい人間じゃねー!)

『こいつはすげぇな…死ぬ気モードの家光とタメはれるんじゃねぇか?』

 

 その光景をみた二人はそんなことを考える。

 

「あ~あ~、こんなにしちまって…なにやってんだお前たちは…」

 

 弦十郎はそう呟き─

 

「この靴、高かったんだぞ?」

「いや、心配するところ違うでしょ!?」

「ごめんなさい…」

「いったい何本の映画を借りられると思ってんだよ…」

 

 そう言ってため息をつく弦十郎。そろそろツナもツッコミが間に合わなくなってきた。

 弦十郎は翼に近寄っていく。

 

「らしくないな、翼…ろくに狙いもつけずにブっぱなしたのか、それとも─っ」

 

 弦十郎は翼の顔をみて息を飲む。

 

「お前泣いて「泣いてなんかいません!」…」

「涙なんて、流していませんっ…風鳴翼は、その身を『(つるぎ)』と鍛えた戦士です─だからっ…」

「翼さん…」

 

 ツナは翼の言葉を聞いて異論を唱えようとしたが、口に出すことができなかった…

 弦十郎が翼を立ち上がらせると、響が口を開く。

 

「…私、自分が全然ダメダメなのは分かってます!だから、これから一生懸命頑張って─」

 

 そこまで聞いたツナは、響にそれ以上言わせてはいけないような気がした。そして止めようとしたが間に合わず─

 

「ひびk「『奏さんの代わり』になってみせます!」っ!」

(響のバカ!今の翼さんにそんなこと言ったら…!)

 

 そしてツナの予想は当たり、翼は響の顔を手で叩く。

 その時、翼は泣いていた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(翼さん、泣いてた…)

 

 目を開きその時の光景を思い出す響。それと同時にそのあとの話も思い出す─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと、本部に戻った二人の間には重い空気が流れていた。ツナがその空気に居心地悪くしていたときだった。

 

『そういや、伝え損なってたことがあったな』

 

 リボーンがその場の空気を打ち消すように話し出した。

 

『実は今、俺たちの世界とそっちの世界を自由に移動できる装置を作ってるところなんだ』

 

 それを聞いた全員が驚きを露にする。

 

「そんなもの作ってたの!?…でもどうやってそんな装置を…」

『なぁツナ、(リアル)6弔花のGHOSTって覚えてるか?』

「う、うん。確か白蘭が他の平行世界からつれてきた自分自身だったよね?」

『そうだぞ。ダメツナにしてはよく覚えてたな─それを思い出してな、白蘭にその時に使った装置の設計図を教えてもらったんだ。その設計図と死ぬ気の炎を元に現在制作中だったが、新たにこの通信の周波数も使うことになったぞ。ちなみに、製作陣はジャンニーニ・スパナ・入江の三人とヴェルデ、資金提供はティモッテオやキャバッローネファミリーなどの同盟ファミリー達から提供してもらってるぞ』

 

 協力者達の規模のでかさに開いた口が塞がらないツナ。

 

『それともうひとつあってな』

「まだあるの!?」

 

 ツナはもうキャパオーバーだと言わんばかりに叫ぶが、それを無視してリボーンは話を続ける。

 

『ジャンニーニには今、その装置と平行してお前がうけた改造版十年バズーカの弾─マルチバズーカ弾とでも名付けておくか。それを作ってもらってるぞ』

「なんでそんなことを…」

『お前一人じゃドジって死んじまいそうだからな「不吉なこと言うなよ!」それにヴェルデの話によると、マルチバズーカ弾が発動してこの世界とそっちの世界が繋がるときになにか力が作用するんじゃないかって話でな。その情報を集めるためでもあるんだぞ』

 

 そう言ってツナに向き合う。

 

『てなわけで、マルチバズーカ弾が一つでもでき次第、どんどんこっちの世界のやつを送るから、誰が来るか楽しみにしとけよ』

「ちょっおい、リボーン!」

 

 リボーンは言いたいことだけ言うと、すぐに通信を切ってしまった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツナの友達か~…どんな人達なんだろな~…」

「ツナがどうしたの?」

 

 どうやら口に出してしまっていたらしく、未来が問いかけてくるがなんでもないと伝える。

 その直後、ミーティング召集のメールが届く。それを見た響は疲れた顔をし、未来はまた用事なのかと聞いてくる。

 

「あはは…」

「夜間外出とか門限とかは私の方で何とかするけれど…」

 

 苦笑いする響に未来がそう言う。

 

「ごめんね…」

「こっちの方は何とかしてよね」

 

 そう言って未来は響にパソコンの映像をみせ、ツナとセレナも含めた四人で、一緒に流れ星を見ようと言った約束を覚えているか聞いてくる。

 

「な、何とかするから…だからごめん…」

 

 そう言って立ち上がる響をみて、未来はため息をついた。そして急いで服を着替えようとする響を手伝おうとする。

 

「…私このままじゃダメだよね…」

 

 すると響が弱音を吐き始めた。それを聞いた未来は手を止める。

 

「しっかりしないといけないよね、今よりも…ずっと、きっと、もっと…」

 

 その言葉を聞き、未来は心配そうな顔を浮かべた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました!」

 

 響が二課指令室に駆け込むと、部屋にはすでに弦十郎と了子、そして翼とツナがいた。

 

「でーは!全員揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょ!」

 

 了子がそう言うと、モニターに地形図と思われる映像が写し出され、いくつもの丸が現れる。

 

「どう思う?」

「いっぱいですね!」

 

 弦十郎の質問にそう答える響。ツナはいつもの響っぷりに苦笑いする。響の返答を聞いた弦十郎は笑いながらその通りだと言い、モニターの映像がここ最近のノイズの発生地点であることを伝える。そしてノイズに関する説明が始まった。

 その話を聞きながら、ツナは事前に知っていた情報と了子の説明、そしてモニターのに写っているノイズの発生件数を見て─

 

「明らかに多すぎる…ということは、誰かの作意が働いているということ…?」

 

 ツナの呟きを聞いた弦十郎達は、その勘の良さに驚かされる。

 

「鋭いな綱吉くん…そうだ、これは誰かの策略だと考えられる」

 

 弦十郎がそう言い、翼が円の中心点が自分達がいる真上だという。そして特機部二が保管している完全聖遺物『デュランダル』について話し始める。

 ツナは弦十郎の話を聞きながら、自分が巻き込まれた多くの事件を思い出していた。

 デュランダルの話が終わると、緒川が、このあと翼のアルバムの打ち合わせがあることを伝える。そして響とツナに名刺を渡してくる。

 

(なんか、デキる男って感じだなぁ)

 

 ツナが、名刺を渡す緒川の姿を見てそう思っていると、緒川と翼は部屋を出ていった…

 

 

 

 

 

 

「どうして私たちは、ノイズだけでなく、人間同士でも争っちゃうんだろう?」

 

 二人が部屋を出て少したった頃、そんなことを響が呟く。

 

「どうして世界から争いがなくならないんでしょうね?」

「それはきっと─人類が呪われているからじゃないかしら?」

「響!」

 

 響の耳元で了子がそうささやく。その瞬間、ツナは了子から嫌なものを感じた。そして響を守るように、立ち上がった響と了子の間に割り込み、警戒を露にする。

 

「冗談よ冗談!ただのいたずらよ~!」

 

 了子は警戒するツナに笑いながらそう言った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん…急な用事が入っちゃった…今晩の流れ星、一緒に見られないかも…」

 

 次の日の夕方、響が電話で未来にそう伝える。何とかレポートを提出することができた響は、未来が響の鞄を取りに行った直後にノイズ出現の連絡を受け、出現場所である地下鉄の駅前に来ていた。

 

「ありがとう、ごめんね…」

 

 そう言って電話を切ると、後ろにいるノイズ達を睨み付ける。

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 響がシンフォギアを纏い、歌い始める。

 

「絶対に…話さない この繋いだ手は」

 

 そしてノイズに向かい走り出す─

 

ツナside

 

「ごめん未来!少し用事ができちゃってさ…」

 

 響がノイズ達に突っ込んでいった頃、ツナは響の元に向かいながら未来に、用事ができて流れ星を一緒に見られないことを伝える。

 

『ううん、別にいいよ…ちょうどさっき、響からも、用事が入ったから見に行けないって伝えられたから』

 

 未来の声は、どこか元気がなさそうだった…それもそうだろう、彼女が一番、流れ星を四人で一緒に見ることを楽しみにしていたのだから─

 

『それじゃあ、セレナちゃんと一緒に見に行ってくるね』

「─本当にごめん!」

 

 ツナが再び謝り、電話を切ろうとすると─

 

『ねえツナ…ツナの言う用事って、響と同じ用事?』

「っ!?」

 

 未来にそう質問され言葉につまり、その場で立ち止まるツナ。

 

『図星、みたいだね…』

「…」

 

 未来の言葉にツナは無言を貫く。

 

『ねえ、ツナ達の用事ってなんなの?』

 

 未来がそう問いかけてきた。それを聞いたツナは、少し間を空け、口を開いた。

 

「─ごめん、今はまだ、この事は誰にも話しちゃいけないんだ…でも、未来にはいつか話すときが来るような気がする…だから、それまで待っていてくれないかな?」

 

 ツナは、超直感から、いつか未来にバレる日が来ることを感じ、そう伝えた。

 

『─うん、わかった。それまでの間、待っとく…だから、なるべくはやく、そのときが来てくれれば嬉しいかな』

「─ごめん!」

 

 三度目となる謝罪をしたあと、ツナは電話を切り、再び響の元に急いだ─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

 通話を終わらせた未来にセレナが話しかける。

 

「響とツナは用事でこれないんだって…だから、二人で一緒に流れ星を見に行こう?」

 

 そう言って未来とセレナは歩きだした。そしていっとき歩くと─

 

「ツナさんも響さんも、未来さんになにかを秘密にしておくことは、とても辛いと思いますよ?」

「え…?」

 

 セレナの言葉を聞いて振り向く。どうやらセレナは先程の話を聞いていたようだ。セレナはそのまま続ける。

 

「響さんは未来さんのことが大好きなはずですから、未来さんに隠し事をするのは、とても辛いことだと思います。それに、ツナさんは誰かに嘘をついたり隠し事をしたりすることが苦手な人なので、恐らく先程の電話で話すか話さないか、とても悩んだと思います。その結果、未来さんに話さなかったということは─未来さんを巻き込みたくない用事だからじゃないでしょうか?」

 

 セレナは歩きながら話を続ける。

 

「ツナさんはとても優しいですから、誰かが傷付くところを見たくないし、友達を危険なことに巻き込みたくない…でも、もし伝えなければいけなくなったら、ちゃんと教えてくれるはずです…だから」

 

 そう言いながら、セレナは未来の手を両手で握る。

 

「ツナさん達から話してくれるまで、待ってあげましょう?」

 

 そう言って微笑む。それを見た未来も、笑顔を見せた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある地下鉄の駅でノイズを徐々に倒していた響は、ブドウのような形をしたノイズの爆撃によって崩壊した瓦礫に巻き込まれていた。

 彼女が埋まっている瓦礫をノイズ達が見つめている。

 

「─見たかった…」

 

 響はそう呟くと、瓦礫を吹き飛ばし─

 

「流れ星、見たかった!」

 

 ノイズを殴り消滅させる。

 

「未来達と一緒に、流れ星見たかった!」

 

 そう言いながらノイズ達を倒していき、怒りを表現するように吠える。そして逃げたブドウ型のノイズを追う。

 

「あんた達が…誰かの約束を犯し、嘘のない言葉を…争いのない世界を─なんでもない日常を、剥奪するというのならっ!」

 

 そう言って響はノイズ達を殲滅していく。

 

 

 

 

 

 

─ノイズを殲滅していく彼女の顔は、まるで獣のようだった─

 

 

 

 

 

 

 響がブドウ型以外のノイズを倒しきると、再び爆撃を受ける。それにより、いつもの彼女の顔に戻り、逃げるブドウ型ノイズを追うが、そのノイズは天井を爆破して穴を空け、そこから逃げる。だが、響がその穴から空を見ると、一筋の光が飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

「流れ、星…?」

 

 

 

 

 

 

 そう響は呟くが、その光の正体は─

 

 

 

 

 

 

蒼ノ一閃

 

 

 

 

 

 

 シンフォギアを纏った翼であった。

 翼の攻撃によりブドウ型のノイズは両断され爆散する。それと同時に

 

「無事か響!」

 

 穴を通ってハイパーモードのツナが響の元に来る。響が無事であることを確認したツナは、響を抱えて外に出る。そして爆発地点に向かうと、空から翼が降りてくる。それを見た響はツナに下ろしてもらい、響に近づく。

 

「私だって、守りたいものがあるんです!だから…」

 

 響がそう叫ぶが、翼は無表情で刀を鳴らす。

 沈黙が続いた。すると突然─

 

 

 

 

 

 

 

「だからぁ?んでどーすんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 どこからか女性の声が聞こえた。

 三人が周囲を見渡すと、林の方から影が近寄ってくる。月明かりがその人物を照らし、その姿を見た翼が目を見開く。

 

「ネフシュタンの、鎧…」

 

 その少女が纏っていたのは、二年前の事件で行方不明になったはずの完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』だった…




オリ展開がやっぱり難しい…


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標的(ターゲット)10 落ちる涙と大空のぬくもり

だいぶん気力を削られますよね、小説作るの…
いつの間にかUAが10,000越えてたんですけど、これってすごいことなんですかね?


「ネフシュタンの、鎧…?」

 

 ツナは翼が呟いた名前を復唱する。

 

「へぇ~…てことはあんた、この鎧の出自を知ってんだ?」

「─二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか!」

 

 鎧を着る少女に対しそう訴え、翼は二年前の事件を思い出す。

 

(二年前…ということは、あれはあの事件で奪われたものか!)

 

 翼の言葉を聞いたツナがそう考える。

 

「去りなさい! 夢想に猛る鼓動 神楽の風に滅し散華せよ」

 

 翼は謎の少女に刀を向け、少女も臨戦態勢をとる。

 

(奏を昏睡状態にさせた(失った)事件の原因と、奏が残したガングニールのシンフォギア…時を経て、再び揃って現れるという巡り合わせ─だがこの残酷さは、私にとって心地いい!)

 

 翼は歌いながら、そう考えていた。

 

「やめてください翼さん!」

 

 そんな翼に響がしがみつく。

 

「相手は人です!同じ人間です!」

「「戦場(いくさば)で何をバカなことを!」」

 

 響がそう言うと、翼と少女は同じ台詞を叫ぶ。戦いたくなくても、戦わなければいけない状況をいくつも経験したことがあるツナは、響の言葉を聞いて悲しみと悔しさを抱く。

 

「─むしろ、あなたと気が合いそうね」

「だったら仲良くじゃれ合うかい!?」

 

 そう言って少女が鞭状の武器をふる。翼はしがみつく響を引き剥がし攻撃を回避する。

 

「『わがよ誰とぞ常ならむ』と 全霊にていざ(ほふ)る」

 

 少女は翼の攻撃を鞭で打ち払う。それを見た翼は一瞬顔をしかめるも、歌を続けながら攻撃の手を緩めない。だが少女は回避したり、鞭で防御したりして翼の攻撃をかわす。そして鞭をふるい、しゃがんだ翼の鳩尾に膝蹴りをくらわそうとした─

 

 

 

 

 

 

X(イクス)カノン!!!」

 

 

 

 

 

 

 その直後、横から炎の弾が飛んでくる。それを少女が慌てて回避し、弾が飛んできた方を見ると

 

「俺たちがいることを忘れるな」

 

 ツナが右手のガントレットを構えていた。それを見た少女は顔を歪める。

 

「─っ!お呼びではないんだよ!こいつらでも相手してな!」

 

 そう言って懐から杖のようなものを取り出し、響とツナの近くに光を放つ。すると、響の元にはダチョウ型のノイズが、ツナの元にはそのダチョウ型に加え、大量の人型とカエル型のノイズが現れた。

 

「ノイズが…操られている!?」

 

 するとダチョウ型のノイズ達が謎の液体を吹き出してくる。

 ツナは難なく回避できたが、響がその液体を浴び拘束されてしまう。

 

「響!」

 

 ツナは響の元に行こうとするが、ノイズの大群が道をふさぐ。

 

「邪魔だ!」

 

 ツナはノイズを倒していくが、倒しても倒してもいっこうに進めない。

 

「その子達にかまけて、私を忘れたか!」

 

 翼がそう言って少女に斬りかかる。

 

「お高くとまるな!」

 

 そう言って少女は翼を片手で持ち上げ放り投げる。そして飛んでいった先に先回りし、翼の顔を踏みつける。

 

「翼!」

「のぼせ上がるな人気者!誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねえ!…この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる─狙いははなっから、(こいつ)をかっさらうことだ!」

 

 少女はそう言ってノイズに捕まっている響を親指で指す。

 

「鎧も仲間も、あんたにゃ過ぎてんじゃないのか?」

「─そんなこと、させるか!」

 

 ツナはそう叫び、『死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション』を使って道を塞いでいたノイズ達を全て凍らせる。

 それを見た少女は一瞬驚いたが、すぐに持ち直し

 

「まだまだ出せるんだよ!」

 

 そう言ってツナの周囲を取り囲むように、人型ノイズから大型ノイズまで、複数の種類のノイズを呼び寄せる。

 

「そこを、どけぇぇぇ!!」

 

 そう言ってツナは右手のガントレットを『Ⅰ世のガントレット』に変化させ、ノイズを倒し続けるが、いっこうに減る気配がしない。その事に歯を噛み締めながらもノイズを倒していく。

 

「─繰り返すものかと、私は誓った!」

 

 そう言って翼は刀を空に向ける。

 

千ノ落涙

 

 少女は剣の雨をかわし、翼は立ち上がり駆け出す。少女と翼の戦闘が激化していく。

 

「─そうだ、アームドギア!」

 

 今までその戦いを見ていた響がアームドギアを召喚させようとする。

 

「出ろ、出てこい!アームドギア!」

 

 だがその訴えは届かず、アームドギアが出てくる気配はない。

 

「何でだよ…どうすればいいのか分かんないよ…」

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、少女と翼は互いに競り合っていた。

 

「鎧に振り回されているわけではない…この強さは本物…っ」

「ここでふんわり考えごとかい!?」

 

 少女の回し蹴りを回避すると、少女が再びノイズを呼び出す。だが、翼はノイズ達をすぐに殲滅し、少女との戦闘を再開させる。

 

「ちょろくせぇ!?」

 

 翼が投げた小刀を鞭で弾き飛び上がる。

 黒い電撃を帯びた白いエネルギー球を鞭の先端に生成し、翼に投げつける。

 

NIRVANA GEDON

 

 翼はその攻撃をアームドギアで防ごうとするも、爆発によって吹き飛ばされてしまう。

 

「フン!まるで出来損ない!」

「─確かに、私は出来損ないだ…」

 

 翼はうつ伏せのまま言葉を続ける。

 

「この身を一振りの『(つるぎ)』と鍛えてきたはずなのにっ…あの日、無様に生き残ってしまった…出来損ないの『剣』として、恥を去らしてきたっ…だが、それも今日までのこと…奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名を(そそ)がせてもらう!」

 

 そう言いながら翼は立ち上がる。

 

「そうかい…脱がせるものなら脱がして─何!?」

 

 体が金縛りにあっているような状態であることに気付き、少女が後ろを振り向くと、先ほど弾いた小刀が少女の影に刺さっていた。

 

影縫い

 

「クッ…こんなもんで、私の動きを─っ!?まさか、お前…」

「─月が覗いているうちに、決着をつけましょう…」

 

 少女は金縛りを解こうとするが、翼の顔を見て、彼女が何をしようとしているのかに気付き、固まる。

 

「歌うのか─『絶唱』をっ!?」

「翼さん!」

 

 響が翼の名前を叫ぶ。ツナは少女の言葉を聞いた瞬間、以前セレナが言っていたことを思い出す─

 

 

 

 

 

 

(シンフォギアの力の一つには、『絶唱』と呼ばれる歌があります。その歌を歌うことによって、シンフォギアの力を限界以上に解放し、増幅したエネルギーを、アームドギアを介して一気に放出します。その力の発現はシンフォギアごとに異なりますが、共通して発生するエネルギーは凄まじく、ノイズを始めとするあらゆる存在を一度に殲滅し得る絶大な効果を発揮します。私も、その『絶唱』を使ってネフィリムを擬似的に仮死状態にすることができました。ですが、装者への負荷も、生命に危険が及ぶほどに絶大です。反動ダメージは装者の適合係数の高さに伴って軽減されますが、そもそも適合率の高い適合者自体が稀でありLiNKERの負担や、追い詰められた状況で使用される負担やダメージもあり、いずれにせよ大きなダメージは避けられません)

 

 

 

 

 

防人(さきもり)の生きざま─『覚悟』を見せてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 ツナがセレナの話を思い出している間に、翼はそう言って響の方を向く。

 

「あなたの胸に、焼きつけなさい!」

 

 翼は響に刀を向け、そう言いはなった…

 

「やらせるかよ!好きに、勝手にっ…」

 

 少女はなおもあがこうとするが、金縛りが解ける気配はない。その間にも、ツナは話の続きを思い起こす。

 

 

 

 

 

 

(すべてのシンフォギアの『絶唱』は同じ歌です。なので、もしツナさんが装者の人と一緒に戦うような状況になって、その人が『絶唱』を歌おうとしたら、すぐに気づいて止められるように、歌の始まりだけでも教えておきますね─)

 

 

 

 

 

 

「『Gatrandis babel ziggurat edenal …』」

 

 

 

 

 

 

 記憶の中のセレナの歌と、翼の歌が重なった─

 

「─っ!やめろ翼!歌うのをやめるんだ!」

 

 ツナがそう叫ぶが、翼は歌を止めず、少女にゆっくり近づいていく。

 ツナは翼を止めるため、彼女のもとに向かおうとするが、それを拒むかのように周りをノイズが囲む。

 

「邪魔を、するな!!」

 

 そう叫び、道を作るために近くのノイズを吹き飛ばすが、すぐに他のノイズが立ち塞がる。

 その間にも、翼は少女に近づきながらも歌を歌い続ける。

 少女は再びノイズを召喚させるが、すでに翼は少女のすぐ近くまで来ていた。

 

バーニングアクセル!!!」

 

 その時、ツナがノイズの集団の一角を吹き飛ばした。そしてすぐに翼のもとに急ぐが、彼女は、怯む少女の肩にそっと手をおき…

 

Emustolronzen fine el zizzl…

 

 『絶唱』を歌い終わってしまい、翼の口から血が流れでる。

 

「翼!」

 

 ツナが翼に向かって手を伸ばすが、あと少しのところで届かず…

 

 

 

 

 

 

─翼のアームドギアからエネルギーが放出される─

 

 

 

 

 

 

 その衝撃によって、ツナは翼から離されるように吹き飛ぶ。

 その場にいたノイズはアームドギアから放出されたエネルギーによってすべて消滅し、翼のすぐそばにいた少女も、その衝撃をもろに受け吹き飛ばされ、地面に大きなクレーターができる。

 少女が纏っていた鎧も、所々吹き飛ばされていたが─突如、鎧からのびるように少女の体を黒い筋がつたう。

 それを見た少女は空を飛び逃げていった…

 

 

 

 

 

 

「翼さーん!」

 

 響がクレーターの中央部にいる翼のもとに向かうが、途中で転んでしまう。すると、翼達のもとに弦十郎達が乗った車が到着する。

 

「無事か翼!」

 

 車から降りながら、翼の無事を確認する弦十郎。

 

「─私とて、人類守護のつとめを果たす『防人』…」

 

 そう言って振り返った翼は、目と口から大量の血を流し、シンフォギアもボロボロになっていた…

 

「こんなところで、折れる『剣』じゃありません…」

 

 血を流しながら、翼はそう言った─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、響に遅れてやってきたツナが叫んだ。その場にいた全員がツナの方を向く。

 

「何が『防人』だ!何が『剣』だ!そんなの間違ってる!…あなたは、ただの人間じゃないか!!」

 

 ツナは翼の顔をしっかりと見ながら、言葉を続ける。

 

「それに…あなたが傷ついて、弦十郎さん達が─奏さんが喜ぶと思ってるのか!!」

 

 そう言いきったツナの眉間には、皺がついていた…

 

「─沢田は、優しいな…」

 

 そう呟き、翼は地面に倒れこんだ…

 

「「翼さん!!」」

 

 翼が最後に見たのは、自分の元に駆け寄る叔父と、ショックを受けている響─そして、眉間に皺を寄せ、悲しそうにしながらこちらを見るツナだった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、翼は二課医療施設に緊急搬送され、かろうじて一命を取り留めたが、余談を許されない状態だった。

 弦十郎は医師から説明を聞くと、鎧の行方を追跡しに行った。

 そして緊急治療室の近くにある休憩所には、響とツナが、二人してうつむいて座っていた。すると、

 

「─あなた達が気にやむ必要はありませんよ」

 

 そう言って緒川が入ってきて、自販機で飲み物を購入する。

 

「翼さんが自ら望み、歌ったのですから…」

「緒川さん…」

「─それでも俺は、誰かが傷つくところを見たくない…傷ついてほしくないんだ…っ」

 

 ツナは弱々しくも、そう訴えた。

 

「─ご存じとは思いますが、以前の翼さんは、アーティストユニットを組んでいまして…」

「…ツヴァイウィング、ですよね…」

 

 緒川が響達に飲み物を渡してくる。

 

「その時のパートナーが、天羽奏さん…今はあなたの胸に残る、『ガングニール』のシンフォギア装者でした…そして、以前話した通り、現在この施設にて、未だ昏睡状態で入院しています」

 

 そこで一度、手にしていた飲み物を少し飲み、話を続ける。

 

「二年前のあの日、ノイズによる被害を最小限に抑えるため、奏さんは、『絶唱』を解き放とうとしたんです─まあそれは、沢田さんが来たことで防げたんですがね」

 

 そう言ってツナの方を向く緒川。

 

「『絶唱』…翼さんも言っていた…」

 

 響がそう呟くと、緒川は絶唱の説明をし、再び飲み物に口をつける。

 

「─奏さんの昏睡、そしてツヴァイウィングは一時解散…一人になった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらに戦ってきました…同じ世代の女の子が知ってしかるべき、恋愛や遊びも覚えず、自分を殺し、一振りの『剣』として生きてきました…そして今日、『剣』としての使命を果たすため、死ぬことすら覚悟して─歌を歌いました」

「─やっぱり、おかしいですよ…自分を殺してまで戦い続けて、死を覚悟してまで歌うなんて…死んだら、残された人たちがどう思うか、考えたことはなかったのかよ…っ」

 

 緒川の言葉を聞いたツナがそう呟いた。

 

「不器用ですよね…でもそれが、『風鳴翼』の生き方なんです…」

「─そんなの、ひどすぎます…っ」

 

 響が泣きながら言う。

 

「そして私は…翼さんのこと、何にも知らずに…『一緒に戦いたいだ』なんて…『奏さんの代わりになる』だなんて…」

「響…」

 

 そう言って泣き続ける響に、かける言葉がなにも思い付かずにただ名前を呟くことしかできないツナ。

 

「僕も、あなたに『奏さんの代わり』になってもらいたいだなんて、思っていません…そんなこと、誰も望んではいません。─ねえ響さん、沢田さん…僕からのお願い、聞いてもらえますか?」

 

 二人が緒川の顔を見る。

 

「─翼さんのこと、嫌いにならないでください。翼さんを世界にひとりぼっちだなんて、させないでください」

「はいっ」

 

 緒川のお願いを一言で受け入れる響。

 

「─ひとりぼっちになんて、絶対にさせません。それに─俺はもう、特機部二の人達も、翼さんのことも、仲間だと思っていますから」

 

 そう言って微笑むツナを見て、緒川は安心したように笑顔を見せた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─その頃、翼の精神世界では─

 

 海中のような空間で、翼は深海にゆっくりと落ちていく…そのすぐ近くを、誰かが通りすぎていった。

 その正体に気づいた翼が体制を整え振り向くと、ずっと先で、翼に背を向けている奏の姿があった。奏は顔をそらすようにして翼の方を向く。

 

「片翼だけでも飛んで見せる!どこまでも飛んで見せる!だから笑ってよ、奏っ─」

 

 必死に話す翼だが、奏はそのまま翼から離れていく。

 それを見た翼は、暗い海の中に沈んでいく…

 

─だが、沈みゆく彼女を止めるように、後ろから誰かが抱き止めた─

 

 翼が後ろを向くと、そこにはまだ幼さが残った顔立ちをした少女が、翼を優しく抱き締めていた。

 少女が優しく微笑むと、少女と翼を包むようにきれいな橙色の炎が展開される。

 

(この炎は、沢田と同じ…)

 

 そして炎は少女と翼を囲むように展開された。

 

(温かい…)

 

 

 自分と少女を覆い囲む炎によって、まるで心を優しく包まれているような感覚になった翼は、安心したような顔で目を閉じていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏さんの、代わりだなんて…」

 

 翼が倒れてから数日後。

 響はリディアンのとあるベンチでそう呟き、特機部二本部での会話を思い出していた。

 

「響」

 

 そんな響に、未来が話しかけてきた。

 

「最近一人でいることが多くなったんじゃない?」

「そうかな?そうでもないよ?私、一人じゃなんにもできないし…ほら、この学校にだって、未来が進学するから私も一緒にって決めたわけだし…」

 

 そうやっていいわけを続ける響に、未来は彼女の隣に座る。

 

「やっぱり、未来には隠し事出来ないね…」

「だって響、無理してるんだもの」

「…うん…でもごめん、もう少し一人で考えさせて。これは、私が考えなきゃいけないことなんだ」

 

 未来にそう伝える響。それを聞いた未来は響の手を握る。

 

「…わかった」

「ありがとう、未来…」

 

 すると、未来がベンチから立ち上がる。

 

「あのね、響…どんなに悩んで考えて、出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね」

「私のまま…」

「そう。変わってしまうんじゃなく、響のまま成長するんだったら、私も応援する。…だって、響の変わりはどこにもいないんだもの!いなくなってほしくない」

「…でも私、私のままでいいのかな?」

「響は響のままじゃなきゃ嫌だよ」

 

 それを聞いた響は特機部二で自分が行った言葉を思い出す。

 

『私だって、守りたいものがあるんです!だから─』

 

 未来が響に微笑みかける。それを見た響は立ち上がり、奏と翼が入院している施設の方を一度向き、手を握りしめる。

 

「ありがとう、未来。私、私のまま歩いていけそうな気がする!」

 

 それを聞いた未来は笑顔になる。

 

「そうだ、こと座流星群みる?動画で録っておいた!」

 

 それを聞いた響は喜び、動画をみるが…

 

「なにも見えないんだけど…」

「うん…光量不足だって」

「ダメじゃん!」

 

 そうつっこむ響。実は昨日、ツナもセレナからこと座流星群の動画を見せてもらったのだが、今の響達の会話と全く同じ会話をしていた。

 二人はおかしくなって笑い出し、響は涙を流す。

 

「おかしいな…涙が止まらないよ。…今度こそは四人で一緒に見よう!」

「約束!次こそは約束だからね?─だから、次までには、ツナと二人で早く用事を終わらせてね?」

「え!?何で未来がそんなこと知ってるの!?」

「響が私に連絡したあと、ツナからも用事でこれないって連絡が来てね、その時に二人の用事が同じだってことを聞いたんだ。内容とかは詳しく教えてもらってないけど、ツナ曰く、いつか私に伝えるときが来ると思うって。それに、私が響にこと座流星群を録画してたこと、今まで黙ってた間はとても辛かった。響達も今、そんな気持ちなんだよね?だから、私からは聞かないから─響達が話してくれるまで、待ってるからね?」

「…ありがとう、未来」

 

 そう言ってくる未来に感謝する響。

 

(私だって、守りたいものがある!私に守れるものなんて、小さな約束だったり、何でもない日常くらいなのかもしれないけれど…それでも、守りたいものを守れるように…私は、私のまま強くなりたい!)

 

 そして響が向かった先は…

 

「たのもー!」

 

 風鳴邸─風鳴弦十郎の元だった。

 

「私に、戦い方を教えてください!」

 

 そして響は弦十郎の元に弟子入りし、彼の厳しい特訓が始まった…

 

「時に響くん─君は、アクション映画とか嗜む方か?」

「はえ?」




なんとか書けました…翼さんのところに来た少女は一体どこの姫なんだ…

追記(2020年12月22日)

誤字報告ありがとうございます!


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標的(ターゲット)11 昏き深淵より舞い戻る青き翼

ヤバい…気力がどんどんなくなってきてる…一期ぐらいは完走したいっ


 響は朝から風鳴邸の庭でサンドバックを叩いていた。

 

「そうじゃない!稲妻をくらい、雷を握り潰すように打つべし!」

「言ってること全然わかりません!でもやってみます!」

 

 そう言って響はサンドバックの方を向き、構え直し気合いをいれる。

 

-ドクンッ-

 

 そして彼女がおもいっきり殴ると、サンドバックを支えていた木の枝が折れ、庭にあった池まで吹き飛んだ。

 

「んなー!?太い枝ごとぶっ飛んだぁ!?」

「あ、おはようツナ!いつものランニング中?」

 

 ちょうどその場面を、響が特訓を始めたときいて心配になり、朝のランニングがてら立ち寄っていたツナが目撃し驚く。

 そんなツナに響が話しかける。ツナはいつもと変わらない響を見ると安心したのか、すぐにランニングに戻る。

 

「こちらも、スイッチをいれるとするか!」

 

 ツナが走り去っていくと、弦十郎はミットを装着し構えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、まるでお城のような、立派な建物の中で一人の女性が電話越しで会話─言語から、おそらく相手はアメリカ人だろう─していた。その女性は会話をしながら、ネフシュタンの鎧を纏っていた少女が持っていた杖─会話の中で、『ソロモンの杖』と呼ばれた聖遺物を発動させノイズを召喚すると、すぐにノイズを消す。そして会話を続けながら机の上に足をのせつつ椅子に座った。

 会話が終わり、電話を切ると、女性は立ち上がる。

 

「野卑で下劣、生まれた国の品格そのままで辟易する…」

 

 そう言いながら女性は、謎の装置にはりつけられている少女─恐らく、ネフシュタンの鎧を纏っていた少女だろう─に近づく。

 

「そんな男に、ソロモンの杖が既に起動していることを教える道理はないわよね─クリス?」

 

 そう言って女性が少女の顔に手を当てると、その少女─雪音クリスが目を覚ます。

 

「苦しい?かわいそうなクリス…あなたがグズグズ戸惑うからよ。誘い出されたあの子をここまで連れてくればいいだけだったのに…手間取ったどころか、からてで戻ってくるなんて…」

「…これで、いいんだよな…?」

「なに?」

「私の望みを叶えるには、お前にしたがっていればいいんだよな…?」

「そうよ…だから、あなたは私のすべてを受け入れなさい」

 

 女性はクリスがはりつけられている装置を起動させるレバーの近くに行く。

 

「でないと嫌いになっちゃうわよ?」

 

 そう言って、女性はレバーを下げる。すると装置からクリスの身体に電流が流され始めた。

 

「可愛いわよクリス─私だけがあなたを『愛して』あげられる」

 

 苦しむクリスの顔をみながら、そう呟く女性。少しすると女性がレバーを上げて停止させる。

 女性は息を整えているクリスに近づき、彼女の頬に手を添える。

 

「覚えておいてねクリス…痛みだけが人の心を繋いで『絆』と結ぶ─世界の真実ということを…」

 

 クリスにそう呟く女性。

 

「さ、一緒に食事にしましょうね…」

 

 その女性の言葉を聞き、クリスは微笑んだ。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び電流が流される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝からハードすぎますよぉ…」

「頼んだぞ、明日のチャンピオン!」

 

 響が二課のソファに寝そべるように倒れこむ。そんな彼女に友理あおいがスポーツドリンクを渡してくる。響はそれを受けとり、勢いよく飲む。

 

「あの、自分でやると決めたくせに申し訳ないんですけど、なにもうら若き女子高生に頼まなくても、ノイズと戦える武器って、他にないんですか?外国とか?」

 

 ツナがいたら「自分でいうか?」とつっこみそうなことを言いつつ、弦十郎達に聞くと─公式にはなく、日本でもシンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だと話す。それを聞いた響は今までの行動を思いだし戸惑うが、友理が情報封鎖はしっかりしていることを伝える。

 

「だけど、時々無理を通すから、今や、我々のことをよく思っていない閣僚や省庁だらけだ」

 

 そう言って、オペレーターの藤尭朔也は特機部二はそういう人達から揶揄されたものであると話す。

 

「情報の秘匿は、政府上層部の指示だって言うのにね…やりきれない」

「いずれシンフォギアを、有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろ」

 

 そして、シンフォギアは日本以外の国からすれば喉から手が出るほどほしい存在であることを伝える。

 

「結局やっぱり、色々とややこしいってことですよね…」

 

 混乱しているのか、日本語として少しおかしな発言をする響。

 

「あれ、師匠。そういえば了子さんは…?」

「永田町さ」

「永田町?」

 

 響の質問にそう答え、政府のお偉いさんに呼び出され、本部の安全性と防衛システムについて関係閣僚に説明しに行っていることを伝える。

 

「ホント、何もかもがややこしいんですね…」

「ルールをややこしくするのはいつも、責任をとらずに立ち回りたい連中なんだが…その点、広木防衛大臣は…」

 

 そう言いながら弦十郎が時計を確認すると、了子の戻りが遅いことに気づく。その了子だが、噂されたからか大きなくしゃみをしつつ、帰りの道を急いでいた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼の意識は暗い海の中を模した精神世界を漂っていた。そんな彼女を抱き締めていた少女は、いつの間にか消えていた。

 

(私、生きてる…?─違う、死に損なっただけ…)

「真面目が過ぎるぞ、翼」

 

 心の中でそう思っていると、再び後ろから誰かが抱きつく。その人物は、翼がよく知る女性─天羽奏だった。

 

「あまりガチガチだと、そのうちポッキリいっちゃいそうだ…」

「…一人になって私は、いっそうの研鑽を重ねてきた。数えきれないほどのノイズを倒し、死線を越え、そこに意味など求めず、ただひたすら戦い続けてきた─そして、気づいたんだ…私の命にも、意味や価値がないってことに…」

 

 そう言って黙る翼。気づくと、背景は二年前の事件が起こった場所に変わっていた。

 

「戦いの裏側とか、その向こうには─また違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えてきたし、そいつをみてきた…」

「それはなに?」

 

 そう質問する翼に、奏は

 

「自分で見つけるものじゃないかな」

 

 そう言いきった。

 

「奏は私に意地悪だ─だけど、私に意地悪な奏は、今はそばにいないんだよね…」

「そいつは結構なことじゃないか」

「私は嫌だ!奏にそばにいてほしいんだよ!」

「─あたしがそばにいるか遠くにいるかは、翼が決めることさ」

 

 奏は翼に諭すようにそうささやく。翼の目の前には、空にさんさんと輝く太陽があった。

 

「私が…?」

「そうです。大切な人の魂がそばにいるかどうかを決めるのは、自分自身です。近くにいると感じるのならば、それは、本当にそばにいるということですから」

 

 翼が首をかしげていると、奏の背後に先ほどの少女が再び現れる。

 

「君は…」

「あなたが一人じゃないと思えば、彼女の魂も自然とあなたのもとに向かいますよ」

 

 少女は翼に近づく。

 

「それに、あなたは一人じゃない─だから、自分の命に意味や価値がないだなんて、言わないで下さい」

 

 そう言って、少女が微笑む。少女の笑顔を見た翼は、同性ということにもかかわらず見惚れてしまう。

 

「さあ、あなたのことを心配している人達が、現実(あっち)で待ってますよ。早くその人達に、元気な笑顔を見せてあげてください」

 

 少女がそういうと、翼を光が包み込んでいく。

 

「奏!あなたがそういうのであれば、私は─」

 

 そう言った直後、彼女の意識は光に包まれ、現実へと引き戻されていく…

 

 

 

 

 

 

「さて、翼は現実(むこう)に戻ったことだし─今度はあたしの話し相手にでもなってくれるのかい、嬢ちゃん?」

「ふふっ!それもいいですね」

 

 翼がいなくなったことを確認した奏は少女にそう話しかけ、少女はそれもいいかもしれないという。

 

「ありがたいねぇ!ずっとこんな何もない空間で一人きりなのはもううんざりしていてな…そういえば自己紹介をしてなかったな。あたしの名前は天羽奏ってんだ!嬢ちゃんの名前は?」

「よろしくお願いします、奏さん!私の名前は─」

 

 何もない空間に、二人の声が響く─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た~いへんながらくお待たせしました!」

「了子くん!」

 

 了子が本部に帰ってくると、すでに響とツナも集合し、その場の全員が慌てていた。

 

「なによ、そんなに寂しくさせちゃった?」

「広木防衛大臣が殺害された!」

 

 茶化してくる了子に弦十郎は複数の革命グループによって広木防衛大臣が殺害されたことを伝え、響は了子に連絡がとれず心配していたという。

 

「壊れてるみたいね…」

 

 了子は携帯を取り出して確認し、壊れていると言う。そして政府から受領した機密資料は無事であることを告げ、任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いであると告げる。そんななかツナは、そんな了子の言動を怪しんでいた…

 

 

 

 

 

 

 その後緊急会議が行われ、ここ最近頻発しているノイズ発生の事例から、敵の狙いは特機部二の最深部、『アビス』で厳重保管されている完全聖遺物『デュランダル』であると政府が結論付け、それを移送することを了子が説明する。

 

「移送するったって何処にですか?ここ以上の防衛システムなんて…」

 

 その質問に、弦十郎が移送先は永田町最深部にある特別電算室、通称『記憶の遺跡』であることを伝える。

 

「どのみち、俺たちが木っ端役民である以上、お上の意向には逆らえんさ」

 

 そして、デュランダルの移送日時は明朝5時であることが伝えられる。そしてモニターにはデュランダルを回収している機械が移る。

 

「あそこが『アビス』ですか…」

「東京スカイタワー三本分、地下1,800mにあるのよ」

 

 それを聞いた響は口をポカーンと開け、ツナはその深さに目を見開く。

 

「それじゃ、予定時間まで休んでいなさい。あなた達のお仕事はそれからよ」

「「はい!」」

 

 それを聞いて、ツナと響はそれぞれの帰る場所に戻っていった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の早朝。

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で、検問を配備!『記憶の遺跡』まで、一気に駆け抜ける!」

「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 

 そう言って作戦が開始される。輸送車の周りを四台の車が囲み、上空からはヘリコプターが飛んで後を追う。

 了子と響とツナはデュランダルを輸送する車に乗り、弦十郎はヘリコプターにのっている。ちなみにツナはすぐに戦えるようにすでに大空のリング・手袋・コンタクトディスプレイ・ヘッドフォンをすでに装着済みだ。

 あのあと、ツナは響から翼が危険な状態を脱したことを伝えられ安心していた。そして、彼女に不安を与えないためにも、今回の作戦を成功させようと意気込んでいた。

 そして輸送車が橋の上を通っていると、橋の一部が崩壊する。了子達が乗った輸送車はなんとか回避するが、護衛車の一台が避けきれず橋に激突し爆発する。

 

「クッ!」

 

 誰かが傷つくことを嫌うツナは、その光景をみて歯を噛みしめる。

 

『敵襲だ!まだ目視で確認できていないがノイズだろう!』

「この展開、想定していたより早いかも!」

 

 そう言いながら輸送車がマンホールの上を通りすぎると、いきなり水が吹き出し後ろにいた護衛車の一台が吹き飛ばされる。

 

「クソ!」

『まて、綱吉くん!君が了子くん達から離れたら、もしもの時があったときに対処できん!』

 

 ツナは吹き飛ばされた車を助けに行こうとするが、弦十郎にそう言われ止められる。ツナは再び歯を噛みしめる。

 

『下水道だ!ノイズは下水道から攻撃してきている!』

 

 弦十郎がそう報告した直後、前を走っていた護衛車が吹き飛ばされ、了子達の車に向かって飛んでくる。了子はそれを回避し、飛んできた車は地面にぶつかり爆発する。

 

「弦十郎クン?ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場で、爆発でもおきたりしたら、デュランダルは…」

『分かっている!さっきから護衛車を的確に狙い撃ちしてくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されていると見える!』

 

 それを聞いた了子は舌打ちをする。そして弦十郎は、相手の狙いがデュランダルなら、あえて薬品工場に滑り込み、攻めてを封じる作戦を提案する。

 

「勝算は!?」

『思い付きを数字で数えるものかよ!』

 

 輸送車達は薬品工場に向かう。するとマンホールからノイズが飛び出し、最後の護衛車に飛びかかるが、車に乗っていた人達は車が激突する前に飛び降り逃げていく。

 

「狙いどおりですね!」

 

 響が、輸送車にノイズ達が襲いかかってこないことを確認しそう言った直後、車のバランスが崩れ転倒してしまう。

 

「南無三!」

 

 

 

 

 

 

 すぐにツナ達が車から脱出すると、周囲をノイズが囲んでいた。

 響はすぐに車からデュランダルが入ったケースを取り出す。

 

「了子さん…これ、重い…」

「だったら、いっそここにおいてあたし達は逃げましょ?」

 

 了子がそんなことを言い出す。

 

「なに言ってるんですか了子さん!」

「そんなのだめです!」

「そりゃそうよね…」

 

 二人にそう言われ苦笑いする了子。するとノイズが形を変えて襲ってくる。すぐにその場から離れようとするが、ノイズの攻撃で車が爆発し、吹き飛ばされる。

 

「無事か響!」

「うん、なんとか…」

 

 ツナが響の無事を確認していると、再びノイズが襲いかかってくる。

 だが、その攻撃を了子がシールドのようなものを展開して防ぐ。

 

(なんだ、あの力…)

「了子、さん?」

「しょうがないわね…あなた達のやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

 

 了子はノイズの攻撃を防ぎながらそう言う。それを聞いた響は立ち上がり、覚悟を決める。

 

「私、歌います!」

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 響はシンフォギアを纏い、ツナは死ぬ気丸をのみハイパーモードになる。

 

「絶対に…離さない この繋いだ手は」

 

 ツナは空を飛んで奥にいるノイズ達の方に向かっていき、響は歌いながら拳を構え、ノイズの攻撃をかわすも、ブーツのヒールが配管に引っ掛かり転びかける。

 

(ヒールが邪魔だ!)

 

 すると響はシンフォギアのヒールを砕き、体術や八極拳でノイズ達を倒していく。

 

「こいつ、戦えるようになっているのか…っ」

 

 遠くから響を見ていたクリスがそう呟く。

 するとデュランダルが入ったケースが反応し、自動でロックが解除される。

 

「この反応…まさか!」

 

 了子はノイズを倒している響の方を見る。

 

「解放全快! イっちゃえHeartのゼンブで」

 

 響がノイズを倒していると、後方から鞭の攻撃が来るがジャンプで回避する。

 

「今日こそはものにしてやる!」

 

 そう言ってクリスは響の顔に蹴りをいれる。

 

(まだシンフォギアを使いこなせていない…!どうすればアームドギアをっ…)

 

 響が地面に叩きつけられた直後、ケースを壊してデュランダルが飛び出し、空中で制止する。

 

「覚醒…起動!?」

 

 デュランダルが淡く光始める。

 

「こいつがデュランダルか!」

 

 クリスはデュランダルに手を伸ばす。だがそれを響がタックルで止める。

 

「渡すものかぁ!」

 

 そう言って響がデュランダルを手にした。するとデュランダルはさらに輝き始める。そして響の様子に変化が起こり始める。

 デュランダルから光の柱が出現し、錆が消え、折れていた刃も修復される。そしてそれを構える響の顔は、以前地下鉄で怒りで暴走していた頃と同じ表情になっていた。

 

「こいつ、なにをしやがった!?」

 

 そう言ってクリスは了子の方を向く。了子はデュランダルに見惚れていた。

 

「っ!そんな力を見せびらかすなぁ!」

 

 クリスはそう叫び『ソロモンの杖』を使いノイズを呼び出すと、響が振り返る。彼女の顔をみたクリスが怯む。

 クリスはすぐに飛び上がり、響は振り向き様にデュランダルを振る。するとデュランダルから発せられた光は、ノイズだけでなく薬品工場の施設すら破壊する。

 

(お前を連れ帰って、私は…っ)

 

 クリスが光に包まれる…直前

 

「ナッツ!形態変化(カンビオフォルマ) 防御形態(モードディフェーザー)!『Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』!」

 

 ツナが『Ⅰ世のマント』でクリスを庇う。その直後、大爆発が起こる。その時、気絶していた響は、了子によって爆発から守られていた。

 爆風が収まりはじめると、クリスは自分を庇ったツナの方を向く。

 

「何で助けたりなんかした!あたしはあんたの敵なんだぞ!?」

「…俺はただ、響に人殺しなんてさせたくなかっただけさ…それに、もう目の前で誰かが傷つくのは嫌なんだ…」

 

 ハイパーモードを解きながら、ツナはクリスの方を向き、弱々しく微笑む。クリスはそんなツナをみて顔を歪めたあと、すぐに飛んで逃げていった。ツナは逃げるクリスを少し眺めたあと、すぐにその場に倒れこんだ。どうやら先ほどの攻撃を防ぐ際に気力を消費しすぎたようだ…

 

(なに、今の力…私、全部吹き飛べって、身体が勝手に…)

 

 響が目を覚ますと、周囲の建物は崩壊していた。

 

「これが『デュランダル』─あなたの歌声で起動した、完全聖遺物よ」

 

 了子が髪を整えながら話しかけてくる。

 

「あの、私!それに─了子さんの、あれ…」

「いいじゃないの、そんなこと。二人とも助かったんだし…ね!」

 

 了子がそう言って響に笑いかける。すると了子の携帯に、デュランダルの移送計画を一時中断するという連絡が入る。響は電話をしている了子の背中を不思議そうに眺めていた…




やっぱ他の作品と絡めようとすると難易度上がるな…あとこの作品、いちを不定期の更新ではあるのでもしかしたらだいぶ間が空くかもしれませんし、いつの間にか未完になるかもしれません。どうにか一期ぐらいは完走したいですけど…


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標的(ターゲット)12 兆しの行方と秘密

お待たせいたしました。
作者は現在、シンフォギア以外にもガンダムWのDVDも見てるんですが…闇落ちカトルが辛い…


 まだ太陽が顔を出し始めている時間に、少女─雪音クリスは、桟橋の先に立っていた。

 

(完全聖遺物の起動には、相応の『フォニックゲイン』が必要だと『フィーネ』は言っていた…私が『ソロモンの杖』に半年もかかずらったていうのに、あいつはあっという間に成し遂げたっ…そればかりか、無理矢理力をぶっぱなして見せやがった…っ!)

「化物め…!」

 

 クリスはデュランダルを回収しようとした際の出来事を思いだし歯を軋ませる。

 

(それに、あの時あたしを助けた男…何が『誰かが傷つくのは嫌い』だ、戦場でなに甘ったれたこと言ってやがる!…それにあいつの額に灯ってた炎や目を思い出すと、何でか分からねぇが気持ち悪くなってきやがる…っ)

 

 そして、デュランダルの攻撃から自分を助けた男のことを思いだす。あれ以降よく頭の中で思い出され、その度に自分でも形容することが難しい感情に苛まれていた。男─ツナのことを思い出していたクリスは、彼のことを記憶の中からなくすように顔を振る。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせるから、フィーネは(あいつ)にご執心ってわけかよ」

 

 クリスはそう言いながら『ソロモンの杖』を眺める。

 

「─そしてまた、あたしはひとりぼっちになるわけだ…」

 

 そんな彼女に手をさしのべるように、山から太陽が顔を出す。

 クリスがその光を見つめていると、気配を感じ後ろを振り返る。するとそこには、クリーム色の髪の女性─フィーネが立っていた。

 

「分かっている…自分に課せられたことくらいは!」

 

 クリスはフィーネを見ながらそう訴える。

 

「こんなものに頼らなくとも、あんたの言うことくらいやってやらぁ!」

 

 そう言ってクリスは、手に持っていた『ソロモンの杖』をフィーネに投げ渡す。

 

「あいつよりも、あたしの方が優秀だってことを見せてやる!あたし以外に力をもつ奴は、全部この手でぶちのめしてくれる!そいつが、あたしの目的だからな!」

 

 クリスは確固たる意思を宿した瞳で、フィーネを睨み付ける。

 静かになった畔には、鳥の鳴き声が響きわたった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゥゥ…ハァァ…」

「響、緊張しすぎだって…」

「そう言うツナだって、手が震えまくってるじゃん」

 

 響とツナは現在、翼が入院している病室の前にいた。二人は緒川に頼まれ、翼のお見舞いに来ていたのだ。響は花を、ツナはお見舞いの品を持っていた。

 

「失礼しまーす…」

「だから緊張しすぎだって…」

 

 そんな話をしながら二人が病室の扉を開くと

 

「翼さ─は?」

「失礼しま─え?」

 

 部屋の光景をみて二人とも固まってしまう。

 

「ま、まさか…そんな…っ」

「二人ともなにをしているの?」

 

 二人が振り返ると、患者着を着た翼が点滴スタンドと一緒に立っていた。

 

「大丈夫ですか?本当に無事なんですか!?」

「入院患者に無事を聞くって、どういうこと?」

「だって、翼さんの病室が…!」

 

 ツナがそう言って病室内を指差す。そこには、雑誌や服、日用品などが至るところに散らばっていた。

 

「私、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかと思って…っ」

「最近、二課の皆がどこかの国が陰謀を巡らせてるかもしれないって言ってたから─あ」

 

 二人がそう訴えていると、翼が顔を赤らめながらうつむく。そんな彼女をみた響は戸惑い、ツナは、病室の状況の訳を察した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぅ、そんなのいいから…」

「私達、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね!」

 

 響が服を畳ながらそう話す。あのあと、響が下着などの服の分別、ツナが雑誌や日用品などの分別という形で、二人で手分けして病室の片付けをしていた。途中、ツナが雑誌の下に下着を見つけ、それに驚いて後ろに落ちていたタオルで足を滑らせ床に頭を強打するという出来事があったが、それ以外は何事もなく、病室はみるみるうちにきれいになっていった。ちなみにツナは、現在ゴミ出しに行っている。

 

「響ー、ゴミ出し終わったよー」

「お疲れツナ!」

 

 ちょうどその時、ツナがゴミ出しから帰ってきた。

 

「私は、その…こういうところに、気が回らなくて…」

「意外です。翼さんて、何でも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

 響が折り畳んだ服を片付けながらそう話す。

 

「…真実は逆ね…私は戦うことしかしらないのよ…」

「俺も響と似たような印象を感じてたんですけど…翼さんにも、女の子みたいな部分があったんですね」

「え…?」

 

 独り言を呟いていた翼は、ツナの言葉を聞いて彼の方を見る。

 

「あ、イヤその、別に悪い意味で行ったんじゃなくて…俺、翼さんのこと、何でもクールにこなせる()()()女性だと思ってたんです。けど、翼さんが掃除が苦手なこと知って、翼さんにもそういう不器用というか、子供っぽいというか…そういう苦手なことがあったり、それを知られて恥ずかしがる─そんな女の子らしい一面もあったんだなって思って…」

 

 ツナの考えを聞いた翼はさらに顔を赤らめさせ、顔を隠すように下を向く。

 

「えっと…翼さん?」

「その、すまない…いままで、同年代の男子に()()()と言われたことがなくて…」

 

 翼の言葉を聞いたツナは、自分が言った内容を思い出し、顔を赤らめながら慌て出す。

 

「あ!えっと、すいません!」

「なぜ沢田が謝るんだ?」

 

 いきなり謝られ困惑していると、手をたたく音が聞こえ二人同時に振り向く。

 

「おしまいです!」

「すまないわね…いつもは、緒川さんがやってくれてるんだけど…」

「「え!?「男性」「男の人」にですか!?」」

 

 翼の一言にツナと響は同時につっこむ。

 

「た、確かに…考えてみれば色々と問題ありそうだけど…それでも、散らかしっぱなしにしているのはよくないから、つい…」

「あ、はあ…」

「確かに散らかしっぱはよくないですけど、それでも男性に女性モノの片付けをさせるのはダメですって!」

 

 翼の話に返事をするだけの響に対して、ツナは流石におかしいと翼に訴える。

 

「アハハ…えっと、今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

「「え?」」

「私が抜けた穴を、あなた達がよく埋めているということもね」

「そんなこと全然ありません!いつも二課のみんなに助けられっぱなしです…」

「そうですよ!俺はただ、入院中の翼さんが不安にならないよう─翼さんが安心して回復に専念できるように、努力しているだけですから」

 

 そういう二人に翼は微笑みかける。

 

「ありがとう…二人とも、よく頑張っているのね」

「嬉しいです!翼さんにそんなこと言っていただけるなんて…」

「でも、だからこそ聞かせてほしいの─あなた達の戦う理由を」

 

 そう言って翼は二人の顔を見る。

 

「ノイズとの戦いは、遊びではない…それは、今日まで死線を超えてきたあなた達なら分かるはず」

「…よく、分かりません…私、人助けが趣味みたいなものだから、それで…」

「それで?それだけで?」

「だって、勉強とかスポーツは、誰かと競いあって結果を出すしかないけど、人助けって、誰かと競わなくていいじゃないですか。…私には、特技とか人に誇れるものなんてないから、せめて、自分にできることでみんなの役に立てればいいかなーって…」

 

 そう言って笑う響だが、徐々に声が小さくなる。

 

「…きっかけは」

 

 少し黙ったあと、響が口を開く。

 

「きっかけは、やっぱりあの事件かもしれません…私を救うために、奏さんが命を燃やしきろうとした、二年前のライブ…あの日、たくさんの人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています…だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯食べたりしたいから…人助けをしたいんです」

「響…」

 

 響のことをよく知っているツナは、いつもと変わらない彼女に安心するも、過去に彼女が受けたいじめや偏見を思い出し、心配して名前を呟く。

 

「あなたらしいポジティブな理由ね…だけど、その想いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

「自殺衝動!?」

「誰かのために自分を犠牲にすることで、古傷の痛みから救われたいという自己断罪の表れなのかも…」

「あのー…私、変なこと言っちゃいましたか…?」

 

 声を震わせる響に翼はハッとして彼女の方を向く。

 

「え、えっと…あ、アハハ…」

 

 無理して笑う響に翼は笑みをこぼし、ツナと響を屋上につれていく。

 

「変かどうかは、私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

「考えても考えても、分からないことだらけなんです…デュランダルに触れて、暗闇に飲み込まれかけました…気がついたら、人に向かってあの力を…私がアームドギアをうまく使えていたら、あんなことにもならずに…」

「力の使い方を知るということは、すなわち戦士になるということ」

「戦士…」

「それだけ、人としての生き方から遠ざかることなのよ…あなたに、その覚悟はあるのかしら!」

 

 屋上に風の音だけが響きわたる…だが、それを断ち切るように口を開くものがいた。

 

「確かに、力の使い方を知ることは大事だと思います。でも、それと同時に、その力の本質も知ることになると思うんです」

 

 ツナはそう言って自分の手を見る。他の二人はそんな彼を見つめる。

 

「ボンゴレファミリーのボスは、代々初代ボスの血筋である『ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)』を受け継いだ者から選ばれ、『超直感』と通称される常人を遥かに凌ぐ直感力を持っていて、俺もその力を持っています。そして、ボスを受け継ぐためには、ボンゴレファミリーが権力の追求により犯してきた『業』を引き継ぐ覚悟が試されるんです」

 

 そう言ってツナは手を握りしめる。

 

「俺も、ボスを受け継ぐためじゃなかったけど、ボンゴレリングの力を解放するために、ボンゴレの『業』を…ボンゴレがこれまでに犯してきた罪や、それによって苦しめられた人達の嘆きを見ました」

 

 ツナは翼の方を見る。

 

「力の使い方を知るということは、そういう知りたくなかった事実も知ることになるんです。だから、本当に重要なのは、力の使い方を知ることじゃなくて、その力の本質を─全てを知って、それを自分がどのように使うかが重要だと思うんです」

 

 そしてツナは深く深呼吸をする。

 

「─俺が戦う理由は、仲間や家族、学校の友達、そして俺の周りを取り囲む、ハチャメチャだけど楽しくて、平和で、何気ない日常を守るためです。…でも俺は、本当は誰とも戦いたくないんです。味方であろうと敵であろうと、誰かが傷つくのはイヤで…でも、それでももし、仲間達を傷つけようとしたり、平和を壊そうとする奴が現れるなら─みんなを守るために、俺はこの呪われた血()を使います」

 

 ツナは眉間にシワを寄せながら、そう言いきった。そして響も、ツナの覚悟を聞いて口を開く。

 

「私も、守りたいものがあるんです…それは、何でもないただの日常…そんな日常を大切にしたいと、強く思っているんです。だけど、思うばっかりで空回りして…」

「…戦いのなか、あなたが思っていることは?」

「─ノイズに襲われている人がいるなら、一秒でも早く救い出したいです!最速で、最短で、まっすぐに、一直線に駆けつけたい!…そして、もしも相手が、ノイズではなく誰かなら…どうしても戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を、私の想いを届けたいと考えています!」

 

 言いきった響の目には、確固たる決意があった。

 

「今あなたの胸にあるものを、できるだけ強くはっきりと想い描きなさい。それがあなたの戦う力…立花響のアームドギアに他ならないわ!」

 

 そんな彼女に翼はそう教えた…

 

「んー…そう言われても、アームドギアの扱いなんてすぐには考えつきませんよ…ねえ知ってますか翼さん!お腹すいたまま考えても、ろくな答えが出せないってこと!」

「なによそれ?」

「俺達二人と未来を会わせた三人でよく行く『ふらわー』ていうお好み焼き屋の店長さんに、以前言われたんです」

「名言ですよ!」

「あぁ、そう…」

「そうだ翼さん!私、ふらわーのお好み焼きをお持ち帰りしてきます!お腹一杯になればギアの使い方もひらめくと思いますし~!翼さんも、気に入ってくれると思います!」

「いや、ちょ…待ちなさい立花!」

「おーい響、ちょっとまてって!…すみません翼さん、俺、響追いかけてきます!」

「沢田まで!?」

 

 そう言って、響とツナは屋上の出入り口の扉に走っていった。

 

「全く…それにしても、沢田が戦う理由を話していたとき、彼の目には確固たる覚悟が見えた…彼も相当の数の死線を超えてきたのかもしれない。それこそ、私とは比べ物にならないくらいに…それに、彼がボンゴレの『業』について話していたときの顔は、とても辛そうだった…内容からも、相当きついものだと分かる。それこそ、常人には耐えがたいほどの…だが、それを見た彼はどうやって乗り越えることができたのだろうか…?」

 

 二人が扉の奥に消えていくなか、翼はそんなことを呟いていた。

 

「それにしても、まさか後輩に諭されるとはな…彼は優しすぎる。彼の戦う理由を聞けば、戦士としてどれだけ甘すぎるのかが分かるが、それほど彼が優しいということでもある…それに…」

『女の子らしい一面もあったんですね』

「─っ!」

 

 翼は病室でツナに言われたことを思い出しベンチで悶え始めた。その姿は、人々を守る『剣』ではなく、まるで恋する『乙女』のようだった─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響達が『ふらわー』に向かっている最中、本部内には警報が鳴り響いていた。

 

「ネフシュタンの鎧を纏った少女が、こちらに接近してきます!」

「周辺地区に、避難警報の発令!そして、響くん達への連絡だ!」

 

 弦十郎の声が指令室に響きわたる─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、分かりました!すぐに向かいます!」

 

 響とツナが連絡を受け、現場に向かっていると

 

「ツナー!響ー!」

 

 前から声が聞こえ、そちらを見る。そこには─

 

「「未来!?」」

 

 二人の親友である未来が手を振りながらこちらに向かってきていた。その事に一瞬驚いた二人だったが、左方向に気配を感じ振り向くと

 

「お前はぁ!」

 

 奥の方からクリスが向かってきていた。

 

「来ちゃダメだ!ここは─」

 

 クリスの鞭が、響達と未来を引き裂くように地面を破壊する─直前に、ハイパーモードになったツナが未来のもとに飛び彼女を庇う。

 

「大丈夫か、未来」

「ツナ…なのよね?」

 

 自分の知っている親友が、額から炎を出していつもと全く違う雰囲気を纏っていることに未来が戸惑っていると、クリスの攻撃によって打ち上げられた車が落下してくる。ツナがそれを破壊するために構えかけると…

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 歌声が聞こえた直後、シンフォギアを纏った響が車を殴り飛ばした。

 

「響、お前はお前のやりたいようにやれ!」

「ツナは!?」

「俺は─未来に全てを話したら追いかける」

「っ!…ごめんっ」

 

「何故 どうして? 広い世界の中で」

 

 響は歌いながら未来達から遠ざかっていく。

 

「どんくせぇのがいっちょ前に挑発するつもりかよ!」

 

 それをみたクリスは彼女を追いかけていった。

 

「弦十郎、今から未来に全てを教える。いいな?」

『…秘密を明かすということは、その子を危険に巻き込むということだぞ?』

「本当は、巻き込みたくなかった…でも、一度みられた以上、教えるしかない。それに、こうなることはなんとなく気づいていた…未来が、俺達の秘密を知ることを」

『…そうか』

 

 弦十郎は一言、そう呟き口を閉じる。

 

「ツナ、なんだよね?…これが、ツナや響が私に隠してたことなの?」

「あぁ…詳しいことは後で話す。俺は響を追わなきゃいけないから、今できる説明は手短になるが、許してくれ」

 

 そう言って、ツナは未来に話し始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その場しのぎの笑顔で 傍観してるより 本当の気持ちで」

 

 響が地面に降り立ち振り返ると、クリスが攻撃してくる。

 

「どんくせぇのがやってくれる!」

「どんくさいなんて名前じゃない!」

 

 響はそう言いきる。

 

「私は立花響、15歳!誕生日は9月の13日で、血液型はO型!身長は、この間の測定では157センチ!体重は…もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は、人助けで好きなものはご飯&ご飯!あとは、彼氏いない歴は年齢と同じ!」

「な、なにをとちくるってやがるんだお前…!」

「私達は、ノイズとは違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたい!」

「なんて悠長、この場に及んで!」

 

 そう言ってクリスが攻撃するが、響はそれを回避する。

 

(こいつ、なにが変わった…覚悟か!)

「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!だって、言葉が通じていれば人間は─」

「ウルセェェ!」

 

 クリスの叫びに響は話を止める。

 

「分かり合えるものかよ人間がっ!そんな風にできているものかっ!」

 

 クリスは身体を震わせ始める。

 

「気に入らねぇ、気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ…っ!分かっちゃいねぇことをペラペラと知った風に口にするお前がぁ!」

 

 彼女は今まで溜め込んでいたものを吐き出すように叫ぶ。

 

「お前を引きずってこいといわれたがもうそんなことはどうでもいい…お前をこの手で叩き潰す!今度こそお前の全てを踏みにじってやる!」

「私だって、やられるわけには─」

 

 話をしている響を無視して、クリスは飛び上がり鞭の先端にエネルギーを収束させる。

 

「ぶっ飛べ!」

NIRVANA GEDON

 

 響はその攻撃を受け止めるが

 

「持ってけダブルだ!」

 

 クリスが同じ技をもうひとつぶつけ、爆発する。

 

「…お前なんかがいるから、あたしはまた─っ!?」

 

 煙が消え始めるとそこには、エネルギーをため、アームドギアを顕現させようとする響がいた。だがそれは失敗し、煙と共に響自身も吹き飛ばされる。

 

「その場しのぎの笑顔で 傍観してるより」

(これじゃダメだ…翼さんのようにギアのエネルギーを固定できない…っ)

「この短期間に、アームドギアまで手にしようってのかっ!」

 

 クリスは、響の成長速度に驚きを隠せない。

 

(エネルギーはあるんだ…アームドギアが形成されないのなら─その分のエネルギーを、ぶつければいいだけ!)

「させるかよ!」

 

 そう言ってクリスは鞭を振るった。だがそれは─

 

「We are one 一緒にいるから 」

 

「俺のことも忘れるな」

 

 駆けつけたツナによって防がれる。

 

「Hold your hand 心はいつまでも」

(雷を、握り潰すように…っ)

 

 そしてツナはその鞭ごとクリスを引き寄せ、響は右腕を後ろに引き絞り、引き寄せられているクリスに勢いよく迫る。

 

(最速で、最短で、まっすぐに、一直線に!胸の響きを─この想いを、伝えるためにぃ!)

 

 そしてクリスの鳩尾を殴る。それと同時に響の右手に装着されていたアーマーにたまっていたエネルギーが放出され、クリスの身体を衝撃が貫く。それにより彼女が纏っていた鎧にヒビが入る。

 

(バカな!ネフシュタンの鎧が…)

 

 衝撃によってその場に砂煙が立つ。

 

「響っ、ツナっ」

 

 未来は涙を流しながら、離れた場所からその砂煙を眺めていた…




なんとかできました。
そういえば、ヒバードの並盛中校歌は楽曲コード必要になるんですかね?


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標的(ターゲット)13 悲しき運命を包む大空

なんとかできました。

オリ展開作りましたが、キャラ崩壊してないことを願いたい…


「何故どうして? 広い世界の中で」

 

 煙が晴れ始めると、響達の目の前には、衝撃によって削れた地面と、壁の瓦礫に埋もれるクリスがいた。

 

(なんて無理筋な力の使い方をしやがるっ…この力、あの女の『絶唱』に匹敵しかねない…)

 

 するとクリスの身体に黒い筋がはしると同時に、ネフシュタンの鎧が再生を始める。

 

(食い破られるまでにかたをつけなければ…!)

 

 そしてクリスが響の方を向くと、彼女は歌いながらも構えをとき、目をつぶってただ立っていた。その後ろにいたツナも、多少警戒しつつも地面に降り、腕を下ろしクリスの方を見つめていた。

 

「お前ら…バカにしてんのか、あたしを!雪音クリスを!」

「─そっか、クリスちゃんっていうんだ」

 

 響はやっと目を開き、クリスの顔を見る。

 

「ねぇクリスちゃん…こんな戦い、もうやめようよ!ノイズと違って、私達は言葉を交わすことができる!ちゃんと話をすれば、きっと分かり合えるはず!─だって私達、同じ人間だよ?」

「─お前くせぇんだよ…嘘くせぇ…青くせぇ…!」

 

 そう言って響に襲いかかり、蹴り飛ばす。

 

「響!」

 

 クリスは再び蹴り飛ばそうとするが、それをツナが阻止する。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

 クリスはツナをおもいっきり殴る。それを両腕でガードし少し吹き飛ばされるも、すぐに空中で体制を整える。

 そして響を追撃しようとするが、侵食が進んでいることに気づき動きを止める。

 

「クリスちゃん…」

「吹っ飛べよ!アーマーパージだ!」

 

 クリスがそう叫ぶと、彼女が纏っていた鎧が吹き飛ぶ。

 

「グア!?」

「ツナ!」

 

 そしてツナにその一部がぶつかり吹き飛ばされる。破片が吹き飛んでいった方向にあった木はボロボロになり倒れる。

 

 

 

 

 

 

《Killiter Ichaival tron…》

 

 

 

 

 

 

「この歌って…」

「見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

 クリスを光が包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イチイバルだと!?」

 

 弦十郎がそう叫ぶと、モニターに『Ichii-Bal』という文字が出てくる。

 

「失われた第2号聖遺物までもが、渡っていたというのか…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響は風を両腕で防ぎ、すぐにクリスを見ると赤いシンフォギアを纏っていた。

 

「クリスちゃん、私達と同じ…」

「─歌わせたな…」

「え?」

「あたしに歌を歌わせたな!─教えてやる…あたしは歌が大っ嫌いだ!」

「歌が嫌い…?」

 

「傷ごとエグれば 忘れられるってことだろう?」

 

 クリスは歌い始め、弓型のアームドギアを手に取り響に向かって撃ってくる。

 響はその攻撃から逃げ回るも、先回りされたクリスに蹴り飛ばされる。

 そしてクリスはアームドギアを携行型の2連装ガトリングガンに形成し、銃口を響が飛んでいった方へ向ける。

 

BILLION MAIDEN

 

 両手に構えた2丁4門による一斉掃射を行う。響はギリギリで体制をたてなおし避けるが、周りの木々は無惨に倒れていく。

 クリスの攻撃は終わらない─

 ガトリングを撃ちながら、左右の腰部アーマーを展開し、内蔵の多連装射出器から追尾式小型ミサイルを一斉に発射する。

 

MEGA DETH PARTY

 

 そこらじゅうで爆発が起こり、クリスはガトリングを撃ち続ける。

 彼女が攻撃の手を止めると、目の前には火の海が広がっていた。そして息を整えながら響がどうなったか確認すると

 

 

 

 

 

 

「盾?」

「剣だ!」

 

 

 

 

 

 

 目の前には巨大な剣が地面に突き刺さっていた。

 クリスが上を見上げると、柄の先にまだ入院中であるはずの翼が立っていた。

 

「死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに現れたか?」

「…もうなにも、失うものかと決めたのだ!」

『─翼、無理はするな』

「…はいっ」

「翼さん…」

「気づいたか、立花!だが私も十全ではない─力を貸してほしい」

「─はい!」

 

 そう言って響が立ち上がると、クリスは再びガトリングを掃射してくる。

 

「慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫拭って」

 

 翼は歌いながら、クリスのもとに降りていき刀を振るう。それをよけたクリスがガトリングを構えるが、それをクリスごと軽々とかわし、切り払う。そしてクリスがしゃがみでよけると翼は彼女のアームドギアを柄で叩き怯ませる。クリスがすぐに体制を戻すと、すでに彼女の後ろに回っていた翼から刀を突き出される。

 

(この女、以前とは動きがまるで…っ)

「翼さん、その子は─」

「分かっている…っ」

 

「去りなさい!夢想に猛る鼓動 神楽の風に滅し散華せよ」

 

 クリスはガトリングで刀を弾き、互いに臨戦態勢にはいる。

 

(刃を交える敵じゃないと信じたい…それに、十年前に失われた第2号聖遺物のこともたださなければ…)

「そういえば沢田はどうした?」

「ツナはさっき、クリスちゃんが吹き飛ばした鎧の破片に巻き込まれてどこかに…」

「そうか…」

 

 クリスがアームドギアを構えた直後、上から鳥型のノイズが彼女のアームドギアを破壊する。

 そして最後の一匹がクリスに攻撃しようとするが、それを響が身を挺して防ぐ。

 

「立花!」

「お前なにやってんだよ!」

「ごめん…クリスちゃんに当たりそうだったから、つい…」

「─っ!バカにして!余計なお節介だ!」

「命じたこともできないなんて、あなたはどこまで私を失望させるのかしら…」

 

 声が聞こえ、翼は刀を構え、クリスはハッと顔を上げる。

 そして遠くを見ると、木の柵に腕をのせ、手に『ソロモンの杖』を持った女性、フィーネが立っていた。

 

「フィーネっ」

(フィーネ…終わりの名を持つもの…っ)

 

 クリスは顔を下げ、敵である自分のことを庇い傷ついた響を見て、翼の方に突き飛ばす。

 

「こんな奴がいなくったって、戦争の火種くらいあたし一人で消してやる!そうすれば、あんたの言うように、人は呪いから解放されて、バラバラになった世界はもとに戻るんだろ!?」

 

 翼が響を受け止める。そしてクリスの話を聞いたフィーネはため息をつく。

 

「ハァ…もうあなたに用はないわ」

「─な、なんだよ!それ!」

 

 フィーネがそう呟くと、右手が光だし、新たなノイズが作られる。そして、そのノイズ達は翼達だけではなく、クリスにも襲いかかった。翼は響を庇いつつもノイズを対処するが、クリスは放心したままだった。そんな彼女に無慈悲にも襲いかかる…が

 

「ふざけるな!」

 

 さっきまでどこかに吹き飛ばされていたツナが急に現れ、クリスに襲いかかっているノイズを一撃で倒す。

 

「使えなくなったらその場で切り捨てる…そんなのは間違ってる!彼女は一人の人間だ!お前の道具じゃないんだぞ!」

 

 ツナはそう訴えるが、フィーネはそれを無視し夕日に消えていく。

 

「待て!」

 

 ツナはフィーネの後を追おうとするが、ノイズ達に邪魔され見失ってしまう。

 その場にいたノイズを倒しきったときには、いつの間にかクリスもいなくなっていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(奏がなんのために戦って来たのか、今なら少し分かる気がする…)

 

 翼は本部に向かうエレベーターで一人考えていた。

 

(だけど、それを理解するのは正直怖い…人の身ならざる私に、受け入れられるのだろうか…)

「自分で人間に戻ればいい、それだけの話じゃないか。いつもいってるだろ?あんまりガチガチだとポッキリだって─なんてまた、意地悪をいわれそうだ…それに」

『何が『防人』だ!何が『剣』だ!そんなの間違ってる!…あなたは、ただの人間じゃないか!』

「沢田にも、そう言われたしな…」

 

 そう呟きながらエレベーターを降りる。

 

(だが今さら、戻ったところで何が出来るというのだ…)

「いや…なにをしていいのかすら、分からないではないか…」

『好きなことすればいいんじゃねぇの?簡単だろ?』

 

 声が聞こえ振り向くが、そこには誰もいない。

 

(好きなこと…もうずっとそんなことを考えていない気がする─遠い昔、私にも夢中になったものがあったはずなんだが…)

 

 翼は静かな廊下を歩いていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特機部二の指令室では、イチイバルのことや雪音クリスのこと等について話していた。

 そこに、先ほどまで検査を受けていた響と、翼と了子が入ってきた。

 

「響、翼さん!どこか、怪我したところはない!?」

「大丈夫だよ、ただの過労だって…」

「私も本調子というわけではないが、傷は直っている方だ」

 

 二人よりも先に指令室に来ていたツナは二人の心配をする。

 

「それよりも、ツナの方は大丈夫なの?吹き飛ばされていってたけど…」

「いや、まあ…あれよりも酷いめにあったことがあるからましというか…ア、アハハ…」

「本当にお前は、元の世界でどんな生活をしていたんだ…」

 

 響は逆にツナのことを心配し、翼はツナの言葉を聞いてあきれ果てる。

 

「翼!…全く、無茶しやがって…」

「…独断については謝ります。ですが、仲間の危機に臥せっているなどできませんでした!」

 

 それを聞いた響が翼の方を向く。

 

「立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと、確信しています!」

「翼さん…」

「─完璧には遠いが、立花の援護ぐらいなら、戦場に立てるかもな」

「…っ!私、頑張ります!」

「─俺としては、翼さんには本調子になるまで休んでいてほしいし、出来れば翼さんだけでなく、響にも戦ってほしくないんですけどね…」

 

 そうツナが呟くと、翼が彼の方を見る。

 

「沢田…その気持ちはありがたいが、ノイズを倒すことが出来るのは私達が纏うシンフォギアと、君の持つ死ぬ気の炎だけだ。沢田がどれほどの死線を越えてきたといえど、君一人だけで全てのノイズ達を対処することは出来ないことぐらい、君でも分かるだろう?」

「でもっ」

「沢田、お前は優しすぎる。その優しさ─甘さは、戦士としては立花より未熟だ。…だが、それが沢田の個性なのだろう。そしてお前の覚悟は、戦士としては未熟だが、人々を守る存在としては立派な覚悟だ」

「翼さん…」

 

 ツナは眉間にシワを寄せながら下を向く。

 

「響くんのメディカルチェックも気になるところだが…」

「ご飯を一杯食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」

 

 だが、そんな響の言葉を聞いて、いつもと変わらない彼女につい吹き出してしまう。

 

「なんで笑うの~!」

「アハハ、いや、ごめん…響らしい答えだったからつい…でも、お陰で少し吹っ切れたよ。ありがとう」

 

 そして響に笑顔を見せた。すると了子がいきなり響の胸をつつく。

 

「のあぁぁ!?何てことを!?」

「んなー!?何してるんですか!?」

「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が、前より体組織と融合してるみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力は、そのせいかもね」

「融合…ですか?」

 

 了子の突然の行動に驚く二人だが、了子の話を聞いたツナは危機感を覚える。

 

(融合ということは、響が聖遺物と一体化し始めているということ…それはとても危険な状態なんじゃないのか…?)

 

 了子はただの可能性だというが、それでも不安を拭いきれないツナ。ふと視線をずらすと、翼も彼と同じようなことを考えているのか、響を見つめて考え込んでいるように見えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽もすでに沈みきり、街灯がすでについている公園を一人、クリスが歩いていた。彼女はあの後、すぐにフィーネが住んでいた建物に行ったが、そこで殺されそうになりこんなところまで逃げてきていた。

 

「何でだよ…フィーネ」

『ちゃんと話しをすれば、きっと分かり合えるはず!だって私達、同じ人間だよ!?』

 

 響の言葉を思いだし、足を止める。

 

「あいつ…クソッ!」

(あたしの目的は、戦いの意思と力を持つ人間を叩き潰し、戦争の火種をなくすことなんだっ…だけど…)

 

 右手を胸の前で握りしめ、物思いに耽ているといると

 

「ねぇ君!」

 

 後ろから声をかけられ振り向くと、顔は暗くてよく分からないが、ツンツンした髪の少年がこちらに向かってきていた…

 

 

 

 

 

 

「今日も遅くなっちゃったなぁ、セレナ怒ってるかな?…それにしても…響の身に、なにもなければいいんだけど…」

 

 ツナは先ほどの話から、響のことを心配しながら同居人が待つ家に帰っている途中だった。そして、とある公園の前を通りすぎようとすると

 

「ん、誰かいる…こんな時間になにやってんだろう?」

 

 公園内に一人の誰かがいるのを見つけ、立ち止まる。顔は遠くてよく見えないが、服装から女性だと考えられる。

 するとツナは、なぜだかその少女のことを放っておいてはいけない気がして…

 

「ねぇ君!」

 

 その少女のもとに駆け寄っていった。

 

「誰だてめぇ?」

「君、こんな時間に何してるの?」

「うっせぇ、てめぇには関係ねぇだろ…」

「でも、こんな時間に女の子が暗い公園を歩いてるってのも不安だからさ…」

 

 そう言いながら、ツナはその少女に近づいていく。そして街灯によってツナの顔が照らされ、ツナも少女の顔がちゃんと見えるぐらいの距離まで近づき、互いに互いの顔をはっきり視認できるようになると

 

「っ!?お前は!」

 

 ツナの顔を見た瞬間、少女は警戒体制にはいる。ツナはいきなり敵意を向けられて一瞬困惑するが、少女の顔をよく見て正体に気づく。

 

「君はたしか─雪音クリス、だよね?第2号聖遺物『イチイバル』の装者の」

「なんでてめぇがこんなところにいやがる!」

「いや、その…ただ家に帰ろうとしてたら君を見かけて…」

 

 どうにかしてクリスの警戒を解こうとするツナ。すると、遠くから女の子の泣き声が聞こえツナが奥の方を向く。クリスにもその声が聞こえ、警戒を解きツナと同じく声の方を見ると

 

「うぇぇん!」

「泣くなよ!泣いたってどうしようもないんだぞ!」

 

 ベンチに座って泣いている女の子と、その少女に声をかけている少年がいた。ツナとクリスがその二人のもとに近寄る。

 

「だって、だってぇ…!」

「おいこら!弱いものをいじめてんじゃ「ちょっと待ってクリス」あ?」

 

 二人を見たクリスが、少年が少女をいじめているものだと思い注意しようとすると、ツナに止められる。

 そしてツナは二人のもとに近付き、少ししゃがんで目線を少女達と同じ高さにする。

 

「どうしたの?こんなところで泣いちゃって…」

 

 ツナは優しく少女に話しかける。

 

「お父さんが、どっか行っちゃって…」

「そっか、親とはぐれちゃったんだね…」

 

 少女は泣きながらも、ツナに親とはぐれたと話した。それを聞いたツナは少女の頭を優しく撫でる。

 

「君は、この女の子のお兄ちゃんなのかな?」

「そ、そうだけど…」

「それじゃあ今さっきのは、兄として妹を頑張って励まそうとしてたんだな。君も親と離ればなれになって辛いはずなのに…泣かないでよく頑張ったな、偉いぞお兄ちゃん!」

 

 ツナはそう言って少年の頭をポンポンと叩く。すると我慢できなくなったのか、その少年も泣き出してしまった。その事に動揺しながらも、宥めるように二人の頭を優しく撫でていると

 

「ガウッ!」

「ナッツ?」

 

 彼がつけていたリングから、(ボックス)アニマルーー『大空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)』であるナッツが現れる。

 

「あ!猫さんだ!」

 

 先ほどまで泣いていた少女が笑顔を見せながらナッツにさわろうとするが、ナッツはツナの後ろに隠れてしまう。

 

「ごめんね、こいつ俺に似て臆病だからさ…ナッツ、少しの間我慢してくれないか?」

「ガゥ…」

 

 ツナがそう言うと、ナッツは少し怯えながらも少女の膝の上に乗る。

 

「これ、なんか燃えてるけどたてがみ?てことはこいつライオン!?」

「よく分かったね。一応こいつライオンなんだ。たてがみは燃えてるように見えるけど全然熱くないよ」

「「ホントだ!熱く「ない」「ねえ」!」」

 

 ツナが説明している間も少女達はナッツをなで回す。いつの間にか、二人の顔には笑顔が戻っていた。

 

「よし!二人とも元気になったことだし、君たちの親を探しに行こうか!」

 

 そう言ってツナが立ち上がる。

 

「クリスも手伝ってくれないかな?」

「はぁ!?なんであたしが…」

「二人とも、お父さんの顔は覚えてる?」

「「うん!」」

「そっか!じゃあ妹ちゃんの方は俺がおんぶするから、クリスはお兄ちゃんの方、お願い!」

「ちょっとおい!無視すんな!」

 

 そう言いつつも、クリスは少年の手を握り、少女をおんぶしているツナの隣を歩きながら二人の親を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

「…あんた、ガキあやすのうまいんだな」

「元の世界で、居候してる三人の子供の相手させられてたから、自然と身に付いたっていうか…」

 

 クリスとツナはそんな話をする。少女達はナッツに夢中で二人の会話は一切耳に入っていないようだ。

 

「じゃああんたは、フィーネが言ってた通り、本当に別の世界から来たって訳か…」

「まあね…(俺のことを知ってたってことはやっぱり、特機部二の誰かが…多分、あの人が『フィーネ』…でも…)」

 

 クリスの一言で、フィーネの正体に気づくが、出来ればそうでないことを信じたいと思うツナ。そんなことを考えながら街中を歩いていると

 

「~♪」

 

 クリスが鼻歌を歌っていることに気がつく。少女達もそれに気づき三人でクリスを見ていると、クリスがその視線に気づく。

 

「な、なんだよ…」

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

「…歌なんて大嫌いだ…特に、壊すことしか出来ないあたしの歌はな…」

 

 クリスがそう呟く。

 

「でも、無意識のうちに歌っちゃうってことは、本当は好きなんじゃないかな?それに、さっきのクリスの鼻歌綺麗だったし、俺は好きだな」

「はぁ!?」

 

 だがツナの言葉を聞いたとたんに顔を真っ赤にする。そんな彼女を見て自分がいったことに気づいたツナも顔を赤くし慌てていると…

 

「父ちゃん!」

 

 交番の方から少女達の父親が向かってくる。

 

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「いや、成り行きだから、その…」

「別に迷惑だなんて思ってませんでしたから。ただ、こんな時間に子供二人で公園にいるっていうのが不安だっただけなので」

 

 父親は子供達にお礼をいわせ、家に帰っていった。

 

「さて、用はすんだしあたしは…」

「…ねぇクリス」

 

 親子を見送った後、その場から立ち去ろうとするクリスをツナが止める。

 

「なんだよ、まだあたしに用があんのか?」

「クリス、この後どこに泊まるつもりなの?」

「寝床なんて、そこら辺の公園の遊具の中で十分だろ」

 

 そう言ってクリスは歩みを進める。

 

「─なら、家に来ない?」

「…はぁ?」

「いや、外で寝泊まりするっていうのはちょっと心配だからさ…それに、明日は雨が降りそうな気がするし─俺、居候が増えるのには慣れてるから」

「そんなことはどうでもいい…なんで少し前まで敵だったあたしをそんなに心配するんだ?」

 

 それを聞いたツナは少し考える。

 

「えっと…なんだか、放っておけない気がして…」

「なんだよそれ?」

「それに…君を見てると、どこか悲しそうに見えたから…」

 

 そう言って眉間にシワを寄せ心配そうな顔でクリスを見つめる。その一言と表情に一瞬怯むクリス。

 

「─あぁもう!分かったよ、今夜だけはお前の家に行ってやる!」

 

 ついにクリスが折れ、ツナの家に来ることを受け入れる。

 

「別に、住む場所が見つかるまでいてくれてもいいよ。ただし、住む場所はちゃんとした建物の中じゃなきゃダメだけど」

「あぁはいはい、分かった分かった!」

 

 ツナの話にうんざりしながら家に向かう彼の後をおうクリス。

 

「そういやお前、今さっき居候がどうのこうのて言ってたが、他にも誰か住んでんのか?」

「うん、まぁね…」

 

 そんな会話をしながら歩いていると、ツナの家についた。

 

「ただいまー」

「お帰りなさい!今日も遅かったですね」

 

 ツナが玄関の鍵を開け中に入ると、その後ろからクリスも入ってくる。すると奥の方からセレナが顔を見せ、ツナに近寄る。

 

「あれ?あなたは…」

 

 そしてツナの後ろにいたクリスに気づくと、何かを察したのか、ツナの顔を見る。

 

「訳アリですか?」

「うん、まぁ…」

「分かりました。なら、まだご飯作ってなかったので三人分作りますね!」

 

 そう言ってセレナは台所に向かった。

 

「…あいつも訳アリってことか」

「アハハ…」

 

 ツナは苦笑いしながら、クリスを連れてリビングに向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂、上がりましたよ」

「じゃあ、最後は俺が入るね」

 

 ツナ達がリビングに向かい自己紹介をすませた後、クリスは晩御飯をご馳走されるだけでなく、風呂にも一番で入らせてもらっていた。そして現在、ちょうどセレナが風呂から上がり、ツナが風呂場に向かっていった。

 

「ツナさんのお母さんの服、少し残しておいて正解でした。私のじゃクリスさん、きつそうですから…」

「なんか、すまねぇ…」

 

 テラスで涼んでいるクリスの隣に座り、胸元に手を置き顔に影を落とすセレナ。そんな彼女にクリスが謝る。

 

「…なぁおま「セレナです」…セレナは、なんでここに住んでんだ?」

「…私は二年前、とある研究所の事件で瓦礫に潰されかけたところを、ツナさんに助けられました。ですが、私のいた研究施設は、少し非人道的なこともしていて…もし私が生きていることが知られたらどうなるか分からないし…そんなこんなで行く宛もなかった私にツナさんが、『ここに住まないか』と言ってくれたんです」

「それで、おま…セレナはそれに賛成して、偽名まで使ってここに住んでるって訳か…」

 

 そう呟くと夜空を見上げる。

 

「とことん甘すぎるな、あいつは…」

「でもそれは、ツナさんがそれだけ優しいからですよ」

 

 そう言ってセレナも空を見上げる。

 

「ツナさんは、本当は誰とも戦いたくない…誰も傷つけたくない人なんです」

「ならなぜ、あいつは戦場に出てきてやがるんだ?」

 

 セレナを横目にそう問いかける。

 

「それは響さんが─ツナさんの友達が、戦場に向かうからです。ツナさんは自分の力を、自分の仲間や家族、そしてなんでもない日常を守るために使っています。だから、戦場に向かう響さんを守るために、自分も戦ってるんです」

 

 セレナは一度目を閉じる。

 

「本音は、戦おうとする響さんを止めたいんでしょうけど、ツナさんは、相手が揺らがない覚悟をもっていたら、その人の意思を尊重する人ですから…」

「なんでそこまでして止めようとするんだ?友人といえど、所詮は他人だろ?」

「─それは、ツナさんにとって、仲間や家族、友人、そしてその人達と過ごした時間は、いいことも悪いことも全て宝物のように大事だからです」

「風呂上がったよー…二人ともなに話してたの?」

 

 セレナが話し終わった直後、タイミングを見計らったようにツナが現れる。セレナはそんな彼にただの世間話だと話し、クリスをつれて寝室に向かっていった…




うーん…なんとかクリスにフラグが立つイベント作らなければ…

追記(2020年12月22日)

誤字報告ありがとうございます!


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標的(ターゲット)14 陽だまりと白い羽

なんとか出来ました。楽しんでいただければ幸いです。
それと、感想はどんなものでも大歓迎なのでどしどし書いていただいて結構です!


A.M.4:00

 

「おいおい…あいつが言ってた通り本当に降ってやがる…」

 

 ほとんどの人が寝ている時間、クリスは外を見て呟く。そして最初に着ていた服に着替え、セレナが眠るなか、静かに部屋を出る。

 階段に向かっていると、ツナの部屋の扉が少し開いてることに気づき、そこから中を覗き込む。ツナはぐっすり眠っていた。

 

『ツナさんにとって、仲間や家族、友人、そしてその人達と過ごした時間は、いいことも悪いことも全て宝物のように大事だからです』

 

 そんな彼を見ていると、昨日セレナが話していたことを思い出す。

 

「仲間や家族、か…」

 

 そう呟くと、ツナが起きないように扉をそっと閉じ、静かにツナの家から出ていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A.M.5:00

 

「大変ですツナさん!」

 

 ツナが起きてすぐに、セレナが慌てて部屋に入ってくる。

 

「どうしたの…」

「クリスさんがいつの間にかいなくなってます!」

 

 起きたばかりで寝ぼけていたツナだったが、セレナの話を聞いてすぐに目が覚める。そしてすぐに外を確認する。

 

「嘘でしょ!?こんなどしゃ降りの中、外に出るなんて…」

 

 ツナはすぐに雨の日用のスポーツウェアに着替え始める。

 

「俺、今からクリス探してくる!」

「ツナさん、学校は!?」

「ごめんセレナ、今日は休むかもしれないって連絡しといて!」

 

 そう言って、どしゃ降りの雨の中を走っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナが探している頃、クリスは商店街の路地裏でノイズと戦っていた。

 少しして戦闘が終わると、クリスのシンフォギアが解除され、彼女はどしゃ降りの雨の中、その場に倒れこんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから三時間近く必死になって探し回っていると、弦十郎から連絡が入る。

 

「ノイズですか!?」

『そうだ。響くんにもすでに連絡しているが、市街地第六区域に、ノイズのパターンを検知している。未明ということもあり、人的被害はなかったのが救いではあるが、ノイズと同時に聖遺物『イチイバル』のパターンも検知したのだ』

「ーー!?弦十郎さん!その第六区域ってどこら辺ですか!?」

 

 ツナは弦十郎から発生場所の情報を聞き出す。

 

『捜査はこちらの方で引き続き行う。綱吉くんは、指示があるまで待機ーー』

「俺も探します!ていうか今探してます!」

『何をしているんだ綱吉くん!?君、学校は…』

「すでに学校には行けないかもしれないって連絡いれてます!それじゃそっちに向かうんで切りますね!」

『まちたまえ綱吉くん!話はまだーー』

 

 ツナは電話を切り、発生場所付近に向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

 クリスが目を覚ます。彼女がいた場所は、ツナ達がよく四人で食べに来るお好み焼き屋『ふらわー』の寝室だった。

 

「よかった、目が覚めたのね」

 

 クリスに未来が話しかける。クリスが路地裏で倒れたあと、その近くを未来が偶然通りかかり、ここまで運んできて看病していたのだ。

 

「びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」

 

 そう言われてクリスは自分の上着をよく見ると、胸元に『小日向』と大きく書かれたゼッケンが縫い付けられている体操服を着ていた。

 

「勝手なことを!」

 

 そう言って立ち上がるクリス。だが、そこで自分が下着を着ていないことに気づく。

 

「なんでだ!?」

「さすがに下着の替えまでは持ってなかったから…」

 

 未来が視線を横にずらしながらそう話す。すぐにクリスは自分の体を隠すように布団にくるまる。するとふらわーのおばちゃんが洗濯物をもって現れる。

 

「どう?お友達の具合は」

「目が覚めたところです!ありがとうおばちゃん…布団までかしてもらっちゃって」

「気にしないでいいんだよ!あ、お洋服、洗濯しといたから」

「私手伝います!」

 

 そう言って未来は洗濯干しの手伝いをしに行った。

 少しして戻ってきた未来は、クリスの体をタオルで拭き始める。

 

「あ、ありがとう…」

「うん?」

 

 未来にお礼をいうクリス。そんな彼女の、体のいたるところには、複数のアザが出来ていた。

 

「なにも、聞かないんだな…」

「…うん。私は、そう言うの苦手みたい…」

 

 未来はそれ以上なにもいわず、無言でクリスの体を拭いていた…

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ…」

 

 ちょうどその頃、今まで走り続けていたツナがふらわーの近くで立ち止まり息を整えていた。

 

「あら、ツナくんじゃない!こんな時間に何してるのかしら?」

 

 するとふらわーの中からおばちゃんが現れ、ツナに話しかけてくる。

 

「いや、その…ある人を、探してまして…あの、おばちゃん!小柄で、銀髪で、襟足の左右を長く伸ばして、おさげのような髪型をした女の子見ませんでした!?」

「あら、もしかしてその子、今家の寝室にいる未来ちゃんのお友達かしら?」

「っ!」

「あ、ちょっと!今は入らない方がいいわよ!」

 

 ツナはおばちゃんの制止を無視して建物の中に上がり込み、寝室と思われる部屋に向かう。

 

「クリス!大丈b…え?」

「ツナ!?なにしてるの!?」

 

 そして寝室の中を見ると、そこには、上着を脱ぎ背中を向けているクリスと、そんな彼女の背中を拭く未来の姿があった。

 

「え、あ、あぁぁぁ!ごめん!」

 

 その場の状況にやっと気づいたツナは、顔を両腕で塞いで慌てて下がろうとすると、

 

「えっ?」

 

 偶然にも足場が濡れており、それに足をとられたツナは─

 

 

 

 

 

 

ゴンッ!

「ウゲッ!?」

 

 

 

 

 

 

 勢いよく半回転し頭をぶつける。その際、未来が今までに聞いたことのないような鈍い音を出していた。

 

「ちょっと、大丈夫ツナ!?」

 

 そんなツナに未来が近付くと、彼は漫画のように目を回しながら気絶していた…

 

 

 

 

 

 

「うっ…いっつつ…」

「よかった、気づいたんだ」

 

 いっときすると、ツナが目を覚まし、未来は安心したように息をつく。

 

「あんな漫画みたいな気絶の仕方するやつなんて始めてみたぞ…」

「アハハ…」

 

 クリスにそう言われ苦笑いするツナ。

 

「そういえば、えっと…」

「クリス、雪音クリスだ」

「クリスは友達とかいないの?」

「…友達いないんだ」

「え?」

「地球の裏側でパパとママを殺された私は、ずっと一人で生きてきたからな…友達どころじゃなかった…」

「そんな…」

「たった一人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった…誰もまともに相手してくれなかったのさっ…大人は、どいつもこいつもクズ揃いだ!痛いと言っても聞いてくれなかった…やめてと言っても聞いてくれなかった…あたしの話なんか、これっぽっちも聞いてくれなかった…っ」

 

 苦痛の表情を浮かべるクリス。彼女の話を聞いていたツナは、クリスが過去に受けたであろう仕打ちを想像し、苦悶の表情を浮かべた。

 

「ごめんなさい…」

 

 未来がクリスに謝り、沈黙が訪れる。

 

「─なぁ、クリスがよければなんだけどさ…未来と、友達になってくれないか?」

「「え?」」

 

 ツナがそう言いだし困惑する二人。

 

「もし、辛いことや悲しいことを話せる友達が出来れば、クリスの気持ちも少しは楽になるんじゃないかなって…」

「…すごい偶然だね。ちょうど私も、クリスと友達になりたいと思ってたんだ」

「─あたしは、お前たちにひどいことをしたんだぞっ」

 

 クリスがそう訴えた直後、サイレンが響き渡る。

 すぐに外の様子を見に行くと、たくさんの人が逃げるように走っていた。

 

「おい、いったいなんの騒ぎだ?」

「なにって、ノイズが現れたのよ!警戒警報知らないの!?」

 

 クリスはノイズが現れたことを聞き、逃げる人々とは逆の方向に向かって走り出した。

 

(バカ!あたしってば、なにやらかしてんだ!)

「クリス!?」

「クリスのことは俺に任せて、未来はおばちゃんと一緒に避難してて!」

 

 ツナはそう言ってクリスの後をおう。

 クリスは商店街から出てすぐのところで息を整える。

 

「あたしのせいで関係のないやつらまで…っ」

 

 クリスは泣きながら雄叫びをあげ、膝をつく。

 

「クリス!」

「あたしがしたかったのはこんなことじゃない…でもいつだってあたしのやることは、いつもいつもいつもっ!」

「落ち着け!」

 

 ツナはクリスの肩を掴み、目を合わせる。

 

「嘆いてるだけじゃどうにもならない、行動しなきゃなにも始まらないんだ!」

「おまえ…」

「俺は、クリスが過去にどんな目にあったのかなんて知らない…でも一つだけ言えることがある!俺は、君を裏切ったりなんて絶対にしない!」

「っ!」

「俺だけじゃない、響もそうだ!あいつは誰かを裏切ることなんて絶対にしない!それに、響はクリスと友達になりたいと思ってるんだ!それは翼さんも未来もセレナも、同じ気持ちのはずだ!…俺も、クリスのことはもう仲間だと思ってる…だから、俺はクリスのことを信じるし、危なくなったら絶対に助ける!だから…っ!」

 

 ツナが話していると、ノイズが襲いかかってくる。クリスはすぐに聖詠を歌おうとするが、先ほどの熱が少し残っていたのか、咳をしてうまく歌えない。ツナに関しては、ヘッドフォンどころかXグローブまでつけていなかった。

 どうにか前から襲ってくるノイズの攻撃をかわす二人だったが、上空から鳥型のノイズが強襲してくる。避けきれないと思ったツナは、すぐさまクリスを庇う。すると─

 

「フン!」

 

 聞き覚えのある男性の声となにかが迫り上がる音が聞こえ、ツナが後ろを振り向くと、弦十郎が踏み込みだけで地面からアスファルトの壁を生み出していた。

 

「ハァ!」

 

 そしてその壁で鳥型ノイズの攻撃を防ぐと、壁を殴って破壊し、ノイズの群れまで吹き飛ばす。

 その姿に二人が呆気にとられていると、右からノイズが襲いかかってくるが、それを再び弦十郎がアスファルトの壁を生成して防ぎ、二人を抱え近くの建物の屋上まで飛ぶ。

 

(やっぱこの人、人間じゃないでしょ!?)

 

 ツナが心の中でつっこみを入れる。どうやら多少は心に余裕が出来たようだ。

 

「大丈夫か二人とも」

「あぁ、はい、大丈夫です…」

 

 弦十郎の問いかけにツナが答えるが、クリスはその場を走り去ろうとする。すると目の前に鳥型ノイズが現れる。

 

《Killiter Ichaival tron…》

 

 クリスがシンフォギアを纏い、弓型のアームドギアで鳥型ノイズを倒していく。

 

「ご覧の通りさ!あたしのことはいいから、他の奴らの救助に向かいな!」

「だが…」

「こいつらはあたしがまとめて相手にしてやるって言ってんだよ!」

 

 そう言ってクリスはアームドギアをガトリングに変形させ飛び降りる。

 

「ついてこいクズども!」

BILLION MAIDEN

 

 クリスは周りの敵を一掃していく。

 

(俺は、またあの子を救えないのか…)

「安心しろ」

 

 肩に手をおかれ、そちらを向くと、ハイパーモードになったツナが立っていた。

 

「おまえの代わりに、俺があいつを絶対に守ってみせる」

 

 そう言ってツナはクリスのもとに向かう。

 

「HaHa!さあIt's show time 火山のような殺伐Rain」

 

 クリスは周囲のノイズを倒していると、上空から鳥型ノイズが強襲してくる。それに気づいたクリスが打ち落とそうとすると

 

Xカノン!!!」

 

 炎の弾がノイズ達を打ち落としていく。

 

「後ろは任せろ」

 

 クリスの後ろに現れたツナはそう伝える。

 

「あたしに背中なんか向けていいのかい?すぐにでも撃つかもしれないんだぞ?」

「さっき言っただろ…俺はお前のことを信じる、て」

 

 背中越しでそう伝えるツナ。

 

「そうかい…じゃあ、流れ弾にあたっても恨むんじゃねぇぞ!」

 

 クリスがそう叫ぶと、銃弾と炎の嵐が吹き荒れた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスとツナが戦闘を開始した頃、弦十郎から連絡を受けた響はボロボロになった商店街を走っていた。連絡が来た際、隣にいた翼も現場に向かおうとしたが、メディカルチェックが出ていないからと弦十郎に止められ、響はそんな彼女に学院の皆を守ってほしいと伝え現場に向かっていた。

 

「キャー!」

 

 すると遠くから悲鳴が聞こえ、声が聞こえた方に向かう。声が聞こえたのは、ボロボロになった、恐らく建築中だったと思われる建物からだった。

 

「誰か、誰か今─」

 

 響はその建物の中に入り、誰かいないか話しかけた直後、上から何者かが攻撃してきて、それをその場から飛び降りて回避する。そして響が上を見ると、タコのような形をしたノイズが壁に張り付いていた。

 それを見た響が声を出そうとすると、横から誰かに口を押さえられる。響がその人物を確認すると、先ほどふらわーのおばちゃんと一緒に逃げたはずの未来だった。

 未来は響にジェスチャーで静かにすることを伝えると、スマホに文字を打ち込む。

 

『静かに あれは大きな音に反応するみたい』

 

 未来のスマホにはそう書かれていた。

 

『あれに追いかけられてふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』

(シンフォギアを纏うために歌うと、未来やおばちゃんが危ない…どうしよう…)

 

 響が考えていると、未来が新しい文章を彼女にみせる。それを見た響は、慌てて自分のスマホを取り出し文字を打ち込んで未来にみせ、それを見た未来がさらに言葉をみせる。

 響はその内容に驚き、新しい文章を作ろうとするが、未来は彼女のスマホに手を置き止める。

 するとふらわーのおばちゃんが呻き声をあげ、それに気づいたタコ型ノイズが動き出す。それに気づいた未来は響の耳元に顔を近付ける。

 

「私は、響やツナみたいにノイズを倒す力なんて持ってない…それでも一緒にいたい。私だって戦いたいんだ…っ」

「ダメだよ、未来…」

「どう思われようと関係ない。響達だけに背負わせたくないんだ…」

 

 そう言うと、未来は立ち上がり

 

「私、もう迷わない!」

 

 迷いを吹っ切るようにそう叫んだ。そしてその声にタコ型ノイズが反応する。

 未来は響達から遠ざかるように走り出す。そしてタコ型ノイズが未来に向かって攻撃を始める。

 未来はその攻撃をかわし、建物の外に出るが

 

「キャッ!?」

 

 偶然にも、足元に散らばっていた瓦礫に足を引っかけ転んでしまう。

 そんな未来にたいし、タコ型ノイズは容赦なく未来を襲おうとする。それを見た響が、彼女の名前を叫ぼうとした、その時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─上空から、衝撃波のようなものが飛んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはノイズの触手のすぐ前を通り、地面に着弾した直後その場にクレーターを作り出した。

 それを見た響と未来が空を見上げると

 

「誰か、飛んでる…?」

「天、使…?」

 

 太陽の逆光で顔や格好はよく見えないが、翼を生やした何者かが、上空から響達を見下ろしていた。

 二人は最初、その状況が理解できず呆けていたが、未来がタコ型ノイズのことを思いだし、すぐに立ち上がり走り出した。そしてノイズも未来の後をおい建物から離れていく。

 ノイズが動き出すと同時に響も立ち直り、ふらわーのおばちゃんのもとに向かう。

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 響はシンフォギアを纏うと、すぐにふらわーのおばちゃんを抱きかかえ建物よりも高く飛ぶ。するとタイミングを見計らったように、緒川が運転する車が現れる。響は緒川の近くに降り立つとすぐに空を見上げたが、先ほどの人物はいつの間にかいなくなっていた。

 

「緒川さん、おばちゃんをお願いします!」

「響さんは!?」

 

「何故どうして? 広い世界の中で」

 

 響は緒川におばちゃんを任せると、建物や電柱を使って未来が逃げた方向に向かう。

 

(未来、どこ!?)

 

 響は未来を探しながら、先ほどのやりとりを思い出す─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『響聞いて わたしが囮になってノイズの気をひくから その間におばちゃんを助けて』

『ダメだよ そんなこと未来にはさせられない』

『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』

『何ともならない!』

『じゃあ、何とかして?』

 

 その一言を聞いた響は、一瞬驚く。

 

『危険なのはわかってる だからお願いしてるの 私の全部を預けられるの 響達だけなんだから』

 

(戦っているのは、私一人じゃない…シンフォギアで誰かの助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだ!)

 

 響は空高く飛ぶ。

 

(助ける私だけが一生懸命じゃないっ…助けられる誰かも、一生懸命─)

『おい死ぬな!』『目を開けてくれ!』

『生きるのを諦めるな!』

(本当の人助けは、自分一人の力じゃ無理なんだ…だから、あの日あの時、奏さんは私に、『生きるのを諦めるな』と叫んでいたんだ!今なら分かる気がするっ…)

「イヤー!」

 

 遠くから未来の悲鳴が聞こえた。

 倒れこんでいる未来の目の前には、いつの間にかオレンジから青に変わったタコ型ノイズが、地面に触手を突き刺していた。

 未来はすぐに体制をたてなおし走り出し、ノイズも触手を引き抜いて未来の後をおう。

 響のシンフォギアの腰部ユニット後方に装備する二基のバーニアが炎をふかせる。

 

(そうだっ、私が誰かを助けたいという気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃない!)

 

 両足の脛部にパワージャッキが展開され、バネが引き絞られる。

 

(2年前、奏さんから託されて、私が受け取った、気持ちなんだ!!)

 

 響は、パワージャッキの力によってさらに加速し、未来のもとに飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ…」

(もう走れない…)

 

 今まで走り続けていた未来だったが、元陸上部といえどさすがに限界が来たようで、足の力が抜け四つん這いになってしまう。そして後ろからノイズが近付いてくる。

 

(ここで、終わりなのかな?─仕方ないよね、響…)

 

 迫り来るノイズを見た未来は顔をうつむかせる。

 タコ型ノイズは、止めだと言わんばかりに空高く飛び、足を広げて未来の元に降ってくる。

 

(だけど、まだ響と…ツナやセレナ、皆で流れ星を見ていない!)

 

 その事を思い出した未来は、慌てて立ち上がったことでノイズの直撃をかわすことが出来たが、落ちてきたノイズの衝撃で道路が崩壊し、ノイズもろとも落ちていく。

 すると横から響が現れ、腕のハンマーパーツのバネを引き絞りノイズに迫る。

 そしてノイズを殴り付け、それと同時にバネによって強化されたハンマーパーツの衝撃によってノイズの背中側が吹き飛び消滅していく。

 ノイズを倒した響はハンマーパーツを空中で打ち込み、未来の元に飛んでいき抱き寄せる。

 そして地面が近付いてくると、足のパワージャッキを展開して腰のバーニアをふかせる。

 

「優しさを Sing out with us」

 

 なんとか衝撃を緩和し地面に着地することは出来たが、バランスを崩し草の上を転がり落ちていく。それと同時に響のシンフォギアも解除される。

 転がり落ちたさきで二人が同時に腰をさすり、互いにその事に気づくと笑いがこぼれる。

 

「かっこよく着地するって難しいんだなぁ」

「あっちこっち痛くて…でも、生きてるって気がする!…ありがとう。響なら絶対に助けに来てくれると信じてた!」

「ありがとう…未来なら絶対に諦めないって信じてた…だって、私の友達だもん!」

 

 その言葉を聞いた未来は、泣きながら響に抱きつく。いきなり抱きつかれた響は勢いのまま草原に倒れこむ。

 

「怖かった…怖かったの…」

「私も…」

「すごい怖かった…響もツナも、最近は辛いこと苦しいこと、全部背負い込もうとしていたじゃない…私はそれが堪らなく嫌だった!…また二人が大きな怪我をするんじゃないかって心配してた…だけど、それは二人を失いたくない私のわがままだ…そんな気持ちに気づいたのに、今までと同じようになんて、出来なかったんだ…!」

「未来…それでも未来は私の、私達の─っ」

「?なに?」

 

 未来が響に聞くと、彼女はいきなり笑い始めた。

 

「だってさ、髪の毛ボサボサ涙でグチャグチャ…なのにシリアスなこと言ってるし!」

「もう!響だって似たようなものじゃない!」

「うえぇ!?嘘!?」

 

 響は自分の顔がどうなっているか確認するため、未来に鏡をもってないか聞くと、未来は代わりにスマホを取り出してツーショット写真を撮る。

 

「すごいことになってる!?これは呪われたレベルだ…!」

「私も想像以上だった…!」

 

 写真を見て素直な感想を述べると、二人は笑顔で笑い始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、あれが立花響ちゃんに小日向未来ちゃんか…二人とも、面白い子だね♪」

 

 二人が笑っている頃、その様子を林の中から眺める人物がいた。

 

「すぐにでも彼女達の前に出ていきたいけど、まだ彼にすらあっていないし、彼に会うこと自体、彼の家庭教師が来るまで禁止させられてるからなぁ♪」

 

 そういいながら、その人物は響達とは反対の方向─林の奥に向かい歩いていく。

 

「もし()()が来てることを知ったら、彼はどんな風に驚くんだろうなぁ!楽しみだなぁ─()()くん♪」

 

 その人物は、懐からふたの開いた袋を取り出し、中から白いお菓子─マシュマロを取り出しながらそう呟き、林の奥に消えていく。その人物の近くには、小さな白い龍が突き刺さり、少しずつ崩壊していくノイズが散らばっていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!ふらわーさんから回収しました」

「ありがとうございます!」

 

 あのあと二人は商店街に戻り、現場対応をしていた弦十郎達の元に来ていた。そして未来が緒川から鞄を受け取ったときには、空はすっかり暗くなっていた。

 

「あのぉ、師匠…」

 

 響は、弱々しく弦十郎に話しかける。

 

未来(この子)に、また戦っているところを、じっくりバッチリ目の当たりにされてしまって…」

「違うんです!私が首を突っ込んでしまったから…!」

「─詳細は、後で報告書の形で聞く。まぁ、不可抗力というやつだろう─それに…人命救助の立役者に、うるさいことは言えないだろうよ」

 

 それを聞いた二人は、喜びのあまりハイタッチをする。

 すると、車で遅れてやってきた了子が現場の後片付けの指示に入った。

 

「あとは、頼りがいのある大人達の出番だ!響くん達は帰って休んでくれ」

 

 それを聞いた二人が寮に帰ろうとすると、未来があることを思い出し弦十郎に話しかける。

 

「あの…私、避難の途中で友達とはぐれてしまって…雪音クリスと言うんですけど…」

 

 それを聞いた弦十郎は一瞬驚いたものの、すぐに平常心に戻る。

 

「被害者が出たとの知らせも、受けていない。その友達とも、連絡がとれるようになるだろう─ん?」

 

 弦十郎が心配ないと伝えようとすると、スマホがなっていることに気づき取り出す。その画面には、『沢田綱吉』と出ていた。

 

「どうした?」

『お疲れ様です弦十郎さん。こっちの方は片付きました』

「そうか、よくやったな。お疲れ様─ちなみにだが、彼女は…」

『クリスなら、俺の近くにいますよ』

「そうか、無事か!よかった…」

『─クリスのことなんですけど、俺に任せてくれませんか?』

 

 弦十郎はツナの言葉を聞き驚くが、声から彼が真剣に話していることに気づく。

 

「─わかった。彼女のことは君に任せよう」

『ありがとうございます!』

 

 そう言ってツナは通話を切った。弦十郎はスマホをしまったあと、未来の方を向く。

 

「あの…どうしたんですか?」

「ちょうど今、綱吉くんから君の友達は無事だと連絡が入った。だから心配する必要はない」

「そうなんですか!?よかった…」

 

 未来は弦十郎に頭を下げると、響のあとを追っていった…

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…なんとか弦十郎さんから許可を貰えたけど、どうしよう…」

 

 ツナは通話を切ったあと、そんなことを呟く。先ほど、クリスのことは任せろ、とは言ったものの、彼女が自分の家に来てくれるかどうかは聞いてなかったのだ。

 ツナはスマホをしまい、川を眺めていたクリスの近くに向かう。

 

「あのさ…「…いいぞ」え?」

「だから、お前の家に居候してやってもいいって言ってんだよ!」

 

 少し頬を染めつつ、ツナの方を向きそう叫ぶクリス。それを聞いたツナは安心から顔の表情を緩める。

 

「本当に!?」

「ただし、あたしが新しい寝床を見つけるまでの間だからな!分かったか!」

「それでも嬉しいよ!きっとセレナも喜ぶよ!」

 

 ツナの言葉を聞いたクリスは、そっぽを向き早歩きでツナの家の方向に歩き始める。そんな彼女に苦笑いしているとスマホに未来からなにかが送られてくる。

 

「ブッ!?」

 

 送られてきたものは、先ほど未来が響と撮った写真だった。二人の格好を見たツナは耐えきれず吹き出す。

 

「オーイ、なにしてんだ!さっさとしねぇとおいてくぞ!」

 

 すると遠くからクリスが呼び掛けてくる。ツナはスマホをしまうと、すぐにクリスのあとを追った…




うぉ!?今度も物凄い字数になったなぁ…
続きは来週になると思います。そしてもしかしたら来週で一期終わるかもしれません。


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標的(ターゲット)15 防人の歌と気持ち

お待たせしましたが、なんとか書けました。
それと、リボーン本編全部読み終わりましたが、バミューダ強すぎるし死ぬ気の到達点状態のツナも強すぎるけど、改めてチェッカーフェイスやベーと思いました…


─これは、少し昔の記憶─

 

「~♪」

 

 とある施設で、翼は鼻唄を歌いながらバイクの点検をしていた。

 

「「~♪」っ奏!?」

 

 すると耳元で自分が歌っている鼻唄と同じ歌が聞こえ、横を振り向くと奏が、しゃがんで後ろから顔を近付けていた。翼が奏に気付くと、奏は立ち上がる。

 

「ご機嫌ですなぁ!」

「今日は非番だから、バイクで少し遠出に…」

「特別に免許貰ったばかりだもんな。それにしても、任務以外で翼が歌を歌っているなんて始めてだ」

「奏っ!」

「そういうの、なんだかいいよな!」

 

 そう言って奏は翼に軽くデコピンをする。

 

「また鼻唄聞かせてくれよなー」

「奏っ」

 

 奏が立ち去ろうとすると、翼が止めるように彼女の名前を呼ぶ。

 

「…鼻唄は、誰かに聞かせるもんじゃないから!」

「分かってるって。じゃ、行ってきな!」

 

 奏はそう言って、翼に背を向け手を振りながら倉庫から立ち去っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 翼が目を開くと、彼女の目にはゆっくり回転する機械の光が映りこんだ。

 彼女は今、二課医療施設にてメディカルチェックを受けていたのだ。少しすると、検査が終わり装置から出される。

 

「お疲れ様、チェック終了です。ダメージは完全に回復です」

 

 医師の言葉を聞いた翼は手を強く握りしめる。

 

「─ただいま、奏」

 

 翼は小さく呟き、上を見上げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校の真下にこんなシェルターや地下基地が…」

 

 ツナ・響・未来の三人は現在、特機部二の廊下を歩いていた。

 未来は初めて特機部二の中に入ったので少し驚きながら周りを見回す。ちなみに、初めて()()エレベーターに乗ったときに未来もツナ達と同じようなリアクションをし、ツナと響が苦笑いしていたのは別の話である…

 未来が辺りを見回していると

 

「あ!翼さーん!」

 

 響が翼を見つけ、彼女の元に走っていき、ツナと未来が響のあとを追いかける。

 

「沢田と立花か!そちらはたしか、協力者の…」

「こんにちは、小日向未来です!」

「えっへん!私の一番の親友です!」

「何で響が得意気にしてんだ…そしてオレの親友でもあります」

 

 翼が未来のことに気付くと、未来は自己紹介をし、響は胸を張って、ツナはそんな響にツッコミつつも、自分達の親友であると伝える。

 

「立花はこういう性格ゆえ、いろいろ面倒をかけると思うし、沢田は優秀ではあるが、戦闘中以外でよくドジをするから、どうか支えてやってほしい」

「いえ、響は残念な子ですし、ツナはダメダメな子なので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「うぇ、何?どういうこと!?」

「響さん達を介して、お三方は意気投合していると言うことですよ」

「はぐらかされた気がする…」

 

 響は緒川の説明を聞いて顔を膨らませ、未来はそんな彼女を見て少し笑い、翼もそれにつられて笑う。ちなみにツナはと言うと

 

「アハハ…(図星だし自分でも理解してはいるけど、やっぱり知り合いに言われるとだいぶ傷つくなぁ…)」

 

 苦笑いしながら、心の中で少し泣いていた。

 

「でも未来と一緒にここにいるのは、なんかこそばゆいですよ」

「小日向を外部協力者として、二課に移植登録させたのは、司令が手を回してくれた結果だ。それでも、不都合を強いるかもしれないが…」

「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんてそんな…」

「あ、そういえば師匠は…」

「あぁ、私達も探しているのだが…」

(あの人のことだから、映画を借りにTATSUYA{TSU○AYAもどき}にでも行ってるんじゃないかな?)

 

 響は自分の師匠である風鳴弦十郎がその場にいないことに気付き周りを見渡し、翼達も彼を探していることを伝える。そしてツナは超直感で彼の行き先を見事に当てる。

 

「あーら、いいわねぇ!ガールズトーク?」

 

 すると後ろの方から了子がやってきて、その場の全員が彼女の方を向く。

 

「どこからつっこむべきか迷いますが、とりあえず僕と綱吉くんを無視しないでください」

「了子さんもそういうの興味あるんですか!?」

「モチのロン!私の恋ばな百物語を聞いたら、夜眠れなくなるわよ?」

 

 恋ばなに疎いツナは、了子の言葉を聞いて顔を赤くし、唾を飲み込む。

 

「まるで怪談みたいですね…」

「了子さんの恋ばな!?きっとうっとりメロメロおしゃれで大人な銀座の恋の物語ぃ~!」

 

 未来はいつも通り少し辛辣な感想を述べ、響は了子の話に勢いよく食いつく。翼はそんな響に頭を悩ませていると

 

「恋ばなといえば、沢田はこの特機部二に来たとき、『オレは京子ちゃん一筋』とか言っていたな」

 

 思い出したようにそう話した。その直後、

 

 

 

 

 

 

その場の空気が冷え始める…

 

 

 

 

 

 

 ツナは最初、自分のことが話の話題に上がると思っていなかったので少し慌てたが、すぐに寒気を感じ、錆びた機械のようにゆっくりと響と未来の方を向くと、二人から黒い靄のようなものが見えた。

 

「そういえばツナ、そんなこと言ってたね…」

「ねぇツナ?京子ちゃんっていったい誰なのかな?」

「ヒィィ!?(だから何で響が怒ってるの!?ていうかなぜか未来も怒ってるし!)」

 

 二人の圧にツナがビビりまくっていると

 

『京子っていうのは、そこのダメツナの想い人でツナが通ってた学校のマドンナ的存在の女子だぞ』

 

 ツナの鞄の中から声が聞こえ、彼がすぐに鞄からヘッドフォンを取り出すと、横の投影機によってリボーンが写し出される。

 

「「「「「リボーン!」」君!」さん!」ちゃん!」

「えっと…子供?」

 

 彼の事を知っているツナと響、翼、そして特機部二の二人は驚くが、この場で唯一彼の事を知らない未来は困惑を露にする。

 

『初めて見る顔だな。ちゃおっス!オレの名前はリボーン!そこにいるダメツナの家庭教師で、最強の殺し屋だ』

「家庭教師で、殺し屋…?えっと、よろしく…?あ、私の名前は『小日向未来だろ?』え?」

『姿は見えなかったが、話は聞こえてたからな』

「お前また盗み聞きしてたのかよ!『それにしても…』おい、オレの話を─」

『こないだは立花、翼、セレナだけかと思ったが、まさか四人目の愛人を作ってたとはな。さすがはボンゴレの次期ボスだ』

「んなー!お前、まだ二人のことをオレの愛人だと思ってたのかよ!それにセレナまで…三人とはそんな関係じゃないし、そもそもオレはマフィアなんて継がないって─あ」

「マフィア?」

 

 そこまで言ってやっと、ツナはその場に未来がいることに気づいた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、ツナがマフィアのボスだったなんて…」

 

 ツナとリボーンの説明を聞き、ツナがマフィアのボス候補であることに驚く未来。

 

「いや、オレまだボスじゃないしまず継がないけど…それにしても、オレが別世界の人間だって知っても、未来はあまり驚かないんだな」

「だって、話を聞く限り私と初めて出会ったときには、もうこの世界のツナと入れ替わってたんでしょ?なら、私が知ってるツナと入れ替わった訳じゃないから別に違う世界のツナだろうが関係ない…私が知ってるツナは、今ここにいるツナだけだから」

 

 未来は問いかけてきたツナにそう答え、優しく微笑む。

 

「そんなことよりも!リボーン君!ツナの想い人の京子ちゃんてどんな子なの!?」

「詳しく教えて!」

 

 だが、京子の事について問いかける響の話を聞いて、二人してリボーンに顔を近付ける。

 

『京子は今さっきいったようにダメツナの想い人で学校のマドンナ的存在で、中学だけでなく高校でも学校中の男子の憧れだ。だが、ほんわかとした雰囲気でなかなかに天然ボケな面があって、人と感覚がずれた所があってな…そのせいか、大抵のことには動じず、中学の頃だけでも数えきれないほどの男子に告白されたが、その全てを断っていて、ツナも過去に二度、京子に告白したが失敗に終わったぞ』

「それはお前があんなやり方で告白させようとするから…『なんか言ったかダメツナ?』ヒィ!」

 

 ツナが不満を述べると、リボーンが彼に睨みをきかせる。

 

「その、京子ちゃんが映ってる写真とかないの!?」

『それならいくつかあるぞ』

 

 リボーンはそう言って、懐から一枚の写真を取り出す。それに響と未来だけでなく、翼や緒川、了子までもが食いつくように見る。

 

「「か、可愛い…!」」

「確かに、可愛らしい子ですね」

「マドンナって呼ばれるのも理解できるわ」

「とても心優しそうな少女だな」

 

 リボーンが取り出した写真は、中学二年の時の写真だった。それを見た各々は、それぞれが思った感想を述べる。

 

『ちなみに、京子の兄である笹川了平は、ツナの中学の時のボクシング部部長で、ツナの晴の守護者でもあるんだ。小日向以外のやつなら、一度は見たことがあるはずだぞ』

 

 それを聞いたツナと未来以外の全員が考え込む。

 

「あ!その人ってもしかして、ツナが『お兄さん』て呼んでた人!?」

『正解だ立花。了平はいつも極限─死ぬ気であることから、《常時死ぬ気男》とも呼ばれているぞ』

 

 響の答えが見事的中し、了平について軽い説明をする。

 

「確かに、ツナが好きになっちゃうのも分かるよ…私も、男だったらこの子に惚れちゃってるかもしれないくらいに可愛いし」

「うん、私も響と同感…こんな可愛い子相手に、私達に勝ち目なんてないよ…」

 

 響と未来はあまりにも高すぎる壁に絶望し顔に影を落とす。そして翼も、何故かは分からないがどこか落ち込んでいるような雰囲気を感じる。二人の想いに気付いていないツナは、なぜ二人が落ち込んでいるのか理解できず、そんな彼を見たリボーンは呆れてため息をこぼす。

 

「え、えっと…そういえば、了子さんの恋ばなって、どんなのなんですか!?」

 

 ツナはその場の空気を変えるために話題を戻そうとする。

 

「え?えっと─そうね、遠い昔の話になるわね…こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから」

 

 ツナの考えに気付いた了子は、ツナに合わせてくる。

 すると効果覿面だったようで、落ち込んでいた三人だったが、了子の話を聞くとすぐに顔色を変え、了子の話に食いつく。

 

「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると…」

「『命短し恋せよ乙女』と言うじゃない?それに女の子の恋するパワーてすごいんだから!」

「女の子ですか…」

 

 緒川が了子の話を聞いて素直な感想を述べると、いつの間にか移動した了子から、顔に裏拳を叩き込まれ倒れこむ。

 

『ダメだぞ緒川、ちゃんと女性の気持ちを汲んでやらねぇと。そんなんじゃ、女にモテねぇぞ?』

「ご教授ありがとうございます、リボーンさん…」

「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも─」

「「うんうん、それで!?」」

 

 響と未来が了子の話に食いつく。

 

「ま、まぁ…私も忙しいから?ここで油を売っていられないわ!」

「自分から割り込んで来たくせに…」

 

 緒川の顔に蹴りが入れられる。

 

「緒川さん!?」

『全く、さっき言ったはずだぞ?女性の気持ちを汲めってな』

「とにもかくにも!出来る女の条件は、どれだけいい恋しているかにつきるわけなのよ!ガールズ達も、いつか実るように頑張りなさいね?」

 

 了子の言葉を聞いた響と未来、そして何故か翼の三人は顔を赤くする。そしてなぜ三人が顔を赤くしているのかまったく理解出来ていないツナ。

 了子はそんな三人の顔を見て微笑み、仕事に向かっていった。

 

「聞きそびれちゃったね…」

「んー、ガードは高いか…でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出してみせる!」

 

 響のポジティブっプリに、ツナは苦笑いしつつも、あることを考えていた。

 

(やっぱり、あの人が犯人だと思いたくない…でも、さっきの話…途中で止まったけど、あの人が話した内容は全部嘘じゃない気がする。受け取り方によっては、ノイズへの復讐にもとれるけど、もしそうじゃなかった場合は…)

 

 一人考え込むなか、彼の家庭教師はじっと、その姿を見つめていた。

 その頃弦十郎は、降りしきる雨の中、先ほどツナが考えた通りDVD屋で映画を借り、とある家に向かっていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、まだ戻ってきませんね…」

「えぇ…メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに…」

 

 了子が立ち去って一時たち、未だに帰ってこない弦十郎を心配する。

 

「次のスケジュールが迫って来ましたね」

「もうお仕事いれてるんですか!?」

「すこしずつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり」

「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですよね?」

 

 響の問いかけに少し怯む翼。

 

「だったら翼さん!デーt『ツナとデートでもしてみたらどうだ?』」

「「「え!?」」」

「デート?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスさん、お昼ごはんできましたよ!」

「おう、すぐ行く!」

 

 クリスはツナの部屋から借りていたゲーム機を片付け、下のダイニングに向かう。クリスがツナの家の居候になって一日しかたっていないが、彼女の体に沢田家での生活が染み付いてきた。

 ちなみにクリスが沢田家の居候の身になったその日、ふらわーでちゃっかりクリスの背中を見た際、いたるところにアザがあったことを覚えていたツナは家につくと、すぐにヴェルデ製医療キットを使い治療し、クリスの身体に残っていたアザは、全て完全になくなっている。

 

「それにしても、ツナのやつは休日だってのに本部に行くことになるなんて、つくづくついてねぇなアイツ」

「仕方ないですよ。響さんだけに未来さんに特機部二を案内するなんて、私でも心配ですから」

 

 クリスはセレナに箸の使い方を注意されつつ、ごはんを食べながらそう話す。そして彼女自身は気付いていないが、いつの間にかツナを呼び捨てにしていた。

 セレナがクリスに苦笑いしながら答えると、玄関のチャイムがなる。セレナは食事を中断し、玄関を開けて相手を確認する。

 

「えっと、どちら様でしょうか?」

「綱吉くんの上司、みたいなものさ」

「おーい、どうしたセレナ」

 

 クリスはドアを開けに向かい戻ってこないセレナを心配し玄関に向かう。

 

「なっ!?お前は!」

「応援は連れてきていない。俺一人だ」

 

 クリスはセレナの前に立つ大男─風鳴弦十郎の姿を見るとすぐに警戒体制に入る。そんな彼女に弦十郎は誰も連れてきていないことを伝える。

 

「君の保護を命じられたのは、もう俺一人になってしまったからな…」

 

 セレナは弦十郎を招き入れ、彼とクリスを連れてリビングに向かう。

 

「あの、お茶どうぞ…」

「すまないな、ありがたい」

「どうしてここが…まさかツナが!?」

「元公安の御用牙でね…別に、彼に直接聞いたわけではないから、そうカッカしなさんな」

 

 弦十郎はセレナから渡された茶を飲みつつそう説明する。

 

「差し入れとして買ってきたのだが、どうやら心配は無用だったようだな」

 

 彼はダイニングの机の上に残っている食事をみて、手元の袋を揺らしながらそう話す。

 

「バイオリン奏者『雪音雅律』と、その妻、声楽家の『ソネット・M・ユキネ』が、難民救済のNGO活動中に、戦火に巻き込まれて死亡したのが八年前…残った一人娘も行方不明となった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は、発見され保護、日本に移送されることになった」

「よく調べているじゃねぇか。そういう詮索ヘドが出るっ」

「当時の俺たちは、適合者を探すために、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引き受け先として、手を挙げたのさ」

 

 そこまで話してやっと、二人がセレナのことに気付く。

 

「別に話を続けていただいていいですよ?」

「だが、部外者に話すのは…」

「一応、シンフォギアに関しては、部外者ではありませんけどね」

「何?」

「今はまだ、私の秘密を話すことはできません。ですが、いつか必ず、響さんや未来さん、そして特機部二の皆さんにお話しします」

「…私達の事も知っている、ということか…」

 

 弦十郎はセレナの話を聞いて一瞬ためらうも、すぐに話を続ける。

 

「ところが、少女は帰国直後に消息不明。俺たちも慌てたよ…二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが、この件に関わったものの多くが死亡。あるいは、行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」

「何がしたいオッサン!」

「俺がやりたいのは、君を救い出すことだ」

 

 彼の言葉を聞いたクリスは少し怯む。

 

「引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな」

「ハッ!大人の務めと来たか!余計なこと以外は、いつもなにもしてくれない大人が偉そうに!」

 

 クリスは怒りのあまり机を叩く。

 

「─()()()()()、クリスさんを救いたいんですか?」

 

 すると、セレナが弦十郎に問いかける。

 

「いや…仕事を抜きにしても、彼女の事を救いたいと思っている。子供を守るのが、大人としての使命…子供たちにしてやれる、精一杯の優しさだと思っているからな」

「そうですか─なら、私()に任せてください!」

 

 弦十郎の答えを聞いたセレナはクリスに抱きつく。

 

「ちょ、おまっ!」

「今はまだ、クリスさんは弦十郎さん達『大人』のことを信用できないと思うけど、私とツナさんで、大人にも信用できる人がいるって思えるようにして、絶対にクリスさんの心を開かせますから!」

 

 セレナはそう言いきり、抱きつかれた挙げ句いきなり変なことを言い出したセレナにクリスは混乱しまくる。

 そんな二人をみた弦十郎は、声を高らかにして笑う。

 

「なんだか、君と綱吉くんなら、本当に彼女の心を開くことが出来る気がするな…不甲斐ないが、よろしく頼む!」

 

 そう伝えると、弦十郎は玄関に向かい始める。

 

「あの、袋忘れてますよ!」

「なーに、それはいきなりお邪魔した迷惑料として受け取っておいてくれ!」

 

 そう言って靴を履いた直後

 

「ただいまー…て、え?弦十郎さん!?何で家なんかに!?」

 

 ちょうど帰宅したツナとばったり鉢合わせする。

 

「少しばかり用があってな。その用事も終わったことだし、俺は家に帰って借りてきた映画でも観るとする!」

 

 そういうと、弦十郎はDVDの入った袋を大事そうに抱えながら家を出ていった。

 

「やっぱりDVD屋に行ってたんだ…にしても、家に用って…」

「お帰りなさいツナさん。未来さんの方はどうなりましたか?」

 

 セレナが話題を変えるようにツナに話しかける。

 

「あぁ、ただいま…一応、未来に特機部二を案内することは出来たよ。…出来たけど…」

「どうしたんだ?いつもにまして暗い顔して」

 

 どうにか立ち直ったクリスがツナに問いかける。

 

「─オレ明日、翼さんとデートすることになった…」

「「…は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─翌日─

 

「彼は何をしてるのよ!」

 

 とある公園で、翼は時計を確認する。

 

「ハァ、ハァ…すみません翼さん…」

「遅いわよ!」

 

 すると噂をすればなんとやら、ツナが息を荒くしながら駆け寄ってきた。そんな彼に翼は遅れていることについて怒る。

 

「すみません…向かってる途中で、うっかり野良犬の尻尾を踏んじゃって、逃げ回ってました…」

「─あー…えっと、それは災難だったわね…」

 

 だが、彼からなぜ遅れたのか聞くと怒りよりも同情の気持ちが勝る。

 

「えっと、それじゃぁ…遅くなっちゃいましたけど、デート、しますか…?」

「そ、そうね…時間が勿体ないわ、急ぎましょ!」

 

 そう言って翼は早歩きで進んでいく。

 

(すごい楽しみにしてた人みたいだなぁ…)

 

 そんな事を考えながら彼女のあとを追いつつ、昨日の事を思い出す…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デート?」

『さっき櫻井が言ってたろ?女の恋するパワーはすごいってな。それなら、一番効果的なのはデートだと考えたんだ。女同士でデートするのも悪くはないだろうが、デートってのは本来、男女が日時とプランを決めて一緒に行動するのが定石だ。だったら、同じ仲間で年の近いツナが適任じゃないかと思ってな』

「ちょっと待てよリボーン!何でそんな話になるんだ!そ、それに…オレ、デートとかまともにしたことなんて『そうだ、ちょっと立花と小日向に話したいことがある。少し席を外してくれねぇか?』だから話を聞けって!」

 

 リボーンはツナの訴えを無視し、響と未来を連れて(二人にヘッドフォンをもってもらって)少し離れる。

 そして一時して戻ってくると

 

「ツナ!明日翼さんとデートしてきたら?」

 

 響がツナに勢いよく近付くと、そう言ってくる。

 

「きっと翼さんも嬉しいと思うな!ですよね、翼さん!」

「あ、あぁ…デートなんてしたことないから、楽しみではあるな」

「なら決まりですね!」

「ちょっと二人とも!リボーンに何を教え込まれたんだ!?」

「別に?少ーしだけ、お話ししただけだよ?」

「「ね!」」

 

 あまりにも怪しすぎる二人をみて、リボーンに問い詰めようと思ったが、いつの間にか通信が切られていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あのあと、セレナにその事を伝えたらヘッドフォンを持っていって、少しして響達と同じようなテンションで戻ってきたけど…リボーンのやつ、セレナに変なこといってないよな?)

「沢田!ぼさっとしていると置いていくぞ!」

 

 ツナが考えていると、遠くから翼の声が聞こえ、走って彼女の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、私達には気付いていないみたいだね」

 

 ツナが翼の元に走っていったあと、ついさっきまで彼がいた場所の近くの茂みから、響、未来、セレナの三人が姿を表す。

 

『よし、それじゃあダメツナの女性耐性強化プロジェクトを行うぞ』

「「「ラジャー!」」」

『ていっても、ツナのデート模様を隠れて見てるだけだがな』

 

 リボーンは、セレナが持っているヘッドフォンを通じて響達とツナ達の様子を見つつ、昨日の話を思い出す…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前ら二人とも、ツナに恋してるだろ?』

「「えっ!?」」

 

 ツナ達からある程度離れたところで、リボーンはいきなり響達の核心をついてくる。その言葉を聞いた未来は一瞬にして顔を赤くし、響は頬を染めつつも困惑した表情を浮かべる。

 

『といっても、それに気付いてるのは小日向だけで、立花は気付いてないようだがな』

「な、何でそんなこと…」

『今さっき京子の話をしたときの反応だけで、大体のやつが気付くだろ。ま、それに気付かないダメダメなやつもいたがな』

 

 図星をつかれた二人は、効果音でも聞こえそうな反応をする。

 

『おそらく、セレナもツナの事を好いてるだろうし、翼も立花と同じような状態だろうな』

「セレナだけじゃなくて、翼さんまで!?」

『俺としてはどんどんそういう奴らが増えてもいいと思ってるぞ?マフィアのボスなら愛人がいて当然だからな』

「でも、ツナはマフィアにはならないって…」

『確かにそう言い続けてはいるが、アイツ自身は気付いてないようだが、今まで何度もボンゴレを継ぐ意思と受け取れるようなことを言っていたから、心の奥底に覚悟は出来てるはずだ』

 

 リボーンは二人の顔を見上げる。

 

『それに、ツナをボンゴレのボスにするために俺に依頼したボンゴレⅨ世(ノーノ)のティモッテオは、ツナが─ジョットと同じ意思を持つツナなら、マフィアになって初代の思想を忘れてしまったボンゴレを、本来のあるべき姿に戻してくれると信じて─ツナがボスに最も適してないと理解している上で、アイツをボンゴレ十代目候補に推薦したんだ』

 

 リボーンの話を聞いた二人は、争いが嫌いなツナをボスに推薦したティモッテオの心情を想像し黙りこむ。

 

『さて、本題にはいるぞ』

 

 だが、リボーンの声を聞いてハッとする。

 

『俺がツナと翼をデートさせたい理由だが、さっき話したことだけじゃなく、ツナのため…お前らのためでもあってな』

 

 リボーンはそう言って腰に手をあてる。

 

『ツナは俺が家庭教師(かてきょー)しに来るまで、同年代の女子とはまったく話せていなかったほどシャイでな。今では何人かと話せるようにはなってはいるが、それでもまだ耐性がついていない。このままじゃ、お前らがどれだけ頑張ってもアイツは気付かないだろう。だから翼とデートさせて耐性をつけさせようと思ってな…協力してくれねぇか?』

 

 リボーンは二人に頼み込む。

 

『もちろん、協力してくれるなら、ツナとのデートの機会を作ってやらなくもないが…』

 

 その言葉を聞いた二人は、喜んで協力を受けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あのあと、セレナにも同じようなことを伝えたら快く引き受けてくれたお陰で、こうして見れるわけだが…ダメツナが、シンフォギア(こっち)の世界で何人の女を堕とすのか、興味があるな)

 

 響達がツナ達を追いかけるなか、リボーンはそんなことを考えていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナと翼のデートは、四人に尾行されながらも何事もなく行われていく。

 ショッピングモールで家具を眺めたり、映画館で涙を流し、ソフトクリームを買って食べ歩き、服屋では店員にカップルと間違われ二人して顔を赤くしていた。

 途中、翼のファンに気付かれ追いかけられるも、ツナの超直感がいい仕事をし、難なく振り切ることが出来た。

 そしてゲームセンターにて、翼がUFOキャッチャーのぬいぐるみを見つめていることに気付いたツナは、現在挑戦中だった。

 

「期待はしているが、あまり無茶はするなよ?」

 

 翼はツナとツナの懐を心配するがそれは無用だったようで、超直感によってクレーンとぬいぐるみの位置を完全に把握し、一発でとってみせた。

 

「ありがとう沢田!…それにしても、お前の超直感とやらは本当にすごいな」

「アハハ…オレの超直感って、リボーンが来てマフィアのいざこざに巻き込まれるまでおじいちゃん…ボンゴレⅨ世のティモッテオさんに封印されてたんです。何でも、子供の頃のオレの超直感はとても強力だったらしくて」

 

 そんな話をしながらもデートは難なく進み、カラオケ街と書かれた看板がある店の前に来たところで

 

「─ねぇ、もうそろそろ出てきたら?」

 

 ツナが後ろを振り返り、声をかける。そして尾行していた三人が姿を現す。翼は三人の尾行に気付いてなかったようで驚きを露にし、ツナはセレナがヘッドフォンを持っているのをみて頭を悩ませる。

 

「えっと、いつから気付いてたのかな?」

「オレが翼さんとの待ち合わせ場所についたときくらいかな?」

『どうやら超直感はちゃんと働いているようだな』

 

 響の質問にツナが答えると、リボーンがそう話す。

 

「ったく…三人になに吹き込んだんだよリボーン…」

 

 ツナはリボーンが元凶であると気付きため息をこぼす。

 

「ねぇ、響達も一緒に歌わない?カラオケって大勢でやる方が楽しいからさ」

 

 ツナがそう言うと、響達は喜んでカラオケに参加した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤー楽しかったなぁ!」

 

 カラオケで歌った五人はとある階段を上がっていた。

 

「まさか翼さんがあんな渋い曲を歌うなんて…でも、歌ってるときの翼さん、かっこよかったなぁ!」

「セレナも、マリアさんの曲を歌ってるとき、とても生き生きしてたよね!」

 

 カラオケでの事を話す響と未来。ちなみにツナも頑張って歌ったが結果は27点と、ある意味奇跡のような数字を叩き出していた。

 

「二人とも、どうしてそんなに元気なんだ?」

「翼さんがへばりすぎなんですよ!」

「今日は慣れないことばかりだったから」

 

 そんな二人に遅れて、翼がきつそうに階段を上っている。そしてその横に翼を心配するツナとセレナが彼女のペースに合わせて上る。

 

「大丈夫ですか?」

「心配するな…『防人』であるこの身は、常に戦場にあったからな」

 

 翼がそう呟きながら階段を上りきると、とある公園にたどり着いた。

 

「本当に今日は、知らない世界ばかりを見てきた気分だ…」

「そんなことありません!」

 

 すると響は翼を連れて近くの手すりまで連れていく。最初は困惑していた翼だったが、そこから見える光景に目を奪われる。

 

「あそこがツナと翼さんが待ち合わせした公園です!みんなで一緒に遊んだところも、遊んでないところもぜーんぶ、翼さんの知ってる世界です!」

「まぁ、響達と一緒に遊んだのはカラオケだけなんだけどね」

「ちょっとぉ!いい雰囲気だったんだから崩さないでよ!」

 

 ツナが響に謝る。

 

「昨日に翼さんが戦ってくれたから、今日にみんなが暮らせている世界です!だから、知らないなんて言わないで下さい!」

 

 響の言葉を聞いた翼は、再び目の前に広がる光景を眺める。

 

(戦いの裏側とか、その向こう側には─また違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた…)

「そうか…これが奏が見てきた世界なんだな…」

 

 翼はそう呟き、微笑んだ…が

 

『ツナの女性耐性強化プロジェクトは失敗に終わったが、翼の気分転換にはなれたようだな』

「そうだね…っておい、女性耐性強化プロジェクトてなんだよ!まさかそれでオレと翼さんをデートさせたのかよ!」

『まぁいいじゃねえか。お前も女子とデートできて嬉しかったろ?』

「ウグッ!…まぁ、翼さんみたいなきれいな人とデートできたんだから、そりゃ嬉しいに決まってるだろ」

『ハァ、なんでそんな小恥ずかしいことはいえるのに、告白の一つもまともに出来ねぇんだ』

「余計なお世話だ!」

 

 二人のやり取りをみた翼達は、笑いを押さえきれずに声を出して笑った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!復帰ステージ!?」

「アーティストフェスが放課後に開催されるのだが、そこに急遽ねじ込んでもらったんだ」

「なるほど!」

 

 次の日、リディアン音楽院にて響と未来は翼からライブのチケットを受け取っていた。

 

「倒れて中止になったライブの代わりというわけだな。沢田達の分のチケットも、すでに渡してある」

 

 響がチケットの裏をみると、開催場所は二年前の事件が起こったライブ会場だった。

 そのライブ会場だが、ノイズ襲撃事件のあと、修復と同時に改修も行われ、全く新しい見た目となっている。

 

「翼さん、ここって…」

「立花や沢田にとっても、辛い思い入れのある会場だな…」

「…ありがとうございます翼さん!」

 

 翼は、まさか感謝されるとは思わず響の顔をみる。

 

「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えていけます!そうですよね、翼さん!」

「─そうありたいと、私も思っている」

 

 翼の瞳には、確固たる決意が見えた…

 

 

 

 

 

 

 そして放課後、響は会場に向かい走っていた。

 

「せっかく、チケット貰ったのに、開演に遅れそう!」

 

 すると電話が鳴り出す。響がスマホを取り出すと、相手は弦十郎からだった。

 

「はい、響です!」

『ノイズの出現パターンを検知した!翼にもこれから連絡を「師匠」どうした?』

「現場には、私一人でお願いします。…今日の翼さんは、自分の戦いに望んでほしいんです。あの会場で、最後まで歌いきってほしいんです。お願いします!」

『─やれるのか?』

「はい!」

『そうか…ならいいだろう。ただし、君一人でいかせるわけにはいかない!綱吉くんにも連絡をいれておく』

 

 そう言って弦十郎は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

それから少しして、翼のライブが始まった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナの携帯がなり、電話に出る。

 

「なんだ」

『その声色、ハイパーモードか!ということは…』

「あぁ、察しの通り現在ノイズと交戦中だ。クリスも一緒に来ている」

 

 ツナが弦十郎と話していると、クリスが放ったミサイルが要塞のような大型のノイズに当たるが、びくともしない。すると要塞型ノイズの口から砲弾のようなものが撃たれ、クリスは回避しようとするも爆風によって吹き飛ばされる。

 

「クリス!」

 

 それをみたツナは通話を切り、クリスのもとに飛ぶ。すると再び要塞型ノイズが砲撃をしてくる。ツナはそれを防ごうとナッツを呼び出そうとしたその時、響が飛び蹴りで弾を粉砕する。

 そして響はものすごい速さでノイズの群れに突っ込んでいくと、一瞬にしてノイズが炭になり消えていく。

 そして響が人型とカエル型を一掃し止まった直後、響に向かって要塞型ノイズが砲撃してくる。だが、それは弾丸と炎によって防がれる。

 

「無事か!」

「貸し借りはなしだ!」

 

 ツナは響の元に現れ、クリスはそう叫び、残りのノイズ達を蜂の巣にしていく。ツナと響もノイズの懐に入り込み確実に倒していく。

 要塞型ノイズが響に砲撃をしてくるが、それをかわし腕のハンマーパーツをめいっぱい引き絞り地面を殴り付ける。するとその衝撃が要塞型ノイズの足元まで向かい、ノイズの足が炭化する。そして響はさらにハンマーパーツを先程よりも強く引き絞る。

 要塞型ノイズ以外はクリスとツナによって倒されていく。

 響は立ち上がると、すごい速さで要塞型ノイズに近より殴り付ける。そして限界まで引き絞られたハンマーパーツが打ち込まれ殴られた反対側が吹き飛び、徐々に消滅していく。響は消滅するノイズを少し眺めたあと、翼がライブを行っている会場の方を眺めていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうみんな!今日はおもいっきり歌を歌えて、気持ちよかった!」

 

 歌を歌い終わり、熱気が冷めない中、翼は会場の人たちに手を振りながらそう話す。

 

「こんな思いは久しぶり…忘れていた…でも思い出した!私は、こんなにも歌が好きだったんだ!聞いてくれるみんなの前で歌うのが、大好きなんだ!」

 

 先程まで熱気で溢れかえっていた会場内は、翼の声しか響かないほど静まり返っていた。

 

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかって、オファーが来ている。自分がなんのために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど…今の私は、もっとたくさんの人に歌を聞いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても、歌で伝えられることがあるならば…世界中の人たちに、私の歌を聞いてもらいたい!」

 

 その直後、会場内が拍手と熱気に包まれる。

 

「私の歌が、誰かの助けになると信じて、みんなに向けて歌い続けてきた…だけどこれからは、みんなの中に、自分も加えて歌っていきたい!だって私は、こんなにも歌が好きなのだから!…たった一つのわがままだから、きいてほしい…許してほしい…っ」

「許すさ。当たり前だろ?」

 

 翼の耳に奏の声が聞こえた直後、会場を応援や励ましの声が埋め尽くした。

 

「…ありがとうっ!」

 

 その光景をみた翼は、涙を流しながらも、会場の人たちに感謝を述べ、夜空を眺めた…




うっは!13000文字いっちゃったよ…ヤヴァイっ!
今回のデートの際にツナが来ていた服は、2016年の天野明展の看板に描かれていた服を考えながら文章を書いてました。
それと、いちを絶唱しないシンフォギアも書こうとは思ってますが、なにぶん実際に見ないとわからないので二期執筆途中に書くと思います。


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標的(ターゲット)16 繋ぐ手と包む大空が紡ぐもの

何とかできました。
それと一回シンフォギア一期見終わりましたが、最後らへんがムズいっすねこれ…どうにか頑張ります!


「「失礼しましたー!」」

 

 リディアンの職員室から響と未来が出てくる。そして教室に向かい歩いていると、遠くからリディアン音楽院の校歌が聞こえてくる。

 

「~♪」

 

 それに感化され響も鼻唄で歌い始める。

 

「なに?合唱部に触発されちゃった?」

「ん~…リディアンの校歌を聞いてると、まったりするっていうか、すごく落ち着くっていうか…みんながいるところって思うと安心する!自分の場所って気がするんだ…入学して、まだ二ヶ月ちょっとなのにね?」

「でも、色々あった二ヶ月だよ?」

「うん、そうだね…」

 

 二人はそう言うと、廊下の窓から広場を眺めていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ツナはクリスと一緒にフィーネと呼ばれていた女性が住んでいた建物に来ていた(ちなみに学校には連絡済みである)。

 

「別に、あたしが気になったから来ただけなのに、なんでお前もついてきてんだ?」

「なんだか、クリス一人じゃほっとけないし…それに、何か嫌な予感がするんだ…」

 

 少し前にツナから超直感について聞いていたクリスは、彼のその言葉を聞いて警戒を強めながら、フィーネがよくいた広間に向かう。すると

 

「なんだよ…これ…!」

 

 部屋の至るところがボロボロになり、武装した人たちが血を流して倒れていた。

 その光景をみたツナはすぐにその人たちの脈をはかったが、すでに死亡していた。

 

「何が、どうなってやがんだ…?」

 

 ツナが助けられなかったことを悔やみ、クリスが奥に向かい歩いていると、後ろから物音が聞こえ振りかえる。すると部屋の入口付近に弦十郎が立っていた。

 

「違う!あたしじゃない!やったのは…」

 

 クリスがこの惨劇の犯人は自分ではないことを訴えていると、黒服を着てサングラスをかけた男達が、銃を構えて入ってくる。それをみたツナはクリスを庇うため、彼女の前に出たが、黒服の男達は二人の横を通りすぎていく。二人は何が起こっているのか理解できないでいると、弦十郎が歩みより、二人の頭に手を優しくのせる。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。全ては、君や俺たちのそばにいた、()()の仕業だ…」

「ということはやっぱり、了子さんは…」

 

 弦十郎の言葉を聞いて、敵の正体に気付いていたツナが呟く。

 

「風鳴指令!」

 

 すると、弦十郎の後方にいた男が、『I LOVE YOU SAYONARA』と書かれた紙を見つけそれをとろうとする…

 

「っ!?それをとっちゃダメだ!」

 

 するとツナは嫌な予感を感じ、取らないように注意するが間に合わず、ツナ達がいた部屋の至るところで爆発が起こり、崩壊に巻き込まれる。

 爆発が収まり、ツナが目を開くと、弦十郎は左腕でクリスを抱き寄せつつ、片手で大きな瓦礫を防いでいた。その事に少し驚いたツナだったが、すぐに他の人たちの事を思い出し辺りを見渡す。どうやら軽い怪我をした人もいるようだが、全員無事のようだ。その事にツナは安堵する。

 

「どうなってんだよこいつは!?」

「衝撃は発勁でかき消した」

「そうじゃねえよ!」

 

 そう言って弦十郎の腕から抜け出す。

 

「なんでギアを纏えないやつが、あたしを守ってんだよ!」

 

 弦十郎は瓦礫を落とし、クリスの方を向く。

 

「俺がお前を守るのは、ギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」

「大人?─あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!」

「クリス!」

「とんだ夢想家で臆病者…あたしはアイツらと違う!戦地で難民救済?歌で世界を救う?!いい大人が夢なんかみてるんじゃねぇよ!」

「大人が夢を、ね…」

「本当に戦争をなくしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいい!それが一番合理的で堅実的だ!」

「─そいつがお前の流儀か…なら聞くが、そのやり方で、お前は戦いをなくせたのか?」

「それは…」

「力で解決しても、悲しみだけしか生み出さないよ」

 

 二人の会話にツナが割り込む。

 

「どんな人にも家族がいる…大切な友達がいるんだ。怪我をしたり死んだりしたら、その事を悲しむ人たちがいるんだ!力で解決しようとすれば、必ず誰かが傷つく…その分だけ、悲しむ人たちが増えるだけだよ!…それに、そんなやり方じゃクリスの居場所がなくなっちゃうじゃないか…」

 

 その言葉を聞いたクリスは、ツナが眉間にシワを寄せていることに気付く。

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな…そうじゃない。()()()()()()()、夢を見るんだ…大人になったら、背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだって、ちっとは増える。子供の頃は、ただみるだけだった夢を、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?違うな…歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んで、この世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

「なんで、そんなこと…」

「お前に見せたかったんだろう…夢は叶えられるという、揺るがない現実をな…」

 

 それを聞いたクリスは瞳をうるわせ始める。

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親は、きっとお前の事を、大切に思ってたんだろうな」

「…それ、何となくわかる気がするな」

 

 クリスがツナの方を向く。

 

「俺の親父は、ちゃらんぽらんでぐうたらでいい加減な性格で、いつも家にいなくて、たまに帰ってきたと思ったらいつも真っ昼間から酒のんでリビングで酔いつぶれるような人でさ…俺は、そんなダメ親父の事が嫌いだった…でも、俺がマフィアに関わるようになって、親父がボンゴレの門外顧問のトップだと知ったときは、正直驚いたよ…あんなダメ親父が、てね」

 

 ツナは話をしながらクリスに近づいていく。

 

「でも、ある出来事で親父と戦わなきゃならなかったことがあって、その時ある人に、親父の事を認めろって言われてね…死ぬ気で戦ったら、親父は俺が考えるほどダメな人間じゃないって感じてさ…その出来事以降、親父の事をよく見てたら、不器用なだけでちゃんと母さんや俺の事を大切に思ってるように感じたんだ」

 

 ツナはクリスのすぐそばに来ると、クリスと顔をあわせる。

 

「ていっても、今でも親父の事は苦手だけどね…それでも、俺は親父の事を父親としては認めてる…例えどれほどダメな親でも、家族の事が大切なんだ。それはきっと、クリスの両親も同じはずだよ。だから─嫌いだなんて言わないであげてよ」

 

 ツナはそう言って微笑む。するとクリスは涙を流しながらツナに抱きついた。ツナは抱きつかれたことに一瞬戸惑うが、泣いていることに気付くと彼女の頭を優しく撫でた…

 

 

 

 

 

 

 いっときしてクリスが泣き止むと、弦十郎達の車が止まっている場所まで来た。

 

「やっぱりあたしは…」

「一緒には来られないか?」

 

 クリスは顔をそらす。

 

「お前は、お前が思っているほど一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず俺たちの道と交わる」

「今まで戦ってきたもの同士が、一緒になれるというのか?」

「実際になっているじゃないか、そこの彼と」

 

 弦十郎はツナの方を見る。

 

「俺がみた限り、君は彼の事を多少なりとも信用しているように見えたのだがな?」

「ちがっ!そんなんじゃ…」

「─もしクリスが俺の事を信用していなくても、俺はクリスのことを信用しています」

 

 ツナが真剣な顔で答える。

 

「ほんと、君は優しいな…ホレ!」

 

 弦十郎はクリスに何かを投げ渡す。

 

「通信機?」

「そうだ!限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物も出来る品物だ!便利だぞ?」

「─カ・ディンギル!」

 

 弦十郎が車を出そうとすると、クリスがフィーネから聞いた名前を出す。

 

「フィーネが言ってたんだ、『カ・ディンギル』って…それがなんなのか分からないけど…そいつはもう完成しているみたいなことを…」

「カ・ディンギル…」

『なにやら重要なものらしいな』

 

 ツナの鞄から声が聞こえ、ヘッドフォンからリボーンが写し出される。

 

「黒服を着たガキ…?」

『ちゃおっス!オレの名はリボーン!そこのダメツナの家庭教師で、最強の殺し屋だぞ』

 

 リボーンはクリスにいつもの自己紹介をする。

 

「何言ってんだこいつ?」

『今は説明してる時間はねぇ。もしカ・ディンギルとやらが本当に完成しているのなら、相手はすぐにでも手をうってくるはずだぞ』

「そうだな…後手に回るのは終いだ、こちらからうって出てやる!」

『こっちでも、そういうのに詳しいやつから話を聞くぞ』

 

 会話が終わると、弦十郎達の車は本部に向かっていった…

 

「…おいリボーン、いつから聞いてた?」

『爆発の後ぐらいからだぞ』

「また最初から聞いてたのかよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、翼です!』

『響です!』

『沢田です!』

「収穫があった!了子くんは?」

「まだ出勤していません、朝から連絡不通でして…」

「そうか…」

『了子さんならきっと大丈夫です!何が来たって、私を守ってくれた時みたいのようにドカーンとやってくれます!』

「いや、戦闘訓練もろくに受講していない櫻井女史に、そのようなことは…」

『え?師匠とか了子さんて、人間離れした特技とか持ってるんじゃないですか?』

 

 響とツナはデュランダル移送時の出来事を思い出す。すると了子から連絡が入った。

 

『や~っと繋がった!ごめんね寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子がよくなくって…』

(()()通信機の不調…そんな頻繁に起こるのはさすがにおかしすぎる…それに、俺の直感が嘘だと感じてる…やっぱり了子さんが…)

 

 ツナは了子の話の違和感と、超直感から了子の正体を完全に理解したが、それを言い出すことが出来ない。

 

「無事か!了子くん、そっちに何も問題は?」

『寝坊して、ごみを出せなかったけど、何かあったの?』

『よかったー!』

「ならばいい…それより、聞きたいことがある」

『せっかちね、何かしら?』

「─『カ・ディンギル』…この言葉が意味するものは?」

 

 ツナは弦十郎がカ・ディンギルの名前をいった直後、通信機越しだが了子の雰囲気が変わったことに気づく。

 

『カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で《高みの存在》…転じて、天を仰ぐほどの塔を意味しているわね』

「何者かがそんな塔を建造していたとして、なぜ俺たちは見過ごしてきたんだ?」

『確かにそう言われちゃうと…』

『おっ、ちょうど話してるところのようだな』

 

 唐突にヘッドフォンからリボーンが写し出される。

 

「リボーン君!そちらの方は…」

『ちょうどそういうのに詳しいやつを連れてきた所だぞ』

 

 そう言うと、もう一人の人物が映像に映る。

 

『お久しぶりです十代目!』

『やっぱり、詳しい人って獄寺くんのことだったんだ!』

『おい獄寺、カ・ディンギルってのについて説明しろ』

 

 リボーンはツナと獄寺の再会をぶったぎり、獄寺に説明を促す。

 

『分かりました!では僭越ながら、10代目の右腕であるこの獄寺隼人が説明させてもらいます─カ・ディンギルというのは、メソポタミアの都市「バビロン市」のシュメル語での古代名で、《神の門》を意味しています。ただし、これが元の都市の名であったのかどうかは不明で、アッカド語での表記「バーブ・イリ」がヘブライ語で混乱を意味する「バラル」と混同され、バベルの塔の語源となったとも言われていて、バビロン市のエ・サギラ神殿にあったマルドゥクのジッグラト、エ・テメン・アン・キがバベルの塔のモデルになったともされています』

『ほわー…見た目なんかヤンキーみたいだけど、以外と頭いいんですね』

『んだと!?このボブカット!』

『わー!落ち着いて獄寺くん!』

『落ち着けバカ』

 

 リボーンに頭を蹴られ沈黙する獄寺。

 

「神の門、そしてバベルの塔か…ありがとうリボーン君、後で獄寺くんにも礼をいっておいてくれ!」

『役に立ったならよかったぞ』

「ようやく掴んだ敵の尻尾…このまま情報を集めれば、勝利も当然!相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ!最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

『『『了解です!』』』

 

 三人はそう言って通信を切った。

 

「『カ・ディンギル~誰も知らない秘密の塔~』…」

「検索しても、引っ掛かるのはゲームの攻略サイトばかり…」

「オーイ!」

 

 二人がカ・ディンギルについて調べていると遠くからツナが走ってきているのが見えた。

 

「ツナ!?」

「なんでこんなところにいるの?学校は?」

「ちょっと野暮用があって…」

 

 そんな話をしていると、本部から連絡が入る。

 

「大型ノイズが四体!?」

「今は人を襲うというよりも、ただ移動していると…はい…はい!」

「響、ツナ…」

「平気、私とツナと翼さんでなんとかするから!だから未来は学校に戻って!」

「リディアンに?」

「いざとなったら、地下のシェルターを開放して、この辺の人たちを避難させないといけない…未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」

「…うん、分かった…」

「ごめん、未来を巻き込んじゃって…」

「ううん、巻き込まれたなんて思っていないよ?私がリディアンに戻るのは、響がどんな遠くにいったとしても、ちゃんと戻ってこられるように、響の居場所─帰る場所を守ってあげるためでもあるんだから!」

「私の、帰る場所…」

「─ならオレは、響を無事に未来のもとに連れて帰るための護衛、て感じかな?」

「マフィアのボスが護衛っておかしくない?」

 

 そう言って響と未来は笑う。

 

「…だから行って?私も響やツナのように、大切なものを守れるくらいに強くなるから!」

 

 それを聞いた響は、未来とツナの手をつかむ。

 

「小日向未来は、私にとっての『ひだまり』で、沢田綱吉は、私にとっての『おおぞら』なの!二人の側がいちばーん暖かいところで、私が絶対に帰ってくるところ!これまでもそうだし、これからもそう!だから私は絶対に帰ってくる!」

「響…」

「一緒に流れ星を見る約束、まだだしね!」

「うん!」

「…俺の場合、響の帰ってくる場所じゃなくて、響の側にいて、守り続ける存在が近いんじゃないかな?」

「たしかにそうだね!じゃあ行ってくるよ!」

 

 響はそう言って走っていく。そんな彼女の後ろ姿を心配そうに見る未来の肩に、ツナが手を置く。

 

「大丈夫…響が本当に危険な状況になったら、死ぬ気でアイツのことを助けるから」

「ツナ…」

「それじゃ、行ってきます!」

 

 そう言って響の後を追った…

 

 

 

 

 

 

 二人が現場に向かっていると、弦十郎から連絡が入り、四体が向かっている方向には東京スカイタワーがあると伝えられる。

 

『カ・ディンギルが塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさにそのものじゃないでしょうか!』

『…スカイタワーには、俺たち二課が活動時に使用している、映像や交信といった電波情報を、統括・制御する役割も備わっている』

『─ということは、これは罠だな』

 

 弦十郎の話を聞いたリボーンはそう答えを出す。

 

『だろうな…だが罠だとしても、ノイズは倒さなくてはならない…三人とも、東京スカイタワーに急行だ!』

 

 弦十郎から命令が下る。

 

「スカイタワー…でも、ここからじゃ…」

「オレ一人でなら、ハイパーモードですぐにつくけど、響を抱えてとなると…」

 

 二人がどうしようか考えていると、上空からヘリが近づいてくる。

 

『なんともならないことを何とかするのが、俺たちの仕事だ!』

 

 二人はそのヘリに乗りスカイタワーに向かう。

 ヘリが現場に近づくと、大型のノイズから多種多彩のノイズが大量に現れていた。おそらく今回の大型ノイズは、輸送機のような役割も備わっているのだろう。

 二人はヘリの扉を開け、響は飛び降りる準備をし、ツナはミトンをつける。そしてヘリが大型ノイズ─空中要塞型ノイズの真上に来ると、響は飛び降り、ツナは─残り三つとなった死ぬ気丸を一つ飲み、ハイパーモードで飛び降り響の横につく。

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

 

 響はシンフォギアを纏うと、腕のハンマーパーツを引き絞り空中要塞型ノイズに降下していく。そしてツナもナッツを『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』に形態変化させ降下していく。

 

「何故どうして? 広い世界の中で」

「ビッグバンアクセル!!!」

 

 歌によって強化されたハンマーパーツと炎を纏った拳が叩き込まれ、風穴が開き爆散する。

 すると翼がバイクに乗って現れシンフォギアを纏う。

 

蒼ノ一閃

 

 翼が放ったエネルギー刃は空中要塞型ノイズに向かっていき、直線上にいた鳥型ノイズを倒していくが、後少しのところで消滅する。

 翼さんで地面に降り立つと、ツナと響が合流する。

 

「相手に頭上をとられる事が、こうも立ち回りにくいとは!」

「ヘリを使って私たちも空から!」

 

 だが、ヘリはノイズに襲われ爆発する。

 

「クッ!」

「そんな…」

「よくも!」

 

 そんな三人に鳥型ノイズが攻撃を行ってくる。

 三人は攻撃を回避しつつ、襲ってくるノイズを倒すが空中要塞型ノイズから新たなノイズが投下される。

 

「空飛ぶノイズ…どうすれば…」

「臆するな立花!『防人』が後ずされば、それだけ戦線が後退するということだ!沢田!二年前のライブでノイズを消滅させたあの技は使えるか!」

「できはするが、あれを使うには剛の炎をチャージしつつも姿勢を維持しなければいけない。もしチャージ中に鳥型が襲ってくると、姿勢を維持することができない!」

 

 そんな三人に鳥型ノイズの群れが向かってくるが、銃撃によって撃ち落とされる。

 音が聞こえた方を向くと、シンフォギアを纏ったクリスがアームドギアを構えていた。

 

「クリス!」

「こいつがピーチクパーチクやかましいから、ちょっと出張ってみただけ…それに勘違いするなよ!お前達の助っ人になったつもりはねぇ!」

『助っ人だ!少々到着が遅くなったかもしれないがな』

 

 クリスは弦十郎の言葉に顔を赤くする。

 

「助っ人?」

『そうだ!第2号聖遺物《イチイバル》のシンフォギアを纏う戦士、雪音クリスだ!』

「クリスちゃーん!ありがとう!絶対に分かり会えるって信じてた!」

「このバカ!あたしの話を聞いてねぇのかよ!」

 

 響がクリスに抱きつき、クリスは通信機を放り投げ響を引き剥がそうとする。そこにツナと翼が近付く。

 

「とにかく今は、連携してノイズを…」

「勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんなよな!」

 

「傷ごとエグれば 忘れられるってコトだろ?」

 

 クリスは響を引き剥がすと弓型のアームドギアを構え鳥型ノイズを撃ち落としていく。

 

「空中のノイズはあの子に任せて、私たちは地上のノイズを!」

「は、はい!」

「ならオレは地上と空中、両方の対処をする」

 

 三人は散らばってそれぞれのやり方でノイズを殲滅していく。だが、途中で翼とクリスがぶつかってしまう。

 

「何しやがる!すっこんでな!」

「あなたこそいい加減にして!一人で戦っているつもり?」

「あたしはいつだって一人だ!こちとら仲間と馴れ合ったつもりはこれっぽっちもねぇよ!」

 

 それを聞いた翼は顔をしかめる。

 

「確かにあたし達が争う理由なんて無いのかもな…だからって、争わない理由もあるものかよ!こないだまで殺りあってたんだぞ!そんな簡単に、人と人が─」

 

 クリスがそう言っていると、彼女の手を響が握る。

 

「出来るよ!誰とだって仲良くなれる!」

 

 そういって翼の手をとる。

 

「どうして私にはアームドギアがないんだろうって、ずっと考えてた…いつまでも半人前はやだなぁ~って。でも、今は思わない!何もこの手に握ってないから、二人とこうして手を握りあえる─仲良くなれるからね!」

「立花…」

「お前らしい想いだな」

 

 ツナが響達の元に降りてくる。

 

「あ!ごめんツナ!今、私の両手塞がっちゃってて…」

「なら、こうすればいい」

 

 そういって翼とクリスの手を握る。

 

「このバカにあてられたのか!?」

「そうかもな…それは翼やクリスも同じことだろう─世の中には、話し合いで解決できないこともあるし、分かりあおうとしても理解しあえない人もいる…でも、こうやって手を握ることができる仲間がいる!オレにとって仲間は誇りで、皆と過ごす時間は何事にも変えられない宝物だ…だから、オレは仲間を信じる!そして仲間が困っていたら助ける!それが、オレの覚悟だ!」

 

 するとツナの全身から炎が吹き出し、手をつたって三人を包み込む。

 

(気持ちいい…まるで綺麗に晴れた空の下で寝そべってるみたい…)

(この感じ、あの少女が私を包んだ時と同じ…)

(心が、癒されている…?まるで、あたしの全てを包み込むような…)

 

 三人がツナの炎を感じていると、四人の真上を空中要塞型ノイズが通る。

 

「親玉を殺らないと、きりがないっ」

「だったら、あたしに考えがある…あたしでなきゃできないことが!」

 

 それを聞いた三人はクリスに注目する。

 

「イチイバルの特性は、長射程広域攻撃…派手にぶっぱなしてやる!」

「まさか、絶唱をっ!」

「バーカ!あたしの命は安物じゃねぇ!」

「ならばどうやって…」

「ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえ、行き場の無くなったエネルギーを臨界まで溜め込み、一気に解き放ってやる!」

「だがチャージ中は丸裸も同然…これだけの数を相手にする状況では、危険すぎる!」

「そうですね…だけど」

『「俺」「私」達がクリス「ちゃん」を守ればいいだけのこと「だ」!』

 

 そういってクリス以外の三人は周囲のノイズを倒しにいく。

 

(頼まれてもいないことを…あたしも引き下がれないじゃねぇか!)

 

「なんでなんだろ?心が グシャグシャだったのに」

 

 クリスのアームドギアにエネルギーが蓄積されていく。

 

(誰も、繋ぎ繋がる手を持っている!私の戦いは、誰かと手を繋ぐこと!)

(砕いて壊すも、束ねて繋ぐも力!立花らしいアームドギアだ!)

(もし、響の願いを壊そうとするやつがいるのなら…オレは命にかえてでも、響の夢を守り抜く!)

 

「ぶっ放せ!」

 

『託した!』

 

「激昂、制裁、鼓動! 全部」

 

 ガトリングガンと腰部ミサイル射出器の展開にくわえ、背部にアウトリガーも備える大型ミサイルを左右に各2基、計4基を連装する射出器を形成、ギア自体を地面に固定する形で射撃体勢を取り、腰部射出器には小型ミサイル弾体を多数内蔵する三角柱状ポッドが連装される。

 

「嗚呼ッ二度と…二度と! 迷わない」

MEGA DETH QUARTET

 

 全火器の一斉掃射によって空中にいた鳥型ノイズが殲滅されていき、大型ミサイルによって空中要塞型ノイズも倒されるーーが

 

「チッ!一匹残りやがった!」

 

 そしてクリスが再びエネルギーをためようとすると

 

「いや、十分だ─あいつはオレに任せろ」

 

 ツナはそういって飛んでいき、自分とノイズの直線上に東京スカイタワーが入らないところまでいくと、右手を後ろに向け、左手を顔の前まで持ってくる。

 

「オペレーションX(イクス)

『了解シマシタ ボス X-BURNER(イクスバーナー) 発射シークエンスヲ 開始シマス』

 

 ヘッドフォンからアナウンスが流れる。

 ツナが右手から放射している柔の炎の炎圧をあげ、左手に炎をチャージしていく。それにあわせてツナのつけているコンタクトディスプレイのゲージが動き、中央付近を丸い的が動き回る。

 

『ライトバーナー 柔ノ炎 15万FV(フィアンマ・ボルテージ)デ固定 レフトバーナー 柔カラ剛ニ変換シツツ 炎エネルギーヲ グローブクリスタル内ニ 充填』

 

 ツナが放つ炎圧にあわせてアナウンスが流れ、的がディスプレイの中央と空中要塞型ノイズに重なる。

 

『ターゲット ロック ライトバーナー 炎圧再上昇』

 

 右手から放出されている炎が大きくなっていく。

 

『18万…19万…20万FV!!レフトバーナー 炎圧上昇』

 

 体を支える柔の炎の炎圧が規定値に達し、右手の炎圧も上昇していく。

 

『19万…20万FV!』

 

 ディスプレイの中央に『X』の文字が浮かび上がる。

 

『ゲージシンメトリー!発射スタンバイ!』

 

 そして左手を前に突き出し─

 

 

 

 

 

 

「X-BURNER!!!」

 

 

 

 

 

 

 左手にチャージされていた炎が一気に放出され空中要塞型ノイズを飲み込んでいく。

 ノイズは強力な炎と大空の『調和』によって身体が崩壊していく。そして炎が落ち着くと、空中要塞型ノイズは灰すら残さず消え去っていた。

 

「やったやったー!」

「やめろバカ、何しやがるんだ!」

 

 翼と響はクリスの元に集まり、響はクリスに抱きつき、クリスが響を引き剥がす。すると三人のシンフォギアが解け、ツナも彼女達の元に降りてくる。

 

「勝てたのはクリスちゃんのお陰だよ!」

「だからやめろといってるだろうが!それに、最後の一体はあいつが倒してたじゃねぇか!」

「いや、響の言うとおり、クリスのお陰で勝てたんだ。クリスが鳥型ノイズを全て倒してくれたから、あれを撃てたんだ。ありがとうクリス」

 

 ツナは死ぬ気を解きながら、そういって優しく微笑む。

 

「─っ!いいか!お前達の仲間になった覚えはない!あたしはただ、フィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!」

「夢?クリスちゃんの!?どんな夢!聞かせてよー!」

「うるさいバカ!お前本当のバカ!」

 

 響が再びクリスに抱きつくが、すぐに引き剥がされる。ツナはその光景を見て苦笑いしていると、響の携帯がなり始める。

 

「はい…」

『響!学校が、リディアンがノイズに襲われ─』

 

 話の途中で電話が切れる。携帯からは、切断音だけが鳴り続けていた…




覚悟やらは自分の独自解釈です。
さて、今週で終わらせれるかな…?


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標的(ターゲット)17 月を穿つ光

今回はツナと響達メインなので文章は少ないです。


 辺りが暗くなるなか、ツナと響達がリディアンにつくと、校舎や広場はボロボロになっていた。

 

「未来…未来ー!皆ー!」

 

 響が叫ぶがなにも戻ってこない。響は足の力が抜けたように座り込む。

 

「リディアンが─っ!」

 

 翼が気配を感じ上を見ると、壊れた校舎の屋上に了子が立っていた。

 

「櫻井女史…?」

「フィーネっ!お前の仕業か!」

 

 クリスがそう叫ぶと、了子が笑い出す。

 

「やっぱり、あなたがフィーネだったんだ…っ!」

「やはり、あなたは気づいていたようね…本当にすごい力ね、あなたの超直感とやらは」

 

 了子はそういって眼鏡をはずし、髪をほどくと光に包まれる。そして了子の姿が変化し、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネに変貌する。

 

「嘘ですよね…?そんなの嘘ですよね!?だって了子さん、私を守ってくれました!」

「あれはデュランダルを守っただけのこと…希少な完全状態の聖遺物だからね」

「嘘ですよ…了子さんがフィーネというのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

「櫻井了子の肉体は、先だって食いつくされた…いや、意識は12年前に死んだといっていい」

 

 フィーネは自分の正体、そしてどうして覚醒したのかについて話す。

 

『つまり、本来その身にいたはずの櫻井了子の意識を食らって、フィーネ(お前)がその体を乗っ取ったって訳か』

「乗っ取るだなんて下品な言われ方されたくないわ…塗り潰した、とでも言ってくれないかしら?」

「あなたが、了子さんを塗りつぶして…」

「まるで、過去からよみがえる亡霊…!」

 

 それを聞いたフィーネは笑いだし、これまで歴史上で起こった技術の大きな転換期に立ち会った全ての人物が自分(フィーネ)であることを話す。

 

「シンフォギアシステム!」

「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための、副次品にすぎぬ」

「お前の戯れに、奏は命を散らせようとしたのか!」

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!」

「そう!全てはカ・ディンギルのため!」

 

 すると、地面から巨大な塔が現れる。

 

「あの模様、エレベーターを降りてる時に見た…!」

(あの時感じた嫌な予感は、この事だったのか!)

「これこそが、地より屹立し、天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲─『カ・ディンギル』!」

「こいつで、バラバラになった世界が一つになると!?」

「あぁ、今宵の月を穿つことによってな!」

「月を!?」

『それで月を破壊し、全ての人間の言語を統一化させようって訳か…』

「獄寺くん!」

 

 ヘッドフォンから、獄寺が写し出される。

 

『先ほどカ・ディンギルについては話しましたが、バベルの塔については話していませんでしたよね…バベルの塔は、旧約聖書の「創世記」中に登場する巨大な塔で、人間が神に挑戦するために建てた塔と言われていますが、聖書のとあるページには、神が降臨してバベルの塔を見ると「人間は言葉が同じなため、このようなことを始めた。人々の言語を乱し、通じない違う言葉を話させるようにしよう」と言った、という意味の言葉が書かれていて、「人類が塔をつくり神に挑戦しようとしたので、神は塔を崩した」という解釈が一般に流布しています』

 

 獄寺はカ・ディンギルの方を向く。

 

『その話から考えるに、そちらの世界の人間は過去に一度、バベルの塔を作ろうとしたが、それを神に破壊された挙げ句、呪いによって共通言語が封印され人々の言語がバラバラになったんでしょう。そして呪いを解くとする場合、呪いである「バラル」の源は、10代目達が天を見上げたらある存在─月だということです!』

「あら、賢いのね?…そうよ。あなたの言う通り、月こそが『バラル』の呪詛の象徴…あのお方の怒りを買い、雷帝に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる…果てしなき罰、『バラル』の呪詛をかけられてしまったのだ…私はただ、あのお方と並びたかった…そのために、あのお方へと届く塔を建てようとした…だがあのお方は、人の身が同じ高みになることを、許しはしなかった」

 

 フィーネが月を見上げる。

 

「人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊することで解いてくれる!そして再び、世界を一つに束ねる…!」

 

 カ・ディンギルにエネルギーがチャージされ始める。

 

「呪いを解く…?それは、お前が世界を支配するってことなのか!?…安い、安さが爆発しすぎてる!」

「永遠を生きる私が、余人に歩みを止められるなどあり得ぬ」

「─それは、試してみないと分からないぜ?」

 

 三人が振り向くと、ツナはすでにハイパーモードになり、臨戦態勢になっていた。

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

《Killiter Ichaival tron…》

 

 響達もシンフォギアを纏い臨戦態勢に入る。

 

「死ぬ気でお前を止める!」

「やれるものならな!」

 

「疑問…?愚問!衝動インスパイア 6感で感じてみな」

 

 四人はフィーネに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来は現在、とある部屋に避難していた。

 部屋のなかには、彼女のクラスメートである安藤創世、寺島詩織、板場弓美の三人と、藤尭、友里、そしてフィーネと戦った際に怪我をした弦十郎がいた。

 

「モニターの再接続完了!こちらから操作できそうです!」

 

 モニターには、カ・ディンギルと、フィーネと戦っているツナ達の姿が映された。

 

「響、ツナ!それに、あの時のクリスも…」

 

 未来のクラスメート三人が響が戦っていることに驚いていると、フィーネが写し出される。

 

「これが…」

「了子さん…?」

 

 弦十郎から話を聞いていた二人は了子の正体に声をなくす。

 

「どうなってんの…?こんなのまるでアニメじゃない…っ」

「ヒナ(小日向)はビッキー(響)のこと知ってたの?」

「…ごめん」

 

 未来は顔を伏せながら謝った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉ!」

 

MEGA DETH PARTY

 

 クリスが大量のミサイルを放つが、フィーネはそれを鞭の一振りで撃墜する。

 煙の中から響と翼が現れ、響が攻撃を仕掛けるがかわされ、翼は刀で斬りかかるが防がれ、逆に刀を絡めとられ遠くに投げられる。

 翼はフィーネの攻撃をかわし脚部の刃で斬りかかるが、それも鞭で防がれる。すると、フィーネの横に響が現れ殴りかかる。

 フィーネはそれを腕で防ぎ後ろに下がる。

 

「オレのことも忘れるな」

 

 するとフィーネの真後ろにツナが現れ手刀を当てようとしてくる。

 フィーネはそれをギリギリでかわすが、ツナは一瞬でフィーネの目の前に移動し全力で殴り付ける。フィーネはそれを何とか両腕で防ぐが、後ろに吹き飛ばされる。

 

「本命は、こっちだ!」

 

 そういってクリスが大型ミサイルを放つ。だが、フィーネはそのミサイルを巧みに避けていく。

 

「スナイプ─デストロイ!」

 

 クリスは残ったもう一つをカ・ディンギルに向け撃ち放つ。

 

「させるか!」

 

 フィーネはカ・ディンギルに向かっていたミサイルを鞭で撃墜する。だが、それと同時にもう一つのミサイルを見失う。

 

「もう一発は─っ!」

 

 フィーネが上を見上げると、もう一つのミサイルはクリスがしがみつき、空高く上っていた。

 

「「クリス!?」ちゃん!?」

「何のつもりだ!」

「チッ…だが、足掻いたところで所詮は玩具!カ・ディンギルの発射を止めることなど…!」

 

 

 

 

 

 

《Gatrandis babel ziggurat edenal─》

 

 

 

 

 

 

 空からクリスの歌声が聞こえた。

 

「これは、まさか!」

「絶唱!?」

「クリス!」

 

 ツナはすぐにクリスのあとを追い飛んでいく。

 クリスがミサイルから離れると、腰部アーマーからエネルギーリフレクターを展開される。そしてクリスが二丁の銃型のアームドギアを出し左右に撃つと、弾がリフレクターによって反射・増幅していく。そして両手に持っていたアームドギアをつき出すと、大型レーザー砲に変形させエネルギーを収束させていく。

 そしてカ・ディンギルが放たれると同時にクリスもレーザー砲を放つ。

 

「グアッ!」

 

 ツナは二つの強力なエネルギーのぶつかり合いによる衝撃で地上に向けて吹き飛ばされる。

 

「一点収束!?押し止めているだと!」

 

 これにはフィーネも驚くが、一時するとクリスのアームドギアにヒビが入り始める。

 

(ずっとあたしは、パパとママのことが─大好きだった!だから、二人の夢を引き継ぐんだ!)

 

 そしてついにはシンフォギアのアーマーにもヒビが入る。

 

(パパとママの代わりに、歌で平和を掴んで見せる!)

 

 均衡していた二つのエネルギーも、カ・ディンギルが徐々にクリスのレーザーを押し縮めていく。

 

 

 

 

 

 

(あたしの歌は、そのために─)

「クリスー!!」

 

 

 

 

 

 

 そしてクリスは、カ・ディンギルの光に飲み込まれる。

 カ・ディンギルのレーザーはそのまま月まで届いたが、一部を破壊するだけにとどまった。

 

「し損ねた!?わずかに逸らされただと!?」

 

 フィーネがまたもや驚くなか、クリスが地上に落ちてくる。

 ツナは、すぐに空中でクリスを抱きかかえた。クリスの体はボロボロになり、口から血を流し眠るように目を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

二人の叫びが、ボロボロになったリディアンに響き渡った…




うわー…何か今回、今まで書いた回の中で一番文字数少ない気がする。


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標的(ターゲット)18 SYMPHOGEAR

何とかできました。
やっぱり他の人が作ったキャラのセリフとかを自分で考えようとすると難しいっすよね…


(さよならもいわずに別れて、それっきりだったのよ!なのにどうして…!)

 

 クリスが落ちていく姿を映像越しで見ていた未来は、口元を押さえるように手を添える。

 

(お前の夢、そこにあったのかっ!そうまでしてお前が、まだ夢の途中というのなら、俺達はどこまで無力なんだ…!)

 

 そして弦十郎は、クリスが散っていく姿を見て無力さを痛感していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪音…」

 

 翼はツナに抱きかかえられても反応しないクリスを見て愕然とし、響は泣きながらへたれこむ。

 

「そんな…せっかく仲良くなれたのに…こんなの、嫌だよ…嘘だよ…!」

 

ドクン

 

「もっとたくさん話したかった…話さないと喧嘩することも、今よりもっと仲良くなることも出来ないんだよぉ!」

 

ドクン

 

「クリスちゃん、夢があるって…でも、私クリスちゃんの夢聞けてないままだよ?」

「自分を殺して月への直撃を阻止したか…ハッ!無駄なことを!」

 

 フィーネがそういっていると、ツナはゆっくり地上に降り、クリスを地面に優しく寝かせる。

 

「見た夢も叶えられないとは、とんだグズだな」

 

ドクン

 

「─笑ったか…命を燃やして、大切なことを守り抜くことを…お前は無駄とせせら笑ったか!」

 

 翼はそういってフィーネに刀を向ける。フィーネはその姿を余裕の表情で見ていた…

 

 

 

 

 

 

「ガッ!?」

 

 

 

 

 

 

 だが、一瞬にしてフィーネの目の前に現れたツナが彼女の顔を思いっきり殴り飛ばす。

 

「─ふざけるなよ…お前が、お前みたいな人の命を何とも思ってない奴が!お前のふざけた野望を止めるために命を張ったクリスをバカにするな!!」

「…ふざけた、だとっ?貴様に何が分かる!」

「…確かに、俺はなぜお前がこんなことをするのかなんて分からない…だが、そのやり方で誰かが傷つくのなら、俺はそんなやり方は認めない!」

 

 フィーネにそう啖呵をきったツナだったが、嫌な気配を感じ響の方を向く。

 

「ソレガ、夢ヲ命ゴト握リ潰シタ奴ガ言イウコトカァッ!」

 

 すると、響は狂気に飲み込まれ暴走状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響…」

「あれ、本当にビッキーなの?」

 

 避難部屋でその様子を見ていたほとんどが、狂気に飲まれた響を見て言葉を失っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響!」

「立花!おい立花!」

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ…制御できない力に、やがて意識が塗り固められていく…」

 

 それを聞いた二人は、以前了子が話していたことを思い出す。

 

「まさかおまえ、立花を使って実験を!」

「実験を行っていたのは立花だけではない…見てみたいとは思わんか?ガングニールに翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を!」

「お前はそのつもりで立花を、奏を!」

「…お前は、人の命をどこまでバカにしたら気がすむんだ!!」

 

 二人が怒りを露にしていると、響が動き出そうとする。

 

「くっ!」

 

 それに気づいたツナが響の背後に回り込み羽交い締めする。

 

「響!目を覚ませ!」

 

 ツナが必死に呼び掛けるが、彼女には届かない。そして響は、ガングニールの暴走によって強化された力でツナの拘束を剥がすと、ツナの腹に容赦のない一撃をかます。

 

「カハッ!」

 

 ツナは殴られた勢いで吹き飛び、瓦礫を破壊しながら地面を数回バウンドし、離れた位置にあった大きめな瓦礫に叩きつけられる。

 

「沢田!」

 

 ツナは意識を失い、額の炎が消えガントレットも手袋の状態に戻り地面に倒れこむ。

 そして響はフィーネに襲いかかる。フィーネが響の一撃を防ぐと、衝撃で近くの瓦礫が吹き飛ぶ。そして響が追撃をしようとするが、フィーネは鞭で響ごと吹き飛ばす。

 

「立花!」

「もはや、人にあらず…今や人の形をした破壊衝動!」

 

 響は四つん這いでフィーネに襲いかかる。

 するとフィーネは、肩部の鞭状突起を伸ばして陣を組みバリアを展開する。

 

ASGARD

 

 それによって攻撃が防がれるが、響は力づくでそのバリアを破壊し殴りかかる。

 衝撃により砂煙がたち、煙が晴れるとフィーネは頭から腹部まで真っ二つになっていたが、目と口が動き生存していることが確認される。

 フィーネの近くに響が着地する。

 

「もうよせ立花!これ以上は、聖遺物との融合を促進させるばかりだ!」

 

 すると響は翼の方に振り返り、今度は翼に襲いかかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしちゃったの響!?もとに戻って!」

 

 未来は声が届かないなか必死に訴える。

 

「もう終わりだよ、私たち…」

「え?」

「学院がめちゃめちゃになって、響もおかしくなって…」

「終わりじゃない!響だって、私たちを守るために─」

「あれが私たちを守る姿なの!?」

 

 モニターには、獣のように威嚇する響が写っていた。それを見た未来達のクラスメートは恐怖する。

 

「私は響を信じる」

 

 だが、未来だけはその姿をじっと見てそういう。

 

「─私だって響を信じたいよ…この状況を何とかなるって信じたいっ…でも、でも!」

 

 弓美は涙を流しながらその場にへたれこむ。

 

「もう嫌だよ!誰か何とかしてよ!怖いよ…死にたくないよぉ!助けてよ響!」

 

 泣きながら悲鳴をあげた…

 

 

 

 

 

 

「落ち着いてください」

 

 

 

 

 

 

 すると、彼女の肩に優しく手がおかれる。

 弓美が後ろを向くと、左目の下に五弁花のマークがある、自分達より一、二才ほど若いと思われる少女が微笑んでいた。

 

「大丈夫です…あなた達は死にません。必ず、あの人達が守ってくれます…あの人達は、大切な誰かを守るために、傷付きながらも戦っているんですから…」

 

 その少女はモニターに写っている響とツナを見ながらそういった。

 

「あなたはいったい…」

「いたいた!探したよ?」

 

 すると入口付近に白い髪と白をメインとした服装、そして左の目の下に入っている三つ爪が印象的な男性が現れる。

 

「まったく、いきなりどっか行っちゃうんだから!ホント、おてんばさんだね♪」

「ふふっ!それはあなたも同じでしょう?」

 

 少女は微笑みながら、男の元に歩いていく。

 

「あ、一つ伝え忘れていました!」

 

 少女はそういって振り返る。

 

「奇跡は一人で起こすことはできません。多くの人が手を取り合うことで、起こすことが出来るものです」

「あの、あなた達は…」

「んー、そうだなぁ…君の親友のお友達、とでも名乗っておくよ♪」

 

 男がそういうと、二人は避難部屋から離れていく。未来は詳しく話を聞こうと部屋の外に出ると

 

「いない…?」

 

 先ほどまでいた二人はどこかに消えてしまっていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

 ツナの意識が戻る。だが、先ほどの攻撃が響いているのか、立ち上がることが出来ない。

 ツナは響がどうなったのか確認するため何とか顔を動かすと、視界にはボロボロになった翼と、彼女に威嚇する響、そしてネフシュタンの力で怪我を治しているフィーネが写った。

 するとカ・ディンギルが再び輝きだす。

 

「まさか!?」

「そう驚くな…カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば、兵器としては欠陥品…必要がある限り何発でも撃ち放てる!」

 

 そのためにエネルギーの源にデュランダルを使っていると話す。

 

「だが、お前を倒せばカ・ディンギルを動かすものはいなくなる!」

 

 翼が刀をフィーネに向ける。だが翼の前には暴走している響が立ちはだかっている。

 カ・ディンギルにエネルギーが再充填されていく。

 

「立花…私はカ・ディンギルを止める!だから─」

 

 響が翼に襲いかかる。すると翼は、刀を地面に刺し響の攻撃を受け止める。

 

 

 

 

 

 

 

 翼の体に無慈悲な拳が突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 翼は響の攻撃を受け止めると、彼女を抱きよせた。そして翼の血がついた響の手をつかむ。

 

「これは、束ねて繋げる力のはずだろ?」

 

 そういうと、脚部のアーマーから小刀を取り出し響の影に刺す。

 

影縫い

 

 翼は響の動きを止めると、地面に刺してあった刀を引き抜く。

 

「立花…奏から継いだ力を、そんな風に使わないでくれ…」

 

 それを聞いた響の目からは涙が溢れていた。そして翼はツナの方を向く。

 

(立花のこと、頼んだぞ…)

 

 ツナは翼の顔を見て、彼女が何を思っていたのかを直感で理解する。

 翼はフィーネの方に歩みを進める。

 

「─またせたな」

「どこまでも『剣』ということか…」

「…今日に折れて死んでも、明日に人として歌うために…風鳴翼が歌うのは、戦場ばかりでないと知れ!」

「人の世界が『剣』を受け入れることなど、ありはしない!」

 

 フィーネの鞭が翼に襲いかかる。

 

「颯を射る如き刃 麗しきは千の花」

 

 翼は鞭をかわすと、刀を大剣に変化させる。

 

蒼ノ一閃

 

 エネルギー刃を放つが、それは鞭によって防がれる。

 翼が地面に着地すると、すぐにフィーネは鞭を振るうがそれを回避しフィーネに迫り大剣を振るい、フィーネを吹き飛ばしカ・ディンギルに叩きつける。

 

「去りなさい!夢想に猛る炎 神楽の風に滅し散華せよ」

 

 翼が大剣を刀に戻し空中に投げると、アームドギアが先ほどよりもさらに大きな刃に変形する。

 

天ノ逆鱗

 

 翼はその刃ごとフィーネに突貫していく。だが、それはフィーネが展開したバリアによって防がれる。

 

「翼、さんっ…」

 

 ツナは地面を這いながら、ゆっくり響の元に近づこうとする。

 

「四の五の言わずに 否、世の飛沫と果てよ」

 

 翼は防がれた刃を足場にし飛び上がり、両手に携えた直剣のアームドギアから火炎を放出しカ・ディンギルに突貫していく。

 

炎鳥極翔斬

 

「初めから狙いはカ・ディンギルか!」

 

 だが、フィーネが鞭を振るい、翼を打ち落とす。

 

(やはり、私ではっ)

『何弱気なこと言ってんだ!』

「奏…!」

『翼…あたしとあんた、二人揃ったツヴァイウィングなら、どこまでも遠くに飛んでいける!』

(そう…両翼揃ったツヴァイウィングなら…!)

 

 翼はアームドギアから再び炎を放出し、カ・ディンギルの頂上に突貫していく。

 

(どんなものでも、越えてみせる!)

「沢田!立花ぁ!」

 

 翼はフィーネの攻撃をかわしながら、自身を青い火の鳥と化して突貫していき…

 

「翼さんっ!」

 

 翼の決死の突貫で、カ・ディンギルは爆発し破壊された。

 

「私の想いは、またも…っ」

 

 フィーネがカ・ディンギルが爆発する様を見て目を見開くなか、翼が刺していた小刀が消滅すると響のシンフォギアも解除される。

 

「翼さん…」

 

 響は泣きながらその場にへたれこむ。

 

 

 

 

 

 

「天羽々斬…反応途絶っ」

「身命を賭してカ・ディンギルを破壊したか、翼…お前の歌、世界に届いたぞっ…世界を守りきったぞ…っ!」

 

 モニター越しで翼の戦いを見ていた弦十郎は、拳を強く握りしめながらそういった…

 

 

 

 

 

 

「どこまでも忌々しい!月の破壊は、『バラル』の呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす!惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、うろたえ、そして聖遺物のふるう私の元に帰順するはずであった!痛みだけが、人の心を繋ぐ絆!たった一つの真実なのに…!それを…それをお前は…お前達は!」

 

 フィーネはそういって、心が折れた響を容赦なく蹴りあげる。

 

「まあ、それでもお前は役に立ったよ…生体と聖遺物の初の融合症例…お前という先例がいたからこそ、私は己が身をネフシュタンの鎧と同化することが出来たのだからな」

 

 フィーネは響の頭を掴み、放り投げようとする。すると

 

「ん?」

「やめ、ろ…」

 

 いつの間にかフィーネの足元まで来ていたツナが彼女の足を掴んでいた。

 

「お前みたいな奴が、私の邪魔をするな!」

「ガッ!」

 

 フィーネはそういってツナを後ろに蹴りあげと、響を放り投げた。

 

『なに情けねぇ面してんだダメツナ』

 

 フィーネが響の元に向かっているなか、ツナのヘッドフォンからリボーンの声が聞こえる。

 

「…守れなかった…クリスも、翼さんも…絶対に守るって言ったのに…!」

 

 ツナはそういって地面を強く叩く。

 

『─お前の知っている二人は、あの程度で死ぬような奴らなのか?』

「え…?」

『お前が知っている雪音クリスと風鳴翼は、あんな攻撃で死ぬようなやわな鍛え方をしていたのかって聞いてんだ。それにお前…未来とした約束、忘れたのか?』

 

 ツナはリボーンの言葉を聞いて、響とスカイタワーに向かう時に未来に言ったことを思い出す。

 

『響が本当に危険な状況になったら、死ぬ気でアイツのことを助けるから』

「そうだ…俺は、未来と約束したんだ…響が危なくなったら、助けるって…」

 

 そういってゆっくり立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

「それに、俺が知っている二人はそんな簡単に死ぬような奴らじゃない!…それに、未来だけじゃなく、翼さんにも響のことを頼まれたんだ…だから、俺は死ぬ気で響を助ける!響を助けられなかったら─オレは死んでも死にきれない!」

 

 

 

 

 

 

 ツナの額に再び炎が灯り、手袋がガントレットに変化しハイパーモードになる。

 響に止めを刺そうとしていたフィーネは、ツナが()()()()でハイパーモードになったことに驚いていると、どこからか音が聞こえる。

 

「っ!耳障りな!何が聞こえている!」

(これは…歌?)

 

 フィーネがいきなり聞こえてきた音を不快に思っている中、ツナはその音が歌声であることに気づく。

 音は近くのスピーカーから流れていて、その歌の正体は、未来や彼女達のクラスメート、地下に避難していた学生達が通っていたリディアンの校歌だった。

 

「なんだこれは!」

 

 フィーネが音源を探そうと辺りを見渡す。

 

(響、ツナ…私達は無事だよ!響達が帰ってくるのを待っている!だから、負けないで!)

 

 未来は歌いながら、そう祈っていた。

 

「どこから聞こえてくる、この不快な─歌!…歌、だと!?」

「─聞こえる…皆の声が…」

 

 いつの間にか朝になり、太陽が山から登り始める。

 

「よかった…私を支えてくれてる皆は、いつだってそばに…皆が歌ってるんだ…だから、まだ歌える。頑張れる!戦える!!」

 

 響の体を守るように二つの光の輪が現れ、その衝撃でフィーネが後ろに飛ばされる。そんなフィーネを横目でみながら、響はゆっくりと立ち上がる。

 

「まだ戦えるだと!?何を支えに立ち上がる!何を握って力と変える!鳴り渡る不快な歌の仕業か…?そうだ、お前が纏っているものはなんだ?心は確かに折り砕いたはず…なのに、何を纏っている!?それは私が作ったものか!?お前が纏うそれは一体なんだ!?なんなのだ!?」

 

 

 

 

 

 

 三つの光の柱が空高く昇る。

 

 

 

 

 

 

「シンフォギアァァァァァ!」

 

 

 

 

 

 

 そして光の柱が消えると、柱がたっていた場所から三人の人物─響、翼、クリスが、白を基調としたカラーリングのシンフォギアを纏い、翼を生やして天高く飛翔した…




次回、ついに一期終わります。
どうにか主人公であるツナも活躍させなければ…!


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標的(ターゲット)19 流れ星、墜ちて燃え尽きて、そして…

何とか出来ました。
ついに一期最終回です!


「翼!クリス!」

 

 ツナは限定解除された状態─エクスドライブモードのシンフォギアを纏う三人の元に向かう。

 

「やっぱり生きてたのか…!」

「あったり前だろ?」

「あの程度で死ぬ程、『剣』としてやわな鍛え方はしてないさ」

 

 二人が生きていたことに喜ぶツナだったが、すぐに顔を伏せる。

 

「おいお前、いま『二人のことを助けられなかった』とか思ってるだろ」

「ウグッ!それは…」

「もしお前が絶唱中(あの時)に止めに来てたら、あたしは間違いなくぶん殴ってたぞ?」

「それに関しては、私も同意見だ」

 

 それを聞いたツナは、ハイパー時にしては珍しく苦笑いする。

 

「皆の歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる…クリスちゃんや翼さんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる!歌は、戦う力だけじゃない…命なんだ!」

「高レベルのフォニックゲイン…こいつは二年前の意趣返し…」

『んなことはどうでもいいんだよ!』

「念話までも…限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!」

 

 フィーネはソロモンの杖を使ってノイズを呼び出す。

 

『いい加減芸が乏しいんだよ!』

『世界の尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか!』

『ーーノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために作り上げた、自立兵器…』

『人が、人を殺すために…!?』

『バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな…そこからまろびいずる10年一度の偶然を、私は必然と変え、純粋に力と使役しているだけのこと』

『また訳のわかんねぇことを!』

 

 するといきなりノイズが飛んでくる。

 

「ハァァ!」

 

 だがそれは、ツナが作り出した炎の障壁で防がれ、ノイズ達は消滅する。

 

「墜ちろ!」

 

 するとフィーネはソロモンの杖にエネルギーを溜め、空中に撃ち放つ。

 放たれた光は全方位に拡散されると、光から大量のノイズが召喚され、街一つを飲み込むほどまで広がった。

 

「あちこちから…!」

「おっしゃあ!どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれる!」

 

 そういってクリスは一人、ノイズに向かって飛んでいく。

 

「翼さん…私、翼さんに…それにツナにも…」

「─どうでもいいことだ」

「え?」

「立花は、私の呼び掛けに答えてくれた…自分から戻ってくれた。自分の強さに、胸を張れ!」

「翼さん…!」

「オレも別に気にしていないさ…ちゃんとこうして、いつもの響に戻ってくれたからな」

「ツナ…!」

『一緒に戦うぞ!「響」「立花」!』

「─はい!」

 

 そして三人はクリスの後を追いノイズに向かっていく。

 

「ぎゅっとほら…怖くはない」

「わかったの…これが命」

「後悔は…したくはない」

『夢、ここから始まる…さあ世界に光を』

 

 響達はエクスドライブ状態になり飛躍的に上昇した力でノイズ達を圧倒していく。

 

(これは!?)

 

 そして響達と同じくノイズを倒していくツナは、すさまじい勢いで力が沸いてきていることに気づく。

 

(これは…響達の歌と、大空のリングが共鳴しているのか!)

 

 ツナが考える通り、響達のフォニックゲインに大空のリングが共鳴し、ツナ自身も強化されているのだ。

 

「オラオラァ!」

MEGA DETH PARTY

 

 小型ミサイルの代わりにホーミングレーザーで空中のノイズを撃ち抜いていく。

 

「やっさいもっさい!」

『すごい!乱れ撃ち!』

『全部狙い撃ってんだ!』

『だったら私が、乱れ撃ちだー!』

 

 響は繰り出した拳から直接エネルギーを射出して、大量のノイズを一気に殲滅していき、翼は空高く舞い上がり二体の空中要塞型に狙いをつける。

 

蒼ノ一閃

 

 放たれたエネルギー刃が貫通し、二体とも爆散する。

 そしてツナは高速で立ち回りノイズ達を殲滅していく。

 

「Xカノン!!!」

 

 放たれた炎の弾は、一発で大型ノイズの顔を吹き飛ばし、

 

「ナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ) 攻撃形態(モード・アタッコ)!『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』!!!」

 

「ビッグバンアクセル!!!」

 

 死ぬ気の炎を球状に収束した拳は一撃で数体の大型ノイズを吹き飛ばしていく。

 

「どんだけ出ようが、今さらノイズ!」

 

 四人があらかたノイズを倒しきり、クリスが自信満々にそう言うなか、翼がフィーネの方を見ると、彼女は自らの体にソロモンの杖を突き刺した。そしてフィーネの体から複数の手のようなものが現れ、ソロモンの杖に引っ付く。

 すると残っていたノイズ達がフィーネの元に集まりだし、さらに再びソロモンの杖から光が放たれ、光ごと彼女の元に向かう。

 

「ノイズに、取り込まれて…」

「そうじゃねぇ!アイツがノイズを取り込んでんだ!」

 

 クリスがそういうと、肉の柱のようなものが襲いかかり、四人は難なく回避する。

 

「来たれ、デュランダル!」

 

 フィーネはデュランダルも飲み込み、赤い竜のような存在ーー黙示録の赤き竜が生み出される。そして竜の先端から赤い光が放たれると、その光が通った場所が大爆発を起こす。

 

「街が!」

『逆さ鱗に触れたんだ…相応の覚悟は出来ておろうな?』

 

 四人が振り返ると、竜と一体化し、その手にデュランダルを携えたフィーネの姿があった。

 竜は再びレーザーを放ち、四人は何とかその攻撃をかわす。

 

「こんの!」

 

 クリスがフィーネに向けてレーザーを放つが、フィーネの周囲に障壁が現れ攻撃は防がれ、反撃を受けてしまう。

 

蒼ノ一閃

 

 翼がエネルギー刃を竜の頭に当てるが、少し欠ける程度でおさまる。

 

「ナッツ!」

「GURURURU…GAOOO!!!」

 

 そしてツナは、障壁の前まで移動するとナッツを呼び出す。そしてナッツが咆哮すると、障壁の一部が空気と調和され崩壊する。

 中にいたフィーネはその事に驚いたもののすぐに立ち直り、ツナが中に侵入するよりも早く障壁が修復され、レーザーによって竜から引き離される。その後も四人は攻撃を与えるものの、ダメージが入っている様子は一切ない。

 

「いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具!完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな!」

 

 フィーネが余裕の表情で叫ぶ。

 

『聞いたか!』

「チャンネルをオフにしろ!」

「もっぺんやるぞ!」

「しかし、そのためには…」

 

 ツナ、翼、クリスの三人が響の方を向く…

 

「─えっと…やってみます!」

 

 翼とクリスの考えを聞いた響が気合いをいれる。そして翼、クリス、ツナの三人はレーザーをかわしながら竜に迫る。

 

「私と雪音、沢田で露を払う!」

「手加減なしだぜ!」

『分かっ「た」「ている」!』

 

 ツナとクリスは竜に突貫していき、翼は刀を構え、さらに大きくさせる。

 

「ハァァ!」

蒼ノ一閃 滅破

「バーニングアクセル!!!」

 

 エネルギー刃と炎の拳によって爆発が起こり、障壁に穴が開く。そして、その穴からクリスが中に侵入しレーザーを周囲に乱射する。

 フィーネはレーザーの爆発によって発生した煙をはらうため障壁を開くと、目の前にはアームドギアを構えた翼と、右腕を付き出したツナが待ち構えていた。

 

「ハァァ!」

「Xカノン!!!」

 

 エネルギー刃と炎の弾が放たれ、フィーネはあわててシールドを展開するが、衝撃で彼女が持っていたデュランダルが吹き飛ばされる。

 

「そいつが切り札だ!」

 

 デュランダルは響に向かって飛んでいく。

 

「勝機を零すな!掴みとれ!」

「ちょっせい!」

 

 クリスが射撃でデュランダルの軌道を調整する。

 そして響がデュランダルを掴んだ。

 

「デュランダルを!」

 

響が再び狂気に飲み込まれ始める。

 

「正念場だ!踏ん張りどころだろうが!」

 

 響がその狂気に飲み込まれそうになっていると、近くのシェルターの壁が破壊され、弦十郎の声が聞こえる。

 響が声が聞こえた方向を見ると、弦十郎の他にも緒川、藤尭、友里の特機部二の三人と、彼女のクラスメートである安藤、寺島、板場の三人─そして響の親友である未来が彼女に必死に呼び掛けていた。

 

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

(皆…!)

 

 響の元にツナ達が降りてくる。

 

「屈するな立花!お前が考えた胸の覚悟、私に見せてくれ!」

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ!お前が自分を信じなくてどうすんだよ!」

「狂気に飲まれるな響!自分の意思を、覚悟を強く持て!」

 

 響は必死に狂気に抵抗する。

 

「あなたのお節介を!」

「あんたの人助けを!」

「今日は、あたし達が!」

「─姦しい!黙らせてやる!」

 

 クラスメートの三人が呼び掛けるなか、再生が終わったフィーネが響達に攻撃を与える。

 それにより、響の意識が狂気に飲み込まれそうになる。

 

 

 

 

 

 

「「響!!」」

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女の耳に、二人の親友の声が聞こえた。

 

(そうだ…いまの私は、私だけの力じゃない!)

「ビッキー!」

「響!」

「立花さん!」

 

 クラスメート三人が名前を呼ぶなか、未来は狂気に必死に抵抗している響を見つめている。

 

(そうだ…この衝動に、塗りつぶされてなるものか!)

 

 響が狂気を完全に押さえ込むと、響の背中から光の翼が生え、デュランダルに光と()が束ねられていく。

 

「その力!何を束ねた!?」

「響き合う皆の想いがくれた、シンフォギアでぇぇ!」

 

Synchrogazer

 

 デュランダルが振り下ろされ、光が竜の頭を裂く。すると竜の体が膨らみ始める。そしてデュランダルの光がなくなると、竜の体が崩壊を始める。だが、再生は行われない。完全聖遺物同士の対衝突─そして、光と共に束ねられた大空の炎が再生を上回る早さで調和することによって再生能力が封殺されたのだ。そして竜は徐々に崩壊していき、爆散した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、何をバカなことを…」

「このスクリューボールが…」

「皆に言われます…親友からも『変わった子だ』って」

 

 夕日が照らすなか、響とツナはフィーネに肩を貸し歩いていた。

 

「もう終わりにしましょう、了子さん」

「…私はフィーネだ…」

「でも、了子さんは了子さんですから」

「…お前がしたことをオレは許すつもりはない…でも、あなたはただ、好きな人の隣に立ちたかった…ただそれだけだったんだろ?…それにあなた自身も、響に関わったことで小さからず心に変化が起こったんじゃないか?でなければあの時、自分の正体に気づかれかねないことを話していないはずだ」

 

 ツナは以前、了子の恋ばなを聞いたときのことを思い出していた。

 

「私達、分かりあえます!」

 

 響の言葉を聞いたフィーネは、ゆっくり立ち上がる。

 

「─ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間…統一言語を失った我々は、手を繋ぐよりも相手を殺すことを求めた…そんな人間が分かりあえるものか…!」

「人が、ノイズを…」

「だから私は、この道しか選べなかったのだ!」

「おい!」

 

 クリスがフィーネの動きを警戒するが、翼が腕で制する。

 

「─人が言葉よりも強く繋がれること、分からない私達じゃありません!」

「例え、始まりが敵同士だったとしても、いつか必ず理解しあえる日が来るはずだ」

 

 フィーネは二人の言葉に一瞬反応し、少しの間が生まれる。そして─

 

「デヤァ!」

 

 フィーネが二人に向けて鞭をふるうが、二人ともそれを回避し当たるギリギリのところで拳を止める。

 

「私の勝ちだ!」

 

 それを聞いた二人が振り返ると、フィーネがふるった鞭は月まで伸びていき、月の欠片に突き刺さる。そしてフィーネは最後の力を振り絞り、月の欠片を動かした。

 

「月の欠片を落とす!私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからな!」

 

 フィーネの体が崩壊していく。

 

「聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形があるかぎり、私は何度だって世界によみがえる!どこかの場所、いつかの時代!今度こそ世界を束ねるために!」

 

 フィーネは崩壊していくなか、笑い始める。

 

「私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだ!」

 

 すると、響とツナはフィーネの体に拳を軽く当てる。

 

 

 

 

 

 

風によってフィーネの髪がなびく。

 

 

 

 

 

 

「うん、そうですよね…どこかの場所、いつかの時代、よみがえる度に何度でも、私の変わりに皆に伝えてください!世界を一つにするのに、力なんて必要ないってこと!言葉を越えて、私達は一つになれるってこと!私達は、未来にきっと手を繋げられるということ!私には伝えられないから…了子さんにしか、出来ないから!」

「例えどれだけぶつかり合おうとも、いつかきっと分かりあえる…言葉が通じなくても、必ず笑いあえる日が来ると、オレは信じている」

「お前…まさか…」

「─了子さんに未来を託すためにも、私がいまを、守って見せますね!」

 

 それを聞いたフィーネが笑うと、瞳の色と気配が変わり─響達がよく知っている了子の顔になった。

 

「ホントにもう、放っておけない子なんだから!」

「了子さん…」

 

 了子はそういって響の胸元をつつく。

 

「胸の歌を、信じなさい…」

 

 了子がそういって微笑むと、崩壊が全身まで進み、粉々になり風に乗って飛ばされていった。

 その姿を見た弦十郎は目を震わせ、クリスは涙を流していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軌道計算、出ました!直撃は避けられません…」

「あんなものがここに墜ちたら…」

「あたし達、もう…」

 

 すると、響が前に出る。

 

「響…」

「─何とかする!」

 

 響はそういって未来の方を振り返った。

 

「ちょーっと行ってくるから!生きるのを、諦めないで!」

「─お前一人だけで行かせはしないさ」

 

 そういってツナも前に出る。

 

「珍しいねツナ、止めないの?」

「止めたいさ…でも、オレが止めようとしても無駄だろ?お前からは、それだけの覚悟を感じるからな」

 

 それを聞いた響が笑顔を見せると、二人は月に向かって飛んでいく。

 

「響、ツナ…!」

 

《Gatrandis babel ziggurat edenal─》

 

 響は絶唱を歌い始め、ツナは彼女の隣につきながら飛んでいく。その姿を、未来は涙を流しながら見届けていた。

 

『そんなにヒーローになりたいのか!』

『こんなこんな大舞台で挽歌を歌うことになるとはな…立花には驚かされっぱなしだ!』

 

 響が絶唱を歌い終わると、念話が聞こえ、後ろを振り向くと翼とクリスも飛んできていた。

 

『翼さん、クリスちゃん!』

『まぁ、一生分の歌を歌うには、ちょうどいいんじゃねぇか?』

「やっぱり、二人も来たか」

『それは、超直感で感じていたのか?』

「いや…二人なら必ず来てくれるだろうと、オレがそう信じていたのさ」

 

 響が三人の会話を聞いて笑顔を作ると、四人で月の欠片に向かう。

 

「不思議だね…静かな宇宙(そら)

「本当の…剣になれた?」

「悪くない…時を貰った」

『夢、天に飛んでゆけ…さあ星へと変わろう』

 

『それでも私は、立花や雪音と、もっと歌いたかった』

『ごめんなさい…』

『バーカ!こういうときはそうじゃねぇだろ!』

「それに、オレたちには帰るべき場所がある…それまで、死ぬわけにはいかない…そうだろう?」

『─ありがとう、三人とも!』

 

 四人は速度をあげ欠片に迫っていく。

 

『解放全快!いっちゃえ、ハートの全部で!』

『皆が皆、夢を叶えられないのは分かっている…だけど、夢を叶えるための未来は、皆に等しくなきゃいけないんだ!』

『命はつきて終わりじゃない…つきた命が残したものを受け止め、時代を託していくことこそが、人の営み…だからこそ、《剣》が守る意味がある!』

『例え声がかれたって、この胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音かなで、なり響き渡れ!』

 

『響け絆!願いと共に…!』

 

『これが私達の、絶唱だぁぁぁぁぁ!』

 

 欠片のもとにたどり着くと、それぞれが準備を始める。

 翼は天ノ逆鱗時を上回る大きさまでアームドギアを巨大化させ、クリスは大量の大型ミサイルを生成、響は腕のハンマーパーツと脛のパワージャッキが展開され、数百メートルまで引き伸ばされる。そしてツナは

 

「オペレーションX」

『了解シマシタ ボス X-BURNER 発射シークエンスヲ 開始シマス』

 

 X-BURNERの準備を始める。そして両方の炎圧が200,000FVまで行く。

 

『ライトバーナー 炎圧再上昇』

 

 すると、さらに炎圧が上昇していく。

 

『23万…24万…更ニ上昇!!レッドゾーン突入!!』

 

 右手からさらに炎が噴出されていく。

 

『28万…29万…30万FV!レフトバーナー 炎圧再上昇』

 

 そして左手の炎圧も再び上昇していく。

 

『23万…24万…レッドゾーン突入!!28万…29万…30万FV!』

 

 ディスプレイに『X』の文字が浮かび上がる。

 

『ゲージシンメトリー!!発射スタンバイ!!』

「「「ウオォォォォォ!!!」」」

「X-BURNER(ハイパー)爆発(イクスプロージョン)!!!」

 

 四人の攻撃で月の欠片に穴が開き、大爆発を起こした。爆発を見た未来が膝をつく。

 

「流れ星…」

 

 月の欠片は粉々になり、夜空を流れ星のように落ちていっていた。その光景を見ていた未来は地面に両手をつき、大声で泣き叫んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~2017年7月~

 

 あの日から三週間がたち、ツナ達の捜索が打ち切られるなか、未来は名前の刻まれていない二つの墓石─ツナと響の墓にお参りに来ていた。

 機密の関係上、名前を掘ることが出来ず、その墓が二人のものであると証明するものは、未来が弦十郎に渡した写真だけだった。

 

「─会いたいよ…もう会えないなんて、私は嫌だよ…!響、ツナっ!私が見たかったのは、私と響、ツナ、そしてセレナの四人で見る流れ星なんだよ!?」

 

 未来は雨が降るなか、二つの墓石の前でへたれこみ、泣きながら訴えていた。すると、遠くから女性の悲鳴が聞こえた。

 未来が声のした方に向かうと、左右をノイズに挟まれた女性の姿があった。

 

「こっちへ!」

 

 未来はその女性の手を掴み逃げ出す。

 

(諦めない…絶対に!)

「私、もう…」

 

 最初の場所からある程度はなれたところで、女性が足を止める。

 

「お願い!諦めないで!」

 

 すると、周囲をノイズが取り囲む。

 未来は女性を庇うため、前に出て腕を広げる。

 女性は気絶し、ノイズ達が徐々に近づいていく…

 

 

 

 

 

 

だが、あと数歩のところで目の前のノイズ達が消滅する。

 

 

 

 

 

 

 その事に驚く未来。さらに、いつの間にか崖の上に現れ、未来達に飛びかかろうとしていたノイズ達は一瞬にして炎に包まれ消滅する。

 

「ごめん…色々機密を守らなきゃいけなくて、未来にはまたホントのことが言えなかったんだ…」

 

 声の方を向くと、翼とクリス、そして響とツナが立っていた。

 未来は泣きながら駆け出し、ツナと響に抱きついた。

 

(ノイズの驚異は尽きることなく、人の闘争は終わることなく続いている…未だ危機は満ち溢れ、悲しみの連鎖はとどまることを知らない…だけど、うつむかない、諦めない!だってこの世界には、『歌』があるのだから!)

 

 

戦姫橙炎SYMPHOGEAR!『ルナアタック来る!』 完




一期、完!
次は番外編突入します!


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隠し弾(シークレット・ブレット)1 二つの大空と晴の家庭教師
二つの大空と晴の家庭教師


1日遅れましたが、明けましておめでとうございます。
何とかできました。やっぱりオリジナル作るのは難しいっす…


「本当に、心配したんだから…!」

「ご、ごめんってば…」

「もうそろそろ泣き止んでよ未来~」

 

 未来は親友と再開してから数十分たっても泣き続けていた。

 

「セレナもツナ達のこと、とても心配してたんだよっ!」

「うっ…そ、そうだよね…」

「─そうだ!丁度今日、行動制限が解除されたんだから、ツナの家に行ってセレナに無事を伝えるのと、クリスちゃんの歓迎パーティーの続きを一緒にしようよ!」

「「え!?」」

 

 響の突然の提案に驚くツナとクリス。

 

「いいわね、それ!」

「ふむ、確かにいい考えだ。それに、私は沢田の家に行ったことがないから、少し興味がある」

 

 ツナとクリス以外の三人がツナの家の方向に歩みを進める。驚いて固まっていた二人は、いっときして立ち直るとすぐに三人のあとを追った。

 

「そう言えば、雪音も沢田の家に行くのは初めてだったか?」

「い、いや…少しの間、居候させて貰ってたけど…」

「「え!?そうなの!?」」

 

 響と未来がツナの方を向く。

 

「え、えっと…クリスが初めて俺たちの前でイチイバルを纏った日の夜に偶然見かけてさ、公園で寝泊まりしようとしてたから…」

「ふ~ん、そうなんだ…ねぇクリスちゃん!クリスちゃんから見てツナの家ってどうだった?」

「どうって言われても…まぁ、住みやすくはあったな…」

「だよねだよね!私はツナの家に泊まったことはないけど、遊びに行く度に、ツナの家って心地いいな~って思うし!」

「それ、私も!」

 

 そんな会話をしていると、ツナの家にたどり着き、ツナが家のインターホンを鳴らす。

 

『はーい!どちら様ですか…』

「えーっと…た、ただいま…」

 

 通話が切られた直後、家の中から足音が聞こえ、玄関が勢いよく開けられる。

 

「ツナさん!」

 

 ツナにセレナが飛び付く。

 

「本当によかったです、無事でいてくださって…!」

「─ごめんね…心配させたよね?」

「いえ…ツナさんは絶対に生きていると、信じていましたから…」

 

 セレナはツナから顔を離すと、目元の涙を拭う。

 

「私達もいるんだけどな~」

「響さん、クリスさん!」

 

 二人のことに気づいたセレナは、今度は響達に抱きつく。

 

「ちょっ、おま…」

「よかったっ!二人共ご無事で…!」

 

 彼女の安心したような声を聞いた二人は、優しく彼女の背中をさすった。

 

「─そうだ!丁度今、ツナさんのお知り合いの方がいらっしゃってますよ!」

「え?オレの?誰だろう…?」

「フフッ、ツナさんがよく知ってる人たちです!きっと驚きますよ?」

 

 そう言ってセレナはツナ達をリビングに連れていく。

 

「お久しぶりです、沢田さん!」

「やあ!久しぶりだね、綱吉クン♪」

「ユニ!?それに白蘭まで!?なんで二人が…」

 

 リビングには、『ジッリョネロファミリー』と『ジェッソファミリー』の二つのマフィアが合併して生まれた『ミルフィオーレファミリー』のボスの二人でありツナの親友、そして大空のアルコバレーノだったユニと現・大空のマーレリングの所有者である白蘭がソファに座っていた。

 

「君は」「あなた達は」『あのときの…!』

「「?」」

 

 二人(もしくは一人)に見覚えのある翼と未来は衝撃を受け、あったことのない響とクリスは首をかしげる。

 

「ハハッ♪良い驚きっぷりだなぁ!でも、こっちに来たのは僕達だけじゃないんだ♪」

「他にも誰か来てるの!?いったいどこに…「こっちだぞ」ウゲッ!」

『ツナ!?』「沢田!」

 

 ツナが何者かに頭を蹴られ、前に倒れ込む。

 

「蹴られた?─まさか!」

「まったく、お前はいつまでたってもダメツナだな」

 

 ツナがおもいっきり振り返ると、響達の少し後ろに、ボルサリーノをかぶり、黒スーツを着て胸元に黄色のおしゃぶりをつけ─

 

「チャオっす!こうやって直に会うのは、オレからしたら三ヶ月ぶり─お前からしたら一年と十一ヶ月ぶりか?」

「リボーン!」

 

 いつもの口癖で挨拶をするツナの家庭教師にして、彼が一番信頼を寄せる人物─リボーンが立っていた。

 

「お前、ルナアタック以降あまり連絡がつかないと思ったら、こっちに来てたのか…」

「せっかくお前を家庭教師(かてきょー)しに、わざわざ別世界まで来てやったんだ。もう少し感謝しやがれ!」

「イデデ!ギブッギブッ!」

 

 ツナの態度が気に入らなかったのか、リボーンはツナの腕の間接を極めにかかる。

 

「ちょっとリボーンくん!それはやりすぎなんじゃ…」

「フフッ、やはり沢田さんとリボーンおじさまは仲が良いですね」

「やっぱり綱吉クンとリボーンクンはこうでなくっちゃ♪」

「これのどこに仲が良いって言える要素があるんだ!?」

 

 響達がツナを心配するなか、ユニと白蘭はツナとリボーンの恒例行事を見て微笑み、その態度に理解できないクリスがツッコミを入れる。

 

「実はユニは二ヶ月前、白蘭は一ヶ月前にすでに来ていたんだが、オレは準備することが色々あってな、今日やっとこっちの世界にこれたんだぞ」

「僕とユニチャンで先に綱吉クンと会ってもよかったんだけど、やっぱり君の家庭教師であるリボーンクンも一緒の方がいいかなって思って、彼が来るまで会わないようにしてたんだ♪」

「イテテ…準備?それにお前さっき、家庭教師って…」

「お前、VGを使いこなせるまでになってはいるが、こっちの世界に飛ばされる前より確実に弱くなってるだろ「ギクッ」本来のお前なら、ガングニールと融合して暴走した響のパンチ程度で気絶なんてしなかっただろうし、ノイズと融合したフィーネなんか一人で倒せたはずだ。違うか?」

「そ、それは…」

「だからそんなお前を、飛ばされる前どころか、それ以上まで鍛え上げるための準備をしてたんだぞ」

「それってまさか…!」

「そんじゃ、早速ネッチョリコースから始めるか」

「んなー!ネッチョリはイヤだー!」

 

 リボーンはツナの服の襟をつかんで玄関に向かい始める。

 

「まぁまぁ、一回落ち着いてよリボーンクン♪綱吉クンの特訓の前に、先にやるべきことがあるだろう?」

「─そうだったな。ダメツナの情けなさ程度で我を忘れるとは、俺らしくないな」

 

 リボーンはそう言ってツナから手を離す。

 

「ふぅ…えっと、やるべきことって?」

 

 ツナが白蘭に聞くと、彼はソファから立ち上がり響達の─否、翼の前に立つ。

 

「やあ♪君と会うのは初めてだよね、()()()チャン?」

「っ!?なぜ私の名を!?沢田から聞いたのか!」

「いいや?綱吉クンだけじゃなく、リボーンクンにもセレナチャンにも、誰からも聞いてないよ♪それに、知っているのは君だけじゃないしね♪立花響チャンに小日向未来チャン、そして雪音クリスチャン♪」

『!?』

 

 会ったこともないのに自分達の名前を知っている白蘭に警戒する響達だが、彼の能力を知っているツナとセレナは、なぜ彼が皆の名前を知っているのか理解する。

 

「なんで僕が君達のことを知っているのかについては後で教えるよ─それよりも、僕から翼チャンに一つ聞きたいことがあるんだ♪」

「…例え沢田の友人といえど、内容次第ではなにも答えないぞ」

 

 白蘭を警戒する翼だったが、彼の話を聞いて警戒どころではなくなってしまう。

 

「天羽奏チャンを目覚めさせる手段があるなら、君はどうしたいかな♪」

 

ー二課医療施設ー

 

「本当に、奏を起こすことが出来るのだな!?」

 

 翼が白蘭に問い詰める。ツナの家にいたメンバーは現在、二課医療施設内の、奏が眠っている病室の前まで来ていた。

 

「んー…正直分かんない♪」

「なに!?」

「もしかしたら、失敗して更に容態を悪化させちゃうかもしれないな♪─でも、少しでも奏チャンが目覚める可能性があるなら試したい、でしょ?」

「それは…」

「─白蘭」

 

 ツナは白蘭の前に立つと、彼にたいして頭を下げる。

 

「沢田!?」

「頼む、翼さんにとって奏さんは、大切なパートナーなんだ!…翼さんは二年前から今まで、傷つきながらも奏さんがいないなか、必死に頑張ってきたんだ!もうこれ以上悲しんでほしくない…だから!」

 

 ツナが頭を下げたことに一瞬戸惑った翼だったが、ツナが自分のためにわざわざ頼んでいることに驚く。

 

(本当に、沢田は優しいな…)

「綱吉クンの頼みなら、断るわけにはいかないなぁ♪」

 

 白蘭はそう言いながら、横目で翼を見る。

 

「─もし、1%でも可能性があるのなら、それにかけてみたい…だから頼む!」

 

 翼も白蘭に頭を下げる。

 

「それじゃあ、やるだけやってみるよ♪」

 

 白蘭は奏が眠る病室に入っていく。

 

「あ、でも治療方法は企業秘密だから、僕が出てくるまで中には誰も入らないでね♪」

 

 最後にそう言うと、扉を閉めて鍵をかける。そして眠る奏の側に立つと、背中から白い翼を生やした…

 

「そう言えば、なんで白蘭さんは私達の名前を知ってたんだろう?」

 

 病室から少しはなれた場所にある休憩所で、響が思い出したように呟く。

 

「それは白蘭が持ってる力が関係してるんだよ」

「力?それって…」

「なぁ立花、俺とツナがGHOSTって奴について話してた時の内容、覚えてるか?」

「えっと…たしか、平行世界がどうのこうのって言ってたような…」

「曖昧だが、少しでも覚えてるだけましなほうだな…白蘭は、自らの持つ異なった可能性─つまり平行世界の自分と意識や知識を共有できる能力を持っているんだぞ。今やってる治療も、その力で手に入れた知識によるものだぞ」

『平行世界!?』

 

 ツナとセレナ以外の全員が驚く。

 

「なにこの程度で驚いてんだ?ここには平行世界よりも更にすごい、多次元宇宙から来た奴がいるんだぞ」

「そ、そうだけど…」

「まあ、確かに俺達も初めて聞いたときは驚いたな。それに、奴の能力に苦しめられたのも事実だしな」

「え?それってどういう…」

「終わったよ♪」

 

 休憩所にいた全員が振り返ると、疲れた様子を一切見せず、いつものようにニコニコした表情で壁の端に寄りかかる白蘭の姿があった。

 

「白蘭!?治療は─」

「ちゃんと成功したから安心してよ♪」

「それにしては早かったな」

「それには僕も驚いてるさ。でもよくよく考えれば、奏チャンは肉体の負荷が強すぎたから昏睡状態だったんだから、山本クンより症状が軽かったんだよ♪」

「奏…!」

 

 白蘭が説明するなか、翼は奏の様子を確認すべくいち早く彼女の病室に向かい、そのあとを響達が追う。

 

「奏!」

 

 翼は病室に入ると、奏の側にかけより名前を呼ぶ。するとゆっくりと、彼女の目が開かれる。

 

「奏っ…!」

「─なに泣いてんだよ翼…」

 

 奏は手を持ち上げ、翼の涙を拭う。

 

「翼は、本当に泣き虫だなぁ…」

「っ!…奏も、本当に意地悪だ…」

 

 翼はそれ以上涙を流さないようこらえると、奏の手に顔を埋めた…

 

 その後、奏が目を覚ましたことを知らされた医師が駆け込み、彼女のお見舞いは翌日以降ということになり、響達はツナの家に向かっていた。

 

「奏さん、目が覚めてよかったよ!」

「ありがとう、白蘭…奏さんを助けてくれて」

「ユニチャンが翼チャンの意識のなかで奏チャンに会えたことから、彼女の魂が生きていることは分かってたけど、治療が成功するとは思ってなかったんだ♪実を言うと、絶対失敗すると思ってたし♪」

 

 そんな話をしながら歩いていると、リボーンが思い出したように話し出す。

 

「さて、天羽の治療も終わったことだし、修行を始めるぞダメツナ」

「ウッ!お前覚えてたのかよ!ていうか修行って…」

「もちろん、こいつでな」

 

 リボーンは、彼のペット─形状記憶カメレオンのレオンを拳銃に変形させ、ツナに突きつける。

 

「ちょっ、リボーン!正気か!?響達の前で…」

「つべこべ言ってんじゃねぇ」

 

 リボーンはツナの額に狙いを定めると

 

「いっぺん死んでこい」

 

 拳銃の引き金を引き、ツナの額を容赦なく弾丸が撃ち抜く。その反動で、ツナが後ろに倒れこむ。

 

「「え…?」」

「ツナ!」

「リボーン!貴様何を…!」

「少し落ち着いてツナをよく見てみろ」

 

 リボーンの行為に三者三様の反応を見せるなか、リボーンは響達にツナの様子をよく見るように言ってくる。その直後、ツナの中で何かがうごめきだした…

 

ツナside

 

 彼はリボーンに撃たれたとき後悔した。

 

(あぁ…俺、ここで死ぬのか…死ぬんだったら、もっと修行していればよかった…)

 

 彼の頭を後悔が埋め尽くす。そして─

 

復活(リ・ボーン)!死ぬ気で修行する!」

 

 皮を突き破るようにしてツナが生き返る。生き返った彼の額には橙色の炎が灯っていた。

 

「ツナ!」

「沢田!無事だったのか!」

「─て、ちょっと待て!なんだよその格好!?」

 

 ツナが生きてたことに一同が安心するが、クリスがすぐにツナの格好について疑問を投げかける。それも仕方ない─何せ、今のツナはパンツ一丁の状態なのだから…

 

「ん?なんでオレはこんな格好なんだ?」

 

 ツナ自身も自分の格好に違和感を持つ。

 

「えぇい!今はそんなことはどうでもいい!死ぬ気で修行だー!」

 

 だが、戸惑ったのもつかの間、ツナは自分の後悔していたことを思い出すと、裸足でリディアンの近くにある山に向かい真っ直ぐ走っていく。

 

「な、なんだよありゃ…」

「超死ぬ気モードと同じように額に炎を灯してはいたが、あれとは別なのか…」

「今さっきツナに撃った弾は死ぬ気弾って言う特殊な弾だぞ」

 

 リボーンはそう言って、先程ツナに撃った弾─死ぬ気弾を取り出す。

 

「死ぬ気弾って言うのはボンゴレファミリーに伝わる特殊弾でな、後悔している人物の脳天を撃ち抜き一度殺すことで、危機によるプレッシャーで外部からリミッターを外して、後悔していることに対し死ぬ気で頑張らせることができる品物だぞ。ちなみに死ぬ気丸より死ぬ気弾の方が危険度が高い分、性能も死ぬ気弾の方が高いんだぞ」

「つまり、彼がいつもなっているハイパーモードよりも、あっちの方が優秀なのか…」

「…おい、ちょっと待て。もし、お前がその弾でツナを撃ったとき、あいつが後悔してなかったらどうなってたんだ?」

「なに分かりきったこと聞いてやがる。俺は殺し屋だぞ?」

「つまり死んでたってことかよ!そんな危なっかしいものを容赦なく撃ち込むとか、お前なに考えてやがる!」

「俺はあいつが後悔するって確信してたから撃ったんだぞ」

 

 リボーンはそう言うと、レオンを今度はキックボードに変形させる。

 

「それじゃ、俺はあいつを追うから、お前らは先にツナの家に帰っててくれ」

 

 リボーンはそう言ってツナのあとを追った。

 

「沢田さんとリボーンおじさま…お二人が互いに信用しているからこそなせることですね」

「ホント、二人の信頼関係は筋金入りだね♪」

 

 響達が嵐が通りすぎていったように固まるなか、ユニと白蘭は二人の関係について述べる。

 

「それにしても、綱吉クンは重く受け取りすぎだよ♪」

「?それはどう言うことだ?」

 

 白蘭の言葉に翼が反応を示す。

 

「実はね─元々この世界にいた綱吉クンは、もう死んじゃってるんだ♪」

『…え?』

 

 それには装者達だけでなくセレナすら驚く。

 

「実際に確認した訳じゃないんだけど、僕達の世界にいる天才科学者のヴェルデクンの予想によると、この世界の綱吉クンは僕達の世界の綱吉クンと入れ替わった際に時空の狭間に捕らわれちゃって、そこで徐々に存在が消滅しているらしくてね♪彼が導きだした計算だと、ユニチャンがこの世界に来た時点でこの世界の綱吉クンは完全に消滅しちゃってるらしいんだ♪多分綱吉クンのことだから、超直感でその事に気づいてると思うな♪そして─彼が死んだのは、自分のせいだ─とも考えているだろうね♪」

「そんな…」

「でもね、僕は正直、彼が責任感を持たなくてもいいと思うんだ♪だって─この世界の綱吉クンは、どうあがいても死ぬ運命だったんだからさ♪」

「…なぜそう言いきれる?」

 

 ユニ以外の全員がショックを受けるなか、少し立ち直った翼が問いかける。

 

「綱吉クンから僕の力については聞いたよね?─実は、僕がこの世界に来たときに、この世界の平行世界の僕とも共有できるようになってね♪その際にこの世界の綱吉クンのことを調べたんだけど、どの平行世界も彼はすでに死んでたんだ♪そしてだいたいの死因は、二年前のノイズの襲撃の際に親と一緒に炭化して消滅するか、襲撃の際に生き残っても、周りからの誹謗中傷に耐えきれず自殺するかだったんだ♪いちを、生き残ってる可能性の世界もあったけど、家族全員が海外に移住してたり、元々ツヴァイウィングのことが好きじゃなかったり…そんな、ツヴァイウィングのライブに一切関わらない平行世界でしか彼は生きてないけどね♪あ、だからって翼チャンが責任を感じる必要はないよ?そんなことしたら、彼が更に気負うだけだからさ♪」

 

 白蘭の一言に、翼はなんとも言えない気持ちになった。

 

「でも、僕としては時空の狭間に捕らわれたのはよかったことだと思うな♪だって、狭間に捕らわれた綱吉クンは、自分の親が死んだという事実を知らないで死ねたんだからさ♪」

 

 その場を重い空気が埋め尽くす。

 

「そ、そういえば!ユニちゃんや白蘭さんがツナと出会ったのっていつなんですか?」

 

 その空気を拭おうと、響が二人にツナとの出会いについて聞く。

 

「僕が彼と出会ったのは、十年後─今からだいたい八年後の世界で敵同士であったのが始まりかな♪」

『…は?』

「私は、沢田さんが白蘭とのチョイスで負けたあと、虹のおしゃぶりを持って逃げ出したときが始まりです」

「ちょ、ちょっと待て!敵?チョイス?まったく意味がわかんねぇぞ!」

「それじゃあ歩きながら、僕が知っている限りの綱吉クンの過去について話すとしようかな♪」

 

 白蘭は笑顔を見せながら、宣言通り歩きながらツナの過去について話し始めた…




次回、ツナの過去を響達に見せます。
ただ、本編の内容が長編なので時間がかかし何個かに別れると思います。

追記

次の投稿作品について少しアンケートとってみることにしました。期間は1月12日までです。


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ツナの過去(10年後編):①

なんとか書けました…


「これが、僕が知ってる綱吉クンのおおまかな過去さ♪」

 

 ツナの家にて、白蘭がツナの過去について話し終わる。

 

「なんと言うか、壮絶な生活だったんだね…」

「彼はいくつもの死線を乗り越えてきたのだな…」

「─て言うかお前!元々は敵だったのに何でツナと仲良くなってんだよ!」

 

 クリスが白蘭に問い詰める。

 

「そりゃあ、僕が自分の行いを反省して、綱吉クンと仲直りしたからに決まってるじゃないか♪」

「あたしには、反省してるようには見えねぇがな…」

「白蘭はいつもこのような態度ですけど、その事に関しては本当に反省しているんです。そのこと、私はよく理解していますから」

「ありがとうユニチャン!やっぱり大切なのは親友だね♪」

 

 白蘭がユニの肩に腕を回す。

 

「それにしても、ツナが昔は勉強も運動もダメダメだったなんて、信じられないよ」

「やっぱり口で説明するだけじゃ、あまり理解しづらいよね♪」

 

 白蘭が響達五人を見てそんなことを言う。

 

「それじゃあ、みんなで綱吉クンの過去を見てみようか♪」

『えっ?』

 

 白蘭の言葉に、彼とユニを除いた全員が驚く。

 

「そんなの、どうやって…」

「一つ考えがあるんだけど─それにはボクと綱吉クンだけじゃなくて、君たち装者の協力も必要なんだ♪」

「私達の」「協力が」「必要だって?」

 

 響と翼、クリスが白蘭の発言に首をかしげる。その直後、玄関の鍵が開く音が聞こえた。

 

「あ!噂をすれば♪」

 

 白蘭が椅子から立ち上がり玄関に向かい、その後ろをユニと響達がついていく。

 

「つ、疲れた…」

「全くだらしねぇな…マフィアのボスなら、もちっとシャッキリしやがれ!」

「無茶言うなよ!て言うか、マフィアのボスにはならないって何度も言って─イデ!」

 

 玄関ではツナとリボーンがいつもの争いをしていた(といっても、ツナがリボーンから一方的に蹴られるだけだが)。

 

「お帰りなさい!沢田さん、リボーンおじさま!」

「お帰り綱吉クン、リボーンクン♪それにしても、戻ってくるの早かったね?」

「よくよく考えてみれば、夕飯も近い時間だったからな。今日は一発で勘弁してやった。だが明日からはみっちり鍛える予定だぞ」

 

 ユニと白蘭が軽く迎えるなか、響達は疲れきっているツナを心配して近寄る。

 

「ところでリボーンクン、一つ頼みたいことがあるんだけどいいかい?」

「内容にもよるが、聞かせてみろ」

 

 ツナから少し離れると、白蘭がリボーンに考えている内容を伝える。

 

「─それは面白そうだな。いいぞ、協力してやる」

「やった♪それじゃあ早速始めようか♪」

 

 そう言って白蘭がツナに近づく。

 

「ねぇ綱吉クン、一回大空のリングを見せてくれないかい?」

「え?どうしたんだよいきなり…」

 

 そう言いながらもツナは大空のリングを白蘭の目の前まで上げる。

 

「それじゃあ今度は、響チャン達の聖遺物が入った(その)ペンダントを近づけてくれないかな♪」

「響達まで協力させるなんて、ホントに何をするつもりだ?」

 

 響達が大空のリングにペンダントを近づけるなか、ツナは白蘭の行動に怪しみ始める。

 

「まぁまぁ、落ち着いてさ─それじゃあいくよ♪」

 

 白蘭はそう言うと、身に付けている大空のマーレリングをツナのリングに近づけると、自分のリングに炎を灯した。すると、響達のペンダントが淡く光りながら振動し始める。

 

「え?え!?」

「これは…!?」

「どうなってやがるんだ!?」

 

 響達シンフォギア装者がペンダントの異変に驚く。

 

「おい白蘭!今から何を「お前はうるさいから少し黙ってろ」ウガッ!」

 

 ツナは白蘭に問いかけようとするが、途中でリボーンに意識を刈り取られる。

 

「ちょっとツナ、大丈夫?」

「こんなのいつものことだから、別に気にしなくていいぞ」

 

 そんな話をしていると、ツナのリングが光りだし、ツナを除いた全員の額にボンゴレの紋章を浮かび上がらせる。そして全員の意識が大空のリングに吸い込まれていった…

 

 

 リングに吸い込まれた響達が気づくと、見知らぬ町中に立っていた。

 

「ここ、どこ…?」

「ここは並盛町─俺やツナ達が元々すんでいた町だ」

 

 近くにいたリボーンが説明した直後

 

『待って!!』

 

 後ろから聞き覚えのある─自分達が知っているより少し若い─声が聞こえ、一斉に振り返ると

 

「中二の頃のツナだ!」

「でも、私達の通っていた学校の制服じゃないから、少し新鮮!」

「あれが若い頃の彼か…」

「顔つきは今とたいして変わってねぇな…」

 

 同級生だった響と未来は、懐かしみながらも見たことのない制服を着ているツナに新鮮味を感じ、翼とクリスは初めてみる若かりし頃のツナに見いる。

 

『待ってよ2人とも!!』

 

 ツナは響達をすり抜けていくと、走ってきた方向と反対側にいた二人の男性のもとに走っていく。

 

「なるほどな…今さっきのやり方でボンゴレの縦の時間軸を発動させたら、近くのリングの所持者と深く関わった出来事が見れるって訳か…」

「これは僕も予想外だったよ♪」

「ねぇリボーンくん、あの二人は?」

「亜麻色の髪の男は、ツナの父親の家光が率いている門外顧問チーム『CEDEF』の一員のバジリコン─通称バジルで、高身長の男はランチアといって、北イタリア最強と言われてた奴だぞ」

 

 リボーンが二人の説明をする。

 

「このときはリング争奪戦が終わってすぐだから、バジルは本部からの招集で、ランチアは遺族への謝罪のために海外に行くところだな」

「謝罪?なぜだ?」

「かつてのランチアは北イタリアのマフィアの最強の用心棒で、孤児の自分を引き取り、それこそ本当の家族のように大切にしてくれたファミリー達と楽しく過ごしていたんだが、その後ボスが引き取って来た─今はツナの霧の守護者の片割れである六道骸によって操られた状態でファミリーを皆殺しにしちまってな…そのファミリーの遺族への謝罪の旅をしてたんだ」

「そんな…」

 

 そんな話をしていると、過去のツナが二人から何かを渡される。

 

「なんだろう?リングと…あれって、死ぬ気丸!?」

「あれって最初から持ってたわけじゃねぇのか!?」

「そうだぞ。リング争奪戦までは小言弾っていう弾で、リアルタイムでツナに小言を聞かせて秘めた意思に気づかせて内面から全身と感情のリミッターを解除して、死ぬ気弾とは逆の『静かなる闘志』を引き出させて超死ぬ気(ハイパー)モードにさせてたんだぞ」

 

 リボーンが説明し終わると同時に、過去のリボーンがツナ達に引っ付いてきた幼き頃のランボにランチアの技─暴蛇列覇モドキを当てる。

 

「ちょっ!?リボーンくん、あれはやりすぎなんじゃ…」

「あいつはあの程度でやられるようなやわな奴じゃないからな。ほら、あんなに元気だぞ」

『うあぁあぁ!!!』

「おもいっきし泣きまくってんじゃねぇか!」

『なにやってんだよリボーン!!「堪忍袋の緒が切れた」ランボ、まだ退院して日が浅いんだぞ!』

「しかも病み上がりの奴にしてんのかよお前!容赦ねぇか!」

 

 クリスがリボーンへのツッコミ役に転じる。

 

『リボーンのバカ者が~!!タレマユのクセに!!』

「あの子、髪の毛からバズーカ取り出したよ!?」

「どうなってんだあのガキの髪ん中!?」

 

 ランボはバズーカを自分に向けるが、先程の一言が頭にきたリボーンが地面のコンクリートをもぎ取り投げつけ、バズーカの弾が明後日の方向に飛ぶ。

 

『(相変わらず容赦ねーっ)』(リボーンくん容赦無さすぎでしょ!)(容赦ないな…)(ホントに容赦ねーなおい!)

 

 過去のツナと、シンフォギア世界の人達の全員の感想が一致した瞬間である。

 

 先程放たれたバズーカの弾は、空中を少しさ迷ったあと、ツナ達の方に飛んでいき、リボーンにぶつかった。

 

「リボーンくん!?」

「そう言えば説明してなかったが、あいつが使った弾こそ、ツナがシンフォギア(こっち)の世界に飛ばしたマルチバズーカ弾のもとになった10年バズーカの弾だぞ」

 

 響達が心配するなか、リボーンはのんきに10年バズーカについて話す。

 10年バズーカ弾の煙がなくなると、そこには十年後のリボーンどころか、赤ちゃん状態のリボーンすらいなかった。それに驚いたツナが辺りを見渡している。

 

「─これが、あの事件の始まりだったな…」

 

 リボーンはボルサリーノを深くかぶり、そう呟いた。

 過去のツナは最初、その出来事を深く考えていなかったが、翌日になっても帰ってこないことを不信に感じ探しだした。その途中で、獄寺と一人の女性と出会う。

 

「あの子は…?」

「あいつは三浦ハル。ツナの彼女候補の一人だぞ」

「うわぉ!すごい圧だね♪」

 

 リボーンの一言を聞いた直後、響と未来だけでなく、翼とクリスも怒りのオーラを放ち、いつものようにニコニコしている白蘭すら、内心怯んでいた。

 ツナは二人に事情を説明したあと、それぞれに別れ捜索を再開する。すると、大人ランボのことを思いだし家に戻る。

 

『なーランボ!10年バズーカで大人になってくれよ!』

『なに言ってんのツナ?ランボさんは10年バズーカなんて、シ・リ・マ・セ・ン』

「おもっきし頭から出てるじゃねえか…」

『頭から出てるじゃないか!』

 

 過去のツナとクリスのツッコミがかぶる。

 ツナはランボの頭から10年バズーカを引っ張りだすと、ランボと取り合いになり、偶然にもランボの指が引き金を引き、ツナに10年バズーカの弾がゼロ距離で着弾する。そしてツナが飛ばされた先は、棺桶の中だった。

 

「棺桶の中…?どういうこと…?」

「おい、誰か来たぞ!」

 

 クリスの言葉に振り返ると、十年後の獄寺が現れ、ツナに謝り始める。

 

「何というか、見た目はあんま10年前と変わってねぇな」

 

 十年後の獄寺は、ツナに一枚の写真を見せると過去でその人物を消すよう頼んでくる。その事に戸惑っていたツナがなぜ十年後の自分が棺桶の中にいたのか聞いた直後、獄寺が十年前と入れ替わり、ツナから話を聞いた獄寺は喜んだり落ち込んだりしていた。

 

「なんと言うか、面白い人だね!」

 

 彼の反応を見た響はそんな感想を述べる。

 その後、ツナ達が十年後に飛ばされてすでに五分たっていることに気づき、ツナが焦っていると彼の腹がなる。そして獄寺が持ってきた八つ橋を食べたあと辺りを見渡していると、獄寺が十年後の自分が残していった鞄を見つけ開くと、中身を確認する。すると記号が書かれた紙を見つける。

 

『これはG文字だ!』

『G文字?』

『ゴクデラ文字といって、授業中にオレが考えだした暗号です』

『(授業中何やってんだこの人ー!)』

「やっぱり獄寺さんって面白い人だね!」

「全く、授業中に彼は何をしているのだ…」

「こいつバカか?」

 

 三者三様の反応を見せるなか、獄寺が暗号を解読していると、後方から何者かが現れる。

 

『はじめまして─さようなら』

 

 いきなり現れた人物はそう言うと、戦闘態勢にはいる。

 

「誰だあいつ?」

「あいつはラル・ミルチ。CEDEFのメンバーの一人だ」

「なら味方でしょ!?なのになんで争おうとするの?」

『10代目!!さがって下さい、ここはオレが!!』

 

 響が質問していると、獄寺が筒状の物体を指と指の間にはさみツナを庇うように立ちふさがる。

 

「あれって…爆弾!?」

「ダイナマイト…!なぜあんなものを!?」

「獄寺の武器は全身に仕込んでいるダイナマイトだ。タバコを火種にすることから、マフィア界隈では『人間爆撃機(スモーキン・ボム)隼人』って呼ばれてるぞ」

『果てろ!』

 

 リボーンが獄寺の説明をしていると、獄寺が爆弾の嵐をおこすが、ラルは獄寺の攻撃を余裕であしらい獄寺を炎の檻に閉じ込める。

 

『やはりリングを使いこなせないか…宝のもちぐされだな』

『リングを使いこなす…?』

『な…何を言ってんだ…?』

『オレを恨むな…死ね』

 

 ラルはそう言って獄寺に止めを指そうと左腕につけたガントレットを構える。

 それを見た獄寺はツナに逃げるように促す。するとツナは覚悟を決め死ぬ気丸を服用した。その直後、ラルは獄寺に銃撃を行う。だがその攻撃は超死ぬ気モードになったツナによって防がれた。

 

「これが、沢田が始めて死ぬ気丸を使った戦いか…」

『10代目!!』

『9mm弾丸をものともしない高密度エネルギー…待ってたぜ、ハイパー死ぬ気モードのお前をな』

『!?…なぜオレ達を狙う?』

『今は非常時だ。手っ取り早くが最優先なのさ』

『?』

『次のは鉛弾とは違う。その炎でも消せはしないぜ』

 

 ラルはそう言うと、ツナに向けて弾を放つ。それをツナは回避しようとするが、今度の弾はツナのあとを追ってくる。

 

追尾(ホーミング)!!』

 

 ツナは炎の幕を張り攻撃を防ごうとするが、ラルの放った弾は炎を貫通してツナに着弾、爆発が起こる。

 

『10代目ー!!』

「「「ツナ!」」」

「ツナさん!」

「沢田!」

『休憩なんてやらないぜ…ここで死ぬようなら足手まといになるだけだからな…生きたきゃ生きろ』

 

 ラルはそう言って落下するツナに容赦なく攻撃を行い、ツナの周囲を爆煙が覆いつくす。

 

『じゅ、10代目ー!!』

『リボーンの指導を受けながらこんなものか。これでよくXANXUS(ザンザス)を倒せたな…リボーンが隣にいて初めて一人前だったってわけか…』

『なぜリボーンのことを知っている』

 

 煙の中から声が聞こえた。

 煙が晴れると、そこには右手の手の平と左手の手の甲を相手に向けて組み合わせ、四角形を作る構えをとっているツナの姿があった。

 

「よかった!無事だったんだ!」

「しかし、あの構えはなんだ?見たことがないぞ?」

『零地点突破…改か!!』

「零地点突破改?」

「死ぬ気の零地点突破ていうのは、初代ボンゴレボスであるジョットが編み出したとされる技で、死ぬ気モードとは逆の境地にあるマイナスの状態に位置する技でな。発動前はノッキングするような不規則な炎を放出して瞬くような炎になるんだが、ツナは導き出された技を総じて『零地点突破』と呼んでいるぞ」

「ということは、彼がノイズを凍らせていたのは零地点突破か…だが、私達が知っている零地点突破とあの技は違っているぞ?」

「お前達が知っている技は零地点突破・初代(ファースト)エディションという技だな。その技は、ジョットが使ったとされる伝説的な技で、自らの死ぬ気の炎を強力な冷気に変換して対象を凍らせることができる技だが、零地点突破改はツナが編み出したオリジナルの技で、炎の属性は問わず、相手の死ぬ気の炎のダメージを軽減するだけでなく、吸収して自分のエネルギーに変換することができる技だぞ」

 

 リボーンが響達に死ぬ気の零地点突破について説明していると、ラルの炎を吸収して強化されたツナがラルを圧倒する。

 

『なる…ほどな…』

『女!?』

『なかなかどうして見所はありそうだな沢田綱吉…オレが全力を出してもお前の戦闘能力には及ばないだろうぜ…最も…旧時代的意味においてな』

『?』

『それだけではこの時代…生きてはいけないぜ!』

 

 ラルは飛び上がると、ツナに向けて再び攻撃を行う。ツナはラルの攻撃をなんなくかわしていく。しかし…

 

「あれは…ムカデ?」

 

 弾幕の中に混ざって一匹のムカデがツナに近づく。そのムカデはツナを通りすぎた直後、Uターンをしてツナのからだにまとわりついた。

 ツナはムカデを両手でつかむと、炎を放出し始める。

 

『す…すげえ!!さすが10代目っス!!』

『気づけよ。逆効果だ』

 

 ツナの顔に疲労の色が見え始める。

 

『お前は死ぬ気の炎を自分の意思で出してるんじゃない。無理やり大気に放出させられてるのさ…炎で動く玩具によってな』

『な…』

 

 ツナから放出する炎が徐々に弱まっていく。

 

『そん…な…』

 

 そしてついに額に灯った炎が消え、ツナが地面に落下する。

 

『こんな初歩的な(トラップ)にかかるとは、情けないなボンゴレ10代目』

 

 ラルがツナにガントレットを突きつける。

 その光景をみていた獄寺は炎の檻から抜け出そうとするが、壊れる気配がない。そしてツナは自分の不甲斐なさを悔やんでいた。

 

『及第点だ。殺すのは見送ってやる』

 

 ラルはガントレットを引っ込めると、ゴーグルを外し自己紹介をして獄寺を捕らえていた檻を解除する。

 そしてツナ達にマーモンチェーンと呼ばれる小型の鎖を取り出し、リングに巻き付けるように命令してくる。

 獄寺はそんな彼女に状況等を説明するよう要求するが、ラルはすべての質問をシカトして場を離れようとする。

 

『ちょっと待ってください!!オレ達、過去から来たんです!!さっきから驚くことばかりで何がなんだかさっぱり…!!』

『口ごたえするな』

 

 ラルはガントレットを突きつけてツナを黙らせようとする。

 

『ひぃっ』

「「「「鬼だ!」」」」

 

 装者達と未来の意見がぴったり揃う。

 

『ふざけんな!!なんでてめーの言うことを!!』

『ついてこれない奴は死んでくれた方が助かる…オレには時間がないんだ』

「あの人、顔に痣が…!」

 

 ラルの痣をみた過去のツナ達は言葉をなくし、シンフォギア世界の人達も絶句する。

 

『知りたいことは目的地についてから調べるんだな』

『目的地!?』

『おまえ達のアジトだ』

「ツナ達のアジト?」

『オ…オレ達のアジト!?』

『まさか…この時代の…!!ってことはオレ…あ!リボーンもそこにいるんですか?』

『そうか!10年前のリボーンさんがまだこの時代にいるってことも』

『知るか』

 

 ラルはそう言いうと森の中に向かって動き出す。

 

『でも…赤ん坊リボーンがいなくてもこの時代のリボーンがいるのかも…』

 

 だが、ツナのその一言を聞いたとたん、足を止める。

 

『オレの体が成長するのもこうして生きながらえているのも、オレがなりそこないだからだ…』

 

 ラルは話ながら、懐から灰白色のおしゃぶりを取り出す。

 

『コロネロ…バイパー…スカル…最強の赤ん坊アルコバレーノ達は皆…死んでいった…もちろんリボーンも…いない』

「そんな…」

「彼女の持つおしゃぶり…リボーンがつけているおしゃぶりと酷似しているが、彼女もアルコバレーノの一人なのか?」

「ラルは『運命の日』に選ばれし7人(イ・プレシェルティ・セッテ)として集められた1人だったが、コロネロの奴が庇ったことでその役目は代行されてな。だが、アルコバレーノの呪いを受ける際に完全には庇いきれず、ラル自身も影響を受けて赤ん坊の姿になって、アルコバレーノの7つのおしゃぶりに含まれないあのおしゃぶりを所有することになったんだ」

「そうなのか…」

 

 ツナ達はその後、森の中を走り回り、一時すると川を見つけそこで休憩をとる。

 

『今日はここで野宿だ』

『な!?』

『の…野宿ー!?』

 

 ツナ達はラルに不満を述べるが、再びガントレットを突きつけられて黙らされてしまう。さらには飯は自分達で現地調達しろと言う始末。

 ラルの話を聞いた獄寺はツナを連れて森の中に入ると…

 

『スイマセン!!オレがいながらあんな奴をのさばらせて!!』

 

 そう言いながら、土下座の姿勢で何度も頭を地面に叩きつける。

 

『でも…アジトにつくまでの辛抱っスから!』

『え…?』

『何の信憑性もないリボーンさんの話で10代目をおどしやがって、本当にムナクソ悪い女っすよ』

『!お…おどし?オレはてっきり本当に死ん…』

『そんなわけありません!忘れたんすか?無敵のリボーンさんスよ!!』

「獄寺の奴、嬉しい評価をしてくれてるじゃねえか」

『そう言われてみれば…』

『ただ、今は奴についていくしか手がかりがないのも確かっス!大丈夫、リボーンさんは生きてますよ』

 

 獄寺の話に安心したツナだったが、鳥の羽ばたき音ですぐに怯え上がる。

 その後、手分けして食料を探していると、得体の知れないものを飲み込んでしまい、酔っぱらいのような状態になり森をさ迷っていると、泉の近くで先ほど分かれた獄寺を見かける。

 

『ゴクデラ君ら…』

 

 名前を呼ばれた獄寺の顔をよくみると、頬を赤く染めていた。

 

『じゅ…10代目ぇ!!静かにー!!そして早くー!!』

 

 獄寺がツナを手招きする。するとツナはよっぱらった状態で近づき、獄寺の顔に頭をぶつけ二人仲良く泉の中に落ちる。そしてツナ達が泉から顔を出すと

 

『ガキ共が』

 

 目の前には一糸纏わず、生まれたままの姿のラルが立っていた。

 

『うがっ!!』

『のわー!?』

 

 静かな森の中に男二人の叫び声が響いた…

 

 その後二人は、濡れた服を乾かしながら、ラルから多くとれた魚を分けてもらっていた。ちなみにだが、二人の左の鼻にはティッシュがつまっており、先ほどの光景をみていた響達は、ハルの時と同じ反応を示し、セレナすら怒りを露にしていた。その五人の圧に、リボーンでさえ冷や汗を流してしまう。

 そんななか、ラルが二人をじっと見つめる。

 

『(目が…合わせられない…)』

『(モロだぜモロ…)』

『お前達のことは写真でみたことしかない』

『!?』

『だが10年バズーカの存在とおもかげで、何者か識別できた』

『『…?』』

『時間ができたんだ。知っていることを話してやる』

 

 ラルはそう言って、自分がボンゴレ門外顧問『CEDEF』に所属していること、ボンゴレ本部が二日前に壊滅状態に陥ったこと、そしてそれを行ったのが『ミルフィオーレファミリー』と呼ばれるマフィアのボスである白蘭であることを話す。

 

「本当に、ツナと白蘭さんは敵同士だったんだ…」

『この時代、戦局を左右するのはリングと(ボックス)だ…奴らはリングと匣を略奪することにより急激に力をつけてきた…ボンゴレを強襲した目的もそうだ…』

『ボンゴレリングが狙いだってのか!?』

 

 獄寺の問いかけを聞いたラルはリングについて簡単な説明をしながら空を見上げた直後、慌てて焚き火に砂をかけ鎮火する。

 

『なにやってんだ!!』

『敵だ!』

『『!!』』

『感傷に浸っている場合ではないぞ…奴らは強い!!見つかったら終わりと思え!』

 

 ツナ達はすぐに服を着ると、ラルと共に近くの岩場に隠れ、ラルはステルスリングと呼ばれるリングからマーモンチェーンを外す。

 それから少しすると、近くに人型の真っ白いロボットが現れる。

 

『ゴーラ・モスカ!!』

『ゴーラの二世代後の機体だ…ストゥラオ・モスカ…軍はボンゴレ以外にも機密を売ってやがったんだ』

「モスカ?」

「ゴーラ・モスカってのは、旧イタリア軍が極秘裏に開発していた戦闘用のロボットでな、死ぬ気の炎を動力源として動くんだ」

 

 リボーンがモスカについて話していると、ストゥラオ・モスカの顔がツナ達の方を向く。

 

『こっち向いたぜ!』

『みつかりっこない、ストゥラオはリングの力を探知するセンサーを内蔵しているが、マーモンチェーンでリングの力は封じられている』

 

 そうラルが説明するが、ストゥラオ・モスカはまっすぐにツナ達のもとに近づいてくる。

 

『バカな!!お前達、ボンゴレリング以外のリングは持っていないな』

 

 それを聞いたツナがポケットからあるリングを取り出す。

 

「あれって、ランチアさんからもらってたリングだ!」

『そのリングは…!!なぜ話さなかった!!3人でも倒せる相手じゃない!全滅だ…』

『へっ弱気じゃねーか、自慢のリングの力は役に立たねーのかよ!!』

『戦いは力だけではない!相性が重要なんだ!!』

 

 ストゥラオ・モスカがツナ達が隠れている岩に銃口を向ける。

 

『アジトまであとわずかというところで…!くそっ』

 

 ラルがモスカに応戦しようとした直後、何者かがモスカを後ろから斬りつける。

 

鮫衝撃(アタッコ・ディ・スクアーロ)…こいつで1分はかせげるはずだ』

『…!?』

『助っ人とーじょーっ』

「あの人は確か…!」

「ツナの雨の守護者─十年後の山本武だな」

『や…山本!?』

『あれ?悪い冗談じゃ…ねーよな…門外顧問とこの使者を迎えに着たらお前達までって…ん…?でも縮んでねーか?幻…?妖怪か?』

『(やっぱ、この人山本だー!!)』

「山本さんって、天然な人なのかな?」

「ま、確かにその通りだな」

『あ…オレ達…10年バズーカで過去から来て…』

『!ああそっかー!!昔の!あ…あせったぜ!どーりでな…元気そうだなツナ』

 

 山本は安心しつつもどこか悲しそうな表情を浮かべると、モスカを放置してアジトに向かい始める。

 向かっている途中、山本は飛ばされてきたツナ達から最近の出来事について話を聞き、昔を懐かしんでいた。

 

『ハハハ!そっか!10年前っていうとリング争奪戦が終わったあとか』

『うん』

『懐かしーな』

『そっちは…?』

『あれからいろいろあったんだぜ─そうだ!!この10年間お前はそりゃーすごかったんだぜツナ!!』

 

 山本はツナの頭に腕をのせる。

 

『獄寺おまえもな』

 

 山本が後ろを歩く獄寺の方を向く。獄寺は先程から不機嫌そうな顔を崩していなかった。

 

『おい…走らないのか?歩いていては朝までかかるぞ』

『!そっか言ってなかったな。お前の知ってるアジトの在処の情報はガセなんだ』

『…?』

『わりィ!もうそろそろだな。オレを見失わないように、ついてきてくれ』

 

 山本はそう言うと、懐から一つの匣を取り出し開匣(かいこう)する。すると中から一匹の燕が勢いよく飛び出す。

 

『何だ!?』

『防犯対策のカモフラだ。よそ見はするなよ』

 

 すると、雨が振りだし一瞬にして土砂降りに変わる。

 

「うわわ!前が全く見えないよ!」

「この雨はさっき山本が出した匣アニマル─雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)が生み出した雨だぞ」

『いてて!!何も見えねぇ!!』

『ジャングルの雨みたいだ!!』

『こっちだ』

 

 ツナが山本の声が聞こえた方向をみると木々の中に、人工的に作られた地下に続く階段が現れる。

 

『アジトって地下にあんのー!?』

『ああそうだ』

「すごーい!秘密基地みたい!」

「敵に知られないための基地なんだから秘密基地なのは当たり前だろ?」

『他にもこんな入り口が6か所ある』

「他に6個も!?」

「ボンゴレの財力というのは、余程のものなのだな…」

 

 山本が生体認証装置に手をかざすと、エレベーターの扉が開く。

 

『ここはボンゴレの重要な基地として急ピッチで建造中だったんだ…』

 

 エレベーターが地下5階につき扉が開くと、目の前には膨大な空間が広がっていた。

 

「すごく広ーい!」

「基地の一部でもこの広さか…全体の大きさで言えば特機部二の基地よりも大きいのではないか…?」

『いまんとこ6割方できてるってとこだな』

「まだ6割だと!?」

『す…すげー!!ボンゴレってこんなの作れちゃうの!?』

『ハハハ!いいこと教えてやろーか?おまえが作らせたんだぜ、ツナ』

『えー!!?オ…オレがー!!?』

「ツナが!?」

「こんなん作らせるとか、どんだけでかいことさせてんだ…」

『おい、あの装置はなんだ?』

 

 ラルが目の前に見えてきた装置について問いかける。

 

『ん?ああ、メカニックのジャンニーニが作ったなんとかって物質を遮るバリアだそうだ』

「ジャンニーニって確か…」

「ツナを私達の世界に飛ばす原因となったものを作ったメカニックだな」

 

 そんな話をしていると、ラルがバリアを通りすぎた直後、倒れこんでしまう。

 

「ラルさん!?」

『おい!どーした!!』

『おまえもだったのか…!』

『ど…どーなってんの!?』

『心配ない、環境の急激な変化に体がショックを起こしただけだ。ここは彼女達にとって外界とは違うつくりになってるからな』

『?彼女達…?』

『少しすりゃ目を覚ます』

 

 山本はそう言ってラルを抱えると、ツナ達をつれてとある部屋に案内する。

 

『おせーぞ』

 

 ツナ達が部屋に入った直後、ツナが一番聞きたかった人物の声が聞こえ、ソファの方を向くと

 

『チャオっす』

 

 いつものようにボルサリーノをかぶりその縁にカメレオンのレオンをのせ、黒服を着て黄色いおしゃぶりを着けたリボーンが座っていた。それをみたツナが瞳を潤わせながら近づく。

 

『だきしめて~♥️』

『?』

『こっちよ!!』

『ふげー!!』

 

 どこかから声が聞こえた直後、ツナが後ろから頭をおもいっきり蹴られる。

 

「え!?リボーンくんが二人!?」

「いや、よくみたらツナの近くにいるリボーンは人形だ!」

『あでででで!!』

『大丈夫っスか!?』

『後頭部に土ふまずがフィットしたぞ』

『な!!なんなんだよ!!このふざけた再開は!!こっちは死ぬ思いでお前を探してたんだぞ…!!またヘンなカッコして!!』

 

 不満をのべるツナだったが、言いたいことを言い終わると安心した表情を浮かべた。

 

『しょーがねーだろ?このスーツを着てねーと体調最悪なんだ。外のバリアもオレのために作らせたんだしな』

『!?どういうことだよ』

『オレにはキビしい世の中ってことだ』

『?』

「もしや、アルコバレーノであることが関係しているのか?」

「鋭いな翼。この時代では非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)と呼ばれるアルコバレーノ(俺達)にとって有害で、浴び続けると呪いで死んでしまうほど危険な物質が大気中に照射されててな」

「なるほどねぇ…でも、それなら何でラル(あいつ)は外で動きまくってたのに死んでねぇんだ?」

「それはあいつが虹の呪いを中途半端な状態で受けたことによって、その分、非7^3線の負担も減ったと思われるぞ」

 

 現在のリボーンが翼達に説明していると、過去のリボーンがツナ達に飛ばされてきた時間が9年と10か月であることを伝えモニターに地上の映像を写し出す。

 

『?』

『暗くてよく見えねぇ…』

『こいつは見覚えあるはずだぜ』

 

 山本がそう言うと映像が切り替わりとある学校を写し出す。

 

「あ!看板に『並盛中学校』て書いてある!ということは…!」

『ってことはここ並盛なの!?』

『日本だったんスかー!?』

 

 自分達がいたところが並盛だったことに驚く二人。

 

『現在、全世界のボンゴレ(サイド)の重要拠点が同時に攻撃を受けている。もちろんここでも、ボンゴレ狩りは進行中だ』

『ボンゴレ…』

『狩り…?』

『おまえ達もみたはずだぞ。ボンゴレマークのついた棺桶を』

『それってオレのことー!?』

「やはり、この時代の沢田はもう…」

『てめえ!!』

 

 獄寺が山本を殴る。

 

『何してやがった!!何で10代目があんなことに!!』

『ひいっ!獄寺くん!』

 

 獄寺が山本を問い詰め、ツナが怒り狂う彼をみて怯える。

 

『すまない』

『てめえ、すまねーですむわけ…!!』

『やめろ獄寺!10年後のお前もいたんだぞ』

『!く…そ…』

『敵であるミルフィオーレファミリーの恐ろしいところはもちろん戦闘力の高さだが、それよりもやベーのは目的がただ指輪を得るための勝利じゃないことだ』

『!?』

『本部が陥落した時点でミルフィオーレは交渉の席を用意してボンゴレ側のある男を呼びだした。だが奴らはその席で一切交渉などせず男の命を奪ったんだ…』

「てめぇ…!」

「落ち着け雪音!」

 

 山本の話を聞いた雪音が白蘭に殴りかかろうとし、翼がそれを止める。

 

『それからもこちらの呼びかけにも一切応じず、次々とこちらの人間を消し続けている…奴らの目的は─ボンゴレ側の人間を一人残らず殲滅することだ』

『つ…つまり過去からきたオレ達も危ないってこと…?』

『それだけじゃねえぞ。おまえ達と関わりのあった知り合いも的にかけられてるんだ』

「うそ…!?」

『そ…それって!』

『うろたえんな。まだ希望がなくなったわけじゃねえ』

「なんか手があんのか?」

 

 響達が過去のリボーンに視線をむける。

 

『山本、バラバラに散ったとはいえ─まだファミリーの守護者の死亡は確認されてねーんだな』

『ああ…』

『ならやることは一つだ─おまえはちりぢりになった6人の守護者を集めるんだ』

『え!?』

「どういうことだ?」

『歴代ボスもずっとそうしてきたんだ。ボンゴレに危機が訪れる時、必ず大空は6人の守護者を集めどんな困難をもぶち破る』

『だ…だけどたった7人集まったところで…』

『逆だぞ─奴らと勝負できるのはおまえ達しかいねーんだ。この時代の戦い方は特殊だが、だからこそおまえ達7人にも分があるとオレは思っている』

『何…言ってんだよ…わけわかんないよ!それよりオレ達の知人もボンゴレ狩りの的になるっていってたけど…それって母さんや京子ちゃん達も入ってんのか!?』

『ミルフィオーレが抹殺する対象は拡大し続けている。彼女達もおそらく…』

『そんな…!!大変だ!!どうしようリボーン!!』

『手はうってある』『!?』

『オレがラル・ミルチを迎えにいくのと同時に、イーピンとランボが笹川とハルを探しにいったんだ』

「イーピン?誰だそいつ?」

「今はツナの家の居候の一人になっている、ランボと同年代で香港生まれの殺し屋だぞ」

『あいつらが?』

『そうか!イーピン達こっちじゃチビじゃないんだ!!』

『今は連絡待ちだ。ママンはタイミング悪く5日前に家光とイタリア旅行に行ってな…状況がつかめねぇ』

「そんな…」

『イタリアって…!まさか…母さん…?』

『ビアンキとフゥ太は情報収集に出ている。他の仲間だが…この2日間でロンシャン達や持田は行方不明…10年間にできた知人もほとんども消された…』

『!!!』

『山本の親父もな…』

『そ…そん…な…』

 

 その日の夜、ツナは布団のなかで京子達が作った手作りのお守りを握りしめていた。

 

『(神様仏様、お願いします─どうか…母さんや京子ちゃんやハル達が無事でありますように…!!)』

『うぐっ!グス…』

「ツナ…」

 

 次の日の朝、ツナ達がリボーン達の元に向かっている途中、リボーン達の会話が聞こえた直後、ラルとすれ違う。

 

『(コロネロの…(かたき)…?)』

『おめー達よく眠れたか?いよいよ守護者を集めるミッションをスタートするぞ』

『え!?ちょ…ちょっと待ってよ!!まだ心の準備が…そ…それに…!』

『いつまでも京子達の心配したって始まんねーぞ。守護者を集めることが最終的に京子達を守ることになるんだ』

『!!』

『大丈夫っスよ10代目!アホ牛はともかくイーピンは結構やります!きっと無事に帰ってきますよ』

『獄寺くん…』

『んじゃ始めっぞ。あれから山本と話し合ったんだが─最初に欲しい守護者は即戦力…つまりつえー奴だ』

『!強いっていったら…』

『そうだ…ボンゴレ10代目雲の守護者─雲雀恭弥だ』

「雲雀…さん?」

「並盛中だけじゃなく、並盛町一帯の頂点に立ち、裏社会も牛耳る最強最恐の不良で、愛校心が人一倍強い並盛中の─いや、今は並盛高の風紀委員長だぞ」

「不良で風紀委員長って、矛盾してない?」

「ちなみに、ヒバリは誰かと群れることを嫌っていてな─三人以上で集まっていたら群れと判断して、群れる奴らを『噛み殺す』ぞ」

「うひゃあ!怖い人だよ~!」

「それでよく沢田の守護者になったな…」

「それより、噛み殺すってどういうことだ?」

「実際に噛んで殺す訳じゃねえぞ。トンファーでボッコボコにして半殺しにするだけだ」

「それでもやりすぎだろ!」

『でも雲雀さん、今どこに…?』

『それがよくわかんねーんだ』

『!』

『オレもここをしばらく離れてて、今守護者達がどこにいるのかわからねぇんだ。ヒバリの手がかりはこいつだけだ』

 

 山本が懐から取り出した写真には一匹の鳥が写っていた。

 

『なぁ!?これってバーズの鳥じゃなかった!?』

『今はヒバリが飼っていてヒバードっていうらしいぞ』

「安直な名前だな」

『ずっと前にハルがヒバリの肩に乗ってるのを見かけたらしくてな…』

「絶対あのバカそうな女がつけたな」

『まあ、でも並盛好きのあいつのことだ─きっとこの町に手がかりはあるはずだ。オレはいけねーがしっかり連れて帰ってこい』

「やっぱりきつかったの?」

「ああ、このときは動くだけでもキツかったな」

 

 響の問いかけに現在のリボーンが答えると過去のリボーンがツナ達に山本を連れていかせるよう言う。

 

『なーに、ビビるこたぁないさ。おまえ達はこの時代のオレ達が失ったすんげー力をもってんじゃねーか』

『!?』

『失った…すんげー力…?』

『…おまえ達は希望とともに来てくれたんだ─ボンゴレリングっていうな』

 

 その後、山本はツナ達をつれてとある工場跡に出る。

 

「おい、この時代のボンゴレリングはどうなったんだ?」

『おい…!ボンゴレリングはどーなってんだよ!!』

 

 クリスと獄寺の質問が重なる。

 

『とりあえず並中行くか』

『コラ!聞いてんのか!?』

『?何だ?』

『ボンゴレリングだ!!何でこの時代にねーんだよ!』

『あーその話な、だいぶ前にリングを砕いて捨てちまったんだ』

「『捨てたー!?』」

「何故そのようなことを…!?」

『誰がそんなことをしたんだよ!!』

『うちのボスさ』

「ツナが!?何でそんなことを!?」

『ハハハ、おまえにもわかんねーか…ツナがボンゴレリングの破棄を口にするようになったのは、マフィア間でリングの重要性が騒がれはじめ…略奪戦の様相を呈してきた頃なんだ…戦いの火種になるぐらいならない方がいいと思ったんじゃねーか?お前はそういう男だ…ボンゴレの存在自体にすら首をかしげていた程だからな』

「─確かにツナなら、争いを好まないからしそうだよね」

「沢田なら絶対にするだろうな」

「あいつは甘ちゃんだから捨てるだろうな」

 

 響達が、ツナがリングを破棄した理由に納得していると、前方で爆発が起こる。

 

『こっちです!急いで!』

 

 煙の中から二人の男女が現れる。

 

「あの角…確か…」

『ランボにイーピン!』

『誰かを連れてるな』

『それって…まさか!!あそこにいるのは…!』

『京子さんハルさん逃げて!!ここは私が!!』

『でも…』

 

 その直後、上空から炎の刃がランボ達を襲い爆発が起こる。

 

『ああ!!』

『上か!!』

 

 ツナ達が上空を見上げると、黒い制服を着た二人の男性が炎を使って空を飛んでいた。




いちをツナの視点をメインにして書いた場合がこんな感じです。ちなみにこれでも漫画一巻分には届いてません。さらに十年後編だけでも余裕で15巻分越えてるので、10話分くらいになりそうです。

それと、まだ過去編終わってないけど二期の一話できました。これってやっぱ過去編終わらせてから投稿した方がいいですかね?


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ツナの過去(10年後編):②

大変おまたせいたしました!アンケートで重要な場所及び名シーン中心にすることにしたんですがどうも難しくて…できるだけ省略できそうな所は頑張って端折りましたが、ジャスト150000文字なっちゃいました…ヤヴァイ


「あいつらがミルフィオーレの幹部か!」

『ミルフィオーレのブラックスペル!』

「『ブラック…スペル?』」

「ミルフィオーレファミリーは元々、僕が率いるジェッソファミリーと、ユニチャン率いるボンゴレと同等の歴史を持つジッリョネロファミリーという2つのファミリーが合併してできたものでね。誰がどこの出身か分かりやすくするようにジェッソ出身の人は白い制服のホワイトスペル、ジッリョネロ出身の人は黒の制服のブラックスペルに分けてたんだ♪」

 

 白蘭がミルフィオーレファミリーについて説明していると、山本が二人にマーモンチェーンを外すよう指示してランボ達の元に向かう。

 

『じゃあ行くぜ!オイラの獲物達!!』

 

 そう言ってブラックスペルの一人─元ジッリョネロファミリーの野猿が匣から鎌を取り出すと、ランボ達がいる場所に炎を飛ばす。

 爆発が起こり、煙がまっている隙を狙って野猿が突撃し鎌を振るう。だがその攻撃は、山本の刀によって防がれた。

 

『兄貴、こいつ誰だ?』

『抹殺者リストに載ってたかもしんねーが、消えていく人間をいちいち覚えちゃいねーな』

『だよな!!』

 

 野猿が山本に鎌を振り翳す。だが山本は、野猿の攻撃をすべて防いでいく。

 

『なんだこいつ!?オイラの黒鎌(ダークサイズ)を!!』

『いくぜ…!』

 

 山本のつけているリングが光り、刀に死ぬ気の炎が纏われる。

 

《時雨蒼燕流 八の型─》

 

『離れろ野猿!!』

 

《篠突く雨》

 

「決まったか!?」

「いや!当たる直前に後ろにとんで衝撃を和らげている!」

『みんな大丈夫!』

『しっかりしろ!!』

『ボ…ボンゴレ!!獄寺氏も!』

 

 山本が野猿の相手をしている間に、ツナ達がランボ達の元に向かう。

 二人の姿を見たランボは喜びを露にする。

 

『だから言ったじゃないですか!絶対ツナさん達が助けに来てくれるって』

「あれって10年後のハルちゃん!?」

「だいぶ大人らしくなっているな」

『…はひ?なんだかハル…急に背が伸びたみたいです!』

「中身は変わってなさそうだがな…」

 

 響達が十年後のハルの印象をのべていると、野猿が炎を飛ばしてくるが、山本が匣を開匣し水のバリアを出して防ぐ。

 

『おまえ等、よく覚えとけ…リングにはこの(ボックス)を開ける力がある』

『そ…そーか!!こいつに開いてる穴はそーやって使うんだな』

 

 獄寺が懐から、十年後の自分が持っていた鞄に入っていた匣を取り出し、匣の穴にボンゴレリングを押し込むが、開く気配はない。

 

『ん…?何も起きねーぞ』

『ハハハ!─人間の体ってのは血液だけでなく目に見えない生命エネルギーが波動となって駆け巡ってるんだ。波動は七種類あって、リングは自分の素質と合致した波動が通過すると、それを高密度エネルギーに変換して生成する…死ぬ気の炎をな』

 

 山本は匣を開匣し雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)を出すと、雨燕が野猿に襲いかかる。

 

『す…すごい!!』

『んだありゃ…?』

『…!あれ…!?た…大変!!京子さんがいない!!』

「なんだと!?」

『もしかしたら…さっきの爆風で…!』

「『そ…そんな…!!』」

『まだ決まってねーぜ…探しにいけツナ!敵はこっちで引き受けた!!』

「山本さん!」

『う…うん!わかった』

「─!危ない!」

 

 ブラックスペルを山本に任せて走り出したツナだったが、太猿が放った炎の爆風によって近くの建物内に吹き飛ばされる。

 なんとか無事だったツナは、外にいる仲間の心配をするが、すぐに京子のことを思い出し工場内を走り回る。その間、最悪の可能性が頭をよぎり、目から鼻から涙や鼻水を流しながら探し回っていると、ついに京子と思われる女性を見つける。

 

「髪がロングになってる!」

「雰囲気もだいぶ変わっているな」

『ありがとう、来てくれたんだねツッ君』

「「「「ツッ君!?」」」」

 

 響達が京子のツナの呼び名を聞いて吹き出す。

 京子が足をくじき動けないでいると、野猿と一緒にいた男─太猿が現れる。

 ツナが京子を守るように立ちふさがり、体を震わせながら死ぬ気丸が入ったケースとミトンを取り出した─その直後

 

ボフン!

 

 という音と共に京子を煙が包み込む。

 

「おいおいまさか…!?」

『ツナ君…?』

『えぇー!!?』

「10年前の京子ちゃんが来ちゃった!?」

「クッ!あまりにもタイミングが悪すぎる!」

 

 状況を把握できていない京子と、京子が唐突に入れ替わったことに慌てるツナ。だが、そんな二人に無慈悲にも炎の塊が襲いかかる。

 

『あぶない!!』

 

 ツナが京子を突き飛ばす。それにより京子は爆発に巻き込まれなかったが、ツナは攻撃をもろにくらってしまう。

 

「沢田!!」

『ツ…ツナ君!!』

『お嬢さん…次はあんただ』

『!!』

『女子供を殺すってのは、草を刈るようなもんだと思わんか?なんの手応えもなく気づけば…ちょん切れてる』

『…』

『なあに怖がることはない─一瞬であの世だ』

 

 太猿は再び炎を飛ばし、その炎は京子に向かっていく。炎が着弾し爆発が起こり、京子は巻き込まれたかに見えた─だが

 

『ツナ…君?』

「よかった!二人とも無事だったんだ!」

 

 炎が当たる直前に、ハイパーモードのツナが救出していたのだ。

 ツナは京子を下がらせると、Xグローブに炎を灯し太猿に向かって飛んでいく。

 太猿が炎を放ちツナに当たるが

 

「あの構えは─零地点突破改か!」

 

 太猿の炎を吸収したツナは、速度を上げ太猿に突っ込んでいく。太猿はツナの突進をかわすが、ツナは手刀で太猿をノックダウンさせようとしているのか、彼の後ろに回り込む。太猿は鎌で切り裂こうとするが、ツナはそれを余裕でかわしていき再び太猿の背後に回り込む。

 

『ハエかこいつは!!ええいうっとうしい!!』

 

 太猿が腰についた匣の一つに炎を注入する。すると太猿の背中に炎が出現し、複数の針を形取り突きだされ、そのうちの一本がツナの左肩に突き刺さる。

 

「ツナ!」

『ぐぁっ!』

『あぁ!!ツナ君!!』

『来るな!!』

 

 京子がツナの元に駆け寄ろうとすると、ツナがそれを制止する。

 

『…大丈夫…』

 

 肩から血を流しながらも立ち上がろうとするツナ。

 

『君は…守ってみせる─オレの…命にかえても』

「見て!ツナのリングが!」

 

 ツナが顔を上げると、首にかけていたボンゴレリングに炎が灯り、額とグローブの炎が膨れ上がる。

 

「すげぇ…リングに火が灯った途端にあいつ自身の炎もでかくなってやがる…!」

『怖じ気づいたか』

『ぬっ!!女と炎は使いようだ!!てめーのようなうるせーハエには、殺虫剤をまくまでだ!』

 

 太猿が先ほどとは別の匣に炎を注入すると、三つの円盤がツナに向かって飛んでいく。ツナはその円盤を回避するが、円盤はまるで生きているかのようにツナのあとを追って襲いかかる。

 

「ハエのように纏わりつきやがる!」

『逃げきれるものか!!黒手裏剣(ダークスライサー)はおまえだけを貫くぞ!!』

 

 ツナがその話を聞きながら攻撃をかわしていると、黒手裏剣と呼ばれた円盤は空中に残ったツナの炎に纏わりつく。

 

『炎に反応するのか』

『その通りだ!!おまえの発するようなでかい炎のみを追尾し、炎を吸収するたびに加速する!!そしてしまいには─目標物の1.5倍の速度に達する!!回避は不可能だ!!』

「なら、その円盤ごとつっこみゃ…!」

 

 ツナは黒手裏剣を連れて太猿に向かっていくが

 

『使用者には絶対に当たらんようにできている!!回避は絶対に不可能と言ったはず!!』

 

 実際に、黒手裏剣は太猿をかわしツナを追い続ける。それを見たツナは、飛んでくるすべての黒手裏剣を片手で掴み取ると、凍らせて天井に着地する。

 

「なるほど…初代(ファースト)エディションで凍らせれば、あれを止めるのは容易いな」

『不思議だ…体が軽い』

 

 ツナは凍らせた黒手裏剣を放り捨てると、一瞬で太猿の元に移動し今度はブーツの炎を凍らせる。それにより、太猿は地面に落下する。

 

『バカな!!ほ…炎を…凍らせるなど!!こ…これではまるで、噂で聞いたボンゴレ10代目…!!貴様何者だ!!!』

 

 太猿がツナに斬りかかろうとするが、ツナは無言で鈎柄を掴むと黒鎌を凍らせていく。そしてツナは拳に炎を込めて太猿を殴り飛ばす。太猿はその一撃で倉庫の天井を突き破り空高くとんでいった。

 

「よし!」「よっしゃ!決まったぜ!」

「けど、ツナが!」

『!!』

 

 ツナは太猿を殴り飛ばした直後、額の炎が消えその場に倒れこむ。

 

『ツナ!』

 

 響と未来がツナのもとに駆け寄ろうとした直後、周りが一瞬暗転し、風景が切り替わる。

 

「ここは…」

「地下基地の病室だな」

 

 響達が周りを見渡すと、ベッドの上で、左肩を中心に包帯をまかれ苦しそうにしながら眠るツナがいた。

 響達がツナに近寄ろうとした直後、目を覚まし勢いよく体を起こす。だが傷が痛むのか、すぐに体をおさえてしまう。そんな彼を近くで看病していた獄寺が心配する。

 

『みんなは!?』

『大丈夫です、全員無事っスよ!』

「皆無事なんだ!よかった~!」

『…き…来たんだよ…来ちゃったんだ!!京子ちゃんが過去から!!』

 

 慌てるツナだが、そんな彼に獄寺は京子だけでなく山本達も十年前と入れ替わったことを伝える。

 

「三浦達だけでなく、山本までもとは…」

『そんな…!!た…大変だ!!ダメだよっ!!みんなこんなところにいちゃダメだ!!こんな所にいたら、みんな…みんな殺されちゃうよ!!』

「沢田…」

 

 慌てだすツナを獄寺が落ち着かせようとする。すると、病室の入り口に涙を流すハルが現れる。

 

『10年後の世界が、こんなデストロイなんて…』

『ハルちゃん…』

 

 横から京子も現れるが、顔色がすぐれず真っ青になっていた。

 

『ツナさーん!!ハルは平和な並盛に帰りたいです!!』

 

 ハルがツナに抱きつきそう叫ぶと、病室を暗い空気が包む。

 そこに、ハーブティーを持ったリボーンが現れ、京子とハルにハーブティーとメモを渡す。

 その直後、ツナは体に鞭をうって立ち上がり、リボーンは彼の目からなにかを察したのか、京子とハルを退出させツナと守護者達だけ残し、京子達にはマフィアやボンゴレのことについては伏せつつも現状を伝えていることを教える。

 

『…帰さなきゃ…みんなをこんな所にいさせられない!なんとしても過去に帰さなきゃ!!もう生きのびるとかそんな問題じゃないよ!!そんな問題じゃ!!』

『あ…おいツナ!』『おちついてください10代目!』

『だいぶ錯乱してるな…』

『ちっ違うよ!!もうここで守護者を集めるとか!!そんなのんびりしてる場合じゃないっていってんだ!!』

『そうやっていちいち興奮するのがそーなんだ。それに守護者を集めるのはやはり避けて通れねえぞ』

『な!!なんでだよ!!もう根拠のない話はたくさんだよ!!おまえの話はいつも…!!『根拠はあるぞ』え!?』

『そーなんス10代目!見つけたんスよ!過去に戻る方法を!』

 

 獄寺は十年後の自分が持っていた手紙を取り出すと、もう一度読み初める。

 

『守護者は集合…ボンゴレリングにて白蘭を退け、写真の眼鏡の男消すべし…全ては元に戻る─以上です』

「別におかしいところはねぇ気がするが?」

「─いや…一つだけ、この時代にはすでに失われているものがかかれている」

「『あ!ボンゴレリング!!』」

『更にこの手紙には、過去で眼鏡の男を消せなんてどこにも書いていない…むしろ退けるべき白蘭がいるのはこの時代です…』

『わかるか?この手紙はこの時代にいてリングをもつ者─つまり過去から来たおまえ達に書かれてんだ『え!!?』そして文面通りならば、守護者を集めて眼鏡の男を消せば全ては元に戻る─過去に帰れるととれる』

『か…過去に帰れる!?』

『幸いなことに、この眼鏡の男の目星はついてるぞ。ラル・ミルチが知っていてな。ミルフィオーレの隊長で入江正一っていうらしい』

「入江…たしか以前、リボーンが言っていた私達の世界と沢田達の世界を繋ぐ装置の開発者の名前に、そのような名があったような…」

 

 翼が現在のリボーンを見るが、リボーンはポーカーフェイスを作って何も口にしない。

 

『で…でも…その手紙を信じていいのかどうか…『信じてください!』!』

『オレは10年…いや100年経っても10代目を惑わせるような手紙を所持するつもりはありません!』

「ホントこいつ、ツナに忠実だな」

『でも、人を消すなんて…!!『ならこらしめる程度にしとけ』そーゆー問題なのか!?』

『まーツナ、落ち着けって。一人でしょいこむんじゃねーよ!みんなで解決してきゃいーじゃねーか!!』

「武さん、お父さんが死んでて辛いはずなのに…」

『オレはここに来れてよかったぜ『え!?』自分達の手でケリつけて、オレ達の未来を変えようぜ』

「いい意気込みだな」

『てめーカッコつけんな!!オレの言おうとしてたことを!!『右腕だからな』んだと!!てめーはごっこだろ!!』

「ツナさんから聞いてた通り、お二人は仲がいいんですね」

「『喧嘩するほど仲がいい』ってことだよね」

 

 響達が感想をのべていると、扉が開き、ランボが高笑いしながら入ってくる。そして、そのあと追いをハルも入ってくるが、なぜか足元に落ちていたイモに足をとられ転んでしまう。さらに続いて、玉ねぎが入ったボウルを持った京子と、京子の腕にしがみつくイーピンが入ってくる。

 

「イモと玉ねぎ…もしかしてカレー!?」

「いや響、気にするところ違うよ?」

『非戦闘員の2人には食事やチビの世話を頼んだんだ』

「あー、さっき渡してた紙のやつか」

『あ…れ?何か2人とも元気になってなる…?』

『当然です!こんな時だからこそ、いつまでもクヨクヨしてられません!』

『ツナ君達に負けないように、私達もがんばろうって決めたの!!』

 

 二人はそう話すと、キッチンに戻っていく。

 

「立ち直るの早いな、あいつら」

「そうか?私には、立ち直ったというよりは…」

 

『お…お願いです!!この時代の戦い方の指導をしてください!!』

 

 京子達がキッチンに戻ったあと、ツナ達はラルのもとに向かい指導を申し込んでいた。

 

『リボーンの差し金だな』

『ピンポーン『でっ』『10代目!!』守護者を集めるには戦力UPは絶対に必要だからな。おまえ以外の適任者はいねーんだ』

『断る。山本にでも頼むんだな』

『それがな、山本は見ての通りただの野球バカに戻っちまったんだ』

『ども』『てめーも土下座しやがれ!』

「なんていうか、山本さんって天然?」

「天然というより、頭ん中のほとんどが野球で埋め尽くされてるバカだな」

『おまえ達と遊んでいるヒマはない…オレは発つ。ここでじっとしていろ。少しは長生きできるぜ』

 

 ラルはそういうと出口に向かい歩き始める。それを必死に止めようとするツナ。

 

『もうやめましょう10代目っ!あんな女、頼りにすることないっスよ!だいたいあいつに指導者の素質があるとは思えないっス!!』

『その点はスペシャルだぞ『!?』ラル・ミルチはイタリア特殊部隊コムスビンで教官をやっていてな「おむすび!?」「コムスビンだ」指導者としてはオレも一目置いてるんだ。なんたってアルコバレーノになる以前のコロネロを一人前に育て上げたのはあいつだからな』

「ということは、ラルとコロネロは師弟関係だったわけか」

「まあな。話してなかったが、コロネロは結構スパルタでな。あいつのスパルタはラル・ミルチ譲りなんだぞ」

『と…とにかくリングでの戦い方を知るのはあの人しかいないんだ!!止めなくちゃ!!』

 

 ツナがそういってラルを止めるために立ち上がった直後、

 

『ガハハハ!』

 

 という声を響かせながら、ランボが何かを持って走ってくる。その後ろには、ランボを止めようとしているのかイーピンも走ってきている。

 

『ツナ見て見て!!てっぽういっぱい!!』

「なっ─機関銃だと!?どこからそんなものを!?」

「子供の子がそんなものさわっちゃダメだよ!?」

「いや、バズーカ持ってる時点でもうダメだろ…」

『遊ぼ~よツナ!!』

『頼むから、じっとしててくれよ!今、大事なお願いしてんだから!!』

 

 ツナが必死にランボを説得させようとしていると、今度はキッチンの方から

 

『キャアアァ!!!』

 

 という悲鳴が聞こえ、急いでキッチンに向かう。

 

『どーしたの!?』

『流しの下に何かいるんです!』

 

 ハルの話を聞いたツナ達が確認すると、確かに何か黒い物体がつまっていた。そしてそれが何なのか確認しようとツナと獄寺が近づいた直後、それが勢いよく引っこ抜け獄寺を押し潰す。

 

『いやーぬけました~♪─私、ボンゴレファミリー御用達武器チューナーにして発明家のジャンニーニでございます』

「あいつがジャンニーニか…」

「丸いな…」「丸いですね」

「それにめっちゃテカってる…」「だね…」

『ああ!!武器をおかしくしちゃう!!』

『あの面白えオッサンだな』

『いつまで乗ってんだ!!『あっ、これは失礼』』

 

 獄寺を踏み潰していることに気づくと、すぐに獄寺の上からおりる。

 

『お久しぶりです皆様。私もすっかり立派になりまして、今や超一流のメカアーティストに成長いたしました。2週間ほど前に父の推薦で来日し、このアジトのシステム全般を管理しております』

『もしかして…ずっとここにいたの…?』

『ああ。外のバリアもこの服も、ジャンニーニが作ってくれたんだぞ』

「先ほど沢田が『武器をおかしくする』といっていたが…なるほど。時がたち腕が上がった、ということか」

『で、そのおまえが何でキッチンにいるんだよ?』

『はい。このフロアの水回りは、先週私が組み立てたのですが、いろいろ部品が余ってしまって、どこのかな…と』

 

 そういうジャンニーニの両腕には、大量の部品が抱えられていた。

 

『本当に腕、確かなのー!?』

「というか部品余りすぎだろ!?ホントに成長してんのかコイツ!?」

『ん?なんだ?このニオイ…』

「あ!鍋から煙出てるよ!」

『あっ!ごめんなさい!火を消し忘れてた!』

『はひ!まっ黒コゲです!』

『きょっ、京子ちゃん大丈夫!!?』

『火・事!!火・事!!』

『コラ、アホ牛!!うるせーぞ!!!』

「あ~もうっ!カオスだよぉ!」

 

 その後、なんとか火は消すことができたが、今度は蛇口が壊れてさらにカオス度が上がる。そこに

 

『聞け!!!』

 

 先ほど基地から出ていこうとしていたラルがキッチンの入り口にたっていた。

 

『最低限の戦闘知識と技術はオレがたたきこんでやる』

「ラルさん、思い直してくれたんだ!」

「─どうやら、()が説得してくれたようだな」

 

 翼の視線の先─ラルの足元には、リボーンが立っていた。

 

「なーに、少しだけあいつに教官時代を思い出させただけだ」

『う゛お゛ぉい!!てめー、どーゆー風の吹き回しだ?急にベラベラと!!』

『心配いらん!一度でも付いて来れなくなった時点で見捨ててやる』

「うわぁ、鬼だぁ…!」

『図に乗りやがって!』

『さっそく最初の修行を始めるぞ』

 

 ラルは話を続けながら、マントの中に手を入れる。

 

『3人のうち誰でもいい…一度も開いたことのない、この(ボックス)を開匣しろ』

 

 そう言ってラルが取り出したのは、迷彩柄の匣だった。

 

「あの匣、傷のひとつもついていない…彼女の言った通り、一度も使われていないことがわかるな」

『でもそれが修行と何の関係が?』

『つべこべ言うな。やるのかやらないのか』

『!やっ…やります!!』

『リボーン、暴れられる部屋はないのか?』

『それでしたら、トレーニングルームが下の階にございますよ』

 

 その後、ツナは一度着替え、ジャンニーニの案内でトレーニングルームに向かうことになった。(ちなみにツナが着替えている間、現代組の女性陣は後ろを向いて耳を塞いでいた)

 

『このアジトは公共の地下施設をよけているため、いびつな形状をしています』

 

 トレーニングルームに向かう途中のエレベーターで、ジャンニーニがアジトの軽い説明を始める。

 

『総面積は、イタリア《サンシーロ・スタジアム》の約1.5倍、電力は地熱を利用した自家発電で供給しています』

「えっと、サンシーロ・スタジアムって…何?」

「イタリアのミラノっていう都市にある、フットボール専用のスタジアムだ。その総面積は355000m²…その約1.5倍だから、このアジトの総面積はだいたい532500m²ってことになるな」

「え~っと…それってつまり?」

「お前らの知っている東京スカイタワーの延床面積─建物全体の床面積がだいたい230000m²だから、スカイタワーが2つ入る広さと考えればいいぞ」

「へぇ~…って、すっごいよねそれ!?」

『おや、つきましたよ』

「そしてトレーニングルームが広い!」

「これだけ広けりゃ、多少派手に暴れても持ちそうだな」

 

 トレーニングルームにつくと、ジャンニーニは修理の続きをするために戻っていった。

 

『ところで、雷の守護者はどこだ?見つかったと聞いたが…』

『ずっといんじゃねーか。お前が視界にいれようにしてるあの毛のかたまりだぞ』

 

 リボーンに言われ視線を落としたラルの目に写ったのは、トレーニングルームを大声で叫びながら走り回る、アホ丸出しのランボの姿だった。

 

『オレには見えん』

「完全にあのアホガキの存在消したなこいつ…」

『修行の前に今一度問う─生半可ではついてこれないぞ。本当にやる気があるのか?』

『ああ!』『やります!!』

『ったりめーだ、吠え面かくなよ!』

 

 ラルの質問に、覚悟のこもった返事をする三人。そんな三人の覚悟を確認したラルは、匣について説明を始めた。

 

『この時代はお前達の生きていた10年前と違い、リングに炎を灯し、匣を開けることができなければ戦いにならない─それはお前達も目の当たりにし実感したはずだ』『!』

『だからこそ匣を開けるプロセスを学ぶことが、この時代の戦いを吸収するのにてっ取り早いんだな『そんなところだ』』

『運よく開匣できていたとしても、仕組みを知らねば意味はないしな』

『!(オ…オレのことか…?)』

『まずはリングを理解しろ。リングにできることは2つ─リングそのもの力を使うか、匣を開けるか。前者で言えばこの武器は、リングから発生した炎をそのまま射出している』

 

 ラルはそう言ってガントレットから死ぬ気の炎で生成された弾丸を壁に向かってうち、弾が着弾した場所は黒ずみ亀裂が入っていた。

 

『すげっ』『ひいっ』

『アジト壊す気かよ!』

『リングそのものの力は攻撃の基本となるものが多い。次に匣だが、匣とはリングの炎を別の作用や運動に変える装置だと考えろ』

 

 ラルは話ながら、匣に炎を入れはじめる。

 

『炎を電気にたとえるなら、匣は電化製品といったところだ。その種類は実に─多種多様』

 

 ラルが開匣した2つの匣からは、ツナとの戦いで出てきたムカデと小さな気球のようなものが出てきた。

 

『基本的にどの匣も最初に炎をチャージした分しか仕事はしない。炎が切れれば、活動停止する』

 

 ラルが呼び出したムカデ─雲ムカデ(スコロペンドラ・ヌーヴォラ)の頭部に灯っていた炎がつきた直後、雲ムカデも動きを止め床に落下する。

 

『だが、開匣ののちに更にリングの炎をまとわせるタイプ、敵の炎を吸収してパワーアップするタイプも確認されている』

「前者は先ほど戦っていたブラックスペルの2人が持っていた鎌で、後者は褐色の男「太猿クンだね♪」その太猿と呼ばれる男がだしていた黒手裏剣とやらのことだな」

『ここまでででわからないことはあるか?』

『あ…あの~…一つもわかんねーんスけど』

「嘘!?『炎が電気で匣が電化製品』てところは分かりやすかったと思うんだけど!?」

「山本は体で覚えるタイプだからな。口で教えられるより、実際に見て試したり、ノートに書いたりする方が覚えやすいんだ」

 

 リボーンが響達に山本のことを話していると、ラルが山本に近づき─

 

『わかれ』

 

 といって山本を容赦なく殴り飛ばした。

 

『山本ォ!!』

「うわっ!本当に容赦ねぇぞこの女…」

『オレの言ったことを何度も反復し考えろ』

「怖いよぉ…鬼だよぉ…」

「不条理だな…」

『では実践だ。沢田と獄寺はリングに炎を灯したと聞いたが、本当だろうな』

『えと…』『ったりめーよ!!』

「沢田が炎を灯したのは実際に見ていたが、獄寺も灯すことに成功していたのか!」

『見せてみろ』

『そ…それがオレ…よく何が起こったのか覚えてなくて…『覚悟を炎にするイメージ!!!』!?』

 

 獄寺はそう言って力を込めるが、リングはなんの反応も示さない。

 

『ど、どうした!?確かにあん時は!!』

『やはりな…非常時に偶然炎が出るというのはありうる話だ。だがそんな火事場のクソ力に頼っていてはとても実戦では…』

 

 ラルが諦めたように呟いていた直後、獄寺のボンゴレリングに赤い炎が灯った。

 

『っしゃあ!!』

『すごいよ獄寺君!!真っ赤な死ぬ気の炎だ!!』

『いやーまだまだっス!!』

『これそんなのでんのかよ』

 

 獄寺が赤い死ぬ気の炎─嵐の炎を灯すことに成功し喜んでいると、それを見た山本がリングを取りだし指にはめた。

 

『へー…覚悟を炎にってーと、こんな感じか?』

 

 そして山本が軽い調子で呟いた直後、山本のリングに青い炎─雨の炎が灯った。

 

『ハハハ!でたでたっ』

『山本は青い炎!!バジル君と同じだ!!』

『て…てめー、こうも簡単に!!』

「彼は獄寺が炎を灯したところを見ただけで、やり方のコツを理解したというのか…!?」

「え!それってすごくないですか!?」

「ってゆーか、なんであいつは怒鳴ってんだ?」

 

 翼が山本の才能に驚くなか、クリスが指差した先では過去のリボーンに対しラルが怒鳴っていた。

 

「なーに、少しからかってただけだ」

『沢田!!お前の炎はどうした!?』

「ほんとだ。ツナだけ炎灯せてないや」

『え…いや…あの、それが…やってるんだけど…さっぱりでなくて…』

「えっ、でも太猿さんと戦ったときは確かに炎が…『甘えるな』ツナ!?」

 

 ツナの言葉を聞いたらラルは彼を容赦なく殴り飛ばす。

 

『なにしやがる!!10代目はケガしてんだぞ!!』

『今のはツナが悪い』

『1時間以内に全員がリングに炎を灯しこれを開匣できなければ、修行は中止だ。オレは発つ』

 

 それを聞いたツナが慌て始め、獄寺からの応援や山本からの助言(?)を受けながらなんとか炎を灯そうとするが、制限時間の1時間まであと少しとなっても、いっこうに灯る気配がない。

 

『なんで…!?なんでオレだけ炎がでないの…?』

『沢田…本当に覚悟はあるんだろうな…』

『!!─あ…あります!!』

【本当に思ってるよ!絶対にみんなを過去に帰すって!】

「!?今のって…」

「恐らくこの時、ツナが心の中で思っていたことが頭の中に聞こえてきてきてるんだろうな」

【そのためにはミルフィオーレより強くなって…眼鏡の男を…!!】

「ツナ…」

【だからなんだってやる!!どんな修行だって耐えるんだ!!絶対に!!】

 

 力強く願うツナだが、リングに反応する気配はない。

 

『…やっぱりダメだ…』

『ツナ…』『10代目…』

『やっぱりオレ…口先だけのダメツナなんだ…本当の覚悟なんてわかってないんだ』

「そんなこと…!」

『甘ったれたことを『ひいっ』』

『言うな!!『ぎゃ!!』』

『10代目!!』

 

 ツナの言葉を聞き殴ろうとしたラルの行動を、言葉ごとリボーンが引き継ぐ。

 

『オレの出番だ。おまえはさがってろ』

 

 リボーンはラルにそう言って、先ほど蹴り飛ばしたツナのもとにテクテクと歩いていく。

 

『リ…リボーン』

『カッコつけんなツナ。おまえはヒーローになんてなれねー男なんだぞ「『え?』」皆を過去に帰すとか敵を倒すために修行に耐えるとかそんなかっこつけた理屈はお前らしくねーんだ。あの時の気持ちはもっとシンプルだったはずだぞ』

『あの時…?』

『初めてリングに炎を灯した時、何をしたかったんだ?』

『え…それは…─ただ…京子ちゃんを守りたかった』

『いい答えだぞ』

 

 ツナの答えを聞いたリボーンはニコッと笑う。

 

『今は、守りたいやついねーのか?』

『え…そりゃあ決まってるよ』

 

『みんなを…守りたいんだ』

 

 ツナの脳裏に微笑む京子達の顔が浮かんだ─そのとき

 

今まで灯る気配のなかったリングに綺麗な橙色の炎が灯った

 

『でたよ!!リボーン』

『あたりめーだ』

「すごい…聞いたわけじゃないのに、ツナが思ってたことを的確に当ててた…」

「それに、沢田が彼の言葉に促されたことによって炎を灯すことにも成功していた…」

「これこそが、綱吉クンとリボーンクン、二人の強い信頼関係がなせる技だね♪」

『ではいよいよこの匣を開匣してもらう』

『まかせとけ、オレで終わらせてやるぜ』

『やってみろ』

 

 そう言って獄寺に投げ渡され、炎を注入するが─開く気配はない。

 続いて山本も挑戦するが、開く気配はいっこうにない。

 

『おい!やっぱ、これ壊れてんじゃねーか?』

『壊れてなどいない。匣を開匣できない場合、考えられる要因は2つある…炎が弱いか、属性が違うか』

『属性?』

『リングが発する炎は7種類…ボンゴレリングと同じく、大空・嵐・晴・雲・霧・雷・雨に分類される。更に匣も同じく7種類の属性に分類され、リングと匣の属性が合わなければ開匣できない仕組みだ』

『おい、ちょっとまてよ。10年後の山本はそんなこと言ってなかったぜ?奴は波動がどうこうって…』

『人の体を流れる波動とはリングが炎を生み出すために必要なエネルギーだ波動もリングや匣と同じように7種類に分類され、人に流れる波動の大きさとバランスは生まれながらに潜在的に決まっている。大抵の人間には複数の波動が流れているが1つのリングが炎にできるのは1種類だけだ』

「なるほど…」

「え!?今の分かったんですか翼さん!」

「あ、ああ…何となくではあるが…」

『えーと…つまりどーいうことだ?』

『途中からさっぱり…「うんうん!」』

『これだけは忘れるな─波動とリングと匣、この3つの属性が合致しなくては、匣は開匣されない』

「あ、それなら分かりやすい!」

『ってことはその匣は嵐の属性でも雨の属性でもないってこと?』

『オレの霧属性のリングでもなかった『え!?』次は沢田の番だ』

『結局あてずっぽじゃねーか!』

『それにその匣が大空の属性でもなかったら?』

『その心配はない…7種の属性の中で大空は唯一、すべての匣を開匣できる』

「それなら最初に沢田にやらせればよかったのでは…「それは言わぬが仏ってやつだぞ、翼」そう、なのか…?」

『それが大空の長所だ。大空の波動を有するものはごく僅かしかいない』

『やっぱり10代目は特別なんスよ!!』

『さすがっス!』『やるなツナ』『ええ!?』

『さあやってみろ』

 

 ツナがラルから匣を渡され、獄寺達がやっていた通り匣に炎を注入すると、今まで無反応だった匣が崩れだし、中からは─

 

マーモンチェーンがかけられた、傷だらけの青いおしゃぶりがでてきた

 

「あれって、リボーン君やラルさんが持ってるのと同じ…!」

『おっおしゃぶりだ!!』

『武器じゃ…ねーのか?』

『このおしゃぶりって…あっ』

『今日はここまでだ。メシにしろ』

 

 ラルはツナからおしゃぶりを強引に奪い取ると、部屋をでていこうとする。そんな彼女の顔は少し震えていた。

 

『おい!『あ…』…んだありゃ?』

『…どーなってんだ?』

『リボーン、あれってアルコバレーノのおしゃぶりじゃ…』

『あの戦闘痕…戦いの末、強引に摘出されたな『?』とにかくメシにするぞ。ハラへったな』

 

 その後、ラル以外の全員で食事を取り、次の日─

 ツナが廊下をうろついていると、会議室と思われる部屋で既に起きていたジャンニーニとリボーンを見つける。

 

『朝一番のグッドニュースだぞ『え!?何?』外にミルフィオーレのブラックスペルがウジャウジャいる。こりゃ外に出たら戦闘は免れねーな』

「『どこがいいニュース「なの!?」『だよ!!』』」

 

 ツナと響が同時にリボーンにツッコんだ直後、警報がなり始め、モニターに『S7S』という文字が流れ始める。

 

『何これ!?』

『緊急信号をキャッチ!!味方からのSOSです!!』

『味方って…!?』

『ボンゴレ内で取り決めた秘密信号なんです─信号の発信源を捕捉しました!モニターに映しますよ!!』

 

 『S7S』の文字が消え、外の景色が映し出される。そこには、一羽の鳥が映し出されていた。

 

「あれってたしか、写真に写ってた…!」

『ヒバードだ!!!』

『発信機を取り付けられてんだな』

『まずいですよ!信号が弱まってます!!』

『え!?』『旋回するぞ』

『定点カメラよりフレームアウト!!モニターをレーダーに切り換えます!!』

『何スか、今の音は!?』『何があった!!』

 

 警報を聞きつけた獄寺達が駆け込んでくる。

 

『大変だよ!!ヒバリさんの鳥からSOSが!!』

『なに!?』『あのヒバードとかっていう?』

 

 ツナ達が話している間にも、レーダーに映し出された反応は徐々に弱まっていき、ついには消滅してしまう。ジャンニーニが反応が消滅した場所を調べると─

 

『並盛神社?ヒバリのやつ、あんなところで何してんだ?』

『信号が弱まってましたし…単に発信機のバッテリーが切れただけかもしれません』

『そんなっ!バッテリー切れ?』

『もしくは敵に撃ち落とされたかもな』

「敵…っ!」

「どちらにしろ調べにいかねばならないが…」

『敵の罠だという線もある』

『罠ー!?ちょ、じゃあ一体どうすればいいの!?』

『どっちみちヒバリの唯一の手掛かりだ、指をくわえてるわけにはいかねーだろーな』

『ですが見てください』

 

 ジャンニーニがパソコンを操作すると、モニターのレーダーに複数の点が現れた。

 

『あの点が現在確認できるリングです。つまり少なくとも地上(うえ)にはこれだけの敵がいるわけです』

「これほどの数の敵がいては、捜索もままならないな…」

『その中でひときわ強いリングが1つ。恐らく隊長クラス…精製度はA以上…』

γ(ガンマ)だな』

「『ガンマ…?』」

『お前達の戦った第3アヴェランドラ部隊隊長…電光のγ。名のある殺し屋とマフィア幹部を何人も葬った男だ』

『そんなにやばい奴が…!?』

『─へっ!ガマだかサンマだか知らねーが、心配いりませんよ10代目。昨日あれから自主練していろいろ試してパワーアップしまくりましたから』

『だなっ』

『えぇ!?オレ聞いてないよ!!ふつーに寝てたし!!』

『10代目はおケガをしてるんです!当然っス』

『そーいや獄寺、自主練の後、1人で何作ってたんだ?』

『作ってた…?』

『昨日お貸しした工具でできましたか?獄寺様』

『おお、バッチリだぜ─10代目!見てください』

 

 獄寺がそう言って懐から取り出したのは─

 

「あれって…獄寺さんの匣、だよね…?」

「髑髏や骨のような飾りがついてはいるが恐らくは…」

『マイ匣のカスタマイズも完璧です!』

「あれがかっこいいと思ってんのか?趣味悪ぃな…」

【この人、こーゆーのこるんだよねー】

「ツナがあきれてるよ…」

 

 獄寺のセンスに響達とツナがドン引きする。

 ツナからのドン引きする視線に気づいた獄寺が必死に弁明していると、ハルが慌てて部屋に駆け込んできた。

 

『ツナさん!!』

『ハル!』『よっ』『今頃おせえっつの』

『大変なんです!!』

『わーってるぜ』

『ヒバードのことを今話してて…』

『違います!!京子ちゃんがいないんです!!!』

「えっ!?」「何ぃ!?」「なんだと!?」

『ちゃんと探したのか?』

『トイレ行ってんじゃねーのか?』

『書き置きがあったんです!!』

 

─一度家に行ってきます。ランボ君達のおやつをもらってくるね─

 

『…って…』

『!!』

『あの笹川が…』

『無茶する奴には見えねーのに』

『よほど了平のことが心配だったんだな』

『今思えば京子ちゃん…昨日、途中から急に元気がなくなって…』

「やはり立ち直っていたわけではなく痩せ我慢をしていたのか…」

【き…気づかなかった…】

『しかしこのアジトから黙って地上へ出るのは不可能ですよ『え!?』6つある出入口(ハッチ)にはすべて声紋・指紋ロックが施されているのですから。一応、開閉記録をチェックしてみますが…あ…』

「…おい、今嫌な予感がするぞ…」

『私、D出入口の内側からのロックを修理中でした…開いた形跡が…』

「何やってんだよおい!?」

『何でそんな大事なこと!!つか、どどどどーしよう!?』

『落ち着け沢田。雲の守護者の鳥からの救難信号の件もある。今はどうすべきか総合的に判断すべきだ』

『総合的…?』

「てかちょっと待て、ハル(こいつ)は何ちゃっかりツナに引っ付いてんだ…?」

 

 クリスの視線の先ではハルがツナの腕に抱きついていた。それをみた響達から怒りのオーラが発せられる。

 怒りを露にしている響達をセレナとユニがどうにか落ち着かせている間に、ツナ達の方では京子捜索班と雲雀捜索班に分かれることになった。

 

『山本『!』お前武器持ってねーだろ』

『まーな。今あんのは10年後のオレが使ってた匣が2つ。1つはまだ開かねーけど…それと練習用の刀が一振りだ』

『こいつを見つけたぞ』

 

 そう言ってリボーンが山本に投げ渡したのは一本の竹刀。

 

『時雨金時!!』

「え?竹刀…?」

「あれはただの竹刀じゃねぇぞ。あの竹刀は鋼鉄でできていて、普段は何の変哲もないただの竹刀だが、時雨蒼燕流で抜いた時のみ刀身がつぶれ真剣に変形する特殊な日本刀だ。10年後の山本は持っていた雨系リングとの相性が悪くて使っていなかったが…」

「このときの彼─ボンゴレリングを持ってる山本なら、使いこなせるのではないか、と考えたわけか」

「そーいうことだ」

 

 リボーンの説明を聞いて納得する翼。

 その後ツナ達は、京子捜索班にツナとラル、雲雀捜索班に獄寺と山本に分かれ、捜索に向かった。




うーん…どうしよ…この話と平行(というか気分転換(?))して作ってた本編の話がもう4つもたまってる…
東京スカイタワーの面積に関しては元ネタ(で合ってるはず)の東京スカイツリーを元にしてます。


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ツナの過去(10年後編):③

前回がだいぶ隙間が空いたから今回も更に空くだろうなと思ってたら逆に早くできちゃった。
驚きますよね?自分が一番驚いてます。


『あの…一つ聞いていいですか?』

 

 獄寺達と分かれ、ラルと共に京子の捜索に向かう途中、ツナがラルに問いかける。

 

『もし…もし京子ちゃんが捕まってたら─オレ!どうすれば!?』

「ツナ、必死だね…」

「そりゃ、自分の好きなやつが危険な場所に出向いちまってんだ。慌てるのもしょうがねぇだろうよ…」

『修行の足りぬ現段階で敵と戦うべきではない…だがお前が戦おうとするのなら…恐らくオレは止められない…『?』だかこれだけは守れ』

 

─必ず指にリングをつけてハイパー化するんだ─

 

 地上に出たツナ達だが、ツナは怪我のこともあり、近くの公園に隠れ、ラルはステルスリングを用いて情報収集を行っていた。

 

『やはり笹川の妹はまだ捕まっていないようだ』

『本当ですか!?よかったー!!』

 

 情報収集から戻ってきたラルの報告に安堵するツナ。

 

『だが、これほどの監視の中、見つかっていないとすると一体…《バチバチ!》隠れろ!!』

 

 ラルが独り考え込んでいると、遠くから物音が聞こえ、すぐにツナをつれて木の下に隠れる。

 その直後、ツナ達の上空を何者かが通りすぎていった。

 

γ(ガンマ)だ!!』

『あ…あれが?』

『何か見つけたのか?あの方向…(!!まさか…!!)』

「えっと、今γさんが向かった方向には…」

「…まずい、獄寺達が向かった並盛神社がある!!」

 

 翼がγが向かった先にあるものに気付き声をあげる。

 その事にラルも気づいたようで、すぐさまツナに伝える。

 

『ええ!?γって人が獄寺君と山本の所に!?』

『あの方向には神社以外主要な施設はない…』

『じゃあ敵に見っかったの!!?やばいよどーしよう!!』

「すぐに助けに行かねぇと…!」

『こう敵の目が多くては助けにいくのは不可能だ『「!」』それに、たとえオレ達がかけつけて4対1となっても、今のオレ達の戦闘力でγに勝てるかどうか…』

『そ…そんなに強いの!?獄寺君…!!山本!!』

「クッ!ただ見ているしかできないことがもどかしい!」

 

 ツナ達は急いで並盛神社に向かおうとするが、至るところにブラックスペルの兵士達がいるせいで、急ごうにも目立つ動きをすることができずにいた。それに、当初の目的である京子の捜索も終わっていない。

 

『このルートも使えそうにないな』

『どーしよー!これじゃ京子ちゃんを探せない…獄寺君達もやばいってのに!』

「せめて、京子ちゃんだけでも見つけることができたら…」

 

 慌てるツナの姿を見て未来がそう呟いた直後、ツナの頭に小さな物体があてられた。ツナはそれがすぐ近くの家の二階から投げられたことに気付き、その家の表札を確認する。

 

『黒川!?あ!!もしかして黒川花!?』

「また新しい人物の名が出たな…」

「黒川はツナ達と同じ並盛中出身の京子の親友だ。しっかり者で、ツナをダメツナと呼ぶ一人だが、ツナが京子に惚れていることに早くから勘づいていて、ツナをからかいつつも、京子との関係を優しく見守ってくれいてるぞ。あと、この世界の黒川はボンゴレの存在を知っているが、あいつは本来ならマフィアに関わらない側で、好みの男性は年上の男だからツナにはそういった感情を持っていない。だから落ち着け、立花、小日向」

 

 黒川について説明しながら、新しい女性が出てきたことに警戒を露にする響と未来をなだめるリボーン。

 

「ていうかおい!黒川って奴の隣にいるのって…!」

『京子ちゃんもいる!』

「よかった!京子ちゃん、無事みたい!」

「なるほど…今まで見つからなかったのは、彼女がいち早く笹川妹を見つけ、家にかくまっていたからか」

『笹川の妹が敵に未だ見つからない理由が分かったな』

『う…うん!』

 

 その後、ツナは京子達にヒバードのことを伝え、黒川に京子のことを任せて並盛神社に向かった。

 

『大丈夫かな、獄寺君と山本…もっと広い通りから神社に行ければ…』

「これまで沢田達が通ろうとしていた道には全てブラックスペルの兵士がいた…この道が、すぐに並盛神社へ向かえる最後の道のはずだ。もしここにもブラックスペルがいたのなら…」

『どうです?』

『この道も敵でふさがれている。やはり、大きく迂回するしかないな』

『そんな…』

「クッ…やはりダメだったか…」

 

 その後、ツナ達はブラックスペルを掻い潜りながら森を通って遠回りし、並盛神社まであと1km程となったところで、神社がある方向に煙がたっていることに気がつく。

 

『煙だ!!煙が出てる!!』

『…やはりγは獄寺達の所へ…』

「そんな…!」

【頼む…!!無事でいてくれ!!】

 

 ツナ達は急いで並盛神社に向かう。そして、ついに並盛神社にたどり着いたツナ達が目にしたのは…

 

『あれは!!』

「針だらけの、巨大な球?が浮かんでる!?」

「いや、よく見ると動物が引っ付いている。恐らく(ボックス)アニマルだ。そして、所々に浮かんでいる物体の形は雲…雲属性のハリネズミ、か?」

「てかおい!あそこに刺さってるブラックスペル!あいつがγって奴じゃねぇのか!?」

『遅すぎるよ君達』

「ねえ!あのスーツの人ってもしかして…!」

 

 未来が指を指した男性は、雲を足場にして駆け上がり、針に刺さっていたブラックスペル─γを、死ぬ気の炎を纏わせた棒状の武器─トンファーでかち上げた。

 トンファーによる一撃をもろに食らったγはそのまま地面に落下し、気絶。γを倒した男性は、地面に着地すると、球針態で浮かんでいた雲ハリネズミ(ポルコスピーノ・ヌーヴェラ)を匣に収納させた。

 

『雷のリングはいらないな』

『あ…あれって…!!』

『何してたんだい?沢田綱吉』

『ヒバリさん!!』

「あれが、雲雀さん…」

「彼が、沢田の守護者の中で最も強い男か…」

『山本武と獄寺隼人はその林の中だ』

『えっ!?』

 

 雲雀の言葉に驚くツナ。すぐに雲雀が言っていた場所に向かうと、そこには全身傷だらけになり、地面に倒れ混む二人の姿があった。

 

「ひどい…!」

「いくらこいつらが匣を使った戦闘経験が少なかったと言っても、たった一人でここまで追いやるとか…γって奴、どんだけ強かったんだよ!?」

「そして、そのγをたった一人で倒した雲雀という男も、相当な強者…最強の守護者というのは伊達ではないようだ」

『獄寺君!!山本!!』

『大丈夫、命に別状はありません』

『あっ!あなたは…』

『草壁哲矢。雲雀の部下です』

「高校では、雲雀が率いる風紀委員の副委員長だ」

「何でリーゼント…?」

「草壁だけじゃなく、風紀委員のメンバーは全員リーゼントだぞ」

「リーゼントヘアーの風紀委員って、何か矛盾してるような…?」

『とはいえ、すぐに治療は必要だ…アジトへ運びましょう』

「そ、そうだった!急いでアジトに戻らないと!」

『待て…負傷者もいる。今、彼らを抱えあの距離を引き返しハッチに戻るのは危険だ』

『その心配はいりません。我々の出入り口を使えば』

「我々の出入り口…だと?」

 

 翼が草壁の発言に訝しげていると、雲雀がリングをはめ、神社に向かいおもむろに歩きだす。すると、どこからか重いものが動くような音が聞こえ、雲雀が神社の灯籠の中に消えていった。

 

『きっ消えた!!』

「え!?嘘、どういうこと!?」

「恐らく、何らかの方法で隠蔽している隠し扉だろう…確か、霧の炎が構築だったはず…その力で隠しているのではないか?」

『ただ、このまま立ち去るには一つ問題が残っています─雨と嵐のボンゴレリングだ。敵のレーダーに映っているでしょう…ここで反応を消すわけにはいかない』

「なるほどな…もしここでリングの反応を消しちまったら、この神社(隠し扉)の存在がバレちまうかも知れねぇからな」

『わかった。その仕事はオレが引き受けよう』

 

 ラルはそういって二つのボンゴレリングを預かると、その場から離れていき、ツナと草壁は獄寺達を背負って隠し扉を通り雲雀達の隠れ家に入っていった。

 

「…凄い『和』が濃い所だね…」

 

 未来が辺りを見渡してそう呟く。その感想もしょうがない。今、ツナ達が通っている通路は、右手に障子、左手に丸窓、そして天井には満月と燕、そして雲が描かれた絵が下がっており、『和』で満ち溢れた通になっているのだから。

 

『やはり私が2人背負いましょうか?』

 

 そんな『THE・和』な通路を歩きながら、草壁が怪我をしているツナを気遣うように話しかける。

 

『だ…大丈夫です。それよりここって…』

『我々の日本における研究施設の一つです』

『研究?』

『色々と兼ねてますがね…ほら、あそこ』

 

 研究という言葉に首をかしげるツナに草壁が前方を促すと、そこには地下基地にあった非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)対策のゲートが設置されており、その先には基地で待っているはずのリボーンの姿があった。

 

『ちゃおっス』

『リボーン!!どうしてリボーンがここに?』

『我々の施設とあなたのアジトはつながっているのです。もっとも、不可侵規定により今まで一度も、ここが開いたことはありませんが』

『群れるのを嫌う、あいつらしいシステムだな』

 

 過去のリボーンがそう呟いた直後、景色が暗転し、今度は治療の終えた獄寺が眠る医療室に切り替わる。

 

『獄寺君はどう?』

『まだ…起きねーぞ─だが、まあつくづくよかったな』

『なっ!何がどこがよかったんだよ!!』

『よかったじゃねーか。ミルフィオーレを相手にオレ達が生き残るため残された道は成長しかねーんだ。それにピンチの次にはいいこともあるはずだ』

『お前な!!みんなケガしたんだぞ!!』

『10代目…『!!』すいません…』

『獄寺君!!』

「よかった!目が覚めたんだ!」

『すいません10代目…全てオレの責任です…』

 

 ツナと響達が喜びを露にするなか、獄寺はツナに気持ちを吐露し始める。

 

『オレ…本当は…こっちの世界に来て…びびってたみたいっス…テンパって山本に当たってあんなことに…』

『獄寺君…』

『山本もそう言ってたぞ。いっぱいいっぱいで獄寺に言わなくていーことまで言っちまったってな』

『な!!じゃあ山本は!!』

『生きてるよ!結構元気に!!』

「それじゃあ、二人とも無事なんだね!」

『…ちぇ。まだ生きてやがったか…』

「口ではこういっているが、先ほど溢していた言葉から、信頼していることがよく分かるな」

【…オレ、自分のことばかりで全然気づかなかった…みんなもこんなに余裕なかったなんて…】

『そりゃーそーだぞ。京子も獄寺も山本もまだまだ乳臭いガキンチョだからな『なあ!?』』

「またツナの心読んだよ…というか乳臭いって…」

『お前らは経験不足で不安定で、すぐに血迷ってイタイ間違いをおかしやがる』

『そ…そこまで言うか!?』

「おいおい、こりゃ言いすぎじゃ─」

『だが、今は死ななきゃそれでいいんだ』

『「え?」』

『イタイ間違いにぶつかるたびにぐんぐん伸びるのが、お前達の最大の武器だからな』

『リボーン…つーか赤ん坊のおまえに言われたくないよ!!』

「フフッ…本当に、ツナさんとリボーンさんは仲がいいですね」

『いいかな、話』

『ひいっヒバリさん!!』

『会いたかったぞ、ヒバリ』

『僕もだ、赤ん坊』

『あのー、ちょっとよろしいでしょうか?』

 

 部屋に入ってきた雲雀がリボーンと何か話し始めようとしていたその時、入り口の縁からジャンニーニが顔を覗かせてきた。

 

『何だ?』

『グッドニュースですよ!情報収集に出ていたビアンキさんとフゥ太さんが帰ってきましたよ』

『フゥ太!?』『アネキが!?』

 

 ジャンニーニの報告を聞いてツナと獄寺が驚く中、リボーンは『ニッ』と笑顔を浮かべる。

 

『言っただろ?ピンチのあとにはいいことがあるってな』

 

『リボーン!!』

 

 医療室に二人の人物が現れ、そのうちの一人の女性がリボーンに駆け寄る。

 

『もう放さない!!愛しい人!!』

「あれが、獄寺さんのお姉さん…?」

「とてもきれいな人ね」

「にしても、リボーンが愛しい人って…」

「ビアンキは俺の4人目の愛人だからな「4人目!?」ビアンキは『毒サソリ』の異名を持つフリーのイタリア人殺し屋だ」

「毒サソリってことは、毒を使って暗殺するってこと?」

「まぁ合ってはいるんだがな…異名の理由は、ビアンキがポイズンクッキングの使い手であることが理由だ」

「ポイズンクッキング─毒料理作り、か…」

「ビアンキはその料理で標的を暗殺するんだが…それと同時に、ビアンキが作る料理はどんなものも必ずポイズンクッキングになっちまうんだ…ちなみに、ポイズンクッキングの威力は、フゥ太の『とっても苦しい毒殺ランキング』で第三位になるほどだぞ」

「なにその怖いランキング!?」

【10年後のビアンキ、見た目変わんないけどなんか激しくなってる?】

『無理もないよツナ(にい)、この時代ではリボーンもツナ兄も死んじゃったんだ』

『もっもしかしてフゥ太ぁ!?』

「フゥ太って確か、さっきランキングがどうのこうのって言われてた…」

「フゥ太は通称『星の王子様』や『ランキングフゥ太』と呼ばれる情報屋で、相手を見ることでその人物の情報を瞬時にランキング化させることができたんだ。フゥ太が作ったランキングはとても正確で、その力を狙ったマフィアから庇護してもらうために、『野望のないボスランキング』1位のツナがいる日本に来日したのが、今ツナの家に居候している理由だ」

「確かに、見ただけで敵の強さを分析できるのであれば、狙われるのは是非もないことだろうな…」

「てか、そのランキングフゥ太にボス認定されちまってんのかよツナは…」

「でもさ、リボーン君はさっき、『ランキング化させることが()()()()()』って言ってたよね?てことは、今は出来ないってこと?」

「あぁ、今のフゥ太はある出来事のせいでランキング能力を失っちまってる…が、情報屋としての目と分析能力は健在だから、今もなお狙っているマフィアは少なくねーんだ」

『ふげ!!』

 

 リボーンが響達にビアンキとフゥ太について話していると、突然苦しげな声が聞こえ響達が振り向くと、獄寺が口から泡をだし、病床から転がり落ちていた。

 

「獄寺さん!?」

「まさか、症状が悪化したのか…!?」

『あ!ビアンキを見て獄寺君が!!』

「…はい?」

「言ってなかったが、この頃の獄寺は幼少期の時にビアンキから受けた仕打ち─ポイズンクッキングがトラウマになっちまってて、ビアンキの顔を見るだけで腹痛を起こして、酷い時は失神、さらに酷い時は石化するほど姉のことが苦手なんだ。まあゴーグルとかで顔の一部が隠れていたら多少は落ち着くがな」

「ビアンキさん、一体何をしたの…?」

 

 響は獄寺がされたことを想像し、身を震わせる。

 

『期待出来そうだぞツナ。こいつらも新しい情報を持ち帰ったらしい『!』』

【そうか!!みんなの情報を集めれば過去に戻る新しい手がかりが見つかるかも!!】

『ヒバリさんも何か知ってそうだし』

 

 そう言いながら振り返ったツナの目に映ったのは─

 

『これ以上群れれば、噛み殺すよ』

 

トンファーを構え、とても不機嫌そうな顔つきの雲雀の姿だった─

 

「結局、ツナを殴ったあとにリボーン君と何も話さずに帰ってったね、雲雀さん…」

「なんだよあいつ!子供みてぇにそっぽ向いて帰りやがって…!」

「まぁ、あれがあいつの生き方みたいなものだから、しょうがねぇな」

「それにしても、ヒバードの発信器は黒川さんの発案だったんだね!」

「信号の途絶も、ただの故障だったらしいしな」

「てか、中学の頃の風紀委員メンバーで財団作るとか、愛校心おかしすぎねえか!?」

 

 現在、響達はツナ達が基地にきて最初に案内された部屋─主作戦室に移動したリボーン達の会話を聞いていた。

 

「それにしても…改めて振り返ると、ツナってこの時代に来て色々ありすぎだよね…」

「始まりが棺桶スタートだしな…」

『…未来に来て2日しかたってないんだ…随分、昔のことみたいだ…』

『だが、こうして心強い仲間と合流できたんだ。これで過去に帰るために本腰をいれられるぞ』

『その通り!僕らもツナ兄達が過去に帰れるように協力をするよ』

『今の所、あなた達と我々の目的にはいくつか共通点がある。我々も力をお貸しできると思いますよ』

『ほ…本当?』

『過去に戻るためにはミルフィオーレの入江正一を倒せばいいのよね』

『あ…うん』

『ミルフィオーレは私の敵でもある。倒すのには何の躊躇いもないわ…それに、あなた達が10年前に過去が変われば、私の愛する人やたくさんの仲間を失うこんな未来にはならないかもしれない…』

「ビアンキさん…」

『今日まで私達のしてきたことも役に立つはずよ』

『そう、僕らは日本にいるミルフィオーレの情報集めをしていたんだ。ミルフィオーレは全部で17部隊あるんだけど、その中でもAランク以上の隊長は6名だけ。そしてその中の2人が日本を任されてるんだ』

『γと…入江正一か?』

『そう、入江正一は日本支部に帰ってきてる『ええ!?そうなの!?』標的はすぐそばってわけさ』

『もっと遠くにいると思ってたよ…なんか緊張してきた…』

『いいニュースはそれだけではないわ。その敵の日本支部アジトの入り口を突き止めたの』

『敵アジトの入り口!?』

『灯台もと暗しだったんだよ。同じ並盛の地下、並盛駅地下のショッピングモールだよ。その先に入江正一はいる』

『え!?で…でも駅に地下なんてあったっけ…!?』

『10年前に着工されて3年前にできたんだ』

「そういえば…沢田が飛ばされる前、三浦が確かそのようなことを言っていたな」

『この情報は大きいぞ!これでこちらから攻め込める』

『せっ攻めるー!?で…でもみんなケガしてるし…』

『ああ、今のオレ達の状態では成功はしないだろうな。γとの戦闘でミルフィオーレの本当の恐ろしさはよくわかったはずだ。入江正一もγと同じ隊長…ってことはそう簡単に倒せる相手じゃねーぞ。それに敵ももう10年前のお前達の存在に気づいていると考えた方がいい…奴らはボンゴレであるお前達を狩るために血眼になってこのアジトを探しているはずだ。このヤバい状況の中を生き延びて、日本支部の入江正一を倒せるかどうかは、お前達が短時間にどれだけ強くなれるかにかかってるんだぞ』

【短時間に強く…】

『守護者の情報収集は僕らがするよ。だからツナ兄は自分の修行だけに専念してよ!』『おまかせを!』

『私が来たからには家事と京子達のことはまかせなさい。あの子達に惨めな思いはさせないわ』

『!!みんな…』

「ツナの回りにいる人達、みんないい人だね…」

「…ツナは、仲間達に恵まれたんだな…」

『…ありがとう、そうする』

 

 ツナが嬉しさを噛み締めながら感謝をのべていると、部屋の中に京子とハルがそれぞれイーピンとランボを抱えて入ってきた。ランボ達幼少組はフゥ太の肩に飛び付き、京子とハルはビアンキの胸元に飛び込んだ。

 そんな感動の再会を響達が微笑みながら見ていると、またも場面が切り替わり、今度はエレベーターにのってどこかへ移動するツナの姿が現れる。

 

「あ!ツナ、ギプスとれてる!」

【ラル・ミルチ…今日から新しい修行だって言ってたけどなんだろう…?ハイパーモードでの炎の強化訓練はもういいのかな?】

「てことは…今はさっき見ていた時間から13日後─()()が行われた日か」

「アレ…?」

「それよりも、なんか飛ばされた空白の時間に何かしてるけど…」

『とりあえず殴るのは勘弁してほしーよな』

「それはそうだよ!ラルさん、容赦なさ過ぎるよ!」

 

 響がツナのぼやきに賛同するなか、エレベーターが止まり、扉が開いた先には─

 

『よっ!』『おはようございます10代目!!』

 

 大怪我をしていたはずの獄寺と山本が先について待っていたのだ。

 

『今日からオレ達も修行復帰するぜ』

『ケガはもういいの!?』

『完璧っス!!体が鈍って困るほどです!!』

『そっか…よかった』

『3人揃ったな』

 

 元気そうな獄寺達を見たツナがホッとしていると、部屋の奥からラルとリボーンが現れた。

 

『予告通り、本日より新しい修行─"強襲用個別強化プログラム"を開始する』

『個別…強化…?』

『この10日間、ツナがラルに1対1で教えられたように、1人に1人ずつ家庭教師をつけ修行だ。リング戦の時と同じだな。例えば、オレが教えるのは─山本だぞ』

 

 そう言って、通常の拳銃を手に取るリボーン。指名された山本はというと、「ヨロシクナー」と言って、いつもと変わらぬ笑顔で受け入れていた。

 

『え゛ー!?リボーンが山本を─!!?だ…大丈夫なの!?』

『ハヤトの担当は私よ』

 

 ツナが山本の身を心配するなか、トレーニングルームに入ってきたのは─

 

『ビ…ビアンキ!?』『ふげぇ!!』

 

 部屋に入ってきたビアンキ()の顔を見て悲鳴を上げながら崩れ落ちる獄寺。

 

『獄寺君!!』

『じょ…冗談ス…よね…』

『やはり姉弟…私も嵐属性の波動が一番強いわ』

 

 そういって、はめていたリングに嵐の炎を灯すビアンキ。

 

『そして修行が無事終わったらあなたにあるものを授けるわ─お父様からよ』

「獄寺さんのお父さんから…?」

『ふごっ』

『絶対ムリだよ!!中止した方がいいって!!』

『おまえは自分の修行に専念しやがれ』

 

 気絶と復帰を繰り返す獄寺を心配するツナに対し、リボーンはそういってツナの額を撃ち抜いた。その衝撃によりツナは獄寺達の後方へ吹き飛ぶ。だが、すぐにツナの額に炎が灯ると、いつの間にか身に付けていたミトンがXグローブへと変化し、グローブと額に灯る炎が膨れ上がる。

 

『すげえ10代目!!また迫力が増してる!!』

『前とはまるで別人だな!また随分差ーつけられたぜ』

 

 獄寺達が感心するのを他所に、ツナは一瞬にしてラルのすぐ近くまで移動する。

 

『はじめよう、ラル・ミルチ』

『オレはお前の指導を下りる』

「え!?なんで急に下りちゃうの!?」

『おまえはオレの思い描くレベルにまるで達していない…短時間ではこれ以上のレベルアップも望めないと判断した』

『だが実際にここまで─』

『おまえの力はこんなものではない!』

 

 ラルがそう訴えた直後、ツナに向かって死ぬ気の炎をまとった球体が飛んできた。

 ツナは空中に逃げて回避したが、球体は軌道を変えてツナの元に再び襲いかかる。

 今度は死ぬ気の炎を展開することによって激突の衝撃を軽減させることに成功するが、球体の勢いは緩む気配を見せない。

 

『気を抜けば死ぬよ』

『おまえは!!』

『君の才能をこじ開ける』

 

 苦戦するツナの元に現れた雲雀はそう告げる。

 

「あんの野郎!いきなり何を!」

『赤ん坊から聞いたとおりだ…僕の知るこの時代の君には程遠いね』

 

 必死に止めようとするツナの姿を見て、雲雀がどこか不満げな表情で呟いていると、ツナが死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディションで凍らせて強制的に動きを止めようとする。

 

「さすがに凍らせれちまえばどうすることも─」

『いいや、まだだ!!』

 

 ラルがそう叫んだ直後、ツナの回りを針の生えた雲が覆いはじめる。ツナは必死になって雲を調和させようとするが、雲の増殖スピードがツナの調和速度を上回っていき、ついにはツナを覆い込み、大人の身長を上回る大きさの球体が出来上がった。

 

「ツナ!」

「あれはたしか、γとの戦いで浮かんでいた…!」

『球針態─絶対的遮断力を持った雲の炎を混合した密閉球体。これを破壊することは彼の腕力でも炎でも不可能だ』

 

 雲雀が球針態について説明していると、球体の表面が徐々に薄れはじめ、中で必死に球針態を破壊しようとしているツナの姿が確認できるようになる。

 

「なるほど…どうやらこの空間では俺たちが見れなかったところも写してくれるみてーだ。これはありがたいな」

『密閉され内部の酸素量は限られている…早く脱出しないと─死ぬよ』

『「!!」』

『ふざけんな!!てめーら10日ぶりに現れたと思えば、10代目を殺す気か!!出しやがれ!!』

『弱者が土に返るのは当然のことさ。第一、沢田綱吉を殺す理由があっても生かしておく理由が僕にはない』

「なんで…?雲雀さんはツナの守護者なんだよね?仲間なんだよね…?…なのになんでツナを殺そうとするの…?」

『んじゃあオレ達も修行始めるか』

「おいまてよ!こんまんまツナを放置する気か!?」

『ま、待ってくださいリボーンさん!!このままじゃ10代目が!!』

『ヒバリはやるっつったらやるぜ…』

『わかってるぞ。だからこそヒバリなんだ…歴代ボスが越えてきたボンゴレの試練には、混じり気のない本当の殺意が必要だからな』

「ボンゴレの試練って、確か…!」

「ああ…沢田が、ボンゴレの『業』を見たといっていた試練だ…!」

「なんだ?その、ボンゴレの『業』ってのは?」

「まぁ、このまま見ていれば分かるぞ」

 

 その後、山本はリボーンに連れられ、獄寺はビアンキが至近距離で顔を見せつけて気絶させられ、それぞれの修行場へと向かった。

 そしてツナは、何度も脱出を試みるが成功せず、ただ疲労していくのみ。ついには体力の限界が近づいてきた。

 ツナは最大の炎を一点集中させ、最後の一撃をぶつけるが、球針態が壊れることはなかった。

 

【ダメだ…ビクともしない…】

「ハイパー状態のツナが弱音を吐くなんて…」

【だが、かすかに壁の装甲が溶かされた部分がある─リングの炎の周辺だ。恐らくこいつの弱点は…()()()()()()()()…でも、どうすればこの球体をうち破るだけの、巨大な高純度の炎を…】

 

 ツナは息を荒くしながらその場に座り込む。そんな彼の額の炎は徐々に弱まってきていた。

 

【こんなところで…死ぬわけには…】

「ツナさん…」

【どうすればいい…?まだ、覚悟が足りないのか…】

 

 ついにツナはハイパー化が解除され、その場に倒れ込んでしまう。

 意識が少しずつ遠くなっていくなか、ツナはミトンを外し、指にはめていたボンゴレリングを見つめる。

 

【これ以上…何が望みなんだ…何が…】

 

 心の中で問いかけながら、ツナが目を閉じようとしたその時、ボンゴレリングが輝き始め、ツナの額にボンゴレの紋章を浮かび上がらせた。

 

「あれって確か、私達がこの空間に来たときの…!」

 

 響が自分達の身に起きたことと同じ現象に驚いた直後、世界が暗転し─

 

殺れ

 

『どうか…命だけは助けてくれ!!オレが死んだら子供が…妻が…!!』

ズガン

『ぐぁ!』

 

「な…何なんだよこれ!?」

【何だ…これは!?頭に直接流れ込んでくる…】

 

 最初に映し出されたのは─周囲に死体が散らばるなか、命乞いをしていた人の頭が撃ち抜かれる光景。その光景を皮切りに、様々な景色が映し出されていく─

 

報復せよ

 

『ギャアア!』

 

 ある時は人を家もろとも焼き─

 

嵌めろ 根絶やせ

 

 ある時は人を車ごと爆破し、ある時は機関銃で人を蹂躙していく─

 

「そんな…人が、人の手で…っ!?」

「イヤッ!もう止めて!!」

「ひどい…これはあんまりじゃないですか!!」

【何だ…!?何なんだこれは!!】

「─これが、試練だというのか…?これがボンゴレの─『ボンゴレの…業』っ!!」

 

 その声を皮切りに、ツナの回りに複数の人影が現れる。現れた人物は全員顔が見えず、目元と思われる場所に大空の炎を灯していた。

 

『抹殺、復讐、裏切り、あくなき権力の追及…マフィアボンゴレの血塗られた歴史だ』

『大空のボンゴレリングを持つ者よ─貴様に覚悟はあろうな』

『…え!?』

『この業を、引き継ぐ覚悟が』

 

 一人の人物がツナに問いかけた直後、ツナと─響達の頭に声が響き渡る。

 

『助けてください!!』

 

『!!』

 

『ギャアア!!』

『むごすぎる』

 

『ひ…ふゎ…』

 

『息子を返せ!』

 

『や…やめろ!』

 

『ぐわぁ!!目がぁ!!』

 

『やめろぉぉ!!!』

 

「イヤ!イヤァァ!!」

「クリスさん!?」

「クリスちゃん!?」

「どうしたんだ雪音!?しっかりしろ!」

「しっかりしてクリス!」

 

 ツナが叫ぶと同時に、クリスが両手を頭で抱え、悲鳴を上げながらしゃがみこんだ。

 クリスは子供の頃、紛争地域で今と同じ悲鳴を幾度となく聞いている。それがトラウマとして脳裏に甦ってきているのだ。

 錯乱するクリスを心配する響達。無事に見える彼女達も、未だ頭に聞こえる悲鳴を前に、心が折れかかっていた。

 

『やめろ!!やめてくれ!!』

『目をそらすな!これはボンゴレを継ぐ者の宿命…貴様が生を授かったことの意味そのものだ』

『いやだ!!こんなひどいことはできない!!』

『代価を払わずして力を手に入れることなど叶わぬ』

『偉大なる力が欲しければ、偉大なる歴史を継承する覚悟が必要なのだ』

『いやだ…』

「─もうやめて!もうこれ以上見せないで!!」

 

 響が悲鳴に近い声を上げるが、声が途切れる気配はない。

 

『みんなを守るためなら何だってできるって思ってた…でも…こんな…こんな力なら、オレはいらない!!』

『「!!」何だと!?』

 

 響達でさえ心が壊れそうになる状況で、自分の気持ちを叫んだツナ。その言葉に、響達だけでなく、先程まで錯乱していたクリスも驚きのあまりツナの方を向く。

 

『こんな間違いを引き継がせるなら…オレが…』

 

オレがボンゴレをぶっ壊してやる!!

 

「ツナ…!」

「─あいつ、ギリギリの癖に言ってくれるな…」

【…何言っちゃってんだオレ…みんな…ごめん…】

「沢田!!」

 

 ツナの覚悟を聞き、響達が落ち着いたのもつかの間、すでに限界が来ていたツナが倒れそうになる─その時、すぐ近くにいた人物が彼を受け止める。不思議に思ったツナが受け止めた人物の顔を見ると、驚きを露にする。

 

『きゅ…9代目!!』

「あれが、ツナを10代目に指名した人…」

「おい!さっきまで顔が見えなかった奴らが…!」

 

 いつの間にか悲鳴も聞こえなくなり、再び暗転した空間で、クリスが指差す先には、地面に浮かび上がる巨大なボンゴレの紋章と、その左右に並ぶ歴代ボス達。そしてその奥には─

 

「ボンゴレⅠ世(プリーモ)─ジョット!」

『貴様の覚悟、しかと受けとった』

『何これ…夢…?幻覚…?』

 

E'la nostra ora incisa sull'anello(リングに刻まれし我らの時間)

 

「今のは!?」

『時間…時?』

 

─栄えるも滅びるも好きにせよ ボンゴレⅩ世(デーチモ)

 

「え?」

 

─…お前を待っていた ボンゴレの証をここに継承する─

 

 ジョットがそういうと、ツナの足元にボンゴレの紋章が浮かび上がり、死ぬ気の炎に姿を変えた歴代のボス達がツナと紋章を取り囲む。そして光がツナを包んでいき─

 響達が目を開けると、場所はトレーニングルームに変わっており、ツナが閉じ込められている球体には亀裂が入り、隙間から光が漏れだしていた。

 

『何だ!?何が起こっている!?』

『恭さん、これは!?』

『球針態が─壊れる』

 

 雲雀がそう呟いた直後、球針態が破壊され、大量の煙が溢れ出す。そして、その煙の中から現れたツナの両手には─

 

「ボンゴレリングがついた、X(イクス)グローブ…?」

 

 大空のボンゴレリングを手の甲に宿したグローブ─X(イクス)グローブ Ver.V.R.(ボンゴレリング)が嵌められていた。

 

『越えたな』

『まさか試練の末の形態だとはな…』

『オレも半分自信なかったけどな』

「ちょっと!?」

『飛躍的なパワーアップと言われて、この伝説の試練しか思いつかなかったのが正直なところだ─あんな答えで試練を乗り越えたのは、歴代ボンゴレでツナだけだろうがな』

 

 リボーンがそんなことを言っていると、ツナがグローブに炎を灯した。

 ツナが灯した炎はとても澄んだ、綺麗なオレンジ色に輝いていた。

 

『混じり気の少ない純度が高い炎はああいう澄んだ色になるんだ。大空ならオレンジ、晴はイエロー、雨はブルー、雷はグリーン、嵐はレッド、雲はバイオレット、霧はインディゴにね』

 

 いつの間にか入ってきていたフゥ太が、ランボを抱えながら話し始める。

 

『そして純度が高い炎ほど、属性の特徴をより強く引き出すと言われる』

【不思議な炎だ─頼りなさげだけど、底からあふれてくるような…】

『少しだけ僕の知ってる君に似てきたかな─赤ん坊と同じで僕をワクワクさせる君にね』

 

 不気味な笑みを浮かべながら、懐から匣を取り出した雲雀。

 

『ここから先は好きにしていいんだろ?赤ん坊』

『ああ…そういう約束だからな…』

『じゃあ─始めようか』

 

 雲雀はリボーンに確認を取ると、匣を開匣してトンファーを装備し、雲属性の炎を付与させる。

 

『この闘いにルールはない─君が選べるのは、僕に勝つか…死ぬかだけだ』

『勝つさ』

 

 ツナの発言を聞いた雲雀は、不敵な笑みを浮かべ一言。

 

『来なよ』

 

 ツナは中腰になり、両手を右の腰元まで移動させ手のひらを後ろに向けると、音と炎を残して姿を消した─否、高速で飛んだのだ。

 

『「消えた!?」』

 

 何度か彼の戦いを見たことがある響達装者でさえも目で追えず、フゥ太と同じ反応を示すなか、雲雀は飛び上がると─高速で移動するツナの肩に一瞬手をつけながらかわす。彼はツナの速度に瞬時に対応したのだ。

 突進を回避され、壁に突っ込んでいくツナは何とか体勢を変え壁に足をつけるが、壁が衝撃でめり込んでしまう。

 一瞬、衝撃に顔をしかめたツナは再び雲雀に向かって飛んでいくが─今度は雲雀のトンファーが、がら空きになっていたツナの腹にめり込む。

 ツナは血反吐を吐きながらも、空中で体勢を整えようとし─

 

『体が流れてるよ』

 

 すでに自分より上まで飛び上がった雲雀がトンファーを構えていた。それに気づいたツナは避けるために手を横に向け炎を噴射する。するとツナはそのまま床まで吹っ飛んでいった。

 

「ど、どうしたのツナ!?いつものツナらしくないよ!?」

『どうやらVer.V.R.ってのは、随分ピーキーな特性らしいな』

『「ピーキー?」』

『ああ。ツナの顔を見る限り、あいつの思い通りの炎が出せてねえみてーだ』

『…たしかに沢田の動きはぎこちないが…それは炎のパワーに圧倒されているからではないのか?』

『だったら自分のコントロールできるパワー内で戦えばいいだろ?今はそれすらできてねぇ。恐らくノーマルのXグローブがツナの意思の強さに比例してなめらかに出力を上げていくのに対し、Ver.V.R.ではある地点から急にパワーが跳ね上がる特性なんだろう。だから扱いきれず吹かしすぎたりつんのめったりしちまう』

『…なるほどな』

『先代達がツナに授けた新兵器ってのは、とんだじゃじゃ馬ってわけだな』

 

『ねぇ、君。僕が言ったこと覚えてる?』

『…勝つしかないんだろ?』

【気にいらないやり方だが、生き残る方法はあれしかない…】

「沢田は何をするつもりなんだ…」

【イチかバチか…】

 

 ツナは覚悟を決めると、さっきと同じ速度で雲雀に向かって一直線に飛んでいく。

 

『ダメだっ!カウンターの餌食に!!!』

「ツナ!!」

 

 ラルが忠告した通り、ツナに雲雀の重いカウンターが決まった。ツナはそのまま来た方向にふっ飛び、煙をたてながら転がる。

 

『君にはガッカリだな…弱い小動物には興味ないよ』

 

 雲雀はそうぼやきながら背中を向ける。

 

『直接手をくだす気にもならないよ。匣で…』

 

 そう呟いて匣を取り出そうとして雲雀があることに気づく。それと同時に、煙が薄れはじめ、ツナの姿が見えるようになる。

 ボロボロになり、顔を動かすのがやっとという状態のツナの手には、先ほどの突撃の際に掠め取った雲雀の匣が握られていた。

 

「確かにこれは、沢田が好んでする手ではないが、今できるなかで最も有効な手段だな」

『頼む…』

 

 そう呟きながら、ツナは匣に炎を注入し雲雀に向けて開匣した。

 ツナが呼び出したハリネズミは大空の炎を纏い、雲雀に向かって飛んでいく。だが、雲雀はすぐにリングを嵌めると、もう一つの雲ハリネズミの匣を取り出し、飛んでくるハリネズミに向かって開匣した。

 

「また同じハリネズミだ!」

「まだ持っていたのか!」

 

 二匹のハリネズミがぶつかり合い、炎の衝突が起こる。

 

『気が変わったよ』

 

 二匹の匣アニマルがぶつかり合うなか、雲雀はツナを見据える。

 

『もっと強い君と戦いたいな。それまでは少し付き合おう』

「この野郎、超がつくほどの戦闘狂だな…」

『─で、君たちは…』

 

─匣がどうやってできたのか、知っているの?─




今回は少し(といっても600文字くらいだが)空きがありますが、キリが良さそうなのでここまでです。
前回の投稿までがスランプだったのかどうなのかも判断できない…


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ツナの過去(10年後編):④

なんとかできました。そして申し訳ありません…ミルフィオーレ殴り込みどころかX-BURNERの誕生すら行きませんでした許してください。
あと設定のところに、重要なアイテムの一つである京子手作りのお守りについて書き足しておきました。


(ボックス)というのは、自然の中にある形から兵器を作れないかと、4世紀前の生物学者『ジェペット・ロレンツィニ』が残した343編の設計書が元になっている。しかし、そこに描かれていたのはオーバーテクノロジー…つまり当時の技術では再現できないものばかり。机上の空論は当然長い間、誰からも相手にされずジェペットの死後も設計図は紙切れ同然に彼のいた秘密結社の倉庫に眠っていたが、そこに同じ秘密結社の3人の発明家『イノチェンディ』『ケーニッヒ』『ヴェルデ』が現れたことにより、机上の空論から現実論に変わることとなる。彼らは匣の動力源にマフィアに伝わるリングから放射される炎が最適であることを突き止め、数々の技術的問題をクリアし僅か5年でプロトタイプを完成。生物を模したオリジナルの343の匣を作る傍ら、新しいタイプの匣も発明・開発をした。それが保存用の匣と道具や武器の匣だ。(十年後の世界で)つい最近までは彼らは研究資金調達のため、今では考えられない安価で多くのマフィアに売っていたが、3人の科学者のうち2人が変死。その後、生き残っているケーニッヒは地下に潜り、今も匣の研究を続け出来たものを闇の武器商人に流しているらしい─

 

『─これがオレが知る、最も有力と思われる匣の情報の全てだ』

「すごいな…400年も前にこのような理論を考えていた人がいたとは…」

「それにヴェルデって名前、ツナが持ってた医療箱の名称に入ってたよね?」

「ご名答♪あのすごい医療キットを作り上げ、匣の開発にも携わった人物こそ、元・雷のアルコバレーノでありダ・ヴィンチの再来と唄われる男、ヴェルデクンさ!」「へぇー」

「しっかし、そのヴェルデってやつを含めた、匣の理論を現実にした科学者の2人がそろって変死ってのはな…」

「…もしかして、誰かが変死に見せかけて殺したんじゃ…」

『ああ、間違ってはいない…だが、どうして匣ができたかという問いに対する、本質的な答えとは言えないな…匣を現在に成り立たせた本当の立役者は、ジェペットでも優秀な科学者でもない─偶然だ』

「偶然だぁ?」

『それって…何となくできちゃったって…ことですか?』

『こういうことです─世界的な大発見や大発明には、発明家の身近に起きた偶然がひらめきを誘発してできたものが少なくありません。ニュートンが万有引力を発見したリンゴしかり、ノーベルがダイナマイトを発明した時の珪藻土に染み込んだニトログリセリンしかり…もちろん、それらのミラクルには偶然を必然とする受け手の準備と力も当然必要ですが。しかし、それらを含めてそのような偶然はそう簡単に起こることではありません』

『だが、こと匣開発においては、それが尋常でなく頻繁に起きている』

「えと、どういうこと…なの?」

『我々はそれを調査してるのです』

『知るほどに謎は深まるばかりでね…沢田綱吉、明日も楽しませてくれよ』

 

 そういって雲雀は、先程とはどこか違う笑みでツナを見る。

 

『覚えておくといい。大空の炎は全ての属性の匣を開匣できるが、他属性の匣の力を全て引き出すことはできない』

「おい!ツナが出したハリネズミが取り込まれていってるぞ!」

 

 ツナが出したハリネズミはそのまま雲雀の雲ハリネズミに飲み込まれていき、粉々に砕け散る。

 

『悲観することはないよ。大空専用の匣も存在するらしい』

 

 雲雀はそう言い残すと、草壁を連れて部屋を出ていく。それとすれ違うようにして、リボーンを探しに来た山本が入ってくる。

 

『小僧!!』

『待たせて悪かったな』

『ツナも元気そーじゃねーか!いやーよかった!!』

『んじゃ、お前の修行も再開すっぞ山本『ああ』』

『沢田、おまえも休んでる暇はないぜ。一刻も早くVer.V.R.(ボンゴレリング)も扱えるようにならなくてはまた雲雀に…』

 

 そう愚痴のように呟きながらラルが近づくと、ツナは先程の戦いで消耗しすぎたからか、いつの間にか眠っていた。

 

『…仕方のない奴だ。あの試練の後だ…無理もないな─』

「ラルさん…実は優s」

『─とでも言うと思ったか!!』「ウェ!?」

『こんなことでは、ミルフィオーレに潜入し入江正一を消すことなどできんぞ!!目を覚ませ!!』

『ぶぶぶっ』

「やっぱり鬼だったー!!」

『ラルさん、すごいスパルタ…』

『ってか、ツナ教えるの降りるって言ってなかったか?』

 

 そのあと、ツナは一度眠気を覚ますためにお手洗いに来ていた。(なお、ツナがトイレに来た際に他に用を足している人がいなかったのは響達にとっての救いである)

 ツナは顔を洗い眠気を吹き飛ばすと、一度指からはずし、再びチェーンで繋いでいたボンゴレリングを眺める。

 

『…あんなことって…あるのかな…歴代ボンゴレに…初代ボンゴレ…だって、考えてみたらみんな、もう死んじゃってるんだし…あ!』

【死んじゃって…】

 

 ツナの脳裏に9代目の姿が浮かぶ。

 

「そうか…あの中に9代目がいたということは、この時代の9代目はもう…」

「そんな…」

 

 ツナは9代目のことを思い出してうつむきながらトイレから出る。すると─

 

『ツナ!!どいてくれ!!』

『へ?─も゛っ』

 

 山本の声と共に、ツナの頭に何かがぶつかってきた。

 

『わりぃ!!まだノーコンでな!!』

 

 そういいながら、倒れこむツナの横を走り抜けていく山本。彼の前方には、先程ツナの頭にぶつかってきた生き物─雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)が飛んでいた。

 

『や…山本!!』

『本当スマン!!あとでちゃんと詫びるから!!』

『…てか、ろうかで何やってんの…?『軽いランニングよ』ふぎゃっ』

 

 謎のコスプレをし、山本の後を追ってきたリボーンがツナの頭をキックボードで轢く。

 

『匣のつばめをとばしながら、5kgのウェイトをつけて42km走ってんだ』

『なあ!?42kmって!?』

「それもう完全にフルマラソンだろ!どこが『軽いランニング』だ!?」

『あとでこの階の酸素を薄くするからな。息苦しくなるぞ』

「しかも酸素濃度を下げてさらに肉体的負担をかけていくのか!?」

「あ、なんか落としていった」

 

 リボーンが落としていった紙をツナが拾い、響達が後ろから覗きこむと─『女子マネ的 軽~い準備運動♥️』というタイトルと、全くもって軽くない内容が書かれていた。ちなみにいくつか抜粋させていただくと─『軽いランニング♥️ 42km』『軽いうでたて♥️ 100×100回』『軽いふっきん♥️ 100×100回』─などだ。

 

『んなー!!準備運動がこれー!?あの2人の修行はハイパースパルタ体育会系!?』

「「「どこが軽い運動!?」」」

『負けてられないな』

「あ…ラ、ラルさん…」

『オレ達はヒバリの修行時間以外はVer.V.R.の強化だ』

『え…オレ達って…』

『えではない!!それでは入江正一を倒せんぞ!!Ver.V.R.の新しい必殺技なり戦略を手に入れるんだ!!』

『「だからなんでー!?ラルさんが燃えてんのー!?指導降りるって言ったのに~!!」』

 

 ツナと響のツッコミが見事にハモる。その後ツナは、対抗心に火が着いたラルにつれられて修行に向かうのであった…

 

『今日もごちそうさまのまえに寝ちゃったね』

 

 台所兼食堂にて、ならんで眠るツナと山本を見て微笑む京子。

 

『新しい修行が始まって3日連続ですよ』

『よほど疲れてるんだよ』

『獄寺さんは今日も1人だけ席離れてますし…ケガ…大丈夫かな?』

『ほっときなさい。自分の修行の不甲斐無さを恥じてるのよ』

『うまくいってねーのか?』

『ええ…1分間にやっと2匹…何よりあの子、やる気があるのかないのか…』

『ふむ…』

 

 獄寺の修行についてビアンキとリボーンが話していると、そんな二人の会話が聞こえていたのか、獄寺は起き上がる。

 

『リボーンさん、お先に休ませてもらいます。10代目にもよろしくお伝えください』

 

 獄寺はそれだけ伝えると、扉を乱暴に閉めしながら、部屋を出ていった。

 

「獄寺さん、荒れてるね…」

『おまえと獄寺は例の件もあるし、水と油だと思ってはいたが…やはり、この修行のこの組み合わせは無理があったのかもな』

『軟弱なのよ─あの子のことは最後まで見させてください。先におフロいただきます』

 

 そういってビアンキも食堂を後にしたのだった…

 

『起きろよダメツナ』

『ふにっ!』

 

 その後、洗い物が終わった京子達もお風呂に入りに行ったのを確認したリボーンは、今まで眠っていたツナを、顎を蹴りあげてたたき起こす。

 

『リ…リボーン…そーいや、ビアンキと獄寺君の例の件って何だよ』

『何だ、さっき起きてたのか?』

『うん…一瞬ね…そのまま眠気に負けて寝ちゃったけど…でも、確かに近頃の獄寺君おかしいよ!話しかけても反応薄いし…例の件って何があったの?』

『…しょーがねーな…』

 

 リボーンは一言呟くと、獄寺とビアンキの関係を話し始めた…

 

『獄寺ん家はマフィアで父親がボスなんだか、獄寺はビアンキとは違う母親から生まれたんだ』

「「「え…!?」」」

 

 過去のリボーンからのまさかの話に驚きを隠せない響と未来、そして血の繋がった姉を持つセレナ。

 そして現在のリボーンは、『違う親』という言葉に、一瞬だけ反応した翼を見逃さなかった。

 

『獄寺の母親は正式な妻じゃなくってな…なにかと待遇がひどかったらしい。最後は父親の組織の者に消されたって噂だ』

「「「「「消された!?」」」」」

『け…消されたって…獄寺君のお母さんが?』

『獄寺の母親はまだ若く駆け出しだったが、将来を嘱望された才能あるピアニストでな…大変な美貌の持ち主でもあった。そんな彼女にビアンキの父親は一目惚れしてな。妻子ある身でありながら強引に口説き落とした…やがて、二人は付き合いはじめ、彼女は赤ん坊を身ごもり出産した。それが獄寺だ…だが、妻でない女との間の子供が、マフィア界では決して許されず…獄寺はビアンキの母親との子供と公表された。獄寺の母親は年に3日しか子供と会うことを許されず、ピアニストとしての将来も奪われた。そして獄寺の3歳の誕生日の5日後…誕生祝いの密会を許され、組織が所有する山奥の別荘に向かう彼女の車は…あり得ない場所で謎の転落をした。タイヤ痕は一切なかったという…彼女は即死…幼い獄寺を残してな…』

「そんな…」

「あいつ、幼い頃に親をなくしてたんだな…それも、あたしよりも断然幼い時に…」

『自殺の線も疑われたが、彼女はこの日を心待ちにしいてたふしがあり、車内からもプレゼントが発見されている…獄寺がそれらのことを知るのは、城を飛び出す前日─お手伝い達の噂話を偶然聞いてしまう8歳のときのことだ…』

『…なにそれ…そんなひどい話、獄寺君、一言も…』

『それであいつ…家庭がドロドロのグチャグチャだって…』

『山本!起きてたの?』

 

 途中からリボーンの話を聞いていた山本が自分とツナ、リボーンの湯呑にお茶を注ぎ、一息つく。

 

『難しいなぁ…何て言って獄寺君を励まそう…』

『ほっとけ。男なんだ、自分で折り合いつけさせろ』

『なっ!おまえこーゆー時冷たいぞ!!』

『周りがとやかく言う問題じゃねーって言ってんだ』

『まーまー2人とも。気持ちがニッチもサッチもいかなくなった時は、気分転換が一番だと思うぜ』

『「気分転換?」』

『ああ!オレにいい考えがある。任せとけって!!』

『ランボさん登場!!』

 

 山本の言う気分転換が何なのか響達が興味津々にしていると、風呂上がりで少し火照っているランボが部屋に元気よく入ってくる。

 

『よっランボ!』

『フロ入ってきたのか?』

『んーとねぇ、ビアンキと京子とハルとイーピンもだよ。今ねぇおフロの中ねぇ─おっぱいがいっぱい』

『なっ!』

『ぶ─っ!』

 

 ランボのまさかの爆弾発言に、山本は持っていた湯呑を落とし、ツナは口に含んでいたお茶を勢いよく吹き出した。その結果、二人とも熱々のお茶に苦しめられることに。

 そろって熱がる二人を見て、リボーンが『本当ガキだな』と呟く。そんなこんなで夜が過ぎ、次の日の朝。

 

『おはよーございます!!10代…』

 

 食堂に入ってきた獄寺が目にしたのは、いつものように料理の準備を始める京子とハル、そして左胸に「すし」と縦書きされた法被を羽織った、ツナと山本の姿だった。

 

『待ってたぜ!』

『おはよう獄寺君!』

『な!?』

『今日は男子が朝ごはん当番になったんです!』

『山本君指導、竹寿司直伝の手巻き寿司を作るんだって』

「山本の家は寿司屋だからな。山本の父親が握る寿司は格別だが、山本も寿司屋の息子なだけあって、相当な腕前だぞ」

「そうなんだ!いいな~、私も山本さん家のお寿司食べてみたいな~」

「竹寿司は()()()()()()寿司屋だから、いい値段するぞ?」

「うぐっ!…やっぱり?」

「ま、お前らが山本と仲良くなったら、山本ん家に遊びに行ったときにお茶請けの代わりに出されなくもない、かもな」

「本当!?」

「おいご飯バカ!そういう話は後でにしろよ!」

『最近修行ばかりだし、たまには息抜きしようよ』

『え…』

 

 獄寺はツナの言葉に一瞬目を見開くが、すぐにうつむく。

 

『す…すいません10代目…今、自分そういう気分では…』

『で…でも人手が足りないんだ!オレ、ラル・ミルチの分も作らなきゃいけないし…あの人、みんなとごはん食べないけど、結構、食にはうるさくて…』

『とにかくやろーよハヤト兄!!』

 

 獄寺の後ろに現れたフゥ太が、背中を押してツナ達の元に連れていく。

 

『おい!』

『すっし!すっし!』

『こらアホ牛!!米粒ついた手で触んな!!』

『ベロベロベー!』

『これでちったー修行に身が入るといいがな』

 

 ウザ絡みしてくるランボにキレる獄寺を見ながら呟くリボーン。その隣では、獄寺をじっと見つめるビアンキの姿があった…

 

『骸に動きがあったって、どういうことですか!?』

 

 皆で山本直伝の手巻き寿司を堪能したツナ達ボンゴレメンバーは、パソコンなどが設置されたミーティングルームのような部屋─副作戦室にて草壁からの報告に声を荒げる。

 

「骸さんって確か、リボーン君が最初の方で言ってた…」

「沢田の霧の守護者の片割れ…そして、ランチア()を騙した男の名だな…」

『だってまだ骸は復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄に入ってるんじゃ…』

『我々もそう思っています』

「復讐者…?また聞いたことのない名が出てきたな」

「復讐者は法で裁けねぇ人間を裁くマフィア界の番人だ。たった一人でも相当な強さを持ってやがる奴が常に三人一組で行動している…あの出来事が終わった今でも、出来れば関わり合いたくねぇ連中だ」

「あの出来事…?」

『5年前に城島・柿本・クロームは復讐者の牢獄へ骸救出に向かい失敗。その後、3人は消息を断った…ただし半年ほど前、妙な噂が立った』

『妙な噂?』

『骸が倒された、というものです』

『「!」』

『どういうこと?』

『発信元はミルフィオーレ…倒したのは第8部隊隊長「グロ・キシニア」。数少ないAランクで、相当腕の立つ強者です』

 

 そう話す草壁のモニターに、メガネをかけたおかっぱ髪の男─グロ・キシニアの写真が写し出される。

 

「下種なのに強いんだよねぇ、彼って」

「下種?」

「彼、女性を痛め付けるのが好みっていう頭のおかしい性癖を持ってるんだ。そのくせして常識に縛られない考え方したり、素早く状況を把握できる冷静さを持ってるから、気持ち悪いのに強いんだよなぁ」

 

 元・グロ・キシニア()の上司である白蘭が身も蓋もない批評を述べるが、響達はなにも言わない。ただただ─写真に写る男を汚物をみるような目で睨み付けていた。何せ彼は完全なる女の敵であり、過去の出来事を見ている(この空間にいる)人のほとんどは女性なのだから…是非もないことである。

 

『考えられるとすれば、何者かに憑依した骸と戦ったのでしょう?』

『骸が大きなダメージを負ったことも考えられますが、少なくとも死んではいないはず…なぜなら我々はその後、イタリアの空港である男と接触している、クローム髑髏を捉えたからです』

 

 そう言って草壁が取り出した写真には─空港で、右腕を包帯で支え、顔をサングラスとバンダナで隠した大人クロームと思われる女性と、ハンチング帽を被った男性が会話していると思われる姿が写っていた。

 

『ク…クローム生きてたんだ!!ケガはしてるみたいだけど…』

『そうか…骸が死んじまってたら、クロームは生きてられねーんだったな』

「生きていられない、だと?」

「あぁ、クロームは─『だが今、クロームは行方不明…ってことは、今回動きだしたのはこの密会していた男の方だな』…」

 

 翼達にクロームについて説明しようとしたリボーンだったが、過去の自分に話を遮られてなんとも言えない空気が漂う。

 

「─まぁ、クロームについては後々話すか」

『雲雀は、この男が骸の()()だとふんでいます。この男については身元不明で、少なくともあなた達の知らない人間です…これとは別に骸の手掛かりとして気にしているものがもう一つ─この写真に写っています』

 

 そう言って草壁が新たに取り出した写真は─

 

「こりゃたしか、前見たヒバードとかいうやつの写真じゃねーか」

「これに骸に関わるものが写っているというのか…?」

「─あ!皆さん、写真の左上をよく見てください!」

『「─!!」』

『これが骸!?』

『これも骸の何かです…雲雀はイタリア滞在中にこれの視線を何度か感じ確信したらしいです。運よく我々のカメラに一枚だけ写りましてね』

『でもよ…』『こいつぁ…』

「フクロウ、だよね?」

『我々はこれに、骸をもじって名前をつけました─ムクロウ、と』

 

 草壁が写真に写った生き物のコードネームを口にした直後、中央のメインモニターに写されたレーダーが反応を見つける。

 

『何だジャンニーニ』

『一瞬ですが、データにない強いリングの反応が…黒曜ランド周辺です』

『!!』

『黒曜ランド!?』

「なんだ?どっかの遊園地か?」

「正式名称は黒曜ヘルシーランド。廃墟になった黒曜センターっていう複合娯楽施設の一つで、骸達が活動の拠点にしている場所だ」

「なら、レーダーに反応したのは骸さんかクロームちゃんのリングかも…!」

『ただしこのあたりは電波障害がひどく、誤表示の可能性も高いです』

『新たな敵かもな』

『─違う…きっと仲間だ…』

「ツナ…?」

『ボンゴレリングを持った…クロームかも…』

 

 その後、ジャンニーニがレーダーの反応の解析を始めるが…

 

『やはりデータ不足ですね…レーダーに写った黒曜の反応が本物かどうか計りかねます』

『どうしよう…もしクロームならこんなことしてる場合じゃ…』

 

 ジャンニーニの発言にツナが慌て始めた直後、警報と共にメインモニターの映像が切り替わり、画面を横並びの『,』の文字が埋め尽くす。

 

『!?』

『今度は何だ?』

『緊急暗号通信です!』

『コードにコンマが並んでるってことは─』

『我々の隠語(スラング)でコンマとは、切り落とした頭…つまり殺しの暗号─暗殺部隊のコードです!』

「暗殺部隊!?」

「そうか…マフィアなら、そのような部隊がいてもおかしくはないか…」

【え…?暗殺部隊って…】

『どうだ?』

『画像データのようですね…あと少しで解析できます』

『でもよ…暗殺部隊っつったら…』

『あの人達しか思い当たらないけど…』

『しかし、世の中には多くのそれが存在しますよ』

「あれ?ツナ達はその暗殺部隊の人達のこと知ってるの?」

「そりゃそうだ。何せ10年後の(この)時代に飛ばされる前、死線を繰り広げた相手だからな」

「え゛」

『おっ!いけそうですよ─!やはり暗号コードはボンゴレのものです。デジタル署名も一致』

『つーことはやっぱ!』

『ボンゴレ特殊暗殺部隊…!』

『再生します』

 

 ジャンニーニが解析できた画像を再生させるため、エンターキーを叩くと─

 

『う゛お゛ぉおい!!!』

 

 映像が始まってすぐ彼らを襲ったのは、鼓膜が破れんばかりの大きな声だった。

 

「な、何だいったい!?」

「あー!耳がぁ!」

 

 翼達やリボーン達は何とか耳を塞げたようだが、響だけは間に合わなかったようで耳を押さえてその場で転がる。

 

『首の皮はつながってるかぁ!?クソミソカスどもぉ!!!』

『出やがった!』

『じゅ…10年後の…』

『スクアーロ!!』

「スクアーロってたしか、未来の山本が使ってた技にあった名前じゃねぇか!?」

『ボリュームを下げろ!聞くに耐えん!!』

『はいっ…ずいぶん下げてるんですが』

「大丈夫?響…」

「うぅ…まだ耳がキンキンするよぅ…」

『いいかぁ?クソガキどもぉ!!今はそこを動くんじゃねぇ!!外に新しいリングの反応があったとしてもだぁ!!』

『!黒曜ランドのことだな』

 

 音量を下げたことによって先程よりかはかなりマシにはなったが、それでもまだやかましく感じる程の大声で、映像に写る長い銀髪の男性─スクアーロは命令のような言い方で注意を促してくる。

 

『じっとしてりゃわっかりやすい指示があるから、それまでいい子にしてろってことな!お子様達♪』

『ナイフ野郎!』

 

 そんな彼の後ろから、今度は王冠をかぶり、前髪で目が隠れた男性─ベルフェゴール(通称ベル)が現れる。

 

『う゛お゛ぉい、てめー何しに来た!』

『王子ヒマだし─ちゃちゃいれ』

『口出すとぶっ殺すぞぉ!!』

『やってみ』

 

 映像に写る二人が徐々に険悪な雰囲気になっていき、ベルの一言が開戦の火蓋となって突如争い始めた。

 

『う゛お゛ぉい…』

『しししっ─いてっ』

【相変わらず荒くれ集団だ…】

「ねぇ、スクアーロさんと、あと…「ベルフェゴールな」ベルフェゴールさん、いきなり喧嘩始めたけど大丈夫なの!?しかもさっきスクアーロさん、殺すって…」

「なーに、あいつらの『殺し合い』は日常茶飯事のことだ。それに、稀に重傷者は出るが誰か死んだりとかはねーから安心しろ」

「イヤ殺し合いとか重傷の人が出る時点で安心できないよ!?」

『またこの世で会えるといいなぁ!!それまで生きてみろぉ!!』

 

 画面いっぱいに写し出されたスクアーロは、顔に血を滴らせながらそう叫ぶと、映像が終わる。

 

『あいつら、変わってなかったな!』

『怖かった…分かりやすい指示って何だろ…』

『どーやらあの方のことのようですよ。イタリア帰りの』

 

 するとツナ達の背後から足音が聞こえ、振り返ると─

 

『笹川了平、推参!!!』

 

 傷だらけのクロームを抱き抱えた10年後の了平の姿があった。

 

『芝生…!』

『お兄さん!それに─クローム髑髏!』

「やっぱり、さっきの反応はクロームちゃんのリングだったんだ!」

「にしても、こいつは何でこんな傷だらけなんだ?」

「聞いた話によれば、黒曜ランドに隠れているところをグロ・キシニアに襲われたらしくてな」

「な…!?あの外道にか!?」

「ああ。だが、クロームは匣兵器のフクロウに憑依していた骸の手助けと、ボンゴレリングの力で返り討ちにしたらしいぞ」

「あ!クロームちゃんが抱えてるの、写真に写ってたムクロウじゃない?」

 

 そんなこんなで、クロームを集中治療室につれていき、ビアンキに手当てを任せたあと、了平がツナ達と情報共有を始めようとしていると、話を聞き付けた京子とハルが部屋に飛び込んでくる。京子は元気そうな兄を見つけると、彼の胸に飛び込み抱きついた。

 

『よかった無事で!!』

『な…泣くな…見ての通りオレはピンピンしている!!なっ』

『うん…』

「よかったね…京子ちゃん、お兄さんと再会できて…」グスッ

「そうですね…」グスッ

【二人を見てると10年前と一緒だな…お兄さんも昔のままみたいだ…】

『つか、なんでお前がここに来るってヴァリアーが知ってたんだよ!』

『もちろん、オレもそこにいたからだ!そして伝言を持ち帰った!』

【お兄さんがヴァリアーに!?】

『ベルフェゴールの言ってた指示のことだな』

『一体、何スか?』

『それが極限に忘れた!!!』

「忘れたのかよ!?」

『だが心配はいらん!ちゃんとメモしてある!オレにしかわからんようにな』

『お』『10年で1つ覚えたな』

 

 了平は取り出したメモを読み始める。

 

『ふむふむ!─はっ!そーかそーか!─イタリアには出張相撲大会があって行ったのだった!楽しかったぞ京子!!ハル!!』

『「え?」』

【ごまかし方相変わらずメチャクチャー!】

「まだこのとき、京子とハルはマフィアやボンゴレについてなにも知らなかったからな…京子をマフィアのいざこざに巻き込みたくない了平は、マフィア関連の争い事を全て相撲の試合だと偽っていたんだ」

「…せめて誤魔化す内容、もうちょっとマシなの考えろよ…」

『沢田さん…ムクロウですが、やはり匣兵器のようです。本当にこれ以上の調査はいいのですか?』

『うん…だってそれもクロームの持ち物だもん。勝手にいじられたら嫌だと思うし…』

『…そうですか…』

 

 その後、京子達が昼食を作りにいったことを確認すると、部屋を主作戦室に変えて了平がイタリアで起こったことを話し始めた。

 

『ある案件についてボンゴレ10代目の使者としてヴァリアーに出向いてな『オレの!?』その最中、ボンゴレ狩りが始まったんだ。10年前から来たお前達のことは、ある情報筋よりヴァリアーに伝えられ、オレもそこで知った。このことを知るのは、残存しているボンゴレと同盟ファミリーのトップのみ…信じぬ者も多いがな』

『同盟ファミリーって、ディーノさんのキャバッローネも!?』

『ああ、あそこも健在だ』

『よかった…!』

「ちなみにディーノってのは、俺がツナの前に家庭教師した─ツナの兄弟子だ」

『そしてお前達がいると仮定し、ファミリー首脳により大規模作戦が計画された─ここにいる10代目ファミリー(オレ達)への指示は、5日後にミルフィオーレ日本支部の主要施設を破壊することだ』

 

 了平が持ち帰った指示の内容を聞き、その場にいた全員が顔を引き締める。

 

【それって…殴り込み…】

『…急だな』

『そうだ…それがボンゴレと同盟の首脳が立てた作戦だ。我々も足並みを揃えてこの作戦に参加する必要がある』

「でも、たった5日だなんて…」

『5日後ってすぐだ…』

『だがこの機を逃すと、次にいつミルフィオーレに対し有効な手立てを打てるかわからんのだ』

『オレ達のアジトだって敵にいつ見つかるかわからんのだ…早くて悪いことはない』

『でも…なんか…こんなマフィアの戦争みたいなのに参加するって…オレ達の目的と違うっていうか…』

『目的は入江正一を倒すことだろ?合致している!』

『!…でも…』

『了平がクロームを連れてきたことで、オレが出した最初の条件もクリアしたしな』

『条件?』「あ!」

『「守護者集め!」っスよ10代目!』

『あっそういえば!!─なにげに全員そろってるー!!!』

『よほど、みんなの日頃の行いがいいんだな』

『バカか!!ノーテンキな言い方すんな!ボンゴレの守護者としての宿命が、オレ達7名を引き合わせたんスよ』

【この人照れずに言ったー!!】

「こいつも別の意味でバカじゃねーか」

『まあ他にもいくつかあるがそれは後だ。いいか沢田─たしかにこの作戦はボンゴレの存亡をかけた重要な戦いだ…だが、決行するかどうかはお前が決めろ』

『なぁ!?オレがー!?』

『現在、ボンゴレの上層部は混乱しているし10年前のお前達を信用しきったわけではない…ヴァリアーもあくまでボンゴレ9代目の部隊という姿勢だ。お前の一存で作戦全てが中止になるようなことはないだろう…だがこのアジトのことは、ここの主であるボンゴレ10代目が決めるべきだと極限にオレが言っておいた!!』

【お…お兄さん…】

『でっかくなったな了平』

 

 リボーンは了平に対し、成長した教え子の姿を見ているような視線と笑顔を浮かべる。

 

『期限は本日中だ。中止の場合は首脳にオレが伝えにいく。しっかり頼んだぞ沢田』

 

 了平はそう言ってツナの肩を掴んで揺さぶった後、部屋を後にしようとして─

 

『師匠の話はまた…『!』さーて、オレは極限メシ食って寝るっ!!!』

『そんな!困ります!待ってください!!』

 

 ラルとすれ違った際に彼女にだけ聞こえる声で伝えると、ツナの必死の制止を無視して部屋を出ていった。

 

『どうしようリボーン!!責任重すぎるよー!!』

「なんか今さらだけど、ここまで慌てまくるツナってホント珍しいよね…」

「うん」「はい」「「ああ」」

『ボスが情けねー声出すんじゃねえ。まずは5日後にお前の納得できる戦力を確保できるか考えるんだ』

『5日後に予想されるクローム髑髏の状態とお前達の修行の仕上がりだな』

『そ…そーだよね…戦いに…なるんだもんな…』

「ツナ、辛そうだね…」

『なーに、修行についちゃオレ達がなんとかするって!なー獄寺っ!』

『─あ…ああ、任せてください10代目!!』

 

 いつもみたいに返事を返す獄寺だが、その顔はどこか不安げな表情だった…

 その後、三人はいつものように修行に向かい、ツナはトレーニングルームで新しい炎を使いこなすため、教習所で行われるスラロームの応用版をしていた。

 

『ふ~、体がきしむ…』

『スラロームのタイムはだいぶ縮まってはいる…だが、それでもノーマルグローブの方が早い。まだまだ動きにムダが多いということだ!こんなことでは午後の修業で、また雲雀に半殺しにされて終わるぞ!!』

『ひいい(殴られる!また殴られるー!!)』

 

 怒鳴りながら近づくラルをみてツナが悲鳴を上げるが、ラルは途中で足を止め、動きも止める。

 

「どうしたんだろ、ラルさん…」

『…他の連中を見てこい。5日後、戦力になるのかをな…』

『は…はい…【…どうしたんだ?】』

 

 ラルはそれだけ告げると、部屋を出ていった…

 

 そのあとツナはラルに言われた通り、山本達の修業風景を見に行ったのだが…

 

「山本さんはなかなかうまく行ってないし、獄寺さんに関しては修業から逃げちゃってるし…」

「バックレるのは普通ありえねぇだろ!」

【困ったな~、あの調子じゃ山本も獄寺君も5日で修業が完成するとは思えない…リボーンは山本の修業が忙しそうだし、ラル・ミルチに相談してみよう…】

 

 エレベーターの中でツナはそんなことを考えていたが、目的の階についてすぐ視界に写ったのは、背中を壁につけ、辛そうな顔で座り込むラルの姿だった。

 

「ラルさん!?」

『どーしたのラル!?大丈夫!?』

 

 ツナがラルに駆け寄ると、意識を失っていたようだが声に気付き目を覚ます。

 

『……誰だ…?』

『え?』

「─まさか、彼女は右目が見えてないのか?」

『沢田か…少し…ふらついただけだ』

『…ラル…目…』

『以前から右目は弱いんだ…そのためのゴーグルだ…もう必要はなさそうだがな…』

『オレ…誰か呼んでくるよ』

『その必要はない『でも…』余計なことをするな!!』

「ラルさん…」

『5日後の作戦でオレが足をひっぱるわけにはいかない─このことは誰にも言うな!!』

『でも…無理することないよ!!お兄さんだって作戦は断っていいって言ってくれたんだ『!!』それに本当はオレ…こんな戦争みたいな作戦に参加するの…あんまり乗り気じゃないっていうか…』

 

 直後、ラルがツナの襟を勢いよく掴んだ。

 

『本当にそう思っているのか!!』

『!』

『笹川は、お前に甘いがハッキリ言っておく…ミルフィオーレとボンゴレの戦力差は圧倒的だ。参加しようが引き延ばそうがここにいる多くの人間は死ぬんだ!!おまえに委ねられているのは生きるか死ぬかの選択ではなく…どちらの地獄を選ぶかだ─甘い考えを捨てろ』

「生きるか死ぬかではなく、どちらの地獄を選ぶかどうか…」

『少しでもマシな…0.1%でも生存確率の高い選択をするのがお前の義務だ…それだけを考えろ』

 

 ラルは溜め込んでいた感情を出しきると、ツナから手を離し、頼りない足取りでその場を後にした…

 

 ツナはラルが立ち去ったあと、主作戦室にて一人考え込んでいた。

 

【一体どーすりゃいいんだ!?作戦に参加してもしなくても地獄だなんて…それに、ラル・ミルチの状態があんなに悪かったなんて知らなかった…】

「ツナさん…」

 

 そんなとき、元気な声を上げながら、ランボが部屋に入ってきた。そんな彼の手にはマジックペンが。

 

『ツナみーっけ!!ツナにも落書きしてあげよっか!?』

『ランボ…遊んでる気分じゃないんだ…あっちいってくれよ』

『あららのら♪本当は遊びたいくせに~!!』

『やめろ、本当に怒るぞ…』

『ガハハ!書くもんね~』

『─やめろって言ってるだろ!!!』

 

 落書きしようとしていたランボだけでなく、響達もいつもの彼らしくない行動に怯え始める。

 

「このときのツナ、怖い…」

『どーしたんですかツナさん!?』

 

 そこへ、ツナの叫び声を聞き付けたハルが部屋に入ってきた。

 

『はひ?ランボちゃん泣いてるんですか?』

『ハル!!修行中はちゃんと面倒見ろって言ったじゃないか!!』

『す…すいません…でも…ランボちゃんだって遊んでるばかりじゃないんです…ちゃんと家事のお手伝いしてくれてるんですよ?ツナさん何も知らないから…』

【何も知らない…?】

『何も知らないのはお前達だろ!!?』

 

 ハルの一言を聞いたツナは、彼女にも自分の怒りをぶつけてしまう。

 

『…ごめんなさい…ハルはいつでも相談にのります…』

『あっ』

 

 怯えるハルの姿を見てやっと我に返るツナ。

 

『さあ行きましょうねランボちゃん…』

『ハルっ!ちがうんだ…』

 

 ツナはハルを呼び止めようとするが、ハルはランボを抱いて、涙を流しながら部屋を去っていった。

 

【オレ最低だ!!隠してるのはオレ達なのに!!みんなを安心させなきゃいけないってのに…】

「…こんなに苦しんでるツナ、初めて見た…」

『ここにいたのか』

『リボーン…』

 

 自分がしたことに自己嫌悪に陥ってると、今度はリボーンが入ってきた。

 

『やっぱりオレにはムリだよ!!ボスの役割なんて!!』

『ヘコたれてるヒマはねーぞ─クロームの容態が急変した』

『「え!!?」』

『相当やベーぞ…内蔵のいくつかが壊れだした』

『な…内蔵!?』

【まさか…】

 

 ツナ達が急いでクロームとビアンキがいる治療室に向かうと、血を吐き出すクロームの姿があった。

 

『クローム!!』

『ダメだわ!!手の施しようがないの!!』

『そんなぁ!!なんで!?』

『失われてるのよ!!─内蔵が!!』

 

 クロームの腹部を見ると、ビアンキが言った通り腸や胃がごっそりなくなったようにへこんでいた。

 

「おい!こいつが連れてこられた時は腹にはなにも異常はなかったはずだぞ!?一体どうなってやがんだ!?」

「─クロームはある時、猫を助けようとして交通事故に遭って、右目と内臓のいくつかを失ってるんだ」

「なっ!?」

「医師は母親に内臓移植を持ちかけたが、クロームの母親は娘に愛情を注がない女優だったらしく、臓器提供を拒絶…父親も仕事にしか興味のない大手外資系企業の営業部長で義理の父親だったらしいから当然娘のことに興味はなく…クロームは生死を彷徨っていたとき骸と出会い、骸の幻覚によって内臓の機能を補って延命しているんだ」

「─ふっざけんな!」

 

 リボーンの説明を聞いたクリスは怒りで体を震わせる。

 

「自分の娘を心配しない親なんか、親でも何でもねぇ!ただのクズ野郎だ!」

「─待て…骸が幻覚で作り出した彼女の臓器が消えたということは、彼が幻覚を維持できないほど追い込まれているということではないか!?」

『─様…むく…』

『しっかりしろクローム!!死んじゃだめだ!!』

『ボ…ス…?』

『そーだ、オレだよ!!しっかりするんだ!!』

 

 ツナはクロームの手を掴み、必死に呼び掛ける。

 

『あった…かい…ボ…ス…骸…様を…』

『え…?骸が…どーしたんだ?』

 

 ツナがクロームに問いかけた直後、彼女が再び血を吐き始める。

 

【…骸!!おまえ一体何やってんだ!!】

 

 ツナが心の中で、この場にいない人物に問いかけた直後、クロームの持ってきた鞄から何かが砕ける音が聞こえ、それと同時にクロームが先程とは比べ物にならない量の血を吹き出した。

 

『ク…クローム!!』

「一体何がおこった!?」

 

 ツナ達がクロームに釘付けになる中、響達がクロームの鞄を覗き込むと、砕け散った三叉槍が入っていた…

 ツナ達が慌てふためいていると、部屋に雲雀が入ってくる。

 

『ヒバリさん!』

『邪魔だよ』

 

 雲雀はツナをどかすと、クロームの頭に手を添え、優しく持ち上げる。

 

『死んでもらっては困る』

 

 雲雀がクロームを見つめるなか、ツナは草壁につれられて部屋を後にした…




次回こそはミルフィオーレ殴り込みまで絶対に行かせます!


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ツナの過去(10年後編):⑤

お待たせしました。
今回も以外と早く出来上がりました。


『クローム髑髏は一命をとりとめました』

『本当!?よかったー!!』

「よかった…無事か…」

 

 副作戦室に集まっていたツナ達と響達は、クロームの無事を聞き安堵する。

 

『どーやってあの状態から持ち直したんだ?』

『ボンゴレリングです。雲雀がクロームに促したのは、ボンゴレリングそのものの力を引き出し、己の力で生きること…現在、クロームは自分の幻覚で、失われた内蔵を補っています』

『そっ、そんなこと…可能なのかよ!?』

『ですが、今の彼女の力では幻覚は不完全…生命維持がやっとの状態だ…』

『あの…じゃあ…骸はどーなっちゃったの!?』

 

 ツナの問いに対し、草壁は無言で首を横に振る。

 

『骸の行動については、我々よりもヴァリアーにいた笹川氏の方が詳しいのでは?』

『骸からヴァリアーへの指示は一方的なものだったと聞いている…オレはその指示を信じ行動したが、骸がどこで何をしているかはわからんのだ』

『クロームへの力が一切途絶えたのよ?最悪の事態も考えるべきだわ』

「つまり─死んだ可能性もある、と…」

『そんなぁ!!』

『10代目!あのしぶとい骸です…まだわかりませんって』

『だが、どっちみち5日後にクロームは戦えそうにないな』

『…痛いな』

『心配するな。クロームの不足分はオレが補う』

「ラルさん…」

『そんなこと任せられるわけねーだろ。お前、今座ってんのもしんどそうじゃねーか』

『「!!」』

『リボーンッ』

『何を言っている!!』

「リボーンくん、ラルさんの体調が悪いの知ってたの!?」

『無理すんな…顔を見れば、お前の体調ぐらいわかる。お前の体は非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)を浴びすぎてボロボロなんだろ?』

『黙れ!過去から来たお前に何がわかる!』

『オレだって地上に充満している非7^3線を肌で感じたんだ。お前のやろうとしてることの無謀さぐらいわかるぞ』

『だが、非7^3線を放出しているのはミルフィオーレだ!!奴らを倒さなければこの世界は正常には戻らない!!』

 

 今まで見せたことがない表情のラルをみてツナ達が呆然としていると

 

『え~と、それについてなのですが…どうして非7^3線が地上に漂っているかまだ原因は特定できていません…ミルフィオーレとの因果関係は恐らくあると思われるのですが、決定打がなく…』

『我々も同じく…』

『いや!!奴らの仕業だ!!コロネロもバイパーもスカルも…奴らに殺されたんだ!!─ぐっ』

 

 そこまで叫んだラルだったが、突如倒れてしまう。

 

『ラル・ミルチ!!』

『大丈夫ですか!』

『さわるな!!立てるっ』

 

 すぐ横にいたビアンキや草壁が近寄るが、ラルは自分の力で立とうとする。

 

『沢田…『!』5日後だが…これだけ戦力に悪条件がそろっては、おまえが何というか見当がつく…作戦中止はオレが上に伝えに行こう』

「了平さん…」

『ただの貧血だ!!』

『無茶をするなラル…』

『─いえ、やりましょう』

「ツナ!?」

『敵のアジトに行けば、過去に戻ることだけじゃなくって、骸の手がかりも何かつかめると思うんです…それに、そのノン・トゥリニセッテのことも、わかるかもしれないし…』

 

 獄寺達だけでなく、響達シンフォギア組やいつの間にか部屋にいた雲雀がツナの話を真剣に聞く。

 

『…でも、どっちもゆっくりしてると手遅れになっちゃう気がして』

『うむ』

『それに、やっぱりオレ…こんな状況(とこ)に、一秒でも長くいて欲しくないんだ』

「沢田…」

『並盛の仲間はもちろんだし、クロームやラル・ミルチだって…こんな状況、全然似合わないよ!!』

「─やっぱり、ツナは今も昔も変わらず優しすぎなんだよ」

『はっ!─えと…あのっ!オレはそんな感じです…けど…』

『よく言ったぞ!男だ沢田!!』

『…ガキが』

 

 辛辣な言葉をのべるラルだが、顔をそらしていることから、照れ隠しで言ったのだろう。

 

『とにかく』ゴクゴク

 

 ツナはリングとミトンを身に付け、死ぬ気丸を飲んでハイパー化する。

 

『─5日しか時間がない。一刻(いっとき)も無駄にはできないぞ』

『はい!!』『だな!!』

 

 ツナの一言に力強く答える獄寺と山本。三人はそのままそれぞれの修業に向かった…

 

 トレーニングルームにて、ツナの拳と雲雀のトンファーがぶつかり合う。

 雲雀の攻撃をしゃがんでかわすツナだが、その動きを予測していた雲雀はがら空きになっているツナの顔を殴り飛ばす。

 吹き飛ばされたツナが背後に炎を噴射し勢いを殺すと、そこへ雲雀が迫ってくる。

 それを確認したツナは、炎圧を強め蹴りで迎え撃とうとするが、雲雀はトンファーでそれを防ぎカウンターを入れようとする。

 ツナは両手を前に向け炎を噴射することでトンファーをかわすと、空中で体勢を整え再び雲雀に迫る。

 

『驚いたな…沢田さんの動きが格段に良くなっている─ピーキーなあの炎をモノにし始めてるようですね』

 

 そんな二人の戦いを見ていた草壁がそう溢すと、床に座り込みながらも二人の戦いを観察していたラルが否定する。

 

『それは違うな─奴は2種類の炎を使い分けているんだ』

『2種類…?』

『従来のノーマルグローブの炎は、エネルギーが常に分散するため感覚をつかみやすい─いわば、柔の炎。微妙な出力ができるため、姿勢制御やホバリングなどに適している。対するVer.(バージョン)V.R.(ボンゴレリング)で得た純粋な炎は、扱いにくいが爆発的にエネルギーが上昇していく剛の炎─直線の加速やここ一番でパワーが必要な時にはコレだ』

「あぁ、なるほど…沢田はあの時、剛の炎だけを噴射していたから、あれだけ暴れたわけか…」

『なるほど、可変式か…考えましたね、ラル・ミルチ』

『オレではない…沢田だ』

『!─ボンゴレの、超直感ですか』

『確かに奴の上達ぶりには何か理由をつけたくなるのもわかるが、そんなくだらぬ迷信、オレは信じない。それに、動きがよくなったとはいえ、戦闘力はまだ話にならん。沢田は(ボックス)を持っていないんだ。雲雀といえど匣を使わない相手にこうも手こずっていては、強力な匣を持つミルフィオーレにはとても太刀打ちできん…それは沢田が一番わかっていると思うがな』

 

 ラルが話し終わった直後、ツナが床に叩きつけられる。

 

「─彼の今の強さを知る私たちから見れば、これ程傷だらけになる沢田の姿は何とも信じられないな…」

「「確かに…」」

【ダメだ…!!このまま機動力を上げていったとしても、倒せる気がしない…】

『いつまで草食動物の戦い方をするつもりだい?『!?』君はまだ武器を使っていないよ、沢田綱吉』

【武器!?】

 

 雲雀の言葉を聞いて驚いたからなのか、ツナのハイパーモードが切れてしまう。

 

『眠くなってきた。そろそろ帰る』

『なっ!!ちょっと待ってくださいヒバリさん!!』

 

 必死に呼び止めようとするツナだが、雲雀が彼の言うことを聞くわけもなく、雲雀はそのまま部屋を出ていった。

 

『オレの修業から4時間ぶっつづけだぞ。少し休め沢田』

『…はぁ…』

 

 ついにはラルからもストップが入り、ツナは休憩に入ることにした。

 

「なんか…ラルさん、少し優しくなった気がするね」

「あれほど厳しかったのは、彼女も色々抱え込んでいたからなのだろうな…」

『武器を使ってない…?』

【どーいう…ことだろう…?武器っていってもオレ匣持ってないし、X(イクス)グローブしかないんだけど…】

 

 ツナは居住区を歩きながら武器について考え始める。

 

【そのグローブだって、パンチやチョップで普通に武器として使ってるしなぁ…─!グローブには、まだ使ってない機能があるってことか!?─でも炎を凍らす零地点突破と、炎を出すことしかできそうにないけど…】

「あれ…?ねぇ、ツナの武器ってもしかしてさ…」

【…炎】

『!!』

【そういえばXANXUS(ザンザス)の武器は炎の攻撃とジェットの両方に使ってたんだよな…】

「XANXUSさんってたしか、白蘭さんが言ってたツナと10代目の座を争ったっていう…」

「そ♪ちなみにXANXUSクンはヴァリアーのボスでもある─つまりスクアーロクン達は彼の部下なんだよ」

【攻撃!!そーだ!!強力な炎をそのまま前に持ってきて、敵のいる方に発射すればすごい技に…!!】

『ん?でも、それって前にやったような…はっ』

【ヒバリさんと初めてVer.V.R.で戦った時に、後ろに吹っ飛んだんだったー!!】

『ダメだぁ~!パワーありすぎなんだよな~』

 

 ツナがそんなことをぼやきながら歩いていると、前方に見覚えのあるモジャモジャ髪を見つける。

 

『!(ランボ…)』

 

 ランボもツナの気配に気づき、先程怒鳴られたことで恐怖を覚えたランボは段ボールの影に隠れようとする。

 その姿を見たツナは、何とか仲直りしようと思い─ランボに気づかれないよう静かに近づくと、ポケットに手を入れ、紙に包まれた飴玉を取りだしてランボのすぐ近くにそっとおいた。

 

「イヤイヤイヤ、ガキだからってそんな簡単な罠に引っ掛かるわけが─「あ、ランボくん出てきたよ」あった!?」

 

 呆れていたクリスが振りむくと、ランボはよだれを滴し、目を血走らせながら飴玉にゆっくり近づいていた。そしてランボがある程度飴玉に近寄ると─

 

『わっ!』『ぐぴゃっ!!!』

 

 ツナが声を上げてランボを驚かせた。

 

『ぴゃ~!!』

『ハハハ!逃がさないぞこいつぅ!』

『はなせっ!!』

 

 ツナは驚いて逃げ出そうとするランボを捕まえると、胸元に抱き寄せ、逃げようとするランボの体をくすぐり始める。

 

『こちょこちょこちょこちょ~』

『─~ぷ!ギャハハハハ!!』

 

 最初は必死に我慢していたランボだが、ついに限界が来たのか涙が出るほど笑いだす。

 

『どーだランボ!』

『くすぐったい~!ツナやめろ~♪』

『わ!ランボ、ツバたらすなよ~』

()む~!!』

「ツナとランボくん、まるで仲良し兄弟みたいだね!」

 

 二人のやり取りを微笑ましく見ていた翼達が思っていたことを、響が口にする。

 その後、仲直りしたランボに、過去に戻ったら遊園地に連れていくことを約束すると、もう一人の謝らなければならない人を探し始めた。

 

『食料庫って、確かこの辺だよな…』

 

 ランボや京子からハルの居場所を聞いて食料庫に来たツナ。回りを見渡しながら少し歩くと、階段の下でうずくまるハルの姿を見つける。

 

【いたいた!ハル!】

『…!?』

 

 手すりから見下ろしたツナの目に写ったのは─

 

『う…ぐすっ!ひく…』

 

─涙を必死に堪えようとするハルの姿だった。

 

【まっまだ泣いてるー!!ど…どーしよ~】

 

 ツナが慌てふためいていると、彼のダメダメな気配を感じ取ったハルとツナの視線が重なる。

 

『ほっといてください…日課ですから』

『!』

【日課って…】

「ハルちゃん…」

 

 ハルの言葉がツナは心に突き刺さる。だが、ツナは覚悟を決めると、彼女の近くに向かい始める。

 

『聞いてくれよハル…今日のは全部オレが悪かったんだ』

 

 ツナは謝りながら階段を下りていく─のだが。

 

『げっ─うわああっ』

 

 数段下りたところで、ツナは足を滑らせ勢い良く下まで転がり落ちてしまった。

 

『ツナさん大丈夫ですか!?』

『いつつつ…そ…それより…─本当にごめんな、ハル』

 

 心配してくれるハルに対し、ツナは心のそこからの謝罪をのべる。そんな彼の顔を見たハルは、頬を赤らめる。

 

『だっ─だったら○XX~!!☆◆@○♠️~!!』

『は!?』

『だったら過去に戻れたら一緒に遊園地行って下さい!!』

『んなー!?なんでそーなるんだよ!!』

『ツナさんムカつくんですもん!!惚れた弱みにつけこんで!!』

『はぁ!?またわけわかんないよ!!…つーかランボとも過去戻ったら遊園地行く約束したとこだぞ?』

『はひ?ツナさん、ランボちゃんと仲直りしたんですか?』

『そ…そりゃあ、怒鳴ったりしてオレも悪かったし…』

『─やっぱりツナさんは、ハルの知ってるツナさんです♥️』

『?』

「こいつ、ツナにベタ惚れしてやがんな…」

『ハルはもう元気です!!困ったときにはいくらでもよりかかってください!!』

『え?』

『京子ちゃんとよく話すんです─ツナさん達が気兼ねなく大暴れできるようにしっかり支えるのが私達の役目だって』

『ふ…ふぅん…』

【よくわかんないけど元気になってるみたいだ】

 

 声をだして気合いをいれだすハルを見て、安心するツナ。

 

【でも確かにハルの言う通りかもしれないな…オレ達だけで戦ってるわけじゃないんだ】

 

 ツナの怪我に気づいたハルが、キズバンを貼ろうとしている中、ツナは考え込む。

 

【みんなの支えがあって、初めて思いっきり力を出せるんだ…】

『!!!』

 

 そこまで考えて、ツナはあることに気づく。

 

【あ…力を出せるのは支えがあるから…支え…そうか!!】

『ハル、サンキュ!!『はひ?』京子ちゃんにもありがとうって言っといて!!絶対だぞ!!』

 

 そういって食料庫をあとにしたツナは、トレーニングルームに向かいハイパーモードになる。

 

【強力な炎を前方に撃ち出すには─それを受け止める支えが必要だったんだ】

 

 ツナは右手を顔の前に持ってくると、左手を後ろに向け炎を放射し始める。

 

「この構え─やっぱりツナの武器って!」

「「「X-BURNER(イクスバーナー)!!」」」

 

【柔の炎で支え─】

 

 左のグローブから放出していた炎が膨れ上がり─

 

【剛の炎を─】

 

 右のグローブが輝き出し─

 

【放つ!!!!】

 

 右手をつきだすと、右のグローブにためられていた剛の炎が放たれた─そして─

 

ドオン!!

 

「「「「「─え?」」」」」

 

 響達が気がつくと、先程までの位置にツナはおらず、全員で仲良く音がした方向を見ると─

 

 ツナが壁にめり込んでいた

 

「─何が起こったぁ!?」

『ちース!』

 

 クリスが全員の心情を叫び、ツナが床に落下すると、先程の衝撃音を聞き付けた山本がリボーンを連れてやってきた。

 

『いっつ~』

『あ』『お』

『お~いててて…柔と剛の炎の出し方のバランスがこんなに難しいなんて…』

『ツナ!!大丈夫かよ!?』

 

 起き上がったツナに山本が駆け寄る。

 

『山本!リボーン!─ハハッ…新技を試してみたんだけど…』

『新技!?ど…どーやったらこーなるんだ?』

 

 山本は壁にできた凹みを見ておののく。

 

『おいツナ─モノにできそーなのか?その技は』

『うーん…どーだろ…むにゃ』ドサッ

『おいツナ!』

『バテて寝ちまっただけだ』

「えーっと…さっきのって、剛の炎を出しすぎて吹き飛んじゃったのかな?」

「そう考えて間違いないだろうな─そういや、このときのオレは、いつも『ダメだ』が真っ先に出てくるツナが『どーだろう』って言ったことに驚いたが、ひょっとしたらひょっとするかもしれねーとも思ってたな」

 

 現在のリボーンがツナの寝顔を眺めながらそう話していると、突如景色が暗転する。

 

「…あれ?景色が、変わらない?」

「─!あそこに誰かいるぞ!」

 

 クリスが指差した方向を見ると、白いワンピースを着た少女の姿が見えた。

 響達が目を凝らして確認すると、その少女の正体は、今も集中治療室で眠っているはずのクロームだった。

 予想だにしない人物の登場に響達が驚いていると、クロームの手のひらから粉のようなものがこぼれだし、歯車の形に変わっていく。そして歯車は徐々に合わさっていき、一つの装置が完成した。

 そして装置の蓋が開き、まばゆい光が響達の視界を埋め尽くす。

 

『何…これ…』

「!彼女には、光の中に何があるのか、見えているのか…?」

『何で、ここに…いるの…?』

『近づくな!!』

 

 クロームが光に手を伸ばした直後、何者かが彼女の手をはじく。

 

「誰だ…?」

 

 光に目がなれてきた響達が見たのは─メガネをかけ、首にヘッドフォンをかけた少年。

 

『誰…?』

 

 クロームが問いかけると、少年は無言で腕を動かし─

 

「あ!あの子、リングをつけてる!!」

「しかもあれ、白蘭(こいつ)がつけてるのと同じ形─まさか!?」

 

 クリスが何かに気づくと同時に、少年の姿が真っ白の服を着た青年に変化し─そこで再び暗転し、トレーニングルームに変わる。

 

「ねぇ、さっきの人って…」

『今の…入江正一…?』

 

 響の問いかけに対し、先程まで寝ていたツナがそう呟く。

 

『…変な夢…ん?』

 

 ツナは起き上がろうとして、布がかけられていたことに気がつき、そばにあった紙を拾い上げる。

 

『リボーンからだ─「休憩がてら獄寺の修業を見に行く。お前もボスなら部下の状況を把握しろ」─あ!そーいえば獄寺君!ビアンキの修業さぼってんだった!!リング争奪戦の時も平気そうな顔して無茶してたし!!きっとまた修業うまくいってないんだ!!』

 

 獄寺のこれまでを思いだすと、ツナはトレーニングルームを飛び出した。

 

【大丈夫かな獄寺君…こういうことになると頑張り過ぎちゃうんだよな…】

 

 ツナは寝室や洗濯室など、思いつく限りの場所を探すがなかなか見つからない。そこでツナは、自分がまだ行ったことのなかった階に向かうと、ついに山本とリボーンを見つける。

 

【何のぞいてるんだろ?あの部屋の中に獄寺君いんのかな?】

 

 不思議に思いつつツナが山本達に近づこうとする。するとツナに気づいた山本がジェスチャーでこっちに来ないよう伝えようとするが、ツナはジェスチャーの意味に気がつかない。

 すると突如、ツナの周囲が揺らぎ始める。

 

『え!?』

「何が起きている!?」

『逃げろツナ!!』

 

 状況を理解できず固まるツナ。そこへ急いで駆け寄った山本が飛び付き、リボーンがツナの顔を蹴って後ろに下がらせた直後、ツナが先程まで立っていた場所を、深紅の炎が壁を破壊して通りすぎていった。

 目の前で起こった出来事に響達が驚いていると、壁の奥─煙の中に人影が現れる。

 

『よし!SISTEMA(スイステーマ) C.A.I.の完成は見えたぜ…あとは10代目に…こいつをどう説明すっかだな』

 

 そう呟きながら煙の中から現れた獄寺の頭には、威嚇の声をあげる豹柄の猫が引っ付いていた…

 

 その後、獄寺はツナ達に説明するため、食堂に来ていた。

 なお、当の説明対象はキッチンにいた京子達からもらった魚を机の上でバリバリむさぼっている。

 

『わー、猫ちゃん!』

『キュートですねー♪』

「かわいいね~♪」

「元気な子だね~♪」

 

 その姿を眺めていた京子とハル、及びシンフォギア組の何名かが猫の魅力に飲み込まれてしまう。

 

『すいません10代目!!修業で資料室の壁をぶっ壊してしまって…』

 

 そして獄寺は、部屋をメチャクチャにしたことを謝罪し何度も頭を下げる。

 

『何で資料室で修業してたの?それにこの猫…本当に嵐の匣兵器なの?』

『オレの場合、修業は紙とエンピツから入るんです…こいつは誤って出しちまって…匣にしまおうとしたんすけど、ひっかいて反抗してくるんスよ』

『そういう場合はリングの炎を与えなければいいんだよ。匣兵器は炎が切れれば活動停止するはずだから』

『んなことわーってるけどよ…炎が切れかかってきた時のこいつの辛そーな顔見るとつい…』

【それって情が移ってんじゃん!!】

「しょうがないよ~。こんなかわいい子に辛そうな顔されたら、私でも炎あげ続けちゃうよ~」

 

 響は獄寺の発言に賛同しつつ、京子達に撫でられて喉をならす獄寺の匣兵器を眺める。

 

『この子、手足が大きいからきっと大きくなるよ』

『いっぱい食べていいですからね』

『匣兵器が人間の食料食べるなんて聞いたことないけど…』

『マジかよっ!?何でもかじるから空腹だとばかり…やっぱ匣にしまっちまうか…兵器としてもイマイチだしな…』

 

 そういって匣を取り出した獄寺が、収納するため匣兵器に手を伸ばすと、匣兵器が獄寺の顔に飛び付き容赦なく引っ掻いた。

 

『だあぁ!!』

「うわっ!イタそー…」

【全然なついてないし…】

『おめでたいわねハヤト。修業をさぼってペットの世話とは』

 

 獄寺が痛みでしゃがみこんでいると、彼の修業担当であるビアンキが現れる。

 

『余計なお世話だぜ!SISTEMA C.A.I.はもう理解した─何なら試してみるか?』

「スイステーマって、さっき壁を吹き飛ばしたあれのこと?」

 

 立ち直った獄寺は自信に満ちた目でビアンキを睨み付ける。するとそこで了平が割って入ってきた。

 

『おお、ここにおったか!!じ…次期相撲大会について話し合うぞ!!作戦室(ブリーフィングルーム)に来てくれ!!』

『またお相撲?』

【む…無理があるんじゃ…】

 

 そんなツナの心配は、京子が信じたことですぐに杞憂と化した。そして副作戦室に集まった彼らに伝えられたのは─

 

『ミルフィオーレのアジトの図面ですか!?』

『ああ、敵の情報ファイルのいくつかがヒバリのアジトのサーバーに流れ込んでいたのだ。敵のアジトの図面と内部の施設についてのものらしい。見てくれ』

 

 全員の画面にミルフィオーレのアジト内部と思われる地図が写し出される。

 

「─なんか、パズルみたいな形してるね」

「!─なんでそう思った?」

「え?だって、所々隙間っぽい場所があるし、何ヵ所か通路が途切れちゃってるし、部屋も全部正方形だからこう、簡単に動かせたりしちゃって~なんて─何かいけなかった?」

「んにゃ、別に悪くはねぇが…」

『この図面が本物ならたいしたもんだな。だが一体、誰がこんなことしたんだ?』

『もしかしてだけど…骸ってことは考えられませんか?』

『確かに、こういうやり方は直接マフィアに手を貸さぬあの男らしいとも思える…だが、ファイルの送信は2時頃、途絶えたそうだ…』

『そんな…』

「まだ六道骸()の消息は不明というわけか…」

『ファイルには他にも用途不明ながら、今作戦のターゲットになりうる特殊な敵施設のデータがあった』

 

 了平がそう言ってツナ達の画面に写した写真は─

 

『ん…?─あっ』

「この装置って、さっきクロームちゃんが見てた奴じゃない!?」

【これって夢で見た…!!】

「てことは、さっきの風景はツナの夢の内容だったって訳か…!?」

 

 ツナはその場にいる全員に、画面に写し出された装置を見たことがあり、それが夢の中でのことであることを伝えた。

 

『ふざけているのか沢田!!』

『ひぃっ!すいません!そんなつもりは!!』

『─で、他には何を見たんだ?』

『リボーン!』

『どうなんだ?ツナ』

『え…んと…かすかにしか覚えてないんだけど…入江正一以外の誰かもいてこれを見てたんだ…中にすごく大事なものが入ってるみたいで…』

『大事な、ものか…案外この白くて丸い装置が、入江正一とすべての謎を解く鍵を握っているのかもな』

『正気かリボーン!!たかが夢だぞ!!』

『いいじゃねーか、重要な装置である可能性は高いんだ。ターゲットにしたって損はないはずだぞ』

『ふむ、それはそーだな』

『それに神経がとぎすまされてると、こういう不思議なことはあるもんだ。オレもこのおしゃぶりをゲットする時に似たようなことがあったからな』

『え!?』

『よし、山本。オレ達は修行を再開すんぞ。今んとこお前が一番遅れてるみてーだからな』

『ん?ああ!オッケ!』

 

 部屋を出ていこうとするリボーンのあとを山本が追っていこうとしたところで、またも景色が変わり、ツナの寝室に切り替わった。

 

「え!ちょっと!?山本さんの修行はどうなったの!?」

『あっれ~!?』

「それで、沢田は一体何を探しているのだ?」

『やっぱりだっ!ど~しよ~!』

 

 なにかを探すツナが部屋を出ると、作業服を着たジャンニーニと鉢合わせした。

 

『どうかなされたんですか?10代目』

『ジャンニーニさん、その格好…』

『明日に備え徹夜で発明ですよ』

『10代目!!』

『よっ!おっさんも』

 

 ツナがジャンニーニと話していると、獄寺と山本、リボーンの三人がこちらへ歩いてきた。

 

『みんな!今日、修行はもうアガリ?』

『ええ!バッチリっスよ!』

『オレも今日は休むだけだぜ!』

『いよいよ─明日は殴り込みだな』

「はぁ!?さっきので一気に5日も飛びやがったのか!?」

「ちょっ、山本さんの修行はどうなったの!?」

「おい、ちゃんと聞いてたか?アイツは今『今日は休むだけ』って言ったろ?」

「ということは─「そういうことだ…まぁ、俺が鍛えられる範囲で、だがな」?」

『そ…そうだね…』

『?どーかしたんスか?10代目』

『ラル・ミルチが修行は上々だって言ってたぞ』

『い…いや、な…何でもない!ちょっと用事があって…!後で!』

 

 ツナはリボーン達にそれだけ言って彼らが来た方向とは逆向きに走りさっていく。

 

【そーだよ…明日は、いよいよ作戦決行の日なのに…もう時間がないのに…なんで大空戦の時、京子ちゃんにもらったお守り、失くしてんだよ~!!】

「お守り…って、あのいつも学校に持ってきてた、魚の絵と『安全必勝』って文字が書いてあるアレ?」

「お、多分それだな─あいつ、こっちの世界でも大事にしてるようだな」

「はい。朝のランニングの時も必ず持っていきますよ」

【こっち来てからずっと持ち歩いてたのに、なんで一番大事な時に~!!】

『トイレで落としたのかな…!?あ~ど~しよ~!!』

 

 そう言ってトイレを探しにいったが見つからず、トレーニングルームに向かおうとした直後、洗濯物を運んでいた京子とぶつかってしまった。それにより辺りに洗いたての服が散らばる。

 

『ゴメン!!だ…大丈夫?』

『うん。ツナ君は?』

『オレは平気!─あっ、オレ拾うから!』

『一緒にやろ』

【お守り失くしてるから余計にバツが悪いよ~っ】

 

 ツナは気まずさから、あわながら服を集めていく。

 

『─ツナ君…ありがとう』

『いや、完全にオレの不注意だから』

『え…あ…そーじゃなくて─私が初めてこの時代に来た時、工場跡でツナ君に助けてもらったのに、ずっとお礼、言いそびれちゃってたでしょ?』

『えっ?』

【初めてブラックスペルと戦った時のこと…?】

『あの時すぐ言おうとしたんだけど…ツナ君、気を失っちゃって』

『いっ、いいのにそんなの!!』

『それに…実はあの時のこと、うまく思い出せなかったの…思い出そうとするとどうしても頭が真っ白になっちゃって…』

「えっ!?それって…」

「一時的な記憶喪失か…」

『でもビアンキさんに手伝ってもらって、今日やっと全部思い出したんだ』

『…京子ちゃん…』

『やっぱりあれはツナ君だった!!』

『え…?』

『私、何度もツナ君って叫んでたね!』

『…うん!』

 

 京子の話を聞いて、毒気を抜かれたツナは彼女のように笑顔を浮かべる。

 

『私、変なんだよ。思い出したくなかったから真っ白だったと思うけど、今日は何度も何度も自分から思い出してるの』

『え!?あの戦いを?こ…怖くならない?』

『うん!』

 

 ツナの問いかけに対し、京子は満面の笑顔で答える。

 

【か…かわいい…やっぱり京子ちゃんは太陽だ】

「そっか…ツナにとって京子ちゃんは、私にとっての未来みたいな存在なんだ…」

「…ん?今、彼女が持っているものは…」

『あ!!あったー!!お守りー!!』

『あっ、これ?シャワー室の更衣室に落ちてたから届けようと』

『着替える時、ズボンのポケットから落ちたんだ!!』

「アハハ…やっぱりドジだなぁ、ツナってば」

『ゴッ、ゴメン!!普段は大事にしてるんだよ!!ちゃんとポケットに入れてるんだけど!!』

『ん、知ってるよ。リボーン君が教えてくれたから。そこでみんなで相談して、ジャケットにこれをつけてみました!』

 

 そう言って京子が洗濯物の山から取り出したツナのジャケットの内側には、お守りが丁度入る大きさのポケットが縫い付けられていた。以前からお守りをいれる場所に困っていたツナは大喜びでジャケットを受けとる。

 

『ありがとう!!明日はこれ着て…と……あ…』

『明日は過去に帰るための大事な日なんでしょ?みんな知ってるよ?』

『そ…そっか…』

 

 ツナは少し俯くと、なにやら考え込む。

 

『京子ちゃん…オレ、必ずみんなを過去に…─』

 

『無茶しないで…』

 

『「え!?」』

 

 ツナが顔を上げると、京子が心配そうな表情で見つめていた。

 

『そーだよね、無茶しちゃ意味ないよね!ハハハ!(かっこつけそびれたー!!)』

『10代目~!!夕飯っスよ~!!』

 

 好きな人の前で格好つけそびれたツナのもとに、夕飯を知らせに獄寺達がやってくる。

 その後、みんなで食堂にてパーティーを行い、ビアンキのポイズンクッキングを食わされかけたり、獄寺と山本がジュースと間違えてお酒を飲んだりと、ハプニングに見舞われながらも楽しい時間は過ぎていき、明日の作戦のために眠りにつくツナ達。

 

「ついにミルフィオーレに特攻か…!」

「見ているこちらも緊張してしまうな…」

「─ねぇみんな、なにか音がしない?ガリガリッて感じの…」

『何の音だ…?』

 

 謎の物音に気づいたツナが部屋を出ると、山本とリボーンもその音に気づき廊下に出ていた。

 

『ツナも聞こえたか?』『うん』

『どーやらあれみたいだな』

 

 リボーンに指摘された方向を見ると─

 

『酔っぱらって僕の所まで来たよ』

『ヒバリさんと獄寺君の猫ー!?』

 

 着物を着た雲雀が、獄寺の匣兵器の猫をつまんで歩いてきていた。猫は雲雀から逃げ出そうと必死に壁をひっかいている。どうやらツナ達が聞いた物音はそれだったようだ。

 そこへ物音を聞き付けた獄寺が遅れてやってくる。

 

『ああっ!!てっきり匣に戻ってっかと…何してやがったんだ、瓜!!』

【変な名前つけてるー!!】

「瓜ちゃん、って名前なんだ!可愛い名前だねー」

『シャアア!』

『ンゲェ!!やめろ瓜!』

【いまだなついてないし…】

『君達…』

 

 獄寺が瓜にひっかかれ、その光景にクリスが笑っていると、雲雀の声が聞こえ全員が雲雀を見る。

 

『風紀を乱すとどうなるか知ってる?』

 

 そう言って雲雀はどこからかトンファーを取り出し構える。

 

『おっ、おい!!』『てめっ』『ごめんなさい!!』

『…眠い…今度ね』

『ま…待てヒバリ!!』

 

 あくびをひとつして、自分の部屋に戻ろうとする雲雀を獄寺が呼び止める。

 

『あ…あんがとな…いずれ、この借りは返す…ぜ』

『期待せずに待つよ。獄寺隼人』

『なっ!期待せずだと!?『あ、ヒバリさん!』』

『明日…一緒にがんばりましょうね』

 

 ツナのその言葉を聞いた雲雀は一言…

 

『いやだ』

 

 そう告げた。そして、その言葉に驚愕するツナ達を無視して言葉を続ける。

 

『僕は死んでも君達と群れたり、一緒に戦ったりするつもりはない─強いからね』

 

 雲雀はそれだけ言うと、今度こそ自分の部屋に戻っていった。

 

「なんだろう…『強いから』の一言だけなのに、あの人のことを全然知らない私でも、不思議と納得できちゃう…」

「謎に説得力があるな…」

『お騒がせして申し訳ありません!!』

『い…いいって獄寺君』

『ハハハ!やっぱりヒバリは何年経ってもヒバリだな!』

『オレ達も寝るとするぞ』

 

 その後、それぞれの部屋に戻って再び眠りについたツナ達。そのまま時は過ぎていき─突如、部屋中にサイレンが響き渡り、その音で目を覚ましたツナ達へ出撃命令が下される。

 

『何なんだ?』

 

 急いで着替えたツナは、他の出撃メンバーと合流し副作戦室に向け走り出す。

 

『出撃って…?予定より早くない!?』

〔敵の急襲です!!2km離れた倉庫予定地に大部隊が集合している模様〕

〔ヒバリが、すでに向かってるぞ〕

『ヒバリさんが!?』

「お!通信内容も聞き取れるのか。本当にこの空間は何でもありだな」

「感心してる場合じゃないよ!雲雀さんが一人で大人数と戦ってるんだよ!?」

『敵は大勢いるんでしょ?一人じゃ無理だ!!オレ達も行かなきゃ!!』

『ならん!!それではヒバリが体をはる意味がなくなる!!』

『「え!?」』

〔集中した敵の兵力をヒバリが一手に引き受けることで地上と敵アジトの戦力は手薄になるんだ。ヒバリの行動に報いたければ殴り込みを成功させろ〕

「まさか彼は、最初から囮になるつもりだったのか!?」

【そ…そんな…】

〔地上監視ポイントより信号確認!!コースクリア─10代目!!今ならそのままFハッチよりルート312で敵アジトへつっ切れます!!〕

『ぐっ…』

〔お前はヒバリの強さを知ってるだろ?ツナ〕

『…わかった』

【ヒバリさん、頼みます!!】

『開けてくれジャンニーニ!!』

〔了解!!Fハッチ開口!!〕

 

行くぜ!!!

 

 ツナ達は雲雀に後を託すと、地上に出るためFハッチに向かった…




ついにミルフィオーレ日本支部へ突撃!─というところで、今回は終わりです。
最近コロナがひどいですね…自分は今のところ無事ですが、いつどこで感染するか分からないのは本当に恐ろしい…


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ツナの過去(10年後編):⑥

お待たせしました。
今回も意外と早く出来上がりました。
作者は最近シャーマンキングを読み始めたのですが…O.S.もかっこいいとは思いますが、初期は完全なかませ犬だったのに、シャーマンの才能に目覚めてから一気に男らしくなった木刀の竜がメラカッコよすぎて驚いてます。


「出撃したはいいが…どこから敵拠点に侵入する算段なんだ?」

 

 作戦が始まり、無人の商店街を走るツナ達を見ながら、翼がリボーンにそう訪ねる。

 

「敵のアジトである地下ショッピングモールの地下駐車場の発電室にあるダクトからだ。実はショッピングモールのダクトの中にはいくつか不自然な場所にあるものがあってな、それらの位置と雲雀の所に流れ込んだミルフィオーレアジトのダクトの位置が一致して、そこからミルフィオーレアジトとショッピングモールの図面を重ね合わせて敵アジトの正確な位置をつかんだ結果、そこがベストになったわけだ」

「なるほどな…」

『こっちよ』

 

 ツナ達が地下駐車場に着くと、見送りに来たビアンキがダクトの前で待っていた。

 

『京子やハルやチビ達のことはまかせなさい。安心して暴れてくるのよ』

 

 ビアンキからの励ましを受け、ダクトの中に入っていくツナ。そのあとをついていく獄寺は、ビアンキとすれ違う際に話しかける。

 

『しっかり頼むぜ『!!』いつまでも過去に縛られてたまっかよ─敵の主要施設を破壊し入江正一を倒した後で話がある…』

『ハヤト!』

『待ってください!』

 

 獄寺は言いたいことだけ言うと、山本に続いてダクトに入っていく。そんな彼の背中を、ビアンキは優しい眼差しでみていた…

 

『まさかこんな映画みてーなことするとはな』

 

 匍匐前進をしながらそんなことを呟く山本。ダクトの中に入った彼らは、そのまま何事もなく進み続け、地下3階にある敵の格納庫の上まで来ていた。

 

『ラル・ミルチ、体調はどう?』

 

 そんな中、ツナが前にいるラルに心配そうに話しかけると、突如ラルが止まり彼女の靴に顔をぶつけてしまう。

 

『でっ』

『赤外線センサーが張られている』

『!』

 

 ラルの前方をよく見ると、赤外線が5mほど張り巡らされており、その奥にはレーザー砲と思われる装置が待ち構えていた。

 

『訓練通りに"くぐり抜け"を実行する。ジャンニーニ特製の擬光フィルターで5秒間、赤外線を止める。その間に通り抜けるぞ』

『わ…わかった…』

『OKだ』

 

 全員の賛同を確認したラルが手に持った装置を赤外線が張り巡らされている通路の真ん中に投げると、装置が作動し赤外線が消え去る。

 それを確認した5人は急いで前進する。そして5秒が経過し、赤外線センサーが再起動する。

 

『どうだ!?』

 

 ツナが最後尾にいた了平を確認すると、赤外線は彼の靴のギリギリ手前で止まっていた。

 ホッとするツナ達。─だが、安心したのも束の間、赤外線には触れていないのに、奥にあったレーザー砲が突如起動したのだ。

 

「なんで!?誰もセンサーに触れてないのに!」

『回避だ!!』

 

 ラルが叫んだ直後、四本のレーザーが放たれる。

 迫り来るレーザーだったが、山本が自分達がいる通路を切断して倉庫内に落ちることで何とか回避する。

 

『っぶねー』

『ギリだぜ』

『なぜだ?赤外線には触れなかったはず…』

『ハハァ~!オレがスイッチを押したからだ~』

 

 声のした方を向くと、そこには自分達の二倍近い大きさをした大男が立っていた。

 

「でかっ!」

『うわあぁ!!』

『んん~?ガキ…?確かボンゴレ10代目達もガキだと言ってたな~?でも奴らは今、攻められてボコボコにされてるんだもん、違うよな~』

「どうやら敵本部にはまだ急襲が失敗したことは気づかれていないようだな…」

『ってことは一般人がまぎれこんだんだな~!ま~いいや、おまえ達のおかげで格納庫(ここ)に届いた武器の試し撃ちができるな~』

『「え?」』

 

 大男の発言にツナと響達が理解できずに声を漏らす。

 

『兵器の威力を見るのは生身の標的が一番だからな~』

 

 大男は左右にそれぞれ3つの発射口がついた大型のアーマーを背負うと、取り付けられた供給口に雷の炎を流し込む。

 

『バァ~ハハ~イ!!!』

 

 そして大男は迷うことなく、ツナ達に向けて雷のレーザーを放った。

 レーザーはまっすぐツナ達の元へ飛んでいき、大爆発が起こる。

 

「みんな!」

『ハハァ~!なかなかの威力だな、これは!使えそうだ~!これじゃ骨も残らんな~』

「こいつ、人を殺すことを楽しんでやがるのか…!?」

「虫酸が走る…!」

『今の誰だ?』

 

 武器の威力に満足げにする大男にクリス達が不快感を抱いていると、煙の中から声が聞こえた。

 その事に驚く大男。煙が収まると、無傷のツナ達が立っていた。

 

「よかった!無事なんだ!」

「だがいったい、誰があの攻撃を防いだのだ?」

「恐らく獄寺がSISTEMA(スイステーマ)-C.A.I.で防いだな」

『道を開けろムダマッチョ!遊んでるヒマはねぇ』

『ム…ムダ!!?』

 

 そう言って大男に睨みをきかせる獄寺。すると大男は獄寺の言葉が癇に触ったのか、怒り始める。

 

『許さんっ!殺してやる!!!デンドロ様のこの電槍(ランチャ・エレットリカ)でなぁ~!!!』

 

 そう言って大男─デンドロは(ボックス)から雷の炎を纏った巨大な槍を取り出した。

 

『こいつは…「一番槍(アラッタッコ)」の異名を持つ切り込み重装兵のデンドロ・キラムだ!後方に配置すると背後から味方ごと串刺しにするキレた男だと聞く』

『ああ…槍を持った奴の突破力はミルフィオーレ随一…雷の匣の特徴である"硬化"によりコーティングされた電槍に貫けぬものはないとも聞く』

「へぇ、こんな子ミルフィオーレにいたんだ!全く知らなかったよ♪」

「えぇ…?」

 

 元とはいえど自分が率いていた組織にいた、これ程キャラの濃い人物を知らなかった白蘭に、クリスが彼女らしくない口調で呆れはてる。

 

『やっかいだな…いったん間合いを取るぞ』

『ハァ~?間合い!?そんなものやるもんか!!』

 

 間合いを取ろうとするツナ達にデンドロが槍を構え突進してくる。

 

『ぶっ散れ!!!』

 

電撃突き(コルポ・エレットロ・ショック)!!!

 

 デンドロはツナへと突っ込み、槍から放たれた雷の炎がツナを包み込む。

 

『ハハァ~!飛び散った!!』

 

 雷にのまれたツナをみたデンドロは勝利の笑みを浮かべ槍を引こうとする。しかし槍は全く動かない。その事に違和感を覚えるデンドロだったが、その答えはすぐにわかることになる。

 

『聞こえなかったのか?遊んでいるヒマはない』

 

 煙が晴れると、ハイパーモードになったツナがデンドロの槍を掴んでいたのだ。しかも槍の先端に関しては、しわしわになったアルミホイルのような形になり、五つにわかれていた。

 その光景に驚いたデンドロは、引いて駄目なら押してみろとばかりに力一杯槍を押し込む。しかしいくら押しても足がずれ下がるのは自分の方で、ツナに関しては全く動かず、槍に関しても徐々に先が溶けていくのみ。

 

「銃弾防いでた時点で薄々気づいてはいたが、あれって鉄すらも溶かすのかよ…」

「しかし、沢田はどうやって槍を止めているんだ?」

『なんでだ!!なんでビクともしない~!!』

『後ろ側にある手の炎だな…』

『ああ、あの炎は絶妙だ!さすが10代目!!』

 

 デンドロと同じくなぜビクともしないのかわからなかった響達は、山本達の言葉をきいて目を細めると、おろしている右手のグローブから、うっすらと炎が吹き出していることに気づいた。

 

『ありえないんだな!!デンドロ様がこんなガキにィ~!!!』

『まだ一般人(カタギ)だと思ってやがる』

『めでたいな…』

『沢田、手を貸そうか?』

『下がってろ』

『…だろうな。どう見ても必要ない』

『チッ、チクショ~!!!おまえ達ナメやがって~!!!』

 

 デンドロは電槍を放り捨てると、後ろへ飛び一度距離を取る。

 

『こうなればオレの本気の力を見せてやるぞ!!!』

『そうしてくれ』

『何をしている沢田!!敵にスキを与えるなと教えたはずだ!!奴はまだ匣を持っている可能性があるんだぞ!!』

『わかってる』

「わかっているならなぜ…!?」

『ヒハハッ!ベソをかいてももう遅いな!!』

 

 そう言ってデンドロは懐から取り出した匣を開匣し、雷を纏った巨大な猪を呼び出した。

 

『ハハァ~!これがデンドロ様の相棒"電猪(エレットロ・チンギャーレ)"だ!こいつの2本の角こそがデンドロ様のもうひとつの"2本槍(ドッピオ・コルノ・ランチャ)"なんだな!!!』

 

 デンドロは自慢げに話を続ける。

 

『聞いて驚くな~!!こいつの突破力はオレの5倍だ!!止めた者は誰もいないぞ!!!』

『だろうな』

『!』

『待っていたぜ…本当の「一番槍」』

「なに!?」

『ミルフィオーレの誇る「一番槍」とは、デンドロ自身でなく匣兵器の力ということか』

「沢田はその事を見抜いていたのか!」

「さっすが綱吉クン♪」

『あの嫌なガキを殺せ!!!ゆけ!!猪突猛進(チンギャーレ・スコントロ・フロンターレ)だ!!!』

 

 デンドロの指示を受けた電猪は、雷を纏って言葉通りツナに向かってものすごい速さで突進してくるが、ツナは迫ってくる猪をただ見つめている。

 

『よけんのか沢田!!』

『これくらいの攻撃、止められなければ、入江の所まで辿り着けそうにないからな』

 

 そう言ってツナは両手を前に出して受け止める構えをとる。そして電猪の角を掴むが、電猪は勢いを殺さず、ツナごと箱の山に突っ込んでいった。

 

「ツナ!」

『ハハハァ~!!!見たか!!一瞬だ!!』

 

 それを見たデンドロが勝ち誇るが次の瞬間、箱の山が吹き飛び、背後に向けた右手から炎を噴射し、左手で角を掴んで電猪の動きを止めているツナの姿が露になった。

 

『「止めてる!!!」』

『当然だ。剛の炎の衝撃はこんなものではないからな』

『分かってないな~!!両手を使えないんだぞ!!とどめの一突きだな!!!』

 

 そう言ってデンドロが新たに出した槍で電猪の背後からツナを突き刺そうとする。するとツナは、電猪の腹を膝蹴りで蹴飛ばしデンドロごと吹き飛ばす。吹き飛んだ衝撃による煙をよけるようにして天井に立ち、デンドロがまだ意識があることを確認すると、床に足をつける。

 

『終わらせるぞ』

 

 そして左足を前に出して踏みしめ、左手で右手の拳を握りしめる。

 

「あの構えは…!」

『やさしくしてやれば調子にのりやがって!!こうなれば!!』

 

 デンドロは雷の炎を纒い電猪に跨がると、電猪と手にもった槍をツナに向ける。

 

『3本同時の"3本槍(トリプル・コルノ・ランチャ)"だァ!!!死ねェェェ!!!!』

 

 そう叫ぶとツナめがけて一直線に突進してくる。だがツナは怯むことなく、左手を後ろへ向け膨大な柔の炎を放射し始める。

 その膨大な量の炎を見たデンドロは驚きを露にするが既に遅く、ツナは迫ってくるデンドロに右手を向け─

 

X(イクス)-BURNER(バーナー)!!!』

 

 ツナの放った剛の炎が、デンドロと電猪を飲み込んだ─

 

 ツナのX-BURNERによってデンドロを倒し、ラルが格納庫の監視カメラに幻術を施した後、ツナ達の潜入は基地の索敵能力を麻痺させるために警備システムサーバーを破壊しに地下8階まで降りてきていた。するとそこで、ツナの肘の怪我に気づいていた了平が治療を申し出てきた。

 

『おい、待て芝生頭!!極限バカのおまえに治せんのかよっ』

『心配はいらん!オレのこの匣で、傷口を焼いて血を止めるだけだ!!』

 

 そう言って了平が取り出したのは、黄色い炎を纏った小型のコテだった。

 了平は怯えるツナの傷口にコテを押し付ける。すると徐々に傷口が塞がりだした。

 

「確か黄色の炎って、『活性の晴』だったよね?」

「その通りだ。晴の炎は細胞組織の自然治癒力を活発にさせて、普段の何百倍もの早さで傷を修復するなんてこともできるぞ」

『よし!終わったぞ』

 

 響達がツナの腕を見ると、先程まであった怪我は完全に塞がっていた。

 

『見たか!!極限晴の力!!』

『へっ!軟弱な炎で調子に乗ってんじゃねえ!手入れの行き届いてない芝生がっ』

『なんだと!足の多いタコ(ヘッド)!!』

『まーまーっ!傷も治りゃあ、まさに無傷で勝利!絶好調じゃねーか!!ツナの新技もすさまじかったしなっ』

『あれは本当にすごかったっス!!』

『うむ!たいした極限技だったな』

『沢田はまだ半分程度の力でしかあの技を出していないがな』

『本当か!!』

『そうだろ沢田』

『え…ッ!いや…うーんと……2割ぐらい…かな』

「あの大きさでまだ2割だと!?」

『いったいどんだけすげー技なんスか!!』

『心強いぜツナ!!』

『でも、まだまだ不安定でフルパワーじゃ撃てないんだ…それに敵も全力じゃなかったし…』

『たしかにデンドロの炎は見た目は派手だったが、武器や匣の性能を充分に引きだしてるとは言えなかったな…大切なのは炎のでかさではなく純度だからな』

「言われてみれば…私達が知ってるX-BURNERはさっきよりもっと澄んでた気がする…」

 

 響達がツナの2割という言葉の意味を理解するなか、獄寺と山本は、以前戦い惨敗した相手であるγの炎を思い出し、顔を引き締めていた…

 

『基地内の敵の数が想定していたより大幅に少ないな…ヒバリが囮になっている効果は絶大なようだ』

 

 先程の場所から少し進み、巡回するミルフィオーレ兵を観察しながらそう呟くラル。

 

『そんな多くの敵が…』

「いくら守護者最強っつっても、一対多じゃやっぱ無理があんじゃねぇか?」

『心配はいらん!!いまだかつて奴が死んでいるところは見たことがないからな!』

『「どんな理屈だ!!」』

『おまえら、どこでも遊ぶんじゃない!!図面を確認しろ!!』

 

 ツナ達はラルにしかられ、言われた通り手元の機械で場所を確認すると、図面に写る黒い部屋らしき場所のちょうど横に来ていた。すると獄寺が壁になにかを見つける。

 

『通気孔にカビ…?』

『なんかヤバイ植物でも栽培してんのか?』

『もしくはゴミタメかだな』

『詮索は後回しだ!今は警備システムの破壊が優先だ』

 

 一行はミルフィオーレ兵を避けながら進み、警備システムの手前の部屋の前まで来た。

 

『この奥に警備システムがあるんスね』

『どうする?』

『オレが先行する。合図をしたら来い』

 

 そう言ってラルが部屋に入り、偵察に向かう。

 

『よし、いいぞ!特に問題は…待て!!』

「ウェ!?っととと…ど、どうしたの?」

『どうした!?何が起きている!?』

『そこか!』

 

 ラルが叫んだ直後、中から爆発音が聞こえツナ達が慌てて入ってくる。

 

『ラル!?』

『大丈夫か!?』

『…かすっただけだ』

『ランダムに増え続ける標的の規則性を見破り、間一髪カウンターをあわせるとは、さすがアルコバレーノのなりそこない』

「何奴!」

 

 響達が声の聞こえた方を向くと、明かりがつき、相手の姿がくっきり見えるようになる。その人物は黒い三角帽に黒マントと、メルヘンな格好をしており、最も異様なのは─

 

「嘘!?宙を浮いてる!?」

「本物の魔法使い!?」

『そのいでたちは魔導師の人形(マジシャンズドール)…ジンジャー・ブレッドか』

 

 響達が宙に浮かぶ少年を見て驚くなか、ラルは相手の格好から正体を見抜く。

 

『今はミルフィオーレ第8部隊副隊長さ!しかし驚いたな。まさか、こんな所まで敵の侵入を許すとはね』

 

 ジンジャーは床に足をつけながら話を続ける。

 

『僕には君達がここに来てるって、上に知らせる義務がある─まあ、先に殺してしまうのも悪くないけどね!君のコロネロみたいにさ♪』

「コロネロだと!?」

『貴様、師匠に何をした!!返答次第ではただではおかんぞ!!』

『フフッ♪何かかんちがいしているようだね?最強と謳われた7人の呪われた赤ん坊、アルコバレーノも非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)の放射される中じゃ死にかけた虫みたいなもんだろ?そんな退屈なもんをわざわざ自分の手で殺すかよ─僕はただ残酷で笑える殺し方を提案して、ながめてただけ』

「なんとも悪質な…!」

『貴様ぁ!!!』

『下がっていろ笹川…こいつはオレが倒す』

 

 怒りを露にする了平が動くよりも前に、ラルがジンジャーに向き合った。

 

『待てラル・ミルチ!!おまえの体では無理だ!!オレが行く!!』

『冷静さを失った奴は戦う前から負けていると、コロネロは教えなかったか?』

 

 怒り心頭だった了平だったが、ラルに言われたコロネロの教えを思いだし少しずつ落ち着いてくる。

 

『あの女、たいしたもんだぜ…』

『まったく動じていない…』

『それはどうかな?僕には怒りを抑えるのに精一杯って風にしか見えないけど』

「ラルさん…」

『でもイジメがいは出てきたな!通報する前に少し遊んでこうかな♪』

 

 ジンジャーはそう言うと少しずつ宙に浮き始める。

 

『ただし1対1(サシ)1勝負(ワンチャンス)だけね?君を片づけたら上に報告するよ。その頃には僕も飽きてるだろうしね』

 

 そしてジンジャーが指を鳴らすと、ツナ達の足元から小さな何かが飛び上がり、ラルとツナ達を遮るように糸を展開した。

 

「く、クモだぁ!?これも匣兵器なの!?」

「だが奴は匣を出すどころか、リングすらもつけていなかったぞ!?」

『どうだい?僕の魔術(ソーサリー)は』

『「ソーサリー?」』

『そのクモは君達がちょっかいを出そうとすると伝えてくれる僕のしもべでね?ヘタに動かない方が身のためだよ。君達全員殺さなくちゃならなくなる』

『たいした自信だな』

 

 ジンジャーが呑気に説明している間に、彼の背後に回ったラルは躊躇なくガントレットに仕込まれた引き金を引く。

 ジンジャーはすぐに回避するが、追尾性を持つ霧の炎は方向を変え避けたジンジャーに再び飛んでいく。

 

『甘い甘いバァ~♪』

 

 しかし、ジンジャーが背中に羽織るマントを翻すと、マントに当たった霧の炎は打ち消されてしまう。

 

『がっかりさせるなよ!それでも"選ばれし7人(イ・プレシェルティ・セッタ)"?』

 

 ジンジャーはそう呟きながら、どこからか箒を取り出したかと思うと、穂先から黒い剣のようなものを無数に放つ。

 ラルがそれをバク宙して回避すると、床に着弾した剣が爆発を起こした。ラルはそのままバク宙を続け、壁際まで来たところでジンジャーの集中砲火が来るが、匣から出した雲ムカデを全身に巻き付かせることで防御する。

 そしてジンジャーの攻撃の手が止まると、雲ムカデがジンジャーに向かい飛んでいく。

 ジンジャーはその攻撃を余裕でかわし調子に乗るが、油断していたところを背後から迫ってきた雲ムカデがついて両足を拘束し、それに驚いた隙に前から迫っていた雲ムカデが両腕に絡み付く。

 

「凄い!完全に先読みしてるよ!」

「あの女、動きを予知できんのか!?」

「いいや、あれは経験だ…恐らく、幾千もの実戦を生き抜いてきたからこその彼女の強さなのだろう」

【このしなやかさが、ラルなんだ】

『コロネロを殺った実行犯を吐け』

 

 ラルがジンジャーに問い詰める。

 

『なんだ、やっぱり気になるんだ─フフ♪だーれが言うかよ』

 

 拘束されてなお、余裕を崩さないジンジャー。すると彼に巻き付いた雲ムカデが四肢を締め上げ始める。

 

『そのムカデは万力のように手足をしめあげるぞ…またその手で飯を食いたいのなら吐け』

『やめろぉ!!折れる~!!』

「ラルさん!それはいくらなんでもやりすぎなんじゃ…!」

『待ってラル!!』

『なんてね♪』

 

 ─先程まで痛がっていた筈のジンジャーが指を鳴らすと、突如としてラルの左肩から血が吹き出した。

 

「何が起こったんだ!?」

『ざっとこんなもんかな?楽しいのはこっからだけど♪』

 

 ジンジャーがそう言うと、彼の四肢が体から外れる。

 

『義手に義足!!』

「魔導師の人形…人形…まさか…」

「見て!ラルさんの傷口から小さいクモが…!」

 

 翼が何やら考えるなか、ラルの体をよくみると、ラルの肩から無数の小蜘蛛がわいてきていた。

 

『どういうことだ…』

 

 いきなり体内からクモが現れた理由を考えるラル。そして、ある結論に至る。

 

『この部屋に入ってすぐに被弾したのは、活性する前の晴の匣兵器か!!』

『ご名答!これに関して言えば魔術ってのは嘘♪君の体内に撃ちこまれたのは超微粒の晴の匣兵器"晴クモ(ラーニョ・チェル・セレーノ)"の卵でね。僕の合図で"活性"して成虫となり人の体を突き破って出てくるのさ』

『何だって!?』

「なんて惨いことを…!」

『最初のクモも仕組みは同じ。そしてまだ君の体内には何千もの晴クモの卵が巡っている』

『そ…そんなことが!!』

『ほーら♪』

 

 ジンジャーが再び指を鳴らすと、今度は背中から血が吹き出した。

 

「ラルさん!」

『おのれ!!』

『おっと!ヘタに動いてみなよ?次は心臓を突き破るかもよ♪』

『くっそう!!』

『フッフフ♪楽しませてくれたお礼に教えとこうか、ラル・ミルチ』

 

 ジンジャーは倒れているラルを眺めながら話し始める。

 

『コロネロは最後に一緒に戦っていたアルコバレーノ、バイパーをかばって死んでいったよ』

『「!!」』

『彼は人の身代わりになるのが趣味みたいだね?聞いた話じゃ、アルコバレーノが生まれたあの日もそうだったんだろ?』

「コロネロさん…」

『傑作だったのは、助けられたバイパーも勝ち目がないと見ると、自ら命を絶って死んでいったのさ』

「そ、そんな!」

『笑っちゃうだろ?バイパーもアホだがコロネロという男の性分をよく現している─おせっかいの役立たずさ!君がその濁ったおしゃぶりを手放せないのも奴が助けそこねたからなんだろ?裏目裏目の男コロネロ♪』

「あの野郎、好き勝手言いやがって!」

「死んだ者を侮辱するな!」

「落ち着け二人とも。お前らがどうこう言おうと、あっちに干渉はできねぇんだ」

「だが!」「だけどよ!」

『しかし悲惨な人生だったね…哀れなラル・ミルチ。それもこれもアルコバレーノ一のおせっかいバカのせいってわけだ!裏目のコロネロのね♪』

『……撤回…しろ』

 

 ジンジャーの発言に翼とクリスが怒りを露にしていると、倒れていたラルがおしゃぶりを握りながら起き上がる。そしてラルの顔のアザが突如広がり始めたのと同時に、おしゃぶりから目映い青の光が溢れ出した。

 

「どうなっている!?」

『なんだ!?あの青い光は!!』

『コロネロへの侮辱を撤回するか死を選べ、ジンジャー・ブレッド』

「ラルさん、顔のアザが…!」

 

 ラルはおしゃぶりを握りしめながらそう通告するが、彼女の顔のアザは徐々に広がり始めている。

 

『醜いなぁ♪それはなりそこないになった時の中途半端な呪いの名残だろ?まぁでも君もまがりなりにもアルコバレーノってわけだ。君の濁ったおしゃぶりはもう使いものにならないと思ってたよ─ただ残念なことにラストスパートが遅すぎたね』

 

 宙に浮きながら観察していたジンジャーが指を鳴らす準備を始める。

 

「いけないっ」

『この指を鳴らせばクモが飛び出し、君の体は粉々にはじけとんでおしまい♪』

『まっ、待って!!!』

『いいね~♪悲痛の叫びを聞くとよけい鳴らすのが楽しくなるよ♪』

 

 ジンジャーは指に力を溜めていく。

 

『「やめろーっ!!!」』

 

 ツナと翼の叫びが響くなか、ジンジャーは無情に指を鳴らした─だが

 

「─何も、おきない?」

 

 いつまで経ってもラルの体を晴クモが食い破る気配がない。

 

『確かにオレはなりそこないだ』

 

 そんな中、青い光が収まるとラルが口を開いた。無事を確認したツナ達は安堵し、何が起こっているのか理解できないジンジャーは何度も何度も指を鳴らすがやはりラルの体内にいる晴クモが反応する気配はない。

 

「よかった!ラルさん無事なんだ!」

「しかし、何故彼女の中に潜む晴クモが反応しないのだ?」

『不完全な呪いに蝕まれたオレの体は歪な体質変異を起こし、体内を巡る波動までもが霧と雲の属性に変わってしまったんだ…だが、このおしゃぶりは変わらない─本来コロネロではなくオレが受けとるはずだったこの()()おしゃぶりは、オレの命と引き換えに炎を放つ』

 

 ラルの手に握られていたおしゃぶりは、濁った灰色から綺麗な青色に変化していた。

 

『属性は雨』

 

 するとラルの全身から青い炎が溢れだし、それを見たツナが驚く中、了平がラルが何をしたのかに気づく。

 

『なぜクモが体を突き破り出て来ないのかわかったぞ!あのおしゃぶりの力だ!!クモの卵を急成長させる晴の"活性"の力を─雨の"鎮静"で相殺したのだ!!』

「なるほど…それならば、体内に卵は残るが孵化するまでの時間は稼ぐことが出きるな…」

『その肉体に背負わされた宿命─苦しみと絶望は誰にもわかりやしない…オレが、あのままアルコバレーノになっていたら、魂を病み、バイパーの最後と同じ道を選んでいただろう…コロネロがいたから…オレは生きたんだ。あいつのおかげで生きてこれた』

「まさかラルさん、コロネロのことが…」

『ほーう♪君にとってコロネロは救世主みたいだね!でも結局、君もここで死ぬんだし、またコロネロのしたことは報われないのさ♪』

『ジンジャー…死ぬのはおまえだ!!』

 

 ラルはジンジャーへ向かい一直線に飛ぶと、接近戦に持ち込む。しかしジンジャーはある程度攻撃を防ぐとラルの攻撃をヒラリとかわす。

 

『勢いは認めるけど、まっすぐにしか進めなくちゃ意味ないよ』

 

 後ろに飛んでいくラルをみてそう呟くジンジャー。しかしラルは、いつの間にかジンジャーのすぐ傍まで来ていたムカデを掴んで急な方向転換をすると、ジンジャーの背後からしがみついた。

 

『最後のチャンスだ─撤回するか死を、選べ』

 

 ジンジャーの首を絞める腕の力を少しずつ強めながら最後の通告をするラル。ジンジャーの前方からは、二匹のムカデが彼に向かい飛んできている。

 

『ヤダヤダしつこい女だな~!だーれが言うかよ♪僕が本気を出せばこんな拘束へでもないね!甘い甘いバァ~…!?』

 

 そんな状況でも余裕を見せるジンジャーだったが、いざ動こうとすると何やら驚いた表情を浮かべ、そのまま二匹のムカデに体を貫かれた。

 

「なんだあいつ、拘束がどうのこうの言ってたくせに、全く動かなかったぞ!?」

「恐らく、ラルが直接ジンジャーの肉体に雨の炎を流して、意識を鎮静化させたな」

『オレの炎の鎮静力を甘く見すぎたな』

『くっ…そー!─でも…いいのかい?これでコロネロを殺した実行犯は聞けなくなるんだよ…?』

『お前を生かしていたところでどうせ話さないだろう…自分で探す』

『憎たらしいメスだなぁ…でも…あ~~~─楽しかった♪』

『!ふせろ!!』

 

 何かに気づいたラルが注意を促した直後、ジンジャーの体が大爆発を起こした。

 

「ラルさん!」『ラル!』

 

 煙から顔を守りながら、爆発に巻き込まれた仲間を心配するツナ。煙が晴れると、少し離れた場所でうつ伏せに倒れるラルの姿があった。

 

『大丈夫か!!』

 

 ツナ達が彼女の元に駆け寄ると、少し呻きながら体を起こす。

 

『とっさにムカデのシールドを展開したんだな』

『やっぱりすげーよ!ラル・ミルチ』

『…極限によく倒したな。奴も師匠の仇の一部に違いはない』

『…倒せなかった』

「え!?」

『見ろ』

 

 そう言ってラルが指を指した先─ジンジャー・ブレッドの体はあまりに─

 

「人形!?」

「やはり…魔導師の人形とは、そのままの意味だったのか」

『あれがジンジャーが魔導師の人形と呼ばれる所以だ。いまだ奴にとどめを刺した者はいない…不吉な殺し屋でな…ここ数年、ファミリーが滅亡するような抗争では必ず目撃されている』

『「…恐っ」』

『まるで妖精だな』

「どこが妖精だよ?」

『妖怪の間違いじゃないっスか?』

 

 激しい戦いが終わったことによる安心から、そんな他愛ない会話をしていると獄寺が前に出る。

 

『おいラル・ミルチ!そろそろ教えてくれてもいいんじゃねえか?アルコバレーノの謎ってのをよ』

 

 獄寺がそう問いかけると、彼と同じくアルコバレーノの謎について聞きたかったツナと了平が真剣な表情を浮かべる。だがラルは…

 

『…断る』

『てめっ!いつまでも一人でしょいこんでんじゃねーよ!!何で話せねーんだよ!!』

『何と言おうとオレから話すつもりはない。どうしても知りたければ─山本に訊けばいい』

「なぜここで山本が!?」

『え!?山本、知ってんの!?』

『ん…?まあな』

「おいおい!本当に知ってやがんのか!」

 

 突然の話に驚いていると、至るところから警報がなり始めた。

 

『ジンジャーの奴…予告通りに通告したというわけか…すぐに警備システムを破壊するぞ!』

『おう!!』

 

 その後、部屋を抜けたツナ達は警備システムの爆破に成功すると、次の作戦に向かおうとする。

 

『そんじゃあ主要施設の破壊に移っか!!』

『待てよ!アルコバレーノの話が済んでねーぞ』

『ん?』

『何でお前が知ってんだよ』

『…約束でさ、修行が終わった時、小僧が教えてくれたんだ』

『なっ』『リボーンが!!』

『こいつはたまげたな…オレだって師匠には聞けずじまいだったのに』

『ただし今は話せねーんだ』

『なんでだよ!!』

『この作戦が終わるまでは話すなって…これも小僧との約束でな』

「リボーンくん、何で山本さんにはアルコバレーノの秘密を話したの?」

「あいつは天然な所がありはするが、約束事は絶対に守る男でな。山本になら話しても悪くねぇと思ったんだ」

『ぐ…リボーンさんがそうおっしゃるのならしょうがねえか…』

『そんじゃ行くかっ』

『おまえ達だけで行け』

 

 施設の破壊に向かおうとするツナ達だったが、一人だけ、その場から動こうとしない者がいた─先ほど戦っていたラルだ。

 

「ラルさん!」

『俺は後で行く』

『まさか…体調が!?』

『ジンジャーとの戦いで少しハシャギすぎた…』

 

 汗を頬につたわせながらそう伝えるラル。それもしょうがないことだ─先程ラルがおしゃぶりの色を変えたのは、文字通り生命力を削って行ったのだから。

 

『体…つらいんだね』

『いいから行け!足手まといになるのはゴメンだ…』

 

 うつむいて話すラル。そんな彼女の話を聞いた四人は─

 

『『『『ダメだ!!!』』』』

 

 ただ一言、そういった。

 

『ふざけてんじゃねーぞっ!これくらいのことは想定内なんだよ』

『オレ達は作戦を成功させて、誰一人欠けることなく帰るんだ!!』

 

 力強く話す獄寺とツナ。そんな彼らにラルが驚いていると、遠くからシェルターが閉まるような音が響いてくる。

 

『メインルートのゲートの封鎖が始まったようだな…シミュレーションしていた敵の行動パターンの一つだが…この場合は、皆が次のポイントに移動するまでの囮をラル・ミルチがやる予定だった…』

『そーいや…』

「でも、その囮役のラルさんはさっきの戦いで消耗しちゃってるし…」

『あ…あの…オレがその囮をやります』

 

 了平が囮役を誰にするか悩んでいると、ツナが自らその囮を名乗り出た。これには響達だけでなく獄寺達も驚愕した。

 

『た…たしか囮役は機動力がいるんですよね……だったらおれが一番だと思うし…』

「たしかにそうだが…」

『しかし危険すぎます!!』

『大丈夫!後でおち合おう。獄寺君、ラルを頼むよ』

 

 必死に止めようとした獄寺だったが、ツナから確固たる意思を読み取ると、一瞬悩んだ末に肩につかみかかる。

 

『何かあったら無線で呼んでください!!"右腕"がすぐにはせ参じます!!』

『ありがと…イテテ!!』

 

 その後ツナは、泣き出す獄寺をよそに了平から、離れた場所にある用水路までのルートを教えてもらうと仲間に見送られながら、敵を食い止めるべく用水路に向かった。

 そして用水路につき、ハイパー化して敵を待っていると、前方から四機のストゥラオ・モスカが向かってきているのを確認する。そしてツナは、敵を食い止めるべく四機のモスカに突っ込んでいった…




今回はここまでです。
次回はスパナが操るモスカ戦からX-BURNER完成までいけるよう努力します。


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ツナの過去(10年後編):⑦

今月は何やら気力がわいてきてるのか、今回も結構早く完成しました。今回はモスカ戦、そしてX-BURNER完成に欠かせなかった人物であるスパナとの出会いです。


 前方から向かってくるモスカ達に迫ったツナは、すれ違いざまに最後尾の一機の頭部を掴んでかっさらうと、高度をあげ天井にぶつける。そして数メートルに渡ってモスカの後頭部を削ると、流れるような動作でモスカの顔を殴り、モスカは大きな水柱を起こしながら水中に墜ちる。

 

「すげぇ!あっという間に一機倒しやがった!」

「ストゥラオ・モスカは蓄炎(チャージ)システムを搭載することで動力の無人化に成功した対(ボックス)戦闘用の機体だ。戦闘力は攻守ともに段違いに強い─だからこそツナは遠慮なく戦えるんだ。壊しても誰も死なない無人の機械だからな」

 

 その後、ツナの後方から槍を構えたモスカが迫ってくるが、ツナはバク転の要領で、空中で上下反転させることで突進を回避する。

 すると少し距離を離して追ってきていた一機が放ったミサイルがツナの周囲で爆発し、白い煙が充満する。ツナはすぐに煙の中から抜け出し、炎をうまく操って水上に着地すると少し涙目になりながら咳をする。

 

「さっきの煙は催涙ガスか!」

『く…』

【あと3機…この足場では、X-BURNERは使えないな】

 

 そんなことを考えていると、水中から突如大きな手が現れ、ツナの右足を掴む。その手の主は、先程ツナが墜としたモスカだった。

 

「こいつ、まだ壊れてなかったのかよ!」

 

 ツナが必死に拘束を解こうとしていると、前から槍を構えたモスカが再び迫ってくる。

 ツナは間一髪、グローブについたクリスタル部でいなすことで頭部への直撃を防ぐが、防いだ時の衝撃で体制を崩し、その隙をつかれて水中へと引きずり込まれてしまう。

 水中に引きずり込んだモスカはツナの足を掴んでない右腕を変形させレイピア状の槍を展開すると、躊躇なくツナに刺そうとする。それを右手で掴み、左手で足を掴む腕を焼き切ろうとするが、装甲が厚くなかなか削ることが出来ない。

 

「ヤバいな…このままでは窒息死してしまう!」

 

 息ができず苦しむツナに焦りだす響達。そこへツナを追って他の三機のモスカが水中に潜ってきた直後、ツナの足を掴む力が弱まり、拘束から抜けたツナは地上へ向け急上昇する。

 

【一機にこれだけ手こずってたんじゃ、ラチがあかない…】

 

 向かってきていたモスカ達の間を抜けていったツナは地上へ出る直前に体制を上下反転させる。

 

【あれしか!!】

 

 そして地上に出たツナは、水中のモスカごと水を凍らせた。

 

「死ぬ気の零地点突破初代(ファースト)エディションだ!」

「なるほど…水ごと凍らせれば身動きを封じるのは容易いことだ」

【このまま戦っていたら危なかった…】

 

 息を荒くしながら、固まっているモスカ達を眺めるツナ。すると三機のモスカの胸元が音をたてて光り始める。

 

「こいつら、まだ何かするつもりか!」

 

 何やら準備を整え始めるモスカ達を警戒するクリス。するとモスカ達の胸元から炎が発射され、初代エディションの氷を削りながらツナに向かい一直線に上がってくる。

 

【そう…今のまま戦っていたら危なかった】

『こいつを待っていたぜ』

 

 氷を貫いた炎を見て呟いたツナは、右手と左手を組み合わせ四角形を作る。

 そしてツナにぶつかった炎は、煙ごとツナが作った四角形の中に吸い込まれ、比例するようにツナの炎が膨れ上がった。

 

「今度は零地点突破改か!」

《─なんでモスカのレーザーが死ぬ気の炎だとわかった?》

「え!?モスカの中に誰か乗ってるの!?」

 

 翼がツナの戦いに感心していると、モスカから男性の声が聞こえる。

 

『…零地点突破初代エディションを溶かすことができるのは、死ぬ気の炎以外に考えられない…』

《やっぱりそうだよな…零地点突破改で吸収したエネルギーをどれくらい戦闘力に変換してる?》

「…なんだこいつ?敵のくせして色々聞いてきやがって」

()る気は…ないのか?』

《─ある》

 

 男がそう言うと、一機のモスカが氷を砕いてツナに突貫してくる。ツナはその攻撃を避けると、モスカの後ろに回りこみ、両手を左右に広げ車輪のように勢いよく一回転することによって遠心力をつけたかかと落としを食らわせる。それにより怯んだモスカに対し、ツナの止めの一撃がモスカの頭を穿つ。それによりモスカの動力がやられ、壁を削りながら通路に落下すると爆発した。

 

「よし!やっと一機!」

《データ…とれた…》

 

 するとそんな声が聞こえ、ツナが振りかえると、先程まで氷漬けにされていた残りの三機がすぐ傍で待ち構えていた。

 

『まだ壊されたいのか』

 

 疲れた表情を見せずにそう問いかけるツナ。しかし帰ってきた答えは─

 

《172%だ》

「…いきなり何言ってんだ、こいつ?」

《零地点突破改で吸収した炎を自分のエネルギーに変換することで、あんたの戦闘力は約1.7倍にはね上がった》

「なっ…!まさか、先程モスカを倒した際に…!」

《これは相当に高い数値だ─人としてはね》

『…?何が言いたい』

 

《それでもウチのモスカのが強い》

 

 男がそう言うと、左右にいた頭の白いモスカが胸元の発射口に再びエネルギーを溜め始める。

 

『わからないのか?無駄だ』

 

 ツナは再び零地点突破改の構えをとる。しかし、白のモスカ達は真ん中にいた頭の黒いモスカの方を向き、あろうことかそのまま黒のモスカに炎のレーザーを放ったのだ。

 

「はっ!何をしだすかと思えば…いきなり仲間割れか?」

「─いやまて、少し様子がおかしいぞ!」

 

 すべての炎を放出した白のモスカ達は機能を停止しツナの作った氷の上に落下する。そして、残った黒のモスカは外見が変わり、物凄いオーラを放っていた。

 

『これは一体…』

《キング・モスカ》

 

 キング・モスカと呼ばれた機体は、腕を伸ばしジェットでツナに近づく。

 その攻撃をツナが両手でいなすと、キング・モスカの胴体から鎖で繋がれた分銅のようなものが射出され、がら空きになったツナの鳩尾に食い込んだ。

 キング・モスカは攻撃の手を緩めず、怯んだツナを膝で蹴飛ばし、バックパックから取り出した武器で殴り付けると、小規模の爆発が起こり、もろに爆発を食らったツナが氷の上に落下していく。そこに追い討ちとばかりに、指先の発射口から小型ミサイルを放ちツナを爆煙がつつむ。

 

「あのモスカ、スピードもパワーも、さっきとは比べ物にならないくらい強くなってる!」

《キング・モスカはとっておきだ。徹底的に細部をチューンアップし、装甲は2倍。そして目玉は零地点突破改から着想を得て開発した、炎吸収システム。その優れたエネルギー変換効率により、キング・モスカの戦闘力は10倍にはねあがる。全てにおいてボンゴレ10代目より上。楽勝だ》

「じゃあさっきのは味方を攻撃していたのではなく…!」

「ツナの零地点突破改みてぇに吸収して強くなってたって訳か!」

『その計算は本当に合っているのか?』

 

 響達がキング・モスカの強さに驚いていると、煙の中からツナの声が聞こえた。

 

『10倍でその程度とはたいしたことないな─そいつがおまえのとっておきなら…次はオレのとっておきを見せてやるぜ』

 

 煙が晴れると、傷だらけになりつつも氷の上でX-BURNERの構えをとるツナの姿があった。

 

「通常の攻撃力で負けるのなら、一発逆転の可能性がある必殺技に賭けるという算段か!」

《とっておき?》

『ああ…これ以上おまえ一人にかまってられないからな』

【初代エディションで足場はできた。高出力のX-BURNERなら、キング・モスカを倒せる!…問題はあのスピードだ。確実に当てるには…】

《…零地点突破以外にも技があるとか?》

『どうだろうな』

《どのみちキング・モスカには勝てやしない。このスパナが造った最高の機体だからな》

『やってみなけりゃわからないぜ』

【奴を墜とす!!アレを狙うしかないな…】

 

 ツナはキング・モスカの()()()()に狙いを定めると、飛び上がってキング・モスカに迫り近接戦に持ち込む。

 

【見切った!!】

 

 そしてキング・モスカがツナに膝蹴りをいれようとした直前、ツナは器用に体勢を変え、モスカの膝裏についているスラスターを蹴り壊した。その代わり、自分はモスカに蹴られ壁まで吹っ飛ばされてしまったが。

 

【予想通りのコンビネーションだ…この調子で推進装置(スラスター)を壊していけばキング・モスカは墜ちる!】

「なんて無茶なことを…」

主導推進装置(メインスラスター)を壊して身動きをとれなくする…とっておきってコレのこと?》

『まあな』

【残る推進装置は3つ】

《わかってないな…キング・モスカの本領発揮はこれからだ。近接だけがキング・モスカの領域(フィールド)じゃないし》

 

 男がそう言うと、キング・モスカが両手を胸元で構え、発射口から炎のレーザーが、両手の指先からは小型ミサイルが発射される。

 

【炎に不純物(ミサイル)が含まれていては、零地点突破改で吸収できない!】

『くっ』

 

 吸収できないことに気づいたツナは攻撃がぶつかる寸前に横にずれて回避する。

 

《キング・モスカはあんたを参考に造られているからね。零地点突破改の長所も短所もわかってる》

「それじゃあ、今までの戦いかたじゃツナは勝てないってこと!?」

 

 キング・モスカは避けたツナに再び狙いをつけ、先程と同じくレーザーとミサイルを混ぜて放ち、ツナは必死に回避する。

 

《逃がすか》

 

 そしてキング・モスカが放った三撃目が、ツナが作り出した氷に着弾し、氷が一気にくだけ散る。

 

『しまった!!足場が!!』

「踏みしめる足場がなくては、今の沢田ではX-BURNERを撃つことが出来ない!」

 

 ツナがくだけ散った氷に気を取られていると、その隙に距離を積めたキング・モスカが棍で殴り付ける。

 爆発と打撃を食らいながらも、何とか空中で体勢を整えたツナだったが、追い討ちにもう一本の棍で殴り飛ばされる。

 

《スピードをさっきの倍にしたよ。これが正真正銘のキング・モスカMAXパワーだ》

【なんだって!?】

「あれだけの速さでも本気じゃなかったのか!?」

「危ない!ツナ!」

 

 吹き飛ばされ、がら空きになったツナの背中にキング・モスカの重い一撃が入り、痛々しい音が響く。

 

《本領発揮はこれからだって言ったろ?フィニッシュだ》

 

 男がそう言うと、キング・モスカが胸元の発射口にエネルギーをチャージし始める。

 

「あいつ、本気で止めを刺しに来るつもりだ!」

「逃げろ沢田!」

【油断した…これ程の力を残していたとは……このままでは…もう…どうすればいいんだ…】

『…X-BURNERさえ…』

 

 圧倒的な力の前に、弱々しくそう呟くツナ。すると、ツナのヘッドフォンにノイズが入り─

 

《─撃ちゃあいいじゃねえか》

『「!!」』

《あるのは剛と柔の炎だけだ。地上も空中も関係ねえはずだぞ》

【この声…】

「リボーン君!」

《ダメツナが頭で考えてんじゃねえ。ダメもとでつっこんでこそダメツナだろ?》

【リボーン……ああ。そうだな…】

 

 ツナは空中、上下反転した状態で右手で左拳を握りしめる。そしてキング・モスカがミサイルの混じったレーザーを放つと同時に、左手で背後に柔の炎を噴射させる。

 

【決めて…やるぜ!!】

 

 覚悟を決めたツナは、そのまま右手をキング・モスカに向け─

 

X(イクス)-BURNER(バーナー) AIR(エアー)!!!』

 

 ツナの放った剛の炎はキング・モスカのレーザーを押し返し、そのままキング・モスカを飲み込んでいく。

 そしてキング・モスカは徐々に崩壊していき─突如ツナの右腕の軸がぶれ、大きな爆発がツナを飲みこみ─

 そこで場面が切り替わる合図である暗転が起こった。

 

「あぁ!いいところで!」

「一体あのあと沢田はどうなったんだ!」

 

 響達がその後のツナがどうなったのか気にしていると、場面が切り替わり、機材やら溶接具やらが散らばっている部屋で、布団の上に寝かされているツナと、緑色の作業服を着て何やらキャンディのようなものを咥える金髪の男性が写し出される。

 

「よかった…無事ではあるみたい」

「しかし、この金髪の男は一体誰だ…?」

 

 響達がツナの無事に安堵する。そんな中、金髪の男が『チャブダイ』と書かれたドラム缶の上でお茶を注いでいると、匂いにつられたのかツナが目を覚ます。それに気づいた男は、お茶を注いだコップと一切れの紙を持ってツナに近づき、紙をツナに見せつける。その紙には、『酢花゜』と書かれていた。

 

『す…はな…?』

「なんだ?この字は」

「なんて読むんだろう…?」

『……パ。スパナ』

『ハハッ!本当だ…(マル)がついてる…ゴメン、寝ぼけてた…』

『気にするな』

「あ~なるほど!『花』の(最初)に『゜』がつくから『酢花゜(スパナ)』って読むんだ!これは一本取られたよ~」

「…てかちょっとまて!スパナって言や、さっきのキング・モスカを操ってた奴じゃねえか!」

『モスカ!!!』

 

 クリスの発言で響達が思い出したのと同時に、ツナもその事に気づいたようで布団から跳ね起きる。するとツナの姿をみた響達女性陣は何やら顔を赤くさせ、手で顔を隠したり視線を傾けたりと、とにかくツナから視線をそらそうとする。

 

『お!おまえが!!』

『その格好では風邪をひく』

 

 スパナから距離を取ろうとするツナだったが、自分の格好をよくみると、パンツ以外何も身に付けていなかったのだ。

 

『わわっ』

『これを貸してやる。茶を飲め』

 

 その事に気付き、慌てて掛けられていた布で体を隠すツナ。そんな彼に、スパナがコップと自分が着ているのと同じタイプの作業着を差し出してくる。

 ツナはそんなスパナに驚きつつ、辺りを見渡すと、配管に繋げられた紐に、びしょ濡れになった自分の服がかけられており、すぐ近くのドラム缶の上には、身に付けていたヘッドフォンにミトン状態に戻っているX(イクス)グローブ、死ぬ気丸が入ったケース、そして大事に持っていた京子のお守りが置かれていた。

 

『ああ!!お守り!!』

 

 それに気づいたツナがドラム缶の上に手を伸ばそうとし─自分の手首に手錠がかけられていることに気づいた。

 その事に驚いて固まるツナに対し、スパナは手に持っていたコップを足元に置くと、懐から取り出した拳銃をツナの側頭部に突きつけた。

 

『騒ぐなボンゴレ10代目─あんた今、行方不明ってことになってるから』

 

 あのあと、スパナに渡された作業着に着替えたツナは、反対の手首にも手錠をかけられ、その手錠の鎖にもさらに大きな鎖が取り付けられており、逃げ出せないようになっていた。

 

「そういえば、前に確か、ツナが『過去に一度手錠をかけられたことがある』って言ってたけど、この事だったんだね」

「確かに言ってはいたが…まさかこのような形でだったとは…」

『Sサイズでもでかいな…』

『…』

【どうしよ~…死ぬ気丸もグローブもとりあげられちゃってるし…どう考えてもヤバいよ…結局オレ…殺されるのか?】

 

 敵に捕まり、武器をとりあげられ、手錠をつけられている絶望的な状況を前に、最悪な結末がよぎるツナだったが、その予想は外れることになる。

 

『未完成なんだろ?最後のアレ…』

 

 スパナは手に持っていた拳銃を別のドラム缶の上に置くと、ツナに話しかけてきた。

 

『見た感じ…バランスが悪くて、フルパワーで撃てないように見えた』

『え…?撃つ…?もしかして…X-BURNERのこと?』

『X…BURNER…』

 

 キング・モスカを倒した技の名前を聞いたスパナは、感動したかのように頬を染め声をふるわせる。

 

『そう、X-BURNERだ!X-BURNERが安定しないのは、右手の炎と左手の炎の力のベクトルにズレが生じているからだ。左右を完全なシンメトリーになるように工夫を施せばいい』

『「え…え?」』

『ウチは日本人(ジャッポネーゼ)日本(ジャッポーネ)も好きだ。ロボット工学が進んでるから…カタカナや漢字もクールだし、緑茶の香りも神秘的』

『「はぁ…」』

『でも一番興味があるのは、ボンゴレ10代目の技だ』

『へ…?』

「…あーもう!つまり何が言いてぇんだ!」

 

 スパナの長話にしびれをきらしたクリスが怒鳴る。そして、スパナが言い出したのは─

 

『あんたの完璧なX-BURNER、見たくなった。ウチが完成させてやる』

 

『「なっ」』

【何…?なんなんだこの人?】

 

 いきなりツナのX-BURNERを完成させると言ってきたスパナに、ツナと響達は驚きを隠せずにいた…

 

『あのっ!聞いていいですか?』

 

 X-BURNERを完成させると言いだしたスパナは、ツナに自作のキャンディを渡すと、そのまま何やら作業を始めてしまった。

 そんな彼に声をかけるツナだが、スパナは作業に集中しているのか、反応はかえってこない。

 

『やっぱりダメか…』

【スパナって人、何考えてんだか分かんないな……悪い人って感じはしないんだけど…とにかくみんなが待ってる!!こんな所にずっといられないよ!!】

『何?』

 

 ツナがどうにかして逃げ出す算段を考えていると、声はちゃんと聞こえていたのか、スパナが作業を一時中断して問いかけてくる。

 

『あ…あの…みんな…外はどうなってるんですか!?』

『外?』

『オレ以外のことです!!何か聞いてませんか!?』

『…?』

『えと…それに、あなたの言ってることもよく分からなくて…なんでオレの技を完成させるんですか?ミルフィオーレの人でしょ?』

『一気にしゃべるな』『え?あ…スイマセン…』

『技を完成させるのは見てみたいからって言ったろ?あの時あんた殺さなかったのはキモチ悪くなったんだよね』

『は?』

『モニターごしの殺しは平気だけど、生は嫌だっていうアレだよ』

『「何言ってんの!?」殺しは全面的にダメでしょ!!』

 

 スパナの発言を聞いたツナがいつものようにダメ出しをすると、スパナは少し驚いた表情を浮かべる。

 

『あっ!ス…スイマセン…!』

『……外って基地の他の様子のこと?』

『そ!そうです!!』

『知らないな…正一はバタバタしてるみたいだけど』

『しょ…正一って、入江正一のこと!?』

『うるさい』

 

 気が散って迷惑なのか、大声をあげるツナに拳銃を向けるスパナ。

 

『ヒッ!スイマセン!!…』

【分かってはいたけど…本当に入江正一はここにいるんだ…すぐ近くに…】

『でも、正一を攻めに来たんだったらやめた方がいい』

「なに?」

『高校の国際ロボット大会の頃から知ってるけど、正一は相当キレる─いつも全体を見てる、すごい奴だ』

 

 スパナの話を聞いて息を飲むツナと響達。すると突如、ツナ達がいる部屋を物凄い揺れが襲ってきた。

 

『ひい!!』

「キャア!」

「いきなり何!?」

「じ、地震!?」

「地震にしては揺れがおかしくねぇか?」

「雪音の言う通りだ…この揺れは地震なんかではない。まるで、部屋が移動して擦れているような…」

 

 揺れは長い間続き、落ち着いた頃には、部屋にあったものがいたるところに散らばっていた。

 揺れの途中で頭をぶつけていたツナが、揺れがおさまって頭をさすりながら起き上がると、四つん這いになってなにかを探すスパナの姿があった。

 

『どうしたんですか?』

『…大事な部品を失くした』

 

 どうやら先程の揺れで、必要な部品がどこかへ行ってしまったようだ。

 

【…みんな…大丈夫だったかな?こんなことしてる場合じゃ…】

 

 仲間達の心配をしながらツナが立ち上がろうとすると、後ろで何か物音が聞こえた。

 すぐにツナが確認すると─

 

『「あっ」』

【死ぬ気丸にグローブ!!】

「それにヘッドフォンもあるぞ!」

 

 先程の揺れでドラム缶が倒れた際に、運良く死ぬ気丸が入ったケースとグローブ、ヘッドフォンがすぐ後ろまで転がってきていたのだ。

 つい声を上げてしまったツナは、スパナにバレていないか心配するが、彼はいまだに失くした部品を探しており気づく気配はない。

 

【今なら…逃げられる!!】

 

 ツナはスパナにバレないよう、慎重にグローブとケースを回収しハイパーモードになろうとするが、両手を手錠で繋げられているせいでケースの蓋をうまく開けることが出来ない。

 

『あった』

 

 ツナが蓋を開けるのに手こずっていると、スパナが失くした部品を見つけ、蓋を開けようとしている姿をバッチリみられてしまった。

 スパナに見つかり絶望するツナ。しかし、スパナから帰ってきたのは意外な答えだった─

 

『じゃあハイパーモードになってよ』

『「ええ!?」』

『実際やって試すから』

『えっ!いや…でも!ハイパーモードになったら…オレ…逃げちゃえると思うんですが…』

『逃げてどーすんの?ウチの連中は強い。次は殺されるぞ』

「確かにな…沢田より戦闘経験の多いラル・ミルチでさえ、不意打ちがあったとは言えど、副隊長クラスのジンジャーにあそこまで追い詰められたのだ…このまま逃げ出して、もし隊長クラスとかち合った時には…」

『スパナの言うことも一理あるな。X-BURNERを完成させないと、この先キビシイかもしんねぇ』

『わ…わかったって!!─ん!?』

『ただし、時間はあまりねえがな』

『リボーン!!?』

 

 ツナが横を見ると、今も地下アジトで待っているはずのリボーンが、宙に浮きくつろいでいた。

 

『ちゃおっス』

『おまえいつのまに!?』

 

 ツナがリボーンに抱きつこうとするが、手はリボーンを突き抜けて通りすぎていく。それもそのはずだ。そこにいるリボーンは、足元に落ちているヘッドフォンから写し出されている立体映像(ホログラム)なのだから。

 

『あれ?透ける!!─ひいっ!お化け!?』

「ハハッ!面白い反応するね、綱吉クン♪」

「このときの沢田は、ホログラムというものを知らなかったのか?」フフッ

「まぁ昔のツナは、今では考えられないほど運動も勉強もダメダメだったからな」

 

 驚いているツナに、ホログラムのリボーンが立体映像とヘッドフォンにつけられた機能について説明する。

 

『本当はもっと早くおどかそうと思ったんだが、電波が悪くてな。さっき急によくなったんだが、何かあったか?』

『え…?ああ地震!!そっちもあったろ?』

『ん?なかったぞ』『え?』

「てことはやっぱ、さっきの揺れは地震なんかじゃねぇってことだな」

『っていうかじゃあ、そっちは…』

『ああ、今んとこ無事だ』

『「よかった~」』

『人のことより自分の心配しやがれ』

『え?』

 

 とぼけるツナを無視して、リボーンはスパナに視線を向ける。

 

『スパナ、X-BURNERの完成までにどれくらいかかるんだ?』

『ん…』

『おまえ、もしかしてこの人のこと知ってんのか?』

『知らね』

『そのわりには、さっきからなれなれしーな!』

『まーな。お前が捕まってからずっと音声は聞こえてたからどんな奴かはわかってんぞ』

『だからってなあ…』

『それにおまえにまかせとくと、いつまでたってもラチがあかねーからな。いつまでもチンタラしやがって』

『ひいっ!待てリボーン!!タッ、タンマ!』

 

 ホログラムのリボーンが拳銃をツナに向けると、相手はホログラムだというのにツナは見事な怯えっぷりを見せる。

 

「ツナってこの頃から、映像越しでも拳銃向けられたら怖がってたんだ…」

『とぎれとぎれの音声しか入ってこねーが、施設の破壊に向かった山本達は、2組に分断されちまったぞ』

『「ぶ…分断!?」』

 

 怯えあがるツナに伝えられたのは、なんとも不穏な情報だった…

 

『X-BURNERのフォームを、自分で矯正する?』

 

 スパナの話を聞いたツナがそう呟く。

 あのあと、仲間が分断されたと聞いて慌てたツナと響達だったが、ツナはホログラムのリボーンが、響達はリボーンと白蘭、ユニの三人係でどうにか落ち着かせた。

 困惑するツナに、スパナは先程まで作っていたものを手にとる。

 

『このコンタクトディスプレイを装着する』

「え!?コンタクトディスプレイって確か…!」

「沢田が、戦う際に身に付けているコンタクトのはず!あれを作ったのは彼だったのか!」

『将来的には手ブラでテレビを見たりする技術だが─超小型なので戦闘に最適』

『でも…それとX-BURNERの完成が、どう関係があるんですか?』

『X-BURNERが不安定なのは右と左の炎のバランスが悪いからだ。あんたの場合はグローブと連動させて、ディスプレイに左右のグローブの炎の出力状況が映し出させるようにするから、左右のグローブのエネルギーベクトル─つまり見える左右の矢印が重なるように撃てば、X-BURNERはブレずに安定する』

『え?…それだけ?』

「あれ?結構簡単そう…?」

「それは違うぞ立花。確かに客観的に聞けば簡単な内容に聞こえるが、いざ実際に左右対称にしようとすれば、私でも感覚だけで合わせるのは相当に難しい」

「確かにな…左右を完全に対称にするってのは、左右の腕に生じる感覚のズレも考慮した上で調整する必要があるってことだからな」

「ウェエ!?そんな難しいことをあんな超ちっちゃいコンタクトでどうにかしちゃってるの!?」

 

 今やツナの十八番となっているX-BURNERの難しさ、そしてX-BURNERの重要なサポートしているコンタクトディスプレイの凄さに驚く響達。

 その後、一度もコンタクトを付けたことがなかったツナが勇気をふりしぼっていたが、どうにかコンタクトディスプレイを装着させたツナは、ミトンを着けて次の段階に移る。

 

『よし、始めて』

『え?あの…手錠は?』

『壊していいよ』

 

 破壊していいと言われたツナは、手錠をつけたまま死ぬ気丸を飲み、ハイパーモードになると、一瞬で手錠を破壊した。

 

「普通の手錠でも、かなり頑丈にできているはずなのだが…」

『どうだツナ』

『…視界がかすむ』

『やはり調整に時間が必要だな』

『どれくらいかかる?』

『20分もあれば』

『かかりすぎだ。リボーン、その後の連絡は?』

『電波が悪いらしく、誰からもねーぞ。今は無事を祈るしかねーな…』

「山本さん達、無事だといいけど…」

 

 未だ連絡の取れない山本達が無事であることを願う響達。

 

『スパナ…さん?コンタクトの調整、何とか早くできませんか?』

 

 一時して、ハイパーモードを解除したツナがスパナに問いかける。実は先程、ツナのヘッドフォンに一瞬だけ山本の声が聞こえ、不安になっていたのだ。

 

『何を言われても完成時間は変わらない。ウチのポリシー』

『…はあ』

『ふむ…なあ、スパナ。おまえ白くて丸い装置のこと知ってるか?』

 

 リボーンがそう言うと、ツナのヘッドフォンから目的の装置が映し出される。

 

『こいつなんだが…この基地のどこかにあるはずだ』

『……あ』

『知ってるんですか?』

『正一の研究所にある装置だ』

『入江正一の!?』

『何を研究してんだ?』

『……ずっと前に聞いた時は、亜空間のエネルギーを捕まえるってつぶやいてたな』

「あくうかん?」

『そんなもん何に使うんだ?』

『相当ありえない話だよ。たしか時空間移動絡みの…いわゆるタイムトラベル』

『『タイムトラベル!!?』』

『あ…(言ってよかったんだっけ…?)』

『リボーン!!』

『やっと点と点がつながったな…奴がタイムトラベルの研究をしていたとなると、過去へ戻るために入江を標的にするってのはドンピシャリだな』

 

 何やら答えを導きだす二人を不思議そうに見るスパナ。

 

『オレ達は10年バズーカでこの時代に来てしまって、過去へ帰れなくなってたんです!!その手がかりが入江正一にあると聞いてここへ来たんだ!!』

『10年バズーカ…?あ…だから子供なのか』

「いや、今まで不思議に思わなかったのかよ…」

『この感じだと、入江は手がかりどころか元凶そのものなのかもな。この装置も、過去へ帰れないことと深く関係してそうだぞ』

『うん…やっぱりこの侵入作戦はまちがってなかったんだ…これで入江を何のために倒すのかはっきりわかった…入江正一を捕まえて、オレ達が過去へ帰る方法を白状させるんだ!!』

『だな』

 

『何に気づいたって、時すでに遅しだよ』

 

「誰だ!」

 

 ツナが入江捕獲に意気込んでいると、部屋の入り口に、アフロヘアーが目立つグラマラスな女性と、彼女を取り囲むように、ツナのように額に炎を灯す屈強な4人の男が立っていた。

 

『あんた達はここで永遠におねんねするんだからね』

『……アイリスと死茎隊…』

『下がってろ』

 

 ツナはすぐにハイパー化すると、スパナを庇うように立ち塞がる。

 

『準備はいいかい?ボンゴレボーイ』

 

 アイリスと呼ばれた女はジャケットのジッパーを下げはじめ、ツナはいつでも動けるよう身構える。

 

『やめとけボンゴレ。死茎隊は今のあんたが敵う相手じゃない』

『そうか?ツナはおまえのキング・モスカと相打つほどの強さだぞ』

『だからだ。前に死茎隊の戦闘データを拝借してキング・モスカとの戦闘シミュレーションをやったことがあるが…ボロ負けだった』

「なっ!?沢田をあそこまで追い詰めたキング・モスカよりもさらに強いだと!?」

『ふーん…死の忠告をしてやるなんてお利口じゃないか、スパナ!まぁどっちみち、裏切り者のあんたもここで死ぬんだけどね』

『え…』

「何『何でオレも?』みたいな顔してんだ!ツナを匿って、更には必殺技の完成まで手伝ってるとなりゃ、裏切り者扱いされてもしょうがねぇだろ!」

『さぁ、いくよ下僕ども』

 

 アイリスがそう言うと、死茎隊がアイリスの前に立ち、アイリスの持つ鞭に紫色の炎が灯る。

 

『燃えてきな!!』

 

 するとアイリスは、死茎隊を鞭でおもいっきりしばいたのだ。

 

「いきなりの女王様!?」

「バカなこと言ってんじゃねぇ!良くみろ!」

 

 鞭でしばかれた死茎隊が苦しみだしたかと思うと、突如全身の筋肉が異様な膨張を起こし、まるで怪物のような体に変わってしまった。

 

【「何だ!?」】

『増強ってさ♥️』

『で…出た…死茎隊の雲の肉体増殖』

【肉体増殖…?】

 

 歪な体に変わった死茎隊は、到底人間とは思えない雄叫びをあげる。

 

『何だありゃ…人間なのか?』

『……元々はね』

『さあ、ひねっといで!下僕ども♥️』

 

 アイリスからの命令を受けた死茎隊がそれぞれ動きだす。

 二人の男が遠くにいるツナに向け腕を伸ばす。すると腕はみるみる伸びていき、ツナの元まで伸びていく。

 

「筋肉だけでなく、関節までも増殖しているのか!?」

 

 それをみたツナは一瞬驚くものの、すぐに手を構え受け止める。だがキング・モスカを越える力を持つ死茎隊の力を完全に受け止めきれることができず、ツナの足が宙に浮いてしまう。そこへ死茎隊の一人が足の筋肉を増殖させて迫ると、ツナの体を蹴り飛ばした。その力はあまりにも強く、ツナは血を吐き出しながら勢いよくぶっ飛び、壁を破壊して隣の部屋まで吹き飛ばされてしまった。

 

「ツナ!」

『……だからムリだって…』

『本当にあいつら人間なのか?』

『─死茎隊。ミルフィオーレ人体覚醒部の被験体だ…』

「人体、覚醒部?」

『改造された肉体が全身をおおう特殊なスーツとアイリスのムチの雲の炎によって異常な体質変化を起こし、人体に眠る攻撃能力が覚醒しあーなってる』

「チッ!いわゆる人体実験かよ…見ていて吐き気がする」

『人体実験か…ひでーことしやがる』

『…それは少し違う。あいつらは自ら進んで肉体の改造をしたんだ』

「なに?」

『あの被験者達は元々人体覚醒部の博士だった。4人の共通点は1人の助手にほれていたこと…アイリスだ。彼らは、一番アイリスを喜ばせるのは自分だと競うように、それぞれ自らの肉体にメスを入れ、肉体を改造していった…あれはその成れの果ての姿…生きがいは殺戮と…妖花アイリス』

『よくやったよ下僕ども♥️』

 

 アイリスがそう言うと、死茎隊達は嬉しそうな声をあげアイリスのもとに群がる。

 

「なんと歪な…」

『さぁ、ボンゴレはカベの向こうだよ!開けてやるから腕ごとかっさらっといで!!』

 

 アイリスと死茎隊の関係にシンフォギアメンバー全員が顔を歪めていると、アイリスが部屋に取り付けられていたレバーを下げ、ツナが突き抜けた壁が上がりはじめる。すると扉が上がりはじめてすぐに、まっすぐ立つツナの姿が現れる。

 

『へぇ…なかなかしぶといじゃないか』

『スパナ、何をしている。早くコンタクトを完成させてくれ』

『え?』

 

 いきなりそう言われ驚くスパナ。そんな中、リボーンは彼の考えていることを理解したのか、『ニッ』と口角をあげる。

 

『完成時間が変わらねぇのがポリシーなんだろ?早くつくれ、スパナ』

『…でも、死茎隊はキング・モスカより強いって言ったろ?ムダなあがきだ』

『ツナはそう感じてねーぞ』

 

 リボーンがそう呟くと同時に、ツナが両手から炎を噴射させ死茎隊に向かっていく。

 

『いいやムダさね─やっちまいな』

 

 アイリスの命令に忠実に従う死茎隊。するとツナは、先程のモスカ戦とはうってかわって、死茎隊の攻撃を的確にかわしながら懐へ潜り込み、どんどん攻撃をいれていく。

 

『何だい?どーなってんだい!?』

『ウチの知るボンゴレとは…まるで違う…』

『キング・モスカ戦とでは、違う所が2つあるからな』

 

 ツナの変化に驚くスパナに、リボーンが説明する。

 

『1つはキング・モスカを倒した経験。それがあの時のツナとは比べ物にならない程に戦闘力を引き上げてる』

『でも、あれは成長とかのレベルじゃない…』

『ああ。もう一つは、相手が機械ではなく生きた人間だってことだ』

「そうか!例え人体実験で変わっちまった奴らでも、人間であることには変わりねぇ!それなら!」

『生身の人間だからこそみせる動きや考えの予兆というものがある。ツナは、それを感じ取ってんだ。これこそがボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)に継承される、"見透かす力"。またの名を─』

 

『「超直感!!!」』




少し微妙なところですが、残り文字数もあまりないのでここで今回は終わりです。次回はついに完成したX-BURNERが火をふきます!


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ツナの過去(10年後編):⑧

お待たせいたしました!
やっと!初のX-BURNER回を書けました!そして、未来編の厄介な中ボスが…!


『"見透かす"力…超直感─またボンゴレはウチの想像を上回ってきた…ますますそんな男の編み出した─X-BURNERの完成形を見てみたい!待ってろボンゴレ』

 

 そんなことを呟きながら、スパナはパソコンを叩いてコンタクトディスプレイの調整を進める。そんな中、死茎隊はツナに手も足も出ず、全員のされていた。

 

「さすがツナ!こんなやつらにゃ負けやしねぇ!」

『ええい何してんだいあんた達!!あんなガキ1人に手まどって!!─そーかい燃えたりないんだね!!』

 

 そう言うとアイリスは鞭を取り出し、再び死茎隊をしばきあげる。すると先程まで床に倒れていた死茎隊が起き上がり、全身の筋肉がさらに膨れ上がる。肩の筋肉なんか、頭よりも大きくなっていた。

 

「ひでぇ…あいつら、もう人としての原型を失っちまってるじゃねぇか!」

『行きな!!』

 

 アイリスの命令と共に、死茎隊がツナに向かって腕を伸ばす。

 それを回避したツナは、死茎隊の一人の背後に回りながら考える。

 

【正攻法じゃ消耗するばかりだな…よし!】

 

 ツナは、回り込んだ死茎隊の周囲を飛び回る。そしてその動きが徐々に速まり─

 

X(イクス)ストリーム!!!』

 

 死茎隊の体を炎の渦が包み込んだ。そして渦が晴れると、中からは原型が崩れ、肉の塊みたいになった死茎隊の姿が現れた。

 

「何あれ!?始めてみたよ!?」

「Xストリームは敵の肉体の周囲を超高速で移動し、相手の器官を片寄らせる技だ。他にも、発生する炎の渦に敵を閉じ込める、なんてやり方もできるぞ」

『ええい何やってんだい!!カス()が!!』

 

 リボーンが初めてXストリームを見た響達に説明していると、アイリスが鞭をもって肉の塊になった死茎隊に近寄る。

 

『あんたらこれしか能がないんだよ!!あたいはゴミはいらないよ!!』

 

 アイリスはそう罵りながら何度も何度も鞭で叩く。すると塊になり動けなくなっていたはずの死茎隊が腕を動かした。

 

『甘いねぇボンゴレ!!こいつらは死なない限り戦い続けるよ!!』

【「何て奴だ…」】

『スパナ、X-BURNER用コンタクトはどうだ?』

『あとちょっと…』

『待ってろツナ…例のブツはもうすぐ完成だ。完璧なX-BURNERならそいつらだって…!』

 

『甘い甘~い─バ~!!』

 

 そこへ聞き覚えのある声と、見たことのある攻撃がツナに襲いかかる。

 

『遅いじゃないか!!ジンジャー・ブレッド!!』

『おまたせ♪』

 

 ツナが声の聞こえた方向を見ると、先程倒した個体と同じ種類の服ではあるが、色が真逆の白に変わったジンジャーが宙を浮いていた。

 

「あいつ、また来やがったのか!」

『気をつけろボンゴレ。そのジンジャーは本体じゃなく人形だ。あんたの超直感は効かない』

『フフッ…スパナ、本当に裏切ってんの♪おせっかいは─死刑決定な♪』

「危ない!」

 

 パソコンをいじりながら話すスパナに、ジンジャーは容赦なく攻撃を行う。

 

『よけろスパナ!』

 

 ツナがスパナに注意を促すが間に合わず、スパナを爆煙が埋め尽くす。

 その光景を見たツナがショックを受ける。すると煙の中から、傷をおいながらも、パソコンを操作しながら走り出すスパナが現れた。

 

「あいつ…!調整なんかしてないで早く逃げろ!」

『ウチのメカニック魂をみくびるな。させると言ったら必ず完成させる』

「なんという意地だ…!」

『あいつ、妙なもん作ろうとしてるね…先にやっちまった方がいいよ、ジンジャー』

『賛成♪』

 

 スパナがコンタクトディスプレイを作っていることに気づいたジンジャーは、走るスパナに(照準)を向ける。それに気づいたツナはスパナを庇いに向かおうとするが、死茎隊の腕が体に絡み付き身動きを封じられてしまう。

 

『ホラホ~ラ♪』

 

 ジンジャーは走るスパナを面白がるように弾を撃ちながら追い詰めていく。

 

『ガホッ!ゲホッ!』

「あの野郎…あんだけ傷ついてやがるのに、まだツナのコンタクトの調整をしてやがる…!」

『……あと少し…』

「頼む!早く完成してくれ…!」

 

 追い詰められながらも調整を行い続けるスパナ。ツナはそんな彼を助けようと、自分の体に巻き付いた死茎隊の腕を必死に剥がしていく。

 

『バイバイ、スパナ♪』

『できた』

『スパナ!上だ!!』

「いけない!避けて!!」

 

 しかしツナの努力は報われず、絡み付いていた最後の腕を引き剥がす直前に、ジンジャーの攻撃がスパナを完全に捉えてしまった。

 爆発によって、スパナが居た場所から黒煙がたちのぼる。

 

「スパナさんっ!!」

『ハハハハ!これが裏切り者の末路だよ!ざまーみろってんだ!!』

 

 黒煙がたちのぼるなか、アイリスが爆発に飲まれたスパナを嘲笑う。しかし、スパナの努力は無駄にはならなかった。

 黒煙が薄れ始めると、壊れたパソコンの傍で黒焦げで横たわるスパナの姿が…

 そんな彼の手には、コンタクトディスプレイが入ったケースが握られていた。

 

「そういえば…!スパナさん、爆発に飲まれる前に『できた』って…!」

 

 スパナは残った力を振り絞り、ケースをツナに向けて投げた。

 

『させないよ♪』

『ボンゴレをつかまえな!!』

 

 それを阻止しようとジンジャーと死茎隊が動くが、ツナは死茎隊の腕をかわしケースを掴み─

 ジンジャーの攻撃による爆発が、ツナを飲み込む─

 

『─眠るのはまだ早いぞ、スパナ』

 

 そして、煙の中から現れたツナの両目には、それぞれ二本のスロットルバーが写し出されていた。

 

『お前が見たがっていた完璧なX-BURNERを見せてやる』

「届いた!スパナさんの努力が届いたんだ!」

「よっしゃ!こっからはツナの反撃開始だ!」

 

 準備が整ったツナを見てもりあがる響達。するといきなり、彼女達とリボーン達の視界に、二本のスロットルバーが写し出される。

 

「うわ!?こ、これって…!」

「沢田の目に写し出されているディスプレイの映像か!」

「こんなのも見れるなんてな…ホント便利な空間だな」

『ツナ、コンタクトの使い方はわかってるな』

『ああ』

『フフッ♪たいそうもったいつけるけど、要は…ハッタリだね♪』

 

 ジンジャーがそう言ってツナに向けて攻撃を行う。

 ツナはその攻撃を右のグローブから柔の炎を噴射して回避する。すると、ツナと響達の視界に写る二本のスロットルバーの内、上のバーのゲージ半分が緑色に染まる。そして、今度は左のグローブから剛の炎を噴射させて移動すると、今度は下のバーのゲージ半分が赤色に染まった。

 

【よし…正常に作動している】

「スパナさんが言ってた通りだ!」

 

 響は視界に写るバーを見てそう言葉にし、スパナが話していたコンタクトディスプレイの説明を思い出す…

 

~それは、ツナがコンタクトディスプレイの試運転を行う前のこと~

 

『説明するぞ、ボンゴレ』

 

 コンタクトディスプレイを目につけ、ハイパーモードになろうとしていたツナにスパナが彼のヘッドフォンをもって話しだす。

 

『まず、コンタクトはあんたのヘッドフォンと音声で連動させてある。コンタクトの情報は耳からも入るはずだ』

『「耳からも…?」』

『次にディスプレイの見方だが、上のスロットルバーが右手の炎(ライトバーナー)、下のスロットルバーが左手の炎(レフトバーナー)の出力を表している。剛の炎は赤く柔の炎は緑色にバーに表示されるはずだ』

「なるほど…それならかなり見やすくなるな」

『そして、X-BURNERだが─「オペレーションX」のかけ声で自動的にコンタクトが発射誘導プログラムを開始する』

「あ!確かにツナがX-BURNERを撃とうとする度に言ってた!あれって気合い入れみたいなものかと思ってたよ…」

『画面がX-BURNER用に切り替わり、両手の位置で動くターゲットが出現し、上下のフルスロットルバーから中心に向けて出力のバランスラインが伸びる。安定したX-BURNERを撃つには、ターゲットを中心に合わせて左右の出力をまったく同じにすること─つまり、両メーターから伸びるラインを一直線にすることだ』

 

「─って、スパナさんは言ってたけど…」

「左右の腕の軸や左右の炎の炎圧量、そして放つ的…最低でもこの三つの調整を一度に行わなければならないとはな…」

 

 スパナの説明を思いだし、響達がX-BURNERの凄さを改めて理解していると、ツナはスパナの傍まで移動し、空中で反転し静止する。そして─

 

『オペレーション……………X(イクス)

〔了解シマシタ ボス!X(イクス)-BURNER(バーナー) 発射シークエンスヲ 開始シマス!〕

「─って、噂をすれば早速かよ!?」

『……いきなり空中で…?』

 

 完成版の初回を空中で行おうとするツナを心配するスパナだが、そんな不安を打ち消すように、後ろに向けたツナの右手グローブから、過去のツナが今まで出していたものとは比べ物にならない程の大きさと純度の炎を放出し始めた。

 

「いきなり全力か!」

〔ジンジャー!!アイリス!!聞こえますか!?〕

 

 ツナの放つ炎に気圧されていたアイリス達の通信機から、声が聞こえてくる。

 

〔モスカのレコーダーから戦闘記録を解析したところ、ボンゴレが起こすその攻撃は、高エネルギーを前方に放つ技だと考えられます〕

〔真っ向から受けては危険だ!!回避だ!!回避しろ!!〕

「!今の男性の声…もしかして、今のが入江さん?」

〔ライトバーナー 柔ノ炎 15万F(フィアンマ)V(ボルテージ)デ固定!レフトバーナー 柔カラ剛ニ変換シツツ 炎エネルギーヲ グローブクリスタル内ニ 充填!〕

 

 そんな間にも、ツナのX-BURNERの準備は進んでいく。

 コンタクトディスプレイに写し出されたターゲットマーカーが動き回るなか、ライトバーナーを示す上のスロットルバーのバランスラインがゲージ残り一つの状態で止まり、今度はレフトバーナーを示す下のスロットルバーのバランスラインが移動を始める。

 そんな中、先程入江から回避命令を受けた筈のアイリスは、回避する様子を見せず、真っ正面からツナを見据えていた。

 

『アイリス…?』

『強力な飛び道具ってわけかい─面白いじゃないか』

 

 アイリスはツナを見ながら、不適な笑みを浮かべる。

 

『マッスルスクラムだよ!!』

 

 アイリスがそう命令すると、死茎隊が一ヶ所に集まって肩を組みはじめ、そのまま一体化していき大きな肉の壁が出来上がった。

 

「合体しやがった!?」

『受けて立つ気か…』

〔ターゲット ロック!ライトバーナー 炎圧再上昇!〕

 

 コンタクトディスプレイに写し出され動き回っていたターゲットマーカーがマッスルスクラム状態の死茎隊を捉え静止し、上のスロットルバーのコントロールラインが移動を再開させる。

 

〔18万…19万…20万FV!!〕

 

 ライトバーナーのゲージが最端に達し、ツナがゆっくりと左手を前に向け始める。

 

〔レフトバーナー 炎圧再上昇…19万…20万FV!!〕

 

 さらにレフトバーナーのゲージも上昇を再開させ、(ライト)と同じく最端に達し、両メーターのラインが一直線になる。そしてツナの左手は死茎隊を捉え、手を少しずつ開いていく。

 

〔ゲージシンメトリー!!発射スタンバイ!!〕

『うおお!!』

 

 ディスプレイの中央に『X』の文字が浮かび上がる。そして─

 

 

X(イクス)-BURNER(バーナー)!!!』

 

 

 左グローブのクリスタルに蓄積されていた炎が一気に放出され、死茎隊やアイリスだけでなく、ジンジャーすらも巻き込みながら壁を貫いていく。その威力はすさまじく、風圧は傍にいたスパナの身体を浮かせ、一撃だけで部屋三つ分の壁をぶち抜いていき─炎が収まったあとには、炎に焼かれて部屋中黒焦げになった空間が出来上がっていた。

 

「改めてみても、凄い威力だ…!」

「あれだけのものをくらえば、いくら筋肉が増殖していようとも無事ではすまんだろう…ノイズを炭の欠片も残さず消滅させるほどだからな」

「そういえば余談だが、この基地の壁はすべて死ぬ気の炎への耐性が高い素材で出来てたらしい。そんな代物を三つもぶち抜くとは、今更だが流石だと言えるな」

「それってつまり、威力が化物じみてるってことじゃ…」

〔ジンジャー!!アイリス!!〕

 

 響達シンフォギアメンバーがX-BURNERの威力に驚いていると、ジンジャーの成れの果てである人形の手首についた通信機から、入江正一の声が聞こえてくる。

 

〔…あまり期待はできないが…もし無事なら応答してくれ〕

『入江正一か』

 

 ツナは通信機を拾うと、ジンジャーの代わりに話しかける。

 

『お前がオレ達を過去からこの時代に連れてきたのはわかってる』

〔…!!沢田綱吉か!!〕

『どこにいる?研究所と丸い装置はどこにあるんだ!!』

 

 通信機の向こうにいる正一にそう投げ掛けるツナ。しかし、X-BURNERを受けてかなりのダメージが蓄積されていた通信機は、答えを聞き出す前に故障してしまった…

 その後、怪我をしているスパナの治療をしていると、リボーン達の元に通信が入る。

 

『ツナ、草壁から緊急通信が入ったぞ』

『え?草壁さん!?』

『奴もここに来てるが、おまえ達とは無線のシステムが違うからボンゴレアジトに連絡がきてるんだ。それによると─10年前のヒバリが研究所近くの部屋で戦ってるらしい』

『「えっ!?」』

『他の連中も来ちまってるらしい。ラル・獄寺・山本・了平だけじゃなく、ヒバリにクロームにランボにイーピンもな』

『んなー!!?ヒバリさんに…クロームに…ランボにイーピン!?』

「ボンゴレファミリー大集合♪」

「さらに雲雀が10年前と入れ替わってしまっている…これはかなり不味い状況ではないか…?」

『くわしい話は後だ。これで研究所の位置はつかめそうだが、幻騎士って奴と戦ってて、かなりヤバイらしいんだ』

「な!?」

【ゲンキシ…?ヤバイって…】

『ウチもつれてけ、ボンゴレ』

 

 ツナがリボーンの話に夢中になっていると、傷だらけのスパナが同行しようとする。

 

『ちょっ!でもそのケガじゃ…』

『X-BURNER用コンタクトはデリケートなんだ…メンテナンスはウチにしかできない。それに足手まといにはならない』

 

 そう話すスパナの手には、太くて長いチューブが握られていた。

 その後、ツナがチューブの先端を自分とスパナの身体に巻き付けて繋ぎ、スパナは飛んでいる最中に振り回されないよう制御するための小型パラシュートが二つついたバックをからうと、ツナはハイパーモードになり目的の研究所に向け飛翔する。

 

『大丈夫か?スパナ』

『……問題ない』

 

 いっとき飛び続けた後、スパナが今のスピードに耐えれることを確認したツナは、炎圧をあげさらに速度を上昇させる。

 

『リボーン、研究所はまだか?』

『ああ、直線ならすぐだがルートが入り組んでてな』

『おまえ…みんながここに来てること、知ってたのか?』

『知らねーぞ。この時代のヒバリ達がクロームとランボ達を勝手に連れ出したんだ。オレ達の目を盗んでな』

『……なんでランボまで…』

「そうだよ!まだ子供のランボ君やイーピンちゃん、それに容態が安定したのか分からないクロームちゃんまで…何で連れてきちゃったの!?」

『そりゃあ、あれだろ?ボンゴレの守護者だからだ』

「守護者だからって理由で…」

『そーいや、ツナ。確認し忘れたんだが…』

 

 リボーンの返答を聞いたツナは、眉間のシワをさらに深くする。そんな彼にリボーンが何か聞こうとしたその時、ツナ達の目の前を壁が塞がんと動き出した。

 徐々に閉まる壁の隙間を通り抜け、大きく開けた空間に出たツナは、すぐにチューブを引き、壁が閉まるギリギリのところでスパナを手繰り寄せて分断を阻止する。

 

『これは…』

『入江の仕業だな『!』獄寺の情報では、奴は基地の中を自由に動かせるらしい』

「なんだと!?」

「えと、つまり…私がメローネ基地の地図を見た時に言ってたことって、大体あってたって…え!?」

『…すごい。さすが正一らしい仕掛けだ』

 

 リボーンの話を聞いたスパナが感心していると、彼らの頭上から今度は巨大なブロックが複数降り注いできた。

 それを見たツナは、スパナが巻き込まれないようブロックから少し距離を離してかわしていく。

 

『リボーン…確認し忘れたことって何だ?』

『お前、大事なお守り忘れてこなかったか?』

「あ、そういえば…」

『…ああ、忘れてない』

 

 リボーンの質問にそう答えたツナの胸ポケットからは、彼のいっていたお守りの紐が隙間から飛び出していた。

 

「いきなりだけど、ここでメローネ基地について説明するね♪このメローネ基地は、正チャンが僕に頼みこんで作成した超巨大な匣─正確には、匣兵器と言うよりモスカみたいに死ぬ気の炎を動力にした機械ともいえる巨大建造物なのさ」

「はぁ!?この基地全部が、入江って奴の一つの匣だと!?」

「その通り♪300メートル角の立方体で構成されていて、晴属性の炎による活性の力でコケを成長させて、その力で各ブロックを組み変えることが出来るのさ!まあ簡単にいえば、植物を晴の活性で操って、その力で部屋を移動させてるってわけ♪だからそれを応用すれば、()()()()()も出来るんだ♪」

 

 そう言って白蘭が指差した先─上空を見上げた響達の視界に入ったのは、人を容易に飲み込めるほどの大きさまで成長したハエトリソウの群れだった。

 

「ハァァ!?」

『……これ…』

『「食虫植物ってレベルじゃない…!!」』

 

 巨大なハエトリソウの群れが迫るなか、ツナは胸ポケットのお守りを握りしめ、秘密基地で自分達の帰りを待っている京子達女性陣とジャンニーニ、そして共にメローネ基地に潜入している仲間達の姿を思い浮かべる。

 

【邪魔をするな!!】

 

 ツナは死ぬ気の炎を纏ってハエトリソウの群れに突っ込んでいき、すべてのハエトリソウを突き抜けていった。その光景をみたシンフォギアメンバーが驚きのあまり固まってしまう。

 その後、ツナ達は通り抜けた先で大量の追尾ミサイルに追いかけられる羽目になったが、スパナが持参していきた特製チャフ・フレア砲で撹乱させるファインプレーを見せ難を逃れる。

 そしてツナ達は、入江正一の研究所及び目的の装置までのラストスパートである直線の空間に入った。

 

「ここを通り抜ければ…」

「いよいよ目的のブツにたどり着けるってわけか」

「でも、かなり重要にしてる装置っぽいから、簡単にたどり着けるとは思えないよ…」

「そうそう、人間って大事なものほど厳重に守るからね♪だから正チャンは、最後の関門として()を配置したんだ」

「彼…?それはいったい…」

『そろそろ草壁から連絡があった地点だぞ』

 

 響が白蘭のいう彼が誰なのか不思議そうにしていると、ホログラムのリボーンが目的地が近いことを知らせる。するとツナ達の遥か前方から、なにやら大きな物体がこちらに向けて近づいてきていた。

 ツナとシンフォギアメンバーが目を凝らすと、向かってきていた物体はなんと─

 

【「ロケット!?」】

『まかせろボンゴレ。またウチがチャフ・フレア砲(こいつ)でコースをそらす』

 

 先程多くのミサイルを撹乱させたチャフ・フレア砲を手に持ったスパナを確認したツナは、グローブの炎を操作してスパナの背後に移動する。そして前に出たスパナが、チャフ・フレア砲を前方に放った。

 すると不思議なことに、迫ってきていたロケットが徐々に分裂し、最終的に24つの小型ミサイルになるまで分裂すると、トビウオに変化したのだ。

 その光景をみたツナは、繋いでいたチューブを切断してスパナを下ろし、向かってくるトビウオ達を死ぬ気の炎を膜状の壁を展開して受け止める。

 ツナが展開した壁にぶつかったトビウオ達は爆発を起こし、ツナが発生した煙を潜り抜けると、今度は大きな槍を持った、巨大な鎧が待ち構えていた。

 

【人…なのか!?】

「なんだ、あの鎧は!?さっきまではあのようなものはなかったはずだぞ!?」

「一体全体どうなってやがんだ!ロケットがトビウオになりやがったと思ったら、今度はでっけぇ鎧が出てきやがって!」

 

 シンフォギアメンバーが目の前で起きている現象に困惑するなか、ツナは鎧に迫り、力を込めた拳を振り抜く。すると鎧は簡単に砕けちり、中から霧が溢れ出す。そしてツナの素肌に謎の切り傷が現れ出した。

 

「何が起こってるの!?」

「霧─そうか!先程の鎧は霧の炎で『構築』した幻!つまり目に見えない敵が─」

【いる!!】

 

 超直感で気配を感じ取ったツナが後ろを振り返ると、剣を持った男がすぐそばまで迫ってきていた。ツナは振り返ると同時に、迫ってきていた剣をグローブクリスタルで受け止める。すると横から別の気配を感じ、反対の手から炎を展開して防ぐと、爆発が起こる。そして間髪いれず先程爆発したナニカと同じ気配を感じ取ったツナが上に急上昇すると、先程までツナが居た場所で爆発が起こり、男がその爆発に巻き込まれた。

 

「自爆、したのか…?」

「そうだったとしても一体、どっから爆発物が…」

『よく見破ったと言いたいが、相手が超直感を持つボンゴレである以上、驚きはしない』

 

 翼が落下していく男を観察していると、ツナの背後に突如、先程爆発に巻き込まれ落下していったはずの男が現れた。

 

「なんでだ!?あいつは確かにさっき、爆発を食らって…!」

「まさか、あれも幻だというのか!?」

 

 度重なる幻術を前に困惑していると、突如周囲の景色が変化する。

 

「今度は周りの風景まで…」

「こんな何度も幻を見せられちまったら、何が現実か分からなくなっちまう…!」

『ここは通行止めだ。研究所には指一本触れることもかなわぬ』

『ボンゴレ!!そいつが6弔花の幻騎士だ!!』

「あいつが雲雀と戦りあってたっていう…!?」

『なぜ、ここに…?みんなと戦っている相手のはず…』

「そうだよ!なのになんで!?みんなは!?」

『…みんな?貴様の守護者のことか』

 

 響達が困惑するなか、そう呟いた幻騎士に視線が集中する。

 

『なかなか手こずったが、奴らは今頃─藻屑と化してるだろう』

「なんだと!?」

「嘘、だろ…!?」

『何をした!!』

 

 幻騎士の発言を聞いたツナは怒りを露にし、幻騎士に迫り殴りかかる。しかし、ツナの拳は幻騎士が居た場所に突如現れた骨にぶつかり、横にかわした幻騎士が剣の柄頭でツナの顔を殴る。

 

「いきなり骨!?」

「しかもあの現れ方…まるで幻騎士()の身代わりになったかのような…」

「お!感がいいね翼チャン!あの骨は、幻チャンが身に付けてる"骨残像(オッサ・インプレッショーネ)のヘルリング"の能力で、まれにダメージを肩代わりしてくれるときに現れるんだ♪」

 

 白蘭が説明をしている間に、ツナは体勢を立て直し、背後に回った幻騎士に殴りかかりラッシュを行う。

 

『─所詮、子供』

 

 しかし幻騎士は、ツナのラッシュを手に持った剣で全て防ぐと、再び背中に回り込み、両手の剣で斜め十字に斬りつける。

 

『ぐああ!!』

「ツナ!!」

 

 そして幻騎士は追い討ちとばかりに、勢いをつけたかかと落としを決めてツナを地面まで叩き落とした。

 

『ボンゴレ!』

『ぐ…ああ…』

『あいつハンパねーな…オレの見る限り、10年後のヒバリと同じレベルの体術だ…今のツナじゃ歯が立たねぇ…』

「そんな…!」

「それだけじゃないよ?彼には、ボク直々にとあるアイテムを3つ渡してあるんだ♪」

「白蘭さんが、直々に…?」

「おい!奴の様子がおかしいぞ!」

 

 白蘭の言葉に食いついていた響がクリスに促され幻騎士を見ると、彼の体を霧が覆い始めていた。

 

「1つ目はさっき言ってた、霧属性最高ランクのリングである"骨残像のヘルリング"。2つ目は、匣兵器の開発に携わった人物の一人であるケーニッヒが残した霧属性最強の剣である"幻剣(スペットロ・スパダ)"。そして最後の3つ目が、同じくケーニッヒが作り出した、傑作と言われる甲冑(アルマトゥーラ)シリーズの一つである"霧の2番(ネッピア・ヌーメロ・ドゥエ)"─どれも強力で扱いがムズいから、ボクの許可無しには使えないようにしてある非常事態特別強襲用のアイテム─いわゆる"大戦装備(アルマメント・ダ・グエーラ)"さ♪」

 

 白蘭の話を耳で聞きながら、霧が晴れて大戦装備を身に纏った幻騎士を目の当たりにした響達が息を飲む。

 

『うう…』

『白蘭様は貴様を全力で倒せと仰せられた─白蘭様の言葉は神の啓示─くつがえることはない』

「神の─」「啓示?」

「さすが幻チャン、ぶれないなぁ!幻チャンはね、以前ワクチンが存在しない流行病に感染して死にかけてたんだ。そんな彼を、存在しないはずのワクチンで救ったのがこのボク♪それ以来幻チャンってば、ボクに忠誠を誓うようになって神様扱いしてくれるようになったんだ」

『無駄な抵抗はやめ、一息に殺されるがいい』

 

 幻騎士は、背中から大量の血を流し、地面で仰向けになっているツナを見ながらそう告げる。

 

『オレとの実力差は骨身にしみてわかったはずだ…同じことを貴様の守護者共にも言ってきたが、どいつも力の差をわかりつつ抵抗し無惨に散った─貴様はそれほど愚かでもなかろう、ボンゴレX世(デーチモ)

 

 剣を構え、冷たい目で見ている幻騎士に対し、ツナは痛む体に鞭を打って何とか起き上がる。

 

『……お前の強さは…よくわかった』

「ツナさん…」

『…だが─わかっていても、オレは()る!!』

 

 ボロボロになりながらも、そう言って幻騎士を睨み付けたツナの瞳には、未だ確固たる覚悟が残っていた。そして、彼の瞳を見た幻騎士は何やら動揺を見せる。

 

「沢田達の前に現れてから、一度も表情を変えなかった男が、動揺した…?一体何が…」

『オペレーション…X』

〔了解シマシタ ボス!X-BURNER 発射シークエンスヲ 開始シマス!〕

 

 起き上がったツナは、すぐにX-BURNERを放つ準備を始める。

 

「きた!X-BURNERなら、例え雲雀の野郎くらい強いやつだって…!」

「しかし、先程のジンジャー・ブレッドとアイリス、死茎隊との戦いで入江正一がX-BURNERの存在を知っていたと言うことは、奴にもまた─」

〔ライトバーナー 炎圧上昇!2万…〕

『それはさせんぞ』

 

 翼の予想通り、幻騎士はツナがX-BURNERの体勢に入ったのを確認すると、すぐさま接近し斬りかかってきた。

 ツナはライトバーナーからの放出を止め、すぐに両手をクロスして防ぐが、勢いに負け吹き飛ばされてしまう。

 

「やはり承知の上かっ!」

「しかもあいつの剣、斬るときにまるで分裂したかのように増えやがった!」

【─だがやはりX-BURNERの情報を知っている…】

 

 吹き飛ばされながらも、何やら考えていたツナはそのまま壁に叩きつけられる。

 

「ああ!」「ツナ!」

『バカツナめ…ただでさえX-BURNERは発射までにスキがでかいんだ。あれを奴相手にあんなバカ正直に撃てるわけがねえ』

『…問題はそれだけじゃない』

「なに?」

『ボンゴレの炎力(パワー)が著しく落ちてる…X-BURNERの炎圧の伸びも5分の1以下だ…』

『やはり、そうか…ツナの疲労はピークに達してるんだ…連戦と3回のX-BURNERでもう気力もほとんど残ってねえんだろう…』

『……この出力ではX-BURNERを撃てたとしても…』

「奴を倒すまでには至らない、か…っ」

 

 現状のツナでは打つ手がないことを知り悔しむ翼。

 

〔─リボーン…〕

 

 すると、ボンゴレの通信に息の荒いツナの声が届いた。その声を聞いたリボーンは、自らの声を潜め話しかける。

 

『…ツナか?』

〔─頼みがある…〕

『どうしたツナ、言ってみろ』

 

 リボーンがそう言うと、ツナは頼みごとを伝え始める。そしてその頼みごとを聞いたボンゴレ基地メンバーと響達は驚きを見せた。

 

『なるほど…目には目をか!あいつばかり凶悪な武器を使いまくってずりーからな』

「確かに…それが成功すれば、奴とも戦えるようになるかもしれない…だが…」

『だがそんな手が通用する相手とは思えねーぞ?もしうまくいっても、それは一回だけだ。しかも一瞬だぞ』

『─…一瞬あればいい…』

 

 話し合いが終わり、立ち込める煙から姿を表したツナの前には、ゆっくりと降りてきていた幻騎士が待ち構えていた。

 

『…我が幻剣の太刀は、分裂させ複数ポイントの同時攻撃が可能。超直感で気づくことができても対処はできぬ』

「やはりか…例えどれ程鍛えた者でも、人の技であそこまで太刀筋を増やすことができるはずもない」

『散るがいい』

 

 そう言い放つと、幻騎士はツナに斬りかかる。

 ツナはすぐに上空に飛び回避するも、次の瞬間、彼の周りで爆発が起こり、爆風に巻き込まれてしまう。

 

「またあの爆発か!いったいどこから攻撃してきやがる…!」

『…当たるなよ…』

『ぐあ!!』

『ボンゴレ!!』

『…ツナ!!』

 

 幾度も起こる爆発の中、ツナは目に見えぬ攻撃から逃れると、そのままどんどん高度をあげていく。それを見た幻騎士は、止めをさすべく彼の後を追う。

 

『最後にオレに背を向けるとは、愚かな死を選んだな…見損なった』

 

 そしてツナに追い付いた幻騎士は、幻剣で容赦なく斬り捨てた…しかし次の瞬間、幻騎士が斬り裂いたツナの体がまるでノイズが走ったようにぶれ始める。

 

「よっしゃぁ!あいつ、まんまと偽物に引っ掛かりやがった!」

 

 ガッツポーズをとるクリスの言う通り、幻騎士が斬ったツナは偽物─ツナのヘッドフォンから写し出されたホログラムだった。そして本物のツナは─すでに幻騎士のいる位置から離れた場所で、X-BURNERを放つ準備を着々と進めていたのだ。

 

〔レフトバーナー 炎圧上昇!2万5000…3万FV〕

 

 その事に気づいた幻騎士は、すぐに方向転換しツナに迫る。

 

〔ゲージ シンメトリー!発射スタンバイ!!〕

『たった3万!?炎圧が弱すぎる!』

 

 チャージ炎圧の弱さにスパナが驚くなか、ツナはその炎圧で迫りくる幻騎士にX-BURNERを放った。

 

『こうなれば─斬る!!』

 

 すると、幻騎士は幻剣に霧の炎を集中させ、X-BURNERをど真ん中から斬り割いてツナとの距離を徐々につめ始めた。

 

『やはり弱い!!』

「いや、これでいい!これで─」

 

 そのまま幻騎士はツナとの距離をつめていき、幻剣がツナの額を捉えた─かに思えた。

 

『…情報に踊らされたな…』

 

 ツナが静かな声で呟く。

 

『おまえはX-BURNERを警戒するあまり…太刀筋を分裂させず、最も強力で確実な一本に絞った…それならとれる…』

「更に奴は、一本に絞った際に自らの死ぬ気の炎を集中させた…その行為が、この戦況を覆すとも知らずに─」

『…あの構え』

 

死ぬ気の零地点突破 改 白羽取り!!!

 

 ツナは、自分の頭に振り下ろされた幻剣を白羽取りするようにして、死ぬ気の零地点突破 改の構えを取るという神業を披露して見せた。

 そしてそのまま、零地点突破改で幻騎士の全身から炎を吸いとっていく。

 

『ぐ!!』

 

 幻騎士は急速に炎を吸われながらもどうにか振り払うが、すでにかなりの炎を吸いとられて息が上がっており、逆にツナは額とグローブから溢れる炎が膨れ上がっていた。

 

『これで本気で闘える』

『…確かに炎は大きくなったようだが…まるで今まで本気を出せていなかったような口ぶりだな』

『そうだ』

 

 息を整え、表情を崩さずに話す幻騎士に対し、ツナは一言そう答えると、一瞬にして幻騎士の懐に入り込み、強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

 そしてすぐさま追い打ちをかけようとするが、幻騎士も黙って殴られるつもりはなく、ツナの連撃を幻剣で防ぎつつ、霧の幻覚を用いてツナの背後に回る。

 だが、ツナは幻騎士の反応速度を上回る速さで逆に背後をとり、振り向いた幻騎士の頬に渾身の右ストレートを叩き込み、壁に叩きつけた。

 

「無事に炎を回復できたようだな」

「あいつがどっかのバカみたいな無茶な案を言い出した時はヒヤヒヤしたが、これでやっと麻呂眉やろうをぶっ倒せるぜ!」

『炎力を回復しただけじゃない…モスカ戦の時より最大値が上がってる…戦うたびにボンゴレは強くなっている』

『確かにな…………だがおかしいぞ』

「そう?別におかしいところなんてどこも…」

『幻騎士の動きに精細がない…ツナがいくら強くなったって、こんな差がつくはずねぇ…幻騎士が戦いに集中できてねぇ感じだ』

「確かにリボーンの言う通りだ…沢田が奴に戦う意思を示した時から少し様子がおかしかったが、先程沢田が幻剣を受け止めた直後から、明らかに動揺が見えていた…だが、一体なぜ…?」

「…?どうしたんですか?ユニさん。どこか辛そうな顔をして…」

「大丈夫です…ただ、白蘭に忠誠を誓っている彼を見ていると、少し悲しくて…」

 

 未来が悲しげな表情を浮かべるユニを心配する。その直後、幻騎士が突如忠誠を叫び、溢れ出した霧の炎が彼の体を覆い隠す。

 それから少しして、炎の中から現れた彼の姿は最早、人とは言えない─骸骨の姿になっていた。

 

「お、おおおオバケ!?」

「あれも幻覚なのか!?」

「そう願いたいが…」

「あれは幻覚なんかじゃないよ♪ヘルリングで戦力を増加させたのさ」

「あの…さっきから出てきてるヘルリングって、一体何なんですか?ツナたちが持ってるボンゴレリングとは何が違うんですか?」

「ヘルリングは、死ぬ気の炎が発見される以前より存在してた6種類の「霧属性」最高ランクの呪いのリングなんだ♪そのレア度は5ツ星!それぞれが別の呪いを宿しているとされていて、使用者との契約で強大な力を享受するとされてるよ。けど、その力を得るための必要な契約は地獄との契約で、その力を受けたものは代償としてリング自身に己の精神を食わせることになるのさ」

「精神を、食わせる…!?」

「使用者の中には理性を失い人格が変わってしまう者もいると言われていて、温厚だった人物が凶悪な独裁者になった裏にはこのリングが関係していたとされてるなど、曰く付きのリングなのさ」

『ハァアハハ!!オレにもう弱点はない!さあ、その目玉をえぐってやるぞ』

「なんかキャラ変わってない!?」

「どうやら、理性を失うのは本当らしいな…」

『お前には無理だ、化物』

『へらず口の(わっぱ)め…そう言っていられるのも─今のうちだ!!』

 

 理性を犠牲にしてパワーアップした幻騎士は、幻剣を振り回しながらツナに急速に迫った。

 ツナは幻騎士の攻撃をグローブクリスタルで防ぎ、一瞬の隙をついて彼の背後に移動し回し蹴りを入れるが、骨残像のヘルリングの効果によって幻覚の骸骨がダメージを肩代わりし、その隙に幻騎士がツナに斬りかかる。

 ツナは残撃をすぐに回避し、幻騎士の周りに何度か残像を残してフェイントを入れつつ、再び彼の背後に回る。

 そして、あらかじめ予想していたのかすぐさま振り向き斬りを入れてきた幻騎士の攻撃をかわし殴りかかるが、幻騎士も同じく拳を振り抜いており、両者共に見事なクロスカウンターが決まる。

 

「なんて戦いだ…」

「奴の炎を吸収して強化した沢田と渡り合うとは…相当な精神力を犠牲にしたのだな…だが…」

『やはり、たいして強くなってないな…』

『何!!』

『お前の強さは、研ぎ澄まされた感覚のキレと、それを無駄のない動きに変える、冷静で抑制のきいた判断力にある…頭に血がのぼっていては─恐くない』

「確かにな…今みてぇな力任せよりも、最初みてぇに幻覚で翻弄される方がよっぽど戦りづらいからな」

『…ク─ハァハハハ!!こんなものがヘルリングで増加したオレの力だと思ったか!!真の力はこれからだ!!』

 

 直後、幻騎士の口内が輝きだし、吐き出されるように骸骨が飛び出してきた。

 

「また骸骨が出てきた!」

「分身か!?」

 

 飛び出した骸骨は、徐々に人を形取っていく。そして、骸骨が化けた人物は─

 

『…ツナ』

「山本さん!?」

 

 山本に化けた骸骨は、そのままツナの元まで飛んでいき、彼の首に掴みかかった。

 骸骨が親友に化け、自分の首を絞め始めたことで混乱しているツナに対し、幻騎士は更に骸骨を増やしていく。次に化けたのは─

 

『…ボス』

『10代目!!』

「クロームちゃんに、獄寺さんまで…!」

 

 二人も山本と同じく、ツナの元に行き首を力強く締め上げる。

 

『がはっ』

『しっかりしやがれ、ツナ!そいつらは幻覚だぞ!』

『……わかってる!!』

『おーっと!消していいのかな?その幻覚達と貴様の本当の守護者達の命はつながっているのだぞ!!』

『「何!?」』

 

 幻騎士のもたらした情報に驚くツナの元に、幼少組の二人が追加される。

 

『ランボにイーピン!!』

「やろう!ツナにハッパかけやがって!」

『奴の言ってることはハッタリだ…と言いてぇが、守護者達との連絡が断たれた今、違うという確証もねぇ…手が出せねぇ…』

「そんな!?」

「では、沢田はこのまま友人達に絞め殺されるしかないというのか!」

『くっ!やめろっ!はなすんだ!!』

 

 ツナは守護者達の幻覚を必死に引き剥がそうとするが、力を緩める気配はいっこうにない。

 

『ハハハ!!何しても無駄だぞ!!奴らの意思とは関係なく、体が勝手に貴様を怪力でしめつける!!奴らを殺さぬ限り、ふりほどくことは不可能!!貴様に仲間を殺せるのか!?』

「そんなこと、ツナにできるわけがない…!」

「あの野郎…ツナが仲間を殺せないことを理解しててやってやがるな…!!」

「なんて卑劣な真似を!!」

『…沢田』

『沢田さん…』

 

 必死にもがくツナの元に、残っていた三人─雲雀、ラル、草壁が加わった。

 

『うわああ!!』

 

 そしてツナは、仲間達に首を絞められながら、落下していく…




今回はここまでです。
次回はチョイス戦手前まで行ければいいなと思っています。


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ツナの過去(10年後編):⑨

大ッ変遅くなりました!

他の方が書いている二次小説を読んでいると、自分の作品の出来があまりにも醜く見えてしまって…

今回は前回言っていたチョイス戦までは行けてませんし、出来も自信ありませんが、それでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。


ボンゴレ!!

 

 仲間達の幻覚に首を絞めつけられているツナを見たスパナが、焦りのこもった声で叫ぶ。

 

『ハァハハハ!!いい眺めだ!!どうだ?自分の信じた仲間(ファミリー)に殺される気分は!!』

「あの野郎、ツナが反撃できないからって好き勝手言いやがって!」

オレも()りたかった!!!あの時、殺ってみたかった!!!

「野郎、ガチで理性が飛んじまってる…!」

さあ落ちろ!!死ね、ボンゴレ!!

 

 幻騎士は、仲間達の幻覚になす術なく苦しめられるツナに怒声を浴びせる。

 ツナはどうにかして幻覚達の手を剥がそうともがいていると、彼の頬に、泣き続けるランボとイーピンの涙がポタポタと降ってくる。

 

『…幻騎士』

 

 そんな彼らの顔を見たツナは、首を絞められているにも関わらず、声を絞り出す。

 

『おまえだけは…死んでも…許さねぇ!!

「良い意気込みだ!…だが、今の状況では…」

『はぁ?何と言った!?死んでも許さないと言ったのか!?己の状況を見てからほざけ!!ボケがぁ!!』

『ぐっ』

『許すも許さぬもあるか!!貴様は仲間の手によってもがき苦しみながら死ぬのだ!!』

「このまんまじゃあいつ、やられちまうぞ!」

「でも、あれじゃツナは手も足も出せない…」

『ハハハ!!死ねぇ!!!

 

 どうすることも出来ず、諦めかけていたその時、ツナが、泣きじゃくるイーピンの頭にそっと左手を添えた。

 

『イーピン…ランボ…いつまでも泣いてないで、どいてくれよ』

 

 そして幼少組に優しく話しかけると、二人はピタリと泣き止んだ。

 

『なっ』

 

 更に二人は、ツナの頼みにコクリと頷き、ツナの首から手を離し、離れ始めたのだ。

 

なにぃ!?

『みんなも手をはなしてくれ…』

 

 その事に幻騎士が驚いていると、ツナが今度は他の仲間達にも話しかける。すると皆、ランボ達のようにツナから離れ始めた。

 

『バ…バカな!!霧の炎で練られた幻覚が、オレの意思に背くなど!!』

「何がどうなってるの!?」

「落ち着けお前ら。皆の手をよーく見てみろ」

 

 先程までツナの首を絞めていた幻覚達が、突如離れたことに困惑する響達は、リボーンに言われて幻覚達の手を確認し、驚く。

 彼らの手は、いつの間にか凍っていたのだ。

 

「凍ってる!」

「ってことは、零地点突破初代(ファースト)エディションか!」

『死ぬ気の炎でできた幻覚なら、凍らせることができる!!』

『手を凍らせちまえば、首をしめることができねーってわけだ。それに、時間もかせげたみてーだな』

 

 ツナは幻覚達が離れたことを確認すると、首を掴まれてから少しずつ出していた柔の炎の勢いを強める。

 

〔ライトバーナー 炎圧再上昇〕

「このアナウンス…X-BURNERだ!」

〔23万…24万…更ニ上昇!! レッドゾーン突入!!

『に…20万オーバー?…ウソだろ?…想定した最大出力を超えてる!!』

〔レフトバーナー 炎圧再上昇〕

『おまえも全力で来い、幻騎士!!』

『なにを!?青二才が生意気な!!』

 

 着々と準備を進めるツナを警戒しながら見ていた幻騎士だったが、ツナの言葉に怒りを露にする。

 

〔レフトバーナー 23万…24万…レッドゾーン突入!!

『コンタクトは大丈夫なのか!!』

『それよりボンゴレの体が…あの炎圧にもつのか…』

ゲージ シンメトリー!! 発射 スタンバイ!!

 

 剛の炎のチャージが終わり、ツナはゆっくりと幻騎士に狙いを定め始める。それに対し幻騎士は、霧の炎で4体の分身体を作り出して横一列にならび、身構える。そして─

 

ハァァ!

X-BURNER (ハイパー)爆発(イクスプロージョン)!!!

 

 上空で、膨大な炎と5本の剣がぶつかった。

 

うおおおお!!

ぬぅぅぅ!

 

 衝突直後、2つの力は互いに勢いを殺さず鍔迫り合いを続けていたが、時間が経つにつれて幻騎士が作り出した分身体にヒビが入りだし、ついに幻騎士の左にいた1体の分身体が砕け散った。

 そしてそれが皮切りとなり、他の3体も同じように砕け散り、炎を止めていた障害が消えたことで溢れだした大空の炎が、幻騎士を左右から挟むようにして飲み込んだ。

 

ギャア゛ア゛!

「ツナの超爆発(アレ)と張り合った時は少し焦ったが、流石に防ぎきれなかったみてぇだな!」

おのれえぇえ!!!

 

 炎の中で悔しげな声をあげる幻騎士。すると髑髏が砕け、中から現れた本来の幻騎士の目が、ツナを睨み付ける。

 

「あの骸骨みたいな姿って、やっぱり外側だけだったんだ!」

「本当に骸骨になっちゃってたら、怖いものね」

『図に…乗るなよ…所詮、貴様らなぞ…白蘭様…の…掌の上で…踊っているに過ぎぬの─ドワァアア!!!

 

 幻騎士が炎に完全に飲まれると同時に、宙を漂っていた守護者達の幻覚が霧となって霧散する。

 そして幻騎士を飲み込んだ炎は、そのまま天井まで飛んでいき爆発を起こす。

 それにより、周囲の風景を変えていた正体が明らかとなる。

 

「あれって…ナメクジ!?」

「いや、あれはどちらかというと…」

『海…牛?』

 

 爆風によって壁から引き剥がされた(ボックス)兵器─幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)の軍団はそのまま落下していき、下にいたスパナの周囲で爆発し始めた。

 

『!これは…』

「この爆発の仕方…戦ってるときにちょっかい出してたのはこいつらか!」

「そんなことより、スパナさんが!」

『…ウチ…死亡…』

 

 海牛の爆発を見たスパナは死を覚悟してその場で丸くなる。しかしすぐさま彼の元に移動したツナが炎の膜を上に向けて展開したことによって、スパナは爆発から守られた。

 ツナが炎の膜を展開した後も海牛の爆発は続いたが、少しすると爆発は収まりだした。

 

『…ありがと、ボンゴレ』

『よくやったな、ツナ。─もっとも、最後の力を使ってこの場から離脱した幻騎士を見逃したのは気にくわねーがな』

「嘘!?アレをまともにくらって逃げきったなんて…」

「しかも、沢田はその事に気づいていたと…」

「…まぁ、逃げたとしてもアレをくらって無事じゃすまねぇ筈だ。それよりもお前ら、上を見てみろ」

 

 クリスにそう促された響達は、同じタイミングで気づいたツナ達と共に上を見上げると─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツナのX-BURNER 超爆発が貫いた壁の先に、目的の装置が見えていた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロープを結び直し、再びスパナを引き連れたツナは、丸い装置がある部屋まで飛んだ。

 

『これが…オレ達の目的…』

『うん…正一の装置だ』

「近くで見ると、結構大きいね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まさかあの幻騎士を倒すとは予想外だった─沢田綱吉』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的の装置を眺めていたツナ達の元に、その装置の開発者にして、標的にしていた男が、2人の女性を連れて現れた。

 

『入江…正一!!』

「あの人が、入江さん…」

『お前達は…チェルベッロ!?』

「チェルベッロ?」

「後ろの女2人のことか?」

『まずは拳を下ろしてもらおう。話はそれからだ』

『…話だと?』

『聞こえなかったのか?ヘタに動けば─彼らは死ぬぞ』

 

 入江がそう伝えた直後、彼らが入ってきた扉の近くに設置されていた白い長方形の建設物の扉が開き、大型のカプセル装置が姿を表す。その中には、通信が途絶えていた守護者達がいたのだ。

 

『「みんな!!」』

『ナノコンポジットの壁でとり囲み、逃げられなくなった所を催眠ガスで眠らせてある。少しでも抵抗するそぶりを見せれば毒ガスに変更する』

 

 入江が喋る横で、チェルベッロの一人が懐からガスを操作するリモコンを取り出して見せる。

 

『くっ』

『…正一?』

「ずるいぞテメェ!」

『……よし、いいだろう』

『ハッ!』

 

 ツナが拳を下ろしたのを確認した入江が命令を出すと、チェルベッロの操作によってカプセル内のガスが排出され、山本・笹川・ランボ以外の守護者達が続々と意識を取り戻し始める。そして自分達が捕まっていることに気づき慌てはじめ、入江の横にいる女2人を見てツナと同じ反応を見せる。

 

『お前達の命は我々がにぎっている。話をしたいんだ…大人しくしてくれないか?』

『入江正一!!』

『やろう!』

 

 入江の顔を見た獄寺が腰から匣を取り出そうとするが、直後に何かに気づく。

 

『抵抗しようとしてもムダさ。お前達のリングと匣兵器は─全て没収した』

 

 そういって懐から取り出した入江の掌には、大空と晴を除いたボンゴレリングと、その他複数のリングが乗せられていた。

 

「くっ!やはり基地を任されるだけあって、なかなかに切れる…!」

『なんてことだ…これでは…!!』

『…ぐっ…沢田…』

 

 抗う術を奪われ、途方にくれる守護者達。そんな中、ラルが苦しみながらも体を起こし、ツナの名前を呼ぶ。

 

『かまわん!!貴様の手で装置を破壊しろ!!』

「ラルさん!」

『そうです10代目!!丸い装置を!!そいつをぶっ壊せば、過去に帰れるかもしれない!!』

『……ダメ…』

 

 ラルと獄寺が破壊するよう促すなか、ただ一人─クロームだけは、彼らの意見を否定した。

 

『てめー!この状況で命がおしくなったのか!?』

『ちがう…でも…』

「何でアイツは装置の破壊を拒むんだ!壊したら元の時代に戻れるかもしれないってのに!」

「いや、しかし…沢田が見た夢の中に一緒にいた彼女が否定するということは、何かがあるのでは…」

『全くお前達の無知ぶりにはあきれるばかりだ…この装置を破壊すれば困るのはお前達だぞ』

『何!?』

 

 ツナが入江の発言に驚いていると、丸い装置の蓋の隙間から煙が漏れはじめる。

 

『この装置に入っているのは』

 

 そして音をたてながらゆっくりと開いていき─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10年バズーカでお前達と入れ替りで消えた…この時代のお前達だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘…だろ!?」

「10年後の雲雀さんに、クロームちゃんも…!」

「今まで入れ替わった、この時代の沢田達がなぜあそこに…!」

 

 蓋が開ききった装置の中には、入江が言った通り、現時点までで過去のツナ達と入れ替わったこの時代の10人が、円を描くようにして納められていた。

 

『もっとも、今見えているのは、照射された立体映像(ホログラム)のイメージであり、実際には分子の状態で保存されているがな』

『ど…どうなってやがる!だって、この時代のオレ達は…』

『10年バズーカの効力で…10年前に行ったはず!!』

『その通りだ。本来は10年バズーカで撃たれたものは、10年後と現在の自分が入れ替わる…だが、この装置により10年後のお前達を過去には行かせず、ここにとどまらせているんだ。この時代のお前達が過去に戻って余計なことをされては、7^3(トゥリニセッテ)ポリシーに乱れが生じるからな』

『トゥリニセッテ…ポリシー…?…つか、10年バズーカを知ってるって…まさか…』

『10年バズーカの弾を当てて、オレ達をこの時代に送り込んだのは…お前か』

『─その通りだ。10年前の僕が、この時代の匣兵器と科学技術を駆使して、お前達に10年バズーカを当てたんだ。たとえば、アルコバレーノであるなら、非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)を照射し、身動きをとれなくしてだ』

『…それで、あの時金縛りにあったのか…』

「え!?リボーン君あの時、動けなかったの?動かなかったんじゃなくて?」

『…どうして!?なんでそんなことしてまで、オレ達をこの時代につれてきたんだ!!』

 

 響達が、新たに発覚した事実に驚いていると、ハイパーモードを解除したツナが声を荒げた。

 

『簡単な話だ…白蘭サンがこの世界を手中におさめ、もう一つの世界を創るために、ボンゴレリングが必要だからだ』

「世界を…」「創るだと!?」

 

 入江の話を聞いたツナ達が静まるなか、入江は話を続ける。

 

『この世には、力を秘めたリングが数多く存在するが、中でも「マーレリング」「ボンゴレリング」「アルコバレーノのおしゃぶり」各7つ、計21個のリングを、7^3(トゥリニセッテ)という。そして7^3の原石こそが、この世界を創造した礎だ』

 

 入江の話を聞き、リボーンとラル、そして7^3のことはすでにリボーンとツナから聞いていたシンフォギア組はそこまで反応を見せなかったが、初めてその事実を知った2年前(この時)のツナ達は驚きを隠せずにいた。

 

『そんな…話…』

『信じる信じないは自由だが─少なくとも、7^3を守ることを使命とし、人柱として7^3と同化したアルコバレーノは、この話を否定しないはずだな』

 

 その話を聞いたリボーンとラルは、明らかな動揺を見せる。

 

『な?え?人柱って…何!?リ…リボーン達関係してるの!?』

『話は以上だ。あとはまかせた』『ハッ!』

 

 ツナの同様を無視し、入江がチェルベッロに声をかけると、ツナから入江を遮るようにして前に出る。

 

『沢田綱吉、大空のボンゴレリングを渡しなさい』

『さもなくば、守護者達を毒殺します』

「くそっ!カプセルの制御装置が奴らの手にある限り、ヘタな真似はできない…!」

『話はまだだ、入江。お前の話には納得できねぇ部分があるぞ』

『これは交渉ではない』『命令だ』

 

 リボーンが入江に食い下がろうとするが、それを遮るようにしてチェルベッロは話を続ける。

 

『3秒以外に従わなければ』『全滅はまぬがれない』

『ちょっ、待ってよ!君達チェルベッロでしょ!?』

 

『3』

 

 ツナが必死に説得しようとするが、チェルベッロは彼に拳銃をつきつけ、容赦なくカウントをはじめる。

 

『くそ女が!!─10代目!!オレ達にかまわず、そいつらをやってください!!』

『で…でも、そんなことできるわけ…』

 

『2』『ひっ!』

 

「そんなことしたら皆が!」

『やれ、沢田!!どーせ、そいつらは大空のリングを奪った後、オレ達を全滅させる気だぞ!!』

『でも…』

 

『1』

 

 声を張り上げるラルに対し、ツナはミトンを外しリングをはずそうとする。

 そして─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガガン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─え?」

 

 カウントが0になる直前に、乾いた音が部屋に響き渡った。だが、その発砲音が発生したのはチェルベッロが持っている拳銃からではなく─

 

『…………』『入…江…さ…ま…?』

 

 チェルベッロの二人は、自分達の背後にいた男の名を呟きながら、床に倒れ伏す。

 

『悪く思わないでくれ…少し眠ってもらうだけだ…』

 

 そんな二人に、彼女達を撃った張本人─入江は、拳銃をつきつけながらそう告げた。

 

『はぁ~…暑い。もうクタクタだ……一時は、どうなるかと思ったよ…沢田綱吉君と、その守護者達』

「え…あ、え?」

 

 ツナ達だけでなく、シンフォギア組も訳がわからず混乱するなか、入江は髪を乱雑にかき回しながらミルフィオーレの制服を脱ぐ。すると、先程までの雰囲気からは考えられないほど、彼の膝がみっともなく震えだした。

 

『あ…キンチョーがとけて…ヒザが笑ってる…』

 

 入江はそのまま腰を下ろし、一息つく。

 

『ふぅ~─よくここまで来たね…君達を待っていたんだ…僕は君達の味方だよ』

 

 そして、混乱するツナ達に新たな爆弾を投下したのだった。

 

『オレ達の味方だって!?』

『う…うん、そうなんだ…』

 

 ツナの質問に、複雑な表情を浮かべながら答える入江。

 

「そ…それじゃあさっきまでのは、全部演技…?」

『普段、僕の行動は部下と監視カメラによって24時間白蘭サンにつつぬけになってたけど、君達が全てをメチャクチャにしてくれたおかげで、やっとこうしてミルフィオーレでの立場を気にせず話せるよ…はぁ~!ずっとこの時を待ってたんだよ…この基地での、この状況での出会い方こそが、僕らの設定したゴールだったんだから』

『「ゴール…?」』

『な…何言ってやがる!!』

『ミルフィオーレがボンゴレリングを奪うために君達をこの時代に連れてきたのは事実だが、君達がこの時代に来てから僕を標的にして、ここに乗りむようにさせたのは、僕がミルフィオーレに秘密で仕組んだ計画だったんだ─君達を鍛えて、強くなってもらうためにね』

 

 どうにか立ち上がった入江は、まだ整理しきれていないツナ達にそう告げた。

 

「ツナ達を、強くするため…?」

『たくさん、ひどいことをして…本当にゴメン…でも、これから来る戦いに備え、短時間に飛躍的な成長をしてもらうには、この方法しかなかったんだ!!』

『これから来る戦い…?』

『そうだ!!君達の本当の敵は僕じゃない』

『ふざけんな!!作り話に決まってるぜ!!てめーがやばくなってきたんでオレ達を丸め込もうってんだな!!』

『獄寺の言う通りだ!!』『そんな話信じられるか!!』

『ま…待って!!考えててくれよ!!─君達を殺そうと思えばもっと早く殺せたさ!!』

 

 入江の話を否定する獄寺達に、彼は事実を伝える。

 

『いくらミルフィオーレが油断していたとしても、天と地ほどの戦力差だ。君達をいっぺんにじゃなく何人かずつ、この時代の君達と入れ替えたのも、この時代の君達に過去の君達を導いてもらうためだ。この基地に来てからも僕がもっと早く基地を動かして、君達を捕えることもできた。だが、それでは君達が経験を積むことができないからワザとモタついて遅らせたんだ!!』

「…確かに、理には適っているな」

『それだけじゃない…守護者でないイーピン・笹川京子・三浦ハルまでを過去からこの時代に連れてきたのはなぜだかわかるかい?』

「─おい、まさか!」

『─人は守るものがあると強くなれる。そのために必要だと判断したんだ』

「やっぱりかよッ!」

『現に…』

 

 そういって話を続けようとしていた入江に、ツナが勢いよく掴みかかった。

 

『そんな…!!そんな理由で!!もし京子ちゃん達に何かあったらどーするんだ!!』

「沢田…」

『京子ちゃん達だけじゃない!!鍛えられる前に、山本や獄寺君やラル…みんな、この戦闘で死んでたかもしれないんだぞ!!』

「そうだよ!もしそれで誰かが死んじゃってたら…!」

『……その場合は…それで仕方ないんだよ…』

「え…!?」

 

 入江の答えを聞いて、言葉を失う響。

 

『僕だって一生懸命やってるよ!!予想外のこととか起きて大変だったんだぞ!!これは君達が思ってるほど小さな問題じゃないんだ!!』

「だからって、ツナのダチを巻き込んでいい理由なんざあるわけが─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに、この計画はこの時代の君の意思でもあるんだ、綱吉君!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 入江から伝えられた衝撃の事実に、響だけでなく、シンフォギア組全員が言葉を失ってしまう。

 

『オレの…!?』

『この計画は絶対にバレないように、僕と10年後の君と10年後の雲雀恭弥の3人だけの秘密だったんだ…10年後の雲雀君がこちらの奇襲を予想できたのも、そのためなんだ』

『なんと…』

『そして10年後の君は、関係ない仲間を巻き込むことには最後まで躊躇していたが…最終的に、過去の自分達の成長に必要だと了承したんだ』

『そっ…そんなぁ……オ…オレが…?』

『ありえん!!沢田の性格は知っている!!』

 

 未来の自分が京子達を巻き込むことを選んだと知り、ショックのあまり入江から離れるツナ。そして、中学時代からの彼を知っている草壁が入江の話に反論する。

 

『そーだ!!10代目はチビを巻き込んだりしない!!』

「そ、そうだよ!あのツナが、仲間を危険なことに巻き込むことなんて…!」

『あ~も~!それぐらいヤバイ状況ってことでしょ!?話の流れを察してくれよ!!』

 

 どうやら入江も色々溜め込んでいたのか、獄寺の反論に逆ギレ気味に答え、そんな彼をみたスパナは一人だけ空気を読まず吹き出してしまう。

 

『全てを賭けてこの事態に対処しないと、君達も君達の仲間も全滅しちゃうんだって!!それどころか、もっと多くの人々の…ヘタすれば人類の危機なんだぞ!!』

『人類の…危機…?』

『それと、これから来るっていう戦いが関係してるんだな?』

 

 ショックから少し立ち直ったツナが入江の言葉を復唱していると、リボーンが入江に問いかけた。

 

『え?あ…うん……』

『オレは信じてやってもいいと思ってるぞ』

『リボーン!?』

『オレが感じていた疑問の答えとしては、今んとこ、つじつまが合っているからな』

 

 未だに入江に反論しようとしていた獄寺達だったが、リボーンがそう言うのならばと口を閉ざす。

 

『あ…ありがとう………そうだ…君達の敵となるのは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蘭サンだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱり…』

「え?今ツナ、やっぱりって…」

『あ!』

【オレ、今やっぱりって…】

「どうやら沢田自身ではなく、彼の超直感がすでに感じ取っていたようだな…」

 

 ツナ達が驚いている間にも、入江は話を続ける。

 

『白蘭サンは7^3を集め、この世界を自分のものにするためには手段を選ばない…そういう人だ…』

 

 その話を聞いたクリスは後ろにいる白蘭を睨み付けるが、彼は変わらない笑顔を浮かべていた。

 

『彼はこの意思を"7^3ポリシー"と名付けた…そして、それが達成されれば今の比じゃない地獄絵図を見ることになる…自分の思い通りにならない人間・集団・国までも抹殺するだろう…』

「そんなの、完全な独裁国家…いや、独裁世界じゃねぇか…!」

『だとすると1つわかんねーな。何で今まで白蘭に手をかしてきたんだ?『ん?』おまえが10年バズーカでボンゴレリングをこの時代に運ばなければ、奴の目的は達成されないはずだ。そうすれば最終的に犠牲は少なくて済んだかもしれねーぞ』

『…うん…一時的にはね。でも僕の手などかりなくても彼はいずれ君達を未来に連れてくる…それに、僕がこのやり方にこだわった理由は他にある─彼を止められるのはこの時代だけなんだ』

「この時代だけ…?」

『今、この時代に倒すしか、白蘭サンの能力を封じる手はない!!』

「白蘭さんの能力って、確か…」

「異なった可能性の未来の自分と意識や知識を共有できる能力だね♪」

『説明すると長くなるが…ん?』

 

 今までずっと話していた入江だったが、何かを思いだし声をあげる。

 

『あっ!忘れてた!!』

「うお!?いったいどうしたってんだ!?」

『ボンゴレ基地に何か連絡は?』

『?ないぞ…』

『まだか…そうか、まだだよな…』

 

 連絡が来ていないことを知った入江が一人呟くと、彼の腹からゴロゴロという音が聞こえ、腹を抱えてうずくまった。

 

『また緊張してきた…』

「大丈夫なのか?こいつ…」

「正チャンは神経質だから、何か起こると今みたいにすぐお腹こわしちゃうんだよ」

「…まさか、過敏性腸症候群か…?」

「かびんせい…えっと、それって何なんですか?」

「簡単に説明すれば、過度のストレス等が原因で腹痛を起こす体質のことだ。それが幾度となく起こっているとなれば…」

「相当なストレスを溜め込んでるってことになりますね…」

『どうか…したんですか…?』

 

 入江の体調を心配しつつも、彼が緊張している理由が気になり話しかけるツナ。すると入江は、腹痛をこらえながら、顔を上げて話を続ける。

 

『君達がここに辿り着くことが白蘭サンを倒すための1つめの賭けだった…それを第一段階だとすると、クリアすべき第二段階があるんだ!!』

「なっ…まだやることがあるのかよ!」

『まだ戦うの!?』

『へっ?─あぁ、いや…ちがうよ。君達にはしばらく傷をいやしてもらうつもりだ…もっとも、それができるかどうかは、この第二段階次第だけど』

『何なんだ?その第二段階って』

『聞いてるだろ?ボンゴレは今日、全世界のミルフィオーレに総攻撃をしかける大作戦に出るって』

『あ…そういえば』

『その作戦が失敗すると全ては一気に難しくなる…一番のカギとなるのは…イタリアの主戦力だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、怪我人を緊急用ベッドへ』

『みんな、大丈夫!?』

『10代目!!おケガは!?』

 

 入江の説明が一区切りすると、カプセルに閉じ込められていたメンバーが解放された。重傷を負っていた山本や了平はベッドに運ばれ、二人と比べれば軽傷だった獄寺はツナの元へ駆け寄る。

 

「よかったぁ…誰も死んでなくて…」

「にしてもようやく休憩か…ツナの奴、守護者達と別れて以降、強敵の連戦だったからな」

 

 響やクリスも、激闘の連戦により張りつめていた糸が切れ、一息ついていた。そんな中、翼が白蘭に話しかける。

 

「ちょうどいいタイミングだ…白蘭。沢田達の戦いも一区切りついたようだし、今のうちに気になっていることを聞いてもいいか?」

「あ、私も!一つ気になったことが!」

「うん、いいよ♪響チャンと翼チャンは何が気になったのかな?」

 

 白蘭がいつもと変わらぬ笑みを浮かべる中、翼は響に先を譲る。

 

「立花から先に聞いていいぞ」

「あ、すみません…あの、さっき戦ってた幻騎士さんが作りだした、獄寺さん達の幻…幻騎士さんは、あの幻達は本物の獄寺さん達と命が繋がってるって言ってたけど、あれって本当なんですか?」

「そんなわけねぇだろ!あんなの、ツナを騙すための嘘に決まって─「それが嘘とも言いきれねぇんだ」なんだと?」

 

 響の質問に食いかかるクリスの言葉を遮りながら、白蘭の代わりにリボーンが答える。

 

「このメローネ基地での戦いの後、アジトに戻ってきたファミリー達に話を聞いたんだが…捕まっていたメンバー全員が、意識を失っている間、ツナの首を締める夢を見ていたらしい」

『!!?』

「それはつまり、あの時の幻と本体は、意識が共有されていたというのか…!?」

「そう考えてもいいだろうな…幻騎士はそんだけすごい幻術を使えるやつだ。『命が繋がってる』っていうのも、あながち本当だったかもしれねぇな」

「それじゃあ、もしあの時、ツナが獄寺さん達の幻ごと幻騎士さんを狙ってたら…」

 

 もしもの光景を脳裏に思い浮かべた響達は、獄寺達を見て顔を青くする。

 

「幻の手を凍らせて引き剥がした沢田の行動は正解だったわけか…それでは、次は私だ」

 

 翼も少し顔色を悪くしたが、なんとかこらえ、白蘭に顔を向け自分が気になっていることを聞く。

 

「私も幻騎士に関することなんだが…奴が沢田が仲間達の幻に苦しめられていた時に叫んでいた言葉の意味はいったいなんだ?」

 

 翼はどうやら、ツナが幻に首を絞められていた時に幻騎士が言っていた、『オレも殺りたかった!!!あの時、殺ってみたかった!!!』という言葉が気になっていたようだ。

 翼が白蘭に質問すると、それを聞いたユニが、顔に影を落とす。

 

「どうしたのユニちゃん?顔色が悪いけど…」

「んー…その質問に答えるには、まずは君達が知っておかなきゃいけないことがあるんだ。ね、ユニチャン?」

 

 白蘭がユニに話しかけると、彼女はコクりと頷く。

 

「はい─幻騎士…彼は元々、ジッリョネロファミリーの一員だったんです」

 

 ユニからの衝撃の告白に驚く響達に、白蘭とユニは幻騎士のことについて話し始める。

 彼が元々の霧のマーレリングの守護者であったこと。かつてワクチンの存在しない流行病に感染して死の淵を彷徨っていたこと。そんな彼に白蘭が本来開発されていないはずのワクチンを与えたことで生き延び、それ以来白蘭に忠誠を誓うようになったこと。そして─

 

「そして、彼の裏切りによってジッリョネロファミリーとジェッソファミリーが合併し、ミルフィオーレファミリーが出来たんです」

「裏切りって、一体どんな…」

「事の発端は、マーレリングが欲しかった僕が、幻チャンにどうにかしてユニチャンと話せないか頼んだのが原因なんだけど、それが結構手間のかかることをしててね?偶然近くに仕事で来てたスクアーロクンに戦いを挑んで、()()()負けて傷だらけの状態でユニチャン達の隠れ家まで帰ってから、僕達ジェッソファミリーに襲われたって嘘をつく事で、ユニチャンを僕との話し合いの場に引きずり出してきたんだよ」

「なんと無茶で手間のかかることを…」

「というかスクアーロさん、一体何してたんだろう?」

「仕事の詳細は聞いてねぇが、幻騎士との戦いは『剣帝への道』にも入ってたな」

「なんなんだ、その怪しいの…」

「スクアーロが仕事先での戦いの状況を撮ったDVDだ。撮る度に毎度山本に送ってきていて、全100戦もあるぞ。山本にはその動画も見せつつ、特訓させてたな」

「それって、自慢で送りつけてるんじゃ…」

「まぁそのスクアーロも、幻騎士が手を抜いてたことには気づいてたみたいで、その戦いを含めた全100戦分にプラスαで101戦目が収録されてたぞ」

「とにかく、幻騎士の過去については理解した。だが、肝心の質問の答えは聞けていない」

 

 少し話が逸れたものの、どうにか元の話に戻す翼。

 

「僕の口から言わなくても、翼チャンなら薄々気づいてるんじゃないかな?その答えがなんなのか」

「……」

 

 白蘭の言葉が図星をついたのか、沈黙する翼。そんな彼女に対し、白蘭の代わりにユニが答えた。

 

「幻騎士は、本当は自らの手で殺したかったんです…私のことを」

 

 またもやユニの口から衝撃の事実が飛び出し、驚きで固まる響達。そんな彼女達の反応を無視するように、白蘭が話を続ける。

 

「そもそも、幻チャンがわざと怪我して隠れ家に行った本当の目的が、怪我をして帰ってきた自分を見て混乱するであろうファミリーの隙を突いて、ユニチャンだけじゃなくてジッリョネロファミリー全員を殺して壊滅させる算段だったんだよ」

「そんな…!同じ仲間なのにどうして…!」

「僕に心酔してた彼にとって、ファミリーは邪魔物以外の何者でもなかったんじゃないかな?幻チャンって元々器が小さい男だし」

「…もしそうだったとしたらばなぜ、奴はジッリョネロファミリーを壊滅させなかったんだ?奴程の実力があれば容易だったはずだ」

「そこは僕も分からなかったんだけど…さっきの綱吉クンとの戦いをみてて分かったよ。幻チャン、綱吉クンやユニチャンの()に怖じ気づいたんだ」

「目に…怖じ気づいた?」

「君達は、綱吉クンと話してる時に何か感じたことはないかな?例えば、綱吉クンの目を見てると、まるで自分の心を見通されてる気がしたりとか」

 

 その問いかけに彼女達も心当たりがあるようで、一斉に頷く。

 

「さっき僕、『幻チャンは器が小さい男』って言ったでしょ?たぶんユニチャンの目を見て怖くなったんだよ。自分の心を見透かされてるみたいでね。まぁ一番の理由は、ユニチャンが既に彼の思惑なんてお見通しで、彼が壊滅させようと動く前に、僕との話し合いに乗ったからなんだけど」

「そうか…」

 

 幻騎士が暴挙にでなかったことに安心しつつも、先程の幻達の話を思いだし重い空気が漂う。

 その時、過去のツナ達に動きがあった。

 

『たった今、ジャンニーニからイタリアの主戦力の情報が入ったぞ─XANXUS(ザンザス)が敵の大将を倒したらしい』

『マジっすか!?』

「スゲーじゃねぇか!そのXANXUSってやつ!」

 

 リボーンからの報告を受け、歓喜の声をあげるボンゴレファミリー達とシンフォギア組。そんな中、一人だけ違う反応を示している人物がいた。

 

『せっかくのニュースに水を差すようだが、喜ぶのはまだ早いな…』

 

 入江はゴロゴロなっている腹を押さえながら、リボーンの前に立つ。

 

『大将を討っても兵力に圧倒的な差がある。ミルフィオーレが新しい大将をたて、長期戦になれば…』

『その心配もねーぞ。敵は撤退をしはじめたそーだ』

『おおっ!』『え!?』『ってことは!』

『勝利じゃないか!』

『まーな』

『これならいける!!ボンゴレの戦力は想像以上だ!!主力部隊を追い込むなんて!』

『急に興奮しやがって…』

「だが、彼が歓喜するのも理解できる。自軍の部隊が敵の主戦力を退けたとなれば、それだけでも味方の指揮が高まる筈だ」

【すごい…!!さすがヴァリアー…さすがXANXUSだ!!あとは、白蘭を倒すだけ─】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔いいや、ただの小休止だよ〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喜ぶツナ達の耳に、第三者の声が響いた。

 

〔イタリアの主力戦も、日本のメローネ基地も、すんごい楽しかった〕

 

 突然聞こえてきた声に警戒するツナ達の前に─響達と共に振り返っている彼にとって、過去でもあり未来でもある姿─ホワイトスペルの隊員服を着た白蘭が、ホログラムで現れた。

 

『…こ…こいつが…』

『白蘭サン!!』

「今の白蘭さんと比べると、少し大人びてるような…いや、あまり変わってないような…?」

〔ボンゴレの誇る最強部隊の本気が見れちゃったりして、前哨戦としては相当、有意義だったよね♪〕

 

 ホログラムの白蘭は、響達が知るいつもと変わらぬ笑みを浮かべながら話を続ける。

 

〔メローネ基地で僕を欺こうと必死に演技する正チャンも面白かったなぁ〕

「気づいていたのか!?」

『じゃあ僕が騙してたのを…』

〔うん、バレバレだよ〕

 

 騙していたことが既にバレていたことを知りショックを受ける入江。

 

〔確かにこの戦いを逆に利用して、敵に寝返る計画はよくできていたし、正直、ボンゴレと手を組むなんて思ってなかったけど─正チャンがいつか敵になるのは想定の範囲内だったからね─だって、昔からずーっと正チャン、僕のすることなすこと、いつも否定的な目で見てたもん〕

「それじゃあ、入江さんが今までしてきたことは…」

『─あなたは…間違ってる!』

〔ほーらきた!まあ好きにすればいいよ。どっちが正しいかは今に分かるし─しっかし、正チャンもつくづく物好きだよね─まだケツの青いボンゴレ10代目なんかに世界の命運をあずけちゃうなんてさ〕

【世界の命運…?】

〔本当はこのまま、息つく暇なく戦力を投入して、ボンゴレを消すのは簡単なんだ。でも、ここまで楽しませてもらったのは確かだし〕

 

 そこで白蘭は入江に視線を向ける。

 

〔それに信頼してた副官に裏切られたとあっちゃ、リーダーとしてのプライドにかかわっちゃうだろ?だから、そろそろちゃんとやろーと思って〕

 

 白蘭はいつもは閉じている瞼を開き、笑顔で言いはなった。

 

〔沢田綱吉クン率いるボンゴレファミリーと、僕のミルフィオーレファミリーとの─正式な力比べをね〕

「正式な…」

【力比べ…?】

〔もちろん7^3をかけてね。時期的にもぴったりなんだ─正チャンやこの古い世界とのお別れ会と─新世界を祝うセレモニーにさ♪〕

『待ってください白蘭サン!そう簡単にいくでしょうか!?』

〔お!元気だなー、正チャン〕

『あなたはこのメローネ基地に4人、イタリアに1人、計5人の6弔花を送り込み、7つのうち5つのマーレリングを失っている…もはや、あなたは翼をもがれた鳥だ』

「え!?そんなに!?」

「そうなんだよねー。日本に送った隊員の内、正チャン、グロ・キシニア君、γ(ガンマ)クン、幻チャンの4人がそれぞれ晴・雨・雷・霧の。そんで、イタリアに送ったジルクンことラジエル君が嵐。これで、僕の手元に残ってるリングは大空と雲だけになっちゃったんだよ~」

「おいおい!そんなに減ってんならもう惨敗じゃねえか!なのに何でこんなに余裕そうなんだ…」

〔「ま、それが本物ならね」〕

 

 クリスの困惑に、二人の白蘭が同時にそう答えた直後、入江の持っていたリングにヒビが入り─石を残して砕け散った。

 

「これは…まさか!」

『ニセモノ!!』

〔もちろん、それもランクAのスゲー石なんだけどね。7^3はもっと特別なの〕

 

 白蘭はそう言って、身に付けていたマーレリングを自慢げに掲げる。

 

『だけど…』

〔悪いけど、正チャンには秘密で他に組織してあるんだ〕

『!?』

〔正チャンに会わすには刺激が強すぎると思ったから伏せといたんだけど、もう敵同士だからいいよね〕

 

 白蘭の頭上に歪みが発生する。

 

〔紹介するね〕

 

 そして写し出されたのは─

 

一人は、後ろで束ねた青緑色の長髪と、アイメイクが特徴的な青年

一人は、溶岩のように真っ赤な髪と、剃り残しのような無精髭が目立つ男性

一人は淡い青色のロングヘアーに、硝子細工のような髪飾りをつけた少女

一人は、鬼のような仮面をつけ、怪しげな雰囲気を醸し出している大男

一人は、顔に大きな傷があり、手には包帯を巻いているセミロングの少年

一人は、鎖で縛られ、酸素マスクらしきものをつけられている男

 

─と、それぞれ印象の強い見た目の6人。

 

〔彼らが本物のミルフィオーレファミリー6人の守護者─(リアル)6弔花♪〕

『リ…真6弔花!?』

〔うん♪彼らこそが、僕が新世界を創るために選んだ─真のマーレリング保持者(ホルダー)にして、僕の本当の守護者達だよ〕




うーん…やっぱり「次回は○○まで行きます!」とか書いても、その目標に到達できる自信がないなぁ…まぁでも、この調子なら次回はボンゴレ匣入手までは行ける可能性が高いので頑張ってみます。


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ツナの過去(10年後編):⑩

今回は少し気力がわいてきていたので早めにできました。

それではどうぞ


『そんな…じゃあ今までのは…』

『だ…誰なんですか!?』

 

 (リアル)6弔花の存在を知り唖然とするツナ達。そんな中でただ一人、白蘭と長い付き合いのある入江が声を荒らげる。

 

『知らないぞ!!僕が知らない人間がミルフィオーレにいるなんて!!』

〔正チャンに心配事増やすとメンドくさいからね〕

 

 必死に叫ぶ入江だったが、白蘭の話に見に覚えがあるのか黙り込んでしまう。

 

〔僕はこう考えたんだ─ただ腕っぷしの強い人間を選んでもたかがしれてる。なぜならリングの力の要はより強い"覚悟"だからね〕

「より強い、覚悟…」

〔そこで、強い上に常人離れした"覚悟"を持った人間を、マフィアといわず世界中から探しまわったんだ。しかも、その「覚悟」が僕への「忠誠」になりうる人間をね─世界は広いよねー!おかげで彼らと会えたよ〕

 

 白蘭はそこで一度話を止めると、モニターから5人が消え、赤髪の男だけが写し出される。

 

〔例えば彼は…〕

 

 そして映像が切り替わり、緑に囲まれたのどかな村が写し出される。

 

〔ご覧のように、大自然に恵まれた大変美しい故郷の出身なんだけど─「覚悟を見せてくれないか?」って言ったとたん─故郷を捨ててくれたよ

 

 更に映像が切り替わり、次に写し出されたのは─先程の緑溢れる光景から一変。

 村も美しかった自然も、いたるところから溢れ出る溶岩によって焼き払われていた。

 

「なに…これ!?」

「まるで地獄絵図ではないか!」

「これが、元はさっきの風景だったってのかよ!?」

「こんなことって…」

〔怖いよねー、ここまでアッという間だよ。まさか僕への忠誠を示すために、生まれ育った木も山も村も村人も、全部消してくるとは思わないじゃん〕

「その考え方って、さっきの幻騎士さんと同じ…!」

【そんな…メチャクチャだ…】

『!?噴き出したマグマの中に何かいるぞ!?』

 

 皆が真っ赤に染まった景色に気を取られていると、獄寺が何かを見つけ声をあげる。それを聞いた白蘭が笑みを深めると、映像が画面中央のマグマ貯まりに拡大されていく。そして十分に拡大され、獄寺が見つけた生き物が視認できるようになった瞬間、響達は驚きのあまり腰を抜かしかけた。

 そこには、先ほど写されていた男が、頭にタオルをのせ、胸から下をマグマにつけながら気持ち良さそうにしていたのだから。

 

「あ…あの人、マグマに入ってるよ!?」

「しかも呑気に口笛まで吹いて…」

「マグマの風呂に入っているというのか!?」

「ありえねぇ!てか人間じゃねえだろ!」

 

 その光景に、ツナ達も響達と同じ言葉を述べる。そんなツナ達を見た白蘭は、楽しそうに笑いながら話を続ける。

 

〔フフフ!真6弔花の異常な戦闘能力もこれでわかったかな?更に彼らには、1人につき500名の部下と─選りすぐりのAランク兵士(ソルジャー)を100名与えてるからね〕

『Aランクが100人!?Aランクは今までの6弔花─6人しかいなかったはずだ…』

「それって…幻騎士さんやγ(ガンマ)さんみたいな人がまだ沢山いるってこと!?」

〔僕らを倒したら、今度こそ君たちの勝利だ。ミルフィオーレはボンゴレに全面降伏するよ〕

『白蘭サン!!力比べって…一体、何を企んでるんですか!!』

 

 余裕の笑みを浮かべながらそう告げた白蘭に、入江が投げ掛けると彼に視線を向けた。

 

〔昔、正チャンとよくやった"チョイス"って遊び、覚えてるかい?─あれを現実にやるつもりだよ♪〕

「"チョイス"って、確かユニちゃんが言ってた…」

〔細かいことは10日後に発表するから、楽しみにしててね♪それまで一切手は出さないから、のんびり休むといい〕

『無茶言うな。あんな怪物見せられて、のんびりできるわけねーだろ?』

「そ、そうだよ!あんな人が6人もいるなら10日間ずっと特訓でもしないと!」

〔んー、もっと話したいなー…でも君達はもう逃げないとね〕

「逃げるだと?」

〔君達のいるメローネ基地は、もうすぐ消えるからさ〕

 

 白蘭がそう伝えると、ホログラムの白蘭()が光を発しだした。

 

『消える!?』

〔正しくは、基地に仕込まれた超炎リング転送システムによって、移動するんだけどね〕

「また知らねぇ単語が出てきやがった…」

『それって、リングの炎を使ったテレポーテーションシステム…?完成…してたのか?』

〔まだ、この規模の物体じゃなきゃムリなんだけどね─すさまじいエネルギーと時間がかかるから、一生に一度見られるかどうかだよ?〕

「そんなすごい技術も持ってたのかよ…!」

〔じゃあ─楽しみだね、10日後♪〕

 

 白蘭がそう言い残して消えた直後、機械のような音を上げながら基地全体に目映い光が広がった。そのあまりにも眩しすぎる光に、響達は目を守ろうとする。

 

「超炎リング転送システムが起動したのか!」

「やばいよ!急いで逃げないと!」

「逃げるったって何処に!基地から出るのも間に合うわけがねぇ!」

『大丈夫だ!!何かにつかまれ!!』

『!?大丈夫って!?…!』

 

 突然の状況に追い付けず混乱するツナ達。そんな中、入江が何かを願うようにして時計を確認する。

 そして光が最高潮に達した直後─ものすごい音と揺れがツナ達を襲った。ツナ達はその揺れによって体制を崩し、床に倒れ込んでしまう。

 ツナ達を襲った揺れはその後も続いたが、数秒するとピタリと収まった。

 

「…どうやら収まったようだな」

『いつつ…』

『うぅ…大丈夫スか10代目!!』

『う…うん…』

『どうやらまだ、並盛の地下にいます…』

 

 揺れが収まり、少しずつ起き上がり始めるボンゴレファミリー。だが、そんな彼らの目の前には信じられない光景が広がっていた。

 

「お、おいおい…嘘だろ…!?」

『基地がっ…メローネ基地が消えた!!!』

 

 目の前に広がっていたのは、底が見えないほどの大きく深く空いた穴。

 先ほどまでツナ達の戦場となっていたメローネ基地は、ツナ達がいる装置の周辺だけを残し、並盛から丸々消失していたのだ。

 

『こ…こんなことが!!』

「本当に、これほどの質量を移動させる技術が使われていたとは…」

『でもなんで…オレ達だけ残れたんだろう?』

『彼が晴のボンゴレリングと共に来たからさ』

 

 ツナや響達の疑問に入江が答えた直後

 

『極限に、ここはどこだー!!?』

 

 後ろから大きな声が響いてきた。

 

「あの人は…!」

『10年前の…お兄さん!!』

 

 ツナと響達が振り返ると、そこには並盛中の制服を着た10年前の─ツナ達の時代の笹川了平がベッドから起き上がっていた。

 

『我々が移動しなかったのは、彼が過去から来てボンゴレリングがそろったからだ。7つのリングがそろったことにより、結界ができて我々と装置は守られたんだ!』

「リングって、そんな能力もあったんだ…」

『お前、こうなることを読んでたのか?』

『ああ…白蘭サンのやりかねそうなことの何割かはね』

『お兄さん!!』

 

 入江が移動しなかった仕組みを解説していると、ツナが了平の元に駆け寄る。

 

『生きてたか沢田!!!お前達も行方不明で心配しとっ『しぃっ』?』

『あとで説明してやるから静かにしてろ!!』

『10年前の笹川氏が、ボンゴレリングと共に来たことは我々にとって間違いなくプラスですが…しかし、大変なことになりましたね…』

 

 ツナと獄寺が了平に静かにしているよう促している間、草壁が独り言のように話し出す。

 

『あの6弔花より更に上があるとは…この戦力でこの先、一体どう戦えと…』

『そりゃ、やるっきゃないっスよ』

「山本さん!目が覚めたんだ!」

 

 先ほどまで眠っていた山本が起き上がり、笑顔を見せる。

 

『や…山本!!いつから!?』

『ったく、心配かけさせやがって』

『でも、どう考えても無謀な戦いだ。ミルフィオーレの戦力にかなうはずがない』

「その通りだ…(さき)に伝えられた話が事実ならば、白蘭の元には最低でも3000人の部下と幻騎士クラスの強さを持つ兵士が600人、そして真のマーレリングの保持者6人がいることになる」

「そんな人数相手に、どうしろっていうんだ…!」

 

『いいや、できるさ!!』

 

 あまりにも大きすぎる戦力の差にうちひしがれていたツナ達に、そう答えた入江は装置に近づく。

 

『成長した君達なら奴らと渡りあえるさ!!それに、僕達だってただ君達をイジメてきたわけじゃない』

 

 入江が話ながら、装置に取り付けられていた操作盤に触れると、装置の内側にあった蓋が少しずつ開き始める。

 

『君達を鍛えることは、この新たな戦力を解き放つことでもあるんだ!君達の成長なくしては使いこなせない、新たな力─今こそ託そう』

「新たな力…?」

『この時代のボンゴレのボスから君達への贈り物だ。心して受け取ってくれ!!』

 

 入江がそう告げた直後、蓋が開ききった装置の中心から7つの炎が放出され、ツナと彼の守護者達の手元で制止する。

 ツナ達の手元に飛んできた物体は、皆のそれぞれの持つ属性の色をした、ボンゴレの紋章が刻印された(ボックス)だった。

 

「この匣は…?」

『この時代のボンゴレ10代目より君達に託された、"ボンゴレ匣"だ』

『オ、オレが…?』

 

 ボンゴレ匣を受け取った7人は、それぞれの反応を示す。獄寺は目を輝かせ、ランボはサイコロと勘違いし、了平にいたっては─

 

『極限に、この黄色いハコは何だあ!?』

 

と、近所迷惑になりそうな音量で叫んでいる。

 

「アハハ…了平、元気だね…」

 

 そんな了平をよそに、ツナが自分のボンゴレ匣を眺めていると─

 

〔う゛お゛ぉい!!〕

『んなっ!?』

 

 彼のヘッドホンから耳をつんざかんばかりの声が響いてきた。

 

〔ヴァリアーから通信をつなげとの要請です…ミルフィオーレに盗聴される恐れがありますが…〔いいからつなげぇ!!〕怖いからつなぎますよ!ヘッドホンの音量に気をつけてください〕

 

 ジャンニーニがそう告げた数秒後…

 

〔てめーらぁ、生きてんだろーなぁ!!!〕

 

 全員の通信機にスクアーロの声が響いてきた。

 

『スクアーロ!!』

『っるせーぞ!!』

 

 山本と獄寺がそれぞれの反応を示すなか、響は前回の映像で学んだのか、スクアーロの声が響き渡る前に耳を塞いで音の暴力を回避していた。

 

〔いいかぁ!!こうなっちまった以上、ボンゴレは一蓮托生だ。てめーらがガキだろーと─〕

 

 そこまで話したスクアーロだったが、スクアーロ(あちら)側でなにかあったのか、「ドガスッ」という岩をぶつけられたような音が響き、通信が一度途切れる。すぐに通信は直ったが、次に聞こえてきた声はスクアーロではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔─沢田綱吉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声を聞いた奏者達の背筋に寒気が走る。

 

(こ…声だけというのに、何という存在感だ!)

(本能が、この声に逆らったらヤベェって言ってきやがる…!)

(師匠や了子さんの時でも、こんなに緊張したことはないのに…!)

 

 奏者達が、まるで百獣の王に睨まれたかのように固まっていると、ツナが声の主に驚きを見せる。

 

『この声は…』

XANXUS(ザンザス)!!】

(この声の主が、沢田達が言っていたXANXUSか…!)

〔乳臭さは抜けたか〕

『「!!」』

〔10日後に、ボンゴレが最強だと─証明してみせろ〕

 

 XANXUSがそれだけ告げると、「ブツッ」という音を残し、今度こそ通信が切られた。

 

『─切れちまったな…』

『あんにゃろう、好きなことだけ言いやがって!!』

『まあどっちにしろ、奴ら、今回は味方みてーだな』

『そ…そうだけど…(色んなことがありすぎて…素直に喜んでいいのか…)』

「「「─ぷはっ!」」」

 

 ツナが戸惑いを見せるなか、緊張で息も止めていた奏者達が一斉に呼吸を再開させる。

 そんな中、目を覚ましてからあまり口を開いていなかったクロームが、入江にある疑問をぶつけた。

 

『あの…骸様は─六道骸は今…どうなっているんですか…?』

 

 その疑問はツナや雲雀も抱いていたようで、真剣な表情を見せる。

 

『…白蘭サンの話では、骸はミルフィオーレの兵士に憑依していた所を白蘭サンの手で殺されたらしい』

【そんな!!】

「それじゃあ、あの時クロームちゃんの臓器が消えたのは…」

『だが僕はそう思っていない「!!」なぜなら、復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄の死亡者リストに、彼の名前はあがってなかったからね』

「そうか!もし本当に六道骸が死んだとすれば、その死は彼の肉体が隔離されている牢獄に伝わるはず…」

『ってことは…』

『生きてるよ。それは間違いない…』

 

 入江の答えを聞いたツナが笑顔を浮かべた直後、クロームが床に倒れた。ツナ達は彼女の体調が再び悪化したのかと心配して駆け寄るが、どうやら骸の無事を知って安心したら力が抜けただけのようで、心の底から安堵した表情をしていた。

 

『ところで入江さん。一つ、気になっていたのですが…』

 

 皆がクロームの無事に安心するなか、クロームを起こして上げようとしている入江に、今度は草壁が問いかけた。

 

『あの装置の中にいる、この時代のボンゴレファミリーを出すことはできないのですか?彼らが加われば、すごい戦力になるはずです!』

『ああ…残念だけど、それは絶対にあってはならないんだ。過去から来た綱吉君達と、この時代の綱吉君達が同時に出現すれば、時空が壊れて世界が消えてしまう可能性がある』

『な…なんと!!』『ひいっ』

「"タイムパラドックス"か…」

『だからこそ、僕らは君達にかけたんだ。ボンゴレリングの、正式な保持者(ホルダー)である君達にがんばってもらうしかないんだよ』

 

 真剣な表情でそう伝える入江。それを聞いたツナは、ボンゴレ匣を見つめながら不安そうな顔をする。

 

『かけるとか…急にそんなこと言われても…』

『ツナ、正一にまだ大事なこと、聞いてねーぞ』

『え?』

 

 とぼけるツナをよそに、リボーンは入江に視線を合わせると一言、こう問いかけた。

 

 

 

 

 

 

『入江正一─お前、俺達のファミリーになるのか?』

 

 

 

 

 

 

 その一言に、ツナ達だけでなく響達も動きを止めるなか、問いかけられた相手は─

 

 

 

 

 

 

『へ?ダメかい?』

 

 

 

 

 

 

─と、最初から入れてもらえると考えていたのか、とぼけた顔でそう答えた。

 

「ズコーッ!」

『あっさり…っつーかヌケヌケとー!!』

『ウチも行くところがない。雇ってくれボンゴレ』

 

 あまりにもあっさりした答えに獄寺が怒っていると、今度はスパナもボンゴレに入りたいと言ってきた。

 

『どうするんだ?ツナ』

『こういう時、いつもオレだな!』

『ボスのおまえが決めるに決まってんだろ』

『心のままに言ってやってください、10代目!!イヤならイヤと!!』

「それって、獄寺(こいつ)入江とスパナ(あいつら)のこと、気に入らないからだろ」

『えっ…あ…だからオレ、マフィアとかのつもりないし…それに…正直、入江さんにはいろいろされたから…迷うんだよな…』

 

 悩んでいるツナをみて、唾を飲みつつ緊張で胃を鳴らす入江。

 

『でも、すごく大変なことをしてきてくれたと思うんだ…世界とか…話が大きすぎて…まだよくわからないこともあるけど、これからも力を貸してください!』

 

 悩んだ末に出した答えに、入江は喜びの笑みを浮かべ、獄寺は不満そうに舌をうつ。そしてスパナのファミリー入りにも許可を出したところで、入江がツナの手を両手で握る。

 

『こちらこそヨロシク!!─そうと決まれば僕にはやらきゃならないことが山程ある!君達とも、もっと話さなくちゃいけないが、先にこの装置を隠して保護する方法を考えないと…』

『正一、技術的な話なら手伝う』

『ありがとうスパナ!さあ、忙しい10日間になるぞ!!』

『あ…あの…なんか手伝った方がいいでしょうか?』

 

 気合いを入れている入江を見たツナが、自分も何かした方がいいのかと話しかける。

 

『無理するなよ綱吉君!』

『え?』

『本当は一刻も早くアジトの仲間の元へ帰りたいだろ?10日後の白蘭サンとの戦いのことはまた話し合うとして、一時解散しよう。後で僕らもお邪魔していいかい?』

 

 そう言われたツナは一瞬迷ったが、彼の言葉に甘えて、獄寺達をつれて地上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 並盛町のとある裏路地。そこには、メローネ基地に繋がる入り口が一つ存在していた。そこのドアが開き、中からツナが外の様子を確認する。

 

『ミルフィオーレの連中…本当に襲ってこないかな?』

『ボンゴレのアジトからもモニターしてるが、並盛に敵のカゲもリングの炎の反応も全くなくなっちまってる。大丈夫だ』

 

 リボーンからの情報を聞いたツナ達は、一斉に裏路地を駆け抜け、町中へでる。

 裏路地を駆け抜けた先にミルフィオーレの隊員の姿はなく、代わりに多くの一般人が行き交っていた。

 

『ふー…久しぶりの外の空気だ』

『さ…帰りましょう、10代目』

 

 獄寺に促され、ツナが京子達やリボーンが待つアジトへと足を向ける。

 

「入江さんって、いい人だったんだね」

「必要な演技だったといえど、ラル・ミルチの持っていた写真や初対面の態度からは想像もできなかったがな」

「…ん?なんだこれ?」

 

 帰路に着くツナ達を眺めながら、響達が他愛もない話をしていると、彼女らの目の前に一冊のA4ノートが現れた。

 突如として現れたそれに響達が困惑していると、ノートがひとりでに開き、白いページに文字を書いていく。そして文字がある程度書かれると、今度はノートの真上に、ページに書かれていた文字が大きく浮かび上がった。

 

 帰りはみんな無言で…足取りは重かった……

 

「これってまさか、ツナが書いた日記…?」

「もしそうだとしても、何でこの空間に…」

 

 響達が混乱したいる間にも、ノートに書かれる文章は更新されていく。

 

 

 

 

 

 

 キズの痛みや疲れもあったけど

 みんなアジトに帰りづらい気持ちがあったと思う…

 作戦は成功とは言えなくて…

 目的だった入江正一には辿り着くことはできたけど

 すぐには過去に帰れそうにない…

 待ってるみんなにどんな顔をすればいいんだろう…

 

「沢田…」

 

 …でも実際はそんな心配いらなかったんだ…

 ただ…姿を見るだけで─

 ただ…笑顔を見るだけで─

 オレ達の込み上げてきたのは─

 また会えた嬉しさだけだったんだ!!

 

 

 

 

 

 

 そこでノートが閉じ、響達の前から姿を消す。

 文章に夢中になっていた響達は、ノートが突然消えたことに一瞬驚いたが、すぐに別の光景に意識を向けた。

 彼女達が目にしたのは─

 

 

 アジトの外で、帰りを待ちきれず出迎えに来ていた仲間達と、そんな彼らの元に駆け寄るツナ達の後ろ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまり…お前達がこの10年後の未来に来てみたら、オレ達の所属するボンゴレファミリーにとって、とんでもなくひどく荒んだ世界になっていたと…』

 

 時間は進み、メローネ基地での戦いの翌日。広間では、来たばかりで事情を知らない了平にツナ・獄寺・山本の三人が現状を説明していた。

 そんな了平は、どこからか取り出したスケッチブックにマジックで絵を描くと、顔の横に掲げて聞いた話を整理していく。

 

『そこで、過去に戻ろうと元凶であろう男、入江を倒しにいったら、実は入江はいい奴で─』

 

 了平が─入江らしき男の不細工な顔が描かれたページをめくると、今度はふくよかな顔の入江が出てくる。さらにめくると、今度は白蘭らしき男の下手な絵が露になる。

 

『極限に悪い奴は7^3(トゥリニセッテ)を集め、世界征服を企むミルフィオーレというファミリーのボス、白蘭と判明!!』

 

 スケッチブックを掲げながら力強く宣言する了平。了平はさらにページをめくり、今度は白蘭および真6弔花の雑な絵を見せる。

 

『奴は己の欲望のためには手段を選ばず、真6弔花という恐ろしい部下までいる!!10日後に奴らを倒さねば、過去に帰れぬどころか人類の危機らしい!!』

 

 そこまでまとめた了平は、手に持っていたスケッチブックを頭上へ放り投げ、拳を握る。

 

打倒 白蘭!!!打倒 真6弔花!!!

 

 放り投げられたスケッチブックが了平の椅子の背もたれにぶつかりながら床に落ち、自分なりに話を纏めた了平は呼吸を整える。

 

『…というわけだな』

『え、ええ…た、多分…』

『甘やかすことないっスよ』

 

 了平の迫力にタジタジになっていたツナに代わり、獄寺が話し始める。

 

『てめー、たったこんだけ理解すんのに5()()()もかけてんじゃねぇ!』

オレは二転三転する話は二転目までが限界なのだぁ!!

 

 そう叫び、目の前にあったテーブルを片手で勢いよく押し退ける了平。

 ─そう、5時間だ。了平は5時間もツナ達から説明をしてもらっていたのだ。おかげで、彼らのやり取りをみていたシンフォギア組は疲労の色を見せていた。

 

「ようやく理解しやがったよ…にしても長すぎんだろ!この(バカ)でももっと早く理解できるぞ!」

『自慢することか!!っバーカ!!』

『何だと!?バカと言った奴がバカなのだ!!』

『いいや!バカな奴がバカだね!!』

『まーまー』

 

 今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな二人の間に、山本が介入する。

 

『やっと再会できたんじゃねーか!仲良くいこーぜ』

『おめーは安静なんだろーが!すっこんでろ野球バカ!!』

『聞けばセンパイも、過去でオレ達が次々と行方不明になっちまって、心配して日本を5周も捜索してくれたなんて、うれしーじゃねーか!!』

『おかげで身も心も、極限にたくましくなってしまったぞ!!』

 

 そう言いながら、服の袖をめくり、筋肉質な上腕二頭筋を見せつける了平。

 

「てか今さらだけど、日本を5周するとか、こいつも地味に怪物じみてねぇか?」

「「「確かに…」」」

『なーに言ってやがる!妹見つけたとたん、「京子ぉ~っ!!京子ぉ~っ!!」『当然だ!!』』

『宇宙に一人しかいないかけがえのない妹だからな!!』

「うわ…こいつ、堂々とそんなこと言うか…」

「あはは…」

 

 クリスの辛辣な感想に苦笑いしつつも、了平の妹に対する過保護な態度に、実の姉の面影を幻視し少し笑顔を見せるセレナ。

 と、そこで了平がなにかに気づきツナに問いかける。

 

『この恐ろしい話を京子は知っているのか!?』

『いえ…白蘭や今の詳しい状況については言ってません…』

 

 それを聞いた了平は安心したのか、獄寺と言い争いを再開させた。

 

【なんか10年前のお兄さんが来て、みんな明るくなったな…オレが言うのも変だけど…若さってスゴいな…】

「"ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪"…まさに晴の守護者の使命を体現していると言えるな」

 

 なんとか獄寺と了平の喧嘩を止めたツナ達は、気付けば昼飯時になっていたので広間を離れ、途中でフゥ太やランボと合流し台所兼食堂へと向かう。

 

「それにしても─了平さんはともかく、ツナや獄寺さん、山本さんはメローネ基地での戦いから1日しかたってないのに元気そうだね」

「まぁ、ボンゴレ匣を開けるほどの炎がでなかったとこを見るに、気力の面は相当使いきったみてぇだがな」

「それに─ラル・ミルチは戻って早々体調を崩し医療室に、雲雀はどこかへと消え、草壁も彼を追ってアジトを出ていった」

「ラルさんも心配だけど、雲雀さん達も無事か気になるね…」

 

 響達がそんな話をしていると、ツナ達が食堂に辿り着く。そこには既に、クロームを除いた女性陣が集まっていた。

 

『極限にメシだ!!メシメシ!!』

「こいつ、いちいち騒がしいな!」

『あ!』『ツナさん♥️』

『オレ達もそろそろごはんにするよ』

『せっかくのオフが芝生頭(てめー)のせいで潰れるぜ』

『黙らんか!!』

『この後の事で相談があるんだけど─『ふげっ』』

 

 部屋に入ってきて早々、ビアンキがツナに話しかける。すると彼女の顔をみた獄寺が顔色を悪くし、仰向けに倒れた。

 

『獄寺君!』

「そうだ忘れてた!獄寺さん、ビアンキさんの顔を見たら気絶するんだった!」

『ビアンキ、ゴーグルつけて!!』

『ごめんあそばせ』

 

 ツナに注意され、ゴーグルをつけたビアンキは先程の続きを話しだす。

 

『食後に京子(この娘)達、地上散策に連れて行きたいんだけど』

地上(うえ)に!?でも危ないよ…!!』

『あなた達が帰ってきてから、レーダーに怪しいモノは何一つ映ってないわ。きっと10日後まではなにも起こらないと思うわ』

『でも…』

『だったらオレ達もついて行こうぜ!護衛っつーかさ』

 

 一瞬迷ったツナだが、山本の提案を聞き渋々了承。更にフゥ太の提案で、メローネ基地跡で作業を行っている入江とスパナに差し入れを持っていくことになった。

 その後、昼飯を済ませ、いざ地上へ向かおうとしたツナをビアンキが引き止め、獄寺達から離れるようにして廊下の端に連れていく。

 

『なーに?ビアンキ。呼び出したりして』

『あの子達が本当に地上に出たい理由、わかる?『へ?』自分の家に行きたいのよ』

『え!?自分家に?で…でも、今行っても…』

「そうだ…もし、彼女達の親族が既にボンゴレ狩りの餌食となっていたら…」

『ええ…恐ろしい現実が待ってるかもしれないわ…でも、もうひきとめる理由がないのよ!』

 

「だから!」と、ビアンキがツナの肩をつかむ。

 

『しっかりフォローしてあげてね』

『い゛っ!?オ…オレが!?』

『あなた、ボスでしょ!!』

 

 そう言われ、情けないうめき声をあげるツナ。ビアンキは言いたいことを言い終えると、獄寺達が向かった方向へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワクワクです♪ケーキ屋さんが10年たって、どうチェンジしてるか楽しみですね!』

『新メニュー、増えてるかな!』

 

 地上に上がっていくエレベーターの中で、京子とハルが楽しそうに話す中、ツナは先程のビアンキの話を思いだし、影を落としていた。

 

【ビアンキ、女子のことになると怖いんだよな~…10年経って、さらにアネキぶりに磨きかかってる気がするし…】

「それにスタイルいいし…綺麗で格好いい、女の憧れみたいな人だよ!」

「まぁな」

「自分の愛人だからって、自分のことみたいに自慢げにすんな!」

【…本当は行くの止めるべきなんだろうけど…自分の家に帰りたい気持ち…家族に会いたい気持ちはわかるしな……母さん…父さん】

 

 不安な顔をするツナの脳裏に、彼の両親─奈々と家光の顔が浮かび上がる。そしてツナを経由して、響達の脳内にも二人の顔が浮かび上がってくる。

 

「この方達が、沢田の両親か…」

 

 すると突如、警報が鳴り始めエレベーター内が赤いランプで照らされる。

 

『「何だ!?」』

 

 ツナ達と響達が混乱していると、取り付けられていたスピーカーからジャンニーニの声が聞こえてくる。

 

〔Aハッチにリング反応です!!ミルフィオーレの可能性もあります!!〕

『10代目!!』

『見に行くべきじゃねーか?』

『え!?あ…そうだね…ちょっと行ってくるね!』

 

 獄寺達に促され、ジャンニーニが言っていたAハッチに向かおうとしたツナだったが、ふと、なにかを感じとり振り返ると、京子とハルが心配そうな目で自分達をみていた。

 

『だ…大丈夫だよ!すぐ戻ってくるから…そしたら、行きたい場所へ行こう!』

『ツナさん…』『ツナ君…』

 

 そんな彼女達を励ますためにそう伝えたツナは、二人を残しAハッチに向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この辺りだね』

『間違いありません』

 

 ジャンニーニが言っていたAハッチから外に出たツナ達が周囲を見渡す。すると上空で物音がし、一斉に空を見上げた。そこには─

 

『え─ひっ、人~!?』

 

 彼の言う通り、一人の少年が上空から真っ逆さまに落下してきていたのだ。そしてその人物は、狙うかのようにツナの元へ落ちてくる。

 

『ちょ!どーしよ─』

 

 空から人が落ちてきていることに完全にテンパってしまっていたツナは避けるのが間に合わず─

 

 

 

 

 

 

"ゴンッ"『ぃでっ』『ぐっ』

 

 

 

 

 

 

 落ちてきた少年とツナの頭が激突し、両者とも痛々しいうめきをあげる。そして少年はそのまま地面に落下し、ツナは頭を抱え踞る。

 

『あだー!!』

『沢田!!』『大丈夫かツナ!!』

「うわぁ…今、ゴンッていったよ…痛そー…」

『てめー、何モンだ!!』

 

 了平と山本がツナの元に駆け寄り、獄寺が落ちてきた人物に警戒を示す。するとゆっくりと、少年が起き上がり始めた。

 

『申し訳…ありません…沢田…殿…』

「あれ?今、沢田殿って…」

「おい、こいつ、見覚えあるぞ…!」

『ああ!!き、君は…』

 

 痛そうにしつつも、ぶつかってきた人物の顔を確認したツナが声を上げる。

 少年は、右目が隠れる程に伸びた亜麻色の前髪の奥から、綺麗な碧眼を覗かせつつ身体を起こす。

 

助太刀に参りました!!

『バジル君!!』

「あぁ!ツナが未来に来る前に"死ぬ気丸"を渡した人だ!」

 

 空から落ちてきたのは、ボンゴレファミリー門外顧問組織『CEDEF(チェデフ)』に属する少年─"バジル"こと「バジリコン」だったのだ。

 

『こ…こいつオレ達の知ってる、10年前のバジルっス!!』

『うっ…』

 

 獄寺が自分達の時代のバジルがいることに驚いていると、バジルがうめき声を上げて倒れこんだ。

 

「バジルくん!?」

『おい、大丈夫か!?』

『情けない話ですが…体に力が…』

『何か欲しいの!?水!?』

 

 心配するツナ達にバジルは、弱々しく腕を伸ばしながらこう一言─

 

 

 

 

 

 

『できれば…おむ…すび…を…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バジルと合流して数分後、彼の頼みを叶えるため、彼を連れて食堂へ向かったツナ達。

 そんな彼らの視界には今、空になった多くの皿とテーブルに散らばる複数の調味料、そして手に持ったおにぎりと牛乳瓶を、美味しそうに口に頬張るバジルの姿があった。

 

『バジル君…よく食べるね』

『あいつ、ちっこいくせにマンプクキャラだったんすね…』

「まるで(こいつ)の男版みたいだな」

「ちょっとクリスちゃん!私、こんなに食べないって「確かに、クリスの言う通りだよ」未来!?」

『見ていたら、極限にオレも腹へってきたぞ』

『食ったばっかじゃないっスか!!』

 

 そんな彼の姿を見たツナ達が話している中、バジルは全ての料理を食べ干すと、満足げに一息つき、両手を綺麗に合わせる。

 

『ごちそうさまでした』

 

 そんな彼の姿に、「外人とは思えないほど、礼儀がなっているな」と、一人感心する翼。

 

『とてもおいしかったと、京子殿とハル殿にお伝えください』

『きっとよろこぶよ!』

『それにしても驚きました…本当に、並盛の地下にこんな立派なアジトができていたなんて!』

 

 そんなバジルの言葉を聞いた獄寺が、真剣な顔で問いかける。

 

『お前、10年前から来たのに、このアジトのこと知ってんのか?』

『はい!全てはボンゴレの勅命である死炎印のついた─この「助太刀の書」に記してありましたから』

 

 そう言って取り出された文書(もんしょ)には、縦に「助太刀の書」と確かにそう書かれており、そのタイトルの上には大空の炎が灯っていた。

 

「助太刀の書だぁ?」

『はい。このアジトへのルートと、この時代での戦い方が記されており、いざという時は燃えてなくなる極秘文書(ごくひぶんしょ)です』

「おお…それはなんとも厳重な…」

『拙者、この時代に来たのは10日前で場所はスペインだったのですが…その時、パスポートと匣兵器と共に置いてありました…』

 

 バジルの話を聞いた獄寺が、彼の持っていた匣を軽く眺めると、確かに横に「CEDEF」と刻印されていた。

 

『残念ながら、ここに来るまでに仲間には誰にも会うことはできませんでしが、この書と匣兵器のおかげで、途中で出くわしたミルフィオーレファミリーを何とか撃退できたんです』

『え!バジル君、もうミルフィオーレと戦ってるの?』

『ええ!6回ほど戦闘を』

「たった10日のうちに6度も退けただと!?」

『つまり何者かの指示で、バジルはツナ達とは別のルートで鍛えられ、ここに合流したと考えられるわね』

 

 ツナがバジルの戦績に驚いていると、いつの間にか来ていたビアンキが考えを述べる。なお余談だが、今回はきちんとゴーグルを着けているので先程のような事故は起きていない。

 

『鍛えられるって…メローネ基地でのオレ達みたいに?でも…何のために…?』

『にぶいわね…CEDEFは普段は外部の機関だけど、いざという時にはボンゴレを支える特別機関よ』

『その通りです』

 

 ビアンキの考察を肯定し、助太刀の書を見せながらバジルは告げる。

 

『「助太刀の書」はこう締めくくられていました─若きボンゴレ達と共に白蘭を砕けと!!

『おい…』

『っということはだ!!』

 

 

 

極限に、打倒白蘭の仲間だな!!

 

 

 

『よろしくお願いします!!』

『バジル君強いし、心強いよ!!』

「これは強力な助っ人だな!」

『でも一体、誰がこんな手のこんだこと…』

『そりゃ、この時代の10代目に決まってますよ!!』

『またオレ─?』

【うれしくないんだけど…】

『ツナ、さっきからハルと京子がおまちかねよ?そろそろ地上へ行きましょ』

 

 獄寺の回答にツナのテンションが下がっていると、ビアンキがそう促してくる。どうやらここに来たのはそれを伝えるためだったようだ。

 

『あ…そうだね。よかったらバジル君も一緒に─』

 

「一緒に行かない?」と言いかけたツナだったが、彼が振り向いた直後、バジルは食後の皿が散らかるテーブルに勢いよく倒れ、鼻提灯を作りながら眠りについた。

 

「び、ビックリした~…」

『…電池切れみてーに』

『よほど疲れていたのだな…』

 

 気持ちよく眠るバジルを見たツナは、こんな彼を起こすのは無粋だと考え、最初の面子で地上に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレ達は、10年後の京子ちゃんとハルの家の様子を知るために、並盛の地上に出た…

 

「お、また出てきたな」

 

 地上へと上がったツナ達が、獄寺一人、山本と子供ペア、笹川兄妹、そしてハルとツナとビアンキの三人の、計4組に分かれた所で、再びノートが現れ文字を浮かび上がらせていく。

 そんな中、ツナ達がハルの家に辿り着くと、家のシャッターは閉じられていた。

 

 

 

 でも、予想通り家には誰もいなかった…

 近所の人の話だと、少し前にハルの両親は家をあけると言って出ていったらしい

 きっと、身の危険を感じて避難したんだと思う…

 

「─おいちょっと待て。今、どうやって人ん家の鍵開けやがったビアンキ(あいつ)!?」

 

 ノートが閉じ、今度は消えずに残っていたことに響達が目を奪われていると、一人だけ別の光景を見ていたクリスが声を上げる。

 

「え?ハルちゃんから家の鍵を貰ってたんじゃないかな?」

「いいや、あの動きは鍵を開けるとか、そんな動きじゃなかった。一体何を─」

 

 響の考えを否定し、先に入ったツナ達を追いかけるようにしてハルの家に上がろうとしたクリスだったが、三浦宅のドアノブをみた直後、動きを止めた。

 そんなクリスをみた響達が、心配そうに彼女の元に歩みより、そして彼女の視線の先を見て全員動きを止めた。

 視線の先にあったのは─

 

「…これって、桜餅、だよね…?」

「多分…見た目は完全に…」

「だが…煙を出しているな…」

「しかも、金属のドアノブからな…」

「これがポイズンクッキングだ。暗殺に使う以外にも、こんな感じで多様な使い方ができて、色々便利だぞ」

 

 リボーンがそう伝えるが、それは彼女達の耳に入ってこなかった。彼女達はただ、目の前にある毒物─「ポイズンクッキング"溶解桜餅"」に恐れるしかなかった…

 

 

 

 

 

 

『…ハル…大丈夫か?』

 

 ハル(自分)の部屋の中心で、座布団の上に座るハルにツナが心配そうに話しかける。

 なお、玄関でポイズンクッキングを見て思考を停止していた響達だが、あの後誰よりも早く思考を再開させた翼がどうにか全員の意識を引き戻し、ツナ達の後を追ってきていた。

 

『不思議です…ハル…自分の家に戻ったら、もっと泣いちゃうと思ったんです』

「ハルちゃん…」

『でも…10年経ったハルの家は…カーテンも、お布団の柄も、家具の位置も、ぬいぐるみも、本棚の本も変わっていて…この時代の両親が、この時代のハルに置いていってくれた手紙も…なんかよそよそしくて…見てはいけないものをのぞいてる感じです!』

 

 そう言って振り返ったハルは、目元に少し涙を浮かべていた。

 いつもの元気なハルを知っているツナは、そんな今の彼女のギャップに心を動かされ頬を赤くする。

 

『でも、気持ちがスッと楽になりました!ハルが帰る場所はここじゃなくて、10年前の両親の所だってわかったんです。それに、ここに来てわかったんです─この時代のハルも、すごく元気に生きてたって!だから─負けられないって、ファイトがわいてきました!!

 

 元気よくそう答えたハルの瞼にはもう、涙は残っていなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よ!そろったな!!』

 

 ハルの家を後にし、ツナ達が獄寺達と別れた十字路に戻ってくると、他の三組もちょうど同じタイミングで戻ってきた。

 

『獄寺君と山本は自分家いったの?』

山本『オレはチビ達と遊んでた』

獄寺『自分はどうせ引っ越してると思ったんでブラブラと…』

 

 

 

 

 

 

いいかお前ら!!極限だ!!!

 

 

 

 ツナが獄寺達と話していると、やかましい声が割り込んできた。

 

「うるさっ!」

『なに興奮してんだ?』

『お兄ちゃん、家に帰ってからずっとこうで…』

極ゲーン!!!

 

 京子が心配そうにしていることにも気付かず、了平は叫び続ける。

 

『輝かしいこの未来のため!!!()()()()()()()()()()()()!!!

『10代目…よく考えたら、いつも大体こんなんです』

『そ…そお?』

「─え!もしかしてそういう?そういうこと!?」

 

 そんな了平に獄寺が呆れ果てる中、響は了平のハイテンションな理由に気づき、その理由に自然と声のトーンが上がる。

 

「立花、お前は笹川兄が昂っている理由に気づいたのか?」

「はい!というか、私達みたいな年頃の子がよく話のネタにするアレですよ~!」

「???」

『次はどこへ行くのだー!?』

 

 翼が響の話についていけないでいると、了平がそう叫ぶ。

 

『あなた達、他に行きたい所はないの?』

 

 ビアンキにそう問われたツナ達は、皆、ある場所の名を上げた…




次回は多分、翼さん大興奮の回になると思います。

追記:11/10

アンケートを作りました。それと、もし現時点での過去編の長さに不満がある方は、活動報告で読者の方々が削っていいと思っている部分を聞かせてもらいます。いちを期間は両方とも1週間後くらいまでとさせて貰います。


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ツナの過去(10年後編):⑪

どうも、生粋の名無しです。

今回は翼さん大興奮の回。そしてツナとリボーンに関わりの深いあの人が登場します。


 地上に上がったツナ達が、最後に向かった場所。そこは─

 

『わ~!変わんないっ!!』

『10年間、増築も改築もされずに…』

『極限に健在だな!!』

「ここが、元の世界でツナが通ってた中学校かぁ…」

 

 響達は感慨深そうに、目の前に建つ『並盛中学校』を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 その後響達は、ツナ・獄寺・山本・京子の四人の後を追って、彼らの教室である2-Aに入る。

 

山本『オレの席はここだな』

京子『なつかしー!』

 

 四人は自分達の席に着き、未来に飛ばされる前の日々を思い起こす。

 

山本『この角度だと、寝てても気づかれねーんだよな』

獄寺『オレはそんなことしなくても、教師に一発ガンくれてやりゃ寝れたけどな』

「アハハ…二人とも、らしいと言えばらしいんだけどね…」

 

 オレ 今まで…

 学校のことを好きだなんて思ったことなかった…

 

「あ、また開いた」

 

 二人の話を聞いてツナと京子が笑っている横で、三度開かれるノート。

 その後、了平やハル達と合流したツナ達は、学校の屋上に上がる。

 

 でも学校は 10年経っても昔と何も変わらずに迎えてくれて…

 

『この風この風!』

『気持ちいいな…』

 

 忘れていた思い出を たくさん甦らせてくれた

 

『…ツナ』

 

 こんなに楽しかったんだ!!

 

『ねえねえツナ~』

『ちょっとは大人しくしろよ~』

 

 また あの時に戻ったら 絶対もっとかみしめよう

 そう誓ったら

 なんだか 空っぽだった気力が回復していくのを感じたんだ

 

 

 

 

 

 

『しっこでちゃった~』

『んなー!!?』

「「ブフォ!?」」

 

 心地良さそうに風を感じるツナ達をみて、同じように感慨深くなっていた響とクリスだったが、ランボの一言を聞いて吹き出してしまう。他のシンフォギア組三人も驚いてはいたが、二人のように吹き出すほどではなかった。

 

『何やってんだランボ!!』

『ウ○コもでる…』

『ちょっ、まてー!!』

「せ、せっかくいい感じで終わりそうだったのに…」

「あのウシガキ…!」

 

 忌々しげにランボを睨むクリス。そんな彼女を見て、翼達三人は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあツナ兄達、メローネ基地にお弁当だけ置いて帰ってきたんだ』

 

 外は暗くなり、夕飯の準備をしているボンゴレアジトの食堂で、フゥ太が味噌汁を掬いながらツナに話しかける。

 並盛中での『ランボお漏らし騒動』の後、ツナ達はフゥ太の言った通り、メローネ基地に弁当を届けた後、直ぐにアジトに戻ってきていた。

 

『うん。入江君もスパナも何か真剣にやっていて、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったからね』

「何作ってたんだろう、二人とも…」

「なんにせよ、それだけ『チョイス』とやらは準備が必要な戦いなのだろう」

『なーに!お前達もすぐに、死ぬほど忙しくなるから心配すんな』

 

 目を輝かせる山本と獄寺に対し、ツナはリボーンの言葉を聞いて驚いた顔をする。

 

「あからさまに嫌そうな顔してるね…」

『なんで休み中にそういうこと言うかな…』

『お前達、夕飯くったらちょっとつきあえよ』

『え゛…ちょっとって何だよ…』

【すごい嫌な予感がする…─?】

『そういえば席が空いてるけど、誰の席?』

 

 ふと気がついたツナが、話をそらすようにしてハルに問いかける。

 

『クロームちゃんです…帰ってから一回もごはんを食べてないんです』

「『えっ!?』」

『でも、ごはん食べられるぐらいに回復したって…』

『お部屋の前にごはん…置いてきたんだけど…』

「大丈夫なのかな?クロームちゃん…」

 

 この場にいない少女を心配する響達。その後、夕食の時間になっても、クロームが来る気配はなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだよリボーン。こんなとこ連れてきて』

 

 夕飯後、言われた通りリボーンの後をついてきたツナ達は、三人が訪れたことのない謎の部屋の前まで来ていた。

 

『一体、何の部屋スかね…』

「それよりも私、クロームちゃんが心配なんだけど…」

『思ったより早く機動力対策はできそうだな』

『ハイ!スパナなんかに負けられませんからね』

 

 部屋の中からジャンニーニが姿を見せる。

 

『ここはこの時代の、10代目のコレクションルームの一つなんです』

「この時代のツナのコレクション!?チョー気になる!」

『ちょっと失礼しますよ10代目』

 

 響が興奮する中、ジャンニーニがメジャーでツナの足の長さを計り始める。

 

『やっぱり短いですね。

『なっ!?』

「あー…確かにツナって足短いかも」

『何なの一体!?』

『やはりサイズ的にも、ヴィンテージのアレがいいでしょうね…待っててください、すぐ用意しますんで』

 

 そう言ってジャンニーニは、コレクションルームの中に入っていく。

 

「足の長さ…そしてヴィンテージ…もしや…」

『わけわかんないぞ!リボーン!!』

『1日早い課外授業ってやつだな『な?』白蘭に勝つには、リングと(ボックス)だけじゃダメだってことだ』

 

 ツナはリボーンの説明に納得がいかず、さらに問い詰めようとした─その時

 

 

 

 

 

 

 ツナ達を物凄い轟音が襲ってきた

 

 

 

 

 

 

「何この轟音!?」

「廊下に響いてさらに煩くなってやがる…!」

「これじゃあ、ツナ達の声が聞こえないよ!!」

 

 あまりの轟音にほとんどの者が耳を塞ぎつつ、声を大にして話すなか

 

「このエンジン音は…!」

 

 ただ一人、翼だけは耳も塞がず、逆に音に聞き入っていた。

 そんな彼女の瞳が輝いて見えるのは勘違いではないだろう。何せ、ジャンニーニがコレクションルームから持ち出したのは…

 

 

 

 

 

 

 白と青がメインを占め、所々に塗られた黄色が目立つ1台のバイクだったのだから

 

 

 

 

 

 

「これは─」

「バイク!?」

「未来のツナって、こんなものも集めてたんだ…」

『このマシンは私も敬愛するレーサーレプリカですが、最新のテクノロジーでちょっとイジってありましてね─』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HONDAのNSR250R SPロスマンズではないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンニーニの説明を遮るようにして、翼がバイクの車種を叫ぶ。

 

「うお!?ビクッた…どうした一体?」

「このバイクはあの本○技研工場が1993年に発表したレーサーレプリカのモデルで、NSR250Rとしては最終モデルなんだ!私も名前では聞いていたが、実際に目にする日が来ようとは…!外観上最大の変更点は、MC21で採用された『ガルアーム』が、片持式スイングアームである『プロアーム』になった点だが、これは耐久レーサーRVFからのフィードバックで「あー、分かった分かった!一回落ち着け!」」

『いいかお前ら。匣兵器だけじゃなく、こいつも白蘭との戦いの前に乗れるようにするからな』

 

 かなり興奮気味に喋る翼をクリスがどうにか止める。気付けば、ジャンニーニの説明は終わり、リボーンが話し始めていた。

 

『はあ?なんでバイクが白蘭との戦いと関係あるんだよ!?』

「それは確かに…」

『正一の情報により、白蘭との戦いがうっすら見えてきたからだ』

『あの"チョイス"っていう?』

『戦場となるフィールドの広さは直径10km。機動力がものをいうんだ』

「『10km!?』」

(ひれ)~っ』

『ボクシングのリングだとすると…極限な広さだな!!』

「スカイタワー何個分!?」

『ですがリボーンさん。オレ達ならともかく、すでに10代目はすばらしい機動力をお持ちですよ』

 

 そんなことを言ってきた獄寺に、リボーンとジャンニーニは揃って人差し指を左右に降りながら舌を鳴らす。

 

『『チッチッチッ』』

『な…なんスか!!』

『恐らく10代目のグローブの炎をはじめとする死ぬ気の炎は、レーダーで探知されます。炎を探知されない移動手段も視野にいれる必要があるのです』

『なるほど~』

「それに、死ぬ気の炎も無尽蔵というわけではないのだろう?移動での消耗が、後々不利になる可能性もある」

「おー!翼チャン頭いい~♪」

『だからって、オレ達中学生だぞ!?バイクなんて乗ったらケーサツに捕まっちゃうよ!!』

『10年前の世界ならな』

 

 リボーンはそう言って、懐から四枚のカードを取り出す。

 

『この時代では、お前達はプラス10歳なんだ。ちゃんとこいつが発行されてんだぞ』

 

 ツナ達は、リボーンから渡されたカードに目を凝らす。そして、顔写真の横に書いてある文字を見て声をあげた。

 

『う…運転免許証~!!?』

『実際、この時代のお前達が使ってた正真正銘の本物だからな』

『ただし周りに迷惑をかけないためにも、教習所で習うことはみっちり学んでもらいますよ?トレーニングルームには、簡単なコースも作りましたので』

『ちょっ、ヤダよオレ~!!バイクなんてムリムリムリ!!』

 

 必死に拒絶しながら、手に持った免許証をリボーンに返そうとするツナ。

 

『本当にダメツナだな…ふつう大喜びするとこだぞ』

「そうだぞ沢田!何をそんなに嫌がる必要がある!」

「翼さん落ち着いて!こっちからの声は聞こえてないから!」

『考えるより感じろだ。とりあえずまたがってみろ』

 

 リボーンにそう言われ、その場でバイクに股がるツナ。

 ツナの足の長さとロスマンズの車高はジャストサイズで、バイクに乗った彼は意外とさまになっていた。

 

「結構似合ってんじゃねーか!」

『決まってますよ10代目!!』

『よし。んじゃ、左手のクラッチを握ったまま、左足を蹴ってギアを一速に入れてみろ』

 

 ツナは言われるまま、クラッチを握り左足のペダルを踏み込む。

 

『よーし、右手でアクセルをぶん回せ!!』

「いや、クラッチを握ったままでそれは─」

 

 ツナがアクセルレバーを最大まで回し、エンジン音が大きくなっていく。

 

『今だ!!クラッチをパッと放せ!!』

「待て!今の状態で放せば─!」

 

 

 

 

 

 

 アクセル全開の状態でクラッチを放したことにより、バイクはウィリーのように前輪が浮き上がり、そのまま後ろに転倒した。

 

 

 

 

 

 

『じゅ、10代目!!』

『大丈夫かツナ!!』

『リボーンさん!!なんで間違った運転方法を教えるんですか!?』

「クラッチレバーはエンジンで発生した動力を操作するスイッチのようなものだ!ああなるのは分かりきったことだぞ!?」

『「最初に怖さを知っといた方がいい。これがオレの教え方だ」』

「無茶苦茶だ!?」

『というか、大事なバイクですよ!!』

『どうだ、楽しかったか?ツナ』

 

 リボーンの指導方針に響達が戦く中、当のリボーンはジャンニーニの注意を無視して床に倒れているツナに話しかける。

 

『─あの…この際白状するけど─オレ…小五になるまで補助輪ないと自転車に乗れなかったんだ…どう考えても、バイクなんて乗れっこないよ…』

「小五って…確かこの時のツナが中二だから…」

「三年前まで補助輪自転車って、えぇ…?」

『チャリンコとバイクってのは別もんだ。第一、人間どこに才能が眠ってるかなんて、案外わかんねーもんだぞ』

「いいこと言ってはいやがるが…」

【…こいつ、絶対やらす気だ…】

 

 こうして 休日2日目は朝からバイク練習の日になったんだ

 

 シンフォギア組が手を合わせてツナの冥福を祈っていると、過去のツナ達の時間が次の日に変わり、場所もトレーニングルームに変わった所でノートが再び開かれる。

 

 でも不思議なことに 獄寺君とバジル君は

 もう大型のバイクの運転までマスターしていたっ!!

 

「獄寺が乗るのは『ハーレーXL833R』か…彼によく似合っているな」

 

 そして さすが山本

 オレと同じ初心者なのに あっという間に自分の手足のようにバイクを操ってたんだ!

 

「すごいな…彼は既にDUCATIの『モンスター900』をうまく乗りこなしている」

 

 お兄さんも 何度も転んでたけど めげることなく…

 みるみる独自のライディングを完成させていった!

 

極限ドリフト!!!』

「そして笹川兄は、沢田と同じHONDAの『NSR250SE PGM-3』─あぁ!そんな曲がりかたをしたら、バイクへの負担が!」

「あのよぉ…あんたが大がつく程のバイクバカだってのはよ~く分かったから、いい加減静かにしてくんねーか…?てか、最後のはあんたが言えたことじゃねぇだろ!?」

 

 クリスが頭を抱えながら、はしゃいでいる翼を注意する。

 そんな中ツナは、一人バイクを停止させると、ヘルメットを外し近くに取り付けられていたベンチに疲労しきった顔で寝転がった。

 

『なんとか転ばなくなったけど…も~、ヘトヘト~』

 

 そんな彼のもとに、見学していたジャンニーニとリボーンが近寄る。

 

『すばらしい上達ですよ10代目!』

『やるじゃねーかツナ』

『よく言うよ…山本なんてウィリーとかしてるのに』

 

 ツナが視線を山本に向けると、初心者だというのに見事なウィリーを決める彼の姿があった。

 

「すごーい!」

「うまいな…彼は本当に初心者か?」

『あいつはボンゴレトップの運動神経を持ってんだ。あれが普通だ─それより、小四まで自転車に乗れなかった奴が、1日でこけずにバイクを乗れるようになった方がすげーぞ』

「そういえばそうだよ。いくら自転車とバイクの構造が違うっていっても早すぎるよね」

『─たしかに…こんなに早く上達できたことなんて人生初かも…』

 

 ツナの言葉を聞いたリボーンが笑顔を浮かべる。

 そこへ、ビアンキがやってきた。

 

『やってるわね─さあ、あなたたち!今夜は歓迎会よ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜は お兄さんとバジル君の歓迎会をやったんだ

 

 風船などが飾り付けられ、『ようこそ!!了平・バジル』と書かれたボードが飾られた食堂で、ツナ達が楽しそうに食事を味わっていた。

 

『いいか、お前ら!!オレが来たからには極限に大丈夫だ!!打倒白蘭!!打倒ミルフィ…』

『バーカッ』

 

 ハイテンションで京子達にミルフィオーレのことを言いかけた了平を獄寺が阻止する。

 

『女子供には、今度の白蘭達との戦いのことは言わねーよーにしてんだろうがっ!!』ヒソヒソ

『おっ…おっとしまった!!10年前の相撲大会の話をしてしまった!!』

「いやだから、それじゃ無理があるだろうがって…」

 

 

 

 

 

 

 こうして 2日間の休みはあっという間に終わって…

 

 

 

 

 

 

 場面が食堂から、ツナの寝室に切り替わる。

 

【いよいよ、明日からは匣を使った修行か─】

 

 ベッドの上で寝転がっていたツナは右手を上に掲げ、ボンゴレリングに意識を集中させる。すると、勢いよく炎が湧き出た。

 

「気力は十分に回復したようだな」

【よし…これなら…】

 

 リングから溢れる炎を見てツナが気を引き締める。

 

 

 

 

 

 

コト…コトト…

『「!!」』

 

 

 

 

 

 

 すると、側の机の上においてあったツナのボンゴレ匣が、一瞬だけ反応を示した。

 

『今…動いた!?』

 

 すぐさま枕から頭を上げ匣を確認するが、すでに静止していた。

 

「おっかしいなぁ…確かに動いた気がしたんだけど…」

【ま…まさかな…炎を注入してないのに…】

 

 見間違いだろうと考えつつも、ツナはもう一度リングに炎を灯す。すると─

 

 

 

 

 

 

コトトトトトト…

『ひいっ─やっぱり動いてるー!!』

 

 

 

 

 

 

 先程より動きの勢いが増した匣を見て驚くツナ。

 

「すごく元気に動いてる…」

『なにこれ!?早く中から出たがってんのか!?』

 

 ツナが匣の動作に戸惑っていると、匣が振動を利用して少しずつ彼に近寄ってくる。

 

『ひいっ!ム…ムリ!!ダメだって!!明日まで開匣しないってみんなで決めたんだ!』

 

 ツナが匣から離れるようにして下がりそう伝えると、匣は動きを止めた。

 

「まさか、言葉が通じているのか…?」

『うーん…』

 

 動きを止めた匣を見たツナは少し考え…恐る恐る匣を手に取り、ベッドの上で胡座をかいた。

 

【もし匣の中がすごくキュウクツで息苦しかったら…ちょっと様子を見るくらいなら…みんなもわかってくれるよな…】

 

 中で苦しんでいるのだろうと考えたツナは、揺れ動く匣を左手で持ちながらリングに炎を灯す。

 

『よし!』

 

 そしてリングを匣の穴に押し込むと、『カチッ』という音がした。

 

『─こんな感じかな?』

 

 数秒間炎を匣に流したツナがリングを匣から離す。

 

『っていうか、何が出るんだ…?』

 

 ツナが中のものに期待を込めていると、少しして匣が輝きだし─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─という轟音ともに、ツナの部屋で爆発が起こった。

 

「何が起こったの!?」

「分からない…!でも、ツナの匣開いた直後に爆発したように見えた気がする…!」

『なんだよ今の!?』

『知るかよ!!』

 

 続く爆発によって部屋の壁が破壊され、発生した煙が響達の視界を埋め尽くす中、音を聞き付けた山本達がツナの部屋まで向かってくる。

 すると、ツナと同じ大空の炎が廊下と部屋を隔てる壁を破壊し、そこから煙が漏れ部屋の様子が見えるようになった。

 そこで響達が目にしたのは─

 

 

 

 

 

 

凶暴な顔以外の部分が炎のように形をとどめず、鋭い牙を晒しながらツナに襲いかかる化け物と、そんな化け物を必死に押さえるハイパーモードのツナの姿だった。

 

 

 

 

 

「ツナ!」

【こいつ…オレを殺す気だ!!】

『なんだ!!あの炎のかたまりは!?』

「あれは…生き物、なのか?」

『沢田殿の足元に!!』

 

 謎の生物に響達だけでなく山本達も驚愕していると、甚兵姿のバジルが何かを見つけ指差す。

 その先には、蓋の開いたボンゴレ匣が無造作に落ちていた。

 

『ボンゴレ匣!!』

『ってことは、10代目の匣兵器!!』

「ちょっと待って!ツナの匣兵器で動物(?)ってことは─まさか、あれがあのナッツくん!?」

「ウソ!?信じられない…!」

「あれではまるで怪物ではないか!」

『危険だ!下がってろ!!』

 

 響達が脳裏に浮かんだ可愛らしいライオン(ツナの匣アニマル)と目の前の怪物が同じ存在だと知り困惑していると、ツナが襲いかかる怪物─ナッツを上手くいなし距離を取る。

 そして身構え、ナッツが急な方向転換をして迫ってきたところを、ナッツの頭部付近を全力で殴り付ける。それが効いたのかナッツが怯んだ隙をつき、ツナは少し高度を上げると、左手を上に向け炎を噴射し、追い討ちとばかりに先程殴った場所に飛び蹴りを叩き込む。

 それによりナッツが床に向かって勢いよく吹っ飛んでいく。だが次の瞬間、ナッツが自分の炎を巧みに操りツナの四肢を拘束すると、体勢を整え再びツナに襲いかかろうとする。

 それを避けようと、ツナは必死に踠くも拘束が解ける気配はない。

 

【なんてパワーだ!ほどけない!!】

 

 そんなツナの腹部に突撃したナッツは、自分ごとツナを壁に叩きつける。

 

『10代目!!『ツナ!』のやろ!!』

 

 その光景を見ていた獄寺が、ポケットからSISTEMA(スイステーマ) C.A.I.が入った匣を取り出しリングに炎を灯す。するとバジルが止めに入った。

 

『待ってください!!獄寺殿の嵐の匣兵器の特性は"分解"!!ヘタをすれば沢田殿の匣兵器を傷つける恐れがあります!!』

『だったらどーしろっつーんだ!!これ以上、苦しむ10代目を見てらんねー!!』

 

 

 

 

 

 

『拙者が静めます』

『!!』

『皆さんは下がっていてください』

 

 そう言って前に出たバジルは、懐から匣を取り出しリングに青色の炎を灯す。

 

『行くぞアルフィン─開匣!!』

 

 そして匣にリングの炎を注入すると蓋が開き、中から雨の炎を渦巻状に発生させながら一匹のイルカ─雨イルカ(デルフィーノ・ディ・ピオッジャ)が姿を表した。

 

『イルカ!!』

「かわいー!」

「雨属性のイルカ…かなり相性良さそうな組み合わせじゃねーか」

 

 皆がそれぞれ感じたことを呟いていると、雨イルカ─アルフィンは一度小さく鳴き、両胸ヒレに炎を込めていく。

 

 

ドルフィンエッジ!!!

 

 

 アルフィンのヒレから放たれた無数の刃が、ナッツに降り注ぐ。するとナッツが苦しそうなうめき声をあげた。

 

「ナッツ君が苦しんでる…」

『ドルフィンエッジは、体内をえぐる雨の鎮静の炎の刃。いわば対匣兵器用の麻酔です』

 

 バジルが獄寺達にドルフィンエッジの効果を説明する。その時、今までツナを狙っていたナッツの視線がアルフィンに向き、ナッツの体内から無数の炎の弾が放たれる。

 炎の弾はアルフィンの放つ刃を的確に相殺させていきつつ、勢いを増してくる。

 

「ナッツには雨の鎮静が効いていないのか!?」

 

 その光景に一同が驚いていると、ナッツの炎がアルフィンに襲いかかる。

 

『しまった!!』

 

 予想を上回る勢いのナッツにバジルが怯むなか、ナッツの炎はアルフィンを完全に飲み込もうと迫る。

 その時、バジルの横を小さな影が通りすぎ─次の瞬間、膨大な量の雨の炎がナッツに降り注いだ。

 響達はその光景に驚きつつナッツの周囲を見回すと、ナッツの頭上で滑空する一匹の燕が。

 

「あれは雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)!!!」

『お前だけが雨属性じゃないぜ』

『山本殿!!』

 

 雨燕が降らせた雨の炎をもろにくらったナッツはうめき声を上げ、雨から逃げるようにしてツナのボンゴレ匣へと帰っていく。

 

『助かりました!!』

『協力プレーだな!『うう…』!!』

『10代目ぇ!!』

『大丈夫か沢田!!』

 

 壁に寄りかかるツナに獄寺達が駆け寄る。その側では、周囲の水を蒸発させているボンゴレ匣が…

 

『やはり今のは沢田殿の匣兵器…』

『う…うん…普通に炎を注入したつもりだったんだけど…いきなりあんなのが飛び出してきて…』

「ツナ、顔真っ青だ…」

『ですがおかしいです!匣は全て、地球上の生物を模しているはず!』

「いちを私達は、ナッツがライオンモチーフだっていうのは知ってるけど、何であんなのになっちゃったんだろう…?」

『…!!まさかっ!入江の奴が不良品を!!』

『そんなぁ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいや、今のはツナが悪いぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響達が、ナッツがなぜ怪物のような姿で出てきたのか考えていると、後方から知らない人の声が聞こえた。

 

『あれは、お前の匣兵器本来の姿じゃない。特に、大空の匣はデリケートなんだ。こんな開匣をくり返していたら、使いものにならなくなるぞ』

「何奴!」

 

 響達が一斉に振り向くと─左手の甲に独特な刺青が入れられ、オレンジ色の毛を靡かせる白馬に乗った金髪の青年がいた。

 

「リアル白馬の王子様!?」

『元気にしてたか?弟分』

『ディーノさん!!』

「ディーノって確か、ツナの前にリボーン(こいつ)が家庭教師してたって男か!」

『しっかし─ハハハッ!10年前のお前らは、本っ当ガキだなっ』

『何!』

『いったい何時だと思ってんだ?もうガキは寝る時間だぞ』

 

 脚に大空の炎を纏う馬─天馬(カヴァッロ・アラート)にまたがる青年─ディーノが10年前のツナ達を見て笑っていると、遅れてきたジャンニーニとリボーンが姿を見せる。するとリボーンを見たディーノは、懐かしむような表情を見せた。

 

『また会えるとはな─"我が師"リボーン…』

『なんだその面は。10年たってもヘナチョコが消えねーな』

「リボーン君、それは言いすぎじゃ…」

 

 リボーンの辛口な発言に響が心配するが…

 

『ちぇっ!何年たっても子供扱いかよ』

 

 慣れているのか、ディーノは笑って済ませ天馬から降りようと左足に体重をかけた。すると次の瞬間─

 

 

 

ズリッ

 

 

 

ドッテーン

『いでっ』

 

 

 

 

 

 

─鐙から足を滑らせ、盛大に落下した。

 

『いっつつ…』

「大丈夫ですか!?」

『え!?』

『ドッテーンて…』

『おい…もしかしてよお…』

『おっかしーなー…今日はやけに転ぶっつーか、ドジるっつーか…1kmも離れてねー場所から、ここに来るのに3時間もかかっちまったし…』

「いや、それもうドジじゃなくて迷子!」

『あの…ディーノさん。部下の人は?』

『ん?3時間前に、ロマーリオは草壁と飲みに行かせたぜ』

「彼の部下と、先程の現象にどのような繋がりが…?」

 

 頭をさすりながら、ツナの問いに答えるディーノ。それを聞いたツナ達は確信する。

 

【やっぱり─10年たっても部下の前じゃないと力が出せない体質なんだ─!!!】

「「「「─えぇぇぇぇ!?」」」」

 

 ツナの心の声を聞いた響達が驚きの声を上げるなか、リボーンがディーノについて話し始める。

 

「ディーノはかつて、弱気で臆病な『へなちょこディーノ』と呼ばれてたんだが、俺の家庭教師(カテキョー)と、昔キャバッローネを潰そうとしたイレゴラーレファミリーって奴らとの戦いを通じて、ファミリーと街の皆を守りたいという一念で才能を開花させたんだ。だが、逆にそれが仇になってな…ファミリーの前では優秀なボスだが、1人になるとその実力は激減し、極度の運動音痴になっちまうんだ」

「なにその体質!?」

「部下の前じゃなきゃ、まともになれねーってか…」

「だがそれは、ある意味での究極のボス体質とも言えるのではないか?」

 

 これが 10年後のディーノさんとの再会だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時と場所は変わり、次の日の朝の食堂にて。

 そこでは、昨日合流したばかりのディーノや彼のペット─スポンジスッポンのエンツィオ、部屋に引きこもっていたクロームも混ざり、全員で食卓を囲んでいた。

 だが、その場にいたほとんどの人の視線はディーノに向けられていた。

 

『?なんだよお前ら』

 

 ペットのエンツィオを肩に乗せ、食事をしていたディーノは視線に気づき、笑顔で首をかしげる。

 皆が彼を見つめるのは仕方ない。なにせ彼の食卓は─白米やレタス、ウインナー等が飛び散り、手に持っているお椀からはワカメがはみ出しており─見るも無惨な光景ができていた。

 

「こりゃひでーな…」

「一足先に来たバジルとは真逆だな…」

「た…多分これは、外国の人が使いなれてないお箸での食事と部下の人がいないことが噛み合っちゃっただけだじゃないかな?流石にフォークやナイフでの食事や、手掴みのピザならあんなことには─」

 

 そう言いながらリボーンに視線を向けた未来だが、当のリボーンは無言でボルサリーノを深くかぶった。

 

「嘘でしょ…!?」

 

 部下をつれていないディーノさんはやっぱりスキだらけだったけど─

 10年前と同じ親しみやすいディーノさんでホッとしたんだ!

 

 リボーンの態度から察した未来が驚愕していると、ノートに字が浮かぶ。

 そして場所が切り替わり、アジトのトレーニングルームに移る。

 

『よしっ、そろったな!』

 

 ツナ達の前に立っているディーノがそう話す。そんな彼の後ろには、二人の黒服の男が。

 

「なんかディーノさん、さっきより少し"キリッ"てなってるような…」

「彼達が、ディーノの部下達なのか?」

「ああ、そうだ。そんでディーノの右後ろにいる、エンツィオを頭に乗せてるメガネと髭が特徴的な奴が、ディーノの右腕を勤めてるロマーリオだ」

「さっき金髪が、あのリーゼントと酒飲みに行ってるって言ってた奴か」

『今日から本格的な匣兵器の修行だが─』

 

 リボーンがロマーリオを紹介していると、ディーノが話を進めていく。

 

『リボーンの一番の教え子であるオレが、全体を仕切る家庭教師をすることになった。よろしくな』

『ヘナチョコのあいつなんかにつとまるンすかねー』

『でもディーノさん、部下の前だとすごいし…』ヒソヒソ

『ちなみに今回、オレはその上の役職"家庭教師の精"だからな』

 

 そう話しながら、上からワイヤーに吊るされ降りてきたリボーンは─一冊の本から羽と顔、そして四肢が映えたようなコスプレをしていた。

 

『「妖精になっちゃったよ!!」』

『ディーノがヘボい時は、オレが制裁をくだすから安心しろ』

 

 そう言ってリボーンは、ディーノの顔に容赦なく連続蹴りを叩き込む。

 

『いでで!やめろってリボッブッ!!』

「ちょっ─リボーン君やり過ぎ!」

『ってことで始めるが…その前にクローム、意思確認だ』

 

 またもやディーノに容赦のないリボーンを見て心配する響だが、これまた慣れているディーノはそのまま話を続ける。

 

『お前はボンゴレ守護者であると同時に骸の一味でもある。ミルフィオーレとの戦いには味方として数えていいのか?』

 

 真剣な表情で問いかけるディーノに対し、クロームは少しの間考えると、顔を縦に降った。

 

『私、もっとちゃんとして…強い人になりたい…それが…過去に帰ることにつながると思うから…』

 

─覚悟の灯った目で答えたクロームに、ディーノは満足そうな表情を浮かべる。

 

『よし、頼んだぜ─それと、ランボにも本格的な修行をしてもらう。白蘭を倒すには守護者全員の力が必要だ』

 

 ディーノの話を聞いて、響達がランボの方を向く。

 そのランボだが、彼は床で寝転がりながら、鉛筆をロケットに見立てて一人遊んでいた。

 

「あんな奴が本当に戦力になるのか?」

【本当に仕方…ないのかな?】

 

 そんな彼を見て、心配するツナ。

 

『オレはこの時代のツナに聞いて、お前達のボンゴレ匣のことを多少は知っている。そこから考えて、それぞれに違う修行をしてもらうつもりだ。ちなみに雲雀恭弥は、オレとの修行をもう開始させている』

「えっ!?雲雀さんと!?」

「てかあいつ、見つかったんだな」

『あいかわらずかわいくねーじゃじゃ馬だけどな…じゃあ沢田綱吉!お前から修行内容を言っていくぞ』

『あ…はい!』

「ツナの修行か…どんなのだろう」

「ワクワクするな~!」

 

 ディーノ(兄弟子)に指名され、緊張で体を固くするツナ。そんな彼にディーノが告げた修行内容、それは─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は、正しく開匣できるまで一人だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─ん?それだけか?」

『え!?…一人って、一人ぼっち…!?』

 

 ディーノから告げられた修行内容に、それぞれの反応を示す。

 

『一人といっても、匣兵器と一緒だぜ?匣にトラブルが起きた時は、使い手がずっと一緒にいてやることだ』

『…それだけ…ですか?』

()()()()()()()

『「えっ?」』

『次に獄寺隼人』

 

 ディーノが言った最後の一言にツナが困惑するなか、ディーノは話を続けていく。

 

『お前は匣初心者である笹川了平と、ランボの面倒をみてやってくれ』

『なにっ!?』

 

 ディーノが告げた修行内容に、額に青筋を浮かべ明らかに不満そうな表情をする獄寺。そんな彼にツナが話しかける。

 

『すごいね獄寺君!もう教える立場なんて』

『えっ!?』

 

 そんなツナの言葉を聞いた獄寺は、先程の不満そうな表情から一変、嬉しそうな表情になる。

 

『いえいえいえ、もったいないお言葉!!自分なんて、まだピヨっ子です!!ですが、お役に立てるのなら、力の限りやらせていただきます!!』

 

 そう言って力強く胸を叩く獄寺。そんな彼に対し、了平とランボは嫌そうな顔をする。

 

『オレは嫌だぞ、タコヘッドの指導なんぞ!極限にクサクサする!!』

「クサクサって何…?」

『ランボさん、あの愚か者嫌~い』

「どの口が愚か者って言ってやがる」

『何とでも言えっ!!オレは10代目にまかされたんだ!!ひきずり回してでも教えこむからな!!』

【オレ、まかせてない─!!】

「勝手に脳内変換してやがる…」

 

 

 

 

 

 

『次にクローム髑髏。お前は匣兵器強化のためにも、半分の時間をアルコバレーノ「マーモン」の残した幻覚強化プログラムで修行し、残りの時間を格闘能力アップに使うんだ…あそこの2人に手伝ってもらってな』

 

 クロームがディーノの指した方を向くと、ゴーグルをつけたビアンキと、彼女に抱き抱えられているイーピンの二人が、軽く手を振っていた。それを見たクロームは、少し嬉しそうな顔をする。

 

 

 

 

 

 

『そして山本武』

『うす!待ってたぜ!!ディーノさん!何やんだ?』

 

 そして最後に呼ばれた山本は、いつもの明るい顔で問いかける。そんな彼にディーノが伝えたのは─

 

『お前はパスだ。待機』

『へっ?』

『パ…パス!?』

「なんで山本さんだけ…」

『つーか、お前には手ー出せねーんだ。お前にヘタなこと教えれば、あいつにぶっ殺されるからな』

『「あいつ?」』

『お前の才能の一番の理解者は本気だぜ─今回の修行で山本武、お前すげーことになるかもな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『修行の説明は以上!!各自、修行場所は自分で選べ。バジルは自分の修行をしながら、みんなのサポートをしてくれるからな』

『よろしくお願いします!』

「結局、山本さんの一番の理解者が誰なのか分からずじまいだったね」

 

 ディーノの説明が終わり、ツナ達がそれぞれの目標を定める。

 

『芝生頭とアホ牛!!ノートとえんぴつを持って図書室に来い!!まずは理論を頭に叩き込む!!』

【獄寺君の理論指導きたー!!】

ヤンキー(見た目)理論派(中身)がやっぱり噛み合ってねーんだよな、あいつ…」

『ありゃあ大変そーだな』

『だね…ところで山本は修行どーするの?』

『まっ!よくわかんねーから、修行が始まるまで自主練だな』

『クローム来なさい。鍛えてあげるわ』

『…はい』

 

 方針が決まり、いざ修行へと向かうツナ達。そんな彼のあとをついていこうとした響達だったが、エレベーター前で翼が突如、後ろを振りかえる。

 

「どうしたんですか?翼さん」

「いや…一瞬、何者かの気配を感じた気がしてな…」

 

 翼はそう呟いてトレーニングルームを見渡すが、特に変わった気配はない。

 

「勘違いじゃねーの?」

「そうかもしれないな…」

 

 響達はツナ達のあとを追って部屋を出ていく。だが、彼女達は気づかなかった。置かれていたツナのバイクの背後で、布のようなものが揺らいでいたことに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングルームを離れ、個別の練習部屋に来たツナは、左手にボンゴレ匣を持ち、開匣の準備をしていた。

 

『始めるか…』

 

 そう呟き、手に持つ匣を見つめるツナ。

 

【また、あの怪物が出てきたら…どうしよう…】

「何が原因で、ナッツ君があんな化け物で出てきたんだろう…?」

『ええいっ』

 

 脳裏に前日の出来事を思い浮かべたツナは、やけくそ気味にリングに炎を灯す。すると匣が勝手に震え始める。

 

【あの時と同じだ…】

『いいか!今度、暴れたらオレも全力で叩きつぶすぞ!』

 

 ツナが匣に力強くそう伝えると、匣が動きを止めた。

 

「止まった!」

『─言葉が通じた…?』

 

 そう期待したツナだったが─

 次の瞬間、匣が今までとは比べ物にならない荒々しさで震え出した。

 

「怒っている、のか?」

【前より凶暴化してるぞ!!こんな奴、一体どーすりゃいいんだ!?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その後も暴れ続ける匣を見て開匣を諦めたツナが、移住区に移動し風呂から上がると、ノートが開かれ文字が浮かぶ。

 

 修行方法は みんな違うけれど

 休憩時間に顔を合わせると 順調かどうかはだいたいわかるんだ

 

『お疲れ様です10代目!!』

『獄寺君とお兄さ…え゛!?』

 

 タオルで髪を拭いていたツナが獄寺と了平、そしてランボの姿をみて驚く。

 何故なら彼らは、ボロボロの顔になって煙をあげており、ランボに至っては自慢のアフロヘアーがチリチリになっていたのだから。

 

『どっ、どーしたのその顔!!』

「一体何があったというのだ!?」

『アホ牛がボンゴレ匣を開けまして…『ランボが!?』気づいたら全員気を失ってました…』

『今日はもう続行不可能だ…』

『大丈夫なんですか?』

『なんとかな…沢田はどうなのだ?開けたか?ボンゴレ匣!!』

 

 首にかけていたタオルで顔を拭いた了平が訊ねると、ツナは首を横に振った。

 

『…いいえ。たぶん今開けたら、前のくり返しです…』

『おまえら、ボンゴレ匣で修行できるだけいいじゃねーか。オレなんかおあずけだぜ…』

「みんな、いまいちみたいだね…」

 

 初日はみんな 不調だった…

 そしてこんな時に限って ずっと眠っていた他の問題が突然やってくるんだ…

 

「問題…?」

『あの…お話があるんですが』

 

 ノートに浮かび上がった単語に響が首をかしげていると、ツナ達にある人物が話しかけた。

 ツナ達が声のした方を振り向くと、三人の女性が立っていた。

 

「京子ちゃんにハルちゃん?」

「ビアンキさんも…何だろう?」

『よっ!おつかれ!』

 

 彼女達を見たツナ達男性陣は、すぐさま顔色を変え笑顔を見せる。

 

『ハル、どーしたんだ?京子ちゃんも一緒…?』

『ごまかしても仕方ないので、単刀直入にいいます』

 

 ハルはそう言うと、一度呼吸を整え、ツナと目を合わせ─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハル達にも、ミルフィオーレやビャクランやボックスのこと…今、起きてることをもっと詳しく教えてください!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『!』』』』

「な…なんでミルフィオーレのこと知ってるの!?」

「まさか─トレーニングルームで感じた気配は、隠れていた彼女達のものだったか!」

『ちょっ─な…ななな…………何を言ってんの?ミ…ミルフィオーレ?ビャクラン?…な、なんだそれ?』

 

 明らかな動揺を見せるツナに対し、ハルがズバズバ踏み込んでいく。

 

『もうごまかされるのはたくさんです!!私達だけが知らない事情を隠してるのはわかってるんです!!ハル達も、みなさんと一緒に生活している以上、真実を知る権利はあります!!』

『うそ…急に…どーして…?─ビアンキ!!』

『私は何も話してないわよ?この子達が自分達の意思と力でつきとめたのよ』

『─ツナ君』

 

 ハルの行動に慌てているツナに、京子が近寄る。

 

『私達も一緒に戦いたいの!』

『!』

【…京子ちゃん】

『京子…!!』

【京子ちゃんがそんなこと…でも…】

 

 京子からの予想だにしない発言に、考え込むツナ。

 

【でもダメだ!!京子ちゃん達を危険な世界に巻き込んじゃ…オレ達の戦いのことなんて知らなくていいんだ!!】

「ツナ…」

『気持ちはうれしいけど…本当にもうすぐなんだ!!もうすぐ、なにもかも終わって、元の世界に帰れるから…だから、オレ達を信じて、もう少し我慢して…くれないかな』

 

 ツナがそう答えると、京子とハルは少しだけ暗い顔をした。

 

『わかりました─では私達も、それなりの措置をとらせていただきます』

『へ?』

「「措置?」」

『ツナさん達が真実を話してくれるまで─』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハル達は家事をしませんし、共同生活をボイコットします!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言ってハルと京子は、『秘密反対!!』『情報の開示を』と書かれた二つの看板を掲げた…




ついに来てしまったボイコット。

次回はおそらくチョイス戦手前かチョイス戦開始直後までは行くと思います。


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ツナの過去(10年後編):⑫

どうも、生粋の名無しです。

今回は京子達のボイコットからスタートです。
それと本編一期の方で、文字のフォント変換や、読みやすくなるよういくつか追加の改行を行いました。あと、ヴェルデの医療キットについての説明も少し書き足した内容があるので、どうかそちらもご確認ください。


「「「「「ボ、ボイコットぉ!?」」」」」

『悪いわねツナ。私はこの娘達につくわ』

 

 響達が京子とハルの行動に驚いていると、ビアンキが京子達ボイコット組に加入すると同時に、続々と賛同するものが現れだす。

 

『…私も……ボス、ごめん』

 

 風呂上がりのクロームに…

 

我也是(私も)!!』

 

 彼女に抱き抱えられていたイーピン。

 

『そっ、そんな!!』

【白蘭との戦いまで一週間しかないのに~!!】

『私達も京子達につくわ』

 

 ハル達の表明にツナが驚いていると、女装したリボーン・フゥ太・ジャンニーニが現れそう伝える。

 

『ずるいぞお前達!!』

『修行、しっかりね!』

 

 リボーンはそれだけ言うと、京子達と共に部屋へ戻っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一応聞くぜ。どうすんだ?ツナ』

 

 場所は変わり、アジトの広間に集まったツナと彼の守護者(雲雀以外の男性のみ)が話し合いを行っていた。

 

『…うん…やっぱり、今の本当の状況やこれからの戦いのことは話せないよ…京子ちゃん達を、あんな壮絶な戦いに巻きこめない…』

『ったくあいつら、10代目のお気持ちも知らずに…オレも話さない方が言いと思います』

『まっ!でも、あいつらだけ知らねーってのも、仲間はずれみてーで、かわいそうだけどな…』

『…』

『それは…そうだけど…』

「こういうところは、今と変わらないな…だが、私はあの二人にも現状を伝える必要があると思う。戦えない者を巻き込みたくない気持ちは分かるが、10年後の世界(こちら)に飛ばされた時点で、彼女達も既に片足を踏み込んでしまっている関係者だ」

「「…」」

 

 自分の考えを述べる翼の横で、二人して俯く響と未来。

 二人の脳裏には、それぞれの記憶が思い出されていた。

 響は、敵だった頃のクリスとの三度目の戦闘─未来が巻き込まれたときのことを。

 未来は、こと座流星群が降ったあの日─響から一緒に見れないことを伝えられたあの日のことを。

 そして二人は、先程のボイコットの場にいた人物に自分の姿を重ねる…響はツナに─そして未来は京子とハルに。

 

 

 

 

 

 

((もしあの時、ツナ(とセレナ)がいなかったら─私も同じことをしてたのかな…?))

 

 

 

 

 

 

 二人が思ったことはほぼ同じだった。

 響の記憶には、クリスを追いかけようとする自分の代わりに、未来に二課のことを伝えてくれたツナ。

 未来の記憶には、響との通話の後に同じく一緒に見れないことを伝えたのち、いつか時が来れば話してくれると言ったツナと、ツナ達が心配してくれていることを教えてくれたセレナ。

 少し違いはあれど、二人の記憶にはツナの存在があった。

 だが、もしあの時、彼が関わっていなかったどうだったか─そんなことを考える二人を、白蘭が横目に見る。

 

(んー、やっぱり二人には響くよねぇ…何せ─()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 

 

 

 

 

─ここでこの作品の白蘭について説明しておこう

 

 

 

 

 

 

 この作品において、シンフォギアの世界にはどの並行世界線にも白蘭という人間は元々存在していない。存在していなかった…だが─姿名前は違えど、()()()()()()()()()()()()7()^()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、ほとんどの世界に存在していた。

 それにより白蘭は、シンフォギア(こちら)の世界に来たと同時に、全ての並行世界の白蘭(自分)になりえた人間と繋がり、情報を共有することが出来るようになった。

 つまり彼は、ツナが来なかった世界線─本来(オリジナル)のシンフォギアの道筋を知っている。

 

(にしてもすごいよ、綱吉クン♪本来なら未来チャンは、秘密を抱えてた響チャンへの怒りと、そんな彼女になにもしてあげられない無力な自分への怒りから響チャンから距離を離してたはずなのに、君が干渉したことで変わった─流石にこの世界での未来チャンでも無力さは感じちゃってるけど、その事で怒りを覚えたり響チャンから距離を置いたりはしなかった)

 

 ゆえに白蘭は、二人が辿るはずだった道を潰し、良いルートへと導いたツナに称賛する。

 

(それだけじゃなく、本来なら死んでいたはずの人物も既に二人救ってる─君の行動は、いつも僕を楽しませてくれるね♪)

 

 

 

 

 

 

 白蘭の説明はここら辺にしておき…

 

 

 

 

 

 

『話してはいかん!!これで京子に何かあったら!!京子に何かあったらぁ!!』

『るせーなっ』

 

 考え込んでいた響と未来を引き戻したのは、京子の心配をする了平の叫び声だった。

 

『お兄さん…とにかく今は、修行も大変な時だけど、自分達の家事は自分達でやりましょう』

「意地でも話すつもりはなさそうだな」

『…って口に出してみて思ったけど…自分のこと自分でやるって、当然といえば当然だよね』

『うむ』『はい』『だな』

「うっ…」

 

 ツナの一言に獄寺達が頷く一方で、彼の一言に刺さるものがあった翼が胸を抑える。

 

 

 こうしてオレ達は 修行と家事の両立を目指したんだ!…けど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『洗剤入れすぎじゃね?』

『え』

 

 ツナが操作していた洗濯機から泡が溢れだす。なお、彼が持っている洗剤の箱は中身が空の状態だ。

 

「洗濯機から泡溢れだしちゃってるよ!」

「まさか、洗剤全部入れちゃった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なになに?みじん切りのコツは、まずたてに細く…』

「そこでも理論からかよ─って!」

『獄寺君!!火!!』

 

 切り方の理論から入っている獄寺の背後で、フライパンで炒めていた食材が引火し燃え盛る。

 

「フライパンが燃えてる!?」

「火の加減間違えてない!?」

『火事だもんね!!』

 

 騒ぐランボを他所に、ツナが消火にあたるが時既に遅し。

 

『あーあ』

「見事に炭と化したな…」

『申し訳ありません!申し訳ありません!!』

 

 ツナに土下座で謝罪しながら、床に頭を何度も叩きつける獄寺。

 

『修行で極限にハラペコなのだ…もうがまんできんぞ!』

『お・な・か・すいた!!』

 

 了平とランボが不満を叫ぶが、流石の獄寺も今回は自分に非があると理解してるのか何も言わない。

 

『しゃーねーなー…カップ麺にすっか』

 

 おまけに 修行の方もうまく行かずに…

 みんなのストレスがたまっていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『ヘックション!!』』』』

『鼻がムズムズする…』

『誰かが噂でもしてんスかねえ?』

『この食事で極限に栄養が足りとらんのだ!!』

 

 昼に続いて晩飯でもカップラーメンを啜るボンゴレ男子勢。

 

『しかし、こーなってはじめて気づくよな─オレ達だけじゃロクに修行もできねーって…』

『本当だよ…戦いはもう迫ってるっていうのに…ここはやっぱり話すべきなのかも…』

いかん!!京子に何かあったらどーするのだ!!』

 

 山本の言葉と今の状況を見て考えを改めようとしたツナだったが、了平の一言に気を引き締める。

 

『そ…そーですよね!!』

「あともう少しだったのだがな…」

「あの女の兄貴がいる限り、ツナが話しそうにはねーな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ…』

 

 京子達女性陣のボイコットの翌日。

 ツナはため息を溢しながら修行へ向かおうとしていた。そんな彼の元にビアンキが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

『ツナ!!大変よ!!』

「どうしたんだろう?」

 

 

 

 

 

 

『京子がアジトをとび出したの!!何も教えてくれないこんな所にいられないって!!』

 

 

 

 

 

 

「何!?」『何だって!?』

『今なら間に合うわ!急いで追って!!』

 

 京子がアジトを飛び出したと聞いて驚いていたツナは、ビアンキに促されすぐに京子が通ったハッチに向かう。

 

『ジャンニーニ、ハッチを開けてくれ!!』

『京子は街に向かったわ!!』

「早く見つけて連れて帰らないと…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『─ん?ツナをだましてどーする気だ?』

『修行に行きづまってるみたいだから─リフレッシュよ♥️』

『─悪くねーな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【どうしよう…!!京子ちゃんに何かあったら…オレのせいだ…】

 

 そんなことを思いながら、街に続く天端道を走るツナ。

 するとすぐに、前方に京子の後ろ姿を見つけた。

 

「いた!」

『京子ちゃん!!』

 

 近づいたツナが呼び掛けると、京子はすぐに振り返る。

 

『ツナ君!』

「…なあ、アジト出てったって割には、いつもと変わんねー気がすんだが…」

『ツナ君もどこかへおでかけ?』

「お、おでかけ?」

『え?いや…あの─』

『私は買い物にいくところ!今日は一人で外に出ても大丈夫ってビアンキさんが…』

 

 そう話す京子の手には買い物袋が。

 

『へ…?か…買い物?』

「えぇ!?い、いったい全体どういうこと!?」

『今日からまた、みんなの分のご飯も作ることにしたの。今日はごちそうだよ!』

『…あ!』

 

 そこまで話を聞いたツナは、この状況を作り出した人物を思い出す。

 

【ビアンキだましたな!!】

「笹川妹が飛び出したというのはブラフ…意図的にこの状況を作り出すための口実だったわけか…」

『ツナ君、顔色悪いよ?大丈夫?』

 

 そう言って京子が、心配そうにツナの顔を覗き込む。

 

『え…いや…オレ…ボイコットで怒って飛び出したのかと思って─』

『え…?』

 

 ツナが慌てて追いかけてきた理由を話す。すると京子は不思議そうにかしげた後、首を横に降った。

 

『…んーん。もうボイコットは終わりにしたの』

「「え…?」」

『ハルちゃんとツナ君達を信じることにしたんだ!だからもう何も話さなくても大丈夫だよ』

 

 京子は笑顔でそう話した。

 

「よかったじゃねぇか。これで心配ごとが一つ減ったんだしな」

「…そ、そうだよね!京子ちゃん達が栄養満点のご飯作ってくれたら、きっと皆も頑張れる筈だよ!きっと…」

 

 胸の内に取っ掛かりを覚えながらも、言い聞かせるようにして呟く響。

 しかしそんな響と、同じ取っ掛かりを感じていた未来の心は、京子に話したツナの一言に動かされることとなる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや…話すよ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?な、何で…」

「京子ちゃんは、話さなくてもいいって言ってくれたのに…」

『京子ちゃんを探しながら、初めて京子ちゃん達の気持ちを考えてみたんだ…「「っ!」」そしたら、自分の身勝手さがよくわかったよ…』

 

 

 

 

 

 

『まったく何も知らないのと、何かあるって知ってて教えてもらえないのは、別だよね…もうとっくに、ひどい状況に巻き込んでるのに─もう一緒に戦ってもらってるのに、あるものをないっていうのはひどいことだってわかったんだ…』

「「!!!」」

((一緒に、戦ってる…))

 

 

 

 

 

 

『だから聞いて欲しい…ハルにも後で話すから…』

 

 ツナがそう伝えると、京子は無言で頷く。

 そして二人は河川敷まで降り座りこむと、ノートが開いた。

 

 ─話した…

 今の状況…ミルフィオーレのこと 白蘭のこと…

 奴らがマフィアで オレもボンゴレファミリーの10代目候補だってこと…今までの戦い…

 

「マフィアのことまで…」

「もう完全に吹っ切れたってことか…」

 

 途中 夕日の光の具合なのか 京子ちゃんの瞳がうるんでいるように見えたけど…

 話したんだ…

 

「─ツナは知ってたんだ…秘密をずっと隠し続ける辛さも、その秘密を教えてもらえない悲しさも…」

 

 京子に話しているツナの姿を見ながら、響と未来は胸の取っ掛かりが消えていくのを感じていた。

 

「ねぇ未来…私とツナが、未来に二課のことを話したときのこと、覚えてる?」

「うん…あの時、クリスちゃんを追いかけてった響の代わりに、ツナが話してくれて…その後で、響も話してくれたんだよね」

「ごめんね、未来…多分私、あの時ツナがいなかったら、自分の口からは言えなかったと思う…」

「響…ううん、いいの…私も、ツナやセレナがいなかったら…ボイコットとまでは行かなくても、響のこと避けてたかもしれないから…」

「未来…」

 

 京子ちゃんは 黙ってうなずいてた…

 

『そんな…感じなんだ…』

『うん…』

 

 響と未来がそんな会話をしていると、ツナが京子に全てを話し終えた。

 

『おどろいた…?』

『うん…』

【─本当にこれでよかったのかな…】

「お、おいおい…自分から話しておいて後悔してどーする…」

『話してくれてありがとう、ツナ君』

『え…』

 

 自分の内心とは逆に京子から感謝されたことに一瞬固まるツナ。すると京子がツナの腰元を見る。そこにはチェーンで繋がれたボンゴレ(ボックス)が…

 

『腰についてるのが、ツナ君の匣兵器?』

『あ…うん。これだよ…』

 

 チェーンを外し、匣の底を指でつまんで京子に見えるよう前に出すツナ。

 

『その子が悪さするんだね』

『そうなんだ…とてもこいつは、オレの手にはおえそうになくって』

 

 そう溢しながら、ツナが右中指にはめたボンゴレリングに炎を灯すと、いつものごとく匣が揺れ始めた。

 

「ツナが炎を灯すと、すぐに動き始めるね…」

『こうやって反抗ばかりして、オレを殺す気なんだ』

『わあっ!見せて!』

『え゛!!』

 

 ひとりでに動く匣に興味を抱いた京子が身を乗り出してくると、すぐさまツナが京子から匣を遠ざける。

 

『ダ!ダメだよ、危ないんだ!!京子ちゃんに何かあったら!!』

 

 京子に注意するツナの横で、匣が今まで見せたことのないくらいの激しい動きを見せる。

 

「今までとは比べ物にならないほど荒れてやがるぞ!」

『ホラッ!スキを狙って襲う気だ!!』

『ごめんなさい!!』

 

 その光景を見た京子が身を引くと、匣の揺れも弱まりだす。

 

『こいつ…』

 

 揺れが弱まりだしたのを見て少しづつ呼吸を整えるツナ。

 そんなツナと、小さく揺れる匣を見た京子が、あることに気づいた─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その子…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…え?』

「仲良く、したい…?」

 

 京子の一言に困惑するツナと響達。

 

()()()()()()()()()になってるもん』

『同じ…気持ち?』

『ツナ君が不安でドキドキすると…一緒に不安になってビクビク~って震えてるみたい』

「た、確かにさっきも、ツナが動揺したと同時に動きが激しくなってたような…」

『…でもこいつは、震えるどころかオレを殺そうと─!!』

 

 そこでツナはあることに気づいた。

 

【あの時も…急に不安になったんだ─何だか怖くなって…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…オレがこいつを拒めば拒むほど、力を増幅させてきた…】

「ということは、つまり…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【まさかこいつ…オレの心を…うつしてるのか…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言われてみれば確かに…通常時のナッツは臆病なのに対し、沢田が(ハイパー)死ぬ気モードの時は彼と同じく覚悟の灯った目をしていたな…」

 

 翼達がナッツがあのような姿で飛び出してきた理由に納得するなか、ツナがじっと匣を見つめる。それと同じくして、匣の中にいるナッツも、動きを止め静かにツナを見つめていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハル』

 

 買い出しの途中だった京子と別れ、アジトに戻ったツナが向かったのは、ハルがいる食堂だった。

 

『はーい』

『話が…ある…』

 

 いつもの笑顔で振り返ったハルだったが、真剣な表情のツナを見て徐々に笑顔が消えていく。

 

 京子ちゃんに話した今の状況や ミルフィオーレのことや ボンゴレや オレのこと 今までの戦いを

 ハルにも話したんだ…

 

 

 

 

 

 

『…そんな感じなんだ…ハル?』

 

 ツナが話し終えると、ハルの表情は無表情のまま固まっていた。

 

『おい、ハル!大丈夫か?』

 

 そんな彼女にツナが話しかけると、ハルはすぐさま笑顔を浮かべた。

 

『は…はい!!大丈夫ですよ!!話してくれてありがとうございます!!』

 

 元気な顔でそう答えるハルだが、彼女が無理に笑っていることは響達だけでなくツナも気づいていた。

 

 最近 ハルのウソは見抜けるようになってきた

 

『すごい話ですね!!びっくりしました~!!』

「…」

『あっ!ツナさん今、修行中なんですよね?わざわざハルのためにスイマセン!もう行ってOKですよ『へ?』修行の時間がもったいないです!』

『でもお前…全然大丈夫じゃないじゃん…』

『はひ!?なっ、何言ってるんですか!?ハルは知りたかった話を聞けたんですよ!!大満足で嬉しくてお腹いっぱいです!!さあ行ってください!!』

 

 慌てた様子で急かすハルを心配そうに見るツナだったが…彼女の内心を感じ取ったツナは、これ以上彼女に負担はかけまいと、それ以上詰めよらないことにした。

 

『わかった。じゃあ行くな!─あ』

『はひ?』

『いつもご飯作ってくれてありがとな』

『!─そんなにあらためられると照れます!ツナさんもファイトです!!』

『ん』

 

 そんなハルに一言答えると、ツナは台所を後にする。

 

『いってらっしゃーい!』

 

 そして、ツナを笑顔で見送るハル─だが響達は見た。ツナが台所から出ていった直後、足の力が抜けて座り込むハルの姿を。

 

『ツナを困らせまいと、よく我慢したわね』

 

 響達がハルを心配していると、二人の話をこっそり聞いていたらしいビアンキが現れる。

 

『─すごく…ショックです…ツナさん達が何かやっていることは知ってたけど…こんなに大変だなんて…知らなくて…何も知らずにわがままばっかり言って─くやしい…です…!』

 

 そう言って、目から溢れる涙を拭うハル。そんな彼女を、ビアンキが優しく抱き寄せる。

 

『ハルはがんばってるわ』

『─うっ…』

 

 ビアンキにそう言われたハルは、我慢できずついに泣き出してしまう。

 そんな彼女を見ていた響達だったが、ここは大空のリングが見せている記録の空間。気づけば、ツナが向かった方とは逆側から、徐々に景色が消え始めていた。

 それに気付いた響達は、名残惜しそうにしながらも、すぐにツナの後を追った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『京子ちゃんとハルに話をしたってみんなに報告しなきゃ…お兄さん怒るかなぁ…?』

 

 台所を後にしたツナがそう呟きながら作戦室に入ると、既に獄寺達守護者3人とリボーン、そしてディーノが集まっていた。

 

『ディーノさん!!』

「あれ?ディーノさんって確か、雲雀さんの修行に行ってたような…」

『よぉツナ!修行の進み具合をチェックしに来たぜ!家事にばかりうつつをぬかしてねーだろーな』

『え…は…はい。京子ちゃんにヒントをもらって、少しだけ(こいつ)のことがわかってきたんだ。多分もう暴れたりはしないと思う…』

『お?』『ついに!』『すげっ!!』

『さすが10代目っス!!』

『でもまだやってみないとわからないけど…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?今、何か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラン♪ ランラン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツナ達が盛り上がっていたその時、何処からか楽しげな歌声が響いてくる。

 そして作戦室にあったメインモニターに、某レトロゲームに出てくる黄色のアイツを彷彿とさせるミニキャラが複数映し出される。

 

「白いパッ○マン?」

『何の放送だ?』

『ジャンニーニ、何これ?』

 

 可愛らしい映像とリズミカルな歌声に緊張感なくツナと了平に対し、ジャンニーニは焦りながらパソコンを操作していた。

 

『それがわかりません!何者かに回線をジャックされています!!』

「敵の攻撃か!」

 

ランランランランラーン

 

 ジャンニーニが対処に頑張るなか、画面に映し出されたミニキャラ達は中央に密集していき─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビャクラン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミニキャラ達が吹き飛び、中からピエロのような服を着たSDサイズの白蘭が現れた。

 

『なぁ!?』

「うひゃあ!?」

『ハハハハッ!!』

 

 ツナと響がいきなり現れた白蘭に驚いていると、画面から笑い声が聞こえ、映像が硝子のように砕け散る。

 そしてすぐに画面が切り替わり、先程のCGではなく本物の白蘭が映し出される。

 

『どう?面白かったかい?』

『白蘭!!』

「─てかなんだよあのパフェ…見てるだけで胃もたれしそうな盛り付けだがよ…」

『退屈だから遊びにきちゃった!食べるかい?』

 

 そう言って白蘭は、手に持っていたパフェを前につき出す。

 そんな彼のパフェは、チョコレートにさくらんぼ、マカロンにアイスクリームなど、和洋全ての菓子類が山盛りに盛られており、クリスの言ったように見てるだけでも胃にくるものだった。

 

「さ、流石にそれはちょっと…」

『やろう!』『おちょくってんのか!?』

『なーんてね!本当は"チョイス"についての業務連絡さ』

 

 所謂夢盛りされたパフェをスプーンですくい、口に運びながらそう話す白蘭。

 

『ぎょうむ…れんらく?』

『ほら、日時については言ったけど、場所は言ってないよね』

「あ…確かに!」

 

 そして、白蘭は笑顔を浮かべながら告げる。

 

 

 

 

 

 

『6日後─お昼の12時に並盛神社に集合』

 

 

 

 

 

 

『!!』

「それってまさか…!」

『並盛で戦うの…!?』

『んー…どーだろーね?とりあえず必要な準備して、仲間は全員連れてきてね─()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『なに!!』『全員って─』

『京子ちゃんやハルも!?』

「そんな…!」

『そこに意味があるんじゃないか─みんなで来ないと君達は失格だからね』

『な!?』

『ちょっと待て!!』

 

 目蓋を開き、冷たい眼差しを見せながら告げる白蘭。

 

『じゃあ、修行がんばってね~♪』

『おい!』

 

 そして話すだけ話した白蘭は、最後にそれだけ伝えると通信を切った。

 

『そんな…京子ちゃん達を戦闘の真っ只中へ!?』

『こりゃ、秘密どうこうって話じゃなくなってきたぜ…』

『─こうなるとツナが、京子やハルに状況を説明しちまったのは正解だったな』

 

 未だ『家庭教師の精』の格好をしていたリボーンがそう呟くと、獄寺と山本─そして了平が、驚いた顔でツナへ振り返る。

 

「リボーン君、いつの間にその事を知って…」

『ゴ…ゴメン…オレ話したんだ…やっぱり、京子ちゃん達にも事実を知ってもらうべきだと思って─』

 

 

 

 

 

 

沢田あぁ!!

 

ガッ

 

 

 

 

 

 

 ツナがその場にいた仲間達に、京子達二人に話したことを伝えると、了平が壁を全力で殴り付けた。

 了平のパンチによって、壁には拳一つ入るほどの大きさの穴と、無数の亀裂が出来上がる。

 

「素の殴りで、これほどの威力を…!」

『京子は…どうなった…』

『お兄さん…あの…』

『てめぇ、何暴れてやがる!!』

 

 怒りで全身を震わせる了平を見て怯えあがるツナ。

 そして了平がツナに掴みかかろうとしたところを、山本が了平の首もとに腕を回して止める。

 

『おちつこーぜ、センパイ』

『京子はどうなった!?』

「了平さん…」

『─ちゃ…ちゃんと聞いてくれました…』

 

 ツナは怯えながらも、京子達がしっかり聞いてくれたことを伝える。

 すると了平は動きを止め、目元に涙を貯める。

 

『ツナの判断は間違ってなかったと思うぜ了平…この状況では遅かれ早かれだ』

『くっ…』

『お兄さん…』

 

 ディーノの一言に、了平は歯を噛み締める。

 

『にしても白蘭のやつ、どーやって回線に入り込んだんだ?』

「─それもそうだな…一体どのような方法で…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『セキュリティがザルなんだぁ─アマチュア共がぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話をそらすようにして、リボーンが呟いた問いに第三者が答えた。

 声を聞いたツナ達が部屋の入り口を見る。

 

『あっ!』

『てめーは…!』

 

 そこには─

 

 

 

 

 

 

─大きなマグロを持ったスクアーロがいた─

 

 

 

 

 

 

『スクアーロ!!』

『みやげだ』

 

 ツナ達がそれぞれの反応を見せるなか、スクアーロは近くにいたディーノにマグロを押し付ける。

 

「「「「「何故にマグロ…?」」」」」

『遅かったなスクアーロ─生徒がおまちかねだぜ』

『え?生徒…?』

『!もしかしてよ…』

 

 ディーノにマグロを渡したスクアーロは早足である男に近寄る。

 

『オレの家庭教師って…』

 

 そして…呑気に笑っている山本に近づいたスクアーロは─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ

 

 

 

 

 

 

 容赦のない一撃を山本の顔に叩き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ス、スクアーロさん!?」

「いきなり何を!」

 

 突然の行動に困惑する響達。だがスクアーロは止まらない。

 山本の顔を殴り付けた直後、すぐに彼の腹部に膝蹴りをキメる。

 

『がはっ!?』

 

 その一撃に山本が呻き声をあげるが、スクアーロは暴行の手を止めない。

 そしてついには、山本の歯も一本抜け落ちてしまう。

 

『ぐあっ!』

『山本ぉ!!』

 

 ツナの叫びが虚しく響く…

 

 

 

 

 

 

 スクアーロの暴行は山本が意識を失うまで続いた。

 

「や、山本さん…」

「ひどい…」

 

 山本が意識を失ったのを確認したスクアーロは、彼を肩に担ぎ上げる。

 そんな彼の足元は、歯茎から今もなお垂れ落ちる血で赤く染めていた…

 

『山本!!』

『殺しやがったか!?』

『まったく─殺してやりてぇぜ』

「なに!?」

『このカスはあずかってくぞぉ』

『えぇ!?そんなこと!』

 

 山本を連れていこうとするスクアーロに駆け寄ろうとしたツナだったが、ディーノが腕を出して止める。

 

『ここはスクアーロにまかせるんだ『でも…』山本のことはオレ達よりわかっている』

『そんな…』

 

 こうして 山本はスクアーロと姿を消した…

 

 スクアーロが部屋を出ていったのと同時にノートが開かれる。

 

『メチャクチャだ…あんな暴力的なやり方…』

『沢田』

 

 スクアーロのやり方を見て顔に影を落としていたツナに、了平が話しかける。それに答えるようにして、ツナが振り返ると─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

 

 

 了平がツナの顔に、右ストレートを叩き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「了平さん!?」

『ぐはっ!?』

 

 殴られたツナは後ろに吹き飛び、壁に頭をぶつける。

 

『おい了平!』『10代目!!』

『やはり京子を巻き込んだことは、許せん!』

「だからって殴らなくても!『─だがオレも男だ…』!」

『この一発で次に進むことにする!!』

『てめーよくも10代目に!!ぶっ殺してやる!!』

『おちつけ獄寺!!』

 

 この日はみんなの溜まっていたモヤモヤが一気に吹き出したようなひどい一日だった…

 

「これは、本当にひどいな…」

「雲雀は勝手行動で、山本はどっかに連れてかれ…獄寺と笹川に関しちゃこの通り荒れまくりだ…」

「こんなんじゃ、チョイスまでに間に合わないよ…」

 

 

 

 

 

 

 でも この日からみんなが変わりはじめた…!

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 予想外の言葉に響が困惑していると、景色が変わりツナの個室特訓部屋に切り替わる。

 そこにはグローブを外した状態でハイパー化し、右中指に大空のボンゴレリングをはめ、左手にボンゴレ匣を持ったツナの姿があった。そんな彼の鼻根部にはキズバンが貼られており、先程の出来事の直後であることが伺える。

 

 自分のすべきことをやって

 それが一つの方向に噛み合っていった

 そして 決戦の日を迎える頃には─

 

 

 

 

 

 

 オレ達の修行は、完璧に仕上がったんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 そこでノートが閉じられると、ツナがリングに炎を灯し、匣の口に押し込む。

 すると、匣の蓋は光を漏らしながらゆっくりと開いていき─

 

 

 

 

 

 

 そこで景色が切り替わり、医療室の前に立つツナが映し出された。

 

「えぇ!?いいところでおあずけなの!?」

 

 期待を裏切られた響が嘆いていると、ツナが扉をノックする。

 

『誰だ?』

『あ…オレです』

 

 ツナが中に入ると、点滴とベッドサイドモニタをつけられ、ベッドに横になっているラル・ミルチの姿があった。

 

「ラルさん!」

「メローネ基地から戻ってきてから全く見かけなかったけど、意識が戻ってたんだ!」

『来るなと言ったはずだ』

 

 ラルがツナを見ると、目元を険しくする。

 

『いよいよなんです…白蘭と(リアル)6弔花との決戦』

『わかっている…オレも這ってでも行くつもりだったが、足手まといになるとリボーンに、はっきり止められた』

「ファインプレーだよリボーン君!」

『ラル・ミルチ…』

『修行はうまくいったと聞いた…やれるんだろうな?』

 

 真剣な眼差しで訊ねるラルに、ツナは無言でうなずく。

 

『白蘭を倒せば、ラルやリボーンを苦しめる非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)も世界から消えるって入江君が言ってた…だからもう少しまってて』

 

 穏やかな表情でそう伝えるツナ。

 

『甘ったれが言うようになったな』

『本当はラルにも、修行の成果、見て欲しかったんだけど…』

 

 照れ臭そうにしながらツナがそう溢すと、ラルは一瞬目蓋を潜め、ツナから顔を背けるようにして体を横に向ける。

 

『俺は寝る!行け』

『!?─あの…もう少し話したいんだけど…』

『とてつもなくねむい』

「もしかしてラルさん、怒ってる…?」

「ラルはCOMSUBIN(コムスビン)の教官時代の頃から、鬼教官と呼ばれるほど甘えや妥協を良しとしない性格だが、無茶をする無鉄砲さや不器用なとこがある生真面目な奴だ。自分の弟子を誉めるなんて滅多にねぇ。これはラルなりの照れ隠しだろうな」

『…わかった。じゃあ行ってきます!』

 

 リボーンがラルの言動について(ラル本人が聞いたらキレるであろう)考察をしていると、ツナが部屋を出ていく。

 

『ビアンキ!!』

 

 そして階を移動し、居住区に向かったツナはビアンキを見つけ駆け寄る。

 

『なんか今日のために…服を用意してくれたって聞いたんだけど』

『ええ、更衣室に全員分あるわ。レオンの耐炎糸で作った、特別な戦闘服よ。京子やハルも手伝ってくれたの』

「ちなみに、今のツナが使ってるセーターも、レオンの耐炎糸で作られてるぞ」

「「へぇー」」

『そ…そうなんだ!ありがと!』

 

 ツナがビアンキに礼を伝えるが、その顔はどこか暗い。

 

『何か言いたそうね』

『え?あ…うん─京子ちゃんやハルの様子が気になって…大丈夫かなって思って…』

 

 ビアンキが訊ねると、ツナが心配そうに眉を潜めて話す。

 

「ツナさん…」

『怖がってなかった?』

『むしろ興奮してはしゃいでるわ─今のところね』

『そっか…ならいいんだけど…』

「その明るさがいつまで持つかが問題だ…」

 

 ビアンキの話を聞いたツナは、少し不安そうな顔をしつつも、皆が集まっているであろう更衣室に向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビアンキさんの言ってた戦闘服って、どんなのだろうね?」

「レオン君の糸で作ったって言ってたから、鎧みたいなのではないだろうけど…」

 

 響達シンフォギア組とユニは、更衣室の前でそんな話をしていた。

 ツナの後を追って更衣室まで来ていた響達だったが、さすがに男の着替えは見せられないと、リボーンに外で待っておくようにと言われてたのだった。

 

『う~ん、強烈な女の子達だな~…まだ耳がジンジンするよ~』

 

 そんなこんなで、更衣室前で雑談をしていた女性陣。

 するとそこに、派手に荒れた寝癖をつけ、メガネの奥で寝ぼけ眼を浮かべる入江が現れた。彼の言葉から察するに、京子とハルに叩き起こされたのだろう。

 

「ふふっ、すっごい寝癖!」

「服がメローネ基地で会った時のまま…あれからずっと頑張ってたのかな?」

『って、いかんいかん!!今日は大事な決戦の日!年長組の僕がしっかりしないと!正一!!』

 

 そう自分自身に言い聞かせた入江は、手櫛で髪を整え、眠気を振り払って目をキリッとさせる。

 

『ゴホン…失礼するよ』

 

 そして響達の体をすり抜け、更衣室のドアを開く。

 響達は中を見ないよう、慌てて手や腕で顔を隠したが…

 

『わあっ!!』

 

 入江が驚いた声をあげたことを不思議に思い、そっと中を覗く。そして─

 

「「「うわぁ…!」」」

「「おお…!」」

 

 中にいたツナ達の服装を見た響達シンフォギア組は、驚きの声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 そこにいた彼らは、シワのない白シャツに上品な黒のネクタイ、そしてツヤのある黒のスーツでかっこよく決めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

『入江君!』

『おせーぞメガネ野郎』

 

 ユニ以外の女子がツナの姿に見惚れている中、入江に気付いたツナ達は一斉に振り返る。

 

『君たち、その格好!!決まってるじゃないか!!』

『本当はちょっと照れくさいんですけど…』

『オレがこの戦いのためにオーダーしたんだ』

 

 ツナが言葉通り照れていると、脚立に上ったリボーンが話し始める。

 

『ボンゴレマフィアの起源は、住民を守る自警団だ。歴代ボンゴレファミリーはその役割を果たす時、この正装に身を包み、命を懸けて戦ったんだ』

「つまりこの服装こそが、ボンゴレの真の戦闘服と言うことか…」

『な…なんだよ!マフィアをちょっと、カッコよくイイモンみたいに言って…』

『元々のボンゴレはイイモンだってことだ。その後で、口では言えねーようなこともしてるかもしれねーけど…『それが問題なんだよ!!』』

『でも今回の戦いはまちがっていない!!絶対に君達は正しいんだ!!』

 

 いつもの喧嘩(ツナの一方的な文句とそれを無視するリボーン)を始めた二人に入江が割ってはいる。そんな彼の顔からは必死さが伝わってきた。

 

『正一君…』

『前にも話したけど─7^3が白蘭さんの手に渡れば、大変なことになる!!白蘭サンを倒すことが、世界を救うことになるんだ!!

「そういえば、何で入江さんはここまでして白蘭さんを倒すのに必死なんだろう?」

「確かにな…古くからの友人の過ちを正すため、としては感情的すぎる…」

『せ…世界を救うって…』

 

 入江の話の規模に、理解が追い付けないツナ。そんな彼に、リボーンがあることを伝える。

 

『そんなでかい話、ピンとこねーだろ?お前達は()()()()()()()()()()()()()()()()

『え?』

「いやいや、ダメでしょ気にしないと!?じゃなきゃこの世界もツナ達の世界も─!」

お前達は1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!!」

『うむ!』『それなら…』『はい!』

「なるほど…今の発言は、『世界を救う』という重すぎる使命よりも、元の目標である『元の時代に帰ること』を意識させることで、沢田達の緊張を多少なりとも和らげる策があったか」

「まぁ、そんなところだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、準備できたな』

 

 更衣室での会話の後、後からやって来たクロームとランボは守護者用のスーツを、入江・スパナ・ジャンニーニ・バジル・フゥ太、そして他の女性陣は別に作られていた非戦闘員用の制服に着替え、並盛神社付近の出入口に繋がるハッチに全員集結していた。

 そんななか、リボーンが確認するように呟くと、それに答えるようにしてツナがネクタイを整える。

 

『いくぞ』

 

『『『『『『おお!!』』』』』』

 

 ツナ達の声がハッチ内に響き渡る。

 そしてハッチが開かれ、彼らは共に、並盛神社へと向かう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─11時50分 並盛神社─

 

『誰かいるんか?』

 

 白蘭に告げられた予定時刻より10分早めにたどり着いたツナ達。

 そんな彼らが神社の階段を上りきると、神宮のど真ん中に謎の人工建設物が設置されていた。

 

『何だ…?コレ』

「演舞とかの舞台じゃないだろうし…」

『お祭りの山車(だし)でしょうか?』

『お祭りだもんね~!!』

『近づくな!!ミルフィオーレかもしれねぇ!!』

 

 ツナが不思議そうに眺めるなか、ハルの言った『お祭り』という単語に反応したランボがはしゃぎ始め、獄寺が敵の罠を考えて身構える。

 そんな彼らの反応を見た入江は、『忘れてた』と言わんばかりの苦笑いを浮かべ、目の前の物体の正体を告げる。

 

『ゴメンゴメン!言い忘れてたね─これは僕らの基地ユニットだよ』

「基地ユニット!?」

『工事を装って、今朝早めに運び出しておいたんだ。君達のバイクも収納しておいたよ』

『はひ~!!これが10日間ずっと作っていたモノなんですねー!!』

 

 ハルがランボを抱えながら基地ユニットを眺めていると、ランボが基地ユニットの上に上がりたがるが、それは抱き上げているハルとジャンニーニの口頭注意で止められる。

 

「なーんか見た目は、覆い隠してるシートのせいでダサく見えるな」

『何か、さえねー感じだな…中を開いたらポンコツってことはねーだろーな』

『できることはやったよ!!』

 

 獄寺に睨まれ、少し焦った声で答える入江。そんななかツナは、一人ソワソワと周囲を見回していた。

 

【山本とヒバリさん、まだかな…】

「あ!そういえば…」

「二人とも、それぞれの経路で場所と時刻は知っている筈だが…まだ来てないようだな」

ヒバリさーん!!山本ー!!

 

 しびれを切らしたツナが大声で名前を呼ぶが、周囲から返事が来る気配はない。

 

『何をやっとるんだあいつら!!決戦だというのに!!』

『まさか、来ないつもりでは…』

『修行を失敗した可能性もあるしな』

 

 ツナ達に暗い雰囲気がたちこめる。特にリボーンの一言は、ツナや獄寺達、そして響達の脳裏に、スクアーロに連れていかれる山本の姿を思い出させた。

 

『だ、大丈夫ですよ!!きっと来ます!!それにまだミルフィオーレの連中だって、姿も形も見せていないんですから!!』

 

 そんな彼らを励ますようにバジルが言う。

 

「そ、そうだよね!それに時間までは後少しあるし…『お』?」

 

 バジルの言葉を聞いた響が気を取り直していると、パソコンを操作していたスパナが不思議そうな声を漏らす。

 

『死ぬ気の炎が接近している…バカでかい』

『何だって!?』

『異様なスピードだ』

「もしかして、噂をしたらってやつじゃない!?」

 

 スパナの話を聞いた響は、接近しているのが山本と雲雀ではないかと考え笑顔を浮かべる。

 するとその直後、ツナ達を覆い込むようにして雲の影が重なった。

 

「あれ?急に曇った?」

『ん…おかしいぞ?とっくにウチらの位置と重なって─!上!

 

 響が突如暗くなったことに首をかしげていると、反応の位置を特定したスパナが空を見上げる。

 スパナにつられてツナ達や響達が上を見上げるとそこには、並盛神社上空で徐々に規模を拡大させていくドス黒い雲が浮かんでいた。

 

『何だ?』

『カミナリ雲!?』

 

 上空に突如現れた雲にツナ達は困惑する。

 だがそれは並盛町の住民も同じようで、所々から声が上がり始める。

 そんななか、並盛神社を簡単に覆い尽くせる規模まで広がった雲の中央から、ツナ達を照らすようにして光が放たれる。

 そして─

 

 

 

 

 

 

『やあ、諸君♪』

 

 

 

 

 

 

 雲の中から、巨大な男の顔が現れた。

 

『ひいいっ!何アレー!?』

「でっか!?」

『元気そうじゃん!綱吉クン』

 

 情けない顔で叫ぶツナに、雲から現れた男は親しげに話しかける。

 そこでやっと、ツナは男の正体に気づいた。癖のある髪型に左目の下にある三つ爪のマーク。それは間違いなく─

 

『びゃっ、白蘭─!?』

 

─敵の大将である白蘭の顔だった…




今回の内容が、10年後編で一番ギスギスして一番成長した出来事ですよね…
次回はついにチョイス戦。どこまで行けるかわかりませんが頑張ります。


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ツナの過去(10年後編):⑬

どうも、生粋の名無しです。

この間ハーメルンの作品を読漁んでいたら、「魔法少女リリカルなのは」の世界に「劇場版機動戦士ガンダム00」エピローグ後の刹那やティエリア、死んでいった仲間達等が転生するクロスオーバーとか面白そうだなって思い、ついデバイスの設定や物語の大雑把な流れを殴り書きしてしまいました。
まぁ、書いていくにつれて「あれ?これ結構相性いいんじゃね?」とか思ったりもしたんですけど…なにぶん今書いてる作品でさえ手こずっているし、何よりリリカルなのは作品は二次創作の内容とwi○i先生に書かれてたことしか知らないので…誰か代わりに書いてくれる人がいたら情報提供したいくらいです…

まあそんなことは置いといて…今回はやっとチョイス戦に入ります!

それと感想欄に、10年後編を投稿しつつも本編も一緒に投稿するのはどうか、という意見があったので、アンケートを作らせてもらいます。もし、同時投稿に決まった場合は、10年後編投稿の翌日に本編投稿という形にさせていただきます。期限は1週間後の21日までです。


 並盛神社上空に現れた雲の中から、巨大な白蘭の顔が出てきたことにツナが驚いていると─

 

『白蘭とは、巨人だったのか!?』

 

 ツナの周囲にいた仲間達がそれぞれの反応を示す。了平は盛大な勘違いをし、

 

『オバケ~!!』

 

 ランボはオバケと勘違いし泣き出してしまう。

 

『幻覚か!!』

『…違うと思う』

 

 獄寺は幻術の可能性を考えるが、専門家のクロームが否定し…

 

『綿菓子みたい!』

『実際は手も足もあるわよ』

 

 ついには京子が綿菓子を例に挙げてくる始末─まさにCHAOS(カオス)な状況だ。

 そんななか、冷静に分析をしていたスパナが、その正体を暴き出す。

 

『金属反応がある…巨大な装置だ』

「まさか、あの雲の中になにかあるのか!?」

『落ちつくんだみんな!!あれは顔の形をしたアドバルーンのようなものだ!ミルフィオーレの科学力なら不可能じゃない!!』

『「なんだかもう─マフィア越えてるー!!」』

 

 ツナと響のツッコミが重なった。主人公同士、息が合うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 そんな感じに混乱するツナ達。その時、頭上の白蘭がその場にいるメンバーを見て首をかしげる。

 

『あれれ?全員連れて来いと言ったのに揃ってないね』

『えっ─あっ…それは…』

『まっ、いいか!本番で困るのは君達自身だからね』

『白蘭サンこそルール違反だ!!チョイスに使う基地ユニットとしては、その装置は大きすぎる!!』

 

 ツナが言葉選びに迷っていると、入江が白蘭にくいかかる。

 

『早とちり直ってないなー、正チャン♪─これはやっと完成した、新しい移動手段だよ。君達も一度見てる』

「ツナ達も一回見てる移動方法って─まさか!」

 

 白蘭のヒントを聞き、ツナ達だけでなく響達も装置の正体に気づいた。

 

『このメカは、君達をチョイスの舞台へ連れていく─超炎リング転送システム

「やっぱり!」

「メローネ基地をごっそり移動させたやつじゃねーか!」

『つまり戦場は─並盛(ここ)じゃねーんだな』

 

 ツナ達が驚きを隠せないなか、リボーンが白蘭にそう問いかける。

 

『うん、そのとーり!ただし、知ってのとおりこの転送システムはただでは作動しなくてね─君達に今日のチョイスに参加する資格があるかどうか、試す役割も兼ねてるんだ』

 

 

 

 

 

 

ズバリ500万F(フィアンマ)V(ボルテージ)!!それが君達をチョイスの舞台へ転送するために必要な炎圧なんだ』

 

 

 

 

 

 

『ご…500万FVだって!?』

 

 転送に必要な数値を聞いた入江が驚愕する。

 

「えっと…確か、普通のX(イクス)-BURNER(バーナー)が20万FVで、(ハイパー)爆発(イクスプロージョン)でレッドゾーンに入る前に言ってた最大値が25万FVだったはずだから…」

『MAXパワーのX-BURNERの20倍だ…!!』

「イヤイヤイヤ、そんな量簡単に出せないよ!?」

『転移装置を使うには、まだハンパない炎圧が必要でね…その炎は、君達に自分で用意してもらうのが筋だと思うんだ。いわばチョイスに参加するためのチケットってわけさ』

『そんな…一方的すぎる!!』

『X-BURNER20発分の炎など簡単に用意できっこない!!』

『結界を張らずにその場で炎を灯してくれれば、装置がひろってくれるからね─あ!』

 

 ボンゴレファミリー達の意見を無視して、超炎リング転送システムの説明をしていた白蘭が、何かを思い出したように目蓋を開く。

 

『脅かすつもりじゃないけど…もしできなかったら、僕は君達に失望してこの街を─』

 

 

 

 

 

 

─白蘭の瞳にあたる場所が、光を蓄えていく─

 

 

 

 

 

 

『こうしちゃうかもね』

 

 

 

 

 

 

 そう言って白蘭が視線を彼方にある山に向けると、そこめがけて光が放たれ─着弾して数瞬後、大爆発を起こした。

 

『ああっ!』

『並盛の北山が!!』

 

 その光景に固まるツナ達。

 着弾地点を包む炎と煙が晴れると、そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「そんな…!」

『幻覚じゃねーのか!?』

『…わからない』

『な…なんてことを…』

『おっと、ゴメンゴメン!顔がすべっちゃった♪』

 

 恐怖を隠せないツナ達に対して、白蘭は楽しげに顔を回転させる。

 

「何が『顔がすべった』だ!全然笑えねぇ…!」

【メチャクチャだ…】

『たしかに世界を恐怖で支配する素質アリってとこだな…』

 

 一人ポーカーフェイスを貫いていたリボーンがそう呟いていると、白蘭の頭上に、感知している炎圧量を映し出すモニターが現れる。

 

『さあ早く炎を搾りだしてごらんよ!約束の12時まで、あと少ししかないんだからさ─僕から照射される光がなくなったらタイムオーバーだからね』

 

 白蘭がそう告げた直後、ツナ達に当てられていた光が縮小を始める。

 

『光が狭まってる!!』

『しかも早いぞ!!』

「このペースでは、あと5分と持つまい…!」

『さあ、おいでってば』

 

 白蘭が急かすように話しかけるが、ツナ達は炎を灯そうとする動きを見せない。

 

『どうしたのかな?ビビっちゃった?』

『だって…まだ全員揃ってないし…』

「そんなこと言ってる場合かよ!?時間切れになっちまったら元も子もねーんだぞ!」

 

 既に光は、ツナだけを照らすスポットライトほどの大きさまで狭まってきている。

 

『へぇ…ルールを重んじてくれるのは嬉しいな。でも僕には、500万FVを出せない言い訳に聞こえるかな?』

『きっと…きっと来てくれる…』

『でもタイムオーバーだね』

いいや来る!

 

 光が顔半分まで迫っていても、ツナの想い─覚悟は揺るがない。その直後─

 

 

 

 

 

 

─そんな彼の覚悟に応えるかのように、神社の左右から二つの人影が、炎を纏って現れる。

 

 

 

 

 

 

『何してんの、君達?』

 

 

 

 

 

 

 一人は並盛中の制服に身を通し、『風紀委員』の腕章を袖に付けている学ランを肩に羽織ながら、両手にトンファーを握る青年。

 

 

 

 

 

 

『よっ!待たせたな』

 

 

 

 

 

 

 もう一人は、右手に持つ刀や腕と顔に巻かれた包帯が目立つものの、いつもと変わらぬ笑みを見せる袴姿の青年。

 

 

 

 

 

 

 その二人こそ、ツナが待ち焦がれていた守護者(仲間)達だった。

 

「雲雀さんに山本さん!」

「来てくれたんだ!」

「ならば急がねば!猶予はもうないぞ!」

 

 姿を見せた二人に喜ぶ人達がいる一方で、ツナに照射されていた光は、すでに旋毛ほどの大きさまでに狭まっていた。

 

『10代目!!』『沢田!!』『ボス!』

『よ、よし……今だ!─ボンゴレ(ボックス)!!

 

 直ぐにチェーンからボンゴレ匣を外し、リングに炎を灯したツナは、両腕をクロスさせるようにして一度ボンゴレ匣とリングを付き出すと、構えを解いて二つのアイテムを胸前で噛み合うよう動かす。

 

 

 

 

 

開匣!!!!

 

 

 

 

 

 

 そしてツナの掛け声に合わせ、7人が同時にボンゴレ匣に炎を注入する。すると次の瞬間─目映い光がツナ達を覆い尽くし、そこから放たれた一筋の光が白蘭の顔に直撃するや否や、装置を覆い隠していた雲が一瞬で全て吹き飛ばされ、機会仕掛けの全貌が露になる。

 

『ん?あれ…?こんなことって…』

 

 そんななか、白蘭が珍しく困惑した声を漏らす。それもそのはず…彼の頭上にあるモニターに映し出されていた数値は─

 

1()10()100()1000()10000()1000(一千)万!?」

「目標の二倍以上の炎圧だと!?」

 

 まさかの数値に驚くなか、響達の目が光に慣れ始め、ツナ達を覆う光も少しずつ弱まってくる。

 そして響達が光の中に見たのは─

 

 

 

 

 

 7人の若き少年少女と、彼らに寄り添う8体の動物達の姿だった

 

 

 

 

 

 

「あれが、雲雀さん達の匣アニマル…!」

『てめーら、おせーぞ!』

『わりーわりー!』

 

 睨みをきかせる獄寺に山本が軽いノリで謝る。そんな彼の頬を『雨犬(カーネ・ディ・ピオッジャ)』の「次郎」が嘗めあげ、頭上では『雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)』の「小次郎」が飛び回る。

 

『僕は個人として来てるんだ。君達とは関係ないよ』

 

 雲雀は雲雀で彼らしい返答をし、彼の後ろで浮かんでいる『雲ハリネズミ(ポルコスピーノ・ヌーヴォラ)』の「ロール」も同意するように鳴く。

 

『だが沢田、よく来るとわかったな!!』

 

 そんななか、了平が自分の匣アニマルである『晴カンガルー(カングーロ・デル・セレーノ)』の「(かん)我流(がりゅう)」と肩を組ながらツナに話しかける。

 

『─いや…わかってたのは、全員揃わなくては白蘭には勝てないということだけだ』

 

 そんな了平に、いつの間にかハイパーモードになっていたツナは真剣な表情で答えた。そんな彼を見てリボーンが「ニッ」と笑顔を浮かべる。

 

『うん、いいねぇ!見事500万FVを超えて合格だよ』

 

 そんなツナ達を見ていた白蘭は、楽しそうに声を弾ませる。

 

『じゃあさっそく、チョイスをはじめよう』

『ああ』

『まずはフィールドの"チョイス"をするんだけど─』

 

 そこで話を一度区切ると、白蘭の右頬の付近が剥がれ、そこから溢れだした無数のカードがツナの周りを取り囲む。

 

「なんだろう?コレ…」

「トランプ…?」

『正チャンからチョイスのルールは聞いてるだろ?』

 

 白蘭が笑顔でそう問いかけると、ツナではなく響が首をかしげる。

 

「あれ?私達が見てきた中で、入江さんがチョイスの説明してた場面ってありましたっけ?」

「…いいや、なかったな」

「まぁどうせ、見れなかった6日間のどっかであったんだろ」

『チョイスとは選択のゲーム─戦うフィールドと戦士を、最初にチョイスしなければはじまらない…人のもつ運命によってね』

「運命…」

『さあ!そのカードを一枚ひくんだ、綱吉君!それが君自身の"選択(チョイス)"だ』

『しかし、敵のつくったカードでは…』

『大丈夫!白蘭サンは、チョイスでだけは不正をしない男だ』

 

 入江からの言質を聞いたツナが覚悟を決める。

 

『よし…チョイスしよう』

 

 そしてツナは、自分の周りを飛び交う列の中から、目の前に来たカードを一枚引き抜いた。

 引き抜かれたカードの表面は、当初は真っ白な状態だったが、ツナが引いて数秒経つと、光を発しながら模様と文字が浮かび上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

『フィールドのカードは─雷』

 

 

 

 

 

 

─カードに浮かび上がったのは稲妻の模様とFULMINE()の文字─

 

 

 

 

 

 

『じゃあいこう』

 

 白蘭がそう言うと同時に、装置から光が溢れだしツナ達と彼らの基地ユニットを照らす。すると彼らの体は、装置に吸い込まれるようにしてゆっくりと浮かび上がる。

 そして転移装置がまばゆい光を放った直後─ツナ達は、並盛町から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お~…いて~!!』

「─転移が成功したのか?」

 

 ツナ達が浮かび上がった場面辺りで、まばゆい光から視界を守っていた響達は、ツナの声を聞いてゆっくりと目を開く。

 どうやら成功したようだが、転移の衝撃による砂ぼこりが周囲に立ち込めており、現在地が何処なのかはよく分からない。

 

『み…みんな、大丈夫?』

『ええ』『こっちも大丈夫です!』

 

 そんななか、直ぐに立ち上がったツナは仲間達の状況を確認し始める。どうやら皆、無事に転移してきたようだ。

 

「良かった!誰も欠けてないよ!」

『しかし本当にすさまじい炎を消費してんな…瓜が匣に戻っちまった』

 

 獄寺はそう呟きながら、自分のボンゴレ匣を眺める。どうやら他の仲間達も、彼と同じ状態のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっ♪ようこそチョイス会場へ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこへ、煙の外から敵のボスが話しかけてくる。

 

『びゃっ、白蘭!?』

 

 ツナが声の聞こえた方角を向くと、同時に煙も薄れ始める。

 

『んな!?』

 

 そして周囲を確認したツナは、驚きのあまり声を上げた。だが、驚いたのは彼だけではない。

 

「え…ええぇぇぇ!?」

『な…なんということだ』

『ここは…』

 

 ツナの仲間達だけでなく響達も声を上げてしまう。それもそのはず、ツナ達が飛ばされた場所は─

 

 

 

 

 

 

超高層ビル郡の─ど真ん中!!!

 

 

 

 

 

 

『何度も会っているような気がするけど─僕と会うのははじめてかい?綱吉君』

 

 周囲に気を取られているツナに、笑顔で話しかける白蘭。そんな彼の後ろには、付き従うようにして守護者達が立っている。

 

『でっ、でたー!!白蘭と(リアル)6弔花!!』

「なんという存在感だ…沢田の記憶を通して見ているというのに、これ程の圧とは…!」

 

 彼らを見たツナが悲鳴を上げ、翼達が怯むなか、マフィアの存在を知ったばかりの京子とハルは、彼らから漏れだす存在感を本能で感じとり顔を青白く染める。

 

『ここで戦闘をするからね『!』いいロケーションだと思わないかい?』

『こ、こんな人の多い場所で戦えるわけないでしょ!!』

「そうだそうだ!こんな都会のど真ん中みてーな場所でおっぱじめたら、どんだけ被害が出ると思ってやがる!」

 

 白蘭の発言に異議を上げるツナ。そんな彼を見た白蘭はさらに笑みを深める。

 

『そう言うと思って、人はぜーんぶよけといたよ!ここには僕ら以外、人っ子一人いないんだ』

『「どういうことだ?」』

『おって説明するよ』

 

 

 

 

 

 

『なはーんだ!ちびっ子ばっかりじゃない』

 

 

 

 

 

 

 ツナ達が白蘭に意識を向けていると、白蘭のすぐ後ろからツナ達を見ていた少女が、馬鹿馬鹿しげに吹き出した。

 

「あんなに小さい女の子も、敵だっていうの!?」

「つーかちびっ子って…自分も存外ちびっ子じゃねーか─」

『こんなのぜ~んぶ─ブルーベル一人で殺せちゃうもんね!(`∀´)』

 

 そう言って、少女─ブルーベルが左手を頭上に上げると─彼女の手が液体になり、水の槍を形取った。

 

『ひい!!手がー!!』

「溶けた!?」

「一体どんな手品使いやがった!?」

 

 人間離れした行動を取ってきたブルーベルに怯むツナ達。そこへ─

 

 

 

 

 

 

『ハハンッ!あわてないで、ブルーベル』

 

 

 

 

 

 

 白蘭の右後ろに立っていた男が、液体化したブルーベルの手に何かを投擲する。

 その物体は、ブルーベルの手に着弾した直後、瞬く間に成長して、とぐろを巻きながら絡み付いた。

 

『ニュ!Σ(゚ω゚)』

『白蘭様が楽しみにしておられたお祭りなのですよ?ゆっくり楽しみましょう』

『「こ…今度は何!?」』

「動きが速すぎて、あれが何なのか読み取れない…!」

『マグマ風呂といい…こいつら人間じゃねーのか!?』

 

 次々と起こる現象に驚きを隠せないツナ達。

 そんななか、ただ一人─雲雀だけは、「そんなことはどうでもいい」と言わんばかりに鼻をならすと、トンファーを構えリングに炎を灯し、今にも喧嘩を売りかねない雰囲気を醸し出していた。

 そんな彼に気付いた長髪の青年は、独特な口癖をこぼす。

 

『ハハンッ!どうやら、私と同じ雲属性の守護者は学生服の君のようですね─私は桔梗。お見知りおきを』

『すぐにはじめようよ』

 

 礼儀正しい口調で自己紹介する桔梗に対し、雲雀は変わらず我が道を進み続ける。

 

『だーから、ダメなんだって!ひっばーりチャン♪─次のチョイスをはじめなきゃ』

 

 そう言って白蘭は、取っ手部分を抜いても人の顔程のサイズはあろう円柱の物体を取り出した。その物体の頂上には死ぬ気の炎が灯っており、円柱部分には横並びの数字の列が、8層重なっていた。

 

『なっ…何アレ?』

「あれは…ルーレット?」

「そ♪チョイス専用に作った"ジャイロルーレット"さ!」

『みんなが見やすいように、映しだそうね』

 

 現在の白蘭に続き、過去の白蘭がそう言うと、白蘭達─ミルフィオーレ側と、ツナ達─ボンゴレ側のそれぞれに映像が映し出される。そこには、互いのファミリーの紋章のほかに、7つの記号が写されていた。

 

「なんだ?この記号…」

『紋章に…属性?』

 

 クリス達が写し出された記号に首をかしげていると、獄寺がその正体に気付く。

 そう─映像に写し出されていた両端以外の6つの記号は─上から順に晴、霧、雲、雨、雷、嵐と─ツナ達が持っている、大空を除いた6つの属性を表していたのだ。

 だがそんな獄寺を他所に、白蘭はチョイスの準備を進める。

 

『リングの手を歯車の側面にそえて?綱吉君』

『え…?』

『ほら、こうするんだ』

 

 そう言って白蘭は、お手本としてルーレットに手を添えた。

 

『こ…こう?』

 

 それを見たツナも、白蘭と同じようにして、彼の反対側に手を添える。

 

『チョイスの掛け声で歯車を右に回すよ』

『え…ちょ、ちょっとまっ…』

 

 

 

 

 

 

チョイス

 

 

 

 

 

 

 息つく間もなく次の指示を出され、ツナが戸惑っていると、白蘭が勢いよくルーレットを回した。

 それにより、添えていたツナの手が弾かれる。

 ルーレットはその後、数秒間回り続け─少しずつ、それでいて規則性なく止まっていく。

 

『ん。止まるね』

 

 そして全ての列が完全に停止し、2つの映像に結果が映し出された─

 

 

 

 

 

 

ツナ達側は─紋章、雨、嵐の3つが『1』で、謎の四角が『2』─

 

 

 

 

 

 

白蘭側は─晴と雲が『1』で、霧が『2』─

 

 

 

 

 

 

そしてそれぞれ─ボンゴレ側は謎の四角に、ミルフィオーレ側は晴に、炎が灯っていた─

 

 

 

 

 

 

『これで決まったからね─バトル参加者♪』

「えーっと…あの記号はそれぞれの属性を現してて、紋章が大空の筈だから─ツナ達からは、ツナ・山本さん・獄寺さんが出られるってこと?」

「それと、よくわかんねー四角も2人ばかりな。だが、それだとよ─」

『でも、ボンゴレとミルフィオーレで合計がちがう?』

 

 クリスの抱いた疑念を、ツナが代弁する。そう─彼の言った通り、ボンゴレ側は大空・雨・嵐一人ずつと四角二人の計五人に対し、ミルフィオーレ側は晴と雲一人ずつと霧二人の計四人─ミルフィオーレ側が一人少ないのだ。

 

『これがチョイスの醍醐味だよ♪ボンゴレは大空に嵐に雨が一名か~…いい引きしてるじゃないか!綱吉君』

「沢田はほぼなにもしていないのだが…結果的には吉だったわけか…「いいや…」?」

「ここでやり直しを申し出ておけば、もちっと早く終われたかもしれなかったな…」

「それはどういう─」

『おい待て!!だったら一番下の□はなんだ!?あんな属性見たことねぇ!』

 

 リボーンが呟いた内容を問おうとした翼だったが、獄寺がその場にいた全員の疑問を叫んだお陰で聞きそびれてしまう。

 

『あぁ、あれは無属性─つまりリングを持たぬ者を示しているんだ。君達は"2"だから─二名を選出しなくちゃならない』

「だから非戦闘員である三浦達も必要だったのか…!」

『みんな戦いに参加なんて…そんな!!』

 

 

 

 

 

 

『キャッ!』

 

 

 

 

 

 

 チョイスの戦いに京子達も呼ばなければならなかった理由を知ったツナが顔色を悪くしていると、後方にいた京子の叫び声が聞こえ振り返る。するとそこには、先ほどまで白蘭の後ろにいた、ウサギのぬいぐるみを抱いた長髪の男が彼女達の前にいたのだ。

 

「こいつ、いつの間に!?」

『何なのあなた!』

 

 ツナ達がいつの間にか後ろにいた男に驚くなか、京子達をビアンキが引き寄せる。

 

『僕チン……デイジー……』

 

 その男─デイジーは、懐から何かを取り出す。

 

『これ……あげる』

 

 そう言ってデイジーが京子に渡そうとしたのは─真っ黒に腐りはてた一輪のデイジーだった。

 

「あの野郎、何てモンを─」

『ハハンッ』ビュッ─ギュ

『ガハァ!』

『『「キャーッ!」』』

 

 そんなデイジーの言動に京子達が怯えきっていると、先程ブルーベルの手に巻き付いたものと同じものが彼の首に巻き付き、勢い良く桔梗の元まで引き戻される。

 その際、力が強かったのか、デイジーは口から血を吐き出してしまい、それを見た京子達と未来が悲鳴を上げる。

 

『スイマセンね、ちょっと目を離したスキに…デイジーはあなた達のように美しく─滅びゆくものに目がないんです』

 

 口だけでなく鼻からも血を流すデイジーを抱え、微笑みながらそう告げる桔梗。

 そんな彼の笑みを見た京子達は、さらに顔色を蒼く染めていく。

 

『「何なのこの人ー!?」』

『さーて!それじゃあ、お互いの参加戦士(メンバー)を発表しよっか─あ!ここは唯一、相談して決められるとこだからね』

 

 困惑するツナをよそに、話を進める白蘭。そんな彼に、入江が手を上げて問いかける。

 

『白蘭サン…リングを持たない僕は─無属性でいいですよね!』

 

 冷や汗を浮かべる入江と、笑顔の白蘭の視線が絡み合う。そして─

 

『んん!ま、特別にいいかな』

「これで、無属性は一人決まったな。それで、あと一人だが…」

『だったら綱吉君─僕らのメンバーは決まりだよ』

『「え?」』

 

 もう一人が誰なのか悩んでいたツナは、入江の言葉に首をかしげる。そんなツナに、入江はメンバーを伝える。

 

『ボンゴレの参加戦士は─大空に綱吉君─嵐は獄寺君─雨は山本君─無属性は僕とスパナが適任だ』

『おい待て入江!!だれがてめーの指示に従うかってんだ!ボスは10代目だぞ!!』

 

 真剣な表情で伝える入江。だがそんな彼に異論を投げ掛けるものが現れる。一人目は獄寺。しかし…

 

『だがオレも全員戦闘経験者のこのメンバーでいいと思うぞ』

『なっ…リボーンさん!』

『待たんか!』

 

 リボーンの一言に言葉をつまらせた獄寺。次は了平だ。

 

『オレが出られんのはおかしいではないか!!極限に我流と修行をしたんだぞ!!』

 

 常時死ぬ気男の彼らしい不満だが、今さらルーレットの再抽選を申し出るには遅すぎる。

 

『ここは我慢してくれ…条件は向こうも同じ。これがチョイスなんだ─それに、ジャイロルーレットの結果は決して悪くない!!』

 

 そう言って必死に説得しようとする入江だが、そんな彼でも納得させるには難しい人物が…そう─雲雀だ。

 

『そんな理由で納得すると思ってるの?僕は出るよ』

 

 雲雀はそう言って、トンファーを構える。

 

「ど、どうしよう…雲雀さん、何がなんでも出る気だよ…」

『ちょっ!そんなこと言われても─』

 

 流石の入江も、彼を説得させる手立てがなく慌てだす。すると─

 

 

 

 

 

 

『待てって恭弥!─ったく、しょーがねー奴だなぁ』

 

 

 

 

 

 

 基地ユニットの中から、一人の人物が現れる。その人物は─

 

『「ディーノさん!」』

 

 ツナ達とは別行動をとっていた雲雀の特訓相手を請け負っていたディーノだった。

 

『いつのまに!?』

「彼は集合場所である神社にいなかった筈…!?」

転移(ワープ)の時にまぎれこんだんだ─おまえらの家庭教師なんだ。こないわけにはいかねーだろ?』

 

 驚くツナ達に経緯を話したディーノは雲雀に近づく。

 

『考えてみろよ?ツナ達がミルフィオーレに勝てばその後は、どいつとでも好きなだけ戦えるぜ?少しの辛抱じゃねーか!なっ』

 

 そして何気ないノリでそう伝えた。

 そんな彼の提案を聞き、少しの間考えた雲雀は─

 

『…急いでよ』

『ああ、わかった』

 

 少し不満げな顔をしつつも、ディーノの提案にのったのだった。

 

「す、すごい…あんなに戦う気満々だった雲雀さんをなだめてる…」

【ディーノさん、ヒバリさん説得するのうまくなってるー!!】

『ツナ、お前が決定しろ。そのメンバーでいいのか?』

『え…』

 

 雲雀を納得させたディーノにツナが驚愕していると、ディーノがツナにそう問いかける。

 いきなり問いかけられたツナは一瞬戸惑ったものの─

 

『は…はい!』

 

 視線をそらすことなく、しっかりと答えた。

 そんなツナを見て、成長しているのが嬉しいのか「ニッ」と笑顔を浮かべるリボーン。

 

『ところで、ジャンニーニはいいの?同じ無属性でメカニックのスパナが選ばれちゃったけど』

 

 何も異論を言わないことが不思議に思ったフゥ太は、ジャンニーニに直接問いかけると─

 

『ざ…残念ですが─仕方ありませんね♪』

 

 彼はとても良い笑顔でサムズアップしたのだった。

 

【(本当は出たくないんだ…)】

(メチャクチャ嬉しそうじゃねーか…)

 

 そんなジャンニーニを見たツナと響達は同じ感想を抱く。

 

 

 

 

 

 

『ああ~~あっ─だり~~~』

 

 

 

 

 

 

 するとその時、白蘭達の方から何とも気の抜けた声が響いてきた。

 すぐにツナと響達が声が聞こえた方向を見ると、一人だけヤンキー座りをしてうなだれる人物が…

 

「やつは…!」

「メローネ基地で映像に映ってた─」

『「マグマ風呂野郎!!」』

『白蘭様…悪いが出番もねーし…正直イヤになってきました~』

『申しわけありません、白蘭様…ザクロがダレてきました』

『ん、じゃあ急ごうか』

 

 赤髪の男─ザクロがヤンキー座りから徐々にうつ伏せになろうとしているのを見て白蘭がツナ達に向き直る。

 

『それじゃあ、今度は僕らミルフィオーレの参加戦士を紹介するよ─雲は、最も頼りになる真6弔花の優しいリーダー「桔梗」─晴は、殺したいほど生ける屍「デイジー」─霧は、真実を語る幻影の巨人「トリカブト」♪』

 

 白蘭に紹介されると、三人とも下顎に人差し指と中指の二本と親指でL字を作った左手を添え決めポーズをとる。

 

「ど、独特なポーズだね…」

「そんなことよりも、今あいつが言ったメンバーじゃ─」

『それじゃ足りてない!お前達の霧の数は2だぞ!!』

『まあ!』

 

 バジルに問い詰められ、ブルーベルと同じく目を丸くする白蘭。しかし…

 

『困った─なーんて言わないよ?前に言ったように、真6弔花にはAランクの部下が一人につき百人ついてるんだ─もう一人の霧のプレイヤーは、ここにすでにいるよ』

 

 白蘭がそう話した直後、ツナと白蘭の間にあった空間に突如として霧が立ち上ぼり─黒の忍者服に身を包み、背中に二本の刀を背負った能面の男が姿を現した。

 

『トリカブトの部下─猿ね♪』

「…なんで能面?」

「気にするとこ、そこか!?」

『どこから湧いてきやがった!』

『術士が2人…』

『奴ら、人員には困らないってわけか』

『卑怯な…』

「しかし、先程の霧の立ち方…何処かで見覚えが…」

 

 突然現れた、猿と呼ばれた男にそれぞれが反応を示すなか、翼は男の霧を見てなにやら一人で考え込む。

 

『さーて、いよいよ一番大事な勝敗のルールなんだけど…数あるチョイスの中から、最もシンプルかつ手っとり早い─ターゲットルールでいくよ

『「ターゲット…ルール?」』

『簡単なルールだ─お互いに敵の標的(ターゲット)となるユニットを一人決め、その標的がやられた方が負けとなる

 

 名前を聞いてもいまいちピンときていないツナ達に、入江がターゲットルールについて説明する。

 

『なるほど…大将をたてるんだな。標的は取られたら負けの─将棋でいう"王将"ってわけだな』

『ちなみに標的はさっきのルーレットですでにチョイスされているんだよ』

『「!?」』

『ルーレットボードの属性のマークに炎が灯っているだろう?』

 

 白蘭に促されボードを見るツナ達。彼が言う通り、確かにボードには炎が灯った属性が互いに一つあった。

 

『ミルフィオーレは晴!ボンゴレは無属性に!』

「てことは、こっちはあのデイジーとかいう気持ち悪い男を倒せば勝ちってことだな」

「そして、重要なボンゴレ側の大将だが…」

『標的となる属性に二人以上いる時は、ランダムに一人を選ぶんだ』

 

 白蘭がそう伝えた直後、彼の持っていたジャイロルーレットから二つの光が放たれ、大将の胸元に着弾しターゲットスコープが映し出される─

 

 

 

 

 

 

『うん!これで決まったね♪ミルフィオーレの標的はデイジー─ボンゴレの標的は正チャンだ♪

 

 

 

 

 

 

『入江君!?』

「そんな…!」

『…心配ない。望むところさ』

 

 心配で慌てるツナとは対照的に、冷静な態度で答える入江。

 

『つまり、我々は入江正一を─あなた達はデイジーを先に倒せば─勝利というわけです』

『わかりやすくていいじゃねーか…気に入った』

『だな』

『─シンプルなだけに奥が深そうだ…』

『スパナの言う通りだ─?』

 

 それぞれの意気込みを見せる獄寺達に何やら伝えようとした入江だったが、いきなり自分のターゲットスコープを見た。

 

「どうしたんだろう?」

「─おい…あのターゲットスコープ─火、出てきてねぇか?

 

 クリスが異変に気づきそう問いかけた直後─入江のターゲットスコープから黄色い炎が溢れだし、一瞬でスコープを埋め尽くすサイズまで膨張した。

 

『うわっ!!何だこれはあぁ!?』

「入江さん!?」

『胸から炎が!!』

『それは"標的の炎(ターゲットマーカー)"だよ』

 

 混乱するツナ達に、白蘭が入江の胸の炎について語り始める。

 

『標的者は、胸に自らの死ぬ気の炎を灯すことにより、他のプレイヤーとの差別化をするんだ。標的者が倒されずに生きている証明にもなるだろ?』

「そうか…それで黄色の炎─彼の属性である晴の炎が灯ったということか!」

 

 良く見ると、デイジーの胸にも入江と同じように晴の炎が灯っていた。

 そんななか、白蘭の説明を聞いた入江はすぐに胸のマーカーを剥がそうとする。しかし…

 

『ぐっ!とれない!!』

『バトルが終わるまではずすことは不可能だよ。"標的の炎"が消えたら負けだからね』

『待て白蘭─生命エネルギーである死ぬ気の炎をこんなにただ流しにしちまったら─あっというまに体力を消耗し、ぶっ倒れちまうぞ』

 

 白蘭の説明に疑問を抱いたリボーンの問いを聞き、顔から血の気が消えていく響達。

 

「そ…そうだよ…このまま炎を灯し続けてたら…」

『それがこのバトルのタイムリミットになるんじゃないか』

『「!」』

「そ、それってつまり…」

「最悪の場合─命を落とす可能性があるということか…!」

『もう一度いうけど─どんな理由であれ、"標的の炎"が消えたら負けだからね』

 

 この戦いの真の恐ろしさに気づき固まるツナ達に、冷徹な目で告げる白蘭。

 

『なっ…なんてことを…』

『─いいんだ。はじめよう…』

 

 ツナが白蘭に恐怖の視線を送っていると、そう言って入江が立ち上がろうとする。

 

『で…でも入江君!ムリしないで!!』

『ヘタすりゃ、炎出してるだけで死んじまうぞ』

 

 そんな入江を止めようとするツナ達だが…

 

『…それは敵も同じこと…それに、僕は犠牲心でやるんじゃない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蘭サンをこんなにしちゃったのは僕なんだ!!僕が逃げるわけにはいかない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入江さんが、白蘭さんを…?」

『へぇ~…正チャン、そんな風に考えてたんだぁ』

 

 入江の叫びに響達が困惑していると、彼の話を聞いた白蘭が興味深そうに呟く。

 

『まぁいいや』

 

 しかし、すぐに興味をなくし呟くと、手を組んでいたトリカブトの背後から三つの小さな火の玉が、花火のように空へと向かって昇っていく。

 

『前に言ったけど、この盛大なチョイスの勝者の報酬は─全てのマーレリングに……全てのボンゴレリング……そして全てのアルコバレーノのおしゃぶり……すなわち新世界を想像する礎となる、僕が一番欲しいもの─7^3(トゥリニセッテ)だよ♪

 

 

 

 

 

 

ドドーン

 

 

 

 

 

 

 白蘭がそう宣言すると、先程の三つの玉が炸裂し─上空に7^3を描いた。

 

 

 

 

 

 

『そうそう!バトルを始める前に、公平にジャッジする審判を紹介しないとね』

『我々におまかせを!』

 

 7^3の花火が消え、白蘭が思い出したように話すと、上空から二つの人影がツナ達の元に降りてくる。

 降りてきた二人は、共に褐色の肌と薄いピンクの長髪をしており、目元を独特なマスクで隠していた。

 

「あの人達って確か、メローネ基地で入江さんと一緒にいた─!」

『チェルベッロ!!』

『入江の話じゃ、いつのまにかミルフィオーレにいたらしいな…一体お前ら何者だ?』

 

 突如現れたチェルベッロの二人にツナ達が驚くなか、リボーンが今まで抱いていた疑念を問う。

 

『我々はミルフィオーレチェルベッロ機関』

『それ以外の何者でもありません』

『ミルフィオーレの…チェルベッロ…?』

『ざけんな!!どのみち、敵の息のかかった審判じゃねーか!!』

 

 チェルベッロが審判と聞き、白蘭に食いかかる獄寺。

 

『この娘達は公平だよ。それがとりえなんだから─それより、ズルをしてるのは君達じゃないのかい?』

「え!?」

「別に何もない筈だけど…」

『99.99%の殺気を消しているのは見事としかいいようがありませんが…わずかに0.01%─あなた方の基地ユニットから人の気配を感じます』

 

 

 

 

 

 

『チッ』

 

 

 

 

 

 

 桔梗がそう告げると、基地ユニットのシートを翻して─ヴァリアーの隊長服を着た男が現れた。

 

「スクアーロさん!?」

『スクアーロいたの─!?』

『なんだよ!来てたのかよ!!』

『来て悪いかぁ!!カスガキがぁ!!─まぎれこんで暴れてやろうとしてただけだぁ』

 

 名前通りの暴れ鮫(スクアーロ)らしい理由に、山本は笑みを浮かべる。

 

立体映像(ホログラム)の君もだ、リボーン♪ここには非7^3線(ノン・トゥリニセッテ)はないから、本体が基地ユニットから出ても大丈夫だよ』

「バレていたか…」

『気が利くな』

 

 リボーンがそう呟くと、二人とも「ニッ」とした笑顔を浮かべた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、チョイス参加戦士以外の者はチェルベッロの案内で観覧席に向かい、参加戦士達は基地ユニットごとフィールドに転送され、開始まで3分間の猶予を与えられていた。

 そして、その3分間にツナ達がしていたのは─

 

 

 

 

 

 

『─で、こうだ』キュッ

『こうな』キュッ

 

 

 

 

 

 

─袴姿だった山本にスーツの着方を伝授させることだった。

 

 

 

 

 

 

『ったく!ネクタイの結び方くらい覚えろ、野球バカ!』

『しゃーねーだろ?普段スーツなんて着ねーし』

『オレもできなかったけど…』

 

 獄寺が怒り、山本が笑顔で応え、ツナが怯える─普段の彼ららしいやり取りだが…表情は少しだけ、いつもより明るく見えた。

 

『マップが送られてきた─どうやらここは南東の地点らしい』

『そうか─悪くないな…』

 

 そんな三人の横で、スパナのパソコンを後ろから覗き込む入江。冷静を保っているように見えるが、顔には汗がにじみ、息遣いも少し荒い。

 

『入江君、大丈夫?』

「あまり無茶はしないで…」

『ああ…心配ない…それより、僕らが作った基地はどうだい?』

 

 心配するツナに、入江が話題をそらす。

 

『立派でびっくりです!よくこれだけの─』

 

 

 

 

 

 

3分たちました

 

 

 

 

 

 

 ツナが入江の問いに答えようとしたところで、通信機からチェルベッロの声が聞こえてきた。

 

〔それでは─〕

 

 

 

 

 

 

チョイスバトル─スタート!!

 

 

 

 

 

 

「ついに始まったな…」

「そうですね…一体、どんな戦いが始まるんだろう…」

「ん?そういや、あいつらは何やってんだ?」

 

 自分達が戦うわけでもないのに、気合いが入る響達。

 その横で、ツナ達は一ヶ所に集まり円陣を組むと─

 

 

 

 

 

 

ボンゴレファイッ!!

『『『『おおっ』』』』

 

 

 

 

 

 

 山本の掛け声に合わせ、力強い声を上げた(スパナ以外)。

 

「おぉ!みんな気合い入ってる!」

『やっぱ気合い入るな』

『ひさびさに(へこ)むぜ…』

『これは日本独特ではないよな』『え?』

『ところで作戦だが…』

 

 ツナ達の円陣を見た響が興奮気味に反応するが、どうやら実際に気合いが入ったのは山本とツナだけのようだ。

 そんな微妙な空気のなか、入江が作戦を語り始める。

 

『敵の位置はお互いに炎レーダーでしか把握できないんだ…そこで僕とスパナは、基地(ここ)でデータを分析して指示を出すので、君達には攻守にわかれて戦ってほしい。戦闘スタイルから─獄寺君はディフェンス、綱吉君と山本君はオフェンスがいいと思う』

「ふむ…いい策だ。獄寺のSISTEMA(スイステーマ) C.A.I.にはデンドロの攻撃を防いだ盾があるからな」

『だからてめーは!!10代目をさしおいて、勝手に指示すんじゃねー!!』

 

 伊達に一部隊の隊長として基地を任されただけのことはあり、ツナ達の武器の特性を理解した上での入江の作戦に、翼が感心する。

 しかし、やはり彼のことが気に入らない獄寺は不満を述べる。だが…

 

『で…でも、それでいいんじゃないかな…入江君はチョイスを知りつくしてるんだし…』

 

 ツナが納得したことで、強く言えなくなってしまう。

 

『…じゅっ、10代目がそうおっしゃるなら…』

『よっしゃ!行こうぜ!』

『うん!』

 

 山本の言葉にツナがうなずくと、皆それぞれの配置につく。

 ツナ・山本・獄寺の三人は自分のバイクが収納されている部屋に駆け込み、入江とスパナの二人はモニターに向き合う。

 

〔いいかいみんな!この地形は遮蔽物が多いだけに、敵の位置と動きをいかに早くつかむか─そこが勝敗を分ける!!〕

「つまり─このフィールドを敵より早く把握することこそ、勝利への鍵に繋がるというわけか」

〔シートをはずせ!〕

 

 入江の指示により、基地ユニットに掛けられていたシートが外され、白い八角形の姿が露になる。

 

〔沢田機─山本機─獄寺機─進路クリア〕

 

 そして、基地前方の3門の扉がゆっくりと開いていき─

 

〔発進!!〕

 

 奥からバイクに搭乗したツナ・山本・獄寺が飛び出すと、すぐそばの十字路で散開し、それぞれの配置場所に向かうのだった…




はい。

チョイス戦に入り、「やっとツナの活躍見れる!」と期待していた皆様…申し訳ありません。今回は序章までしか行けませんでした。
で、ですが次回はちゃんとツナの戦闘に入りますのでご容赦を!

あ、それと二ヶ所ほどにある顔文字はブルーベアの代わりです。熊の絵文字が反映されなかったので。


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ツナの過去(10年後編):⑭

どうも、生粋の名無しです。

大っっっ変遅くなってしまい、申し訳ありません!
気づけば前回の投稿から約五ヶ月。
その間、気力の上下が激しかったり他の作者の作品を読んだりで時間がかかってしまいました。


「おかしい…沢田の乗るロスマンズは2サイクルエンジンの筈…それにしては、電気バイク程の音しか出していない…」

「それはジャンニーニが発明した超高性能サイレンサーのお陰だな。その他にも、バイク自体が音だけじゃなく炎の反応も金属反応もしないよう設計されてるぞ」

「敵のレーダーには映らない、まさに忍者のようなステルスマシンだね♪」

 

 翼が抱いた疑問に答えるリボーンと白蘭。彼らは現在、移動するツナの頭上から戦況を眺めていた。

 するとその時、基地の方で標的の炎の解析を終わらせたスパナから、そのデータを複製し(デコイ)を飛ばしたとの連絡が。

 

〔レーダーに敵を確認。3方向に散った〕

〔やはり、しらみつぶしにするつもりだな…よし、獄寺君はその地点で待機!山本君は1ブロック先を左折し3ブロック先の交差点まで行ってくれ!迎撃パターンBだ!綱吉君は速度維持で前進!!〕

「すごいな…彼は戦況をよく見て命令を出している」

「やる時はやる男だぞ。正一は」

〔3秒後に停止するぞ〕

【よ…よーし…!】

 

 入江の指示を聞き、気を引き締めるツナ。

 

〔2……1…………ストップ!!〕

 

 入江の指示に合わせて急ブレーキをかけ停止─

 

〔ダミーをあげろ、綱吉君!!〕

 

 懐からダミー発射装置を取り出し、蓋を開けてボタンを押すと、上空に人型のバルーンが射出された。

 

〔回避パターンFをとりつつ攻撃(アタック)!!〕

『了解!』

 

 そしてすぐさまその場から離れ、建物の影に隠れると─先程ダミーを放った場所の右手側から、トリカブトが空を飛んで現れた。

 そしてトリカブトは、そのまま入江の思惑通りダミーを破壊する。

 破壊してからやっと、自分の見つけた物がダミーだと気付いたトリカブトだが、もう遅い。

 彼の背後には既に─

 

 

 

おそい

 

 

 

─すでにハイパー化していたツナが、建物の裏を回って迫ってきていた

 

 

 

 ツナはそのままトリカブトの背中に急接近すると、容赦のない一撃を入れ、遥か前方にあったビルの窓まで吹き飛ばし叩きつける。

 

「やった!」

「先手はこちらが取ったか!」

 

 その光景を見ていた響達が声を上げるが…

 

「まて!あんだけ激しくぶつけられたってのに─」

【このビル…壊れない…?】

 

 ツナとクリスが同じ疑問を抱いていると、直ぐ側にチェルベッロの二人が現れる。

 

『雷面の高層ビルは、雷属性の"硬化"の炎でコーティングされており─』

『通常のビルの20倍以上の強度を誇っているのです』

「「「「「20倍!?」」」」」

「ど、どうしよう!?ツナ、遠慮なく叩きつけちゃったけど…」

 

 チェルベッロの説明を聞き、トリカブトの心配をする響。

 当のトリカブトは、窓に()()()()を残しながら、少しずつずり落ちていく…

 

 

 

素朴の者よ

 

 

 

 しかし、トリカブトがそう呟いた直後、窓に貼り付いていたシミが"ベロン"と剥がれ、細長いナニカに変わると、群れをなして"8の字"を空中で描き始める。その正体は─

 

「ウミヘビだ!」

「ちょ、ちょっと待って!?ト、トリカブトさんが…!」

 

 翼達がウミヘビに視線を向けていると、響が青ざめた顔をしながらトリカブトを指差す。

 そこには─

 

 

 

 

 

 

顔と仮面、そしてフードのみ原型を残し─肉体が消え、脊椎を露にしたトリカブトの姿があった

 

 

 

 

 

 

「ヒッ!?」

「あれは…幻術、なのか?それとも…」

『か弱き者よ』

 

 あまりにも現実離れした光景に響達が驚きを隠せないなか、トリカブトの生み出したウミヘビ達がツナに迫り来る。

 そんなウミヘビ達の頭は、うっすらと帯電していた。

 

【あれは─雷属性の炎!!】

 

 その事に気付いたツナが直ぐさま横に回避すると、狙いをはずしたウミヘビ達は、彼の背後にあったビルへと突撃していき─通常の20倍以上の硬さがある筈のビルを意図も容易く貫通していった。

 

「ウソ!?あのビルをあっさり…」

「─!沢田、後ろだ!」

 

 ウミヘビの突撃によって支柱を壊されたビルの上層階が、ゆっくりとずり落ちていく。

 その光景にツナと響達が気を取られていると、翼があることに気付く。

 ビルを見ていたツナの背後から、先ほどの群れとは別のウミヘビ達が迫ってきていたのだ。

 その事に気付いたツナは直ぐに回避行動をとるが、ビルを貫いた群れも合流したウミヘビ達は、縦方向と横方向から等間隔で列をなしながらツナの周囲を飛び交っていく。

 

『ぐっ!』

幻魔─ウミヘビ方眼(レーテ・セルペンテ・ディ・マーレ)

 

 そして気がつけば、ツナは結合したウミヘビによって作り出された檻の中に閉じ込められていた。

 

「なんと巧妙な…!」

「─見て!あの檻、少しづつ狭まってきてるよ!」

 

 ウミヘビの見事な連携に翼が驚く中、響の指摘通り、ウミヘビの檻はツナに向かって徐々に狭まってきていた。

 その事にはツナも気付いており、どうやって脱出するか悩んでいた。その時─腰のチェーンに付けられていたボンゴレ(ボックス)が、"クンクンッ"と動いた。

 

『ナッツ!!─わかった!たのむ!!』

 

 そんな匣の意図を感じ取ったツナは、匣をチェーンから外すと窪みにリングを押し当て、匣の中に炎を注入する。すると直ぐに蓋が開き、中からは─

 

 

 

 

 

 

今やツナの相棒として響達に浸透している─『天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)』のナッツが、Ver.(バージョン)V.(ボンゴレ)の姿で飛び出した

 

 

 

 

 

 

『ガオ!』

「ナッツ君!」

「さっきも一回出てきてたけど、ツナはちゃんと仲良くなれたんだ!」

「─ん?あいつ、あたし達が知ってる姿とは少し、違くねーか?」

「おめーらが知ってるナッツは、BG(ボンゴレギア)となって進化した姿だからな」

『GURURURU─GAOO!

 

 響達が話をしていると、ナッツがツナの前方に向け雄叫びをあげる。

 すると─ナッツの放った大空の『調和』の力が付与された咆哮によって、檻の一部が空気と調和され脆くなり、ツナはそこをぶち破って脱出した。

 

『終わりだ』

 

 そして、目の前のトリカブトに迫る─しかし次の瞬間、トリカブトが背にしていたビルから、ウミヘビ達が窓を突き破って奇襲を仕掛けてきた。

 

「沢田が第一、第二陣に気を取られている隙に、残りのウミヘビを仕込んでいたのか!」

『くっ!』

 

 奇襲に驚かされたツナは、何とかウミヘビの直撃を回避したものの、割れたガラスの破片に頬を掠らせる。

 そんな彼に息を継がせぬように、檻と化していたウミヘビ達が奇襲組と合流し、ツナへと迫る。

 その攻撃を回避しようとツナが周囲を見渡すが、ウミヘビ達は彼の周囲を全方向から取り囲んでおり、隙間はどこにもなかった。

 

【よけきるのは無理か…なら─】

『やるぞ、ナッツ』

『ガオッ』

 

 避けられないと理解したツナは、肩にいたナッツを左手の甲に移動させ、この圧倒的不利を打開する準備を始める。

 

『ナッツ─形態変化(カンビオ・フォルマ) 防御モード(モード・ディフェーザ)

「この詠唱…!」

「ってことは!」

 

 ツナが呟くと、ナッツの頭に埋め込まれていたクリスタルが、ボンゴレの紋章を浮かび上がらせながら輝きを放ち、ナッツが咆哮を上げながら徐々に形を変化させていく。

 そして、ボンゴレの紋章と"Ⅰ"が刻まれた盾のような形に変化すると、大空の炎を放出してマントを形取りツナを覆い隠す。

 そこへ、ウミヘビ達が全方位から攻撃を仕掛けてきた。

 それにより、マントに覆われたツナは針の筵状態となってしまう。

 しかしその直後、翻されたマントによってウミヘビ達は意図も容易く吹き飛ばされ、マントに覆われていたツナが無傷の状態で現れたのだ。

 

「やはり無事だったか!」

「マントから漏れでてる『大空の炎』が一瞬でウミヘビを調和して、ビルと同じコンクリートに変えたんだよ♪」

「そうだ。そしてあれこそ、全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空─」

 

 

 

Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)!!!

 

 

 

『サンキュー、ナッツ─次はオレの番だ』

 

 ライオンの姿に戻ったナッツに礼を伝えたツナは、両手から炎を吹かせ、トリカブトへと迫る。

 

『哀しき者よ─』

『お前がな』

 

 トリカブトは、迫るツナに噛みつこうとして来たが、ツナは空中で回転しながらそれを回避。そして、背後に回ってビルの柱に勢いよく着地すると、直ぐ様体制を切り替え、トリカブトの頸部に右腕をぶつけそのまま真っ直ぐ飛行する。

 

『怪物ならば─加減はなしだ』

 

 そして、炎を込めた右ストレートをトリカブトの後頭部に容赦なく叩き込んだ。

 その一撃で、首だけのトリカブトはビルを一つ突き破り、轟音をたてながら道路に着弾する。

 ちなみに、ツナがトリカブトを殴る際に込めた炎圧は─

 

「30万F(フィアンマ)V(ボルテージ)、か…瞬間的な火力とはいえ、通常時のX(イクス)-BURNER(バーナー)の炎圧を上回るとは…」

〔ボンゴレと交戦中の敵の炎反応、消滅〕

「よし!(やっこ)さんの戦力が一つ減ったな!」

〔よくやった、綱吉君!〕

『だが、標的(ターゲット)を倒さなければ─勝利とはならないんだな』

〔うん〕

『その通りです』

 

 トリカブトの確認に来ていたツナが入江に問いかけると、いつの間にか背後に来ていたチェルベッロの一人が答える。

 

『標的ルールでは、先に敵の標的の胸に灯る"標的の炎(ターゲットマーカー)"を消した方が勝ちとなります。入江正一氏も、デイジー氏も健在なので、バトル続行です』

「そ、そうだよね…まだ油断はしちゃ駄目なんだよね!」

 

 チェルベッロからの説明が終わり、彼女がその場から立ち去った後、ツナは入江に考えている今後の方針を伝える。

 

『このまま空中から、敵の標的に向かう』

〔それはダメだ!!〕

「え!?な、何で駄目なの!?」

〔敵が二人以上残っている限り、はさみうちにされる危険性がある…炎を消して、バイクで向かうんだ!〕

「そうか…いくら沢田とはいえ、未だ実力の図り知れぬ敵を二人も相手取るなど、荷の重い話だ…最悪の事態を考えた上での指揮…入江正一、なかなかにやるな」

『…わかった』

 

 翼が入江の指揮に感心するなか、ツナは彼に言われた通りバイクで移動するため、置いてきた場所に急いで戻り始める。

 だが、その道中で事件は起こった。

 メンバー回線で、ある男の名前が聞こえてきたのだ。その男の名は─

 

 

 

幻騎士!!

 

 

 

 ヘッドフォンから聞こえた名前にツナと響達が驚きを露にする。するとその直後、繋がっていた回線が切られ、ノイズ音に変わってしまった。

 

「今の声って、山本さんの…!」

「それよりもあいつ─幻騎士って、確かにそう言ったよな」

「ああ…だが何故、奴がこの戦いに…!?」

「ど、どうしよう!早く山本さんの援護に行かないと…!」

「その必要はねーぞ」

 

 慌てる響達に、リボーンが冷静に告げる。

 

「山本もスクアーロの修行でパワーアップしてんだ。前みたいに無様をさらすわけがねぇ」

「でも!」

「そんなに気になるなら、今度にでも見せてやるぞ」

 

 心配する響にリボーンが返した内容を聞き、クリスが首をかしげる。

 

「見せてやるったって、どうやってだ?今のツナの動きを見るに、山本(あいつ)の援護には向かってねーようだから、またこの空間に来て見るってのも無理なんだろ?」

「確かに、ツナは山本のもとには行ってねぇから、ツナの記憶から見ることはできねー。だが二人の戦いは、控え部屋にいた俺やビアンキ達が見ている。そこで、レオンの出番って訳だ」

 

 リボーンがそう答えると、いつもの定位置であるボルサリーノの上にいたレオンが彼の右手に移動し、一瞬の内に片手持ち型の映写機に姿を変えた。

 

「…そういや、誰もなにも言わねーから黙ってたが─銃やら鉄球やらに変化するカメレオン(こいつ)は、一体なんなんだ?」

「そーいや、レオンについて話してなかったな─レオンは『記憶形状カメレオン』って言う、目にしたことがあるものなら好きなのに変化できる特殊なカメレオンだ。他にも、体内で特殊な加工や製造ができて、ボンゴレ伝統の素弾を体内に埋め込んで3日寝かせれば、死ぬ気弾が作れる。ツナの使ってるグローブや小言弾なんかも、レオンが生み出したんだぞ」

「Xグローブもか!?」

「スゴーい!」

「ちなみに、好きな形状はダウジング棒とスリッパらしいぞ」

「最後の情報はいらねーだろ!?」

 

 そんなこんなで、山本と幻騎士の戦いを誤魔化され、ツナの後を追うことになった響達。

 そして、ツナがバイクを見つけてから数分後─

 

 

 

〔ヒュ~!おつかれ、小次郎〕

 

 

 

─ツナのヘッドフォンから、いつもの山本らしい、のんびりした声が聞こえてきた。

 

『山本…勝ったんだね!』

「まさか、あの幻騎士を倒してしまうとは…」

 

 ハイパー化を解き、バイクに乗って移動していたツナが安堵の表情を浮かべ、ツナですら苦戦した相手を倒した山本に驚く翼達。

 すると、通信越しに幻騎士の声がうっすらと聞こえてくる。

 

〔なぜだ…ボンゴレといい貴様といい…なぜトドメをささない…〕

 

 疲労しきった声で問いかける幻騎士に、山本はただ一言で答えた─

 

 

 

 

 

 

オレ達は人殺しじゃねーからな

 

 

 

 

 

 

「山本さん…」

〔─後悔するな…オレは白蘭様のため、いずれ必ず目的は遂行する…〕

〔ああ、望むところだ!〕

 

 幻騎士からの宣戦布告を真っ正面から受けとめた山本に、呆れたように笑うクリス達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、すぐに彼女達の顔から笑顔が消えることになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メキャメキャメキャ

〔がっ─ぐああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として、ナニカが生えるような音と、幻騎士の悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

 

 

「何、この音…!?」

〔おい幻騎士!!何だ!?どうしたんだ!?〕

 

 聞き慣れない音に困惑する響達と、何やら幻騎士に必死で呼び掛ける山本。そんな山本に、入江が問いかけた。

 

〔山本君!幻騎士に一体何が起こってるんだい!?〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔身体中に草が生えてる…殺気がねーし─幻騎士の幻覚じゃねぇ!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと!?」

 

 山本からの状況報告に、戸惑いを隠せない響達。

 

「いきなりどうして…!?」

「─僕が桔梗チャンに頼んどいたんだよ。もし幻チャンが使えなくなったら─いつでも消せるよう彼の鎧に、雲の増殖が備わった種─雲桔梗(カンパヌラ・ディ・ヌーヴォラ)を仕込んどくようにって」

『っ!?』

〔白蘭様がオレを殺すはずはない!!─桔梗!!図ったな!!〕

 

 白蘭本人の口から放たれた事実に響達が凍りつくなか、丁度幻騎士にも桔梗からその事を伝えられたようだが─白蘭を異常なまでに崇拝する彼は、桔梗の言葉を信じようとしない。

 

〔残念だな桔梗!!白蘭様は必ず、またオレを救ってくださる!!この幻騎士こそが白蘭様の最も忠実なる僕!!〕

 

 身体中を植物に侵食され続けながらも、自らの主への忠誠を叫び続ける幻騎士。

 その主である白蘭よって死に瀕しているにも関わらず、忠誠を誓い続ける幻騎士の声に、なんとも救われない気持ちになるシンフォギア組。

 

〔我は白蘭様と共にあり!!〕

 

 

 

そんな彼の叫びは、それが最後となった。

 

 

 

バキャッ

〔がっ!〕

 

 幻騎士の声が消え、変わりに植物の音が大きくなっていく。そして─

 

〔幻─〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾け飛ぶような音が響きわたり、それと同時に植物の音も消滅した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔幻騎士ぃぃぃ!!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔─幻騎士の炎の反応が…消えた…〕

 

 通信越しに、山本の叫びとスパナの報告が聞こえてくる。

 

『そん…な…』

〔…これが─僕達が戦っているミルフィオーレの─白蘭サンの正体だ…〕

「っ!!」

 

 呆然とするツナに、全て白蘭の仕込んだことであると入江が伝えた直後、クリスが白蘭の胸ぐらを勢いよくつかんだ。

 

「なんでだ…何で幻騎士(あいつ)を殺した!あいつは、死が迫っててもなお、お前を慕ってたんだぞ!なのにお前は…!」

 

 シンフォギア組の想いを代弁するかのように、怒りを露にするクリス。

 そんな彼女を前にしても、怯む気配のない白蘭は飄々とした様子で答える。

 

「そりゃあ、ほら─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…飽きたから、だと…?」

 

 白蘭の答えた理由に、怒りを通り越して困惑する翼達。

 

「そっ!…確かに幻ちゃんはよくやってくれてたよ?小さい器なりにはね─でも彼、見て分かるように思い込みが激しい上に、山本くんにあっさり負けちゃうしさ─興味なくなっちゃって、()()()んだ」

 

 そんな彼女達に、いつものような捉え所のない態度で話す白蘭。

 しかし、()()()()をよく知るユニの目には、そんな彼の背中から後悔の念が滲み出ているように見えた…

 

「ふざけんなよ…救うだけ救っといて、いらなくなったら処分なんざ…人ってのは道具やオモチャなんかじゃねぇんだぞ!」

 

 そんな白蘭に、我慢の限界を迎えたクリスが拳を振り上げる─その時、

 

 

 

『─勝とう』

 

 

 

 今まで黙っていたツナが、決心したかのように口を開いた。

 響達や、今にも白蘭を殴ろうとしていたクリスも、彼から手を離しツナに意識を向ける。

 

『世界のためとか…7^3(トゥリニセッテ)とかいわれてもピンとこなかったけど…白蘭がみんなをひどい目に遭わせてるのはまちがいないんだ!!』

〔…綱吉君〕

「ツナ…」

〔─よし!!一気にたたみかけよう!!〕

 

 ツナの言葉を聞き、気を引き締めた入江は新たな指示を出してくる。

 

〔標的を先に倒しさえすれば勝ちなんだ!!─現在、僕らと奴らは5対2!!数的に、2対1で標的と戦える僕らの方が、1対3で戦わなければならない敵よりずっと早く倒せる!!〕

「更に、ボンゴレ(こちら)側の消耗は極めて少ない…」

〔しかも敵の攻撃者(アタッカー)である桔梗は、まだ囮に翻弄されて僕の位置を把握できていない〕

「これなら!」

「大将を叩く絶好のチャンスじゃねーか!」

〔獄寺君は守備を続行してくれ!!綱吉君と山本君で、一気に空中から敵標的を撃破する!!〕

〔〔『おお!!』〕〕

 

 入江の指示を聞いた三人が、自らを鼓舞するようにして答える。

 その後ツナは、すぐさま死ぬ気丸を飲んでハイパー化すると、バイクから降りて空中に浮かぶ。

 

〔ここまでくれば、ステルスバイクに乗ってレーダーから隠れる必要はない!!綱吉君と山本君は、空からコンタクトに映るナビに従って、標的に向かうんだ!!〕

〔『了解!!』〕

 

 そしてコンタクトレンズに映された地図をみながら、ツナは敵の標的に向けて飛んでいく。

 そんな彼を見たシンフォギア組の殆どが、ツナ達の勝利を疑わない中、一人考え込んでいる人物がいた。

 

「どうしたんですか、翼さん?」

「いや…何やら、上手く事が運びすぎている気がしてな…」

 

 響に問いかけられた翼が、自分が抱いた疑問を口にする。

 

「敵はイタリア最大のマフィア組織の本部を、壊滅状態にまで追い込んでいるのだぞ?そのような輩が、沢田達にこうも容易く追い詰められるものなのか…?」

 

 

 

 不安を抱く翼だったが─その不安は的中することになる。

 

 

 

 皮切りとなったのは、スパナの一言からだった。

 

〔ボンゴレが標的から遠ざかっている…〕

「えっ?」

 

 ツナの視点しか視ることのできない響達には分からないが、どうやらツナはルートから外れてしまっているようだ。

 

〔本当だ…綱吉君、どーしたの?コースを外れてるよ〕

『そんなはずはない。ナビのルート通りに…』

 

 そこまで答えたところで、ツナが違和感を感じ取った。

 

『さっきから同じ場所を、ぐるぐる回っている気がする…』

〔な!?こ…こんな時に…コンタクトの故障?〕

「あと少しだってタイミングで…!」

 

 ヘッドフォンの奥から、スパナの嘆きが聞こえてくる。

 丁度そのタイミングで、別のルートからミルフィオーレの基地に向かっていた山本からの通信が入ってきた。

 

〔見えたぜ、ミルフィオーレの基地ユニットが。攻撃していいのか?〕

〔ちょっと待ってくれ山本君。綱吉君のコンタクトの調子がおかしいんだ。今、新しいデータを送って修復するから、それまで待機だ〕

〔オッケ!〕

 

 入江の指示を受け入れた山本。しかしその直後、不穏な報告が入ってきた。

 

〔すごい勢いでこちらの囮が破壊されている!もうあと5個しか残ってない!〕

〔なんだって!?〕

「いきなり!?」

〔桔梗って男の仕業か!!〕

 

 入江の叫びに重なるようにして、機械的な警告音が複数聞こえてくる。

 

〔山本君!やはり標的への攻撃を開始してくれ!!すぐに綱吉君も向かわせる!!〕

〔オッケー!!〕

〔…またやられた。残る囮は3つ!〕

「速い…!」

「くっ!やはり奴らは手を抜いていたのか!」

〔桔梗と基地(ここ)との距離が2km(キロ)を切った…!!〕

「近い!」

 

 状況が息つく間もなく変わる中、守備を担当している獄寺に入江が連絡をいれる。

 

〔獄寺君!!桔梗が防衛ラインを越え、攻めてくるぞ!!〕

〔ああ…かすかに爆発が見えてる〕

〔相手より先に標的を倒しさえすればいいんだ!山本君達が標的を仕留めるまで、奴を足止めしてくれ!!〕

〔んなこと、てめーにとやかく言われなくてもわかってる。奴はここから一歩も通さずに倒す〕

 

 入江に答えながらも、覚悟のこもった声で返し、通信を切った獄寺。

 

「獄寺さん…!」

「頼むぞ…!」

 

 そんな彼に、ツナのもとから離れられない響達は祈るしかなかった。

 しかし─それから1分経ったかという所で、再び獄寺との通信が繋がり─

 

〔くそうっ!!ぬかれた!!─すまねぇ入江…くそっ!!〕

「そんな!?」

「あんだけカッコつけといて何やってんだ!」

 

 獄寺の報告に響達が頭を抱えるなか、入江はどこか落ち着いた声で応える。

 

〔了解だ…でも、きっと大丈夫だ。ちょうど今、綱吉君のナビが直ったところだ〕

「やっとか!」

〔これでボンゴレと山本─2人で標的を攻められる〕

〔桔梗がここへ来るよりも先に、標的を倒せるさ!!〕

 

 入江達からの報告に、今度こそ勝利を確信する響達だったが、彼女達の確信はツナの一言によって打ち砕かれることとなる。

 

『…ちがう!ナビが壊れてるんじゃない!!』

「何っ!?」

【何かがおかしい…何だ…この異様な感じ…】

 

 響達が困惑するなか、ツナが周囲の異様さに気づき始めた直後。周囲のビル─否、空間そのものが歪み始めた。そして─

 

 

 

 

 

 

『哀しき者よ』

 

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある声が、ツナ達の耳に入ってきた。

 声の主に驚きを隠せないツナに、入江からの通信が入る。

 

〔綱吉君、一体何が起こってるんだ!?そっちの状況を伝えてくれ!!〕

『─トリカブトだ!!』

〔えっ!?〕

『まだ奴を倒せてなかったんだ…恐らく、オレは今─』

 

 

 

トリカブトの─幻覚空間の中にいる!!

 

 

 

 現状を入江に報告したツナはすぐに通信を切ると、グローブの炎をふかせ、高速飛行による幻覚空間からの脱出を狙うが、いくら飛んでも空間から抜け出せる気配がない。

 

「くそっ!まんまと仮面男の罠にはまっちまった!」

『ボンゴレ基地は!?そっちはどうなってる!?』

 

 脱出方法を探しながら、入江達のことを気にするツナ。

 

〔…桔梗は目前に迫っている…最終トラップを破られ、もう逃げるしか打つ手はない…〕

『何だって!?』

「いよいよ不味くなってきやがったぞ…!」

〔君の方はどうなんだい?〕

『─ダメだ…超高速で異空間を突っ切ろうとしてみたが、脱出もできずトリカブトも現れない…恐らくヤツの狙いはオレの足止めだ…これじゃ敵の標的に向かえない!!』

〔くそう!!ミルフィオーレの戦法の方が上手だったっていうのか!!〕

〔距離300!!〕

 

 ツナが幻覚空間からの脱出に手間取っている間にも、敵は入江達のいる基地に迫ってくる。そして─

 

〔獄寺君!!〕

 

 入江の叫び声が聞こえた直後─爆発音が聞こえ、通信にノイズがかかってしまった。

 

「今の音…まさか、基地が襲われたのか!」

「それに、さっきの入江さんの言葉…もしかして、獄寺さんに何かあったのかも…!」

 

 響達が入江達を心配するなか、ツナは一刻の猶予もないことを悟り、奥の手による脱出を図る。

 

『オペレーションX─』

 

 空中で体勢を整え、柔の炎の放出と剛の炎の蓄積を開始するツナ。その途中、通信のノイズ音が薄れ始める。

 

〔─君の…─か?…〕

「この声…もしかして、入江さん!?」

「よかった、無事だったんだ!」

 

 声が聞こえ安心しかけた響達だったが、彼が無事ではないことはすぐに理解した。

 回復した通信からは、マイク越しでもわかるほど荒れた息が聞こえてきたのだ。

 

〔逃げきって…みせる…!〕

「入江さん…!」

〔…勝つぞ…絶対に勝つんだ!!〕

「チャージはまだ終わんねーのかよ!?」

「頼む!早く…!」

 

 聞こえてくる入江の必死な声に、逸る気持ちを隠せない響達。すると、ツナのヘッドフォンから準備完了のアナウンスが聞こえた。

 それを聞いたツナは、直ぐ様X-BURNERを前方へ放つ。

 ツナの放った剛の炎は、轟音をたてながら幻覚空間を意図も容易く貫き、ビルも数棟穿いた。

 

『異空間を脱出した』

〔ハァ…ハァ…よくやった、綱吉君…山本君と、標的を倒すんだ…〕

『─ダメだ!!』

 

 入江からの指示に異を唱えたツナは、彼に代わって山本に指示を送る。

 

『山本!!敵の標的を頼めるか!!─オレは正一のいる基地に戻る!!』

〔何を言ってるんだ、綱吉君…僕のことより、先に敵の標的を倒すんだ!!〕

 

 敵を倒すことを必死に訴える入江。そんな彼にツナは─

 

 

 

仲間を見捨てるわけにはいかない!

 

 

 

「そうだよ!大切な仲間が危険な状況なのに、放っておける訳ない!」

〔ああ、行ってくれツナ!標的はオレ一人で充分だ!!〕

〔……君達…〕

『頼む!!』

【間に合ってくれ!!】

 

 通信を終わらせたツナは、仲間達の無事を祈りながら入江の元へ向け飛行する。

 

 

 

 

 

 

 飛行すること数秒、中破した基地ユニットを横目に見ながら通り越し、十字路を右折した先で目にしたのは─

 

 

 

腹部から大量の血を流し、道路上でうつ伏せに倒れている入江の姿だった

 

 

 

「そんな…」

「一足遅かったか…!」

『正一!!』

 

 

 

『ハハン!もう終わりましたよ』

 

 

 

 ツナと響達が目の前の光景に唖然としていると、背後から声が聞こえた。

 

『おまえ!!』

 

 その声の主が、入江を手にかけた張本人であることを理解したツナが攻撃を仕掛ける。しかし…

 

『もう終わりといったでしょう…あなたと闘う理由はありません』

『くっ…』

 

 桔梗はツナの攻撃を容易く腕で防ぐと、そう答えた。

 そんな桔梗に憎ましそうな視線をぶつけながらも、闘う意思がないことを悟ったツナは入江の元へと向かう。

 

『正一!!』

『お待ちください』

 

 そんな彼の前に立ちふさがるように、チェルベッロの一人が現れる。

 

『入江氏の標的の炎を厳密にチェック致しますので、おさがりください』

『くっ…こんな時に…!!』

「だったらとっとと終わらせやがれ!」

「このままじゃ、入江さんが…!」

〔ツナ!!〕

 

 チェルベッロから告げられた内容にツナが歯噛みしていると、山本からの通信が入ってくる。

 その内容は─ミルフィオーレの標的を倒したという報告だった。

 

「敵の標的が倒されたのも同時だと…!?」

「それじゃあ…」

「この闘いは─引き分け、ということか…?」

『野球バカにしては…よくやったじゃねーか』

 

 山本からの報告に響達が戸惑っていると、傷だらけの獄寺が歩いてきた。

 彼を見つけたツナは、道路に着地すると、すぐに死ぬ気を解いて獄寺に駆け寄る。

 

『獄寺君、無事だったんだね!!』

『申しわけありません、10代目!!』

『よかった!!本当によかった!!』

 

 暗い表情で謝る獄寺だったが、ツナは彼が深い傷を負ってないことを知ると心の底から安心した表情を浮かべる。

 

『オレなんかより…入江の野郎が…』

「そ、そうだよ!早く治療しないと!」

 

 獄寺が無事だったことに安堵していた響達だったが、彼の言葉を聞いて直ぐ様倒れている入江を見る。

 仰向けにされ、未だ血を流し続けている入江の横では、チェルベッロが彼の容態を注意深く確認していた。

 

『標的の炎は体内の全生命エネルギーが2%以下になると消滅します』

「2%って…」

『入江氏の標的の炎は2%を大きく下回り、下降し続けているため、消滅と認めます』

『そんな…』

「もういいだろ!?早くしねーとホントに死んじまうぞ!?」

『正一君!!しっかりして!!死んじゃだめだ!!』

〔こちらもです〕

 

 離れたチェルベッロに変わるようにしてツナが入江に駆け寄り呼び掛けていると、ミルフィオーレ側の確認をしていたチェルベッロから報告が入る。

 

〔デイジー氏の標的の炎も─消滅と認めます〕

「そ、それじゃあやっぱり…」

「この試合─引き分け(ドロー)となったか…」

 

 

 

『ハハン!早とちりですよ、審判』

 

 

 

 勝つことはできなかったが、ミルフィオーレに勝利を譲ることもなかった結果に少し安心していた響達。しかし、ツナ達の側に降りてきた桔梗が告げた事実に、言葉をなくしてしまう。

 

 

 

 

 

 

『デイジーは"不死身の肉体(アンデッドボディ)"を有していましてね─死ねないのが悩みだという変わった男なのです』

 

 

 

 

 

 

「不死身…だと!?」

 

 信じがたい事実に混乱する響達。そんな彼女達に、デイジーの"不死身の肉体"のネタを白蘭が暴露する。

 

「原理は簡単なことさ─デイジー自身の『晴の活性』の力を、晴のマーレリングが増強させて、瞬時に傷を癒してるんだよ」

「─そうか!チョイスが始まる前にリボーンが言っていたのは、こういうことだったのか!」

「そんなの、前情報がなけりゃ勝つことなんてできっこねぇじゃねーか…!」

『おわかりいただけましたか?これが(リアル)6弔花の─真の力(リアルパワー)なのです』

 

 絶望する響達にそう告げる桔梗の背後にはトリカブトの姿が。

 

『これにより、チョイスバトルの勝者が決まりました』

 

 そんな彼らを置き去りに、チェルベッロが結果を伝える。

 

『勝者は─』

 

 

 

 

 

 

ミルフィオーレファミリーです!!

 

 

 

 

 

 

 チェルベッロから最悪の結果が告げられる。

 その後、ツナは必死に入江に呼び掛け続け、しばらくして入江が目を覚ました。

 

『う…』

『正一君っ!!』

 

 ろくに動けない状態の入江に獄寺が拾ってきた眼鏡をかける。

 

『…チョイスは…どうなった…?』

 

 喋るのも辛い状態で、目を覚ました入江の第一声はチョイスの勝敗だった。

 そんな彼の言葉に一瞬言葉をつまらせたツナ達だったが、意を決して現実を伝える。

 

『…ゴメン、負けたんだ…』

『なんだって!?』

 

 ツナが告げた事実を聞き、入江は痛みを忘れて勢いよく上半身を起こす。

 

『そんなことは許されない!!勝たなきゃ…勝つんだ!!』

「ダメだよ入江さん!そんな身体で動いたら!」

『まだだ!!戦うんだ!!』

『おいお前っ!動くな入江!!』

 

 獄寺が必死に押さえようとするが、その拘束を振りほどかん勢いで荒れ狂う入江。

 その間に、チョイスバトルが終わったことによる全通話回線開放が行われる。

 

『白蘭サン!!僕はまだ戦える!!』

『ダメだ正一君!!動いたらお腹から血が!!』

『てめー、死にてーのか!!』

 

 

 

死んだっていいさ!!白蘭サンに勝てるなら、喜んで死ぬ!!

 

 

 

 獄寺の投げ掛けた問いに、血反吐を吐きながら迷いなく入江は答えた。

 予想だにしない返答に、獄寺だけでなくツナも困惑してしまう。

 

「入江さん、何を言って…」

『喜んで…』

【正一君…何、言ってるんだ…】

『…わからない…わからないよ…』

 

 

 

 

 

 

なぜこんなになってまで、白蘭を倒すことに執念を燃やすのか─わからないよ!!

 

 

 

 

 

 

 血を吐き出しながら、うわ言のように呟き続ける入江を見て、ツナが声を荒らげる。

 

『…え?』

『確かに白蘭は悪い奴だし、7^3(トゥリニセッテ)を奪われたら大変だって、言葉ではわかるけど…()()()()()()()()()…』

「しっくり、こない…」

『人類のためとかいくら理屈を聞いても…自分には遠い話のようで…ついていけなくなる時があるんだ…』

 

 ツナの叫びによって冷静さを取り戻した入江に、ツナがそう伝えると、彼の瞳に動揺が浮かんだ。

 

『10代目のおっしゃる通りだ…過去に戻るためってならいいが、この時代のことを片付けるために、わざわざガキのオレ達が戦うってのはいまいちピンとこねぇぜ…』

『─そうか…そうだったね…』

 

 そして、ツナに続くように呟いた獄寺の疑念を聞き、入江は一度目を閉じ、ゆっくりと開く。

 

『僕はこの10日間、忙しさにかまけて話すことを放棄してた─いや…君達ならわかってくれると勝手に思い込んで、甘えていたのかもしれない…』

 

 入江はそう言って、傷口に手を置いて止血を促しながら息を整え始める。

 

『正一君、教えてよ─どうしてそこまでして白蘭を…?白蘭と一体何があったの?』

 

 そんな入江に、ツナが全員が抱いている疑問をぶつけた。

 

『…すべて話すよ…いやむしろ、聞いてもらいたい…』

 

 そして、入江は話しはじめる。彼が白蘭を倒すことに命を賭けている理由を…

 

 

 

 

 

 

『話は─11年前にさかのぼるんだ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




山本と幻騎士の戦いは入れるかどうかかなり悩みましたが、入れたら入れたでかなり文字数が増えて過去編の話数が増える恐れがあったのでやめました。でも何処かのタイミングで書く予定です。
次の投稿は前回伝えた通り、本編の続きを明日投稿します。


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戦姫絶唱しないSYMPHOGEAR!        (月の欠片処理から約2週間…)

どうも、生粋の名無しです。

本来であれば10年後編が終わった後にあげる予定でしたが、アンケートの結果が同時投稿よりになっていたので慌ててあげました。
本来の『絶唱しない』の話を少し弄ったものと完全オリジナルがあるのですが、最後のオリジナル『絶唱しない』は二期本編をあげる前には絶対にあげとかないといけないものなので…

それではどうぞ!


追記
すみません…一度間違えて投稿してしまい、削除してから書き直したので、最初とは少し会話が変わってるところがあります。上がってすぐに読んだ方には申し訳なく思っています…


『月の欠片処理から約2週間…』

 

 ルナアタック事件からおよそ2週間…ツナ達が未来の前に姿を現すまでの間、彼らがどうしていたのかと言うと─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「今日も今日とて、立花の様子がおかしいのは相変わらずだな」

『響…そんなに騒いだって、外に出られる訳じゃないんだから落ち着けよ…』

 

 扉の前で両手両足をバタバタさせる響に、呆れた声を漏らす翼とツナ。

 

 

 

 

 

 

 彼女達は2週間もの間、特機部二の隔離部屋にて、ちょっとした監禁状態にいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 なお、この中で唯一の男であるツナは、流石に男女が同じ部屋で過ごすのは不味いとのことで、弦十郎の配慮で別の部屋で過ごしており、響達とは映像越しで会話出来るようにしてある。

 

 

 

 

 

 

「だって!だって!だってぇ!─ツナと翼さんは何ともないんですか!?こんなところに閉じ込められてもうずっとお日様を拝んでいないんですよ!」

 

 しびれを切らした響が、呆れる二人に問いかける。

 

「そうは言ってもだな…」

『いやそりゃあ…ここじゃ飯食って寝ること以外は─本読むか、音楽でも聞くか、運動するか…あとはこうして皆でダベりあうぐらいしか出来ないから、暇ではあるけど…』

 

 娯楽環境の不満を述べるツナだが、監禁状態については不満を述べない。

 彼女達がここに閉じ込められていることにも意味があるのだ。

 

「月の損壊、及びそれらにまつわる一連の処理や調整が済むまでは行方不明としていた方が何かと都合がいい─というのが指令たちの判断だ。それに…」

『─未来を危険に巻き込まないため─でもありますからね…』

「そうだ」

 

 自分達がこの状態を受け入れている主な理由を答えたツナに、翼がうなずく。

 そのことは響も理解しているのだが…それでも不満が振り払えないのか、再び叫び始めた。

 

「うわぁぁぁ!未来に会いたいよぉぉぉ!きっと未来も寂しがってるよぉ!うわぁぁぁ!」

「小日向が絡むところに自己評価は、意外に高いんだな…立花は」

「冷たい布団を温めるくらいしか役に立たない私だけど、いなくなったらいなくなったできっと悲しむと思うし─借りっぱなしのお金も返せてないし…」

「おいおい…」

『お前まだ返してなかったのかよ…もう軽く1年経つんじゃないか?』

 

 響が呟いた最後の言葉に、呆れ果てるツナ。

 

「てゆーか、ここまで引っ張っていざ『無事でしたー!』ってなったらそれはそれできっと怒りますよね?『連絡もしないでなにしてるの!?』って…ああ見えて怒った未来は怖いんですよ!一緒にご飯食べてても口聞いてくれないというか、だからといってずっとここにいても退屈だし、退屈しのぎに未来に怒られるなんてそこまで上級者ではないし、寝そびれれば寝そびれただけ言い訳みたいな笑顔になるしで止めどなく溢れてくるし!でもオンオフは─くぁwせdrftgyふじこlp」

『ちょっ、落ち着け響!』

 

 最後辺りから何を言っているのか分からなくなってきた響を宥めようとするツナ。

 その時ふと、彼の頭にある疑問が浮かんだ。

 

『てかさ、響…心配してるのは未来なのか?それとも自分?』

「それはもちろん!!─あれ?」

 

 ツナの問いかけに勢いよく振り向いた響だったが、やはり混乱していたようで、自分でもどっちなのか分からず首をかしげてしまう。

 そんな彼女を見たツナはただ一言─

 

『ダメだこりゃ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これが特機部二?』

 

(成り行き任せで一緒に手を繋いでしまったが、あたしはこいつらのように笑えない…いや、笑っちゃいけないんだ。あたしがしでかした事からは、一生目を背けちゃいけない…そうしないとあたしは…あたしは─)

 

 響達と同じ部屋の隅で、一人俯くクリス。

 

『どうしたんだ?クリス…ずっと黙ってるけど…』

 

 そんな彼女に気がついたツナが心配そうに話しかけ、響が近づく。

 

「分かった!お腹空いたんだよね!」

『いやいや、響じゃないんだから…』

 

 超直感を使わずとも違うと言いきる自信のあるツナを無視して、響が語り続ける。

 

「分っかるよぉ、分かる!マジでガチでハンパなくお腹空くと、おしゃべりするのも億劫だものねぇ…どうする?あ、ピザでも頼む?さっき新聞の折り込みチラシを見たんだけどね、カロリーに比例して美味さが天上─」

「─ってか、うっとおしいんだよ!!お前本当のバカだろ!?」

 

 喋り続ける響に、ついに堪忍袋の緒がきれたクリスが叫んだ。

 

「お、お腹が空きすぎてクリスちゃんが怒りっぽくなっちゃたぁ!?」

「うっきぃぃぃ!お前は黙れ!あたしは静寂を求めている!だから黙れ!ひと時でいいからあたしに静間を寄こしやがれぇ!!」

 

 やはり的外れな推測をしていた響だったが、クリスに怒鳴られ、しょんぼりしながらやっと口を閉ざした。

 

『ダメだこりゃ…』

 

 そんな彼女達のやり取りを見ていたツナは、響に呆れ果て、また同じ言葉を呟くのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これが特機部二?その2』

 

(…昨日までにやらかした罪は、簡単に償えるもんじゃない…そいつを分かっているからこそ、あたしはもう逃げだしたりしない。そうだ…あたしに、安らぎなんていら─)

 

 響が目の前からいなくなったのを確認し、再び俯くクリスだったが…

 

「(じー…)」

 

 そんな彼女を見つめる人物が─そう、風鳴翼だ。

 

(…この身は常に鉄火場のど真ん中に、あって…こそ─っ)

 

 そんな翼の視線を気にしつつも、一人考え込むクリス。しかし…

 

「(じー…)」

(っ…!なんで今度の奴はずっとだんまり決め込んでるだけなんだ!?)

 

 何も言わず、ずっと見つめてくる翼に違和感と少しの恐怖を抱くクリス。

 

「な、なんだよ!?黙って見てないで何か喋ったらどうだ!?」

 

 ついにしびれを切らし、クリスが翼に問いかけた。

 すると彼女は、少しの間をあけた後…

 

 

 

 

 

 

「─常在戦場」

 

 

 

 

 

 

 真顔で、ただ一言そう呟いた…

 

 

 

 

 

 

「ひぃぃぃぃ!やっぱいい!あんたも喋ってくれるな!頼むから喋らないでくれ!」

「フッ…そういうな、雪音…」

 

 そんな翼を見て、クリスは怯え上がり、彼女から距離をとる。

 すると翼は、薄ら笑いを浮かべながらクリスに話しかける。

 

「特機部二にはツナくらいしかまともな人間はいないのか!?」

『ダメだこりゃ…』

 

 ついに耐えきれなくなり、悲鳴に近い声をあげるクリス。

 そんな彼女達の会話を、終始無言で見ていたツナは頭を抱え、ここ最近口癖になり始めている言葉を漏らすのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツナ達が二課で隔離されていた裏で…』

 

 とある高級ホテルの一室─俗に言うスイートルームに、二人の男女が泊まっていた。

 

「あぁーあ…暇ダナー」

「もう!白蘭ったら…」

 

 青年─白蘭はつまらなさそうにベッドに仰向けの体制で飛び込むと、そんな彼を、椅子に座っていた女の子─ユニが軽く叱りつける。

 

 

「ユニチャンはいいよね~。僕以外の話し相手がいるんだから」

「なら、白蘭も一緒に来ればいいじゃないですか。その手の能力も手に入れている筈ですよね?」

 

 ユニが首をかしげながら問いかけると、白蘭は少しの間考えた後…

 

「んー、やっぱやめとくよ。あの娘に会うのは、後にしといた方が面白そうだから♪」

「そうですか─あ、もうこんな時間!」

 

 ユニが部屋に取り付けられていた時計を見て声をあげる。

 

「そろそろあの娘の話し相手の時間なんだよね?行ってらっしゃい♪」

 

 そんな彼女に、白蘭がベッドの上で軽く手を振ると、ユニは静かに目を閉じ─未だ目を覚まさない天羽奏の精神世界へと意識を飛ばした…

 それから数秒経ち、白蘭がベッドから起き上がると、椅子に座っていたユニの体を優しく抱き抱える。

 

「さーて!ユニチャンが奏チャンとの話し合いを終わらせるまで、僕はマシマロでも食べて時間潰そーっと!─あれ?」

 

 ユニの体をベッドに横たわらせた白蘭は、そう言ってベッドの側においてあった買い物袋に手を入れるが…中から取り出されたのは、空になったマシュマロの袋。

 それならばと、白蘭は他のお菓子を探すが…買い物袋の中には、既にゴミとかした空き袋しか残っていなかった。

 

「ありゃりゃ…もう尽きちゃったか~。それじゃ、新しいのを買いに外にでも─」

 

 新たなお菓子を買い足しに行こうとドアに向かった白蘭だったが…あることを思い出し、ユニの旅行バッグに手をつける。

 

「そういえば、ユニチャンに『白蘭は目を離すとすぐにお菓子を買ってくるので、財布は預からせてもらいます!』ってことでこの中だったんだ!うっかり♪それで─この鍵の解除番号って、なんだっけ?」

 

 いつもと変わらぬ笑みを浮かべていた白蘭だったが、重要なことを思い出し、顔を真っ青にしてベッドに横たわるユニの肩に掴みかかる。

 

「ユニチャン起きて!お願いだから!これじゃマシマロどころかお菓子も買いに行けないよ!?」

 

 必死に起こそうとする白蘭だったが、ユニの意識は現在、奏の元へ行っているため一向に起きる気配はない。

 

 

 

 

 

 

─それから約1時間後…奏との話を終わらせたユニが戻ってくると、ベッドの横で某『希望の花~♪』で有名なポーズをとり、意識を失っていた白蘭の姿があったとかなかったとか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツナ達が隔離されていた頃、リボーン世界では…』

 

「それじゃ、行ってくるぞ」

 

 沢田宅のツナの部屋で、黒服の子供─リボーンがそう言って、後ろにいた二人の男に視線を送る。

 彼は、今からツナの飛ばされた世界に向かおうとしていたのだ。

 

「ツナによろしくな!」

「─待ってください、リボーンさん!」

 

 そんな彼を、山本が笑顔で送る─しかし、ここ3ヶ月近くずっと疑問を抱いていた獄寺が呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

 なお、他の守護者達については─了平はボクシングの大会で並盛を離れており、ランボは他の子供メンバーとらうじと共に公園に遊びに行っている。

 クロームは京子達とショッピングを楽しんでおり、雲雀は「僕が行く訳じゃないなら興味ない」とのこと。そして骸だが─恐らく近くにいはする筈なのだが、誰も今の彼の行方を知らない。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 呼び止められたリボーンが振り向くと、獄寺はずっと抱いていた疑問をぶつけた。

 

「リボーンさんが行くのは分かります…ですが何故、俺達守護者を差し置いてあの二人を10代目の元に送ったんですか!?」

 

─未来視が出来るユニと並行世界の知識を共有できる白蘭を送ったのは、ツナのアシストのためなのだが…彼の疑問も分からなくはない。

 守護者達は、ファミリーに危機が訪れた時には必ず集められ、どんな困難でも乗り越えると言われている。

 ボスであるツナが別の世界に飛ばされる─まさにボンゴレファミリーの危機だというのに何故…それが獄寺の抱いた疑問。

 しかしそのことはリボーン自身よく理解している。

 彼らを送らないのは、ちゃんとした理由があるのだ。

 

「お前の疑念も分かるが…だがもし今の状態で、この並盛町からツナだけじゃなく守護者達もいなくなって、その間にボンゴレに敵対するファミリーが攻めて来たら、京子達やこの町は誰が守るってんだ?」

「そ、それは…」

 

 ツナが一番大事にしているもの、それは─仲間である獄寺達と、今の平和でハチャメチャな並盛の日常だ。

 もしそのどれか一つでも欠けてしまえば、ツナは確実に悲しむことだろう。

 そのことを理解している獄寺は言葉を濁してしまう。

 そんな彼に、リボーンはあることを告げた。

 

「今9代目の頼んで、ツナとお前ら守護者が留守にする間、代わりにこの並盛町を守る奴らを選出させてるところだ。それが決まるまでの間─ツナの右腕であるお前が、代わりに守護者をまとめなきゃいけねぇんだぞ」

「俺が、10代目の代理…!」

 

 リボーンの話を聞いた獄寺は、顔色をよくしていく。

 

「分かりました!この獄寺隼人!未熟な身ながらも、精一杯10代目の代理を勤めさせていただきます!」

 

 そして立ち上がると、右の拳で胸を叩いた。

 そんな彼を見て、リボーンは一言─

 

(チョロいな)

 

 心の中でそう呟いた。

 実はリボーンが話した、守護者を送らない理由のほとんどは本当のことなのだが、最後の一言は獄寺を煽てて黙らせるための適当な理由だったのだ。

 

「そっちの方で代わりの奴らが来たら、連絡とかいれずに勝手に来といていいからな」

 

 最後にそう伝えると、リボーンはジャンニーニの放ったマルチバース弾によって、ツナのいるシンフォギア世界に向かうのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『歓迎パーティー』

 

「─というわけで、改めての紹介だ。雪音クリスくん─第二号聖遺物『イチイバル』の装者にして、心強い仲間だ!」

「ど、どうも…よろしく─」

 

 とある二課の一室にて、クリスの紹介が行われ、響達装者二人とツナ、二課の主要メンバーである緒川達三人が拍手を送る。

 彼らがいる部屋は、この日のために無数の装飾が施されており、クリスと弦十郎の背後の壁には《歓迎!雪音クリスさん》と書かれた垂れ幕が張られ、豪華な食事も用意され、まさにお祝いムード一色となっていた。

 

「更に、本日をもって装者三人と綱吉君の行動制限も解除となる」

「え!?それってつまり…!」

「そうだ!君たちの日常に帰れるのだ!」

「やったー!やっと未来に会えるー!」

 

 続けざまに伝えられた祝報に、響が喜びを爆発させる。

 

「クリス君の住まいも手配済みだぞ。そこで暮らすといい」

「あ、あたしに!?いいのか?」

「もちろんだ。装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは保障する」

「よかったじゃん、クリス!」

 

 弦十郎の話を聞いたツナが喜びを露にする横で、クリスは自分の帰る(場所)を手に入れた喜びと─ツナの家の居候じゃなくなることへのちょっとした寂しさで目元に涙を溜まりだす。

 しかしすぐに気を取り直し、目元の涙を袖で拭った。

 そんな彼女の言動を見て、何かと勘違いした翼は、ツナも知らなかった事実を告げるのだった…

 

「案ずるな雪音─相鍵は持っている。いつだって遊びに行けるぞ!」

「「はぁ!?」」

 

 紐に掛けた鍵を見せる翼に、素っ頓狂な声をあげるツナとクリス。

 

「私も持ってるばかりか、なぁんと未来の分まで!」

 

 更に翼の後ろから、彼女の持つ鍵と同じ型のものを二つ持って響が顔を出した。

 

「自由やプライバシーなんてどっこにもねぇじゃねーかぁぁぁ!」

 

 涙もすっかり引っ込み、怒りで声をあげるクリス。

 

「ドンマイ、クリス…」

 

 そんな彼女を他人事のように見ていたツナだったが…

 

 

 

 

 

 

─そんな賑やかな空気を打ち払うがごとく、部屋に取り付けられていたスピーカーから警報が鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

「こいつは…!」

「まさか、ノイズが現れたのか!?せっかく楽しんでたのに…!」

 

 その警報がノイズ発生を知らせるものだと気づき、顔を歪めるツナ。

 

「行動制限は解除!ならばここからは防人の務めを存分に果たすまで!」

「ん?ん?ん?」

 

 そんな中、翼が気持ちを切り替え、意気込みを話す横で、何が起こったのか分からず困惑するクリス。

 そんな彼女の手を、響がいきなり掴んだ。

 

「今日からは一緒に行こう!」

「はぁ!?」

 

 響の言動に一瞬理解が追い付かなかったクリスだったが、すぐに彼女の手を振り払う。

 

「お手手繋いで同伴出勤とか出来るものかよ!」

「でも任務だよ!」

 

 それでも諦めず、響はまたクリスの手を握った。

 

「だ、だからって!いきなりお友達って訳には…」

「何をやっている二人とも!そういう事は家でやれ!」

 

 そんな彼女の言動に、顔を赤く染めて視線を泳がせていると、翼がそんなことを言ってきた。

 

「家でやれってのか…!?」

「や、やらなくていいんじゃないかな…?」

 

 混乱するクリスに、苦笑いをしながら答えるツナ。

 だがすぐに気を引き締めると─彼女達と共に、現場へと向かうのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最近話題の噂』

 

「なあなあ、ツナ!今、学校で話題の噂、知ってるか?」

「噂?」

 

 行動制限が解除されてから数日後、いつものように学校に登校してきたツナに、クラスメートの男子が話しかけてくる。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、約2週間も姿を見せなかったツナを心配していたクラスメート達には─ニュースでノイズの事件を見ていた遠い親戚が、自分の身を案じて匿ってくれていた─ということで通している。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(まぁそんなことはおいといて)

 

 

 

 

 

 

 

 朝から元気なクラスメートに怯みながらも、ツナが不思議そうに聞き返す。

 

「そうそう!その名も─妖怪"パンツ男"!」

「ブフォ!?」

 

─そして、噂の名前を聞いたツナは、つい吹き出してしまった。

 

「どうしたんだよ?ツナ。いきなり吹き出したりして」

「い、いや…なんでも…」

 

 口許を拭いながら、不思議そうにするクラスメートを誤魔化すツナ。

 そんな彼には、思い当たることがありすぎたのだ…

 

(パンツ男って…まさか、死ぬ気モードの俺のことか?でもなんで…)

「実は隣のクラスの男子が─こないだリディアン跡地近くの山方面に向かって、スゲー速さで走っていくパンツ一丁の男を見たって言っててな?最初はなんかの冗談かと思ってたんだけどよ…そいつ以外にも、何人かの奴らが見たってことで話題になってんだ」

「へ、へぇー…そうなんだー(棒)」

(まさか見ていた人がいたなんて…)

 

 男の話を聞いたツナは、心のなかで膝をついてしまう。

 だが、なんとか動揺を隠し相槌を打つと、男は話を続ける。

 

「しかも見た奴らの話じゃそいつ、おでこに炎灯ってたって言うんだから、そりゃ妖怪扱いも納得ってもんだ。ただ、あまりの速さで顔はよく読み取れなかったみたいなんだけどさ─あとは、そのパンツ男はツンツンした髪型してたらしいんだ。ちょうどツナみたいなよ」

「へぇー、そんな偶然があるもんなんだねー(棒)」

 

 そう話して笑うクラスメートの男子…ツナみたいどころかツナ本人なのだが…

 

(もしそのパンツ男が俺だってバレたら、絶対に変な人って思われるじゃん!今後は気を付けるようリボーンに言っとかないと…!)

 

 どうにかその場を乗り越えたツナは、心の中で強く誓うのだった…




学校から帰り、リボーンに強く言い聞かせたツナだったが、リボーンがそれを容易に受け入れるわけもなく…

次も『絶唱しない』シリーズをあげる予定です


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戦姫絶唱しないSYMPHOGEAR!        (Gが始まる少々前…)

どうも、生粋の名無しです。

今回の投稿は、アンケートの結果が同時投稿になったことの報告と、それに際する注意事項もかねています。

アンケートに参加してくださった方々、ご協力ありがとうございます。結果、同時投稿に決まりました。
それに際して、いくつか説明させてもらいます。

・まず、本編の同時投稿は10年後編を投稿した翌日に─つまり、今回の『絶唱しない』等の作品との同時投稿はしません。
・10年後編の一話分が完成、及び同時投稿する本編の内容の微調整が完了してから同時投稿します。
・今のところの見積もりでは、2期本編と10年後編はほぼ同じタイミングで終わる計算ですが、もしどちらかの話数が会わなかった場合、余った分は単話投稿で上げさせてもらいます。
・10年後編のエピローグと本編の最終回も、別々に上げさせてもらいます。
・そして一番重要なことなのですが─私、まだシンフォギア3期を一切見てません。
なので、10年後編と2期本編が投稿し終えたら、また前みたいに長期間の無投稿期間に入るか、次のツナの過去編が始まると思いますが、どうか皆様の寛大な心で許していただけると幸いです。

それでは、『戦姫絶唱しないSYMPHOGEA!』どうぞ!


『装者達の歌』

 

「そういえば前から聞きたかった事なんだけど─戦いながら歌うってアレはどういう仕組みなの?」

「あ、それは俺も思った!」

 

 響達が行動制御解除されてから数週間たった頃、何気ない話をしていた未来が響に尋ね、ツナも食いついてくる。

 

「う~ん…手っ取り早く言うと、シンフォギアってカラオケ装置なんだよね」

「「カ、カラオケ!?」」

 

 そんな二人は、質問相手から返ってきた答えに驚きを隠せない。

 

「そっ!私もよくわかっていないんだけど、シンフォギアから伴奏が流れると、胸に歌詞が湧きあがって来るんだ」

「胸に、歌詞が…?」

「まぁ、そういうこったな」

 

 響の話に未来が首をかしげていると、いつの間にか合流していたクリスが答える。

 

「歌詞もまた、装者が心象に描く風景に由来とした物だと、かつて櫻井女史は言っていたな─思い返してみろ。『疑問、愚問で衝動インスパイア』なんてところなど、実に雪音らしい」

「はぁ!?」

 

 そんなクリスだったが、同じように合流していた翼の話を聞き、顔を赤くする。

 

「おまけに『羅刹インストール』だもんねぇ~!ふふっ!」

「やめなよ響。そんな『傷ごとエグる』ようなこと」

「ぐはぁ!」

 

 続くようにして響、未来からも歌詞を弄られ、クリスは身悶えた後、恥ずかしさのあまり倒れてしまう。

 

「ちょっと、三人とも…」

「ぅぅ…!お前らぁ~!」

 

 ツナがそんな三人に呆れながらもクリスを起こすと、当のクリスは三人を睨み付ける。

 

「フッ…雪音はどこまでも奔放だな」

「ちょっと待て!あんただけには言われたかないぞ!自覚がサッパリかもしれないが、そっちの歌も大概なんだからな!アレが心象由来というのなら、医者も裸足で逃げ出すレベルだッ!」

(確かに…始まりから「颯を射る如き刃」だからなぁ…)

「そういう話なら、もっとスゲー奴がいるだろ?」

 

 ツナがクリスの訴えに心の中で同意していると、これまたいつの間にか合流していたリボーンが話に混ざってくる。

 

「ここには、ガチの中二で技名つけた男がいるじゃねーか」

「「「「─あ!」」」」

 

 そして、リボーンの話を聞いた装者達と未来は、一斉にツナを指差した。

 

「オ、オレ!?」

X(イクス)-BURNER(バーナー)を文字に起こしたら、"X"で"イクス"って読んでるからな」

「確か"X"は、ローマ数字で"10"の意味がある…」

「なーんだ!ツナってば、あんなに『継がない継がない』って言ってるくせに、意識しまくりじゃーん!」

 

 自分に話題が向くとは思っていなかったツナは、響にそう言われ徐々に今までの言動を思い返していく。

 

(今までハイパーモードで叫んでたからあまり気にしてなかったけど…こうして弄られると─かなり恥ずい!)

「うあぁぁぁぁ!」

 

 そして耐えきれなくなったツナは、死ぬ気モードでもないのに声を上げて彼方へと走っていったのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリスの買い物』

 

「知らなかった…特機部二のシンフォギア装者やってると、小遣い貰えるんだよな…」

 

 通帳をもって、そこに書かれた金額に驚きながらそう呟くクリス。

 そんなクリスは、そのお金の使い道を考えはじめるのだが…

 

「あの(バカ)はきっと…」

『あは、はは─ごはん&ごはん!はは─』

「─とか言って、食費に溶かして損だし…(こっち)はこっちで─」

『常在戦場…常在戦場…』

「─とか言って、乗り捨て用のバイクを何台も買い集めてそうなイメージがあるなぁ…いや、勝手な想像だけど」

 

 そう誤魔化すクリスだが、どうしてもそれ以外で使ってる二人の姿が思い付かない。

 実際の所、響に関してはクリスの想像通り食費に費やそうとしていたのだが…二課に隔離されていた時、響が未来から借りている金を返していないことを聞いていたツナがその事を注意したことで、消費する前に借金返済分に何割か回されていたりする。

 

「そんでツナの奴は─」

 

 そして、最後にツナが金を使う姿を想像するのだが…

 

「…あいつはよくて─貯金か?全く何も想像できねぇ…」

 

 いくら考えても浮かんでこず、首をかしげるクリス。

 なお、当のツナは─響から話を聞くまで給料をもらえたことに気づいておらず、振り込まれた金額をやっと見て、目を見開いたとかなんとか。

 そして悩んだ末に出した答えは─新たに居候になったリボーン達の家庭用品や食費に使うことだったりする。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

(まあいいか。さって…あたしはどうしたものかな…)

 

 これ以上考えても出てこないだろうと見きりをつけ、自分の使い道を考えたクリスは─

 

 

 

 

 

 

「という訳で、あたしの買い物に付き合ってもらう」

「だからって─」

「なんで俺達が!?」

 

 困惑する弦十郎とツナの手を引き、街中を歩くクリス。

 

「あの二人じゃダメなんだよ」

「傑作アクション映画でも探してるのか?だったら─」

(クリスの事だから、それは絶対ないな…)

 

 弦十郎の推察をツナが心の中で否定していると、クリスが歩みを止めた。どうやら目的地に着いたらしい。

 ツナと弦十郎が上を見上げると─

 

 

 

 

 

 

看板には─仏具店と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

「「ぶつぐてん!?」」

「ふっふ…一番カッコいい仏壇を買いに来たぜッ!」

 

 ツナと弦十郎が驚くなか、クリスは男達を置き去りに中へ入る。

 

「意外というかなんと言うか…想像を絶する渋い趣味をお持ちの用で…」

 

 そうこぼし、ツナと共にクリスの後を追う弦十郎。

 それから数十分後、従業員と共に出てきたツナ達の後ろには、一台の仏壇が…

 

「で、これを運ぶために俺達が呼ばれたと…」

「すまねぇな」

「問題は、どうやって運ぶかだが…」

「それなら大丈夫だ」

 

 一番の問題に頭を悩ませていたツナ達のもとに、一人の黒服の子供が上空から降りてきた。

 そう─ツナの家庭教師であるリボーンだ。

 

「リボーン!」

「リボーン君!?いつの間にこちらの世界に!?」

「弦十郎の質問は後で説明するとして─仏壇(そいつ)を運ぶなら、こうすりゃいいんだ」

 

 弦十郎が目の前に現れた本物のリボーンに驚くなか、リボーンはそう言ってレオンを拳銃に変化させると─ツナの額に狙いを定めた。

 

「ちょっ、リボーン!?まさかここで─」

「いっぺん死んでこい」

 

 リボーンが今から何をするのか気づいたツナが慌てはじめるが、それでどうにかなる訳もなく…

 

 

 

 リボーンが放った弾は、ツナの額を穿いた。

 

 

 

 その光景を一度見たことのあるクリスはあまり驚くことはなかったのだが─今の行動が何をするためのものかを知らない弦十郎は、倒れたツナに慌てて駆け寄る。

 

「何をしている!?こんなところで、しかも自分の生徒に─」

「あー…大丈夫だ、おっさん。ツナの(デコ)をよくみてみろ」

 

 ツナの体を抱き起こし、怒りを露にする弦十郎だったが、クリスにそう言われツナの額を見る。

 すると、ゆっくりと溢れ出す炎が…

 

復活(リ・ボーン)!!死ぬ気で仏壇を運ぶ!!

 

 そして、死ぬ気モードになったツナが自分の皮を破いて勢いよく起き上がった。

 

「甦った…!?しかも、額の炎はハイパー時の綱吉君の…しかし、いつものとは何処か…」

「それも後で説明するとして─」

 

 困惑する弦十郎の横でリボーンは、拳銃になっていたレオンを今度は大型のリヤカーに変化させた。

 それを確認した死ぬ気ツナは、大人一人分はある筈の仏壇を軽々と持ち上げると、壊さないよう優しくリヤカーに乗せる。

 

「三人とも乗れ!」

 

 そして前に回りハンドルを握ると、リボーン達に呼び掛けた。

 いつもの彼からは考えられない言動にまたも困惑する弦十郎だったが、死ぬ気ツナに耐性がついてきていたクリスに手を引かれリヤカーに乗り込む。

 するとツナは─

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 自動車を上回る速度で走り出すのだった…

 

 

 

 

 

 

 そして5分後…

 

 

 

 

 

 

「だはぁ…」

 

 クリスの案内のもと、彼女の家まで仏壇と弦十郎達を運んだツナは、死ぬ気が解除されるとすぐにその場に倒れこんでいた。

 

「悪ぃなぁ、デカイ荷物を運ばせちまって。おかげで助かった」

「しかし、仏壇なんて買ってどうするつもりだ?」

 

 倒れたツナの代わりに、室内に仏壇を運んだ弦十郎がクリスに問いかける。ちょうどそこへ、リボーンにたたき起こされたツナも合流する。

 

「ふ…あたしばっかり帰る家が出来ちゃ─パパとママに申し訳ねぇだろ?」

「「!!」」

 

 クリスの話を聞いた弦十郎とツナは一瞬驚いた後、笑顔を浮かべる。

 

「─うん、そうだよね!」

「ああ!!」

 

 

 

 その後、クリス達と現地解散したツナは、給付された金の新たな使い道を考えながら、リボーンと共に自宅に歩を進めていた…

 

 

 

(俺も、今度仏壇買おうかな…この世界の母さん達と─この世界の俺の供養に…)

 

 

 

 

 

 

 その翌日…

 

「聞いたか!?昨日出たんだってよ、例の"パンツ男"!」

「聞いた聞いた!」

「俺、実際に見たぜ!本当にパンツ一丁だった!しかも昨日は、リヤカーに仏壇と人を何人かのせて街中走ってやがったんだ!」

「ちょっと待って!?確か、一般的な仏壇でも50~60kgはあるって、父さんの友達が昔言ってた!」

「マジかよ!?ヤベーじゃん"パンツ男"!」

(やっちゃったーーー!!)

 

 クラスメート達の話を聞いていたツナは、仏壇の事を忘れてしまうほど落ち込むのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お仕事』

 

(いつか…世界を舞台に歌を歌ってみたい…だが、この身は剱…ノイズの災厄を振り払うその日までは…防人として、戦場に立つのが運命…)

「翼さん?」

「!あ、あぁ…すまない、沢田」

 

 考え込んでいた翼は、ツナに話しかけられ思考から戻ってくる。

 彼女達が今いるのは二課の広間。

 二課に訪れていた翼は、偶然訪れていたツナと合流し、何気ない話をしていたのだ。

 するとそこへ、緒川が駆け寄ってくる。

 

「翼さん!大変です、翼さんッ!」

「緒川さん?」

「いったい何が…!?」

 

 何かノイズ絡みの事件でも起こったのかと身構える翼。しかし、緒川から返ってきたのは─

 

「それが…クイズバラエティの出演依頼がなのですが…どうします、翼さん?一応、ニューシングルの告知も出来ると」

 

 芸能人ならよくある、番組出演のオファーだった。

 

「クク、クイズって!?私に何を求めての依頼なの!?」

「それはもちろん、クイズの解答ではないかと」

「む、無理です!」

 

 頑なに断ろうとする翼。しかし─

 

「問題。万葉集にも歌われた九州沿岸の防衛のために設置された─」

「─防人ッ!」

 

 緒川に出されたクイズに、素早く反応し答えた。

 

「凄いじゃないですか!」

「ああ、いえ…これくらい日常の基礎知識なので…」

「イヤ…日常で防人なんて言葉使うの、翼さんだけじゃ…」

「続けてどんどん行っちゃいますよ!」

「望むところです!」

 

 呆れるツナを他所に、緒川の問題は続いていく。

 

「問題。長岡藩の藩是であり、かの連合艦隊司令長官山本五十六の座右の銘でもあった─」

「─常在戦場!」

(緒川さんがさっきから出してる問題、どれも翼さんが言いそうな単語だな…)

 

 横で問題を聞いていたツナが、そんなことを考えていると…

 

「問題。つじつまの合わない事を意味する矛盾とは、何物をも跳ね返す盾─」

(あ、この問題は多分…)

「剱だ!」

(やっぱり!)

 

 今までとは毛色の違う問題が出され、翼はツナが予想した通りの答えを出した。だが、彼女の出した答えはもちろん─

 

「ブー!正解は矛です」

「クッ!そちらであったか!」

「イヤイヤイヤ、そちらであったかって…矛しか答えはないし、問題にも『矛』ってあったじゃないですか…」

 

 悔しがる翼と、彼女の一言を聞き呆れ果てるツナ。

 

「意外に行けるじゃないですか。驚きですよ」

「どうやら開花したようですね。私の隠れた才能が…」

(あ、これは…)

 

 落ち込んでいた翼だったが、緒川の煽てにのり、少しずつ調子にのりはじめてしまう。

 そんな彼女を見たツナは、その後の展開を完全に理解した。

 

「では、出演オファーは受ける方向でスケジュール調整しておきますね」

「─って、あれ?ちょ…緒川さん?」

 

 困惑する翼を無視し、スケジュール確認のためにその場を離れる緒川。

 因みに、翼の後ろでは両手を合わせ合掌するツナの姿が…

 

(翼さんの歌を沢山の人に届けるのが、僕の仕事ですからね…これはいい機会になりそうだ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お見舞い』

 

「もう異常はないのだな、奏」

「おう!この通りさ!」

 

 二課医療施設のとある病室で、何気ない会話をする二人。

 今日は奏が目覚めたお祝いに、翼だけでなく響達装者やツナ、未来、そしてリボーン達別世界組も病室を訪れていた。

 

「お…お久しぶりです!」

 

 翼と奏が仲良く話していると、緊張した面持ちで響が奏に話しかける。

 

「お前─あの時会場にいた!」

「はい!」

 

 響の顔を見て驚いた奏だったが…

 

「そうか…すまねーな。あんなことがあったから、あたしなんかの後釜になっちまって…」

 

─装者になった響と顔を会わせるのは今回が初めてだが、弦十郎や翼から話は既に聞いていた奏は顔に影を落としてしまう。

 そんな彼女を見た響は慌てながら─それでいて笑顔で語りはじめる。

 

「奏さんが謝ることなんて無いですよ!私は、自分から胸のガングニールで戦うことを選んだんです!…そりゃあ最初は、眠ってる奏さんの代わりに頑張るんだー!って必死になってましたけど…今はそんなこと考えず、私個人として戦ってます。それに胸のガングニールがあったから、師匠や翼さんや二課の皆さん、それに了子さんやクリスちゃんに出会えたし、クリスちゃんと分かりあうことができました…むしろこっちがお礼を言いたいぐらいですよ!」

「おまえ…」

「そうか…それならいいんだ─にしても、あの時あたしを助けた男の正体が、こんなひ弱そうな少年だったなんてな!」

 

 そんな響に、奏は穏やかな顔で呟き─直ぐに顔色を変え、その場の空気を明るくさせるようなノリで話を変えた。

 

「でも、あん時は助かった!ありがとな!」

「い、いえ…別に俺、感謝されるようなことは…」

「何を言う。沢田があの場にいてくれたからこそ、こうして奏が生きている訳でな─?どうしたのだ沢田?」

 

 奏に礼を言われ照れていたツナは、小言を言い始めた翼を見て、何故か笑みを浮かべた。

 

「翼さん、奏さんが目覚めてから、前よりよく笑顔を見せるようになったなーって」

「なっ─!?」

「今は真剣な表情してるけど、それでもどこか嬉しそうだし」

 

 ツナがそう呟き、優しげな微笑みを浮かべると、翼は顔を真っ赤にする。

 

「ほほぅ…あたしが眠ってる間に、あの堅物だった翼がこんなになってたとはねぇ…」

「奏まで!?」

 

 まさか奏にも弄られるとは思っておらず、声をあげる翼。

 

 

 

 そんなこんなで時は過ぎていき、面会終了の時間が訪れた。

 

「今日はありがとな!」

「また今度、お見舞いに来ますね!」

 

 病室を出ていくツナ達を笑顔で見送る奏。

 そして、全員が部屋を出ていったのを確認した奏は─

 

「─っはぁぁぁぁ…!」

 

 大きな息継ぎをしながら、布団に顔を埋めた。そんな彼女の頬は、少し赤に染まっていて…

 

「何とか気が付かれずにすんだな…あいつの顔を見ちまうと、どうしてもあの時の事を思い出しちまうんだよなぁ…」

 

 そう呟きながら顔を上げた奏。頬を薄い赤に染める彼女の脳裏には、死の間際にいた自分を助けたツナの顔が…

 

「───っっ!」

 

 声にならない声を上げ、自分の髪をグシャグシャにする奏。

 ライブ襲撃事件(あの時)のツナは過去のジョットの体を借りてはいたのだが、やはり初代と瓜二つなだけはあり、奏の中では「ジョットの顔=ツナの顔」で結びつけられてしまっているのだ。

 

(特にさっき、あいつが微笑んだときはヤバかった─あの顔、あたしを助けたときに見せたのとそっくりそのままだったんだよぉ…)

 

 いつも姉御肌で明るい奏が、乙女のように恥ずかしがる姿はとても珍しい。これはやはり、彼女もツナに…

 ベッドの上で身もだえる奏。実は、そんな彼女の姿をこっそり覗き見ていたものが一人…

 

 

 

 

 

 

「天羽も、か─これで装者は5人目だな。この調子なら、まだまだこれから増えていくだろう…この事に気づいたダメツナがどんな反応をするか、これから楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Gが始まる少し前…』

 

「紹介するね!」

「えっと…沢田綱吉です。よろしく…」

「そんで、俺がこのダメツナの家庭教師をやってるリボーンだ。よろしくな」

「「よろしく!」」

「よろしくお願いしますわ」

 

 『ふらわー』店内の一角で、左右を響と未来に挟まれているツナと、そんな彼の膝上に座っているリボーンが目の前にいた三人組─安藤・板場・寺島に自己紹介を行う。

 本日は、響達からツナ達の話を聞いた安藤たっての頼みで、こうして顔合わせの場が作られていた。なお今回、セレナとユニと白蘭は沢田宅で留守番、そして『ふらわー』は情報漏洩防止のため、話が終わるまではツナ達の貸しきりになっている。

 

「それにしてもさぁ…初めて響から聞いたときは『マフィアの跡継ぎに殺し屋の子供なんて、どんなアニメのキャラよ!』って思ったけど…こうして目の当たりにすると納得だわ~、リボーン君だけ」

「あ、あはは…俺も、自分がマフィアの跡継ぎなんて受け入れらんないし─って、アニメ?」

「あぁ─アニメがどうこうってのは、ユミの口癖なのよ」

 

 ツナが板場の口癖に戸惑っていると、安藤が板場の補足をする。

 

「まぁ、実際にアニメ化してるからな、俺達」

「な、なに言ってんだ?リボーン」

「なんでもねーぞ」

「ところでさ─()()()()とビッキー達の出会いって、どんなだったの?」

 

 第三の壁を越えようとしていたリボーンにツナが首をかしげていると、安藤が目の前の三人の馴れ初めについて聞いてくる。

 だがツナは、彼女の呼び名に更に困惑することになる。

 

「ワ、ワダツナ…?」

「安藤さんは、少々独特なあだ名をつける癖がおありでして…ですが、慣れてしまえばそこまで気にする程ではありませんわ」

「よくない?何処かの神様みたいな名前でさ!」

 

 三人の中ではキャラが薄い方である寺島が、安藤の癖について説明すると、ツナは苦笑いを浮かべる。

 

「ア、アハハ…そうなんだ…」

(響達の友達、結構クセが強いなぁ…まぁ、俺もキャラの濃い知り合い、結構いっぱいいるけど─そういや、安藤さんの言う神様って、俺も聞いたことある気がするなぁ。なんだっけ…獄寺くんなら直ぐ分かりそうだけど…)

 

 

 

 

 

 

「今、10代目に呼ばれた気が!」スワッ!

「なに言ってんだ?隼人。ツナは今、あっちの世界に行ってんだ。どうやったらおまえに聞こえるってんだ?」

「うっせぇ跳ね馬!俺には確かに10代目の声が!」

「まーまー、落ち着けって─でさ、この問題の解き方ってどうすりゃいいんだ?」

「んがっ─だからさっき教えただろ!ここをこうしてだな…」

「そんで、この式に代入して─にしてもお前ら、やっぱ仲いいな」

「まぁな」「良くねぇ!」

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?ツナ」

「う、ううん。何でも…」

 

 一瞬、元の世界と繋がりかけていたツナだったが、未来に話しかけられ引き戻される。

 

「こいつにそんなカッコいい呼び名はいらねーぞ。ダメツナで十分だ」

「そっちの方がよっぽどヤだよ!」

「アハハ!あんた達、アニメよりも漫才の方が向いてるんじゃない?」

 

 そして、ツナがリボーンにツッコミをいれると、その光景を見ていた安藤達三人は笑いだした。

 

「ったく…えっと、安藤さんだっけ?俺の呼び方だけど、『ワダツナ』じゃ違和感があるから、響達みたいに『ツナ』って呼んでくれないかな?」

「いいよ~」

「ありがとう…それで確か、俺と響達の出会いを聞いてたんだよね?」

 

 気を取り直したツナが、安藤に聞かれていた事を思い出す。

 

「響と出会ったのは、俺がこの世界に飛ばされて直ぐだったんだよな─」

 

 そしてツナは、この世界での二年間を思い出しながら、三人に話し始めるのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Gが始まる少し前…その2』

 

「それにしても─ユニさんの声を聞いていると、調ちゃんの事を思い出しますね…」

 

 ツナとリボーンが『ふらわー』で盛り上がっていた頃、セレナが昼食で使った皿を洗いながら呟く。

 

「その調さんとは、セレナさんのお知り合いなんですか?」

 

 そんな彼女の横で手伝っていたユニが訊ねる。

 

「はい─調ちゃんとは同じ施設で一緒に育って、マリア姉さんと切歌ちゃんも含めた4人で、よく遊んでいたものです」

 

 ユニの問いかけに、皿を洗いながらも懐かしい日々を思い浮かべるセレナ。

 

「そうなんですね…でもなぜ、私の声が調さんと繋がるんですか?」

「─ユニさんの声って、どこか調ちゃんに似ているんです。目を閉じて聞いたら、本当に調ちゃんと勘違いしそうなくらいに…」

 

 ユニの問いに答え、彼方の空に視線を向けるセレナ。

 

「皆は今頃、何をしてるのかな…」

 

 

 

 

 

 

「「「─っくしゅん!」」」

「大丈夫?二人とも」

「アタシ達は大丈夫デス。それより、マリアこそ大丈夫なのデスか?」

「ええ…私は平気よ」

「誰かが噂でもしてるのかな…?」

「アタシ達の事を噂する物好きなんて、いったいどこに…」

「三人とも、今は無駄話をしている暇はありません。私達はこの地球を月の落下から防ぐため、一刻も早く準備を整えなければならないのですから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリスの買い物─その後』

 

 とある平日の朝。多くの学生が登校を始めている時間に、とある家の座敷にリンの音が響く。

 

「おはようさん」

 

 二つの位牌に朝の挨拶をしたクリスが仏壇の前で合掌していると、外から響達の声が聞こえてきた。

 

「朝から騒々しくて悪ぃな…でも、騒々しいのは音楽一家らしいだろ」

 

 そう呟き、深く一礼したクリスは登校の準備を始めるため立ち上がる。

 

「んじゃ、学校(ガッコ)に行ってくる─正直、まだ慣れないし、騒々しいところだけど…パパとママの子供だから、あたしも騒々しいのは嫌いじゃないみたいだ…」

 

 位牌に視線を向けそう呟くと、外で待っていた響達と合流し、リディアンへ向かい歩き始めた。

 

 

 

 そして─

 

 

 

「それじゃ、行ってくるよ」

「「行ってらっしゃい!」」

「行ってら~♪」

 

 時を同じくして、家を出ようとしていたツナは─ダイニングの小型本棚の上に置かれていた小型の仏壇の前に立つ。中には三つの位牌が置かれ、仏壇の側には一枚の家族写真が…

 

「─行ってきます!」

 

 線香を香炉に指し、リンを鳴らして合掌、礼拝をしたツナは、いつものように学校に向かっていった…




本来なら、この回は投票締切前に投稿したかったんですが、なにぶんオリジナルの内容がなかなか思い付かず…
次回は10年後編と2期本編の同時投稿を始めますので、どうか楽しみにしていただければ幸いです。


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『戦姫燈炎SYMPHOGEAR-G!』フロンティア来る!
標的(ターゲット)20 ガングニールを持つ少女


もう第二話も出来ちゃったんで我慢できなくてあげちゃいました。
ツナの過去編を待っていた方はごめんなさい。


~2017年9月~

 

 暗い嵐の夜、とある輸送列車のあとを空を覆い隠すほどのノイズの群れが追っていた。

 輸送列車は防衛システムを発動させ弾幕を張り、ノイズを追い払おうとするが、弾丸はノイズ達をすり抜けるだけで効果が見られない。

 そして鳥型が形を変化させ車両の一つに特効を仕掛け、爆発が起こる。

 

「きゃっ!」

「大丈夫ですか!?」

 

 その爆発によって生じた振動に、友里が足をとられ倒れこみ、そんな彼女を、白衣を着て眼鏡をかけた男性─ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス(通称:ウェル博士)が、輸送ケースを大事そうに抱えながら心配する。

 

「平気です!それよりウェル博士はもっと前方の車両に避難してください!」

「大変です!すごい数のノイズが追ってきます!」

 

 友里がウェルに避難を促していると、二人がいた車両に奏者である響とクリスが駆け込んできた。

 

「連中、明らかにこっちを獲物と定めていやがる!まるで、何者かに操られてるみたいだ…!」

「急ぎましょう!」

 

 友里はウェルと響達を連れて前方の車両に避難を開始した。

 

「そういえば沢田くんは?」

「ツナならもうすでに、『俺ならどれだけ車両から離れてもすぐに追い付けるから』といって、ノイズの対処に向かいました!」

 

 友里が避難しながらツナのことを聞くと、響はツナがすでに戦場に出ていることを伝える。

 

 

 

 

 

 

「第71チェックポイントの通過を確認!岩国の米軍基地への到着まではもうまもなく─ですが!」

「こちらとの距離がのびきった瞬間を狙い撃たれたか…」

 

 響達が乗る輸送列車が襲われていた頃、弦十郎が指揮を執っている指令室は慌ただしくしていた。

 

「指令、やはりこれは…!」

「あぁ…何者かが、『ソロモンの杖』強奪を目論んでいるとみて間違いない」

 

 弦十郎は真剣な面持ちでそう言いきった。

 

 

 

 

 

 

「はい…はい─多数のノイズに混じって高速で移動する反応パターン?」

「三ヶ月前、世界中に衝撃を与えた『ルナアタック』を契機に、日本政府より開示された櫻井理論─そのほとんどが、未だ謎に包まれたままとなっていますが、回収されたこのアークセプター─『ソロモンの杖』を解析し、世界を脅かす、認定特異災害『ノイズ』に対抗しうる、新たな可能性を模索することができれば…!」

 

 友里達が最前列の車両まで避難しおえ、ウェルがノイズへの対抗策についてのべていると、クリスが立ち止まる。

 

「─そいつは…『ソロモンの杖』は、簡単に扱っていいもんじゃねぇよ」

「クリスちゃん…」

「最も、あたしにとやかく言える資格はねぇんだけどな…」

 

 バツの悪そうな顔でクリスが呟く。すると直後、響が彼女の手を両手で握った。

 

「なっ…ば、バカ!お前こんなときに!」

「大丈夫だよ!」

「─っ!お前、本当のバカ!」

 

 クリスがそっぽを向く。

 

「─了解しました!迎え撃ちます!」

「出番なんだよな!」

 

 クリスの言葉に友里がうなずく。その直後、響達がいる車両の天井にノイズが突き刺さる。

 それに驚いたウェルは悲鳴をあげながら尻餅をつき、友里は拳銃で応戦する。

 

「いきます!」

 

 

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

《Killiter Ichaival tron…》

 

 

 

 響の体にシンフォギアが纏われる。響の纏ったシンフォギアは、エクスドライブモードに一度覚醒したことによってギア自体の性能が上昇すると共に当初のカラーリングから変化しており、黒の面積が減る代わりに白と橙の面積が広がり、マフラー状のパーツなど、いくつかのパーツが追加されている。

 響はシンフォギアを纏うと、クリスと共に天井を突き抜け外に出る。

 

「群れスズメ共がうじゃうじゃと!」

「どんな敵がどれだけこようと、今日まで訓練してきたあのコンビネーションがあれば!」

「あれはまだ未完成だろ?実戦でいきなりぶっこもうなんて、おかしなこと考えてんじゃねぇぞ?」

 

 クリスが響に注意を促す。そんな彼女の纏うシンフォギアも当初の外観とは少し違い、ヘッドパーツや腕パーツ、腰パーツの形状とカラーリングが変化していた。

 

「とっておきたい、とっておきだもんね!」

「フン、わかってるなら言わせんな」

 

 そう呟き、クリスがアームドギアを弓状に変化させる。

 

「背中は預けたからな!」

「まかせて!」

 

 響とクリスは互いに背を向けながら戦闘態勢にはいる。

 

「ぎゅっと握った拳 1000%のThunder」

 

 そして、響が歌を紡ぎ始めたと同時に、クリスが矢を乱射し空中のノイズを蹴散らしていく。

 

「解放全快…3,2,1,ゼロッ!」

 

 それに合わせ響が飛び上がると、クリスの攻撃から逃れたノイズを空中でうまくバランスをとりながら倒していく。

 すると三体のノイズがクリスの背後に襲いかかるが、一瞬にして移動した響がパンチで二体倒し、残りの一体をサマーソルトキックで倒す。

 

「なぜ私でなくちゃならないのか? 道なき道…答えはない」

 

 その間にクリスは、大型化させた両手のクロスボウに2連装する赤紫色のクリスタル状の矢を上空に向けて左右に放つ。

 すると、射線上の敵を穿ちつつ一定の高度まで到達した矢は割れるように分裂し、無数の小片があたり一面に降り注ぎ、広範囲の敵を一気に殲滅していく。

 

GIGA ZEPPELIN

 

 クリスの大技によって大量のノイズを殲滅される。その直後、爆炎をかわしながら高速で移動する個体が現れた。

 

「あいつが取り巻きを率いてやがるのか!」

 

MEGA DETH PARTY

 

 新たな個体を見つけ、クリスが放った大量のミサイルが、群れを率いているノイズ─翼獣型に襲いかかる。しかし、翼獣型はすべてのミサイルをスピードで上回り回避した。

 

「だったらぁぁ!」

 

BILLION MAIDEN

 

 今度はガトリングで狙うが、相手の移動速度が早すぎてまともに狙うことが出来ていない。

 すると、今度は翼獣型が突貫してくる。クリスはそれを撃ち落とそうとするが、翼獣型が展開した装甲によって弾丸がすべて弾かれてしまう。

 

「っ…!」

「クリスちゃん!」

 

 響はハンマーパーツを引き絞ると、突貫してくるノイズにむかっていく。そして拳を当てることには成功するが、倒すどころか装甲に傷を入れることすらできなかった。

 ノイズはそのままクリスめがけて突っ込んでいく…

 

 

 

 

 

 

「ハアァ!」

 

 

 

 

 

 

 しかし、高速で移動してきた人物が装甲を横から全力で殴り飛ばして方向転換させ、クリスも輸送列車も無傷ですんだ。

 

「大丈夫か!」

「ツナ!」

「ったく、来んのが遅ぇんだよ!」

 

 ツナはクリスの隣に降り立つと、二人の無事を確認する。

 彼をみた響は顔に笑顔を浮かべ、クリスも文句を言いながらも、どこか安心した様子が受け取れる。

 

 

 

 

 

 

(ノイズとは、ただ人を殺すことに終始する単調な行動パターンが原則のはず…だが、あの動きは─目的を遂行すべく制御されたもの…『ソロモンの杖』以外にそんなことが…!)

 

 指令室で響達の戦闘をみていた弦十郎は、ノイズの動きから相手が何者かに調教されたものだと考えていた。

 

 

 

 

 

 

「あん時みたく空を飛べるエクスドライブモードなら、こんな奴にいちいちおだつくことなんてねぇのに!」

 

 クリスが翼獣型をガトリングで狙いながら、苦言を述べる。

 

「─!?つ、ツナ!クリスちゃん!!」

「?」

「あぁ?」

 

 そんななか、後ろをみた響が慌ててツナとクリスに呼び掛ける。

 それに疑問を抱いたツナとクリスが後ろを振り向くと─トンネルの入り口がすぐそこまで迫っていたのだ。

 

「「う、うわぁぁ!」」

「響!」

 

 ツナが声をかけると、響はすぐに自分の足元を殴って穴を開けるとすぐに中に避難する。

 そしてツナも、一瞬でクリスを抱き寄せると、響が作った穴から列車の中に避難する。

 

「ギリギリセーフ…!」

「わりぃ、助かっ─!!?」

 

 クリスがツナにお礼を言おうとしたが─直後、自分がツナにお姫様だっこされていることに気づき顔を真っ赤にする。

 

「ちょっ、早くおろしやがれ!」

「あ、あぁ…」

 

 焦るクリスにそう言われ、ツナは戸惑いながらも優しく彼女をおろす。そんな二人を、響がすぐ近くでジト目でみていた。

 

「たく…それにしても、クソッ!攻めあぐねるとはこういうことか!」

「─そうだ!」

「何か閃いたのか?」

 

 おろされたクリスが不満を述べた直後、彼女の言葉から何やら作戦を思い付く響。そんな彼女が提案したのは─

 

「師匠の戦術マニュアルで見たことがある!こういうときは、列車の連結部を壊してぶつければいいって!」

 

─なんとも常識外れな作戦だった。

 

「ハァ…おっさんのマニュアルってば面白映画だろ?そんなのが役に立つものか!だいたい、ノイズに車両をぶつけたって、あいつらは通り抜けてくるだけだろ?」

「─なるほど、そう言うことか!」

 

 響の考えを聞いたクリスが異議を唱えるが、ツナは響がやらんとしていることに気づく。

 

「お!ツナは私の考えわかっちゃった?」

「あぁ…それならオレも協力するぜ」

「?」

 

 二人の話に追い付けないクリスが首をかしげる。しかし、三人が話をしている間にも、ノイズ達は列車のあとを追ってきているのだ。

 

「急いで!トンネルを抜ける前に!」

 

 

 

 

 

 

 響達が列車の最前列と二両目の連結部付近まで来ると、クリスが連結部を撃ち抜いて破壊する。

 

「サンキュー、クリスちゃん!」

「本当にこんなんでいいのかよ?」

「あとは、これで…!」

 

 クリスに感謝を伝えた響は車両同士の隙間に入り込むと、足に力を込めて切り離された車両を押しだす。

 切り離された車両はそのまま減速していき、ノイズに衝突しかけるが─ノイズ達はクリスの言った通り、車両をすり抜けていく。

 しかしトンネルの出口では、響は巨大化させた右腕のアームドギアを構え、ツナはナッツを『Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)』に形態変化させ待ち構えていた。

 

「君だけを(守りたい)だから(強く)飛べ」

 

 車両から翼獣型の先端が見え始めた直後、二人が同時に動く。

 響はアームドギアの肘部後方に噴射口を設ける2基のバーニアをふかせ接近し、ナックルガードを展開すると内臓式のスクリューのような軸回転機構が稼働する。

 そしてツナはガントレットに炎を収束させながら左手から炎を噴射しノイズに急接近する。

 

「響け響け(ハートよ) 熱く歌う(ハートよ)」

「バーニングアクセル!」

 

 二人の拳が翼獣型の装甲の先端に突き刺さる。

 

「へいき(へっちゃら) 覚悟したから」

 

 響のアームドギアのスクリューがさらに回転速度をあげ、ハンマーパーツが打ち込まれる。そして─

 響のアームドギアとツナの炎によって、翼獣型ノイズは装甲を破壊されながら爆発し、その爆風が後方から接近していた残りの鳥型達をすべて飲み込んでいった。

 

(閉鎖空間で、相手の機動力を封じた上、遮蔽物の向こうから重い一撃…あいつ、どこまで…!)

 

 車両端からその光景をみていたクリスは、響の成長に驚いていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、搬送任務は終了となります。ご苦労様でした」

「ありがとうございます!」

 

 その後は岩国の米軍基地までの道のりでノイズに襲われることはなく、無事に任務は終了した。

 

「ハァ…疲れたー…」

「確かめさせてもらいましたよ─皆さんが、『ルナアタックの英雄』と呼ばれることが、伊達ではないとね」

「英雄!?私達が!?」

 

 ウェル博士はツナ達に近づくと、称賛の意を述べる。

 

「いやぁ!普段誰も誉めてくれないので、もっと遠慮なく誉めてくださいよ~!むっしろ、誉めちぎってくださ─アイタ!」

「このバカ!そういうところが誉められないんだよ!」

 

 ウェルに誉められ調子に乗る響をクリスが叩く。

 

「痛いよ~クリスちゃ~ん…」

「アハハ…」

 

 そんな二人のやり取りを、苦笑いしながら見ていたツナ。そんな彼に、ウェルが視線を向ける。

 

「君の戦いも、少しだけですが見させてもらいました─正直、シンフォギア以外にもノイズを倒す力を持つものがいたとは信じられませんでした…ですがあの戦いをみて、君も『ルナアタックの英雄』であるということを納得できました」

 

 ツナにそう話すウェル。しかし、当のツナは眉間にシワを寄せ、首を横に振った。

 

「別に、そこまで称賛されるようなことはしてませんよ。俺はただ、響達や二課の─俺の大切な人達を守るためにしただけですから…それに─俺には英雄なんて言葉、似合いませんから…」

 

 ツナは暗い表情でウェル博士にそう話した。

 

「─君に何があったのかは知りませんが、世界がこんな状況だからこそ、僕たちは英雄を求めている!そう!誰からも信奉される、偉大なる英雄の姿を!!」

「アハハ!それほどでも~!」

 

 響はウェルの言葉に喜んでいたが、ツナは彼の発言及び表情から異様な狂気を感じ取っていた。

 

(なんだろう…この人、英雄に固執しすぎている気がする…)

「皆さんが守ってくれたものは、僕が必ず役立ててみせますよ」

「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」

「頼んだからな!」

 

 会話が終わると、米軍基地の兵士がソロモンの杖が入ったケースを持ち、ウェルの後ろを歩いていく。そんなウェルの後ろ姿を見ていたツナはとてつもなく嫌な予感を覚える。

 

(このままあの人を行かせてしまったら、いつか後悔することになる…そんな気がする…なんでだ…?)

「無事に任務も完了だ!そして…」

「うん!この時間なら、翼さんのステージにも間に合いそうだ!」

 

 ツナが不安を覚えるなか、任務が早めに終わったことで数時間後に予定されている翼のライブに行けるかもしれないと喜ぶ響。そんな彼女に友里がいい情報を伝えた。

 

「皆が頑張ってくれたから、指令が東京までヘリを出してくれるみたいよ!」

「マジっすか!?」

「─そういえば友里さん…さっきの戦いでなくなった人達は、どのくらいいたんですか?」

 

 友里の話を聞き響が喜んでいると─ツナは思い出したように友里に質問する。

 

「─最後列の車両の防衛システムを制御していた三人の職員だけ…綱吉くんがすぐにノイズの対処を始めてくれたお陰で、被害は最小限に留めることが出来たのよ」

「そう…ですか…」

「ツナ…」

 

 友里の答えを聞いたツナは、安心したような─それでもどこか苦しそうな表情を浮かべる。

 

「やっぱり、誰かが死ぬのは嫌?」

「はい…たとえ、多くの人が助かったとしても、やっぱり誰かが─仲間が死ぬのは、とても辛いです…」

 

 眉をひそめ、そうこぼすツナ。

 

「…死んでいった職員達は、君みたいな優しい子に仲間だと思ってもらえて、天国で喜んでいると思うわよ」

 

 そんなツナに友里がそう言って微笑みかける─その直後、米軍基地で大爆発が起こる。そして、爆炎の中から大型のノイズが姿を現した。

 

「基地が!」

「マジすか…!?」

「マジだな!」

 

 その光景を見たツナ達は、ノイズの侵攻を止めるため、米軍基地に走っていった…

 

 

 

 

 

 

 その頃、とあるライブ会場では、一人の女性が観客席から、真剣な面持ちで準備風景を眺めながら鼻唄を歌っていた。

 すると、女性の携帯が鳴り出し、電話に出る。

 

『こちらの準備は完了。サクリストSが到着次第、始められる手はずです』

「─グズグズしてる暇は無いわけね…OKマム、世界最後のステージの幕を開けましょう!」

 

 女性─マリア・カデンツァヴナ・イヴは、席から立ち上がると電話の相手にそう宣言した…

 

 

 

 

 

 

『はい…既に事態は収拾。ですが行方不明者の中にウェル博士の名前があります…そして、ソロモンの杖もまた…』

「そうか…わかった!急ぎこちらに帰投してくれ!」

『わかりました…』

 

 特異災害対策機動部二課─特機部二の指令室にて、友里の報告を聞き遂げた弦十郎は、モニターに写し出された襲撃現場の写真に向き合う。

 

「今回の襲撃、やはり何者かの手引きによるものなんでしょうか?」

 

 藤尭がそう問いかけると、弦十郎は黙りこんでしまう。

 

「それにしても、かなり手のこんだ襲撃だったな」

 

 そんなとき、やはり大人だらけの場には似つかない子供の声が響く。

 

「リボーンくん!」

 

 弦十郎が振り返ると、部屋の角で、椅子に座りながら、優雅にコーヒーを飲んでいるリボーンがいた。

 リボーンはコーヒーを飲みながら語り始める。

 

「輸送時と輸送後の二つの襲撃…しかも輸送後に関しては装者やツナが任務を終えて油断してるタイミングで起こりやがった…相手は相当な数の情報網を持っているか、それとも二課内か米軍内のどちらかに裏切り者かがいるか…もしくは…」

『もしくは?』

 

 弦十郎と藤尭がリボーンに注目する─

 

 

 

 

 

 

「ま、あとはお前達で考えることだな」

 

 

 

 

 

 

 そう言われ、二人は椅子に座った状態でずっこける。

 

「ちょっ、リボーンさん!そこまで言ったなら勿体ぶらず教えてくださいよ!」

「自分で考えることも時には必要だぞ?それに、オレは家庭教師だからな。ヒントはやっても答えまでは言わねえぞ─それじゃあオレは、この後用事があるから帰らせてもらうな」

 

 リボーンはそう言うとコーヒーを飲み干し、部屋を出ていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この盛り上がりは皆さんに届いていますでしょうか!世界の主要都市に生中継されている、トップアーティスト二人による夢の祭典!今も《世界の歌姫》マリアによるスペシャルステージに、オーディエンスの盛り上がりも最高潮です!』

「さすがはセレナチャンのお姉さんだ!とっても歌がうまいね♪」

「はい!私の自慢の姉さんですから!」

「チャオっす、今帰ったぞ─お、もう始まってるようだな」

「お帰りなさい、リボーンおじさま」

 

 特機部二を後にしたリボーンが家に帰りつくと、リビングでマリアのライブに熱中しているセレナと、そんな彼女を楽しそうに眺める白蘭の姿があった。

 

「─どうしたユニ?調子が悪いのか?」

 

 そんななか、リボーンはユニがいつもと少し違うことに気づく。

 

「やっぱり、リボーンおじさまに隠し事はできませんね…」

「─こないだの『予言』と何か関係があるのか?」

「はい…」

「そうか…」

 

 彼女が暗い理由に気づいたリボーンは、それ以上なにも聞かず、テレビに写し出されているライブの鑑賞を始めた…

 

 

 

 

 

 

「状況はわかりました!それでは翼さんを…」

『無用だ。ノイズの襲撃と聞けば、今日のステージを放り出しかねない』

「そうですね…では、そちらにお任せします」

 

 リボーンがライブ中継に意識を向けたちょうどその頃─ライブ会場の裏にて、緒川が弦十郎との通話を終わらせる。そんな彼に、歌手としてライブ会場に来ていた翼が問いかけた。

 

「指令からはいったい何を?」

「今日のステージをまっとうしてほしいと」

 

 緒川が─眼鏡をつけながらそう答えると、翼はため息をつき、椅子から立ち上がり緒川に近づく。

 

「眼鏡をはずしたということは、マネージャーモードの緒川さんではないということです!自分の癖ぐらい覚えておかないと、敵に足元を掬われ「お時間そろそろでーす!お願いしまーす!」はい!今行きます!」

 

 緒川に詰め寄っていた翼だったが、ライブのスタッフに呼ばれ、問い詰めるのを断念しステージへと向かう。

 

「傷ついた人の心を癒すのも、風鳴翼の大切なつとめです─頑張ってください!」

「…不承不承ながら、了承しましょう。詳しいことは、後で聞かせてもらいます」

「はい─それともうひとつ、奏さんから伝言を預かってきました」

 

 スタッフの後を追っていた翼は、奏からの伝言があると聞き歩みを止める。

 

「奏から?」

「はい─『今日のライブ、精一杯楽しんでこいよ!』とのことです」

 

 驚く翼に緒川が伝言を伝えると─翼は笑みを浮かべた。

 

「そう…ありがとう、奏」

 

 そして、翼はそう呟くとステージに足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ライブ会場から少し離れたところで、簡易的な制御室のような施設で、マリアのライブを眺める老女性がいた。

 すると、近くのモニターに文字が写し出される。

 

 

 

Si Vis Pacem,Para Bellum(汝 平和を欲せば 戦への備えをせよ)

 

 

 

「ようやくのご到着…ずいぶんと待ちくたびれましたよ…」

 

 老女性─ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ(通称:ナスターシャ)は、モニターに写し出された、ラテン語で警告の意味を持つ文字をみて、そう呟いた…

 

 

 

 

 

 

 

 一方ライブ会場では、会場内をマリアコールが埋め尽くしていた。

 

「おぉ!さっすがマリア・カデンツァヴナ・イヴ!生の迫力は違うねー!」

「全米チャートに登場してからまだ数ヶ月なのに、この貫禄はナイスです!」

「今度の学祭の参考になればと思ったけど、さっすがに真似できないわ~!」

「それは始めっから無理ですよ、板場さん?」

 

 会場に来ていた板場と寺島がその光景に盛り上がるなか、一緒に来ていた未来は腕につけた時計で時間を確認する。

 そんな彼女の内心を察した安藤が問いかける。

 

「まだビッキーやツナから連絡こないの?メインイベントが始まっちゃうよ?」

「うん…」

「せっかく風鳴さんが招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて…」

「期待を裏切らないわねぇ、あの子達ったら!」

「それにセレナさん達も、会場ではなくテレビの中継で鑑賞することを選ぶなんて…」

「あれだよあれ!拗らせファンって奴だよ、たぶん!」

 

 そんなことを話す寺島と安藤。その直後、会場内が暗転し歓声と共に、会場の奥からステージに向けて、流れるようにペンライトが照らされる。

 そしてメインステージ中央に二人の影が現れ、スクリーンに《Maria × Tubasa》という文字が写し出された。

 

「見せてもらうわよ、戦場に冴える抜き身のあなたを!」

 

 マリアと翼がスポットライトに照らされ、二人のライブが始まった…

 

 

 

 

 

 

「翼さんのライブ始まっちゃったよ~!」

「ま、しょうがねぇわな…」

 

 ライブ会場に向かうヘリの中では、搭載されていた小型モニターに翼達のライブ映像が写し出されていた。

 映像をみて響とクリスがそれぞれの反応を示すなか、ツナは翼のライブを見ながら、ユニの話していたことを思い出していた。

 それは、今から一週間ほど前のこと…

 

 

 

 

 

 

「沢田さん…」

「どうしたのユニ?」

 

 いつものようにツナが洗濯物を干していると、唐突にユニが話しかけてきた。そして─

 

「─近い日に、また事件が起こります。それも、ルナアタックと同等の規模の事件が…」

 

 ユニは予言で見た内容を伝えた。

 

「えっ!?あれと同じ規模の事件がまた…!?誰がそんなことを!?」

「それは…「はーい、そこまで♪」白蘭?」

 

 ツナが事件の詳細について聞こうとすると、白蘭がユニの話を区切る。

 

「それは、起こってからのお楽しみ♪サプライズって奴だよ♪それじゃあユニチャン、一緒に買い物に行こうか♪」

「ちょっ、待てよ白蘭!」

 

 そう言って白蘭は、ユニをつれて買い物に出掛けていったのだった…

 

 

 

 

 

 

(あの日以降、何度もユニに聞こうとしたけど、毎回はぐらかされて聞けなかった…もしさっきの二つのノイズ襲撃が、ユニが言っていた事件の予兆だとしたら…)

 

 ツナはそんなことを考えながら、翼達の歌を聞いていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、皆!」

 

 会場の方では、歌が終わり翼が前に出ると歓声が響き渡る。

 

「私は、いつも皆からたくさんの勇気を分けてもらっている!だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに、少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!」

「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!振り返らない、全力疾走だ!ついてこれる奴だけついてこい!」

 

 翼の言葉に会場内が色めき立ち、マリアの言葉で世界中の人々が歓喜を露にする。

 

「今日のライブに参加できたことを感謝している!そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト─風鳴翼とユニットを組み歌えたことを!」

「私も、素晴らしいアーティストと巡り会えたことを、光栄に思う!」

 

 そう言って互いに握手すると、再び歓声が沸き起こった。

 

「あなたのパートナー─天羽奏のことも聞いているわ。二年前のライブ会場での悲劇以降、ずっと昏睡状態だった彼女が三ヶ月ほど前に目を覚まし、現在肉体の状態を戻すためリハビリ中という話をね…両翼揃ったツヴァイウィングの復活も近いという噂も耳にしているわ」

「そうか…私も、また奏と共に歌を歌えることを楽しみにしているところだ」

 

 奏と共にステージに立つ未来を思い浮かべ、微笑みを浮かべる翼。

 

「私達は世界に伝えていかなきゃね…歌には力があるってことを」

「それは、世界を変えていける力だ!」

 

 翼がそう答えると、マリアが翼に背を向けて少し距離をとる。

 

「─そして、もうひとつ」

 

 そう言って、マリアがロングスカートをなびかせながら観客の方を向いた直後─会場のいたるところにノイズが現れた。

 それにより、会場内は悲鳴に満ち溢れ逃げ出す人でごった返してしまう。

 

「うろたえるな!」

 

 だが、マリアの一声で会場内は静まり返った。

 

 

 

 

 

 

「ノイズの出現反応多数!場所はクイーン・オブ・ミュージックの会場!」

「なんだと!?」

 

 ノイズの反応を探知した二課の指令室では、弦十郎が出現場所を聞いて驚きを露にする。

 

 

 

 

 

 

「遅かりし…ですが、ようやく計画を始められます」

 

 ライブ会場の映像をみたナスターシャはそう呟くと、謎の物体が写し出された機械をいじり始めた…

 

 

 

 

 

 

 その頃、ライブ会場の人達はいきなり現れたノイズに怯えていた。

 

「ア、アニメじゃないのよ!?」

「なんでまたこんなことに…!」

「─響、ツナ…」

 

 そんな中、未来は未だに来ない二人の親友の顔を思い浮かべた…

 

 

 

 

 

 

「了解です!装者二名と綱吉くんをつれて状況介入まで40分を予定、事態の収拾にあたります!」

 

 友里は通話を切ると、後ろに乗っている三人に顔を向ける。

 

「聞いての通りよ…疲労を抜かずの三連戦になるけど、お願い…」

 

 友里の頼みに三人が無言で頷く。

 

「またしても操られたノイズ…」

「詳細はまだわからないわ…だけど…」

「だけど?」

「─ソロモンの杖を狙った襲撃と、ライブ会場のノイズが無関係とは思えない…ですか?」

 

 今度はツナの質問に友里が無言で頷く。

 

(ライブ会場のノイズ…あれはおそらく、行方不明になったソロモンの杖で操られているノイズで間違いない筈…俺達が米軍基地で戦っている間に移動すれば、間に合わなくもない…ただその場合、ソロモンの杖の輸送中のノイズの襲撃は─まさか!?)

 

 一人考え込んでいたツナは超直感を用いて、あるひとつの可能性を導きだした…

 

 

 

 

 

 

 一方ライブ会場のステージでは、翼が首にかけたペンダントを露にし、いつでも戦える用意をしていた。

 

「怖い子ね?この状況にあっても私に飛びかかる機を伺っているなんて…でも逸らないの。オーディエンス達が、ノイズからの攻撃を防げると思って?」

「クッ…!」

「それに…」

 

 マリアは会場内にあるモニターに目を向ける。

 

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ねぇ、風鳴翼さん?」

 

 彼女のいう通り、ライブ会場にはいくつものカメラが設置されており、特にステージの映像は死角なく写されていた。

 

「甘くみないで貰いたい!そうとでも言えば、私が鞘走ることを躊躇うとでも思ったか!」

 

 そのような状況でも、翼は戦う意思を見せる。

 

「フフっ、あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ…あなたのような誰もが誰かを守るために戦えたら─世界は、もう少しまともだったかも知れないわね…」

「なん…だと?」

 

 そんな翼を見て、一人呟くマリア。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ…貴様はいったい…」

「そうね…そろそろ頃合いかしら!」

 

 そう言うとマリアはマイクを回転させ構え直し─覚悟を決め口を開いた。

 

「私達は、ノイズを操る力をもってして、この星の全ての国家に要求する!」

 

 マリアの声が、世界中の国に響き渡る。

 

「世界を敵に回しての交渉…!?これはまるで─」

 

 

 

 

 

 

「戦線─布告!」

 

 会場裏を走っていた緒川が、翼の言葉の続きを呟く。

 

 

 

 

 

 

「そして!」

 

 マリアはマイクを空高く放り投げる。そして─

 

 

 

 

 

 

《Granzizel bilfen gungnir zizzl…》

 

 

 

 

 

 

 翼も聞き覚えのある─それでいて自分の知るものとは少し異なる聖詠を歌い、光がマリアを包み込む。

 

「まさか…」

 

 

 

 

 

 

「この波形パターン…まさかこれは!?」

 

 指令室のメインモニターに、聖遺物の名前が表示される。その名前は…

 

「ガングニールだと!?」

 

 響が持っているシンフォギアと同じ、GUNGNIR(神殺しの槍の名)だった…

 

 

 

 

 

 

 マリアを包んでいた光が消え去るとそこには、響のシンフォギアと酷似した形状をしているが、配色は黒と赤が基調となり、黒いマントが追加されたギアをまとったマリアが立っていた。

 

 

 

 

 

 

「黒い、ガングニール…!?」

 

 ヘリの中でその光景をみていた響は絶句する。

 

(ガングニールが二つ!?いや、それよりも─マリアさん…あなたはなぜこんなことを…!)

 

 そしてツナは、マリアの行動を理解できずにいた。

 

 

 

 

 

 

「姉、さん…?」

 

 そして─その光景を映像越しで見ていたセレナも、言葉をなくしてしまう。

 

「あれが、お前の見た予言なのか、ユニ?」

「はい…」

「でも、あれはまだ序章さ♪─ユニチャンが予言した物語は、ここから始まるんだよ」

 

 セレナがショックを受けるなか、リボーン達はこれから起こるであろう出来事に、真剣な表情を浮かべていた…

 

 

 

 

 

 

「─私達はフィーネ!そう…終わりの名を持つものだ!」

 

 

 

 様々な人物に衝撃を残し─マリアは高らかに、世界中にそう宣言した…




ツナの過去編(十年後編)は2期が終わる前までには全部作ろうと思ってます。


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標的(ターゲット)21 胸に力と偽りと傷を

本編のほうが作成速度はやいよやっぱ…


「我ら武装組織『フィーネ』は、各国政府に対して要求する!そうだな─さしあたっては、国土の割譲を求めようか!」

「バカな!」

「もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう!」

 

 そんなマリアの宣告を、各国の最高権力者達が映像越しで確認していた。

 

「─どこまでが本気なのか…!」

「私が王道をしき、私達が住まうための楽土だ!素晴らしいと思わないか!?」

 

 マリアは翼にそう問いかける。

 

「─何を意図しての騙りか知らぬが…」

「私が騙りだと?」

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」

 

《Imyuteus ameno─》『待ってください翼さん!』

『今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと、全世界に知られてしまいます!』

「でも、この状況で…!」

『風鳴翼の歌は!─戦いの歌ばかりではありません!傷ついた人を癒し、勇気づけるための歌でもあるのです!』

「…っ!」

「確かめたらどう?私の言ったことが騙りなのかどうか」

 

 マリアと翼は、互いの目を見つめあう。

 

「ならば─会場のオーディエンス諸君を解放する!」

 

 その言葉を聞いた観客達がざわめきだす。

 

「ノイズに手出しはさせない!速やかにお引き取り願おうか!」

「何が狙いだ!」

「フッ…」

『何が狙いですか?こちらの優位を放棄するなど、筋書きにはなかったはずです…説明して貰えますか?』

「このステージの主役は私…人質なんて、私の趣味じゃないわ!」

『血に汚れることを恐れないで!』

 

 ナスターシャがそう言うが、マリアは反応を示さない。

 

『ハァ…調と切歌を向かわせています。作戦目的を履き違えない範囲でやりなさい』

「了解マム…ありがとう」

 

 マリアは小さな声で、ナスターシャに感謝を述べた。

 

 一方その頃、会場裏では緒川が弦十郎に連絡をいれていた。

 

「人質とされた観客達の解放は順調です」

『わかった!あとは…』

「翼さんですね…それは、僕の方で何とか『オレが何とかする』沢田さん?」

 

 話にツナが─声音から、おそらくハイパーモードと思われるツナが割り込んでくる。

 

『オレなら、すぐにでも会場に行けるからな…だが、もしもの時のために緒川は避難し損ねている人を探しながら、そっちの方でも対処に向かってくれ「ちょっとツナ!?」』

「えぇ、分かりました…」

『頼んだ』

 

 そう言って通話が切られる。

 

「さすが、マフィアの次期ボスですね…カリスマ性がある」

 

 緒川はそう呟くと、会場の制御室にむけて走り出した。

 

ーヘリー

 

「ホントスゲーよな、アイツ…一瞬で見えなくなっちまいやがった」

 

 クリスがそう呟く。

 ツナは緒川との通話を切ると、すぐにヘリから飛び降り、一瞬にして抜き去ると十秒もたたない内に遥か彼方まで飛んでいったのだ。

 

『現場で検知されたアウフヴァッヘン波形については、現在調査中…だけど、全くのフェイクであるとは…』

 

 藤尭の話を聞いた響は、自分の胸にそっと手を置く。

 

「─私の胸のガングニールがなくなったわけではなさそうです…」

『もう一振りの、撃槍…』

「それが─黒い、ガングニール…」

 

 響はモニターに写っているマリア─正確に言えば、マリアが纏っているガングニールをじっと見つめていた。

 

 その頃、緒川が制御室に向かっていると、二人の少女と思われる人影を見つけていた…

 

???side

 

「やっべ!アイツこっちに来るデスよ!」

「大丈夫だよ、切ちゃん…」

 

 ツインテールの少女は、首にかけた─響達が持っているものと同じペンダントをつまみ、『切ちゃん』と呼ばれた金髪の少女─暁切歌に見せる。

 

「いざとなったら…」

「あわわ!調ってば、穏やかに考えられないタイプデスか!?」

「どうかしましたか!?」

 

 切歌が『調』と呼んだ少女─月読調の行動に驚き、すぐさまそのペンダントをセーターの中に隠させた直後、緒川に話しかけられる。

 

「早く避難を!」

「あ、えっとデスね…」

「じー…」

「この子が、急にトイレ~とか「じー…」言い出しちゃってデスね!?「じー…」イヤー、参ったデスよ!アハハ…」

「え…?じゃあ、用事を済ませたら、非常口までお連れしましょう!」

「心配無用デスよ!ここいらでチャチャっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

「分かりました…でも、気を付けてくださいね!」

 

 緒川はそう言って、制御室に向かっていった。

 

「はいデス~…ハァ、何とかやり過ごしたデスかね…」

「じー…」

「どうしたデスか?」

「私、こんなところで済ませたりしない」

「さいデスか…全く、調を守るのは私の役目とはいえ、毎度こんなんじゃ、体がもたないデスよ?」

「いつもありがと、切ちゃん」

「それじゃ、こっちも行くとしますデスかね!」

 

 二人はそう言って、緒川走っていった方向とは逆方向に向かっていった。

 

切歌・調side out

 

「帰るところがあるというのは、羨ましいものだな…」

「マリア…貴様はいったい…!」

「観客は皆、退去した!もう被害者が出ることはない…それでも私と戦えないというのであれば、それはあなたの保身のため!」

「クッ…」

「あなたは、その程度の覚悟しか出来てないのかしら!?」

 

 そう言ってマリアは、手に持っている剣の形をしたマイクを構え飛びかかろうとした…その時

 

「!?」

 

 上空から降ってきた炎の弾がマリアの目の前を通りすぎる。その直後、モニターの映像が一つずつ途切れていく。

 

「な…っ!」

 

 マリアが周囲を見渡すと、一瞬だけ炎が視認できた。そして炎が見えた場所の近くにあったスタンドカメラをよく見ると、繋がれていたケーブルが途中で真っ二つに焼ききれていた。

 

「無事か、翼」

「沢田!」

 

 マリアが翼の方を向くと、額に炎を灯した少年─沢田綱吉が、いつの間にか翼の前に立っていた。

 

「どうやら、彼の方が、速かったようですね…」

 

 制御室で、緒川は息を整えながらステージ上にいるツナの姿を見ていた。

 

「マム!彼はいったい…!?」

『わからないわ…彼に関する情報がどこにも書かれていない!』

「クッ!あなた、いったい何者!?」

「…」

 

 マリアはマイクをツナに突きつけて問うが、ツナはマリアを一瞥すると、翼の方を向く。

 

「翼、お前は会場にいるノイズを倒してくれ」

「しかし…「頼む」…分かった。しかし無茶はするなよ」

「ああ」

 

 翼はツナの返事を聞くと、ステージ前に集まるノイズに飛び込んでいく。

 

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

 

 翼がシンフォギアを纏う。彼女のシンフォギアもカラーリングが少し変わっており、白と青の面積が増えている。

 翼はノイズの群れのなかに降り立つと、隙間を縫ってノイズ達を斬り捨てていく。

 

「一つ目の太刀 稲光より 最速なる風の如く」

蒼ノ一閃

 

 エネルギー刃が通りすぎた道にいたノイズが一瞬にして灰になる。

 

「二つめの太刀 無の境地なれば 林の如し」

逆羅刹

 

 そして脚部のブレードでノイズをどんどん殲滅していく…

 

 その頃、ステージ上ではマリアとツナがにらみあっていた。

 

「もう一度聞くわ…あなた、いったい何者?」

「…」

 

 ツナはなにも答えない。

 

「そう…なら、力ずくで聞き出しましょうか!」

 

 マリアはマイクを投げ捨てると、マントを変形させツナに襲いかかる。

 

(マリア…お前は何故こんなことを…!)

 

 ツナはマリアの攻撃を防ぎながら、彼女の目的について考えていた。

 

「戦いの途中で考え事かしら!?」

「しまっ─ガハッ!」

 

 マリアは、ツナの隙をついてマントで彼の両手をかちあげると、無防備になった腹部に容赦のない蹴りを入れる。

 それにより、ツナはメインスクリーンを貫通して会場裏に吹き飛ばされる。

 

「沢田!─おのれ!」

 

 会場にいたノイズを倒しきった翼は、ステージに向かい飛び上がりマリアに斬りかかる。

 マリアは翼の攻撃をかわしながらマントで応戦し、翼はその攻撃をギリギリのところで刀で防ぐ。

 

「このガングニールは、本物!?」

「ようやくお墨をつけてもらった─そうだ!これが私のガングニール…何者をも貫きとおす、無双の一降り!」

 

 そう言って、マントを変形させ翼に飛びかかる。翼は攻撃を防ぐが、徐々に押されていく。

 

「クッ!─だからとて、私が引き下がる道理など有りはしない!」

『マリア、お聞きなさい…フォニックゲインは、現在22%付近をマークしています』

「なっ!(まだ78%も足りてない!?)」

「!」

 

 ナスターシャの通信にマリアが驚くと、その隙をついて翼が後ろに飛び上がる。

 

「私を相手に気をとられるとは!」

 

 翼は腿部パーツから2本のアームドギアを取り出すと、柄を繋ぎ合わせて双刃刀へと変形させ炎を纏わせ、振り回しながら脚部ブレードのバーニアによるホバー走行でマリアに突進していく。

 

「幾千、幾万、幾億の命 すべてを握りしめ振り翳す」

風輪火斬

 

 炎を纏った刀がマリアを斬る。

 

「ウッ…クゥッ!」

「話はベッドで聞かせてもらう!」

 

 そう言って翼がマリアに追い討ちをかけようとした直後、上空から複数の円形の鋸が翼に向かい飛んでくる。

 

「!?」

 

 翼はそれに気づくと、手に持ったアームドギアで攻撃を防ぐ。

 

「首をかしげて 指からするり 落ちてく愛をみたの」

 

 鋸を放ったピンクと黒を基調としたシンフォギアを纏った少女─調は、アームドギアから小型鋸を大量に射出する。

 

α式 百輪廻

 

「拾い集めて 積み上げたなら お月さまに届くの…?」

 

「行くデス!」

 

 そして調の後ろから現れた緑と黒を基調としたシンフォギアを纏った切歌は、アームドギアの刃を3枚に分裂させ、そのうちの2つをブーメランのように飛ばす。

 

切・呪リeッTぉ

 

 大量の鋸が正面から、左右から鎌の刃が翼に襲いかかる。

 翼は正面の攻撃を防ぐのに手一杯で、左右からの攻撃をもろに受けてしまい吹き飛ばされてしまう。

 

「危機一髪…」

「まさに間一髪だったデスよ!」

「装者が─3人!?」

 

 翼が新たに現れた二人の装者に驚く。

 

「あの子達は、さっきの!」

 

 制御室で戦闘を見ていた緒川は、二人の装者が先ほど見かけた少女達であることに気づく。

 

「調と切歌に救われなくても、あなた程度に遅れをとる私ではないんだけどね」

「─貴様みたいなのはそうやって、見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

「!上か!」

「土砂降りだ!10億連発!!」

 

BILLION MAIDEN

 

 調と切歌は左右に飛んでかわし、マリアはマントで攻撃を防ぐ。

 

「ウオォォ!」

 

 そして響がマリアに向かって突っ込んでいくが、マリアはそれをかわしマントで響を狙う。

 響はマントを回避しながら、翼を連れてステージを降りる。

 

「ツナは!?」

「彼は先ほど、会場裏に吹き飛ばされてから出てきていない…」

「チッ、こういうときに限って気絶してやがんのか!?」

 

 そんな会話をしていると、マリア達がステージ先端に立ち、響達と向かい合う。

 

「止めようよこんな戦い!今日であった私達が争う理由なんてないよ!!」

「─っ!そんな綺麗事を…!」

「えっ?」

「綺麗事で戦う奴の言うことなんか、信じられるものかデス!」

「そんな…話せば分かりあえるよ!戦う必要なんか「偽善者…!」!」

「この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる…!」

「だからそんな…世界は…切り刻んであげましょう」

 

 無数の鋸が響に襲いかかる。

 

「何をしている立花!」

 

 翼が響の前に立ち鋸を弾いていく。その横からクリスがガトリングを放つがマリア達はそれぞれの方向に別れて回避する。

 それと同時に響達もそれぞれに別れて戦闘が始まる。

 クリスは上空に回避した切歌を狙うが、切歌は鎌を回転させ弾きつつクリスに接近する。

 

「近すぎんだよ!」

 

 クリスはすぐさまアームドギアを弓に切り替えて矢を放つが、切歌はアームドギアで矢をはたき落とす。

 一方、翼はマリアと戦闘になり、連結させていた二つのアームドギアを切り離し斬りかかるが、マントによって防がれる。

 そして響の方は…

 

「わ、私は─困ってる皆を助けたいだけで…だから!」

「それこそが偽善…!」

「!?」

「痛みを知らないあなたに、誰かのためになんて言ってほしくない…!」

 

 調がツインテール部分を伸縮可能なアームとして扱い、2枚の巨大鋸を投擲してくる。

 

γ式 卍火車

 

 鋸が響に近づいてくるが、彼女が回避する気配はない。

 それに気づいた翼とクリスが響の元に向かい鋸を弾き飛ばす。

 

「どんくさいことしてんじゃねぇ!」

「気持ちを乱すな!」

「は、はい!」

 

 響が二人の渇で気を取り直し、再びそれぞれの相手に向かっていこうとした直後、中央ステージに新種の大型ノイズが召喚される。

 

「うわぁ!?何あのでっかいイボイボ!?」

「増殖分裂タイプ…」

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

「─マム?」

『三人とも退きなさい』

「…分かったわ」

 

 マリアが槍型のアームドギアを出して構える。

 

「アームドギアを、温存していただと!?」

 

 マリアは槍を増殖分裂型にむけると、アームドギアの刀身を展開して形成した砲身部から、高出力のエネルギービームを放つ。

 

HORIZON†SPEAR

 

「おいおい!自分等で出したノイズだろ!?」

 

 マリアが攻撃した直後、マリア達三人が一斉に逃げ出す。

 

「ここで撤退だと!?」

「せっかく温まってきたところで、尻尾を巻くのかよ!」

「!ノイズが!」

 

 周囲を見渡すと、先ほど吹き飛んだノイズの欠片が徐々に膨れ上がっり、大きいものは先ほどよりも巨大になっていく。

 翼が近くの欠片を斬り裂くが、すぐに再生され膨らみだす。

 

「こいつの特性は、増殖分裂!」

「放っておいたら、最限もないって訳か!そのうちここから溢れ出すぞ!」

『皆さん聞こえますか!?』

 

 響達の頭部についているヘッドフォンから緒川の声が聞こえる。

 

『会場のすぐそこには、避難したばかりの観客達がいます!そのノイズをここから出すわけには…!!』

「観客…!」

 

 響の脳裏に、今日この会場に来ていた未来達の姿が浮かぶ。

 

「皆が…!」

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ…!」

「どうすりゃ─そうだ調和だ!ツナの炎なら、あのノイズの増殖を調和出来るかもしれねぇ!」

「だが彼は今、恐らく意識を失っている…それに、あのでかさを倒すとなると、X-BURNER超爆発でなければ倒しきれないはずだ…その場合、どうあがいても会場の一部を破壊してしまう!そうなった場合、外にいる避難者達に怪我人が出る恐れがあるぞ!」

「ならどうするってんだ!?」

「…絶唱─絶唱です!」

「あのコンビネーションは未完成だぞ!?」

「─増殖力を上回る破壊力にて一気殲滅…立花らしいが、理に適っている」

「おいおい本気かよ!?」

 

 クリスが反対するが、そんなことをしている間にもノイズはどんどん巨大化していっている。

 それを見たクリスは腹をくくり、響の考えにのることにした。

 

 響を中心にして横にならび、クリスと翼の手を握る。

 

「いきます!S2CA・トライバースト!」

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal─』

 

 会場内に三人の歌声が響き渡る。

 

 そして三人が絶唱を歌い終わった直後、三つの光が放たれ周囲の欠片を吹き飛ばす。

 

Superb Song(スパーブソング)!」

Combination Arts(コンビネーションアーツ)!」

Set(セット)Harmonics(ハーモニクス)!」

 

 響の胸のフォルテ型の傷跡が光輝き、三つの光が交わり、虹色の光を産み出し会場内を埋め尽くしていく。

 

「耐えろ!立花!」

「もう少しだ!」

 

 光が会場内を包んでいくなか、響が苦しみだす。

 

「S2CA・トライバースト─装者三人の絶唱を、響さんが調律し、一つのハーモニーと化す…それは、手を繋ぎ会うことをアームドギアの特性とする響さんにしか出来ない…だが、その負荷は響さん一人に集中する…」

 

「うあぁぁ!」

「─すまない、遅くなった」

「!ツナ!」

 

 響の後ろに、先ほどまで裏で気絶していたツナが現れ、響に死ぬ気の炎を分け与え始める。

 

「だけど、それは綱吉くんのVGの力を用いることで解決する。響さん達の放つ膨大なフォニックゲインに共鳴して、一時的にシンフォギアと同じ性質に変化した彼のVGの特性は、大空のようにすべてをつつみこみ調和させるもの─その力で響さんを包みこむことで、絶唱の負担を多少調和することが出来る!」

 

 ツナが死ぬ気の炎を与え始めてから、少し顔色が戻る響。

 少しすると、イボイボの欠片がすべて消滅し、ノイズの本体が丸裸になる。

 

「今だ!」

Ready(レディ)!」

 

 装甲各部が展開されると、両腕部ユニットを合体させ右腕に装着し、内臓軸回転スクリューが大型化した4本のピックを有する特殊な武装形態へと変形させる。そして徐々に光が縮まっていき、エネルギーが響の武装に集中する。

 響は一度構えをとる。

 

「ぶちかませ!」

「これが私達の─!」

 

 響が飛び上がると、腰部バーニアを噴射させて突進していき

 

「絶唱だぁ!」

 

 収束した全エネルギーを込めたパンチを叩き込む。すると4本のピックが展開されノイズに突き刺さると回転を始め、ハンマーパーツが打ち込まれると同時に、光の竜巻と橙色の炎を巻き起こしながらノイズを消滅させる。そして光の竜巻は、橙色の炎を纏いながら空高く上っていった。

 

「何デスか、あのトンデモは!?」

「綺麗…」

「─こんな化け物もまた、私達の戦う相手…っ!」

 

 会場から少し離れたところで、マリア達はその光景を眺めていた…

 

 増殖分裂型ノイズを倒しきったあと、響は上空を見上げながら座り込んでいた。

 

『そんな綺麗事を…!』

『痛みを知らないあなたに、誰かのためになんて言ってほしくない…!』

 

 そんな彼女の頭には、先ほどの言葉が響いていた。

 

「無事か立花!」

 

 そんな彼女の元に、翼達が駆け寄ってくる。

 

「へいき、へっちゃらです…!」

「へっちゃらなもんか!痛むのか?」

 

 振り返った響は、目から涙をこぼしていた。

 

「どうしたんだよ響!何で泣いてるんだよ!?」

「─私のしてることって偽善なのかな…?」

「!」

 

 ツナが響の前に移動すると、彼女の両肩に手をおきながら問いかけると、響から逆に質問される。

 

「胸が痛くなることだって、知ってるのに…!」

「お前…」

 

 響は、過去に受けた周りからのイジメや、父親の仕打ちを思いだし嗚咽を始める。

 するとツナは、そんな彼女の頭をそっと抱き寄せ、優しくなで始めた。

 

「ツナ…?」

「大丈夫だ…響の辛かったことや苦しかったこと、俺と未来はよく知ってるから…」

 

 それを聞いた響は、ツナの背中に腕を回すと、大声で泣き出した。

 

─会場内に響の泣き声が響き渡る…

 

 いっときして響が泣き止むと、本部に一度戻るため立ち上がる。

 

「─!!」

 

 すると唐突にツナが後ろを振り向く。

 

「どうした沢田?」

「い、いえ…なんでも」

(今、翼さん達以外の誰かに見られてた気が…)

 

 ツナは違和感を感じながらも、響達と共に会場をあとにした。

 

 だが、ツナが見た先にあった柱の裏には─ついさっき行方不明になった杖を持つ、白衣の男性の姿があった…




現在ツナの過去編を平行してかいてますが、やっぱきついッスね…

あと余計な情報かもしれないッスが、黒グニールのカラーはダークレッド、二期の切歌と調は、それぞれダークグリーンとマゼンタをカラーコードにしてます。


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標的(ターゲット)22 終焉を望み、終焉に臨む者

どうも、生粋の名無しです。

やっと本編再開です!待ってくださっていた方々には申し訳ありませんでした…


「さて…なんか弁明はあるか?ダメツナ」

「え…えっと、その…」

 

 ライブ会場から帰ってきたツナは現在、自分の部屋にてリボーンの目の前で正座させられていた。

 

「あの程度で気失うとは情けねぇぞダメツナ。そのくせして響といちゃつく余裕はあるなんてな」

「ちょっ!?あれはいちゃつくとかそんなんじゃ「口答えすんな」アガッ!」

 

 慌てて弁明するツナの顎をリボーンが蹴り上げる。

 

「これは鍛え方が甘かったみてぇだな…特訓メニューの難易度を上げるとするか。まずは特訓の初めにネッチョリコースを…」

「んなー!?ネッチョリはイヤー!」

 

 リボーンのこぼした単語にツナが悲鳴を上げる。そんな彼を見てため息をこぼしたリボーンは、彼が手を抜いていた本当の理由を聞く。

 

「オメーの事だ─マリア・カデンツァヴナ・イヴがなんであんなことをしたのか、とでも考えてたんだろ?」

 

 ツナは自分の抱いていた感情を言い当てられ、驚きの表情を浮かべると、すぐに顔に影を落とす。

 

「うん…セレナから聞いてたマリアさんは、とても優しい人だった…なのにどうしてあんなことを─そ、そういえばセレナは?」

 

 ツナが、帰ってからセレナと一度もあってないことを思いだしリボーンに尋ねると、リボーンはボルサリーノを深くかぶる。

 

「よほどショックだったんだろーな…マリアが宣戦布告した直後に気を失ってな…」

「だけど安心して♪今はぐっすり眠ってるよ」

「─白蘭!」

 

 ツナとリボーンが話していると、部屋に白蘭が入ってくる。

 するとツナは立ち上がり、彼に詰め寄った。

 

「ユニが言ってた予言ってこの事なのか!?お前、マリアさんがあんなこと起こすって、まさか知ってて黙ってたのか!?」

「だって、しょうがないじゃん?─綱吉クン、秘密にしとくの下手でしょ?「うっ…」どっちみちセレナチャンに知られるのは確定だったんだから、それなら遅い方がいいんじゃないかって♪」

「それでも…!」

「─あれは、物語で言うところのほんの序章さ─だから、僕に構うよりもこれから起こる出来事を気にしたほうがいいんじゃない?」

 

 そう伝えた白蘭は、呼び止めようとするツナを無視して部屋から出ていく。

 

「これから…起こる事…」

「─そういやツナ。今回の輸送中の輸送後の事件、そしてマリアの宣戦布告…おまえからみてどう思った?」

 

 白蘭の言葉の意味を考えていたツナだったが、そこでリボーンが問いかけてくる。

 

「ちょ!オレ、今考え事してるんだけど─「いいから答えろ」ひぃっ!」

 

 不満そうな顔を浮かべたツナだったが、リボーンの鋭い視線を受け悲鳴を上げる。

 そんな彼を見たリボーンがため息をつきながら視線をそらすと、それを見たツナは安堵したのち、自分の考えを話し始めた。

 

「輸送車と基地、そしてライブ会場の襲撃─どれもタイミングがよすぎる…状況をよく理解できてる人じゃなきゃやれないはずだ…それらのことから考えたら、俺は─」

 

 

 

 

 

 

 ツナの口から告げられた答えを聞いたリボーンは、『ニッ』と笑顔を浮かべる。

 

「さすがオレの生徒だ。オレと同じ結論に至るとはな」

 

 そう呟いたリボーンは、急に雰囲気を切り替え、一瞬で寝巻きに着替える。

 

「さて、明日からは特訓が激しくなるぞ。さっさと寝て気力を蓄えろよ」

「ウゲッ!─わ、分かってるよ!」

 

 こうして、一抹の不安を覚えながらも、ツナの一日は終わっていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日─

 

「おはようございます!」

「お、おはよう…」

 

 ツナがリボーンと共にリビングにおりると、既に家事を始めていたセレナの姿があった。

 リボーン達が来てからここ最近は、彼女の横にユニもいることが多いのだが…いないことから考えて、白蘭共々まだ眠っているのだろう。

 

「おはようだセレナ。調子はどうだ?」

「はい、大丈夫です!昨日は突然倒れてしまいましたが、もう平気です!」

 

 リボーンの挨拶に元気よく答えるセレナ。しかしツナは、彼女の言動が無理をして行っているものだとすぐに感じ取った。

 

(元気そうにふるまってるけど、やっぱりまだ辛い感じが抜けてない─そりゃそうだよね…自分の家族が、あんなことを始めちゃったんだから…)

「それじゃ、俺たちは特訓にいってくるからな」

「はい!いってらっしゃい!」

 

 リボーンはセレナのことに気づいている上であえて気づいていないふりをすると、彼女を心配するツナと共に特訓に出ていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリアの宣戦布告から一週間がたった。

 しかし、彼女の宣戦布告以降、『フィーネ』と名乗る組織からの恣意行動や各国との交渉などもなく、何もないままの日々がすぎていた。

 そんななか、響は政府が買い取った、新たな私立リディアン音楽院の校舎で、窓の外を眺めながら物思いにふけている。

 

(ガングニールのシンフォギアが二つあるんだ…だったら、戦う理由がそれぞれにあっても不思議なことじゃない…)

『私は、困ってる皆を助けたいだけ!だから!』

『それこそが偽善者…!』

 

 彼女はライブ会場で言われた言葉を思い返し、ため息をつく。

 

(─私が戦う理由…自分の胸に嘘なんてついてないのに…)

「響!響ったら!」

 

 一人考え事をする響に、横にいた未来が小声で呼び掛けるが、全く気付かない。

 そんな響の元に、穏やかな表情にも関わらず─禍々しいオーラを纏う人物が近づく。そう─響達のクラスの担当教師だ。

 

「立花さん?なにか悩みごとでもあるのかしら?」

「はい…とっても大事な…」

「秋ですものね…立花さんにだって、きっと色々思うところがあるんでしょう─例えば私の授業よりも大事な

 

 それを聞いた響はやっと我に戻り、今が授業中であることを思い出した。

 

「へ?あれ?」

「新校舎に移転して、三日後に学祭も控えて、誰も皆新しい環境で新しい生活を送っているというのに、あなたときたら相も変わらずいつもいつも!いつもいつもいつもいつもいつも…!」

 

 怒りで震える教師を見て、響はすぐに誤魔化そうとする。

 

「で、でも先生!こんな私ですが、変わらないでいてほしいといってくれる心強い友達も、案外いてくれたりするわけでして─」

「立花さん!!」

「ヒィ!?」

「…バカ…」

 

 いつものように怒られている響に、未来だけでなくクラスメート達全員が皆呆れ返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね!信じられないのは、それをご飯にザバーっとかけちゃったわけデスよ!絶対におかしいじゃないデスか!そしたらデスよ…?」

 

 その頃、今は廃病院となっている建物の中で、切歌と調はシャワーを浴びていた。すると切歌は調の様子がおかしいことに気づく。

 

「まだ、あいつのことを…デスか?」

 

 切歌の言うあいつ─それは一週間前、自分達と一戦を交えた装者の一人である響のことだ。

 切歌に話しかけられた調の脳裏に、響の言葉が思い起こされる。

 

『話せば分かり合えるよ!戦う必要なんか…!』

「なんにも背負ってないあいつが─人類を救った英雄だなんて、私は認めたくない…」

「うん…本当にやらなきゃならないことがあるなら、例え悪いと分かっていても、背負わなきゃならないものが─」

「っ!」

 

 突如、調が目の前の壁を殴りつけた。

 

「困っている人たちを助けるというのなら、どうして…!」

 

 そう言って歯を噛み締める調。

 そんな調を見た切歌は、彼女の手をそっと握ると静かに絡ませ、互いに身を寄せ合う…

 そんな百合百合しい空間が広がっていたシャワー室に、今度はマリアが入室し、彼女もシャワーを浴び始めた。

 

「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない…迷って振り返ったりする時間なんてもう、残されていないのだから…」

「マリア…」

 

 どうやらマリアは、切歌達の話を外で聞いていたようだ。

 

(それにしても彼…戦っている間、ずっと眉間にシワを寄せていたわね…まるで、私と戦うのが辛いかのような─)

 

 マリアがシャワーを浴びながら、先日戦ったツナのことを思い出す。すると突如、いきなり警報がなり始め、建物内の防衛システムが起動した。

 

 

 

 

 

 

 制御室では、ナスターシャがモニターに写し出された禍々しい生物─否、自立型完全聖遺物であるネフィリムを眺めていた。

 

(あれこそが伝承にも描かれし、共食いすら厭わぬ飢餓衝動…やはりネフィリムとは、人の身に過ぎた─)

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産─とかなんとか思わないで下さいよ?」

 

 そこへ白衣を着た男が、部屋の中に入ってくる。

 

「Dr.─…」

「例え人の身に過ぎていても、英雄たるものの身の丈に合っていれば、それでいいじゃないですか」

「マム!さっきの警報は─!!」

 

 そこで、先ほどまでシャワーを浴びていた三人が部屋に駆け込んできた。

 白衣の男は、先頭にいたマリアに視線を向ける。

 

「次の花は未だ蕾ゆえ、大切に扱いたいものです」

「心配してくれたのね…でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ…隔壁を下ろして食事を与えているから、直に収まるはず…」

 

 ナスターシャが話した直後、彼女の話を否定するかのごとく、振動がマリア達がいる部屋に響く。

 

「マム!」

「対応処置はすんでいるので大丈夫です」

「それよりも、そろそろ視察の時間では?」

 

 ネフィリムの起こす振動が響くなか、男がナスターシャにそう問いかける。

 

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要─起動に先だって、その視察を怠るわけにはいきませんが…」

「こちらの心配は無用…留守番がてらに、ネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ」

「では、調と切歌を護衛につけましょう」

「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」

 

 二人の間で、互いの手の読みあいが行われる。そして─先に折れたのはナスターシャの方だった。

 

「─分かりました…予定時刻には帰還します─あとはよろしくお願いします」

 

 そう伝え、ナスターシャが三人をつれて部屋を出ようとしたところで、男が思い出したように話し始める。

 

「そういえば…いい忘れていましたが、政府が隠していると思われるシンフォギア以外の─ノイズを倒すことのできる力をもつ少年についてですが…彼、少し厄介な敵かもしれませんよ?」

「どういうことですか?」

 

 彼の言葉を聞いたナスターシャが動きを止め振り返る。

 

「知っての通り、私はライブ会場での戦いをこっそり見ていたのですが─実は彼、最後の最後で私の視線に気づいたんですよ。それも、かなりの距離が離れているというのにです…そのことから、彼は感覚─もしくは直感がよほど優れているのではないかと思われます」

 

 男が科学者らしい意見を真剣な表情で伝える。彼を知るものからすれば、そんな顔を浮かべるのはとても珍しいことだと分かるだろう。

 だからこそ、ナスターシャ達は彼の話を真剣に聞いていた。

 

「─確かにそれは、気になるところではありますね…彼の力に関する情報は政府から一切公開されておりませんから…」

「ええ…私が知っているのも、炎を使って戦うこと─そして、彼の名前が沢田綱吉ということぐらいですから」

「沢田…綱吉…」

「名前が分かっただけでも僥倖です。こちらでもできるだけ調べておきましょう」

 

 そういってナスターシャ達は部屋を出ていく。

 

(さて…蒔いたエサに獲物はかかってくれるでしょうか…)

 

 男はナスターシャ達の背中を見送ると、眼鏡を怪しく光らせ、画面に映るネフィリムに目を移した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…!」

 

 夕日が照らすリディアンの廊下を、一人の少女が駆け抜ける。そんな彼女が角を曲がると─向かい側からきていた誰かとぶつかり、両者共に尻餅をついた。

 

「わき見しつつ廊下を駆け抜けるとは、あまり感心できないな…」

 

 ぶつかられた女性─風鳴翼がぶつかってきた相手を確認すると─

 

「イッツツ…」

「雪音?何をそんなに慌てて」

 

 そう…廊下を走っていた少女は─リディアンの制服を着た雪音クリスだったのだ。

 相手に気付いた翼が驚いていると、クリスは慌てた顔で立ち上がる。

 

「奴らが─奴らに追われてるんだ!もうすぐそこにまで…!」

「何!?」

 

 すると、すぐに足音が聞こえてきた。

 クリスは壁に引っ付いて隠れ、翼が足音の主を確認する。だが、走っていったのは同じ学校の生徒だった。

 

「特に不審な輩など見当たらないようだが…?」

「そうか…うまくまけたみたいだな…」

 

 安堵の声をこぼし、壁からはなれるクリス。

 

「奴らとは、いったい…?」

「あぁ…なんやかんやと理由をつけて、あたしを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」

 

 クリスが逃げていた相手を翼に伝えていると、遠くでクリスの名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

「フィーネを名乗る謎の武装集団も現れたんだぞ?あたしらにそんな暇は─って、そっちこそなにやってんだ?」

 

 呆れ顔で話していたクリスだったが、翼の持っているダンボールを見て首をかしげる。

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

 

 翼はぶつかった際に落とした道具を拾いながら説明する。

 

 

 

 

 

 

 現在リディアンでは、開催があと三日に迫っている『秋桜祭』と呼ばれる学祭の準備が行われていた。

 その学祭は、共同作業による連帯感や、共通の想い出を作り上げる事で、生徒たちが懐く新生活の戸惑いや不安を解消することを目的に企画されている。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな」

 

 道具を拾い終わった翼が、クリスに急な提案をした。

 

「なんでだ!?」

「戻ったところでどうせ巻き込まれるのだ…ならば少しぐらい付き合ってくれてもいいだろう」

 

 困惑するクリスに翼はそう言うと、自分のクラスに向かって歩いていく。

 そんな彼女を見たクリスは、不満げな顔をしつつもついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだこの生活に馴染めないのか?」

「まるで馴染んでないやつに言われたかないね」

 

 翼のクラスにて、学祭に使う紙の花─一般的にペーパーポンポンと呼ばれるものを作りながら雑談を始める二人。

 

「フッ…確かにそうだ。しかしだな、雪音─」

「あ、翼さん!いたいた!」

「材料取りに行ったまま帰ってこないから、皆で探してたんだよ?」

 

 すると教室のドアが開き、翼のクラスメートの三人が入ってきた。

 

「でも心配して損した!いつの間にか可愛い下級生連れ込んでるし」

「皆、先に帰ったとばかり…」

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってそうだし」

「だから私達で手伝おって!」

「私を、手伝って…?」

 

 自分を心配するものがいたことに驚く翼。

 

「案外人気者じゃねぇか」

 

 そんな彼女を見たクリスが茶化してくる。

 

「でも昔は、ちょっと近寄りがたかったのも事実かな?」

「そうそう!孤高の歌姫っていえば聞こえはいいけれどね」

「初めはなんか、私達の知らない世界の住人みたいだった」

「そりゃあ芸能人でトップアーティストだもん!」

「でもね!」「うん!」

「おもいきって話しかけてみたら、私達と同じなんだってよく分かった!」

「皆…」

 

 クラスメート達の話を聞き、嬉しそうな表情を浮かべる翼。

 

「特に最近は、そう思うよ」

「─ハァ…チェッ!うまくやってらぁ」

 

 そんな彼女達の会話を聞いていたクリスが、わざとらしくそっぽを向く。

 

「面目ない…気にさわったか?」

「さぁてね─だけどあたしも、もうちょっとだけ頑張ってみよっかな…」

 

 気を悪くさせたのかとクリスを心配した翼だったが、彼女の最後の言葉を聞き安堵の表情を浮かべる。

 

「そうか…」

「もう一頑張りと行きますか!」「うん!」

「よし!さっさと片付けちゃお!」

 

 クラスメート三人がそう言うと、5人でペースを上げて作り出した…

 

 

 

 

 

 

 そしてその日の夜…

 

『いいか!今夜中に終わらせるつもりで行くぞ!』

 

 通信機から弦十郎の声が響く。

 場所は浜崎病院─ツナ達は、緒川が入手した情報をもとに、敵のアジトと思われる建物へ突撃しようとしていた。

 

『明日も学校があるのに…夜間の出動を強いてしまい、すみません…』

「気にしないで下さい。これが私達、防人のつとめです!」

「正直、俺はもう帰って休みたいんですけど…」

 

 真剣な顔で答える翼の横で、疲れた顔をするツナ。

 そんな彼の言葉を聞いたリボーンが、通信越しに話しかけてくる。

 

『なーに弱音を吐いてやがる。防人の務めもはたせねぇようじゃ、立派なボスになんてなれねぇぞ』

「いや、防人とボスは関係ないだろ!それに俺はマフィアのボスにはならないって─『ちなみに、明日いつもの時間に起きれなかったら、次の休日はミッチリネッチョリ漬けだからな』んなー!?ネッチョリはイヤー!」

「仲良し漫才は後でにしろ!?」

 

 いつものやり取りを始めた二人をクリスがとがめる。

 なお、『ネッチョリ』という単語が響いたのか、今のやり取りでツナの疲れは彼方へと消え去っている。

 

「街のすぐ外れに、あの子達が潜んでいたなんて…」

『ここは、ずっと昔に閉鎖された病院なのですが、二ヶ月前から少しずつ、物資が搬入されているみたいなんです…ただ、現段階ではこれ以上の情報が得られず、痛し痒しではあるのですが…』

「尻尾が出てないのなら、こちらから引きずり出してやるまでだ!」

 

 緒川の話を聞いたクリスが病院に向かい走りだし、そのあとを三人が追う。

 

 

 

 

 

 

「おもてなしといきましょう…」

 

 その様子をモニタリングしていた男が、PCを操作する。すると、病院の通路に赤い煙が溢れ始めた。

 

 

 

 

 

 

(なんだ、この煙…?)

「やっぱり、元病院てのは雰囲気だしてますよね…」

 

 病院内に突入し、物陰に隠れながら移動していたツナ達。その道中、誰よりも早く煙に気付いたツナの横で、周りを見渡した響がそんなことを呟く。

 

「なんだ?びびってるのか?」

「そうじゃないけど…なんだか空気が重いような気がして…」

「─以外に早い出迎えだぞ」

 

 翼が確認していた方向を見ると、奥から大量のノイズが向かってきていた。

 

《Balwisyall Nescell gungnir tron…》

《Imyuteus amenohabakiri tron…》

《Killiter Ichaival tron…》

 

 装者達は聖詠を歌ってシンフォギアを纏い、ツナは死ぬ気丸を飲んでハイパーモードになる。

 

「挨拶無用のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー」

BILLION MAIDEN

 

 最初に仕掛けたのはクリス。

 彼女が二丁のガトリングを乱射させると、ノイズは容易く灰と化していく。

 

「やっぱり、このノイズは…!」

「ああ、間違いなく制御されている!」

 

「One,Two,Three 消え失せろ」

 

「立花、沢田!雪音をカバーだ!懐に潜り込ませないように立ち回れ!」

「はい!」「ああ!」

 

 翼の指示に従い、四人はそれぞれに分かれてノイズを倒していく。

 

「イ・イ・子・は・ネンネしていなッ!!」

 

 いつものように順調に倒しているように見えたが、途中で異変が起こり始めた。

 ツナの方がいつも通り順調に倒しているのに対し、装者達三人の方は、攻撃を与えるとノイズ達は一瞬炭化するものの、すぐに再生していくのだ。

 

「ハァ!」

蒼ノ一閃

 

 翼のエネルギー刃がノイズを切り裂くが、ノイズは再生し響達に近づいてくる。

 

「なんで、こんなに手間取るんだ…!?」

「─ギアの出力が落ちている…!?」

 

 周囲を囲まれ、一ヶ所に集められた響達はやっと、自分達の異常に気付きはじめる。

 

「大丈夫か!」

 

 すると、ノイズ達の頭上を通ってツナが響達のもとに飛んで来た。

 

「ハァ!」

 

 ツナが響達に攻撃を仕掛けようとしていたノイズを殴ると、ノイズは炭化し消滅していく。

 

「なんで、おまえだけいつも通りなんだよ…!」

「─恐らく、さっきから通路に流れてる赤い煙が原因だろうな…どういう理論なのかは分からないが、この煙が響達のフォニックゲイン値を─っ!!」

 

 自分の考えをのべていたツナは、奥から何かが迫ってきていることを超直感で気付き、響達に襲いかかる直前に殴り飛ばす。

 しかし、闇から出てきた物体は、そのまま消滅せず地面に着地した。

 

(あれは…まさか!?)

「死ぬ気の炎で迎撃したんだぞ!?」

「なのになぜ炭素と砕けない!」

「まさか、ノイズじゃない…?」

「じゃあ、あの化け物はなんだっていうんだ!」

 

 響達は、ツナが殴ったのに消滅しないこと─そしてツナは、自分が殴り飛ばした生物の正体に驚きを隠せない。

 すると奥から、拍手が聞こえてくる。それに気付いた四人が奥の方に目を凝らすと、白衣を纏い眼鏡をかけた、彼女達も見覚えのある男性の姿があった。その正体は─

 

「ウェル博士!?」

 

─行方不明となっていた筈のウェル博士だった。そして彼の手には、紛失していた筈のソロモンの杖が…

 装者達の視線がウェルに集中しているなか、ツナはウェルが持ってきた小型の檻にゆっくりと入っていくネフィリムをじっと見つめる。

 

「以外に聡いじゃないですか」

「そんな!博士は、岩国基地が襲われたときに…!」

「つまり、ノイズの襲撃は全部…!」

 

 翼が睨み付けるなか、ウェルは飄々とした面持ちで語り始める。

 

「明かしてしまえば、単純な仕掛けです…「搬送時の襲撃の時点で、すでにソロモンの杖はケースの中から取り出され、おまえが隠し持っていた」ほぅ…」

「最初の襲撃…あれは、おまえの自作自演だった─違うか?」

 

 ウェルの話を遮って、ツナが自分の予想を語ると、ウェルは再び拍手を送る。

 

「いえいえ、見事に大正解です。やはりあなたは、()()()()()()()()()()()()ようですね…」

 

 ツナに不気味な笑みを見せるウェル博士。

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し制御することを可能にするなど、この杖をおいて他にありません」

 

 ウェルはそう言いながら、さらにノイズを呼び出した。

 

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそがふさわしい!そう思いませんか!」

「思うかよ!」

 

 そうクリスが反論すると、ウェルは杖を使ってノイズ達を響達に近づかせる。

 それをみたクリスが、ミサイルを展開し始めた。

 そんな彼女をみて、ツナが止めようとする。

 

「待て、今の状態で技を使ったら─!」

 

 しかし、クリスはツナの制止をふりきりミサイルを放ち、ノイズを通路ごと爆破する…が、フォニックゲイン値が低いことによるバックファイアがクリスの体を蝕む。

 

「クリス!」「雪音!」

 

 全身を襲った激痛に倒れかけたクリスを、ツナと翼が左右に寄り添い支える。

 

「無茶をして…」

「っせえな…くそっ!なんでこっちがズタボロなんだよ…っ」

(この状況で出力の大きい技を使えば、最悪の場合─そのバックファイアで、身に纏ったシンフォギアに殺されかねない…!)

「あれは!」

 

 翼が自分達の現状に悔やんでいると、響が上空を指差す。

 声に反応した三人が上を見上げると、小型空輸型のノイズが、先程ネフィリムが入っていった檻を持ってどこかに向かっていた。

 

 

 

(さて…身軽になったところで、もう少しデータを取りたいところだけれど…)

 

 そう考えながら振り向いたウェルは、身構えている響をみて両手をあげて降参の意を示す。

 

「立花!その男の確保を!沢田は雪音のことを頼む!」

「翼!」

 

 そんななか、今度は翼がツナの制止を振り切り、小型空輸型を追いかける。

 

(天羽々斬の機動性なら…!)

 

 翼が徐々にノイズとの距離を近づけていくが、相手は遥か上空。ただ飛び上がるだけでは届かない距離だ。そこへ、本部からの通信が入る。

 

『そのまま飛べ、翼!』

(飛ぶ…!?)

『海に向かって飛んでください!どんな時でもあなたは─!』

 

「幾千、幾万、幾億の命 すべてを握りしめ振り翳す」

 

 翼は弦十郎達の言葉に困惑しながらも、言われた通り崩壊した道路の先端から海へ向けて飛び上がり、両脚部のブレードのバーニアで近づこうとする。

 しかし先程の煙の効果が残っているのか、すぐに不調を起こし海に落下していく。

 すると、翼が落下していく先で、巨大な潜水艦─二課の仮設本部が浮上し、翼の足場としての役目をはたした。

 翼は弦十郎達が作り出した足場を使いノイズに急接近すると、すぐさま切り刻む。

 そして落下しながら、ネフィリムの入ったケースを回収しようとした─その直後、上空から一振りの槍がネフィリムから距離を離すように翼を吹き飛ばした。

 

「翼さん!」

「あの槍…マリアか…!」

 

 槍の主─マリアは、水面に渦をまかせながら、空中で浮遊するアームドギアの柄に立つと、ネフィリムを回収する。

 そんな彼女の背を、水面から顔を出した朝日が照らす。

 

「時間通りですよ─『フィーネ』」

「フィーネだと…!?」

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり─彼女の二つ名でもある」

「まさか…じゃあ、あの人が…!」

「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」

 

 それを聞いた三人がマリアを見つめる。

 太陽に照らされるアリアの姿は、神々しく見えた…




んー…一回自分で内容を見返してみた結果、タグにご都合主義と処女作も追加した方がいい気がしてきました。
何とか原作のキャラクター性を出そうと頑張ってますが、やっぱり難しい…


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