バフデバフ (ボリビア)
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番外編
もしも、さしすと同年代だったらと言う名のリメイク的な話


ふと存在しない記憶が溢れてきたので


1話より前に移動しました


(ここが命の使い時か。)

 

 この3日間で最大のチャンスがあるとしたら、ここだろうと考えてはいた。

 特級術師である二人と一級の自分がいると知った上での時間制限付きの懸賞金。

 あの時間制限はこちらの精神を揺さぶる目的と五条悟に術式による脳への負荷を与える為である事は二日前から分かっていた。

 

(どうやったら五条悟に勝てるかは入学当初からずっと考えていたからこそ分かる。)

 

 唯一のチャンスでありここが失敗したら確実に相手は雲隠れする。

 そう確信があった。

 だからこそあえて味方には伝えずに、我慢した。

 

(これはその罰かな。)

 

 姿を見た瞬間、己では勝てないと察した。

 術式を無効化する手段と一瞬で近付く奇襲的な術式の組み合わせという予想は覆り、非常識な身体能力での暗殺という手段。

 三人の中で最も格闘に秀でていたからこそ、五条悟を越えようと考えていたからこそ、目の前の暗殺者が五条悟の死だと認識した。

 

(最強と劣等、猿でも分かるシンプルな話だ。)

 

 故に轟悟は前に出た。

 腹を刺された五条悟を庇うように乱入者を蹴り飛ばす。

 

「!?」

 

(俺が蹴られただと?)

 

 蹴り飛ばされた事に最も動揺していたのは乱入者であった。

 事前情報でも三人の中で最も弱い雑魚と思っていた学生、術式は己の肉体の劣化に過ぎない所詮一級程度の存在。

 轟悟の術式は『強化』というシンプルな術式であり、『縛り』を利用する事で真価を発揮するタイプの術式であり轟悟もその例に漏れず。

 1日一回、三分間限定の全身を超強化する大ボス用の

『拡張術式 武留虎万』

 部位と時間を限定し一瞬の強化しインパクトで敵を倒す

『拡張術式 瞬勁』

 どちらを使用しても乱入者にとって対応可能な温い術式であり脅威とは捉えてなかった。

 轟悟が何も捨てない前提なら。

 

「何やってんだよお前!?」

 

 六眼だからこそ五条悟には友人が手遅れな事が分かった。

 術師にとって『縛り』とは己にルールを課す事で術式や呪力の出力を底上げする技術である。

 その中でも最上級の縛りが『自死』、即ち死を確定させる事による底上げは他の縛りとは一線を超える恩恵をもたらす。

 轟から溢れる通常では考えられない呪力がその絶大な効果を示していた。

 

「これが最適解だろ、前座を努めてやるんだから感謝しろ。

 死に目に会いたかったらさっさと仕事済ましてこい。」

 

 後ろは振り返らず、眼の前と怪物へと突撃していく。

 

(自死による縛り、俺より早いか。)

 

 乱入者、伏黒甚爾は避けきれず蹴り飛ばされながら天の逆鉾で轟の足を貫いた。

 

(スピードは向こうが上、パワーはこっちか。

 多分トータルは基本的に互角。

 仕入れた情報から考えてコイツは3分後に死ぬ。)

 

 轟の片足は貫かれた一瞬だけ術式は解除されたが、既に傷の内側から肉が盛り上がり形で癒やされ塞がれていた。

 

(おまけに術式を一時的に無効にしても刺した部位だけ解かれた

だけで意味がねぇし細胞そのものも強化されて再生もすると。

 三分間限定、俺と並ぶ肉体で不死。

 狙いは時間稼ぎと俺を少しでも削る事か。)

 

「青春って奴か、泣けるねぇ。」

 

「なら死ねよ。」

 

 猛攻は止まらない。

 本人が評価したようにスピードは轟悟が上。

 しかも再生前提のノーガード戦法により攻撃の手を緩まず打撃による猛攻は確実にダメージを与えていた。

 

(チッ、五条家の坊っちゃん対策しかしてねぇのが仇になったか。)

 

「何だよ、自分と同じレベルと戦うのは初めてか?」

 

「舐めんな小僧。」

 

 一瞬で逆転された。

 打撃の為に伸びた腕を掴み、その勢いを利用、振り回すように地面に叩きつけながら、関節を捻るようにして破壊した。

 フィジカルだけなら並び立つが年季が違う。

 何十年と超人的フィジカルも共にあった伏黒甚爾にはその肉体を活かせる技がある。

 スピードが止まった。

 起き上がるよりも早く、空を蹴って轟の上から押さえつけた伏黒甚爾は容赦なく天の逆鉾を突き刺し続けた。

 

「アッあ嗚呼アッあ嗚呼!」

 

 体中を掻き回され、常人なら絶命する筈の痛みでも縛りによる強制的な術式の発動で無理矢理修復される事で死ぬことはない。

 そしてその痛みの中で生きている左腕は渾身の力で

 禪院甚爾が手を止めた頃には轟悟は原型を留めてなかった。

 骨も肉も砕かれてかき混ぜられた肉溜まり。

 

「これでも死なねーのかよ、気持ち悪。」

 

 原型を留めず肉溜まりとなろうとも縛りのせいか人の形に戻ろうとしていた轟悟に対して頭と心臓に当たるであろう部位を予備の得物で縫い付けていく。

 

(本当は天の逆鉾を頭に突き立てるのが一番だが、そしたら五条のガキを殺せねぇし勿体無い。

 ここまで再生を妨害すれば時間切れで死ぬだろ。

 チッ、大分離されたな。)

 

 轟悟から視線を外して、高専の方へと目を向ける。

 正門から離されたが未だに高専の敷地内、星漿体の暗殺に間に合うかどうかで言えばギリギリだった。

 引くか否か。

 

(引くか。)

 

 一瞬、『五条悟を超える』という誘惑が過ったが、伏黒甚爾に誇りや矜持なんてものは存在しない。

 それに己を脅かすのは五条悟だけではないという事をついさっき経験した。

 仮に五条悟を殺せたとして星漿体が同化してしまえば依頼達成とならない。

 どう考えても時間が足りない。

 呪術師殺しの名前に傷が付くが大した問題ではない。

 この一件で舐めた対応されたらソイツを後悔させれば良い。

 

(しかも、あの小僧ご丁寧に急所じゃなくて四肢に来やがった。)

 

 校門から引き離した時点で轟悟の目的は達していたのだ。

 故にこっから先は憂さ晴らしである。

 

「このまま逃げれると思ってるのか?」

 

 立ち去ろうとしたその時、最強が後ろにいた。

 刺された服は破けているが家入の元に向かい傷跡は無く、友を失った同様もない。

 あるのは冷徹な怒りのみ。

 滲み出る呪力が空気を震わせる。

 慢心の無い、最強がそこにいた。

 その姿に伏黒甚爾は忘れていた笑みを浮かべ得物を構えた。

 

「イヤ、気が変わった。」

 

 過程は変わらない。

 慢心を無くそうと年季という実力差は変わらない。

 高速立体機動と蠅頭のチャフによって暴君有利に進んでいく。

 だが、ここに例外が一人いる。

 

(…チッ、ヤキが回ったな。)

 

 天の逆鉾を突き立てようとした瞬間、まるでイタズラが成功した糞餓鬼の如く五条悟は嗤っていた。

 その笑みに暴君が気付いた時には手遅れだった。

 黒い閃光が走り、己の胸を後ろから右腕が貫いてた。

 振り返ると、轟悟が立っていた。

 頭と心臓に武器を突き立てられながら、全身が再生しながら崩壊を繰り返しボロボロの体で嗤っていた。

 

「…五条悟は囮かよ。」

 

 捨てたはずの熱に浮かれた。

 

「バカは目立つからな。」

 

 突き刺さった右腕が崩れて二人は同時に倒れ込んだ。

 伏黒甚爾は前方に、轟悟は後方に。

 

「轟!!」

 

 五条悟が駆け寄り、轟悟を抱きかかえようとするが、触れた部分から崩れ落ちていく。

 

「…俺の死に目に会えたって事は、仕事は果たした訳だ。」

 

「いや、天元の下には連れて行かなかった。」

 

「…だと思った。

 ガキ一人犠牲にしなきゃいけない世界なんざクソ喰らえだからな。

 …理子ちゃんに、傑を見張ってろと伝えとけ。

 あの馬鹿は必ず折れるからな。」

 

 天内理子にとって轟悟は三人の中で一番良い兄貴分だった。

 夏油傑と轟悟は同じ一般の出自でありながら呪術師としてのスタンスで良く対立していた。

 

「静かにしろ!

 直ぐに硝子が来る!」

 

「硝子か…。

 …愛してるって伝えとけ。」

 

「自分で伝えろ馬鹿!!」

 

 家入硝子への告白は1年生の頃、初めて会った時から毎日繰り返された恒例行事だった。

 

「…七海と灰原の…面倒しっかり見ろよ。

 灰原は…根明だ…からすぐ…死ぬぞ。」

 

 後輩である灰原と七海は地力を鍛えるために良く一緒に鍛錬を行った二人からすれば一番マシな先輩である。

 

「…死の間際って本当に…眠くなるんだな。」

 

 六眼は轟悟から呪力が抜けていくのをはっきりと捉えていた。

 残酷なまでに命が終わっていく。

 

「寝るな、しっかりしろ!!

 死んだら殺すぞ!」

 

 五条悟と轟悟は互いに名字で呼び合うが親友であった。

 

「五条、後は頼んだ。」

 

 そして最期に呪いを残して轟悟は逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 この世界線のメリット。
 六眼、天元、天漿体の運命の結びが破壊されない。
 夏油闇落ちしない、理子ちゃんが嫁。
 天の逆鉾が無事。
 灰原生存。
 羂索が動かない。

 この世界線のデメリット

 禪院恵の誕生。
 五条悟、反転術式に目覚めず。
 家入硝子に消えない傷跡。

 

 主人公はこの後、家入によって反転術式で綺麗な体にされて体だけ生きてる植物状態で家入によって保存されてます。
 もしくは縫い目をつけて再登場します。
 後は拝みババアが暴君呼び出したら縛りが復活してワンちゃん。

 拡張術式 武留虎万
  轟悟が考案した拡張術式
  三分間全身を強化して超パワーで敵を圧倒する。
  使用すると半日術式が使えなくなる。

 拡張術式 瞬勁
  高専にあった強化術式の使い方の一つ。
  殴打等の動きの一瞬だけ術式を使用する縛りで出力を上げる通常仕様での攻撃。
 
 


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本編
スカウト


 生まれた時から、いや違う。物心着いた頃から俺は凄い力を使えた。

 筋肉とは違うそれを手に込めれば簡単に石を砕けたし、足に込めればオリンピックなんて屁でもない。

 目に込めれば千里を見据えて、耳に込めれば聖徳太子を越える。

 皮膚なら金剛、傷口なら修復される。

 それになんと、物にも込められる!

 服は鎧に、ナイフは名刀になる!

 圧倒的力、圧倒的万能感!

 …だが悲しいかな、出る杭は打たれるように突出しすぎたこの力は人様に見せればめんどくさい事になる。

 聡明な俺はそれを幼いながらにぼんやりと分かっており、人前では見せなかった。

 だが奮いたい!

 この力を思いっきり使いたい!

 その願いに応えるように相応しいサンドバッグが身近にいた事は幼少から今に続く幸いだろう。

 人の目には見えないグロテスクな化け物。

 普通の人には見えないそれは、力を込めた状態なら触れるし殴れる。

 しかもそいつらは明らかに人に害を与えていたので大義名分としては十分だった。

 化け物を倒すヒーローという分かりやすい構図。

 何故かそいつらは学校や駅等の人が集まりやすい場所に現れるため、夜中にしか戦えないのが問題だが。

 そうやって俺は欲求を満たす為に戦い続けて中学三年生の卒業式、はじめて敗北した。

 卒業式も終えたその日の夜。

 高校は県外なので地元での最後の大仕事として、百葉箱に潜む化け物を退治しようとしたのだ。

 それに気がついたのは中三の春、何時も通り町内パトロールの一環で学校を見回った時に百葉箱から強い気配を感じたのだ。

 最初は気の所為かと思ったが日を追う毎に気配は強くなっている。

 それに比例して百葉箱の近くにある運動場の一角は日陰で涼しいのにも関わらず、体育の時間も夏休みの運動部も近寄らなくなっている。

 そして秋にはついに百葉箱の近くで告白しようとした男とされた女が倒れる事件まで起きた。

 その時点で俺はあれがラスボスだと確信した。

 どんどん気配が強まるし、恐らく卒業式位の時期には封印が解けて出てくるだろうと判断した。

 だから俺は卒業式の後、深夜に学校に侵入して百葉箱を開けたのだ。

 中にあったのは黒い石だった。

 黒ずんでボロボロの紙切れに包まれた小さな石。

 

(気配は確かにこいつからする。

 黒ずんだ布も文字みたいなのが読めるし、曰く付きって感じがするがそれだけだ。)

 

 月にかざして観察したが只の石ころ。

 

「マジかよ、本当に只の石ころかよ。

 こう封印が解けてモンスターが現れるとかじゃないのかよぉ」

 

「いや、只の石ころじゃないからそれ。」

 

 突然話しかけられた。

 つい全身に力を込めて振り返ると一人の男が立っていた。

 先ず思ったのが背が高いこと。

 次に思ったのが黒いという事。

 

「…あんた誰?」

 

「えー、と東京都立呪術高等専門学校の一年担当五条悟!

 それの封印が解けそうだから回収しに来た。」

 

(う、胡散臭せー!

 俺の力があるから呪術は多分あるんだろうけど、こいつそのものが纏う雰囲気が胡散臭すぎて信用出来ねえー!)

 

「取り敢えずそれ頂戴ね。」

 

「あっ。」

 

 気がついたら五条悟は俺の隣で俺の持っていた石ころを摘まんでいた。

 

(今の俺が見えなかった!?

 五感も強化してるんだぞ!?)

 

 胡散臭いがどうやら本物らしい。

 

「あれ?

 封印大分前から解けてるじゃん。

 でも君のお陰で被害がなかった訳か。

 君だろ?

 この町の呪い祓ってるの。」

 

 あのグロテスクなモンスターは呪いなのか。

 

「よく人が居るところに沸いてくるグロテスクなモンスターの事なら多分そう。」

 

「へえー、いいね。

 呪いの性質を朧気ながら掴んでる。

 君さウチ来ない?というか来て。」

 

 ウチというのは多分、自己紹介の時に名乗った高校の事だろう。

 自分の力の正体を知る為にも入る価値はあるのかもしれない。

 知れないが、大事な事が一つある。

 

「そこ入ったら、今より強くなれて力を思う存分振るえる?」

 

「勿論!

 バンバン使ってもらうよ!

 強くなる点について、君は才能ありそうだし僕に並ぶかもね?」

 

 並ぶかもという事は俺はこの男より弱いらしい。

 なら試させて貰おう。

 不意打ちで全身に力を込めた上で拳に更に力を込めて、隣の長身に思いっきり殴り付ける。

 

「ッ!?」

 

 全力で殴ったのに、傷一つ、いや届いていないのか!

 

「なるほど、君が今やったそれは単純に呪力を込めた攻撃だと思っていたけど、強化そのものが術式な訳か。

 いいね!

 ああ、僕に届いてないのは単純に相性の問題だから気にしないで。」

 

 術式やら呪力やら語るがどうでもいい。

 分かった事は俺は五条悟より弱いという事。

 そして、力を思う存分振るえる環境があるという事。

 

「手続きとか親の説得をそっちに丸投げして良いなら入る。」

 

「いいよー!

 (伊地知に丸投げしーよっと。)

 あっ、そういえば名前何て言うの?」

 

「轟悟」

 

…本当に大丈夫か?

 

「わ、僕と同じ名前じゃん!

 運命感じちゃうねぇ!

 じゃ、詳しいことはまた後日お家にお邪魔して話すから今日の所は解散で。

 バイバーイ!」

 

………本当に大丈夫か?

 俺はスタスタと帰っていく自称教師の背中を見ながらそう思った。

 いや、あれで教師は無理だって。



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入学準備

 五条悟という胡散臭い自称教師と出会った次の日、早速呪術高専の関係者が我が家にやって来た。

 冴えないサラリーマンという印象が第一に来る男は混乱気味な両親と俺に呪術や呪いについての話をしてくれた。

 曰く、年間一万人の行方不明者や自殺者として扱われる人の大半は呪霊と呼ばれる人の負の感情や畏れから生まれるモンスターが原因である。

 呪術高専は呪霊に対抗出来る人間を呪術師に育てる育成機関であると同時に関東の呪術師の拠点であり、国の公的な機関である。

 大まかにこの二点の説明と証明、俺に呪力がある事を説明された両親は詐欺師を見る目で冴えないサラリーマン(伊地知と自己紹介していた。)を見て、俺が騙されているのではないかと疑っていたので、車が趣味である父の所有するバールを蝶結びにすると納得してくれた。

 

「それと、此方で勝手に調べた結果ですが轟君の御両親は御二人とも家系を遡ると呪術師の家系に当たったので才能は保証します。」

 

 両親の曾祖母位が地方のそこそこな呪術師一族の三男とか次女とかに当てはまるらしい。

 これには両親は別の意味で驚いていた。

 何でも二人とも子供時代に親が酒で酔っ払ったりボケ始めた本人から聞いた事があり、その話が切っ掛けで付き合ったらしい。

 

(いや、何で俺の話なのに親の馴れ初め聞かなきゃならんのだ?)

 

「母さん、これは運命だよ!」

 

「ええ、その通りよ貴方!」

 

 フフフ、アハハと両親のイチャイチャが始まった。

 何時もの事なのでスルーするが、多分独身童貞の伊地知さんにはとても辛いだろう。

 まあ、お陰で俺の呪術高専行きは上手く言った。

 後、学費は無料で寮完備、それとお給料くれるらしいやったね。

 

「では此方にサインをお願いします。

 寮の手配が出来次第、入寮となるので宜しくお願いします。

 後、轟君は一般からの入学なので三月中は担任の五条先生が基礎的な部分の指導を行いますので宜しくお願いします。」

 

 あの人マジで教師だったんだ。

 数日が経ち、入学予定の高校への入学辞退やら荷物の準備をしていると、入寮の準備が出来たと連絡があった。迎えが来るとの事で待っているとインターホンが鳴り、玄関を開けると五条悟がいた。

 

「やっほー。

 お迎えだよ。

 さっ、荷物は伊地知に任せて乗って乗って。

 じゃあ僕はちょっと君の両親に挨拶してくるから。」

 

 荷物をさっと奪われ、恐らく運転手をしていたであろう伊地知さんに投げ渡したと思ったら勝手に家に入っていった。

 

「…。」

 

「…はぁ、取り敢えず車の中で待ってましょう。」

 

 暫くすると両親を伴って五条悟が現れた。

 母が涙ぐんでる姿に眉を上げたが、恐らく呪術師になることのリスクやらを説明したのだろうか。

 ただ、正直言うと親に反対されても無理矢理入るつもりだから今更困る。

 五条悟に「息子をお願いします。」と頭を下げる両親に対して、五条悟も「任せてください。」と真面目に答えている姿は教師らしいと思った。

 

「さっ、行こーか。

伊地知出して。

 いやー、一般人を入学させる時って大体親が反対するけどスムーズに行って良かった良かった。」

 

 前言撤回、やっぱり尊敬とか無理だわ。

 

「取り敢えず今後の予定だけど、基本的にウチに入る生徒って代々呪術師の家の子供とかで最低限の呪力コントロールと自分の術式の把握は出来てるんだよね。

 君も何となく使いこなせているけど、春休みの間僕が暇な時にそこら辺の使い方を教えるから。

 何か質問ある?」

 

「呪力がMPぽい感じなのは分かるんですけど術式って何ですか。」

 

「簡単に言うと固有能力。

 呪力を持つ人間は体に術式が刻まれていて術式に呪力流すと術式が発動する。

 魔法使いより超能力の方が近いかな。」

 

 そういう事なら俺の術式は強化とかそんな感じになるのかな?

 

「呪力単体で出来る事って何ですか。」

 

「色々あるよ、力の塊みたいな物だからね。

 体を強くしたりとか、投げつけたりとか。

 でも効率悪いからおすすめしない。」

 

 呪力で体を強化出来るなら俺の術式は違うのか?

 …ダメだ、他の人間の使い方知らないから意味ないな。

 向こうに着いてから考えよう。

 それから、呪霊の成り立ちやら何で、学校に呪具を置いてあったのやら色々と俺の経験を呪術師としての知識に置き換えていると唐突に五条先生はぶっ込んできた。

 

「あ、そうそう。

 着いたら先ず学長と面談だから。

 因みに面談に落ちると入学取り消しね。」

 

「は?」

 

 …入学取り消し?

 つまり、アレか。

 面接に落ちたら親の涙も本来の入学自体も全部無駄になると。

 落ちたら高校浪人生になるのか、とんぼ帰りで家に帰るのか。

 

「…それ、先に言うべきですよね。」

 

「大丈夫、大丈夫!

 君なら大丈夫だって!

 ほらほら落ち着いて、呪力漏れてるぞ★。」

 

 死ね。

 五条悟への殺意を高めながら到着を待つ。

 運転席の伊地知さんが震えているがどうでもいい。

 

「お、着いた着いた。

 荷物は車に預けてていいよ。

 じゃこっからは俺一人で案内するから。

 さ、降りた降りた!」

 

 殺意を高めながら深呼吸で昂る呪力を押さえていると、目的地に着いたらしい。

 学校というか辿り着いた場所に関する印象は、山の中に無理矢理神社仏閣を詰め込んだという感じ。

 呪術師だからやはりそっち系の宗教中心なのかと関心したが、五条悟曰くハリボテらしい。

 

「こっからは歩いて向かうから。」

 

 五条悟に付いていき、内部を進む。

 玉砂利の敷地を進み石畳みを歩くと、神社ぽい所に辿り着いた。

 

「こんなかに学長いるから。

 五条悟でーす!

 新入生連れてきました!」

 

 ノックもなく堂々と入る五条悟に続いて中に入ると、ザ・本堂と言った場所で灯りとして幾つもの蝋燭が照らすが暗い印象を覚える

 そして奥にファンシーなヌイグルミに囲まれたグラサンとアゴヒゲのおっさんがいた。

 手には制作中と思われるヌイグルミを持っているから恐らく手作りだろう。

 

(完成度は高いがデザインがダセェ。

つーか、呪術師って変人しか居ないのか。)

 

「遅い。

 十分の遅刻だ悟。」

 

「だってさ、悟君。」

 

「…轟ではなく五条の方だ。」

 

(うわ、めっちゃダンディな声。)

 

「さて、君が轟悟だな。

 俺はここ、都立呪術高専の学長夜蛾正道という。

 早速だが少年、君は何故呪術師を目指す?」

 

 グラサン越しに確実に此方を見ながらいきなりシリアストーンで問い掛けてくる。

 もう面接は始まってるらしい。

 

「この力を活かす為。」

 

 一歩前に出て答える。

 

「嘘だが嘘ではないな。

 もっと正確に言ってみろ。」

 

(ばれてーら。)

 

「力を全力で振るうため。

 堂々と、大手を振ってこの力を思いっきり使いたい。

 呪術師になれば国のお墨付き付きで力を振るえるんでしょ?

 十分な理由だと思いますけど。」

 

「…幼稚でイカれてる。

 だが他人や正義を理由にしない点は気に入った。

 轟悟、君を歓迎しよう。

 悟、轟君に寮を案内してやれ。」

 

(あれ?

 こんだけ?)

 

「合格おめでとう!

 じゃ、次は寮に案内するから。

 荷物は伊地知に後で届けさせるから。」

 

…大丈夫か、ここ?

 自分で言うのも何だけど結構危険思想だと思うんだけどなあ。

 

「面接ってアレだけって大丈夫なんですか?

というか、あの回答で合格って大分攻めてますね。」

 

「呪術師も人手不足だし、僕の推薦だから落ちることはまあ無いんだけどね。

 それに、別に君が呪詛師になっても僕がいるし?

 道を外れるつもりなら精々気をつけて。」

 

 呪詛師っていうのは多分、呪術を悪用する奴の事なんだろうけど…

 

「随分、先生は自信があるみたいですね。」

 

「あるよ?

 だって僕最強だから。

 なんなら、寮に案内する前に君の術式の把握も兼ねて少し遊んであげるよ。

 大丈夫、手加減するから。」

 

 …別に俺は力を思う存分振るいたいだけであって、最強とかそういう称号に興味はない。

 けど、さっきの面接の件も含めて色々とイラっと来てる訳だし?

 この人の面に一発ぶちこめれば、さぞスッキリするだろう…。

 

「是非、宜しくお願いします。」

 

 

 




早速のフラグ。
主人公の名前は轟悟です。
時系列どうしよ…


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名前を付けよう。

 寮へ向かわず、学校の道場にて俺と五条先生は向かいあっている。

 

「じゃ、取り敢えず術式見てあげるから本気の一発ぶつけてみてよ。」

 

 構えも取らずポケットに手を突っ込み、完全に余裕綽々と言った感じで佇む五条先生。

 戦うと言っていたが完全に此方を舐め腐っている。

 さっきから昂ってしょうがない呪力を全身へと流し強化する。

 

「殴る前に一つだけ聞きたいんですけど。

 先生の態度ってあれですか。

 挑発して呪力のコントロールを乱すのが狙いでやってるとかですか。」

 

「え、何の話?」

 

(素かよ!)

 

 畳を全力で蹴りつけて間合いを一気に詰めて腰を入れた渾身のストレートを顔面へと見舞う。

 五条先生に当たる僅かギリギリで何かに止められる。

 

(…いや、止まるというより遅くなっている?

 違う、近付いてる筈なのに顔までが遠くなってる!)

 

「うん、悪くない一撃だ。

 大振りで無駄が多いけど、並みの術師ならそもそも捉えられない速さだし、この威力なら一級の呪霊で二発は耐えられない。

 ちなみに連発出来る?」

 

 返答せずに更に呪力を全身に入れて、ラッシュを放つ。

 顔を中心に肝臓、鳩尾、こめかみ、あらゆる部位を叩くが五条先生には届かない。

 体感で五分間叩き込んだが全て無駄に終わり呪力も尽きてその場で倒れ込んでしまう。

 

(はあ、はあ、はあ。

 どうなってんだこの人!?)

 

「そのまま寝てていいから話を続けるよ。

 君の術式は『強化』だね。ゲームでいうバフってやつ。

 呪力だけで行うそれとは効率も段違いで違う。

 けど、君の呪力コントロールがショボくて半分位は呪力での強化になってる。

 君の術式が掛け算なら呪力での強化は足し算みたいなイメージかな。」

 

 やっぱりバフか。

 呪力は物に込めても強度は上がらないみたいたが、俺が込めるとTシャツは頑丈になるし、包丁はまな板すら切れる様になる。

 要するに俺の術式としての強化は対象のステータスを伸ばす感じだ。

 パラメーターの一部、あるいは全体を強化することが出来るが、逆にパラメーターに無いステータスには効果が無いだろう。

 

「その呪力コントロールが良くなれば、五条先生殴り飛ばせます?」

 

「無理だね。

 昔の僕ならイケルかもしれないけど、今の僕を殴り飛ばせる存在なんてこの世にいないんじゃない?」

 

 今なら言ってる事がマジだと分かる。

 あの紙一重の距離が遠くなる感覚。

 原理は分からんが直感的に俺には攻略法がないと解った。

 取り敢えず立ち上がり、五条先生に頭を下げる。

 

「今まで舐めてました。

 すいませんでした。」

 

 やってやろうとか考えた事自体烏滸がましい。

 五条先生と俺では天と地とかではなく、ゲームマスターとプレイヤーみたいな別次元の差がある。

 

「別にいいよ♪

 それより、君の術式を見て確信したよ。

 君は僕に並ぶ位の術師になる。」

 

…マジで?

 

「マジで?」

 

「マジマジ!

 基本だけ教えて後は学長に投げようとか考えてたけど気が変わった。

 手取り足取りマンツーマンで教えるよ。」 

 

 そういうのは、美人な女教師が良かったなー。

 

「取り敢えず、今の轟君の課題は二つ。

 一つは呪力コントロール。

 全部術式に流せるようにしよう。

 もう一つは術式への理解を深める。

 君の術式は君の思っている以上に奥が深いからね。」

 

 滅茶優しい。

 それに教師っぽい。

 この人性格に目を瞑れば凄く優秀な教師なんじゃ…?

 

「それじゃあ、第一歩として術式の名前を決めようか。」

 

「名前ですか?

 バイキルトとかそんな感じの?」

 

「そう、名前を決める事で術式の輪郭がはっきりする。

 それに、術式の名前や効果を他人に教える事は縛りになって術式の効果が増すからね。」

 

 『縛り』は弱点を明かす事で術式そのものや呪力を高める方法らしい。

 制約が強ければそれだけ効果もでかいが、『名前を明かす。』等の小さい制約でも効果があるとかで呪術師の大半は術式の内容まで明かす事が多いらしい。

 名前か、そういえば付けた事無かったな。

 にしても名前か、いざ考えると何にも思い浮かばない。

 

「急に名前思い付かないんですけど。」

 

「こーいうのは直感でいいんだよ。

 ホラホラ、思い付かないなら僕がマジでテキトーにつけちゃうよ?」

 

 短い付き合いだが、この人のテキトーはマジで碌でもない意味のテキトーになるのは分かった。

 

(術式の効果は強化、バフ、ステータスアップ、加点…)

 

「…じゃあ、加点法で。」

 

 カタカナは何かダサいというか違う気がするし、色々応用が効くだろうからシンプルなのを求めて、ステータスに加点して強くなるという意味で『加点法』でどうだろうか。

 

「いいね!

 それじゃあ、轟悟の術式名は『加点法』に決定!」

 

 

 




というわけで主人公の術式名は『加点法』になりました。
バフに当て字したかったけど、良いのが思い付かなかった。


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先輩との交流

前話「名前を付けよう」について一部加筆しました。
また、術式名を「加点法」に変更します。



「今日の所はこんな感じで、明日からガンガン鍛えるからよろしく!

 あ、そうそう僕これから用事出来たから寮には一人で行って。

 はいこれ地図。

 あと荷物は既に運ばせてあるから。

 じゃーねー!」

 

 というわけで訓練所っぽい所を出て寮へと一人で向かっていた。

 寄り道で時間食ったとはいえ、本来は寮への案内が仕事なのに其を放棄するのはどうなんだろう。

 

(最強なのは分かったけど、いまいち教師としての尊敬を持てないよなあ。)

 

 五条先生の評価や自分の術式の可能性、呪力について等、今日学んだことを自分の中で整理しながら歩いていると前を見てなかったせいで人にぶつかった。

 

モフっ!

 

「おっと、ごめんなさい。(モフ?)」

 

 毛皮のような感触に首を傾げながら、前を見るとパンダの背中があった。

 一瞬、置物かと思ったが此方を振り替えってガッツリ見てくる。

 

「ん?

 誰だお前。」

 

(いや、こっちのセリフだよ。

 なんだよ二足歩行で喋るパンダって。)

 

「いくら?」

 

 パンダの向こうから更に小柄な少年が鮭の卵の名前を疑問系で呟きながら覗いてくる。

 

「おーい。

 何してんだよ、さっさと行こうぜー。」

 

 更に遠くから女性の声が聞こえてくる。

 ここで漸く俺は情報の整理が出来てきた。

 いや、整理することを諦めた。

 

「えっと今年から此方でお世話になる。

 轟悟です。」

 

「あー、お前がパンピーから入学してくる奴か!

 俺はパンダ、二年生だ。

 こっちは狗巻棘、呪言師でなおにぎりの具でしか喋らない。

 で、あっちに居るのは真希。

 よろしくな!」

 

「しゃけ。」

 

 先輩なのか。

 というか、パンダなのか。

 

「よろしくお願いします。

 パンダ先輩、狗巻先輩。」

 

 改めて先輩二人を眺めると、パンダ先輩は完全にパンダ。

 狗巻先輩は口元を隠している。

 呪言師というのは多分、言葉に呪力を乗せるからおにぎりの具しか喋れないのだろうか?

 

「なにお前らぼーっと立ってんだよ。

 誰だお前?」

 

 向こうから見たらパンダ先輩に俺が隠れてるせいで二人が長々と立ち止まってる様に見えたのか、もう一人の先輩、真希先輩と思われる人が戻ってきた。

 

(ポニテ、メガネ、おっぱい。

 最高か?)

 

「自分!

 今年から入学する、轟悟です!

 よろしくお願いします!」

 

「おー、お前がパンピーから入学するとかいう一年か。

 あたしは禪院真希。

 名字は嫌いだから名前で呼べ。」

 

「よろしくお願いします!

 真希先輩!」

 

(俺達の時とテンションちがくね?)

 

(たらこ。)

 

 パンダ先輩と狗巻先輩がヒソヒソしてるがスルーする。

 イロモノしかいないと思ってたけど美人な先輩いて良かったー。

 

「で、轟はここで何してんだよ?」

 

「五条先生に寮への地図渡されて、考え事しながら歩いてたらパンダ先輩にぶつかってしまって。」

 

「ふーん。」

 

 真希先輩は興味無さそうに地図を覗き込んでくる。

 あ、いい匂い。

 

「お前、これ女子寮だぞ。」

 

「は?」

 

「え、お前女なの?」

 

「高菜。」

 

 真希先輩に言われて慌てて地図を確認すると、丸印が有る所は確かに『女子寮』と書いてある。

 そして、丸印から一本の細い矢印が伸びておりその先に『こっちが男子寮』と記されてある。

 思わず地図を握りつぶしてしまった俺を誰が責める事が出来るだろうか。

 

「パンダ先輩、狗巻先輩、ちゃんと付いてますよ。

 そしてくたばれ、クソダサ目隠し野郎。」

 

「あっ、お察し(合掌)。」

 

「…たらこ(合掌)。」

 

「あー、ドンマイ。

 せっかくだから寮まで案内してやるか。」

 

 そのまま寮に着くまでの間、先輩達の事を聞いて、自分の術式の事、入学経緯やらをパンダ先輩が聞いてくるので話す事になった。

 追加で先輩達について分かったのはパンダ先輩は突然変異呪骸とかいうワケわかんない存在で実はパンダじゃないらしい。

 真希先輩は呪具という武器のスペシャリストで天与呪縛とかいうので、呪力や術式が無い代わりに身体能力が凄いらしい。

 確かに、歩いてるだけで何か違う気がする。

 後、乙骨先輩という凄い二年の先輩がいるらしいが今は海外らしい。

 

「なあ、轟の強化って他人にもいけるの?

 あ、俺基本名前呼びなんだけどアッチの悟と被るから轟って呼ぶな。」

 

「俺もさっき、まるで学長に自分が怒られてるみたいな錯覚食らったんで寧ろ名字呼びでお願いします。

 服とかバットとかには使った事有るんですけど、他人はやったこと無いから分かんないっす。」

 

(分かんないが、多分感覚的には出来る気がする。)

 

 ただ、今の俺だと呪力なのか術式なのか曖昧だから絶対やらないけど。

 

「そっかー、他人に使えれば棘とか超強化出来んのになー。」

 

「しゃけ。」

 

 狗巻先輩の呪言は言葉で相手を支配出来るらしいが、呪力の消費より肉体への負担がデカイらしい。

 確かに俺の術式が他人にも有効ならそこら辺はカバー出来るだろう。

 

「じゃあ、俺の術式が他人にも使えたらコンビ組みましょうよ。

 俺が背負って高速移動して、呪言ぶつけまくるとか。」

 

「しゃけ。」

 

「チートだろそれ。」

 

「おい、着いたぞ。」

 

 先頭を歩いていた真希先輩が立ち止まる。

 先輩の先には大きめのアパートぽい建物があった。

 ここが男子寮か。

 

「俺はここ住んでないけど、棘が住んでる。

 後、お前以外にも入学予定の一年が先に入っているぞ。」

 

「じゃ、私らはこれから用あるからまた今度な。」

 

「タラマヨ。」

 

「皆さんありがとうございます!」

 

 先輩達とは寮の前で別れて寮に入ろうとするとパンダ先輩だけ戻ってきた。

 俺の肩をポンと叩きつつ。

 

「ちなみに、真希と憂太はいい感じだから諦めろ。」

 

 そう言って戻っていった。

 俺は失恋した。

 

 



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術式の効果を知ろう。

誤字報告助かってます。


 枕を濡らした次の日の朝。

 ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!

 バカみたいなピンポン連打で目が覚めた。

 スマホで時間を確認すると、午前5時。

 

(…ぜってー、五条先生だ。)

 

 取り敢えずご近所迷惑確実なので玄関の扉を開けると案の定、五条先生がいた。

 

「おはよう、無事に辿り着けたみたいだね!

 はい、これ朝御飯。」

 

 正直朝御飯は有難い。

 地図は昨日の一件で握りつぶしてしまいダメになったしこの時間から売店とか食堂がやってるとは思えない。

 

「朝食ありがとうございます。

 次から呼び鈴は一回で大丈夫なんで。」

 

「考えとくよ。

 じゃあ下で待ってるから!」

 

 あの考えとくは変える気ないな。

 はぁ、と溜め息を漏らし取り敢えず着替える。

 荷物と一緒に高専の制服も届いていたが、厳密には俺はまだ中学生だしジャージで良いだろう。

 ジャージに着替えて、朝食を食べようと五条先生からもらった袋を開けると中にはおはぎが入っていた。

 朝食としてどうなの?と思ったが食べれなくはない。

 もしかしたら呪術師は体力勝負とか頭を使うからとかそういう理由で炭水化物+糖分のおはぎなのかも知れない。

 朝食を終えて、寝癖を整えて下に降りて五条先生と合流する。

 

「五条先生、おはようございます。」

 

「うん、おはよう。

 取り敢えずこれ腕につけて。」

 

 五条先生から差し出されたのは銀色の細い腕輪。

 

「あの、着けたら目茶苦茶痛み出したんですけど。」

 

 取り敢えず言われた通りに右手首に通すと、腕輪が小さくなり手首を圧迫してきた。

 

「呪力流してみて。」

 

 言われた通りに呪力を流すと、今度はゆるゆるになった。

 

「轟は呪力自体は捻出出来るけどコントロールが大雑把だから、今日一日その腕輪を常に締め付けず、緩まずのベストな所で維持してね。」

 

 取り敢えず、呪力を流す量を変えて丁度良いサイズに調整してみるが安定しない。

 

「取り敢えずそれを四六時中付けて無意識レベルで安定した呪力コントロールを身に付けて貰うから。

 で、同時に術式の使い方についても色々と教えていくから。

 さ、運動場に移動!」

 

 というわけで運動場にやってくると、水の入ったバケツや木材、シャツ、折れたバット等の粗大ごみといっても過言ではない山があった。

 

「今日って粗大ごみの日か何かですか?」

 

「あれが今日の教材。

 昨日、二年生達をパシって用意した多種多様なごみ山で轟にはひたすら術式を試して術式の明文化をしてもらう。」

 

 明文化、要するに自分の術式を口で説明出来る様に理解するって事だろうか。

 あと、先輩達の用事ってこれだったのか、後でお礼を言おう。

 

「間違った解釈とかしちゃいませんか?」

 

「肉体に刻まれた術式だから、解釈が間違ってたら直ぐに違和感として気付くよ。

 それに、今目指すのはあくまでも口で説明出来るレベルの理解。

 更に理解を深めるのはその後、僕が指導する。

 じゃ、僕これから仕事あるから。

 昼迄には戻ってくるねー。」

 

 ヒラヒラと片手を振りながら校舎へと消えていく五条先生を横目に粗大ごみの山を漁る。

 

(折れた刀、釘、スライム、鞭、何でもあるというか普通に物騒だな。

 何時も通りを確認したいし取り敢えずバットで良いか。)

 

 バットは民間人でも手軽に入手出来て扱いやすい武器として昔から使っている。

 バットを二本手に取り、術式で片方のバットを強化する。

 両腕を強化して、強化バットと普通のバットを思いっきり叩き付けると案の定普通のバットが折れる。

 

(俺自身が把握してるのは加点法は対象を強化する事。

 バットを強化すれば頑丈になるし腕を強化すれば腕力が増す。)

 

 正直単純な術だと思う。

 だが、それだけなら五条先生は目をかけないだろう。

 つまり、俺の術式は単純に見えて複雑、あるいは本当の使い方がある筈だ。

 今までの経験を思い出しながら、目の前のガラクタに術式を施していく。

 

(刀は名刀、シャツは鎧、スライムは良く伸びる。水は変わらない…。

 水だけ特に変化がないのは何故だ?

 だけどスライムには変化があった…。

 そもそも俺の強化って何を強化してるんだ?)

 

 色々と試しながら考えると、根本的な問題として強化とはそもそも何をしているのかという疑問に辿り着いた。

 当たり前過ぎて気付かなかった疑問だ。

 刀なら切れ味、スライムなら粘性、バットなら強度と言った感じで結果が変わる。

 

(…性能を高めている?)

 

 試しに術式を施してない刀の刃を強化バットで叩く事で刃を潰してみる。

 

(これなら刀として機能はしない筈。)

 

 刃を潰した刀に術式を施して木材に振り下ろす。

 普通の刀に術式を施すと綺麗に真っ二つだが刃を潰した刀を振り下ろした結果、真ん中当たりまで食い込んだ。

 今度は何も施してない刀を同じように木材に振り下ろすと、少しだけ食い込んで止まった。

 

(強化した刀で真っ二つ、刃を潰して強化した刀は真ん中辺りで食い込み、なにもしてない刀は刃潰し以下か。)

 

 結果から考えると、俺の術式は性能を強化していると考えるべきだろう。

 だが、俺の勘がずれていると告げている。

 

(間違ってはないが、それだけじゃない。

 そもそも刀の性能って何だよ。

 概念の強化?

 違う。

 もっと単純な筈だ。)

 

「やっほー、進んでる?

 あとその手痛くない?」

 

 考えに集中していると五条先生がやってきた。

 どうやらお昼になっていたらしい。

 集中が切れると急に右手が痛みだしたと思ったら腕輪が手首を締め付けて手が赤黒く成っている。

 あわてて呪力を流して腕輪を緩める。

 

「寝てる間は外していいけど、気を付けてね。

 で、進歩どう?」

 

 取り敢えず午前中の成果を報告する。

 

「なんというか、対象の何処を強化してるのか分からなくて。」

 

「え、なんで簡単じゃん?

 というか、自分で言ってたじゃん。

 バイキルトみたいなものって。」

 

「いや、あれは例え話――」

 

(――そうか。)

 

 ふと、確認したい事が出来てバケツに入った水の中に左手を入れて術式を行使する。

 

(バイキルトもそうだが、強化っていうのは俺の中で二種類ある。

 1つは全体を底上げする強化、そしてもう一つがステータスの一つを強くする強化。)

 

 バケツの中から手を引き上げると只の水はスライムのように俺の手に纏わりついて来る。

 

「…先生、明文化出来ました。」

 

 自分の術式への理解が深まり笑みが漏れる。

 

「聞かせてもらおうか。」

 

「俺の術式、加点法は対象の持つパラメーターを強める事が出来ます。」

 

「うん、OK。

 後、かっこつけてる所悪いけど、手首締まってるよ。」

 

 あ、ほんとだ右手が赤い。

 

 

 

 

 




 今までの主人公はイメージで何となく強化してました。
 刀なら切れ味良くなるというイメージでそれに近付けるように刀の持つパラメーターを雑に強化してました。
 本来のは対象の持つパラメーターを強くするので、水に対して粘性を強めて水飴見たいな状態になりました。
 要するにオート操作からマニュアル操作に切り替えた感じです。

Qちょっとガバくない?
A最強が無限とかいう訳わかんねぇ要素持ち出してるからヘーキヘーキ。


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校外実習

 術式の内容を明文化した後、五条先生は昼飯のつもりとしてカステラと紅茶を置いて何処かに消えた。

 また何かしら企んでるのか単純に忙しいのか分からないが、気にせずカステラを食べる。

 その後、休憩を挟みつつ粗大ごみをふんだんに使って術式の意識的な使用方法や実践での活用を模索してながら日が落ちるまで過ごしていると、五条先生がニコニコしながら戻ってきた。

 あの顔は多分ろくでもない事を考えている気がする。

 

「実習行こっか。」

 

 厳密には校外実習と言いながら先生に連れられて車で学校から移動する。

 移動中、晩飯として渡された大福を食べながら運転席を見ると伊地知さんが此方をチラチラ見ながら青ざめた顔で運転してる。

 

「そういえば、伊地知さんって五条先生の付き人なんですか?」

 

「そうだよー。

 二年下の後輩だからパシってる。」

 

 五条は肯定してるが、伊地知さんは違う違うと必死に首を振っている。間違ってるだろうが、扱い的には多分合ってる気がする。

 

「後、伊地知さん顔真っ青ですけど大丈夫ですか?」

 

「あっ、そうそう今回の実習というか三月中に行った実習は全部他言無用ね。」

 

(あっ、察し。)

 

 俺の疑問を遮るように、告げた先生の今の言葉で俺の疑問と伊地知さんの顔色が悪い理由が一瞬で分かった。

 これ規則的にダメだ。

 それも伊地知さんの顔色からして相当にヤバイのだろう。

 対外的に見れば、三月のこの時期は厳密には中学生、呪術高専の生徒ではない。

 一般人の中学生に呪霊退治をさせるなんて誰がどう見てもアウトだろうけど伊地知さんも五条先生に逆らえないし五条先生も誰にも言うつもりはない。

 俺もしゃべる気は無いので実際、問題はない。

 つまり、伊地知さんは少し心配性な人間らしい。

 青から紫に変わりかけている伊地知さんを先生と二人でからかっていると、目的地に着いたのか車が止まった。

 ドアを開けて外を確認すると、目の前に元はホテルか何かであったと思われる廃墟があった。

 

「此処に肝試しに行った大学生四人が行方不明になってる。

 十中八九呪霊の仕業なので、轟君には僕の代わりに呪霊を祓って貰います!

 腕輪は外して良いから。

 じゃ、伊地知。帳降ろして。」

 

「…分かりました。」

 

 諦めたのだろう、真っ白に燃え尽きた伊地知さんが帳を降ろしていく。

 帳は呪力を持たない一般人から姿を遮断する為の結界術で誰でも使えるけど難しいらしい。

 廃墟を囲うように黒い結界が辺りを包み込む。

 

「それじゃあ、制限時間5分!

 ヨーイスタート!」

 

 先生はいつの間にか取り出したストップウォッチを持って車に寄っ掛かり完全に観戦ムード。

 一緒に付いてくるとかそういう気は一切無いらしい。

 俺が五分間で解決出来なければ一瞬で片付けるのだろう。

 教師としてどうなのと思ったが、これも一つの信頼だろうと自分に無理矢理言い聞かせて中に入ると、呪霊独特の気配を感じる。

 確実に黒だろう。

 

(さて、俺も試したくてウズウズしてたし。

 やりますか。)

 

 俺は術式の意識的な使い方について色々と模索してる時に一つ気付いた事がある。

 自分以外の対象については俺自身が対象のパラメーターの内、把握している部分しか強化出来ない。

 例えば、PC等の複雑な機能やパラメーターを持つ対象は、意識的に強化する時は一つ一つの小さな部品レベルまで知り尽くした上で強化する、あるいは引き出したい機能に合わせてパラメーターを調整する必要がある。

 唯一の例外として俺の体は俺が意識しなくても生まれた時から無意識に全てを把握している。

 腹の底から呪力を捻出して、先ずは体の表面に流す。

 

(そして、呪霊に触れる為に必要な体の表面を纏う呪力以外、全てを術式に回す。)

 

 術式への理解を深めてから初めての自己強化。

 全身に染み渡る様に、丁寧に本来知覚出来ない無意識に行っていた領域まで呪力による知覚で意識的に術式を施していく。

 骨、筋繊維、内臓、神経、大脳、小脳、細胞の一つ一つまでありとあらゆる俺を構成する全ての要素を戦闘に適したパラメーターに強化する。

 

『加点法 神級』

 

(ああ、上着は邪魔だな。)

 

 完全戦闘形態と成った俺は上着を全て脱いで上半身を曝して空気を感じる。

 知覚が鋭敏になる、目、耳、鼻、肌、全てがこの場、廃墟のありとあらゆる情報を捉えて、強化された神経は伝達された情報をダイレクトに送り、強化された俺の頭脳は全てを理解した。

 

(そこか。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりました。」

 

「おつかれ、どうだった?」

 

「生存者は0、呪霊は祓いました。

 あと、遺品と骨の欠片が沢山あったので回収しときました。」

 

「OK、伊地知に渡しといて。」

 

 上着で包んだ骨を上着ごと、伊地知さんに渡すと伊地知さんはとんでもないような者を見る目で此方を見てくる。

 

「そう言えばタイムは?」

 

 先生が此方に見せてくるタイマーは4分50秒で止まっていた。

 

「一皮剥けたね、ご感想は?」

 

「最高にスッキリした気分です。

 今までの使い方が馬鹿みたいでした。

 取り敢えず、服買ってください。」

 

 新しい上着を買ってもらい、帰りの車の中で五条先生と反省会を行う。

 

「…なるほど、単純な身体強化を超えて脳や神経の強化まで出来てあの呪力消費で済むのは反則だね。

 基本的な戦闘スタイルは今の感じで良いと思う。

 後、脳の強化は一部機能を特化する感じとか行ける?」

 

 込めた呪力は今までの時と同じだが、術式を意識して体に流すだけで過去の俺とは比べ物にもならないぐらいの差があった。

 術式100%の強化というのもあるが、強化する方向を意識的に調整出来たのがデカイ。

 細胞が耐えられる呪力まで術式で強化すれば更に上を行く事は可能だろうし、脳に関しては特定の機能に特化させる事も出来る筈。

 

「練習が必要ですが可能だと思います。

 あと、神経系以外の肉体の強化なら他の人でも行けます。」

 

 脳や神経と違って、筋肉や骨、内臓に関しては個人差は少ない。

 今の俺でも代謝機能や循環機能を弄らない、筋肉や骨のみにした場合なら他の人にも可能だろう。

 

「いいね、今の所轟君は僕の予想していたレベルより高い段階になってる。」

 

 先生は俺の加点法の新たな使い方『神級』について根掘り葉堀聞くと、物凄く楽しそうに笑っている。

 恐らく、既に幾つかの応用方法を思い付いてるのだろう。

 

「じゃあ暫くの方針は、戦闘スタイルの確立と精度を上げていこう。後、伊地知使って他者への強化が何処まで行けるのか試そうか。」

 

「了解です。」

 

「取り敢えず、これからは実践経験と術式の練習を兼ねてガンガン校外実習して貰うから。」

 

 五条先生の言葉に、伊地知さんが待ったをかける。

 

「さ、流石に何度もこんなことしたら、学長にバレますよ!

 あと、勝手に実験台にするの勘弁してください!」

 

 あ、実験台よりそっち優先なんだ。

 

「大丈夫、大丈夫。

 バレる頃には唸らせる位の実績積ませるから。

 あ、逃げようとしても書類とか色々弄って、手遅れなレベルで伊地知も共犯だから宜しくね♪

 それに、実験台と言っても僕の考えが正しければかなり安全だと思うし。」

 

「いや、あの、私の、立場…。」

 

 あ、折れた。

 こうやってパシられてるんだろうなぁ。

 此方に捨てられた犬の様な助けを求める顔を向けてるが、ボクコドモダカラオトナノハナシワカラナイ。

 そんなこんなで、初めての校外実習(非合法)の一回目が終わった。

 

 

 

 

 

 




加点法 神級

 加点法の基本的な運用方法。
 術者自身のすべての細胞のパラメーターをその場にあった状態に強化する。
 今回の場合戦闘特化。
 イメージとしては、今までの身体強化はネトゲとかの振り分けポイントを均等に降ってた感じで神級は役割に応じて配分してる。


Q戦闘描写は?

A廃墟の構造及び呪霊捕捉→瞬殺→骨・遺品回収の為、上着を取りに戻る→回収→以上。
 骨・遺品回収が一番時間かかってます。

Qどれくらい強くなったの?

A伏黒パパよりちょい下位。
 なお、限界まで呪力を込めれば余裕で伏黒パパ越える模様。
 
 


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先輩からの可愛がり

 校外実習から次の日、五条先生は朝から用事があるから今日はお休みと言われて暇になった。

 荷解きも午前中で終わり、やることがなくなった為、高専内部を散歩する。

 一瞬、京都かと思う位には神社みたいな建物が多く、人気の無さもあって不思議な雰囲気を感じる。

 

(お休みって言われてもやること無いし、此処って入れる人限られてる関係で娯楽施設ないし。

 かといって東京で遊ぶ金もないしなー。)

 

 仕送りというか3月分の生活費は親から貰ってるが本来入学する高校が私立だった事もあり、仕方ないとはいえ高い入学金を無駄にした自覚がある。

 一応、高専が保証してくれたみたいだが気持ち的にはお金はあまり使いたくない。

 

(自主練習しかやることないな。)

 

 遊びに行く事をやめて自主練習という結論に至った俺は高専を探索がてら自主練習出来そうな場所を探して歩いていると前方から真希先輩が歩いてきたので反射的に駆け寄る。

 

「真希先輩こんにちは!」

 

「おう、轟。

 何ブラブラしてんだ?」

 

 真希先輩は肩に背丈程の棒を担いでいる。

 これから訓練だろうか。

 

「五条先生は用事あるとかで、今日1日暇なんですよ。

 先輩こそ一人ですか?」

 

「ああ、パンダと棘は任務で出かけてる。

 私は昨日任務あったから休みだけど暇だから体動かすとこ。」

 

 先輩も暇か。

 これは、デートチャンスでは?

 パンダ先輩はいい感じとは言っていたが付き合ってるとは言ってない。

 つまり、まだ俺にもチャンスはあるのではないだろうか。(名推理)

 金を使いたくないと言ったが、美人と遊ぶなら話は別だ。

 俺がデートに誘おうと考えていると真希先輩が思い出した様に話しかけてきた。

 

「そういえば、お前。

 小学生の頃から呪霊とやりあってるんだよな?」

 

「小3から金属バットでフルスイングしてましたね。」

 

「よし、ならちょっと付き合えよ。」

 

 というわけで、真希先輩と模擬戦になった。

 …これはデートじゃないな。

 真希先輩が借りた稽古場で、俺は棍棒を持って、真希先輩は棒術に使うような棒を槍に見立てて構えている

 

「強化の術式ありでこいよ。」

 

 先輩は俺の術式がどれ程のモノなのか知りたいらしい。

 取り敢えず、様子見として術式を知る前の俺の強化状態まで術式のみで強化する。

 

(うわ、呪力消費少なっ!)

 

 余りの消費の少なさに驚いていると、真希先輩から催促される。

 

「どうした、かかってこい。」

 

「なら遠慮なく!」

 

 掛け声と同時に、接近し両手に握った棍棒を真希先輩にむけてフルスイングするが、軽く下がってかわした先輩は横凪ぎに棒を振るい、俺の顎を狙ってくる。

 ギリギリ顔を上に反らしてかわすが、どうやら想定済みだったようで、先輩の追撃の回し蹴りが脇腹に直撃する。

 不意打ちだった事もあり、脇腹を押さえながら崩れ落ちる。

 

(エッッグイ…!)

 

「そんな大振り当たると思ってんのか?」

 

 どうやら、大振りの攻撃をされた事が不満らしい。

 

「対人の経験なんてないですよ…。

 呪霊なんて一気に近付いて死ぬまでバットでフルスイングしてれば勝てますし。」

 

「喧嘩くらいしたことあるだろ?」

 

「治安が良かったんですよ…!」

 

 呪霊は見た目が気持ち悪いだけで、知能低いし脆いからバットをフルスイングしてれば勝てたのだ。

 

(あ~痛い。

 まじで痛い、痛み自体は術式でもどうにもならないし、集中出来ない。)

 

 今、初めて知ったが既に起きている痛みを消す手段は俺にはない。

 筋肉や皮膚を強化してダメージそのものを少なくさせる事なら出来るが、防御を上回る今みたいな攻撃を食らうと普通に痛い。

 

「お前、そんなんだと呪詛師に殺されんぞ。」

 

 呪詛師というのは呪術を犯罪に使う連中の事らしい。

 昔は呪霊退治に追われる呪術師を尻目に好き勝手やってたらしいが今は五条先生のお陰でおとなしいとかなんとか。

 

「後、手抜いただろ。

 術式使ってあの程度な訳ねえよな?」

 

「術式を理解する前の強さはあんなんですよ。

 目茶苦茶呪力消費少なくて自分でも驚きました。」

 

「なら、そっちを見せてみろよ。」

 

 脇腹の痛みが収まって来たので、立ち上がり昨日と同じ位の神級を行って真希先輩の後ろに立つ。

 

「こんな感じです。」

 

 声をかけると先輩は驚いた顔をしながら一瞬で自身の得物が届くギリギリの距離まで飛び退いた。

 真希先輩から見てもこの速さは予想以上らしい。

 

「…まじか。」

 

「マジですよ。

 ちなみにこれは簡単に言えば筋肉強化してる感じなのでパワーもあります。」

 

「…何分位維持できる?」

 

「試して見たこと無いので分かりませんが、感覚的に半日位は持ちます。」

 

「ははっ、憂太といい東堂といい、どうなってんだよ一般人。」

 

 憂太とは恐らく乙骨憂太先輩だろうか、特級術師という五条先生と同じ階級にいる先輩だ。

 

「東堂って誰ですか?」

 

「ん、ああ。

 京都呪術高専って姉妹校にいる三年生で、ヤバいゴリラ。

 そいつも元一般人。」

 

 パンダの次はゴリラか。呪術師って人外多すぎない?

 

「…待てよ、お前を東堂にぶつけて後は他の一年鍛えれば今年も勝てるな。

 よし、轟、お前暇な時私に必ず連絡しろ。

 私も暇だったら稽古つけてやる。

 その身体能力なら必要ないかも知れんが、技を学んどいて損はねぇだろ。」

 

「寧ろ此方からお願いしたい位です!

 早速アドレス交換しましょう!

 あ、ラインでも良いです!」

 

「お、おう。」

 

 やったー、真希先輩のアドレスゲットー!

 

「そんじゃ、今日は受け身からやるか。

 術式解いて素の状態でかかってこい。

 ぶっ飛ばして受け身取らせるから。」

 

 何だか、遠回しにボコボコにすると言われた気がするが、有頂天の俺は気にしない事にした。

 後日、顔に出来た青タンを五条先生に爆笑された。

 




なお、チャンスは一切ない模様。


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桜の季節が間近ですが北海道なう。

遊戯王の世界に転生したけど、デッキがデュエルリンクスで40枚ないからデュエル出来ないっていう話を思い付いたから誰か書いて。



「北海道で一級呪霊を退治してもらいまーす!」

 

 春休み最終日、俺は北海道に連れてかれた。

 まだ日も昇らない時刻にピンポン連打で先生に呼び出されて珍しく制服に着替えてと言われたと思ったらこれだ。

 恐らくこの為だけに呼び出された伊地知さんの運転で空港に向かい、飛行機で新千歳空港へと旅立った。

 今はロビーにて迎えを待っているところだ。

 

「そろそろ概要位話してくれません?」

 

「まあまあ、取り敢えず迎えを待とうよ。

 今日はちょっとシビアな授業だからね。」

 

 シビアな授業か…

 何時もよりちょっと真面目な先生に気味悪さを覚えながら迎えを待っていると、二人組のスーツの男が此方に歩いてきた。

 

「失礼、呪術高専の方でしょうか。

 私北海道警察刑事部巡査の二見と申します。

 此方は同僚の二階堂です。」

 

「どうも、呪術高専から来ました特級呪術師の五条悟です。

 こっちは僕の助手の轟悟、ダブル悟なんでよろしく。」

 

「では早速移動しましょう。

 着いてきてください。」

 

 先生の言う迎えとは警察だった。

 真面目な刑事と言った感じの二人は先生の挨拶を軽くスルーして移動を促してくる。

 反応を示さないから五条先生に慣れてると一瞬考えたが、一緒にいた俺にも目もくれない辺り単純に関わりたく無いようだ。

 一応、呪術師は公務員である為警察の要請があれば現場に赴く事もあるが、歓迎されないと聞いた事はある。

 まあ、一般人からしたら理解不能な存在であるため仕方ないだろう、呪力も見えない一般人が下手に関わる方が危険だし。

 警察の車で移動し、裏口から警察署に通され、人目につかないように案内された扉には「死体安置所」と書かれている。

 刑事二人は入り口への案内までが仕事の様で既に立ち去っている。

 

「さて、轟君、今から見てもらうのは呪霊の被害を受けた人の死体だよ。

 厳密には被害を受けたとされる人だけど。

 …覚悟はあるかい?」

 

 恐らく、呪霊による仕業の可能性が高い死体が発見されたからその調査が任務、ということだろうがそれも建前だろう。

 五条先生は鑑定するまでもなく一級呪霊の仕業と考えているなら直接発見現場に赴き、残穢を辿れば良い。

 俺への授業と死体を見る覚悟を先生として確認したかったのだろうと勝手に推測する。

 答えは考えるまでもない。

 

「俺にとって、呪霊は存在するだけで力を振るう理由になります。

 ついでに元一般人として、被害者がいるなら敵討ちもしてやりたいし、道民のこれからの安眠の為に働こうって感性もちゃんと有りますよ。」

 

 俺の呪術師を目指す理由は変わらない。

 俺の全力を振るいたい、それだけだ。

 それとは別に真っ当な感性として、死人の敵討ちをしてやりたいし、被害を防ぎたい。

 俺にとってこの二つは全く別な話であり、混線することは多分無いだろう。

 

「そっか、しっかりイカれてて良かったよ。

 よし、じゃあ早速確認しようか!」

 

 覚悟の確認も終わり、中へと進む。

 既に解剖台には四つの遺体袋が並んでおり、二人で合掌をし、遺体を確認していく。

 取り敢えず分かる事は死体は全て皮を剥ぎ取られていること。所々皮膚が残っており見た感じ無理矢理剥ぎ取ったように見える。

 

「死体は全部山で狩りを行っていた猟師で、全員一週間前に発見された。

 ここ見て。」

 

「…噛んだ跡みたいなのが有りますね。」

 

 先生が一人の遺体の首を指差すので確認すると、確かに犬か何かの噛み跡らしきものがある。

 

「鑑識の結果を見たけど、噛み跡は生前のモノで死後に皮を剥いだみたい。

 だから発見当時は熊による獣害かと思われたけど、熊はわざわざ人の皮を剥がないし、遺体を綺麗に残すなんてあり得ない。

 だから僕らに呪霊の仕業か確認の依頼が来たんだ。

 さて、轟君、北海道で犬みたいな歯形とくれば何を想像する?」

 

「…オオカミですか。

 けど、オオカミって既に絶滅してますよね。」

 

 そう、日本において野生のオオカミは既に絶滅している。

 特に北海道に生息していたと言われる蝦夷オオカミは100年前に絶滅したとテレビでみた記憶がある。

 

「うん、確かにここ北海道でオオカミは絶滅している。

 仮にもし生きていてもオオカミは臆病だから人を襲うなんて先ずあり得ないし先に家畜を襲うよ。」

 

「普通にサイコパスの殺人では?」

 

 精神異常者が狼のフリして殺して皮を剥いだとか。

 

「アメドラの見すぎだね。

 北海道ってね、結構呪力が集まるんだよ。

 オオカミ絶滅なんて結構な人が知ってるし、アイヌ民族のカムイ信仰とか、新撰組とか色々とね。

 被害だけを見ると、僕以外の人間なら二級呪霊として処理するけど、確実に一級呪霊の仕業だよ。」

 

 確か、地方の呪霊は都会に比べて弱い場合が多いが、土着信仰があると話は別らしい。

 偶然か必然か、生まれた呪霊に信仰による畏れが加わり、とんでもない強さを手に入れる場合がある。

 今回の場合、オオカミ絶滅に対する負の感情による呪力と、カムイ信仰による畏れから来る呪力が合わさった一級呪霊が生まれていると五条先生は推測している。

 一級呪霊とは術式を持った呪霊が当て嵌まる等級であり、とてつもなく強い。

 本来なら一級呪術師が相手にするが、それを俺にやらせるというのは、それだけ信頼されているということなのか、無茶振りなのか。

 

「先生の言う通りだとして、皮を剥ぐのは自分達のやった行いが自分に返ってくるという恐怖とかそういう呪いを含んでる呪霊って感じですか。」

 

「間違ってないけど、死んでから皮を剥いでるから、多分皮を剥ぐような術式は持っていない。

 今は猟師を襲った程度だけど、この事件をきっかけに新しい恐怖が生まれるから下手したら特級になっちゃうかもね。」

 

「それを俺にやれと?」

 

「うん♪」

 

 うん、じゃねえよ。

 

「じゃ、取り敢えず被害者が見つかった山に行こうか。

 かなり山奥らしいけど移動は手伝うから。」

 

 …移動は手伝うってどういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前後半に分けます。


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畏れ恐れ

今回のは自信無いと予防線を張っておきます。
けど多分必要な話なので後々加筆修正するかもしれません。


「はい、到着。」

 

 警察署を裏口から出たと思ったら、何時の間にか山の中にいた。

 

「…無限って万能過ぎません?」

 

「まあね、後、無限じゃなくて、僕だから万能なんだけどね、僕だから。」

 

 この人と会話するので大事なのはスルーするところはガッツリスルーすべきであると言うことだ。

 山の中、厳密には山と山の間と言うべきか。

 目的の山はここに着いた時点で気配がプンプンしている目の前の山だろう、全体に残穢が残ってる。

 残穢の感じから己の領域を示すという意図を感じる。

 こういう縄張り意識は動物霊の特徴だとか。

 後、普通に圧がすごい。

 

「この山そのものから呪力感じるってレベルなんですけど。」

 

「多分、ある種の縛りだろうね。

 この山から動けない代わりに呪力を得ている。

 さ、帳を降ろすから後頑張って。」

 

 何時も通りの軽さに逆に安心感を覚えて、術式を発動しながら山に一歩入った瞬間。

 

「っ!?」

 

 縄張りを荒らす者を許さんとばかりに、周囲の雪や地面が一斉に狼に変化し全身に噛みついてくる。

 

「先生、今の俺どうなってます?」

 

「うーん、暖かそう。」

 

(術式は何となく分かった。

 雪や土を媒介に狼の式神を作り出す術式と言った所か。)

 

 顔に食らいつく狼を剥がすと、既に百を越えるであろう狼が此方を殺さんと睨み付けている。

 どうやら此方が一般人で無いのは向こうも気付いてるらしい。

 チラリと後ろを見ると、何時も通りの余裕そうな態度で木により掛かってる五条先生の周りには狼はいない。どうやら術式の範囲はこの山限定らしい。

 一応本物かもと試しに、体に食らいつく狼のうち一体の皮を剥がそうとするとやはり耐久力が失くなったのか霧散していく。

 

「毛皮の採れない狼なんて価値ゼロじゃん。」

 

 ネタは割れた、さっさと本体を見に行こうと思い勢い良く駆け出して山頂を目指す。

 残穢の濃さからいって呪霊本体は山頂に居るのは分かっている。

 食らいついていた狼達は速さに耐えきれず振り落とされて、周囲の狼が行かせるものかと殺到するがそもそも追い付けない。

 正面の狼を打ち砕き、駆け上がり山頂へと進むと赤黒い物体が現れた。

 

(みーつけた!)

 

 山頂にいたのは赤黒い、皮のない家一件位の巨大な人狼だった。

 全身から血を垂らし、呻いてる姿に最初は巨人かと思ったが、被害者達の皮らしきモノを無理矢理張り付けた人皮の頭で狼だと分かった。

 

「ニ、ニンゲン、カワ、ハ、ハグ、イタイ、イタイ、イタイ。」

 

 言葉を話すが支離滅裂、人狼なのはカムイが獣の衣を纏って人の世に潜むとかの伝承からか、単純に狼を絶滅させた人間への畏れからか。

 呪力の量、姿、術式、わずかな知性、どれをとっても二級とは到底思えない。

 

(けど、この程度なら問題ない。) 

 

 山頂まで駆け上がった勢いのまま、人狼に突っ込み取り敢えず目の前にあった右腕を引きちぎる。

 次に左腕、次に腸、次に足と人狼の悲鳴をBGMに解体を進めていく。

 取り巻きの狼達が殺到し、背中や手足に噛み付いてくるが俺の皮膚を突き破る事も圧迫する事も出来ず、多少作業時間を遅らせるだけでしかない。

 核となる頭以外を解体して一つずつ検分していく。

 

「なるほど、ここまで呪力がしっかりしてると一応筋肉や骨もしっかりあるんだ。

 厳密には骨や筋肉として機能する呪力があるというべきか。

 都会のは負の感情メインだから中身が無いっていうかグロテスクなだけなんだよね。

 こういうのも二級との違いなのかな?」

 

 頭以外全てをバラバラにして分かったのは、強い呪霊程、内部がしっかり存在するということ。

 内臓はそこまでしっかりと出来てないが、筋肉や骨等の骨格部分は生物とあまり変わらない構造をしている。

 

「ヒト、カ、ワ、ハグ!」

 

 まだ吠えるかと、そう思って顔を上げると、自分に噛み付いてきた狼や山全体から呪力がいつの間にか消えている事に気付いた。

 いや、消えてるのではなく集まっている。

 人狼の頭に集まっているのだ。

 

(なるほど、術式を放棄して呪力による強化にシフトした訳か。

 一級レベルの呪霊による肉弾戦、面白い。)

 

 人狼の頭からモコリと血肉が流れだしゴポリ、ゴポリと形を成し、山全体に張り巡らせた呪力を携えて元の姿以上の大きさへと戻っていく。

 

「カワ、ハグ。」

 

「うーん、三階建てって感じかな?

 後、皮、皮煩いな。

 毛皮もないお前にくれてやるモノなんて無いよ。」

 

 軽口を吐いた次の瞬間、地面に叩き付けられた。

 跳躍した人狼は俺を真上から叩き潰し、雪を吹き飛ばし、地の底へと落とさんとばかりに追撃の拳を叩き込み続ける。

 

「腰が入ってないよ、腰が。」

 

 全身に殴打の痛みが走るが、ダメージとしては軽い。

 殴ってくる拳を掴んで無理矢理放り投げて脱出する。

 

(だけど、防御は此方が上だけど速さは向こうが上か、少しギア上げてみようか。)

 

 呪力を更に一段階込めて自身のパラメーターを更に引き上げる。

 体感的にさっきの倍の強化、呪力消費的に持って六時間だが十分だろう。

 地を蹴り、空を飛び放り投げた人狼の背中に乗り、両腕を掴み思いっきり背中を蹴る。

 両腕が肩から引きちぎられる形で地面に落下した人狼は即座に立ち上がり回復ではなく迎撃を選択し、落ちてくる俺に対して噛み砕かんと跳躍するが、今の俺には完全に見えている。

 千切った両腕を嫌がらせとして五条先生の居るであろう場所に投げ捨て、跳んできた人狼の上顎と下顎を右手と左手で掴み思いっきり引きちぎり、剥がした下顎をクッションにして着地した。

 

「あ、そうだアレを試そう。

 ほらさっさと起きてこい。

 ほら、お前の嫌いな人間ここに居るぞ?

 それとも縛りを破る覚悟で逃げるか?」

 

 この山に居るという縛りを破れば、こいつは術式も呪力も失い、只の野犬と変わらぬ呪霊に堕ちる。

 それはそれで簡単に仕事が終わって良いがまあ無理だろう。

 

「カワ、ヒト、コ、コロス!」

 

 知能があっても知性がない叫びと共に再生を終わらせた人狼は再び挑んでくる。

 

(さてと、試すか。)

 

『加点法 一迎特化』

 

 軽く人狼にタッチしてゆっくり距離を取ると、人狼は眼で捉え、俺を叩き殺そうと腕を振り上げて力を込める。

 

「はい、アウトー。」

 

 そして力を込めた次の瞬間、グチャリと内部が砕ける。

 腕だけではない、全身のありとあらゆる部位が砕けてその場に崩れ落ちる。

 

「成功、成功。

 自分の考えが実戦で役に立つって気持ちいいね。

 畜生、良く聞け。

 俺の術式、加点法は対象の持つ性質を強化する事ができる。

 俺はお前にさっき触れた瞬間、全身の力のみを強化した。

 意味がわかるかワンちゃん?」

 

 力だけを強化された筋肉は力んだ瞬間、己の力に耐えきれず自壊したのだ。

 人狼が腕を振り上げて全身を力ませた瞬間、全身の筋肉は耐えきれず千切れ崩れ落ちる事になった。

 

「おっと再生しても無駄だ。

 お前はさっきから再生を繰り返して呪力を消費してるが俺はまだ全力を出していない。

 あと六時間は戦えるが試したい事も出来たし、明日は入学式があると思うから、そろそろ終わろう。」

 

 崩れ落ち、再生しようとしてる人狼の頭に足を乗せて踏み潰す。

 核となる頭を潰された人狼の体は再生をやめて只の呪力へと戻って消えていく。

 山頂から登ってきた麓に戻ると、五条先生が待っていたので報告する。

 

「多分、終わりました。

 土地神とかそういう系統ってめんどくさい処理って有りますか?」

 

「メジャー級なら神社とか縛りとか必要だけど今回のは特に大丈夫かな。

 後さ、途中僕めがけて血塗れの腕が飛んできたんだけどわざと?」

 

「さあ?

 それよりも、さっさと戻りましょうよ。

 明日って入学式とかあるんでしょ?」

 

「そんなもんウチにはないよ。

 でも歓迎会開くから、楽しみにしてね!」

 

 あ、そうなんだ。

 入学式ないならもうちょっと遊んでも良かったかな?

 

 

 

 

  

 

 




新しい技。

加点法 一迎特化
 パラメーターの一つだけ強化して相手のバランスを崩したり自壊させたりする。
 今回は筋肉と出力のみを強化して自壊させたが、皮膚を硬化して間接固めたりとか色々と出来る予定。

オリジナル呪霊

人狼

 カムイ伝説やら絶滅した狼やら狼絶滅させた人間の残酷さやらへの畏れや恐れが合わさって生まれた皮の無い人狼。
 術式は土や石、雪等の地にある物を狼に変える。
 縄張りから動かないという縛りで呪力を得ているが、生まれたばかりで弱かった。
 もうちょっと知性があればもう少し強かった。

主人公の容姿

黒髪黒目のTHE日本人。
笑うというより嗤う笑顔が特徴。
身長175cm
体重65kgの標準体型。


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歓迎会

今回セリフ多め。


「というわけで、入学おめでとー!イエーイ!」

 

「いえーい!」

 

「しゃけしゃけ!」

 

「おめっとさん。」

 

 『入学おめでとう』の横断幕、クラッカーを鳴らす五条先生とパンダ先輩と狗巻先輩。

 真希先輩は柄ではないと思ったのか、軽い挨拶だけで済ましてくる。

 そして、床というかシートの上には沢山の料理。

 誰もが思う歓迎会が今、呪術高専にて行われようとしていた。

 

「何で、俺の部屋でやる必要あるんですか…」

 

 伏黒恵の部屋で。

 

「知るか、悟に聞け。」

 

「恵の部屋の方が階段から近かったからね!」

 

 割りとクソみたいな理由で会場決めしてたよ。

 ていうか、俺の部屋の可能性あったのかよ。

 てか、5人と一頭で部屋が狭い。

 

「はぁー…もういいです。

 轟、飲み物くれ。」

 

「はいよ、コーラで良い?」

 

 部屋の主である伏黒とは今日が初対面でそこそこ仲良くなれた。

 簡単な自己紹介したら『ああ、毎朝五条先生にインターホン鳴らされてたのお前か。』と言われて五条先生に振り回される仲という事で仲良くなった。

 共通の敵が結束を強めるのだ。

 ちなみに伏黒は春休みの間、二年生の任務に随行してたらしい。

 

「本当はもう一人入学する予定なんだけど訳あって6月頃来ることになってね。

 またやるから宜しくね!

 さ、食べて食べて!」

 

 では一口。

 

「美味っ!?」

 

 唐揚げを食べてみたが旨い、揚げたてじゃないのにジューシーでとても旨い。

 となりの伏黒もモクモクと食べている。

 

「これ何処の店の奴ですか?」

 

「違うよ、僕が作ったの。

 因みに何個かハバネロ揚げだから。」

 

「ブハッ!」

 

 料理上手という意外すぎるカミングアウトに驚いていると伏黒がむせた。

 急いで水を飲んでるからハバネロを食べたのだろう。

 ふむ…。

 

 (視覚及び嗅覚と大脳を対象に術式発動、対象の分類を開始、結果八個の刺激物を検知、術式終了。)

 

 紙皿にハバネロ揚げを全部乗せて五条先生に渡す。

 

「五条先生も食べましょうよ、取り分けたんでどうぞ。」

 

「気遣いは嬉しいけど、ガッツリ術式使って分析してたよね、そういうズル先生どうかと思うなー。」

 

「おまいう。」

 

「おまいう。」

 

「おまいう。」

 

(あんたがいうな…!)

 

「しゃけ。」

 

 伏黒はハバネロでダウンしてるが全員の思いは一つになった。

 共通の敵が結束を強めるのだ。

 ハバネロを処理し、歓迎会という名の食事会は進み俺と伏黒の話になっていく。

 

「今年の一年は式神使いと…轟は何だ?

 バッファー?」

 

「いや、こいつはゴリゴリの近接だろ。

 あの動きで後方支援とかありえねーよ。」

 

「でも、ここに強化されるのを楽しみにしてる子もいるんですよ!」

 

「しゃけ!」

 

「ならどっちもやらせれば良いだろ。」

 

「真希の言う通り、轟は超万能型になるよ。

 恵も火力も補助も行けるようにするし。」

 

 俺抜きで俺の戦い方を議論されてる件。

 後、俺の教育方針、今知ったんだけど。

 ツッコミ入れるか迷っていると伏黒に話しかけられた。

 

「お前って強化する術式だっけ?」

 

「ああ、伏黒は今日初対面だし互いに知らないか。

 俺の術式は加点法って言って、対象を強化する術式。

 伏黒は式神とかさっき先輩達言ってたけど。」

 

「影を媒介に、式神を出す十種影法術だ。

 なあ、お前の術なら俺の式神強化出来るか?」

 

「うーん、試さなきゃ分からんが筋肉とか骨までしっかり作られているなら可能だと思う。」

 

「なら今度頼む。」

 

「おう。」

 

 式神か、北海道の人狼の操った式神見たいに数に頼る感じか?

 でも字面的に十種類しか出せないって感じだからペルソナかな。

 やんややんやと盛り上がっていると突然五条先生が荷物を持って立ち上がる。

 

「ハーイ!

 盛り上がってる所注目!

 今から入学祝いのプレゼントでーす!」

 

 おっ、ちょっと嬉しいけど、五条先生が渡すのだから碌な物じゃないかもしれない。

 

「じゃ、ひとつ目はこれ、僕と御揃いのサングラス!」

 

 手渡されたのは、オフの時の五条先生が掛ける丸型サングラスだった。

 眼鏡は視線で呪霊に気付かれないようにするために装着している呪術師は多いらしいが、俺の場合ヤバイ呪霊以外瞬殺だし、何よりダサい。

 

「良いじゃん、お前ら付けてみろよ。」

 

 着けたくないが真希先輩の頼みなので仕方なく、伏黒もプレゼントだからかしぶしぶ付けて二人で並ぶ。

 

「ギャハハハ!

 似合わねー!

 はーっ、轟お前に至っては、怪しい中国人じゃねえか!」

 

「しゃけ、しゃけ。」

 

 おい、撮るな。

 

「二人ともスゲー胡散臭せー。」

 

 総評は爆笑という結果に終わった。

 二人でソッコーでサングラスを外して投げ捨てる。

 二度と付けるか。

 

「やっぱり、僕くらいのイケメンじゃなきゃ似合わないねー。」

 

「「くたばれ、クソ教師。」」

 

 真希さんは余程ツボにはまったのか、暫くゲラゲラ笑い続けた。

 

「じゃ、次は真面目な方ね。

 轟にはこれ、新しい武器!

 恵にはこれ!」

 

 俺に渡されたのは一本の木刀で恵は年季の入った一冊の本。

 

「轟のは、二級呪具の『和重』。呪力込めてみて。」

 

 言われた通りに呪力を込めてみると、一気に重くなった。

 

「質量増加ですか?」

 

「そ、近接やるなら必要でしょ。

 所有権は一応高専だけど自分の物として扱って良いから。」

 

 確かにこれは有りがたい。

 神級で強化された身体能力に合う武器は中々ない為に今まで素手だったが、こいつなら、重い一撃を叩き込める。

 

「恵は禪院家にあった、十種影法術の資料を纏めた物。」

 

「あの本家が寄越したのか?」

 

 禪院家の名に真希先輩が反応する。

 俺は詳しく聞いてないが、真希先輩は本家と折り合いが物凄く悪いらしい。

 

「うん、向こうに同じ術式持ってる人いないし、向こうは僕に幾つか借りがあるから死ぬまで借りてきた。」

 

 伏黒は早速、本に集中している。

 

「五条先生、ありがとうございます!」

 

 サングラスの事は根に持つが純粋にこれは嬉しい。

 お礼を伝えていると、パンダ先輩がふと気付いた様に呟く。

 

「そう言えば、恵は二級って聞いていたけど轟は何級なん?」

 

 級というのは呪術師のクラスの事である。

 四級から一級、特級までとあり位が高いほど対応出来る呪霊が増える。

 呪霊にも同じような位があり、同じ位の呪霊に勝てるというのが基準になる。

 例えば、二級呪術師なら二級の呪霊を祓えて当たり前と言った感じだ。

 確かに俺の位って五条先生から聞いていない。

 

「あ、忘れてた。

 轟は明日から一級の審査受けて貰うから宜しく!」 

 

 …は?

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル呪具 和重

見た目は文字が刻まれた木刀。
付与されている術式は質量増加。

主人公の位について最初は特級にしようかと思ったが、別に規格外でもないし良いかなと。


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反転術式

 後日、というか歓迎会の次の日夜蛾学長から呼び出されて改めて一級審査について説明を受けた。

 確か、推薦には二名以上の推薦が必要らしいがどうしたのだろうか?

 一級術師との交流なんてしたことないんだけど。

 

「君を推薦したのは私と日下部篤也一級術師という事になっている。」

 

 日下部という人は確か二年生の担任のはず。

 というか、なっている?

 

「…情けない話だが、君が先日北海道で祓った一級呪霊は本来、日下部がいく予定だったが五条が代わると言って了承してしまった。」

 

「あー、なるほど。同じ悟としてなんか、すみません。」

 

 要するに、日下部さんは騙されたのだろう。

 五条先生が代わりに行くといい蓋を開けたら俺が単独で祓った。しかも、春休みの間バンバン俺が祓いまくっていた事を話したのだろう。

 特級である五条先生だが自身の生徒への推薦権はないから、二人を脅したのだろう。

 いや、五条先生風に言うならお願いしたのかも?

 

「だが、君が一級呪霊を祓ったのは事実。

 高専としても優れた呪術師には然るべき地位を与えられるべきだと思っている。

 改めて、一級の審査を受ける気はあるか?」

 

「勿論、今の所五条先生の教育方針は信用出来ますからね。」

 

 どうでもいいが、取って欲しいというなら取っておこうというのが本音だ。

 力を思いっきり奮えればそれで良い人間としては4級だろうが何だろうが、強い呪霊がいるなら勝手に赴くだろうな。うん。

 

「分かった。では京都に向かってもらう。

 俺と日下部が推薦した時点で必然的に京都呪術校で君の審査は行われる。

 気を付けろ、あっちで五条悟は嫌われている。」 

 

 まあ、五条先生の名前が無くても東京高専の一般人出身の一年生が一級の審査を受ける。

 しかも推薦人が学長と教師だし別の施設で審査を行うのは当然だろう。

 そして、五条先生が嫌われているのも当然だろう。

 俺も呪術師について学び始めたばっかりだが、あの人は良くも悪くも異端児だ。

 しかも、家柄も力もヤバイのだからその他大勢にはいい迷惑なのだろう。

 

「手配の関係もあって京都には三日後に向かってもらう。

 それと、悟から聞いているだろうが最低でも一月はかかると思うから準備しておいてくれ。」

 

「最低でも、ですか?」

 

「ああ、一級との任務自体は問題ないが、その後の単独での任務がな。」

 

 なるほど、試験は確か一級との任務を数回行う一時審査と単独で一級案件を行う二次審査がある。

 恐らく、一時審査の結果から二次の一級案件を選択するのだろう。

 にしても、京都か。

 中学校の修学旅行沖縄だし行った事ないな。

 学長の元から立ち去り、真希先輩に木刀の指導をしてもらう為に歩いていると、曲がり角から五条先生が現れた。

 

「あ、いたいた。

 ちょっと来て。」

 

 連れてこられたのは、北海道でも見た死体安置所の様というか正に安置所だ。

 恐らく被害者の死体を解剖して呪霊の能力や強さを分析する為だろう。

 

「また、死体を見るんですか?」

 

「ちがうよ、ここの主に会ってもらうのさ。」

 

「君が悟の愛弟子の悟か、ややこしいな。」

 

 後ろから声を掛けられて振り向くと隈のある白衣の女性が入り口にいた。

 

「此方、家入硝子、東京高専唯一の医者で反転術式の使い手で僕の同級生でーす。」

 

 反転術式とは本来マイナスの力である呪力を掛け合わせてプラスの呪力にする事で治癒や術式効果を逆にする事が出来る超高等テクニックな技術だ。

 

「どうも、轟悟です。

 そこの人と被るんで轟って呼んでください。

 愛弟子って何です?」

 

「ああ、宜しく。

 噂になってるよ、入学前から五条悟が面倒見てる生徒がいるって。

 そんな事より、さっさと本題に入ろう。

 君は自分の傷を癒せるって本当かい?」

 

 俺の術式で細胞の修復力とでも言うべきか、そういうパラメーターを伸ばすことで傷を塞ぐ事が出来る。

 何となく、五条先生が俺を家入さんと引き合わせた訳が分かった。

 解剖台の近くにあったメスを借りて腕に切り傷を付けてから術式で傷を塞ぐ。

 家入さんはじっとその過程を見た後、更に大きな傷を治してくれと言われたので、メスで何度か切り傷を作り治していく。

 

「ふむ、失礼。

 あ、治さないでね。」

 

「痛って!」

 

 ぶちりと音を立てながら治した部分をピンセットのような器具で引きちぎられた。

 家入さんは採取した細胞に興味深々で溶液に浸したりしながら観察している。

 ハンカチで傷を押さえながら待っていると顕微鏡から顔を上げたら家入さんが此方を手招きしてくる。

 

「結論から言うと、その術式による回復はオススメ出来ない。

 まだ肉眼でしか確認してないから絶対とは言えないけど再生した細胞はボロボロね。

 最悪、癌細胞になるよ。

 一応、血液検査しとくか。」

 

「…。」

 

 言葉が出ない。

 確かに呪力は負の力であると教わってから疑問に思ってはいたが、癌細胞になる可能性があるとは思わなかった。

 

「うん、やっぱりね。

 轟の術式的に十分可能だと思ったけど呪力は破壊の力、細胞を治すのは難しいからね。」

 

 ここに来てから傷を負う様な事はしてないので、殆ど使ってないが、小学生の頃良く使ってたからなー。

 というか知ってたら教えようぜ五条先生。

 

「そう、恨むような目で見ないでよー。

 大丈夫だったんだし。

 さて、ここからが本題。

 轟には反転術式を覚えてもらいます!

 反転術式は良いよー、24時間術式回せるようになるし、頭刺されても治るし。」

 

「人かそれ?」

 

 

 

 

 

 




家入さんの口調あんまり分かんない。


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黒閃と健康診断

反転術式というか正の呪力に関してはオリジナル設定です。
原作で明らかになったら修正します。


「取り敢えず、頭良くなって。」

 

「意図は分かるけど言い方ぁ!」

 

 こいつこれでアラサーなんだよなぁ。

 言われた通りに術式で自身の脳を強化、そして五感を呪力に焦点を合わせて強化していく。

 五条先生のやりたい事は分かった。

 術式によって強化された俺の頭脳で反転術式を観察させて覚えさせようとしているのだ。

 恐らく俺にしか出来ないやり方だろう。

 

「出来ましたよ。

 じゃあ、家入先生治癒をお願いします。」

 

「悟から聞いていたが脳の強化か。

 脳と呪力の関係はブラックボックスだから後でMRIとか色々撮らせてね。」

 

 さっきの癌発言といい、さらっと怖いこと言いながら家入先生は俺の傷に対して反転術式による治療を行う。

 俺は知覚の全てを総動員して傷口周辺の呪力の観察を行う。

 

 (これが、プラス、いや正の呪力か。

 掛け合わせるというよりは、呪力同士を衝突させている様に感じる。)

 

 本来、呪力同士をぶつける事は不可能というか凄く難しい。

 単純な話、水同士がぶつかっても弾けるだけであるように、呪力の塊がぶつかっても正の呪力は取り出せない。

 だが家入先生は原子単位とも言うべき恐らく最小の呪力同士をぶつけて正の呪力を生み出している。

 更に恐るべきは正の呪力は呪力として操作出来ない筈だが、ぶつける角度をコントロールする事で、発生する正の呪力に指向性を与えている。

 

(ここまでは観察によって得た俺のイメージから成り立つ推測、家入先生本人からしてみれば違う感覚だろうな。)

 

 俺は傷口が治る数秒間、観察を続けた。

 

「はい、終わったよ。

 じゃ血液検査するからじっとしてね。」

 

 採血も終わり、片腕が自由になった。

 

「どう?学べた?」

 

「イメージは掴みました。

 試してみても?」

 

「どうぞどうぞ。」

 

 何度も俺を切り刻んだメスで再び傷口を作る。

 

『反転術式』

 

 呪力を傷口に集中させて、俺の中の最小の呪力同士をその場で衝突させる。

 

(正の呪力発生率、100%)

 

 今の俺なら原子単位の操作なんてお茶の子さいさいだ。

 傷口は巻き戻る様に塞がり、痕すら残らなかった。

 

「やっぱり、脳を強化した轟なら無理矢理習得出来ると思っていたよ!

 いやー、僕なんか死にかけて漸く習得出来たのにムカつくなー。」

 

 教師が生徒の成果に嫉妬するんじゃない。

 

「で、次は正の呪力による術式の反転ですか?」

 

「それはちょっと早いかな。

 先ずは素の状態で反転術式使える様になってから。

 だから術式反転は試験中の課題。

 後、黒閃も打てるようになっといてね。」

 

 黒閃というのは確か、打撃との誤差0.000001秒で呪力が衝突すると発生する現象で空間が歪むとかで威力が2.5乗になるとか。

 説明されても訳わかめだったのを覚えている。

 

「轟の場合、使えなくても全く問題ないけど使えたら単純に一撃が重くなるからね。」

 

 黒閃の方は多分秒で出来る。

 要するに打撃と呪力を合わせれば良いのだ。

 何時もの神級で更に呪力コントロールしやすいようにパラメーターを調整すれば良い。

 それに、今の家入先生の呪力操作を観察して呪力の流し方のコツは分かった。

 今までは腹から全身に流して呪力を留める形で全身に纏っていたが、全身から呪力を発生させれば良い。

 そうすれば、打撃の瞬間に呪力を発生させて黒閃が打てる。

 

「じゃ、早速何処かで黒閃の練習してきますね。」

 

「いや待て、君はこれから出発まで検査だ。

 ついでに健康診断一式もやるから。」

 

 意気揚々と安置室を出ていこうとしたら呼び止められた。

 

「え、いや東京観光したいです。

 春休み中、景色しか見れてないです!」

 

 春休み中の呪霊退治行脚は伊地知さんに配慮して寄り道無しでやっていたから東京観光してないのだ。

 

「君これから京都に一月行くんでしょ、学生は5月までに健康診断やる義務だから無理。」

 

 五条先生に抗議しようとしたらあの野郎、既に消えてる。

 

「はい、患者衣。」

 




要するに最小単位の呪力同士をぶつければ正の呪力が生まれるよ!という理論。
放射線かな?

 黒閃に関しては主人公は強化された脳ミソで呪力コントロール出来るから必要ないけど打撃の威力がこれから2.5乗になります。

前回の話、家入カナって名前のキャラって別の作品にいたような気がしてごっちゃになって間違えました。


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京都に向かおう

 三日後、俺は伊地知さんの運転で東京駅へと向かっていた。

 

(絶対、胃カメラと直腸検査いらなかった…!)

 

 まだ、違和感のある尻と共に二日間の健康診断を思い出す。

 結論から言うとやっぱり高専まともなのいねーや。

 一日目はMRIやら使った脳の検査中心に行われてここまでは普通だった。

 二日目は朝食抜きで下剤を飲まされて、腸内カメラと胃カメラから始まり、血液採取、全身の細胞を治すからと言いながら家入先生は容赦なく採取していった。

 

 (流石に睾丸は勘弁してくれと土下座したが、あの目はマジでやるつもりだった。)

 

 京都は大丈夫なんだろうか?

 

「伊地知さん、京都の高専ってどんな感じなんですか?」

 

「そうですね、私も管轄がこちらという事もあり半年に一度程しか向こうの方にお会いした事はありませんが、此方と変わりはないですよ。」

 

「え、向こうにも五条先生みたいなのは居るんですか?」

 

「さ、流石に居ませんよ。」

 

 五条先生みたいな人間性天与呪縛が二人もいたら地獄である。

 良かった、京都校はまともそうだ。

 愚痴やら雑談やらをして暇を潰していると、車が停まった。

 

「ここからは、人気が多くなるので徒歩でお願いします。

 試験、頑張ってください。」

 

「やっぱり、伊地知さんが一番まともですね。

 お土産一番高いものにしときます。」

 

 東京駅で駅弁を幾つか買い込み、京都に向かう。

 駅弁は基本的に割高だと思うが、春休みの呪霊狩りのお陰で大分懐が暖かい。

 二時間ほどの合間を三つの駅弁を食べながら過ごし京都へとたどり着いた。

 

(確か、迎えが来るって話だったが。)

 

 ホームに降りて辺りを見渡してもそれらしい人はいない。

 ならば、改札を出た辺りかと案内板を見ながら向かうと改札の外にスーツの女性と高専の服を来たばかでかい男が立っているのに気付いた。

 彼らだろうと思い、改札を抜けて向かう。

 

「お前、轟悟だな?

 好きな女の好みはなんだ?」

 

 出会い頭、確認しようと思ったらいきなり女の好みを聞かれた。

 どうやら、京都もマトモじゃないらしい。

 

「女の好みには、ソイツの個性が出る。

 つまらない奴は女の好みもつまらない。

 俺はつまらない奴が大嫌いだ!」

 

 黙っていると、頭のオカシイ男は質問の意味を説明してくる。

 周りの一般人も何だこいつはと視線を寄越し、男と一緒にいたスーツの女の子は頭を抱えている。

 

(まず誰だこいつ?

 …あ、真希先輩が言ってたな、頭のイカれたゴリラがいるって。)

 

「…あんた、もしかして東堂葵か?」

 

「ああ、そうだ。

 さあ、女の好みを言え!

 男でも良いぞ。」

 

 改めて男の容姿を確認する。

 パイナップル頭、額から左目にかけての傷痕、体格はゴリラに相応しい筋肉を纏っている。

 身長もかなり高いし、肉弾戦主体の呪術師だろう。

 

(これで、葵とか詐欺だよな本当。

 …人の目が辛いし答えてさっさと移動するか。)

 

「尻も胸もあるけど無駄な肉が無い女。」

 

「…身長は!!」

 

「低いより高い方がいいな。

 答えたからさっさと移動させて…!?」

 

 俺の回答に対して東堂葵の回答は涙だった。

 大男が静かに涙を流す。

 字面だけでも最悪だが、女の好みを聞いて流す涙はこの世にあってはいけないと思う。

 東堂は涙が溢れないようにするためか天を見上げている。

 

「…素晴らしい。

 俺と同じ位を目指す人間はやはり女の好みも素晴らしい。」

 

「どうでも良いから、今すぐその体勢を止めろ。

 昭和の名曲を汚すな。」

 

 上を向いて歩いたら殺すぞ。

 

「マイフレンドよ、お前と共に任務に付く日を楽しみにしている。」

 

 東堂は俺の横を通り、改札へと歩いていった。

 

「え、お前迎えじゃないの?」

 

「ん?

 違うぞ、高田ちゃんの写真集発売記念握手会に向かうための新幹線がたまたまマイフレンドの来る時間と被っただけだ。

 ふ、俺と共に任務に就きたい気持ちは分かるが焦るな。お土産に写真集をやろう。」

 

 くたばれ。

 今度こそ、バカは改札を通り駅の中へと消えた。

 

 

 




短くてすまない。
お詫びに、これを読んだ君たちには「上を向いて歩こう」を聞くと東堂葵を思い出す呪いを授けよう。


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嘘に一滴の真実を混ぜるといい感じになる。

今回も短いかも。


 移動する車の中から京都の街並みを眺める。

 日本有数の観光地として栄えている京都には多種多様な人種が神社仏閣、日本の歴史を体験しに集まる。

 やれ新撰組、忍者、芸者、スキヤキ。

 目的は違えど、老若男女の欲を満たせる観光地は中々無い。

 因みに、人生初京都だったりする。

 中学生の修学旅行の行き先は沖縄だったし、歴史に対して興味が無いため高専に入らなかったら一生行かない可能性がある。

 観光客溢れる姿をこの目で改めて見ると、二重の意味でやはり行かなくて良かったと思う。

 人混みが苦手なのもあるが、人は群れると騒がしくなり、京都の厳かなイメージをぶち壊している。

 それと、比較的陽気に満ちているが呪術師として自覚した今の俺では漂う呪力が鬱陶しい。

 東京よりマシだが此方は此方でかなりの負を感じる。が、ちらりと車内に目を向けて、隣にいる三輪先輩を見ると一切動じずに前を見ていた。

 車内に会話はない。

 京都駅での一件の後、お互いに気まずい空気で自己紹介をして車に乗り込んだが、そこから一切会話はない。

 あのアホゴリラの言動に対するリアクションから気難しい人では無いんだろうけど車に乗ってから、仕事出来る人感だして何か話しづらいのだ。

 そういうわけで再び外へと顔を向けているのだが。

 

(ただなぁ…。)

 

チラ…

 

チラ…チラ…

 

チラ…チラ…チラ…

 

 時折というか、結構な頻度で視線を感じる。

 視線の主はどう考えても先輩なのだが、此方が顔を向けると仕事出来る人モード。

 まともそうに見えたが、どうやら彼女も立派な呪術師らしい。

 京都の高専に着くまで無視しても良いが、一応お世話になる学校の先輩であるし、仲良くしておいて損は無いだろう。 

 

「あの、何か用ですか?」

 

「…。」

 

 まさかの無視。

 

「いや、無視してもさっきから結構な頻度で視線感じてるんですけど。

 仕事出来ます感出してますが、鍍金剥がれてますから。」

 

「視線なんて向けてませんが?」

 

「いや、車走り出してから興味ありますって視線バシバシ来てましたから。」

 

 流石に誤魔化すのは無理と悟ったのか、小声でボソッと。

 

「……五条悟の弟子って本当ですか?」

 

(なるほど、そうきたか。)

 

 どうやら、彼女は反五条派の人間から送られてきた刺客らしい。

 いくら呪術師とはいえ学生を使うとはちょっとモラルが欠けてるのでは?

 まあ、五条先生が困ろうと俺には関係が無いというか、あの人ならどんな嫌がらせも倍にして返すだろうからペラペラ喋っておこう。

 もしくは俺の早とちりで単純に噂好きなだけかもしれないし。

 

「弟子というか、俺がパンピー出身なんで色々と呪術について教わっただけですよ。

 まあ、教師と生徒って関係だから弟子とは呼べなくはないでしょうが。」

 

 実際、あの人から教わった事ってあんまりない。

 呪霊の発生原因とか術式の解釈くらいで呪術師業界の事は伊地知さんから教わったし、武術については真希先輩から教わってるし。

 いやでも実践経験積ませてくれたのは五条先生か。

 

「弟子ということは、五条悟さんの好物とか詳しいんですか?」

 

 はい、只の五条ファンでした。

 あの人背も高いしカリスマ性あるからファンが多いって伊地知さんから聞いていたが実物は初めて見た。

 普段の姿を知っている身からしたら、ファンとかあり得ないけど普段会わない人間からしたらカリスマ性と最強という称号、あと若いから虜になってしまうんだろう。

 

(現物見せてやりてー。)

 

 とりあえず質問に答えるか。

 

「五条先生は術式が結構繊細で頭使うから甘いものが好きですね。

 特にザラメを口一杯に放り込んで、熱々のコーヒー飲むのが好きみたいですよ。」

 

「なるほど、ザラメ…!」

 

 必死にメモしているが、半分嘘である。

 ファンから差し入れとしてザラメを渡されて困惑する五条先生が見たいと思い、つい口が滑ったのだ。

 その後も五条先生のプライベートな情報を嘘と僅かな真実で埋めていく。

 普段知れないプライベートに興奮しているからか、必死にメモを取る姿につい嘘が加速する。

 後からメモを見返せば、可笑しい点は多々あると思うが、『五条悟だから。』というある種の信仰が疑うことを止めるだろう。

 一つ残念な点が有るとすれば、この仕掛けが何時何処で効果を発揮するか分からない事だ。

 出来れば間近で見たいが、まあ見れなくても多分暫く首を傾げるだろうから、その姿くらいは見れると期待しておこう。

 最終的に家の中に地上三階から地下五階まで落ちる滝がある家に住んでる事になった辺りで京都校に着いた。

 




主人公の呪術師の基準が変人かどうかになってる気がする。


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ぬらりひょーん

お久しぶりです。
アニメが再び始まったり本誌が渋谷事変が区切りついたのでぼちぼち再開しますん。


 三輪先輩に案内された場所は、高級旅館かと一瞬思ってしまう程落ち着いた応接室であった。

 

「楽巌寺先生、轟悟君をお連れしました。」

 

「うむ、ありがとう三輪。

 さて、席に座りなさい。」

 

 三輪先輩は一礼と共に退出し、俺は中にいたぬらりひょん、訂正、呪術高専京都校学長の楽巌寺学長に促されて目の前の席に座り、自己紹介を行う。

 

「初めまして。

 都立呪術高専より一級審査を受けに参りました。

 一年の轟悟です。

 この度は受け入れありがとうごさいます。

 こちら、夜蛾学長からです。」

 

「おお、わざわざありがたい。

 それに、礼儀正しいのぉ。

 五条悟の弟子なら移動中に食ってしまうかと思ったが。」

 

 流石京都、口を開けば皮肉が出てくる。

 

「随分、噂が広まってるみたいですね。

 確かに基本の手解きを受けましたが、それだけです。」

 

「ほう、では一級の試験を受ける程の実力は己で掴み取ったと?」

 

 ジロリと、くぼんだ眼を開き睨むように此方を見定めてくる。

 厳しさはあるが、悪意はない。

 なるほど、五条先生を心底嫌いでも教師としてのプライドはしっかりあるらしい。

 

「まあ、そうですね。」

 

 正直、俺は一級がどれだけ凄いのか良くわかってない。

 五条先生以外の呪術師の強さが良く分かってない。

 真希先輩との稽古はしてるがお互い本気じゃないし、真希先輩は天与呪縛という例外的な強さだ。

 故に全うな呪術師を知らない俺は一級呪術師の実力を正確に把握出来ていない。

 まあ、五条先生が特級だからその次位には強いのだろう。

 

「…特級とは斜めに外れた位置に存在する例外的存在。

 一級こそ呪術界を牽引していく存在だと儂は考えておる。

 術師に成り立ての小僧には荷が重いと思うが、せいぜい頑張ると良い。」

 

「応援ありがとうごさいます。」

 

 なるほど、規格外はあくまで規格外。

 集団の模範にはならないし、目標足り得ないという事だろう。

 遥か彼方、霞みの先にいるのが特級なら一級は同じ道を走る先駆者って感じだろうか。

 

(…という事はもしかして俺は全力を出さない方が良いのか?)

 

 いや、でも俺は術式がおかしいだけで他は多分普通だし、大丈夫かな?

 学長との話も終わり、廊下で待機していた三輪先輩と共にお世話になる寮へと向かったのだが。

 

「…豪華ですね。」

 

「大きいですよね!

 御三家含めて京都には歴史の古い呪術師の家が数多くあるので、屋敷も多いらしいです。

 ここも元は別荘だったらしいですよ!」

 

 一般出身のミーハー感全開の三輪先輩の解説を聞きながら寮を眺める。

 東京のザ・学生寮とは違い、京都の名に恥じない伝統と趣を感じる屋敷が京都高専の寮。

 正直、権威主義を感じて少し引いている。

 

「では、私はここで。

 中の事は待機している加茂先輩に聞いて下さい。」

 

「案内ありがとうごさいます。」

 

(今さらだが、三輪先輩って普通過ぎるよな…)

 

 さっきの解説やら五条先生のファンやらどことなく性格の良さが滲み出てる。

 俺の知る呪術師は大体頭が可笑しいというか、根っこの何処かしらネガティブな部分があるのに彼女からはそれを感じない。

 

(もしかして彼女みたいのが普通で東京側が異端なのか?)

 

 五条先生が教師やれてる時点で可能性としてはあり得なくはない。

 もしかしたら呪術師って意外と良い奴多いのではという説を考えながら、寮の扉を開けると既に黒い神主みたいな服を着た男の子が立っていた。

 木造の上品な玄関とミスマッチしている気がしなくもないが、着ている人間の佇まいが上品なおかげで違和感は少ない。

 

「君が轟悟君だね。

 私は三年の加茂憲紀、君の案内役を学長から仰せ付かっている。」

 

「一年の轟悟です。

 よろしくお願いします。」

 

(加茂…

 御三家って奴か。)

 

 禪院家、五条家、加茂家は呪術業界では古くからある家系でプライドが高いらしい。(五条家は当主がアレなので除く。)

 禪院家なんかは術式も呪力も無いというだけで真希先輩に嫌がらせするような所だし。

 

「そんなに畏まらなくても良い。

 学年は私が上だけど、一級の審査を受けている人間という立場から考えて対等みたいなものだよ。」

 

 素直に驚いた。

 まさか肯定的な言葉を聞けるとは思わなかった。

 …もしかして京都流の皮肉なのだろうか?

 

「失礼全開で聞きますが、御三家の割には実力主義なんですね。」

 

「家名が長く残るという事はそれだけ、実力を示してきたという事でもあるからね。

 禪院家はともかく、加茂家、というか次期当主たる私自身はそこまで拘りは無い。

 さ、寮を案内するよ」

 

 なるほど、御三家としては余り良く思われてないけど個人的にはそこまで気にしてないと。

 

(深読みかも知れないけど、まあ所詮審査受けてる間の話だし別にいっか。)

 

 部屋に案内されるまで誰とも合わないのは恐らく京都校も生徒が少ないのだろう。

 

「それと、皆君に興味があるらしくてね。

 顔合わせも兼ねて今夜歓迎会を開くからよろしく頼むよ。」

 

「ぶぶ漬けは勘弁ですよ。」

 

「それは君次第かな。」

 

 あ、本当にぶぶ漬け出す文化あるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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京都もイロモノしかいねぇ!

呪術の最新刊未だに買えんのじゃが…


 京都に着いたその日の夜。

 そろそろ、夕食かなと思い始めた頃に加茂先輩が現れた。

 どうやら夕食時に歓迎会を開いてくれるらしい。

 

「一応、今向かってる広間が食堂なんだけど基本的に呪術師は少数精鋭で任務もあるから使われる事は滅多にない。

 だから今回みたいに集まるのは珍しい。

 さ、入って」

 

 食堂か。

 確かに東京の寮でもそういうのはなかった。

 まあ、依頼で各地飛び回る事も多いだろうし食堂の稼働率は低そう。

 促されて中に入ると、既に京都校の生徒達は座って並んでいる。

 広間の中心に並べた長机に4人が正座している。

 お誕生日席と上座が2つ空いているが片方は加茂先輩で片方は恐らく東堂だろう。

 

(歓迎会の主役とはいえお誕生日席は嫌だなあ。)

 

 何かこう、京都フィルターと呪術師の人間性の悪さから嫌味にかんじてしまう。

 

(あ、三輪先輩見れば嫌がらせかどうか分かるか。)

 

 術式で強化された眼で三輪先輩を確認する。

 脈拍、緊張等は無い。

 どうやら此方の思い過ごしらしい。

 

「どちらに座れば?」

 

「主役だから当然一番上座だよ。」

 

 一応確認したが、普通に歓迎会ぽい。

 広間を進み指定された席に座る。

 

「真依、東堂は何処に?」

 

「何で私に聞くのよ。

 知らないわよ。」

 

 真希先輩が化粧したらこんな感じかなと思う女性に加茂先輩が東堂の居場所を聞いているが知らないらしい。

 奴なら東京だぞ。

 

「あのー、東堂先輩なら何時もの握手会です。

 一応、轟君を迎えにいく時間と東堂先輩の出発する時間が被ったので顔合わせは済んでいます。」

 

 恐る恐るといった感じで三輪先輩がフォローを入れる。

 ビビっているというよりこれが素なんだろうな。

 

「まあ良い。

 さて歓迎会を始めようか。

 先ずは自己紹介からさせてもらうよ。

 改めて私は三年の加茂憲紀、準一級だ。」

 

「じゃ、次は私ね。

 三年、西宮桃、二級。」

 

 興味無さそうな感じに自己紹介してくれた西宮先輩は魔女風の黒いローブで小柄なのもあって魔女っ子感あって可愛らしいのだが、耳にがっつり開いたピアスで逆にやべー奴感が凄いが、ピアスや刺青は威嚇の意味合いが強い事をふと思い出した。

 所謂警戒色、蜂の模様見たいに目立つ事で自分を守る為のピアスなのかもしれない。

 

「二年、メカ丸。

 準一級ダ。

 この機体は傀儡操術で操っていル。

 …驚かないのだナ。」

 

(…京都の色物枠か。)

 

「東京にも喋るパンダがいるんで。」

 

「本当にパンダなのカ…。」

 

 恐らく木製の人形傀儡。

 喋り方は少し独特だが流暢で高性能なロボットである事が伺える。

 それよりも驚いたのはこの傀儡に込められた呪力量だ。

 この中の誰よりも呪力が全身を走っている。

 これを維持するなら相当な呪力が必要だがどういう仕組みなのだろうか。

 

「私は二年の禪院真依、禪院先輩だと真希と被るから真依って呼んでね。」

 

 加茂への悪態から打って変わって、ニッコリと笑みを浮かべる姿は様になっている。

 雰囲気や顔立ちから真希先輩に似ていると思ってたが年齢も同じだし恐らく双子の姉妹だろう。

 

(名字で呼んでほしくない所とかそっくりだな。)

 

 姉妹で京都と東京に離れた学校に通うのは何かしら理由が在るのだろうが、まあ恐らくお家の事情というヤツだろう。

 

「私で最後ですね。

 二年、三輪霞、三級で「そして、俺が三年の東堂葵だ。」

 

 三輪先輩の自己紹介を塗りつぶして東堂が自己紹介を挟んできた。

 いつの間にか、空いていた席に座っている。

 

「マイフレンド、遅れてすまない。

 写真集と一緒に渡すブロマイドをどれにするか悩んでしまってな。」

 

「いや別にお前の推しに興味無いから。」

 

「興味が無いなら興味を持てば良い。

心配するな布教活動も未来の夫として当然の務めだ。」

 

 気持ちわりーなこいつ。 

 東堂から手渡された写真集とブロマイドを一応受け取りながら他の京都生に眼を移すと全員が顔をしかめていた。

 表情の無いメカ丸先輩ですら面倒くさいというオーラを出している気がする。

 やっぱり東堂は嫌われているらしい。

 

「東堂、後にしろ。」

 

「さ、写真集を見てみろ。」

 

 忠告をガン無視された加茂先輩は溜め息を吐いて、さっさと見てしまえと俺に目で訴えてくる。

 東堂と会うのは二回目だがこいつが面倒くさいのは駅での一件で良くわかっているし、取り敢えず写真集開く。

 パラパラとめくると、件の高田ちゃんと呼ばれるアイドルの水着やらお洒落な服やらの色んなポーズが目に入ってくる。

 

「どうだ?」

 

「背も高くて胸も尻もあって良いけど、もうちょっとスポーティというか引き締まった感じがいいな。」

 

 写真集にはムッチリとした肉感を感じつつだらしなさを感じない絶妙な男性の心くすぐる高田ちゃんが沢山いたが

個人的には、うっすら筋肉を感じる位に無駄な肉が無い方が良い。

 

「なら、去年の夏に出た写真集とライブの映像ならお前もハマるだろう俺の部屋に行くぞ!」

 

「行くかバカ。」

 

 俺と東堂の会話に対する反応は男女で思いっきり別れた。

 最初は全員、三輪先輩以外が東堂に気に入られている事に驚き、俺が高田ちゃんの写真集を評価し始めると女性陣が軽蔑の眼差しを向けてきた。

 特に西宮先輩はゴミを見る目で此方を見ている。

 真依先輩はさっきまでのスマイルを辞めて食事を始めているし、三輪先輩は苦笑いが止まらない。

 メカ丸先輩はさっきから目に光が無い、というか電源落としてないかあれ。

 

「…はぁ、もういい。

 食事をして終わろう。」

 

 遂に加茂先輩も匙を投げて食事を開始する。

 こうして俺の歓迎会は俺の自己紹介なく終わった。

 俺も隣で高田ちゃんの魅力を語る東堂の話を聞き流しながら食事を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




京都編は展開に詰まったら東堂を投げ入れます。


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手合わせ

 昨日はクソだった。

 あの後歓迎会は会話も無く全員が速やかに席を立つ形で解散した。

 俺と奴を残して。

 その後は奴の部屋で高田ちゃんとやらの去年の夏に販売された写真集やらライブ映像、CM、出演番組を全て見させられた。

 確かに去年の夏の高田ちゃんは俺好みの引き締まった体をしていたのは認める。

 それをバカに伝えたら。

 

『やはり去年の夏の高田ちゃんが良いか、では此処から最新の高田ちゃんまで見てもらおう。

 道は長いが心配するな、俺がいる。』

 

 死んでくれ。

 五条先生からの課題で常に術式を回して、術式による脳へのダメージを反転術式で癒しているから眠気なんてモノは皆無だが何で京都にきて俺はゴリラと色物アイドルの映像を見なくてはならないのだろうか。

 

『お前と女の趣味は似てるが、高田ちゃんに興味無いんだが?』

 

『そう邪険にしないでくれ、ここの連中は女の趣味が悪くて布教の機会がなくてな。』

 

 それは多分お前が悪いと思う。

 そして朝になった。

 回想終了。

 

「さて、マイフレンド。

 恐らく最初に審査員として見極めるのは俺だろう。

 そこで先ずはお前の強さが知りたい。」

 

 朝になり漸く布教活動が終わったと思ってたら、いきなり真面目な話をするな。

 

「先ずはお前の布教活動に付き合った俺を労れ。」

 

「マイフレンドが疲れてない事は把握している。

 顔色を見る限り無理をしているとかではなく、疲労を常に反転術式で回復しているのだろう。」

 

 話を聞け。

 

「反転術式を使える時点で感涙に値するが、それだけでは一級になれん。

 それに俺とマイフレンドは何時か背中を任せ合うような事があるかも知れない。

 故に実力が知りたい。」

 

「わかったから取り敢えずシャワー位浴びさせろ。」

 

 シャワーを借りてさっぱりした後、東堂の案内で学校の外れ庭園の様な場所にたどり着いた。

 地面には玉砂利が敷き詰められて、所々に岩が設置されている。

 確か、枯山水とか言うんだけっか。

 そこで俺と東堂は適度な距離で相対する。

 

(さて、相手はバカとはいえ一級。

 一級呪霊に対して優位に戦える実力があるって事だ。)

 

 俺が東堂に対して不利な点は2つ、1つは素のフィジカル。

 あの筋肉に呪力をブーストした一撃を術式使わずに受けるとヤバい。

 もう一つの不利な点は場数が違うって事だ。

 呪霊退治なら経験値積んだけど、術式ありの対人戦の経験は無いに等しい。

 

「よし、マイフレンド打ってこい。」

 

「なら遠慮なく。」

 

『加点法 神級』

 

 放つ一手は正拳突き。

 俺以外が止まって見える速さ、並みの術師ならこの時点で勝敗が決まると確信する一撃、だが東堂は拳が届く直前に消えた。

 

(消えた…?)

 

 違う、消えた様に見えるが宙に玉砂利が浮いている事に気付いた。

 玉砂利は奴の呪力を帯びている。

 

(拍手による入れ替えが東堂の術式…!)

 

 消えた東堂が後ろにいるのは肌で感じ取れている。

 正拳の姿勢から裏拳を後ろに放つ。

 

拍手

 

 裏拳が空を切る。

 今度は俺と自分の位置を入れ替えたのか。

 なるほど、呪力を帯びた物なら何であれ術式の対象なのか。

 意識して見れば、既にあちらこちらの玉砂利に呪力が付与されている。

 自分と玉砂利、自分と俺、俺と玉砂利を拍手によって移動させる。

 つまり…

 

「テメーのホームグラウンドで戦うって随分じゃないか?」

 

「己の術式を最大限生かす場を作り出すのは当然の事。

 それよりマイフレンド、今のが本気か?」

 

「なわけねーだろ。」

 

 更にギアを上げて震脚を放つ。

 本来なら反動を利用して次の技の威力を上げるそれは、俺が使う場合全方位への衝撃波を起こす立派な技になる。

 敷き詰められた玉砂利がめくり上がり吹き飛ばされる。

 条件付きではあるが強制的な位置移動、東堂の術式範囲はそれほど広くないはず。

 震脚の反動で空に飛んで上から東堂を確認する。

 

(いない…?)

 

パパパン

 

 複数回の拍手の音と同時に背中に衝撃が走り地面に叩き付けられる。

 振り替えり上空を見ると東堂が踵落としをした事がわかった。

 なるほど、複数の石を投げて術式で飛んだのか。

 

「なるほど、マイフレンドの術式は強化か。」

 

 空から降りてきた東堂は追撃をしてこない。

 模擬戦はここまでという事だろうか。

 

「開示してやろうか?」

 

 既にバレた術式で開示による縛りを付与するには事細かに説明する必要があるが、俺の場合術式がシンプル過ぎて多分意味の無い底上げになるな。

 

「いやいい、それより今のも本気ではないな。」

 

「模擬戦だしな、本気なら5秒で東京に帰れる位は出来るし、東京タワーだってぶん投げれる。」

 

 やった事無いけど。

 

「なるほど、マイフレンド。

 お前は俺より強い。

 そしてその強さは既に特級に至っていると俺は考えている。」

 

「そうか?」

 

「さっきの空中での俺の一撃。

 あれは俺の本気だった。

 俺は去年、特級を祓ったがその時に出した一撃をお前に喰らわした。

 それでもなおマイフレンドに傷がつかない時点で俺がお前に勝てる見込みはほぼない。

 おそらく俺が黒閃による不意打ちでもしない限り勝てないだろう。」

 

 なるほど、確かに東堂の呪力は開始時より大分落ちている。

 それに黒閃か。

 さっきの威力が2.5乗されたら確かにヤバいかもな。

 けど俺には反転術式もあるわけで、そう考えると東堂の意見もわかる。

 

「術式で強くなるのは筋肉だけか?」

 

「いんや、神経系や内臓、脳ミソだって強化出来る。

 だからこういうのもイケる。」

 

 恐らく人類史上初というか誰もやらないふざけた行い。

 黒閃凸ピンを披露して見せた。

 これには流石の東堂も眼を見開いている。

 

「ま、こんなこと出来てもNo.1にはなれないけどね。」

 

 俺の術式一本では五条先生を越える事は出来ない。

 多分、星が壊れるような一撃でも届く気がしない。

 

「五条悟を越えるならば、領域展開を習得する他ないだろう。」

 

 五条越えという呪術師にとってジョークにしか聞こえない俺の考えを疑わない辺りやっぱり東堂葵は普通じゃない。

 

「領域展開だけじゃ足りない。

 絶対対策取ってるだろうし、あの人も領域展開を持ってるからそれだけじゃ負けるよ。」

 

 仮に領域に引き込めたとして、とんでもない呪力量によるガードをされて五条先生の領域に押し潰されるのが目に見えている。

 

「なるほど、ならば提案がある。

 もう一度、俺と死闘をしよう。

 マイフレンドに足りない物は応用力だと今の組み手で確信した。

 五条悟以外の術師なら恐らく術式だけで圧倒する事が出来るだろうが五条悟を越えるならば、応用力の無さは致命的だ。」

 

 なるほど、確かにその通りだ。

 

「理屈はわかったが何で死闘に繋がる?」

 

 術式を制限して戦うだけならわざわざ死闘である必要はないだろう。

 

「簡単だ、術式が強すぎるなら術式に制限をかけて戦えば応用力は必然的に身に付く。

 反転術式を覚えているなら術式反転も使えるだろう。

 …死闘の理由は単純明快、血肉沸き上がる戦いに勝る経験なし!!」

 

「俺は傷を治せるがお前は良いのか?」

 

「何、これは俺の為でもある。

 轟悟という強者を全力で喰らう事でより高みを目指せるからな。」

 

「なるほど、お前の壁になる代わりに俺はお前から経験を得るって訳か。」

 

 上着を脱いで上半身をさらして構えを取る東堂。

 既に消費した呪力を回復し、さっき以上に全身に漲らせている。

 まだ同意していないのだが、もはやこいつは止まらないだろう。

 

(それに、言い分に納得がいくのも事実。)

 

 此方も構えを取り、術式を走らせる。

 強さは東堂に並ぶ程度。

 俺はこの縛りの中で術式を生かす技を覚える。

 

「…行くぞ、ブラザー。」

 

「…ああ、殺ろうぜブラザー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           報告

 

 許可なき学生同士の術式を用いた私闘及び校内の敷地を著しく破壊した以下の二名を府立京都呪術高等専門学校学長及び都立東京呪術高等専門学校学長の名において1週間の停学処分とする。

 

 

 

 

         三年 東堂葵

         一年 轟悟

 

 

                       以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の文書はスマホにあわせているのでPC版の方は読みにくいかもしれません。
申し訳ありません。



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タップしてるじゃん!

タグ付け良くわからんので案があれば活動報告に書いてくれると嬉しい。


 タップ、正確にはタップアウトという行為を皆は知っているだろうか。

 試合に於いて閉め技や関節技等を決められた時に戦意喪失・試合続行不可能と判断した場合に行われる行為で、相手の体や床等を叩いて審判に知らせるものだ。

 試合中に選手が怪我しない為の措置であるが、逆に言えば試合中でもなく審判もいない様な場合はタップという行為は無意味なのである。

 一応相手に降参の意思を伝えるので意味はあるかも知れないが怒り心頭の場合はやはり無意味に等しい。

 

「京都に送り出して二日目で大暴れしやがって…!

 推薦人の面子潰すとはどういうことだァ…!」

 

 卍固めを初めて受けたが痛い。

 筋と関節が死ぬんじゃないかって位に痛い。

 

「あの時の俺はおかしかったんですって!

 絶対東堂が悪いって、あいつ催眠術かなんか使えますよ!」

 

「呪術師が催眠術に引っ掛かる方がもっと悪いだろうがー!!」

 

「やぶ蛇だったー!!」

 

「受けるーwww。」

 

 次の日、俺は都立東京呪術高等専門学校に帰ってきた。

 高専の場合、停学中は学内で過ごす決まりであり、俺の所属はコッチなので出戻ってきたのである。

 学長に呼び出されて一瞬で関節技を決められて今に至る。

 今、この場にいるのは夜蛾学長と五条先生と俺の三人である。

 

「さて、轟悟。

 貴様は一週間の停学処分だが、何故その程度で済んだか分かるか。」

 

「えっ待ってこのまま続けるの…!?

 そろそろ軋みをあげているんですけど!

 主犯は東堂だし俺は許可貰ってるモノだと思ってました!」

 

 一応そういう呈で話したが手合わせの時点で、あいつがつまらない奴らの作ったルールを守る気が無い事は分かってた。

 根本は違えど俺も東堂もルールを気にしないタイプだし。

 けど東堂は三年で俺は一年、世間の見方からすれば悪い先輩に騙された可哀想な一年という構図になるはずだ。

 

「一年だろうと三年だろうと呪術師が軽々しく呪術を使えばどうなるか分かるだろうがバカタレが!

 東堂に関して言えば、過去の実績と貴重な若手の一級呪術師だから一週間で許された。

 それに比べて、まだお前には何も実績が無い。」

 

 なるほど、確かに一理無くもない。

 ぶっちゃけ俺の方が敷地ぶっ壊してるし退学からの呪詛師認定もありえたか?

 なら、処分が軽くなる理由として思い浮かぶのは一つ。

 未だにゲラゲラ笑いながらスマホで写真撮りまくってる高身長クソガキである五条先生だ。 

 考えすぎかと思うが、お上からしてみれば俺の背後には五条先生がいるのは明らか。

 五条先生への嫌がらせ、あるいは俺への処罰を緩くする代わりに五条先生に何かしらの楔を打った可能性もある。

 

「俺の処分を軽くする代わりに五条先生が上と取引したとかですか?」

 

「違う。」

 

(…違うのかい。)

 

 いい線いったと思ったが学長に直ぐ様否定された。

 

「もしそういう事をするならお前の身柄はここにはない。」

 

 なるほど、確かに。

 死闘からそんなに時間が経ってないし、取引をするなら人質は手元に置いておくだろう。

 納得していると、ようやく学長が技を解いてくれた。

 

「皮肉にもお前が東堂を倒した事で、お前の強さが証明された。

 まだ入学したての一年が一級術師を倒したという点と呪術師は人手不足、この二点から条件付きで一週間の停学で済んだのだ。」

 

 なるほど、敷地を吹き飛ばして罰を喰らったが、裏を返せば敷地を吹き飛ばす程の強さを示したという事にもなる。

 ついでに一級呪術師である東堂を倒すほどの人材という事で敢えて厳しい処分はせず寛大な処分で恩を売るという訳か。

 

「で、条件とは。」

 

「一つ、卒業まで京都校出禁。

 二つ、卒業まで一級審査は凍結だ。」

 

 なるほど、前者はどうでも良いとして、卒業まで一級になれないというのは普通ならまあ厳しい話だろう。

 

(というか、これが五条先生への嫌がらせになるのか。)

 

 客観的に見て今回の入学即一級審査というのは異例。

 そして俺の背後には五条先生。

 つまり、二つ目の条件は俺を一級にさせようとする五条先生の意図を潰す事になる。

 

「俺としては階級に興味は無いんですけど、五条先生的には良いんですか?」

 

「え、あ、うん別に。

 轟の強さが伝わればそれで良かったし。

 いやーでもまさか早々に大暴れして戻ってくるとは思わなかったけど、超うけるー。」

 

 ようやく笑いが引っ込んだ先生は何時も通りニヤニヤしながらあっさりと問題ないと言い放った。

 学長は先生の発言にため息をつく。

 

「…まあ、悟の思惑は知らんが実際今回の一週間という期限も東堂は療養、轟は手続きとしての意味合いが強い。

 停学明けに準一級としての資格が認められるから問題起こすんじゃないぞ。

 停学中の問題行動は流石に無理だ。」

 

 学長の折檻と停学の理由を聞き終わり、退室する。

 五条先生はまだ用があるようで残らされていたが、帰り際に見たら俺と同じようにプロレス技を喰らっていた。

 写真を撮ろうと思ったが多分皆見慣れていると思って止めた。

 退室し寮へ戻るために通路を歩いていると、向こうからガラガラというスーツケースを引き摺る音と共に家入先生が歩いてきた。

 

(相変わらず美人なのに隈が酷い。

 もう少し肉付きと筋肉の張りがあればな…。

 って違う!)

 

 どうやらまだ洗脳の影響が残ってるらしい。

 

「家入先生、こんにちは。

 出張ですか。」

 

「やあ轟少年。

 出張というか、君の尻拭いだよ。

 随分と派手に東堂をぶっ飛ばしたみたいじゃないか。」

 

 ああ、なるほど。

 東堂を治しに行くのか。

 確かにあの傷を治すにはかなりの腕が必要だと思うが、家入先生が必要な程か。

 死闘を終えた東堂の状態を端的に説明すると全身粉砕解放骨折と言った感じか。

 本人は満足げに笑いながら気絶してたから平気と思ったがやはり重傷らしい。

 素直に頭を下げる。

 

「すいません、ご迷惑おかけします。

 …でも先生って貴重な人材ですよね?

 それなら東堂を持ってきてもらった方が良いんじゃないですか?」

 

 他者への反転術式を行える人材はある意味特級よりも貴重な存在だと思うが。

 

「本来ならそれが正常なんだが、上層部はこっちで治すとまたお前と私闘を始めるのではと強く警戒していてな。

 そんなに心配するな、護衛には悟が付くし私もたまには関西の酒が飲みたい。

 じゃあな、問題起こすなよ。」

 

 …否定出来ない。

 俺から仕掛ける事は無いが向こうからやってくる可能性も否定できない。

 いやでもあいつも得られたモノを消化する時間が必要だから案外安全なのでは?

 五条先生が残っていたのは家入先生の護衛だからか。

 家入先生にもう一度頭を下げてから別れる。

 家入先生はああ言っていたが、今回の件で一番迷惑かけたのはある意味家入先生な気がしてきた。

 

 




というわけで京都から強制帰還です。
なお、一番迷惑をかけたのは伊地知さんな模様。
粉砕骨折=骨が砕ける
解放骨折=骨が飛び出る。
なお、本人は満足げに気絶してた模様。


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停学なう

今回短いです。


 停学から五日目、流石に暇になってくる。

 学内の施設は使えるため停学初日は死闘で身に付けた技の振り返りやら他にも思い付いた試せそうな内容を色々と試していたが直ぐに終わり、先輩方や恵に絡もうかと思ったが先輩方は任務で恵は五条先生に拉致られ京都に行った。

 なので暇である。

 

ピンポーン

 

「おーす、差し入れ持ってきたぞ~。」

 

 パンダ先輩が部屋にやって来た。

 どうやら任務は終わったらしい。

 

「あれ、一人とか珍しいですね。」

 

「棘と真希は少し立て込んでるが俺は一つ任務少なくてな

 ほら俺パンダじゃん?」

 

 パンダが理由になるのか分からないけど納得しておこう。

 多分だがパンダだとやり辛い任務とかあったんだろう。

 

「何か筋トレアイテム多くね?」

 

 パンダ先輩が部屋を見渡して一言。

 学校の施設から借りてきた筋トレアイテムの事だろう、まあ暇でやる事が無いし、停学中に校内ウロウロするのも違うよなと思い室内筋トレに明け暮れてたりする。

 

「暇だけどだらけて脂肪付けたくないし、術式的に殆ど誤差ですけど筋肉多い方がいいんですよね。」

 

 一応筋トレの意味はある。

 筋肉が太くない分には良いが脂肪が付くのは少し不味い。

 脂肪はエネルギータンクとしては有用だが運動時には重りにしかならない。

 いざとなれば術式でどうとでも出来るが、術式頼りでは万が一があるし此処に来てからは脂肪が付かないように努力している。

 

「ふーん、にしても入学早々に停学で準一級とか中々ヤバイよなお前も。」

 

「あれは事故ですよ、事故。

 全部東堂が悪い。」

 

「でも、京都校の敷地ぶっ壊したの轟らしいじゃん?」

 

「いや、まあ、そうなんですけど。

 術式による強化を制限した状態で戦うとああするしかなかったというか…。」

 

 術式での強化に制限がある状態で東堂を越える手段の一つとして術式反転を使ったのだが、初めてという事で少し力み過ぎたのだ。

 

「俺の術式を反転させる、つまりは『弱体化』なんですけど、それで色々やってたら敷地が液状化したんですよね。」

 

『術式反転 裸苦大』

 

 効果は単純でパラメーターの低下。

 術式反転を利用して地面を液状にした時に周囲の建物が沈んだり、術式を乗せた衝撃波で建物が崩れたりしちゃったのである。

 因みにこれを使いこなせたお陰で東堂をぶちのめす事が出来た。

 

「え、待って。

 その前に反転術式使えんの?」

 

「あ、はい。

 京都行く前に家入先生の術式を、脳と目を強化して観察してたんですよ。

 それで強化状態に限り使えるようになりました。」 

 

 そういえば先輩方に使えるって話をして無かった。

 因みに術式を回してない状態なら、正の呪力を作り出すのに時間がかかり、骨折位までしか治せないと思う。

 ただまあ今は24時間術式回しているから素の状態とか、分かんないけど。

 

「すげーなおい、今年の交流会も安泰だな!

 今年は乙骨がいないから厳しいと思ってたけど轟がいるなら何とかなりそうだし。

 いやー良かったー、アイツら性格悪いから負けたくないんだよ。」

 

 交流会、真希先輩も言っていたが殺さなければ何でもありの生徒同士のバトルらしい。

 要するに合法的な死闘、交流会なら俺も停学にならなかった。

 

「あ、そういえば真希先輩って何時頃戻ります?

 何か、学長から準一級になると呪具の貸し出しの融通効くらしくて意見欲しいんですけど。」

 

 メイン武器は木刀和重があるが、これ以外にも使えそうなのがあれば持っておきたい、というか色々と試したい。

 正直、武器を選ぶ必要がないというか殴った方が早い領域まで強くなってる自覚はあるが、東堂との一件で制限下での工夫という楽しさに少し嵌まっている自分がいる。

 

「真希なら明日には帰ってくると思うぞ。

 後、俺も少しは詳しいから力になるぞ。」

 

「マジですか、ありがとうございます。」

 

 パンダ先輩と呪具のあれやこれやを話したり、パンダ先輩と差し入れという名の据え置き機でゲームしたりしていると、携帯が鳴った。

 番号のみが表示されているから俺が知らない奴からの番号だ。

 

「知らない番号から電話来たんですけど、心当たりあります?」

 

「うーん、知らんな。

 呪言とか電話越しでも通用するから出ない方が良いぞ、後、轟のターン。」

 

 パンダ先輩も心当たりがないらしいし、万が一に備えて放置した。

 暫くシカトすると諦めたのか鳴り止んだと思ったらメールが来た。

 

『from:東堂

 件名 何故出ないブラザー

 本文 ブラザー、電話に出ないとは何事だ!

 緊急時だから手短に話すぞ!

 後、五分で高田ちゃんが出る番組が始まるから見るんだ!』

 

(…着拒しとこ。)

 

「誰からだったんだ?」

 

「東堂からです。

 番号もアドレスも教えた覚え無いんですけどね。

 とりあえず着拒しときました。」

 

 多分、補助監督脅したな。

 いや、五条先生が教えたかもしれない。

 

「そっか、次100年桃鉄やろうぜー。」

 

「二人でやるゲームじゃないでしょ。」

 

 こうして、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、少し時間が飛ぶかもしれない。


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ハンバーガー

「よーお、停学野郎。」

 

「それ流行ってるんすか。」

 

 次の日、任務から帰ってきた真希先輩と一緒に高専の武器庫へと訪れた。

 準一級になるのは明後日からなので貸し出しはされないのだが、暇なので確認したいし真希先輩と会いたいからしかたないね。

 武器庫には四級から特級までの位で分類されて管理されており、今回は真希先輩の権限でお邪魔している。

 真希先輩の位は四級だが天与呪縛という特異体質と五条先生パワーで武器庫へのアクセスは特級まで出来る。

 目録を見ながら使えそうな呪具を真希先輩の権限で取り出して試してみようという訳だ。

 

「お前なら何でも使えると思うけど、どんなの欲しいんだ?」

 

「昨日、パンダ先輩と話したんですけど俺の場合攻撃より防御を重視した方が良いかなって思うんですよね。」

 

 攻撃面に関しては東堂との戦いから問題ないと思うが、防御面には少し不安がある。

 物理面ならともかく、物理的破壊を伴わない呪術の場合すこし心配な点がある。

 例えば、狗巻先輩の呪言は認識した時点で効果が発揮される為、呪言の内容によってはいくら身体能力を強化しようと致命傷を負う可能性がある。

 

「真希先輩はどうしてるんですか?」

 

「アタシはコレだな。」

 

 懐から藁人形を取り出して見せてくる。

 

「身代わりですか。」

 

 藁人形にはおそらく真希先輩の体の一部が入っている筈だ。

 人型の人形に呪いを肩代わりさせるのはある種のポピュラーな話だが本当に実在するとは思わなかった。

 

「使い捨てだし、普通は呪力でガードするから需要少ないしで足元見やがってクソ高いんだよな。」

 

「でもそれ不意打ち対策としては結構使えますね。

 いくら位するんですか?」

 

 俺の質問に対して真希先輩は黙って指を三本立てて来た。

 三本という事は0が3つ、つまり100万位はするらしい。

 うん、無理。

 

「…マジですか。」

 

「一応、学校が半額出してくれてるけどな。

 後、これ自分に影響ある呪術に反応するからお前使えねえぞ多分。

 おとなしく、ごり押しで解決しとけ。」

 

「えぇ…。」

 

 欠陥品過ぎる…。

 頭を呪力でガードしてそれ以外は切り捨てて新しいパーツを再生させるしかないらしい。

 呪われた部分を術式反転で崩して反転術式で新鮮な状態に戻す練習をしておこう。

 

「…防御面は一先ず諦めます。

 じゃあ出ますか。

 お礼、ジュースで良いですか?」

 

 となると、武器庫に来た意味が失くなってしまった。

 武器に関しては昨日のパンダ先輩との話し合いで木刀一本で問題なしと結論が出ている。

 

「昼時だし、外に食いに行こうぜ。」

 

「自分停学野郎なんですけど。」

 

「飯食う位大丈夫だろ。」

 

 一応表向きは断ってるが真希先輩とランチと校則、どちらを優先すべきかは明らかである。

 武器庫を出て二人で校門へと向い歩いていると、前から伏黒が歩いた来た。

 いつの間にか京都から戻ってきたらしい。

 

「よお、恵、飯行こうぜ。」

 

「真希先輩に轟か。

 飯はいいんですけど、轟は停学中ですよね。

 流石に学外は不味いですよ。」

 

「なら僕がいれば問題ないよね、教師が監督してればオッケーでしょ。」

 

 後ろから聞いたことある声がして振り返ると、やっぱりいた。

 伏黒がいる時点で京都から帰ってきているだろうとは思っていたが。

 五条先生の登場で真希先輩と伏黒が顔をしかめる。

 この人との会話は大事な事以外ほぼくだらなくてどうでも良いことをずっと喋るから疲れるのだ。

 俺も正直断りたいが、五条先生の言い分は間違ってなく五条先生がいたほうが問題なく外出出来る。

 

「はぁ、しょうがねぇ。」

 

 真希さんが決断して、四人で昼食をとる事になった。

 向かった先は高専から一番近いファストフード、ハンバーガーチェーンとしてはすこしお高目な所だ。

 五条先生が来る時点で奢り確定なので、全員一番高いメニューを頼んだ。

 ここでの話題は京都での話になった。

 

「そういえば、真依は元気だったか?」

 

「あー、俺は歓迎会でしか見てませんけど健康状態は良かったと思いますよ。」

 

「禪院先輩なら俺も会いましたけど、不審な感じは無かったです。」

 

「そっか。」

 

「ねー知ってる?

 揚げパンって海外だとフライパンって言うんだよ。」

 

 真希先輩と真依先輩は双子の姉妹らしい。

 二人はわざわざ別々の高専に通っているから仲が悪いと思っていたが真希先輩は嫌ってる訳ではないみたいだ。

 優しそうな笑みも素敵だ。

 

「そういえば、お前と同級生って話ししたら加茂さんに同情されたぞ。」

 

「はぁ!?」

 

 つい驚いてしまった。

 それはつまり、俺が東堂と同じ人間だと思われているのか…!

 真希先輩と五条先生は伏黒の発言にゲラ笑いし始めた。

 

「あれは、東堂のバカに乗せられたんだよ…!」

 

「乗せられたにしても、敷地ぶっ壊すのはヤバいでしょー。」

 

「一番やりそうな人がそれ言うか!?」

 

 絶対、この人も学生時代にやらかしているだろ…!

 

「いや、僕はちゃんと壊していい場所を壊してたから。

 普通の人間は乗せられてもあそこまで戦わないでしょ(笑)。」

 

「あれ、お前がやったのか。」

 

 ぐ、ぐうの音も出ない…!

 伏黒も俺が何をしたのか知らなかったらしく、敷地をぶっ壊したと聞いて引いてる。

 ちょっと地盤沈下したぐらいじゃん!

 

「それでも、東堂と同じは納得できない…!」

 

 あいつは、人間性に問題があるドルオタだぞ。

 

「あ、そうそう、東堂が番号知りたがってたから教えといたよ!」

 

「お前か、犯人!」

 

 生徒の個人情報を危険人物に晒すな。

 

「まあ東堂のお陰で対呪術師の経験出来たし、おかげで恵を京都に連れていっても面倒事も無くて良かったよ。

 学べたでしょ?」

 

 それはまあ、否定できない。

 東堂の術式は「一定量以上の呪力が宿った物体同士を拍手で入れ換える。」という単純なもの。

 自分と相手、あるいはその他、拍手だけを行うブラフを組み合わせて常に複数の選択肢を迫ってくる。

 本人には絶対言わないが、術式を使いこなす頭脳は尊敬に値する。

 呪術師としてだけは尊敬出来る。

 

(あいつの術式って集団戦の方が向いてるのに、本人の性格が集団向けじゃないって何なんだろう。)

 

「じゃ、僕はそろそろ仕事があるから轟連れて帰るけど二人はどうする?」

 

「ついでに買い物して帰る。

 恵、荷物持ちな。」

 

「じゃあ、本屋よってください。」

 

「よし決まりだな。」

 

 油の付いた指を舐めとる動作もセクシー…は?

 何それデートじゃん。

 

「そっか、じゃ帰るよー轟。」

 

「待って俺もあっちが良い!」

 

「停学中に何言ってるの。

 帰るよー。」

 

 クソが!

 何もかも東堂のせいだクソッタレ!

 交流会で覚えてろよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の天敵候補その1 釘崎野薔薇


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夢の割符

 停学が明けて暫くが経ち、準一級になったがやることは春休みと殆ど変わらない。

 呪霊がいる可能性のある場所を調査して祓う、被害者を救出したり遺品を回収して報告書に纏める。

 これの繰り返しでたまに呪詛師案件を回される。

 俺が一年であるという点から殆ど一級の補助がメインであるが。

 

「今回の任務は頭に入っていますか轟君。」

 

「学生相手にタチの悪い粗悪品の呪具をおまじないとして売り付ける奴の摘発です七海さん。」

 

「よろしい。」

 

「にしても、子供を食い物にする奴ってどの業界もいるんですねぇ。」

 

「知ったような事を言っていますが君も私から見れば子供で学生です。」

 

 校門の前で学生達を眺めつつ七海さんと雑談をしながら放課後で帰宅してくる学生を待つ。

 七海さんは出会った一級術師で一番まともな人間だ。

 呪術師だから少しずれているけど、ちゃんと大人としての努めを果たそうとしている。

 俺の方が強い事を認めた上で。

 どっかの銭ゲバと偉い違いである。

 

「いやまあそうなんですけど。」

 

 件の呪詛師は中学生相手に己の術式を込めた呪具を『夢の割符』と称して安く売り付けているのだが、手口が最悪なのだ。

 夢の割符とやらの売り文句は『嫌いな相手を考えながら眠りに着くと夢で呪いたい相手を好きに出来る。』である。

 要するに夢の中で嫌いな奴を殴れるよって訳だ。

 それだけなら一件問題ないが、その夢は相手も見る事になる。

 嫌いな相手をボコボコにした上でボコボコにされる悪夢も見せられるという正に呪いの道具。

 呪詛師はそれを学校全体にばら蒔いた。

 中学生というのは純粋な人間関係からグループカーストやら集団としての価値を見いだして固執し始める時期であり、三人よれば派閥が出来るように人間関係は複雑怪奇、仲良しグループが実は互いに嫌いあっていたり、マウントを取り合っていたりでお互いに本音を隠しながら生きている。

 彼ら全員に行き渡る様に呪詛師は売り付けた。

 悪夢の見せ方と誰が自分に悪夢を見せているのか分かるように。

 結果、学生が学生を呪い合う地獄が生まれた。

 さらに負の感情が加速すればするほど、呪いは強くなり悪夢はより残虐になる。

 地獄が出来た頃に再び呪詛師は中学生の前に現れて今度は悪夢から守る呪具を高額な料金で売りにやってきた。

 それはノーガードの殴り合いの中で盾が得られる様なもの。

 一方的に攻撃出来る権利を得るために中学生は金を集めに走る。

 だが呪詛師の提示する金額は中学生の感性では巨額と言って過言ではない。

 親の財布から金を取るならまだ可愛い。

 それでも足りない場合、バイトも出来ない中学生の出来る手段は犯罪しかない。

 地獄が街全体に広がり始めて騒がしくなる一歩手前で呪詛師は金を巻き上げて消えていった。

 確認されただけでも既に三校が呪詛師の犠牲になっている。

 

「で、実態が判明し、呪具を回収した後も精神に傷を負った中学生の半分以上は社会復帰出来ずと。」

 

「ええ、なので今回は必ず捕まえます。

 最悪事態が収集するなら命の保証は要りません。」

 

 切っ掛けは『窓』と呼ばれる一般人の協力者からの通報である。

 子供が呪具を持っていたという通報から過去の事件が明るみになり、現在進行形で呪詛師がターゲットにしてる学校に呪術師が派遣される事になったのだ。

 

「今はまだ出回り始めたばかりなので、割符を安く販売している段階です。

 生徒達から何処で購入したのか聞き出して活動拠点を突き止めます。」

 

 チャイムがなり、暫くすると下校する中学生が続々と校門から出ていく。

 今回、派遣された呪術師は俺と七海さんの二人だけだが補助員は複数人動員して人海戦術で事に当たる。

 

「では私と補助員は街中で、轟君は校内をお願いします。

 何か分かれば直ぐに連絡を、それと深追いはしないこと。」

 

「了解です。」

 

 社会人である七海さんや補助員の皆は街中で呪具を持っている人間に尋問をし、俺は用意された制服で校内を探し始めた。

 

 

 

 

 




呪詛師の犯行に関しては貝木泥舟の手口を参考にしています。
 我ながら酷い事件だと思う。
 子供を精神的に追い詰めて金を巻き上げてトンズラですからね。
 しかも貝木と違って誰が誰を呪ったか分かる状態というね。

次の投稿は暫く時間かかるかもしれません。


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聞き込み

 お目当ての人物は直ぐに見つかった。

 当てもなく各教室を見回り呪具を持ってる人間がいないか探したら、図書室の奥で眠ってる生徒を見つけた。

 枕にしている右腕には件の呪具が握られている。

 どうやら、使用中らしい。

 隣に座って小突いて起こす。

 

「え、あ、すみません!」

 

 飛び起きて、居眠りを注意されると思って立ち去ろうと椅子から立ち上がろうとしている所を肩を掴んで無理矢理座らせる。

 

「おっと居眠りを注意した訳じゃないんだ、座れよ。

 君の握りこんでいる、ソレについて聞きたい事がある。」

 

「え、いや、これは別に。」

 

 逃がさないという意思表示の為に、少し強く肩を掴むと抵抗が弱まった。

 

「隠さなくていい、というか素直に喋ってくれると話が楽でいい。

 それと声を上げるなよ、図書室では静かにね。」

 

「な、何を聞きたいんですか。」

 

 よしよし、貴方は誰とか詮索したりする図太い奴じゃなくて良かった。

 

「何処で手にいれたのか、そいつに何を言われたのか。」

 

 初めは保身の為か弱気な性格だからか、モゾモゾとハッキリしなかったが、肩に力を入れてあげると素直に喋り始めた。

 

「なるほどね、街中で話しかけられて安かったから買ってみたと。

 試してみて効果が本物なら、友達と一緒に神社に来てほしいと。」

 

「あ、あの、全部話したから、肩。」

 

「ああ、ごめんね。

 後これは預かるから。

 じゃ、行っていいよ。」

 

 肩を放すと、一目散に逃げていった学生を尻目に割符の実物を眺める。

 見た目は梵字の書かれた小さな木の札であり中心、札の中から呪力を感じる。

 

(見た目はそれっぽい感じにしてるけど、呪術的な意味は無い。

 埋め込まれている中身が本体か。

 中身を取り出して呪詛師に感づかれたら面倒だし、取り敢えず七海さんと合流しますか。)

 

 学校を出て七海さんと高専が借りたレンタルオフィスで合流した。

 

「轟君が得た情報は此方でも確認出来ました。

 呪詛師は街の神社を間借りしていると見て間違いないでしょう。

 此方で調べた結果、呪詛師が潜んでいると思われる神社は大分前に放置されており、記録上呪物を納めているとはありません。」

 

「神社が雰囲気作りなのか、何かしら意図があるのか気になりますね。」

 

 七海さん達との情報を共有した結果、廃棄された神社を拠点にしているのは間違いなさそうだ。

 手口からしてこの呪詛師は大胆かつ慎重であると言えるだろう、呪具を広めてから短時間で巻き上げて撤収している。

 

「恐らく、我々に勘づかれた時の対策を用意しているでしょう。ですが、戦闘に関しては此方に分があります。

 私と轟君で拠点に攻め込みます。

 補助員は山全体に帳を降ろして、学生が入ろうとするかも知れないので立ち入りの阻止をお願いします。」

 

 方針が決まり、拠点とされる神社のある山へと移動する。

 

「作戦としては私が前衛で轟君は後衛として援護をお願いします。」

 

「たまには先陣切らしてくれてもいいんですけどねー。」

 

「態々、君が先陣を切らなくても後衛として、援護をしてくれれば殆どの呪詛師に対処出来ます。

 無駄に手の内を晒す必要は無いでしょう。」

 

 車の中での簡単な作戦会議。

 俺が索敵やバッファーとして活動し、敵に真正面から挑むのは七海さん。

 七海さんと組むときは大体、この布陣になる。

 別に学生だからとかではなく、近接戦闘メインの七海さんの足りない部分を俺が補う形だ。

 

「今回は余罪があると睨んでるので生け捕りの予定ですが、万が一があります。

 それに、子供に人殺しをさせたくないという気持ちもあるのは否定しません。

 何時か来る瞬間を先伸ばしにしたい私のエゴです。」

 

「…それを言われると何も言えませんわ。」

 

 両手を上げて降参の意を示す。

 七海さんの気持ちは分からなくもない。

 無駄に誰かの手を汚したくないから既に汚れている自分が手を下す。

 こういう所が人として尊敬出来る。

 暫くすると車が目的地へと止まる。

 小高い、雑草にまみれた山の中に目的の神社はある。

 管理もされていないのだろう、草木が乱雑に生えているが、よく見ると獣道が出来ている。

 更に術式で五感と脳を強化して中を探る。

 音の反響や熱や電磁波を拾って脳内で立体的なマップを構築する。

 

「神社の中に一人でそれ以外は見当たらないですね。」

 

「分かりました、帳が下り次第侵入します。

 では、帳の使用と一般人が登りに来ない様に監視をお願いします。」

 

 電話で指示を受けた補助員が山全体に帳を下ろす。

 これで、一般人には山の中で何が起こっても分からない。

 

「向こうも帳に気付いた筈です、こっからは時間との勝負です。

 行きますよ。」

 

「了解です。」

 

 

 

 




今回も短くてすみません。
やっぱりオリジナルだと技術力が足りないですね。

人の肩握り潰しながら質問をするのは果たして聞き込みなのだろうか。


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塵も積もればなんとやら

「降参だ呪術師。」

 

 山の中を高速で駆け上がり神社へと辿り着くと、中から男が降参の意を示すように両手を上げて出てきた。

 

「どういうつもりでしょうか。」

 

「どうもなにも、降参すると言っている。

 嗅ぎ付けられた時点で此方の敗北は必至、下手に逃げて五条悟と戦いたくない。」

 

「此方が信じるとでも。」

 

「信じるも何も、俺は誰も殺してないしな。

 下手に抵抗の意思を見せたほうが危ないだろう。」

 

 抵抗して殺されるリスクを考えたら、降参して命だけは保証される事を望むという事か。

 なるほど、確かに大人しく降参したら命の保証はされるかもしれない。

 抵抗しなければな。

 

「…いいでしょう。」

 

「いや、待ってください七海さん。」

 

 七海さんが投降に応じようとするのを止める。

 此方をチラリと見て、一歩引いてくれた。

 俺が話す事に了承を得たので、呪詛師を視界に捉えて話しかける。

 

「一つ気になってた事があったんだ。

 金目的なら何であんな方法を取るのかって。

 だってそうだろ?

 抵抗せずに投降を選択するような人間ならもっと慎ましく金を稼げる筈だ。

 金持ちでも適当に呪ってマッチポンプでもすれば良い。」

 

 今回の一件で少し気になっていた。

 中学生をターゲットにした金稼ぎにしては手が込んでるし、時間もかかる。

 単純に子供の苦しむ姿が好きなイカれた呪詛師なのだと思っていたが、目の前の男は抵抗もせずに投降を選択するほど理性的である。

 金が目的ならもっと堅実な方法を選択する筈だ。

 その謎にようやく気づけた。

 

「その懐に隠したブツに呪力を溜め込ませるのが、目的だった訳か。」

 

 この呪詛師は中学生の前に堂々と姿をさらして呪具を売り渡していた。

 呪力とは負の感情によって生まれ、人々の発する呪力は共通の認識の元、特定の場所に集まって呪霊となる。

 今回の事件の場合、既にこの呪詛師は三つの中学校で事件を起こしている。

 被害者は全学年全生徒に近く、全員が呪詛師に強い恨みを抱いた事だろう。

 一般人の呪力なんてたかが知れているが1000人近い人間の強い恨みから生まれた呪力なら相当なモノになる筈だ。

 

「お前を恨むことで生まれた呪力を身代わりとして懐のそれに溜め込ませている訳だろ。」

 

 強化された五感が懐に隠してある呪物を捉えている。

 封をされているが、抱えている呪力が膨大な為僅かに漏れ出ているから発見できた。

 

「…ばれたか。

 本当は商品だったがまあ良い。

 次は上手くやろう。」

 

 答え合わせと言わんばかりに呪詛師は封を解いてソイツを俺達へと放ってきた。

 その姿は大蛇だった。

 人の体で構成された肌色の大蛇。

 胴は人の背より太く、全長はビル4F位はあるだろう。

 これが1000人近い中学生の心を潰して呪詛師が育て上げた商品らしい。

 呪霊が放たれた瞬間に俺は大蛇の呪霊に、七海さんは逃亡しようとしている呪詛師に向かって走り出すが。

 

「…っが!」

 

 突如頭の中に大音量のノイズが走る。

 恐らく呪詛師の術式だろう。

 咄嗟に張り手で鼓膜を破ったが、鳴り止まない為直接頭に流し込んでいるらしい。

 奴の作った呪具からしてテレパス系統の術式だと思っていたが、こういう事も出来るのか…!

 

(頭が割れそうだ…!

 …まずい!?)

 

 動きが止まった所を敵が許すはずもなく、俺と七海さんは大蛇の凪ぎ払いによって吹き飛ばされた。

 

「大丈夫ですか、轟君!」

 

「問題なし!」

 

 一瞬焦ったが問題はない。

 俺は術式による強化で、七海さんは受け身を取る事で軽傷で済んだ。

 大蛇は俺達を殺そうと巨体に見合わぬ速さで追撃をしかけてくるが、真正面から受け止める事で動きを止める。 

 

「轟君、そのまま受け止めておいて下さい。」

 

 七海さんの術式は対象を線分した時に7:3の点に弱点を作り出す術式。

 格下の相手であれば、布を巻いた鉈でも一撃で両断出来るし、格上でも致命傷が与えられる必殺の術式。

 今の七海さんの鉈には布は巻かれておらず、抜き身の状態で大蛇の側面、俺が頭を押さえている為、全身でのたうち暴れまわる大蛇をかわしながら、術式を行使する。

 

7:3

 

 術式によって作り出された弱点を大鉈で切り飛ばし、大蛇の胴体が宙を舞った瞬間、ノイズが消えた。

 どうやら術式は大蛇が発していたらしい。

 

「轟君は呪霊の核となっている呪物の回収を、それと私は呪詛師を追うので術式の行使を。」

 

「了解。

 筋力強化、3分です。」

 

 七海さんは術式を施した瞬間から走り出した。

 余談だが、俺の術式と七海さんは相性が良い。

 七海さんの術式はあくまで対象に弱点を作り出すだけで、弱点に攻撃を当てるのは術者本人の技術である。

 スーツの下には長年の鍛練で形成された鋼の肉体があり、その技量は達人に匹敵する。

 故に肉体を強化された時の適応が速く、強化された肉体に振り回されずに十全を発揮出来る。

 

(あの人、術式の都合上なのか動体視力化け物だし適正高いよな本当。

 さて、こっちも片付けますか。)

 

 七海さんが捕縛に動き此方も呪物を探そうかと思っていると上から影が差している事に気付いた。

 そして頭に響く大音量の雑音。

 

「ま、生きているとは思っていたよ呪霊だもんね。」

 

 1000人分の恨みの結晶である大蛇は、致命傷を受けてなお生きていた。

 切り飛ばされた部位は手と手を取り合う形で無理矢理繋がっている為、完全回復とは至っていない。

 まあ、呪詛師がリスクを犯してまで作り出した呪霊である、あの程度で終わるとは七海さんも俺も思ってはいない。

 互いの役割分担の邪魔だから一時的に倒したが、本来は俺一人で片が付く。

 

「ああ、それともう効かないからソレ。」

  

 脳の音を認識する機能を術式反転で弱めているため雑音を頭の中に響かせても情報として処理されなくなっている。

 

「呪霊は俺の担当だしサクッとやりますか。」

 

黒閃

 

 頭から縦に叩き割れた。

 

「そちらも終わりましたか。」

 

 暫くして、後ろに気配を感じて振り替えると七海さんが戻ってきていた。

 片手には件の呪詛師を持って。

 

「終わりましたよ。」

 

 自身の仕事が終わった事を示すように、呪物を見せる。

 呪物は蛇の脱け殻だった。

 恐らく何処かしらの神社で祀られていたのを利用したのだろうそれは、呪力に耐えられなかったのか黒く腐敗している。

 

「では、高専に呪詛師と呪物を引き渡して任務は終了です。」

 

「じゃあ、鰻食べにいきません?」

 

 あの蛇を見て何となく食べたくなったのだ。

 

「構いませんが店は私が決めます。」

 

「了解です。」

 

 そして鰻屋にて二人とも特上をつつきながら雑談をする。

 

「そういえば、商品って言ってましたけど何処に売り付けるつもりだったんですかね。」

 

「そこも含めて今後明らかになるでしょうが、ろくでもない存在である事は確かでしょう。」

 

 自身に恨みを向けさせて呪霊の糧にするとか一歩間違えれば自分が破滅する手段である。

 実行させるメリットを提示した依頼人について気になるがそれは今後の調査次第だし、今のところ俺達の仕事ではない。

 

「にしても、未だに七海さんが五条先生の後輩と思えないんですけど。」

 

「私はあの人を術師として信頼はしてますが尊敬はしていません。」

 

「その気持ち分かります。」

 

 

 

 

 

 




呪詛師 
 思考を伝える術式を使う。ある以来を受けて、一連の事件を起こして大蛇の呪霊を育てていた。
 元々は術式を利用して相手の思考に自分の思考を紛れ込ませて誘導したりして詐欺等をしていた。
 大蛇の呪霊を解き放って逃走したが、強化七海に一瞬で確保、気がついたら捕まっていた。

大蛇の呪霊
 人のパーツで出来た蛇。
 鱗は手で目は眼球が集まった複眼、口には人の歯がびっしり並んでいる。
 一連の事件で集中した呪詛師への負の感情を身代わりとして溜め込ませて生まれた。
 呪詛師を経由して溜め込まれていた為、術式が刻まれてノイズを頭の中に直接ぶちこむ術式を持っている。
 核となっているのはとある神社に祀られていた蛇の脱け殻
 呪霊としての強さは一級上位か特級下位

七海への肉体強化
 シンプルに肉体の出力を上げる強化で七海の元々の身体能力もあって伏黒パパレベルまで上昇。
 普通は通常時との差が有りすぎて振り回されて立てない。

七海健人
 出力強化に数回で慣れた化け物。
 スーツの下には鍛え抜かれた鋼の筋肉が詰まっているはず。
 実は今回の事件は最初から怒り心頭な模様。


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同級生との語らい

久しぶりの伏黒


「弾くな…。」

 

「ああ。」

 

 5月のある日、運動場にて互いのオフが被ったので伏黒と前々から話していた式神への術式付与を試してみたが結果はセリフの通り。

 俺が術式で干渉しようとすると、呪力を弾いてくる。

 

「多分だけど、この形と出力で固定されているんだと思う。」

 

 増減しない固定値、恐らく式神か術式を成立させている根本的な縛りが関わっていると思う。

 

「わりーな、付き合わせて。」

 

「構わないよこれくらい。

 むしろ最近は学生らしいことしてなくてあれだったし。」

 

「やっぱり、準一級だと大変なのか。」

 

「大変というか、強い呪霊が沸く所って由緒ある場所とかのパターンあって気を使ったり、呪詛師案件だと陰湿な事件ばかりでしんどい。

 あと、たまに五条先生が仕事押し付けてくるし。

 規模は違えど伏黒もそんな感じだろ?」

 

「呪詛師は無いけどまあ似た感じだ。」

 

 伏黒も二級だし、ソレなりの案件は扱ってるらしい。

 

「で、どうするよ。

 解散でも手合わせでも構わないぜ。

 あ、調伏手伝うか?」

 

 伏黒の術式は影を媒介に十種類の式神を使役するらしいが、始めから十種類使える訳ではなく調伏という儀式を行って一種類ずつ習得するらしい。

 

「いや、調伏で手札増やしても今は扱える自信が無い。」  

 

「なら、質を高めなくちゃな。

 俺も伏黒の戦い方知らないし手合わせやろうぜ。

 あ、勿論許可とってからな。」

 

「当たり前だろ。」

 

 サクッと五条先生に連絡して許可をもらい、伏黒と対峙する。

 

「最初は俺が受けるから来いよ。」

 

「玉犬、白、黒、行け!」

 

 ワンちゃんワンちゃん!

 黒犬が顔、白犬が右腕目掛けて飛び付こうとしてくる。

 その速さは普通の犬より速く、噛まれれば一溜まりも無いだろう。

 まだ、術式は使わない。

 呪力による強化で二体の犬を捌いていくが、噛みつかれてはいないが、容赦なく突き立てる爪による傷が出来ていく。

 

(強さとしては、二級下位って感じか…。

 で、伏黒は様子見か、とと。)

 

 二匹の犬の間から飛んでくる伏黒の拳。

 なるほど、術師自らも前衛に立つ感じらしい。

 伏黒は喧嘩殺法と言うべきか、実践的な動きで立ち回り、式神とのコンビネーションで俺に畳み掛けてくる。

 

(なるほど、鬱陶しい。

…だが!)

 

「…黒!」

 

 白犬に敢えて右腕を噛ませて、そのまま黒犬を殴り付け、注意が黒犬に一瞬逸れた伏黒に回し蹴りを放つが後ろに跳ぶ事でかわされた。

 だがこれで猛攻が止んだ。

 

加点法 神級 レベル真希先輩

 

 真希先輩レベルまで身体能力を引き上げて伏黒に迫る。

 白犬は主を守る為に更にきばを食い込ませようとするが、すでに右腕の筋肉を力ませて固定している為引き抜く事すら出来ない。 

 

「オロチ!」

 

 腹に衝撃。

 伏黒の影から伸びる大蛇が俺目掛けて突っ込んできたのだ。

 チラリと殴り飛ばした黒犬を探すが消えている。

 どうやら黒犬を引っ込めて大蛇を召喚したみたいだ。

 

(距離を取られたか。)

 

 大蛇によって伏黒との距離は15m程開いた。

 伏黒が式神を解除して右腕と腹に来る圧迫が消える。

 向こうも仕切り直しがしたいらしい。

 

「鵺!」

 

(速い…!)

 

 次に伏黒が呼び出した式神は鵺、巨大な怪鳥だ。

 まっすぐに向かってくる鵺を木刀和重で叩き落とそうとしたが、帯電している為横に避けた。

 帯電からみて、どう考えてもあれは麻痺攻撃。

 

(式神を使いこなしているけど、いるけどなぁ。)

 

 まあいい。

 接近戦に持ち込むために距離を詰める。

 

(伏黒の術式の欠点は影絵。)

 

 伏黒が次の式神を呼び出そうとするが咄嗟にガードをする。

 俺が地面を木刀和重で抉り飛ばす事で妨害したからだ。

 そのまま、近付き、ガードした腕の間を縫う様に木刀で突き飛ばす。

 

「ゲホ、ゲホッ…!」

 

 どうやらいい感じに胸を突いたらしく、呼吸が苦しそうだ。

 

「取り合えず、ここまでだな。

 あれ、肋骨逝った?」

 

 あ、血を吐いた。

 どうやら折れた肋骨が肺に刺さったらしい。

 自分の右腕を治して、伏黒を担ぐ。

 目指すは家入先生だ。

 

「模擬戦で肋骨が肺に刺さるって、君は馬鹿なのかい?」

 

「不慮の事故です。」

 

 頭おかしい人を見る目をする家入先生から目を逸らして安置台で気絶した伏黒を見る。

 いやでも手加減したんだけどなぁ?

 

(冷静に考えたら、俺の模擬戦て真希先輩と東堂しかやってないな…。)

 

 真希先輩は天与呪縛で身体能力が高いというか頑丈だし、東堂は東堂である。

 フィジカルに関しては伏黒は普通な事に今気付いた。 

 

「もう動かして平気だから、どっか行け。

 これから検死だ。」

 

 さてと、追い出されたので気絶した伏黒を背負って寮へと戻りますか。

 

「…ん。

 ああ、轟か。

 悪い、下ろしてくれ。」

 

「いやー、俺が手加減間違えたのもあるしもう少し楽にしてれば。」

 

「いや、おぶられている所を五条先生に見られたくない。」

 

「それもそっか。」

 

 暫く歩いていると伏黒が目を覚ましたので、もう少し寝とけと言ったが、理由を説明されて下ろした。

 二人で並んで歩いていると伏黒がポツリと話を切り出す。

 

「なあ、お前から見てさっきの動きどうだった?」

 

「悪く無いんじゃないか。

 状況に応じて式神を使いこなしてるし、式神使いが近接こなすのもセオリー無視で意表を突けるしな。」

  

 実際、伏黒の動きは悪くないと思う。

 喧嘩殺法による近接と式神との連携。

 式神を切り替える状況判断能力もある。

 

「ただ、まあ。

 一つ気になるとしたら、伏黒の術式って式神が目立つけど影が本質だろ?

 そっちを全然生かせてないから、勿体ないとは思う。」

 

「…影か。」

 

 式神も影絵を媒介に召喚する訳だし、伏黒の術式の本質は影ではないかと思うというのが俺の意見だ。

 伏黒からの説明や実際に使用している所を見ると、影を操る術式と式神の術式が合わさっている様に見える。

 

「…ありがとな、少し一人で試してみる。

 形になったら、また頼めるか。」

 

「構わんよ。

 あ、肺と肋骨ごめんな。」

 

 

 




模擬戦の過去の相手が頑丈過ぎて手加減出来ない主人公。
伏黒に関しては少しだけ強くなりましたが、原作より速く影に気付く位。


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毒をもって毒を制すらしい

原作の足音が聞こえて来ました。
やっと14巻買えた。


 宿難の指と呼ばれる特級呪物がある。

 大体千年位前、呪術師全盛期とよばれる平安時代に実在した顔が二つで腕が四本ある呪術師で当時の呪術師達が総力を決して討伐しようとしたが、勝てなかったらしい。

 余りにも強大な力故に、死んだ後も二十本の指は呪物として残り続けており、誰も祓えず現代に至る。

 一部は高専が所有しており、強力な呪物としての特性を利用して毒をもって毒を制す理論で人の集まる場所で呪い避けとして活用されている。

 俺はこの話を聞いた時に高専はバカなんじゃないかと思った。

 

「そんな危険な爆弾を普通、田舎の学校に設置します?」

 

 宿難以外にもそういったやベー爆弾みたいな呪物は各地で呪い避けとして活用しているらしい。

 

「封印されてるから大丈夫だよ。

 呪詛師が下手に手を出しても、自爆するだけだし結界も貼ってある。

 という訳で、恵と轟は手分けして呪い避けの点検に行って貰おうと思います。

 はいこれリスト。」

 

 六月に差し掛かる頃、朝早くから五条先生に呼び出された俺と伏黒は上記の話をされてからリストを渡された。

 確認すると関東から上の学校がリストに並んでいる。

 

「これからの時期に、冬から春までの人間の陰気がどかっと沸いて忙しくなるからね。

 結構大事なんだよ?

 関東の方は二年生が任務ついでに担当してくれてるから二人は東北から北海道までを頼むね。」

 

 呪術師は人手不足で忙しいが、特に初夏からがヤバいらしい。

 冬は寒くて鬱になるし、冬から春にかけては気温の変化で自立神経が荒れるし、春は新環境でストレス感じて五月病といった感じで負の感情が凄い。

 それが夏の解放感と共に一気に呪霊に化けて結果的に呪術師は忙しくなる。

 その為の備えとして、呪霊避けの呪物の点検を怠れば一般人への被害もだが、単純にブラック労働が更にブラックになる。

 そしてこういう地味な作業は下っ端がやるのは世の習いである。

 

「じゃ、何かあったら連絡してねー!

 チャオ!」

 

 風の様に立ち去っていった。

 二人で溜め息を吐いて、リストを確認する。

 

「じゃあ、手分けするか。

 東北と北海道か。

 北海道は内部は交通の便が悪いから俺が走って回るとして、日本海側と太平洋側に割るか。」

 

「お前が北海道も回ってくれるなら、数が多い太平洋側は俺がやる。」

 

「オッケー、じゃあそれでいこう。」

 

 さっさと回って北海道グルメと洒落混みますか。

 と思っていたら五条先生が戻ってきた。

 

「ごめーん、忘れてた。

 轟は追加で幾つかの任務ね。」

 

 くそったれが。

 そんなこんなで数日たって弾丸出張の轟悟です。

 各地の呪物の点検は人が集まるところに置いてあるので地理的に移動が楽で問題なかったが、付属して与えられた任務の場所は所謂廃墟等の心霊スポットで移動がめんどくさい。

 俺一人なら術式で地図上を真っ直ぐ進めば良いが、事務処理要員の補助員がいるためそれが出来ない。

 一番効率の良い手段を取れないのはストレスが貯まる。

 

「ねぇー新田さん。

 俺がもう音も無くばばっと全部終わらせるから、後からついてきてよ。」

 

「いや、それ私一人で各地の廃墟回る事になるから勘弁ッス。」

 

「お化けなんて全部祓ってるから大丈夫だって。」

 

「はいはい、そろそろ着きますよー。」

 

 最初は補助員である新田さんを担いで高速移動しようと試してみたが、秒で新田さんが吐いたので止めた。

 幸い、北海道は呪物の点検だけで済むので走って終らせる事が出来る。

 苛立ちをぶつけながら、廃墟の呪霊を倒していく。

 

「よし、青森終了…!」

 

 呪物の点検は北海道のみ…!

 まだ、太平洋側に任務があるからゆっくり出来ないけど、寿司位は食ってやる!

 

prrrrr…

 

 電話が鳴り確認すると『五条先生』の文字。  

 明らかに面倒事の臭いがする。

 出たくない、けど出なくてはいけない…

 

「はい轟です。」

 

『ヤッホー、恵の方でトラブル発生したから仙台から上を代わりにやってほしいんだよね。』

 

「トラブルとは…?」

 

『呪物が持ち出されていたみたい。

 ま、僕がカバーに向かうから心配いらないけどね。』

 

 …断れないなコレは。

 

「わかりました。

 伏黒の事頼みますね。」

 

『生徒なんだから当然だよ。』

 

 恵の分も回るとなると、スケジュール的に北海道を即終らせる必要がある。

 寿司はお預けか…。

 東京で五条先生に奢って貰おうか、うん。

 そうと決まればさっさと回ろ。

 

 

 

 

 

 




結界に関しては独自設定というか、多分あるよねって話。
じゃなきゃ百葉箱にポンと置いてある訳無いと思う。
というかどう考えても特級呪物を学校に置いておくのはちょっとどうかと思う。


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宿難の器

ついに原作主人公と邂逅!


「宿難の器を保護したって聞きましたよ。」

 

「器じゃなくて虎杖悠仁だよ。」

 

 電話から数日後、任務から帰ってくると五条先生が宿難の器を保護していた。

 話の概要は伏黒から聞いたが、どうにもきな臭い。

 なので、五条先生に確認しに来た。

 

「五条先生は偶然だと思いますか?」

 

「いや、仕組まれてるでしょ。

 悠仁の存在が偶然だとしても、直ぐ側にあそこまで封印の弛んだ宿難の指があるのは変だしね。」

 

 というか、封印されているとはいえ特級呪物は仕舞い込んで置くべきだと思うのだが。

 いやでもそうすると学校中に呪霊が沸くかもしれない。

 移動中に新田さんから聞いた話だけど、呪物の設置を拒否した学校で不審死が相次いだとかあるし。

 

「多分、黒幕は先生が保護する事を前提で仕組んだと思いますよ。」

 

 虎杖悠仁は本来なら即秘匿死刑になる筈だったのを五条先生が『全ての指を回収するまで。』という実質的に無期限の引き延ばしをした。

 黒幕は恐らく五条先生が動くと仮定しているはず。

 だが、あくまで引き伸ばしただけであるし、上は虎杖悠仁の暗殺を考えている可能性もある為、虎杖悠仁の命は完全に保証されている訳ではない。

 

(ということは、五条先生の動きを織り込んだ上で虎杖悠仁は失敗してもいいスペアプランの可能性がある。)

 

「まあ、情報が少なすぎて何を仕組んでいるか分からないから敢えて乗るしかないでしょ。」

 

 確かにその通りだ。

 敵が何を企んでるのか分からない以上、怪しいからと虎杖悠仁を殺すのは少し忍びない。

 向こうからしたら死刑執行されても痛くも痒くもない可能性もある。

 

「まあ、そうですけど。

 でも一つ言える事は、向こうは五条先生の性格を把握してるって事ですよ。

 心当たりあります?」

 

「一人いたけど、死んじゃった。」

 

「あっハイ……」

 

 恐らく、夏油傑の事だろう。

 去年、京都と東京で大規模な呪霊テロ『百鬼夜行』を行い、当時一年の乙骨先輩に敗北し五条先生によって処刑されたと聞いている。

 

「ま、そういうのは僕が考えとくからさ、轟はもっと青春した方が良いよ。

 彼女作るとか。」

 

「真希先輩には乙骨先輩がいるし、他の女性は京都校だから俺出禁でダメで在学中の期待ゼロなんですけど。

 つーか、青春させたいなら自分の任務を丸投げするの止めてくださいよ。

 先生への嫌がらせ目的なのか、僻地ばかりだし。」

 

 五条先生は自分の任務を生徒に丸投げする悪癖がある。

 任務のレベルは問題ないのだが、場所が僻地だったり果ては海外だったり、重要文化財だったりと明らかに五条先生への嫌がらせ目的としか思えない内容なのだ。

 

「京都は自業自得だから僕に言われてもねー。

 あ、そうそう六月に一年が一人入るけど女子だよ。」

 

 任務の事は無視ですか、そうですか。 

 

「悠仁の事は僕に任せて轟はせっかく増えた新しい仲間なんだから仲良くやってよ。

 まあ、悠仁の事で僕の心配をしてくれるのは嬉しいし、進展あったらまた意見聞かせてよ。」

 

「先生というより、自分の周りの心配なんですけどね。」

 

 五条先生は最強だけど絶対ではない。

 今回の虎杖悠仁の件は五条先生の性格を理解した上での策と俺は考えている。

 つまり、黒幕は最強の呪術師五条悟ではなく五条悟個人に対する策を用意していると考えるべきだろう。

 

「それでも、周りの事を考えて僕に質問してきたんでしょ。

 ま、最悪僕に何かあったとしてもその時は轟がいるしね。

 最近本気出せてないでしょ?」 

 

「…信頼には応えますよ。」

 

 本気を出せていないというより、本気を出せる相手がそれこそ五条先生しかいないのだが。

 

「よし、話し合いも終わったし、一年生が増えた記念にパーティーしよう!

 地方から出てきたから、東京パワーを見せつけてあげよう!」

 

 好きだなパーティー、というか東京パワーって輸送費で跳ね上がってるだけで地方の方が名物に関しては安くて旨い気がするのだが。

 

「先生がそういうスタンスなら俺は虎杖悠仁を歓迎しますよ。

 取り敢えず会ってきます。

 寮に居るんですよね?」

 

「うん、三人とも並べてあるよ!」

 

 わざわざ空きが沢山ある寮でその配置は善意か悪意か。

 というわけで、任務帰りということもあり寮へ真っ直ぐ帰ると扉の前に誰かいた。

 桃色の髪の毛で横は刈り上げている、確かツーブロック?分からないけど刈り上げた部分は黒いから染めているのだろうか。

 お洒落は知らんから良く分からないが、着ている高専の学ランも相まって不良にしか見えない。

 

「人の部屋の前でどうした虎杖悠仁。」

 

「お、あんたが轟か。

 同じ階の隣に越してきたから挨拶をって何で俺の名前知ってるの?」

 

「五条先生に会ったからな。

 取り敢えず中入ろうぜ。」

 

 第一印象は年寄りとかに優しそうなヤンキー、中に両面宿難がいるらしいから少し警戒してたが損したな。

 

「おー、やっぱり部屋の作りは一緒か。

 って筋トレグッズスゲーな。」

 

「寮なんだから当たり前だろ。

 コーラで良いか。」

 

 返事を聞かずに缶コーラを投げ渡す。

 家の冷蔵庫にはコーラと炭酸水しかない。

 炭酸水は俺専用でコーラは真希先輩が何時来ても良いように缶で常備している。

 コーラは缶が一番旨い。

 

「ありがとう。

 お、缶コーラじゃん。

 一番旨いよな。」

 

 話が分かるな。

 

「改めまして。

 今日から同じ階に住む一年生の虎杖悠仁!

 よろしく!」

 

「ご丁寧に。

 一年の轟悟だ。

 名前が五条先生と被るから名字で呼んでくれ。」

 

 差し出された手に応えて握手をしながら、虎杖を観察してみる。

 

(物理的には普通の人間って感じだし、呪力も普通。

 宿難の器って感じには見えないが。

 …いや、五条先生を信用する事にしたし、放置でいいか。)

 

「これから大変だと思うが、頑張れよ。」

 

 軽く会話した感じ、虎杖は善人タイプな感じがする。

 呪術師には珍しいタイプだし、飄々とした態度から自分の死を承知している此方が死にたくなる様な根っこからの善人タイプの可能性がある。

 20本指集めて死ぬ事にポジティブなのは良いことなのか分からないが、近くにいて害にはならないだろう。

 

「あ、グラビア。」

 

 考え事していると、暇だったのか部屋をキョロキョロ見渡して東堂の置き土産を見つけられた。

 

「やるよそれ、引っ越し祝いだ。」

 

「え、いいよ別に。

 アイドル興味無いし。」

 

「…アイドルって知ってるなら受けとれ、返品不可だ。

 鍋敷きにでもしとけ。」

 

 取り敢えず、写真集を押し付けよう。

 

 

 




主人公は今の段階で色々疑ってます。


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自称、紅一点。

なんか、真希さんの事死んでもええとか言った奴がいるみたいですね。




 東京原宿、若者の街と呼ばれ流行りの最先端が生まれる場所で新陳代謝が激しい。

 タピオカの次がもう生まれているとか。

 正直、インスタ映えとか良くわからないし、カラフルな感じは好きじゃない。

 

「集合場所に原宿指定って五条先生も何考えてるんだか。」

 

「あ、俺アイス買ってきていい?」

 

「好きにしろ。」

 

 何で原宿の話をしているのかというと、遅れて入学する最後の一年生を迎える為である。

 正直全員で迎える必要は無いと思うが、五条先生曰く『こういうのは始めが肝心。』らしい。

 

「にしても一年が四人って少なくないか?」

 

「呪いが見えるパンピーがそれだけ少ないってことだ。」

 

「あっ、そっか。

 お、何あのサングラス!

 ちょっと見てくる。」

 

 どうやら虎杖は原宿を楽しむ事が出来る人間らしい。

 というか、お上りさん全開ってだけかもしれない。

 対照的に伏黒と俺は既に帰りたいと思っている。

 伏黒は先日の一件で病み上がりは勿論の事、静かな時間を好むタイプだし、私服からしてお洒落にも興味がない。

 

「やっほー、お待たせー。」

 

 原宿駅から五条先生が歩いてくる。

 というか、その格好で公共交通機関使っているのか。

 既にチラチラと注目浴びてるし、何人かスマホを構えている。

 

「何で、原宿で待ち合わせなんですか。」

 

「本人の希望だってさ。」

 

 マジか。

 完全に原宿で遊んでから来る気だろソイツ。

 神経が図太いってレベルじゃない。

 

「あ、悠仁の制服間に合ったんだね。」

 

「あ、うん。

 でも伏黒や轟と結構違うんだよな。」

 

 呪術高専の制服はある程度カスタマイズが可能で、希望すれば個性全開の格好も可能だ。

 カスタマイズ可能な理由としては、好きな服を着る事によるリラックス効果だとか。

 伏黒と俺は特に拘りが無いのでオーソドックスな制服だが、虎杖は赤いフードが取り付けられている。

 

「俺、制服に希望なんか出してないけど。」

 

「そりゃそうだよ、希望出したの僕だから。」

 

「えぇ…。」

 

「五条先生こういうとこあるから気を付けろ。」

 

「あの人の発言は九割聞き流しとけ。」

 

 周囲の視線で今更気付いたが、木刀をベルトに差した俺、髪がピンクな虎杖、目付きの悪い伏黒、目隠しバカ。

 客観的に見て、駅前でたむろしている俺達って不良にしか見えないんじゃなかろうか。

 

「なあ、あのポップコーンうまそうだから買ってくる!」

 

「僕の分もよろしく!

 はい、お金。」

 

 どうやら視線を気にしていたのは俺だけらしい。

 虎杖と五条先生は気にせず、派手な入れ物のポップコーンを買いに行ってるし、伏黒はスマホを見て暇潰しをしている。

 なんか、バカらしくなってきた。

 

「あのー、モデルとか興味ないですかねー。」

 

「お、スカウトだ。

 流石東京。」

 

 虎杖のポップコーンを摘まんで暇を潰していると、道の向かいでスカウトマンが活動していた。

 別に違法な事ではないし、仮に違法でも呪術を使ってないなら管轄外である。

 

「あ、断られた。」

 

(小太りのおっさんじゃ無理だろ。)

 

 今時の若者にとってスカウトマン=不審者という第一印象である。

 それをどう覆すかが重要な訳で一番の手段は清潔感なのだが、あのスカウトマンからは感じない。 

 断られて落ち込んでいるスカウトマンの元にズンズン進んでいく女がいた。

 …あれって。

 

「五条先生、あれって。」

 

「うん、待ち合わせの子。」

 

 両手の紙袋はガッツリ買い物した事を示し、背中に背負った親が値段見て買ってきた感じのピンクのリュックは田舎から来た事を匂わせる。

 ここまでなら只のお上りさんの学生で終わるが、着ている制服は呪術高専の制服で残念ながら我々の待ち合わせ相手であった。

 

「ねぇ、私は?」

 

 そんな女が落ち込んでいるスカウトマンの肩を掴み、自分を売り込んでいた。

 

「スカウトマンに声かけるってどんな自信だよ。

 つーか、芸能人と呪術師掛け持ちする気か?」

 

「うーん、芸能界で悪さする呪詛師もいるかもしれないから、アリだね。」

 

 万が一実現したら呪術師の仕事って変則的だし、過労で死にそう。

 

「俺達あれに話しかけんの?

 ちょっと恥ずかしーな。」

 

「チッ、お前もだよ。」

 

 伏黒がバカが増えたと言わんばかりに眉間にシワを寄せて、五条先生は何か変な事を考えだし、虎杖はいつの間にか買ったダサいサングラスをかけてる。それ外せ、恥ずかしいから。

 あ、スカウトマンに断られた。

 

「ちょっと、何で断んのよ。」

 

 うわ、断ってスカウトマンが横を通りすぎようとした所を肩を再び掴んで詰め寄ったよ。

 

「…あの図太さは見習うべきか?」

 

「いいねー、好きだよああいう子。

 おーい、こっちこっち。」

 

 五条先生の呼び掛けに気付き、スカウトを解放して此方にやってくる。

 

「荷物預けてくるから、ちょっと待ってて。」

 

 そして俺達を素通りして駅のロッカーに歩いていった。

 

(マジか~、こいつマジか~。)

 

 待っているのも無駄なので、ぞろぞろとロッカーまで付いていく。

 

「はい、それじゃあ改めて。」

 

「釘崎野薔薇。

 喜べ男子、紅一点よ。」

 

(…興味沸かねぇわボケ

 年上になってから出直してこい。)

 

 五条先生の紹介に対してこの一言、図太いを越えてヤバい奴に見えてきた。

 俺達も自己紹介を返していると値踏みするような目で顔を見てくるし。

 

「はぁ、私ってつくづく環境に恵まれないわね。」

 

 人の顔見てため息吐きやがった。

 

「それで、これからどうするんですか先生。」

 

 伏黒はスルーして、次の予定を確認している。

 この冷静さの方を学んだ方が良いな。

 

「せっかく一年が四人揃っていて、半分がお上りさん。

 行くでしょ、東京観光。」

 

「「東京観光!!」」

 

 お上りバカ二人が騒いでるが、多分廃ビルとかだぞ絶対。

 

 

 

 

 




一年メンバー揃い踏み。
なお、紅一点と主人公のフラグは快速で折れた模様。
後、言い訳になりますが。
東京タワー投げれる云々についてですが、封印されたての五条悟並みに信用出来ない言葉と考えてください。
というのも主人公は自分の術式を理解してから本気を出した事ないので。
まあ、でも真面目に使ってオールマイトとタイマン張れるとは思うよ多分。
何処かで必ず本気は見せるのでそれまで上限は不明です。


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釘崎野薔薇は砕けない

タイトル言いたいだけ感ある。


 予想通りというか、当たり前というか。

 五条先生の引率の元案内された場所は六本木にある廃墟ビルであった。

 

(確実にいるな…。)

 

 等級は強く見積もっても三級程度だから初心者にはある意味持ってこいな感じだし多分、二人の実力を見たいのだろう。

 そして案の定、釘崎と虎杖は二人で呪霊退治に行かされた。

 騙されたと文句を言いながらノシノシとビルの中に入っていく釘崎とその姿に呆れている虎杖を見送り、近くで俺と伏黒と五条先生は待機する。

 虎杖はともかく、釘崎は何しに東京来たんだマジで。

 まさか、東京に来たいから高専に来たとかないよな?

 暫くして、伏黒が動こうとする。

 

「…やっぱり俺も行きます。」

 

「病み上がりなんだから無理しちゃダメだよ。」

 

「そうそう、お前が行くと意味なくなるし。」

 

 根っこが善人というか、育ちが良い伏黒は二人が心配で自分も行こうとするが、二人で止める。

 

「そ、今回は轟の言う通り。

 野薔薇のイカれ具合を見たいんだ。」

 

 五条先生が伏黒に今回の狙いを説明しているが、呪術師は大なり小なりイカれている。

 呪霊が見えて、呪術という普通を越えた力を持っていればイカれているのはある意味必然と言えるだろう。

 そして、イカれている呪術師程大成する。

 イカれているからこそ、常識という箍を外して柔軟に術式の解釈を広げられるし、イカれているという事はある種我が強いという事でもあり、強い。

 逆に言えば強い術式を持っていても常識で縛られている呪術師は弱い。

 そういう意味では虎杖はある意味異端児である。

 伏黒の話から、当時只の高校生だった虎杖は呪霊相手に躊躇なく攻撃したそうだ。

 普通は逃げる所を躊躇なく攻撃して、挙げ句の果てに特級呪物飲み込むなんて十分にイカれている。

 

「後、地方とこっちじゃ呪霊の質も違うからそれに対応出来るかも大事だし。」

 

「そうそう、都会の呪霊は狡猾だからねぇ。」

 

 田舎と都会では呪霊の質が違うというのは有名なはなしである。

 強さは同じでも都会の呪霊は、狡猾で卑怯な一段階上の糞になる。

 田舎の呪霊は比較的獣に近く、ごり押しで片付けられるが都会の呪霊は人質とかの手段を当たり前の様に仕掛けてくる。

 

(…あ、人質取られている。)

 

 話をしながら中の様子を音で聞いていると、呪霊が子供を人質に取っており、釘崎が渋々己の得物を手放している。

 なるほど、あの図太さが何処から来ているのかと思ったがどうやら彼女はプライドが高いらしい。

 自己の生存よりも、情けない自分になる事が許せないタイプだ。

 まあ、呪霊が子供を解放するわけ無いが。

 というか、この状況を打開する手札が無いくらい彼女は弱いのか。

 田舎の呪霊と同じだと油断していたという事もあるが、プライドに実力が追い付いていないのは残念である。

 

(まあ、妥協とかしないタイプだし、逆に言えば伸び代は十分にあるとも言える。)

 

 こういうガッツがあるタイプは五条先生が好きそうだ。

 その後、虎杖がコンクリートの壁をぶち壊すという規格外の方法で後ろから奇襲する事で人質は解放。

 ビルから逃げ出そうとした呪霊は釘崎の呪術で無事に祓われた。

 

(…虎杖が藁人形って言ってたな。

 それに、呪霊の消滅の仕方からして、もしかして遠隔で直接ダメージ食らわせるタイプか。)

 

 呪霊の祓い方から見て、核に直接ダメージを与えると考えていいだろう。

 しかも、呪力によるダメージで非常にめんどくさい。

 恐らく、『打撃』という結果を核に押し付ける事でダメージを与えている可能性が高い。

 防ぐ方法としては、込められた呪力以上の呪力を『核』に宿す事でしか防ぐ方法はない。

 つまり、条件付きの防御無視の必中攻撃。

 俺の推測が正しいなら、釘崎と俺の相性は相当悪い。

 俺の売りは異常なまでの呪力効率による強化術式、つまりいくらステータスを強化しようとHPの上限が代わらないので直接ダメージが通る類いは少し厄介になる。

 

(そして、損傷を回復しようにも恐らく釘崎の呪力が邪魔して上手くいかない可能性がある。)

 

 性格が合わないとは思っていたが、術式まで俺の天敵とは。

 

(味方で良かったぜ…。)

 

 その後、釘崎のイカれっぷりを見れて楽しそうな五条先生の奢りで寿司を食うことになったが、何故かリッパ寿司になった。

 というか、回転寿司すらない田舎ってマジかよ。

 

「うおー、マジで新幹線じゃない!?」

 

「だろー!

 ていうか開幕からパフェ頼んだの誰?

 しかも四つ。」

 

「あ、それ全部僕の。」

 

「取り敢えず奢りだから大トロ頼もうぜ。」

 

「轟、俺の分も頼む。」

 

 新幹線で運ばれて来た大トロを食べながら思う。

 銀座の寿司でも、この二人はどうせ騒ぎながら食べる事になりそうだからこっちの方が結果的にマシだったなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思ったより短くなってしまった。
最新刊読むと魂に伝えてる感じがあるけど、どうなんだろう?


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正の呪力の使い道

前話感想無くてビビったぞ。
まあ、殆ど原作の焼き回しだししゃあないけど。
前作で感想返し必ずやってたら疲れたので今回は気になった部分だけ返すようにしてますが、ちゃんと全部目を通してます。





 釘崎合流から数日経ち。

 

(正の呪力で術式打ち消せないかな。)

 

 釘崎の術式の様な呪術に対する手段を考えている時にふと思い付いた。

 正の呪力とは、通常の呪力を負として見た場合に負の呪力を掛け合わせて作る呪力で効果としては反転術式で回復に生かせたり、術式によっては術式反転により第二の術式を行使出来る。

 要するに、正の呪力とは通常の呪力と逆向きのベクトル、或いはスカラー?を持った呪力という事である。

 使い道は一般的に上で述べた通り、反転術式と術式反転位しか知られていない。

 ただでさえ、貴重かつ優秀な回復手段を持つ人材であるため研究が盛んではないのだ。

 

「という事で、Let's try。」

 

 高専が管理している蠅頭という四級以下のカス呪霊で試してみる事にした。

 取り敢えず手のひらにちょこっと正の呪力を集めて、蠅頭を触ってみると、触れられた所がごっそり消滅した。

 汚れが落ちるみたいで気持ちいい。

 取り敢えず、呪霊特効はありそう。

 次に、正の呪力をちょびっと流し込んでみる。

 

「ギィイイイィイ!?」

 

 蠅頭は苦しみながら、溶けるように消滅した。

 

(呪霊は呪力の塊、観察した感じは呪力と正の呪力が打ち消し合っている様に見える。

 それと効率だけ見れば普通の呪力よりも簡単に祓える。)

 

 取り敢えず、成果としては呪力を打ち消す力がある事がわかった。

 呪力を消すという事は、術式を消せる可能性も高い。

 試してみたいが釘崎の術式は観察が難しいし、伏黒の場合は最悪、式神を構成する術式を消す事になるのでヤバい。

 術式を持ってない虎杖も論外。

 …という事は五条先生しかいないなー!

 五条先生なら実験台として申し分ないし、実験が上手く行けば合法的に殴れる事になっちゃうけどしょうがないなー!

 確か、今日は出張とか無かった筈だし!

 ウキウキしながら五条先生を探しに行くと、途中で家入先生に会った。

 

「あ、家入せんせー!

 五条先生知りませんかー?」

 

「あいつなら急な出張が入って居ないよ。」

 

 まじか、せっかくの実験台が…。

 

「せっかく、合法的に殴れると思ったのに。」

 

「返り討ちに合うのがオチだろ。」

 

「いや、正の呪力なら五条先生の術式を打ち消せないかなと。」

 

 俺のやろうとしている事を話すと、家入先生は顎に手を添えて考えだした。

 そういえば、家入先生も反転術式の使い手であり、その道の専門家と言って過言ではない。

 

「…学生時代に試しに呪霊に流したら消滅したし、可能かも知れないが。

 実践的では無いんじゃない?」

 

「え、拳の表面を纏う様にすれば良いじゃないですか?」

 

 術式で強化した拳の上から正の呪力を纏えば簡単である。

 

「それ出来るの多分、この世で君だけだよ。」

 

「…確かに。」

 

 家入先生がドン引きするという、とても貴重な姿があった。

 

「というか、自分で試せば良いじゃない。」

 

「え、それだと五条先生殴れないじゃないですか。」

 

 何を言っているんだろうか。

 

「…あっそ。

 じゃ、結果だけ一応教えてね。」

 

 スタスタと早足で去っていく家入先生。

 何か逃げている様に見えるが、多分忙しいんだろう。

 忙しい中、わざわざ時間を割いてくれた家入先生の為にも五条先生を殴らなくては。

 気分は王様の噂を聞いたメロスである。

 しかし、五条先生は今いない。

 仕方ないので、自分で試してみるか。

 一応、何があるか分かんないのでグラウンドまで移動する。

 右腕を術式で強化して、左手に正の呪力を纏う。

 

(はい、拍手。

 …おお、上手くいった。)

 

 結論から言うと上手くいった。

 手のひらを合わせると、合わせた部分の呪力が打ち消されて術式が消えた。

 そのまま、左手から正の呪力を流し込むと、流し込まれた右腕の術式も打ち消されると同時に肌が綺麗になった。

 どうやら、術式を打ち消した上で、反転術式として機能してるらしい。

 自分相手にやったから肌が綺麗になったけど、他人だと調整ミスって大変な事になりそう。

 術式を打ち消せるが流し過ぎない方がいい。

 ということは、一瞬だけぶつければ良い。

 相手の展開する術式を打ち消す分だけ流せば、相手を回復させずにダメージを与えられる。

 

(あ、呪力であるなら黒閃も行けるのでは?)

 

 試しに地面に向かって黒閃と同じ要領で正の呪力を纏ってぶつけると、呪力が白く染まり、地面に小さいクレーターが出来た。

 黒閃同様に、威力は2.5乗になっているみたいだ。

 白閃と名付けよう。

 多分、これならどんな呪霊も一撃必殺だし五条先生みたいな術式で防御出来る奴も殴れる筈。

 

(あ、黒閃と白閃を同時に放ってみよう。)

 

 イメージは二重螺旋。

 インパクトの瞬間に正と負の呪力で二重螺旋を描いて拳に纏えば良い。

 強化された俺の頭脳なら問題なく実現出来る。

 威力がどうなるか、分からないから腕に術式は使用せずに普通に殴る。

 コツンで良いだろう。

 

(えい。)

 

 意識が飛んだ。

 気付いたらグラウンドの端で倒れていた。

 起き上がると俺がいた場所には大きなクレーターが出来ている。

 どうやら、反動に耐えきれず吹き飛んだみたいだ。

 右腕に違和感を感じて見てみると、肘から先が無い。

 吹き飛んだらしい。

 とっさに術式を無意識に発動したのか被害は右腕以外に無い。

 しかも、術式反転も併用して痛みを誤魔化している。

 俺の無意識は優秀だ。

 右腕を反転術式で治しながらボーッと考える。

 今回の失敗は、ちょっと楽しすぎて術式で耐久力を強化するのを忘れていた事だろう。

 吹き飛んだのは単純に黒閃と白閃の同時打ちが成功した結果だろう。

 

(けど、これ使えないな。)

 

 コツンでこれだ。

 真面目にやったら、どうなっていたか分からないし威力が強すぎて反動で絶対吹き飛ぶ。

 

(うん、封印しよう。)

 

 どうせ俺しか出来ないし。

 その後、生やした右腕の調子を見てもらうついでに家入先生に話をしたら、またドン引きされた。

 

 

 

 

 

 

 




 
 今回の話は14巻で判明した正の呪力は呪霊の弱点であるという事から書いて見ました。
 呪霊=呪力の塊
 なら、術式に対しても有効ではないか?
 と解釈。
 
 ただ、原作の今後次第で無かった事にするかもしれません。
 打ち消すのではなく、「正と負の呪力がぶつかると第三のエネルギーが放出される。」とかの可能性もありますし。
 拍手した時点で手の平さよならしちゃう。
一応その場合の設定を考えてはいますが。
 後、主人公の呪力コントロールは術式で頭脳を強化したから出来る変態技術です。
 どれくらい変態かと言うと、血界戦線のザップの師匠並みに変態です。

最後の黒閃と白閃の同時打ちは2.5乗×2.5乗になるのかな?


 
 
 
 
 


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領域展開とか

 次の日、五条先生が出張から帰ってきたらしいので、殴りかかったら避けられた。

 

「何で術式があるのに避けるんですか。」

 

「普通の攻撃なら受け止めてたよ。」

 

 どうやら、五条先生も反転術式の可能性に気付いていたらしい。

 

「因みに対策とか立ててたりします?」

 

「まあ、強いて言うなら近付かせない事かな、後は当てられないようにする事。

 そもそも、攻撃に転用出来るクラスの正の呪力作れる人間なんて滅多に居ないし。

 僕は出来るけど、術式の方が手っ取り早いし楽。」

 

 なるほど、距離取ってぶっぱなせば良い話だ。

 この人無限だからな。

 

「最初は釘崎みたいな術式への対策で考えてたんですけど、気付いたらこうなってて。

 後、正の呪力版の黒閃打てるようになった位ですかね。

 名付けて白閃。」

 

「うん、それは轟だけの最強の武器になると思うよ。

 というか、さっき打とうとしたのは後で夜我学長にチクっとくから。

 後は領域対策だけだね。」

 

 領域展開、呪術師の心の中とも言える生得領域に術式を付与して外部へ展開する呪術の奥義。

 要するに、固有結界。

 領域展開の効果は主に二つ。

 領域内での術者の術式は必中。

 領域内そのものが術式であり、既に術式が当たっている状態と見なされるからである。

 もう一つは環境によるステータスアップ。

 生得領域内部であるため、術者自身は常に理想的な状態になる。

 

「対策としては、必中は当たるだけなので呪力でガードすれば良いだけですよね。」

 

「それこそ、野薔薇みたいな術式だと防ぎようがないよね。

 おやおや~?

 勉強不足だねぇ轟くーん。」

 

 …チッ。

 

「…なら、正の呪力で覆います。」

 

 正の呪力で全身を覆えば、当たっても術式を無効化出来るはずだ。

 

「それだと、消費する呪力馬鹿になんないからあんまり現実的じゃないね。

 まあ、轟ならその間にけりを付ける事は簡単だろうけど。

 一般的には、此方も領域を展開する事が対処方法としては一番かな。」

 

 つまり、領域を押し潰すという事か。

 というか領域展開習得するとかハードル高くない?

 

「領域同士がぶつかった場合、まず必中状態は中和されるからね。

 そして、より洗練された方が勝つ。」

 

 領域を展開しあえば、領域によるメリットはほぼなくなる訳だ。

 

「洗練されたって曖昧過ぎません?」

 

「まあ、感覚的な話だからね。

 でも洗練としか言いようが無いよ。

 後は、簡易領域だけど此方は轟にはオススメしないかな。

 色々制約あって足が地面についてなきゃいけないとかあるしね。」

 

 それは確かに使い辛い。

 仮に使うとしたら、術式反転によるデバフを放射する感じになるけど、領域中の術師は常に理想状態だからデバフが意味ないかもしれない。

 となると、領域展開の習得が一番か。

 あるいは、展開前に相手をぶち抜くか。

 …後者の方が手っ取り早いが万が一を考えると、領域展開を習得するのが望ましいが。

 

「…要ります?

 領域展開。」

 

「僕に勝ちたいなら必要だね。

 洗練された強い領域が。」

 

 …そう言われると、やはり習得しなければならない。

 五条悟に勝つことを諦めて、そこら辺の奴をボコボコにするだけなら今のままで完成だ。

 それだと、絶対人生に飽きて死ぬ。

 なら、唯一のやりがいになるこの男に勝つことを諦める訳には行かない。

 

「あ、そうそう。

 はいこれ。」

 

 手渡されたのは、複数の冊子の様な物。

 

(人が改めて人生のやりがいを再認識している所に何を…。)

 

 任務か何かだろうと、一番上のを開くと笑顔の女性が写った写真が占領している。

 冊子も見開き一枚で、写真以外の内容がない。

 というかこれって。

 

「お見合い写真ですよね。

 結婚するんですか。」

 

 手渡されたのはお見合い写真の冊子が複数。

 五条先生がお見合いとか相手が可哀想というか破談になる未来しかないなというか、いやでも子供の世話好きならいけるのか?

 

「それ、全部轟宛。」

 

「は?」

 

 俺はまだ高校生だし厳密には15才だぞ?

 いくらイタズラでもこれはどうかと思う。

 

「僕ね一応、呪術業界限定での轟の後見人何だけど、最近良く届くんだよね。」

 

「何で?」

 

 いや、何でだ本当に。

 特に変な事した覚えないし、あったとしてもお見合い騒ぎになるような事になるはずが無いと思うが。

 

「え、本気で分からない?

 入学早々に東堂を倒して、準一級になった超期待のルーキーなのに?」

 

「いや、それと何の関係が?」

 

 どっちかというと、入学早々に停学になったヤバイ奴という認識だと思うが。

 

「呪術師って一族代々みたいなのが多くてね。

 僕の五条家も一応そうだし。

 強い血が何処も欲しいのさ。」

 

「そういうの、先生嫌いじゃ無いんですか?」

 

 この人、そういう政治的な話嫌いな筈だよな。

 

「うん、けど面白そうだからマトモそうな家の奴だけ持ってきた。

 上は30から下はなんと12才まで揃えました!」

 

「12とか犯罪じゃねぇか!」

 

 12の子供をお見合いに出すとか何時の時代だよマジで何考えてんだマジで。

 

「向こうも上手く行けばいいや位だし、気になった子いたら教えてね!

 後、世話人は僕に任せてね!

 じゃ!」

 

「待てや!」

 

 本気の白閃で蹴り飛ばそうとしたら、既にいない。

 何時か必ず倒してやる。

 お見合い写真に関しては捨てようかと思ったが、流石にそれは忍びないというか多分捨てても、あのクソ馬鹿が新しい奴を増量して持ってくる未来しか見えない。

 

(…はあぁぁ。)

 

 ため息しか出ねぇ。

 

 

 

 

 

 

 




五条先生もちゃんと正の呪力について把握している話と領域展開とお見合いな話。

五条先生に関しては、当然把握しているだろうという信頼。

主人公の領域展開については、既に決まっています。

お見合いに関しては、まあ一般人であの強さなら狙うよね。


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7月の死





 7月の始め、虎杖が死んだ。

 繁忙期も終わる頃に入った札幌からの応援要請を受けて夜中に帰ってきたら、そんな話を補助員から聞いた。

 取り敢えず、気になる事があるので虎杖の死体を見に行く。

 昨日死んだらしいから、多分家入先生の所だろうし、五条先生も昨日まで出張だから会えるかもしれない。

 にしても、陰謀の臭いがプンプンする。

 

(未確認特級呪霊に一年三人を派遣…。

 普通に考えたら五条先生への嫌がらせ兼器の殺害が目的だと考える。

 けど、そこまで露骨な事するか?)

 

 特級呪霊の可能性のある案件で生死不明の一般人5名の救出に一年生を派遣するという判断がおかしいのは俺でも分かる。

 いくら五条先生が出張で虎杖抹殺のチャンスだとしても、誰かがおかしいと止める筈だ。

 しかし、現実に虎杖、釘崎、伏黒は派遣された。

 つまりそれだけ上層部は腐っているという事だ。

 それでも、疑問が一つ残る。

 今回の一件は完全に五条悟を怒らせている。

 あの人が本気で動けば、上層部とやらは皆殺しだろう。

 宿儺の器が危険とは言え、死のリスクを抱えてまで実行する気骨がある人間がいるのか?

 それとも、五条先生を嘗めているのか。

 

(疑問はまだある。

 時期で考えても発生した特級呪霊には宿儺の指が関わっている筈。)

 

 少年院という場所自体はイメージから呪霊が生まれやすいが、特級呪霊となるとそうはいかない。

 特級クラスの呪霊は大勢の人間の共通の畏れが必要で、例えば流行り病や嵐、地震等だ。 

 少年院自体も軽く調べたが、曰くや怪談も確認されてないから特級クラスが生まれる可能性はゼロだ。

 だけど、呪霊が宿儺の指を取り込んでいたら話は別である。

 特級呪物、宿儺の指は呪力の塊、取り込めばどんな呪霊でも特級クラスの力を持つだろう。

 少年院にそんなものが転がってるとは思えない。

 

(でも、仕込みにしては虎杖が派遣されるかは運だし雑すぎる。

 偶然ならそれはそれで、切っ掛けは虎杖だよな。)

 

 虎杖は既に指を二本取り込んでるとこの前話した時に言ってたし、指が集まった事で刺激を受けた可能性もある。

 あ、上層部と例の呪詛師が組んでいる最悪の可能性もあるのか。

 じゃあ虎杖が死ぬ事は想定外?

 というか、虎杖が死んだ事自体少し気になる。

 虎杖が死んだという事は中にいる宿儺が自分の死を肯定したという事になる。

 まあ、呪いの王と呼ばれた存在だし、案外二度目の生に興味無い可能性もあるし、体の支配権は虎杖にあるから、宿儺にとってはある意味支配下にあるようなもの。

 王と呼ばれる様な存在が他人に縛られる事を良しとするとは思えない。

 

(…だからこそ敢えて死んだのか?)

 

 宿儺レベルの術者なら反転術式も習得している可能性が高いし呪力で仮死状態を作ることも難しくない。

 蘇生を条件にした虎杖との縛りを設けて自由を得る可能性がある。

 となると、絶対解剖するウーマンの家入先生が危ないかもしれない。

 早足で解剖室へと向かう。

 

「えー…。」

 

 扉を開けると、伊地知さんと家入先生と五条先生、それと解剖台の上で起き上がる全裸の虎杖がいた。

 

「お前、宿儺?」

 

「ちげーよ!

 後、轟服くれ!」

 

 まあ、虎杖が宿儺有利の縛りを受け入れる筈ないか。

 多分、時間制限と誰も殺さないとかで受け入れたのだろう。

 結構穴だらけの縛りだと思うが、善人で呪術師としての経験も浅い虎杖なら応じるだろう。

 これで宿儺はある程度の自由を確保してしまった訳だ。

 まあ、起きてしまった事は仕方ない。

 

「お前の小さいのな。」

 

「解剖台が寒くて縮んでるだけだから!

 普通にあるから!」

 

 でしょうね。

 でも今小さいのは事実だ。

 

「取り敢えず、これ着ろよ。

 全裸の変態から全裸学ランにレベルアップだ。」

 

 学ランを脱いで渡す。

 流石に中のシャツはやれないしな。

 

「伊地知、服とか用意してあげて。

 轟と硝子はちょっと来て。

 悠仁は待機で。」

 

 五条先生に呼ばれて外に出ると、嬉しそうにしながら虎杖復活の事は口止めされた。

 宿儺と虎杖の縛りについて考えてない訳ないのに、まだ生かすというのは先生らしい。

 

「悠仁はこっそり匿って暫く鍛えるんだけど、轟にも手伝ってほしい。

 呪力の基礎は教えるから、少し揉んであげて。」

 

「良いですよ。

 虎杖頑丈みたいですし。」

 

 伏黒曰く、砲丸を野球ボール見たいに投げれるらしいし。

 最近、頑丈な敵がいなくてつまらないから良いサンドバッグになるかもしれないし。

 

「今回の一件、どこまで偶然だと思う?」

 

「宿儺の器に散らばっている指が反応した可能性もありますし、呪詛師と上層部が組んでる可能性もありますし疑えばキリがないですね。」

 

 まあ、十中八九組んでるだろうが。

 

「そっか。

 一応、悠仁の周りの人間にも何かあるかもしれないから、過保護にならない程度で警戒しといて。」

 

 今回の一件を含めて生徒を強くする為の試練として見ているのか。  

 

「了解でーす。」

 

 

 




原作でも色々疑問に感じた一年派遣について
 ・黒幕の狙いは指を取り込ませると同時に強敵と相対させて宿難に有利な縛りをつけさせる。
 ・黒幕にとって虎杖死亡という結果はイレギュラーであった。

と考察。

 流石に上層部も嫌がらせだけで、あの判断を下すのは全員クビレベルの問題だと思うし。

最初は主人公も派遣されて、宿難VS主人公にしようと思ったけど。
・宿難が伏黒に何をさせたいのか分からない。
という点から主人公では宿難のお気に入りにならない可能性が高い為、蚊帳の外になりました。


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特訓

思うところがあって4000文字目標に書いてみました。
次回も同じかは知らん。


 虎杖が死んだことになって暫く、交流会の人数合わせの為に伏黒と釘崎出すから手伝えと真希先輩からお呼びがかかった。

 繁忙期も終わりの時期なので、学生に回ってくる任務が減るし10月辺りまでは修業にはピッタリらしい。

 伏黒と釘崎と言えば、虎杖が死んだ事になってから目付きが変わった。

 虎杖の死に対しての責任という奴だろうか、親しい人間が死んだこと無い身としては良く分からない。

 まあ、生まれてこの方人間関係よりも呪霊狩りの方が楽しかったし時間割いてたしで学校で喋る人間はいても遊ぶような友人はいなかったが。

 というか、虎杖が生きてる事知ってる身としては少し申し訳ない。

 全部、五条って奴が悪いんだ。

 

(あ、でも真希さんが死んだら少しは怒るかな?)

 

 そんな事を考えながら、グラウンドに顔を出すと釘崎が宙を飛んでいた。

 気分が良い。

 

「おせーぞ轟。」

 

「すいません。

 てか、俺要ります?」

 

 一年二人に対して二年の先輩三人というある意味贅沢な環境だと思うが。

 俺が学ぶ側になったとして、正直真希先輩との組み手しかやること無いと思うし。

 今も伏黒が真希先輩に遊ばれてるし。

 余所見しながら捌ける辺り、絶対的な実力差を感じる。

 

「初日は団体戦だからな、お互いの実力とかスタイルを把握しとく必要あるだろ。」

 

(…あ、なるほど)

 

 交流会は初日が団体戦で二日目が個人戦という伝統がある。

 個人戦はともかく団体戦で勝利を目指す場合、連携や役割分担は重要である。

 それに、他人からの視点による戦い方や術式の使い方の指摘は案外馬鹿にならない。

 俺も、五条先生の指摘で術式把握出来た訳だし。

 

「ちょっと、何余裕かましてんのよ。

 あんたも投げられなさいよ。」

 

 休憩時間なのか、釘崎が絡んでくる。

 どうやら、俺が同じ立場じゃない事に少し御立腹らしい。

 

「俺、準一級、お前三級。

 お分かり?」

 

「…あ?対人には関係ねぇだろ?

 表出ろよ。」

 

「もう表だよ。」

 

 どうにもやはり釘崎とは反りが合わない。

 プライドが高いとか、我が強いのは嫌いじゃない。

 けど、何か致命的に合わないんだよな。

 こう、無駄があるっていうか、何というか。

 

「ちょうどいい、お前ら戦ってみろよ。」

 

 睨み合っている俺達を見てニヤリと笑いながら、真希先輩が喧嘩の許可を出した。

 俺の実力を見たことあるのは、稽古している真希先輩と模擬戦をした事ある伏黒しかいない。

 釘崎の術式を観察したかったし、丁度いい。

 へし折ってやる。

 向こうも隠していた釘と金槌を取り出して、投げられた鬱憤を晴らせると言わんばかりにやる気で既にグラウンドの真ん中へと移動している。

 

「気を付けろ、釘崎。

 轟は強いぞ。」

 

 伏黒がエールを送るがあの様子で届いているのだろうか。

 釘崎は獰猛的な笑顔で此方を睨み付けている。

 どうやら、反りが合わないのは向こうも同じらしい。

 適当に距離を取って釘崎と相対する。

 

「頭カチ割ってやるよ。」

 

「出来ないことは言わない方が良いぞ。

 恥ずかしいから。」

 

「あーもう、何でこうなったかな。

 それじゃあ始め!」

 

 いつの間にかレフェリーになったパンダ先輩の合図で模擬戦が始まる。

 さて、どれくらいの強さで行くか。

 真希さんレベルで様子見するか。

 術式を発動して、身体能力を強化して釘崎が飛ばしてきた釘を手刀で弾く。

 

「ネイルガンの方が良いんじゃないか?」

 

「うる、せー!」

 

 更に飛来する三発の釘、二本の狙いは顔で一本は僅かに遅れて右足に向かってくる。 

 顔にくる二本は囮で本命は足か。

 

(術式を見たいし、わざと食らうか。)

 

 顔に迫る二本をかわして、敢えて右足の膝下に一本食らう。

 術式反転による鎮静で痛みはないが、真希先輩レベルの強度で結構深くまで刺さってくる。

 

(にしても、この威力をフェイク込みで躊躇なく放ってくるのはどうなのよ。

 普通ならこれだけで致命傷だよまじで。)

 

「は、吼えた割には大したこと事ねーな!」

 

「…一撃で勝ち誇るなよ。」

 

 駆け出して、一発食らわせようと走りよるが刺さりどころが悪いのか右足の踏ん張りが良くない。

 釘崎もそれに当然気付き、呪力の籠った金槌を手に接近戦を仕掛けてくる。

 弱っているがまだ、俺の方が早いと思うが。

 

「…あれ?」

 

『芻霊呪法 簪』

 

 仕掛けようとした瞬間、バランスが崩れる。

 同時に、金槌によるこめかみへの攻撃で後ろに吹き飛ぶ。

 

(これが、芻霊呪法。

 遠隔による呪力の衝撃か。)

 

 術式反転によるデバフで痛みはない。

 右足を見ると釘が刺さっていた所が抉れている。

 釘崎の術式で吹き飛ばされたが、俺の今の強度で考えると、普通の術師なら右足がさよならしていると思うんだけど。

 

「ふん、私の勝ちね。」

 

 釘崎は勝ち誇り動かない。

 というか、俺じゃなきゃこめかみへの一撃で死んでると思うんだけど、死なないと信頼されているのだろうか。

 もしくは、死んでも良いと思われているか。

 けど、知りたい術式はこれだけじゃない。

 勝ち誇ってる所悪いが、傷を治して真面目に術式を回して釘崎の後ろを取る。

 

「これが、芻霊呪法か。

 悪くないんじゃないか。

 当たればな。」

 

「…っ!?」

 

 振り返った所で顎を一撫で。

 人というのは面白いもので、顎を揺らすと脳が揺れる。

 ボクシングの試合でもパンチが顎先にかすっただけで、崩れ落ちる。

 人の鍛えられない弱点の一つである脳震盪を引き起こす。

 脳震盪を起こした釘崎は崩れる様にその場で崩れ落ちる。

 

「手を抜いていた訳じゃない。

 模擬戦だし、単純に釘崎の術式を体験してみたかったからな。

 面白かったよ。」

 

 言葉をかけて、余裕綽々に先輩達の元へと歩き出す。

 全員がジト目を向けてくるが敢えて気にしない。

 

「…。」

 

 釘崎は崩れ落ちたまま黙ってる。

(さて、どうする釘崎?

 嘘は言ってないけど、あんな言い方されて黙ってる訳ないよな?

 実力差があるからと折れる様なら田舎から出てくる訳ないよな?)

 

 六本木の廃ビルでの姿を思い出せば、釘崎がここで折れるとは思わない。

 釘崎の呪力が動き出す。

 ジャージで作った即席の人形がこぼれ落ちる。  

 

(そうだよな、こめかみぶん殴った時の、俺の血が付いてるもんな!

 撃ってこいよ、共鳴り!)

 

 共鳴りの条件は満たしてある。

 人形と触媒。

 既に、此方は正の呪力と術式による強化で脳と心臓は守っている。

 これで釘崎の術式が何処に作用するか見極められる。

 

「…そんなに、味わいたかったらコレも喰らってけや!」

 

「よせ釘崎っ!!」

 

 伏黒が式神で止めに入るがもう遅い。

 釘崎の金槌は振り下ろされた。

 

『芻霊呪法 共鳴り』

 

「……ッ!?」

 

 全身に爆ぜるような衝撃と共に駆け巡る釘崎の呪力が全身を内側から釘の様に貫く。

 

(両面の防御をしてこれか…!

 いや、そもそも防御しきれてないのかっ…!?)

 

 予想していた心臓や頭への直接的なダメージではない。

 より深い、俺を構成する根元を叩いているのだ…!

 故に呪力である程度防いでいるが、根本的な部分を理解してないから防ぎきれていない。

 

「だが…耐えたぞ!

 …っ!?」

 

 痛みと衝撃だけで、物理的なダメージはない。

 釘崎の呪力を俺の強度が上回ったからだ。

 振り返り、釘崎の方を向こうとすると全身に衝撃が走る。

 

(釘崎め、容赦なく二発目を打ち込みやがった…!)

 

 振り返った時に見た釘崎の顔は女性がしちゃいけない表情をしている。

 どうやら、煽りすぎたらしい。

 既に三発目を行おうと金槌振りかぶってるし。

 

「何が耐えた、だよ、そんなに嬉しいならもっと喰らってけや……!」

 

 呪力を消費したからか、最初の一撃よりも二発目は大分弱い。

 これなら直ぐに動き出せる。

 近付いて、三発目を打ち込もうとしている釘崎を気絶させて終わりだ。

 走りよろうとした瞬間。

 

『動くな』 

 

 一瞬だけ強制的に体が止まる。

 これは棘先輩の呪言か…。

 一瞬だが立派な隙、目の前には真希先輩がおり鼻を摘ままれた。

 

「なに、ふんすか。

 あのグリグリするの止めて下さい。

 鼻の形変わっちゃう。

 てか、縮地使えるんですね。」

 

「何はこっちのセリフだボケ。

 仲間挑発して、誘ってんじゃねえよバカタレ。」

 

 釘崎の方にはパンダ先輩と伏黒の式神が向かっており金槌を蛙に取られて、本人はパンダ先輩に首根っこ掴まれている。

 

「煽られたからって頭に血上りすぎだって。

 呪術師は常に冷静にな。」

 

「…次は勝つ。

 …オエッ。」

 

 あ、吐いた。

 脳震盪で無理矢理動いたら吐くわな。

 というか、あれで次は勝つと言えるのか。

 

「いや、すみません。

 釘崎の術式味わいたくてやりました。

 二度としないんで、はい。

 釘崎に水買ってきます!」

 

 これは本音だ。

 次から合意の元でしかやらん。

 

「ちっ、全員分買ってこい。

 私、アクエリ」

 

「あ、俺コーラ。」

 

「昆布」

 

 あ、緑茶ですね了解です。

 

「伏黒は何買ってくる?」

 

「一人じゃ持てないだろ、俺も付いていく。」

 

 伏黒と自販機の元へと歩いていく。

 高専は特殊な学校なので出入りする業者が制限されており自販機も少なく結構な距離がある。

 

「で、何か聞きたい事あるんじゃないの?」

 

 親切心で動いたなら、伏黒は釘崎の介抱に向かうはずだ。

 わざわざ荷物持ちについてくるって事は何かあるのだろう。

 

「…お前、何処から本気だった?」

 

「最初から本気だよ。

 本気で術式知りたくて煽ったし。」

 

「そうじゃない。

 呪術師としての本気だ。」

 

 …うーん。

 正直に話すかどうか。

 いや、でも最近覚悟きめた伏黒なら大丈夫かな?

 ま、いっか。

 どうなろうと、俺が弱くなる訳じゃないし。

 ここで折れても五条先生がケアするでしょ、うん。

 俺は呪術師であって教師じゃないし。

 

「そういう意味なら、本気のホの字も出してない。

 本気なら合図と共に心臓ぶち抜いてる。」

 

 正直、それでも本気とは言えない。

 今の俺が本気を出したらどうなるのだろうか。

 伏黒に聞かれて、ふと考えたが分からない。

 前に東堂に軽口言ったが、東京タワーへし折る位は多分出来るだろう。

 

(それでも真面目にやったらって感じだしなー。

 本気とはまた違うか。)

 

 一つ言えるのは今の俺では本気中の本気でも五条先生にかなわない。

 そう考えると、本気とかは無意味な考えの気がする。

 

「…。」

 

 俺の答えに伏黒は黙って考えている。

 目が死んでないので心が折れてないと良いが。

 

「…なあ。

 どうしたら強くなれると思う。」

 

 強くなれるか。

 呪術師は術式で強さが殆ど決まる。

 俺の強さと伏黒の強さは違うしゴールも多分違う。

 

「俺の場合は半分以上、術式のおかげだけど。

 うーん…あ、でも一番成長したのはあれだな東堂のバカと殺しあった時。

 あれで、色々応用とか術式への理解広がったからな。」

 

 東堂との縛りありの死闘。

 あれで俺は術式の使い方を理解出来たと思う。

 ゲームで例えるなら、理論値とか表に出ないマスクデータを考えて利用する戦い方を理解したというか。

 東堂も死の淵で何か見出だしてたぽいし、結果だけ見るとお互いに実りあるものだった。

 停学になったけど。

 

「伏黒もやるか?」

 

「…考えとく。」

 

 これはやるな。

 伏黒の術式は面白いと思うし、底が分からない。

 式神も今扱える奴も強いし、御三家相伝の術式だ。

 絶対、強い式神がいるはず。

 

「後、お前。

 釘崎と喧嘩すんなよ。」 

 

「嫌いじゃないけど、反りが合わないんだよ。」

 

 この後、釘崎とは議論の末にジャージ弁償で一応仲直りした。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




釘崎と合わない理由は多分主人公が悪い。
後、この世界線は釘崎は芋ジャージ持ってきてます。




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ジャージ

今回は反応見て消すかも。


 釘崎との喧嘩から数日後、俺は再び東京・原宿にやってきていた。

 相変わらず人が多い。

 

「帰りたい…。」

 

「さ、行くわよ。

 着いてきなさい、荷物持ち。」

 

「荷物持ちって何だよ。

 ジャージ買ったら帰るぞ。」

 

「はぁ!?

 原宿来といて、ジャージ一つで終わりとか原宿バカにしてんの!?

 つーか、何で制服なんだよ、原宿だぞ、お洒落しろよ。」

 

 うるせぇ、ゲロ女。

 喧嘩の和解の証しとして釘崎のジャージを買うという事になり、渋々やって来た訳だ。

 最初は適当にアマゾンで選んで貰おうとしたら、ぶち切れられて無理矢理原宿に引っ張り出された。

 ただでさえ貴重な休日をなんでこいつと過ごさねばならないのだろう。

 帰りたい。

 

「別に良いだろ制服でも。

 学生だし、服考える必要ねぇし。」

 

「伏黒と良い、何でモテない男ってこうなのかしら。

 はー、やだやだ。」

 

「…もう、金渡して帰って良いか。」

 

「ダメよ。

 誰が私の荷物持つのよ。」

 

 どうやら釘崎の中では俺を荷物持ちにすることは確定らしい。

 まあ、これも煽りすぎたからだと受け入れよう。

 

「……分かったもういい、さっさと行こう。」

 

「分かれば良いのよ♪」

 

 降参の意を示して両手を上げると、ルンルンとスキップする田舎娘の後ろを歩く。

 キラキラしている目で原宿を見ているが、そんなに良い所だろうか?

 俺には分からない。

 竹下通りを進む釘崎が、一件の店で止まる。

 女性向けの服屋だが、どう見てもジャージは無さそうだ。

 

「ジャージ以外金出さないからな。」

 

「分かってるわよ。」

 

 外から店を眺めていたと思うとスタスタと歩き始めた。

 どうやらお目当ての店じゃないらしい。

 基本、外から眺めて気になったら中に入るを繰り返す。

 所謂、ウインドウショッピング的な事を繰り返す釘崎に着いて行きながら周りを見渡すとやはり、雑貨屋やら服屋が多い。

 流石ファッションの街。

 そこで、ふと思った。

 雑貨屋や服屋が多いからファッションの街なのだろうか、それともお洒落の街だから雑貨屋や服屋が多いのだろうか。

 多分、きっかけは一件の服屋とかでそっからブームが生まれて原宿=ファッションの街になったと勝手に思うが。

 

(…そう考えると呪霊と似ているな。)

 

 呪霊が発生する条件もある意味、原宿と一緒である。

 大なり小なりの何かしらのイベントに対して、人々が反応して噂が出回り共通のイメージが生まれる。

 そうして生まれた曰く付きの場所に、一般人から漏れでた微かな呪力が集まり呪霊となる。

 陽のイメージが持たれれば、観光地として人が集まり、陰のイメージが持たれれば、呪力が集まる。

 呪力も人から漏れた感情のエネルギーみたいなものだと考えるとどちらも同じ存在に思えてくる。

 原宿の人々を呪霊と重ねる。

 ここが陰のイメージを持っている場合、相当強い呪霊が生まれるだろう。

 

(そう考えるに恐山とか富士の樹海はヤバい呪霊が一杯いるのだろうか。)

 

 富士の樹海、恐山、東尋坊。

 誰でも思い付く曰く付きの場所。

 集まる呪力が多いだろうし、特級が生まれていても可笑しくはない。

 

(となると、生まれてくる特級は時代のファッションリーダーか。)

 

 ハイセンスでお洒落な服装をした気持ちの悪い呪霊を想像して、思わず笑ってしまった。

 

「何、急に笑ってんのよ気持ち悪い。」

 

「何、特級呪霊はファッションリーダーなんだと思ってな。」

 

「は?」

 

「それより、そろそろジャージ買いに行くか飯にしてくれ。

 既に紙袋四つも持たされてるし。」

 

 俺が至極どうでも良いことを考えながら歩いている間に荷物は四つに増えた。

 一つ一つは軽いし大した事ないが嵩張るし、まだ日は高いからショッピングを続けるだろう。

 釘崎は平気だろうが、慣れない場所で精神的に疲れたので一度休憩したい。

 それに、時間も正午だし。

 

「そうね、じゃあ原宿ランチと洒落込みましょう!」

 

「ラーメンじゃだめ?」

 

 丁度近くにあったラーメン店を指差す。

 

「臭いが移るからダメ。」

 

「ファブれよ。」

 

 此方の意見を無視して、何かしらの雑誌を片手に歩いていく釘崎が向かった先はパンケーキ屋だった。

 しかも席に着くなり勝手に俺の分も頼んでるし。

 

「2つとも、食べたかったからラッキーね。

 シェアしましょう。」

 

 …それは、シェアという名の残飯処理では?

 というか、昼飯がパンケーキって。

 パンケーキだぞ、パンケーキ。

 

(後で、ラーメン食お。)

 

 …そう思っていた時期もありました。

 店員が持ってきたのは生クリームの山だった。

 かなり大きめのパンケーキの上に沢山のフルーツと生クリームがトッピングされて、更に上からシロップをかける。

 似たような代物が釘崎の前にも並ぶ。

 ラーメンと同じくらいのカロリーがあるだろう。

 

「なにこれ。」

 

「何ってパンケーキよ、パンケーキ。

 見てわかんないの?」

 

 釘崎は平然としているから、これが原宿の常識らしい。

 

「じゃ、半分残して食べなさい。」

 

 そう言って釘崎は自分のパンケーキを切り分けて口に運ぶ。

 

「ん~美味しい!!」

 

 美味しそうに笑った姿で、釘崎が女子である事を思い出した。

 田舎の蛮族の娘かと思っていた。

 取り敢えず、腹は減っているので此方も食べるか。

 一つしか無い、立派なカットフルーツは食べたら文句言うだろうから先に端に寄せておく。

 釘崎に倣って、ナイフとフォークで切り分けてパンケーキを切ってフルーツを乗せて一口食べる。

 

(…意外に食べれる。)

 

 甘さの暴力を警戒したが、生クリームは以外に軽くパンケーキもそんなに甘くない。

 唯一、シロップが激甘だがフルーツの味を引き立てている。

 見映えを重視しただけの品物だと思っていたが以外に料理としてレベルが高い。

 総合的に見て美味い部類に入り、二口、三口と食べ進める。

 

「(…飽きたわ。)」

 

 小声で何言ったコイツ?

 釘崎の皿を見ると、1/3程度までしか食べ終えてない。

 ちゃっかりフルーツだけ食べ終えてる辺りが釘崎らしいというか、コイツフルーツだけ先食べたな。

 

「ねえ、交換しましょう。」

 

「待て、クリームとパンケーキだけのそれを押し付けるつもりか。」

 

「良いじゃない、シロップは別の味よ。」

 

 此方が半分まで食べ終えた皿と自分の皿を取り替える。 

 目の前にはパンケーキと生クリームとシロップしかない。

 折角、フルーツとバランス良く食べていたというのに、フルーツがなければ生クリームとパンケーキだけで飽きるに決まっているだろう。

 釘崎は反省を生かしてか、フルーツとバランス良く食べ始めている。

 ここで文句を言うのも面倒くさい。

 さっさと食べ終えてしまおう。

 

(甘い、味に変化なく、甘い。)

 

 先程までの計算されたパンケーキは消え失せている。

 ただひたすらに口に運ぶ作業を終えて、店員にコーヒーを注文する。

 ああ、苦味が旨い。

 パンケーキを片付けて、店を出る際に支払いで少し揉めた。

 

「付き合わせたし、私が払うわ。」

 

「いや、自分の分は出す。」

 

 パンケーキに付き合わせたのは流石に罪の意識があるらしい釘崎と、貸しを作りたくない俺。

 というのも、このパンケーキ、フルーツをふんだんに使ってるから結構高い。

 俺基準だとチャーシューメン3杯分。

 これを奢って貰うのは少し抵抗があるし、田舎から出てきた釘崎には辛かろう。

 

「なら、後でラーメン奢ってよ。」

 

「?」

 

「…足りなかったのよ。」

 

 少し、恥ずかしそうに足りないと告げる。

 なるほど、釘崎は其処らの女性と違い呪術師だ。

 運動量も人一倍あるし、最近は交流会に向けての訓練もある。

 足りないのは道理だろう。

 俺も食べれなくはないし、口がしょっぱいものを求めている。

 

「分かった、それで行こう。

 先に買い物を済まして、ロッカーに荷物預けるか。」

 

 パンケーキの店を出て、買い物が再開された。

 今度は古着屋を回るらしい。

 結局、釘崎はジャージは最後に買い、ロッカーに荷物を預けたのは15時になってしまった。

 俺は別に三時のラーメンも平気だが、釘崎はどうだろうか。

 

「ラーメンで良いのか?」

 

「甘いの飽きたし。

 夜減らせば問題ないわ。」

 

 さいですか。

 適当に店探して二人ともチャーシュー麺食べた。

 味はそこそこだった。

 

「で、あんた私の何が気に入らないの。」

 

 時間が経ち、高専に戻る帰り道で突然釘崎から切り出された。

 

「あー、答えなきゃダメか?」

 

 というか、そういうの気にならないタイプだと思っていたが。

 

「別に、誰からも好かれたいとか思ってないけど、仲間同士でギスギスするのも馬鹿らしいし。

 今回の事は私も悪かったし、気を使ってやろうって言ってるの。

 因みに、私はアンタが気に入らない目で見てくるのが気に入らないわ。」

 

 どうやら、本人としてもアレはやり過ぎたと思っているらしい。

 客観的に見たら、仲間が一人死んでいて精神的に動揺している状態で、気に入らない奴から舐めプされた上に煽られたとは言え、感情のままに術式を行使したのは恥だと思っているという事だ。

 そういう事を素直に認めて、努力する所は尊敬出来ると思う。

 さて、どう答えようか。

 釘崎野薔薇の歩み寄りを無下にはしたくない。

 自分の中で気に入らない理由は最近気付いたのだが、問題はこれを口に出すべきかどうかだ。

 

「怒らない?」

 

「場合によるけど、私は寛大だから聞いてあげる。」

 

「じゃあ、はっきり言うけど。

 釘崎ってプライドの割に弱くない?」

 

「…あ?」

 

 意味を理解して、ぶちギレているが固まっている。

 此方の言い分を最後まで聞こうと努力しているのだ。

 

「俺は釘崎の人生とか知らないし興味ないけど。

 釘崎のプライドとか精神のあり方は気に入っているんだよね。

 釘崎野薔薇として見れば何も問題ないと思う。

 寧ろ、格好いい女だと思う。  

 けど、呪術師の釘崎野薔薇として俺は勝手に見てるから、プライドが高いのに実力が追い付いて無くて慢心してピンチになることがイライラする。」

 

 六本木の廃ビルの一件でもそうだが、釘崎は結構油断する。

 経験が足りないのが理由だろうけど、よく慢心する。

 確かに釘崎はクセのある術式を使いこなしているし、強いとは思うが。

 

「最近はというか、虎杖死んでからの釘崎は強くなろうとしてて好きだけどね。

 後は、単純に騒がしいのが好きじゃない。

 東京に夢見すぎ。」

 

 理由を語り終えても、釘崎は顔を伏せて黙ったままだ。

 うーん、やっぱり言い過ぎたか?

 

「…よーするに、弱い癖にプライドだけは高いって言いたいんだろ?」

 

「まあ、それでいいや。」

 

 顔を上げた釘崎が此方を瞳孔が開いた目で見つめてくる。

 

「直ぐに強くなるから、首洗って待ってろよ。」

 

「がんばって。」

 

 こうして、釘崎と俺は仲直りした。

 

「東京に夢見すぎっていいじゃない憧れなんだから。」

 

「パンケーキ飽きてた癖に。」

 

「あれは、食べ方間違えただけよ。

 次は上手くやるわ。」

 

「原宿苦手だから、次は伏黒誘え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




要するに、プライドの割には慢心や油断するとかふざけてんの?
と勝手に切れてました。
一応、養護すると出会ってきた人間が軒並み冷静な人間多かったのでね。

言い掛かりに近い。
なまじ主人公が強い分酷い。



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火山湖

前話は特に問題なさそうなので良かった


 仲直りをしてから、釘崎とはたまに口喧嘩する程度になった。

 他に変わった事と言えば、釘崎の方からアドバイスを求めてくる事だろう。

 ただ、申し訳ないが俺は教師ではないので、ぼやっとした事しか言えない。

 

「釘崎に足りないのは実践経験と、後は呪力の質を磨けば?」

 

「質って何よ。」

 

「コントロールとか精度を上げて無駄を無くす。

 そうすれば、長時間戦えたり、より火力のある戦いが出来る。」

 

 後は縛りによる呪力の底上げとかあるけど、それは俺の領分ではないだろう。

 

「どうすれば良いの。」

 

「実践経験は先輩方に習って、呪力の質は俺が使ってたリングあげるよ。

 五条先生から借りたものだけど、多分大丈夫。」

 

 とか何とか言ったりする程度には仲間をやっている。

 そんな感じで任務も受けたり合同訓練したりして時間が流れて7月の終わり位の夜。

 一人で寮に居たら五条先生がやって来て、いつの間にか湖の上にいた。

 周囲を確認すると、俺を片手で掴んでいる五条先生が目に入った。

 もう片方には虎杖を掴んでいる。

 そして、目の前には特級呪霊と思わしき、頭に火山というか火山が頭になっている一つ目のヒトガタ。

 恐らく、大地への自然信仰とかで生まれたのだろう。

 

「どこ!?

 ねえ、ここどこ!?」

 

「よお、久しぶりだな虎杖。」

 

「え、あれ轟!?」

 

 五条先生から解放されて、水の上に立つ。

 沈まない、厳密にはゆっくりと沈んでるのだが。

 相変わらず五条先生の術式は反則だと思う。

 便利だな無下限術式。

 虎杖は良く分かってないみたいだが。

 

「え、先生どうやったの!?」

 

「うーん、飛んだ。」

 

「偶然ですか?」

 

「いや、襲われた。」

 

 長距離の瞬間移動は二度目だが、原理がマジでよく分からない。

 後、五条先生を襲撃するって余程の自信があるのだろうか?

 見た目的に、火属性だしテクニカルな事出来なそう。

 

「ということで、見学の虎杖悠仁君と轟悟君です。」

 

「ソイツは…!」

 

 呪霊は明らかに虎杖を見て驚いている。

 連れてきた事に驚いているというよりは、存在そのものに驚いている様に見える。

 

(虎杖が死んだと思っている感じか。

 って事は高専の情報は漏れているな。)

 

 呪霊の今の反応と五条先生への襲撃から、内通者がいるのは確定だろう。

 五条先生のスケジュールを把握出来る人間となると、やはり上層部か?

 まあ、今はどうでもいい。

 火山頭の呪霊はコミュニケーション取れそうな位に知能はあるし、内包する呪力が今まで一番多いというか桁違いだ。

 これが、本物の特級呪霊。

 今まで、見てきた呪霊とは格が違う。

 

(試してみたい。)

 

 今の俺のサンドバッグとして、満足出来る筈だ。

 

「今日は見学だよ。」

 

 術式を回して動こうとしたら、五条先生の無限で動きを止められた。

 正の呪力で打ち消して動いても良いが、見学と言うからには見せたい物があるはず。

 仕方ない、ここは引き下がるか。

 

「…何だそのガキども?

 盾か?」

 

「言ったでしょ、見学だって。

 ほら、僕教師だから。」

 

「足手纏いを二人も連れてくるとは、愚かだな。」

 

 やっぱり殺そうかな?

 虎杖と俺を同列に扱う辺り、無駄にでかい一つ目は飾りらしい。

 というか、シンプルに人間を舐めているのか。

 人間から生まれた糞の様な分際で良く吠える。

 

「大丈夫でしょ、君弱いもん。」

 

 五条先生に煽られた瞬間、噴火した。

 頭の火口以外にも両耳から吹き出しているから滑稽にしか見えない。

 というか、沸点低すぎだろ。

 だが、炎として溢れでる呪力は本物。

 感情的になって漏れだしている呪力だけで一級術師ですら燃やせる位には熱い。

 

「舐めるなよ、小童が!!!

 そのにやけ面ごと呑み込んでくれるわ!!!!」 

 

 気持ちは分かる。

 というか、五条先生を小童呼ばわりとか正気か?

 舐めているのは呪霊の方だろう。

 五条先生の真骨頂は規格外な超火力による広範囲攻撃。

 こんな人気の無い所で襲うとか、五条悟を知ってたら先ず取らない悪手だ。

 俺なら、都市部で襲う。

 釘崎以上に田舎者かつ、モノを知らない愚か者。

 知性があっても知能は無さそうだ。

 分析している間に、呪霊は両手で印を組んでいる。

 あのレベルの呪霊が印を組むとなると、恐らくあれが来る。

 まあ、五条先生いるから大丈夫でしょ。

 

「二人とも僕から離れないでね。

あ、やっぱ轟は一人で耐えてみて。」

 

 え。

 

「領域展開!!」

 

『蓋棺鉄囲山』

 

 膨大な呪力が周囲を包み込んだ瞬間、呪力は岩石に変わり俺達を包み囲み、そして溶岩が溢れだす。

 正に、火山としか言いようがない空間。

 灼熱地獄の様な空間があの火山頭の領域展開。

 

(これが領域展開か。)

 

 火山頭の呪力で満ちている、奴のホームグラウンド。

 術式を解けば、すぐさまに焼死するだろう。

 

「うん、轟は大丈夫みたいだね。」

 

 一人で頑張れと無茶ぶりされた瞬間に術式を体内で最大出力で回したから、少し暑い位にしか感じない。

 取り敢えず、最大出力で対応出来るので、耐熱にパラメーターを整えて無駄な部分の強化を減らして消費呪力を押さえる。

 うん、やはり領域の中和効果は空間そのものまでで、体内には及ばないらしい。

 にしても、空間を埋め尽くす呪力が濃い。

 流石は自然への畏れの化身と言った所か。

 入っただけでも普通は焼け死ぬだろう。

 

「さて、悠仁。

 これが、領域展開。

 呪力を凄く消費するけど、効果はでかいよ。」

 

「あ、解説してる間、殴っても良いですか?」

 

「ダメ。」

 

 さいですか。

 黙って虎杖への講義に耳を傾ける。

 話した内容はほぼ、聞いた事ある内容だ。

 一つは領域内でのステータスアップ

 もう一つは、術式の必中化。

 まあ、これは当たるだけなので術式次第では問題ない。

 というか、今さらっと特級の一撃を呪力で受けたなこの人。

 化け物か?  

 

「対処法としては呪力で受けるか、オススメしないけど領域外に逃げる。」

 

 …領域外への脱出か。

 異界である領域から脱出するには、外と接している結界の縁でなければならない。

 例えば、今みたいに領域展開されてから一歩も動いてない足元なんかも縁だ。  

 試しにしゃがみこんで地面に正の呪力を流す。

 すると、僅かだが外の湖が見えた。

 …結構呪力消費するが、逃げれるな。

 

「そして、「貴様の無限とやらもより濃い領域ならば中和出来、儂の術も通るのであろう?」

 

 おっ、話に入ってきた。

 というか、気付いて無いのか。

 

「うん、そうだよ。」

 

 軽い。

 仮にも生徒二人を死地に連れてきておいて、この軽さ。

 こういう所が尊敬は出来ないけど、信頼は出来る由縁だろう。

 

「灰すら残さんぞッ!!

 五条悟ぅ!!!」

 

 呪霊の本気の一撃が此方に迫ってくる。

 受けたら多分焼ける。

 俺一人なら問題ないが、全員となると正の呪力で打ち消すにも、込められた呪力量的に少し厳しい。

 が、白閃なら吹き飛ばせるだろう。

 対処案も思い付いたので実行しようと考えたが、隣の五条先生の呪力が昂ってるので止めた。

 

「領域展開への一番、有効な手段は何でしょう?

 はい、轟君。」

 

「此方も領域展開を行う。

 というか目の前来てますよ。」

 

「はい正解。

 じゃあ、領域展開。」

 

『無量空処』

 

 一瞬で塗り潰された。

 展開された五条先生の領域は例えるなら宇宙。

 無限とも思える星の光すら飲み込む無限の暗闇が支配する静寂な宇宙だ。

 これが、五条先生の領域展開。

 これが、洗練された領域……!

 明らかに、火山頭の領域とは違う絶対的な支配を感じる。

 

(これを越えねば、五条悟に勝てないのか。)

 

「ここは無下限の内側。

 知覚、伝達、生きるという行為そのものに無限回の作業を強制する。

 皮肉だよね、全てを与えられると何も出来ずに緩やかに死んでいくなんて。」

 

 いつの間にか、俺と虎杖を傍に置いて呪霊の頭を掴みながら、領域の情報開示を行っている。

 情報開示が正しいなら、呪霊は今何が起こっているのか理解出来ないのだろう。

 領域を展開されてからの情報が完結せずに続いている。

 このまま、展開し続ければ呪霊はこのまま何も理解出来ずに朽ちて行く。

 発動しただけで、必殺となる領域。

 知らなければ火山頭の様になるし、知っていても何時発動するか分からない為、常に警戒する必要がある。

 

(…厄介過ぎる。)

 

 俺と虎杖が無事なのは、五条先生に触れているからか、単純に対象を選択出来るのか。

 これが、最強の領域展開か。

 

(……まだ、遠いな。)

 

「聞きたい事があるから、これくらいで勘弁してあげる。」

 

 火山頭が千切られて胴とおさらばして文字通り火山頭になり、領域が解除された。

 首だけになって生きている事に虎杖が驚いているが、呪霊はその程度では死なない。

 いや、普通なら死ぬか。

 湖畔に降りて、五条先生の尋問が始まる。

 

「誰に言われてここに来た?」

 

 格の違いは見せた。

 もはや呪霊の命は五条先生の手の平の上であり、生殺与奪はこの人の気分次第。

 火山頭の方は見た感じ、プライドは高そうだし話すくらいならと自爆しそうなものだけど。

 五条先生もそれを分かっているのか、ふざけ始めている。

 

「…!」

 

 ボーッと眺めていると、上から飛来物。

 植物で作られた槍のような飛来物は丁度火山頭と五条先生の間に落ちて、一瞬でお花畑を作り出す。

 

(わー、癒される~。

 最近花とか見てないからな~。

 そういえば、釘崎は紅一点とほざいてたっけ?

 って違うだろ。)

 

 我に返ると、目の部分から枝が生えた片腕の呪霊が頭を抱えて逃げていった。

 どうやら、あれも特級呪霊。

 火山頭より弱いが、十分化け物クラスだろう。

 追おうとしたら、木が足に絡み付いている。

 虎杖も同様で、五条先生がそちらに気を取られている間に逃げられた。

 気配を消すのも上手いし、五条先生本人ではなく、生徒である虎杖と俺を狙う辺り火山頭より余程知能はあるらしい。

 にしても、特級呪霊が徒党を組むとは。

 五条悟を警戒してだと思うけど、それにしては火山頭が迂闊過ぎる。

 

(襲撃って事は五条先生のスケジュールを把握出来るレベルの内通者がいる。

 流石に、呪霊と組むとは思えないから仲介役の呪詛師がいると見るべきか。

 あの火山頭はプライド高そうだし、呪詛師の言い分を信用せずに五条悟を取りに来たのか?)

 

「あのレベルが徒党を組むなんて、面白くなってきたね轟。」

 

 ある意味呪術界の危機なのに楽しそうだなこの人。

 

「まあ、サンドバッグは多い方が良いですね。

 ……火山、森と来たら後は海かな。」

 

 五条先生と会話してると何か後ろで、虎杖が土下座でブツブツ呟いているがスルーしとく。

 そういうお年頃なのだろう。

 

「皆にはあれくらいは強くなって欲しいんだよね。」

 

(無茶苦茶な…。)

 

 虎杖も驚いている。

 今のままだと、あれをぶん殴るイメージは出来ないだろう。

 

「目標を設定したら、後は駆け上がるだけ。

 悠仁はこれから一月、引き続き映画見ながら、僕と轟と戦って貰うから。

 前半は僕が基礎を教えて、後半の実践は轟だから。」

 

 ようやく、仕事か。

 

「家入先生前提でやって良いですか?」

 

「交流戦までにバレなければ良いよ。」

 

 家入先生の治療アリなら、東堂式でいっか。

 頑丈らしいし大丈夫でしょ。

 虎杖がどれだけ強いか知らないけど、とても運動能力高いから、もしかしたら楽しめるかも知れない。 

 

「轟って強いの?」

 

 虎杖の分際で俺の実力を疑ってるらしい。

 

「丁度、湖だしお前の体で水切りしてやろうか?

 多分、向こう岸まで余裕だぞ。」

 

「疑ってすみませんでした!」

 

 適当な木を引っこ抜きながら、提案すると土下座しながら謝ってきた。

 分かればよい。

 虎杖の中で土下座が流行っているのだろうか。

 映画とか言ってたし、変な影響受けたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 




轟の術式が中和されてないのは、術式を体内で実行してるからです。
 体表は正の呪力でガード。
人体の内側って生得領域見たいな感じだし。
色んなファンタジー系作品でも、人体内部は強力な結界という描写あるし。
似たような理屈で他人を反転術式で治すのが難しいと考えた。
日本三大既見感作品とか原作作者が自称してるし多分いける。

後、漏瑚の事ボロクソ言ってますが多分気が合う。


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奴が来た

いつも、誤字報告助かってます。
前作でも思ってたけど、感想欄で指摘されると少し恥ずかしいので誤字報告からお願いします。
最初から誤字するなって話だけど。


 領域展開の課外授業の次の日。

 虎杖との訓練は五条先生の基礎訓練が終わった後だから、直ちに影響は無い。

 一応家入先生にも話したが。

 

「即日治せというなら、粉砕骨折はやめてね。

 欠片取るの面倒だから。」

 

 という条件で了承してくれた。

 要するに綺麗に折れば良いのだ。

 まあ、そもそも指導する立場なら怪我を負わせるなという話だが、俺は教師じゃないし、そんなの面倒だし。

 五条先生も分かってて頼んだ筈。

 取り敢えず今日は任務は無いので、合同訓練頑張りますか。

 やることは至って簡単。

 真希先輩が武術担当。

 パンダ先輩と棘先輩が受け身担当、要するにぶん投げて受け身とらせる。

 勿論、反撃したり逃げたりしてもOK。

 で、俺が理不尽担当。

 

「遅い。」

 

 伏黒を式神ごと殴り飛ばし。

 

「温い。」

 

 釘崎の攻撃を躱して、投げ飛ばす。

 訓練を積んだ上で、それをギリギリ上回る強さでボコボコにする。

 簡易死闘だ。

 

「だーっ!もうクソが!

 平地でやりあえるか!!」

 

「金槌に拘らずに、近接向きの武器持てば?」

 

 寝転ぶ釘崎に手を貸して引っ張り上げながら、疑問点をぶつける。

 金槌は本来武器じゃないしな。

 釘崎の戦闘スタイルは障害物ありの中距離だからグラウンドで真正面から戦うのは少し辛いだろう。

 

「荷物になるから、持ち物増やしたくないのよ。」

 

 確かに、釘崎は藁人形に大量の釘と結構装備が多い。

 それにわざわざ近接で武器を切り替えられるほど実戦で余裕があるか分からないしな。

 まあ、武器の取り扱いは真希先輩担当だし後で自分で行くだろう。 

 

「なら、真希先輩と特訓だな。

 呪力の方は良い感じだし。

 どう、リング?」

 

「アンタが寄越したモノにしては見た目悪くないわね。」

 

「いや、デザインは聞いてねーよ。」

 

 まあ、軽口吐ける位だし問題ないだろう。  

 実際呪力の無駄が無くなってるし、込められる呪力量も上がって威力も伸びてきている。

 このまま交流会まで磨けば十分活躍出来るだろう。

 もし、交流会でボコボコにされたら派手に笑ってやろう。

 伏黒は手札が増えた。

 影に武器を収納したり、敵の足元に影を展開する落とし穴等、柔軟に影そのものを使い始めたからだ。

 元々、伏黒は術式的に手数で相手を翻弄するタイプだが、そこに、影から武器が飛んできたり、敵の足元を崩したりして相手のテンポを乱して、隙を作り応戦するようになり、場所を問わずに自分の戦いを展開出来る様になった。

 

「伏黒は厄介だけど、ゴリ押しで何とかなっちゃうね。

 やっぱり切り札が欲しいよ。」

 

 カードゲームで例えるなら、今の伏黒のデッキは汎用系カードと妨害系カードしかない。

 こっから更に伸びるには決め手となる一撃が必要だろう。

 

「切り札は今度調伏する予定だ。

 …次は勝つぞ。」

 

「そこを上から殴るのが俺の役目だから、あっと驚く式神を期待するよ。」

 

 多分だけど、普通なら伏黒も釘崎も一年生としてみれば十分に強いと思う。

 けど、虎杖の存在や共鳴する宿難の指と後ろで暗躍する呪詛師、徒党を組む特級呪霊の存在を考えれば、恐らく今の実力でも足りない。

 俺自身、二人が強くなるのは歓迎する。

 強い奴は多い方が絶対に楽しいからな。

 なので、俺は手を緩めずに成長する二人の更に上から常に叩き潰す。

 そうすれば、いつか心の底から楽しめる日が来るかも知れない。

 

「(ねぇ、急にニヤニヤしだしたんだけど。)」

 

「(たまにある。

 ほっとけば問題ない。)」

 

 何か二人がヒソヒソ話してるが、多分どうやって俺を倒すかの作戦会議だろう。

 連携だろうと単独だろうと、俺が楽しめるなら構わないし交流会の初日は団体戦だから経験が生きるだろう。

 

「おーい、休憩するぞ。

 次は林でやるからお前らで飲み物買ってこい、釣りはやる。」

 

 休憩と言いつつ、ナチュラルにパシってきた真希先輩の指示で三人ぞろぞろ歩いて、自販機の元へ向かう。

 高専の自販機は数が少なく中身も古い。

 流行りの飲み物は無く定番メニューが常に並んでいる。

 

「自販機、もっと種類増えないかしら。」

 

「業者が限られてるから仕方ないだろ。」

 

「メニュー増やせないなら、くじ引き機能欲しいよな。」

 

 あれたまに見かけるけど、当たらないよね。

 

(!…何か、寒気がする。)

 

 雑談しながら、自販機で買い物していると突然、寒気が走った。

 こう、会いたくない存在が現れそうな、ホラーゲームでどう考えてもこの後お化け出てくるよねって言う強制エンカウント一歩手前なそんな感じ。

 というか、もう来てる。

 

「「……!」」

 

 釘崎と伏黒も気配に気付いて、視線を向ける。

 観念して俺もそちらに視線を向けると……奴がいた。

 逆行でシルエットだけだが、一発で分かるパイナップルにバカみたいな巨体。

 それと、真依先輩がいる。

 

「ブラザー、そしてお前らが乙骨と三年の代理か。

 それとブラザー、何故メールも電話も無視するんだ!!」

 

「やっほー、轟君に伏黒君。」

 

 あー、そーいえば着拒してたわこいつ。

 後、何で真依先輩まで俺に友好的なんだろう?京都に嫌われている筈だと思うが。

 

「あー、携帯買い換えた時に無くした。

 そういうことで。」

 

 取り敢えず東堂の質問に適当に答えとく。

 

「何でこっちにいるんですか、禪院先輩。」

 

「嫌だなぁ、名字だと真希と被るから真依って呼んでね。

 轟君も。」

 

 やっぱり、真依先輩の態度がおかしい。

 イケメンの伏黒目当てだと思ったけど、目線は完全にこっち向いている。

 あ、ウインクした。

 

「轟君に会いたくて学長について来ちゃった。」

 

(ええぇー……。

 うっそぉ。)

 

 面倒くさい。

 どう考えても、面倒くさい臭いしかしない。

 取り敢えず逃げたい。

 

「二人とも、轟のお客さんみたいだし先行くわね。

 行くわよ伏黒。」

 

 釘崎も伏黒も面倒くさい雰囲気を察して、立ち去ろうとする。

 気持ちは分かるけど、薄情過ぎるぞ。

 

「待て、ブラザーの友人よ。

 ブラザーはともかく、俺はお前らが乙骨や三年の代わりに成りうるか知りに来た。

 特に……伏黒だったか。」

 

 東堂に呼び止められて、止まる二人。

 ざまあみろ薄情者共、取り敢えず東堂は二人に押し付けられる。

 このままブラザー認定くれてやれ東堂。

 そして、俺を解放しろ。

 

「……何すか。」

 

「どんな女が好みだ?」

 

 東堂が上着を脱いで上半身を晒しながら質問を問い掛ける。

 バカみたいな質問もアレだか何故脱いだ?

 ああ、つまらない答えならこの場でぶっ飛ばす気か。

 

「伏黒ー、つまらない答えなら半殺しに遭うぞ。

 さっさと性癖ぶちまけろ。」

 

 まじで、半殺しにする。

 東堂はそういう変態だ。

 

「…何で初対面の人間にそんなこと答えなきゃならないんですか。」

 

 伏黒がここでまさかの正論を投げ掛けて来た。

 東堂相手に正論が通用すると思っている事に俺は驚愕した。

 あんな質問する人間がまともな訳ない。

 

「そうよ、ムッツリにはハードル高いわよ。」

 

「いや、伏黒はムッツリってより性欲薄いだけだろ。

 枯れてんだよ。」

 

 アイツ、雑誌のグラビア一切興味示さないからな。

 枯れてるか、天与呪縛で玉無しか何かだろう。

 外野に徹して好き勝手言ってると、伏黒の顔に青筋が立ち始めた。

 

「……お前ら黙ってろ。」

 

「三年、東堂葵。

 自己紹介終わり、これでお友達だな。

 まあ、ブラザーの友人なら俺の友達の様なモノだが。

 早く答えろ、男でもいいぞ。」

 

「あ、ソッチだから興味無いのか。」

 

 それなら、グラビアに興味示さないのも納得が行く。

 けど、周囲の男性に興味示してないし、枯れ専?

 京都校の学長が危ない!?

 

「轟、お前本当に黙ってろ……!」

 

「ていうか、ブラザーって何?」

 

「あいつの妄想だから触れるなマジで。」

 

 釘崎の疑問に釘をする。

 その件は触れるな、そして話題にするな。

 折角、伏黒に押し付けられたのにこっちが巻き込まれる。

 

「良いか、伏黒。

 性癖にはソイツの全てが詰まっている。

 女の趣味がつまらない奴はソイツ自身もつまらない。

 俺はつまらない奴が大嫌いだ。

 交流会は血沸き肉踊る魂のぶつかり合い。

 ブラザーがいるから退屈はしないが、心踊る相手は多い方が良い。

 答えろ伏黒、どんな女が好みだ。」

 

 とても嫌だが、心踊る相手が多い方が良いという意見だけは分かる。

 縛りプレイもやりがいが必要だ。

 つまらない相手に付き合ってダラダラやるなら、弱くても面白い相手に付き合った方が断然面白い。

 さて、伏黒はどう答えるのか。

 釘崎はターゲットから自分が外れた事に気付いて、興味は東堂から真依先輩の夏服に移っている。

 ノースリーブ良いよね。

 

「…別に、その人に揺るがない人間性があればそれ以上は求めません。」

 

 伏黒の回答に対する反応は3つ。

 つまんねーと顔に出す俺。

 良い答えだと、感心する女性陣。

 そして、静かに涙を流す東堂。

 伏黒は東堂の涙に驚くが、構えないとヤバイぞ。

 

「……退屈だよ、伏黒。」

 

「……っ!」

 

 東堂の呪力に反応して防御は出来たが、それでも伏黒は東堂のエルボーで吹き飛ばされて行った。

 

「やり過ぎんなよ。」

 

「性癖がつまらんのが悪い。」

 

 伏黒の元へと向かう東堂に一言かけておく。  

 伏黒もたまには違う敵と戦うべきだろう。

 死にかけたら助ければ良いし、死んだら敵討ちとして東堂を殺せるし。

 それと、確かに性癖の答えはつまらなかったけど、アイツはまだ底が知れないからな。

 ワンチャン興味持つかもしれん。

 そして、ブラザーの称号を押し付けたい。

 

「ちょっと、何で止めないのよ!?」

 

「東堂に関わりたくない。

 それに、伏黒なら多分大丈夫だろう。」

 

 伏黒を助けようとした釘崎を止めたら、詰め寄られたので正直に答える。

 間に合わなかったら、ごめんね伏黒。

 東堂も流石に殺しはマズイと理解してるだろうし最悪、家入先生がいる。

 

 (……仮に伏黒が死んだら、実は生きてましたー、な虎杖に逆ドッキリになるな。)

 

 取り敢えず、東堂は解決した。

 ……問題は。

 

「あら、行かせてあげれば良いのに…轟君は優しいのね。」

 

 さらっと此方に近付き、腕を組んでくる真依先輩だ。

 胸が当たって良い匂いするけど、逆に狙いが分からなくて怖い。

 隣で女々しいのが嫌いな釘崎の機嫌も悪くなっている。

 

「急にどうしたんですか?

 腕組む様な仲じゃないでしょ。」

 

「私強い人が好きなの。

 ダメ?」

 

「じゃあ、東堂で良いでしょ。」

 

「嫌よ、日本語通じないから。

 それにあの人より強いんでしょ?」

 

 一応、言い分には筋が通る。

 けど強い人が好きな様な女が、呪術師を目指すだろうか、釘崎や真希先輩の事を考えると違う気がする。

 

「轟、テメーもしかしてソイツとイチャイチャしたいから伏黒差し出したのか……?」

 

 釘崎に握り潰すと言わんばかりに肩を掴まれる。

 

「んな訳ないじゃん。

 東堂に関わりたくないだけ。」

 

「ちょっと、痛そうじゃない。

 放しなさい。」

 

「あ?

 下手な猫被りやがって、寝不足か?毛穴開いてんぞ。」

 

 一瞬の静寂の後、釘崎が得物に手をかけると同時に、真依先輩も得物を構える為に腕を放したので、術式使って全力で飲み物回収して逃げた。

 何か、後ろで銃声聞こえたけど知らん、百合の間に挟まると死ぬらしいし関わらない。

 もうコーラ飲んで忘れよう。

 

(あーうめー、やっぱりコーラって最高だわ。

 唯一無二の味だし。

 さて、伏黒と東堂は……あんまり建物壊してないし停学は無理か。

 あ、パンダ先輩。) 

 

 一応、伏黒を回収するために、適当な建物の屋上から東堂と伏黒を眺めていたら、ボロボロの伏黒が何かしようとしていたがパンダ先輩と棘先輩の介入で打ち切りとなった。

 東堂が無傷の所を考えるに、様子見しようとしてそのままボコボコにされたな。

 確かに、伏黒は相手に合わせる戦いが出来るから様子見も分かるけど、格上相手はダメだろ。

 初手から全力で手札の組み合わせ変えて殴り続けるのが正解だと思う。

 

(さてと、戻りますか。)

 

 パンダ先輩と棘先輩が来てるなら、真希先輩も来てるだろうし、コーラを飲み干して自販機へと戻る。

 屋上から飛び降りて、自販機のある通路近くに着地すると穴だらけのジャージの釘崎が真依先輩に寝技かけていた。

 側には駆け付けたであろう、真希先輩もいる。

 

「……引き分けか?

 いや、ジャージ穴空いてるから負けみたいなもんか。

 あ、真希先輩飲み物です。」

 

「うるさいっ……!

 今からオトして制服剥いだら私の勝ちよ!」

 

 真希先輩に飲み物を渡しながら、聞いてみると蛮族的回答を得られた。

 どんだけ夏服気に入ったんだよ。

 

「お前、何してた?」

 

「東堂面倒なので、逃げてました。」

 

「……そっか。」

 

 流石に、俺がいてこの状況はどうなんだと聞いてきたが東堂の名前を出すと真希先輩も納得してくれた。

 

「おい、帰るぞ真依、ブラザー。」

 

「……!

 ……そんな、伏黒は?」

 

 東堂の登場で、伏黒が負けたと思ったのか釘崎が動揺して技を解いてしまう。

 というか、さらっと俺を巻き込むな。

 

「楽しんでるようだな真依」

 

「冗談、私はこれからなんですけど。」

 

 リロードしながら、立ち上がる真依先輩。

 完全に猫がどっか行ったな。

 真依先輩の武器は銃か、火力の底上げ手段としては悪くないな。

 

「は、猫破れてんぞ。」

 

 釘崎の口擊は止まらない。

 

「あら、良いのよ。

 轟君だって此方の方が好きでしょ?」

 

 ……まあ。

 というか、貴方のお姉さんいる前でよく言えますね。

 驚いて固まってますよ。 

 

「そこまでだ、オマエと違って俺には東京で大事な用がある。

 高田ちゃんの個握がな…!

 万が一電車を間違えて遅刻すれば俺は何するか分からんぞ、ついてこい真依。

 そして、ブラザー!

 生高田ちゃんだぞ!

 後、これは俺のアドレスだ。」

 

「用事あるから無理。」

 

 東堂と関わらないという用事があるので断った。

 アドレスは着拒しとこ。

 ただ、マジで何するか分からないから脅しが面倒くさい。

 真依先輩も立ち去ろうとする東堂に仕方なく着いていくと思ったら俺の前に立ち止まった。

 

「はいこれ、私のアドレス。

 連絡してね。」

 

 そういって真依先輩が頬にキスしてきた……。そして今度こそ東堂の後を追った。

 二人が立ち去った後、真希先輩が物凄く複雑な目で俺を見ている。

 妹が後輩に色目使って頬にキスしたのだ。

 姉として先輩として、どうすれば良いのか分からないのは仕方ない。

 珍しいから写真を撮った俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 




禪院真衣の行動にはちゃんと理由があります。
なお、主人公の好感度は初対面から一切動いて無い模様


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悪癖の使い方

今回、ちょっと頭回ってないです。

たまに誤字修正である台詞の終わりの句読点が「ー」に修正されますが、なにあれ?



 嵐が過ぎ去った後、釘崎主導で話し合いが俺の部屋で行われる事になった。

 というのも伏黒は家入先生送りだし、真希先輩は心がショートして使い物にならない。

 

「真依にキスされたってマジ?」

 

「明太子。」

 

「頬ですけどね。」

 

 パンダ先輩と棘先輩に何が起きたか説明しつつ、チラリと真希先輩を見る。

 

「ハァ…」

 

 部屋の端で重い溜め息を吐く加湿器になっている。

 隣に座る釘崎が何とか励まそうとするが、理由が理由の為に中々言葉が出ない。

 仲違いしている実の妹が後輩の頬にキスして去っていたのだ。

 頭の中滅茶苦茶になるに決まっている。

 

「で、心当たりあんの?」

 

「それが無いんですよねー。」

 

 パンダ先輩の質問で改めて考えるが、真依先輩にアプローチかけられる理由が無い。

 唯一接点のある京都での歓迎会も東堂によってぶち壊されたし、その次の日には京都校ぶっ壊して即停学&出禁だし。

 好かれる様な行動を一切取ってないし関わりも殆ど無い。

 

「嫌われているか、東堂と同じ扱いされてると思ってたんですけどね。」

 

「それ意味一緒じゃん。」

 

 確かに。

 

「学校の敷地の1/5破壊した人間を好きになる女の子、どんな子?

 はい、棘先輩。」

 

「ちりめんじゃこ、キムチ、なめたけ。」

 

「座布団一枚!」

 

 男三人で色々考えるが答えが出ない。

 

「案外、マジで惚れてたりしてな。」

 

 それはそれで面倒臭い。 

 

「それは無いわね。」

 

 パンダ先輩の考えを真希先輩を慰めようと四苦八苦してた釘崎が否定する。

 

「根拠は?」

 

「女の勘。」

 

 田舎の雌猿の勘か…いやでも野生動物って勘が鋭いし当たっているかもしれない。

 となると、やはり実家からの命令だろうか。

 もしくは、姉妹仲が悪いので真希先輩への嫌がらせ目的かもしれない。

 あるいは、両方ともという事もあり得る。

 

「……多分、糞実家のせいだろ。

 入学早々に東堂を倒した轟の術式が欲しいって所か。」

 

 感情の整理がついたのか、真希先輩が重い口を開く。

 真希先輩曰く糞実家とは禪院家の事だ。

 先輩の説明は前に五条先生が持ち出してきたお見合い写真と一緒だ。

 禪院家の場合、五条先生にお見合い写真を送っても俺のもとまで届く筈がない。

 というか、そんなことせずに姉妹校とはいえ同世代に禪院家の人間がいるからアプローチさせれば良いという訳だ。

 

「御三家とも在ろう家がそういうことします?

 確か、相伝の術式とかあるんですよね?」

 

 そういう古い家系とかは代々伝わる術式とかを大事にする筈だ。

 いくら俺の術式が強かろうと、そこまで積極的に動くとは思えないし、寧ろ『歴史もない新参者の術式など認めん!』とか思ってそうだけど。

 

「相伝って言っても要するに、先祖が持ってた強い術式って事だからな。

 お前の術式継いだ禪院の人間が生まれれば、新しい相伝の術式になる。

 相伝と言ってもその程度だよ。」

 

 なるほど。

 そう言えば加茂先輩も『強いから名を残して来れた。』て言ってたな。

 身内だけで、子供作ってたらヤバイし定期的に強い術師の血を取り込んでるという意味でもあるのか。

 

「事情の推測がつきましたけど、どうすれば良いんですかね。」

 

 只の個人的な恋愛なら、当人同士の話し合いで終わるが背景がある分考える必要がある。

 特に真依先輩は失敗したら何があるか分からないし、真希先輩としてもそれは避けたい筈。

 俺的には、純粋な恋愛の方が面倒だったりする。

 まあ、真希先輩をエロくしたら真依先輩だから、そういう意味では不満はない。

 

「でも、この話って轟から見れば悪くないよな。

 この業界、御三家の後ろ楯って大きいし。」

 

 確かにパンダ先輩の言うとおり、呪術師としてやっていくには御三家の力が有れば安泰だろうが、正直そんなものどうでも良いからメリットはそんなに無い。

 寧ろ、嫌がらせをしてくれれば襲撃する理由になるし。

 

「おかか、いくら、筋子。」

 

 あーなるほど、術式を持たない子供や相伝の術式か俺の術式を継いでない子供が生まれると面倒な事になるのか。

 つまり、仮に受け入れたら暫くは安泰だけど、子供ガチャの結果で面倒くさい事になると。

 

「真希先輩、現役の禪院家って五条先生並みに強い人いるんですか?」

 

「いたら、あのバカが幅を効かせられる筈がねえ。」

 

 なら、最悪暴力で解決出来る訳だ。

 仮に戦うとなれば禪院家の秘術とか味わえそうだし、もしかしたら隠れ五条先生並みの実力者がいるかも知れない。

 そう考えると真依先輩と付き合って、何か嫌味とか真依先輩への悪口を禪院家の人間が言ってくれば攻め込む理由になるな。

 いやでも陰気な奴らが多そうだし断った方が後に嫌がらせされたら難癖つけて乗り込めるか?

 

(となると、どっちでも良いな。)

 

「結局、サンドバッグが増えるかどうか何だよな…」

 

「いや、その理屈はおかしい。」

 

「おかか。」

 

「私は反対よ。

 血が欲しいって要するに、子供寄越せって事じゃない。

 人を道具扱いも許せないし、あんたが私より先に恋人出来るのがムカつく。」

 

「どっちも本心なのは分かるけど、後半隠せよ。」

 

 強い意思を持って釘崎が反対だと声を挙げるが、後半の醜い本音のせいで色々と台無しである。

 

(…取り敢えず俺としては、どうでも良いと結論付けたし、真依先輩側を考えてみるか。)

 

 バッサリ切り捨てても良いが、先輩の妹でもある。

 真希先輩と真依先輩の確執はあの後流れで軽く聞いたが、元々二人は術式無しで立場が低く女性であり未来は暗かった。

 しかし、真希先輩は天与呪縛による強さがあったのと性格上の関係から禪院家に喧嘩売って呪術師になった。

 

「真依先輩って何で呪術師目指してるんですか?」

 

「……実家の当て付けだよ、私が当主になるって啖呵切ったから巻き込まれた。」

 

(へー、かわいそ。)

 

「なら、取り敢えず連絡くらいは取り合いますよ。

 そうすれば、実家からの干渉も減るでしょ。」

 

 真希先輩の妹だし、あの銃捌きは気に入った。

 強さは期待できないが面白い技術が見られるかもしれない。

 

「…悪い感謝する。」

 

「彼氏彼女の関係になったら、教えますねー。」

 

 取り敢えず、貰ったアドレスを登録した旨をメールする。

 東堂は着信拒否の番号と迷惑メールアドレスとして登録しておこう。

 そして、京都校襲来の一件から二週間後、五条先生からの連絡で虎杖の面倒を見る事になった。

 五条先生曰く、『悠仁はね結構面白い戦い方するよ。』とのこと。

 

(確かに面白いが…。)

 

 取り敢えず虎杖をボコボコにした感想としては面白いけど期待外れ。

 伏黒から聞いていた通りの異常な身体能力はすごいと思う。

 頑丈で瞬発力もあり、素の状態で既に並みの術師を越える戦闘力を有しており虎杖の少ない呪力で術師としての打撃が成立している。

 流す呪力が少ない為、攻撃が読みにくく、本人の格闘センスもあって非常に戦い辛い。

 

(ここまでは、良い。

 問題はこの『逕庭拳』。)

 

 虎杖の異常な身体能力に呪力が付いてこれず、打撃の後に時間差で呪力が衝突する技…らしい。

 確かに、時間差で来る呪力は厄介だが慣れればどうと言う事ない。

 

「起きろ、虎杖。」

 

 取り敢えず、ノビている虎杖を蹴り起こす。

 

「ファっ!?

 悪い、また寝てた。

 でもモーチョット優しく起こしてくれない?」

 

「虎杖、お前の技になってる逕庭拳、確かに面白い技だ。

 けどこれしか打てないのは大問題だ。

 何故か分かるか。」

 

「……慣れるから?

 轟も驚いてたのは最初だけだし。」

 

「そうだ。

 こいつは、厄介だが仕組みが分かれば威力が分散する欠陥技だと誰もが気付く。」

 

 通常、呪力と打撃はほぼ同時に対象にぶつかる。

 同時に二つの力が来るのと、遅れて二発目が飛んでくるのではダメージの伝わり方が違う。

 

「防御力の低い、一級以下のカス呪霊ならまあ通じるだろうけど特級には絶対届かない。

 いいか虎杖、逕庭拳は奇策として使うのがベストだ。

 通常の打撃の最中に逕庭拳を放つ事で、相手を混乱させてテンポを乱す程度の役割が精々だ。

 それをお前はメインウェポンとして使ってる訳だ。

 つまり、今のお前は変態的に弱い。」

 

 虎杖の今の状況は初見プレイのバイオハザードでナイフ縛りしているようなものだ。

 端から見れば変態である。

 

「じゃあ、どうやって呪力と打撃を合わせんの?

 打撃を呪力に合わせて遅らせるとか?」

 

「呪力の使い方変えるだけで済むだろ。」

 

 何言ってるんだコイツ?

 

「お前は、初心者だから腹から呪力を流しているよな。

 腹から流す呪力が拳に間に合わないから逕庭拳になるわけだ。

 腹からだと遅れるなら、腕から呪力を流せば良い。

 そもそも、腹から呪力出す決まりなんてないからな。」

 

 腸が煮えくり返るとか、感情と胃が密接に関係してるから説明しやすくするために腹から呪力を流せと教わるが、教科書レベルの説明で実践で使わないし。

 

「……腹からじゃなくて、腕からか。

 …よし、何となくわかった。」

 

「じゃあ、訓練に戻るか。

 詳しい事は五条先生に質問しろ。

 時間まで殴る蹴るのスパーリングだ。

 取り敢えず、普通の打撃と逕庭拳を組み合わせるのがお前の課題だ。」

 

 虎杖の身体能力の1.5倍に合わせてのスパーリング。

 頭を使わなきゃ確実に負ける強さで追い詰めて、頭を使わせ続ける。

 頭を使えなきゃ、家入先生送りである。

 

「言っとくけど、俺から見るとまだまだ欠点だらけだからな。」

 

「おう、ありがとな。」

 

 この日、虎杖は5回気絶して三回家入先生の元へ担ぎ込まれ、通常の攻撃と逕庭拳を使い分ける事が出来る様になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前半が真依先輩問題解決編。
メル友になりました。
後半の虎杖ボコボコ編で、虎杖は普通の打撃と逕庭拳を組み合わせる様になりました。

格闘戦苦手なんじゃあ。



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飽きと我慢

一気に交流戦まで飛ばそうと思ったけどそうすると、原作ががが…


「虎杖の訓練飽きた。」

 

「えぇ…。

 突然やる気無くなったと思ったら酷くない?」

 

「だってお前殴る蹴るしかないじゃん。」

 

 訓練開始から数日分、虎杖との特訓は順調だった。

 死ぬかもしれないという緊張感は虎杖を急激に成長させ生成する呪力量の上昇及びコントロール精度が上昇した。

 逕庭拳と通常の打撃の使い分けも出来る様になり、術師として総合的に見れば二級位の実力はあると思う。

 ただ、俺個人としては虎杖は術式を持ってないので戦闘方法が殴る蹴るのみで飽きてきた。

 五条先生は時間が立てば宿儺の術式が刻まれるとか言っていたが、何時になるのだろうか。

 

「あと教える事も黒閃くらいかな。」

 

「何それ?」

 

「呪力の衝撃と打撃が同時に行われると、起こる現象。

 威力が2.5乗になるし、呪力への感受性も上がるから確実に強くなるには必須技術。

 あ、技術じゃないか。」

 

 技術なのは俺だけだ。

 取り敢えず、虎杖に黒閃デコピンを披露する。

 

「ほら、呪力が黒く光るだろ?

 だから黒閃。」

 

「チョー強い技じゃん!!

 どうしたら出来る様になるの!?

 教えて!教えて!」

 

 黒閃を見て、虎杖もえらくはしゃいでいる。

 どうやら本人も自分に必殺技が無い事を気にしていたみたいだ。

 残念ながら通常の呪術師は狙って黒閃を出せない。

 そこは虎杖も例外ではない。

 

「黒閃は技というより、現象だ。

 原理は簡単で呪力と物理的な衝撃が0.000001秒以内に衝突すると黒閃になる。」

 

 俺は術式で感覚強化出来るから、何時でも何処でも打てるけど。

 

「イメージとしては呪力で出来た自分の体と実在する自分の体の動きを完全に一致させれば良い。

 虎杖は集中力あるし、コントロールも良くなってるからその内打てるだろう。」

 

 虎杖と対戦して分かったが、虎杖は目が良い。

 相手の動きを常に捉えて次の一手を放ってくる。

 目が良いと言うことは、集中力もあるだろうから多分打てる。

 

「……何か、打てたらラッキーって感じだな。」

 

 拍子抜けした顔をしてるが、お前はこれからの事を考えたら黒閃一回でも経験しないと死ぬぞ。

 

「今の虎杖は攻撃力だけなら一級上位と思って良い。

 弱い特級なら勝てる可能性もあるだろう。

 けど、火山頭には多分届かんぞ。」

 

 あの木の呪霊も難しいだろう。

 

「…!」

 

 俺の言葉に虎杖の顔つきが変わる。

 

「自覚したな、お前がまだ弱いって事を。

 今のお前では例え宿儺の術式が刻まれたとしても火山頭相手なら死ぬだろうな。

 だけど、黒閃を経験し呪力への理解が深まった場合は話は別だ。

 どうする虎杖?」

 

「死んでいる今の時期に黒閃を放つ!」

 

「OK、じゃあ次の目標は黒閃だ。

 あ、ちょっと待って準備するから。」

 

 良いことを思い付いたので、懐からトランプを取り出してシャッフルする。

 

「よし、始めるぞ。」

 

「え、何を。」

 

「何をって訓練だよ。

 さっき自分で目標言ったじゃん。」

 

 若年性痴呆という奴だろうか、頑丈だからと殴りすぎたか?

 

「いや、そのトランプ何?。

 ババ抜きで訓練すんの?」

 

「ああ、これは昨日皆で遊んだトランプで偶々ポッケに入ってたんだよ。」

 

 皆で遊ぶトランプは大分白熱した。

 勝者が敗者に罰ゲームをやるルールにしたので、釘崎と棘先輩はノリノリだし罰ゲームが割りとガチなのが分かってから回避する為に伏黒も真剣になりだし大分楽しかった。

 

「何それ、羨ましい!

 じゃなくて、トランプ何に使うの?」

 

「武器だよ。

 お前と普通に戦うの飽きてきたし。」

 

 マジシャン見たいにトランプをパラパラしてみる。

 うん、思ったより使えそう。

 

「いや、もうちょっと真面目にー」

 

 何か、虎杖が面白いとこ言ったので、トランプを投げて右耳を切り裂いてやった。

 

「真面目に?

 面白いことほざくな虎杖。

 今のお前はさ、俺から見たらトランプ武器にしても勝てる位に弱いんだよ。

 ちょっと我が儘が過ぎるよなぁ?」

 

 右耳を押さえて、驚いてる虎杖を見て決めた。

 これから毎回違う玩具で戦おう。

 少し強くなって付いた自信をバカにしながらボコボコにしよう。

 じゃなきゃ、俺が飽きてしまう。

 

「真面目にやって欲しかったら、少しは強くなれよ虎杖。」

 

 一年で一番楽しめる可能性があるのは虎杖だ。

 宿儺の器としての頑丈さと宿儺の術式が使えるようになれば絶対に楽しめる。

 ちなみに二位は伏黒。

 

「で、切り刻んだ結果がこれか。」

 

 俺は今、冷たい解剖室の床で正座している。

 目の前には家入先生。

 解剖台の上には全身に包帯が巻かれた虎杖が寝ている。

 

「切り口が綺麗だから、殆どの傷口は圧迫するだけで済んだが目は別だ。

 なあ轟、私は面倒臭い傷を作るなと言った筈だが。」

 

「……あまりにも黒閃打つ気配なくて追い込もうとしたんですよ。」

 

 全然、黒閃を打つ気配がないので何かの漫画で読んだ『五感を一つ閉じる毎に残された感覚は鋭くなる。』という理論を試してみたのである。

 目とついでに頬毎舌を切り裂いて視覚と味覚を閉じれば黒閃打てるかなと虎杖を思って試してみたのだ。

 まあ、結果は出血多量で気絶してしまったが。

 

(…意外とトランプは使いやすかったな。

 これから常備しとこ。)

 

「…君は悟と違って教師向いてないね。」

 

「いや、でも気絶する直前は結構いい線まで行ってたんで、効果はあったと思うんですよ。」

 

「それは、追い詰められていただけだろう。」 

 

 確かに。

 次はもっと手軽に追い詰める事の出来る玩具にしよう。

 

「次はスライムを使います。」

 

「どう結論付けたのか知らないけど、面倒臭い傷つけなきゃ構わないよ。」

 

 説教も終わったので、取り敢えず虎杖を担いで匿われている部屋に移動させるか。

 

「そうだ、今日ちょっと付き合ってよ。」

 

 虎杖を担いで解剖室を出ようとすると、家入先生に呼び止められた。

 

「今回の罰って事でお酒、付き合いなよ。」

 

 虎杖を部屋に放り込んだ後、家入先生と向かったのは浅草駅にある居酒屋だった。

 赤提灯にビールの看板。

 普通ならおっさんのサラリーマンが通いそうな居酒屋に慣れた素振りで入っていく家入先生。

 

「おう、硝子ちゃん!

 今日は良いマグロが入ったよ!」

 

「じゃあ、後で合う酒と一緒に貰いますよ。」

 

 ザ、大将って感じの店主からの言葉で家入先生が完全にここの常連だと確信出来た。

 店員に奥の座敷席へと促されて対面で座る。

 

「何かダメなものある?」

 

「特に無いです。」

 

「じゃあ、適当に頼むから。

 飲み物はコーラで良い?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

 家入先生は店員さんを呼びつけて慣れた手つきで注文していく。

 唐揚げ等の揚げ物は此方への配慮だろうか。

 人生初の居酒屋に少しそわそわしていると、店員が飲みの物を運んできた。

 

「ハーイ、ご注文のハイボールとコーラとクリームソーダでーす!」

 

 馬鹿みたいに陽気な声の店員が飲み物を運んできたが、クリームソーダを家入先生が頼んだ覚えはない。

 オーダーミスかなと思っていると、配膳した店員がどかりと横に座ってきた。

 顔をみると五条先生だった。

 

「げぇ。」

 

「やあ、轟。

 元気?」

 

 オフなのだろうか、何時ものネックウォーマー見たいな目隠しではなく髪をおろして黒丸なサングラスをしている。

 家入先生は五条先生の登場に動揺せずにつまみとハイボールを楽しんでいる辺り予定調和らしい。

 

「はー、美人と飯食えると思ったのになー。」

 

「美人とイケメンと飯食えるんだからお得じゃん。

 ハイ、カンパーイ。」

 

 五条先生と乾杯してコーラを飲む。

 家入先生が何で俺を誘ったのかと思ったらこれが目的だろうか。

 それなら残酷過ぎる。

 

「ていうか、轟って硝子みたいのがタイプなの?」

 

「タイプじゃないけど、美人じゃないですか。」

 

「だってさ硝子。」

 

「嬉しいけど、仕事が恋人かな。」

 

「「かっこいい~。」」

 

 暫く、支離滅裂な話に支離滅裂な答えをしながら適当に飲んでつまみを食べていく。

 五条先生と会話するときは何も考えない方が楽だしストレスが溜まらない。

 たまに我に返って死にたくなるが。

 メニューを眺めると丼ものがあった。

 

「焼き鳥丼頼んで良いですか?」

 

「いいよ。」

 

 家入先生の許可が降りたので、焼き鳥丼を頼む。

 こういう店の焼き鳥だから多分旨いだろう。

 

「で、何で俺呼ばれたんですか?」

 

 焼き鳥丼が来る間に、今回の意図を把握するために少し真面目に質問する。 

 意図がない可能性もあるけど、多分何かしら意図があるだろう。

 

「悠仁について最近どうかなって。

 元々今日は硝子と飲む筈だったけど、たまたま轟が硝子に会ってたから連れてきて貰った。」

 

 なるほど。

 

「まあ、虎杖は強くなってますよ。

 何度も倒しても諦めないし、叩けば響くって感じです。

 そういえば逕庭拳でしたっけ。

 何で放置したんですか?」

 

 普通に考えればあれは悪癖だ。

 武器としてはそんなに強くないし。

 

「純粋に面白い技だし、それに自覚させて使っとけば正しい攻撃覚えた後も使いこなす事出来るでしょ。」

 

「まあ、使いこなすまでボコボコにしたので使い分けは出来るようにはしました。」

 

「流石♪」

 

「それ、含めて先生が教えれば良いじゃないですか。」

 

「予定としてはこの後、重めの任務行ってもらうから取り敢えず任務こなせるレベルの力で良いと思っててね。

 寧ろ、轟が面倒見良いのが予想外な位だよ。

 ひたすらボコってお仕舞いだと思ってた、ごめんね。」

 

 最初はそうする予定だが、余りにも虎杖が弱すぎた。

 

「まあ、良いですよ。

 ただ、最近は教える事無いし虎杖と戦うの飽きたので、黒閃打てるまで玩具を武器にして遊んでます。

 今日はトランプで次回はスライムです。」

 

 血の付いたトランプを取り出して五条先生に渡す。

 

「…良いね。

 轟の術式なら結構良い訓練になるし、悠仁も色んな経験が積める。

 もっとやって良いし恵達にも試してみてよ。

 この時期は呪霊もおとなしくて経験積みにくいから。」

 

「面倒な傷作らないでね。」

 

 五条先生から一年二人にやれと許可を貰い、家入先生から忠告を貰った。

 

「五条先生、何かこう強い敵いません?

 火山頭見てからストレス凄いんですけど。

 禪院家襲っちゃいますよ?」

 

「うーん、僕の予想が正しければ今年中に事態が動くと思うからそれまで我慢して。

 その時になったら好きに動いて良いから。

 ていうか、確実に来るよ。

 悠仁が本格的に器として強くなる前に、向こうは仕掛けるでしょ。」

 

 あり得る。

 恐らく呪霊が活発になる秋から冬の時期に確実に仕掛けて来るだろう。

 しょうがない、我慢するか。

 玩具を武器にするの結構楽しそうだし。

 特級には流石に使わないけど。

 

 

 

 

  

 

 

 

 




五条先生が逕庭拳を放置していた理由を
・重めの任務こなす予定なので、取り敢えず戦える様にした。
・後々、正しい使い方覚えれば武器になると判断した。

と仮定してます。
実際、渋谷で武器になってたし。



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何も無い一日

滑り込み…!


 結局、虎杖は黒閃を打つ事なく五条先生の斡旋した任務へと出発していった。

 スライム、けん玉、カスタネット、縄跳び、マラカス、コーラ缶、タコ紐、psp、クレジットカード、小銭やお札等々の財布の中や適当に買ってきた玩具等が虎杖のトラウマとして刻まれた位だ。

 映画鑑賞の時に差し入れでコーラ缶渡した時にビクッと震えてて面白かった。

 因みに伏黒や釘崎にも試した後のある日、東京で遊んだときに財布を取り出したら二人に身構えられた。

 

「何か二人とも人を全身凶器だと思ってない?

 流石に訓練の時だけだよ。」

 

「お前この前の任務の時にトランプ使ってただろ。」

 

「ああ、あれは雑魚だったから。」

 

「「チッ。」」

 

 何に苛ついてるのか知らないが、多分カルシウムが足りてないのだろう。

 あ、次は牛乳の紙パックにしようかな。

 

「次、何使おうかな…」

 

「普通の武器使いなさいよ。」

 

「普通の武器とかつまんないし、けん玉とか普通に使えそうな玩具って武具と変わんないしで、かといって使い道完全に分かんないのは持って握るだけだし悩むよね。」

 

「お前、それと戦う側の事考えろよ。」

 

「実力差って残酷だよね。」

 

 無言で脛を同時に蹴ってくるが、術式使ってるので痛くないでーす。

 

「で、三人とも暇だから東京に出てきた訳だけど何する?」

 

 たまたま、全員休日だったのでたまには三人で遊ぶかとなり東京へ降りてきたが、俺は玩具の調達出来ればラッキー程度、伏黒はそもそも休む気満々だったのを二人で連れ出したから目的がない。

 東京とは目的が無ければ無駄に人が多いだけの鬱陶しい場所だと今日理解した。

 提案しようにも、昔から呪霊狩りに勤しんでいたので、皆で遊ぶとか分からないし。

 こういう時、虎杖がいれば色々提案してくれるのだが生憎死んでいる。

 大事な時に死にやがって、あの野郎。

 

「どっか食べいくって言っても、旨い食べ物とか流行りの食い物は大体五条先生の奢りで食ってるし。

 ここら辺のラーメン大体食っちゃったしな。」

 

「お前、休日にそんなことしてんのか。」

 

 休日は大体ラーメンの食べ歩きをしている。

 術式による内臓の強化練習を兼ねて試してみたのが始まりで、元々好きなのもあって休日の度に5食位食べていたら大体のラーメン屋は制覇したと思う。

 後は材料工学とか物理学とか科学の本読んだり、格闘系の動画見る位である。

 

「私も最近、買い物しすぎてお金ないのよねー。」

 

「……」

 

 俺達の言い分に『じゃあ何で俺を引っ張り出した。』と言わんばかりに伏黒が顔をしかめる。

 そりゃあ暇だからよ。

 にしても、何をしようか。

 玩具屋回っても良いけど、二人にネタバレになってしまうのはつまらない。

 

「ラブホ街で昼間から入ろうとしてる人が不倫か当てるゲームとか?」

 

「一人でやってろ。」

 

「あ、そういえば東京の何処かに水族館あるらしいわね。」

 

「あー、何か駅にあるとかなんとか。」

 

 確か、品川駅のすぐそばに出来たとかで数年前に話題になった筈。

 というか、意外と水族館あるらしいね東京。

 

「じゃあ、そこ取り敢えず行くか。」

 

 と言うわけで、三人で品川駅の水族館に向かった。

 

「まじで目と鼻の先にあるのな。」

 

「さ、入りましょ!

 私考えたら水族館初めてなのよね。」

 

 一人、早足でチケット売り場に向かう野猿は水族館初めてらしい。

 

「食べちゃダメだぞー」

 

「流石に無いだろ。」

 

 ツッコミ所違う気がするぞ伏黒。

 テンション高めな釘崎についていき、チケットを買って中に入る。

 適当に各自で見て回るが、俺は十分で飽きた。

 幻想的な演出をしたいのか全体的に暗いし、明かりは紫とかピンクの光でボヤッしてる。

 それと割りと致命的なのが、俺は小さい生き物に興味ないのだ。

 2階はチンアナゴとかの小さい海の生物が売りなのだが、俺は食えそうに無いなとしか思わなかった。

 後は蠅頭が水槽の中にいる事だろう。

 魚を鑑賞してるとたまに視界に入ってくるし、祓おうにも水槽の中なので少し面倒臭い。

 後、地味に顔が魚ぽいのがムカつく。

 

(後で高専に報告しとこ。)

 

 蠅頭しかいないから無視されるだろうけど。

 意外にも伏黒は落ち着いた雰囲気が好みに合っているのか、ジーっとチンアナゴを眺めていた。

 釘崎は全てが珍しいらしく、あっちこっち見て回ってた。

 

(あ、真依先輩にメールしとこ。)

 

 そう言えば、最近してない事を思い出して『水族館なうです。』とチンアナゴの写真付でメールする。

 下でフランクフルトとコーラ買っているとメールが来ていたので適当な所に腰かけて返信する。

 

『そこ、品川のホテルの?』

 

『そうですよ。

 一年全員暇なので暇潰しに。』

 

『仲良いのね。

 後、そこはデートスポットよ?』

 

『ああ、だから暗くて照明がピンク系なんですね。

 酒も売ってるしホテル近いし。』

 

 館内飲食オッケーで酒も飲めるのは珍しいと思っていたが、やはりそういう意図があるのだろうか。

 

『ちょっと下品よ。』

 

『入って直ぐに飽きて暇なんですよ。』

 

「げ、出涸らしとメールしてる。」

 

 急に画面に影が差したと思ったら、釘崎が覗き込んできた。

 マナーを知らないのか。

 ああ、山にマナーとかないのか。

 

「出涸らしに負けた癖に何言ってんだ。」

 

「次は勝つから良いのよ。」

 

 出涸らし発言に関してはスルーしとく。

 真依先輩への敵意は釘崎のやる気の動力源の一部でもあるし、ここで真依先輩の肩を持って忠告すると絶対面倒な気がする。

 真依先輩の実力は知らないが、今の釘崎なら正面から来る弾丸に対して被弾はするが体を捻って致命傷を避ける位は出来るだろう。

 拳銃の弾丸って割りと遅いし。

 ライフルなら知らん。

 

「というか、もういいのか?」

 

「見飽きたわ、イルカショーとか無いのねここ。」

 

 有るわけ無いだろ。

 

『野猿が来たのでまた今度。』

 

『引っ掛かれないように気を付けてね。

 交流会の後に会いましょう。』

 

 そういえば、そろそろ交流会か。

 五条先生は虎杖を交流会で復帰させる予定らしいが、どうやって登場させるのだろう。

 まあ、あの人の事だからろくな事しないだろうけど。

 真依先輩にメールを返して立ち上がる。

 伏黒を探す為に術式で音響を利用して軽く一階を知覚したが、特徴的なツンツン頭は居なかった。

 どうやら二階でまだチンアナゴを見ているらしい。

 

「伏黒探して出ようか。

 何か明るい所行きたい。」

 

「地味に蠅頭うざいし賛成。」

 

 二階に向かうと、伏黒はやはりチンアナゴをボーッと見ていた。

 よほど、気に入ったのだろう。

 

「伏黒~そろそろ行こうぜ。」

 

「…おう。」

 

 肩を叩いて呼び掛けると、一瞬ピクッとしてチンアナゴから視線をはずした。

 

「何が良いのチンアナゴの?」

 

「別に、落ち着いたのが好きなんだよ。」

 

 まあ、伏黒は術式も影だしそういうの好きなんだろう。

 水族館を出て日に当たる。

 暗い所から出てきた時の日の光はより強く、激しく感じるのは錯覚だろうが心地良い。

 

「で、次何処行くか。」

 

 まだ時計は天辺に登ったばかり、これだけで高専に戻るのは流石に勿体ない。

 

「腹へった。

 轟、ラーメン詳しいんだろ。」

 

「良いわね。

 塩の気分よ私は。」

 

「品川ならアソコかな~。」

 

 適当にラーメン食べた後、結局何処に行くか決まらずに街をブラブラしつつ高専に戻る事になった。

 

「あ、眼鏡買わない?

 呪霊対策の奴。」

 

 呪霊は自分を知覚出来る存在に対して積極的に害をなそうとするので、術師や補助員は眼鏡を付けている場合が多い。

 目的としては利に叶ってるし。

 

「似合わないからパス。」

 

「伊達眼鏡でお洒落は安いしアリね。」

 

 という事で2:1で眼鏡屋に行く事になった。

 東京の良いところは眼鏡に限らず、デカイ専門店が確実にある事である。

 眼鏡クラスの知名度があると、複数のデカイ専門店があり適当にスマホで調べて近場のおしゃれ眼鏡が置いてある店に向かう。

 最初はちゃんとした場所に行こうかと思ったが全員視力は悪くないし、俺はどうにでも出来るので釘崎の意向でお洒落重視になった。

 そして、一つ分かったのが伏黒は眼鏡が似合わなかった。

 顔に眼鏡が負けるのだ。

 

「はえームカつく。

 眼鏡が勝つまで顔面殴って良い?」

 

「良い訳ねぇだろ。」

 

「私はどう?」

 

 釘崎が掛けているのは、濃い赤色のナイロールタイプと呼ばれる下半分に縁がついていない眼鏡だ。

 悔しいが釘崎の茶髪の髪と良くあっている。

 

「悔しいが良いんじゃないか。」

 

「…あんたが褒めるなんて珍しいわね。

 良いわ、これ買ってくる。」

 

 俺は濃い緑のスクエア型の緑色の眼鏡を掛けてみた。

 

「どうよ、伏黒。」

 

「…変じゃないから良いんじゃないか。」

 

 テンプルの部分に黄色ラインが三本走っているのが気に入ったし、変じゃないなら買うか。

 

「後は伏黒だけだな。

 至難の技だがベスト眼鏡がある筈!」

 

「なら、勝負よ轟。

 負けた方が晩飯奢りよ!」

 

 晩飯の奢りをかけた伏黒の眼鏡を決める熾烈な戦いは、しびれを切らした伏黒が店員におすすめを聞いた事で引き分けに終わった。

 流石に店員には勝てなかったよ…。

 因みに次の訓練の武器は水鉄砲になった。

 水は万能溶液であり、釘崎はジャージを一つ廃棄した。

 

 

 




次から交流会の予定。



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合流な交流会と

PSPに関しては何かネットでネタがあるじゃろ?
カスタネットは多分挟んでる。


 最近は傘にはまっている。

 というのも、傘は強度の問題さえ無視出来れば片手武器としては中々優秀だと思うのだ。

 尖端を尖らせれば槍として扱えるし、凪ぎ払いも可能で展開すれば盾にも使える。

 後は芯を改造して銃にすれば遠距離も可能だ。

 ソウルシルバーな漫画でも使ってるキャラいたし有りかもしれない。

 

「どう思います、七海さん。」

 

「普通に戦いなさい。」

 

「でも、仕込み銃とか仕込み刀って憧れません?」

 

「まあ、奇襲としての価値と携帯性という意味ではあるでしょう。」

 

 傘なら晴れの日に持っていても『日傘男子』で済む話だし。

 

「で、何か分かりましたか。」

 

「うーん、微妙ですね。

 既に治療済みというのもあって表面上の違いは無いですし、魂の観測というのもフワッとしてるんで。

 ていうか話聞くにそもそもガード出来ちゃってるから難しいですね。」

 

(改めて観察するとスゲー筋肉、まさに鋼だな。)

 

 俺は今、七海さんの脇腹を見ている。

 虎杖が派遣された任務の担当が七海さんで、事件の黒幕に『魂に干渉する術式』を持った継ぎ接ぎ姿の特級呪霊が現れたらしい。

 そして事件の過程で、継ぎ接ぎと交戦し術式を一度防いだらしく、その時に継ぎ接ぎ呪霊曰く『無意識の内に呪力で魂を覆っている』と溢した事から、事件後に報告を確認した五条先生が俺に傷口の分析を依頼したという訳だ。

 因みに五条先生は虎杖とサプライズの準備のため、この場にいない。

 

(傷口は単純に流し込まれた呪力を防いだときの呪力同士の衝突によるものだし、手掛かりは無い。

 けど、魂なる存在があるのは面白い。

 しかも呪力で覆えるなら、仮に俺が自分の魂を知覚した場合、術式を施せるかも知れない。)

 

 自分の魂に術式を施してどういう効果があるか分からないが面白そうだし、意識して呪力を纏うことが出来れば継ぎ接ぎへの有効な対策になる。

 五条先生としてはそれを見込んで俺に頼んだのだろう。

 

「時間かければ何か見えそうですけど、取り敢えず今は無理ですね。

 後で家入先生のところで改造されちゃった人間見て、それでもダメなら別の手段があるのでそっち頼ってみます。」

 

 もう一つの手段とは釘崎の『共鳴り』だ。

 肉体の核を守った上で衝撃を与えてきたカラクリは俺の魂を打ち抜いたと考えれば納得が行く。

 魂の存在という前提で『共鳴り』を喰らえば分析出来るかもしれない。

 

「分かりました。

 結果は五条先輩か私に直接お願いします。」

 

「そういえば、虎杖が大分逞しくなってるけど何かありました?」

 

「……そういうのは本人の口から話すべきでしょう。」

 

 なるほど、大分重い経験をしたみたいだ。

 報告書を見る限り、大分善戦したみたいだし後は宿儺の術式が刻まれれば収穫時かもしれない。

 七海さんと別れて校舎を出る。

 本当は家入先生の所に向かいたいが、今日は交流会一日目なので指定された集合場所へと向かう。

 今回は範囲内なら土地をいくら壊しても許されるので派手にやりたいが、京都校で楽しめそうなのは東堂しかいないのが残念だ。

 

(京都も東京も関係なく全員襲おうかな?)

 

 集合場所の神社の境内ぽい所に向かうと釘崎以外の面子は揃っていた。

 

「お疲れ様でーす。」

 

「よお轟。

 後は野薔薇だけか。」

 

 真希先輩の言葉で釘崎の事を思い出す。

 そういえば、奴は交流会を京都でやると勘違いしている。

 真希先輩や伏黒との会話が噛み合って無い姿が面白くて、わざと勘違いしたままになるように会話を合わせたがまだ気付いて無いのだろうか。

 

「なっ、何で皆手ぶらなのー!?」

 

 とか噂をしていると、荷物を持った釘崎がやってきた。

 

「ブフッ。」

 

 驚く声が聞こえた瞬間に吹き出しそうになる。

 駄目だ、耐えろ。

 パンダ先輩の後ろに回って指を噛んで笑いを堪える。

 

「京都で姉妹校交流会って…」

 

「いや、京都の姉妹校と交流会な。

 東京で。」

 

「道理で最近噛み合わないわけだ。」

 

「ですね。」

 

(wwwwwwwww…!

 駄目だ、もう無理…!)

 

「去年勝った方の学校でやるんだよ。」

 

「勝ってんじゃねーよ!

 アホが!」

 

「アッハハハッハ!

 もう無理、あーお腹いたいwww

 駄目だ、笑いすぎて立てねぇ!」

 

 あまりの滑稽さに腹が痛くなるほど笑いが溢れてくる。

 改めて釘崎の姿を見ると、手にはスーツケースとカバンを持っており、カバンからは京都の観光名所か何かのパンフレットがはみ出ている。

 

「テメェ!

 知ってて黙ってやがったな!」

 

「だって、余りにも……駄目だ、見てるだけで笑える……!」

 

 俺の腹を押さえて大笑いしている姿と過去の言動を思い出して、俺がわざと放置した事に気付いたらしい。

 怒り心頭でカバンを投げつけてくるが、もう全てが滑稽なのでそれすら笑えてくる。

 周りが呆れた視線を向けてくるが笑いが止まらない。

 

「はぁ、お前らそこまでにしとけ。

 来たぜ。」

 

 真希先輩に言われて視線を向けると、京都校の面々が階段を登ってきた所だった。

 

「こんにちは轟君。

 ……お腹痛いの?」

 

「あっ、お久しぶりです。

 いやこれは後で話します……w」

 

 俺が腹を抱えている姿を腹痛と心配してくれたらしい、真依先輩。

 流石に勘違いが広がるとアレなので笑いを収めた。

 にしても、京都校の面子は歓迎会の時と変わってない。

 刀持った男の趣味が悪い三輪先輩に、ロボットなメカ丸先輩、魔女っ子ピアスな西宮先輩や多分一番まともな加茂先輩と一番頭のおかしい東堂の全6人。

 

「ブラザーだけで、乙骨いねぇじゃん。」

 

「轟はともかくとしテ、一年二人はハンデが過ぎないカ。」

 

「呪術師に年は関係ない、特に伏黒君は禪院家の血筋の人間だ。

 宗家より余程出来が良い。」

 

「チッ。」

 

 加茂先輩の発言に真依先輩が舌打ちをする。

 まともだと思っていたが、普通に加茂先輩もポンコツみたいだ。

 

「うるせぇ、早く菓子折り出せコラ。

 八つ橋、くずきり、そばうち。」

 

「しゃけ。」

 

「怖……」

 

 そりゃあ、さっきまで京都行けると思ってたら笑われてご機嫌最悪だもんね。

 というか、色物枠といい何でこうも被ってるかね。

 

「はーい、内輪で喧嘩しない。

 全くこの子達は……げっ、轟。」

 

 京都校の面子の後ろから引率の教師と思われる袴姿の女性と京都校の学長が現れる。

 ていうか、初対面の人間に対して反応酷くない?

 

「何で、京都の担任に嫌われてるんですかね。」

 

「学校ぶっ壊したからだろ。

 学長もガン見してんじゃん。」

 

 確かに。

 パンダ先輩に言われて学長に目を向けると、バッチリ目が合ったので会釈をすると視線を逸らされた。

 

「で、あのバカは?」

 

 京都の引率は俺を視界から外して此方に質問してくる。

 バカとは五条先生だろう。

 年が近そうだし、多分学生時代から迷惑被ってそう。

 ちなみに、バカは虎杖のサプライズ計画の為に遅刻だ。

 真希先輩達が遅刻の旨を伝えていると、台車を押しながら五条先生(バカ)が現れた。

 

「はいはーい、お待たせー!

 やあやあ皆さんお揃いで、私海外に出張に行ってましてね」

 

 急に語り始めた五条先生は京都校の面々に向かって良く分からない部族の御守りを配っていく。

 

「あ、歌姫のはないよ。」 

 

「いらねぇよ!!」

 

 あ、歌姫って言うんだあの人。

 

「そして、東京校の皆にはコチラ!!

 故人の虎杖悠仁君でぇーっす!」

 

「はい!!

 おっぱっぴー!!」

 

「「…………。」」

 

(うわぁ。)

 

 東京校側の空気、特に伏黒と釘崎の空気が死んだ。

 そりゃあ、死を無駄にしないために目茶苦茶特訓してたのに、死んだ本人がふざけたサプライズを仕掛けて来たのだ。

 リアクション取る方が難しい。

 京都校はそもそも、虎杖を知らないので関心が薄いしお土産に夢中だ。

 これを受けると思った虎杖が悪い。

 

「宿儺の器!?

 どういうことだ…」

 

 唯一派手に驚いているのは、京都の学長だった。

 五条先生の狙いどおりの反応らしく、空気が死んだ生徒達を放置して嬉々としてからかいに行ってるが京都の学長は目茶苦茶ぶちギレている。

 

(というか最初からターゲットは京都の学長みたいだな。)

 

 そんな光景を尻目に、予想外に受けが悪くて固まってる虎杖に近付いていく釘崎と伏黒。

 釘崎の目には涙が溜まっている。

 どうやら、釘崎の性格上そういうネタは好きではないらしい、というか事情があるとはいえ生きてた事黙っている方が悪いし当然か。

 

「おい、何か言うことあんだろ…」

 

 虎杖がちらりと此方に助けを求めてくるが、視線をそらして無視する。

 生きている事を知っていたと釘崎にバレるだろうバカ野郎。

 

「生きてる事黙っててごめんなさい。」

 

 こうして仲直りが果たされて、虎杖が東京校の面子に合流した。

 その後、夜蛾学長が五条先生を仕置きしながら団体戦のルール説明がされた。

 ルールは簡単で敷地内に放たれた二級呪霊を祓った方が勝ち、それ以外のルールは特に無く、殺しや再起不能にさせなきゃ何しても良い。

 野蛮だがクィディッチよりましだろう。

 

(ん?

 ……というか。)

 

「虎杖入ったら俺達人数多くね?」

 

「「あ」」

 

 俺の疑問に夜蛾学長と五条先生の声が重なる。

 どうやら二人とも頭から抜けていたらしい。

 

「虎杖もう一度死になさい。」

 

「えぇ!?

 俺も出たい!」

 

 さっきの涙は何処へやら虎杖に死ねと言う釘崎を尻目に少し考える。

 

(俺の相手になるのは、多分東堂位だし。

 でなくていっか。)

 

「じゃ、俺不参加で。

 そうすれば、多分戦力差良い感じでしょ。」

 

 虎杖も結構強くなったし、肉弾戦主体だから作戦への支障はない。

 まあ元々作戦とかあんまりないけど。

 

「何故だブラザー!

 俺との交流の機会を減らすのか!!」

 

「個人戦で良いじゃん。」

 

 東堂が喚くが適当に聞き流しておく。

 

「本人がああ言ってますがどうしますか。」

 

「構わん、東堂とやり合えば敷地が崩れるかも知れんしの。」

 

「分かりました。

 では轟は個人戦からの参加とする。

 団体戦は12時からとする!

 以上、解散!」

 

 というわけで、団体戦に不参加が認められた。

 東堂が泣いてるが知らん。

 まあ、今度握手会付き合ってやるか。

 

「轟、お前が虎杖の面倒見てたならどれくらい強いか知ってるだろ。」

 

 待機場所として用意された部屋で作戦会議が行われた。

 虎杖は葬式で使われる黒い額縁を持ったまま正座させられている。

 既に死んでいた事にされていた事情は本人から説明されてついでに、俺が関わっているのも説明された。

 ちなみに説明されてから釘崎が無視してくる。

 

「術式は無しですけど、肉弾戦なら多分一番じゃないですかね。(俺を除く。)

 俺の代わりに東堂にぶつけるのは悪くないと思います。」

 

 本来の作戦は一人で突っ込んでくるであろう東堂を俺が処理する作戦だが、虎杖なら長時間の足止めが精々だろう。

 術式無しなら多分東堂に勝てるかも知れないが、アイツが術式使ったら普通に負ける。

 

「なら、虎杖を東堂担当に据えて作戦通り行くぞ。」

 

「東堂って誰?

 強いの?」

 

「京都校で別格に強い。

 倒せれば勝ち確定だからがんばれ。」

 

 肝心の虎杖が東堂の事を知らないが多分大丈夫だろう。

 戦闘センスは悪くないし。

 一応、東堂の術式は俺から誰にも教えてない。

 フェアじゃないのと知ってしまうと皆が必死になれないだろうという優しさだ。

 

「じゃ、審判部屋に俺行きますね。

 健闘を祈ります。」

 

 部屋を出て、先生達が待機している審判部屋へと向かう。

 

(そういえば試合中の監視は誰がやるんだろうか、カメラとか仕掛けられてんのかな?)

 

 そこそこ広大で建物と林がある敷地で生徒を監視するのは、骨が折れると思うが。

 審判部屋へ向かうと、まだ先生達は来てないようで一人しか座っていなかった。

 

「うわ出たよ。」

 

「やあ、轟君。

 いつかの任務ぶりだね。」

 

「死ねファミコン守銭奴。」

 

 席に座っていたのは冥冥一級術師だった。

 この女は金が命というか、金しか信用しない女で何度か一緒に任務を受けた事があるが、この女は任務を利用して、別件として個人で受けた依頼に巻き込んで来たから嫌い。

 ぶっ壊せば済む案件なら良いのだが全て壊したら賠償がヤバイみたいな案件でイライラするのだ。

 おまけにクソ生意気なガキも連れてくるし。

 まあ、彼女が監視役として呼ばれる事は納得がいく。

 『黒鳥操術』と呼ばれる術式を持っており、カラスを支配下に置く事で視界を共有出来る。

 応用でカラスの視界を画面に写す事も出来るだろう。

 後は彼女は金の奴隷であり、中立だ。

 

「おや、今のは傷付いたな。

 慰謝料を請求したいよ。」

 

「事実だろうが…弟はどうした?

 クビか?」

 

「今回は必要無いからね。」

 

 冥冥にはくそ生意気な憂憂という弟という形の雇用関係の存在がいるが今日は連れてきていないらしい。

 とりあえず冥冥から離れたいので、一番離れた席に座って待っていると五条先生と歌姫先生が入ってきた。

 

「やっほ轟。

 ごめんね、交流会一日だけ参加させられなくて。」

 

「別に良いですよ。

 仮に参加してたとしても、東堂とやり合った後は多分棄権してますし。」

 

 もしくは、京都も東京も関係なく襲撃するかの二択だな。

 

「二日目はね好きなだけ暴れて良いから。

 もうジャンジャンやっちゃって。」

 

 始まるまで暇だな。

 

「はーい。

 そういえば俺、歌姫先生に初対面なのに、嫌われてるんですよねー」

 

「え、そうなのー?

 可愛そう、ちょっと~歌姫~教師としてどうなの~?」

 

 自分で振っといてアレだけどウザいな。

 歌姫先生はワナワナしだして、コチラを指差す。

 

「こっちの台詞よ!!

 いきなり東堂と喧嘩するだけなら未だしも、敷地ぶっ壊しやがって!!

 まだ復旧終わってないのよ!!

 どういう教育してんのよ!!」

 

 あ、まだ終わってないんだ。

 ていうか、正論過ぎて何も言えないや。

 

「そっちは天元とか居ないんだし、古くさい建物幾つか壊れただけじゃん。

 気にすんなよ歌姫。」

 

 確かに。

 京都はいくらぶっ壊しても金で解決するが、こっちだと話は別だ。

 

「あ、ん、た、ねー!!

 私は先輩なんだよっ!!!」

 

 なんて話をしていたら、学長二人も揃って開始の時間になった。

 

(開始の合図は五条先生がするらしいがこの人にマイクを握らせて大丈夫だろうか。)

 

 とか思っていると歌姫先生が無茶ぶり振られて真面目に答えている間にスタートの合図がされた。

 この人そういう星の元に生まれたんだな。

 というか学長二人が放置してる辺り、五条用に連れてきたんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冥冥との因縁はざっくり言うと、高報酬で面倒くさい案件に何度か主人公を巻き込んだ。

復旧されてないのは、地面が液状化して地下施設おじゃんしたり建物が沈み混んだりしてるから。 

この主人公、釘崎に共鳴りを試してもらう話を完全に忘れて嗤ってるな…


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交流会でトラブる

他人の戦闘シーンは疲れるね。
感想・好評価お待ちしています。


 五条先生の音割れ開始合図と共に団体戦がスタートした。

 両校共に二級呪霊が放たれている中心地へと向かい始める。

 ちなみに、この時点で東堂は単独で動いている。

 やはり呪霊をガン無視して東京校の生徒全員とやり合う気だ。

 

「いやー、始まりましたねー!

 両者共に中心点へと向かい始めましたが、どう思います、解説の轟さん。」

 

「え、俺が解説なの?

 まあいいや。

 早速東堂が単独行動に出てますね。

 恐らく一人で東京校を相手するつもりですよ。」

 

 普通、俺が実況で解説が五条先生だと思うのだが。

 貴方そっちのプロでしょ。

 

「オーっと!

 早速東堂が東京校の前に現れましたが、速攻で悠仁が顔面に膝蹴り入れたー!

 その隙に他のメンバーは離脱!!」

 

「東京校も京都の動きは折り込み済みでしたね。

 メンバーで一番タフな虎杖が対応してます。」

 

 にしても本当に迷いが無いな。

 前の虎杖なら、タックルか何かで止めるだろうが躊躇無く顔面に膝蹴りとは。

 余程、大切なナニカを任務で守れなかったらしい。

 東堂は虎杖が対応している間に東京校は二手に別れて各自で森の中を進んでいる。

 パンダ先輩と棘先輩と釘崎のチーム動物園と伏黒と真希先輩のチームブラック。

 索敵出来るのが鼻が効くパンダ先輩と犬と鵺がいる伏黒だけだしこのチーム分けが最適だろう。

 

「東京校は2チームに別れて行動してますが、おや~?

 京都校は中心地点を越えても全員で動いていますねー」

 

「可能性としては東堂の援護ですが、そんな事したら東堂を敵に回しますから、奇妙ですね。」

 

 アイツなら全員敵に回しても構わないと思ってそうだし。

 京都校は西宮先輩が空を飛べるので本来は上空からの索敵が出来る筈、広い索敵範囲を生かすなら散開して動いた方が良いと思うが。

 で、東堂の方はというと、虎杖と絶賛殴りあっていた。

 顔が笑っているからどうやら虎杖はお眼鏡に叶ったらしい。

 眺めていると、二人と京都校を映す映像が途切れた。

 

(……雑すぎる。)

 

「へいへーい。

 金もらってるなら、丁寧に仕事しろよ。」

 

「ふふ、動物は気まぐれだからね。

 視覚を共有するのも疲れるし。」

 

 嘘つけ、カラスの意識操るなんて朝飯前だろ。

 だが、これで狙いが分かった。

 どうやら、京都校は虎杖暗殺の為に動いてるらしい。

 多分、京都の学長の指示だろう。

 あの守銭奴にいくら払ったのやら。

 

(まあ東堂が虎杖気に入った時点で失敗するだろうけど。

 というか今の虎杖を簡単に殺せると思っているのは節穴だな。)

 

 成功すればラッキー位の指示なんだろうけど、生徒に殺しを命令するのはどうかと思う。

 まあ、俺が京都の学長の立場なら虎杖殺すし、交流会なら事故死で処理される可能性も高いからチャンスではある。

 

(でもどんな作戦を立てるにしても東堂が邪魔すぎて成功率低いと思うけどなぁ。

 実は子飼の特級呪霊がいるとかなら話は別か?

 いや、でも東堂は特級祓った事あるみたいだし。)

 

 多分、どんな作戦を立てようと東堂が虎杖を気に入った時点で破綻している。

 再び虎杖達の画面が再び映るがそこに東堂以外の京都生はいない。

 どうやら失敗したらしい。

 チーム動物園とチームブラックも京都校の動きから虎杖暗殺を狙っていると判断して虎杖の元へと戻っていく。

 あ、西宮先輩が伏黒の鵺で落とされた。

 落ちた場所からして動物園が近い。

 京都校は西宮先輩のフォローにメカ丸先輩と真依先輩が向かうみたいだ。

 お、別れた直後にチームブラックが加茂先輩と三輪先輩を急襲した。

 

(組み合わせとしては、血筋対決と武人対決か。

 動物園の方は色物対決と女の戦いか。

 うーん、釘崎は真依先輩見つけられないと負けるなこれ。)

 

 真依先輩の姿が見えないが恐らく西宮先輩のフォローに回ってる筈。

 性格からして釘崎が止めを刺そうとした瞬間に横からズドンかな。

 東京校も棘先輩が潜伏してるぽい。  

 

「全員、呪霊ほったらかしって呪術師としてどうなんすかね?」

 

「青春だねー」

 

「ああもう、あの子達……」

 

 笑って流す五条先生と呆れる歌姫先生。

 どちらが教師として優れているかはともかく、人間性の差がはっきりと現れていた。

 

「ちなみに、轟はこっからどう展開すると思う?」

 

「全体で見ると両校とも伏兵が一人ずつですけど、真依先輩はフォローに回ってるので棘先輩が完全フリーで有利、しかし伏黒とパンダ先輩は階級で考えると格上と相対してますからその結果次第じゃないですか。

 皆が本来のルール忘れてないならですけど。」

 

 完全に潰し会う気満々なんだよな。

 

「おや、格上ならあの武具使いの子もそうじゃないか。」

 

「真希先輩は二級クラスはあるけど、実家がうるさい。」

 

 自分が実家継ぐって宣言したせいで嫌がらせで四級らしいけど、実際は二級クラス以上の実力はあると思う。

 実際に映像を見ていると、真希先輩と三輪先輩の戦いは一方的だ。

 技術も手札の数も圧倒的に真希先輩が上。

 三輪先輩も太刀筋から見て弱い訳ではない。

 本来、森という不利なフィールドで大刀という長物を自由に振り回してる真希先輩が異常なのだ。

 

(三輪先輩が距離を取って居合いの構え。

 あれがシン・陰流の簡易領域か。)

 

 確か、シン・陰流の簡易領域は領域内に踏みいった存在を全自動で迎撃するって授業で習ったな。

 得物の相性で考えれば、武器を弾いて二撃目で真希先輩を倒そうって魂胆か。

 

(甘いな。)

 

 俺でも狙いは理解出来るのだから当然真希先輩も気付いている。

 真希先輩は大刀のプロではない。

 呪力が殆ど無いハンデと天与呪縛による身体能力を生かすためにあらゆる武具、武術を自分のモノにしている努力の人だ。

 

(多分、真依先輩が仲間に真面目に教えなかったな。)

 

 あの人、真希先輩の事になると色々拗らしてるからな。

 真希先輩の実力を正しく把握していれば一対一で戦う選択肢は取らないだろう。

 案の定、真希先輩は大刀の持ち手を二つに叩き折って片方を太股の暗器と共に投げつけている。

 

(太股エロいね。)

 

 簡易領域は全自動の迎撃、一つならともかく二個とも弾く時間を稼げれば、真希先輩なら間合いを詰める事が出来る。

 そのままサクッと真希先輩は合気道で刀を太刀取りして三輪先輩の元から立ち去っていった。

 刀を持ってない剣士はカス同然、真希先輩は新しい呪具手にいれて怪我も無しの完勝だ。

 

「さっさと二級に上げてやれば良いのに。

 金に為らないしがらみは理解出来ないな。」

 

 不服だけど、冥冥の言う通りだと思う。

 まあ、仮に二級になれたとして当主になれるほどの実力かと言われれば少し疑問が残るが、それは本人が一番理解しているだろう。

 真希先輩の戦い以外にも状況は進んでいる。

 

(色物対決はパンダ先輩の勝利。

 血統対決は室内戦に移ったせいで見えない。

 虎杖は……アイツ東堂に稽古つけてもらってない?

 一番イレギュラーな奴等が一番交流会してるな。

 釘崎は、まあ苦戦してるよな。)

 

 釘崎は基本的に火力が高すぎて、今回の様な再起不能・殺し禁止とルールだとキツい。

 『簪』も『共鳴り』も人体にぶちかます訳にはいかないから、空中で飛び回る西宮先輩を間接的に打ち落とさなくてはいけない。

 

(……狙うとしたら箒だな。)

 

 釘崎は現在、西宮先輩が避けれるレベルの速さで釘を飛ばしている。

 恐らく狙いは後ろの木、もう一回同じ所に来たら木を『簪』でへし折って隙が出来た所を狙うつもりだろう。

 

「野薔薇は結構良い動きするねー。」

 

「あれでも大分、手を抜いてますよ。

 今回はルールのせいで大分制限かかってるので、殺しや再起不能ありなら今頃勝ってます。」

 

 本来の釘崎なら今より数段速くて数多くの釘を放てる。

 西宮先輩の本気は知らないが、今の速さなら余裕で打ち落として『簪』で粉砕出来る筈。

 

「ま、それは向こうも同じだよ。

 あくまで交流会だし、本気は見せないでしょ。」

 

「まあそうですけど。

 一番面白いのは虎杖と東堂が一番交流会してる事何ですよね。

 あれ完全に稽古付けてますよ。」

 

 ちょいちょい映像が途切れるから確実ではないが多分、東堂が虎杖に稽古つけている。

 じゃなきゃ今頃虎杖倒されてる筈だし。

 

「気に入られたみたいだね。

 学外の友人が出来てるなんて素晴らしいよ。

 ねー楽巌寺学長!」

 

「………。」

 

 うわ怒気がヤバイ。

 京都側の狙いと反対の方向に進んだ上に五条先生から煽られて、踏んだり蹴ったり過ぎる。

 歌姫先生も学長がキレてて何かアワアワしてる。

 というか、この人は虎杖暗殺に関与してないのね。

 とか何とか言ってる間に、釘崎が西宮先輩の箒の一部を手に入れた。

 作戦通り木を倒して隙を突いたみたいだ。

 釘崎の『共鳴り』が箒に対して発動して、コントロールが効かない西宮先輩が落下してくる。

 あの人、箒を介して技を放ってたから、もう丸腰みたいなもんだろう。

 釘崎と西宮先輩の戦いは釘崎の勝利だ。

 

(けどこれ団体戦だぞ釘崎。)

 

 釘崎が止めを刺す為に金槌からピコハンに持ち代えて顔目掛けて殴るがアレでは流石に威力が低すぎる。

 そして、二撃目を放とうとした時に釘崎が頭を殴られた様に吹っ飛びそのまま気絶した。

 多分、真依先輩の狙撃だ。

 やはり、釘崎は真依先輩が潜んでいる可能性を忘れていたか把握してなかったらしい。

 そういうとこだぞ。

 これで、カラスが捉えている戦いは全部終わった。

 今映っているのは手ぶらで歩いている三輪先輩と稽古中の東堂と虎杖。

 後は血統組が室内で戦っている建物を映す映像だけだ。

 あ、電話にでた三輪先輩が気絶、いや寝てるな。

 多分、棘先輩の呪言によるものだろう、誰かしらの携帯を奪ったぽい。

 時間的にパンダ先輩がメカ丸先輩から回収して棘先輩に渡したのか。

 

「私ちょっと行ってくる。」

 

 幸せそうに寝ている三輪先輩を見て、保護しようと歌姫先生。

 まだ2体しか呪霊が祓われていない状況で、森の中で放置するの危険だから当然だろう。

 

「え?」

 

「いや、驚くところじゃないでしょ。」

 

 何で教職の五条先生が驚いてんだよ。

 

「そうさな、三輪が心配じゃ。

 はよう行ってやれ。」

 

 学長の許可も降りて、審判室から歌姫先生が出ようとしたその瞬間。

 全ての呪霊の札が赤く焼けた。

 

「……!?」

 

 全員に動揺が走る。

 呪霊の札は京都校の人間が祓えば青く、東京校の人間が祓えば赤く焼ける。

 そして、真希先輩への配慮で未登録の存在が呪霊を祓っても赤く焼ける。

 

(つまり、イレギュラー!

 狙いは虎杖か…?)

 

 あの中で大胆な事をする意味は虎杖狙いしかない。

 

「特級なら俺が貰います。」

 

 五条先生の許可を待たずに『神級』を発動させて審判室から一直線に試合会場まで走り出す。

 

(帳……!

 呪詛師の可能性もあったか!)

 

 帳が降り始めているが、まだ降りきるまでに余裕があり試合会場へと入れた。

 

(この濃密な呪力…!

 確実に火山頭クラスの特級…!

 最高だ…!!)

 

 試合会場に入った瞬間に感じた濃い呪力。

 燃えるような呪力でないため火山頭では無いが同等クラスの呪霊がいる筈だ。

 最も呪力が濃い方向へと走り出す。

 

「俺の獲物だ……!

 誰にも邪魔させない…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 




主人公、帳内部にいる呪詛師を知覚していますが己の欲望優先で動いています。

指摘があったのでここで説明しますが、作中に出てくるのは大刀ですが、中国の武器としての大刀です。


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待ちに待った瞬間だったのに…

最後は少しだけ三人称になってます。
後、ちょいちょい感想欄で名前が出ているハンターハンターを作者は読んだことありません。
せいぜいコラです。




 俺が呪霊の元に駆け付けると加茂先輩と棘先輩と伏黒が対応していたので、丁度中間に着地する。

 コイツは火山頭を助けに来た呪霊か。

 

「よお、伏黒。」

 

「轟!?

 五条先生は!?」

 

「勝手に出てきたから知らね。

 それよりコイツは俺一人で楽しむから、さっさと全員で帳から出てけ。」

 

「待て!

 一人で相手するだと!?

 いくらなんでも危険過ぎる!!」

 

 心配ご無用、うるさい。

 

「それと、多分この特級は陽動だって五条先生に伝えといて。」

 

 生徒を殺すなら火山頭が出てくるだろうし、虎杖を優先的に襲ってない所を見るに、狙いは虎杖誘拐とかではなく純粋に騒ぎを起こすのが目的と見た方が正しいだろう。

 となると、本命の目的は高専にある指の回収か?

 まあそっちは教師が勝手に動くだろうし、俺は目の前の呪霊を相手してれば良い。

 

「……やれんのか?」

 

「当たり前だ。」

 

 遊び尽くして殺してやる。

 

「分かった、これ渡しとく。

 ……死ぬなよ。」

 

 聞き分けの良い伏黒が陰から三節棍を取り出して投げつけてくる。

 

「游雲か、必要ないとは思うが貰っとく。」

 

 今の俺が使えばオーバーキル処の騒ぎじゃないが、まあ折角だし貰っておこう。

 游雲をベルトに差して特級呪霊と向き合う。

 後ろで加茂先輩が喚いているが、伏黒と棘先輩に引っ張られて撤退していく。

 

「待たせたな肥溜め。」

 

『……私を一人で倒そうとは随分な自信があるようですね。』

 

「ビビって動けなかった癖に強がんなよ肥溜め。」 

 

(気持ち悪いなコイツ。)

 

 特級呪霊が発する言葉は、意味不明な音の羅列にしか聞こえないのに、意味だけが頭の中に響いてくる。

 独自の言語というよりは、意味だけを発しているという感じか。

 

『肥溜めとは?』

 

「お前らって人間のクソみたいな感情の集まりだろ?

 なら肥溜めじゃねぇか。

 そう考えるとムカつくな、肥溜めの分際で会話しようとしやがって気持ち悪い。

 ま、肥溜めっていうのは人間の為に存在するからな。

 今回は俺の為だ、せいぜい役に立てよサンドバッグ。」

 

 呪霊の呪力が昂っている。

 どうやらクソの分際で怒っているらしい。

 というかどいつもこいつも人間を舐め腐ってるのか馬鹿にされた時の沸点低すぎる気がする。

 

『貴方は確実に殺しましょう…!』

 

 宣言と共に幾重にも重なる大樹の根が津波の如く押し寄せてくる。

 これだけの質量を呪力のみで構成するとは流石は特級と言った所か。

 

(呪力の総量なら確実に敵わないな。)

 

『黒閃斬・五月雨』

 

『!?』

 

 木刀による黒閃の斬撃で全て凪ぎ払う。

 質量は凄まじいが一つ一つの根が軽いので大した事がない。

 大樹の波の中から奇襲しようとしていた呪霊は波が打ち払われた事により丸裸になっている事に驚いている。

 

(舐めすぎだろ。)

 

 頭をつかんで、人のいなさそうな森の中に投げ飛ばす。

 見た感じ木属性だし森の中なら、もう少し強くなるだろうという俺の優しさだ。

 

「ほら、森の中ならもう少し強くなれるだろ?

 漸く出会えたんだから頑張ってくれよ。」

 

『舐めるな……!』

 

 一瞬で花畑と共に弾丸の様に大量の種子を放ってくる。

 適当に木刀で打ち払おうとするが、種子の後ろから一本の鋭い根が伸びてくるのが分かった。

 さっきの波の時とは違う、呪力を一本の根に集中して放つ、恐らくコイツの最硬、最速、最強の一撃。

 種子で弾幕を張って、視界を遮って来るとは少しは知能があると言うことか。

 

(種子の方は見た感じ、当たっても問題ないからこっちを防ぐか……?)

 

 種子を無視して根に対処しようとしたら、突然術式が解除された。

 胸に根が突き刺さり、体が持ち上がる。

 

「ゴフッ」

 

 体から血が競り上がってきて口から溢れる。

 

(あ?

 あー、なるほどこれか。)

 

 どうやら、呪霊の飛ばした種子は呪力を糧に育つらしく、体に付着した種が元気よく育っている。

 種子によって呪力の供給が止まり、術式が止まったのだ。

 

『傲慢が過ぎましたね、愚かな人の子よ……!?』 

 

『反転術式』

 

 幸い頭は無事だ。

 頭が無事なら反転術式を使える。

 生成した正の呪力が全身を駆け巡る。

 呪力で出来た種子を枯らせ、体を貫いた根を消し去り、傷を塞いで、立ち去ろうとする呪霊に声を掛ける。

 

「傲慢が過ぎたな、愚かな肥溜めよ。」

 

(あー、死ぬかと思ったー。

 あ、もう少し死んどけば、魂知覚出来たか?

 勿体無い事したな。)

 

 人間は死ぬ時に魂が出ていくらしいが、もう少し放置していれば感じることが出来たかもしれない。

 呪霊は俺が元気な姿に驚いて固まっている。

 どうやら、肉体の再生は自分達の専売特許だと勘違いしてるらしい。

 

「今のは面白かったぞ、これで仕舞いか?

 まだ奥の手があるだろ、その大層大事に封印している片腕を解放しろよ。」

 

 反撃をせずに次の一手を待つ。

 この呪霊は何故か片腕を布で覆って封印している。

 よほど、扱い辛いナニカがあるのか知らないがコイツの手札で俺に届くのは恐らく、領域展開と片腕のナニカしか残されていない。

 コイツの底は大体知れた。

 逃げるなら追いかけて殺せば良い。

 ここら一体は既に知覚範囲内だから絶対に逃がさない。

 

『……(怪物は五条悟だけでは無かったのか……!)』

 

「どうした、肥溜め。

 俺の役に立てなければ、只のクソだぞ?」

 

 徒党を組んで五条先生に挑もうとしている時点でコイツらの強さなんてたかが知れている。

 コイツに期待しているのはサンドバッグとしての役割のみ、要するに憂さ晴らしだ。

 

『人間風情が…!』

 

「人のクソから生まれたんだから人間様と崇めろよ。」

 

 片腕の封印を解いた呪霊は左肩の目玉を露出させる。

 周囲の植物が枯れていき、目玉に呪力が集まる。

 なるほど、自然を力に変えているのか。

 

(ふむ、この範囲だけであの呪力量。

 いいな。)

 

「いいぞ……!

 ここら一体の全てを吸い尽くして放ってこい…!」

 

 上段の構えで木刀を持って、チャージが終わるのを待つ。

 避けるのは簡単だが、これ程の威力を放てる存在は初めてだし俺の全力を当てる良い緩衝材になる。

 

『死になさい……!』

 

 森一帯を枯らし尽くして、呪霊の左肩の目玉から怨嗟と共に呪力による一撃が放たれた。

 この一撃だけで高専が丸ごと吹き飛ぶかと思われる一撃に対して歓喜と共に俺は全力の一撃を放つ。

 

『白閃・極』

 

 呪霊の一撃と俺の一撃がぶつかった瞬間、視界が白く染まり衝撃を全身に浴びた。

 

「良い感じに更地だな。

 あ、和重が……」

 

 俺の後ろ以外が衝突による衝撃で吹き飛んで歪なクレーターが生まれたがそれどころじゃない。

 おれの愛木刀和重が持ち手以外消し飛んでいる。

 衝撃に耐えられなかったのだ。

 取り敢えず、元和重を投げ捨てて呪霊の元へと向かう。

 俺としてはあの砲撃の隙に呪霊らしく逃げるのかと思っていたが、そうではなく普通に衝撃で吹き飛んでいた。

 まだ俺に勝てる手段があるのか、只の考えなしかは見てみればわかるだろう。

 

「……なるほど、己の呪力すら込めたのか。」

 

 辿り着いた時、呪霊の下半身は存在して無かった。

 衝撃で吹き飛んだのだ。

 再生する気配もなく大の字に倒れる呪霊。

 放置してもう一度同じ一撃を射たせようと考えてたが、肩の目玉は反動の為か左腕毎吹き飛んでいる。

 どうやら、この呪霊は俺を殺すために文字通り全身全霊をさっきの砲撃に込めていたらしい。

 

(全身全霊でこの程度か……!)

 

 俺の中に渦巻く感情は失望と怒りだった。

 

「弱すぎる、弱すぎる、弱すぎる!!!

 折角イロイロ我慢して我慢したのにコレとかふざけてんのか!?

 期待していないのに期待以下とか恥ずかしくないのお前!?」

 

 余りにも弱くて涙が出てきた。

 徒党を組んで五条悟に挑む時点でサンドバッグとしての期待しかしてなかった。

 それなのに、この呪霊は一回全力を放った程度でこの様とは酷すぎる。

 俺が何をしたというのか。

 つい、怒りのままに呪霊を游雲で祓ってしまったが、俺は悪くない。

 弱いコイツが悪いのだ。

 

(一人だから弱いんだ。

 徒党を組んでるのだから全員同時に挑めば良かった……!

 あー勿体無い事したー!)

 

 祓ってから気付いたが、コイツは生かして帰すべきだった。

 ああ、もう支離滅裂だ帰って寝よう。

 

Side Out

 

 特級呪霊花御は目の前の存在を理解できなかった。

 現れた瞬間から感じる異質なプレッシャーも、己の根を凪ぎ払った黒い呪力も、見た目から想像できない剛力も全てが理解できなかった。

 花御が出会った存在でここまで傲慢な男は五条悟以外に存在しなかった。

 一度は心臓を貫いて殺した筈なのに、自分達と同じように再生し立ち上がってくる。

 特級呪霊たる己が理解できない怪物。

 

(五条悟とは違うベクトルの怪物……!

 例え五条悟を封印してもこの男がいる限り呪霊の未来はない!!)

 

 始めは撤退を考えた。

 しかし、この男は一度殺せた。

 心臓を貫いた時に、慢心せずに全身をズタズタにしてやればコイツは殺せた。

 それにこの男の全てが花御にとって受け入れられなかった。

 傲慢で呪霊を見下し、馬鹿にする言動も己をサンドバッグと称して手加減されている状況も。

 そして何より、この男の目に己が映ってないのだ。

 其処らの呪霊と同じ存在として扱われる事が許せなかった。

 特級呪霊として真の人間としての矜持が花御を突き動かす。

 こうして一度は殺せた事実と己の矜持、二つの理由が花御から撤退の選択肢を奪っていた。

 そして、供花を解放して全身全霊を込めた。

 愛すべき自然と己の呪力全てを供花の贄にして己が出せる最高の一撃を放った。

 

(ここでこの男を殺さなければ未来はない…!

 この男に己という存在を刻み付けて殺してやりたい…!)

 

 仲間と立てた作戦の為にも、呪霊としての矜持の為にも例えばこの後己が死のうとも、この男を殺さなければならない。

 供花の反動で左腕は吹き飛び、男の一撃との衝撃で下半身は消え去った。

 もはや己を維持する呪力すら怪しい程に少ない。

 

(だが、あの男は確実に殺せた。)

 

 天を見上げて己の全てをかけた一撃が確実に届いたと確信していた。

 達成感を感じながらゆっくりと眠りにつこう。

 だが、花御の一撃は届かなかった。

 足音が聞こえて、花御は絶望を生まれて始めて理解した。

 意識を向けるとあの男がいた。

 全くの無傷で失望した顔を向けている。

 その目には花御を映していない。

 怒り喚き、右腕に持った武器を己に振り下ろそうとしている。

 

(届かなかった……。

 ああ、真人、漏瑚、陀艮、申し訳ありません。)

 

 こうして、花御は何も成せずにこの世から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




最初は楽しませたお礼に領域展開して終わりにしようかと思ったけど、主人公ならキレ散らかすだろうなと思ったので止めました。

花御が領域展開を選択肢に入れてないのは原作でも供花の一撃から逃がさない為に放とうとしていたので、そこまで強くないと判断しました。

出てきた技

黒閃斬・五月雨
 黒閃による斬撃を何回か行い、目の前の全てを破壊する技。名前は適当に決めた。

白閃・極
 真面目に放った白閃
 これが最大火力とは言ってない。

花御の砲撃
 森を一つ枯らした上で自身の呪力を限界まで込めた砲撃
 町一つは余裕で吹き飛ぶんじゃないだろうか。 

好評価・感想・誤字報告待ってます。


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自己嫌悪とかオリジン

評価落ちましたね…
感想欄が賛否両論なのは最もだと思うのですが、余り強い言葉での批判は止めてください。



 寮の自室でさっきの戦いを振り返ったが、やはり俺は防御に弱点がある。

 俺の強さの大半は術式に依存している為、あの種子の様に呪力そのものに干渉されると少し不味いというか普通に死ぬ。

 

(仮に頭を潰されてたら終わっていたな。)

 

 あの時は全力出せる相手が来たとテンション暴上がりで気にしてなかったが興醒めした今では、慢心で死にかけたという事実が屈辱の極み過ぎる。

 誰かに見られてたら恥ずかしさの余りに殺してしまうかもしれない位に恥ずかしい。

 

(いや、俺には課題があると分かったとポジティブに考えよう。)

 

 確かに最近は白閃やらで攻撃面の強化ばかりしていたし、防御面の強化を始めなくてはならない。

 となると『加点法』ではなく術式反転を見つめ直すべきだろう。

 加点法で防御する場合は単純に耐久寄りに肉体を強化するだけで、今回の様な呪力に干渉するタイプには弱い。

 しかし、術式反転で防御が出来れば正の呪力でもあるため今回の攻撃も防げた筈。

 

(術式反転『裸苦大』は単純にとらえればステータスの低下、硬いものを柔らかくしたり脆くする事も出来る。)

 

 攻撃技としては『裸苦大』で地面を柔らかくしたり液体にしたり、建物を脆くしたりの地形攻撃や相手に直接流し込んで骨を脆くしたり、自重で自壊させたりも出来るが主に地形破壊でしか使っていないし、現状だと正直使わなくても勝てるので最近使ってない。

 これを防御に転用するなら、無差別の弱体化を纏う形が一番良いだろう。

 試しに纏うように右手に術式反転を纏って、適当な紙を持ってみるが触れる直前でボロボロと崩れていった。

 

(強力だが皮膚の上に纏う形になるから全身に纏うなら全裸になる必要があるか、却下で。

 普通に放射する形や普通に流し込んだ方が良いな。)

 

 というか、そもそも横着せずに全部弾けば良い話な気がしてきた。

 うん、次からそうしよう。

 とりあえずの解決が出来た事にして寝てしまおうと布団に潜る直前、ガチャリとドアが開き五条先生が顔を出してきた。

 

「あ、いたいた。

 誰にも言わずに消えたから死んだのかと思ったよ。

 色々話し合いしたいから付いてきて。」

 

 そういえば、誰にも伝えずに寮に戻ってきた事に今気付いた。

 客観的に考えて、戦いの中心地と思われるクレーターに木刀の持ち手のみが残った状態だと完全に俺は死んでる扱いをされてもおかしくない。

 取り敢えず、五条先生に付いていく。

 

「そういえば皆って無事です?」

 

「うん、生徒は全員無事だよ。」

 

 生徒はって事はそれ以外に犠牲者が出たという事か。

 

「轟の言う通り陽動だったみたい。

 宝物庫に侵入されて指と幾つかの特級クラスの呪物取られちゃった。

 完全に此方の落ち度、多分この前回収した指に発信器でもつけられてたと思う。」

 

 この前というと、虎杖と七海さんの事件だろう。

 確か回収された指は七海さんが直接高専に提出したと報告書にはあった筈。

 五条先生なら見抜ける可能性はあったが、五条先生の元に渡ると虎杖に飲ませるだろうから七海さんの判断を責めることは出来ない。

 全て五条先生の普段の行いが悪い。

 まさか、呪詛師はそこまで読んだ上で回収させたのか?

 

「被害は泥棒だけですか?」

 

「いや、忌庫番の二人が殺された。

 僕が来てるって気付いたんだろうね、盗みだけで即退散したみたい。

 帳に集中していたらもっと大勢が死んでいただろうね、そう言う意味では轟がいて良かった。」

 

「褒めてもらって光栄ですけど、高専の結界ガバガバ過ぎません?」

 

 特級と複数の呪詛師が侵入してるという事実は結界の機能に疑問が残る。

 

「天元様の結界って隠す事に特化してるのと、轟が祓った特級のせいだと思うよ。

 あれ殆ど精霊みたいなもんだし。」

 

「精霊ってなんですか?」

 

「神聖だなーってイメージの塊みたいな感じ。

 超レアだから死ぬ前に一度見れたらラッキーだね。」

 

 さいですか。

 話ながら歩いていると、一室の前で五条先生が無遠慮に扉を音を立てて開ける。

 

「はーい、今回のMVPの轟君連れてきましたー!」

 

 中に入ると、両校の学長と歌姫先生と冥冥の交流会の運営に携わっていた人間と伊地知さんがいた。

 

「ちょっと五条!

 何で生徒を連れてきてるのよ!?」

 

「今回の一件で最初に動いてくれたし、敵の狙いも推測してくれたMVPだよ?

 必要でしょ、ていうか大体ここ来るまでに話しちゃった。」

 

 五条先生の意見に伊地知さん以外溜め息を吐くが、反対を唱える人間はいなかった。

 それだけ事態が深刻、或いは五条先生に対して諦めていると考えるべきだろう。

 

「取り敢えず、轟悟。

 独断専行とは言え、君の行動で数多くの呪術師の命が助かった。

 学長として感謝する。」

 

「あ、ハイ。」

 

 言えない、テンション上がりすぎて油断して死にかけてたって絶対に言えない。

 話の流れは今回の特級襲撃の裏で起こった盗みの話に移った。

 

「特級呪物『宿儺の指』6本、同じく特級呪物『呪胎九相図』の1番から3番が盗まれました。

 そして人的被害としては忌庫番二名が殺害されました。」

 

「すみません、呪胎九相図とは?」

 

「ざっくり説明すると存在保証の縛りで保管されていた呪霊と人間のハーフだよ。

 多分、人に埋め込んで受肉させるんだろうね。」

 

 存在保証の縛りとは高専が祓う事が出来ないクラスの特級を生命の停止と他者に危害を加えない等と引き換えに存在を保証する縛りだ。

 それが持ち出されたということは、敵は人手を欲していると見るべきか。

 

「人手が欲しいって事は暫く日本中に散らばった指集めに専念していると見るべきですかね。」

 

「もしくは、戦力増強と見るべきだろう。」

 

 戦力増強も人員補充、どちらも正しい考えだと思う。

 ただ、今回の一件は特級呪霊側の動きというより、協力している呪詛師の意図の様に感じる。 

 

「取り敢えず呪胎の方の資料の共有とか出来ますか。

 虎杖が指食った刺激で事件起こってるでしょうし、万が一鉢合わせした時に対応出来るように資料あるとありがたいです。」

 

 大小はわからないが、散らばった宿儺の指が活性化している可能性が高い。

 後で伊地知さん突っついて6月から始まった変死事件とか調べてもらおう。

 ていうか、さっきから京都の学長が静かなのは何でだろう。

 まだ虎杖殺すとか考えてんのかな?

 

「ああ、資料ないよ。」

 

「は?」

 

「その呪胎作った人って加茂家の人間でね。

 御三家から見てもヤバイ奴で死んだ後、資料殆ど処分されてるし呪胎は十中八九加茂家の術式継いでるから詳細までは教えてくれないだろうしね。」

 

「そもそも、今回の件は上層部で止めておくべきだろう。」

 

「そうさな、呪詛師どもに特級呪物流出の情報が流れるのは不味い。

 上層部でとどめて対応するほかあるまいて。」

 

 糞みたいな御家事情は置いといて、只でさえ人手不足の状況で特級呪物流出という一件が呪詛師に漏れでてしまうと人手不足に拍車がかかって奴等が動いた時に対応出来ない可能性があるという事か。

 

「あ、じゃあ指の回収は轟に任せようか。

 行けるでしょ?」

 

「おい悟!」

 

 流石にこの意見には夜蛾学長から待ったが掛かる。

 歌姫先生と京都の学長も無言だが非難するような目を向けている。

 

「彼だけなのが問題なら金さえ払えば私が彼の補助をしよう。」

 

「うわ。」

 

 この守銭奴ここで売り込みに来たよ。

 

「良いよ良いよ、全然払う。

 てか実際手が空いていてフットワークが軽いの轟しか居ないでしょ。

 僕が動いたら目立つわけだし。」

 

 沈黙が流れる。

 確かに五条先生の言う通り、こっそりと事を進めるには特級を祓った(死にかけた。)俺が最適だろう。

 私情を挟まずに言えば、冥冥は手札が多い優秀な術師だから補助としては文句はないし。

 ただ、それを了承するかは倫理の問題だ。

 倫理観が低い五条先生ならともかく他の人達は教師として悩んでいると思いたい。

 

「あー、俺は良いんですけど武器壊れたので新しいの下さい。」

 

「暫くは游雲使いなよ。

 真希には僕が言っておくから。」

 

 ということで、指回収係として俺と冥冥さんが実働でバックアップに伊地知さんが動く事になった。

 後は色々と細々した事を話すらしく、俺は帰って良いらしいという事で皆の所へ向かう。

 死んでる扱いで虎杖二号扱いは嫌なので、東京校のミーティングルームに顔を出すと何かお通夜みたいな空気になってた。

 

「あれ、誰か死んだ?」

 

「「轟!?」」

 

 伏黒と釘崎の驚いた声が重なる。

 伏黒の手には持ち手だけになった和重が握られていた。

 ははーん、コイツら死んだ扱いしてたな?

 いや、まあ死にかけたんだけどね。

 後、驚いているのはパンダ先輩と棘先輩だけで、虎杖と真希先輩は「やっぱり、生きてた。」という顔をしている。 

 

「お前今まで何処にいた!?」

 

「寮でふて寝してた。」

 

 そして、冷静になってあの時の自分が黒歴史過ぎて恥ずかしくなっていた。

 

「一声かけろよゴラァ!!」

 

 釘崎は案外涙脆いのか、涙目で詰め寄ってくるし伏黒は俺が無事だと知ってホッとしたのかしゃがみこんで脱力している。

 

「おい、游雲返せよ。」

 

「あ、少し借ります。

 メインウェポン壊れたんで。

 五条先生からはOK貰ってます。」

 

「はぁ?

 ……チッ、壊すなよ五億は下らないからなソレ。」

 

 マジか、あの守銭奴に渡さない様にしなければならない。

 

「皆言ったじゃん俺と東堂は遠くから見てたって。」

 

 ……見てた?

 

「おいどっから何処まで見てた?」

 

 場合によっては二人程殺す必要がある。

 虎杖に詰め寄って嘘を付いても分かる様に右手首を掴む。

 

「え、最後の方の爆発した辺り。」

 

 ということは、俺が心臓刺された所は見ていないと言う事だな。

 

「命拾いしたな虎杖。」

 

「え、何で。」

 

「俺は信じていたぞブラザー。」

 

 何故かいつの間にか隣に東堂がいた。

 何でいるんだよコイツ。

 

「京都に帰れ!」

 

「待て、ブラザー!

 話がある。」

 

 真剣な顔で呼び止めて来るが、コイツの言葉は大体イカれてるから話したくない。

 この顔で握手会とか言われたら殴ろう。

 

「紹介しよう、俺達の新たなブラザー虎杖だ。」

 

 ほらやっぱりイカれてる。

 何だよ新たなブラザーって。

 俺関係ないよ。

 

「虎杖お前、もしかして性癖話したの?」

 

「……うん、話しちゃった。」

 

 話しちゃったかー。

 だから意気投合して稽古しだしたのかー。

 というか俺まだブラザーなのか。

 

「じゃ、頑張れ二代目ブラザー。

 俺は卒業だから。」

 

「え、卒業出来るの!?」

 

「何を言っている?

 魂の兄弟は不滅だぞ?」

 

(釘崎か伏黒巻き込めないかな……)

 

 チラリと釘崎を見るが、理解できないモノを見る目で此方を見ている。

 伏黒の方は全力で目をそらしているし、二年の先輩方は既に消えていた。

 

「…まあいい、東堂ちょっと明日面貸してくれ」

 

 交流会は中止にならず、二日目は1日空けてから行われると五条先生からメールが来てたので次の日、東堂を修練所の一つに呼び出した。

 

「さて、ブラザー相談とは何だ。」

 

「いや、実を言うと昨日死にかけててさ。

 心臓貫かれてんだよね。」

 

 昨日の呪霊との戦いで何があったかを、一歩間違えれば死んでいた様な状況だったこと、今後そのような事が無いように対策を取りたいという旨を話した。

 

「先ずはブラザー、最近の活躍は俺も把握してないが、少し天狗に成っていたな。

 術式の相性によってどうとでもなるのがこの世界の常だ。

 術式の情報開示の縛りが何故意味を為すか分かるか。

 炎が水に弱いように絶対的に不利な術式というのは例外無く存在するからだ。」

 

 例えば俺なら呪力そのものに干渉する術式や釘崎のように魂に干渉する術式は不利だ。

 

「他人からはっきり天狗だと言われると効くな……。」

 

 東堂からの評価に改めて恥ずかしくなる。

 

「そして、どう克服するかは俺の場合はひたすら避ける。

 後は反転術式で治す事だ。

 呪力による現象で引き起こされた霊障は反転術式でしか対処できん。」

 

「あれ、お前使えたっけ。」

 

「フッ、俺も高田ちゃんの為に日々進歩する男だ。

 ブラザーとの死闘で死の淵をさ迷い、俺は高田ちゃんから呪力の本質を教わり開眼したのだ。」

 

 要するに死にかけて眠りに着いた中で、本能的に反転術式を習得したと言うことだな多分。

 だから3日で俺にメールしてくる事が出来たのか。

 

「ブラザー、対策を考える前に一つ疑問がある。」

 

「何だ。」

 

「ブラザーは何故、己の本質から離れた事をしてるんだ。」

 

「本質?」

 

「そうだ。

 俺がブラザーから感じた本質はもっとシンプルだった。

 なのに、何故今のブラザーは戦いに余計な事を求めているんだ。

 ブラザーが求めていた事はもっとシンプルな筈だ。」

 

「俺が求めていること……」 

 

 東堂の言葉で俺は夜蛾学長との入学試験の面談を思い出す。

 そうだ、口に出したのはあの時だが、俺は力を知った時から、あの化け物を知った時から求めていた。

 

「そうだ、暴れたいからだ。」

 

 俺は純粋に暴れたいから呪術師になったんだ。

 呪霊という殺しても誰にも怒られない存在をスッキリするまで殴るのが楽しいから呪術師になったんだ。

 

(そうか、そうだよな、俺は暴れたくて呪術師になったんだ。)

 

 最近、他人の世話焼いたり刺激が足りなくて忘れていたが、俺は暴れたいんだ。

 戦いを楽しむとかじゃなく、純粋に大暴れしてスッキリしたかったんだ。

 だから俺には『加点法』がある。

 どんな相手だろうと邪魔される事無く暴れたいからこの術式は俺の体に刻まれているんだ。

 本来の俺なら特級だろうとぶん殴っておしまいだったんだ。

 それで本来なら満足してたんだ。

 なのに五条悟という壁が現れて越えようと躍起になって、気づいたらスッキリする前に敵を倒してしまって不満が貯まっていたんだ。

 だから慢心して油断したんだ。

 頭の中がスッキリしていく、自分の中の歪みが治り本来のあり方に戻っていくと途端に昨日の俺が滑稽に見えてくる。

 

「今までの自分が笑えてくるな。

 何が仲間の面倒みて強くなったら楽しもうだ。

 強かろうと弱かろうと一方的に暴れるのが好きなんだから関係ないのに。

 なのに、五条悟という暴れるのに邪魔な存在が焼き付いて、強くなりたくて色々拗らせて勝手に油断して慢心して死にかけた。

 滑稽にも程がある!

 ああ、そうだ、俺は暴れたいんだ!!」

 

 初心を思い出すとはこういう事だろう。

 心地よい、呪術師になって俺は今始めて殻が剥けた気分だ。

 

(ああ、今なら領域展開すら出来る筈だ。)

 

 今は清々しいからやんないけど。

 というか、本当に東堂って性格以外教師向いてるよな。

 その後、お礼として戦おうと言われたのでボコボコにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公が早々に花御と戦闘を始めたので、裏で動いていた真人は泥棒優先で動いた結果被害がへりました。

前話までの主人公
 DMCみたいなスタイリッシュコンボアクションで暴れたいのに、五条悟という存在を知って、強さを五条悟基準に設定した為、他の敵にSSSが取れなくてイライラしていた。

これからの主人公
 五条悟を一旦忘れて、敵に合わせて強さを設定することで本来のスタイリッシュコンボアクションを思い出した。

まあ、要するにどんな相手だろうと一方的にボコボコにするよ。
 死ぬまでの時間はその時のストレスで変わるよ。
 でも反撃は許さないよ。


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三度目の原宿と荒野のダイヤモンド

ウマ娘楽しいですね。(投稿遅れて申し訳ないです。)


 交流会が行われる二日目、全員が集合時間に集まったところで五条先生が全員に交流会を続けるか確認し、野球をやることに決まった。

 何で野球なんだよ。

 

「Play ball!!」

 

 馬鹿みたいに元気な五条先生の開始の合図と共に東京対京都の野球対決が始まった。

 外野は人数が足りないので外野一名のみの術式ありで行っている。

 

(わざわざ球場借りて帳降ろしてまでやる事かな。)

 

 ちなみに、人数差を調整する為に多数決の結果、満場一致で俺がメカ丸の代わりとして京都チームに入れられたのはちょっと解せない。

 ポジションは虎杖と戦いたいという理由で東堂がピッチャー、そして東堂からの指名で俺がキャッチャーになった。

 術式禁止の時点で俺のやる気はゼロだし、相手チームのピッチャーが真希先輩の時点で打てる気も勝てる気もしない。

 というか京都チームで野球にノリノリなのは東堂と歌姫先生だけである。

 

「轟!

 あんたは本来向こうのチームだけど、今はこっちのチームとして全力でやりなさい!

 いい、内角に抉るようなボールを投げさせるのよ!」

 

 素人に内角攻めとか大人気ないにも程がある。

 一回の表、京都校の攻撃から始まる為、ベンチで待機していると打席待ちしている三輪先輩を見てあることを思い出した。

 

「あ、そういえば三輪先輩、五条先生にザラメ渡しました?」

 

「はい!

 写真撮って貰うついでに渡しました!」

 

「あれ嘘です。

 甘いものが好きなのは本当ですけど。」

 

「なぁ……!?」

 

 三輪先輩を見て、そういえば五条先生が『京都の子にザラメ貰ったんだけど、あれかな、何か京都風の遠回しな何かかな?』とか首をかしげていたのを思い出したので、確認ついでに情報を修正しとく。

 というかマジでやったんだ。

 三輪先輩は余程ショックだったのか棒立ちのまま三振して歌姫先生にどやされていた。

 

「ちょっと貴方、三輪に何言ったのよ。」

 

 真依先輩が呆れた顔をしてくる。

 

「間違えた情報教えたの思い出したんで、修正してました。」

 

 しれっと嘘をつくと西宮先輩が冷たい目を向けてくる。

 

「あんまりからかわないでね、あの娘純粋だから。」

 

 純粋でもザラメは疑うべきだろう。

 

「ちょっと、轟君!

 このメモ、何処まで本当何ですか!!」

 

「半分嘘。」

 

 棒立ち三振した三輪先輩が戻ってきて何時かのメモの真偽を確かめてくるので正直に答えたら、メモ帳を睨み付けながら、どれが本当か考え始めた。

 加茂先輩も何か虎杖に話しかけてて三振して2アウトからの東堂が顔にデッドボールを喰らい加茂先輩が代走して、2アウト一塁二塁で俺の番が回ってきた。

 

「五番、キャッチャー、轟君。」

 

 ウグイス嬢も五条先生が担当するらしい。

 

「チャンスだぞ轟!!

 打てー!!!」

 

「何か、京都の先生凄いな。」

 

「五条先生の先輩だからな。」

 

 キャッチャーの虎杖と適当に会話しつつバットを構える。

 真希先輩の第一投はど真中にストレート。

 うん、ベンチで見て知ってたけど普通に140は出てるな多分。

 変化球は無いとして虎杖も素人だし、タイミング合わせればバットに当てる位は出来そうだ。

 続く二球目に何とかバットを当ててファール。

 やはり、ど真中に投げてくるので後はタイミングだけだ。

 そして、真希先輩の三投目を何とか打ち返して満塁にしたが普通に真依先輩が三振して終わった。

 うん、勝てる気はしないわ。

 そして2対0で普通に負けて、来年の交流会も東京で行われる事が決定した。

 次の日、約束していた真依先輩とのデートなのだが、待ち合わせ場所の原宿に制服で行ったら速攻で服屋に連行された。

 

「信じられない。

 何で制服なのかしら。」

 

「ごめんなさい、着れる服が無かったです。」

 

 日々の筋トレと成長期のお陰か持っていた私服がパンパンだったりツンツルてんだったりでマシな服が制服しか無かったのだ。

 これは本当に申し訳ないと思った。

 一応誰かに借りようとしたのだが、虎杖のはサイズが合わないし、伏黒の服は俺の目からみてもデートに着ていく服じゃなかったので諦めた。

 

「まあ、男子の服を選ぶのも面白そうだから良いけど。

 じゃあ次はコレとコレよ。」

 

 メンズの服屋で更衣室に放り込まれて1時間、未だに服を渡されています。

 服に関しては全く知識は無いし、お洒落に関しては真依先輩が多分正しいだろう。

 待ち合わせの時の真依さん目茶苦茶美人だったし、彼女のセンスならおかしな格好には成らないだろう。

 

「一通り分かったし行きましょうか。」 

 

「あれ、ここで買わないんですか?」

 

 試着した服は新しいのを着ている間に真依先輩が綺麗に畳んでいるから、大丈夫なのかも知れないが流石に買わないのはアリなのだろうか。

 

「ここは安くて種類が多いから大丈夫よ。

 貴方に合うタイプが分からなかったから幾つかの系統を着て貰ったの。」

 

 はえー、そういう使い方って在るんだ。

 いや普通無いか。

 その後、幾つかの専門店を回って、真依先輩に時折、服の好みを聞かれながら指示された通りに服を購入して着替えた。

 

「ふふ、完璧ね。」

 

 着飾った俺を見て真依先輩が満足そうな笑みを浮かべる。

 俺としても動きやすいし悪くはない。

 多分、そこら辺も考えて選んでくれたんだろう。

 今着ている服以外にも2パターン程別に買ったし、暫くは似た系統の服を買えば問題ないだろう。

 

「これなら隣に立っても構いませんか?」

 

「ええ、勿論よ。」

 

「じゃあ、次は真依先輩の番ですね。

 何処へでもお付き合いします。」

 

「その前に食事にしましょう。」

 

 真依先輩の提案で連れてこられたのは、イタリアンの店だった。

 足取りは淀み無かったがたまに視線が迷っていたので事前に調べてくれたのだと想像がつく。

 店ではお互いパスタを食べながら色々な話をした。

 

「ああ、やっぱり虎杖暗殺に動いてたんですね。」

 

「ええ、加茂先輩も乗り気だったし禪院の人間としては反対出来ないでしょ。

 …軽蔑した?」

 

「いいえ、現状虎杖が生きてる方がおかしいのは事実ですからね。

 そこら辺、分かった上で五条先生も交流会で御披露目した訳ですし。」

 

 呪術師として虎杖を即刻殺すべきって意見も分かるし、指を全部喰わせてから殺そうって意見もわかる。

 俺個人の今の意見としては心底どうでもいい。

 虎杖が死のうが生きようが他人に害をなさなければ放置だし、害を成せば呪詛師として扱うだけだ。

 

「…貴方って結構冷たいのね。」

 

「友人の虎杖と宿難の器を別々に考えているだけですよ。」

 

 嘘である。

 実際は虎杖そのものに関心が殆ど無い。

 良い奴だけど、多分虎杖が死んでも泣かないし普通に次の日ステーキとか食べれる自信がある。

 ちょっと前の俺なら早く宿難に乗っ取られてしまわないかなとか考えていたが、今は面倒な敵が増えるのは御免なので宿難が自由にならなきゃどうでもいい。

 

「そういえば、真希先輩とは仲直り出来たんですか?

 釘崎狙撃した後に戦ったでしょ。」

 

 あの時の位置関係から真希先輩の耳なら発砲音便りに真依先輩の元に行くだろうし。

 

「ええ、負けたけど言いたい事を言ってやったわ。」

 

「ああ、だから少しスッキリした顔してるんだ。

 俺の頬にキスした時より良い顔してますよ。」

 

「あら、なら後で上書きしてあげるわ。」

 

 からかいをさらっと流して挑戦的な事言う辺り、本当に姉妹そっくりだと思う。

 そしてそれを指摘すると絶対不機嫌になるのが真依先輩で少し嬉しそうにするのが真希先輩って感じだ。

 そんなことを考えたりしながら、昼時の一時は過ぎていき、夕方へと差し掛かった。

 

「それじゃあ、またメールしますね。」

 

「ええ、待ってるわ。」

 

 東京駅のホームにて真依先輩と別れる。

 真依先輩の手には三輪先輩や西宮先輩がリクエストしたお土産が入っている。

 西宮先輩のリクエストはかわいい系の洋服で少し入るのに躊躇していたら、笑みを浮かべた真依先輩に引っ張られてしまった。

 本来、京都校は襲撃事件があった関係で午前中には京都へ戻る予定だったが、真依先輩だけどうやったのか知らないが今日一杯の滞在が認められたのだ。 

 

「そういえば忘れ物があったわ。」

 

 新幹線に乗る直前、俺の前まで戻ってきて、前より長く頬にキスをしてきたので取り敢えずキスを仕返してみた。

 

「ちょっと!?」

 

 俺の行動は予想外なのか、ちょっと距離を取ってきた。

 頬を押さえて、顔を少し赤らめて睨み付けて来るので笑みを浮かべてしまう。

 多分、今日一番の笑顔だと思う。

 

「やっと慌てた顔が見えた♪」

 

「……覚えてなさい。」

 

「バイバーイ。」

 

 真依先輩が乗った新幹線を見送る。

 ホーム側の窓側の席で頬杖をついて不機嫌にしてるから、新幹線に並走して驚かそうとか思ったけど流石に止めておいた。

 

 

 

 

 

 

 




野球とデート回
最後の主人公の行動は純粋な悪戯心。


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回収と乞食

ファンブックは紙で買えなかったので電子で買いました。(半ギレ)
キャラクターや御三家周りは新しい情報が多々ありましたね。
取り敢えず「正のエネルギー=反転術式」の解釈いけそうで良かった。



「やっと一本目ゲットか。」

 

「ふふ、私としては外れの事件も追加報酬が期待できるから万々歳だけどね。」

 

 祓った呪霊の中から出てきた宿儺の指を摘まむ。

 交流会から二週間経ち、俺と守銭奴と伊地知さんのチームの指回収チームはようやく成果を得る事が出来た。

 

(取り敢えず、6月から発生している変死事件を危険度順に上から五件ピックアップして、一つは只の偶然でもう一つは呪術関係なしで、後は既に敵に回収されたのが二件とはね。)

 

 どうやら相当遅れをとっているのは間違いないようだ。

 いや、既に手遅れと見て間違い無いだろう。

 敵が指を集める狙いは恐らく、一度に大量の宿儺指を虎杖に食べさせて肉体の主導権を強制的に宿難に移動させて、縛りによって永続的に主導権を奪わせる事だと俺は考えている。

 最近の徒党を組んでるとされる特級呪霊の動きから恐らく今年中に事を起こす筈。

 それなのに今から指を集めるのは流石に遅すぎる。

 必要数はこの前の襲撃で揃っていると仮定すると、現在敵が回収しているのはあくまで保険の意味合いが強い可能性がある。

 

(一つ疑問なのは、宿儺は既に肉体を交換する縛りを設けていると向こうも知っている筈ってことだ。

 ある意味呪術に素人な呪霊はともかく協力している呪詛師が気付かない筈がない。

 現に交流会まで虎杖は死亡扱いだったしな。)

 

 やはり、敵が何をしたいのか見えてこない。

 特に協力している呪詛師の狙いが分からない。

 宿難が復活したとして、その結果がどのような人間だろうと利益になる筈がない。

 そう意味では呪霊が宿儺復活を狙いにしているのは分かる。

 呪詛師に関しては仮に宿難をどうこうする算段が付いているなら、そもそも器を高専に預ける意図が分からない。

 

「それで、君は指をどっちに渡すんだい?」

 

 どっちとは虎杖に喰わすかどうかの話だろう。

 

「普通に高専。

 今の虎杖に喰わせるメリットが俺に無いし。」

 

 昔なら強くなって俺が平らげるとか考えていたが、今の俺としては一方的に殴れない可能性のある強い存在は増えない方が良い。

 そう言う意味では継ぎ接ぎの特級は即殺したい。

 触れたら駄目とか魂の理解とか面倒にも程がある。

 

「守銭奴は敵の狙い何だと思う?」

 

「さあね。

 個人的には日本の価値が下がるような事件は起こしてほしく無いね。

 換金で手数料掛かるし。」

 

「お前土壇場でトンズラこくなよ。」

 

「リカバリー出来ない不利益を被らない限り逃げるつもりは無いよ。」

 

「…お前に質問した俺が馬鹿だった。」

 

 取り敢えず、指を回収したので高専へと戻るために守銭奴と共に伊地知さんの車に乗り込む。

 

「お疲れ様です。

 どうでしたか。」

 

「無事に回収出来たんで一度高専に戻ってください。」

 

「分かりました。」

 

 移動中、一応責任者である五条先生にも連絡を入れておく。

 

『ヤッホー轟。

 回収出来た?』

 

「出来ましたよ。

 先生に渡す気無いですけど。」

 

『いーじゃん一本位。』

 

 何がいーじゃんだ。

 一応今回の任務で確保した指は全部高専で保管する事になっている。

 五条先生が責任者だが、夜蛾学長から五条先生に渡すなと強く言われている。

 

「どうせ時期見て全部食べさすんでしょ。」

 

 この人が本気になれば高専から指を奪うことは簡単だからな。

 

『まあね。』

 

 五条先生との通話を終えて、改めて指を眺める。

 取り敢えずガッツリ封をされているので暫くは呪力が漏れ出すことはない。

 これで敵を釣る事って出来ないかな。

 適当に曰くがある場所で封印を解除すれば回収しに来た奴を捕まえられるかもしれない。

 

(でも、万が一野良の呪霊で面倒なのが現れたら面倒か。)

 

 まだそっち系の術式への対応策考えてないし、無理にリスクを背負う事はない。

 取り敢えず、指の回収を優先しよう。

 

「あ、伊地知さん、今回の件で思ったんですけどあえて危険度は無視して6月から現在まで続いている案件をピックアップしてください。」

 

「おや、方針を変えるのかい?

 私は今のままでも有効だと思うけど。」

 

「指回収を優先するなら危険度が高い目立つ事件よりも地味な方が良いでしょ。

 情報のアドバンテージは一応此方にあるから生かす方針で。」

 

 危険度優先で当たって2/3が既に回収されていたのだ。

 恐らく向こうは同じ方針で指の回収に動いていると思う。

 ということは危険度が低い事件に関しては向こうも後回しな筈だ。

 

「なら私に異論は無いよ。

 それにしても、君は交流会以降随分変わったね。

 前の君なら率先して危険な事件に関わると思ったのに。」

 

「自分を見つめ直して原点に戻ったんですよ。」

 

「その気持ち分かるよ。

 私も原点である術式を見つめ直して必殺技を手に入れたからね。」

 

「それカラスに特攻させる技の事なら一緒にするな。」

 

 守銭奴の必殺技とはカラスに自死の縛りを課せて、本来微弱なカラスの呪力制限を解除して突っ込ませる技だ。

 命をかけた縛りは莫大な呪力を生み出すので、非常に強力な一撃をぶちかませる訳だ。

 

「特攻ではなく神風と呼んでくれ。」

 

「だまれ陸軍。」

 

 自分を見つめ直して、本来の自分に戻った俺とカラスに自殺教唆させる発想を同列に扱われるのはどうかと思う。

 

「あはは……

 冥冥さん、着きましたよ。」

 

 冥冥が指定した場所で下ろす。

 東京の最高級ホテルとは随分な事だ。

 本人曰く、五条悟持ちだから存分に堪能してるらしい。

 

「ではリストの作成が終わったら連絡を頼むよ。」

 

「お姉さま!!」

 

「ああ、憂憂出迎えに来てくれたのかい。」

 

(ゲッ……)

 

「伊地知さん、早く出して。」

 

 姉弟で仲良く抱き合ってる間に車を出すように伊地知さんを急かす。

 あのクソガキは俺の守銭奴に対する態度が気に入らないらしくギャーギャー五月蝿いのだ。

 

「じゃあな、守銭奴。」

 

「貴様、何度言えば分かるのですか!

 姉様を守銭奴呼ばわりするな!」

 

「聞いておくれ憂憂、今日は陸軍とも呼ばれたんだよ。」

 

「なあ……!?」

 

 俺の新たな呼び方に固まってる隙に伊地知さんに車を走らせる。

 高専に到着して指を提出したりリストの作成を手伝ったりし、寮に戻るとすっかり夜になっていた。

 

(しまった……

 何もない。)

 

 冷蔵庫にコーラしか無かった。

 そういえば、今回の任務は遠征の連続なので冷蔵庫の中を整理したのを忘れていた。

 両隣から貰うか。

 取り敢えず、伏黒の部屋をノックする。

 

「何だ?」

 

「飯無いから何か頂戴。」

 

「カロリーバーしかない。」

 

 というわけでカロリーバーを一本手に入れた。

 足りる筈がなくそのまま、虎杖の部屋をノックする。

 

「どうした轟。」

 

「飯無いから何か頂戴。」

  

「悪い、賞味期限近くて全部鍋にして食べちゃった。」

 

 まじか。

 と言うわけで棘先輩の部屋をノックした。

 

「しゃけ?」

 

「飯無いから何か下さい。」

 

「ツナマヨ。」

 

 コンビニのツナマヨおにぎりを渡された。

 美味しいよねコンビニのツナマヨ。

 でも足りないので女子寮へと向かい釘崎の部屋をノックした。

 

「ちょっと今何時だと思ってるのよ。」

 

「飯無いから何かくれ。」

 

「しょうがないわね、サンドイッチあげるわ。」

 

 コンビニで買ったであろうサンドイッチを渡された。

 朝食用をわざわざくれたのかと思ったが、よく見ると賞味期限が今日の朝までだった。

 

「助かる。」

 

 カロリーバーにツナマヨおにぎり、サンドイッチ。

 これだけあれば取り敢えず大丈夫だろう。

 

「なにしてんだお前。

 あれか、野薔薇と逢い引きか。」

 

 寮へと戻ろうと女子寮を歩いていると真希先輩と出くわした。

 

「何でアイツと逢い引きしなきゃいけないんですか。

 冷蔵庫空なの忘れてて食料恵んで貰っただけですよ。」

 

 両手に持った今日の夕食を見せてアピールする。

 

「ふーん、そういえばお前交流会の次の日真依と出掛けてたよな。

 晩飯恵んでやるから姉として話聞かせろよ。」

 

 ニヤリとした笑みで提案してくるが、絶対次あった時にからかうき満々だよな。

 けど腹へったし話しちゃう。

 

「え、マジっすか行きます話します。」

 

 真希先輩の部屋は物が少なかった。

 実家周りの事情から元々倹約していたのだろうか。

 レンジのチーンという音が鳴り響いて暫くすると真希先輩が料理を持ってきてくれた。

 

「米あるしこれでいいだろ。」

 

 差し出されたのはフライドチキンだった。

 取り敢えずフライドチキンをおかずにツナマヨおにぎりとサンドイッチを平らげる。

 カロリーバーは後で食べよう。

 

「で、真依と何処行ったんだよ。」

 

 交換条件だったので、服を選んで貰った話やイタリアンで食事をしたとか、友人へのお土産選びに付き合った事等、街でした事を話した。

 

「へぇー随分仲良くやってるみたいだな。」

 

 ペラペラ話してから気付いたが、これはもしかしてやっちまったのではないだろうか。

 妹とのデートの話を男から聞く姉というのはかなり俺が不味い状況なのでは?

 

「からかう時に真依先輩に俺が話したって言わないで下さいね。」

 

「からかった瞬間バレるだろ。」

 

「姉として心配だからツけてたとか。」

 

「ふざけんな。」

 

「じゃあ釘崎の出歯亀。」

 

「……野薔薇にはお前から何かしとけよ。」

 

 サンドイッチの礼もかねて馬鹿みたいに高いバナナでもあげよう。

 これで示談は終了した。

 

「そういえば、真依先輩って何が好きなんですか?」

 

「嫌いな物なら分かるぜ。

 精進料理だ。

 実家で散々食わされたからな。」

 

 あー、実家嫌いだろうしあり得そう。

 ということは懐石料理とかの歴史ある家が好きそうな類いは避けた方が良さそうだ。

 

「つーかお前、真依と付き合う気あるのか?」  

 

「さあ、そういうの分かんないっていうか呪術師が恋人作るって逆に縁起悪い気するし。」

 

 絶対片方死んで、呪詛師に堕ちたり死んだ方も呪霊になったりとかB級ホラーな映画みたいになりそう。

 知り合いの呪術師皆独り身だし普通に恋愛するのは難しいのかも知れない。

 

「……まあ、あれだ。

 嫌じゃないなら暫く頼む。」

 

 

 

 

 

 




個人的には伏黒パパの嫌いな物が結構な作品に影響与えそう。


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鍋と黒閃

九月のイベントが少なすぎる……!


 夕食を恵んで貰った次の日から再び指回収の任務を一週間かけて行い、一本を回収出来た。

 とある山のルートの一つで行方不明者が増えているとの事で調査したら呪霊が結界を作っていたのでサクッと祓って回収したのだ。

 

(今の所、虎杖が3本、俺が新しく2本で合計すると5本か。)

 

 現状、此方側には四本の指があり敵は最低でも6本以上は持っていると考えると既に半数以上の所在が明らかになった訳だ。

 虎杖は20本食べた時点で死刑となる為、本人はともかく周りは今の状況を喜べるかは微妙だろう。

 ただ、ここで一つ疑問なのがどうやって20本全部食べたか証明するのかだ。

 虎杖が指を吐き戻す事なんか出来ないしこっそり食べて黙っていれば気付く事が出来ないだろうし、20本全部食べた事を証明をする手段が高専には存在しない。

 

(まあ、上層部はある程度指の数減らしたと分かれば殺しに動くだろうけど。

 そもそも五条先生の我が儘で生きてるから、五条先生に何かあれば連鎖的に即死刑だろうな。)

 

 そう考えると上層部の人間が特級呪霊と手を組むのはある意味必然かもしれない。

 にしても、敵はどうやって五条先生を攻略するつもりだろうか。 

 

(五条先生対策か。

 でもあの人術式無効化しても体術普通に強いし呪力の運用に無駄が一切無いし、反転術式使えるから頭を潰さなきゃ再生するしで術式無しでも充分に強い。

 うん、ハードルが高すぎる。)

 

 殺害以外の手段となると隔離だろうか。

 それも生半可な隔離では意味はない。

 死んだも同然なレベルの永続的な封印だ。

 

(封印はいい線行ってる気がするな。

 規格外の呪霊を封印する目的で作られた呪具とか絶対あるし。)

 

 五条先生を封印出来る呪具となると数は限られているし、調べれば対策はとれるかもしれない。

 現代では五条悟の存在が突出しているが、過去には宿儺という化け物がいたのだから当然次の宿儺への対策として封印の呪具とか作られている筈だ。

 もしくは閉じ込めたり保管したりする気持ちは誰にでもあるから執着心で作り上げたサイコパス術師とかが勝手に作っているかもしれない。

 そんな事を考えながら、学長に指を提出した帰り道。

 実に一週間ぶりに寮へと戻る。

 今回はちゃんと高専に戻る前に買い物したし、前回恵んで貰った真希先輩や棘先輩、釘崎と伏黒を呼んで鍋をするつもりだったが真希先輩と棘先輩が今日からそれぞれ出張らしく代わりに虎杖を呼んだ。

 既に参加者の了承は得て、今帰宅した連絡もした。

 

(鍋は良い。

 具材切るだけで済むから。)

 

 鍋のスープもスーパーで売ってるし楽で良い。

 特に豚肉のミルフィーユ鍋は超簡単で美味いから最高だと思う。

 まあ今回の鍋はキムチ鍋だけど。

 豚肉と白菜と追いキムチを死ぬほど入れてシメは辛ラーメンである。

 準備をしているとノックが聞こえた。

 

「鍵開いてるから入って~」

 

「邪魔するぞ。

 何か手伝うか。」

 

 一番のりは伏黒か。

 まあ隣だしな。

 

「じゃあ、鍋にスープ入れて温めといて。」

 

 暫くすると釘崎がやってきた。

 

「あれ、虎杖はどうしたのよ伏黒、私が最後だと思ってたけど。

 ていうか、轟アンタどんだけ豚肉と白菜買ってきたんだよ。」

 

「知らん。」

 

「鹿児島産の黒豚だぜ。」

 

 最近の任務のおかげで懐が厚いので豚肉は一番高い肉にした。

 しかし、虎杖が一番最後なのは少し妙だな。

 寧ろ一番早く来そうな気がするのだが。

 

「具材準備出来たしやっちゃうか。」

 

 温められたスープにどかどかと肉と白菜をぶちこんで蓋をする。

 沸騰したら開けて食べる。

 二回目からはスープが白菜の水で薄くなるのでキムチもドカドカ入れる。

 これを材料尽きるまでやるのが今回の鍋である。

 第一陣が完成しそうという所でノックされたので、入る許可をすると虎杖がやってきた。

 

「いや~ごめん!

 直ぐに行こうとしたんだけど五条先生に呼ばれちゃってさ。

 あ、これ鍋出来るまで暇だろうから持ってきたけどいる?」

 

 虎杖から渡された袋には菓子類が入っていた。

 もう出来るが箸休めにはなるだろう。

 

「サンキューな。

 そろそろ一陣目が出来るから食おうぜ。」

 

 にしても虎杖が来てくれて良かった。

 四人で計算して材料用意したから、来なければ豚肉はともかく白菜が終わっていた。

 

「「「「いただきまーす。」」」」

 

 四人が一斉に箸を伸ばす。

 虎杖と伏黒はバランスよく。

 釘崎は白菜中心で俺は肉中心。

 

(うん、美味い。)

 

 汁は魚介ベースのスープが若干薄くなるが白菜と豚肉の旨味も合わさって良い感じだ。

 何より、豚肉が美味い。

 柔らかくて脂も甘味があって美味い。

 思わず舌を強化して味わってしまう。

 三人も肉の旨さに気付いたのか、若干肉よりに食べ始めた。

 

「肉うめぇ。

 流石ブランド豚だ。」

 

「マジで旨いな。

 でもこんな高い肉大丈夫なのか。」

 

「最近、出張任務で金あるから平気。」

 

「どうせなら牛にしなさいよ。」

 

「釘崎お前、ごっそり肉取ってそれは無いだろ。」

 

「キムチ鍋の気分だったからな。

 すき焼きなら黒毛和牛買ってたわ。」

 

 あっという間に第一陣が食べ終わったので、続けて第二陣を作っていく。

 ここからはキムチを追加して作成する。

 

「轟、アク取りあるか。」

 

「オタマしかない。」

 

 アク取りは伏黒に任せて、コーラを開ける。

 

「シメはなに?」

 

「辛ラーメン。」

 

「悪くないチョイスね。

 うどんなら殺してたわ。」

 

「え、うどん美味しくね?

 あ、俺の部屋にネギあるから入れようぜ。」

 

 こうして第二陣からネギが加入した。

 そして第三陣を終えてシメのラーメンを食べ終えると全員満腹で知性を奪われて、くつろぎ始めた。

 

「あんた部屋の匂いどうするの?」

 

「また一週間出張だからファブリーズして窓全開で放置。

 何かあったら、全員殴る。」

 

 盗まれる物無いし、仮に何か起こったら100%身内の犯行だから全員半殺しにすれば多分裁けるだろう。

 

「鍵貸してくれるなら匂い落ち着くまで俺が換気するよ。」

 

「あ、まじ?

 はいこれ。」

 

 虎杖が立候補してくれたおかげで、全員を殴る必要が無くなった。

 何かあったら虎杖を殴れば良い。

 

「ていうか、壁に掛けてある服に匂いつかない?

 つーかこれブランド物じゃない。

 私より高いの着るなよ。」

 

「あ。」

 

 釘崎の指摘で今気づいた。

 鍋開始前から壁には真依先輩に選んで貰った服を掛けたままだった。

 伊地知さんに頼もう。

 あの人五条先生の服のクリーニングとかも請け負ってたし。

 

「そういえば轟、指ありがとな。」

 

「は?」

 

「五条先生から聞いたぜ、轟が指を二本回収したって。」

 

「は?」

 

 どういう事だ。

 俺は二本とも確かに学長に提出した筈。

 五条先生も食べさせる方針なのは分かるが、流石に時期が早すぎないか?

 というか、何でコイツは自分の死刑が早まる話をヘラヘラ平気でするんだろうか。

 ほら釘崎も伏黒もちょっとピリッとしてるし。

 

「あー、気にするな。

 指の回収はちゃんとした任務だから。」

 

 一応極秘だがコイツらなら話しても大丈夫だろう。

 指を呑ませた件は五条先生に一応後で確認しとこう。

 

「最近の出張ってそれか。」

 

「そ。」

 

 指回収の任務で買った豚肉は旨かった。

 

「そんなことより、お前黒閃打てるようになったのか?」

 

 これ以上触れられると二人のネガティブスイッチ入りそうなので話題を変える。

 

「おう、東堂がみっちり面倒見てくれてな。

 三回打てたんだぜ。」

 

 一般的に黒閃を放った後は、アスリートで言う所のゾーンと呼ばれる現象が起こり集中力が増すので連続で黒閃を放つのはそこまで難しい話じゃない。

 これで虎杖は自分の呪力を実感出来るようになったので、更に先へ進めるだろう。

 食べた指の数も増えたし本格的に宿儺の術式が手に入るかもしれない。

 

「なあ、黒閃ってどうやって打つんだ?」

 

「俺の感覚だと、呪力で出来た自分の動きと現実の自分を完全に重ねる感じ。」

 

「目茶苦茶集中した。

 後、当てなきゃ死ぬって思った。」

 

 どうやら虎杖は東堂にそこまで追い込まれたらしい。

 やっぱりアイツ性格以外は教師向いてるよな。

 伏黒は俺達の話を聞いて考え込み始めたが、正直今の伏黒は黒閃を放てるような感じじゃない。

 術式自体が黒閃を知らなくても何とかなるタイプだし、伏黒は恐らく式神の中にヤバイ奴がいる。

 確かに調伏の儀は意味はないが他人を巻き込んで行えるから、いざとなったら自爆覚悟でヤバイのに頼ろうとする節がある。

 その依存を捨てない限り伏黒は必死になれない。

 寧ろ黒閃を放てる可能性が高く、黒閃で確実に強くなるのは釘崎だ。

 ぶれない精神を持ってる釘崎は戦闘中に集中しやすいだろうし、釘崎の術式は呪力の質を理解すればより強い一撃を放てる筈、逆に言えば黒閃を放てなければこれ以上は難しい可能性が高いとも言えるが。

 

(虎杖の話聞く限り、死ぬ気で自分を追い込まなければ黒閃って普通は出来ないのかな?

 にしても集中力か。

 脳弄るのリスクあるけど、俺なら黒閃を体験させることは可能か?)

 

「なあ、二人とも脳がパーになる可能性あるけど、黒閃体験する?」

 

「「するか!」」

 

 Oh……呪術ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




渋谷の展開とかはちゃんと考えてるんですが、そこまでにだとりつく過程が悩む。


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病院に行こう。

今回はオリジナル強めです。
投稿は0時を目標にしてありますが、間に合わなければ6時に投稿してます。
 


 10月の始め、宿儺の指捜索は一旦ストップする事になった。

 最近の捜索が空振り続きな事と、秋から冬にかけての呪霊の活発化が主な理由だ。

 探せて後一本だと個人的には思っていたし、伊地知さんが死にそうだったので良かった。

 あの人、普段の仕事を他者に振らずに宿儺の指捜索を担当していたらしい。

 伊地知さんはメンタルが普通というか真面目だから仕事を抱え込むタイプだろうとは思っていたが、流石に仕事しすぎである。

 自らブラック労働に走るのは正義感か何かしらの罪悪感か、どちらにせよ一度休ませるべきだろう。

 補助員は裏方として国への提出書類や外部協力者である窓との連絡等、呪術師が活動する上で無くてはならない。

 多分、補助員を半分位殺せばそれだけで呪術業界が傾くと思う。

 明日から補助員の仕事もやれと言われたら即辞める自信がある。

 事務作業という人格破綻者が多い呪術師に一番向かない仕事を負担してくれているから、呪術師は正義の側に立てていると俺は思う。

 個人的に問題なのは、指探しがストップしただけで俺の仕事量はたいして変わらないことだと思う。

 指探しからいつもの変死事件の取り扱いに変わっただけ。

 斡旋された任務の資料を読むと神奈川で行方不明者の捜索をしていた二級術師が行方不明になったので、捜索と任務を引き継げというのが今回の任務らしい。

 早速神奈川に向かう車の中で資料を詳しく読み込む。

 

(地元で有名な廃墟に夏休みに肝試しに行った学生グループ四名と廃墟探索系の動画配信者一名が行方不明か。)

 

「動画配信者の方から何か手がかりとかあります?」

 

「はい、実際侵入時に生放送をしていたのですが途中から電波が入らなくなり配信を打ち切ったようです。

 既に動画は削除済みですが、動画自体は此方で確認お願いします。」

 

 今回の担当補助員から渡されたタブレットで動画を再生する。

 

『ど~も、ホラー探検隊の~マックスでーす!!

 はい今回はね、とある廃病院に来ています!』

 

 紹介と共に廃病院が映し出される。

 そのまま、病院の曰くを話しているが殆どが出任せだろう。

 実際、資料を読むと普通に経営破綻で閉院したと書いてあるし。

 ただ、医療事故やら麻薬を密売していたやら患者が飛び降り自殺をしたやらの噂が流れて、心霊スポットの仲間入りしたらしい。

 

『では早速、中に入って検証していきましょう!』

 

 動画内では主旨を話終えたのか、配信者が病院の中へと入っていく。

 内部は荒れ果てており、壁には不良が書いたスプレーアートの様なものが描かれている。

 そのまま1階を探索し、二階三階と曰くの検証等をしながら屋上までたどり着いた。

 最近はこういうホラースポットをハイテンションに探検するのが流行っているのだろうか。

 

『ここまで特に肩が重いとかありませんねー!

 それじゃあ、最後に地下のフロアを探索して動画を終わろうと思います!!』

 

 来た道を戻り、非常階段から地下へと入っていく配信者。

 異変が起き始めたのは正に地下のフロアに入った瞬間だった。

 画質が一気に悪くなり、音にノイズが走る。

 

『あれ?

 ちょっと地下だから調子悪いのかな?』

 

 配信者も自分の放送を確認しているのか、機材の調子を確認し始めた。

 ノイズを聴覚を強化して分析してみたが特に音声等は聞き取れなかった。

 

『ちょっと電波が悪いみたいなんで、地下に関しては後日動画にして配信します!

 それじゃあ今回の放送はここまでで!

 チャンネル登録、好評価よろしくお願いします!』

 

「その7月の配信以降、配信は無くネットのオカルト界隈で話題になりました。

 現在は動画削除済みですが完全ではありません。」

 

「それで、動画を見て肝試しに来た奴等も行方不明と。」

 

「はい、8月の終わり頃に肝試しに来た4名が行方不明届けが出されて警察からの依頼で今回の一件が発覚し、二級術師が派遣されて現在行方不明です。」

 

 こういうのは、雪だるま式に呪いが貯まっていく。

 今回の件が解決しても行方不明の事実は明るみに出る可能性があるし、この病院は呪霊が沸き続けるだろう。

 

「二級の行方不明から一月経っている事については。」

 

「二級術師が行方不明なので一級以上の術師を派遣するのですが、スケジュールの都合が合わないのと交流会での襲撃事件の事後処理の結果です。」

 

 なるほど、人手不足極まりだな。

 

(まあ、良い。

 断言出来ないが二級術師がやられている事と動画のノイズから結界が貼られている可能性が高いな。

 ということは最低でも準一級という事になるな。)

 

 ただ、一つ気になるのがインターネットの普及により地域レベルの都市伝説や廃墟の曰く等は全国で知られる事になり、呪いが集まりやすくなっているがこの廃病院が有名になったのはこの動画の後だ。

 ただの廃病院なら高くても二級がせいぜい。

 結界を貼れるクラスの呪霊が発生している事が奇妙なのだ。

 勿論結界が貼れているという仮定が間違っていてる可能性もある。

 単純に電波が悪いだけで、動画配信者が地下に入って二級に殺されただけ。

 けど、それだと二級術師が行方不明という事実がおかしくなる。

 

(可能性としては三つ。

 一つは動画が削除される前に多くの人間の目に止まり、呪霊が急激に成長した。

 もう一つは病院の地下にヤバイ呪物がありそれを呪霊が取り込んでいた可能性。

 そして二つの可能性が両立している可能性。)

 

 どちらか一つの可能性のみが正解なら、呪霊は高く見積もって一級、両方の可能性が正解なら特級の可能性がある。

 

「特級の可能性ありますけど、俺で良いんですか?」

 

「はい、交流会での特級撃破の功績を省みて轟準一級は問題ないと上層部は判断しています。」

 

 なら問題ないか。

 

「わかりました。

 最悪、病院が倒壊する可能性があるので、その時はよろしくお願いします。」

 

 俺の術式や戦闘スタイルを省みると可能性は高い。

 地下全体と融合してたりする場合は確実に地下を破壊するし連鎖的に倒壊を招く可能性がある。

 

「了解しました。」

 

 目的地に到着して補助員が帳を降ろした事を確認したので病院内部へと入る。

 やはり地上部に関しては殆ど残穢は無い。

 取り敢えず動画通りに非常階段へと向かう。

 

「…ビンゴだな。」

 

 地下室への扉の隙間から残穢が滲み出ている。

 呪詛師ならちゃんと隠すだろうし、今回の犯人は呪霊で確定だな。

 

(さて、どうやって中に入ろうか。)

 

 このまま中に入れば確実に呪霊の巣に入る事が出来る。

 けど、敵のホームで戦うのは面倒くさいが本体を確実に祓えるかもしれない。

 もしくは、一階に穴を開けてそこから入る。

 呪霊の立場からしたら予想外の方法であるため奇襲になるし、廃墟だから壊しても問題ない。

 しかし、完全に敵対者として侵入する事になるので逆に厄介になる可能性がある。

 

(……敵対モードの方が面倒だし、あえて餌のふりして油断させるか。)

 

 五感を強化して中に入る。

 

(血の臭い、それと死臭だな。)

 

 中に入ると嗅覚が血と死臭を嗅ぎとった。

 強化されてこれだから実際はもっと小さい臭いだ。

 臭いの方向と事前に目を通した地図からして恐らく霊安室から漂っている。

 実際、残穢も霊安室に最も集中しているため確実に何かはあるだろう。

 

(反射音からして通路には人形は確認出来ないし、先ずは霊安室だな。)

 

 霊安室へと向かうが、道中は問題なく進み霊安室の扉の前に着いた。

 やはりここが諸悪の根元のようで残穢と臭いが酷く、異界化しているのか中の様子を伺えない。

 

(確か、こういうのって扉で区切られた空間だから成立するんだよな。)

 

 区切られた空間内という縛りによって異界化は成立していると見るべきだろう。

 なので扉を黒閃で蹴り飛ばす事で区切りを破壊する。

 本来、異界の一部である為頑丈になっている筈だが、俺の黒閃の前には無意味だ。

 

「ダ、ダダダイ丈夫でてでですかぁアぁあア!?」

 

 扉が破壊されると同時に呪霊の悲鳴が聞こえる。

 残穢と同じ呪力を感じるのでコイツが今回のターゲットの筈だ。

 扉が破壊された事で異界が崩壊し、中身の一部がこぼれ落ちたのか、部屋は血の海になっておりその中央で呪霊が悶えている。

 医者や看護師の体で出来た百足としか表現出来ない呪霊の側には右手が落ちていた。

 僅かに呪力が宿っているから派遣された呪術師の右手だろう。

 呪霊の頭を白閃で踏み潰し消滅させると、呪霊のいた場所に干からびた右腕が落ちていた。

 拾ってみると、全体的に毛むくじゃらでまるで猿の手であった。

 

(というか、これ本物の猿の手か。)

 

 猿の手とは、持ち主の願いを三回叶えてくれるという呪物だが代償や叶え方が残酷な呪物で確か、小説か何かでも出てくるある意味有名な呪物である。

 霊安室にあることから誰かが蘇りを願ったのだろう。

 それがどのような結果をもたらしたか知らないが、病院は廃墟となり猿の手は呪霊に飲まれて力の増幅に使われたのだろう。

 呪霊に殆ど吸いとられて呪力はスッカラカンで壊してしまおうかと思ったが『一回分使えるのに呪力がない』という状態で変則的な縛りになっているのか壊せなかった為、封印の札を貼って回収する。

 

「終わりました。

 詳細は後で説明しますが、地下の霊安室が血の海なので調査を、それと派遣された二級術師の物と思われる右手と今回の発端と見られる呪物を回収しました。

 取り敢えず高専に戻ります。」

 

「これは…猿の手ですか。

 分かりました。

 右手は保冷バックがあるので受けとります。

 呪物は念のため轟準一級に預かってもらっても構いませんか。」

 

 おや、こういうのは全部補助員に預けるのが通例だと思うが。

 俺が疑問に思っていると、補助員が気まずい顔で口を開いた。

 

「……私では、誘惑に負けてしまうかもしれないので。」

 

「なるほど、では俺が直接提出します。」

 

「ありがとうございます。」

 

 後日談ではないけど、今回の一件を報告書を提出する確認の時に補助員から聞いた話では、あの病院は経営不振で閉院するまえに二回経営が回復したらしい。

 恐らく猿の手を使ったのだろうとの事だ。

 蘇りではなく、金か。

 いや、病院の経営という意味では蘇りを願った訳か。 

 三回目を使わなかったのは二回目で代償を払いきれなくなったか、或いは恐怖したのか知らないが人目につかない霊安室に隠したのだろう。

 それだと破棄せずに隠す辺り願いを捨てきれて無い気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は車椅子押したナースと戦ってもらおうとしたけど、無理だった。

本来は異界とかした病院を探索するホラーゲーム的な感じだったけど、主人公なら壊せるなと思い壊した。

オリジナル呪霊 百足の呪霊
 霊安室に異界という巣を作ったら部屋ごと破壊された。
 本来ならホラゲよろしく異界探索中に襲ってきて最後に倒せるタイプのボス。

猿の手 
 三回願いを叶えるけど残酷な叶え方や代償を支払わせる。
 1回分の呪力が宿っていた為百足に喰われた。
 


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呪いと傀儡

今回は三人称です。
好評価、感想お待ちしております。


 10月中旬、誰にも知られていない秘密基地で与幸吉は静かに待っていた。

 ダムの中に作られた彼の為だけの秘密基地は常に湿度が一定以上に保たれて皮膚を刺激する事はないが、今日この日だけは精神の昂りから皮膚が逆立ち、刺激が身体中を走り回る。

 

(やつらは、俺の守りたい者を危険に晒した。)

 

 そんなことが無謀に近い戦いをする理由足り得た己に少し驚いた覚えがある。

 夏油傑の体を使う何者かから持ちかけられた、望まない天与呪縛からの解放は彼にとって高専を裏切る理由としては十分だった。

 けど、解放されるからこそ皆と共に歩きたいという願いが生まれてしまった。

 だから彼は戻るために覚悟をしたのだ。

 

(策は用意した。

 体を得た後に、奴を祓う。)

 

「遅かったな。

 忘れられたのかと思ったぞ。」

 

「そんなヘマしないさ。

 呪縛の恐ろしさは君が一番良く知っているだろう。」

 

「相変わらずカビ臭いねここ。」

 

 現れたのは二人の怪物。

 夏油傑の体を使う謎の男と、継ぎ接ぎだらけの特級呪霊真人。

 与幸吉は真人に体を治させる事と、京都校の人間に手を出さない事の二つを条件に高専の情報を流すことを縛りとして契約したのだ。

 魂の形を変える真人の術式ならば天与呪縛によって歪められた肉体を魂本来の姿に戻す事が出来る。

 恐らく彼の人生で一度しか無い、呪縛から解き放たれるチャンスだ。

 

(縛りが無くなる事で莫大な呪力出力は無くなるが、俺には天与呪縛を強いられていた時間を縛りとして使用できる。)

 

 向こうはまだ彼に利用価値があるため、ここで失うことが惜しいと言っているが、奴等の一人が京都校の人間を危険に晒したのは事実。

 

「早く直せ下衆。」

 

「うっかり芋虫にしちゃうかも。」

 

 真人の発言を夏油傑が注意する。

 他者との縛りを破る事は強力な反面、自ら課す縛りと違い代償が何か分からないというデメリットがある。

 ここで与幸吉の体を治さなければ、真人と夏油傑にはどのような罰が下るか分からない。

 彼らが10日後のハロウィンに五条悟を封印しようとしているのを与幸吉は知っている。

 だからこそ計画に支障が出る可能性があり、特級が呪力を回復出来るギリギリを考えて、向こうが『万全に計画を実行する為に与幸吉を殺さなくてはならない。』この日を選んだのだ。

 夏油と真人の口論がすんで、真人が与幸吉に近付き頭に触れる。

 

「感謝してよね、下衆以下。」

 

 目を瞑り、術式を受け入れた瞬間から本来の姿に戻っていくのを感じた。

 目を開いて手足の具合を感じとる。

 

(これが俺本来の体か。)

 

 本来の形である体に不調はない。

 取り戻した右腕と両足は最初からそこにあったかのように感じ、立ち上がる事すら出来る。

 だが感動している暇はない。

 現在、真人と与幸吉の間に縛りは無い。

 用済みのスパイの末路は、ロボットアニメでよく知っている。

 だがそれは彼も同じだ。

 皆と一緒に歩くためには目の前の呪霊と呪詛師を呪術師として祓うしか残された道は無い。

 

「さあ、やろうか。」

 

 やる気に満ちた、闘争を楽しもうとしている真人に対して与幸吉は潜ませていた複数のメカ丸を一斉に仕掛けるが、真人は右腕を肥大化させて凪ぎ払った。

 真人が与幸吉のいた場所に目を向けると既に姿は無い。

 

「つまんな。」

 

 真人は逃げたと考えてたが、それは違う。

 あのメカ丸達は確かに時間稼ぎだが目的は逃げる事ではない。

 与幸吉は高専の服に着替えて、下の階にあるロボットを起動させた。

 しゃがんだ体制から起き上がる事で、下から施設ごと真人を突き上げる。

 全てを突き破り現れたのは全長数十メートルはある巨大ロボット。

 名を『究極メカ丸絶対形態』、乗り込む事で操縦を可能とし、与幸吉が初めて製作し改良を重ね続けた最古にして最新のメカ丸、子供の頃からの憧れの具現である。

 

『拡充比正常』

 

『知覚フィードバック遮断』

 

(センサーは問題ないが、電波は駄目。

 やっぱり帳を降ろすよな。

 …保険が間に合うと良いのだが。)

 

 与幸吉の勝利条件は五条悟である。

 どのような手段を取ってでも五条悟と連絡を取る事が出来れば勝利は確定する。

 しかし、それは夏油傑が帳を下ろした事で困難になる。

 チラリと夏油傑の方を見るが、笑顔で真人と戦う事を促している。

 帳を降ろすだけで戦いに参加する気は無いらしい。

 

(先ずは真人を祓う!

 こいつは危険過ぎる!)

 

「チャージ1年!

 焼き祓え、メカ丸!」

 

『大祓砲』

 

 究極メカ丸の右手から真人めがけて、一年分の呪力を込めた砲撃がダムの一部を巻き込んで炸裂する。

 その威力は優に特級クラスの威力があるが、真人には効かない。

 特級呪霊真人の術式『無為転変』は魂に干渉し魂の形を変える事で肉体を変化させる。

 そして真人自身も例外ではなく肉体にダメージを与えようと魂に届かなければダメージとならない。

 

(俺の呪力が尽きるまで攻撃するつもりか?)

 

(俺の攻撃は魂に届かないと真人も分かった筈。

 これで、どんな攻撃を仕掛けようと攻めの姿勢は崩さない筈だ。)

 

 メカ丸は逃げる真人を更に拳で畳み掛けるが、足を獣に変えた真人は跳ねるように避けていき、全身を魚の姿に変えてダム湖を泳いで距離を取り始める。

 

(此方の動きが読まれる前に、誘い込む!!)

 

「チャージ2年!」

 

『二重大祓砲』

 

 メカ丸は両手から二年分の呪力をダム湖を放ち、ダム湖全体が爆発的な衝撃を発生させる。

 

(ラッキー。)

 

 真人はメカ丸の生み出した衝撃を利用してメカの頭、コックピット近くまで飛び上がり、肥大化した拳を打ち付け、打ち付けられたメカ丸はその衝撃によろめく。

 装甲が軋み、悲鳴を上げる。

 後、数回同じところを殴られたら恐らく破壊されるだろう。

 

(何てパワーだ…!

 だか、これで奴は近づいた!)

 

 鳥となって距離を取ろうとしている真人に照準を合わせて、懐から取って置きの弾丸を取り出してメカ丸に充填する。

 そしてセンサーが真人を捉えた。

 

『術式装填』

 

「(狙いは心臓…!)

 行け、メカ丸!!」

 

 メカ丸の人差し指から放たれた弾丸は真人の左肩、厳密には左翼の付け根に突き刺さる。

 

(心臓は外したか、だが!)

 

 突き刺さった次の瞬間、真人の左肩が吹き飛ぶ。

 本来あり得ない現象に驚いている隙にメカ丸は真人を叩き落として、効果があるうちにラッシュを喰らわせるが間一髪で真人は再び鳥人になって脱出した。

 

(また鳥か…!

 左腕は再生している!?

 いや、魂の形を変えて補っているだけか。

 俺のこの技は効いている!)

 

 与幸吉の考えは当たっていた。

 真人は虎杖悠仁以来の自分にダメージを与えられる存在に困惑と歓喜が湧いていた。

 

(面白い!

 どの攻撃が魂まで効果あるのか見極める…!)

 

 メカ丸の呪力による誘導弾を避けながら、真人は思考する。

 

(今までの攻撃は全部、あの攻撃を打つ為のブラフ。

 そしてわざわざ大技放てる位呪力あるのに攻撃はそこまで強くなかったから、多分別枠として用意した筈。

 そして多分数も少ない。)

 

 真人の考えも当たっていた。

 与幸吉が対真人用に用意したのは、とある呪術が入った筒だ。

 遥か昔、呪術全盛の時代にある術師が凶悪な呪霊や呪詛師から門弟を守るために生まれた術式。

 領域展開のあらゆる術式を中和するという特性のみを抽出し、門外不出の縛りによって成り立つ現代では対領域対策として最も安易な呪術。

 

『シン・陰流簡易領域』

 

 与幸吉はスパイとして全てを見てきた。

 生徒達の活躍を全てを長い間見ていく中で、三輪霞の簡易領域の攻撃への転用を思い付いたのだ。

 そしてその技を見て盗み、筒の中に封印という形で術式として成立させ、真人の内部で発動させる事で魂にダメージを与えたのだ。

 

(用意出来たのは四本だけ……!

 後三本で確実に仕留める……!)

 

 メカ丸は与幸吉の覚悟を汲むように猛攻を真人へと叩き込み、確実に打ち込む為の隙を作り出す。

 真人を叩き飛ばして狙いを定める。

 

(行ける!!

 これで勝つ!!

 会うんだ皆に!!)

 

(……とか思ってるんだろうね。)

 

 勝利を確信して術式をメカ丸へと充填していく。

 その様子を真人は冷めた目で見つめていた。

 真人は魂の動きで与幸吉の感情を読み取れる。

 己の勝利を確信して夢と希望に震える魂は呪霊である真人に取って不快でしかない。

 さっきまでの分析を放棄して敵の喜びを打ち砕く為に行動を開始した。

 

「領域展開。」

 

『自閉円頓裹』

 

 真人はメカ丸を領域へと引きずり込み、頭部にある魂に術式を行使しすると、メカ丸はコントロールを失ったのか自重で倒れこんだ。

 

「はいおしまい。」

 

 真人の領域展開、自閉円頓裹の効果は無為転変の必中化。

 即ち、領域に引きずり込んだ時点で勝利が確定する。

 

「俺が呪力ケチって領域使わないと思った?

 10日もあれば呪力は回復するんだよ。

 全く、戦いに夢や希望を持ち込むなよ。」

 

 興味を失った真人はメカ丸から離れていく。

 後ろで動き出すメカ丸に気付かずに。

 

「は?」

 

 次の瞬間、後ろからメカ丸の中指で串刺しにされた。

 中指には肩を貫いた時と同じ弾丸が装填されている。

 次の瞬間、真人は爆ぜて領域が解除された。

 

「■■■■■!!!」

 

 勝利を確信したメカ丸が咆哮を上げる。

 真人の領域対策に二本目を使用しわざと死んだふりをして三本目を真人のど真ん中に炸裂させたのだ。

 後は夏油を倒して帳を解除するだけだ。

 

(簡易領域一本、呪力9年分を残して夏油と戦える…!)

 

 大祓砲を放とうと夏油に標準を合わせる。

 

(皆に会える!!

 勝てる!!!)

 

「打て、メカ丸!!」

 

 瞬間、コックピットが破壊された。

 与幸吉の目の前には虫の様に手足を増やした真人がいる。

 真人が取った手段はシンプルだった。

 体内で簡易領域が発動する前に自ら体を破裂させて領域を解いた。

 要するに与幸吉と同様に死んだふりをしたのだ。

 驚愕する与幸吉に対して真人は満面の笑みを浮かべている。

 

(その顔が見たかった…!)

 

 与幸吉に手を伸ばす真人。

 与幸吉も四本目を直接打ち込もうとするが、確実に間に合わない。

 そして真人の手が与幸吉に触れる直前。

 与幸吉の目の前から真人が消えた。

 

「一体全体、どういう事なのか説明してくれますよね。

 メカ丸先輩。」

 

 その声が誰のものか与幸吉には直ぐに分かった。

 特級の任務を操作する事は与幸吉には出来ない。

 だが、準一級の学生なら話は別だ。

 彼が宿儺の指探しを中断した事は知っていたから、任務をでっち上げて異変に気付ける様に配置したのが機能してくれたらしい。

 

「……遅かったな。」

 

「巻き込んどいてそれは無くないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 




最後のやりたくて三人称だけど最初の方原作まんまだけど大丈夫かな?
というかこれ三人称になってる?


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救出と憂さ晴らし

今回も三人称です。


 時は少し遡り、轟悟は山の中で途方に暮れていた。

 一般的に呪術師は全国各地に派遣されて任務に従事するが、現在、森の中で途方に暮れている轟悟に関しては例外として任務の殆どが関東周辺或いは関東より上の地域中心で関西方面に赴くことは無い。

 理由としては、簡単に説明すると京都呪術高専の生徒である東堂葵というアンタチャッブルとちょっと色々あって結果的に京都呪術高専の敷地をぶっ壊したからである。

 故に積極的に関わらせない様に関西方面の任務には轟悟を斡旋しないという暗黙の了解が本人の知らないところで敷かれた。

 そんな中、10月中旬頃に轟悟は関西方面への出張任務が斡旋されてそれを受理した。

 内容はとしては、とある山岳地帯にて呪霊の仕業と思わしき失踪事件の調査及び解決である。

 準一級としては特段珍しい案件ではない為、疑問に思わず轟悟は出発した。

 

(妙だな、何もいない。)

 

 指定されたポイントに単独で赴いたが、いくら知覚を強化しようと呪霊と思わしき残穢は確認出来ないばかりか人のいた痕跡すら感じない。

 全くの野山というのが轟悟の感想だった。

 それものその筈、ここは只の野山である。

 暫く探索しても何も収穫が得られなかった轟悟は一度帰還する前に、明らかな野山より自殺の名所になりやすいダムの方が呪霊がいるだろうという判断で資料で確認した小さなダムへと向かう事にした。

 

「あれ?帳が降りている……。」

 

 暇潰しに地面に着かないルールで木々を跳ね回りながらダムの近くまで進むと、ダム全体に帳が降りているのが分かった。

 

(報告無しの帳という事は今回の失踪事件の呪詛師の犯人はここにいるな。

 一旦報告してもう一度山登るの面倒だし突っ込むか。)

 

 轟悟の判断は早かった。

 術式で自身を強化して躊躇なく帳の中へと入っていく。

 そして帳の中でメカ丸と真人の戦いを、正確には止めを刺そうとする真人を見つけた。

 

(報告にあった継ぎ接ぎか、それとあの巨大ロボットはメカ丸先輩か?)

 

 手に触れたらヤバいというのは知っていた轟はメカ丸の頭部に侵入している真人の腰らしき部分を黒閃で蹴り飛ばす事で、メカ丸から剥がし中に居るであろう与幸吉に声をかけた。

 

「一体全体どういう事なのか説明してくれますよね。

 メカ丸先輩。」

 

「……遅かったな。」

 

「巻き込んどいてそれは酷くないですか。」

 

 轟の視点で考えれば、失踪事件を追っていたら今話題の特級呪霊と京都のマスコットが戦っていたのだ。

 遅いと言われる筋合いは無い。

 そして、今回の任務が失踪事件は自身を巻き込む為にでっち上げだと何となく勘づいた。

 事実、人気もない山の中で唯一可能性のあるダムへと向かうのは呪術師として、当たり前の行動である。

 与幸吉の保険は上手く機能したのだ。

 

「後で色々聞かせてもらいますけど、先ずは継ぎ接ぎ特級と呪詛師を片付けます。」

 

「継ぎ接ぎの呪霊は領域展開での中和なら魂にまでダメージを与えられる。

 俺は簡易領域を打ち込む事で対処したが、後一回しか使えない。」

 

「普通に反転術式で殴れば良くないですか?」

 

「それはお前にしか出来ん。」

 

 轟の知覚では蹴り飛ばした真人の呪力は無数のネズミサイズでダム全体を駆け回っている。

 

(確か、自分の魂は自由自在に形を変えれるんだっけ。

 分裂も出来るとか面倒だな。)

 

 真人の現在の状況を認識した轟は、メカ丸の頭部から人の知覚を越えた速さで近くの分裂体おおよそ三割を反転術式による正のエネルギーで殴り祓った。

 

(…!?

 分身が魂ごと消滅した!?)

 

 己の分裂体が完全に死滅した事に真人の分裂体の一つは驚愕を禁じ得ない。

 そして強い感情は呪力に乱れを起こす。

 

「そこか。」

 

 無数の分裂体の中で呪力が僅かに乱れた一体に狙いを付けて再び知覚外の速さで接近し、殴り祓おうと拳を打ち下ろす。

 

(手応えが無いな。

 …なるほど、揺らぎはワザとか。)

 

 誰にも捉えられない速さで攻撃を放ったのに呪霊を祓った時の手応えが感じられない事に驚き、もう一度ダム全体を知覚すると呪詛師の側に分裂体が移動している事が分かった。

 

(やはり、虎杖以外の天敵がいたのか…!)

 

 真人も轟悟の事を知っていた。

 術式の特性から異常な知覚範囲とスピードを持ち合わせている事も、黒閃を自在に放てる事もスパイからの情報で知っていた、故に自分を祓える技を持っている可能性を何となく感じていた。

 だからこそ分裂した時に特に一体だけ目立つように呪力を多めにした分身を一体だけ作り、自身は無数の分裂体と共に夏油傑の元に戻っていたのだ。

 既に真人の思考は逃走に切り替えていた。

 

(与幸吉の処分は既に不可能…!

 夏油の元に戻って逃げるしかない。)

 

 夏油傑は轟悟が現れた時点で真人を助けに入る準備をしていた。

 己の計画の為に真人が弱体化するのは困らないが完全に祓われては困るからだ。

 しかし、聞いていた話以上の早さに手が出せずに傍観していたが、何とか出し抜いた真人が手元に戻ってきている。

 

(……魂は消費したが、まだ食えないか。

 仕方ない。)

 

「今ここで倒される訳には行かないから、悪いが退かせて貰うよ。」

 

『百鬼夜行』

 

 己の計画の為には真人が弱体化するのは歓迎だが、祓われるのは困る。

 手持ちの呪霊、数十体に敢えてメカ丸への攻撃を命じて解き放ち、自身と真人は脱出用の呪霊を用いて脱出を開始していた。

 夏油傑が放った呪霊は殆どが二級程度だが一級や特級クラスも数体混ざっており、複数の術式がメカ丸を襲う。

 

(俺だけなら問題無いが、助けないとメカ丸先輩が死ぬな。)

 

 呪霊の大群を前にしてメカ丸は動いていない。

 コクピットが破壊された事で操作が出来ないのだ。

 

「俺の事は良いから早く夏油を!!」

 

 与幸吉が夏油を優先するように吠えるが、轟はメカ丸に迫る呪霊を祓った。

 

(あんたが死ぬと真依先輩が悲しむでしょ。)

 

 同級生見殺しにした後で真依先輩と楽しく会話出来るほど轟悟は人の道から外れていない。

 一回のデートとそこそこのメールと電話しかしてないが、禪院真依という女性が身内に甘いという事を轟悟は理解していた。

 ここで与幸吉を見捨てて夏油傑と真人を祓うのが正しい判断だと彼女もするだろうが、確実に禪院真依と轟悟の間には見えない亀裂が入る。

 呪術業界とか世界の平和に関心がない轟にとって天秤に掛けるまでもなくそちらを優先した。

 与幸吉を守った時点で夏油傑と真人は既にこの場にいない。

 残ったのは、特級を含む数十の呪霊。

 

(……憂さ晴らしにはちょうど良いか。)

 

 メカ丸の頭の上で、呪霊が行動するより早く両手で印を組む。

 轟悟はとっくのとうにぶちギレていた。

 自分が利用された事も、特級に騙された事も、逃げられた事も。

 その全てに自分なりに納得し、一部は自分の選択の結果だと分かってる上で、一方的な勝利とかけ離れた状況に勝手にぶちギレていた。

 目の前には特級も含む数十の呪霊、一般的な呪術師なら絶望する景色だが轟悟にとっては有象無象でしかない。

 今の苛立ちを解消するにはただ祓うだけでは物足りない。

 

「領域展開。」

 

『天涯不等』

 

 全ての呪霊が轟悟の領域に引きずり込まれる。

 そこは白亜の大地と白亜の空によって作られる純白の領域。

 

『!?』

 

 領域に引きずり込まれた時点で知能ある特級呪霊達は領域展開を発動して必中の無効化をしようとして混乱した。

 

「俺の領域、天涯不等のルールはただ一つ。

 俺が絶対的勝者である事。」

 

 領域展開に対する知識が無い呪霊は命令を果たすべく轟悟を殺そうと動こうとするが動けない。

 

「俺が認めない限り、お前らの全ては無意味な出力まで減衰される。」

 

 領域に引きずり込まれた時点でルールは適応され、呪力操作も含むあらゆる行動は零へと減衰される。

 

「そして、俺の行動は全て最大化される。」

 

 一番強い特級呪霊の前に移動した轟はデコピンを特級呪霊に放つと、デコピンを食らった特級呪霊は砕け散った。

 

「つまり、この領域において俺は負けないし一方的に勝つ事ができる。

 なに心配するな、憂さ晴らしも兼ねてるからな。

 一撃では殺さん。

 スッキリするまで付き合って貰うぞ。」

 

 次の瞬間、轟悟の憂さ晴らしが始まり呪霊にとっての地獄が始まった。

 先程のデコピンとは違い、一撃で呪霊が死ぬことは無い。

 憂さ晴らしという絶対的勝利条件を満たす為に強制的に強化されて延命させられる。

 ただ轟が満足するまで一方的に殴られる事こそがこの場にいる呪霊の最期の役目となる。

 そして、現実の時間にして一分、轟悟にとって10分間の憂さ晴らしは終了し領域が解除される。

 領域を解除した轟はメカ丸の上で自分の状態を把握していた。

 

(やっぱり、呪力消費よりも術式が使えない事が問題だな。)

 

 領域展開のデメリットとして膨大な呪力消費が有名だが、もう一つの欠点として術式が一時的に使用不可能になる事が挙げられる。

 術式に多大な負荷を及ぼす領域展開を使用すると、解除後に術式が焼き切れる。

 轟悟の圧倒的強さは術式に依存しており、術式が使えなければ、その戦闘力は並みの術師と変わらない。

 これは轟悟にとって致命的な弱点となる。

 

「で、一から説明してくれませんかね」

 

「ああ、勿論だ。」

 

 術式が回復する迄の間、メカ丸から事情を聞く轟に対して正直に話すメカ丸。

 自分の体を取り戻す為に協力した事も、スパイとして高専の学生達、特に虎杖について情報を渡していた事。

 そして、夏油傑と真人達が何を企んでいるかも全てを打ち明けた。

 ちなみにこの時初めて轟悟は呪詛師の名前と継ぎ接ぎの呪霊の名前を知った。

 

(敵の狙いはやはり五条悟封印か。

 ま、倒せないなら封印しましょうって昔からの定番だしな。)

 

「その話しはもう一度五条先生にゲロって貰うとして、問題が一つあるんですが。

 帳が解除されてメールが入ってきたんだけど、先輩呪詛師判定食らってますね。」

 

 五条悟に連絡を取ろうと携帯を取り出した轟は、歌姫からの『メカ丸スパイ』という短文で送られたメールが入っている事に気付いた。

 

「歌姫が嗅ぎ回っていたのは知っていたから当然だろう。」

 

「取り敢えず俺から連絡するんで大人しくしてて下さいね。」

 

 轟は与幸吉に釘を刺して、五条悟へと連絡をとるが、釘を指さなくても与幸吉に何かする気は無かった。

 あの二人を祓う事こそ出来なかったが、五条悟への伝言と保護は期待できる。

 この場において抵抗する理由は無い。

 

「あ、もしもーし。

 五条先生の携帯ですか?」

 

『どうしたの轟。』

 

「スパイのメカ丸先輩見つけました。」

 

『マ?』

 

「マ。」

 

 経緯を話すと与幸吉に代わるよう頼まれた轟は素直に携帯を渡しつつ、回復した術式の試運転がてら聴力強化で盗聴を試みる。

 内容としては黒幕の呪詛師が夏油である事の再三の確認と渋谷での企みについて。

 

(妙に夏油傑に拘ってるな。

 見た目的に同年代だけど何か思い入れがあるのかな。

 昔の彼氏とか?

 あの人イケメンなのに彼女とかいないし。)

 

 個人に拘る五条悟という珍しい場面に何かあるのかと思ったが、夏油傑に関する情報を持ちあせていない轟は真面目に考えるのを止めた。

 

「轟、五条先生が話があるそうだ。」

 

「はい、轟です。」

 

『取り敢えず伊地知向かわせるから、合流して帰ってきてよ。』

 

(これ拒否したらここまで伊地知さんが迎えに来るパターンかな。)

 

 一度ふざけた思考に走ると暫く抜けない轟は下らない事を考えつつ、五条悟の指示に従う事を了承して電話を終えた。

 

「じゃ、リハビリがてら下山しますか。」

 

 道路を避けて、獣道を下山していく与幸吉と轟悟。

 ちなみに、メカ丸は湖の底に一時的に沈めてある。

 リハビリには絶対に向かない獣道でも与幸吉は生身の体で歩ける実感に喜びが絶えない。

 

「そういえば、学生の情報流してたんですよね。」

 

 雑談をふるように轟悟がもっとも聞いてほしくない話を投げてかけてくる。

 しかし、今の与幸吉に答えないという選択肢はない。

 

「…そうだ。」

 

「じゃあ、俺の私生活も丸裸ですか?」

 

「いや、俺は虎杖悠仁を優先して監視していたからごく僅かの情報だけだ、そもそもお前は知覚範囲が広く速いから監視が殆ど出来なかった。」

 

 実際、スパイとして監視する際に与幸吉が一番苦労したのは轟悟である。

 術式の都合上の知覚範囲が分からず超遠距離による監視しか行う事が出来ない上に高速戦闘を行う為、殆どまともな情報が入手出来なかったのである。

 花御との戦闘も移動が激しい事や中盤は森の中での戦いの為監視は上手く行かず、最後の激突の余波でカメラは壊れて録画すらままならなかった。

 唯一まともな情報は京都校での停学事件での戦闘能力と、花御を祓ったという文字での情報のみである。

 

(よしよし、プライベートが大丈夫ならデートに関しては問題ないな。

 戦闘も風穴事件はバレてないから良かった。)

 

 轟悟が今回の一件を全て知って一番気になったのはソコだけだった。

 既に憂さ晴らしも済んでいるので与幸吉に拘る理由は轟悟には存在しなくなったが一つ気になる事がある。

 

「真人祓える保証無いのに何で俺な訳何ですか。」

 

 轟が話を聞く限りだと、与幸吉の持つ情報で最新の映像は停学事件で最新の情報は轟が特級を単独で祓ったという事実のみで真人を祓える保証は何処にもない。

 

「俺が任務をでっち上げられる人間で、最も強いのはお前だからだ。

 それに、東堂の戦いで見たお前のポテンシャルの高さと潜在力から考えて、真人に負ける事は無いだろうしな。」

 

「ちなみに、その情報は向こうには?」

 

「俺が求められたのは情報であって意見では無いが、真人は少し警戒していたようだ。」

 

 真人という存在が警戒していたという事実は轟悟の関心を呼ばなかった。

 今回の戦闘で出し抜かれたが、次は必ず殺すという事実は既に轟悟の中で決定しているからだ。

 

「じゃあ、俺からその件に関しては特に無いんで。

 そういえば、あのメカ丸って昔のアニメの奴ですよね。」

 

「知っているのか。」

 

 メカ丸が少年時代に憧れた鋼鉄の英雄はそこそこの知名度と長きに渡りファンに愛されており、最新シリーズが今も作られている。

 勿論、与幸吉は全て鑑賞しBOXも集めている。

 

「裏でやってる番組が特番やらでやってない時に昔チラッと。」

 

 轟悟と与幸吉とは二年の差があるため知っているシリーズに違いがあるだろうが、全ての作品に詳しい与幸吉に隙は無い。

 

「そうか、BOXがあるから見るか?」

 

「あ、布教は東堂で間に合ってます。」

 

 というか、今頃ガサ入れされてBOXは無事じゃないのではと思わなくもなくもない轟悟であったが、自分の体を取り戻し五条悟と連絡を取れてある種の有頂天になっている与幸吉は気づかなかった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 




轟悟の領域展開『天涯不等』について。
 白い空と白い大地で出来た領域。
 領域の効果としては「轟悟を絶対的勝者にする事」
 必中効果としては強制的にバフとデバフが必要に応じて発動する感じ。
 相手の全ての行動を削り落とし何もさせず、轟を最強に強化される。
 その後、轟が満足するまで強化で無理やり生かさせれて、満足したら漸く相手は死ねる。
 要するに全自動最適サンドバッグ作成結界。
 更に分かりやすく言うと『お前今から死ぬまでサンドバッグな、そしてお前の寿命は俺が決める。』

百鬼夜行について
 ほんとは技じゃないけど、呪霊ばらまくのに良い技名が思い付かないからやった。

誤字報告、感想、好評価おまちしてます。


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話し合い

今回も三人称


 轟と交戦したダムから逃れた夏油と真人は一旦の話し合いの場として、とある廃ビルにいた。

 

「大分持っていかれたみたいだね。」

 

「魂の三割が削られた。

 あれ、五条悟より化け物なんじゃないの?」

 

 訪れた時に屯していた不良達だったモノをストックとして飲み込みながら真人は轟悟の強さを思いだし、げんなりとした顔をしている。

 真人としては正直、二度と戦いたくないというのが轟悟に対する感想だ。

 

(しかも、アイツあの場で誰にも関心が無かった。)

 

 怒りという感情は最初から常に魂の代謝として存在していたが、真人を祓おうと動いていた時やメカ丸を助ける事に関して、魂が代謝して無かったのだ。

 普通出し抜かれたら誰でも感情が揺れるし、特に味方を助ける為に敵を見逃す時は、複雑な感情が動く筈だ。

 それなのに轟悟は一切の固定された怒り以外の代謝を見せずに作業として処理をしていた。

 正も負も関係なくただ怒りのみを持って行動する人間を真人は初めて知った。

 

(どういう事をしたらアイツの感情が動くのか知りたいけど、強すぎるし面倒臭い。

 宿儺の器が可愛く見えるよ本当。)

 

「いや、そうでもないさ。

 確かに五条悟に並ぶ強さを感じたが、殺す事自体は簡単だよ。

 ああいうタイプの術式は搦め手に弱いからね。

 君達の協力と私の手持ちの呪霊なら勝機は充分にある。」

 

 げんなりとする真人とは反対に夏油傑は笑みを浮かべて余裕そうに殺せると確信していた。

 夏油傑は自身の経験と知識から、轟悟の術式への対抗策を既に思い付いていた。

 確かに真正面から戦えば勝てる可能性は0だが、そもそも真正面から戦わないのが本来の呪術師の戦い方である。

 そういう面で今の夏油傑は現代で最も抜きん出ていた。

 

「でも、それだと人手足りなくない?

 五条悟の相手もしなくちゃいけないし。」

 

 本来の計画では、地下に多くの一般人を閉じ込める事で五条悟にとって不利なフィールドで時間稼ぎを行い、獄門彊にて封印する筈であり、これ以上人数を割くのは計画の破綻を意味する。

 

「ああ、だから計画を少し変えよう。

 流石に今の状況では私も動かざるを得ないしね。」

 

 轟悟という存在の出現と与幸吉の生存により、彼らは計画を変更せざる追えなかった。

 愉しそうに企みを練って、より残忍で残酷な計画へと変貌を遂げていく。

 その結果が何をもたらすかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

「なるほどね、獄門疆が本物なら僕の封印も可能だろうね。」

 

 現在、轟と与幸吉は伊地知潔隆のマンションで五条悟と対面していた。

  五条悟は轟からの連絡の後に速攻で伊地知と家入硝子を巻き込んでいた。

 家入硝子が伊地知潔高にストレスによる疲労の為、休養が必要であると書類を作成し、伊地知潔高は名目上『ストレス緩和の為の気晴らしのドライブ』という事で二人の迎えを行い、与幸吉を匿う仮の住みかとして伊地知潔隆を迎え入れたのだ。

 そして、改めて夏油傑の計画について話し合っていた。

 

「獄門疆って何ですか。」

 

「簡単に説明すると、日本で一番強い結界みたいな物かな。

 僕も実在するとは思ってなかったけどね。」

 

 獄門疆とは平安時代に活躍し、生きた結界と呼ばれた術師源信が死して呪いに転じ生まれた呪物と言われているお伽噺レベルの存在だったが、与幸吉の話を信じるならばそれが現在まで現存している事になる。

 

(それを持っている夏油傑らしき人物は何者なんだ?)

 

 既に轟には五条悟から、生きていた頃の夏油傑の末路は聞いているが、今回は混乱を生むため夏油傑で通している。

 獄門疆というお伽噺レベルの呪具を所有し、人の体を奪い理性を保つ怪物というのが轟悟の評価であった。

 

「まあ、向こうは計画を変えて来るだろうけど時間的に、大幅な変更は無いだろうね。」

 

「人手という意味では虎杖達が九相図の二体を倒したのは良かったですね。」

 

「いや、呪霊側はともかく夏油自身は捨て駒と見ていたみたいだ。」

 

 人手が減ったという点を評価する轟に対して、与幸吉が意見を上げる。

 

「メカ丸先輩の話を聞く限り、夏油傑は特級達を使い潰す気満々って感じですね。

 ……今思ったんですけど、真人って超レアかつ有用な術式ですよね?

 初めて確認された虎杖の事件でも一般人を呪詛師に仕立て上げたし。」

 

 轟の読んだ報告書では、呪詛師として処理された青年は呪術とは全く無縁の人生を送ってきた事から真人によって仕立て上げられた可能性があると七海から指摘されていた。

 

「……つまり、傑の体を使ってる糞野郎は僕の封印と真人を取り込むのが目的って事?」

 

 それならある意味全体の辻褄が合うと轟は考えていた。

 真人は術式の関係上祓うのが困難な存在であり、現状二つの魂を持つ虎杖悠仁と反転術式を戦闘に利用出来る轟悟しか有効な存在はいない。

 もし、夏油傑が宿儺の器を用意してて、有効性に気付いて高専に保護させた理由が真人を弱らせる事なら筋が通る。

 

(けど、そこまでの筋書きを描けたとしたら相当な化け物だぞ。)

 

「……奴は、宿儺の復活はスペアプランだと前に漏らしていた覚えがある。」

 

 与幸吉の言葉で、三人は『宿儺の器を用意したのは夏油傑の体を使っている人間ではないか。』という疑念が強まってくる。

 

「案外、最終目的は完全復活した宿儺を乗っ取って日本支配とかですかね。」

 

「それは分からないけど、少し話が逸れてきたね。

 一旦休憩しよう。」

 

 五条悟の言葉で全員の気が抜ける。

 ちなみに伊地知潔隆は三人の話し合いに対して耳を傾けつつ、与幸吉を匿うための書類作業を行っていたが、時たま話の規模に怯えて誤字しまくっていた。

 三人とも思い思いに休憩を取り始める。

 といっても五条悟だけはベットに座りながら何かを静かに考えている。

 

「あー喉乾いた。

 伊地知さーん、冷蔵庫開けていい?」

 

「構いませんよ。

 五条さんと、メカ丸君もよろしければどうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「僕甘いもの。」

 

 五条悟の好みを聞きつつ、冷蔵庫を開けると与幸吉も寄ってきて二人で中身を物色する。

 

「……飲めるものが栄養ドリンクとコーヒーしか飲み物が無い件。」

 

「俺でもこの冷蔵庫が変なのは分かる。」

 

 ドリンク類は栄養ドリンクとコーヒー後はビールしかなく、固形物は漬物等の日持ちしそうだが若者には喜ばれない物ばかりだ。

 

「あはは、家を空ける事が多いので自然とそんな感じに。」

 

 伊地知は人の反応にパソコンから目を離さずに言い訳するが、逆にその姿を見た二人からは哀れみの視線が突き刺さるのを感じた。

 轟は取り敢えず栄養ドリンクを二本取り出して一本を五条悟へと渡して自分も一口飲んでみる。

 

(甘いのに味がない。)

 

 独特な甘さと不思議な風味は轟に取って受け入れ難い事だったが、体に良いものは不味いという話を思い出してチビチビ飲み始めた。

 

(これがコーヒー、これが漬物か。)

 

 コーヒーと漬物という常人なら好まない組み合わせで二品を黙々と味わっている。

 生命維持装置からの栄養補給によって命を繋いできた与幸吉に取って味覚を刺激するというだけで十分な幸福を感じていた。

 二人が飲み物を飲み干した頃を見計らって五条悟が口を開く。

 

「取り敢えず、僕らは後手に回るしかないね。

 仮に渋谷で待ち構えても人が多い場所なら何処だろうと作戦を遂行するだろうし。」

 

「爆弾騒ぎとかで避難させるとかは?」

 

 古今東西、イベントを中止に追い込む方法として爆弾を仕掛けたという脅迫状は一定の成果を産む。

 

「それはそれで、敵が完全に自棄になる可能性もある。

 どちらにせよ被害が出る可能性が高いなら敵の動きを待って確実にまとめて祓いたい。」

 

 もし高専側が対策を取り、夏油傑と特級呪霊達が自暴自棄になり各地で殺人に走ればそれだけで多くの人間が広い範囲で死ぬ可能性が高い。

 ならば、何もせずに敢えて向こうの策にのって被害を纏めた方が良い。

 一般人の犠牲を前提とした考え。

 虎杖悠仁や伏黒恵、釘崎野薔薇ならば憤りを感じて唇を噛み締めて拳を強く握り締めるかもしれないが、ここにいる人間は違う。

 轟悟は最初から大義に興味が無く、与幸吉はスパイだった経験から呪霊達の恐ろしさを良く知っている事、そして己のもたらした情報が五条悟に伝わる事こそが最善の結果を生むという確信があった。

 伊地知潔隆は心苦しいが呪術師としての五条悟を知っているため何も言わない。

 全員が沈黙による肯定を示した。

 

「悪いけど、今日話した事は誰にも洩らさずに当日を待とう。

 伊地知はメカ丸の事を暫く頼む。

 それとメカ丸、君の処遇だけどそれは今回の一件が終わってから話そう。

 あ、処遇って言っても心配しないで良いから。」

 

「わかりました。」

 

 五条悟は与幸吉を生かすと決めていたが、具体的な考えを思い付く余裕が無かった。

 己の親友の死体を使ってる糞野郎の目的や正体に関する事、相手が当日に打ってくる策について考えていたからだ。

 

「後、轟は当日は自由に動いていい。

 少し前の君なら僕の指示で動いてもらうけど、今なら心配無さそうだし。」

 

(その少し前の自分が生まれた理由は貴方何ですけどね。)

 

 少し前の自分とは、価値観がおかしくなってた時の事だと考えた轟は心の中で少し文句を思うが、口に出した所で恥にしかならないので堪えた。

 そして、10月31日。

 ハロウィンがやってくる。

 

 

 

 




主人公の行動の結果、渋谷編がちょっと変わります。
なお、真人の魂が三割削られているので弱体化食らった代わりに夏油傑が参戦する模様。

色々考えたけど、どう考えても後手に回るのがもどかしい。
 


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ハロウィン!

お久しぶりです。
仕事が忙しく更新する気が起きなかったのです。
GWなので更新しました。
短くてすまない。


 10月31日、ハロウィン当日である渋谷にて突如帳が降りた。

 窓と補助員による調査の結果、帳は『一般人を閉じ込める事』に特化した帳であり、術師自体は問題なく出入りが可能である事、そして内部に閉じ込められた一般人は帳の縁へと向かい、散り散りに『五条悟と轟悟を連れてこい。』と叫びを上げた。

 高度な結界術と五条悟、轟悟を指名した事から上層部は今回の主犯が交流会を襲撃したグループと断定し、複数の特級呪霊による術師への被害を抑える為に五条悟及び轟悟両名での渋谷平定を命じたのである。 

 

「…で、俺達はどう動きます?

 好きに動いて良いって言われても方針位はくださいよ。」

 

 地下鉄へと続くビルの地下一階。

 鮨詰めになったハロウィンを楽しんでいたであろう一般人を見て改めて轟悟は憂鬱になった。

 一般人が巻き込まれた時点で呪術師側は既に敗北に近い状況であり、ここからどう巻き返そうとしても確実に世間が無視できないレベルでの死人が出る。

 圧倒的勝利を好む轟にとって敗北前提で動くという点が本人のやる気を下げていた。

 

(しかも、敵は確実に俺対策の罠を用意しているから、絶対に手こずるし最悪過ぎる。)

 

「このまま地下に降りるしかないでしょ。

 十中八九、僕らは分断されるだろうから、そっからマジで好きに動いて良いよ。」

 

 そんな轟のメンタルを無視して五条悟は地下へと進軍するために動きだし、轟もそれに続く。

 正面から敵の陣地に向かうのは自殺行為でしかないが、大勢の一般人を人質に取られた二人には敵が待ち構える地下に降りないという選択肢は無い。

 (轟個人としては、一般人の犠牲はしょうがないのでビル毎ぶっ壊そうと思ったが、無用な恐怖心を煽ってはいけないと五条悟に既に注意された。)

 数を頼ろうにも二人に並ぶ術師の内、一人は海外でもう一人は音信不通。

 残酷な事実として他の呪術師は二人が全力を出す場合、足手まといにしかならない。

 正面からの侵入は限られた手札にて最善の選択であった。

 五条悟は術式を用いて一般人と自分との間に無限を発生させて透明な道を進むように歩いていき、轟は強化された脚力で一般人を飛び越えて地下へと続く吹き抜けまで一息で跳ねていく。

 

「あれ?」

 

 先に呪霊達がいるであろうホームまで降りて瞬殺しようと考えていた轟は、一つ上のフロアで見えない壁に阻まれた。

 

「透明な帳、どうやらここでお別れみたいだね。」

 

「ですね。」

 

 後から降りてきた五条悟は帳があるであろう部分を触ると簡単にすり抜けた事から二人はこれが敵が分断する策であるという事に気付いた。

 

(物理的に壊そうにも余波で一般人が確実に死ぬよなこれ。

 大人しく誘いに乗るしか無いか。)

 

「じゃ、お互い頑張ろっか。」

 

 そう言って五条悟は地下鉄へと降りていき線路へと着地した瞬間、白い布のような物が吹き抜けを塞ぐように覆った。

 白い布のような物を観察すると、目や口のようなものが複数あり真人の改造人間である事は明白であった。

 こうして、五条悟と轟悟の二人は分断された。

 

(さて、敵はどう動くかな。)

 

 轟はこのまま自分が放置される事はあり得ないと考えていた。

 事実、今の状況で轟を放置して五条悟を封印したとして、万全の状態の轟悟がいる時点で呪術師と呪霊の勢力図はそこまでひっくり返す事は出来ないし、五条悟が封印という一般人が何人死んでも釣り合わない被害がでた時点で轟は被害を無視して全力で掃討及び五条悟の身柄奪還の為に動く。

 その場合、現時点での五条悟を封印した利点が完全に消える。

 

(チッ…空間の呪力が濃くて呪力での探知は不可能、それに加えて音波で探ろうにも一般人が多すぎて難しい。)

 

 轟悟の探索能力は術式で強化された鋭敏な感覚と演算による呪力と物理的な空間把握能力だが、前者はこの場が既に特級が放つ濃密な呪力と一般人から漏れだす呪力で満ちているため機能せず、物理的な空間把握も大量の一般人がノイズとなって建物の構造位しか把握出来ていない。

 

「面倒くさいから帳を割ろうにもご丁寧に、柱を跨いで帳降ろしやがって。」

 

 己と五条悟を分断する帳が建物の柱を遮って展開されてる為、物理的に帳を除去しようとすると余波で一般人が巻き込まれるだけでなく確実に建物が倒壊するようになっていたのだ。

 この環境全てが轟悟にとって不利に働いていた。

 

「な、なぁ、あんた、も、もしかして轟悟か?」

 

 状況を把握している轟に対して一般人から声がかかる。

 震えた声に轟が顔を向けると、轟の視界にゾンビが目に映る。

 

「だったら?」

 

「あ、あんたがきたら、あそこに、む、向かえって、い、言われた。」

 

 怯えるゾンビの指差す先は吹き抜けのあるエリアへと続く通路の一つ。

 明かりが消えており先が見えない。

 

(…異界化してるな。

 夏油傑の策か。)

 

 指差す通路に意識を向けた轟の知覚では既にあの通路は異界化している事が分かった。

 そして、いくら濃密な呪力で満ちてる空間とはいえ指摘され、意識しなければ分からないレベルの隠蔽と曰くも無い建物にこのレベルの異界を作り上げる技量に改めて警戒心を強める。

 

(銭ゲバみたいに、呪霊操術による呪霊に対する縛りの強制で作り上げたな。)

 

 銭ゲバもとい、一級呪術師である冥冥の術式烏操呪術はカラスを使役する術であり一般的にはハズレの術式であり、常識的に一級になることは不可能に近い。

 しかし冥冥は使役カラスに自死を強制させる事で、命を掛ける縛りで小動物であるカラスの呪力制限を超えた呪力出力を引き出して敵に特効させるバードストライクという技を持っている。

 この技は五条悟以外、直撃に耐えられた人間はいない。

 カラスへの自死でそれだけの威力を出せるのだ。

 力ある呪霊に縛りを設けさせた場合、どれだけの効果を発揮するのかは最早誰にも分からない。

 

「卓越した結界術と呪霊操術の組み合わせとか最高過ぎて最悪過ぎるだろ。

 きっちり焼いとけよ五条先生。」

 

 目の前の異界に対して思わず五条悟への愚痴が漏れてしまうのも仕方ない。

 

(にしても五条先生の言う通り、流れは向こう側か。) 

 

 話は四人が合流したハロウィンの10日前まで戻る。

 

『多分だけど、僕封印されるかも。』

 

 五条悟の言葉に全員が茶を吹いた。

 当日の大まかな動きを決める為に集まった伊地知、与幸吉、轟悟の全員が伊地知をパシって買いにいかせた茶を吹いたのだ。

 

『理由は?』

 

 いち早く復活した轟が問いかける。

 

『流れだね。

 今日までの一連の事件である程度戦力は削れたけど、指盗まれたりとか出し抜かれた事。

 それと現状、獄門疆から脱出する手段が無い事。

 他にも色々あるけど流れが僕ら側、というか僕に殆ど無い。』

 

『立場的にあれだけど、オカルト過ぎません?』

 

『いや、流れっていうのは結構大事だよ。

 特に弱い側が強い側を出し抜く場合だと特にね。』

 

『……つまり、五条悟という最強を出し抜こうという流れ自体に呪力が反応し、出し抜く側を後押ししようと働いていると。』

 

 ジャイアントキリング、強者を弱者が倒す展開というのは人間であれば誰もが一度は空想し、実現したものに称賛を与える。

 一件当たり前で素晴らしい事に思えるが、その根本的な感情は妬みだ。

 強者という存在を妬み敗北する事を望む、正に呪いそのものとも言える事象。

 善悪を抜きに考えて、五条悟という最強を出し抜くという事自体は確かにジャイアントキリングである。

 

『……。』

 

 あながち否定出来ない根拠に全員が沈黙する。

 

(結局、ハロウィンまで一般人の避難とか減らす事出来なかったしここまで完全に向こうの策だしなー。)

 

 轟悟は溜め息と共に異界へと足を進める。

 罠と知っていても多くの一般人を生かす為には呪術師として轟悟は向かわなければならない。

 若干猫背になりがら人波を掻き分けて異界の前に立つ。

 

(ま、ここで死んでも悔いは無いけど。)

 

 全身に反転術式による正の呪力を纏って異界へと足を踏み入れた、その瞬間。

 

「……!」

 

 濃密な呪力を伴った術式が轟の全身へと降り注ぐ。 

 

(向こうもかかったか…。)

 

 地下鉄のホームにて獄門疆と共に五条悟の到着を待っていた夏油傑は轟悟が異界に足を踏み入れた事を知覚した。

 

「さて、君の為だけにストックの大半を注ぎ込んだんだ。      

 せいぜい楽しむと良い。」

 

 

 

 

 

 

 

 




未完にした理由としては、連載中で希望を持たせるのは悲しいかなと思ったので。
後は現状だと原作が区切りつくまで多分完結しないなと思ったので。
しかし、GW等の暇な日は割りと書く気力が出てきたので不定期ですが更新しますがかなり遅くなると思います。


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醜悪な空間

お久しぶりです


たすけて いたい ここどこ まま たつや あしたしごと いたい くるしい やめて おかね きらい こんでる ぎゅうぎゅう いたい いたいよ なんだこれ だれだ ちかんがいる きもちわるい くるしい おさけ たすけて いたい なんで いたいよ いみわからない くるしい しにたい こわい いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい…

 

(うるせぇ…)

 

 不愉快な雑音で目が覚めた。

 目の前に広がる、否。

 自分を包み込むように満たされている肉の塊が視界を埋め尽くす。

 無数の手が、大人の手や子供の手老人の手、ネイルや綺麗に整った爪の生えた手や不揃いで不健康な手が轟を取り込もうと藻掻き伸ばしながら無数の老若男女の口が苦しみを四方八方から囁いてくる。

 

(なるほど、真人とかいう呪霊の術式か。

 結界内に取り込んだ人間を一つの肉塊にするって感じか。

 多分、本体は五条先生に集中していると考えると、術式を行使する最低限だけを結界に残して、夏油が用意した呪霊から呪力を絞り出して自動発動していると。

 肉塊の中に意識が一応ある感じからして、生存の縛りも設けているとなると目的は俺の無力化だよなやっぱり。)

 

 結界という敷地の縛りと結界内での生存保証による術式の安定と呪霊操術による呪霊への縛りによる呪力出力による供給による自動捕食封印結界。

 ただ、人間をくっつけて一つの塊にするだけの結界。

 無下限には届かず、呪いの王の逆鱗に触れてしまうが残念ながら轟はどちらでも無い。

 

「さて、後数分で呪力が尽きるがどうするか。」

 

 既に手足の感覚は無い。

 結界へと踏み入れた際に魂への干渉に対して呪力で防御をしようとしたが、呪力量的に全体を守ると呪力が保たないと判断して咄嗟に四肢の守りを弱めたのだ。

 その為、轟の四肢は形こそ残っているが既に末端は肉塊に癒着する様に絡め取られている。

 頭と腹は何とか守られているが、並の術師程度の呪力しか保たない轟の守りは閃光花火の様に何時破られても可笑しくはない。

 完全に取り込まれれば、結界内で唯苦しみながら喘ぐ肉塊の一部と成る。

 死ぬことも無く、術式を使えず、無能以下の何かに呆気なく成り下がる。

 完全な敗北を与える為に、そしてその姿を見下す為に生まれた結界はその本懐を成そうとしている。

 

「やっぱり俺を舐めているって事だよなぁ?」

 

 呆れの感情。

 既に轟は3度の機会に恵まれていた。

 一つ目は肉体の変形に耐えられずに死亡した改造人間達。

 二つ目は無為転変を受けた七海一級の体を観察した時。

 そして三度目は釘崎野薔薇の術式を受けた時。

 そして今、轟の手足は無為転変の影響下にある。

 術式を受けて死んだ存在。

 術式を受けて生き残った存在。

 肉体の強度を無視して存在を攻撃する似た系統の術式。

 そして、今現在己の魂に干渉する無為転変。

 ごく僅かな情報だろうと単一では意味が無かろうと、同じ事象に関する情報が此れだけ揃えば轟に刻まれた術式により強化された頭脳には充分だった。

 故に呆れた。

 確かに辛辣な結界だ。

 取り込まれたら轟悟は肉塊としての余生を送り、屈辱の中で死を待ち続けるだろう。

 だがそれは取り込まれればの話だ。

 

『加点呪法』

 

 魂に術式が駆け巡り、輪郭のはっきりとした魂の強さに耐えきれず肉塊が弾け飛んだ。

 爆心地の中心に轟悟、唯一人。

 己の四肢の感覚を確かめる様に全身を観察している。

 

「成程ね、魂を強化すれば肉体もそれに応じて勝手に強くなる訳か。」

 

 魂の強化に全ての呪力が集中している轟の体には呪力は一切流れてない。

 だが肉体は魂の強度に比例する様に筋肉も内臓も神経も強靭に成っている。

 

「しかも、肉体を強化するより更に呪力と術式の効率が良いと来た!」

 

 ごく僅かな呪力でも十分な強化を得られている。

 余りの効率の良さに轟自身のテンションは術式に目覚めた幼少期の頃の如く高まり呪力が湧いてくる。

 

(これで勝てる相手が増えた!!)

 

 最早、真人等という呪霊風情は敵ではない。

 今の自分なら五条悟を除くあらゆる存在に対して優位に一方的に勝てるという自信に満ち溢れていた。

 これで好きな時に好きなだけ殴れるサンドバックが増えたのだ。

 早く試したい。

 その為には結界を脱出しなければならない。

 弾けた肉塊はいつの間にか一つに纏まり、再び轟悟を取り込もうとするが、物理的に触れるだけで無為転変で同化する事が出来ず、ただ纏わりつくだけであった。

 本体である真人が全身全霊を賭けて干渉出来るかどうか。

 

「じゃ出ますか。

 悪いがお前達を戻すのは無理だから、一瞬で結界事消し飛ばすよ。」

 

 白と黒の二重螺旋が脚に向かう。

 魂の強化により一段階上の怪物と成った轟にとってこの技で自壊する事は全力でも無い限り有り得ないだろう。

 絶対破壊の一撃を轟は床の調子を確かめる様に軽く足で叩いた。

 

『虚閃』

 

  

 

 

 

 




魂の強化で此奴の強化は終了です。
技名は思いつかない。
劇場版普通に良かった。
シンジからちゃんと乙骨に成ってたのは声優凄い。


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幕間あるいは展望

迷っているのでもしかしたら無かった事にします。


 話はハロウィン前日まで遡る。

 高専の何時もの地下室で五条悟と轟悟は向かい合う形で椅子に座っていた。

 夏油傑や特級関連の話なら二人きりなる必要は無いのに敢えて一対一の形での話の場を五条先生が設けた事に少し警戒をしていた。

(無下限を利用した結界まで張る辺り、厄介事確定だよな。)

 現在二人の周りには無下限を用いた結界がされており、中からの情報は外へと届かない。

 (五条先生がこれから話す内容は高専にも伊地知さんにも与田先輩にも話せないし漏らせない類の話、タイミング的に明日のハロウィンに関わる事だろうが、嫌な予感しかしない。

 何より五条先生が真面目な顔で黙り込んでるのが1番困る。)

 

「……。」

 

 地下室に二人が揃って暫く経つが、五条悟は轟を前にして考え込む様に口元に手を当てて動かない。

 普段からどんな場所でも笑みを浮かべて巫山戯ている人間が黙り込んでいる姿のはフリかガチかの二択であるが判断出来る程、轟は五条悟を知らない。

 故に轟も沈黙という待ちで対応しているが、やがて五条悟が口火を切らした。

 

「僕はさ、轟の事を結構信頼してるんだよね。

 実力については言わずもがなだけど、性格とかに関してもね。」

 

「…はぁ。」

 

「だからさ、僕が封印された時を前提に契約を結んでほしい。」

 

「…信頼とは?」

 

 轟は今の現状と自身を評価する口振りからの契約の申し出に思わず、異常者を見る目で五条悟を見た。

 

「五条先生が居なくなった途端に俺が裏切るとでも?」

 

 酷い信頼だと轟は思わず天井を見上げた。

 

「いや裏切る事は考えてないよ。

 でもさ、轟の解決手段って雑じゃん?」

 

「いや…まぁ、はい。」

 

 否定しようと思ったが、五条悟が封印された後の自分の行動を予想すると認めるしか無かった。

 

(封印されて暫くは事前に指示があれば従うけど、途中で『俺が命令無視しても誰にも止められないんじゃね?』って気付いて…まあ、そっから、うん。)

 

 雑などと言う話ではない。

 轟悟の基本的方針は『圧倒的勝利』であり、その原点はチート使って敵を潰すの楽しい!という幼稚な動機。

 故に最低の中の最低限のラインとして『勝利すれば良い』というラインが存在するが、轟の中で敗北条件は決まっていない為、『誰がどうなろうと俺がスッキリすれば良い。』という事になる。

 既に今回の一件については一般人への被害は免れず、呪術師業界への打撃も予想されている時点で轟の中での勝利条件はラインギリギリまで落ちている。

 故に仲間の命は無意識に勘定から外れている。

 例えば虎杖が宿難に成れば虎杖の体を粉砕するし、目の前に瀕死の仲間がいても、事態の収束という名のストレス解消を最優先にする。

 誰が死のうと仕方ない。

 心の中でそう処理して自分の欲求を満たす為に動くのは明白だった。

 

「まあ、単純に言えば僕の代わりに出来るだけ皆を助けて欲しい。」

 

「…まあ、それくらいなら。」 

 

「ま、僕が封印された後に乙骨憂太っていう君の先輩が帰ってくるだろうし渋谷の一件以降は二人で連携してよ。」

 

 乙骨憂太と轟に互いの面識は無いが轟にとっては先輩達との交流を通して朧げながらに知っている特級術師の一人。

 曰く、禪院真希の良い人で根っからの善人。

 そして五条悟が信頼する術師の中でも最強格の存在。

 

(なら渋谷以降は俺が好きに動いても良いのでは?)

 

 それとも、彼一人では対処出きない何かを予想しているのだろうか?

 どちらにせよ、仲間を守る程度の話なら、態々改めて話すことでは無い。

 というのが、轟の感想である。

 当日に言ってくれれば、流石の轟でも封印された後も遺言として意識位はするだろう。

 

(つまり、この話は前座の可能性が高い。)

 

「分かりました。

 『先生が封印されたら、皆を守るように動きます。』」

 

「うん、ありがとう。

 それじゃあ次が本題なんだけど。

 僕も只封印されるのも癪だから、嫌がらせをしたいんだよね。」

 

「確かに。」

 

「だからさ、轟に僕の眼をあげるよ。」

 

 五条悟は目隠しを外し、2つの眼で轟を見ていた。

 

「は?」

 

 轟の渾身の困惑顔をスルーして爽やかに話が続けられる。

 

「わざわざ封印なんてまどろっこしい事をするんだから、いちばんの嫌がらせになると思うんだよね。

 両眼無くすと流石にキツイから片眼だけね。」

 

「いや、何言ってるんですかマジで。」

 

 轟は予想を超えた提案に対して開いた口が塞がらない。

 片眼の譲渡というが、轟には既に眼が二つある為、轟も自分の眼を抉る必要があるという問題もあるがそれ以上に五条悟の眼が普通じゃない事を本人からの自慢で轟は知っていた。

 

「俺の術式なら他人の眼球入れても問題は無いかも知れないですけど、五条先生の眼は特別ですよね?」

 

「うん、特別だし僕の術式も刻まれているから移植した瞬間に頭がハジケ飛ぶかもね。

 でも轟が次の段階に進めば可能だと思う。

 多分、敵も望んでいるだろうから渋谷で会得出来ると思う。」

 

 次の段階というのは術式による魂への干渉の事だ。

 轟は術式の探求の為に五条先生に相談をし、魂のサンプルケースとして釘崎野薔薇の攻撃や改造人間の検死に立ち合う等の情報収集の結果、二人は自己の魂への術式干渉は可能であると結論を出していた。

 

「敵が望むってどういう事ですか?」

 

 寧ろ失敗を望んでいるのが普通ではないかと轟は考えていた。

 

「メカ丸から情報を貰った後に色々と考えたんだけど、何で今のタイミングで動くのか不思議でね。

 だって史上最強の術師である僕がいるのに不思議じゃない?」

 

「確かに。」

 

 向こうは体を奪って生きているなら、不老不死の様な存在である。

 何を企んでいるにせよ五条悟が存在している時点で計画が成就するのは不可能だろう。

 なのに何故この時代に動き出したのか。

 

「僕の学生時代に色々な事があったんだけど、結果的に天元様の同化が失敗してるんだよね。

 だから狙いがそれだと思って、直接確認したんだけど長生きしすぎて存在が呪霊寄りになってるんだよ。」

 

「天元ってあれですよね?

 結界のプロみたいな存在。」

 

「そ、不死の術式を持っているんだけど長生きしすぎて肉体が保たないから術式が無理矢理進化させてるんだよ。」

 

(術式による進化…か。

 俺の魂への術式干渉は予測としては魂の強化に肉体が引っ張られて肉体を通さずに強化出来る筈。)

 

「つまり、魂の強化についていけなくなると俺の肉体を術式が進化させる可能性が高い。

 そして進化先は呪霊寄りになるかもしれない。

 そうなると呪霊操術の適応範囲になり俺は夏油傑に近付けなくなる。」

 

「うん。

 多分、つるんでる真人とかいう呪霊を騙して轟に術式を受けさせて促す可能性が高い。」

 

「俺が魂への術式干渉を取得出来ても人間辞めないようにセーブする必要があるのは分かりましたけど、それと眼の移植に何の関係があるんですか。」

 

「魂の強化による肉体の強化は呪力に寄らない現象だから、肉体には呪力が流れない空の器って事だから僕の眼と術式の受け皿に成る筈だし強度も充分だろう。

 片眼だから完全に機能はしないかもしれないけど、それでも向こうに対する牽制としてはデカいでしょ。」

 

「いや、でも俺も片眼無くすんですよね?

 嫌ですよ流石に。」

 

「でも僕が封印された後に皆を助けるには必要だと思うよ。」

 

「そうですけど、痛そうどころの話じゃないですよね?」

 

「契約による譲渡なら拒否反応も少ないと思うよ。

 後、拒否権無いから。」

 

「え?」

 

「『五条悟は封印された時の轟悟の行動制限への契約の対価として片眼を轟悟に譲る。』」

 

 五条悟が先程の轟の宣言に対する対価という形で片眼を譲る事を宣言した途端、ズルリと五条悟の顔から左の眼球が外れた。

 その後、顔をから落ちた眼球を右手で受け止めながら、左手を顔にかざして反転術式を行ったが失われた目は戻らず空洞のままだった。

 

「うんオッケー。

 僕の眼は呪物に近くてこのままでも腐らないから、このまま持ってて僕が封印されたら嵌めてね。

 じゃ、硝子の所行って義眼もらってくるね!」

 

 まるで、いらない小銭を押し付けるかのように轟の手に己の眼球を一つ握らせて五条悟は地下室を後にした。

 残ったのは轟悟と手のひらにある眼球が一つ。

 手のひらの眼球と目が合うという貴重な経験をしながら一連の今の流れに途方に暮れていた。

 

「えー…。」

 

 




というわけでこれから轟弱体化します。


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残存生略

イキテマス


 一般人なら彼を焼死体の仮装だと思うかもしれない。

 医者ならなぜ生きていると驚愕するかもしれない。

 そして呪術師なら、身に纏う呪力に対して警戒するだろう。

 今の七海健人は死人に近い。

 今現在、夢遊病の様にふらつきながら大鉈で改造人間を屠っているが、本人は自分が何をしているかはっきりと理解出来ていない。

 呪いに焼かれ片目を失い、半身も焼けた。

 咄嗟に呪われた事実を受け入れる事で抽出した呪力で無理矢理体を動かしている。

 そうしてフラフラと一人でも多くの道連れを作る為に歩いていると、誰かに抱きとめられた。

 

「呪力が凄いことになってるから元気だと思ったけど、ギリギリじゃないですか。」

 

「…ああ、無事でしたか轟君。」

 

 抱きとめられた事で意識を取り戻した七海が残された片目で抱きとめた誰かを確認すると轟悟であった。

 

「…火山頭の特級に…真希四級と禪院特別一級…が…襲われまし…た。

 私…は無事なので…そちら…を優…先して、く、だ…さい。」

 

 他者へ反転術式を使えないが轟悟の術式なら、肉体を強化する事で最低でも天与呪縛を受けた禪院真希なら助かる筈だと判断しそちらを優先させようとするが、返ってきた反応は溜息だった。

 

「はぁ全く、真希先輩も老人も助けました。

 次は七海さんですよ。」

 

 呆れながら、轟が術式を発動させて行くと七海は自分の体が楽になるのを感じた。

 

(いや、これは術式だけではない?)

 

 焼けてない半身への強化だけでなく、焼けた半身にも反転術式による治癒を感じたのだ。

 

「うわ、この火傷と呪いを縛りにしてるから呪力が漲ってるんですか。

 治療の邪魔なんでさっさと縛り破棄してください。」

 

「いえ、今の状態の方が今夜は戦力になります。

 今ので大分楽になっ、た、ので…。」

 

 轟の治癒によって数刻の余裕が出来た七海は縛りの出力が落ちない程度の状態を維持する為に、治癒を止めさせようと轟を見るが、その姿に言葉を失った。

 轟の片目は六眼に成っていたからだ。

 

「…轟君、その目は?」

 

「ああ、五条先生から事件前に貰ったんですよ。

 入れる時滅茶苦茶痛かったし、無害だとか言ってた癖にガンガン侵食してくるしで便利な反面でクソですよこれ。

 ま、お陰で他人に反転術式使えるようになりましたけど。」

 

 侵食と言われて、改めて轟の顔を見ると確かに瞼や眉が五条悟の様に白く成っていた。

 轟の言い分が正しければ今も六眼からの侵食を食い止めながら他者へ術式と反転術式を使用している事になる。

 術式と反転術式の同時使用でも難易度が高い技術であるのに加えて、恐らく特級クラスの呪具の侵食を抑える事が出来るのは人の業ではないと七海は現実逃避したくなった。

 

「取り敢えず、七海先輩がこれ以上体張る必要ないんで寝ててください。

 大丈夫です。

 今の俺は無敵以上なんで。」

 

 そう云う訳には行かないと応えようとしたが、言葉が喉から出てこなかった。

 それほど迄に今の轟は完全なのだ。

 受け継いだのは爛々と輝く六眼だけでなく五条悟本人の術式も受け継いでいると自信の満ちた姿に確信が持てた。

 

(『今の』と言うことは何かしら制限があるのでしょうが、成程、不完全であるが故に完全であると。)

 

 七海には轟悟の姿に五条悟の強さが重なって見えた。

 完全に理解できない向こう側の領域に居るのは間違いなかった。

 

「…ええ、その言葉は嘘じゃないんでしょうね。

 わかりました。

 今は任せます。」

 

 七海の意識が落ちると同時に纏っていた呪力が消失する。

 轟は抱きかかえながら治癒を進めていく。

 

(取り敢えず、呪いはかなり洗い流したし肉体も最低限は処置したけどこれ以上はプロに任せるしかないか。)

 

 七海の状態は3人の中で一番酷かった。

 禪院真希は肉体が頑丈な為、比較的マシであったし禪院直毘人は自身の肉体を守る事に全呪力を使った事で瀕死の重傷で収まっていた。

 火傷の被害で言えば、七海健人が一番酷いのに生存ではなく呪術師としての責務を優先して無理矢理に呪力で体を動かした為、轟が駆けつけなければ数分で死んでいたに違い無かった。

 

「よっと。」

 

 七海を抱えた轟は家入の下まで跳んだ。

 既に多くの補助監督や術師も数名運ばれており、戦場と化していた。

 空いているベッドに七海を寝かせると即座にスタッフの一人が駆け寄って容態を確認し、半身が焼けた姿にすぐさま見切りを付けようとしたが運んできた人が轟悟である事を知ると家入硝子を呼びに走っていた。

 

「次は誰だ。」

 

 この戦場における最強たる家入硝子は既にその白衣を多くの返り血で染めていた。

 

「七海先輩。

 大雑把に呪い祓って治癒しましたんで後は頼みます。

 真希先輩は?」

 

「…これなら、ギリギリ何とかなるか。

 良くやった轟。

 真希は心配しなくていい、禪院家の当主の命は繋いだ。」

 

「真希先輩の無事ヨシ!

 じゃ、後は頼みます。」

 

 

 

 

 




短いけど書きたいシーンを書いてくスタイル。
時系列とかは後で頑張って整合性取るよう努力はします。


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最強と最凶

筆がのったけど書き直すかもしれません。


 七海を届けた後、轟は渋谷を見下ろしていた。 

 

「ラッキー、火山頭と宿儺が居るじゃん。

 建物の中だけど一般人は居ないから良いよね?」

 

 轟の左目には宿儺の呪力と漏瑚の呪力そして二人の呪詛師らしき呪力を捉えていた。

 轟の言葉に反応するように左目が疼き、呪力が轟へと流れていく。

 

(前方に『順転』、後方に『反転』で人間パチンコ完成っと。)

 

 前方の空間を収縮させ、後方の空間を拡散させる事で轟の体は一瞬で建物を穿って目標まで届いた。

 

「やあ、寄生虫。

 さっさと宿主の中に戻りなよ。」

 

「ほう、ここまで化けたか。」

 

 轟が降り立ったのは宿儺と漏瑚の間。

 漏瑚と呪詛師である二人の少女は突然の出現に目を見開き、顕現した宿儺は轟の状態を見て笑みを浮かべた。

 

「あっ、先に『こっち』かな。」

 

「!?」

 

 轟が此方をチラリと振り向き目線があった瞬間、漏瑚は本能的に逃走を選択し跳躍をする前に体が弾け飛んだ。

 

(何だ?

 何が起こった?

 それよりも、何だコイツは?)

 

 頭一つで宙を舞いながら漏瑚は考えた。

 己の体が何故弾けたのかよりも、自分と目があった怪物について考えた。

 目を見た瞬間に己の死を理解した。

 五条悟は封印され、呪霊の時代がやってくる筈だった。

 

(なのに何なのだこれは!?

 そもそも轟悟はまだ結界内の筈!

 話が違うぞ!!) 

 

 五条悟には獄門匣を使い永久の封印を施し、轟悟に対してはこの日限定の封印が施してある筈だった。

 実際にどちらも成功したからこそ彼等は動いたのだ。

 だが目の前には轟悟と五条悟を掛け合せたかの様な怪物がいる。

 話が違うどころの騒ぎではない、作戦実行前の方がマシではないかと錯覚するほどの状態である。

 轟悟は現状、六眼の侵食を抑える為に魂の術式強化を防御や耐久に振っておりその肉体の破壊は困難を極め、その身体能力は通常の天与呪縛の比にならないスペックでありそれだけで特級を圧倒する事が出来る。

 その上で五条悟の術式、無下限術式と六眼を持ち合わせているのだ。

 機動性、防御性、攻撃性どれをとっても渋谷で並ぶものは一人も居ない。

 

(どうする!?

 …いや、無理だ。

 …儂はここでどうあがいても死ぬ。

 すまぬ、真人、花御、陀艮…!

 しかし、一矢報いさせてもらうぞ!!)

 

 漏瑚の頭が赤く輝く。

 命を掛けて爪痕を残そうと己の全てを持ってこの場を消し飛ばさんと呪力を滾らせる。

 それは自然と命をかけた縛りとなり膨大な呪力が熱となって周囲を焦がしていく。

 爆発直前の漏瑚の頭は小さな太陽の様であった。

 

「覚悟!!

 轟悟ゥ!!!」

 

 轟への呪詛と共に漏瑚の全身全霊を懸けた一撃が放たれた。

 本来なら轟悟に届かずとも周囲を消滅させて特級呪霊の驚異を知らしめる筈の一撃。

 しかし、漏瑚の最後の輝きは誰にも届く事は無かった。

 隣にいた二人の呪詛師も火傷の一つも負わず、建物も一切焼けた痕跡は無い。

 追い詰められた漏瑚は気づけなかった。

 自身の周囲に既に無限がある事を。

 

(自爆で手間が省けたな。)

 

 漏瑚の自爆を眺めて、再び轟は宿儺へと顔を向けた。

 

「さて、次はお前だ。

 虎杖悠仁の中に戻るか死ぬか、選べよ。」

 

「面白い、あの術式の持ち主がこのように化けるとは封印された甲斐があったというものだ!」

 

 面白いものを見たと言わんばかりに笑みを浮かべながら宿儺は轟悟と相対した。

 

(小僧を絶望させてやろうかと思ったが此方の方が面白そうだ。)

 

 宿儺の顔に轟の拳が入る。

 最初に動こうとしたのは宿儺だったが、一撃を与えたのは轟だった。

 領域展開をしようと印を組んだ宿儺に対して、轟が肉弾戦による圧倒を選択した結果であった。

 

「軽いな。

 …!」

 

『術式反転 赫』

 

『解』

 

 拳を額で軽々と止めた宿儺を術式反転で吹き飛ばそうとする轟に対して、斬撃で腕を切り飛ばそうとした宿儺。しかし轟の腕には傷一つ付けられず宿儺はゼロ距離で赫を喰らいビルの壁を突き破り渋谷の街を飛んで向かいのビルへと叩きつけられた。

 

(よし、赫の反動は後方に無限を展開すれば殺せるな。

 肉体への反動自体も耐えられる。)

 

 肉体の調子を確かめた後、術式を使って宿儺へと一直線に跳んでいく。

 既に六眼で宿儺を捉えており、一分の狂い無く蹴りを叩き込んだが、そこに宿儺は居なかった。

 

「チッ!

 呪力による囮かよ!」

 

 横から伸びてきた宿儺の腕に首を掴まれて地面に叩き付けられる轟。

 

「お返しだ。」

 

『捌』

 

 宿儺の通常の斬撃である『解』を万能包丁に例えるとすれば、『捌』は専用包丁。

 対象の呪力や強度に対して最適な刃で敵を斬り殺す技。

 それなりの呪力を込めたそれを先程のお返しと言わんばかりに轟の首へとゼロ距離で叩きつけたのだ。

 

「ガハッ!

 あー、ギリギリっ!」

 

 宿儺の刃はギリギリで展開した無限によって喉を半分裂いただけで留まらせて、赫で吹き飛ばしながら宿儺を睨みつける。

 

「ペッ。」

 

 既に喉の修復を終えて、血を吐き出す。

 

(赫の攻撃は拡散による打撃に近い。

 内臓グズグズが精々か。

 にしてもやっぱりぶっつけ本番で術式に慣れないな。)

 

 一方、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた宿儺も内蔵を修復させながら轟が術式に慣れていない事を見抜いていた。

 他者から見れば互いに異次元の領域での応酬だが、本人同士は術式の調整と復活の度合いを確かめており、戯れているような感覚であった。

 そもそも轟は虎杖悠仁の生存を信じ、宿儺は完全復活までの戯れとして『殺す気では無いけど、結果的に死ねば其処までの存在。』として互いを認識している部分もある。

 

(奴があの術式をモノに出来ているなら、俺は触ることすら出来ぬはず…。

 手を出すのが早かったか…。)

 

 宿儺が自由に振る舞えるのは多数の『指』を取り込まされた影響で一時的にオーバーフローしているだけであり、宿儺でさえ何時宿主の虎杖が目覚めるか分からない。

 

(仕方あるまい、現状の底だけでも見ておくか。) 

 

 己に追いついてきた轟が印を結ぼうとしている宿儺を見て即座に阻止しようと術式を発動する。

 

『術式順転 蒼』

 

「甘いぞ。」

 

 宿儺の左右に展開された無下限による吸い込みで強制的に右腕と左腕が引っ張られ捻じ曲げられ絞り上げられたが、宿儺は膨大な呪力によって強引に腕を直し引力に抗い印を結んだ。 

 

「領域展開」

 

『伏魔御厨子』

 

 領域を展開した瞬間、無数の斬撃が絶え間なく轟悟を襲った。

 

(ほう、俺の領域の特性を見抜き術式で結界を張ったか。)

 

 轟は宿儺の領域が閉じないことを六眼によって見抜いて即座に無下限による結界を周囲に展開することで、周囲と自分達の距離を無限に引き伸ばすことで宿儺の領域の影響を最小限に留めた。

 

(終わらないなこれ。

 にしてもどうするかこれ。)

 

 轟は自身へ襲いかかる斬撃を結界を維持して受けながら終わりの見えない状態の解決法を考えていた。

 宿儺の領域展開は宿儺の呪力量からして平気で数時間の展開も余裕だろうと推測した轟。

 斬撃の内『解』は肉体の強度から考えて無視しても問題ないが、轟に特化した斬撃である『捌』は無下限術式で防がなくてはならない。

 

(いくらでも付き合えるけど、それは悪手。

 向こうは呪いの王、領域展開だけが手札ではない筈。

 問題なのは今の俺は領域を使えない事だよな。

 それに、もし領域を使えるとしても質で負ける。)

 

 肉体と魂で2つの術式を持っている轟は弊害として生得領域の構築が不完全であり現状、領域展開が行えない。

 となると轟の手札は後一つ。

 

(よし、吹き飛ばそう。)

 

『術式順転 蒼』

 

『術式反転 赫』 

 

 それは五条家の秘中の秘であり、六眼と無下限を持つものにしか許されない理不尽。

 収縮する無限と拡散する無限を重ねる事で放たれる架空の質量による絶対の一撃。

 轟個人が五条悟から聞いた中で最も自分と相性が良いと思った技。

 

(要するに虚閃だもんな。)

 

『虚式 茈』

 

 架空の質量が宿儺へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現状の身体能力は耐久以外は伏黒パパクラスで耐久に関しては滅茶苦茶に堅いです。

この話は改めて術式やらの宿儺の戦闘スタイルが分かったら書き直すかもしれません。


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無限と増殖

お久しぶりです。
最近、ワートリが個人的にあつい


「カハッ…」

 

 血を吐いたのは轟だった。

 右腕は万力に絞られたかの如く潰されて、ひしゃげていた。

 反対に左腕は内側からいくつもの風船が詰め込まれたみたいにボコボコで歪んでいた。

 

(やっぱり、完全に掌握できた訳じゃないか。

 目もズキズキするし。)

 

 無下限術式を使用した代償が体全体に現れていた。

 肉体に術式が根付くより前に術式を運用した結果、全身に無限による拡散と収縮の反動が発生していたが、魂を強化した事による肉体の強度と治癒によって無理矢理抑え込みながら戦闘を行っていた。

 両腕がひしゃげているのは『茈』を放つ事を優先し、高純度の順天と反転を行使し治癒に呪力を廻せなかったのもある。

 

(しかも敵生きてるし。)

 

「いいぞ、退屈凌ぎと思っていたがここまでの強者とは。」

 

 右半身の欠損。

 轟が与えたダメージだが、宿儺は生きていた。

 片腕片足、顔の半分近くを無くしていても宿儺は焦りを見せず悠々と肉体を再生させていた。

 

(これが呪いの王か、かなり呪力減ってる筈なのに底が見えねぇな。)

 

 茈によって吹き飛ばされて奇麗になったビル群に月明かりが差し込み宿儺を照らす。

 

「で、ラウンド2と行くか?」

 

 宿儺と同じく全身の治癒を終えた轟の目は爛々と輝いていた。

 轟のダメージは自傷によるモノで宿儺は回避したといえ右半身を消し飛ばされた。

 宿儺の手札がこれだけなら、この場で祓える自信が轟にあった。

 

「いや、やめておこう。小僧もそろそろ目覚めるだろうしな。」

 

 宿儺は己の指が先程から意思とは無関係に僅かだが動き出しているのを感じた。

 

(右半身の欠損と修復でかなり呪力を使ったか…予想よりも戻ってくるのが早いな。)

 

「ならさっさと引っ込めよ、寄生虫。」

 

「貴様も似たような者だろうが。」

 

 互いに悪態を付いていると、宿儺が目を閉じた。

 

「轟…!

 ってあれ、何で半裸なの俺!?なにこのズボン!?」

 

 独特の紋様が無くなり、目を覚まして先ず己の姿に驚いた虎杖に思わず笑ってしまった轟。

 

「よお、おかえり。」

 

「あ、そうだ!

 状況は!?

 てか、目どうしたんだ轟!?

 それより皆は!?」

 

「あー、そういうのは後でにしろ。

 取敢えずお前は結界の外に出とけ邪魔だから。」

 

 自分が全裸に近い状態で有る事や、周囲の建物が壊れている事等の気絶してる間に起きた様々な事に驚いている虎杖をスルーし、轟は現状の把握を行おうとして諦めた。

 

(…だめだな。

 馴染む前に術式を使って眼そのものがショートしてる。

 眼の回復に数分、無下限術式はもうちょっとかかるな。

 宿儺相手にはしゃぎ過ぎたか…。)

 

 未だに血が流れる左眼を抑えながら、己の失策を恥じる。

 無下限術式と六眼の試運転のつもりで宿儺に挑んでいたが、思いの外、善戦できて真面目に戦ってしまった。

 

(まあ、術式が全身に走ったから完全に馴染むまでの時間が多分減った分オッケーとして後残ってるのはツギハギと寄生虫、後は受肉した呪霊一匹と呪詛師が数人といった所か。)

 

「虎杖!

 お前は高専の術師と合流して結界の外へ逃げとけ。

 いいか、高専以外の術師とは合流するなよ!」

 

(五条先生が封印された今、虎杖を生かす理由が術師界には無い。)

 

 己の上着を投げ付けて命令を下し残りの危険存在である、真人と夏油傑を祓う為に歩き出し、その背中に虎杖の声が届く。

 

「待て、俺も行く!

 真人なら俺が適任だろう!?」

 

「魂の知覚は俺でも出来るようになったから要らん。

 それより、直ぐに処刑されないように高専の人間と合流して終わった後の事を考えてろ。

 丁度よく伏黒も来たな。」

 

 二人の頭上を影が照らした。

 伏黒が鵺と共にやってきたのだ。

 

「コレをやったのは宿儺と轟か?」

 

 伏黒の指摘するコレとは渋谷の現在の惨状の事であった。

 ビルからビルに互いを叩きつけ合いながら争った結果、幾つかの建物が倒壊し最後に放った茈はいくつもの建築物に大穴を空けていた。

 破壊の中心に虎杖と轟が居る時点で伏黒は宿儺が暴れたと推測したのであった。

 

「ほとんど宿儺だ、抑えるのに苦労した。」

 

 轟は全てを宿儺のせいにした。

 虎杖は宿儺が舌打ちした気がしたが無視した。

 

「伏黒は取敢えず虎杖と釘崎も回収して逃げろ。

 いや、五条先生が封印された今だと結界の中が安全か。

 取敢えず釘崎はアッチの方向に居るから合流して3人で行動しろ。」

 

 轟は釘崎が居るであろう方向を指さして二人に対して背を向けた。

 虎杖と伏黒はまだ言いたい事や聞きたいことが有りそうだが、宿儺を抑えたという事実を前に一歩引いた。

 この非常事態で術師最強なのは轟であるからだ。

 

「…後で色々聞かせろよ。

 行くぞ虎杖。」

 

「…轟!

 サンキューな。」

 

 伏黒は事態の解決を優先し、虎杖は宿儺を止めてくれた事に感謝を残して鵺と共に飛び立った。

 轟は振り返らずに一点へと向かう。

 六眼が回復して直ぐに気付いた異常。

 

「どういう手品だおい?」

 

 轟が目指した地点、スクランブル交差点には大勢の真人が立っていた。

 

「「アンタのお陰だよ!!!」」

 

 轟の返答に対して数百の真人が興奮を隠せず返答し、轟の近くにいた数人が正の呪力によって吹っ飛ばされた。

 …吹っ飛ばされたのだ。

 呪霊である真人が。

 轟の眼の前には体がひしゃげて血が吹き出し倒れ込んだ複数の真人が映っている。

 六眼も眼の前の存在が真人である事を告げている。

 

「アンタが俺に教えてくれたんだ。」

 

 一人の真人が呟く。

 

「その目、五条悟から貰ったんだろ?」

 

 瓦礫に座った真人が呟く。

 

「その眼には魂が宿っている。」

 

「小さいとはいえ、2つの魂が人の体に入っているのに死なない。」

 

 ポツポツとニヤニヤと真人達が喋りだす。

 

「二つの術式を使いこなせる、その姿を観察したんだ。」

 

 魂の領域に関しては真人は轟の上を行く。

 

「気付いたんだ。」

 

 真人の嗤いが止まらない。

 

「眼の魂に呑まれないで抵抗出来るなら、逆も出来るよね?」

 

「…テメェ、やりやがったな。」

 

「「「そう、全部俺さ!」」」

 

 人を改造し続けた真人だから気付いた新たな可能性。

 やることは簡単だった。

 一般人の魂に自分を埋め込むだけ。

 埋め込む際に真人に適合する形にすれば、自然と魂は真人に染まる。

 呪霊の魂の質と一般人の質では話にならない。

 植え付けられた人間は魂が呑まれて真人になる。

 その結果がこれだ。

 地下に居た生き残りで試して成功してしまった数百の受肉した真人が轟の前にいる。




敵にもテコ入れ。
ちょっと今時系列確認できないけど、話の流れは多分大丈夫。

侵食を防げたり、虎杖みたいに魂が同居するなら魂を侵食してもよいよね?


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溜息

誤字修正や感想は助かってます。


 他者の魂を侵食することで自己増殖する新たなる業は真人の生存確率を格段に引き上げた。

 既に何十人かは両手を鋭くさせたり、足の形が草食動物の健脚になっている為、どうやら術式も使えるらしい。

 他者を喰らい増殖する呪いへと真人は化けた。

 

「だる。」

 

 そして、ノーモーションで放たれた無下限術式の順天「蒼」により発生した引力によって潰された。

 更に無下限術式の反転『赫』が数十の真人を吹き飛ばした結果、ビルに沢山の赤い染みが出来た。

 

「受肉したって事は普通に死ぬって事だよな?」

 

 轟は真人の群れに突撃、片手で眼の前の真人の頭を握り潰し、もう片方の手で隣の真人の首を刎ねた。

 蹴り潰したり胸を貫いたりしながら更に数十の真人が死んだ。

 真人もただ殺られる訳では無い、姿形を変えて徒党を組んで轟へと向かっていた。

 全てが真人であるから肉体を繋げて巨大な拳を放ったり、頭を潰されたら別の真人が自身の体の一部を頭にして繋げる事で復活させたり、欠損した真人がバラバラに砕けた真人で肉体を補う。

 地上にいる真人だけではない、地下にも大勢の人がまだ生存し轟が真人を殺すより早く新たな真人へと新生していく。

 全てが同じ魂を持つ異常の受肉体は幾ら殺しても数が増すばかりであった。

 

(キリがねぇ。)

 

「どうした轟ィ!?

 手を休めている暇があるのかい?

 どんどん俺は増えていくよ?」

 

 無下限術式と強化された肉体をフル稼働して真人を殲滅するが足りない。

 中途半端に殺しても効果はない為、存在を維持できない様に一片残らず殺さくてはならず、どのような場合でも丁寧な作業は時間がかかる。。

 

「砕けちった肉体も俺なんだよ?

 ほぉら!!」

 

 肉片を残す位に中途半端に殺すと、肉片に別の真人が触れて肉片に宿る魂でツギハギの生き物を作り出す。

 それは爬虫類や昆虫、小動物へと姿を成して渋谷中へ拡がっていく。

 

(渋谷から出したら不味いか…

 まて、何故まだ渋谷に留まってる?)

 

 真人が一人、あるいは一匹でも逃がせば明日は無い。

 微弱な呪力しか持たない一般人だけでなく二級クラス以下の術師すら怪しい。

 日本国民全てが真人と成れば日本は終わり次に世界も終わる。

 真人はもはや世界の危機である。

 だからこそ轟は分からなかった。

 轟の知覚と六眼で調べる限り真人の総体はまだ渋谷にいる。

 眼の前にいる数百の真人以外にも多くの真人が渋谷中に拡散されているが、一人も渋谷から外に出ていない。

 

(縛り…?

 違うな、真人にとって魂の汚染は難しい話じゃない。)

 

 宿儺の線も考えたが、六眼で視たかぎり虎杖達の周囲に真人は居ない。

 逆に最も真人が存在するのは轟の周りである。

 故に、目的は轟にある。

 轟はふ、と己の腕を見た。

 真人を潰している己の腕にはヒビ割れた古傷が幾つも走っている。

 本来の術式とは違う無下限術式を付与された呪力によるダメージによって出来た傷。

 

「なるほど、俺に無下限を使わせたいのか。」

 

 真人は轟の魂の状態を

 

「あ、ばれた?」

 

 轟が己の狙いを看破した事を理解した真人の九割は一斉に渋谷の外を目指した。

 真人は轟の魂の状況を轟以上に理解している。

 

(魂を強化して侵食を防いでるつもりだけど、完璧じゃない。

 術式を使用させてズレている間に肉体にダメージを与えるのは失敗、失敗。)

 

 無下限術式を帯びた呪力は轟の体にとってまだ異物である。

 現在、轟は術式を使用した際の全身へのダメージを魂を強化する事で肉体の強度を上げて対応している。

 

(術式の呪力で傷付いた体を治す際に六眼の呪力を取り込んでるから、上手く行けば肉体と魂が乖離して殺せると思ったんだけどな。)

 

 術式の呪力は六眼の呪力でもあり、傷つけられた肉体は六眼の呪力による汚染で少しずつ六眼に肉体の割合が阻まれていく。

 故に無下限術式を多く行使させる事でバランスの破綻を狙って断続的に攻撃を行っていた。

 

「あの感じだと2日くらい攻め続ければ暴走したのにな〜。」

 

 次のプランの為に1割の真人が轟を攻め続けて、残りの真人は渋谷から四方八方に逃走を図っていた。

 呪霊達の『呪霊が人類に取って代わる』という目的達成の為には、轟と無下限が邪魔なのは変わりない。

 故に不安定な状態の今の轟を崩すのがプラン1ならばプラン2は『延命と研究』である。

 方法はシンプル。

 全国で自分を増やして増やしまくるだけ。

 自己増殖と逃走を同時に行い、潜伏し自己増殖の研究を行う事がプラン2の目的である。

 真人自身、人を使った自己増殖方法自体は確立したが『数百人の真人なら何が出来るか。』については未知数である。

 

(俺が百人いたら何が出来るかな?

 轟みたいに術式を俺にしたら術式貰えるかな?

 真人同士で子供作ったらどうなるのかな?

 ああ、ありがとう轟!

 楽しくてしょうがないよ!!)

 

 真人は自己に対する新たな好奇心に興奮を隠せなかった。

 

「「いざ、全国へ!」」

 

 




受肉した結果物理的に殺す事が可能になったけど、肉体は質量保存の範囲内なら自在に変えられるし、触れられたら負けのクソゲーは変わらないというね。

ちなみに、増殖した真人はそれぞれ自我を持っでますが本質が呪霊のため善性に目覚めることはナイです。


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呉越同舟

ブギウギって元ネタあるんすね。


「仕方ない、手を貸そう。」

 

 手元の籠で暴れている鳥の姿をした真人を眺めながら、夏油もとい羂索は轟悟に手を貸すことに決めた。

 と言っても帳の条件を『真人だけを外に出さない。』に変えただけだが。

 羂索としても次の計画に進むためには真人の術式が欲しいが、真人そのものは要らないし、帳の変更で羂索が裏切った事を察した真人が百人来ようと今更問題ない。

 本来の計画では虎杖悠仁への殺意を高め戦わせる事で弱体化させて取り込む算段だったが、轟悟という虎杖悠仁の上位互換と言っても良い存在のイレギュラーの出現で計画は破綻した。

 

(轟の進化を促して、真人を捉えやすい形にしたのは良いけど、まさか片目を預けていたとはね…。

 五条悟の劣化とは言え、放置すれば計画に支障が出る。

 いや、彼はまだ若い。

 政治で縛り付けるか?)

 

 現在の轟悟の状態は呪術師達にとっても、非常にイレギュラーな存在。

 無下限と六眼が移植出来たという事実だけでなく、全く血筋が違う存在が使いこなす時点で古い存在程、面白くない反応を示すだろう。

 

(この騒動自体、五条悟に責任を負わせるし高専を人質に取れば派手な動きは見せられない。

 仮に暴走した所で、所詮劣化な時点で方法はある。)

 

 所詮、人間である轟悟と今なお増え続ける真人なら今すぐに対処すべきなのは真人である。

 

「それに術式そのものは確保済みだし。」

 

 羂索は足元の小さな鳥籠に入ったツギハギの真人を見て微笑む。

 増殖を成功させる前の真人の失敗策である、鳥の真人は術式を持っているが扱う知能が無い。

 こういった失敗策は幾つか存在したが、真人が許さず処分した内の一体を密かに確保したのだ。

 手のひらを向けて術式を行使すれば簡単に呑み込めた。

 

「取りこんで事を起こそうにも、真人が増えすぎて影響が出るかもしれないし早く処分したまえよ轟君。」

 

 術式の確保という目的を果たした羂索にとって、現在の懸念は大量の真人のみ。

 

 

 それと、羂索とは別に真人に対して行動を開始した者がもう一人。

 

 『赤血操術 百歛』

 

 圧縮された血液が真人の体を穿つ。

 特級呪霊であり受肉体である腸相の呪血はまたたく間に真人の肉体を汚染し腐敗させた。

 

「ひどいなぁ。

 俺達仲間だろ?」

 

 別の真人がニヤニヤと煽るが激怒した長男は止まらない。

 

「黙れ…!

 お前に弟は殺させんぞ!!」

 

 腸相は虎杖との対決の後、虎杖を末弟と認識した。

 加茂憲倫によって生み出された者、長男として新たに生まれた虎杖悠仁は守るべき存在。

 故に、真人は敵である。

 増殖している事は厄介だが、受肉してるのであれば腸相にとって殺すのは簡単である。

 腸相の真骨頂は赤血操術ではなく『猛毒の血』と『呪力の血液変換』の二つであり、尽きる事無い猛毒と受肉した真人の相性は最悪である。

 既に虎杖悠仁を守るべく気配を一直線に向かいながら、二十人の真人を殺している。

 

「お兄ちゃんが行くから待ってろよ!!

 悠仁ィ!!」

 

「うわっ…

 急に寒気が…」

 

「馬鹿な事言ってないで集中しろ!!

 今だ釘崎!!」

 

 釘崎と合流した虎杖と伏黒は連携して真人の対処に当たっていた。

 最初は虎杖をサポートする形で立ち回っていたが、受肉体であると分かってからは伏黒も攻撃に参加していた。

 触れられればアウトだが、式神を全面に出しつつ、影を手足に纏わせる事で対処していた。

 

「よっしゃあ、準備出来たぁ!

 喰らえや十万円!」

 

 伏黒が影で縛った真人に札束と釘が打ち付けられると周囲の真人が同時に崩れた。

 釘崎野薔薇は3人の中で最も活躍していた。

 釘崎の術式『皺霊呪法』は魂に関する術式であり、同一の魂を持つ真人の軍勢に対して同時にダメージを与えられる。

 対象とする真人の数と金銭を捧げる縛りで、複数の真人を同時に殺していく。

 

(アイツの指摘で強くなったのがムカつくけど、一度にぶち殺せるのは気持ちいいわね!!)

 

 ある日の授業で釘崎は轟から術式に関して指摘された。

 

『釘崎の術式が弱いのって、呪力だけで呪ってるからじゃね?』

 

 指摘された瞬間、釘崎は自分の術式を弱いと言われて激怒しトンカチをフルスイングしたが、後々言われてみれば確かにそうだと思い色々試した結果、己の価値ある物を犠牲にする縛りとして、金をぶっこむ事にした。

 お金は大事だが、呪霊をぶっ殺せば金は手に入るのだから。

 

『皺霊呪法 金色打法』

 

 釘崎の新たな技は今回の戦場でこの上なく輝いていた。

 




感想欄の指摘通り、真人群団に対して一番相性が良いのは釘崎だけど数が多すぎて分散されるので数を絞って対処してます。


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呉越同舟2

お久しぶりです。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしく。
好きな二次創作が久しぶりに更新されたのでこちらも少し更新します。


 釘崎野薔薇の新たな技である『金色打法』は従来の鄒霊呪法に釘崎野薔薇にとって価値があるものを消費するという縛りを重ねる事で威力を増加させる技である。

 古今東西、誰かを呪う際に生贄を捧げるという行為はポピュラーであり珍しい事ではない。

 しかし、釘崎は自身の呪力を消費して呪いを放つだけで呪霊に対して充分に通用していた為に気付かなかった。

 あるいは、釘崎が順当に視野を広げて教養を身に着けた上で窮地に陥れば思いついた可能性があるかもしれない。

 そんなある日、組手の休憩中の雑談の中で『防御無視だけど威力が弱い一発芸みたいな呪術』と思っていた轟は指摘した。

 

「捧げ物無しの呪いって普通に考えたら弱くね?

 え、何その眼から鱗って感じの顔?

 もしかして、気付かなかったの?

 さすが、田舎育ちの山猿(笑)」

 

 釘崎野薔薇はブチ切れた。

 が、一理あるのも事実であった。

 さて、釘崎野薔薇にとって価値あるモノとは何だろうか。

 まず真っ先に思いついたのは『ダサい生き方をしない自分自身』という当たり前の答え。

 生き様を生贄にはできない。

 次に思いついたのは服やアクセサリー。

 クソッタレの田舎には無い流行りのアクセサリーや服は自分が都会へと抜け出せた証である。

 最初はコレだと思い轟を実験体に思入れのある服やアクセサリーを犠牲にしたが、威力はそこまで上がらなかった。

 轟曰く。

 

「服なんて所詮布切れだろ。

 流行りの最近買った服なんて価値があるのはお前が買うまでであって、買った時点から価値は下がるだろ。

 お前のお古とか変態しか高値付けねーよ。」

 

 釘崎は轟の呆れた物言いに、つい殺したくなったがアドバイスではあると、グッと堪えた己を称賛した。

 あーでもない、こーでもないと色々な私物を犠牲にした結果たどり着いた答えが『現金』であった。

 釘崎の稼いだ現金は釘崎の労働によって生まれたモノ。

 言い換えれば、血と汗の結晶であり寿命を捧げるとこで生み出した生産物。

 命を削って生み出した価値ある存在である。

 

「オラァっ!追加で十万円喰らえ!!」

 

 虎杖が抑え込んだ真人に十万円の札束と共に釘を叩き込むと、打ち込まれた真人と周囲の真人が同時に破裂するように死亡した。

 

「釘崎!

 あといくら残ってる!?」

 

「五十!」

 

「少な過ぎんだろ!!

 轟と一級案件回ったんだろ!?」

 

「こんな急にいると思わなかったのよ!!

 懐に百万あっただけ感謝しなさい!!」

 

 まあ、それはそれとして真人が多すぎるせいで間に合ってなかった。

 釘崎が現状の渋谷で轟を除いて二番目に真人をぶっ殺してるが、それでも周囲から真人は消えない。

 

「にしても、本当に胸糞悪いわねコイツら…!」

 

「…」

 

 虎杖は黙って真人を殴殺してる。

 真人は元となった人間の顔に戻りながら三人を襲っていた。

 老若男女問わず、多数の市民の助けを求める顔で声を上げながら襲いかかっているのだ。

 

「助けて」

 

「殺さないで」

 

「なんで?」

 

 殺人を自覚させるあらゆる人の声が3人の精神を削っていく。

 苦痛に歪む三人をみていると真人達は心がポカポカする。

 もっと間近で見たくて嬉々として三人へと顔を戻して襲いかかっていく。

 自分が死んでも替わりはいる。

 一人が生き延びれば、真人達の目標は達成される。

 だからこそ多くの真人は最も人間が苦しむ顔が見れる3人の元へと群がっていく。

 終わりの無い人殺しと勢いが増してく真人の群れに3人は心が折れそうになる。

 その時、3人の頭上に影が出来た。

 

「大丈夫か、悠仁ィ!!

 お兄ちゃんが来たぞ!!」

 

『赤血操術 百斂・超新星』

 

 無数の赤い棘が三人を囲う真人達に突き刺さる。

 

「チッ、邪魔すんなよ。」

 

 一人の真人が舌打ちをしながら倒れていく。

 脹相の血は人間にとって猛毒である為、棘の一刺しで真人達を即死させていった。

 

「……。」

 

 突然現れた虎杖の兄を名乗る存在の登場と目の前の真人の大群が一気に処分された事実に、三人は固まった。

 

 

 

 

 

 

 




短いけど取敢えず。

真人キルスコア的には一位 轟 二位 釘崎 三位 お兄ちゃん
お兄ちゃんが釘崎より稼げてないのは真人殺害より弟との合流を優先してるからです。

お兄ちゃん 呪術 で検索すると出てくるので助かります。


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呉越同舟3

おひさしぶりです。
本誌の動きが活発ですね。

番外編は1話より前に移動しました


 虎杖達は混乱の最中であった。

 終わりのない殺しの中で突如として現れた虎杖の兄を名乗る受肉した呪霊である腸相は虎杖が五体満足である事に安心した笑みを浮かべていた。

 

「アンタ東堂の他に兄弟いたの!?」

 

(虎杖は特殊な体だし、ありえる…?

 なら最悪、コイツを使って共鳴りを当てれるか!?)

 

 釘崎は最悪の手段として虎杖を介して腸相に共鳴りが当たる可能性を検討していた。

 

「居ねーよ!

 てかさっき殺されかけたよ!!

 後、東堂も他人だけども!?」

 

(俺の周りにこんなのばっか!!)

 

「巫山戯てる場合か!

 受肉した呪霊だぞコイツ!」

 

(十中八九高専から盗まれた、受胎九相図の一人…!

 仲間を二人祓われた事への報復か!?

 なら何で虎杖を兄弟扱いする…?

 訳わかんねぇぞ…!)

 

 三人の中で伏黒が最も混乱しており、釘崎が最も良い線の推理をしていた。

 

「安心しろ、いまお前達は俺の血で守られている。」

 

(いつの間に…!)

 

 腸相の言葉で三人は周囲に浮いている無数の棘に気付いた。

 三人を中心に海に浮かぶ機雷のように360度展開された血の棘は全て外側、即ち真人に向けられていた。

 

「俺の血は全て人間にとって猛毒、受肉した真人の弱点の一つだ。」

 

「普通の人間にとってもだろ…。」

 

「そうだな、だがお前達が悠仁の友達であるならば俺が攻撃する理由は無い。」

 

「いや、俺一人っ子だし。」

 

 三人を混乱に突き落とした最大の疑問点。

 受肉した特級呪霊である腸相が自称する虎杖悠仁の兄を自称するという事態だ。

 

「それは違うぞ悠仁。

 思い出せ、お前の父親か母親の額に縫い目があった筈だ。」

 

「いや、そういう話はじーちゃんとしたこと無いから分かんねーって。」

 

 虎杖の両親は物心付く前に他界しており、本人のさっぱりとした性格もあって執着もなく育ててくれた祖父から話を振られても興味を示したことがない。

 故に全く分からなかったが。

 

「…でも、なとんなくお前の言いたい事は分からないでもない。」

 

 呪術師になって色んな事を経験した虎杖は最近、自分の異常性に疑問を持つことはあった。

 呪力や天与呪縛と関係ない異常な身体能力や宿儺の器という特性。

 前者については『誰かを助けれるなら問題ない』として前向きには捉えていた。

 宿儺の器という特性も『処分できないゴミを纏めて処分する手段』であるとポジティブに考えていた。

 だが、その特性が何故自分に有るのかは偶に気になっていたが五条先生に聞いたが。

 

『さあね!

 いいじゃん、別に!

 才能だよ才能!』

 

 家入先生に聞いた時は。

 

『バラバラにしたら分かるかもしれないからやって良い?』

 

 とメスを構えられたので逃げ出した。

 

(ちょっとは爺ちゃんに話を聞いたほうが良かったかもな。)

 

 と思うときもあった。

 故に、目の前の受胎九相図の呪肉体の言葉に対して否定できない部分が心の中で目立っていた。

 

「…とりあえず、敵じゃないなら先ずはこの状況から抜け出すのに協力しろ。」

 

 伏黒は虎杖の否定しきれない態度を見て、腸相への警戒を後回しにした。

 

 

 一方その頃、轟は比較的近くに居たパンダと日下部と合流していた。

 

「よし、二人…いや四人か?

 魂は無事か。」

 

「お、おう大丈夫だけどお前は大丈夫なのか?」

 

 二人との合流の際に空から降ってきた轟は周囲一帯に無下限を展開し真人を圧殺、生き残った真人達も轟を見るやいなや退散し一時的な安全地帯となっていた。

 

「やっぱり触れたらアウトな感じか。

 …轟、その目になってるって事は五条の封印はダメそうか?」

 

 日下部は術式を持たずに一級術師に成り上がった強者であり、術式を持たない点を補う為、比較的呪術師として安全圏であろう教職という立場を失わない為に学んでいた。その培われた呪術に関する知識により、相対した真人の状態から『魂の汚染』という仮説を立てて全て斬り殺し対処しており、一方パンダはその特異性と肉体と魂が直接結びつかない綿であるため難を逃れてはいたがボロボロであった。

 

「やっぱり日下部先生も聞いてんだ?

 取り敢えず五条先生は後回しで今はウジ虫の処理でしょ。

 向こうの親玉も今の真人は処分したいみたいで帳の縛りが変更されてるし。」

 

「おい待て、降ろした帳の条件を変えるって天元様クラスの結界術じゃないかそれ…?」

 

 さらりと轟から持ち込まれた情報で日下部のやる気が下がった。

 一度降ろした帳の条件を変更する怪物的技量の呪詛師という事実は無視できるモノではない。

 

「取り敢えず帳の条件が変わったお陰で術師も外に出れるみたいだし、日下部先生とパンダ先輩は取り敢えず結界の外で五条先生の手筈通りに夜蛾学長と合流して政治の話をして下さい。

 禪院家の家長の身柄は抑えてる筈なので。」

 

「…まてお前どうやって結界の外に出すつもりだ。」

 

 テキパキと二人を中心に血を触媒にした円陣が轟によって出来上がっていく。

 

「日下部先生なら五条先生のパンチ知ってるでしょ?

 ほら無下限パチンコ。」

 

 原理はシンプル。

 対象の周りに中和する無限、前方に収縮する無限、後方に発散する無限を置いて対象を打ち出す。

 円陣は対象が二人かつ術師自身以外を送る事に不慣れな轟が五条悟から教わった補助的な術技である。

 

「うーん、この方角なら行けるかな。」

 

「おい、待て待て待て!!

 そのふわっとした自信の無さは何だ!?

 自力で外に出るから放せ!?」

 

「いやー、まだ馴染みきれてないんですよねー。」

 

「おい片目から夥しい血が流れてるぞ!?

 日下部の言う通り辞めようぜ!?

 頑張って走るから!」

 

 既に対象を保護するための無限は発動しており、日下部とパンダはどれだけ騒ごうと外には出れない。

 轟も他者のみを更に複数を送り出す事は始めてであり、持ち前の術式ではなく適応しきれてない無下限術式を使うのはちょっと不安ではあった。

 

「今は1秒でも惜しいんで、着地は任せました!」

 

「おまっ」

 

 最期に何かを言うことなくパンダと日下部は帳の外へと送られた。

 

「さーて、後は棘先輩と1年生かな。

 冥冥はとっくに逃げてそうだし。

 …あー、ヤバいな。」

 

 未だに出血の止まらない左目は遠くの狗巻棘の周囲の魂が真人に染まっていく所を捉えていた。

 魂が順々と染まっているが人影自体の動きはなく、おそらく狗巻棘に悟られずに奇襲しようとしている。

 

(なるほど、襲わずに魂を染め上げてから一気にやる算段か。

 …狙撃の方が早いか。)

 

『虚式 茈』

 

 架空の質量は狗巻棘の周囲の真人に成りかかった人間を空間ごと抉り取った。

 その中にはまだ染まってない一般人も含まれていた。

 

「……。」

 

「悪いね先輩。

 弁明は後でするよ。」

 

 守るべき一般人が一瞬で殺された事実とそれを実行した身内に対して唖然とする狗巻棘の元に飛んだ轟悟は打ち漏らしを殺しながら流れ作業で狗巻棘をパンダ達と同じように外へと送ると渋谷の街を飛んだ。

 残穢や匂いを頼りに三人の元へと駆けていく

 

「よし、後は三人だけ。

 虎杖と釘崎が居るから、真人への対処は出来てるだろけど…。

 何で受肉した呪霊と共闘してるんだ?」

 

 轟の目に入ったのは1年生三人と受肉した呪霊と思わしき存在が連携している姿であった。

 

 

 




狗巻目線からしたら、保護した一般人を丸ごと殺したような感じですね。


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呉越同舟4

続ける意志はあるよ。



「何してんのよ、お三人。」

 

 轟の声掛けと共に周囲の真人達が見えない何かによってねじ切れていく。

 

「轟!?」

 

「無事だったか!」

 

「遅い!」

 

「色々あってね。

 で、お前何?」

 

 轟の視線は脹相へと向けられた。

 脹相は反射的に構えてしまった。

 

(これが五条悟に劣るだと…!)

 

 視線を向けられただけで死を予感させる実力差と危うさがあった。

 渋谷駅の地下で会った五条悟はまだ理性的だった。

 

(轟悟は違う。

 どちらかというと此方側、機嫌を損ねたら死ぬな。)

 

 だが、弟を守れずに死ぬ気はない。

 

「俺は悠仁の兄だ!!」

 

「あー、つーことはアレだ加茂憲倫も羂索だった訳だ。」

 

 あっさりと覚悟を決めた宣言は信用された。

 轟悟にとって脹相が兄であるという事実を認めると、虎杖悠仁がどうやって作られたかにも納得がいく。

 9回の実験で器を作り出すノウハウを得たのだと轟は推測した。

 

「仲間なら良い。

 お前が余計な事したら虎杖共々殺すから、しっかり面倒みろ虎杖。」

 

「まって、サラッと理解された上にもうセット扱いなの!?」

 

「どうせ、死刑囚みたいなもんだから良いだろ。」

 

「そうだけどさ!」

 

「お前ら巫山戯てる場合か!

 今も特級呪霊が増殖してるんだぞ!」

 

 伏黒恵の言う通り、『轟悟と周りに人間がいる。』という枷を嵌められた状態であると判断した真人達が集まり始めていた。

 

「まあいい、兄弟纏めて外に送るぞ。

 周囲の説得は頑張れ。」

 

 話は終わりと四人の周囲に呪文を描いてく。

 

「待て轟、まだ助けられる人が!」

 

「いない。」

 

 虎杖悠仁の意見を即答で切り捨てて呪文を仕上げていく。

 正しいか正しくないかで言えば、虎杖悠仁の言葉は正しい。

 隈なく探せば数人か、あるいは真人が人質として有用と判断して保護している可能性も無くはない。

 だが、虎杖悠仁の善性は轟悟に通用しなかった。

 今の状況でお花畑な考えだと、呪術師として切り捨てる判断をしたとかではない。

 それに気付けたのは釘崎だった。

 

『コイツら邪魔。』

 

 地面に呪文を描いている為、顔は見えない。

 しかし声色や、雰囲気から釘崎は自分達を助ける為にこの場から離脱させるのでは無く、轟悟は別の目的で自分達を除外したいだけで行動してると分かってしまった。

 

(本来のコイツならさっさと呪肉体を殺してる筈。)

 

「…アンタなにする気?」

 

「柄にもない事ばっかやらされて、そろそろスッキリしたいんだよね。」

 

 四人を飛ばす前に己の思惑に気付いた釘崎の問いに返しながら四人を結界の外へと飛ばした。

 四人が結界の外へと飛んだことを確認すると、轟は懐から木目模様の携帯を取り出した。

 

「さ、て、と。

 出番ですよ先輩。」

 

『了解シタ。

 座標ハ把握シテイル、三分ダナ?』

 

 空から轟悟を監視している真人の更に上、結界の外からソレはやってきた。

 

(玉…?)

 

 それから振ってくるソレの第一印象は木目の玉。

 それが全身から呪力砲を放ち受肉した真人を殺しながら、轟の元へと降ってくる。

 そして、着弾する直前玉が開いた。

 展開した玉は瞬く間に変形し地面に食い込み、轟を守るように要塞となった。

 

「じゃあ、頼みますよ。」

 

「アア、憂サ晴ラシヲサセテ貰オウ。」

 

 轟が要塞として展開したメカ丸の中心で座禅を組んだ瞬間、真人達は理解して轟を殺すべく殺到した。

 

(ヤバイ!

 アイツ目を調伏させる気か!?)

 

 六眼の片目は所有権自体は五条悟から轟悟へと移っている。

 しかし、六眼は轟悟を主とは認めていない。

 移植した臓器が周囲の細胞を攻撃するように、六眼も轟の体を拒絶していた。

 現在の轟は六眼による拒否反応を無理矢理抑え込んで使用できる状態である。

 

(今の俺は六眼が魂を侵食しているのを魂を強化して、最小の接続で使用している。

 これだと真人を祓いきれない。

 故に調伏。

 俺の魂で六眼を侵食し支配する。)

  

 

 そのためには魂を六眼と接続する。

 即ち、術式を解除する必要がある。

 事前に五条悟と話し合った結果、六眼に侵食されて持つ時間は五条悟の直感で三分。

 

『万が一、調伏が必要なら三分、君は六眼に呑まれて意識はあるけど苦痛に満ちた一生になるだろうね。』

 

 調伏せずとも術式は使える為、やる必要が本来無かったが真人の進化が前提を覆した。

 

(質ではなく数を増やすのは正解だよクソったれ。)

 

 渋谷中の真人を殺すには今の呪力出力では足りない。

 調伏すれば六眼を抑えるのに回している呪力を回収し、六眼から引き出す呪力を増加させられる。

 しかし、戦場で三分間術式を解除するリスクがある。

 そこで、メカ丸もとい与太幸吉に白羽の矢がたった。

 

『メカ丸 遠隔操作型極地決戦要塞バージョン』

 

 縛りによって蓄えた10年近い呪力を注ぎ込み、三分間耐えることのみを想定した決戦兵器。

 五条悟監修の領域対策の簡易領域装置50本に全方位をカバーする20の大砲門と100の小砲門、中心の轟を守る為に半径5mの装甲を有した要塞である。

 絶え間なく周囲に降り注ぐ呪力砲は真人の輪を拡げさせるのには十分だった。

 それは真人に策が無い事を示している訳では無かった。

 

「舐めんな負け犬!」

 

 全周から大槍が放たれた。

 

『幾魂体 旗魚』

 

 

 生存を放棄し、死を前提とした肉体変化による強固な矛先は、複数の真人達の魂は最高効率で重ねた爆発力によって音速の二倍の速さでメカ丸へと突き刺さっていく。

 

(後は中の俺が轟を殺す!)

 

 刺さって御仕舞ではない。

 槍の中には術式を発動することに特化した真人が一人入っており突き刺さった対象の内部から魂を蹂躙していく狙いがあった。

 

『御三家式・簡易領域』

 

 五条悟の教導により更に効率化した簡易領域は10秒間、要塞の中を満たしていく。

 

『焼却。』

 

 内部の術式を無効化された真人が燃えていく。

 

「後、50アルゾ。」

 

「ハッ、砲門いらないじゃん。」

 

「言ッタ筈ダ、憂サ晴ラシダト。」

 

 攻防戦が始まりだした頃、轟悟はメカ丸の中で深く己の魂へと意識を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




摩虎羅に勝てる気がしない。


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