羽丘の元囚人 (火の車)
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プロローグ

唐突に思いつきました。


 とある辺境の地の刑務所に似た施設

 

 ここは所謂、少年院だ

 

 どこか厳かな雰囲気を醸し出すその建物

 

 その前に1つ、呑気な少年の影があった

 

?「__なーんだ、もう出所か~。」

警官「おい、分かってると思うが、もう戻って来るなよ?」

?「さぁ?」

警官「は?」

 

 首をかしげる少年に対し

 

 警官は驚いた様子で目を見開いた

 

 少年は続けて話した

 

?「それは、俺が引きこもってる間にどう環境が変わったかによるかな?」

警官(こいつは、本当に野に放って大丈夫なのか......?)

?「まぁ、今までありがとねー。また戻って来ることがあればよろしくー。」

警官「お、おい!」

 

 警官が大声を上げる中

 

 少年は飄々とした態度で歩いて行く

 

 鼻歌を歌いながら穏やかな表情を浮かべ

 

 少年は青い空を見上げた

 

警官(ほ、本当に、だ、大丈夫なのか?)

 

 警官は少年の後姿を見守りつつ

 

 その背中に恐怖を感じていた

__________________

 

 ”友希那”

 

 ピピピっと携帯からアラームが鳴り

 

 私はゆっくりと目を開けた

 

友希那「......もう、朝なのね......」

 

 鬱陶しく思いながらそれを止た

 

 カーテンの隙間から入ってくる光が眩しい

 

 私は眠い目をこすり、体を起こした

 

 寝起きの体のだるさを感じる

 

友希那(今日は、始業式ね。)

 

 そう考え、私はベッドから出た

 

 今日から3年生になる

 

 でも、あまり勉強の事は考えない

 

 私には目標があるから

 

友希那「......準備をしましょうか。」

 

 私は静かにそう呟き

 

 壁にかけてある制服に着替え

 

 鞄を持って部屋を出た

__________________

 

リサ「__あ、おはよう!友希那!」

友希那「えぇ、おはよう、リサ。」

 

 洗面と朝食を済ませ家を出ると

 

 家のまでは幼馴染であるリサが立っていた

 

 私に気付くと元気に挨拶をしてくれて

 

 さっきまでのダルさが軽減される

 

リサ「今日から3年だよ~!早いね~!」

友希那「そうね。」

 

 私は短くそう返す

 

 喋ることは多くないけれど

 

 リサは構わず喋り続ける

 

 一体、どこから話題が出て来るのかしら

 

友希那「学校に行かなくていいの?」

リサ「あ、そうだね!行こっか!」

友希那「えぇ。」

 

 私は長くなりそうな話を遮り

 

 それからは、リサと一緒に学校に向かった

__________________

 

 私達が通う学校は羽丘学園

 

 元は女子高になる予定だったのだけれど

 

 何故か共学になったらしい

 

 別に気にすることはないのだけれど

 

リサ「クラス表はー......」

 

 学校に来ると

 

 リサは張り出されてるクラス表の確認を始めた

 

 私はクラス確認をリサに任せて

 

 人ごみの外でボーっとしている

 

 数多くの生徒が通り過ぎていき

 

 どこか雰囲気が浮足立ってる気がする

 

リサ「友希那ー!あたし達、クラス一緒だよー!」

友希那「そう。じゃあ、行きましょう。」

リサ「うん!」

 

 リサが元気に頷くと

 

 私はつくづくリサと縁があると感じつつ

 

 これから通う教室に向かって行った

__________________

 

 教室に着くと、もう何人かの生徒がいた

 

 どうやら席は決まっていないらしく

 

 私はとりあえず端の方に籍に座り

 

 リサは私の隣に座った

 

友希那(......のどかね。)

 

 窓の外には満開の桜が咲き誇っている

 

 新しい季節の訪れを感じられ

 

 私は静かに目を閉じ、この空気に浸った

 

リサ(友希那、何考えてるんだろ。)

友希那「......」

 

 歌詞のヒントになるとかではない

 

 ただ、こののどかな雰囲気に浸りたい

 

 今はちょうど人も少ない事だし__

 

日菜「__ゆーきなちゃん!」

友希那「っ!?(ひ、日菜......!?)」

リサ「あ、日菜じゃん!」

日菜「おっはよー!2人とも!」

 

 この騒がしい子は氷川日菜

 

 私達のギター、氷川紗夜の双子の妹

 

 と言っても、紗夜と性格は真逆で

 

 日菜は活発で騒がしい自由人

 

 所謂、天才と分類される人間

 

 学校では持ち前のルックスから男女ともに大人気で、今年から生徒会長になるらしい

 

友希那「朝から騒がしいわ。」

日菜「だって、友希那ちゃん変な事してたんだもん!」

友希那「変......?」

日菜「うん!とっても!」

 

 明るい顔で頷く日菜を見て

 

 私は心底心外だと思った

 

 目を閉じる事が変と言うなら

 

 寝ている人間は全員変なのかと

 

日菜「それでなにしてたのー?」

友希那「なんでもないわ。日菜こそ何しに来たの?」

日菜「え?なんとなくだけど?」

友希那(迷惑極まりないわね。)

リサ「あはは~、日菜は相変わらずだね~。」

 

 リサは暢気に笑ってる

 

 日菜は、こんな調子で生徒会長なんて務まるのかしら

 

 絶対に他に適任がいたわ

 

 なんで、よりによって日菜なの?

 

日菜「あっ、それと2人に話があったんだった!」

リサ「話?」

日菜「そうそう!」

友希那(どうせ、碌な話じゃないわね。)

 

 私はそう思いつつ、

 

 一応、日菜の話に耳を傾けた

 

 まぁ、期待はしてないけれど

 

日菜「実はね、今日このクラスに転校生が来るんだよ!」

友希那(やっぱり。)

 

 本当にろくでもない話だった

 

 転校生なんてどうせ関わらないし

 

 聞いても仕方ないわね

 

リサ「へぇ、どんな子なの?」

日菜「聞いた話によるとねー、普通にかっこいいらしい!」

リサ「......え、それだけ?」

日菜「うん!さっき先生に聞いたんだ!」

友希那「......」

 

 全く興味が沸かないわ

 

 2年間で男子とほぼ関わって来なかったのに

 

 今更、誰が来ても一緒だわ

 

日菜「あっ、そろそろ行かないと!じゃあねー!「」

リサ「うん、またねー!」

友希那「......」

 

 日菜が去って行き、私は軽く息をついた

 

 朝から騒がしいことこの上ない

 

 紗夜は毎日大変ね

 

友希那(次のライブの事でも考えましょうか。)

 

 私はそう考えまた目を閉じ

 

 次のライブの構想を練ることにし

 

 少しすると担任が入ってきて

 

 始業式に時間になった

 

 ”日菜”

 

日菜(......あっ、忘れてた。)

 

 講堂に向かう途中

 

 日菜はある事を思い出し足を止め

 

 考えるような仕草を見せた

 

日菜(今日来る転校生、なんでか分からないけど前の学校の情報がなかったんだよね。)

 

 日菜は少し不思議に思った

 

 転校生なのに前の学校の情報がない

 

 これは不自然なことで

 

 日菜ですら異常だと思う

 

日菜(まぁ、いっか!)

 

 日菜は能天気にそう考え

 

 始業式の用意のために講堂に向かって行った

__________________

 

 ”友希那”

 

 少し時間が経って始業式が終わった

 

 式の流れはもう想像通り

 

 日菜が擬音連発で騒いで

 

 横にいる羽沢さんが困った顔をしてた

 

 あんな調子大丈夫なのかしら?

 

 私は心底疑問に思った

 

?「__はーい!注目!」

友希那「?」

 

 教室に帰って来ると

 

 担任である浪平琴葉先生が声を出した

 

 この人は去年、この学校に配属された

 

 茶髪を横で編み込んで眼鏡をかけた

 

 どこか素朴な雰囲気のある女性

 

 優しそうな雰囲気から生徒人気が高く

 

 クラスの生徒は大喜びしてた

 

琴葉「今日は転校生を紹介しますね!入ってきてー!」

?『へいへーい。』

友希那「......?」

 

 浪平先生がそう言うと

 

 転校生と思われる男子の声が聞こえた

 

 その時、私は違和感に襲われた

 

友希那(この声、どこかで......)

 

 私がそんな事を考えるのと同時に

 

 教室の扉はゆっくり開き

 

 声の主である男子が姿を現した

 

友希那「__え......?」

リサ「っ!!」

?「おぉ、生徒多いなー。」

 

 私は転校生の姿を見て絶句した

 

 白い肌、それを強調する黒の髪と瞳

 

 そして、どこか飄々とした雰囲気

 

環那「どもー、この間少年院から出所しました、南宮環那でーす。」

クラスの生徒「え?」

友希那(な、なんで......!)

 

 私は言葉を失った

 

 いるはずのない人間がいる

 

 なんで、今更羽丘に......?

 

 私がそんな事を考える中

 

 転校生、南宮環那は笑みを浮かべ

 

 不気味な様子で困惑するクラスを眺めていた

 

 

 

 




 南宮環那(みなみや かんな)
身長:174cm
体重:60kg
好きなもの:???
嫌いなもの:苦いもの
誕生日:9月7日

本作の主人公。
どこか飄々とした雰囲気を持つ少年。
いつも薄ら笑いを浮かべているが、よく周りのから幸が薄そうな顔と言われる。
外見は決して悪くないがモテない。
本人曰く、興味のないことは何もしない性格。


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楽しみに来た

 クラスがざわついてる

 

 その原因は一目瞭然

 

 黒板の前で薄ら笑いを浮かべて立ってる転校生、南宮環那

 

 私も、あの姿を見て愕然としてる

 

琴葉「み、南宮君!それは言ったら駄目と言ったでしょ!」

環那「あれ、そうだっけ?ごめん忘れてたー、あはは。」

琴葉「笑い事じゃないです!」

リサ「か、環那、なの......?」

環那「んー?この声......」

友希那「!」

 

 転校生を見て驚いたのか、

 

 リサは立ち上がってそう言った

 

 それに気づくと転校生は薄ら笑いのままリサの方を向いた

 

リサ「な、なんでここに......!?」

環那「久しぶりー、リサー。」

リサ「挨拶は良いから、なんでここに?」

環那「んー?」

 

 リサは困惑した声でそう尋ねた

 

 転校生は少し考えるぞぶりを見せ

 

 また薄ら笑いを浮かべた

 

環那「出所したから来ただけかな?いやー、まさか戻れるなんてねー。」

リサ「そ、そう......」

環那「ていうか、このクラスにリサがいるって事は......」

友希那「!」

 

 転校生は教室の中を見回してる

 

 何が目的なのかは容易に分かった

 

 だから、私は席から立ち上がった

 

 ”別視点”

 

環那「あっ、やっぱり友希那もいたー。」

友希那「......」

環那「久しぶりー。大体4年ぶり?」

 

 軽い口調で話しかける環那

 

 それを無視しながら友希那は歩いて

 

 段々と教壇に近づいて行く

 

環那「友希那はあんまり見た目変わってないねー。成長してないんじゃ__」

友希那「......!!」

環那「っ!」

 

 友希那が教壇にたどり着いた瞬間

 

 パシンっと乾いた音が教室に響き

 

 一瞬で教室内の空気が凍り付いた

 

友希那「あなた、よくも私達の前に姿を現せたわね......!!」

 

 友希那は環那の胸倉を掴み、捲し立てた

 

 その表情は怒りで染まっており

 

 目は激しく血走っている

 

環那「......ひどいなー。もう少し再会を喜んでほしいんだけど。」

リサ「ゆ、友希那!」

琴葉「み、湊さん!?」

 

 その様子を見て、リサと琴葉は声を上げた

 

 環那は怒りに染まった友希那の顔を見ても

 

 変わらず薄ら笑いを浮かべている

 

 その様子は不気味以外の何物でもない

 

友希那「あなたが暴力事件を起こしてから、私達がどんなに苦労したと思っているの!?それなのに......!!!」

リサ「やめなって友希那!」

琴葉「い、一旦離れてください!」

友希那「っ!!」

 

 リサと琴葉によって、

 

 友希那は環那から話された

 

 だが、怒りが収まらないのか

 

 友希那は話されてもなお怒りの声を上げている

 

友希那「あなたになんて二度と会いたくなかった!!いっそ死んでればよかったのに!!!」

リサ「友希那!!」

環那「......ははっ。」

リサ、琴葉「!?」

 

 友希那の暴言を聞き、環那は笑った

 

 そして、自ら友希那の方に歩み寄り

 

 1mほど前で足を止めた

 

環那「良かった、友希那が俺を嫌ってくれてて。」

リサ「か、環那......?」

環那「俺、友希那みたいな女の子は好みじゃないんだ。」

友希那「っ!!!」

リサ「きゃ!!」

 

 環那が笑いながらそう言うと

 

 友希那はリサを振り払い

 

 環那に向けて拳を突き出した

 

 それは真っ直ぐ環那の顔に向かって行き

 

 今度はゴッ!と鈍い音が響いた

 

環那「......痛いなー。」

友希那「あなたなんて、死んでしまえばいいのよ!!このクズ男!!!」

琴葉「み、湊さん!一旦廊下に出ましょう!今井さん、手伝ってください!」

リサ「は、はい!行こ、友希那......」

友希那「__!」

 

 琴葉が指示を出すと

 

 友希那はリサに引っ張られていった

 

 教室の中は静まり返り

 

 視線は教壇の前で尻もちをつく環那に注がれている

 

環那「あはは、乱暴だなー。」

男子「お、おい!目から血が出てるぞ!?」

環那「んー?あ、ほんとだね。」

男子「ほんとだね、って大丈夫なのかよ......」

環那「大丈夫大丈夫。目に当たっただけだし。」

 

 環那は目から血が出てもなお

 

 薄ら笑いを浮かべている

 

 その様子を見てクラスにいる生徒は息を呑んだ

 

 その時、教室のドアが開いた

 

琴葉「き、今日は解散にします!お、お疲れ様でした!」

環那「あ、もう帰っていいの?じゃあ、帰るかなー。」

 

 琴葉が大声でそう言うと

 

 環那は置いてある鞄を肩にかけ

 

 教室から出て行った

__________________

 

 ”友希那”

 

 リサと浪平先生に廊下に出され

 

 私は少し、冷静さを取り戻した

 

 今は応接室の椅子に座ってる

 

リサ「落ち着いた?友希那。」

友希那「......えぇ、ごめんなさい。」

 

 リサは心配そうに顔を覗き込んできた

 

 さっきは流石に冷静じゃなかった

 

 あんなに取り乱すなんて

 

 いつ以来なのかしら......

 

友希那「なんで、今更......」

リサ「それは、分かんない......」

友希那(なんで、なんで......)

 

 あの薄ら笑いを思い出すと寒気がする

 

 不気味で、何を考えてるか分からない

 

 それと同時にあの憎たらしい顔を思い出すと吐き気に襲われる

 

 できれば、思い出したくない

 

リサ「あ、あたし、飲み物買ってくるよ!のど渇いたでしょ?」

友希那「え、えぇ。」

 

 リサはそう言って私のそばから離れ

 

 応接室から出て行った

__________________

 

 ”リサ”

 

 環那が羽丘に帰ってきた

 

 そのことに私も混乱してる

 

 なんで、羽丘に来たのか

 

 それがどうしてもわからない

 

リサ(取り合えず、整理しないと。友希那があんな状態だし、ここはあたしがしっかり__)

環那「__リサはなんか、ギャルみたいになったねー。」

リサ「っ!?」

環那「さっきぶりー。」

 

 自動販売機の横の隙間

 

 そこに環那が挟まっていた

 

 陽気に手を振ってくる姿は

 

 さっき顔を殴られた人間とは思えない

 

リサ「そ、そんなとこで何してんの!?」

環那「そろそろ、リサが頭の中を整理するために『飲み物買ってくるー。』とか言って1人になろうとする頃だろうと思ってー。」

リサ「!!」

 

 環那はあたしの状況をズバリ言い当てた

 

 流石に長い付き合いなだけある

 

 あたしの事をよく分かってる

 

環那「まぁ、そんなリサにはコーヒーをあげようー。」

リサ「あ、ありがと。」

 

 あたしは環那からコーヒーを受け取った

 

 いつも買ってる奴だ

 

 これを買うようになったのは高校に入ってからなのに、なんで分かったんだろ

 

環那「じゃあ、俺は帰るねー。」

リサ「ちょ、ちょっと待って!」

環那「んー?」

 

 あたしは帰ろうとする環那を呼び留めた

 

 環那はそれを聞くと足を止め

 

 首をかしげながらこっちを向いた

 

リサ「......なんで、羽丘に戻ってきたの?友希那の事、分かってたんでしょ?」

環那「さっきも言わなかったっけ?ただ、出所して、親切な人が戻って来る手立てを用意してくれてたんだー。」

リサ「本当に、それだけ......?」

環那「それだけ__あっ。」

 

 環那は何かを思い出したかのような声を出した

 

 そして、鞄からあるものを出し

 

 あたしの方に笑いかけてきた

 

環那「もう1つあった、ここに来た理由。」

リサ「もう1つって......?」

環那「それは__」

リサ「!!」

 

 環那は話してる途中、

 

 鞄から出したものをこっちに投げて来た

 

 あたしは慌ててそれをキャッチして

 

 環那がいる方を向いた

 

環那「楽しみに来た。」

リサ「え......?」

環那「それだけだよー。」

 

 環那はそう言って

 

 あたしに背中を向けた

 

 そして、軽く手を振ってきた

 

環那「じゃあ、また明日ねー。」

 

 陽気にそう言う環那を

 

 あたしは茫然と見送る事しか出来なかった

 

 環那が去った後、

 

 あたしは環那に渡されたものを見た

 

リサ「これ、湿布?」

 

 あたしが手に持ってたのは湿布だった

 

 それにはテープで貼り付けられた手紙があり

 

 あたしはそれをはがして内容に目を通した

 

リサ「っ!!」

 

 『友希那、手をケガしてるから使ってあげてー。』

 

 手紙には綺麗な字でそう書かれていた

 

 あたしはそれを見て、

 

 環那が歩いて行った廊下を見た

 

リサ(環那、一体、何がしたいの......?あたし、分かんないよ......)

 

 あたしはそんな事を思いながら

 

 誰もいない廊下を茫然と眺めた

 

 それから少しして、応接室に戻って

 

 貰った湿布を友希那の手を貼ってあげた

 

 

 



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イケ女に出会う

 羽丘に来て2日目

 

 俺は普通に登校してる

 

 遅刻しないことにこだわりはないけど

 

 別に遅刻することは楽しくないし

 

 怒られるのはつまらないしなー

 

環那「ふぁ~ぁ......」

 

 春と言うのはどうしても眠くなる

 

 獄中でもよく居眠りしてたなー

 

 それで看守に怒られたりしてた

 

 そんな事を思いながら歩いてると

 

 いつの間にか教室の前につき

 

 別に重くも軽くもないドアを開けた

 

「__うわ、来たぞ。」

環那「?」

 

 教室に入ると、そんな声が聞こえて来た

 

 なんか、すごいヒソヒソされてる

 

 なんだろ、寝癖とか治ってないのかな?

 

環那(まぁ、いいやー。)

 

 俺はそんな事を考えながら席に座った

 

 ちなみに席は昨日琴ちゃんに聞いた

 

「おい、席に座ったぞ。」

「大丈夫なの?あれ。」

「あんまり関わるな。危ないぞ。」

環那(うーん。)

 

 なんでヒソヒソ話す声ってうるさいんだろ

 

 一応、静かに話してるはずなのに

 

 これは人類最大の謎の1つだな(※違います)

 

環那(最初からこれじゃ先が思いやられるなー、あはは。)

 

 俺が心の中で笑ってると

 

 教室のドアが開いた

 

 俺は音に反応しドアの方を向いた

 

リサ「__おはよー!」

友希那「......」

 

 そこにいたのは友希那とリサだった

 

 リサは見た目のイメージ通り

 

 クラスの皆と挨拶しあってて

 

 友希那は端を抜けて自分の席に座った

 

環那(相変わらずだねー。)

 

 昔からコミュ力が低いと言うか

 

 リサがいないと人と話すのに難がある

 

 そう言う所は全く変わってない

 

友希那「......」

環那(あ、ちゃんと湿布付けてる。)

 

 昨日見た感じ手が真っ赤だったし

 

 やっぱり痛かったみたいだ

 

 慣れないのに人なんて殴るから

 

環那(それにしても。)

 

 一応、俺の席は教室の端なんだけど

 

 友希那はこっちに目を向けない

 

 あんなに嫌いなら嫌でも気にしそうだけど

 

環那(まぁ、いいや。)

 

 それから俺は席でボーっとし

 

 授業が始まるのを待った

__________________

 

 なんだかんだで昼休みになった

 

 久しぶりに学校で受ける授業は楽しい

 

 別に分からないところはないんだけど

 

 教室で授業を受けるのが楽しい

 

 ちなみに今は屋上でのんびりしてる

 

環那(__春は良いねー。屋上にいるのが快適になるねー。)

 

 この学校の屋上、いい場所なのに人がいない

 

 意外と人気がないのかな?

 

 なんでだろう

 

巴「お、おーい。大丈夫っすか?」

環那「んー?誰ー?(うおぉ。)」

 

 目を閉じてると誰かに呼ばれ、目を開けた

 

 それで目に入ってきたのは

 

 長身で赤い髪のイケメン女子

 

 こんなイケメンいるんだ

 

環那「大丈夫だけどー?」

巴「あ、そうすっか!」

モカ「ともちんー、おまたせー。」

巴「あ、来たな皆!」

環那(みんな?)

 

 イケ女がそう言うと

 

 屋上に4人の女子が入ってきた

 

 その中に1人、異彩を放つ女子がいた

 

環那(メッシュだー。)

 

 黒いショートヘアの赤メッシュ

 

 大体だけど屋上に人がいない理由が分かった

 

 この5人が屋上を貸し切ってる

 

 そんな感じの状態になってるのか

 

蘭「あの、なんですか......?」

環那「なんでもないよー。メッシュ入れてるから不良だーとか思ってないよー。」

蘭「え......?」

環那「?」

 

 メッシュ女子は首を傾げた

 

 分かった、この子不良じゃない

 

 別に普通の子だ、多分だけど

 

ひまり「なんでこんな所で寝てたんですか?」

環那「寝てはないけど、ボーっとしてた。いや、もしかしたら半分寝てたのかも......?」

モカ「あー、あるよねー。」

環那「だよねー。獄中でもよくいつの間にか寝てたしー。」

つぐみ「......え、獄中?」

 

 俺が話してると、

 

 茶髪の癒しオーラを出してる子が呟いた

 

 俺はその子の方を見て首を傾げた

 

つぐみ「あの、獄中って......?」

環那「んー?あー、俺は南宮環那って言うんだけど、この間まで少年院にいたんだよねーあははー。」

アフターグロウ「え......?」

 

 5人の女の子は驚いた顔をしてる

 

 大体、クラスのみんなと同じ感じかな?

 

 別にそう驚く事でもないんだけど

 

ひまり「__あーっ!!」

蘭「ど、どうしたの、ひまり。」

ひまり「昨日、噂になってた転校生!その人だよ!」

モカ「あー、そう言えばー......」

巴「ほ、ほんとにいたのか。」

環那(噂?)

 

 俺、そんな噂になってたのか

 

 昨日は結構目立っちゃったし

 

 まぁ、仕方ないのかなー?

 

 そんな事を考えてると

 

 赤い髪のイケ女が少しだけ前に出た

 

環那(おー、イケメンの行動だー。かっこいいー。)

巴「あの、初対面で失礼なんですけど、こいつらに手を出したりはやめてください。」

環那「あー大丈夫大丈夫。」

巴「?」

 

 俺は手を振りながらそう言った

 

 このイケ女、マジでイケメンだなー

 

 実は後ろの4人全員と付き合ってたりしない?

 

 俺が後ろ4人の立場なら惚れてるかも

 

環那「今の所は問題起こす気ないしー。俺もこの学校には楽しみに来てるからねー。」

巴(楽しみに?)

蘭(なんだろ、喋り方モカみたい。)

環那(んー。)

 

 一応、本当のこと言ったんだけど

 

 イケ女は警戒を解いてくれない

 

 そんなに危ない人に見えてるのかなー?

 

環那「まぁ、俺は邪魔みたいだし移動するよー。」

つぐみ「え?」

環那「楽しい時間を邪魔してごめんよー。出来れば、次からは無視してねー。」

ひまり「あ、あの__」

環那「またねー。」

 

 俺は軽く手を振りながら

 

 ゆっくり歩いて屋上を出て行った

 

 ”アフターグロウ”

 

蘭「あの人、ほんとに危ない人なの?」

 

 環那が去った後

 

 蘭は不思議そうにそう呟いた

 

 それを聞き他の4人も首を傾げた

 

ひまり「噂で聞いたイメージと違い過ぎだし、そもそも、全然最初はそんな風に見えなかったし。」

つぐみ「私も、言われるまで気づかなかった。」

巴「なんて言うか、穏やかな人だったよな?」

 

 巴がそう言うと蘭、ひまり、つぐみは頷いた

 

 だが、モカは何かを考えこんでいる

 

モカ(あれは穏やかなのかなー。)

蘭「モカ?」

モカ「あー、なんでもないよー。」

ひまり「それにしても、あの人の喋り方モカみたいだったねー。」

モカ「えー?そうかなー?」

 

 5人はそれからはいつも通り

 

 屋上で楽しい昼休みを過ごした

__________________

 

 ”環那”

 

 昼休みに色々あってから時間が経って

 

 何だかんだで授業が終わった

 

 5時間目に居眠り続出するってあるあるだよねー

 

 俺も流石に目に眠たかった

 

環那(んー?)

 

 あくびしながら廊下を歩いてると

 

 前に大荷物を抱えた先生がいた

 

 確か理科の先生だっけかな

 

 俺はのんびりその人に近づいて行った

 

環那「あのー、持ちましょうかー?」

「え?君は、転校生の?」

環那「はいー。あ、荷物持ちますねー。」

「あ、ありがとう。」

 

 俺は先生から荷物を受け取った

 

 ガラス器具が入ってるから重たいなー

 

 先生、非力そうなのにすごいなー

 

「本当にありがとうね?」

環那「大丈夫ですよー。俺、楽しいと思ってしてるのでー。」

「え?そ、そう?」

環那「はいー。」

(な、なんなのかしら?)

 

 先生、なんか変な眼で俺を見てる

 

 分かりやすいなー

 

 まぁ、嫌われてるわけではないしいいや

 

環那「理科準備室まででいいですよねー?」

「え、えぇ、お願いね?」

環那「了解しましたー。」

 

 俺はそう返事をして歩きだし

 

 理科準備室まで荷物を運んだあと

 

 普通に今住んでる家に帰って

 

 今日の1日は終了した

 

 

 



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幼馴染

 羽丘に来て1週間

 

 段々と分かったことがある

 

 まず、俺はクラスメイトに好かれてない

 

 あんまり近寄って来ないし

 

 なんか視線を感じると思ったら反らされるし

 

 分かりやすく嫌われてる

 

環那(うーん、なんか悪いことしたかなー?)

 

 思いあたる節がない(※あります)

 

 別に普通の学生してたし

 

 そんなに目立った記憶ないんだけどなー

 

 何がいけなかったんだろ?

 

環那(まぁ、いいやー。楽しみ方はいくらでもあるしー。)

 

 事実、俺はこの時点で結構楽しんでる

 

 幼馴染たちの今の姿を観察できて

 

 どうでもいい話ばっかしてるクラスメイトもなんだか面白い

 

 最近の趣味が観察になりつつある

 

環那「~♪」

リサ「__やっぱりここいたんだ。」

環那「あ、リサだー。」

 

 屋上で翼をくださいを鼻歌で歌ってると

 

 リサが屋上のドアを開けて入ってきた

 

 手には2つのお弁当箱を持っていて

 

 なんて言うか、女子力高そう

 

環那「どうしたのー?」

リサ「どうしたのじゃないって。環那、ご飯食べてないでしょ?」

環那「あー、そう言えばー。」

 

 朝しか食べてなかったっけ

 

 作るの面倒だったし、学食は混んでるし

 

 なんかかんだあって諦めたんだった

 

 いやー、忘れてた

 

 そんな事を考えてるとリサが話しかけて来た

 

リサ「食べたい?」

環那「それ、リサ作ー?」

リサ「そうそう、あたし作。」

環那「じゃあ、食べたいー。」

 

 そう言うと、リサはお弁当箱をくれた

 

 袋から出して蓋を開けると

 

 美味しそうなお弁当が入ってた

 

 野菜は彩が良くてお肉もあって

 

 すごく栄養バランスよさそう

 

環那「いただきまーす。」

リサ「はいはーい。」

 

 俺はとりあえず卵焼きに手を付けた

 

 味付けは甘い目でふわふわしてる

 

 ていうか、卵焼き久し振りに食べた

 

環那「うん、美味しい~。」

リサ「よかった。」

環那「リサ、料理上手くなったねー。」

 

 中1の時、一回食べたことあったけど

 

 あの時よりもおいしい

 

 時間は人を成長させるんだね~

 

 幼馴染が成長してて感慨深いよ

 

環那「それで、リサは何の用で来たのー?」

リサ「お弁当もだけど、ちょっと話。」

 

 俺がそう尋ねると

 

 リサは壁にもたれながらそう言った

 

 なんか、昔とちょっと変わったなぁ

 

 動きがギャルっぽくなった

 

 根本はあんまり変わってないんだろうけど

 

リサ「色々あったけど、おかえり、環那。」

環那「うんー、ただいまー。」

 

 俺はご飯を食べながらそう答えた

 

 リサにも嫌われたと思ったけど

 

 意外とそうじゃなかったみたい

 

 それはよかった

 

リサ「また会えてよかったって思ってるよ、友希那はああなっちゃったけど......」

環那「まぁ、仕方ないかなー。実際、俺が捕まって苦労したみたいだしー。」

リサ「それは......」

 

 リサの表情が曇った

 

 まぁ、幼馴染が暴力事件起こせば

 

 色々言われる事もあっただろうね

 

 中学の時友希那とリサは疎遠になってたし

 

 それぞれ1人で苦労したんだと思う

 

リサ「まぁ、もうその話は良いじゃん。」

環那「いいのー?仕返しくらいなら甘んじて受けるけどー。」

リサ「それはもう友希那に受けたでしょ?」

環那(んー、それはどうかなー。)

 

 友希那、かなり怒ってたし

 

 あれだけで済むものなのかな

 

 いつかイジメられそー

 

 まぁ、いいんだけどー

 

リサ「それにしても、懐かしいよね。屋上で2人でいるって。」

環那「中1の時はずっと一緒にいたかもねー。」

リサ「......付き合ってたもんね、あたし達。」

環那「!」

 

 リサは静かな声でそう言った

 

 ちなみに、リサの言ってることは本当で

 

 中学に入ってすぐ、俺とリサは付き合って

 

 中2のある日を境に別れてその後に俺は捕まった

 

 懐かしい

 

環那「懐かしいねー。あの時はリサから告白されてー。」

リサ「ほんと、懐かしい......」

環那「......」

 

 リサの表情が暗い

 

 今、リサはどんな気持ちなんだろう

 

 大概の事は分かるけど、今は分からない

 

リサ「ねぇ、環那__」

モカ「__あー、今日もいたー。」

リサ「!!」

環那「あ、モカちゃんー。」

 

 リサが何かを言おうとすると

 

 屋上の扉が開き、あの5人が入ってきた

 

 この1週間ほど俺は屋上に入り浸ってて

 

 この5人とは結構話して、なぜか仲良くなった

 

 いやー、話せる子が出来てよかった

 

ひまり「あ、リサ先輩!」

リサ「や、やっほーひまり。」

蘭「リサさん、南宮さんと一緒にいるんだ。意外。」

つぐみ「確かに、あんまり繋がりは感じないね?」

 

 5人は俺達を見て首をかしげてる

 

 あぁ、そっか

 

 この5人には全く話してないんだった

 

 俺はそう考え、5人に話しかけた

 

環那「リサとは家が近所だった幼馴染なんだよー。」

ひまり「えー!?そうだったんですか!?」

蘭「意外。」

環那「まぁ、5年くらい監獄で引きこもってたからねー。」

つぐみ(そう言う問題なのかな?)

 

 まさかのカミングアウト

 

 それを受けたような表情を5人はしてる

 

 おもしろいねー

 

モカ「それでー、そんな2人はここで逢引きでもしてたんですかー?」

リサ「ちょ、何言ってんのモカ!?///」

巴「そ、そうだぞ!?」

モカ「えー?だって、2人の距離が近いからー。」

環那「そうかなー?」

 

 俺はリサとの距離を見た

 

 大体、間は15㎝くらい空いてる

 

 そんなにちかいのかな?

 

 昔からずっと一緒だし

 

 これくらいが当たり前になってる

 

環那「俺とリサはただの幼馴染だよー。」

リサ「!」

環那「昔は友希那も含めた3人で遊んだりしたねー。」

つぐみ「ゆ、友希那先輩まで。」

ひまり「意外も意外って感じ。」

 

 ひまりちゃん、リアクション大きいな

 

 オーバーリアクションは割と好き

 

 なんか、見ててなんだかおもしろいし

 

 ひまりちゃんの場合はなんか変だし

 

リサ「あ、あたし教室に戻るよ!友希那も心配するだろうし!」

環那「そうー?あ、お弁当ありがとねー。明日かえすー。」

リサ「う、うん!またね!」

アフターグロウ「?」

 

 リサは何だか慌てた様子で

 

 少し小走りで屋上から出て行った

 

 どうしたんだろう?

 

 さっきの言いかけた言葉が関係してるのかな

 

ひまり「南宮さん、リサ先輩の話聞かせてくださいよ!」

環那「リサの話?別にいいけど後悔するよ?」

蘭「え、何があったの......?」

環那「まぁ、冗談だけど。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 いやぁ、反応が良くて楽しいなー

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 食べ終えたお弁当箱を片付け

 

 それを膝の上に乗せた

 

環那「じゃあ、どんな話が聞きたい?」

ひまり「リサ先輩って昔どんな感じだったんですか?」

環那「そうだねぇ、リサは__」

 

 それから俺はリサについて5人に話した

 

 ひまりちゃんは何故かメモを取ってたけど

 

 あの話何か参考になるのかな?

 

 俺はただただそう思った

 

 

 



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同居人

「__今日も来た......」

「いつ暴れんだよ、あれ。」

「ここまで大人しいのがかえって不気味だよね......」

 

 今日も俺は陰口?を言われてる

 

 いや、本人の前で言ってるし陰口なのかな?

 

 まぁ、そんな事どうでもいいだけどとか

 

 そんな事を考えながら俺は席に着いた

 

環那(眠たいなー。)

 

 周りに誰もいないとなると

 

 普通の学生とは言えない気がするし

 

 そろそろ同学年の友達欲しいなー

 

「おい、あんまり見るな。」

「そ、そうだな。」

環那(これじゃ、夢のまた夢だねー。)

 

 今の俺の評価は最悪中の最悪

 

 ここでは何も悪い事してないんだけど

 

 イメージって言うのは難儀だねー

 

環那(まぁ、今はどうしようもないしいいやー。昼休みのあの5人と喋ろーっと。)

琴葉「__南宮君。」

環那「んー?どうしたのー琴ちゃん?」

琴葉「生徒指導室に来てください。お話があります。」

環那「指導室ー?おっけー。」

 

 俺はそう言って立ち上がって

 

 琴ちゃんと一緒に生徒指導室に行った

__________________

 

 生徒指導室は勿論誰もいなくて

 

 俺と琴ちゃんの2人だけ

 

 とりあえず俺は近くにある椅子に座った

 

環那「それで、話ってなにー?」

琴葉「......もう少ししっかりしてください。」

環那「!」

 

 俺が質問をすると

 

 琴ちゃんの声がいつもより低くなった

 

 あー、こっちのモードかー

 

環那「俺はちゃんとしてるよー?」

琴葉「どこがですか?自己紹介での発言、奇行、周りに弁明しようとしない姿勢。どの要素からちゃんとしてるんですか?」

環那「えーと、授業真面目に受けてる?」

 

 うん、これは間違いない

 

 今まで授業で1回も寝てないし

 

 ノートもちゃんと書いてあるし

 

環那「あと、遅刻してない!」

琴葉「小学生ですか!?」

環那「今の所、最終学歴は中学生かな?」

琴葉「そういう事じゃなく!」

 

 琴ちゃん、さわいでるねー

 

 いやー、お母さんを思い出す

 

 まぁ、今は勘当されてるんだけどね

 

環那「まぁまぁ、そんなに怒らないで。怒ったら顔にしわが寄って婚期も遅れr__」

琴葉「っ!!!」

環那「うわっ、危ない!」

 

 俺が話してる途中

 

 顔の横を定規がすごいスピードで通過した

 

 今、シンプルに反応できなかった

 

 琴ちゃん、まさか殺す気だった?

 

琴葉「次にデリカシーの無い発言をしたら殺しますよ?」

環那「ごめんなさい。」

 

 流石にこれはまずい

 

 笑みを保つのが難しくなってきた

 

 ていうか、真面目に怖いです

 

 目が俺に怒り狂ってた看守と同じだ

 

琴葉「まぁ、その事は良いんです。」

環那(いいんだ。)

琴葉「もう少し、クラスになじむ努力をしてください。」

環那「そうは言うけど、向こうが離れていくんだもんねー。」

琴葉「それはもうあなたが悪いです。」

 

 琴ちゃんは真顔でそう言ってきた

 

 まぁ、琴ちゃんの理論で行くと俺が悪い

 

 でも、本当に俺が10割または8,9割悪いのか?

 

琴葉「現時点での友人を報告してください。」

環那「えーっと、2年生のいつも屋上にいる子たちとリサかな!」

琴葉「大体、私の観察通りです。」

 

 観察通りって、観察してたんだ

 

 だったらなんで報告を?

 

 相変わらず、細かいなー

 

環那「まぁ、大丈夫でしょー。なんとかなるよ。」

琴葉「何とかなってないから言ってるんですが?」

環那「大丈夫大丈夫ー。」

琴葉「あ、待ってください!」

 

 俺は椅子から立ち上がり

 

 生徒指導室のドアの方に向かった

 

琴葉「友達を作りたいなら、まずその薄ら笑いを直してください!不気味がられてます!」

環那「直さないよ。」

琴葉「え?」

環那「じゃあ、俺は戻るねー。あと、そのスカートちょっと短くて危ないよ~?」

琴葉「余計なお世話です!!」

環那「あはは~。」

 

 俺は軽く手を振りながらドアを開け

 

 生徒指導室から出て行った

 

 いやー、大変だったー

__________________

 

 ちなみに俺の得意教科は数学とかです

 

 まぁ、苦手な教科はないけど

 

 数学と理科は極めて得意かな

 

環那「__うん、こんな感じかなー。」

数教「え、なんなのこの式......?」

環那「えー?昨年に○○大学が発表した新しい数式と銘打たれた欠陥数式の欠陥部分を直した式ですけど、間違ってますか?」

数教(ど、どうしよう、答えはあってるのに途中式が理解できない......私、数学教師なのに......)

 

 なんだろう、先生がへこんでる

 

 これ、中学生レベルの知識でできるし

 

 何も特別なことはないんだけど

 

環那「俺は監獄の中でありとあらゆる論文とか読み漁ったので、偶々知ってただけなので気にしなくていいですよー。」

数教(この子、流石に飛び級扱いになってるだけあるわ。)

「な、なんだあれ?」

「先生まで困惑してる......?」

「ていうか、途中の式にどんな意味が......?」

 

 いやー、簡単な問題だった

 

 暇な時に考えた数式が実験で来たし

 

 次はもっと効率化できそうかな?

 

数教「ね、ねぇ?南宮君?」

環那「はい?」

数教「その、数学を教えてください......!」

環那「え?」

(数学教師が!?)

(どうなってるんだ!?)

 

 数学を教えろって言われても

 

 別に教えるような知識はないんだよね

 

 ていうか教えるのには条件が多いし

 

環那「じゃあ、取り合えずこの世に存在する論文とか取り合えず読み漁ってください。」

数教「へ?」

環那「全てにおいて優先されるのは知識ですよね?だったら、まずは下済みを用意してそこが始まりですよね?」

数教(駄目だ、私が生きてられる残りの人生でできる気がしない。)

 

 なんだろ、すごい顔してる

 

 何か変なこと言ったかな?

 

 いや、言ってないはず

 

環那(なのに、なんでこんなに見られてるんだろー?)

 

 周りの生徒は俺の方をチラチラ見てる

 

 もうチラチラみたいな効果音が付きそう

 

 そんな異端者を見るような目しなくてもいいのに

 

 フレンドリーに生きようよって言いたくなる

 

リサ(やっば、何書いてるか分かんない。)

友希那(......)

環那(なんだろ、リサと友希那もこっち見てる?珍しい。)

 

 俺はそれからも真面目に授業を受けて

 

 なんか計算したり色々して

 

 授業が終わってからすぐに帰った

__________________

 

 俺は捕まってすぐ親に勘当されて

 

 今は学校近くのマンションに住んでいます

 

 まぁ、極めて普通のマンションって感じだけど

 

 衣食住が整ってるし満足してる

 

環那「ふんふ~ん♪」

 

 家に帰ってから1時間くらいして

 

 俺は慣れもしない料理をしてる

 

 今まで碌にしたこともないけど

 

 ここに住んでるしこれくらいしないといけない

 

「__ただいまー。」

環那「あー、おかえりー。琴ちゃん。」

琴葉「......なぜ、そんなにエプロンが似合うのですか?」

環那「そうかなー?」

 

 琴ちゃんは俺の同居人

 

 もとい、監視役と言う事になってます

 

 流石に俺を野放しには出来ないみたいで

 

 教員の資格もあった琴ちゃんを羽丘に配属させ

 

 今みたいな立場になったらしい

 

環那「夕飯はもう出来るから用意しててー。」

琴葉(納得いかない。この子の監視をしてるはずなのにこの子が来てから生活水準が上がってる。)

環那「今日は焼き魚にきゅうりの浅漬け、大根のお味噌汁、あとは筑前煮だよー。」

琴葉「女子力高くないですか?」

環那「琴ちゃんが出来ないだけだよー。」

琴葉「失礼ですね!私も料理......くらい......」

環那「あっ。」

 

 琴ちゃんの声が段々小さくなった

 

 そう、琴ちゃんは料理が出来ない

 

 掃除も洗濯も全くできず

 

 ここに来たときはまるでゴミ屋敷だった

 

 いやー、あの時は流石に驚いたなー

 

琴葉「あ、あはは、私なんてどうせ彼氏いない歴=年齢の女ですよ......どうせ......」

環那「まだ26でしょー?大丈夫大丈夫ー。」

琴葉「あーもう!余裕がある態度がむかつきます!」

環那「まぁまぁ。」

 

 この、家事が出来ず恋人がいない

 

 学校では人気女教師の化けの皮を被った人

 

 これが俺の同居人兼監視役

 

 浪平琴葉こと、琴ちゃんです

 

 

 



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やり直し

 休日の朝、俺は家事をしてます

 

 洗濯とか掃除とかやることは多い

 

 けど、意外と楽しいのかもしれない

 

琴葉「__な、何をしてるんですか!?」

環那「え?洗濯だけどー?」

琴葉「私の下着をなんで持ってるんですか!」

環那「?」

 

 琴ちゃん、なんで怒ってるんだろ?

 

 洗濯してるんだし、当然だよね?

 

 うーん、分かんない

 

琴葉「私の下着は良いんですよ!」

環那「でも、俺がしないと琴ちゃん4日くらい連続で同じの履く__」

琴葉「ふんっ!!」

環那「うわ、危ないなー。」

 

 俺が話してる途中

 

 またしても顔の横を何かが通過していった

 

 後を確認してみると壁に桶がめり込んでいた

 

 どんな力で投げたんだろ?

 

琴葉「余計なことは言わなくていいんです!」

環那「重要だと思うけどー?あと、こんな派手な下着買っても活用する事ないのに......これいくらしたのー?」

琴葉「放っておいてください!」

 

 ちなみに琴ちゃん、外見は良いです

 

 ただ、それを台無しにするガサツさ

 

 そして女子力の低さのせいでモテません

 

 いやー......本当に酷いよ?

 

琴葉「今は!あなたが!私の下着を持ってる事を言ってるんです!」

環那「大丈夫大丈夫。俺、琴ちゃんの下着じゃ欲情しないから。」

琴葉「そう言う問題ですか!?って、その言い方もひどくないですか!?」

環那「気のせい気のせい。」

 

 そう言いながら俺は洗濯物を畳んでいき

 

 俺と琴ちゃんの衣類を分けていった

 

 なんだろ、いくら見ても派手な下着しかない

 

 誰に見せるわけでもないのに......勿体ない

 

環那「はい、琴ちゃんの服とか。って、タンスに詰められないから後で詰めとくねー?」

琴葉「それくらい出来ます!」

環那「じゃあ、お願いねー。」

 

 琴ちゃんに取り合えず服を渡した

 

 それを受け取ると琴ちゃんは怒った様子のまま

 

 部屋の方に歩いて行った

 

 いやー、琴ちゃんを弄るのは面白いなー

 

環那「さーてと、今日は買い物行かないとー。足りないものあったかなー?」

 

 俺は冷蔵庫を確認した

 

 取り合えず、野菜は買わないといけない

 

 あと、醤油、みりんも切れてる

 

 ていうか、お酒何でこんないっぱいあるんだろ?

 

環那「琴ちゃーん?スーパー行くけど何か欲しいものあるー?」

琴葉『おかし欲しいです!』

環那「りょーかーい。」

 

 そう答えた後

 

 俺は財布とエコバックを用意し

 

 それらを持って家を出て行った

__________________

 

 外に出ると暖かい風を感じた

 

 もう4月中旬になってるし

 

 春って感じがする気がする

 

 俺はそんな事を考えながら歩いて

 

 家から1番近いスーパーに来た

 

環那(今夜は......洋食がいいなー。)

 

 メニューを考えつつスーパーの中を歩く

 

 おばさんとかが大声で話してたり

 

 子供が走り回ってたりしてて

 

 何と言うか、平和だなって思う

 

環那(今日はハンバーグにしよー。)

リサ「__あ、環那。」

環那「ん?」

 

 しばらく店内を歩いてると

 

 買い物かごを持ったリサと出くわした

 

 ここに帰ってきて初めて私服見たけど

 

 何と言うか可愛らしくなったと思う

 

リサ「環那も買い物?」

環那「うんー、今は俺が家事してるからねー。」

リサ「へぇ、環那って家事とかできたんだね。」

環那「いやー、初めてするからネットで調べてやってるよー。」

リサ(は、初めてなんだ。)

 

 リサは昔からクッキー作ってたし

 

 やっぱり女子力高いんだねー

 

 まぁ、友希那は全くできなかったけど

 

環那「じゃあ、俺は買い物行くねー?じゃあ、またー。」

リサ「ちょ、待ってよ!」

環那「うんー?」

リサ「一緒に、行こ?」

環那「いいけどー、友希那にばれたら大変だよー?」

リサ「友希那はまだ寝てるから大丈夫。」

環那「それ大丈夫なの?」

 

 友希那ってそんなに寝る子だっけ?

 

 いや、そんな事はなかったはず

 

 ただ休日でだらけてるだけかな?

 

環那「まぁいいやー。じゃあ、一緒に行こうかー。」

リサ「うん!」

 

 そうして、俺とリサは一緒に買い物をすることになった

 

 リサは何だか嬉しそうにしてて

 

 なんだか昔の事を思い出した

__________________

 

 俺とリサは喋りながら買い物をした

 

 幼馴染と一緒に買い物をしてると

 

 何と言うか、年取ったなーって思った

 

 今は帰りに見つけたアイス屋でアイスを買って2人で食べてる

 

リサ「久しぶりに食べたねー、このアイス。」

環那「そうだねー、俺は丸々5年ぶりー。」

 

 獄中にいた時はアイスとか無かったし

 

 こうして公園でリサといるのも想像できなかった

 

 いやー、よく分からないままだったけど

 

 ここに戻って来れてよかった

 

 俺はそう思いながらアイスを口に入れた

 

環那(アイス、美味しいな~)

 

 ”リサ”

 

 環那は変わってない

 

 最後に会った中学2年生の時から

 

 この笑みも雰囲気も何も変わらない

 

リサ(よかった。)

 

 正直、かなり心配だった

 

 友希那にあんなこと言われて傷ついてるんじゃないかなって

 

 でも、むしろ全く気にしてる雰囲気がない

 

 今はそっちをおかしく感じる

 

環那「どうしたのー、リサー?」

リサ「その、環那はショックじゃないの?」

環那「なにがー?」

リサ「友希那の事。」

 

 あたしは環那にそう尋ねた

 

 環那は表情を変えないまま笑みを浮かべ

 

 のんびりとした口調で話し始めた

 

環那「別にショックじゃないよー。」

リサ「え?」

 

 あたしは驚いて目を見開いた

 

 昔からずっと一緒にいた幼馴染の友希那

 

 そんな子にあんなこと言われても平気なんて

 

 しかも、環那は......

 

環那「捕まった時点でこうなる覚悟はしてたからねー。」

リサ「本当に、大丈夫?」

環那「大丈夫大丈夫ー。」

 

 環那は軽く手を振りながらそう言った

 

 のんきにアイスを食べてる姿は

 

 その辺りで遊んでる子供と変わらない

 

 あたしがそんな事を考えながら見てるうちに

 

 環那はアイスを食べ終えた

 

環那「さてとー、俺はアイス食べ終わったしそろそろ帰ろうかなー。」

リサ「!」

 

 環那はそう言ってアイスの紙を丸め

 

 近くにあるゴミ箱にそれを入れた

 

 買い物袋を持ってあたしに背中を向ける

 

 あたしはそれを見てベンチから立ち上がって

 

 環那の方に向かって叫んだ

 

リサ「待ってよ環那!」

環那「んー?どうしたのー?」

リサ「......ずっと、言いたかったんだけど。」

 

 環那はこっちを向いて不思議そうにそう問いかけてくる

 

 喉が渇いたみたいなそんな感覚に襲われる

 

 前に言いそこなった言葉

 

 あたしはそれを絞り出した

 

リサ「......あたしと......」

環那「?」

リサ「あたしと、やり直そ......?」

環那「え?」

 

 言った、言ってしまった

 

 中学2年生で別れて3年

 

 環那以外を好きになれなかった

 

 もしできるならまた会ってやり直したい

 

 そんな事をずっと願ってた

 

 だから、ずっとこれを言いたかった

 

リサ「ずっと、環那のこと好きだった。だから、今度こそあたしだけを見て欲しい。」

環那「......」

リサ「あの日だって、別れるって言われたけど、あたしは頷いてないから。」

環那「......」

 

 環那は何も言わない

 

 面倒な女って思われてるのかな

 

 環那からすればずっと前に別れたわけだし

 

 いまさら言われても困るよね......

 

 あたしがそんな事を考えてると

 

 環那は表情を変えないまま口を開いた

 

環那「そう言えば、そうだったね。」

リサ「!」

環那「誤算だったよ。俺の予想では友希那もリサも俺を目の敵にして、俺は2人の姿を見守る予定だったのに。」

リサ「あたしは環那を知ってるから。簡単に嫌いになんてなれないよ。」

環那「......そっか。」

 

 環那は小さくそう呟いた

 

 そして、笑みを浮かべたままあたしの方を見た

 

環那「分かった、いいよ。」

リサ「!///」

環那「ただ、また後悔するかもしれないよ。」

 

 環那はあたしにそう言った

 

 珍しく真面目な顔をしてる

 

 本当はあたしだけを見て欲しい

 

 でも、あたしは環那のことを分かってるから

 

リサ「それでもいい!///あたしはそれでも環那といたい!///」

環那「わかった。」

 

 そう言うと、環那はいつもの顔に戻った

 

 そして、あたしに優しい声で語り掛けて来た

 

環那「やり直し、しようか。」

リサ「うん!環那!///」

環那「じゃあ、俺の今住んでる家に行こっかー。」

リサ「え......!?///」

 

 あたしは顔が熱くなった

 

 家ってことは......みたいな

 

 そんな期待をしてしまう

 

環那「ちょっと報告しとかないといけないからー。」

リサ「え?(報告?)」

環那「じゃあ、レッツゴー。」

 

 環那のそんなのんきな声の後

 

 あたしは困惑しつつ

 

 環那の今住んでる家に行くことになった

 

 報告って、何なんだろう......?

 

 歩いてる間、あたしはその疑問で一杯だった

 

 



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怒れる少女

 俺はリサを連れて家に帰ってきた

 

 連れて来た理由は琴ちゃんへの報告

 

 まぁ、管理されてる立場だし

 

 後々文句言われるのもあれだし

 

環那「__ただいまー。」

リサ「お邪魔しまーす。」

琴葉「え、南宮君にい、今井さん!?///」

環那「あっ。」

 

 家に入ると

 

 風呂上がりだったのか一糸まとわぬ姿の琴ちゃんが立っていた

 

 昨日寝落ちしてたし今入ったのかな?

 

 俺はそんな事を考えながら琴ちゃんに話しかけた

 

環那「琴ちゃん、髪乾かさないと風邪ひくよー?」

琴葉「なんでそんなに冷静なんですか!?///しかも、なんで今井さんまで!?///」

環那「それは後で説明するから早く服着たらー?風邪ひくよー?」

琴葉「わ、分かってます!!!」

 

 琴ちゃんはそう言って部屋の方に走って行った

 

 俺はそれを確認してリサの方を見た

 

リサ「え、浪平先生?」

環那「そうそう。俺の同居人兼監視役。」

リサ「監視役?」

 

 リサは不思議そうにそう言った

 

 まぁ、普通なら理解するのに時間かかりそうだし

 

 時間が解決してくれるって事で

 

 今はいいだろう

 

環那「まぁ、入って入ってー。」

リサ「あ、うん。わかった。」

 

 俺はそんなこんなでリサを家に上げ

 

 お茶を出して琴ちゃんが着替えてくるのを待った

__________________

 

 10分ほど経って

 

 琴ちゃんは着替えてリビングに来た

 

 椅子に座ると琴ちゃんは1つ咳ばらいをし

 

 俺とリサに目を向けて来た

 

琴葉「それで、今日は何の用で?」

環那「リサと付き合う事になったからそれの報告ー。」

琴葉「......え?」

リサ「えっと、環那と中学の時に付き合っててまた付き合おうってあたしから......///」

琴葉「そ、そうですか......」

 

 琴ちゃんは複雑そうな顔をした

 

 うーん、まぁ、そうだよね

 

 なんで、こんな顔をしるのか

 

 それは琴ちゃんが説明するよ

 

琴葉「南宮君は今、校内で極悪な犯罪者と言うことになっています。今井さんの世間体に関わる場合もありますよ?」

環那(そうだよね。)

 

 俺はさっき言ったとおりの感じで

 

 それに対してリサはクラスでも人気の美少女

 

 しかも、近くには決まって友希那がいる

 

 リサのデメリットは極めて大きい

 

琴葉「それでも、彼と関係を継続したいですか?」

リサ「はい。」

環那(はや。)

リサ「あたし、世間体とか気にしないです。少し問題もあるけど、そこは何とかします。」

環那(友希那の事かな。)

 

 それにしても

 

 リサがこんなに俺に固執してるなんて

 

 中学で一方的に別れたのが大きいのか

 

 それとも......

 

 色々考えるけど、理由は分からない

 

リサ「あと、あたしにいい考えがあるんです!」

環那「ん?」

琴葉「良い考え?」

リサ「はい!多分、これなら環那も学校で浮かなくなるかもしれないです!」

環那、琴葉「?」

 

 俺と琴ちゃんは首を傾げた

 

 その間も

 

 リサは自信ありげな表情を浮かべていた

__________________

 

 そんな事があっての月曜日

 

 今日も俺は学校に来た

 

 それにしても、リサの考えってなんなんだろう

 

 昨日からそれが分からなくて6時間30分しか寝れてない

 

リサ「かーんな!」

環那「......?(なんだって?)」

 

 席に座ってるとリサが声をかけて来た

 

 いや、何を考えてるんだ

 

 ここには友希那もいるし......

 

 って、めっちゃこっち見てるね

 

「なんだなんだ?」

「今井さんがあの転校生に......?」

「どうなってるんだ?」

 

 周りも困惑してる

 

 いや、俺が一番困惑してるよ

 

 リサは友希那がいると分かってる

 

 だから、この行動は理解しかねる

 

「ちょ、今井さん、危ないって!」

「そいつ、犯罪者なんだよ!?」

リサ「環那は犯罪者じゃないよ?」

「え?」

環那(......そういう事。)

 

 リサの考えが分かってきた

 

 ていうか、自分で答え言ってた

 

 多分......

 

リサ「環那とは実は幼馴染なんだけど、昔から優しいんだ。中学の頃はみんなにかなり信頼されてたし。」

「で、でも、少年院にいたって。」

リサ「それは......」

環那(厳しいな。)

 

 流石にこれは誤魔化しがきかない

 

 まぁ、原因は俺なんだけど

 

 でも、この状況で使える言い訳は......

 

リサ「実は環那、中学の時イジメられてたの......」

クラスメイト「え......?」

環那(え?)

リサ「それで鬱になっちゃって......」

「そ、そうだったの......?」

「追い詰められればそうなっても不思議じゃない......のか?」

「だったら、もう普通そうだし大丈夫なのか......?」

環那(え、うそでしょー?)

 

 リサの影響力ってそれほどなの?

 

 予想はある程度立ててたけど

 

 その予想をはるかに超えて来たんだけど

 

 いや、どうなってるの?

 

「そういう事なら、まぁ。」

「今井さんが言う事だし。」

「普通にしても大丈夫なのかな?」

リサ「うんうん!」

環那(2週間くらい抱えた俺の問題がこんな一瞬で?すごいなー......ん?)

 

 クラスメイトが俺、って言うかリサの周りに集まる中

 

 1人、こっちの来ず、ただ見てる生徒

 

 そして、明確な敵意を感じる

 

友希那「......」

環那(怖いね。)

 

 友希那はこっちを睨みつけてる

 

 「お前を殺す。」とでも言いたそうだ

 

 俺はそれを見てリサの隣から離れた

 

リサ「環那?」

環那「トイレ行ってくるー。」

リサ「うん(?)」

 

 俺はそう言ってその場を離れ

 

 取り合えず教室を出て

 

 人が少なそうな場所を考えた

 

 俺が教室を出た後

 

 後ろでもう1人、席を立った気配がした

__________________

 

 俺は取り合えず校舎の裏に来た

 

 ここなら滅多に人は来ないだろうし

 

 多少なら大きな音がしても大丈夫だろう

 

環那「言いたいことは大体わかるけど、一応話は聞くよ。友希那。」

友希那「......」

 

 俺が振り向くと

 

 そこには友希那がぽつりと立っていた

 

 ここまで殺意を向けられると

 

 流石の俺も少し堪えるねぇ......

 

友希那「リサに取り入るなんて、あなたはどこまで腐っているのかしら。」

環那「別に取り入った訳じゃない......なんて言っても信じてくれないよね。」

友希那「当り前よ。」

 

 困った、実に困った

 

 これは何を言っても言い訳になるやつだ

 

 事実を言う事を完全に封じられた

 

環那(仕方ないか。)

友希那「別に私がさっきの話を嘘だと言ってもいいのよ?」

環那「......」

 

 友希那は挑発するようにそう言ってきた

 

 こっちをあざ笑うような表情

 

 普通の人なら、これでも怒ったりするだろう

 

環那(相変わらず、喧嘩が下手だね。)

友希那「そうすれば、またあなたは1人。良い様ね。」

 

 人の弱みを握る事

 

 友希那はこれが絶望的に下手だ

 

 そのくせに無意識で人を精神を逆なでして

 

 何かのトラブルを起こすことがある

 

 中学でもそれで困ったことが多々あった

 

環那「別にするのは勝手だよ。」

友希那「っ!?」

環那「知ってるよね?俺が1人に慣れてるってことくらい。」

友希那「......!」

 

 そう、本当に下手なんだ

 

 不測の事態に陥れば頭が回らない

 

 そして、状況を読み込むのにタイムラグがある

 

環那「そして、敵である俺から友希那にアドバイスをあげるよ。」

友希那「......アドバイス?」

環那「リサとの関係を崩したくないなら今は何もしない方がいい。」

 

 俺はそう言いながら

 

 友希那の横を通り過ぎた

 

環那「あと、1つ。」

友希那「?」

環那「俺、リサと付き合う事になったから。」

友希那「!!??」

環那「本人に確認してくれれば、今のアドバイスに意味が分かるよ。」

 

 そう言った後は早くて

 

 軽く手を振りながらその場を去って

 

 騒がしいであろう教室に戻って行った

__________________

 

 ”友希那”

 

 信じられない

 

 リサとあいつが付き合ってる?

 

 絶対にありえない、ありえちゃいけない

 

 だって、リサだって......

 

リサ「__どうしたの友希那ー?」

友希那「......リサ。」

 

 放課後の教室で座ってると

 

 日直を終えたリサが私に声をかけて来た

 

 確認をしないといけない

 

 私はそう思い持ってる疑問をリサにぶつけることにした

 

友希那「少し、聞いて良いかしら。」

リサ「うん?なに?」

友希那「リサは......あれと付き合っているの?」

リサ「......っ(あれ、か......)」

 

 私がそう尋ねると

 

 リサは少しため息をつき

 

 真剣な表情を浮かべた

 

リサ「そうだよ。あたしは環那と付き合ってる。」

友希那「っ!?」

リサ「それがなに?」

 

 リサはさも当り前かのようにそう言った

 

 ありえない

 

 私達はあれが捕まって本当に苦労した

 

 犯罪者の幼馴染

 

 そんなレッテルを貼られ、皆に避けられた

 

 リサだって関係修復にかなり時間がかかった

 

 なのに、なんで......?

 

友希那「なんで!?」

リサ「......もう、環那を失わないため。」

友希那「どういう事なの?」

リサ「......そんな事の意味も分からないんだね。」

友希那「!」

 

 リサは冷めた目をしてる

 

 私はそれを見て背筋が凍った

 

 こんな目をしたリサは初めて見た

 

 いつもの暖かさを感じられない

 

リサ「友希那が環那を嫌ってるのは分かってる。でも、環那を陥れることもあたし達の関係を邪魔することもしないでね。それは、友希那がするべきことじゃないでしょ?」

友希那「......今は、それでもいいわ。」

 

 あれのアドバイスに乗る形で癪だけれど

 

 今のリサを見れば納得する

 

 私はまだ手を出すべきじゃない

 

 そんな事をすれば、本当に......

 

リサ「じゃあ、練習行こっか☆」

友希那「えぇ。(南宮環那......!)」

 

 私は心の中で憎き名前を叫んだ

 

 あいつはまた、私の前に現れ

 

 また奪おうとする

 

友希那(私はあなたを絶対に許さないわ......!!!)

リサ「......」

 

 私は拳を握り込み

 

 リサと一緒に教室を出て行った

 

 いつか、報復する

 

 そう、心に誓って......

 

 

 



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昼休み

 リサが俺に関する嘘の情報を流して

 

 クラスの俺への風当たりは大分緩和された

 

 昨日の今日なのに扱いは天と地の差

 

 いやぁ......リサ凄いって感じだね

 

リサ「__どうしたの、環那?」

環那「なんでもないよー。」

リサ「そう?」

 

 今は昼休み

 

 俺とリサは屋上の壁にもたれて

 

 前より近距離と言うか密着してる

 

 横からはリサらしい良い匂いがする

 

リサ「こんな感じで2人でいるの、久し振りだね。」

環那「そうだねー。」

 

 中学の時はずっとこんな感じだった

 

 後は休日にお互いの部屋に行ったりしてた

 

 まぁ、中学生だったからそういう事まではしてないけど

 

リサ「......ねぇ、環那?」

環那「んー?」

リサ「キス、しない?///久しぶりに......///」

環那「リサも好きだよねー。」

リサ「んぅ!///」

 

 俺はリサの顔を引き寄せキスをした

 

 リサは昔からされるのが好きだ

 

 俺も別にキスくらいなら慣れてるし、どうってことはない

 

 取り合えず、少しキスを続け

 

 5秒ほどして唇を離した

 

環那「これでいい?」

リサ「うん、ありがとう、環那......///」

環那「どうってことないよ。」

モカ「__おー、あつあつですねー。」

リサ「っ!?///」

環那「あ、モカちゃんー。」

モカ「やっほー。」

 

 キスを終えた瞬間

 

 モカちゃんがどこからか姿を現し

 

 他の4人もぞろぞろと歩いてきた

 

ひまり「あ、南宮さんにリサ先輩!」

巴「お疲れ様っす!」

蘭「どうも。」

つぐみ「こんにちは!」

環那「こんちゃーっす。」

リサ「や、やっほー///」

 

 この4人の態度を見る限りだけど

 

 モカちゃん以外はさっきのを見てないみたいだ

 

 ていうか、どこから現れたんだろう

 

 声をかけられるまで全く気付かなかった

 

モカ「......さっきの事は黙っててあげるよー。」

環那「ありがとー。まぁ、どっちでもいいけどー。」

モカ「あれれー?」

 

 モカちゃんは首を傾げた

 

 別にリサとの関係は隠してないし

 

 言いふらさない人間なのは分かってるし

 

ひまり「それにしても、2人の距離前より近い......って言うか密着してる!」

リサ「うん、私達付き合ってるから///」

蘭、巴、ひまり、つぐみ「えぇ!?」

環那「まぁ、そういう事。」

モカ「ほほー、なるほどー。」

 

 リサ、迷いなく言ったなー

 

 まぁ、隠しても仕方ないし

 

 むしろ隠さない方が動きやすいし

 

 別にいいかなー

 

ひまり「い、いつからですか!?」

リサ「一昨日からだよー。中学の時にも付き合ってたんだけど、あたしからやり直そうって。」

蘭「幼馴染なんですよね?それで。」

つぐみ「幼馴染同士で恋人なんて、憧れちゃうね!」

巴「あたしらは女しかいないしなー。」

環那(ともちゃんならこの4人の誰かと付き合ってても不思議じゃないけどね。)

巴「どうした?」

環那「いいや、なんでもー。」

 

 ともちゃんが不思議そうにこっちを見るので

 

 俺はゆっくり首を横に振った

 

 いやー、イケ女は首をかしげてもイケメンだね

 

巴「それにしても、環那さん唇赤くないか?」

環那「え、そう?」

蘭「ほんとだ。口紅でもつけたの?」

 

 俺は軽く自分の唇に触れた

 

 すると、手には赤い何かが付いて

 

 それを確認すると色が薄めの口紅だった

 

環那(あー。)

モカ「ほんとに逢引きしてたんだー。」

つぐみ「逢引きって......っ!?///」

環那「あはは、つぐちゃんは純情だねー。」

リサ「環那の余裕がありすぎるんだよ?///」

 

 何と言うか若さが眩しいねぇ

 

 今更キスを恥ずかしいと思わない

 

 俺はそんな感じの思考になってるのに

 

 つぐちゃんは自分がしたわけでもないのにこんな顔を真っ赤にして

 

 いやー、眩しい眩しい

 

環那「まぁ、これもまた一興ということで。」

蘭「いや、どういうこと?」

環那「......どういう事なんだろ?」

巴「いや、分かんないのかよ!」

 

 ともちゃんは俺にそうツッコんできた

 

 いやー、仲良くなったねー

 

 もう先輩後輩とか関係なくなってるし

 

ひまり「いいなーリサ先輩!優しそうな彼氏がいて!」

リサ「ひまりだってすぐにできるよ?人気あるんだし!」

モカ「あー、それがー。」

ひまり「男子、私の胸ばっかり見るんですよ......」

環那「まぁ、普通の男子なら凝視するだろうね。」

 

 俺も流石に初見は驚いた

 

 けどまぁ、もう全く気にならない

 

 と言うか、ひーちゃんの日頃の態度を見たらそう言う目で見れなくなる

 

リサ「......環那も興味あるの?」

環那「いーや、ないかな。あくまで一般論だよ。」

巴「まぁ、環那さんはあんまり興味なさそうだよな。」

環那「まぁ、そう言う目で見られるのはいい気分じゃないだろうし、ひーちゃんは無邪気そうだしね。」

ひまり「高校生なんですけど!?」

つぐみ「ま、まぁまぁ。変な目で見られてないんだし。」

 

 それにしても、2年生の男子は大変そうだね

 

 あのレベルになると本能で目が行くと思うし

 

 気にしないとなると俺くらい無神経にならないと

 

環那「まぁ、ひーちゃんならきっと素敵な人が現れるよ。」

ひまり「ほんとですか!?」

環那「きっと、ひーちゃんの心を見てくれる人がいるよ。いい子だからね。」

ひまり「やったー!」

環那(確証は微塵たりともないけど、まぁ、大丈夫......だよね?)

 

 俺はそんな事を考えながら立ち上がった

 

 もうすぐ昼休みが終わるし

 

 そろそろ教室に戻らないと

 

環那「そろそろ教室に戻ろっかー。」

リサ「そうだね。」

蘭「じゃあ、あたしたちも。」

モカ「もどろー。」

 

 そうして、俺達は全員屋上を出て

 

 それぞれの教室に戻って行った

__________________

 

 放課後、俺は1人で下校してる

 

 なんでも、リサはバンドの練習らしく

 

 友希那と一緒にライブハウスに行った

 

 それにしても、バンドかー

 

 青春してるねー

 

モカ「__やっほー、かーくんー。」

環那「モカちゃん?どうしたの?」

モカ「ちょっと気になることがあってねー。」

環那「?」

 

 モカちゃんはそう言いながらこっちに歩み寄ってくる

 

 気になること、か

 

 モカちゃんの観点は独特だし、何か面白い事かもしれない

 

環那「気になる事って?」

モカ「いやー、少し興味があるんだけど......」

 

 モカちゃんは俺の目を真っすぐ見た

 

 まるで綺麗な鏡のような目だ

 

 俺の姿を確かにとらえてる

 

 そんな事を考えてるとモカちゃんはゆっくり口を開いた

 

モカ「かーくん、リサさんのことに気付いてるよね?」

環那「ははっ、なんのことかな?」

モカ「それは気づいてる反応だねー。」

 

 モカちゃんはにやけながらそう言った

 

 いやー、この子は誤魔化せないなー

 

 友希那より頭も切れるし、利口だ

 

 あの5人を調和させる役割も担ってるし

 

モカ「かーくん、リサさんに何したのー?」

環那「う、うーん、ありすぎて分からないね。」

モカ「そっかー。」

 

 モカちゃんはそう言いながら

 

 俺に背中を向けた

 

モカ「まぁ、今は仲良さそうだし、いいんじゃないかなー。」

環那「そうだねー。俺もちょうどそう思ってた。」

モカ「ほほーう、相変わらず気が合いますなー。」

環那「喋り方も似てるしねー。」

 

 俺とモカちゃんは同時に笑い

 

 モカちゃんはのんびり歩いていった

 

 俺はその後姿を見届けた

 

環那(さてと、俺も帰ろうかなー。)

 

 俺は暢気に鼻歌を歌いながら歩きだし

 

 今日の夕飯のメニューを考えつつ

 

 別に遠くもない家に帰って行った

 

 

 



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本物

 5月に突入した

 

 クラスメイトの態度は緩和され

 

 本当に普通の学生と言うものになった

 

 いやー、好感度って簡単に変わるんだね

 

環那「いやー、本当に何とかなったねー。」

リサ「まさか、こんな簡単に行くとは思ってなかったかなー?」

 

 リサも流石に困惑してる

 

 まぁ、0どころかマイナスからのスタート

 

 そこから普通のレベルまで簡単に行くなんて、あまりに思考的におめでたい

 

環那「いやー、羽丘って意外に......利口じゃない生徒が多いんだね。」

リサ「バカって言いたいだろうけど、かなり言葉を選んだね。」

環那「人を馬鹿にしても仕方ないからね。」

 

 俺はそう言って壁にもたれ掛かった

 

 平和が一番なんて言うけど

 

 こうもあっさり平和になると気持ち悪い

 

 俺が疑り深すぎるのか?

 

環那「まぁ、いいかなー。どんな形でも俺の望んだ結果になったわけで、安全に学校生活を送れる。」

リサ「そうだね!しかも、あたし達の関係も広まったし、堂々と一緒にいれるね!///」

環那「そうだねー。」

 

 リサは俺の肩に頭を乗せてきた

 

 女の子って皆良い匂いするよねー

 

 派手で香水で作った匂いもあるけど、リサの場合は優しい柔らかい匂いがする

 

 一体、何の違いがあるんだろ?

 

リサ「ねぇ、環那?」

環那「どうしたのー?」

リサ「今週の日曜日さ、あたしの家来ない?」

環那「リサの家?いいけど、久し振りだねー。」

 

 リサの家に行くのは4年ぶり

 

 中学の時は頻繁に行ってた

 

 まぁ、そこで色々したね

 

 けど一線は超えてないよ、流石にね

 

環那「あ、そうだ。」

リサ「どうしたの?」

環那「今日、一緒に帰れないんだ。」

リサ「え、そうなの?」

 

 リサは俺にそう尋ねて来た

 

 そう、俺には今日用事があるんだ

 

 まぁ、一方的に押し付けられたんだけど

 

環那「ちょっと人に会わないといけなくてね。」

リサ「......それって、女?」

環那「2人いて、1人は女の子かなー。」

リサ「......可愛い?」

環那「うーん、見た目は綺麗だけど......内面に問題があるからねー。」

リサ「内面に問題?」

 

 リサは首を傾げた

 

 俺は笑いながらそんなリサを見て

 

 話を続けた

 

環那「まぁ、説明し難いけど、リサが心配してるようなことはないよ。」

リサ「なら、いいかな。」

 

 リサはそう言って立ち上がり

 

 俺の方に笑顔を向けて来た

 

 太陽が霞むくらい眩しい

 

 こんなに嬉しそうにしてくれるなら一緒にいる甲斐があるね

 

リサ「戻ろっか!」

環那「そうだねー。」

 

 俺はリサにそう言われて経ちあがり

 

 午後の授業を受けるため

 

 教室に戻って行った

__________________

 

 放課後、俺はとある路地裏を歩いてる

 

 汚いしネズミウロウロしてるし

 

 普通なら絶対に近寄ることはない

 

 でも、こんな所に来たのは

 

 呼ばれた場所がここにあるからだ

 

環那(__ここかな。)

 

 しばらく歩くと俺の目の前には地下に続く階段

 

 石でできた階段はそこら辺が壊れてて

 

 人が乗ったら崩れそうだ

 

 俺は内心冷や冷やしつつ、その古びた階段を下りていった

 

環那(ほんとにここなのかなー。女の子もいるのに......って、そんなこと気にする子じゃないか。多分だけど。)

 

 そんな事を考えてる内に階段を降り切って

 

 目の前には頑丈そうな鉄製のドアがある

 

 なんでここだけリフォームしたんだろう

 

 色々と謎が多いなー

 

環那(まぁいいや。はーいろっと。)

 

 俺は前もって言われていたパスコードを入力した

 

 そして、鍵が開いたのを確認して

 

 その建物の中に入って行った

__________________

 

 建物の中は意外とキレイだった

 

 イメージ的には病院に近い

 

 医療の器具も色々と揃ってる

 

 まぁ、これはあの子の趣味なんだろう

 

?「かーな、意外と早かった。」

??「来たか、ガキ。」

環那「呼ばれたからね。2年も前に。」

 

 部屋の奥の書斎机

 

 その奥に金髪で小柄な女の子と銀髪で長身の強面の男がいる

 

 今日、俺を呼んだのはこの2人

 

 獄中にいる俺をわざわざ訪ねてきた変な2人だ

 

環那「エマにノア......だったよね?」

エマ「よろしく、かーな。」

ノア「ふん。」

環那「......」

 

 取り合えず、この2人のこれは本名じゃないのは分かってる

 

 その理由はこの2人は犯罪者

 

 それも、未だに捌かれてない本物だからだ

 

 エマは医学に精通するありとあらゆる情報、知識を持つ天才少女......なんて言われるけど実際は違法な人体実験を行う犯罪者

 

 ノアはエマに実験体を提供するために人を殺す殺人鬼だ

 

環那「それで、俺は何の用で呼ばれたのかな?」

ノア「エマはお前に興味を持った。」

環那「え?」

 

 俺は突拍子もない発言に首を傾げた

 

 どうしよう、この2人おかしい

 

 変な人だ......俺もだけど

 

エマ「ただ1人で39人全員に重傷を与える東洋人。それを聞いて気にならない私はいない。」

環那「あ、はい。」

エマ「かーなならノアと同じ役割を果たせるよね。」

 

 エマは静かな声でそう言った

 

 その瞬間、背筋が寒くなるのを感じた

 

 まともじゃないのは分かってたけど

 

 俺の想像以上にヤバいかも

 

ノア「お前なんかと一緒なのは不服だが、エマの言う事だ。従うほかない。」

環那(なんか話が勝手に進んでる。)

 

 どうしよう、喋るタイミングがない

 

 どうにかしないと犯罪の片棒担がされる

 

 それはもう勘弁してほしいかな

 

エマ「じゃあ取り合えず、あの2人、銀髪とギャルの子......持って来て?」

環那「......は?」

エマ「実験体が足りてないの。あの2人なら簡単でしょ?」

ノア「エマの命令だ。即行動しろ、ガキ。」

環那「......」

 

 この2人は何を言ってるんだろう

 

 友希那とリサを持ってこい?

 

 日本語が拙いのかな?

 

 それとも......

 

環那「頭弱いの?外国人。」

ノア「あ?」

エマ「......?」

環那「だれがそんな犯罪の片棒を担ぐことするの?バカでしょ。そもそも、こっちの意思も聞かないあたりから君たちの教養の無さが伝わってくるよ、類人猿。」

ノア「誰に向かって口をきいてる?殺すぞ。」

環那「......そっちこそね。」

エマ、ノア「......っ!!」

 

 俺は目の前にいる2人をジッと見た

 

 表情は絶対に変えない

 

 まぁ、むしろ笑ったままの方が効き目あるかも

 

環那「君たちがどの程度の人間かは知らないけど......あんまり調子に乗ってると殺しちゃうよ?」

ノア(こいつ、なんて圧を出しやがる。)

エマ「......分かったよ。」

ノア「!」

 

 エマは静かにそう言った

 

 俺はそれを聞いて落ち着きを取り戻した

 

 別に人を殺すすべなんて持ってないけど

 

 向こうが勘違いしてくれたみたいでよかった

 

エマ「かーなは何もしなくていいよ。でも、1つお願い。」

環那「なに?」

エマ「お友達になって。」

環那「友達?まぁ、それなら別にいいけど。」

 

 これまた突拍子もない

 

 殺しをしろから友達になってなんて

 

 何を考えてるのかよく分からない

 

 でも、安全そうだしいいかな

 

エマ「ノア、かーなに手を出したら駄目だよ。」

ノア「分かった。(ていうか、手が出せない。こいつ、やばいぞ。)」

環那「じゃあ、もう帰ってもいいかな?」

エマ「うん。また来てね。」

環那「連絡してくれれば来るよ。」

 

 俺はそう言って2人に背中を向け

 

 さっきは言ってきたばっかりの鉄製ドアを開けた

 

エマ「期待してる、かーなの執着心。」

環那「......?」

 

 外に出る直前、エマの口が動いてるように見えた

 

 だが、聞き返すのも億劫なので

 

 今日の所はスルーして帰ることにした

 

 なんだか、疲れたな......

 

 

 



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信じること

 日曜日、俺は今日リサの家に向かってる

 

 この辺りに来るのも久し振りに感じる

 

 いや、実際に久しぶりか

 

 どうせ、俺の家族は引っ越してるからってここには来なかったし

 

環那「__ん?」

リサ「あ、環那!」

 

 俺が懐かしさを感じつつ歩いてると

 

 向こうでリサが立ってるのが見えた

 

 リサは俺に気付くと嬉しそうに手を振ってこっちに走ってきた

 

環那「わざわざ待ってたのー?中で待ってればいいのに。」

リサ「待ちきれなかったの!」

環那「時間的には別に変らないけどねー。」

リサ「気持ちの問題だよ!」

 

 リサは弾けるような笑顔でそう言った

 

 いつも表情は明るいけど、この表情は中々見れなそう

 

 クラスの男子は羨ましがるだろうなー

 

 リサの人気すごかったし

 

リサ「早く行こ!」

環那「そんなに引っ張らなくてもー。」

 

 俺はそう言いながらもリサについて行き

 

 4年ぶりになるリサの家に入って行った

__________________

 

 家に入って、俺はリサの部屋に来た

 

 あんまり見た目的には変わってない

 

 けど、化粧品とか置いてあったりとか細かい変化はある

 

 リサに化粧がいるかと言われると......まぁ、いらないね

 

リサ「ほら、座って座って!」

環那「うん、分かった。」

 

 リサはベッドに座って横を叩いてる

 

 俺はそれを見て、リサの隣に座った

 

 ベッドで男女が2人並んで座ると絵面が危ないよね

 

 俺はそんな事を思いながらリサの言葉を待った

 

 ”リサ”

 

 環那があたしの隣にいる

 

 嬉しい、そんな気持ちが溢れてくる

 

 離れ離れになって4年間寂しかった

 

 でも、環那は戻ってきた

 

リサ(......どうしよう、思いっきり抱き着きたい。)

 

 そんな欲が出て来る

 

 抱き着ける距離に環那がいる

 

 環那の匂いがする

 

環那「リサ。」

リサ「え!?ど、どうしたの!?」

環那「いや、気になることがあって。」

リサ「気になること?」

 

 あたしが首をかしげると

 

 環那は後ろの壁を指さした

 

 そこにはRoseliaのポスターが貼ってある

 

リサ「あ、そっか。環那はRoseliaのこと知らないんだ。」

環那「Roselia?」

リサ「友希那が作ったバンドであたしもベースしてるんだ。」

環那「友希那が、バンドを?」

リサ「うん!」

 

 流石に環那も驚いてるみたい

 

 音楽が好きなことは知ってただろうけど

 

 流石にバンドを始めたのは予想できなかったんだ

 

環那(そっか、夢に一歩近づけたのか。)

リサ「なんだか嬉しそうだね?」

環那「友希那の歌の才能は知ってるから、やっとそれを見てくれるステージに立ってくれたのは嬉しいよ。」

 

 環那は嬉しそうに笑ってる

 

 それを見て、あたしは少し複雑に思った

 

 あんな事されたのに、環那は友希那を嫌わない

 

 なんで、こんなに嬉しそうなの?

 

 なんで、あたしと2人でいる時より嬉しそうなの......?

 

リサ(むぅー......)

環那「そっか、バンドかー。」

 

 環那はポスターを眺めてる

 

 自分が載ってるポスターをジッと見られると少し恥ずかしい

 

 まぁ、視線は基本友希那なんだけどね

 

 昔っから運動会とか林間学校とか

 

 環那は写真があればいつも友希那を探してた

 

リサ(あっ、ペン置きっぱなしだ。)

環那「わっ!」

リサ「!?」

 

 ベッドの枕もとを見ると

 

 この前、ちょっと作詞した時に使ったペンが置いてあった

 

 あたしは先に片付けようと思って

 

 環那の向こうにあるペンに手を伸ばした

 

 すると、環那は驚いたような声を出した

 

 それにあたしまで驚いてしまった

 

リサ「ど、どうしたの!?」

環那「い、いやー、ポスターに集中しすぎたよ。」

リサ(ポスターに、集中?)

 

 あたし、確かに環那の横から手を伸ばした

 

 けど、あんなに驚く?

 

 まるで、見えてなかったみたい

 

 いや、でも環那はそう言うところあるし

 

 本当なのかもしれないけど......

 

 あたしがそんな事を考えてると、環那が口を開いた

 

環那「友希那もリサも成長したみたいで嬉しいよ。」

リサ「う、うん、ありがとう(?)」

環那「じゃあ、何か他の話をしよう。」

リサ「いいよー、何がいい?」

環那「俺がいない間の話とか聞きたいな__」

友希那『__リサ?』

環那、リサ「!?」

 

 環那が話してる途中、窓の向こうから友希那の声が聞こえて来た

 

 これは流石にヤバい

 

 これバレたら流石に喧嘩になる

 

友希那『誰かいるの?』

リサ(か、隠れて環那!)

環那(どこに!?)

 

 環那は慌てて周りを見て

 

 取り合えず、窓の方に近づいて死角になる部分に隠れた

 

 それを確認してあたしは安心して窓を開けた

 

リサ「や、やっほー友希那!」

友希那「えぇ、それで誰かいないの?」

リサ「あー、友達と電話しててね!それだよ!」

友希那「そう?」

 

 友希那は納得した様子を見せた

 

 よかった、環那のことはバレなかったみたい

 

 あたしはそれで内心ほっとした

 

リサ「それで、友希那はどうしたの?」

友希那「新曲の歌詞が出来たのだけれど、リサの意見も欲しくて。」

リサ「オッケー!見せて見せて!」

 

 あたしは友希那から歌詞を受け取った

 

 これは、前から考えてた新曲

 

 次のライブで披露ってことになってて

 

 そろそろ仕上げないといけない時期だった

 

 あたしは歌詞に目を通していった

 

リサ「__うん、いいね!」

友希那「そう、よかったわ。」

リサ「これなら行けるよ!」

友希那「じゃあ、紗夜たちにも送っておくわ。」

 

 友希那はそう言って歌詞が書かれた紙をしまった

 

 用がこれだけだからいいけど

 

 ここからはこれ以上は騒げないなー

 

 友希那の方に聞こえたらヤバいし

 

友希那「それと、少し話があるのだけれど。」

リサ「え、な、なに?」

友希那「......南宮環那のことよ。」

環那(!)

リサ「環那が、どうしたの?」

 

 あたしは少し声のトーンが落ちた

 

 あれ以来、友希那は特に何も言ってこなかったけど

 

 急になんなんだろう

 

友希那「リサは嘘の情報を流して何がしたいの?」

リサ「環那を環那として評価して欲しい、それじゃ駄目?」

友希那「なら、最初のままで正しかったと思うけれど。」

リサ「......正しい?」

友希那「!!」

環那(!)

 

 あたしは友希那の方を睨んだ

 

 多分、今はすごくイラついてるんだと思う

 

 なんで友希那は環那を認めないのか

 

 環那はあんなに友希那の事を応援してるのに

 

リサ「環那の話を何も聞いたことないくせに、なんで否定しか出来ないの?」

友希那「それは......」

リサ「そもそも、友希那に環那を否定する資格はないって自覚した方が__?(環那?)」

環那(シー、それ以上はダメ。友希那が泣いちゃうよ。)

 

 環那は指を一本立ててる

 

 もう、なんで友希那には優しいんだろ

 

 あたしは少しため息をついて友希那の方を見た

 

リサ「じゃあ、あたし友達待たせてるから戻るね。」

友希那「え、えぇ、また。」

リサ「じゃあね。」

 

 あたしはそう言って窓とカーテンを閉めた

 

 そして、向こうで友希那がなどを占めたのを確認して、あたしは一息ついた

 

環那「全く、リサは怒り過ぎだよ?」

リサ「でもさ......」

環那「いいんだよ、俺は。」

 

 環那は笑いながらそう言った

 

 なんで笑えるんだろう

 

 あんなに友希那のこと気にかけてるのに

 

 しかも、環那は......

 

環那「俺は友希那を酷い人間にしたいわけでもないし、リサとの仲を険悪にしたいわけじゃないからね。」

リサ「なんで、そこまで友希那の事を?」

環那「幼馴染だからね。」

 

 環那は一言そう言った

 

 幼馴染だから、そんなアバウトな理由

 

 それだけでこんなに優しくなれるの?

 

 あたしは心底それを疑問に思った

 

環那「俺は友希那を優しい女の子って信じてるから。幼馴染が信じてあげないと寂しいものだよ。」

リサ「まぁ、そうだよね。(ねぇ、環那。)」

 

 あたしは心の中で環那に話しかけた

 

 さっきの言葉は環那にも刺さる

 

 あたしは少し悲しくなって、環那の服の裾を掴んだ

 

環那「リサ?」

リサ(環那も寂しいの?その笑顔に下には何が隠れてるの?)

環那(どうしたんだろう。)

 

 あたしには分からない

 

 環那がどんな感情を抱いているのか

 

 長い間環那を見てるあたしですら分からなくて

 

 今は環那の近くにいる事しか出来なかった

 

 

 



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ひまりの相手

 日曜日が終わっての月曜日

 

 このちょっと気だるげな感じが懐かしい

 

 これが世の学生もしくは社会人の気持ちなのかな

 

 まぁ、今は俺もその1人なんだけどね

 

「うーっす、南宮ー」

「はよー。」

環那「おはよー。」

 

 もうクラスの対応にも慣れた

 

 別に普通にいられたらいいだけで深く関わる必要性もあまり感じられない

 

 思考能力があまりにも乏しい

 

 この様子じゃ1年もない期間を凌ぐのはどうってことないね

 

リサ「おはよ、環那!」

環那「おはよー。早いねー。」

リサ「いやいや、環那がギリギリなだけだって。」

 

 リサは苦笑いを浮かべながらそう言った

 

 そう言えば、今日は洗濯してて遅くなったんだ

 

 どうりで生徒の集まりがいいと思った

 

環那「まぁ、そう言う事もあるよね。」

 

 俺はそう言いながら席に着いた

 

 琴ちゃんが来るまで後5分くらい

 

 確かに、結構ギリギリだった

 

リサ「そう言えば、環那は知ってる?」

環那「どうしたの?」

リサ「ひまり、最近いい感じの男子がいるらしいよ!」

環那「ひまりちゃんに?」

リサ「うん!3年で教室はここの隣らしいよ!」

環那「ほほーう?」

 

 ひまりちゃんに言い感じの男子

 

 別に驚くことでもない

 

 ルックスに関しては羽丘でもトップクラス

 

 性格は明るくて、元囚人の肩書があった俺に物怖じしないほど気さく

 

 そんな子がモテない方が不自然だ

 

環那「まぁ、順当じゃないかなー?本人も彼氏欲しいなって言ってたしー。」

リサ「そうだねー。」

環那(まぁ、ひまりちゃんの性格上......)

 

 騙される可能性

 

 別に相手を見たわけじゃないけど疑うな

 

 ひまりちゃん、若干脳内お花畑なところあるし

 

 悪いやつに騙されたり......

 

環那(なーんて、縁起でもないか。)

リサ「あ、浪平先生来たよ。」

環那「ちなみに今日の琴ちゃん、左右で別の靴下履いてるよ。」

リサ「ごめん、それ聞きたくなかった。」

 

 リサのそんな言葉と同時に号令がかかり

 

 色々な連絡事項を琴ちゃんが話した後

 

 今日の授業が始まった

__________________

 

 午前の授業が終わっての昼休み

 

 俺はいつも通りリサと屋上に来た

 

 そこにはやっぱり、いつもの5人がいる

 

 そう思ってたけど......

 

環那「__あれ、ひまりちゃんは?」

巴「ひまりはー、まぁ、そこだよ。」

環那「?」

 

 ともちゃんは下の方を指さした

 

 俺はフェンスまで行き

 

 ともちゃんが指さした方向を見た

 

環那「あー、なるほど。あれが噂の。」

 

 校門近くのベンチ

 

 そこに座ってるひまりちゃんと男子

 

 横にいる男子はいかにも優しそうな顔をしてる

 

 顔の良さもあるけど、それ以上に女子が好きそうな見た目って感じ

 

蘭「今宮翔、だって。」

リサ「初めて見たなー。」

環那「まぁ、生徒も多いしそう言う人もいるよね。」

モカ「んー。」

つぐみ「モカちゃん?どうしたの?」

モカ「いやー、少し引っかかることがあってねー。」

環那「?(引っかかる事?)」

 

 モカちゃんの方に耳を傾けた

 

 この5人の関係は小さい時から続いてる

 

 そんな子が引っ掛かること

 

 これはもしかしたら重大な事かもしれない

 

モカ「ひーちゃん、ああいう顔の人好みだったっけー?」

巴「そう言えばそうだな?」

リサ「いやー、好きになる人と好みの人は違うって言うし?そう言う事もあるんじゃない?ね、環那?」

環那「......まぁ、そう言う事はあるけど。」

 

 確実じゃないって言ったらどうなるかな

 

 きっと、全員が不安になる

 

 ここは空気を読んでおくことにしよう

 

 俺はそんな事を考えながらひまりちゃん達の方を見た

 

環那「今が幸せそうだし、いいんじゃないかな?」

つぐみ「そうですよね!」

 

 経過観察、と言う事にしよう

 

 もしもの事があれば......

 

 いや、縁起でもない事は考えないようにしよう

 

 俺は迷いを振り払い、残りの昼休みの時間を過ごした

__________________

 

 放課後、俺は1人で下校してる

 

 リサはバンドの練習があるらしくて、友希那と一緒にライブハウスに向かった

 

 ライブもあるらしいし、頑張ってるんだろう

 

環那「!(あれは。)」

 

 歩いてる途中、前にひまりちゃんの姿が見えた

 

 横にはあの男子、今宮君?がいた

 

 一見すれば理想的な学生の恋人未満って感じかな

 

ひまり「__!」

翔「__!」

 

 会話内容は良く聞こえない

 

 けど、楽しそうなのは伝わってくる

 

ノア「あの2人が気になるか。」

環那「ん?ノア君?」

ノア「だれが君だ。」

 

 ノア君は若干怒りながらそう言った

 

 まぁ、別にそんな事はどうでもいいんだけど

 

 それにしても、なんでここに?

 

環那「どうしたの?」

ノア「貴様にエマからの伝言を伝えに来た。」

環那「エマからの?」

 

 これは結構意外かもしれない

 

 エマがわざわざ俺に伝言をよこすなんて

 

環那「......内容は?」

ノア「見なきゃ見えないものがある、だそうだ。」

環那「見なきゃ、見えないもの__っ!!!」

 

 その言葉を聞いて背筋が凍った

 

 そして、前を歩いてる2人を......いや、今宮君を見た

 

 でも、何回見ても普通だ

 

ノア「ほう。」

環那「何か見えた?」

ノア「さぁな。ただ......」

 

 ノア君は2人から視線を外し

 

 来た道を戻るように体を向け

 

 次の事を言った

 

ノア「人は見かけによらないな。あれもお前も。」

 

 ノア君はそう言い残して歩いて行った

 

 もうこの際、言葉足らずなことはいい

 

 問題はあの言葉だ

 

環那(見かけによらない?)

 

 俺は再度今宮君の方を見た

 

 どこに粗があるって言うんだ?

 

 素行も何も普通そのもの

 

 なにもないじゃないか......

 

環那(......もう少し様子を見よう。もしもの事があれば。)

 

 あの幼馴染4人を悲しませたくない

 

 あの美しい友情に傷をつけてはいけない

 

 もし本当に、そうなんだとしたら

 

 情報を持ってる俺しか動く事が出来ない

 

 だから......

 

環那(俺が何とかしよう。)

蘭「__あれ、南宮?」

環那「蘭ちゃん?それにみんなも。」

モカ「かーくんもおっかけてるのー?」

環那「いや、偶然だよ。」

 

 俺は笑いながらそう答えた

 

 取り合えず、ここは隠そう

 

 まだアクションを起こすべきじゃない

 

 何より、余計な心配をかけるべきじゃない

 

つぐみ「練習に呼ぼうと思ったけど、どうしようか?」

蘭「しかたないね。あたし達だけでしよ。」

巴「ベースないときつくないかー?」

モカ「まぁまぁ、気合でー。」

環那「あはは、頑張れー。」

蘭、巴、つぐみ(なんだろ、この2人が喋ると気が抜ける。)

 

 それから、4人はライブハウスに向かい

 

 俺は取り合えずあの2人を観察、もといストーキングして

 

 ひまりちゃんと今宮君が分かれたのを確認してから家に帰った

 

 

 



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定義

 学校の昼休み

 

 最近はあの5人とリサとで屋上に集まるの事が多くて

 

 今日も今日とてみんなで集まってる

 

ひまり「リサ先輩!南宮さん!デートを教えてください!」

環那、リサ「え?」

 

 そんな時、ひまりちゃんがそんな事を言い放った

 

 俺とリサは勿論首を傾げた

 

 だって、デートを教えてって急に言われるんだよ?

 

環那「どうしたのひまりちゃん?急にそんなこと言って。」

ひまり「実は、今宮先輩とデートをするんです!」

環那「!!」

蘭「あぁ、だから朝から機嫌よかったんだ。」

ひまり「うん!」

 

 ひまりちゃんは元気に頷いた

 

 デートか

 

 話を聞いた感じ、関わり始めて1週間

 

 最近の学生の感じから考えてありえるのか?

 

つぐみ「やったね!ひまりちゃん!」

モカ「何故か全くモテなかったひーちゃんに春がきたねー。これにはモカちゃんも涙したよー。」

ひまり「引っかかる言い方だけど、今日は許してあげる!」

巴「マジで機嫌いいなー。」

 

 嬉しそうに話すひまりちゃん

 

 本来なら年上として応援する所だ

 

 でも、今回はそう言う感じじゃない

 

 今宮君の観察は続けてるけど、まだ何も掴めてない

 

環那(でもどうする?止めてあげるのも優しさだけど、嬉しそうにしてるひまりちゃんを前にやめろとも言えない。でも、もし今宮君が本当にヤバい人間だとしたら......)

リサ「環那?どうしたの?」

環那「あ、いや、なんでもないよー。」

リサ「そう?じゃあさ、ひまりに何かアドバイスしてあげよ!」

環那「アドバイスね。そうだなー......」

 

 取り合えず、先の事は後でいい

 

 今は話に乗ろう

 

 それで、後の事はまた考えるのがいい

 

ひまり「男の人って、どんな服装が好きなんですか?」

環那「うーん、人にもよるけど変に着飾りすぎるのは良くないんじゃないかな?」

ひまり「つまり、いつも通りが良いって事ですか?」

環那「まぁ、言ってしまえばそうかな。後は、ヒールとか動きずらいのは避けた方がいいかもね。」

リサ(なるほどなるほど。環那はいつも通りがいいんだ。)

 

 ひまりちゃんは興味深そうに話を聞いてる

 

 まぁ、ひまりちゃんは何着ても似合う子だろうし

 

 ありきたりなアドバイスしか出来ないのは情けないな

 

ひまり「なんだか大丈夫な気がしてきました!」

環那「そう?(ポジティブだなー。)」

ひまり「土曜日は頑張るぞー!えい、えい、おー!」

蘭、モカ、つぐみ、巴、リサ「......」

環那(おぉ、高校生にもなってそれか。)

 

 まぁ、なんというか、らしいね

 

 俺としては可愛らしいと思うけど

 

 乗ろうとは思わないね

 

ひまり「もー!なんでー!」

モカ「ひーちゃんのてっぱんネタじゃんー。」

ひまり「モカー!」

環那「あははー。」

 

 こんな感じに俺は昼休みを過ごし

 

 この後は今宮君の観察をしてから家に帰った

__________________

 

 あれから3日ほど経って土曜日

 

 今日はひまりちゃんのデートの日だ

 

 まぁ、俺は特に関係してないし

 

 流石に今日手出しは出来ない......

 

モカ「__おー、ひーちゃん待ち合わせてまーす。」

巴「本当にいつも通りって感じだな。」

つぐみ「でも、細かいお洒落とかはしてるし、可愛いね!」

蘭「悪くないんじゃないかな。」

環那「うん、いいと思うよー。」

 

 と思ってたんだけど

 

 俺はこの4人に誘われて一緒に尾行してる

 

 いやー、これは想定外だった

 

 幼馴染のひまりちゃんが心配だったんだろう

 

 でも、これは大きなチャンスかもしれない

 

環那(ノア君からの情報をある程度信用できると仮定して、今宮君が取る行動のパターンは......)

 

 最高から最悪まで考えたら多すぎる

 

 行動が絞れないのは少し難しい

 

 その前に今宮君の正体を明らかにしないと

 

環那(生憎、登場人物の心情を読み取ったりする国語は苦手なんだよね。こっちは数学しか出来ないんだから。)

モカ「かーくん移動するよー?」

環那「うん、分かった。」

 

 俺はモカちゃんに話しかけられ一旦考えるのをやめ

 

 取り合えず、2人の尾行を開始した

__________________

 

 ”ひまり”

 

 今日は今宮先輩とデート!

 

 南宮先輩のアドバイス通りの格好で

 

 肌とか髪のお手入れはかなり気合入れちゃった!

 

 今はショッピングモールでお買い物中!

 

ひまり「わー!これ可愛い。」

今宮「おっ、いいねそれ。すごくひまりちゃんに似合いそう!」

ひまり「え、そうですか?」

今宮「うんうん、きっと似合うよ。」

 

 今宮先輩は私を良く褒めてくれる

 

 少しの変化にも気づいてくれて

 

 私はきっとこんな人を待ってたんだ!

 

今宮「そうだ!これはひまりちゃんにプレゼントするよ!」

ひまり「えぇ!?いや、それは申し訳ないですよ!」

今宮「俺がしたいだけだから!バイトで金結構あるし!」

ひまり「そ、そういうことなら......」

今宮「じゃあ決まりだ!買ってくる!」

 

 今宮先輩は私が見てた服を持ってレジに行った

 

 奢ってもらうのは気が引けるけど

 

 でも、これから色々あるだろうし

 

 ゆっくり返して行こう!

 

 ”環那”

 

モカ「こちらモカちゃんー、いたっていい感じでーす。」

環那「そうだねー。」

 

 モカちゃんの言う通り

 

 2人はかなり良い感じに見える

 

 距離感もちょうどいいし、今宮君は程よくいい人に見える

 

 まるで、教科書に書いてある男女のカップルだ

 

環那(これはどう判断しよう。)

 

 ここで思い過ごしだった

 

 なーんて考えたらマズいのかもしれない

 

 でも、そう思わざるを得ない

 

環那(そもそも、今日動くのかな?もし、向こうがこっちに気付いてたら?)

モカ「どーしたのー?」

環那「ううん、なんでもないよ。」

モカ「もしかしてー、リサさんとデートする事でも考えてたー?」

環那「ん?」

 

 モカちゃんはニヤニヤしながらそう言ってきた

 

 いや、別に考えてなかったけど

 

 俺ってそう言う目で見られてるの?

 

環那「別に考えてはなかったよ。そう言うのは大体リサの方が考えてくれるし。」

モカ「あー、ぽいねー。」

環那「女子力の塊みたいな子だからねー。」

 

 俺はそんな会話をしながらも2人から目は離さない

 

 今は今宮君が会計を終えて戻ってきて

 

 ひまりちゃんと一緒に店を出て行こうとしてる

 

環那「モカちゃん、ひまりちゃん達が移動する。行こう。」

モカ「そうだねー。蘭たちも追ってるしー。」

 

 俺とモカちゃんはそう言って

 

 ひまりちゃん達を追って店を出て

 

 2人の次の行先について行った

__________________

 

 ”ひまり”

 

 ショッピングモールを2人で歩く

 

 周りにはカップルっぽい男女もいっぱいいて

 

 私達も本当にカップルになったみたい

 

ひまり(楽しいな~♪)

 

 人生初めてのデートで緊張したけど

 

 やっぱり、少女漫画とかで見た通り!

 

 周りの景色がキラキラしてて、楽しい!

 

ひまり「次はどこに行きますか?」

今宮「そうだなぁ......」

 

 今宮先輩は考える仕草を取ってる

 

 こういう姿もかっこいいなぁ

 

 1つしか違わないのに大人っぽい

 

 私、こういう人に弱いのかな?

 

今宮「次行くところは......」

ひまり(周り人増えて来たなー?)

今宮「ひまりちゃんが眠ってから行こうかな。」

ひまり「え__っ!?(は、ハンカチ......!?)」

 

 人ごみの中、今宮先輩の言葉の後に口元にハンカチを当てられ

 

 段々と意識が遠のいて

 

 最後に笑顔の今宮先輩が見えた

__________________

 

 ”環那”

 

環那「ひ、人多いな。」

 

 店を出てから人が多くなった

 

 この辺には遊べる施設は極めて少ないし

 

 やっぱり、休日の昼は混むみたいだ

 

モカ「ひ、ひーちゃんたちいるー?」

環那「いや、見失った。この中じゃ人2人だけを見るのはキツイかな。」

 

 普通の格好をしてるのが祟った

 

 ある程度目立つ格好なら見やすかった

 

 けど、俺のアドバイスで普通の格好してるし

 

 ひまりちゃんと似た格好をしてる女の子は多い

 

 流石は女子力が高い女の子だ

 

モカ「これは一旦人混みを抜けないと__って、蘭から電話だー。」

環那「蘭ちゃんから?」

モカ「はいはーい、モカちゃんでーす。どうしたのー?」

 

 モカちゃんは電話越しに蘭ちゃんと話してる

 

 俺は俺でひまりちゃんを探さないと

 

モカ「__えっ?」

環那「モカちゃん?」

モカ「ど、どういうことー?ひーちゃんが消えた?」

環那「なっ!(なんだって!?)」

モカ「アイス屋の前まで後ろにいたけど、突然消えたって......そんな事あり得る?」

環那「アイス屋?」

 

 アイス屋は3階にあって

 

 今、俺とモカちゃんは2階にいる

 

 と言う事は、今宮君はこっちに気付いてた?

 

 いや、ありえない

 

 もし気付いてたとしたら蘭ちゃん達への警戒が薄すぎる

 

モカ「か、かーくん、ひーちゃんがいなくなったって。」

環那「分かってる、少しだけ待って。(館内図......)」

 

 ショッピングモール内の館内図を思い出す

 

 人が消えるなんてありえない

 

 そんな質量保存の法則を無視するなんて

 

 そんなことは勿論できるわけがない

 

 絶対になにか分かりやすいヒントがある

 

環那「......いや、待てよ?」

モカ「え?」

環那「このショッピングモールの構造は正六角形で店が並んで、非常口はフロアごとに4つある。」

モカ「そ、そうだけど、それに何の関係が?」

環那「3階のその非常口の位置は、靴屋、雑貨屋、ジュエリーショップ......そして、アイス屋の横。」

モカ「!」

 

 なるほど、分かった

 

 ひまりちゃんは非常口から外に出た

 

 でも、なんで非常口から出ようとするんだ?

 

環那「(もしかして。)モカちゃん。」

モカ「どうしたの?」

環那「蘭ちゃん達に電話をかけて、合流して。」

モカ「え?」

環那「ちょっと、ひまりちゃん探してくるよ。」

モカ「あ、か、かーくん!」

環那(分かった、分かったぞ。今宮翔を証明する定義が!)

 

 俺はモカちゃんにそう言って

 

 近くの非常口に向かって走った

 

 急がないと、マズいかもしれない

 

 

 



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一晩だけ。

 少しだけマズい事になった

 

 今宮翔の事が分かって

 

 どこに逃げて行ったかも大体わかった

 

 でも、少し時間が経った

 

 これは、見つけるのは苦しいかもしれない

 

ノア「__おい、ガキ。」

環那「ノア君?」

ノア「エマの命令だ。貴様を手助けしろとな。」

環那「!」

 

 ノア君はバイクにまたがって鬱陶しそうにそう言った

 

 これは勿論エマへではなく、俺へだ

 

ノア「バカが、易々と逃がしやがって。さっさと乗りやがれ。」

環那「うん、ありがとう。」

ノア「礼はエマに言え。」

 

 俺はのバイクの後ろに跨り

 

 それを確認したノア君はバイクを走らせ

 

 ショッピングモールから出て行った

__________________

 

 ”ひまり”

 

ひまり(ん......ここ、どこ?)

 

 目を覚ますと、全く知らない場所にいた

 

 なんだか埃っぽくて暗い

 

 なんでこんな所にいるんだろ......?

 

今宮「起きたみたいだね、ひまりちゃん。」

ひまり「今宮先輩?あの、なんでこんな所にいるんですか?」

今宮「そうだなぁ、少しひまりちゃんにお願いがあってね。」

 

 今宮先輩は笑みを浮かべている

 

 でも、なんでだろう?

 

 怖い、近づきたくない

 

「__おーい、翔ー。」

「もう連れて来たのか?」

「おぉ!胸でけぇ!」

ひまり「え?」

今宮「なんだ、もう来たのか。」

 

 今宮先輩の視線の先のドアからいかにも怖そうな男の人たちが入ってきた

 

 タトゥーが入ってたり目が怖かったり

 

 まるで、私が最初にイメージした南宮さんみたい

 

ひまり「あの、この人たちは?」

今宮「ひまりちゃんには今からこの人たちに体を売ってもらいたいんだ。」

ひまり「え......?」

「うっわ、ひでぇ。」

「この子、すげぇ顔してるじゃん。」

今宮「お前ら、金はしっかり払ってくれよ。」

「わーってるって。」

ひまり「な、なんで......?」

 

 なんで、こうなったの?

 

 私、さっきまでデートしてたのに

 

 今宮さんは何でそんなこと言うの?

 

 なんでそんなに笑ってるの?

 

 助けて、助けてよ......

 

今宮「俺が楽しい思い出を上げたんだから、金稼ぐくらいしてくれるよね?」

「さぁ~、やるか~。」

「久しぶりの巨乳じゃ~ん。ラッキー。」

「誰から行きたい?」

ひまり「嫌......嫌......」

 

 男の人の手がこっちに来る

 

 ゆっくり服を脱がされて行って

 

 段々、寒さを感じる

 

 その時、ゴンゴンと鉄製の扉を叩く音がした

 

『__すいませーん、引っ越し業者の者ですー。』

今宮「!!」

「なんだー?そんなの呼んでたのか?」

今宮「いや、そんな訳ないだろ。ここには俺達しか入れない。」

「おいおい、じゃあ今の声は何だよ。」

ひまり(あれ、この声......)

『誰もいないんですかー?じゃあ、蹴り破りますので修理費はそちらもちでお願いしますよー。』

 

 そんな声がした瞬間

 

 ガシャンとドアは大きな音を立て

 

 まず、ガラスが割れた

 

 そして、大きくへこんだドアはゆっくり開かれ

 

 私はそこから入ってきた人物を見て

 

 涙の溜まる目を大きく見開いた

 

環那「どうもー、引っ越し業者でーす。」

ひまり「み、南宮さん......?」

 

 ”環那”

 

 ギリギリアウトよりのセーフ

 

 部屋に入って最初に思ったのはそれだった

 

 まさか、想定した中で4番目に最悪なパターンだったとはね

 

 これには流石の俺も驚いた

 

今宮「南宮環那......だったっけ?」

環那「そうだよー。覚えてくれてて良かった。」

 

 俺は首をかしげてる今宮君にそう言った

 

 別にもう今宮君は大した問題じゃない

 

 正体が分かればとるに足らない普通の学生だ

 

 さっさとひまりちゃんを連れて帰りたいな

 

今宮「何しに来た?俺はただ、ひまりちゃんとデートをしてるだけなんだけど?」

環那「これがデート?ははっ、おかしなことを言うね?」

 

 俺は笑いながらひまりちゃんの方に歩いた

 

 さて、今宮君は動く気配がない

 

 つまり自分の優位が動くことはないと高をくくってる

 

 だとすると、問題は......

 

「おい、なんだお前は?」

「いいとこだってのに邪魔すんなよ。」

環那「1つ、君たちに言っておくことがある。」

「あ?」

環那「君たちにはまだ助かる時間がある。だから、早くここから逃げるのをおすすめするよ。そうしてくれないと、俺は君たちの命を保証してあげられない。」

「何言ってんだ、こいつ?」

「頭おかしいんじゃねぇか?」

 

 まぁ、信じてくれないよね

 

 欲しいものが取られそうになれば守る

 

 まるで幼稚園児の相手でもしてるみたいだ

 

 ただ、今回に限っては嘘じゃないんだよ......

 

ノア「__おい、猿ども。」

今宮「!?」

ひまり(だ、誰......!?)

「なっ!?」

「どこから現れたこいつ!?」

「ていうかでかっ!?」

ノア「本当はお前らのような品性のかけらもない奴らをエマの前に持っていくなんてしたくはないが、モルモットは多いほうがいい。喜べ、この世で最も美しい医者の実験材料になれる事をな。」

「「「え__」」」

環那「だから言わんこっちゃない......」

 

 俺が頭を抱えるのと同時に、ノア君は3人の男を一瞬で気絶させた

 

 実験材料に大きな傷をつけない

 

 ノア君の動きからはそんな意思が見える

 

 本当に手慣れてる

 

 彼らの今後はもうお察しと言う事で

 

環那「大丈夫?ひまりちゃん?」

ひまり「み、南宮、さん......!」

環那「俺ので悪いけど、これ着て。」

 

 俺はひまりちゃんの前でしゃがんで

 

 今着てる上着をひまりちゃんに羽織らせた

 

 流石に女の子を半裸で放置できない

 

環那「もう大丈夫。すぐ終わらせるから。」

ひまり「う、うぅ......!」

 

 ひまりちゃんは涙を流した

 

 我慢してたものがあふれ出したんだろう

 

 女の子をこんなに、か......

 

ノア「終わりだ、今宮翔。」

今宮「な、何なんだお前ら!?なんで俺の邪魔をするんだ!?」

環那「それは、君の行いが裁かれるべき悪だからだよ。」

 

 俺はひまりちゃんを今宮君から離れた位置に移動させ

 

 今宮君の方に近づいて行った

 

 別に怒るつもりはなかったけど

 

 ......こんなにひどい人間を見るのは人生で2人目かな

 

今宮「悪だと?何を言ってるんだ?」

環那「......?」

ノア(何を言ってるんだ、こいつ?)

今宮「俺は悪くない!俺は生まれた時から勝ち組、お前らなんかとは違うんだよ!!」

 

 今宮君は叫ぶようにそう言った

 

 頭がおかしくなったのかな?

 

 全く内容が伝わって来ない

 

今宮「負け組が勝ち組に従う、これの何がおかしい!?そもそも、俺の役に立てるなら女は喜んで体を売るべきなんだよ!!そう、悪いのはそこの簡単に騙されるバカ女だ!!!」

環那「......」

今宮「ほんと、泣きたいのはこっちだ!服まで与えてやったのに何の役にも立たない!!大損だ!!」

 

 今宮君はそんな事喚いてる

 

 その姿はまるで滑稽な物で

 

 むしろ哀愁に似た感情すら感じる

 

環那「......もう、分かった。」

今宮「!?」

 

 俺は静かにそう呟いた

 

 駄目だ、このクズさは計算できなかった

 

 本当に泣いちゃいそうだよ

 

 流石2番目だ

 

環那「虚しいね、今宮君。」

今宮「なんだと?」

環那「俺は別に君に何の興味もない。でも、死ぬことはないんじゃないかとは思ってた......けど、今宮君の場合は死んだほうが幸せかもしれない。」

ノア「だとよ。」

今宮「は__」

 

 俺が言葉を言い切った瞬間

 

 ノア君は今宮君の後ろに回って気絶させた

 

 それを確認し、俺は静かに呟いた

 

環那「自分だけしか見えないなら、君は絶対に本当の人生の1番に出会えない......そんな苦痛を味わうくらいなら、死んだ方がマシだよね。」

ノア(俺が手を出して正解だった。もし、このガキに任せてたら今度は少年院じゃ済まなかったかもな。)

 

 俺は少し目を瞑った後

 

 後ろにいるひまりちゃんの方に歩み寄った

 

 さっき確認した感じ、まだ何もされてない

 

 よかった

 

環那「もう夕方だし、帰ろう。送って行くよ。」

ひまり「はい......」

 

 ひまりちゃんは俺が差し出した手を掴んで立ち上がり

 

 後の始末はノア君に任せ

 

 今いる建物から出た

__________________

 

 外はもう陽が傾いていた

 

 あの4人にはもう帰って貰って

 

 後は俺がひまりちゃんを送るだけだ

 

環那「いや~、もうすぐ夜だね~。」

ひまり「そう、ですね......」

環那(うーん。)

 

 ひまりちゃんのダメージは大きい

 

 まぁ、初めてのデートで初めて裏切られる

 

 こんな事があれば今の状態も納得だ

 

環那「ひまりちゃん。」

ひまり「はい__!!」

 

 俺はひまりちゃんの手を握った

 

 すると、ひまりちゃんは驚いたような顔をして

 

 こっちを見て来た

 

ひまり「南宮さん......?」

環那「手を握ることはストレスホルモンを減らす効果にリラックス効果、それと鎮痛効果もあると言われてるんだよー。」

ひまり「そう、なんですか?」

環那「そうらしいよー。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 正直、人の気持ちを理解するのは苦手だ

 

 だから雑学的な事しか出来ない

 

 難しいな......

 

環那「あ、あれだよ。あんな外れは早々ないから、今回は偶々あんな確率を引いただけに過ぎないよ。」

ひまり「......私って、ダメなんです。」

環那「え?」

ひまり「だって、あんなことをされても、まだ今宮先輩が忘れられないんです......」

環那「!」

 

 ひまりちゃんは小さな声でそう言った

 

 これも、この子の性なんだろう

 

 人一倍優しくて、優しい理想を持ってる

 

 お花畑、なんて言われることもあるかもだけど

 

 俺は別にそれを悪いとは思わない

 

環那「一瞬でも好きになれば、その人を信じていたいよね。」

ひまり「はい......」

環那「分かるよ、その気持ち。すごく分かる。」

ひまり「南宮さん......?」

 

 ひまりちゃんがこっちを見てる

 

 ちょっとだけ態度が崩れたかな

 

 俺は少しだけ意識して、いつもの笑った顔に戻した

 

環那「でも、今回の事は忘れよう。きっと、そうしたほうがいい。」

ひまり「忘れる......ですよね。」

環那「?」

 

 俺がそう言うとひまりちゃんは足を止めた

 

 心なしか手を握る力も強くなってる

 

 これは......?

 

環那「どうかしたの?」

ひまり「......します。」

環那「?」

 

 ひまりちゃんは小声で何か言ってる

 

 距離は近いのに全く聞こえない

 

 俺はよく耳を澄ました

 

ひまり「お願い、します......忘れさせてください......」

環那「......?」

ひまり「リサ先輩がいるのは分かってます......でも、今は南宮さんしか信じられないんです......」

環那「ひまりちゃん......?」

 

 ひまりちゃんは何が言いたいんだろう

 

 リサとか信じられないとか

 

 俺にはこの言葉はよく理解できない

 

環那「えっと、どういうこと?」

ひまり「一晩だけ、私を彼女にしてください......」

環那「え?」

ひまり「ここなら、丁度いいので......」

 

 俺は周りを見た

 

 それで、とんでもない事実に気付いた

 

 ここ、所謂ホテル街だ

 

 って、ここでああいうって事は......

 

環那「......ひまりちゃん、その方法はあまりにも一時的すぎるよ。あまり賢い判断とは思えないかな。」

ひまり「分かってます。でも今日は、今日だけはそんな風にしないと忘れられないんです......!」

環那「っ!(そうか。)」

 

 今回起きたのは今宮君の事だけじゃない

 

 もう少しであの3人にそう言う事をされそうになって

 

 それへの恐怖心もひまりちゃんに付きまとってる

 

 これは、完全に誤算だった

 

環那「......一晩だけ。そこで終わりだよ。」

ひまり「......!」

環那「悪いけど、初々しい雰囲気は期待しないでね。」

ひまり「はい......ありがとうございます。」

 

 これで、果たしてひまりちゃんは救われるのか

 

 今日の悲劇を忘れられるのか

 

 本当にこの手段は正しいものだったのか

 

 その答えを俺が出すことは到底出来なかった

 

 

 



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事件後

環那「__ん、んん......?」

 

 朝、俺はいつもと違うベッドで目を覚ました

 

 起き抜けって頭が回りずらくて落ち着かない

 

 なんだかボーっとする

 

ひまり「あ、おはようございます。」

環那「おはよう、ひまりちゃん。」

 

 眠い目をこすってると横からひまりちゃんの声が聞こえて来た

 

 俺は声のした方に顔を向け

 

 いつもの笑みを浮かべた

 

環那「早く帰ろう。ひまりちゃんは親御さんも心配するだろうし。」

ひまり「あ、はい。」

 

 俺はそう言ってベッドから出た

 

 こういう施設に入ったのは初めてだけど、意外と快適だな

 

 揃えるべきものは揃ってたし

 

 部屋の中は綺麗だし

 

ひまり「ありがとうございました、南宮さん。」

環那「別にいいよ。応急措置みたいなものだし。」

 

 そう言いながら上着を羽織った

 

 時計を見るとまだ朝の7時

 

 でも、早く帰るのに越したことはないだろう

 

ひまり「南宮さんは昨晩どうでしたか?」

環那「......特に、何もないよ。」

ひまり「!」

 

 俺は静かにそう言った

 

 ひまりちゃんは方を少し跳ねさせ

 

 こっちを見ている

 

環那「あくまで応急処置。俺には何の他意もないよ。」

ひまり「そう、ですか。」

 

 ひまりちゃんは少し残念そうにそう言った

 

 うわぁ、この男最低だ......とか思うかな?

 

 でも、割り切るためにはこういうのも必要なんだよ

 

 ここでいい雰囲気になったら後々大変だし

 

 切れるところで切るほうがいいかな

 

ひまり「やっぱり、リサ先輩となら何か思うんですか?」

環那「え?」

ひまり「2人は恋人同士なんですよね?なら、南宮さんも昨夜とは違う風になるのかなって。」

環那「なるほど、そう言う事か......」

 

 俺は少しだけ考えた

 

 仮に相手がリサで状況も違ったとする

 

 その時、俺は何を思うんだろうか

 

環那「......別に変らないんじゃないかな。」

ひまり「え?」

 

 ひまりちゃんは目を見開いた

 

 そして、慌てた声でこう尋ねて来た

 

ひまり「な、なんでですか?恋人同士、なんですよね?」

環那「もちろん、リサは特別だよ。」

ひまり「じゃあ......」

環那「じゃあ、なんでそう言うのか。その答えは絞られるよ。一つ目の可能性はありとあらゆる女の子を特別視してること。」

ひまり(それはない。)

環那「二つ目はただ単純に感情が希薄である事。そして、最後の可能性は......」

ひまり「最後は......?」

環那「リサやひまりちゃん以上に特別な子......1番がいる事。」

ひまり「!!」

 

 俺はそう言って近くの椅子に座った

 

 ひまりちゃんはお利口だからわかったかな

 

 まぁ別に大した問題でもないけど

 

環那「早く着替えて帰ろうか。」

ひまり「は、はい......(南宮さんの一番......誰なんだろう。)」

 

 それからひまりちゃんは畳んである服を着て

 

 その後はホテルからチェックアウトし

 

 それぞれ自分の家に帰って行った

__________________

 

 あの日から1週間が経った

 

 ひまりちゃんはある程度立ち直ったみたいで

 

 今ではもう幼馴染たちとバンドに励んでいる

 

環那(あー疲れた。)

 

 ここ1週間はテストがあったりして疲れた

 

 ていうか、全く勉強してなかったし

 

 琴ちゃん、なんで教えてくれなかったんだろ?

 

 もしかして、嫌われてる?

 

環那「なーんてね、嫌われてはないでしょ。多分。」

リサ「__1人で何言ってんのー?」

環那「っ!?」

 

 俺は声が聞こえた瞬間、驚いて飛びのいた

 

 なんで、リサがいるんだ?

 

 いつから?どのタイミングで?

 

 屋上のドアが開いた気配はなかった

 

 一体、どんな仕掛けが?

 

リサ「環那が来る前からいたんだよー。まさか全く気付かないなんてねー。」

環那「そ、そうなんだ。全く気付かなかったよ。」

リサ「あははー、してやったりー!」

 

 リサは楽しそうに笑ってる

 

 ほんと、これは一本取られたなー

 

 俺はそんな事を考えながら笑った

 

リサ「......なんて、笑えないんだよ。環那。」

環那「え?どうしたの?」

リサ「今、あたしが出て来るまで何してたか分かる?」

環那「そうだなぁー、隠れてたとか?」

リサ「......声は出してないけど、横に立って手を振ってたよ。」

環那「っ!」

 

 リサは低い声でそう言った

 

 俺はそれを聞いて大きく目を見開いた

 

 そうしてると、リサは続けて口を開いた

 

リサ「この間家に来た時からおかしいと思ってた。けど、今のでハッキリした。」

環那「......」

リサ「ねぇ、いつから?もしかしてあの時......?」

 

 リサは心配そうにそう言ってくる

 

 ここまで決定的な証拠を掴まれた

 

 だったら別に隠しておく必要はない

 

 けどなー......

 

環那「今は気にしなくていいよー。」

リサ「今はって......いつか大変なことになるかもしれないんだよ!?病院行きなって!」

環那「別に生活に困ってないし、急を要する事じゃないよ。変なことをして悪目立ちする事もないし。」

 

 俺はそう言ってドアの方に歩いた

 

 ここは多少強引にでも会話を切るべきだ

 

 多分しばらくすればほとぼりも冷めるだろう

 

リサ「また、あたしのこと蔑ろにするの......?」

環那「っ......!」

リサ「環那の事は分かってるけどさ、今はあたしなんだよ?」

環那「......分かってるよ。でも、あと1年待って。」

 

 俺は屋上のドアに手をかけた

 

 これ以上話をするのは得策じゃない

 

 そう判断して逃げようとした

 

 その時......

 

あこ「リサ姉ー!いるー?」

環那「わっ!(な、なんだ!?)」

リサ「あこ?」

 

 屋上のドアが勢いよく開いた

 

 そこから現れたのは紫色の髪に赤色の瞳の幼い見た目の女子生徒

 

 ってこの子どこかで......

 

環那「あれ、この子、Roseliaの宇田川あこちゃん?」

あこ「リサ姉、この人だぁれ?」

リサ「環那だよ。南宮環那。」

あこ「南宮環那?あれ、その名前どこかで聞いたような......」

 

 そういってあこちゃんは考え込んでる

 

 どこかで俺の名前聞いたのかな?

 

 俺がそんな事を考えてると

 

 あこちゃんは大声を上げた

 

あこ「あー!」

リサ「ど、どうしたの?」

あこ「南宮環那って、友希那さんが言ってた!」

環那、リサ「え?」

 

 俺とリサは首を傾げた

 

 友希那は俺の事を嫌ってる

 

 そんな俺の話をしてるって事は......まぁ、内容はお察しだね

 

リサ「友希那はなんて言ってた?」

あこ「えーっとね、3年生の南宮環那には絶対に近づくなって!」

環那(まぁ、そうだろうねー。)

リサ「......!」

 

 あこちゃんの言葉を聞いた後

 

 リサの方からすごい気配を感じた

 

 俺は怖くてそっちを向けない

 

リサ「友希那はどこまで......!!」

あこ「え、ど、どうしたの!?」

環那「リサ、落ち着いて。」

 

 どうしよ、リサが完全に怒ってる

 

 これを止めるのは骨が折れる

 

 いや、無理だね

 

リサ「ちょっと友希那と話してくる。」

環那、あこ「う、うん。」

 

 リサはドスドスと足音を流しながら屋上を出て行った

 

 俺とあこちゃんは少しの沈黙の後目を合わせ

 

 数秒ほどしてゆっくり口を開いた

 

環那「み、南宮環那。よろしく?」

あこ「う、宇田川あこだよ?」

環那「うん......って、宇田川?」

巴「__環那ー!いるかー?」

あこ「あ、おねーちゃん!」

 

 リサが去った後

 

 ドアからいつもの5人が姿を現した

 

 そして、さっきのあこちゃんの言葉的に

 

 まさか、この2人、姉妹......?

 

巴「あこの面倒見てくれてたのか?悪いな!」

環那「いや、まさかの姉妹?」

巴、あこ「?」

環那(に、似ても似つかないよ!?)

 

 俺は心の中でそう叫んだ

 

 その後は普通にいつも通り雑談をして時間を過ごした

 

 けど、何と言うか......

 

 世間って意外と狭いんだと思った

 

 

 



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邂逅

 今日、俺は図書室に来た

 

 と言っても別にいい本はなかったし目的もない

 

 じゃあなんで来たかと言うと、何となくかな

 

環那「__ん?」

 

 少し飽きてきて図書室から出ようとした時

 

 なんだかよく分からないコーナーで見覚えのある姿が見えた

 

 俺は何をしてるか気になってその子に近づいた

 

環那「あこちゃん。」

あこ「あ、環那兄!」

環那「何してるの?(環那兄?)」

 

 俺はあこちゃんにそう尋ねた

 

 呼び方についても気になったけど

 

 別に悪い気はしないしいいかな

 

あこ「今はね、闇の魔術を研究してるの!」

環那「へぇ、そうなんだー。」

 

 あこちゃんは黒い本を見せて来た

 

 それには『闇の魔術』って確かに書いてる

 

 いや、なんでこんな本あるの?

 

 誰の趣味?

 

あこ「ふっふっふ、これで我の魔眼も新たな境地へ......!」

環那「あっ(察し)」

 

 大体わかった

 

 あこちゃんは中二病って事かな

 

 高1で中二病って何ってなるけど

 

 まぁ、これくらいなら可愛いものだね

 

あこ「環那兄も一緒に見ようよ!」

環那「え?まぁ、いいけど。」

あこ「じゃあ行こ!」

環那「!」

 

 あこちゃんはそう言うと俺の手を掴み

 

 そして、空いてる席の方に向かって行った

__________________

 

 空いてる席に移動し本を開いた

 

 その内容はおおよそ俺には理解できない

 

 この世に存在する言語でない文字

 

 何の法則があるのか分からない絵

 

 うん、謎だ

 

あこ「わぁ......!」

環那「あこちゃん、これの意味わかってるの?」

あこ「えっとねー、これはバーン!ってなって、ここはドーン!ってなってるんだよ!」

環那「......?(???)」

 

 あぁ、分かってないんだね

 

 でもまぁ、微笑ましいね

 

 ポスターで見た時から思ってたけど、やっぱり可愛らしいなー

 

あこ「どうしたの?環那兄?」

環那「さっきから思ってたんだけど、その呼び方なに?」

あこ「え?環那兄のこと?」

環那「うんうん、それ。」

あこ「これはね、あこ、リサ姉って呼んでるの。」

環那「うん。」

 

 そう言えば、リサもそう呼ばれてたっけ

 

 まぁ、何となくわかるかな

 

 リサってそう言うキャラになってたし

 

 でも、なんで俺まで?

 

あこ「それで、環那兄はリサ姉の彼氏だから、じゃあお兄ちゃんじゃないかなって!」

環那「あー、そういう事。」

 

 義兄みたいなものね

 

 別に結婚したわけではないけど

 

 まぁ、呼びたいならいいや

 

あこ「呼んじゃ駄目だった?」

環那「いや、別にいいよ。」

あこ「そうなの?よかったー!」

環那「じゃあ、これ読もうか。」

あこ「うん!」

 

 俺とあこちゃんはそれから本を読んで

 

 昼休みが終わる2分前くらいに本棚に直し

 

 それぞれ教室に戻った

__________________

 

 放課後、俺は普通に家に帰ってる

 

 リサはバンドの練習で友希那と出て行って

 

 今日は1人で帰る日だ

 

 相変わらず、友希那には嫌われてて帰る寸前に睨まれたよ

 

 困っちゃうねー、あはは

 

?「__あの、あなたは南宮環那さんですか?」

環那「ん?」

??「えっと......急に声をかけてすみません......」

 

 校門を出てすぐ

 

 俺は他校の生徒に話しかけられた

 

 2人ともすごい美人さんだ

 

 ていうか、どこかで見たことあるような......

 

紗夜「氷川紗夜と申します。」

燐子「白金燐子......です。」

環那「氷川紗夜、白金燐子......って、あ。」

 

 思い出した

 

 この2人、Roseliaのギターとキーボードだ

 

 通りで周りの目を集めるわけだ

 

 ていうか、俺はRoselia全員と会ったのか

 

 でも、偶然って感じじゃない

 

 向こうは俺に用があって来てるみたいだ

 

環那「大人気バンドのメンバーが俺なんかに何の用かな?」

紗夜「少しお話を伺いたいのですが。」

環那「話?それまた不思議なこと言うね。」

燐子「大切なお話なんです......」

環那「......?」

 

 この白金燐子ちゃん

 

 見た感じは気弱で人見知りな女の子

 

 でも、そんな子がこの雰囲気

 

 何か俺に関して重要な事......

 

 いや、友希那かリサに重要なことかな

 

環那「有名人にそう言われたら、凡人の俺は大人しくついて行くしかないね。」

紗夜「......それでは、移動しましょう。」

燐子「ファーストフード店でいいですか......?」

環那「どこでもいいよー。」

 

 俺はそう言って2人ファーストフード店に移動した

 

 移動中、会話がないどころか目も合わなかった

 

 十中八九、警戒されてるんだろうなー

__________________

 

 店に入って、取り合えず食べ物を注文した

 

 ハンバーガーとか久しぶりに食べるなー

 

 小学生以来かな?

 

環那(それにしても、多い。)

紗夜「......なんですか?」

環那「いや、なんでも。」

 

 紗夜ちゃんのお盆には大量のポテトが乗っている

 

 こんなに食べるつもりなのかな?

 

 こう言っちゃなんだけど、気にしないのかな、色々と

 

紗夜「それでは、本題に移りましょう。」

燐子「そう、ですね......」

環那(さて、ここからかな。)

 

 俺は少しだけ気を引き締めた

 

 わざわざこの2人が出張って来たってことは

 

 そんなに優しい話ではない事は分かる

 

 まずは友希那かリサ、どっちかだ

 

環那「余計な話はそっちもしたくないだろうし、遠慮なく本題から言ってくれてもいいよ。」

紗夜「そうですか。なら、単刀直入に言います。」

燐子「......」

 

 紗夜ちゃんは静かに目を閉じた

 

 この周りだけ空気が重くなってる

 

 1人でここまで雰囲気を作れるのか

 

 流石、友希那が集めたメンバーだね

 

紗夜「今井さんと早急に別れ、この町から出て行ってください。」

環那「......(なるほど。)」

 

 紗夜ちゃんは重々しい声でそう言った

 

 この2人の用は友希那とリサ両方ってわけね

 

 それにしても、これは予想外だ

 

 いつも以上に笑いが出て来るよ

 

紗夜「ここ最近、あなたが来てから湊さんは調子を落としています。今井さんもどこか浮かれた様子。つまり、邪魔でしかないという事です。」

燐子「ひ、氷川さん......そんな言い方は......」

環那「いいよいいよ、事実だろうし。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 さて、ここで問題だ

 

 この2人にはおかしい部分がある

 

 今の話、内容の違和感は少ない

 

 けど、なぜ俺の顔と名前を知っていたか

 

 その理由によって対応は変わってくる

 

環那「町から出て行け、か。思い切ったことを言うね。」

紗夜「冗談を言ったつもりはないのですが。」

環那「分かってるよ。紗夜ちゃんが本気なのは見ればわかるさ。」

紗夜「なら、にやけるのをやめて欲しいのですが。」

 

 不機嫌だなー

 

 まぁとにかく、2人の元を探ろう

 

 まず、この2人は俺の顔と名前を知ってた

 

 その理由は友希那かリサだろう

 

 じゃあ、それはどちらか

 

 その答えは案外簡単に絞ることができる

 

環那(全く、喧嘩が下手だねー。)

 

 今回の事は友希那の差し金だ

 

 根拠は話の内容と性格の兼ね合い

 

 紗夜ちゃん、一見こういう事言いそうだけど

 

 俺にも敬語で話すあたり分別はある

 

 けど、今回の話はあまりに思い切り過ぎてる

 

 つまり、2人の後ろには友希那がいるって事

 

環那「2人の言いたいことはよく分かった。要するに、『私達Roseliaの邪魔だからさっさとこの町から消え打失せろ、この腐れ邪魔男。』ってことでしょー?」

紗夜、燐子「!!」

 

 俺がそう言うと2人の肩が跳ねた

 

 いやー、挑発ってしてみるもんだね

 

 情報を引き出すのが楽になる

 

環那「頂点を目指すバンド、うん、素晴らしい志だ。でも、そのために周りを犠牲にすることは君たちのやり方かな?」

紗夜「そ、それは......」

燐子「......」

環那「全く、友希那の入れ知恵には困ったものだよ。」

紗夜、燐子「......!!」

 

 ズバリって感じかな

 

 関係ない2人まで巻き込むなんて

 

 嫌われてるとは思ってたけど......

 

環那(そっか、友希那はそこまでになったか。)

燐子「?(これは......?)」

 

 ここまで嫌われると清々しいや

 

 でもまぁ、それほどの事をした

 

 こうなるもの必然だったのかもね

 

環那「まぁ、俺は別に君たちの邪魔をしたいわけじゃない。だから、賭けをしよう。」

燐子「賭け、ですか......?」

環那「そうそう。ルールは簡単、君たちは俺をライブに呼ぶ、それを見てもし俺が価値あるものだと判断すれば君たちの命令を何でも聞こう。」

紗夜「......それは、もし価値なしと判断した場合は?」

環那「君たちの一番大切なものを貰う。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 さて、乗って来るかな

 

紗夜「......いいでしょう。」

燐子「ひ、氷川さん......!?」

紗夜「私達が価値のあるライブをすればいいだけです。もちろん、彼は公平な審査をするはずですので。」

環那「もちろん。」

紗夜「ならいいです。今日の事は湊さんに伝えておきます。」

 

 紗夜ちゃんはそう言って席を立った

 

 これで話は終わりみたいだ

 

 俺もそう思って立ち上がり

 

 最後に2人に話しかけることにした

 

環那「紗夜ちゃん、燐子ちゃん。」

紗夜「はい?」

燐子「どうしましたか......?」

環那「......関係のない2人を巻き込んで、悪いね。」

紗夜、燐子「え?」

環那「じゃあ、またね。」

 

 俺はそう言って軽く手を振りながらその場を去った

 

 全く、困ったものだよ

 

 こんな駆け引きも何もない賭けをするなんてね

 

 俺はそんな事を考え、少し笑った

 

 

 

 



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準備完了

 朝、いつも通りの時間に学校に来た

 

 外靴から履き替えるため下駄箱を開けると

 

 何か、靴以外のものが入っていた

 

環那「なんだろこれ。」

 

 入ってたのは何かの手紙

 

 単純な差出人の書かれてない白い封筒だ

 

 俺は包んでる紙を開け中身を見た

 

環那「......」

 

 手紙の内容は要約すると、

 

 『この手紙を見た後校舎裏に来い』だ

 

 ラブレター?

 

 いや、そんなにかわいいものじゃないね

 

 だってこの字、見覚えあるもん

 

環那(まぁ、待たせるのもあれだし行こうか。)

 

 俺は手紙を鞄にしまい少しため息をついた後

 

 差出人がいるであろう校舎裏に向かった

__________________

 

 校舎裏は太陽の位置的に薄暗い

 

 夏の避暑地としては最高だろう

 

 そんな事を考えんガラ歩いてると

 

 校舎裏に1つの影が見えた

 

環那「ラブレターはもう少し可愛らしく書いた方がいいよ。そっちの方が男子は心惹かれるし......そう思わない?友希那。」

友希那「冗談は存在だけにしてくれないかしら。」

環那「あはは、手厳しいね。」

 

 手紙の差出人は友希那だ

 

 もちろん、分かってた

 

 筆跡が中学の時から変わってなかったし

 

 なにより、内容に棘があったし

 

環那「じゃあ冗談は置いといて。何か用かな?大嫌いな俺にわざわざ。」

友希那「そうね本題に入りましょう。賭けについてよ。」

環那「まぁ、そうだよね。」

 

 俺は少し肩を落とした

 

 別に話すことはないと思ってたけど

 

 何か話したいことがあるんだろう

 

 聞いてあげるとしようかな

 

環那「それで、何を話したいの?」

友希那「宣戦布告、と言うところかしら。」

環那「......」

友希那「あなたは大きなミスを犯したわ、南宮環那。」

環那「ミス?」

 

 友希那はあざ笑うような表情でそう言った

 

 別に俺はミスをしたつもりはないけど

 

 友希那には何かが見えてるみたいだ

 

友希那「昨日の賭けの話で私のモチベーションは極限まで高まったわ。今まででもトップクラスよ。」

環那「そっか。」

友希那「これで価値のあるライブをするなんて、この世で最も簡単なことよ。」

 

 友希那はそう言いながら歩み寄って

 

 俺の目の前で足を止めた

 

 その瞬間、俺は足に重みと痛みを感じた

 

 友希那は俺の足を踏みつけたんだ

 

環那「!」

友希那「地獄に叩き落としてあげる。私の手で......!」

環那「......」

 

 友希那は嬉しそうな顔をしてる

 

 それほど調子がいいんだろう

 

 こんな顔を見るのは初めてかもしれない

 

環那「そっか、頑張れ。」

友希那「!!」

 

 俺はそう言って振り返った

 

 よかった、友希那が嬉しそうで

 

 そんな事を考え少し笑った

 

環那「俺、最低クズ男だから賭けに勝ったら友希那に裸になってもらおうと思ってたんだけど。」

友希那「!?」

環那「まぁ、その必要はなそうだね。」

 

 俺は友希那に笑いかけ歩き始めた

 

 あんなに動揺して、変わらないなー

 

 昔、成人向け雑誌見つけた時もあんな顔だったね

 

友希那「強がる必要はないわ。誰だって死ぬのは怖いものね?だからそうやって私を動揺させようとしてるのでしょう?」

環那「そう考えるなら、そうなんじゃないかな?」

 

 俺はそう言ってその場を去った

 

 ていうか、同じクラスなんだけど

 

 友希那、どのタイミングで帰って来るんだろう

 

 俺はそんな事を考えながら教室に行った

__________________

 

 放課後、俺は1人で帰ってる

 

 ライブ間近でリサは忙しいみたいだ

 

 いつも通りの様子だったし、友希那は賭けの事ははなしてないみたい

 

 まぁ、予想通り

 

エマ「__かーな。」

環那「え?」

エマ「やっほー。」

 

 道を歩いてると

 

 電柱の陰にエマがぽつんと立っていた

 

 いや、なにしてるの?

 

 俺は純粋に疑問に思った

 

エマ「かーなに警告しに来た。」

環那「警告?」

エマ「かーな、ライブに行かない方がいい。」

環那「え?」

 

 エマの言葉に俺は首を傾げた

 

 ライブのこと知ってるのはもういい

 

 けど、行かない方がいいってなんだ?

 

エマ「それだけ。」

環那「え、どういう事?」

エマ「それは言えない。けど、行かない方がいい。」

 

 エマはそれだけ言って歩いて行った

 

 全く意味が分からない

 

 元から分かりずらい子だけど

 

 今回は本当に分からない

 

環那(何を考えてるんだ、エマは。)

紗夜「__見つけました。」

環那「紗夜ちゃん?」

紗夜「探しましたよ。」

 

 エマが去って行くと入れ違いで紗夜ちゃんが歩いてきた

 

 羽丘の方から来たあたり

 

 多分だけど俺を探していたんだ

 

環那「何か用?」

紗夜「ライブのチケットを渡しに。」

環那「あ、もう出てたんだ。」

紗夜「はい、どうぞ。」

環那「どうもー。」

 

 俺は紗夜ちゃんからチケットを受け取った

 

 まぁ、ライブの日程は調べてたし

 

 2,3日以内には来ると思ってた

 

紗夜「あの。」

環那「ん?」

紗夜「あなたは、本当に暴力事件を起こしたのですか?」

環那「どういうこと?」

 

 これまたわからないな

 

 そう言われてるんだったらそうだろうに

 

 なんでわざわざそんな事を聞くんだろう?

 

紗夜「私にはあなたが暴力を振るうようには見えません。むしろ、程遠い人間に感じます。」

環那「んー、それは確かによく言われるね。でも、残念ながらほんとなんだ。」

紗夜「!」

環那「俺は確かに、隣のクラス40人に男女関係なく暴力を振るった。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 ほんと、俺ってそんなにいい人間に見えるのかな

 

 紛れもなく犯罪者なのにね

 

紗夜「......なら、その理由は?」

環那「理由?」

紗夜「仮に本当だとして、あなたは何の理由もなくそんな事をしますか?私にはそうは見えません。」

環那「理由、かぁ......」

 

 これ、何気に初めて聞かれた

 

 警察すらこんなの聞かなかったよ?

 

 問答無用で俺を檻に突っ込んだし

 

環那「ムカついたから。」

紗夜「......え?」

環那「あはは、紗夜ちゃんは俺の事を勘違いしてるね。」

 

 俺は更に笑った

 

 俺の事を聖人君主とでも思ってたのかな

 

 全く、普通の女の子は甘いなぁ

 

紗夜「な、何を言って......?」

環那「だから、勘違いだよ。俺がそんなにいい人間な訳ないじゃないか。」

 

 俺は紗夜ちゃんの用に歩み寄った

 

 紗夜ちゃんは目に見えて警戒して

 

 少しずつ俺から離れて行ってる

 

環那「いやぁ、楽しみだ。賭けに勝ったことを考えるとねー。」

紗夜「え......?」

環那「俺は大事なものを貰えるんでしょ?だったら、紗夜ちゃんも燐子ちゃんも俺が好きにできるわけだ。」

紗夜「っ!!」

 

 パシンっと乾いた音が響いた

 

 頬に鋭い痛みを感じて

 

 目の前の紗夜ちゃんはこっちを睨みつけてる

 

紗夜「最低です。もしかしたら......そう思ってましたが、湊さんの言う通りでした。決めました、私はあなたを絶対にこの町から出て行かせます。」

環那「あはは、出来るかな?」

紗夜「やります。あなたを放置しないためにも。」

 

 紗夜ちゃんはそう言って走って行った

 

 その後姿を見送った後

 

 俺は少しだけ溜息をついた

 

環那(はぁ、危なかった。)

 

 もう少しで賭けが成立しない所だった

 

 あんな風に迷われると面倒なんだよね

 

 気分次第で演奏って変わりそうだし

 

環那「まぁ、これで準備は整った。」

 

 俺はそう呟いて家に帰った

 

 さぁ、こっちの準備は整った

 

 後は精々頑張ってもらおうかな

 

 

 



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警告の正体

 Roseliaのライブの前日

 

 俺はリサと屋上にいる

 

 リサは俺の肩に頭を乗せ

 

 楽しそうに鼻歌を歌っている

 

環那「リサ、なんだか楽しそうだね。」

リサ「うん!明日ライブだし、皆すごく気合入ってるし!」

環那「そうなんだー。」

 

 俺は暢気な声でそう言った

 

 いやー、とうとう明日だねー

 

 友希那達は相当気合入ってるし

 

 これは、良いライブをしてくれそうだ

 

リサ「あたしも環那が来るって言うし、すごい楽しみ!」

環那「いやー、たまたまチケットが手に入ってねー。リサや友希那の成長を見るのもいいかなと思ってー。」

リサ「親目線だね。」

 

 リサは笑顔でそうツッコんできた

 

 相当嬉しいんだろうね

 

 全く、昔から素直な子だよ

 

リサ「あたし頑張るからさ、終わったらご褒美ちょうだい!」

環那「ご褒美?」

リサ「うん!」

環那「ご褒美かー。まぁ、何か考えておくよー。」

 

 って、また安請け合いしちゃったよ

 

 リサに頼まれると断れないんだよね

 

 可愛い幼馴染だからね

 

リサ「環那も楽しみにしててね!」

環那「......うん、楽しみにしてるよ。」

 

 そう答えて、俺は目を瞑った

 

 リサに対する罪悪感はある

 

 でも、こうするほかなかった

 

 そうしないと、檻から出た意味がないから

 

環那「リサ。」

リサ「なに?__んぅ///」

 

 俺はリサがこっちを向いたと同時にキスをした

 

 罪悪感は消えないけどマシにはなる

 

 あくまでも自己満足だ

 

 しばらくして、俺は唇を離した

 

リサ「か、環那からって、めずらしいね......?///」

環那「そう?まぁ、偶には良いんじゃない。」

 

 俺はそう答えてまた目を瞑った

 

 それからはリサとしばらくゆっくりして

 

 昼休みが終わるギリギリまで屋上にいた

__________________

 

 ”友希那”

 

 ライブ前日、私は最後の調整を終えて

 

 ベッドの上に座った

 

 そして、口角を少し上げた

 

友希那(終わりよ、南宮環那。)

 

 笑いが止まらない

 

 これで全部が元に戻る

 

 あいつはいなくなって、リサも帰って来る

 

 そうすれば、また頂点を目指せる

 

友希那(精々、人生最後の日を楽しむことね。南宮環那......!)

 

 私は明日の事を思いながら笑った

 

 早く、明日になってほしい

 

 ただただ、そう思った

__________________

 

 ”環那”

 

 ライブの日になった

 

 俺は事前に調べておいたライブハウスに来て

 

 貰ったチケットで受付を済ませた

 

 初めて入ったけど、ここはいい場所だねー

 

 人が多くって活気があって

 

 来る人はみんな笑顔だ

 

環那(こんな所でライブするんだー。)

 

 ステージを見てそう思った

 

 昔は公園で歌って演奏してた友希那とリサ

 

 今じゃこんな多くの人に期待され

 

 そして、こんな素敵なステージで演奏する

 

 幼馴染たちの成長を感じる

 

あこ「__か、環那兄......」

環那「ん?あこ?って、そこから出てくるの?」

 

 2階の一番上からステージを見てると

 

 後ろの関係者以外立ち入り禁止のドアからあこちゃんが出て来た

 

 ライブ前なのにどうしたんだろう?

 

あこ「ちょっと来て。」

環那「うん?」

 

 俺は真剣な顔のあこちゃんにそう言われ

 

 入っていいのか?と思いつつドアに入った

__________________

 

 あこちゃんは衣装を身に纏っている

 

 紫主体で大きなリボンが付いた衣装だ

 

 いやー、可愛らしいねー

 

 あこちゃんの趣味的に好きそう

 

環那「どうしたの?」

あこ「あこ、りんりんから聞いたの。今日のライブの事......」

環那「!(燐子ちゃん、話しちゃったか。)」

 

 俺は少しだけ動揺した

 

 あこちゃんには知られたくなかったな

 

 純粋な子供には少し内容が黒いし

 

 何より、迷う事が目に見えてるから

 

あこ「リサ姉は知ってるの......?」

環那「知らないよ。」

あこ「!」

 

 あこちゃんは目を見開いた

 

 こんな顔は見たくなかったな

 

 元はと言えば俺が悪いんだけど

 

 俺がそう考えてるとあこちゃんが口を開いた

 

あこ「......あこ、ライブしたくない。」

環那「え?」

あこ「友希那さん、環那兄にすごいこと言ってた......あこ、あんな事のためにライブしたくないよ......」

環那(......全く、業が深いな。)

 

 恨むよ燐子ちゃん

 

 あこちゃんにまで知らせなくていいのに

 

 知らなければ、こんな顔はしなかったのに

 

環那「大丈夫だよ、あこちゃん。」

あこ「え......?」

環那「俺は大丈夫。何とかする。」

あこ「で、でも......」

環那「あれ、あこちゃん知らないの?」

 

 俺は首をかしげながらそう言った

 

 あこちゃんは首をかしげてる

 

 俺はそんなあこちゃんに笑いかけながらこう言った

 

環那「俺、友希那に喧嘩で負けたことないんだ。」

あこ「え、そうなの......?」

環那「そうそう。俺、昔から友希那より頭良かったから。」

あこ「そうなんだ......じゃあ、大丈夫なの?」

環那「そうそう、大丈夫大丈夫。」

 

 俺はあこちゃんに笑いかけた

 

 あこちゃんは少しだけ明るい顔になって

 

 少しだけ飛び跳ねた

 

あこ「じゃあ、あこ、頑張る!なんだか元気出て来た!」

環那「よかった、頑張ってね。」

あこ「うん!じゃあねー!環那兄!」

環那「......うん、またね。」

 

 あこちゃんは元気に走って行った

 

 よかった、素直な女の子で

 

 簡単に嘘を信じてくれた

 

環那(今まで負けたことないだけで、今日勝つとは一言も言ってないんだよ。あこちゃん。)

 

 俺はそんな事を考えながらドアを開け

 

 さっきいた位置に戻ってまたステージを見つめ

 

 ライブの開始を待った

__________________

 

 しばらくするとライブが始まった

 

 メンバー紹介から何か威厳を感じられ

 

 いつもじゃ見れない友希那とリサだ

 

 クールで地震に満ち溢れた表情

 

 俺がいない間に手に入れた新しい一面

 

 これを見れるのは幸せだね

 

友希那『__それじゃあ一曲目、LOUDER。行くわよ。』

環那「!?(ら、LOUDER!?)」

 

 俺は曲名を聞いて驚いた

 

 LOUDERは友希那のお父さんの曲だ

 

 昔、一度だけ聞いたことがある

 

 あの時は憧れの表情を浮かべていたのに

 

 まさか、友希那がこれを歌うだなんて

 

環那(そっか、こんなのも歌えるようになったんだ。)

 

 昔から考えれば驚きだ

 

 まだまだ拙かった友希那の姿を知ってる

 

 だからこそ、この成長には感動する

 

 これまでの時間の密度、練習の量を感じられる

 

 そっか、頑張ったんだね

 

環那(これなら、心配ないね。)

 

 俺は笑みを浮かべた

 

 檻から出て来た甲斐があったよ

 

 俺が思ってた以上に環境は変わってたみたいだ

 

 そんな事を考えながら演奏を聞いてると

 

 何か......違和感を感じた

 

環那(......揺れてる?)

 

 ライブ会場自体が人の声が揺れてるからわかりずらい

 

 けど、少しだけ不自然だ

 

 まさか......

 

環那(待てよ、エマの言ってきたあれが......だとしたら。)

 

 エマの言っていたのがこれだとしたら

 

 いやでも、情報源は......

 

環那(......あっ。)

 

 エマの医療で成果を残してる

 

 つまり、有力な情報が入る可能性は高いって事だ

 

 って、ことは......

 

環那(ヤバい......!)

 

 俺は急いでステージの方に向かった

 

 イヤな予感なんか当たらないでいい

 

 出来れば、俺がそそっかしいやつで終ってくれ

__________________

 

 ”友希那”

 

 ......勝った

 

 全力でやった、そして最高の結果が来た

 

 これなら、価値がないなんて言いようがない

 

 やった、やったわ......!

 

友希那(終わりよ、南宮環那__?)

 

 ガシャン!

 

 ライブの途中、少し遠くでそんな音が聞こえた

 

 そこから、段々、会場がおかしくなっていった

 

 どこか異様な空気が漂っている

 

リサ「な、なに!?」

燐子「揺れて、ます......!」

友希那「!!」

 

 冷静になって、周りの状況をやっと掴めた

 

 会場が揺れてる

 

 盛りあがりでじゃなく、何か他のもので

 

「じ、地震だ!!」

 

 そんな声が聞こえた瞬間ゴゴゴっという音が聞こえて来た

 

 まるで建物が縦に振られてるように揺れ

 

 私は足元がおぼつかなくなっていった

 

紗夜「頭を守ってください!ステージ裏なら隠れられます!」

あこ「り、りんりん!こっち!」

燐子「あ、あこちゃん......!」

 

 紗夜たちは何とか足を動かして避難していく

 

 私も避難しないと

 

 そう思い、私は一歩足を踏み出した

 

友希那「っ!!!」

リサ「ゆ、友希那!?」

あこ「友希那さん!」

友希那(し、しまった!)

 

 その時、私は本格的に足元がおぼつかなくなり

 

 その場で尻もちをついてしまった

 

 立ち上がろうとしても揺れてるせいか立てない

 

友希那(早く、逃げないと__っ!!!)

 

 ガキン!!

 

 私が立ち上がろうとした時

 

 丁度頭の上から嫌な音が聞こえた

 

リサ「ゆ、友希那!逃げて!!!」

友希那(そ、そう言われても......)

 

 逃げたいけれど

 

 なぜか、立ち上がれない

 

 まるで金縛りにでもあってるかのように足が震えて動いてくれない

 

 それでも私は足を動かそうと藻掻いた

 

紗夜「湊さん!!」

友希那「あっ......」

 

 ガキン!っとまた嫌な金属音が鳴った

 

 でも、今度は意味が違う

 

 私の目には天井の照明......

 

 いや、数えきれないほどのものが落ちてきてる

 

友希那(し、死ぬ......)

 

 頭の中にそればかりが浮かぶ

 

 こんなのの下敷きになったら死んでしまう

 

 逃げないと

 

 そう思っても、脚は全く動いてくれない

 

リサ「友希那ー!!!」

 

 リサはこっちに来ようとしてる

 

 私はそれを見てリサの方を見て叫んだ

 

友希那「き、来てはダメ!!リサまで__」

環那「__全く、友希那は仕方ないなぁ。」

友希那「っ!?」

 

 ”環那”

 

 イヤな予感は当たるものだね

 

 でも、そのおかげで間に合ってくれた

 

 流石にこの中で動くのは骨だったけど

 

 ここまで来れば何とかなる

 

友希那「なぜ、あなたが......!?」

環那「違和感を感じたから走ってきたんだよ。」

友希那「っ!」

 

 俺は友希那に足を引っかけ押し倒した

 

 多分、これなら全部覆い隠せてる

 

 俺は友希那に笑いかけ、歯を食いしばった

 

環那「__うぐっ!!!」

友希那「な、何を!!」

リサ「か、環那!!」

 

 その瞬間、背中に熱いのかよく分からない感覚があった

 

 熱を帯びた照明が背中に落ちて来たんだ

 

 そこから、どんどん金属が落ちてきて

 

 背中には断続的に痛みを感じる

 

環那「友希、那......?」

友希那「な、なに......」

環那「よかった、大丈夫、みたいだね......」

リサ「か、環那!友希那!逃げて!!瓦礫落ちてくる!!」

環那「っ!!(マジか!!)」

 

 俺は天井の方を見た

 

 そこからはまぁまぁな量の瓦礫が落ちてきてる

 

 マズい、これは逃げられないぞ

 

 これ、俺、助かるかな......

 

 いや......

 

環那(無理かも。)

友希那「早く逃げなさい......!!このままじゃ__」

環那「賭けは友希那の勝ちだ。だから、友希那だけは絶対に助ける。」

友希那「え__」

環那(友希那は、覚えてる?)

 

 聞こえてくる

 

 この地震の雑音と瓦礫が落ちる音すら

 

 俺の遠い記憶のあの美しい歌声に

 

環那(覚えてないよね。いや、それでもいい。あれは俺だけの思い出だから__)

 

 俺はそっと目を閉じた

 

 その時、俺の上には瓦礫の雨が降りしきり

 

 右腕にこれまでにない激痛を感じ

 

 段々と俺の意識は薄れていった

 

 

 



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真意

 ”リサ”

 

リサ「__環那。」

 

 あの地震から1週間が経った

 

 結構大きな地震だったみたいで

 

 町には所々被害を受けた場所もあった

 

 勿論、Circleもその1つ

 

 でも、Roseliaのメンバーは全員無事

 

 友希那もかすり傷だけで済んだ

 

環那「あ、いらっしゃい。リサ。」

リサ「うん......」

 

 でも、環那だけは違う

 

 落ちて来た瓦礫から友希那を守って

 

 ......環那は、右腕を失った

 

環那「どうしたの?座りなよー。」

リサ「分かった......」

 

 完全に不幸な事故だった

 

 落ちて来た瓦礫の中に大きなものがあって

 

 それに環那の右腕が下敷きになって

 

 切断するしかなくなってしまった

 

 環那がそれを知ったのは意識が戻ってから

 

 でも、なぜか悲しそうな顔を見せなかった

 

リサ「環那、調子どう?」

環那「全く問題ないよー。すぐに動けるようになるってー。」

リサ「そっか、よかった。」

環那「ありがとうねー、毎日お見舞い来てくれて。」

リサ「いいよ。あたしが来たいだけだから。」

 

 環那はいつも通り笑みを浮かべている

 

 本当にいつも通り

 

 それはとても、重症の患者には見えない

 

リサ「お腹すいてない?りんご持ってきたよ。」

環那「あー、食べたいー。」

リサ「じゃあ切るから待っててね。」

環那「りょーかーい。」

 

 環那が緩い声でそう答え

 

 あたしは袋からリンゴを出し

 

 ゆっくり皮をむき始めた

 

 ”環那”

 

環那「いただきまーす。」

 

 俺はりんごが乗った皿をテーブルに置き左手にフォークを持った

 

 いやぁ、幼馴染が向いてくれたリンゴ

 

 果たして何割増しで美味しくなってるんだろ

 

 俺はそんな期待を抱きながらりんごを1つ口に入れた

 

環那「美味しいー。」

リサ「そっか、よかった。」

環那「リサが向いてくれたから何割増しにも美味しく感じるよー。」

 

 俺はそう言いながらりんごを口に運ぶ

 

 その間、ずっとリサから視線を感じる

 

 なんだか思いつめた顔をしてる気がする

 

リサ「......ねぇ、環那。」

環那「んー?」

 

 ちょうどりんごを食べ終えたころ

 

 リサが静かな声で話しかけて来た

 

 俺は使い終わったフォークを置き

 

 リサの方に顔を向けた

 

リサ「なんで、友希那を助けたの?」

環那「えー?それは、幼馴染だかr__」

リサ「あたしだって、幼馴染だよ......?」

環那「!」

 

 リサは悲しそうにそう言った

 

 俺はそれを聞いて息を飲んだ

 

 この雰囲気、いつものリサじゃない

 

 こんな悲しそうな顔、初めて見たかも

 

リサ「正直に言ってよ。あたしより、友希那を助けたかったって......」

環那「......っ。」

リサ「そうなんでしょ......?」

環那「......そうだよ。」

リサ「っ!」

 

 俺はリサの問いかけにそう答えた

 

 だって、事実だから

 

 俺はどんな状況でも友希那を助けに行った

 

 あの時、友希那とリサの立場が逆だったとしても

 

 自分が1番それを分かってる

 

環那「......俺は友希那を死なせたくなかった。だから、ああしたんだ。」

リサ「......」

環那「結果はこうなったけど、別に気にすることもないよ。今から左利きになればどうにでもなるさ。」

リサ「......そうじゃないじゃん......!」

環那「っ!」

 

 リサは語気を強めそう言ったかと思うと

 

 ベッドの上に乗って俺を押し倒した

 

 急な出来事で反応できず、俺はされるがままの状態になった

 

リサ「なんで、またあたしを蔑ろにするの!?」

環那「り、リサ......」

リサ「いつも、そうじゃん......中学の時だって、友希那へのいじめを止めるために1人で隣のクラスに乗り込んで......それであたしを捨てて捕まった......」

環那「......!」

 

 俺の胸元に何かの水滴が落ちて来た

 

 リサの涙だ

 

 大粒の涙が大きな瞳から滴り落ちてる

 

リサ「ちょっとはあたしを見てよ!!ちょっとは、あたしを好きになってよ......」

環那「......ごめん。」

リサ「っ......!!」

環那「俺に、友希那以上は考えられない。」

 

 俺は静かな声でそう言った

 

 リサには本当に悪いと思ってる

 

 けど、今言ったのは本当なんだ

 

リサ「なんで、なんでなの......?」

環那「......話そうか。」

 

 ”リサ”

 

 あたしは環那の上から降り

 

 取り合えず、布団とかを綺麗にした

 

 環那も体勢を戻して話せる体勢になり

 

 そして、ゆっくり口を開いた

 

環那「俺と友希那が出会ったのは実はリサより少し早いんだ。」

リサ「え?待って、それはおかしいよ。だって、公園で出会ったとき環那も友希那もお互いの事分かってなかったじゃん。」

環那「俺は覚えてたよ。でも、友希那は覚えててくれなかった。まぁ、いいんだけど。」

 

 環那は少し笑った

 

 あたしの記憶では、環那と出会ったのは幼稚園のいる最後の年

 

 いや、そのくらいなら忘れててもおかしくない?

 

環那「俺はね、4歳の時に祖父母の家に預けられたんだ。」

リサ「それは知ってる。でも、理由は......知らない。」

環那「理由は、男が欲しくなかったから。それだけだよ。」

リサ「え......?」

環那「バカみたいだよね。だったら生まなきゃいいのに、何故か俺は生まれたんだもん。」

 

 環那は自らをあざ笑うようにそう言った

 

 昔から疑問に思ってた

 

 なんで祖父母と住んでるのか

 

 その話は昔聞いたけど、理由ははぐらかされてた

 

 だから、初めて知った......

 

環那「その時の俺は不幸にも理解力があってね、祖父母が俺に無関心なことも分かって、流石に落ち込んだよ。男であることも生まれたことも後悔した。」

リサ「......」

環那「そんな風に俺は落ち込んで自分を呪う事で日々を食いつぶしてた。」

 

 環那のこんな顔、初めて見た

 

 今まで頑なに辛そうな顔は見せなかった

 

 そんな環那がこんなになってるなんて

 

環那「......そんな時だった。」

リサ「!」

環那「現れたんだ、俺の人生の1番が。」

 

 環那は左手の拳を握り込んだ

 

 その顔は嬉しそうに笑ってるようにも

 

 何かを渇望してるような顔にも見える

 

環那「その女の子は美しい銀髪をなびかせ、不思議そうな顔で俺の事を見ていた。きっと、1人公園で座ってるのがおかしかったんだろうね。けど、その子は俺の話を聞いてくれた......まぁ、理解してたかは別としてね。」

リサ「......じゃあ、その子が?」

環那「そう、友希那だよ。友希那は俺の話を聞くと明るい笑顔を浮かべ......歌ったんだ。」

 

 環那は純粋な笑顔を浮かべている

 

 こんな顔、初めて見た

 

 あたしがどんなに嬉しいと思う事でも、どこかつまらなそうに笑ってた

 

 けど、今はそんなのとは全然違う

 

環那「友希那は歌い終わると、俺に笑えって言ったんだ。それで俺は笑ったんだけどさ、友希那、なんて言ったと思う?」

リサ「分かんない。」

環那「変なのーって言ったんだ。きっと、笑顔が下手だったんだろうね。友希那はそれはもう大笑いしてた。」

リサ「そう、なんだ。」

環那「でも、そっちの方がいいとも言ってくれた。その時間は確かに俺は悲しみを忘れていて、その時を思い出せば全てがどうでもよくなった。親も祖父母も、何もかも有象無象にしか感じなくなった。」

 

 環那はそう言って窓の方を見てスッと目を閉じた

 

 その表情は凄く穏やか

 

 いつもの環那そのもの

 

環那「そして、2回目に会ったのがリサの記憶にあるのだよ。」

リサ「あたしと友希那が鬼ごっこをして、友希那が転んだときだね。」

環那「俺はその時、友希那の涙を見た。それで、もう2度と見たくないと思った。」

リサ「!」

環那「だから決めた。俺は友希那を幸せにしてみせると。例えそれで死ぬことになっても、そのことに一切の後悔はしない。腕を失ったことも、友希那に殴られて左目が見えなくなったこともどうだっていいのさ。友希那さえ幸せなら。」

リサ「......」

 

 環那が友希那に執着する理由が分かった

 

 きっと、環那にとってこれは大きな出来事で

 

 何物にも代えられない大切な思い出なんだ

 

リサ「......環那には、友希那しか写ってないの......?」

環那「!」

リサ「環那が友希那を特別に思ってるみたいに、あたしだって環那が特別なんだよ......?」

 

 あたしはそう言葉を零した

 

 環那の話を聞いて納得しない

 

 そんなあたしはきっとダメなんだ

 

リサ「環那みたいな大きな理由じゃない。けど、どうしようもないくらい特別で何にも代えられないんだよ......?」

環那「リサ......」

リサ「いっつも、我慢した。どんな約束をしてても友希那に何かあればそっちに行くし、遠足とかでも2人でお弁当食べたいのに友希那を呼ぶし、何かでペアを組む時も友希那が組めるのを待って絶対にあたしをすぐに選んでくれなかった。けど、あたしはずっと我慢した。これが環那のやりたいことだからって......」

 

 言葉が止まらない

 

 だって、ずっと悲しかったから

 

 あたしはいつも環那の中で2番目

 

 いつも上には友希那がいた

 

 それが、どんなに......

 

リサ「一回くらい、あたしを選んでよ......!」

環那「っ!!」

 

 ”環那”

 

 リサの心の叫び

 

 それ聞いて胸が痛くなった

 

 13年間、友希那以外を見ていなかった

 

 けど、決してリサを雑に扱う事はしてない

 

 そう今までは思っていた

 

 けど、実際は全く違った

 

環那(でも、それが分かってどうなんだ?)

 

 ずっと固執してきた

 

 それを今さら捨てるなんてできない

 

 俺はリサにどう言えばいいんだ......

 

リサ「......もう、良い。」

環那「__!」

リサ「ん......っ///」

 

 俺が考え込んでると

 

 リサは何か小さく呟き

 

 その瞬間、視界がリサの顔で一杯になった

 

リサ「はぁ、ん......チュ......///」

環那(な、なが......!)

 

 口をふさがれ息が続かない

 

 でも、リサは離そうとしない

 

 それどころかさらに深くキスしてくる

 

リサ「好きだよ、愛してるよ、環那......///」

環那「何を、してるの?」

 

 リサはまた俺のベッドに乗ってきた

 

 けど、今はさっきみたいな顔じゃなく

 

 恍惚としてかつどこか虚ろとしている

 

 そのリサは俺の服に手をかけてきて

 

 上半身はもう何も来てないのと同然になった

 

リサ「心が得られないなら、体だけでも......///いいよね?ひまりとシてるんだから///」

環那「!?(し、知ってたのか。)」

リサ「この時間だけはあたしだけを見て......?///」

 

 それからの事ははっきり覚えてる

 

 リサの気持ちも、何もかも分かった

 

 でも、やっぱり

 

 急に俺の気持ちは変えることは出来ない

 

 俺は、リサにどうしてあげればいいんだ

__________________

 

 ”病院の外”

 

 環那が入院する病院の前

 

 そこに1人立ち尽くす少女の姿があった

 

 その表情は影かかっていて見えずらい

 

紗夜「__湊さん?」

友希那「......?」

紗夜「どうしましたか?こんな所に来て。」

友希那「紗夜......!」

紗夜「え?」

 

 その時、病院に紙袋を持った紗夜が歩いてきた

 

 友希那はそれを見ると

 

 突然、紗夜に近づいて縋りついた

 

友希那「私、どうすればいいの......!」

紗夜「ど、どうしたんですか!?」

友希那「私、私......!」

紗夜「い、一旦落ち着いてください!静かな場所に行きましょう。そこでお話を聞きます。」

友希那「あ、ありがとう......」

 

 紗夜は友希那を引き連れその場を離れた

 

 その時の友希那の表情は大粒の涙を流して

 

 ひどく何かに怯えているようだった

 

 

 



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踏み出す歌姫

 入院してから9日が経った

 

 別にもう大丈夫なんだけど、病院はまだ退院させてくれない

 

 早く退院して元の生活に戻りたいな

 

 琴ちゃん、どうせ部屋とか散らかしてそうだし

 

環那(家に帰ったら掃除だねー__ん?)

 

 俺がそんな事を考えてると、病室のドアが叩かれた

 

 それを聞いて、俺は入室の許可を出した

 

 すると、ドアがゆっくり開きある人物が入ってきた

 

エマ「__かーな。」

ノア「笑いに来てやったぞ、ガキ。」

環那「あ、2人も来たんだ。」

 

 入ってきたのはエマとノア君だった

 

 2人はお見舞いとかしなさそうなのに

 

 俺も案外、人望ある方なんだねー

 

ノア「って、貴様、その腕は。」

環那「あはは、無くなっちゃったー。」

ノア「ちっ、だからエマの警告を聞けというんだ。」

エマ「いいよ、ノア。」

ノア「!」

 

 エマがそう言うとノア君は完全に黙った

 

 ノア君、この見た目でエマには従順って

 

 ......なんだか絵面が危ないね

 

エマ「かーな、可哀想。」

環那「そう?別に気にならないけど。」

ノア「利き腕だろう。嫌でも影響は出て来るぞ。」

環那「大丈夫。左利きになればいいだけだからね。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 別に右利きが左利きになれない言われはない

 

 こういうのの問題はやるかやらないか

 

 つまり、気合の問題と言う事だね

 

エマ「期待以上。」

環那「え?」

エマ「かーなの執着心は私の想像を超えた。普通じゃない、最高の研究成果だよ。」

環那「そっか、それはよかったね(?)」

 

 エマは珍しく嬉しそうな顔をしてる

 

 ていうか、言葉選びが12歳じゃない

 

 いや、元々天才なのは知ってたけど

 

 あまりにも凡人の俺とは違う

 

エマ「家で初めて見た時から、ずっと期待してた。流石だよ。」

環那「家?」

エマ「あ、なんでもないよ。帰るよ、ノア。」

ノア「あぁ。」

環那「?」

 

 エマはそう言って俺に背中を向け歩き

 

 ノア君もそれに続いて行った

 

 気になることはあるけど、別にいいや

 

 俺にはどうでもいい事だし

 

エマ「......報酬を払おうか。」

環那「え?」

エマ「ふふっ、じゃあね。」

 

 エマは何かを言って出て行った

 

 何を言ってたんだろう

 

 少し遠いし声も小さいから聞こえなかった

 

環那「寝よーっと__」

ひまり「__南宮さーん!お見舞来ましたー!」

環那「わっ!」

巴「おい、病院の中だぞ?」

モカ「やっほー、かーくんー。」

つぐみ「だ、大丈夫ですか!?」

蘭「家も落ち着いたから来た......けど、ただ事じゃないみたいだね。」

 

 エマが去った後、入れ違いで5人が入ってきた

 

 いやー、本当に人望あるねー

 

 最初の事を考えれば上々の成果だ

 

ひまり「って、腕ぇ!?」

蘭「いや、言ってたじゃん。」

ひまり「だ、だだ大丈夫なんですか!?」

環那「全然大丈夫だよー。ザ、健康体ー。」

巴「いや軽いな。」

環那、モカ「あははー、それほどでもー。」

つぐみ「笑い事じゃないですよ!モカちゃんも!」

 

 なんだかおもしろいね

 

 変に重い空気出されるよりこっちの方がいいや

 

 気が滅入るのは勘弁してほしいし

 

蘭「ねぇ、環那。」

環那「ん?」

蘭「そこまでして湊さんを守るのに意味はあった?」

環那「!」

 

 蘭ちゃんは静かな声でそう尋ねて来た

 

 あー、俺と友希那のこと知ってたんだ

 

 まぁ、派手にやったし噂も出るか

 

環那「もちろんあったさ。」

蘭「!」

環那「何1つの後悔もない。むしろ、友希那を見殺しにした方が後悔してたさ。」

蘭「......そっ。」

環那(友希那、元気にしてるかな。)

 

 それからしばらく5人は病室にいて

 

 学校での話をしたり、トランプとかをしてた

 

 病院内は暇だから

 

 こういう時間を過ごせたのは凄く楽しかった

__________________

 

 ”友希那”

 

 分からなくなった

 

 病院で聞いた、南宮環那の真実で

 

 いや、あの日の行動からかもしれない

 

友希那(どうすれば、良いの......?)

 

 裏切られた、そう思ってた

 

 あの日、血に濡れた姿を見て

 

 もう優しい彼は帰ってこないと絶望した

 

 なのに......ずっと、彼は彼だった

 

 それなのに、私は......

 

友希那(腕だけじゃなく、左目の視力まで、奪ったというの......?)

 

 今になって、あの日の右手の感覚を思い出す

 

 あれで、壊れた......壊した

 

 あの日、彼は目から血が出てた

 

 あんなことをすれば、目に良くない事なんて分かる事だった

 

リサ『__友希那。』

友希那「っ!リ、リサ......」

リサ『少し、話さない?』

友希那「え、えぇ......」

 

 正直、怖い

 

 今のリサの怒りは想像できるけど出来ない

 

 もしかしたら、嫌われてるかもしれない

 

 そんな恐怖を抱きながらも

 

 罪の意識から私は窓を開けた

 

友希那「何か用かしら、リサ......」

リサ「すごいクマだけど、寝てないの?」

友希那「......えぇ。」

 

 リサはいたっていつも通り

 

 それがむしろ怖い

 

 何を考えてるのか分からない

 

友希那「リサは、怒っていないの......?」

リサ「!」

友希那「私のせいで......」

リサ「......怒ってるに決まってるでしょ。」

友希那「っ......!!」

 

 リサは語気を強めそう言った瞬間

 

 手を伸ばして私の胸倉を掴んできた

 

 これまでにない怒りの表情

 

 こんなリサ、見たことがない

 

リサ「環那がああなったのは全部友希那のせいなんだよ?」

友希那「っ!!」

リサ「それなのに環那は怒ることも、悲しむこともしないいで友希那だけを心配してる......!!」

 

 リサの手に力が込められる

 

 まるで怒りを表すかのように震え

 

 段々、私の首を絞めつけてくる

 

リサ「目を見えなくされて、あんなに酷いことも言われたのに、あたしが友希那は無事だよって言ったとき......環那はなんて言ったと思う?『よかった。ならなんでもいいや。』って言ったんだよ!?」

友希那「え......?」

リサ「どんなに、それが悔しかったと思う!?どんなに惨めだったと思う!?」

 

 リサは嘆くようにそう言った

 

 当然よね

 

 だって、リサはずっと彼に連れ添って

 

 私が何かした時はずっと怒ってたもの

 

リサ「あたし、友希那が憎いよ。今すぐにでもこのまま突き落としたい。」

友希那「......っ。」

リサ「なんで、あたしがずっと2番目でいないといけないの?あたしの方が環那のことを分かってるのに、あたしのほうが環那を支えてたはずだったのに......!!」

友希那「り、リサ......」

リサ「......でも、捨てられないの。」

 

 リサは小さな声でそう言い

 

 いきなり手を離した

 

 私は少しだけ息を上げながらリサの方を見あ

 

リサ「あの3人でいた時間をあたしは捨てられない。憎くても、友希那だって幼馴染だから嫌いになれないんだよ......!」

友希那「!!」

リサ「もう、環那は元通りにならない。けど、心だけなら、戻れるじゃん......」

友希那「ここ、ろ......」

 

 私はそう口にした

 

 心だけなら戻れる?

 

 そんなこと、ありえない

 

 私の罪は形として残ってる

 

 彼だって、もう......

 

リサ「環那は、待ってるよ。」

友希那「え......?」

リサ「きっと待ってる、友希那の事。」

友希那「ほ、本当に......?」

リサ「分からないけど、そうだと思う。」

 

 リサは私に肩に手を置いた

 

 そして、優しく微笑みかけて来た

 

 私はそれを見て目を見開いた

 

リサ「友希那はどうする?」

友希那「私も......出来るなら、昔みたいに環那と一緒に......」

リサ「なら、環那が退院してからゆっくり話しなよ。」

 

 私はそう言われ頷いた

 

 環那は、許してくれるの?

 

 この愚かな私の事と

 

 昔みたいに、笑ってくれるの......?

 

 本当に戻れるの......?

 

 もし戻れるなら、私はまた彼の事を__

__________________

 

 リサと話した日から5日後

 

 今日は環那が退院する日

 

 私は病院の環那の病衣室の前まで来た

 

 何か手伝えればいいと思ったけれど

 

 今までの態度の手前、入ることができない

 

環那『__ねぇ、琴ちゃん。』

友希那「!(か、環那!)」

 

 病室の前で立ち止まってると

 

 環那の声が聞こえて来た

 

 中には同居人の浪平先生がいるのか

 

 何かを話している

 

琴葉『はい、なんですか?』

環那『俺の監視期間ってもう終ってるんだよね?』

琴葉『えぇまぁ。でも、どうせ行く当てもなさそうですし家にはおいておいてあげますよ。』

環那『そのことで、言っておきたいことがあるんだ。』

友希那「?」

 

 声の調子ではよく分からない

 

 けれど、少しだけ真面目な感じがする

 

 私が聞き耳を立ててると

 

 環那は次の言葉を口にした

 

環那『__俺、学校辞めてこの町から出て行くよ。』

琴葉『え?』

友希那「え......?」

 

 その言葉を聞いて私は体の力が抜けた

 

 体が震えて周りの音が全て遠くに聞こる

 

 その時、私の頭の中は真っ白になった

 

 

 



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余裕を保てない

琴葉「な、なぜですか!?」

 

 琴ちゃんは慌てた様子でそう聞いてきた

 

 いやぁ、俺の監視してたのに常人っぽいね

 

 なんて言うか、良くも悪くも年齢を感じない

 

琴葉「ここでの生活に不自由はなかったはずです!なぜ、わざわざそんな事を!?」

環那「俺が思い切ったことをする理由なんて1つしかないよ?」

琴葉「湊さん、ですか?」

環那「大正解ー。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 分かってくれる人は話しやすいねぇ

 

 長くしゃべる必要がないし、すごい楽

 

環那「友希那は本当に優しい子だからさ、俺のこの姿を見れば傷つくと思うんだ。だから、目に入る前にさっさと消えようと思ってね。」

琴葉「湊さんのためになんでそこまで出来るんですか?あなたにだって人生はあるんですよ?」

環那「俺に友希那以上に大切なものなんて無いからね。」

琴葉「......そうですか。」

 

 琴ちゃんはそう言って下を向いた

 

 そして、数秒病室を静寂が支配し

 

 それを破るように琴ちゃんは静かな声を出した

 

琴葉「......今井さんは、どうするのですか?」

環那「終わったよ。」

琴葉「え?」

環那「リサとはもう別れた。俺から選ばれたいって言ってたけど、こうなっちゃ仕方ないさ。」

琴葉「どこまで、湊さん優先なんですか......?」

環那「どこまでも、だよ。」

 

 俺はベッドから出た

 

 そして、左手でまとめておいた荷物を持ち

 

 病室のドアの方に歩いた

 

環那「お世話になったね、琴ちゃん。偶にメール送るよー。」

琴葉「......そうですか。」

 

 琴ちゃんがそう言うのを聞いて

 

 病室のドアをゆっくり開けた

 

 さて、どこに行こうかなー

 

 取り合えず、何か面白そうなことが転がってそうな場所に行こう

 

環那「__っ!」

友希那「......」

琴葉「み、湊さん......?」

環那「......ははっ、これは誤算だった。」

 

 これには流石に乾いた笑いが漏れた

 

 まさか、早速本末転倒になるなんて

 

 これは、計算外だ

 

環那「どこから聞いちゃった?」

友希那「......出て行くと、言ったとき......」

環那「そっか。」

 

 友希那の態度から分かる

 

 これは何かを言いに来たんだろう

 

 だとしたら無視も出来ないし

 

 ......第2プランかな

 

環那「この病院の裏、すごくいい場所があるんだ。少し話そうか。」

友希那「......えぇ。」

 

 友希那が頷いたのを確認し

 

 俺は友希那を連れて病院を出て

 

 さっき言った場所に移動することにした

__________________

 

 病院裏にある小さな公園

 

 ここは滅多に人が来なくて静かで

 

 なんだか落ち着けるいい場所だ

 

 今、俺は友希那と並んでベンチに座ってる

 

環那「__いやー、まさか最後に友希那と話せるなんてね。嬉しいよ。」

友希那「......」

 

 俺は笑顔のままそう言った

 

 友希那は黙ったまま下を向いてる

 

 この様子じゃ、本当に落ち込んでるんだ

 

環那「賭けの約束は果たすよ。俺は友希那の前から消える。もう、会う事はないよ。」

友希那「......そうじゃ、ないの。」

環那「!」

友希那「今日は、そんな話ではないの......」

 

 友希那は消え入りそうな声でそう言った

 

 ......まさか、何か変わったのか?

 

 もしかして、リサが何かしたのかな?

 

友希那「私......間違えてた。」

環那「......!」

友希那「あの日、環那のあの姿を見て裏切られたと思ったの......」

環那(裏切り?)

友希那「クラスに馴染めなくて人を信じられなくなってて......それで......」

 

 確かに、あの時の友希那は精神を病んでたし

 

 俺の姿も消火器持ってたり手が血で真っ赤だったりと結構刺激的だったし

 

 結構エグイこともしたからそう思うかも

 

友希那「環那が捕まってから負の感情だけが大きくなって......何も知らないまま、私......」

環那「いや、それはいいんだよー?事実は事実なんだし。」

友希那「でも、環那の目も腕ももう戻らない......!」

環那「っ!!」

 

 友希那は涙を流してる

 

 それを見て胸が痛くなった

 

 二度と友希那を泣かせないために生きて来たのに

 

 なんで、俺が泣かせてるんだ......?

 

環那「こ、こんなのどうだっていいから。別に死ぬわけでもないし。」

友希那「ごめんなさい......ごめんなさい......」

環那「ゆ、友希那!?」

 

 友希那は俺に縋り付いてきた

 

 何が何かわからない

 

 今、この場では何が起きてるんだ?

 

 なんで、友希那はこんな事をしてるんだ

 

友希那「なんでもするから、なにをしてもいいから......私から離れないで......」

環那「......っ。」

友希那「もう嫌いなんて言わないから......本当は大好きだから......お願い......」

環那(友希那......)

 

 小さい時に喧嘩......いや友希那が怒った時

 

 いつも、友希那はこう言ってきた

 

 こんなに泣いてたことはなかったけど

 

 悲しそうな声でそう言って

 

 それに対する俺の答えは、いつも1つだった

 

環那「......もう、仕方ないなぁ。」

友希那「......!」

 

 俺は友希那の頭を撫でた

 

 久しぶりにこうしたね

 

 今は抱きしめることは出来ないけれど

 

 まぁ、そこは許してくれるかな

 

環那「友希那にそう言われたら、俺はそうするしかないね。」

友希那「か、環那......?」

環那「俺、この町に残るよ。こんな友希那を放ってはおけないよね。」

 

 俺は友希那に微笑みかけた

 

 この調子じゃ、俺は友希那に何されても許しちゃいそうだ

 

 いや、今更かな

 

友希那「昔みたいに、一緒にいられるの......?」

環那「うん、リサと3人でいられるさ。それが友希那の望みなら。」

友希那「環那、環那......!」

環那「うん、俺はここにいるよ。」

 

 本当は友希那に嫌われたままで

 

 大人しく町を出て行く予定だった

 

 けど、予定変更だね

 

 もう少し、いや、友希那が望む限りここにいよう

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 しばらく友希那の頭を撫でていた

__________________

 

 あれから少し時間が経って

 

 俺は泣き終わった友希那を家に送りに来た

 

 この辺りにはリサの家に来た以来だね

 

環那「__ここまでだね。」

友希那「そ、そうね......///」

 

 友希那は小さな声でそう言った

 

 なんだか可愛いねぇ

 

 こんな友希那久しぶりに見られたよ

 

 いやー、生きててよかった

 

環那「じゃあ、俺は琴ちゃんの家に帰るよ。連絡先も渡しておくね。」

友希那「えぇ///ありがとう、環那///」

環那「......(可愛いんだよねぇ。)」

 

 自然と口角が上がる

 

 昔の友希那に戻ってるね

 

 ちょっと昔過ぎるかもしれないけど

 

 まぁ、可愛いければすべてヨシって事で

 

環那「じゃあね、友希那。」

友希那「か、環那!///」

環那「どうしたの__んっ(!?)」

友希那「ん、ちゅ......っ///」

 

 帰ろうとした時呼び止められ後ろを向くと

 

 友希那が歩み寄ってきて

 

 次の瞬間、唇に柔らかい感触があった

 

 俺が状況を把握すると、

 

 友希那はゆっくり離れていって笑顔を向けてきた

 

友希那「おかえりなさい、環那!///」

環那「う、うん、ただいま。」

友希那「また、学校で///」

 

 友希那はそう言って小走りで家に入って行った

 

 俺は友希那がいなくなった後も呆然と立ち尽くし

 

 鞄を投げ捨て顔を抑えた

 

環那(あー、顔熱い、心臓うるさい。なにあれ、ズルすぎでしょー......)

 

 俺は心の中でそうぼやいた

 

 それからは心が落ち着くのを待ち

 

 暫くして心拍数がやっと落ち着いて

 

 鞄を肩にかけ家に帰って行った

 

 いやー......これは流石に余裕は保てないや

 

 

 



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退院後の生活

 退院してから4日ほど経った

 

 俺は琴ちゃんの家にまだ居候することになり

 

 少しの間は奇異の目で見られたりしたけど、今は何だかんだ平和に過ごしてる

 

 ......はずなんだけどー

 

友希那「か、環那///あ、あーん///」

リサ「ほら、こっちもあるよ!///」

環那「あ、う、うん。」

 

 和解して以降、友希那はこの調子

 

 奇異の目で見られた理由はこれが大きい

 

 今までの扱いと天と地の差だし

 

 ていうかもう変わり過ぎだしね

 

環那「あの、俺は別に食べさせてもらわなくても大丈夫だよ?」

リサ「何言ってんの?右手ないんだし、そのくらいしないとじゃん。」

環那「いや、あの__」

友希那「私の責任だもの、果たさせて......?」

環那「......」

 

 俺、もう左手で箸くらい使えるんだけど

 

 ていうか文字を書くのも多少できるし

 

 ちょっと不器用な人くらいになったんだけど

 

「ど、どうなってんだ?」

「影武者?」

「て言うかモテすぎだろ。」

「羨ましい~!!!」

環那(最後の誰?)

 

 まぁ、そんなことはいいや

 

 俺は友希那の意思を尊重するだけ

 

 つまり、もうこの状況に従うという事だ

 

 ”リサ”

 

友希那「このお弁当、私が作ってみたの......///」

環那「っ!な、なんだって!?」

リサ(環那が感情をあんなに出してる。珍しい__って、え?)

友希那「これ、なのだけれど......///」

リサ(何あれ......破壊物質?)

 

 お弁当

 

 友希那がそう言って出したのは何かよく分からない物体

 

 ドス黒くて紫のオーラが見えてくる

 

 え、これは食べ物なの?

 

環那「わぁ、美味しそうだね!」

リサ(なんで!?)

友希那「そ、そう!///」

環那「ありがたくいただくよ!」

 

 こんなに嬉しそうな環那も珍しい

 

 ここまで嬉しそうなのは友希那が運動会で頑張ってたときとか、友希那が新しい服着たときとか、友希那が褒められたときとか......って、友希那しかないね

 

 てか、今はそう言う問題じゃない!

 

友希那「はい、食べて......?///」

環那「うん。」

リサ(え、マジで行くの?死ぬよ?)

 

 友希那は環那の口にそれを入れた

 

 やばいやばいやばい

 

 下手したら吐血して死__

 

環那「__うん、美味しいね。」

クラスメイト「!?」

リサ「え?」

環那「これは卵焼きだね。うん、すっごく美味しいよ。」

 

 開いた口が塞がらない

 

 いや、あれが美味しい?

 

 まさか、環那って......

 

環那「友希那は料理上手だね。」

友希那「ま、まだまだよ......///」

リサ(あー......)

 

 大体だけど分かった

 

 ていうか環那なら必然なことだ

 

 いや、いくら友希那が大事って言っても限度があるけど......

 

リサ(きっと、友希那の作った物なら何でもおいしく感じるんだろうなー。)

 

 どういう事ってなるけど

 

 でも、もうこれしか考えられない

 

 だってそうじゃないとあれは食べられない

 

 常人が食べたらマジで死ぬって

 

クラスメイト(み、南宮って、化け物か......?)

友希那「また、色々作ってみるわ!」

環那「うん、楽しみにしているよ。」

 

 これ以降、環那は『鋼の胃袋』の称号を得た

 

 あたしも陰ながらそう呼ぶんだけど

 

 まぁ、あたしも流石に化け物だと思った

__________________

 

 ”環那”

 

 放課後、俺は友希那とリサと行動するようになった

 

 俺は今の体に慣れる練習をするんだけど

 

 でも、今日は少しだけ違う行動をしてる

 

環那「__おー、初めて入ったー。」

 

 俺は今、友希那達が練習してるライブハウスに来た

 

 友希那は練習を見て欲しいらしく

 

 俺は2つ返事くらいで付いてきた

 

 だって、友希那の意思は俺の意思だからね

 

あこ「環那兄が来るのは初めてだね!」

環那「来る機会がなかったからねー。」

リサ「まぁ、今日はゆっくりしていきなよ!」

紗夜「いや、何自然にいるんですか?」

環那、友希那、リサ、あこ「?」

燐子(仲良し......?)

 

 紗夜ちゃんはなんで眉間に皺寄せてるんだろ

 

 なんか怒ってるっぽいし

 

 あんまり刺激しないようににこやかに話しかけないと(見当違い)

 

環那「紗夜ちゃん?あんまりイライラしてると美人な顔が台無しだよ?ほら、スマイルスマイル~。」

紗夜「別にイライラしてません!」

環那「美人は否定しないんだ。いや、いいと思うけどねー。」

友希那「......私は?」

あこ、燐子(し、嫉妬してる。可愛い。)

環那「え、友希那?」

 

 俺は首を傾げた

 

 これは所謂、愚問と言う奴だ

 

 だって、俺の回答は決まってるし

 

環那「美しい銀髪に大きな瞳、端正な顔立ちに飛び抜けた声量に歌声。その姿はまるで天使......いや、女神そのものだよ!」

友希那「そ、そう......///」

リサ「知ってる?環那の中で美人って言うのは誉め言葉じゃなくて、ただの感想なんだよ。しかも、100人にアンケートを取ったのを仮定して何パーセント回答があったかによって変わる。友希那を褒める時だけは語彙力が上がるらしいよ。」

紗夜「機械ですか?」

環那「違うよ。ただevidenceを出すために考えてるだけだよ。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 だって、友希那の誉め言葉は簡単に浮かぶけど

 

 他の人は機械的に考えないと褒める言葉が出ないし

 

環那「友希那以外を褒めるのは苦手だね。感想があんまり浮かんできてくれない。」

紗夜「正直ですね!?」

リサ「あはは、それが環那だしねー。」

友希那「そ、そうよ......!///」

燐子(友希那さん......嬉しそう.....)

 

 こんな話ばっかりしてるけど、練習は良いのかな?

 

 わざわざ無料でもない場所借りてるのに

 

 俺はふとそんな事を考えた

 

環那「練習しなくていいの?」

友希那「あ、そうだったわ。」

あこ「友希那さん、忘れてたんですか!?」

友希那「か、環那に夢中で......///」

紗夜「のろけてる場合ですか!!」

環那「いやぁ、友希那は可愛いなぁ。」

燐子「そう......ですね......(ツッコミする気なし)」

リサ「まぁ、悔しいけど可愛いね。(慣れた。)」

あこ「可愛いね!」

紗夜(ツッコミ不在っ!!)

 

 紗夜ちゃん、すごい顔してるな

 

 でもまぁ、大丈夫でしょ(適当)

 

環那「じゃあ、練習しなよ。折角だし、友希那の歌を楽しむとするよ。」

友希那「えぇ!私の全てを懸けて歌うわ!///」

紗夜「私はよく練習は本番のようにと言いますが......それは本番だけにしてください!」

友希那「みんな、準備するわよ!」

あこ「はーい!」

紗夜「......もう、いいです。」

 

 紗夜ちゃんは何かを諦めたようにそう言った

 

 なんだか大変そうだね

 

 どうしたのかな?(←こいつのせい)

 

友希那「環那、しっかり見てて!///」

環那「うん、分かった。」

友希那「上手に歌えたら、また撫でて欲しい......///」

環那「じゃあ、ウォーミングアップしておくね(?)」

 

燐子(また、イチャついてる......)

あこ(空気、甘......)

紗夜(この2人は......)

リサ(あたしがこう考えるのもあれなんだけど......)

リサ、紗夜、あこ、燐子(これでまだ付き合ってないの?)

 

 それからしばらくして、練習が始まった

 

 友希那の歌はもちろんすごくて

 

 終わった後は約束通り友希那を撫でた

 

 友希那が幸せそうで良かったね

 

 

 



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水着選び

 6月はあんまり好きじゃない

 

 雨は降るし蒸し暑いし

 

 本当にこの月はあんまり好きじゃない

 

リサ「かーんな!」

友希那「おはよう、環那。」

環那「あ、おはよー。」

 

 ボーっとしてると友希那とリサが歩いてきた

 

 友希那が朝に声をかけてくれるなんて......

 

 いやぁ、良い世の中になったねぇ

 

リサ「ねぇ、環那?」

環那「どうしたの?」

リサ「夏休みさ、何か予定ある?」

環那「特にないよー。」

友希那「!」

 

 もちろん、俺に夏休みの予定なんてない

 

 この町には戻って来たばっかりだし

 

 一緒に遊ぶ子もリサや友希那しかいないしね

 

リサ「じゃあさ、環那もあたし達と合宿行こうよ!」

環那「合宿?」

友希那「えぇ、Roseliaのメンバーで海の近くの音楽スタジオで合宿をするの。」

リサ「もちろん、遊んだりもするよ!」

環那「へぇ、海かー。」

 

 海なんて何年見てないだろ

 

 最後に見たのが小学生の時だから......

 

 もう分かんないや

 

環那「他の3人がいいなら、いいかもねー。」

リサ「決まり!前もって確認は取ってるんだよねー!」

環那「用意周到すぎる。」

 

 連れて行く気満々だね

 

 まぁ、断るつもりはなかったんだけど

 

友希那「......じゃあ、買いに行きましょうか。」

環那「え?」

リサ「そうだね!」

環那「なんのこと?」

友希那「水着よ。」

リサ「環那、放課後時間ある?」

環那「......え?」

 

 俺は首を傾げた

 

 その後は何だかんだ授業を受けて

 

 よく分からないまま時間は過ぎていった

__________________

 

環那(__お、おぉ......)

 

 放課後、俺は友希那とリサとショッピングモールの水着コーナーにいる......女性用のね

 

 肩身が狭いってこういう事を言うんだね

 

 周りは女性用水着ばっかりでキョロキョロしてたら不審者扱いされそうだ

 

環那「なんで、俺まで?」

リサ「え?環那に選んでもらおうかなって。」

友希那「環那の好きな水着じゃないと意味がないわ。」

 

 2人は当然と言った感じでそう言った

 

 分かった、これは役得だ

 

 女の子の水着を見られるわけだし

 

 しかも、2人とも可愛いし

 

リサ「じゃあ、環那はまってて!水着選んでくる!」

友希那「いい水着を選んでくるわ。」

環那「うん、楽しみにしてるよ。」

リサ「じゃあ、行ってくるねー!」

 

 そう言って2人は水着を選びに行った

 

 俺は取り合えず店内にある椅子に座った

 

 2人の水着姿を見るのは中学の時のスク水かな?

 

 リサは男子に特にみられてた記憶がある

 

 まぁ、そいつらは蹴っ飛ばしてたんだけど

 

環那(2人は水着、どんなの選ぶのかなー?)

 

 友希那はこう、フリフリしたので

 

 リサは派手そうな水着かなー

 

 なんでそう思うかと言うと、昔一緒にカタログ見た時に言ってたからだね

 

 当時の俺は理解してたから気まずかったのを覚えてる

 

環那(まぁ、成長して変わったかもしれないし。今は分かんないかな。)

友希那『か、環那!』

環那「ん?友希那?」

友希那『その、試着室に来てくれないかしら?』

環那「りょうかーい。」

 

 俺は友希那に呼ばれて立ちあがり

 

 声がした試着室の前に移動した

 

 友希那、もう水着決めたのかな?

 

 意外と早かったね

 

友希那『その、笑わないでね......?』

環那「もちろん笑わないよ?」

友希那『じゃあ、開けるわね......?』

 

 友希那のそんな声が聞こえると

 

 ゆっくりピンク色のカーテンが開いて行った

 

 友希那の水着、どんなだろ

 

友希那「ど、どうかしら......?///」

環那「__!!」

友希那「環那?///」

 

 に、似合いすぎる

 

 紺色で程よくフリルがあしらわれたビキニ

 

 薔薇の模様と色が相まってどこかRoselia味を感じる

 

 本当にバンドが好きなんだ

 

環那「に、似合うよ!すごく可愛い!」

友希那「そ、そう......?///」

環那「うん、世界一可愛いよ!」

友希那「じゃあ、これにするわ///」

環那「待って、それは俺が買うよ。折角だし友希那にプレゼントしたい。」

友希那「え、いいわよ。そこまでしてもらうのは__」

環那「いいんだよ!折角だからさ!」

 

 充分貯金してることだし

 

 どうせお金に使い道なんてないし

 

 それなら友希那に使うのが一番いいに決まってる

 

環那「買わせてよ!ね?」

友希那「そ、そこまで言うなら。」

環那「決まり!」

友希那「じゃあ、着替えてくるわね?」

環那「うん!」

 

 俺が頷くと友希那はカーテンを閉めた

 

 いやー、良いものを見れたね

 

 これから来るであろう幸せが凝縮してた

 

 あれを生みで見られるのが楽しみだ

 

環那(友希那は綺麗だし、きっと海でも映えるんだろうなー。あの銀色の髪が潮風で靡く姿......そんなの見たら美しすぎて罰が当たりそうだ。)

 

 妄想が膨らむ

 

 でも、明確なイメージが出来ない

 

 俺程度の想像力じゃ最高の友希那の姿を浮かべられない

 

環那(まだ1か月あるけど、楽しみだなー。)

リサ『__環那ー?』

環那「リサ?リサも着替え終わった?」

リサ『うん♪しーっかり見てね!』

 

 リサはそう言って勢いよくカーテンを開けた

 

 友希那と違って躊躇いがなく

 

 すぐに水着を着たリサの姿が見えた

 

環那「っ!」

リサ「どうー?環那?」

環那「え、あ、うん。」

 

 正直、リサの水着を見て驚いた

 

 あんまり見たことない種類

 

 だけど、肌の露出がいい可愛らしいビキニ

 

 いろんな色が散ってて花火みたいな模様

 

 後はおしゃれなのか腰辺りにビーズなアクセサリが付いてる

 

環那「に、似合うんじゃないかな。」

リサ「むぅー、やっぱり友希那みたいな反応はしてくれないんだ。」

環那「いや、すごく似合ってるよ。でも、思ったより派手だったから......」

リサ「......ふーん。(あれ、まさか動揺してる?)」

環那(なんだ、これ?)

 

 なんでこんなに動揺してるんだ?

 

 リサだって似合ってるのは間違いない

 

 でも、さっき友希那だって可愛かったし......

 

 こんなの今までで初めてだ

 

リサ「ねぇ、環那?」

環那「ど、どうしたの?」

リサ「こっち来て!」

環那「!」

 

 リサはそう言うと俺の腕を引っ張って

 

 そのまま、俺を試着室に引きずり込んだ

__________________

 

 試着室の中は狭くて、人2人入れば密着する

 

 それが片方水着ならなおさらすごい

 

環那「り、リサ?何をしてるの?」

リサ「環那が珍しく動揺してるし、ちょーっと漬け込んでみようかなって☆」

環那「!」

リサ「ほら、どう?中学の時よりは成長したでしょ......?///」

環那「......っ。」

 

 壁に追い込まれて、前からはリサが抱き着いてくる

 

 豊満な体が水着によって露出を増して

 

 モロに俺の体に当たる

 

リサ「言ったでしょ?環那を振り向かせるって///」

環那「そ、そうだね。(なんでこんなに動揺してるんだ......!?)」

 

 友希那と同じくらい感情が舞い上がってる

 

 なんでだ

 

 俺には友希那以上はいない

 

 今も昔もそう思って生きて来たのに

 

リサ「環那にはもう、あたしの全部を見られてるけど水着はまた別でしょ?///」

環那「り、リサ、やめときなって。バレたら面倒だよ。」

リサ「大丈夫♪その時は恋人ですって言えばいいんだよ♪」

環那「そう言う問題じゃ......っ。」

 

 取り合えず、落ち着かないと

 

 いつも通りにすればいいだけだ

 

 なにも難しい事じゃない

 

 リサと接触しても今までなら冷静でいられたんだ

 

リサ「......あたしは、環那の事が好きだよ///」

環那「っ!」

リサ「ずっと、ずっと......///」

環那「......(くっ......)」

 

 こうしてると、あの日を思い出す

 

 病室での、あの言葉を......

 

 何だって言うんだ......っ

 

環那「......好きって、何なの?」

リサ「え?」

環那「い、いや、なんでもな__」

友希那「__何をしているの?」

環那、リサ「!!」

 

 話してる途中、友希那によってカーテンが開けられた

 

 友希那は不機嫌そうな顔で俺達を見てる

 

 そうか、着替え終わったんだ

 

 それで、俺とリサがいないから......

 

リサ「ご、ごめん~、つい~。」

友希那「何がついよ。思いっきり誘惑してるじゃない。」

環那「だ、大丈夫だよ。俺は友希那以外に__っ!」

 

 違う

 

 俺の脳裏にそんな言葉が浮かんできた

 

 でも、何が違うんだ

 

 自分で自分が理解できない

 

環那「......友希那とリサの水着、俺が買うよ。リサ、着替えたら持って来てね。」

リサ「う、うん?(なんか、様子がおかしい?)」

環那「行こう、友希那。」

友希那「えぇ?」

 

 俺は友希那を連れて試着室を出た

 

 取り合えず、一旦切り替えよう

 

 明日になれば頭がリセットして戻る

 

 そんな事を考えながらリサを待ち

 

 2人の分の水着を買って店を出て

 

 それからは家に帰った

 

 

 



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報酬

 人と言うものは良く分からない

 

 獄中での生活が長くて、人間的感覚が弱くなったんだろうか

 

 それとも、心が元からないんだろうか

 

 リサの気持ちが分からない

 

 なぜ、俺に固執してるのか

 

 全く持って俺には理解が出来ない

 

環那(......なんなんだろ。)

 

 一番分からないのは、自分

 

 いや、俺が自分の事が話からなのは当然だ

 

 俺は、自分が何で生まれたのかすら分からない

 

 だから、心と言う物が正しく機能してない

 

 それは前々から自覚してた

 

環那(そもそも、人を好きになるって気持ちってどんなだろ。)

 

 俺は友希那を愛してる

 

 けど、それは恩人として

 

 恋愛的な好きとはまた一線を隔してる

 

あこ「__環那兄ー!」

環那「あこちゃん?」

あこ「やっぱりいた!」

 

 屋上でしばらく考え込んでると

 

 勢いよくドアが開いてあこちゃんが入ってきた

 

 いつも通り、太陽みたいな笑みを浮かべてる

 

 なんて言うか、本当に妹みたいだ

 

環那「どうしたの?」

あこ「リサ姉が用事があるから、あこがお弁当持ってきたの!」

環那「そうなの?悪いね、忘れてた。」

 

 しまった

 

 考え込み過ぎてご飯のこと忘れてた

 

 こんなミス、初めてかも

 

あこ「環那兄が珍しいね?」

環那「あはは、俺にも偶にはあるよ......多分。」

あこ「多分なんだね。」

 

 自分ですら知らなかった

 

 あんまりミスをして生きてこなかったから

 

環那(これは、重症だな。)

あこ「まぁ、いいや!お弁当食べよ!今日はあこが食べさせてあげる!」

環那「え、それはいいよ。もう左手にも慣れたし。」

あこ「えー!?」

環那「?」

あこ「やりたいー!!」

環那「えぇ!?」

 

 あ、あこちゃん、いつからそんな子に?

 

 別に左手は大丈夫なんだけど

 

 もう般若心境模写くらいはできるし

 

 でも、子供の好奇心を阻害するのは......(※2歳差)

 

環那「まぁ、いいよ。したいならね......」

あこ「わーい!やったー!」

 

 あこちゃんはそう言いながら弁当箱を開けた

 

 なんでこんなに嬉しそうなのかは分からないけど

 

 まぁ、喜んでるならいいかな

 

あこ「はい!あーん!」

環那「はいはい、あーん。」

 

 俺は差し出されたおかずを食べた

 

 いつも通りのリサの味だ、美味しい

 

 ほんと、料理上手になった

 

 けど、小さい子に食べさせられる構図って危ないね(※2歳差)

 

環那(んー、なんだろ、この状況。)

あこ「環那兄、美味しい?」

環那「うん、美味しいよ。あこちゃんに食べさせてもらったから、何倍も美味しく感じる。」

あこ「よかったー!じゃあ、もっと食べて!」

 

 あこちゃんはそう言いながらドンドンおかずを差し出してくる

 

 ちょっとペースが早いけど

 

 まぁ、食べられるしいいかな

 

 そんな事を思いながら、俺はお弁当を食べた

 

あこ「そう言えばさ。」

環那「?」

あこ「環那兄ってRoseliaの合宿来るんだよね?」

環那「うん、行くよ。折角だし。」

あこ「そうなんだぁ。じゃあ、一緒に遊べるね!」

 

 あこちゃんは嬉しそうにそう言った

 

 まぁ、遊べると言っても海には入れないんだけどね

 

 片腕でも泳げるけど、断面晒すのはヤバいし

 

環那(そう考えたら、腕がないのは不便なのかもしれない。まぁ、それくらいしかないけど。)

あこ「環那兄?」

環那「なんでもないよ。」

あこ「じゃあ、海で何するか話そうよ!花火とかよくない!」

環那「あー、いいね。大きい花火をバーンってね。」

 

 それから、俺とあこちゃんは海でする事を話して

 

 その中で取り合えず、大きい花火とスイカ割をするのは決めた

 

 いやー、楽しみだねー

__________________

 

 放課後、俺はRoseliaの練習に来てる

 

 最近は割とこれが日課だ

 

 料理も掃除も中々できなくなっちゃったし

 

 でも、これはこれで楽しいんだよね

 

友希那「__ここまでにしましょう。」

 

 それで、2時間ほど練習をし

 

 友希那はメンバーに向けてそう言った

 

 張り詰めた空気が解けて、雰囲気が緩くなる

 

 Roseliaの威圧感はやっぱりすごい

 

リサ「あ~!疲れた~!」

友希那「環那!」

環那「お疲れ様、友希那、リサ。」

紗夜(また始まった......)

 

 練習が終わると2人がこっちに駆け寄ってきた

 

 なんだか、妹か娘みたいだね

 

 2人とも、すごく可愛い

 

紗夜「南宮さん、もう少し場をわきまえてください。」

環那「これ、俺が悪いの?」

紗夜「......ろ、6割......前後。」

環那「び、微妙だね。」

 

 俺が練習に来るようになって、紗夜ちゃんの気苦労は絶えないみたいだ

 

 まぁ、友希那とリサがこれで、あこちゃんも似た感じ

 

 まともなのは紗夜ちゃんと......

 

燐子「......」

紗夜「白金さん、どうかしましたか?」

燐子「あ、なんでも......ないです......」

 

 燐子ちゃんだけ、かな

 

 ていうか、燐子ちゃんとはあまり喋らない

 

 何と言うか、避けられてる感じ

 

 まぁ、色々やっちゃったし、仕方ないかな

 

リサ「燐子って環那と全然喋らないよね~。」

燐子「え......そ、そうですか......?」

あこ「確かに、あこ、一回も見たことないかも。」

友希那「私もよ。」

燐子「え、あ、そ、その......」

 

 燐子ちゃんの目がグルグルしてる

 

 まぁ、興味ない男子と話してないよね~とか、そうゆうこと言われると困るよね

 

環那「まぁまぁ、いいんじゃないかな。別に燐子ちゃんが困ることなんて無いんだから。」

紗夜「そうですね。白金さんは男性が得意ではありませんし、話さないのも何ら不思議ではないです。特に、南宮さんは変な人ですし。」

環那「そうそう、って、さりげなくひどくないかな!?」

リサ「まぁ、環那が変なのは認めるよ。」

あこ「環那兄、変人だもんね~。」

環那「変かな?普通ではないと思うけど......」

 

 俺は肩を落としながらそう言った

 

 自分の事をまともと思ったことはないけど、そんなに変なのかな?

 

 獄中ならもっと変な人いたけど

 

友希那「環那は変だけれど優しいのよ?燐子にも良さが分かればいいのだけれど。」

環那「無理強いすることでもないよ。別に、関わって得する人間でもないしね。」

燐子「そ、そう言うのではなくて......」

 

 まぁ、俺は言ったとおりの事を思ってるけど

 

 避けられてる理由は何なんだろ?

 

 心当たりはたくさんあるけど

 

 その中のどれなんだろう?

 

紗夜「お喋りはここまでにして、片付けましょう。利用時間が終わりますよ。」

環那「そうだね。俺も出来る事は手伝うよ。」

紗夜「片手でしょう......まぁ、強いて言うなら湊さんのおもりをお願いします。」

友希那(子ども扱いされてるわ。)

環那(紗夜ちゃん、段々俺達の扱いに慣れてきてる。)

 

 紗夜ちゃんに言われ、俺は友希那と話して

 

 楽器組はそれぞれの楽器を片付け

 

 利用時間ギリギリくらいで俺達はライブハウスを出た

__________________

 

 外はもう陽が落ちて、街灯が薄暗い道を照らしてる

 

 Roseliaの練習時間ってすごいんだね

 

 でも、女の子だけでこんな時間までは危ないね

 

 誘拐とか、ちょっと怖い

 

リサ「ねぇ、環那ー。明日って数学小テストだよねー?」

環那「確か、そんな事言ってたね。」

友希那「小、テスト......?」

環那、リサ、紗夜、あこ「あっ(察し)」

燐子(友希那さん......)

 

 友希那の小テストは、俺が助けないとかな?

 

 まぁ、数学は得意だし大丈夫だけど

 

 そろそろ、勉強の方も真面目に見ないといけない

 

 ......前のテストを見た感じね

 

エマ「__かーな。」

Roselia「!?」

環那「エマ?」

ノア「ほう、女5人を侍らせるとは、見上げたやつだ。」

環那「ちょっとどころじゃない語弊があるね。」

 

 建物を出てすぐ

 

 エマとノア君が電柱の陰から出て来た

 

 全く気付かなかったけど、どうやって隠れてるんだろう?

 

 俺はそんな事を考えてると、リサが話しかけて来た

 

リサ「環那?この2人、誰?」

環那「お友達だよ。」

ノア「誰がだ。」

環那「まぁまぁ。」

 

 俺はノア君をなだめるように手を動かした

 

 あんまり素を出し過ぎると怖がっちゃうし

 

 ここは上手く話しを進めないと

 

環那「2人は何の用でここに?」

エマ「報酬の準備が出来た。」

友希那「......報酬?」

紗夜「何かしてたんですか?」

環那「うーん、まぁ、色々?」

 

 それにしても、報酬か

 

 気になるのは準備って部分

 

 用意じゃなくて準備

 

 つまり、何かするつもりって事?

 

環那「その報酬って、何?」

エマ「それは、私の研究室に来れば分かる。けど、少しだけ時間がいる。」

環那(エマでも、時間がかかるの?)

 

 余計に分からないな

 

 キーワードは研究室、時間がかかるの2つのみ

 

エマ「きっと、損する事じゃない。今から研究室に来て。」

環那「え、いや、あの、明日学校。」

ノア「四の五の言わずついて来い。エマの命令だ。」

リサ、友希那「環那!?」

環那「乱暴だなー。あ、心配いらないよ!悪い......人たちではないと思うから!多分!」

リサ「多分!?」

 

 俺はそうしてノア君に連行された

 

 エマの言う、報酬

 

 果たしてこれは何なのか

 

 この後すぐ、俺はそれを知らされることになる

 

 

 



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復活

 ”リサ”

 

 あれから2日

 

 環那は2日も、学校に来なかった

 

 浪平先生に聞いたけど、家には帰って来てないみたい

 

 研究室とか言ってたけど、大丈夫かな......

 

紗夜「__湊さん、今井さん、練習に身が入ってませんよ?」

リサ「え?あ、ごめん......」

友希那「......ごめんなさい。」

 

 練習の途中、紗夜は機嫌が悪そうな声でそう言ってきた

 

 環那の事を気にしすぎて集中できてなかった

 

 珍しく友希那も言われてるって事は、やっぱり環那が心配なんだ

 

紗夜「どうせ、彼の事を心配してるんでしょうが、友達と言ってたでしょう?大丈夫ですよ。」

あこ「何があっても『友希那ー!』って言いながら帰って来そうですもんねー。」

紗夜「控えめに言って化け物ですからね。」

友希那「環那は化け物じゃないわよ!」

リサ(それは......否定できない。)

 

 って、そんな場合じゃない

 

 今は環那のことだよ

 

 そもそも、報酬って何のこと?

 

燐子「......」

あこ「りんりん、どうしたの?」

燐子「な、なんでもないよ。」

紗夜「もう練習しても仕方ないので終わりましょう。」

 

 紗夜は呆れたようにそう言った

 

 まぁ、友希那ですらこれだし

 

 流石に練習なんて出来るわけないか

 

紗夜「時間があるので、気になるなら探しに行くなりなんなりしなさい。(見つかるかは微妙ですが。)」

友希那「そ、そう!なら......!」

リサ「行ってくる!」

あこ「はやっ!?」

燐子「......」

 

 あたしと友希那はライブハウスを出ていった

 

 全く居場所の検討はつかないけど

 

 取り合えず、町中探し回ってみよう!

__________________

 

 ”環那”

 

『__お前はいらない子供だ。』

環那(......はぁ。)

 

 この言葉、何回くらい聞いたかな?

 

 俺が祖父母に家に預けられたのが4歳のとき

 

 なんなら、祖父母にも言われ続けて来たし

 

 合計すると......うん、分からないね

 

 あまりにも多すぎて数えてなかった

 

環那(てゆうか、いらないなら産まなきゃいいのに。バカだったのかな?)

 

 自我が芽生えてからいろいろ家の中は見たけど、女の子用の服しか用意してなかったし

 

 そもそも、前もって性別分かんなかったの?

 

 もしも、分かってなかったならただのバカ

 

 まぁ、俺の生みの親なんだけど

 

 そう考えたら、ちょっと悲しいね

 

 バカの子供って事になるし

 

環那(そもそも、あの2人から女の子は生まれたのかな?多分、またすぐに作ったんでしょ?)

 

 天罰なんてものがあるなら、きっと生まれてない

 

 きっと、顔面R指定レベルのブ男でも生まれてるだろう

 

 まぁ、そんな訳ないかな

 

 どうせ、3~4人くらい作ってたら1人くらい生まれてるよ

 

 単純な確率で言えば50%なんだし

 

環那(ていうか、何?この夢。気持ちわるっ。)

 

 さっきから腐った記憶が止めどなく入ってくる

 

 俺を見た時の両親のため息

 

 祖父母の残念そうな顔と何もしてないのに言われた俺への恨みつらみ

 

 そして、両方とも共通の俺に対する蔑むような視線

 

 それを思い出すと何だろ......気分が悪い

 

環那(まさか、俺がまだ人並みに恨みを持ってる?......って、そんな訳ないか、バカバカしい。)

 

 人に恨み?俺が?ありえないありえない

 

 俺のモットーは人に恨まれ、人を恨まず

 

 赤の他人はただの有象無象

 

 関わった人間はお友達

 

 リサは幼馴染で

 

 友希那は、俺の人生における神

 

 そう思い、今まで生きて来た

 

環那(じゃあ、何なんだろうね。)

 

 この寒気というか、気持ち悪い感じ

 

 なんか、変なんだよね

 

 存在そのものに嫌悪感を覚える物体が近くにあるみたいな

 

 本当に不愉快な感じ

 

環那(まぁ、いいや。気にしても仕方ない。)

 

 俺はそう思い、夢の中でまた目を閉じた

 

 夢の中で寝れば覚めるって聞いたし

 

 こうしてればいつかは起きるでしょ

 

 俺は暢気にそんな事を考えながら

 

 夢の中で寝るという前代未聞な行動に出た

__________________

 

環那(......ぁ。)

 

 瞼越しに光が入ってくる......

 

 そうだ、俺はエマの報酬を受け取ってたんだ

 

 それで、睡眠薬打たれてそのまま寝た

 

 どんなに強い薬使ったんだろう?

 

 まだ、五感がぼんやりとしてる

 

エマ「__ちゃ__るよ__」

環那「......?」

 

 耳からの情報がまだ完全に入って来ない

 

 けど、エマの声だというのは分かる

 

 段々と瞼も開いて来た

 

 手術用に置かれた照明が俺を明るく照らして

 

 目には何だか変な感じがある

 

 端的に言うと、鬱陶しい

 

環那「......んっ、今、何時......?」

エマ「あ、起きたんだ、かーな。」

環那「エマ......おはよ。」

エマ「おはよう。」

環那「それで、今はどういう状況?」

 

 やっと、意識が完全に覚醒して、自分の置かれてる状況が分かってきた

 

 ここは俺が手術を受けた部屋

 

 そして、手術用ベッドの上で俺は寝転んでる

 

 ......ただし、エマの膝枕で

 

 そんな事を思ってると、エマがゆっくり口を開いた

 

エマ「とある文献に、膝枕は好まれるって書いてた。」

環那「それは時と場合によるとか相手によるって言うことは書いてなかった?」

エマ「書いてなかった。」

環那「じゃあ、今後それは参考にしない方がいいよ。」

 

 俺はそう言いながら体を起こした

 

 流石に、小さい女の子に膝枕されるのは気が引ける

 

 ロリコンって言うあらぬ誤解を招きそう

 

 エマが何歳かなんて知らないんだけどね

 

環那「俺はどのくらい寝てたの?すごい怠いんだけど。」

エマ「2日。」

環那「2日かー、それは凄く寝たね__って、え?」

 

 俺はいつになく驚いた声を出した

 

 2日も寝てたの!?

 

 怠いわけだよ

 

 夢を見てるって事は眠りが浅いってことだし

 

 最悪の目覚めってこれのことだね

 

エマ「麻酔と睡眠薬が強すぎた。2日で起きたのは奇跡。」

環那「ねぇ、エマは俺を何日眠らせる気だった?」

エマ「分からない。」

環那「えぇ......(困惑)」

 

 まぁ、結果的に起きたからいいんだけど

 

 起きなかったら俺はどうなってたんだろう?

 

 もしかして、社会の闇に葬られてた?

 

 ......いや、考えないでおこう

 

エマ「そんな事より、どう?」

 

 エマは興味深そうにそう尋ねて来た

 

 相変わらず主語がない

 

 けど、この状況なら意味を理解するのは難しくない

 

 俺は少しだけ笑って、エマの方を見た

 

環那「うん、大丈夫。異常はないよ。」

エマ「ならいいね。私の研究成果の1つは完全に実用段階になった。」

環那「全く、恐れ入るよ。こんな事までできるなんて。」

エマ「趣味だから、医療は。」

 

 流石に天才

 

 言う事の規模が違う

 

 世の凡人はその趣味で大儲けできるんだけどね

 

 羨ましい限りだ

 

環那「ていうかこれ、違和感ないね。」

エマ「別にゴツゴツしたのでもよかったけど、日本じゃ難しい。」

環那「良かった、エマに普通の感覚があって本当に良かったよ。」

 

 俺はエマに手術された部位を見た

 

 本当に、恐ろしくも素晴らしい

 

 だって......

 

環那(俺の右腕、復活しちゃうんだしなぁ......)

 

 俺は新しい自分の右腕を見た

 

 一見すれば、元通りの腕

 

 だけど、実際は高度な機械なんだよね

 

 本当にどうなってるの?

 

環那「これ、普通に生活して大丈夫なんだよね?」

エマ「大丈夫。かーなは気にせず生活したらいい。そうすれば、私の研究成果はさらに証明される。」

 

 エマはいつも通りの無表情のままそう言う

 

 俺より5歳くらい年下のはずなんだけど

 

 なんだろう、この一流研究者みたいな雰囲気

 

 いや、実際にそうなんだけど

 

環那「そう言えばノア君は?」

エマ「ノアはかーなの同居人に接触してる。」

環那「あぁ、そう言う事。(だから、膝枕されてても殺されなかったんだ。)」

エマ「あ、かーながもういいなら帰っても良いよ。必要な調整はもう終らせてあるから。」

環那「はいはい。ありがと、エマ。」

 

 俺はそう言いながらベッドから降りた

 

 平衡感覚がいまいちだけど

 

 まぁ、家に帰るだけなら何の問題もないかな

 

環那「じゃあ、帰るよ、エマ。3か月......かは分からないけどまた来るよ。」

エマ「いつでも来て良いよ、お......」

環那「お?」

エマ「間違えた。なんでもない。」

環那「そう?」

 

 俺は首を傾げながら、エマの研究室を出た

 

 部屋を出る時、エマがジーッとこっちを見てたけど

 

 まぁ、いつもの奇行だろうね

 

 俺はそう思い、取り合えず、怒られるの覚悟して家に帰った

 

 

 



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帰宅

 どうやら、俺が目覚めたのは早朝だったみたい

 

 さっき公園で時計を見たら朝の4時だった

 

 まぁ、2日も寝たら起きる時間なんて関係ないね

 

環那「__何か用かな?ノア君。」

ノア「......気付いてたのか。」

 

 家の近くにある交差点

 

 そこの電柱からノア君が出て来た

 

 電柱以外に隠れる場所がないのかな?

 

 もう少し他の所に隠れればいいのに

 

ノア「腕は回復したようだな。」

環那「うん。エマの技術には頭が下がるよ。」

ノア「凡人とは出来が違うからな。」

 

 ノア君はどこか誇らしそうにそう言った

 

 この子、本当にロリコンなんじゃないのかな?

 

 エマへの好意が異常だし

 

環那「なに?俺の腕が復活したお祝いしに来たの?」

ノア「だと思うか?」

環那「ううん、全く。」

ノア「ならいい。大正解だ。」

 

 お祝いでもよかったのに

 

 ちょっとくらい喜ぶとかは......ないか

 

 それほど仲いいわけじゃないし

 

ノア「それで、お前はエマから何か聞いたか?」

環那「え?いや、何も聞いてないけど。」

ノア「なんだと?」

環那「?」

 

 ノア君の問いかけの応えると

 

 珍しく彼は驚いたような声を出した

 

 エマ、何か俺に言うことあったのかな?

 

 いやでも、そんな雰囲気はなかったはずだけど

 

ノア「......それが、エマの判断か。」

環那「どういう事?」

ノア「なんでもない。気にするな。(何があった?エマは一体......)」

 

 ノア君は慌てた様子で歩いて行った

 

 あの慌てよう、ただ事じゃない

 

 ノア君だぞ?

 

環那「......まっ、気にしても仕方ないか。今の俺じゃ分からないし。」

 

 取り合えず、この場はそう割り切り

 

 琴ちゃんの待つ家に帰って行った

 

 てゆうか、怒られるだろうなー

__________________

 

 そこそこ長い道を歩いて

 

 俺はマンションまで帰ってきた

 

 いやー、研究室から結構遠いよね、ここ

 

環那「__ただいまー、琴ちゃんー......って。」

琴葉「なっ、なな......っ!///」

環那「またこのパターン?勘弁してよ。俺が悪いみたいじゃない。」

 

 家に入ると、琴ちゃんがまた裸で立っていた

 

 お風呂上りなんだろうねー

 

 全く、色々と勘弁してほしい

 

 流石に琴ちゃんの裸じゃ興奮しないよ

 

琴葉「悪いですっ!///」

環那「だよねー。」

琴葉「なんでこんな時間に帰って来るんですか!?///」

環那「いや、手術終わったから」

 

 こんな不毛な言い合いしてるなら着替えればいいのに

 

 さっきから隠すものが隠せてない

 

 まぁ、全く興味はないんだけどね

 

環那「風邪ひくよ?さっさと着替えてきなよ。」

琴葉「言われなくても行きます!///」

 

 琴ちゃんはそう言って勢いよく部屋に入って行った

 

 それにしても、なんで、あそこまで興味が沸かないんだろう

 

 ここまで来ると、これは琴ちゃんの才能じゃない?

 

 別にスタイル悪くないのにね

 

環那(さてと、右腕復活したし、どの位使えるか確かめないと。)

 

 俺はそう思い、台所に向かい

 

 最近サボってた料理をすることにした

 

 さて、右腕はどの程度仕事してくれるかな

__________________

 

琴葉「__それで、その右腕は義手と言う事ですか。」

 

 朝の一悶着から20分ほど経って

 

 琴ちゃんは仕事服に着替えて

 

 今はテーブルに座ってご飯を待ってる

 

琴葉「それにしても、失った右腕の復活ですか......相変わらず悪運が強いですね。」

環那「これも、日頃の行いの成果だね~。」

琴葉「どの口が言うんですか?」

環那「結構善行は詰んでると思うよ?琴ちゃんの介g......じゃなくて家事代行とかで。」

琴葉「今、介護って言おうとしました?しましたよね?」

環那「いえ、滅相もございません。」

 

 やばい、殺意が明確に見える

 

 流石、元暗殺者

 

 殺意のコントロールが常人とは違う

 

琴葉「全く、言葉は選んでください。」

環那「ごめんって。朝ごはんは美味しいの作ったからさ。」

 

 俺はそう言いながらテーブルに朝ごはんを置いた

 

 今日は女子力アップしそうなフレンチトースト

 

 この間調べて食べてみたかったんだよねー

 

琴葉「わっ!美味しそう!」

環那「知識の蓄えは十分だからね。原理さえ分かれば何でも作れるよ。」

琴葉(天才っぽいセリフですね。)

 

 さてさて、どんな味なんだろう

 

 俺はフレンチトーストを口に入れた

 

琴葉「ん~!美味しいです!」

環那「意外と行儀のいい味になったね。もっと尖らせてもいいかも。」

琴葉「そうですか?私は何もできないのでこれで充分なんですが。」

環那「あはは、研究者気質なのかな?上を目指せるものに手を抜きたくないんだよ。」

 

 俺はそう言いながら紅茶を口に含んだ

 

 さてと、問題は山積みだね

 

 友希那やリサになんて言い訳しようか

 

 特に、この腕について

 

環那「ねぇ、琴ちゃん。」

琴葉「なんですか?」

環那「この腕、生えてきましたとか言ったらどうかな?」

琴葉「バカなんですか?」

 

 琴ちゃんは俺にそうツッコんできた

 

 まぁ、そうだよねー

 

 でも、面白くしないと、友希那とリサが腰を抜かしちゃう

 

琴葉「それに、あなたの問題は腕だけではないでしょう。」

環那「......!」

琴葉「目も、片方見えていないんでしょう?」

環那「......うん、そうだよ。」

 

 琴ちゃん、痛いところ突くねー

 

 もう、目の事なんて忘れてると思ったのに

 

 日頃はポンコツなのに、馬鹿じゃないんだよね

 

環那「経過は変わらず、半分は真っ暗。」

琴葉「もう、回復は望めない、ですか。」

環那「うん、無理だろうね。」

 

 俺は笑いながらそう答えた

 

 さぁ、困った

 

 別に俺の目が見えないなんて問題じゃない

 

 正直、片方あれば十分

 

 でも、罪悪感で友希那の心を傷つけるのは許されない

 

 友希那は優しい子だから、きっと、まだ責任を感じてる

 

琴葉「どうするつもりですか?」

環那「あはは、どうしようか。」

 

 治ったことにして誤魔化すのはキツイ

 

 だから、あえて普通に生活するのが有力

 

 人間は忘れる生き物って言うし

 

 でももし、友希那がずっと罪悪感を抱えるなら......

 

環那「......その時は、死ぬしかないかもねぇ、ははっ。」

琴葉「っ!!」

環那「なーんて、冗談だよ、冗談!俺だって命は惜しいよ!折角、友希那やリサと楽しく過ごせてるのに!」

琴葉「......そうですか。(今の、目が本気でしたけど。)」

環那「さーて、学校の用意をしよっかな!あー、休んでた間のノートとか写さないとー!」

 

 俺はそう言いながら席を立ち

 

 自室に行って学校の用意をすることにした

 

 さて、今日も楽しい楽しい学校だ

__________________

 

 ”研究室”

 

 環那が去った後、入れ違いという形でノアは研究室に帰ってきた

 

 中ではエマが体に見合わない大きな椅子に座り

 

 何かを考えている様子が見られる

 

ノア「__帰ったぞ、エマ。」

エマ「うん。」

 

 ノアはエマにそう言うと

 

 机の向かい側に立って

 

 少し険しい目をエマに向けた

 

ノア「......なぜ、奴に話さなかった。」

エマ「......」

ノア「絶好の機会だったはずだ。手綱もつけただろう。」

 

 ノアは少し強い口調でそう言った

 

 だがエマはそれに動じた様子も見せず

 

 何を考えてるか分からないような目をノアに向けた

 

エマ「私は、かーなの人生を壊したくない。それだけ。」

 

 エマはいつも通り、一定のトーンでそう言う

 

 ノアは理解できないと言った様子で

 

 怪訝そうな表情を浮かべている

 

エマ「今、かーなにあの事を言ったら、きっと......」

 

 エマは少し目を瞑り

 

 少しして、ノアの方を見た

 

 そして、ゆっくり口を開いた

 

エマ「私は、かーなに殺される。」

ノア「......っ!!」

 

 エマのその言葉にノアは背中を震わせ

 

 それ以上は何も言えなくなり

 

 それを見たエマはゆっくり目を閉じた

 

 

 



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復帰初日

 琴ちゃんと色々話した後

 

 洗濯してお風呂入ってから俺は学校に来た

 

 さて、友希那とリサはどんな顔するかな

 

 驚く、くらいなら全然御の字なんだけど

 

環那「__おはよー、友希那、リサー。」

友希那「環那!おは......よう......?」

リサ「え......?」

環那「今日も2人は可愛いねぇ。」

 

 俺は軽く手を振りながらそう言った

 

 2人とも、狸に化かされたような顔をしてる

 

リサ「え、か、環那?その、腕......」

環那「これ?これはね、エマの言ってた報酬で、義手だよ?」

リサ「う、動くの......?」

環那「うん、動くよ?」

 

 そう言いながら1人ジャンケンを見せた

 

 リサは目をパチクリさせてそれを見てる

 

 本当に驚いてるみたいだ

 

リサ「ほ、ほんとに、治ったんだ......」

環那「そうだy__!」

友希那「環那......!!」

 

 俺が喋ろうとした瞬間

 

 友希那がいきなり抱き着いてきた

 

 急だったからちょっとフラついたけど、何とか友希那を抱き留められた

 

友希那「よかった、よかった......!義手でも、環那が治って、よかった......!!」

環那「あれは友希那のせいじゃないよ。俺が勝手にしたことなんだから。」

 

 友希那は凄くいい子だ

 

 たかが俺の腕でこんなに泣いて

 

 あんなのはただの必要経費だったのに

 

環那「よしよし、友希那は可愛いね。」

リサ「てか、あの女の子って何者なの?義手付けたのって、その子なんでしょ?」

環那「そうそう。あの子はエマって言って、簡単に言うと天才少女かな?」

リサ「あんなに小さいのに、そんなこと出来るんだ。」

 

 リサはさっきから驚いてばかりだ

 

 まぁ、これが普通の反応なんだろうけど

 

友希那「環那......」

環那「はいはい、大丈夫だよー。俺はここにいるからねー。」

リサ「もうっ、また友希那ばっかり......」

環那「ごめんごめん。なんならリサも混ざる?」

リサ「......うん///」

 

 なんだか、俺が凄くモテる奴みたいになってる

 

 実際はそうでもないんだけどね

 

 何故か女の子からは怖がられるし

 

 男子には煙たがられるし

 

 何もしてないのに......

 

「み、湊さんと今井が......」

「羨ましい......!」

「なんで南宮......」

 

環那(......まっ、あんなのに取られるくらいなら、俺でせき止めてる方がマシかな。)

 

 残念ながら、友希那もリサも安くない

 

 少なくとも、無責任な高校生には取らせはしない

 

 まぁ、命くらい賭けられるなら考えるけど

 

環那「さて、そろそろ授業だ。2人とも席に着いた方がいいよ?」

友希那「もう少し......」

リサ「ぎ、ギリギリでも問題ないじゃん......///」

環那「んー、まっ、そうだね。」

 

クラスメイト(納得した!?)

 

 それからは2人にくっつかれて

 

 離れたのは担任が入って来た後だった

 

 この時の感想としては

 

 2人はとても良い匂いがした、かな?

__________________

 

 久しぶりに授業を受けて、放課後になった

 

 まぁ、授業に関しては国語以外は大丈夫

 

 国語は元からダメダメだし

 

環那(......さて。)

 

 放課後の通学路

 

 俺はそこでストーカーにあっています

 

 今日は休んでた間の課題で居残りになって

 

 少しだけ帰るのが遅くなった

 

 ......だけど

 

環那(な、なんでストーカーに?)

 

 すごい視線を感じるし

 

 付けてるというには態度があからさま過ぎる

 

 う、うーん、こっちが気を遣うな

 

環那(まぁ、まずは姿を見せてもらおうかな。)

 

 俺はそんな事を考えて角を曲がった

 

 この程度の追跡しか出来ないなら

 

 少し待ってれば......

 

?(こっちに__)

環那「わっ!!」

?「__っ......!!」

環那「えぇ......(困惑)」

 

 案の定、簡単に引っかかってくれた

 

 本当に慣れてないみたいだ

 

 警戒心があまりにも足りない

 

 俺が悪い人だったらどうするんだか......

 

環那「(さて。)俺なんかをつけて、何の用__って。」

燐子「ご、ごめん、なさい......」

環那「燐子ちゃん?」

燐子「悪気があった訳じゃないんです......」

 

 なんで、燐子ちゃん?

 

 花咲川からわざわざこっちに来てる

 

 と言う事は重要な用がある?

 

環那「いや、別に怒ってはないよ?声をかければいいのにとは思うけど。」

燐子「え、えっと......あの、その......」

環那(妙だな。)

 

 俺と燐子ちゃんは全く喋らない

 

 接点なんて無いに等しいし

 

 最後に口きいたの、いつだっけ?

 

環那(だとしたら、最初から予定通りだった?どこかに焦点を定め、俺に接触する手はずを立てていた?)

 

 ......って、考え過ぎか

 

 燐子ちゃんは頭は良いけど、頭が回る子じゃない

 

 そんな子が狡猾なことを出来るわけない

 

 そして、燐子ちゃんの性格を考えると答えは絞れる

 

 つまり......

 

環那「もしかして、話しかけるタイミングを見計らってた、とか?」

燐子「っ!///......はい......///」

環那「やっぱり。」

 

 俺は溜息をついた

 

 これは反応に困るな

 

 まぁ、いいや......

 

環那「それで、何の用かな。」

燐子「その......少し、移動しませんか......?」

環那「(話しずらいのかな?)うん、いいよ。」

 

 俺がそう答えると

 

 取り合えず羽沢珈琲店に行くことになり

 

 商店街に移動することにした

__________________

 

 羽沢珈琲店

 

 名前のまま、つぐちゃんの実家だ

 

 店に入った時のあのスマイルは良いね

 

 気分が良くなって毎日でも通いたくなる

 

 店内も綺麗で雰囲気も良い

 

環那「__うん、コーヒーも良い香りだね。」

つぐみ「ありがとうございます!南宮さん!」

環那「これは毎日来て、つぐちゃんの家計に貢献しちゃいそうだよ。」

つぐみ「ふふっ、お待ちしてます。」

 

 つぐちゃんは商売上手だ

 

 この子は将来大物になりそうだ

 

 俺もつい、コーヒーだけじゃなくてケーキも頼んじゃったよ

 

つぐみ「何か用があればお呼びください!燐子さんも!」

燐子「は、はい......」

つぐみ「それでは、ごゆっくり!」

環那「はーい。」

 

 つぐちゃんは元気に席から離れていった

 

 いやぁ、お嫁さんには最優良物件だね

 

環那「つぐちゃんの旦那になる人は幸せだろうなぁ......って、燐子ちゃんも思わない?」

燐子「そ、そう、ですね......」

 

 俺がそう問いかけると燐子ちゃんは小さく頷いた

 

 さて、このままほっこりするのもいいけど

 

 本題に移らないと燐子ちゃんが可哀想だ

 

環那「さぁ、本題に移ろうか。」

燐子「は、はい......」

 

 俺はそう言ってカップを置いた

 

 さてと、用って何なんだろう

 

 結構限られてるとは思うんだけど見当がつかない

 

燐子「私は、南宮君にとても......悪い事をしました......」

環那「そうだっけ?心当たりがないけど。」

燐子「あの、ライブの前の......」

環那「あれ?別に何もなかったと思うけど。」

燐子「でも、いきなり町から出て行けなんて......」

環那「うーん。」

 

 あれ言ったの紗夜ちゃんなんだよねぇ

 

 燐子ちゃんなんて何も言ってない

 

 それどころか戸惑ってるだけだったし

 

環那「気にする必要ないよ。俺にとっては、ちょっとしつこい宗教勧誘が来た......その程度の出来事だからね。」

燐子「で、でも......」

環那(ふむ。)

 

 この子も本当にいい子らしい

 

 わざわざあの程度のことで......

 

 いつか悪い男に騙されそうだ

 

環那「ねぇ、燐子ちゃん?」

燐子「はい......?」

環那「ちょっと口開けてよ。」

燐子「え......?あ、あーん......」

環那「はい、隙あり☆」

燐子「むぐっ///」

 

 俺は開けられた燐子ちゃんの口にケーキを入れた

 

 燐子ちゃんは驚いた様子を見せながらもケーキを飲み込み

 

 赤い顔のまま俺の方を見た

 

燐子「ど、どど、どうしたんですか......!?///」

環那「んー?いや、燐子ちゃんが気にしてるみたいだからお詫びしてもらったんだよ。」

燐子「お、お詫び......?」

環那「そうそう。俺みたいな冴えない男は滅多なことで燐子ちゃんみたいな可愛い女の子とこんなことは出来ないからね。」

燐子「......!」

 

 まぁ、友希那やリサと似たような事してるけど

 

 燐子ちゃんは知らないだろうし、大丈夫でしょ

 

 嘘は時として必要悪なんだよ

 

燐子(可愛い......?///わ、私が......?///)

環那「あはは、顔、真っ赤だ。」

燐子「っ......!///」

環那「?」

 

 なぜか燐子ちゃんが固まった

 

 顔を伏せてモジモジしてる

 

燐子(か、可愛いって......私を、南宮君が......///)

環那(どうしたんだろう。)

燐子「ああ、あの......!」

環那「ん?」

燐子「ありがとう、ございます......///」

環那「うん、どういたしまして(?)」

 

 全く会話の流れを掴めない

 

 けど、燐子ちゃんがお気に召したみたいだし

 

 俺の目的はある程度達せられたでしょ、多分

 

環那「用はそれだけかな?」

燐子「あっ、本題はこれだけです。でも、もう1つ、気になることが......」

環那「気になること?」

燐子「はい......初めて会った時から気になってたことがあって......」

 

 初めて会った時から?

 

 見当がつかない

 

燐子「あの、南宮君って、妹がいたりしないですか......?」

環那「......妹?」

燐子「はい......昔、この近くの学校で有名だった女の子がいて、名前は覚えてないんですけど、名字だけは南宮だったのを思い出して......」

環那「......」

 

 生まれてたんだ、女の子

 

 別に俺の妹って確定はしてないけど

 

 この辺りに南宮って名字の家がいくつあるか考えたら......決して否定できる確率じゃない

 

環那「......さぁ、分からないな。」

燐子「そうですか......?」

環那「家からは実質勘当されてるからね。妹がいてもいなくても変わらないよ。ただの他人さ。」

燐子(そ、そっか......南宮君は......)

環那「そう言う事だし、そろそろ出ようか。つぐちゃーん、お会計お願いー。」

つぐみ「はーい!」

 

 それから、俺は2人分のお会計をして

 

 燐子ちゃんと一緒に店を出てすぐ分かれたけど

 

 その時、燐子ちゃんからの視線が熱っぽかった気がした

 

 

 それにしても妹、か

 

 向こうも俺の事なんて知らないだろうし

 

 会うことなんて無いんだろうなー

 

 

 



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電話

 この間の燐子ちゃんとの話で出た人物

 

 あれは間違いなく俺の妹だ

 

 同じ町に同じ苗字なんてそうそうない

 

 それにしても、残念だなぁ

 

 どうせなら、顔面兵器の男でも量産してたら良かったのに

 

 そっちの方がなんとなく面白かった

 

環那(妹ねぇ。)

 

 どうせなら、ドブスだったりしないかな

 

 有名って話も顔面兵器とか、相当変な奴だとか

 

 そう言うのなら、ネタ的にも美味しいんだけど

 

 まぁ、そんな訳はないよね

 

環那「......ふーむ。」

 

 ネットで調べてももちろん出てこない

 

 所詮、町の中での噂だし、当たり前か

 

 ちょっと出来がいい程度なら、全国にゴロゴロいるし

 

環那(......それにしても。)

 

 なんだろう、この気持ち悪い感じ

 

 昔から俺が倒れる時の前兆に似てる

 

 嫌なんだよね、この現象

 

環那「......実際、目の前に現れたら倒れそー。」

巴「何がだー?」

環那「あ、ともちゃんー。」

巴「よっ、元気なさそうだな。」

 

 屋上で考え事をしてると

 

 ともちゃんがゆっくり俺に近づいて来た

 

 相変わらずのイケメン女子

 

 羨ましいね、この外見ステータス

 

巴「どうしたんだ?いつものニヤケ顔が引っ込んでるぞ?」

環那「あはは、そ、そうかなー?」

巴「あぁ。なんでも簡単に余裕を持ってやってそうな環那さんからは考えられないくらいな。」

環那「余裕なんていつもないんだけどね......」

 

 多分、今の俺は大分顔が引きつってる

 

 ほんと、余裕なんてあるなら欲しいよ

 

 あればかっこいいしね

 

巴「まぁ、そう言うのは良いんだよ。あたしは環那さんの様子がおかしいから聞いたんだ。」

環那「本当にイケ女だねー。じゃあ、少しだけ話を聞いてもらおうかな。」

巴「おうよ!任せな!」

 

 ”巴”

 

 なんて、言ったはいいんだが

 

 あたしはバカだ

 

 環那さんが悩むことだぞ?

 

 あたしなんかが解決できるわけないだろ

 

環那「いくつか質問するから、ともちゃんの答えを聞かせてね。」

巴「お、おう!どんとこい!」

環那「(どんとこい?)まぁ、質問するよ。」

 

 まぁ、質問に答えるだけなら大丈夫か

 

 それにしても、変な質問来ないよな?

 

 数式の答えを出せとか

 

環那「ともちゃんは、死ぬほど恨んでる相手っている?」

巴「え?......うーん、いないな?」

環那「じゃあ、いたことを想像してみて。」

巴「あぁ。」

 

 あたしは少しそれを想像してみた

 

 環那さん言うほどの人物が浮かんでこない

 

 けど、まぁ、何となく想像は出来る気がする

 

環那「もし、そいつが目の前に現れたらどうする?」

巴「そりゃあ、一発どころか何百発でも殴るな。」

環那「なるほど、ともちゃんはそう言うタイプか。」

巴「?」

 

 質問の意図がよく分からないな

 

 環那さん、嫌いな奴でもいるのか?

 

 恨む恨まない以前に人に興味なさそうなのに

 

環那「じゃあさ、もし......」

巴「もし?」

環那「......その恨んでる人物の正体が妹なら、ともちゃんはどうする?」

巴「っ!!」

 

 その瞬間、あたしは震えた

 

 質問の内容なんかじゃない

 

 環那さんのこの雰囲気だ

 

 いつもの穏やかさはなく、どこか冷たい

 

 正直、少し怖いとすら思う

 

巴「......それは、分からない。」

環那「うん、だと思うよ。普通じゃ考えないもん。」

 

 環那さんはそう言って立ち上がった

 

 その頃にはいつもの雰囲気に戻ってて

 

 相変わらずのニヤケ面を浮かべている

 

 そんな環那さんを見て、あたしは質問をすることにした

 

環那「うーん......どうだろう。俺は前科持ちだからね。」

 

 環那さんはそう言って歩き始めた

 

 この人、割と冗談じゃないところあるからな

 

 今宮翔のこととかな

 

 あの人、普通に消えたし

 

環那「まぁ、早々ないんじゃないかな。捕まるの面倒くさいし。」

巴(そう言う問題なのか。)

環那「後はまぁ、どうでもいいし。」

巴「どうでもいい?」

 

 この人、シレっとこう言う事を言うんだよな

 

 何と言うか、心が無い、みたいな?

 

 どこか、自分を他人にしてる感じで

 

環那「うん。今、俺の周りにいる人間以外......心底どうでもいいかな。」

巴「!!」

 

 この人、やばい

 

 目が人間のそれじゃない

 

 笑ってるけど、すごい濁ってる

 

環那「勿論、ともちゃん達もお友達だよ。今はね。」

巴「......あぁ、分かってるよ。」

 

 今は、か

 

 全く、ドライな言い方だな

 

 やっぱ、湊さんやリサさん以外にはこんなもんか

 

環那「じゃあ、またね。俺は教室に戻るよ。」

巴「またなー。」

 

 環那さんは手を振りながら屋上を出て行った

 

 珍しく悩んでるから話してみたけど

 

 なんて言うか、あの人のヤバさを改めて理解した

 

 環那さん、まさか......人、殺さないよな?

__________________

 

 ”環那”

 

 放課後、俺はRoseliaの練習に来てる

 

 行くときは2人に呼ばれたときだけ

 

 毎回呼ばれるんだけどね

 

燐子「__み、南宮君......!///」

友希那、リサ、紗夜、あこ「!?」

環那「はい?」

 

 練習が終わった後

 

 燐子ちゃんに話しかけられた

 

 慣れられたのかな?

 

燐子「えっと、今日、調理実習があって......それを......///」

環那「クッキー?まぁ、ありがとう。貰っておくよ。」

燐子「はい......///」

 

リサ(ど、どどどういうこと!?)

友希那(環那が、燐子と......!?)

紗夜(調理実習の時、持って帰ると頑なだったのはこのためですか。)

あこ(環那兄と話せるようになってるー!よかったー!)

 

環那(クッキーかぁ。)

 

 そう言えば、久しくリサの以外食べてないな

 

 それで特別困ったことなかったし

 

 とまぁ、ひとまず食べてみよう

 

環那「......おぉ。」

燐子「......///」

 

 普通に美味しい

 

 調理実習の範囲内だけど上手だと思う

 

 班活動だから、平均貢献度を差し引いてもね

 

環那「美味しいよ。」

燐子「よ、良かった......///あの、これもどうぞ......///」

環那「(至れり尽くせりだなー。)いただきます。」

 

 俺は燐子ちゃんから紅茶を受け取った

 

 なんで、こんなことになってるんだろう

 

 慣れられたって言うより、懐かれた?

 

 それは少し勘弁してほしいんだけどー......

 

リサ「ちょっと環那ー!」

環那「ど、どうしたの?」

リサ「なに燐子まで落としてんのさー!」

環那「え?」

友希那「燐子と仲良くなれたのね。」

環那「うん、少し話す機会があってね。(仲良くなったかは暫定的だけど。)」

 

 それにしても、さっきから燐子ちゃんからの視線が痛い......じゃなくて熱い

 

 本当に何したっけ?

 

 全く持って謎だ

 

リサ(環那、いつもは全くモテないのに......なんで、あたし含めて一部の人間だけ......)

紗夜「湊さんは良いのですか?南宮さんが白金さんと仲良くなって。」

友希那「いいに決まってるでしょう?環那は別に私の所有物ではないもの。」

リサ「ぐふっ!!」

あこ「り、リサ姉ー!!」

環那「?」

 

 なぜか、リサがダメージを受けてる

 

 なんか昔もこんなことあったなー

 

 小学校5年生くらいだっけ?

 

環那「あはは、リサは相変わらずだねー__って、ん?」

燐子「電話、ですか......?」

環那「珍しい。」

 

 俺は首を傾げつつ電話を取った

 

 でも、おかしい

 

 携帯を耳に近づけても声が聞こえなくて

 

 何か、機械音だけが流れている

 

『__もしもし、お兄ちゃん?』

環那「!!?」

『私は環那お兄ちゃんの妹だよ。』

環那「妹......?」

友希那、リサ、燐子「え......?」

 

 妹?妹だって?

 

 なんで、今になって接触してきたんだ

 

 そもそも、電話番号の情報源は?

 

 いやな、なにより、何が目的だ?

 

 色んな可能性が頭の中を回ってる

 

環那「......これは、ボイスチェンジャーか録音後に編集された音声だ。」

『だいせいかーい。これはボイスチェンジャーだよ。流石私のお兄ちゃん。』

環那(分からない。なぜ、接触するのに正体は隠すんだ。)

 

 だが、俺の電話番号を知ってる人間は限られる

 

 いや、電話番号程度なら探れる可能性がある

 

 だから、一概に相手を限定できる証拠にはならない

 

 けど、それでも範囲は限られる

 

環那「君には不審な点が多い。なぜ、接触するのに正体を隠すんだ?」

『お兄ちゃん、私の正体が分かったら殺しに来るでしょ?』

環那「殺すだって?俺が?」

『だって、お兄ちゃん、言ってたもん。』

環那「言ってた、だって......?」

 

 どこでだ......?

 

 俺は、そんなこと言った覚えはない

 

 じゃあ、必然的に自覚してないときになる

 

 その間、俺に接触できる相手?

 

『じゃあ、そろそろ切るね?もし、私を見つけられたら......殺しても良いよ?』

環那「っ!」

 

 妹(仮)はそう言って電話を切った

 

 その瞬間、俺は体中から力が抜けて

 

 ボーっと天井を眺めた

 

燐子「み、南宮君、鼻血が......!?」

環那「え......?」

リサ「環那が頭を使い過ぎた時になるやつ!」

紗夜「そんなのあるんですか!?」

友希那「えぇ、環那は頭の回転が速いのだけれど、意外と繊細なところがあるから、頭を使いすぎたりキャパシティをオーバーするとすぐに鼻血が出たり、不眠症になったりするの。」

あこ「脆過ぎ!?」

 

 やっば、いきなり頭使い過ぎた

 

 さっきだけで何通りの可能性を考えた?

 

 多すぎて1万から数えてなかった

 

 しかも、最後まで絞り切れなかった

 

リサ「大丈夫?」

環那「うん、大丈夫だよ......ちょっと、回し過ぎただけ。」

リサ「環那がこうなるなんて久しぶりじゃない?いや、それもだけど、妹って何?」

環那「妹から、電話が来た。」

友希那「妹......ですって......!?後に生まれたなら存在すら知らないはずなのに......!?(環那は、ずっと......!)」

燐子「鼻血、止めてください......!ティッシュです......」

環那「う、うん、ありがとう。」

 

 俺は燐子ちゃんからティッシュを受け取った

 

 突然の妹からの電話

 

 今までは放置できた問題だったけど

 

 もう、そうできるものじゃなくなった

 

 いや、強制的に意識の内に入れられた、か......

 

 

 



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殴り込み

 妹の奇襲

 

 あれで事が動いてしまった

 

 一見して、妹を探す必要性はないように思える

 

 けど、それは間違いだ

 

 あれを本物の妹だとするなら、あの電話は恐怖以外の何物でもない

 

環那(なんで、俺の事を知ってるんだ。)

 

 妹(仮)の年齢を13,4歳としよう

 

 根拠は、俺が祖父母の家に預けられたのが4歳の時

 

 その時に母親の体に目に見えた変化はなかった

 

 けど、預けたって事は俺が邪魔だったってこと

 

 そして、俺がいる間に祖父母の家に子供が増えなかったって事は......十中八九、女の子が生まれたって事

 

環那(俺は両親が祖父母の家に来るときは離れの物置に監禁されてたんだ、俺の姿なんて、見るわけがない。)

 

 つまり、どこかから俺の情報を入手したことになる

 

 分かりやすく言えば、妹(仮)を放置すれば、俺のプライバシーが危ういってことだ

 

 しかも、向こうは会いたそうにしてるし

 

 だったら、探した方が得は多いでしょ

 

環那(......情報収集、してみようか。)

琴葉「__南宮君、朝ですよー......?」

環那「え、もう?」

琴葉「もうって、寝てないんですか?」

環那「少し考えないといけない事があってね。」

琴葉「?」

環那「少し待ってて、朝ごはん用意するから。」

 

 俺はそう言って椅子から立ち上がり

 

 琴ちゃんの朝ごはんを用意しに行った

 

 さて、今日は土曜日......

 

 だったら多分、空いてるかな

 

 まず当たるなら、あそこだ

__________________

 

 朝の生徒が登校する土曜授業の日の中学校

 

 ここは2年もいなかった俺の母校だ

 

 いやぁ、懐かしいなぁ

 

「だ、誰あの人?」

「なんか、怖い......」

「なんでずっと笑ってるんだ?」

 

 なんか色々なこと言われてるけど

 

 まぁ、気にしなくてもいいや

 

 それより、情報を集めるならどこだろう?

 

 取り合えず一番偉い奴のとこ行けばいいや

 

 って思って、来ました

 

環那「__おーい!クソ校長ー☆」

校長「な、何だお前は!?」

環那「あれ?覚えてないの?この学校最高の汚点の自覚あるんだけど。」

校長「み、南宮環那......!?」

 

 校長は幽霊でも見たような顔でそう言った

 

 まぁ、トップ3に入るくらいには嫌われてるし

 

 ていうか、すごい顔

 

校長「な、何の用だ!?」

環那「えー?出所したからお礼に来たんだよー。」

校長「っ!」

 

 俺はそう言いながら思いっきり校長の机に足を乗せ

 

 上から目線で睨みつけた

 

環那「面倒って理由で友希那へのイジメを放置し、挙句には隠蔽のため俺だけを犯罪者に仕立て上げた、超有能保身第一クソ校長先生☆可愛い可愛い教え子が卒業証書を受け取りに来たよ☆」

校長「偉そうにモノを言わないようにと少年院で習わなかったのかな?」

環那「あはは、知らないなぁ。でも、俺は模範囚だったんだ。」

 

 相変わらず、偉そうだなぁ

 

 今すぐ友希那の分も殺してもいいんだけど

 

 まぁ、目的はそこじゃないし

 

 こんなカス、ほっといても死ぬでしょ

 

校長「元生徒なんかが偉そうにするものじゃない。早く謝って帰りなさい。」

環那「ははっ、口を慎めよ、カス。」

校長「なに......!?」

環那「怒ることないだろ?俺はこれでも、腸煮えくりかえるの我慢してるんだよ。別に俺を犯罪者氏にしたことなんて些細な問題だけど......友希那放置を全教員に強制したこと、許してないから。」

校長「......!」

 

 このカス、いつまで偉いつもりなんだろう?

 

 ていうか、何をもって俺が下手に出ると思ったんだろ

 

環那「別に、俺はこの学校の教員を皆殺しにするなんてわけないんだよ?あの時、可哀想な友希那を無視した奴の名前も住所も家族構成も血液型も大切なものも何でも知ってるんだよ?......ははっ。」

校長「な、何なんだお前は......!?」

環那「今日は情報収集さ。簡潔に言うから答えろ。ここ数年の間に南宮って名字の生徒は来たか?」

校長「......知らん。」

環那「はい、ダウト。」

 

 ドン!っと机の音が鳴った

 

 分かりやすく焦ってるね

 

 分かりやすいカスだ

 

環那「遊びに来てんじゃないんだよ。」

校長「い、いや、わ、分からないんだ。」

環那「......なんだって?」

校長「確かに、南宮という名字を見た記憶はある、だが、この学校からは全てのデータが消えてるんだ!」

環那「なるほど。」

 

 向こうの方が何手も早いな

 

 少なくとも数年前には行動が始まってる

 

 中々、策士だね

 

環那「ここまでは想定内ってことか。じゃあ、いいや。もうここに用はない。」

 

 俺はそう言って机から脚を下ろし

 

 校長に背中を向けた

 

校長「......(い、今のうちに!)」

環那「余計なことは考えない事だよ。」

校長「!!?」

環那「あんたの不貞行為、もう握っちゃった☆」

 

 俺はある写真を校長に見せた

 

 見てないけど見える

 

 多分、ミカンみたいな顔面が梅干しになってるね

 

環那「俺の機嫌を損ねたら......分かるよね?おじーちゃん☆」

校長「ぐっ!く、クソ......!」

環那「(......殺しはしないよ。残りの人生、精々生き地獄を味わえばいい。)くふっ、あははははは!!」

 

 俺は笑いながら校長室を出た

 

 あー、情報収集ついでにスッキリした!

 

 ......また、校長辞める前に来てやろ

__________________

 

 と、スッキリしたところでまた中学の廊下

 

 折角だし、クソ恩師でもいないかなー

 

 あいつらに仕返しする方法も考えてるんだよね

 

 色んな証拠、あるんだけどなー

 

リサ「__あれ、環那?」

環那「リサ?なんでこんな所に?」

リサ「いやー、うちってさ、中高一貫じゃん?だから、手伝いでダンス部が駆り出されてんの。」

環那「へぇ、ダンス部ー。」

リサ「?」

「__ひっ!み、南宮、君......!?」

環那「あっ、やっぱりいたかー!新人教師......いやぁ、元新人か。今年で5年目、年齢は28歳。ババアって呼んだ方がいい?」

 

 俺は女教師に歩み寄った

 

 注目人物ナンバー5、春日春希

 

 着いてるねー......探す手間が省けた

 

春日「な、なんでここに......!?」

環那「おじいちゃんと話しに来たんだよ。まぁ、ついでにビビらせちゃった☆」

リサ(この喋り方、やばい......!)

 

 俺がこのババアを嫌いな理由

 

 色々あるけどー

 

 まぁ、こいつも保身に走ったからだね

 

 校長に体を差し出すのと引き換えに

 

環那「......おじいちゃんとの子供は出来たかい?ていうか、気持ちよかった?是非とも、友希那と引き換えにしたソレの感想をずーーーっと聞きたかったんだ。それで、どうだった?答えろよ、あばずれババア。」

春日「あ、あぁ......!!」

環那「おいおい、泣くなよ。まるで俺が悪いみたいじゃないか。」

「__おい、お前!」

環那「ん?」

 

 ちょっと遊びすぎたかな

 

 もう1限目の授業が終わってる

 

 仕方ない、か

 

環那「今日の遊びはここまでだ。」

男子生徒「おい!春日先生に何したんだよ!」

環那「遊びさ、遊び。」

男子生徒「!」

 

 俺はうら若き男の子の肩に手を置いた

 

 純粋そうな子だ

 

 正義感に満ちた、いい子だ

 

 さぞ、ババアは良い教師だったんだろうねぇ

 

 うん、実にいい子だ

 

環那「自分の信じたいものを信じればいいさ。そう言った絶望、後悔が君を少しずつ成長させてくれる。」

男子生徒「はぁ?」

リサ「ちょっと環那!?」

 

 いやぁ、良きことだね

 

 俺は1人の若者の成長に貢献した

 

 この子は将来、きっといい大人になる

 

 家族を持って子供を持って

 

 きっと、人を育てる時に間違いを起こさない

 

環那「クフフ......あはははは!!」

春日「!!」

環那「是非とも、あんたみたいな大人にしないでくれよ?これからのご活躍に期待します。春日春希大先生。」

 

 俺は笑いながら廊下を歩いて行った

 

 さて、ここにもう用はない

 

 有象無象に構うのはまた今度でもいい

 

環那「精々、楽しい生き地獄を。あははは!!」

リサ「ちょ、待ってよ環那ー!」

 

 取り合えず、それだけを言い残し

 

 校舎の中から出ることにした

 

 後ろからはリサが付いてきて

 

 なぜか、お説教された

 

 



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決別

 昨日、中学で得た情報

 

 妹は確かに羽丘の中等部に籍を置いた

 

 でも、そのデータはなぜかすべて消えてる

 

 つまり、俺は情報収集で行くのを読んでた

 

 かなり頭が切れるな

 

 これでもう、心当たりのある場所をあたる意味はなくなった

 

環那(......でも、それがミスだよ。)

 

 頭が切れる、この情報が1番大きい

 

 なぜかって?

 

 年齢が俺より5歳は下でこんなことが出来る

 

 そんな人類、相当限られるよね

 

 ていう結論にまで至ったんだけど

 

環那「......俺は何でお説教されてるの?」

リサ「当り前だよ!」

環那「何も悪い事してないよ?ただ、情報収集ついでに遊んだだけだし。」

琴葉「遊び、ですか。」

環那「そうそう。ちょっとした遊び。仕返しの意味もあるけどね。」

 

 俺はいつも通りの調子でそう言った

 

 正直、今回はかなり優しくした

 

 別に、これをずっと続けるつもりもないし

 

琴葉「あなた、まさか、殺す気じゃなかったですよね?」

環那「生かそうとも殺そうともしてないよ?」

リサ「生き地獄、ってこと?」

環那「そうそう!だいせいかーい!流石だね、リサ!」

 

 俺は両手で丸を作った

 

 リサは本当にいい奥さんになるだろうね

 

 以心伝心とか出来るようになりそう

 

 まぁ、相手次第だけど

 

環那「生きてる間、1人の時も家族といる時も友達といる時も、あいつらは恐怖を持ったまま生きないといけない......いい気味さ。それで友希那の苦しみを少しでも知ればいい。」

リサ「環那?許せないのは分かるけど、ちょっとだけやり過ぎなんじゃない......?」

環那「そう?」

リサ「あたしはもう関わらな方がいいと思うな。」

環那「うーん、でもなー。」

 

 かなり温情だと思うんだけどなぁ

 

 別に言いふらしてるわけじゃないし

 

 なんなら、最後は優しくしてあげたし

 

琴葉「それはもう渡しなさい。処分します。」

環那「えー、どうしようかなー。」

琴葉「どうしようじゃないです!あなた、人の人生を潰す気ですか!?」

環那「それでもいいとは思ってる。」

琴葉「ダメに決まってるでしょう!」

 

 琴ちゃんは大声でそう言った

 

 なんでだろう?

 

 あいつらは友希那の人生を潰したかもしれない

 

 だから、潰されたって文句は言えない

 

 そう言う道理のはずなのに

 

琴葉「なんで、そんな最低な事しか出来ないんですか!!」

環那「え、最低......?」

琴葉「そうです!そんなんだから、いつも人を引き付けられなくて1人になるんですよ!!」

 

 琴ちゃんにそう言われた瞬間

 

 なにか、不思議な気持ちになって行った

 

 今までに感じたことがない、感情

 

環那「......っ......そっか。」

 

 少し息苦しい

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになってる

 

 悲しいのかな?怒ってるのかな?

 

 いや違う、そんな気持ちじゃない

 

 熱した鉄が冷めていくみたいに、冷たくなる

 

 そう思うと、言葉がすっと出て来た

 

環那「......こんなことしなくても、1人になったよ。生まれた時から、1人になったよ。」

琴葉「あっ......」

環那「......もう、いいや。」

 

 今の気持ち、わかった

 

 俺が両親や祖父母に抱いてる気持ちだ

 

 冷めてるんだ、完全に

 

 どうでもよくなったんだ

 

環那「琴ちゃんなら家族みたいになれると思ってた......けど、それは見当違いだった。もういらないや。」

 

 俺は静かに携帯をテーブルに置いた

 

 もう冷めてる

 

 優しそうに見えた琴ちゃんが、もう見えない

 

 終わりだね

 

環那「データは携帯にしか入ってないよ、ロックはかけてない。」

琴葉「ど、どこに行くんですか!南宮君!」

環那「......」

リサ「ちょ、環那!」

 

 俺は歩いてマンションの部屋から出た

 

 琴ちゃんとは終わりだ

 

 最初からなかった、それでいい

 

 もう、有象無象の1つに成り下がった

 

 それだけの話

 

 ”琴葉”

 

 私は、失敗した

 

 つい頭に血が上って、彼の過去を失念してた

 

 『1人』なんて、一番言っちゃいけなかった

 

リサ「......浪平先生。」

琴葉「......」

リサ「今の、環那の事情を分かって、言ったんですよね......!」

 

 今井さんは語気を強めてそう言う

 

 そう、私はとんでもない事をしてしまった

 

 だって、彼のあの行動は......

 

琴葉「......はい。」

リサ「あたしは、環那が正しい事をしてるとは思いません......けど、間違った事をしてるとも思いません。だって、ああするしか、環那には選択肢がないから......」

 

 今井さんはそれだけ言って出て行った

 

 その瞬間、私は床に膝をついた

 

琴葉(私は、知ってたのに......)

 

 彼は生まれた時から、ずっと1人だった

 

 誰からも愛されず、興味も持たれなかった

 

 その結果、彼の心を子供のまますり減らしていた

 

 いつもの態度じゃ分からない、いや、本人すら分かってない

 

 けど、彼は間違いなく傷ついてた

 

 分かってた、分かってたのに......

 

琴葉(今井さんの言う通り、です......)

 

 彼にはあれしか選択肢がない

 

 彼にとっての湊さんは、恋愛的に好きとか、そんな安い人じゃない

 

 もっと、重くて、深い愛

 

 唯一の、すり減った心の拠り所

 

 彼は湊さんを守ることでしか自己表現をできない

 

 私は今までそれを直そうとしてきた

 

 彼が真っ当に生きられるようにしように導こうとしてきた、けど......

 

琴葉(私、本気で生徒を傷つけたんだ......教員、失格だ......)

 

 私は部屋の真ん中で茫然と座って

 

 時間の流れを感じないまま

 

 後悔の念に心を締め付けられ続けた

__________________

 

 ”環那”

 

 俺は、愚かだ

 

 友希那やリサですら出来ない事を他が出来るわけない

 

 そもそも、俺が家族を望むことが無駄だった

 

 琴ちゃんならもしかしたらと思ってたけど

 

 酷ってものだったんだ、俺の期待は

 

環那(__これから、どうしようか。)

 

 家なし、金なし、携帯なし

 

 完璧なホームレス状態だ

 

 まぁ、それも悪くないか__

 

環那「......ん?」

 

 河川敷でボーっとしてると

 

 鼻先に水滴がぽつんと落ちて来た

 

 空を見ると、黒い雲に覆われて

 

 そこから、無数の水滴が降り注いできた

 

環那「雨、か。」

 

 どうしよ、雨を凌げる場所がない

 

 いや、あった

 

 橋の下に行けばいいんだ

 

 そうと決まれば、あそこに行こう

 

環那「__あっ。」

 

 移動しようと立ち上がると

 

 雨でぬれた草で足を滑らせ、一瞬で体が宙に浮いた

 

 これ、ヤバい__

 

 そう思った頃には俺の体は放り投げられたように川辺に落ちていき

 

 気づけば頭への痛みと共に意識を手放していた

__________________

 

 ”燐子”

 

 本屋に行った帰りに雨が降られた

 

 調べた感じ、しばらく止みそうにないからコンビニで傘を買ったけど......

 

燐子(うぅ......ついてない......)

 

 お小遣いだって多くないのに......

 

 最近は色々出費もあったし、本も買ったし

 

 そろそろ、節約を考えないと

 

 来月には合宿だってあるし......

 

燐子(河川敷......川が氾濫したりしないかな?)

 

 雨のせいか、川の流れが荒々しい

 

 浸水したり......とか、そんな不安に襲われる

 

 そうそうそんな事はないだろうけど

 

 近くで見ると、やっぱり少しだけ怖い

 

燐子「......あれ?」

 

 河川敷沿いをしばらく歩いてると

 

 何か、異質な物体を見つけた

 

 いや、物体......じゃなくて人!?

 

 もしかして、気を失ってる?

 

燐子「だ、大丈夫、ですか......!」

 

 私は滑らないようにゆっくり下に降りて

 

 倒れてる人の近くでしゃがんだ

 

 見た感じ、血が出たりはしてない

 

 どんな、人だろう

 

 なんで、こんな所で__

 

燐子「え......?」

環那「......」

燐子「み、南宮君......!?」

 

 私は目を見開いた

 

 倒れていたのは南宮君だった

 

 なんで、こんな所にとか思うけど

 

 ま、まず......

 

燐子(は、運ばないと。ここなら、家が近いし!)

 

 私は気絶してる南宮君を持ち上げる......のは現実的に無理なので

 

 出来るだけ引きづらないように引っ張った

 

 けど、流石に靴は少し引きずってしまった

 

 ごめんなさい、南宮君......

__________________

 

 ”環那”

 

 ......頭が、痛い

 

 まるでぶつけたような痛みが続いてる

 

 俺、どうなったんだっけ?

 

 確か、思いっきり足を滑らせて......

 

 それ以降の記憶がないや

 

環那「......んっ、ここは......?」

 

 意識が戻って目を開けると

 

 そこは全く知らないベッドだった

 

 今まで寝た中で一番大きいベッドかも

 

 てゆうか、ここどこ?

 

環那「ここは、部屋?(もしかして......!)」

 

 この部屋の装飾の感じ、女の子のものだ

 

 もしかして、妹に保護されたかもしれない

 

 そんな可能性が頭によぎった

 

 だとしたら......

 

環那「......脱出、しないと。何をされるか、分からない......」

 

 俺は重い体を起こした

 

 仮にここが妹の部屋だったら

 

 出くわしたら流石に対応できる自信がない

 

 バレる前に逃げて、回復を__

 

燐子「__あ、お、起きたの......?よかった......!」

環那「燐子ちゃん?」

燐子「頭は大丈夫......?って、い、いや、そう言う意味じゃなくて......!」

環那「わ、分かってるよ。」

 

 部屋を出ようとすると

 

 俺が触る前に扉が開き、燐子ちゃんが顔をのぞかせた

 

 いきなりアタフタしてるけど

 

 どうやら、俺が考えてるようなことじゃないみたいだ

 

 よかった......

 

環那「燐子ちゃんが、助けてくれたんだ。」

燐子「は、はい......本屋に行った帰りに河川敷を通ったら、南宮君が倒れてて......」

環那「そっか。ありがとう、燐子ちゃん。助かったよ。」

燐子「......?」

 

 俺はそう言って頭を下げた

 

 男を自分のベッドに寝かせるなんて嫌だったろうに

 

 しかも、河川敷から運んでくれてるし

 

燐子「あの、何かありましたか......?」

環那「え?どうしたの、急に。」

燐子「なんだか、南宮君がいつも通りじゃないと言うか......いつもより影が多い気がして。」

環那「そうかな?普通だと思うけど。」

 

 この子、俺の変化を分かってる?

 

 幼馴染くらいしか分からないはずなんだけど

 

 普通にすごいな

 

燐子「何かあったなら、お話、聞きますよ......?」

環那「......んー、じゃあ、聞いてもらおうかな。隠すことでもないし。」

燐子「はい。」

 

 ”燐子”

 

 私は南宮君に何があったかを聞いた

 

 南宮君が母校の中学校に行って、友希那さんへのイジメを無視した教員を追い詰めたこと

 

 それが原因で同居人に言われたこと

 

 それを言われて南宮君が感じたこと

 

 きっと、南宮君は正確に出来事を話してる

 

 だから、きっと、聞いたままの事があったんだ

 

燐子(......これは。)

 

 南宮君の行いは正直、度が過ぎてる

 

 人を追い詰めるなんて、どんな理由があってもいけない

 

 そう思うけど、南宮君の気持ちだって分ってしまう

 

環那「......俺、自分が恐ろしいんだ。」

燐子「え?」

環那「さっきまで、いい人だと思ってた元同居人を心底どうでもいいと思ってる。ここまで簡単に冷めるなんて、自分に心なんてなくて、機械でも入ってるんじゃないか、ってね。」

燐子「......っ」

 

 そう言う南宮君の目を見て、胸が締め付けられた

 

 心が機械......これは本当かも知れない

 

 だって、さっきから南宮君の表情は変わってないから

 

 まるで感情がないみたいに淡々と処理してる

 

 そう思うと、怖いし、可哀想だと思ってしまう

 

 だって、そうなる理由、そうならないといけなかった理由があるって事だから......

 

燐子「......心は、あります。」

環那「!」

燐子「だって、南宮君の心はずっと、動いてるから......」

 

 私は南宮君の胸に手を添えた

 

 見た目以上に痩せた体の奥に心臓の鼓動を感じる

 

環那「燐子ちゃん、そこは心臓だよ。」

燐子「っ!わ、分かってます......///」

環那「あと、手が冷たい。」

燐子「わわっ///ご、ごめんさい......っ///」

 

 私は慌てて手を放した

 

 完全に勢いのまま触っちゃった......

 

 同学年の男の人に触れるなんて、初めてかも......

 

環那「あはは、燐子ちゃんは面白いね。」

燐子「......っ!///(わ、笑ってくれた!)」

環那「?」

 

 ここに来て、初めて南宮君が笑ってくれた

 

 よかった、ちょっとだけ立ち直れたみたい

 

 安心した、けど......

 

燐子「ふふっ。」

環那「どうしたの?」

燐子「南宮君、笑うのが下手です......!笑ってると言うより、にやけてます......!」

環那「......え?」

燐子「あ、ご、ごめんなさい......!」

 

 私は咄嗟に謝った

 

 つい、無意識のうちに笑っちゃった

 

 南宮君、怒ってるかな......?

 

環那「友希那から、聞いた......」

燐子「?」

環那「わけ、ないか。」

 

 南宮君は驚いたような顔をして私を見てる

 

 何かをうわごとのように呟いて

 

 気づけば、涙を流していた

 

燐子「み、南宮君......!?なんで、泣いて......!?」

環那(あの日の出来事は友希那本人すら知らないはずだ......偶然?でも、こんな日にピンポイントなんて......運命だとでもいうのかい?友希那......)

燐子「そ、そんなに嫌だったんですか......!?」

環那「......いや。」

 

 南宮君は小さな声でそう答えてくれた

 

 その表情はさっきよりも嬉しそうで

 

 私が慌ててるのか分からなくなる

 

 いや、いいんだけど......

 

環那「少し、昔の事を思い出してね。」

燐子「そ、そうなんですか__クシュン......!」

環那「燐子ちゃん?」

燐子「す、すみません、運んだときに結構濡れちゃって......」

環那「それは大変だ。女の子が体を冷やすものじゃない、お風呂入っておいで?」

燐子「でも、南宮君も......」

環那「俺は大丈夫だから!ほらほら!」

 

 私は南宮君に押されて

 

 結局、先にお風呂に入ることになりました

 

 けど、南宮君、どうしたのかな?

 

 今までも悪い人じゃなかったけど

 

 すごく、優しかったような......?

 

 

 



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欲しい言葉

 白金燐子ちゃんは、変わった子だ

 

 あの子は俺のしたことを聞いても優しい

 

 普通の人なら、間違いなく俺を人間扱いしない

 

 大体、浪平琴葉と似たようなことを言う

 

 けど、あの子は違った

 

 あろうことか、俺を肯定する態度すら見せた

 

 そして、あの言葉......

 

環那(あの子は、何者なんだろう。)

 

 そんな事を考えるけど、答えが出ない

 

 未知だ、燐子ちゃんは未知だ

 

 もしかしたら、俺は彼女を過小評価してたかもしれない

 

燐子「あの、南宮君......?」

環那「ん?どうしたの?」

燐子「これから、どうするつもりですか......?」

 

 燐子ちゃんはそう尋ねて来た

 

 多分、俺の衣食住について言ってる

 

 答えはもちろん、全く考えてない

 

 今、考えよう

 

環那「雨が止めば、どこか適当な所に行くよ。割とどこでも生きる自信あるし。」

燐子「だ、ダメです......!」

環那「?」

燐子「そんな、ホームレスみたいな事させられません......!」

 

 燐子ちゃんは珍しく怒ったようにそう言う

 

 さっきまでホームレス生活しようとしてたんだけど

 

 そんなにダメなことなのかな?

 

燐子「南宮君。」

環那「はい?」

燐子「私の両親は共働きで、今は共に出張中です。結構長い出張で1か月家を空けるんですが......今日で残り2週間くらいです。」

環那「そうなんだ。頑張ってるんだね(?)」

 

 急に両親の不在を報告された

 

 それにしても、出張1か月かー

 

 大変なんだね、仕事って

 

燐子「だ、だからですね......その......私の家に少しの間でもいませんか......?///」

環那「え?」

燐子「ここなら、ご飯にも困りまらないし......雨風はしのげます。」

環那「いいの?同級生の異性を止めるなんて。」

燐子「だ、大丈夫です......南宮君のことを信じてるので......///」

環那「......??」

 

 信じる?俺を?何を言ってるんだ?

 

 出会ってまだ間もないのに

 

 この子、大丈夫かな?悪い人に騙されてない?

 

 って、脳は判断するんだけど

 

環那(なんだ、この気持ち。)

 

 喉が渇いた時に水を飲んだような

 

 お腹がすいた時に美味しいものを食べたみたいな

 

 そんな、満たされたような気持ち

 

 さっき、あの言葉を聞いた時と似てる

 

燐子「あの、どうしますか......?///」

環那「......少し、お世話になるよ。」

燐子「......!///」

 

 俺はこの気持ちを知ってる

 

 けど、正体は知らない

 

 ここにいれば、分かるかもしれない

 

 もしかしたら、それが......

 

燐子「じゃあ、もう時間なのでお夕飯にしましょう......!少し待っててください......!」

環那「手伝うよ?」

燐子「南宮君はお客様なので......ゆっくりしててください。」

環那「は、はい。」

 

 俺は燐子ちゃんの何も言わせないぞオーラに圧倒され頷くしかなかった

 

 でも、ずっと部屋にいるのもなので

 

 燐子ちゃんと一緒にリビングに向かう事にした

__________________

 

 リビングに来ると、燐子ちゃんは料理を始め

 

 俺は取り合えず、ソファに座ることにした

 

 今は燐子ちゃんを観察してる

 

環那「......」

燐子(南宮君に喜んでもらいたい......!)

 

 エプロンをつけてキッチンに立つ燐子ちゃん

 

 なんて言うか、似合う

 

 もうすぐ完成って言うところまで見てたけど

 

 本当に料理が出来るみたいだ

 

環那(なんで、そんなに嬉しそうになんだろう。)

 

 ここまで観察して思ったのは、嬉しそう、だ

 

 さっきから鼻歌を歌いながら料理をしてる

 

 いつもこんな調子なんだろうか?

 

 いや、そんな事はないと思う

 

 いつもはもっと物静な子のはずだし

 

 1人でいつもこのテンションを保てるような子じゃない

 

燐子「出来ました、南宮君......!」

環那「うん、ありがとう。」

 

 燐子ちゃんは出来た料理を皿に盛って並べた

 

 栄養バランスが整ったメニュー

 

 しっかり考えて作ってる辺り、燐子ちゃんらしい

 

環那(......美味しい。)

 

 人が作った料理、リサと友希那以外の初めて食べた

 

 母の味をリサの味とするなら

 

 これもまた、新しいものだ

 

環那(優しくて、そこにある量を食べることに適してる。安心する場所って感じ、なのかな。)

燐子「南宮君?」

環那「え?どうしたの?」

燐子「味は、どう......?」

環那「美味しいよ、すごく。燐子ちゃんらしい味付けだと思う。」

 

 家で、初めて人とご飯を食べた

 

 子供の時は両親や祖父母の面目のために人の世話にはなれなかったし

 

 ご飯は屋根裏部屋でずっと1人だった

 

 不思議な感じだ

 

環那「燐子ちゃんは、いつもこんな風にご飯を食べるの?」

燐子「はい、そうですね......いつも、学校であった事を話しながら。」

環那「そうなんだ。楽しそうだね。」

 

 別世界、それが俺の感想

 

 これが、血でなく心で繋がった家族のいる人間

 

 全てを事を数字で求めようとする俺とは違う

 

 人間として、決定的な差があるんだ

 

燐子「南宮君は、どうだった......?」

環那「それは話さなくていいことだよ。」

燐子「え?」

環那「折角美味しいご飯なんだ、そんな話をするものじゃない。」

 

 俺はニコニコしながらそう言い、食事を再開した

 

 別に俺の事なんてどうでもいい

 

 今の美味しいご飯の時間を崩すのは嫌だし

 

環那「このサラダも美味しいね。所謂、シーザーサラダという物かな?」

燐子「え?うん、そうだよ。」

環那「なるほど。」

燐子(南宮君、どうしたんだろう......?)

 

 それから、俺は食事を進め

 

 燐子ちゃんとも程々に間を持たせた

 

 主な内容はRoseliaの事で

 

 俺の知らない話も数多く聞けて、有意義な時間だった

__________________

 

 時間は過ぎて、夜の11時

 

 お互いにもうそろそろ、寝る時間だ

 

 けど、俺は気絶してたからか、全く眠たくない

 

 いや、脳を強制的に停止させられるんだけど

 

燐子「__南宮君。」

環那「あれ、燐子ちゃん。」

燐子「なにしてるの?」

環那「さっき借りた、昔の論文が載ってる本を読んでるんだ。面白いよ。」

燐子「南宮君は、知ってる物じゃないんですか?」

環那「うん、知ってるよ。5年も暇な時間があったからね。」

 

 知ってるものをもう1度見るのは良い

 

 また違う視点から理解を深められるし

 

 新しい何かを思いつくかもしれない

 

環那「燐子ちゃんはもう寝るでしょ?」

燐子「私は......その、夜に慣れてるから。あんまり眠たくはない、かな......」

環那「そうなの?意外だね。燐子ちゃんは早寝早起きのイメージだったんだけど。」

燐子「そんなことないよ......私はそんなにいい子じゃないし。」

環那「?」

 

 意外だね

 

 俺の中では超絶いい子だったのに

 

 まぁ、俺の価値観との相違もあるだろうし

 

燐子「あの、寝る場所とかどうする......?」

環那「俺はここで寝るよ。」

燐子「だ、ダメだよ......!体を痛めちゃう......!」

環那「大丈夫だよ。」

 

 この子、本当に優しいねー

 

 男なんて床にでも放置してたらいいのに

 

 家の中なら死にはしないし

 

環那「俺は雨風さえ凌げれば、それで大丈夫。」

燐子「......じゃあ、私の部屋で。」

環那「え!?いや、ダメでしょ!」

燐子「なんで?」

環那「なんでって、そう言うものだと思うし。ていうか、俺は布団がないまま寝た期間の方が長いから慣れてるし。」

燐子「それは、おかしいよ。」

環那「え?」

 

 燐子ちゃんは俺を真っすぐ見てそう言った

 

 おかしい事なんて、あったか?

 

燐子「少年院でも、最低限布団はあるはず......」

環那「!」

燐子「なんで、布団がない期間の方が長いの......?」

環那「......(しまったな。)」

 

 つい、本当のこと言っちゃったか

 

 俺の会話下手が出ちゃったね

 

 完全にしくじった

 

燐子「教えて、南宮君......!」

環那「......」

 

 これは、降参だ

 

 今の俺にこれを誤魔化す語彙力はない

 

 国語は、苦手なんでね

 

環那「......さっきの、ご飯の時の話にも通じるんだけど。」

燐子「うん。」

環那「俺には、燐子ちゃんみたいな家族はいない。」

燐子「え......?」

環那「生まれたことさえ罪と言われ、両親と祖父母に与えられたのは最低以下の条件で生きる権利だけ。住む場所は空調の無い屋根裏部屋。夏は暑く冬は極寒。食べ物は1か月で米一合と、夕飯の残り。飢えた時は木の枝さえ進んで食べた。」

 

 懐かしい生活だ

 

 他にも歯磨きは公園の水道でして

 

 お風呂はガス代節約のため水だけ

 

 檻の中の方がいい生活できて楽だったなぁ

 

燐子「そんな......っ」

環那「まっ、友希那がいたし、4か5歳には何とも思ってなかったけどね。」

燐子「友希那さんが、いたから......?」

環那「うん。」

 

 俺は軽く頷いた

 

 まぁ、同情を誘うのが狙いならこれ以上ない話だろうね

 

 別にそう言うつもりは一切ないけど

 

 てゆうか、同情されたって困るしね

 

環那「これくらいにしよう。燐子ちゃんは部屋に戻って寝て。」

燐子「待ってください......!」

環那「っ!」

 

 俺が立たせようとすると

 

 燐子ちゃんは俺の背中に腕を回した

 

 突然の出来事で反応できなかった

 

 何が起きてるんだ

 

燐子「南宮君は、寂しがってます......」

環那「いやいや、そんな事ないよ。今は友希那だって__」

燐子「本当......ですか......?」

環那「え?」

 

 な、なんのことだ?

 

 俺は今、楽しく過ごしてるし

 

 親なんてどうでもいい、だから......

 

燐子「南宮君は、決して家族が欲しいわけではないです......むしろ、邪魔だと思ってると思います......」

環那「それは、まぁ、そうかもだけど。」

燐子「でも、欲しいと思ってるんです......友希那さんや今井さんでも満たせないものを......」

環那「友希那や、リサでも満たせない......?」

燐子「誰も、それを南宮君にあげられなかった......」

 

 燐子ちゃんは真っ直ぐ俺を見てる

 

 この子には、分かってるのか?

 

 俺の本能の中にある欲するものが

 

 いやでも、そんなわけ

 

燐子「__無条件の愛を。」

環那「っ!!」

燐子「だって、愛されないと、誰でも、寂しいから......っ!」

 

 その叫びは、俺の体の中に響いた

 

 無条件の、愛......?

 

 そんな言葉、俺は知らない

 

燐子「だから、一緒に眠れば......それを体験できるかもしれないです......///」

環那「......」

燐子「一緒に、行きませんか......?///」

環那「......分かった。燐子ちゃんがいいなら。」

 

 そうして、俺は燐子ちゃんに言いくるめられて

 

 結局、一緒に眠ることになって

 

 燐子ちゃんの部屋に移動した

__________________

 

 部屋に移動して、2人で同じベッドに入った

 

 少し話したりしてるうちに燐子ちゃんは眠って

 

 穏やかな寝息を立てている

 

 そんな横で、俺はあることを考えていた

 

環那(無条件の、愛......)

 

 その言葉を聞くと、何かがはまった気がした

 

 機械的に処理できない、新しい感情

 

 こんなの、初めてだ

 

燐子「すぅ......すぅ......」

環那(なんだろう、この気持ち......)

 

 燐子ちゃんの姿を凝視してしまう

 

 綺麗な肌、髪、表情

 

 それを見ると、何故か胸が高鳴る

 

環那「......」

 

 友希那に抱く感情とは違う

 

 友希那は俺にとっての神で......

 

 人生における指針

 

 でも、燐子ちゃんは対等と言うか......

 

環那「......分かんないや。寝よ。」

 

 何回思考しても答えが出ないので

 

 取り合えず、燐子ちゃんの信頼を裏切らないため

 

 今日はさっさと寝てしまう事にした

 

 

 



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変わった関係性

 朝、目を覚まして横に美少女

 

 これは世の男子なら誰もが憧れると思う

 

 まぁ、それが起こらないことがほとんど

 

 そのはずなんだけど......

 

燐子「ん......っ、すぅ......」

環那「......ふむ。」

 

 今、俺は燐子ちゃんに抱き着かれてる

 

 そりゃあもう、ガッチリと

 

 どうやって抜けたらいいんだろうってレベルで

 

環那「燐子ちゃん?朝だよー。」

燐子「んん......」

環那「起きないとイタズラしちゃうよ~。」

燐子「むー......」

 

 起きない、か

 

 仕方ない、これは秘伝のイタズラを披露だね

 

 さぁ、最初はくすぐり攻撃......

 

環那(あ、ダメだ。普通にセクハラだし。)

 

 でも、どうしようか

 

 このままでいるのも悪くないんだけど

 

 今日、月曜日だしなー

 

 さて、どうしたものか

 

環那「(普通に起こそう。)おーい、燐子ちゃーん?」

燐子「......南宮、くん......?」

環那「おはよ。」

燐子「っ......!?///」

 

 よかった、目を覚ましてくれたみたいだ

 

 燐子ちゃんは寝起き早々顔を真っ赤にして

 

 何やら口をパクパクさせてる

 

 朝から忙しいね、燐子ちゃん

 

燐子「なななんで、抱き着いて......!?///」

環那「うーん、それは俺が聞きたいかな?」

燐子(あっ、私が抱き着いてるんだ......///)

環那「取り合えず、離れない?」

 

 俺がそう言うと、燐子ちゃんは離れ、ベッドから降りた

 

 その後に俺もベッドから出て

 

 軽く体を伸ばした

 

環那「燐子ちゃんも結構、寝相悪いんだね。」

燐子「うぅ......言わないでください......///」

環那「いいよ、慣れてるから。幼稚園のお昼寝の時間、友希那とリサも同じようなものだったしね。」

燐子「そ、そうなんですか......?///」

環那「うん。」

 

 俺は軽く頷いた

 

 これはまぁ、本当の話

 

 リサの前でしたら恥ずかしがって怒られるけど

 

 まぁ、いいでしょ

 

環那「折角だし、朝は俺が用意するよ。簡単なものでいいかな?」

燐子「い、いえ、私が。」

環那「いいよ......って言うかやめておいた方がいいよ?今日の燐子ちゃん、寝癖酷いし。」

燐子「え......っ!?///」

環那「時間かかりそうだし、俺がするよ。」

燐子「お、お願いします......///」

環那「了解。」

 

 そんな会話の後、俺はキッチン

 

 燐子ちゃんは洗面所に行った

 

 さて、朝ごはんは何をしようかな

__________________

 

 今日の朝ごはんは洋食にした

 

 理由は家を見た感じのイメージ

 

 後は材料的に簡単そうだったから

 

 まぁ、結構悪くない出来なんじゃないかな?

 

燐子「__お、お待たせしました。」

環那「いや、全然待ってないよ。ちょうどいい」

燐子「わっ。」

 

 俺はテーブルに作った物を並べた

 

 盛り付けって大事だよね

 

 綺麗にすればするだけいいものに見える

 

 まぁ、俺は比率を考えて置いてるだけなんだけど

 

燐子「すごく、美味しそう......!」

環那「普通だよ。まだまだ、燐子ちゃんの足元にも及ばない。」

 

 でも、喜んでくれてるみたいでよかった

 

 燐子ちゃんに習って栄養バランスを考えたけど

 

 何と言うか、違うんだよね

 

 何なんだろうか、この違いは

 

環那「さぁ、お席にどうぞ。」

燐子「っ///あ、ありがとうございます......///」

環那「ははっ、柄じゃないね、こういうの。」

 

 椅子を引いて、なんか紳士っぽいことしたけど

 

 まぁ、なれないね

 

 こんなことしたの、昔のおままごと以来?

 

燐子(み、南宮君......///)

環那「食べよっか。時間はまだ余裕あるし、ゆっくり。」

燐子「はい、いただきます......!」

 

 燐子ちゃんが手を合わせて食事を始めた

 

 今はまだ、朝の7時15分

 

 朝ごはんゆっくり食べてもあまりが出る

 

燐子「あの、南宮君も学校ですよね?」

環那「うん、そうだよ。」

燐子「それで、気になったことがあるんですが......」

環那「?」

燐子「制服は、どうするんですか......?」

環那「あっ。」

 

 か、完全に忘れてた

 

 そうだ、あの家に全部あるんだった

 

 どうしよう

 

環那「まぁ、行くだけ行くよ。最悪、借りればいいし。」

燐子「なるほど。」

環那「それにしても、改めて見ると燐子ちゃん、制服似合うね。」

燐子「え......///」

環那「まじまじと見て、思ったんだ。」

 

 可愛い、と思う

 

 けど、これほどだったかな?

 

 元から美人なのは分かってたけど

 

 うーん......見え方が違う、のか?

 

燐子「か、からかわないでください......///南宮君は、友希那さんを......///」

環那「友希那?」

燐子「好き、なのでは......?」

環那「......」

 

 燐子ちゃんはそう質問を投げかけて来た

 

 少しだけ誤解されてる?

 

 まぁ、そう見えなくもないもんね

 

環那「まぁ、友希那は可愛いと思ってるし、一番大切だと思ってるよ。勿論、女の子として意識することもある。」

燐子「そう、ですか......」

環那「けど、恋愛的に好きかと言われたら少し話が変わる。」

燐子「え?」

環那「友希那は俺にとっての神、恋愛感情とは少し違う。」

 

 流石に少しづつ価値観は変わってるけど

 

 まだ、その名残が強い

 

 友希那は一番大切、生きる理由で指針だ

 

燐子「じゃあ、今井さんは?お付き合いしてたんですよね?」

環那「......うん、リサは。」

燐子(あれ?表情が......)

 

 リサ、か

 

 今、俺の中で2番目に謎な女の子

 

 幼馴染、元カノ、最近見え方が変わった

 

 こんな謎な要素が詰め込まれてる

 

環那「よく、分からない。」

燐子「そうなんですか?」

環那「リサは大切な幼馴染だけど、それが伝えれてなかったり、交際もああいう形に終わって、少し罪悪感を感じてる。」

 

 今思えば、あの時からかもしれない

 

 人の気持ちなんて考えるようになったの

 

 自分も含めて、だけど

 

環那「......よく分からないね。人の気持ちと言う物は特に。」

燐子「確かに、そうかも__」

環那「でも、今一番分からないのは、燐子ちゃんだよ。」

燐子「__え?」

 

 本当にこの子は分からない

 

 今までにないものを俺に与えてくる

 

 どんな数式や法則を使っても証明できない

 

 この現象は初めてだ

 

環那「あ、悪い意味じゃないよ。」

燐子「?」

環那「ごめんね、急に変なこと言っちゃって。」

 

 今、この答えを探す必要はない

 

 あと1週間以上はここにいる予定だし

 

 その間に出て来る......かもしれない

 

環那「さぁ、食事を続けよう。」

燐子「はい?(南宮君、どうしたんだろう?)」

 

 それから俺達は食事を続け

 

 8時を過ぎると、家を出て

 

 それぞれ学校に向かった

__________________

 

 学校に来たけど、浮いてるね

 

 制服ないのがあまりにも痛すぎる

 

 どうしよう、借りられないかな、とか

 

 俺はそう言いながら廊下を歩いてる

 

リサ「か、環那ー!」

環那「あ、リサ。」

リサ「こっち来て!制服とかあるから!」

環那「え?本当に?」

 

 しばらく歩いてると、リサが向こうから走っていた

 

 どうやら、制服があるみたいだ

 

 いやー、よかった

 

 下手したらこのままで授業受けないといけない所だった

 

リサ「__ま、マジでそのまま来たんだね。」

環那「いやー、行かないのはダメかなって。」

リサ「そ、そこは真面目なんだ。」

 

 俺とリサは廊下を歩きながらそんな会話をしてる

 

 別に真面目ではないんだけどね

 

環那「俺の服とか持って来てくれたの?」

リサ「あ、うーん......まぁ、そんな感じ?」

環那「そっか、ありがとう、リサ。」

リサ「うん。あ、そこの部屋に鞄と一緒にあるから。」

環那「じゃあ、着替えてくるよー。」

リサ「うん。」

 

 俺はリサに案内された教室に入った

 

 少し歯切れが悪い気がしたけど

 

 何かあったのかな?

__________________

 

 教室の中の机の上

 

 そこに俺の服とかが入ってる鞄が置かれていた

 

 この鞄、どこかで見たことがある

 

 どこだっけかな......

 

環那「まぁ、いいや。着替えて、教室行こ__」

琴葉「__は、入りますよ。」

環那「......?」

 

 制服に着替えようとした瞬間

 

 浪平琴葉が空き教室に入ってきた

 

 そっか、そう言えば担任教師だった

 

 忘れてた

 

環那「何か用ですか?浪平先生。」

琴葉「......あのっ。」

環那「出て行ってくれないかな。着替えの途中なんだけど。」

 

 流石に人前で着替えるのは気が引ける

 

 出来ればさっさと出て行って欲しいんだけど

 

琴葉「す、少し、話しを......」

環那「いらない。話すことはないでしょ。」

琴葉「......っ」

 

 もういいや、構わず着替えよう

 

 向こうも見ようとは思わないでしょ

 

 そう思いながら、さっさと着替える

 

 居心地悪いね、ここ

 

琴葉「あ、あの時は、ごめんなさい......」

環那「どうでもいいよ。もう、どうでもいい。」

琴葉「......」

環那「浪平琴葉はただの担任教師。それだけだよ。」

 

 さて、制服に着替え終わった

 

 荷物はあるけど、教室に行こう

 

琴葉「それは......」

環那「もういいでしょ。あんたに関わるつもりはもうない。俺は行くよ。」

琴葉「あ、ちょっと待っ__」

 

 話すのも面倒なのでさっさと教室から出て

 

 静かに扉を閉めた

 

琴葉「......そう、ですよね。どうでも、いいんですもんね......」

 

 その時、教室の中からそんな声が聞こえた

 

 けど、もう冷めて、心に響かない

 

 嫌いじゃない、どうでもいいんだ

 

 そんな事を考え、小さく溜息をついて

 

 俺は教室の方に歩いて行った

 

 

 



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予告

 今日のお昼はリサが持って来てくれた

 

 なしだと思ってたから、これは有難い

 

 ご飯食べないとエネルギー効率最悪だし

 

環那「......?」

友希那「どうしたの?」

環那「いや、リサ、料理の味付け変えたのかなって。」

 

 俺はふと、そんな違和感を口にした

 

 今日の味付けはいつもより濃い

 

 けど、これはこれで良い

 

リサ「最近、色々研究しててねー。」

環那「良いと思うよ。俺は結構好き。」

リサ「そっか!良かった!」

友希那「私ももっと練習しないといけないわね。」

 

 横で友希那が張り切った声を出してる

 

 今でも十分美味しいと思うんだけど

 

 友希那が頑張りたいことは応援しないとね

 

リサ「そう言えば、その、あの家出て行ってからどうしてんの?寝泊まりするとことかある?」

環那「うん、昨日、燐子ちゃんに拾ってもらったよ。」

リサ「えぇ!?燐子!?」

環那「昨日、河川敷で滑り落ちて気絶してね。その時に燐子ちゃんが助けてくれたんだ。」

友希那「大丈夫なの?怪我はしてない?」

環那「大丈夫だよ。脳にも特に影響はないし。」

 

 俺は笑いながらそう答えた

 

 義手が功を奏した、かな

 

 固いお陰で怪我もなく済んで、頭も守れた

 

環那(......でも、難義なものだね。)

リサ「ね、ねぇ?あたしの家来てもいいんだよ?」

環那「え?」

リサ「こう、あたしの家なら気を使わないでいれるし?」

環那「んー、もう少し、燐子ちゃんの所にいるよ。」

友希那「あら、珍しいわね。私かリサの家に来ると思ったのだけれど。燐子に興味でもあるの?」

環那「!」

 

 友希那には敵わないね

 

 俺の事、なんでも理解される

 

 流石は神様だ

 

環那「......まぁ、そうだね。」

リサ「か、環那が......?あの、環那が......?」

環那「何と言うか、変なんだよね、あの子。」

 

 今まで出会わなかったタイプの女の子

 

 友希那ともリサとも違う

 

 貰ったものすべて、しっくりくる

 

リサ(うぅ......燐子に先越された......)

環那「でも、1週間もすれば出て行かないといけないし、その時は頼もうかな。」

リサ「!!///」

友希那「私の家にもいらっしゃい。お父さんも会いたいと言ってたわ。」

環那「そっか、そろそろ顔見せないとね。」

 

 普通に忘れてた

 

 まぁ、別に怒らないでしょ

 

 むしろ、会った方が怒られそう

 

環那「まぁ、当面は燐子ちゃんにお世話になるよ。時間は結構あるし。」

友希那「それでいいと思うわ。燐子は信頼に足るもの。」

リサ(燐子の態度的に安心できないんだよ!)

環那(......俺も俺の事、片付けないと。)

 

 それから、俺はお弁当を完食し

 

 残りのお昼休みは2人と話して過ごした

 

 まぁ、ほとんどリサからの質問責めだったけど

__________________

 

 放課後、俺は服などの荷物を持って廊下を歩いてる

 

 燐子ちゃんは今日、バンドの練習

 

 帰って来るまで家には入れないし

 

 なにかやることを探さないといけない

 

環那「__ん?」

 

 そんな事を考えながら歩いてると

 

 廊下の真ん中に落ちてるある物が目に入った

 

 俺はそれの前に立ち、それを拾い上げた

 

環那「これは、誰かの携帯?__!!」

 

 その瞬間、携帯はバイブレーションで震えた

 

 誰かからの電話だ

 

 もしかしたら、持ち主か関係者かもしれない

 

 取り合えず、出てみるほかないか

 

環那「はい、もしもし。」

『あっ、お兄ちゃん?』

環那「!!(なっ......!?)」

 

 携帯の向こうから、加工された音声

 

 妹だ

 

 まさか、この携帯は落としたんじゃなく置いたのか?

 

 結構、大胆に動いてくるな

 

環那「......何か用?」

『今日は軽く予告のために電話したんだよ?』

環那「予告?」

『お兄ちゃんを傷つけた女教師......浪平琴葉だっけ?殺すから♪』

環那「っ......!」

 

 狂気、そんな言葉が頭を過った

 

 電話越しの妹の声は加工されててもわかるほどの狂気を孕んでいる

 

 これは、本気でやる人間の声だ

 

環那「......何も、殺す必要はないと思うけど。」

『必要ありだよ?ただでさえ、お兄ちゃん以外の人間なんてどうでもいいのに、そんなのがお兄ちゃんを傷つけた。これは制裁なんだよ?』

環那「......」

『お兄ちゃんだって、どうでもいいんでしょ?なら......いいよね?』

 

 この妹、許可の取り方を知らない

 

 いいよねとか言ってるけど、やるって言ってる

 

 こういう所、俺に似てる気がする

 

環那「......勝手にすればいいよ。」

『やった♪じゃあ、待っててね。すぐに、見せてあげるから。』

 

 その言葉の後、電話が切れた

 

 それにしても、殺すか

 

 浪平琴葉は元暗殺者

 

 殺し方を分かってる人間だ

 

 そんな人間がそう簡単にやられるかな?

 

 俺としては結構難しいと思うけど

 

環那(どっちにしても、どうでもいい。どうせ、俺の中では、とっくに死んでるんだから。)

 

 軽くため息をついた後、俺は歩き始めた

 

 てゆうか、この携帯どうしよ

 

 まぁ、会った時にでも返せばいいや

 

 どうせ、そんな遠い話でもないし

__________________

 

 ”燐子”

 

 今日は、練習が長引いてしまった

 

 とは言っても、原因は質問責めで

 

 南宮君のことが好きな今井さんは特に焦ってた

 

燐子「__あれ......?」

環那「あっ、燐子ちゃん。」

 

 家の前まで帰って来ると、南宮君が立っていた

 

 優しい笑顔を向けられると、胸が高鳴る

 

 こんなの、初めて

 

燐子「......///」

環那「おかえり。」

燐子「ずっと、待ってたんですか......?///」

環那「いや?さっきまで図書館にいたよ。」

燐子「そ、そうですか......///」

 

 よかった

 

 取り合えず、何時間も外に放置したわけではない

 

 でも、これからはもっと気をつけないと

 

環那「燐子ちゃんはお疲れ様だね。今日もこんな時間まで。」

燐子「いえ......これがRoseliaの普通なので。」

環那「ははっ、すごいわけだ。」

 

 この前のライブ、あれもすごかった

 

 素人が聞いても分かる演奏の精度

 

 仮定もしっかりしてるし

 

 これには素晴らしいの一言だ

 

環那「リサに紗夜ちゃん、燐子ちゃんにあこちゃんか......」

燐子「?」

環那「友希那は素晴らしい仲間を集めた。」

 

 南宮君は嬉しそうにそう言った

 

 その目はどこまでも慈愛に満ちていて

 

 まるで、ずっと子供を見守ってきた親の様

 

 これが、南宮君の友希那さんへ対する愛なんだ

 

環那「もう、俺が心配する必要はないかな。友希那はもう大丈夫。」

燐子「はい......私もそうあってくれるように頑張りたいです......!」

環那「ありがとう。これからも、友希那をよろしくね。」

燐子「は、はい......!」

 

 南宮君、お父さんみたい

 

 私と同い年なんだよね?

 

 身に纏ってる空気がそう言ってないけど

 

燐子「そろそろ、入りましょう。」

環那「そうだね。」

 

 それから、私達は2人で家に入って

 

 私はお風呂に、南宮君はお夕飯を作ってくれることになった

 

 その時間はとても幸せで

 

 両親がいるのと同じくらい楽しかった

 

 

 



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仮説

 白金燐子は不思議な子だ

 

 今日、また夕食を共にしてそう思った

 

 俺は人に嫌われやすいと自負してる

 

 そりゃあもう、第一印象は最悪以外聞かない

 

 あの子は特に印象なんて最悪のはず

 

 なのに、嫌うどころか友好的な態度を見せてる

 

環那(__なんなんだろう。)

 

 欲しい言葉をくれる

 

 一緒にいると楽しい

 

 こんな感覚、友希那とリサ以外で初めてだ

 

 いや、厳密に言えば違う

 

 燐子ちゃんといる感覚は2人とは異なる

 

 あの子の場合は形容しがたい、不思議な感覚だ

 

燐子『__み、南宮君?大丈夫ですか......?』

環那「燐子ちゃん?」

燐子『あの、お風呂に長く入っているので、のぼせてないかなって......』

環那「あー、大丈夫だよ。ごめんね、すぐに上がるよ。」

燐子『はい......』

 

 俺がそう答えた後

 

 お風呂場から燐子ちゃんが出て行った気配があった

 

 そろそろ出ないと本当にのぼせそうだ

 

環那(答え、出かかってるんだけどなぁ。)

 

 俺はそんな事を考え頭を押さえ

 

 出かかった答えを考えながらお風呂を出た

__________________

 

 お風呂から出た後、燐子ちゃんの部屋に来た

 

 女の子の部屋に普通に入るのはおかしいんだけど

 

 本人が良いって言うし、良いんだと思う

 

環那「__お邪魔しまーす。」

燐子「は、はい......!」

 

 部屋に入って最初に目に入ったのは燐子ちゃん

 

 白色の綺麗なパジャマを着て

 

 座布団の上にちょこんと座って本を開いてる

 

 この姿を可愛いかアンケートを取れば

 

 大体、98%の人間はイエスと答えるだろう

 

燐子「あ、どうぞ......」

環那「ありがとう。」

 

 燐子ちゃんは自分の隣に座布団を置いて

 

 俺はそこに座らせてもらった

 

 てゆうか、結構近い

 

燐子「あの、少しお話しませんか......?」

環那「いいよ。でも、何の話するの?」

燐子「えっと......南宮君の事が知りたいです......」

環那「......俺?」

 

 俺の事を知りたい、か

 

 普通なら色々な勘違いをするんだろうけど

 

 今回に関しては雰囲気が少し違う

 

 どうやら、真面目な話みたいだ

 

環那「そんなに知りたいことってあるかな?」

燐子「ずっと......南宮君が捕まった理由が気になってたんです。」

環那「!」

 

 燐子ちゃんは真剣な声でそう言った

 

 これには流石に驚いた

 

 こんなこと聞かれたの初めてだ

 

 でも、これは好都合かもしれない

 

環那(反応を見れば、燐子ちゃんがどういう子か分かるかも。)

燐子「あの......」

環那「話すよ。友希那以外に隠す必要もないし。」

燐子「!」

 

 正直、この話をするのは気が進まない

 

 色々なリスクを考えると広めるべきじゃないし

 

 でも、燐子ちゃんなら大丈夫だろう

 

 ”回想”

 

 友希那は誤解されやすい子だった

 

 口下手で無意識に人を怒らせて、その弁明も出来ない

 

 だから、誤解されることが多かった

 

友希那『うっ......っぅ......なんで、なんで......っ』

環那『......っ!(友希那......!)』

 

 そのせいで、友希那はイジメられた

 

 無視、私物の窃盗、女子からの軽い暴力など

 

 数えればキリがないほど友希那は被害を受けた

 

 でも、学校が気づけばどうにかしてくれる

 

 そう思い、俺は隣のクラスの担任、春日春希のもとを訪ねた

 

春日『__イジメなんて、ありません。』

環那『は?冗談はやめてくださいよ。あんただって何回か見てるでしょ?』

春日『私は何も見てません。うちのクラスは平和そのものです。』

 

 けど、奴は知らぬ存ぜぬ

 

 このバカじゃ話にならない

 

 そう思い、今度は校長の所に行った

 

 だが、その時に気付いた

 

校長『春日先生、イジメについては全力で隠蔽しなさい。どこにも雇い手がなかった貴女を採用してあげた、その意味はお分かりですよね?』

春日『は、はい......』

校長『もう他の先生にも湊へのイジメは無視するよう通達してあります。あなたのやることは何も変わらない。ただ、尽くし、媚びればいい。』

春日『こ、校長先生、こんな所で__』

 

環那『......(許せない......!!)』

 

 あの学校は腐ってた

 

 学校のトップである校長ですらあの様

 

 他の教師もあてにならないと分かった

 

環那(どうすればいい?)

 

 学校は友希那を助けてくれない

 

 あのクラスが自発的にイジメをやめるわけがない

 

 だったら、もう俺がどうにかするしかない

 

 二度と友希那に手を出せないようにする

 

 そうするにはどうすればいい?

 

環那(全員、殺してしまえばいい。)

 

 勿論、こんなのは俺の自己満足

 

 友希那はこんなことを望んでない

 

 そんな事は全部わかってた

 

 けど、そう思った後の行動は早かった

 

 リサの安全を確保するために別れて

 

 教師に復讐するための情報収集

 

 そして、あとは実行するための状況づくり

 

 リサに頼んで、友希那を呼び出してクラスから遠ざけてもらった

 

環那『__お前らを殺す。』

『な、何だよお前!』

環那『友希那を苦しめた罪......その安い命だけで済むと思うなよ。』

 

 それからした凄惨な事はよく覚えてる

 

 男女関係なく思う存分殴って

 

 こんなこと友希那は喜ぶだろうかと焦燥して

 

 その後また、脚を縛りつけて引きずり回して

 

 気絶してる奴を掃除道具入れに詰め

 

 主犯格はあえて意識を残して恐怖を植え付けた

 

 中には虫の息で『助けて......』と言う奴もいた

 

友希那『__か、環、那......?』

環那『......友希那。』

校長『こ、これは......!?』

 

 そんな現場を見た友希那の顔は忘れられない

 

 絶望したように死んだ目が見開いて

 

 俺を恐れるように黒目は揺れていた

 

 その時、もう、俺は友希那といられないと悟った

 

校長『南宮環那......!!』

警官『通報があったのはここ......か?』

警官2『な、なんだ、これは......!?』

警官『......君を放置はできない。署に来てもらう。』

環那『いいよ、別に。』

 

 俺は大人しく手錠をつけられた

 

 そして、警官に連れ出されるとき

 

 小さな声で校長に話しかけた

 

環那『......俺は知ってるよ。春日春希とのことも、あんたが出した命令のことも。何もかも、全部。』

校長『っ!!?』

環那『お前らが友希那を傷つけた時......俺はいつでもこの惨状を作りにやって来る。今度は、教師共々。』

 

 その言葉を最後に俺は捕まり

 

 色々な判断の結果、少年院に入った

 

 ”回想終了”

 

環那「__と言うわけだよ。」

燐子「......」

 

 一通り話し終えると燐子ちゃんはうつ向いた

 

 横からじゃ表情は分からない

 

 一体、どんな顔をしてるんだろう

 

燐子「......南宮君は......異常です......」

環那「......」

 

 しばらく様子を見てると

 

 燐子ちゃんは消え入りそうな声でそう言った

 

 異常、か

 

 まぁ、そう思われるのは当然か

 

燐子「南宮君のしたことは......犯罪です......捕まって当然です......」

環那「......そうだね。」

燐子「でも......」

環那「!」

 

 燐子ちゃんの手に力が入る

 

 握ってるパジャマに細かなしわが出来てる

 

 声も、心なしか力がこもってる

 

燐子「大切な人を傷つけられれば、私だってそうしたいと思います......」

環那「えっ?」

 

 俺は目を見開いた

 

 燐子ちゃんからは想像もつかない言葉だ

 

 この子なら、どんな理由はあっても暴力はダメ

 

 そう言ってもおかしくないのに

 

燐子「今、南宮君に友希那さんがイジメられてた話を聞いて......許せないって思いました。イジメてた人たちのされた事を聞くとなんだか......心がスッとしたんです。」

環那「っ!?」

燐子「何と言うか......『やった。』って、そう思ったんです......」

 

 そういう燐子ちゃんの表情は複雑そうだ

 

 理由は分かってる

 

 優しいから、そう思ってることを申し訳なく思ってるんだ

 

燐子「きっと誰だって、南宮君の立場なら同じような事を考えます......でも、異常だと私は思いました。」

環那「......」

燐子「でもそれは、私が南宮君みたいに出来ない人間だからです。」

環那「......!!」

燐子「出来るなら、きっと、私だってそうします。」

 

 この子は、肯定してるのか?

 

 誰一人としてしなかった

 

 友希那やリサですらしなかった

 

 なのに......

 

燐子「南宮君のしたことは正しくはないです......でも、私は肯定します......だって、南宮君は凄く優しい人だから。」

環那「優しい?俺が?いやいや、そんなことはないよ。」

燐子「あります。それは十分、証明してくれてます。」

 

 燐子ちゃんは笑顔を向けてくれる

 

 なんて、綺麗なんだろう

 

 ただ茫然と見つめてしまう

 

燐子「初めて会った時もここに来てからも、南宮君はずっと優しいです......!だから、私は南宮君のことを信じます......!」

環那「__っ!!」

 

 その言葉の後、心臓が激しく動いた

 

 また、この感覚だ

 

 ピースがはまったように嬉しくなって

 

 満たされたような、そんな感覚だ

 

環那(......そうか。)

燐子「?(どうしたんだろう......?)

 

 分かった気がする

 

 燐子ちゃんがなんなのか

 

 論理もなにもない

 

 けど、色々な物を総括すると

 

 こう言った方が辻褄が合う

 

環那(燐子ちゃんは運命の人......なのかもしれない。)

燐子「南宮君?」

環那「なんでもないよ。ありがとう、燐子ちゃん。なんだかスッキリしたよ。」

燐子「え、は、はい。よかったです。」

 

 運命の人

 

 もし、燐子ちゃんがそうだと言うなら

 

 俺の醜い部分も、受け入れてくれるのかな?

 

 ......なんて

 

 

 

 



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信頼関係

 ......昨晩は眠れなかった

 

 その理由は横にいる燐子ちゃんだ

 

 緊張とかじゃなく、試行回数が増やされた

 

 俺の中で生まれた極めて立証に近い仮説

 

燐子「スゥ......」

環那「......運命、か。」

 

 そうだとしたら納得がいく

 

 この子は俺の欲しいものをなんでもくれる

 

 そして、友希那と同じ言葉を言った

 

 もはや奇跡の領域だ

 

燐子「んん......っ」

環那(......)

 

 可愛い

 

 友希那やリサ以来になるかな?

 

 本気で可愛いと思った

 

 すごく撫でたい

 

環那(いや、ダメダメ。燐子ちゃんの信頼を裏切るのは。)

 

 純粋に嫌われたくない

 

 こんな風に幼馴染以外に思うのも久しい

 

 分かりやすくこの子にペースを乱されてる

 

 でも、それも悪くない

 

燐子「ん......?南宮君......?」

環那「おはよう、燐子ちゃん。」

燐子「おはようございます......」

 

 燐子ちゃんは眠そうな目を擦ってる

 

 どんなしっかりした子でも寝起きはこんな感じなんだ

 

 可愛さ指数がオーバーフローしてる

 

燐子「南宮君、眠れましたか......?」

環那「え?なんで?」

燐子「肌が白いのでクマが......」

環那「あー......(そう言えば、そうだった。)」

 

 昔から夜更しとかすぐバレたっけ

 

 あれってそういう理由があったんだ

 

 約18年生きて初めて知った

 

環那「少し考え事をしててね。でも大丈夫、慣れてるから。」

燐子(そう言えば、初めて会った時もクマがあったような......)

 

 頭使うとすぐ寝れなくなるんだよねー

 

 ついでに鼻血も出るし

 

 いやー、面倒くさい体質だね

 

環那「まっ、問題ないよ。研究してるときは寝不足が常だしね。」

燐子「研究?」

環那「あれ、言った事なかった?俺、趣味で色んな研究してるんだよ。」

燐子「初めて聞きました......」

 

 燐子ちゃんは驚いた顔をしてる

 

 あ、そうだ

 

 どうでもいいと思って言ってなかったんだ

 

 いやぁ、忘れてた

 

環那「ちなみに、文献の研究は何もしてないよ。国語は苦手だから。」

燐子「知ってます。今井さんが......国語だけは赤点だって。」

環那「いやぁ、数学ばっかりしてきたからね。」

 

 俺は頭を掻きながらそう言った

 

 もうすぐテストだし、どうにかしないと

 

 補修は勘弁願いたい

 

環那「さぁ、学校行く準備しよ。遅刻するって時間じゃないけど。」

燐子「はい、そうですね。」

 

 この後、俺と燐子ちゃんはそれぞれ学校に行く準備をし

 

 朝ごはんや洗面をして家を出た

__________________

 

 もう6月が終わるだけあって外は暑い

 

 寒いのも勘弁だけど暑いのも嫌だ

 

 けど、何より嫌なのは友希那の日焼け、熱中症

 

 これからは日焼け止めと日傘を待ち歩かないと

 

リサ「_あっ、環那ー!」

友希那「おはよう。」

環那「おはよう、2人とも。って。」

 

 教室に入ると違和感があった

 

 なんだか、いつもと様子が違う

 

環那「ん?今日、何かあったっけ?」

リサ「今日は校内清掃の日だよ?この前、クジで班決めたじゃん!」

環那「あっ、そう言えばそうだったね。」

 

 俺はそう言って鞄の中を漁った

 

 確か、班の表が入ってるはず

 

環那「あっ、これだ。」

友希那「確か、全学年合同のはずよ。」

環那「う、うーん、そのハズなんだけどー。」

リサ「わおっ。」

 

 班メンバーは友希那とリサ、ともちゃん、つぐちゃん、あこちゃん

 

 知り合いが集まったなー

 

 まぁ、気楽にできるしいいんだけど

 

環那「で、場所はあの井戸の近くと。」

リサ「あ、あそこかー。」

環那「ん?なにかあるの?」

友希那「そこには幽霊が出るという噂があって、去年、リサは怖がりまくってたのよ。」

環那「あー、変わらないね。」

 

 おばけとかに弱いのは変わってないのかー

 

 からかうのもまたいいんだけど

 

 1つ間違えたら泣かせちゃうし、やめとこ

 

環那「まぁ、お化けとかはどうでもいいや。」

リサ「どうでもよくないよ!」

環那「大丈夫だって。何があっても俺がどうにかするよ。」

リサ「っ!///(か、かっこいい......///)

環那「でも、友希那の肌を紫外線から守るのは俺単体の力じゃどうにもならない。」

友希那「え?」

 

 俺はそう言いながら日焼け止めと日傘を出した

 

 外での作業で友希那の綺麗な肌が焼けたら

 

 それはもう一生の後悔どころじゃない

 

環那「じゃあ、自分でするかリサにされるか俺にされるか、どれがいい?」

友希那「じ、自分でするわ。」

環那「なんだって!?」

リサ「!?」

 

 ゆ、友希那、自分で日焼け止め塗れるの?

 

 昔は俺かリサが無理やりしてたのに

 

環那「つ、躓いたら言うんだよ?」

友希那「私ももう高校生よ?出来るわ。」

 

 友希那はそう言って日焼け止めを受け取った

 

 そして、ゆっくりそれを塗り始めた

 

 その姿は正に女子高生って感じで

 

 ちゃんと、塗れてる......

 

環那「成長したね、友希那......!この成長はギネスに登録されるべきだ......!」

リサ「いや、日焼け止め塗っただけで!?」

環那「載らないならギネス......いや、世界が狂ってる!」

リサ「狂ってるのは環那だよ!今回は!」

 

 感動しすぎて取り乱した

 

 でも、友希那は本当に成長してる

 

 昔は本当に俺とリサがなんでもしてたのに

 

環那「いやー、5年って言う年月は、俺が想像してる以上に大きいみたいだね。」

リサ「それはそうだよ。」

環那「リサも、すごく綺麗になった。」

リサ「っ!?///(そういうとこだよ......///)」

 

 リサは顔を赤くしてモジモジしてる

 

 うーん、やっぱり見方が変わってる

 

 リサを大切にする意識が出て来たのかな

 

友希那「2人でイチャつくのはいいのだけれど、もうすぐホームルームが始まるわよ?」

環那「そうだね。もう担任も来る。」

「__はーい、みんな席ついてー。」

環那、リサ、友希那「!!」

 

 俺たちが話してる途中

 

 教室のドアが空き教師が入って来た

 

 ただし、その人は浪平琴葉じゃなく

 

 他の教科担当の教師だった

 

「あれ、浪平先生はー?」

「浪平先生、連絡が取れないんだよね。見たって言う人はいるんだけど......」

環那「っ......!」

リサ「環那?」

友希那「どうかしたの?」

環那「い、いや、なんでも。」

 

 この時、俺は妹の言葉を思い出した

 

 『お兄ちゃんを傷つけた女教師......浪平琴葉だっけ?殺すから♪』

 

 確かに、そう言ってた

 

 もう、準備が出来てるのか?

 

環那(もう、妹の殺害計画は実行段階。このまま誰も介入しないと、まず浪平琴葉は死ぬ。)

 

 俺の妹、その人物の答えが合ってるなら

 

 浪平琴葉なんかでどうにか出来るわけない

 

 殺害方法はわからないけど

 

 どこかで必ず死ぬ

 

環那(.....いや、だからなんだって言うんだ?)

 

 もう、どうでもいいと割り切った人間

 

 今さら死のうが死ぬまいがどうでもいい

 

 そう、思ってるのに......

 

環那「......っ」

 

 なんで焦る?

 

 どうでもいいんだろ?

 

 だったら妹に殺させても良いじゃないか

 

 いなくなったって俺の生活は変わらない

 

 そんなこと、十分理解してる

 

 

 『__私は南宮君のことを信じます......!』

 

環那「!!」

 

 思考を回してるうち、その言葉を思い出した

 

 信じる......俺もかつて、浪平琴葉にそうだった

 

 友希那やリサと違う信頼関係

 

 監視者と監視対象

 

 その関係を超えた、謎の信頼

 

環那「......そういう事か。」

リサ「環那?」

 

 俺が何故、あんなにショックを受けたのか

 

 大体、今のことで分かった

 

 普通に、居心地が良かったんだ

 

 あのダラシない女教師が

 

環那「.....ほんと、我ながら甘い。」

リサ「どっか行くの?ホームルーム__」

環那「ごめん、ちょっと急用。」

友希那「急用?」

環那「出来るだけすぐに戻るよ。」

リサ「ちょ、環那!?」

 

 俺は2人にそう言って教室を駆け出た

 

 正直、あの女とどう接したらいいかわからない

 

 それに、一度拒絶した相手

 

 実際に対面してどうなるかなんてわからない

 

 けど、俺の魂が大声で訴えてくる

 

 浪平琴葉を死なせてはいけない、と

 

 それに従い、俺は予想される現場に向かって走って行った

 

 

 

 

 



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仲直り

 ”琴葉”

 

 私は今日、死のうと思う

 

 理由は、もうなんだか疲れたから

 

 南宮君が出て行って

 

 その日から毎日、誰かから殺害予告が来る

 

 その度、罪悪感に襲われて、疲れた

 

琴葉「......南宮君......」

 

 彼にとって私は、利用価値のある人間

 

 気に食わなければいつでも切れる

 

 つまり、良くて使える道具、それだけ

 

 そんな事、分かってる

 

琴葉(なら、なんで、こんなに悲しいんだろう......)

 

 どうでもいいと言われた前

 

 そこから、ずっと、私は悲しい

 

 この感覚をなぜか私は知ってる

 

 あれは確か......小学生の時だっけ?

 

琴葉(いつ、だったかな......)

 

 あれは確か、5年生

 

 私は暗殺者の家系に生まれて、普通に生きられなかった

 

 だから、人並みに憧れて

 

 隣の家の高校生に......

 

琴葉「......あ、そっか。」

 

 分かった、この悲しみの理由

 

 でも、もう、時すでに遅し

 

 今さら出る答えでは決してない

 

 ほんと、だから彼氏いない歴=年齢なんですよ

 

琴葉「もういいでしょう......=生涯と言うのも、潔くて。」

 

 私はそう呟いて屋上の柵を超えた

 

 もう少し生きて殺される

 

 それは暗殺者としては正解

 

 けど、どうせなら、普通の女性として死にたい

 

 死に方くらい選ばせてくれたっていいでしょ

 

琴葉「......謝りませんよ。どうせ、謝っても聞かないんですから。変態軽薄男。」

 

 最後、どうせいないし悪口もいいでしょう

 

 どうせ、すぐ、いなくなるんですから

 

 生憎、殺してきた身なので死に恐れはないんですよ

 

 私は表情を変えないまま一歩を踏み出し

 

 空に、その身を投げた

 

琴葉「さようなら__っ!!?」

環那「忌々しい......本当に忌々しい女だよ。」

 

 そう思ったのに私の体は落下せず

 

 上を見上げると言葉通りの忌々し気な表情を浮かべ

 

 見るからに怒ってる......南宮君がいた

 

 ”環那”

 

 浪平琴葉の死に場所が学校である確率

 

 これが1番高い事なんて最初から分かってた

 

 妹は俺に『見せてあげる。』と言った

 

 つまりこの時点でパターンは絞られ

 

 1つは学校で殺す

 

 2つは俺が発見できる場所に死体または死体の一部を放置する

 

 もしくは、殺した後で俺を呼び出す

 

 だが、これは俺の中ですぐに省いた

 

 その理由は主犯は俺の妹だから

 

環那(......甘いんだよ。)

 

 俺と似た思考回路を持ってるとしたら

 

 まず、憎い相手を楽には殺さない

 

 徹底的に追い詰め、苦しめて殺す

 

 そして、妹は俺より大分、性格が悪い

 

 だから、自ら手を下さないことは分かってた

 

 だったら後はどういった方法、場所で死ぬか

 

 それはさっきの教師が喋ってくれた

 

 『見た人がいる』、つまり学校にいる

 

 学校で死ねる場所なんて限られる

 

 だから、単純な浪平琴葉が思いつきそうな屋上へ最初に来た

 

琴葉「な、なんで、ここに......?」

環那「死なれちゃ困る事態になった。」

琴葉「っ!!」

 

 俺はそう言って浪平琴葉を引っ張り上げた

 

 てゆうか、普通に危なかった

 

 下手したら俺も一緒に落ちてたし

 

環那「で、誰が変態軽薄男だって?」

琴葉「いひゃいでふ......」

環那「変態じゃないでしょ。全く。」

琴葉(軽薄は認めてる......)

 

 さて、ここで1つ問題

 

 俺は正直、かなり用心深いほうだ

 

 妹も同じだとしたら?

 

 俺が妹と同じ立場なら、この1手で終わらせる?

 

 その答えは......否

 

 俺は浪平琴葉の顔の側面を義手側で覆った

 

琴葉「っ!?」

環那「ほら、来ると思った。」

 

 ガキン!!っと金属同士がぶつかる音がした

 

 そして、直後に銃弾が転がった

 

 ほら、あると思ったよ

 

 保険の暗殺者

 

環那(見えない方から来た。位置が掴めなかったな。でも、この威力なら壁抜きはない。)

琴葉「!!」

 

 俺は浪平琴葉を引っ張り建物内に入った

 

 本当に妹とは思考が似てる

 

 あぁ......仲良くなれなさそうだ

__________________

 

 建物の中に入って少しだけ走った

 

 学校は窓が多い、つまり射線が通る

 

 だから1番安全なのは窓がない、倉庫だ

 

環那(ここまで来れば、大丈夫かな。)

 

 流石に侵入してくるとは考えずらい

 

 もう、こっちの勝ちだ

 

 狙えるものなら是非とも狙ってもらいたい

 

 そんな神業、出来る人間がいるならね

 

琴葉「......なんで、助けたんですか。」

環那「言ったでしょ、死なれちゃ困る事態になったって。」

 

 俺は頭を掻きながらそう答えた

 

 理解できない気持ちは分かるよ

 

 俺だって全く理解してないんだから

 

 ほんと、忌々しい

 

 浪平琴葉も......俺も

 

環那「......浪平琴葉は、居心地がいい。」

琴葉「え?」

環那「死なれちゃ困る事態なんて、そんなものだよ。」

 

 そう、だから忌々しい

 

 浪平琴葉を俺は割り切れなかった

 

 今まで数多の人間を切り捨ててきた俺が、だ

 

 こんなに甘くなかったんだけど

 

 俺も段々、人間になってるのかな

 

琴葉「うぅ......グスッ......」

環那「!?」

琴葉「ほんきで、死のうとしてました......あの日から、罪悪感が凄くて......得意でもない料理して、南宮君に食べてもらったりして......それでも、罪悪感は消えなくて、殺害予告が何通も来て......もう辛かった......」

環那(料理......って、あのお弁当か。)

 

 気になる言葉が多い

 

 料理は多分、あの味が違うお弁当

 

 それ以上に気になるのは殺害予告

 

 なるほど、そうやって三重で精神を追い詰めたわけか

 

 それで、自殺までかかる時間を短縮した

 

 って、今は考えてる場合じゃないでしょ

 

環那「......ん。」

琴葉「っ!(抱かれてる......?)」

 

 俺は琴ちゃんを抱き寄せた

 

 もう、意地を張る事もないでしょ

 

 浪平琴葉って呼ぶの、長い

 

 そして何より、慣れない

 

環那「もし、生きるのが辛いなら、俺のために生きてよ。」

琴葉「っ......!?」

環那「浪平琴葉って言う居場所が欲しいから。でも、タダでとは言わない。」

 

 そう言って、静かに琴ちゃんの涙を拭った

 

 言質取ってもらわないといけないから

 

 涙で見えませんとか、言われたくないし

 

環那「俺は元暗殺者のくせに弱い琴ちゃんの強さになる。それでいいでしょ?」

 

 ......なんだそれ

 

 言っといてなんだけど、そう思う

 

 こんなバカなこと言うの俺くらいだよ

 

 こういうのは世間が認めるイケメンの役目だって

 

 はぁ、柄じゃない

 

琴葉「......十分ですっ。」

環那「ははっ、くすぐったいよ。」

 

 琴ちゃんは頭を擦り付けてくる

 

 これじゃ、どっちが年上か分からないや

 

 まぁ、これも俺と琴ちゃんっぽいでしょ

 

琴葉「__きです。」

環那「ん?なんて?発音してないから分からないんだけど。」

琴葉「今は何でもありません......///」

環那「そっか。じゃあ、なんでもないね。」

 

 これで、仲直りって事でいいかな

 

 運命の人に居場所、か

 

 羽丘に戻ってきてからこういう事が良く起こる

 

 ......妹も、またその一つ

 

環那「琴ちゃん、俺はそろそろ行くよ。」

琴葉「あ、そうですか......」

環那「その泣き顔と落ちたお化粧、直してからおいで。琴ちゃん、俺がいる掃除場所の担当だから。」

琴葉「!......はい、南宮君!」

環那「元気があってよろしい。じゃあね、待ってるよ。」

琴葉「っ///」

 

 俺は軽く笑顔を見せてから体育倉庫を出た

 

 琴ちゃん、嬉しそうだし笑顔を作った甲斐があった

 

 ......何も考えないでいたら

 

 ちょーっとだけ、まずい顔になっちゃうし

__________________

 

 倉庫を出て、人気の少ない校舎裏に来た

 

 まだ、校内清掃は始まってない

 

 俺は軽く周りを軽く確認し、携帯を取り出した

 

 それと同時に携帯に着信が来た

 

環那「......来ると思ったよ。」

『失敗しちゃったよ。なんで助けたの?お兄ちゃん?』

環那「その理由は、君も持ってるはずだよ。」

『......!!』

環那「動揺したね。」

 

 普段、俺の声に圧はない

 

 そういうイメージを持たれるようにしてるから

 

 まぁ、それでむしろ不気味がられるけど

 

 けど、今回はさ......イメージとか言ってられない

 

環那「......琴ちゃんにこれ以上手出ししたら、俺は君を殺さなく行けなくなる。今、近くの建物に潜んでるスナイパーたちさ......退かせてくれない?」

『......分かった。この件からは手を引くよ。』

 

 妹は不服そうにそう言った

 

 愛されてるねー、俺

 

 まぁ、そんな歪んだ愛は勘弁だけど

 

環那「あっ、そうそう。」

『?』

環那「俺、もう君の正体に気付いちゃってるんだよね。」

『!!』

環那「答え合わせも必要ない。そして......君、俺に喧嘩売ったよね?」

『......』

 

 今、俺はきっと怒ってる

 

 何をしたいか分からないけど、無性に何かに当たってしまいたい気分だ

 

 こんな怒り、種類は違うけど、あの時以来かな

 

環那「やってやるよ。異常者同士の兄妹喧嘩。覚悟しろよ、妹。」

『......ふふっ。』

環那「!」

 

 俺がそう言うと、妹は笑った

 

 気が狂った?いや、そうじゃない

 

 本当に嬉しそうなんだ

 

 ボイスチェンジャー越しでも分かる

 

『やっと、殺意を持ってくれたね、お兄ちゃん。いいよ、しようか、兄妹喧嘩。』

環那「後悔するなよ。」

 

 ドスの利いた声でそう言った後、電話を切った

 

 そして、義手じゃない方の左手を握り込んだ

 

 取り合えず、今は我慢しないと

 

 この後、校内清掃でみんなと一緒だし

 

 怒った顔とか、見られたくないし

 

環那「......もう少し隠れてから、戻ろう。」

 

 俺は校舎の壁にもたれ掛かって座った

 

 はぁ......どうしよ

 

 あと10分そこらで、この表情戻せるかな

 

 

 

 



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接触

 怒ると言うのは苦手だ

 

 頭に血が上って思考が単調になる

 

 おまけに周りに無駄な気を遣わせてしまう

 

 だから、苦手だ

 

環那「......(落ち着け。まず、考えることはたくさんある。)」

 

 ここから、妹はどう動くか

 

 今の電話で正体の開示は完了した

 

 もう、向こうも姿を隠す必要はない

 

 つまり、直接こっちにアクションを起こせる

 

 だとしたら、どう動く?

 

環那(向こうは単体じゃどうやっても力負けする。でも、向こうには結構ヤバいのいるし。)

 

 あれと殴り合い......

 

 うわぁ、面倒くさい

 

 無傷でいられる確率30%くらい

 

 ちょっとだけリスキー

 

 でも、向こうもそれは承知、だから......

 

環那「......っ!(マズい!)」

 

 俺は立ち上がって自分の持ち場の方を向いて走り出した

 

 完全にしくじった

 

環那(琴ちゃんを殺す気なら確認のために来てる可能性もある。直接勝てる可能性が100%じゃないなら、状況を有利にするのに着手する。つまり、友希那かリサを狙われたら終わりだ!)

 

 ここに来て10分

 

 持ち場に言ってるとしたら2分は立ってる

 

 急がないと

__________________

 

 少し走って掃除の持ち場に来た

 

 なんで反対側にあるんだ

 

 思った以上に時間がかかった

 

 いや、いい、友希那とリサは......

 

リサ「__あれ、環那?」

友希那「どうしたの?走ってきて。」

環那「い、いや、なんでもないよ。」

 

 よかった、流石に動いて来なかったみたいだ

 

 少し、考えすぎたかな

 

 過度な思考は思い込み、妄想ともいえるし

 

巴「すごい汗だぞ?」

環那「走ったからかな?暑かったし。」

つぐみ「確かに、今日はかなり暑いですね。」

あこ「なのに外の作業だもんー。悪魔の所業だよー。」

環那「まぁまぁ、頑張ったらあとでアイスでも買ってあげるから。」

あこ「ほんとに!?やったー!」

 

 あこちゃんは両手を挙げて喜んでる

 

 うんうん、小さい子は可愛いね

 

 こんなことでこんなに喜ぶなんて

 

巴「おっ、さんきゅー!」

リサ「あたし、ハー〇ンダッツがいい!」

友希那「私も。」

つぐみ「ちょ、皆さん!?」

環那「いいよいいよ。つぐちゃんも同じのでいい?」

つぐみ「えぇ!?い、いや、私は......」

環那「じゃあ、ハー〇ンダッツ5個でいいね?」

巴「よっしゃー!やる気出たー!」

 

 みんな可愛らしいねー

 

 将来、教職者の道に進むのもいいかも

 

 まぁ、ほとんどの人には不気味がられるし難しいけど

 

琴葉「__みなさーん!お待たせしましたー!」

巴「おっ、浪平先生も来たな!」

つぐみ「遅かったですね?どうしたんですか?」

琴葉「え?えっとー、そのー......」

環那「トイレでも行ってたんじゃない?お腹出して寝てるくせに意外とお腹弱いから。」

リサ「!?」

友希那「あら、そうなのね。」

巴「......ん?」

つぐみ(あれ、今、何かおかしいこと言ってなかった?)

 

リサ(あー、なるほど。仲直り、出来たんだ。)

 

 リサにアイコンタクトを送ると、軽く頷いた

 

 以心伝心率高いねー

 

 言葉にしなくてもこっちの意をくんでくれる

 

環那「琴ちゃんもハー〇ンダッツいる?あとで買いに行くんだけど。」

琴葉「欲しいです!」

つぐみ(先生!?)

環那「じゃあ、決まり。早速、初めて行こう。まず、草むしり__!?」

 

 草むしりをしようと下を見た瞬間

 

 俺はとんでもない事実に気付いた

 

 まずい、これは非常にマズい

 

リサ「環那?」

環那「り、リサ。友希那を連れて草むしりは避けるんだ。」

リサ「え?ど、どういう事?」

環那「ここの草、結構固めで鋭いから、手を切るかもしれない。」

リサ「......ん?」

 

 この固い草で友希那とリサが手を切ったら大変だ

 

 もしそんな事になったら

 

 俺が間違えてこの辺りの草全部死滅させる

 

環那「......この辺りの草、安全のために薬開発して死滅させた方がいいか?」

リサ「いや、それはやめなよ。景観損ねるし。」

 

 と、リサにもっともなツッコミをされた

 

 難しいものだね

 

 もっと柔らかい草にすればいいものを

 

 なんで、こんな危険度の高いものにするんだ

 

環那「なら仕方ない。正攻法で対応する。」

巴「か、環那さんからすごい気を感じる......!」

友希那「えぇ、こんなに本気の環那は久しぶりに見たわ。」

あこ「環那兄、何をする気なの......!?」

リサ(ツッコミがいない。)

つぐみ(巴ちゃんまで......)

琴葉(うんうん、元気ですね。)

 

 さぁ、始めよう

 

 超効率的草むしり

 

あこ「は、はやっ!?」

リサ「無駄にすごい。」

友希那「昔から、仕事は早かったもの。」

巴「おおよそ、湊さんに雑務なんてさせるか!ってとこだろうな。」

つぐみ「えぇ......」

 

 無心での草むしり

 

 昔から草むしりなんて腐るほどしてきたし

 

 このくらいの範囲なら一瞬で終る

 

環那「__と言う事で、終わりました。」

琴葉「そのハイスペック、もっと他の事に役立てられないのですか?」

環那「他に出来る事......日本の科学を何年か進めるくらいしか出来ないね。」

友希那、リサ、あこ、巴、つぐみ「!?」

環那「でも、こんなこと俺にはどうでもいいし。」

琴葉「本当に無関心ですよね。」

 

 まぁ、俺じゃなくてもそれくらい出来るし

 

 なんなら、現に進めてるのだっている

 

 だから、俺は別にどうでもいいや

 

環那「さぁ!掃除はまだまだあるよ!続けよう!」

リサ「そうだね!一番時間かかりそうなのは環那が終わらせたし!」

巴「終わったらアイスだー!」

琴葉、あこ「おー!」

友希那「今更だけれど、教師がこれで良いのかしら?」

つぐみ「ダメですよ......」

 

 それから、俺達は井戸の近くの掃除を進め

 

 お昼休みまでに余裕をもって掃除を終わらせ

 

 その後は購買にアイスを買いに行った

__________________

 

 お昼休みの屋上

 

 朝はここで色々あったね

 

 まぁ、そんなに時間が経ったことじゃないんだけど

 

環那「そろそろ、来ると思ったよ。」

ノア「___ふんっ。」

 

 俺が後ろに目を向けると

 

 そこには不機嫌そうなノア君が立っていた

 

 さっきの出来事的に、動くと思ってた

 

環那「大体用は分かってるけど、一応聞いておくよ。」

ノア「貴様に聞くことがある。」

環那(ほらね。)

 

 予想通り

 

 用も大体わかってる

 

 この場での問題はノア君の対応

 

 流石に争うのは気が重い

 

ノア「もう、気付いているのは知っている。その上で、お前はどうする。」

環那「どうする、とは?」

ノア「......殺す気か?貴様の妹を。」

環那「......」

 

 回答次第では殺す

 

 そう言いたげな顔をしてる

 

 勘弁してほしいよ......

 

 この男と争うのはリアルに骨が折れるし

 

環那「その答えは、俺のこれからの在り方による、かな。」

ノア「......在り方?」

環那「別に止めたいなら止めればいいよ。でも、あんまりおすすめはしない。」

ノア「__!」

環那「......」

 

 ノア君の横を通り過ぎた後

 

 後ろから何かが飛んでくる気配があった

 

 上手いね相変わらず

 

 けど......

 

ノア(な......っ!?)

環那「君はここで俺に手を出せない......そうでしょ?」

ノア「......なぜ、分かった。」

環那「予想が付くからね。」

 

 俺はノア君の拳に触れた

 

 これで、何人仕留めて来たんだろう

 

 こんなので死んでも殴られたくない

 

 まぁ、当たらない自信はあるけど

 

環那「まぁ、生末を見届けてよ。仮に妹が死んだら、弔い合戦でもなんでも受けてあげるさ。」

 

 そう言って、ドアの方に向かって歩いた

 

 ほんと、見た目によらず従順だよね

 

 段々、可愛く見えて来たよ

 

ノア「......殺したら貴様を殺すぞ。」

環那「あぁ、構わないよ。出来るものならね。」

ノア「......チッ。」

 

 俺はノア君の舌打ちを聞きながら屋上を出た

 

 さぁ、人生初めての兄弟喧嘩......

 

 死んでも負けられないね

__________________

 

 ”リサ”

 

 環那にアイスを買ってもらってそれを食べて

 

 その後、浪平先生に頼みごとをされて

 

 またさっきの掃除場所に来た

 

 どうやら、携帯を落としたらしい

 

友希那「あったわよ、リサ。」

リサ「よかったー。壊れてないみたいだね?」

友希那「えぇ。」

 

 最近、浪平先生のイメージが変わった

 

 前までは素朴で優しい良い先生のイメージだった

 

 だけど、今は抜けてるドジっ子になってる

 

 環那によく聞かされたのもあるけど......

 

リサ「まっ、見つかったなら浪平先生に届けに行こっか。」

友希那「そうね。早く涼みたいわ__」

エマ「__ここにいた。」

友希那、リサ「!?(ど、どこから!?)」

エマ「会うのは2回目。湊友希那、今井リサ。」

 

 気配もなく、いきなり現れた白衣の少女

 

 異様に白い肌に長い金髪、赤い瞳を持ってて

 

 どこか、浮世離れした容姿をしてる

 

 いや、なんで、ここにいるの?

 

リサ「迷子?出口まで送ろうか?」

エマ「いい。用が終わったら帰る。」

友希那「......私達に用があるみたいね。」

リサ「あたし達に?」

 

 友希那は低い声でそう言った

 

 見るからに警戒してる

 

 まぁ、どう見ても普通の子じゃないもんね

 

リサ「用って、なに?」

エマ「私は、あなた達が嫌い。」

リサ、友希那「......?」

エマ「愛を向けられてるあなた達が嫌い。」

 

 言ってる意味が分からない

 

 急に出てきて、一方的に喋られて、何か分からないけど嫌いって言われて......

 

 あたしに関しては状況すらつかめてない

 

友希那「......あなたは誰なの?いきなり嫌いと言われても、反応に困るわ。」

 

 友希那はけげんそうな顔でそう言った

 

 まぁ、確かに

 

 あたし達はこの子が誰か知らないし

 

 確かに、急にそんなこと言われても困る

 

エマ「私はエマ......って言っても、これだけじゃ分からない。」

リサ「......?」

 

 エマは小さく溜息を付き

 

 私達の方を睨みつけて来た

 

 赤い瞳は明確にあたし達に敵対心を示してて

 

 自分よりずっと小さいのに、少しだけ怖いと思った

 

エマ「私はエマ......南宮エマ。南宮環那の実の妹。」

友希那「え......?」

リサ「妹って......(あの電話の......?)」

 

 あたしも友希那も愕然とした

 

 最近、環那がたびたび言ってた妹

 

 その本人が目の前にいる

 

 その事実が、あまりにも衝撃的だった

 

 あたし達がそんな調子でいると、エマは口を開いた

 

エマ「私はお兄ちゃんを愛してる......だから、湊友希那。」

友希那「......!」

エマ「お兄ちゃんに愛されてる、あなたの事が大嫌い。」

 

 エマはそう言い放った

 

 分からない

 

 環那とこの子は一緒にいたことはなかったはず

 

 なんで、こんなに環那に固執してるの?

 

 それが、1番分からない

 

エマ「......何より、お兄ちゃんに絶対に必要だったところも大嫌い。」

 

 それだけ言って、エマは去って行った

 

 圧倒されたあたしと友希那はその場に立ち尽くして

 

 その背中を見送る事しか出来なかった

 

 

 

 



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最終日

 放課後、俺は友希那とリサに呼び止められた

 

 2人はかなり難しい顔をしてたし

 

 何かあったのかと思い教室に残り

 

 3人で1つの机を囲んでる

 

リサ「__って、訳なんだけど。」

環那「なるほど。」

 

 2人の話を聞くと

 

 俺がノア君と接触した同時刻にエマと接触していたらしい

 

 多分、俺が正体に気付いたから動いたんだろう

 

 これは別に何ら不思議なことじゃない

 

 でも、話してた内容が良く分からない

 

環那(うーん......嫌いか。)

 

 エマは2人の事が嫌いらしい

 

 なんか、俺の事も言ってたらしいけど

 

 どこまでほんとでどこまで嘘かが分からない

 

 実際にこの目で見たわけでもないし

 

 どういう感情か分からない

 

友希那「あの子は環那の腕を直したこのなんでしょう?」

環那「そうだよ。」

リサ「じ、実はヤバい子だったりしない?」

環那「ヤバい、かもね。」

 

 エマは実際、かなりヤバい

 

 頭も良いし、武力もノア君でカバーできる

 

 けど、解せない事がいくつある

 

環那(......今回の動き、理解し難いな。)

 

 兄弟喧嘩に勝利条件があるとして

 

 俺はエマのもとにたどり着けば勝ち

 

 けど、エマの場合は勝ち方がよく分からない

 

環那(......けど。)

 

 向こうが手っ取り早く勝つ方法がある

 

 それは、友希那とリサを人質に取ること

 

 そう考えると、今日の動きは解せない

 

 俺だったら、2人の方にノア君を送り

 

 そして、人質に取り、立場を優位にする

 

 でも、そうしなかった

 

環那(勝つ気がない?)

 

 この義手だってそうだ

 

 向こうは明らかに俺を警戒してた

 

 元からここまで計画してるなら、腕なんか治さない

 

 動き的に勝つ気があるとは思えない

 

環那(分からないな。)

リサ「環那?なんか、難しい顔してるよ?」

友希那「何か、考え事よね?」

環那「まぁね。」

 

 分からない事を考えても仕方がない

 

 取り合えず、身の回り

 

 友希那にリサ、燐子ちゃんに琴ちゃん

 

 この辺りの人たちの安全は確保しておきたい

 

 俺のわがままなんだけどね

 

環那「まっ、2人には手を出させないから大丈夫。安心して。」

友希那「それはいいのだけれど......」

リサ「環那は大丈夫なの?」

環那「大丈夫大丈夫。なんとかなるよ。」

 

 どっちにしろ、正体以上の謎を解かないと

 

 難儀なものだよ

 

環那「取り合えず、2人は気を付けてね。変な人に襲われそうになったら助けを呼ぶんだよ?」

友希那「えぇ、分かったわ。」

リサ「環那はどうするの?」

環那「燐子ちゃんの家にいるよ。もう少しいてみたいからね。」

リサ(やばい、燐子に環那持っていかれる!!)

友希那(本当に仲良しになったのね。)

 

 それから、俺達は学校を出て

 

 2人はそれぞれ家に

 

 俺も燐子ちゃんの家に帰って行った

__________________

 

 ”燐子”

 

 学校が終わって、私は急いで家に帰ってきた

 

 今日の練習はお休みだし

 

 南宮君が帰って来るかもしれないから、鍵を開けておかないと

 

 そう思って、早く帰ってきた

 

環那「__ただいまー、燐子ちゃんー。」

燐子「おかえりなさい......南宮君。」

 

 私が帰ってきた30分ほど後、南宮君が帰ってきた

 

 このやり取り、なんだか夫婦みたいって思っちゃう

 

 こんなこと考えてると、嫌がれるかな?

 

燐子「今日は、どうだった......?」

環那「そうだねー、解決と新たな問題が提示された日かな。」

燐子「?」

環那「まぁ、琴ちゃん......あの同居人と仲直りしてね。」

燐子「そ、そうなんですか......!」

 

 よ、よかった

 

 南宮君、嬉しそうにしてる

 

 やっぱり、その人が大切だったんだ

 

燐子(あ、でも......)

 

 それじゃ、南宮君、帰っちゃうのかな......?

 

 それは、寂しいな......

 

 折角、仲良くなれたのに......

 

燐子「じゃ、じゃあ、南宮君は帰るんだね......」

環那「そうかもしれないね。」

燐子(やっぱり......)

 

 少しは距離を縮められたと思う

 

 けど、友希那さんや今井さんには届かない

 

 もっと、お話したかった

 

環那「少し、問題があってね。それに燐子ちゃんを巻き込みたくないんだ。」

燐子「え......?」

環那「俺はもっと、ここにいたいんだけどね。」

燐子「!?」

 

 南宮君、もっといたいって言った!?

 

 友希那さんにしか興味ないと思ってたのに

 

 私のこと、気に入ってくれたのかな?

 

燐子「......私も、もっといて欲しいですよ///」

環那「え?」

燐子「い、いえ、なんでも......///」

 

 つい、口走っちゃった

 

 どうせ、1週間で終るはずのことだったし

 

 結局、終わるときは来てたんだもんね

 

環那「ねぇ、燐子ちゃん?」

燐子「はい?」

環那「今の問題が解決したらさ、どこか一緒に行かない?」

燐子「え......?///」

環那「お世話になったし、そのお礼もしたいからね。」

 

 南宮君は優しい笑みを浮かべながらそう言った

 

 つ、つまり、デートに行くって事ですか?

 

 あの、南宮君が?

 

 私は信じられなくて、一瞬思考が停止した

 

燐子「......出来る事なら、7月7日の七夕祭りに///」

環那「あー!あのお祭りかー!いいね!」

燐子「ふ、2人で、ですよね......?」

環那「もちろん!」

 

 夢みたい......

 

 南宮君にデートに誘われた

 

 これって、もしかしなくても、脈ありなのでは?

 

燐子「なんで、私とその......お出かけを?///」

環那「個人的に、燐子ちゃんに興味がある。」

燐子「!!///」

環那「それだけじゃ、不十分かな?」

 

 ど、どうしよう

 

 本当に勘違いしちゃいそう

 

 もしかして、私にもチャンスがあるのかな?

 

 き、奇跡が起きてる?

 

燐子「じゅ、十分です......///」

環那「よかった。」

燐子「あ、お夕飯、作りますね......///」

環那「ありがとう。」

 

 私はそう言って立ち上がり

 

 お夕飯を要するためにキッチンに立った

 

 料理をしてる時、嬉しさで浮足立って

 

 ちょっと失敗しそうになったのは、秘密です

__________________

 

 ”環那”

 

 夜、俺は燐子ちゃんと同じベッドに入ってる

 

 なんだか、学生同士の距離感じゃないね

 

 まぁ、今さらなんだけど

 

燐子「__ん......っ」

環那(かわいい。)

 

 横で寝てる燐子ちゃんを見る

 

 この子は本当に綺麗だ

 

 容姿もだけど、心が本当に綺麗だ

 

 汚れなんて一切ない

 

 俺とは真逆だ

 

環那(運命の人、か。)

 

 この子は埋めてくれる

 

 俺が持ってないものを何でも持ってる

 

 そして、それを教えてくれる

 

 この子がいれば、俺は人間になれる

 

環那「......ありがとう。」

燐子「んぅ......?」

 

 俺は燐子ちゃんの頭を撫でた

 

 そして、静かにベッドから出た

 

 そろそろ行かないとね

 

 周りに被害が出ないように、早く片付けないと

 

環那「本当はもっと燐子ちゃんといたいんだけどね、そう上手くはいかないみたいだ。」

 

 そう呟いて、俺は机の方に歩き

 

 付箋とペンを拝借し

 

 お世話になりましたと出かけてきますという旨の文章を書いた

 

環那「......さっ、行こうか。」

 

 俺は自分の荷物を持ち

 

 静かにドアを開け部屋を出て

 

 家の鍵を拝借し、玄関に歩いて行った

__________________

 

 外に出て、家の鍵を閉め

 

 その鍵をポストに入れた

 

 そして、俺は歩きだした

 

環那(__夜の街は静かだねー。)

 

 深夜1時30分の住宅街

 

 どの家も電灯はついてなくて

 

 まるで死んだように静かだ

 

環那(......さてと。)

 

 しばらく歩き、俺はあの河川敷に来た

 

 多分、ここくらいでいいかな?

 

 燐子ちゃんの家からは十分離れたし

 

環那「__ノーア君。ついて来てるのは分かってるよー。」

ノア「......ちっ、お見通しってわけか。」

 

 俺が名前を呼ぶと

 

 やっぱり電柱の後ろから姿を現した

 

 何と言うか、芸がないよね

 

環那「俺がエマなら、0時を回ったら行動に移すからね。昨日は終わったって。」

ノア「......」

環那「それで、命令はなに?俺を倒して来いって?」

ノア「行ってこい以外の命令は受けてない。」

環那「!(ほう......)」

 

 なるほど、そういう事か

 

 命令によるリミッターをはずし

 

 ノア君に俺をぶつけたのか

 

 中々、悪くない案だと思う

 

 まっ、関係ないけど

 

ノア「だから、これは俺の独断だ。」

環那「で、なに?俺とやり合う気?喧嘩のダブルブッキングは勘弁なんだけど。」

ノア「俺はお前に質問に来ただけだ。」

環那「......」

 

 そう来たか

 

 まぁ、内容は大体わかる

 

 どうせ......

 

ノア「お前は、エマを......妹を殺す気か?」

環那(だと思った。)

 

 回答次第では......ってのも考えられる

 

 けど、この状況で一番の愚策は嘘をつく事

 

 後々になって暴走されるのが1番面倒だし

 

 何より、俺の周囲に被害を出したくない

 

 だったら、正直に言った方がいい

 

環那「俺も、色々考えたんだけどさー。」

ノア「......っ!(この目は......!)」

環那「殺そうと思うんだー。そうする必要があると思って。」

ノア「......」

 

 ノア君は無表情のままたたずんでる

 

 顔、怖いなー

 

 これだけで人殺せるんじゃない?

 

環那「じゃ、俺はエマの所に行くね。」

ノア「......なぜ。」

環那「?」

ノア「なぜ、お前はそんな簡単に選択できた?」

 

 ノア君はそう問いかけて来た

 

 この子、マジか

 

 まぁ、普通なら悩んで悩んで悩みぬくんだろうね

 

 でも、俺はそういうとこ欠落してるし

 

 なにより......

 

環那「それは、君が命を絶つことしか出来ないからだよ。」

ノア「っ!!」

環那「まっ、見ててよ。」

 

 俺はそう言って歩きだした

 

 さて、行こうかな

 

 ......『天才』エマを殺しに

 

 

 



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恋バナ

 ”リサ”

 

 朝、2人の人物から連絡が来てた

 

 1人目は燐子

 

 どうやら、環那がいなくなって焦ってるみたいだった

 

 あたしも同じように焦った

 

 けど、環那からも学校休むって連絡が来てて

 

 その焦りはすぐになくなった

 

リサ「__浪平先生ー?」

琴葉「今井さん?どうしましたか?」

 

 浪平先生の所に来た

 

 多分、先生の家に帰ったと思うし

 

 休んでる理由を聞いて

 

 風邪とかなら、お見舞いに行こうかと思って

 

リサ「環那、先生の家に帰ってきましたか?」

琴葉「え?」

リサ「?」

 

 あたしがそう聞くと、先生は首を傾げた

 

 その時、少し背筋が寒くなった

 

 先生の家に帰ってない

 

 燐子の家からも出て行ってる

 

 あれ、これって......

 

琴葉「み、南宮君は、帰って来てませんよ......?」

リサ「え、で、でも、燐子が朝起きたらいなかったって......」

 

 こんな状況に覚えがある

 

 あれは、環那に義手が付く前

 

 あの、エマって子のところに行ったとき

 

 連絡もつかなくて、学校も休んでた

 

リサ(や、ヤバいんじゃ。いやでも、環那はそんな__!)

 

 あたしが色々考えてる途中

 

 ポケットに入れてある携帯が鳴った

 

 画面を見て見ると、環那からの電話で

 

 あたしは慌てて出た

 

リサ「も、もしもし!?今、どこ行ってんの!?」

環那『いやー、ちょっと用事があってさー。』

リサ「用事って、まさか、あの子の事じゃないよね?」

環那『違うよー。バイト?みたいな感じー。学校にも話したらオッケーしてくれたよー。』

 

 環那は電話越しでも分かるくらい緩い雰囲気を出してる

 

 バイト?って言い方がちょっと不安になるけど

 

 まぁ、環那なら多少は問題ないと思う

 

環那『今、多分だけど琴ちゃんと一緒にいるでしょー?すぐ帰るって伝えててー。』

リサ「分かった分かった。でも、ズル休みもほどほどにしないよ?」

環那『はいはーい。じゃあ、またねー。』

 

 そう言って電話が切れた

 

 勝手と言うか、何と言うか......

 

 人に心配かけといてあれだもん

 

 結婚とかしたら永遠に振り回されそう

 

琴葉「南宮君ですよね?今の。」

リサ「はい。なんか、バイト?らしいです。」

琴葉「バイトって......あの人は何をしてるんですか......」

リサ「なんか学校にもオッケー貰ってるみたいですよ。(それなら先にあたし達に言って欲しいけど。)」

琴葉「あー......」

リサ「どうかしました?」

 

 浪平先生は何かを思い出したような顔をしてる

 

 え、なにこの顔?

 

 環那になんかあんの?

 

琴葉「この学校の理事長と校長、何故か南宮君に頭が低いんですよね......」

リサ「え?」

琴葉「妙にあの人の顔色を伺ってて、この間もあの人の様子を聞かれまして。」

リサ(どゆこと?環那、一体なにしたの......って。)

 

 あ、大体わかった

 

 多分、理事長と校長の弱み握ったんだ

 

 中学の時の事考えて、

 

 友希那に絶対被害が及ばないように

 

 ありえないって思うでしょ?

 

 けど、環那なら割とありえちゃうんだよね

 

 前例があるし......

 

リサ「まぁ、世の中、知らない方がいい事もありますよ。」

琴葉「そうですね。あの人にツッコんでたらキリがありません。」

リサ「あはは、そうですよねー。」

 

 環那は小さい時から周りと違った

 

 子供らしからぬ言動もしばしばで

 

 最初は不気味だって思ってたけど

 

 結局、それが環那を好きになった理由なんだよね

 

リサ「環那、もうすぐ家に帰るって言ってたんで、またよろしくお願いしますね。」

琴葉「はい、もちろんです。」

リサ「あっ、後。」

琴葉「?」

リサ「......環那に対する気持ち、悪いとは思いませんけど、学校では隠した方がいいですよ?」

琴葉「な、何を言ってるんですか!?///」

 

 浪平先生はそう言って顔を赤らめてる

 

 なんだろ、この同級生と話してるノリ

 

 てか、教師と生徒ってどうなのって思うけど

 

 まっ、そこは本人の自由って事で

 

 同じ人を好きってよしみで見逃しておく

 

リサ「じゃ!あたしはこれで☆」

琴葉「う、うぅ~......///」

 

 先生のうなだれ声を背にあたしは職員室を出た

 

 ライバルが増えたのは複雑だけど

 

 それだけ環那の魅力が証明されてるって事で

 

 それはそれでいいのかなって思った

__________________

 

 放課後

 

 今日はバンドの練習の日だ

 

 あたしは友希那、あこと一緒にCircleに来た

 

リサ「__お待たせー☆」

紗夜「私達も今着いたところです。」

 

 部屋に入ると、紗夜がそう答えた

 

 その後ろではチラチラこっちを見てる燐子

 

 あー、そうだ

 

 燐子に環那のこと連絡するの忘れてたんだ

 

燐子「あ、あの......南宮君は......」

リサ「なんか、バイトみたいだよー?」

紗夜「バイトって......あの人は学校をサボってそんな事をしてるんですか!?」

リサ「まぁまぁ、そんなに怒らなくても!」

 

 紗夜は凄く起こってる

 

 まぁ、真面目だし、仕方ないか

 

友希那「環那にも色々事情があるのよ。」

紗夜「学生に学業以上に優先することなんて無いでしょう!」

あこ「友希那さんじゃないですか?」

紗夜「......あっ(察し)」

リサ「まぁ、それはあるね。」

 

 環那が友希那以上に優先することなんて無い

 

 最近はなぜか落ち着いて来てたけど

 

 まっ、偶々でしょ

 

紗夜「ともかく、あの人はなんであんなにいい加減なんですか。」

友希那「自分がその時にしたいことをする子だもの。仕方ないわ。」

リサ「実際、それが容認されるほどの能力もあるし、手段も持ってるんだよ。」

あこ「そうなの?」

 

 一回少年院に入って、もっとすごくなった気がする

 

 中学の時のことから慎重になったと言うか

 

 情報収集に余念が無くなった

 

 それに、人を脅すのが上手くなった

 

 それがいいかは別として

 

リサ「うちの理事長も校長も弱み握られてるみたいでさー。」

紗夜「なにしてるんですか!?」

燐子「南宮君はかっこいいので......問題ないです......///」

紗夜「白金さん!?」

あこ(りんりん、デレデレだなー。)

 

 今、友希那と同じくらい燐子が怖い

 

 環那は異様に燐子に甘い

 

 あんな態度、友希那以外にしてるの見たことないし

 

 まさか、同居してる間に何かあったんじゃ!

 

リサ「ね、ねぇ?燐子?」

燐子「はい?」

リサ「燐子ってさー、もしかしなくても、環那のこと好きだよね?」

燐子「!!///」

 

 そう尋ねると、燐子は顔を真っ赤にした

 

 これを見ればもう分かるんだけど

 

 一応、本人の口からきかないと

 

燐子「好きです......///」

リサ「だ、だよねー。」

燐子「南宮君は優しいし、否定されやすいけど、きっと優しい人だから......肯定したくなっちゃうんです......///」

 

 か、完全にお熱だ

 

 環那、何したんだろ

 

 ただでさえ、燐子って異性苦手だったのに

 

 すごすぎでしょ

 

友希那「環那もきっと、そんな人を求めてるわ。」

燐子「友希那さん......?///」

友希那「信じてあげて。あなたやリサなら、環那を幸せにできる。」

リサ「?」

友希那「さぁ、練習を始めましょう。」

 

 友希那はそう言って鞄を置いた

 

 そんな姿を、あたしは目で追ってしまう

 

 なんだろ、この微妙な気持ち

 

リサ(友希那は、ライバルじゃないの?)

友希那「リサ?」

リサ「あ、なんでもないよ!ごめんねー!」

紗夜「さっさとしてください。」

リサ「はいはーい!」

 

 あたしはそう言ってベースをケースからだし

 

 さっきの気持ちは一旦封印した

 

 取り合えず、今はちゃんと練習しないと

__________________

 

 ”環那”

 

環那「__俺が思うにさ。」

 

 俺は鉄でできたドアを蹴り破り

 

 中にある近未来的な部屋に入った

 

 ここまで邪魔も入らなかったし

 

 案外、楽だったね

 

環那「人が人を殺すときに必要なのは殺意じゃなく、いかに相手の命を軽んじるかだと思うんだ。」

 

 俺は部屋の奥にいる人物に語り掛ける

 

 なんの話をするかは別に重要じゃない

 

 ただ、なんとなく思いついたから喋ってる

 

環那「虫を殺すとき、人間ってまったく気にしないでしょ?つまり、人間の命を軽んじる快楽殺人犯は実に合理的で効率のいい生物だと......そう思わない?エマ?」

エマ「......異論ない。」

 

 笑いかけると、エマは無表情でそう答えた

 

 あの電話のテンションはどこに行ったんだろう

 

 情緒不安定かな?......あ、俺もか

 

環那「ねぇ、いくつか質問しても良い?」

エマ「いいよ、お兄ちゃん。」

環那「エマの両親ってまだ生きてるよね?」

エマ「うん、生きてるよ。」

 

 俺の問いかけにエマはそう答えた

 

 そっか、まだ生きてるんだ

 

 これはこれは、好都合だ

 

エマ「それがなに?」

環那「ん?ちょっと計画があってね。そのためにあれは泳がせているんだ。」

エマ(......計画?)

 

 まぁ、これは長期プランだしいいかな

 

 優先順位的には98位くらいだし

 

 今の事が片付いた後でも時間的に十分

 

環那「まぁ、そんなことはどうでもいいね。今するべきことは__」

エマ「っ!!!」

 

 俺はエマとの距離を一気につめ

 

 左手で首を絞めた

 

 エマは苦しそうな表情を浮かべ

 

 目には少し涙を浮かべている

 

エマ「うっ......ぐっ......!!!」

環那「殺してあげるよ、エマ。」

エマ(お兄、ちゃん......)

 

 俺は首を絞められてるエマの姿を見下ろした

 

 首を絞められてるから、勿論苦しそうな表情を浮かべてる

 

 けど、そんな中

 

 どこか、悲しんでるようにも見えた

 

 

 



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天才はいらない

 ”回想”

 

 私は自由だった

 

 天才っていう安い言葉

 

 それだけですべてを親が容認した

 

 1人で使える遊び部屋、可愛い服、おもちゃ

 

 なんでも手に入った

 

 金の羽振りがいいので、何をしても金で解決した

 

 親、親戚、誰もが私をはれ物のように扱った

 

エマ(......退屈。)

 

 そんな日々が私は心底退屈だった

 

 100点を取って当たり前のテストで褒められ

 

 同年代の身内でさえ、私には敬語

 

 対等な相手なんてどこにもいない孤独

 

 それを感じながら、私は生きて来た

 

「__開かずの間?」

エマ「......?」

 

 小学2年生の時の元日

 

 他の子供がそう言ってるのを聞いた

 

 祖母の家の屋根裏部屋

 

 そこには幽霊が住んでいて、近づいてはいけない

 

 バカらしいと思った

 

 けど、藁にもすがりたい思いの私はそれに興味を持った

 

「え、エマさん!そこには近づいたら駄目です!」

エマ「......うるさい。」

「っ!......ご、ごめんなさい。」

 

 私は屋根裏部屋の前に来た

 

 厳重にかけられた鍵と鎖

 

 前に来た時にはこんなのはついてなかった

 

 幽霊がいなくても、隠したいものがあるに違いない

 

 そう思い、訳もないピッキングで鍵を開け

 

 その部屋の扉を開けた

 

エマ「......?(誰かいる?)」

?「......」

 

 空調もない寒くて、埃っぽい最悪の部屋

 

 そんな部屋の奥で1つ、何かの影があった

 

 それは突然の光に気付き

 

 こっちをジッと見た

 

?「......消えろ。」

エマ「!!(消えろ......?)」

 

 その言葉は当時の私には衝撃的だった

 

 誰にも言われた事のない暴言

 

 最初、何だこの男はと思った

 

 なんて失礼な人間だろうかと

 

 少しだけ、ムカついたのを覚えてる

 

エマ「ねぇ__」

「__エマちゃん!」

エマ「......」

「こんな所で何してるの!ここにはゴミしかないから!」

「そうだぞ。こっちに来て、皆と遊んでなさい。」

 

 私はそう言われ、抱きかかえられ

 

 屋根裏部屋はまた鍵と鎖がかけられた

 

 それから、私はあの男の事が気になって仕方がなかった

__________________

 

 それから時が過ぎ、小学3年生のある日

 

 学校から帰って来ると、家の前に警察がいた

 

 勿論、私は親にすぐ家に入れられた

 

 けど、私は気になって聞き耳を立てていた

 

エマ(......何があったんだろ。)

 

 親が何か犯罪を犯したのだろうか

 

 異様に金持ちだし、そうであっても不思議ではない

 

 むしろ、そっちの方が面白いとさえ思ってた

 

『__その男と私達は無関係です。』

警官『ですが、お宅の長男だと......』

『知りません。お引き取りください。』

 

エマ「......!」

 

 長男

 

 その言葉が確かに聞かれた

 

 この家に子供は私しかいない

 

 ずっとそう言われて育ってきた

 

 けど、あの警官は長男と言った

 

『......はぁ、いっそ、死刑にでもなればいいのに。』

エマ「!」

 

 警官が去った後、母はそう呟いた

 

 それで確信した

 

 私には親が隠して来た兄がいると

 

エマ(誰、一体、誰......?)

 

 心当たりがなかった

 

 親戚内で、私より年上の子供は少ない

 

 捨てたとしたら家に来るのはおかしい

 

 つまり、兄はこの近くに住んでいて

 

 南宮だと認識されているという事

 

エマ「......!」

 

 いた

 

 心当たりのある人物がいた

 

 あの屋根裏部屋の人物

 

エマ「だったら、確かめるまで。」

 

 私はそう呟き

 

 そう遠くない祖父母の家に走った

__________________

 

 祖父母の家に忍び込み

 

 例の屋根裏部屋に来た

 

 だが、そこには何もなかった

 

 ただ、壁と床にシートが敷かれてるだけだった

 

エマ「......」

 

 それで分かった

 

 兄は警察に捕まって、屋根裏部屋を与える必要がない

 

 だから有効活用のために改装するつもりだと

 

エマ「ここにいた......いたんだ......!///」

 

 シートが敷かれた部屋の真ん中で私は膝をついた

 

 足腰に力が入らなくて立っていられなかった

 

エマ(お兄ちゃん、お兄ちゃん......///)

 

 顔も知らないお兄ちゃん

 

 私はそんな人物に只ならぬ憧れを抱き

 

 人生で初めて、性的に興奮した

 

エマ(会いたい......!///)

 

 極めて不純な感情

 

 私は兄を異性として見てしまった

 

 会ったこともない、顔も性格も知らない

 

 けれど、この日、私は実の兄に恋をしてしまった

__________________

 

 あれからさらに時が過ぎ、私は11歳になった

 

 親を見限った私は家を出て、暗殺者のノアを拾って

 

 徹底的にお兄ちゃんについて調べた

 

 その過程で収容されてる少年院が分かり

 

 私はノアと一緒に尋ねた

 

『__お待たせしました。』

エマ「!!」

環那「誰?綺麗な髪だねー。顔も日本人っぽくないし。」

 

 一枚の透明な板で隔てられた向こうにいる人物

 

 私が愛してやまないお兄ちゃんの姿

 

 それを見て、私はどうしようもなく興奮した

 

 生殖本能が大音量で私に訴えかけてくる

 

 この人の子供を産みたいと

 

エマ「私は、エマ。こっちはノア。あなたの味方。」

環那「偽名?それとも中二病?」

 

 笑いながらそう言ってくるお兄ちゃん

 

 バカにされてるとは思った

 

 けど、それを許せるほど愛おしかった

 

環那「まっ、どっちでもいいよ~。それで、何の用?」

エマ「スカウトに来た。詳細はこれに全て書いてある。」

 

 と言っても、これは少しだけ盛ってる

 

 残念ながら、私は人を殺してない

 

 けど、今まで何人も殺してきたことにした

 

 そうした方がお兄ちゃんに近づきやすいから

 

エマ「ここを出たら、そこに書いてる場所に来て。待ってる、永遠に。」

環那「気が向いたらね。」

エマ「そう。それでは、ごきげんよう。」

 

 私はそう言って少年院を出て行った

 

 その後はお兄ちゃんを目の前にした刺激で発情して

 

 立ってられなくなってノアにアジトまで運んでもらい

 

 その1日は悶々として過ごした

 

 

 私は決めてる

 

 あのゴミたちの罪は私が償う

 

 お兄ちゃんの全てを私が容認する

 

 そうするのがきっと、愛だから

 

 そうすればきっと、お兄ちゃんは私を__

__________________

 

 ”環那”

 

エマ「お、兄、ちゃ......!」

環那「!」

 

 首を絞めてると、エマは涙を流した

 

 その表情はまるで捨てられる寸前の小動物

 

 一瞬、迷った、この表情の意味は何なのかと

 

 けど、近づいてるのだけは分かる

 

 もう少しだ

 

環那「......」

エマ「まだ、死にたく、ない、よ......!」

 

 エマは途切れ途切れにそう言う

 

 琴ちゃんを殺そうとしといて

 

 そう思う気持ちももちろんある

 

環那(......まだだ、まだ足りない。)

エマ「やっと、会えたの......!少し、でいい、から......ムカついたら、殺しても、いいから......!」

環那「......嘘でしょ?」

エマ「......っ!!」

環那「そんな嘘で俺が容赦するとでも......!!」

エマ「カハ......っ!!!」

 

 首を絞める力を強めた

 

 エマは絶望の表情を浮かべてる

 

 駄目だ、まだ殺せてない

 

 けど、もう少しで殺せる

 

 もう少しだ

 

エマ(分からない、分からないよ、お兄ちゃん......)

環那「......」

 

 エマの姿を見下ろす

 

 極限状態で頭が回り切ってないみたいだ

 

 けど、目的のために苦しんでもらう

 

環那「正直に言えよ。」

エマ「......っと......」

環那「......?」

エマ「ずっ、と、お兄ちゃ、んと、いた、いよぉ......!」

環那「!」

エマ「!__けほ、けほ......っ!!」

 

 俺はエマの首から手を放した

 

 間に合ってくれたみたいだ

 

 よかった、ノア君に殺されなくて済む

 

エマ「な、なん、で......?」

環那「今、俺は天才のエマを殺した。」

エマ「!!」

 

 今回、エマの行動はおかしかった

 

 兄妹喧嘩が始めてから、やる気が感じられなかった

 

 ノア君の動かし方もあまりにお粗末

 

 そこでたどり着いた仮説は、『エマは俺に殺される、もしくは何か気付かれるのが目的』だった

 

 それで、今回の作戦に出たわけだ

 

エマ「私は、お兄ちゃんの大切な人を殺そうとしたのに......なんでそんなこと......」

環那「許したからだよ。俺はね。」

エマ「......それは、義手があるから。」

環那「別に?」

エマ「!?」

 

 そう答えると、エマは目を丸くした

 

 俺はそんな様子を見て溜息を付き

 

 呆れた声で話を続けた

 

環那「そんな打算的な理由なら別に生かしてないよ。てゆうか、あの程度で俺の前で人を殺せるなんて思わないことだよ。けど、さっきの首絞めは琴ちゃんに陰湿なことした分の説教ね。」

エマ「ゆ、許してくれるの......?」

 

 エマは恐る恐るそう聞いてくる

 

 た、態度が変わったら変わったで怖いな

 

 まぁ......

 

環那「許すって言うか、兄ってそういうものでしょ。」

エマ「!」

環那「ほら、琴ちゃんに謝りに行くよ。」

 

 疲れた

 

 ここ最近、頭回しまくってたし不眠症気味なんだよねぇ......

 

 鼻血も出まくるし......

 

エマ「お兄ちゃんは、私を受け入れてくれる......?」

環那「正直、家族の事なんて心底嫌いだけど......まっ、後から生まれた妹は関係ないしね。」

エマ「......!///」

 

 そう言った後のエマの表情は笑顔で

 

 今までの無表情より、こっちの方がいいや

 

 子供は年相応で良い

 

エマ(やっぱり......私はお兄ちゃんの子を産みたい......///)

環那(エマの表情、やっぱりおかしくない?)

 

 そうして、俺はエマを連れて外に出た

 

 なんか、終わったら終わったで色々おかしいけど

 

 まぁ、嬉しそうに笑ってるし、いいかな

 

 ほんと、こういう姿を見たら思うよね

 

 天才はいらないって

 

 

 



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転校生は妹

 俺はエマを家に連れて来た

 

 時間的にはもう夜だし

 

 多分、琴ちゃんも帰ってきてる

 

環那(うーん、どうしようかな。)

 

 俺はまぁ、自身の怒りに関しては許した

 

 けど、琴ちゃんは許すかな

 

 実害が出たのは俺じゃないし

 

環那「__琴ちゃーん、ただいまー。」

琴葉「あ、南宮君!」

環那「なにしてるの?」

 

 家に入るとテーブルの上には料理が置かれてた

 

 珍しい、作ったのかな?

 

 てゆうか、出来たんだ

 

琴葉「え、えっと、頑張って料理を始めたんです!流石に26ですからね!26!」

環那(そんな自分の年齢連呼しなくても。)

 

 ここでいらないこと言ったらヤバいね

 

 うん、ここは静かにしとこう

 

 勇気あるノーコメントってことで

 

琴葉「あなたはどうしたんですか?」

環那「あ、あー、ちょっと話を聞いてあげて欲しい子がいてさ。」

琴葉「話?」

エマ「......私。」

琴葉「!?」

 

 エマは俺の後ろからヒョコっと顔を出した

 

 琴ちゃんは驚いた表情を浮かべ

 

 エマを凝視してる

 

琴葉「み、南宮君、流石にロリコンはマズ__」

環那「いや、そうじゃないから。この子、妹。」

琴葉「妹ぉ!?」

エマ「南宮エマ。」

 

 琴ちゃん、騒がしいな

 

 いや、驚いてるし当たり前か

 

琴葉「それで、なんで私に?」

エマ「......あなたにあの文書を送りつけてたのは私。」

琴葉「え?」

エマ「あのスナイパーも、私が雇った......」

環那「......」

 

 エマは静かな声でそう言った

 

 琴ちゃんは突然の事で固まってる

 

 や、やばいかも

 

エマ「謝っても、仕方のない事......どんな報復でも受ける。」

琴葉「......あれは、本当にあなたが。」

 

 琴ちゃんはそう呟いた

 

 その様子を見て、俺は少し身構えた

 

 正直、琴ちゃんをどうにかするのは簡単だ

 

 けど、これはそういう問題じゃない

 

琴葉「......私は、南宮君を身勝手に傷つけました。だからあれは、報いなのだと思っています。」

環那、エマ「!」

琴葉「だから、私は貴女を責められません。」

 

 琴ちゃんは淡々とそう言葉を連ねる

 

 優しい声音に表情

 

 そのまま、琴ちゃんはエマの頭に手を乗せた

 

琴葉「結果的に南宮君が助けてくれて、関係も修復しましたし、結果的には感謝しています。ですが......」

環那「どうしたの?」

琴葉「少し、彼女には教育が必要ですね。」

エマ(......教育?)

環那「あぁ、そういう事。」

 

 大体、今の言いようで察した

 

 なるほど

 

 確かに、それはエマも足りてないかもしれない

 

 それに確か、エマの扱いは......

 

琴葉「あなたなら出来ますよね?どうせ。」

環那「ははっ、どこで気付いたんだか。まぁいいや。じゃあ、俺はちょっと出て来るよ。」

エマ「お兄ちゃん?」

琴葉「あなたは今日からここに住みなさい。小さな女の子を放っておけませんし。」

エマ「え、ちょっと__」

環那「じゃあ、行ってくるねー。」

 

 俺はそう言って家を出ていき

 

 後ろからは困惑したエマの声を聞こえた

 

 それにしても、こんなあっさり許すなんて

 

 人間って、やっぱり分からないね

__________________

 

 その翌朝、俺はいつも通り学校に来た

 

 昨晩は色々あって大変だったけど

 

 エマは琴ちゃんのと仲良くやっていけそうだし

 

 当面は安心って感じかな

 

環那「......クフフ。」

リサ「なーに笑ってんのー?」

友希那「随分うれしそうね?」

環那「山場1つ超えたからねー。」

友希那、リサ(山場?)

 

 もしかしたら7月までかかると思ったけど

 

 意外と早く終わって燐子ちゃんと祭りにも行ける

 

 いやー、よく頑張ったなぁ

 

リサ「なんかあったの?」

環那「そうだなぁ、今日のホームルームで分かるよ。」

友希那「ホームルーム?」

環那「うんうん!」

 

 きっと、2人は驚くだろうなぁ

 

 どうゆう意味かは別として

 

友希那「環那?」

環那「どうしたの?」

友希那「その、七夕祭りにリサと一緒に行きたいのだけれど......」

環那「あー、ごめん。その日は燐子ちゃんと行くことになってるんだ。」

リサ「!?」

 

 そっかー、友希那もお祭りに行くんだ

 

 昔はあんまり好きそうじゃなかったのに

 

 前向きになったんだねー

 

リサ「め、珍しいね?友希那の誘いを断るなんて。」

環那「まぁ、燐子ちゃんが先に誘ってくれたしね。」

リサ(ほ、ほんとうに環那......?)

 

 リサは信じられないといった目で俺を見てる

 

 いや、確かに酷かったと思うけど

 

 うーん、リサにも今までのお詫びした方がいいかな

 

 実際、蔑ろにしてたって言われたし

 

リサ「?」

環那(リサにはまだ何も出来てないし。)

リサ「どうしたの?」

環那「いや、なんでもないよ。」

 

 幸い、たくさん時間も出来た

 

 色々出来る事もあるだろう

 

 時間をかけて、何かしよう

 

環那「......リサって__」

琴葉「__皆さん!席に着いてください!」

環那「!(琴ちゃん......なんてタイミングで......)」

リサ「せ、席着かないとー。(環那、どうしたんだろ?)」

友希那(環那、色々考えてる時の顔をしてたわね。)

 

 友希那とリサは席に着き

 

 琴ちゃんは教壇に立った

 

琴葉「さて、今日はこのクラスに転校生が来ます。」

 

リサ「え?」

「転校生?」

「春に南宮来たばっかりなのに?」

「てか、高3で転校って珍しくね?」

リサ(ま、まさか。)

友希那(なるほど。)

 

 クラスは少し困惑してる

 

 けど、友希那とリサは俺をの方をちらっと見た

 

 流石は俺の幼馴染

 

 やることなすことお見通しだね

 

 そう、エマは俺と同じように飛び級扱いにし

 

 校長と理事長に言ってこのクラスに捻じ込んだんだ

 

琴葉「入ってきて!」

エマ「__うん。」

友希那、リサ「!?」

 

 琴ちゃんが廊下の方に呼びかけると

 

 羽丘の制服に身を包んだエマが入ってきた

 

 それを見て、2人は驚いた表情をしてる

 

 まぁ、そうだよね

 

エマ「南宮エマ。」

リサ(え、ど、どういうこと!?)

友希那(これは、流石に驚いたわね。)

 

「え、か、可愛い......」

「天使が降臨したぞ!!」

「えー!?お人形みたーい!」

「って、南宮って今......」

環那(うんうん、掴みはバッチリ。)

 

 男子の視線はエマに集中してる

 

 女子も可愛い女の子は大好きみたいだ

 

 いやー、見た目が良いのは得だねー

 

 俺の時とは態度が大違いだ

 

 笑えて来た

 

エマ「好きな人は環那お兄ちゃん......///」

環那、友希那、リサ「......ん?」

エマ「この世で一番、愛してる......///」

環那「......」

リサ「環那!?」

友希那「ど、どういうこと......?」

 

 あー、そう言えば言ってたなー

 

 昨日もずっとこの調子だったし

 

琴葉「え、エマちゃんの席は南宮君の隣なので、どうぞー。」

エマ「うん。」

 

 エマは軽く頷いてこっちに近づいて来た

 

 いやー、掴みバッチリだね

 

 自己紹介って覚えられたもの勝ちだし

 

エマ「お兄ちゃんの膝の上、座っていい?」

環那「いいけど、琴ちゃん以外の先生は許可とってね。」

エマ「分かった。」

琴葉「私にも取ってください!?しかもダメですよ!?」

エマ「えー......」

環那「郷に入れば郷に従え、だよ。」

 

 駄目なものは仕方ないね

 

 俺は別にどっちでもいいけど

 

エマ「それが人間社会の原理?実に窮屈、けど、効率的。」

環那「学校という小さな社会を統率するなら、これ以上の手段はないとさえ思えるね。制服も、それを象徴する物だよ。」

エマ「なるほど、制服にそんな意味が。」

環那「エマはこうことを学ぶんだよ。分かった?」

エマ「うん。」

 

 エマは深く頷いた

 

 いやー、お兄ちゃんらしい事してるねー

 

 俺、結構向いてたりする?

 

エマ「これからよろしくね、お兄ちゃん♡」

環那「はいはい、オッケー。」

エマ「......♡」

友希那(これは......)

リサ(先が思いやられるね......)

 

 こうして、エマがクラスメイトになった

 

 頭は凄くいい子で勉強は役に立たないだろうけど

 

 一般常識とかを学んでもらえれば

 

 まぁ、それでいいかな

 

 

 



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躾け

 エマは大体、俺の想定通りだった

 

 勉強に関しての心配は皆無

 

 けど、体力とか身体能力は低い

 

 まぁ、ほぼあの研究室に引きこもってたしね

 

 あとは人間関係だけど、それも問題ない

 

 美少女ってステータスが有効に働いたみたいだ

 

リサ「それにしても、驚いたよ。」

環那「あはは、ごめんごめん。」

 

 今は放課後で

 

 俺とエマは友希那、リサ、あこちゃんと一緒にCircleに来た

 

 ライブが近くて、練習を詰め込んでるらしい

 

 真面目だねー

 

 もう6月も下旬で暑いのに

 

環那「お待たせー、燐子ちゃーん。」

燐子「あ、南宮君......!」

紗夜「白金さんだけですか?」

 

 部屋に入ると、燐子ちゃんと紗夜ちゃんがいた

 

 紗夜ちゃんは俺を睨みつけてる

 

 こ、怖いなー、軽い冗談なのに

 

環那「じょ、冗談だって。そんなに怒らないでよ、あはは。」

紗夜「別に怒ってませんが。」

環那「目が年齢に触れた時の琴ちゃんと一緒なんだよね。」

リサ(あ、分かる。)

 

 リサが横でうんうんと頷いてる

 

 そっか、リサってあの琴ちゃん見たことあるんだ

 

燐子「み、南宮君......!」

環那「ん?どうしたの?」

燐子「心配、しました......!」

環那「え?」

燐子「急にいなくなって、すごく......心配しました......」

環那「あー......」

 

 燐子ちゃんは目に涙を浮かべてる

 

 どうしよう、心が痛い

 

 心なさそうって言われるけどすごく痛い

 

環那「ご、ごめんね?急を要することだったから。」

リサ(で、デレデレだ。)

紗夜(ま、まさか、一線超えたりは......ないですよね?)

燐子「私の安全を考えてくれたのは......分かってます......けど......」

環那(う、うーん、どうしよう。)

 

 俺は泣いてる女の子が得意じゃない

 

 慣れてないから、どう対応していいか分からないし

 

エマ「私はあなたの安全を侵害しない。」

燐子「え......?あの、どなたですか......?」

エマ「南宮エマ。お兄ちゃんの妹。」

紗夜(妹!?いたの!?)

燐子「妹......?」

 

 燐子ちゃんは首を傾げた

 

 そう言えば、紹介してなかった

 

 いや、今日するつもりで連れてきてたけど

 

エマ「白金燐子。お兄ちゃんを助けてくれた、感謝。」

燐子「は、はい......(?)」

エマ「あなたなら、お兄ちゃんと結婚しても良い。」

環那「?(結婚?)」

燐子「!?///」

リサ「!?」

 

 急に何言ってるんだろ

 

 てゆうか、会話の流れ全無視してるね

 

 いやー......俺っぽい

 

環那「あはは、それは良いね。」

エマ「お兄ちゃんが選ぶこと。勿論、私でもいい。」

環那「血縁者は無理だよ。法的に。」

エマ「じゃあ、子供だけ産ませて。」

 

燐子「......///(み、南宮君と///)」

あこ(りんりん、顔真っ赤だー。)

紗夜(あの、あの子とんでもない事を言ってるんですが?スルーですか?)

 

 なんか、すごい状況になってる

 

 友希那は傍観してるけど

 

 他の皆は慌ててたりしてて大変そうだ

 

友希那「皆、練習を始めるわよ。」

リサ「あ、う、うん!そうだね!!」

友希那「ど、どうしたの?そんな鬼気迫った顔をして。」

エマ「......女心。」

環那「そういうものなの?」

 

 女心、これは分からない

 

 リサにも偶に言われるけど

 

 女にしか分からないから女心なのでは?

 

 うーん、謎が多いな、人間は

 

紗夜「ともかく、練習をしましょう。」

あこ「そうですね!」

燐子「はい......!///」

 

 そうして、Roseliaの練習が始まり

 

 俺とエマは部屋の端っこで練習を見てた

 

 エマが意外と興味深そうに見てて

 

 子供っぽい所もあるなーと思った

__________________

 

 練習が終わって夕方

 

 夏ってこともあって、外はまだ明るい

 

 公園まで来れば、まだ子供が遊んでる

 

環那「おー、若いねー。」

リサ「もー、おじさんみたいだよー。」

環那「あはは、そうかもね__って、あ。」

友希那「どうしたの?」

 

 公園の中を見ると、アイスの屋台があった

 

 そして、後ろには練習後の皆

 

 これは、やることは一つだね

 

環那「ねぇ、みんな。」

あこ「どうしたのー?」

環那「アイス、食べて行かない?奢るよ?」

あこ「ほんとに!?やったー!」

友希那「懐かしいわね、あの屋台。値段も安くて、昔によく使ってたわ。」

紗夜「でも、いいのですか?」

 

 紗夜ちゃんはそう聞いてくる

 

 遠慮深いなー

 

環那「いいよいいよ。じゃ、買ってくるからベンチにでも座ってて。」

エマ「私も行く。」

 

 俺は公園内の屋台に歩いて行き

 

 エマも後ろをトテトテとついてきた

 

 この屋台のアイスは1種類しかない

 

 種類を聞く必要がないのはいいね

 

エマ「1つ100円。リーズナブル。」

環那「素晴らしい事だね。」

おじさん「はい、どうぞ。」

環那「あ、どうも。ありがとうございます。」

エマ「ありがとう。」

 

 おじさんからアイスを受け取り

 

 皆が座ってるベンチの方に歩いて行った

 

 いやぁ、暑い日にはアイスだよねー

 

 持ってる手が冷たくて気持ちがいい

 

環那「__お待たせー。」

あこ「わー!アイスだー!」

友希那「わざわざ、ごめんなさい。」

リサ「ありがと!」

燐子「ありがとう、南宮君......!」

紗夜「いただきます。」

 

 俺は皆にアイスを配り

 

 エマを座らせた後、立ったままアイスを食べ始めた

 

燐子「おいしい......♪」

あこ「練習頑張った甲斐あったー!」

紗夜「そうですね。」

友希那「変わらないわね、この味。」

リサ「確かに♪」

 

 皆、美味しそうにアイスを食べてる

 

 いいねぇ、数年前の青春って感じで

 

 中学生の時はこうだったなぁ

 

 あの時は友希那とリサと俺の3人だったけど

 

エマ「お兄ちゃん、嬉しそう。」

環那「まぁね__って。」

燐子「?」

 

 俺は燐子ちゃんの前にしゃがみ

 

 ゆっくり頬に手を伸ばした

 

リサ「環那!?」

燐子「!?///(あわわわわ!///)」

環那「アイス、ついてたよ?」

燐子「あ、ご、ごめんなさい......///」

 

 燐子ちゃんは顔を真っ赤にしてそう言い

 

 俺は指に着いたアイスを舐めとった

 

燐子「~っ!!///」

環那「どうしたの?」

紗夜(鬼ですね。)

あこ(環那兄、天然過ぎだよ......)

 

 なぜか、エマ以外に変な目で見られてる

 

 え、何かした?

 

 昔、友希那の面倒を見た時と同じことしたんだけど

 

友希那「何を焦ってるの?いつも通りじゃない。」

リサ「友希那だけだよ!」

紗夜「て言うより、湊さんはなぜ慣れてるのですか!?」

環那「昔はずっとこんな感じだったし。」

 

 うん、何もおかしくない

 

 極めていつも通りだ

 

燐子「え、えと、南宮く__っ!!!」

環那「!」

あこ「りんりん!?」

 

 突然、燐子ちゃんの手からアイスが落ちた

 

 様子を見ると、手を抑えてる

 

 何が起きた?

 

 そう考えてると、ある物が俺の目に入った

 

環那(これは......BB弾?)

子供「イェーイ!命中ー!」

エマ「......撃ったのは、あれ。」

環那「......」

 

 俺はエマが指さした方に目を向けた

 

 そこでは3人の子供がこっちを指さして笑ってて

 

 真ん中の1番体が大きい子がエアガンを持ってる

 

 ......あー、なるほどね

 

子供2「おい、あの男、こっち見てるぞ?」

子供3「構うか!撃っちまえ!」

環那「......」

 

 子供は銃口をこっちに向けてる

 

 本気で撃つ気みたいだ

 

 エアガンだから罪に問われない......だろうね

 

 思慮不足にもほどがある

 

子供「へへっ、死ねー!!」

環那「......君、馬鹿でしょ?」

子供「え__」

子供3「うわぁ!取られた!?」

 

 俺は子供からエアガンを取り上げた

 

 触った感じ、結構良いのだ

 

 でも、子供に持たせるには少過ぎたものでもある

 

 これを与えた親の顔が見てみたいな

 

子供2「か、返せよ!」

子供3「そうだそうだ!」

子供「大人げないぞー!」

環那「......今、死ねって言ったよね?」

子供3人「え?」

環那「殺しに来た時点で大人も子供もない。平等に敵なんだよ。」

 

 俺はそう言いながら子供にエアガンを向けた

 

 さて、どこを狙ってやろう

 

 燐子ちゃんは手を打たれた、俺は顔面を狙われてた

 

 まぁ、妥当に行けば......手かな

 

環那「撃ったって事はさ、撃たれることも想定してるんだよね?」

子供「い、いや......」

子供2「当たったら、痛いし......」

環那「燐子ちゃんは当たったけど......自分はダメで人は良いの?」

 

 3人、同じとこ狙おうか

 

 ......いや、違うな

 

 痛みでも学ばない馬鹿はいる

 

 もっと、ダメージがある事を考えよう

 

環那「ねぇ、これ、どこで買ったの?」

子供「え?お、お母さんに誕生日プレゼントで買ってもらった......」

環那「人に向けるなって約束は?」

子供「し、してない......」

環那「他の2人。駄目だと思わなかったの?」

子供2「お、怒られたくないから、弱そうな人狙おうって。」

子供3「楽しくて......」

 

 オッケー

 

 筋金入りのバカ確定

 

 親も同レベルのバカだ

 

 子供くらい、きっちり教育すればいいのに

 

環那「これ、返して欲しい?」

子供「う、うん!」

環那「そっかー......」

 

 馬鹿を躾けるには何が効果的か

 

 それは、ある程度の残る傷を与える事

 

 トラウマを植え付け、制圧する

 

 この状況で最も効果的な手段は......

 

リサ「か、環那?何する気?」

環那「躾だよ。」

 

 俺はそう言ってエアガンを地面に置き

 

 子供の方を見た

 

 いやぁ、楽しみだなぁ

 

 ......バカの絶望する顔

 

環那「ほら、取りに来て良いよ。俺はもう手では触れない。」

あこ(......ん?手では?)

子供2「お、お前が取りに行けよ。」

子供3「そ、そうだ。次は俺の番だからな。」

子供「う、うん。」

 

 持ち主の子供が近づいてくる

 

 俺が近くに立ってるからか、足取りが慎重だ

 

 けど、着実に近づいてくる

 

 3m、2m......

 

子供(ふん、大人なんててこんなもんだ!取り返したらこれで撃ってやる!説教したことを後悔__)

環那「__繰り返すよ。」

子供「え?」

 

 子供が1m前に来た瞬間、俺は足を上げた

 

 どうせ、内心ではやり返すとか考えてたでしょ

 

 もう少し塩らしければ返してあげても良かったのに

 

環那「君、馬鹿でしょ?」

子供「あ__」

Roselia「!!」

 

 俺はその足でエアガンを踏み潰した

 

 バキバキという音と共に俺の足が沈み

 

 それを見た子供は目を丸くし

 

 震えた目で俺を見上げてる

 

子供「え、え、え......?」

環那「言っただろ?敵だって。そんな安易に信じるなんて......猿の方がマシな脳してるよ。」

 

 そう言った後、潰れたエアガンを蹴り飛ばし

 

 近くに置いてあったゴミ箱に入れた

 

 ポイ捨ては良くないしね

 

 ゴミはゴミ箱に......だよ

 

子供「な、何するんだよ!!」

環那「何するはこっちのセリフなんだよ。」

子供「っ!!」

環那「大切な燐子ちゃんにあんな事してくれてさ......あんまり調子に乗ってると、君もあのエアガンと同じようにするよ?」

リサ(や、やば、ガチでキレてるじゃん!)

 

 子供は3人とも泣きそうな顔をしてる

 

 見た感じ、小学校高学年かな

 

 その絶望顔、見てて滑稽だね

 

 驚くほど何も感じない

 

子供「お、お母さんに言いつけてやる!」

環那「どうぞ。その時はこっちも証拠揃えて警察に被害届を提出するから。」

子供「け、警察?バカだろ、子供は捕まらないんだぞ!」

 

 子供は得意そうな顔でそう言った

 

 つくづく馬鹿で滑稽だと思う

 

 まだなーんにも知らないんだから

 

環那「捕まるんだよ......俺みたいに。」

子供「え?」

環那「もっとも、俺は人を半殺しにしたからね?どの程度で逮捕されるかは知らないよ?でも、この世界には君くらいの年でも死刑にされた子供だっているんだ......」

子供「え、そ、そんな......」

環那「あのエアガンが本物ならどうなってたか......きっと今頃、燐子ちゃんは手から血が大量に出て、もしかしたら駄目になってたかもしれない。そして......俺も君を殺してたかもしれない。」

子供「あ、ああ......!!!」

環那「分かった?人殺し君。よかったねぇ?殺されなくて。」

子供「うぁあああああ!!!」

 

 子供3人は走って逃げていった

 

 軽い脅しだったけど、効果覿面みたいだ

 

 エアガン潰したのは示談金って事にしとこ

 

 親連れてきたら、携帯に録音したこれを使う

 

 どっちみち、俺が負ける未来はない

 

環那「大丈夫?燐子ちゃん。」

燐子「え、だ、大丈夫です。」

 

 俺は燐子ちゃんの手を見た

 

 少しだけ青くなってる

 

 あの子供、マジでさ......

 

紗夜「さ、流石に壊すのはやりすぎなんじゃないですか?」

環那「ああいうのは反省しないからね、今のうちに躾けておいた方がいいんだよ。」

 

 燐子ちゃんを傷つけたのはムカつくなぁ

 

 別に俺なら許したのに

 

 つくづく馬鹿だね

 

友希那「かなりの剣幕だったわね。あんなに怒った環那、久し振りに見たわ。」

あこ「だよねー。あこ、すごく怖かったもん!」

環那「ごめんごめん。頭に血が上っちゃって。」

エマ「でも、相手を制圧するには効率的。流石、お兄ちゃん。」

 

 落ち着かないと

 

 取り合えず、今は燐子ちゃん

 

 手は少し痣があったけど、大丈夫かな

 

環那「燐子ちゃん、何か変な痛みとかがあったら一応病院に行くんだよ?あれ、結構良い奴だから威力も強いし。」

燐子「は、はい......///(手を......///)」

環那「あと、もしあの子供の親から報復なんかがあれば俺に言って。さっきの子供の発言、全部携帯で録音してるから。」

紗夜(用意周到すぎるでしょ!)

あこ(りんりん撃たれたのがそんなにムカついたんだ。)

 

 ほんと、ヤンチャの意味をはき違えないで欲しい

 

 マジで次来たら許さない

 

 徹底的に追い詰めてやる

 

燐子「心配してくれて、ありがとう......///」

環那「とんでもない。燐子ちゃんは大切な人だから。むしろ、撃つ前に潰せなくてごめんね。」

友希那「今日は解散しましょうか。」

環那「そうだね。帰ろうか、エマ。」

エマ「うん。(お兄ちゃんのあの表情......興奮した///)」

 

 それから、皆それぞれ帰路についた

 

 俺はエマと一緒に琴ちゃんの家に帰って

 

 いつも通り夕飯にお風呂、洗面を済ませて、1日が終わった

 

 

 



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契約

 ”リサ”

 

 7月に突入した

 

 もう夏って感じで太陽はギラギラ輝いてる

 

 あたしは夏用に買った服を着て

 

 いつも通り、バンドの練習に向かってる

 

リサ(今日はクッキーも焼いたし、皆に食べてもらおっと♪)

「__君、今井リサさんだね。」

リサ「え?」

 

 家を出てすぐ、あたしはおじさんに話しかけられた

 

 知らない人、と思った

 

 けど、マジマジと見ると、見覚えがある事に気が付いて

 

 それが誰かに気付いた瞬間、背筋が寒くなった

 

リサ(か、環那の、父親......!)

 

 この人は南宮源蔵

 

 父親が経営する大企業を継いで、結構優秀な人だって聞いてる

 

 けど、正直、私はこの人が嫌い

 

 ......だって、環那を捨てた人だから

 

源蔵「少し質問しても良いか。」

リサ「は、はい。(なんだろ。)」

 

 てか、なんでここにいるの?

 

 聞いた話じゃ、環那が捕まってから引っ越したはず

 

 自分の両親が近いって言っても、なんでいるの?

 

源蔵「あれが退所した事は聞いている。どこにいるか教えて欲しい。」

リサ「......?」

 

 あたしは頭が真っ白になった

 

 なんで、今さら環那のことを?

 

 昔の環那の事を思い出して、イライラしてきた

 

リサ「......あたしは知りません。」

源蔵「嘘だな。君の家にあれが入って行くのを見たと父に聞いている。」

リサ「......っ。」

 

 見られてたんだ、あれ

 

 もっと警戒しとくべきだった

 

 あたしのせいじゃん......

 

リサ「仮に知ってるとして......環那に何する気ですか?」

源蔵「君には関係ない。ただ情報だけを提供すればいい。」

リサ「大切な幼馴染なんで、理由も分からないまま売れないです。」

源蔵「......」

 

 高圧的な目

 

 けど、ここで屈したら駄目

 

 この人に言ったら環那が何されるか分かんないし

 

源蔵「......妻が倒れた。」

リサ「はい?」

源蔵「病気で、それを治すにはドナーが必要だ。」

 

 だから居場所を教えろ

 

 そう言わんばかりの顔をしてる

 

 腹が立った

 

 この人、本気で言ってるの?

 

 環那にあんな事したのに?なんで助けると思ってんの?

 

リサ「......助けないですよ、環那は。」

源蔵「関係ない。親の意思は子供の意思。血縁上の親の言う事は絶対だ。」

リサ「......っ!!」

 

 ぶん殴ってやりたい

 

 可能ならいっそ殺してしまいたい

 

 何なのこの人?頭おかしいんじゃないの?

 

源蔵「さぁ、理由は言った。居場所を教えろ。」

リサ「......」

源蔵「あれが親の役に立つ。一度捕まったクズが挽回するチャンスだ。君がそれを奪うのは可哀想だと思わないかね?」

 

 あ、ダメだ

 

 自分が偉いって事を一切疑ってない

 

 いや、実際偉いんだろうけど

 

 それでも、この人の言ってることはおかしい

 

リサ(......ダメだ、逃げないと。)

環那「__おーい、リサー?」

リサ「え、か、環__」

源蔵「現れたか。」

環那「......って。」

 

 ヤバい

 

 そんな言葉が頭によぎった

 

 この状況で環那の登場、目の前にはあの親

 

 絶対に碌なことにならない

 

環那「リサ......」

リサ「か、環那!今すぐ逃げ__」

環那「まさか、その人、知り合い?」

リサ「え?」

源蔵「......」

 

 環那は首を傾げながらそう言った

 

 え、マジ?

 

 これ本気で言ってんの?あんなに恨んでたのに?

 

源蔵「実の親の顔も忘れるとは、家計の恥だな。」

環那「あはは、そんなに怒らなくてもいいじゃん☆冗談だし!」

リサ(さ、流石に冗談だった......)

 

 あたしは肩を落とした

 

 まさか、この状況でこんな冗談言うなんて

 

 図太いと言うか、おかしいと言うか

 

 なんか拍子抜けしてしまう

 

環那「で、何の用で来たの?大嫌いな俺の所に。」

源蔵「お前の内臓を渡せ。」

環那「内臓......はないぞー、ってね☆」

源蔵「......」

リサ(嘘でしょ!?)

 

 つ、つまらない

 

 表情を見る限り、完全にふざけてる

 

 環那のお父さんはずっと真顔でいる

 

環那「で、内臓って、なんでまた?」

リサ「......?」

源蔵「お前の母親が倒れた。お前には助ける義務がある。」

環那「ほうほう、なるほどなるほどー。」

 

 環那はいつものテンションだ

 

 いや、ちょっと煽ってるかも

 

 まぁ、心底どうでもよく思ってるんだろうけど

 

環那「で、どこの臓器が必要なわけ?」

源蔵「腎臓だ。」

環那「へぇ。」

 

 環那は生返事

 

 けど、ちょっと違和感がある

 

 不思議なくらいに怒ってない

 

 むしろ、恐ろしいほど落ち着いてる

 

環那「適合してるかしてないか、それすら分かってないんでしょ?交渉はそれからでしょ。」

源蔵「......交渉?おかしなことを言うな。」

環那「そんな事言っていいの?別にこっちは逃げようと思えば逃げられるんだよ?」

源蔵「......今週の土曜日。ここの近くの大病院だ。逃げるなよ。」

 

 環那のお父さんは高圧的な態度のままだ

 

 人にものを頼む態度ではない

 

 いやでも気になる

 

 なんで環那は平気そうにしてるの?

 

環那「でさ、適合したら何してくれんの?」

源蔵「......」

環那「流石に、タダで臓器よこせとか、大企業の社長様がいう訳ないよね__!!」

リサ「環那!?」

 

 環那が笑いながら話してると

 

 南宮の祖父母の家の方から野球のボールが飛んできた

 

 壁に当たった音的に本物

 

 人に当たったら冗談じゃ済まない

 

環那「最近、話してる途中に物が良く飛んでくるねー。この前はエアガン、今日は野球のボールか......って。」

?「はぁ......はぁ......!」

環那「あれ、君は......」

リサ「あっ!」

 

 ボールが飛んできた方を見ると

 

 環那が中学に行った時に話してた男の子がいた

 

 男の子は少し息が乱れてて

 

 血走った眼で環那の事を睨んでる

 

源蔵「拓真君、どうかしたのかね。」

拓真「そこの、クソ男......!!」

環那「君は......あぁ、あの時のいい子か!久しぶりだね!」

拓真「笑ってんじゃないぞ!」

 

 男の子は環那に近づいて捲し立てた

 

 確か、環那が正義感の強い良い子だって言ってた

 

拓真「お前、本当にダメ人間だな!!」

環那「へぇ、どのあたりが?」

拓真「どのって、自分の母親を助けるのに見返りを求める辺りだよ!育ててもらった親を助けるなんて、お願いしてでもする事だろ!!」

環那(うわぁ、いい子だ。)

 

 環那は感心したような表情を浮かべてる

 

 本当に、この子はいい子だ

 

 だからこそ、不憫に感じてしまう

 

環那「俺の事、どういう風に教えたの?」

源蔵「ありのまま、だ。」

環那「じゃ、自分の汚点は隠したんだね。」

拓真「あ?なんだお前!春日先生の事と言い......最低だぞ!」

環那「春日?(あぁ、アバズレか。)」

拓真「あの後、春日先生は教師を辞めた......何も悪い事をしてないのに......お前のせいで......!!!」

 

 男の子は怒気を含んだ声でそう言う

 

 可哀想だ

 

 信じてるものすべてが間違ってる

 

環那「......仕方ない。」

拓真「!」

環那「検査代さえ支払ってくれるなら、検査は無償で受けるよ。」

源蔵「......いいだろう。条件を飲む。」

環那「じゃあ、契約成立だ」

源蔵「......」

リサ(え、ど、どういう事?)

 

 環那のお父さんはそれだけ聞くと去って行った

 

 やっぱり、違和感を感じる

 

 今日の環那、おかしい

 

拓真「逃げんなよ、クズ男!!」

環那「逃げないよ、冴木拓真君。契約は絶対だからね。」

拓真「ふんっ!!」

 

 男の子も去って行った

 

 環那は軽く手を振りながら見送って

 

 少しして、あたしの方を向いた

 

 ”環那”

 

環那「いやー、災難だったねー。」

 

 俺は軽い声音でそう言った

 

 朝からあれに絡まれるなんて

 

 リサって本当に可哀想だね

 

リサ「か、環那?いいの?あんな約束しちゃって?」

環那「ん?そんなにヤバい約束した?」

リサ「だって、臓器の提供って......」

 

 リサは言いずらそうに口をつぐんでる

 

 あー、そういう事か

 

環那「あはは、リサは面白いね。」

リサ「面白くないよ!環那に何かあったら......」

環那「大丈夫大丈夫!」

リサ「!///」

 

 俺はリサの頭を撫でた

 

 サラサラで柔らかい感触

 

 いい髪してるな~

 

環那「俺を信じて。」

リサ「い、いや、信じてないわけじゃないけど......///」

環那「じゃあ、練習行こっか。俺、迎えに来たんだ。」

リサ「う、うんっ///」

 

 そんな会話の後、俺とリサは歩きだし

 

 Roseliaの皆が待ってるCircleに向かった

 

 それにしても、リサの将来心配だなー

 

 いつか、詐欺に遭いそうで

 

 まっ、そこは俺がどうにかするけど

 

 

 

 



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異常者

 土曜日

 

 いつもなら別にどうでもいい曜日だけど今日は違う

 

 俺は今日という日を楽しみにしてた

 

 楽しみ過ぎて眠れなくなりそうだった

 

エマ「__お兄ちゃん。」

環那「あ、エマ。おはよう。」

エマ「うん、おはよう。」

 

 早起きしてリビングのソファに座ってるとエマが歩いてきた

 

 その手にはタブレット端末が握られている

 

 頼んでたの、準備出来てたみたいだ

 

エマ「これでいい?お兄ちゃん。」

環那「......うん、完璧。ありがとう、エマ。」

エマ「ううん、お兄ちゃんの頼みだから......♡」

 

 タブレットに表示された内容を確認し

 

 その後にエマの頭を撫でた

 

 エマは嬉しそうに目を細めてる

 

エマ「それにしても、滑稽。あんな仕打ちをしたお兄ちゃんを頼るなんて、無様そのもの。」

環那「いやいや、まだ早いよ。」

エマ「!」

 

 そう、まだ我慢だ

 

 まだあいつらをあざ笑うには早い

 

 もっと上げられる

 

 その時まで、もう少しの我慢だ

 

環那「もっといいものが見れるさ。きっとね。」

エマ「やっぱり、私も行きたい。」

環那「ダメだよ。エマが来たら計画が成立しない。」

エマ「でも......」

 

 そう、全ては計画のもとに動いてる

 

 今日の事もこの先の事も想定内

 

 俺が出所した時点で始まってるんだ

 

環那「もう少し待ってて。」

エマ「お兄ちゃんが言うなら......♡」

環那「いい子だね。」

 

 俺の計画が完遂する日もそう遠くない

 

 今日はただの計画の過程に過ぎない

 

 けど、美味しい部分であるのは間違いない

 

環那「そう言えば、冴木拓真って子を覚えてる?」

エマ「あぁ、いたかも、そんな奴。あの母親の姉の子供で、私の2つ上。」

環那「じゃあ、中3なんだね。」

 

 いたかもって......本当に興味なしなんだね

 

 まぁ、俺達とは正反対の人間だし、それもそうかな

 

環那「さて、そろそろ行こうかな。」

エマ「うん。気を付ける......こともないね。」

環那「あぁ、失敗はありえない。」

 

 俺はそう言い、軽く手を振りながら家を出た

 

 家を出た後もしばらくエマは見送っててくれて

 

 いい気分のまま病院に向かえた

__________________

 

 ここから1番近い大病院

 

 一定以上のお金を持ってないと入りずらい

 

 なんとなくそんな雰囲気のある場所だ

 

 俺もここに入ったのは初めてだ

 

環那「~♪」

源蔵「__来たか。」

環那「まぁ、待ち合わせ10分前に来たのにいてくれるなんて!待たせちゃった?」

 

 俺はふざけて女みたいな口調でそう言った

 

 すると、父親は顔をしかめ

 

 冷たい視線を俺に向けて来た

 

源蔵「......早く行くぞ。」

環那「はいはい。冗談くらい笑って流してよ。」

 

 俺は軽い口調でそう言いながら

 

 父親の後ろについて病院に入って行った

 

 さて、遊びの始まりだ

__________________

 

 病院の中は相変わらず薬品のにおい

 

 忙しなく仕事をしてる看護婦

 

 医療現場はいつでも忙しそうだ

 

環那「__おぉ。」

拓真「......なんだ、本当に来たのかよ。」

環那「久しぶりだね♪」

「あれが、南宮環那か。」

?「か、環那......」

環那「!」

 

 病室に入ると何人かの親戚っぽい人

 

 そして、ベッドの上

 

 病気のせいか少し老け込んでるけど、面影がある

 

 その姿を見て、俺は鼻で笑った

 

環那「ははっ、久し振り。元気そうで......何より♪」

?「......」

 

 こいつは南宮椿姫

 

 俺の実の母親で社長夫人

 

 外見は老け込んでも優れてるのは分かる

 

 まぁ、お飾りにはもってこいって感じ

 

椿姫「......これが、元気に見えてるのかしら。」

環那「あぁ、見えないさ。皮肉♪」

拓真「お前な......!」

 

 おっと、拓真君が怒ってるな

 

 本当に正義感強いよねー

 

 何食べて育ったんだろ?

 

 怪しいお薬とか?

 

柳「拓真、大人しくなさい。」

拓真「でも、母さん!」

柳「......もう少しの辛抱よ。」

 

 今、何か耳打ちしてたな

 

 何言ってるのかは知らないけど

 

 てか、重要でもないか

 

源蔵「さっさと検査を受けろ。」

環那「分かってるって。そこの看護婦さんについて行けばいい?」

源蔵「あぁ。」

環那「はいはーい。」

 

 俺はそう返事して看護婦さんの方に歩き

 

 その途中、拓真君の耳元に口を寄せ

 

 ゆっくり小声で話しかけた

 

環那「......教えてあげるよ。」

拓真「なに、なんのことだ__」

環那「じゃあ、行ってきまーす。」

 

 さて、まずはドナーの検査を楽しもう

 

 滅多に受けるものでもないし、いい経験だ

 

 俺はそんな感じにルンルンで病室を出て行った

__________________

 

 検査は結構数が多いらしい

 

 血液検査、尿検査、レントゲン、新機能検査とか

 

 あげて行けばキリがない

 

 中には時間のかかる検査もあって、割と冗談じゃないレベルの時間が過ぎてる

 

 今は問診ってのをしてて

 

 目の前には優しそうな顔の医師が座ってる

 

医師「__なるほど、分かりました。」

環那「ドナーって大変なんですねー。こんなに質問しないといけないなんて。」

医師「やはり、リスクのある手術です。こちらも慎重にしないといけない。」

 

 この人、いい雰囲気を身に纏ってる

 

 プロ、亀の甲より年の功って感じ

 

 流石に高い病院で医師をしてるだけある

 

医師「君は、とても親孝行なんだね。」

環那「そうですかねー?」

医師「あぁ、勿論。折角の休日なのに家族のためにこんな時間を使える、心が優しい証拠だ。」

環那「ははっ、お上手ですねー。そんな事言われたら、臓器の1つくらい差し出しちゃいそー。」

医師「あはは、そんなに気にしなくてもいい。君はまだ若い。ドナーは本人の意思が優先されるし、怖いなら断るのも勇気だ。」

環那「!」

 

 うん、本当にいい医師だ

 

 物腰柔らかで、気遣いも十分

 

 素晴らしい

 

環那「......じゃあ、素晴らしい医師であるあなたに1つ。」

医師「なにかな?」

環那「俺の母親がいる病室、誰か騒ぎを収める人を呼んでおいた方がいいですよ。」

医師「......?」

環那「病院に対する配慮ですよ。失礼しました。」

 

 俺は良しに目配せしてから部屋を出て行った

 

 部屋を出て行った後、医師が何か話してるのが聞こえた

 

 やっぱり、理解のある人は素晴らしい

__________________

 

 検査を終え、病室に戻って来た

 

 そこにはさっきいた親戚+違う親戚がいた

 

 広い病室と言っても圧迫感が凄い

 

 ちょっと呼び過ぎじゃないかなー?

 

環那「はい、検査の結果。」

源蔵「......」

 

 俺は父さんに検査結果を渡した

 

 結果は『適合』

 

 流石に実の親子って所かな

 

 その結果を受け、周りの親戚は声を上げ始めた

 

「や、やった!」

「これで椿姫さんは助かる!」

「良かったわ!」

椿姫「えぇ......!自慢の息子です......!」

環那「......」

 

 皆、類を見ないほどいい笑顔をしてる

 

 『勿論提供してくれる。』

 

 そんな言葉が何となく浮き出て見える

 

 あー、どうしよう......お腹痛い

 

 笑いが、笑いが漏れる......!

 

環那「......クフフ。」

親戚一同「!!」

環那「あ、いっけなーい☆笑っちゃった☆」

 

 俺が笑いを漏らすと、親戚全員こっちを見て来た

 

 笑いすぎて目尻に涙が溜まってる

 

 それを拭い、俺は親戚の方に向き直した

 

環那「契約はここまでね、じゃ。」

椿姫「え......?」

 

 そう言い放つと、多種多様な反応を見せた

 

 驚きで震える奴、困惑してる奴、状況が掴めてない奴

 

 そして、怒りに震えてる奴

 

「ど、どういう事だ!」

環那「だから、そこの父さんとの契約は検査を受けて満了したんだ。もうここに居る理由はないよね!」

源蔵「......そう言う事か。」

環那「嘘はついてないでしょ?検査『は』無償で受けるって言っただけだし。」

 

 こうなれば俺の優位は動かない

 

 あの契約至上主義の社長にとって契約は絶対

 

 たとえ口約束でも、それは適用される

 

 まぁ、人はそれを融通が利かないって言うんだろうけど

 

「て、適合したら提供するのが筋だろう!」

「そうよ!しかも相手は母親でしょ!?」

「恩を返すときでしょ!」

環那「恩?不思議な事を言うね。」

「は?」

環那「あんた達が1番分かってるんじゃないのー?」

 

 そう言うと、全員ハッとした表情をした

 

 それはそうだ

 

 だって、4歳から誰も俺に会った事ないもんね

 

 恩なんて無いのは全員分かってることだ

 

 ......1人を除いて

 

拓真「この野郎!」

環那「わお、すごいパンチー。」

柳「拓真!?」

 

 俺の目の前をすごいパンチが通過した

 

 風を切り裂き、地を割る......程でもない

 

 けど、結構速いし痛そうだ

 

環那「ねぇ~、空手をやってる子がそんな事しても良いの~?」

拓真「っ!な、なんで知ってる!」

環那「君の事は調べさせてもらったよ。文武両道で学校では生徒会長、教師からの評価も高く、生徒人気も高いらしいね。」

 

 これはあのおじいちゃんから聞いた

 

 中々使える情報源だった

 

 これからも有効に使ってやろっと

 

環那「それに、春日春希のセ〇レでしょ?」

拓真「!?」

柳「え......?」

拓真「そ、そんなのじゃない!」

 

 拓真君は大声でそう言った

 

 もちろん、こんな事は知ってる

 

 あーあ、単細胞は楽だなー

 

 発言を引き出すのが簡単だ

 

拓真「先生とは、真剣に付き合ってるんだ!!」

柳「た、拓真......?」

環那「あぁ、知ってるよ。ラブラブだったもんねー。」

拓真「っ!(しまった!!)」

 

 頭脳明晰なのに......

 

 まっ、所詮は勉強だけの人間なんでしょ

 

 頭の使い方をちゃんと学んでない

 

環那「君の事だし『僕が先生の事を守ります!』とか言ってたんでしょ?」

拓真「......!」

柳「ほ、本当なの......?」

環那「ほら、証拠。それはタダであげるよー。」

 

 俺は準備してた写真を渡した

 

 そこにはもうラブラブな2人の姿が写ってる

 

 なんでこんなの持ってるかと言うと、盗撮してた生徒がいて、貰ってきた

 

柳「う、嘘......」

環那「年上趣味は否定する気はないけど......女の趣味は悪いね。」

 

 って、冗談はこの辺にしとこ

 

 こんな遊びには何の意味もないし

 

 軽く教育でもしてやろ

 

環那「ねぇ、君は春日の正体を知ってる?」

拓真「は......?」 

環那「教えてあげようか?今でも関係を続けてる君には知る権利がある。」

 

 俺は朝に貰ったタブレット端末にある画像を表示

 

 それを拓真君の前に出した

 

 拓真君は見る事をためらって目を背けてる

 

 けど、数秒して、意を決したように画面を見た

 

拓真「っ!!?」

 

 すると、拓真君は一気に顔を青くした

 

 俺が映したのは校長と春日の行為中の画像

 

 それを見せたまま、話を始めた

 

環那「俺の幼馴染のイジメを揉み消すために親以上に年齢が離れたおじいちゃんに股を開いたんだ。つまり、君の春日先生はおじいちゃんの中古品なんだよ。かわいそ。」

拓真「イジメを、揉み消す......?」

環那「......まぁ、そういう反応するよねぇ。」

 

 拓真君は小学生の時にイジメられてたらしい

 

 結局、自然消滅で解決したらしいけど

 

 自分の好きな人がそんな事してたらショックだろうね

 

拓真「そ、そんな、ありえない......」

環那「証拠はここにあるよ。」

拓真「っ!」

 

 俺は拓真君のポケットに写真を入れた

 

 これはさっきの画像だ

 

 使い道は、本人次第

 

 問い詰めるもよし、他の用途も良しだ

 

環那「いらないならいいよ?前にも言ったように、自分の信じたいものを信じればいい。」

拓真「......」

環那「そう言った絶望や後悔が、君を少しずつ大人にしてくれる。」

拓真「......!!」

柳「拓真!」

 

 拓真君は走って病室を出て行った

 

 彼はとてもいい子だ

 

 だから、これから絶対に絶望する

 

 泣き叫んで、声も枯れて、人を信じられなくなる

 

 まっ、俺はあの子が嫌いだしいいんだけど

 

柳「な、なんで、こんな事に......」

環那「そんな事はどうでもいい。じゃ、俺も用が済んだし帰るねー。」

源蔵「......待て。」

環那「だよねー。」

 

 部屋を出て行こうとすると父さんに止められた

 

 まぁ、逃がしたくはないよねー

 

 契約が切れたら更新するまで

 

 利用価値のあるものは利用する精神だろうね

 

源蔵「契約を更新する。お前は臓器を提供しろ。」

椿姫「そうよ......母を助けなさい。生まれた価値をつけてあげる。」

「そうだ!」

「望まれてない子供だろ!」

「今更惜しむ命でもないくせに!」

 

 色々言われてるなー

 

 流石、自称天才家系

 

 命に対する差別意識がすごーい

 

 こういうのを選民思想って言うんだね

 

環那「皆、おかしなこと言うね?」

「どういうことだ?」

環那「腎臓の移植、これは確かにリスクはある。けど、確実に死ぬわけじゃない。」

源蔵「......!」

環那「なんで、命についての話が多いのかな?」

 

 俺は笑いながらそう質問した

 

 親戚全員、焦ったような表情を浮かべてる

 

「そ、それは、なぁ?」

源蔵「......お前が知る必要はない。さっさと同意書を書け。」

環那「やーだね、それ、心臓移植でしょ?」

源蔵、椿姫「......!!」

親戚一同「!!」

 

 そう言うと、全員が凍り付いた

 

 バレない、とでも思ってたのかな?

 

 そんなの普通にあり得ないんだけど

 

環那「心臓ドナーの条件は脳死判定された健康な心臓。大方、体よく俺を処分してババアも回復でばんざーい!って感じでしょ?」

椿姫「ば、ババア......!?」

環那「浅いんだよ、思考が。天才家系なんだろ?もっと上手くやれよ。」

 

 あー、演技するの疲れた

 

 父さんとか母さんとか、内心で呼ぶのもキツかった

 

 ......楽しい、気持ちい、清々しい気分だ

 

源蔵「書け。親の意思は子の意思、お前に拒否権はない。」

椿姫「そうよ。あなたなんて死んだほうがいい人間なの。せめて私の役に立って死んで頂戴。」

「産んでもらったんだ、大人しく提供しなさい。」

「喜ぶべきことよ?クズが心臓を渡すだけで親を助けたって言う名誉を貰えるんだから。」

 

 親も親戚も口々にそう言ってくる

 

 あー、うるさいなー

 

 どんなに唯我独尊な連中なんだか......

 

 まぁ、今はそれに感謝してるけど

 

環那「......クフフ。」

源蔵「......何がおかしい。」

環那「いやー......こんな簡単にそんな言葉を吐いてくれるなんてね。」

源蔵「......!」

 

 俺はポケットから携帯を出した

 

 その画面には録音アプリが表示されており

 

 それを見て全員、今の状況を理解したらしい

 

環那「クフ、あはは!馬鹿だねぇ!学歴自慢の家系が!」

 

 あ、学歴しかないのか

 

 そんな言葉を口走りそうになったけど

 

 逆上されたら面倒なので我慢我慢

 

環那「知ってる~?ドナーって兄弟でも4分の1、それ意外だと数百~数万分の1なんだって~。低いね~。」

源蔵「......お前が提供すれば済む話だ。」

環那「なんでですか~?俺はそんな事のために来たんじゃないんですよ~。」

 

 そう言った後、俺はババアを指さした

 

 さぁ、そろそろお察しだろ

 

 だったら、もう攻めていこうかな

 

環那「俺はねぇ、死ぬ前の無様な姿を見に来たんだよ!あはは、ざまぁないねぇ!無様だねぇ!」

源蔵「貴様......!」

環那「手を出すならいいけど、相手を考えた方がいいよー?やろうと思えば、あんたの会社を潰せる証拠をメディアや警察にでも流せるんだよー?」

 

 俺はタブレットと携帯をチラつかせる

 

 この中にはさっきのこいつらの発言

 

 それに加え、昔の俺への虐待の証拠も入ってる

 

 仮にこれを壊されても別端末に保存してる

 

 つまり、俺の優位はほぼ動くことはない

 

椿姫「う、うぅ......!!」

環那「残念だったねぇ、少しでも恩を売ってればよかったのに。」

柳「つ、椿姫......な、なんでこんなことに......」

 

 あー、楽しい

 

 ババアの命は俺の手のひらの上

 

 いや、もう地面に放り捨てて足蹴にしてる

 

環那「残りの余生、精々自分の行いを振り返りながら死ねば~?まっ、どっちにしろ行くのは地獄だから。」

 

 俺はそう言ってドアの方に歩いた

 

 もうここに用はない

 

 いやー、馬鹿の相手は疲れるねぇ

 

「この、異常者!」

「お前は人間じゃない!死ね!」

環那「クフフ、俺がいつ自分を人間って自称した?」

「は......?」

環那「人の心なんてとっくの昔に捨てた。残念ながら、欠落してるんだよねぇ!だから俺は犯罪者なんだよぉ!」

 

 俺はそれだけ言い残し病室を出た

 

 さぁ、これで1人はほぼ死んだ

 

 もう満足だ

 

 家に帰って琴ちゃんとエマにご飯を作ろう

 

 今日は、いつもより美味しく食べられそうだ

 

 

 



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憩いの場で

 今日は7月6日

 

 つまり、七夕祭りの前日だ

 

 今、俺はとんでもなく悩んでいる

 

環那「......ふむ。」

 

 どの程度の準備をするのが適切なのか

 

 水分補給用の水、小型扇風機、ハンカチ、ティッシュ

 

 熱中症対策の塩飴

 

 後は座ったりするとき用に敷物とかかな

 

琴葉「__南宮君?どうかしましたか?」

環那「ん?あぁ、明日お祭りに行くから、それの準備。」

琴葉「お祭りですか。あなた、そんなのに興味あったんですね。」

環那「お祭りは嫌いじゃないよ。賑やかなのは悪くないし。」

 

 そう、祭りは良い

 

 あの浮かれた空気感は嫌いじゃない

 

 老若男女楽しめる行事と言うのも貴重だし

 

琴葉「まぁ、私たち教師はそれの見回りに行かないといけないんですけどね......」

環那「へぇ、そうなんだ。」

琴葉「しかも、去年通りに行けば七夕祭りの後すぐに夏祭りですよ......祭りが好きすぎます!」

環那「教師は大変だね~。」

 

 見回り、必要なのかな?

 

 別になくてもどうにかなると思うけど

 

 これも、統率への信念から来るものなのかな

 

環那「うーん。」

琴葉「?」

環那「よしっ、夏祭りは琴ちゃんと行こう。」

琴葉「えぇ!?///」

 

 俺は思いついたことを口に出した

 

 琴ちゃん、どう考えても働きすぎだし

 

 その日は俺が休暇って事にして連れて行こう

 

琴葉「そ、そんな急に......///」

環那「働き詰めだし、それも良いでしょ。これは決定事項だから、時期に校長か理事長から命令されるよ。」

琴葉「あなたはパワハラ上司ですか!?」

環那「裁判上等。問題ナシ。」

琴葉(この人、なんで変な行動力はあるんですか......!?///)

 

 よし、これで夏祭りの予定は埋まったね

 

 働き詰め教師を連れ出してやろ

 

琴葉「......それで、なんですが。」

環那「?」

琴葉「この準備、持っていくんですか?」

環那「うん、勿論。何があるか分からないし。」

琴葉(経験がないからわかりませんが、完璧じゃないですか?)

 

 まぁ、準備はこれくらいでいいと思う

 

 不測の事態は俺が対処するし

 

 パターンもいくつかはじき出してる

 

 うん、大丈夫だ

 

環那「じゃあ、俺は寝るよ。琴ちゃんも、明日は夕方までは何もないでしょ?」

琴葉「はい、なので、私も寝ます。」

エマ「__じゃあ、私はお兄ちゃんと寝る。」

琴葉「エマちゃん!?いつのまに!?」

環那「別にいいよ。」

琴葉「あなたはすぐに承諾しない!」

エマ「やった......♪」

琴葉「全く......」

 

 琴ちゃんはそう言いながら部屋を出て行って

 

 俺とエマは一緒のベッドに入った

 

 それから数学の話とか、法則の話を1時間くらいして

 

 ある程度疲労を感じて眠った

__________________

 

 俺は基本、デートに気負ったりしない

 

 その辺りのことはリサに仕込まれて来てる

 

 だが、今日はおかしい、いつも違う

 

 なぜなら......

 

環那(__待ち合わせ、1時間前に来てしまった。)

 

 俺はいつも、待ち合わせ5分前に来るようにしてる

 

 でも、なぜか落ち着かなくて1時間前に来た

 

 滅多なことじゃこんな事ない

 

 どういうことだ?

 

環那「......」

 

 最終確認をしよう

 

 燐子ちゃんは浴衣で来ると言ってた

 

 つまり、下駄で来るって事だ

 

 だから歩くペースとか場所をしっかり考える

 

 こまめに体調をチェックし、悪そうなら即休憩

 

 要望は可能な限り全て叶える

 

 よし、これでオッケーだ

 

環那(とは言っても、後1時間。何をしようか。)

燐子「__あっ......///」

環那「え?」

 

 声のした方を見ると、紫で花柄の浴衣を着て、綺麗な黒色の布を羽織った燐子ちゃんが立っていた

 

 俺がいる事に驚いてるのか口元を抑え

 

 顔を真っ赤にしてこっちを見ている

 

燐子「な、なななんでここに......!?///」

環那「あはは、落ち着かなくて早く来ちゃったよ。」

燐子(じ、じゃあ、楽しみにしてくれてたんだ///)

 

 ここは俺が恥ずかしい奴って事にしておこう

 

 『燐子ちゃんも1時間前だ』とかは言わないよ

 

 デリカシーって、大事

 

環那「あー、えっとー......行こっか。もう屋台も出てるし。」

燐子「はいぃ......///」

 

 そうして、俺と燐子ちゃんは予定を繰り上げ

 

 お祭りの会場に行くことにした

__________________

 

 祭りの会場はもう屋台が出ていて人混みも出来てる

 

 昔に数回来たけど、あんまり変わってない

 

 いい感じに活気があって、笑顔で溢れてる

 

燐子(ひ、人多いなぁ......)

環那「燐子ちゃん、こっちにおいで。」

燐子「?」

 

 俺は燐子ちゃんを懐に寄せ

 

 出来るだけ人混みを避けるようにした

 

 防護服?......みたいな感じ?

 

環那「これなら大丈夫でしょ?」

燐子「ありがとう......南宮君......///」

環那「大丈夫。何か買って、静かな場所でそれを食べるのも良い。」

 

 辺りを見回し、良い感じの屋台を探す

 

 夏だし、冷たい物の方がいいかもしれない

 

 けど、ある程度お腹に溜まるものも必要だ

 

 あるけど、一応、飲み物もいるな

 

環那「よし、いくつかいい屋台を見つけた。買いに行こうか。」

燐子「う、うん、そうだね......///」

 

 それから、たこ焼き、焼きそば、かき氷

 

 そして、数本の飲み物を買った

 

 後はどこに行くかの問題だけど

 

 やっぱり、心当たりのあるあの場所しかないかな

__________________

 

 ”燐子”

 

 南宮君は私の手を引いて

 

 屋台の間を抜けて暗い通路を歩いて行った

 

 通路を抜ければ、段々と景色が木々に変わって行き

 

 南宮君が足を止めると、ポツンと1つのベンチがあった

 

環那「__よしっ、やっぱりここは誰もないね。」

燐子「えっと、ここは?」

環那「昔よく使ってた秘密基地......もとい、憩いの場。」

燐子「こんな所が。」

 

 こんな場所、全然知らなかった

 

 子供の時に本当に偶然見つけた感じ

 

 私も、子供の時なら胸を躍らせてたかもしれない

 

 勿論、今も胸を躍らせてる

 

 けど、それはワクワクしてるとかではない......

 

燐子(こんな場所で、南宮君と2人きり......///)

 

 周りにあるのは木だけ

 

 本当に2人だけの空間

 

 この状況に私の心臓は破裂寸前になってる

 

環那「はい、かき氷。」

燐子「ありがとう///」

 

 私は南宮君からいちごのかき氷を受け取った

 

 それを口に運ぶと、体がヒンヤリする

 

 暑い夏にかき氷を食べるのは、醍醐味だと思う

 

環那「美味しいね。」

燐子「うん、美味しいね。冷たいし__っ!!」

環那「あっ。」

 

 かき氷を食べてると頭がキーンとした

 

 そうだ、これのこと忘れてた

 

 急に来ると、痛いんだよね......

 

環那「はいっ、これで治るよ。」

燐子「ひゃ......!///」

環那「ははっ、変な声だね。」

 

 南宮君は私の眉間にかき氷を当てて来た

 

 一瞬だけビックリしたけど

 

 頭の痛みが段々と引いて行った

 

 あれ、なんで?

 

環那「こうしたら治るらしいんだ。豆知識だけど、役に立ったね。」

燐子「物知り......なんだね。」

環那「そうでもないよ。豆知識なんて誰でも持てるものだからね。」

 

 謙虚にそう言う南宮君

 

 でも、知識がある人はかっこいいし

 

 知ってることを役立ててる

 

 こんなに素晴らしい事ってないと思う

 

燐子「他にも、そう言うの聞きたいな。」

環那「うーん、じゃあ、サハラ砂漠のサハラの意味は砂漠とかは?」

燐子「え、そうなの?」

環那「うん、つまり、あれは砂漠砂漠って事だね。」

燐子「ふふっ、変なの......!」

 

 あれってそういう意味があったんだ

 

 今まで何となく知識ではあった

 

 けど、そういう細かいところは知らなかった

 

環那(って、なんでサハラ砂漠なんだろ。もっといいのあったなぁ。)

燐子「次は、星についての雑学とか聞いてみたいな。」

環那「星、かぁ......」

 

 南宮君は空を見上げた

 

 流石にちょっとだけ難しいのかな?

 

 私も星の雑学なんて全然知らないし

 

環那「......織姫と彦星は別に1年に1回必ず会ってるわけじゃない。」

燐子「会ってない?」

 

 私は少し驚いた

 

 小さい時から織姫と彦星は天の川であってる

 

 そう教えられて育ってきた

 

 けど、実際、それは違うらしい

 

環那「織姫星のベガ、彦星星のアルタイルの間には15光年の距離があるんだ。宇宙の中では光より速く動けないから、この2つの星が最速で動いたとしても会うのに15年もかかるんだ。」

燐子「そ、そうなんだ......た、大変だね。」

環那「ちなみに、彦星星のアルタイルは3つの伴星を持つ連星。だから、彦星は4つ子だって言われてるんだ。」

燐子「えぇ......!?」

 

 なんで、こんな事まで知ってるんだろう

 

 雑学の内容にもだけど、この博学さ

 

 星なんて無茶ぶりと思ってたのに

 

環那「......俺が彦星なら、15年もかけたくないし光の速さを超えるより距離の縮め方から考えるかな。」

燐子「どういうこと?」

環那「15光年......そんなにあるなら近道、あるかもしれない新しい移動手段......それらを全て検証し、織姫に1秒でも早く近づく。何を投げ捨てたとしても。」

燐子「......!(か、かっこいい......!///)」

 

 南宮君は研究家だった

 

 こんな風に探究心もあって

 

 大切なものに真っ直ぐ向かって行く姿勢がある

 

 少し、危ういかもしれないけど

 

燐子「南宮君の織姫さんは、幸せですね......///」

環那「そう?こんな趣のかけらもない奴、嫌だと思うけど。」

燐子「いえ......一途に自分のために頑張ってくれる人がいるのは幸せですよ......?///」

環那「......そう、かもね。」

燐子「?」

 

 南宮君は少し複雑そうな表情をしてる

 

 どうしたんだろう?

 

 何か、気に触っちゃったかな......?

 

環那「最近、俺もそう思うようになってきた。」

燐子「......?」

環那「今まで知らなかった、愛って言うのかな?それがちょっとずつ分かってきた。」

燐子「......!」

 

 そうだ、私が前に言ったんだ

 

 無条件の愛って

 

環那「燐子ちゃんのお陰だよ。」

燐子「そ、そんな、私なんて。」

環那「燐子ちゃんだから、俺は理解出来たんだよ。」

 

 優しい声で南宮君はそう言った

 

 それを聞いて、私はすごく嬉しかった

 

 私が人の役に立てた

 

 南宮君が少しだけ変わってくれた

 

環那「感謝してる。本当に、ありがとう。」

燐子「いえ、まだまだこれからですよ。」

環那「?」

燐子「まだ一緒にいて、もっと......学べます。だって、時間はあるんですから。」

環那「ははっ、そうかも。」

 

 そう、もっと、南宮君に知ってほしい

 

 ずっと寂しい思いをしてたから

 

 まだまだ、南宮君は愛されないといけない

 

環那(......愛、か。)

燐子「......?」

 

 南宮君は私をジッと見てる

 

 そして、少し息をついて

 

 ゆっくり口を開いた

 

環那「......俺、野望があるんだ。」

燐子「野望、ですか?」

環那「今までの人生のすべてを取り返し、清算させる。」

燐子「っ!!」

 

 目が、濁りながら輝いてる

 

 今、人生を取りかえすって言ってた

 

 一体、何を......?

 

環那「それは決して、綺麗なことじゃない。むしろ、醜い復讐なんだ。」

燐子「復讐って......危ない事ですか......?」

環那「五分五分、かな。」

燐子(五分五分......)

 

 南宮君が五分五分

 

 私の中で彼はすごい人で

 

 表情を変えずなんでも出来てしまう人

 

 そんな人が、危ないかもしれないなんて......

 

燐子「復讐って、何をする気ですか......?」

環那「......くふふ。」

燐子「!」

 

 少し笑って、南宮君はベンチから立ち上がった

 

 その表情はいつもの笑顔じゃなくて、もっと闇が深い

 

 そのまま、南宮君はこう言い放った

 

環那「__俺は、南宮家をぶっ壊す。」

燐子「!」

環那「.....これ以上、あの家の犠牲者を増やさないためにも。」

燐子「......!」

環那「この話はもういいね。行こう、燐子ちゃん。短冊、書きに行こ?」

 

 いつもより引き締まった表情は凛々しかった

 

 そんな姿に私は見惚れてしまい

 

 次の瞬間差し出された彼の手に驚いてしまった

 

 そんな私を見て笑う南宮君はとてもかっこよくて

 

 私の胸はずっとドキドキしたままだった

 

 

 

 



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脱却

 朝、俺はベッドの上で目を覚ました

 

 琴ちゃんの家のじゃない

 

 けど、何故か妙に親しみがある

 

燐子「すぅ、すぅ......」

環那「......?(ん???)」

 

 横を見ると、何故か燐子ちゃんが眠っていた

 

 良く周りを見るとここは燐子ちゃんの部屋で

 

 まぁ、何日か止めてもらったし親しみもあるか

 

 ......なんて、そんな問題じゃない

 

環那(まず状況整理だ。)

 

 俺の横には眠ってる燐子ちゃん

 

 服装は昨日のままで浴衣は少し着崩れてる

 

 けど、そういう行為をした形跡はない

 

 そして、俺も昨晩の記憶がない

 

 つまり、分からないって事だ

 

環那「(取り合えず起こそう。)り、燐子ちゃーん?朝だよー?」

燐子「んぅ......南宮君......?」

環那「い、今の状況、分かるかなー?」

燐子「......」

 

 燐子ちゃんは上半身を起こし

 

 周りの状況を確認し始めた

 

 ”燐子”

 

 朝起きると、南宮君が隣にいた

 

 一瞬、まさかと思った

 

 けど、聞いたことがあるような体の状態じゃない

 

 だから、それは大丈夫だって分かった

 

燐子「!?///」

環那「朝起きたらこうなってたんだけど、何かわかるかな?」

燐子「え、えっと......///」

 

 私は必死で昨日の事を思い出した

 

 すると、寝ぼけた頭が段々と覚醒してきて

 

 それを思い出すことが出来た

 

燐子「......あっ。」

環那「何か思い出した?」

燐子「そう言えば......」

 

 私は昨日会った事を話した

 

 あれは、短冊を笹の葉に括り付けた後

 

 折角だから何かしようってなって

 

 それでその時に私がNFOのくじ引きの屋台を見つけて

 

 当たりが出ない事が南宮君の気に障ったみたいで

 

 それで確率の計算を店主に叩きつけて、クジを全部買い取るって言ったら店主が逃げて行って

 

 詐欺犯を捕まえたお礼にって飲み物を貰って

 

 それを飲んだ途端に南宮君の様子がおかしくなり

 

 取り合えず、私の家に運んで、それで......

 

燐子「南宮君がその、変な雰囲気になって......私が目を閉じたら寝ちゃって......///」

環那「変な飲み物?__っ!!」

燐子「南宮君!?」

 

 突然、南宮君が頭を押さえた

 

 それに、なんだか嗅いだことのある変な匂いがする

 

 あれ、このにおいって......

 

環那「思い出した......あの飲み物、お酒みたいだ。」

燐子「えぇ......!?///」

環那「なるほど、だからいつもより頭が回らないんだ。アルコールの効果は絶大だ。」

燐子「れ、冷静、だね......」

環那「焦ることは何もなかったしね。燐子ちゃんに何もなくてよかった。」

 

 安心したように南宮君はそう言った

 

 やっぱり、優しいな

 

 自分の事は置いておいて私の心配をしてくれてる

 

環那「それにしても、悪かったね。わざわざ面倒見てくれたみたいで。」

燐子「大丈夫だよ......///」

環那「このことのお礼はまた改めてするよ。」

燐子「そ、そんな、この程度の事で///」

環那「いや、俺は凄く助かった。何か、欲しい物でも考えておいて。」

 

 南宮君はそう言うとベッドから出て

 

 頭を働かせたいのか少し叩いてる

 

 そして、少ししてこっちを向いてきた

 

環那「そう言えば、今日の放課後は勉強会だね。一旦帰ってから学校行かないと。」

燐子「あ、そうですね......時間は__え......?」

環那「ん?__あっ。」

 

 私が時計を見ると、針は9時を指していた

 

 それを見て、絶句した

 

 遅刻どころか1限目にも間に合わない

 

 あ、あれ?なんで?

 

環那「うーん......これは所謂、ヤバいってやつだね。」

燐子「ひゃぁぁぁ!!」

 

 私は慌てて制服の所に走った

 

 マズい、早く用意して行かないと

 

 そう思い、自分の服に手をかけた

 

環那「燐子ちゃん!?まだ脱いじゃ駄目だめ!」

燐子「きゃあ!///」

環那「ご、ごめん!出て行くよ!また、放課後に会おう!」

燐子「は、はい!///また......///」

 

 南宮君はそうして部屋を出て行き

 

 私は服を脱いで制服に着替え

 

 遅刻が確定してる学校まで走って行った

__________________

 

 ”環那”

 

 今日の学校は遅刻確定

 

 携帯を見たらリサから結構な数の連絡が来てる

 

 いやー、何かやらかした気分だ

 

環那(『燐子と何かあったの!?』かぁ、何もなかったけど、状況を考えれば疑うよねぇ。)

 

 弁明が大変そうだ

 

 放課後、燐子ちゃんに手伝ってもらおう

 

 て言うか、学校に今から行くのかー

 

 エマの様子見ないとだし、早く行かないと

 

環那「今日も大変そうだな__!」

「ブブーッ!!!」

環那(突っ込んできた!?)

 

 道を歩いてると、1台の車が突っ込んできた

 

 俺はそれを思いっきり飛びのいて回避

 

 すると、黒塗りの少し高そうな車は民家の塀に衝突

 

 車からは煙が上がり大きく破損した

 

環那「無差別な轢き逃げ犯......って感じもしないな。」

社員「う、うわぁぁぁ!!!ごめんなさいぃぃぃ!!!」

環那「ん?」

社員「悪気はなかったんですぅぅぅ!!!」

 

 破損した車から出て来たのはスーツを着た女性

 

 推定20代前半、社会人になって日が浅いように見える

 

 そんな人がなんで......って、あ

 

環那(あー......そういう事か。)

 

 この車、よく見たら覚えがある

 

 これはとある会社の社用の車

 

 はい、これ以上は言うまでもないね

 

環那「脅されてる、のは確実ですよね?」

社員「分かってくれるんですか......?」

環那「まぁ、多分、あなたを脅した奴の子供ですからね。」

社員「えぇ!?」

 

 社員さんは驚いた声を出した

 

 この人、メチャクチャに被害者だな

 

 可哀想に......

 

環那「でも大丈夫。」

社員「!」

環那(これでよし、かな。)

 

 俺はドライブレコーダーを切り

 

 他の盗聴機器がないかを確認した

 

 けど、それと思われるものは何もなかった

 

 甘いなぁ

 

環那「一応、ボディチェックもさせてください。」

社員「は、はい。」

 

 と言っても、触ったらセクハラ

 

 全てのポケットの中、鞄

 

 髪飾り、ネクタイピン

 

 それら全てをチェックした

 

 けど結局、盗聴機器はなかった

 

環那「じゃあ、事情を教えてください。まず、お名前を。」

結実「私は芹澤結実(ゆうみ)です......株式会社Palaceの社員です。」

環那「やっぱりねー。」

 

 この会社は今はあのジジイの会社

 

 世間では割と名前が知られてる大企業

 

 平均年収もそこそこ良くて人気の会社

 

 ただし、学歴審査で高学歴じゃなければ弾かれる

 

 まぁ、旧態依然どころじゃない制度を取ってる

 

環那「で、なんて脅されてここに来たんですか?」

結実「......えっと、言わないと駄目ですか?」

環那「大丈夫、他言はしませんよ。」

結実「うぅ......」

 

 結実さんは泣きそうな目をしてる

 

 その時点で内容の最低さは分かった

 

結実「社長と関係を持つか、あなたを事故に見せかけて殺すか、です......」

環那「うわっ。(最低だ。)」

結実「社長の奥様が亡くなってから、更に荒れ始めて......新入社員の私にこんな命令を。......」

環那「ふむ、なるほど。」

 

 なんだ、ババアはもう死んだのか

 

 もう少し持つと思ってたし、持ってくれた方が都合が良かったんだけど

 

 なーんだ、死んだのかー、面白くないなー

 

結実「ごめんなさい......本当は嫌だったんです。でも、私も......」

環那「いや、いいよ。」

結実「え......?(口調が......)」

 

 よし、問題ナシ

 

 ババアが死んだのも別に無問題

 

 命を狙って来るのも予想通り

 

 そして、良い材料も手に入った

 

環那「ねぇ、俺と契約しようよ。」

結実「契約......?」

環那「さっきの話を聞く限り、あんたの職場の環境は決して良くはない。どうですか?」

結実「間違いないです......あの社長は女性社員にセクハラ、モラハラ、パワハラ。高学歴が集まって、その中でもまた優劣をつけようとするし......収入がいいからまだ我慢してますけど、正直もう......」

 

 限界、とでも言いたげだ

 

 新入社員って言ってたのに

 

 まだ3か月くらいでしょ?

 

 あのジジイ、何やったの?

 

環那「そこでだ、あなたが俺に協力してくれるなら、今の環境からあなたを救い出して見せましょう。」

結実「そ、そんなこと出来るんですか......?」

環那「出来なければ、契約なんてしないと思いますけど?」

結実「......」

 

 結実さんは何かを考えてる

 

 まぁ、大企業に入社できたんだ

 

 多少我慢をすれば社会的地位は安泰

 

 方やこっちは男子高校生

 

 失敗すれば目も当てられない結果になる

 

 賢ければ賢いほど、悩むだろうな

 

環那「俺は是非、あなたに協力して欲しい。あなたは素晴らしい人材だ。」

結実「なんで、そう思うのですか?私は学歴だけが取り柄で......」

環那「素晴らしい。」

結実「え?」

 

 俺は気づいたらそう口走ってた

 

 よし、この人だ

 

 この人なら素晴らしい協力関係を築ける

 

環那「冠位十二階って知ってますよね?」

結実「え、えぇ、勿論。」

環那「俺は学歴だけしか見ない南宮家が大嫌いなんです。社会に出れば学歴は名刺同然。高学歴はただの良い紙を使っただけの名刺とすら思ってる......そこで、あなただ。」

結実「えっと、意味がよく分かりません......」

 

 結実さんは困った顔をしてる

 

 良い、この人は良いぞ

 

環那「学歴を誇示せず、自分の身のために他人を殺そうとする異常性も持ってる。」

結実「異常性!?」

環那「もし、あなたが今の環境から脱却する野望と勇気があるなら......あなたは革命の先駆者となる。」

結実「革、命......」

 

 結実さんの目が曇って行く

 

 いい目だ

 

 欲にくらんだ、純粋な目だ

 

 これ、決まりだ

 

結実「私、あなたに協力します。けど、役に立つのですか......?勉強以外は普通の人間ですが......」

環那「勿論、革命は誰でも役に立てるんですよ。関わって、成功すれば全員が英雄だ。」

 

 俺は明るい声でそう言った

 

 そう、これはあくまで革命

 

 能力なんて別に何の意味もない

 

 ただ、必要なのは同士だ

 

環那「これからは利用関係。今日の終業後、今から言うマンションに来てください。」

結実「はい、かしこまりました。」

 

 それから、俺と結実さんは分かれ

 

 塀にぶつかって破損した車は住民の通報で回収された

 

 

 さぁ、これから面白くなりそうだ

 

 世界一楽しい革命、始めちゃおう

 

 

 



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始動

 夜、俺はあの後結局学校をサボり

 

 色々な準備を進めていた

 

 今はその事で琴ちゃんに正座させられてる

 

琴葉「__なんで、学校をサボったんですか!」

環那「い、いやー、色々あって。」

琴葉「色々って何ですか!?」

 

 琴ちゃんはそれはもう大激怒だ

 

 教師って立場もあるし

 

 俺が燐子ちゃんの家にいたこともバレてるし

 

 さっきもリサ達にSNSで弁明してきた

 

 そっちは燐子ちゃんも否定してくれて終わった

 

 けど、こっちは簡単に終わらないらしい

 

環那「まぁ、それはこれから分かるよ。」

エマ「お兄ちゃん......寂しかった。」

環那「ごめんごめん。」

 

 ピンポーン

 

 俺が苦笑いで謝ってる途中

 

 部屋のインターフォンが鳴り響いた

 

 琴ちゃんとエマは首を傾げてドアの方を向き

 

 その間に俺は2人の横を通り過ぎた

 

琴葉「南宮君のお客さんですか?」

環那「うん、待ってたんだよ。俺が今日、学校に行かなかった理由。」

 

 そう言いながら、ドアを開けた

 

 部屋の前には結実さん

 

 それともう2人、気弱そうな女性社員がいた

 

結実「こんばんは、環那さん。」

?「こ、こんばんは。」

??「夜分遅くに申し訳ありません......」

環那「どうぞ、上がってください。同居人には許してもらいます。」

 

 俺は3人を家に上げて

 

 そして、リビングまで通した

 

 すると琴ちゃんは驚いたような顔をして

 

 エマは何かを察したような顔をした

 

琴葉「あの、その方たちは?」

環那「うーん、そうだなぁ......」

結実「?」

 

 結実さんの方を俺はチラッと見た

 

 彼女は不思議そうに首を傾げている

 

環那「朝に車に轢かれそうになったから、示談の話でもしようと思って。」

結実「え?」

環那(ふむ、なるほど。)

結実「っ!!」

 

 俺は結実さんのスカートについてるピンを取った

 

 彼女は驚いた顔をしてたけど

 

 流石にこれを見逃すと後々面倒臭い

 

環那(盗聴器か。セクハラのついでの取り付けたんだろ。)

琴葉「南宮君?」

 

 俺は盗聴器を破壊した

 

 疑り深く見ててよかった

 

 昼にはついてなかったものだったし

 

環那(あと、盗聴機器になりそうなものは......)

 

 3人の姿を観察した

 

 小物、荷物の中、全てのポケットの中、服の布と布の間

 

 その全てを確認したが、何もなかった

 

環那「うん、大丈夫だね。すいませんね、マジマジと見てしまって。」

結実「い、いえ、盗聴器に気付くなんて、すごいですね。」

環那「昼にあなたの観察は済んでましてね。違和感があったので、検査させていただきました。」

 

 そう言いながら椅子を引き

 

 3人に座ってもらった

 

 俺はその向かいに座り、エマも隣に座ってきた

 

 琴ちゃんは困惑しながらも静かにしてる

 

 さて、話し合いの開始だ

 

環那「まず、自己紹介をお願いします。」

保奈「入江保奈(やすな)と申します......」

麗「波(うらら)です......」

 

 保奈さんと麗さんね

 

 2人とも黒髪の真面目そうなキャリアウーマン

 

 でもまぁ、気弱って感じが見たらわかって

 

 セクハラとかするのにはうってつけだろうなぁ

 

環那「それでは、お二人の事情を聞かせてください。」

保奈「お話、します......」

 

 そうして、2人は事情を話し始めた

 

 どうやら2人はジジイと言うより南宮家のコネ入社社員の被害者みたいだ

 

 俺より6つは上の男らしく

 

 仕事しないわ、ハラスメント連発するわ、でも学歴だけは良いからあの会社では反論できないわで、好き勝手らしい

 

 うーん、我が親戚ながらクズだな

 

 エマですらドン引きしてるぞ

 

環那「__な、なるほど。」

 

 流石に俺もドン引いた

 

 あの家、俺を超えるクズっぷりだな

 

 いやぁ......大変だなぁ

 

保奈「お願いです、革命を達成した暁には、あいつらを解雇してください......」

麗「このままじゃ、あたし達は.....」

環那「それは別に構いません。ですが......1つ、質問に答えてください。」

保奈、麗「......?」

 

 別にそいつらを消すことはやぶさかではない

 

 ただ必要なのは覚悟ある同士

 

 生半可でいざというときに怖気ずく人間はいらない

 

 だから、あえて質問しよう

 

環那「もし、結実さんのように関係を持ちたくなければ俺を車で轢き殺せと言われたとして、あなた達は俺を轢き殺しに来ますか?」

保奈「え......?」

麗「そ、そんな......」

 

 2人とも、うつ向いて難しい顔をしてる

 

 横を見なかったことは良い

 

 さぁ、後は回答次第だ

 

保奈「......私は、します。」

琴葉「!!」

麗「あたしも、絶対に何があっても実行します。あんなのとするくらいなら......」

環那「......なるほど。」

エマ「......」

 

 2人は控えめにそう答えた

 

 2人とも、プルプルと震えてる

 

環那「くふふ......!」

保奈、麗「!!」

環那「良い、それで良い!素晴らしい!イカれてる!あははは!!」

琴葉「南宮君......」

エマ「うん、中々いい覚悟。」

 

 俺は大笑いした

 

 うんうん、素晴らしい

 

 こういう人材はいざって時に役立つ

 

環那「いいねぇ、あなた達なら俺の計画について来れる。そして、俺もあなた達に協力する甲斐もある。」

琴葉「あのー、計画とかなんとか、何事ですか?」

環那「あはは、すっごく楽しい事だよ。」

 

 人材の量は足りないように思われる

 

 けど、質はこれ以上ない

 

 この条件さえ揃えば俺の計画は実行できる

 

 むしろ、元々1人いればできたんだ

 

 数が増えればそれだけ効率が上がる

 

環那「さぁ、作戦の概要を説明しようか。」

結実、保奈、麗「!」

 

 そう言って俺はいくつかアクセサリーをだした

 

 指輪、ピアス、ネックレス

 

 これは1つの要素を除いては一般的なアクセサリー

 

 けど、その1つの要素が重要なんだ

 

環那「これには全部、超小型マイクを内蔵しています。そして、その音声は全部、この録音機器に繋がる。」

琴葉「そんなの用意してたんですか!?」

環那「作っちゃった☆」

エマ「お兄ちゃん、流石......///」

 

 念のためにスペアを作っててよかった

 

 実験も成功して、性能も十分

 

 この計画なら問題ないだろう

 

環那「あなた達はそれを身に着け、普通に生活してくれればいい。ついでに賛同者も集めてくれれば、なお良し。」

結実「え、それだけでいいんですか?」

麗「しかも、アクセまで貰えるし......」

環那「まぁ、1つたかが10万程度ですよ。折角なので、計画が終わればマイクを外して差し上げます。」

保奈「えぇ!?」

 

 これは別に美人さんだからとかじゃない

 

 ただ、説得力を持たせたいだけだ

 

 セクハラの抑止力になればいいけど

 

 うーん、今度はモラハラが過激になりそうだな

 

環那「このアクセサリーは恋人に買ってもらったという事にしておいてください。」

エマ「そうすれば違和感はない。」

麗「こ、高校生なんですよね?そんなお金、どこから?」

環那「それならもうすぐ分かりますよ。今度、○○大学から発表される論文......とかね。」

結実(な、何者......?)

 

 ただ、俺が考えた論文を売っただけだ

 

 個人的に考えたものなのに犬みたいに食いついて

 

 交渉なんて必要なく大量のお金を手に入れた

 

エマ「お兄ちゃん、もう一個の方も交渉が付いてる。いつでも実行可能。」

環那「もう連絡ついてたんだ。じゃあ、こっちに連絡回してくれる?」

エマ「もう渡してある。近いうちに準備して、連絡が来るはず。」

環那「素晴らしいね。」

 

 なんだ、もう準備が整った

 

 これなら実行は遠い話じゃないな

 

 もう少し、この停滞状態を楽しみたかったなぁ

 

 長い方が面白いし

 

環那「これで話は終わりです。何か質問は?」

 

 そう尋ねると、3人とも首を横に振った

 

 よし、じゃあ、これで終わりだな

 

環那「じゃあ、本日は解散。あなた達の活躍に期待しています。」

結実「はい、よろしくお願いします!」

保奈「精一杯、務めさせていただきます。」

麗「環那さんのお役に立てるように頑張ります!」

 

 3人そろって「それでは。」と言い、家を出て行った

 

 いやー、いい感じに話が進んだなぁ

 

琴葉「......南宮君?何をする気ですか?」

環那「くふふ......なーんにも悪い事じゃないよ。ただの、革命さ。」

琴葉「危険は、ないんですよね......?」

環那「どうだろうねー。9割ないって感じ。」

 

 俺はそう言って立ち上がり

 

 エマの方をチラッと見た

 

 見た感じ、もう全部整ってる

 

環那「さーて、ご飯食べて寝よっかー。」

琴葉「もう!またスルー!」

環那「今日のご飯はー、ビーフシチューにしよー。」

 

 そう言って俺はキッチンに立ち

 

 昼の空いた時間に作ったビーフシチューを温めた

 

 その間、俺は笑いが止まらなくなって

 

 いつも以上に琴ちゃんが苦笑いを浮かべてた

__________________

 

 1週間後、俺はとうとうテスト期間に入った

 

 まぁ、普通に忘れてて国語だけ全力で詰め込んだ

 

 苦手なんだよねぇ......やっぱり

 

リサ「__環那ー!」

環那「んー?」

リサ「一緒に帰ろ!」

あこ「あこもあこもー!」

エマ「私も。」

友希那「さ、3人とも早いわ......」

 

 帰ろうとしてると4人が後ろから走ってきた

 

 やばい、考え事して無意識で歩いてた

 

 俺、こういうところあるよねぇ

 

友希那「珍しいわね。私達より早く教室を出るなんて。」

環那「い、いやー、考え事をしてて__!」

 

 笑いながらそう言ってる途中

 

 ポケットに入れてる携帯が鳴った

 

 俺は携帯を出し、画面を見た

 

リサ「誰?」

環那「ちょっと、ね。」

エマ(なるほど。)

友希那、リサ、あこ「?」

環那「ごめん、出るね。」

 

 俺はそう言って電話に出た

 

 電話の向こうからは車の音が聞こえ

 

 数秒して女の声が聞こえた

 

?『もしも~し、久し振りだね、環那~。』

環那「言っても数か月ぶりでしょ。にしても、すまないね。いきなり仕事を頼んで。」

?『いやいや~、こんなに美味しい仕事、中々ないでしょ!』

 

 電話の向こうの人物は陽気にそう話してる

 

 この人物は獄中にいた時の俺の知り合い

 

 この計画における2番目に重要な人物だ

 

?『もう、準備は完全に整ってるよ~。3週間くらいでいい?』

環那「あぁ、いいよ。後は君に任せる。」

?『りょうか~い!報酬の話、忘れないでね!』

環那「勿論。出来高の方も多くなるのを期待してるよ。」

?『ふっふっふ~、お任せ!』

 

 そんな声の後、電話が切れた

 

 その後、俺は小さく笑い

 

 待ってくれてる3人の方にゆっくり歩いた

 

リサ「環那ー?何ニヤニヤしてるのー?」

友希那「何かいい事でもあったの?」

あこ「テスト、そんなに良かったの?」

環那「普通だよ、あはは。」

リサ「まぁ、いいけど、帰ろっか!友希那は勉強だし!」

 

 それから、俺は4人と家に帰り

 

 琴ちゃんの家で友希那の勉強会をした

 

 テストが終われば夏祭りと合宿だ

 

 こっちの事はもう安心だし

 

 俺は俺で、ゆっくり楽しむとしようか

 

 

 

 



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青春

 ”琴葉”

 

校長「__浪平先生、夏祭りの日、あなたはお休みになります。」

琴葉「え?」

 

 テスト期間が終わって採点も終わって

 

 これから補修の課題を作ろうというとき

 

 突然、私は校長室に呼び出され、そう告げられた

 

 普通なら、急にこんな事を言われれば焦ると思う

 

 けど、私はこの状況に納得してしまっていた

 

琴葉(あぁ、南宮君ですね。)

 

 この前、彼は夏祭りは私と行くと言ってた

 

 多分、そのために無理矢理休みにしたんでしょう

 

 私も休みは有難いですし、大人しく受け取りましょう

 

琴葉「分かりました。その日はお休みさせていただきます。」

校長「あ、あぁ、ありがとう。忙しいのにすまない。」

 

 休むと言ってお礼を言われるなんて

 

 一体、彼は何をしたのでしょうか

 

 考えるのも怖いので私は部屋から出ることにした

 

琴葉「失礼しました。」

校長「は、はい。」

 

 そう言って、私は校長室を出た

 

 折角の夏祭りですし、楽しむとしましょう

__________________

 

 その日の仕事を終え、私は家に帰って来た

 

 教師の仕事は結構ブラックだ

 

 暗殺者をしてる時はすごく楽だった

 

 頻度の高くない依頼、その割に高い給料

 

 でも、やりがいはなかったし、今の方がいい

 

琴葉「__ただいまー。」

環那「あ、おかえりー。」

エマ「おかえり。」

 

 リビングに来れば、南宮兄妹

 

 南宮君は夕飯の準備

 

 エマちゃんはソファでタブレットを見てる

 

 なんだか、思春期の娘が出来た気分ですね

 

 ......まぁ、頭は私よりはるかに良いんですけど

 

琴葉「2人とも、テストお疲れ様でした。」

環那「あはは~、国語は苦労するよ。」

エマ「簡単だった。」

 

 南宮君は国語以外は全部満点

 

 エマちゃんは全教科満点で学年1位

 

 正直、この2人は優秀過ぎる

 

 ステータスの振り方はちょっと違うけど、どっちも学生にしておくには規格外です

 

環那「あ、校長から休みって言われたでしょ?」

琴葉「えぇ、どうせ、あなたなんでしょ?」

環那「せいか~い。」

 

 エマちゃんもやばいですが

 

 絶対に敵にしたくないのは彼だと思う

 

 学校では勉強以外はすべてセーブして

 

 いざというときには本気を出して相手を潰す

 

 弱みを握ることに余念もないですし......

 

環那「そんな琴ちゃんは夏祭り当日にはここに行ってね~。」

琴葉「え?これは?」

環那「行けば分かるよ~。」

 

 彼は料理をしながらそう言う

 

 渡された紙に書いてあるのはどこかの住所

 

 ここがどこかは全く分からない

 

琴葉「当日、エマちゃんはどうするんですか?」

エマ「私は家にいる。人が多すぎる場所は嫌い。」

琴葉「あ、そうですか。」

環那「楽しいのにね~。」

 

 こういう所は似てないんですね

 

 まぁ、行くか行かないかは自由ですし

 

 別に悪いとは思わないんですけどね

 

環那「まぁ、予定は決まりって事で!はい、今日の夕飯はローストビーフ!」

エマ「美味しそう、流石お兄ちゃん......!」

琴葉「すごいですね。昔にホテルで食べたのみたいです。」

環那「暇だったからねー、レパートリーのために作ってみたんだ。」

 

 この人、スペック高すぎないですか?

 

 家事は何でも出来て、頭も良い、運動も出来る

 

 なんでモテないんでしょうか、不思議です

 

環那「さっ、食べよっか。」

琴葉「いただきます。」

エマ「いただきます、お兄ちゃん。」

 

 それから、私は2人と夕飯を食べ始めた

 

 ご飯はいつも通り栄養満点で美味しかった

__________________

 

 夏祭りの日の当日

 

 私は南宮君に渡された住所の場所に来た

 

 そこは、いかにもな呉服屋で

 

 私は一瞬、入るのを躊躇った

 

琴葉(えぇ......南宮君、何したんですか......?)

?「__あれ、どうしたの?お姉さん?」

琴葉「え?えっと......」

 

 建物の前で立ち尽くしてると

 

 中から戸を開け、金髪のギャルっぽい子が出て来た

 

 店の雰囲気に全く合ってない

 

 この子、どういう子なんだろう?

 

?「もしかして、今日予約の南宮さん?」

琴葉「!?///」

?「予約の電話は男の人だったけど、来るのは女の人って言ってたし、そうでしょ!」

 

 あの人、なんで自分の名字で予約してるんですか!?

 

 これじゃ、まるで私が南宮みたいじゃないですか

 

 あの人、ほんとこういう所適当......

 

透子「あたしはここの娘で、桐ケ谷透子って言います!ささっ、入ってください!着付けするんで!」

琴葉「え、着付け!?あの、ちょっと__」

透子「お姉さん可愛いから、ちょ~気合入るし~!」

 

 結局、私は桐ケ谷さんに引きずられて店内に入り

 

 結構な時間、浴衣を着せられ続けた

 

 南宮君......なんですか、これは......

__________________

 

 ”環那”

 

 夏祭りの当日

 

 俺は鳥居の近くで琴ちゃんを待ってる

 

 あの呉服屋の人は上手くやってるかなー

 

 琴ちゃん、絶対に嫌がると思うけど

 

琴葉「__南宮君。」

環那「あ、来た来た。って、わお。」

琴葉「......///」

 

 俺の前に現れた琴ちゃんは綺麗な浴衣を着ていて、眼鏡も外して、お化粧もいつもとは違う

 

 その姿は一言で言えば可愛いで

 

 うん、素晴らしい仕事だよ、呉服屋の娘

 

琴葉「わおとはなんですか、わおとは......///」

環那「いやぁ、想像してたより良い感じで驚いたんだ。」

琴葉「そ、そうですか......///」

 

 それにしても、意外だ

 

 一回くらいは殴られると思ってたけど

 

 なんか、許されてるみたいだ

 

環那「浴衣なんて初めてでしょ?」

琴葉「当り前じゃないですか。私の家をどこだと思ってるのですか......?」

環那「ははっ、だったら計画した甲斐があった。」

琴葉「?」

 

 26歳にして初の浴衣......

 

 うん、俺もいい仕事をしたなぁ

 

 美人に衣装はまさに鬼に金棒だ

 

環那「行こうよ、青春でも取り戻しに♪」

琴葉「え、それはどういう__きゃ!///」

環那「あはは!きゃ、って若いねぇ!」

 

 俺は笑いながら琴ちゃんを引っ張り

 

 人ごみが出来ている神社の中に入って行った

 

 さて、まずはどこから行こうか

__________________

 

 俺はまず、射的の屋台に来た

 

 理由は琴ちゃんの今までを考えて

 

 銃を使う事から少し慣れればいいと思ったから

 

 あと、遊びやすいからね

 

琴葉「__射的ですか。初めてしますね。」

環那「折角だから、腕前でも見せてよ。」

琴葉「ふふん!良いでしょう!」

環那(大丈夫かなー。)

 

 琴ちゃんはそう意気込んで射的を始めた

 

 弾の込め方とかはちゃんと知ってるみたいで手早く終わり

 

 銃口をゆっくり景品の方に向け

 

 細めた目で狙いを定めた

 

環那(おぉ。)

琴葉「後で驚かない事ですね!」

 

 そう言って、琴ちゃんは引き金を引いた

 

 発射されたコルクは景品の方に飛ん__

 

琴葉「__あれ?」

環那「......」

 

 だと思った弾は台に当たった

 

 それに琴ちゃんは首を傾げ、次々と撃っていた

 

 けど、それは全部景品に当たらず

 

 台に当たったり、景品の上を通過したり、店主に当たったり

 

 まぁ、酷いありさまだった

 

琴葉「なぜですか!?」

環那「実銃とは違うんだよ。それはあくまでおもちゃだからね。」

琴葉「そ、そんな......銃が......?」

環那「あるんだよ。」

 

 琴ちゃんはショックそうだ

 

 なんて言うか、期待を裏切らないねえ

 

 このポンコツ具合がいかにも琴ちゃんらしい

 

環那「まっ、お手本でも見せてあげるよ。」

 

 俺はそう言って店主でお金を払って

 

 6発分の弾と銃を渡された

 

環那「琴ちゃん、これはゲームなんだ。」

琴葉「は、はい。」

環那「どれが欲しい?」

琴葉「そ、それは~......///」

 

 琴ちゃんはチラッと熊のぬいぐるみを見た

 

 なるほど、あれか

 

 意外と可愛い所あるねぇ

 

環那「あのぬいぐるみね。あれなら余裕だよ。」

琴葉「~!///な、なんでわかって!///」

環那(さてと。)

 

 あのぬいぐるのサイズは小さめで重そうに見えない

 

 けど、そんな物が台にキッチリ座ってる

 

 つまり、あれには何らかのおもりが入ってて

 

 そして重心は下にある

 

環那(あの程度なら余裕だな~。)

琴葉(な、なるほど。)

 

 射的の景品は倒したら元の位置に戻される

 

 だから、少しずつ後ろにずらす

 

 横にいる店主の顔がだんだん青ざめてる

 

 取られると思ってなかったんだろうなぁ

 

環那「__ほい、これで終わり。」

琴葉「!」

 

 最後に腹を打ち抜いてぬいぐるみは下に落ちた

 

 簡単なゲームって感じだったな

 

店主「ず、ズルだ!射的は一発で落とさないとダメだろ!」

環那「はい?」

 

 店主はそんな言いがかりをつけて来た

 

 本当に言いがかりだな

 

 てか、子供か

 

環那「そのルールの注意書き、もしくは前もっての説明は?」

店主「え?」

環那「それがないっていうことはルールを後から付け加えたって事で詐欺になるけど?で、どこにあるの?あるんだよね?ないんだったら通報するよ?」

店主「う......っ!ど、どうぞ......」

 

 店主は苦虫を噛み潰したような顔をしながらぬいぐるみを渡して来た

 

 てか、なんでこれに拘ってたの?

 

 もしかして、お気に入りとか?

 

 いや、ならなんで景品に?

 

店主(う、売ったら1万は下らない品なのに......!おもりもちゃんと入れてたのに......!)

 

 分からない

 

 まーったく気持ちが分からない

 

 そんなに悔しそうな顔をするならやらなきゃいいのに

 

環那「はい、琴ちゃん。」

琴葉「ありがとうございます!」

環那「別にいいよ。」

 

 ぬいぐるみを渡すと、琴ちゃんは嬉しそうに笑った

 

 一応、26歳なんだけどなぁ......

 

 まぁ、若さを忘れないのはいい事だけどね

 

 可愛いし

 

環那「まだまだ出来る事はあるよ。」

琴葉「っ!///」

環那「行こう。」

 

 俺は琴ちゃんの手を取り

 

 次の屋台を探しに人気味の中を歩きだした

__________________

 

琴葉「__なんでですか!?」

 

 次に来たのは金魚すくいだ

 

 琴ちゃんはこれのセンスもないらしい

 

 何故か最初に出目金を狙って

 

 意外と勢いが強くてポイを破られる

 

 うん、下手だ

 

環那「水の中でポイを動かし過ぎなんだよ。どこまで行っても紙だからね。」

琴葉「うぅ......金魚すくいがこんなに高度なものだっただなんて......」

環那「あはは、高度ではないかな。」

琴葉「も、もう一回!」

環那「あらら。」

 

 琴ちゃんの負けず嫌いが発動した

 

 別に勝ち負けの話でもないと思うけど

 

 楽しそうだし、良いんじゃないかな

 

琴葉「なんで逃げるんですか!」

環那「もうちょっと金魚の気持ちになってみたら?」

琴葉「金魚の気持ちですか?」

 

 俺は琴ちゃんに笑いかけ指を一本立てた

 

 本当に仕方ないなぁ

 

環那「金魚だってやる気満々で捕まえられそうになったら怖いでしょ?人間で言えば、包丁持って追いかけ回されてる感じ。」

琴葉「な、なるほど。」

環那「波を立てないようにポイを静かに水に入れて、気配を消すように金魚を掬うんだ。」

琴葉「!///」

 

 琴ちゃんの手を取りレクチャーする

 

 文字通り、手取り足取り......ってね

 

琴葉(手、手が......///大きくて、優しい......///)

環那「心を静めて。水になるんだ。」

 

 そう言ってポイを操作し

 

 ゆっくり金魚を掬いあげた

 

 結構うまくいったね

 

環那「こんな感じだよ。やってごらん?」

琴葉「は、はい!///」

 

 琴ちゃんはそう言ってポイを水に付けに行った

 

 さっきのでコツは掴んだと思う

 

 一匹くらいなら出来るんじゃないかな?

 

環那「あっ。」

琴葉「__ひゃあ!///な、なんですか!?///」

環那「浴衣の袖、水に付きそうになってたから。」

琴葉「あ、あぁ、そういう事ですか......///」

 

 俺は浴衣の袖を掴みながらそう言った

 

 全く、そそっかしい子だ

 

 水に付けてたら誰より焦るくせに......

 

琴葉「ポイが......」

環那「あ、ごめんね?もう一回する?」

琴葉「いえ、浴衣を濡らしそうなので、やめておきます。」

環那「あはは、そっか。」

 

 俺と琴ちゃんは立ち上がり

 

 時間を確認してある事に気付いた

 

 そろそろ時間だ

 

環那「琴ちゃん、時間だから行こっか。」

琴葉「え、時間?」

環那「そうそう、時間だよ。素敵なね。」

琴葉「?」

 

 琴ちゃんは不思議そうに首を傾げて

 

 もう慣れたのか手を握ってもノーリアクションだ

 

 ちょっと面白くないなぁと思いつつ

 

 俺は琴ちゃんと食べ物と飲み物を買って次の目的地に向かった

__________________

 

 俺達が来たのは祭りをしてる神社の近く

 

 人気のない建物の裏だ

 

 ここは昔、俺が良くお世話になった場所で

 

 1人になりたいときとかによく来てた

 

琴葉「__ここは?」

環那「色々とお世話になった場所。ここの枝とか超美味しいよ。」

琴葉「あぁ......」

 

 いやぁ、枝って意外と美味しいんだよね

 

 口の中切れまくるけど

 

 焼いたりすれば案外ありな食べ物だ

 

環那「琴ちゃんも食べる?」

琴葉「いえ、結構です。」

環那「あはは、だよね。」

 

 そう言いながらシートを敷いた

 

 ちょっとだけサイズが小さいかもだけど

 

 まぁ、大丈夫でしょ

 

環那「ほら、座りなよ。」

琴葉「あの、ここで何をするんですか?」

環那「ん?すぐに分かるよ。」

琴葉「?」

 

 琴ちゃんはまた首を傾げる

 

 さて、そろそろだね

 

 俺はそう考え、向こうの空の方を指さした

 

琴葉「向こうに何かあるんですか__!!」

環那「あるって言うか、出来るんだよ。」

 

 指を指した瞬間、ドーン!と起きな音と共に夜空に綺麗な花が咲き誇った

 

 ここは静かで、花火が綺麗だ

 

 琴ちゃんは花火が咲く夜空に見入っている

 

琴葉「す、すごく綺麗です......!」

環那「ははっ、よかった。」

琴葉「こんなイベントもあったんですね!」

 

 遠くに聞こえる賑やかな音

 

 それよりも遠くの花火の音

 

 なんて趣のある空間だろうか

 

 琴ちゃんはきっと、こういうの好きでしょ

 

琴葉「とても、良い空間ですね。」

環那「良かった。色々調べた甲斐があった。」

琴葉「すごいですね、こんなに楽しいデートをセッティングできるなんて。」

環那「そうでもないよ。琴ちゃんが知らなすぎるだけ。」

琴葉「なっ!」

 

 笑いながらそう言うと、琴ちゃんは不服そうな顔をした

 

 まぁ、これは半分誤魔化し

 

 ちゃんと準備したのを悟られたくないだけ

 

 所謂、男のプライドってやつだよ

 

環那「......いつも、ボヤいてるからさ。」

琴葉「!」

環那「もっと楽しい学生時代を過ごしたかったなーって。」

 

 だから、今日の事を計画した

 

 俺も中学高校を棒に振った身

 

 同情とか、そんな感情から出た行動

 

 そう、ただ、それだけ

 

環那「友達と遊びに行って、勉強して、彼氏作ってデートして......そんな生活、送りたかったんでしょ?」

琴葉「えぇ、まぁ。」

環那「相手が俺で悪いけど、体験は出来たでしょ?」

 

 本当は優しいイケメンも準備したかったけど

 

 流石にそれは難しいと言うか無理だし

 

 ここはフツメンで凡人な俺で妥協してもらおう

 

 そして、いつかそんな人が現れてくれれば

 

琴葉「とても、素敵な体験ですよ......///」

環那「そっか、よかった。」

琴葉「......反応、薄くないですか?///」

環那「そんなことないよ。」

 

 勿論、すごく喜んでる

 

 ただ、顔に出ないだけ

 

 内心は死ぬほど優しく笑ってるよ

 

環那「何かしたいことある?まだ時間もあるし。」

琴葉「え?そうですね......」

 

 琴ちゃんは何かを考え始めた

 

 さて、なんて言うのかな

 

 俺は琴ちゃんからの返答を待った

 

琴葉「......少し、踏み込んだこと///」

環那「?」

琴葉「キスとか、してみたいです......///」

環那「え?」

 

 俺は驚いて変な声を出してしまった

 

 キス?琴ちゃんが?

 

 リサとかなら言っても不思議じゃないけど......

 

環那「俺は悪くないと思うけど、いいの?」

琴葉「......聞かないでください///」

環那「ごめん。分かった、もう聞かないよ。」

琴葉「__んっ......!///」

 

 俺は強引に琴ちゃんの唇を奪った

 

 生娘らしい反応だ

 

 強張った体に目尻に溜まった涙

 

 今までにない感覚に戸惑ってるのか背中側の服をキュッと引っ張てくる

 

環那「__ふぅ......これでいい?」

琴葉「な、なな......っ!///こんな、急に......///」

環那「遠慮なんて言葉は捨てたし、頼まれたからね。」

琴葉「そ、そうです、よね......///」

 

 照れたように琴ちゃんはそう言う

 

 面白い子だ

 

環那「俺でよかったの?ファーストキス。」

琴葉「恥ずかしいので言わないでください!///それに......誰にでもあんなことを言う訳ではありません......///」

環那「うん、知ってる。そうじゃなきゃ、今まで恋人が出来なかったことが説明できないし。」

琴葉「......怒りますよ?」

 

 あらあら、怒らせちゃったね

 

 怖いねぇ

 

 さっきまであんなに可愛かったのに

 

環那「俺は良かったと思ってるんだよ?」

琴葉「なぜです?」

環那「仮に琴ちゃんに彼氏か旦那がいたら、今こうして俺は引き取られてないし。」

琴葉「!」

 

 本当に運が良かった

 

 元暗殺者の教師って聞いて

 

 最初こそ、ヤバいんじゃないかなって思ってた

 

 けど、蓋をあければただのポンコツな女の子で

 

 なんか拍子抜けしたっけかな

 

環那「だから、ラッキーだったって、それだけ。」

琴葉「私も、そう思ってますよ。生活力が皆無なので。」

環那「あはは、それは否定しない。」

琴葉「少しはしてくださいよ!」

 

 ほんと、面白い

 

 まるで何年も一緒にいたくらいの距離感

 

 共通点があるからかな?親しみも沸く

 

環那「でもまぁ、いいんじゃない?今の時代、女が家事で男が仕事なんて古いよ。お互いに協力して、出来る事をする。そんな相手を見つければいいんじゃない?」

琴葉「簡単に言わないでください。そんな人間、今まであなたにしか出会ったことないでs__っ!///」

環那「そう?それは光栄だ。」

琴葉「うぅ......///」

 

 琴ちゃんは恥ずかしそうに肩をすぼめてる

 

 俺は別に仮定的でもなんでもないけど

 

 そう思われてるなら、それでいいや

 

環那「まっ、結婚とかを考える時、相手に求める物は色々あるだろうけど、結局はこの人しかいないって思える人がいいと思うよ、俺は。どうでもいい、もしくは嫌いな人間と共同生活なんてできないし。」

琴葉「それは......そうですね。」

環那「俺は琴ちゃんにそんな人が現れるのを祈ってるよ__って、花火も終わりか。」

 

 話してるうちに花火が終わった

 

 途中から話に夢中になってたけど、綺麗だった

 

 花火なんて久しぶりに見たし、よかった

 

環那「帰ろうか。エマも待ってるだろうし。」

琴葉「え、えぇ......///」

 

 俺はシートを片付け

 

 出たごみを袋にまとめてそれを手に持った

 

 どこかに捨てる場所とか無いかな?

 

 ゴミ箱とかは、流石に一杯だろうなぁ

 

環那「じゃあ、のんびり帰ろうか、琴ちゃ......ん?」

琴葉「......///」

環那(んー?)

 

 片付けを終えて帰ろうと声をかけると

 

 何故か、ゴミを持ってない右手を握られた

 

 琴ちゃんはどうしたんだろう

 

琴葉「......これで、帰ります///」

環那「え?いや、別にいいけど、いいの?生徒に見られたら面倒だよ?」

琴葉「教師命令です///......仮に面倒になっても、あなたならなんとかできるでしょう?///」

環那「まぁ、出来るけどー。」

琴葉「決定です。行きますよ......///」

環那「はいはい、仕方ないなぁ。」

 

 そう言って、俺は琴ちゃんと手を繋いだまま歩きだした

 

 取り合えず、今できる事は羽丘の生徒に見られないようにする事かな

 

 面倒はないに越したことないし

 

環那「回り道で行くよ。」

琴葉「はい......///」

環那「!(握る力、強くなった。)」

琴葉(......私は......///)

 

 琴ちゃんの手を握る力が強まり

 

 気になったけど、俺はそのまま茂みの方に入った

 

琴葉(あなたの事が、好きです......///)

 

 それからの帰り道は長くて

 

 いつもの帰り道よりはるかに時間がかかった

 

 けど、その間、琴ちゃんが手を放すことはなく

 

 家に帰ってエマに言われるまでずっと繋いだままだった

 

 

 

 



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試験休み

 今日は試験休みだ

 

 夏休みに入ればRoseliaの合宿

 

 久しぶりの夏休みだし、楽しみだ

 

?『__って言うのが、ここまでで得た情報かな~?』

環那「あぁ、ご苦労様。」

 

 そんな日の昼下がり

 

 俺はある人物と電話で話している

 

 この人は獄中での俺の友達だけど

 

 今は頼んで仕事をしてもらってる

 

?『あの親父、かなり浮気に慣れてるよ~?前科があるんじゃない~?』

環那「だろうね。あれはそういう人間だよ。」

?『このまま続けたら、環那ちゃんが計画の達成は簡単だね~。予定早める?』

環那「いーや、予定通りに行こう。」

?『オッケー、徹底的にやる感じね~?』

環那「そう言う事。」

 

 俺は軽く頷いた

 

 理解が早くて助かる

 

 この調子なら、楽しい時間を過ごせそうだ

 

環那「じゃあ、引き続き粗さがし、お願いね。」

?『りょうか~い。環那ちゃんも色々と頑張ってね~。』

環那「俺が頑張ることはもうほぼ終わってるよ。」

?『いやいや~、お嫁さん探しとか~。』

環那「いや、まだそんなの無いから......」

?『あはは、それはどうかな?じゃあね~。』

 

 そう言って、友達は電話を切った

 

 その後、俺は軽くため息をつき

 

 ボーっと天井を眺め始めた

 

環那(全く、悪ノリする癖は相変わらずだな。)

エマ「__あの人から電話?」

環那「ん?あぁ、そうだよ。楽な仕事だそうだ。」

エマ「あんなクズの粗を探すなんて簡単。1+1の方が難しいくらい。」

環那「確かに。」

エマ「......♡」

 

 エマはそんな話をしながら俺の横に座ってきた

 

 俺はそんなエマの頭を撫で

 

 また、ボーっと天井を眺めた

 

環那(はぁ......呆気ない。)

 

 あまりにもあの父親は呆気ない

 

 何が天才家系だ

 

 天才なんてエマくらいじゃないか

 

 その他は平凡か、ちょっと出来るくらいだ

 

 ほんと、呆れて物も言えない

 

エマ「お兄ちゃん?どうしたの?」

環那「あまりにもつまらなくてね。逆に絶望してるんだ。」

エマ「所詮その程度の人間だったって事。あの程度の連中がお兄ちゃんに敵う訳ない。」

 

 エマは嬉しそうにそう言ってくる

 

 なーんでこんなに過大評価されるんだか

 

 別に俺は普通なのに

 

環那「俺は普通だよ。ただ、やりたいことをやって生きてるだけ。」

エマ「自由奔放なお兄ちゃんも魅力的......♡」

環那「あはは、ありがと。出来ればその魅力を失わないようにしたいよ。」

 

 と、軽く冗談を返して

 

 俺はソファから腰を上げた

 

 ずっとボーっとしてるわけにもいかない

 

 何かするとしよう

 

環那「すこし出かけてくるよ。エマはどうする?」

エマ「私は研究の続きがあるから、もう少し部屋に籠るかも。」

環那「あれの研究かな?」

エマ「もうすぐ完成する。待っててね。」

環那「焦らなくてもいいよ。確実にキツイのを頼むよ。」

エマ「うん、確実に。」

環那「期待してるよ。」

 

 そう言った後、俺は財布だけを持って

 

 特に目的もないけど外に出た

__________________

 

 目的もなく外に出るのは暇だ

 

 いつもの俺ならこんな非効率的なことはしない

 

 けど、あまりにも虚しくて外に出たくなった

 

環那(はぁ、退屈......)

 

 俺は呆れを通り越したような感情を抱いてる

 

 本当にあのジジイはつまらない

 

 折角、楽しい復讐になると期待したのに

 

 このままじゃ、何もかも上手く行ってしまう

 

 普通なら嬉しい事なんだろうけど、俺にはそれが退屈で仕方がない

 

環那(まぁ、これも想定内か。)

 

 考えないといけない事なんていくらでもある

 

 最近は女性関係についても問題があるし

 

 そっちを優先してみるのもいいのかもしれない

 

環那(と言っても、俺にはあんまりそう言う気持ちは未だに分かりかねるんだよねぇ。)

リサ「__あれ、環那?」

環那「ん?リサ。」

リサ「なにしてるの?」

 

 公園のベンチで座ってると、リサが歩いてきた

 

 時間的にお夕飯の買い物かな

 

 両手で重そうな袋を持ってる

 

環那「家にいるのも暇だったからね。考え事ついでに外に出たんだよ。」

リサ「考え事?鼻血大丈夫?不眠症は?」

環那「今の所は何もないよ。はい。」

リサ「?」

 

 俺はリサの前に手を出した

 

 リサは首を傾げて俺の顔を見てる

 

 流石に言葉足らずだったかな

 

環那「その荷物、持つよ。」

リサ「え?いや、いいよ。あたしの家の買い物だし。」

環那「いやいや、幼馴染の女の子が重そうな荷物持ってるのを無視するわけにもいかないよ。ね?」

リサ「!///(手が///)」

 

 リサの手から袋をひったくった

 

 持ってみると、結構重いな

 

 スーパーから公園まで距離あるのに

 

環那「持つよ。時間あるし。」

リサ「で、でも......///」

環那「いいんだよ。ちょうど、リサも関係する事を考えてたし。」

リサ「え?」

 

 俺はそう言ってリサの進行方向を向いた

 

 リサは顔を赤くしたまま止めようとしてる

 

 けど、それを無視して、俺は歩きだした

 

リサ「もう、なんで今日はそんなに強引なの?」

環那「リサと話す口実作りだよ。」

リサ「......からかってる?///」

環那「全然?俺はいつでも本当の事しか言わないよ。」

リサ「それは嘘。」

 

 リサに光の速さで否定された

 

 心外だなー

 

 リサには一番本音で話してるはずなのに

 

リサ「環那は平気な顔で嘘ついてからかって来るし。」

環那「ひどいなー。これでもリサの事は純粋に信頼してるんだよー?」

リサ「信頼って、環那は意外と誰にでもそう言うじゃん。」

環那「いやいや、そんな事ないよ?信頼にだって種類があるんだ。」

リサ「信頼の種類?」

 

 リサは不思議そうにそう言った

 

 まぁ、これは完璧な持論なんだけどね

 

環那「商売に関する信頼と友達への信頼......みたいな。」

リサ「なんとなく分かる気もする。」

環那「リサはその中でもかなり信頼してる方だよ。」

リサ「付き合いが長いからでしょ?」

環那「そうそう。」

 

 ほんと、何年の付き合いだろう

 

 親といる時間よりは確実に長いね

 

 友希那とリサは実質家族かな?

 

環那「10年の付き合いだからね。リサの人柄は大体わかるよ。」

リサ「あたしも環那の事は大体わかるよ。」

環那「あはは、俺もそれは助かってるよ。」

 

 本当に助かるんだよね

 

 ある程度の事は察してくれるし

 

 以心伝心みたいなこともできる

 

リサ「なにー?すごい褒めてくれるじゃん。より戻したくなったー?」

環那「うーん、どうなんだろう。」

リサ(あ、否定しないんだ。)

 

 それも悪くないと思う

 

 けど、今それを即決することはできない

 

 気がかりなことも多いし

 

環那「最近、よく分からないんだよね。人生にイレギュラーが起きてるんだ。」

リサ「燐子とか?」

環那「そうだね。あの子も未知だ。」

 

 他にも琴ちゃんやエマが該当する

 

 それに、色んなターニングポイントを迎えてる

 

 5年も外に出ない間にやっぱり変わったのかな

 

リサ「結局、環那は燐子が好きな訳?」

環那「運命の人だと思ってるよ。けど、好きかどうかはまた別。」

リサ「運命の人って......環那にしては珍しいね。スピリチュアルって言うか。」

環那「それくらい、あの子には驚かされてきたんだ。」

 

 あの子と付き合えたら幸せだろうなぁ

 

 添い遂げるにしても素晴らしい女性だ

 

 非の打ちどころがない

 

環那「まっ、恋愛とかはもう少しだけ後でいいかな。」

リサ「あたしは早く選んでほしいんだけど~。」

環那「もう少しだけ待ってよ。くふふ......」

リサ「?」

環那「さぁ~、リサの家までレッツゴー。」

 

 そう言って俺とリサは喋りながら歩き

 

 距離のあるリサの家に向かった

__________________

 

 リサの家近くに来た

 

 そう言えば、友希那のお父さんにも会わないとと思いつつ、住宅街の中をリサと2人で歩いてる

 

拓真「......」

環那、リサ「あっ。」

 

 すると、向こうから拓真君から歩いてきた

 

 それを見て、俺とリサは気まずそうな声を出した

 

 なんだか、前に見た時より少し痩せた気がする

 

 苦労でもしたのかな?

 

拓真「......ちっ。」

環那「やぁ、元気?痩せたねー。」

拓真「......!!」

リサ「環那!?」

 

 俺がからかうようにそう言うと

 

 拓真君は俺に向かって殴りかかってきた

 

 けど、体力が落ちてるのかキレがない

 

拓真「なっ......!」

環那「ちゃんとご飯食べなよ。倒れるよ。」

拓真「う、うるさい......!もとはと言えば、お前の......」

環那「俺のせい、なんて言わないよね?」

拓真「っ!」

環那「あのアバズレババアに事情は聞いたんでしょ?俺のどこに落ち度があった?言ってみてよ。その天才家系の頭脳で。」

拓真「くっ......」

 

 拓真君は何も言い返せないみたいだ

 

 まぁ、俺から春日には事実を突きつけただけ

 

 それが分かったから、何も言えないんでしょ

 

 だって、春日の行動は彼の正義に反するんだから

 

環那「で、あれとはどうなったの?別れた?」

拓真「......いや。」

環那「わお、君なら即切り捨ててると思った。」

拓真「......人は、反省することができる。過去に失敗しても、頑張って、努力して、取り返すことができるんだ。そして、人はその権利は平等に享受するべきなんだ。」

環那「ふむ。」

 

 割ともっともなこと言うな

 

 まぁ、それなら俺への対応は何ってなるけど

 

 これは言わないでおいてあげよう

 

 彼なりにあれを守りたいんだろうし

 

リサ(この子の言う事は最もだけど......なんかなー。)

拓真「そんな機会を奪ったお前はクズだ!母親だって見捨てやがって!」

環那「......君さぁ。」

リサ、拓真「!!」

 

 俺は低い声を出し、拓真君を睨みつけた

 

 この子、やっぱり嫌いだなー

 

 間違った正義ほどの害悪はないよ、全く

 

環那「俺が奪ったって言うけど、そいつが何を奪ったかは考えてる?」

拓真「何を奪ったか、だって......?」

環那「君、身内の集まりでも俺に会った事なかったでしょ?」

拓真「......そう言えば。」

環那「でも、俺と君はあの祖父母と同じ家にいたことはあるんだ。」

拓真「え......?」

 

 驚いてるねぇ

 

 まっ、そうだろうね

 

 平和にノウノウと能天気に生きて来たんだから

 

 自分の家系の汚点になんて気付くわけもない

 

環那「俺、ずっと屋根裏部屋にいたんだよ?開かずの間だっけ?聞いたことない?」

拓真「あの、鎖と南京錠で閉ざされてた部屋......」

環那「そうそう。そこの中にいた妖怪が俺ってわけ。」

拓真「な、なんだって......!?」

リサ(そ、そんなのあったんだ。)

 

 あーあ、知っちゃった

 

 可哀想だから黙っててあげたのに、ムカつかせるから

 

 信じたものが間違えてる気分って最悪だよね

 

 きっと今頃、吐き気でもしてるんだろうなぁ

 

拓真「し、信じないぞ......」

環那「勝手にすれば?どっちが正しいかなんてすぐに分かるよ。」

拓真「っ!」

環那「あ、ちょっと待って!」

 

 俺は走り去ろうとする拓真君を呼び止めた

 

 ついでだし、教えてあげよう

 

環那「近々、君を取り巻く環境は劇的に変化するよ。もう、爆弾抱えた列車は暴走しちゃってるから。」

リサ「......?」

拓真「......」

 

 拓真君は俺の言葉を聞いて、どこかに走って行った

 

 まっ、彼が理解する必要はないけど

 

 所詮、まだ何の力もない子供だし

 

 あんまり影響を受ける家庭でもないし

 

リサ「ねぇ、今のどういう事?爆弾がどうのこうのって。」

環那「もうすぐ、分かるよ。これから、俺も世間も動き出すさ。」

リサ「......?」

友希那「__あら、どうしたの?2人とも?」

 

 拓真さんが去ってすぐ、友希那が家から出て来た

 

 さっきまで部屋にいたのかラフな格好

 

 どうしよう、神々しすぎて眼球が焼ける

 

環那「友希那ー!」

友希那「何をしていたの?誰かと話してたようだけれど。」

環那「ちょっとしたアンケートだよ!気にしないで!」

リサ(うわぁ、あの子の扱い雑ぅ......)

環那「友希那は何してたの?」

友希那「私は新曲を考えていたところなの。」

環那「そっかー!(あぁ~!可愛い可愛い可愛い!!)」

 

 友希那と会えた幸運に感謝

 

 外に出てみるものだよねぇ

 

 だって、友希那のこんな姿中々見れないよ?

 

 キャミソールにショートパンツ

 

 白い腕や鎖骨、脚が惜しげもなくさらされて

 

 チラッと見える柔らかそうなお腹がなんとも素晴らしい

 

 なんて、目に毒な格好なんだ......!

 

リサ「ちょ、環那!?」

環那「ん?なに?」

友希那「鼻血が出てるわよ?どうしたの?」

環那「なんでもないよ。あはは。」

リサ(むぅ~......!)

環那「いひゃいいひゃい!」

 

 リサに頬を抓られた

 

 さ、流石にバレたか

 

 今の友希那に見惚れて思考回数が上がったの

 

友希那「大丈夫?」

環那「大丈夫だよ。あ、おじさんいる?」

友希那「えぇ、今日はいるわよ?」

環那「折角だし、お話していきたいな!」

友希那「いいわよ。話しておくわ。」

環那「じゃあ、俺はリサの荷物持っていくよ!」

リサ「あたしもお邪魔しよ~っと!」

 

 それから俺はリサの家に荷物を持っていき

 

 冷蔵庫に入れたり収納ボックスに入れたりしてから

 

 友希那とおじさんが待ってる家に向かった

 

 おじさんと会うの、久し振りだな~

 

 

 



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秘め事

 リサの家に荷物を置いた後

 

 俺とリサは友希那の家に来た

 

 6年ぶりくらいかな?

 

友希那「あら、早かったわね。」

環那「おじゃましまーす。」

リサ「お邪魔します!」

友希那「えぇ、どうぞあがって。」

 

 玄関先からもう友希那の匂いがする

 

 なんて言う幸せ空間だろうか

 

 どうせ死ぬならこんな場所で死にたい

 

友希那「環那?どうしたの?」

環那「この世に生まれた喜びを噛み締めてる。」

リサ「どうせ、『ここは友希那を感じるな~』とか考えてるんでしょ?」

環那「すごい、ほとんど正解だ。」

 

 流石はリサ

 

 俺の事をよく分かってるね

 

友希那の父「__おや、お客さんかな?」

友希那「お父さん、環那とリサよ。」

友希那の父「おぉ、これはこれは。」

環那「久しぶりだね、おじさん。」

 

 俺はにこやかに挨拶をした

 

 おじさんは黒のTシャツを着た、ワイルドだけど優しい雰囲気を身に纏った男性だ

 

 5年経ってもまだまだ若々しい

 

環那「尊敬するミュージシャンが元気そうで嬉しいよ。」

友希那の父「ははは、そう言ってもらえて嬉しいよ。環那君は、昔よりも元気そうだね。」

環那「そうかな~?」

友希那の父「あぁ、今、すごくいい顔をしてる。」

リサ(相変わらず、仲いいな~。)

 

 捕まる前も、おじさんとの関係は良好だった

 

 頻繁に友希那の近況報告をしあってたし

 

 よく俺の悩みも聞いてくれた

 

 友希那とリサを除けば、一番近しい人物かも知れない

 

友希那の父「友希那、環那君と少し話すからリサちゃんと部屋に行っててくれ。」

友希那「えぇ、分かったわ?どうしたの?」

リサ「どうしたんですか?」

友希那の父「久しぶりに会ったんだ、積もる話もあるからね。」

環那「......」

友希那、リサ「?」

 

 友希那とリサはおじさんにそう言われ

 

 不思議そうにしながらも2階に上がって行った

 

 その後、俺とおじさんはその場に残され

 

 軽く目を見合わせてから、リビングに通された

__________________

 

友希那の父「__コーヒーでいいかい?」

環那「ありがとう、おじさん。」

 

 おじさんはコーヒーをテーブルに置き

 

 俺の体面にゆっくり腰を下ろした

 

環那、友希那の父「......」

 

 それから、少しの沈黙

 

 さっきまでの和やかな雰囲気は成りを潜め

 

 少しだけ息苦しさを感じる

 

 やっぱり......

 

友希那の父「......すまなかったね。」

環那「!」

 

 沈黙の後、おじさんは小さな声でそう言った

 

 主語のない文章

 

 けど、俺はそれが何を指しているのか分かった

 

 だから、静かに頷いた

 

環那「俺が捕まったこと?あれは勝手に__」

友希那の父「......いや、君の腕と目の事だ。」

環那「え?」

友希那の父「右腕は無くなって、左目が、見えなくなったと......」

 

 おじさんは重々しい声でそう言い放った

 

 俺は驚いて目を見開いた

 

 なんで知ってるんだ?誰に......

 

 って、友希那かリサしかいないか

 

友希那の父「君に深手を負わせてしまって、本当にすまない。」

環那「気にする事でもないよ。現に、腕は義手で治ってるんだし。」

友希那の父「......だが、左目は。」

環那「......」

 

 俺は首を横に振った

 

 すると、おじさんは申し訳なさそうな顔をし

 

 ガクッと肩を落とした

 

友希那の父「今の時点でその状態と言う事は、治療は......」

環那「治らないね。この義手を作った子も視力を再生することは出来ないって。治すとしたら義眼になるね。」

友希那の父「......そうか。」

 

 別に気にしてないんだけどね

 

 片目が見えないくらいなら問題ないし

 

 友希那だって、あの時は精神的に不安定だった

 

 原因は俺だし、俺が悪い

 

友希那の父「君は優秀なのに、申し訳ない......」

環那「いやいや、俺は優秀じゃないって。ただの友希那大好き人間だから。」

友希那の父「......そうか。」

環那「そんなに気にすることないって。別に困ってないから。」

友希那の父「そういう訳にもいかない。子の責任は親の責任だ。キッチリ責任は取る。」

 

 おじさんは深く頭を下げた

 

 なんだか、こっちの方が申し訳なくなる

 

 今まで別に困ったこともないのに......

 

 けど、このままじゃ、引きそうにないなぁ

 

 どうしようか......

 

環那「気にしなくてもいいよ。ただ、こう言っても引き下がらないだろうし、1つお願いを聞いて欲しいんだ。」

友希那の父「何でも聞くよ。」

環那「じゃあ、友希那をしっかり守ってあげてよ。」

友希那の父「......!」

 

 そう言うと、おじさんは目を見開いた

 

 言っておくけど、これは綺麗事なんかじゃない

 

 流石に俺も家の中にいる友希那には何もできない

 

 だから、しっかり守ってくれる人が欲しいんだ

 

環那「俺の幸せは友希那が幸せでいる事だから、それさえ守れるなら、大丈夫。」

友希那の父「相変わらずだね......」

 

 これで何とか話もまとまりそうだ

 

 正直、不安だったんだよね

 

 この先、友希那に危険があったらどうしようって

 

 でも、おじさんに任せられれば安心だ

 

環那「昔から俺は変わらないよ。あくまで友希那至上主義だからね。」

友希那の父「君は、本当に変わらないね。」

 

 おじさんは呆れたような声を出した

 

 まぁ確かに変わってない自覚はある

 

 リサに良く、相変わらずって言われるし

 

友希那の父「けど、安心したよ。友希那との仲が険悪になってなくて。」

環那「ならないよ。友希那が俺の事を恨んでも、その反対はあり得ないからね。」

友希那の父「我が娘ながら恐れ入るよ。こんなに人に愛されているなんて。」

環那「あはは、思う存分、恐れて良いと思うよ。」

 

 冗談交じりにそう言うと、おじさんは笑った

 

 結構本気なんだけどなぁ

 

 まっ、雰囲気を変えられたしいっか

 

環那「ほんと、友希那は可愛くて、心が綺麗で、優しくて......最高の女の子だよ__」

 

 ドン!!

 

 俺は話してる途中、リビングのドアから大きな音がした

 

環那、友希那の父「ん?」

友希那「な、な......っ///」

環那「あ、友希那!今、おじさんと友希那の話をしてたんだー!」

 

 音がした方を見ると

 

 顔を真っ赤にした友希那の姿があった

 

 なにあれ可愛い

 

 って、何しに来たんだろう?

 

友希那の父「友希那?どうしたのかな?」

友希那「の、喉が渇いたから、取りに来て......///」

環那「そうなの?じゃあ、待ってて!今すぐ用意するから!」

友希那の父(反応が早いな。)

 

 俺は急いで冷蔵庫の前に行き

 

 友希那が好きそうなジュースとコップを用意し

 

 それを、友希那の前に持っていった

 

環那「友希那、準備が出来たよ。」

友希那「え、えぇ、ありがとう......///」

環那「それと、後で、俺も部屋に行っていいかな?久しぶりに行ってみたいんだ。」

友希那「構わないわ......待ってるわよ///」

環那「うん、もう少しリサと2人で待っててね?」

友希那「分かった、わ......///」

 

 友希那はそう言ってリビングから出て行った

 

 なんだか、ずっと顔が赤かったなぁ

 

 夏だし、暑かったのかな?

 

友希那の父「ははは、流石は環那君だ。」

環那「え?何かありました?」

友希那の父「それはすぐに分かるよ。」

 

 おじさんは少し笑った後

 

 ゆっくり椅子から立ち上がり、こっちを見た

 

友希那の父「僕はこれから出掛けるよ。このまま家にいたら、馬に蹴られそうだ。」

環那「なんで?別にそんなことはないと思うけど。」

友希那の父「娘のためだからね。それじゃ。」

 

 おじさんはそう言ってリビングから出て行った

 

 急に出掛けて行ったね

 

 もしかして、俺が友希那の部屋に行きたそうだから気を使ったのかな?

 

 だったら申し訳ないな

 

 まぁ、お言葉に甘えるんだけど

 

環那(折角だし、友希那の部屋行こーっと!)

 

 そう言って俺もリビングを出て

 

 友希那とリサがいる部屋に向かって行った

__________________

 

 ”友希那”

 

 リビング出た後、お盆を床に置き、自分の顔を抑えた

 

 環那に褒められるのは慣れてる

 

 けど、今日の褒め方はいつもと違った

 

 いつもはもう少し冗談めいてるのに、今日は声音が少し真剣だった

 

友希那「......っ///」

 

 さっきから動悸が激しい

 

 いや、別にこんなの珍しい事でもない

 

 昔から、環那といるとこうなって来たもの

 

友希那(本当に、環那は昔から......///)

 

 環那と一緒にいた10年と少し

 

 全く恋愛感情がなかったと言えば噓になる

 

 いや、今も......

 

友希那(......でも、ダメよ。ダメなの......)

 

 私は環那の腕と左目の視力を奪った

 

 なのに、こんな邪な感情を抱くなんて許されない

 

 私にできるのは、罪滅ぼしだけなんだから

 

 こんなの、忘れないといけない

 

環那「__友希那ー?何してるの?」

友希那「!」

環那「まだ部屋に戻ってなかったんだ?どうしたの?」

友希那「少し考え事をしてたのよ。なんでもないわ。」

環那「そう?」

 

 不思議そうに首を傾げる環那

 

 いつも通り優しく、私を心配してくれてる

 

 こんなに優しい理由は知ってる

 

 けど、なんでここまでなのかは、理解できない

 

環那「じゃあ、部屋に戻ろうよ。飲み物、俺が持つよ。」

友希那「あ、ちょっと__」

環那「早く行こう。リサも待ってるだろうし。」

友希那「え、えぇ。」

 

 私は、考えてはいけない

 

 環那にしてあげられることはもうない

 

 恋なんて、以ての外......

 

友希那「......」

環那「?」

 

 ずっと、この距離でいい

 

 幼馴染として、環那の幸せを願う

 

 私のこの気持ちを告白することは、絶対ない

 

 静かにそう心に誓った

 

 



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会議

 終業式の前日

 

 俺はある地下にある会員制のバーにいる

 

 ここに集まってるのは俺とエマを含めた5人

 

 今回の作戦の要となる人物達だ

 

環那「今日は集まってくれてありがとう。九十九、人見、新太。」

九十九「いやいや~、環那ちゃんの招集だからね~。」

人見「依頼主の意向は絶対。それが仕事の基本ですわ。」

新太「俺はあくまで協力関係だ。お前が役立つうちは従っておく。」

環那「ははっ、ありがとう。」

エマ(お兄ちゃん、とんでもない人材を集めたね。)

 

 ここにいるのは間違いなく有用なメンバー

 

 九十九、人見は所属する業界でのスペシャリスト

 

 新太は今回の作戦の最終兵器

 

 そう、この5人が今回のトップチームだ

 

環那「人見、経過は順調?」

人見「ええ、もちろん。順調そのものですわ。」

九十九「いや~、人見ちゃんが手際良いからすーぐに情報も集まっちゃうよ~。」

環那「じゃあ、引き続きお願いするよ。」

人見「前から思っていましたが、予定を早めないのですわね?今の状態でも十分に潰せると思いますが。」

環那「潰せる材料は多い方がいい。新太の立場も考えて......ね。」

 

 新太の立場なら、証拠が大いに越したことはない

 

 動きやすさも変わって来るしね

 

新太「俺は俺の正義に基づいて悪を罰する......それは南宮環那、お前も含まれる。」

エマ「加持新太、口を慎んで。お兄ちゃんは何年もあれに手出しできなかった無能なあなたに手を貸してあげてるの。これ以上の失言は、無能をさらに露呈するだけ。」

新太「......なんだと?」

エマ「何を怒ってるの?事実でしょ?」

新太「......」

 

 わ、わぁ、空気が険悪ぅ......

 

 エマ、やっぱり新太と相性悪いなぁ

 

 まぁ別に、エマと新太の協力はいらないし

 

 作戦を進行するうえでは何の影響もないかな

 

人見「どうしますの?リーダーさん?」

環那「別に馴れ合いは求めてないし、仲が悪いならそれはそれでいい。」

人見「あらあら、案外冷めてますわね。」

環那「それは皆、分かってるでしょ?あくまでみんな、駒なんだから。」

九十九「おぉ~!言うねぇ~!」

新太「悪人らしい思考だ。」

エマ「お兄ちゃん、素敵......///お兄ちゃんのためなら、駒でも売女にでもなんでもなる......///」

環那「後者は勘弁してほしいな。」

 

 エマは本気か冗談か分かりずらいんだよね

 

 流石の俺も中学生の年齢の子を売女にしないよ

 

 するにしても、自分の身近な人間なんて選ばないし

 

環那「まぁ、皆はそれぞれ自分の仕事を遂行して欲しい。期待してるよ。」

エマ「お兄ちゃんの期待を裏切らないようにすることだね。」

人見「お任せください。」

九十九「任せておいて~!」

新太「......ふんっ。」

 

 このメンバーなら大丈夫でしょ

 

 相性はともかく、能力は折り紙付きだ

 

 自動で動く駒ほど便利なものはない

 

環那「今日は解散。飲みたかったら好きに飲めばいいよ。」

九十九「ありがと~!」

人見「私も、加持さんには興味がありましてよ?」

新太「酒は飲まん。下戸なんだ。」

環那(そうなんだ。)

エマ「帰ろう、お兄ちゃん。」

環那「うん、そうだね。」

 

 そう言って、俺とエマは店を出た

 

 仕上げまで着々と進んでる

 

 決着も、そうは遠くないかな

__________________

 

 翌日、俺は終業式で学校に来た

 

 これから、久しぶりの夏休みを迎える

 

 今年は友希那達の合宿に引っ付いて行くし

 

 いや~、楽しみだね~

 

環那「~♪」

友希那「嬉しそうね、環那。」

リサ「そんな風になってるのも珍しいね?」

環那「まぁね~。」

エマ「お兄ちゃんが嬉しそうで、私は幸せ。」

 

 だって、海だもんね~

 

 友希那の水着をビーチで見られるんだよ?

 

 それはもう楽しみでスケベ心を踊るってものだよ

 

リサ「環那?鼻の舌伸びてるよ?」

環那「俺の鼻の下は伸びるためにあるんだよ。」

リサ「いや、どういう事!?」

 

 リサはそうツッコんできた

 

 まぁ、半分は冗談だよ?

 

 流石に年がら年中伸びてるわけじゃないし

 

友希那「あ、言いそびれたことがあるのだけれど。」

環那「?」

友希那「エマも、合宿に来るわ。」

環那「え、そうなの?」

エマ「燐子に確認を取った。」

環那「え......」

 

 いつの間に連絡先を交換したの?

 

 いや、仲良くしてるなら良いんだけどさ

 

環那(エマは知らないうちに行動してるな......)

リサ「準備終ってんの?」

エマ「終わってる。元々、荷物が多い方じゃない。」

リサ(女の子として、それはどうなんだろう。)

環那「さて。」

 

 終業式も終わってるし

 

 後はもう家に帰るだけかな

 

環那「そろそろ帰ろう、エマ。」

エマ「うん、そうだね。」

リサ「あたし達は練習だよね?」

友希那「そうね。このあとすぐよ。」

 

 じゃあ、今日はここでお別れか

 

 俺は家事をしないといけないし

 

 これから少し忙しいな

 

環那「じゃあね、友希那、リサ。」

友希那「えぇ。」

リサ「うん!また合宿でね!」

環那「うん、また。」

 

 俺達は一緒に教室を出て

 

 校門を出た後、俺とエマは2人と別れた

__________________

 

 家に帰ってきたら家事だ

 

 料理を始めたけど琴ちゃんはまだ生活力低いし

 

 エマは出来るだろうけど、中学生だからね

 

 あんまり家事で拘束したくない

 

 だから、俺がするわけ

 

『~♪』

環那「ん?」

 

 洗濯物を干してる途中、リビングに置いてある俺の携帯が鳴った

 

 俺は一旦洗濯を干すのをやめ

 

 リビングに戻って電話を取った

 

人見『南宮さん?』

環那「どうしたの?何か動きに変化があった?」

人見『えぇ、耳寄りな情報が。』

環那「?」

 

 人見が耳よりって言う事は本気だね

 

 何か重要な情報を引き出したのかな?

 

人見『あれが、南宮さんの名前を出しましたわ。あの男は潰さないといけない、と。』

環那「なるほど。」

人見『完璧ですわね。恐れ入ります。』

環那「なんてことないよ。」

 

 オッケーオッケー

 

 あれがバカなお陰で仕事が楽だな~

 

 これはもう、人見に任せておけば大丈夫でしょ

 

人見『あれもあなたに直接手を出せるとは思っていないでしょう。だとすれば......』

環那「俺以外で、確実に俺にダメージを与えようとする、でしょ?」

人見『そう考えるのが自然ですわね。あなたの場合、弱点がそこですもの。』

環那「あはは、あれも頭使ってるんだね~。」

人見『それでも所詮、ミジンコ程度ですわ。』

環那「間違いない。」

 

 我ながら酷い言いようだな

 

 まぁ、事実だから仕方ない事だけど

 

 それにしても、ネズミ捕りより簡単だな

 

人見『それに、九十九さんからの報告が。』

環那「なに?」

人見『あの女性社員3名の活躍により、あの会社の8割を掌握したと。』

環那「へぇ、偶然の産物だったけど、頑張ってるね。」

 

 8割ってすごいなぁ

 

 俺の集めたデータから考えると......

 

 まぁ、良い感じに動いてくれてるのが分かる

 

 もう十分じゃないかな?

 

人見『報告は以上ですわ。』

環那「お疲れ。引き続きお願い。」

人見『えぇ、もちろん。南宮さんも、伴侶探しに精を出されれば。』

環那「九十九も言ってるけど、そんなのじゃないから。」

人見『ふふっ、それでは。』

 

 そう言って、人見は電話を切った

 

 全く、女の子は何で恋愛話が好きなのかな?

 

 リサも好きだって言ってたし、そういう生き物なの?

 

環那「......エマ。」

エマ「どうしたの?」

環那「俺とエマが行動を起こす日取りを決めた。それによって、プランはBにする。」

エマ「了解。じゃあ、私が動くのは8月8日だね。」

環那「そう。これが多分、一番効率がいい。」

 

 まぁ、どっちにしても合宿を楽しむ時間はある

 

 まずはそっちを楽しもう

 

環那「まずは合宿。後の事は九十九と人見に任せよう。」

エマ「そうだね。」

 

 それから、俺は洗濯物を再開し

 

 エマは部屋に戻って行った

 

 さぁ、合宿までもうすぐだ

 

 

 



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怒らせちゃいけないタイプ

 合宿に出発する当日になった

 

 空は青く、太陽はテンションマックス

 

 俺の両手には自分とエマの荷物と......

 

 もう、合宿へのやる気は真っ直ぐだ

 

 もっとも、俺は何もしないんだけどね

 

九十九「__へいへーい、環那ちゃーん!」

環那「九十九?どうしたの?」

九十九「環那ちゃんがいなくなる前に最終確認!」

環那「なるほど。」

 

 流石に電話だけじゃ無理あるか

 

 メールは都合上出来ないし

 

環那「九十九たちは合宿の間に詰める所を詰めて、逐一俺に報告。」

九十九「了解了解♪それで?」

環那「エマの方も準備は整ってる。だよね?」

エマ「うん、例の物はいつでも使える。あいつらの揃うタイミングも、調べはついた。」

 

 じゃあ、もう99.8%は準備が終わってるわけだ

 

 だったら、無駄に引き延ばすことも無いかな

 

 さっさと終わらせてしまおうか

 

環那「よし、決行は8月8日。3日以内に終わらせよう。」

九十九「お~!環那ちゃんの本領発揮って感じ~?」

環那「本領も何もないよ。ただ、その時その時サイコロを振って、出た目の数だけ駒を進める......罰ゲームの無いすごろくって所かな?」

九十九「あはは!最高!」

 

 まぁ、あれもこれも南宮家が無能なだけなんだけどね

 

 ほんと、天才家系なんて言ってたら嘲笑されるよ

 

 金持ち家系なら......まぁ、納得はされるかな?

 

九十九「それを聞けて満足したよ!じゃあ、あたしは仕事に戻るね!」

環那「分かった。後の事は九十九主導で動いて、人見と新太の報告をまとめてね。」

九十九「了解!それでは~!」

 

 九十九は手を振りながら走って行った

 

 俺は特にそれを見送らず

 

 横にいるエマの方を向いた

 

環那「行こっか。確か、電車で行くんだよね?」

エマ「うん、時間まであと20分だから、もう行こう。」

環那「そうだね、行こっか。」

 

 そんな会話の後、俺とエマは歩きだし

 

 待ち合わせ場所である駅前に向かった

__________________

 

 朝が早いのもあって、まだ人は少ない

 

 まぁ、1時間後にはすごい人ごみになるんだけど

 

 その中を7人で歩くのは、考えたくないね

 

環那「__お待たせー。」

エマ「お待たせ。」

リサ「あ、来た来た!」

 

 待ち合わせ場所にはもう全員が揃っていた

 

 これでも待ち合わせ時間前なんだけど

 

 みんな、真面目だねぇ

 

紗夜「南宮さんの言う時間通りに来たら、これですよ。よく調べましたね。」

環那「フッフッフッ、俺が友希那のための情報収集に手を抜くわけがないじゃないか。過去の監視カメラのデータを全部確認して、利用する人間の傾向を洗いざらい調べた。」

紗夜「ストーカーみたいですね。」

環那「ひどいね!?」

エマ「お兄ちゃんがしてるのはそんな程度の低い事じゃない。」

 

 エマのフォロー、若干だけどズレてるよ......

 

 なんかストーカーの上位互換みたいになってるし

 

友希那「でも、昔、リサのストーカーをストーカーしたことあるわよね?」

あこ「えっ?リサ姉?珍し。」

燐子「友希那さん関連以外の話題、初めて聞いたかも......」

環那「え、そう?リサのエピソードもいっぱいあるけど。」

 

 なんか皆、俺のこと勘違いしてない?

 

 流石にリサとも十数年の付き合いだよ?

 

 友希那と同じくらいの期間一緒にいるんだから、同じくらい面白いエピソードあるよ

 

環那「2人が小さい頃とか大変だったよ?幼稚園にお母さんと来た時とか__」

リサ「わー!わー!///」

環那「どうしたの?」

リサ「何恥ずかしい事口走ろうとしてんの!///」

環那「え?いやいや、これは可愛いものでしょ。」

友希那「......///(そうだったわ、環那、私達の昔話が好きなんだったわ......///)」

 

 幼稚園でお母さんの分かれる時に泣いてたくらい、可愛いものだよね?

 

 それで、2人をなだめるのは俺の役割で

 

 いい思い出だなぁ......

 

燐子(わ、私の事も......もっと知ってもらわないと......!)

環那「あ、そろそろ電車が来る時間だね。行こう。」

紗夜(この流れをぶった切る根性......)

あこ(環那兄......)

 

 俺はそう言った後、駅に入り

 

 皆も後ろをついてきた

 

 さて、電車の方はすいてるかなー

__________________

 

 駅に来た電車は予想通り、かなりすいていた

 

 これなら6人とも座れるペースがあるね

 

 いやぁ、よかった

 

環那「__皆、今のうちに座ってて。」

友希那「えぇ。」

 

 俺は取り合えず、皆の荷物を網棚に乗せ

 

 皆が座った席の前に立った

 

あこ「環那兄は座らないの?」

環那「俺は良いよ。座る必要はないしね。」

リサ「環那って昔から座らないよね~。」

 

 立ってる方がいざって時に動きやすいしね

 

 友希那を守ったり、荷物を持ったり

 

 そういう時間を効率化するなら、立ってる方がいい

 

エマ「これは私達を守るためでもある。あらゆる方向に牽制もしやすい、いい位置取り。」

紗夜「そ、そんなのがあるんですね。」

エマ「電車で痴漢に遭う確率は1年以内でも15%~30%と意外と高いんだよ。」

リサ「へぇ、詳しいね。」

環那「俺やエマみたいな人間はデータが大好きだからね。色んなデータを流し見たりしてるんだよ。」

エマ「そう、それが研究者。」

 

 それは関係あるかよく分からないけど

 

 俺とエマがデータ好きなのは確かで研究者だし

 

 まぁ、いいや

 

燐子「研究......って、何をしてるの?」

環那「最近はエマと共同で研究......と言うか開発をしてるかな?」

リサ「何作ってるの?」

環那「ははっ、秘密だよ。」

リサ(え、エマが関わってるのが怖い......)

 

 いやー、エマがいると効率がいいんだよね

 

 天才って言うのはやっぱり規格外だ

 

 ほんと羨ましいよね、才能って

 

あこ「エマって環那兄の腕まで作っちゃうんだもんね~。すごいよね~。」

エマ「私が凄いのは認める。」

環那(認めるんだ。いや、事実だけど。)

リサ「あはは、エマは面白いよね~。」

 

 そう言って笑うリサにエマは少し不服そうな表情を浮かべてる

 

 まるで姉と妹みたいだ

 

 確執もあるかと思ってたけど、仲よさそうで何より

 

リサ「そんな顔しないで!可愛い顔が台無しだぞ~☆」

エマ「ウザい。」

リサ「正直!?」

環那「こういう子だからね、仕方ないよ。」

 

 そんな話をしてると、電車が停車駅に着いた

 

 そうすれば勿論、乗ってくる人がいるわけで

 

 1人、杖を突いた老人が入ってきた

 

老人「......」

環那(なんか、見られてるなぁ。)

 

燐子「エマさん......そういうことはもう少し......オブラートに。」

エマ「燐子は好き。」

リサ「なんでぇ!?」

友希那「うるさいわよ。もう少し静かにしなさい。」

 

老人「......」

環那(やっぱり、おかしいな。)

 

 あの老人、乗ってきてからずっとこっちを見てる

 

 しかも、杖を突いてる割に空いてる席にも向かわない

 

 でもこっちを......いや、厳密には友希那達を見てる

 

老人「ゴホン......!!」

リサ「!」

あこ「な、なに......?」

 

 老人は大きな咳払いをした

 

 友希那達どころか、他の乗客全員が注目してる

 

老人「......若い奴らが大勢で座り込んで、迷惑じゃのう。」

環那(エマ。)

エマ(うん、無視だね。)

老人「目の前に杖を突いた老人がいるというのに、席を立つこともしない......」

 

 なるほど、この老人、席乞食なのか

 

 いや、正確には若者にいちゃもん付けたい感じ?

 

 まぁ、どっちにしても面倒くさいね

 

老人「無視無視無視......黙ってればいいとでも思ってるのかのう。これだから最近の若いもんは。」

環那「!」

リサ「っ!(か、環那!?)」

環那「......あの、杖、足に乗ってるんだけど。」

老人「ほっほっほ、気のせいじゃないかの?」

 

 こ、この人、めんどくさ

 

 どの位面倒かって言うと......

 

 例えるなら、カレーを焦がした鍋を洗うくらい

 

老人「わしのお気に入りの席がそこなんだがのぉ......」

環那「公共の場にお気に入りも何もないでしょ。」

老人「......チッ、若者風情が。」

環那「......(普通に痛い。)」

エマ(......殺そうかな?)

 

 杖をグリグリ動かし始めた

 

 結構足腰に余裕あるんだね

 

 平気で自分の足で立ってるように見えるんだけど

 

環那(まぁ、俺に来てるだけなら我慢しよう。下手に動くと損しそうだし。)

燐子「あの......!」

環那(燐子ちゃん!?)

老人「?」

燐子「南宮君の足に......杖を乗せないでください......!」

 

 燐子ちゃんは震えた声でそう言った

 

 なんで、人見知りなのに話しかけるの!?

 

 いや、俺を庇ってくれるのは嬉しいけどさ

 

老人「失礼な女じゃ......の!」

燐子「ひっ......!」

友希那、紗夜「!!」

 

 老人は燐子ちゃんに手を伸ばした

 

 角度からして、手は碌な位置に向かってない

 

 ......あーあ

 

老人「うぬっ......!?」

環那「......」

エマ(来た。)

 

 俺は老人の腕を掴んだ

 

 ほんと、馬鹿だなぁ

 

 俺だけで我慢しとけばよかったのに

 

老人「は、はなせ......!」

環那「俺、老人が嫌いなんだよね。」

老人「な、なにを......!!」

環那「監禁してくるジジババ、いじめの隠ぺいをしたクソジジイ......老人には碌な奴がいない。」

 

 せっかく我慢してあげてたのに

 

 燐子ちゃんに手を出そうとするからこうなる

 

環那(駅に着くまで、あと1分ほど。)

老人「この!__痛い!!」

環那「あんたの年齢は......大体70歳って所かな?還暦は迎えてるだろうに、こんな事して恥ずかしくないの?」

老人「う、うるさいぞ......!」

 

 年齢を否定しないって事は、大体あたりか

 

 70歳かぁ......

 

 見た感じはまぁまぁ元気そうだし

 

 ある程度やっても......死にはしないか

 

『次は~○○~○○~』

 

環那「別にこの場で殺してもいいけど、また捕まるのは勘弁だし......」

老人「う、うぅ......!」

 

 腕を掴む力を強める

 

 ここまで来たら、やることは一つでしょ

 

 そう考えてると、電車のドアが開いた

 

 幸い、乗ってくる人はいないみたいだ

 

環那「このくらいで......!」

老人「っ!!」

 

 老人をドアの前まで引っ張り

 

 思いっきり力を入れた

 

環那「勘弁してあげるよ......!!」

老人「う、うぉぉぉ!!!」

友希那、リサ「環那!?」

 

 俺は老人を駅のホームに投げ飛ばし

 

 間抜けな顔で倒れてる老人を見下ろした

 

環那「乗って来るなよ?次は......電車とホームの間にその汚い顔面挟んで、捻り切るから。」

老人「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」

 

 そう言うと、老人は蜘蛛の子散らすように逃げていった

 

 てか、杖使ってないじゃん

 

 あれ、飾りだったんだぁ......

 

環那「あー、スッキリした!大丈夫?燐子ちゃん。」

燐子「は、はい。」

環那「よかったよかった。あれの手が燐子ちゃんに触れてたら、あの程度じゃ済まさなかったよ!」

紗夜(あ、あんな風になったのは初めて見たわね。)

あこ(環那兄、怒るとあんな感じなんだ......)

エマ(お兄ちゃん、素敵......♡)

 

 ほんと、はた迷惑なのもいたものだよ

 

 まぁ、いいや

 

 ボコボコにして(?)スッキリしたし

 

環那「さて、到着までまだかかるし、何か話そうか!」

友希那「そうね。」

燐子(南宮君、私のために怒ってくれたんだ......///)

 

紗夜(南宮君は......)

あこ(怒らせちゃいけないタイプだ......!)

 

 それから、目的地に到着するまで皆と喋っていた

 

 なんだか、周りの人に見られてた気がするけど

 

 まっ、悪目立ちしたし、しかたないかな

 

 

 



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好き嫌い

 海は素晴らしいと思う

 

 青い空に白い砂浜、穏やかな波の音

 

 そして、なにより......

 

リサ「__環那ー!」

環那「!」

友希那「待たせたわね。」

燐子「お待たせ......///」

環那「全然待ってないよ!そんな事より、すごく似合ってるね!」

燐子「......///」

 

 そう、可愛い女の子の水着だよ!

 

 リサと友希那の水着姿は昔に見た

 

 けど、やっぱり成長してるよね、色々と

 

 そして、燐子ちゃん

 

 この子はもう......ポテンシャルの塊だね

 

エマ「お兄ちゃん、私も水着。」

環那「うん、似合ってるよ。」

あこ(この2人、兄妹揃って肌白いなー。)

環那「あ、パラソルとかクーラーボックスの用意はしてるから、好きなように楽しんでね!」

紗夜「じ、迅速ですね。」

 

 男尊女卑をするつもりは一切ないけど

 

 こういうのって男の仕事だと思ってる

 

 そっちの方が効率良いしね

 

あこ「早く遊びに行きましょうよー!りんりん!海入ろ!」

燐子「あ、あこちゃん......」

環那「あこちゃんー、ちゃんと準備運動するんだよ?」

あこ「あっ、そっか!」

環那「効率が良い準備運動の手順はここにファイリングしてるから、読みながらすればいいよ!」

リサ「いや、何用意してんの!?」

環那「?」

 

 ファイルを出した途端、リサは大声を上げた

 

 何の用意って、海で遊ぶ用意に決まってるのに

 

 そんなに変なのかな?

 

環那「これの他にも、このビーチの危険なスポット、ここ数年のナンパの件数の平均とか、色んな情報を集めて安全に楽しむ用意はしてるよ。」

紗夜「この人、何かの病気なんじゃないですか?」

リサ「昔はまだ可愛いものだったんだけど......なんでこうなったんだろ。」

環那「ひ、酷い言われようだね。」

 

 安全に越したことはないのに

 

 まぁ、俺が病気なのは否定しないかな

 

 よく異常者って言われるし

 

友希那「準備運動を徹底するのはいい事だわ。しましょう。」

あこ「そうですね!」

エマ「お兄ちゃんが行った事が間違ってるわけがない。」

 

 そう言って皆、準備運動を始めた

 

 エマの過大評価は相変わらずだけど

 

 気を付けてくれるなら何でもいいや

__________________

 

 5分ほど念入りに準備運動をして

 

 みんな、海に入って行った

 

 俺は今、その様子を楽しく眺めてる

 

リサ「友希那ー!そっちにボール行ったよ!」

友希那「え、ちょ、きゃ!」

燐子「ゆ、友希那さん......!?」

環那(うんうん、楽しそうだね!)

あこ「大丈夫ですかー!?」

紗夜「もう......って、エマさんは大丈夫ですか?」

エマ「うん。」

 

 可愛い女の子が水着姿で遊んでる

 

 この光景は素晴らしい以外の何物でもない

 

 友希那とリサの水着は買ったときに見たけど......

 

 やっぱりかわいいなぁ

 

ノア「__だらしない顔しやがって。」

環那「あ、ノア君じゃん。久しぶり~。」

ノア「ふん。」

 

 しばらく皆を眺めてると、ノア君が現れた

 

 相変わらず、俺は男に好かれないみたいで、不機嫌そうな声と顔をしてる

 

 俺としては、もうちょっと仲よくしたいんだけど

 

ノア「折角女と海に来たのに荷物番か。残念だったな。」

環那「いやいや、女の子の役に立つのはいい事でしょ?」

ノア「嫌味の通じない奴だ。」

環那「ははっ。」

 

 嫌味には嫌味で返すか、スルー

 

 これは俺的会話の基本だよ

 

 まぁ、九割嫌味で返すんだけどね

 

環那「ノア君は相変わらず、エマのボディーガード、お疲れ様。」

ノア「やりたいことがこれしかないからな。もっとも、貴様が付いているなら何も問題はないだろうが。」

環那「なーんで皆、俺のことを過大評価するのかな。別に普通なのに。」

ノア「それを本気で言ってるなら、お前は自分の事を知らなすぎるぞ。」

 

 そんな事はないと思う

 

 自分の事は自分が一番わかってるし

 

ノア「ハッキリ言って、貴様は異常だ。たかが17歳のガキが出来る事のキャパシティを超えてる。」

環那「いやいや、やる気の問題だって。」

ノア「やっぱり、異常者だな。」

環那「ひどいなぁ、俺は普通だよ。」

ノア「......」

 

 ノア君は怪訝な顔をしてる

 

 そんなに胡散臭いかなー

 

 悲しくて泣いちゃいそうだ

 

環那「さて、俺は夕飯の用意でもしようかな。」

ノア「何するんだ?」

環那「バーベキューだよ。この近くに借りられる場所あるし。」

ノア「食材は。」

環那「勿論、俺持ち!」

ノア「......お前、マジで結婚するなら今の選択肢の中にしとけ。他の女じゃ、都合のいいATMにされるぞ。」

環那「あはは、それはそれで面白いね。異常者同士、お似合いじゃない?」

 

 笑いながらそう答えた

 

 それを聞いて、ノア君は呆れたような顔をしてる

 

 ちょっとは笑ってくれたらいいのに

 

環那「あ、そう言えばさ、例の件、受けてくれる?」

ノア「その事か。」

 

 俺はノア君にそう尋ねると、一気に雰囲気が変わった

 

 これは仕事人の雰囲気だ

 

ノア「これは間接的にエマのためでもある。協力しない理由はない。」

環那「そっか、なら、頼むよ。」

ノア「別に、貴様1人でも対応できるだろう。なぜ、俺に協力を仰いだ。」

環那「ん?」

 

 ノア君はそう質問を投げかけてくる

 

 この子はほんとに俺を過大評価してるなぁ

 

 なんで、俺はそんなにすごいって事になってるの?

 

 まぁいいや、作戦の説明しよ

 

環那「名付けて『虎の威を借りる狐作戦』」

ノア「......?」

環那「俺1人が強くても意味ないんだよね。重要なのは、手元にいかに強い駒があるかアピールする事なんだよ。」

ノア「!」

環那「特出した1人は必要ない。必要なのはバラエティに富んだ駒だよ。」

 

 チェスだって、役割の違う駒があって成立する

 

 1人で何役もする必要は全くないんだよ

 

 適材適所、数の力で押しつぶすのが1番楽しい

 

環那「いやぁ、ノア君が協力してくれるなら助かるよ、楽しくなりそうだ。」

ノア「......そうか。じゃあ、俺は行くぞ。(楽しい、か。)」

環那「うん、エマの護衛、よろしく。ついででも他の皆と荷物も見てくれたら嬉しいな。」

ノア「いいだろう、ついでで見といてやる。」

環那「ありがと。後でお礼にお肉あげるよ。」

ノア「貰えるものは貰っておく。」

 

 ノア君はそう言って岩陰の方に歩いて行った

 

 いやぁ、すごく助かる

 

 これで、夕飯の準備に精を出せるってものだよ

 

環那「よ~し、準備始めよ~。」

 

 俺はそう呟いてバーベキュー場に移動し

 

 すぐに準備を始めた

__________________

 

 ”リサ”

 

 一通り遊んで、あたし達は水着から服に着替えて、荷物を置いた場所に戻って来た

 

 けど、何故か環那がいない

 

 遊んでる途中の休憩の時もいなかったし、どこ行ったんだろ?

 

リサ「?」

友希那「リサ?」

 

 そんな事を考えてると、あたしの携帯が鳴って

 

 それを確認すると、環那からメッセージが来てた

 

 しかも、あたし達が着替え終わるタイミング丁度で

 

 覗いてる......訳ないか、友希那いるし

 

紗夜「彼ですか?」

リサ「うん。なんか、バーベキュー場にいるみたい。」

あこ「バーベキュー!?」

リサ(あー......食事は任せてって言ってたのはこれかぁ......)

 

 わざわざバーベキューなんて用意してるなんて

 

 しかも、あたし達に一言もなしに......

 

 せめて、準備位手伝いたかったんだけど

 

友希那「ともかく、移動しましょうか。」

燐子「そうですね......待ってると思うし......」

紗夜「行きましょうか。」

 

 そんな会話の後、あたし達は歩き始めた

 

 バーべキュー場は目と鼻の先だし、そう時間はかからない

 

 だから、少し歩いたら、目的地に着いた

 

リサ「環那ー!どこー!」

環那「ここだよー!」

あこ「わぁ!」

紗夜「えぇ......(困惑)」

燐子「これは......!」

環那「丁度いい感じになった所だったんだ!ナイスタイミング☆」

 

 環那の声がした方に行くと

 

 そこには完璧なバーベキューの用意があった

 

 まさか、ここまで準備してるなんて

 

 通りで異様に荷物が多かったわけだ

 

環那「お肉そろそろ焼けるよ~!」

あこ「う、うん。(環那兄、無駄にエプロン似合ってる。)」

紗夜(あのエプロンは一体。)

 

 今思ったけど、この食材、環那が全部買ったの?

 

 結構な量あるけど、値段とか......

 

 あたしのバイト代じゃ絶対払えないじゃん

 

環那「リサー?今、お金どうしようとか考えたでしょー?」

リサ「!?」

環那「心配しなくてもいいよ。勿論、全部、俺持ち☆」

リサ「さも当然のように言ってるけど、どこからこんなお金出て来てるの?」

環那「あはは、秘密♪でも、怪しい事じゃないよ。」

 

 軽く笑ってはぐらかしてくる

 

 怪しい事じゃないって言ってるけど......

 

 うん、環那ってだけでちょっと怖いね

 

あこ「環那兄!お肉食べて良い?」

環那「いいよいいよ!ドンドンお食べ!燐子ちゃんとエマも!」

燐子「は、はい......!」

エマ「ありがとう、お兄ちゃん。」

 

 環那はテキパキ焼いたお肉を皿に盛って行く

 

 エプロン着てるから、妙にお母さんっぽい

 

 なんか、変わったな~

 

環那「友希那、飲み物とお肉だよ~!」

友希那「えぇ、ありがとう。丁度いい量ね。」

環那「友希那の丁度いい量の計算もバッチリだよ!」

紗夜(何を計算してるのかしら......それにしても、美味しいわね、これ。)

あこ「美味しいね、りんりん!」

燐子「う、うん、そうだね。(これ、すごく高いものなんじゃ......)」

エマ(お兄ちゃんを感じる......///)

 

リサ「......ん?」

 

 私含め、みんな楽しそうに食べてる

 

 けど、1つ、おかしい所がある

 

 そう思い、あたしは環那に話しかけた

 

リサ「かーんーなー?」

環那「どうしたの?」

リサ「すこーし気になるんだけどさー。」

環那「?」

リサ「......友希那の野菜、どこ?」

環那「......!」

あこ(え、なにこの空気......)

 

 友希那のお皿を見ると一切、野菜が乗ってない

 

 薄々勘付いてたけど

 

 まさか、本当にここまでしてるなんて

 

リサ「友希那を甘やかすなとは言わないよ?でも、野菜を食べないと体に悪いし、将来的に人様に見せられない外見になっちゃうよ?」

環那「俺は友希那が太ってようが、犬であろうが猫であろうがベルリンの壁であろうが、同じように愛するよ。もし、俺のせいでそうなったなら、責任をもって一生面倒見るし。」

紗夜(そうじゃないでしょう。)

燐子(そういう問題なのかな......?)

 

 環那は友希那の事になるとてんでダメになる

 

 いつもみたいに頭が回らなくなるっぽい

 

 今言ったことも正直よくわかんないし

 

リサ「環那、バランスの悪い食事ばっかりしてると、早死にするよ?」

環那「っ......!」

リサ「甘やかすのだけが愛情じゃない。時には厳しく、正しい方に導いてあげないと。友希那が大切なら特に。」

環那「うっ、ぐ......!」

紗夜(ただの好き嫌いについての会話とは思えないわね。)

環那(ど、どうする?友希那がつらい思いをするのも許せないし、かといって早死にも嫌だ。最悪、サプリメントで栄養を補填すれば......エマと共同で開発すれば、どんなに遅くても3か月で出来るし......)

燐子「南宮君......!?」

友希那「ま、また鼻血が出てるわよ......?」

 

 これは、いつもの頭使いすぎた時の反応だ

 

 どんだけ必死なの?

 

 大方、ピーマン食べないでよくなる案を考えてたんだろうね

 

 あの頭脳をそんな下らないことで使うのは残念だね

 

エマ「お兄ちゃん。」

環那「え、エマ......(あ、ティッシュ。)」

エマ「ピーマンの中には甘い品種もある。それなら、湊友希那でも食べられる。」

環那「なっ......!そんなものが......!?」

燐子(そういう知識はないんだ......)

 

 エマはティッシュを渡しながらそう説明し

 

 その説明を聞いて、環那はハッとした表情を浮かべた

 

 環那、知識量凄いはずなのに知らなかったの?

 

環那「そんな素晴らしいものが......発明した人は天才だね。」

友希那「そうね。でも、この場にはないから。」

環那「そうだね、今日の所は諦めて、後日__」

リサ「ってわけにはいかないよ?友希那、それに環那。」

燐子、紗夜、あこ「え?」

環那「......」

 

 あたしは2人の会話の腰を追って

 

 丁度食べごろのピーマンをお皿に乗せた

 

 この場でピーマンが苦手あのは友希那だけじゃない

 

リサ「環那も、ピーマンって言うか、苦いもの苦手だもんね~?」

環那「......そ、そうだったっけ。」

エマ「っ///(お、お兄ちゃん、可愛い......///)」

リサ「昔、友希那の代わりに全部食べて、涙目になってたよね~?」

環那「あ、あはは、そんな事もあったカナ......」

 

 あたしは端でピーマンを摘まみ

 

 それを環那と友希那の方に突き出した

 

 全く、手のかかる2人だよ

 

リサ「はい、2人とも~☆ちゃーんと食べようね~☆」

環那、友希那「......はぃ。」

あこ(あ、あこ、何故か逃げられた!黙っておこ!)

紗夜「宇田川さんもですよ。」

あこ「」

 

 この後、あたし達は皆でピーマン嫌い達にピーマンを食べさせようとした

 

 けど結局、環那が死にそうになりながら全部生で食べて

 

 友希那とあこは事なきを得たと喜んでたのは、ほんの数分後の話

 

 

 



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合宿の夜

環那「__うえぇぇ、口の中苦いな......」

 

 バーベキューの後、片づけをして

 

 今は海辺をのんびり歩いてる

 

 いやぁ、ピーマンを大量に食べるのは大変だった

 

 未だに口の中にダメージが残ってる

 

 今度から、甘い品種だけ買ってこよう

 

環那(......さて。)

 

 ピーマンの事を考えながら歩いて

 

 俺はとある海の家に着いた

 

 さーてと、ここにいるかな

 

環那「お邪魔しまーす!」

男「うわっ!!」

男2「なんだなんだ!?」

男3「てか、カギ閉めてたドアがなんで蹴り破られてんだよ!!」

環那「おぉ、これは思った以上に偏差値低そうな顔。」

 

 俺は笑いながら3人にそう言った

 

 高校生から大学生くらいかな?

 

 3人とも髪を染めてて、ピアスも空きまくり

 

 そのくせ顔はアンバランス......と

 

 中々に偏差値が低い

 

環那「ねぇ、君たち、今日の昼に女の子の写真撮ってたよね?」

男「は、はぁ?」

環那「実はそれを偶々見ちゃってさ。俺の大切な人たちの写真だけ消しに来たんだ。」

 

 そう言って、3人の方に歩み寄る

 

 分かりやすくカメラを隠してるな......

 

 もう少しうまくやればいいのに

 

 まっ、俺に盗撮のスキルはないんだけどね

 

男2「お、おい、写真撮影なんて俺らの自由だろ。」

環那「この世には肖像権があるんだよ。君たちに拒否権なんてない。」

男3「っ!__しまった!」

 

 俺は1人が持ってたカメラを取り上げ、中身を確認した

 

 そこには友希那達の写真が大量にある

 

 その中でも燐子ちゃんの割合が多い

 

 まぁ、スタイルいいから気持ちは分かる

 

 出来る事なら、俺も写真欲しいもん

 

環那「うーん、このカメラ、いくら?」

男「え、えっと、12万くらい......」

環那「そっかそっか。じゃあ、ぶっ壊すね。」

男「は__あぁぁぁぁ!?」

 

 俺はカメラを床にたたきつけ

 

 SDカードが残らないよう、念入りに踏みつけた

 

 カメラは文字通り粉々

 

 もう救いようはない、手遅れと言う奴だね

 

男2「おま、何やってんだよ!?」

環那「いや、消すの面倒くさかったし、盗撮したからいいかなって。」

男3「やっていい事と悪いことがあるだろ!?3人でお金出しあって買ったってのに......!」

環那「そこまでして盗撮したい?」

 

 なんだか面白いね、この3人

 

 余程、女の子との縁がないんだろうなぁ......

 

 なんて言うか、かわいそ

 

環那「まぁ、いいや。このカメラは事故で壊れたって事......で!」

男3人「ひぃっ!!!」

 

 俺はカメラのレンズを3人の方に投げつけ

 

 そのレンズは1人の頬をかすめ、後ろの壁に当たって砕け散った

 

 3人とも怯えた顔をしてる

 

 いやぁ、我ながらコントロール良いね

 

環那「いいよね?」

男3人「は、はい、それでいいです......(やばいやばいやばい、この人、その道の人だろ!!?)」

環那「あはは、そんなに怖がらなくていいよ?こんなの、お遊びなんだから。」

 

 俺はそう言いながら財布を出し

 

 その中から1万円札を12枚を取り出した

 

 確か、12万円って言ってたし

 

 これでいいや

 

環那「事故だからね、弁償しないと。」

男「は、ははっ、あ、ありがとうございます。」

環那「いやいや、こっちが過失に事故なんだから。ただ、また俺の大切な人たちを盗撮なんてしたら......今度はカメラが壊れる程度の事故じゃ済まないかもね、ははっ。」

男2「も、もう2度としません......」

男3「いやほんと、すいませんでした......」

環那「そう?なら、もう用はないかな。」

 

 そう言って、3人に背中を向けた

 

 いやぁ、お利巧そうじゃなったけど、意外と話分かったなぁ

 

 人を見た目で判断しちゃいけないね

 

 やっぱり、人は中身だよねぇ

 

環那「じゃあね~。もう会う事はないだろうけど。」

 

 軽く手を振りながら俺は海の家を出た

 

 帰る頃にはもう、皆お風呂から出てるかな

 

 なんて、そんな事を考えながら歩きだした

 

男「もう、盗撮とかやめよう。命が危ない。」

男2「あぁ、真っ当に生きよう。」

男3「俺、母ちゃんに電話するよ。今まで、ヤンチャしてごめんって。」

男、男2「そうだな......」

__________________

 

 少し歩いて、合宿上に帰ってきた

 

 リビングからは賑やかな話声が聞こえる

 

 俺が出た時にはお風呂に入り始めてたから

 

 予想通り、もう出ているみたいだ

 

環那「__ただいまー。」

あこ「あ、環那兄!」

リサ「どっか行ってたの?」

環那「ちょっと散歩だよ。のんびり夜の海を眺めたくてね。」

 

 俺は笑いながらそう答えた

 

 まぁ、半分は本当だね

 

 あのカメラはか......事故はついでだから

 

エマ「流石お兄ちゃん、感性も素敵......♡」

環那「いや、別に俺固有のものじゃないと思うけど。」

紗夜(この兄妹、大丈夫なんでしょうか。)

 

 今日も調子いいね

 

 エマの謎の過大評価

 

 これを世の人たちはブラコンと呼ぶのだとしたら

 

 そういう意味では、俺とよく似てるのかな?

 

環那「さて、俺もシャワー浴びてこようかな。」

燐子「あれ、お湯にはつからないの......?」

環那「あー、シャワー派だからね。家でもあまり湯舟を使う事がないんだよ。」

友希那(あら、そうだったかしら?)

リサ(多分、燐子もだけど、紗夜への配慮だろうな~。)

 

 あ、リサは察した顔してる

 

 まぁ、困ることはないし別にいいんだけど

 

環那「じゃあ、シャワー浴びてきまーす。」

エマ「私も行く。」

リサ「はいはーい!エマはあたし達とお喋りしようね~!」

エマ「......邪魔。」

紗夜「流石にダメですよ。どこに高校生の兄とお風呂に入ろうとする中学生の年齢の妹がいるのですか。」

エマ「ここ。」

 

 流石、俺の妹

 

 こういう状況での返し方がそっくりだ

 

 何となく、血のつながりを感じるな~

 

燐子「さ、流石にダメだよ......?南宮君も、お風呂ではゆっくりしたいだろうし......」

環那(別にそうでもないけど、燐子ちゃん、気を遣えるいい子だな~。)

エマ「燐子も、行く?」

環那「ん?」

燐子「!?///」

エマ「燐子なら認める。別に悪い話じゃない。」

 

 エマは何を言ってるの?

 

 流石にありえないよ......

 

 友希那とリサでさえ、そんな事してないのに

 

 燐子ちゃんとそんなことしたか完全にマズいでしょ

 

燐子「い、今は......ちょっと......///」

エマ「そう?」

環那「そうだよ?」

エマ「お兄ちゃんがそう言うなら仕方ない。大人しくしておく。」

環那「うん、いい子だね。」

エマ「......♡」

 

 俺はエマの頭を撫でた

 

 こうすれば大体解決するからね

 

 頭いいのにチョロいと言うか何と言うか......

 

環那「じゃあ、行ってくるね~。」

リサ「うん、行ってらっしゃーい。」

 

 そう言ってから、俺はリビングを出て

 

 一旦、自分の部屋に戻って着替えを取り

 

 そのままお風呂場に移動した

__________________

 

 ”リサ”

 

 環那がお風呂に行った後、あたしたちはリビングでお喋りしてる

 

 エマが環那の所に行かないか心配だけど

 

 まぁ、大丈夫でしょ

 

エマ「燐子、お兄ちゃんとはいつ結婚する?」

燐子「ふぇ......?///」

エマ「燐子なら私は納得する。」

 

 エマはそんな事を言い出した

 

 なんで、燐子だけなんだろ

 

 あたしも認めてくれてもいいのに......

 

燐子「で、出来ればいいけど......その、今井さんや友希那さんもいるし......///」

エマ「大丈夫。燐子は家庭的で頭もいい。料理に関してはリサの方が優れているかもしれないけど、総合力を見れば、燐子の方が優れてる。」

リサ「そ、そうかも、ね~。」

あこ(り、リサ姉、すごく複雑そうな顔してる......!)

 

 正直、反論できない

 

 燐子はかなりお嫁さん向けだし

 

 あたしが男なら、結婚したいもん

 

紗夜「結婚で変わる人もいますから、現時点では何とも言えないのではないでしょうか。」

エマ「そう、私はそれに困ってる。」

紗夜「はぁ......?」

エマ「私には未来に起こる事を計算できないから、燐子とお兄ちゃんの将来は想像の域を出ない。だからこそ、私好みの燐子を推してる。」

友希那(私、には?)

紗夜「......まるで、未来を計算できる人がいるような言い回しですね。」

リサ「え?」

 

 あ、そう言えばそうだ

 

 エマの言い方からすると確かに、そう聞こえる

 

 けど、未来に起こることを計算するって何?

 

 そんなの、ありえるの?

 

エマ「いるよ。」

Roselia「!?」

エマ「限定的だけど、未来すら計算する規格外の天才はいる。未来視に限りなく近い精度で計算する人間はいる。」

紗夜「あ、ありえないです。そんなの。」

エマ「あなた達、気付いてないの?」

 

 エマのその言葉に、あたし達は息を呑んだ

 

 だって、エマの言ってる人が誰か、分かっちゃったから

 

 そもそも、こんなに褒める人間、1人しかいないし

 

エマ「気付いてないなら教えてあげる。」

 

 ヤレヤレといった口調のエマ

 

 ま、まさか......

 

エマ「私の家系......南宮は高学歴ぞろいの天才家系なんて言う安っぽい肩書を名乗ってる。けど、それはあいつらの勘違い。天才なんて呼ばれたのは私とほんの数人だけ。」

リサ「!」

エマ「学歴なんて、努力でどうにでもなる。努力する天才はいても、努力して天才になる人間はいない。だからこそ、本物の天才は際立つんだよ。」

あこ「それは、エマって事?」

エマ「あたしが凄いのは認める、けど、違う。」

 

 エマは軽く目を閉じ

 

 数秒して、ゆっくりと開き

 

 そして、ゆっくり口を開いた

 

エマ「私なんて紛いもの。本物の最高の天才は......環那お兄ちゃんだけ。」

燐子「......!」

エマ「すぐに分かるよ。南宮が紛い物の集まりの、張りぼてだってこと。」

リサ「え、それはどういう__」

環那「__忘れ物忘れ物~。」

Roselia「!?」

エマ「あ、お兄ちゃん。」

 

 リビングのドアが開いて、心臓が飛び出かけた

 

 環那、なんてタイミングで戻って来てんの!?

 

紗夜「な、何を忘れたんですか?」

環那「自分で持ってきたシャンプーとかだよ?いやぁ、お風呂行くときにすぐ持っていけるようにってここに置いてたんだよね~。」

 

 環那はそう言いながらテーブルに置いてある袋を手に取った

 

 なんか置いてるなと思ってたけど、環那のだったんだ

 

 しかも、なんかちょっと良いのだし

 

環那「って、皆、難しい顔してどうしたの?」

エマ「私が出した問題を考えてもらってた。」

環那「あ、なるほど。それは大変そうだね。」

エマ「そうでしょ。」

リサ(エマ、メンタルつよ。)

環那「あはは、楽しそうで良かった。じゃあ、今度こそお風呂行くね~。」

エマ「うん。覗かないから安心して。」

環那「それ、本来なら逆なんだよね~。」

 

 そんな会話をしながら、環那はリビングを出て行った

 

 いやー、焦った

 

 環那の家系の話はシビアだし

 

 本人に聞かれてなくてよかった

 

エマ「......すぐに気付くよ。お兄ちゃんの本当の価値にね。」

リサ「え?」

エマ「この話は終わり。お兄ちゃんに貰ったこのカードゲームをしよう。」

あこ「あ、ウノだー!」

紗夜「いいですね、やりましょうか。」

友希那「えぇ。」

燐子「そ、そうですね。」

 

リサ(......エマの最後の言葉って......)

 

 あたしはそんな疑問を抱きつつ

 

 結局、皆とウノをすることになった

 

 けど、エマの最後の言葉が気になりすぎて集中できなくて

 

 かなり負けてしまった

 

 

 

 



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落下

 朝の4時30分頃、俺は1人で海辺へ出た

 

 旅行の時ってなんで早く起きちゃうんだろう

 

 不思議な現象だよね~

 

九十九『__て言うのが報告。』

環那「なるほど。」

 

 俺は少し離れた場所にある防波堤に腰掛け

 

 九十九からの報告を聞いた

 

 どうやら、向こうも何か動いてるみたいで

 

 一応、こっちに確認の連絡をよこしたらしい

 

 まぁ、報告を聞いた結論としては......

 

環那「全く問題ないね。」

九十九『あはは、だよねー。100手遅いって感じー?』

環那「最初から手遅れだよ。何もかも。」

 

 遅いねー、動くのが

 

 ババアが死んで脳みそも死滅した......

 

 いや、元から死滅してるか、おもしろ

 

環那「九十九、人見、新太、もう全員休んでいいよ。」

九十九『おぉ、ちょうどやることなくなってたんだよねー!』

環那「そんな事になってると思ったよ。お疲れ様。」

九十九『いやいやー、最後まで付き合うよー!あたしも暇だからねー!』

環那「そう?じゃあ、それならそれで。」

九十九『うん!またねー!』

 

 九十九のそんな声の後、電話が切れ

 

 俺はボーっと海の向こうを眺めた

 

環那(青いなぁ、海。)

エマ「__お兄ちゃん。」

環那「ん?エマ、どうしたの?」

エマ「部屋に忍び込んだらいなかったから、探してた。」

環那「息をするようにとんでもない事言うね。」

 

 俺は溜息を付きながらそう言った

 

 エマ、俺のことちゃんと兄と思ってるのかな?

 

 元からだけど、視線が兄に向けるそれじゃないね

 

エマ「もうすぐだね、お兄ちゃん。」

環那「そうだね。もうすぐ、全部終わる。」

 

 エマは俺の隣に座って、そんな事を言ってきた

 

 その声はいつもの無機質な声と違い

 

 優しく、年相応な可愛い声だった

 

エマ「終わらないよ。」

環那「?」

エマ「私達の時間はまだ終わらない。これからたくさん一緒にいるから。」

環那「......そうだね。」

 

 エマに手を握られた

 

 小さい手だ

 

 本当に14歳なのかな?

 

エマ「愛してるよ、お兄ちゃん。」

環那「ありがと。」

エマ「子供作ろうよ。」

環那「あはは、またその冗談?面白いけど、子供の状態を保証できないからダメだよ。」

エマ「むぅ......」

 

 エマは横で不服そうな顔をしてる

 

 こういうの、ブラコンって言うのかな?

 

 まっ、このくらいの冗談なら可愛いし

 

 背伸びしてるみたいで微笑ましいね

 

環那「さて、そろそろ戻ろうか。皆の朝ごはんの準備をしないと。」

エマ「お手伝い、する。」

環那「ありがとう、いい子だね。」

エマ「......♡」

 

 エマの頭を撫でた後

 

 俺達は防波堤から離れ

 

 一緒に合宿場に戻った

__________________

 

 朝の7時になったころ

 

 皆はほぼ一斉に起きて来た

 

 俺はそれに合わせてキッチンに立ち

 

 朝ごはんの仕上げを済ませた

 

環那「__はーい、今日の朝ごはんはスフレパンケーキだよー。」

リサ「わぁー!めっちゃオシャレじゃん!」

環那「トッピングははちみつ、生クリーム、バニラアイス、後いちごもあるよ!」

あこ「環那兄、女子力高いね。」

紗夜「昨日から思ってたんですが、そのエプロンは何ですか?」

 

 と、みんな思い思いの感想を言って来る

 

 ちなみに、エプロンは4月くらいに買ったお気に入り

 

 小学校の先生が料理するならエプロン着ろって言ってたから買った

 

エマ「私ははちみつと生クリームマシマシ。」

環那「分かってるよー、はい。」

エマ「美味しそう。」

リサ「朝からこれって、罪悪感凄いね~。」

燐子「あ、あはは......」

友希那「大丈夫よ、きっと。」

 

 うんうん、女の子の会話はいいね

 

 でも、体重の話は聞かなかったことにする

 

 女の子の体重の話に男が介入するのはご法度だって言うし

 

 紳士の心で黙っておこう

 

リサ「今日は近くの山に行こ!すごい綺麗だって評判らしいし!」

環那「そう言うと思って、準備してるよ。」

友希那「準備?」

 

 友希那が首を傾げてこっちを見てる

 

 まぁ、海と山がある場所に来て、海だけで遊ぶなんてないだろうし

 

 取り合えず、色んな物を用意してた

 

環那「虫よけスプレー、帽子、スポーツドリンクに非常食とか、色々。」

あこ「準備いいねー。」

環那「友希那を守るために準備を欠かしたことなんて無いよ。」

紗夜(この人、適当なのかそうじゃないのかよく分からないわね。)

 

 山登りは小学生の遠足以来かな

 

 友希那をおんぶして上った記憶が大きい

 

リサ「よし、じゃあ、食べたらすぐ行こっか!」

あこ「はーい!」

環那(じゃあ、俺はもろもろの用意を進めよっと。)

 

 そんな感じで皆は朝ごはんを食べて

 

 俺は山登りの準備を始した

__________________

 

 合宿上から徒歩10分の距離にある山

 

 そこが今回、山登りをする場所だ

 

 いい感じの傾斜と豊かな自然があって

 

 初心者向けの登山コースとネットに書いてた

 

 熊とかイノシシの被害は偶に出るらしいけど

 

 そこの対策はしてるし、大丈夫でしょ

 

環那「のどかだね~。」

エマ「都会より空気が綺麗。」

 

 山は良い

 

 気持ちのいい自然に澄んだ空気

 

 そして何より、可愛い友希那!(平常運転)

 

環那「その服装も可愛いよ!こっち向いてー!」

友希那「もう、環那ったら。」

 

あこ「あのカメラ、どこから出したんでしょうね?」

紗夜「分かりません。構えが早すぎます。」

リサ「プロだからね。」

 

 カメラを連写しつつ

 

 皆で道なりを進んで行った

__________________

 

 歩いて汗ばんでいく友希那も可愛いと思いつつ歩いてると

 

 段々、基礎体力の差が出て来た

 

 俺はその子に歩み寄った

 

燐子「__はぁ、はぁ......」

環那「大丈夫?燐子ちゃん。」

燐子「大丈夫......」

 

 やっぱり、燐子ちゃんは体力がないみたいだ

 

 女の子らしい体力で、可愛いね

 

 昔の友希那みたいだ

 

あこ「わぁ~!魚いる~!」

紗夜「宇田川さん、あまり身を乗り出したら駄目ですよ?」

あこ「大丈夫ですよ~!りんりんも見てよ~!」

燐子「う、うん......」

 

 あこちゃんに呼ばれて

 

 燐子ちゃんは川の中が見れる場所に移動した

 

 その2人の姿はまるで姉妹みたいだ

 

 うん、微笑ましいね

 

 “燐子”

 

 あこちゃんの横で魚を見てる

 

 ここの川はすごく綺麗で魚が綺麗に見える

 

 けど、底は全然見えない

 

 結構深いのかな?

 

あこ「ねぇねぇ、りんりん?」

燐子「どうしたの?」

あこ「あこね、環那兄を見て気付いたことがあるんだ。」

燐子「気付いたこと?」

 

 私は首を傾げた

 

 あこちゃんは少しニヤついてる気がする

 

 南宮君について気付いたことってなんだろう

 

あこ「多分だけど......」

燐子「うん?」

あこ「環那兄、りんりんのこと好きだよ。」

燐子「えぇ!?///」

 

 私は思わずそんな声を上げてしまった

 

 皆の視線がこっちに集中してる

 

 それに気づいて、恥ずかしくてまたしゃがみこんだ

 

燐子「ど、どういうこと......?///」

あこ「なんとなく、環那兄、りんりんに優しいから。友希那さんとは違う感じで好きなんじゃないかなって。」

燐子「そ、そんなこと......///(あれば、いいな......///)」

 

 南宮君が私を好きなら

 

 付き合ったりしたいって思う

 

 けど、私なんかで、いいのかな......?

 

あこ「きっと行けるよ!」

燐子「そ、そうかな......///」

あこ「うん!」

リサ「__2人ともー!そろそろ行くよー!」

 

 向こうから、今井さんの声がした

 

 休憩時間は終わりかな?

 

燐子「あ、はい......!」

あこ「今行くー!」

 

 今井さんの声にそう返事し

 

 私とあこちゃんはその場を立ち上がった

 

 けど、その時......

 

燐子「__きゃ!!」

あこ「うわぁ!!」

 

 目の前を黒い影が通り過ぎていった

 

 突然の事で私は体勢を崩してしまい

 

 濡れた石で足を滑らせ

 

 そのまま、川に落ちてしまった

 

環那「燐子ちゃん!?」

 

燐子「......!!(え、な、何が起きて__)」

 

 一瞬、状況が理解できなかった

 

 けど、私の体を包む冷たい感触がそれを教えてくれる

 

 体、と言うより服が重たくて動けない

 

燐子(お、溺れる......!)

環那「燐子ちゃん!!」

燐子「み、な、みや、くん......!?」

環那「ちっ!(服が重くなって、上手く動けない!!)」

 

 私が溺れる直前

 

 近くで水しぶきが起きたかと思うと、南宮君が私を抱きかかえていた

 

 けど、南宮君も動きづらそうにしてる

 

燐子「だ、ダ、メ......!南宮君も、死んじゃう......!!」

環那「大丈夫!!なんとかする!!」

 

リサ「環那!!燐子!!」

友希那「早く上がりなさい!!」

エマ「お兄ちゃん!右方向、2m先に木の根が出てる!」

 

環那「!(ナイス、エマ!)」

 

 南宮君は右方向に手を伸ばし

 

 川に飛び出ている木の根を力強く掴んだ

 

 けど......

 

環那「っ!!(なっ!?)」

燐子「え......!?」

 

 南宮君が掴んだ枝は腐っていたのか、砕け散り

 

 水流で私と南宮君は川の真ん中に流された

 

 この状況に、絶望する

 

 この川は深くて、岸まで遠く、しかも流れが速い

 

 なのに、私なんて抱えてたら......

 

燐子「南宮君、逃げて......!」

環那「大丈夫!!このくらいの状......況!?」

燐子「......!!?」

 

 神様は、優しくない

 

 悪い予感だけ、的確に的中させてくる

 

 激しく流れる川の先には轟轟と一層激しく流れる水

 

 その先には川が続いてるのが見えなくて

 

 その事に、私は恐怖した

 

環那「うっそぉ......」

燐子「きゃあああ!!」

 

リサ「2人とも!!早く!!」

紗夜「む、無理です!!間に合いません!!」

 

環那(これは、運の尽きかな?)

燐子「!!」

 

 私は、南宮君に抱きしめられ

 

 その時、走馬灯のようにあこちゃんの言葉を思い出した

 

 『環那兄、りんりんのこと好きだよ。』

 

 あの言葉がもし本当なら......

 

 そんな予感は、的中し

 

 私の耳元で、南宮君の声がした

 

環那「......守るよ、なんとか。」

燐子「__!!」

リサ「か、環那ぁー!!」

あこ「りんりんー!!」

 

 体に感じる妙な浮遊感

 

 それと同時に聞こえる皆の呼ぶ声

 

 私はそれらを感じながら滝から落下し

 

 恐怖で、強く瞳を閉じた

 

 

 



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遭難

 暗い、何も見えない空間

 

 頭の中には、冷たくて苦しい記憶

 

 ただ、途方もない恐怖だけが襲って来る

 

 死んじゃうかもしれない

 

 好きな人を死なせてしまうかもしれない

 

 そんな恐怖が延々と頭に流れ込んでくる

 

燐子「__っ!!!」

環那「あ、起きた?」

燐子「わ、私、生きてる......?」

環那「あはは、生きてるよ。」

 

 南宮君はそう言いながら笑いかけてくれる

 

 それを見て安心した

 

 私も南宮君も生きてる

 

 本当に良かった......

 

環那「生きてるのは良いんだけど、結構流されちゃってるから、ここがどこかは分からないかな。俺も流石に気絶したから。」

燐子「か、帰れるかな......」

環那「うーん、まぁ、何とかなるよ。」

 

 この絶望的な遭難と言う状況

 

 けど、南宮君がいれば

 

 どんな状況でもなんとかしてくれる

 

 そんな気がする

 

環那「俺も燐子ちゃんも携帯は持ってないけど、向こうにはエマがいるし、すぐに手を打ってくれるよ。(ノア君もいるし。)」

燐子「あ、そっか......!」

環那「まぁ、1日野宿するくらいは想定しておかないとね、っと。」

燐子「!」

 

 南宮君はそう言って立ち上がり

 

 森の方に目を向けた

 

 野宿......

 

 本格的に遭難したんだって実感が湧いてきた

 

燐子「ごめんね......巻き込んじゃって......」

環那「いやいや、問題ないよ。俺は野宿のプロみたいなものだからね。大船......は言いすぎだけど、まぁ、漁船くらいに乗った気でいてくれたらいいよ。あっはは!」

 

 そう笑いながら、森の方に入って行った

 

 取り合えず、私も出来る事を探さないと

 

 そう思って、立ち上がり、南宮君が歩いて行った方について行った

__________________

 

 “環那”

 

環那「__うぐっ......(やっぱ、ダメージあるか。)」

 

 燐子ちゃんから離れた場所に来て

 

 俺は木にもたれ掛かり、ズルズルと座り込んだ

 

 流石にあの状況じゃノーダメージとはいかなかった

 

環那(背中はかなり強打、勢い殺すために岩掴んだ左手も結構抉れてる。幸いなのは、義手の損傷がない事か。塗装に防水の効果があって助かった。)

 

 体のダメージはあれど、何とかなる

 

 片腕が取られてたら多少厳しかったけど

 

 両腕あるならやりようはある

 

環那「(でも、少しダメージを回復しないと。)少し、休もう......」

 

 ここからの行動パターンを考える

 

 俺達が落ちた滝は山間部より少し上くらいにあった

 

 そして、ここの川は比較的に曲がりは緩やか

 

 つまり、帰り道はある程度用意されてる

 

 けど、ここで問題なのは時間だ

 

 どの位気絶してたか分からないけど

 

 もう若干、陽が沈み始めてる

 

環那(暗くなる前にある程度移動するか......それとも、今は食料確保を優先して安全に事を運ぶのが良いか。)

 

 俺1人なら前者でも問題ない

 

 けど、今回の目的は燐子ちゃんを無事送り届ける事

 

 そう考えると、今は体力回復を優先すべきか

 

環那「......よし、方針は決まった......けど、流石にきついな。痛みが引いたら、山菜集めて、魚捕まえて火を起こして......あと、雨風凌げる場所を探さないと。」

 

 俺はそう考えて軽く目を閉じ

 

 一旦、思考を停止させた

 

 “燐子”

 

燐子(__み、南宮君......)

 

 南宮君に付いて来て、独り言を聞いてしまった

 

 あんなに、苦しそうな顔をしてた

 

 私を庇って、怪我しちゃったんだ......

 

 チラッと見えたけど、背中には大きな痣があった

 

燐子(わ、私のせいで......私のせいで......)

 

 私が、川に落ちたから

 

 無理矢理にでも南宮君を引きはがさなかったから

 

 南宮君の優しさに付け込んで、結局、死ぬのを怖がったんだ......

 

 そのせいで、南宮君が傷ついた......

 

燐子(......何かしないと。南宮君の役に立たないと......!)

 

 何ができるかは分からない

 

 私に出来る事なんてたかが知れてる

 

 けど、何か、何かあるはず

 

燐子「......山菜集め、しないと。南宮君、するって言ってたから......!」

 

 私はそう呟いて走り出し

 

 山菜集めをすることにした

 

 なんとか、役に立たないと

__________________

 

 “環那”

 

 体中が痛い

 

 拘束されてるように動けない

 

 この感覚、なんだか久しぶりだ

 

 こんな感覚を感じたのは、いつ以来だろう

 

 そう、確か......

 

環那(4歳の時、だっけ。)

 

 ジジババに蹴られ殴られ

 

 肋骨が折れたまま監禁されてたあの日

 

 あの時だけか、死ぬほど痛かったのは

 

環那(けど、その痛みもすぐ消えたっけ......)

 

 あの日、家を抜け出して

 

 1人で茫然とベンチに座ってた時

 

 あの時に友希那と出会ったんだっけ

 

 あの時から友希那は天使で__

 

燐子「__み、南宮君......!?」

環那「あ......ここにも天使が......」

燐子「ふぇ......?///」

環那「ん?あぁ、おはよう、燐子ちゃん。」

 

 ちょっと夢、見てたかも

 

 もしかしたら走馬灯?

 

 なんかよく分からないけど

 

 寝てたのは間違いない

 

 目の前には心配そうな顔をしてる燐子ちゃん

 

 うん、天使だ

 

 友希那と遜色ないくらいに

 

環那「ごめんごめん、つい寝ちゃったよ。」

燐子「い、いや、大丈夫だよ......?疲れてるだろうし......」

 

 俺は心配そうにしてる燐子ちゃんを横目に立ち上がり

 

 肩を回したり、色んな部位を動かして

 

 軽く体の状態を確認した

 

環那(うん、まぁまぁ回復したかな。頭もスッキリしてる。)

燐子「あ、あの......」

環那「どうしたの?」

燐子「山菜、集めて来たよ......」

環那「おぉ、すごいね!すごく助かるよ!それにしても、よくどれがどれって分かったね?」

燐子「昔、図鑑で見たことがあったから......///」

 

 なるほど、博学だ

 

 正直、今から集めてたら間に合わなかった

 

 まっ、寝てた俺が悪いんだけどね

 

環那「取り合えず、移動しよう。夜の森は危ない。」

燐子「!///」

 

 俺はそう言いながら、燐子ちゃんを抱き寄せた

 

 ここがどこか分からないし

 

 いつ野生動物が出て来るかもわからない

 

 流石に生身で勝てるわけもないしね

 

環那「あまり外で過ごすのは嫌だし、洞窟とか見つけたいね。一旦、俺達が流れた川辺りに戻ろう。」

燐子「う、うん......///」

 

 それから、俺は周りを警戒しつつ歩きだし

 

 元居た地点に戻ることにした

 

 あのあたりは崖の下だったし

 

 もしかしたら、洞窟とかないかな?

 

 

 



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誘惑

 人生はそう上手く行かない

 

 望まなくても不幸は平等に与えられ

 

 幸福を得るにはそれ相応の努力が必要で

 

 努力しないものは地の底まで落ちていき

 

 おまけにスタート地点は極めて不平等

 

 まるで、改悪された資本主義だ

 

 それを創った神ってのはクソ野郎......

 

環那「__マジか。」

燐子「もう、見つかった......?」

 

 と、今まで思ってた

 

 けど、そこまで悪いものでもないかもしれない

 

 偶にはいい事もしてくれるみたいだ

 

環那「いい深さの洞窟だね。一晩過ごすには申し分ない。」

燐子「こ、こんなに都合よく行くんだね......」

環那「俺も想定外だよ。」

 

 燐子ちゃんの安全を守れるのに越したことはないし

 

 ここは有難く神に甘えておこうか

 

 まぁ、今までの所業は許さないけど

 

環那「よし、火を起こして山菜を食べよっか!」

燐子「え、出来るの?」

環那「クフフ、いつかあの家を全焼させてやろうと思って練習してたんだよね!」

燐子(わ、笑えない......)

 

 半分冗談は置いといて

 

 取り合えず、俺は火を起こすことにした

 

 と言っても、火種を集める物と石でかまどを作る

 

 火きり板、火床を用意し、出来るだけ頑丈な棒を用意する

 

 そして、火きり板を圧をかけるイメージで擦って

 

 煙が上がった木くずを火床に落とし

 

 息を吹きかけ、火を強くし

 

 後はかまどに薪を詰めて火を燃え移らせ

 

 火を大きくしたら......

 

環那「__はい、完成!」

燐子「す、すごい......!」

環那「まぁ、普通に生きてればこんなことしないよね。」

 

 さて、山菜を焼こうかな

 

 まさか、この年になってこんなサバイバルをするなんてね

 

 こんな状況だけど、すごく楽しい

 

 こんな楽しい野宿、初めてだ

 

環那「~♪」

燐子(す、すごく余裕そう。鼻歌歌ってるし......)

環那「山菜は美味しいよ~。魚が取れたら最高だったけど、我が儘は言えないね。」

燐子「食べたことあるの?」

環那「いや、雑草とか木の枝食べてた時期もあったから、山菜は美味しいだろうなーって。」

 

 雑草は苦くて敵わなかった

 

 木の枝も硬くて口の中切れるし

 

 それに比べたら何でもおいしいでしょ

 

環那「はい、焼けたよ!食べられる?」

燐子「う、うん。」

 

 燐子ちゃんは神妙な表情で焼けた山菜を受け取った

 

 焼いたし、菌は大丈夫だと思うけど

 

 女の子は少しためらうよね

 

燐子(さ、山菜だから......食べても平気、だけど......)

環那「あはは、やっぱり食べずらいよね~。」

燐子「え?あ、ご、ごめんね......」

環那「仕方ないよ。都会に住んでちゃ、自分で摘んだ山菜は食べるの躊躇うよ。」

 

 でも、何も食べないのもなー

 

 そんな事を考えてると、ポケットに違和感があった

 

 俺はそれを手に取り、ピンときた

 

環那「良いものあった。これ、食べなよ。」

燐子「これ、チョコレート?」

環那「そうそう!俺、頭回すために甘いもの常備してたんだけど、それが偶々3つ残ってた。いらないから食べて。」

燐子「あ、ありがとう......!」

 

 燐子ちゃんは嬉しそうにチョコレートを受け取った

 

 うんうん、女の子は笑顔に限るね

 

 て言うか、山菜が思った以上に美味しいんだけど

 

 普通に感動した

 

燐子「甘い......♪」

環那「あはは、良かった。(さて......)」

 

 今晩はここで眠るとして

 

 明日は取り合えず、川を遡って滝に向かう

 

 あそこからなら帰れるだろうし

 

 何より、確実な道しるべがあるからね

 

環那(後、ノア君がエマと接触してればその辺にいるかもしれない。拾ってもらえれば、ラッキーかな。)

燐子(って、南宮君に頼ってばかりになってる......!)

環那(山菜食べたし、少しでも体力回復しとこっと。)

 

 俺はそう思い目を閉じ

 

 この後、燐子ちゃんが寝てる間の見張りの事を考え、仮眠をすることにした

__________________

 

「__や__く」

環那(......?)

 

 なんだか、遠くで声が聞こえる

 

 ......って、燐子ちゃんしかいないじゃん

 

 やば、何かあったのかも

 

環那「......どうかした?」

燐子「あ、ご、ごめん......寝てた......?」

環那「大丈夫。すぐ起きれるようにしてたつもりだから。」

 

 どれくらい寝てたのだろうか

 

 火が消えてないし、そんなに長くはないのかな

 

 けど、体力は十分ある

 

 一晩くらいなら起きてられるかな

 

環那「それで、何かあった?」

燐子「えっと、その......」

環那「?」

 

 燐子ちゃんは申し訳なさそうに

 

 だけど、どこか嬉しそうに川の方を指さしてたから

 

 俺はそれに従い視線を向けた

 

環那「......これは、蛍かな?」

燐子「う、うん......!すごく綺麗だから、南宮君にも見て欲しくて......!」

環那「......」

 

 ほんとに可愛いな、この子

 

 俺がこんな風に思う女の子は珍しい

 

 基本的に今まで女の子に魅力を感じなかったし

 

環那「蛍が光るのは求愛行動らしいね。」

燐子「あ、それ聞いたことあるかも......」

環那「恋多き生物だね。」

 

 寿命なんて1~2週間しかないのに

 

 その間に恋を知って求愛して子作りか

 

 中々、波乱万丈な人生だなぁ

 

環那、燐子「......」

 

 そんな会話の後、場が静寂に支配された

 

 聞こえるのは川の流れる音、風で葉が揺れる音だけ

 

 けど、こう言った時間も悪くない

 

 燐子ちゃんが放つ雰囲気が心地良いからかな

 

燐子「......ごめんね。」

環那「え?」

 

 しばらくの沈黙の後

 

 燐子ちゃんが小さな声でそう言った

 

 何のことか分からない

 

 なにについて謝ってるんだろう?

 

燐子「怪我、してるよね......」

環那「!(気付かれてた?)」

燐子「私を庇ったせいで......ごめんね......」

 

 燐子ちゃんは涙目のままそう言って来る

 

 別に、この子が謝る必要はない

 

 俺には見捨てるって言う選択肢があって

 

 それを選ばなかったのは自分自身だし

 

環那「別に謝る必要はないと思うけど。」

燐子「でも......」

環那「あはは!燐子ちゃん、性格良すぎ!」

燐子「そ、そんなこと......」

 

 今時こんなに性格いい子は珍しい

 

 南宮の人間見てたら女神に見えるよ

 

 俺を筆頭に性格最悪だしね

 

 エマとか一部は除くけど

 

環那「俺はそんな燐子ちゃん、結構好きだよ。」

燐子「!?///」

環那「優しいし、可愛いし、理想的な女の子だね。」

 

 って、なんで口説いてるんだろ

 

 初心な子にこんな事したらダメでしょ

 

 犯罪認定されるよ

 

燐子「え、えっと......///」

環那「あはは、ごめんね。ちょっとテンション上がってるみたい。」

 

 俺は笑いながら謝った

 

 全く、困ったものだよ

 

 ちょっと落ち着かないt__

 

燐子「......南宮君は、私のこと、好き......?///」

環那「え?」

 

 っと、今、この子はなんて言った?

 

 俺が燐子ちゃんを好きかって?

 

 え、どういう事?

 

環那「えーっと、それはどういう意味で?」

燐子「恋愛、だよ......?///」

環那「恋、愛......?」

 

 あれ、どうなってるの?

 

 燐子ちゃんの表情は色っぽいし

 

 なんだか距離も近くなってる気がする

 

 それに、息も荒れてる?

 

燐子「もし、私が告白したら、付き合ってくれる......?///」

環那「燐子ちゃんとそうなるのも悪くないとは思うよ。なるかならないかは別問題だけど。」

燐子「じ、じゃあ......!///」

環那「!!」

 

 燐子ちゃんはバッ!と立ち上がり

 

 俺の手を引き、洞窟に入った

 

 洞窟の中には灯りなんて無くて

 

 外で燃えてる炎の光だけが光源になっていて

 

 どこか、妖しい雰囲気を醸し出してる

 

燐子「__ここで......私と、1つになって......?///」

環那「へ......?」

 

 そんな状況で、彼女はそう言った

 

 その表情はいつもの可愛らしい感じとは違って

 

 妖艶な、色気のある表情をしてる

 

 これが、あの燐子ちゃんなのか

 

 そう思ってしまうほど、普段とギャップがある

 

燐子「覚悟は......出来てるから!///」

環那「燐子ちゃん!?」

 

 俺の左手が、燐子ちゃんの方へ誘導され

 

 そのまま、あの豊満な胸に触れた

 

 形容できない、柔らかい、フワフワした感触

 

 そして、少し遠くに心臓の鼓動を感じる

 

燐子「好き、だよ......///」

環那「っ!」

燐子「南宮君が、大好きです......///だから、ここで......」

 

 これ以上、聞いちゃいけない

 

 流されるのが目に見えてる

 

 そう分かってるのに、動けない

 

 阻止することを俺の本能が望んでない

 

 このままの流れに身を任せたい

 

 ダメなのに、そう思ってしまう

 

環那「り、燐子ちゃ__」

燐子「__一生消えない思い出、欲しいな......?///」

環那「っ!!」

 

 その時、俺の中で何かが切れたのを感じた

 

 一気に欲望に支配され、目の前の少女に迫って行き

 

 彼女の甘い声が漏れたと同時に、

 

 岩壁にある2つの影が1つに重なった

 

 

 



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両思い

 不思議な感覚だった

 

 今まで何とも思わなかった行為

 

 それで感じる今までにない幸福感

 

 ただ、目の前にいる女の子が愛おしかった

 

環那(......少し、分かったかも。)

 

 燐子ちゃんが言ってた無条件の愛

 

 それの意味が少しだけ理解出来た気がする

 

 なるほど、これが......

 

燐子「すぅ、すぅ......」

環那「......可愛い。」

燐子「ん......っ」

 

 綺麗に整えられた前髪を掻き分ける

 

 その下にあるのは綺麗な寝顔

 

 昨日とは違う、幼くて可愛らしい表情

 

環那(もっと早く、燐子ちゃんと出会ていれば......)

 

 もし、燐子ちゃんと中学の時......

 

 いや、もっと早くに出会えて、今みたいに関われていたら

 

 俺はこんな風になってなかったかもしれない

 

 もっと、まともな人間に慣れてたかも......

 

環那「......いや、きっと今だったんだよね。」

燐子「ん......?南宮君......?」

環那「おはよ、燐子ちゃん。」

燐子「う、うん......///」

 

 燐子ちゃんは恥ずかしそうに眼を背けた

 

 昨夜の事を思い出してたりするのかな

 

 あんなに積極的だったのに

 

燐子「あ、服、かけてくれてたんだ......///」

環那「気にしなくていいよ。風邪ひかれたら困るしね。」

 

 俺はそう言って立ち上がった

 

 そろそろ、行動を開始しないといけない

 

 太陽の位置的に今は朝の6時くらい

 

 明日には帰るし、さっさと合宿上に戻らないと

 

環那「行こう、燐子ちゃん。必ず、無事に送り届ける。」

燐子「うん......!///」

 

 そんな会話の後、燐子ちゃんも立ち上がって

 

 一晩過ごした洞窟を2人で離れた

__________________

 

 ”燐子”

 

 あの洞窟を離れて30分くらいが経った

 

 私達は流れてきた河合像を歩いて

 

 取り合えずあの滝に向かってる

 

環那「__のどかだねぇ。」

燐子「そうだね......///」

 

 2人だけで歩くこの時間

 

 すごく幸せで、楽しくて、ドキドキする

 

 告白してすぐにあんなことをしてしまって

 

 思い出すと顔から火が出そうになる

 

燐子「あ、あの、南宮君......///」

環那「ん?どうかしたのー?」

燐子「昨日の事......なんだけど......///」

環那「昨日って、どのあたり?」

燐子「その......南宮君の事が好きって......言ったこと......///」

環那「あー。」

 

 すごく恥ずかしい

 

 自分で昨日の事を掘り返してるのもあるけど

 

 南宮君がそこまで気にしてなさそうなのが余計恥ずかしい

 

環那「なんて言うか、燐子ちゃんって男の趣味悪いね。」

燐子「えぇ!?」

環那「自分で言うのもなんだけど、俺って性格最悪だよ?人道に反する行為なんていくらでもするし、犯罪を犯すことに一切ためらいもない、犯罪者予備軍どころか前科ありだし。」

 

 すごい自虐の仕方

 

 実際に事実なのかもしれないけど

 

 大好きな人がこんな風に言われるのはちょっと......

 

燐子「......南宮君は優しいもん......」

環那「!」

燐子「だから......そんなに悪く言われるのは、嫌かな......」

環那「ははっ、ごめんごめん。」

 

 南宮君は陽気に笑ってる

 

 私は笑い事じゃないのに......

 

燐子「むぅ......」

環那「そんなに思ってくれてるなんて、男冥利に尽きるね。」

燐子「好きだから......///」

環那「あ、うん。ありがとう。」

 

 あ、珍しく動揺してる

 

 いつもは表情、一切変わらないのに

 

 少しは意識してくれてるのかな

 

燐子「南宮君は......私のこと、どう思ってるの......?///」

環那「俺?そうだなぁ......運命感じてる、とか?」

燐子「運命?」

環那「そうそう。」

 

 運命......

 

 南宮君がそういうこと言うのって意外かも

 

 運命とか信じなさそうなのに

 

環那「4歳の時、友希那じゃなくて燐子ちゃんに出会っていたら、俺はきっと燐子ちゃんに依存してたと思う。」

燐子「!!」

環那「そうなれば、俺も今と少しは変わってたかもって、さっき考えてた。」

 

 少し驚いた

 

 南宮君が、こんな事を考えてたなんて

 

 意外、かも......

 

環那「けど、燐子ちゃんとは今出会うべきだったんだって思ってる。」

燐子「......?」

 

 そう言って、南宮君は立ち止った

 

 何故か空を見上げて

 

 しばらくすると、ゆっくり口を開いた

 

環那「......燐子ちゃんを好きになったのかもしれない。」

燐子「......!?///」

環那「今まで友希那やリサ以外に嫌われてもどうでもよかったけど、今の俺、燐子ちゃんに嫌われるのが怖い。」

燐子「み、南宮君......?///」

 

 こ、これって、両思い......!?

 

 今、私のこと好きって言ったよね?

 

 じ、じゃあ、チャンスはあるんじゃ。......

 

環那「けど、まだ燐子ちゃんと付き合ったりはしたくない。」

燐子「え......?」

環那「俺は恋する気持ちを知らないから、中途半端に燐子ちゃんと関係を進めたくない。大切にしたい、って言うのかな。」

 

 南宮君は私の事、真剣に考えてくれてる

 

 好意はもたれてるって感じは伝わってくる

 

環那(理解できる日は、来るのかな。)

燐子「一緒に、学んでいこ?」

環那「?」

燐子「私も初恋だから、2人で一緒に学んで......理解出来て、私を好きって思ってくれたら、その時は......///」

 

 言葉に詰まる

 

 なんて言えばいいんだろう

 

 素直な気持ちを言葉にした方がいいのかな

 

環那「その時は?」

燐子「......迎えに来て、欲しいな......?///」

環那「っ!」

燐子「約束、してくれる......?///」

環那「......うん、分かった。」

 

 南宮君は静かにそう返事した

 

 なんだか、妙な関係になった、かな

 

 両思いになったと思うのに

 

 付き合ったりはしてないって......

 

 なんだか、おかしい

 

燐子「......大好きだよ///」

環那「教えてね、その意味を、これから。」

燐子「南宮君......///」

環那「名前で良いよ。」

燐子「っ!///......環那君......///」

環那「うん、燐子ちゃん。」

 

 名前で呼ぶだけ

 

 それだけなのに、すごくドキドキする

 

 これが好きな人って事なのかな

 

環那「っと、滝まで戻ってこれたね。」

燐子「あ、ほんとだ(いつの間に)」

環那「よし、ここまで来ればもう少し。少し休憩して、一気の戻っちゃおうか。」

燐子「うん、そうだね......!」

 

 そんな会話の後、私達は川のほとりに腰を下ろし

 

 少しだけのんびりした後

 

 合宿上に戻るために森の中に入った

 

 

 



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秘密と生還

 ”リサ”

 

 環那と燐子が滝から落ちて一晩が経った

 

 皆、心配なのか空気が重苦しい

 

 勿論、あたしも心配で眠れてない

 

紗夜「......一晩、経ちましたね。」

友希那「えぇ......」

 

 2人の目の下にはクマがある

 

 あたしと同じで眠れなかったんだ

 

 それはそうだよね

 

 だって、滝から落ちて仮に死んでたりしたら......

 

あこ「......あこが、あんなこと言ったからかな。」

リサ「あんな事?」

あこ「環那兄が、りんりんのこと好きだって、言っちゃったの......」

友希那、リサ「!!」

紗夜「それは......」

 

 言われてみれば、そうかも

 

 あの時の環那はいつもみたいに冷静じゃなかった

 

 本気で焦ったような顔して

 

 必死に燐子を助けようとしてた

 

 あんな環那を見るのは、友希那関連以外だとなかった

 

リサ「......間違いないよ。環那は間違いなく、燐子が好き。」

紗夜「彼が......!?」

友希那「......そうかもしれないわね。」

リサ「そう言う雰囲気もあった、かもね。」

 

 ほんとに環那は燐子が好きなんだ

 

 だったら、あたしも応援したい

 

 ......けど、それは2人が生きててこそ

 

 生きてなきゃ、応援も何もないから

 

エマ「お兄ちゃんは問題ない。」

リサ、友希那、あこ、紗夜「え?」

エマ「あの義手には、お兄ちゃんの生死を判定する機能を付けてる。仮に死んでたら、この端末に通知が来て、その瞬間に私も後を追う。」

紗夜「(最後のは聞いてない事にしておきましょう。)なら、大丈夫ですね。」

 

 この子は何をつけてるんだろ

 

 でも、すごく安心した

 

 環那が無事なら燐子も......

 

エマ「お兄ちゃんが死んでたら燐子も諦めないといけないけど、落下で即死してない限りは生きてる。お兄ちゃんなら、ありとあらゆる状況に対応できる。」

紗夜「そうですか?彼にサバイバルなんて向いてると思えませんが。」

リサ「いや、それは大丈夫でしょ。環那はサバイバル経験......って言うか、人生がサバイバルだったし。」

紗夜「えぇ......(困惑)」

 

 環那は昔、公園の草とか普通に食べてたし

 

 山の中なら一晩くらい余裕で生きれそう

 

あこ「でも、エマって環那兄をすごく褒めると言うか、評価高いよね?それってなんで?」

紗夜「確かに。彼は平凡な男子のはずですが......」

友希那「昔から、頭が良かったイメージはあるけれど。」

エマ「......本当に分からないんだね。」

リサ「!」

 

 エマは溜息を付きながらそう言った

 

 え、どういうこと?

 

 どういえば、一昨日も環那の事言ってたし

 

 それが関係あるの?

 

エマ「お兄ちゃん......それと私はギフテッド。」

あこ「ギフテッド?ってなに?」

エマ「ギフテッドは、先天的に高い学習能力や精神性を持ってる人間の事。つまり、生まれついての天才。」

リサ「環那とエマが......?」

 

 なんだか納得した

 

 2人の知能は常識的に考えておかしいし

 

 ギフテッドとか初めて聞いたけど

 

 そう言うのがあった方が納得できる

 

 けど、おかしいな

 

リサ「それなら、エマと同じくらいなんじゃないの?」

紗夜「そうですね。エマさんが南宮君を崇拝する理由にはなりません。」

エマ「お兄ちゃんは身体能力も優れたタレンテッドでもあるけど、これだけじゃない」

友希那「......?」

 

 エマはまたため息をついた

 

 呆れた態度が体からにじみ出てる

 

 そんな事を思ってると

 

 エマはゆっくり口を開いた

 

エマ「......お兄ちゃんは、サヴァン症候群でもあるんだよ。」

友希那「サヴァン、症候群......?」

エマ「分かりやすく言えば、脳に障がいがある代わりに、特出した能力を得るというもの。」

リサ、紗夜「っ!?(脳に、障がい......!?)」

エマ「そう。」

 

 エマは深く頷いた

 

 皆、呆気にとられた顔をしてる

 

 だって、環那にそんな感じは......

 

エマ「相手の立場になって物事を考えられない。それだけじゃないけど、異常者と言われるのは確か。」

リサ、紗夜「っ!」

エマ「国語が苦手なのも、人格の欠陥が原因の1つかもね。」

友希那(そ、そう言えば。)

あこ(環那兄、いつも苦手だって言ってた。)

 

 やばい、思い当たる事しかない

 

 言われてみれば思い当たる節がある

 

 まさか、ほんとに......?

 

エマ「けど、それに見合った能力はあるんだよ。」

紗夜「......その能力、とは?」

エマ「まず、ギフテッドで得た高い計算能力と記憶力。これだけでも、常人からすれば相当なものだった。」

リサ「でも、もう1つ、あるんでよね?」

エマ「そう、これがマズかった。」

紗夜「マズかった、とは?」

 

 あのエマが見たこともない表情を浮かべてる

 

 え、そんなにやばいの?

 

エマ「サヴァンで得た能力、それは......」

あこ「そ、それは......?」

エマ「......並列思考。」

リサ「並列思考?」

 

 って、2つの事を同時にできるってやつ?

 

 でも、それって訓練すれば誰でも出来るんだよね?

 

 なんだか、エマがもったいぶるから超能力じみた事だと思ってたけど

 

 意外と普通で拍子抜けした

 

エマ「......お兄ちゃんが同時に脳で処理できる量は常人の30.25倍」

友希那、リサ、あこ、紗夜「えぇ......!?」

エマ「しかも、それはギフテッドで導き出せる計算も対象。相手の感情を計算で出したり、未来の計算すら、あの頭脳は可能にする。」

 

 もう、意味が分からない

 

 けど、すごいっていうのは分かる

 

 まさか幼馴染がこんなに凄かったなんて、正に青天の霹靂だよ

 

エマ「けど、もちろんデメリットもある。」

友希那「デメリット?」

エマ「人格の欠陥。それに、並列思考を続け過ぎると体に何らかの影響が出て、最終的には脳が焼き切れる。」

あこ「あ、あの鼻血......!!」

リサ「あれってそう言う事だったの!?」

エマ「うん。」

リサ(ピーマンとか下らない事でなってたのに、そんなにヤバかったんだ。)

 

 色々と驚きを隠せないよ

 

 環那、本当に下らない事で考えすぎだよ

 

 そんなスーパーコンピューターみたいな頭脳で......

 

エマ「まぁ、何はともあれ、お兄ちゃんと燐子は帰って来る。だって、お兄ちゃんならその気になれば、少しでもキッカケがあれば帰り道の計算も__」

 

環那「__つ、ついたぁぁぁぁあ!!!」

燐子「や、やった......!!」

 

友希那、紗夜「!!?」

リサ「環那!?」

あこ「りんりん!?」

エマ「お兄ちゃん!」

 

 エマの話してる途中

 

 すごい音と共に玄関のドアとリビングのドアが連続で開いた

 

 その音の正体は環那と燐子で

 

 環那は燐子をお姫様抱っこして、息の乱れから走ってきたのが分かる

 

環那「はぁぁぁ......危なかった......」

燐子「うん、そうだね......」

リサ「な、何があったの!?って、その前に生きててよかった!」

エマ「だから言った。大丈夫だって。」

あこ「りんりん、大丈夫!?」

 

 皆、床に倒れてる2人の方に駆け寄る

 

 ほんとに生きて帰ってきた

 

 あの状況から生き残るのって相当でしょ

 

環那「取り合えず......水ちょうだい......」

燐子「わ、私も......」

エマ「用意した。」

リサ(はやっ!?)

 

 エマは2人に水を渡した

 

 すると2人はかなり喉が渇いてたのか水をがぶ飲みし

 

 コップ一杯に入ってた水を一気に飲み干した

 

友希那「2人が生きて帰ってきてよかったわ。」

環那「いや~、中々楽しかったよ?」

紗夜「なら、なぜあんなに焦っていたんですか?」

燐子「それには......すごく大変な理由があって......」

あこ「大変な理由?」

 

 あたし達は皆、首を傾げた

 

 環那と燐子はかなり疲れた顔をしてる

 

 ほんとになにがあったの?

 

環那「まぁ、色々あるけど、先に風呂入って来て良い?一晩野宿したから早く入りたーい。」

燐子「わ、私も......」

紗夜「え、えぇ、どうぞ。」

環那「じゃあ、燐子ちゃんが先に入っておいで?俺は待つから。」

燐子「うん......ありがとう......!」

 

 燐子は環那にそうお礼を言って

 

 自分の部屋の方に着替えを取りに行った

 

友希那「なんだか、さらに仲良くなった感じがするわね。」

環那「まぁ、一緒に森の中ですごしたからね。あはは。」

リサ「......?(なんか......)」

環那「じゃあ、俺も少し部屋で休むよ!燐子ちゃんがお風呂あがったら教えてね!」

リサ「ちょ、環那__って行っちゃった。」

 

 燐子がリビングを出た後、環那も出て行ってしまった

 

 まぁ、疲れてるから休みたいんだろうけど

 

 なんだろ、様子がおかしいな

 

 いつもの環那じゃないと言うか......

 

紗夜「まぁ、2人がお風呂から出るのを待ちましょうか。」

あこ「2人が無事でよかったー!」

エマ「お兄ちゃんがいるから、当然の結果。」

友希那「そう、ね?」

 

リサ(うーん、なんだかなぁ。)

 

 皆が2人の生還を喜んでる中

 

 あたしは環那の様子がずっと気になる

 

 けど、あたしが考えても仕方ないし

 

 今は取り合えず、2人がお風呂あがるの待って

 

 山の中で何があったのか聞くことにしようかな

 

 

 

 



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回想

 ”環那達が戻って来る数分前”

 

 昨晩、俺はちょっと神を見直してた

 

 本当は結構いいものかもしれない

 

 そう思ってた、けど......

 

熊「zzz......」

環那、燐子「......」

 

 前言撤回、神はクソだった

 

 死ねばいいのに(直球)

 

環那「うわぁ、あれはやばいね。」

燐子「う、うん......」

 

 目の前にいる熊はおよそ2m

 

 日本にいる中だと結構大きい方かも

 

 これには流石に俺もビビってる

 

環那(......状況を整理しよう。)

 

 熊がいるのは500m先くらい

 

 普通に考えれば十分な距離だけど

 

 時速50km以上で走れると考えたら危ない

 

 熊の嗅覚的に俺達の位置も掴まれてる可能性がある

 

 ......ちょーっとだけ厳しいな

 

環那「熊の嗅覚は犬の7倍、3㎞先のにおいも感じてるって言われてる。」

燐子「そ、その情報、すごく不安になるよ......」

環那「......だよね。」

 

 迂回して、安全に合宿場を目指すか

 

 いや、もう一匹熊がいるリスクがある

 

 燐子ちゃんを安全に送り届けるなら、ここを通るのが確実だ

 

環那(このまま距離を保って、最短でゴールを目指そう。幸い、すぐそこだし。)

燐子「......!///」

環那「......行こう、燐子ちゃん。大丈夫、絶対に守るから。」

燐子(て、手を......///)

 

 俺は燐子ちゃんの手を握った

 

 正直、昔の俺なら1人で逃げてた

 

 なぜなら、そっちの方が合理的だから

 

 けど、今は違う

 

 燐子ちゃんを守りたいって思ってるから、ノコノコ1人で逃げられないよね

 

環那「......足元に注意して。枝とか踏まないように気を付けて。」

燐子「う、うん。」

 

 そう言った後、俺と燐子ちゃんは歩きだした

 

 少しずつ、着実にゴールを目指すんだ

 

 バレたら流石に人生終了だ

 

燐子(み、南宮君の手、やっぱり女の子とは全然違う......///逞しくて、かっこいい......///)

環那(ゴールまで、あと400mちょっと。熊と競争するには厳しい。)

 

 100mくらいなら、燐子ちゃんを抱えて逃げられる

 

 あと300mだ、そんなに長い距離じゃない

 

 このまま上手く行けば、逃げられる

 

環那、燐子「__っ!!」

 

 そう思っていた、けど

 

 ガサガサガサ!と横の草が激しく揺れ

 

 もう1つ、丸々とした黒い影が姿を現し

 

 向こうの熊と違って、完全にこっちと目が合った

 

猪「......!!」

環那「マジか。」

燐子「ひ、ひぃ......!」

 

 神は流石に俺のこと嫌い過ぎじゃない?

 

 よくもまぁ、ここまで俺に不利な条件揃えたよ

 

 ほんと......クソだ

 

猪「......!......!!」

環那「......そっちがその気なら嫌い同士、張り合おうか。」

燐子「!」

 

 この絶望的な状況を覆す

 

 神からの試練?嫌がらせ?

 

 そんなもの関係ない

 

 生まれた時から敵同士なんだ

 

 全面戦争するしかないでしょ

 

環那「神?天罰?関係ないね、全部手の平で転がしてやるよ。」

燐子「え__っ!?///」

環那「逃げるよ、燐子ちゃん。」

 

 俺は燐子ちゃんを抱きかかえ

 

 動き出しをスムーズにするため重心を落とした

 

 さぁ、一か八か、負ければ燐子ちゃんと心中だ

 

 まっ、それはそれでいいのかもね

 

環那「__起きろよー!!!デブ熊ー!!!!」

猪「!!!」

 

熊「__!!!」

 

 俺はとびっきりの大声でそう叫んだ

 

 遠くで熊が起きたのを確認し

 

 同時に目の前の猪も動き出した

 

環那「燐子ちゃん、舌噛んじゃ駄目だよ!」

燐子「え__きゃああ!!」

猪「!!」

 

 声にビックリして突っ込んできた

 

 俺はそれにタイミングを合わせて飛んで

 

 ある方向に向かって猪を蹴り飛ばした

 

環那「チッ!!(重いよ、何食べてるんだか!)」

 

 俺はそんな事を考えながら走り出した

 

 勿論、このまま簡単には逃げられない

 

 精々、100m逃げるのが関の山

 

 ......普通なら、ね

 

熊「グルル......!!!」

猪「......!!!」

 

環那(よしっ、狙い通り!)

燐子(す、すごい!熊と猪を喧嘩させてる!)

 

 ここから計算式を展開する

 

 今の風向き、風速、道の傾斜、摩擦の強さ

 

 その全てを計算し、ベストな動きをする

 

 人間やっぱり知の力が全てでしょ

 

環那「あはははは!神、ざまぁみろ!!人のことバカにしてるからこうなるんだよ!!」

燐子「っ!(み、南宮君、鼻血が!?)」

 

 俺はそんな事を叫んでハイになりながら

 

 ゴールに向かって坂を駆け下りて行った

 

 この時、あまりに体が軽くて

 

 自分が自分じゃないみたいだった

__________________

 

 ”現在”

 

環那「__って言う感じだったんだ。」

リサ「いや、ヤバすぎでしょ。」

 

 ここに戻って来るまでの経緯を話すと

 

 まず最初にリサにそう言われた

 

 まぁ、本当にギリギリの状況だったしね

 

 かなりヤバかった

 

あこ「でも、環那兄かっこいいね!ヒーローみたい!」

エマ「お兄ちゃんなら当然。その気になれば、クマも倒せた。」

環那「それは流石にきついよ。燐子ちゃんいたし。」

紗夜(いなかったら出来たと聞こえるんですが?)

友希那「これはまた、大変な目に遭ったわね。」

 

 いやぁ、中々にヘビーな体験だった

 

 まぁ、燐子ちゃんと心中にならなくてよかった

 

 もう少し生きて一緒にいたかったし

 

 ......後、計画も終わらせちゃいたいし

 

リサ「さて、2人が遭難してる間に合宿1日延長したし、なにする?」

環那「そうだなぁ、取り合えず......ちょっと休みたい(切実)」

燐子「わ、私も......」

友希那「一晩野宿だったもの、疲れてるわよね。休んだらいいわ。」

紗夜「お夕飯は私達の方で準備しますので。」

 

 助かるなぁ......

 

 リサがいるし料理は安心だし

 

 ここはゆっくり休ませてもらおうかな

 

環那「夜になったら、花火でもしようか。買ってるし!」

あこ「わーい!花火だー!」

紗夜(どこまで用意してるのでしょうか......)

エマ(花火......お兄ちゃんと......///)

 

環那「行こっか、燐子ちゃん。」

燐子「うん......///」

 

 そんな会話の後、

 

 俺と燐子ちゃんはリビングを出て

 

 それぞれ、割り当てられた部屋に向かった

__________________

 

燐子「__み、南宮君......///」

 

 部屋に入る直前に燐子ちゃんに呼び止められた

 

 なんだか顔が紅い

 

 うーん、可愛い

 

環那「どうしたの?」

燐子「あの、このあと花火の時......線香花火、一緒にしたいなって///」

環那「線香花火?別にいいけど、好きなの?」

燐子「うん、好きだよ......///」

環那「っ!」

 

 やばっ、あの夜から燐子ちゃんを意識してるな

 

 意図は全く違うはずなのに

 

 表情と声色でそうとしか聞こえない

 

燐子「ま、また後でね......///」

環那「う、うん。おやすみ。」

燐子「うん......///」

 

 燐子ちゃんは頷いてから部屋に入って行った

 

 あーもう、俺のキャラ崩壊してるなぁ

 

 こんな簡単にかき乱されるなんて

 

環那「......今は、寝よっ。」

 

 俺は軽く頭を掻いてからドアを開け

 

 部屋には言ってベッドにダイブして

 

 それからは疲れからか、すぐに眠りについた

 

 

 



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雑談

環那「__ん、んんー......?」

 

 目を覚ますと、そとはもう真っ暗だった

 

 電子時計は8時30分と表示してる

 

 帰ってきたのが朝の7時くらいだから、相当寝てる

 

 まぁ、見張りのために徹夜してたし、当然か

 

環那(もうこんな時間か。徹夜もあるけど、計算の疲労もすごかったからな。久しぶりにあんなに考えた。)

 

 少し寝て、やっと安心できた

 

 そして......昨晩の記憶も蘇ってきた

 

環那「......」

 

 動悸が激しくなる

 

 今まで動いてるか微妙なほど静かだったのに

 

 動き過ぎて息苦しくなってきた

 

 ......なんだろ、これ

 

環那「......(まるで、何かの病気みたいだ。)」

 

 恋とか愛とか、よく分からなかった

 

 いや、今も人の心なんて分からない

 

 昔からそうだった

 

 医者に行ったらそう言う障害って言ってたし

 

環那「......本当に未知だね、燐子ちゃん。」

あこ『__環那兄ー?起きてるー?』

環那「あこちゃん?」

 

 考え事をしてると、ドアの向こうからあこちゃんの声がした

 

 無邪気な子供の様な声音

 

 この声を聞くと、なんだか和やかな気分になる

 

 なんだか自分に娘でも出来た気分になる

 

あこ『ご飯できたよー!一緒に食べよ!』

環那「あ、もうそんな時間?分かった、すぐに行くよ。」

 

 俺はそう答えてベッドを出て

 

 部屋のドアを開けた

 

あこ「おはよう!環那兄!」

環那「おはよう。」

あこ「うわ、すごい顔してるよ!?先に顔洗って来たら?」

環那「そんなに?」

 

 寝起きは悪くないと思ってたんだけど

 

 やっぱり、一晩寝なかったからかな

 

 ずっと気を張ってたし

 

環那「じゃあ、俺は顔洗ってから行くよ。」

あこ「うん!」

 

 そう言って俺はあこちゃんと一緒に階段を降り

 

 俺は洗面所に向かった

 

 鏡で見た自分の顔は、確かに酷かった

__________________

 

 顔を洗って、リビングに来た

 

 テーブルには美味しそうな料理が並んでる

 

 見たことあるメニューあるし、リサのが多いかな

 

リサ「あ、来たねー!」

環那「おはよ。」

リサ「おはよー!ご飯あるから食べちゃってねー!」

環那「うん。」

 

 リサはエプロンをつけて

 

 右手にはおたまを持ってる

 

 うーん、その辺の母親より母親っぽい

 

環那「なんか新妻感あるね。」

リサ「えぇ!?///」

環那「もしくは、ギャルママ?」

 

 二児の母位の貫禄あるな

 

 リサは家事上手で面倒見良いし

 

 結婚相手としては理想的だね

 

紗夜「南宮さん、寝すぎでおかしくなりましたか?」

環那「俺がおかしいのはいつもの事でしょ。」

紗夜「そうでしたね。すみません、誤解してました。」

リサ「環那の扱い酷くない!?」

 

 リサはそんなツッコミをしてきた

 

 そんなにひどいかな?

 

 俺としてはユーモアなコミュニケーションなんだけど

 

環那「そう?普通に仲いいよ?」

リサ「え、そうなの?」

友希那「あまりイメージ無いわね。」

環那「いやー、最近は妹について色々教えてもらっててね。」

エマ「お兄ちゃん......♡」

紗夜(......なぜか、日菜とエマさんに似たものを感じるんですよね。)

 

 話を聞く限り、紗夜ちゃんの妹は面白そうだ

 

 いつか話してみたいなー

 

 結構気が合いそうだし

 

環那「妹って奥深いよね。」

あこ「奥深い?」

環那「友希那やリサとは違った関係性で、初めて出来た家族で。俺にも分からない事が多いよ。」

燐子「南宮君......」

 

 正直、家族とか必要ないと思ってた

 

 けど、妹はいざ出来ると可愛いもので

 

 今となっては結構可愛がってる

 

環那「俺に似なくて美少女だし、素直だし、良い妹だよ。」

エマ「あぁ、お兄ちゃん、好き......♡」

燐子「よかったね、南宮君......!」

環那「ははっ、俺より燐子ちゃんの方が嬉しそう。」

リサ「!」

 

 俺は笑いながら燐子ちゃんの隣に座った

 

 距離が近くて、微妙に肩が当たってる

 

 まぁ、悪い気はしないしいいんだけど

 

友希那「あら、燐子との距離が近いわね?」

燐子「......!///」

友希那「珍しいわね、環那がそこまで心を許すなんて。」

環那「まー......いい子だから。」

紗夜(......なんだか、雰囲気がおかしくないですか?)

 

 横から燐子ちゃんのにおいがする

 

 けど、昨晩とは違う

 

 あの時はもっと......

 

環那「3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679......」

リサ「環那!?」

環那「ハッ!つい円周率が。」

紗夜「逆に頭悪いですね。」

 

 いけないいけない

 

 昨晩の事を思い出して落ち着きがなくなった

 

 煩悩を振り払うための処置で初めてしたけど

 

 意外と有効かも

 

友希那「一緒に一晩も野宿をして、さらに仲良くなったのね。環那の結婚相手も決まったかしら?」

環那「あはは、それもいいかも。」

燐子「2人とも何言ってるんですか......!?///そんな、結婚なんて......///」

友希那「あら?悪い話ではないわよ?きっと、大切にしてくれるわ。」

紗夜「現実的な話になりますが、何だかんだで経済面も安定しそうですしね。」

エマ「燐子なら安心。」

あこ「お似合いだと思う!」

 

 え、なにこの流れ?

 

 親同士の挨拶みたいになってる

 

 いや、仮にそうなれば大切にするけどさ

 

リサ「ち、ちょーっと話が早すぎるんじゃないかなー?」

エマ「ライバル出現。」

紗夜「修羅場ですか。」

リサ「そこ!余計なこと言わない!」

 

 リサ、珍しく必死だ

 

 こんな事で必死になるなんて

 

 改めて、男の趣味悪いなって思う

 

環那(流石リサ、美味しいもの作るなー。)

あこ「環那兄はどっちをお嫁さんにしたい?」

環那「ん?そうだなぁ......」

 

 あこちゃんにそう聞かれ、少し迷った

 

 2人ともスペック高いからなぁ

 

 選ぶってのも贅沢な話だよ

 

環那「あこちゃんはどっちがいいと思う?」

あこ「え?うーん......親友としてはりんりんだけどー、リサ姉も......あー!分かんないよー!」

環那「あはは、俺もそんな感じ。」

エマ「燐子がいい。結婚相手の能力は高いと算出した。」

友希那「リサも負けていないわよ?家事は完璧、容姿も抜群で面倒見も良い......2人の生活だけじゃなく、子育ての事も考えれば、リサは超優良物件よ。」

 

 こんなやり取りを横でされると気まずいな

 

 いや、2人の気持ちは知ってるし

 

 バレるとかそう言うのは大丈夫なのが幸いだけど

 

 うーん、燐子ちゃんとリサが可哀想になってきた

 

燐子「あ、ああの......///」

リサ「皆、何の話してんの......///」

環那「あはは、困っちゃうよねー。」

紗夜「あなたは余裕があり過ぎるんですよ。」

リサ「そうだよ!///」

環那「そう?」

 

 まぁ、余裕をなくしすぎないようにはしてるけど

 

 冷静じゃないと計算狂うし

 

 いざって時に余裕ない男なんてダサいしね

 

環那「まっ、そう言う話は後でもいいでしょ。俺がちゃんと稼げるかもわからないしね。」

エマ「と言いつつ、貯金はたくさんある。」

環那「え、なんで知ってるの?」

エマ「この前、通帳見た。琴葉にも黙ってるの。」

環那「あー、あれか。」

 

 流石は我が妹

 

 隠し事もお見通しって訳か

 

 これは困ったな

 

あこ「ちなみに、どのくらいあったの?」

エマ「6500万円。」

友希那「あら、そこまで溜めていたの?」

環那「昔から暇な時間は多くて、色々投資とかしてたからね。」

 

 まっ、本当はもっとあるけど

 

 別にいう必要もないでしょ

 

 いつか使うときにカミングアウトすればいいし

 

友希那「リサ、燐子、環那と結婚すれば悠々自適に暮らせるわよ?」

リサ「いや、別にそう言う事は求めてないけど。」

燐子「私も特に......」

環那(いい子だなぁ。)

あこ「えー?あこなら欲しいものいーっぱい買ってもらうのにー!」

環那(これはこれで可愛い。)

紗夜「南宮さん、目が孫を見るおじいちゃんみたいになってますよ?」

環那「おっと。」

 

 紗夜ちゃんは呆れたような声でそう言ってきた

 

 まぁでも仕方ないよね?

 

 幼い子って言うのは可愛いし

 

燐子「み、南宮君、早く食べよ......!///」

リサ「花火もあるし!」

環那「りょうかーい。」

 

 2人にそう言われ、俺はご飯を食べ進めた

 

 さて、この後は花火だ

 

 いやぁ、楽しみだなー

 

 

 

 



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花火

 夜ご飯を食べた後、俺は皆と海辺に出た

 

 夜の海には大きな満月が映ってて、良い眺めだ

 

 昔、天窓から見てたのと同じものとは思えない

 

あこ「__これが漆黒の炎......!」

リサ「わっ!あこ、2本も持っちゃダメだって!」

 

紗夜「湊さん、花火が逆ですよ。」

友希那「あら、そうなの?」

紗夜「説明書にそう書いてます。」

 

 そんな場所で俺達は花火をしてる

 

 花火なんて小学校の林間以来かな

 

 あの時は俺と友希那とリサの3人だったけど

 

 今となっては7人だもん

 

 人生何が起きるか分からないね

 

エマ「お兄ちゃん、嬉しそう。」

環那「ん?そう見える?」

エマ「見える。」

環那「あはは、まぁ、そうだよね。」

 

 今の状況は死ぬほど嬉しい

 

 俺は友達出来にくいし

 

 親しい人間が増えたのは喜ばしいことだ

 

エマ「......」

環那「......」

 

 シャァァァとシャワーみたいに火花が散ってる

 

 赤、紫、橙、黄、黄緑など様々な色があり

 

 炎色反応を感じてるとエマが話しかけて来た

 

エマ「燐子と何かあった?」

環那「さぁね。」

エマ「一線、超えた?」

環那「......」

 

 あれ、エマって相手の心読めるの?

 

 出来ないことも無さそうだけど

 

 流石にできないでしょ

 

環那「......まぁ。」

 

 そう思うけど、エマに隠し事は出来ない

 

 だから、正直に答える事にした

 

 口に出すと昨晩の事を思い出す

 

エマ「燐子のこと、好きになった?」

環那「元から結構好きだよ。」

エマ「でも、よく分かってない。」

環那「......正解。」

 

 なんでこんなに俺のこと分かるんだろ

 

 似た者兄妹だからかな

 

 以心伝心率が高い気がする

 

環那「どうしても、恋愛とかになると第三者視点で見ちゃうんだよね。」

エマ「それはお兄ちゃんが悪いわけじゃない。そう言う障害は長い治療で治ることがあるけど、生きてきた環境が悪すぎた。」

環那「そうなのかもね。けど、そうしなかったのも俺だから。」

エマ「!」

 

 俺は自分で人の心はいらないと切り捨てた

 

 けど、結局それが今は枷になってる

 

 後悔先に立たずってまさにこのことだね

 

エマ「......私は、どんなお兄ちゃんでも愛してるよ。」

環那「知ってる。」

エマ「世が世なら結婚したいくらい。」

環那「ははっ、世が世ならOKしてたかも。」

 

 俺は笑いながら返答した

 

 エマの冗談は面白いなー

 

燐子「__み、南宮君......!」

環那「あ、燐子ちゃん。」

燐子「あの、その......線香花火......///」

環那「おっと、そうだった。」

燐子「ふ、二人でも良い......?///」

環那「2人?」

 

 俺はエマと目線を合わせた

 

 エマはコクッと軽く頷き

 

 許可が出たので、燐子ちゃんの方に歩いた

 

環那「じゃあ、ちょっと離れたところに行こっか。」

燐子「うん......!///」

 

 そう言って、俺と燐子ちゃんは歩きだし

 

 どこに行けばいいか分からなかったので

 

 取り合えず、少し離れた岩陰の方に向かった

__________________

 

 “燐子”

 

 私達は少し離れた岩陰に来た

 

 ここは周りは岩しかなくて、海が近くて

 

 向こうの皆からも隠れてる

 

環那「__ここ、結構いい場所だね。静かで。」

燐子「う、うん......///」

 

 南宮君は花火とバケツを地面に置いて

 

 地面に腰を下ろした

 

 それを見て私も隣にしゃがみこんだ

 

環那「こうしてると、昨晩のこと思い出すねー。」

燐子「そ、そうだね。」

 

 昨晩のこと......

 

 そう言われると色んな記憶が蘇ってくる

 

 洞窟の中で寝泊まりしたこと

 

 南宮君に告白したこと

 

 ......1つに、なったこと

 

環那「っと、こういう話もいいけど、線香花火しよっか。」

燐子「う、うん、そうだね......!///」

環那「はい、これ。」

 

 私は南宮君から線香花火を受け取り

 

 その後、同時に火をつけ

 

 花火はボッと勢いよく燃え始めた

 

燐子「すごく綺麗......」

環那「いいよね、線香花火。」

 

 花火はまだ勢いよく燃えて

 

 私達の間では沈黙が流れてる

 

 けど、それが辛いという事はなくて

 

 むしろ、すごく心地いい

 

燐子(南宮君......)

 

 花火が燃えてる途中、チラッと横を見た

 

 そこでは、笑みを浮かべながら花火をしてる南宮君

 

 相変わらず笑顔が下手だけど

 

 すごく楽しそうというのは伝わってくる

 

環那「ん?どうしたの?」

燐子「!///ご、ごめん......///」

環那「何か謝る事あった?」

 

 キョトンとした顔でそう尋ねられる

 

 白い肌と黒い髪が月の光で映えてて綺麗で

 

 心臓が飛び跳ねるようにドキッとした

 

環那「花火の燃え方、変わったね。」

燐子「え、あ、そうだね////」

 

 南宮君の言う通り

 

 線香花火はパチパチと音を立て始めた

 

 まるで、空に打ち上げられる花火が小さくなったみたい

 

環那「......燐子ちゃんは。」

燐子「?」

環那「人を好きになるって、どんな感じ?」

燐子「!」

 

 人を好きになる感覚......

 

 南宮君、学ぼうとしてるのかな

 

 さっき、あこちゃんに聞いた話

 

 あれ、本当だったんだ......

 

燐子「その、胸がドキドキして、こうして一緒にいると嬉しくて、好きだなって感じる......よ?///」

環那「ほう。」

燐子「えっと、南宮君にこんな説明じゃ駄目だよね......」

環那「いや、大丈夫。研究の始まりは常に勘と思いつきだから。」

 

 南宮君は優しい声でそう言ってくれた

 

 こんな態度を取られると

 

 もしかしたら私の事好きなんじゃって勘違いしちゃう

 

環那「俺は燐子ちゃんのこと結構好きって言ったよね。」

燐子「う、うん......っ///」

環那「ごめん、あれ間違いだった。」

燐子「え......?」

 

 そう言われた瞬間

 

 サッと私の顔から血の気が引いた

 

 え、間違い?

 

 じゃあ、つまり......

 

環那「結構じゃなくて、すごく好き。」

燐子「ふぇ......?///」

環那「リサや......友希那と同じくらい。」

燐子「そ、それって......///」

 

 友希那さんと同じくらい

 

 それは南宮君の仲で最高の評価だと思う

 

 そう思うと、すごく嬉しくなってきた

 

環那「けど、付き合うとかの返事はちょっと待って。」

燐子「付き合う......!?///」

環那「まだ、ケジメをつけないといけない事があるし、俺自身、分からないことがあるから。」

燐子「そ、そういうなら、いいです......全然待ちます......///」

環那「う、うん(なんで敬語?)」

 

 テンパってつい敬語になっちゃった

 

 けど、私、今すごくいい位置にいる?

 

 付き合える確率、すごく高いんじゃ......

 

環那「っと、線香花火も大詰めかな。」

燐子「あっ。」

 

 南宮君がそう言ったと同時に花火の火が落ちて

 

 地面で少しの間赤かった火はスッと真っ黒になった

 

環那「結構長持ちしたね。」

 

 そう言いながら誇らしげな表情を浮かべてる

 

 それが何だか子供っぽくて

 

 いつもと違くてすごく可愛い

 

環那「さて、そろそろ戻ろっか。」

燐子「......!」

 

 南宮君は立ち上がり

 

 水が入ったバケツを持ち上げた

 

 それを見て、私は慌てて立ち上がった

 

燐子「ちょ、ちょっと待って......!///」

環那「え__っ!」

燐子「んぅ......!///」

 

 歩いて帰ろうとする南宮君を呼び止め

 

 私は少し背伸びをして唇を合わせた

 

 昨晩ぶりのキス

 

 だけど、昨晩とは少しだけ違って

 

 ミントの歯磨き粉の味がする

 

燐子「__大好きだよ、南宮く......いや、環那君///」

環那「っ!」

燐子「えっと、ダメだった......?」

環那「い、いや、嬉しいよ。あ、あはは。」

 

 私は動揺してる南宮君の左手を握って

 

 横にいる彼に上目遣いで笑いかけた

 

燐子「迎えに来てくれるの、待ってるからね......?///」

環那「......うん。」

 

 私は南宮君にそう言い

 

 手を繋いだまま歩きだした

 

 まだ、私は南宮君の彼女じゃないけど

 

 今くらい、夢を見てもいいよね?

 

 

 



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合宿終了

環那「__はぁ......」

 

 花火が終わって合宿上に帰ってすぐ

 

 俺は自分の部屋のベッドに寝転び

 

 ボーっと天井を眺めた

 

環那(好き......か。)

 

 自分の唇に指を当て、そんな事を考えた

 

 なんだろう、この鼓動は

 

 心臓が握られているように息苦しい

 

 けど、特に嫌な感じはしない

 

環那(なんだ、これ......)

 

 今の自分の状態を考えて答えを出すなら

 

 わざわざ告白の返事を先延ばしにする必要はない

 

 正直、即答したいくらいだ

 

 けど、引っかかるものがある

 

 だから、即答できなかった

 

環那「いつもなら、人間の気持ちなんて簡単に計算出来__ん?」

 

 部屋で1人呟いてると頭上にある携帯が鳴った

 

 俺は不思議に思いながら携帯を手に取り

 

 来ているメッセージの内容を見た

 

琴葉『水着を着て見ました!流石のあなたも大人の魅力を感じる事でしょう!』

環那「......」

 

 メッセージにはそんな文章と水着の琴ちゃんの写真がある

 

 着てる水着は結構面積が狭くて

 

 凹凸のしっかりある体がしっかり見える

 

 男としては美味しい写真だと思う、けど

 

 鏡に映ってる顔がドヤ顔すぎて

 

 全てのプラス要素をゼロにしてる

 

環那「『いいと思うよ。体だけ成長した子供にしか見えないけど。』っと。」

 

 俺は取り合えずそう返信した

 

 全く、美人なのに残念だなぁ

 

 ......まっ、そこがいい所なんだけど

 

琴葉『なんでですか!?』

環那『顔。』

琴葉『うぐぅ......!』

 

 意味の分からない兎のスタンプが送られてくる

 

 こういうセンスも実に子供っぽい

 

 けど、これ以上は突っ込まない方が良いかな

 

 帰ったら面倒になるし

 

環那『て言うか、何で買ったの?遊びに行く予定もないのに。』

琴葉『そ、それは......』

環那『?』

琴葉『......あなたに見せる為です。』

環那「......?」

 

 俺に見せるため?

 

 この面積の狭い水着を?

 

 それって、つまり......

 

環那『痴女なの......?』

琴葉『違います!!失礼な!!』

環那『いや、俺は琴ちゃんの趣味位受け入れるよ?同居人なんだから、我慢しないで。』

琴葉『変な気を遣わないでください!この、軽薄天才鈍感男!!』

環那『それは貶してるの?褒めてるの?』

琴葉『両方です!!』

 

 軽薄天才鈍感男って......訳が分からないな

 

 別に天才って事はないんだけど

 

琴葉『色々大変だったそうですが、明日には帰って来るんですよね?待ってますよ?』

環那『はいはい。あんまり部屋、散らかしちゃダメだよ?』

琴葉『分かってますよ!もう!おやすみなさい!』

環那『おやすみー。』

 

 琴ちゃんからメッセージが来なくなった

 

 なんだか、一気に心が軽くなった気がする

 

 馬鹿なやり取りをしたからかな?

 

環那(......琴ちゃんも、一緒にいて落ち着くんだよな。)

 

 ふとそんな事を考えた

 

 琴ちゃんは同居人で年上だけど

 

 別に年上って感じはしなくて親しみやすくて

 

 なんだかんだ、一緒にいて楽しい

 

環那「わっかんな......寝よ。」

 

 俺は思考をいったんすべて放棄し

 

 早く起きないといけない明日に備え

 

 強引に意識を落とした

__________________

 

 翌朝、俺は荷造りをし合宿場の前にいる

 

 この合宿、なんか色々あったなぁ

 

 主な思い出は遭難したことだけど

 

 まぁ、あれはあれで良い思い出って事で

 

リサ「__ねぇ、ほんとにここで待っててもいいの?」

環那「うん、問題ないよ。知り合いが迎えに来てくれるから。」

 

 俺はそう言い、携帯を確認した

 

 そこには数件のメッセージが来てて

 

 『もうすぐ着く』と言う文章が表示されてる

 

環那「あっ、あれだ。」

あこ「わぁ、おっきい車だー!」

 

 指を指した方にはかなり大きな車

 

 あの知り合い、金は持ってるって聞いてた

 

 けど、こんなに大きい車持ってたんだ

 

?「お待たせいたしました。環那さん?」

環那「いいや、そんなに待ってないよ。神原。」

神原「ふふっ、模範的な返答ですこと。」

 

 俺は軽く挨拶し

 

 すぐに神原の車のドアを開けた

 

リサ(え、あれ誰!?すごい美人!?)

燐子(し、知り合いって言ってたけど......)

紗夜(彼の交友関係は謎が多いわね。)

 

 皆は順番に車に乗り込んでいき

 

 全員が乗り込むと、俺も助手席に座った

__________________

 

 “リサ”

 

 あたし達が乗り込んですぐ車は出発した

 

 この車、音も静かで揺れも少なくて

 

 すごく乗り心地がいい、けど......

 

神原「少し大人になったのではありませんか?環那さん?」

環那「そんな事はないでしょ。たかだか数日しか経ってないのに。」

 

リサ、燐子「......(ジー)」

 

 すごい綺麗な黒髪の美人さんで

 

 言葉遣いも綺麗で物腰も柔らか

 

 大和撫子って言葉が当てはまる

 

 そんな人が環那の知り合い?

 

あこ「環那兄?その人だれなのー?」

リサ「!(あこ、ナイス!)」

燐子(あこちゃん......!)

環那「ん?ただの知り合いだけど。」

 

 ただの知り合い......

 

 それにしては仲良くない?

 

 あたし達ほどじゃないけど、長い付き合いっぽいし

 

あこ「元カノとかじゃないのー?」

環那「それは勘弁して。」

エマ(......あれが彼女だと碌なことがなさそう。)

神原「あらあら♪」

 

 環那は真顔で首を横に振ってる

 

 珍しく全力で拒否してるよ

 

 そんなに嫌なんだ

 

環那「この人ほど彼女にしたくない人間はいないよ。」

紗夜「そうですか?理想的な女性だと思いますが。」

神原「ありがとうございます。」

環那「あんまり褒めない方がいいよ。」

 

 環那がこんなに当たり強いのも珍しいかも

 

 それだけ信頼してるってことかな?

 

 環那の友人の大前提は信頼だし

 

友希那「......っ(?)」

リサ「友希那?どうしたの?」

友希那「なんだか、眠たくて......」

紗夜「そう言えば......」

 

 2人は眠たそうに目を擦ってる

 

 言われてみれば、私も......

 

 あれ、ほんとに眠たい......?

 

燐子「すぅ、すぅ......」

あこ「んん......っ」

友希那、紗夜「......」

リサ(なんで、皆急に......?)

 

 まだ起きてからそんなに時間経ってないのに

 

 なんで、こんなに眠たいの?

 

環那「あはは、みんな疲れてるんだよ。着いたら起こすから、気にせず寝て良いよ?」

リサ「う、ん......」

環那「おやすみ、リサ。」

 

 環那の優しい声の後

 

 あたしの瞼はゆっくりと閉じて行き

 

 意識が途絶えた

 

 “環那”

 

環那「......寝たかな?」

神原「えぇ、全員眠っていましてよ。環那さん。」

エマ「なんだか忍びないね。親しい人間に薬使うのって。」

 

 皆が眠って、俺達3人は声のトーンを変えた

 

 さっきまでの穏やかな時と違い

 

 冷たい、仕事の時用の声

 

環那「もう偽名を使う必要はないね......人見。」

人見「そうですわね。」

環那「事故で少し予定がズレちゃってすまないね。」

人見「問題ありませんわ。すでにこちらの準備は整っておりますので。」

 

 まぁ、そっか

 

 実行まであと4日はあるし

 

 1日くらいならさほど問題ないかな

 

エマ「お兄ちゃん、下準備はどうする?」

環那「それは3日後。俺とエマの2人で行こう。」

エマ「うん、お兄ちゃんを傷つけた汚物どもを地獄に叩き落とそう。」

人見「ふふっ、相変わらず仲が良いですわね。」

環那「可愛い子だよ、ほんと。」

 

 エマがシスコンと呼ばれることは分かってる

 

 けど、当事者の俺にとっては可愛い妹だし

 

 誰かに思われるのは嬉しい事だしね

 

人見「仲のいい姿もいいですが、作戦後のことも考えなければなりませんわよ?」

環那「そこも、もう考えてる。」

人見「あら?お早いですわね。して......新太さんはどうするおつもりですか?」

環那「......」

エマ(いざとなれば私がどうにかするけど。)

 

 エマと人見の視線を感じる

 

 まぁ、作戦後の事はしっかり考えてる

 

 けど、今回の作戦よりも面倒くさいんだよね

 

環那「新太は作戦が終わり次第、処理する。」

エマ、人見「!」

環那「相当な恨み買ってるし、敵になるなら面倒になる前に潰す。」

エマ「うん、そうだね。なんなら、お兄ちゃんに無礼を働いた分、私が処分してもいい。」

 

 エマは若干ドヤ顔でそう言った

 

 別に問題なく出来るだろうけど

 

 わざわざエマを危険に晒すことはない

 

 それに......

 

環那「作戦が終われば、向こうから俺の方に来るさ。」

人見「計算済み、ですか?」

環那「粗方ね。」

 

 俺は軽く息を付き、少し目を閉じた

 

 そこに無数の計算式が浮かんできて

 

 数秒ほど経って、全ての計算

 

 そして、それを元にした照明が完了した

 

環那「......人見、九十九への連絡も怠るなよ。」

人見「かしこまりました。」

環那「エマは俺と一緒に行動。例のものを使うタイミングは任せるよ。」

エマ「うん、全てはお兄ちゃんのために♡」

 

 そんな会話の後は普通の雰囲気に戻し

 

 雰囲気を戻して、皆が起きるのを待った

 

 けど、結局、皆が起きたのは町に着いてからで

 

 着いた時、俺がすごく気疲れしたのは......

 

 まっ、どうでもいいね

 

 

 



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悪酔い

環那「ただいまー、琴......ちゃん?」

琴葉「な......っ!?///」

 

 皆を家に送り届け、俺とエマも帰ってきた

 

 までは良いんだけど

 

 家に入ると、また一糸まとわぬ姿の琴ちゃんがいた

 

 それを見て、俺は眼を背けた

 

琴葉(あ、あれ......?)

環那「全く......着替えくらい脱衣所でしなよ。」

琴葉「は、はい。(め、珍しい反応ですね。)」

 

 もう少し気を付けて欲しい

 

 俺じゃない他の人間だったらどうするんだか

 

 ヤバい奴が来たらぶっ潰しに行かないといけなくなるじゃん

 

 そんな事を考えてるうちに琴ちゃんは自分の部屋に入った

 

エマ「琴葉、あれでよく生活できてたね。」

環那「全くだよ。あんな格好で歩き回るなんて......」

エマ「女って自覚ないんじゃないかな。」

 

 辛辣な言葉を吐くエマ

 

 だけど、強く否定できない

 

 それくらいだらしないんだ......

 

環那「(気を取り直して。)エマはどうする?」

エマ「研究室に行って最終調整する。」

環那「元気だね。俺はもうクタクタだよ。」

エマ「お兄ちゃんも燐子たちに使った薬を使えばよかった。あれには疲労回復の効果もあったから。」

環那「ちょっと後悔してるよ、あはは......」

 

 あの薬、そんな効果もあったんだ

 

 まぁ、そうだよね

 

 元はエマが徹夜した時に使ってたのだって聞いたし

 

エマ「お兄ちゃんはこれからどうする?」

環那「俺は寝るよ。こっちの最終確認は明日する。」

エマ「うん、それでいいと思う。」

 

 車の移動の後の疲労感てすごいな

 

 乗り慣れてないのもあるのかな?

 

 なんだか異常に疲れてる気がする

 

エマ「じゃあ、研究室に行く......あっ。」

環那「?」

エマ「冷蔵庫の中に入ってる瓶の中身、飲んじゃ駄目だよ?」

環那「瓶......あぁ、あの栄養ドリンクみたいなの?」

エマ「そう。あれは危険ではないけど、試作段階のものだから。」

環那「了解。」

エマ「行ってくるね。」

 

 エマはそう言って荷物を置いて家を出て行った

 

 1人で外歩いて大丈夫かって思ったけど

 

 多分、その辺にノア君も忍んでるだろうし、無問題

 

環那「さて、水飲んでから寝よ......」

 

 俺はそう呟いて歩きだし

 

 水を飲むためにキッチンに向かった

__________________

 

 キッチンは意外と散らかってなかった

 

 その代わりにコンビニ弁当のゴミがたくさんある

 

 まぁ、大体予想通り......

 

 いや、予想より大分マシかな

 

環那(4時間くらい寝てから夕飯の用意して、掃除しよっと。)

 

 ぷらゴミの回収までは結構日があるな

 

 一応、合宿の期間中に一回あったけど

 

 まー、琴ちゃんがそんなの知ってるわけないよね

 

 そこはもう仕方ない

 

環那「......はぁ。」

 

 起きた後の予定を考えながら水を飲んだ

 

 水道水だから美味しいとは思わないけど

 

 家の蛇口から水が出るだけでもありがたい

 

 昔はいちいち公園行かないといけなかったし

 

琴葉「__あれ、エマさんは?」

環那「研究室に行ったよ。」

琴葉「そうなんですか?」

 

 コップを流しに置いた時

 

 着替えを終えた琴ちゃんがリビングに入ってきた

 

 いつものジャージ、すっぴん、伊達メガネ

 

 絵に描いたようなダメ女子の格好だ

 

 てか、あのジャージって高校時代のじゃ......

 

環那「琴ちゃんは今日休み?」

琴葉「はい。久しぶりの休みですよ、本当に!」

環那「大変そうだね。」

琴葉「そうですよ!何で国語で補修になる生徒がいるんですか!」

 

 琴ちゃんは嘆くようにそう言った

 

 まぁ、国語難しいし

 

 俺とか補修にならなかったの奇跡だし

 

琴葉「こんなの飲まなきゃやってられません!付き合ってください!」

環那「えぇ......寝ようと思ってたのに。」

琴葉「ダメです!これも同居人の務めです!」

環那「もしかして、もう酔ってる?」

 

 そう言いつつ、俺はもう諦めてる

 

 こうなったら言うこと聞かないしね

 

 そんな事を考えながら、俺は冷蔵庫を開けた

 

琴葉「ふっふふ~♪なーにから飲みましょうかね~♪」

環那「何からって、ビールしかないでしょ。」

琴葉「あ、そうでしたね!」

環那「全く。」

 

 俺はそう言ってビールとグラスを出して

 

 軽くおつまみを用意してから席に着き

 

 用意したグラスにビールをついだ

 

琴葉「いっただきまーす!」

 

 琴ちゃんは元気にそう言って

 

 勢いよくグラスに口をつけた

 

 入ってるビールがどんどん無くなって行く

 

琴葉「__ぷはーっ!///美味しいです!///」

環那「そう。」

琴葉「あなたも飲んだらいいじゃないですか!///」

環那「教師が未成年に飲酒勧めちゃダメでしょ。」

琴葉「教師である前に1人の人間ですぅ!///」

 

 1人の人間としてもダメでしょ

 

 もう酔いが回ってるのかな?

 

 お酒好きなくせに弱いんだから

 

環那(まっ、仕事頑張ってるし、今日くらい付き合ってあげようか。)

琴葉「むぅ///なにすました顔してるんですかぁ~?///」

環那「言いがかりも良い所だね。」

琴葉「うるさーい!///お酒をつぎなさーい!///」

環那「はいはい。」

 

 溜息を付きながら俺はまたお酒をついだ

 

 ここは俺がうまくコントロールしないと

 

 放っておくとあるだけ全部飲みそうだし

 

環那「この調子じゃ、結婚はまだまだ先だね。」

琴葉「......(ピクッ)」

環那「まっ、家事は少しだけ改善されたし、前ほど遠くはないだろうけどね。今でざっと......確率は27.9%くらいかな。」

琴葉「言いましたね......言ってはいけない事をー!!///」

 

 そう言って琴ちゃんはこっちに怒鳴って......

 

 いや、喚いてきた

 

 結婚の事に触れるといつもこんな感じだけど

 

 酔ってる分、いつもより勢いが凄い

 

琴葉「私だってねぇ!///好きで今まで彼氏できなかったわけじゃないんですよ!///ただ、出会いが、26年間無かったんです......っ」

環那「そ、それは災難で。」

琴葉「それに追い打ちをかけるように目の前の同居人の男子は家事上手で頭も良くてかっこよくて......チャンスだと思ったらあまりにも年下すぎるしぃぃぃ!!///」

環那「......ん?」

 

 なんだか、妙な言葉が聞こえたな

 

 俺、今シレっと告白された?

 

 まっ、酔ってるだけだろうけど

 

琴葉「そもそも、あなたはハイスペック過ぎるんですよ!///なんですか!?26年彼氏ナシの私への当てつけですか!?///」

環那「と言われても、琴ちゃんの家からの命令だし。」

琴葉「そうですよ!あの家!///あの家が全部悪いんですよぉ!///」

環那「あーはいはい、そうだね。」

 

 琴ちゃんの家は暗殺者の家系

 

 表向きはヤクザって事になってる

 

 表裏作ってる意味、ないね

 

 どっちにしてもやばいし

 

 ちなみに何で琴ちゃんに家から命令出てるかはまぁ、色々事情がある

 

琴葉「んぐっ、んぐっ///」

 

 琴ちゃんはついに缶のままビールを飲み始めた

 

 1本、2本、3本......

 

 次々に空の缶がテーブルの上に並んでいく

 

 俺がコントロール出来る範囲は超えてる感じだ

 

琴葉「はぁ......///」

環那「あーあ。」

琴葉「もっろつきあいなはい///まらまらのみましゅよー!///」

環那(これは、大変そうだ......)

 

 俺は内心溜息をつき

 

 目の前の酒浸りモンスターになりつつある琴ちゃんの相手をすることにした

__________________

 

 琴ちゃんが飲み始めてから3時間

 

 この間、かなり大変だった

 

 琴ちゃんはお酒と愚痴が止まらないし

 

 熱いとか言って服を脱ぎ始めるし......

 

 等々、色々あったけど、今は......

 

琴葉「__えへへ~///きもひ~///」

環那「なんかキメちゃいけないものキメたみたいになってる。」

 

 こうなった

 

 アルコール中毒にならないか心配だけど

 

 まぁ、なってもエマが治してくれるでしょ

 

環那「琴ちゃん、そろそろ部屋行って寝よう?明日は二日酔いだよ。」

琴葉「まらのめしゅ~///」

環那「ダメだよー。」

琴葉「おかあしゃん~///」

 

 誰がお母さんなのかな......

 

 性別が違うでしょ、全く

 

 流石に酔いすぎだな、これ

 

環那「ほら、行くよ。」

琴葉「!///」

 

 俺は酔ってる琴ちゃんを抱き上げた

 

 そろそろ寝かせよ

 

 もう充分でしょ(眠い)

 

 そう思い、俺は琴ちゃんを部屋に運んだ

 

環那「......うわぁ。」

 

 琴ちゃんの部屋を見て絶句した

 

 だって、あまりにも部屋が汚いんだもん

 

 服とか本は散らかりっぱなし

 

 いつ脱いだか分からない下着も落ちてる

 

 言葉を失うってこういう事なんだ

 

環那「これは片付けしないと......」

 

 溜息を付きながら琴ちゃんをベッドに寝かせたが

 

 その時、急に体が重くなり

 

 部屋の中で唯一綺麗なベッドの上に手をついた

 

琴葉「んふふ~///」

環那「何してるの......」

琴葉「残念れしたぁ///ここに入った時点であなたの負けれす~///」

環那「???」

 

 よく意味が分からない

 

 俺は一体、何に負けたんだ?

 

琴葉「あなたはわらひと結婚するんれす~///だから、ここで襲うんですよぉ~///」

環那「はい?」

 

 何言ってるんだ?

 

 酔ってるにしても冗談が酷いな

 

 全く、これが悪酔いってやつか

 

環那「そう言う事は本当に好きな人に言いなよ~。」

琴葉「言っれます~///」

環那「えぇ?」

琴葉「あなたのこと、好きれすよ......だから......///」

 

 琴ちゃんはそう言って顔を近づけて来た

 

 26にしては童顔で可愛い顔が近くにある

 

 けど、それ以上お酒の匂いがツンと鼻に付く

 

環那「こ、琴ちゃ__」

琴葉「......すぅ、すぅ......」

環那「......ん?」

 

 そう思ってると

 

 バサッという音共に琴ちゃんの頭はベッドに落ちた

 

 どうやら眠ったみたいだ

 

環那「全く......」

 

 今日何度目か分からない溜息を付き

 

 琴ちゃんの上から退いて、静かに布団をかけた

 

琴葉『あなたのこと、好きれすよ......だから......///』

 

環那「......変なこと言わないでよ、はぁ......」

 

 俺はそう言って部屋を見渡し

 

 取り合えず、掃除をすることにした

 

 結局、寝れなかったなぁ......

 

 

 

 



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交渉

琴葉「ん、んん......っ?」

 

 目を覚まして最初に感じたのは倦怠感

 

 そして、激しい頭痛とお酒のにおい

 

 所謂、二日酔いと言うものです

 

琴葉「あれ......なんでベッドに......?」

 

 飲み始めてからの記憶がない

 

 流石に今日は飲み過ぎましたね......

 

 南宮君はどうしてるでしょう......?

 

琴葉(取り合えず、リビングに行きましょう......)

 

 私はそう考え、ふらついてる体に鞭打ち

 

 リビングに向かう事にした

__________________

 

 扉の外から見た感じ電気が付いてる

 

 外も暗かったし、もう夜ご飯でしょうか?

 

 体の状態的に全く食欲はないんですが......

 

琴葉(彼は今、何を__!)

 

環那「っ......」

 

 リビングの扉を開け、見えた彼の姿を見て息を呑んだ

 

 いつもの飄々とした雰囲気は成りを潜め

 

 目つきが鋭く、険しい表情を浮かべてる

 

琴葉(あの表情は......?)

 

 怒ってる......のは間違いない

 

 けど、彼が怒るなんて

 

 そんなこと、滅多に......

 

琴葉(と、取り合えず入ってみましょうか......怖いですけど。)

 

 私は一つ息をついた後

 

 思い切って、リビングの扉をあけた

 

琴葉「お、おはようございます。」

環那「あ、おはよー、琴ちゃん。」

琴葉「......?」

 

 リビングに入ると、彼はいつも通りの笑みを浮かべた

 

 さっきまでの表情が嘘みたいです

 

 あの表情は一体......

 

環那「顔色悪いねー。シジミの味噌汁作ってるから飲みなよ。」

琴葉「あ、は、はい。」

 

 私は彼に割れるがまま席に着きました

 

 彼はキッチンに立って味噌汁を温めて

 

 こっちまで味噌とシジミのいい香りが漂ってきてます

 

環那「かなり酔ってたからね、今気持ち悪いでしょ?」

琴葉「は、はい。」

環那「シジミは二日酔いに効くらしいから、まぁ、明日はマシになるんじゃないかな。」

 

 いつも通りの呑気な声

 

 多重人格だと疑うほどのギャップ

 

 彼の情緒はどうなってるんでしょうか

 

環那「はい、お待ちどうさま。シジミのお味噌汁に塩ゴマのおにぎり、タコときゅうりの酢の物。」

琴葉「二日酔い特化料理ですね。」

環那「これくらいしか食べられないでしょ。」

 

 この女子力ですよ

 

 二日酔いにも理解があるし、ご飯も美味しい

 

 同居人としてこんな優良物件いませんね

 

琴葉「そう言えば。」

環那「?」

琴葉「飲み始めてからの記憶がないのですが、何かありましたか?」

 

 少し探りを入れてみる

 

 もし、あの表情の原因が私なら

 

 そう考えると少し怖い......

 

環那「特に何もなかったよ。ただ、酒臭くて、ウザ......いつもより元気だっただけ。」

琴葉「今、ウザイって言おうとしましたよね!?」

環那「気のせいだよ。あはは。」

琴葉(絶対に気のせいじゃない。)

 

 酔ってる時の私ってそんなにウザいんですか?

 

 記憶がないからすごく不安なんですけど

 

 まさか、今まで彼氏が出来なかったのもそれが原因!?(違う)

 

琴葉(さっきの険しい表情は......)

環那「そろそろエマも帰って来るね。今日は簡単なご飯で済ませよっと。」

 

 そう言って彼はまたキッチンに立ちました

 

 自分とエマちゃんの分のご飯を用意するのでしょう

 

 そう思ってボーっと眺めてると、こっちに話しかけて来た

 

環那「琴ちゃん、3日後、俺とエマ用事で家を空けるから。」

琴葉「そうなんですか?」

環那「多分、少しの間家を空けるけどご飯は......何とか頑張ってね。」

琴葉「それはいいんですが、いや、いいんですかね?」

環那「その反応、すごく心配になるんだけど。」

 

 彼はため息をついてそう言いました

 

 流石に少しの間くらいなら大丈夫ですよ?

 

 自分の部屋以外は

 

琴葉「冗談ですよ!」

環那「まぁ、そうだよね。」

 

 そんな会話の後、彼はご飯を作り始め

 

 ちょうど完成した時にエマちゃんも帰ってきて

 

 いつも通りの穏やかな時間を過ごした

__________________

 

 “環那”

 

 合宿から帰って来てから3日が経った

 

 今日の朝は少し、特別に感じる

 

 まるで、何年も前に立てられた仮説が証明される日みたいな

 

 何かが動き出すような、そんな感じだ

 

環那「変わってないな、ここ。」

エマ「変わらないよ。ここにいる奴ら、バカだから。」

環那「辛辣だね。」

 

 俺達が今立ってるのは俺が10年過ごした家の前

 

 なんだか懐かしいな

 

 何回ここで死にかけたって?

 

環那「エマ、作戦通りに行く。この家の間取り、頭に入ってるね?」

エマ「うん、問題ない。お兄ちゃんは......言うまでもないね。」

環那「ははっ、今日はあくまで交渉だから。」

 

 さて、こんな会話も程々にしておこう

 

 今日はある意味で一番大切な日だし

 

 手早く、ただし丁寧に事を進めよう

 

環那「エマ、所定の位置に。」

エマ「了解。」

 

 俺が指示を出すとエマは庭の方に歩いて行った

 

 それを確認し、俺はインターフォンを押した

 

『__誰だこんな時間にアポも取らないで。』

 

 音が鳴って数秒、ドアの向こうからそんな声が聞こえて来た

 

 年老いた男の声

 

 昔に何度も俺をなじってきた声だ

 

 この声を聞くと少しの怒りと懐かしさを感じる

 

「誰だ、常識が__っ!?」

環那「あ、久し振り~。」

「な、なぜ貴様が__!?」

環那「おっと。」

 

 俺は締まりそうなドアを手で止め

 

 無理矢理家の中に押し入った

 

 さて、これで第一段階クリア

 

環那「まるで幽霊でも見たような顔だね。剛蔵おじいちゃん♪」

剛蔵「い、今さら何の用だ!実の母親を見殺しにしたろくでなしが!」

環那「あはは、知らないよ、そんなの。勝手に死んだんでしょ?」

 

 まーだあのこと根に持ってたんだ

 

 ねちっこいなぁ......

 

環那「まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。今日は交渉に来ただけだから。」

剛蔵「交渉、だと?」

環那「あんたらが損する話じゃないよ?ばあさんも呼びなよ......ね?」

剛蔵「っ!!」

 

 俺が放つ雰囲気を察してかじいさんは俺を家に上げ

 

 予想通り、客間に通された

__________________

 

「なっ......!?か、環那......!?」

環那「おひさー、歌代おばーちゃん。」

 

 俺を見たらみんな似たような反応するな

 

 もう少し捻った反応見せて欲しい

 

 存在自体がお笑い芸人みたいなもんなのに

 

歌代「な、何しにここに......?」

環那「交渉だって。そんなに警戒しないでよ。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 この一族、俺の事嫌い過ぎじゃない?

 

 悲しくて泣いちゃいそうだ......嘘だけど

 

剛蔵「交渉とはなんだ。貴様がここに来るということは、碌なことではないのだろう。」

環那「それは立ち位置によるさ。けど、あんたらは悪いようにはしないよ。月に米一合貰ってた分は優しくしてあげるよ。」

剛蔵「......要求は。」

 

 低い声でそう尋ねて来た

 

 ふむ、このじいさん、意外と頭使えるな

 

 まっ、関係ないけど

 

環那「この家の財産の全て、それと株式会社Palaceの全権利を俺によこせ。現会長、南宮剛蔵殿。」

剛蔵、歌代「!!!」

 

 そう言うと2人は目を見開いた

 

 あはは、まぁ、そう言う反応になるよね

 

 そして、絶対に受け入れるわけないよね?

 

 普通なら......の話だけど

 

剛蔵「そ、そんな要求が通ると思ってるのか!?たわけが!」

環那「まっ、答えを出すのは少し待ってよ。持ってきたお土産でも見てから、ね。」

剛蔵「こ、これは__なっ.....!?」

 

 そう言って、スッと俺はある書類を机に置き

 

 それを見た瞬間、じいさんの顔が青ざめた

 

 まぁ、そうなるよね

 

 控えめに言って、対南宮家最強兵器だし

 

環那「情報の方はまだ俺と協力者達しか知らないよ。まぁ、これが外に漏れたりしたら。」

剛蔵「......わ、我が社は、終わりだ......」

歌代「えぇ......!?」

環那「クフフ......あはははは!」

 

 じいさんはカタカタと震え

 

 ばあさんの方は冷や汗をダラダラと書いてる

 

 やっと自分の置かれた状況を理解したみたいだ

 

 ......とんでもない、窮地って事に

 

環那「さぁ、どうする?答えは一つだと思うけど?」

剛蔵「......き、貴様の要求を呑む。この家の財産もすべて生前贈与するものとする......っ」

歌代「あなた......!」

剛蔵「仕方あるまい......こいつの持ってる情報が外に漏れれば、社員全員が路頭に迷う事になる......」

環那「賢いねぇ。じゃあ、この書類にサインして、一筆書いてね。」

 

 なんだ、意外とちゃんと経営者してるじゃん

 

 ちょっと見直した

 

 まぁ、だからと言って容赦はしないけど

 

剛蔵「......出来たぞ。」

環那「要求は通ったし、あんたらの身の安全は保障するよ。」

 

 全ての記入が終わり

 

 俺は軽く肩を回した

 

 すると、じいさんが目を見開いて俺の方を見た

 

剛蔵「貴様、すべて奪う気だったのか......!?最初から......!?」

環那「さぁ、どうだろうね。」

 

 俺はそう答えながら書類をまとめ

 

 それらを鞄にしまった

 

 あまりに順調すぎて面白くないな

 

 準備が完璧すぎた

 

環那「あ、そう言えば。」

剛蔵「今度は何だ......」

環那「あのバカ親が俺を嫌ってる本当の理由、知ってる?」

剛蔵、歌代「......!!」

環那「知ってるんだ。」

 

 面白いくらいわかりやすい

 

 まぁ、これは少し気になってたのだし

 

 別に知ろうが知るまいがどっちでもいい

 

環那「ついでだし教えてよ。」

剛蔵「......それはお前が__だからだ。」

環那「......」

歌代「だからあなたは、望まれてない子供だったのよ。」

環那「......ふーん。」

 

 これは、良いネタゲットだ

 

 思いもよらぬところで拾い物しちゃった

 

 これは明日、かなり使えそう

 

環那「情報提供、ご苦労......さようなら。」

剛蔵、歌代「え__っ!」

エマ「......」

 

 俺がそう呟いた瞬間

 

 エマは後ろから2人の首元に注射針を突き刺した

 

 2人は愕然とした表情を浮かべながら

 

 俺とエマの姿を見上げてる

 

歌代「あ、あなた、は......」

剛蔵「エ、マ......な、ぜ......」

エマ「これもすべてお兄ちゃんのため。あなた達への恨みはそこまで強くないけど、お兄ちゃんのために大人しくしてもらう。」

 

 老人2人は畳の部屋に寝ころび、動かなくなった

 

 だけど、別に死んだわけじゃない

 

 今死なれても都合悪いしね

 

 生かせる駒は最後まで使い潰すのが基本だから

 

環那「エマ、この2人はノア君に頼んで研究室へ。」

エマ「もう連絡済み。ことが済めば施設にでも突っ込む。」

環那「それでいいよ。身の安全を保障するって言う約束は守ってるし。」

 

 さて、ここでやることは全部終わった

 

 後はメインイベント

 

 今日得た武器も使って、クソジジイをぶっ潰す

 

 ......どんな顔するかな

 

環那「帰ろうか。」

エマ「お兄ちゃん。」

環那「?」

 

 歩きだそうとするとエマに呼び止められた

 

 俺は後ろを振り向き

 

 少しだけ視線を落とした

 

エマ「私はお兄ちゃんがどんな存在でも愛してる。」

環那「ははっ、そっか。嬉しいよ」

エマ「......♡」

環那「帰るよ。今日、これ以上南宮の奴らとエンカウントする予定はないから。」

エマ「了解、お兄ちゃん♡」

 

 俺達はそんな会話の後、家を出て

 

 すぐに琴ちゃんの家に直帰し

 

 九十九と人見と新太に成功の連絡をし

 

 明日に備えるように指示を出した

 

 

 



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突撃

 “リサ”

 

 合宿から帰って来て4日

 

 あたしは今、友希那と一緒に宿題をしてる

 

 流石にしないわけにもいかない

 

 だけど......

 

リサ「わ、分かんない......」

友希那「何よ、これ......」

 

 あたし達は絶賛、数学で躓いてる

 

 こういう時に環那がいればなぁ......

 

 数学最強で教え方上手いし

 

リサ「受験生だからってこんな問題出す?」

友希那「環那かエマ、日菜しか解けないんじゃないかしら......?」

リサ「マジでそれ......」

 

 今日に限って環那は用事だし

 

 エマも勿論くっ付いて行ってるし

 

 日菜に関してはアイドルの仕事以前に教えるのに向いてない

 

 間が悪いなぁ......

 

友希那「これは後回しにして今度環那に教えてもらう方がいいわね。」

リサ「そうだねー__ん?」

友希那「電話?」

 

 友希那と話してると、机に置いてる携帯が鳴った

 

 画面を確認すると、電話の相手は燐子からで

 

 衣装の確認かな?と思い、通話を開始した

 

リサ「もしもーし、どうしたのー?」

燐子『あ、い、今井さん......』

リサ「え!?ど、どうしたの!?」

 

 電話での燐子の声を聞いて、驚いた

 

 今にも泣きだしそうな声

 

 いや、もう泣いてるかもしれない

 

 これはただ事じゃない

 

燐子『お父さんが......もう、バンドも......うぅぅぅ......!!』

リサ「え、お、お父さん!?バンドが何!?え、ほんとにどうしたの!?」

友希那「リサ、何が起きてるの?」

リサ「わ、分かんない。ちょ、今から家行くから!」

 

 あたしはそう言って電話を切り

 

 バッと友希那の方を向いた

 

リサ「り、燐子の家行こ!今すぐ!」

友希那「え、えぇ!」

 

 あたし達はそう言って立ち上がって

 

 一応、環那にメッセージを送ってから

 

 急いで燐子の家に向かった

__________________

 

 真夏の空の下を走って

 

 あたし達は燐子の家に来た

 

 そこには紗夜とあこもいて

 

 2人の表情からも事の重大さが伝わってきた

 

リサ「紗夜、あこ!一体何があったの!?」

紗夜「わ、分かりませんよ。白金さんが泣いてて、私達も大慌てで来たんですから!」

燐子「__あ、み、皆さん......」

あこ「りんりん!?どうしたの!?」

 

 家の前で話してると燐子が出て来た

 

 泣いてたのか目が真っ赤に腫れ上がってる

 

 ほんとに、何があったの......?

 

燐子「......お父さんが、会社をクビになって、身に覚えのない責任を負わされて......会社にお金を請求されてて......」

紗夜「なんですかそれは!?」

リサ「燐子のお父さんの会社て?」

燐子「palace銀行......です。」

リサ、友希那「っ!(そ、その会社......!)」

 

 覚えがある会社の名前

 

 この会社、環那の親の会社だ

 

 確か、色んな事業をしてて

 

 日本の中でも数多くグループの会社がある

 

リサ(ま、まさか......)

環那「__燐子ちゃーん!何があったのー!?」

 

 燐子に事情を聞いてると環那がいきなり走って来た

 

 その傍らでエマも抱えられてる

 

 けど、その状況に突っ込んでる暇はない

 

リサ「今日、用事なんじゃなかったっけ?」

環那「燐子ちゃんが泣いてるって言うから死ぬ気で走って来た。」

 

 環那は涼しい顔でそう言った

 

 けど分かる

 

 この表情、絶対にキレてる

 

 『燐子ちゃんを泣かせた奴は地の果てまで追いつめてやる』って分かりずらいけど顔に出てる

 

環那「リサ、状況を説明して。」

リサ「えっと、まず__」

 

 あたしは燐子に効いた内容を説明した

 

 話が進む度、環那の額に青い血管が浮かんできて

 

 話してるあたしが正直、一番怖かった

 

環那「......なるほどね。孫請け会社だから、燐子ちゃんのお父さんに圧力かけたわけか......俺と仲いいから。」

あこ、紗夜「っ!!」

 

 話を終えると環那は目に見えてキレた

 

 怒鳴り散らすタイプじゃないけど

 

 見た瞬間にキレてるって分かる

 

 てか、若干だけど血管破裂してない?

 

環那「ごめん燐子ちゃん、これは俺のせいだ。」

燐子「え......?」

エマ「やってくれたね、あのゴミども。よりによって燐子に被害を出すなんて。」

環那「はぁ......マジでぶっ殺す、あいつら。臓物抉り出してハンバーグにして黒焦げに焼いて詰め直してから豚の餌にしてやる。」

紗夜「み、南宮さん!?」

環那「あぁ、ごめん、つい本音ゲロっちゃった。」

 

 やばいやばいやばい

 

 今まで見たキレ方で一番ヤバい

 

 中二のあの事件の時よりヤバいかも......

 

環那「中々、悪くない手を打ってくれるなぁ......1億手おせぇけど。」

あこ(く、口調すら変わってるよ......)

環那「いやぁ、本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎて殺意が湧いてきた。」

 

 こりゃダメだ

 

 目が完全に血走ってる

 

 瞳孔開きまくってるし、人殺しそうな目してるよ

 

環那「けど、大丈夫。あいつらの愚行は全部あいつらに帰るよ。」

燐子「......!」

 

 環那はそう言って、燐子の頭を撫でた

 

 安心させるような優しい手つきだ

 

エマ「お兄ちゃん、あいつ、殺す?」

環那「殺す......のもいいけど一瞬で終るじゃん?もっと良い事思いついた。」

友希那(こ、怖いわね。)

環那「まぁ、みんな何も問題ないさ。今頃、あいつは......」

 

 環那はスッと目を瞑り

 

 少しだけ口角が上がった

 

環那「......自分の理解が及ばない事態に、困惑してる頃だよ。」

 

 そう言って、環那は目を見開いた

 

 その目はまるで濡れた刃物のようで

 

 あたし達は喉元に刃物を突き付けられたような感覚に襲われた

__________________

 

 “とあるビル”

 

『__おいこら、クソ社長ー!!』

『今まで散々こき使いやがって!!』

『今までの事全部訴えてやる!!』

『やめちまえ無能が!!!』

 

 真夏の日の高層ビルの前

 

 そこで、何人もの社員の怒号が響いている

 

 その口調は一つ一つが荒々しく

 

 誘爆する爆弾のように声が広がっていた

 

源蔵「な、なんだこれは!?何が起きてる。」

「わ、分かりません!ですが、さっき取締役会から、社長を解雇すると......」

源蔵「なんだと!?そんな馬鹿なことがあるか!親父は何をしてる!?」

「それが、会長は昨日から連絡が途絶えていまして......」

源蔵「なん、だと......!?」

 

 源蔵は理解できないと言った様子で机を叩いた

 

 机の上にある書類がバサバサと床に落ちる

 

 だが、そんな事を気にする余裕もなく

 

 社長室の中を忙しなくウロウロしている

 

源蔵(どうなってる!?従業員の犯行、取締役会の裏切り、親父との音信不通......一体、私の身に何が起きているというんだ!?)

「しゃ、社長、お電話が......」

源蔵「誰だこんな時に!?」

 

 源蔵はそう言いつつ電話に出た

 

 もしかしたら、父親かも知れない

 

 そう言う期待もあったのかもしれない

 

『__もしもーし、余興は楽しんでくれてるー?』

源蔵「っ!き、貴様は......!」

環那『環那だよー?可愛い可愛い息子のね♪』

 

 電話の向こうからはピエロのような陽気な男の声

 

 からかうような軽薄な口調

 

 その奥から感じる邪悪な雰囲気

 

 源蔵は受話器を耳に当てたまま背筋が凍った

 

源蔵「き、貴様、まさか......!」

環那『気付いちゃった?気付いちゃったよねぇ!そう、そうだよ!俺が全部奪ってやったよぉ!あはははは!』

源蔵「こ、このクズがぁ......!!」

 

 電話の向こうの煽るような口調にイラついたのか

 

 源蔵は激しく歯ぎしりをし

 

 持ってる受話器を握りしめた

 

環那『オジーちゃん達、連絡取れないでしょ?』

源蔵「っ!」

環那『2人は今頃ボケてるんじゃない?その前に一筆書いてもらってさ、その会社と南宮の全財産、俺が全部貰っちゃったんだよねぇ!』

源蔵「なっ!?なんだと!?」

環那『勿論、あんたらの取り分はないよ?税金で持っていかれる分もあるし!』

 

 源蔵はその言葉に愕然とした

 

 まさかの味方だと思ってた身内の裏切り

 

 予想しうる中で最も最悪な事態が起き

 

 状況を理解することを頭が拒否してる

 

環那『絶望してる?してるよねぇ!?でも足りない......もっと、もっともっともっともっともっと!!絶望させるよ!!随分舐めたことしてくれたからねぇ!!』

源蔵「な、んだと......まさか、白金のことか......!」

環那『まぁ、もうお前には何の権限もない、ただのゴミだ!あはは、無様だねぇ!無様無様無様!!ザマァ!!』

 

 そんな声に源蔵は頭を抱え

 

 綺麗なカーペットを敷いた床に膝をついた

 

 その額には脂汗が滲んでおり

 

 今の精神状態を表しているようだった

__________________

 

 “環那”

 

環那「もしもし、私、環那さん。今、ビルの前の交差点にいるの。」

 

 俺はどこかで聞いたホラーな女の子みたいなセリフを口にした

 

 まぁ、この言葉通り

 

 今、俺は高層ビルの前に立ってる

 

環那「じゃあ、また後で会おうねぇ。」

 

 俺はそう言って電話を切った

 

 あー、変な演技するの疲れた

 

 喉ぶっ潰れるよ、ほんとに

 

新太「__これもすべて、お前が仕組んだことか。」

環那「ん?そーだよー。全部予定通り。いや、あいつらの嫌われ方は想定外だったかな。」

新太「流石は貴様の親族だ。」

エマ「お兄ちゃんを馬鹿にしないで、この無能。お兄ちゃんはあんな奴らとは違う。」

新太「......なんだと?」

環那(わー、また喧嘩してるー。)

 

 この2人、ほんとに仲悪いな

 

 まぁ、原因は10割俺なんだけどね

 

環那「行くよー2人とも。喧嘩は終わった後にしてねー。」

エマ「お兄ちゃん、奪いに行こう。」

環那「そうだね。役に立ってよ、新太。」

新太「......ふん、利害が一致してるうちはな。」

 

 そんな会話の後、俺達は歩きだし

 

 ビルの前に出来てる人混みの中に入って行った

 

 物凄い怒号が飛び交ってる

 

 下手したら鼓膜破られそうだ

 

結実「あ、か、環那さん!」

環那「あ、結実さん。おひさー。頑張ってるねー。」

 

 前の方まで行くと見知った顔があった

 

 結実さんに保奈さんに麗さん

 

 この3人、拾い物だったけど大当たりだった

 

 ここまでの賛同者を集めてくれるなんて

 

 流石に優秀と言わざるを得ない

 

麗「妹さんに、そちらの方は?」

環那「今回の切り札だよ。」

保奈「えっと、その人、見たことあるんですけど......」

新太「......」

環那「かもねー、テレビとかで見たんじゃない?」

 

 そう言いながらさらに歩を進め入り口の前に立った

 

 けど、自動ドアは固く閉ざされて開く気配がない

 

 慌てて閉めたのかな?

 

 みんな良識があるだろうし、壊すような真似しないと思って

 

環那「まっ、人間が全員、良識があるとは限らないよ......ねっ!!」

新太、エマ「!」

周りの人間『!!!?』

 

 俺は喋りながらガラスのドアを蹴った

 

 すると、ガラスには大きなヒビが入って行き

 

 数秒遅れて、入り口のドアのガラスは大きな音を立てて砕け散った

 

新太「......化け物め。」

環那「はいはーい、突撃突撃ー。」

エマ「お兄ちゃん、素敵♡私も壊されてみたい♡」

環那「いや、流石にしないよ。お気に入りのものは綺麗に取っておきたいから。」

エマ「お気に入りなんて......♡私は幸せ♡」

 

結実、麗、保奈「え、えぇ......(ドン引き)」

周りの人間(あ、あの人、何者......?)

 

 そんな会話をしながら俺達はビルに入った

 

 て言うか、エレベーター使えるかな

 

 階段で登るの面倒くさいんだけど

 

 なんて事を敵地に侵入してから考えるのだった

 

 

 



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復讐

 ”源蔵”

 

 生まれた瞬間から、私は勝者だった

 

 名家と呼ばれる家に生まれ

 

 日本でもトップと言われる大学を卒業し

 

 元モデルで高学歴な妻、椿姫と結婚

 

 その数年後、大企業の社長になった

 

 正に順風満帆な人生、私こそ選ばれし者

 

 その、はずだった......

 

源蔵(な、なぜだ!なぜ、また......!)

 

 過去に1度だけ奪われたことがあるが

 

 また魔の手が迫ってきている

 

 なぜだ?

 

 私は生まれついての勝者だったはずなんだ

 

 なぜ、そんな私が、あのゴミなんぞに......!

 

環那「__お邪魔しまーす!クソバカ野郎☆」

源蔵「!!」

「ひ、ひぃ!お、お前はぁ!」

環那「潰しに来たぞ、可愛い可愛い燐子ちゃんの代わりに。」

 

 その化け物は社長室の扉を蹴り破り

 

 この前潰した男の娘の名前を呼びながら

 

 温度を感じない目で私を見下ろしていた

 

 ”環那”

 

 本当にこいつ、エレベーター止めてた

 

 そのせいでマジで階段で上がらざるを得なかった

 

 マジで殺したい

 

環那「うっ......!」

源蔵「!」

 

 俺はクソジジイの顔面を見て頭を抱えた

 

 頭が痛すぎる

 

 あぁ、ダメだダメだダメだ

 

 こいつを見てると......

 

環那「あー......殺意湧いて来たぁ。今すぐ臓物引きずり出して殺してぇなぁ。」

源蔵「っ!」

「ひ、ひぃぃぃぃ!」

 

 っと、ヤバいヤバい

 

 燐子ちゃんを泣かされた怒りが溢れて来た

 

 ちょっと落ち着いて殺......

 

 じゃなくて、潰さないと

 

源蔵「これは、貴様の仕業か......!」

環那「だいせいかーい。よく出来ました~。お祝いとして良い物見せてあげる~。」

 

 俺はそう言って目の前に写真と書類を出した

 

 さて、まずはオードブルをサーブだ

 

源蔵「こ、これは......!」

環那「その写真、良く撮れてるでしょ~?」

源蔵「親父に、お袋......!?」

環那「見ての通り、2人はボケが始まりました~。もう読み書きどころか会話もできないだろうね!」

 

 クソジジイに渡したのは

 

 リサ達が使ってたカメラアプリで撮った写真

 

 猫の耳とか付いてて素晴らしい写真だ

 

 じいさんばあさんも12歳くらい若返ったように見える

 

環那「ちなみにそっちの書類はこの会社の主要な出資者と俺が話し合いした時に書かせた契約書。内容見れば、分かるよね?」

源蔵「み、南宮源蔵が代表取締役社長を継続する場合、出資を完全に打ち切るものとする......だと!?」

環那「いやぁ、弱みを握ったら簡単だったよ。」

源蔵「ば、バカな!!日本でも有数の資産家たちだぞ!?そう簡単に......」

環那「簡単にできるんだよね。その道のスペシャリストが俺のチームにいるから。」

 

 そのスペシャリストは人見だ

 

 人見は所謂、美人局を生業としてる人間で

 

 今まで何人もの男を手籠めにして

 

 お金を揺すり取ってきた、超スペシャリストだ

 

環那「さて、次だ。」

 

 俺はそう言ってもう1つの書類を出した

 

 正直、昨日までこれがメインデッシュだった

 

 けど、それはあくまで昨日までの話だ

 

源蔵「な、なんだこれは......!」

「こ、この、印鑑は......」

環那「そう。それは正真正銘、現会長......いや、今は元会長かな?が書いたものだよ。」

源蔵「あ、ありえない......!なぜ、貴様なんぞに......!」

 

 おぉ~、効いてる効いてる

 

 こんなくっだらない事で

 

 まだディナーで言うと肉料理なのに

 

環那「まぁ、つまり、今のお前は俺に全部奪われたんだよ。お前が誇ってきたものせーんぶ、ね?」

源蔵「ふ、ふん、この甘たれ小僧が。全部奪っただと?貴様が私からすべて奪うなど不可の__」

エマ「__本当にそう言える?」

源蔵「!!?」

環那(あ、出て来ちゃった。いいんだけど。)

 

 エマが出て来てまた流れが変わった

 

 クソジジイは彼女寝取られた男みたいな顔してる

 

 そりゃそうか

 

 だって、()()()自分の子供だもん

 

源蔵「な、何故......エマが!?」

環那「何故、か。エマ。」

エマ「うん。」

 

 俺が呼ぶと、エマはこっちに歩いて来て

 

 ギュッと腕に抱き着いてきた

 

 ここまでしろとは言ってないんだけど......

 

 まっ、クソジジイがダメージ受けてるし、いいや

 

エマ「お兄ちゃん、愛してる♡」

環那「こういう事だよ。」

源蔵「な、な......っ!」

環那「あはは!奪っちゃったぁ!」

 

 つい笑いが漏れてしまった

 

 俺の想像以上に良い反応を見せてくれてる

 

 間抜けでバカっぽくて滑稽で

 

 ......あー、楽しい

 

源蔵「き、貴様ぁ......!」

環那「ねぇ、どんな気持ち?クソババアの命奪われて、ご自慢の会社奪われて、ついには娘まで奪われてどんな気持ち?悔しい?悔しいよねぇ!?あははは!!」

源蔵「くっ、クソが......っ!」

環那「言葉遣いが汚いよー?......もっと弁えろよ、ゴミが。」

 

 さて、そろそろトドメを刺して行くか

 

 これ言ったら、どんな顔するかなぁ......

 

 そんな事を考え俺は口角が自然と上がり

 

 そのまま、クソジジイに話しかけた

 

環那「この奪われる感じ、懐かしいでしょ?」

源蔵「......っ!な、何を__」

 

 そう言うと、クソジジイはピクッと反応した

 

 そう、これが昨日できた新しい切り札

 

 こいつにトドメを刺すのに、最高のカードだ

 

環那「お前のことが大嫌いなレ〇プ男にだーい好きなクソババアの処女奪われたときの気分、思い出して来たぁ?」

源蔵「っ!!」

環那「くふふっ。」

 

 俺が煽るようにそう言った瞬間

 

 クソジジイは俺に掴みかかってきた

 

 けど、その動きがあまりにも遅すぎて

 

 エマを抱きかかえながらそれを回避した

 

源蔵「この......!」

環那「俺、クソババアをレ〇プした男の子供だもんねぇ!そりゃ嫌いなはずだよねぇ!だって、俺を見るたびに惨めになって、敗北感味わって......あはははははは!!」

源蔵「黙れぇぇぇぇえ!!!」

 

 クソジジイは性懲りもなく攻撃を仕掛けてくる

 

 俺はそれを難なくかわし

 

 ついでに鳩尾に膝蹴りをお見舞してやった

 

源蔵「ぐふっ!!!」

環那「学習しろよ。脳みそ入ってんのー?」

源蔵「き、さまも......あの男のように......!」

環那「んー?なんてー?」

 

 そう言って俺は耳を傾けた

 

 もう9割煽りモードだけど

 

 そろそろ楽しい時間は終わりかな

 

源蔵「貴様の、あの男の様に殺して、山に埋めてやる......!!」

環那「えー、そんなことしたのー?(知ってるけどー)」

源蔵「あ、あぁ、そうだ。あの男は椿姫を襲った後に殺し、近くの山の奥に埋めてやった!お前も同じようにしてやる!このクズが!」

環那「へぇ、だって、新太ー。」

源蔵「は?」

 

 俺は社長室の外に話しかけた

 

 すると、壊れたドアの外から新太が入って来て

 

 床で蹲ったまま表情が固まってるクソジジイの前に立った

 

源蔵「な、なぜお前がここに......!?」

新太「やっと捕まえたぞ、南宮源蔵。」

源蔵「け、警視総監、加持新太......!!なぜ、この男についてる......!!」

環那「クフフ、チェックメイト。」

 

 これが今回の切り札、加持新太だ

 

 新太は史上最年少で警視総監になった天才

 

 学力、身体能力、信念が備わった最高の警察官

 

 そう呼ぶ人間もいるほど、優秀な人間(駒)だ

 

新太「自白は取った。貴様を保護者責任遺棄罪、殺人罪、死体遺棄罪の容疑で逮捕する。」

源蔵「な、なんだと!?」

環那「あーあ、まんまと引っかかったねぇ。」

 

 俺は溜息を付きながらそう言った

 

 いやぁ、昨日の話聞いててよかった

 

 想像以上に簡単に自白取れたよ

 

 これがなかったら後15分はかかってた

 

源蔵「なぜだ!?なぜ、私が奪われないといけない!クズのお前に!クズの子のお前なんかにぃぃぃ!」

環那「知らないよ。ただ、お前が搾取される人間で、俺が搾取する人間だった。それだけの事でしょ。」

源蔵「うぐっ!く、クソ!殺してやる!何年かけてでも!貴様だけはぁぁ!」

新太「貴様が生きてる間に檻から出られたらな。」

 

 新太はクソジジイに手錠をかけて取り押さえ

 

 俺に向かってそう喚いていた

 

 逮捕されたことはあるけど、人が逮捕されるのは初めて見た

 

 うわぁ、おもしろ

 

新太「......貴様に協力するのはここまでだ。」

環那「うん、ありがとうね。新太。」

新太「ふん。」

源蔵「クソ!クソ!クソがぁぁぁ!!!」

 

 クソジジイは新太に引っ張られ

 

 段々と叫び声が遠のいて行った

 

 残されたのは俺とエマ、そしてクソジジイの腰巾着

 

 俺は腰巾着の方を睨みつけ、口を開いた

 

環那「もう帰っていいよ。君の処遇は追って伝える。」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

 

 腰巾着は情けない声を上げて逃げていった

 

 まぁ、所詮はこの程度だよね

 

 情けない

 

環那「......はぁ。」

エマ「お兄ちゃん......」

 

 エマ以外誰もいない部屋の真ん中で腰を下ろした

 

 あまりに呆気なかった

 

 6歳から準備を始めたこの作戦

 

 準備の長さの割に、美味しい部分少なかったな

 

環那(最終的に手に入ったのは会社だけか。下らな。)

 

 正直、会社を手に入れたのもダメージを与えるためで

 

 別にお金とか地位とかどうでもいい

 

 好きなように生きられなくなるだけだし

 

環那「なんだか、疲れたね。」

エマ「私はお兄ちゃんに密着できて幸せだった。」

環那「ははっ、そっか。」

 

 エマはどんな状況でもブレないなぁ

 

 まぁ、面白いからいいんだけど

 

環那「......ほんと、何なんだろうね、俺。」

エマ「お兄ちゃんは、お兄ちゃん。」

環那「エマ?」

 

 俺がそう呟くとエマは手を握ってきた

 

 小さくて柔らかい手だ

 

 けど、かなり冷たい

 

エマ「私の愛するお兄ちゃんはこの世で1人。」

環那「?」

エマ「しかも、父親が違うからスウェーデンで結婚できるよ♡」

環那「......ははっ、面白いね、エマは。」

 

 俺はそう言って立ち上がって

 

 恍惚とした表情を浮かべたエマの手を引いた

 

 俺の作戦は終わったけど

 

 結実さん達や他の賛同者との約束もあるし

 

 もう少し、仕事あるや

 

環那「下の皆と九十九と人見に勝利宣言しようか。エマ、もう少しついて来てね。」

エマ「いつまでもついて行くよ♡私の命はお兄ちゃんの物だから♡」

環那「そっか。」

 

 俺とエマはそのまま2人でビルを出て

 

 ビルの前に集まってる皆に勝利宣言をした

 

 その時に『社長、社長!』って祭り上げられ

 

 すごい持ち上げられまくってたけど......

 

 何と言うか......すごい面倒だった

 

 

 

 



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張り詰めたもの

 俺は南宮環那

 

 超が付くほど勝手な人間だ

 

 出来れば無駄な責任なんて負わず

 

 出来るだけ適当に楽しく生きてたいって思ってる

 

 けど昨日から、そうもいかなくなってしまった

 

エマ「__お兄ちゃん、起きて。」

環那「......ん?あぁ......エマ?」

エマ「おはよう、お兄ちゃん。」

 

 俺のTシャツを着たエマに体を揺すられ

 

 すっごい怠いなぁと思いながら目を覚ました

 

 朝なんて一生来なくていいのに

 

 あー、地球滅びるけど太陽潰れればいいのに

 

環那「なんで俺のTシャツ着てるの?」

エマ「着たかったから。」

環那「なるほど。じゃあ仕方ない。」

 

 俺はそう言ってベッドから降りた

 

 昨日は作戦終ってからすぐに寝たけど

 

 なんか、妙に疲れてる気がする

 

環那(計算し過ぎで眠り浅くなったかな。)

エマ「お兄ちゃん、朝ごはん食べよ。琴葉が作ってる。」

環那「へぇ、琴ちゃんが作ってるんだ。そっかぁ、琴ちゃんが......って、えぇ!?」

エマ「驚き過ぎ。」

 

 エマは冷静にそう言うけど

 

 俺はからすれば、これは青天の霹靂だ

 

 だって、あの家事能力皆無の琴ちゃんだし

 

エマ「確かに、琴葉の家事能力は控えめに言ってゴミクズ。」

環那(ひ、酷い言われようだ。)

エマ「けど、人間は成長する。今は......まだ人間に食べさせられるレベル。」

環那「それ、褒めてはないね。」

 

 ま、まぁ、前に食べたお弁当は美味しかったし

 

 朝ごはんだからって失敗することはないでしょ

 

 だって、やること自体は変わらないし

 

環那「行こっか。」

エマ「うん、そうだね。」

 

 そんな会話の後、俺達は部屋を出て

 

 朝ごはんが準備されてるリビングに向かった

__________________

 

 リビングに来ると味噌汁の香りがした

 

 どうやら、今日の朝ごはんは和食__

 

琴葉「あ、おはようございます、2人とも!」

環那、エマ「......」

 

 じゃなかった

 

 味噌汁があるのに食パンがある

 

 あはは、これがほんとの和洋折衷かー

 

琴葉「どうかしましたか?」

環那「えーっと、味噌汁にパンなんだね。」

琴葉「え、ダメなんですか?朝ごはんと言えばと言う物を用意したんですが。」

環那「」

エマ(言葉を失うってこんな感覚なんだ。)

 

 そ、そう来たか......

 

 い、いやでも、メニュー的に失敗しずらい

 

 組み合わせはあれだけど......

 

環那「い、いただきます。」

エマ「いただきます。」

琴葉「はい、どうぞ!」

 

 手を合わせた後、俺は食事を始めた

 

 こんがり焼けた食パンに味噌汁......

 

 甘味と塩味が絶妙にマッチしてて

 

 もしかしたら、これはこれでありかもしれないって思えて来た

 

環那「あ、ありだ。」

エマ「驚いた。これは不思議。」

琴葉「なぜ驚いてるんですか!?」

エマ「食パンと味噌汁を合わせるのは初めてだったから。」

琴葉「えぇ!?そうなんですか!?」

 

 琴ちゃんは驚いたような声を出した

 

 今までどんな食生活......

 

 って、インスタントばっかりか

 

エマ「まぁ、琴葉は目覚ましい成長を遂げた。食パンも焼けて、味噌汁も作れるようになった。」

琴葉「それだけで!?まぁ、もういいです。テレビつけますね。」

 

 そんな会話の後、琴ちゃんはテレビをつけた

 

 画面に映し出されたのはニュースで

 

 どうでもいい内容が流れてる

 

『速報です。palace株式会社の社長が交代しました。』

琴葉「はえー、超大手じゃないですか。」

環那、エマ「あっ。」

 

 2,3個のニュースが流れ

 

 そんな話題になった

 

 なんか昨日見た建物が見えるなぁ、気のせいかなぁ?

 

『新社長兼会長は前社長の1人息子である、南宮環那君、17歳です。』

琴葉「へっ?」

環那「うわぁ......」

 

 テレビで名前出ちゃったよ

 

 これが有名税って奴か

 

 嫌だなぁ......

 

琴葉「えぇぇぇぇぇぇ!?」

エマ「琴葉、うるさい。」

琴葉「い、いや、でも、社長って!!」

環那「見たまま。南宮を一族ごと潰そうとしたけど、社員の事考えて代替案を実行した結果。」

琴葉「そ、それでも、大企業の社長だなんて!」

 

 琴ちゃんは驚いて俺を凝視してる

 

 まぁ、そうだよね

 

 同居人の高校生がいきなり社長なんて

 

 言うなればクワガタの幼虫がヘラクレスになる感じ(?)

 

環那「はぁ......」

琴葉「珍しく大きなため息ですね。」

環那「だって、なんか面倒じゃん。有名になったら犯罪スレスレのことしずらくなるじゃん。」

琴葉「それは良い事じゃないですか。」

 

 はぁ......面倒くさい

 

 さっきのニュースでも顔出ちゃってるし

 

 無駄に大きい企業だから全国に顔知れ渡るし

 

 もう軽はずみな行動取れないな......

 

琴葉「それにしても、社長ですか。」

環那「?」

琴葉「あなた、進路はどうするんですか?」

環那「進路?」

 

 俺は首を傾げた

 

 そう言えば、高校3年生だった

 

 もう夏休みだし、そう言う時期かー

 

環那「なーんにも考えてないや。」

琴葉「なら、大学を目指してみませんか?」

環那「え?大学?」

琴葉「あなたなら、東大も合格できるはずです。」

環那「東大?」

 

 大学......それも東大?

 

 この俺が?

 

 本気で考えたことも無かった、けど

 

環那「興味ないや。」

琴葉「!?」

環那「やりたいこと、無いし。」

 

 昨日から脱力感が凄い

 

 あまりにつまらな過ぎたからかな

 

 脱力してるけど、すごくイラついてる

 

琴葉「そうですかぁ......」

環那「......」

琴葉「あなたなら、理科三類合格って言う夢も見れると思ったんですが......」

エマ「理科三類......(日本最難関。)」

 

 夢、か

 

 俺の夢......友希那が誰よりも輝くこと

 

 そして、友希那が幸せになること

 

 正直、今までそれくらいしかなかった

 

環那「......やっぱり、考えててあげるよ。」

琴葉「え?」

環那「共通テストって1月でしょ?気が向いたら受けてあげるよ。」

 

 俺はそう言いながら味噌汁のお椀を空にした

 

 あーあ、何だかんだで俺も甘いなぁ

 

 面倒くさいこと増やしちゃったよ

 

環那「ごちそうさま。今日は特に予定ないし、部屋行くよ。」

琴葉「あ、はい!」

 

 琴ちゃんのあからさまに嬉しそうな声を出した

 

 ほんと、なにがそんなに嬉しいんだか

 

 馬鹿な子だ

 

環那(国語の勉強、真面目にするかぁ。暇だし。)

 

 俺はそんな事を考えつつ

 

 ゆっくりするために自室に戻った

__________________

 

環那「......?」

 

 自室に戻って、自分の体に違和感を覚えた

 

 なんだか、目の前の景色が歪んで

 

 思考に細かいラグが入ってくる

 

環那(まさか......)

 

 俺は引き出しから体温計を出して電源を入れた

 

 これ、もしかしたらだよ?

 

 人生で初めてのアレ、ありえる?

 

環那「......あー。」

 

 体温を測り終えて、眉間を抑えた

 

 これはあれだ、熱ある

 

 人生で初めて39℃とか見たかも

 

 うわぁ、熱があるってこんな感覚なんだ

 

環那(実際の数値を見ると余計にしんどくなってきた......)

 

 そんな事を考えながらベッドに寝ころんだ

 

 いつもは聞こえない外からの人の声

 

 電化製品が動いてる音

 

 いつもは拾わないような情報が頭に入ってくる

 

環那(医者......いや、エマに診て貰おう......)

エマ「__呼んだ?お兄ちゃん。」

環那「エスパーにでもなった?」

 

 なんで分かったんだろ

 

 義手にそう言う機会仕込んでるの?

 

 いや、丁度いいんだけど

 

エマ「どうしたの?」

環那「熱出た。診てくれない?」

エマ「熱?お兄ちゃんが?」

環那「!」

 

 エマは俺の額に触れた

 

 ひんやりとした手が気持ちい

 

エマ「すごい熱。すぐに解熱ざ......」

環那「?」

エマ「......いや、ゆっくり寝た方がいい。」

環那「あ、うん......」

 

 今、解熱剤って言いかけたよね?

 

 あるならそっちの方がいいんだけど

 

 エマが寝た方が良いって言ってるし、そうなんだろうね

 

環那「じゃあ、寝るよ。お休み......」

エマ「うん、ゆっくり眠って......今まで、張り詰めてた分。」

環那(なに......言ってるんだろ......)

 

 エマの言葉が途切れ途切れに聞こえ

 

 いつの間にか俺は意識を手放していた

 

 “エマ”

 

環那「スー......すぅ」

 

 お兄ちゃんが眠った

 

 その姿を見ると激しい性の衝動に襲われるけど

 

 今はお兄ちゃんのためにも抑えないといけない

 

エマ「張り詰めてたものが、途切れちゃったね。」

環那「ん......」

 

 私はお兄ちゃんの髪をそっと撫でた

 

 お兄ちゃんがこうなった理由は大体わかる

 

 今まで張り詰めてた緊張の糸が切れたから

 

エマ「可哀想、お兄ちゃん......」

 

 今まで無意識のうちに人を警戒してた

 

 何年も1人で毒家族と戦って

 

 湊友希那、今井リサだけを信じて

 

 最近になって燐子、琴葉を信じられるようになった

 

 それでも、この世にたった4人だけ......

 

エマ「......あの、クズ達さえいなければ。お兄ちゃんは、もっと。」

 

 あのクズ親のせいでサヴァンの障害が治らなかった

 

 そして、クズ身内は誰も手を差し伸べなかった

 

 そうだ、もっとお兄ちゃんが人の優しさに触れていれば

 

 もっとまともな大人がいれば

 

 もっと私が早く生まれていれば......!

 

エマ「......壊していい。お兄ちゃんは何を壊しても許される、だから__」

 

 私は喋りながらお兄ちゃんの頬に触れた

 

 こうしてると、私と言う人格が溶かされて

 

 頭が、おかしくなる

 

エマ「私も壊して、お兄ちゃん♡」

 

 気づけば、そんな言葉を口走っていた

 

 もっと、私と言う存在を壊してほしい

 

 だって、お兄ちゃんを知らなかったという罪を犯したから

 

 けど、それと同じくらい愛されたい

 

 壊されたい、愛されたい

 

 こんなダメな私をお兄ちゃんの人形にして欲しい

 

エマ「愛してるよ♡もっと、もっと私を壊して♡愛して♡」

 

 私は眠っているお兄ちゃんにそんな言葉を言い続け

 

 数十分くらい経ってから琴葉に報告し

 

 取り合えず、燐子にだけ連絡しておくことにした

 

 

 



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看病

環那「......」

 

 エマに寝てろと言われ少し寝て

 

 結局、寝苦しくて1時間くらいで起きてしまった

 

 けど、これは失敗だった

 

 熱いし、苦しいし、体の節々が痛い

 

 こんな事なら無理して寝てた方が良かった

 

環那(......うるさい。)

 

 なんか、変な声が聞こえてくる

 

 若者、老人、男、女

 

 色んな声が重なって聞こえて来て、煩い

 

環那「......あー、これが熱かぁ。新感覚ぅ。」

リサ「__いや、何言ってんの?」

環那「ん?」

リサ「まーたおかしくなったの?」

 

 俺がボヤいてると

 

 何故か、リサが俺の部屋に入って来た

 

 なんでここにいるんだろう?

 

環那「なんでいるのー......?」

リサ「あたしは浪平先生から連絡来て、面倒見てって頼まれたの。友希那とエマから連絡来た燐子、後あこもいるよ。」

環那「おぉ、大所帯だねぇ......って、そのメンバーで紗夜ちゃん来てないんだ。」

リサ「紗夜は『興味ありません。』ってさ。」

環那「ちょっとひどくない......?」

 

 紗夜ちゃん......

 

 流石の俺も泣きそうだよ

 

 ちょっとでもいいから興味持ってよ......

 

リサ「まぁ、あたし達は興味津々だからさ!」

環那「完全に面白がってるでしょ......」

リサ「いやー、まさかあの環那が熱出すなんてねー。」

環那(あ、完全に面白がってるね、これ。)

 

 人生初の熱だからかなぁ

 

 昔から知ってるリサには面白いネタだろうね

 

リサ「今お昼くらいだけど、何か食べれそう?」

環那「あんまりないかも......」

リサ「そっかー。けど、ちょっとくらい食べなよ。友希那と燐子がおかゆ作ってるから。」

環那「食べる。」

リサ「いきなり元気になったね。」

 

 いやだって、友希那と燐子ちゃんのおかゆだよ?

 

 死んでも食べたいでしょ

 

 俺なら余裕で命かけるね

 

環那「よし、俺から行こう......れっつごー。」

リサ「寝てなさい。」

環那「はい......」

 

 俺はリサに寝かされてしまった

 

 くっ、流石にダメか

 

 エプロンを着た友希那と燐子ちゃんを見たいのに

 

リサ「持って来てあげるから、ゆっくりしてて。」

環那「了解しました......」

 

 リサは少し厳しい口調でそう言って

 

 俺の部屋を出て行った

__________________

 

 “リサ”

 

 ......あんなに弱ってる環那、初めて見た

 

 今まで骨折しても、大きな傷が出来ても

 

 どんなことが起きてもヘラヘラしてたのに

 

 今回はあまりに様子が違う

 

リサ(なんで急にああなったんだろ......)

 

 そもそも、あの環那が体調管理ミス?

 

 そっちの方が驚きだ

 

 友希那に移さないためにって体調不良なんて今まで一度もなかった

 

 いきなりどうしたんだろ

 

友希那「あら、もう帰ってきたの?」

燐子「み、南宮君はどうでしたか......?」

リサ「うーん、かなりしんどそう。多分、熱も全然下がってないんじゃないかな?」

あこ「そんな環那兄姿、想像つかないかも。」

 

 まぁ、環那のイメージはそうだよね

 

 病気しなさそうな性格してるし

 

リサ「エマの話って本当なのかなー?」

あこ「それって、りんりんの言ってたあれ?」

燐子「うん......ストレスとか心労が祟ったって......」

友希那「......」

 

 言われてみれば、そうだったかもしれない

 

 あんな環境で生きて来たら気疲れもするし

 

 ストレスだって、想像できないくらい抱えてるはず......

 

あこ「......か、環那兄って、ストレスが原因でああなったんじゃ。」

友希那、リサ、燐子「......!」

あこ「ストレスで人はおかしくなるって言うし......」

 

 あこの言葉でハッとした

 

 ありえる......

 

 環那の境遇的に精神的におかしくなってもおかしくない

 

友希那「ま、まさか......」

エマ「__いや、それはないよ。」

リサ「っ!エマ、帰ってきたの?」

エマ「うん、用事が終わったから。」

 

 そんな話をしてると

 

 リビングのドアを開け、エマが入って来た

 

 いつも通りの私服の白衣を着て

 

 なんだか現実離れした姿をしてる

 

エマ「それで、お兄ちゃんが今みたいになった理由だっけ。それは生まれつき。」

友希那「なぜそう言い切れるの?」

エマ「そういう病気だからだよ。サヴァンは。」

 

 エマは落ち着いた声でそう言う

 

 あれは生まれつきなんだ

 

 それはそれでいいのかな?

 

エマ「まぁ、今回のは完全に長年のストレスと心労が原因。しばらくゆっくり休めばよくなる。」

リサ「じゃあ、解熱剤とか使わないの?」

エマ「今のお兄ちゃんには休養が必要。だから私は燐子を呼んだ。」

燐子「私......?」

エマ「燐子の癒しオーラには目を見張るものがある。あの旅行の時の膝枕は素晴らしかった。」

リサ(いつの間に?)

 

 まぁ、エマの気持ちは分かる

 

 確かに病気の時に燐子がいれば気分良くなりそう

 

エマ「おかゆ、出来てるなら食べさせてあげて。栄養は必要だから。誰も行かないなら、私が口うつs__」

リサ「はいはーい!あたし達で行こっかー!」

あこ「あこ!エマとお話ししたいなー!」

友希那「そうね、私達も行きましょう、燐子。」

燐子「は、はい......!」

エマ「1割は冗談なのに。」

 

 それって9割本気って事だよね......

 

 そんな本音を飲み込み

 

 あたしは2人とおかゆを持って環那の部屋に向かった

__________________

 

リサ「環那ー、おかゆ持ってきたよー。」

環那「あっ。」

友希那「環那......!?」

燐子「南宮君......!?」

 

 部屋に入ると、環那はベッドから落ちていた

 

 どこか顔が赤くて

 

 いつもより雰囲気が弱弱しい

 

友希那「どうしたの!?」

環那「い、いやー、着替えようと思ったら思った以上に体が動かなくてね......」

燐子「だ、大丈夫......!?」

 

 燐子が心配そうに環那に駆け寄る

 

 心配してるのが態度に現れてて

 

 倒れてる環那に触れる手つきも優しい

 

燐子「立てる......?」

環那「あはは、大丈夫だよ......」

燐子「汗かいてるね......着替え、手伝う?」

環那「い、いや、自分でするよ。(何のプレイ......?)」

リサ「......っ。」

 

 その時、ギリと言う音がしたのが分かった

 

 環那と燐子の仲が良い

 

 これはすごくいい事、なのに......

 

リサ(......なんで、そんなに仲いいの?)

 

 そんな事を考えてイラついてしまう

 

 けど、仕方ないじゃん

 

 あたしに心開くのはあんなに時間かかったのに

 

 燐子は1年もかからないって......

 

燐子「あ、汗かいたままだと悪化しちゃう......!」

環那「ちょ、ちょっと待って......!色々と危ない......!」

友希那「燐子、落ち着きなさい......」

燐子「!」

友希那「着替えは食べた後でもいいわ。体を拭いたりもするし。」

リサ「まっ、そうだね。」

 

 色んな感情を飲み込んでおかゆを持っていく

 

 今、環那と燐子の仲に文句言うのは違うし

 

 落ち着かないと......

 

リサ「自分で食べれる?」

環那「もちろん。レンゲつかって口に運ぶ程度__!?」

友希那「!」

 

 環那がおかゆを食べようとレンゲを持った

 

 けど、レンゲは手からするっと抜けて行って

 

 ゴンと音を立ててお盆の上に落ちた

 

環那「なんでだ、手が痺れて持てないぞ......?こんな事初めてだ......」

友希那「全く、仕方ないわね。レンゲ、貰うわよ。」

環那、リサ「友希那......?」

 

 友希那は小さく溜息を付き、落ちたレンゲを持った

 

 あたしだけじゃなくて燐子と環那も首を傾げてる

 

友希那「ふぅ、ふぅ......はい、食べて。」

環那「へ......?」

燐子(ゆ、友希那さんが......!?)

リサ「......!(友希那も!?)」

 

 無表情でおかゆを差し出す友希那

 

 流石の環那も白黒させてる

 

 め、珍しい

 

友希那「食べないの?」

環那「え、あ、いただきます。」

友希那「えぇ。」

 

 環那は友希那に差し出されたおかゆを口に入れ

 

 それを見て友希那は優しい笑みを浮かべた

 

 こんな光景、初めて見たかも

 

 いつもは立場真逆だし

 

環那「美味しい......」

友希那「燐子がほとんど作ったのよ。私はお米を洗う事しか出来なかったわ。」

環那「米を洗えるようになったんだね......!すごいよ......!」

リサ「ちょっと泣いてるじゃん。」

 

 視点が完全に親なんだけど......

 

 セリフが完全に小さい娘がお手伝いしたって聞いた時のそれだし

 

環那「美味しい、美味しいなぁ......」

友希那「泣くほどなのね。良かったわね、燐子。」

燐子「はい、そうですね。(友希那さんの成長を喜んでるんだろうなぁ。)」

リサ「......」

 

 分かってる、友希那は仕方ない

 

 ずっと環那はこんなだったし

 

 そんな今さら......

 

リサ(......ズルい。)

 

 嫉妬しないなんてことはない

 

 だって、あたしだっておかゆ作れるんだよ?

 

 今までお弁当も作ってるのに

 

 あんな反応、一回もされた事ない......

 

環那「__ふぅ、ごちそうさま。フルマラソン完走できそうな位元気になったよ。」

燐子「寝て......!」

環那「は、はい。っと、その前に着替えないと。」

友希那「じゃあ、私達はリビングにいるから、何かあれば声をかけなさい。」

環那「あ、そこの机にカード入ってるから何でも好きなもの__」

リサ「はいはい。甘やかしすぎない。」

環那「反応早いね......」

 

 隙を見れば甘やかそうとする環那を止め

 

 友希那と燐子の方を見た

 

リサ「2人は先にリビング行ってて。あたしは環那の着替え手伝うから。」

友希那「1人で大丈夫?」

リサ「大丈夫大丈夫。」

燐子「お、お願いします......///(流石に私は荷が重い......///)」

 

 あたしがそう言うと2人は部屋から出て行った

 

 一応、扉の外を確認し

 

 ベッドの上にいる環那の方を見た

 

リサ「脱いで、環那。」

環那「......ん?」

リサ「体拭いてあげるから。ほら。」

環那「えー、まぁ、いっか。」

 

 環那はそういって服を脱ぎ始めた

 

 まぁ、今さら上半身見られても気にしないよね

 

 あたしは意識しまくりだけどね!(正直)

 

リサ(浪平先生、水入れた洗面器置きっぱなし......ちょうどいいけど。)

環那「まさか、こうやって看病される日が来るなんてね......」

リサ「なにー?してくれる人いないと思ってたの?」

環那「いや、一生病気しないと思ってた。」

リサ「大丈夫。元から病気みたいなもんだし。(あ、タオルあった。)」

環那「何それ酷い。」

リサ「はいはい、背中向けて。」

 

 あたしは環那の後ろに立った

 

 白くて、昔より大きくなった背中

 

 同年代の中では細い方だけど筋肉質で

 

 男だなぁって感じがする

 

リサ「拭いてくよー。」

環那「はーい。」

 

 水で濡らしたタオルを背中に当てた

 

 うわー、昔より硬くなってる

 

 昔一緒にお風呂入った時はもっと柔らかかったのに

 

 そんな事を考えながら、あたしは手を動かし始めた

 

 “環那”

 

リサ「環那、昔よりかなり筋肉ついたね。」

環那「まぁ、捕まってる間に筋トレしたしね。」

リサ「ほんと、転んでもただでは起きないよね。」

環那「転んだつもりはないけどね。」

 

 俺は小さく笑いながらそう言った

 

 そう、転んだことはない

 

 だって、自力で立ったことないし

 

リサ「......燐子の事、好き?」

環那「?」

 

 会話が一度途切れてから少し経って

 

 リサはいきなりそんな事を質問してきた

 

 なんか最近、こんな感じの事よく言われる気がする

 

環那「まぁ......好きなのかもしれない。」

リサ「!」

環那「あの子は、俺が持ってないものを持ってる。」

リサ「......」

 

 好き、だとは思う

 

 けど、その気持ちに自信が持てない

 

 恋愛に関しては知らないからね

 

リサ「まっ、燐子って可愛いよね。それに友希那とか浪平先生とか環那の周りには可愛い人多いよね。」

環那「そうだね。」

リサ「でもさ。」

環那「!」

リサ「......///」

 

 あたしは後ろから環那に抱き着いた

 

 ここまでしても表情が変わってないのが悔しいけど

 

 もう、どうでもいいや

 

リサ「つ、付き合うとか結婚するなら、あたしにしときなよ......///」

環那「え?」

リサ「多分だけど、結構良い物件になる気がするよ?///」

環那「......?」

 

 付き合うとか結婚とか、いきなりだな

 

 いや、いきなりじゃないや

 

 リサは普通に好きって言って来るし

 

リサ「環那......?///」

環那「考えとく。けど、俺でいいの?人生無駄にしない?」

リサ「え?」

環那「リサならイケメンで年収1000万くらいの男捕まえられそうだけど。」

 

 リサってすごいいい子だしね

 

 家事上手で美人でスタイル良くて性格もいい

 

 実際、学校でもモテモテだしね

 

リサ「それって、環那の事じゃない?」

環那「え?」

リサ「あの会社の社長になったんだから年収1000万なんて超えるだろうし......その、環那は元は別に悪い方でもないし、雰囲気は良い感じ......みたいな?///」

 

 これはあれか

 

 好きになった相手は異様に容姿が良く見える

 

 あの謎の現象

 

リサ「まぁ、その、とにかく!///環那にはあたしが一番合ってるの!///だから、環那はあたしにしときなって話!///」

環那「え、あ、はい。」

リサ「着替え、ここに置いとくから早く着替えて寝る!///水分はこまめに摂って、困ったことがあったらリビングにいるから言って!///じゃあ!」

 

 リサは早口でそう言って部屋を出て行き

 

 俺はポツンと1人で部屋に残された

 

 なんだか、嵐が去った後みたいな

 

環那(『あたしにしときなよ。』か。)

 

 俺はリサに言われた言葉を心の中で復唱し

 

 それから服を着替えて布団に入り、目を閉じた

 

 ご飯食べて、良い感じに疲れたからか

 

 その後はよく眠ることが出来た

 

 

 



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後始末

 “リサ”

 

リサ「はぁ......///」

 

 環那の看病を終えて家に帰って

 

 自分の部屋に入ってすぐベッドにダイブした

 

リサ(なんであたし、あんなこと言ったんだろ......///)

 

 恥ずかしくて顔を上げられない

 

 嫉妬して『あたしにしときなよ?』だよ

 

 やばいじゃん、なんなのあれ......

 

 ほんとに恥ずかしすぎる

 

リサ(あぁぁぁぁぁあ!///今さら恥ずかしすぎて死にそう!!///あたしってバカなの!?///なんであんなに自信満々!?///ていうか、結婚とか飛躍し過ぎでしょ!!?///)

 

 急にあんなこと言われたらドン引きだよ

 

 てか、この年で嫉妬とか恥ずかしすぎだし

 

 弱ってる環那に付け込むような真似......

 

リサ「......けど、ちょっとくらい、いいじゃん///」

 

 付き合ってても友希那優先

 

 最近は燐子に入れ込んでる

 

 だったら、ちょっとくらい我が儘言ってもいいよね?

 

 人生でたいてい一回限りの夫婦になる権利ほしいって言うくらい......

 

リサ「......意識、してくれたかな......?///流石にしたよね......?///」

 

 あたしは消え入りそうな声でそう呟き

 

 また恥ずかしくなって枕に顔を埋めた

__________________

 

 “環那”

 

 昨晩は中々寝付けなかった

 

 リサの言葉の意味を考えてたりしてて

 

 ついには答えにたどり着く事が出来なかった

 

 ほんと、人の気持ちとかになると俺はてんでダメだ

 

環那(人の心って何で出来てんだろ。構造は?情報を生成する仕組みは?それさえ分かれば......)

 

 詳細な情報さえ揃えば何でも計算で求められる

 

 いや、こんなこと考えてる時点でアウトか

 

 もっと根本的な部分を治さないと解決しないね......

 

ノア「珍しく思い悩んでるようだな。」

環那「ん?いや、俺だって悩むことくらいあるよ?」

ノア「貴様の様な人外に心なんてあるんだな。」

環那「酷い言われよう。」

 

 俺は渇いた笑いをしながらそう言った

 

 ほんと、ノア君は俺をなんだと思ってるんだろ

 

 こんな超善良な一般人を捕まえて(嘘)

 

ノア「そんな事はどうでもいい。」

環那(ひどい)

ノア「ここが貴様が虐げられていた家か。笑えるな。」

環那「確かに、ウケるね。」

 

 俺とノア君は今、あの奪い取った家にいる

 

 この中にはもう、俺の親戚たちが集まってる

 

 つまり、ここでいらない奴を断捨離するわけ

 

 その過程でノア君が必要になりそうだから

 

 今回の仕事を依頼した

 

環那「じゃあ、入ろうかー。」

ノア「ふん、さっさと終わらせるぞ。」

環那「時間はかけないよ。面倒くさいし。」

 

 そんな会話をした後

 

 ノア君と一緒に古臭い家の中に入った

__________________

 

 この家の中にある宴会用の大広間

 

 まるで江戸時代みたいな古臭い作りで

 

 正直、俺の趣味に全く合わない

 

 この家の処分方法は決めてるけど、黴臭くて死にそう

 

環那「__はーい、皆集まってるね~。」

南宮一族「......」

環那「それでは1時間目の授業を始めます!起立!」

 

 大広間に入った瞬間、俺はそんな声を上げた

 

 けど、その場にいる誰も反応されなくて

 

 この空間には重苦しい雰囲気が流れる

 

ノア「完全に滑ってるぞ。」

環那「正直に言わないでしょ。悲しいじゃん。」

 

 俺は大きなため息をついて

 

 他の親戚が座ってる床より1段高い場所

 

 上座?って言う場所に座った

 

「......忌み子が。」

「......親から全部奪って、平気でここに顔を出すなんて。」

「......どんな神経してるのかしら。」

環那(酷い嫌われっぷり。)

ノア「すごい嫌われ方だな。」

環那「口に出さないでよ、自覚してるんだから。」

 

 まぁ、別にこいつらに嫌われようがどうでもいい

 

 一部に嫌われるのは面倒になるけど

 

 まぁ、今喋った奴らはどうでもいいや

 

環那「一部の方は初めまして。この度、南宮家の全財産を譲渡され家長になりました、南宮環那です。こっちはお友達のノア君!」

ノア「誰が友達だ。」

環那「これより!」

ノア「無視するな。」

 

 俺が喋り出すと、更に空気が重くなった

 

 もう俺のしたいことは理解してるみたいだ

 

 それと、自分たちがどういう立場かも

 

環那「あの会社に不必要なコネ入社社員の斬首式を始めたいと思います。名前を呼んだら前に出て来てください。」

 

 そう言いながら、鞄から書類を出した

 

 これは結実さん達の貰ったセクハラとかパワハラの証拠

 

 それと、解雇者or左遷者のリスト

 

環那「あの会社にいるコネ入社社員は......12人もいるんだ。すごいな。」

 

 あのジジイの兄妹が5人、婿養子2人、それらの子供5人

 

 6人兄弟ってすごいな

 

 おじいちゃん達は性欲旺盛だったのかな?

 

環那「じゃあ、良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」

南宮一族「......」

 

 おぉ、無反応

 

 もうちょっと反応してもいいのに

 

 まっ、どうでもいいや

 

環那「じゃあ、優しいから良い知らせからにしてあげるねー。」

ノア(関係ないだろ。)

 

 さて、良い知らせか

 

 って、結構いい知らせ多いな

 

 意外と南宮はまともだった?

 

環那「えーっと、光君、哲司君、瑛士君、愛華さん、美沙さん、前へ。」

5人「!」

 

 俺が名前を呼ぶと、5人が俺の前に出て来た

 

 哲司君と瑛士君以外は皆、誰かしらの子供だ

 

 それ以外が全員腐ってるってなんなのってなるけど

 

 南宮のイメージ的にはかなり多いか

 

環那「叔父さん2人に従姉妹3人か。うん、君たちは運が良かったね。善行を積んどけば後で得するって感じね。」

哲司「まさか、君があいつの......」

環那「そそ。愚兄の嫁の性犯罪被害の末に生まれた子供。って、そんな事は良いや。」

 

 俺は書類に目を通した

 

 中々、全員優秀な社員だ

 

 全員に共通するのは高学歴って事かな

 

環那「結構若いのもいるじゃん。黴臭い年寄りばっかりだと思ってた。」

愛華「えっと、あなたは......?」

光「親戚に集まりでも見たことないぞ。」

環那「まぁ、屋根裏部屋にいたしね。どうせその時の君らは子供だっただろうし、知らないのも仕方ないんじゃない?」

 

 さて、リストによると......

 

 哲司君と瑛士君は40代

 

 真面目で普通の社員からの信頼は厚い

 

 光君と愛華さんと美沙さんは普通に優秀

 

 まだ20代前半で将来にも期待され、人気も高い

 

 これらの駒を捨てるのは流石に勿体ない

 

 それに、社員からの不満も出るだろうしね

 

環那「えー、それでは話を進めまーす。」

美沙(か、会話の流れガン無視......)

環那「単刀直入に言って、おめでとうございまーす。」

光、愛華、美沙、哲司、瑛士「!?」

 

 パーン!と持ってるクラッカーを鳴らした

 

 皆の体が一瞬ビクっとなったけど

 

 気にしなくていいや

 

環那「君たちは全員、昇格決定~。おめでとう~。皆、拍手!」

ノア「......(そろそろ可哀想だから乗ってやるか。)」

 

 おっ、今度はノア君だけ拍手してくれた

 

 これは、まさか俺と友達になるフラグ?(歓喜)

 

 やっと心を開いてくれたみたいだね

 

環那「どの位昇格するかは追って伝えるので、もう下がっていいよ。」

瑛士「え、えっと、いいのかい?君は南宮を恨んでるんじゃ......」

環那「別にクソジジイとクソババア以外に興味はないよ。今日のこの話し合いは俺に賛同してくれた一般の社員さん達との約束を果たすためだし。」

哲司「そ、そうか。(源蔵兄さん、恐ろしい男を敵に回したな。)」

 

 っと、良い知らせはこれで終わりか

 

 これからが斬首式だよ

 

 言わばメインイベント

 

環那「それで、残りの7人だけど......」

 

 5人が下がった後、俺はゆっくり口を開いた

 

 もうこれに関しては一言で終るな

 

環那「全員解雇ね!お疲れ様!帰っていいよ!」

解雇者たち「は?」

環那「あれ?聞こえなかった?」

 

 目を見開く7人に俺は煽るようにそう言った

 

 あー、無能切り楽しい

 

環那「君たちは俺が改革していくあの会社には不要なので、解雇!」

?「おい!ちょっと待てよ!」

環那「んー?」

 

 俺が笑いながらそう言ってると

 

 1人、ちょっとガラの悪そうな男が立ち上がった

 

 もう、折角楽しんでたのに水差さないでしょ

 

環那「えーっと、誰だっけ?」

勝「勝だよ!南宮勝!」

環那「あーいたね、そんな奴。で、何?」

勝「俺達の処分に納得がいかねぇんだよ!解雇だと!?おかしいだろ!?」

環那「そう?」

 

 何かおかしいこと言ったかな?

 

 別に言ってないよね?

 

 いらないから解雇、それだけじゃん

 

勝「俺達は全員あの5人よりもいい大学を出てるエリートだぞ!?なんであいつらが残って昇格で俺達が解雇なんだよ!」

環那「えー、説明いる?」

勝「あぁ、俺達を納得させろよ。」

 

 これぞ南宮って感じの奴だなぁ

 

 まぁ、こいつは突起戦力

 

 クズオブクズのセクハラ勘違い野郎だし

 

 絶対に噛みついてくると思ってた

 

環那「無能どころか業務の邪魔になる人間はいらない。これで満足?」

勝「は?俺達が無能......?無能だと!?あぁ!?」

 

 勝はたいそうお怒りで俺の方に歩いて来る

 

 今にも殴りかかって来そうな雰囲気だ

 

勝「俺達はエリートだぞ!無能だなんてあるわけないんだ!!」

環那「エリートエリートって......君は戦闘民族の王子なの?」

勝「何わけわかんないこと言ってんだ!!」

環那「......」

 

 勝が本格的に激昂して掴みかかってきた

 

 こいつ、結構動けるな

 

 ......まぁ、一般人の中でって話だけど

 

勝「死ねクソg__がはっ!!?」

ノア「なるほど、こういう事か。」

環那「ナイスノア君ー!流石俺の友達!」

ノア「誰が友達だ。」

 

 あー、ノア君のデレ期が終わっちゃったよ......

 

 今日こそ行けると思ったんだけどなぁ

 

 道のりはまだまだ長いって事ね

 

勝「クソ、がぁ......!」

環那「はぁ......エリートの次はクソか。語彙力ないの?」

勝「放せ......!(う、動かねぇ......!!)」

ノア「ふん、貴様の身内はこの程度なのか?」

環那「そうだろうね。この程度しかいないよ。」

 

 俺はそう言いながら押さえつけられてる勝君お前でしゃがんだ

 

 さて、こいつ黙らせればもう終わりだな

 

環那「あんたにはセクハラ、パワハラ、モラハラで訴えを起こす人がいるんだよ。」

勝「は、は......?」

環那「解雇になる7人はさ、皆がそれぞれ結構やらかしてる。不当だって思うなら訴えて見なよ。こっちはあんたらを解雇する用意は出来てるんだよ。」

勝「......っ!!(なんだ、この目は......!?)」

 

 やっと今、勝と目が合った

 

 その瞬間に勝の顔がサッと青くなり

 

 分かりやすくガタガタと震え始めた

 

環那「お前らがエリートだってのさばれる時代は終わったんだよ。これからは実力のある奴だけが生き残る、そう言う世界になるんだ。」

勝「あ、ああ......!!」

環那「__ぞ。」

勝「あああああああ!!!」

南宮一族「!!!」

 

 俺がある言葉を呟くと

 

 勝は発狂し、泡を吹きながら気を失った

 

 これがほんとの言葉の暴力......ってね

 

環那「それじゃ、7人の解雇者はもう帰っていいよ!さようなら!」

 

 俺はそう言ってまた上座に座った

 

 てか、勝の死体?はどうしよ

 

 誰か持って行ってくれないかな?

 

「あ、あの......」

環那「ん?聞こえなかった?......帰っていいよ。」

「ひっ!!」

環那「ついでのそこの奴、持っていってね?」

「は、はいぃ!!!」

 

 若干、圧を懸けながらそう言うと

 

 7人とも急いで勝の死体?を持ち上げて

 

 忙しない様子で大広間から出て行った

 

 全く、人をまるでおばけみたいに

 

 失礼しちゃうなー

 

環那「さて......」

南宮一族「!」

環那「メインイベントは終わったし、ここからはおまけコーナー。」

 

 ふっと息をつくと

 

 この場にいる全員の緊張感が緩んだ

 

 まぁ、ここにいる全員は被害受けないしね

 

環那「じゃあ、未来の話をしようか。ねっ、拓真君?」

拓真「......」

 

 俺は笑いながらそう言い

 

 端っこで静かに座ってる拓真君を見た

 

 そんな俺と目が合った彼の目は

 

 どこか濁ってて、殺意を孕んでるように見えた

 

 

 



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覚悟

 誰かの上に立つなんて柄じゃない

 

 俺はあくまで駒の一つ

 

 自分で考える駒になるのが本来のスタイル

 

 そんな人間が組織の頭なんて、ジャンル違いも良い所だ

 

環那「拓真君、春日とはどうなったの?」

拓真「......何も変わってねぇよ。」

環那「へぇ、頑張ってるね。てっきりとっくに捨てたと思ってた。」

拓真「っ!!」

 

 そんな考え事をしながらそう言うと

 

 拓真君は凄い目で俺を睨みつけて来た

 

 おぉ、怖い怖い

 

 中学3年生とは思えない

 

哲司「か、環那君、なぜ今その話を。」

環那「必要だからだよ、っと。」

 

 俺はゆっくり立ち上がり

 

 大広間の真ん中まで歩いた

 

柳「な、何をする気なの......!?」

環那「黙って見てないよ、ババア。」

柳「なぁ!?」

 

 全く、あのクソババアの妹はうるさい

 

 もうちょっと落ち着いたらいいのに

 

 無駄に年食った大人はこれだから嫌になる

 

 なんてことを考えながら、俺は拓真君の方を見た

 

環那「君さ、高校卒業したらうちの会社入る気ある?」

拓真、柳「は?」

哲司「!!」

 

 俺がそんな質問をすると冴木家3人が固まった

 

 全員、面白い顔してるなぁ

 

 馬鹿みたいで

 

柳「な、何を言ってるの!?この子は一流大学を出て、それで__」

環那「あんたに聞いてない。俺は拓真君に聞いてるんだよ。」

拓真「......」

 

 ジッと拓真君を見つめる

 

 てか、中3で一流大学の話ねぇ......

 

柳「子供の将来は親が決めるの!産んだのは私なんだから!」

環那「その言葉、俺のクソ親にそっくりだよ。」

柳「なっ!?」

環那「産むだけなら人間じゃなくても出来る。大切なのはどう育てるのかだって、俺を見たらわかるでしょ?」

 

 そう言うと、その場が静まり返った

 

 思い出してるんだろうね

 

 俺がクソババアを馬鹿にして見殺しにしたあの日を

 

 ......あー、気持ちい

 

環那「で、どうなの?拓真君。」

拓真「い、いや、大学に行った方が将来安定するし......」

柳「そ、そうよね!」

 

 拓真君はボソボソとそう言った

 

 なるほど、将来安定するか

 

 まぁ、確かにそうかもだけど......

 

環那「はぁぁぁぁ......」

拓真、柳、哲司「!」

 

 俺は大きなため息をついた

 

 下らないな、こいつ

 

 拓真君は何にも理解してない

 

環那「君さあ、春日とどこまで考えてんの?」

拓真「出来れば、ずっと支えたいって......だから......」

環那「大学に行って安定させた方がいい、とでも言うつもり?」

拓真「な、何が言いたいんだよ。」

 

 拓真君は焦った様子でこっちを見てる

 

 ほんと、能天気でバカだ

 

 こいつ、大丈夫なの?

 

環那「君が大学でぬるま湯に浸ってる間、春日はどうするつもり?」

拓真「......!!」

環那「春日は教師を辞めて今は就職活動中。だけど、上手く行かないまま今はバイトで食いつないでるんでしょ?」

拓真「な、なんで知って......!」

環那「調べたんだよ。(九十九が)」

 

 こいつ泣かせようと思って調べてたけど

 

 春日は春日で中学生相手に本気になってるし

 

 こいつも中々折れないしで

 

 ちょっとは本物かなって思ってたのに......

 

環那「考えてもみなよ。あいつは今年で28歳、結婚するにはいい年齢だよね?にも関わらず、まだ中3の拓真君を待ってるんだ。つまり、君は悪戯に春日が苦しむ時間を引き延ばしてるんだよ。」

拓真「......っ、そ、それは......」

 

 拓真君は言い返してこない

 

 まぁ、出来ないだろうね

 

 だって、これは紛れもない事実なんだから

 

環那「こっちに来なよ、拓真君。」

拓真「な、何だよ......」

環那「教えてあげるよ、君に足りない物を。」

拓真「足りない物だと......?」

 

 ここで出てこないならこいつは切り捨てる

 

 その程度の人間だった......

 

 それだけの話

 

拓真「......ふん、やってやる。」

環那「へぇ、腰抜けの癖に根性出すね。」

拓真「バカにすんなよ!」

 

 拓真君はそう言って俺がいる大広間の真ん中に来た

 

 さて、この甘ったれた子供に教えてあげないと

 

 ......死んだらそれまでだけど

 

環那「かかって来なよ、得意の空手で。」

拓真「お前なんてすぐに倒してやるよ!」

 

 そう息巻いて大きく踏み込んできた

 

 引いてる腕からして右で殴ってくるのが分かる

 

 けど、意外と早いな

 

ノア(ほう、中々やるな......だが。)

拓真「__うぐっ!!」

環那「......」

柳「拓真ぁ!!」

ノア(だろうな。)

 

 まぁ、だから何って話

 

 こんな倒す気満々の特攻

 

 これほど狙いやすい物はない

 

 だから平気で腹パン入れちゃったよ

 

拓真「うぐぐ......!!」

環那「立てよ。この程度で何蹲ってんの?」

拓真「だ、黙れ......!今のは事故だ!」

ノア(こいつ、バカか?)

環那「そっか。なら、さっさと来なよ。」

 

 まだ大口叩ける位には元気みたいだ

 

 もう少しだけボコるか

 

 俺、こいつ嫌いだし

 

拓真「はぁ......!!」

環那「......はぁ。」

拓真「!?(き、消え__)」

ノア「バカが。」

拓真「がはぁ!!」

 

 少し学習して、今度はフェイントを入れて来た

 

 けど、計算すれば動きは読める

 

 後は避けて、あばらに蹴り一発で終わり

 

拓真「あ、ぐぅぅぅ......!!」

環那「弱いね。」

拓真「っ!__あぎぃ!!」

 

 蹲ってる拓真君の顔面を蹴り飛ばした

 

 大広間の真ん中に力なく横たわってる

 

 3発でこれって流石に脆過ぎない?

 

柳「もうやめて!!なんでこんな事をするの!?」

環那「教えてあげてるんだよ。」

柳「何を!?」

環那「大切な人を守る覚悟が、どう言うものか。」

拓真「......!!」

 

 拓真君を見下ろす

 

 そう、こいつは分かってない

 

 大切な人を守るのが、どんなに難しいのか

 

拓真「お、お前みたいな天才なら......守れるだろうな......!」

環那「俺が天才?そんな訳ないじゃん。」

ノア「!」

拓真「は......?」

 

 皆、何故か俺を天才と呼ぶ

 

 けど、実際は全然見当違いだ

 

 俺は天才なんて呼ばれるような人間じゃない

 

環那「俺は友希那を守るために死ぬ気で努力した。」

拓真「......!?」

環那「友希那が算数が分からないって言ってたから、算数を死ぬほど頑張って勉強した。どんなことが起きても守れるように独学で体を鍛えた。肉が裂けても骨が折れても大量に血を流しても、ね。」

ノア(......ふむ。)

 

 心が折れそうな時もあった

 

 だけど、友希那のためだけに耐えた

 

 何年も何年も獄中でも鍛えて十数年

 

 いつしか、木くらいなら素手で折れるようになった

 

環那「見たことあるか?血涙で真っ赤に染まった景色を。自分の血でできた水たまりを。肉が裂けてむき出しになった骨を。」

拓真「あるわけ、ないだろ......」

環那「そりゃそうだ。ぬくぬくと温室で育ってきた甘たれ小僧なんだから。」

拓真「くっ......!(言い返せない......!)」

 

 こいつは学ばないといけないんだ

 

 『守る』ということの責任を

 

 その重みを知らないと、耐えられないと、拓真君は壊れるんだから

 

環那「......男なら覚悟見せろよ。」

拓真「なんだって......?」

環那「男ならな、自分の人生投げ売ってでも大切な人を守るって覚悟示せよ!この腰抜けが!何が大学だ、安定だ!それはお前の大切な人以上に大切なのかよ!!」

拓真「__!!!」

 

 つい、熱くなってしまった

 

 けど、ムカつくんだよね

 

 軽い気持ちで一生守るとか言う奴

 

環那「そんなだから君は凡庸な俺に負けるんだ。」

拓真「......っ。」

環那「君の答えは高校卒業まで待ってあげるよ。精々、後悔しない選択をすることだね。」

 

 俺はそう言って拓真君に背中を向け

 

 ノア君に合図を出し、出口の方に歩いた

 

環那「本日はこれにて解散。昇格する5人はこれからよろしくね。」

 

 俺はそれだけ言い残し、大広間を出た

 

 なんだか、すごい体力使った気がする

 

 これだからバカの相手は疲れるんだよ......

__________________

 

ノア「__ふん、面白い話が聞けた。」

 

 古臭い家を出た後、ノア君はそう言った

 

 面白い話って、俺が鍛えてた話?

 

 俺は首を傾げながら彼の方を向いた

 

環那「面白かった?」

ノア「あぁ、貴様のその能力の秘密が多少だが分かった。」

環那「あはは、そのこと?」

 

 俺は笑いながらノア君を見た

 

 ノア君、実は俺に興味津々?

 

環那「あの話、嘘なんだよね。」

ノア「!?」

環那「あんな話、ほんとなわけないじゃん!」

ノア(こ、こいつ......!)

 

 俺はそう言ってから歩きだし

 

 3mほど歩いて、足を止め

 

 後ろにいるノア君の方を向いた

 

環那「だって、あの程度の傷で済んでるわけないじゃん。」

ノア「......!?」

環那「あいつは腰抜けだからね。怖気づかないように優しい嘘をついてあげたんだよ。」

 

 そう言った後、俺はまた歩き始めた

 

 背中越しにノア君が驚いてるのが伝わってくる

 

 あはは、驚いてくれてよかった

 

ノア「......化物め。」

環那「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら歩いてると

 

 後ろからノア君の驚きの言葉が聞こえ

 

 それがおかしくて、俺は小さく笑った

 

 

 

 



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誘い

 “燐子”

 

燐子父「__き、聞いてくれ!」

 

 朝、突然お父さんの声が響いた

 

 会社をクビになってからずっと暗かったけど

 

 今日はなんだか、声音が明るい

 

父「前の会社の、ほ、本社に採用された!」

燐子、母「え、えぇ!?」

父「急に電話が来て、面接に行ったら......!」

母「と、通ったの!?」

父「さっきな!い、今から社長が合格通知と今後の話に来るらしい!も、もてなしの用意を!」

母「今から!?そ、それなら、すぐに準備を__」

 

 お母さんが口を開いた瞬間

 

 ピンポーンと家のチャイムが鳴った

 

 え、もう社長さん来たの?

 

 どんな人なんだろう......

 

 思い切りのいい人そうなのは何となく分かるけど

 

母「と、取り合えず出るわね。__い、今行きます!」

 

 お母さんはそう言って

 

 玄関の方に走って行った

 

 わ、私はどうすればいいんだろう......?

 

父「な、なんか、燐子にもいて欲しいらしいんだ。恩人だとかで。」

燐子「え......?」

父「確か、最近、社長が変わったとか......」

 

環那「__おー、ここに来るのも久し振りだなー。」

 

燐子「え?」

 

 ドアを開ける音の後

 

 優しくて、少しだけ呑気な

 

 聞くだけでドキドキする声が聞こえて

 

 私はリビングのドアの方に顔を向けた

 

環那「palace株式会社の代表取締役兼会長に就任いたしました、南宮環那と申します。この度は突然のオファーを受けてくださり、誠にありがとうございます。」

燐子「か、環那君......!?」

父「え、知り合いなのか?」

燐子「知り合いも何も、同い年で......その......///」

父、母(あ、あぁ、この人があの。)

 

 え、なんで環那君が?

 

 社長が来るって言ってたような......

 

 って、さっき代表取締役って言ってた?

 

環那「さて、お話を始めましょうか。」

 

 環那君は笑いながらそう言って

 

 私の方を見て微笑んでいた

__________________

 

 “環那”

 

 燐子ちゃんの家族と色々と話をした

 

 今回のオファーをした経緯とか

 

 今後の活動方針についてとか

 

 そう言う面倒な話をさっさと済ませた

 

環那「__ざっと、こんな感じです。」

父「あ、あの、この年収の欄......」

環那「え?何かおかしな点でも?」

父「多すぎるん気が......」

環那「?」

 

 そう言われ、俺は書類を確認した

 

 年収の欄には1500万

 

 あの会社の中ではありふれた年収だ

 

 何か不思議なのかな?

 

環那「こんなものじゃないですか?妻子もいますが、これ位あればちょっとは贅沢も出来るでしょう。」

父「ちょ、ちょっとって......」

母「前の年収の、倍くらいに......」

燐子(そ、そんなに......?)

 

 正直、この程度が限界だったんだよね

 

 会社の費用と言うか

 

 他の社員が納得するかしないかの問題で

 

環那「俺は燐子ちゃんに返しきれない程の恩があるんでね。」

燐子「......!」

環那「彼女を不幸にしないためなら、俺は自分の首を切ることもいとわない。」

母「!!」

父(これが、まだ高校生の少年が放つオーラか......?)

 

 さて、話はこの辺でいいや

 

 今日は他の目的があるんだよ

 

 てか、こっちが俺にとっては本命

 

環那「話はこの辺で......ねぇ、燐子ちゃん?」

燐子「は、はい......!」

環那「これから、デート行かない?(なんで敬語?)」

燐子「で、デート......!?///」

 

 ちょっと言ってみたかったんだよね

 

 今までは誘われるだけだったし

 

 こんな風に誘うのは友希那だけと思ってたけど

 

 人生何があるか分からないね

 

燐子「で、デートって......あのデートのこと......?///」

環那「どのデートかは分からないけど、多分あってる。」

燐子「な、なんで......?///そう言うのは、友希那さんや今井さんが......///」

環那「俺が燐子ちゃんとしたいだけだよ。」

燐子「そ、そう......なんだ......///」

 

 なんだろ、これ

 

 燐子ちゃんを見てると、変な感覚に襲われる

 

 まるで、友希那を見てるような

 

 リサと一緒にいる時のような

 

 そんな、今まであった感覚が組み合わさって

 

 今までにない感覚が形成された

 

燐子「い、行きたい......///けど、その、準備してきてもいい......?///」

環那「いいよ。ゆっくり待ってるから。」

燐子「じゃ、じゃあ......行ってくるね......!///」

 

 燐子ちゃんはそう言って慌ただしく走って行った

 

 何と言うか、可愛いなぁ

 

父「あの、うちの燐子とはどういったご関係で......?」

環那「不思議な女の子と、その子を研究する研究者ってところでしょうか。」

母「は、はぁ......?」

環那「感謝しますよ。燐子ちゃんを、この世に誕生させてくれたことを。」

 

 俺は笑いながらそう言い

 

 用意してもらった紅茶を美味しくいただいた

__________________

 

 “燐子”

 

 環那君にデートに誘われた

 

 いつか出来ればいいとは思ってたけど

 

 まさか、環那君から誘ってくれるなんて

 

燐子(ど、どんな服着て行こうかな......?///)

 

 クローゼットを前に悩んでしまう

 

 環那君の好みがわからない

 

 どんな服を着れば、喜んでくれるのかな......

 

燐子(えっと、いつもの服は......流石に新鮮味がないし......あっ。)

 

 その時、ある物が目に飛び込んできた

 

 クローゼットにかけられた真新しい服

 

 この間、今井さんと買いに行った服だ......

 

燐子(こ、これで行こう......!これなら......!)

 

 私はバッとその服を手に取り

 

 今着てる服を脱ぎ捨てた

__________________

 

 “環那”

 

 燐子ちゃんを待つ事10分ほど

 

 ご両親に小さい頃の写真を見せてもらったり

 

 少しだけその写真を携帯のカメラで撮らせて貰ったり

 

 なんとも有意義な時間を過ごせた

 

燐子「__お、お待たせ......!」

環那「そんなに待ってない......よ?」

燐子「......///」

 

 リビングに現れた燐子ちゃんを見て言葉を失った

 

 白いミモレ丈の半袖ワンピース

 

 ウエストギャザーの効果かスタイルの良さも強調されてる

 

燐子「ど、どうかな......?///」

環那「すごく似合ってるよ。可愛い。」

燐子「あ、ありがとう......///」

 

 やばい

 

 友希那に感じた以来の高揚感だ

 

 綺麗な黒髪に白いワンピースが良く映える

 

 素材があまりにも完璧すぎるよね

 

環那「それでは、燐子ちゃんは貰っていきますね。」

父「は、はい、どうぞ(?)」

母「ごゆっくり(?)」

燐子「......っ!///」

 

 俺はそう言って燐子ちゃんの手を握り

 

 デートに行くために家を出た

__________________

 

 外に出て、俺と燐子ちゃんは足を止めた

 

 空から太陽の光が降り注いできて

 

 流石の俺も少しだけ暑い

 

環那「__ふぅ、仕事の話疲れたー!」

 

 俺は空に向かって叫んだ

 

 ほんと、仕事って面倒くさいよね

 

 真面目な雰囲気だしとかないといけないし

 

燐子「あ、あの......本当に、私でいいの......?///」

環那「さっきも言ったでしょ?燐子ちゃんとデートしたいって。だからいいんだよー。」

 

 リサ以外とする初めてのデートだ

 

 今回は真面目に考えて

 

 燐子ちゃんが喜ぶプログラムを作成してきた

 

 ほんと、この前のお遊びより頭使ったよ

 

環那「さぁ、行こっか。燐子ちゃんが喜んでくれそうな場所、目星をつけてるから。」

燐子「う、うん......!///あの、手は......このまま......?///」

環那「俺はそれでもいいけど、燐子ちゃんは?」

燐子「私も......このままがいい......///」

環那「じゃあ、そうしようか。」

燐子「うん......!///」

 

 燐子ちゃんが頷いた後、俺は軽く手を引き

 

 デートするため、町に繰り出した

 

 

 ......さて、俺はこのデートで掴めるのかな

 

 



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デート

 俺と燐子ちゃんはショッピングモールに来た

 

 ここに来たのは帰って来てから2回目だけど

 

 店も増えて、映画館とかもあって

 

 俺が捕まる前よりかなり進化してる

 

環那「__ここだよ、目的地。」

燐子「ここは......美術館?」

環那「そうだよ。」

 

 軽く頷いてそう答えた

 

 正直、行くところはかなり迷ったけど

 

 燐子ちゃん、騒がしい所は苦手だろうし

 

 友希那の意見も取り入れて、ここにした

 

環那「さっ、入ろっか。」

燐子「う、うん。(す、すごい雰囲気......)」

 

 俺と燐子ちゃんは少しだけ歩き

 

 受付のある場所に行った

 

受付「いらっしゃいませ。」

環那「この間予約した南宮です。」

受付「南宮様ですね。お話は伺っております。」

 

 受付は手早く端末を確認し、そう言った

 

 この人、仕事早いな

 

 流石は金持ちばっかり来る美術館の受付

 

受付「ごゆっくりお楽しみください。」

環那「はい、ありがとうございます。」

燐子「は、はい......(環那君、堂々としてる......)」

環那「行こう、燐子ちゃん。」

燐子「う、うん。」

 

 俺は軽く燐子ちゃんの手を引き

 

 美術館の中に歩いて行った

__________________

 

 美術館の中は中世の城のような内装で

 

 周りにはスーツを着た小綺麗な人間がいる

 

 まぁ、そう言う場所だから当然だけど

 

燐子「あ、あの......ここって......?」

環那「ちょっと金持ってる奴らが集まる美術館。静かだし、いい場所でしょ?」

燐子「ふ、雰囲気が......」

環那「大丈夫。燐子ちゃん、この空間にいる中で1番綺麗だから。」

燐子「それは違うと思うけど......そう言う問題なの......?」

 

 燐子ちゃんは不思議そうに首を傾げてる

 

 正直、俺もよくわかんないけど

 

 まぁ、可愛いは正義って言葉があるくらいだし

 

 問題ないでしょ

 

環那「ほら、これ見てよ。」

燐子「わっ、すごい。教科書で見たことあるのだ......!」

環那「俺は見たことないなぁ。中学は碌に通ってなかったし。」

 

 美術の授業かー

 

 俺、絵とかすごい下手なんだよね

 

 なんか作図みたいになって、豆腐みたいに味がしない

 

 なんて事を考えながら、心の中で嘲るように笑った

 

 “燐子”

 

燐子「なんだか、不思議だよね。」

環那「え?」

燐子「色合いは現実とは全然違うのに、なんだか妙に説得力があって。まるで、夢の中みたい。」

 

 ふと、そんな言葉を口にした

 

 なんだか絵を見たら色んな感情が浮かんできて

 

 それを環那君に言いたくなった

 

環那「夢の中......か。」

燐子「どうしたの......?」

環那「黒しかないなーって思って。」

燐子「......!」

 

 環那君は無機質な声でそう言った

 

 それを聞いて、失言だと思った

 

 夢はその人が一番強く残ってる出来事が出やすい

 

 黒って事は......真っ暗な場所

 

 そして、環那君が育ったのは屋根裏部屋......

 

燐子「か、環那君......!」

環那「え?」

燐子「もう、1人じゃないから......!あの部屋には戻らなくていいから......!」

環那「あの、何の話......?」

燐子「え......?」

 

 環那君の言葉に私は首を傾げる

 

 なんだか、会話がかみ合ってる気がする

 

環那「俺、夢とか見たことないから、その部分の記憶はなくて真っ暗だな~ってだけど。ちょっと誤解があったね。」

燐子「~!///」

環那(あー、本気で誤解させちゃったやつかー。燐子ちゃんには過去にあったこと、話してるもんね。)

 

 顔が一気に熱くなる

 

 まさか、こんな誤解してたなんて......

 

 恥ずかしすぎるよ......

 

燐子「う、うぅ......///」

環那「燐子ちゃんがいい子過ぎて感無量だよ。流す涙は枯れてるけど。」

燐子「は、恥ずかしいから......やめて......///」

環那「あはは、顔真っ赤だね。」

 

 環那君は楽しそうに笑ってる

 

 笑い事じゃない......

 

 けど、いいのかな

 

 私なんかで楽しんでくれてるから......

 

環那「まっ、見たい物まだあるし、行こっか。」

燐子「え、あ、うん......///(手......///)」

 

 自然な動作で手を握ってくれて

 

 無理のない範囲で私を引っ張ってくれる

 

 それがすごく逞しくて、かっこいい

 

環那「燐子ちゃんについて、友希那達に色んな話を聞いたんだ。」

燐子「え、そうなの......?」

環那「うん、中々面白い話を聞けたよ。」

 

 ど、どんな話を聞いたんだろ

 

 ちょっとだけ怖いけど......

 

 き、気になる

 

燐子「ど、どんな話を聞いたの......?」

環那「さまざまな芸術分野の才能を持ち、音楽とそれを合わせ、『自分の世界』を築ける人間......だって。」

燐子「そ、そうなんだ......///」

 

 そんなに褒めてくれてるんだ

 

 すごく嬉しい......

 

 環那君はどう思ってるのかな......?

 

環那「俺もそう思うよ。燐子ちゃんがピアノを弾いてる映像、見せてもらったから。」

燐子「え?そうなの?」

環那「うん。すごくいい演奏だった。ピアノの音色、演奏する燐子ちゃんの姿、その全てがかみ合ってて、見る者も聴く者も楽しませられる、芸術だと思った。」

燐子「......///」

 

 環那君もすごく褒めてくれてる

 

 言いすぎだと思うけど......

 

環那「Roseliaの衣装も燐子ちゃんが作ってるって聞いたし、ほんとにすごいと思う。」

燐子「そ、そんな......好きでしてることだから......///」

環那「ははっ、そっか。っと、着いた。」

 

 話をしながら歩いて

 

 少し奥の所にある、広い空間まで来た

 

 お城にあるみたいなキラキラしたシャンデリア

 

 そして......

 

燐子「__!」

環那「これを見せたかったんだ。」

 

 壁一面を覆いつくすほどの巨大な絵

 

 今まで見たことも無いはずなのに

 

 なぜか、妙に見覚えがある

 

 そう思って少し考えたら、すぐに答えが出た

 

環那「この絵はNeo Fantasy Onlineの旅立ちの村のモデルになった絵だよ。」

燐子「す、すごい......!ほとんどゲームそのまま......!」

環那(嬉しそうだなぁ。)

 

 自分の好きなゲームの題材になった絵

 

 何度も見た景色だけど、少しだけ違う所もある

 

 これがドラマのロケ地に来た時の気分なんだ(?)

 

燐子「な、なんでこれがあるって知ってたの?」

環那「ん?あぁ、製作者に聞いたからだよ。」

燐子「え?」

環那「?」

 

 え、今、製作者って言ったよね?

 

 会ったことあるの?

 

燐子「あ、会ったことあるの?」

環那「プログラマーにはちょっとしたコネがあってね。」

 

 環那君、やっぱりすごい人なんだ

 

 大企業の社長さんにもなったし

 

 NFOの製作者さんに会ったこともあるし

 

 普通の人とは全然違う

 

燐子「す、すごいコネだね。」

環那「コネはいくらあってもいいからね。プログラマーの他には新聞記者とか学者とか大学教授、あとはやく......」

燐子「やく?」

環那「......役者のお兄さんとかかな。」

燐子「?」

 

 今、環那君が一瞬だけ止まった?

 

 どうしたんだろ?

 

 役者のお兄さんが何かあったのかな?

 

環那「あ、役者のお兄さんは燐子ちゃんには会わせられないよ?燐子ちゃんがイケメンなあの子を好きになったら困るし。」

燐子「それはないよ。」

環那「く、食い気味だね。」

 

 ちょっとだけムッとした

 

 私、そんなに軽いつもりない

 

 外見だけがカッコいい人なんて興味ないもん......

 

燐子「私は......環那君だから、好きになったって思ってるから......///

環那「......そっか。ははっ、良かった。」

燐子「......///」

 

 環那君は嬉しそうに笑った

 

 また新しい表情を見られた

 

環那(......これは。)

燐子「?」

環那「行こうか、燐子ちゃん。」

燐子「うん。(どうしたんだろう?)」

 

 環那君はそう言って私の手を握り

 

 美術館の中をゆっくり歩いて

 

 色んな作品を2人で見たりして、時間を過ごした

__________________

 

 “環那”

 

 美術館を満喫して

 

 お昼になったので予約してたレストランに来た

 

 ショッピングモールから少し離れたビルにある場所で

 

 景色が綺麗で人気のある店だ

 

燐子「__こ、こんな所も予約してたんだ。」

環那「お昼時だからね。我ながらいい時間配分。」

 

 燐子ちゃんは落ち着かない様子で周りをキョロキョロしてる

 

 こういう場所に慣れてないのかな?

 

 なんだか可愛らしいな

 

ウェイター「お待たせいたしました。」

環那「あ、どうも。」

燐子「あ、ありがとうございます。」

 

 ウェイターが静かに料理を置いた

 

 綺麗な芸術品のような料理

 

 量的にはこれで足りるのかと思うけど

 

 まぁ、俺は足りるけど

 

燐子「こ、こんな良い物、食べてもいいの......?」

環那「大丈夫だよ。」

燐子「う、うん、そうだよね......」

 

 燐子ちゃんは軽く頷いてから

 

 オズオズと料理を口に運び始めた

 

 手つきを見た感じテーブルマナーは知らないと思う

 

 けどまぁ、気にしなくていいでしょ

 

環那「......(普通。)」

 

 料理の味は普通だ

 

 燐子ちゃんの料理の方が美味しかったかな

 

環那「どう?燐子ちゃん。」

燐子「え、えと......緊張で、味が分からない......」

環那「ははっ、面白いね。」

燐子「お、美味しいとは思うんだけど......」

 

 落ち着かない様子で食事する燐子ちゃんは面白い

 

 俺の期待通りの反応だ

 

 そんな事を考えながら、食事を進める

 

環那(っと、もう食べ終わっちゃった。やっぱり量少なかったな。)

燐子「あ、そ、そう言えば。」

環那「?」

燐子「その、こういうレストランって夜に来るイメージがあったけど、今日はお昼なんだね?」

環那「あー、そういう事ね。」

 

 燐子ちゃんがそんな疑問を口にした

 

 あー、俺の予想通りの疑問だ

 

 86%くらいの確率で言われると思ってた

 

環那「まぁ、色々事情があってね。夜はダメなんだ。」

燐子「事情......?」

環那「......聞きたい?」

 

 俺は少し、声のトーンを下げてそう言った

 

 これは流石に隠さないといけないからね

 

 ちょっと真面目な感じだしとこ

 

燐子「い、いいかな......?」

環那「あはは、だよね。」

燐子(い、一体どんな事情が......?)

 

 一体どんな事情が......って考えてるね

 

 今見られる情報だけで大体わかる

 

 お、驚くほど分かりやすい

 

環那「まぁ、ゆっくり食べなよ。」

燐子「う、うん......」

 

 俺がそう言うと

 

 燐子ちゃんは食事を再開した

 

 さっきよりも緊張がほぐれて

 

 食べるペースも良くなってる

 

環那(......もう少し、待ってて。)

 

 ここに夜に来れない理由

 

 それは、夜景をここから見たくなかった

 

 比較対象を作りたくなかったんだ

 

環那(いつか、俺が人間になれれば......)

燐子「......?」

 

 いつか、人間になって

 

 誰かを好きになるって言う事を理解できたなら

 

 その時はもっと、良い景色の見える場所で......

 

 なんて、俺はそれまで何年かかるんだか

 

 全然、想像つかないや

 

 そんな事を思いながら、俺はふと笑った

 

 

 

 



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誕生日会議

 レストランでの食事を終え

 

 俺は燐子ちゃんを家に送ってる

 

 あんまり長い時間連れ回しても微妙だし

 

 今日の所は短い時間で切り上げるようにした

 

環那「__ここまでだね。」

燐子「うん、今日はありがとう。」

 

 燐子ちゃんは綺麗な笑みを浮かべ、そう言った

 

 ただ美術館行ってからご飯食べただけなのに

 

 わざわざお礼なんて言うなんて、律義だよね

 

環那「お礼を言うほどでもないよ。俺にとっても有益な時間だったし。」

燐子「よ、よかった......私、テンパってただけだったから......」

環那「面白かったよ。」

 

 さて、惜しいけどそろそろお暇しようか

 

 家に帰ったら今日の事を踏まえて色々考えないと

 

 データは結構集まったし

 

燐子「あ、環那君?」

環那「ん?どうしたの?」

燐子「その、明後日に今井さん以外の皆で集まるんだけど......聞いてるかな?」

環那「え?何かあるの?」

燐子「えっと......今井さんの誕生日だけど......?」

環那「......あっ。」

 

 燐子ちゃんにそう言われ、ハッとした

 

 そうだ今日は8月11日

 

 リサの誕生日は8月25日だった

 

 覚えてるのになぜか抜け落ちてた

 

燐子「今......」

環那「わ、忘れてないよ?5年のブランクあるし、ちょっとミスがあっただけだから。」

燐子(それを忘れたって言うんじゃ......?)

 

 一応、捕まるまでは毎年プレゼント渡してた

 

 小3で株で稼ぐようになるまでは手作りだったけど

 

 稼げるようになってからはそこそこの物渡してたっけ

 

環那「でも、明後日かー......」

燐子「何か用事とかある......?」

環那「うーん、少し会わないといけない人がいてね。」

燐子「そうなの?」

環那「まぁ......」

 

 これはちょーっと言いずらいかな

 

 俺の事情にあんまり巻き込みたくないし

 

 普通の女の子に言う話でもないしね

 

環那「外せない用事だから、代わりにエマに行ってもらうよ。」

燐子「そっか......(明後日は会えない......)」

環那「それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ。また何かあれば......何もなくても電話とかしてくれたら嬉しいな。」

燐子「!///」

環那「じゃあね。」

 

 俺はそれだけ言って、その場を後にした

 

 少しだけ後ろ髪引かれるけど

 

 今日は家に帰ることにした

__________________

 

 “エマ”

 

 お兄ちゃんに頼みごとをされた2日後

 

 私は羽沢珈琲店という場所に来た

 

 どうやら、今井リサの誕生日の話をするらしい

 

エマ(お兄ちゃんからの命令......!)

 

 お兄ちゃん直々の命令

 

 私にとってこれ以上の幸せはない

 

 最近はただでさえお兄ちゃんに愛されて幸せなのに

 

 そのうえ命令してくれるなんて......

 

 私、もうすぐ死ぬのかな?

 

あこ「あ!エマー!」

エマ「!」

あこ「こっちこっちー!」

 

 大声で私の名前を呼ぶ宇田川あこ

 

 別にそんな声出さなくても聞こえる

 

 そう溜息を付きながら、私は4人の方に歩いた

 

友希那「これで全員揃ったわね。」

燐子「今日は来てくれてありがとう、エマちゃん。」

エマ「おはよう、燐子。」

 

 燐子に軽く挨拶をして、席に着く

 

 するとすぐに店員の女の子が来て

 

 水を置いて、注文を取って行った

 

 あの店員、どこかで見たことあるけど、誰だっけ

 

紗夜「それでは、今井さんの誕生日プレゼントに関する会議を始めます。何か案はありますか?」

あこ「リサ姉が喜ぶものですよねー?」

友希那「やっぱり、服とかじゃないかしら?」

紗夜「今井さんなら欲しい服はたくさんありそうですし、第一候補ですね。」

 

 なるほど、服か

 

 今井リサはオシャレが好きだってお兄ちゃんから聞いたことがある

 

 流行りを取り入れた新しい服はありだと思う

 

エマ「元も子もないこと言えば、何あげても喜びそう。」

燐子「ほ、ほんとに元も子もない......」

エマ「あの良くも悪くもある性格的にね。」

 

 今井リサはよく言えば優しくて空気も読める

 

 けど、悪く言えば、自分の意見を言えない

 

 ストレスをためやすくて崩れると脆いタイプ

 

 ......だと、私は勝手に思ってる

 

あこ「......あっ。」

燐子「あこちゃん......?」

あこ「あこ、思いついちゃった。リサ姉が絶対に喜ぶプレゼント。」

紗夜「本当ですか?」

 

 宇田川あこのそんな言葉に

 

 氷川紗夜が疑いの目を向けてる

 

 まぁ、気持ちは分かる

 

紗夜「それはなんですか?」

あこ「環那兄!」

友希那、燐子、紗夜「え?」

 

 宇田川あこから出たお兄ちゃんの名前

 

 それに3人が首を傾げた

 

あこ「リサ姉、環那兄のこと大好きだし、喜ぶと思うんですよねー!」

友希那「確かに......喜びそうではあるわね。」

 

 そう言えば、今井リサはお兄ちゃんの元カノだった

 

 別れた時の話は全く聞いてないけど

 

 今井リサの方は未練タラタラなのは見てたらわかる

 

紗夜「ですが、南宮君と言ってもどうするんですか?そもそもあの人、今井さんの誕生日に興味あるんですか?」

燐子「それは大丈夫だと......思います。(若干忘れてたけど......)」

エマ「興味はあると思う。けど。」

友希那「どうしたの?」

 

 あのこと、言うの忘れてた

 

 お兄ちゃんから預かってた予定表

 

 そこの8月25日の欄は......

 

エマ「その日はお兄ちゃんは世間に正式に社長になったと発表する日。1日中、予定は埋まってる。」

あこ「えー!?」

紗夜「それは......」

 

 宇田川あこと氷川紗夜は悩ましげな表情を浮かべてる

 

 この4人的にはお兄ちゃんが来る前提だったみたい

 

友希那「どうしようかしら。リサ、環那に祝われるのを楽しみにしてるだろうし。」

あこ「うわぁー......環那兄ぃ......」

紗夜「間が悪いと言うか何と言うか......」

燐子(だから、デートの時も少しだけ疲れた顔してたんだ。)

 

 ......お兄ちゃんが、スケジュールミス?

 

 こんな事はありえない

 

 やっぱり、最近疲れた表情を見せることが多いし

 

 お兄ちゃん自身も自覚してないエラーが起きてる?

 

紗夜「祝うのはこの5人でいいとして......」

エマ(え、私も?いや、いいけど。)

友希那「環那に伝えておいてくれないかしら?メッセージだけでもいいから祝ってあげて欲しいと。」

エマ「分かったよ。けど、あまり期待はしないでね。本当に忙しいから。」

 

 私はそう言って軽くため息をついた

 

 これ、私も今井リサに何かしないとだよね

 

 お兄ちゃんからも仲良くしてって言われてるし

 

エマ(仕方ないか......)

あこ「じゃあ、あこ達のプレゼントの事考えましょう!どんな服がいいですかね!」

友希那「この間、リサの部屋に行ったときに開いてた雑誌に載ってた服が合ったわね。」

紗夜「その話、詳しく。」

燐子「どんな服でしたか......?」

 

エマ(......少しだけ、手伝ってあげよ。)

 

 そんな事お思いながらコーヒーを口に含み

 

 4人の会話をBGM変わりに聞いた

 

 

 まぁ、手伝うのは少しだけ

 

 お兄ちゃんの名誉のためにも頑張らないと

__________________

 

 “環那”

 

 今頃、エマは友希那や燐子ちゃんと一緒にいるかな

 

 いやぁ、羨ましい

 

 友希那と燐子ちゃんがいるカフェ......

 

 一体どれほどの癒し空間なんだろうか

 

 出来れば俺が行きたかった

 

 けど、そうも言ってられないか......

 

 これがいつか役立つことになるんだし

 

環那「__お久しぶりです。篤臣(あつおみ)さん。」

篤臣「おぉ、久し振りだなァ。」

 

 俺が今いるのは大きな和風建築

 

 ここは所謂、事務所と呼ばれてる場所だ

 

 そして、俺の目の前にいるのは強面の男性

 

 目元には大きな切り傷がある

 

篤臣「まぁ座れやァ。腹割って話そうやァ。」

環那「はい。あ、物理的には割らないでくださいね。」

篤臣「分かってらァ。」

 

 俺は篤臣さんの前のソファに座り

 

 横にいた男の人にお茶を出され

 

 それから、お話を始めた

 

 

 



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浪平親子

 浪平篤臣

 

 ここ一体を仕切るヤクザ、浪平組の組長

 

 その裏の顔は歴史の長い暗殺者家系の家長

 

 そして、琴ちゃんの実の父親だ

 

環那「この度は多額の出資、ありがとうございます。」

篤臣「アァ、気にするこたァねェ。」

 

 篤臣さんは豪快に笑いながらそう言った

 

 この人は俺に甘い

 

 さっき言ったように会社に出資してくれたり

 

 俺を羽丘に編入させて琴ちゃんを監視役にしたり

 

 色んなことをしてもらってる

 

篤臣「俺はなァ、お前ェの人を人とも思わねェような目に惚れ込んでんのよォ。」

環那「そんな目してます?」

篤臣「今まで生きてきた中でお前みてェな目の奴は初めて見たぜェ。」

 

 俺、どんな目してるの?

 

 ヤクザに言われたら不安になるんだけど

 

 え、ほんとに怖い

 

篤臣「俺はァお前ェに組を継いでほしいくれェだ。お前ェは頭も切れるし、腕も立つからなァ。」

環那「いやいや、柄じゃないですよ。」

篤臣「そうかァ?」

 

 会社の社長ですら面倒なのに

 

 ヤクザなんて以ての外だよ

 

 篤臣さんには悪いけど

 

篤臣「その辺りのこたァまァいい。それで、だァ。」

環那「?」

篤臣「......琴葉の奴ァ、元気にしてるかァ?」

 

 篤臣さんはそんな事を訪ねて来た

 

 琴ちゃんのこと気にしてたんだ

 

 ちょっと驚いたな

 

環那「元気ですよ。(相変わらず家事は出来ないけど。)」

篤臣「そうかァ。」

環那「気にしてるんですね、琴ちゃんのこと。」

 

 俺は少し笑いながらそう言った

 

 まぁ、気にしてる事は知ってるんだけどね

 

 この人、不器用なだけで結構な親バカだから

 

篤臣「気にしちゃいねェよ。」

環那「あはは、そうですか。」

篤臣「疑ってやがるなァ?」

環那「いやいや、俺に聞くくらいなら直接連絡すればいいのにって思ってるだけですよ。」

篤臣「キッチリ疑ってやがるじゃねェかァ?」

 

 やっぱり、この人とは気が合う気がする

 

 なんだか通じ合うものがあるんだよね

 

篤臣「琴葉の事ァ任せるぞォ。環那ァ。」

環那「はい、分かってますよ。」

篤臣「出来りゃ、あいつを嫁に貰ってやってくれやァ。」

環那「それはー......まぁ、考えときます。」

 

 俺は少し迷いながらそう言った

 

 多分、すごい苦笑いなんだろうなぁ

 

 まぁ、嫁とか言われても困るしね

 

環那「さて、俺はそろそろ行きます。行かないといけないところがあるので。」

篤臣「そうかァ。社長は忙しいよなァ。」

環那「ほんとですよ。面倒くさい。」

篤臣「がはは!お前ェらしくて安心するァ!」

 

 篤臣さんは俺を見て大笑いしてる

 

 ほんと、勘弁してほしい......

 

 笑い事じゃないよ......

 

環那「この後、篤臣さんの好きな鱒寿司が来るので、組の皆さんと召し上がってください。」

篤臣「オォ、ありがたくいただくぜェ。」

環那「じゃあ、また。生きてたら会いましょう。」

篤臣「アァ、お互いになァ。」

 

 俺はそんな会話をした後

 

 篤臣さんの部屋を出て行った

__________________

 

 事務所を出てからも俺の外回りは続いた

 

 取引先への挨拶とか、テレビ局とか

 

 それはもう色んな所に行ってきた

 

 その結果、家に帰ってきたのは10時過ぎと言う

 

 正式発表の前から重労働だ......

 

環那「__ただいまー......ん?」

 

 家に入ると、少し違和感があった

 

 なんか、変なにおいがする

 

 この時点でこの家で何が起こってるかを察した

 

環那「あー、やっぱり......」

琴葉「あ~///南宮君だぁ~///」

環那「まーたお酒飲んでるのー?」

 

 俺は溜息を吐きながらそう言った

 

 すごい酔い方......

 

 もうビール5本も空けてるし

 

琴葉「スーツなんて着ちゃって~!///かっこいいですね~!///このこの~!///」

環那(すごい絡んでくるな......)

 

 すっぴん、酒臭い、服は芋ジャージ

 

 俺やエマ以外が見られたらヤバいな

 

 学校関係者に見られたらイメージ崩壊しそう

 

琴葉「のーみーましょーうーよー!///」

環那「えぇ?寝たいんだけど。」

琴葉「強制ですぅー!///」

環那「なんでー......」

 

 琴ちゃんに腕御引っ張られ

 

 無理矢理席に着かされた

 

 あー、これはダメだ

 

 また琴ちゃんが寝るまで粘らないと......

 

琴葉「ほらー!///あなたも飲みなさいー!///」

環那「未成年だって。」

琴葉「そんなの関係ありません!///」

環那「関係大ありだよ。法律守ってよ。」

 

 このくだり、前もあったなぁ

 

 酔ったら倫理観が崩壊するタイプなの?

 

 これは外で飲ませられないな

 

 そこだけはコントロールしよう

 

環那「とは言っても、のど渇いてるし何か飲もっと。」

 

 俺は席を立って冷蔵庫の方に歩いた

 

 冷蔵庫の中には大量のビール

 

 ビール以外の飲み物は......あ、コーラがあった

 

 誰が買ったんだろ?

 

環那(コーラかぁ。何年ぶりだろ......ん?)

 

 コーラを口に含むと、少し変な味がした

 

 あれ、ここ数年で味変わった?

 

 なんか、炭酸の感じも違う気が......

 

環那「......っ!」

 

 そんな事を考えてると

 

 思考回路に細かいエラーが出始めた

 

 頭がボーっとして、視界がぼんやりしてる

 

琴葉「あ~///それ飲んじゃったんですか~?///」

環那「なにこれ?新種のコーラ?」

琴葉「ふふん!///それは中身をコーラサワーに入れ替えたものです!///油断しましたね!///」

環那「くっだらないイタズラしないでよ......」

 

 ほんとにくっだらない

 

 なんでこんなの用意してるの......?

 

 てか、どんな理由でこんな事を?

 

環那(これが、アルコールか。って、あれ......?)

琴葉「あれー?///顔赤くないですかー?///まさか、南宮君ともあろう人がコーラーサワー一杯だけで酔ってるんですかー?///」

 

 琴ちゃんが何を言ってるか聞こえない

 

 あれ、上手く体が機能してない?

 

 これ、ヤバいかも......

 

 そう考えてるうちに目の前が真っ白になった

 

 “別視点”

 

環那「......はぁ。」

琴葉「?///」

 

 コーラーサワーを飲んだ数秒後

 

 環那は大きなため息をついた

 

 うつ向いてて、一切表情が読めない

 

環那「......未成年に酒飲ませちゃダメでしょ/」

琴葉「はえぇ!?///」

 

 環那は怒ったような低い声でそう言い

 

 体面に座ってる琴葉の顔を睨みつけた

 

 初めて見えた環那の表情は

 

 頬が赤く、目が虚ろで、口角は少し上がっていた

 

琴葉「南宮、くん......?///」

環那「法律違反って、教師としてどうなの?バレたら大変なことになるし、俺でも庇いきれない事になるかもしれないんだよ?それに......」

琴葉「......?///」

環那「これも、建前か。」

琴葉「!///」

 

 琴葉の隣の席に環那は移動

 

 それと同時に琴葉が座ってる椅子の背もたれに手を置き

 

 ゆっくり顔を近づけた

 

環那「こうなるとさ、俺も我慢できなくなるんだよ?」

琴葉「ふぇ......?///」

環那「普段は気にしないようにコントロールしてるのにさ、アルコールなんて入ると出来ないんだよ。」

琴葉「にゃ、にを......///」

 

 いきなり口説かれ、琴葉は顔をさらに赤くした

 

 だが、環那はそんな事を気にする様子もなく

 

 話を続けた

 

環那「......最初は、別に魅力なんて感じてなかったし、興味もなかったんだけどね。」

琴葉「え......///」

環那「今は、リサとか燐子ちゃんとか琴ちゃんに、今までにない感情を持ってるんだよ。訳が分からない、これは何なのか、この胸のつっかえみたいな感情が何なのか......理解できないんだ。」

 

 吐き出すように環那はそう言う

 

 その表情はどこか苦しそうで

 

 握り潰す勢いで左手で頭を押さえてる

 

琴葉「珍しく、悩んでるんですねぇ///」

環那「......教えてよ。」

琴葉「え......?///」

環那「教師なら教えてよ。俺に、これがなんなのか。」

琴葉「へ......え......?///んんっ!///」

 

 環那はそう言って、琴葉の唇を奪った

 

 そのままテーブルに押し倒し

 

 置いてあった空き缶が床に落ちる

 

琴葉「ちゅ、ん、ぁ、ぅ、ん......///」

環那(......)

琴葉「ぷはっ///」

環那「教えてよ、琴ちゃん。俺に、心を__」

琴葉「!!///」

 

 喋ってる途中、環那はパタリと倒れた

 

 部屋に沈黙が流れ

 

 琴葉はペチペチと環那の頭を叩いた

 

琴葉「......(酔いがさめた。)」

環那「すぅ......すぅ.....」

琴葉「な、な......っ!///」

 

 琴葉が声を漏らし始める

 

 その表情は酔っていた時よりも真っ赤で

 

 見ているだけで羞恥心が伝わってくる

 

琴葉(なんでここまで来て襲わないんですかー!!?///)

 

 琴葉は心の中でそう叫び

 

 自分の上に倒れてる環那を少しだけ抱きしめ

 

 その後に部屋に運んだ

 

 

 



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集結

環那「__んっ......?んん......」

 

 朝、目を覚ますと陽の光が目に入って来た

 

 頭が痛くて、昨晩の記憶もない

 

 なんで、俺はベッドにいるんだろう

 

環那「気持ち悪......」

 

 ひどい吐き気がする

 

 なんでこんなことになってるの?

 

 頭も痛くて、けど風邪って感じでもない

 

 うーん、謎だ

 

環那「まぁ、これくらいはどうにかなるか......ん?」

琴葉「すぅ......んん......っ。」

環那「......」

 

 痛む頭を押さえて起き上がろうとした時

 

 ベッドの軋み方に違和感を感じ確認すると

 

 横では下着姿の琴ちゃんが呑気な顔で眠っていた

 

環那(ヤバい、やらかしたかも。)

 

 昨日の記憶がないから判断できないけど

 

 もしかしたらやらかしたかも

 

 琴ちゃんと?え、マジ?

 

環那(取り合えず、確認しよう。)

 

 掛け布団をめくって状況を確認する

 

 うーん、ベッドの状態的にそう言った形跡はない

 

 これは、やらかしてないかも?

 

環那「それにしても、無駄に高そうな下着つけてるなぁ。」

琴葉「......わ、悪かったですね......!///」

環那「」

琴葉「おはようございます、南宮君......!///」

 

 想像しうる中で最悪の事態だ

 

 琴ちゃんは俺の独り言を聞き

 

 顔を真っ赤にしてこっちを睨んでる

 

 やばいな

 

琴葉「朝から私の下着をのぞくなんて、お盛んですね......!///」

環那「い、いやぁ、琴ちゃん風呂上りとか裸でウロウロしてるし、下着くらい今さら__ぐはっ!!」

琴葉「このおバカ!///」

 

 お腹にめり込む琴ちゃんの鉄拳

 

 そこまで痛くなかったけど

 

 何となくノリで変な声出した

 

環那「でも、昨晩はほんとに何があったの?全然記憶ないんだけど。」

琴葉「それはですね、私がお酒を飲ませて、南宮君が速攻で寝たんですよ!」

環那「自分から悪事を暴露しないでよ。」

 

 琴ちゃん、教師だよね?

 

 なんで俺にお酒飲ませてるの?

 

 馬鹿なのかな?

 

環那「はぁ......学校にばれたら問題になるよ?」

琴葉「極道の娘なので。」

環那「関係ないでしょ。」

 

 それにしても、俺ってアルコールに弱いのかな?

 

 七夕祭りの時も少量で記憶飛んだし

 

 耐性があまりにもなさすぎるのかな

 

環那「まぁいいや。」

琴葉(いいんですか。)

環那「取り合えず起きて、朝ごはんの準備__」

エマ「__お兄ちゃん、朝の添い寝に来たよ......え?」

環那、琴葉「あっ。」

 

 俺がベッドから出ようとすると

 

 部屋のドアが開き、エマが入って来た

 

 あー、もうそんな時間だったか

 

エマ「子供作るなら、私がいるのに......」

環那「いや、してないから。」

エマ「あ、そうなの?」

 

 エマは拍子抜けた様子でそう言った

 

 いや、あの、どっち?

 

 してない方がいいんだよね?

 

エマ「そう言えば、お兄ちゃんに報告がある。」

環那「昨日の事?」

エマ「そう。今井リサへの誕生日プレゼントについて。」

 

 エマは手に持ってるメモ帳を開いた

 

 あれ、エマが『お兄ちゃん』って書きまくってるのだ

 

 残り14ページくらいだったけど、足りたんだ

 

エマ「今回、あの4人は今井リサが気にしてた服を買う事で会議は締結。余程高価なものらしく、私を含めた5人でお金を出し合う事になった。」

環那「ふむ、いいんじゃないかな。」

 

 リサは季節ごとに流行りの服買いたがるし

 

 気になってる服なら喜ぶだろうね

 

エマ「でも。」

環那「ん?」

エマ「今井リサが今最も喜ぶのはお兄ちゃんからのプレゼントだという意見が会議の中で出た。」

環那「なるほど。」

 

 リサは誰が何あげても喜ぶと思うけど

 

 別に特別どうのって言うのはないと思う

 

エマ「今井リサの誕生日の当日、お兄ちゃんには膨大な量の予定が入ってる。けど、お兄ちゃんも今井リサに何かしてあげるのがいいだろうと、私は進言する。」

環那「ふむ。」

エマ「お兄ちゃんが今井リサに送るプレゼントの候補は__」

環那「いや、それはいいよ。自分で考える。」

 

 俺はそうエマの発言を止めた

 

 流石にそこまで考えてもらうのはヤバいよね

 

エマ「分かった。」

環那「報告、ご苦労様。何かご褒美を上げよう。」

エマ「!」

琴葉(それは、大丈夫なんでしょうか?)

 

 ベッドから降りながらそう言った

 

 エマは嬉しそうに目を輝かせてる

 

 ご褒美貰えるのがそんなに嬉しいんだ

 

 まだまだ子供だねぇ

 

エマ「じゃ、じゃあ......その......///」

環那「?」

 

 エマはボソボソ何かを言いながら近づいて来た

 

 どうしたんだろう?

 

エマ「抱っこ......して欲しい///」

琴葉「!?(可愛いっ!!)」

環那「ほう。」

 

 エマは両手を広げながら俺の顔を見上げてる

 

 なるほど、これは可愛い

 

 こんな妹がいたら誰でも甘やかしそうだ

 

環那「いいよ。ほいっと。」

エマ「///」

環那「ちょっと気になってたんだよね。妹甘やかすのってどんな気分なのか。」

琴葉「あなた、実はかなり喜んでるでしょう?」

環那「分かる?」

エマ(お兄ちゃんの匂い......///)

 

 エマを抱っこしてみたけど

 

 結構気分良いな、これ

 

 これなら偶にしてもいいかも

 

環那「よし、朝ごはん食べようか。」

琴葉「そのままですか!?」

環那「まぁ、問題ないでしょ。」

エマ「全く問題ない///うん、問題ない///」

琴葉「甘え過ぎでしょう。」

 

 俺はエマを抱きかかえたまま

 

 朝ごはんを作るためにキッチンに向かった

 

 さて、今日は何にしようかな

__________________

 

 あれから、俺は2人と朝ごはんを食べ

 

 今日は特に予定もないけど外に出た

 

 ちなみにエマと一緒

 

エマ(お兄ちゃんとデート......♪)

環那「エマと何の用事もなく出かけるのは初めてかもね。」

 

 てか、エマと出かけたのって......

 

 旅行と作戦の時くらい?だっけ

 

 うわぁ、仕事ばっかりで娘に構わない父親みたい

 

環那「今日はエマに時間を使う事にするよ。(可哀そうになってきた。)」

エマ「嬉しい///明日死んでも私に後悔なんてない///」

環那「そこは後悔してよ。あるでしょ、後悔すること一つくらい。」

 

 エマって変な子だなー

 

 表現がいちいち大袈裟で

 

 何と言うか、俺のこと信仰してる節ある

 

環那「で、何かしたいことある?」

エマ「私はお兄ちゃんといられるなら幸せ。」

環那「何もないんだね。」

 

 ふーむ、困った

 

 町の中フラフラ歩くのもあれだし

 

 何か目的を作れればいいと思ったんだけど

 

紗夜「あら、南宮君にエマさん。」

環那「あ、紗夜ちゃん。」

エマ「氷川紗夜。」

紗夜「おはようございます。」

 

 商店街辺りに来ると紗夜ちゃんと出くわした

 

 この辺で会ったの初めてかもしれない

 

 なにしてるんだろ

 

環那「こんな所で何してるの?」

紗夜「今日は日菜......妹とお出かけなんですよ。何の目的もないんですが。」

環那「え、何そのネタ被り。」

紗夜「もしかして、南宮君たちも?」

エマ「そう、デート(ドヤッ)」

 

 デートかー

 

 まっ、そういう事でもいいや

 

 そんな事を考えてると、紗夜ちゃんの後ろからスッと人影が現れた

 

日菜「__おねーちゃん?この子達だれー?」

環那「あ、この子が噂の紗夜ちゃんの妹さん?」

紗夜「えぇ、妹の日菜です。」

環那「ほえー、顔は似てるのに性格は全然違うんだね。」

日菜「えー?そうかなー?」

紗夜「それはそうでしょう。」

 

 紗夜ちゃんと日菜ちゃんの性格は真逆

 

 話に聞いてた通りだ

 

巴「__あれ、環那さんに紗夜さん!」

あこ「あー!環那兄!紗夜さんとひなちんとエマもいるー!」

環那「ともちゃん?あこちゃんも。」

 

 あれ、また姉妹が通りかかってきた?

 

 いや、何か用事があるかもしれない

 

 流石に用事ナシまで被ることはないでしょ

 

環那「2人は何してるの?」

巴「あー、今日は時間あったんで、あことの時間作ろうかなって。普段は家でしか一緒にいないしな。」

環那「そこも被ってるの!?」

巴、あこ「え?」

 

 なに?

 

 今日は妹サービスをする日なの?

 

 ちょっと怖くなってきたんだけど

 

巴「まさか、2人も?」

環那「同じ。」

紗夜「同じですね。」

環那、巴、紗夜「......」

エマ「お兄ちゃん?」

日菜、あこ「おねーちゃん?」

 

 ともちゃん、紗夜ちゃんとアイコンタクトをし

 

 そして、3人で深く頷いた

 

 よし、これで行こう

 

環那「この3組でどこか行こうか。」

紗夜「そうね、そうしましょう。」

巴「そうだな。人数多い方が楽しいし。」

エマ「お兄ちゃんがそう言うなら。」

日菜「いいねー!楽しそう!」

あこ「あこもさんせーい!どこ行くー?」

 

 妹3人組は賛成してくれた

 

 正直、すごく助かる

 

 妹居る歴の長い先輩2人がいれば安心だ

 

環那「実は、エマと行く候補の中に遊園地があるんだ。優待券もある。」

巴「マジか!」

あこ「わーい!遊園地だー!」

紗夜「なんで持ってるんですか?」

環那「社長就任祝いにってもらったんだ。」

 

 まぁ、エマって遊園地を楽しむタイプじゃないし却下しかけてたけど

 

 他の子がいれば何か変わるかもしれないし

 

 エマの交友関係も広がるかもしれない

 

 うん、これはいい

 

日菜「行こ!おねーちゃん!」

あこ「あこたちもー!」

紗夜「はいはい、走らないで。」

巴「あこも、転ばないように気をつけろよー。」

エマ「......子供だね、みんな。(お兄ちゃんと遊園地......♪)」

環那「あはは、そうだね。(そう言うエマもソワソワしてるけどねー。)」

 

 こうして、俺は皆と遊園地に行くことになった

 

 エマも楽しみにしてる様子だし

 

 今まで色んな仕事をしてもらった分

 

 この機会に普通の女の子みたいに遊んでくれればいいな

 

 

 



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遊園地

 遊園地

 

 書籍レベルの知識は頭に入ってるけど

 

 正直、実際に来てみるとその通りだった

 

 ジェットコースターの音はうるさいし

 

 客層も老若男女様々だ

 

環那「ここが、遊園地か。」

日菜「遊園地、初めてなのー?」

環那「来る機会もなかったしね。」

紗夜「あなたが好きな空間でもないでしょう。」

 

 まぁ、紗夜ちゃんの言う通り、この空間は好きじゃない

 

 1人だったら絶対に死んでも来ない

 

 今回は家族サービスだから仕方ないけど

 

あこ「じゃあ、あこたちが遊園地をレクチャーしないとだね!」

日菜「さんせーい!」

 

 活発コンビが元気な声でそう言った

 

 元気ならそれでもいいんだけど

 

 ちょっとだけ不安になるな

 

あこ「じゃあ、まずはキャラクターのカチューシャ買いに行こ!」

エマ「キャラクターの、カチューシャ?」

日菜「いっくよー!エマちゃん!」

エマ「え、あ、ちょ__」

紗夜「日菜!」

環那「追いかけないと、あはは。」

巴「そうだなー。」

 

 俺達はそう言ってゆっくり歩きだし

 

 エマ達が向かってる方に行った

 

 てか、キャラクターのカチューシャって何?

__________________

 

 入口のすぐ近くにある売店

 

 一見ここはお土産を買う場所に思える

 

 けど、目的の品はここにあるらしい

 

あこ「あこ、これにしよーっと!」

日菜「あたしはこれかなー?おねーちゃんはこれね!」

紗夜「私もつけるの!?」

巴「あたしも着けますんで、我慢しましょう。」

 

 あこちゃんと日菜ちゃんは商品を物色してる

 

 なるほど、この耳みたいなのが目的の品か

 

 さっき見たキャラクターの耳を模したカチューシャ

 

 ここに来るまで何人か付けてる人間もいた

 

環那(なるほど。)

 

 何人かを観察した感じ

 

 このカチューシャを購入した人間は67%

 

 全員のデータを取ってないから正確じゃないけど

 

 比較的多くの人間が購入する傾向がある

 

 女子がこれをつけてる割合は87%と高く

 

 逆に男で着けてる奴は3%と低い

 

 手に持ってるのは残り、その他で分類し10%

 

 かなり偏ってる

 

紗夜「何すました顔してるんですか?あなたも着けるんですよ?」

環那「え?」

紗夜「あなただけ着けないなんてことは許しませんよ......!」

環那「えぇ......」

 

 紗夜ちゃん、道連れにする気満々だね

 

 いや、別にいいんだけど

 

 あれ、着けるのかぁ

 

環那「じゃあ、俺はあの魚の奴にしよっと。」

あこ「なんで!?」

巴「だ、ダントツでダサい奴言ったな。」

環那「そう?可愛くない?このつぶらな瞳とか。」

エマ「可愛い。」

 

 エマは俺の言葉に小さく頷いた

 

 可愛いよね?たらこ唇魚

 

 名前は知らないから勝手に命名した

 

環那「それで、エマは兎のにしたんだ。」

エマ「気に入った。可愛い?」

環那「うん、可愛い可愛い。」

エマ「えへへ......///」

 

 俺がそう言うと、エマは嬉しそうに笑った

 

 何がそんなに嬉しいんだか

 

 変わってるね

 

環那(さて、さっさと支払いしてこよ。)

巴「どこ行くんだー?」

環那「これの支払いだよ。」

紗夜「お金は自分で払いますよ。流石に。」

環那「いや、この込み具合で分かれて払うのは迷惑だし。あと俺、現金は持ち歩かない派の人間なんだ。」

 

 お金は余るほどあるしね

 

 それに、お金に執着なんて一切ないし

 

 湯水のごとく使っても問題なし

 

環那「それと、これは別に好意じゃない。」

紗夜、巴「?」

環那「こうする方が効率がいい。それだけの話。」

 

 俺はそう言って商品を持ってレジの方に行き

 

 全員の分をまとめて清算し

 

 終わった物を皆に渡してから店を出た

__________________

 

日菜「__どれから乗るー?」

 

 店を出た後

 

 俺達は園内を適当に歩き回り

 

 どの乗り物に乗るかを考えてる

 

 種類が多すぎるな

 

あこ「メリーゴーランド!」

環那「メリーゴーランド......って、あれか。」

日菜「あ、面白そー!」

エマ(あれは、床が回転する仕組みになった乗り物?)

 

 あれが噂のメリーゴーランドか

 

 何がそんなに面白そうなのか分からないけど

 

 まぁ、面白いんだろう、多分

 

日菜「おねーちゃん!行こう!」

紗夜「えっ。」

あこ「おねーちゃんもね!」

巴「え、あたしもか!?」

環那「エマも行っておいで。経験するくらいで。」

エマ「お兄ちゃんがそう言うなら。」

 

 この乗り物は比較的すいてるし

 

 次くらいにはすんなり乗れそうだ

 

 無駄に歩き回るよりも効率良さそうだ

 

日菜「環那君は乗らないのー?」

環那「俺は良いよ。見てるから。」

 

 俺はそう言って近くにあるベンチに座った

 

 本能的に理解した

 

 これは17歳の男子が乗るものじゃない!

 

環那(さて。)

 

 歩き回ったし、少しゆっくりしよう

 

 エマたちはもう並んでる

 

 のんびり眺めとこ

 

あこ「__環那兄ー!やっほー!」

日菜「この馬の顔変だよー!写真撮ってー!」

エマ「お兄ちゃん......!」

紗夜「......///」

巴「っ......!///(は、恥ずかしいな///)」

 

 エマとあこちゃんと日菜ちゃんは楽しそうにしてる

 

 それに対して紗夜ちゃんとともちゃんは凄い顔してる

 

 けど、見ないでおいてあげよう

 

 武士の情けで

 

環那(......ん?)

 

 しばらくメリーゴーランドを眺めてると不快な視線を感じた

 

 間違いなく、俺とエマたちを見てる

 

 位置は北東の方向、俺とは反対のベンチ

 

環那(あぁ、そういう事か。)

 

 そこにいる人間を見て、納得した

 

 いるのはチャラそうな男2人

 

 正確な年齢は遠くて判断できないけど

 

 まぁ、俺よりは上っぽい

 

環那(どうにでもなるか。今は取り合えず、エマのアルバム用の写真を撮らないと。)

 

 そう思い、携帯でエマを撮影した

 

 14歳らしい、無邪気な姿だ

 

環那(それでいい。無理に大人ぶる必要はない。そんな風に笑ってくれれば......っと、もう終わりか。)

 

 メリーゴーランドが終わり

 

 俺はベンチから立ち上がった

 

 中々、良い写真が取れた

 

エマ「__お兄ちゃん......!」

環那「エマ、楽しかった?」

エマ「単純な作りの割に中々楽しかった。」

巴「す、すごい感想だな。」

 

 他の皆も降りて来て

 

 エマの感想に苦笑いを浮かべていた

 

日菜「あははー!エマちゃんおもしろーい!」

あこ「だよねー!」

エマ「心外。」

 

 なんだかんだで馴染んでるね

 

 同性の友達が出来るのはいい事だ

 

 まっ、俺はいないんだけどね!

 

男「__なぁなぁ、そこの彼女たち!」

男2「俺達と遊ぼうぜ~!」

環那「!」

 

 皆と少し話してると

 

 さっき向こうに座ってた男2人が話しかけて来た

 

 えぇ、直接話しかけてくるの?(困惑)

 

巴「あ?なんだあんたらは。」

男「ちょーっと遊ぼうって誘いだって~。」

男2「そうそう、君たち美人だし!」

紗夜「は、はぁ......」

男「てゆーか、そこにいるの、アイドルの氷川日菜じゃね!?」

男2「やっべー、まぶい!まぶいわー!」

 

 う、うわー、偏差値低そうー

 

 先天性のバカって感じだ

 

 友希那や燐子ちゃんがこの場にいなくてよかったー

 

日菜「おねーちゃん、この人たち誰ー?」

紗夜「これは所謂、ナンパと言う物よ。」

巴(面倒くさいな。)

 

 さて、これはどうするべきだろう

 

 俺的には平和的に解決したい

 

 この2人の動き的に狙いは紗夜ちゃん、日菜ちゃん、ともちゃんだ

 

 流石にあこちゃんとエマ狙いじゃロリコンだからね

 

環那「あのー、この子たちは家族サービスで来てるので他当たってくれませんか?」

男2「あぁ?んだよ。」

男「この子たちは俺が狙ってんだよ。お前はそこのチビ2人と失せろや。」

 

 せ、誠意ある話し合いが通じない!?

 

 えー、面倒くさいな......

 

 どうしようかな

 

環那(紗夜ちゃんの前で暴力振るうと怒られるんだよなぁ。)

 

 勝てるけど勝てないぞ、この状況

 

 三十六計逃げるに如かずはきついし

 

 スタンガンも持ってないしなぁ

 

環那「......仕方ない。可愛い妹たちのために多少の事には目を瞑って貰おう。」

男「あ?」

男2「なんだぁ?」

環那「俺、これでも喧嘩得意なんだよね。」

男、男2「がふっ!!!」

あこ、日菜、紗夜、巴「!?」

 

 俺は小さな声で2人にそう言い

 

 アバラ骨あたりに手を置き、思い切り押し込むと

 

 2人は苦しそうに息を吐き、俺が手を置いてた部分を抑え始めた

 

男「あぁぁぁぁあ!ほ、骨、折れたー!!」

男2「た、助け、てぇ!!!」

環那「折れてるわけないでしょ。」

 

 溜息を吐きながらそう言っても

 

 男2人は鼻水と涙で顔を濡らし

 

 誰かに助けを求めてる

 

環那「骨が折れるギリギリまで押し込んだから、折れたって錯覚してるだけだよ。」

紗夜「そ、そんな技術があるんですか?」

環那「え、今適当に考えてやったらできただけなんだけど。」

紗夜、巴「えぇ......(困惑)」

あこ「すごーい!」

日菜「中々やるね~。」

 

 これは流石に大丈夫でしょ

 

 無傷だし

 

 うん、暴行罪にはギリギリならない(と思う)

 

環那「さっ、次の場所に行こっか!この2人はスタッフが美味しくいただいてくれるよ(?)」

紗夜「スタッフとは。」

巴「まぁ、行きましょう。注目されちゃってますし。」

環那「そうそう。」

 

 俺達はそんな会話の後

 

 注目から外れるため、場所を移動した

 

 今日は平和に遊ぶ予定だしね

 

エマ(お兄ちゃん......///)

 

環那「~♪」

 

 最初から色々あったけど

 

 まぁ、ここから立て直そう

 

 さて、次は何に乗るのかなー

 

 

 



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エマの気持ち

 あの騒ぎの中心から離れ

 

 俺達が来たのは園内でも異彩を放つ建物

 

 白い顔面の人間の絵に悲鳴のBGM

 

 なんだこの建物は(困惑)

 

日菜「次はここにしよー!」

環那「ここは?」

あこ「お化け屋敷だよ!」

環那「お化け屋敷?」

 

 これがあのお化け屋敷か

 

 なんて言うか、変な建物だ

 

 怖い要素を詰め込もうとしたんだろう

 

 だけど、そのせいでむしろ怖くない

 

巴「......」

環那「ともちゃん、どうしたの?」

巴「んぁ!?な、何でもねぇぞ!?」

環那「そ、そっか。(あぁ......)」

 

 ともちゃん、怖いんだなぁ

 

 イケ女でも怖いものくらいあるか

 

 むしろ、そのギャップで更にモテるのでは?

 

紗夜「あなたは特に怖いものなんてなさそうですね。」

環那「そう?」

紗夜「そうですよ。あなたが一番怖いですから。」

環那「酷くない?」

 

 俺、未だに怖がられてるの?

 

 ちょっと傷つくんだけど

 

 うーん、何がいけないのだろうか

 

日菜「まっ、環那君が怖い話は置いといて!」

環那「置いとかないで?」

日菜「お化け屋敷に入るペアはもちろんおねーちゃんとで、後は怖さのレベル!」

あこ「怖さのレベル?」

日菜「そうそう!ここのおばけ屋敷、怖さにレベルがあって、怖がりの人でも楽しめるようになってるんだー!」

 

 へぇ、そうなんだ

 

 中々上手に作られてるなー

 

日菜「ちなみにレベルは絶叫、発狂、阿鼻叫喚で分かれてるよ!」

環那「へぇ、面白そう。エマはどこに行きたい?」

エマ「お兄ちゃんとなら、どこへでも。」

環那「じゃあ、無難に阿鼻叫喚かな。」

紗夜「無難とは?」

 

 正直、阿鼻叫喚が一番面白そうだ

 

 一体、どれくらいの怖さなのか

 

 おばけ屋敷とはどの位のレベルなのか

 

 それを学びたくなった

 

巴「あ、あたし達は__」

あこ「じゃあ、あこ達も阿鼻叫喚だね!」

巴「えっ?」

あこ「どーしたの?」

巴「い、いや!?なんでもないぞぉ!?」

 

 ともちゃんは震えを抑えるように大声を出した

 

 もうこれはダメだね

 

 引けないところまで来ちゃった

 

環那「ともちゃん、大丈夫なの?」

巴「あ、姉のプライドがあるんだ。何も言わないでくれ......!」

環那「あっ(察し)そっか。」

エマ「大変だね、プライドって。」

 

 ほんとにこれは大変そうだ

 

 俺がヘルプに入ってもいいけど

 

 姉のプライド的に許されないんだろうなー

 

日菜「じゃあ、あたし達も阿鼻叫喚だね!行こ、おねーちゃん!」

紗夜「え、えぇ。」

日菜「じゃあ、あたし達が最初に行くから、少ししたら順番に入って来てねー!」

環那「りょうかーい。」

あこ「オッケー!」

紗夜「お先、失礼しますね。」

 

 紗夜ちゃん達はそう言って建物に入って行った

 

 まぁ、あの2人は安心でしょ

 

 日菜ちゃんは言わずもがな

 

 紗夜ちゃんもおばけとか怖がるキャラじゃないし

 

巴「......阿鼻叫喚、か。」

環那「ともちゃん、膝震えてるけど大丈夫?」

巴「ふっ、環那さん。心配しないでくれ。あたしは姉だ。どんな時でもかっこよくないといけない。あこの憧れの姉でいるために頑張るさ。」

環那「そ、そっか。」

 

 ともちゃん、良いこと言ってるんだけど

 

 携帯のバイブレーションみたいに震えてる

 

 これ、大丈夫かな......?

 

環那「あ、あこちゃん?ほんとに阿鼻叫喚に行くの?」

あこ「うん!」

環那「そ、そっか。うん、そうだよね。」

 

 これはもうダメだ

 

 あこちゃん、目をキラキラさせてる

 

 ともちゃん、ご愁傷様......

 

あこ「そろそろ行ってもいいかなー?」

巴「え、も、もうか!?」

あこ「うん!」

 

 死は突然に

 

 そう言わんばかりの唐突さだ

 

 子供は時として残酷だね

 

あこ「行こ!おねーちゃん!」

巴「あ、あぁ!(やけくそ)」

環那「ともちゃん、グッドラック!」

エマ「グッドラック。」

 

 あこちゃんにともちゃんが引っ張られていく

 

 決めた

 

 俺は生涯、あの誇り高き姉の背中を忘れない

 

 あれこそ、妹のために頑張る年長者の理想像だ

 

環那「頑張れ、ともちゃ__」

巴『__うぎゃぁぁぁぁあ!!!』

環那、エマ「あっ......」

 

 始まってしまったか

 

 こんな所で尊い犠牲が......

 

 遊園地、恐ろしい場所だ

 

環那「さて、ともちゃんの断末魔も程々に。」

エマ「流石お兄ちゃん、切り替えが早い。」

環那「まぁ、経営者は切り替えが大事だからね。」

 

 俺は軽く息を付き

 

 ベンチに座ってマップを開いた

 

環那(さて、この遊園地の乗り物の配置。最初に一周回って確認した感じ、異常のありそうな乗り物はなかった。)

 

 この遊園地の経営状況は悪くない

 

 優待券なんて出すだけはあるって感じ

 

 園内の設備の管理もしっかりしてる

 

環那(警備は多少杜撰なところはあるけど、まぁ、総合的に見れば高評価か。将来的に利用するのも視野に入れておいた方がいいかも。うちの孫請けには警備会社もあるし。)

エマ「......」

 

 あの会社における俺の役割

 

 それを果たすのに必要な材料

 

 出来るだけ早くそれら集めないと

 

 それと、次世代を担う人材育成も......

 

環那(はぁ、さっさと決めてくれると助かるんだけど、最長であと4年あるからなぁ......)

 

 長く社長の座にいるとか、嫌だなぁ

 

 俺のラストプランのピースがまだ揃わない

 

 これはまた、気長な調整になりそうだ

 

エマ「お兄ちゃん......」

環那「ん?どうしたの?」

エマ「お仕事のこと考えてる顔してる......」

環那「あ、あぁ、ごめん。」

 

 エマの拗ねたような声に驚いて

 

 慌てて手に持ってたパンフレットを閉じた

 

 珍しいな、エマのこんな表情と声

 

エマ「今日はデートだから、もっと構って欲しい......」

環那「あーうん、ごめんね。」

エマ「いいの、ただの我が儘だから......」

 

 我が儘と言うには控えめ過ぎる

 

 ほんと、子供っぽくなくて困る

 

 もう少し子供になればいいのに

 

環那「さて、そろそろお化け屋敷に入ろう。時間的にもちょうどいいでしょ。」

 

 俺はそう言って立ち上がった

 

 今日は仕事の事は何とか忘れないと

 

 頭、疲れるし

 

環那「エマ。」

エマ「?」

環那「エマはちょっと大人すぎ。もっと子供らしくしなさい。」

エマ「子供、らしく?なに?」

 

 エマはそんなもっともな質問をしてきた

 

 まぁ、そうだよね

 

 子供らしくなんてあまりにアバウトだし

 

環那「もっと我が儘で、泣くときは泣いて、怒ったら周りに当たり散らす。そう言う事だよ。」

エマ「......面倒くさくないかな?それ。」

環那「面倒くさいよ。でも、それが子供なんだ。」

 

 俺は小さく笑った

 

 まっ、エマは俺の子じゃないけど

 

 親は両方死んだようなもんだし

 

 ある程度、俺が親みたいな役割を請け負わないと

 

環那「そして、それを受け入れるのが大人の役割。」

エマ「!」

環那「って言うのが俺の持論ね。じゃあ、行くよ。」

エマ「うん、分かった。」

 

 そんな会話の後

 

 俺達は一緒におばけ屋敷に入った

 

 エマの可愛い我が儘、叶えてあげないと

__________________

 

環那「__ふむ、中々おもしろい作りだった。」

 

 おばけ屋敷を出てから

 

 俺はそんな感想を口にした

 

 阿鼻叫喚レベルではなかったけど

 

 まぁ、作りとかは面白かった

 

巴「お、面白かねぇよ......」

環那「が、頑張ったね。」

紗夜「お疲れ様です、本当に。」

 

 ともちゃんは膝が笑ってる

 

 いやぁ、頑張ったねぇ......

 

 ちゃんとあこちゃんが離れるまで我慢して

 

 ちなみに妹3人はアイスを買いに行った

 

巴「あこの前で一叫びで済んでよかった......」

環那「外まで聞こえたけどね。」

紗夜「後ろから聞こえた巴さんの声が一番怖かったです。」

巴「えぇ!?」

環那「くふふ......あははは!」

 

 あー、面白い

 

 紗夜ちゃんも相当面白がってるし

 

 ともちゃん、結構イジリ甲斐あるな

 

巴「わ、笑いすぎでしょ!」

環那「いやぁ、イケ女が弱点晒してるのが面白くて。」

巴「いや、度々思ってたけど、イケ女ってなんだ?」

環那「超絶イケメンモテモテ王子様系女子の略。」

巴「その3文字にそんな意味込められてるのかよ!」

 

 今、1秒で考えた言葉だったけど

 

 結構しっくりくる言葉になった

 

 中々センスあるな、俺

 

環那「実はあの4人の中の誰かと付き合ってたりしないの?」

巴「しませんよ!?」

環那「えー。」

巴「なんで残念そうなんすか......」

 

 勿体ないなー

 

 ともちゃん、すごいイケメンなのに

 

 天は二物を与えないって事か......

 

巴「てか、付き合うって言えば、環那さんの方がその話豊富じゃないっすか?」

環那「俺ー?」

紗夜「そうですね。」

 

 豊富ねー

 

 そんな事あるかなー?

 

 別にそうでもないと思うけど

 

巴「リサさん、燐子さん、浪平先生、それに湊さん__」

環那「え?」

巴「なんだ?」

環那「いや、なんでも。」

 

 なんだ?今の違和感は

 

 途中式を間違えたときみたいな

 

 計算の前提自体を間違えてるときみたいな

 

 なんだか、変だ

 

紗夜「それに一番問題のある人物がいますね。」

環那「問題?なんのことー?」

紗夜「気付いてるのでしょう?......エマさんの事。」

巴「!?」

環那「......」

 

 流石は紗夜ちゃん

 

 お察しの良い事で......

 

紗夜「あの子のあなたを見る目は兄に向けるそれではありません。」

環那「まっ、そうだね。」

巴「あー、確かにそうかも。」

紗夜「それで、どうするつもりなんですか?」

 

 真剣な表情だ

 

 どうするつもりか......か

 

 ふーむ......

 

環那「紗夜ちゃんとともちゃんは源氏物語を知ってるよね?」

紗夜「えぇ、まぁ。」

巴「授業でちょっとやったしな。」

環那「かの光源氏は幼くして実の母を亡くし、母と言う存在にただならぬ憧れを持った......」

 

 人間とは自分の持ってないものを欲しがる

 

 だから貧乏はお金を欲しがるし

 

 愛がなければ愛を欲しがるわけ

 

環那「そう言うものでしょ、エマの感情は。」

紗夜「なるほど。」

環那「子供のそう言った感情を受け止めるのも大人の役目さ。」

 

 そう言って、俺は息をついた

 

 全く、難儀なものだよ

 

 エマは俺よりも人間的すぎる

 

 ちゃんと心があって、それを理解してる

 

紗夜「罪な人ですね。実の妹まで手籠めにするなんて。」

環那「一枠空けとくから入っちゃう?俺、個人的に紗夜ちゃんのこと買ってるんだけど。」

紗夜「死んでも嫌ですね。」

環那「酷い、泣いちゃいそう。」

紗夜「よく言いますよ。あなた、そこまで私に興味なんてないでしょうに。」

 

 あら、言い当てられちゃった

 

 紗夜ちゃんの言う通りだ

 

 あの高い能力には興味津々だけどね

 

環那「まぁ、将来うちの会社に来る気があったら面接受けに来てよ。能力を買ってるのは本当だからさ。」

紗夜「それ、暗に人としては興味ないって言ってますね。まぁ、高年俸なら考えておきますよ。」

巴(こ、こえぇ。この2人の会話こえぇ。)

日菜「__おねーちゃーん!買ってきたよー!」

あこ「おねーちゃんのはストロベリーチョコだよー!」

エマ「お待たせ、お兄ちゃん。」

 

 会話に一区切りがついた頃

 

 アイスを買いに行ってた3人が戻って来た

 

 意外と時間かかったな

 

 混んでたのかな?

 

エマ「お兄ちゃんは、チョコレート。」

環那「ありがと。」

エマ「私のとは別の味にした......///だから、その、シェアしよう......///」

環那「いいよ。ほら、食べなよ。」

エマ(お、お兄ちゃんからのあーんだ///幸せ......///)

 

 エマは嬉しそうに差し出したアイスを食べた

 

 幸せそうな顔してるなぁ

 

 まぁ、こういう所が可愛いんだけど

 

紗夜(さっきの話の後で......)

巴(確かに、危ないな。)

あこ(相変わらず、仲いいなー。)

日菜「アイス美味しー!」

 

 それから、俺達は皆でアイスを食べつつ

 

 次どこにいくかを話したりした

 

 まだ時間あるし、もう少し楽しめそうだ

 

 

 



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懺悔

 あれから、俺達は色んなアトラクションを楽しんだ

 

 ジェットコースター、コーヒーカップ

 

 シューティングゲームみたいなの等

 

 園内にあるものはほぼ全部乗ったんじゃないかな?

 

紗夜「__そろそろ、帰らないといけないわね。」

日菜、あこ「えー!?」

巴「もう陽も沈んできてるし、良い時間だな。」

環那「そうだねー。」

 

 もう陽も傾いてる

 

 俺以外はみんな女の子だし

 

 暗くなりすぎる前に帰った方がいいかな

 

日菜「まだメインデッシュが残ってるよー!」

エマ「メインデッシュ?」

日菜「観覧車だよ!今ならすごく綺麗な景色見れると思うの!」

環那「観覧所......あぁ、あれか。」

 

 少し遠くに目をやると

 

 巨大で回ってる乗り物があった

 

 あれが観覧車か

 

紗夜「仕方ないわね。あれで最後よ?」

日菜「はーい!」

あこ「やったー!」

 

 2人は無邪気にそう喜んでる

 

 遊園地にいたいと言うより

 

 姉と遊べる時間が終わるのが惜しいのかな?

 

 なんとなくだけど、そんな感じがする

 

環那「行こうか。」

エマ「うん。(観覧車......)」

環那(ん?どうしたんだろう?))

 

 そんな会話の後

 

 俺達は最後のアトラクションに乗るため

 

 少し遠くにある観覧車に向かった

__________________

 

 閉園時間が近づいて人が少なくなった遊園地

 

 そんな状況で観覧車に乗るのにはそう時間はかからなかった

 

 紗夜ちゃんは日菜ちゃんと

 

 巴ちゃんはあこちゃんと

 

 俺は勿論エマと乗ることになった

 

環那(これが観覧車か。)

 

 なんだか不思議な感じだ

 

 円の周りに付けられたゴンドラに入って

 

 その中で景色を眺めるだけ

 

 だけど、俺は割と嫌いじゃない

 

環那「エマ、今日はどうだった?」

エマ「楽しかった......と思う。」

環那「そっか。」

 

 俺の問いに少し目をそらしながらエマは答えた

 

 少しだけ耳が赤い

 

 恥ずかしがってるのかな?

 

エマ「......なんだか、不思議な感覚。」

環那「ん?」

エマ「氷川日菜、宇田川あこ。あの2人に引っ張り回されて鬱陶しいと思うのに、それを悪くないとも思ってる。こんな風に遊んだのも、初めて。」

環那「それも経験。エマも年相応の女の子に近づいて行ってるんだよ。」

 

 会ったことも兄に人生をかけた女の子

 

 そんなのどう考えても普通じゃないしね

 

 エマにはもっと子供になって貰わないと

 

環那、エマ「......」

 

 さて、話すことがない

 

 観覧車もまだ中途半端な高さだし

 

 何の話をすればいいか分からないな

 

エマ「......お兄ちゃんは楽しかった?」

環那「うん、楽しかったよ?」

エマ「それなら、よかった。」

 

 エマは嬉しそうにそう言った

 

 元はエマのために来たんだけど

 

 まぁ、嬉しそうならいいかな

 

エマ「私の幸せはお兄ちゃんの幸せだから。」

環那「......あはは。」

エマ「?」

環那「エマはほんとに俺に似てる。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 ほんと、面白いくらいそっくりだ

 

環那(友希那の幸せが俺の幸せ......とか言ってたなぁ。)

エマ「似てるとは思う。価値観が特に。」

環那「あはは、間違いない。」

エマ「......けど、違う所もある。」

環那「違う所?」

 

 エマの言葉に、俺は首を傾げた

 

 俺とエマの似通った価値観の中の相違点

 

 思い上がってるわけじゃないけど、そんなのあるのかな?

 

エマ「私とお兄ちゃんは違う。」

環那「それは何?」

エマ「......それは。」

環那「!」

 

 エマは俺の方に近づいて来た

 

 綺麗な金髪は夕日で照らされ

 

 真っ赤な瞳には俺の姿が映ってる

 

エマ「__愛する人を自分のものにしたいか、したくないか......///」

環那「っ!!」

 

 そう言われ、俺は目を見開いた

 

 俺とエマ、どっちが前者か後者か

 

 そんな事、考えるまでもない

 

 前者が、エマだ......

 

エマ「私は、お兄ちゃんを愛してる///一人の男性として///」

環那「......エマ、それは。」

エマ「分かってる......」

 

 俺の言葉を遮り、エマはそう言った

 

 その表情は俺が今まで見たことないもので

 

 頬は紅くなって、涙で瞳は潤んで

 

 駄々をこねてる子供みたいに見える

 

エマ「この感情が不純で、許されない事も......全部、分かってる。」

環那「......」

エマ「でも、耐えられなかった......っ」

 

 エマは苦しそうな声でそう言って

 

 自分の服の裾を握る

 

エマ「私があの親から生まれず、お兄ちゃんと出会ていれば、もしかしたら選ばれたかもしれない......そう思うと、自分を構成する物すべてが憎くなって、気が狂いそうになる......っ」

環那「......(これほどか。)」

エマ「この体に流れる血を全て入れ替えられるなら、DNAを書き換えられるのなら......そんな事が出来るなら、たとえどんなにリスクがあっても私はこの体を差し出す。」

 

 ......少し、想定外だ

 

 俺が想定してた数値を遥に超えてる

 

 いや、想定出来るレベルを超えてると言うべきか

 

 これがエマの本心

 

 確かに、これは俺のとは全然違う

 

エマ「お兄ちゃん、私はどうすればいいの......?」

環那「どうすれば......か。」

 

 正直、分からない

 

 俺とエマでは価値観の重要な部分が違う

 

 だから、アドバイスなんて高度な事はできない

 

環那「諦めた方がいいんじゃないかな。」

エマ「......そう、だよね。」

環那「でも、それは血が繋がってるからじゃないよ。」

エマ「え......?」

 

 俺の言葉でエマは驚いたような顔をした

 

 そう、俺に血のつながりなんてものは関係ない

 

 見るのはあくまでどんな人間かだけだ

 

環那「俺は好きになればそんなの関係なくその子を手に入れに行く。血のつながりなんて些細な問題だからね。」

エマ「......と言う事は。」

環那「エマを恋人にすることはないって事。」

エマ「っ......」

 

 これが所謂、振るってやつか

 

 泣きそうになってるエマを見てると

 

 胸の辺りが少しだけ痛む

 

環那「......でも、家族にはなりたいと思ってる。」

エマ「家族......?」

環那「うん、家族。」

 

 笑いながらそう言った

 

 俺は基本的に弱みを見せたくない人間だから、あんまりこういう事は言わないんだけど

 

 まぁ、エマ位には言っても良いかな

 

環那「恋人にも夫婦にも、終わりがあるかもしれないんだ。」

エマ「それは......確かに。」

環那「でも、俺は終わりのない家族が欲しいと思ってるんだ。そして、それになれるのは1人しかいない。」

 

 俺はエマの頭を撫でた

 

 まぁ、普通に妹としては愛してるからね

 

 なんだかんだで

 

環那「ねぇ、エマ。」

エマ「お兄ちゃん......」

環那「俺の家族として、ずっと一緒にいてくれないかな?」

エマ「......!」

 

 これ、普通の告白より恥ずかしいんじゃ?

 

 俺には恥じらいなんて一切ないけど

 

 だって、珍しく正直に話してるだけだし

 

 そんな事を考えながら、俺はエマの返答を待った

 

 “エマ”

 

エマ(一度は、お兄ちゃんの子供を産みたいと思った。)

 

 お兄ちゃんと言う存在を知ったあの日から

 

 姿も知らないまま私はお兄ちゃんを愛してきた

 

 この命は全てお兄ちゃんのために使う

 

 そう決めて生きて来た

 

エマ(そんなお兄ちゃんが、ずっと一緒にいて欲しい......?///)

 

 愛してもらえるなら、いいのでは?

 

 お兄ちゃんとの間の子を産めないのは残念だけど

 

 お兄ちゃんが結婚して子供が出来れば

 

 将来同居してるであろう私の子でもあるんじゃ?

 

エマ「分かった、そうする。」

環那「よかった。」

エマ「これからは、お兄ちゃんの嫁探しも目を瞑る。」

 

 今の私は心の余裕が違う

 

 だって、ある意味私は正妻以上の立場だから

 

 私以外は誰もたどり着けない領域にいるから

 

エマ「そう言えば、お兄ちゃん。」

環那「どうしたの?」

エマ「真の家族になるにあたって、お願いがある。」

環那「うん、どうしたの?」

 

 そう、これはお兄ちゃんに言わないといけない

 

 家族に嘘はいけない

 

 だから、私も秘密を曝け出さないと

 

エマ「今まで私、お兄ちゃんの衣類を勝手に持ち出して匂いを嗅いでた。許してほしい。」

環那「あ、うん、別にいいけど。」

エマ「それとパンツも持ち出してた。」

環那「え、なんで?」

エマ「夜のお供に。ごめんなさい。」

 

 何に使ってたかは察して欲しい

 

 そう、色々あった

 

 あれは長い夜だった

 

環那「ま、まぁ、返してくれてるなら。」

エマ「あと。」

環那(まだあるんだ。)

エマ「夜な夜なお兄ちゃんにキスしたり色々してた。」

環那「......(あれ、大丈夫か?これ。)」

エマ「ごめんなさい。」

 

 過去の私は色々おかしかった(今さら)

 

 これからは可愛い妹にならないといけない

 

 つまり、ここで懺悔しないといけない

 

 この観覧車から見える夕日に誓って

 

環那「う、うん、まぁ、いいよ。そう言う事もある、よね(?)」

エマ「ありがとう、お兄ちゃん。これからは可愛い妹を目指して頑張る。」

環那「頑張って、ほんとに(切実)」

エマ「頑張るから、もっと撫でて欲しい......///」

環那「あ、うん」

エマ「......♪」

 

 お兄ちゃんに優しく撫でられる

 

 あぁ、幸せ......

 

 この幸せを味わえるなんて、妹でよかった

 

エマ「大好きだよ、お兄ちゃん!///」

環那「うん、ありがとう。(まぁ、まともになるでしょ。多分。)」

 

 この後、私はお兄ちゃんの膝に乗って

 

 思う存分頭を撫でて貰ったりして

 

 お兄ちゃんを満喫し

 

 帰りは何とおんぶして貰えて

 

 この世に生まれた幸せを噛み締めた

 

 

 



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視察

 最近、俺に理解できない事が多すぎる

 

 そのほとんどが結構真剣なものなんだけど

 

 この前のことでエマの事もよく分からなくなった

 

 いや、ほんと、マジで

 

エマ「__おはよう、お兄ちゃん♡」

環那「......あ、はい。おはようございます。」

 

 仲のいい兄妹は一緒に寝るをする

 

 エマあまりに必死に言うからそうしたけど

 

 俺の常識とかなりズレてるんだよね......

 

エマ「どうしたの?敬語なんて使って。」

環那「なんでもないよ。寝ぼけてただけ。」

 

 そう言って俺は体を起こした

 

 うん、今日も体は健康だ

 

 最近ちょっと体調崩し気味だし、不安なんだよね

 

環那「それで、良い夢は見れた?」

エマ「見れた。聞きたい?」

環那「遠慮しておくよ。(怖いし。)」

 

 今まで逮捕とかヤクザとか色々あったけど

 

 人生でこんな恐怖を感じたのは初めてだ

 

 エマ、恐ろしい子だ......

 

環那「......俺は今日予定があるけど、エマはどうする?」

 

 気を取り直そう

 

 エマに動揺を悟られちゃいけない

 

 何故かそんな気がする

 

エマ「ついて行かない方がいいなら、私は部屋でお兄ちゃんの写真を眺めて1日を過ごす。」

環那「もうちょっとマシな過ごし方無いの?」

エマ「お兄ちゃん、この世には推しと言う言葉がある。」

環那「う、うん。」

エマ「言うなれば、お兄ちゃんは私の推し。何時間見てても飽きない。」

環那「......」

 

 り、理解できない......!

 

 もうエマの事はそっとしておいた方がいい?

 

 うん、その方がいい、絶対に

 

環那「そっか、うん、楽しんでね(?)」

エマ「うん、またお兄ちゃんの写真が増えてから、今日は楽しめそう......♡」

 

 この数年で相当メンタル鍛えられたけど

 

 そろそろ限界が近い

 

 ここまで俺の精神が削られるなんて

 

環那「......じゃあ、俺は行くね。」

エマ「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」

環那「うん、行ってくる。」

 

 俺はそう言って必要な物と服を持ち

 

 部屋を出て脱衣所に向かった

 

 さて、さっきまでの事は忘れよう

 

 主に俺の精神衛生のために

__________________

 

 今日の俺の予定

 

 それは、会社の状況を視察する事

 

 ある程度は把握してるけど、百聞は一見に如かず

 

 中途半端は許されない立場になっちゃったからね

 

環那(ふむ......)

 

 設備自体はそこまで悪いものじゃない

 

 大方、外面を保つための措置だろう

 

 俺の調べでは、南宮以外の労働環境はそこまで良いものではなかった

 

 ほんと、上手くやってたものだよ

 

環那(設備面での改善点はなさそうだ。必要なのは意識の改革だけか。)

結実「__環那さん?あ、いや、社長。」

環那「呼び方なんてなんでもいいよ。」

 

 まぁ、そりゃあいるよね

 

 今日、普通に出勤日だし

 

 いやー、社会人は大変だね

 

結実「じゃあ、環那さんで。それで、今日は何の用で?」

環那「視察だよ。確認しないといけないことが多いからね。」

結実「大変ですね。まだ高校生なのに。」

環那「そうでもないよ。」

 

 別に大変って程でもない

 

 むしろ、大変なのはこれから

 

 こんな下準備、何の問題でもない

 

環那「結実さんは総務部だっけ。」

結実「はい!」

環那「それで、今は資料運び中か。」

 

 完全にパシられてる

 

 まぁ、本人が楽しそうだから触れないけど

 

環那「麗さんと保奈さんは元気にしてる?」

結実「それはもう!ストレス製造機がいなくなったので!」

環那「我が身内ながら酷い言われようだね。別に興味ないけど。」

結実「社内の視察なら、私が案内しましょうか?」

環那「別にいいよ。建物内の配置はもう頭に入ってるし。」

結実「さ、流石ですね。」

 

 後は社員全員の名前を覚えるだけかな

 

 まだ80%くらいしか覚えてないんだよね

 

 ......面倒くさい

 

環那「じゃあ、俺はまだ見るところがあるから行くよ。」

結実「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

環那「ん?どうしたの?」

結実「その、環那さんの耳に入れておかないといけない情報がありまして......」

環那「?」

 

 結実さんは小さい声でそう言った

 

 俺が知るべき情報?

 

 そんなのは書類にしてまとめてるはずだけど

 

結実「その、新社長が高校生と言う事で、社長夫人の座を狙おうって話を聞いて......」

環那「へぇー。」

結実「あれ、興味なしですか!?」

環那「いや、面倒くさいなーって。」

 

 まぁ、想像できなくもない展開か

 

 お金欲しいよね、人間だもの

 

 それでも高校生狙うかって話になるけど

 

環那「よし、社内恋愛禁止にしよっと。」

結実「対策極端すぎ!?」

環那「冗談だよ。」

 

 けど、その辺の対策はしないとな

 

 回避方法の選択肢は多いんだ

 

 やりようはいくらでもあるでしょ

 

環那「てか、結実さんは玉の輿狙う側じゃないの?」

結実「環那さんのヤバさを知ってたら間違えてもそんな事思いませんよ。」

環那「人聞き悪いなー。俺は普通の男子高校生だよ。」

結実「それは絶対にないです。」

 

 音速で否定された

 

 俺の過大評価、加速してない?

 

 ほんと、何とならないのー?

 

環那「ほんとに俺は普通で__」

?「__おい芹澤!!」

環那「?」

結実「い、石井部長!?」

環那「あぁ。」

 

 営業部部長、石井彰浩か

 

 俺がちょっとチェックしてた人材だ

 

 数年前までは営業部の絶対的エースで

 

 南宮の奴らには嫌われてたって話だ

 

石井「これはこれは社長。おこしになっていたのですね。」

環那「はい、正式発表前に細かい確認をと思いまして。」

石井「殊勝な心掛けですな。」

環那「あはは、石井さんほどでは。」

 

 この人、俺のこと警戒してるな

 

 俺としては手に入れておきたい駒なんだけど

 

 まっ、時間がどうにかしてくれるか

 

石井「して、芹澤とはどういったご関係で?」

環那「ちょっとした知り合いですよ。」

石井「では、そろそろ仕事に戻らせてもよろしいでしょうか。」

環那「いいですよ。引き留めてごめんね、結実さん。」

結実「い、いえ、大丈夫です。」

 

 さて、俺もさっさと視察なんて終わらせよ

 

 確認したいこともそこまで多くないし

 

 他にもしたいこといっぱいあるんだよ

 

「__おっ、七光り社長君じゃないか。」

「もう女性社員に手出して石井さんに怒られてるんですかねー?」

石井「おい、お前ら、口を慎め。」

結実「そうですよ!あと、私は何もされてません!」

環那(......誰だっけ。)

 

 ヤバい、20%引いちゃった

 

 この2人、本気で誰か分からない

 

 でもなんだろう、この小物感

 

「いやいやー、父親が捕まってその息子が社長を継ぐとか、七光りもいいとこでしょう。」

「ほんと、今まで会社に貢献してきた俺達がスルーされて、どんな奴が社長になるかと思えばまだ高校生の若造ですよ?あーあ、こんなことなら俺が会社奪っちまえばよかったー。」

環那「あはは、面白い冗談言いますね。今すぐ退職してお笑い芸人にでもなればどうですか?」

「は?」

「なんだと?」

石井、結実「!」

 

 俺は茶化すように笑いながらそう言った

 

 この小物感、結構好きかも

 

環那「君達、入社何年目?」

「7年目ですが?」

「俺は、8年目だが。」

環那「つまりその年数分、会社を奪うチャンスがあったんでしょ?」

「っ!」

 

 7、8年かー

 

 俺ならそれくらいあれば片付けられる

 

 何回か言ったけど、やる気の問題だからね

 

環那「そうしなかったのは、君達に勇気がなかったからでしょ。失敗すれば高給の仕事を失うとか、そんな下らないことを恐れたんだ。」

「そ、それの何が悪いと言うんだ......」

環那「君達の覚悟の無さを俺のせいにしないでって言ってんの。分かんないの?」

「くっ......!」

石井「......!」

環那「君達は全員、楽で都合のいい道を選んだんだ。自分に出来ない事を成し遂げた人間を妬むのは分かるけど、文句があるなら俺から社長の座を奪うくらいの気概を見せなよ。別にいいよ?俺より仕事できるなら、ね。」

 

 俺はそう言いながらある書類を出し

 

 それを2人の方に見せた

 

「そ、それは......って、え?」

「は、ま、まさか......」

石井「そんな、まさか......」

結実「なんですかこれ?」

 

 この2人と石井さんは営業部だから分かるだろうね

 

 これがいかに強力な手札なのか

 

 結実さんはいまいち理解出来てないけど

 

「い、今まで契約を渋ってた大企業が契約だと......!?」

「し、しかも、3社も......!?」

石井「あ、ありえん。これが本当なら、我が社の年商は......少なくとも1.5倍にはなるぞ。」

結実「えぇ!?」

環那「まっ、そういう事。」

 

 そう言って書類を片付け

 

 2人の方に向き直った

 

 そして、優しく笑いかけた

 

環那「この()()の仕事が出来るなら社長の椅子なんてあげてもいいけど、どうする?」

「......ま、参りました......」

「申し訳、ございませんでした......」

環那「あはは、分かればいいんだよ。」

石井(な、なんというお方だ。営業部の2人を実力で黙らせた。こ、これが、新社長か。)

 

 なーんだ、根性無いなー

 

 やる気が足りないんじゃないのー?

 

 ほんと、無駄に年だけ食っちゃって

 

 大切な事なーんにも学んでない

 

環那「俺、実力ある人間を重宝するからさ、何か武器を身につけておきなよ。胡坐かいてると、置いて行かれるよ。」

「は、はい。」

「が、頑張らせていただきます。」

環那「うんうん!頑張れ!」

「し、失礼します。」

「失礼、します......」

 

 2人はそう言ってトボトボ歩いて行った

 

 名前はまだ覚えてないけど

 

 割と嫌いじゃないから顔は覚えとこ

 

環那「いやー、中々おもしろい2人だった。」

結実「あ、相変わらず相手の落とし方がエグイですね。」

環那「そう?実力を誇示して黙らせるのは当然の事じゃない?」

 

 まぁ、多少やりすぎたかな

 

 もしあの2人が天狗の方がいい種類の人間なら、俺の行動は失敗だし

 

 しっかり考えて行動しないと

 

環那「まぁでも、社長の座を譲るのはごめんだったから。」

石井「やはり、社長の座は惜しいですか。」

環那「そんなわけないじゃないですか。けど、俺にもプランがあるんですよ。」

結実、石井「プラン?」

 

 そう、俺の第二の計画

 

 このためには面倒だけど社長の座は守らないといけない

 

 ほんとに面倒くさい

 

環那「俺の後を継ぐ人間は、もう決まってるので。」

石井「なっ......!?」

結実「えぇ!?」

 

 っと、喋り過ぎた

 

 これは機密事項......って程でもないけど

 

 あんまり言わない方がいいんだよね

 

環那「じゃあ、俺は視察を続けるので。2人も業務に戻ってください。」

結実「は、はい。」

石井「社長も、ごゆっくり。」

環那「はい。」

 

 俺はそう言ってその場を離れ

 

 次に確認する場所に向かった

 

石井(この社長は、どこまでの未来を見ているというんだ......?)

 

環那(はぁ、面倒くさいなぁ......)

 

 最後のピースはいつになったら来るか

 

 これに関しては待つしかないけど

 

 中々、長い仕事になりそうだ

 

 俺はそんな事を考えて気が重くなり、大きなため息をついた

 

 

 



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プレゼント選び

 社内の視察も終わり、俺は外に出た

 

 時間としては13時30分

 

 予定よりも少しだけ時間がかかった

 

環那(__さてと、どうしたものか。)

 

 視察の後、俺はショッピングモールに来た

 

 目的はリサの誕生日プレゼントを選び

 

 エマに言われたし、俺も何もしないのもどうかと思うしね

 

環那(友希那達は服を買うって言ってたし、服はナシか。ふーむ。)

 

 ......リサって、何が欲しいんだろう?

 

 パッと思いつくのは服と化粧品だけど

 

 服は言わずもがな

 

 化粧品は肌に合わなかったりしたらダメだし

 

 正直、結構行き詰ってる

 

環那(考えろ、考えろ、俺......日常的に使えて、どことなく高級感があって、あったら絶対に嬉しい物......)

 

 思考を巡らせる

 

 世の女の子の生活がどんなものか考え

 

 総合的にあればいいものを考える

 

 その結果......

 

環那「......下着?__っ!!」

 

 こんな結論にたどり着いた

 

 けど、口に出した瞬間に悪寒がした

 

 ダメだ、仮にこれを送ったとしよう

 

 紗夜ちゃん辺りに本気で殺される気がする

 

環那「てか、流石のリサも怒りそうだ。条件にデリカシーも付けよう。」

 

 もう一度、更に深く考えてみる

 

 さっきの条件にいくつかの条件を追加

 

 何が最適解だ?

 

環那「......」

日菜「__あれー?環那君じゃーん。」

環那「ん?日菜ちゃん?」

 

 しばらく考え込んでると

 

 背後から日菜ちゃんの声が聞こえ、その方向を向いた

 

日菜「昨日ぶりー!こんな所で固まって何してるの?」

環那「俺はリサの誕生日プレゼントを買いに来たんだ。日菜ちゃんは......お友達と一緒かな?」

日菜「うん!イヴちゃんと彩ちゃん!」

彩「えっと、日菜ちゃんの友達?」

環那「どっちかと言うと、紗夜ちゃんの友達だったらいいなぁって人だよ。」

彩「どういうこと!?」

 

 おぉ、中々いい反応をしてくれる

 

 なんか雰囲気が面白い子だな

 

 友達のグループの中では弄られ役と見た

 

イヴ「あれ?カンナさんではないですか!」

環那「あー、イヴちゃんじゃん。」

彩「え、2人って知り合いなの!?」

環那「うん、ちょっとね。あれは、春くらいに羽沢珈琲店に行った時の事......」

 

 “回想”

 

イヴ『いらっしゃいませ!』

環那『あ、どうも。』

イヴ『お席にご案内します!』

 

 そう言って、俺は窓際の席に案内され

 

 座ってからメニューを確認する

 

 この店の雰囲気はいいね

 

 しかも、今はすいてる時間帯だし

 

環那『あのー、すいませーん。』

イヴ『はい!ご注文をお伺いします!』

 

 声をかけると良い笑顔で駆け寄ってきて

 

 手早く注文のメモを取ってくれる

 

 落ち着いた店の雰囲気の中で天真爛漫な笑顔を振りまいてる

 

 この子目的で通ってる人がいると見た

 

イヴ『ご注文は以上ですか?』

環那『はい。』

イヴ『それでは、少々お待ちください!』

環那『!』

 

 注文を取って厨房の方に行こうとする時

 

 俺はある事に気付いた

 

 でも、これは言ってもいいのだろうか?

 

 いや、この子の尊厳を守るためには言うべきか

 

 今は幸い人がいないし

 

環那『ねぇ、ちょっと待って。』

イヴ『はい?』

環那『少し、耳を貸してくれない?』

イヴ『いいですよ!』

 

 そう言って女の子はこっちに耳を向け

 

 俺は出来るだけ小さな声で

 

 気づいてしまった事実を教えることにした

 

環那『上と下、両方とも下着透けてるよ。何か服があるなら、着た方がいい。』

イヴ『えぇ!?///ほ、本当ですか!?///』

 

 まぁ、エプロンの下は白い服で

 

 生地が薄いようにも見えるし

 

 流石にこういう事態も起きるだろう

 

イヴ『ど、どうしましょう......服なんて持ってないです///』

環那『ふむ。なら、これで良ければ着れば良いよ。』

 

 俺はそう言って自分の上着を差し出した

 

 この子の身長は163㎝って所だろう

 

 この位なら、今着てる上着で透けてる下着を隠せるだろう

 

イヴ『い、良いんですか......?///』

環那『構わないよ。困ったときはお互い様だからね。』

イヴ『あ、ありがとうございます!あっ、お名前をお伺いしてもいいですか?』

環那『俺は南宮環那だよ。って、そんな事は良いから着替えておいで?誰かが来る前に。』

イヴ『はい!本当に、ありがとうございました!』

 

 そう言ってその女の子は裏の方に下がって行った

 

 俺はそれを見届けてからもう一度席に着き

 

 ふぅ、っと息をついた

 

 

 この出来事の後にイヴちゃんの名前を知って

 

 羽沢珈琲店に行ったときによく話すようになった

 

 .....何故か、ブシドーの師匠って言われてるけど

 

 そこは気にしないでおこう

 

 “回想終了”

 

環那「__と言う事があったんだよ。」

彩「へー、そんな事が。」

 

 イヴちゃんとの馴れ初めを話し終えると

 

 彩ちゃんと呼ばれた子はそんな声を上げた

 

 日菜ちゃんも感心したような顔をしてる

 

イヴ「カンナさんはとてもブシドーです!」

彩「そうだね!上着を貸してくれるなんて、すっごくいい人だね!」

環那「そうでもないでしょー。」

日菜「あはは!これは良いことだね!」

 

 可哀想と思ってしただけだから

 

 あれは親切心と言うか同情心なんだよね

 

 俺だって歯に青のりついてるの指摘されたら嫌だし

 

日菜「って、リサちーの誕生日プレゼント考えてたんだよね?」

環那「うん、そうだよ。」

彩「リサちゃん?どういうつながり?」

環那「幼馴染なんだよ。」

日菜「それと、元カレでしょー?」

彩、イヴ「え!?」

 

 日菜ちゃんはサラッとそう言った

 

 それを聞いた2人は驚いた表情をしてる

 

 そんなに驚く事なのかな?

 

日菜「それで今、リサちーの誕生日プレゼント選んでるんだよー。」

彩「なんで!?元って事は別れたんじゃないの!?」

環那「い、色々事情があってね。」

 

 日菜ちゃん、話をややこしくしないで......

 

 彩ちゃんとイヴちゃん、すごく困惑してるし

 

環那「お互いに嫌いになって別れたわけじゃないからね。」

彩「ふ、複雑そうだね。」

環那「端から見ればそこまで複雑でもないよ。意外とね。」

日菜「あれー?燐子ちゃん好き__」

環那「日菜ちゃん、少しは紗夜ちゃんを見習って慎みを持とうか。」

日菜「ムグー!!」

 

 危ない危ない

 

 もう少しで俺が燐子ちゃんを好きになってリサと別れたみたいになるところだった

 

 本当にこの子の口は活発だな

 

日菜「もー!なんで口塞ぐのー!」

環那「いらない事を口走りそうだからだよ。」

日菜「ひぇ。」

彩(な、なんか黒いオーラが見える......!)

イヴ(今、ヒナさんは何を言おうとしたのでしょうか?)

 

 さて、そろそろ真剣にプレゼント選ばないと

 

 3人も予定があるだろうし

 

 そろそろ離れようか

 

環那「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。」

日菜「ちょーっと待った!」

環那「ん?」

日菜「折角だし、プレゼント選び、手伝おっか?」

環那「!」

 

 日菜ちゃんは明るい声でそう言った

 

 あれ、3人で遊びに来てたんじゃないの?

 

日菜「さっき固まってたし、悩んでたんでしょ?」

環那「まぁ。」

日菜「なら、一緒に選ぼうよ!」

イヴ「それは楽しそうですね!」

彩「そもそも私達、なんで今日集まったんだっけ?」

 

 えぇ......(困惑)

 

 まさか、何の目的もなく集まってたの?

 

 これ、絶対に事の発端は日菜ちゃんでしょ

 

環那「そ、そういう事ならお願いしようかな。」

イヴ「はい!任せてください!」

 

 これは、かなり助かるな

 

 同年代の女の子の意見を聞けるのは大きい

 

 固まるくらい悩んでたしね

 

彩「それで、プレゼントの方向性とか決まってるの?」

環那「Roseliaの皆が服を買うらしいから、俺はそれに被らない物にしようかなって。」

日菜「あー、おねーちゃんが言ってた。」

彩「なるほどなるほど。」

イヴ「それでは、服はナシなんですね。」

 

 何か浮かんできそうなんだけどなー

 

 さっきうっすら見えたんだけど

 

日菜「予算とかはー?」

環那「大豪邸、広大な土地レベルじゃない限りは大丈夫。」

日菜「結構余裕あるね。」

環那「お金は無駄にあるから。」

 

 ほんとに無駄にあるんだよね

 

 今ならお金よりチロルチョコ......

 

 もしくはポケットティッシュ貰う方が嬉しい

 

彩「うーん、リサちゃんが喜びそうなものかー。」

イヴ「ありますよ!」

環那「おっ、なになに?」

イヴ「アクセアリーです!リサさんはとってもオシャレなので、服と合わせやすいアクセサリーなどは喜ばれるかと!」

環那、日菜「て、天才......!?」

 

 イヴちゃんは天才か

 

 初っ端下着とか言ってた俺とは格が違うな

 

 女の子ってすごい

 

環那「アクセサリーって、具体的に何がいいかな?」

日菜「それはもう、指輪じゃない?」

環那「指輪?」

日菜「こう、『リサ、この指輪を受け取って。』からの『はめる指は......言うまでもないよね?』って感じで左手の薬指にはめれば良いんだよ!」

環那、彩「うわぁ......」

 

 き、キザ過ぎる......

 

 俺がやったら即ビンタ制裁だよ

 

 リサがしなくても俺自らするよ

 

イヴ「真剣に言うと、指輪はサイズが分からないならやめておいた方がいいですね。」

環那「確かに。」

イヴ「だから、ネックレス、ブレスレット、ピアスなどいかがでしょう!」

日菜「さっすがモデルのイヴちゃん!センスあるー!」

イヴ「いえいえ!それほどでも!」

 

 イヴちゃん、モデルだったんだ

 

 淹れは全く知らなかったけど

 

 まぁ全く不思議じゃないね

 

日菜「環那君、イヴちゃんがモデルだなんて知らなかったでしょ?」

環那「うん、全然。」

日菜「じゃあ、あたし達の事も知らないんだー。」

環那「?」

日菜「あたし達、アイドルなんだよ?」

環那「へぇ、そうなんだ。」

 

 日菜ちゃんの言葉にそう返答する

 

 テレビとか見ないから全く知らなかった

 

 もうちょっとテレビ見ようかな

 

彩「し、知らなかったんだ。」

環那「テレビ、見ないからね。今ちょっと興味出たから見てみるよ。」

日菜「環那君社長だから、今のうちに媚び売ってればお仕事貰えるかもよー?」

環那「芸能界の闇を出してこないで?」

 

 この子、涼しい顔でとんでもないこと言ったよ

 

 怖いから聞かなかかったことにしとこ

 

日菜「まぁ、冗談は置いといて、アクセサリーショップ行こっか!」

環那「あ、はい。」

イヴ「ここにお仕事でお世話になったお店があるので、そこに行きましょう!」

環那「イヴちゃん、有能ってよく言われない?」

 

 俺はイヴちゃんの有能さに驚きつつ

 

 お世話になったって言うお店に案内してもらう事にした

 

 あの作戦の時のはネットで適当に買ったし

 

 アクセサリーショップとか初めて行くなぁ

__________________

 

 イヴちゃんに案内されたお店はすごかった

 

 なんかすごい高級感のある空気が漂ってて

 

 ショーケースに並んでるアクセサリーもすごい

 

 あの時買ったのが安物に見えるなー

 

環那「おぉ、こりゃすごい。」

彩「わ、わぁ、見たことあるブランドがいっぱい......」

日菜「彩ちゃん、こういうブランド見てるのー?」

彩「そ、そりゃ、いつかは持ってみたいって思うし。」

イヴ「私、いくつか持ってるのであげましょうか?」

彩「ち、ちがうの!自分で買うから良いの......!」

 

 種類はかなり多い

 

 さっきイヴちゃんが言ってたので決まりだけど

 

 そこまで絞っても相当種類がある

 

日菜「環那君ー、どれにするー?」

環那「うーん、難しいね。」

彩「だ、だだ大丈夫なの?」

環那「別に大丈夫だよ。」

 

 これ、選びずらいなぁ

 

 リサにどれが似合うかを考えた時

 

 正直、どれも似合うような気がするんだよねぇ

 

 リサ、ビジュアルエリートだから

 

彩「イヴちゃん、何かアドバイスあげないの?」

イヴ「リサさんの事はカンナさんの方がよく知っています。私が言えることは何もありません。」

環那「それが、ブシドー?」

イヴ「はい!ブシドーです!」

 

 なるほど、これがブシドーか

 

 って、そのことは一旦置いといて

 

 今はこの中から何か選ばないと

 

環那(......さぁ、どうする。)

 

 リサの肌の色、瞳の色

 

 背丈、遠くから見た時の体のバランス

 

 それらすべての要素の記憶を呼び覚ます

 

環那「......っ(頭、痛い。)」

日菜(すごい集中力。)

 

 少し前に使った魅力指数を求める公式

 

 それにさっきの記憶から出た数値を当てはめ

 

 アクセサリー1つ1つで数値を測定していく

 

環那「__これだ。」

日菜「決まったのー?」

環那「うん、決めた。」

イヴ「どれにするんですか?」

環那「えっとねー、店員さーん。」

 

 俺は計算を終え

 

 痛む頭を軽く押さえてから店員さんを呼んだ

 

 すると、すぐに近くにいた人が近づいて来た

 

店員「はい、どうされましたか?」

環那「このアクセサリー......」

彩(これかー!可愛い!良いと思うよ!)

環那「と、これと、あとこれ。あと、そこに並んでる3つもください。」

日菜、イヴ、彩、店員「え?」

環那「?」

 

 俺が注文を終えると、皆が目を丸くした

 

 彩ちゃんが一番すごい顔してるね

 

 リアクションいいな

 

 この子、芸能界でも逞しく生き残りそう

 

店員「あ、あの、合計400万円ほどになりますが......」

環那「カードで。」

店員「へ、は、はい。」

 

 俺は店員にカードを渡し

 

 その店員はレジの方に歩いて行った

 

 いやぁ、カードって便利だね!

 

環那「ありがとう!おかげでプレゼントはスムーズに決まったよ!」

イヴ「い、いえ、お役に立てて良かったです!(???)」

彩(あれ?同い年、なんだよね?......あれ?)

日菜(環那君、こういうところあるよねー。)

店員「お、お待たせいたしました。」

環那「あ、どうもー。」

 

 俺は店員さんからプレゼントを受け取って

 

 3人と一緒にお店を出て

 

 その後はお礼としてスイーツをご馳走した

 

 

 

 



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会見

 “リサ”

 

友希那、あこ、紗夜、燐子「お誕生日おめでとう(ございます)!」

エマ「おめでと。」

リサ「皆~!ありがと~!」

 

 今日は8月25日であたしの誕生日

 

 そんな日に、皆集まってお祝いしてくれてる

 

 あのエマまで来たのは驚いたけど

 

 なんだかんだで心許してくれてるのかな?

 

友希那「私からのプレゼントは服よ。」

リサ「わぁ~!ありがと~!開けてもいい?」

紗夜「えぇ、構いませんよ。」

 

 そう言われたので、包み紙をはがした

 

 中から出て来たのはチェックしてた服で

 

 秋服にって考えてたのだった

 

 けど、値段的にきつかったから諦めてたんだよね

 

リサ「これ、気になってたやつなんだよねー!助かるー!」

紗夜「宇田川さんの言った通りだったわね。」

あこ「でしょー!」

燐子「すごいよ......あこちゃん......!」

 

 なるほど、あこかー

 

 あの時、同じ場所にいたのかな?

 

エマ「私からも、個人的にこれをあげる。」

リサ「えっと、これは?」

エマ「私が開発した化粧水。」

あこ「開発!?」

リサ「す、すご。」

 

 流石は環那の実の妹

 

 出来ない事ないんじゃないの?

 

 化粧水作れるとか、ヤバいね

 

リサ「あ、ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ。」

エマ「効果は保証する。」

リサ「そこは心配してないかな~、あはは。」

 

 まさか、エマから何かを貰えるなんて

 

 ほんとに心許してくれた感じ?

 

 初対面の時の事を考えると感慨深いな~

 

エマ「じゃあ、私はお兄ちゃんからの手紙を読ませてもらう。」

リサ「環那から!?」

友希那「珍しいわね、手紙だなんて。」

紗夜「根っからのデジタル人間そうなのに。」

エマ「その認識は間違えてない。ただ、お兄ちゃんは達筆。」

燐子「ほ、ほんとだ......!」

 

 あー、そう言えば環那って字とか上手なんだ

 

 友希那が読みやすいように練習してたし

 

 それにしても手紙って、初めてもらったかも

 

エマ「それでは、代読させてもらう。『拝啓、残暑の候、今井リサ様がますますご清栄のこととお慶び申し上げます。』」

あこ「真面目!?」

燐子「意外な入り......」

リサ「いや、おかしくない?幼馴染への手紙の入り方じゃないよね?」

 

 いや、ほんとに何を書いてるの?

 

 一瞬意味が理解できなかったけど

 

 取り合えず、良い事なんでしょ

 

エマ「『って言う冗談は置いといて。』」

リサ「冗談かい!」

エマ「『誕生日おめでとう、リサ。俺はその場に行けないから手紙という形でお祝いさせてもらうよ。何故か5年くらい祝った記憶ないけど、気のせいだよね?』」

リサ「いや、気のせいじゃないでしょ。」

紗夜「捕まってましたからね。」

 

 手紙の雰囲気一気に変えて来たよ

 

 いや、いいけど

 

エマ「『18歳って特にコメントすることも無い年齢だけど。』」

リサ「まぁ、確かに。」

エマ「『リサは良い年の取り方してると思うよ?いやほんとに。』」

あこ(エマが呼んでたらなんだかおもしろいな~。)

紗夜(中々見れないエマさんの姿ね。)

エマ「『昔は幼稚園来るときも肝試しの時も大泣きして俺の服の裾掴んでたのに、成長したね。』」

あこ、紗夜、燐子「え?」

リサ「手紙で暴露しないで~!!///」

 

 小さい時の恥ずかしい話が......!

 

 誰にも悟られないようにしてたのに

 

 まさかここで暴露されるなんて......

 

友希那「そんな事もあったわね。」

リサ「やめて、お願い。」

エマ「『これで皆のリサのイメージはアップデートされたかな?』」

リサ「しょうもない事予知しなくていい!」

エマ「『リサはお姉さんぶってるけど根は涙もろくて誰かが支えてあげないといけない子だから、これからもリサの事をよろしくね。あと、ホラーも苦手だから映画を見に行く時とか気を付けてあげてね。環那より。』以上。」

 

 エマは手紙を読み終えて

 

 それをあたしに渡して来た

 

 いや、手紙を貰えるのは嬉しいんだけどさ

 

 絶対にあたしの事暴露する必要なかったよね?

 

友希那「感動的な良い手紙だったわね。」

燐子「今井さんへの思いが伝わってきましたね......!」

リサ「そこ、環那への判定甘くない?」

紗夜「今井さん......ふふっ、可愛い所もあるのね。」

あこ「小さい時のリサ姉ってそんな感じだったんだね~。」

リサ「あああ~!///掘り返さないで~!!///」

 

 あーもう

 

 これは今度仕返ししてやる

 

 環那の恥ずかしい秘密......はない

 

 え、今冷静になったら環那のそう言う話ない

 

 どんだけ自分の弱みひた隠しにしてるの?

 

リサ「ほんとにもう......この場にいないのにすごいインパクト残して行くじゃん。」

エマ「私の大仕事はこれで終わり。悪いけど、テレビつけて良い?」

リサ「別にいいけど、何か見たい番組あるの?」

エマ「お兄ちゃんの会見がある。」

紗夜「そう言えば、ニュースで今日とありましたね。」

エマ「お兄ちゃんの雄姿をリアルタイムで見ずに一人前の妹は名乗れない。」

友希那「重度のアイドルオタクみたいね。」

 

 そんな会話の後、エマはテレビをつけた

 

 そして、生放送をしてるチャンネルに回して

 

 テレビの前を陣取った

 

『~♪』

 

 テレビにはあの会社の新しいCMが流れてる

 

 環那が掲げた会社の新方針や新商品のテーマ

 

 それらが次々と流れてる

 

リサ「お、おぉ......」

友希那「な、なんだか緊張するわね。」

紗夜「なんでですか。」

リサ「いや、幼馴染がテレビに出るんだよ!?緊張するでしょ!」

紗夜「慣れました。」

リサ「あ、そっか。日菜はアイドルだったね。」

あこ「それに、環那兄なら安心ですしねー。」

 

 あこの言う通りだけど

 

 流石にこの緊張感はぬぐい切れない

 

 心臓が口から出て来そう

 

エマ「出て来た。」

燐子「わっ......///(スーツ......///)」

あこ「おー、普通にかっこいい。」

紗夜「意外としっかりしてるわね。」

 

 出てきた環那はスーツに身を包んで

 

 大きなスクリーンの前に堂々と立ってる

 

 どうしよう、すごいカッコいい

 

 後で写真撮らせてもらおっと

 

環那『本日はご多忙な中、ご出席いただきありがとうございます。』

 

 すごい真面目な挨拶だ

 

 でも、見てたら段々不安になってきた

 

 さっきの手紙の流れ的に

 

 そんな事を思いながらあたしは皆とテレビを見た

__________________

 

 “環那”

 

 目の前にたくさんいるカメラマン

 

 後ろにはバカでかいスクリーン

 

 あー、これが会見か......

 

 面倒くさいな!(正直)

 

環那「まず初めに、先日より報道されている先代社長及び親族のパワハラ問題について。これらは全て、我が親族の不徳の致すところ。この場をお借りし、親族一同を代表し謝罪いたします。」

 

 俺は深く頭を下げた

 

 なんであいつらのために頭を下げないけないんだよ......

 

 あームカつく

 

 あいつら、いつかぶん殴ってやる

 

環那「ただいま、過去に不当に解雇されたとされる方の身元を調査し、保障などの準備をしている段階にあります。」

 

 これのせいで仕事増えてるんだけど、仕方ない

 

 俺の方針を示すために必要なステップだ

 

 手を抜けば記者に揚げ足を取られかねない

 

環那「それでは、今後の会社の方針......もとい、私の目的の説明をさせていただきます。」

 

 俺がそう言うと、会場がどよめいた

 

 まぁ、普通ならこんな場でこんな事言わないしね

 

 けど、綺麗事なんて言っても仕方ない

 

環那「私の社長になった目的は、社内の組織体制を整えることです。」

 

 俺はそう言ってとあるグラフをスクリーンに表示させた

 

 これは、一般社員の南宮の社員の待遇の差

 

 社員の学歴に関するグラフ

 

 クソジジイがひた隠しにしてたデータだ

 

環那「見ての通り、南宮と他の社員では待遇には目に見えた差があります。分かりやすい所で行くと、年収で言えば1.75倍、残業時間に関しては見るに堪えないものです。」

 

 シャッター音が響き渡っている

 

 まぁ、これは美味しいネタだろうね

 

 いいよ、どんどん撮ってくれて

 

環那「身内経営と言うにもあまりに杜撰。事実、社を支えたのはほとんど南宮以外の社員の力。にもかかわらず正当な評価をされていない。私は、この荒んだ組織を作り直します。それにあたり、私が掲げる社訓は、こちらです。」

 

 そう言ってまたリモコンを操作し

 

 スクリーンには『実力主義』と表示されている

 

 それに反応してまたシャッター音が響いた

 

環那「実力を正当に評価し、働きに応じた報酬を支払う。原点回帰こそ、歪んだ状況の我が社に必要な物だと判断しました。それに辺り、この放送を見ている方々に聞いてもらいたいことがあります。」

 

 はぁ、やっと本題に入れる

 

 正直、これさえ言えればよかったんだ

 

 この放送は全国的に注目されてる

 

 ピースを集めるなら、チャンスは今だ

 

環那「今、我が社は実力のある人材を求めています。」

 

 そう言うとまた会場がどよめいた

 

 良い反応だ、おもしろ

 

環那「例えば、大切な人を守るためなど。そんな信念を持ってる人が好ましい。」

『それだと、先ほど掲げた実力主義にそぐわないのでは。』

環那「そのような事、あるわけがありません。なぜなら。」

 

 俺はフッと鼻を鳴らした

 

 ほんと、記者ってのは浅はかだなぁ

 

 こういう人種は俺の言う事を理解してくれると思ったんだけど

 

環那「信念に勝る力なし。」

『!!!』

環那「私の持論ですが、信念と実力は直結します。そのことは、誰より証明した来たと自負しています。」

 

 そう言うと、会場内は静まり返った

 

 まぁ、俺のやったことは全員知ってるもんね

 

 下手な事を言えば潰されかねないし

 

 色んな意味で口開けないんでしょ

 

環那「......最後になりますが、今、就職活動を頑張ってる皆さん、何か人に誇れる武器があるのなら奮って我が社の門を叩いてください。機会があれば、面接会場でお会いしましょう。これにて、会見は終了とさせていただきます。ありがとうございました。」

 

 俺が頭を下げると、控えめな拍手の音が聞こえた

 

 会場に流れてるのは賞賛などではなく

 

 動揺、畏怖、そんな空気だ

 

 全く持って予定通りだ

 

環那(あぁー、こっから個別で取材受けなきゃいけないのかー。めんどくさ......)

 

 舞台を出てから、そんな事を考えた

 

 今後の事を考えると記者を味方に付けるのは大事だけど

 

 ほんとに面倒くさいことこの上ない

 

環那(まっ、これも俺の役回りか......)

 

 お膳立ては着々と進んでる

 

 後は最後のピースを待つだけだ

 

 すべてそろえば、解放される......

 

 あー、お願いだから早く来てくれないかなー

 

 

 そんな事を考えながら、俺は取材を受ける部屋に歩いて行った

 

 

 

 



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滑り込み

 “リサ”

 

 驚いた

 

 会見の場で丁寧だった口調とか

 

 結局、態度自体は変わらなかった事とか

 

 そんなちょっとしたことじゃない

 

 もっと、驚くべきこと

 

リサ(あの環那が、人前で頭を下げた......!?)

 

 環那は絶対に頭を下げない

 

 それこそ、例え誰かを半殺しにしても

 

 相手によってはむしろ鼻で笑ってバカにする

 

 そんな環那があんな大衆の面前で......

 

友希那「意外だったわね、あの環那が......」

紗夜「すごい猫かぶりでしたね。」

燐子「いえ、雰囲気自体はいつもと変わりませんでした......けど、最初の......」

リサ「頭を下げるなんて、環那らしくない。」

 

 結構時間が経ったのに理解できない

 

 最初の行動だけはどうしても環那らしくない

 

 一体、何の目的が......

 

エマ「お兄ちゃんの目的は誰にも分からない。この私でさえ。」

あこ「エマも!?」

エマ「むしろ、お兄ちゃんはその本質をひた隠しにしている。」

リサ「!」

 

 エマは静かな声でそう言った

 

 環那の本質?

 

 そんなの、もう分かり切ってるんじゃ......

 

エマ「でも1つ、確かに言えることはある。」

燐子「そ、それは......?」

エマ「それは......」

Roselia「......」

 

 少しの沈黙

 

 エマは瞳を閉じて口をつぐんでいる

 

 1つ、確かに言える事......

 

 それって......

 

エマ「__私の、お兄ちゃんである事!」

友希那「え?」

リサ「へ?」

紗夜「......(あー......)」

あこ「えぇ!?」

燐子「そ、そう言う......」

エマ(ドヤァ)

 

 エマは凄いドヤ顔を浮かべてる

 

 あぁ、そういう事かー

 

 まさか、ここでエマがボケるなんて

 

エマ「今は今井リサの誕生を祝う事が本題。楽しむことこそ、お兄ちゃんの願い。」

紗夜「まぁ、そうですね。」

あこ「折角のカラオケだし、盛り上がって行こー!」

リサ「そだね!エマ、何か歌ってよ!」

エマ「なんで私が。」

リサ「誕生日権限だよー!」

エマ「......独裁者。」

 

 エマはそう言ってスッと立ち上がり

 

 テーブルに置いてあるマイクを手に取った

 

 あっ、歌ってくれるんだ

 

友希那「何を歌うの?」

エマ「しゅわりん☆どり~みん」

友希那、リサ、紗夜、あこ「ブフッ......!?」

燐子「い、意外な選曲......」

エマ「あのグループは中々いい。」

 

 ここで意外な一面出て来たんだけど

 

 驚いて飲み物吹き出しそうになったって

 

 エマってアイドルとか見るんだ

 

エマ「私には生まれつき絶対音感も備わっていた。」

あこ「なにそれかっこいい。」

エマ「心して聞くと良い、私の歌を。」

リサ(なにこのラスボス感。)

 

 そんな事を思ってる内にイントロが流れ出し

 

 エマが静かに息を吸い込んだ

 

 明るい音と落ち着いてるエマのギャップが面白いけど

 

 これ、どうなるんだろう

 

 あたしは怖いもの見たさみたいな感情を抱きながら、エマが歌うのを見た

__________________

 

 あれから3時間

 

 あたし達はカラオケで盛り上がった

 

 基本的にうちのメンバーは歌上手いんだけど

 

 エマの歌には驚かされた

 

 上手いと言うか本人そのものだったし

 

 あれが天才か......

 

リサ「__ふぅー、楽しかったー。」

 

 家に帰って来て、あたしはベッドにダイブした

 

 すごい疲労感だけど心地いい

 

 本当に今日は楽しかった

 

リサ(皆からのプレゼントでコーデの幅広がったし、秋が楽しみだなー。)

 

 部屋でボーっとそんな事を考える

 

 まだ買おうと思ってる服もいっぱいあるし

 

 どんなのと合わせようかな

 

リサ「......んっ。」

 

 なんだか、少しだけ眠たい

 

 流石に疲れたのかな?

 

リサ(ちょっと、仮眠しよ。アラームセットして、っと。)

 

 あたしは携帯のアラームをセットし

 

 ゆっくり目を閉じると

 

 意識が段々と落ちていった

__________________

 

リサ「__ん?」

 

 目を開けると何故かあたしは椅子に座っていた

 

 華やかな装飾に美味しそうな料理

 

 しかも、あたし、綺麗なドレス着てるし

 

 これなに?超困惑って感じ~(?)

 

リサ(ん?)

環那「おーい、リサー。」

リサ「環那?え、何してるの?」

環那「何って、覚えてないの?」

 

 え、知らないけど?

 

 今、すっごい困惑してるんだけど

 

 何が起きてるの?

 

環那「今日は結婚式だよ?」

リサ「えぇ!?///」

環那「?」

 

 け、結婚式?誰の?

 

 もしかして、あたしと環那......?

 

リサ「えっと、誰と誰の......?///」

環那「寝ぼけてるのー?もちろん......」

リサ「も、もちろん......!///」

環那「会社の社員とその彼女さんだけど。」

リサ「......」

 

 あーはいはい、そんな事だと思ったよ

 

 何回あたしが空振り食らってきたと思う?

 

 野球で言うと軽く100打席は三振してるよ?

 

リサ(って、待って待って?)

 

 なんであたし、環那と社員さんの結婚式に来てんの?

 

 おかしくない?

 

 ......ん?

 

リサ「えっと、なんであたしは環那とここに来てるの?」

環那「え、そりゃ、社員君が奥様もどうぞって招待状出してくれたから。」

リサ「......?」

環那「?」

 

 あれ、あたし、耳遠くなった?

 

 今、奥様って聞こえたんだけど?

 

 ......あっ、奥沢って言ったのかな?(?)

 

 あたしって美咲だったんだ~(?)

 

リサ「えーっと、今、奥沢って言った?」

環那「奥沢?美咲ちゃん?いや、俺は言ってないけど。」

リサ「......」

 

 つまり、奥様って言ったって事だね

 

 状況的に言われたのはあたし......

 

 つまり、奥様=あたし?

 

リサ(えっとー......?)

 

 あたしは鞄に入ってる携帯を見た

 

 待ち受け画面に映ってるのはあたしと環那と......そこそこ大きな子供

 

 子供は大体、5,6歳くらい

 

リサ「えっと、今、子供何歳だっけ。」

環那「6歳だよ。4月7日生まれ。」

リサ「今、あたし何歳?」

環那「24歳だけど。」

 

 えっとつまり?

 

 あたしは18歳で結婚して子供産んで

 

 結婚相手は環那だと?

 

リサ「あれ、おかしいな。」

環那「?」

リサ「あの環那があたしと結婚?何かのドッキリ......?」

環那「そんなに不思議かな?」

 

 いやだって、あの環那だよ?

 

 天上天下友希那独尊

 

 自分の命より友希那を優先するような環那が?

 

環那「それにしても懐かしいね。結婚式。」

リサ「え?」

環那「俺達は高校卒業してすぐに結婚して、高校在学中から準備してたっけ。」

 

 待って、あたし、その記憶ない

 

 あれー?環那はなんで懐かしんでるの?

 

リサ「あの、環那__」

環那「あ、そろそろ俺が余興をする番だ。」

リサ「え、余興?」

 

 環那は「よし。」と言って立ち上がり

 

 新郎新婦の横にある舞台に歩いて行った

 

 え、余興って?環那がするの?

 

環那『えー、それでは余興として、歌を歌わせていただきます』

リサ「え?」

環那『曲名は、今を時めく大人気アイドルPastel*Palettesnoのデビュー曲「しゅわりん☆どり~みん」です。』

「お~、いいぞ~社長~。」

「頑張れ~。」

リサ「いや、ちょ、ま......っ。」

 

 待って、色々とおかしいけど

 

 すごい重大な問題ある

 

環那「スゥ......」

リサ(待って待って待って。)

 

 環那に、歌は......

 

 歌だけは......

 

リサ「環那は......!」

__________________

 

リサ「__歌だけは下手くそなのー!!!って、は!?」

 

 そう叫ぶのと同時に目が覚めた

 

 あ、夢だったんだ

 

 まぁ、当然だよね、環那だし(冷静)

 

リサ「はぁ......いい夢かと思ったら酷い夢だった......」

 

 危なかった......

 

 もうちょっとで環那の歌を夢で聴かないといけなくなる所だった

 

 致命的に下手くそだからなぁ......

 

リサ「って、もう11時50分!?寝過ごしちゃったか~。」

 

 アラームに全然気づかなかった

 

 相当熟睡してたんだなー

 

 いやー、参った参った!

 

リサ「って、あれ?あたし、電気けしたっけ?お母さんが消したのかな?」

『ドンドンドン!』

リサ「っ!!」

 

 あたしが部屋を見渡してると

 

 部屋の窓が勢いよく叩かれた

 

 あれ、ここ2階なんだけどなー?

 

『ドンドンドンドンドン!!』

リサ「ひぃ!な、なにぃ......」

 

 怖い怖い怖い

 

 これ、どうしよう

 

 開けた方がいいの?それとも無視?

 

 いやでも、もし不審者だったらあれだし

 

 チラッとチラッとだけ見てみよ

 

リサ「......えっ、と......誰もいない......?」

 

 カーテンを開けて外を見ると、誰もいなかった

 

 いつも見てる景色だ

 

 気のせいか風の音だったのかな?

 

 だってここ、2階だし?

 

 そう思って、あたしは換気のために窓を開けた

 

リサ「もう全くー、驚かさないでよねー。おばけかと思った__」

「__おばけより人間の方が怖くない?」

リサ「そうかなー。この状況じゃ、おばけも人間も、こ......わ......!」

「やぁ。」

リサ「き、きゃぁぁぁぁぁああ!!!」

「ヘブシッ!!!」

 

 上から出て来る謎の影

 

 あたしは驚きとか恐怖が一気に押し寄せて来て

 

 その影の顔っぽい部分をひっぱたいた

 

リサ「なになになに!?誰か__」

環那「俺なんだけど......」

リサ「あっ、環那。」

環那「おはよう、随分長い仮眠だったね。」

 

 上から出てきた影の正体は環那だった

 

 いや、何してんの?

 

 なんであたしんちの屋根にぶら下がってるの?

 

リサ「えっと、何してんの?」

環那「いやー、仕事が終わってリサに誕生日プレゼント持ってきたんだけど、寝てたから、4時間くらいリビングにいて、起きるタイミングを見計らって驚かせに来たんだ。」

リサ「最後の過程、いらなくない?」

環那「どうせ何かするなら面白い方が良くない?」

 

 何言ってるのかなー?この環那はー?

 

 あたし、ちょー怖かったんだけど

 

 心臓止まるかと思ったんだけど

 

環那「まぁ、冗談は置いといて、っと。」

 

 環那はそう言いながら部屋に入って来た

 

 すごい回転しながら入って来たけど

 

 相変わらず、どんな運動神経してんの?

 

環那「と言うわけで、プレゼントをお届けに参りました、南宮環那でーす。」

リサ「普通に来てよ(切実)」

環那「いや、久し振りにリサで遊びたくなって。」

 

 急にドS発動してきた

 

 あたしからしたら冗談じゃないんだけど

 

 ......もう一回ひっぱたきたい

 

環那「それで本題なんだけど。」

リサ「あ、うん。」

環那「プレゼント持ってきたんだ。」

リサ「えっと、それのこと?」

環那「そう、これだよ。」

 

 環那が手に持ってるのは箱

 

 どこか高級感のある、立方体の箱

 

 なんか、アクセサリーケースっぽい?

 

環那「これ、何だと思う?」

リサ「えーっと、アクセとか?」

環那「おぉ、やるね。流石はリサ。」

 

 か、環那っぽくない

 

 今まではあたしに欲しい物聞いて来たのに

 

 今年は自分で選んで、しかもそれがアクセ?

 

環那「と言うわけで、ハッピーバースデーイ!」

リサ「あ、ありがと。って、あれ、このマーク......あのブランドのやつ!?」

環那「リサも知ってるの?一緒に選んでくれた彩ちゃんも知ってたけど。」

リサ「い、いや、超高級ブランドで女の子なら一度は夢見るアクセだよ!?」

環那「そうなんだ。(大方、彩ちゃんの言ってた通りか。)」

 

 え、らしくない

 

 あたしにこんなの買うなんて

 

 友希那になら分かるけど......

 

リサ「あ、開けて良い?」

環那「いいよー。」

リサ「えっと、じゃあ、失礼して......」

環那「?(なんでかしこまってるんだろ。)」

 

 あたしは恐る恐るケースを開けた

 

 なかにはいくつかの綺麗なアクセ

 

 1つ1つに宝石が付いてる気がするけどー

 

 気のせいじゃないね、うん

 

リサ「えっ、すご。」

環那「俺にはあんまり分かんないや。リサに似合うのを買っただけだし。」

リサ「似合うと思うって言わないのは環那らしいね。」

環那「数字は嘘をつかないからね。」

 

 あー、あの、どれだけ似合うかの計算か

 

 マジでなんでも計算できんじゃん

 

 むしろ、出来ないのある?

 

環那「まぁ、気に入ってくれたみたいでよかった。じゃあ、俺はそろそろお暇するよ。」

リサ「え、もう帰るの?」

環那「もう日付変わるしね。」

 

 環那はそう言って窓の外に身を乗り出した

 

 そこから帰るの?玄関あるのに?

 

環那「あっ、そうだ。」

リサ「なに?」

環那「俺、『しゅわりん☆どり~みん』歌えないよ?歌うのは苦手だから。」

リサ「へ?__っ!?///」

環那「じゃ、またね!」

リサ「え、ちょ、まっ__」

 

 あたしが引き留めるより早く

 

 環那は窓の外に飛んで行ってしまった

 

 てか、あたしの夢の内容知って......

 

 いや、寝言聞かれた......!?

 

リサ(ど、どこまで聞いたの......?///環那ー!!///)

 

 あたしは心の中でそう叫び、しばらく悶え

 

 落ち着けたのは10分くらい経ってからで

 

 その後はお風呂に入ってから、

 

 現実逃避するように無理やり眠りについた

 

 

 

 



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愛を知る授業

 “琴葉”

 

 最近、同居人がおかしい

 

 いや、元々異常な雰囲気を身に纏ってますが

 

 それでも彼の普通から外れてる気がする

 

琴葉(一体、何なんでしょうか......)

 

 ニヤケてて、性格悪くて

 

 ご飯は美味しくて、部屋も綺麗にする

 

 一見すれば、出会ったときと何も変化はない

 

 でも、何かがおかしい

 

琴葉(一番おかしかったのは......あの日......)

 

 あの、無理矢理お酒を飲ませた日

 

 あれが彼の本心だとするなら

 

 もしかしたら大きな悩みを抱えてるんじゃ......

 

 彼にしては珍しい類の悩みですが

 

琴葉(それなら、年上の私が相談に乗らないといけないですね!)

 

 あの南宮君が思春期らしい悩みを抱えてる

 

 これは、年上らしい姿を見せるチャンス!

 

 そして、あわよくば......!

 

琴葉(そうと決まれば!)

 

 私はバッとソファから立ち上がり

 

 彼の話を聞く準備を始めた

 

 ......まぁ、お酒とおつまみ買いに行くだけですが

__________________

 

 “環那”

 

環那「......」

 

 今日も俺は会社で仕事をしてる

 

 これから社内で導入するシステム作り

 

 会社を管理するシステムも確立しないとだし

 

 仕事の効率化、収入査定などのシステム

 

 それのプログラミングにかかりきりだ

 

 まぁ、もうすぐ終わるんだけど

 

哲司「__環那君......じゃなかった、社長。」

環那「ん?哲司君に瑛士君じゃん。どうしたの?」

瑛士「私達が社内調査した結果のご報告に参りました。」

環那「あぁ、もう集まったんだ。」

哲司「こちらをご確認ください。」

 

 哲司君はそう言って資料を渡して来た

 

 そこには2人に頼んで集めてもらった情報が載ってる

 

 主に、人格に問題がある人間を調べてもらった

 

環那「うーん、自分の身内達が酷過ぎて感覚おかしくなってるよ。」

哲司「は、はははっ、キッパリ言いますね。」

環那「でも、そうでしょ?12人もコネ入社がいて使い物になるのが5人。残りの7人は性格最悪、仕事も微妙なゴミクズだよ?」

瑛士(は、ハッキリ言うな......その通りだが。)

 

 まぁ、どっちにしても切れる社員はいない

 

 あんまり無暗に切ると不当解雇って言われるし

 

 流石に今は手出しできないか

 

環那「うん、もういいよ。2人は仕事に戻って。」

哲司「分かりました。」

瑛士「社長も、仕事は程々に。」

環那「分かってるよ。」

 

 俺がそう答えると2人は社長室を出て行った

 

 その後、俺はふぅっと息をついた

 

環那「はぁ......」

 

 時計を見ると、もう夜の10時

 

 朝の10時に出勤したから、12時間労働か

 

 まぁまぁ働いたかも

 

環那(社員はもうほとんど残ってないし、俺もそろそろ帰ろ。)

 

 俺はそう思って椅子から立ち上がり

 

 もう家に帰ってしまう事にした

 

 夏休みはあと4日あるし、間に合うでしょ

__________________

 

 家に帰って来る頃には10時45分になってた

 

 会社から家まで結構時間かかるなぁ

 

 しんど......

 

環那「ただいまー......ん?」

琴葉「あ、南宮君!おかえりなさい!」

環那「......なんで、お酒用意してるの?」

琴葉「飲むからです!」

 

 また飲むのか......

 

 最近、やけにお酒飲んでるな

 

 そう言う気分なの?

 

環那「全く、また俺に飲ませたり悪酔いしたりしないでね?」

琴葉「分かってますよ!でも、付き合ってください!」

環那「はいはい、仕方ないなぁ......」

 

 これは逃げられそうにない

 

 仕方ないから付き合ってあげるかな

 

 どうせ酔っぱらうだろうし

 

琴葉「じゃあ、そこに座ってください!」

環那「りょーかい。」

 

 琴ちゃんにそう言われ

 

 俺は琴ちゃんの隣に腰掛けた

 

 てか、今日はソファなんだ

 

 いつもはテーブルなのに

 

琴葉「と言うわけで、2人だけの飲み会を始めます!起立!」

環那「今座ったとこなのに?」

琴葉「冗談ですよ!いやですねー!」

環那「もう飲んでる?すっごいそのテンションウザいんだけど。」

琴葉「ひどい!?」

環那「冗談だよ。」

 

 俺はそう言って琴ちゃんが用意してあった飲み物に口をつけた

 

 何故か透明なコーラだけど

 

 まぁ、飲めてお酒じゃないなら何でもいいや

 

琴葉「__ぷっはー!///この一杯のために生きてますねー!///」

環那「随分燃費がいいね。羨ましいよ。」

 

 酒一杯だけで生きられる

 

 うーん、羨ましい

 

琴葉「もー、そんな冷めた反応しちゃってー///若いのに枯れてるんじゃないですかー?///」

環那「若かいからって枯れない訳じゃないんだよ。」

 

 って、俺って枯れてるのかな?

 

 別にそんな風に思ったことはないけど

 

 まだ緑の葉一枚くらいあるはず、多分

 

琴葉「澄ましちゃってー///もっと若さを出しましょうよー///」

環那「若さを出していい立場じゃないんだよ。」

琴葉「社長様も大変ですねー///」

 

 ほんとに大変だよ

 

 でも、そうも言ってられない

 

 俺しか出来る人間がいないし

 

琴葉「でもー、もっと学生らしいことしましょうよー///」

環那「学生らしい事?」

琴葉「例えば、恋とかー///」

環那「ふっ。」

 

 俺は小さく笑った

 

 なんて言うか、26歳らしくない

 

 どっちかと言うと中高生位の感じがする

 

環那「恋が学生らしいって......なんて言うか、浅はかだね。」

琴葉「酷い!///」

 

 俺は大きなため息をついた

 

 てか、そう言うのは自分の方が気にしたらいいのに

 

 彼氏いない歴=年齢なんだし

 

琴葉「そ、そんな澄ました態度とってもー、まだ未経験のお子様ですしー?///そう言う意味では私と大差ありません!///」

環那「はいはい。(あるんだけど。)」

琴葉「そんなお子様な南宮君は思春期らしい悩みはないんですかー?///今なら、お・と・なの私が聞いてあげますよー?///」

環那「大人ってすごい強調するね。」

 

 大人って自分で言うのが大人らしくない

 

 まぁ、そこが面白いんだけどね

 

 馬鹿っぽくて

 

環那「まぁ、いいや。」

琴葉「ほらほらー?///話してみてくださいよー///」

環那「仕方ないなぁ。じゃあ、話してあげるよ。どうせ忘れるだろうし。」

 

 俺はまたため息をついた

 

 酔っぱらいは素直に付き合うのに限る

 

 どうせ、明日になったら忘れてるだろうし

 

 お悩みサンドバックにでもしよう

 

 そう思い、俺は話を始めた

 

 “琴葉”

 

環那「最近、分からないんだよね。」

琴葉「分からない?」

 

 南宮君が話し始めた

 

 一応、酔いすぎないように控えめにしてて

 

 彼の話をちゃんと聞ける理性は残ってます

 

環那「人を好きになるという事とはどういうことなのか。」

琴葉「!」

 

 彼は神妙な面持ちでそう言った

 

 端から聞けば思春期らしい悩みですけど

 

 口調的にはもっと重く聞こえる

 

環那「利用価値の有無で人間を見て来た弊害か、人間を愛するとか、そう言う感覚が理解できないんだ。」

琴葉「そ、それは......」

 

 ありそう......

 

 彼の態度は人を人とも思わないようなもので

 

 それこそ、まるでゴミを扱う時のような......

 

 無感情で、躊躇がない

 

環那「......その理解できない感情に、自分を否定されてるから更にムカつく。」

琴葉「?」

環那「なんで、友希那を......!」

琴葉「南宮君!?」

 

 南宮君は怒りを露にし

 

 手に持ってるグラスを握りつぶした

 

 あれ、相当頑丈な物なのに......おかしいですね?

 

琴葉「お、落ち着いてください!南宮君!」

環那「っ!琴ちゃん!?」

 

 私は彼の名前を叫び

 

 ソファに勢いよく押し倒した

 

琴葉「その、私にも、恋なんて分かりません......///」

環那「う、うん、知ってる。」

琴葉「けど、1つ、確かに言えることがあります///」

 

 そう言って、大きく深呼吸する

 

 私は教師で彼の担任

 

 そんな立場でこんなことは許されない

 

 けど、同居人として、1人の女としてなら

 

 今から口にする気持ちも、許されますよね?

 

琴葉「私は、あなたが好きです///」

環那「えっ?」

 

 私の言葉に彼は目を丸くした

 

 でも、こっちの方が驚きですよ

 

 こんなこと自分の口が言えるなんて

 

琴葉「最初は、あなたの事は苦手でした。けど、可哀想な境遇だと思って同居していました。」

環那「......」

琴葉「そんな中であなたと過ごすうちに、一緒にいるのが楽しくなって、好きになって、結婚したいと思いました......///」

環那「......付き合うとかじゃないんだ。」

 

 彼は少し笑いながらそう言った

 

 ですよね!?飛躍し過ぎですよね!?

 

 私自身もそう思ってるんですよ!

 

琴葉「い、いいんです、あなたとなら結婚でも!///だから、その......///」

環那「?」

琴葉「......私の......処女を貰ってください///」

環那「へ?」

 

 ......どうしよう、言っちゃいました

 

 もう引き返せません

 

 このまま、彼と......

 

琴葉「今は一晩だけでいいので、私を愛してください///」

環那「......良いの?立場的に。」

琴葉「今は浪平琴葉と言う1人のあなたを愛する女です///」

環那「......」

 

 彼は真顔で私を見ている

 

 迷っているようにも見える

 

 これは、どうなるのでしょうか......

 

環那「......じゃあ、1つお願い。」

琴葉「は、はい......?///」

環那「俺に、愛を教えて。琴ちゃんが抱く思いや感覚、その全てを。」

琴葉「っ!?///」

 

 彼はそう言い切ると

 

 押し倒してる私を押し返し

 

 逆に私を押し倒した

 

環那「......教えてね。」

琴葉「きっと、見つかりますよ///私はあなたを愛してるんですから///」

環那「そっか。なら、始めよう。」

琴葉「ひぅ......///」

 

 彼はそう言い、私の服に手をかけた

 

 きっと、これは彼にとっては1つのステップ

 

 愛を知るために必要な授業と何ら変わらないでしょう

 

 でも、それでもいい

 

 私は彼を愛してて、彼もそうしてる間だけは愛してくれる

 

 そして、彼が愛を知って進む道の先には

 

 もしかしたら、私がいるかもしれないんですから

 

 

 

 



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翌朝

琴葉「......」

 

 朝起きて目に飛び込んできた景色はとんでもなかった

 

 乱れた布団、脱ぎ散らかした自分の服と下着

 

 そして......何も衣服を身に纏ってない南宮君

 

 それらの情報をまとめた感想は『やばい』でした

 

琴葉(あああ~!!///)

 

 昨晩の私はなんてことを......!

 

 多少酔ってたとはいえ生徒を押し倒して

 

 それであんな誘うような真似をするなんて

 

琴葉(......いや、後悔はないんですけど。)

 

 自分で言った通り

 

 私は彼を愛する女性として抱かれた

 

 屁理屈と言われるかもしれないですが

 

 それでもいいです

 

琴葉(彼の気持ちは分かりましたし///私も、案外望み薄ではないかも......///)

環那「......何1人でクネクネしてるの?怖いよ?」

琴葉「うひゃぁぁぁあ!?///」

環那「何その鳴き声。」

 

 彼はそう言って薄く笑った

 

 その顔は肌の白さと相まって生気を感じずらく

 

 死の淵にいる住人を見ているようだった

 

環那「琴ちゃん、体の不調はない?」

琴葉「は、はい。特には。」

環那「そっか。なら良かった。」

 

 て言うか、驚くほど異常がない

 

 初めては痛いって聞いてたのにそうでもなかったし

 

 彼、やっぱり天才なのでは......?

 

琴葉「愛がどう言うものか、少しは分かりましたか?」

環那「......何となく、漠然とは。」

琴葉「分からなかったんですね......」

環那「......いや。」

 

 彼は首を横に振った

 

 今度は曇った表情をしてる

 

環那「......分かりたくなくなるんだ。」

琴葉「え?」

環那「これを理解したら、今までの自分の全てを否定してしまう......!だから嫌になって、脳が拒否するんだ......っ!」

琴葉「っ......!」

 

 そう言う彼の声は苦しそうで

 

 額には透明な汗がにじんでおり

 

 光の少ない瞳は大きく震えてる

 

琴葉「落ち着いてください。」

環那「っ!」

琴葉「大丈夫です。」

 

 私は彼を抱きしめた

 

 いや、身を挺して止めたというべきでしょう

 

 あのままでは、暴れ出してもおかしくなかったですから

 

琴葉「......あなたの大切な人の事は良く分かっています。」

環那「......」

 

 彼にとって、湊さんがどんな存在か

 

 それは、あの態度を見れば誰でも理解できる

 

 彼女は、彼を辛うじて人間に繋ぎ止めている

 

 正に、神そのもの

 

琴葉「あなたならきっと、大切なものを捨てずいられる方法を見つけられます。」

環那「大切なものを捨てずにいられる......方法?」

琴葉「そうです。あなたの力なら。」

 

 そう、この人にできないことなんて無い

 

 もし出来ない事があるとすれば

 

 それはもう人類の手に負えないでしょう

 

環那「......買い被り過ぎ。」

琴葉「え?」

環那「すべて失わないなんて、傲慢だよ。」

 

 彼は静かな声でそう言った

 

 その声はさっきと違って怒りは感じず

 

 むしろ、何かを憂いているように感じる

 

環那「人が何かを失うのはシステム的に決まってる。どんなに頑張って何かを手にしても、いつかは消え去って、死ねば何も残らない。それは何者にも抗えない、プログラム。」

琴葉「......っ」

環那「......だと、思ってた。」

琴葉「!」

 

 私は首を傾げた

 

 彼が自分の考えを帰るのは珍しい

 

環那「俺は獄中で何人か死んだ人間を見た。自殺、他殺、病死、色んな死に方をしてる人間がいた。」

琴葉「......っ。(そ、そうだったんですか。)」

環那「そんな時に何度も見た......死人のために悲しみ、泣く存在を。」

琴葉「......なるほど。」

環那「その時に思ったんだ。死んでも、残るものはあるってね。」

 

 なるほど、これが彼の答えですか

 

 リアルな死に触れた末に出た結論

 

 これもまた、彼らしい

 

環那「死んでも残るものは何なのか。悲しみなのか、それとも......」

琴葉「それとも......?」

環那「......いや、人の死を悲しんだことなんて無いから分かんないや。」

 

 そう言って、彼は笑った

 

 まぁ、そうでしょうね

 

 彼にお世話になった身内なんていませんし

 

環那「さて、そろそろ時間だ。俺は仕事に行ってくるよ。」

琴葉「あっ、私は今日はお休みなので家事を頑張りたいと思います!」

環那「ははっ、期待してるよ。包丁の使い方、気をつけなよ?」

琴葉「はい!勿論です!」

環那(まぁ、指さえ切らなければ大丈夫でしょ。)

 

 彼は笑いながら部屋を出て行った

 

 なんだか、夫婦みたいな会話でしたね

 

 うーん、大変良く出来ました!

 

 私にしては!

__________________

 

 “リサ”

 

友希那「__さぁ、今日は良く集まってくれたわね。」

紗夜「練習後です、湊さん。」

 

 練習後、あたし達はファミレスに来た

 

 その目的はとある議題の会議で

 

 その為にエマも呼んだ

 

友希那「それで、今日の議題なのだけれど。環那の誕生日についてよ。」

エマ「待ってた、この日を。」

 

 エマは目をキラキラさせてる

 

 それはもう、今までにないくらい

 

 なんか若干眩しいもん

 

友希那「私達は過去何度か環那の誕生日プレゼントを選んできたけれど......」

 

『友希那が存在してるという事実だけで充分だよ。』

『友希那、尊い......!』

『プレゼントはもう一生分貰ったさ。』

 

友希那「こんな調子よ。」

紗夜、燐子、あこ(言いそう。)

リサ「そんな感じだねー。」

 

 懐かしいなー

 

 小学校低学年くらいの時だったかなー

 

 友希那が作った折り紙のメダル貰って、泣いて喜んでたし

 

 てか、今でも額縁に入れて飾ってあるし

 

燐子「南宮君にはすごくお世話になったので......頑張ってお祝いします......!」

あこ「り、りんりんも燃えてる......!」

友希那「と言うわけで、環那が欲しがりそうなものを考えるわよ。」

 

 環那の欲しい物かー

 

 うーん、イメージ湧かない

 

 基本的に物欲ないからなー

 

紗夜「まず、彼って物欲とかあるんですか。」

友希那、リサ「ない(わ。)」

紗夜「早速とん挫したんですが。」

 

 ヤバい、マジで思いつかない

 

 え、環那って何が欲しいの?

 

 全然わかんないんだけど

 

あこ「うーん、あこは何となくわかるかも。」

リサ「え、マジ?」

あこ「うん。環那兄の好きなものって少ないし。」

紗夜「嫌いな物の方が多そうですからね。」

 

 環那へのイメージ酷過ぎでしょ

 

 まぁ、仕方ないか

 

 紗夜とは性格の折り合い悪いだろうし

 

あこ「やっぱり、環那兄の好きなもの......てゆうか、人と言えば、りんりん!」

燐子「......!?///」

あこ「だから、りんりんをプレゼントする!」

紗夜「不健全ですよ!」

 

 り、燐子がプレゼント......

 

 うわ、すごい喜びそう

 

 それで美味しい物食べさせてもらえそう(名推理)

 

リサ「まぁ、流石にそう言うのは良くないし。もうちょっと健全な方向で考えよ?」

あこ「えー。じゃあ、何があるかなー......」

紗夜「文房具とかではダメなんですか?あの人、実用的な物の方が喜びそうですが。」

リサ「そ、それはー、まぁ、紗夜はそれでいいと思うけど。」

紗夜「どうしました?」

リサ「その、あたしは大分すごいの貰ったから、それは通らないって言うか......」

友希那「そう言えば、あの日の夜中に環那の声が聞こえたわね。あの時に貰ったの?」

 

 皆の視線があたしに集中してる

 

 あー、そっか

 

 まだみんなに貰ったの見せてなかったんだ

 

 そう思って、あたしは携帯を操作し

 

 テーブルの上に置いた

 

リサ「これだよ。」

友希那、紗夜、燐子、あこ「!?」

エマ「全部同じブランドで、今井リサの持ってる服とのバランスが取れるものを完璧な計算の元選んだ。」

紗夜「あ、あの、今調べたんですが、それら全部でとんでもない額になるんですが?」

あこ「わー、いいなー(錯乱)」

燐子(貰っても、こ、こわくて身に付けられなそう......)

 

 皆、やっぱり驚いてるね

 

 うん、だと思うよ

 

 あたしもまだ怖くて外に持ち出せてないもん

 

 若干自慢したい気持ちあるけど

 

友希那「流石は環那ね。私達とはスケールが違うわ。」

エマ「当然。」

紗夜「これは、さっきの宇田川さんの案を今井さんが実行するのも辞さないですね。」

リサ「えぇ!?///い、いや、別に環那なら良いんだけど......その、心の準備が......///」

紗夜「あと11日はありますが。」

 

 あ、そうだったね

 

 い、いやでも、リボンって......

 

 え、どういう感じ?

 

燐子「今井さん......」

リサ「燐子?」

燐子「その、一緒に頑張りましょう......!」

リサ(燐子がやる気になってる!?)

燐子「その、私も南宮君にお父さんの仕事関係の恩があるので......!」

 

 えっと、状況がおかしくなってるんだけど

 

 あたしと燐子がプレゼントになるの!?

 

友希那「まぁ、環那の事だから下手なことはしないわよ。特に、大切に思われてる2人には。」

エマ「そうなると、私は燐子たちと被る。」

あこ「え?」

エマ「私も、お兄ちゃんの寝室で同じことをしようと思ってたから。」

紗夜「やめなさい。」

リサ「あ、あはは......」

 

 エマは相変わらずだなー

 

 いや、最近はマシになったんだっけ

 

 環那が言うには

 

友希那「と言うわけで、2人は頑張って。(私もだけれど。)」

リサ「い、色々考えるよ。」

燐子「南宮君に喜んでもらえるように頑張ります......!」

紗夜「じゃあ、私達の話をしましょうか。」

あこ「リサ姉みたいにパーティーとかしましょうよ!エマに予定聞いて!」

エマ「任せて。ついでにお店の予約も。」

 

 それから、会議は順調に進んで行き

 

 あたしと燐子は端っこで色々話し合って

 

 普通のプレゼントと+αでさっき言った事をすることになった

 

 

 



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本番?

 さて、今日は8月31日

 

 夏休みも残すところ後1日だ

 

 いやー、今年の夏は色々あったなぁ

 

 元の予定にプラスで色々あったし、当然だけど

 

 遭難したり、結構面白かった

 

エマ「__お兄ちゃん。」

環那「エマ?どうしたの?」

エマ「お客さんが来てる。」

環那「客?」

 

 エマがこう言うって事は友希那達じゃない

 

 ノア君でもないと思うし

 

 だとすると......

 

環那「......琴ちゃん、いないよね?」

エマ「さっき仕事に出かけた。」

環那「じゃあ、いいよ。通して。」

九十九「はいはーい!通ったよー☆」

人見「お邪魔しますね、環那さん。」

環那「スタンバってたね、やっぱり。」

 

 俺は大きく溜息を吐いた

 

 ほんとにこの2人は何と言うのか......

 

 俺に対して一切遠慮がない

 

九十九「おー、結構綺麗だねー。」

環那「当たり前でしょ。もし汚い時に友希那が来て、病気になったりしたらどうするの?」

九十九「お、おう。」

人見「あら?今は白金燐子さんや今井リサさん、それに浪平琴葉さん......は違いますが、それらの人のためでもあるのでは?」

環那(うっわ、やりずら。)

 

 なーんで人の心読んでるんだろ

 

 人見、掴みどころが少ないから怖いんだよね

 

 なんか、人生2周くらいしてる感じがする

 

環那「まぁ、いいや。それで、今日は何の用?」

人見「本日は環那さんの一友人として、忠告に参りました。」

環那「あぁ、そういう事。」

 

 内容は大体わかった

 

 どうせ、あの事でしょ

 

九十九「加持ちゃん、色々頑張ってるみたいだよー。」

環那「やっぱり、そんな事だと思った。」

九十九「おっ、もうそっちでも掴んでる感じ?」

環那「探る必要もないよ、大体わかるし。」

 

 お互いに難しい立場にいるからね

 

 大体やりたいことは分かってる

 

 だったら後は砦でも何でも構えたらいい

 

環那「ちょっと、惜しいなぁ。」

九十九「なにが?」

環那「そこそこ使いやすい駒だったから、潰すには惜しくて......」

九十九、人見「うわっ。」

環那「いや、引かないでよ。君達も同類だからね?」

 

 なんなら、この2人の方がベテランだよ

 

 今まで何人の人間を潰して来たんだか

 

 俺とは比にならないからね?

 

九十九「てかさ、なんで環那ちゃんな加持ちゃんにあそこまで恨まれてたわけ?」

環那「あれ?言ってなかったっけ?」

人見「それについては私も聞かされておりません。」

エマ「ついでに私も聞いてない。」

環那「あー、そうだったっけ。」

 

 話してなかったんだ

 

 もう知ってるものだと思ってた

 

環那「まぁ、気にしなくてもいいよ。下らない事だから。」

九十九「環那ちゃんの下らない事ってたいてい面白いからなー。」

人見「ですね。」

環那「そう思うなら、新太のことを調べてみればいいと思うよ?」

 

 ほんとに下らない事なんだけどね

 

 それが新太には大ダメージだったらしいけど

 

 どうでもいいや

 

九十九「そうしてみるよ!」

人見「して、新太さんの事はどうするおつもりで?」

エマ「加持新太ごとき、私が__」

環那「どうせ新太と接触するときも一緒だろうし、好きにしたらいいよ。」

エマ「任せて。完膚なきまでに潰して見せる。」

 

 お、恐ろしいな

 

 まぁ、エマには強力な手札が多いし

 

 新太くらいならどうにでもなるかな

 

人見「それでは、私達はお暇致しますね。あ、報酬の件、よろしくお願いいたします。」

環那「あーはいはい。心配しなくても、解雇した中の1人の重役のポストは空けてあるから。」

人見「ふふっ、ありがとうございます。」

九十九「私はー?報酬の話してなくなーい?」

環那「何が欲しいか言ってよ。九十九、何も言わないじゃん。」

九十九「じゃあ、面白いネタ!」

 

 いや、知らないよ

 

 何が面白いか面白くないか分からないし

 

九十九「環那ちゃんの周りには面白いネタが転がってそうだから、もうちょっと寄生させてもらうよ~?」

環那「それが狙いか......」

九十九「アハハ~!面白いネタへの嗅覚は誰よりもすごいつもりだから!」

人見「間違いありませんわね。」

 

 流石に凄腕ジャーナリスト

 

 または、パパラッチ?

 

 この嗅覚で今まで何人の人生詰ませたんだか

 

九十九「じゃあね~☆」

人見「失礼しました。」

環那「うん、お疲れー。」

 

 2人はそう言って俺の部屋を出て行き

 

 エマも見送るためについて行った

 

 なんか、あの2人と話すと疲れるな

 

 すごい2人だから、気を張っちゃうんだよね

 

環那(さて、明日の準備でもしよっと。)

 

 俺は1人になった部屋でそんな事を思い

 

 明日の始業式の準備をすることにした

__________________

 

 学校の始業式

 

 正直、あんまり必要性は感じないけど

 

 表向きは真面目な学生を演じないとダメだしね

 

 つまらない事でも頑張ろう!

 

環那「いやぁ、学校始まったねぇ。」

エマ「うん。制服姿のお兄ちゃんをみれるから学校もまた良し。」

環那「そっか。」

 

 そんなアイドルみたいな扱いされてもなぁ

 

 まぁ、面白いからいいや

 

 こういう所も可愛いしね

 

環那「今更だけど、忘れ物はしてないね?」

エマ「問題ない。お兄ちゃんの写真はちゃんと持ってる(ドヤッ)」

環那「そう言う事じゃないんだけど、大丈夫ならいいよ。」

 

 そんな会話をしながら、俺とエマは教室に向かってる

 

 けど、なんか違和感があるな

 

環那(なんか、変な視線を感じるな。)

 

 後ろ、前、通り過ぎる教室の中

 

 色んな所から視線を感じる

 

 気持ち悪いね、なんだか

 

環那「さーて、久し振りの教室だー。友希那とリサは来てるかな__」

「お、おはよう、南宮?」

環那「__へい?」

 

 教室に入ると

 

 何故か、何人かの生徒にお出迎えされた

 

 男女関係なく20人ほどいる

 

 驚いてつい変な返事しちゃったよ

 

「い、いやー、クラスメイトだし、挨拶位な?」

環那「そう。(き、気持ち悪。)」

エマ「......キモ。」

環那「こら、本当のこと言わない。」

 

 それにしてもほんとにキモイな

 

 今まで遠巻きに見てるだけだったのに

 

 何の心境の変化?

 

環那(いや、分かった。)

 

 一瞬戸惑ったけど、分かった

 

 夏休み前と後での俺の決定的な違い

 

 それは、大企業の社長であるかないか

 

 ニュースにもなったし、皆知ってるのか

 

リサ「おーい!環那ー!」

環那「あ、リサ。」

「お、おい、南宮!」

環那「おはよう!2人ともー!元気そうだね!」

 

 俺はクラスメイトを無視し

 

 リサと友希那の方に歩いた

 

 後ろから恨めしい視線を感じるけど

 

 まぁ、いいや!興味ないし!

 

友希那「私達は変わらず元気だけれど、環那は大丈夫なの?」

環那「ん?何が?」

友希那「さっきも話しかけられてたじゃない。その理由が分からないわけではないのでしょう?」

環那「まぁ、一瞬驚いたけどすぐに分かったよ。最近の高校生って随分大人なんだね。」

 

 お金目的で社長に媚を売ろうとする

 

 今の世の中を逞しく生きていきそうだね

 

 一周回って尊敬の念すら生まれるよ

 

エマ「金目的でお兄ちゃんに近づくなんて、恐れ多い。全員、消す?」

環那「物騒なこと言わない。放っておけばいいよ。」

リサ「まぁ、気持ちは分からなくないけどね。」

環那、友希那「リサまで?」

 

 えぇ、リサまで目つき鋭くなってるよ

 

 珍しいな、こんな表情

 

 俺も初めて見たかも

 

リサ「最初、あんなに環那の事避けてたのに掌返して。流石のあたしもちょっとイライラするんだよね。」

環那「り、リサー?なんか黒いオーラ見えるんだけど?」

エマ「ふっ、今の今井リサとなら分かり合える気がする。」

環那「分かり合わなくていいから。」

 

 って、なんで俺がこんな役回りに?

 

 こういうのって紗夜ちゃんの役目じゃん

 

 俺、自分の事はボケだと思ってたんだけど

 

友希那「大変そうね。」

環那「あ、あはは、ほんとに参ったよ。」

 

 こ、これ、俺が気をつけないといけないな

 

 2人を怒らせたら駄目な気がする

 

 ヤバさ加減は学校内に限ってはそこまで変わらないし

 

環那(に、2学期、思ったより大変......?)

 

 俺はそんな事を考えながら席に着き

 

 少しの時間、眉間を抑え

 

 大きく溜息を吐いた

 

 なるほど、一見終わったと思ってたけど、ここからが本番って訳か

 

 この2学期、少しばかり苦労しそうだ

 

 

 



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お断り

 二学期

 

 それは3つある学期の内で最も長く、行事も多い

 

 まぁ、その程度なら面倒でもなんでもない

 

 けど、俺には面倒極まりない

 

 難易度の上方修正が成されてしまった

 

(バサバサバサ!!)

環那「......」

エマ「うわっ。」

 

 俺の下駄箱から流れ出る手紙の数々

 

 そう、これだ、難易度の上方修正は

 

環那「あー、お金ってモテモテだなー......」

エマ「愚かな人間たち。お兄ちゃん自身の魅力にも気づけないなんて。」

環那「それは仕方ない事でしょ。」

 

 まぁ、これは止めて欲しいんだけどね

 

 てか、これ何通あるの?

 

 カードゲームのデッキ組めるくらいありそう

 

環那「ねぇ、エマ。これ、放っといていいと思う?」

エマ「いいと思う。恐らく、これを送った人間は全員、お兄ちゃんに相応しくない。」

環那「よし!なら、これは無視しよう!」

リサ「__いや、『これは無視しよう!』じゃないよ!?」

環那「あ、リサ、友希那、おはよう。」

友希那「えぇ、おはよう、2人とも。」

 

 俺とエマがその場を去ろうとすると

 

 後ろからリサと友希那が歩いてきた

 

 珍しく登校時間が被ったみたいだ

 

環那「それで、リサはどうしたの?朝から元気だね。」

リサ「いやいやいや、なんであの大量のラブレター無視してんの!?あれ、環那宛てでしょ!?」」

環那「いや、待ってリサ。本当にあれは俺宛てなの?」

リサ「え?」

 

 そう言うと、リサは首を傾げた

 

 仕方ない、教えてあげよう

 

 そんなに難しいことでもないけど

 

環那「俺は1学期、ラブレターなんて無縁だったね?けど、今はあんな大量に送られた。」

リサ「う、うん。」

環那「つまり、あれは俺に送ったんじゃない。俺が持ってる地位やお金に送ってるんだ。」

リサ「そ、それは、そうかもしれないけど。

環那「それに、俺があんなにモテるわけないじゃん!」

リサ「なんでそこ自信満々なの!?」

 

 っと、冗談は置いといて

 

 あの紙ゴm......ラブレターはどうしよう

 

 勿論全部お断りなんだけど

 

 あーあ、リサとか燐子ちゃんとか琴ちゃんだったらまだ喜んだのになー

 

リサ「それで、返事どうするの?」

環那「全部お断り!」

友希那「即答ね。」

環那「だってあれでしょ?誰か1人でもオッケーしたら、お金だけ取られて浮気コースなんでしょ?そんなハズレくじ引きたくないよ。」

リサ「めっちゃ正直だね。」

 

 だって、そうでしょ?

 

 俺は貢ぎたい子に貢ぐ主義なんだ

 

環那「さっ、教室行こ!あれは、魔除けにあそこに置いておこう!」

リサ「お札か。」

環那「似たようなものじゃない?」

エマ「うん、お兄ちゃんの言う通り。」

友希那「ラブレターは、お札だったの......!?」

リサ「いや、違うからね!?」

 

 俺達はそんな会話をしながら教室に向かった

 

 相変わらず変な視線を感じるけど

 

 もう無視でいいや(適当)

__________________

 

 朝の出来事から時間が経ち

 

 何事もなくお昼休みを迎える事が出来た

 

 よかった、意外と近寄られなくて

 

エマ「__うん、今日もお兄ちゃんの作るお弁当は素晴らしい。」

環那「良かった。」

巴「おー、環那さんって弁当とか作れたんだなー。」

蘭「一学期はあんまり見なかったけど。」

環那「まぁ、エマがいるからね。パンだけでお昼済ませるのはダメでしょ?」

 

 成長期だからねぇ

 

 引き取ったなら責任は果たさないといけない

 

 一応、保護者だし

 

ひまり「南宮さんって、何だかんだで面倒見良いですよねー。」

環那「そう?」

つぐみ「あ、私もイヴちゃんから色々聞いてます!」

友希那「私もかなりお世話になってるわ。」

リサ「あたしも結構。」

環那「え?」

モカ「おぉー、リサさんまでー。流石ー。」

 

 え、俺ってリサに世話焼いたっけ?

 

 全然、記憶ない

 

 今思えば、ほんとに手がかかってないな

 

巴「あ、そうだ。あたし、環那さんに聞きたいことあったんだよ。」

環那「どうしたの?」

巴「なんだっけか、学校の女子の間で噂になってる......」

蘭「あぁ、あの玉の輿の話?」

巴「そう!それだ!」

 

 えぇ、噂になってるの?

 

 てか、ひっどい噂だなぁ

 

 人の事を何だと思ってるんだか

 

ひまり「私、会見見てました!」

環那「見ないでよー、恥ずかしー。」

リサ「すっごい棒読み。」

環那「いやー、恥ずかしいじゃん?あんな調子乗ったこと言うなんて。」

蘭「環那らしかったけどね。『信念に勝る力なし』とか。」

環那「!」

 

 蘭ちゃんはそう言って笑ってる

 

 こ、この子、意外と俺のこと理解してる

 

 中々やるな

 

巴「あー、そう言えばあこが真似してたな。」

環那「即刻辞めさせて!?」

つぐみ(あ、珍しく焦ってる。)

環那「全く、子供はすぐにテレビで見たこと真似するんだから......」

蘭「おかんか。」

 

 おぉ、キレのあるツッコミ

 

 流石は蘭ちゃん

 

 ともちゃんとのカップリングが一番最初に出て来ただけの事はある(?)

 

ひまり「それで、どうするんですか?」

環那「どうするって?」

ひまり「今や、学校中の女子が南宮さんを狙ってます!油断してると食べられますよ!?」

環那「え、マジ?やばいじゃん。」

 

 なるほど、食い物にされると

 

 あながち間違ってないな、あはは

 

 笑い事じゃないけど

 

環那「まぁ、大丈夫でしょ!今、奥義を考えたから!」

友希那「奥義?」

環那「まぁ、使うことがなければいいけど。面倒くさいし。」

 

 これ使ったら、一発で終わらせられる

 

 女子からの評価が死ぬんだ

 

 使うチャンスはかなり限定的だけど

 

 まぁ、それは奥義っぽいからいいや!(童心)

 

環那「あー、どっかに都合のいいどうでもいい女の子いないかなー。」

巴「なんかとんでもない事言い出したぞ。」

蘭「てか、都合のいい女はいるでしょ。大量に。」

 

 俺はそんな事を呟き

 

 残りの昼休みはエマを膝に乗せて撫でるという

 

 健全な兄妹のスキンシップを取ってた

__________________

 

 時間は流れ、放課後

 

 俺は楽しい授業を終え

 

 ホームルームを終え、席を立った

 

ギャル「__ねぇー、あんた南宮環那っしょ?」

環那「......」

 

 その時、俺はザ・ギャルみたいな子に話しかけられた

 

 金髪、化粧、着崩した制服、荒い口調

 

 うん、由緒正しきギャルだ

 

環那「いやー、ソレガシは田中太郎と言うただの陰キャで__」

リサ(言い訳雑!?)

ギャル「いや、そーゆうの良いから。」

 

 あ、そすか

 

 中々の名演技だと思ったんだけど

 

 駄目だったか......

 

環那「はぁ......何の用?」

ギャル「細かい事はいーからさ、あーしと付き合えよ。」

環那「???(え、マジ。)」

 

リサ、友希那「!?」

 

 ギャルは凄い上から目線でそう言ってきた

 

 え、やだー、私ったらモテ期だわ

 

 冗談じゃないっ!(情緒不安定)

 

 って、冗談は置いといて

 

環那(都合のいい女キター!)

ギャル「あんた、金持ちなんでしょ?」

環那「タコにも。お金を大量に持ってるだけという意味ならお金持ちと言っても差し支えない。」

ギャル「いかにもだろ。」

 

 その通り!

 

 馬鹿そうだけど賢いね!

 

 ちょっと見くびってたよ

 

ギャル「まっ、いいや。で、あーしと付き合うっしょ?」

環那「そうだなぁ、俺はモテないし、彼女できるチャンスがあるなら飛びつくのが道理だね。」

リサ「!?」

ギャル「そっ、なら__」

環那「だが断る(キリッ)」

ギャル「!?」

 

 やったー!言えたー!

 

 この前、漫画で見て使いたかったんだよねー

 

環那「残念ながら、俺には心に決めた女神たちがいるんでね。」

ギャル「はぁ?んなこと聞いてないんだよ。」

環那「いやいや、君の人となりを想像して、俺もタダで撃退しようなんて思ってないさ。」

 

 俺はそう言ってふと笑った

 

 そう、これが最強の奥義

 

 周りの注目は十分だ

 

環那「いくら欲しいの?」

ギャル「......は?」

リサ(えぇぇぇええ!?)

環那「いくら欲しいの?」

ギャル「いや、聞こえなかったんじゃないし。」

 

(ザワザワ)

 

 クラスがざわついてる

 

 完璧すぎるな

 

環那「俺は君とは付き合いたくない、けど、君は俺と付き合いたい。そして、その理由はお金でしょ?」

ギャル「......へぇ、分かってんじゃん。」

環那「俺は君と付き合いたくない。それこそ、お金を払ってでも。だから聞こう、いくら欲しい?」

 

 俺は煽るようにそう言った

 

 そう、これぞ究極の奥義

 

 『お金払ってもお前みたいな奴はお断りだ』だよ!

 

ギャル「さ、さいてーじゃん。」

環那「あはは、お金目的で近づく自分は最低じゃないと?」

ギャル「......」

環那「で、いくら欲しい?君の価値に見合いそうな額なら支払ってあげよう!」

 

 おぉ、周りの生徒皆が引いてる

 

 いや、女子は結構青い顔してる?

 

 まぁ、自分に言われてるようなものだもんね

 

ギャル「......いいよ、ちょーっと話し合おうか。交渉しよ。」

環那「ほう、君が交渉。ちゃんと話合いできる?」

ギャル「できるわ!ほら、行くぞ!」

環那「はいはい。あ、リサ!エマの面倒見てあげてね!」

リサ「あ、うん。」

エマ「お兄ちゃん、行ってらっしゃい......」

 

 俺はリサにそう言って

 

 ギャルちゃんと一緒に教室を出た

 

 さーて、今のがどの程度効果があるか

 

 上手く事が運んでくれればいいんだけど

 

 俺は心からそう願った

 

 

 



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お断り後

 “リサ”

 

 結局あの後、環那と会わなかった

 

 あの子は確か阿頼耶(あらや)メリで

 

 色んな意味で有名だった気がする

 

 勿論、いい意味ではない

 

リサ(うーん、大丈夫かなー。)

 

 廊下を歩いてると、段々心配になる

 

 環那の事だから大丈夫だとは思うけど

 

 もし、あの子の仲間の男子と喧嘩になったら......

 

 ......あっ、なっても大丈夫か

 

友希那「環那が心配?」

リサ「そりゃあね。だって、阿頼耶メリだし。」

友希那「そんなになの?」

リサ「ヤバい人たちと繋がりがあるとか、羽丘最恐の悪女とか、いろんな噂が出てるんだよ。」

友希那「......環那と大差あるかしら?」

 

 ないね(断言)

 

 むしろ、ヤバさとネームバリューなら環那が上か

 

友希那「環那をどうにか出来る人類なんて早々いないわ。心配ないわよ。」

リサ「そうなんだけどさー......」

友希那「多分、今日も普通に教室にいるわよ。」

 

 そんな話をしてるうちに教室に着いた

 

 今日はちょっと遅く出たから、環那は来てるはず

 

友希那「入るわよ。」

リサ「う、うん。」

 

 友希那はそう言って、教室のドアを開けた

 

 それで、最初に目に入ったのは......

 

メリ「__おい、まだページ捲んなし。」

環那「読むの遅くない?ほんとに日本人?」

メリ「うっせーわ!」

 

リサ、友希那「......」

 

 最恐の悪女と幼馴染が一緒に漫画を読んでる姿だった

 

 いや、え?

 

 何してんの?

 

環那「あっ、友希那にリサ!おはよう!」

メリ「おっ、幼馴染ズじゃん。はよ。」

リサ「お、おはよー(?)」

友希那「おはよう。(最恐の、悪女?)」

 

 環那とメリは普通に挨拶をしてきた

 

 ど、どういうこと?

 

 なんでこんなに仲良さげなの?

 

リサ「え、えーっと?2人は何で、そんなに仲良くなってんの?」

環那「なんだろ?あの後、羽沢珈琲店で話してたんだけど、思いのほか気があってね。」

リサ「えぇ!?」

メリ「そそ。それであーしのおすすめの漫画持って来て、一緒に読んでるわけ。」

友希那「き、気が合ったのね。」

 

 ま、マジかー......

 

 予想外過ぎるんだけど

 

 てか、どんな話したの?

 

環那「この子、バカだけど結構優秀なんだ。」

メリ「おい、バカって言うな。」

 

 環那が真剣に褒めるなんて珍しい

 

 メリってそれほどの何かがあるの?

 

 関わったことがないから全然わかんないや

 

環那「この子、営業の才能があるよ。もう少し勉強して教養を身に付ければ、どの企業も放っておかない人材になる。」

友希那「けれど、どうやって仲良くなったのかしら?彼女には仲のいい仲間がいるんでしょう?」

メリ「あー、あいつらはこいつに潰された。」

リサ、友希那「!?」

メリ「あれは一瞬だったわー。20対1なのに指一本も触れられないでボコってやんの。化物だわ、こいつ。」

 

 えぇ......(困惑)

 

 一体全体、なんでそんな事に?

 

 てか、なんでそんな荒業出来るの?

 

 メリの仲間って事は、結構有名なヤンキー集団のはずじゃ......

 

環那「あんな集団に身を埋めて時間を浪費するなんて勿体ない。どうせなら、俺に鍛えられて、使える駒になったほうが幸せでしょ?」

メリ「まっ、少しでも使えるようになったらこいつの会社で雇ってくれるらしいし?金になる話には乗るしかないっしょ。どーせ、あいつらはほぼ再起不能だし。」

リサ「ほんとに何やったの?」

環那「あはは。」

 

 こ、怖すぎでしょ

 

 環那が笑うだけはほんとにヤバい

 

 これは聞かない方がいい気がする

 

環那「と言うわけで、メリっちには宿題出すねー。」

メリ「はぁ!?宿題ぃ!?」

環那「テッテレー。猿でも出来る算数、数学ドリルー(環那作)と個人的に読んでほしい教養の本10選ー。」

メリ「うわっ、本多過ぎ。」

環那「君の教養の無さは折り紙付きだからねー。人格全部変えるくらい、気合入れて読んでね!卒業までにそれら全部を理解出来たらご褒美上げるからさ!」

メリ「んー、なら頑張るわ。ご褒美はずめよ?」

友希那(結構、素直なのね。)

 

 め、メリのイメージが崩れる

 

 周りの皆も唖然としてるし......

 

環那「まぁ、最低限卒業はしてね。」

メリ「わーってるよ。じゃ、クラス戻るわー。」

環那「バイバーイ。」

 

 メリは軽く手を振りながら教室を出て行った

 

 完全に友達の距離感なんだけど......

 

リサ「環那、説明!」

環那「!?」

リサ「ほんとにビックリしたんだからね!?」

環那「ご、ごめんごめん。ちゃんと説明するから。」

 

 あたしはメリが去った後にそう詰め寄り

 

 環那はヘラヘラ笑ってから説明を始めた

 

 もう、ほんとにこの幼馴染は......

__________________

 

 “環那”

 

 あの後、リサにこってり絞られた

 

 てか、あの子ってそんなにヤバかったんだ

 

 バカ過ぎて気付かなかった

 

リサ「__皆、お待たせー!」

燐子「あ、環那君......!」

環那「やっほー、燐子ちゃん。」

 

 放課後、俺達はライブハウスに来た

 

 今日は時間もあるし

 

 久しぶりにRoseliaの練習を見れるしね

 

燐子「元気だった......?夏休みの最後の方、会えてなかったから心配で......」

環那「あはは、ごめんね。少し忙しかったんだ。(ヤバい。)」

 

 どうしよう、可愛い

 

 これ、俺じゃなかったらコロッと行くでしょ

 

燐子「そ、それと、その、お父さんの事ありがとう......!毎日、楽しそうに仕事に行ってるよ......!」

環那「あはは、そっか。なら、良かった。」

 

 この笑顔を見られるなら何でもしそう

 

 少なくとも俺は何でもするね

 

 殺しでも世界征服でも

 

リサ「ほんと、環那は燐子に甘いよねー。」

環那「え、そう?」

リサ「あたしには厳しいのにー。」

友希那(完全に嫉妬してるわね。)

紗夜(嫉妬ね。)

あこ(わー!リサ姉のほっぺ膨らんでるー!可愛いー!)

エマ(嫉妬深い。)

 

 め、珍しくリサが拗ねてる

 

 てか、拗ね方が昔のまんまだ......

 

 いや、それを悪いとは思わないけど

 

友希那「まぁ、環那はリサとは熟年夫婦、燐子とは新婚夫婦みたいな雰囲気があるもの。その差は仕方がないわ。」

燐子「新婚......!?///」

あこ「あ、分かります!」

リサ「あたし、そんなに熟してないよー!まだまだピチピチだよー!」

紗夜「そうね。まだまだ若いわよ、今井さん。」

リサ「ちょっと憐れむのやめて!?不安になるから!」

 

 熟年夫婦ねー

 

 確かに、理解度で言えば大差ないか

 

 リサのしたい事とかは大体わかるし

 

環那「そういえば、幼稚園の時にリサが『大きくなったら環那のお嫁さんになる!』って言ってたね。」

リサ「なんで今それ言うの!?///」

環那「いや、夫婦って単語が出て、何となく思い出した。」

 

 確か、捨ててあったブライダル雑誌読んだときだったはず

 

 当時の俺は『え、嫌だけど。』って答えて

 

 それでリサが大泣きしてたっけ?

 

 いやー、幼いって怖いな

 

燐子「わ、私も、その、環那君と......///」

リサ「それについては、あたしも流石に譲れないかな。」

環那(あ、あはは......)

 

 あれ、なんか2人の後ろにオーラが見えるな?

 

 俺の目の錯覚かな

 

 最近は仕事ばっかりだったし、疲れた?

 

友希那「2人とも、そろそろ練習を始めるわよ。」

紗夜「そうですね。」

 

 2人はそう言って手を叩いた

 

 まぁ、ここを使える時間も限られてるしね

 

 あんまり喋ってばかりでもいられないか

 

リサ「そうだねー。じゃ、環那!ちゃーんとあたしのこと見ててよね!」

燐子「私の事も、見ていてくださいね......?///」

環那「うん、分かった。見てるよ。」

エマ「お兄ちゃん、膝に乗せて。」

あこ(デレデレだなー。)

 

 それから、俺はエマを膝に乗せ

 

 Roseliaの練習を見学した

 

 2人の事は言われた通り特に注目してたけど

 

 リサと燐子ちゃんは相変わらず綺麗だった

 

 

 



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お祝い

 “リサ”

 

 今日は9月6日

 

 明日は環那の誕生日だ

 

 一応、誕生日プレゼントは準備して

 

 パーティーの準備もして

 

 環那の予定が空いてるのも確認した

 

リサ(で、でもなー......///)

 

 あたしは手に持ってる衣装を見る

 

 これは所謂メイド服

 

 けど、大きく胸元が開いてて、スカートも短くて

 

 水着のようにも見える

 

リサ(燐子、まさかこんなのまで作れるなんて......)

 

 いや、実は前々から作ってたんじゃ?

 

 燐子って環那のこと大好きだし

 

 これを着るタイミング、狙ってたかもしれない

 

リサ(これを環那の前で着るのかー......///)

 

 恥ずかしいけど、別に不安とかはない

 

 褒めはするだろうけど貶しはしないだろうし

 

 間違いも起きないと思う

 

 ......それは少し不満なんだけど

 

リサ「......燐子と一緒にいても、あたしのこと選んでくれたりしないかな......///」

 

 あたしはそう呟いて枕に顔を埋め

 

 少しだけ、そんな期待を抱いた

 

 まっ、そんな事はないだろうけどね

__________________

 

 “燐子”

 

 明日は環那君の誕生日

 

 プレゼントは自分なりに頑張って準備をした

 

 もう1つのプレゼントの準備も、出来た

 

 心の準備も......多分、出来てる

 

燐子(だ、大丈夫、だよね......?///)

 

 少しだけ、ほんの少しだけダイエットをした

 

 環那君に変な姿を見て欲しくなかったから

 

 ......誤差でしたけど

 

燐子「だ、大丈夫、大丈夫......///環那君はきっと褒めてくれる......///」

 

 こんな衣装を着たら、あの日みたいに......

 

 いや、今井さんもいるからないかな?

 

燐子「......環那君、喜んでくれるかな......///」

 

 私は小さな声でそう呟き

 

 机の上に置いてる好きな人の写真を見て

 

 明日の事を考えて、激しく悶えた

__________________

 

 “環那”

 

環那「ふぁ~ぁ......」

 

 今日も今日とて、俺は学校だ

 

 気が抜けてるのか、最近凄く眠い

 

 まぁ、体はそこそこ健康なんだけどね

 

環那(ていうか、これは何なんだろ?)

 

 俺は朝、琴ちゃんに貰ったチケットを見た

 

 これは、高級温泉旅館のだ

 

 でも、なんでこんなの渡されたんだろ?

 

 福引とかで当たったのかな?

 

 いやでも、それなら俺に渡す必要はないか

 

エマ「お兄ちゃん、どうしたの?」

環那「ん?いや、なんでもないよ。」

巴「__環那さーん!」

環那、エマ「!」

 

 エマと話してると

 

 教室のドアが勢いよく開き、ともちゃん達が入って来た

 

 え、なに?なんで3年の教室に?

 

巴「噂で聞いたぞ!今日誕生日だって!」

環那「誕生日?誰の?」

ひまり「南宮さんのですよ!」

環那「......え?そうなの!?」

つぐみ「知らなかったんですか!?」

 

 ヤバい、本気で知らなかった

 

 あぁ、だからこのチケット貰ったんだ

 

 なるほど、納得した

 

環那「き、興味なさ過ぎて忘れてた。」

蘭「どんだけ自分の事に興味ないの?」

環那「い、いや、今まで誕生日について触れられたことなくて。」

モカ「あれー?湊さんやリサさんはー?」

環那「いや、特に触れられたことは......あっ。」

 

 そう言えばこの時期

 

 なんか、それっぽい流れあった?

 

環那「そう言えば、『何か欲しいものある?』とか『一緒にケーキ食べよう!』とかこの時期に言われてた気がする。」

蘭「なんでそれで気付かないの?」

環那「小さいときは自分の誕生日なんて知れる環境じゃなかったし、ある程度成長しても、どうでもいいと思って確認もしてなかった。」

つぐみ「え、じゃあ、学校に出す書類とかはどうしてたんですか?」

環那「いつの間にか出されてた。」

 

 見事に誕生日を知る機会を逃してたわけか

 

 てか、俺って本当に18歳なのかな

 

 どうしよ、一気に不安になってきた

 

巴「まっ、そう言う事は良いんだ!ほら、誕生日プレゼントだ!」

環那「ありがとう。これは......あっ、駅前のラーメン屋の割引券じゃん。」

巴「おぉ、知ってるのか?」

環那「この間、琴ちゃんが1人で食べに行ってた。」

巴「お、おう。」

 

 あの子、にんにくを惜しげもなく入れるから、臭いがきつかった

 

 まぁ、美味しかったらしいし

 

 今後のために食べてみるのもいいかもね

 

 いつか、ラーメンも作ってみたいし

 

つぐみ「私は、コーヒー一杯の無料券を!」

モカ「モカちゃんはー、このメロンパンを贈呈しようー。」

蘭「あたしはこの前気まぐれに入った店にあったモアイ像のティッシュケース。」

環那「待って、それ何!?」

 

 つぐちゃんとモカちゃんはそれぞれのイメージ通りの物をくれた

 

 けど、蘭ちゃんのはなに?

 

 モアイ像のティッシュケース?

 

蘭「鼻からティッシュ出るよ。」

環那「何それちょっと面白い。」

 

 え、絶対使う

 

 部屋に置いてたら面白そう

 

 今度、皆に見せてあげよう

 

ひまり「わ、私は手作りでクッキー焼きました!」

モカ「3時間かけて~。」

ひまり「モカー!///」

環那「あはは、ありがとう。ありがたくいただくよ。」

 

 俺はひまりちゃんからクッキーを受け取った

 

 すごく可愛らしくラッピングされてる

 

 ひまりちゃん、こういうセンスいいなー

 

モカ「まー、かーくんにはお世話になったからねー。」

環那「お世話?なんかしたっけ。」

蘭「ひまりのこと、助けてくれたじゃん。あの時はありがと。」

巴「環那さんの誕生日知ったのがついこの間だから、大したもの用意できなかったけどな。」

つぐみ「これからも、仲良くしてくださいね!」

ひまり「お誕生日、おめでとうございます!」

環那「ありがとう。(......なんだ?)」

 

 今、胸の奥が熱くなった気がした

 

 これは何だろうか

 

 嬉しいと思ってるのだろうか

 

リサ「__おはよー!」

友希那「おはよう、環那。って、あら。」

 

 リサと友希那が教室に入って来た

 

 5人と話してる内にそんな時間が経ってたんだ

 

リサ「ひまり達、もう来てたんだ?」

ひまり「はい!あんまり放課後に会わないので。」

環那「え、そう?つぐちゃんとはお店でよく会うけど。」

モカ「イヴちん目当ー、ていうかー、イヴちんがかーくん目当てだよねー。」

ひまり「え、モカ、詳しくない?」

 

 まぁ、モカちゃんとはよく会うね

 

 偶に一緒に食べてるし

 

 その時に幼馴染談義をしてる

 

リサ「と言うわけで、環那!誕生日おめでとー!」

友希那「放課後はパーティーをするわよ。」

環那「あぁ、だから今日の予定を聞いて来たんだ。」

 

 なんだか不思議だ

 

 こんなに誕生日を祝われたのは初めてだし

 

 まぁ、俺が自分の誕生日知らなかっただけだけどね!

 

リサ「うん!ちゃんとお店予約してあるからさ!」

友希那「楽しみにしてなさい。」

環那「ははっ、そうするよ。」

エマ(お兄ちゃん、嬉しそう。)

 

 俺は笑いながら2人にそう言い

 

 その後の朝の時間は皆と談笑して過ごした

__________________

 

 時間が過ぎてお昼休み

 

 俺は1人で屋上に来てる

 

 何故かと言うと、俺の誕生日を知った他の生徒がウザかったから

 

 リサと友希那には教室で見張って貰って

 

 エマには連絡役を任せてる

 

環那(さて、昼休みはここで凌ぐか。)

 

 溜息を吐き、物陰に腰を下ろした

 

 多分、ここはともちゃん達以外は早々人は来ない

 

 ここで30分は大人しくしておこう

 

環那「あ~、今日のお弁当は中々うまく出来たなぁ。」

 

 久しぶりのボッチ弁当だ

 

 しばらくは皆で食べてたしなぁ

 

 いやー、虚しい

 

(prrrr)

環那「?」

 

 そんな気持ちでお弁当を食べてると、ポケットに入れてある携帯が鳴った

 

 エマからの報告かな?

 

 そう思い、俺は携帯の画面を確認した

 

環那「イヴちゃん?」

 

 そこに表示されてるのはイヴちゃんの名前

 

 連絡先交換して何回か電話してるけど、今日は何の用だろう?

 

 まぁ、考えても仕方ないので

 

 取り合えず、電話に出ることにした

 

環那「はーい、もしもーし。」

イヴ『あ、カンナさん!』

環那「どうしたのー?」

 

 電話に出ると、イヴちゃんの声が聞こえた

 

 携帯越しで明るい雰囲気が伝わってくる

 

 この子、いっつも人生楽しそう

 

イヴ『あの、すみません。今、どこにいますか?』

環那「今は1人で屋上にいるけど。」

イヴ『じゃあ、ビデオ通話にしてもいいですか?』

環那「別にいいよー。」

 

 そう言って携帯を操作し、ビデオ通話に切り替えた

 

 ていうか、現役アイドルとビデオ通話

 

 熱狂的なファンはお金払ってでもしたいんだろうなぁ

 

 まっ、それが叶う事はないんだけど

 

イヴ『こんにちは!カンナさん!』

環那「こんにちはー。」

 

 画面には制服姿のイヴちゃんが映ってる

 

 場所は多分、音楽室......

 

 いや、音楽準備室かな、物の配置的に

 

環那「それで、なんでビデオ通話に?」

イヴ『今日はカンナさんのお誕生日と聞きまして、お祝いをしたいんです!』

環那(俺の誕生日の事、結構広まってるんだね。)

 

 いつの間に向こうに伝わったんだろ

 

 俺の予想は、紗夜ちゃん→日菜ちゃん→イヴちゃん、だけど

 

 どうだろうか

 

イヴ『お誕生日おめでとうございます!よい1年を過ごせることを祈っています!』

環那「あはは、ありがと。」

イヴ『それで、私もお祝いをしたいのですが......///』

環那「?」

 

 イヴちゃんは小さな声でそう言った

 

 全体的に白が多い外見だからか、紅くなった頬が良く目立つ

 

 てか、どうしたんだろ?

 

イヴ『今週の日曜日、一緒にお出かけして欲しいんです......///』

環那「日曜日?うん、別にいいよ。予定もないし。」

イヴ『即答!?///』

環那「断る理由もないしね。」

 

 俺がさっさと答えると、イヴちゃんは驚いたような声を出した

 

 まぁ、予定開いてるし、出かけるのは問題ない

 

 でも、イヴちゃんは大丈夫なのかな?

 

 アイドル兼モデルなのに

 

 異性と歩いてたりして、記者にネタにされたりしない?

 

イヴ『で、では、予定などは後程連絡します!///それでは、また!///』

環那「うん、またねー。」

イヴ『は、はい!///』

 

 そんな会話の後、イヴちゃんの方から通話を切った

 

 いやぁ、お祝いしたいからお出かけかー

 

 俺はいつからこんなに後輩に慕われるようになったんだろ

 

 いやー、我がことながら感無量だよ

 

環那(それにしても、イヴちゃん、なんであんなに嬉しそうだったんだろ?)

 

 俺はそんな疑問を抱きつつ

 

 自分で作ったお弁当を急いで完食した

 

 その後、エマから緊急連絡が入って、面倒な生徒から逃げ回ることになり、お昼休みに物凄く大変な思いをすることになった

 

環那(はぁ、今日くらい平和に過ごさせて欲しい......)

 

 学校中を逃げ回る途中

 

 俺は切実にそう思った

 

 まっ、無理な願いなんだろうけどね

 

 

 



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誕生日プレゼント

 何とか面倒な生徒達から逃げ切れた

 

 俺はエマ、友希那、リサ、あこちゃんと一緒に学校を出て、予約したって言うお店に来た

 

 いやぁ、やっとここまで来た......

 

リサ「__お待たせー!紗夜、燐子!」

友希那「今日の主役が到着よ。」

環那「あ、あはは。」

 

 お店に入って、案内された個室に入った

 

 するとそこには、もう燐子ちゃんと紗夜ちゃんがいて

 

 テーブルの上にはケーキが置かれていた

 

燐子「環那君......!」

環那「待たせてごめんね。逃げ回ってたら少し遅れちゃったよ。」

燐子「全然大丈夫だよ......!」

紗夜「大変だったようですね。」

環那「うん、ほんとに。」

 

 ほんとに大変だった

 

 校舎に張り付いたり、跳び箱に入ったり

 

 体育館の天井にもぶら下がってたりした

 

 学校を出る時も塀飛び越えたからね?

 

紗夜「まぁ、ここからは楽しいお祝いですので安心してください。はい、どうぞ。」

環那「なにこれ?」

紗夜「襷ですよ。」

環那「襷......(???)」

 

 紗夜ちゃんに渡されたのは、『本日の主役』と書かれた襷だ

 

 待って、すごいニヤニヤしてるんだけど

 

 この子、絶対に面白がってるでしょ

 

 いや、いいんだけどね?

 

紗夜「ほら、着けてください。わざわざ買ってきたんですから。」

環那「あ、うん、ありがとう(?)」

 

 俺は紗夜ちゃんに圧をかけられ

 

 受け取った襷を身に付けた

 

 紗夜ちゃんはそれを見て笑ってる

 

リサ「ほらほら~、こっち座って~!」

あこ「お祝いしよ!」

環那「う、うん。」

 

 あこちゃんに手を引っ張られて席に着き

 

 リサにはとんがり帽子をかぶせられた

 

 これ、どこに準備してたんだろ

 

リサ「と言うわけで、誕生日おめでとう!環那!」

友希那「おめでとう。」

紗夜「一応、おめでとうございます。」

あこ「おめでとー!」

燐子「おめでとう、環那君......!」

エマ「お兄ちゃん、おめでとう。」

環那「あはは、ありがと。」

 

 お、おぉ、祝われてる

 

 驚きでありきたりな返事しか出来なかったよ

 

 もっと気の利いた事言いたかったのに

 

エマ「それじゃあ、私がお兄ちゃんへのお祝いメッセージを読ませてもらう。」

環那「!?」

 

 エマは100枚はありそうな原稿用紙を出した

 

 いや、いつの間に書いてたの?

 

 よくあんな量書いたね......

 

エマ「本気でお兄ちゃんへの気持ちを語ったら1週間はかかるから、かなり抜粋した。」

環那「エマ、それは帰ってから聞くよ。思う存分。」

エマ「えっ(ガーン)」

環那「出来れば、2人きりの時に聞きたいな。え、エマの気持ちは俺が独り占めしたいんだ。」

エマ「......!///」

 

 いや、どんな言い訳!?

 

 長くなり過ぎそうだから回避しようとしたけど

 

 何と言うか、妹に言う事ではないね

 

エマ「元から私はお兄ちゃんのモノだけど、そう言われたら仕方ない///これの披露はこの場では控える///」

環那「あ、あはは、楽しみにしてるよ(さようなら、睡眠時間。)」

紗夜(控えめに言って、死にましたね。)

あこ(環那兄、頑張れ......!)

 

 妹の愛は受け止めてあげないと

 

 拒否したら、またエマが暴走する

 

 ただでさえ寝てる間に何されてるか分からないのに

 

リサ「ま、まぁ、場も温まったし(?)プレゼント渡そうか!」

あこ「はーい!誰から行きますかー?」

紗夜「私から行きますよ。あまり気合の入った物ではないので。」

 

 紗夜ちゃんはそう言って小さな包みを取り出し

 

 それを俺の方に差し出して来た

 

 プレゼント、用意しててくれたんだ

 

 正直、何もないと思ってた

 

紗夜「私からはチョコレートです。日菜がお仕事で取材に行って、美味しいと言っていたので買ってきました。確か、甘党でしたよね?」

環那「うん、ありがとう。俺は紗夜ちゃんがプレゼントをくれただけで嬉しいよ!(何もないと思ってたから。)」

紗夜「流石に私へのイメージおかしくないですか?そこまで薄情な事はしません。」

 

 まぁ、年長者仲間だもんね!

 

 なぜか最近シスコンって呼ばれる同士だし

 

あこ「じゃあ、次はあこが渡すー!はい!環那兄!」

環那「ありがとうー。これはー?」

 

 あこちゃんに渡されたのは小さめの箱だった

 

 えっと、これは一体なんだ?

 

 持った感じ、質量はそこまでないけど

 

あこ「あこね、考えたの!環那兄の好きなもの!それで辿り着いたのが、りんりん!」

燐子「!?///」

環那「り、燐子ちゃん、関連のモノ......?」

 

 なんだかトンデモない物が入ってる気がしてきた

 

 え、ほんとに何が入ってるんだ?

 

 気になるのと恐怖心が半々なんだけど

 

あこ「あこのプレゼントは、『普段は見れないりんりんの姿!』だよ!今まで撮り溜めしてたのを現像してきたんだー!」

環那「ありがとう、あこちゃん。大切にするよ。」

燐子「環那君......!?///」

 

 それは何とも素晴らしいプレゼントだ

 

 部屋に飾っておこう

 

 写真の内容はまだ分からないけどね

 

あこ「環那兄が絶対に見たことない姿もあるから、部屋で1人で見てね!」

紗夜「いや、どんな写真撮ったんですか?」

燐子「う、うぅぅぅ......///(環那君に、あられもない姿を......///)」

 

 いやー、ありがたい

 

 これはゆっくり拝見させてもらおう

 

エマ「次は私が渡す。」

環那「エマかー。(ある意味想像つかないな。)」

 

 まぁ、プレゼントは大丈夫でしょ(フラグ)

 

 エマ、常識はまだ微妙にないけど

 

 流石にプレゼントでやらかすわけ......

 

エマ「プレゼントは......わ・た・し♡」

リサ「アウトー!」

エマ「えー。」

紗夜「き、兄妹の節度は守ってください。」

エマ「問題ない。一緒にお風呂に入るだけ。」

リサ、紗夜「それ割と問題!!」

 

 割とどころか完全に問題だけどね

 

 2人もエマに洗脳されてるなー

 

 いや、この場合は毒されたって言うべきかな

 

エマ「まぁ、半分は冗談。本命のプレゼントは家に置いてある。」

環那「え、そうなの?(家にあったっけ......)」

エマ「お兄ちゃんは最近、デスクワークをすることが多く、体が凝り固まってる。だから、マッサージチェアを開発し、それを置いてある。」

環那「そ、そうだったんだ。気付かなかった。」

リサ「ま、まともだ(感覚麻痺)」

 

 兄妹間のプレゼントにしては豪華すぎるけど

 

 まぁ、エマだから何となく納得した

 

 てか、半分しか冗談じゃないんだね

 

リサ「い、いやー、個性的なプレゼントがいっぱいだねー。じゃあ、次はあたしが渡そうかなー(ここで軌道修正しないと。)」

環那(リサが軌道修正しようとしてる気がする。)

 

 まぁ、ここまで、チョコレート、燐子ちゃんの写真、エマ自身またはマッサージチェアだしね

 

 うーん、世間的にまともな物の確率50%

 

 これは軌道修正も必要だよね

 

リサ「あたしはこれ!今年に流行りそうな秋服!環那、あんまり服とかに興味ないし、オシャレな服も必要かと思って!」

環那「あ、ありがとう!これは助かるなー!ありがたく着させてもらうよ!」

紗夜「流石、今井さんね。素晴らしいセンスよ。(軌道修正ね。)」

友希那「リサらしいプレゼントね。」

 

 よ、よし、軌道修正完了

 

 てか、リサってほんとに分かってるよね

 

 俺が全然服持ってない事、なんで分かるんだろ

 

リサ「あ、着たら写真送ってね!今後の参考にするから!」

環那「りょうかーい。」

紗夜(それはただ欲しいだけでは?)

 

 これから服の事はリサに任せよう

 

 一度エマに頼んだけどコスプレになったし

 

 やっぱり、常識とセンスがある子に限るね!

 

燐子「じ、じゃあ、次は私が......!」

環那「燐子ちゃんは安心できるね。(絶対的な信頼)」

燐子「が、頑張って選びました......!///う、受け取ってください......!///」

環那「あはは、なんで敬語に戻ってるの?まぁ、ありがとう。」

 

 俺はそう言いながらプレゼントを受け取った

 

 燐子ちゃんのプレゼントは万年筆だった

 

 しかも、かなり良いやつだ

 

 どこかの社長が使ってたのよりも

 

環那「結構予想外かも。なんで万年筆にしたの?」

燐子「えっと、社長さんは持ってるイメージがあったのと、それと、少し私の我が儘もあって......///」

環那「我が儘?」

燐子「い、言わないとダメかな......?///」

環那「嫌ならいいけど、気にはなるね。」

燐子「うぅ......///」

 

 燐子ちゃんは両手で顔を覆ってる

 

 けど、耳まで真っ赤だからあまり意味がない

 

 まぁ、紳士の心で触れないけどね

 

燐子「......万年筆は使う人にどんどん馴染むって聞いて///」

環那「よく聞く話だね。それが何で我が儘に繋がるの?」

燐子「え、えっと、その万年筆が馴染む頃には......私が、環那君の隣にいたいなって......///」

環那「っ!!」

あこ(おーっ!環那兄が反応した!)

紗夜(し、白金さん、すごいわね。)

 

 か、可愛いがすぎる......!

 

 他の人間だったらこの場で即入籍だよ

 

 俺ですらかなり今揺らいでるのに

 

環那「あ、ありがとう。その、大切に使うよ。ちゃんと馴染むように。」

燐子「うん......!///」

あこ(なんでこの2人付き合ってないんだろう。)

紗夜(どう見ても両思いなのに......)

リサ(ムムム、環那のことを知り過ぎたのが裏目に出た......!)

 

 これは、プロポーズでは?

 

 いや、燐子ちゃんの場合は無意識でこれか

 

 なんとも、心臓に悪い......潰れそうだ

 

友希那「......この流れで、渡すの?」

紗夜「はい。後は湊さんだけですから。」

あこ「友希那さんは何にしたんですかー?」

エマ「湊友希那の、ちょっといいとこ見てみたいー(棒)」

友希那「雑な煽りをするのはやめて欲しいのだけれど......」

 

 友希那は溜息を吐きながら席を立ち

 

 ゆっくりと俺の方に近づいて来る

 

 最後は友希那かー

 

友希那「そう、ね。もう14年も経ったのね。」

環那「?」

 

 俺の前に立つと、友希那はボソッとそう言った

 

 多分、出会ってからの年数だと思うけど

 

 急にどうしたんだろう

 

友希那「傷を負ったあなたと出会って、仲良くなって、ずっと一緒だった。14年間、私はずっとあなただけに負担をかけ続けて来た。」

環那(負担だなんて、別になかったけど。)

 

 ほんとに負担なんて感じたことはない

 

 したくてしてきた事だし

 

友希那「けど、最近のあなたは変わった。」

環那「え?」

友希那「たくさんの友人が出来て、大切な人が出来て、少しずつ自分の人生を本当の意味で自分のものにしつつある。」

環那(......?)

 

 今、自分の中で何かが綻んだ気がした

 

 なんだ、今のは?

 

 一体、何が起きたんだ?

 

友希那「そんな環那に、これからの幸せを願って、これを送るわ。」

環那「これは......」

 

 友希那が渡して来たのはロケットペンダントだ

 

 銀色で花のような模様があって、すごく綺麗だ

 

友希那「その蓋を開けてみて欲しいの。」

環那「開けるって......あっ、こう......か?」

リサ「どれどれー?......あぁ、あの時の。」

 

 ペンダントを開けると、写真が出て来た

 

 Roseliaの皆、エマ、琴ちゃん、と

 

 俺の身近にいる人たちが写ってる

 

 それを見て、今度は胸が締め付けられるような感覚に襲われた

 

あこ「あー!だから、あの時に写真撮ったんですね!」

紗夜(これ、私が写る必要あったのかしら?)

エマ「良いセンス。評価に値する。」

燐子「良いプレゼント......ですね。」

リサ(......なるほどねー。)

 

 ペンダントの写真を見つめる

 

 友希那と肩を組んでピースしてるリサ

 

 燐子ちゃんに抱き着いてるあこちゃん

 

 いつもと同じで仏頂面の紗夜ちゃん

 

 お人形みたいにちょこんと座ってるエマ

 

 無駄に気取ってる琴ちゃん

 

 何と言うか、楽し気で、わちゃわちゃした写真だ

 

環那「......これからの幸せ。」

リサ「環那?」

環那「守りたい人......か。」

リサ「どうしたの?」

 

 俺は、リサを守れてきたのだろうか

 

 いや、きっと出来てない

 

 それは、この数か月で痛感した

 

環那「......」

リサ(この表情は......)

環那「......そう言う事か。」

 

 俺はペンダントを握りしめ

 

 その手を胸に当てた

 

 最近感じてた、このざわめき

 

 それの正体が、少しだけ見えた

 

環那「さて、そろそろご飯食べよっか!(いけない、答えを急ぐのは。)」

友希那「そうね。」

あこ「やったー!いただきまーす!」

エマ「お兄ちゃん、お兄ちゃんの分は私が盛り付けてある。」

紗夜「山盛りですね。」

燐子「か、環那君......!いっぱい食べてね......!」

環那「え、あの、俺、食細い方なんだけど......」

 

 そう言ってももう手遅れで

 

 目の前には大量に盛られた料理

 

 あー、これは食べるしかないみたいだ

 

 俺はそう思って腹をくくり、食事を始めた

 

 

 



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プラスアルファ

環那「......」

 

 エレベーターの中で、友希那に貰ったペンダントを眺める

 

 中にある写真を見ると、つい笑顔になってしまう

 

 楽し気で、みんな可愛らしくて

 

エマ「お兄ちゃん、嬉しそうだね。」

環那「うん。すごく、嬉しいよ。」

エマ「私も写ってる。」

環那「可愛いよ、エマも。」

エマ「......♪」

 

 横にいるエマの頭を撫でた

 

 よく考えなくても、エマは大きな変化だよね

 

 初めての俺と血のつながった家族だし

 

エマ「お兄ちゃん、好き......///」

環那「どういう意味で?」

エマ「勿論、家族......///」

環那「ならいいよ。」

 

 家族への好きとは言い難い顔してるけど

 

 まぁ、いいや

 

 エマはエマで変わった......気がするし

 

環那「そう言えば、リサと燐子ちゃんはどうしたんだろうね。」

エマ「!」

環那「少し早くお店を出てたけど、どうしたのかな?焦ってるようにも見えたし。」

エマ「......下着でもズレたんじゃないかな。」

環那「2人同時に!?」

 

 いや、ありえないとは言えないけど

 

 てか、俺が触れるべき話ではないね

 

 バレたらリサに怒られるよ

 

エマ「まぁ、取り合えず家に着いた。私は、寝るね。」

環那「あれ、いいの?あの手紙(原稿用紙)」

エマ「思ったよりも疲れたから、また今度。」

環那「そう?」

 

 珍しい......

 

 むしろ、少し疑わしいとさえ思う

 

 あのエマがねぇ......

 

環那(まぁ、いいか。)

エマ「さぁ、着いた。」

環那「そうだねー。今日は早く寝ようかー。」

エマ「うん。(お兄ちゃん、寝られるかな?)」

 

 エマと話してるうちに家に着いた

 

 時間はもう8時だ

 

 寝るには少し早いけど、お風呂とか入ったらいい時間か

 

 そんな事を考えながら、俺はエマと家に入った

__________________

 

エマ「__じゃあ、私は部屋に戻るね。」

環那「うん。今日はお疲れ様。」

 

 俺がそう言うと、エマは部屋に入って行った

 

 慣れない雰囲気で、疲れたんだろうね

 

 俺にあんまり構ってこなかったし

 

環那(琴ちゃんはまだ帰ってきてないか。)

 

 多分、ご飯食べて来てるんだと思う

 

 今日は家事しなくていいって言われたし

 

 帰りは0時回るんじゃないかな

 

 お酒の匂いさせて帰ってきそう

 

 そんな事を思いながら、俺は自室のドアを開けた

 

環那「あー、今日はいい夢見られそうー。まぁ、夢なんて見たことないけd__」

リサ「お、お帰り!///環那!///」

燐子「おかえりなさい......///」

環那「......」

 

 ドアを開けて俺が見たもの

 

 それは、大きく胸元の開いてて、スカートも短い

 

 かなり官能的な服を着た2人の姿だった

 

 ......いや、なにこれ??

 

環那「......」

(パタン)

リサ、燐子『環那(君)!?』

 

 俺は情報を処理しきれず

 

 ゆっくり、部屋のドアを閉じた

 

 幸せ過ぎて夢でも見てるのかな?

 

環那(幻?まさか、俺は幻を見てたのか?そう言えば今日の日中の気温は30度を超えてたし、知らないうちに熱中症になって、そのせいで俺は幻を見たのか......!?)

 

 いや、俺の体に異常はない

 

 だとしたら、何かの映像?

 

 部屋にプロジェクターが仕掛けられてて

 

 それを俺が帰って来ると同時に流した?

 

環那「......ふ、ふふっ、まさかこの俺を欺けるとでも?残念ながら、そうは問屋が卸さな__」

リサ「__いや、なに一人で喋ってるの......///」

燐子「夢でも幻でもないよ......?///」

環那「」

 

 ほう、夢じゃないと

 

 つまり、これはリアルだと?

 

 はぁー、なるほどねぇー......

 

環那「えっと、取り合えず、部屋に入ろうか。話はそれからで。」

 

 俺は鼻血が出そうなので思考を停止し

 

 話を聞くために2人と一緒に部屋に入った

__________________

 

 あれから10分ほど経った

 

 2人から聞いた今回の事情を簡単にまとめると

 

 俺が2人にしたこととプレゼントが割に合わないから

 

 プレゼント+αを考えた結果、こうなったらしい

 

環那「いや、気にし過ぎでしょ。」

 

 俺はそんな感想を口にした

 

 いやほんと、気にし過ぎだよ

 

 てか、体張り過ぎでしょ

 

 なんでそんな......

 

環那(目に毒な......)

 

 今の2人は目に毒だ

 

 2人とも胸元にハート形の穴が空いた水着を身に付けてて

 

 下はメイド服っぽいスイムスカート

 

 2人の違いとしては、リサは長い白靴下

 

 燐子ちゃんは黒のストッキングにガーターベルト

 

 後は元の体型の差かな......主に胸

 

燐子「似合ってない......かな......?」

環那「いや、すごく可愛いと思うよ?」

 

 そう、すごく可愛い

 

 リサも燐子ちゃんはすごく可愛いんだ

 

 世の男なら泣いて喜びそうなほどに

 

 でもね、問題はそこじゃないんだよね

 

環那「男の部屋にその恰好でいるのは、ちょっと危機感がなさすぎるんじゃないかなーって......」

リサ「ま、まぁ、環那以外には絶対にしないね......///」

燐子「環那君なら大丈夫だと、思ってるから......///」

環那「......」

 

 ......何をもって大丈夫だと思うんだ?

 

 2人とも、俺と一線超えたの忘れてる?

 

 一応、性欲くらいあるんだけど?

 

環那「ち、ちょっと、お風呂入って来て良いかな?」

リサ「あ、うん、そうだね!今日は走り回ってたし!」

燐子「ゆっくりしてきてね......!」

環那「う、うん。(取り合えず、お風呂で状況を整理しよう。)」

 

 俺は少し痛む頭を我慢しつつ

 

 服などを用意してから、お風呂場に向かった

__________________

 

環那「__はぁー......」

 

 お湯につかりながら、大きなため息をついた

 

 これは、どういう状況なんだろう?

 

 なんで、2人はあんなことを?

 

環那(......分からない。)

 

 まず、2人はお礼を考えてた

 

 あの2人の性格的に、リサは誕生日プレゼント

 

 燐子ちゃんはお父さんの事とかで恩を感じちゃって

 

 それでプレゼントにプラスして何かしようとして

 

 あの衣装を着ることになった......

 

環那「はぁ......(2人とも律義すぎでしょ......)」

 

 別にそんな大したことしてない

 

 それでここまでされると気を遣うな......

 

環那(どーしよ。)

 

 あの衣装、手作りだろうなぁ

 

 相当頑張ったのが見たらわかるもん

 

 あんまり本気で拒絶したら、燐子ちゃんが傷つくよね

 

 かといって、あんな2人が近くにいて、俺が間違いを起こさないって言う保証も......あるとは言えない

 

環那(あの2人、なぜか俺のこと信頼してるからなぁ......それを裏切るのも忍びない。)

 

 どうにか、耐え忍ぶしかないか

 

 別に嬉しくないって訳ではないし

 

 自然にしてれば、上手く行くでしょ

 

環那(何とか頑張ろう。俺なら出来るさ。何たって、我慢は得意分野だから。)

 

 俺はそんな事を考えながら立ち上がり

 

 少しだけ落ち着いてからお風呂を出た

__________________

 

 “リサ”

 

リサ「......環那、困ってた?」

燐子「はい......かなり......」

 

 環那がいなくなった部屋後

 

 あたしは小さな声でそう呟いて

 

 それを聞いて燐子は大きく頷いた

 

燐子「完全に、舞い上がってました......きっと、喜んでもらえると......」

リサ「あたしも......」

燐子「......それに、下心があったことも、否定できません......」

リサ「......ほんとにね。」

 

 一応、燐子とは打ち合わせで話してた

 

 もしも環那がそう言う気分になったらって

 

 まぁ、ほぼないって思ってたけど

 

 もしなったら、ある程度は受け入れる事になってた

 

 けど......まさか、あそこまで拒絶されるなんて

 

リサ「......燐子もさ、環那とキスより先の事したでしょ?」

燐子「......!?///」

 

 あたしがそう聞くと、燐子は顔を真っ赤にした

 

 あんまりこういう話してなかったんだよね

 

 分かり切ってたけど、口には出さなかった感じ

 

燐子「......しました......///遭難した時に......///」

リサ「遭難した時に!?(七夕祭りの時じゃなくて!?)」

燐子「今井さん......?///」

リサ「い、いやー......」

 

 初めてで、そんなハードなプレイを......?

 

 燐子、思い切ったなー......

 

燐子「今井さんも、あるんですよね......?///」

リサ「え!?///ま、まぁ、環那が入院してるときに///」

 

 あれからもう4か月は経つんだ

 

 時間の流れって早いなぁ

 

 まだ、昨日の事みたいに思ってたのに

 

燐子「......その、どうでしたか?///」

リサ「え、それ聞く!?///」

燐子「こ、後学のために......///」

 

 どんな後学?

 

 でも、いやぁ......恥ずかしい

 

リサ「その......やっと、あたしだけを見てくれたって思った。」

燐子「......!」

リサ「今まで、友希那のついでだったあたしの事を好きになってくれた、そんな時間だった......かな。」

 

 思い出しただけで嬉しくなる

 

 人生で一番幸せな時間だったかもしれない

 

燐子「......今井さん、辛かったんですね......」

リサ「その目やめて!?なんか、あたしがすごい可愛そうな子みたいになるから!」

燐子(実際にそうでは......?)

リサ「あの日から、環那もちょっとずつ変わって、今はちゃんとあたしの事好きになってくれてるから!」

燐子「それは、違います......!」

リサ「!」

 

 燐子の語気が強くなる

 

 え、何が違うの?

 

 見た感じは、そうだと思うんだけど......

 

燐子「環那君が好きなのは......私ですから......!」

リサ「そこ!?」

燐子「環那君は......絶対に譲れません......!」

 

 あの燐子がここまで自己主張するなんて

 

 人を好きになって、変わったんだね

 

 恋する乙女は最強だからねー......

 

燐子「今井さんは......そう思ってないんですか......?」

リサ「もちろん、思ってるよ。あたしも、譲る気はないから。」

 

 誰にも譲る気はない

 

 あたしは誰よりも環那の事を理解してる

 

 何年も、あたしは環那を支えて来た

 

 だから、環那に一番相応しいのは、あたしだって自信がある

 

リサ「燐子には悪いけど、あたし以上に環那に相応しい女はいないから。」

燐子「......そんなの、分かりません。」

リサ「!」

燐子「確かに、私が環那君と過ごした時間は、今井さんには遠く及びません......ですが、その分、私は新しい経験をさせてあげることができます......!」

 

 痛い所をついてくる

 

 確かに、燐子が行ってる事は正しい

 

 あたしは環那に新しい経験をあげられない

 

 いや、出来る気がしないって言うべきか

 

燐子「環那君は、もう解放されるべきなんです......もっと、自分のために生きて良いんです......」

リサ「......」

燐子「たくさん助けてもらってこういうのもおかしいですが......社長にだって、本当はなりたくなかったはずです......けど、環那君は優しいから、色んな人のために無理をしてるんです......」

リサ「......そうだね。」

 

 あたしも全くの同意見だった

 

 環那は自分への影響を一切考えない

 

 それを優しさって呼ぶかは分からないけど

 

燐子「そんな環那君を支えるなんて、私には出来ません......だから、一緒に歩けるような人間になりたいんです......!」

リサ「そっか。燐子は、そうだよね。」

 

 あたしとは違うアプローチだ

 

 環那にとってどっちがいいかは分からない

 

 いや、あたしの方がいいに決まってる

 

 積み重ねてきた時間は、簡単には負けないんだから

 

リサ「負けないよ......ライバルは多いけど。」

燐子「はい......!私も、絶対に負ける気はありません......!」

 

 燐子はそう言って、胸の前でギュッと両手を握った

 

 それを見て、あたしは小さく笑って

 

 燐子と話しながら、そろそろ帰って来るであろう環那を待ってた

 

 

 

 



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吐露

 お風呂からあがって、俺は部屋に戻った

 

 2人は先ほどと同じ衣装を着て、正座してる

 

 な、なんだろう、この光景......

 

 なんだか、俺がそう言う趣味の人みたいだ

 

環那「な、なんで2人は正座を?」

リサ、燐子「反省......」

環那「あ、うん。」

 

 こ、これはどうしよう

 

 2人は恩を感じてこういう行動に出たんだろう

 

 けど、この2人にそんな売女ような真似はして欲しくない

 

 そもそも、全然気にしなくてよかったのに

 

リサ「ごめん、環那......」

燐子「こんなの......困るよね......」

環那「大丈夫大丈夫。お風呂入って頭の中、整理してきたから。」

 

 俺はそう言って、椅子に座り、一つ息をついた

 

 大丈夫だ、今の2人を前にしても冷静でいられる

 

環那「それで、2人は何らかの恩を感じて、それを返すためにこういう行動に出たって解釈で良い?」

燐子「うん......」

環那「別に、そんなに気にしなくてよかったんだけどね。」

燐子「そんなわけにはいかないよ......お父さんのお仕事も紹介してくれて、その上、お仕事がない期間の生活費も全部出してくれたのに......」

環那「そのくらい気にしなくていいんだけどね。」

 

 適当に3000万入ってる通帳渡しただけだし

 

 そもそも、そんなに使われてなかったし

 

 全部使っても構わなかったのに

 

環那(さーて、これはどうしようか......)

 

 この2人を無理やり帰すと傷を残しそうだ

 

 けど、この状態の2人がずっと部屋にいると

 

 それはそれで、俺の理性の方もヤバい

 

 冷静でいられる時間も限られてるし

 

環那「それで、2人はどうしたいの?」

リサ「え、えーっとー......///」

燐子「実は......あんまり考えてなくて......///」

環那「み、見切り発車だったんだね。」

 

 この位思い切らないと、こんな事出来ないか

 

 ......こっちとしては少し勘弁して欲しいけど

 

環那「まぁ、もう夜も遅いし、俺は寝るけど。」

リサ「じゃ、じゃあ、添い寝する!///」

環那「!?///」

燐子「わ、私も......!///」

環那「なっ!?」

 

 なんでそうなるの!?

 

 明日、学校じゃなかったっけ?

 

 あれ、俺がおかしいのかな?

 

リサ「だ、ダメ......?///」

燐子「迷惑、かな......?///」

環那「......」

 

 二人は潤んだ眼でこっちを見ている

 

 なんか『一緒に寝ますか?』って声が聞こえて来た

 

 ま、マジかー......

 

環那「......仕方ない。添い寝位ならいいでしょ。」

リサ「じゃ、じゃあ///」

環那「一緒に寝ようか。(2人と寝るのはリサは8年ぶり、燐子ちゃんは二か月ぶりくらいかな。)」

燐子「う、うん///」

 

 それから、俺は少しだけ日課の部屋に片付けをし

 

 ある程度準備が整ってから部屋に電気を消し

 

 2人と一緒にベッドに入った

__________________

 

 ベッドに入ってから1時間が経った

 

 2人は横で穏やかな寝息を立て始め

 

 俺の両腕はガッチリホールドされてる

 

 燐子ちゃんは義手の方に抱き着いてるけど、いいの?

 

 固くないのかな?

 

環那(......2人は寝たかな。)

 

 いつもはここまで早く寝ないけど

 

 今日は2人もいるし、寝かしつけるためにこうした

 

 何とか、上手く行ったみたいだ......

 

環那(取り合えず、一旦ベッドを出よう。)

 

 2人に気付かれないように腕を抜いて

 

 取り合えず、ベッドのわきにある椅子に座る

 

 これで、なんとかなったかな......

 

環那(......この2人、ほんとに俺の事好きなんだ。)

 

 ベッドで眠る2人を見て、ふとそう思う

 

 リサと燐子ちゃんの気持ちはもう知ってる

 

 むしろ、言われてなくても、ここまでされたら気付く

 

環那(......好き、か。)

 

 ふぅ、と息を吐き

 

 机に置いてあるロケットペンダントを見る

 

 中にある楽し気な写真

 

 その中に写ってる、俺の止まりかけた心臓を激しく動かす3人

 

環那(......もう、分かったよ。)

 

 きっと、俺はこの3人が好きなんだろう

 

 その事はもう、確信に変わった

 

 そう思うと、頭の中で色んな音声が流れてくる

 

リサ「んん......っ。」

燐子「すぅ......」

環那「......っ。(ダメだダメだ!)」

 

 今の2人の格好は目に毒過ぎる

 

 このままじゃ、俺の理性と言う理性が崩壊する

 

 俺はそう思い、部屋から出ることにした

__________________

 

 リビングに来て、ソファに腰を下ろす

 

 シーンとして、少し薄暗い部屋

 

 そんな場所にいると、一気に冷静になる

 

環那「......友希那。」

 

 小さな声で、名前を呼ぶ

 

 俺の人生に光を与えてくれた神

 

 世界で一番、大切な女の子......の、はずだった

 

環那「......」

 

 心の中では気付いてたのかもしれない

 

 羽丘に戻って来てからだろうか

 

 いや、退院した後、キスをしてからか

 

 あの日から、自分の中で迷いが生じ始めた

 

環那「......っ。」

 

 自分の中で、あの3人と友希那の分類は違う

 

 そう思い始めた最初の原因

 

 それは、リサだ

 

環那(リサ......)

 

 病院でリサの気持ちをぶつけられ

 

 リサに対する見方に変化が現れた

 

 今までにない反応に戸惑ってたけど

 

 あれが、始まりだった

 

環那(燐子ちゃん......)

 

 そして、燐子ちゃんと出会った

 

 俺の心の綻んだ部分を易々と破壊してきた

 

 友希那以外に初めて、命を懸けてもいいと思った

 

 日に日に俺の中で大きな存在になって行く、不思議な女の子

 

 今でも、燐子ちゃんは未知だ

 

環那(そして、琴ちゃんか。)

 

 出所してから、ずっと一緒にいた

 

 ズボラで家事スキルの無い、所謂ダメな大人

 

 けど、心優しくて、危険極まりない俺を受け入れてくれて

 

 なんだかんだで、立場関係なく交わった

 

環那(全員、勿体ないよ。俺みたいな犯罪者に身を捧げるなんて、世界の損失だよ。)

 

 皆、可愛くて、性格も良くて

 

 彼女たちを好きになる男はたくさんいる

 

 そんな子達が俺だけに集中するなんて......

 

 うん、なんか色々間違ってるね

 

リサ「__環那......?」

環那「あ、リサ。」

リサ「どーしたの......?」

環那「......目が冴えてね。」

リサ「隣、行っていい......?」

環那「うん、いいよ。(様子がおかしいな。)」

 

 1人でリビングにいると、リサが入って来た

 

 その様子はまるで、怖い夢を見た子供みたいで

 

 目には涙が溜まってて、スカートをギュッと握ってる

 

環那「怖い夢でも見た?」

リサ「......うんっ。」

環那「そっか。」

リサ「ん......っ」

 

 隣に座ってるリサの頭を撫でる

 

 相変わらず、撫で心地が良い

 

環那「どんな夢だった?」

リサ「......環那が、いなくなる夢。」

環那「!」

 

 俺がいなくなる夢、か

 

 割と現実味あるのが怖いね

 

 まぁ、今の所そんな予定はないけど

 

リサ「それで、起きたら環那いなくて、怖くなって......」

環那「ごめんごめん。」

リサ「......もっと撫でて。」

環那「はいはい、仰せのままに。」

 

 また、リサの頭を撫でる

 

 こうしてると、昔の事を思い出す

 

 リサが泣いた時はいつもこうしてたっけ

 

 偶に抱きしめたりもしてたか

 

環那「リサは甘えん坊だね。」

リサ「......環那の前だけだもん。」

環那「ははっ、そうだね。いつもはお姉さんぶってるもんね。」

 

 成長しても、根っこは変わらないか

 

 甘えん坊で涙もろい、幼い女の子だ

 

リサ「こんな女の子、嫌い......?」

環那「嫌いじゃないよ。」

リサ「......好き。」

環那「......ふいにそういうこと言うのは止めていただきたい。」

 

 流石にちょっと、ドキッとした

 

 結構ちゃんと仕事してるじゃん、俺の心臓

 

リサ「好きなものは好きなんだもん。」

環那「知ってるよ。昔から。」

リサ「でも環那、モテるじゃん。」

環那「モテてるかは微妙だけど......」

リサ「燐子に浪平先生いるんだけど......?」

環那「3人に好かれて、モテる人間にカテゴライズされるなら、俺はモテるね。」

リサ「じゃあ、十分モテモテ。」

 

 俺はモテモテだったのか(驚愕)

 

 まぁ、普通は3人にいっぺんに告白されたりしないか

 

リサ「環那の事を好きになるのは、あたしと友希那だけだと思ってたのに......」

環那「......俺も、そう思ってたし。俺が好きになるのも、友希那だけだと思ってた。」

リサ「......?」

 

 リサには、話していいかもしれない

 

 俺の心内を数少ない人間だし

 

 話すタイミングも今しかない

 

環那「俺、3人の女の子が好きなんだと思う......いや、好きなんだ。」

リサ「っ!そ、それって......あたしも?」

環那「うん。」

リサ「あとは、燐子?」

環那「正解。」

リサ「じゃあ、最後は......友希那?」

環那「......」

リサ「え?」

 

 言葉に詰まる

 

 リサも今の俺の様子を見て戸惑ってる

 

 まぁ、そうだよね

 

 リサからすれば、因縁の恋敵だっただろうし

 

 けど......

 

環那「......リサだけに、話すね。」

リサ「な、何を......?」

環那「実は、俺__」

リサ「__っ!」

 

 俺は、自分の中で出た答えをリサに伝えた

 

 その瞬間、リサは驚いて体をこわばらせて

 

 まるで時間が止まったかのように、俺達の会話は無くなった

 

 

 

 



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叫び

環那「......んっ......」

 

 朝、俺はいつも通りベッドの上で目を覚ました

 

 いつもの方向にある太陽

 

 そして、起きた時の謎の喪失感

 

 うん、いつも通り__

 

リサ「ん、んん......っ」

燐子「すぅ、すぅ......」

環那「......(あー。)」

 

 と言うのは、少し語弊があったかな

 

 これがいつも通りだとヤバいね

 

 歴史に名を遺す程でもないけど最低男だ

 

環那(さて、朝の家事をしないと。見た感じ、学校の荷物が持って来てるっぽいし、ここから学校に行くのかな。)

 

 俺はそんな事を考えながらベッドから降りて

 

 朝の家事をするために部屋を出た

 

 2人の制服も洗ってあげた方がいいよね

 

 あと、お弁当も作っておこう

__________________

 

 朝の家事は結構忙しい

 

 夜のうちに出た洗濯物を洗濯して

 

 朝ごはんを作って、3人分のお弁当を同時に作って

 

 琴ちゃんが着ていく服を用意したり

 

 まぁ、色々ある

 

環那(あ、これ。醤油を小さじ2分の1位分減らした方が味も健康も両立できる。)

 

 けど、俺は別に家事は嫌いじゃない

 

 むしろ、かなり好きだ

 

 料理も洗濯も慣れたら楽しいしね

 

琴葉「ふぁ~ぁ......おひゃようごひゃいます......」

環那「琴ちゃん?今日は早いね。」

琴葉「何故か早く目が覚めちゃって......眠たいです......」

環那「ははっ、コーヒーでも淹れようか?」

琴葉「お願いしまーす......」

 

 ほんとに眠そうだな

 

 全く、学校で人気のある教師とは思えないな

 

 俺はこっちの方が好きなんだけどね

 

環那「はい、どうぞ。」

琴葉「あれ?珍しいですね、あなたも一緒になんて。」

環那「家事も終わったしね。ゆっくりしようかなって。」

 

 そう言って、琴ちゃんの向かいに座る

 

 今は、朝の6時30分だ

 

 登校時間までは後1時間30分もある

 

琴葉「__これ、美味しいですね。」

環那「そりゃあ、天下の羽沢珈琲店の看板娘さんに習ったからね。」

 

 そんな会話をしながら、コーヒーを口に含んだ

 

 ......やっぱり、つぐちゃんの淹れた物とは違う

 

 材料も分量も秒数も一切の違いはないのに

 

 所謂、心と言う物で差が出てるのかな

 

琴葉「......そう言えば、お父さんから昨晩連絡が来たんです。」

環那「珍しいね。」

琴葉「どうやら、私経由であなたに伝えたいことがあったようで。」

環那「!」

 

 琴ちゃんの言葉に、俺は少しだけ驚いた

 

 篤臣さんが少しだけ慎重に動いてる

 

 いつもなら誰かしらを使ってコンタクトを取るのに

 

琴葉「最近、あなたを嗅ぎまわってる人がいるらしいです。」

環那「あぁ、その事か。」

琴葉「やっぱり、知ってましたか......」

環那「まぁね。てか、若干待ってたくらいだし。」

 

 誰かは分かってるし

 

 ただ、少しだけ想定外なのは......

 

 少しばかり、人数が多いことか

 

環那「誰が来ようと問題ないさ。エマもいるし。」

琴葉「1人でも十分でしょうに......」

環那「あはは。」

リサ「__か、環那ー?」

環那「ん?リサ?燐子ちゃんも。おはよう。」

燐子「お、おはよう......///」

環那「?」

 

 琴ちゃんと話してると2人はドアから顔だけを出して話しかけえ来た

 

 なにしてるんだろう、って、あ

 

リサ「か、環那、あたし達に服とか洗ってくれてる......?///」

環那「うん、洗ってるよ。制服、今日着ていくでしょ?」

燐子「そ、その......下着は......///」

環那「洗ってるよ?昨晩、替えの下着忘れたって話してるの聞いたし。」

リサ「あれ聞いてたの!?///」

環那「偶々ね。」

琴葉「うわぁ......」

 

 一応、ちゃんと洗い方とかは調べた

 

 乾燥もそろそろ終わる頃だろう

 

琴葉「あなた、女性の下着洗うのとか躊躇いませんよね。」

環那「洗濯は仕事だよ?医者が人の内臓見るの躊躇うの?」

琴葉「なんでこういう時の考え方は極端なんですか......」

環那「時に大胆になるのも大事でしょ。」

 

リサ(う、うぅ///環那に下着を洗われるなんて///)

燐子(好きな人に下着を......っ///)

 

環那「さて!そろそろ乾燥も終わるし、洗濯物取って来るよ!」

リサ「あ、あたし達が行くからー!///」

燐子「も、もう勘弁して......///」

環那「?」

 

 2人は慌てた様子で脱衣所に行き

 

 それぞれの服を取りに行った

 

 それを見て、俺は朝ごはんの配膳をすることにした

__________________

 

 “友希那”

 

 朝、私は珍しく1人で学校に来た

 

 リサは今日、環那と登校すると思うけれど

 

 危うく、寝坊する所だったわ

 

環那「__友希那ー!おはよう!」

リサ「ちゃんと遅刻せず来れたねー!偉い!」

環那「天才だね!この成果は世界の歴史に残るべきだ!」

友希那「リサ、環那、あなた達は私を何だと思っているの?」

 

 この2人、まるで私の親ね

 

 だとしたら親バカ過ぎるけれど

 

友希那「まぁ、いいわ。それで、昨晩はどうだったの?」

リサ「!///」

環那「一緒に寝たくらいだよ。昔みたいに。」

友希那「燐子も一緒だったのよね?」

環那「うん、そうだよ?」

友希那「......そう。(昔みたいに......ね。)」

 

 環那は変わった

 

 いや、周りが変わったと言うべきかしら

 

 私達3人だけだった繋がりが、段々と広がって

 

 環那の事を認めてくれる人たちが現れた

 

 幼馴染として、こんなに嬉しい事はない

 

友希那(......)

 

 3人だけでいた時間も、私は好きだった

 

 元は、私達3人だけで

 

 環那の居場所は私達だけだった

 

友希那(昔は、リサのもう傍らには私がいたのに......)

リサ「友希那?」

友希那「っ!ど、どうしたの?」

リサ「いや、ちょっと表情が暗かったから。」

友希那「何でもないわよ。」

 

 駄目ね、こんなこと考えてたら

 

 人は変わるものなんだから

 

 いい意味で変わってくれるなら、喜ばないと

 

「なぁなぁ~、南宮社長~。」

環那「......なに?」

友希那「!」

 

 リサと話してると、横から軽薄そうな声が聞こえた

 

 声のした方に目を向けると

 

 環那の周りに数十人の生徒が集まってるのが見えた

 

「将来、俺のこと雇ってくれよ~。」

環那「面接受ければ?」

「いやいや、そこはやっぱり、クラスメイトのコネって言うか?そう言うのもあるじゃん?」

「持つべきものはクラスメイト、みたいな~?」

環那「ないよ。ないない。」

 

友希那(あぁ、いつものね。)

 

 環那が社長になってから、こういう事は多い

 

 今や、誰もが知る大企業の社長

 

 あの会社に入れば、裕福な生活ができる事は間違いない

 

 だからみんな、コネが欲しいのね

 

「んだよ、犯罪者の癖に。」

「社長になった途端にこれかよ。」

「親が偶々社長だっただけで、そうじゃなければただの犯罪者だろ。」

 

友希那「っ......!」

 

 環那の周りにいる集団の数人がそう呟いた

 

 それを聞いて、私は目を見開いた

 

 なに?なんなの?

 

 さっきまでゴマをすってたような人間が

 

「親の七光りがあんまり調子に__」

リサ「......ふざけないでよ。」

友希那「っ!?」

環那「え?リサ?」

 

 私が奥歯を噛み締めてると

 

 リサが背筋が凍るような声でそう言った

 

 あの環那ですら、少しだけ動揺してる

 

リサ「親の七光り?犯罪者?......環那のこと何も知らないくせに、よくそんなこと言えるよね。」

「い、今井?」

「な、なんで、そんなに怒ってるの~?」

 

 リサは拳を固く握りしめ、プルプル震えている

 

 その瞳には涙が溜まっていて

 

 悲しみと怒りが混在したような表情を浮かべてる

 

リサ「何不自由なく楽して生きてるくせに......っ」

友希那「リ......サ......?」

リサ「そりゃ、親に愛されて、当たり前のように温かい家があって、大した覚悟もなく生きてこれたら、楽だろうね......」

友希那「!」

「な......っ」

「それは、言いすぎじゃ......」

リサ「......言いすぎ?」

友希那(ゾクッ)

 

 地を這うような声に、震えた

 

 周りの生徒も、異常な雰囲気に固唾を飲む

 

リサ「何の苦労もなく生きて、大切な誰かのために死ぬほど頑張ったことも無いくせに、環那の人生を侮辱しないでよ!!!」

 

友希那「......!」

 

 重い

 

 リサの言葉は、あまりに重すぎる

 

 誰よりも、環那に寄り添ってきたからこそ

 

 この言葉は、私にすら重すぎる

 

環那「全くもう。必死過ぎだよ、リサ。」

リサ「......っ」

環那「ほら、涙拭きなよ。」

 

 環那はリサにハンカチを渡し

 

 泣き顔を隠すように抱き寄せてる

 

環那「友希那。ちょっとリサ連れて行くよ。出来るだけ、すぐに戻るから。」

友希那「え、えぇ。」

環那「行くよ、リサ。」

リサ「うん......」

 

 そう言ってリサと環那は教室を出て行った

 

 その後の教室の空気は死んだように静かで

 

 誰1人、動こうとしなかった

 

友希那「......」

 

 そんな中、私はゆっくり腰を下ろした

 

 立っていられなかった

 

 あの言葉の重みが、私の立つ力を奪った

 

友希那(......)

 

 クラスメイトの環那への侮辱は、確かに許せなかった

 

 私だって、文句の1つでも言ってやりたい

 

 けれど、リサの言葉を聞いて

 

 自分にその権利がない事を、理解した

 

友希那(私は......環那から奪っただけ......)

 

 時間も、視力も、腕も

 

 全部、私が環那から奪った

 

 環那のお陰で、私の苦労は少なかった

 

 今まで、普通に幸せに生きて来た

 

友希那「......そう、よね。」

 

 私は、クラスメイトに文句なんて言えない

 

 だって、私は、自分の事を気にかけてくれる、都合のいい環那を好きになったから

 

 そう、環那の人生を誰よりも侮辱してるのはクラスメイトじゃない

 

 環那に無条件に尽くされて、それを当然の様に受け入れた

 

 他でもない、私だったから......

 

 

 



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放課後の対面

 あれから数分が経った

 

 俺はリサを人気の少ない校舎裏に連れて行き

 

 なんとか、怒りを収めた後

 

 俺とリサは教室に戻った

 

環那「ふぁ~ぁ......」

 

 それからはいつも通り

 

 普通に授業を受けて、お昼ご飯食べて

 

 いつも通りの日常を過ごした

 

琴葉「これで帰りのホームルームは終わりですね!もう受験も近づいて来てるので、頑張って勉強してくださいね!」

環那(今日の晩御飯は角煮でも作ろうかな~。)

琴葉「南宮君は放課後、会議室に来てください。」

環那「!」

琴葉(面倒な事態になりました。)

 

 琴ちゃんからアイコンタクトが送られてきた

 

 なるほど、このタイミングで来たか

 

 ......ちょっと、悪すぎるな

 

環那(これ、リサにばれたら怒り狂うし......何より、友希那には絶対に鉢合わせられない。)

 

 取り合えず、エマは連れて行きたい

 

 そうすると2人の護衛がいなくなるけど

 

 今からノア君にお願いするか......

 

エマ「お兄ちゃん。」

環那「エマ、ノア君に連絡して。今日はRoseliaの練習があるから、出来れば、付いててもらいたい。」

エマ「了解。私は?」

環那「エマは俺と来て。」

エマ「うん。」

 

琴葉「__連絡は以上ですね。それでは、また明日!」

 

 琴ちゃんのそんな言葉の後

 

 委員長の『起立、礼』という声が聞こえ

 

 それが終わると、他の生徒はゾロゾロと出て行った

 

環那「あーあ、進路の事かなー。」

リサ「進路ー?あー、環那、全く書いてないもんねー。」

友希那「進路の事なら、進路指導室ではないの?」

環那「まぁ、ここの理事長やら校長やらとは関係が深いからね......あはは。」

友希那(そうだったわ。)

リサ(この学校、実質環那に支配されてるんだった。)

 

 よし、意外と簡単に誤魔化せた

 

 ここの上の奴ら脅しててよかった~

 

環那「と言うわけで、行ってくるよー。2人は練習、頑張ってねー。」

リサ「うん!またね!環那!」

友希那「また明日。」

エマ「また。」

 

 手を振りながら2人を見送り

 

 2人の気配が遠くに行くと、ふぅと息をついた

 

環那「......さて、行こうか。」

エマ「全く、低能な人間ごときがお兄ちゃんの手を煩わせるなんて。身の程を弁えて欲しい。」

環那「まぁまぁ。暇つぶしくらいに遊んであげよう。」

エマ「お兄ちゃんがそう言うなら、私は従う。」

環那「ありがと。もう少しだけついて来てね。」

エマ「どこまでもついて行くよ。ずっと。」

 

 なんでこんなに好かれてるんだか

 

 未だに俺には理解できないよ

 

 まぁ、兄冥利に尽きるんだろうね

 

環那「行こうか。今日の晩御飯は角煮だよ。」

エマ「楽しみ。」

環那「ははっ、そっか。」

 

 そんな会話をしつつ、エマと一緒に教室を出た

 

 さてと、買い出しも行かないといけないし

 

 出来る事なら、1時間くらいで終わらせたいな

__________________

 

 廊下を歩いて2階の職員室の近くにある教室

 

 ここが、羽丘の会議室だ

 

 日夜ここで教師たちは会議をしてる......訳ではなく

 

 どっちかと言うと運動部のミーティングで使われる事の方が多い

 

 と、日菜ちゃんが言ってた

 

環那「しっつれいしまーす。」

エマ「......」

 

 そんな教室のドアを開け、中に入ると

 

 そこには多くの不満顔の保護者がズラリと並んでいて

 

 一番奥には見知った顔がある

 

環那「どうも皆さんお集りで。」

新太「......久しぶりだな、南宮環那。」

環那「あはは、2週間ぶりだね。新太。」

 

 一番奥に仏頂面で座ってる新太に声をかける

 

 相変わらず、俺の事は嫌いみたいだ

 

 一緒に頑張ったのに、ちょっと悲しい

 

新太「妹も一緒か。」

環那「別にいいでしょ?エマは普通の少女なんだから。」

新太「......いいだろう。」

 

 ここで先手を打たせてもらった

 

 エマは新太や一部の人間以外が見れば、普通の小柄な少女

 

 そんな子にビビるのは警視総監のプライドが許さないはず

 

 なんて言う、猿でも出来る簡単な予想だね

 

環那「さて。」

 

 ドンっと大きな音を鳴らしながら椅子に座り

 

 馬鹿みたいに偉そうに足を組んだ

 

環那「君たちの顔は覚えてるよ。その上で聞くけど__」

 

 ここにいる人間の顔は覚えてる

 

 5年前に全員覚えた、あまりに許せなくて

 

 正確には、こいつらの子供の方だけどね

 

環那「どの面下げて、俺の前に来たの?」

「__っ!!!」

新太「......っ」

 

 正直、少しだけ怒ってるのかもしれない

 

 もうそろそろ、演技もいらないか

 

 こいつらに優しくする必要性はない

 

「わ、私達は、子供のためにあなたに慰謝料請求に来たのよ。」

環那「......(今さらか。)」

 

 大方の予想はこうだ

 

 俺が社長になったとニュースで見る

 

 ここぞとばかりに5年前を思い出す

 

 そのタイミングで新太に声を掛けられる

 

 警視総監を味方に付けたとつけあがり、ここに来た

 

 こんなもんでしょ

 

「うちの子はあの出来事がトラウマになって引きこもりになったわ!」

「うちは大怪我をしてしばらく部活に出られなかった!」

「息子は腕と足を粉砕骨折だ!」

「こっちはあばらが折れたのよ!?」

「こちらは1か月も昏睡した!」

「私の子は__」

 

 1人の声を皮切りに、数々の恨みの声が上がった

 

 さぞ、俺がボコった奴らは大変だったんだろうね

 

 ほとんどは死なない程度に死ぬほどいたぶったし

 

 でも、そんな恨みの声を聞いたところで......

 

環那「で?」

「__はっ?」

 

 こんな感想しか出てこない

 

 だから何?って感じ

 

 死んだとかならともかく

 

 たかが怪我しただけで文句言われても、ねぇ?

 

環那「あんたらのところのクソガキは友希那をイジメて、その報復を受けた。その癖に自分たちだけが被害者とでも?」

「で、でも、流石にあれはやりすぎで......」

「教師に相談したり、話し合いをすれば......」

環那「それは、まともな学校とまともに反省する人間があってこそでしょ?」

 

 こいつら、分かってないな

 

 俺は知らないから仕方ないなんて許さない

 

 無知は罪だ

 

「うちの子が、まともじゃないって言うの!?」

環那「人をイジメるような奴がまともな訳ないでしょ。なに分り切ったこと言ってんの?」

保護者達「っ!!」

環那「まぁ、お前達みたいな金魚の糞の親なんてどうでもいいんだよ。一番解せないのは、主犯の()が涼しい顔してることだよ。」

新太「......」

 

 そう、俺は一番遠くにいる新太に声をかける

 

 ......一番許せないのは、こいつの妹だ

 

環那「こいつらじゃ話にならない。まともな話しようよ。」

新太「いいだろう。」

 

 俺が出所したらしたい事ランキング3位

 

 こんなに時間がかかるとは思わなかったよ

 

 まぁ、いい

 

環那(......さぁ、始めよう。)

 

 今度こそ、こいつらを粉砕し

 

 あいつらに真の意味で報いを受けさせる

 

 ......ノウノウと生きさせはしないよ

 

 

 



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間抜けなバッドエンド

 友希那へのイジメは1人の女から始まった

 

 そいつの名前は加持イマリ、新太の妹だ

 

 あのクソ女は何故か友希那に嫉妬し

 

 持ち前の気さくな性格(嘲笑)を生かし、周りを巻き込み、友希那をイジメた

 

 だからこそ、あの女は徹底的に追い詰めた

 

 痛みを与え、目の前で取り巻きを締め上げ

 

 一生消えないであろうトラウマを植え付けた

 

 そして、今......

 

新太「俺達の要求は、お前が傷つけた人間全員に償いをすることだ。」

環那「......」

新太「具体的には、1人当たり600万。占めて2億3400万を支払うことだ。」

環那「......」

 

 その兄である加持新太は妹の復讐ため

 

 妹のすべての罪を度外視し

 

 正義なんて言う曖昧で理不尽な武器を振りかざしている

 

 そう、彼にとってはこれが正義なんだ

 

新太「どうする。今なら、これで許してやらんことも無い。」

環那「......くっ」

新太「!」

保護者達「!」

環那「くくっ、あははははは!」

 

 彼らの要求を聞き終え、俺は大声で笑った

 

 馬鹿だ、馬鹿だこいつら

 

 脳みそにのみでも詰まってんのかな?

 

「な、なんだ、急に笑い出して。」

「おかしくなったの......?」

環那「あはは、おかしいのはお前らじゃん。お前らのとこのバカガキに600万相当の価値はないよ。」

「はぁ!?」

「この期に及んで......!」

 

 本当にバカだ、こいつら

 

 まさか俺が許しを請うて素直に要求を呑むと思ったのかな

 

 おめでたいバカだよ

 

環那「新太。君はいつからそんな馬鹿になったの?」

新太「......なに?」

環那「この俺が、君達如きの企みに気付いてないとでも?」

新太「......!」

「そ、それがどうした......」

 

 勝負は準備で9割決まる

 

 けど、向こうはこれを勝負とは思ってない

 

 ただ、俺の良心に訴えかけ、金を払わせる

 

 言ってしまえば、カツアゲだ

 

環那「こっちは来るって分かってるんだから、準備するのは当たり前でしょ?」

新太「......準備、だと。」

環那「えーっと。」

 

 俺は小さく呟き、携帯を確認する

 

 そして、俺は3か所を指さした

 

環那「そこのボイスレコーダーを持ってる3人。残念ながら、それは対策済みだよ。是非とも今録音してる音声を聞いてみたらいいよ。」

「なっ......!?」

 

 3人は慌ててボイスレコーダーを確認し始めた

 

 そこから流れる音声は......

 

『ギギ......ガガ......』

『ピー』

『ザ......ザザザザ......』

「なんで!?」

「昨日買ったのに!?」

「どういうこと?」

 

 答えは簡単

 

 ただ、近くにある電化製品の動作を阻害するツールを開発しただけ

 

 これの操作はエマに任せてある

 

環那「そして、こっちにはお前らのクソガキを追い詰める手札があるんだよ。エマ。」

エマ「うん。」

 

 エマに指示を出し、プロジェクターを起動させ

 

 そこに預けておいたパワーポイントを表示させた

 

 これが2枚目の手札

 

「こ、これは......!」

環那「そう、これは友希那へのイジメのデータさ。」

 

 正直、これを作ってるときは怒り狂いそうだった

 

 けどまぁ、なんとか我慢して

 

 こいつらを潰すために作った

 

新太「......こんなものがどうした。」

環那「ん?」

新太「こっちは警察だ。そんなもの揉み消せばいいだけの__」

環那「バーカ。」

新太「っ!」

環那「忘れちゃったの?こっちにどんな駒がいるのか。」

新太「......!九十九か......!」

 

 やっぱり、バカと一緒にいるとバカになるんだね

 

 わざわざ国家権力と丸腰で喧嘩するわけないのに

 

 結局、この世で1番強い力は世論だよ

 

環那「新太。君は色々と勘違いしてるんだ。」

新太「......なんだと。」

環那「君は感じなかったのかな?違和感に。」

新太「違和感......?」

 

 あー、気付いてなかったんだ

 

 まぁ、そっちの方が幸せだったか

 

 だって、総合的に見たら成功してるんだから

 

環那「仕方ない。解説してあげよう。君の人生を。」

 

 俺はそう言って椅子から立ち上がり

 

 新太の前に立って、笑いかけた

 

環那「君の人生を違和感その1。5年前、若かりし君と良い感じだった女性警察官が離れて行った事。」

新太「......!!」

環那「仲良かったよねぇ、及川三奈美と。」

 

 これが俺が最初に行ったコントロール

 

 加持新太を仕事に集中させるために彼女は邪魔だった

 

 だからこそ、消えてもらった

 

環那「偶然、前もって調べてあった彼女が俺の牢の見回りをしててね。どうにかして君から彼女を引き離そうとしてると、なぜか彼女に思いを寄せられるようになってね。」

新太「なっ......」

環那「そしてある日、彼女は牢を開けて入って来て、俺は襲われた。」

 

 これが俺の初体験だった

 

 正直、抵抗しようと思えば抵抗で来た

 

 けど、後の立ち回りが楽になるからあえて抵抗しなかった

 

環那「その後、彼女は自責の念にかられ、自ら警察官をやめて行った。」

新太「あれは、貴様のせいだったのか......!」

環那「いやいや、勘違いしないでよ。俺は別に君から彼女を引き離そうとしただけ。彼女が俺を好きになったのは完全な想定外だったんだから。」

 

 今思えば、彼女も謎だったな

 

 当時は一切興味がなかったけど

 

 立場を超えた思いには今は興味がある

 

 あの時の気持ち、少しだけ聞いてみたいな

 

環那「まぁ、いいや。2個目の違和感を解説しよう。」

 

 気を取り直し、解説を再開する

 

 次は、4年前から2年前まで

 

 新太が大躍進を遂げた期間

 

環那「少なからず大切に思っていた彼女を失い、一念発起した君は仕事に打ち込んだ。そして起きた、あの事件。」

新太「......まさか!」

環那「気付いたようだね。」

「4年前......まさか!」

新太「4年前。日本にテロ組織が来襲した、事件。」

環那「その事件にいち早く気付き、己の身を挺してテロを阻止し、被害を最小限に抑えて、日本の英雄とすらもてはやされた。」

 

 これが4年前に起きた、日本テロ未遂事件

 

 この事件はとある範囲でしか起きなかったが、日本全土に知れ渡っている

 

環那「だが、それはとある人物が仕組んだ、加持新太を英雄に祭り上げるための茶番だった。」

新太「なん、だと......!?」

環那「おかしいと思わなかった?なぜ、あの規模のテロ組織が新太の目の届く範囲でしか事件を起こさなかったのか。」

「そ、そう言えば。」

「今思えば......」

 

 別に、あんなの俺でも解決できた

 

 ていうか、捕まってなかったら友希那に被害が行く前に潰してた

 

 けど、俺はこれを利用した

 

環那「あの時、俺は日本に来ると分かっていたあの組織のコンピューターをハッキングし、危険だと印象付けることで狙いを俺に絞らせた。そして、後は雑に身元を隠して会えて向こうに特定させ、誘導したんだ。」

新太「ば、馬鹿な......!?お前はまさか、牢屋の中からあの組織をコントロールしたと言うのか......!?」

環那「その通り。」

 

 俺の言葉に、エマ以外全員がざわめく

 

 いや、エマも少しだけ驚いた様子だ

 

 まぁ、普通に言ってなかったもんね

 

環那「あれは少し大変だったよ。死んでも友希那やリサに被害を出せないから、あくまで加持新太の周りでだけトラブルを起こさないといけなかった。アニメみたいにね。」

 

 主人公、加持新太

 

 この物語を作る事が俺のミッションの1つだった

 

 全ては、今この時のため

 

環那「楽しかったでしょ?挫折の次には成功があって、そのままご都合主義で何もかもが上手く行く。まさに、君は俺の作る物語の主人公だったのさ。」

新太「じ、じゃあ、俺が自分の意思だと思っていた、この5年間は......っ」

環那「ぜーんぶ、コントロールされてたんだよ。」

新太「き、貴様ぁ!」

環那「おっと、落ち着きなよ。」

新太「っ!?」

 

 激昂して立ち上がろうとする新太を無理やり椅子に座らせた

 

 まだ余興の段階なのに

 

 相変わらず、キレっぽい子だよ

 

環那「俺は君を成功させてあげたんだよ?正直、気持ちよかったでしょ?」

新太「......っ」

環那「でも、残念だったね。」

 

 警察官の兄は妹の仇を打つと誓う

 

 だがその途中、思いを寄せていた女性が離れて行った

 

 その原因は最大の敵である妹の仇だった

 

 そんな事とは露知らず、兄は仕事に打ち込むようになり

 

 数々の大事件を解決する活躍をし、国の英雄となる

 

 そして今、妹の仇であるラスボスに最後の刃を向けた、だが......

 

環那「君の刃は、俺に届かなかった。」

新太「__っ!しまっ__」

 

 俺が喋り終わるのと同時に会議室のそこら中から煙が出始めた

 

 それと同時に俺はガスマスクを装着し

 

 目の前で座ってる新太を見下ろした

 

環那「さようなら、新太。君の今の立場はプレゼントだ。」

新太「これ......は......!」

「なんだ、これ......」

「急に、眠たく......」

新太「く、クソ......クソ__」

 

 新太は俺を睨みつけた後、力なく眠りについた

 

 はい、これで終わり

 

 国の英雄とすら呼ばれた主人公はラスボスの目の前で眠りにつき

 

 目覚めた頃には復讐心は消され、何も思い出せないまま、そこそこ幸せに暮らしましたとさ

 

環那「エマ、新太の処理は任せるよ。」

エマ「壊していい?」

環那「......いや、いいよ。後は九十九にこいつらのクソガキの過去の悪事をばらまかせて、それで十分不幸になるさ。」

エマ「そうだね。」

 

 物語の最後は、主人公は復讐を果たせず

 

 ラスボスの思惑全てを通された

 

環那「残念だったね。ラスボスが性格悪くて。」

エマ「処理を開始するね。お兄ちゃん。」

環那「うん、お願い。」

 

 それから、エマは新太の処理を開始した

 

 ほんと、可哀想な人生だよ

 

 5年間も頑張ったのに、結局復讐は敵わず

 

 復讐心も忘れ、サクセスストーリーも終わり

 

 これからの人生を国の英雄と言う名の道化として生きる

 

 このエンディングに名前を付けるなら、そうだなぁ......

 

 間抜けなバッドエンド、かな

 

 

 



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独白

 少しだけ面倒なトラブルを捌いた

 

 今回は誰も不幸になってないわけだし

 

 まぁ、そこそこいい形に収まったかな

 

 中々平和な解決も出来るじゃん、俺

 

環那(はぁ、やっと終わった。)

 

 夜、俺はベランダに出て風に当たってる

 

 今日の分の家事はすべて終え、時間は0時過ぎ

 

 外は人も車も少なく

 

 静かで、少し冷たい風が気持ちい

 

環那(......)

 

 新太のことは残念だった

 

 俺に似てる部分があると思ってたんだけど

 

 やっぱり、人間関係は上手く行かない

 

環那「......新太の恨みも、愛故と言う事なのかな。」

 

 それなら、俺は許すべきだったのかもしれない

 

 愛ゆえに敵を徹底的に叩き潰そうとする

 

 そう言う行動は本当に俺に似てるから

 

環那(これだから、新太には非情になりきれなかったのかな。)

 

 もし立場が違えば、いい友達になれたかもしれない

 

 本当に、残念だ......

 

『~♪』

環那「ん?」

 

 1人で考え事をしてると

 

 ポケットに入れてる携帯が鳴った

 

環那「イヴちゃん?」

 

 電話の相手をすると、イヴちゃんからだった

 

 だったら特に警戒することも無いし

 

 俺は電話に出た

 

環那「はーい、もしもーし。」

イヴ『あ!カンナさん!こんばんは!』

 

 電話の向こうではハイテンションなイヴちゃんの声が聞こえる

 

 もう夜中なのに、元気だなぁ

 

 ていうか、なんでこんな時間に?

 

イヴ『こんな時間にすみません。お仕事で帰りが遅くなってしまって......』

環那「別にいいよ。俺も起きてたし。」

イヴ『そうなんですか?いつも目の下にクマがあるので、もっと寝た方がいいですよ?』

環那「クマはデフォルト装備だから、大丈夫だよ。」

 

 って、そんな俺の事情はどうでもいいんだ

 

 イヴちゃんの用件を聞かないと

 

環那「それで、どうしたの?」

イヴ『日曜日のデートについての連絡です!』

環那「あー、なるほどね。」

 

 そう言えば、もう3日後か

 

 ギリギリになったら俺から連絡するつもりだったけど

 

 ちゃんと覚えててくれたみたいだ

 

環那「待ち合わせはどうする?」

イヴ『10時に駅前でどうでしょうか?』

環那「りょーかい。どこ行く?」

イヴ『それはまだ秘密です!サプライズです!』

環那「あはは、そっか。」

 

 それを言っちゃったらサプライズではないのでは?

 

 まぁ、本人が楽しそうだしいいや

 

 水を差すのは良くないよね

 

イヴ『それでは、楽しみにしていてください!』

環那「うん、楽しみにしてるよ。」

イヴ『あと......///』

環那「?」

 

 少しだけ声が変わった

 

 元気さが少しだけなくなって

 

 恥ずかしがってる子供みたいな感じ、かな?

 

イヴ『......いえ、なんでもありません///』

環那「そう?」

 

 って、そんなわけないよね

 

 けど、これは聞かない方がいいかな

 

 無理矢理聞き出すようなタイミングでもないし

 

イヴ『そ、それではまた!///日曜日に!///』

環那「うん。またね。」

 

 俺がそう言うと、電話が切れた

 

 短いながらも楽しい時間だった

 

 電話越しでもあの子の空気感が伝わってきて

 

環那「......そろそろ、寝ようかな。」

 

 そう呟いた後、俺は家の中に入り

 

 歯磨きなどを済ませてから、部屋に戻った

 

 なんだか、今日はよく眠れそうだ

__________________

 

 “友希那”

 

 環那は今、何をしているのだろう

 

 そんな事を考えたのは0時を回ったころだった

 

友希那(環那......)

 

 私は、自分が環那が好きなのだと思ってた

 

 けれど、それは違った

 

 朝のリサの発言で、気付かされた

 

友希那「......」

 

 環那は、私にとって都合のいい人間だった

 

 常に私を優先してくれて、いつでも私の味方だった

 

 それを私は優しさと思っていた

 

友希那(......私の気持ちは......)

 

 都合のいい人間と離れたくない、手放したくない

 

 その気持ちを好きだと錯覚していたのかもしれない

 

友希那「......ダメね、私は。」

 

 気づいてる

 

 環那はもう、私から解放されるべきだと

 

友希那(変わったのよ、環那は。)

 

 今は環那の事をしっかり見てくれる人達がいる

 

 18年間も生きて、今やっと、幸せを掴もうとしてる

 

 幸せに見放されてきた環那がやっと......

 

友希那(......これ以上、環那の足手まといにはなれない。)

 

 少し考えてみる

 

 環那が未だに誰とも付き合わない理由

 

 もしそれが、私なら

 

 何かしらの形で私が枷になってるなら......

 

友希那(私がそれを、断ち切らないと。)

 

 私はそう思って拳を握り締めた

 

 今度は、私が環那を幸せにする番

 

 その為に出来る事は何でもしよう

 

 そう、心に誓った

__________________

 

 “環那”

 

 日曜日

 

 俺は待ち合わせ10分前に駅前に来た

 

 この時間は遊びに行ったりする人間が多いからか結構人が多い

 

イヴ「__あ!カンナさん!」

環那「やっほー、イヴちゃん。」

 

 って、こんな迂闊に名前呼んでもいいのかな?

 

 イヴちゃん、がっつり変装してるし

 

 やっぱり、正体がバレる訳にはいかないんだろうね

 

環那「今日はお忍びってことでいいのかな?」

イヴ「はい!カンナさんだけのトクベツです!」

環那「ははっ、それは嬉しいね。ファンになっちゃいそうだ。」

 

 アイドル業界では推しって言うんだっけ?

 

 俺はよく分からないけど

 

イヴ「是非とも応援してください!カンナさんに応援されると嬉しいですし!」

環那「そっか。じゃあ、考えておくよ。」

 

 そろそろ、ちゃんとテレビチェックしよ

 

 イヴちゃんの所属してるグループの名前、何だっけ?

 

 確か、リサ達が言ってた気がするけど......

 

イヴ「それでは、参りましょう!デートに!」

環那「お供するよ、若宮殿。なんちゃって。」

イヴ「ふふっ、良い響きですね!武将みたいです!」

環那「あはは、そっか。」

 

 そうして、俺とイヴちゃんはその場を離れ

 

 イヴちゃんが設定した目的地に向かった

 

 さて、現役アイドルとのデートか

 

 ......変に騒ぎ立てられないように九十九に頼んどこ

 

 

 

 



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好きになった理由

 イヴちゃんと合流してから

 

 取り合えず、俺達はタクシーに乗った

 

 変装してるって言っても、イヴちゃんの立場もあるし

 

 安全に行けるなら、そっちの方がいい

 

イヴ「すみません、私のために。」

環那「別にいいよ。俺、電車好きじゃないし。」

 

 電車には碌な思い出がない

 

 まぁ、あの合宿の時のジジイとかだけど

 

 あんなのいるなら、アイドルなんて連れて電車乗れないよ

 

環那「それで、目的地は?」

イヴ「はい!そろそろ言っても良さそうですね!では、発表します!」

 

 イヴちゃんの元気な声が車内に響く

 

 こんなに俺に笑顔向ける子も珍しいな

 

イヴ「今日は少し遠くに行って、カンナさんのプレゼントを選ぼうと思います!」

環那「プレゼント?なら、近くのショッピングモールとかでもよかったんじゃない?」

イヴ「最初は私もそう思ったんですが、カンナさんはあの辺りでは落ち着けないと思ったんです!ついでに、私もバレずらいかなと!」

環那「んー、優先順位、逆じゃない?」

 

 俺は別に誰が来ても無視が撃退するんだけど

 

 アイドルのイヴちゃんは男と歩いてたらマズいでしょ

 

 写真とかあげられたら炎上しそう

 

環那「まぁ、結果としては正しいから良いかな。」

イヴ「ふふっ、カンナさんはやっぱり優しいですね!」

環那「優しいって言うか、気にして当然の問題だよ?」

 

 俺もイヴちゃんもスキャンダルはダメだしね

 

 別に俺は今さらなんだけど

 

環那(最悪こっちで何とかするか。)

イヴ「楽しみです!カンナさんはどんなプレゼントが欲しいですか?」

環那「イヴちゃんに任せるよ。」

イヴ「なら、頑張らないとですね!」

 

 俺とイヴちゃんはそんな会話をして

 

 イヴちゃんは運転手に目的地を指示した

__________________

 

 タクシーに乗って来たのはかなり遠くのデパートだ

 

 当り前だけど、あの辺りのとは全然違う

 

 規模はこっちの方が大分大きいな

 

イヴ「前にここの中にあるお店にお世話になりまして、それからよく利用するようになりました!」

環那「ほんとに顔が広いね。」

 

 まぁ、気持ちは分かるよ?

 

 イヴちゃんは誰にでも笑顔で接する

 

 だから、周りも彼女に優しくしたくなる

 

イヴ「お世話になったアパレルショップの方はとてもいい人で、お仕事以外のお話でも盛り上がりました!」

環那「イヴちゃんなら誰とでも盛り上がれそうだね。」

 

 そして、何より恐ろしいのは、イヴちゃんには打算的な意図が全くないこと

 

 彼女は純粋な人柄で人を引き付ける

 

 人タラシって言うのかな、こういう人の事

 

環那(羨ましい才能だよ。)

イヴ「カンナさん!行きましょう!」

環那「うん。どこ行く?」

イヴ「そうですねぇ......カンナさんは何が欲しいですか?」

環那「イヴちゃんのおすすめで。」

 

 イヴちゃんの問いに俺はそう答えた

 

 別に俺は欲しい物もないし

 

イヴ「うーん......それでは、歩きながら考えましょう!」

環那「そうだね。」

イヴ「それでは!」

環那「ん?」

 

 イヴちゃんは俺の腕に抱き着いてきた

 

 まるで、恋人同士みたいに

 

環那「イヴちゃん?それはアイドル的にアウトじゃないの?てか、義手の方に抱き着いて痛くないの?」

イヴ「変装してるので大丈夫です!あと、義手の方はヒンヤリして気持ちいです!」

環那「そ、そっか。イヴちゃんが大丈夫ならいいんだけど。」

イヴ「はい!それでは、参りましょう!」

 

 そんな会話をして、俺とイヴちゃんは歩きだした

 

 さて、これはバレないように気をつけないと

__________________

 

 デパートの中を歩いて

 

 イヴちゃんに手を引かれその中にあるお店に入ってみた

 

 ここは、アクセサリーショップだ

 

環那「えーっと、なんでここに?」

イヴ「カンナさんのお誕生日プレゼント選びです!」

環那「いや、あの、アクセサリーショップなんだけど?」

 

 普通、男へのプレゼント選びには来ないでしょ

 

 ましてや、まだ高校生だし

 

 特別な事情がない限りはありえないでしょ

 

イヴ「はい!カンナさんへのプレゼント候補なので!」

環那「え?いや、もっと他の物でいいよ?アクセサリーはちょっと、学生にはキツイと思うんだけど。」

 

 学生の友達同士のプレゼントって、普通は文房具とかじゃないの?

 

 俺はそう言う物だって聞いてるけど

 

イヴ「カンナさんもリサさんにアクセサリーを送ってましたよね?」

環那「いや、俺はお金だけは無駄に持ってるから。」

イヴ「私もお仕事でお給料をもらってます!」

環那「それはもちろん分かってるけどね?」

イヴ「なら問題ありません!」

 

 ご、ゴリ押される

 

 えっと、これはどうしよう

 

 上手く言いくるめる言葉が思いつかないな

 

環那「あー、うん。じゃあ、イヴちゃんに任せるよ。」

イヴ「はい!任せてください!」

 

 イヴちゃんはそう言って、鼻歌を歌いながらショーケースの中を吟味し始めた

 

 さっきまでをサンサンと輝く太陽だとすれば

 

 今は誰もが目を奪われる、冷たく輝くダイヤモンド

 

 ......とでも言うのが正しいのかな

 

イヴ「......カンナさんは今、ペンダントをお持ちですね?」

環那「うん。これね。」

イヴ「それはロケットペンダントですか?」

環那「うん。写真も入ってるよ。」

 

 俺はそう言って中の写真を見せた

 

 イヴちゃんはジーっと写真を見てる

 

イヴ「......」

環那「イヴちゃん?」

イヴ「あ、と、とっても素晴らしい写真ですね!」

環那「......?」

 

 今一瞬、イヴちゃんの表情が曇った

 

 珍しいな

 

 多少のことでは表情を変えないのに

 

イヴ(......そこに、私はいないのに。)

環那「?」

イヴ「......決めました。」

環那「決めた?何を?」

イヴ「プレゼント、決めました。」

環那「そ、そう?」

 

 外国人で背も高いからか、真剣な顔の時の威圧感がすごい

 

 可愛い女の子のギャップと言うのもあるのかな

 

イヴ「環那さんは先に出て待っていてください。」

環那「うん、了解?」

 

 俺は軽く頷いて、先に店を出た

 

 イヴちゃん、笑ってなかったな

 

 まるで、緊張してるみたいに

__________________

 

 “イヴ”

 

 ......私は、カンナさんのことが好きです

 

 そう思ったのは、暖かい春の日

 

 お仕事が上手く行かなくて、無理矢理笑ってた時でした

 

環那『__ねぇ、イヴちゃん。』

イヴ『は、はい!何かご注文ですか?』

環那『そうだなぁ。5分くらいイヴちゃんと話す権利が欲しいな。』

イヴ『え?』

 

 カンナさんはそう言って笑みを浮かべ

 

 向かいの席を指さしました

 

 その時間はお客さんもあまりいなく

 

 ツグミさんもいいよと言ってくれたので、少し話してみる事にしました

 

環那『あ、何か食べる?』

イヴ『い、いえ、大丈夫です。』

環那『そっか。でも、悩んでるときは食べた方がいいよ?何も喉が通らなくなる前に。』

イヴ『!?』

 

 私は驚きました

 

 それと同時に不気味にも感じました

 

 まるで、自分の心を見透かされてるようで

 

 笑ってる顔も、少しだけ影がかかってるように見えました

 

環那『甘いものは良いよ。疲労回復やリラックス効果が望めるし。今のイヴちゃんにはちょうどいいんじゃない?』

 

 そう言って、ケーキを差し出されました

 

 美味しそうなチョコレートケーキ

 

 羽沢珈琲店でも特に人気なメニューです

 

環那『疲労はパフォーマンスを低下させるからね。ほら、一口でも食べてみなよ。』

イヴ『で、では、いただきます。』

環那『どうぞ。コーヒーも。』

 

 私はケーキを口に運びました

 

 チョコレートの甘みが口いっぱいに広がって

 

 苦みのあるコーヒーとよく合います

 

イヴ『......美味しい、です。』

環那『だよねー。』

 

 カンナさんは笑いながら、食べてる私を見ています

 

 まるで、遊んでる子どもたちを見るように

 

 穏やかで、優しい

 

イヴ『なんで、ここまで......』

環那『?』

イヴ『なんで、あまり接点もない私に、優しくしてくれるんですか......?』

環那『優しく?うーん。』

 

 私がそう尋ねると、カンナさんは考え込みました

 

 そして少しして、ふっと笑いました

 

環那『別に優しくしてるわけじゃないよ。俺がしてるのはただの押し付け。』

イヴ『押し付け......?』

環那『そうそう。今のイヴちゃんが、昔からの友達と重なってね。そうやって無理矢理笑って、周りの空気を乱さないようにしてる所とか。』

イヴ『っ!』

 

 また、変な感覚がしました

 

 完全に心を読まれてます

 

環那『人間は内と外、心と体のバランスが重要なんだ。』

イヴ『心と体のバランス、ですか?』

環那『そうそう。体が強すぎれば心が付いて来ないし、心が強すぎれば体を壊す。言ってみれば単純で当り前な事なんだけど、人間はそれを自覚できない。自惚れちゃう生き物だからね。』

イヴ『ウヌボレ......』

 

 そんな気は、ありませんでした

 

 けど、そうだったのかもしれません

 

 楽しいからと言ってなんでもしようとして

 

 全部頑張ろうと思っていたのは、カンナさんの言うウヌボレなのかもしれません

 

環那『ここで俺がイヴちゃんを慰めるのは簡単だよ?でもさ、それは優しさなようで優しさじゃない。』

イヴ『!』

環那『この世で最も醜い悪は優しさの陰に隠れた悪だよ。だったら......』

 

 カンナさんは少し下を向きました

 

 その表情は薄く笑っていて

 

 けれど、どこか悲しそうな

 

 そんな表情でした

 

環那『......俺はもっと純粋な、最高の悪になる。』

イヴ『っ......!』

環那『だからあえて言うよ。』

イヴ『はうっ!』

 

 おでこをつつかれて

 

 あまりにくすぐったかったので変な声が出ました

 

 それを面白そうに見て、カンナさんはこう言いました

 

環那『今の君の限界はここだ。まだまだ、未完成なんだからね。』

イヴ『!///』

 

 今度は頭を撫でられました

 

 優しくて、心地よくて

 

 昔、お母さんに撫でられた時と似ていました

 

環那『未完成なんだから失敗して当り前。必要なのは、自分でそれを許す心。反省は許してからでいい。』

イヴ『......はい///』

環那『よしっ、これで5分だね。』

イヴ『っ!///』

 

 カンナさんはそう言って立ち上がりました

 

 そして、私に笑いかけてくれました

 

環那『じゃあ、今日は帰るよ。残り時間も頑張ってね。』

イヴ『あ、か、カンナさん!///』

環那『ん?』

イヴ『今日は、ありがとうございました......///その、お代を///』

環那『別にいいよ。それより。』

イヴ『?』

環那『次来た時、最高の笑顔を見せてよ。そっち方が俺も嬉しいからね。』

イヴ『......!///』

 

 カンナさんは優しい声でそう言って

 

 お会計をして、お店を出て行きました

 

イヴ『カンナさん......///』

 

 その後もしばらく、私の鼓動は激しいままで

 

 その日からずっと、カンナさんの事が頭から離れませんでした

 

 私はあの時から、ずっと......

__________________

 

イヴ「......好きです。」

 

 プレゼントを購入した後

 

 私はお店の中でそう呟きました

 

 この気持ちはもう、止まれません

 

 例え、カンナさんに大切な人がいても

 

イヴ(でも、諦めたくありません。)

 

 初めて、本気で好きになったんです

 

 だから、例え散ると分かっていても

 

 絶対に引きません

 

イヴ(まだ、時間はあります。少しでも、頑張らないと。)

 

 私はそう意気込んで、お店を出ました

 

 なんとかして、カンナさんの視界に入らないと

 

 私が、抑えられなくなる前に

 

 

 



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告白

 抑えられない......

 

 カンナさんと一緒にいるとおかしくなってしまいます

 

 一緒に歩いてるだけで嬉しくなって

 

 姿を見ただけで、胸が温かくなります

 

イヴ(大好きです、カンナさん......///)

 

 もう、自分の気持ちが抑えられません

 

 隣にいてくれるだけで幸せで、ドキドキして

 

 触れると私が私じゃなくなりそうになります

 

環那「おっと、イヴちゃん。足元危ないよ?」

イヴ「っ!///」

 

 足元を見ると、一歩先に段差がありました

 

 カンナさんばかり見てて気づきませんでした

 

イヴ「ありがとう、ございます///」

環那「大丈夫だよ。でも、疲れてるなら言いなよ?」

イヴ「も、問題ありません!///」

環那「そっか。」

イブ(カンナさん......!///)

 

 すごく紳士です

 

 今、止める時も優しく、変な所も触らなかったですし

 

環那「てか、どうする?もう結構、暗いけど。」

イヴ「あ、え、えっと......最後に、プレゼントを渡します///」

環那「そうだった。気になってたんだよね。」

 

 正直、私もいつ渡そうか迷っていました

 

 恐らく、これを渡す時が告白の時

 

 そんな予感がしていたからです

 

イヴ「2人に場所に移動しませんか?///ここでは、人目もあるので///」

環那「そうだね。この辺りの地図を見た感じ、公園があるし、この時間なら人も少ないんじゃないかな?」

イヴ「でしたら、そこに行きましょう!///」

環那「オッケー。(顔、紅いな。)」

イヴ(......ここが、ショウブです。)

 

 心臓が締め付けられそうです

 

 けど、もう引き返せません

 

 ここまで来たら、やり切るのみです......!

 

 そう、心の準備を始めました

__________________

 

 “環那”

 

 5分くらい歩いて、俺とイヴちゃんは公園に来た

 

 街灯が少ないからか薄暗い

 

 けど、少しだけ落ち着く

 

イヴ「あ、あの、カンナさん......///」

環那(顔赤いなー。)

イヴ「そ、その、プレゼントを渡しますが、お話を聞いて欲しいんです///」

環那「......うん。」

 

 イヴちゃん、視線が安定してない

 

 それに挙動がおかしい

 

イヴ「......私は、カンナさんの事が......大好きです///」

環那「うん、知ってる。」

イヴ「えぇ!?///」

 

 予想外の反応だったのか

 

 イヴちゃんは驚いたような声をあげた

 

 うん、まぁ、分かるよね

 

イヴ「い、いつから分かってたんですか!?///」

環那「結構前から気付いてたよ。イヴちゃん、分かりやすいから。」

イヴ「そ、そうですか///」

 

 本当は、嫌われるつもりだった

 

 けど、腕が飛んだりとか色々あって出来なかった

 

 ......それがまさか、こんな事になるなんて

 

イヴ「......それで、ど、どうでしょうか?///」

環那「どう、って?」

イヴ「私と、お付き合いしていただけますか......?///私、すごく尽くしますよ......?///」

環那「......いや、それは止めた方がいい。」

イヴ「え?」

 

 イヴちゃんの言葉を、俺は止めた

 

 正直、俺が彼女をどう思ってるか分からない

 

 けど、1つだけ

 

 今のイヴちゃんの言葉について言えることがある

 

環那「仮に、誰かと恋人になったりしても、尽くすのは止めた方がいい。」

イヴ「そ、そうなんですか?男の人はそう言う女性の方がいいと......」

環那「......まぁ、そう言う人は多いかもね。」

 

 日本の悪い風習の1つ

 

 尽くすことを日本人は美徳にしがちだ

 

環那「でもさ、人に尽くすのって、辛い事だから。」

イヴ「!」

 

 尽くすことは辛い

 

 どんなに愛していても、心は疲弊していく

 

 そして、行きつく末路は......

 

環那「何より、俺みたいなのは尽くし甲斐がないよ。イヴちゃんには、もっと素敵な人がいる。」

イヴ「......それは。」

環那「......」

 

 『遠回しに断ってるのか』

 

 そう言わんばかりの目を、イヴちゃんが向けてくる

 

 まさしくその通りなんだけど

 

環那「......俺にはきっと、好きな人がいる。」

イヴ「......っ」

環那「イヴちゃんも似たような雰囲気は感じる。けど、違うんだ。」

イヴ「......」

 

 そう言うと、イヴちゃんは俯いてしまった

 

 本当に、申し訳ない

 

 イヴちゃんは、何も悪くないのに

 

イヴ「......そう、ですか。」

環那「......ごめん。」

イヴ「いえ、告白したのは私なので、フラれても何も言えません......ですが......」

 

 イヴちゃんは俯いてた顔を上げ

 

 涙で潤んだ瞳で俺を見つめた

 

 大きくてきれいな瞳に俺の姿が写ってる

 

 ......ひっどい顔をしてる

 

イヴ「そう簡単に、諦められません......っ!」

環那「っ!」

イヴ「なんで、なんでですか......!?」

環那「......」

イヴ「なんで......優しく、したんですか......」

 

 なんで、と言われると

 

 それは彼女が昔のリサに似ていたからだ

 

 だから、放っておけなかった

 

イヴ「あんなに、優しくされれば、好きになってしまいます......」

環那「......ごめん。」

イヴ「謝られても、困ります......」

 

 それはそうだ

 

 俺がいくら謝っても、心の傷は言えない

 

 むしろ、抉る可能性もある

 

イヴ「本気で、好きなんです......どうしようもないくらい......」

環那「......」

イヴ「......本当に、ダメなんですか......?」

環那「......うん。」

 

 惜しい事をしてる自覚はある

 

 こんなにかわいい子の告白を断るなんて、普通はありえない

 

 けど、そう思っても断ってしまうんだから、今の気持ちは分からないんだ

 

イヴ「......そうですか。それなら、仕方ありません。」

環那「__っ!!」

イヴ「ん......ちゅっ///」

 

 目の前が、真っ白になった

 

 それと同時に優しい、花の様な香りが入って来て

 

 唇には柔らかい感触がある

 

環那「__イヴちゃん、これは......」

イヴ「......近くに、ホテルがあります。」

環那「......?」

 

 イヴちゃんの言葉に困惑した

 

 チラッと向こうを見ると、どこかで見たようなピンク色のホテルがある

 

 いや、えっと、どういう事だ?

 

イヴ「......そこで、私を抱いて下さい。」

環那「!?」

 

 驚きで目を見開いてしまう

 

 いや、ダメだ、これは良くない

 

 イヴちゃんの立場を考えると

 

 特定の男となんて......

 

イヴ「......諦めさせて欲しいんです。二度と、立ち上がれないくらい。」

環那「......っ。」

イヴ「嫌いにさせてください......こんなに好きにさせたカンナさんなら、出来ますよね......?」

環那「それは......」

 

 出来ない......

 

 そんな言葉は、俺の口からは出せなかった

 

 だって、イヴちゃんの声がひどく震えてたから

 

 そんな女の子に、弱音なんてはけない

 

イヴ「カンナさん......」

環那「......出来るよ。」

イヴ「なら......お願いします。」

 

 ......重い

 

 この気持ちは、俺には重すぎる

 

 これを断ち切るなんて、そう簡単じゃない

 

 俺も、身を切る覚悟が必要だ

 

環那(......ごめんね、イヴちゃん。)

 

 全部、俺の責任だ

 

 俺が失敗しなければ、こうはならなかった

 

 この罪は潔く償おう

 

 彼女の幸せを壊さないように

 

 彼女が追う傷も全部、俺が引き受けよう

 

 

 



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決別

 俺は性分的に計算できないものが苦手だ

 

 この世は数字でほとんどのものを表せる

 

 けど、出来ないものだってもちろんある

 

 それの代表例が、人の気持ちだ

 

環那(......分からないな。)

 

 俺は人の考えてる事は計算できる

 

 けど、気持ちと言う物は計算できない

 

 考えと気持ちは全く違う

 

 気持ちは俺の計算できる次元のものじゃない

 

環那(だから、好きじゃないんだよ。)

 

 喜怒哀楽という集合、その間にある重なり

 

 その組み合わせには限りがあるように見える

 

 けど、その組み合わせには実はそれがない

 

 人の気持ちに実体なんてものはない

 

 喜怒哀楽なんて、それを覆い隠す表皮みたいなものだ

 

イヴ「......カンナさん?」

環那「あぁ、起きたんだね。おはよう。」

イヴ「はい、おはようございます。」

 

 しばらく椅子に座ってると、イヴちゃんが目を覚ました

 

 その姿は布団を巻き付けてるだけで

 

 その下は文字通り、一糸まとわぬ姿だ

 

環那「イヴちゃん。昨夜の事は、分かってるね?」

イヴ「......はい。」

環那「アイドルの若宮イヴは南宮環那にホテルに連れ込まれ、行為を強要された。もしバレたら、そういうことにするんだ。」

イヴ「......でも、それでは......」

環那「いいんだ、これで。」

 

 万が一バレても、これならヘイトは俺に集まる

 

 九十九がいるからそうそうバレることはないだろうけど

 

 予防線を張っておいて損はない

 

環那「それと、近々、イヴちゃん達のグループに仕事を依頼する。」

イヴ「っ!......それでは、まるで......」

 

 イヴちゃんの言わんとすることは分かる

 

 枕営業みたいといいたいんだろう

 

 けど、それはあながち間違えてない

 

環那「......そうしないと、まるで愛のある行為みたいになる。」

イヴ「っ......!」

環那「君は仕事を買うために、体を売った。それだけだよ。」

イヴ「......はぃ。」

 

 彼女からは考えられない程、か細い声だ

 

 それくらい、傷ついてるんだろう

 

 昨晩の彼女は、本当にうれしそうだったから

 

環那「......もう、帰っていいよ。」

イヴ「......はい」

環那「これからは、ビジネスパートナーとしてよろしくね。」

イヴ「っ......はい、よろしくお願いします。」

 

 後ろから、布が擦れる音が聞こえる

 

 恐らく、服を着てるんだろう

 

 申し訳が立たないな、1人の女の子を傷つけるなんて

 

 自分で自分を殺してしまいたい

 

イヴ「さようなら......カンナさん。」

環那「......」

イヴ「本当に、大好きでした......(いえ、今も、まだ......)」

環那「......」

イヴ「何も言ってはくれないんですね......さようなら......」

 

 その言葉の跡、扉が開閉する音が聞こえた

 

 これで、終わりだ

 

 全て、元通りになる、けど......

 

環那「......寒いなぁ、今日は。」

 

 温かい人が去って行くと、途端に寒くなる

 

 ......いや、こうも言ってられない

 

 一番の被害者はイヴちゃんだ

 

 俺は加害者で、罪人なんだ

 

 だから、寒い檻に入るなんて当たり前だ

 

環那「......悪いね。勝手な人間で。」

 

 俺はそう言って、もう一度椅子に座った

 

 どうしようかな

 

 しばらく、羽沢珈琲店には行けそうにない

__________________

 

 “友希那”

 

 朝、浪平先生から連絡が入った

 

 どうやら、環那が一晩帰ってこなかったみたい

 

 一瞬何があったのかと思ったけれど

 

 そもそも、環那をどうこう出来る人類なんて少ない

 

 心配は......

 

友希那(あったわね。)

 

 昨日は確か、若宮さんとのデートのはず

 

 もしかしたら......って、それも杞憂ね

 

 環那にはリサ達がいるもの

 

リサ「友希那ー、浪平先生から連絡来た?」

友希那「えぇ、朝早くに。」

リサ「なんかあったのかな?昨日は出かけてたし......」

友希那「大丈夫よ。環那に限って、何かあったとは考えずらいわ。」

リサ「いや、そうなんだけどさ。」

 

 それにしても、今日は来るのが遅いわね

 

 もう8時20分だけれど

 

 まだ、環那は学校に来てない

 

リサ「それでも、心配っていうか__」

環那「__(ガラガラ)」

友希那、リサ「!」

 

 私達話してると環那が教室に入って来た

 

 やはり、心配はいらなかったみたいね

 

 環那はいつも通り......

 

友希那(いつも、通り......?)

リサ「おはよ!環那!」

環那「ん、あ、おはよー。」

友希那「......?」

リサ「あれ?」

 

 リサと環那が挨拶を交わしたとき、違和感があった

 

 一見すれば、いつも通りに見える

 

 けど、私達にはこの違和感が分かる

 

友希那(どうしたというの?)

リサ(注意散漫と言うか、心ここにあらずって感じがする。)

環那「......」

 

 席に着くと、環那は暗い表情を浮かべた

 

 いつもの笑顔はそこにはなく

 

 まるで、お通夜の時のように

 

 下を向いて、濃い影が顔にかかっている

 

リサ「ど、どうしたんだろ。」

友希那「落ち込んでる......のかしら?」

 

 あんな環那は初めて見たわ

 

 今までは良くも悪くも無感情と言うか

 

 笑みを崩すことは一切なかったのに

 

 今日の環那は、笑みもなく、暗い

 

友希那(若宮さんと何かあったのかしら。)

 

 いや、でも

 

 環那が若宮さんと何かあって、ああなるの?

 

 ......あまり考えられないわね

 

リサ「あれ、ただ事じゃないよね。」

友希那「えぇ。」

 

 聞こうにも、聞ける雰囲気じゃない

 

 1人にして欲しいと思ってるのが分かる

 

 これは、もうしばらくそっとしておかないといけないわ

 

「おっはよー!南宮君!」

「今日くらいねー?テンション上げてこうよー!」

「元気出すために、イイコトしてあげるよ?♡」

環那「......」

 

リサ「うっわ。(また......?)」

友希那(しかも、このタイミングで......)

 

 女子3人が環那を取り囲んだ

 

 やっぱり、こういう女子はまだまだ後を絶たないわね

 

 あんなに拒絶してるし、リサの事もあるのに

 

「ねぇ~、無視しないでよ~。」

環那「......黙れ。」

 

リサ、友希那「っ!!」

クラスメイト「!?」

 

 環那の一言に、クラス中の空気が凍り付いた

 

 その声は、まるで地獄から聞こえたように低くて

 

 私も、恐らくリサも、恐怖を感じた

 

環那「君達みたいな量産されてるような安っぽい女なんて興味ないんだよ。消えてもらえない?」

「い、いや......」

「それ言いすぎ......」

環那「知らないよ。うっざいなぁ。」

 

 環那はそう言って立ち上がった

 

 見るからに怒ってる

 

 今の環那が身に纏ってる空気は、まるで絶対零度のよう

 

環那「......リサ、友希那。」

リサ「か、環那......」

環那「心配しないでね......ちょっと、琴ちゃんのとこ行ってくる。」

友希那「え、えぇ。」

リサ「ごゆっくり~......?」

 

 環那は私達にそう言い、教室を出て行った

 

 その後も、教室の空気は凍り付いたままで

 

 数分ほど、誰一人として口を開けなかった

 

 

 

 



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確信に近いもの

 あの日から、ずっと胸に突き刺さってる

 

 一週間経っても、あの日の事が忘れられない

 

 毎日、あの日がフラッシュバックする

 

環那「......」

 

 いつもみたいに力が湧いてこない

 

 今日も学校には来たけど、授業をサボってる

 

 別に授業を受けたくないわけじゃない

 

 ただ、今したいことじゃない感じがする

 

環那「......これは。」

 

 適当にネットニュースを眺めてると

 

 イヴちゃんが写ってる写真が画面に表示された

 

 決して、大きい記事と言うわけじゃない

 

 けど、楽しそうに笑ってて、いい写真だ

 

環那「......なんだ。」

 

 杭を打ちつけられてるように胸が痛い

 

 こんな笑顔を浮かべる女の子に、俺は......

 

環那(......イヴちゃん。)

 

 本当にいい子だった

 

 羽沢珈琲店でも、いつも笑顔を振りまいていて

 

 こんな俺にも優しくしてくれた

 

 そして、あの夜......

 

イヴ『カンナさん......///』

環那「......っ。」

 

 彼女の笑顔が忘れられない

 

 この記事に乗ってるような笑顔じゃない

 

 もっと幸せそうな、そんな笑顔だった

 

環那「......」

巴「__環那さーん!いるかー!?」

環那「んあ?ともちゃん......?」

巴「ほら!いましたよ湊さん!」

友希那「えぇ、ありがとう。」

環那「友希那も......?」

 

 珍しい組み合わせだ

 

 けど、何でこんな所に?

 

 様子的に俺を探してたみたいだけど

 

環那「どうしたの?わざわざ、こんな所に。」

友希那「それは環那自身が一番よく分かっているでしょう?」

環那「......!」

巴「え、何かあったんですか?」

 

 少しだけ、驚いたな

 

 友希那が自分から俺の悩みについて言及するなんて

 

 こんなこと、初めてだ

 

友希那「聞くわよ?話してみなさい。宇田川さんも一緒に。」

巴「いいんですか?あたしじゃ、大した力にはなれそうにないですけど。」

友希那「私1人よりはマシよ。」

巴「あ、はい。」

環那(......困ったな。)

 

 ともちゃんはともかくとして

 

 友希那は俺の好きな人について知ってる

 

 なのに、他の子で悩んでるなんて話したら......なんて思われるだろうか

 

環那(......いや、これは誰かに話してみるべきか。どうせ俺がいくら考えたって分からないんだ。)

友希那「話しずらいことなら無理には聞かないけれど......」

環那「......話すよ。そっちの方がいいからね。」

 

 そう言うと、2人は俺の前に座った

 

 一旦、吐いて楽になろう

 

 そうした方がいいだろう

 

巴「それで、どうしたんですか?」

環那「......実は、ある子のことで悩んでるんだ。」

友希那「それは、リサ達の事かしら?」

環那「いや......別の子。」

友希那「!!」

巴「別の子、って、どういうことですか?」

 

 ともちゃんはまぁ、知らないよね

 

 そう言う話はしたことないし

 

環那「ともちゃん。俺には多分、好きな人が3人いるんだ。」

巴「はぁ!?そうなのか!?あの環那さんが!?」

環那「気持ちは分かるよ。自分ですら驚いてるもん。」

巴「てか、もう1人って......環那さん、四股か?」

環那「いや、違う......でしょ。(違うのか?)」

 

 俺、全員とそういうことしてるし

 

 ......あれ?俺ってもしかしなくてもヤバい?

 

 え、最低のクズ野郎じゃん

 

巴「......なんで自信なさそうなんだ?」

環那「いや、同時に複数人好きになるのはあれかなって思って。」

巴「あー、そういう事か。でもまぁ、それはいいんじゃないか?別に珍しい話じゃねぇし。」

友希那「そうね。好きになるだけなら自由だもの。」

 

 うん、俺もそう思うよ

 

 口から出まかせにマジで答えてくれてるよ

 

 ごめん、本当にごめん

 

友希那「けれど、本題はそこではないわね?別の子の事で悩んでるのでしょう?」

環那「そう、だね。」

友希那「それで、どんな風に悩んでいるの?」

環那「......」

 

 どんな風、か

 

 それも分からないから困ってるんだけど

 

 いや、一旦、自分で整理しよう

 

環那「......この間、その子に告白されて、振ったんだ。けど、なぜか、その子が頭から離れないんだ。」

友希那「......なるほど。」

巴「んっ?(それって。)」

 

 俺の言葉に、2人は全く違う反応を示した

 

 友希那は考え込むように俯いて

 

 ともちゃんは何かに気付いたような顔をしてる

 

巴「それ、普通にその子のことも好きになったとかじゃね?」

環那「いや、そんなはずないんだ。その子に抱く感情は、3人に向けるそれとは似てるけど違うから。」

巴「そ、そうなのか?」

友希那「......それはどうかしら?」

環那、巴「!」

 

 友希那の声で、ともちゃんとの会話が止まった

 

 友希那は俺の考えと違うみたいだ

 

友希那「人の感情なんて、全部が全部同じと言うわけではないわ。」

環那「ど、どういうこと?」

友希那「感情なんて、1つの言葉で表せても、内容は色々あるのよ。幸せを感じる時も、どう幸せなのか、そんなのその時々でしょう?」

環那「......あっ。」

巴「確かに、上手いもの食ってるときと幼馴染の皆といる時とじゃ、幸せだけど違う感じしますよね。」

 

 ......言われてみれば、そうだ

 

 けど、それじゃあどうなる?

 

 それなら、この感情は......

 

環那「......」

巴「か、環那さん?」

友希那「......環那は、ずっと頑張っていたから。」

環那「友希那......?」

 

 考え込んでると、友希那はそう呟いた

 

 それを聞いて俺もともちゃんも視線をうつした

 

友希那「ずっと苦労した、恋愛なんてする暇もないくらい。だから今、環那は過去にするはずだった恋愛を取り戻してるのよ。もっと、自分に正直になって。もう、環那は自由なんだから。」

環那「......うん。」

 

 俺はイヴちゃんのことが好きじゃない

 

 この言葉の意味が、今分かった

 

 理解してなかったと言うのもあるけど

 

 それ以上に、恐らく自らの保身を考えていたんだ

 

 あの3人以外を好きになって、失望されたくない

 

 そんな気持ちがあったのかもしれない

 

環那「......軽蔑、されないかな?」

友希那「この程度で軽蔑して嫌いになる程度なら、最初から環那のことなんて好きにならないわよ。

巴(い、意外と辛辣だな。)

環那「確かに、そうだね。」

巴(納得するのかよ!......確かに、性格はヤバいけどさ!)

 

 まだ、確定したわけじゃない

 

 けど、確信に近いものはある

 

環那「ありがとう、友希那、ともちゃん。大分、気が楽になったよ。」

友希那「気にしなくてもいいわ。環那にはずっとお世話になってるもの。」

巴「あたしは何にもしてないからな、礼はいらねぇよ。」

環那「もう少し、自分なりに考えてみるよ。」

 

 俺はそう言って、立ち上がった

 

 もう、答えはすぐに出せる自信がある

 

 まずは、謝らないといけないな

 

 そんな事を考えながら、俺は屋上を出て行った

__________________

 

 屋上を出て、俺は教室に向かってる

 

 今日は家に帰ろう

 

 出来るだけ早く、自分の気持ちを理解しないと

 

日菜「__へぇー、良い顔してるねー。」

環那「!......って、日菜ちゃんか。」

日菜「やっほー、イヴちゃんをこっぴどくフッた環那くーん。」

環那「っ......!」

 

 日菜ちゃんの声を聞いて、背筋が寒くなった

 

 いつもよりも低い声だ

 

 力で負ける訳がないのに、恐怖心を煽られる

 

日菜「そんな環那君にはどーでもいいかもしれない情報をあげるよ。」

環那「......情報?」

日菜「......イヴちゃん、泣いてたよ。」

環那「......っ!!!」

 

 それを聞いて、胸が締め付けられた

 

 なんだこれ

 

 痛いのか苦しいのか分からない

 

 けど、それらと同系統の感覚だ

 

日菜「レッスンの休憩中に、1人で隠れて。」

環那「......」

日菜「ほんとに、とんでもないことやらかしてくれたよねー。相手が環那君じゃなかったらぶっ殺してるよー。」

環那「......」

 

 自分でやらかしたことの重大さを自覚する

 

 ......俺はまた、失敗したのか

 

 そう思ってると、俺の足元に一枚の写真が落ちて来た

 

日菜「あー、大切な写真を落としちゃったー。環那君、拾ってよー。」

環那「......わざとだよね?」

日菜「知らなーい。」

環那「......取り合えず、拾うよ__っ!!」

 

 写真を拾って、それを見た

 

 その瞬間、俺は驚愕した

 

 そこに写されてるのは、薄暗い廊下で、物陰に隠れて泣いてるイヴちゃんの写真だったから

 

環那「......意外と嫌味なんだね。こんなの見せるなんて。」

日菜「まぁ、元からあたし、環那君のこと好きじゃないからね。」

環那「......知ってた。」

 

 俺はそう言って、ゆっくり立ち上がった

 

 この子、態度では分かりずらいけど、俺を警戒してたからね

 

 天才だって聞くし、俺がどういう人間か見抜いたんだろう

 

日菜「あたしには分かんないよ。環那君のどこがそんなにいいのか。」

環那「奇遇だね、俺もだよ。気が合うね。」

日菜「あはは、キモイね。」

環那「ひっど。紗夜ちゃんが可愛く見えて来た。」

日菜「おねーちゃんは可愛いでしょ。」

環那「それはそうだ。」

 

 俺は別に、日菜ちゃんは嫌いじゃないんだけどな

 

 普通に気が合いそうだし

 

 まっ、向こうは仲良くしたくなさそうだし、無理に関わらないけど

 

日菜「......その裏、イヴちゃんの家に住所書いてるから。後は......分かるよね?」

環那「......勿論。」

日菜「なら、いいよ。じゃあね。」

 

 そう言って日菜ちゃんは踵を返し

 

 軽い足取りで廊下を歩いて行った

 

 俺はその背中を見送ったまま、立ち尽くした

 

環那(もたもたしてる場合じゃない。すぐにでも行かないと。)

 

 俺は日菜ちゃんに貰った裏を確認し

 

 書いてある住所を覚えた

 

環那(少し遠い。急がないと。)

 

 俺はそう言って、教室にあるカバンを取り、学校から駆け出した

 

 取り合えず、イヴちゃんのもとに急がないと

 

 そうしないと、ダメな気がする

 

 答えなんて、その場で出せばいいだけだ

 

 

 



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好きかもしれない

環那「はぁ、はぁ......!」

 

 日が傾き始め、少し暗くなった街

 

 その中を全力で走る

 

 足の筋肉が張って、息が切れる

 

 けど、足を止められない

 

環那(こっちを右で、1㎞真っ直ぐ。)

 

 肺が破裂しそうだ

 

 正直、電車で行った方がいいとは思う

 

 けど、そうじゃない

 

 何となく、走らないといけない気がする

 

蓮(......らしくないな。この俺が、効率度外視なんて......!)

 

 俺はそう自分自身に悪態をつきながら

 

 イヴちゃんの家に向かって走った

 

 ......てか、今、家にいるの?

__________________

 

 “イヴ”

 

イヴ「__ありがとうございました。」

 

 お仕事が終わって、家に帰ってきました

 

 もう暗いからとマネージャーさんが車で送ってくれて

 

 とっても助かりました

 

「今日もお疲れさまー。もう気温も下がってきてるし、暖かくして寝てくださいねー。」

イヴ「はい!お疲れ様でした!」

「はーい。それじゃあ、また明日ー。」

 

 そんな会話の後、マネージャーさんの車が発信しました

 

 それを少しだけお見送りして

 

 ふぅ、と私は息をつきました

 

イヴ(もう、1週間ですか......)

 

 あの日を思い出す度に胸が痛くなります

 

 一度も振り向いてくれませんでした

 

 あの時の様な優しい言葉もかけてくれませんでした

 

イヴ「......っ」

 

 フラれる事は覚悟の上でした

 

 けれど、そう分かってても、簡単には割り切れません

 

 それくらい、好きだったんです......

 

イヴ「カンナ、さん......っ、ひぐっ、うう......っ」

 

 ポタポタと地面に涙が落ちました

 

 いつか、忘れられる日が来るとは思います

 

 けれど、忘れるまでは、ずっと辛いです

 

 これが、失恋なんですね......

 

イヴ「......せめてもう一度、抱きしめて欲しかった、です......」

 

 あと一度だけで良いので

 

 カンナさんの温もりを感じたいです

 

 いや、ダメですよね

 

 そうしたらきっと、諦められなく__

 

環那「__イヴちゃん、今、帰り......?」

イヴ「っ!!」

 

 そんな言葉を呟くと

 

 背後から、死ぬほど会いたかった

 

 愛しい人の声が聞こえました

 

イヴ「か、カンナ、さん......?」

環那「うん、俺だよ......」

イヴ「あ、あの、大丈夫ですか......?すごく、息切れしてますが......・」

環那「大丈夫......羽丘から全力で走って来ただけだから。」

イヴ「えぇ......!?」

 

 ここから羽丘まではかなりの距離があります

 

 それこそ、電車が必須と言われるくらい

 

 そんな距離を走って来たんですか?何のために?

 

環那「悪いけど、少し俺の話聞いてくれない?嫌って言われても勝手に喋るけど。」

イヴ「い、嫌じゃないです。でも、その、取り合えず入ってください。飲み物をお出しするので。」

環那「ありがとう。」

 

 私はそう言って、カンナさんに家に入って貰いました

 

 これから、どんな話をされるんでしょうか......

__________________

 

 カンナさんにお家に入って貰って

 

 私は飲み物を準備して、部屋に行きました

 

 正直、もう心臓が止まりそうです

 

 あの日がフラッシュバックしてしまって......

 

イヴ「お待たせしました、飲み物です。」

環那「うん、ありがとう。助かるよ。」

 

 そう言って、カンナさんはお茶に口をつけました

 

 やはり、かなり体力を消耗してたようです

 

環那「__ふぅ、流石に少しばかり死ぬかと思ったよ。」

イヴ「それで、あの、お話とは......?」

環那「っと、そうだったね。」

 

 待ちきれずに私が尋ねると

 

 カンナさんはコップをテーブルに置き

 

 ゆっくりと瞳を閉じました

 

イヴ(カンナ、さん......)

 

 カンナさんの姿を見ると、心臓の鼓動が激しくなります

 

 この鼓動は決して、怖がっているわけではありません

 

 むしろ逆で

 

 まだ、カンナさんが好きだから、ドキドキしているんです

 

環那「......俺は、恋愛について何も理解してない。」

イヴ「え?」

環那「俺は人の心にも自分の心にも疎い。けど、今回は理解してなかった半分、眼を背けてた部分もあった。」

イヴ「えっと、どういう事ですか?」

環那「そうだなぁ......」

 

 カンナさんが悩まし気にそう言いました

 

 私に向ける感情、ですか......

 

 それは、好きじゃない、では......?

 

環那「じゃあ、俺がイヴちゃんに思ってること正直に吐き出すよ。」

イヴ「え?」

環那「じゃあ、行くよ。」

 

 そう言い、すぅっと空気を吸い込みました

 

 え、何をする気なんですか?

 

 そう私が困惑してるうちに、カンナさんは口を開きました

 

環那「正直、イヴちゃんはすっごい可愛い。笑顔を見てるとこっちまで元気になるし、大人っぽい見た目とのギャップもいいと思う。ていうか優しい。俺に優しい人間なんてそういないのに、ただ店の客なだけの俺に優しすぎ。正直、ビジュアルも性格もいいし、良い匂いもするし、すっごい完璧な女の子だと思う。」

イヴ「!?///」

 

 いきなり、褒められました

 

 それで、顔が一気に熱くなってしまいます

 

 けど、なんでいきなり......?

 

環那「ふぅ......」

イヴ「あ、あの、どういう事ですか......?///」

環那「ん?俺がイヴちゃんに思ってる事だけど。」

イヴ「私に、ですか......?///」

 

 あんな風に、思っていてくれたなんて......

 

 すごく、嬉しいです

 

 でも、ならなぜ、あの日はフられたんでしょうか......

 

環那「まぁ、こんなこと言っても分からないよね。」

 

 カンナさんはふぅ、と軽く息を付き

 

 私の前で正座をしました

 

環那「俺は、自分の勝手な事情でイヴちゃんを傷つけた。申し訳ない。」

イヴ「か、カンナさん!?」

 

 カンナさんはいきなり、私の前で頭を下げました

 

 本当にいきなりで驚き過ぎて

 

 カンナさんを止めるのに少しだけ時間が空いてしまいました

 

環那「俺は無意識のうちに保身に走ってた。好きな人に失望されたくないからと、これ以上誰かを好きになるからを回避しようとしてた。」

イヴ「......え?」

環那「と言っても、気付いたのはさっきなんだけど。」

イヴ「え?今、なんと......?」

 

 好き、そういいましたか?

 

 カンナさんが?誰を?

 

 いや、これは状況的に......

 

環那「じゃあ、改めて言葉にするよ。俺は、イヴちゃんも好きかもしれない。」

イヴ「......!///」

 

 その言葉に、大きく心臓が跳ねました

 

 かもしれない、とまだ曖昧ですが

 

 カンナさんが、私の事を好きと言いました

 

環那「俺は人を好きになると言う事を理解しきってない。けど、そう言う感覚があるんだ。」

イヴ「そう、なんですね......///」

環那「リサや燐子ちゃん、琴ちゃんとは違う。けど、全く違うわけじゃない。きっと、核となる部分は一緒なんだ。だから、好きかもしれないって感覚があるんだと思う。」

イヴ「......///」

 

 これは、困りました

 

 嬉しすぎておかしくなってしまいそうです

 

 地獄から天国に昇った気分です 

 

 こんなに好き(かもしれない)といってくれるなんて

 

 今、すごく幸せです

 

環那「自分の気持ちについてはまだ勉強中だからさ、もう少しだけ待っていて欲しいんだ。」

イヴ「は、はい!もちろん、ずっと待ってます!///」

環那「ありがとう。絶対に後悔させないから。どんな形になっても、幸せにする。」

イヴ「分かってます///カンナさんのことを、信じてますから///」

環那「......うん。」

 

 そう言うと、カンナさんは嬉しそうに小さく笑いました

 

 その姿を見て、胸の中が温かくなりました

 

 やっぱり、私はこの人が大好きです

 

環那「それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ。」

イヴ「え、もうですか?」

環那「今日はこの話をしに来ただけだから、あまり長居するつもりはないんだ。」

 

 そう言って、カンナさんは立ち上がり

 

 身だしなみを整えました

 

環那「......イヴちゃん。」

イヴ「どうかしましたか?」

環那「明日、バイト?」

イヴ「はい!17時からです!」

環那「じゃ、その時間に羽沢珈琲店に行くよ。」

イヴ「え?///」

 

 また、顔が熱くなりました

 

 明日も、カンナさんに会えるんですか?

 

 しかも、カンナさんの方から会いに来てくれるなんて......

 

環那「じゃあ、帰るね。」

イヴ「は、はい///また、明日......///」

環那「うん。」

 

 そんな会話の後、私はカンナさんをお見送りしました

 

 玄関で最後にカンナさんに頭を撫でて貰って

 

 家に1人になってしばらく、幸せな気持ちで一杯でした

 

 




ヒロインはこれ以上増えないです。
あと、このシリーズはオムニバス方式っぽくなります。(100話便乗報告)


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種目決め

 イヴちゃんとの一件があった翌日

 

 俺はそこそこ元気に学校に行った

 

 憑き物が取れたと言うのが正しいのかな

 

 思った以上に心が軽くなった

 

イヴ「__お待たせしました!ブレンドコーヒーとチョコレートケーキです!」

 

 そんな今日、俺は羽沢珈琲店に足を運んでる

 

 いつも通りのコーヒーの香り

 

 可愛らしい2人の店員さん達

 

 やっぱり、ここはいい店だ

 

環那「ありがとう。」

イヴ「はい!ごゆっくり!......と、言いたいのですが。」

環那「?」

 

 コーヒーとケーキをテーブルに置いた後

 

 イヴちゃんはそう言って、笑みを浮かべた

 

イヴ「少しご一緒していいですか?」

環那「あー、そういう事。別にいいよ。」

イヴ「ありがとうございます!それでは、失礼しますね!」

 

 そう言い、イヴちゃんは俺の前に座った

 

 ここで相席するのは2回目かな

 

 あの時は珍しくお悩み解決みたいな事してたけど

 

環那「イヴちゃんも何か頼む?」

イヴ「お構いなく!」

環那「まぁ、そう言わずに。もろもろのお詫びの意味も込めてさ。」

イヴ「そうですか?なら、カンナさんと同じものを!」

環那「オッケー。つぐちゃん!同じのもう1セットちょうだい!」

つぐみ「かしこまりました!」

 

 つぐちゃんに注文をして

 

 俺はコーヒーに口をつけた

 

 相変わらず、すごく美味しい

 

イヴ「そう言えば、カンナさんは聞いていますか?」

環那「ん?何の話?」

イヴ「体育祭と文化祭のことです!」

環那「え、なんのこと?」

 

 それについての話は聞いたこと無いな

 

 理事長のやつ、そう言うのは報告しろって言ったのに

 

 これはお仕置きが必要かな

 

イヴ「今回、体育祭と文化祭を羽丘と花咲川で合同ですることになってるんです!」

環那「へぇ、それは面白そうだね。それは日菜ちゃん発案?」

イヴ「いえ、リンコさんです!」

環那「!?」

 

 燐子ちゃん!?

 

 い、意外過ぎる......

 

 絶対に日菜ちゃんだと思った

 

環那「合同で行事をする何て、思い切ったねぇ。」

イヴ「私はとっても嬉しいです!カンナさんと思い出を作れますし!」

環那「あはは、そっか。(う、うわぁ、昨日のうちに解決しててよかったぁ......)」

 

 ほんっとにギリギリだったよ

 

 もうちょっとでイヴちゃんが大変な事になってた

 

 か、間一髪すぎる......

 

環那「それにしても、体育祭かー。」

イヴ「カンナさんは今までに何か思い出はありますか?」

環那「んー、どうだろ。あんまり思いつかないかな。」

 

 小学校の時の運動会はどうでもよかったし

 

 なんか適当に走って、お遊戯してとかの記憶はある

 

 けど、思い出って程じゃない

 

環那「......あれ?マジで俺、小学校と中1、何してたっけ?」

イヴ「えぇ!?覚えてないんですか!?」

環那「どうでも良すぎて、つい。」

イヴ「さ、流石はカンナさんですね。」

 

 俺自身もそう思う

 

 普通はある程度覚えてるものだけどね

 

 ここまで覚えてないのはちょっと......やばいね

 

環那「こ、今回は真面目に頑張るよ。折角だし。」

イヴ「カンナさんの本気ですか!それは楽しみです!」

環那「そんなに大したことないよ。」

イヴ「いえ、カンナさんはすごいと聞いています!」

環那「誰に?」

イヴ「リンコさんです!」

環那「またしても!?」

 

 今日、よく出て来るね

 

 しかも、なんで俺について話してるの?

 

 てか、イヴちゃんと学校で話すの?

 

イヴ「カンナさんはクマやイノシシから走って逃げきったと聞きました!」

環那「いや、あれは火事場のバカ力みたいなものなんだけど......」

 

 今思えば、よく生き残れたよね

 

 あんな状況、死んでもおかしくなかったのに

 

イヴ「カンナさんは凄いです!チョウジンです!」

環那「普通の人がいいなぁ。」

 

 俺はそう言い、苦笑いをした

 

 ほんと、この子は可愛いな

 

 こんなに話してて楽しい子はそうそういないでしょ

 

つぐみ「おまたせしました!ブレンドコーヒーとチョコレートケーキです!」

環那「あ、来た来た。」

イヴ「ありがとうございます!ツグミさん!」

つぐみ「いいんだよ!ごゆっくり、ね!」

イヴ「!///」

環那「あっ。(気付いてるね、つぐちゃん。)」

 

 つぐちゃんは俺とイヴちゃんをニヤニヤしながら見て

 

 そそくさと奥に下がって行った

 

 イヴちゃんはそれを見て恥ずかしがってるのか

 

 顔が真っ赤になって、ワタワタしてる

 

イヴ「あ、あうあう......!///」

環那「あはは、流石は羽沢珈琲の看板娘だね。」

イヴ「恥ずかしいです......///まさか、気付かれていたなんて......///」

 

 まぁ、あの様子的に少し前から気付いてただろうね

 

 あくまで予想だけど

 

イヴ「......こうなったら!開き直ります!///」

環那「え?」

イヴ「カンナさん!///」

環那「は、はい。」

 

 つぐちゃんが下がった後

 

 イヴちゃんは大声を上げて

 

 自分のケーキをフォークで一口サイズに切り分け、それを差し出して来た

 

イヴ「あ、あーん///」

環那「開き直るって、そういうこと?」

イヴ「は、早くしてください///恥ずかしい、ので///」

環那「あ、あー、うん。いただきます。」

 

 そう言って、俺はイヴちゃんのケーキを食べた

 

 同じケーキのはずなのに、それはすごく甘く感じて

 

 胸の内が、ほっと温かくなった気がした

 

 

 ......視界の端に覗いてるつぐちゃんが見えたけど

 

 これは、イヴちゃんには言わないでおこう

__________________

 

 翌日、俺はいつも通り学校に来た

 

 けど、周りはいつもと様子が違う

 

 どこか浮かれてて、うるさい

 

リサ「かーんな☆」

友希那「おはよう、環那。エマも。」

環那「おはよー。」

エマ「おはよ。」

 

 しばらく机に突っ伏してると、2人が登校してきた

 

 2人とも、いつも通り可愛いなぁ

 

 てか、俺の周りにいる女の子って皆かわいいよね(自慢)

 

リサ「ねぇねぇ!環那はもう決めた?」

環那「なんのことー?」

友希那「体育祭の種目よ。今日、決めるはずだけれど。」

環那「あー、それね。」

 

 まぁ、近々あるとは思ってたよ?

 

 でもさ、昨日の今日でとは思わないじゃん?

 

 展開早くない?

 

エマ「お兄ちゃんは何に出る?」

環那「んー。なんでもいいかなー。」

 

 けど、走るのが良いかな

 

 複数人でする競技は得意じゃないし

 

リサ「環那は何出ても勝つだろうし、どれでも変わらないよねー。」

環那「そんなことないと思うけど。」

エマ「お兄ちゃんに運動能力で勝てる人類が存在するわけがない。」

環那「いや、そんな事はないと思うけど。」

 

 まぁ、冗談はそこそこにしておいて

 

 出るなら200m走あたりかな

 

 出来る限り目立たないように終わらせたい

 

環那「まぁ、程々に頑張るよ。」

リサ「本気の環那、見てみたいけどねー。」

環那「機会があればねー。」

リサ「それ、永遠に来ない奴じゃん。」

友希那「ふふっ、そうね。」

 

 本気かぁ

 

 この先、出す機会あるのかなぁ

 

 ない方がいいんだけどね、俺としては

__________________

 

 と言う話をしてからのホームルーム

 

 教壇には琴ちゃんと委員長が立って

 

 黒板には体育祭の競技がつらつらと書かれてる

 

 こうしてみると、結構あるんだね

 

琴葉「__それでは!これから体育祭の種目を決めたいと思います!目指すはもちろん優勝!自分が自信のある種目を選んでくださいね!」

 

 暑苦しい

 

 体育祭の優勝なんて、何の意味もないのに

 

 どうしてあんなに張り切ってるんだか

 

琴葉「何か出たい種目がある人は手を挙げてくださーい!」

環那「へーい。」

琴葉「南宮君!」

環那「200m走でー。」

琴葉「いいですね!では、200m走1人目は南宮君で!」

 

 はい、これで決まりー

 

 後はテキトーに流そうか

 

 優勝は他のメンバーに任せて

 

琴葉「あと、南宮君にはリレーにも出てもらいます!」

環那「......はい?」

琴葉「いいですよね?」

 

 このアラサーちゃんは何言ってるの?

 

 リレー?この俺が?

 

 いやいや、ありえないでしょ

 

環那「なんで、リレー?」

琴葉「リレーは全種目で1番配点が高いんです!つまり、ここを勝てばぐっと優勝に近づきます!だから、勝てるメンバーで挑みたいんです!」

環那「えー......」

琴葉「どうしてそんなにやる気なさそうなんですか!体育祭ですよ!?青春ですよ!?」

 

 熱い熱い熱い

 

 教室の温度上がってるって

 

リサ「環那はなんでそんなにリレー嫌なわけ?」

環那「それは言うまでもないでしょ?」

リサ「うん、まぁ、分かるよ?(環那、なんだかんだでクラスのこと嫌いだしなぁ......)」

 

 リサと友希那とエマならともかく

 

 他の奴らと協力するのは難しい

 

 ほんとに全く息が合う気がしない

 

琴葉「困りましたねぇ。他のクラスは陸上部などの運動部で固めて来るのに......」

環那(すごい俺の方見てくる。)

琴葉「このクラスにも速い人はいるんですが、やはり南宮君の力なくしては......」

 

 いい年した大人がおねだりする子供に見えて来た

 

 クラスの視線が全部俺に集まってるし

 

 あー......面倒くさい

 

環那「あーもう分かったよ......出てあげるよ。」

琴葉「本当ですか!?」

環那「どうせ、出るって言うまで駄々こねるんでしょ?」

琴葉「......何のことでしょうか?」

 

 ほんとに子供みたいな大人だな

 

 まぁ、そう言う所も可愛いんだけどさ

 

 こういう時に発揮しないで欲しい

 

琴葉「じゃあ!この調子で決めて行きましょう!出たい種目がある人は手を挙げてください!」

 

環那(......やれやれだよ。)

 

 俺は大きなため息をつきながら

 

 残りの種目決めを眺めてた

 

 琴ちゃん、優勝する気満々だけど

 

 勝算とか、ちゃんとあるのかな

 

 それがただただ、不安だ......

 

 

 



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練習

 案の定というかなんというか

 

 琴ちゃんは勝算なんて用意してなかった

 

 ただ、速いやつを優先的に詰め

 

 余ったところにそこまでな奴を適当に当てはめた

 

 まぁ、予想通りなんだけど、なんて杜撰なんだ......

 

環那(はぁ、どうしよ。)

 

 体育祭は各競技の順位順に得られるポイントの総数で決まる

 

 つまり、勝った数が多いほど優勝に近づく

 

 なのに、琴ちゃんは一番大きいリレーだけを真面目に考えて

 

 その他は適当と来た......

 

 なんというか、流石だ

 

環那(別に俺が勝つのは簡単だけど、他の奴らはなぁ......)

 

 ハッキリ言って、あんまり期待してない

 

 陸上部のもいるけど、所詮は補欠止まり

 

 他の運動部も飛びぬけて速いわけじゃない

 

 ......勝ちを計算できるところがなさすぎる

 

リサ「悩んでるね、環那ー。」

環那「そりゃそうでしょ......あんな戦力でどう優勝しろと......?」

リサ「まぁ、他のクラス陸上部のレギュラーとかいるけど、うちはいないもんねー。」

環那「ほんとに......」

 

 勝つ方法がないわけじゃない

 

 それに必要な情報は集めて

 

 何とか、確定する前に順番を入れ替えた

 

 けど、これ以降、順番の入れ替えは使えない

 

環那「どうしようか......」

友希那「あら、本気で勝つ気なのね。あんなに嫌そうだったのに。」

環那「まぁ......」

エマ「当然。お兄ちゃんが勝つことは運命。」

 

 琴ちゃんがあんなに楽しそうだとね

 

 これが惚れた弱みってやつなのか......

 

 変な感じだよ

 

環那「......あの子の笑顔を守るのも、俺の役目かなって。」

 

 俺は溜息をついた

 

 この短期間じゃ、出来る準備もできない

 

 そうなると、出来ることは限られる

 

リサ「じゃあ、初めて体育祭で環那の本気を見れるわけだね!」

環那「大したものじゃないと思うけど。」

 

 別に俺、運動はそんなに好きじゃないし

 

 あんまり人を驚かせる自信ないな

 

環那「まぁ、出来るだけ頑張るよ。そんなに自信ないけど。」

リサ「そうだね!取り合ず、5限目は体育だし、頑張ろうー!」

友希那「そうね。そろそろ着替えに行きましょうか。」

エマ「お兄ちゃん、あとで。」

環那「うん。またね。」

 

 そういって、3人は体操服をもって更衣室に向かい

 

 俺も体操服に着替えに行った

 

 あー、どれぐらい頑張らないといけないかな

_____________________

 

 “リサ”

 

 昼休みには少し自信がなさげだった環那

 

 まぁ、あたしも本気で運動してるの見たことないし

 

 あくまで、一般レベルでのすごい位だと思ってた

 

 ......そう、お昼休みまでは

 

「__南宮君!19秒64!」

 

「ま、マジか......」

「おい、今の200m走の世界記録ってどのくらいだった......?」

「確か、19秒19だったよな?」

「はぁ!?」

 

 環那はすごかった......てか、化け物だった

 

 走ってる速さとか、見ただけで次元が違うって分かったし

 

 何より一番やばいのは......

 

環那「まぁまぁだね。調整程度だし。」

 

 息も一切切らさず、手を抜いて走ってること

 

 小中は意外と同級生と競ってたっていうか

 

 1位は1位だったけど、意外とギリギリだった

 

 けど、今わかった

 

 環那、ずっと意味わかんない位手抜いてたんだ

 

リサ(いやいやいや、かっこよすぎでしょ!?///)

 

 走ってる途中の表情は珍しく真剣だったし

 

 終わった後の佇まいとか、すごいクールだったし

 

 なんでガチな時の環那ってあんなかっこいいわけ!?

 

環那「リサは何してるの?」

友希那「乙女には色々あるのよ。」

環那「な、なるほど。」

エマ(お兄ちゃんのカッコよさに充てられる気持ちはわかる。今井リサ、今ならあなたと分かり合える気がする。)

リサ「......///」

 

 ヤバい、見られてた

 

 めっちゃ恥ずかしいんだけど

 

 どんな顔して皆の方向けばいいの?これ

 

リサ「か、環那ー、すごいねー///あたし、びっくりしちゃったよー///」

環那「そう?喜んでもらえたならよかった。」

エマ(恥ずかしくなって話しかけてきた。)

友希那(顔が真っ赤ね。)

 

 とりあえず、話しかけてみた

 

 恥ずかしすぎて死にそうなんだけど

 

 どの面下げて話しかけたわけ!?

 

環那「まだまだ本気じゃないんだけどね。」

リサ「知ってる。けど、かっこよかったよ......///」

環那「ははっ、ありがと。」

リサ(むぅー......///)

 

 環那、やっぱり余裕そう

 

 あたしはこんなに恥ずかしいのに

 

 好きだけど、ちょっとムカつく......

 

「南宮ー、リレーの練習始まるぞー。」

環那「おっと、もうそんな時間か。行ってくるよ。」

リサ「うん!行ってらっしゃい!」

友希那「楽しみにしているわ。」

エマ「お兄ちゃんの雄姿はこのカメラに......!」

環那(どこから出したの?)

 

 環那はリレーのメンバーが集まってる場所の方に歩いて行った

 

 正直、まだドキドキしてるけど

 

 環那が走るとこ、見守っとかないと

_____________________

 

 “環那”

 

 さて、リレーだ

 

 俺の問題はこっちだよ

 

 全く他の奴の力が把握できてないし

 

 勝てる見込みがあるかないかもわからない

 

 琴ちゃんのためにも、勝ちたいんだけどね

 

環那(でも、このメンバーじゃなー......)

 

 他のクラスのメンバーは把握してるけど

 

 流石に劣ってるという他ない

 

 俺が頑張るのにも限度があるんだけど......

 

「おっ!南宮が来たぞ!」

「これはもう貰ったも同然だよな~。」

「あんなに足速いんだし、南宮君にさえ回せば!」

 

 こいつら、俺に頼る気満々だ

 

 まぁ、そうだろうね

 

 便利なものがあれば使いたくなるし

 

環那「それでいいんじゃない。」

「だよねー!頼りにしてるよ!」

環那「俺、君たちに一切期待してないから。」

リレーメンバー「え?」

 

 俺がそういうと、5人が硬直した

 

 あれ、まさか、期待してると思われてた?

 

 心外だなぁ......

 

環那「まぁ、せいぜい、1周遅れにならなかったら上出来かな。」

「な、なんだと!?」

「私たちを見下してんの......!?」

環那「正当な評価だよ。このクラスの戦力は他に比べて劣ってるっていうね。」

「......!」

 

 やる気のある奴は好きだよ?

 

 でも、やる気だけで考えてない奴は嫌いだ

 

 自分の実力を考えず、闇雲に突っ込むなんて馬鹿以外の何者でもない

 

「ば、馬鹿にしやがって......!」

環那「そこまで言うなら結果出せば?もし、今日、一着で俺にバトン渡せたら、この場で土下座してやるから。」

「言ったな?皆も聞いたよな!?」

「あぁ!絶対に土下座させてやる!」

「写真撮って学校中にばらまいてやるから!」

環那「あっそ。精々がんばれ~。」

 

 そんな会話をしてるうちに他のクラスの準備も整った

 

 体育教師に呼ばれ、第一走者がスタートラインに立ち

 

 いよいよ、リレーの練習が始まる

 

「位置について!よーい!......ドン!」

 

 審判役の生徒の合図で一斉にスタートした

 

環那(さてさて、お手並み拝見だ。)

 

 このリレーは3走目まで女子、4走目からは男子だ

 

 まぁ、最初はそこまで差はない

 

 細かく順位が変わって、今は3位くらいだ

 

環那「おー、結構頑張ってるねー。」

「おいおい、これなら1位なんて余裕だろ。」

「南宮くぅーん?土下座の準備は出来まちたかー?」

環那「ん?君たちは何を見てるの?」

「は?」

 

 そんな会話をしてるうちに、2走目にバトンが渡った

 

 一走目はそこまで差はなかったな

 

 まぁ、その理由はわかってるんだけどね

 

 今は他のメンバーが楽しそうだし、放っておこ

 

「よ~し、ここで1人くらい追い抜けば......」

環那「追い抜けないよ。」

「は?何言ってんだよ。2位の背中はすぐ......そ、こ......?」

 

 さぁ、差が出始めてきた

 

 第二走者の女子は1人、2人と追い抜かれていく

 

 それに伴って、前のチームとさらに差が開いていく

 

環那「......これは、一周遅れどころじゃ済まないかも。」

 

 まさかここまでとは......

 

 悪い意味で期待を裏切ってくれるよ

 

 あーあ、これ、相当頑張らないといけなそう

 

「ま、まぁ?まだ挽回できるよな?」

「そ、そうだよ!まだ俺たちで挽回できる!」

「と、とりあえず、あたしで順位上げる!」

環那「ふぁ~ぁ......」

 

 はーい、頑張れー(棒)

 

 と、俺は心にもない応援をしつつ

 

 呑気に自クラスの落ちていく様を見ている

 

 第3走者に回っても、何も変わらない

 

環那「ねぇー、あれ大丈夫なのー?土下座させるんじゃなかったのー?」

「う、うるせぇ!」

「俺らで逆転すんだよ!」

環那(それが出来たら苦労しないんだけどね~。)

 

 俺は心の中で舌を出した

 

 てか、言ってる間に最下位じゃん

 

 まぁ、思ったより1位と距離空いてないし

 

 ちょっとくらい根性見せるかな~

 

「ご、ごめん!」

「任せろ!こっから俺が__えっ?」

環那「クフフ、フフフ、あはははは!」

 

 4走目の男子は目を丸くした

 

 だって、もう前のチームは遥か遠くにいるんだもん

 

 流石に、ここまでは予想してなかったでしょ

 

環那「ほら~、頑張りなよ~。1位ともう半周差はついてるよ~?」

「く、クソッ!」

「わ、悪い!頼む!」

「あ、あぁ!」

環那(おっ。)

 

 第5走者の奴、結構頑張ってる

 

 まぁ、半周差がちょっと縮まってるだけだど

 

環那「さーてと、頭の弱いクラスメイトの尻ぬぐいでもしてあげようか。」

 

 そう言って、俺は1番外のレーンに立った

 

 前の奴は半周差を広げられないことで精いっぱいだ

 

 面倒くさいなぁ......

 

「そのクラスでリレーなんて大変だなー。」

「ほんと、南宮君は速いのに。」

「まぁ、それもリレーだからな。悪いけど、お先。」

「俺も。最後まで腐るなよ、南宮君。」

環那「あはは~。またゴールで会おうね~。」

 

 人って現金だよね

 

 優位な立場なら誰にでも優しく出来るんだから

 

 まぁ、俺は優位でも優しくしないけどね!

 

 っと、そんな冗談言ってるうちに他の皆は行っちゃったじゃん

 

「はぁ、はぁ......!くそっ!!」

環那「もう、遅いよ。」

「うる、せぇ......!」

環那「はいはい。毒はいてる暇ならバトン寄越して、よっ!」

「!!!」

環那(さぁ、行くか。)

 

 俺は5走者からバトンを奪い取り

 

 さっきよりギアを上げて走った

 

 ほんと、面倒くさいよね、尻拭いって

 

環那「__やっほー。」

「え、はぁ!?」

「なん__」

「はやっ__」

 

 取り合えず、前にいた3人を抜いた

 

 あと2人かー

 

 まっ、余裕でしょ

 

環那(甘いねぇ。あまあまだ。)

「なっ!?」

「そんな、馬鹿な!?」

環那「悪いね。俺、あの3人の前で醜態をさらすわけにはいかないんだ。」

 

 と、俺は1,2位の2人も抜き去り

 

 そのまま、用意されてるゴールテープを切った

 

 けど、そこで歓声は上がることなく

 

 誰もが唖然として、声も出せなくなっていた

 

「そ、そんな......」

「最下位から、ごぼう抜き......」

「あんな差を、1人で......」

環那「__言ったでしょ?期待してないって。」

リレーメンバー「っ......!」

 

 俺は半笑いのまま、メンバーに近づいた

 

 全員、歯を食いしばって悔しそうにしてる

 

 まぁ、そうだろうね

 

 土下座させるどころか、尻拭いまでされたんだから

 

「く、クソが......っ」

環那「文句言うのは勝手だけどさー、結果出せよ。」

「ぐっ......!」

 

 文句、言えないよね?

 

 だって、結果的には勝ったんだから

 

 5人はほぼ役に立ってないけど

 

環那「まっ、俺は君たちが勝てない理由を知ってるんだけどね。」

「何......?」

環那「けど君たち、教えたら考えないでしょ?ちょっとは頭使いなよ。じゃあ、がんばれ~。」

 

 俺はそう言って5人に背中を向けた

 

 正直、俺はもう調整は出来たし

 

 あとは、他の奴らの動きでも観察しとこ

 

 

 ......って、次は友希那の障害物競走の練習だ!

 

 こんなどうでもいいことは放っておいて

 

 ちゃんとこの目に焼き付けておかないと!

 

 

 



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来訪

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

皆さんは正月早々、ガチャを引きすぎないように気をつけてください。(すでにバンドりとパズドラで5万以上溶かしたバカより)


 体育祭の練習が始まって3日目

 

 リレーのチームは絶賛迷走中だ

 

 全員が全員、負ける理由を理解してないから

 

 個々のタイムを伸ばすことに着手して、体力を消費している

 

 平たく言えば、おバカだ

 

 今日も朝から、合同練習前に走ってるし

 

「もう一本いくぞ!」

「も、もう無理だってぇ......」

「足、パンパン......」

環那(あはは、頑張ってるね~。)

 

 正直、俺から言えば無駄な努力だ

 

 頭を使ってない努力、ってやつ

 

 メジャーリーガーの有難い言葉、見たことないの?

 

琴葉「__何も言わないつもりですか?」

環那「おっ、琴ちゃんじゃーん。見に来たの?」

琴葉「えぇ、時間が出来たので。」

 

 おぉ、仕事モードだ

 

 後、今日は黒タイツと......

 

 うん、良い感じだ

 

環那「それでなんだけ?言わないつもり?」

琴葉「知ってるんでしょう?あの子たちが遅い理由。」

環那「当たり前じゃん。むしろ、気づかない方がおかしくない?」

 

 なんで言わないかと言うと、何となく

 

 特に自分から手を貸す意味もないし

 

琴葉「相変わらず、クラスメイトには無関心ですね。」

環那「別に仲良くないしね。」

琴葉「まったく......」

 

 琴ちゃんは溜息をついてから、俺の横に座った

 

 ガッツリ見ていく感じみたいだ

 

 まぁ、どっちでもいいけど

 

琴葉「私はあなたに思い出を作ってほしいんですが......」

環那「別にクラスメイトの思い出は必要ないよ。そんなものより、琴ちゃんとの思い出の方が欲しいな。」

琴葉「......揶揄わないでください///」

 

 揶揄ってないんだけどなー

 

 まっ、これも仕方ないのかな

 

 俺の日ごろの行い的に

 

琴葉「わ、私より、クラスメイトとの思い出を作ってください。」

環那「んー、合わないんよね。」

琴葉「学生レベルのリレーなんてハッキリ言ってあなた1人で勝てます。けれど、遠回りするのもいいんじゃないですか?」

環那「遠回り、ねぇ......」

 

 遠回り、ねぇ

 

 別に嫌いじゃないけど

 

 ちょっと回りすぎな気もするなぁ

 

琴葉「それが思わないところで、意外な価値を持つこともあるんですよ。」

環那「遠回りしてばっかりの琴ちゃんが言うと、重みが違うね。」

琴葉「誰が遠回りばっかりですか!」

環那「あはは、ごめんごめん。」

 

 ほんと、面白いなぁ

 

 この子と話してると、退屈しない

 

琴葉「それで、どうするんですか?」

環那「んー、そうだなぁ......」

 

 俺から教えてもいいけど

 

 それじゃあ、彼らは頭を使わない

 

 それに、今の状況じゃ、俺に教えられるの嫌でしょ

 

環那「彼らが気づけば、俺が手を貸すのもやぶさかじゃないかな。」

琴葉「もし、気づかなければ?」

環那「その時は、彼らがその程度だったってことさ。」

 

 自分の弱さに気づけないのは論外だ

 

 そこを自覚しないことには何も始まらない

 

 リレーにかけて言うとすれば

 

 まだスタートラインに立ってない

 

琴葉「鬼ですね。高校生に求めることではありませんよ......」

環那「いやいや~、それくらいはしてもらわないと......ほんとにね。」

琴葉「......?(この表情は......?)」

 

 さてと、そろそろいいかな

 

 彼らは変化なしっぽいし

 

 今日は花咲川の子たちも来るし

 

環那「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。」

琴葉「最後まで見ていかないんですか?」

環那「別にいいよ。興味ないし。」

 

 俺はそう言って立ち上がり

 

 座ってる琴ちゃんの方を見た

 

環那「風邪、ひいちゃだめだよ?昨日も半裸で寝てたんだから。」

琴葉「なんで見てるんですか!?///」

環那「いや、リビングで酔いつぶれてたから。」

琴葉「そうでした......///」

環那「あはは、じゃあね~。」

 

 そう言って、俺はその場を離れた

 

 今日は燐子ちゃんとイヴちゃんも来るし

 

 ちょっとは真面目にするかなー

_____________________

 

 “燐子”

 

 体育祭を1週間後に控えた今日

 

 今年は行事を羽丘と合同ですることになって

 

 今日は最初の体育祭の合同練習

 

燐子「き、来た......!」

紗夜「嬉しそうですね。(十中八九、南宮君がいるからでしょうが。)」

 

イヴ「__ここにカンナさんがいるんですね!」

千聖「イヴちゃん?そういうことはもう少し小さな声で、ね?」

 

燐子、紗夜「!?」

 

 羽丘の前に着くと

 

 横からそんな若宮さんの声が聞こえました

 

 まさか、面識がある......?

 

 しかもこの感じ、どこかで......

 

環那「ようこそ、花咲川の皆さん。」

燐子「え、環那君......!?///」

イヴ「カンナさん!///」

燐子、イヴ「!」

環那「あ、2人とも久しぶりー、ってほどでもないか。」

 

 一週間ぶりの環那君だ

 

 ここのところ全然会えてなかったし

 

 けど、なんで若宮さんまで......?

 

燐子「......まさか、若宮さんも......?」

イヴ「はい。燐子さんのことは聞いていますよ!」

燐子「......」

 

 なるほど、そう言うことですか......

 

 若宮さんまで環那君を

 

 ここ最近、あんまり会えてなかったけど

 

 その間にこんなことになってたなんて......

 

燐子「環那君の......すけこまし......」

環那「えぇ!?」

燐子「むぅ......」

 

 今井さんや浪平先生だけでも強敵なのに

 

 その上、アイドルの若宮さん......

 

 また、環那君の倍率上がっちゃった......

 

燐子「私と会ってない間に......新しい女の子となんて......」

環那「ご、ごめん。」

イヴ(燐子さん、嫉妬深いです......!)

 

 なんだろう、この気持ち

 

 環那君を取り合うライバルが増えたのに

 

 ちょっとだけ嬉しくも思っちゃう

 

 仲間意識......みたいなものなのかな?

 

イヴ「カンナさんはなんでここに来たんですか?」

環那「あぁ、そうだった。俺は誘導のために来たんだ。日菜ちゃんに頼まれてね。」

燐子「そうなの?珍しいね、環那君が誰かのお願い聞くなんて。」

環那「色々あって、日菜ちゃんに頭が上がらくてね......」

 

 な、何があったんだろ......

 

 環那君がこんな風になるなんて

 

 日菜さん、何したんだろう......?

 

環那「まぁ、案内するよ。ついてきて......の前に。」

燐子、イヴ「!」

 

 環那君がそう言った瞬間

 

 私と若宮さんが持ってた荷物がなった

 

 環那君にとられたんだ

 

 全然、見えなかった......

 

環那「可愛い女の子が重い荷物なんて持つものじゃないよ。こうゆうのは俺に任せて。」

燐子、イヴ「......///(可愛い、女の子......///)」

紗夜(全く......)

千聖(目立ちすぎよ、イヴちゃん......)

 

 それから、私たちは環那君に案内され

 

 荷物を置く教室に向かった

 

 今日はずっと、環那君と同じ学校にいられるし

 

 頑張って、アピールしないと......!

 

 

 



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恐怖の対象

 “リサ”

 

 体育祭の合同練習は色々とやることがある

 

 開会式、各競技ごとの集合と入場、閉会式と

 

 このあたりの調整は必須だって環那が言ってた

 

リサ(おぉー、壮観だなぁ。)

 

 2校の全校生徒がいるし

 

 そりゃあ、人数は多くなる

 

 でも、ただひたすらに思う

 

 この人数で体育祭やるの?

 

リサ「あれ、そういえば環那いなくない?」

友希那「そういえばそうね?どこに行ったのかしら。」

エマ「お兄ちゃんは仕事に行ってる。」

リサ「仕事?」

 

 環那の仕事ってなに?

 

 日菜に頼まれてたやつ?

 

環那『えー、テステス。ただいまマイクテスト中。』

リサ「ん?」

友希那「これは、環那の声ね。」

 

 なーんで司会なんてしてるの?

 

 まさか、日菜が頼んだの?

 

 絶対に人選ミスじゃん

 

 確実に遊ぶもん

 

環那『これより、花咲川学園、羽丘学園合同体育祭を開催いたします。本日、司会進行、実況を務めさせていただきます、南宮です。』

日菜『同じく実況担当!羽丘学園生徒会長の氷川日菜だよー!』

 

リサ「実況?」

友希那「何やってるの?」

 

 こんなの絶対に悪ふざけじゃん

 

 あの2人、相変わらずやりたい放題だ......

 

環那『それではプログラム1番、両行校長先生による開会の挨拶です。』

 

 環那がそう言うと

 

 まずはうちの校長先生が朝礼台に上がった

 

 てか、結構真面目に進行してる

 

 まぁ、この状況じゃ流石にふざけないよね(フラグ)

 

羽丘校長『えー、この度はお忙しい中、この合同体育祭の開催に携わってくれました両行の先生方、および関係者の方々に深く御礼申し上げます。このような素晴らしい日に__』

環那『はい。校長先生、ありがとうございましたー。』

羽丘校長「え?」

 

リサ「えぇ!?」

エマ「これは話が長くなりそうだから切ったね。」

リサ「そんなことある?」

友希那「面倒くさかったんでしょうね、多分。」

 

 真面目だと思ったけど、やっぱり滅茶苦茶だ

 

 いや、やめてあげなよ

 

 確かにうちの校長って話長いけどさ

 

 ちょっとくらい聞いてあげてもいいじゃん

 

 話の内容だって考えてるだろうし(慈愛の女神)

 

環那『本日はあくまで予行練習のため、挨拶などは省略させていただきます。』

羽丘校長「あ、そ、そうですか......」

環那『それでは続いて、花咲川学園校長の挨拶ですが、省略させていただきます。それでは、プログラム2番、両行生徒会長による挨拶です。皆さん、耳の穴かっぽじってよく聞きましょう。』

 

全生徒(対応の差!?)

リサ「もう滅茶苦茶だよ(諦め)」

友希那「本番もこの調子なのかしら?」

 

 それから、環那は独断で進行していって

 

 日菜と燐子はちゃんと挨拶の練習をした

 

 ただただ思うよ

 

 本番、大丈夫かなって......

_____________________

 

 “環那”

 

 司会進行も結構楽しい

 

 日菜ちゃんから頼まれた(脅された)けど

 

 まぁ、これなら別にいいかな

 

環那『それでは、各競技の集合を連絡します。1500m走、100m走に出場する生徒は会場右側の入場ゲートに集合してください。』

 

 それだけ言って、俺はマイクから離れた

 

 中々つかれた

 

 結構しゃべりっぱなしだったな

 

琴葉「南宮君。」

環那「ん?どーしたの?」

琴葉「あのですね、もうちょっと校長先生に優しくしてあげませんか?」

環那「えー。わざわざおっさんの話なんて聞きたくないじゃん。」

琴葉「なんでこういう時は正直なんですか!?」

 

 琴ちゃん、それは暗に肯定してるよ?

 

 後ろでおじいちゃんたちが渋い顔してるけど

 

 まぁ、いいや

 

環那「まぁまぁ、本番になったらちゃんとするからさ。やっぱり、燐子ちゃんは本番を想定した練習しないと緊張しちゃうだろうし、あとはバランスをとってだからさ。」

琴葉「まぁ、そう言うことなら......」

日菜(いいんだ。)

燐子(いいのかな......?)

 

 さて、口から出まかせも終わったし

 

 俺は俺の仕事しよっと

 

 まぁ、ここで座って実況するだけなんだけどね

 

燐子「あっ、私はクラスに戻らないといけないから、またね。」

環那「え、もう?もっとゆっくりしていけばいいのに。」

琴葉(ここは家じゃないんですが......)

燐子「あの、お昼ごはん、一緒に食べたいな......?///」

環那「」

 

 はい、可愛い(即死)

 

 この子は本当に庇護欲を掻き立てられる

 

環那「オッケー。じゃあ、お昼休みに合流しようか。」

燐子「うん......!///じゃあ、また後で......!///」

環那「うん、またねー。」

 

 燐子ちゃんは駆け足でクラスに戻って行った

 

 あー、可愛かった

 

 俺はもう今日は満足だよ

 

日菜「......うわー、だらしない顔してるねー。」

環那「っ!!(殺気!!)」

 

 って、日菜ちゃんか......

 

 なんで女子高生アイドルにこんな殺気が出せるの?

 

 今、首筋にひんやりとした感触があったんだけど

 

日菜「イヴちゃん呼ばなかったら、友希那ちゃんにりさちーに燐子ちゃん、あと浪平せんせーにイヴちゃん泣かせたこと言っちゃおうかなー?」

環那「......な、何がお望みでしょうか?」

日菜「お昼、イヴちゃんもちゃんと呼ぶこと。いい?」

環那「は、はい。元から呼ぼうと思ってましたし......」

 

 この子に逆らえる気がしない

 

 ハッキリ言って、怖い

 

 熊や猪なんて目じゃないよ

 

環那(この子に逆らうと、マジで首を掻っ切られる気がする。恐ろしい。)

日菜「それならいいよ!じゃあ、業務を邁進したまえ!」

環那「か、かしこまりましたー。ごゆっくりー、生徒会長サマー。」

 

 日菜ちゃんはそう言い残し、どこかへ歩いて行った

 

 あー、やっと解放される......

 

 寿命、4年くらい縮んだ......

 

琴葉「流石のあなたにも苦手な人間はいるんですね。」

環那「いや、あの子見てみなよ。マジで怖いから。」

琴葉「可愛い子じゃありませんか。」

 

 そう、琴ちゃんは知らないんだ

 

 あの日本刀を思わせる冷たい瞳を

 

 死を覚悟するレベルで怖いから

 

環那「最近、あの子が近くに来ると、動悸が激しくなるんだ......」

琴葉「!?(そ、それは......!?)」

環那「......俺は人生において、今までこんな恐怖は感じたことはない。あんなに純粋な殺気、初めて感じた。」

琴葉「そう言うことですか......(怖がりすぎでは......?)」

 

 あの子と争うことは金輪際ない(断言)

 

 怖いもん、すごく

 

 敵対する可能性があったら、全力で関わらないよ

 

琴葉「まぁ、仕事をしましょうか。」

環那「そうだね。えっと次は......」

 

 俺はプログラムを確認し

 

 次のアナウンスの準備をした

 

 取り合えず、お昼までは真面目に仕事しよう

 

 日菜ちゃん、怖いし......

 

 

 



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午後の練習

 あれから時間が過ぎ、お昼になった

 

 お昼はいつも通り好きな場所で食べてもいい

 

 そこで俺はエマとRoseliaとイヴちゃん、琴ちゃんを呼んだ

 

環那「いやぁ、まさか琴ちゃんも来れるなんてねー。」

琴葉「あなたが校長先生に指示したんでしょう......」

環那「ナンノコトカナー?ヨクワカラナイナー?」

 

 いや、ほんとにしてないよ?

 

 ちょっとおねだりしただけ

 

 やっぱり、可愛い生徒のお願いだからね(?)

 

リサ「ねぇ、環那!お弁当のおかず交換しようよ!」

イヴ、燐子、琴葉「!」

環那「別にいいよー?何欲しい?」

リサ「じゃあ、グラタンがいい!」

環那「おっけー」

リサ「じゃあ、あーん!」

環那「はいはい。」

 

 あれ、リサってそんなキャラだっけ?

 

 まさか、他の3人に対抗心燃やしてる?

 

 そんなことを思いながら、俺はリサにグラタンを食べさせた

 

リサ「ん~!これ美味しい!まさかこれ、全部手作り?」

環那「ホワイトソースは自作だよ。」

リサ「マジで!?すごい、お店のと変わらないじゃん!」

エマ「当然。お兄ちゃんは料理においても天才......!」

イヴ、燐子(た、食べたい......!)

琴葉(相変わらず、凝り性なんですねー。)

 

 今日のは成功だ

 

 次は何作ろうかな

 

 この流れでパスタ系にも手を出していこうかな

 

燐子「か、環那君......!」

イヴ「環那さん!」

環那「ん?」

燐子「私も......!」

イヴ「食べたいです......!」

環那「いいよー。はい。」

燐子、イヴ「!///」

 

 俺は2人の方にグラタンを差し出した

 

 すると2人はバっとこっちに近づいてきて

 

 グラタンを口に入れていった

 

イヴ「おいしいです!今まで食べたグラタンの中で一番です!」

燐子「環那君、またお料理上手になったね......!」

環那「あはは、ありがと。」

 

 おいしそうに食べてくれて、嬉しいね

 

 そして可愛い

 

 折角だし、体育祭の日は皆の分も作ってこようかな

 

あこ「波平先生とエマはいいなー。」

琴葉「?」

あこ「環那兄と一緒に暮らしてたら、毎日こんなにおいしいもの食べられるんでしょー?」

イヴ、紗夜「えっ?」

琴葉「そうですねー。栄養バランスもいいですし、彼が来てから健康診断の結果もよくなったんですよー。」

紗夜「あの、え......?」

環那「どうしたの?」

 

 今の会話の途中

 

 見るからに紗夜ちゃんは動揺してた

 

 何か不思議なこと、あったのかな?

 

紗夜「お二人は同じ家に住んでるのですか......?」

環那「2人ってか3人だね。」

イヴ「ナミヒラ先生はカンナさんのことを......?」

琴葉「え、えぇ、まぁ......?///」

 

 何の確認だろう

 

 変なところあったのかな

 

紗夜「不純......では?」

琴葉「違いますよ!?///」

紗夜「ですが、異性と......しかも、片思い中のですよ......?」

琴葉「改めて言わないでください!///普段は普通の同居人なんです!///」

 

 まぁ、確かに変わったことはないね

 

 あの日以降はそんな雰囲気になってないし

 

 多少、距離が近くなった気はするけど

 

イヴ「私もカンナさんと同棲したいです!」

環那「うーん、流石にちょっと。(週刊誌的に。)」

 

 一瞬で撮られそう

 

 俺も最近、出版社に圧力かけたばっかだし

 

 あんまり迂闊なこと出来ないんだよね

 

環那「まぁ、もうしばらくは琴ちゃんといるよ。この子、俺がいないと家をゴミ屋敷にするから。」

琴葉「余計な事言わないでくださいよ~!///」

友希那(家事、できないのね。)

燐子(家事、できないんだ......)

紗夜(意外ね......)

 

 あー、琴ちゃんのイメージが崩れる音が聞こえる

 

 事実だから仕方ないんだけどね!

 

 本当に壊滅してるから!

 

イヴ「そうですか......残念です。」

環那「あはは、まぁ、そういう未来もあるかもしれないしね?」

リサ「!!///(つまり......!///)」

燐子(環那君と同棲する未来が......!///)

琴葉(私はあまり変わらないですね......いや、付き合うようなことがあれば、変わる、のでしょうか......?///)

イヴ(家に帰ったらカンナさんがいるなんて......すごく幸せです!///)

 

 やっば、これ失言だ

 

 こんな勘違いさせる系主人公みたいな......

 

 うわぁ、似合わないなぁ......

 

紗夜「なぜ彼はあんなに渋い顔をしてるんでしょうか。」

友希那「あれは自分のイメージに合わない行動や言動をした時の顔ね。」

あこ「それってつまり、恥ずかしがってるってことですか?」

友希那「まぁ、簡単に言えばそうね。」

 

環那(こんなの俺じゃないって。端的に言ってきもいよ。)

 

 落ち着かないと

 

 一旦、クールダウンだ

 

 さっきの失言は忘れよう

 

 これ以上は俺の精神が持たない

 

環那「そう言えば、午後からの予定ってどんな感じだっけ。」

紗夜「プログラムを最後まで通して、リレーだけはすることになってますね。」

環那「えぇ......リレー、するの?」

紗夜「なんでそんなに面倒くさそうな顔をするんですか?」

環那「面倒くさいんだもん。」

 

 別にやらなくてもいいのに......

 

 まぁ、良い機会なのかな

 

 そろそろ、本格的に時間ないし

 

紗夜「面倒くさい......ということは、出るんですか?」

環那「まぁね~。そこの琴ちゃんに駄々こねられて仕方なくだけど。」

琴葉「言い方!?そんな子供みたいに!」

環那「事実じゃん~。」

 

 琴ちゃん、見た目も子供っぽいしね

 

 よく言えば若く見えるなんだけど

 

 中身まで若いからなぁ......

 

紗夜「あなた運動は......って、出来ますよね。」

燐子「環那君が走ってるところ見るの、楽しみ......!」

イヴ「かっこいいカンナさんを期待してます!」

環那「よしっ、本気出すかな。」

リサ「いや、いきなりやる気出すじゃん。」

 

 いやだって、出るでしょ?

 

 可愛い女の子いたら、良いとこ見せたくなるでしょ?

 

 まぁ、リサや琴ちゃんや友希那にもそうだから

 

 未だに練習でも負けてないんだけどね

 

環那「よーし、リレー頑張るぞー。」

 

 俺はそう言いながら、弁当のおかずを口に運んだ

 

 さて、折角だし

 

 今回はちょっとだけ本気だそっと

_____________________

 

 “燐子”

 

 あれから少し時間が経ち、練習が再開されました

 

 午後のプログラムも滞りなく進んでいって

 

 恐らく、当日も問題なく進められると思う

 

 そんな感じで練習は進んでいって......

 

日菜『__次はリレーの練習だよー!最後のグループだけだけど、これはみんな本気でやるから、気になるあの人を応援しようねー!』

 

 環那君がいなくなって

 

 放送席では日菜さんが1人で実況してる

 

 最後の煽りがいるかは分からないけど......(恥ずかしい)

 

リサ「燐子ー!一緒に見よー!」

燐子「あ、今井さん。友希那さんにエマちゃんも。」

琴葉「皆さん、ここで見るんですか?」

イヴ「皆で応援しましょう!カンナさーん!頑張ってくださーい!」

 

 浪平先生まで揃っちゃった

 

 若宮さんは......もう少し静かにしてください

 

 すごく、見られちゃってる......

 

紗夜「それで、今井さんのクラスはどうなんですか?彼がいるのは分かるのですが、1人で勝つことは厳しいのでは?」

リサ「うーん、まぁ、普通はそうなんだけどね?」

エマ「私たちのクラスはお兄ちゃんのワンマンチーム。」

燐子、紗夜「え?」

イヴ「そうなんですか?」

 

 リレーでワンマンチーム?

 

 そんなのありえるのかな......?

 

 環那君がすごいことは知ってるんだけど......

 

友希那「見ればわかるわよ。いかに環那のワンマンチームか。」

琴葉「そんなにですか?遅いことは分かってるんですが、ちゃんと勝負してる所は見たことなくて。」

エマ「正直、お兄ちゃん以外は使い物にならない。」

紗夜「そんなにですか?」

友希那「そう言わざるを得ない状態なのよ。」

 

 友希那さんがそう言い、トラックの方を見ました

 

 そんなにひどいのかな......?

 

リサ「あっ、出てきたよ!」

燐子「!」

イヴ「カンナさーん!頑張ってくださーい!」

琴葉(実際のところ、どうなんでしょうか?)

 

 それぞれのチームの人たちがスタート位置に着きました

 

 羽丘2チーム、花咲川2チームのこのグループ

 

 私は自分の学校を応援しないといけないんだけど

 

 環那君は個人として応援しよう

 

『位置についてー!よーい......ドン!』

 

 4人が一斉にスタートした

 

 リレーに出てるだけあって、全員が速い

 

 同じ女子なのに、こんなに違うんだ......

 

紗夜「今のところは、あまり差はないですね。」

リサ「いやー、ここからなんだよねー。」

紗夜「?」

 

日菜『さぁ、バトンが2走者目に渡ったよー!まだまだこれからだよー!みんな頑張れー!』

 

 2走者目にバトンが渡って

 

 少しずつ、順位が動いて来た

 

燐子「......あれ?」

紗夜「これは......」

 

 環那君のチームの順位が下がってる

 

 最初は2位にいたのに、3位になってる

 

 なんで......?

 

イヴ「うーん、どういうことでしょうか?」

紗夜「足の速さにそこまでの差は感じないんですが。」

燐子(だ、大丈夫なのかな......?)

 

 3走者にバトンが渡ると

 

 そこまで差がなかった4位の人に抜かれて

 

 とうとう、環那君のチームは最下位になった

 

リサ「あー、今回は早いね。」

エマ「まったく......」

 

 そのまま、リレーは進んでいき

 

 4走、5走になるにつれ、差が少しずつ開いていく

 

 これは......

 

燐子「こ、これ、大丈夫なんですか......!?環那君、負けちゃうんじゃ......」

リサ「あー、それは大丈夫じゃないかなー。」

琴葉「こんな絶望的な状況でですか!?」

リサ「絶望的、というかー......」

 

 今井さんが苦笑いを浮かべる

 

 この様子、まるで......

 

リサ「いつも通り、なんだよね。」

燐子、紗夜、イヴ、琴葉「え?」

 

 私たちの前を他の3チームのアンカーが通り過ぎていく

 

 この状況がいつも通り......?

 

 そんなこと、ありえるの......?

 

友希那「そろそろ来るわよ。」

燐子「__っ!」

 

 友希那さんがそう言った瞬間

 

 風が通り抜けていった

 

 その風は速く、鋭く

 

 私の頬を撫でた

 

燐子、紗夜、イヴ、琴葉「え......?」

 

 その風が進んでいった方向を見ると

 

 すごい速度で走ってる環那君の姿があった

 

燐子、イヴ、琴葉「~!///」

 

 環那君の走る姿はすごくかっこいい

 

 何がいいかって、表情がいい

 

 いつもの笑顔じゃなくて、真剣な表情で

 

 ただひたすら、ゴールを目指してる感じがして

 

 ギャップがあって、すごくドキドキする

 

イヴ「きゃー!///カンナさーん!///」

燐子「か、かっこいい......///」

琴葉「こ、こんなのありなんですか!?///(彼、年下なのに......!///)」

 

 環那君は2週目に突入し

 

 そこからもどんどん速度が上がっていく

 

 そして......

 

日菜『__ゴール!1位は羽丘の3年A組だー!』

 

 風になった環那君は全員を抜き去って

 

 そのまま、ゴールテープを切った

 

 その姿もすごくクールで、かっこよくて

 

 私たちはしばらく、その姿に見惚れてしまった

 

 

 

 



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アドバイス

 あれから少しして練習が終わった 

 

 最後まで特に何のトラブルもなく進んだ

 

 この分なら当日も問題ないと思う

 

環那「ふぁ~ぁ......」

 

 今日は慣れないことをしすぎた

 

 本気で走ったのも、体育祭の練習に参加するのも

 

 何もかも、今日が初めてだった

 

環那(意外と大変なんだ、人間生活。)

 

 毎年、これの似たようなことするんだ

 

 中々、大変だ

 

 そう思ったら、檻の中って快適だったんだなぁ

 

 何もしなくてよかったし

 

(prrrr)

環那「ん?」

 

 着替えをして1人で更衣室にいると

 

 ロッカーの中においてた携帯が鳴った

 

 画面を見ると、相手はあの人だった

 

 俺は少し周りを確認し、通話ボタンを押した

 

環那「......はい、もしもし。どうかしましたか?」

篤臣『よォ、環那ァ。』

 

 電話の相手は篤臣さんだ

 

 一応、擬装用の携帯あるんだけどなぁ......

 

 あの人、なぜか使わないんだよね......

 

篤臣『お前ェ、もうちょっとで体育祭らしいなァ?』

環那「あ、はい。ありますよ。」

篤臣『そうかァ。』

環那「......(あっ。)」

 

 あ、なるほど

 

 これはあれだ

 

 来たいけど自分から言うのが恥ずかしくて

 

 俺から呼んでほしいって感じかな

 

 相変わらず、見た目によらずシャイな人だ......

 

環那「あー、来ますか?」

篤臣『......いいのかァ?』

環那「もちろん。きっと、琴ちゃんも喜びますよ。」

篤臣『そりゃあねェなァ。』

 

 篤臣さんはそう即答した

 

 まだ琴ちゃんに嫌われてると思ってるんだ、この人

 

 別にそうでもないのに

 

 意外とネガティブだよねぇ

 

環那「はぁ......」

篤臣『なんだァ、その溜息はァ?』

環那「いえ、なんでも。」

 

 親子仲良くすればいいのに

 

 ここまですれ違うのも珍しいよね

 

 まぁ、お互いの性格のせいなんだけどね

 

 ほんと、娘も父親も面倒くさい

 

環那「体育祭は一週間後ですので、普通の服で来てくださいね。」

篤臣『わかってらァ。』

環那「それでは、失礼します。」

 

 俺はそう言って電話を切った

 

 そして、ため息をついた

 

環那「はぁ......世話が焼けるなぁ。」

 

 全く、面倒な2人だ

 

 面倒さって遺伝するのかな?

 

 俺はそういう研究結果は見たことないんだけど

 

環那「まぁ、いいや......行こ。今日は買い物行かないとだし。」

 

 そう呟いた後、俺は更衣室を出た

 

 今日は八百屋が安売りの日だし、そっち行かないと

_____________________

 

 翌日、俺はいつも通り学校に来て

 

 練習をしてる他の5人を見物してる

 

 けど、今日は様子が違う

 

 あんまり動いてないな

 

環那(話し合ってる......っぽいかな?)

 

 5人がグラウンドの真ん中で話し合ってるっぽい

 

 輪になって一体何を話し合ってるんだか

 

環那(負ける理由に気づいた......わけないか。)

 

 だとしたら何だろう

 

 また、ない頭を使ってるのかな?

 

 もう一週間しかないのに、ルーズだねぇ

 

環那(ねむ......っ)

 

 暇だなぁ

 

 15分くらい喋りっぱなしだし

 

 なーんにもやることがない

 

「__おい、南宮。」

環那「ん?(話しかけてきた?)」

 

 しばらくボーっと眺めてくると

 

 5人が俺の方に駆け寄ってきてきた

 

 全員、神妙そうな顔をしてる

 

環那「どうしたのー?」

「......教えろよ。」

環那「なにを?」

「なんで俺たちが、負けるのか。どうすれば、速くなるのか。」

環那「ほう?」

 

 少しだけ感心した

 

 なるほど、そっちの会議だったわけか

 

 ここまで死ぬほど長かったけど

 

 やっと引き際が分かったんだ

 

「いくら走ってもずっと最下位だし、もう分かんねぇよ......」

環那「だろうね。」

 

 俺はそう言ってグラウンドにおりた

 

 気は乗らないけど仕方ない

 

 本人たちがやる気だし、何より琴ちゃんのためだし、教えてあげようか

 

環那「君たちが負ける原因はそもそも足の速さだけじゃない。」

「どういうこと......?」

環那「君たち、自分かいつ抜かれてるのが多いのか考えないの?」

 

 これは、言われてみれば当たり前のことだ

 

 何も特別なものじゃない

 

 リレーという競技を理解さえしてれば、最初に浮かぶ答えだ

 

環那「君たちが抜かれることが多いのはテイクオーバーゾーン。つまり、バトンパスのタイミングで抜かれることが多いんだよ。気づかなかった?」

5人「!!」

 

 そう言うと、5人は驚いた表情をした

 

 あ、マジで気づいてなかったんだ

 

 まぁ、いいや

 

環那「バトンパスを軽んじない方がいい。日本代表のリレーチームは100m走の決勝に残った選手がいなくても、世界で2番目に速くなった。その理由こそ、バトンパスなんだよ。」

5人「へぇ。」

 

 この5人、マジで勉強不足だなぁ......

 

 なんでこんなことも知らないの?

 

 1人は紛いなりにも陸上部でしょ?

 

 ちゃんとテレビ見たらいいのに

 

環那「今回、リレーのチームは6人。この間に起きるバトンパスの回数は5回だ。そのたびに減速して、また加速してってするのは大きなロスさ。5回も遅い状態があるわけだからね。」

 

 こんなの基礎の基礎なんだけどね

 

 特に日本ではバトンパス練習に時間さくし

 

環那「そのロスをなくすためにバトンパスを練習することは必要なんだよ。」

「で、でも、それだけで意味あるの?」

 

 っと、頭の足りない質問をしてきた

 

 ここまで聞いて分からないのか......

 

 いかにエマと喋るのが楽かわかるな

 

環那「あるよ。むしろ、君たちは浅はかなんだよ。一週間そこらで急激に足が速くなるわけないじゃん。君たちは頭を使わずに努力をしてたんだよ。」

 

 ため息交じりにそう言い

 

 すぐに気を取り直して

 

 また、俺は口を開いた

 

環那「俺が観察した感じ、他のクラスだって決してバトンパスがうまいわけじゃない。ただ、それでも君たちより優れてるってだけ。端的に言えば、君たちは能力でも技術でも負けてるってこと。だからこそ、1つでも負ける部分を減らす努力が必要なんだよ。そしてそのするべき努力の答えはバトンパスなわけだよ。」

 

 まぁ、こんなものかな

 

 俺は別に陸上の専門家ってわけじゃないし

 

 これ以上言えることはないかな

 

環那「まっ、君たちはあと1週間、バトンパスで速度落とさない練習でもすればいいんじゃない?1位になれるかは知らないけど、今までみたいな惨敗はなくなるかもね。じゃ、また教室で~。」

 

 さて、そろそろ教室行こ

 

 そう思って、俺は校舎の方に歩きだした

 

 別に何も大したこと言ってないけど

 

 あの5人がどの程度進歩するか

 

 見ものだ

 

 



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何気ない時間

 あの5人にアドバイスを送った後

 

 俺は誰もいない教室に来た

 

 いやぁ、俺も優しくなったよね

 

 別に好きでもない人間にちゃんと丁寧に教えたし

 

環那(いや~、良いことすると気持ちがいいね~。)

琴葉「結局、教えてあげたんですね。」

環那「あ、琴ちゃん。」

 

 琴ちゃんが教室に入ってきた

 

 仕事ないのかな?

 

 2学期ってもう受験本番って感じの時期だと思うけど

 

環那「って、見てたのー?」

琴葉「えぇ。職員室の窓から。」

環那「え、覗き?やだわー。」

琴葉「違いますよ!?」

 

 まぁ、もちろん冗談なんだけどね

 

 でも、見てたなら来たらよかったのに

 

 みんな大好き浪平先生なんだし

 

琴葉「それで、どういう風の吹き回しなんですか?あなた、クラスメイトのことは嫌いなのでは?」

環那「もちろん嫌いだよ?けど、琴ちゃんのためだし、聞かれたら答えるよ。」

琴葉「私のため、ですか?」

 

 琴ちゃんは不思議そうに首を傾げた

 

 この子、気づいてないのか......

 

 鈍感主人公なの?

 

環那「琴ちゃんも、俺1人で勝つより、他の5人がある程度頑張った方がうれしいでしょ?」

琴葉「それはまぁ、教師の立場としては。」

環那「そういうことだよ。俺は琴ちゃんが好きだろうから、喜んでほしい。」

琴葉「そうですかー......ん?今、なんと?」

環那「好きな人には喜んでほしいって。」

琴葉「ちょっと変わってません!?///」

 

 琴ちゃんは顔を真っ赤にして慌ててる

 

 え、今更その反応?

 

 そんなことある?

 

琴葉「そ、そんな急に告白されても困りますよ!///」

環那「そんな生娘みたいな反応されても......」

琴葉「しかたないでしょう!///慣れてないんですからっ!///」

環那「彼氏いない歴=年齢だもんね......」

琴葉「余計なお世話ですよ!///」

 

 ほんと、この子と話してると面白い

 

 弄り甲斐があるというか

 

 こういうところ、可愛いんだよね

 

環那(......この子の笑顔は、俺が守らないとね。)

琴葉「全くもう///たらしなんですから///」

環那「あはは、誰にでもこんななわけないじゃん。」

琴葉「......バカ......///」

 

 琴ちゃんは小さな声でそう呟いた

 

 はぁ......かわい

 

 最初から分かってたことなんだけどね

 

環那「それで、琴ちゃんは仕事は良いの?」

琴葉「大丈夫ですよ。なので、もう少しあの子たちを見ていきます。」

環那「じゃ、こっち来なよ。」

琴葉「......隣の意味、あります?///」

環那「俺が嬉しい。」

琴葉「......分かりましたよ///」

 

 それから、しばらく2人で外を眺めた

 

 こういう静かな時間も、いい

 

 これのことを幸せって呼ぶのかな

 

 そんなことを少しだけ考えていた

___________________

 

 放課後、俺は用があって花咲川に来てる

 

 その用ってのは、生徒会長様に命令されて

 

 体育祭の関連書類を持ってきただけどね!

 

 あー、あの生徒会長怖いよー

 

環那「__燐子ちゃーん、いるー?」

燐子「あれ、環那君......?」

 

 生徒会室に入ると

 

 そこには燐子ちゃんに紗夜ちゃん

 

 あと、金髪の小さい子がいる

 

 おー、花咲川の生徒会レベル高い

 

紗夜「どうかしましたか?」

環那「我が校の生徒会長様のお願い(強制)でこれを持って来たんだ。」

紗夜「あぁ......(そうでした。この人、日菜のこと苦手でしたね。)」

燐子「環那君、お茶飲む?淹れたけど。」

環那「早くない?まだ教室に入って30秒くらいしかたってないんだけど。」

 

 燐子ちゃんってこんなに早く動けたんだ

 

 ちょっと驚いたよ

 

環那「まぁ、いただくよ。」

燐子「うん......!」

 

 俺は言われるがまま

 

 燐子ちゃんの横の席に座った

 

 いやぁ、こういう時の勢いすごいよね、燐子ちゃんって

 

有咲「あのー、紗夜先輩?」

紗夜「はい?」

有咲「私、あの人のことすごい見たことあるんですけど......?」

紗夜「恐らく、テレビか何かで見たのでしょうね。」

有咲「......やっぱりですか?」

環那「ん?」

 

 ツインテールちゃんがこっちを見てる

 

 どうしたんだろ?

 

 こんな燐子ちゃんを初めて見たとか?

 

環那「どうしたの?ツインテールのカワイ子ちゃん?」

有咲「い、市ヶ谷有咲と申します。南宮社長。」

環那「そんな呼び方しなくていいよ?俺は普通の高校生だし。」

紗夜「普通ではありません。」

 

 ひどい

 

 俺はほんとに普通の高校生なのに......

 

環那「まぁ、そっか。ある意味俺は普通じゃないかもね......はぁ、社長やめたい......」

紗夜「社長がどうのこうのという問題ではないんですよ。あなた自身が異常なんです。」

環那「えぇ!?そんな、ひどい......!」

紗夜「思ってないでしょう。」

 

 あれ?バレた?

 

 紗夜ちゃん、結構俺のこと見てるよね

 

 もしかして、意外と好かれてる?

 

環那「そんな冗談は置いといてっと。」

有咲(あの流れ、冗談なの!?)

環那「それで、有咲ちゃんは俺に何か用かな?」

 

 さて、カワイ子ちゃんの話を聞かないと

 

 さっきから俺をチラチラ見てるし

 

有咲「いや、あの、いつも使ってるパソコンを作ってるのが南宮さんの会社で、会見もリアルタイムで見てて、すごいなぁと思ってて。」

環那「あ、そうなの?有咲ちゃんみたいな可愛い子に見てもらえてて光栄だな__痛っ!」

燐子「むぅ~......!」

 

 有咲ちゃんと話してる途中

 

 突然、太ももに鋭い痛みが走った

 

 横にいる燐子ちゃんにつねられたんだ

 

 その表情は頬を膨らませて、ジトーっとした目でこっちを見てる

 

燐子「環那君、市ヶ谷さんにデレデレしてる......!」

環那「し、してないしてない!俺っていっつもこんな感じだよ!?」

燐子「市ヶ谷さんのこと、可愛いって言った......!」

環那「り、燐子ちゃんの方が可愛いよ!」

紗夜(大変ですね。)

有咲(この2人、付き合ってんの?)

 

 どうしよう

 

 痛みと可愛さを同時に感じてる

 

 これなら何されても許せそう

 

燐子「今井さんや、浪平先生や、若宮さんよりも......?」

環那「え?あ、えっとぉ、そこは流石に同率という__いたたたたっ!」

燐子「そこは嘘でもいいから一番って言って......!」

環那「ご、ごめんごめん。」

 

 女の子って難しい

 

 また新しい知識が出てきたんだけど

 

 次から気をつけよう、マジで(真剣)

 

環那「でも、俺は本気で燐子ちゃんを世界一可愛いと思ってるから。そこは心配しないで。」

燐子「っ!///......それはちょっと、言いすぎだよ......///」

環那「あはは、そう?」

 

有咲「あの、紗夜先輩。この2人って......」

紗夜「付き合ってないですよ。ただ、特別なんですよ。彼にとって白金さんは。」

有咲「燐子先輩すご......」

 

 それからしばらく

 

 俺は燐子ちゃんと話しながら

 

 紗夜ちゃんと有咲ちゃんとも程々に話した

 

 鬼の生徒会長(※個人の見解)に頼まれてここに来たけど

 

 楽しかったし、いいかな

 

 

 



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正体不明

 最近は体育祭関係で忙しい

 

 けど、俺にはこなすべき仕事がある

 

 面倒なことこの上ないけど、やるべきことはこなさないと

 

環那「......」

 

 カタカタという音が部屋の中に響く

 

 パソコンは獄中でもいじってたし

 

 正直、普通の仕事をこなすなんて造作もない

 

 テロ組織をハッキングした時の方が苦労した

 

環那「......こんな感じか。」

 

 俺がこなしてるのは通常の業務

 

 それに加えて、組織体制を整える為の策を考えてる

 

 まぁ、元々いくつか考えてるんだけどね

 

 策なんて過剰なくらいあった方がいいんだから

 

 考えられるときにいくらでも考えておかないと

 

環那「......はぁ。」

 

 時計を見ると、時間は午後11時

 

 社内には恐らく、俺以外の人間はいない

 

 俺がそういう業務命令を出したんだけどね

 

 全員、例外なく定時に帰って、仕事の持ち帰りも禁止って

 

 焦らないといけない仕事は俺が捌けばいいしね

 

 それよりも社員の意識改革が優先しないといけない

 

 だから、まだもう少し仕事しないと、なんだけど......

 

環那「何か用かな?」

ノア「__気づいてたのか。」

環那「まぁね。」

 

 俺が声をかけると、ノア君が窓から飛び込んできた

 

 一応、ここは地上20階で高さは99.4mあるんだけど

 

 まぁ、彼なら何ともないか

 

ノア「せっせと働く貴様を見に来たんだ。」

環那「あはは~、ノア君って実は俺のこと大好きだよね~。」

ノア「そんなわけあるか。お前のことは好きじゃない。嫌いでもないがな。」

 

 あら、この子デレ期だわ

 

 やっぱり、お友達だからね~

 

 いや~、やっとデレてくれたよ

 

環那「冗談は置いといて。何の用でここに?」

ノア「ただの様子見だ。」

環那「なら、そこに座りなよ。」

ノア「あぁ。」

 

 ノア君はソファに座った

 

 それを見て、俺も向かいに座る

 

環那「休憩しようと思ってたから、ちょうど良かったよ。」

ノア「今考えただろ。」

環那「あれ?バレた?」

 

 意外と俺のこと理解してるな

 

 嬉しい限りだよ

 

 この子とは仲良くしておきたいからね

 

環那「まぁ、休憩も大事だからね。切っ掛けをくれたという意味ではナイスだよ。」

ノア「貴様には必要のないことだろう。」

環那「そう?今は結構疲れてるけど。」

 

 いや、ほんと、マジで

 

 流石にこの量の仕事となると頭が痛くなる

 

 並列思考の使い過ぎは良くない

 

ノア(こいつの能力、やはり異常だな。あの量の作業をこなすとは。)

 

 いやぁ、疲れた

 

 意識したら頭痛くなってきた

 

 このくらいなら問題ないけど

 

環那「ねぇねぇ、ノア君。」

ノア「なんだ。」

環那「折角来たんだから、ちょっと話そうよ。」

ノア「いいだろう。俺もエマの様子を聞こうと思ってたところだ。」

環那「相変わらずロリコンだねー。」

ノア「......」

 

 茶化すようにそう言うと、ノア君はこっちを睨んできた

 

 怖いなぁ

 

 ちょっとした冗談なのに

 

環那「ごめんごめん。」

ノア「次にふざけたことを抜かしたら殺すぞ。」

環那「怖いって......まぁ、いいや。」

ノア(よくないが。)

環那「それで、エマの様子だっけ?」

 

 って、言ってもね?

 

 護衛してるノア君の方が詳しいんじゃない?

 

環那「見ての通りだよ。学校行って、家では研究して、好きなように楽しく生きてる。」

ノア「そうか。貴様が言うならそうなんだろう。」

環那「知っての通り、悪いようにはなってないから。ご心配なく。」

 

 別にこれからも何かする予定はない

 

 家族になったからね

 

 流石にその辺りの節度は持ってる

 

ノア「随分お優しいことだな。化物が。」

環那「ひどいなぁ。化物なんて。」

ノア「貴様が化物じゃないなら何と言えばいい。」

環那「環那君とか?」

ノア「断る。」

環那「えー。」

 

 そろそろ打ち解けてくれていいと思うんだけど

 

 流石の俺もちょっと泣いちゃいそう

 

 攻略難易度高すぎでしょ......

 

ノア「貴様と話してると疲れる。」

環那「ひどい。」

ノア「複数人と話してる気分になるんだ。」

環那「?」

 

 複数人?って、どういうこと?

 

 ここには2人しかいないのに

 

ノア「俺は貴様に聞きたいことがあるんだ。」

環那「なになに?何でも聞いて。」

ノア「なら聞こう。」

 

 ノア君はふぅと一つ息をつき

 

 鋭い刃物のような瞳を向けてきた

 

 すごい威圧感だ

 

 “ノア”

 

ノア「貴様、何者だ?」

環那「......どういうこと?」

 

 俺は奴にそう質問した

 

 奴はわざとらしく首を傾げ

 

 うすら笑いを浮かべている

 

ノア「俺はずっと疑問だった。今まで、嘘をつく人間はいたが......貴様のような、常に嘘の気配を感じる人間はいなかった。」

環那「......」

 

 こいつが一番異常なのはそこだ

 

 生粋の嘘つきかと言われればそうだが

 

 それでも、常に嘘の気配があるのは異常だ

 

ノア「貴様は__」

環那「いやだなー。」

ノア「!」

 

 俺が喋ろうとすると、奴は口を開いた

 

 気配が動いてない

 

 一切、動じていないというのか?

 

環那「俺は南宮環那だよ。今も昔も。」

ノア「っ......!!」

 

 恐怖だ

 

 久しく感じてなくて忘れたが、直感で理解した

 

 俺はこいつに恐怖している

 

 俺の殺し屋人生で、こんなことは初めてだ

 

ノア(こ、こいつは......)

 

 俺が恐怖を感じる理由

 

 その一つはこいつの放つ雰囲気

 

 だが、これはそこまで大きな理由じゃない

 

 最も大きな理由は、まだこいつに嘘の気配があることだ

 

ノア(どこまでが真実で、どこまでが嘘なんだ。)

環那「どうしたの?らしくない顔して。」

ノア「......」

 

 こいつは、本当に何者なんだ

 

 なぜ、ここまで嘘で塗り固められる

 

 こいつには脳が複数あるのか?

 

 そうでない限りあり得ないほどの嘘つきだぞ

 

ノア(......まさか。)

 

 考えるうちに一つの結論にたどり着いた

 

 少し無理があるかもしれんが

 

 これなら納得がいくぞ

 

ノア「貴様、どこに置いて来た?」

環那「なんのこと?」

ノア「......いや、もういい。」

 

 俺はそう言い立ち上がった

 

 もし、俺の予想が正しければ不味い

 

 エマのためにも調べないといけない

 

環那「もう帰るの?」

ノア「あぁ。」

環那「そっか。じゃあ、またね。」

 

 奴のその言葉を背に

 

 俺は入ってきた窓の前に立ち

 

 逃げるような気分を味わいながら

 

 夜の街へ飛んだ

 

 

 



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体育祭、開始

 合同練習の日から1週間が過ぎ

 

 今日はついに体育祭当日だ

 

 琴ちゃんは俺が作った弁当をもって先に家を出た

 

 俺とエマもその少し後に家を出て

 

 今はいつも通りの通学路を歩いてる

 

エマ「お兄ちゃん。今日もいい天気だね。」

環那「うん、そうだね。絶好の体育祭日和ってやつだ。」

 

 いや、少しだけ気温が高いか

 

 人によっては熱中症とか気をつけないと

 

エマ「あの凡人たちはどう?少しはマシになった?」

環那「さぁ?彼らの能力は未知数だからね。でもまぁ、ちょっとはマシになってるんじゃない?」

 

 あの日から、彼らの練習は見てない

 

 そもそも、俺には必要ないものだ

 

 どっちみち、勝ちは確定してるんだから

 

環那「何はともあれ......」

エマ「!」

環那「優勝しに行こうか。うちの可愛い担任のために。」

エマ「一応、恩はある。力を貸すこともやぶさかじゃない。」

環那(素直じゃないなぁ。内心は琴ちゃんに懐いてるのに。)

 

 俺はエマの様子を見て小さく笑った

 

 この子もなんだかんだ、楽しんでるのかな

 

環那(仕方ないなぁ。)

 

 今日はちゃんと、本気出そうか

 

 可愛い妹の思い出と可愛い同居人のために

 

 俺はそんなことを思いつつ、エマと一緒に通学路を歩いた

___________________

 

 教室につくと、もうクラスのメンバーは盛り上がってた

 

 正直、入るの死ぬほど面倒くさいけど

 

 行くところもないし、取り合えず教室に入った

 

リサ「あ!おはよう!環那!エマも!」

環那「おはよ。」

エマ「おはよう。」

友希那「二人はいつも通りね。」

 

 教室に入ると、2人が声をかけてきた

 

 リサはいつもよりテンションが高い

 

 友希那はいつも通りだ

 

友希那「2人の調子はどうかしら?」

環那「いつも通りだよ。」

エマ「私も。」

リサ「いやいやー!今日はもっとアゲて行こうよー!」

環那「熱い熱い熱い。」

 

 今日のリサは真夏の太陽だ

 

 もうちょっと近づいたら皮膚が焼けそう

 

 相変わらず、行事の時のリサの盛り上がりはすごいな

 

環那「友希那、今日は少し気温が高いから気を付けてね?」

友希那「えぇ、分かってるわ。」

 

 そんな会話をした後、俺は鞄を机に置き

 

 チラッと時計の方を見た

 

 そろそろ、来るかな

 

 と、思った時、放送が鳴った

 

日菜『__放そーう!』

環那「やっぱり。」

リサ「?」

日菜『3年A組、南宮環那君!今すぐあたしの所に来なさい!』

 

 ......こんなアバウトな命令ある?

 

 いや、大体予想つくからいいんだけど

 

 ほんと、悪魔はヤバいな......

 

環那「ってわけで、行ってくるよ。」

リサ「大変だねー。」

環那「ほんとだよ。あの子と出来るだけ2人になりたくないのに。」

友希那「本当に苦手なのね。」

環那「怖いもん。」

 

 あー、行きたくない

 

 けど、行かないとタダじゃ済まない

 

 と言うわけで、俺は日菜ちゃんの元へ向かうことにした

 

 “友希那”

 

リサ「いやー、それにしても。」

友希那「?」

 

 環那が教室を出た後

 

 リサがふと口を開いて

 

 私とエマはそんなリサの方を見た

 

リサ「環那、変わったよね。」

エマ「そうだね。」

 

 リサがそう言うと、エマが頷く

 

 変わった、と言えばそうなのかしら

 

 いや、でも......

 

友希那「......そんなに変わったかしら?」

リサ「え?」

友希那「環那はずっと、ああいう感じだと思うわよ。変わったとするなら、周り。」

 

 今まで、私たち3人しかいなかった

 

 けど、今はRoselia、若宮さん、浪平先生、エマと

 

 環那を取り巻く環境は劇的に変わった

 

友希那「環那は広い世界を知っただけ。根本的な部分は変わって......」

 

 変わってない

 

 その言葉は口から出ず、喉の中で掻き消された

 

 なぜか、自分の言葉に違和感が生じた

 

リサ「友希那?」

エマ「どうしたの?」

友希那(あれ......?)

 

 環那はずっと、ああいう感じだった

 

 そのはずなのに、妙な違和感がある

 

 なんなの、これは......?

 

リサ「友希那!?真っ青になってるよ!?大丈夫!?」

友希那「え、えぇ。」

 

 リサが心配そうにこっちを見てる

 

 けれど、今は気にしてる心のゆとりがない

 

友希那(何なの、この霧がかかった感じは......?)

 

 全くと言っていいほど思い出せない

 

 けれど、気持ち悪い

 

 私は、今の環那しか知らないはずなのに......

 

リサ「ほんとに大丈夫?」

友希那「大丈夫よ。心配性ね、リサは。」

エマ「......」

 

琴葉「__みなさーん!おっはようございまーす!今日は優勝目指しますよー!」

友希那、リサ「!」

エマ「琴葉、うるさい。」

 

 浪平先生が教室に入って来た

 

 ということは、もう時間

 

 結局、環那は帰ってこなかったわね

 

リサ「友希那?体調悪かったらあたしか環那に言いなよ?」

友希那「えぇ。」

 

エマ「......」

 

 私はリサとそう軽く言葉を交わした後、席に着いた

 

 それからは浪平先生から注意事項などを聞いて

 

 時間が来てから、校庭に移動した

___________________

 

 “環那”

 

 えー、しばらく時間が経ちまして

 

 俺は今、司会席にいます

 

 開会式は俺の名進行で滞りなく進んでる

 

 いやぁ、俺って結構才能あるかも

 

環那「ふぁ~ぁ......開会式終わり......」

琴葉「眠そうですね。」

環那「あ、琴ちゃんじゃん。どうしたの?」

 

 司会席でダラダラしてると琴ちゃんが歩いて来た

 

 クラスの方は良いのかな?

 

琴葉「朝、あなたがクラスにいなかったので、声をかけに来たんです。」

環那「あ、そうなの?」

 

 わざわざ来たんだ

 

 そんな気にしなくていいのに

 

 変な所で律儀だなぁ

 

琴葉「今日は頑張りましょうね!」

環那「熱いよ。」

 

 俺は溜息をつきながらそう言った

 

 テンション高すぎるよ

 

 どんなに楽しみだったんだか

 

琴葉「あなたは落ち着きすぎですよ!」

環那「騒ぐタイプでもないしね。」

琴葉「年取ってますねー。」

環那「余計なお世話だよ。」

 

 まだまだ若いはずなんだけど

 

 まぁ、いいや

 

琴葉「それで、調子のほどはいかがですか?」

環那「普通。いつも通りだよ。」

琴葉「なら、南宮君は勝ち確定ですね!」

環那「負けはしないよ。」

 

 てか、不調でも負けられないでしょ

 

 絶賛今話してる子のためにも

 

 これもあれか、何とかの弱みってやつか

 

環那「まぁ、安心しなよ。優勝するからさ。」

琴葉「はい!期待してます!」

環那「任せて。」

 

 それから、俺は琴ちゃんと一旦クラスの方に行った

 

 さて、体育祭の始まりだ

 

 取り合えず、さっさと優勝して、琴ちゃんを喜ばせよ

 

 

 



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招待客

 体育祭が始まってすぐに俺の競技の順番が来た

 

 200m走は序盤の競技

 

 取り合えず、ここで確実に点を取って

 

 ある程度の雰囲気作りから始めよう

 

 そう思って臨んだ、200m走は......

 

環那「__ふぅ。」

日菜『ゴール!1位はあの南宮環那!やはり圧倒的だー!』

 

リサ「いいよー!環那ー!」

琴葉「ナイスです!流石は南宮君!」

エマ「お兄ちゃん、世界一かっこいい......!(エマ比)」

友希那「流石ね。」

 

イヴ「きゃー!///カンナさーん!///」

燐子「別のチームだけど......かっこいいよ、環那君......!///」

 

 取り合えず1位とっておいた

 

 所々から黄色い声援も聞こえてくるけど

 

 ほとんどの生徒は唖然としてる

 

「ま、マジかよ......」

「ありえない......こんな......」

「人間じゃないだろ、こんなん......」

環那「悪いね。今までなら負けてあげてもよかったけど、今日はそういうわけにもいかないんだ。」

 

 俺はそれだけ言って、その場を後にした

 

 仕事は一応こなしたし

 

 後は他のメンバーに頑張ってもらおうか

___________________

 

 あれからいくつか競技があって

 

 うちはそこそこ順調に点数を稼いでる

 

 取り合えず、予想通りエマとリサは勝った

 

環那(まぁまぁ、順調かな。)

メリ「おっ、環那じゃん。」

環那「メリっち、来てたの?」

メリ「まーね。あんたの化物っぷりでも拝もうかなって。」

 

 メリっちはそう言ってケラケラ笑った

 

 化物って......俺は普通なのに

 

 ひどいなぁ......

 

メリ「相変わらず、化物すぎ。一緒に走ってたやつらの顔見た?絶望してたじゃん。」

環那「そう?必死な顔してたと思うけど。」

メリ「うわ、絶対楽しんでたやつじゃん。」

環那「別に。俺はただ、順当にポイントを取っただけだよ。」

 

 今のは楽しむ間もなかったし

 

 楽しむのは、まだまだこれからでしょ

 

環那「それで、何か用?」

メリ「声かけに来ただけ。なんか急いでんの?」

環那「もうすぐお客様が来るから、お迎えに行かないと。」

メリ「あっそうなん?」

 

 まぁ、別にこの接待は苦でもないんだけどね

 

 篤臣さんには恩があるし

 

 何より、良い人だから

 

環那「じゃあ、俺は行くよ。メリっちは楽しむのもいいけど、勉強もしてね。」

メリ「わーってるって。おかんか。」

環那「あはは、じゃーね。」

 

 俺はそう言ってその場を離れ

 

 篤臣さんを迎えに校門の方に向かった

___________________

 

 校門に来ると、前には黒塗りのリムジンが止まっていた

 

 どうやら、時間ピッタリみたいだ

 

 そんなことを思ってると、車のドアが開いた

 

環那「ようこそお越しくださいました。篤臣さん。」

篤臣「よォ、環那ァ。」

九十九「おー!ここが環那ちゃんの通ってる学校かー!」

人見「綺麗ですわね。」

環那「なんで2人もいるの?」

 

 いや、面識あるから不思議でもないんだけど

 

 それにしても、なんでここに来てるんだろ......

 

 全く、この暇人たちは......

 

九十九「いいじゃーん!」

人見「私も変装していますし、無問題ですわ。」

環那「いや、その辺は心配してないけどさ......」

 

 まぁ、問題はないか

 

 変装もしてることだし

 

環那「あんまり悪目立ちしないでしょ。」

九十九「分かってるって!」

人見「心得ておりますわ。」

 

 じゃあ、いいや

 

 流石に変なことはしないだろうし

 

 この2人は放っておいていいか

 

 そんなことより

 

環那「篤臣さん、こちらへどうぞ。」

篤臣「アァ。」

九十九「ちょっとー、あたしたちとの扱いの差ひどくないー?」

環那「君達も勝手にしたらいいじゃん。」

九十九「はーい!おっじゃまー!」

人見「お世話になります。」

 

 俺は3人を引き連れ

 

 予め用意しておいた場所に案内した

 

 あーよかった、余分に用意しておいて

___________________

 

 という感じで3人を案内し

 

 俺は自分の持ち場に戻ってきた

 

 後はもう競技もないし、午後は休憩かなー

 

日菜「あっ、戻ってきたね。」

イヴ「カンナさん!おかえりなさい!」

環那「あれ、イヴちゃ__ん!?」

 

 そんなことを考えながらテントに入ると

 

 イヴちゃんが抱きついて来た

 

 突然のこと過ぎて反応できなかった

 

環那「イヴちゃん?これはアイドル的にアウトじゃない?」

イヴ「ハグは挨拶なのでセーフです!」

 

 まぁ、イヴちゃんの国ならそうか

 

 なら、仕方ない.....って言うのもアレだけど

 

 拒絶するのも可笑しな話だ

 

 そして、何より......

 

日菜「......」

環那(こ、怖い。)

 

 拒絶したら殺されそうだ

 

 なので、大人しくしておく事にする

 

イヴ「カンナさん!私、100m走で1番になりました!」

環那「おぉ、凄いね。流石。」

イヴ「えへへ......///」

 

 うん、可愛い

 

 チームが違うけど

 

 イヴちゃんが勝ったなら話は別だ

 

イヴ「撫でてください!///」

環那「はいはーい、いいよー。」

イヴ「んん......///」

 

 イヴちゃんの頭に手を乗せると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた

 

 ほんと、可愛いなぁ

 

 外見と内面のギャップがいいんだよねぇ

 

琴葉「__南宮君!!」

環那「ん?」

琴葉「ん?じゃないですよ!なんでお父さんがいるんですか!」

 

 琴ちゃんは慌てた様子でそう言ってきた

 

 あ、もう気づいたんだ

 

 意外と早かったなぁ

 

環那「俺が呼んだ☆」

琴葉「なんで!?」

環那「まぁ、色々あって。」

 

 まぁ、篤臣さんから電話来たからだけどね

 

 正直な所、俺も驚いたくらいだし

 

環那「でもまぁ、別にいいじゃん!」

琴葉「いや、そうなんですが......」

 

 まぁ、疎遠になってる父親が来ると気まずいよね

 

 俺は感じることのない感覚だけど

 

 親がいるとそういう感じになるんだね

 

環那「ねぇ、琴ちゃん?」

琴葉「なんですか?」

環那「俺が言うのもおかしな話だけど、いつまでも意地張ってたら、取り返しのつかないことになるよ?」

琴葉「!」

イヴ「?」

日菜(......ほーう?)

 

 まっ、俺は親を実質殺したんだけどね!

 

 でも、篤臣さんは悪い人じゃない

 

 優しい親は大切にするべきだ

 

環那「琴ちゃん、ちょっと反抗期が長いんじゃない?」

琴葉「うぅ......」

環那「まっ!俺は一生反抗期だけどね!あはは!」

琴葉「!?」

 

 俺の言葉に琴ちゃんはビクッと肩を震わせた

 

 危ない危ない

 

 生徒が教師に言うことじゃなかったね

 

 琴ちゃんのメンツに関わる

 

環那「ほらほら、こんなところで話してないで応援してあげなよ!今、ちょうど男子の番だからやる気出すよ!」

琴葉「え、あ、はい。」

 

 ほんと、世話が焼けるなぁ

 

 まぁ、そこが可愛いんだけどね

 

琴葉「みなさーん!頑張ってくださーい!」

 

環那(これは、俺がどうにかしないとなぁ。)

日菜(ほほーう、なんか面白そーなことになってるねー。)

イヴ(カンナさん、暖かいです......///)

 

 ほんと、苦労が絶えないよ

 

 でもまぁ、2人には恩があるし

 

 取り合えず、少しだけお手伝いしようかな

 

 恩のある2人がいつまで経っても誤解したままでいて欲しくないからね

 

 

 

 



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不器用親子

 午前のプログラムが終了し、お昼休み

 

 俺は校長に命......いや、お願いして

 

 屋上を貸し切りにして、お昼ご飯を食べてる

 

 勿論、いつものメンバーと一緒に

 

環那「はーい、お弁当ですよー。どうぞ、篤臣さん。」

篤臣「俺ァ、介護がいる老人かァ?」

環那「あはは、気にしないでください。まぁ、どうぞ。」

九十九「あたしたちはー?」

人見「お腹がすいているのですが。」

環那「勝手に食べれば?」

九十九「扱いの差ひどくない!?」

 

蘭「あの、あの人たちって......」

リサ「なんか、男の人は環那の恩人らしいよー。女の人たちは、知り合い?」

蘭「環那の交友関係ってバグってますよね。」

リサ「それは否定できない。」

 

 取り合えず、関わりある人は呼んだけど

 

 結構大所帯になったな

 

琴葉「あの、南宮君?なぜ、お父さんたちまで?」

環那「まあまあ!親子水入らずで太陽の下でお弁当を食べる!これもまたいいものだと思うよ!」

人見「そんな柄ではないでしょうに。」

九十九「そーだねー。」

環那「そこの2人。お静かに。」

篤臣「......」

 

 全く、なんでこの2人まで来てるんだ

 

 別に呼んでないのに

 

 ファミレスで食べてきたらいいじゃん

 

環那「というわけで、篤臣さん、琴ちゃん。なんか2人で喋ってください。」

琴葉「いきなり無茶ぶりすぎ!?」

 

 というわけで、俺は2人から離れた

 

 この2人基本的に面倒な性格してるから

 

 周りが無理矢理にでも矯正しないと

 

 “琴葉”

 

琴葉、篤臣「......」

 

 気まずい

 

 ただただ、そう思います

 

 何年もまともに話してないお父さんと2人なんて......

 

 一体、どんな地獄ですか......

 

篤臣「......琴葉ァ。」

琴葉「なんですか。」

 

 お父さんの声、久しぶりに聞きましたね

 

 高校から家を出ましたから、10年ぶりでしょうか

 

 何と言うか、変わりませんね

 

篤臣「学校はァ、どうだァ?」

琴葉「......はい?」

 

 今、なんと?

 

 そんな小学生の子供にするような質問

 

 26の大人相手にすることあります?

 

琴葉「あの、私、教師なんですが......?」

篤臣「......なんか変かァ。」

琴葉(えぇ......?)

 

 いやまぁ、分からなくもないですよ?

 

 教師だから、いるのは基本学校ですし

 

 仕事の調子を聞く文面としてはおかしくはないですけど

 

 聞き方ってものがありませんか......?」

 

琴葉「ま、まぁ、程々です。」

篤臣「......そうかァ。」

 

 え、聞いといてそれだけ?

 

 もっと何かないんですか?

 

 本当にこの人は昔から......

 

篤臣「生徒にはァ、好かれてるみてェだなァ。」

琴葉「えぇまぁ、ありがたいことに。」

篤臣「お前ェはあいつに似てるからなァ。好かれる理由も分かるってもんだァ。」

琴葉「......」

 

 お父さんは少し穏やかな声でそう言いました

 

 あいつとは、お母さんの事でしょう

 

 ......私が小さい頃に事故で亡くなった

 

篤臣「琴葉ァ。」

琴葉「なんでしょうか。」

篤臣「今を、手放すんじゃねェぞォ。」

琴葉「!」

 

 お父さんはそう言って

 

 目の前に置かれたお弁当を食べ始めました

 

 今を手放すな......

 

 これは、どういう意味なんでしょうか......?

 

篤臣「......おい、環那ァ。」

環那「はい、どうしましたか?」

篤臣「これで満足かァ?」

琴葉「?」

 

 お父さんは南宮君にそう尋ねました

 

 その間も彼はいつも通りの余裕の表情

 

 娘の私が言うのもなんですが

 

 お父さんは相当怖い顔をしてるのに、すごいですね

 

環那「えぇ。久しぶりの親子の会話を楽しんでいただけたようなので、満足ですよ。」

篤臣「......茶化してんじゃァねェぞ。」

環那「いえいえ滅相もない。」

 

 この人、なんでお父さんと対等に話してるんでしょう

 

 いや、怖がる理由がないからだと思いますが

 

篤臣「チッ、いつも何か企みやがってェ。可愛げのねェガキだァ。」

環那「あはは、よく言われます。」

篤臣「たくッ。」

 

 お父さんはそう呟いて立ち上がり

 

 出口の方に歩き出しました

 

環那「どこに行かれるんですか?」

篤臣「......タバコだァ。」

環那「吸われないでしょう?」

篤臣「......最近始めたんだァ。長生きしてもロクなことねェからなァ。」

環那「さようですか。では、ごゆっくり。」

篤臣「......アァ。」

 

 そう軽く頷き、お父さんは屋上を出て行きました

 

 南宮君はそれを見送りながらニヤニヤしています

 

 完全に面白がってますね、あの顔は

 

琴葉「今回は何を企んでたんですか?」

環那「ん?やだなぁ、企みなんてないよ?ただ、久しぶりの家族団欒の場をセッティングしただけ。」

琴葉「あれを団欒と呼ぶのですか?少ない会話でしたが。」

環那「いやいや、上出来でしょ。」

 

 彼はそう言ってフッと小さく笑い

 

 私と屋上の出口の方を見比べました

 

 いや、お父さんと、でしょうか?

 

環那「2人とも、不器用だからねぇ。それにしては、上出来じゃない?」

琴葉「誰が不器用ですか!」

環那「琴ちゃんと篤臣さんだよ?2人とも、超が付くほど不器用だからね?」

琴葉「失礼な!」

 

 そこまで不器用じゃありません

 

 ......多少は不器用な面もありますが

 

 流石にあのお父さんほどではないはずです!

 

環那「まっ、良かったんじゃない?意外と喋れたでしょ?」

琴葉「それは......まぁ、思ったよりは。」

環那「篤臣さん、結構喜んでたよ。」

琴葉「そうですかね?無表情に見えましたが。」

環那「いーや。」

琴葉「?」

 

 そう言って南宮君は小さく笑い

 

 こう言いました

 

環那「今頃、嬉しすぎて上がった体温、冷ましてるんじゃない?」

琴葉「そうですかねー?ないと思いますがー。」

環那「そんなことないよ。(ん?)」

 

 “環那”

 

 琴ちゃんと話してる途中

 

 ポケットの携帯が鳴った

 

 相手はまぁ、大体わかるでしょ

 

環那「......くふっ。」

琴葉「今日はよく笑いますね。どうしたんですか?」

環那「なんでもないよ。」

 

 俺は琴ちゃんにそう言い

 

 携帯の画面を確認した

 

 やっぱり、篤臣さんからだ

 

環那(『琴葉を優勝させなかったらタダじゃおかねぇ。』か。)

 

 なんだかんだで娘思いなんだから

 

 そんな美しい愛を見せられたら感動しちゃうなぁ

 

 こんな不器用な愛もあるんだねぇ

 

環那(これは、勝つしかないな。)

 

イヴ「カンナさーん!こっちで一緒に食べましょうー!」

燐子「私のお弁当も、食べてみて......!」

リサ「ほらー!みんな待ってるよー!」

環那「はいはーい。今行くよー。」

 

 これは、勝つしかないな

 

 全く、困った親子だ......

 

 まぁ、今は楽しんでもいいかな

 

 この穏やかで優しい時間を

 

 

 



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解放

 お昼休みが終わる直前、俺はブラブラと校内を散歩してる

 

 なぜか午後からは生徒会長様に開放してもらえたので

 

 ルンルン気分で歩き回ってる

 

環那(さーて、どうするかなー。)

 

 俺は団体競技に出るつもりはないし

 

 午後はもう、リレーだけなんだよね

 

 結構時間あるし、暇だなぁ

 

「おい!もっと早く走り出せよ!」

「ご、ごめん!もう一回いい?」

「本番までもう少しだ!ちょっとでも速くなって、あいつの事見返してやろうぜ!」

「南宮のお陰で勝ったとか、絶対言わせない!」

「絶対に1位でバトン渡してやる。」

 

環那(おっ。)

 

 ちょうど校舎裏辺りに来た頃だろうか

 

 そんな声が下から聞こえてきた

 

 窓からのぞいてみると、あの5人がリレーの練習をしていた

 

 徹底的なバトンパスの練習だ

 

環那(おー、関心関心。)

 

 俺は窓からその様子を眺めた

 

 大分、上手くなってる

 

 最初があまりにもゴミカスだったからかな

 

 この成長に少し喜んでる自分がいる

 

環那(まっ、これなら少なくとも最下位にはならないでしょ。何位になるかは知らないけど。)

 

 そんなことを考えながら

 

 歩いて、その場を離れた

 

 まっ、ちょっとくらいは期待してあげようかな

 

 ほんのちょっとだけど

___________________

 

 そんな光景を見た後、俺は生徒席の方に来た

 

 解放されたら解放されたで暇だ

 

 リレーまで何して過ごそうかな

 

燐子「環那君?」

環那「ん?燐子ちゃん。」

 

 燐子ちゃんは今日も可愛い

 

 見ただけでなんだか癒されるもん

 

 そう言うオーラでも出てるの?

 

燐子「どうしたの?」

環那「日菜ちゃんに視界から解放されてさ。手持無沙汰になってるんだ。」

燐子「そうなんだ?いきなりどうしたんだろうね?」

環那「さぁ......?」

 

 何か裏がある気がするんだよね

 

 どんなに控えめに言っても嫌われてるし

 

 そんな子が何の目的もなく俺を開放するのか?

 

環那(まぁ、そんなにヤバいことはしないでしょ。多分、きっと、おそらく。)

 

 いざとなったら紗夜ちゃんに泣きつこう

 

 ほんとに怖いし

 

燐子「本当に日菜さんが苦手なんだね......」

環那「怖いもん(正直)」

燐子「そうかな?そんな風には思わないけど。」

環那「きっと、俺にだけだよ。あんなに怖いの。」

 

 もはやツンデレなのでは?

 

 あの殺気も好意の裏返し......

 

 いや、こんなこと考えてたら殺されそうだからやめとこ

 

環那「まぁ、いいや。燐子ちゃんは午後からはどんな感じ?」

燐子「私は、綱引きと借り物競争に出たら終わり、かな?」

環那「綱引きとかあるんだ。」

 

 知らなかった

 

 まぁ、出る気もなかったからいいけど

 

燐子「環那君は出ないの?」

環那「んー、どうしようか。」

 

 午後から暇になったんだよねぇ

 

 サボったら琴ちゃん怒りそうだし

 

 負けたら篤臣さんも怒りそうだし

 

 出た方がいいのかなぁ......

 

燐子「環那君がみんなで一緒に頑張るのって、想像つかないね。」

環那「分かる分かる。俺もそんな自分想像できないよ。」

燐子「自分で......!?」

環那「あはは。」

 

 皆と協力して何かする自分......

 

 うわぁ、マジで想像つかない

 

 てか、ありえない気すらしてきた

 

環那「まっ、参加するかはその時になったら考えるよ。」

燐子「そっか......でも、参加してみた方がいいと思うよ?」

環那「?」

燐子「環那君は1人でなんでも出来ちゃうけど、皆と何かしてみるのもきっと楽しいよ。」

環那「あはは、そうかもね。」

 

 やっぱり、燐子ちゃんと俺は全然違う

 

 だけど、全く不快に感じない

 

 本来、俺たちは相容れないもの同士になってもおかしくないのに

 

 ここまで共存できるって言うのも、変な話だ

 

環那「兎にも角にも、まずは燐子ちゃんの活躍でも見物しておこうかな。」

燐子「それはちょっとだけ恥ずかしい......///」

環那「応援してるよ。」

燐子「うん......///」

琴葉「__南宮くーん!」

環那、燐子「?」

 

 おっと、にぎやかな子が来た

 

 俺はそんな風に思いながら

 

 声がした方を向いた

 

環那「どうしたの?」

琴葉「氷川さんから南宮君がフリーになったと聞きましたので、クラスの方に呼ぼうかと思いまして。」

環那「別にそんな気使わなくていいよ。」

琴葉「いいじゃないですか!あなたも混ざれば!そんな一匹狼気取ってないで!」

環那「別に気取ってないんだけどね。1人でいた方が都合がいいだけで。」

 

 最近のクラスとの距離感は気持ち悪い

 

 避けながら媚びられるものから気分が悪い

 

 マジであいつらキモイんだよね

 

琴葉「まぁ、そうなりますよね......」

環那「クラスの安定のためには俺はいない方がいい。」

琴葉「そうなんでしょうか......」

環那「そうだよ。俺は周りと調和しないからね。」

琴葉「うーん......」

 

 琴ちゃんは残念そうな顔をしてる

 

 ほんと、お人好しな子だよ

 

 わざわざ俺のためにそんな顔するなんて

 

琴葉「寂しくないですか......?」

環那「別に?俺は身近にいる皆がいれば十分だよ。ね?」

琴葉「!......そうですか。」

燐子「......?」

 

 俺の人間関係は事足りてる

 

 これ以上は必要ない

 

 友達は多ければいいってもんじゃない

 

環那「じゃあ、俺はその辺テキトウに歩いてるから、用があったら声かけてね。」

琴葉「はい......」

燐子(今の......)

環那「燐子ちゃんも、頑張ってね。じゃあ、また後程~。」

琴葉「あ、あの!」

環那「?」

 

 俺がその場を去ろうとすると

 

 琴ちゃんが大声で呼び止めてきた

 

 そんなに大きな声出さなくても聞こえるんだけどね?

 

琴葉「綱引き、参加してくださいね。」

環那「そんなこと?んー、考えとく。」

 

 そう言って、俺はその場を去った

 

 ほんと、人が良すぎるのも悩みものだよ

 

 こんな光があると、余計に悪が際立っちゃうよ

 

 “琴葉”

 

 敵いません

 

 本当に彼だけには敵いません

 

 すごいを通り越して恐ろしいとすら感じます

 

琴葉(......はぁ。)

 

 彼の言葉には逆らえません

 

 今の雰囲気、並の人間なら失神しますよ?

 

 私も一瞬、心臓が握られたと錯覚しました

 

琴葉(意図があるのは分かってるんですから、相談したらいいのに......)

燐子「浪平先生......?どうかしたんですか......?」

琴葉「いえ、なんでもありませんよ。それよりも、白金さんはそろそろ出番では?」

燐子「え?あ、もう集まってる......!?し、失礼します......!」

琴葉「は、はい。お気をつけて。(あ、危なっかしいですね。)」

 

 南宮君とエマちゃんが異常なだけで、普通はあんな感じですよね

 

 最近、私の感覚もマヒしてますよね

 

 2人とも、私よりも大人ですから......

 

琴葉(......戻りましょうか。)

 

 私はそう思い、クラスの方に戻ることにしました

 

 彼が来るかは分かりませんが

 

 取り合えず、今は皆さんを応援しましょう

 

 先のことはその時に考えるということで!

 

 

 



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改変

 少しすると、体育祭が再開されました

 

 借り物競争は午後のプログラムの最初の方で

 

 考える間もなく出番が来てしまった

 

日菜『次は借り物競争ー!みんな頑張れー!』

燐子(う、うぅ......)

 

 午前も一回だけ出たけど、やっぱり慣れない

 

 結局、午前の種目は全然ダメだったし

 

 ここは、なんとか最下位にならないようにしないと

 

イヴ「燐子さん?大丈夫ですか?」

燐子「若宮さん......は、はい、大丈夫ですよ?」

イヴ「そうですか?すごく緊張してるようですけど?」

燐子「ま、まぁ、緊張は......してます。」

 

 若宮さんは堂々としてる

 

 やっぱり、アイドルだなぁ......

 

イヴ「私も一緒ですので、安心してください!」

燐子「は、はい。」

イヴ「もうすぐスタートです!私たちは同じグループなので、行きましょう!」

燐子「!」

 

 私は若宮さんに手を引かれました

 

 それとほぼ同時に日菜さんのスタートの合図があって

 

 そのまま、スタートラインから出た

 

イヴ「行きましょう!」

燐子「わっ......!」

 

 若宮さんに手を引かれたまま走る

 

 いつもよりも速く走れてる気がする

 

 若宮さんのお陰なんだけど......

 

日菜「はいはーい!お題はこっちだよー!」

燐子「!?」

 

 お題を受け取る場所になぜか日菜さんがいる

 

 え、なんで?

 

 さっき、放送席でスタートの合図してたのに

 

イヴ「ヒナさん!お題をください!」

日菜「はーい!」

燐子(受け入れてる......!?)

 

 パスパレの皆さんの中ではこれが普通なんだ......

 

 ありえないことをしてるはずなんだけど......

 

日菜「2人のお題はこれね!」

イヴ「ありがとうございます!」

燐子「あ、どうも......」

 

 オーソドックスな二つ折りにされた紙

 

 一体、どんなお題が書かれてるんだろう......

 

 そう思いながら、私は若宮さんと一緒に紙を広げた

 

燐子、イヴ「!?///」

日菜「あはは~、顔真っ赤だ~。」

 

 お題を開けて、私たちの顔は熱くなった

 

 だって、これ......

 

燐子、イヴ(好きな人の、服......!?///)

日菜「頑張れ~。」

 

 日菜さんは呑気にそう言ってくる

 

 いや、あの、冗談じゃないんですけど

 

 これ、なんて言って借りればいいんですか?

 

 そのまま言ったら完全に変態なんじゃ......

 

イヴ「ど、どうしましょう......?///」

燐子「どうしようもなにも、借りるしか......///」

イヴ「ですよね......///」

日菜「あっ、同じものなら2人1つでいいよ~。」

燐子、イヴ「はぃ......///」

 

 私たちは恥ずかしながらも頷いて

 

 環那君の元に向かいました

 

 これ、どんな顔してお願いすればいいんだろう?

___________________

 

 色々と考えながら、環那君の所まできた

 

 どうやって頼もうか考えてたけど

 

 正直にお願いするしかないという結論に至った

 

燐子「か、環那君......!」

環那「(ん?燐子ちゃんにイヴちゃん?)どうしたの?」

 

 環那君はキョトンとした顔をしてる

 

 まぁ、そうだよね

 

 今から何が起きるか知らないんだもん

 

燐子「あ、あのね......その、服、貸してほしいの......///」

環那「服?(あー、日菜ちゃんか。お題を渡す所に移動してたし。)」

 

 うん、完全に変な女の子だね

 

 環那君は察してくれてそうだけど

 

環那「た、大変そうだね。上の服でいい?」

イヴ「すみません、カンナさん......///」

環那「いいよ。どうせ下はシャツ着てるし。」

燐子、イヴ「!!///」

 

 環那君はそう言って上の服を脱いで、シャツ一枚になった

 

 シャツの上からでも分かる筋肉

 

 見た目は細く見えるのに、すごくガッシリしてる

 

燐子(た、逞しい......///そ、そうだよね、私を抱きかかえたまま走れるくらいだし......///)

イヴ(プロのスポーツ選手の方に会ったことがありますが、その誰よりもすごいです......!///)

環那「これでいい?て言うか、一つでいいの?」

イヴ「だ、大丈夫です///ありがとうございます///」

環那「そう?なら、はい。」

 

 私は環那君から服を受け取った

 

 脱いだばかりだからほんのり暖かい

 

 それに、すごく良い匂いがする

 

イヴ「し、失礼します///」

燐子「すぐに返しに来るね......///」

環那「そんなに焦らなくていいよ?それよりも、転ばないようにね。燐子ちゃん、若干だけどイヴちゃんのペースについていけてないから。」

燐子、イヴ「///」

 

 環那君は優しくそう言いながら送り出してくれた

 

 それをかっこいいと思う半分恥ずかしいと思う半分で

 

 私と若宮さんはそそくさとゴールの方に向かった

___________________

 

 “環那”

 

 燐子ちゃんとイヴちゃんに服を渡した後

 

 俺は飲み物を取りに自分の席に戻った

 

 シャツだけになったけど、ちょっと暑いからちょうどいい

 

リサ「環那!?何その格好!?」

環那「ん?あぁ、借り物競争で貸しただけ。」

リサ「あー、そう言うことね。」

環那「?」

 

 リサはこっちをマジマジと見てる

 

 なんだろう

 

 リサに関しては別に珍しいものじゃないと思うけど

 

リサ「環那、前よりも鍛えてるね。」

環那「あ、分かっちゃう?」

リサ「腕とか大分変わってるじゃん!それに、全身もさらに引き締まった感じする!」

環那「腕立てと腹筋は今でもしてるからね。今は一日1000回くらい。あとは体幹も取り入れたかな。」

周りの生徒(1000!?)

リサ「おー、大分増やしたね?中学の時は500くらいじゃなかったっけ?」

環那「なんか慣れちゃってさ、全然足りないから増やしたんだ。」

周りの生徒(えぇ、今井さんも普通に受け入れてる......?)

 

 まぁ、ほんとは器具とか欲しい

 

 けど、流石に置く場所もないし、買ってないんだよね

 

 ジムに行こうと思ったけど、時間ないんだよね

 

環那「そう言えば、友希那は?午後は種目ないはずだけど。」

リサ「お花摘み行ってるよー。」

環那「そっか。」

 

 なら、これ以上の言及はなしだ

 

 あんまりデリカシーのないことは出来ないしね

 

環那「じゃあ、俺は飲み物回収したしバイバ__」

リサ「はい、ちょーっと待った?」

環那「ん?」

 

 俺はリサに首根っこを掴まれ

 

 そのまま引き留められた

 

 リサ、どこにこんな力隠してるんだろう

 

リサ「綱引き、もう次だけど、どこ行くのかなー?」

環那「えー、参加しなきゃダメ?」

リサ「勝つなら環那の力も必要だと思うけど?」

環那「過去のデータ見た感じ綱引きで入るポイントはイマイチだし、今の順位は3位で綱引きで負けてもリレーに勝てば1位になる位置にいる。わざわざここを全力で取る理由がないんだけど......」

 

 ここまで想像以上に順調に進んでる

 

 後はリレーの勝利というノルマを達成すれば終わる

 

 いわば、王手の状態だ

 

 そんな状況でがむしゃらに戦うのは得策じゃない

 

リサ「こういうのは戦略とかじゃないの!勝てるとこは全部勝った方がいいじゃん!」

環那「そうかなー?」

リサ「そうだよ!ほら、行くよ!」

環那「うえー。面倒くさいー。」

 

 俺はそのままリサに引っ張られた

 

 綱引きの集合時間ジャスト

 

 これは、俺の戦略負けだ

 

 でも、一つ良い?

 

 俺、今、シャツ一枚なんだけど?

___________________

 

 と言うわけで、俺は入場口まで引っ張られた

 

 服は来る途中に燐子ちゃんに返してもらった

 

琴葉「あ!来てくれたんですね!南宮君!」

環那「リサに引っ張ってこられた。」

琴葉「そうなんですね!ありがとうございます、今井さん!」

リサ「いえいえ~。」

 

 琴ちゃんって実は人の話聞いてない?

 

 綱引きは参加するつもりなかったのに

 

 相変わらず、この2人は熱血だなぁ......

 

琴葉「行きましょう!皆さん!」

クラス「おー!」

環那「はぁ......」

友希那「行きましょうか。」

環那「仕方ないね......」

 

 俺はすっごい嫌々入場した

 

 リレーすら拒否した俺が綱引き?

 

 ありえないでしょ

___________________

 

 と言うわけで入場した

 

 もう全クラスは配置終了してる

 

 まぁ、俺は琴ちゃんの隣にいるんだけど

 

琴葉「なんであなたはここにいるんですか!?」

環那「綱引きは他に任せるよ。勝つ意味もないし。」

 

 もう勝ちはほぼ決まってる

 

 リレーで勝つなんて簡単なことだ

 

 こんなところで無駄な体力なんて消費しない

 

『それではー、レディ......ゴー!』

 

「行くぞー!!」

 

 審判の合図と同時に綱引きが始まった

 

 始まったばかりだからか、力はまだ拮抗してる

 

 これは、長くなりそうだ

 

琴葉「頑張ってくださーい!」

環那「......」

 

「オーエス!オーエス!」

 

 この掛け声、意味あるのかな?

 

 声を出すだけじゃ意味がない

 

 これの本来の目的はタイミングを合わせること

 

 ほぼ同じ人数同士なら、いかに力を集約できるかで勝敗が決まる

 

 うちのクラスはその点、まだまだ分散気味だ

 

琴葉「みなさーん!引かれてますよー!頑張れー!」

 

「まだまだー!!」

「みんな力入れろー!!」

 

 ちょっとずつ、引かれ始めてる

 

 まだ粘ってるけど、状況は劣勢もいい所だ

 

 友希那とリサとエマが転んで怪我しないように見ておかないと

 

琴葉「がーんばれ!がーんばれ!」

環那「そんな声出して疲れない?」

琴葉「何言ってるんですか!皆さん頑張ってるんですよ!応援しないでどうするんですか!」

環那「そ、そう。」

琴葉「あなたも声くらい出してください!」

環那「......はーい。」

 

 この子の価値観も俺とは違う

 

 戦略よりも先に、感情で動く

 

 俺からすれば考えられないことだ

 

琴葉「引いてますよー!もうちょっとー!」

環那(......可愛い。)

 

 純粋にそう思う

 

 幼子のような純粋は雰囲気

 

 真珠のように綺麗な心

 

 汚したいようにも、そのまま見ていたいようにも思える

 

 そんな琴ちゃんが、本当にかわいい

 

環那「......ふっ。」

琴葉「南宮君?」

 

 “琴葉”

 

 南宮君は小さく笑うと綱の方に歩いていきました

 

 どうしたのでしょうか?

 

 あんなに嫌がっていたのに

 

環那「俺にも人間的な部分が残ってたんだね。」

リサ「!?(なんか、いきなり軽くなった!?)」

友希那(信じられないわね。)

エマ(お兄ちゃんの筋力はどちらかと言えば瞬発力に優れている。けど、単純なパワーも常人からすれば異次元。)

 

 彼が綱を握るとミシミシと言う音がし

 

 綱の動きが一切なくなりました

 

 双方から力がかかってるはずなのに、ピクリとも動きません

 

環那「仕方ない......琴ちゃんの願い、叶えてあげるよっ!!!」

琴葉「!!」

 

『う、うわぁー!!!』

『きゃー!!!』

 

 彼がそう言って、思い切り綱を引いた瞬間

 

 相手のクラスは絶叫に包まれました

 

 人間はいないかのように綱ごと引きずられ

 

 間の旗はすごい勢いで自陣の方に倒れました

 

審判「え......?」

環那「審判、コールは?」

審判「え、えっと、あ......え、A組の勝利!!」

 

 審判のそのコールを聞いても唖然とするしかありませんでした

 

 私はまだ、彼を過小評価していたと思い知らされました

 

 心のどこかで、まだ限界が

 

環那「ほら、勝ったよ!」

琴葉「えーっと、あの、いくつかツッコミどころがあるんですが、長くなるので一つだけ言いますね?」

環那「?」

琴葉「綱、切れてるんですけど!?どんな力で握ったらこうなるんですか!?」

環那「え?あ、ほんとだ。」

 

 彼が握っていた部分の綱は見るも無残に切れています

 

 いや、握りつぶしたという表現が適切なのでしょうか?

 

 どちらにしてもあり得ないことなのは確かなんですけどね?

 

環那「3年が最後でよかったー。」

琴葉「そう言う問題じゃありませんが!?」

環那「まあまあ、勝ったんだから許してよ。」

 

 彼は笑いながらそう言ってきます

 

 いや、勝つのは良いんですけど

 

 あまりにもあっさりで感動も何もないんですが......

 

琴葉「な、なぜいきなりやる気を出したんですか?あんなに嫌がっていたのに。」

環那「え?そりゃあ、琴ちゃんに応援されたかっただけだけど?」

琴葉「!?///」

環那「あまりにも応援してる琴ちゃんが可愛くてさー、参加してみた。」

 

 笑いながらそう言う彼

 

 こんな大衆の面前で......

 

琴葉「い、いきなり何を言ってるんですか!?///」

環那「なにかおかしなこと言った?」

琴葉「お、大人を揶揄うのはやめなさい!///」

環那「揶揄ってないよ。俺は真剣。」

 

 真顔でこんなことを言ってきます

 

 この人は本当に......っ

 

リサ「ねー、環那ー?あんなに早く終わらせたら応援される間もないよー?」

環那「......あっ。」

友希那「完全に抜けてたって顔ね。」

エマ「ドジを踏むお兄ちゃんもかっこいい......!///」

リサ「いや、それはおかしくない?」

 

 この人、天才なのかおバカなのか分かりませんね

 

 純粋に抜けてるようにも見えますが

 

 この抜けた感じも計算のようにも見える

 

 それだけ、天才だということなのでしょうか

 

 そんなことを思いながら、私は小さく笑いました

 

 “環那”

 

環那「あー、ドジ踏んだ。やっちゃったー。」

 

 今回はマジでドジった

 

 琴ちゃんの願いを叶えるって目的を優先しすぎて、つい力を入れすぎちゃった

 

 てか、あれくらい耐えてよ

 

環那「もう一回ないの?」

友希那「あなたが切ったから不可能よ。」

環那「二重でやらかしてるね......」

 

 力加減は失敗しないと思ってたけど

 

 俺もまだまだだ......

 

 詰めが甘かったな

 

環那「はぁ、琴ちゃんからの応援はまたの機会に取っておこうか。」

琴葉「勝ったのにショックを受けてるのなんてあなたくらいですよ。」

環那「勝つことは分かってたじゃん......」

友希那「勝つことは前提なのね。」

 

 まぁ、負けることも考えるけどね?

 

 楽観的な思考はあんまりよくない

 

 悲観的すぎるのもダメだと思うけど

 

日菜『__あー、あー。』

環那、友希那、リサ、琴葉「!」

 

 綱引きを終えて皆と話してると

 

 スピーカーから今度は日菜ちゃんの声が流れてきた

 

 なんだろう、この嫌な予感は

 

日菜『この後のリレー、このまま行くとちょっと面白くないよね?』

 

 うわー、やばいやばいやばい

 

 この流れはどう考えてもヤバい

 

 面倒なことになる予感しかしない

 

日菜『そこで!リレーのルールを変えるよ!』

環那「......」

 

 まぁ、やっぱりそう来るよね

 

 ほんとに余計な事するね

 

日菜『それで、具体的なルールだけどー。まず、リレーの基礎ポイントは0にする!』

環那「は?」

リサ(素の反応してる。)

 

 その言葉に俺は驚いた

 

 基礎ポイント0?

 

 何言ってんだあの子?

 

日菜『それで、タイムごとにポイントを決めて、それで優勝を決めよう!具体的なポイントの区分は張り出すから見てね!』

「~♪」

環那「!」

 

 ルール説明が終わったと同時に俺の携帯が鳴った

 

 送り主は分かってるよ?

 

 でも、なんで俺の連絡先知ってんだろ

 

 そう思いながら、俺は画面を見た

 

環那(......マジ?)

 

 そこに書かれてるのは恐らくポイントの区分だ

 

 走りさえすればある程度のポイントは入る

 

 でも、例年に比べたら圧倒的に少ない

 

 A組がここから逆転優勝するには......

 

環那「......!」

友希那「どうしたの?そんなに焦った顔をして。」

リサ「なにかヤバい連絡きたの?」

環那「......不味い」

友希那、リサ「え?」

 

 逆転する30点は1分20秒以内

 

 足りない、タイムが全然足りてない

 

 付け焼刃のバトンパスで誤魔化すのは厳しいタイムだ

 

 練習時間だって、1週間ちょっとなんだから

 

環那(俺1人で覆すのにも限界があるぞ。どうするどうするどうする?)

琴葉「み、南宮君?」

環那「どうしたの、琴ちゃん?悪いけど、今はそんなに構ってあげらな__」

琴葉「優勝できなくても、あなたの責任ではありません。」

環那「!?」

 

 琴ちゃんは穏やかな声でそう言った

 

 背中に添えられた手がくすぐったい

 

琴葉「あなたの中で優勝する道筋は出来ていたのでしょう?けど、今回は急なルール変更もありました。流石のあなたでも、あれだけの後出しをされれば覆せません。」

環那「......」

琴葉「何もあなたがすべての責任を負うことはありません。あなたで無理なら全員が納得します。」

 

 ......ほんと、この子は分からない

 

 こんな教師らしいこと言っといて、一番悔しそうじゃん

 

 大人ぶった子供そのものだ

 

 ......だからこそ、許せない

 

環那(......これだから天才は。)

 

 天才は人を平気で傷つける

 

 常人とは感覚が違うから人の気持ちに鈍感になるんだ

 

 分かってる、そんなことは何年も前に

 

環那(......だが。)

 

 あの子のことは流石に許せない

 

 俺のことが嫌いなら、俺だけを痛めつければいい

 

 なのになぜ、他を巻き込むんだ

 

 純粋な子までも愚弄できるんだ

 

環那「......琴ちゃん。諦めるのは、まだ早いんじゃない?」

琴葉「え......?」

環那「俺はまだ、無理なんて言ってないよ?」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 大丈夫、まだ不味いだけ

 

 この世には100%も0%もない

 

「け、けどよ!」

「流石にこのタイムを覆すのは......」

環那「出来る。」

「えっ?」

環那「今までより、君たちが速くなればいい。」

「は、速く......?」

 

 いや、少し語弊がある

 

 1人1人が速くなる必要はない

 

 5人で平均して目標タイムになればいいんだ

 

環那「今まで君たち5人の平均タイムは16秒だ。それを2秒速くして、1人あたり14秒で回れれば、可能性はある。」

「いつもより、2秒......」

環那「それが出来れば、俺が何とかするよ。」

 

 それでも残るのは10秒以下

 

 世界トップ10に入るくらいで走らないといけない

 

 うへー、キッツい

 

 けど、やる他ないよね

 

環那「安心して、琴ちゃん。」

琴葉「!」

環那「勝つからさ。」

琴葉「ど、どこにいくんですか!?」

環那「......準備。」

 

 俺はそう言って一旦その場を離れた

 

 ほんと、大変だ

 

 大切な子の笑顔を守るのって

 

 

 



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リレー

 “友希那”

 

司会『__次は、3年生によるクラス対抗リレーです。』

 

 司会の子のそんな声が聞こえてきた

 

 もう、みんな入場口にいる

 

 けど、そこに環那の姿はない

 

 さっきどこかに行ったきりだけど

 

 どうしてしまったのかしら......?

 

リサ「も、もう時間ないよ!?環那どこ行ったの!?」

琴葉「わ、分かりません。ですが、きっとすぐに来ます。」

エマ「そう。焦る必要はない。」

リサ「で、でも!」

 

 環那が逃げるわけがない

 

 そう思ってるけれど、あまりにも遅すぎる

 

 一体、何をしているというの?

 

 準備とはなんなの?

 

環那「......」

 

琴葉「あ、き、来ましたよ!」

リサ「環那ー!もうみんな入場してるよー!」

 

環那「......」

 

リサ「......あれ?」

 

 少し遠くからトラックの方に向かう環那が見える

 

 けど、その様子があまりにおかしくて

 

 私たちは環那の方に駆け寄った

 

友希那「環那?一体どうし__!?」

環那「......ん?あ、友希那にリサに琴ちゃんにエマ。」

琴葉「な、なにをしてたんですか?」

リサ「すごい汗かいてるけど、大丈夫?」

環那「......大丈夫。アップしただけだから。」

友希那(なんなの、これは......!?)

 

 様子がおかしい

 

 今の環那はあまりにもおかしい

 

リサ「てゆうか、どうしたの?声かけても反応なかったけど......」

環那「......?......あ、ごめん。」

友希那「!」

 

 環那は軽く謝りながら、私の手をすり抜けていき

 

 ボーっとした様子でトラックの方に歩き出した

 

環那「......聞こえてなかった。」

リサ「えっ?」

琴葉「!」

エマ「っ!?(まさか......!?)」

 

 環那はそう言って、トラックの中に入って行った

 

 私はその時に自分の手を見つめた

 

友希那「......なに、これ。」

リサ「友希那?どうしたの?」

友希那「今の環那は、おかしいわ。」

琴葉「確かに、彼が今井さんの声を聞き逃すなんて。」

友希那「いえ、そうじゃなくて。」

リサ、琴葉「?」

 

 今もなお残る、環那の体温

 

 暖かい......じゃなくて、熱い

 

 まるで熱された鋼鉄のように

 

 環那の体は触れればやけどしそうなほど、熱くなっていた

 

友希那「環那の体温が、高すぎたの。」

リサ「え?」

琴葉「どういう、ことですか?」

友希那「そのままの意味、です。」

 

 また、熱が出てる?

 

 いや、そう言う雰囲気ではなかった

 

 だとするなら、なに?

 

エマ「......心当たりはある。」

リサ「え!?分かるの!?」

エマ「分かる。けど、あまり考えたくはない。」

友希那(あのエマが......?)

琴葉(心なしか、焦ってるようにも見えます。こんなエマちゃんは初めて見ました。)

 

 エマの白い肌が少しだけ青くなっている

 

 一体、今の環那に何が起きているの?

 

琴葉「と、とにかく、いったん戻りましょう。」

リサ「そう、ですね。」

エマ「......」

友希那(環那......)

 

 皆がそう言うので、私も自分の席に戻ることにした

 

 けれど、なんなの?

 

 この、胸にまとわりつく大きな不安は

 

 環那に何か、とんでもなく不吉なことが起こる予感は

___________________

 

 “環那”

 

審判「位置のついてー!よーい!......ドンっ!!」

 

環那(......うるさ。)

 

 遠くから、声が聞こえてくる

 

 声、大きいな

 

 普通に言っても聞こえるよ

 

実況『おーっ!速い!我らが生徒会長、氷川日菜さん!圧倒的だー!』

 

環那(......いつからだろう?)

 

 俺はいつから、こんなに人に甘くなった?

 

 小さい頃から友希那友希那友希那で

 

 友希那以外の人間なんてほとんど見えてなかった

 

 俺が人生と言う道を走り続ける中で

 

 友希那だけ、はっきりと姿が見えていた

 

環那(......じゃあ、いつだ?)

 

 リサの姿を認識したのはいつだ?

 

 小中高のどこだ?

 

 いや、思い上がるつもりはない

 

環那(......答えは?)

 

 答えは高校だ

 

 リサに手を引かれ、段々ゆっくりになって

 

 走る続けていた俺は止まって

 

 初めて、周りにある景色を見た

 

環那(......そこには。)

 

 そこには、綺麗な景色があった

 

 優し光を与えてくれる太陽

 

 倒れた体を受け止めてくれる草原

 

 安心していられる止まり木

 

 自分を写している鏡のような湖

 

 見ているだけで気持ちがいい美しい宝石 

 

 それらが友希那しかいなかった俺の世界を彩った

 

環那(......誰だ。)

 

 外から来た何者かが、止まり木を傷つけた

 

 泣いていた、俺の止まり木が

 

 安心できる居場所が何者かに傷つけられた

 

 俺の景色を誰かが汚した

 

日菜「__ねぇー、かーんな君♪見てた?あたしが走るとこ♪圧倒的だった__」

環那「......君か?侵入者は?」

日菜「え?」

 

 侵入者は嵐

 

 無慈悲に木を揺らし、葉を巻き上げ

 

 最後には倒木にしてしまう

 

 俺の安寧を無差別に破壊しようとする、災害

 

環那(......俺の楽園は汚させない。)

日菜「な、なに?(この雰囲気、やばっ。)」

「南宮君!もうすぐだよ!準備して!」

環那「......あぁ、まだそこなんだ。」

「へ?まだ?」

 

 2つ前の走者はまだ半分しか走ってない

 

 時間なんてまだまだ余裕だ

 

 そんなに焦ることでもない

 

実況『さぁー!第5走者にバトンが渡りましたー!』

環那「......」

 

 内側にいるのは、2人

 

 前の5人は3位でバトンを回してくれるんだ

 

 タイムは何秒だろう

 

 ......いや、気にする必要もないか

 

琴葉「南宮君ー!頑張れー!!」

環那(分かってる。)

リサ「いけるよー!環那ー!」

環那(分かってる。)

エマ「お兄ちゃん!!」

友希那「頑張って!環那!」

環那(分かってる。)

イヴ「環那さーん!」

燐子「頑張れ......!環那君......!!」

環那(分かってる、全部分かる。)

 

 分かってるから、思う

 

 俺はやっぱり、学生に向いてない

 

 だって、限界を限界で更新しなきゃいけないんだもん

 

 そこまでしなきゃ、感動を与えてあげられないんだから

 

「来るぞ!南宮ー!」

「お願い!!」

 

「南宮ー!!頼むっ!!」

環那(あぁ、任せて。)

 

 俺は、(いかずち)になる

 

 嵐をも切り裂く、鋭い雷

 

 なぁに、無理なことは絶対にない

 

 今の俺なら、全てが斬れる

 

 “友希那”

 

友希那、リサ、琴葉、エマ「__!!!」

 

 その時、私たちの前を雷が駆け抜けた

 

 風すら切り裂くような切れ味をもつそれは

 

 圧倒的な輝きで会場を魅了し、閉口させた

 

 一瞬のようにも永遠のようにも感じるその時間

 

 それが終わり、誰かが口を開こうとした時には

 

実況『__ご、ゴォォォォォル!!』

環那「......」

 

 その雷は、真っ白なゴールテープを切り裂き

 

 勝利を確信するかのように

 

 天高く、その右腕を振り上げていた

 

『オォォォォォオ!!!』

 

 その瞬間、会場からは歓声が沸き起こった

 

 せき止められたものが一気に流れ出したように

 

 溢れんばかりの歓声が、会場にいるたった1人に注がれた

 

 “環那”

 

環那「はぁ、はぁ、はぁ......」

 

 なんか、周りがうるさい

 

 頭がガンガンする

 

 もうちょっと静かにしてほしい

 

司会『えぇ、ただ今のタイムは......』

環那「!」

 

 そうだ、タイム

 

 何秒だ?目標には届いたのか?

 

 どうなんだ、早く教えろ

 

司会『1分19秒。繰り返します、ただ今のA組のタイムは1分19秒です。』

「って、ことは......」

司会『A組には30点が入り、順位が変動。よって優勝は......A組となります!』

 

「__よっしゃー!!!」

「やった!やったー!」

「うそっ!ほんとに出来ちゃった!!」

 

環那「......」

 

 周りから、嬉しそうな声が聞こえる

 

 間に合ったんだ

 

 あぁ、そうか、そうなんだ

 

環那「......そっかぁ、間に合ったんだ。」

琴葉「__南宮くーん!」

環那「んぇ?__ぐへぇ。」

 

 安心して力を抜いた瞬間

 

 向こうから琴ちゃんが走ってきて

 

 そのまま飛びつかれた

 

 勘弁してよ、疲れてるのに......

 

琴葉「すごい!すごいです!あなたは本当にもう......!」

環那「苦しい苦しい。顔面が胸に埋もれてるんだけど。」

琴葉「構いません!」

環那「構って。」

 

 ほんと、この子は騒がしい

 

 けど、可愛い

 

 そうだよ、俺はこの笑顔が見たかったんだ

 

 無邪気で汚れのない、この笑顔が

 

日菜「__負けたよ。」

環那「ん?」

日菜「負けた負けた!生まれて初めてかも!スポーツで負けたの!」

 

 日菜ちゃんがそう言いながら近づいて来た

 

 まぁ、別に日菜ちゃん単体に勝ったわけじゃないし

 

 俺はまだ勝ったつもりはないんだけど

 

 まだ、ね

 

環那「日菜ちゃん。」

日菜「ん?」

環那「今のここは起承転結で言う転だ。だとしたら、結もあると思わない?」

日菜「どーゆーこと?」

環那「すぐに分かるよ。」

 

紗夜「__日菜?」

日菜「!(ビクッ)」

 

 俺との会話が終わった瞬間

 

 日菜ちゃんの後ろから紗夜ちゃんが現れた

 

 穏やかに笑っているかのように見えるその表情

 

 だがその実、背筋が凍りそうなほどの恐怖を感じる

 

紗夜「少し、2人でお話しましょう。久しぶりに。」

日菜「え、あ、あー、すっごく嬉しいけど、それはまた今度__」

紗夜「駄目よ。今すぐこっちに来なさい。」

日菜「うああー!!やぁだぁー!!誰か助けてー!!」

 

環那「お達者でー。」

 

 日菜ちゃんの叫びもむなしく

 

 紗夜ちゃんにズルズルと引きずられていった

 

 まぁ、閉会式もあるし、そんなに長くはならないでしょ

 

 ......多分だけど☆

 

リサ「紗夜は環那の仕込み?」

環那「いいや?こうなることは考えなくても分かるし、仕込むまでもなかったよ。」

リサ「あはは、だよねー。」

環那(はい、終わり。)

 

 これは、俺の完全勝利だね

 

 はぁ、疲れた......

 

 もう二度とあの子とは争いたくないって

 

 心の底からそう思う

 

 

 



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打ち上げと......

 “琴葉”

 

 体育祭が終わりました

 

 青かった空は段々と暗くなっていき

 

 ポツポツと小さな星々が見えてきました

 

 そんな中、私たちは......

 

琴葉「今日は皆さんお疲れさまでした!かんぱーい!」

『カンパーイ!』

 

 教室で打ち上げをしています!

 

 机にはかなりの量の食べ物や飲み物があって

 

 これらは全て、南宮君からの計らいです

 

 彼のポケットマネー、どうなってるんでしょうかね

 

燐子「あの、私たちもここにいていいんでしょうか......?」

イヴ「別のチームですし、私は学年も違いますが?」

彩「私たちに関しては、あんまり関わりないけど......」

千聖「私は会ったこともないわよ?」

麻弥「ジブンもお噂は聞きますが。」

リサ「いいよいいよ!環那もイヴちゃんのお友達なら是非って言ってたし!」

千聖「大企業の社長となると、やっぱり器が違うわね。ねぇ?日菜ちゃん。」

日菜「そうだねぇ......」

 

 教室の中にはいろんな人がいます

 

 若宮さんのお友達さんに1年生の宇田川あこさん

 

 それに、2年生の生徒もいますね

 

 後は南宮君のお知り合いにお父さんに阿頼耶さん、と

 

 もう何でもありですね

 

あこ「環那兄!これ、全部食べていいの!?」

環那「別にいいよー。好きなだけお食べ?」

あこ「わーい!環那兄大好きー!」

環那「あはは、そっかそっかー。」

 

 彼はまぁ、普通に楽しんでます

 

 完全に目が保護者のそれなんですが

 

 彼ってそう言うところありますよね

 

千聖「こんにちは、南宮社長。」

環那「おっ、これはこれは白鷺千聖さん。初めましてだね。」

千聖「えぇ。お噂はかねがね伺っているわ。」

環那「こちらこそ、君の名前はよく聞いているよ。」

 

 なんか空気変わりましたね

 

 あの2人が話すと、完全にビジネスのそれですね

 

 雰囲気が学生のそれじゃないですもん

 

千聖「私の仲間がご迷惑をおかけしたようで申し訳ないわ。」

環那「あはは、そんなお気になさらず。もう二度とあんな風にはなりたくないけど。」

千聖「全くの同意見よ。私はあなたと仲良くしたいと思っているもの。」

環那「それはちょうどいい。近々、俺もそちらに出向く予定だったんだ。近日中に連絡を入れるつもりだけど、君からも話を通してくれると助かるかな。」

千聖「あら?どういったお話かしら?」

環那「そこはまぁ、まだ社外秘なので後ほど。」

千聖「この場で話すような内容ではなかったわね。失礼。」

環那「いえいえ、お気になさらず。」

 

 ......これ、社交パーティーですか?

 

 いや、違いますよ?

 

 あの2人がおかしいだけです

 

琴葉「あなたは本当に誰とでも話せますね。」

環那「ん?そう?」

琴葉「白鷺さんとは初対面だったのでしょう?」

環那「まぁね。でも、流石だと思ったよ?」

琴葉「そうなんですか?」

環那「距離感を測るのが上手いね。話しやすかった。」

 

 珍しく高評価ですね

 

 やはり、幼いころから活躍されてるだけはあるのでしょう

 

環那「琴ちゃんも篤臣さんと話してみればいいじゃん。」

琴葉「勘弁してください。もうお昼休みに十分話しましたよ。」

環那「そう?篤臣さんは話したそうにしてるけど。」

琴葉「え?」

環那「騙されたと思って行ってみなよ。きっと、面白いから。」

 

 彼はそう言って、エマちゃんの方に行きました

 

 恐らく、様子を見に行ったんでしょう

 

琴葉(仕方ありません。)

 

 私はそんなことを考えながら、お父さんの方を向きました

 

 彼の言うことが本当なら、流石に良心が痛みますし

 

 少し、様子見位で

 

琴葉「お父さん。飲んでますか?」

篤臣「......アァ。」

琴葉「嘘をつかないでください。コップに何も入ってないじゃないですか。」

 

 私はそう言いながら、近くにあるビールを手に取り

 

 それを開け、お父さんの方を見ました

 

琴葉「注ぎますよ。コップ、出してください。」

篤臣「アァ。」

 

 お父さんが差し出してきたコップにビールを注ぎました

 

 割合は7対3

 

 昔、組員の人が間違えて怒られてましたし

 

 少し、緊張します

 

琴葉「はい、どうぞ。」

篤臣「......オォ。」

 

 お父さんはコップを口につけると

 

 一気にビールを流し込みました

 

 昔からお酒に強い人だとは知ってますが

 

 もういい歳なのに、すごい飲みっぷりです

 

篤臣「まさかァ、娘の注いだ酒が飲めるとはなァ。随分、長生きしたもんだなァ。」

琴葉「そうですね。」

篤臣「ちょっと前まで豆粒みてェだったのによォ。」

 

 お昼に比べて、よく喋りますね

 

 お酒が入ってるからでしょうか

 

篤臣「今日のお前を見てェ、昔を思い出したァ。」

琴葉「昔、ですか?」

篤臣「あれはァ、30年前くれェだったかァ。今日と似たようなことがあったのよォ。」

琴葉「似たようなこと?」

篤臣「クラスのはぐれもんだった俺にィ、お前ェみてェに笑いかけるようなバカな女がいてよォ。」

琴葉「......!」

 

 お母さんだ

 

 と、直感的に感じました

 

 って、あれ?

 

篤臣「あいつァ、生徒を誰一人として見限らなかったァ。どんな奴にもバカみてェに真っ直ぐぶつかってよォ。」

琴葉「......そうですか。」

篤臣「お前ェはあいつに似てるァ。良い教師になったなァ、琴葉ァ。」

琴葉「......!」

 

 初めて、この人に褒められた気がします

 

 昔から、ずっと難しそうな顔をしてたのに

 

 今はどこか、表情が柔らかい気がします

 

篤臣「......お前ェにアイツを預けてよかったァ。」

琴葉「え?」

 

 あいつ、って、南宮君の事でしょうか?

 

 そう言えば、彼とお父さんの関係って謎が多いですね

 

 本当にいきなり紹介されて、一緒に住むことになりましたし

 

篤臣「だがまァ、一つだけ忠告するぞォ。」

琴葉「忠告?」

篤臣「リレーの時のあいつ、おかしかっただろォ?」

琴葉「リレーのとき、ですか?......確かに、いつもと様子が違いましたが。」

 

 何と言うか、ボーっとしていたような気はします

 

 それに、珍しく汗もかいてましたし

 

 運動能力も異常とかそういう次元じゃなかったような

 

篤臣「あいつは本来、本気を出さねェ。いやァ、出す必要もねェ。元からバケモンだからなァ。」

琴葉「それは、そうですね。」

篤臣「だがァ、今日のリレー。あれは間違いなくアイツの本気だァ。」

琴葉「......あれが?」

 

 あれが、南宮君の本気

 

 見える気配のなかった底......

 

篤臣「お前ェに言っておくぞォ。出来る限り、アイツにアレを使わせるなァ。」

琴葉「え?」

篤臣「あれは本気は本気だがァ、そんなに安っぽいもんじゃねェ。」

琴葉「どういうことですか......?」

 

 あのお父さんが少し焦ってるように見えます

 

 あれは、そんなに不味いものなんですか?

 

篤臣「あれは使えば間違いなく最強になるがァ、それ以上のリスクを負うことになるんだァ。それを、あいつは分かってるはずだァ。だがァ、アイツは大切な奴のためなら躊躇いなくつかいやがるだろうなァ。今日のアイツを見て、確信したァ。」

琴葉「あれは、どういうものなんですか?」

篤臣「あれはァ__」

リサ「__あのー。」

琴葉、篤臣「!」

 

 お父さんが話してる途中

 

 今井さんがこっちに来て、声をかけてきました

 

 どうしたのでしょうか?

 

リサ「環那がどこにいったか知らないですか?いつの間にか消えてたんですけど。」

琴葉「え?」

リサ「エマも知らないみたいで、浪平先生と話してたの見たので、心当たりないかなって。」

琴葉「私も離れてから見てませんが......」

リサ「もー、ほんとどこ行ったんだか......」

 

 ......なんだか、不安になりますね

 

 今の会話の流れ的に

 

 いや、そんなに時間もたってないので何もないでしょうが

 

リサ「トイレとかですかねー?」

琴葉「それか、面倒になって帰ったか。」

リサ「うわ、ありそーですね。」

琴葉「そうですね。」

 

 帰ったかトイレに行ってるか、だとは思います

 

 きっとこの不安もさっきのお話のイメージが尾を引いてるだけです

 

 そう、きっとそのはずです

___________________

 

 “環那”

 

環那「__この辺でいいでしょ。」

 

 俺は学校の前にある雑木林の中で足を止めた

 

 登校するとき偶にショートカット使われるこの場所だけど

 

 普段は誰も通ることのない、静かな場所だ

 

環那「俺に話があるんでしょ?拓真君。」

拓真「......あぁ。」

 

 俺の後ろにいる厳しい表情をした拓真君に話しかけた

 

 相変わらず、好かれてはないみたいだ

 

 まぁ、どっちでもいいけど

 

 ただ......

 

環那「保護者同伴は感心しないな。1人で来るのは怖かった?」

春日「......」

 

 俺は拓真君の後ろにいる春日の方を見た

 

 確か、俺が中学に殴り込んだ日以来か

 

 老け込んだとかはないけど、少しやつれたな

 

拓真「違う。」

環那「!」

拓真「ただ、聞いて欲しいだけだ。俺の決めた覚悟を。」

環那「......ほう。」

 

 どうやら、手ぶらで来たわけじゃないみたいだ

 

 いいねぇ、悪くない

 

環那「なら、聞かせてもらおうか。君の覚悟ってやつを。」

 

 俺はそう言って、拓真君の方に体を向けた

 

 果たして、この子は俺の期待通りなのか

 

 それとも超えるのか、それとも外れなのか

 

 今から語る言葉で全てが分かる

 

 さぁ、聞くとしようか

 

 未来を担う若者の言葉を

 

 

 



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地獄

 対峙したら分かる

 

 この子は本当に俺そっくりだ

 

 だからこそ分かる

 

 俺がこの子を嫌いな理由は、ただの同族嫌悪だと

 

拓真「俺は、先生を守りたい。」

環那「あぁ、分かってるよ。」

 

 曇りのない目だ

 

 純粋な、夢を語る子供の目だ

 

 でも、まだまだダメだ、淡すぎる

 

拓真「......でも、今の俺じゃ無理だ。」

環那「!」

 

 拓真君は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた

 

 今までとは一味違うみたいだ

 

 取り合えず、話を聞こう

 

拓真「あんたを見てるとよくわかる。俺には何もかも足りてない。」

環那「......」

拓真「知識も経験も強さも、俺は守るための力を何も持ってない......っ」

 

 悔しそうだ

 

 それはそうだ

 

 自分の無力を悟った時ほど悔しい時はない

 

 今、自分自身を死ぬほど呪ってるだろう

 

拓真「それに、俺はあんたみたいに1人で強くなることは出来ない......だからっ!」

環那「......!」

 

 視界から、拓真君の姿が消えた

 

 俺がすぐに視線を下に動かすと

 

 拓真君が地に膝をついて、頭を地面に着けていた

 

拓真「生意気なガキで、今まであなたを敵視してきた自覚はあります......俺は何もできないちっぽけな人間であることも自覚してます。でも、無理を承知でお願いします......!俺に、先生を守る方法を教えてください......っ!!」

環那「......(そうか。)」

 

 この子は俺と違う

 

 1人では強くなれない

 

 それを欠点と言うか否か

 

 その答えすら、周りに依存する

 

環那「......クフフ、あはは。」

拓真「......!?」

環那「良いよ!君、すごく良い!」

 

 これは予想以上だ

 

 まさか、土下座までするなんて

 

 バカだ、マジなバカだ

 

環那「こんなに愚直でバカな人間、初めて見た。いやぁ、面白いもの見た。」

拓真「な、なにを......」

環那「けど、君は強くなれるよ。俺よりも。」

拓真「......!」

 

 この子は1人では強くなれない

 

 けど、周りと一緒に強くなれる

 

 色んなものを吸収して、糧に出来る

 

 それなら、1人の俺より強くなるのは当然だ

 

環那「......でも。」

拓真「?」

環那「俺が危惧しているのは君じゃない。そっちだ。」

春日「......」

 

 俺は黙ってる春日の方を見た

 

 正直、こいつの事は一切信用してない

 

環那「拓真君は覚悟を示した。だから聞く。お前は本当に、守る価値のある人間?」

拓真「っ!」

春日「......っ。」

 

 こいつは友希那を守らなかった

 

 自分だけを守る道を選んだんだ

 

 そんな奴が、この純粋な少年に守られていいのか?

 

 俺の答えは否だ

 

春日「......本当は、私はそうあるべき人間じゃないです。」

環那「......」

春日「5年前、私は自分の保身のために、湊さんを見捨てました......そんな私が拓真君と一緒になって、ましてや守ってもらうなんて、おかしな話です......」

拓真「先生......!」

 

 春日は静かな声で言葉を連ねていく

 

 こいつの言ってることは正しい

 

 こいつは拓真君に相応しくない

 

 そんなの誰が見ても明らかだ

 

春日「別れようと思いました......今の彼の気持ちは思春期故の思い込みだと、そう思っていました......でも、違いました。彼は、私の汚い部分を見ても、それでも、見捨てずに一生懸命、私のために頑張ってくれました......」

環那「......」

春日「だから、誓ったんです......もう、見捨てないと。過去は取り戻せないけど、これからは見捨てない。最後まで、彼の隣にいようと......」

環那「......」

 

 過去よりも未来、ってことか

 

 実に都合の良い話だ

 

環那「......はぁ。」

拓真、春日「!」

 

 嫌いだよ、ほんとこいつだけは嫌いだよ

 

 けど、馬鹿には馬鹿が相性がいいんだろうね

 

 結局、拓真君の目的意識はこいつなしでは成り立たない

 

 ......仕方ないか

 

環那「ほら、これあげる。」

拓真「うわっ!って、これは?」

環那「あの無駄にデカい家のカギだよ。どーせだれも住んでないし、あげるよ。」

 

 正直、扱いに困ってたんだよね

 

 俺は琴ちゃんのマンションに住んでるし

 

 遊び場にしようにも微妙だし

 

拓真「えっと、これをどうしろと......」

環那「2人で住めばいいよ。春日はボロアパートに住んでるんでしょ?ちょうどいいじゃん。」

春日「!?(な、なんで知って......!?)」

環那「2人で生活しないよ。間違えても親には頼らないようにね。」

 

 あの母親は拓真君の害だ

 

 あれは拓真君を成長させるのに都合が悪い

 

 出来れば、切り離しておきたい

 

環那「あと、拓真君。君、来週からバイトね。」

拓真「バイト!?」

環那「毎日うちの会社のどこかしらの支社の清掃をしてもらう。完全週休二日で。ちゃんと給料出すから、それで適当に生活すれば?」

 

 ひとまずはこれでいいかな

 

 やっと、長期プランが始まった

 

 ステップ1でこれとか、あと何年かかるんだか

 

 まぁ、いいや

 

 気長にやって行こう

 

?「__おいおいおい、そういうことかよー。」

環那「!」

拓真「っ!(この声は......!)」

春日「だ、誰ですか......!?」

 

勝「......俺だよ。」

 

 そんな声とともに1人の男の姿が現れた

 

 少し前に俺にビビッて泡吹いて倒れた南宮勝だ

 

 この期に及んで何の用だ?

 

環那「なに?君。いい感じに話がまとまったのに、無粋じゃない?」

勝「おいおい、それを言うならお前も一緒だろ?上手くいってた俺たち一族をぶっ潰したんだからなぁ。」

環那「上手くいってた?あの程度で?笑わせんなよ。」

 

 こいつらにとっての都合の良いだけの生活

 

 それをうまく行ってたと思うならおめでたすぎるでしょ

 

環那「で、何の用?」

勝「んなもん、分かってるだろ?」

環那「......」

拓真、春日「っ!!」

 

 南宮勝がそう言った瞬間

 

 周りの草がガサガサと音を立て始め

 

 ガラの悪そうな男達と前にクビにした南宮の奴らが出てきた

 

勝「__復讐だ。」

環那「ほう。」

勝「お前に味あわされた屈辱、今でも昨日のことのように思い出せる。最初は恐怖だった。だが、日が経つごとに憎悪に変わったんだ。」

 

 さて、話は程々に状況を考えないと

 

 周りには結構いるっぽい

 

 暗いから詳しい数が把握できないけど

 

勝「ずっと準備してきた。お前について調べ、仲間を集めたんだ。」

環那「へー。それで、その集めた仲間と一緒に俺をボコボコにしてやろうって?」

勝「......いいや?」

環那「......(なんだ?)」

 

 南宮勝は気持ち悪い笑みを浮かべた

 

 ほんとになんだ?

 

勝「そのくらいじゃ済まさねぇ。俺らが奪われた分、お前からも根こそぎ奪ってやるんだ......!」

環那「......どういう意味?」

勝「お前の周りの女、みんな上玉だよなぁ?」

環那「......!」

勝「おっ、やっと表情が変わったな。」

 

 なるほど、調べたってわけね

 

 そうなるとちょっと面倒だぞ

 

 ここにこいつがいるってことは

 

勝「利口なお前ならわかったよな?」

環那「......」

勝「お前の大事な女たちをお前の目の前でぶち犯して、その上でボコボコにするんだよ!もう、100人の仲間が羽丘に向かってる!早けりゃあと10分でお前の女たちは捕まるだろうよ!」

環那「......」

 

 なるほど、そこそこ賢いね

 

 うん、普通に賢い

 

 全員で俺をボコりに来なかったのは評価できる

 

 寝る間も惜しんで一生懸命考えたんだろう

 

 ちゃんと努力したんだって分かるよ

 

 ただ......

 

環那「悪いことは言わない。その100人、引かせた方がいいよ。」

勝「あ?」

環那「どっちにしろ失敗するだろうけど......俺の目の前で、俺の大切な人たちに邪な言葉を吐くな。あまりにもイラついちゃうから。」

勝、拓真、春日「__っ!!」

 

 学校には篤臣さんとノア君がいる

 

 組員の人たちもいるだろうし

 

 100人くらいなら別に問題ないだろう

 

勝「ふ、ふん。その自信は浪平組がいるからか?」

環那「......なに?」

 

 こいつ、浪平組を知ってる?

 

 だとすればなぜ、このタイミングで仕掛けた

 

 ......いや、まさか、あるのか?

 

勝「くっくっく、浪平組がいるからこそ今日なんだよ。」

環那「どういうことかな?」

勝「おかしいと思わなかったのか?組長がいるのに、周りにいる組員が少なくないかって。」

環那「......!!(そう言えば。)」

 

 そう言えば、護衛の数、少なかったっけ

 

 最初は体育祭だからと思ってた

 

 けど、そういうことか

 

 こいつらは何らかの方法で浪平組の人員を削っていたのか

 

環那(......ちょっと、やばいかも。)

 

 流石に篤臣さんでも100人相手はキツイだろう

 

 もう、結構いい歳だし

 

 それに狙いを把握してないんだ

 

 隙を突かれて、みんなに手を出されたらアウトだ

 

勝「さぁ、お前ら!やっちまえ!まだ殺すなよ?半殺しにして__」

環那「......おい。」

勝「あ?」

環那「本当に、引かせないんだな?後悔しないな?」

勝「するわけないだろ!こっちの勝ちはほぼ確実、お前はもう蹂躙されるだけだ!」

環那「......はぁ。そっか。」

 

 こいつらに気づかなかったのは俺のドジだ

 

 知っていれば対策は容易に出来ていた

 

 こいつら位どうにかなると思った俺の慢心が招いた結果だ

 

 でも、失敗は取り返せばいい

 

 そのためには、切るしかないか、切り札

 

 “拓真”

 

環那「殺すしかないか。全員。」

勝「はぁ!?出来ると思ってんのか!?100人割いてるといってもこっちは200人、流石のお前でも__」

環那「......はぁ、ゴチャゴチャうるさいんだよ。」

勝「__っ!!??」

 

拓真「えっ?」

 

 その時、グチャと言う音が静かな雑木林の中に響いた

 

 何が起きたか分からなかった

 

 だが、数秒後、嫌でも状況を理解することになった

 

勝「ぎゃぁあああああ!!!目が、目が、目がぁぁぁぁあ!!!」

「な、なんだ!?」

「って、おい、こいつ、目が......」

「つ、潰れてやがる!!」

 

 勝兄さんの目が、潰れた

 

 理由なんて分かってる

 

 あの人が、何かしたんだ

 

 全く見えなかったけど、間違いない

 

環那「......」

「あ、あいつ、だよな......やったのは。」

「俺はちょっと見えた......石だ、石を投げたんだ。」

「それにしたって、躊躇いがなさすぎるだろうがよ......」

環那「ねぇ、君たち。」

 

 暗くてよく見えない、けど

 

 ゆっくりと勝兄さんの方に歩み寄っていくがかろうじて見える

 

 その足取りはフラフラとしてて、覇気がない

 

 けど、なんだよ、これ

 

 なんでこんなに、震えてるんだ......

 

「こっちに来るぞ!」

「そいつを移動させろ!そして、病院に__」

「だめだ!眼球が粉々になってる!病院に言ったって治療できねぇよ!」

「は?え、は......?」

環那「......」

「ひっ__」

 

 様子がおかしい

 

 そこにいるのは間違いなく南宮環那、のはずだ

 

 だけど、雰囲気が全然違う

 

 さっきまでとは全くの別人みたいだ

 

環那「そいつ、貸して?」

「な、なに言ってんだ。」

「な、仲間を売るような真似は__」

環那「じゃあいいや。」

「__ぐふっ......!!!」

「あがっ......!!!」

 

 今度は、勝兄さんを守ってた2人の顔が吹っ飛んだ

 

 倒れた姿を見てみると、顔が変形してる

 

 まず間違いなく、何個も骨が砕けてる

 

環那「......」

勝「うぎぃ......!!!」

環那「ほら、さっきみたいに喋ってみなよ。」

 

 片手で首を掴んだまま持ち上げてる

 

 勝兄さんは苦しそうなうめき声をあげて

 

 逃れようと体を動かしてる

 

勝「な、んだ、よ......!なに、も、みえな、い......!くら、い、くらいよぉ......!!」

環那「......こんなもんか。」

「こ、このっ!!!」

「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

「勝!今助けるぞ!」

環那「......」

勝「!?」

 

 南宮環那は勝兄さんを宙で一回転させ

 

 今度は両手で足を掴んだ

 

 その間にも3人は南宮環那の方に向かってる

 

環那「ほら、返してやるよ。ちゃんと受け取れよ。」

「は__うぐっ!!!」

「なっ__!!!」

「ぐほ......っ!!!」

勝「ああああああ!!!」

 

 南宮環那は勝兄さんで3人を攻撃した

 

 誰のか分からない血しぶきが舞っている

 

 なんだよ、これ......

 

環那「ほら、取れよ。」

「あぎぃ!!!」

環那「ほらほらほら。」

「ぐはぁ!!!」

「がっ!!!」

「ぐふっ!!!」

環那「ほらほらほらほらほらほら。」

勝「だ、れか、たすけ、たす、けて、くれぇ!!!」

 

 人間を武器にしてる

 

 そう言うしかない

 

 すごい速度で人間が倒れていく

 

 そして、人間が倒れるたび、勝兄さんが無残な姿になっていく

 

環那「__あれ?」

勝「ヒュー......ヒュー......」

環那「もう壊れたか。(ポイッ)」

勝「......」

 

 ドサっと音を立て、勝兄さんが地面に投げ捨てられた

 

 体の状態がおかしい

 

 見えずらいけど、足の長さが変わってる

 

 恐らく、股関節が完全に外れてるんだ

 

 どんな力で振ったらどうなるんだよ

 

「に、人間、じゃない......」

「なんだよ、聞いてないぞ......こんな奴が相手なんて......!」

「敵だとしても、心は痛まないのかよ......?ここまでやって......?」

 

 俺も同意見だ

 

 普通の人間なら、こんなことは出来ない

 

 勝兄さんはもう、虫の息だ

 

 いっそのこと、殺してくれた方がありがたいだろうって思う

 

 それくらい、ひどい状態だ

 

環那「......君たち、甘いね。」

「は......?」

環那「敵は確実に殺すんだよ?大人であろうが子供であろうが、男であろうが女であろうが。」

拓真「っ!!!」

 

 本気だ、本気で言ってる

 

 あの人の目には一切の迷いがない

 

 昔テレビで見た殺人鬼のニュース

 

 そこで出てた殺人鬼の男すら、もう少し優し目をしてた

 

環那「さぁ、やり合おうよ?頑張って時間稼ぎしなよ?君たちが逃げたら、学校にいるお仲間が同じ目に合うよ?」

「く、クソっ!行くぞ、お前ら!」

「あ、あぁ......!」

「舐められたままでいられっか!!」

「皆の仇うつぞっ!!」

『うおぉぉぉおお!!!』

 

 今度は何十人もが南宮環那の方に向かっていく

 

 俺は無意識で手を伸ばした

 

 ダメだ、ダメなんだ、逃げろ

 

 そう思った

 

 だって、あの人の前じゃあ......

 

『ぎゃぁぁぁああああ!!!』

拓真「あ......」

 

環那「ヌルい。」

 

 間に合わなかった

 

 散った桜の花の様に血しぶきが降り注いで

 

 赤く、生暖かい液体が俺と先生の頬を汚した

 

「み、みんな......」

環那「後悔してる?」

「ヒッ......!」

環那「でも、もう遅いよ。」

 

 表情が変わらない

 

 何人倒しても、誰がどんな傷を負っても

 

 何もなかったかのように次の敵に詰め寄っていく

 

環那「もう覆らない。誰も助けてくれないし、希望もない。そんな最低最悪な世界を教えてあげるよ。」

 

 雰囲気を変えず、南宮環那は言葉を連ねる

 

 その時、雲が晴れて、一筋の光が差し込んだ

 

 そこで初めて、周りがちゃんと見えた

 

環那「__僕が、この場にいる者すべてに。」

 

 周りの景色はまさに地獄だった

 

 血が混じりあって出来た水たまり

 

 生きてるか死んでるかもわからない人間

 

 それを見て、絶望した表情を浮かべる人間

 

 誰もがこれを見れば、地獄と形容するだろう

 

 

 だが、違う、まだまだだ

 

 この凄惨な地獄ですら、まだ入口なんだ、と

 

 静かに佇む化物の姿を見てると、嫌でも理解させられた

 

 

 



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停止

 いつからだろう

 

 いつ、完全にタガが外れたんだろう

 

剛蔵「__立て!いつまで倒れてるつもりだ!」

環那「......」

 

 昔は弱かった

 

 毎日、祖父母のストレスのはけ口にされてた

 

 血を流しても、頭をぶつけても、骨が折れても

 

 あいつらは構わず、死なない程度にいたぶって来た

 

歌代「サンドバッグにもならないわね、この出来損ないは。」

 

 4歳の子供にする仕打ちじゃない

 

 まだ体も発達してないのに

 

 大人の力で容赦なくボコボコにされてた

 

剛蔵「チッ、おい、歌代。そいつ、外に放り出すぞ。」

歌代「はい。」

環那「......っ」

 

 じいさんにズルズル引きずられ

 

 家の前まで連れてこられた

 

剛蔵「ほら、よっ!!」

環那「ぐっ......!」

 

 道に投げ捨てられ

 

 正面の家の塀に右半身をぶつけた

 

 恐らくこの時、肋骨と右腕は折れてたと思う

 

剛蔵「夕方には帰って来いよ!世間体があるからな!」

歌代「目障りだから死んでくれてもいいけれど。」

剛蔵「あぁ、そうだな!折角だから事故にあってくれてもいいな!がはは!」

歌代「そうですねぇ、ふふっ。」

 

 そんなクズ発言をしながら、2人は家に入って行った

 

 ほんと、こいつらはクズだったと思う

 

 もしこいつらが世間体を気にするタイプじゃなかったら、とっくの昔に死んでたかもしれない

 

環那(なんだ、なんなんだ......)

 

 生まれたくて生まれてきたわけじゃない

 

 こんな扱いされる位なら、生まれない方がよかった

 

 自分は何のために生まれたのか、分からなかった

 

環那(なんで人間は生まれるの......?こんな思いしてまで、生きないといけないの......?生きることは、ほんとに幸せなの......?)

 

 そんな自問を繰り返しながら

 

 俺は適当に歩いて、公園まで歩いて来た

 

 公園なら、喉が渇けば水が飲める

 

環那「......」

 

 でも、俺はとても水を飲む気にはならなかった

 

 喉が渇いて、体中も水分を欲していた

 

 けど、俺が生命を維持することを拒否してた

 

環那(このまま死ねば、誰か一人くらい、心配してくれるかな......)

 

 少しずつ、視界が白くなっていった

 

 この時に悟った

 

 もうすぐ、死ぬんだって

 

 でも、別によかった

 

 死んでも、見つけた1人が心配してくれれば

 

 それで......

 

友希那「__こんなところでなにしてるの?」

環那「......?」

友希那「だいじょうぶ!?ケガしてるよ!?」

環那「......君は。」

 

 白い景色から現れた少女

 

 俺は、やっとか、と思った

 

 天国にでも来れたのかと本気で思ってた

 

友希那「わたし、みなとゆきな!4さい!」

環那「......そっか。」

 

 初めて、誰かの名前を聞いた

 

 嬉しかった

 

 最後にいい思い出が作れたと思って

 

 ここで死ねば、全て不幸だったと言わないで済むと思って

 

友希那「ねぇねぇ!ここでなにしてるの?」

環那「......すわってた。」

友希那「なんで?」

環那「......帰ってくるなって、いわれたから。」

友希那「そうなんだ?」

 

 恐らく、理解はしてなかったんだろう

 

 その少女は首をかしげていた

 

 けど、別にそれでもよかった

 

 言葉を聞いてくれるだけで、嬉しかった

 

友希那「ねぇねぇ!ゆきなね、ようちえんでおうたほめられたんだー!」

環那「そうなんだ。」

友希那「きいててね!」

 

 その時は流石に理解できなかった

 

 話がかみ合ってない

 

 けど、楽しそうなのに水を差すのも悪い

 

 取り合えず、聞いておこうと思った

 

友希那「こーとりはとってもうたがすきー♪かあさんよぶのもうたでよぶー♪」

環那「......!」

 

 まだまだ拙い歌だった

 

 けど、つい聞き入ってしまった

 

 歌が好きなんだという気持ちが溢れていた

 

 自分の気持ちを表現できる力

 

 この子には、それがあるんだと思った

 

友希那「むー。」

環那「ど、どうしたの?」

友希那「わらってない!ゆきなのおうたきいたのに!」

環那「え?」

友希那「わらって!にこーって!」

環那「え、えーっと、こ、こう?」

 

 自分に出来る限りの笑顔を作った

 

 今までしたこともないんだから、やり方なんて知らない

 

 だからなんとか、目の前の少女の真似をしようとした

 

 すると......

 

友希那「__ぷっ、あはははは!」

環那「??」

友希那「へんなかおー!おもしろーい!」

環那「そ、そんなに?」

 

 今の自分の顔なんて分からない

 

 けど、笑われてるからおかしいんだろう

 

友希那「でも、そっちのほうがいい!」

環那「え。(どっち?)

友希那「じゃあ、そのままわらててね!もういっかいうたうよ!」

環那「あ、う、うん。」

 

 それからまた、少女は歌い出した

 

 さっきよりも一際大きな声で

 

環那(あぁ......そっか。)

 

 この子だ

 

 きっと、自分はこの子のために生まれてきたんだ

 

 そう直感したし、確信めいたものもあった

 

環那(......あれ?なんで、さっきまで傷ついてたんだろう?)

 

 そんな疑問が浮かび上がった

 

 愛してくれない、笑わせてくれない、危害だけ加えてくる

 

 そんな人間のためになんで、死のうとしてたんだろう

 

 そう思うようになってた

 

友希那「あ、あなたのおなまえきいてない!」

環那「あ、そうだったね。」

友希那「あなたのおなまえは?」

 

 少女は首をかしげながらそう聞いてくる

 

 それを見てふと笑い

 

 ゆっくり口を開いた

 

環那「僕は、環那。南宮環那。」

友希那「かんな!かわいいおなまえだね!」

環那「アハハ、そっか。」

 

 その日、僕は手を差し伸べてもらう喜びを知った

 

 それと同時に生まれたもう一つの感情

 

 この子を守りたい、この子のために生きたい

 

 他の人類なんて、どうでもいい、と

 

 

 思い出した、ここだ

 

 ここでタガが外れたんだ

 

 そして、壊したんだ

 

 目の前にあった、扉を

___________________

 

剛蔵「__やっと帰って来たか!」

 

 夜になって家に帰ると、じいさんがいた

 

 ばあさんもいる

 

 なんだ、律儀に待ってたんだと思った

 

剛蔵「夕方には帰れと言ったはずだぞ。こんな簡単なことも出来んのか!」

歌代「犬以下ね。」

剛蔵「こい!躾けてやる!」

環那「......(なんだ?)」

 

 軽い足取りで2人の前に歩み寄る

 

 恐れなんかない

 

 さっきまであんなに怖かったのに

 

環那「......くふふっ。」

剛蔵「なにを笑ってる!気持ち悪い!このっ__」

環那「!」

 

 その時、いろんな景色が見えた

 

 まず、スローモーションなじいさんの拳

 

 そして、拳の周りに見える知らない数字と文字

 

環那「こう?」

剛蔵「っ!?(なっ......!?)」

歌代「えっ?」

 

 理解してたわけじゃない

 

 けど、なんとなく、どう動くべきか分かった

 

 するとどうだろう?

 

 じいさんの拳はどこかへ吹っ飛んで

 

 ダメージが一切なかった

 

剛蔵(な、なんだ......!?今、何が起きた......!?)

環那「......くふふ、そーゆーこと。」

剛蔵、歌代「っ!!」

 

 こうすれば、何ともないんだ

 

 なんだ、大人ってこんなに弱かったんだ

 

 一回予想外のことが起きたら動かないじゃないか

 

剛蔵「な、なんなんだお前は......!?」

歌代「一体、なにがあったというの......!?」

環那「さぁ?けど、今、力が湧いて仕方ないんだ。」

 

 体中から力が湧いてくる

 

 けど、足りない

 

 あの子を、友希那を守るには足りない

 

 けど、自分を守るには十分な力だ

 

環那「アハハ、全部止まって見えるよ!おじーちゃん!」

剛蔵(ゾクッ)

環那「楽しいのかな?人を殴るのって。どうすれば痛いのかな?どうすれば死ぬのかな?どこまでやったら絶望するのかな?ねぇ、試していい?ねぇねぇねぇ!」

 

 その日から、俺は完全に壊れた

 

 それと同時にご飯におかずがついた

 

 シャワーからお湯が出るようになった

 

 月10万円のお小遣いが出るようになった

 

 高性能なパソコンが与えられた

 

 けど、前よりも厳重に閉じ込められるようになった

___________________

 

環那(あぁ、なるほど。)

「ぎゃぁぁぁああ!!助けて、助けてぇぇぇぇえ!!!」

 

 初めて、夢を見た

 

 なるほど、そう言うことか

 

 僕はあの時に変わったんだ

 

友希那「__環那......?」

環那「......あっ。」

 

 見えないところから友希那の声がする

 

 それに、他にいくつか気配がある

 

 何人だろ......多分、5人だ

 

環那「あ、正解だ。」

リサ「こ、これは......」

環那「?」

 

 ふと、周りを見渡してみる

 

 さっきいた200人が全員倒れてる

 

 取りこぼしはないかな

 

琴葉(なんですか、これは......?)

燐子(目の前にいるのは、環那君、だよね......?)

エマ(やはり、私の仮説は正しかった......!)

イヴ(これは......)

リサ(......エマの、言ってた通り。)

友希那(でもまさか、本当にこんなことがあり得るなんて......)

 

環那「?」

 

 皆、困惑してるように見えるな

 

 あ、そっか

 

 まだ自己紹介してないんだった

 

環那「久しぶりだね、友希那!」

友希那「っ......!」

環那「そして、そちらの5人は初めましてになるかな!もっとも、僕は知ってるけどね!」

リサ、燐子、イヴ、琴葉、エマ「......!!」

環那「......?......??(なんだ?)」

 

 今、頭の中にノイズが走った

 

 これは、なんだ

 

 なんだか、辛い

 

 この5人に初めましてと言ってる事実が

 

 なんだ、なんなんだこれは

 

 そんなことを考えてると、いきなり体の機能が停止した

 

環那「......あれ......なんでだろ......意識の、維持、が、できな......い__」

リサ「環那!?」

燐子「環那君......!!」

エマ「私が診る!」

イヴ「取り合えず、どこかへ運びましょう!」

琴葉「お手伝いします!」

 

 その瞬間、目の前が真っ白になった

 

 しまった、完全に使いすぎた

 

 俺もまだまだ、みたいだ......

 

 

 



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もう1人

 “同時刻”

 

篤臣「__フゥ、大体片付いたなァ。」

 

 日が沈んで暗くなった校庭

 

 そこにはいくつもの人間が倒れている

 

 数にして100人分

 

 南宮勝が送り込んだ数ちょうどだ

 

人見「何とか片付きましたわね。」

篤臣「意外だなァ。お前ェも戦えるってよォ。」

人見「こちらの世界に身を置いて久しい故、多少の嗜みはありますのよ。」

篤臣「なるほどなァ。」

人見「私としましては、彼に手助けに入っていただけた方が意外でしたわ。」

 

 人見はそう言い、一際多くの人間が倒れてる方を見た

 

 そこから、1人の影が近づいてくる

 

ノア「これで終わりか。口ほどにもない。」

篤臣「マァ、そうだなァ。あの銀狼が出張ってくるとはなァ。お前ェも環那に従ってんのかァ?」

ノア「勘違いするな。俺が従っているのはエマのみだ。」

人見「......ロリコンですか?」

ノア「殺すぞ。」

 

 ノアが人見を睨みつけ、篤臣がそれを仲裁する

 

 それでノアは軽く咳払いをし

 

 篤臣の方に目を向けた

 

ノア「即逃げた奴を含め、貴様らについては言わなくても分かる。南宮環那に従っているのだろう?」

人見「えぇ、そうですよ。」

篤臣「そっちのが利口ってもんだからなァ。」

ノア「ふんっ。」

 

 ノアは忌々しげな表情を浮かべた

 

 気に入らないというのが態度に出てる

 

篤臣「むしろ、お前ェはなんで環那を気に入らねェんだ?」

ノア「ふん、知れたことだ。」

人見「その心は?」

ノア「......奴のことを格上と認めているからだ。」

篤臣、人見「!」

 

 その言葉を聞き、2人は驚いた表情を浮かべた

 

 仮にも世界に名の知れている殺し屋

 

 その力は常人からすれば異次元にあたる

 

 だが、それでも環那が格上と言うのだ

 

ノア「俺はまだ、奴を超えることを諦めていない。むしろ、今までの人生で最も充実している。だが、今日で奴の背中がさらに遠ざかりやがった。」

人見「あの、リレーの時でしょうか。」

ノア「あぁ。あれはいったい何だというんだ?ただでさえ異常なあいつの身体能力がさらに跳ね上がりやがった。あの時間のみで言えば、人類の限界なんて優に超えている。」

篤臣「......あれかァ。」

ノア「何か知っているのか。」

人見「そうなら是非ともご教授願いたいですわね。」

 

 ノアと人見が篤臣の方を見る

 

 それに少し戸惑いを覚えた様子を見せつつ

 

 篤臣は大きなため息をついてから口を開いた

 

篤臣「ありゃあ、諸刃の剣だァ。」

ノア「諸刃の......」

人見「剣......?」

篤臣「原理は簡単だァ。体の中にあるエネルギーと言うエネルギーを使い果たし、代謝を爆発的に上げ、筋肉に過剰なエネルギーを爆発させる......って、環那は言ってたァ。」

ノア「......それだけか?」

人見「思ったよりも簡単ですわね。銀狼さんでも出来るのではなくて?」

篤臣「バカ言ってんじゃねェよ。」

 

 2人の会話を聞き

 

 篤臣は険しい表情を浮かべた

 

 その様子に2人は少し驚いた表情を見せ

 

 また、篤臣の方に耳を傾けた

 

篤臣「死ぬ寸前に味わうようなスローモーションな世界に身を置いて通常の人体の稼働時間の感覚を狂わせ、それを利用して体を暴走させるんだァ。まず、アイツの感覚なしには成立しねぇ。いや、仮にアイツの感覚があってもほとんどの人間は廃人になるだろうよォ。」

人見「......っ!?(確かに......!)」

篤臣「それに加えて、体の中のエネルギーを使い切るってこたァ、他から補填することになる。それは、体脂肪、筋肉、そして行き着く先はァ......命だ。」

ノア「なに......!?」

 

 ノアすらも表情を崩した

 

 勿論、ノーリスクとは思っていなかった

 

 だが、それでも代償が重すぎる

 

 いや、むしろ驚くべきは......

 

ノア「奴はどうやってその領域に達したというんだ?奴が普通の境遇で生きていたとは思わんが、それでも異常だぞ。」

篤臣「そこまでは分かんねェ。だが......」

 

 篤臣はスッと目を閉じる

 

 その表情は子を心配する親のように見える

 

篤臣「アレはお前らが知ってるアイツものじゃねェ。」

人見「どういうことでしょうか?それだと、環那さんが2人いるという風に聞こえますが。」

篤臣「それで正解だァ。今確信したァ。」

人見「え?」

 

 ふーっと、篤臣は大きく息をした

 

 そして、少し落ち着こうという様子で呼吸を整え

 

 重々しい口を開いた

 

篤臣「信じらんねェがァ、環那は2人いやがるぞォ。しかも、今まで見てきたアイツとは全く別のスタイル、性格でよォ。」

ノア、人見「......!」

 

 その時、秋とは思えないほど冷たい風が吹いた

 

 それと同時にノアと人見の背筋はこの上なく冷たくなり

 

 この場にいない、どこにいるかも分からない1人の人間に恐怖した

___________________

 

 “リサ”

 

 体育祭から一夜明けた

 

 今日は代休で学校が休みで

 

 あたし達は昨日のメンバーで環那の家に集まってる

 

リサ「__おはよう、環那。」

環那「......」

 

 環那は昨日から目を覚ましてない

 

 エマ曰く、エネルギー不足になってるから

 

 点滴を打っていればいつか起きるって言ってた

 

友希那「リサ、もうみんな集まってるわよ。」

リサ「う、うん。」

 

 友希那にそう言われ

 

 あたしはリビングに行った

 

 そこには、昨日あの現場を見たメンバーがいる

 

 全員、暗い顔をしてる

 

エマ「大体の状況は分かってると思う。」

 

 あたしが席に着くと、エマが口を開いた

 

 状況......ってのは環那が倒れたことじゃない

 

 もう少し前に聞いた

 

 環那が2人いるっていうこと

 

エマ「そもそも、お兄ちゃんは常に脳がいくつもあるような状態にある。こういうことも起こりえる可能性は十分にあった。」

琴葉「そもそも、彼の悪ふざけと言う可能性はないんですか?演技、みたいな。」

エマ「ここにいるのは仮にもお兄ちゃんが愛した女達だよ?そんな人間にあんな冗談、言うと思う?」

琴葉「......ですよね。」

 

 勿論、答えはノーだ

 

 環那は親しい人間にあんな冗談は言わない

 

 しかも、あの状況だったし

 

エマ「私が立てた仮説はこういう感じ。」

 

 エマはそう言ってテレビにある図を写した

 

 そこには2つの丸、その片方にはいつもの環那の特徴

 

 もう片方には昨日の環那がどういう存在かの予想が書いてある

 

エマ「私が予想するに、お兄ちゃんはいつからか不明だけど役割分担をしている。」

イヴ「ヤクワリブンタン、ですか?」

エマ「そう。お兄ちゃんは自分の持ってる能力を分担して、それぞれの役割をこなすようにしてる。」

 

 そこでエマはもう一つの図を出した

 

 それには、環那の能力が書いてある

 

エマ「私達の知ってるお兄ちゃんは、自分を中心として周りで起きる事柄の過程と結果を予想する。つまり、不特定多数の未来を見ることができる。」

琴葉(......改めて聞くと、なおおかしいですね。)

エマ「けど、これには欠点があって、範囲が広い故に精度が落ちる。的中率が100%から90%ほどに落ちるということ。」

燐子(それでも90%なんだ......)

 

 改めて、環那のすごさを痛感する

 

 90%正しい未来を見れるなんて

 

 そんなの反則もいいところだよ

 

エマ「それに対して、昨日のお兄ちゃん。これに関しては想像の域を出ないけど......狭い範囲の未来を見ること。」

友希那「......それは、同じじゃないの?」

エマ「いや、恐らくだけど原理は全く違う。」

イヴ「どういうことですか?」

エマ「いつものお兄ちゃんは自分の行動からの予測、それに対してあのお兄ちゃんは恐らくだけど、相手の動きから予測してると思う。」

琴葉「でも、彼って似たようなことしてませんでしたっけ?」

エマ「それはあくまでも似てるだけ。恐らく、琴葉が思ってるそれとはレベルが違う。」

 

 レベルが違う......って

 

 まじで超能力とかそう言うレベルってこと?

 

 ただでさえあんなにすごのに?

 

エマ「それで最大の問題はこの次だけど、あのお兄ちゃんはどういう存在なのか、どういう条件のもと出てくるのか。これも、大体予想できる。」

琴葉「そうなんですか?」

エア「恐らく、自身をプレイヤーでも駒でもなくすこと。」

イヴ「どういうことですか?」

エマ「自分1人で全てを片付けるということ。つまり、周りに頼ることを完全にやめること。」

 

 確かに、会社奪った時も環那は味方を作ってた

 

 流石に1人じゃ無理なのかなって思ってたけど

 

 あれはただのスタイルみたいなもので

 

 あっちの環那が出てたら、別に1人でも出来たってこと?

 

 ......化物すぎない?

 

エマ「リレーの時のあの身体能力。あれも恐らく、昨日のお兄ちゃんのもの。」

琴葉「つまり、普段の彼では使えないのですか?」

エマ「使えない......と思う。ただでさえ広い範囲を見るのは負荷が重い。それであの身体能力を扱うなんて、流石のお兄ちゃんでも難しい。」

友希那「そこまで出来るなら、誰も手を付けられないでしょうね。」

リサ(あれ?)

 

 じゃあ、おかしくない?

 

 昨日のリレーの時の環那

 

 あれは完全に雑木林の時と同じくらいの身体能力に見えたけど

 

 あんな風に変わったりはしなかったよね......?

 

エマ「どうしたの?今井リサ。」

リサ「いや、あのリレーの時はどうなんだろうって思って。」

エマ「それは分からない。アレを使ったのに人格に変化は見られなかった。恐らくは未来を見る感覚を遮断して、極限まで集中してたんだろうけど。」

 

 そういうこと......

 

 普段の状態じゃできないだけで

 

 そうじゃなかったら別に使えるんだ

 

エマ「確認したいことがある。」

リサ「どうしたの?」

エマ「今井リサはいつ、お兄ちゃんと出会ったの?」

リサ「えっと、5歳のころ、公園で鬼ごっこしてた時かな?」

 

 エマの質問に答えると

 

 エマはまた考え出した

 

 そして今度は友希那の方を向いた

 

エマ「湊友希那は?」

友希那「私も、リサと同じタイミングだと思うけれど。」

リサ「いや、違うよ。」

友希那「え?」

リサ「環那が入院してた時に聞いた話だけど、2人は4歳の時に会ってるんだよ。」

友希那「!?」

 

 そっか、友希那は覚えてないんだった

 

 4歳だったから仕方ないところもあるけど

 

エマ「そうなると、1つ答えが出るね。」

友希那「どういうこと?」

エマ「今井リサにも初対面のような対応をし、湊友希那には久しぶりと言った。つまり......」

琴葉「今の南宮君は4歳の時に形成されたということですか?」

エマ「そういうこと。」

 

 言われてみれば、これは簡単だ

 

 じゃあ、あの時から環那は環那なんだ

 

エマ「......そう、4歳からお兄ちゃんは今のお兄ちゃんだった。14年間、あの人格で生きてたんだよ。」

友希那、リサ、燐子、イヴ、琴葉「!」

 

 エマの声にびっくりした

 

 泣きそうって言うか、悲しそうって言うか

 

 いつもの落ち着いた感じじゃないから

 

エマ「一つ、留意してほしい......今まで、お兄ちゃんが皆と過ごした時間に嘘はない。どちらも本物なの。だから......お兄ちゃんのことを、嫌いにならないで欲しい。」

リサ「だ、大丈夫だって!」

琴葉「そうですよ!今さら彼が二重人格であろうが何であろうが、気になりませんよ!」

イヴ「カンナさんはカンナさんです!」

 

 ほんとに環那のこと好きだよね、エマって

 

 ちょっと前まではおかしいって思ってたけど

 

 今は何と言うか、家族って感じがする

 

 家族として環那を愛してるっていうのが分かる

 

燐子「人格がどうあっても、心は一つだよ。」

友希那「元から、多重人格と同じくらい豹変することもあったもの。戸惑いはあるけれど、大した問題じゃないわ。」

エマ「......うん、ありがとう。」

 

 こうしてると、年下なんだって思う

 

 初めて、年相応に見えた気がする

 

 環那のためなら、こんな風になれるんだね

 

リサ(環那。あんまり、エマに心配かけちゃダメだよ。)

 

 どうせ、いつも通りなんでしょ?

 

 いつも通り、全部計算通りで

 

 対応する策なんていくらでも用意してるんでしょ?

 

 そう、全部いつも通り

 

 だって、環那は環那なんだから

 

 

 



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未練

「__こらぁ!環那君!!」

 

 キーンと耳鳴りがするほどの大きな怒声

 

 その声に俺は顔をしかめた

 

「なんでムシさんをやっつけちゃうの!可哀そうでしょ!」

環那「なんで?」

「え?」

環那「なんで可哀そうなの?」

「そ、そりゃあ、生きてるんだから......」

環那「生きてたら、何なの?」

 

 俺は、こんな子供だった

 

 祖父母に不気味だからと突っ込まれた幼稚園で

 

 自分で振り返ってみても、好き放題してたって思う

 

環那「虫にとって生きることは正義、俺にとっては友希那の笑顔が正義。そして、この正義は絶対に共存できないんだよ?だったら、反発する異分子は処分するしかないんだよ?」

「え、え?い、いや。(五才児のくせに、なんて思想を持ってるの......?)」

 

 己の思想を信じて、友希那を守る

 

 友達を作るとか、皆で遊ぶとか

 

 そんな下らないことに興味はなかった

 

「__園長先生!あの子は一体何なんですか!?」

園長「まぁまぁ落ち着いて。どんなに賢いといってもまだ5才。少し話せば、分かってくれますよ。」

 

 それで俺は園長に呼び出され

 

 園長と何人かの保母と話すことになった

 

 正直、面倒くさいとしか思ってなかった

 

園長「環那君は同じクラスの友希那ちゃんが大切なんだね?」

環那「うん。」

園長「でもね、そのために他全てを犠牲にするのは少しおかしくはない?」

環那「どこかが?」

 

 園長の問いにそう答える

 

 何がおかしいのか理解できなかった

 

 俺にとってはごく自然なことで

 

 罪悪感なんてもの、持ち合わせてなかったから

 

園長「もし、幼稚園で飼ってるうさぎさんが友希那ちゃんを傷つけたらどうするの?」

環那「殺すけど?」

園長「......!?」

 

 分かりやすく園長の顔が歪んだ

 

 元から皺の多い顔なのに

 

 さらに皺が増えたらどうするんだろうと思った

 

園長「も、もし、幼稚園のお友達だったら?」

環那「え、同じじゃん。殺すけど?虫やうさぎと何の違いがあるの?」

園長「~っ!!!」

(こ、これは......)

 

 この出来事から、幼稚園は変わった

 

 これは、園長と話した日、南宮の使用人を待っていて

 

 夜まで1人で幼稚園にいた時のことだ

 

園長『__先生。友希那ちゃんのことはよく見てください。虫一匹近づけないように。あと、出来る限りの願いはかなえてあげなさい。』

『それは、特別扱いをしろ、と言うことですか......?』

園長『その通りです。あの子は私たちの手に負えません......出来る限り刺激せず、卒園まで時間を稼いでください。』

『......はい。』

 

環那「......くふふっ。」

 

 計画通りだ

 

 これで友希那の生活が楽になる

 

環那「......」

 

 それからの日々は楽しかった

 

 友希那はおやつをたくさんもらって嬉しそうで

 

 保母がよく見てるから怪我をすることもほぼなかった

 

?「__ねぇ、そこの僕?」

環那「?」

 

 年長になった時くらいだったか

 

 幼稚園に見たことのない女がいた

 

 明るい茶髪に若く見える容姿

 

 見えるって言うのは、細かい特徴的に推定40代だったと思う

 

?「すごい子がいるって聞いて来たんだけど、その子って絶対に僕でしょ?」

環那「なんでそう思うの?」

?「全然周りとオーラが違うんだもの!誰だって分かるよ?」

環那「ふーん。」

 

 別にそんな風にしてる気はなかったけど

 

 こういう風に思う人間もいるんだ

 

 出来るだけ改善しないとって思った

 

?「それで、さっきから何してるの?他の皆はお友達と遊んでるけど。」

環那「友希那を見てるんだよ。何かあったら、すぐに対応できるように。」

?「おー、君はその子のナイトってわけか。」

環那「別になんでもいいよ。俺はどんな称号よりも、友希那の幸せが欲しいから。」

?「ストイックなんだね。」

環那「そうでもないよ。自分を厳しく律する気なんてさらさらないから。」

 

 てか、この人なんで話しかけてくるんだ?

 

 保母たちは基本的に俺に関わろうとしないし

 

 今も、焦った様子でこっちを見てる

 

 つまり、誰かの差し金じゃない

 

 ただただ、自分の興味だけで動いてるっぽい

 

?「やっぱり、僕はすごいんだねー。」

環那「そう。」

?「ねぇ、その力さ、もっと色んな人のために使ってみない?」

環那「?」

 

 何言ってんだ?って思った

 

 イメージ的には見えない所から銃弾が飛んできたみたいな

 

 そんな感じ

 

?「この世界には恵まれない子どもたちがたくさんいるの。何人も、生きたいって願いながら死んでいく。けど、もし、僕みたいなすごい子が力を貸してくれれば、そういう子供たちも少しは減らせると思うの。」

環那「興味ない。」

 

 俺は迷いなくそう答えた

 

 その女は笑みを浮かべたまま止まってる

 

環那「この世にそう言う人間がいることは理解してるよ。けど、それは俺には関係ない。あんたが言うすごい人間が率先してそう言う人間たちを助けなきゃいけないなんて暴論だよ。」

?「うーん、確かにそうかもしれないね。」

 

 そんな話をしつつ友希那の方を見る

 

 そして、小さくため息をついた

 

 それでも女は口を止めない

 

?「でも、力を持つ者にはそれを正しく使う責任があると思うんだ。」

環那「正しく、ねぇ。」

?「すごく嫌そうな顔するね。」

環那「いやだって、あんたから迷いを感じないだもん。」

 

 この女は本気で大勢の人間を救うことが正しいと思ってる

 

 質の悪い正義の味方だ

 

?「やっぱり、苦しい時にはヒーローの存在が欲しいよ!僕みたいな、ね!」

環那「言ってて恥ずかしくない?」

?「全然?なんで?」

 

 マジかこいつ(素)

 

 何か、怪しい薬やってる?

 

 え、ヤバいじゃん

 

環那「何にしても、俺には関係ない。友希那を守るのに忙しいんだ。」

?「君がまだ知らないこと、教えてあげようか?」

環那「!」

 

 俺がその場から立ち去ろうとすると

 

 女はそんなことを言ってきた

 

 それについ、俺は足を止めてしまった

 

?「お、気になっちゃう?」

環那「なに?俺が知らないことって。」

?「それはねぇ、出会うことだよ。」

環那「出会うこと?」

 

 何言ってるんだ

 

 別に、そんなの間にあって__

 

?「今、間に合ってるって思ったでしょ?」

環那「......!(読まれてる?)」

 

 初めての感覚だった

 

 いや、最初から違和感があったんだ

 

 この女は面倒に感じても嫌悪感は感じなかった

 

 その時点で、俺にとっては異常だった

 

?「でも、違うんだよ。人は人と出会って成長するんだよ。そして、特に大きく人を成長させるのは、所謂運命の出会い。」

環那「運命の出会い、か。」

?「心当たり、あるんでしょ?それこそ、あの銀髪の女の子。友希那ちゃん、だったかな?」

 

 やっぱり、俺の心読んでるな

 

 どういう仕組みかは分からないけど

 

 ほぼ間違いなく、そう言うことができる人間だ

 

?「でも、まだまだだよ。人生長いんだから、いつか、今の価値観を全部壊すような運命の出会いが訪れるよ。」

環那「......ふぅん。」

 

 この時の俺は全く考えてなかった

 

 所詮、戯言だろうと

 

環那「まっ、あればいいね。」

?「あるよ、きっとね。」

 

 そこで俺と女の会話は終わった

 

 これ以来、この女とは会っていない

 

 名前も素性も知らない、謎の人物だ

 

 けど、一つ分かったこと

 

 それは、あの女は特別な人間だったってことだ

___________________

 

環那「__!」

 

 目を覚ますとそこはいつもの俺の部屋だった

 

 横にはエマが用意したであろう医療機器がある

 

 それで大体の状況は理解した

 

 やっぱり、あれを使いすぎるのはよくない

 

環那(流石にまだ無理だったか。もう少しで行けると思ったんだけど......ん?)

燐子「すぅ......すぅ......」

環那(り、燐子ちゃん?)

 

 なんでか、部屋に燐子ちゃんがいる

 

 さっきの夢を見た後だと、深読みしちゃうな

 

 てか、あの人マジですごいな

 

 未来でも見えてるの?超能力者?

 

環那(時間は......午後11時か。1日以上寝ちゃったよ。)

燐子「んぅ......?あ、お、起きたの......!?」

環那「お、おはよう。」

燐子「ね、寝ちゃった......///」

 

 燐子ちゃんは焦った様子でそう言った

 

 まぁ、心配してついててくれてたんだろう

 

燐子「え、えっと......今はどっち、かな......?」

環那「え?......あー、そういうこと。安心して。いつもの俺だから。」

 

 うっすら記憶ある

 

 そうだ、入れ替わってるときに会っちゃったんだ

 

 また失敗した

 

 来ることは予想できたし、その前に終わらせようと思ってたのに

 

環那「ごめんごめん。あれは滅多に出るものじゃないから、心配しないで。」

燐子「そう、なの......?」

環那「そうそう。」

 

 どうやら、かなり心配をかけちゃったみたいだ

 

 まぁ、急に「初めまして!」とか言われたら気になるよね

 

 やっばぁ、マジでやっちゃった

 

燐子「......グスッ。」

環那「!?」

燐子「怖かった、怖かったよぉ......環那君に、忘れられたと思って......」

環那「ごめんごめんごめん!ほんとは燐子ちゃんたちが来る前に終わらせるつもりだったけど、思ったより手間取っちゃって。」

 

 あーマジで最悪だ

 

 俺が燐子ちゃん泣かせてどうするんだ

 

 あの程度に手間取るなんて、情けない

 

燐子「うん......大丈夫。あの環那君も環那君だもん......」

環那「まぁ、そうなるのかなー......?その辺に関してはちょっと複雑になるけど......」

 

 多分、エマ辺りは気づいてるのかな

 

 俺がアレをいつもの状態じゃ使えないってこと

 

 使うにしても他の感覚はなくさないといけないってこと

 

環那(流石に無意識同然じゃ無理と思って変わったけど、ダメだ、あれは。)

燐子「環那君......」

環那「なに?どうしたの?」

燐子「言いたいことが、あるの......」

環那「__!」

 

 燐子ちゃんは小さな声でそう言ったかと思うと

 

 ベッドの上に飛び乗って

 

 俺の上に跨った

 

 突然のことで反応できなかった

 

環那「燐子ちゃん?いきなりどうしたの?」

燐子「......嫌なの。」

環那「え?」

燐子「昨日......あの環那君を見た時、思ったの......次元が違うって、遠くに行っちゃうって......」

 

 次元が違う、か

 

 いや、別にそんなこともないんだけど

 

 そう感じちゃったわけか

 

燐子「それで、気づいたの......私の気持ちはもう、学生の恋愛の範疇を超えてるって......」

環那「っ!?」

 

 いつもと雰囲気が違う

 

 せき止められたものが決壊したって感じだ

 

燐子「前までの私なら昨日の光景を見たら、きっと環那君を怖いって思ってた......けど、そうならなかった......むしろ、私を守ってくれたんだって、頑張ってくれたんだって......思ったの。」

環那「......!」

燐子「もう、育ちすぎたの......嫌いになるとか、失望するとか、そんな次元じゃないの......っ!」

 

 燐子ちゃんの声が悲鳴に近づいていく

 

 手が震えてる

 

 きっと、自分の異様な変化に恐怖してるんだ

 

燐子「でも、でも......っ!一つだけ、どうしても、気持ち悪いことがあるの......っ!」

環那「っ!」

燐子「昨日、私を守ってくれたんだって思った......今井さん達の為でもあるのは分かってるから、それも許容できる......でも......未練みたいな感情だけは、許容できないの......っ!」

環那「っ!!」

 

 その言葉を聞いて、心臓が飛び跳ねた

 

 なぜかって?

 

 そんなの理由は一つでしょ

 

 ......心当たりがあるから

 

燐子「環那君はまだ......友希那さんに未練があるんじゃないの......?だから、誰かを恋愛的に好きなるって気持ちを理解できない......いや、理解したくないんだよね......っ」

環那「......なん、で。」

 

 無意識のうちに言葉が出ていた

 

 自覚してなかった

 

 けど、図星を突かれた気分だ

 

燐子「分かるよ、環那君のことだもん......」

環那「......」

燐子「友希那さんが環那君にとってどれほど大きな存在かは知ってるよ......でも、もう、断ち切らないといけないんだよ......環那君が、未来を望むなら......」

環那「......」

 

 ほんと、運命の人って言うのは恐ろしい

 

 俺の見たくないものを突き付けて来て

 

 人生という物語を強引に進めてくる

 

 元から燐子ちゃんがそういう人柄ってわけじゃない

 

 他でもない俺が、そのルートに引き込んでしまったんだ

 

 数ある燐子ちゃんの未来への道の中で

 

燐子「......でも、焦らなくていいよ?」

環那「......!」

燐子「私は......待ってるから......」

 

 その、溶けるような優しい言葉

 

 いつもの燐子ちゃんだ

 

燐子「簡単に割り切れるものでもないと思うし......」

環那「り、燐子ちゃん?」

燐子「今日は、一緒に寝ようね......?///」

 

 そう言って、燐子ちゃんは俺の隣に寝転んで

 

 そのまま、こっちに抱き着いて来た

 

 いつも通りの優しい燐子ちゃんだ

 

燐子「おやすみ、環那君///」

環那「......うん、おやすみ。」

 

 情けない、ほんとに情けない

 

 この優しい雰囲気に、甘えようとする自分がいる

 

 でも、ダメだ

 

 今みたいな心持で燐子ちゃんに甘えちゃダメだ

 

 こんな、中途半端な状態の俺に

 

 燐子ちゃんの優しさを享受する権利はない

 

 

 そんなことを考えてると、俺は眠れなくなって

 

 燐子ちゃんの寝息を聞くうちに夜が更けていった

 

 

 



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ルールブレイカー

 振替休暇が明けて、今日は学校だった

 

 けど、あたし達の教室では一つ席が空いていた

 

 窓際の一番後ろの、環那の席

 

リサ「エマ?今日は環那はどうしたの?」

エマ「......体調不良。目は覚めてるけど、まだ体力が回復しきってない。」

リサ「そうなんだ?」

友希那「あの環那が3日も動けないなんて、相当な体力を消費してたのね。」

 

 ......多分、違う

 

 友希那は気づいてないけど、エマがいつもより歯切れが悪い

 

 きっと、他に何かがあったんだ

 

 昨日は燐子が最後までいたはずだけど

 

リサ(うーん、どうしたんだろう。)

 

 環那がサボるときの理由は大体わかる

 

 何か悩んでる時だ

 

 それでも、学校まで休んだのは初めてだけど

 

友希那「リサ?」

リサ「あー、なんでもないよ。」

友希那「そう?」

リサ「取り合えず、お弁当食べよっか。エマも一緒に。」

友希那「えぇ、そうね。」

エマ「うん。」

 

 そう言って、あたしたちはそれぞれお弁当を広げた

 

 エマのお弁当は見た感じ、環那の手作りだった

 

 ちゃんと保護者としての責任は果たしてるみたいだけど

 

 あたしにはそれがあまりにも義務的に見えて

 

 少し、環那のことが心配になった

___________________

 

 “環那”

 

 ずっと感じてた

 

 俺の人生に転機が訪れてることは

 

 けど、見ないようにしてた

 

 姿を認識したら、本格的に始まる気がして

 

 もう少し、もう少しと、問題を先延ばしにしてた

 

環那(......ダメだなぁ、俺は。)

 

 散々偉そうにしてこのザマだよ

 

 ほんと、なんだ?この体たらくは

 

 ありえないでしょ

 

 これから人を育ってようってやつが

 

『__気づいてたんでしょ?』

環那(......そうだよ。)

『もう、君の中で友希那への執着はなくなってる。』

環那(知ってるよ。うるさい。)

『見つけっちゃったんだよね?友希那よりも大切な人達を。僕に命をくれた女の子よりも大切な人よりも大切な人達。』

環那(......うるさいって言ってんだろ。殺すぞ。)

『別にいいけど、いいの?今僕が死ぬと、壊れるよ?』

環那「......チッ。」

 

 我ながらウザイ

 

 何のメリットもなかったら殺してる

 

 ほんとにダルい

 

環那(てか、お前から見てどうなの?今の俺の友希那への感情って。)

『そりゃあ、信じがたいよ。僕は友希那が一番大切だし。』

環那(......だよね。)

『分かる、分かるよ?傷つきたくないんでしょ?永遠と思ってた友希那への愛が色褪せたことを認めて、傷つきたくないんだよね?』

環那(......)

『でも、それを認めないと、君はあの4人を選ぶことは一生できない。』

 

 分かってるけど見たくないものをズケズケと

 

 ムカつくよ

 

 ほんとに自分自身とは気が合わない

 

 死んでも友達にはなれないタイプだ

 

ノア「__なんだ、こんなところにいやがったのか。」

環那「っ!って、ノア君か。」

ノア「どうやら、いつも通りのようだな。」

 

 ノア君も気づいてるのか

 

 多分、篤臣さんあたりが話したのかな

 

 あの人くらいだもん

 

 あれの存在を知ってるの

 

ノア「だが、今日はもう1人の貴様に用がある。」

環那「!」

『おっと?』

 

 驚いた

 

 てか、あっちまで驚いてるし

 

環那(仕方ない。変わるよ。)

『そうだねー。仕方ないか。』

 

 入れ替わる、と言うのも少し語弊があるけど

 

 取り合えず、ノア君が用のある方にしよう

 

 “ノア”

 

環那「っと、僕に何か用かな?ノア。」

ノア「呼び方まで変わりやがるのか。(雰囲気がガラッと変わりやがった。)」

 

 こいつ、本気で多重人格なのか?

 

 口調だけならともかく、身に纏う雰囲気も変わった

 

 今までにいろんな人間は見てきたが、こんなのは初めてだ

 

ノア「用などない。ただ、貴様に興味があるだけだ。」

環那「そうなの?嬉しいなー。何か聞きたいこと__」

ノア「__ふんっ!」

環那「!(おっと。)」

 

 俺は一気に距離を詰め、奴に殴り掛かった

 

 常人なら見ていても反応できない速度で不意を突いた

 

 これならいくら奴と言っても__

 

環那「危ないなー(フワッ)」

ノア「!?(なにっ......!?)」

 

 音がなかった

 

 拳は受け止められている

 

 だが、衝突音は一切なく

 

 まるで羽にでも殴ったように音がなかった

 

環那「興味ってそっちの興味ー?まぁ、どっちでもいいけど。」

ノア(速さじゃない。なんだ、この違和感は?)

 

 自分の今までの鍛錬を否定された気分だ

 

 攻撃すらなかったことにされた気がする

 

 だが、やはりこいつはいつもの南宮環那じゃない

 

 なぜなら、隙だらけだからだ

 

ノア「はぁ......っ!!」

環那「おー(フワッ)」

ノア「っ!?(バカな!!)」

 

 不意を突いた蹴りも消された

 

 冗談キツイぞ

 

 殺気と違って、見えてない、後ろからの攻撃だぞ

 

 なぜそれにまで反応できる

 

ノア「貴様、なぜ......!?」

環那「なんで反応できるかって?」

ノア「......あぁ。」

環那「それは、見えてるからだけど。ごめん、傷ついちゃった?」

ノア「っ!!」

 

 浪平篤臣の言ってた通りだ

 

 スタイルも性格も全く違いやがる

 

 いつものこいつは相手の感情なんて考えねぇ

 

 だが、こいつは明らかに感情を感じてやがる

 

 それにスタイルも、いつもの奴なら回避するはずだ

 

 だが、こいつは全部受け止めてやがる

 

環那「君は強いよ?」

ノア「余計な気を遣うな。」

 

 俺は奴から飛びのいた

 

 ただでさえ馬鹿げた強さだってのに

 

 こいつはさらにレベルが違いやがる

 

 いつも奴を秩序を作り、統率するルーラーとするなら

 

 こいつは全ての秩序を破壊する、ルールブレイカーだ

 

ノア「答えろ。貴様はなぜ、今まで出てこなかった。貴様の力なら、今まで起きたトラブルなどすべて1人で解決できたはずだろう。」

環那「......まぁ、そうかもしれないね。」

ノア「なら、なぜ今まで隠れていた。」

環那「うーん、そうだなー。」

 

 奴は考えるような仕草を見せた

 

 こいつ、いつもよりも遅いな

 

 それに、頭脳の方もいつもより下だ

 

環那「使いたくなかったから。」

ノア「は?」

環那「分かってたんだよ。いつも君が見てる僕が作った計算式見て、僕が出れば事態は動くだろうって。」

ノア「!」

 

 こいつら、お互いの能力を一気には使えないのか

 

 情報共有は出来るみたいだが

 

環那「きっと、僕も使うつもりはなかったと思うよ?けど、どうしようもない状況になったから使ったんだ。その結果、僕の運命は動き出した。」

ノア「......なに?」

環那「仕方のないことなんだよ。運命って言うのは誰にでも平等に訪れるんだから。」

 

 そう言う奴の表情は少し寂しそうに見えた

 

 いつも以上によくわからんな

 

 なんなんだ、こいつは

 

環那「さて、今日のところはこれで終わりかな。」

ノア「!?」

環那「悪いね、長くお話しできなくて。」

ノア「な、おい、待て__」

環那「......タイムオーバーだ。」

ノア「!」

 

 この雰囲気、いつもの奴に戻ったか

 

 結局、もう1人の奴については強さしか分からなかった

 

環那「どうだったかな?ノア君。」

ノア「よくわからん。」

環那「あはは、そっか。」

 

 こいつのこの感じがなぜか落ち着くな

 

 あっちはこいつに比べて幼い気がして

 

 すごいやりずらかった

 

環那「まぁ、君が知れるのはここまでだ。」

ノア「......仕方ない。」

 

 これ以上の情報は引き出せないな

 

 まぁ、いいだろう

 

 もう1つの目的にシフトする

 

ノア「貴様に1つ、忠告しておく。」

環那「忠告?」

ノア「まだ、なにも終わっていないぞ。南宮はまだいる。」

環那「!」

 

 俺はそれだけ言って、その場を後にした

 

 今回ばかりは俺も奴に手を貸すことになるかもしれん

 

 それまでに、もう少し鍛錬を積むことにするか

 

 

 



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お勉強

 翌日、俺は学校に来た

 

 昨日の話を聞いて、いつまでも大人しくしてられない

 

 体力も回復したし、もう大丈夫だ

 

リサ「あっ、環那。」

環那「おはよう、リサ、友希那。」

リサ「おはよ、環那、エマ!」

エマ「おはよう。」

友希那「もう、体調は大丈夫なの?」

環那「うん、大丈夫だよ。」

リサ「そっか!よかった!」

 

 心配そうな2人にそう答えた

 

 無くなったエネルギーは補填したし

 

 いつも通りの活動は出来る

 

リサ「てか、そろそろテストだよ~。環那とエマは、って大丈夫か。」

エマ「問題ない。」

環那「まぁ、いけるでしょ。」

リサ「天才って便利だよね。」

友希那「羨ましい限りよ。」

 

 まぁ、卒業単位の計算はしてるし

 

 どっちにしても卒業は出来るけどね

 

リサ「そんな余裕な2人に朗報!」

環那、エマ「?」

リサ「なんと、中間テストが終わったら、すぐに文化祭があります!」

環那「お、おぉ(?)」

エマ「......そう(テンション高い。)」

 

 今日のリサはいつになくテンションが高い

 

 まぁ、イベントが好きな子だし

 

 よく知ってる俺からすれば納得なんだけどね

 

リサ「2人はどんな出し物したい?」

環那「3人が楽しければなんでもいいんじゃない?」

エマ「......お化け屋敷。」

友希那「!?(あのエマが......!?)」

リサ(自分の意見言った!?......てか、可愛いっ!!)

環那(珍しいな......って、あ、そういうことか。)

 

 遊園地のお化け屋敷、気に入ったんだ

 

 まぁ、珍しく楽しそうだったし

 

 今もたまにホラー映画見てるみたいだし

 

 怖いものそのものにハマりだしたのかな

 

エマ「やってみたい。」

リサ「い、いいんじゃないかな!?うん!」

友希那「あら、リサは怖いものが__」

リサ「わ、わー!わー!あたし、怖いもの大好きー!」

友希那「むぐぐ(エマが可愛いから引くに引けなくなってるじゃない。)」

 

 リサって結構、エマに甘いよね

 

 妹みたく思ってるのかな

 

 仲がいいなら何よりだけど

 

環那「まぁ、良いんじゃない?お化け屋敷。」

エマ「うん......!」

環那「でも、自分でちゃんと言うんだよ?リサ、出し物の案っていつ出すの?」

リサ「え、今日だけど?」

環那「体育祭の時もそうだけどさ、俺が知ったその日に決めること多くない?」

 

 昨日休んでたから仕方ないんだけどさ

 

 琴ちゃんも教えてくれたらよくない?

 

 まぁ、大方忘れてたんだろうけど

 

リサ「てか、環那は文化祭は嫌じゃないんだね?」

環那「え?いや、普通に好きじゃないけど。」

リサ「えぇ!?」

環那「でもさ、エマが楽しそうだし、我が儘も言ってられないでしょ。」

エマ「ん......っ///」

 

 俺はエマの頭を撫でた

 

 この子の思い出の為だ

 

 ある程度の協力は惜しむ気はない

 

環那「さてと、俺はちょっと琴ちゃんの所行ってくるよ。」

リサ「今日もお弁当忘れてるの?」

環那「そうそう。なんか、終わってない仕事あったらしくて。」

友希那「教師も大変ね。」

環那「そうだねー。じゃあ、行ってくる。」

 

 俺はそう言って、教室を出た

 

 さて、文化祭か

 

 一応、警戒しつつ、動こうか

___________________

 

琴葉「__と言うわけで!文化祭ですよ!文化祭ー!」

 

 あれから時間が経ち、ホームルームの時間になった

 

 さっきまで死にそうな顔をしてたとは思えないほど、琴ちゃんは大盛り上がりだ

 

 予備のバッテリーでも持ってきてるの?

 

琴葉「何かやりたいことがある人は手を挙げてー!」

環那(お、来た来た。エマは。)

エマ「ん......」

琴葉「エマちゃん?」

(ザワザワ)

 

 エマは恥ずかしそうに手を挙げた

 

 今までクラスの話し合いには付かず離れずだった

 

 そんなエマの今の様子にクラスはザワついてる

 

エマ「意見、ある。」

クラス「!?」

琴葉「え、えっと、どうぞ?(あのエマちゃんが、意外ですね。)」

エマ「お化け屋敷、したい。ダメ......?」

 

 お、おぉ、ちゃんと言い切った

 

 エマは所謂コミュ障ってやつで

 

 人前とかではあんまり話せないのに

 

 話すのは嫌いじゃないんだけど

 

クラス男子(お、おっふ......)

クラス女子(か、可愛い......!///)

琴葉「あ、え、えっとー、お化け屋敷との案が出ましたが、賛成の人ー?」

クラス全員(バッ!!!)

琴葉(はや!?)

環那(おーう。)

 

 示し合わせてたみたいに一斉に手が上がった

 

 やっぱり、可愛いってステータスは最強だ

 

 クラス位の範囲なら何でもできる

 

琴葉「えっと、じゃあ、クラスの出し物はお化け屋敷で決定ということで。文化祭の準備期間はテストが終わってからなので、皆さん、頑張りましょう!」

 

 と、そのテスト関係で死にそうな顔してた琴ちゃんの話で締めくくり、ホームルームが終わった

 

 まぁ、俺は各方面の面倒見ないとだし

 

 ちょっとばかり、頑張らないと

___________________

 

 それからさらに時間が経って放課後

 

 俺は図書館に来てる

 

 目的はもちろん、問題児の勉強を見る為だ

 

メリ「うぁー、疲れたー......」

環那「ふーむ、10問中7問か。まぁ、頑張った方なんじゃない?」

メリ「この鬼畜野郎ー......」

環那「はいはい。文句言う暇あったら次の教科。」

メリ「お前ロクな死に方しねぇぞ。」

環那「それは楽しみだ。」

 

 まぁ、無駄口を叩きつつも教科書は手に取ってるし

 

 成長はしてる方でしょ

 

 ほんの1か月しか経ってないけど

 

燐子「あれ、環那君......?」

紗夜「何をしてるんですか?」

イヴ「カンナさん!こんにちは!」

環那「燐子ちゃんに紗夜ちゃん?それに、イヴちゃんも?」

 

 その後ろには白鷺千聖に彩ちゃんもいる

 

 中々、異色なメンバーだ

 

環那「5人ともこそ、何の用でここに来たの?」

紗夜「どうしたもなにも、テスト勉強ですよ。今回の合同文化祭の日程を羽丘学園に合わせるのにあたって、こっちのテスト期間が例年より早くなってるんですよ。」

環那「あー、そういうこと。」

 

 合同文化祭については初耳だけど

 

 まぁ、大体予想はつくかな

 

 折角、体育祭もしたし、このまま仲良くしようって感じか

 

環那「それで、授業が駆け足気味になって、あまり理解してないままテストに入ったわけね。」

紗夜「察しがいいですね。まさにその通りです。」

環那「ふーむ。」

千聖「今回は流石に少し厳しいわね。日菜ちゃんに聞こうと思ったけれど、あの子は人に教えられないし。」

 

 あ、余裕で想像ついた

 

 確かにあの子、教えるの下手そう

 

 絶対に悩まないタイプの天才だもん

 

環那「ふーむ、皆は何に困ってるの?」

燐子「皆みんな理系科目と英語かな......?」

紗夜「私も似たような感じです。」

千聖「そうね。暗記はどうにでもなるもの。」

イヴ「数学がトンチンカンです......」

彩「全教科......」

 

 まぁ、彩ちゃんはともかくとして

 

 それ以外の皆は意外と大丈夫そうかな

 

 そのくらいの教科数なら

 

環那「俺が見ようか?」

千聖「あら、いいのかしら?そちらの子も見てるようだけど。」

環那「別に何人いても一緒だからね。数学と英語なら余裕だし。」

彩「さ、流石、社長さん......」

イヴ「カンナさんはすごい人ですから!」

環那「まぁ、空いてるし座りなよ。」

 

 そう言うと、5人はそれぞれ席に着いた

 

 元からメリちゃんが前に座ってて

 

 俺の両サイドは燐子ちゃんとイヴちゃんと言う

 

 まぁ、なんとも嬉しい状況になった

 

千聖(イヴちゃん、もう少し気を付けて......)

彩(わぁ、モテモテだー。)

環那「さて、勉強しようか。分からないところがあったら何でも聞いて。数学英語なら大体わかるから。」

メリ「あーしとの扱いの差、ひどくね?」

環那「君はちょっとやそっとじゃ周りに追いつかないからだよ。」

メリ「鬼畜野郎(2回目)」

 

 それから、7人での勉強会が始まった

 

 友達同士が集まったら喋ってばかりで勉強にならないってよく聞いたけど

 

 このメンバーじゃそういうこともなく

 

 終始真面目に勉強会は進んだ

 

 

 



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文化祭準備

リサ「__おーわったー!」

 

 あれから一週間が経って、テストが終わった

 

 全員、何とか乗り切れたっぽい

 

 恐らく、花咲川の皆もメリっちも大丈夫でしょ

 

リサ「文化祭だよ!文化祭!」

環那「そう言えば、今日から準備始まるんだっけ。」

リサ「そうそう!」

 

 文化祭の準備期間は一週間ほど

 

 それくらいあれば十分でしょ

 

 特にうちは準備に前向きなのが多いし

 

リサ「よし!じゃあ、行くよ!環那!」

環那「え、どこに?」

リサ「そりゃあ、必要な機材とか材料とか!」

環那「あー、なるほど。荷物持ちってわけね。」

リサ「そういうこと!」

 

 相変わらず、人使いが荒い子だ

 

 まぁ、別にいいんだけど

 

リサ「行くよ!」

環那「はいはい。友希那、エマ、行ってくるよ。」

エマ「私も。」

環那「いいや、他の所を手伝ってあげて。エマがいれば、クラスが回りやすいし。」

エマ「うん。」

友希那「行ってらっしゃい、2人とも。」

 

 2人に見送られ、俺とリサは教室を出た

 

 さて、一体に何を持たされるんだか......

___________________

 

 正面玄関の方に来ると、大きな段ボールがあった

 

 ......しかも5個!

 

 他のクラスのも混ざって__

 

リサ「じゃあ!これ運んでね!」

 

 ないですよね

 

 てか、いつの間にこんなの準備してたの?

 

 恐らく、注文したのは琴ちゃんだろうけど

 

環那「うわー、普通に重そう......」

リサ「泣き言言わない!男子でしょ!」

環那「男子は男子も、一部の筋肉ゴリゴリ男子しか持てないよ?こんなの。」

リサ「じゃあ、環那は出来ないの?」

環那「いや。」

 

 俺はそう言って段ボール5個を持ち上げた

 

 いや、そりゃあね?

 

 出来るか出来ないかで言ったら出来るよ?

 

 でもさ、ちょっと面倒じゃん?

 

リサ「環那もこれで筋肉ゴリゴリ男子だね!」

環那「自分で言っといてなんだけど、なんか嫌だねそれ。」

リサ「あはは!環那の柄じゃないよね!」

環那「そうだよね。」

 

周りの生徒(なんであんなの持ちながら涼しい顔してるんだ......?)

 

 持った感じ、いろんなものが入ってる

 

 結構、マジな感じでやるみたいだ

 

 まぁ、そっちの方がエマも喜ぶでしょ

 

環那「てか、なんでリサはついて来たの?」

リサ「え?何となくだけど。」

環那「あ、はい。」

 

 まぁ、そんなことだと思ったよ

 

 昔から何かと一緒にいたがる子だったし

 

環那「じゃあ、さっさと運んじゃおっか。」

リサ「うん!頑張れ☆」

環那「はいはい。頑張りますよ、お姫様。」

リサ「!?///」

環那「ん?」

 

 リサがいきなり固まった

 

 な、なんだ?

 

 元気になったり固まったり、忙しいな

 

リサ「い、いきなりそう言うのはちょっと......///」

環那「今さら?」

 

 耐性なさすぎじゃない?

 

 軽い冗談だったのに

 

リサ「さ、流石に恥ずかしいじゃん!///お、お姫様とか......///」

環那「まっ、俺にとっては似たようなものだよ。俺を使える人間なんてリサを筆頭に数人だけだよ?」

リサ「ほんとに......もう///」

 

 さて、冗談も程々にしないと

 

 あんまり友希那とエマを待たせるわけにもいかない

 

 さっさと戻ろう

 

環那「行くよ、リサ。」

リサ「う、うん///」

 

 俺は顔を赤くしたリサにそう言い

 

 教室に向かって歩き出した

 

 リサの扱いには慣れてるけど

 

 こういう可愛い所はいつ見てもいいなぁ

___________________

 

 “リサ”

 

 と言うことがあったけど、文化祭の準備が始まった

 

 環那に遊ばれたのは置いといて

 

 テンション上げて頑張って行こう!

 

リサ「エマー!何か手伝うことある?」

エマ「......絆創膏が欲しい。」

リサ「え!?どうしたの!?怪我でもしたの!?」

エマ「うん......」

 

 エマはノソっとした動きで振り向いて来た

 

 その時だった

 

エマ「口が切れちゃって、痛い。」

リサ「きぁああああ!!!」

 

 エマの口元が大きく切れてた

 

 まるで大きな刃物で切ったみたいに

 

 しかも大量に血も出てて

 

 あたしは慌てて、教室に置いてある救急箱を取りに行った

 

リサ「あ、あれ!?救急箱は!?」

環那「どうしたの?リサ。」

リサ「か、環那!ちょうどよかった!エマが怪我してて、救急箱知らない!?あと、救急車も__」

環那「ねぇ、リサ。俺も探し物してるんだよね。大切なものなんだけど、ついなくしちゃって。」

リサ「え、どうしたの?って、今、そんな場合じゃないよ!」

環那「いや、ほんとに困るんだって。」

 

 環那は本気で困ったような声をしてる

 

 え、どうしたの?

 

 あの環那がこんな声出すなんて、絶対にやばいじゃん

 

 そう思って、あたしはバッと振り返った

 

環那「右腕失くしちゃったんだけど、どっか落ちてなかった?」

リサ「ひゃあああああああ!!!」

 

 腕!?腕なんで!?

 

 てか、エマも環那も重症じゃん!

 

 どっちから助ければ__

 

エマ(パーン!)

リサ「__え?」

エマ「ドッキリ。」

環那「だいせいこーう☆」

リサ「へ?」

 

 あたしが焦ってると

 

 エマがいきなりクラッカーを鳴らした

 

 え、なに?ドッキリ?

 

エマ「これは特殊メイク。本番用に試してみた。」

環那「この義手、取り外しできるんだよ。いやぁ、それにしても、面白いくらい怖がってたね。」

エマ「うん、大成功。」

リサ「大成功じゃなーい!」

 

 あたしはそう叫んだ

 

 本気で心臓止まりそうだったんだけど

 

 この天才兄妹はなにしてるわけ?

 

リサ「バカ!バカバカバカ!」

環那「あははー。」

エマ「中々に面白かった。本番もこの調子で行こう。」

リサ「心臓止まるよ!?」

 

 あたしは2人に向かってそう叫んだ

 

 あんなのしたら年齢制限かかるよ!

 

 子供が見たらトラウマになるよ!?

 

友希那「リサ?何を騒いでるの?」

リサ「友希那?聞いてよー、環那とエマが__」

友希那「驚いて、目が取れてしまったわ。」

リサ「」

 

 その瞬間、目の前が真っ暗になった

 

 ダメだ、これ、ガチすぎる

 

 天才が本気になったらこうなるんだ

 

 どうしよ、テンション上げてたのに

 

 正直、もう、胃が痛い......

 

 “環那”

 

環那「おっと。」

 

 俺は倒れたリサを受け止めた

 

 ちょっとやりすぎたかな?

 

 まぁ、リサが特別怖がりなだけだと思うけど

 

友希那「すごいわね、これ。一瞬本物に見えるわ。」

エマ「実際のホラー映画で使われるものにも負けないクオリティだと思う。」

環那「でも、作りこんでるうちに少しだけサイズが大きくなったかもね。直径24mmくらいに出来たら完璧かな。」

エマ「なら、基礎の部分を少し縮小して......」

 

 エマは楽しそうに眼球の調整を始めた

 

 楽しそうで何よりだ

 

環那「......さて。」

 

 俺は抱きかかえたままのリサを見た

 

 このままにしててもあれだし

 

 取り合えず、保健室には運ぼうか

 

 そう思い、俺は教室を出た

 

 

 その30分後

 

 俺とエマと友希那が目覚めたリサに説教を食らったのは

 

 まぁ、言うまでもないね

 

 

 



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開いた距離

 翌日も俺は文化祭の準備で学校に来てます

 

 取り合えず、もうドッキリはしない

 

 ドッキリはしない(強調)

 

あこ「あ!環那兄!」

環那「あこちゃん?どうしたの?」

 

 準備を始めて数分ほどすると

 

 あこちゃんが1年生のフロアの方から来た

 

 一体何の用だろう

 

あこ「あのね!環那兄に言っておかないといけないことがあったの!」

環那「俺に?それはなに?」

あこ「10月17日って何の日でしょー?」

環那「10月17日?」

 

 ......何の日だ?

 

 どうしよ、本気で分からないぞ

 

環那「えっと、何の日かな?」

あこ「答えはー......りんりんの誕生日でーす!」

環那「なんだって!?」

あこ「わっ!びっくりした!」

 

 ふ、普通に知らなかった

 

 てか、17日?

 

 あと8日しかないんだけど?

 

環那「くっ、不覚だった......!俺が燐子ちゃんの誕生日を知らないなんて......!日本国民の必修科目なのに......!(?)」

あこ「環那兄って偶に変だよね。」

 

 あれ、あこちゃんってこんなに辛辣な子だっけ?

 

 原因は俺が変だからなんだけど

 

あこ「まぁ、いいや。それでさ、りんりんの誕生日って文化祭2日目と被るんだよね。」

環那「確かにそうだね。」

 

 文化祭と被るとなると、今まで見たいにパーティーと言うのもキツイ

 

 日を改めるって言うのもいいけど

 

 それもなんだか普通過ぎる気がする

 

 何より、当日にお祝いしたい

 

環那「んー......あっ、そうだ。」

あこ「何か思いついたの?」

環那「アイディア程度だけど、こういうのはどうだろう。」

 

 俺はあこちゃんに思いついたアイディアを説明した

 

 ある程度、実現できる範囲を保ってるし

 

 悪くはないと思う

 

あこ「すっごく良いと思う!楽しそう!」

環那「よしっ、なら、色々と準備しよう。」

あこ「でも、大丈夫なの?学校でそんなに好き勝手出来ちゃう?」

環那「大丈夫大丈夫。何も言われないよ。」

あこ(あ、そうだった。環那兄ってこんなだった。)

 

 となると、あとはプレゼントか

 

 正直、これの方が問題だ

 

 何にすればいいのか全く分からない

 

 毎回、これには悩まされる

 

環那「あこちゃん、リサ達にもこのことは話しておいてほしいな。」

あこ「うん!他の呼びたい子にも声かけて良い?」

環那「いいよ。好きなだけ呼んでおいで。」

あこ「うん!じゃあ、あこ、行くね!」

環那「またね。文化祭、楽しむんだよ。」

 

 あこちゃんは大きく手を振りながら走って行った

 

 子供は元気でいいね

 

 俺には真似できない

 

リサ「__なーにほっこりしてんのー?」

環那「リサ?いたの?」

リサ「結構前からね。」

 

 じゃあ、さっきの話も聞いてたのかな?

 

 だったら混ざればよかったのに

 

リサ「燐子のプレゼントどうしようかなーって考えてるでしょ?」

環那「なんで分かるの?表情そんなに変わってないと思うけど?」

リサ「いや、それくらいしか考えることないじゃん。」

環那「それもそっか。」

 

 そんな会話の最中、リサの頬が少し膨らんでるのが分かった

 

 いや、少しじゃない、結構あからさまだ

 

 目もなんかジトーってしてる

 

環那「......ど、どうしたの?」

リサ「なんでもー。燐子もあたしと同じくらいのプレゼント貰っちゃうんだーとか思ってないしー。」

環那(ヤキモチか......)

 

 いつもお姉さんぶってるリサにしては珍しい、と周りの人間は思うだろう

 

 まぁ、俺からすればいつも通りなんだけどね

 

 昔からこういうこと言う子だったし

 

環那「まぁ、それはね。リサは特別だけど、燐子ちゃんも特別だから。」

リサ「......女タラシ、スケベ、変態。」

 

 俺を軽く小突きながら、そんなことを言ってくる

 

 ひどい言い草だなぁ......

 

 まぁ、仕方ないか......

 

リサ「雰囲気イケメン、不運、歌唱力壊滅。」

環那「一つは褒めちゃってるけどいいの?」

リサ「いいの!バカ!ほら、準備するよ!」

環那「へ、へーい。」

 

 俺はリサに引っ張られて教室に戻った

 

 これ、ご機嫌取りしないとダメなやつだ

 

 今回は一体、何時間かかることやら

___________________

 

 “友希那”

 

 文化祭の準備は順調に進んでる

 

 エマの指示が的確で、皆が動きやすくなっていて

 

 本当に、すごい子なんだと思う

 

リサ「環那ー!ちゃんとやってるー?」

環那「やってるよ。ほら。」

リサ「や、やけにリアルだね。」

環那「そうでしょ?結構自信作なんだよ。内臓セット。」

リサ「......いや、本気でヤバくない!?どうやって作ったの!?」

環那「それは企業秘密。」

 

 環那も楽しそうにしてる

 

 作ってる物は置いておいて

 

友希那(あんなに楽しそうな環那、今までで初めてね。)

 

 つい、頬が緩んでしまう

 

 この間は色々あったけれど、今の環那は周りに恵まれてる

 

 幸せそうにしてる

 

友希那(よかった。)

 

 環那は今まで、私を幸せにするために頑張ってくれた

 

 だから、私は環那の幸せを祈ってる

 

 十数年も私に縛られた分、これからも幸せであった欲しい

 

友希那(......あら?)

 

 そんなことを考えながら作業をしてると

 

 一つ、道具が足りないことに気づいた

 

 どこにあるのかしら?

 

友希那(環那に聞けばいいわね。)

 

 私はそう考え、ゆっくりと立ち上がり

 

 環那の方に歩いて行った

 

 このくらいの距離なら気づく

 

 そう思い、少し歩いて、私は声を出した

 

友希那「環那__」

 

エマ「お兄ちゃん。これからのスケジュールについて話したい。」

環那「ん?あぁ、変更点あった?」

エマ「4日目なんだけど、このペースならもう少し前倒しに出来ると思って。」

環那「あー、そうかも。少しだけスケジュールいじろうか。」

エマ「なら、ここの予定をこっちにもってきて......」

 

 ......少し、ほんの少し、不満があるとするなら

 

 最近、環那との距離が開いたこと

 

 もう、環那の目には色んな人が写って

 

 私だけに優しい存在ではなくなったこと

 

友希那「......」

 

 幸せになってほしいけれど、恋しい

 

 私への気持ちが薄くなっているのが悲しい

 

 そう思う自分に嫌気がさす

 

 それは結局、都合の良い人間がいなくなるのが嫌だと思っているんじゃないかと

 

 幸せになってほしい、けど私が1番であってほしい

 

 そう思う自分が気持ち悪い

 

友希那(......分からないわ。)

 

 自分の気持ちが分からない

 

 小学校3年生に抱えた環那への好意が信じられない

 

 優しい環那が好き、と言うのを疑問に感じる

 

 優しいとは何?自分にとって都合がいいということ?

 

 今までの自身の幸せを無視して尽くしてくれる環那が好きなの?

 

エマ「__ありがとう、お兄ちゃん。これでスケジュールを決定できる。」

環那「そうだね。けど、もう少しプランを用意するべきかもね。また家に帰ってから考えよう。」

エマ「うん。」

 

友希那「!」

 

 2人の話が終わった

 

 取り合えず、道具の場所を聞かないと

 

 そう思い、私はいつも通り、環那の肩に触れようと手を伸ばした

 

友希那「......?」

 

 けれど、その手は環那の肩に触れず

 

 空中で完全に静止してしまった

 

 時間が止まったように動かない

 

友希那(これは......?)

環那「ん?友希那?どうしたの、固まってるけど。」

友希那「え、あ、いや......」

 

 上手く言葉が出ない

 

 小さい時、悪いことをした時の感覚に似てる

 

環那「?」

友希那「......このリストに載ってる道具が、ないの。」

環那「えっと......あ、これだね!ちょっと待って!」

友希那「え、ある場所を言ってくれれば......(もう、あんなところに......)」

 

 気持ち悪い

 

 自分で行こうとしたのに環那を動かしてしまって

 

 それをするべきじゃない、申し訳ないと思う

 

 なのに、環那が私のために動いてくれるのが嬉しい

 

 そんな思考と気持ちの差異が気持ち悪い

 

環那「はい!これでいい?」

友希那「え、えぇ。ありがとう。」

 

 私は道具を受け取った

 

 その時も環那は不思議そうに首を傾げ

 

 心配そうに声をかけてきた

 

環那「大丈夫?体調が悪いなら、保健室行きなよ?」

友希那「問題ないわ。大丈夫。」

環那「そう?」

 

 いつまで、私は環那を心配させるの?

 

 いや、心配してほしいと思ってるの?

 

 気持ち悪い、こんなの私じゃない

 

友希那「環那......」

環那「どうしたの?」

友希那「お願い......」

 

 今日の私は変よ

 

 暗いことばかり考えて、焦って

 

 地に足がついてなくて、上手く思考することができない

 

 だから今も、深く考えて喋ってない

 

 そんな私の口から出た言葉は、これだった

 

友希那「もう、私に優しくしないで......」

環那「え?」

 

 そんな最低な言葉を吐いてから

 

 私は逃げるように環那から離れた

 

 その間もずっと、環那は困った顔をしてた

 

 私がおかしなことを言ったから......

 

 そう思うと、更に自分が嫌になった

 

 

 



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相談

環那「ねぇ~、聞いてよ~......」

紗夜「......」

 

 ここは花咲川学園生徒会室

 

 そう、そのはずなのです

 

 でも、なぜか彼がいます

 

 しかも、ひどく落ち込んだ様子で

 

環那「友希那にさ、もう優しくしないでって言われたんだよ......」

紗夜「聞くとは言ってないんですが。」

環那「いいじゃん!紗夜ちゃんの好きなポテト、好きなだけ奢るから!」

紗夜「うるさいですよ......聞きますから、もう少し静かに喋ってください。」

 

 あまりにもうるさいので、根負けしました

 

 彼がここまで悩むのも珍しいというのもありますし

 

 仕方ないので聞いてあげましょう

 

紗夜「それで、なんでしたっけ。湊さんに優しくするなと言われたんでしたっけ?」

環那「そうなんだよ......」

紗夜「あなたの過干渉が嫌になっただけでは?」

環那「そんな!?別にそんなでもなかったと思うんだけど......」

紗夜「前までのあなたは普通に気持ち悪かったですよ。」

環那「酷い!」

 

 と言うのは世間一般の意見で

 

 別に湊さんはそんな風に思っていなかったはずです

 

 なのに、昨日いきなり優しくするなと言われた

 

 何かあったのかと考えるのが自然ですね

 

 って、こんなに考える前に

 

紗夜「取り合えず、あなたはいつも通りに喋ってください。調子が狂うので。」

環那「......ダメだった?」

紗夜「キモイです。」

環那「辛辣すぎない?」

 

 彼の雰囲気が変わりました

 

 今井さん達から彼の多重人格のことは聞きましたが

 

 本当は2人格じゃなくて5人格くらい入ってるんじゃないですか?

 

紗夜「今回の相談は白金さんには聞かせられない内容と言う認識でいいですね?」

環那「察しが良くて助かるよ。」

 

 まぁ、察するというほどでもありません

 

 彼は私にはエマさんに関する相談しかしません

 

 それ以外は今井さんか白金さんかエマさんに相談します

 

 にもかかわらず私に来たということは、他に話せない事情があるということになります

 

環那「燐子ちゃんにはちょっと、痛い所を突かれてね。」

紗夜「それが今回の湊さんの発言と関係があると?」

環那「まぁ、関係あると言えばあるし、ないと言えばないって感じ。」

 

 珍しいですね

 

 曖昧な物言いはよくしますが

 

 本気で分からなそうにしてるというのは

 

 いつもの何もかも見透かしてるような雰囲気を感じません

 

環那「最近感じてたんだよね。俺の中で友希那っていう存在の大きさが変わってるって。」

紗夜「......!」

環那「だから痛かったよ、燐子ちゃんにそこを突かれて。胸に風穴空いたと思った、マジで。」

 

 あの白金さんが......?

 

 にわかには信じられませんね

 

 良くも悪くも彼には特に優しかったのに

 

紗夜「それは、湊さん以上に大切な人が現れたということですか?」

環那「......やっぱり、そう言うことになっちゃうのかな。」

紗夜「認めたくなさそうですね。」

環那「そりゃあね。友希那への思いは永遠だと思ってたから。」

 

 永遠......

 

 彼の境遇を考えればそうなのでしょうか

 

 湊さんは彼にとって神であると聞いたことがあります

 

 そんな人への愛は永遠であると思っていたのでしょう

 

 でも、実際は違った、と

 

紗夜「変わらない人間などいませんよ。」

環那「!」

紗夜「成長にしろ、退化にしろ、人は変化していくものですから。」

環那「......そっか。」

 

 彼は寂しそうな声でそう呟きました

 

 おかしな話ですね

 

 彼は何かを変えられるだけの力を持っているのに

 

 自分の変化となるとてんでダメだなんて

 

環那「__そうだね、認めるしかない。」

紗夜「!?」

環那「おっと、失礼。」

 

 一瞬、そこに誰がいるか分かりませんでした

 

 大袈裟でもなんでもなく、背筋が凍りました

 

 見た目は変わらない、けれど雰囲気が全く違う

 

 ドッペルゲンガーと言われたら信じてしまうでしょう

 

 それほどに一瞬で彼は変化したんですから

 

環那「初めまして、紗夜。」

紗夜「......あなたが、もう1人の南宮君ですか?」

環那「うーん、そう言うのは少し語弊があるけど、まぁ、紗夜にとってはそっちの方が納得いくかな。」

 

 対面したらわかりますが、別人ですね

 

 いつもよりも幼いというか、表情豊かと言うか

 

 人間味や生命力を感じます

 

 それと、語弊があるとは......?

 

環那「それで、僕が友希那をどう思ってるかって話だね?」

紗夜「は、はい。」

 

 気を取り直しましょう

 

 いつもよりも人畜無害そうに見えますし

 

 話は出来るでしょう

 

環那「ハッキリ言って、僕はもうリサや燐子や琴葉やイヴの方が大切だと思ってるよ。」

紗夜「!」

 

 今まで彼が出せなかった答えをあっさりと

 

 いや、違いますね

 

 ただ、素直なんです

 

 自分が置かれた現状を素直に受け入れて、素直に答えを出す

 

 通常に彼に比べて、思考がシンプルなんでしょう

 

環那「でも、結局、友希那も大切だから僕はそっちも捨てられない。そういう状況なんだよ。」

紗夜「......なるほど。」

環那「そこでだよ、これから僕には何が訪れると思う?」

紗夜「え?」

 

 いきなり投げかけられた問

 

 全く意味が分かりません

 

 これからの彼に何が訪れるのか?

 

 そんなこと、知ってるのは未来人だけです

 

紗夜「分かるわけないでしょう。」

環那「そうかな?簡単だよ?」

紗夜「じゃあ、あなたには分かると?」

環那「分かるよ。答えは、選択。分岐点さ。」

 

 彼は笑いながらそういいました

 

 分岐点......?

 

 それが、彼に訪れると?

 

環那「人生と言うのは選択の連続だと思うんだ。小さい選択肢の積み重ねで、未来は変わる。けど、極稀に一つだけで人生を一変させる選択肢が訪れる。」

紗夜「それが、近々来るというのですか?」

環那「え、分からないけど。」

紗夜「!?」

 

 ここまで来て!?

 

 こういうところは元の南宮君と似てますね

 

 やはり、どっちもまともじゃありません

 

環那「ただ一つ、言えることがあるとすれば、僕が出た時点で運命は動き出してるってこと。」

紗夜「!」

環那「必ず来るよ、何か......そして、その時には。」

紗夜「?(なんですか?)」

 

 線香花火が落ちる一瞬のような

 

 熱くも儚い雰囲気

 

 こんなことを感じるのは初めてです

 

環那「じゃあ、そろそろ行くよ。僕が出てられる時間もそろそろ切れるし。」

紗夜「......えぇ。」

環那「じゃあね。」

 

 彼はそう言って部屋を出て行きました

 

 白金さんに見つからないであろう時間ピッタリ

 

 らしいですね

 

紗夜(......苦労が絶えませんね、彼は。)

 

 彼がどういう運命を辿るのかは分かりません

 

 ですが、悪いことにはならないでしょう

 

 彼がどうこうなる場面なんて、想像できませんから

___________________

 

 “ノア”

 

「ぎゃああああ!!!」

ノア「......ふぅ(どういうことだ。)」

 

 羽丘学園の周り

 

 その至る場所に覗きのような気配を感じ

 

 取り合えず、全てに対処したが

 

 明らかに不自然だな

 

ノア(ふむ。)

 

 全員から押収したカメラを確認すると

 

 そこにはエマを始め

 

 奴の周りにいる女の映像が多くある

 

 ただの盗撮と判断するか、それとも......

 

ノア(......何か不穏なものが動いてるな。)

 

 動きが素人ではない

 

 俺の予想する人間とは少し行動にズレがある

 

 どう考えるべきか......

 

 いや、ともかく、しばらくは警備の強化が必要だ

 

 俺はそう考え、取り合えず、元の場所へ戻った

 

 

 



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 最近、環那と友希那の距離が開いてる気がする

 

 環那はずっと悩んでる感じだし、友希那は環那を避けてるし

 

 2人に何があったんだろ?

 

リサ(んー。)

 

 2人が喧嘩ってのは考えずらい

 

 今まで結構一緒にいるけどそんなことはなかったし

 

 友希那が怒っても、環那は丸め込んじゃうし

 

リサ(環那が悩んでるっぽいのがなぁ。)

 

 なんかただならぬ雰囲気だし

 

 折角仲直りしなのに......

 

 ほんと、次は何なんだろ......

 

琴葉「ぶち当たってますね、壁に。」

リサ「浪平先生?」

琴葉「今井さんも気にしているんでしょう?南宮君と湊さんの事を。」

リサ「まぁ、そうですね。」

 

 浪平先生も気づいてたんだ

 

 まぁ、生徒のことはちゃんと見てる人だし

 

 当然っちゃ当然なのかな

 

リサ「それで、壁って何のことですか?」

琴葉「今まで一番大切にしてきた人と距離が出来て、外と内で起きてる変化に戸惑ってるように見えます。」

リサ「変化、ですか。」

 

 確かに、環那って構成物質に友希那が入ってるんじゃないかってレベルだったし

 

 そんな友希那と距離が出来たら

 

 それは、人生そのものを変えるほどの変化なのかもしれない

 

琴葉「あの化物レベルの力を手に入れる切っ掛けになったほどの人です。いくら他に好きな人が出来ても、根底にはやはり湊さんがいたのでしょうね。」

リサ「......まぁ。」

 

 それはそうだ

 

 あたし達のこと好きって言い始めてからも

 

 環那はやっぱり、友希那のことを気遣ってた

 

 未だに答えを出せてないのも、友希那のことがあるからかもしれない

 

リサ「......あたし、環那のこと変わったって思ってましたけど、これからなのかもしれないです。」

琴葉「そうですね。」

 

 きっと、簡単なことじゃない

 

 死ぬほど苦しんでるはず

 

 過去か未来かの選択

 

 それは難しいとかそう言うレベルじゃない

 

リサ「......!(もしかして、もう1人の環那って......)」

琴葉「何はどうあれ、私たちに出来ることは隣にいて、倒れそうになったときに支えてあげることだけです。」

リサ「そう、ですよね。」

 

 環那が今の状態になった原因はあたし達だ

 

 その責任は取らないといけない

 

 例え、選ばれなかったとしても

 

リサ(......そう、選ばれなくても。)

 

 あたしは心の中でそう呟いて、作業に戻った

 

 今は、2人を見守ろう

 

 環那があたしと友希那にそうしてきたみたいに

___________________

 

 “環那”

 

 友希那は分かってたんだろうか

 

 俺の気持ちが少しずつ、リサ達に移ってたことを

 

 いや、確実に分かってる

 

環那(ほんと、ダメだなぁ、俺......)

 

 友希那に気を遣わせるなんて、ありえない

 

 何のために俺はここまで自分を叩き上げてきたんだ

 

 14年もの時間を費やしたって言うのに

 

環那(......クソ。)

 

 変わらない人間はいない

 

 そう言えばそうとしか言えない

 

 けど、そう易々と納得できるものじゃない

 

イヴ「あれ?カンナさん?」

環那「イヴちゃん?」

 

 しばらく色々と考えながら歩いてると、イヴちゃんとばったり出くわした

 

 学校帰りなんだろうか、まだ制服だ

 

イヴ「って、だ、大丈夫ですか!?」

環那「え?」

イヴ「すごく顔色が悪いですよ!?」

環那「顔色?」

 

 って、あ、そっか

 

 ここ3日は寝てないんだった

 

 余計なこと考えないように仕事ばっかりして

 

イヴ「と、取り合えず、休まないと!」

環那「え?」

イヴ「一緒に来てください!」

環那「あの、ちょ__」

 

 俺はイヴちゃんに手を握られ

 

 そのまま、引っ張られた

 

 一体、どこに行くんだろうか

___________________

 

 イヴちゃんに連れて来られたのは静かな公園だ

 

 広くも狭くもなく、子供も誰1人いない

 

 俺は何でこんな場所に来たのか、疑問だった

 

イヴ「それでは環那さん!ここに寝てください!」

環那「え?」

 

 イヴちゃんはそう言って太ももをポンポンと叩いた

 

 この子はまた、アイドルとしてやばいことを......

 

 パパラッチに引き抜かれたらどうするんだろう

 

環那「イヴちゃん?流石にそれは__」

イヴ「大丈夫です!それよりも、今はカンナさんの方が大事です!」

環那「ぐえっ。」

 

 俺はイヴちゃんに頭を掴まれ

 

 そのまま、無理矢理寝かされた

 

 この細い体のどこにこんなパワーを?

 

 普通に驚いたんだけど

 

イヴ「カンナさん、いつから寝てないんですか?」

環那「えーっと、3日前?」

イヴ「3日も!?そんなのダメです!不健康です!」

環那「その通りすぎてぐぅの音も出ない。」

 

 横になって、一気に疲れが出てきた

 

 体が怠い、瞼が重い

 

 全員が鉛で固められたみたいだ

 

 全く動けない

 

イヴ「それで、どうしたんですか?3日も寝てないなんて。」

環那「まぁ、色々あって。」

イヴ「色々、とは?」

環那「......」

 

 イヴちゃんにそう尋ねられ、俺は口を閉ざした

 

 なぜだか分からないけど、あの日の燐子ちゃんがフラッシュバックする

 

 そんな風でいると、イヴちゃんは口を開いた

 

イヴ「......カンナさん、悩んでますね?」

環那「っ!」

イヴ「見ていれば分かります。今のカンナさんはすごく、ツラそうです......」

 

 ......まぁ、流石にバレるか

 

 今はきっと、無表情を保ててないだろうし

 

 イヴちゃんなら、気づいても不思議じゃない

 

イヴ「......なんでかは聞きません。」

環那「!」

 

 イヴちゃんはそう言って、手で俺の目を覆った

 

 柔らかくて、ひんやりしてて、暗い

 

 すごく落ち着く、別世界みたいだ

 

 そう思いながら、俺は体中の力を抜いた

 

 “イヴ”

 

環那「......優しいね、イヴちゃんは。」

イヴ「カンナさんほどではないですよ。」

環那「そんなに優しくないよ、俺。」

 

 カンナさんは小さく笑いながらそう言います

 

 ですが、実際はすごく優しいんです

 

 カンナさんが動くのはいつも、誰かの為です

 

 自由奔放なところはありますが

 

 あれ程の力を持ちながら、決して私利私欲に溺れていません

 

イヴ「いえ、優しいです。カンナさんは誰かのために頑張れる人です。」

環那「......違う。」

イヴ「え?」

環那「俺は、周りを利用するだけ。自分の優しい世界を守るために、全部を利用してるだけだよ。」

イヴ「!///」

 

 俺は自分の目を覆ってるイヴちゃんの手を握った

 

 柔らかい

 

 手入れとかちゃんとしてるからかな

 

 スベスベで綺麗で触り心地が良い

 

環那「ただ、自分が守りたい人たちを守ってるだけなんだ。それが偶然、他も救う結果になっただけ。別に意図してたわけじゃない。」

イヴ「......その、守りたい人には///」

環那「勿論、今はイヴちゃんも入ってる。」

イヴ「!///」

 

 カンナさんはそう言いながら、私の手を握りました

 

 男の人の手はこんな風なんですね

 

 私よりも、硬い感じがします

 

環那「......もう、好きになっちゃってるから......リサも、燐子ちゃんも、琴ちゃんも、イヴちゃんも。」

イヴ「カンナさん......?」

環那「......でも、友希那も大切に思ってるんだよ。過去の思いが心臓を締め付けてて、皆を好きだと認めようとすると、棘が食い込んでくるんだ......っ。」

イヴ「っ!」

 

 嬉しい気持ちから、一気に悲しくなりました

 

 私の知らなかったカンナさんの姿

 

 苦しそうで、今にも押しつぶされてしまいそうで

 

 自分の在り方が分からなくなって、足掻いてる

 

 そんな、悲しい姿でした

 

環那「全部分かっちゃうから、ゆっくり見えるから、何もかも分からなくなるんだよ......心が苦しくなっても、体が痛くても、全部が遅れてくるんだ......」

イヴ「!!」

 

 全部、遅れてやってくる?

 

 と言うことは、カンナさんは色んな痛みを後から一気に味わってきた、ということ

 

 普通の人が分散させるはずの苦しみを、全て......

 

 そんなの、生き地獄です......

 

イヴ(私に、出来ることは......)

 

 カンナさんの感覚は超人的です

 

 そう簡単にどうにもできません

 

 でも、苦しみと聞いて一つ、思いつきました

 

イヴ「......なら、何も見ないでください。」

環那「っ......!」

イヴ「この時間だけは、私だけを見ていてください。癒しになれば、いいのですが。」

 

 私の仕事は色んな人を楽しませたり、癒すことです

 

 ですが、全ての苦しみを癒すことは出来ません

 

 だから、せめてこの時間だけでも

 

 色んな苦しみを忘れて欲しいです

 

イヴ「カンナさん、大好きです。」

環那「......!」

イヴ「ん......っ///」

 

 私はカンナさんにキスをしました

 

 目も感覚も全部閉ざして

 

 忘れてもらえるように願いを込めて

 

イヴ「忘れてください。今この時だけ、私だけを見ていてください。」

環那「イヴ、ちゃん......」

 

 私はカンナさんにそう言いました

 

 これにどこまで効果があるかは分かりません

 

 でも、私が甘えてもいい時間であれるなら

 

 今は、それでも構いません

 

 カンナさんが幸せなら

 

 私はいくらでも、この身を差し出します

 

 

 



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開戦

 甘えるわけにはいかない

 

 そう思ってたのに、イヴちゃんに甘えてしまった

 

 あの後結局、3時間もあのまま寝てしまった

 

 色んな危険を考えられる状況だったのに

 

環那(バカだ......マジで。)

 

 人間は弱い生き物だ

 

 どうやっても、綻びが出てくる

 

 俺は特別じゃない、例外なく弱い

 

 いや、むしろ、優しさには人よりも弱いかもしれない

 

環那(まだまだ足りない。もっと、強くならないと。)

 

 俺に足りないものはなんだ?

 

 フィジカルも能力も叩き上げてきた

 

 精神面も出来る限り鍛えた

 

 今の俺にこれ以上の成長はあるのか?

 

環那(何が足りないんだ。)

 

 瞳を閉じて、精神を集中させる

 

 こうすると、いつも見えるものがある

 

環那(......またか。)

 

 目の前に聳え立つ扉

 

 押しても引いても、動く気配はない

 

 あの扉を開いた日から、ずっとそこにある

 

環那(これは、なんだ?)

 

 自分をコントロールする術は身に着けた

 

 けど、これだけは動かせない

 

環那(......)

 

 一つ目は簡単に開いた

 

 それと同時に数式が現れ、感覚がなくなった

 

 そして、痛み、罪悪感などの感情を受信しなくなった

 

 そこにあると分かってるのに、それが体の奥までこない

 

 俺はそれを時間の流れが遅くなったと表現した

 

環那(俺は__)

ノア「__こんなところで何をしている。」

環那「......ノア君?」

 

 接近に気づかなかった

 

 少し集中し過ぎたかな

 

環那「最近よく会うね。」

ノア「それだけ、事態が動いているということだ。」

環那「!」

 

 事態が動いてる?

 

 どういう意味だ?

 

 ノア君はなにか掴んでるのか?

 

ノア「だが。」

環那「?」

ノア「今のお前では話にならん。」

環那「......!」

 

 ノア君は冷めた様子でそう言った

 

 それで、俺の心臓は飛び跳ねた

 

ノア「無論、今回狙われるのも貴様の周りにいる奴らだ。そして、狙ってくるのは......」

環那「......?」

ノア「恐らく、俺や浪平篤臣よりも年季が入った殺し屋だ。」

環那「っ!」

 

 マジか

 

 篤臣さんも相当年季が入ってる

 

 それ以上の殺し屋となるとかなり腕が立つ

 

 それに、相当高くつくだろう

 

 そんな奴を寄越してくるってことは、相当俺に恨みを持ってる

 

 となると、心当たりは......

 

ノア「主犯のみなら今の貴様でも勝てるだろう。だが、他の要素を含めればどうだ?」

環那「......さぁね。」

ノア「勝てんぞ。迷ってる状態で勝てるほど、甘くはない。」

環那「......」

 

 それは俺もだ......とでも言いたげだ

 

 気づいてるんだろうね

 

 今の俺がいつもみたいに戦える状態じゃないってことに

 

ノア「今の貴様からは何も感じん。誰だ?貴様は。」

 

 ノア君はそう言いながらゆっくり歩き出した

 

 この子も痛いとこ突いてくるね

 

 あれほどじゃないけど

 

ノア「......今のままでは、大切なものを失うぞ。」

環那「っ......!」

ノア「俺も今回ばかりは手を貸そう。だが、限度があるということを忘れるな。残念ながら、本来の貴様ほど強くないんでな。」

 

 そう言って、ノア君は歩いて行った

 

 それを見送って

 

 俺は一つ、大きなため息をついた

 

環那(分かってるよ、そんなこと。)

 

 まだ、大丈夫だ

 

 俺の手札はまだ無くなってない

 

 今あるもので、乗り切ってやる

___________________

 

 “友希那”

 

 今日は文化祭当日

 

 私たちのクラスの準備は滞りなく進んで

 

 おおよそ学校の文化祭レベルじゃないお化け屋敷になった

 

友希那(......今日も、いないのね。)

 

 しばらく、環那の姿を見てない

 

 理由は会社の方が忙しいからとなってるけれど、恐らく違う

 

 環那がそんな状況にするわけがない

 

友希那(私のせい、よね......)

 

 申し訳ないとは思う

 

 けれど、これで、私への気持ちを断ち切ってくれれば

 

 今の環那の周りにいる人たちの誰かと幸せになってくれたら

 

 私はそれでいい

 

リサ「友希那ー?どうしたの?」

友希那「なんでもないわ。」

リサ「そう?なんかボーっとしてるけど。」

 

 リサと私は廊下に出て客引きをしてる

 

 リサが怖がりで驚かす側になれないからこうなったのだけれど

 

リサ「もしかして、環那のこと気にしてる?」

友希那「っ!」

 

 その言葉に心臓が大きく跳ねた

 

 まぁ、バレてるわよね

 

 最近の様子は今までのそれとは違ったもの

 

リサ「何があったかは分かんないけど、あんまり気にし過ぎたらダメだよ。」

友希那「でも__」

リサ「きっと今、壁にぶち当たってるから。」

友希那「!」

リサ「それを超えた先に何があるかは分からないよ。でも、あたし達がどうにか出来ることじゃない。」

 

 少し、驚いた

 

 リサなら心配してると思っていた

 

 なのに、こんなあっさり......

 

友希那「心配じゃないの?」

リサ「......そりゃあ、心配だよ。でもさ、今回は環那自身が超えなきゃいけない気がするんだ。」

友希那「......そう。」

 

 これが、支えられた人間と支えた人間の差

 

 敵わないわね

 

 輝かしすぎて、手も伸ばせないわ

 

リサ「でも、甘えられたら甘やかしちゃうかも。」

友希那「......ありえないわよ。環那だもの。」

リサ「あははー、そうだねー。」

友希那(......?)

 

 会話が一区切りして周りを見て、私は違和感を感じた

 

 それは、周りに人が多すぎること

 

 人と人が押し合うほどじゃないけれど、肩が当たりそうなほど接近してる

 

 文化祭と言うこと踏まえても、おかしい

 

友希那「リサ、人が多いわ。出来るだけ離れすぎないように__!」

 

 後ろにいたリサに声をかけたけど、返事はなく

 

 振り向いても、人混みしかなかった

 

友希那(......なんなの?)

 

 向かい側の校舎の方を見ると分かる

 

 明らかにこちら側に人数が集中してる

 

 あまりにも様子がおかしい

 

 まるで、リサと意図的に引きはがされた気すらする

 

友希那(ともかく、教室に戻らないと。それから__!)

?「......」

友希那(な、だ、誰......!?)

 

 人混みの中で私は口元を覆われた

 

 感覚的に男性の力で

 

 私の体はびくともしない

 

?「......こっちに来てもらう。あまり抵抗しないことだ。」

友希那「......!!!」

 

 私はそのまま、その男に引っ張られた

 

 どこへ行くかは分からない

 

 けど、抵抗なんてできなかった

 

 

 まさか、環那がしばらく来てなかった理由はこれなの?

 

 そうだとしたらこれは

 

 かなりどころじゃないくらい、不味いかもしれない

 

 私はそう思うと怖くなって、声も出せず

 

 ぎゅっと目を閉じた

___________________

 

 “環那”

 

環那「......来たか。」

 

 学校の裏門

 

 俺はそこに立って、そう呟いた

 

「おーおー、こっちから来るのは分かってたことかい?」

環那「予想するまでもないよ。」

 

 俺が声をかけた方から、1人の男が歩いて来た

 

 恐らく、身長は2m、体重は100kgはあるか?

 

 かなりのサイズだ

 

環那「君たちが篤臣さん達が来る前に動くことは分かってた。仮に部隊を2つに分けたとしても、人目につきやすい表から大駒は投入しない。」

「ほう?もし俺が表から来たらとは考えなかったと?」

環那「来ないでしょ。この学校でテロを起こしても意味がないって、君の依頼主は分かってるからね。」

「可愛げのねぇガキだ。もうちょっと焦れよ。」

環那「出来れば焦りたくはないな。」

 

 取り合えず、こいつさえ倒せば戦力激減でしょ

 

 さっさと片して、リサ達の所いかないと

 

 ノア君もいるだろうけど、急ぐに越したことはない

 

環那「焦らないけどさ、時間もかけられないんだ。さっさと片づけさせてもらうよ。」

「へへっ、かかって来いよ、坊ちゃん。遊ぼうぜ。」

環那「遊べるゆとりがあるといいね。」

 

 俺は男に近づいて行った

 

 さぁ、開戦だ

 

 ノア君の忠告が正しいか否か

 

 それを確かめるとしよう

 

 

 



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悪状況

リサ「んっ、んん......っ?」

 

 あたしはぼんやりと目を覚ました

 

 あれ、あたし何してるんだろ?

 

 さっきまで廊下にいたのに、教室の中にいる

 

 しかもここ、あたしたちの......

 

?「__目を覚ましたか。」

リサ「!」

?「初めまして。」

 

 意識が完全に覚醒して、あたしは愕然とした

 

 ここは仕切りのカーテンを外れたあたし達の教室で

 

 他の生徒はおびえた様子で端の方に立っていて

 

 横には燐子、浪平先生、イヴ、エマがいる

 

 いや、それだけじゃない

 

 今、あたしたちの目の前にいるのは......

 

源蔵「久しぶりだね、今井君。」

リサ「なんで、ここに......」

 

 この人は捕まったはずじゃ......

 

 なんでここにいるの?

 

 しかも、そんな危なそうな人を連れて

 

源蔵「そんなこと、聞くまでもないだろう......奴への復讐だ。」

リサ「......っ!(この人は......!)」

 

 完全な逆切れじゃん

 

 この人がいなくなった今、皆が幸せに向かってるのに

 

 なんで、また

 

源蔵「私は獄中で、奴に復讐することだけを考えてきた......どうすれば奴を殺せるのか、絶望させられるのか、毎日毎日そんなことを考えた。」

 

 聞いてもない自分語りを始めた

 

 この人はどんだけ自分勝手なの?

 

 誰かの屍を足蹴にして裕福な暮らしをしてて

 

 ただ、それ相応の罰を受けただけなのに

 

 反省どころか、逆切れするなんて

 

源蔵「私は奴の臓物をすべて抉り出し、豚の餌にでもしないと気が治まらんのだよ......っ!だから、私は__っ!」

リサ「!?」

 

 南宮源蔵は話してる途中、いきなり倒れた

 

 まるでいきなり意識の糸が切れたみたいに

 

?「おぉ、この状況でそんな行動ができるのか。いやはや、流石ともいうべきか。」

エマ「......」

?「孤独の姫様。」

リサ「!」

 

 まさか、これ、エマがしたの!?

 

 こんな状況で冷静に......って、当たり前か

 

 エマは昔、環那と戦えたくらいすごかったんだし

 

エマ「あなたのことも知ってる。あらゆる暴力とストーキングを得意とし、相手を痛めつけることを楽しむ変態。井上浩二郎。」

浩二郎「知って貰えていて光栄だ。」

 

 この人、危ないとは思ったけど予想以上だ

 

 結構なおじさんに見えるのに、すごい雰囲気

 

 気配の大きさみたいなのは、環那とそう変わらない

 

浩二郎「そこまで分かってるなら、ここからの行動は分かるな?」

エマ「......私はお兄ちゃんみたいにジョークは言えない。」

浩二郎「今回、そこで寝てるのからは、殺さない程度なら甚振っていいって言われてんだ。」

リサ「!」

 

 それって不味いんじゃ......

 

 あたし達は縛られて身動きが取れないし

 

 逃げ道も塞がれてるし、他の3人は目を覚まさないし

 

 この状況、どうすれば......

 

 “エマ”

 

エマ「そんなことだろうと思った。」

リサ「!」

浩二郎「ほー?箱入りの姫様に何ができる?」

エマ「......」

 

 これは、ハッタリ

 

 正直、このレベルが来るとは思ってなかった

 

 あの老害だけならどうにでもなったけど

 

 流石にこれをどうにか出来る物は用意してない

 

エマ「何ができるかなんて、そんなレベルで私は語らない。やれることをやるだけ。」

浩二郎「お兄ちゃんの為か?」

エマ「その通り。」

 

 私はお兄ちゃんに幸せであってほしい

 

 その為にはこの4人は必要不可欠

 

 ならば、私も全力で守らないといけない

 

エマ(......お兄ちゃんのように、身体能力も優れていれば。)

 

 私はお兄ちゃんとは違う

 

 自分のできることだけをしてきただけ

 

 けど、お兄ちゃんは逆境の中で自分を鍛え、反発してきた

 

 所謂、箱入りの私とは全く違う

 

エマ(せめて、時間稼ぎを。お兄ちゃんが来るまでの時間を稼ぐ。)

浩二郎「じゃあ、遠慮なくやらせてもらうぞ!」

エマ「!(来る__)」

浩二郎「__うおっ!?」

エマ「!?」

 

 井上浩二郎が殴り掛かってきて、それを回避しようとした瞬間

 

 なぜか、奴は空中で一回転し

 

 頭から床に激突した

 

琴葉「......ふぅ。間に合いました。」

エマ「こ、琴葉......?」

琴葉「はい!よく頑張りましたね!エマちゃん!」

 

 驚いた

 

 あいつを倒したのは、琴葉なの?

 

 そんなこと、ありえるの?

 

エマ「な、んで......?」

琴葉「え?あー、私はですね、小さい頃にお父さんから武術の心得を叩きこまれてたんですよ。縄を解くのだってお手の物です!」

エマ「なるほど。」

 

 そうだ、琴葉って浪平組組長の娘だった

 

 普段はそう見えなさ過ぎて意識から外れてた

 

琴葉「......まぁ。」

浩二郎「いってえなぁ。こんなのもいたのかよーまじかー。」

 

 奴は軽く頭を掻きながら立ち上がった

 

 流石に、そうだよね

 

 都合よく首が折れて逝ってくれたら嬉しかったけど

 

 人生って予想以上にうまくいかない

 

琴葉「何分、持ちこたえられますかね。」

エマ「さぁ、分からない。」

 

 けど、長くは持たない

 

 それは分かってるから、お祈り

 

 お兄ちゃんが間に合ってくれるように

 

エマ(麻酔針のストックはある。これでどうにか。)

浩二郎「じゃあ、こっちも真面目にやろうか......なっ!!」

エマ「っ!」

 

 奴はそう言ったかと思うと

 

 足を大きく振り上げ、燐子の方に振り下ろした

 

 その時、一瞬時間が止まったように感じ

 

 私は無意識に体が動いた

 

エマ「__うぐっ......!!!」

琴葉「エマちゃん!!」

燐子「っ!な、なに__って、エマちゃん!?」

イヴ「な、なんですか!?」

エマ(卑怯な、やつ......)

 

 内臓が潰れたかと思った

 

 けど、大丈夫

 

 何とかダメージは軽減できた

 

イヴ「エマさん!?大丈夫ですか!?」

エマ「大丈夫......」

 

 肩を打撲した程度

 

 これならどうにでもなる

 

エマ「......(いや......)」

 

 この状況、予想以上に不味い

 

 この場にある要素は色々とあるけど

 

 周りの生徒が狙われることはしばらくない

 

 けど、今井リサ、燐子、イヴは狙われる

 

 この3人を守りながら時間稼ぎとなると

 

 流石に確率が悪すぎる

 

エマ「......ねぇ、琴葉。」

琴葉「なんですか、エマちゃん。」

エマ「もし、本気で危ないと思ったら、あの3人を連れて逃げて。」

琴葉「っ!それは__」

エマ「私は、いい。」

琴葉「!」

 

 私は琴葉が喋るのを強い口調で止めた

 

 これはあくまでも最終手段

 

 本当の本当に最悪の場合のプランになる

 

エマ「お兄ちゃんのためにも生きて欲しい。それだけ。」

琴葉「......見捨てませんよ。私は教師ですから。」

エマ「!」

琴葉「それに、間に合わせてくれますよ。彼は。」

エマ「......そうだね。」

 

 これが、友情と言うものなのかな

 

 お兄ちゃんはこれを私に教えたかったのかな

 

エマ(......感謝、する。)

 

 大丈夫、お兄ちゃんなら

 

 だって、私のお兄ちゃんは......最強だから

___________________

 

 “少し離れた場所”

 

「__ぐあああああ!!!」

 

 羽丘から少し離れた路地裏で男の声が響いた

 

 それは肉体に与えられる痛みと

 

 何か恐ろしいものに出会ったような絶望を孕んでいる

 

(ま、マジかよ、こんなの聞いてねぇよ......っ!状態は悪いって聞いてたのに、これかよぉ。......)

環那「......」

「クソ......」

 

 そこに歩み寄る、1つの影

 

 それは明確な殺意を持っている

 

「おいおい......勘弁してくれやい......(ほんとによ......)」

環那「......」

(俺にこいつを割り振りやがって......報酬は弾んでもらうぞ......)

 

 男は敗北を認めるように顔を伏せ

 

 環那が目の前に立ったのと同時に

 

 小さく、その口角を上げた

 

 

 



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統合

 取り合えず、デカいやつは倒した

 

 けど、おかしい

 

 あまりにも手ごたえがなさすぎる

 

環那「......(どういうことだ?)」

 

 雰囲気の割には、弱すぎる

 

 パワーはもちろんすごいけど、速さはない

 

 そのパワーも別に圧倒的ってほどでもない

 

 体のタフさはあるけど、スタイルは逃げ腰

 

 全てがかみ合ってなくて、チグハグだ

 

環那「ねぇ、その外見は飾りなの?全くやる気が感じられないんだけど。」

「......くくっ。」

環那「?(なんだ。)」

「俺の仕事は、完了、したぜ。」

環那「なに?......っ!!」

 

 仕事が、完了?

 

 こいつは俺に負けてなおこう言った

 

 つまり、こいつの仕事は俺を倒すことじゃない

 

 となると、残る可能性は後は一つ

 

環那(時間稼ぎか......っ!)

「おいおい、今更気づいたのか......未来が見れるって聞いてたが、誤りだったみたいだな。」

環那「チッ!」

 

 小賢しいことをしやがって

 

 でも、どっちにしても一緒だ

 

 今からダッシュで戻って、潰せばいい

 

 所詮、延命処置程度だ

 

「今から戻って潰せばいい......って面だな。」

環那「っ!」

「だが、そうはうまくいかねぇぜ?折角だし、ネタ晴らししてやるよ。」

 

ノア「__湊友希那と今井リサ、白金燐子、浪平琴葉、若宮イヴ、そしてエマを分断された、か?」

 

(銀狼、だと!?)

 

 男が話してる途中

 

 ノア君がゆっくりと表通りの方から歩いて来た

 

環那「なんで、ここに?」

ノア「さっき言った通りだ。湊友希那と今井リサ達が完全に分断され、俺1人の手に負えなくなって、貴様と協力することにしたのだ。」

 

 ノア君が先手を打たれた?

 

 それなら仕方ない

 

 ここからはノア君と連携して

 

 皆を捕らえてるやつらを潰せばいい

 

 そう思い、俺は歩き出そうとした

 

ノア「......おい、貴様。」

環那「なに?」

ノア「貴様はどっちを助けるつもりだ?」

環那「......!」

 

 ノア君の言葉を聞いて、俺は歩を止めた

 

 そして、そこからいくつもの思考が展開された

 

 あれ、俺は、どっちに行こうとしてたんだ?

 

ノア「言っておく。恐らく、今回の主力は迷った状態の貴様で勝てるほど甘くはない。そして、俺も迷ってる奴に従うつもりはない。」

環那「......」

「くくっ......!(予想通りだ。わざわざ調べて、こいつが一番迷うパターンで分けたんだからな。)」

ノア「奴らは頭がイカレてる。まず間違いなく、容赦なくお前の大切な奴らの命を奪うだろう。」

 

 心臓が、激しく動く

 

 分かってる、そんなことは

 

 だからこそ__

 

『__何を迷うことがあるの?』

環那「っ!(なんだ!こんなときに!)」

『それはこっちのセリフだよ。』

 

 アレは呆れたような声でそう言った

 

 なんだこいつ

 

 今はふざけてる場合じゃないっていうのに

 

『君はノアの優しさに気づいてないの?』

環那「ノア君の、優しさ......?」

 

ノア(もう1人の奴か。)

(いきなり独り言言い始めたぞ?)

 

 俺はそう聞き返した

 

 どういう意味だ?

 

 ノア君の優しさって、なんだ?

 

『さっきの話を思い出してよ。リサ達の方にはエマもいるんだ。』

環那「っ......!」

 

 その言葉に俺はハッとした

 

 なんで忘れてたんだ

 

 ノア君がエマを大切に思ってることを

 

『ノアは勿論、エマを助けに行きたいはずなんだ。だけど、君に選ばせようとしてる。』

環那「な、何のために......」

『君だよ。』

環那「え......?」

『分からないの?』

 

 ......いや、何となくわかる

 

 パターンはいくつかあるけど......

 

環那(......そう言うことか。)

 

 恐らく、今の状況と似たような経験があるんだ

 

 彼がエマと出会う前の出来事だろうか

 

 そこは分からないけど、あったんだ

 

 そして、ノア君はそこで......

 

『彼と君はどこか似てる。そんな彼は、君に後悔させない選択肢を与えてくれてるんだよ。同じ経験をして、失敗した身として。』

環那「......」

 

 そういう、ことか......

 

 なんで、俺はこんな簡単な事に気づかなかったんだ

 

 少し考えれば、ノア君がここまでする理由は限られるのに

 

環那(じゃあ、俺は......)

『......正直、羨ましかった。』

環那「......!」

『ずっと見てたよ。あの、光り輝いてた時間。』

環那「っ......!」

 

 アレは寂しそうな口調でそう話しだした

 

 そうだ、アレはずっといたんだ

 

 だから、実際に体験してなくても、記憶としては残ってるんだ

 

 俺とは違って

 

『本当の意味で対等な、大切な人たちがいる世界。恋を出来ない僕には、すごく羨ましかった。』

環那(恋を、出来ない......?)

『気づいてるでしょ?君も僕も、もう友希那を女の子としては見れないって。』

環那「!!」

 

 その言葉は痛かった

 

 見ないようにしてた、俺の事実だった

 

 これを完全に見てしまったら、俺は終わると

 

 そう思って、封印してた......

 

『あの日。』

環那「......」

『友希那にキスをされた日から、君と友希那の物語は終わったんだ。』

環那(分かってるよ、そんなことは!!でも__)

『分かってる。君がそうしないために足掻いてたことは。どうにか頑張って、今まで通りであろうとした。けど、それは不可能だった。』

環那「っ!!!」

 

 痛い、痛い、痛い

 

 心臓に棘が食い込んでくる

 

 その痛みで、目の前が真っ赤になる

 

『その理由は明白。友希那より、新しい4人のお姫様が大事だったから。』

環那「......」

『運命に引き寄せられたお姫様は、癒しでもあり残酷でもあった。好きになればなるほど、君に絡まっている未練は強く心臓を締め上げる。なのに、更に好きさせられる。その痛みに君は苦しみ続けた。』

環那「うるさい!!!黙れ!!!」

 

ノア「っ!」

(なんだなんだ!?)

 

 激しい痛みで発狂し

 

 そのまま地面に膝をついた

 

 立っていられなかった

 

 もう、心臓が潰れてしまいそうで

 

環那「俺が、どんな、気持ちで、今まで......っ!!!」

『分かってるよ。君の気持ちは、僕が一番分かってるから。』

環那「う、ぐっ......げほっ!ゴホッ!!」

 

ノア「......」

(お、おいおい、吐血しやがったぞ......?銀狼はなぜ動かない?仲間じゃないのか?)

 

 なんだ、何が起きてるんだ

 

 景色が真っ赤で、痛すぎて、何が何だか分からない

 

『......もう、いいんだよ。』

環那「なに、が、だよ......っ」

『過去に縋るのは、もういいんじゃない?』

 

 そんな時、頭にそんな言葉が響いてくる

 

 その言葉に、苛立った

 

 こいつ、俺の何を見てんだ

 

 何にも分かってないじゃないか、と

 

『いつも、僕達にとって正しいのは未来だった。』

環那「......!!」

 

 静かで、穏やかな声で告げられたのは

 

 俺の人生における明確な答えだった

 

『君が目覚めたあの日、友希那は未来だった。けど、走って、通り過ぎて、過去になって、新しい未来が現れた。』

環那「......」

『一歩踏み込めば、未来への歩みは止まらない。いくら強くなったって、それは変わらない。』

環那(......なんだよ。)

 

 ......嫌だけど、納得するしかない

 

 それは今までの俺の人生で実証されたことだから

 

 否定なんて、俺には出来ない

 

 そうなったら、自ずと......

 

『君の答えはもう決まってる。時間もないし、僕が送り出してあげるよ。』

環那(っ!それは!)

『分かってる。』

 

 儚げな声が頭に響く

 

 まさか、こうなることを分かってたのか?

 

 分かってて、俺に答えを出させようとしたのか?

 

『そもそも、僕は君の持ち切れなかった能力を預かってただけだから。』

環那(それでいいのか?友希那に何も言わなくて)

『いいんだよ。言ったじゃないか。あの日に君の物語は終わったんだ。僕は君でもあるから、必然的に。』

 

 終わってた、と言うことか

 

 けど、俺のせいで留まってた

 

 だから、最近は無理矢理外に出て、事態を動かそうとしてたんだ

 

『預かってるものは全部返すよ。本物である君に。』

環那「......あぁ。」

『その代わりに友希那への未練は全部、僕が貰っていく。』

環那「!!」

 

 心臓の痛みが、抜けていく

 

 締め付けてたものが解かれて

 

 心臓が正常な鼓動を刻み始める

 

『精度の僕と範囲の君。この2つが合わされば、誰にも負けはしない。』

環那「......(負けないよ、誰にも。)」

『そっか。じゃあ__』

 

 あいつは目の前にある扉に手を突き

 

 そのまま軽く押した

 

 すると、どうだろう?

 

 動く気配もなかったその扉は簡単に開いてしまった

 

『おめでとう、そしてさようなら。君の進む未来はこの先にある。』

環那「......あぁ、さようなら。過去の俺。いつまでも引き留めてて、ごめん。」

 

 その瞬間、世界が一変した

 

 立ち上がって、上を向いてみる

 

 空が青くて、車の音や人の話し声がうるさい位聞こえる

 

 でも、これはなんだろうか?

 

 さっきとは違う意味で胸が痛くて

 

 目の前の景色が潤んでる

 

環那「......あぁ、なるほど。」

 

 少しして、やっと理解した

 

 なるほど、久しぶり過ぎて忘れてた

 

 これが......

 

環那(寂しさ、か。)

 

 “ノア”

 

ノア「__!!(なに......っ!?)」

 

 俺は目の前で起きた事に愕然とした

 

 さっきまで奴からは2つの気配を感じてた

 

 だが、今の一瞬でその一つが消えた

 

 そして、それと同時に恐ろしいものが目覚めたのを感じた

 

 これは......

 

環那「ノア君。」

ノア「......なんだ。」

環那「お願い、してもいい?」

ノア「......あぁ。(たくっ、嫌になるぜ。)」

 

 今までなら、勝てないまでも何とか対抗できる要素があった

 

 だが、今はどうだ?

 

 前までが可愛く見えやがる

 

 恐ろしい、だが、体験してみたい

 

 今の奴はどれほど強いのか、圧倒的なのか

 

環那「じゃあ、行こうか。」

ノア「あぁ。」

 

(あ、あぁ......ダメだ......銀狼の奴は、なんて化物を目覚めさせやがったんだ......!?)

 

 目覚めさせといてなんだが

 

 流石に、今回の敵が可哀そうに思えてくるぜ

 

 だが、手を出した相手が悪かったと諦めてくれ

 

 誰が来てるかは知らんが......

 

 貴様の相手は正真正銘、本物の化物だ

 

 

 

 




今日のお題箱で燐子のifルートのお題が来て、すごくいいと思ったので、元から予定してたリサのちょっとドロドロな未来のifルートの前か後に出します。(構成は本編何話か+外伝になる可能性高)
こいつ忘れてるなと思ったら、つついてください。


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到来

浩二郎「ふぁ~ぁ......」

 

 あれから、何分経っただろう

 

 長すぎて、時間が分からない

 

 けど、一つ言えること、それは......

 

エマ「う......ぐっ......」

琴葉「はぁ......はぁ......」

リサ「エマ!浪平先生!」

 

 絶望

 

 あの2人でも、あの男には敵わなかった

 

 手は尽くしてた、でも、届かなかった

 

浩二郎「中々、楽しかったぜ。こりゃあ、殺す時が楽しみだ。」

エマ「......クソ、男......」

 

 エマはもう、まともに声を出せてない

 

 もしかしたら、骨折もしてるかも

 

 それくらい、あの男にやられてた

 

燐子「エマちゃん......!」

エマ「......大丈夫。まだ。」

 

 エマはそう言ってるけど、実際は違う

 

 体は震えてるし、顔色も悪い

 

 けど、心配させないためになのか、笑みを浮かべてる

 

エマ「こんなの......お兄ちゃんを幸せに出来ないと分かった時に比べれば、何てことはない......」

リサ、燐子、イヴ、琴葉「!」

 

 エマはそう言って、立ち上がった

 

 もう、限界のはずなのに

 

 どうして......

 

エマ「甘く見ないで欲しい......たかが暴力ごときでやられる私じゃない。真の絶望って言うのは、この程度じゃない......」

浩二郎「ほー?じゃあ、どの程度なんだ?」

エマ「教えてあげる、それは......」

 

 エマはそう言って拳を握り締め

 

 絞り出すように、声を出した

 

エマ「好きな人と、結ばれないことだよ......」

浩二郎「は?」

リサ「っ!(それって......)」

琴葉(恐らく......)

イヴ(カンナさんのこと、でしょう......)

燐子(エマちゃん......)

 

 エマの環那への気持ちは知ってる

 

 最近は影を潜めてたけど

 

 やっぱり、辛い思いをしてたんだ

 

エマ「初恋が絶対に結ばれない人で、思いを伝えてたら、完全に拒絶された時の気持ち、あなたなんかに分かる......?死にたくなるし、消えたくなるよ......?」

浩二郎「だから、それがなんだってんだよ。」

エマ「まだ分からないの?」

 

 エマはあの男を見下すような目で見た

 

 そして、乱れた呼吸を整えて

 

 ゆっくり、口を開いた

 

エマ「お兄ちゃんにフラれた瞬間に比べれば、あなた程度の攻撃なんて、ないも同然と言うこと。」

浩二郎「......ほう。」

琴葉「っ!(マズい!)」

リサ「エマ!!」

 

 あの男がエマに近づいてる

 

 その表情はさっきまでのとは違って

 

 険しくて、明確な殺意を持ってる

 

イヴ「エマさん!逃げてください!」

燐子「エマちゃんに何かあったら、環那君も悲しむよ......!!」

エマ「......問題ない。」

リサ「え?」

 

 エマは小さく笑った

 

 それは悪戯が成功した子供みたいな

 

 純粋な、可愛らしい笑顔だった

 

浩二郎「じゃあ、今度は手加減なしだ。死んでも文句言うなよ。」

エマ「あなたにもう一つの絶望を教えてあげる。」

浩二郎「もう御託は良いんだよ!!さっさと死にな!!孤独の姫様__」

 

環那「__心外だな。エマが孤独なんて。」

浩二郎「は__っ!?」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!?」

 

 エマに男の手が振り下ろされる直前

 

 聞きなじんだ声が教室内に響いた

 

 どこから聞こえたのか、一瞬分からなかった

 

 けど、すぐに、声の出どころは分かった

 

環那「心配してくれる人がいる、守る人がいる、そんな女の子が孤独なわけないでしょ。」

リサ「か、環那......?」

 

 声の出どころは、教壇の上

 

 その声の主はいつの間にかそこに座って

 

 男の方をボーっと眺めていた

 

浩二郎「......お前、いつから、そこにいた?」

環那「さっきだよ。普通に入ってきて、普通に座ってた。」

浩二郎「そこらへんにいた見張りは、どうした?」

環那「はい、これ。」

 

 そう言って、環那は男に何かを放り投げた

 

 一瞬しか見えなかったけど

 

 あれは、包丁よりも大きな刃物だった

 

浩二郎「なん、だと?」

イヴ「え?」

琴葉「あれは、どういうことですか......?」

 

 皆が驚く理由は明白だった

 

 だって、その刃物には持ち手がなくて

 

 それがあったであろう場所には

 

 他の刃物でそれを切断したような、綺麗な断面があったから

 

環那「あと、40本はあるけど、いる?経費で落ちないなら返すけど。」

浩二郎「......いいや。構わねぇ......よっ!!」

琴葉「っ!南宮君!」

 

 男は思い切り、環那に刃物を投げつけた

 

 ヤバい、と思った

 

 あんなのが当たったら、流石にタダじゃ済まない

 

 そう、思ってた

 

環那「......そっか。じゃあ、これはリサイクルに回すね。」

浩二郎「っ!!?」

リサ「へ......?」

燐子「うそ......」

環那「さてと。」

 

 環那は音もなくそれをキャッチし

 

 静かに教壇にそれを置いた

 

 そして、静かに教壇から降りた

 

 “環那”

 

 この感情は何だろう

 

 ここまで何人かを気絶させてきたけど

 

 少し、胸がチクチクと痛んだ

 

 そして、今、エマと琴ちゃんの姿を見て、煮えたぎる溶岩のように何かが体の中で煮えたぎってる

 

環那「エマ。」

エマ「お兄ちゃん......ごめんなさい、琴葉、ちゃんと守れなかった......」

環那「大丈夫。」

エマ「!」

環那「よく頑張ったね。えらいえらい。」

 

 そう言って、エマを抱き寄せ、頭を撫でた

 

 すると、エマは泣きそうな顔で俺の服を掴んで

 

 そのまま、胸に顔をうずめた

 

環那「遅くなってごめんね。でも、もう大丈夫。お疲れ様。」

エマ「う、ん......お兄ちゃん......」

浩二郎「__おいおい。無防備すぎるんじゃないかい!!ヒーローさんよ!!!」

リサ「環那!!」

環那「......は?何が?(フワッ)」

琴葉「!?」

 

 俺はエマを抱き上げた

 

 結構、酷い怪我だ

 

 これは俺のミスだ

 

 けど、エマはよくやってくれた

 

環那「燐子ちゃん、エマのこと、見ててあげてくれないかな。」

燐子「う、うん。」

環那「ありがとう。」

燐子(な、なんだろう、この感覚。今までとは、何かが違う。けど、いつもの環那君みたいにも思える。)

 

 なるほど、そう言うことか

 

 俺は今、すごい怒ってるんだ

 

 殺意とは違う、怒り

 

 今まで曖昧だった感情が自分の中で確立される

 

 なるほど、これは今まで感じてたことあったな

 

環那「エマと琴ちゃん傷つけたの、君だよね?」

浩二郎「だったらなんだってんだ?」

環那「そうか。」

 

 エマと琴ちゃんを傷つけたのか

 

 どんな気分だったんだろうか

 

 どうで下らないから興味もないけど

 

環那「そこの奴の依頼で来たんだよね?」

浩二郎「あぁ、そうだ。」

環那「そう。」

浩二郎(なんだ?)

 

 俺は寝転がってるゴミの方に歩み寄った

 

 なんで刑務所から出て来てるのか、とか

 

 そんなことはどうでもいい

 

 問題は、俺の大切な2人を傷つけたことだ

 

環那「おい、起きろ。」

源蔵「ぐほっ......!?」

浩二郎「!?」

 

 俺はゴミの腹を思い切り踏んずけた

 

 気持ち悪い感触だ

 

 まるで生ゴミが入ってるゴミ袋みたいだ

 

源蔵「き、さま......!なにを......!」

環那「......ねぇ。」

源蔵「__!!!」

 

リサ(この雰囲気......!)

燐子(この感覚、本気で怒ってるときのだ......!)

琴葉(敵には一切の情けをかけず、確実に仕留める。)

イヴ(あの日のもう1人のカンナさんにも似ています......!)

 

 尋常じゃないくらい、怒りが湧いてくる

 

 こいつには何の感情も湧かない

 

 じゃあ、いいや

 

環那「一回、死んでみる?」

源蔵「な__グホっ!!!」

 

 俺はもう一度、ゴミを踏みつけた

 

 そして、右手で奴の頭を鷲掴んで

 

 そのまま、攻撃を仕掛けた

 

環那(もっと、秒単位に攻撃を圧縮して......)

源蔵「へっ、ぶっ、グフッ、ガッ!も、う、やめ__」

 

浩二郎(お、おいおいおいおい。)

 

 ゴミに容赦はいらない

 

 別に世の中の害になるからとかじゃない

 

 ただ、俺の大切な人達を傷つけたから

 

 こいつを殺す理由なんて、それだけでいい

 

源蔵「......アッ......アッ......」

環那「なんだ、まだ死なないの?じゃあ、もういいや。」

 

 俺はそう言いながら、ゴミをもった

 

 ほんと、汚れもゴミもしつこいといけない

 

環那「ゴミはゴミ箱に、ね(ポイッ)」

源蔵「......」

 

 俺はゴミをゴミ箱に捨てた

 

 これでやっと、一つ片付いた

 

 予想以上に大変だ

 

環那「さて。」

浩二郎「__ひっ。」

環那「決めた。君の処遇は、病院送りだ。」

浩二郎「う、うわああああああ!!!」

 

 俺はそう言いながら男に歩み寄った

 

 近づくたびに俺の世界から色が失われて行って

 

 周りの動きも遅くなっていく

 

浩二郎(当たってくれ当たってくれ当たってくれぇぇぇぇぇ!!!)

 

 必死な顔で攻撃を仕掛けてくる男

 

 でも、それはあまりにも遅くて、滑稽で、無様で

 

 俺は色がなくなった世界の中で1人

 

 それを冷めた目で眺めていた

 

 

 



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分岐点

 今の環那はどこか異常だ

 

 まず、普通に感情を感じる

 

 今までと違って、人間らしく

 

 喜怒哀楽を明確に感じる

 

 それは環那にとっては大きな変化で

 

 すごく、喜ぶべきことだと思う

 

 でも、それも些細な問題なのかもしれない

 

 だって__

 

浩二郎「あああっ!!!もう、もう、やめてくれえええええ!!!」

環那「......」

 

リサ「何が......起きてたの......?」

琴葉「わ、分かりません。ただ......恐ろしいとしか。」

 

 あの男は発狂してる

 

 けど、体には傷一つない

 

 環那は一度も攻撃してない

 

 それどころか、一歩たりとも動いてない

 

 ただ、その場に立って、攻撃を受けてただけ

 

 けど、ただ一つ、おかしかったのは......

 

リサ「なんで、一度も音がしなかったの......?」

 

 そう、音がなかった

 

 攻撃は確かに環那に当たってた

 

 けど、ダメージどころか音もない

 

 まるで最初から何もなかったみたいに

 

 全部、無になった

 

エマ「あれが、お兄ちゃんのオンリーワンの才能......」

燐子「エマちゃん......?」

エマ「今の光景を見ての予想だけど、今のは元のお兄ちゃんが持ってた感覚ともう1人のお兄ちゃんが使っていた相手を基にした未来予知の合わせ技。遅く動く世界の中で相手を見て未来を計算する。そうすることで、お兄ちゃんは体のどこに当たっても、ダメージも音も限りなくゼロにすることができる。いくらフェイントを入れようが相手はゆっくり動いてるから、相手が行動する限り、ほぼ無限に計算を練り直せる。」

 

 それ、普通に反則じゃん

 

 けど、それでおかしいことがある

 

 なんでそれだけ、あの男はあんなになってるの?

 

 環那って、攻撃を受けてただけだよね?

 

エマ「これは、いわば相手の攻撃を無にする。いくら鍛錬しようが、工夫しようが、無意味。」

琴葉「......なるほど。」

エマ「特にあの男は暴力に絶対の自信を持ってた。そんな人間がもし、その全てを否定されれば......」

 

 そりゃあ、発狂もしたくなるか

 

 今までの人生全部を否定されたようなもんだし

 

環那「もう、やめようか?」

浩二郎「へ......?」

環那「君がいくら頑張たって時間の無駄でしょ?君の今までの人生のすべてをかけても、届かないよ?」

浩二郎「ひっ......」

 

 環那は屈託のない笑みを浮かべながらそう囁く

 

 正直、これがダメージ増やしてる感はある

 

 人の感情になれてないから、親切が親切になってない

 

 むしろ、心を粉々にしに行ってる

 

環那「ほら......」

浩二郎「あ、ああ......っ!!」

環那「......諦めておうちに帰りなよ。本当の意味で、これが起きちゃう前に。」

浩二郎「ああぁああぁああああ!!!」

 

リサ、燐子、琴葉、イヴ、エマ「!?」

 

 今までで、一際大きな発狂

 

 男の顔は涙と鼻水でグチャグチャで

 

 何か、とんでもなく恐ろしいものを見たような、絶望的な表情をしてる

 

浩二郎「く、来るなぁ!!!来ないでぇぇぇ!!!うわあああああ!!!」

 

 男は気が狂ったように叫んで

 

 その場にうずくまってしまった

 

 目も耳も塞いで、真ん丸になってる

 

 マジで、なにしたの......?

 

環那「はい!これで病院送りだね!」

 

 環那の雰囲気が元に戻った

 

 さっきまでの禍々しいオーラはない

 

 いつも通りだ

 

環那「琴ちゃん、怪我は大丈夫?」

琴葉「私はエマちゃんが守ってくれたので。」

環那「それは良かった。エマはちゃんと手当てしてから、うんと褒めてあげよう。」

エマ「お兄ちゃん......♡」

 

 ビックリするくらい、いつも通りだ

 

 いや、少しだけ違う......かも

 

イヴ「カンナさーん!///」

環那「おっと、イヴちゃん。」

燐子「環那君......!///」

環那「燐子ちゃんまで?珍しいね。」

 

 イヴと燐子は環那に抱き着いた

 

 まぁ、そりゃあそうだよね

 

 あんな状況の後だし

 

琴葉「あなたにしては遅かったですね。何かあったんですか?」

リサ「!」

 

 そこだよ

 

 あの環那があんなに遅れるなんて珍しい

 

 あたしも気になってたところだ

 

環那「......まぁ、ちょっと、返して貰ってただけ。」

リサ「どういうこと?」

環那「そのまま。」

リサ「!」

 

 ......やっぱり、ちょっと変わってる

 

 今までのとってつけたような笑顔じゃない

 

 色んな感情を感じる、普通の笑顔になってる

 

 それに、なんだろ、この違和感......

 

リサ「って、友希那は!?どうなってるの!?」

 

 完全に安心しちゃってた

 

 そうだ、まだ友希那がいるんだ

 

環那「友希那は大丈夫。もう、終わってる頃だろうから。」

リサ「え?」

環那「向こうはノア君が向かってる。問題ないよ。」

リサ「っ!?」

 

 その言葉に、あたしは驚いた

 

 あの環那が、あたし達を優先した?

 

 そんなこと今までありえなかった

 

リサ「な、なんで!?友希那は、よかったの!?」

環那「どっちを助けたいかって聞かれて、皆の方が助けたかった。だから来た。」

リサ「!」

 

 あたしはその言葉を聞いて、また驚いた

 

 けど、それも一瞬で

 

 すぐに別の感情へと変わった

 

リサ「......そっか。」

環那「リサ!?」

イヴ「ど、どうしたんですか!?」

 

 あたしは、涙を流した

 

 初めて、環那に選ばれた

 

 14年かけて、やっと、選んでくれた

 

リサ「あたしのこと選ぶの、遅すぎだよ、バカ......っ!」

環那「ご、ごめんなさい。」

琴葉(あの南宮君が素直に謝った!?)

燐子(め、珍しい......)

 

 やっと、報われた気がした

 

 あたしって単純なのかな?

 

 たった一回なのに、もう心が満たされちゃってる

 

環那「......もう、全部持って行ってくれたから。どこも痛くならないで言える。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「?」

 

 環那は一度、小さく呼吸をして

 

 あたし達を真っ直ぐ見た

 

 その表情は珍しく、緊張してるみたいで

 

 あたし達も息をのんだ

 

環那「俺は、皆が好きだよ。かもしれないじゃなくて、ほんとに。」

 

 その言葉は本物だった

 

 今までと全く違う、本心

 

 そこで気づいた

 

リサ(......そっか。)

 

 感じてた違和感の正体はこれだ

 

 環那は、断ち切ったんだね

 

 友希那への未練を

 

リサ「環那、よかt......」

環那「?」

リサ「......いや、やっぱりいいよ。」

 

 よかったの?なんて聞かないよ

 

 環那が決めたことだもん

 

 きっと、悩んで悩んで悩んで、その上で選んだはず

 

 これ以上、苦しめる必要はないよね

 

リサ「こんな4択中々ないよ?贅沢だね、環那~。」

環那「あはは、そうだね。」

 

 あたしは環那の脇腹をつついた

 

 ほんと、こんなに取り合うことになるとは思わなかった

 

 けど、それをちょっと嬉しいと思ってる自分もいて

 

 なんだろこれ、ちょっと複雑かも

 

 でも......

 

リサ(一つ、心残りがあるとすれば......)

 

 友希那が環那の中でどんな存在になったのか

 

 そして、友希那の気持ちはどうなのか......

 

 取り残された経験のあるあたしはそれが心配、かな

___________________

 

 “ノア”

 

ノア「__ふぅ。」

 

 湊友希那が囚われていた体育館

 

 俺はそこにいた奴らを片付け

 

 湊友希那救出の任務をこなした

 

ノア「体に異常はないか?湊友希那。」

友希那「あなたは......エマと一緒にいた......」

ノア「ノアだ。偽名だが、そう呼んでくれ。」

 

 見た所、怪我などはない

 

 近くにいたのは技に溺れた雑魚だったが

 

 それが幸いだったか

 

友希那「あの、環那は......」

ノア「奴は今井リサ達を助けに行った。」

友希那「っ!......そう、なのね。」

ノア「......」

 

 なんだ、今のこいつの気配は

 

 なぜか引っかかる

 

 取り合えず、奴のところに連れて行くのが正解だが

 

 そうしてはならん気がする

 

ノア「......」

友希那「助けてくれてありがとう。私は教室に戻るわ。」

ノア「......待て。」

友希那「?」

ノア(......なぜだ?)

 

 なぜだか分からんが、今のこいつは放っておけん

 

 理由は分からんが

 

 俺の本能がこのまま返すなと言ってる

 

 奴を無理矢理覚醒させたことへの罪悪感か?

 

ノア「思い悩んでることがあるのなら、話を聞こう。」

友希那「え......?」

ノア「今の貴様の気配は危うい。吐きだしたいものがあるのなら、俺が聞こう。」

友希那「......あなたは、信頼できるの?」

ノア「口は堅い方だ。」

友希那「......なら、人を利用するだけ利用した人間の戯言を、聞いてくれるかしら?」

ノア「いいだろう。」

 

 湊友希那はそう言った後、落ち着いて話せる場所に移動した

 

 奴が湊友希那を選ばなかったのは俺の責任でもある

 

 話くらい聞かんと割に合わん

 

 

 ......そう、この時の俺は思ってた

 

 だが、これが俺の命運を左右する分岐点になることなど

 

 この時の俺は考えもしてなかった

 

 

 



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文化祭2日目

 あの件から一晩が明けた

 

 あれからは一旦うちのクラスは出し物を中止し

 

 エマと琴ちゃんの怪我の状態を見た

 

 取り合えず、2人とも大怪我はないようで安心した

 

 けど、一つ気がかりだったのは、友希那が戻らなかったこと

 

 ノア君からは救出したって言う連絡が入ったけど

 

 状態があんまりよくなかったんだろうか?

 

リサ「環那ー!おはよー!」

環那「あ、リサ。おはよ。」

 

 それで、今日

 

 俺達のクラスは屋台を再開する

 

リサ「いやー、マジで完璧に直してるじゃん!よくここまで1人でやれたね!」

環那「まぁ、今回はエマに相当な苦労をかけちゃったからね。そのお詫びもかねて、ちょっと頑張った。」

 

 折角エマがやりたがってたし

 

 あんなのの為に中止なんてもったいない

 

 と言うことで、死ぬほど頑張りました

 

リサ「良いお兄ちゃんだね~。」

環那「良いお兄ちゃんなら妹があんなになるまで頑張らせないよ。」

リサ「うわっ、感情戻っても捻くれてる。」

環那「そんなことなくない?」

 

 別に捻くれてはないと思うけど

 

 俺が迷ってなかったらもっと被害は少なかっただろうし

 

 今回は俺が全面的に悪い

 

環那「......でも、良かった。」

リサ「?」

 

 教室の向こうでクラスメイトと話してるエマを見る

 

 張り切って準備してて、楽しそうだ

 

 そこまで重い怪我じゃないと言っても万全じゃないのに

 

 ほんと、子供って元気だよね

 

環那「エマにとって、最初で最後の文化祭が中止にならなくて。」

リサ「親だねぇ。」

環那「本当なら、年齢通りに中等部に入れてあげたかったんだ。」

リサ「!」

環那「でも、それじゃあレベルが違いすぎて浮いちゃうから、俺がいるこのクラスしか入れられなかったんだ。」

 

 俺は悪い意味でこのクラスの異分子だから

 

 エマくらいの違和感ならある程度緩和出来る

 

 そう思ったから、飛び級扱いにして、このクラスに入れた

 

 けど、正解だった

 

環那「ありがとう、リサ。」

リサ「え?」

環那「今、エマが楽しそうにしていられるのはリサのお陰だよ。感謝してる。」

リサ「......あたしも、楽しいから一緒にいるだけだよ。」

環那「そっか。ありがと。」

 

 俺はそう言って、少し笑った

 

 まだ3年生の時間は半分残ってるけど

 

 これなら安心だ

 

環那「よかったよ。リサが近くにいてくれて。」

リサ「これからも一緒だよ。あたし達はずっと、幼馴染だからね。」

環那「......そうだね。」

 

 幼馴染、か

 

 切れない繋がりがあるって言うのは良いね

 

 まぁ、でも......

 

友希那「エマ。大丈夫なの?」

エマ「問題ない。それより、あなたもこれ着て。」

友希那「す、すごい衣装ね。」

エマ「自信作......!」

 

環那(こっちのケジメも、つけなきゃね。)

 

 まだ、全部が終わったわけじゃない

 

 俺のやるべきことはまだ山積みだ

 

環那「行こうか。」

リサ「そうだね!エマのこと、うんと楽しませてあげよ!」

環那「あぁ。」

 

 俺はリサとそんな会話をして

 

 各々の準備に取り掛かった

 

 取り合えず、今は文化祭だ

 

 自分に割り当てられた仕事はちゃんとこなそう

___________________

 

 “燐子”

 

 私は今、環那君のクラスに来ています

 

 昨日は色々あって来れなくて今日来たけど

 

イヴ「ひ、ひぇ......」

燐子「うぅ......」

 

 ちょっと後悔してます

 

 エマちゃんが本気で作ったって聞いたけど

 

 思った以上にリアルで

 

 しかも、長く感じる

 

 若宮さんと2人で来ましたけど、2人いても怖いです

 

イヴ「ぶ、文化祭のレベルじゃないですよぉ......」

燐子「ここ、教室ですよね......?うちの学校より広いと言っても、長すぎでは......?」

 

 施設にあるお化け屋敷と比べても、遜色ないのでは?

 

 エマちゃん、どれだけ頑張ったんでしょう......?

 

イヴ「ど、どうしましょうか......怖すぎて足が震えてきました。......って、あれは?」

燐子「どうしました......?」

イヴ「いえ、何か落し物が__ひっ!」

燐子「え......?」

 

 目の前に落ちてる物を見て、確然としました

 

 そこに落ちてたのは人間の腕でした

 

 え、なんであんな物が落ちてるんですか?

 

?「__あったあった~。」

燐子、イヴ「っ!?」

?「見つけてくれてありがとう~。」

 

 後ろから聞こえてきた声

 

 軽くて、柔らかい口調

 

 でも、それはこの空間においては異質で

 

 しかも、いきなり現れました

 

 私たちは驚いて、バッと振り向きました

 

?「腕、失くしちゃってたんだ~。」

燐子、イヴ「き、きゃぁぁぁあああ!!!」

?「え、あの__」

イヴ「悪霊退散ー!悪霊退散ー!」

?「あの、ちょっと......」

燐子「え......?」

 

 落ち着いて聞いてみたら

 

 その声はよく知ってる声でした

 

 仮面をつけてるけど、体格も髪型も同じだし

 

 あれ、この人って......

 

燐子「環那、君......?」

環那「そうだよ~。2人が来るから、張り切って驚かせようと思ったけど、張り切りすぎちゃった☆」

イヴ「カンナさーん!!」

環那「わっ!ごめんごめん!」

燐子(あっ、そっか。)

 

 環那君って右腕取り外せるんだった

 

 あの義手が違和感なさ過ぎて忘れてた

 

 ビックリした......

 

環那「2人とも、思ったよりも怖がりなんだね。」

 

 環那君はそう言いながら義手を拾い

 

 そのまま取り付けました

 

 あんなに簡単に取り付けられるんだ

 

環那「ちなみに、ここは大体半分くらいだから、もう少し頑張ってね。」

イヴ「半分、ですか......」

環那「すぐに終わるよ。」

 

 ここまで来てもまだ半分なんだ

 

 教室の中とは思えない

 

環那「じゃあ、俺は持ち場に戻るね。あ、それと......」

燐子、イヴ「?」

環那「半分以降は怖さのレベルも上がるから、頑張ってね。」

燐子、イヴ「え?」

 

 環那君はそんな置き土産を置いて、どこかに消えていった

 

 あの、ここまででも十分怖かったんですが......

 

 と言うより環那君、ちょっとだけイジワルになったよね?

 

燐子「......行きましょうか......」

イヴ「そ、そう、ですね......」

 

 私たちはそんな会話をして、先に進みました

 

 それからの私たちは悲惨で

 

 恐らく、教室の外まで叫び声が響いてたと思います

 

 それくらい、怖かったです

___________________

 

 なんとか、外に出られました

 

 昨日の体験がなかったら最後まで歩けなかった

 

 本当に、怖かった......

 

環那「おかえり、2人とも。」

イヴ「カンナさーん!怖かったですよー!」

環那「あはは、エマが喜びそうだ。」

 

 環那君は嬉しそうに若宮さんの頭を撫でてる

 

 もう少し周りを気にした方がいいと思うけど......

 

 仕方ないのかな?

 

環那「あっ、そうだ。燐子ちゃん?」

燐子「どうしたの?」

環那「後夜祭の時、来てほしい所があるんだ。」

燐子「?」

 

 環那君はそう言って

 

 一枚のメモ用紙を手渡してきた

 

 そこには、屋上って書いてある

 

環那「燐子ちゃんの生徒会長としての仕事は他に割り振ってあるから、安心してね。」

燐子(そこまで準備してるの?なんだろう......)

 

 何かあるのかな?

 

 思い当たる節はないし

 

 環那君のことだから、皆で何かするのかな?

 

燐子「絶対行くね......!」

環那「うん。楽しみにしてて。」

 

 環那君は笑いながら教室に入って行った

 

 一体、後夜祭の時に何をするんだろう?

 

 分からないけど、すごく楽しみだな

 

 

 



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燐子の誕生日

 あれから文化祭を楽しんで、後夜祭の時間になりました

 

 校庭ではキャンプファイヤー等をして盛り上がってます

 

 けど、私はそこから離れ、屋上に向かってます

 

燐子(そう言えば。)

 

 氷川さん、下にいなかったような......

 

 環那君に呼ばれてたのかな?

 

 声をかけてくれたら良かったのに

 

燐子「あ、ついた。」

 

 そんなことを考えてるうちに屋上に着いた

 

 ここで合ってると思う

 

 だって、環那君、裏にちゃんと地図書いてあるし

 

 ......よく見たら、これすごい

 

 どうやって書いたんだろ?

 

燐子(取り合えず、入ろうかな。)

 

 私はそう思って、ドアノブを捻って

 

 そのまま、ゆっくり扉を開けた

 

あこ「__りんりーん!」

みんな「お誕生日おめでとーう!」

燐子「え?」

 

 ドアを開けたら、いきなりそんな声が飛んできた

 

 あれ、誕生日......って、あ、そうだった

 

 昨日が衝撃的すぎて忘れてた

 

リサ「あはは!燐子、すっごい驚いてるじゃん!」

燐子「い、色々ありすぎて、忘れてました。」

エマ「それもそうだと思う。」

紗夜「まぁ、取り合えず、これをどうぞ。」

 

 氷川さんはそう言って

 

 本日の主役と書かれたタスキを渡してきました

 

 これ、環那君の時も渡してたような......

 

 ハマってるのかな?

 

イヴ「おめでとうございます!リンコさん!」

琴葉「おめでとうございます、いい歳にしてくださいね。」

燐子「ありがとうございます。(あれ?)」

 

 お祝いの言葉をもらってる途中

 

 私はあることに気づいた

 

 それは、環那君がいないこと

 

 いつもなら、こういう時はノリノリなのに

 

あこ「あー、りんりん。今、環那兄いないな~って思ったでしょ~?」

燐子「え、な、なんで......!?///」

あこ「顔に書いてあるんだもん!大好きだもんねー!」

燐子「うぅ......///」

 

 あこちゃんの声、大きすぎるよ......

 

 いや、バレてるんだけど

 

 それでも恥ずかしい

 

あこ「ちなみにね、りんりん。」

燐子「どうしたの?」

あこ「環那兄さ、もうちょっとで来るよ。」

 

環那『__りーんーこーちゃーん!』

 

燐子「!?(どこから!?)」

あこ「あ、来た。」

 

 どこかから、環那君の声が聞こえる

 

 でも、どこからだろう?

 

 なんだか、下の階くらいから聞こえるような......

 

環那「よ......っと!」

燐子「!?」

 

 そう思ってると、環那君が柵の向こうに現れ

 

 そのまま、柵の手すり部分を掴んで空中で一回転して

 

 綺麗に私の前に着地した

 

環那「お誕生日おめでとう!」

 

 そして、笑顔でそう言った

 

 いや......何が起きたの?

 

 すごいことが起きたのは分かるけど

 

 すごすぎてコメントできない

 

環那「あれ?」

リサ「環那ー。燐子、動揺してるよー。」

紗夜「あんな登場の仕方をすれば当然です。」

環那「そんなにダメだった?ドッキリとサーカスの要素を取り入れたんだけど。」

琴葉「やりすぎですよ!せめて、後ろから驚かせるくらいじゃないと!」

 

千聖「......あれ、どうやってるの?」

彩「さ、さぁ?」

イヴ「あれがカンナさんの普通ですよ!」

麻弥「え、えぇ......?(困惑)」

日菜(......あれ、誰?別人じゃん。)

 

 ビックリしすぎて、言葉を失ってた

 

 そうだよね

 

 環那君なら、ああいうこともできるよね

 

環那「まぁ、いいや。何はともあれ、誕生日おめでとう!燐子ちゃん!」

燐子「う、うん、ありがとう、環那君。」

環那「いやー、ビックリさせちゃったね。そろそろ真面目にするよ。」

 

 環那君はそう言って、どこかに電話をかけた

 

 すると、すぐに屋上の扉が開いて

 

 テーブルや料理を持った人たちが入って来た

 

 瞬く間にそれらが配置された

 

環那「今日は誕生日パーティーだ。燐子ちゃん、思う存分楽しんでね。」

リサ「いえーい!燐子ー!こっちおいでー!」

あこ「今日は環那兄に独り占めさせてあげないよー!」

燐子「わっ......!」

環那「いつもそんなに独り占めしてないんだけどね。」

 

 環那君がそう言う中、私はあこちゃんたちに手を引かれ

 

 そのまま、皆で出来た輪の中に入って行った

 

 “環那”

 

環那「ふぅ。」

 

 取り合えず、掴みは良い感じでしょ

 

 ノリのいい子が多いし

 

 燐子ちゃんもきっと楽しんでくれるでしょ

 

 そう思いながら、俺はさっき置かれた椅子に座った

 

紗夜「お疲れですね。」

環那「んー?そう見える?」

 

 紗夜ちゃんが近づいて、声をかけてきた

 

 いつもの呆れ顔で、そんなことを言ってくる

 

紗夜「えぇ。どうせ、徹夜ですべてやったのでしょう?」

環那「あれバレてる?」

紗夜「目の下のクマがいつもより濃いですからね。」

環那「よく見てるね。」

 

 この子、人のことよく見てるよね

 

 リサほど付き合いが長いわけでもないのに

 

 普通にすごいな

 

環那「もしかして、俺のこと好きなんじゃ__」

紗夜「いえ、嫌いじゃないだけです。」

環那「珍しく食い気味だね。」

紗夜「本当に好きでも嫌いでもないんですよ。究極に。」

環那「まぁ、だよねぇ。」

 

 大体、俺の持ってる感想と同じだ

 

 俺は友達としては結構好きだけどね

 

 ズバッとツッコミしてくれる感じが特に

 

紗夜「でも、最初に比べればかなりイメージは改善されましたよ。今はまぁ、良い友人くらいには思ってます。」

環那「そっか。それは良かった。」

紗夜「と言うより、私も座ってもいいですか?」

環那「どうぞー。」

紗夜「では、隣失礼します。」

 

 紗夜ちゃんはそう言って隣の椅子に座った

 

 この子はワイワイするタイプでもないし

 

 ここから見てるくらいがちょうどいいんでしょ

 

紗夜「それで、今回はどのくらいかかったんですか?」

環那「クラスの出し物を復旧とこのパーティーの仕込み合わせて、ちょっと徹夜くらい。」

紗夜「よくやりますね、あなたも。」

環那「大切な日だからね。ちょっとくらい頑張っても罰は当たらないでしょ。」

 

 今日は燐子ちゃんとエマが楽しんで貰うのが目的だった

 

 そして、その目的はこの時点でほぼ達成した

 

 後は、最終手順に移行するだけだ

 

紗夜「変わりましたね、雰囲気。」

環那「そうかもね。全部、返してもらったし。」

紗夜「それだけではありませんよ。」

環那「?」

 

 その言葉に、俺は首を傾げた

 

 そうしてると、紗夜ちゃんは小さく笑い

 

 ゆっくり口を開いた

 

紗夜「確かに、今のあなたはもう1人の南宮君の要素も入ってます。ですが、それだけではありません。」

環那「どういう意味?」

紗夜「人間っぽくなった、と言う意味です。」

環那「!(紗夜ちゃん__)」

紗夜「まぁ、能力は人間のそれではありませんが。」

環那「上げて落とすの良くないよ?」

 

 そこは仕方ないとは思うけどさ

 

 それでももっとタイミングあったよね?

 

環那「紗夜ちゃーん、折角ちょっと感動してたのにひどくなーい?」

紗夜「別にいいじゃないですか。」

環那「紗夜ちゃん絶対にドSでしょ。」

紗夜「えぇ、恐らくそうですよ?あなたもでしょう?」

環那「そのはずだけど、紗夜ちゃんと話してるとそうでもない気がしてくるよ。」

 

 まぁ、これくらいの距離感がちょうどいいか

 

 俺はどっちかと言うとボケだし

 

 こっちの方が楽に話せる

 

環那「さて、俺は次の準備をしようかな。」

紗夜「まだ何かあるんですか?」

環那「サプライズ一つじゃ、つまらないでしょ?」

紗夜「そうですね。(本当に、変わりましたね。前までなら、そんな風に笑わなかったのに。)」

 

 俺は軽く手を振ってから次の準備をするためその場を離れた

 

 さて、こっちは喜んでくれるかな

___________________

 

 “燐子”

 

 しばらく、私はパーティーを楽しみました

 

 お料理も食べて、プレゼントも貰って

 

 すごく幸せな時間でした

 

リサ「そう言えば、環那。まだプレゼント渡してなくない?」

環那「ん?」

燐子「!」

 

 そんな中、今井さんのそんな声が聞こえました

 

 そう言えば、そうかも

 

 パーティーの間はあんまり話せてもなかったし

 

環那「あー、そうだったね。」

 

 環那君はそう言って、苦笑いを浮かべた

 

 どうしたんだろう?

 

 いつもと違って、歯切れが悪い気がする

 

あこ「もしかして、プレゼント忘れちゃったの!?」

環那「いや、それはないよ。けど、まぁ......」

燐子「?」

環那「ちょっと、移動していい?って言っても、そこの上に行くだけなんだけど。」

 

 出入口がついてる建物を指さしながらそう私に聞いて来た

 

 何かしたいことがあるのかな?

 

燐子「いいけど、何かあるの?」

環那「まぁ、ちょっとね。取り合えず......」

燐子「!///」

 

 環那君は私の方に近づいて来た

 

 目の前に立った瞬間、私はお姫様抱っこをされた

 

 あの合宿の時以来だ

 

環那「お姫様をご招待だ。しっかり掴まってて。」

燐子「は、はい///」

 

リサ「むぅ~(ズルい。)」

琴葉(羨ましいですね......私の年齢的にお姫様はキツイですが。)

イヴ「お姫様......ですかぁ......///(悪くない、のでしょうか///)」

 

エマ「完全に呆けてる。」

 

 環那君は私を抱えたまま走って

 

 そのまま、建物に飛び乗った

___________________

 

環那「__はい、ここで到着。下ろすね?」

燐子「う、うん///」

 

 私は丁寧に地面に下ろされた

 

 ここはさっきよりも景色がよく見える

 

 高さはそこまで変わらないのに

 

 全然、見え方が違う

 

燐子「それで、なんでここに来たの?」

環那「別に下でもよかったんだけど、色々な理由でね。一つは__」

 

(ドーン!)

 

燐子「!」

環那「これ。」

 

 私たちが上に来てすぐ

 

 どこからか大きな花火が上がった

 

 お祭りのと変わらないくらい大きい

 

 まさか......

 

燐子「これ、環那君が?」

環那「そうだよ。折角だし、もう一つのサプライズをと思って。どうかな?」

燐子「すごく、嬉しい......!綺麗......!」

環那「そっか。じゃあ、もう少し見てようか。」

燐子「うん......!」

 

 私は大きく頷いて、花火の方に視線を移した

 

 空高く、いくつものカラフルな花火が上がって

 

 暗くなった空が彩られていく

 

燐子(環那君......///)

環那「!」

 

 そして、横には大好きな人がいる

 

 指を絡めて手を握って、体を寄せた

 

 夏は、一緒に花火は見られなかったから

 

 こうしてみたいと思ってた

 

燐子「綺麗、だね......///」

環那「喜んでくれてるみたいでよかった。」

 

 今の環那君の笑顔は心が温かくなる

 

 心から笑ってるのが分かるから

 

 今まではどこか、無理矢理笑ってたのを感じてたから

 

 こんな風になってくれ、すごく嬉しい

 

環那「......ねぇ、燐子ちゃん。」

燐子「どうしたの?」

環那「前に俺が、燐子ちゃんのことを運命感じるって言ったの覚えてるかな?」

燐子「お、覚えてる......///」

 

 運命を感じるって言われたことは覚えてる

 

 あの時は、遭難した時で

 

 初めて、環那君と一つになった後で

 

 今の始まりだった

 

環那「あの日からしばらく経つけど、つくづく思うよ。燐子ちゃんは、俺の運命の人なんだって。」

燐子「っ......!///」

環那「俺は、燐子ちゃんがいたから強くなれたんだと思う。燐子ちゃんがいなかったら、きっとまだ止まったままだった。」

 

 ギュッと手を握られる

 

 左手だからか、より環那君を感じる

 

環那「あの日、燐子ちゃんに言われた言葉。あれが、すごく痛かったんだ。図星過ぎて。」

燐子「!」

 

 あの日、は環那君のおうちに泊まった時だ

 

 あの時の私はおかしくて、いろいろ言っちゃったけど......

 

 やっぱり、踏み込んでほしくないところだったんだ......

 

環那「だけど、あれを切っ掛けに色々考えた。そして、色んな人に手を借りちゃったけど、全部を断ち切れた。」

燐子「......!」

環那「俺の価値観すべてを壊すきっかけになった燐子ちゃんは、まさに運命の人だと思う。」

燐子「......うん。」

 

 本当に良かったのか、なんて聞けない

 

 だって今、環那君は幸せそうだから

 

 憑き物がとれたみたいに、すっきりした顔をしてるから

 

環那「だから、感謝してる。生まれてきてくれて、出会ってくれて。だから......って言うのもおかしいんだけど。これ、受け取ってほしいな。」

燐子「!///」

 

 環那君はそう言いながら

 

 上着のポケットから小さな箱を出して

 

 それをこっちに差し出してきた

 

燐子「え、えっと、開けてみてもいい......?///」

環那「いいよ。むしろ、開けて見てほしい。」

 

 そう言われたので、一旦、繋いでる手を離して開けてみることにした

 

 私は箱の蓋を丁寧に開けた

 

 すると、そこからは......

 

燐子「__す、すごく、綺麗......///」

 

 美しい海をそのまま結晶にしたような今にも溶けてしまいそうなほど綺麗に輝く宝石があしらわれた宝石とダイヤモンドがマーキス・カットされ、あしらわれた指輪が姿を現した

 

 ダイヤモンドは分かったけど

 

 もう一つがどうしてもわからない

 

環那「それは、パライバトルマリンだよ。」

燐子「パライバ、トルマリン?」

環那「1989年にブラジルのパライバ州で発見された宝石。発見当時は数多く出回ったけど、現在はあまり産出されてなくて、希少なんだ。」

燐子「えぇ......!?そんなの、貰ってもいいの......!?」

環那「いいよ。むしろ、燐子ちゃんに持っててもらいたい。」

 

 環那君はそう言いながら

 

 もう一つ、今度は細長い箱を出した

 

環那「でも、まぁ、キーボードするときに指輪ついてたら邪魔になるかもしれないから、これも。」

 

 そう言って今度は環那君が箱を開け

 

 その中を見せてくれた

 

環那「こっちは、同じ宝石を使ってるネックレス。」

燐子「!?」

環那「これなら、普段使いもしやすいかなって。」

燐子「お、恐れ多くて、そう易々使えないよ......!」

環那「あはは。燐子ちゃんっぽい。」

 

 環那君は笑いながらそう言った

 

 本当に、こんないいもの貰っていいのかな?

 

 ここまでも色々してもらってるのに......

 

環那「でもね、これは自分の才能を目覚めさせるって言う意味のパワーストーンでもあるんだ。」

燐子「え、そうなの......?」

環那「うん。だから、普段使いは出来なくても、ライブの時とかに連れて行ってあげてくれれば、お守りにはなるかもね。」

燐子「じ、じゃあ......///」

環那「?」

燐子「一回、つけてみてくれない、かな......?///このまま持って帰っても、自分じゃきっと......つけられないから......指輪も......///」

 

 私は声を絞り出しました

 

 すごく恥ずかしいけど

 

 これは、最初に環那君に付けられたいから

 

環那「うん、了解。少し、髪あげるね?」

燐子「うん......///」

 

 環那君はそう言って私の後ろに回り

 

 前からネックレスを通して

 

 後ろで髪を上げ、それを付けてくれました

 

 サイズは驚くくらいピッタリでした

 

燐子「ど、どう......?///」

環那「すごく似合ってる。」

燐子「あ、ありがとう......///じゃあ、指輪も......///」

環那「うん。」

燐子「......///」

 

 私の左手が環那君に握られます

 

 も、もしかして、薬指につけてくれる、の?

 

 そうなら......

 

環那「......」

燐子「......///(ど、どうしたんだろう......?///)」

 

 左手を握ったまま、環那君が停止しました

 

 様子がおかしい

 

 環那君ならすぐに終わらせそうなのに

 

環那「......ご、ごめん。」

燐子「え__あっ。」

 

 環那君はいきなり謝ったかと思ったら

 

 指輪を左手の人差し指に付けました

 

 あれ?

 

燐子「......環那君?どうして、この指なの?」

環那「いやぁ、あのぉ......」

燐子「なんで?」

 

 やっぱり、今日の環那君は歯切れが悪いです

 

 なんだか、挙動不審だし

 

 今は目線までちゃんとあってない

 

環那「......すっごく情けない理由なんだけど。」

燐子「?」

環那「......薬指に付けるの、心臓破裂しそうなほど動いて、無理だった。」

燐子「っ......!?///」

 

 顔を背けながら、そう言った

 

 どうしよう、今まで見たことない姿だ

 

 こんな環那君、初めて見た

 

 けど、可愛い......

 

燐子「恥ずかしかったの......?///」

環那「......多分、そんな感じ。」

 

 顔をそむけたまま、そう言った

 

 感情戻ると、こうなるんだ

 

 今までからは考えられないや

 

燐子「じゃあ、今は良いよ......///」

環那「......すみません。」

燐子「全然、大丈夫だよ......///大切な時に取っておくから......///」

環那「!」

 

 私は向こうを向いてる環那君の顔を引き寄せた

 

 距離はもう、15㎝も空いてない

 

 そんな状況で、私は言葉をつづけた

 

燐子「取っておくから......その時には、ちゃんと嵌めてね......///ちゅ///」

環那「っ!」

 

 私は環那君にキスをした

 

 それと同時に一際大きな花火が上がった

 

 そして、その花火が花開いて、散った頃に私は唇を離した

 

燐子「愛してるよ、環那君っ!///」

 

 私はとびきりの笑顔でそう言った

 

 この時は幸せいっぱいで

 

 今までにないほど、大きな声が出ました

 

 

 ......ただ、ですね

 

 この時の私はすぐ下に皆がいることを忘れてて

 

 今井さん、若宮さん、浪平先生からはズルいと言われ

 

 他の皆さんには『大胆ですね......』と言う感じの態度を取られ

 

 顔から火が出そうになったのは、この後すぐの事です

 

 

 



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数日後

 今は何月何日何曜日だろうか

 

 それすらも、分からない

 

 あの日からただひたすら走って、訓練をしてる

 

 今までの人生で一番と言っていいほどに

 

ノア「はぁ、はぁ、はぁ......っ!!」

 

 まだ、足りていない

 

 今の俺ではどう足掻いても普通の状態では奴には届かない

 

 だが、ヒントはある

 

 あの感覚さえ掴めれば......

 

篤臣「__おう、なにしてんだァ、銀郎ォ。」

ノア「......浪平篤臣か。」

 

 橋の下でしばらく立ち止まってると

 

 暗闇から浪平篤臣が姿を現した

 

 こいつとは最近やけに会う気がする

 

篤臣「訓練好きとは聞いてたがァ、異常だなァ。まるで、何かデカい敵を倒そうとしてるみてェだ。」

ノア「......ふん。」

 

 そう言えば、こいつは南宮環那の派閥だったな

 

 一大組織の棟梁がガキに付き従うとは

 

 とんでもない化物が生まれたものだ

 

ノア「貴様には、関係ないことだ。」

篤臣「......まさか、お前ェ、環那とやり合う気かァ?」

ノア「......そうだ、と言ったら?」

 

 一筋の風が俺の頬を撫でる

 

 ここでこいつとやり合う覚悟はある

 

 そして、勝つ自信も

 

篤臣「おすすめはしねェなァ。勝てねェぞ?確実にィ。」

ノア「そんなことは分かっている。」

篤臣「!」

 

 そう、分かっているのだ

 

 何度か俺は奴に敗れている

 

 いや、戦いにすらなっていない

 

 奴にとっては、戯れ程度だっただろう

 

ノア「それでも、やらねばならん理由があるのだ。」

篤臣「なんだァ?その、お前ほどの男を動かす理由ってのはァ?」

ノア「......」

 

 その言葉が俺の頭の中に響く

 

 普段なら、俺は勝てない戦いはしない

 

 負ける前提の戦いなど、俺のプライドが許さん

 

 だが、今回はそうも言ってられないのだ

 

 その理由は、ただ一つ

 

ノア「本物を偽物にしたまま、終わらせるわけにはいかん。」

篤臣「......どういう意味だァ?」

ノア「そのままの意味だ。」

 

 別に、何か特別なものがあるわけではない

 

 顔を合わせた回数も数回程度だ

 

 だが、なぜか、俺を激しく掻き立てる

 

ノア「奴を覚醒させたのは他でもないこの俺だ。その責任を果たさずして、おめおめと逃げるわけにはいかん。責任は全て果たす。」

篤臣(......あの銀狼が、ここまで覚悟を決めるかァ。)

ノア「だが、勝てるなどと思い上がってはいない。一矢報いて、気づかせられればいい。」

 

 いや、今の奴の前ではそれすら思い上がりか

 

 完全に覚醒した奴は文字通りの化物だ

 

 攻撃はすべて無効にされ、本気を出されれば瞬殺されるだろう

 

 だが......

 

ノア「その策はある。無策などではない。」

篤臣「......なにィ?」

ノア「だが、これはあくまで最終手段。使うのには条件もだが......何よりも覚悟がいる。」

 

 もし失敗すれば、最悪死に至るだろう

 

 だが、もしかすれば一矢報いることが出来るかもしれん

 

篤臣「......気ぃつけろよ。」

ノア「止めんのか?」

篤臣「あぁ、止めはしねェよ。だがァ。」

 

 浪平篤臣はそう言い

 

 少し厳しい表情を浮かべた

 

篤臣「また、あいつだけが悪役になるのはァ、勘弁願うぜェ。」

ノア「心配ない。今の奴には、心を通わせた者たちがいる。そして、何より......」

篤臣「?」

ノア「これは、正義も悪もない。男と男の戦いだ。」

篤臣「......そうかァ。」

ノア「もう行くぞ。時間が惜しい。」

 

 俺はそう言って、また走り出した

 

 奴へ挑む覚悟が出来るまで、もう少しかかる

 

 一刻も早く、決めなければいけないな

___________________

 

 “友希那”

 

リサ「環那ー!お弁当食べよー!」

環那「あ、うん。いいよ。」

リサ「じゃあ、今日もおかず交換ね!今回のは自信作だよー!」

環那「そりゃあいい。」

エマ「私も審査員をする。」

 

友希那「......」

 

 文化祭の日から数日が経った

 

 環那は変わった

 

 あの、燐子の誕生日パーティーの時の姿を見て、確信した

 

友希那(......そうよね。)

 

 環那はリサ達を選んだ

 

 別に、何ら不思議な事じゃない

 

 見ていれば、環那の気持ちの変化なんて分かったもの

 

友希那(仕方ない、わね。)

 

 私は環那に色々してしまったもの

 

 あそこまでしてそのままの関係でいられるとは思ってない

 

 むしろ、良かったと思ってる

 

 あの4人の中の誰かなら、心配ないもの

 

友希那(......でも。)

 

 何の?この気持ちは

 

 少女漫画で見るようなモヤモヤじゃない

 

 消失感にも似たような、暗い感情

 

 それがずっと、胸の内に渦巻いてる

 

友希那(......これは、なんなの?)

 

 あの日からずっと、分からない

 

 環那はあの4人を選んだ

 

 それが分かってから、ぽっかりと胸に穴が空いた気がする

 

友希那(......寒いわね。)

 

 心の隙間から、冷たい風が吹き抜ける

 

 この隙間は何で埋まるのかしら

 

友希那(......分からないわね。)

 

 こんな感覚は生まれて初めてかもしれない

 

 悲しいというのとはまた違う

 

 この、気持ち悪い感情

 

 なんなの、これは?

 

友希那「......どうすれば、いいのかしら。」

 

 寒くて、重い

 

 これはどうすれば、解消されるのかしら

 

 何をどうすれば、いつも通りになるのかしら

 

友希那(......そう言えば。)

 

 あの日、私の話を聞いてくれた人

 

 あの人に吐きだした時間は、少し心が楽だった

 

 けれど、気になったのは

 

 少し、あの人が思いつめた顔をしていて

 

 そして、どこか、あの地震の日の環那に似ていた

 

 覚悟を決めたような、けれど危うい、あの雰囲気と

 

友希那(何をする気なのかしら?)

 

 顔を合わせたのは数回程度

 

 強いて言うなら、話を聞いてもらった恩がある位

 

 けれど、無性に気になる

 

友希那(......なぜかしら?)

 

 いや、理由は分かってる

 

 環那にどこか似てるから

 

 あの片腕を失った日とフラッシュバックするから

 

友希那(......何が起きようとしてるのかしら。)

 

 私はそんなことを思いながら

 

 1人静かに教室を出た

 

 流石に、今は気まずくてそんなに長く教室にはいられないわ

 

 いつになったら直るかは、分からないけれど

 

 

 



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決戦の地へ

 文化祭の日から数日経った

 

 俺はいつも通りの日常を過ごしてる

 

 最近の調べでは特に何も動いてないし

 

 しばらくは、何かが起こることはないだろう

 

リサ「環那ー。」

環那「ん?」

リサ「友希那と話せた?」

 

 お昼休み

 

 席にボーっと座ってるとリサがそう言ってきた

 

 その問いに俺は大きなため息をついてから答えた

 

環那「全然。」

リサ「初めてだね、こんなこと。環那が友希那と一週間も話さないなんて。」

 

 そう、俺は友希那と一週間は話してない

 

 捕まってるときを除いて、こんなの人生で初めてだ

 

 どうすりゃいいんだろ

 

環那「どうするのがいいんだろうね。」

リサ「倦怠期のカップルみたいになってんじゃん。」

環那「そう言うものではないでしょ。」

 

 そんなに安いものじゃない

 

 俺と友希那の関係はもっと難しい

 

 こじれさせたのは俺なんだけど

 

環那「俺と友希那の間に恋愛感情はなかった。カップルのそれとは違う。」

リサ(......そっか。環那は気づいてないんだ。)

環那「こうなった原因は俺だし、何とかしないとね。」

 

 と言っても、解決の手立てはない

 

 時間に任せるって言う選択肢もなくはないけど

 

 ほんとにそれでいいんだろうか?

 

リサ「まっ、ゆっくり考えなよ。」

環那「そうするよ。まだ、感情を読み取るのには慣れてないから。」

リサ「頑張れ。(大丈夫かな。また、傷つかないといいけど......)」

 

 まだまだ、経験が足りてない

 

 けど、問題ない

 

 経験はいくらでも積める

 

 俺の脳はそれに特化してるんだから

___________________

 

 “友希那”

 

 もう、一週間が経つ

 

 最近は環那どころかリサとも話しずらい

 

 いや、仲のいい2人を避けてしまっている

 

 入る余地がないから......

 

紗夜「__ストップ!湊さん!」

友希那「っ!」

 

 紗夜のそんな声でハッとした

 

 練習中に他のことを考えるなんて

 

 しまったわ......

 

紗夜「どうしたんですか?今日......と言うより最近、声の出が悪いですよ?」

友希那「......」

紗夜(......と、厳しくは言いますが、仕方のないことなんでしょうか。)

 

 不覚だわ

 

 歌ってるときは大丈夫だと思っていたのに

 

 この迷いはそこまで根深いの......?

 

あこ「ま、まぁまぁ、紗夜さん。」

紗夜「分かってますよ......流石に。」

リサ、燐子「......」

 

 2人はバツが悪そうに下を向いてる

 

 別に、そんな必要はないのに

 

 悪いのは、2人じゃない

 

 悪いのは......

 

紗夜「皆さん。今日のところは終わま__」

環那「__失礼しまーす。」

Roselia「!?」

 

 その時、部屋の扉が開き

 

 どこか緩んだ声が聞こえてきた

 

 全員の視線がそっちに向くと

 

 そこには環那とエマが立っていた

 

 “環那”

 

環那「2人の進路調査票、不備があったからってパシられて来たんだけど。」

リサ「あ、あー......」

紗夜(なんてタイミングで来てるんですか!?)

あこ(う、うわー、最悪のタイミングで......」

 

 え、なに?この空気

 

 まさか、不味いタイミングだった?

 

 確認しないで入っちゃったんだけど

 

環那「練習は終わってる......のかな?」

紗夜「えぇ。(いや、むしろこれはチャンスなのでは?)」

環那「じゃあ、取り合えずこれは渡しておくね。」

リサ「あ、うん。」

 

 取り合えず、俺は本来の目的を果たした

 

 これは、あんまり長居しないほうがいいかな

 

 さっさと帰ろう

 

環那「じゃあ、俺たちは帰るねー。失礼しま__」

紗夜「少し待ちなさい。」

環那「痛いんですが......紗夜さん。」

 

 俺が帰ろうとすると

 

 紗夜ちゃんはすごい力で俺の肩を掴んだ

 

 なんか、めり込んでるんだけど

 

紗夜「もう練習が終わるんですが、湊さんを送ってください。エマさんは私たちが見ているので。」

環那「は、はい。分かりました。なので肩を離していただけないでしょうか......?」

 

 このまままじゃ骨がポッキリいっちゃうよ

 

 パワーすごすぎでしょ

 

紗夜「湊さん。」

友希那「紗夜......」

紗夜「ここでキチンと話してください。決着を付けろとは言いません。ただ、話してください。」

 

 紗夜ちゃんは友希那にそう念押しし

 

 俺の方に押し出した

 

 それを見て、俺は友希那に声をかけ

 

 一緒に部屋を出ることにした

___________________

 

 “友希那”

 

 ライブハウスを出て数分

 

 私と環那は帰りに通った公園のベンチに座ってる

 

 久しぶりかもしれない、環那と2人きりになったのは

 

環那「......元気だったみたいだね。」

友希那「......えぇ。」

 

 思ったように会話が続かない

 

 ここ最近の対応で

 

 今までのように会話ができない

 

環那「......ごめんね、友希那。」

友希那「え......?」

環那「俺は友希那のことは大切に思ってる。でも、大切なだけなんだ。それ以上の感情は、ない。」

友希那「......っ」

 

 分かってた

 

 環那にとっての私は言ってしまえば信仰の対象で

 

 恋愛対象などではない

 

 いくら私が思っても、その気持ちは全部、すり抜けていく

 

環那「だから、ごめん。」

 

 環那は申し訳なさそうにそう言う

 

 けれど、環那は悪くない

 

 変わらない人間はいない

 

 今、環那には良い変化が起きてる

 

 それを邪魔をしてるなら、むしろ、悪いのは私だもの

 

友希那「そんなに気にしなくていいの。私は__」

 

ノア「__いいや、良くない。」

 

環那「!(ノア君?)」

友希那「あなたは......」

 

 その時、あの時の男の人、ノアが現れた

 

 なんで、ここにいるの?

 

 そう疑問に思った

 

 けれど、なぜか安心のような感情もあった

 

ノア「湊友希那の思いは、そんなに安いものではない。」

友希那「い、いいの。私は......」

ノア「よくないから、ここに来たのだ。」

友希那「......!」

 

 彼から、確固たる決意を感じる

 

 それはまさしく、あの日の環那のそれだった

 

 自分を犠牲にする覚悟が体に纏わりついてる

 

ノア「俺と戦え、南宮環那。」

環那「......なんだって?」

ノア「貴様を覚醒させたのは他でもないこの俺だ。その責任を果たすためにも、俺は戦わねばならん。」

環那「......本気、みたいだね。」

友希那(ま、まって......)

 

 彼は本気だ

 

 本気で今の環那と戦おうとしてる

 

 けど、そんなのダメよ

 

 勝てるわけがない、どうやっても......

 

ノア「そんな心配そうな顔をするな。」

友希那「!」

ノア「勝とうなどと思い上がってはいない。ただ、示したいものがあるだけだ。」

友希那「の、ノア......それは......?」

ノア「さぁ、どうする?南宮環那。」

 

環那「......(なるほど。)」

 

 ノアからすごい圧力を感じる

 

 けど、怖くはない

 

 普通なら怖いはずなのに

 

 なぜか、恐怖心よりも心配が前に出る

 

環那「......いいよ。」

友希那、ノア「!」

環那「本気でやり合おうか。ノア君。」

ノア「っ......!!(これは......!!)」

 

 環那から、異様な空気が流れる

 

 なんなんの?この感覚は

 

 底の見えない恐怖心に襲われる

 

友希那「大丈夫、なの......?」

ノア「......見届けてくれ。」

友希那「!」

ノア「本物は、ここにもあったと証明するときを。」

友希那「......えぇっ」

 

 私はそう頷き、ベンチから立ち上がった

 

 彼は、大丈夫なの?

 

 今の環那を相手に生き残れるの?

 

 そんな心配を抱きつつ

 

 彼が決めたという決戦の地に向かった

 

 

 



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本物の気持ち

 ノア君が決めた場所

 

 そこはほぼ放棄された工場地帯

 

 その中にある、木材や鉄骨を置いてある場所だ

 

 その真ん中には準備されたようにスペースが空いていて

 

 まるでリングのようになってる

 

ノア「勝負だ、南宮環那。」

環那「うん。」

 

友希那(だ、大丈夫なの......?2人とも......)

 

 ノア君はそう言い、構えた

 

 オーソドックススタイル

 

 あんまり奇抜なことはしないみたいだ

 

環那「......じゃあ、来なよ。」

ノア「あぁ......行くぞっ......!!」

 

友希那「!?」

 

 ノア君は勢いよく地面を蹴って、勢いよく突っ込んできた

 

 速い、やっぱり、今までの相手とはレベルが違う

 

 でも......

 

環那「それじゃあ、ダメだよ。」

ノア「知っている。」

環那「おっ。」

 

 直進のスピードのまま、ノア君は横に移動した

 

 なるほど、今の直進は最高速じゃなかったんだ

 

 最高速はむしろここから

 

ノア(こいつにはどうせすべて読まれている。ならば、こいつの想定を超えるしかない!)

環那「すごいよ、ノア君。」

ノア(なっ......!?)

環那「でもね、それは想定以上であっても、想像以上じゃあない。(フワッ)」

ノア「クッ!(音のない防御も使えるのか!)」

 

 俺はノア君の攻撃を受けた

 

 威力は殺し切ったけど、重いのが分かる

 

 やっぱり、この子は強い

 

 前までの俺なら、あいつを出さないと負けてたかも

 

環那「ノア君、君は強いよ。けど、負ける。純粋な身体能力と武術の戦いは俺と相性が悪すぎる。」

ノア「まだ始まったばかりだ。勝った気でいると、寝首を掻くぞ......!」

環那「......」

 

 ノア君は再度攻撃を仕掛けてくる

 

 左右、上下、パンチ、キック、掴み技

 

 色んな武術に精通する技術を持つ彼は引き出しが豊富だった

 

 互角の相手位なら、彼は余裕で勝つことだろう

 

 でも......

 

環那「__分かってるよ。君がどんな手を打ってくるのか。」

ノア「はぁ、はぁ......!」

 

友希那(全て、さばき切ったの......!?)

 

 俺はその全てを捌いた

 

 彼の動きは確かにすごい

 

 叩き上げてきた肉体で人間の限界ギリギリのパフォーマンスを可能にし、それを生かす技もある

 

 けれど、あまりそれに意味はない

 

環那「君がどんな手を打っても、俺の想像は越えない。」

ノア「なん、だと......!?」

環那「君の動きはすごい。けど、それでも、人間の域は出ない。」

ノア「っ......!」

 

友希那「人間の域を、出ない......?(あれが......?)」

 

 俺はありとあらゆる戦闘をシミュレーションしてきた

 

 その中にはノア君レベルはいた

 

 だからこそ、想像の範囲内

 

 かなり鍛錬を積んだのか、想定してた強さは越えてた

 

 けど、俺の想像は絶対に超えない

 

環那「人間では扉は空けられない。」

 

 この子の力は限りなく俺に近い

 

 けど、学生で言えばテストでトップ10に入るくらい

 

 秀才レベルだ

 

ノア「だが、貴様も攻撃はしていないではないか。意外と余裕がないのではないか?」

環那「出来れば、お互いに怪我無く終わるのがりそうだけど、ダメだった?」

ノア「っ......!!(なんて気配だ......!!)」

環那「なら、攻撃するよ。痛いけど、我慢してね。」

 

 諦めさせたかったんだけど

 

 この子の心は折れてくれないみたいだ

 

 あんなにことごとく攻撃を消されても闘志が萎えない

 

 やっぱり、レベルが違う

 

ノア「来い、南宮環那......!!」

環那「じゃあ__」

ノア「っ!?(なんだ!?)」

環那「__ちょっと痛いよ。」

 

 俺はノア君に接近し

 

 そのまま、ノア君の腹部を打ち抜いた

 

ノア「グホッ......!?(なんだ......!?ゆっくり動き出したと思ったら、いきなり目の前に移動しやがっただと......!?)

環那「出来れば、これで倒れてよ。」

 

 ノア君の体がクの字に折れる

 

 彼が何をしたかったかは分からない

 

 けど、きっと、友希那と何かあったんだろう

 

 感謝してる、でも、ノア君を傷つける事は俺は望まない

 

 これで終わることを祈るよ

 

 “ノア”

 

ノア(届か、ねぇ......)

 

 心からそう思う

 

 恐らく、このレベルの化物はそうは生まれない

 

 次に生まれるとすれば、もっと先

 

 100......いや、1000年は先だろう

 

ノア(ここまで、歯が立たないのか、俺は......っ!)

 

 情けなくなるぜ

 

 チビの時から戦場にいたってのに

 

 18のガキに手も足も出ないとはな

 

ノア(......いいや、分かっていたことか。)

 

 こいつは世が世なら伝説

 

 いや、現代でも何らかの形で名を残す化物だ

 

 生き物としての格が違う

 

 俺は言ってしまえば、太陽に近づいたイカロスと同じなのだろう

 

ノア(だが......っ!!!)

環那「!」

友希那「!?」

 

 無理矢理体を起こす

 

 俺はそう簡単に諦めるわけにはいかんのだ

 

 まだ、何もできていない

 

 このままおめおめと引き下がれんのだ

 

ノア(......湊友希那。)

友希那「っ!の、ノア......」

ノア(伝えてやるよ。そこの、感情が1か100しかない奴に。お前の、本当の気持ちを......!!)

 

 ダメージが残る体に鞭を打つ

 

 そうだ、今は自分自身のために戦うのではない

 

 ただ、伝えるために戦ってるのだ

 

 あの日に聞いた、本物のために

___________________

 

友希那「__私は、環那が好きだったのかしら......」

 

 そう言う声は弱弱しかった

 

 自信がなく、自己嫌悪も感じられる

 

 そんな声だった

 

友希那「何か、特別な切っ掛けがあったわけではないの。ただ、一緒にいて、優しいから好きだった。」

ノア「......」

友希那「でも、それは、無条件に尽くしてくれる環那を好きだったと思っていたようで、本当は恋愛感情じゃなくて他の邪な何かじゃないかって思った......っ」

 

 ずっと、湊友希那には興味があった

 

 あの化物を作り出した存在として

 

 何か、特別なものがあるのかと

 

 だが、実際に話してみればなんてことはない

 

 チビで運動能力も並以下で泣きたいときは泣く

 

 自己犠牲の精神が特別あるわけでもない

 

 そんな特別でもなんでもない普通の女だった

 

友希那「でも、なんでかしらね......」

ノア「......?」

友希那「環那がリサ達を選んで、安心してるはずなのに......悲しいの、どうしようもなく......っ」

ノア「......!」

 

 水滴がいくつか、床に落ちた

 

 泣いているのだ

 

 だが、俺には理解できなかった

 

友希那「気づいてたの......環那の気持ちが、私から離れていってることは......」

ノア「......」

友希那「それも仕方ないとは思ってた......私は、環那から奪うだけ......時間も、目も、右腕も、すべて私が奪ってしまった......なのに、私は、何もしてあげられなかった......っ」

ノア「......」

 

 さらに、悲しみの感情が大きなってる

 

 だが、俺に気の利いたことは言えん

 

 静かに聞くことしか、俺には出来ない

 

友希那「だから、良かったのかもしれない......あの4人の気持ちは本物だわ......きっと、環那を幸せにしてくれる......偽物の私に、出る幕はない。だから、これでいいはず......なのに、なんで、こんな......っ!」

ノア「......っ。」

 

 奪ったことをこんなに後悔し

 

 こんな風に自分を犠牲に出来る人間の持つ気持ちが、本当に偽物なのか?

 

 俺には......分からない

 

ノア(......いや。)

 

 分かる

 

 こいつの気持ちは本物だ

 

 俺は知ってるのだ

 

 自分よりも他の幸せを願い

 

 そのせいで傷つき、命を落とし

 

 生きてる間に思いを伝えることすら出来なかった、大馬鹿を

 

ノア「......それは、貴様の気持ちが本物だからだ。」

友希那「え......っ?」

ノア「偽物にこんな涙は流せん。」

友希那「!」

 

 俺は湊友希那の涙を指で拭った

 

 一点の濁りもない、綺麗な涙だった

 

 ......偽物なわけがない

 

 この涙を流す者は、本物なのだ

 

ノア「......貴様の気持ちをここで殺すわけにはいかん。」

友希那「え......?」

 

 俺はそう呟き、立ち上がった

 

 そして、覚悟した

 

 俺はこの気持ちを運ぶ、運び手になると

 

ノア「......さらばだ。もっとも、すぐにまた会うことになるだろうが。」

友希那「それは、どういう意味......?」

ノア「......今は知らなくてもいい。」

 

 俺はそれ以上何も言わず、その場を立ち去った

 

 

 そうだ、俺はこいつの気持ちを運ぶのだ

 

 もう、本物を殺すわけにはいかない

 

 そのために__

___________________

 

 “環那”

 

環那(......立った?そんな馬鹿な。)

 

 いくらノア君が頑丈と言っても限度がある

 

 ベストショットだった

 

 ノア君レベルでも、終わらせるレベルの

 

ノア「まだ、終われんのだ......っ!!」

友希那「の、ノア......」

 

 何が、あの子を突き動かしてるんだ

 

 いいや、分かってる

 

 きっと友希那のためだ

 

 それでも分からないのは、何がこの子をここまで本気にさせるかだ

 

ノア「......貴様の隣を歩く4人。」

環那「!」

ノア「あの女たちの気持ちは、本物だ......それを否定する気は、ない。」

 

 ノア君は息を切らしながらそう言う

 

 もう、体も精神も限界だろうに

 

 声を絞り出してる

 

ノア「だが......進んでいく貴様の後ろにいる者にも、気持ちがあることを、忘れるな......っ!!」

環那「......っ!!」

 

 ......分かった

 

 そう言うことか

 

 あいつが言ってた、あの日の俺と似た経験をノア君が過去にしてる可能性がある

 

 それが本当にそうで、今度はノア君が救えなかった誰かと友希那を重ねてるんだ

 

ノア「貴様を覚醒させた、責任は取ろう......」

環那「っ......?(なんだ?)」

 

 ノア君から異様な気配を感じる

 

 けど、俺はこれを知ってる

 

 これは、まさか......!

 

環那「ノア君!それを使うのはダメだ!」

ノア「一発叩きこんで、思い出させてやる......っ!!この俺が......っ!!」

環那「チッ......!(マズい......!)」

 

 この感覚は、扉が開かれる時のものだ

 

 いや、それだけならいい

 

 けど、もう一つ

 

 この感覚は......

 

ノア「貴様に普通の状態で勝てぬことなど分かっていた......だからこそ、覚悟は決めてきた......っ!!」

環那「......まさか、ノア君までそれを使うなんてね。」

 

 ノア君からすごい熱量を感じる

 

 そう、俺はこれをよく知ってる

 

 だって、元は自分が使ってたものだから

 

環那(......どうする。)

 

 あれを使えばタダではすまない

 

 俺も何回か死にかけてるんだ

 

 しかも、初めてでここまで入れ込んでる

 

 コントロールが効かなくなるのが一番まずいんだ

 

環那(......仕方ないか。)

ノア「これで、最後だ......っ!!」

 

 ノア君はそう言い、殺気を放った

 

 流石に、ここまで来るとお互い無事では終われない

 

 もし俺が負けることがあれば、ノア君と共倒れだ

 

 だったら、俺の取る選択肢は一つ

 

環那「終わらせてあげるよ、ノア君。」

ノア「っ......!」

 

 俺も同じのを使って、終わらせる

 

 出来るだけ早く

 

 ノア君の体が限界を迎える前に

 

環那「無事でいてよ......ほんと、お願いだから。」

ノア「行くぞ、南宮環那......っ!!!」

環那「あぁ、来なよ!」

 

友希那(ノア......っ!)

 

 俺とノア君は同時に地面を蹴った

 

環那(ほんと、この子には敵わないな)

 

 まるで、ヒロインを守る正義のヒーローだ

 

 つくづく思うよ、俺は正義のヒーローにはなれない

 

 南宮環那はどこまで行っても、悪に帰結するんだと

 

 でも、それでいい、俺はそう言う運命なんだから

 

 死ぬまでそれを貫いてやるよ

 

 俺はそんなことを思いながら、ノア君に向けて右の拳を振るった

 

 

 




そろそろキリがよくなるので、次の話を出すときにアンケートを取ります。


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悪と正義と......

 刹那の出来事だった

 

 俺は奥の手を使い、奴に攻撃を仕掛けた

 

 完全に限界を超えていた

 

 だが......

 

ノア「......負けだ。」

 

 敗北した

 

 俺の振るった拳は奴に届くことはなく

 

 逆に奴の拳が俺を捉え、沈められた

 

 切り札もその瞬間に切れ、体力も残ってない

 

環那「驚いたよ。まさか、この土壇場で扉を開いて、あれまで使うなんて。どこで手に入れたの?」

ノア「......偶然だ。だが、トリガーになった事柄の自覚はある。」

環那「分かるよ。多分、俺も一緒だから。」

 

 あれを身につける為のトリガー

 

 それは、死のイメージだ

 

 手っ取り早く言えば、死にかけること

 

 だが、誰にでもできるわけではない

 

 死に瀕し、そのイメージをものにする技量と精神力

 

 その2つ併せ持たなければ、あれを使えるようにはならない

 

ノア「それでも、届かないとはな......やはり、化物か。」

環那「いいや。ただの経験の差だよ。」

ノア「......それは、使用した回数の話か?」

環那「だと思う?」

ノア「......いいや。」

 

 改めて、恐ろしい奴だと思う

 

 同じ力を使った俺にはわかる

 

 あれを使いこなすのに必要なもの

 

 それもまた、死のイメージだ

 

 死に瀕するほど、あれの真の力は引き出される

 

 だが、普通の人間では身も心も持つわけがない

 

 なのに、奴はあそこまで継続できる

 

ノア「......貴様は一体、何度死んだのだ?」

環那「さぁね。忘れた。」

ノア「......」

 

 今、分かった

 

 こいつは常に並列思考を使っていたのだ

 

 それは、ほぼ無限通りの死のシミュレーション

 

 ......敵わんな

 

 あの日の言葉の意味が分かっちまった

 

 そりゃあ、身がえぐれようが骨がむき出しになろうが、平気なわけだ

 

 こいつは何度も死を体験してるんだからな

 

ノア「......いつになったら、俺は貴様に追いつけるんだろうな。」

環那「一生無理だよ。」

ノア「なんだと?それはどういう__」

友希那「もう、やめて!!」

ノア「っ!?」

環那「......二度と使うことがないからね。」

 

 その瞬間、俺の目の前に月の光で輝く銀髪が靡き

 

 どこか懐かしく感じる優しい匂いに包まれた

 

 “環那”

 

友希那「もう、いい......あなたの気持ちは痛いほどわかった。だから、戦わないで......」

 

 友希那はノア君を抱きしめて......いや、庇いながらそう言った

 

 ノア君は驚いて、面白い顔になってる

 

 俺にとっては予想外でもなんでもないんだけどね

 

ノア「な、なにをする、湊友希那。」

友希那「あなたが、私の為に戦ってくれていたのは分かったわ......でも、もういいの。」

ノア「なっ......!いいのか、貴様は、南宮環那を__」

友希那「もう、大丈夫。」

ノア「!!(まさか......!!)」

環那「......ふっ。」

 

 ノア君がこっちを見てる

 

 分かってたのか、とでも言いたげだ

 

 なので俺は小さく頷いた

 

友希那「決着はついたでしょう?環那。」

環那「御覧の通り、俺の圧勝。これ以上続けられないし、続けても無駄だ。」

友希那「そう。」

ノア(貴様は......っ!!)

 

 ノア君の気持ちは伝わって来た

 

 けど、どちらにしろタイムリミットだった

 

 あの子が来た時点で、全てが完成したんだ

 

友希那「なら、行きましょう。」

 

 友希那はそう言い、ノア君に肩を貸して立ち上がらせた

 

 体格差的に友希那はキツそうにしてる

 

 けど、俺はここで手を貸せない

 

 この場においては悪でいないといけないから

 

友希那「ありがとう、ノア。私のせいで......」

ノア「あ、あぁ......(なぜだ!貴様はなぜ、湊友希那の隣にいない!!)」

環那(いいんだ、ノア君。)

 

 どちらにしろ、俺と友希那は元通りにならない

 

 だから、その隙間を埋める必要があった

 

 それが見つかるまで何とか粘るつもりだったけど

 

 その必要はなかった

 

 もう、友希那はちゃんと自分で見つけてたから

 

環那「ノア君。日本のとある言葉を教えておくよ。」

ノア「なんだ、それは......?」

環那「女心と秋の空。」

ノア「っ......!」

 

 変わらない人間はいない

 

 俺が変わったんだ、友希那も変わる

 

 そして、その転換期が始まったんだ

 

 ただ、それだけのことだ

 

友希那「行きましょう、ノア。」

「__おいおい、なんでこんなとこに誰かいんだ?」

環那、ノア、友希那「!」

 

 話がまとまりそうなときに

 

 向こうから見るからにガラの悪そうな男たちが歩いて来た

 

 人数は50人程度

 

 恐らく、ここを寝床にしてた奴らだろう

 

 少し騒いだし、気づいたのか

 

「俺らの縄張りで喧嘩かぁ?」

「ショバ代取んぞ?あぁ!?」

環那「......はぁ。」

「なんだぁ?でけぇため息つきやがってよぉ!」

 

 KYな奴らだ

 

 折角の門出の時だってのに邪魔しやがって

 

 もうちょっと待ってろっての

 

環那「友希那、ノア君。2人は行きなよ。」

友希那、ノア「!」

環那「どーせノア君はもう動けないし、友希那は戦えない。いるだけ邪魔だよ。」

 

 俺はそう言って男たちの前に立った

 

 全員、殺気立ってる

 

「何勝手に話し進めてんだよ!」

「女寄越せよ!」

「にがさねぇぞ?男はボコって、女はぶちおk__ぶふぉ!!!」

環那「......誰が通れと言った?」

男達「なぁ!?」

 

 俺は2人の方に走って行った男をぶん殴った

 

 地面に倒れて、ピクリとも動かない

 

 完全に仕留めたかな

 

環那「ほら、さっさと逃げなよ。邪魔にならないように。」

友希那「え、えぇ......」

 

 友希那とノア君がそんな声とともに歩き出したのが分かった

 

 よかった、ちゃんと逃げてくれた

 

 これで確認したかったことが確認できたよ

 

 安心した

 

環那「ノア君。」

ノア「南宮、環那......」

環那「悪いけど、後は任せる。」

ノア「......っ!!(こいつは......!!)」

 

環那「さぁ......」

「っ!?(な、なんだこいつ......)」

(雰囲気が......!)

 

 決して綺麗な道ではない

 

 けど、確かに友希那は踏みしめてる

 

 新しい未来への道を

 

 全部、計算通りだ

 

ノア(貴様は、なぜ......)

 

環那「かかってこい。3分、もてばいいね。」

 

 脳から命令を出し、エネルギーを無理矢理消費させ

 

 エネルギーの出どころが変わっていく

 

 別に使うまでもないんだけど

 

 折角の門出だ

 

 本気出しても、いいでしょ?

 

環那「ふっ......!!」

「き、きたぞ__ぐふぉっ!!!」

「ぎゃああああ!!!」

 

ノア(貴様はなぜ、自らが辛い道ばかりを選ぶのだ......!!南宮環那......!!!)

 

 俺は、悪だ

 

 自分勝手に人の運命を変える

 

 そして、己の野望は必ず達成する

 

 そんな、絶対悪

 

 今までもこれからも、曲げることなんて一切、ありえない

 

 最後まで貫いてこそ、悪は美しくなるんだから

___________________

 

環那「__3分、もたなかったね。」

 

 静かになったその場所で俺はそう呟いた

 

 周りには俺が倒した50人が倒れてる

 

 一応、大怪我は負わせてない

 

 多分、死ぬほど痛かっただろうけど

 

環那「はぁ......終わった。」

 

 俺は空を見上げた

 

 青白い月の光が降り注いでくる

 

 今日は雲が少なくて、月が綺麗だ

 

環那「......」

 

 空に浮かぶ月を見てると

 

 また、何かが開く感覚があった

 

 でも、それは別に重たくない

 

 元から開いてて、いつでも出られた鉄格子だ

 

 それがギギィーっと音を立て、ゆっくり開いていく

 

環那「ここが......外か。」

 

 開いた出入り口から外に出た

 

 けど、いざ出てみればどうと言うことはない

 

 月の見え方も景色の見え方も心持も

 

 あの目覚めた日から何も変わりはしない

 

 何が大切かもはっきりと見えてる

 

 ただ......

 

環那「寒いなぁ......外は」

 

 少し寒い

 

 長年いた檻から出た感想はそんなものだった

 

 まだ秋だって言うのに、刺すように風が冷たい

 

 今年の秋は寒冷気味なのかな?

 

環那「......いいや、違うか。」

 

 寒いに決まってるじゃないか

 

 秋は秋でも、冬の気配を感じるに決まってる

 

 秋はもう終わりに向かってるんだ

 

 

 だって今日は、10月26日なんだから

 

 

 




ここからルートが分かれます。
なので、アンケートを取ります。(期限は次に書くまで)

どのルートも外伝は必ず1つあります。

リサ:正規ルート
燐子:割とイチャつく
琴葉:環那の過去要素あり
イヴ:外伝他のルートより1つ多くなる(かもしれない)

みたいな感じの予定です


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リサルート
安らぎ


 あれから、何分経ったんだろう

 

 ここに突っ立ってるうちに倒れてた奴らは逃げて

 

 俺はあれを使った疲労からかその場で倒れてしまった

 

環那(......静かだ。)

 

 ここは静かだ

 

 開けた場所だから、星空がよく見える

 

 だから、星がさっきより移動してるのが分かりやすい

 

 この感じなら、結構時間が経ってるな

 

環那(あー......もっと騒げよ。寂しいじゃんか。)

 

 いつもみたいにもっと騒いで欲しい

 

 クソ野郎とかろくでなしとか異常者とか

 

 今はそう言う声が恋しいよ

 

?「__いた。」

環那「......?」

 

 そんなことを思ってると

 

 どこかから砂利を踏みしめる音が聞こえ

 

 同時に、聞きなじみのある声が聞こえた

 

リサ「__まーた、悪役やってんの?環那。」

環那「んぁー......リサ?」

 

 そんなことを思ってると、その足音は止まり

 

 頭上から、呆れたような声が聞こえてきた

 

 死線を上げるとそこでは、リサが溜息でも付きたそうな顔をして座って

 

 俺の顔を覗き込んでいた

 

環那「今日は赤なんだねー......しかも、結構大人な__」

リサ「バカ!///」

環那「恥ずかしいなら横から話しかければいいのに。」

 

 俺はそう言いながら体を起こした

 

 体力と血流はほとんど戻ってる

 

 もう動いても問題ないでしょ

 

環那「それで、どうしたの?こんな所まで来て。」

リサ「友希那がノアさんと一緒にいるのを見かけてさ。心配になったから、2人に話を聞いて、ここに来たの。」

環那「そう言うことか。別に心配はいらなかったんだけどね。」

 

 あいつらがまた仲間を連れてこようが問題ない

 

 体力は回復してるし、十分対応できる

 

 心配される要素なんてない

 

 ......と、思うけど

 

環那(......なんか、安心したかも。)

リサ「で、また1人で悪役やってるの?」

環那「さぁね。生まれついての悪だから分かんない。」

リサ「......」

 

 軽口を叩きやすい

 

 この距離感はやっぱり落ち着く

 

 心が安らぐ

 

リサ「環那って、頭いいのに馬鹿だよね。」

環那「急だね。」

リサ「そりゃそうでしょ。誰かの幸せの為にいつも自分を悪役にして、どんなにつらい思いをしても口にも顔にも出さない。バカ、って言うしかなくない?」

環那「買い被りだよ。俺はそんなのじゃない。」

 

 そんな聖人君主じゃない

 

 ただ、自分のしたいことをしてるだけだ

 

 そこに相手の感情なんてない

 

 あるのは、好奇心と目的意識だけ

 

 全部、他の誰でもない、自分の為だ

 

環那「物語は美しく紡がれなければいけない。その為には主人公や主要人物だけじゃない。必ず、ジョーカーが必要になる。そこに自分を置くのが物語を進めることにおいて、一番効率がいい。」

リサ「......ほんと、馬鹿だね。」

環那「そう?」

リサ「バカだよ大バカ。自分は主人公やエースになれる器なのに悪役ばっかりして、バカとしか言いようがないじゃん。ほんと、色んな人に謝ってほしいよ。」

環那「別に、俺はそんなんじゃ__」

リサ「でもさ。」

環那「!」

 

 俺の軽口をリサに止められた

 

 リサの表情を見て息を飲む

 

 そうしてると、リサは言葉を続けた

 

リサ「......あたしはそんな環那、好きだよ?」

環那「!」

 

 そう言いながら、リサに手を握られた

 

 あったかくて柔らかい

 

 何か、不思議な力でもあるのかな

 

 心が安らいで、ホッとする

 

リサ「誰かの為に頑張ってる環那が好き。」

環那「そこまで、大層なものじゃないよ。」

リサ「いいや。すごいことだよ。」

 

 リサはそう言って、手を強く握った

 

 ちょっと痛い

 

リサ「14年、ずっと友希那のために頑張り続けたんだから。もっと、その時間を褒めてあげて良いと思うよ。」

環那「っ......」

 

 別に褒めるようなものじゃない

 

 こんなエゴにまみれた人生なんて

 

 俺は救う以上に多くの人間の人生を潰してるから

 

環那「......ちょっと甘いんじゃない。」

リサ「うん。でも、今の環那には甘える人が必要かなって。」

環那「......!」

 

 ......敵わない

 

 俺のことよく見すぎでしょ

 

 観察力の使いどころ間違えてるよね

 

リサ「環那だって、泣きたいときは泣いていいんだよ。」

環那「......泣かないよ。」

リサ「そう?意外と泣きそうになってるけど?」

環那「......そうでもない。」

 

 俺は別に悲しくもなんともない

 

 だから泣くことなんてありえない

 

 いや、悲しくたって泣かない

 

リサ「意地張らないでいいよ。ほんとは、寂しいんでしょ?」

環那「......」

 

 俺はそう言われ、顔をそむけた

 

 理解され過ぎてるのも嫌だな

 

 マジで、ほんとにさ......

 

リサ「ハンカチ、貸そうか?」

環那「......別に、いい。」

 

 こういう時になると、感情預けてたいって思うよ

 

 人間って、理性で制御できる感情に限りがあるから

 

 今までの俺じゃ考えられない反応だよ

 

リサ「環那がちゃんと泣くとこ、初めて見たね。」

環那「......揶揄わないでよ。」

リサ「揶揄ってないって。」

 

 この感情は、寂しいか

 

 喪失感とはまた少し違う

 

 ジンワリと広がっていく、喜怒哀楽の哀

 

 胸の内がチクチクと痛んでくる感じがする

 

リサ「今の寂しさは、環那が友希那の為に頑張って来た証だよ。」

環那「っ......!!」

 

 リサはそう言いながら、俺を顔を胸に押し付け

 

 そのまま、抱きしめてきた

 

 柔らかくて、お日様みたいな匂いがする

 

リサ「......お疲れ様、環那。」

環那「......別に。」

 

 昔は、俺の服の裾を掴んで後ろをついて来てたのに

 

 今となってはこうか......

 

 人生、分からないものだよ......

 

リサ「あたしはずっと、隣にいるよ。」

環那「......うん。」

リサ「珍しく素直なんだね。」

環那「......」

 

 心が温まる

 

 さっきまで、あんなに寒かったのに

 

 もう、全然、寒くない

 

環那(......なんだろ。この感覚は。)

リサ「今は甘えてもいいよ。何時間でも。」

 

 心臓があれを使ってる時みたいに激しく動いてる

 

 胸の内が少しくすぐったくなって

 

 喉が渇いたような感覚に襲われる

 

 ......そうか、これが

 

環那(......そういうことか。)

 

 立ち込めてた雲が晴れるのを感じる

 

 なるほど、これがずっと見えかかってた感情か

 

 やっと、実態......答えが見えた

 

環那「......リサ。」

リサ「環那?」

環那「......こんな時に、言うことじゃないけどさ。」

リサ「!?(ま、まさか......!///)」

 

 リサの背中に手を回した

 

 さらに体が密着して

 

 リサの感触を感じられる

 

 そんなことを思いながら、俺は口を開いた

 

環那「......胸、大きくなったね。」

リサ「......へ?」

環那「俺の顔が埋もれるくらいだし、かなりのサイズに__」

リサ「~っ!!!///ば、バカ~!!!///」

環那「おっと。」

 

 俺は振り下ろされたリサの手をよけ

 

 少しだけ離れた

 

 あぶなぁ......

 

リサ「バカバカバカ!///なんでこのタイミングでそれなの!?///」

環那「だから言ったじゃん。こんな時に言うことじゃないって。」

リサ「そう言う意味!?///」

環那「え?むしろ、どういう意味だと思ってたの?」

リサ「え?そりゃあ......告白、みたいな......って、言わせないでよ!ばか!///」

 

 リサは顔を真っ赤にしながら手を振り回してる

 

 その様子はすごく可愛らしいくて

 

 さっきまでとは全然雰囲気が違う

 

環那「......まぁ、それはもうちょっと待ってよ。もっと最高の舞台を用意したいからさ。」

リサ「え?今なんか言った?」

環那「なんでも。」

 

 俺はそう言って、リサに背中を向けた

 

 時間、結構遅くなったな

 

 エマと琴ちゃんの夕飯、用意しないと

 

環那「帰ろうか。送るよ。」

リサ「う、うん。ありがと。(ほんとに今、なんて言ったんだろ?)」

 

 そんな会話の後、俺とリサは歩き出した

 

 俺の中で答えは出た

 

 なら、後は舞台を整えよう

 

 それで準備が整ったその時には......

 

 

 



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最終確認

 朝、俺はいつも通りの時間に目を覚ました

 

 けど、風景は今までと少しだけ違う

 

 なんだか、少し景色が明るく見える気がする

 

 それに、体も少し軽い

 

環那(でも、軽すぎるな。)

 

 軽すぎるって言うのも悩みものだ

 

 今までと一つの行動で使うエネルギーが違う

 

 少し感覚のズレが生じてる

 

環那(肩の荷が下りた......とでも言いたげだね。)

 

 変な感じだ

 

 意識の内ではそう感じてなかったのに

 

 本能的にそう思ってたのか......

 

エマ「__おはよう、お兄ちゃん。」

琴葉「おはようございます!」

環那「あ、おはよう、2人とも。」

 

 朝食の用意をしてると2人がリビングに入って来た

 

 寝起きって言うのが見てわかる

 

環那「朝食、もうすぐ出来るから座って。」

琴葉「はーい。」

エマ「分かった。」

 

 2人はそう言って、いつもの席に着いた

 

 それを確認して、サッと仕上げをして

 

 それをテーブルにもっていった

 

琴葉「南宮君?」

環那「どうしたの?」

琴葉「昨日から思ってたんですが、また少し変わりました?」

環那「......そうでもないよ。」

 

 俺は軽く首を振った

 

 別にこれは変化ではない

 

 ただ、状態がよくなっただけ

 

 統合した時みたいに大幅に変わったわけじゃない

 

環那「ただ、肩の荷が下りただけ。俺はもう大袈裟に変わることはないよ。」

琴葉(この雰囲気は......)

環那「さぁ、朝ご飯の時間だ。」

エマ「いただきます。」

琴葉「い、いただきます。(肩の荷が下りた、ですか。出れたのですね、長年いた檻から。)」

 

 それから、俺たちはいつも通り朝ご飯を食べ

 

 2人にお弁当を渡して、朝の分の洗濯をして

 

 朝の家事をすべて終えてから、エマと一緒に家を出た

___________________

 

 学校に来ると、もう見知った2人の姿が見えた

 

 俺はその1人を見て、胸が躍った

 

 こんな感覚は初めてだ

 

環那「リサ。おはよう。」

リサ「あ!環那!おはよ!」

 

 今まで通りな要素とそうでない要素

 

 この2つが混在する、不思議な感覚だ

 

 ......いや、落ち着かないと

 

環那「これ、あげるよ。」

リサ「これは?」

環那「昨日のお礼。筑前煮作って来た。」

リサ「マジで!」

 

 俺はタッパーを机に置いた

 

 リサは嬉しそうにしそうにそれを見てる

 

 こんなに喜んでもらえるなら、作った甲斐がある

 

環那(......さて、リサの方はいい。あとは。)

リサ「環那?」

環那「......ちょっと、行ってくる。」

 

 確認は念入りに、必ず複数回行う

 

 それが俺の信条だ

 

 だから、今しないといけない

 

環那「友希那。」

友希那「環那。」

環那「少し、話さない?」

友希那「えぇ。来ると思ってたわ。」

 

 友希那はそう言って席を立った

 

 ......いい目をしてる

 

 そう思いながら、俺は友希那を連れて教室を出た

___________________

 

 俺と友希那は屋上に来た

 

 ここ、朝はほとんど人が来ないし

 

 聞かれたくない話するのにはちょうどいい

 

環那「__もう冬だね。」

友希那「そうね。」

 

 肌寒い風が通りすぎて

 

 うっすらと冬の気配を感じる

 

友希那「それで、話と言うのは何かしら?」

環那「分かるでしょ?14年の付き合いなんだから。」

友希那「そうね。大体わかってる。」

 

 友希那はそう言って頷いた

 

 流石に察してくれてる

 

 助かるよ

 

友希那「だから、あえて言うわ。もう、心配ない。」

環那「......そっか。」

 

 目に迷いがない

 

 幼かった少女が少し大人になって

 

 自分の足で道を進んで行こうとしてるのがわかる

 

 もう、俺に守られてるような子じゃないな

 

環那「ノア君とは上手くやれそう?」

友希那「......!そ、それは......」

環那「?」

 

 友希那の表情が変わった

 

 何かあったのかな?

 

友希那「......一つ、言いたいことがあるの。」

環那「どうしたの?」

友希那「私は、あなたが......環那のことが好きだった。」

環那「知ってる。」

友希那「!」

 

 普通に知ってた、けど、目をそらしてた

 

 当時の俺には理由が分からなかった

 

 けど、気づいてみれば答えは単純で

 

 ただ俺が友希那を恋愛対象として見れなかっただけ

 

 そんなことだった

 

友希那「......環那には、なんでもお見通しね。」

環那「長い付き合いだからね。友希那の気持ちが他に向いたことも気づいてるよ。」

友希那「っ!」

 

 義理堅い子だ

 

 別に気にしなくてもいいのにわざわざ言ってくるなんて

 

友希那「......ごめんなさい。」

環那「気にしなくてもいいよ。見ないようにしてたのは俺だから。」

友希那「......」

 

 謝る必要なんてない

 

 むしろ、謝るのは俺の方だ

 

 悪いのはこっちなんだから

 

友希那「私たちが結ばれた未来も、あったのかしら。」

環那「......さぁね。俺はよっぽどのことがない限り100%を語る気はないよ。」

友希那「その反応と言うことは、なかったのね。」

環那「......敵わないね。」

 

 俺なりにオブラートに包んだんだけど

 

 まぁ、慣れないことはするものじゃないね

 

 こういうのはやっぱり向いてない

 

環那「今世では無かったんだって思ってるよ。」

友希那「......そうね。今となっては、私もそう思うわ。」

環那「そっか。」

友希那「......あの、環那。」

環那「?__っ!」

 

 友希那は少し震えた声がしてそっちを向くと

 

 深く、頭を下げていた

 

 そして、こう言葉を続けた

 

友希那「今まで私を守ってくれて、ありがとう。そして、ごめんなさい......奪ってしまって。」

環那「あぁ、そんなことか。」

友希那「え?」

環那「いいんだよ。気にしなくて。」

 

 ほんとに律儀で優しい子だ

 

 こんな風に真っ直ぐ育ってくれて嬉しいよ

 

 これで安心して見送れる

 

環那「友希那。これ、あげる。」

友希那「!」

 

 俺はそんなこと思いながら友希那にある物を投げた

 

 これは、銀のペアネックレス

 

 1日遅れたけど、誕生日プレゼントだ

 

友希那「これは......」

環那「いつか、大切な誰かに渡すといいよ。」

友希那「そんな、こんなの、貰えないわ......」

環那「別にいいよ。」

 

 そう言って、小さく笑った

 

 これはお見送りだ

 

 門出を迎え、歩いていく背中を見てるんだ

 

環那「なにも気にしないでいい。今までの全部とそれは友希那にあげるよ。」

友希那「......っ!」

環那「命の恩人への最後の投資さ。」

 

 これで、少しくらい恩返し出来たのかな

 

 何となく終わった感じするし、出来た気がする

 

環那「さて、したかったことは出来たし。友希那は先に教室に戻ってて。」

友希那「環那はどうするの?」

環那「俺は、もう少しここにいるよ。静かだし。」

友希那「そう。なら、先に戻っておくわ。」

 

 そう言って、友希那は歩き出した

 

 その足取りは一定のリズムで綺麗な音をしてる

 

友希那「ありがとう、環那。」

環那「あぁ。お幸せに。友希那。」

 

 そんな会話の後、ドアの開閉の音が聞こえた

 

 その数秒後、俺は小さくため息をついた

 

 安心したのか、疲れたのかは分からない

 

 けど、別に悪いものではない

 

環那「さて、俺も俺で、頑張らないとね。」

 

 そう呟いて、俺は少し遠くを見た

 

 今日はいい天気だ

 

 不安も迷いも雲もない、晴れの空

 

 出来る事なら、友希那の人生もこの空のようにあってほしい

 

 これが、俺が命の恩人の為に祈る最後の願いだ

 

 

 



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お誘い

 翌日も俺はいつも通り学校に来てる

 

 けど、今日は少し空気が浮足立ってる気がする

 

 まぁ、その理由は分かってるんだけどね

 

リサ「環那ー!ハロウィンだよ!ハロウィン!」

環那「分かってるよ。」

 

 そう、これだ

 

 3日後にはハロウィンがある

 

 特に今年は合同文化祭の流れで一緒にハロウィンもしちゃおうぜ!みたいなノリ

 

 リサのテンションもそれは上がってるの何の

 

リサ「仮装しようよ!仮装!」

環那「えー。」

リサ「嫌そうな顔しない!」

 

 ほんと、楽しそうだ

 

 ここ最近は色々あったって言うのに

 

 切り替えが早いな

 

リサ「一緒に仮装しようよ!」

環那「お揃い?」

リサ「それは違うよ!?///」

環那「なんでそこは恥ずかしがるの?」

 

 やっぱりちょっとラインおかしいよね?

 

 リサの羞恥心ってどうなってるの?

 

環那「で、仮装の話だったね。何するか決まってるの?」

リサ「一応、決めてるんだよねー。」

環那「へぇ、何するの?」

リサ「まだ教えない!」

環那「なんでー?」

リサ「当日に見せて、今年こそ可愛いって言わせたいから!」

 

 ......何その可愛い理由?

 

 別に言って欲しいならいくらでも言うけど

 

 そう言うことじゃないんだよね

 

環那「じゃあ、楽しみにしてるよ。」

リサ「うん!」

 

 ほんと、楽しそうだ

 

 この姿を見れてる俺は幸せ者だろう

 

リサ「で、環那は仮装するの?」

環那「うーん、しないんじゃないかなー。」

リサ「えー!」

環那「俺は別の形で参加するよ。」

リサ「別の形?それって?」

環那「それは秘密。」

 

 俺はそう言って、窓の外を見た

 

 折角だし、リサの為に何か準備しようかな

 

 時間はたっぷりあることだし

___________________

 

 放課後、俺は羽沢珈琲店に来てる

 

 やっぱり、落ち着いて話すならここだよね

 

 いい場所セッティングするよ

 

 でも、強いて言うなら......

 

環那「ねぇー、連絡先位交換しようよー。」

ノア「考えておいてやる。」

環那「おっ、デレ期?」

ノア「殴るぞ。」

 

 相変わらずツンデレなんだからぁ

 

 今どき流行らないよ?

 

 俺は好きだけど

 

環那「まぁ、冗談は置いといて。」

ノア(切り替え早いな、こいつ。)

環那「今日は何の御用で?」

 

 ノア君から呼ばれるって珍しい

 

 向こうからきて直接話すのがほとんどだったし

 

 ちょっとは距離縮まったのかな?

 

ノア「最近、湊友希那からのメッセージが大量に届くんだが。」

環那「え?連絡先交換したの?」

ノア「あの日に流れでな。」

環那「ひどい!友希那とはあっさり交換するなんて!どっちかって言うと俺の方が付き合い長いのに!」

ノア「すぐにふざけるな。」

 

 冗談通じないんだから

 

 まぁ、ちょっと真面目に聞いてあげようか

 

 原因は俺だし......っと思うんだけどー

 

環那「普通に返せばよくない?」

ノア「そんなことをしてたらずっと終わらないんだが。」

環那「付き合ってあげなよー。」

ノア「メッセージアプリは苦手だ。」

環那「おじいちゃんみたいだね。」

ノア「黙れ。」

 

 仕事のメールとかはそんなに頻繁でもないもんね

 

 だから、長時間続くメッセージに慣れてないのか

 

 なるほどね

 

ノア「まぁいい。どうにかならんか。」

環那「直接言えば?」

ノア「言えると思うか?」

環那「無理だと思う!」

 

 優しい子だからねぇ

 

 友希那は俺以外の男との距離の取り方が分かってないし

 

 ノア君も不慣れなものだから余計にグダってるな

 

ノア「湊友希那の感情が突き刺さってくるから余計に言いずらいのだ。」

環那「女の子には優しいねー。」

ノア「そう言うのではない。」

環那「分かってる分かってる。」

 

 さて、どうすればいいのか

 

 この2人にはいい方向に向かってほしいし

 

 この先のこと考えて、良い感じに収めたいな

 

環那(さて、どうするか。)

 

 正直、こういうのは直接話す方がいいんだよね

 

 相手の表情とか感情とかを感じながら話す方が何かと楽だ

 

 そう言う場を作るのにちょうどいいのは......

 

環那「あ、そうだ。」

ノア「なんだ。」

環那「今月末、うちの学校でハロウィンイベントがあるんだ。それに来てみればどうだろう。」

ノア「なぜだ。」

環那「直接、友希那に会ってみた方がいいんじゃないかと思ってね。」

ノア「?」

 

 ノア君はすごく嫌そうな顔をしてる

 

 まぁ、人が多い場所苦手そうだもんね

 

 後、自分の変化をくすぐったく思ってる感じかな

 

環那「一度、ちゃんと話してみなよ。君たちは両方とも、自分の得意分野で感情表現をするタイプだからね。それ以外となるとてんでダメになる。」

ノア(失礼な奴だな。)

環那「だからこそ、一番簡単な方法でコミュニケーションを取るべきだ。」

 

 2人共が超が付くほど不器用で、なおかつ初めての経験

 

 放っておくと迷走しかねない

 

 周りが少しだけ、道を教えないと

 

環那「来てみなよ。きっと楽しいよ。」

ノア「......考えておく。」

環那「あはは、ツンデレだなぁ。」

 

 俺がそう言うと、ノア君は席を立った

 

 なんだ、もう終わりか

 

 もう少し話してくれても良いのに

 

環那「あ、そうだ。」

ノア「なんだ?」

環那「ハロウィン以外でも色々あるからさ。楽しもうよ。」

ノア「......考えておく。」

環那(おっと?)

 

 今、少し笑った

 

 珍しい光景だったな

 

 そんなことを思ってると、ノア君は会計を済ませて、店から出て行った

 

つぐみ「お話は終わりましたか?」

環那「あ、つぐちゃん。今ちょうど終わったよ。」

つぐみ「楽しそうでしたね。」

 

 まぁ、楽しいよね

 

 いい友達だと個人的には思ってるし

 

環那「あ、そうだ。」

つぐみ「?」

環那「つぐちゃん達も来る?11月中にウチで何かしようと思ってるんだけど。」

つぐみ「楽しそうですね!皆にも声をかけておきます!」

環那「そうしてよ。きっと、後悔はさせないからさ。」

 

 そう言った後、俺は残りのコーヒーを飲み切って

 

 静かに席を立った

 

 さて、今日のところは家に帰るかな

 

環那「今日も美味しかったよ。ごちそうさま。」

つぐみ「はい!いつもありがとうございます!」

環那「いいお店だからね。匂いが鼻についたら引き寄せられちゃうんだよ。」

 

 そう言いながら財布を出して

 

 代金分をつぐちゃんに渡した

 

環那「じゃあ、また来るよ。」

つぐみ「はい!次はイヴちゃんがいるときに!」

環那「あ、う、うん。(そ、そうだったぁ。)」

つぐみ「どうかしましたか?」

環那「い、いや、なんでも。じゃあ、また。」

 

 その後、俺は急ぎ足で店を出た

 

 そうだ、楽しいこともあるけど、やるべきこともあるんだよなぁ

 

 ......これは、キツ過ぎて胃袋と心臓ネジ切れそうだ

 

 

 

 



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話し合い

 10月31日の今日はハロウィンだ

 

 まぁ、日本のハロウィンは外国のものとは趣が違って

 

 渋谷が大変な事になるイメージしかない

 

環那「さーてと、準備は出来たかな。」

 

 そんな日の朝、俺はキッチンでそう呟いた

 

 そして、少し移動してリビングに置かれてるソファに腰を下ろした

 

環那(おっと、結構メール来てる。)

 

 パソコンを開いてみると、仕事関係のメールが大量に来てる

 

 まぁ、主に面接の話だけど

 

 今年はなぜか面接の応募者が多くて

 

 それの対応で大変だ

 

環那「社長が学生である俺に変わったから、舐められてるのかな。」

 

 仕方ないとは思うけどね

 

 まぁでも、そんなに甘くするつもりはない

 

 むしろ、今までよりも厳しくなるかもね

 

 確固たる覚悟を持った若者って、そうはいないから

 

エマ「__お兄ちゃん、おはよう。」

環那「あ、おはよう、エマ。」

エマ「朝からお仕事?」

環那「ただのメールの確認だよ。」

 

 俺はそう言ってソファから立ち上がり

 

 エマの前に歩み寄った

 

 ほんと、美少女は朝から美少女だ

 

環那「寝ぐせ、ついてるよ。」

エマ「んぅ......///」

 

 エマの寝ぐせを撫でながら直していく

 

 エマはくすぐったそうにして

 

 上目遣いでこっちを見てくる

 

エマ「お兄ちゃん、朝から激しい......///」

環那「誤解を招く表現はやめてね?」

 

 もう流石だよ

 

 俺にツッコミをさせるなんてね

 

 流石は俺の妹だよ

 

環那「まぁいいや。エマ、今日の準備はちゃんとできてる?」

エマ「うん。衣装はちゃんと準備した。可愛い?」

 

 エマは嬉しそうに自作した衣装を見せてきた

 

 一週間で作ったクオリティじゃないのは当然として

 

 売り物とも比にならないほどの出来栄えだ

 

環那「可愛いよ。」

エマ「ありがとう///」

環那「今日は楽しむんだよ。」

エマ「うん///」

 

 そう言って、またパソコンに目を落とした

 

 はてさて、俺はいつまでこの子の保護者でいれるんだろう

 

 兄離れする日も、そう遠くないんだろうなぁ

 

 って、楽しそうに自作の衣装を眺めてるエマを見ながら、そんなことを考えた

___________________

 

 少し時間が経って、俺とエマは学校に来た

 

 流石に文化祭ほどじゃないけど、校舎は飾り付けされてる

 

 今年は生徒会が積極的に動いてくれて、新しい行事が出来た

 

 そのおかげでエマも楽しそうだ

 

 タイミングが良かったというべきかな?

 

環那(さて、エマはクラスの方に行ったし、俺もその辺フラフラしよ。)

 

 親の役目はお見送りまでだ

 

 それ以上の邪魔はしちゃいけない

 

環那(ある程度やることは決まってるし。とりあえず、あの2人探そうかな。)

 

 と思ったけど、どこにいるんだろ

 

 今回は出店とかがあるわけじゃないからそこからの予想できない

 

 まぁ、あの2人の正確で想像はできるけど

 

 それはあくまで過去からのものだからね

 

環那(こんなに人間の行動が予想できないのは久しぶりだ。)

 

 2人が変わったかもしれないし、変わってないかもしれない

 

 友希那がどんな風にノア君と話してるのかもわからない

 

環那(......まぁ、ちょっと様子見するくらいでいいんだけどね。)

 

 そんなことを考えながら、少し歩いて

 

 ホールまで来た

 

 ここでは、吹奏楽部とか吹奏楽部の演奏があるって聞いてる

 

 もしかして、案外ここにいたりして

 

環那「......あっ。」

 

友希那「お菓子、食べる?」

ノア「......遠慮する。」

 

環那(すごい安直な場所にいるじゃん。)

 

 俺は慌てて近くの柱に身を隠した

 

 よし、折角だしカワイ子ちゃんたちを見守ろうか

 

 そして、弄ろう!

 

 “ノア”

 

 ......ここに来てすぐ、湊友希那に捕まった

 

 なぜ、俺が来るタイミングが分かった

 

 奴から知らされてたとしてもおかしいぞ

 

友希那「ノアは、音楽は好きかしら?」

ノア「嫌いではない。」

友希那「そう。」

 

 何を話せばいいのか分からんな

 

 元から人間と話すのは得意ではないが

 

 それにしてもひどいな

 

ノア「......(ほう。)」

 

 舞台の上では、この学校の軽音部?が演奏してる

 

 学生レベルと思ってたが、これが結構うまい

 

 努力が見えてくるような演奏だ

 

ノア「悪くないじゃないか。」

友希那「......そう?」

ノア「あぁ。(なんだ?)」

 

 こいつ、雰囲気が少し変わったな

 

 怒り......のような感情を感じる

 

 上っ面はそこまで変わってないが

 

友希那「......歌は、負けないわ。」

ノア「そうか(?)」

 

 こいつの歌唱力は知ってる

 

 プロからも注目されてると聞く

 

 奴曰く、別格らしい

 

友希那「ノアは、恋をしたことがある?」

ノア「ない。」

友希那「私はあるわ。」

ノア「知ってる。南宮環那にだろう。」

友希那「......えぇ。」

ノア(......どうすりゃいいんだ。)

 

 あいつから任されたのはいい

 

 だが、どうすればいいか分からねぇ

 

 俺は奴とは違うからな

 

友希那「......でも、今は違う。」

ノア「!」

友希那「環那のことは好きだった。けど、私の中では過去になった。」

ノア(それが答えか。)

 

 過去、か

 

 奴は最初から、ここまでを見ていたわけか

 

 自分自身を湊友希那にとって過去にすることによって、自分のいる地点にまで引っ張る

 

 あいつは悪であることで、この女をコントロールしたんだ

 

ノア「なら、貴様は今を生きてるんだな。」

友希那「えぇ。」

ノア「そうか。なら、いいんじゃないか。」

 

 全て、あいつの狙い通りと言うことだ

 

 湊友希那は今を生きてる

 

 誰も不幸にならない、よくできたシナリオだ

 

友希那「ねぇ、ノア。」

ノア「なんだ。」

友希那「もう少し、会えないかしら。」

ノア「!」

 

 たくっ、あの野郎

 

 結構な女をこっちに押し付けてきやがって

 

 ......こんな目で言われちゃ、拒否しにくいことこの上ない

 

ノア「......いいだろう。」

友希那「!」

ノア「だが、頻繁に連絡してくるな。メッセージアプリは好かん。」

友希那「えぇ!」

 

 俺がそう言うと、湊友希那は嬉しそうに頷いた

 

 これでとりあえず、頻繁な連絡はなくなる

 

 だが、湊友希那と会うのが多くなりそうだ

 

 俺の要求はかなえられ、湊友希那にもプラスを生む

 

 ほんと、気に食わん

 

 全て、奴の掌の上ということか

 

 

 



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お迎え

 どうやら、上手くいったみたいだ

 

 友希那は今までに見た事のない笑顔を浮かべてる

 

 まぁ、ノア君は渋い顔してるけど

 

 そこはツンデレってことで

 

環那(いやぁ、気分がいい気分がいい。)

 

 やっぱり、こうやってコソコソしてる方がいいな

 

 何と言うか、落ち着く

 

 そう言う性格なのかな

 

環那(さて、ここからどうするか。)

 

 目的は果たしたし

 

 後は邪魔にならないようにしとくだけだ

 

 俺がいると輪を乱すし

 

環那(まっ、いつも通りここでのんびりしとこ。)

 

 今いるのは屋上だ

 

 一応、今日ここは立ち入り禁止になってる

 

 何か特別な事でもない限り誰も来ないでしょ

 

リサ「__かーんーなー!こんなところでなにしてるの!」

環那「あ、いたね。特別。」

リサ「何言ってんの!」

 

 まぁ、そりゃ来るよね

 

 だって、存在自体が特別なんだもん

 

 こりゃ強いよ

 

環那「てか、その魔女の衣装可愛いねー。」

リサ「いきなり!?///」

環那「スカート短いから、パンツ見えてるよ?今日は水色だね。しかも、結構すごいの__」

リサ「何見てんの!」

環那「おっと。」

 

 寝転んでた俺は蹴ろうとしてるリサの足を避けて

 

 空中で一回転してから立ち上がった

 

 中々、キレのある蹴りだった

 

リサ「スケベ!変態!」

環那「まぁまぁ。それで、リサは何でここに?」

リサ「切り替えはや!?」

 

 面白いなぁ

 

 てか、昔、一緒にお風呂入ってるのに

 

 今更パンツで恥ずかしがる?

 

リサ「もう、いいや。あたしは環那を呼びに来ただけだし。」

環那「普通に楽しんでればいいのに。」

リサ「あたしは環那と楽しみたいの!」

環那「もの好きだねー。」

 

 分かり切ってることだけど、リサは変わってる

 

 いい子で一括りにもできるけど

 

 若干もうその次元じゃないんだよね

 

リサ「環那ほどじゃないよ。」

環那「いやいや、俺からしたらリサの方が異常だよ。そんな優しい性格で疲れないの?」

リサ「別に疲れないけど。」

環那「バッテリー容量どうなってるの?」

 

 これじゃ、リサが優しいのか優しさがリサなのか分からないな(?)

 

 ほんと、呪われてるんじゃないって思う

 

環那「はぁ......俺はリサが心配だよ。悪い奴に騙されそうで。」

リサ「まぁ、環那に数えきれないほど騙されてるしね。」

 

 全く持ってその通りだよ

 

 すぐに俺の嘘に騙されるし

 

 見るからに嘘って分かるものを信じるし......

 

環那「......まっ、俺がいれば何の問題もないか。」

リサ「え?」

環那「リサを騙すのは俺の仕事ってこと。」

リサ「なにそれー!」

 

 出来れば、一生騙されてて欲しい

 

 いや、そこは俺の腕の見せどころか

 

環那「まぁ、それはそれとして。結局、俺にどうしてほしいの?」

リサ「そりゃあ、一緒に楽しみたいけど。どうせ聞いてくれないじゃん。」

環那「それは分かんないよ?」

リサ「え?じゃあ__」

環那「リサがパンツ見せてくれたらいいよ。」

リサ「スケベ!!///」

 

 軽い冗談なのに

 

 ほんと、こういうのに耐性ないよね

 

リサ「はぁ......///環那ってパ......下着とか見るの好きだっけ?///」

環那「いや、別に?恥ずかしがってる顔見るのが好きなだけ。」

 

 むしろ、それを楽しむものじゃないの?

 

 それ単体で見ても別に楽しくないでしょ

 

 他は知らないけど、俺はそう思ってる

 

リサ「か、環那って、意外と変態なんだね......///」

環那「意外も何もド変態だよ。統合されたときに色々変わったし。」

リサ「あの環那ってそう言うのも持ってたの!?」

環那「そうだよ。」

 

 あいつ、性欲の8割は持ってたし

 

 それが戻ってきて自覚したもん

 

 俺って割とド変態って

 

環那「まぁ、理性はあるから今までとそこまで変わらないけどね。」

リサ「結構素直に下着見てたじゃん!///」

環那「頭の上に立ってむしろ見せに来てたんじゃ......」

リサ「見せてないよ!///バカ!///」

 

 まぁ、バカだよね

 

 俺自身もそう思うもん

 

リサ「そ......そんなに見たいなら、お願いされたら、少しくらい......///」

環那「え?じゃあ__」

リサ「い、今はダメ!///」

環那「えー。」

リサ「残念そうな顔しない!///いつも表情変わらないくせに!///」

環那「あはは。」

 

 まぁ、意図して表情変えてるんだけど

 

 揶揄い甲斐あるなー

 

 なんか、リサを揶揄ってるときに生を実感する

 

環那「まぁ、仕方ない。いいもの見せてくれたお礼に、今日はリサに付き合うよ。」

リサ「なんでちょっと『仕方ないなぁ』みたいな雰囲気出してるの!?」

環那「出してないけど。」

 

 今日のツッコミはなんだかキレがあるな

 

 すごくやりやすい

 

リサ「......燐子たちに言いつけるからね///」

環那「それは......流石に勘弁願いたい。」

リサ「言うもん!///環那、皆のパンツ見たがってるって!///」

環那「どこでその曲解生まれたの!?」

 

 なんかとんでもないこと言ってる

 

 どうしようか

 

 ここは上手く機嫌取っとかないと

 

 後で大変なことになる

 

環那「ま、まぁ、遊びに行こっか。今日はある程度の願いはかなえるよ。」

リサ「......あたしの機嫌、そう簡単に治らないからね///」

環那「あ、あはは。」

 

 結局、このイベントにも参加か

 

 まぁ、仕方ないでしょ

 

 なんか上手い感じに輪を乱さないようすればいいや

 

 

 



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二人きり

 クラス、というか学校のほとんどの生徒は面倒だ

 

 基本的なイメージは大企業の社長、大金持ち、異常者、そんなところだろう

 

 まぁ、その通りなんだけど

 

環那「で、俺を呼んだ理由は?」

リサ「一緒に楽しみたかっただけだよ?」

環那「優等生だねぇ......」

 

 わざわざ俺をクラスの輪に入れようとするとか

 

 優しいとかそういうレベルの話じゃないんだよね

 

 もはやちょっと異常だ

 

リサ「あんまり面倒そうな顔しないでよ。」

環那「してないしてない。」

リサ「ほんとにー?」

環那「ほんとほんと。」

 

 別に、面倒とは思ってない

 

 リサと一緒にいるのはね

 

 俺としても気が楽だし、1人でいるよりも楽しいしね

 

環那「リサと一緒にいるのは好きだよ。」

リサ「!?///」

 

 俺がそう言うと、リサは顔を真っ赤にした

 

 ビックリするくらい赤い

 

 なんでこんなに表情が分かりやすいんだろう

 

環那「頭使って喋らなくてもいいし、必要以上に気を遣う必要もないし。」

リサ「なにそれー!?」

環那「楽だ、ってこと。」

リサ「もー!」

 

 まぁ、言い換えれば信頼できるって言ってるんだけど

 

 このままの方が面白いから黙っとこ

 

 と、俺は内心で大笑いしていた

 

環那(ほんと、鈍いねぇ。まっ、そこが可愛いんだけど。)

リサ「もう!教室行くよ!」

環那「はいはい。」

 

 ちょっと怒ったように歩くリサの後について行った

 

 取り合えず、今はリサと楽しんでおこう

___________________

 

 俺はリサと教室に来た

 

 ほとんどは出払ってるのか、あんまり人数がいない

 

 静かでいいや

 

環那「あれ、エマはいないの?」

リサ「エマはクラスの子たちと遊びに行ってるよ。」

環那「あ、そうなんだ。」

 

 俺よりコミュ力あるね

 

 よくあのメンバーと遊んだりできるよ

 

 まぁ、男が近づいたら余裕で潰すけど

 

リサ「環那ももう、立派なお兄ちゃんだねー。てゆーか、シスコン気味だし。」

環那「別にシスコンではないよ。」

 

 最近、誤解されてるけど

 

 俺は別にシスコンでもなんでもない

 

 ただ、大切なだけ

 

 出会ってそんなに経ってないけど、色々とあったしね

 

リサ(......ほんと、変わったね。)

環那「初めて知ったよ。家族がいるのがこんなに大変で、楽しいことだって。」

リサ「言ってること、所帯もってるお父さんじゃん。」

 

 ......そんなことなくない?

 

 まぁ、今も所帯もってるようなものだけど

 

環那「まぁ、所帯持ってる人間にしては、奥さんいないけどね。」

リサ「浪平先生は?」

環那「大きな子供、かな。」

リサ「めっちゃいい顔で言うじゃん。」

 

 琴ちゃん、ほんとに大きな子供だからね

 

 多分、俺じゃなかったら何回かキレられてるよ

 

 俺は可愛いと思ってるからいいけど

 

リサ「......環那って、奥さん欲しいの?」

環那「うーん、最近欲しいなーって思うようになった。」

リサ「......そう、なんだ///」

 

 前までならこんな事考えもしなかっただろうけど

 

 今はそう思ってる

 

 最も、誰でもいいってわけじゃないけど

 

リサ「じゃあ、あたしが立候補しちゃおっかな~///......なんて///」

環那「......」

リサ「だ、黙んないでよ!///」

環那「あ、あぁ、ごめんごめん。」

 

 全く、心臓に悪い

 

 人がいないとはいえ、公の場でこんなこと言うなんて

 

 いつからこんな悪い子になったんだか......

 

リサ「むぅー......新しいタイプのイジワル出てきた......///」

環那(いじけちゃった。)

 

 可愛いものだよ

 

 いつもはお姉さんぶってるのに、俺の前じゃ子どもみたいに拗ねる

 

 その姿を見ると、優越感がある

 

 そして、俺以外には見せたくないとも思う

 

 子どもの頃は、別に何とも思わなかったんだけどね

 

環那「ねぇ、リサ。」

リサ「?」

環那「もし、今から俺が結婚しようって言ったら、どうする?」

リサ「......え?」

 

 そう言うと、リサはキョトンと首を傾げた

 

 なんか、微動だにしてないんだけど

 

リサ「もー!まーた揶揄ってるの!?」

環那「ん?」

リサ「そうやって恥ずかしがらせようとしてもダメだからね!」

環那「......あー。(なるほど。)」

 

 そっちで取るのか

 

 まぁ、これに関しては俺の行いが悪いね

 

 ちょっと揶揄いすぎた

 

リサ「ほんと、環那っていっつもそうだよねー。思わせぶりなこと言って、恥ずかしがったらニヤニヤして!」

環那「んー、まぁ、そうだね。」

リサ「ほら!」

環那「でも__」

リサ「!?」

 

 俺はちょっとドヤってるリサの顔を覗き込んだ

 

 近くで見ても、可愛いものは可愛い

 

環那「揶揄ってるだけと思って油断してたら、寝首をかかれるかもよ?」

リサ「え、あ......えっ?」

環那「もしかしたら、もう本気になってるかも......」

 

 リサは目を真ん丸にしてる

 

 守りたいような、汚したいような

 

 純度100%、どんな宝石より、綺麗な目だ

 

リサ「かん、な......?」

環那「......昔は、考えもしなかったのに。こんな事。」

 

 ほんとに、最近はよく動く心臓だ

 

 今までこんなに動いてたことないでしょ

 

 これまでの分、取り返そうとしてる?

 

「__エマちゃん、いっぱいお菓子貰ったねー!」

「どれくらいあるの?」

エマ「たくさん。あなた達も食べる?」

 

環那、リサ「!?」

 

 リサに近づいて数秒ほど経つと

 

 ドアが開く音とエマと他の生徒の声が聞こえてきた

 

 俺はその瞬間にリサから離れて、元座ってた椅子に腰を下ろした

 

エマ「あ、お兄ちゃん......!」

環那「え、エマ。戻って来たんだね。」

エマ「うん。お菓子も貰ったし、食べようかなって。」

環那「そ、そっか。よかったね。」

エマ「......♪」

 

 俺はエマの頭を撫でながらそう言った

 

 他の2人の反応を見るに、バレてはない

 

 エマも気づいてないだろう

 

エマ「お兄ちゃんは?」

環那「ん?」

エマ「お兄ちゃんのお菓子、欲しい。」

環那「あー。そうだったね。(持ってきてるの忘れてた。)」

 

 そんなことを考えつつ、俺は自分の鞄を開けて

 

 その中から朝に作っておいたお菓子を出した

 

 今回はシンプルにカップケーキだけだ

 

環那「君たちにもエマを見てくれていたお礼としてあげるよ。」

「ありがとー!」

「美味しそう!」

 

 女生徒2人にもカップケーキを渡して

 

 もう一つカップケーキを取り出した

 

環那「リサも食べる?」

リサ「う、うん。貰う。」

環那「じゃあ、俺は行くよ。」

 

 俺はリサにケーキを渡すと

 

 鞄を持ったまま、ドアの方に歩いた

 

リサ「ど、どこ行くの?」

環那「これ、大分残ってるから配ってくるよ。」

リサ「そ、そっか。行ってらっしゃい。」

 

 そんな会話をし、俺は教室を出た

 

 ほんと、最近の俺はマジで歯止めが効いてない

 

 感情が戻ったら戻ったで、大変だよ

 

 

 



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ドライブ

 ハロウィン行事が終わった

 

 あれからは、クラスの皆とお菓子の交換をしたりして、すごく楽しかった

 

 けど、ずっと、あたしは浮足立ってた

 

 理由は言うまでもない......

 

リサ(環那、どうしたのかな......)

 

 なんか、いつもと違った

 

 鋭い目であたしを見てて、余裕がなくて

 

 なんだか......

 

リサ(あたしのこと......好きみたいだった。)

 

 いや、分からないけど

 

 環那ってどれが本心か分かんないし

 

 いやでも、最近はちゃんと感情は感じるし......

 

リサ(うーん......)

 

 あれが演技には思えないんだよね

 

 やっぱり、今までと違って感情を感じたからかな......なのかな?

 

 あれが環那の本心みたいな感じがした

 

リサ(明日、会ってから考えてみよ。)

 

 あたしはそう考え

 

 軽く携帯を確認した後、電気を消した

 

 けど、考えがまとまらなくて寝られなかった

___________________

 

 “環那”

 

 今日は失態だった

 

 どうやら俺は、好きな相手には我慢が効かないタイプらしい

 

 つまり、クズだ(断言)

 

環那「......」

 

 自分の気持ちは決まってる

 

 もう、何か月も待たせてるんだ

 

 これ以上__

 

環那(......いや、数か月どころじゃないか。)

 

 十数年だ、俺が待たせたのは

 

 思ってるよりも早く、ケリをつけないと

 

 そうしないと、申し訳が立たない

 

環那「......(14年、か。)」

 

 目を閉じれば、リサと過ごした時間は思い出せる

 

 これでも、記憶量は良い方だし

 

 例えば......

 

幼リサ『わーん!!かんなのばかー!!』

 

環那「最初に出てくるのこれってマジ?」

 

 てか、子どものとき、ずっと泣かせてた記憶ある

 

 主な原因は俺がリサを放置しまくってたからだけど

 

 ......うん、やばいな

 

 幼稚園児の時からクズ男ムーブしてるじゃん

 

環那(......想像以上に業が深いな。)

 

 常に友希那を優先して、リサのことは放置してた

 

 子どもじゃなかったらただの浮気男だよ

 

 なのに、ずっと俺のことを好きでいた

 

 一途を通り越して、もはや狂気すら感じる

 

 十数年の間、俺みたいなのを好きでいるとか、正気の沙汰じゃないでしょ

 

 特にリサなら、彼氏の1人や2人は作れただろうに

 

環那「......報いなきゃいけないね。可能な限り、最高の形で。」

 

 俺はそう呟きながら、携帯を操作した

 

 ペースを上げていかないといけない

 

 そうじゃないと、またリサを泣かせちゃいそうだし

___________________

 

 “リサ”

 

 週末のお昼

 

 あたしは高そうな黒塗りの車に乗ってる

 

 見るからに高級そうな車体に一切揺れを感じない車内

 

 ここから導き出される答えは、この車が高級車だってこと

 

 それを、あろうことか、あたしの幼馴染である環那が運転してる

 

環那「いやぁ、いきなり誘って悪いね。」

リサ「だ、大丈夫。今日は暇だったし。」

 

 今日は驚くくらい早く起きた

 

 二度寝位できそうだったけど寝られなくて

 

 結局、2回お風呂入って、荷物の確認をしてた

 

 今は、それにプラスして緊張してるけどね

 

リサ「てか、いつの間に免許取ったの?」

環那「最近さっさと取ったんだよ。14日もあれば取れるからね。」

リサ(流石すぎる......)

 

 しかも、この車なに?

 

 会社の?それとも、所有物?

 

 どっち?

 

環那「ちなみにこの車は俺のだよ。店に行って、乗り心地良いのって言ったらおすすめされた。ロールス・ロイス......って名前のメーカーだったかな。」

リサ「それ超高級ブランド......!!」

環那「へぇ、詳しいんだね。」

リサ「環那が知らなすぎるだけだよ......」

 

 果たして世界に何人いるんだろうね?

 

 高級車に乗ってる高校生社長の幼馴染って

 

 いや、こんなの早々経験しないでしょ

 

 ほんと、小さい頃はこんなの想像もしなかったなぁ......

 

環那「まっ、そんなことはどうでもいいでしょ。」

リサ「どうでもよくはないけど。今はそれでいいよ。」

 

 気にしすぎても仕方ない

 

 環那は特別な人間だから

 

 社長になる前からお金稼いでたらしいし

 

 別にこういう車持ってても不思議じゃないってことにしよ

 

 そうしないとあたしの感覚がおかしくなるから

 

リサ「それで、今日はどこ行くの?」

環那「え?適当だけど。」

リサ「えぇ!?」

環那「リサが喜びそうなとこ行こうかなって。」

 

 環那はそう言って、チラッとカーナビの方を見た

 

 この辺、あんまり来たことないと思うけど

 

 何があるのか分かってるのかな?

 

環那「この辺、アパレルショップやらブティックやらが集まった商業施設があるんだ。」

リサ「そうなの?てか、なんで知ってるの?」

環那「一度、仕事でこの辺りに来てね。その時、取引先の人に聞いたんだ。」

 

 人脈、また広がってるなー

 

 元々、人付き合いは苦手じゃないし

 

 社長って立場になれば、こうなるのは必然なのかな

 

環那「リサはこの時期には年末に着る服とか探すでしょ?だから、プレゼントしようと思って。」

リサ「えぇ!?誕生日プレゼント貰ったばかりだよ!?」

環那「別に気にしなくてもいいよ。使い道なんてないし。だったら、お世話になって来たリサに還元しようってだけだからさ。」

 

 ほ、ほんとにいいのかな?

 

 ちょっとだけ、環那の将来が心配だよ......

 

 いや、環那が結婚するとすればあたしを含めた4人の中の誰かだし

 

 手綱を握れば、大丈夫なのかな......?

 

リサ「そ、そんなに買うものないよ?」

環那「それはそれで。気に入ったのがあれば言ってよ。あ、もうすぐ着くよ。」

リサ「お、オッケー!」

 

 そう言って、環那は車を走らせた

 

 環那の運転は、お手本のような安全運転で

 

 免許を取って何回目の運転か分からないけど

 

 運転は、すごく安心できた

 

 

 

 



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理解不能

 高級感のある綺麗な内装

 

 そこには、誰もが一度は目にするブランドの店が立ち並んでいる

 

 ......らしい(リサ曰く)

 

 俺はそういうの、よく知らないんだけどね

 

環那「こういうのもあるんだね。」

 

 服とか着られればなんでもいいと思ってたけど

 

 見てみると意外と面白いものだ

 

 どの商品にも工夫があって

 

リサ(す、すごい可愛い服いっぱいある。)

環那(おぉ、リサの目が輝いてる。)

 

 きっと、リサには俺とは違う景色が見えてるんだろうなぁ

 

 子どもの時のおもちゃ売り場みたいな、ワクワク感があるのかな?

 

 まっ、俺は行ったことないけど

 

環那「そんな遠くからじゃなくて、近くで見ればいいじゃん。」

リサ「あ、あんなお店、入っていいの?」

環那「別にいいでしょ。」

 

 なんでこういう時は度胸ないんだろう

 

 ほんと、仕方ない

 

 俺が引っ張っていくしかないか

 

環那「ほら、行こう。」

リサ「ひゃ!?///」

 

 俺はリサの手を握って

 

 半ば無理矢理店の中に引っ張って行った

 

 なんかすごい声出してたけど

 

 まっ、いいでしょ(適当)

___________________

 

 “リサ”

 

 環那に引っ張られ、あたしはある店に入った

 

 近くのショッピングモールにあるようなお店じゃない

 

 高校生が入って浮いてないかな?

 

環那「変な所で庶民的だよねー。リサって。」

リサ「いっつも庶民だけど!?」

 

 まぁ、環那は慣れてるよね

 

 いい意味でも悪い意味でも自分の道を歩いてるし

 

 周りの目とかは気にならないんだろうなぁ

 

環那「ほら、これとかリサに似合うんじゃない?」

リサ「わっ、可愛い!」

環那(リサの好みは把握してるし。ある程度乗せるくらいなら簡単だね。)

 

 このお店にある服、すごいあたし好みだ

 

 環那、実は調べてたのかな?

 

リサ(うわ、でも、高ぁ......)

 

 このお店にある服、すごい高い

 

 3枚くらい買ったらバイト代飛んじゃうよ

 

環那「値段高ぁ......って顔してるね。」

リサ「だからなんでわかるの!?」

環那「長い付き合いだからね。」

 

 いや、環那がエスパー過ぎるだけでしょ

 

 まぁ、あたしも環那のことは少しは分かるんだけどさ

 

 それでもここまで正確には分からないからね?

 

環那「別にいいじゃん、俺に払わせれば。」

リサ「でも、誕生日にすごいの貰ったし、それ以外にもいっぱい......」

環那「気にしないでいいんだよ。どうせ、降って湧いてくるから。」

 

 環那はそう言いながら、持ってる服をあたしに合わせた

 

 これもあたし好みのデザインだ

 

環那「お金で買えないものってあるからね。絶対に。」

リサ「え?」

環那「まっ、なんでもいいから俺に任せてよ。今のうちに慣れてもらわないと困るし。」

リサ「?(慣れる......?)」

 

 あたしは首を傾げた

 

 慣れるって、何に?

 

 しかも、困るって?

 

環那「じゃあ、この辺にある服はプレゼントするよ。すみませーん。」

リサ「ん?この辺?」

店員「かしこまりました。」

リサ「え?」

 

 店員さんが、大量の服を手にもっていく

 

 環那の言葉にもおかしい部分があったし

 

 ......あれ?

 

環那「じゃ、支払いしてくるから待ってて。」

リサ「え、あ、うん......?」

 

 環那はそう言ってレジの方に歩いて行った

 

 あたしはそれを呆然と見送って

 

 持ってきた袋を見てから、あたしは現実を直視することになる

___________________

 

 お店を出てから、今度は近くのカフェに入った

 

 さっきとは違って、いい意味で古さがあって落ち着く

 

 まぁ、そんないいお店なんだけど......

 

リサ「__環那!お金使いすぎ!」

 

 そんなお説教じみたことを言ってる

 

 いや、流石に言わないとだめでしょ

 

 幼馴染として

 

環那「別にいいよ。色んな所で儲けがあるから。」

リサ「そう言うことじゃないの!金銭感覚がちゃんとしてないと__」

環那「私生活のお金はきちんと管理してるよ。普段は使うことないし。」

リサ「じゃあ、なんで?」

環那「......」

 

 そう尋ねると、環那はいきなり黙った

 

 な、なんだろ、この雰囲気

 

環那「返せない恩って、絶対にあると思うんだよね。」

リサ「どういう意味?」

環那「こっちの話だよ。」

 

 なんか、今日の環那おかしい

 

 意味深なことばっかり言ってるし

 

 それに、なんかあたしに優しいし......

 

 どう考えてもおかしい!

 

リサ「環那?ほんとにどうしたの?悩みでもあるの?」

環那「いいや、悩みじゃないよ。今の俺の思考はむしろ、晴れ晴れとしてる。」

リサ「ど、どいうこと?」

環那「そのまま意味だよ。俺に迷いなんてない。」

 

 わ、わかんない

 

 こんなに環那の考えてることがわからないなんて

 

 幼稚園のとき以来かも

 

環那「正直、14年前にはこんなこと考えてなかったし、驚いてはいるかな。」

リサ「全然見えないけど......」

環那「あはは、そうかもね。」

 

 環那、ほんとに笑うようになったなぁ

 

 いや、元々よく笑う方だったんだけど

 

 なんていうか、きれいに笑えるようになった

 

 幼稚園の頃から一緒だから、感慨深い

 

環那「ねぇ、リサ。」

リサ「どうしたの?」

環那「今日、琴ちゃんとエマ、篤臣さんのところに行ってるんだよ。多分、泊りになると思う。」

リサ「そうなんだ。」

 

 何が言いたいんだろう?

 

 なんというか、回りくどいし

 

環那「今日、俺の家来ない?」

リサ「えぇ!?///」

 

 環那の言葉にあたしは驚いて大きな声を出してしまった

 

 え、これってまさか......そういうこと!?

 

環那「1人だと寂しくてさ。何か予定ある?」

リサ「い、いや、大丈夫......行く///」

 

 環那の言葉にあたしはそう答えるしかなかった

 

 この先のことを考えると、すごくドキドキする

 

 そんな調子で、あたしはもう少し環那と買い物をして

 

 日が落ちてきたところで、環那の家に向かった

 

 

 



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求婚

 夜の7時30分

 

 俺とリサは買い物をした後、マンションに帰ってきた

 

 晩御飯を一緒に食べるのは意外と初めてだ

 

 昔は学校の時間以外は閉じ込められてたし

 

環那「いやー、こういうのもいいねー。」

リサ「そうだねー。」

 

 そんな俺たちは今、2人で鍋を囲んでる

 

 特に珍しくもない寄せ鍋

 

 各々が入れたい具材を入れた

 

リサ「でも、なんで鍋なの?」

環那「最近、寒くなってきたからねー。暖かいもの食べたいじゃん。」

リサ「確かにねー。もう冬だよねー。」

 

 なんだか、時間がゆっくり流れてる気がする

 

 この空気感、いいなぁ

 

 最近はすごい忙しかったし

 

環那「リサも勉強で疲れてるでしょ?」

リサ「疲れてるどころじゃないよ!」

環那「あはは、大変そうだね。」

リサ「うぅ、これだから天才は......!」

環那「別に俺、大学に興味ないし。」

 

 どこの大学に行っても、一緒だろうし

 

 それよりもやるべきことの方が多い

 

 課題はまだまだ山積みだ

 

環那「リサは、将来なにするの?」

リサ「将来?......うーん。」

 

 悩まし気な顔をしてる

 

 まっ、将来を考えてる高校生ってあんまりいないよね

 

リサ「やりたい仕事とかはないけど、バンドは続けていきたいかな?」

環那「そっか。」

 

 夢、か

 

 これからも活躍して、メジャーデビューとか

 

 そんな未来もあるのかな

 

リサ「どうしたの?いきなりそんなこと聞いて?」

環那「興味だよ。受験生は何を考えてるのかなって。」

リサ「なんか、悩んでる?」

環那「別に。」

 

 俺は少し笑いながらそう言った

 

 悩んでるわけじゃない

 

 ただ、少し迷ってるだけだ

 

 今の俺が悩んでるなんて、リサへの冒涜もいいところだからね

_____________________

 

 “リサ”

 

 あれから鍋を食べ終え、片づけをした

 

 それからは環那がお風呂に入りに行って

 

 その入れ替わりで今は、あたしはお風呂に入ってる

 

 今日は、ここに泊まるけど

 

 改めて考えると、すごくドキドキする

 

リサ(環那の家でお泊りって、今までなかったなぁ。)

 

 当たり前のことなんだけど

 

 環那に家と呼べる家はなかったし

 

 うちにも泊まりに来ることもなかったし

 

リサ(なんで、あたしなんだろう......)

 

 燐子とか、イヴとか、呼べる子はいるのに

 

 それでも、あたしを呼んだ

 

 今までの環那じゃ、考えづらい

 

リサ(ほんとに何か悩みがあるんじゃ......)

 

 あんな若く社長になってるんだし

 

 流石の環那でも悩んでるのかも

 

 いろんな人の人生がかかった立場だし、プレッシャーもすごいだろうし

 

リサ(ここは、幼馴染であるあたしが話を聞かないと!)

 

環那『__リサー。着替えここに置いとくねー。』

 

リサ「!?///」

 

 張り切りすぎて、つい立ち上がっちゃった

 

 てゆうか、何のためらいもなく入ってきたんだけど!?

 

 ほんとにデリカシーとかない......

 

 そんなことを考えながら、少しだけお湯につかって

 

 少しして、お風呂から出た

_____________________

 

 お風呂から上がって、あたしはリビングの方に歩いてる

 

 うちのお風呂と少し違うけど

 

 浪平先生とエマのために整備したのかな?

 

 すごく、入り心地が良かった

 

リサ「環那ー、上がったよー。」

環那「あぁ、意外と早かったね。」

リサ「何してんの?」

環那「会社の退勤状況の確認。今は定時帰宅を勧めてるからね。」

 

 そういいながら、環那はパソコンの画面を見てる

 

 これが、仕事関係のことをしてる時の環那の顔なんだ

 

 真剣で、いつもよりも眼光が鋭い

 

リサ「でも、意外だね?残業ってマイナスイメージはあるけど、メリットもあるんじゃないの?」

環那「まぁ、そういう側面もあるね。けど、前までのあの会社は極端すぎるからね。仕事って生きるためにするけど、命かけるものじゃないでしょ?人件費削減っていうのもあるけど、社員が健全な生活を送って、生産性が上がれば、それだけ会社の業績は右肩上がりになるんだよ。」

リサ「いろいろ考えてるんだね。」

環那「そうでもないよ。あんな資産のある会社を手に入れたら、誰でもまず考えることだよ。」

 

 それでも、色んなことしてるのは知ってるんだけどね

 

 エマが毎日、メッセージで送ってくるし

 

 ほんと、意外と献身的なところ、変わんない

 

環那「仕事量とかはこっちで調整することだし、あまりにも先代が下手くそすぎたってことだね。」

リサ「頑張ってるんだね。この前、テレビに出てたよ?天才経営者が動き出したって。」

環那「勘弁してよ......」

 

 社長になってまだそんなに経ってないのに、もう環那は成果を出してる

 

 専門家が分析して、今年は創業以来最高の業績を記録するだろうとか

 

 新しいカリスマとか、色々と言われてた

 

リサ「あたしは嬉しいよ?環那がやっと正しく評価されはじめて。」

環那「別に、誰にどう思われようがどうでもいいよ。」

リサ「えー。」

 

 環那は心底面倒くさそうにしてる

 

 あたしとしては納得なんだけど

 

 でも、少しは喜んでもいいのに

 

環那「俺は俺のしたいようにするだけだし。周りのこととか、どうでもいい。」

リサ「けど、いっつも誰かの幸せを考えてるじゃん。」

環那「そうなってほしい人だけだよ。」

 

 とか言いつつ、社員さんのために頑張ってるんだよね

 

 ほんと、捻くれてるなぁ

 

環那「......社員さんのために頑張ってる、とか考えてると思うけど、ほんとに幸せになってほしい人のために頑張ってるんだよ。」

リサ「!」

環那「例えば。」

リサ「__!?///」

 

 フワっと、一瞬だけ体が浮いた

 

 そして、そのままソファに倒された

 

リサ「え、か、環那......?///」

環那「ねぇ、リサ。」

 

 いつもより、真剣な声でだ

 

 雰囲気も、なんだかおかしい

 

 これって、まるで......

 

環那「.......大学行くの、やめない?」

リサ「えっ......?どういうこと......?」

環那「つまり。」

 

 環那は真っすぐあたしの顔を見据えた

 

 そして__

 

環那「__高校卒業したら、俺と結婚しようよ。」

リサ「__!!///」

 

 優しい声で、そういった

 

 その言葉の後、環那の顔が少しずつ近づいてきて

 

 そのまま、唇と唇が重なった

 

 

 



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最終回:正解

 近所にある、特に特別でもない河川敷

 

 大きめな川と少し広めの原っぱがある、ただの河川敷

 

 昔はもっと子供が遊んでたりしたんだけど、今はあんまり人がいない

 

 時代なのかなぁ

 

リサ(懐かしい。)

 

 さっき、ここは特別じゃないって言ったけど

 

 あたしにとっては、特別な場所

 

 だって、あたしはここで、環那のことを好きになったから

 

環那「__ここが、始まりの場所なんだね。」

リサ「あ、環那。遅かったね?」

環那「......少し、人と会っててね。」

 

 環那は苦しそうにそういった

 

 きっと、燐子に会ってきたんだと思う

 

 付き合えないって言うために

 

リサ「......お疲れ様。」

環那「初めてだよ。こんなに死にたいって思うのは。」

リサ「後悔、してる?」

環那「死ぬほどしてる。」

 

 そういって、環那は地面に腰を下ろした

 

 それを見て、あたしも芝生に腰を下ろして、環那の顔を見た

 

 こんなに辛そうにしてるの、初めて見たかも

 

環那「結局、全員泣かせちゃったよ。」

リサ「そりゃあね。あたしもフラれたら、泣いてた。」

環那「......そっか。」

 

 この1週間、環那はずっと難しい顔をしてた

 

 最後まで、皆を傷つけない方法を考えてた

 

 けど、この世には、環那にすら出来ないことが存在して

 

 ずっと、辛そうだった

 

環那「胸が張り裂けそうって、ネタだと思ってたよ。」

リサ「今、張り裂けそうなの?」

環那「うん......マジで痛い。」

 

 環那は胸を抑えながら、そう言った

 

 ほんとに苦しそうだ

 

 今にも、死んじゃいそうなくらい

 

リサ「慰めてほしい?」

環那「いや、いい。泣く。」

リサ「はい、嘘。」

環那「ひどい。」

 

 ちょっとだけ、いつもの調子になった

 

 出来れば、環那には元気でいてほしい

 

 あの3人もきっと、そう思ってるはず

 

 そんなことを考えてると、環那は沈んでいく夕日の方を見た

 

環那「......俺、リサを幸せにできなかったら、殺されても文句言わないよ。」

リサ「重いよ。」

 

 環那の言葉に、あたしはそう返した

 

 重い、っていうのは、決意の話

 

 昔から環那は自分に課す十字架が大きすぎる

 

 あたしが、支えにといけないね

 

リサ「そんなに気負わなくていいのに。」

環那「仕方ないじゃん。重いんだから。」

リサ「!」

 

 ギュっと、手を握られる

 

 左手だから、ちゃんと温度がある

 

環那「絶対に、誰よりも幸せにする。」

リサ「......うん。」

 

 あたしは深く頷いた

 

 ちゃんと、分かってるから

 

 環那の重さは1人分じゃない

 

 みんなの気持ちとか、犠牲が、全部乗ってるんだ

 

環那「リサは、ここから始まったんだよね。」

リサ「うん。」

 

 ふぅっと息をつき、環那はそう言って

 

 噛み締めるようにこの景色を見てる

 

 そして、静かに口を開いた

 

環那「そこから、13年間。俺を思い続けてくれたリサへ、最大の敬意と感謝を込めて。」

リサ「......///」

 

 環那はあたしの方を向いて、小さく頭を下げた

 

 まるで、女王に傅くように

 

 言葉の通り、最大の敬意と感謝を込めて

 

 そして......

 

環那「俺と結婚してください。」

リサ「......///」

 

 その言葉とともに、綺麗な指輪を差し出された

 

 正真正銘の、プロポーズ

 

 環那が、生涯の伴侶として、あたしを選んだ証だ

 

リサ「はい......!///」

 

 その答えに迷いはなかった

 

 左手の薬指に、指輪がはめられる

 

 青い宝石があしらわれた、綺麗な指輪

 

 これが証なんだって思うと、どうしようもなく愛おしくなる

 

リサ「でも、これで終わり......?///」

環那「え?」

リサ「まだ、やることあるじゃん......?///」

環那「......あぁ。」

 

 あたしが小さくアピールした

 

 すると、環那は顔をゆっくり近づけて来て、あたしは目を閉じた

 

 環那の息遣いをすぐそこに感じる

 

 そして......

 

リサ「ん......っ///」

 

 そのまま、唇が重なった

 

 優しい、満たされる

 

 愛されてるのを感じる

 

 今までの環那の苦労、辛かった記憶

 

 その全部を思い出して、ジンワリと涙が滲む

 

環那「__リサ。」

リサ「環那......///」

環那「人生最後の日、『世界一幸せだった』って言わせてみせる。」

リサ「......うんっ!///」

 

 環那の言葉に、あたしはそう答えた

 

 きっと、環那は死んでもこの誓いを果たすんだと思う

 

 けど、あたしは、環那に『世界一幸せだった』って言わせるんだ

 

 そんな誓いを、あたしは心の中で密かにたてた

____________________

 

 “友希那”

 

 あれから季節が流れて、3月

 

 私たちの卒業の季節になった

 

 環那とリサが交際......というか、婚約してから、色々あった

 

 改めて、本気で人を好きになるというのがどういうことか分かった

 

 そんな様々なトラブルはあったけれど、それも落ち着いて

 

 ついに、卒業式の日を迎えた

 

 ......の、だけれど

 

友希那「環那はどうしたの?」

エマ「さぁ。昨日も今井リサとどこかに行ったきりだし。」

友希那「あ、相変わらずね。」

 

 まぁ、あの2人なら心配ないけれど

 

 特に、環那がいるし

 

 何か大変なことに巻き込まれてるということはないわね

 

琴葉「みなさーん!そろそろ講堂に移動しますよー!」

友希那「先生?環那とリサは......」

琴葉「後で来ますよ!南宮君曰く、『諸事情があるから、卒業証書だけもらいに行くー。』らしいです!」

友希那(それでいいの?教師として。)

琴葉「まぁまぁ!行きましょう!」

 

 浪平先生にそう言われ

 

 私たちは卒業式会場である講堂に向かった

 

 本当に、あの2人はどうしたのかしら?

____________________

 

 あれから時間が経って、卒業式が終わった

 

 特に学校生活に関心があったわけではないけれど

 

 雰囲気でジーンときた

 

琴葉「みなさ、ごそつぎょ、おめでとうございます......!」

エマ「琴葉、涙と鼻水拭いて。」

 

 浪平先生はやはり卒業式で泣くタイプだった

 

 それはもう、ドン引きするレベルで泣いてる

 

 生徒思いの先生だとわかるわね

 

琴葉「もっ、ほんとにぃ......!」

「琴葉ちゃん泣きすぎー!」

「なんかこっちの涙引っ込んだわ!」

琴葉「ひどいですー!」

 

 浪平先生はそう言って、まだワンワン泣いてる

 

 これはもうしばらく泣き止まないわね

 

 この雰囲気をぶち壊す人間でも来ない限r__

 

環那「__おはよー。って、うわ、何その顔?」

リサ「お、おはようございまーす。」

琴葉「みなみやく、に、いまいさ......!」

友希那(あ、いたわね。)

 

 そんな時、環那とリサが教室に入ってきた

 

 2人とも、ちゃんと制服は来てる

 

環那「よ、妖怪みたいだね。」

リサ「だ、大丈夫ですか?」

琴葉「だいじょうぶです~!」

 

 苦笑いを浮かべながらそんなことを言ってる

 

 そんな2人に私は近づいていき、声をかけた

 

友希那「遅かったわね、2人とも。」

リサ「あ!友希那!」

環那「卒業おめでと~!」

友希那「おたがいにね。」

 

 この2人の祝い方、両親のそれね

 

 私を何だと思ってるのかしら?

 

 別にいいのだけれど

 

エマ「お兄ちゃん。私も卒業。」

環那「エマもおめでとう。今日はみんなでご飯食べようね。」

エマ「うん。」

 

 と、こんな感じに会話を楽しんでるけれど

 

 確認したいことは山ほどあるのよ

 

 まず......

 

友希那「2人はなんでこんなに遅れたの?」

環那「え?あ、そうだったね。」

リサ「ちゃんと説明しないと、ね。」

友希那、琴葉、エマ「?」

 

 私が質問すると、2人は真剣な雰囲気になった

 

 教室中が静まり返る

 

 さっきまでの卒業式の雰囲気は完全に消え去った

 

環那「俺達、来年に結婚式を挙げるんだ。」

琴葉、エマ「えっ。」

クラスメイト「えぇぇぇ~!!!???」

リサ「あ、あはは~///」

 

 その言葉に、クラス中が絶叫した

 

 この2人はクラスどころか学校公認のカップル

 

 結婚自体は驚くことじゃないけれど、来年というのは急すぎるし

 

 しかも、早すぎる

 

 けど......おかしいわね

 

友希那「あの、2人とも?結婚式はすごくおめでたいことなのだけれど、なぜ来年なの?環那なら、『来月にやるね!』くらいは良いそうなのに。」

環那「そこに気づくとは、流石は友希那だ。それが、今日このタイミングで来た理由なんだ。」

リサ「まぁ、こっちの方が本題かもね。」

環那「俺から話す?」

リサ「これは、あたしから話すよ。」

 

 リサはそういうと一歩前に出て

 

 少しだけ視線を落とした

 

 そして、数秒が経ち、ゆっくり話し出した

 

リサ「今、私のお腹に環那との赤ちゃんがいるの......///今、妊娠1か月///」

友希那、琴葉、エマ「えっ?」

クラスメイト『うえぇぇぇぇぇ~!!!???』

 

 また、クラスメイトが絶叫した

 

 それはそうよ

 

 私たちも叫びたいくらいだもの

 

 けれど、驚きすぎて声が出なかったわ

 

琴葉「に、にんし、え?今井さんのお腹に南宮君との子供が?」

環那「そうだよ?」

エマ「???????」

友希那「エマ!?大丈夫?エマ!?」

環那「......まー、これが卒業式に来なかった理由かな。体冷やすとよくないし。」

 

 教室内はまさに阿鼻叫喚

 

 あのエマも、壊れた機械みたいになってる

 

 むしろ、まだ冷静な私がおかしいわ

 

琴葉「ふ、2人とも、学生の身分で妊娠なんて__って、彼には当てはまりませんよね......」

 

 浪平先生は深呼吸をしてから、そう言った

 

 確かに、環那はちゃんと定職に就いてるし、貯金も十分

 

 そこら辺の大人よりもしっかり?してるし

 

 正直、20歳をしようが今しようが変わらないんだわ

 

エマ「お、おおおにちゃ、こっこれからもいいっしょにくらせる?」

環那「うん。もうしばらく琴ちゃんの面倒見る約束してるし。エマは家族だからね。」

エマ「よ、よかった......」

 

 エマは安心したように胸をなでおろした

 

 それを見て、環那はうんうんと頷き

 

 浪平先生の方を見た

 

環那「琴ちゃん。今日から、俺達、新しい家にお引越しだからね?」

琴葉「え?」

環那「リサが妊娠したって篤臣さんに報告したら、皆で住めって新しいマンション契約してくれてさ!今日からそこにお引越し!」

琴葉「ほんとに急ですね!?」

 

 浪平先生はそうツッコミを入れた

 

 もう、さっきの涙は引っ込んだようね

 

環那「つまり今日は、卒業記念兼新築お披露目パーティーだね!あはは!」

 

 環那は大きな声で笑いながら、リサの手を取った

 

 そして、教室のドアを開けた

 

環那「じゃあ、地図はグループに送っておいたから、皆で来てねー!」

リサ「あたし達、たくさんお料理作って待ってるからさ!」

友希那「え、えぇ。」

環那「じゃ、行こっか!」

リサ「うん!」

 

 2人はそう言って、教室を飛び出していった

 

 クラスは未だに騒然としている

 

 本当に、嵐のような2人だったわね

 

 きっと、これから先も苦労させられるわ......

 

 けれど......

 

環那『今日なに作ろっかー?』

リサ『みんなの大好物作ろうよ!全部!』

環那『そーだね!』

 

友希那(本当に、おめでとう。)

 

 今まで、行き違いをし続けてきた2人が結ばれて、あるべき正しい形になったように感じる

 

 幼馴染であり、最高の理解者であるリサと結ばれることが、環那の正解だったのだと思う

 

 だからこそ確信する

 

 あの2人は必ず幸せになるし、誰もそれを阻めはしないと

 

 だって、あの2人は、運命を超えた繋がりがあるのだから

 

 そんなことを考えながら、私は雲一つない青空の下を歩く2人を見送った

 

 

 

 




これにてリサルート終了です。
次回から燐子ルートに入ります。
時間が共通ルートの最終話に戻ります。


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燐子ルート
新たな宿命


 あれから、あの場所は離れた

 

 恩人の門出を見送って、邪魔も排除した

 

 俺のあの場での役割は全部終わった

 

環那「......っ。」

 

 歩けてはいるけど、かなり体は疲労してる

 

 今にもドロドロに溶けそうだ

 

 あれを使った後はいつもこうなる

 

環那(......俺は今、どこに向かってるんだろう。)

 

 体は限界ギリギリ、頭も痛い

 

 けど、体がどこかに向かってる

 

 どこに向かっているんだろうか

 

 ......いいや、分かってる

 

 だって、自分のことだもん

 

環那「......ここか。」

 

 目的地は公園だった

 

 ただ、普通の公園じゃない

 

 俺にとっては特別な、美しい思い出が詰まった場所だ

 

環那(懐かしいな。何年ぶりだろう。)

 

 この場所には、あえて来なかった

 

 ここにいたら、甘えが出てしまうから

 

環那「......全部、終わった。誓いは果たしたよね。」

 

 あの日、友希那と出会った木の下に向けて、そう言った

 

 きっと、友希那は幸せになる

 

 ノア君に任せておけば何の問題もない

 

環那「次はどうしようか......」

 

 何をすればいいのか分からない

 

 人生最大の野望を叶えるとはどういうことか、自覚する

 

 何かしてないといけない方が楽だ

 

環那(次は、何をしようか。)

 

 スッと目を閉じる

 

 俺がここに来たのには、きっと意味がある

 

 何かを求めてるんだ

 

 この場所で、また......

 

環那(......いいや、現実的じゃないか。)

 

燐子「__か、環那、くん......っ!!」

 

環那「っ!」

 

 現実的じゃない

 

 こんなことは本来、ありえないんだ

 

 運命を感じたことはあっても、それは理不尽なものじゃない

 

 限度は必ずあるはずなんだ......本来なら

 

環那「......なんで、ここに?」

 

 口から、そんな言葉が零れる

 

 俺がここにいると特定できる情報はないはずだ

 

 なのに、なぜ......

 

燐子「半分は、賭けだったけど......環那の過去の話を聞いた時、友希那さんと公園で出会ったって言ってたから......友希那さんのお家から一番近い公園に来たの......」

環那(バカな......)

 

 それだけの情報で、ここに来たのか?

 

 ......いいや、本当に賭けだったんだ

 

 だから、俺があの場に留まっていようが、家に帰ろうが、ここに来たんだ

 

環那「......本当に、運命ってすごいや。」

 

 もはや、疑いようもない

 

 いや、別に今までも疑ったことはない

 

 彼女は、白金燐子は、運命の人なんだ

 

環那(俺は、また、この場所での出会いを求めてたのかな。だとしたら、俺も運命に動かされたわけか。)

燐子「ど、どうしたの......?どこか、調子悪い......?」

環那「......いいや。大丈夫。」

 

 心配そうな燐子ちゃんなそう答える

 

 こんな体の不調はなれたものだ

 

 大したことじゃない

 

環那「ねぇ、燐子ちゃん。」

燐子「.......?」

環那「俺、燐子ちゃんと出会えてよかったって思ってる。」

燐子「え......?///」

 

 ここに来てくれたのが燐子ちゃんで良かった

 

 やっぱり、この子は俺に安息をくれる

 

 ぽっかりと空いた穴が埋まるのを感じる

 

 この子じゃないと、ダメなんだ

 

燐子「わ、私も、環那君と出会えて嬉しいよ......っ!///」

環那「......そっか。」

 

 胸の奥が熱い

 

 ほんとに俺は出会いに恵まれてる

 

 この子と出会ったことで、俺の人生はどこまで好転したことか

 

 もし出会ってなかったら、心も体も壊れてたかもしれない

 

 燐子ちゃんは俺に助けられたって言ってるけど、こっちこそ、どれほど救われてることか

 

環那(......)

 

 己の価値観全てを壊す運命

 

 俺はそれに出会って、変えられた

 

 そして、今、俺は......

 

環那「......君が好きだ。」

燐子「......!///」

環那「!(なっ)」

 

 やっば、口滑った

 

 しかも、訳わかんない口調なってるし

 

環那「あ、いや、今のは__」

燐子「冗談......?」

環那「......冗談、ではないけど。」

 

 少し涙目になりつつ、そう言われた

 

 この顔されると、引くに引けないぞ

 

環那(あー......どうしよ。)

 

 吐いた言葉は呑み込めない

 

 てか、隠したところで何のメリットもないし

 

 あー......やっちゃった

 

環那「分かった。ちゃんと言うよ。」

燐子「!」

 

 俺は少しだけ、深呼吸をした

 

 あれを使ってる時とは違う、激しい心臓の動きだ

 

 やっば、これ

 

環那「俺、燐子ちゃんが好きだよ。」

燐子「......うん///」

 

 言葉が詰まってるような感覚はあった

 

 けど、思いの外、それはすんなりと出て来て

 

 心臓の鼓動が激しくなった

 

 けど、もう一つ、言わないと

 

環那「俺の恋人になってほしい。」

燐子「......///」

 

 場が静寂に支配される

 

 聞こえるのは、風で揺れる木の音と自身の心音だけだ

 

燐子「......私も、好き///」

環那「!」

燐子「7か月間、一緒にいて......最初よりずっと、好きになった///本当に......本当に、嬉しいよ///」

 

 燐子ちゃんが近づいてくる

 

 恐ろしく、ゆっくりに感じる

 

 これが緊張してるってことか

 

燐子「__待ってたよ......!///環那君......!///」

環那「......うん。お待たせ。」

燐子「!///」

 

 そう言って、俺は燐子ちゃんを抱きしめた

 

 暖かくて、優しい匂いがする

 

 幸福感で、判断力が鈍りそうだ

 

燐子「今までの分、たくさん、一緒にいてね......?///」

環那「俺も、そうしようと思ってた。」

 

 幸せだ

 

 でも、この子となら、もっと幸せになれる

 

 なんとなく、そんな気がする

 

環那(その分、俺がこの子を幸せにしないと。)

 

 この場所で出会ったのは、新たな宿命だ

 

 けど、今までと違うことがあるとすれば

 

 それは、向こうも俺に何かを与えてくれて

 

 前よりもずっと、優しいということだ

 

 

 



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2週間後

 あの日から、2週間が経った

 

 私と環那君がお付き合いを始めて、色々あった

 

 主に、浪平先生と若宮さんと環那君の関係ことで

 

 でも、今井さんが間に入ってくれて、解決して

 

 今ではほぼ元通りの関係になってる

 

 あれが本当の修羅場っていうものだったんだと思う

 

 けど、この2週間、私は内心浮かれっぱなしだった

 

燐子(環那君、今何してるかな......?///)

 

 最近、ちょっとでも時間が出来たら、こんなことを考える

 

 まぁ、これはお付き合いを始める前と変わらないんだけど

 

 それが現実的になったのが、大きな違い......かな

 

燐子(何すればいいのかな......?///)

 

 環那君とデートはしたことあるけど

 

 私にあんなの出来るわけもないし

 

 かと言って、普通のデートも私は分からないし

 

燐子「うーん......」

 

 とりあえず、インターネットで調べてみる

 

 私は一瞬で妙案が浮かぶほど頭の回転早くないし

 

 情報を頭に入れないと

 

燐子(遊園地、カラオケ、映画......)

 

 デートと言えばみたいな場所が次々と出てくる

 

 でも、分かる

 

 これらは環那君の好みじゃない

 

 楽しめないこともないと思うけど、親目線になっちゃいそう

 

燐子(多分、どこかの施設に行くとかじゃない......ほぼ毎日、学校に仕事に家事にって忙しいし、ゆっくり出来る方がいいよね。)

 

 と言っても、何をすればいいんだろう.......

 

 何かのイベントとかあれば、それに便乗出来るんだけど

 

 そんなに都合よくは......

 

燐子(あっ。)

 

 その時、私の目に一つのニュースの記事が目に入った

 

 これだ、そう思った

 

 私はそう思い立って、さっそく準備に取り掛かることにした

____________________

 

 “環那”

 

 あの日から2週間ほどが経った今、俺はノウノウと生きてる

 

 まっ、あの後、体力切れでぶっ倒れたんだけどね

 

 そこはもうご愛嬌ってことで(?)

 

リサ「__かーんな!おはよ!」

環那「おはよー。」

友希那「おはよう。」

 

 関係は修復された

 

 琴ちゃんもイヴちゃんも友希那も

 

 全員、リサが間に入ってくれて、何とかなった

 

 ほんと、この恩は返しきれない

 

リサ「ねぇねぇ~、彼女とは仲良くしてんの~?」

環那「最近はちょっと仕事が忙しくて、電話したくらいだよ。」

リサ「うわ。」

環那「いや、良くないのはわかってるんだけどさ、その反応は効くんだけど。」

 

 リサはドン引きした顔をしてる

 

 まぁ、仕方ないことなんだけどさ

 

 それでも、結構なダメージがある

 

リサ「絶対に燐子、寂しがってるよ?」

環那「......はい。」

リサ「デートの予定とかあるの?」

環那「一応、今日会うことになってるけど。」

リサ「じゃあ、ちゃんと燐子のこと、甘やかしてあげなよ?」

環那「分かってるよ。」

 

 てか、なんで燐子ちゃんが甘えてくるの知ってるの?

 

 ......いや、想像つくか

 

 付き合う前から、割とそんな感じだったし

 

友希那「仲がよさそうでいいわね。」

環那「まぁ、電話してるだけでも楽しいし。仕事で疲れてても、声を聞けば癒されるし。うん、すごくいい。」

リサ「珍しー。あの捻くれてる環那がー。」

環那「別に捻くれてないけどね?」

リサ、友希那「それは嘘(ね)。」

環那「ひどい。」

 

 俺は肩を落としながらそう言った

 

 なんか、俺ってすごい捻くれたやつって思われてるよね

 

 別にそんなつもりはないんだけど

 

リサ「で、今日は燐子とどこ行くの?」

環那「燐子ちゃんの家に行くことになってるよ。昨日、そういう連絡が来て。」

リサ「そ、そうなんだ。(家......?)」

友希那(燐子、大胆なのね......)

環那「別にどこにでも行けたんだけどね。でも、燐子ちゃんが望んだことだし、なにより、何か考えがあるらしいし。」

リサ、友希那「?」

 

 燐子ちゃんが何を考えてるかはまだ分からないけど

 

 何か面白そうなことなのは間違いない

 

 それを楽しみにしながら、今日を過ごすことにしよう

____________________

 

 というわけで、放課後になった

 

 俺は学校から直で花咲川に向かった

 

 燐子ちゃん、ちょっとだけ生徒会の仕事があるらしいし

 

 迎えに行くくらい別に手間でもないしね

 

「お、おい、あれって......」

「南宮環那だ。」

「体育祭の時も文化祭の時もだけど、オーラがすごいよね。」

 

 それで今は校門の前で待ってるところだ

 

 すごく視線感じるけど、無視でいいや

 

 向こうも話しかけてくる雰囲気じゃないし

 

環那(さて、もうそろそろかな。)

燐子「__か、環那君......!」

環那「ほらね。」

 

 予想通りだ

 

 燐子ちゃんのこともよく見てるからね

 

 行動を予想するくらいなら簡単だ

 

燐子「おまっ、お待たせ......!」

環那「そ、そんなに走らなくてもいいのに。」

燐子「だって、はやく会いたかったから.......///」

環那「!」

 

 なんてことだ、可愛すぎる

 

 自分自身が幻を見てるって疑ってしまう

 

 それくらい現実ではありえない可愛さだぞ

 

燐子「環那君......?」

環那「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事をね。」

燐子「大丈夫......?疲れてたり、悩んでたりする......?」

環那「大丈夫大丈夫。そういうのじゃないから。」

 

 悩みと言えば悩みだけどね

 

 もっとも、それは世界一贅沢なもので

 

 尚且つ、俺にとっては嬉しい悩みだ

 

環那「さぁ、行こうか。」

燐子「う、うん。」

 

 俺たちはそんな会話をした後、学校を離れた

 

 燐子ちゃんの家に行くまでの道中は今日にあったことの話を聞いて

 

 楽しそうに話す燐子ちゃんはすごくかわいいと思った

____________________

 

 “燐子”

 

 学校から私の家に移動しました

 

 家にはお母さんがいると思ってたけど、なぜかいなくて

 

 とりあえず飲み物を取りに行って、環那君には私の部屋に行ってもらった

 

燐子「お待たせ。環那君。」

環那「そんなに待ってないよ。あ、鞄は机の上に置いておいたよ。」

燐子「うん。ありがとう。」

 

 そんな会話をしつつ、飲み物をテーブルに置く

 

 ジュースとかは環那君が好きか分からないし

 

 とりあえず、麦茶にした

 

燐子「麦茶でよかった?」

環那「燐子ちゃんが用意してくれたものなら、なんでも。」

 

 環那君は穏やかな声でそういった

 

 文化祭の日から、こういう風になった気がする

 

 初めて会った時はもっと異様な雰囲気で、人間離れしてる感じがした

 

 けど、今はすごく穏やかになってる

 

 環那君がいう所の、人間っぽくなった、のかな?

 

環那「どうしたの?」

燐子「なんだか、嬉しくなって。」

環那「?」

燐子「環那君、なんだか嬉しそうだから。」

環那「あー。」

 

 環那君は納得したような声を出した

 

 そして、すぐに話し出した

 

環那「今は大変なことはあれど、楽しいからね。」

燐子「そっか......」

 

 憑き物が取れた、いい顔をしてる

 

 その環那君と一緒にいられることが、すごく嬉しい

 

環那「燐子ちゃんのお陰だよ。今があるのは。」

燐子「そ、そんな......私は、好きで一緒にいただけだから......///」

環那「ははっ、そっか。(ほんと、出会てよかった。)」

 

 幸せって、心の底から思う

 

 こうやって話してるだけで嬉しくて、楽しくなる

 

 これ以上は考えられないってレベルで

 

環那「てか、今日は何で燐子ちゃんの家に?」

燐子「え?」

環那「何か考えてる感じだったけど、何かあるの?」

燐子「あっ。」

 

 すっかり忘れてた

 

 正直、このまま話してるだけでもいいけど

 

 折角準備したし、言ってみようかな

 

 ......今になってすごく恥ずかしくなってるけど

 

燐子「そ、その、今日って何月何日だと思う......?///」

環那「今日?11月11日だね。」

燐子「うん///それで、その、今日はポッキーの日って言って、それで、ポッキーゲームっていうのがあって......///」

環那(あぁ、なるほど。)

 

 私は鞄からポッキーを出しながらそう言った

 

 恥ずかしい

 

 自分からこういうこと言うの、未だに慣れないよ

 

燐子「その、ポッキーゲーム......しよ?///」

環那「うん。いいよ。」

燐子「や、やった///なら__」

環那「っと、その前に。」

燐子「__んっ......!?///」

 

 環那君からの承諾を得て喜んだ瞬間

 

 私の手からポッキーが消えて、ベッドに詰め寄られ

 

 視界が環那君でいっぱいになった

 

燐子「ちゅ///んっ///ぅん......///」

 

 唇から、甘美な感覚が体中に駆け抜けていく

 

 こんなキスするの、初めてかも

 

 環那君、どうしたんだろう......?

 

環那「__燐子ちゃんの思考は分かるよ。多分、結果としてこうなることを望んでたよね?」

燐子「え、あ、あう......///」

 

 やっぱり、見透かされてるんだ

 

 いや、ここまでしたら誰でも分かるよね......

 

 これを思いついた夜とか、そういう妄想ばっかりしてたし

 

 望んでた展開にはなってるんだよね

 

環那「遠回しな誘いも可愛らしくていいけど、俺は直球で来てくれる方が好みかな。」

燐子「う、うん......///」

環那「折角準備したっぽいし、ポッキーゲームもする?」

燐子「うん......///」

 

 環那君の問いかけに、私はうなずいた

 

 頭がボーっとしてる

 

 まだ、さっきのキスの余韻が収まらない

 

 もっと、ほしい......

 

燐子「全部なくなるまで、してほしいな......?///」

環那「!(......困るな。この可愛さ。)」

 

 それから、私たちはすごい回数、ポッキーゲームをした

 

 後半はもう、ポッキーゲーム関係なかったけど

 

 私的に目標は達成できて、環那君とたくさんキスで来たし

 

 すごく、満足しました

 

 

 

 



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好きなもの

 なんとか、環那君と触れ合うことが出来た

 

 けど、ほとんど主導権握られてた

 

 私はもっと、環那君に気を張らないでいてほしい

 

 というわけで、今は次のプランを考えています

 

燐子(うーん、環那君って何が好きなんだろう?)

 

 好みとかそういうのはわかる

 

 けど、具体的に何が好きかって聞かれると分からない

 

 それだけじゃなくて、他にもあの人脈の広さとか、なんで浪平先生のお父さんに助けられたのかとか、謎が多い気がする

 

燐子(ミステリアスな環那君、かっこいい......///)

 

 って、そうじゃなくて

 

 環那君の好きなものとか気になるかも

 

 でも、あんまりものに執着するタイプじゃないし

 

燐子(やっぱり、もっと環那君のことを知りたいし、色々と質問してみよう......!)

 

 私は部屋で1人、そう意気込んだ

 

 明日はお休みで環那君に会えるし

 

 時間はたくさんあるよね

____________________

 

 翌日、私は駅前に来てる

 

 今日は少し遠くのカフェに行くことになってて

 

 ちょっとだけ、いつもよりオシャレをしてる

 

燐子(気づいてくれるかな......これ......///)

 

 私は付けているネックレスを眺めながら、そんなことを考えた

 

 これは、環那君が誕生日にプレゼントしてくれたもので

 

 今までは部屋の中で眺めてただけだけど、今日は思い切って身に付けてきた

 

燐子(い、一応、ネックレスに合うようなコーディネートにしたけど、ちゃんと似合ってるかな......?)

 

 服はすごく可愛いし、ネックレスにもあってる

 

 けど、私に似合ってるのかな?

 

 環那君は恥ずかしいくらい褒めてくれるけど、私は地味な部類だし

 

 顔が服に負けてないかなって不安になる

 

燐子(ど、どうしよう、ここまで来て怖くなってきた......)

環那「__お待たせー。」

燐子「~!?」

 

 私はあれこれと考え事をしてると、いきなり環那君が現れた

 

 ビックリしすぎて、体がビクッてしちゃった

 

 全然、気づかなかった......

 

燐子「あ、お、おはよう......!」

環那「おはよう。」

 

 まだ待ち合わせ20分前なのに、なんでいるの?

 

 ちゃんと心の準備も出来てないのに

 

 びっくりして心臓が止まりそうだったよ......

 

燐子「な、なんで、もう来てるの......?」

環那「少しゴミ掃除を、ね。」

 

 環那君はにっこりと笑いながらそう言った

 

 久しぶりにこの笑顔見たかも

 

 どうしたのかな?

 

 “環那”

 

環那(ふぅー、危ない危ない。)

 

 待たせたら悪いと思って早めに来てよかった

 

 じゃなかったら、ゴミを見つけられなかったよ

 

燐子「ゴミ掃除......?会社の活動の一環......?」

環那「まぁね。(大嘘)」

燐子「偉いね、環那君......!次は、私も呼んでね......!お手伝いするから......!」

環那「あ、あはは、それは助かるなぁ。」

 

 マズい

 

 ゴミ掃除はゴミ掃除でも、そっちじゃないんだよ

 

 てか、目が輝きすぎだよ

 

 こんな目してる子に、『君にナンパしようとしてる奴を掃除したんだよ。』とか、言えないでしょ

 

環那「ま、まぁ、行こうか。電車もそろそろ来るし。」

燐子「うん......!」

 

 俺と燐子ちゃんはそんな会話をして、その場を離れた

 

 その辺にナンパ男が転がってるけど......

 

 まぁ、いいや

____________________

 

 “燐子”

 

 あれから電車に乗って、目的地に着いた

 

 この辺りに来るのは初めてだけど、いい場所だと思う

 

 綺麗で、静かで、デートにぴったり

 

環那「__燐子ちゃん、注文は決まった?」

燐子「うーん、パンケーキとか気になるかな?」

環那「じゃあ、パンケーキとホットミルクにする?」

燐子「うん、そうする......!」

 

 環那君、私の好きなもの覚えててくれてるんだ

 

 なんだか、嬉しいな

 

環那「すみませーん。パンケーキとホットミルク、チョコレートケーキとブレンドコーヒーください。」

店長「かしこまりました。」

 

 そう注文を済ませ、環那君はテーブル上のお水に手を付けた

 

 水を飲んでるだけなのに、環那君から目が離せない

 

 なんだか、すごくキラキラしてる......!(燐子フィルター)

 

環那「俺なんか見て、楽しいの?」

燐子「!?///(き、気づかれた......!///)」

 

 ま、まぁ、それはそうだよね

 

 だって、環那君だもん

 

 絶対に気づかれるに決まってるよ

 

燐子「環那君がかっこよくて、見ちゃって......///」

環那「そう言うのはきっと燐子ちゃん含むごく少数だよ。」

燐子「そ、そんなことないもん......っ!///」

環那(かわいっ。)

 

 大好きな人を悪く言われるのは、嫌だ

 

 環那君はちゃんとかっこいいもん

 

環那「そんなに可愛い顔されても困るなぁ。」

燐子「はうっ///」

 

 頭の上に環那君の手が置かれた

 

 撫でられてる

 

 しかも、すごく上手......!

 

環那「ほんとに燐子ちゃんは可愛いなぁ~。頬っぺた膨らませて怒る子なんて久しぶりに見たよ~。」

燐子「あぅ......///」

 

 恥ずかしい

 

 周りに人はいないし、店長さんも目をそらしてくれてるけど

 

 それでも、すごく恥ずかしい

 

 体のどこかが爆発しちゃいそう

 

燐子「か、環那君、撫ですぎ......///」

環那「あぁ、ごめんね。つい。」

燐子「あ、いや、その......嬉しいから、いいんだけど......恥ずかしいよ......///」

環那「あはは。」

 

 褒めてるけど、どこかに意地悪も含まれてる

 

 環那君、そういう所あるもん

 

 私はそんなことを思いながら

 

 少し涙目で環那君を見つめた

 

 “環那”

 

環那(可愛すぎるでしょ。冗談じゃない。)

 

 燐子ちゃん、自覚はないと思うけど、けっこう魔性の者だ

 

 清楚で、可憐で綺麗なのに、それを自分の手で汚してしまいたいと思わせる

 

 それはきっと、俺を俺たらしめるものの本能だ

 

 他の男には触れさせたくない、俺だけの手で汚したい

 

 そういう独占欲を無意識で刺激してくる

 

 ある意味、魔性だ

 

燐子「環那君......?///」

環那「あ、ごめん。」

燐子「どうしたの......?///」

環那「なんというか、腹減ったなぁ......ってね。」

燐子「そうなの?」

 

 絶対に俺の考えてる意味で受け取ってない

 

 まぁ、別にいいんだけど

 

 てか、今はまだバレないでいい

 

燐子「何か食べる?」

環那「まだ大丈夫だよ。まだ、ね。」

燐子「うん?(どういう意味だろう......?)」

 

 友希那の時は思いもしなかった

 

 やっぱり、今までとは違うんだ

 

 大切+αがあって、この子が欲しいと思う

 

 今すぐにでも触れたいという本能が俺の中で暴れまわってる

 

環那(まだだ。俺が考えうる限り、最高のタイミングまで待つんだ。燐子ちゃんが求めてくる、その時まで。)

 

 正直、空腹ではあるけど、それはそれでいい

 

 一番いいのは、燐子ちゃんから来るとき

 

 それまでは、待って、可愛い燐子ちゃんの姿を楽しむとしよう

 

 幸い、時間はいくらでもある

 

燐子(......って、普通に楽しく喋っちゃった。環那君の好きなものを聞くんだった。)

環那「?」

 

 燐子ちゃんからの視線の種類が変わった

 

 ただ見てるだけから、疑惑に変わって

 

 何か質問があるというのが分かる

 

環那「どうしたの?燐子ちゃん。何か気になることでもある?」

燐子「えっと、環那君の好きなものが気になって......」

環那「俺の好きなもの?」

 

 これまた意外な質問だ

 

 まぁ、別に積極的に自分のこと話さないし

 

 大方、恋人になったんだし、好きなものを筆頭にもっと俺のことを知りたい......って所かな

 

環那「ふふっ。」

燐子「?」

環那「俺の好きなものなんて、聞くまでもないよ。少し考えればわかるさ。」

 

 そう、聞くまでもない質問だ

 

 答えなんて、決まってる

 

 そんなことを思いながら燐子ちゃんの方を見てると、彼女の顔は真っ赤になった

 

燐子「あ、そ、まさか......///」

環那「ね?分かったでしょ?」

店長「__お待たせいたしました。」

 

 それとほぼ同時に店長さんが注文した品を運んできた

 

 それが丁寧にテーブルに並べられ

 

 店長さんがカウンターに行ったのを見送ってから、俺はコーヒーに口をつけた

 

環那「ね?聞くまでもないでしょ?」

燐子「......うん///」

環那「ほら、食べなよ。」

 

 俺はそう言いながら、チョコレートケーキを一口サイズにカットし

 

 それを燐子ちゃんの前に差し出した

 

環那「こっちも味見してみなよ。美味しいよ、きっと。」

燐子「い、いいの......?///」

環那「うん。こっちも気になってたでしょ?」

燐子「(ば、バレてたんだ///)い、いただきます......///」

環那「はい、どうぞ。」

 

 燐子ちゃんは恥ずかしそうにしながら、チョコレートケーキを口に入れた

 

 その姿に多少なりそそられるものはあったけど

 

 それ以上に可愛さがあって

 

 その後もついつい、ケーキを全部燐子ちゃんに食べさせてしまって

 

 本気でそれを申し訳なさそうにしてる燐子ちゃんもまた、とても可愛かった

 

 

 



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遭遇

 燐子ちゃんと付き合い始め、かなりの日数が経った

 

 月も12月に突入し、もう完全に冬だ

 

 商店街などはクリスマス用の装飾が施されていて

 

 なんとなく、人々が浮足立ってる気がする

 

環那(クリスマス、か。)

 

 なんだか久しぶりだ

 

 ここ数年、関わることもなかったし

 

 この赤い装飾もどこか懐かしさを感じる

 

人見「クリスマスの予定でも考えられているんですか?」

環那「......なんで分かるのかな。」

人見「それはもう、恋人ができて、クリスマス直前。これでそれ以外を考えていたら大問題ですよ?」

環那「それはそうか。」

 

 正直、今年にこんな充実して12月を迎えると思ってなかった

 

 ほんとに運命が動かされたんだと実感する

 

人見「それで、どのような所に行く予定なのですか?」

環那「まだ何も考えてないよ。アイディアが出なくてね。」

人見「珍しいこともあるものですね。」

 

 悩みどころだ

 

 折角だから燐子ちゃんには喜んでもらいたいし、それと同時に俺の目的も達成したい

 

 この2つをいい形で達成したいけど、いい案が浮かばない

 

環那「俺は別に万能じゃないからね。分からないことだってもちろんあるさ。」

人見「ご冗談を。」

環那「冗談言ったつもりないんだけど。」

 

 俺のことを何だと思ってるんだ?

 

 神か何かだって思われてる?

 

人見「そんな環那さんに耳寄りな情報がありましてよ。」

環那「なに?それ、ちゃんと使えるやつ?」

人見「もちろん。私が誘惑した富豪の男の1人に連れていかれた、高級レストランです。」

環那「!」

 

 珍しくまともな情報が出てきそうだ

 

 それにしれも、高級レストランか

 

 俺と燐子ちゃんには縁のあることだね

 

 なんだか懐かしいな

 

環那「それで、味とサービスはどうなの?」

人見「もちろん、超一流ですよ。環那さんでも十分、満足していただけるかと。」

環那「それほどか。」

 

 人間としては全くもって信用出来ないけど、こういうのは信用できる

 

 それこそ、山ほど高級料理を食べてるだろうし

 

環那「もう少し詳しく教えてくれ。」

人見「かしこまりました。」

 

 それから、俺は人見にレストランについての詳しい情報を聞いた

 

 クリスマスまで時間はあると言えばあるし

 

 焦らずに思案していこう

____________________

 

 “燐子”

 

 12月、それは、とても大事な暦です

 

 特に12月24、25のクリスマスは恋人のいる男女にとって、距離を縮める絶好のチャンスです

 

 それは、私たちも例外ではありません

 

燐子「うーん......」

あこ「りんりーん。調子はどうー?」

燐子「ぜ、全然決まらないよ......」

 

 それで、私は今、クリスマスプレゼントを選んでる

 

 けど、全然わからない

 

 環那君の好きなものは......私、だったし

 

 余計にわからなくなった......

 

紗夜「なぜ私も呼ばれたのでしょうか。」

リサ「あたしは友希那の付き添いでもあるし。」

友希那「私も、ノアと過ごす予定があるから......///」

紗夜(湊さんまで!?)

 

 友希那さんもなんだ

 

 しかも、あの、エマちゃんと一緒にいた人

 

 すごく怖そうだったけど、環那君曰く、良い人らしい

 

リサ「それに、環那にはあたしもクリスマスプレゼントはあげるよ。燐子には悪いけどね。」

燐子「い、いえ......!そんなことは......!環那君は今井さんを一番の友達と言っているので......」

リサ「あはは、そっか。(ちょっとした冗談だったんだけどなぁ。)」

 

 元ライバルだけど、今井さんにはたくさん助けられた

 

 それに、環那君を長年支えてくれてた

 

 そんな人を拒否なんて出来るわけない

 

あこ「リサ姉、お友達っていうか、お母さんみたいだよね!」

リサ「やめて!それだと、あたしがおばさんみたいじゃん!」

友希那(......言われてみれば。)

紗夜(そう感じないことも......)

リサ「そこ!そういえば......みたいな顔しない!」

友希那、紗夜(バレた!?)

燐子「......ふふっ。」

 

 すごく、賑やかになった

 

 なぜか今井さんがいじられる形になったけど

 

 楽しいって思ってしまう

 

リサ「燐子も笑わないでよ~っ!」

燐子「ご、ごめんなさい、お義母さん。」

リサ「お義母さん!?」

あこ「あははっ!」

友希那、紗夜「......ふっ。」

リサ「も~!同い年なのに~!」

 

 今井さんはそう声を上げた

 

 それでまた、皆から笑いが起きた

 

 それから数分後、私たちはその場を離れ

 

 お買い物を再開した

____________________

 

 あれから1時間

 

 私は未だに悪戦苦闘しています

 

 全然、プレゼントが決まりません

 

燐子「うぅ......どうしよう.......」

あこ「決まらないねー。」

 

 環那君の他の好きなものが分からない

 

 アクセサリーとかも邪魔になりかねないし

 

 本当に何を送ればいいのか分からない

 

友希那「環那は何でも喜ぶと思うけれど。」

あこ「確かに。」

燐子「それは、そうなんだけど......」

 

 折角だから役立つものをあげたい

 

 服とかは今井さんがあげるらしいし

 

 かといって、普通のものじゃ彼女としてどうかと思うし......

 

燐子「環那君、欲がなさすぎるよ......もうちょっと、何かあったらいいのに......」

リサ「あはは、分かるー。環那ってプレゼントとか選びずらいよねー。」

友希那「よく悩まされたものだわ。」

 

 このままじゃ、なんだかダメだ......

 

 本人に聞きたいけど、サプライズにしたいし

 

リサ「ほかの店行ってみる?いろんなもの見たい方がアイディアも__」

環那「__ん?燐子ちゃん?」

燐子「!?」

友希那、リサ、紗夜、あこ「え?」

環那「リサ達もいるじゃん。」

 

 突然、背後から聞こえた声

 

 それを聞いて、背筋がピンってなった

 

 なんで、ここに......?

 

 私はそう思いながら、首をかしげて立ってる環那君を見た

 

 

 



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決定(?)

 時間が出来たから、散歩がてらショッピングモールに来た

 

 特に何か目的があったわけでもない

 

 けど、そこで燐子ちゃん達と遭遇した

 

 これは幸運だ

 

環那「奇遇だね。5人でこんなところにどうしたの?」

燐子「あ、え、えっと......」

環那「?」

 

 す、すごい目が泳いでる

 

 ほんとにどうしたんだ?

 

リサ「練習帰りに皆でお買い物行こうってことになってね。」

環那「そうなんだ。何か買うものあるの?」

リサ「女子は何もなくてもお買い物するんだよ?」

環那「そうなんだ。」

 

 俺には分からない感覚だ

 

 燐子ちゃんもそうなのかな?

 

 そうだったらいくらでもしてくれていいんだけど

 

環那「まぁ、この中に俺がいてもだし、5人でごゆっくり__」

友希那「環那も一緒に来ればいいじゃない?」

燐子「!?」

環那「んー。」

 

 まぁ、時間はあると言えばあるし、別について行く分には問題ない

 

 燐子ちゃんといられる大義名分にもなるし

 

 ちょうどいいのかもしれない

 

環那「まぁ、皆がいいなら。」

リサ(嬉しそう。)

あこ(なんかキラキラしてる。)

紗夜(意外と分かりやすいのね。)

燐子(ど、どど、どうしよう......!?)

 

 こうして、俺は5人の買い物に同行することになった

 

 燐子ちゃんがすごい焦ってたけど

 

 どうしたんだろうか

____________________

 

 “燐子”

 

 か、環那君とデート(?)になった

 

 どうしよう

 

 このままプレゼント選ぶの......?

 

環那「燐子ちゃんは何か買うものある?」

燐子「え......!?え、えっと......!」

 

 環那君、気づいてない?

 

 分かってて、私の反応楽しんでない?

 

 すごくありえる......!(偏見)

 

環那「?」

燐子「い、今は、ない、かも......?」

リサ(分かりやす!)

 

 クリスマスプレゼントは、またの機会にしようかな

 

 流石に本人の目の前で買うのはだし

 

 まだ、時間はあるし

 

あこ「環那兄って欲しいものとかないの?」

燐子「!」

 

 あこちゃんが環那君にそんな質問をした

 

 これは、助かるかも

 

 ここで情報を手に入れられれば......

 

環那「うーん、燐子ちゃんとの時間?」

あこ「お、おぉ。」

紗夜「よく恥ずかしげもなく言えますね。」

燐子「......///」

 

 参考にはならないけど、嬉しい

 

 私ももっと環那君と一緒にいたいよ

 

 それこそ、四六時中でも

 

リサ「見せつけてくれるねー。」

環那「仕方ないじゃん。燐子ちゃんが可愛いんだから。」

友希那「それは仕方ないわ。」

環那「でしょ?」

燐子「か、環那君......///」

 

 こんな人の多いところで、褒めすぎだよ

 

 嬉しいんだけど、恥ずかしい

 

あこ「環那兄って物欲とかないの?」

環那「んー。お金で手に入るものでほしいものはないかな。大概のものは手に入るし。」

燐子「そ、そうなんだ......(ど、どうしよう......)」

 

 そう、環那君は大企業の社長さんだ

 

 私なんかよりもお金持ちに決まってる

 

 それは、欲しい物なんてないよね......

 

リサ「じゃあ、貰って嬉しい物とかはないの?」

環那「もらって嬉しい物かー。変なものじゃなければ何でも嬉しいけど。」

友希那「まぁ、そうよね。」

紗夜(ここまで参考にならないものなのね。)

あこ(環那兄ぃ......)

 

 これは、良い物を買おうとするのが間違いなのかな?

 

 そもそもの前提を変えるべきなのかな?

 

 買うじゃなくて、なにかを手作りするとか......

 

環那「えーっと、なんで皆は俺の欲しい物なんか知りたいの?さっきから質問攻めしてくるけど。」

あこ「な、なんでもないよ!」

リサ「そ、そうそう!」

紗夜「気のせいじゃないですか?」

環那「いや、流石に無理あるよ?」

 

 環那君はそう言って、はぁっとため息をついた

 

 これ、もう隠しきれないかな......

 

燐子「あ、あの、環那君......」

環那「ん?」

燐子「えっと、実は......」

 

 私は環那君へのクリスマスプレゼントを買いに来たことを話した

 

 それで皆が聞いてくれてた(かもしれない)ことも

 

 それを聞いて環那君は......

 

環那「__あー。なるほどねー。」

 

 納得したような顔をしてる

 

 もう、仕方ないよね......

 

 今思えば、環那君にサプライズなんて無理だし

 

環那「それは俺に聞いても、参考にはならないよねー。」

燐子「うぅ......」

環那(うーむ。)

 

 なんだか、悪戯がバレた気分......

 

 悪いことはしてないけど......

 

環那「ねぇねぇ、燐子ちゃん。」

燐子「ど、どうしたの?」

環那「俺、今、ほしいもの出来た。」

燐子「え?」

 

 環那君は私の目を真っ直ぐ見てる

 

 欲しいものって、なんだろう?

 

 いろんな意味でドキドキする

 

燐子「そ、それは、なに......?///」

環那「燐子ちゃん。」

燐子「ふぇ......?///」

環那「燐子ちゃんが欲しいな。」

 

 環那君は真剣な表情でそう言った

 

 それで、私の顔は熱くなった

 

 私が欲しいって......それって......

 

燐子「あ、あうっ......///」

リサ「燐子、顔真っ赤じゃん。」

紗夜「ていうか、すごいこと平然と言ったんですけど。」

友希那「平常運転よ。(慣れ)」

 

 ど、どうしよう......

 

 私なんかでいいなら、全然あげられるけど......

 

 いや、そもそも、私をあげるって何?(混乱)

 

環那「よし、これで悩みはなくなったね。折角だし、デートと行こうか。」

燐子「う、うん......!///」

環那「ちょうど、そこにイルミネーションがあったんだ。見る?」

燐子「うん、見たい......!///」

 

 私は環那君の腕に抱き着いて

 

 そのまま、ゆっくりと歩き出した

 

 プレゼントの問題も解決して(?)、デートも出来て

 

 今日、環那君と会えてよかった......!

 

 

紗夜「......どうしましょうか、私たち。」

リサ「もう帰っていいんじゃない?」

友希那「そうね。」

あこ「だねー。」

 

 

 




近々、新しいシリーズ始めます。(2個)
1つはヒロインあこ、もう1つは闇深主人公系(非チート)


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当日

 クリスマス。それは、イエス・キリストの誕生を記念する年中行事だ。

 

 まぁ、日本はキリスト教徒が多いわけじゃないから、そういう面は少ない。

 

 けど、ある意味では日本にとっても大事な日だ。

 

 無論、俺にとっても。

 

環那(さて。)

 

 そんなクリスマスを明日に控えた俺はいつも通りだ。

 

 今の俺に気負いなんてものはない。

 

 直前になって焦るのは準備が足りないからだ。

 

 きっちり準備しておけば、他のことに神経を割け、ミスに気付ける。

 

 それが、余裕と言うものだよ。

 

環那(仕事は順調。予想できる限りのトラブルの対策も取ってる。うん、おおよそ大丈夫だろう。)

 

 頭の中で情報を整理してから、体を伸ばした。

 

 時間も11時そこそこだし、この辺りでいいでしょ。

 

環那(疲れた......)

 

 部屋にあるソファに腰を下ろした。

 

 なんか、すごい疲れてる。

 

 ちょっと、張り切りすぎたかも。

 

人見「__環那さん。今、お時間ありますか?」

環那「......人見。何か用か?」

 

 部屋の隅から、人見が現れた。

 

 笑みを浮かべながら暗い部屋にいるのは軽くホラーだ。

 

 知り合いじゃなかったらショック死しそう。

 

人見「デートを前日に控えた環那さんにお話でもと。」

環那「なんでそんな話しに来るんだよ。友達か。」

人見「いいじゃないですか。私もうら若き乙女ですよ?」

環那「君、アラサーじゃん。」

人見「女はいつでも乙女なんですよ?」

 

 そういうもんか。

 

 いや、老婆までいくと流石に勘弁願いたいけど。

 

 目に毒ってレベルじゃないし。

 

人見「準備は整っていますか?」

環那「当然だ。」

人見「私の紹介したお店がお役に立ったようで、光栄です。」

環那「その節は助かったよ。」

 

 そう言いながら、俺は部屋に備えてるコーヒーを自分と人見の分淹れ、それをテーブルに置いた。

 

 店を紹介してもらった分はお礼しておこう。

 

人見「あら、ありがとうございます。」

環那「別にそんな手間でもないよ。君と同じで。」

人見「左様ですか。」

 

 人見はコーヒーに口をつけた。

 

 ほんとに見た目だけなら気品のある女だ。

 

 内面は悪魔そのものだけど。

 

環那「てか、君も変わってるよねぇ。ここまで俺についてくるなんて。」

人見「あなたとは万が一にも敵対したくないので。明石さんもそうですわ。」

 

 そんなに敵に回したくないものかな?

 

 まぁ、仮にこいつが敵になっても平気で潰すだろうけど。

 

 ......あ、こんな性格だからか。

 

環那「俺が君たちを裏切らないという保障は?」

人見「私たちなど騙すに値しないでしょう。」

環那「そんな保障の仕方ある?」

 

 事実そうなんだけど。

 

 別にいつでも勝つ手立てはあるし。

 

人見「まぁ、私は生涯あなたに敵対することはありませんわ。」

環那「そうかい。」

人見「あなたにお子様が出来たら、可愛がりに行きますね。」

環那「来るな(迫真)」

 

 絶対に変なことを教えるぞ、こいつ。

 

 取り合えず、絶対に近づけさせない。

 

 近づいてきたら、本気で止めよう。

 

人見「冗談は置いておくとして。」

環那(聞こえない。)

人見「クリスマスは是非ともお楽しみください。お仕事の方は私の方で捌いておきますわ。」

環那「......あぁ、感謝するよ。」

 

 そう言って、俺はコーヒーを口に含んだ。

 

 まっ、こいつの能力は信用してるし、明日は任せよう。

 

 そんなことを考えてから、俺は人見と雑談をした。

____________________

 

 “燐子”

 

 今日は12月24日。クリスマスです。

 

 いつもアタフタしてる私ですが、今日は特にそうです。

 

 朝5時に起きてお風呂に入って、持ち物の確認をして、服のチェックをして......下着を選んで、それらを身に付けて。

 

 準備はもう万端です。

 

燐子(これで、大丈夫......かな?)

 

 出来る限りの確認は終わった。

 

 後は環那君のお迎えを待つだけ。

 

 でも、待つだけの時間って緊張する。

 

 緊張しすぎて、部屋で正座しちゃってるし......

 

燐子(もうお昼だし、そろそろ来るのかな......?)

 

 そんなことを考えながら、私は自室から出た。

 

 落ち着かないし、これなら外に出た方がいい。

 

 部屋にいたら緊張で気絶しちゃうよ。

 

燐子(そう言えば環那君、何で来るんだろう?)

 

 家で待っててって言われたけど、何で来るんだろう?

 

 また車とか呼んでるのかな?

 

 環那君っていつでもそう言うの呼べるらしいし。

 

燐子(もしかしたら、すごいので来たりして。)

 

 環那君には常識が通用しないし。

 何か、私が考えられない乗り物に乗って来るかも。

 まぁ、そんなものはそうそうないだろうし......普通の車かな?

 

燐子(もうそろそろかな?)

環那「__おーい!燐子ちゃーん!」

燐子「!」

 

 遠くから環那君の声が聞こえてくる。

 

 声のした方に目を向けると、見たことのない車があった。

 

 って、あれ?なんだか、運転席が家の車と反対にあるように見える。

 

 それに、運転席に環那君が乗ってるように見える......

 

環那「お待たせ。ちょっと遅くなったなかな?」

燐子「う、ううん、大丈夫、だけど......」

環那「?」

燐子「その車、どうしたの......?」

 

 私は震えた声でそう尋ねた。

 

 ま、まさかね......?

 

 すごいって言っても環那君はまだ高校生だし、ね......?

 

環那「え?この前買ったのだけど。」

燐子「」

 

 私の問いに、環那君はあっさりと答えた。

 

 うん、まぁ、薄々そうだとは思ってたよ?

 

 でもね、まさか外車で来るとは思わないよね?

 

環那「燐子ちゃんの彼氏たるもの、これくらいは持ってないとだよねー。」

燐子「私、そんな大層な人間じゃないよ......」

 

 環那君の私への評価、ちょっと高すぎると思う......

 

 友希那さんの時から思ってたけど、環那君って好きな人には盲目になるのかな?

 

 嬉しいと言えば嬉しいんだけど......

 

環那「まっ、乗りなよ。俺が助手席の乗せる女の子第1号だ。」

燐子「......2号もいるの?」

環那「それは未定かな。」

 

 車に人を乗せるのは別に何も不思議なことじゃない。

 

 けど、ちょっとだけムっとした。

 

 私って嫉妬深いのかな......?

 

燐子(むぅ......)

環那「あはは、燐子ちゃんは可愛いなぁ。心配しなくても大丈夫だよ。意地でも燐子ちゃん以外は乗せないから。」

燐子「それは大丈夫なの......?」

環那「まぁ、大丈夫でしょ(適当)それより、デートに行こう。」

燐子「う、うん。」

 

 私が頷くと、環那君は車から降りた。

 

 そして、私の手を握った。

 

 私の手より、ずっと大きい手に包み込まれてる。

 

環那「席までご案内しますよ。お姫様。」

燐子「~!////」

 

 環那君はそう言って、私の手を引いて助手席の方に歩き出した。

 

 こういう事恥ずかしげもなく言うの、本当に良くないと思う......

 

 けど、すごく嬉しいし、かっこよかった......

 

 そんなことを思いながら、私は環那君の車に乗り込んだ

 

 

 

 



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到着

 環那君の運転する車に乗って、約2時間

 

 私は見たこともないような場所に来ていた

 

 この駐車場に来るまではすごく綺麗な建物が見えてたけど、よくわからなかった

 

 しかも、すごく高級そうな......

 

環那「よし、着いた。」

 

 駐車を綺麗に決めて、環那君はそう言った

 

 駐車場が見たことないくらい広い

 

 どういう施設なんだろう?

 

燐子「ここは?」

環那「ホテルだよ。今日泊まる予定の。」

燐子「ふぇ......?///」

 

 あっさりとそう答える環那君

 

 ていうか、今日ってお泊りだったの?

 

 いや、全然いいんだけど......クリスマスにお泊りって緊張する.....

 

環那「まぁ、すぐに入るわけじゃないよ。この辺りにはいろんな施設があるし、デートプランもある。」

燐子「あ、そ、そうだよね......///」

環那「まぁ、俺としてはこのまま部屋に直行しても良かったんだけど。」

燐子「えぇ!?///」

 

 その言葉に一気に顔が熱くなる

 

 部屋に直行ってことは,そういう事するってことだよね?

 

 いや、それはそれでいいんだけど、まだ心の準備が......

 

燐子「あの、わたっ、私は......!///」

環那「普通に冗談だけどね。」

燐子「!?///」

 

 クスクスと環那君が笑う

 

 ま、また、からかわれた......

 

燐子「もうっ、もうっ......!///」

環那「あはは、ごめんごめん。」

 

 環那君は笑いながら車のエンジンを切った

 

 流石は環那君

 

 私が恥ずかしがってポカポカ叩いたくらいじゃ、一切動じてない

 

環那「じゃあ、行こうか。お詫びに今日はちゃんとエスコートするからさ。」

燐子「う、うん......///」

 

 そんな会話の後、私たちは車を降りた

 

 今日はどこに行くんだろう?

 

 環那君、デートはちゃんと考えてくれるから、楽しみだなぁ

____________________

 

 ”環那“

 

 と言うわけで、デートの時間だ

 

 今日の予定は考えてるし

 

 まぁ、いい思い出、作れるでしょ

 

環那「さっ、ここから少し歩くよ。」

 

 そう言って、燐子ちゃんの方に手を差し出した

 

 手をつなぐのって、恋人っぽいでしょ?

 

 俺は個人的にそう思ってる

 

燐子「い、いいの......?///」

環那「いいもなにも、恋人ならするでしょ。」

燐子「で、でも、今まであんまり、そういうのしなかったから......///」

 

 そう言えばそうだった

 

 まぁ、そうしてた理由は下らないんだけど

 

環那「あぁ、それは何となくだよ。したそうにしてる燐子ちゃんが面白くて。」

燐子「環那君って意地悪だよね。」

環那「うん。ご存じの通り。」

 

 手を出したり戻したりして、モジモジしてるのが可愛かった

 

 燐子ちゃんって甘やかしたいと意地悪したいがバランスよく刺激されるんだよね

 

 いやぁ、ほんとにこの子は魔性だ

 

環那「でも、今日は燐子ちゃんを喜ばせることしか考えてないからさ。心配しないで。」

燐子「ほんとうかなぁ.......?」

環那「人を疑うことを覚えたんだね。その成長が俺は嬉しいよ。」

燐子「環那君ってやっぱり変だね。」

 

 燐子ちゃんは笑いながらそう言った

 

 冗談に聞こえるかもだけど、本気で喜んでるんだよね

 

 将来、金目的で近づいてくる人間を見破る術が身についてるんだから

 

 なんせ、将来は金持ちって呼ばれる人種になるのは確定なんだしね、今のうちに身に付けておかないと

 

環那「まぁ、今日は信じてよ。ちゃんと楽しませるから。」

燐子「そこは疑ってないよ。環那君だもん。」

環那「あはは、今の一瞬で退化したね。」

燐子「退化......!?」

 

 燐子ちゃんは発展途上だな

 

 別に成長しなくても俺が守るし

 

 なんなら一生、甘やかしてもいいくらいだし

 

 とかなんとか思いながら、俺は燐子ちゃんの手を取った

 

環那「さぁ、行こう。」

燐子「うん......///」

 

 そんな会話をした後、俺と燐子ちゃんは歩き出した。

 

 さてと、デートの時間だ

 

 今日はちゃんと楽しませようか

____________________

 

 今日の行き先を決める際に考えたのはもちろん、燐子ちゃんだ

 

 まず、燐子ちゃんは体を動かしすぎるのは苦手だから、ウィンタースポーツは消した

 

 何か芸術に触れるっていうのも、前に美術館に言ったからダメ

 

 つまり、楽しさと運動以外を両立する必要があるわけだ

 

 そこで行き着いた結論は......

 

燐子「わぁ......!この水槽、すごく綺麗......!」

 

 そう、水族館だ

 

 ここは美術館より雰囲気が明るくて楽し気だし、そんなに疲れない

 

 水槽も綺麗で、見てて楽しいし、何より室内だ

 

 寒空の下にずっといないでいいのはすごくいい

 

燐子「環那君、見て見て......!」

環那「見てるよ。」

 

 俺は後ろをついて行きながら、そう言った

 

 ほんと、可愛いものだ

 

 まだ入ったばかりなのに、あんな楽しそうにしてさ

 

燐子「水槽の中が一つの世界みたい......」

環那「きっと、魚にとっては世界だよ。(もっとも......)」

 

 監獄みたいなね、とは口に出さないよ?

 

 俺も学習してるんだ

 

 特に相手は燐子ちゃんだしね

 

燐子「あの、環那君。」

環那「どうしたの?」

燐子「その、人、多いなって......///」

環那(......?)

 

 これは、どうしたんだ?

 

 何かをアピールしてるのは分かるけど、その何かがわからない

 

 どうしたものか

 

燐子「え、えっと、その......///」

環那(んー......)

 

 人が多い、と言うのがキーワードだろう

 

 だったら手を繋ぐか?いや、それはもうしたから燐子ちゃんも言えるだろう

 

 だったら、なんだ?

 

 手を繋ぐ以上を求めてるのか?

 

 となると......

 

環那「よし。分かった。」

燐子「!?///」

 

 俺は燐子ちゃんを抱き寄せた

 

 多分、手を繋ぐ以上の密着を求めてるが正解だ

 

 だったら簡単だよ

 

環那「これでいいかい?燐子ちゃん。」

燐子「す、すごくいい.....///けど、歩きずらい、から......///」

環那「!」

 

 燐子ちゃんは少しだけ俺との距離を空けて、右腕に抱きついてきた

 

 なるほど、こっちか

 

環那(.....てゆうか、すごいな。)

 

 密着すれば分かるけど、すごい大きさだ

 

 俺の腕が挟まれてる

 

 義手なのが惜しいな

 

燐子「環那君......?///」

環那「あぁ、すごいね。」

燐子「なにが......?」

 

 やっば、口に出ちゃった

 

 まぁ、気づいてないからいいや(適当)

 

環那「いや、何でもないよ。燐子ちゃんがいいなら、このまま行こうか。」

燐子「うん.......!///」

 

 水族館に入ったばかりだけど、こんな調子で大丈夫なんだろうか?

 

 いや、どうにかなるか

 

 俺はそう思いながら、燐子ちゃんに抱き着かれながら、歩き出した

 

 

 



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やるべきこと

 水族館というのは意外と楽しい

 

 海の生物をよく知らなくても、綺麗な水槽を楽しめる

 

 雰囲気もいいし、デートには持ってこいだ

 

 燐子ちゃんも嬉しそうだし

 

環那「そう言えば、ここはイルカショーとペンギンの触れ合い体験があるんだって。行く?」

燐子「行きたい......!」

環那「じゃあ、行こうか。時間もいい感じだし。」

 

 現在地もちょうど会場近くだ

 

 燐子ちゃんも歩き回って疲れてるだろう

 

 休憩するのにも、ちょうどいいかな

 

燐子「イルカショーって、小学生以来かも。環那君は?」

環那「ないよ。行く機会もなかったし。」

 

 そもそも、水族館も今日が初めてだからね

 

 今までは遊んでる暇もなかったし

 

 なにより、興味もなかったしね

 

燐子「なら、環那君の初めての時に隣にいられるんだね......!」

環那「言い方。」

燐子「?」

 

 あ、無自覚ね

 

 俺の思考が汚れすぎてるのか?

 

 いや、でも、あれは勘違いするよね?

 

環那「まー、いいや。とりあえず行こう。」

燐子「うん......!」

 

 そんな会話の後、俺たちは会場に向かった

 

 ちょっと、今日の俺はおかしいな

 

 イルカショー見ながら落ち着こうか......

____________________

 

 “燐子”

 

燐子「__わぁ、すごい......!」

 

 あれから数十分後、イルカショーが始まった

 

 久しぶりに見るショーはすごくて、高く飛んだり、順番に飛んだり、イルカの賢さに改めて驚く

 

 本当にどうやってるんだろう?

 

燐子「イルカって賢くて、可愛いね......!」

環那「そうだねぇ。」

燐子「あ、次は係員の人乗せてる......!」

 

 イルカショーってすごいなぁ

 

 それに、可愛い

 

 体は大きいけど、鳴き声はなんだか小動物みたいだし

 

環那「好き?イルカ。」

燐子「うん。可愛いくて、好きかな。」

環那「じゃあ、将来飼う?」

燐子「え!?」

 

周りの客「!?」

 

 環那君の言葉に驚いた

 

 今までも結構すごいこと言ってるのは聞いたけど、これは予想外すぎる

 

 て言うより、イルカって飼えるの?

 

燐子「だ、ダメだよ?出来るとしても、ね?」

環那「まぁ、確かに、世話も大変だしね。働きながらとなると、俺が関わりずらくなるかもだから、燐子ちゃんの負担が大きくなるか。」

 

周り(え、そういう問題......?)

 

 絶対に問題にするべき点はそこじゃない

 

 周りの人たちもそう思ってるよ、多分

 

 環那君の中で、イルカって犬や猫と同じ扱いなの?

 

燐子「環那君って、本当に突拍子もないこと言うよn__」

(バシャ!)

燐子「!」

 

 環那君と話してると、横から水が跳ねる音がした

 

 ここは結構前の方の席で、水しぶきも飛んでくるって言ってた

 

 多少濡れるくらいは大丈夫だけど、これはちょっと想定外かも

 

 小さいときの記憶ってあてにならないなぁ......なんてことを考えた

 

環那「おっと、それは困るな。」

燐子「!?」

 

 その時、目の前にバサッと何かが広げられた

 

 飛んできた水はそれに阻まれて、こっちに水滴は来なくて

 

 それを確認した環那君は満足げに微笑んでいた

 

環那「悪いね。燐子ちゃんに風邪をひかれると困るんだ。」

燐子「か、かっこいい......///」

 

周りの客「えぇ......(ドン引き)」

 

 正直、環那君の動きは全く見えなかったし、今の状況的に水しぶきより早く動いてることになるけど

 

 そう言うのは全部どうでもいい

 

 やっぱり、環那君ってすごくかっこいい......

 

環那「折角の綺麗な服が濡れちゃうのも、残念だからね。さぁ、ショーを楽しもうか。」

燐子「う、うん、ありがとう......///」

 

 環那君はそう言って、ゆっくり腰を下ろした

 

 でも、あんなの見せられたら、とてもじゃないけどイルカショーに集中できなくて

 

 ずっと、環那君の方を見て、最終的にはくっついてしまっていた

 

 けど、これはこれで、いいよね?

____________________

 

 “環那”

 

 あれから数分ほどしてイルカショーは終わった

 

 初めて見たけど、中々楽しめた

 

 やろうと思えば真似できそうだし、今度ドッキリでやるか

 

燐子「すごく見ごたえあったね......!」

環那「そうだねぇ。」

 

 燐子ちゃんも満足そうだ

 

 時間はまだ余裕あるし、どうするか

 

 折角だし、お土産とか選ぶのもいいかも

 

燐子「ねぇねぇ、環那君?」

環那「どうしたの?」

燐子「その......イルカのぬいぐるみ欲しいんだけど、買ってきてもいいかな......?///」

環那「ぬいぐるみ?」

 

 ショーに影響されたのか

 

 別に恥ずかしがることもないのに、可愛いねぇ

 

環那「あはは、そんなことか。いいよ、一緒に買いに行こうか。」

燐子「こ、こんな年になってぬいぐるみってどうなのかなって.....///」

環那「いいんじゃない?燐子ちゃんは世界一可愛いから。」

燐子「ま、また、平気でそう言うこと言う......///」

環那「.....」

 

 俺が少しでも気を抜いてたら襲ってたぞ

 

 ほんとに、俺の中の何かを刺激してくる子だな

 

 燐子ちゃんから余裕そうに見えてると思うけど、割と内心はギリギリだよ

 

 主に理性で本能止めるのにね!

 

燐子「環那君......?///」

環那「なんでもないよ。お土産コーナー、行こうか。」

燐子「うん......!」

 

 まだだ、まだ何もしちゃいけない

 

 今日は、やるべきことがあるんだ

 

 それが終わるまでは、耐えないと

 

 俺は燐子ちゃんに腕に抱き着かれながら、そんなことを考えていた

 

 

 



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緊張

 あれからしばらく、環那君と水族館を楽しんだ

 

 のんびり歩いてデート出来るのはすごく楽しかった

 

 環那君のお仕事の関係で、こんな風に過ごせる日も中々ないし、すごく嬉しい

 

 しかも、まだまだ一緒にいられる

 

 クリスマスって、こんなに幸せな日だったんだ

 

環那「どうだった?久しぶりの水族館。」

燐子「すごく楽しかった......!」

環那「あはは、そっか。」

 

 私がそう答えると、環那君は嬉しそうに笑った

 

 出会ったころからは考えられない、無邪気な笑顔だ

 

 本当に変わったんだなぁ......

 

燐子(この変化に、少なからず関係してるんだ......)

 

 そう思うと、感慨深い

 

 初めて会ったときは、遥か上の次元の人間ってわかって、ただただ怖かった

 

 いや、今でも次元は違うんだけど

 

 なんというか、凡人に寄り添えるようになったのかな?

 

環那「どうしたの?」

燐子「なんだか、嬉しくなって。」

環那「今日はずっと嬉しそうだけど。」

燐子「そうなんだけどね、環那君、変わったなぁって思ったから。」

環那「急だね。」

 

 まぁ、毎日、こんな風に環那君のこと考えてるけどね?

 

 電話かけるのも、声が聞きたくなって私からになるし

 

 ......言ってて恥ずかしくなってきた

 

環那「燐子ちゃん、よくそれ言うよね。まぁ、燐子ちゃんからすれば、相当な変化だったんだろうけどね。」

燐子「本当に変わったよ。すごく、笑顔が上手になったよ。」

環那「......そっか。」

 

 環那君は歩きながら、少し遠くを見つめた

 

 少し鋭くなった、真剣な時の目だ

 

 どうしたんだろう?

 

燐子「環那君?」

環那「あぁ、ごめんごめん。少し考え事してた。」

燐子「?」

 

 考え事?

 

 この次の予定とかかな?

 

 そういうの、ちゃんと考えるタイプだし

 

環那「この後はホテルに戻って、ディナーがあるよ。すごく評判良いから、期待してて。」

燐子「楽しみだけど、緊張するよ......」

環那「あはは、大丈夫大丈夫。誰にも文句言わせないから。」

燐子「あ、危ないことしちゃダメだよ......?」

 

 一瞬だけ、声のトーンが下がった

 

 この時の環那君は本気だから危ない

 

 仮に私に文句を言う人が現れたら、今までの人たちみたいになる

 

環那「あはは、冗談だよ。今はね。」

 

 今は!?それっていつかはやるってことなんじゃ......

 

 これは止めないと

 

環那「まっ、ホテルに帰るまでも色々あるからね。」

燐子「え?」

環那「さぁ、そろそろ外だよ。」

燐子「!///」

 

 環那君に手を握られた

 

 そして、軽く引かれるようにして歩き

 

 水族館から出た

____________________

 

燐子「__!!」

 

 水族館から出て、最初に感じたのは驚きだった

 

 まるで、来た時とは別の世界みたいに光り輝いてる

 

 これは......

 

燐子「イルミネーションだ......!」

 

 水族館前の広場が、イルミネーションに照らされてる

 

 星空が地上に落ちてきたみたい

 

環那「この辺りのイルミネーション、評判良いんだよね。デートスポットに良いって。」

燐子「流石、環那君......!」

環那「まぁ、大切な日の為に準備するのは当たり前だからさ。」

 

 環那君はそう言いながら、軽く私の手を引いた

 

 少し照れてるように感じる

 

 本当になんとなくだし、あんまり考えられないけど

 

環那「ホテルに帰るまで、この景色を思う存分楽しんでよ。」

燐子「環那君もね?」

環那「もちろん。燐子ちゃんといて楽しくない時なんてないからね。」

燐子「う、うん///」

環那「あはは、可愛いね。」

 

 そんな会話の後、私たちは歩き出した

 

 寒いはずなのに、全然そう感じない

 

 それだけ、全身が熱くなってる

 

環那「......ねぇ、燐子ちゃん。」

燐子「?」

環那「こういう風に過ごせるのって、幸せだね。」

燐子「!......うん、そうだね。」

 

 ふと出た、そんな感じの言葉だった

 

 まるで、平和な今をかみしめてるように感じらえて

 

 環那君の今までの人生を知ってる身からすると、その言葉が嬉しい

 

 私が、そうさせられた理由の一つだと思うと、余計に

 

 

 そう思いながら、私は環那君にくっついた

 

 少し歩きずらいけど、それでもいい

 

 だって、この環那君との時間を、もっと味わいたいから

____________________

 

 “環那”

 

 心拍数が上がってる

 

 その理由は、綺麗に着飾られたレストランでも、学生が普通来ないような高級ホテルでもない

 

 俺に影響を与えるのは常に、大切な人間にだけだ

 

 すなわち、今目の前にいる、運命に人なんだろう

 

燐子(す、すごいレストラン......呼吸忘れちゃいそう......!)

環那「......」

 

 まぁ、その運命の人の緊張は俺の比じゃないけどね

 

 おかげで俺は意外と落ち着いてるよ

 

環那「緊張してるね。」

燐子「こ、こんな所はじめてだから......」

環那「あはは、だよねー。」

 

 初々しいね

 

 俺に比べれば大体が初々しいくなるとか、そう言うのはナシだよ?

 

 燐子ちゃんは特別なんだよ

 

燐子「環那君はすごいね......全然いつも通りだし......」

環那「別にそうでもないよ。」

燐子「え?」

 

 そう言うと、燐子ちゃんは驚いたような声を出した

 

 まぁ、燐子ちゃんとは理由は大きく違うけど

 

 緊張は別に俺もするからね

 

環那「ただの食事なら、普通に楽しむけどね。」

燐子「?(ただの食事、なら?)」

 

 さて、どのタイミングで切り出すか

 

 いや、考えるまでもなく食事後なんだけど

 

 やばいな、思ったより緊張してるかも

 

「お待たせいたしました。オードブルをお持ちしました。」

環那「あぁ、ありがとうございます。」

燐子(緊張、してる......?)

環那「あ、料理の説明は俺がするよ。リサーチは完璧だからさ。」

 

 そんな会話の後、燐子ちゃんが食事を始めたのを確認した後に俺も食事を始めた

 

 さて、一旦、食で心を落ち着かせるか

 

 込み入った話はそれからだ

 

 

 



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理性

 高級ホテルのディナーって、すごい

 

 私は本当にお料理素人だから、どういう工夫がされてるとかは全く分からない

 

 だけど、口に入って感じる味で惜しいことが分かる

 

 でも......

 

燐子(環那君のお料理の方が好きかも......)

 

 どんな高級料理と比べても、贔屓目抜きにして美味しいってわかる

 

 やっぱり、環那君は特別な存在なんだと思う

 

 私にとってだけじゃなくて、この世界から見ても

 

燐子(やっぱり、環那君ってすごいんだ。)

 

 どんなことでもプロ以上のパフォーマンスを見せられる

 

 普通の人が何年もする努力を数日、もしくは数分で凌駕してしまう

 

環那「どうしたの?」

燐子「あ、なんでもないよ......」

環那「緊張が解けて、ボーっとしちゃった?」

 

 ニコニコしながら、そう問いかけてくる

 

 その顔はいつもよりも優し気で、安心する

 

環那「デザートがまだだけど、ここの料理はどうだった?」

燐子「美味しかったよ。どう美味しいかはよくわからなかったけど。」

環那「あはは、そっか。」

 

 私が言った感想を笑いながら聞いてる

 

 私が言うのもなんだけど、すごく楽しそう

 

 ちゃんと、好きって思ってくれてるんだって思う

 

燐子「それにしても、すごいね。こんなホテルを予約できるなんて。」

環那「まぁ、折角のクリスマスだからね。(それに、ずっと考えてたことだし。)」

燐子「そ、そうなんだ......///」

 

 楽しみにしてくれてたんだ

 

 環那君がちゃんと準備する人なのは知ってるけど

 

 今日はなんだか特別な気がする

 

 雰囲気も少しだけ違うような気もするし

 

燐子「今日はすごく楽しいし、嬉しかったよ......?///」

環那「それはよかった。燐子ちゃんが喜んでくれたなら何よりだよ。」

 

 そう言って、環那君は水の入ったコップに口をつけた

 

 その後に、ふぅっと息をついた

 

環那(......落ち着け。)

燐子(どうしたんだろう?)

 

 目を閉じて、何かを考えてるのかな?

 

 どうしたんだろう?

 

 何か問題が起きたのかな?

 

環那「この後はデザートだけど、食後のコーヒーはいる?」

燐子「甘めがいいかも。」

環那「分かった。注文しておこうか。」

燐子「ありがとう。」

 

 いつも通り、なのかな?

 

 ちゃんと気を利かせてくれるし

 

 気のせいだったのかな?

 

環那「まぁ、のんびり話しながら待とうか。」

燐子「うん。」

 

 それからしばらく、私たちはお話をして、デザートを待った

 

 その間も、少しだけ環那君は落ち着きがないように感じた

 

 これまで結構一緒にいたから気づけるくらいの違いだけど、すごく珍しいし

 

 本当にどうしたのかな?

__________________

 

 “環那”

 

 今、俺は本当に緊張をしてる

 

 不思議なものだ

 

 今までの俺なら、どんな状況でも動じなかったのに

 

 そんな自分がこんな状態にあるのは不思議でしかない

 

燐子「__美味しかったね、環那君。」

環那「そうだね。」

 

 食事を終えて、俺と燐子ちゃんは部屋に向かってる

 

 燐子ちゃんは食事に満足してくれたようで、嬉しそうな顔をしてる

 

 本当に素直でかわいい子で

 

環那「あ、ここだよ。今日泊まる部屋。」

 

 そう言って、俺は部屋のキーを出し、それで扉を開けた

 

 部屋の第一印象としては「綺麗」だ

 

 きちんと掃除されてるし、窓からは夜景もよく見える

 

 思ったよりもいい部屋だ

 

燐子「すごく綺麗......!」

環那「そうだね。」

 

 燐子ちゃんは子どもみたいにはしゃいでる

 

 こういう部屋、好きなのかな?

 

 燐子ちゃんの部屋もすごく綺麗だったし

 

燐子「環那君、今部屋とれるんだ......!」

環那「まぁ、折角だからね。」

 

 俺はそう言いながら、燐子ちゃんに続いて部屋に入った

 

 落ち浮く空間だ

 

 過度に明るすぎなくて、好きな感じだ

 

環那「どうする?少しだけゆっくりする?」

燐子「うん。今日は結構歩いたし、疲れたかも。」

環那「あはは、だよね。」

 

 そんな会話の後、俺と燐子ちゃんはソファに腰掛けた

 

 ソファに座ればちょうど綺麗なやけが見える

 

 いい雰囲気だ

 

環那(あー、どうしよ。)

 

 ボーっと夜景を見ながら、そんなことを考えた

 

 今日はなんだか上手く行かない

 

 変な感じにブレーキがかかってる気がする

 

環那(チャンスは結構あったんだけどなぁ。)

 

 ディナーの時も、何回か考えたけど

 

 なぜか、踏ん切りがつかなかった

 

 これはあれか、後でしようと思ってるけど、実際にしないやつ

 

 これが人間の気持ちか

 

燐子「環那君、どうしたの?」

環那「ううん、なんでも__」

燐子「ディナーの時から、少しおかしいかも。」

環那「!」

 

 燐子ちゃんはそう言いわれ、少し驚いた

 

 まさか、気づかれていたとは

 

 流石は燐子ちゃんと言うべきか

 

環那「よく見てるねぇ。」

燐子「彼女だから......///」

環那「そっか。」

 

 ほんとに可愛い

 

 燐子ちゃんがこんな風になるなんて、だれが想像したのかな

 

 俺ですらできなかったのに

 

燐子「それで、どうしたの?」

環那「んー。」

 

 燐子ちゃんも人を見れるようになった

 

 まぁ、俺が頻繁に嘘つくから、よく見るようになったのかもね

 

環那「そうだなぁ......燐子ちゃんと結婚したいなって思ってるだけだよ。」

燐子「.......えぇ!?///」

 

 あっさりとそう言った俺に、燐子ちゃんは真ん丸な目を向けた

 

 反応までに少しタイムラグがあったけど、それくらい驚いたんだろう

 

 それくらいにあっさり言ったし

 

環那「体育祭の少し後さ。」

燐子「う、うん///」

環那「燐子ちゃんの俺への気持ちは学生恋愛の範疇を超えてるって話、してたよね。」

燐子「し、したね......///」

 

 あの時からずっと思ってる

 

 あれがターニングポイントだった

 

 燐子ちゃんがあの時いなかったら、俺はどうなってたか分からない

 

 もしかしたら、文化祭で負けてたかもしれない

 

 負けなかったとしても、体が壊れてたかもしれない

 

 それくらい、重要なポイントだった

 

環那「今、俺もそう思ってる。これから先も燐子ちゃんといたい。」

燐子「,,,,,,うん///」

 

 今までの緊張は何だってくらい、ちゃんと言葉が出てくる

 

 思ってた形とは少し違うけど、雰囲気は申し分ない

 

 いいシチュエーションなのかも

 

 そう思って、俺は懐から小さな箱を出し、燐子ちゃんの方を向いた

 

環那「愛してる。俺と結婚して、ずっと傍にいてほしい。」

 

 そう言って、俺は小さな箱、その中にある指輪を差し出した

 

 燐子ちゃんは顔を真っ赤にして、口元を隠してる

 

 目線はあっちこっちを向いて、慌ててるのが良くわかる

 

燐子「は......はぃ///」

 

 そんな状態の中、燐子ちゃんは小さな声でそう答えた

 

 最早声と判定できるかも分からないくらいだった

 

 けど、確かに「はい」と言った

 

環那「......よかった。」

燐子「!」

 

 その瞬間に俺は全身の力が抜けた

 

 今日やりたかったことはやり切った

 

 安堵、喜びなどの感情が渦巻いて、思考回路がおかしくなってる

 

燐子「だ、大丈夫......?///」

環那「大丈夫。安心してるだけだから。」

 

 この俺がこんな風になるとは、運命の人は恐ろしい

 

 別に激しい運動をしたわけでも、奥の手を使ったわけでもないのに、疲労感があるし、動悸が激しい

 

燐子「あのね、環那君......///」

環那「どうしたの?」

燐子「私も、愛してるよ///ずっと......///」

環那「!」

 

 その時、心臓を掴まれたような感覚に襲われた

 

 顔を紅潮させ、そんな言葉を絞り出す

 

 その姿がどうしようもなく愛おしい

 

 ......もっと、彼女が欲しい

 

燐子「__ひゃ......!///」

環那「......(なんだ、これは?)」

 

 気づけば、燐子ちゃんをソファに押し倒していた

 

 自分でも信じがたい動きだ

 

 何をしてるんだ、さっきの今で

 

環那(バカか俺は!?さっきプロポーズしたばかりだろ!?他にやることなんていくらでも__)

燐子「いい、よ......?///」

環那「っ!?」

燐子「一緒の部屋に泊まるってわかった時点で、そういうことって思ってた///何より、環那君だから、嫌じゃないよ......?///」

 

 その甘い言葉で、理性と言う一種の外面が剝がされる

 

 この最低極まりない行動が肯定され、これでいいんだと思わされる

 

燐子「それに......赤ちゃん、ほしいよね///」

環那「......(ダメだ、これ。)」

 

 抗えるわけがない

 

 愛してると言われただけで押し倒してしまうほど、俺はこの子を欲してるんだから

 

 こうなってしまったら、出来ることなんて何もない

 

環那(俺が理性を保ってる内に......せめて__)

燐子「環那君からは、初めてだね......///」

環那「......!」

 

 恐らく、彼女にとっては些細な感想だったんだろう

 

 けど、その言葉を発する姿は、頬は紅潮し、瞳は潤んでいて、綺麗だった

 

 別に対して誘惑するような言葉ではなかったのは間違いない

 

 けど、今の俺にとって、その姿と言葉はあまりにも刺激的で

 

 最後に残っていた頼りない理性の糸を切ってしまうには十分すぎるのだった

 

 

 



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最終回:幸せ

燐子「ん......っ?」

 

 目を覚ますと、私はベッドの上にいた

 

 昨日の最後の記憶はソファだったけど

 

 環那君が寝かせてくれたのかな?

 

燐子(昨日はすごかったなぁ......ちょっと腰痛い......)

 

 あんな環那君、初めてだった

 

 優しいだけじゃなくて、意地悪な感じ

 

 あれも、環那君の素なんだと思う

 

 ああいう顔を気軽にできるようになれば、もっといい関係になれるのかな?

 

燐子(あれ、環那君は?)

 

 段々と目が覚めて来て、環那君を探す

 

 ソファにはいない

 

 お風呂にでも入ってる......と思ったけど、シャワーの音がしない

 

環那「__んん......っ。」

燐子「!」

 

 周りをきょろきょろしてると、横から呻くような声が聞こえてきた

 

 少し驚いて、声のした方を見ると

 

 そこには、穏やかに眠っている環那君がいた

 

燐子(と、となりで寝てたんだ///)

 

 意外過ぎてビックリした

 

 出会って間もないころは断られてたのに

 

 いや、今となっては意外でもないのかな?

 

 今は彼女だし、それに、婚約者だし.......

 

燐子(結婚かぁ......///)

 

 こんなに早くすることになるとは思ってなかった

 

 去年までは男の子が苦手で、まともに話せなかったのに

 

 今でも環那君以外は苦手だけど

 

環那「......すぅ。」

燐子(はうっ///)

 

 あの環那君が完全に気を許してくれてる

 

 いつもは同じ人間と思えないくらいすごいけど

 

 寝てる姿はかっこいい男の子なんだなぁ

 

燐子「結婚したら、毎朝こんな風に隣にいられるのかな......///」

環那「じゃあ、大き目のベッド買わないとね。」

燐子「!!??///」

 

 右下から聞こえた声を聴いて、私は飛び跳ねた

 

 完全に起きてない前提の独り言だった

 

 環那君、こういうところあるよね......

 

燐子「お、起きてたの......!?///」

環那「まぁ、朝だし、独り言もよく聞こえたしね。」

燐子(は、恥ずかしい......///)

 

 よりによって恥ずかしいの聞かれた

 

 顔が熱い

 

環那「燐子ちゃんが思ったより嬉しそうでよかったよ。」

燐子「あうっ......///」

 

 環那君は穏やかに笑いながらそう言った

 

 すごく恥ずかしい

 

 嬉しいのはあってるけど、あの独り言聞かれるのは恥ずかしすぎる

 

環那「俺も嬉しいよ。燐子ちゃんが思ってるより、ずっと。」

燐子「......!///」

 

 環那君に手を握られる

 

 左手だから、人間らしい温度と感触を感じる

 

 こんな風に手を握っていられるのが、嬉しい

 

 それに、すごくドキドキする

 

環那「愛してるよ。」

燐子「私も、愛してる///」

 

 それからしばらく、私たちは手を繋いだままでいた

 

 何も特別なことはなく、ただ、そうしてるだけ

 

 それだけなのに、胸がポカポカして、幸せを感じていた

__________________

 

 ”環那“

 

 燐子ちゃんと付き合うようになってから、1年ほどが経過した

 

 俺は高校を卒業し、本格的に社長業に勤しんでいる

 

 本格的と言っても、学業と両立してた時に比べれば随分と楽な生活だ

 

 今は家で仕事をしながら家事をしたりする生活を送れるくらいの余裕がある

 

環那(さて、そろそろ起きるかな。)

 

 朝食の用意を始める

 

 今は朝の8時00分、燐子ちゃんが起きてくる時間だ

 

 学生の頃に比べれば、随分ゆっくりな起床だろう

 

 まぁ、今はこれくらいがちょうどいいんだけどね

 

環那(それにしても、あれから、10ヵ月くらい経つのか。)

 

 あれとは、クリスマスのことである

 

 あの日以降も俺と燐子ちゃんは良好な関係を築き、今は入籍してる

 

 どうしてこんなに早く入籍したかって言うと、理由はいろいろある

 

 けど、最たる理由は......

 

環那(もうすぐ、産まれるんだな。)

 

 燐子ちゃんは今、臨月真っただ中だ

 

 もう、いつ産まれてもおかしくない

 

 そんな状況の中、俺も燐子ちゃんものんびりした日常を過ごしている

 

 少し前までは燐子ちゃんの体調が悪すぎて大変だったけど

 

環那(この俺が、父親か。)

 

 燐子ちゃんのお腹が大きくなる度に、楽しみに感じる

 

 けど、それと同時に漠然とした不安に襲われる

 

 子どもをちゃんと幸せにできるか、ってね

 

環那「......」

 

 俺の体には、あの醜い血が流れてる

 

 それを抜きにしても、俺は俺と言う存在を信用できない

 

 いくら感情が戻ろうが、欠落したものはある

 

 今までにない状況でそれがどう作用するか、不安で仕方ない

 

環那(その時にならないと、分からないな。)

燐子「__おはよう、環那君。」

環那「!」

 

 朝食を用意してるところに、燐子ちゃんが起きてきた

 

 よかった、体調は大丈夫そうだ

 

 今は本当にいつ陣痛が来てもおかしくないから

 

 ほんとはあんまり目を離したくないんだよね

 

環那「おはよう。朝ご飯、もうすぐ出来るから座ってて。」

燐子「うん。ありがとう。」

環那「お礼なんてやめてよ。奥さんを支えるのは当然のことなんだから。」

 

 そう言いながら、俺は朝食を皿に盛りつけ、それをテーブルに運んだ

 

 燐子ちゃんは寝起きらしく、パジャマで少し寝癖がある

 

 こういう姿を見せてくれるようになったのは嬉しい

 

 なんとなく、夫婦になったんだって気がするから

 

燐子「いただきます。」

環那「どうぞ。召し上がれ。」

 

 俺は燐子ちゃんの向かいに座った

 

 一時の休息だ

 

 やるべきことはまだあるし

 

燐子「おいしい......!」

環那「よかった。」

 

 スープを口に入れると、燐子ちゃんはそう言った

 

 好評なようでよかった

 

環那「よく噛んで食べるんだよ。」

燐子「うん......!」

 

 母親になって、燐子ちゃんは少し変わったと思う

 

 子どもを守ろうとする、強さが生まれたように感じることがある

 

 けど、変わってない部分もある

 

 燐子ちゃんは大切なものを持ったまま、強くなってる

 

燐子「あの、環那君。」

環那「どうしたの?」

燐子「家事のことなんだけどね、やっぱり、私ももうちょっとしたい。」

 

 燐子ちゃんは急にそんなことを言い出した

 

 今、この子は簡単な拭き掃除くらいしかしてない

 

 けど、それもあくまで健康維持の目的でしかない

 

 しなくていいなら1日中ゆっくりしててほしいくらいだ

 

燐子「洗濯くらいなら__」

環那「ダメ。」

燐子「えぇ......!?(は、早い.......)」

環那「体冷やしたらダメだからね。」

 

 それに、重量のあるものは持たせられない

 

 そもそも、燐子ちゃんの運動力は少しの拭き掃除と軽い散歩で十分だ

 

 万が一でもリスクのあることをする意味はない

 

環那「この家には俺だけじゃなくてエマもいるんだから。今は出産に集中して、家事とかは後でもいいでしょ?」

燐子「うーん......」

 

 燐子ちゃんは不満そうだ

 

 まぁ、これも可愛いものだからいいんだけどね

 

 家事なんかよりも燐子ちゃんの体の方が大切だし

 

環那「今は1人の体じゃないんだから。のんびりしときなよ。」

燐子「うぅ......///」

 

 頭を撫でられ、燐子ちゃんは頬を赤くした

 

 こういう所は変わらない

 

 可愛すぎる

 

環那「今日は久しぶりに2人でゆっくりしよ。」

燐子「うん///」

 

 それから、燐子ちゃんはゆっくり、朝食を食べた

 

 今日は、燐子ちゃんとのんびりするか

 

 急ぎの仕事も家事もないしね

__________________

 

 “燐子”

 

 私は今、リビングのソファに座ってる

 

 環那君は私が食べた食器を洗ってる

 

 私がしたかったんだけど、即答でダメって言われた

 

環那「終わったよ、燐子ちゃん。」

燐子「あ、お疲れ様。」

 

 環那君が私の隣に腰を下ろす

 

 なんだか、1年前より、大きくなった気がする

 

 身長、少し伸びたって聞いてるし

 

環那「今は大事な時期だから。」

燐子「でも、もっと家事したい。一応、専業主婦だし。」

環那「すぐに大忙しだよ。家事に子育てもあるんだから。」

燐子「あ、そっか。」

 

 私は、大きくなったお腹を撫でた

 

 妊娠に気づいたのは、卒業式の直前だった

 

 あの時点で妊娠3か月だから、クリスマスの日で間違いない

 

燐子「なんだか、あっという間だった気がする。」

環那「そうだね。」

 

 しばらく、体調が安定しなくて、辛い時間が続いてた

 

 ご飯も全然食べられなかったし、お腹も痛かった

 

 最近は胃への圧迫感も少なくなった

 

燐子「でも、環那君も言ったみたいに、これからなんだね。」

環那「生まれてからの方が長いからね。それに、育てるのって大変だから。」

 

 子どもを育てるのは、きっと想像以上に難しい

 

 お腹の子は女の子だけど、私とは全然違うと思う

 

 育つ環境が違うし、なにより、この子は環那君の血を継いでる

 

 確証はないけど、この子も特別な才能を持ってるような気がする

 

 それがどんなものかは分からないけど

 

燐子「どっちに似るかな?」

環那「俺には似てほしくないな。」

燐子「なんで?」

環那「この子には、普通の子になってほしいから。」

燐子「!」

 

 そう言いながら、環那君は私のお腹を撫でた

 

 いや、赤ちゃんのことを撫でてるのかな

 

燐子「環那君も、父親になってきてるね。」

環那「え?」

燐子「ちゃんと、この子に愛情持ってるよ。」

環那「......!」

 

 私がそう言うと、環那君は驚いた顔をした

 

 ちゃんと、分かってた

 

 環那君がこの子について、不安に思ってることを

 

 自分の過去とか、血を気にしてることを

 

燐子「環那君は環那君だよ。優しい、私の旦那様。」

環那「......そっか。」

燐子「!?」

 

 環那君の目から、一筋の涙がこぼれた

 

 ど、どうしたの!?

 

 なんで、こんな急に......ていうか、泣くなんて今までもあんまり......

 

環那「俺が、この子に愛情を持てるか......それが一番の不安要素だった。」

燐子「......うん。」

環那「いや、今でも分からない。実際に生まれないと、どうなるか分からない。」

燐子「大丈夫。私がちゃんと支えるから。」

環那「ありがとう。」

 

 こんな風になるのは珍しいかも

 

 いつもは頼り甲斐があるのに

 

 でも、少しくらい位よね

 

 今まで、不安な私を支えてくれくれてたんだし

 

環那「俺が今まで取り零したもの全部、この子にあげられるようにしたいな。」

燐子「うん、そうだね、パパ。」

環那「これからもよろしくね、ママ。」

 

 環那君と出会ってから、私の人生は変わった

 

 普通では体験できないようなトラブルもあったし、考えられなかったような恋もした

 

 今思えば、本当に私たちの出会いは運命だったんだって思う

 

 出会わなかったら、私は今も、普通の人生を歩んでた

 

 それも一つの幸せだけど、今の方が、私は幸せだと思う

 

 だって、大好きな人がいて、その人との赤ちゃんも、私のところに来てくれるなんて、これ以上ない幸せだと思うから

 

 

 でも、私も少し不安がある

 

 私は果たして、環那君より赤ちゃんを愛することが出来るかな?

 

 環那君の方が好きなまま......なんてことにならないかな?

 

 ......なんて、2人とも同じくらい愛せばいいだけだよね

 

 そんなことを考えながら、私は残り少ない、2人だけの幸せを嚙み締めた

 

 

 

 




燐子ルートはここまでです。次回からは琴葉ルートになります。

ここしばらく投稿頻度が低くなってるので、何とか戻したいと思います。


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琴葉ルート
帰宅


 広々とした砂利広場で寝転がって、星々が輝く空を見上げている

 

 体力はもうすでに回復してる

 

 けど、なぜか動く気が起きない

 

環那(疲れた。)

 

 肉体的には大丈夫だけど、精神的に疲れた

 

 不器用な二人を繋ぐのは大変だ

 

 まぁ、あそこまですれば、もう大丈夫でしょ

 

環那「......はぁ、そろそろ帰るか。寝転がってるけど、汚いし。」

 

 そう呟いて、俺は体を起こした

 

 別に寝てたわけじゃないけど、体がだるい

 

 回復したと思ってたけど、まだ完全じゃなかったみたいだ

 

 俺が自身の状態を見誤るとは

 

環那「......帰ろう。」

 

 今の俺の気持ちは早く家に帰りたい学生のそれと同じだ

 

 特に理由はないけど、家に帰りたい

 

 俺はそんな何も考えてないような状態で、ゆっくり歩きだした

__________________

 

 “琴葉”

 

琴葉(はぁ、今日も疲れました......)

 

 仕事を終え、家に帰ってきて、私はソファに腰を下ろした

 

 教師の仕事は思ったより大変で、毎日ヘトヘトです

 

 でも、ずっと目指してた仕事ですし、この苦労も教師の証ですよね

 

琴葉(それにしても、南宮君もエマちゃんもいないんですね。何か連絡は......)

 

 私はカバンから携帯を出しました

 

 あの2人はマメな性格ですし、報連相はしっかりします

 

 なにかあれば、メッセージでも来てるでしょう

 

琴葉「?」

 

 確認すると、誰からもメッセージは来ていませんでした

 

 珍しいですね

 

 軽い買い物にでも行ってるんでしょうか?

 

琴葉(まぁ、細かい連絡なんていらないんですけどねー。)

 

 元は監視対象ということで、つど連絡してといってましたが

 

 今となっては家族みたいなものなので、いらないんですよね

 

 あの2人がそういう性分ならいいんですが

 

琴葉(それにしても、いい関係になったものです。)

 

 最初こそ、同居人という感じで、特に仲良くもしていませんでした

 

 でも、今となっては騒がしくも楽しい日々を過ごせています

 

 人間、どういう風に変わるか分からないものです

 

 本当に......

 

琴葉(普段はあまり意識しないようにしていますが、1人になると......///)

 

 冷静に考えると、好きな人と一緒に住んでるってすごい状況ですよね

 

 そもそも、教師が生徒に思いを寄せること自体、不純ではあるんですけど

 

 でも、好きになったのが偶然生徒だっただけです

 

 そもそも、彼を学生という枠組みにするのは無理があるでしょう

 

琴葉(早く、帰って来てくれませんかね......///)

 

 早く、彼と他愛のない話をしたい

 

 もちろん、エマちゃんとも一緒にいて楽しいですけど

 

 南宮君は、特別なんです

 

琴葉(いつ頃、帰ってくるのでしょうか。)

(ガチャ)

琴葉「!」

 

 私がそんなことを考えていると、玄関扉が開く音がしました

 

 この音の感じは、南宮君です

 

環那「__ただいま。」

琴葉「おかえりなさい!南宮......くん?」

環那「?」

 

 リビングに入ってきた彼を見て感じたのは、違和感でした

 

 一見すればいつも通りですが、なぜかいつもと違うと感じました

 

 具体的にどう違うかというと、どこか寂しそうな、そんな感じです

 

環那「どうしたの?」

琴葉「あの、何かありましたか?」

環那「!」

 

 あまりにも気になって、私は彼にそう尋ねました

 

 すると、少し目を丸くして

 

 そのあとにニコリと微笑みました

 

環那「何かあったら慰めてくれる?」

琴葉「え?」

 

 その言葉を聞いて、驚きました

 

 彼がこんな風に返答してくるのが意外だったからです

 

 いつもの彼なら、こちらが気にしないように笑顔を作るところなのに

 

 言い方として適切かわかりませんが、弱音を吐くなんて

 

 これは......

 

琴葉「話してください。何があったのか。」

環那「......」

 

 私はそう言い、彼の眼を真っすぐ見つめました

 

 なんとなくですけど、今の彼は近くにいてくれる人を求めてる気がします

 

 そして、私の前に来たのは、何かの示し合わせな気がします

 

 今は、私が彼を支えないといけない

 

環那「......やっぱり、安心するよ。琴ちゃんといると。」

琴葉「!///」

 

 小さな声で呟いてから、彼は私を抱き締めました

 

 その状況に、一気に顔が熱くなります

 

 これは、一体......?

 

琴葉「み、南宮君!?///」

環那「......俺、全部終わらせてきた。」

琴葉「......!」

 

 彼は小さな声で、そう言いました

 

 それですべてを察しました

 

 やっと、本当の意味で解放されたのだと

 

 そして、執着したものがなくなって、寂しさを感じてるのだと

 

琴葉「お疲れさまでした。」

環那「......」

 

 気づけば、そんな言葉が出ていました

 

 彼の人生を少し知っているからでしょうか

 

 労いの言葉が自然と出てきました

 

琴葉「......1人にはしませんから。」

環那「!」

琴葉「寂しくなんて、させませんから......!」

 

 彼の苦労を考えると、涙が出てきました

 

 きっと、辛かったはずです

 

 あんな常軌を逸した能力を手に入れてしまうくらいなんですから

 

 いくら天才といっても、血の滲むような努力もしたことでしょう

 

環那「なんか......あれだ。」

琴葉「......?」

環那「俺よりも琴ちゃんのほうが悲しそうだ。」

 

 そう言って、彼はふわりと笑いました

 

 そして、ぎゅっと抱き締める腕に力を入れました

 

環那「なんか、さっきまでちょっと悲しいって思ってたのが馬鹿らしく感じる。」

琴葉「なんで!?」

環那「自分よりテンション高い人いたら、冷静になっちゃうものでしょ。」

琴葉「確かに......」

 

 言われてみればそうですよね

 

 なんだか、彼があまりにも寂しそうだったので、つい泣いちゃいました......

 

 うぅ、恥ずかしい......

 

環那「でも、琴ちゃんはそれでいいと思うよ。」

琴葉「なんでですか!?面白いからですか!?」

環那「そういう琴ちゃんが好きだからだよ。」

琴葉「!?///」

 

 彼はそう言い、抱き締めてた腕を放しました

 

 それを少し寂しいと思ったことは置いておいて

 

 少しでも元気になってくれてよかったです

 

環那「ご飯にしようか。」

琴葉「はい!」

環那「ついでに、今日一緒に寝る?」

琴葉「!?///」

環那「冗談だよ。」

 

 彼はそう言って、キッチンのほうに歩いていきました

 

 本当に、元気になったらなったで揶揄われますね......

 

 まぁ、それに慣れてる私も私なんですけど

 

 でも、一緒に寝るっていうの......あれは、ちょっといいですね

 

 後でお願いしたら、してくれるのでしょうか......?

 

 

 



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電話

 朝、私はフカフカのベッドの上で目を覚ました

 

 カーテンの隙間から太陽の光が差し込んできて、低くなってきた温度が目を覚まさせてきます

 

 正直、私はこのくらいの朝が好きですね

 

 夏と違って、頭がすっきりして__

 

琴葉(__るわけないでしょう!?///)

環那「......」

 

 上記の内容は自分の部屋で目覚めてたら、の話です

 

 こう言うということは、今いるのは自室ではないという事です

 

琴葉(や、やってしまいました!///)

 

 彼の冗談を鵜呑みにして、つい夜に彼の部屋に来てしまいました

 

 だって、ほんとに寂しそうだったんですもん!

 

 好きな人にあんな顔されたら、一緒にいたいって思うじゃないですか!

 

琴葉(あー!///今日どんな顔して学校に行けばいいんですか!?///)

 

 思い出したら、絶対に意識しちゃいます

 

 どうにかして落ち着かないと

 

 取り合えず、深呼吸でも__

 

環那「心の中で喋ってるはずなのにうるさいね。」

琴葉「!?///」

環那「おはよ。」

 

 声がしたほうに視線を向けると、彼が目を開けてこちらを見ていました

 

 大慌ての私に対して、彼はいたっていつも通りです

 

 もう少しくらい、リアクションしてくれてもいいと思うんですけど

 

琴葉「お、おはようございます......///」

環那「うん。琴ちゃんは今日も元気そうだね。」

 

 そう言ってからベッドから降りて背伸びをしました

 

 今の服装がTシャツ一枚だから分かります、すごい身体です

 

 しなやかで力強い

 

 どこまでも実用性だけを追求した、一つの究極

 

 ここまで来るのにどれほどの研鑽があったのでしょうか

 

 そもそも、普通の人間がこの領域に到達できるのでしょうか

 

環那「さて。朝ご飯にしようか。」

琴葉「は、はい。」

 

 彼のことは好きです

 

 ですが、自分と同列の存在だとは思っていません

 

 きっと、私が思っている以上に彼は別次元の存在だと思います

 

 だからこそ、凡人の私は彼との付き合い方を考えていかないと

 

 部屋から出ていく彼の背中を見ながら、私はそんなことを考えました

__________________

 

 “環那”

 

 俺は今日も学校に来てる

 

 今は面倒な会社の社長してるけど、学生でもあるからね

 

 平気でサボるけど、普段は適度の授業は受けておかないと

 

琴葉「ここで語り手の『私』は__」

環那(授業は真面目なんだよなー。)

 

 家ではあんなだけど、仕事には真摯に取り組んでる

 

 いっつも弄ってるけど、授業の準備中に寝落ちしてることもある

 

 教師と言う仕事に本気で取り組んでる姿は、すごくいいと思う

 

環那(まぁ、この授業はなぜか俺の方見ようとしないけど。)

 

 十中八九、昨夜のこと思い出すからだろうなー

 

 冗談真に受けて、夜に俺の部屋来て一緒に寝たし

 

 教師として俺と顔を合わせるのは気まずいだろうね

 

環那(まっ、どうせ一晩経ったら忘れるか。)

 

 俺はそんなことを考えながら、教科書を閉じた

 

 それと同時に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り

 

 4限目の授業が終わった

____________________

 

 “琴葉”

 

琴葉(はぁ......///)

 

 授業が終わって、職員室に戻ってきました

 

 今日は彼が頭から離れません

 

 平日にああいうことするのはよくないですね

 

琴葉(どうすればいいんでしょうか///この気持ちは///)

 

 年上をここまで手籠めにするなんて......

 

 いや、彼に関しては年とか関係ないんですけど

 

 それでもここまで弱くなるなんて......

 

琴葉(今日、帰って顔合わせられますかね///)

 

 26にもなってこんな感じなんて、問題ですね

 

 もっと大人な恋愛ができると思ってたんですけど

 

 思い通りには中々なりませんね

 

琴葉(ま、まぁ、学校にいる間に落ち着きましょう///まだまだ時間はありますし、なんとか__)

環那「__失礼―。」

琴葉「!?///」

 

 そんなことを考えてると、彼が職員室に来ました

 

 な、なんで今日に限って来るんですか!?

 

 いつもは来ないくせに!

 

環那「やっほー。」

琴葉「ど、どうしたんですか......///」

環那「進路希望の用紙持ってきたんだよ。」

琴葉「あ、そ、そうですか///」

 

 まともに目を合わせられません

 

 昨日の感触がフラッシュバックして......

 

環那「まっ、俺はやるべきことがあるし、進学とかは特に考えてないけどね。」

琴葉「そ、そうですよね。」

 

 まぁ、だから遅れても良かったんですけどね

 

 私個人としては大学にも行ってほしいんですけど

 

 彼の場合、日本ではもう学ぶことはないでしょうし

 

環那「未来の琴ちゃんの自慢のために東大でも受けてあげようか?」

琴葉「それはまぁ、自慢にはなりますけど。どうせ進学しないじゃないですか。」

環那「あはは、そっか。」

 

 本当に彼はいろんな立場から見ても扱いに困ります

 

 どう導いていいのかわからないどころか、逆に導かれますし

 

 未来永劫、彼のような存在は現れないでしょうね

 

琴葉「それで、用はこれだけですか?」

環那「ま、そうだね。俺にとってのメインは琴ちゃんを茶化すことだけど。」

琴葉「あなたってそういうところありますよね!」

 

 私がそういうと、彼はパッと後ろに向いて歩きだしました

 

 本当に、彼は何でこうなのでしょうか......

 

 凡人とは違う世界でも見えてるのでしょうか

 

「__波平先生ー、お電話ですー。」

琴葉「は、はーい!」

 

 私は彼を見送ると、ほかの先生に呼ばれました

 

 

 この時の私は気づいていませんでした

 

 この電話が私の......私たちの平和な日常を変えることになるなんて

 

 

 

 



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回想

 まだ日が落ちてない、お昼といわれる時間

 

 午後の授業も残っている中、私はタクシーに乗っています

 

 その理由は、あの電話です。

 

琴葉(お、お父さん......!)

 

 あの電話は、組の人達からでした

 

 そして、告げられたのはお父さんの危篤でした

 

 好き嫌いは置いておいて、強いと思ってたお父さん

 

 そんな人が危篤なんて、一体なにが......!?

 

「お客さん、目的地に__」

「こ、これでお願いします!」

「は、はい。」

 

 私は運転手さんにお金を渡して、タクシーから降りました。

 

 久しぶりに足を踏み入れる我が家ですが

 

 何かを感じる暇もなく、急いで門を開けました

____________________

 

 

「__親父!お嬢が来ました!」

 

 家に入って、私は組の人に寝室に案内されました

 

 昔に比べて、組員が増えています

 

 それに、寝室の場所も変わっていました

 

篤臣「なんだぁ......来やがったのかぁ......」

琴葉「っ!」

 

 お父さんの姿を見て、私は驚きました

 

 この間まで元気だったお父さんが、点滴を打たれて

 

 見るからに衰弱しています

 

 こんな姿、もちろん初めてです

 

琴葉「一体、何が......!?」

 

 わかりません

 

 お父さんは南宮君ほどじゃないにしても、人外といえる存在です

 

 その強さは何度もこの目で見てきました

 

 ついこの間も......

 

環那「__肺がんでしょう。」

琴葉「南宮君.....?なぜ、ここに.....?」

環那「呼ばれたからだよ。大丈夫。エマはリサたちに任せてる。」

 

 私が呆然としていると、背後から南宮君が現れました

 

 彼も呼ばれてからすぐに来たんでしょう

 

 制服のままです

 

環那「ステージは3くらいですか。」

 

 そう言いながら、彼はお父さんのほうに歩み寄ります

 

 驚くほどの冷静さです

 

篤臣「くくっ......病名は正解だァ。だがなァ、ステージは4だァ......」

環那「っ!」

琴葉「っ!?」

 

 お父さんの言葉に彼は驚いたような表情をしました

 

 ステージ4ということは......まさか......!

 

環那「まさか、そこまで進行してるとは。なぜ、そこまで放置を?」

篤臣「......俺の役目は、終わったからだァ......」

環那「?(どういうことだ?)」

琴葉(役目......?)

 

 言ってる意味が分かりません

 

 お父さんの役目とは、なんなのですか?

 

 がんを放置してまでしなければいけないこと......もしかして......

 

琴葉「南宮君......ですか?」

篤臣「......さすが、俺の娘だァ。」

環那「俺?」

 

 それにしても分かりません

 

 なぜ、お父さんが彼を知ってたのですか?

 

 繋がりなんてなかったはずなのに

 

環那「聞かせてくれませんか?そこまでした理由を。」

篤臣「......ちょっとした、昔話だァ。」

 

 “回想”

 

 俺にも、昔は嫁がいたァ

 

 元は俺が学生で、あいつは教師だったァ

 

 あいつはいつも、息をするように生徒を寄り添おうとしてた

 

 俺も、その1人だァ

 

?「__ねぇねぇ!聞いてよ篤臣君!」

篤臣「なんだァ......薫子。」

薫子「すごい子みつけたの!」

 

 六つは上のくせに、俺より若々しい奴だった

 

 40超えてるくせに、世界中飛び回って、誰かを助けようとしてた

 

 そして、いっつも求めてやがった

 

 特別な人間ってやつを

 

薫子「あの子はすごいよ!化け物だよ!この世界を根本から変える力持ってるよ!」

篤臣「どんな奴だァ......そんなのが本当に要るなら見てみたいもんだァ。」

薫子「きっと、見たら驚くよ。多分、今でも篤臣君より強いかも。」

篤臣「冗談言えェ。そいついくつだァ?今日行ったの幼稚園だろうがァ。」

薫子「5歳!ただし、世界最強の!」

篤臣(バカかァ......)

 

 この時の俺は、気にも留めてなかった

 

 いつも、わけのわからないことを言ってたやつだァ

 

 今回も発作みたいなもんだろう、と

 

 また、こういう話を聞かされるんだろうなぁ......と

 

琴葉「__おかあさん!おかあさあん!」

篤臣「......」

 

薫子「......」

 

 そんな日常は、ある時に消し飛ばされた

 

 銃弾をぶっ放してから的に当たる時間よりも短く感じた

 

 あいつは紛争地なんかに向かって、重症で帰ってやがった

 

 何の関係もない奴らのために、馬鹿みたいに命を......

 

篤臣(......俺がァ、潰すしか__)

琴葉「ぐすっ......ぐすっ......」

篤臣「っ!」

 

 俺が組を総動員すれば、薫子を殺した奴らは潰せたかもしれねェ

 

 だが、もし俺が死ねば、琴葉はどうなる?

 

 まだ中学生のガキを1人にしろってのか?

 

 そんなこと、あいつの忘れ形見にしてもいいのか?

 

 その考えが、俺を人間に留めた

 

篤臣(ヤクザの頭になっても、出来ねェことがあんのかァ......!)

 

 自分の無力さを知った

 

 所詮、俺はどこまで行っても人間だった

 

 じゃあ、誰が、誰が薫子の仇をとれる、琴葉を守れる

 

 俺ですらできないことを、誰ができるってんだ......!

 

薫子「篤臣......君......こと......は......」

篤臣「っ!バカ!喋んじゃねェ!」

薫子「いい......の......も、う、長く、ない、から......」

 

 この馬鹿は最後まで馬鹿だった

 

 ただせさえ喋るだけでも、その体には毒になる

 

 だってのに、こいつは......

 

薫子「わた、し、じゃ......ダメだった......。だれも、すくえな、かった......」

篤臣「......馬鹿がッ。」

薫子「ふふっ......ないて、る......?」

 

 香子は微笑んでた

 

 信じられねェくらい、穏やかに

 

 痛みなんて、感じてねェみたいに

 

薫子「篤臣、君、おね、がい......」

篤臣「......なんだァ。」

薫子「ことはを、守って......」

篤臣「っ......!」

 

 この時、俺はこいつを心底母親だと思った

 

 俺は元々そのつもりだったが

 

 さらに腹を決めるには、その言葉は十分だった

 

薫子「......それ、と......」

篤臣「なんだァ?」

薫子「ある、おとこのこを、みつけ、て......その子の、名前は__」

 

 そいつの名前を最後に、薫子は息を引き取った

 

 それからしばらくのことはよく覚えてねェ

 

 いつの間にか、葬式も、何もかもが終わってた

 

 そして、俺は気づけばあいつの仏壇の前にいた

 

篤臣「......馬鹿野郎が。」

 

 俺の人生で、あれ以上のバカはいねェ

 

 自分のことなんて微塵も考えねェ、人外みたいなやつだった

 

 あいつに比べりゃ、俺なんてちっぽけなもんだった

 

篤臣「......南宮、環那。」

 

 そんなあいつが、最後に呼んだ名

 

 こいつにどんな意味があるのか、俺にはわからねェ

 

 だが、あいつの遺言だ

 

 やらねェわけにはいかねェ

 

篤臣(何年かかるかわかんねェなァ。)

 

 ヤクザっつっても、人間1人を見つけるのは難しい

 

 人員を割かなきゃいけねェし、警備も手薄になる

 

 そうなりゃ琴葉を守るには......

 

篤臣「琴葉ァ。お前は家を出ろォ。金輪際、組の名前を名乗んじゃねェ。」

琴葉「!」

 

 これしかなかった

 

 こいつの存在はまだ、別の組の奴らは知らねぇ

 

 琴葉を守るには、組から遠ざけるしかなかった

 

 あいつは俺のことを憎いといわねぇばかりの目で見てた

 

 だが、俺のことなんてどうでもいいんだ

 

 今の俺は琴葉を守ることと、南宮環那を見つけるために存在してる

 

 あいつの願いをかなえるためなら、腹でもなんでも切る覚悟だった

 

篤臣(どこだ、南宮環那ァ。)

 

 5年間

 

 それが、南宮環那を見つけるのにかかった時間だ

 

 驚いたぜ

 

 あいつの言ってた男が、まさか少年院にいるなんてな

 

篤臣「__迎えに来たぞォ。南宮環那ァ。」

環那「あんた、誰?」

篤臣「里親だァ(......マジかァ)」

 

 度肝を抜かれるってのは、こういうことを言うんだと感じた

 

 目の前にいるのは、マジで人間か?

 

 かといって、熊や猪とも比較にならねェ

 

 これは、まるで......

 

篤臣(化け物、ってことかァ。)

環那「そういうのいいから。もう行っていい?行かなきゃいけないところがあるんだ。」

篤臣「そりゃあ出来ねェ相談だァ。」

環那「!」

 

 俺は組の奴らを100は引き連れてた

 

 一旦は手荒なことをしねェといけねェと思ってたからだ

 

 だが......

 

『ぐあぁぁぁああ!!!』

環那「......」

篤臣(なん、だとォ......!?)

 

 100で何とかなるっていう俺の認識は間違ってた

 

 あいつの認めた男は本物の化け物だった

 

 誰の手にも負えねェ

 

 本当に、世界のすべてを変えかねない存在

 

 直感的に俺はそれを感じた

 

篤臣(薫子ォ......お前ェ、とんでもねェのを見つけたなァ。)

 

 この時、すべてを察した

 

 俺の人生は、こいつと琴葉を守るためにある

 

 このちんけな命は、こいつらの捨て駒にならなきゃいけねェ

 

 そのためには、自分に使う時間なんてものはねェ

 

 そう考えた瞬間に、俺は自分の残りの命すべてをかける覚悟を決めた

 

 

 

 



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決意

環那(なるほど、そう言う事だったのか。)

 

 自分の中で、なんとなく納得がいった

 

 あの女がまさか篤臣さんの奥さんとは思わなかったけど

 

 特別な人間には、また特別な人間が引き寄せられる......ということか

 

 いや、この場合において特別なのは奥さんの方か

 

篤臣「俺の話は終わりだァ......」

 

 篤臣さんは疲れた様子でそう言った

 

 見ただけでわかる

 

 もう、体の限界が近い

 

 命の灯火が消えて行ってるのを感じる

 

環那「......琴ちゃん。」

琴葉「......!」

環那「これが最後だよ。」

 

 俺は黙りこくってる琴ちゃんにそう言葉を投げかけた

 

 正直、琴ちゃんと篤臣さんには仲直りしてほしかったし、手段はいくらでもあった

 

 やはり、人間とは難しい

 

 この俺ですら、読み切れないんだから

 

 “琴葉”

 

琴葉「お父さん......」

 

 お父さんの過去の話を聞いたのは、今日が初めてでした

 

 いつも無口で、言葉が足りない人で

 

 どんな時でも同じような顔をしていたのを覚えています

 

 でも.......

 

琴葉(私のことも、お母さんのことも、ちゃんと考えてたんですね......)

 

 人生であまり感じられなかった、お父さんの愛情

 

 そこにずっとあったのに、私では見ることは出来なかった

 

 取り零してしまったものの多さに、私はひどく落ち込みました

 

篤臣「......琴葉ァ。」

琴葉「はい......」

篤臣「デカくなりやがったなァ......」

琴葉「......」

 

 お父さんは弱弱しい声でそう言いました

 

 いや、これでも、普通のお父さんくらいの声でしょう

 

 これくらい弱らないと、普通になれないんですね......

 

篤臣「お前ェの授業参観も運動会も碌に行ってやれなかったがよォ......片時も忘れたときはなかったァ......」

琴葉「......っ。」

 

 そんなことは分かっています

 

 お父さんが、お母さんの敵討ちを諦めてまで守ってくれたんですから

 

 その愛情を今さらですが理解できています.......

 

篤臣「......お前ェはあいつによく似てやがる。優しいとこも、自分のことはからっきしなとこも、何もかも......」

琴葉「そう、ですか......」

篤臣「だがァ、お前ェとあいつの違う所だってある.......それはァ......」

琴葉「それは......?」

篤臣「環那がいることだァ......」

 

 お父さんは南宮君の方に目をやり、そう言いました

 

 その表情は安心しきってる様子です

 

篤臣「あいつはすげェ.......俺とは比べ物にならねェ。俺に出来ないことくれェ、あいつは平気でしちまうだろうなァ......」

琴葉「......」

 

 .......実際、その通りです

 

 お父さんは確かにすごいです

 

 でも、お父さんは人間の範疇なんです

 

 それに私は気づかなかったんです......

 

篤臣「あいつはァ、お前ェを守ってくれる......どんな状況だろうとなァ......だからァ......」

琴葉「......」

篤臣「幸せになれよォ、琴葉ァ......」

琴葉「っ!!」

 

 お父さんの手が、私の頭に置かれました

 

 大きな手です

 

 昔、一度だけ撫でられた時と変わらない

 

 でも、あの時より優しい

 

琴葉「ひぐっ......ぐすっ......お父さん......っ。」

篤臣「くくっ、まさか、お前ェに泣かれる日が来るなんてなァ......」

 

 涙が止まりません

 

 遠く深くに眠っていた記憶が、長年お父さんを邪険にしてた後悔が

 

 その全部が私に降りかかってきます

 

 もっと、ちゃんと話していれば、今頃は......

 

篤臣「俺ァ、お前ェが生まれた時に、幸せってやつは全部前借したァ......」

琴葉「おとう、さん......っ。」

篤臣「俺の人生、一瞬たりとも、不幸な時間なんてなかったぜェ......」

琴葉「__!」

 

 お父さんの優しい言葉が、全部、突き刺さってきます

 

 あんなに冷たくしたのに、嫌いって言ってたのに

 

 なのに、まだ、お父さんは私を愛してくれてる

 

 その事実が、今までの自分を許せなくする

 

琴葉「ごめんなさい......っ、ごめんなさい......っ。」

篤臣「あやまるこたァねェ......こういう時に言う言葉は他にあんだろうがァ......」

琴葉「!......ありがとう、おとうさん.......っ。」

篤臣「......アァ。それでいィ。」

 

 私は出来るだけはっきりと、その言葉を口にしました

 

 でも、足りません

 

 私の取り零してきたものは、この言葉一つでは言い表せません

 

 いや、この後悔が消える日なんて、二度とこないんでしょう

 

 それくらい、重罪なんですから......

 

 “環那”

 

 人は失って初めて、そのものの大切さに気付く

 

 どんな人間でもその体験はするだろう

 

 俺でもしたんだから

 

環那(俺の言った通りになったでしょ?琴ちゃん。)

 

 いつかはこうなると思っていた

 

 篤臣さんの状態の悪さは見ればわかったから

 

 でも、俺には口を出すことなんて出来なかった

 

 状態の悪さと同時に、確固たる決意も感じていたから

 

環那(......でも、出来ればもう見たくなかったな。琴ちゃんの泣く姿は。)

 

 やはり、俺は万能じゃない

 

 琴ちゃんと出会って、泣かせるのは3回目だぞ?

 

 何度も同じ失敗をしている

 

 難しいね、人間って......

 

篤臣「環那ァ......」

環那「!」

 

 そんなことを考えてると、篤臣さんに呼ばれた

 

 俺にも何か言う事があるのか

 

篤臣「後は、頼んだぞォ......」

環那「......!」

 

 その言葉に込められた意味を俺はすぐに理解した

 

 組も、敵討ちも、琴ちゃんも

 

 そのすべてを俺に任せる、と言ったんだ

 

 この人は、ほんとに......

 

環那「......はい。任せてください。ただし、嫉妬しないでくださいね?篤臣さんより上手くやっても。」

篤臣「バカ言えェ......誰がお前に勝てるってんだァ......」

環那(......もう、限界か。)

 

 篤臣さんの死期はもうすぐそこだ

 

 もう最後の力を振り絞ってるだろう

 

 そんな状態でも、この言葉の力か

 

 恐ろしい人だ

 

篤臣「......なァ、環那ァ......」

環那「はい。」

篤臣「俺ァ、お前の捨て駒くれェにはなれたかァ.......?」

環那「......」

 

 篤臣さんは俺にそう聞いてきた

 

 その問いに、俺は珍しく本心を答えることにした

 

環那「俺に今をくれたのは篤臣さんだ。捨て駒なんてものじゃない。俺の恩人で、父ですよ。」

篤臣「そうかァ......」

 

 そう答えると、篤臣さんは満足げに笑った

 

 まるで、天にも昇るような笑顔だった

 

 恐らく、俺と琴ちゃん以外、誰も見たことないだろう

 

篤臣「上出来だよなァ......環那ァ......」

環那「......(向こうでまた会いましょう。お元気で。)」

琴葉「おとうさんっ!!」

 

 その言葉を最後に、部屋の中にピーっと無機質な音が鳴り響いた

 

 それはまさに、死を告げるもの

 

 享年47歳......か

 

 あまりに、早すぎる

 

環那(夫婦2人ともが、最後に俺の名を呼ぶ......か。)

 

 まーた、重くなる

 

 俺は何人の人生を背負えばいいんだろうか

 

 これもまた、運命なのだろうか

 

 そんなことは分からない

 

 でも......

 

環那(背負わされたとは思いませんよ。篤臣さん。)

 

 俺は篤臣さんの傍らで泣く琴ちゃんに歩み寄った

 

 こんなに泣いてくれただけ、篤臣さんは満足だろう

 

 最後にちゃんと、最愛の娘と一緒にいられたんだから

 

琴葉「うぐっ、ひぐっ、おとうさぁん......」

環那(そう。背負わされたんじゃない。元からそのつもりだったんだ。)

琴葉「......!みなみや、くん......?」

 

 ただ、少し重みが増しただけ

 

 俺のやることは何一つ変わらない

 

 シンプルに己の欲望に従う

 

 もう泣かせない、笑顔にし続ける

 

環那(俺は、君を幸せにしたい。)

 

 俺は泣きじゃくる彼女を軽く撫でながら

 

 この子を幸せにすると、決意を固めた

 

 

 

 



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遺言

 お父さんが亡くなって、3日が経ちました

 

 お葬式は何とかやり切って

 

 今はお休みをもらっています

 

 ていうより、休めと言われました

 

環那「__お疲れ、琴ちゃん。」

琴葉「南宮君......」

 

 そんな私はやることもなく座っていると、彼がホットミルクをテーブルに置きました

 

 なんで家にいるのかというのはいいです

 

 むしろ、安心できます

 

環那(さてと、次の家事に行くか。)

琴葉「あ、あの......」

環那「ん?どうしたの?」

琴葉「一緒に、いてください......」

 

 私はそう言って、彼を引き留めました

 

 別に、何か用があったわけではありません

 

 ただ、いてほしかっただけです

 

環那、琴葉「......」

 

 特に会話はありません

 

 でも、彼がいるだけで安心できます

 

琴葉「......あの、もう少し近くにいてもいいですか......?」

環那「いいよ。おいで。」

 

 だから、甘えてしまいます

 

 年上なのに、教師なのに

 

 彼が触れられるくらい近くにいないと、安心できない

 

琴葉「......」

環那(俺がすべて解消させる......のは難しいか。)

琴葉(ダメ、ですね......私......)

 

 私は弱い

 

 彼がいないと、怖くてたまらない

 

 離れてほしくない......

 

琴葉「......私は......」

環那「?」

琴葉「親不孝者......でしょうか......」

 

 私は小さな声でそう尋ねました

 

 ひどい質問です

 

 怖くて答えを出せないから、私は彼に答えを依存してしまう

 

 彼の出す答えは、きっと、正しいですから

 

環那「そんなことはないよ。篤臣さんも言ってた通り。」

琴葉「......いえ、分かっています。あれは__」

環那「これは慰めじゃない。」

琴葉「っ!」

 

 彼は少し低い声でそう言いました

 

 その言葉には説得力があって、納得させられるようでした

 

環那「ほんとにそうなんだ。琴ちゃんは親不孝なんかじゃない。」

琴葉「......!」

 

 彼の言う事は、きっと正しい

 

 お父さんのことも、彼の方が知ってる

 

 だから、本当にそうなんでしょう

 

 ......なんて、そう思ってしまう

 

環那「本物はここにいるからね。親不孝者。」

琴葉「......比較対象が極端です。」

環那「あはは、そうかもね。」

 

 こうして話していると、安心できます

 

 彼なら、私とずっと一緒にいてくれる

 

 絶対に置いて行かない

 

琴葉「......離れないでくださいね。ずっと......」

環那「!」

 

 それでも、弱い私はそう言ってしまう

 

 彼の言葉で聞きたいから

 

 私がただ、安心したいから

 

環那「任せといてよ。」

琴葉「......はい......」

 

 その言葉を聞いて、私は安心し、彼に抱き着きました

 

 もう、一生離れたくない

 

 いや、離れられないんです

 

 私はもう、彼がいないと生きていけないんです

 

 彼の体温、言葉、感触がないと、息が苦しくなるんです

 

 それくらい、私は彼に依存してしまっているんです......

__________________

 

 “環那”

 

環那(__マズい事態になったな。)

 

 街灯だけで照らされる道を歩きながら、俺はそんなことを考えた

 

 このマズい事態って言うのは、もちろん琴ちゃんのことだ

 

 ここ最近の様子を見る限り、俺の見立てが甘かったのが分かった

 

環那(ほんとに、被害甚大だな。)

 

 篤臣さんの存在の大きさがよくわかる

 

 あの人は見た目でイメージできないくらい良い人だった

 

 この俺ですら、その人柄には感服したくらいだ

 

 そんな人のもとにはいろんな人間が集まってくる

 

環那(......面倒だ。)

 

 もし、そんな人がいきなりいなくなったら

 

 その人が何か、組織の頭だとすれば

 

 残されたそれはどうなるのか......

 

環那(崩壊してもおかしくない......な。後を継ぐ人間がいなければ。)

 

 そんなことを考えてると、大きな和風の家に着いた

 

 普通の人間が見れば恐ろしいだろうけど

 

 俺にとっては実家みたいなものだ

 

 俺は少し深く呼吸をして、家の門を開けた

 

「__新しい組長が到着したぞー!」

 

 中庭に入ると、そんな声が家中に響き渡った

 

 そして、ドタドタと多くの足音がなり

 

 道を作るように全員が並んだ

 

『お勤めご苦労様です!組長!』

環那「そんなにかしこまらなくてもいいよ。歴で言えば君たちのほうが長いんだから。」

「いやいや、常にそれらしい行動はしてるじゃないですか。」

 

 誰がナチュラルヤクザだ

 

 出来るだけ普通にしてたよ

 

 まぁ、そんなことはいいや

 

 元気であることは良いことだし

 

環那「まっ、諸々のことは置いといて。」

 

 俺は人の道を歩いて行って、屋敷の大広間に通った

 

 そこには一段高い、上座がある

 

 篤臣さんが座ってた場所だ

 

環那(驚きましたよ。篤臣さん。)

 

 俺は上座を見つめ、少しため息をついた

 

 ほんとにまさかだった

 

 篤臣さんが遺言で俺を組長に据えるなんて考えてなかったから

 

環那(......頼まれましたよ。)

 

 俺は軽く一礼し、その上座に腰を下ろした

 

 これで、大企業とヤクザのトップか

 

 中々ないんじゃない?この二足の草鞋

 

環那「知ってると思うけど......俺は南宮環那。」

 

 俺は組員たちのほうを向き、口を開いた

 

 全員、緊張した面持ちでこっちをみてる

 

 まざ、ここにいる全員、俺に打ちのめされてるからね

 

 トラウマっていうのもあるだろう

 

環那「これから君たちのトップになるわけだけど......俺に命を預ける覚悟はできてるかい?」

 

 そう言って、俺は組員全員を見据えた

 

 ここにいるみんなも、篤臣さんの忘れ形見だ

 

 なんとか、道を示してあげないと

 

 ほんとに、残しすぎですよ......篤臣さん

 

 

 



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依存

環那(はぁ、困った。)

 

 空が紫っぽくなってきた朝方、俺はそんなことを思った

 

 今、俺にはいくつか解決しなきゃいけない問題があるけど、なかなか大変だ

 

 会社、組の皆のこと、琴ちゃんのこと

 

 それぞれが重要で重大な問題だ

 

環那「どうしようか......」

 

 どこから手を付けるべきか

 

 これからの組の活動についても考えないといけないし

 

 会社の方もこれから変わっていく時期だ

 

 無理なことはないけど、中々の重労働だ

 

 なにより......

 

環那(しばらくは琴ちゃんに時間を使うつもりだったのに、予定が狂ったな。)

 

 流石に今の琴ちゃんを放置するのは問題がありすぎる

 

 かといって、他2つも放置できない

 

環那(仕方ない。人見を使うか。)

 

 これらを1人で片付けるのは不可能だ

 

 会社と組のことは、あいつに任せよう

 

 それで、俺は最も重要な問題に着手することにする

 

環那「まずは、琴ちゃんをどうにかしよう。」

 

 取り合えず、考えてる策はある

 

 それを実行してから、後々のことは考えよう

__________________

 

 “琴葉”

 

 チュンチュンっと、スズメの鳴く声が聞こえます

 

 いつもならすぐに起きて学校に行く用意をするんですが、今日もお休みです

 

 教師の仕事は好きですが、お休みはありがたく思います

 

琴葉(彼は、いるのでしょうか。)

環那『__ただいまー。』

琴葉「!」

 

 まだ眠気が覚めない中、彼の声が聞こえました

 

 ビニール袋の音が聞こえます

 

 お買い物に行ってたのでしょうか?

 

環那「起きてる?琴ちゃん。」

琴葉「あ、はい。」

 

 彼は扉を開けて、顔をのぞかせました

 

 その様子を見て、私は安心しました

 

 まるで依存症です

 

 彼は学校に行ってないといけないのに、彼がいないと安心できないんですから

 

環那「調子はどう?」

琴葉「今よくなりました。」

環那「そっか。それはよかった。」

 

 今の、結構ちゃんとアピールしたんですけど、受け流されました

 

 彼のことなので、気づいてないなんてことはないはずないんですが

 

 分かっててしてるのでしょうか

 

環那「朝ごはんはどうかな?今日はコーンスープとバケットだよ。」

琴葉「食べます。」

 

 私はそう頷いて、ベッドから出ました

 

 慌ただしさの欠片もないこの朝

 

 彼と一緒にいられることが、嬉しくてたまりません

 

 この日々がずっと続けば......なんて思います

 

 けど、そんなことはありえないというのは、今までの彼を見ていれば容易にわかることですよね

____________________

 

 “環那”

 

 琴ちゃんの朝食を済ませて、俺はソファに座ってる

 

 隣にはもちろん、琴ちゃんがいる

 

 最近はずっとこんな感じな気がする

 

環那(さて、どうするか。)

 

 精神面はまぁ、そこそこ安定してる

 

 篤臣さんが亡くなった時に比べれば、だけど

 

 しかも、俺がいるとき限定だし

 

環那(さて、どうするか。)

 

 いつもの俺なら、出来るだけ正常な状態に戻そうとする

 

 それが出来てこそ、解決だから

 

 でもなぁ......

 

琴葉「?」

環那(こういう状態も、悪くないんだよなぁ。)

 

 このままこの子を依存させるっていうのも悪くない

 

 特にそれで困ることもないし

 

 てか、可愛いし

 

琴葉「どうしましたか?」

環那「いや、可愛いって思ってただけ。」

琴葉「っ!///」

 

 あ、顔赤くなった

 

 ほんと、俺の周りの女の子はうぶだなぁ

 

 たかが言葉だけでこんな風になるなんて

 

琴葉「......///」

環那「いつもみたいに年齢言っとく?」

琴葉「......あなたに年齢なんて、意味ないですから///」

環那「よくわかってるね。」

 

 可愛いけど、ツッコミがないのも落ち着かないな

 

 ボケとしての本能かな?

 

 いや、これは弱ってるから、多少は治るのか?

 

環那(やっぱり、家にいるだけじゃ、ダメかなぁ。)

 

 折角しばらく休みだし、外に出るのもいいかな

 

 何の因果か、あれも残ってるのもあるし

 

 ちょうどいい使いどころだろう

 

環那「ねぇ、琴ちゃん。」

琴葉「は、はい///」

環那「折角の休みだしさ、旅行行かない?最近、忙しくて、疲れてるでしょ?お互いに。」

琴葉「旅行、ですか?」

 

 俺がそういうと、琴ちゃんは首を傾げた

 

 やっぱり、この子忘れてるね

 

 自分で渡したくせに

 

環那「俺にくれたでしょ?温泉旅館の。」

琴葉「......あ、そういえば。」

環那(ほ、ほんとに忘れてたのか。)

 

 なんというか、さすがだ

 

 これでこそ琴ちゃんだよ

 

 俺は呆れつつもそう思った

 

環那「で、どうする?行く?」

琴葉「いいですね。行きましょう。(あなたのなら、どこへでも行きますが......)」

環那「そっか。じゃあ、明日行こ。」

琴葉「急ですね。いいですけど。」

 

 琴ちゃんはそう言って、コクンと頷いた

 

 これにもツッコまないかー

 

 ま、今はいいんだけどさ

 

琴葉「じゃあ、準備しますね。」

環那「うん。忘れ物はしてもいいよ?向こうで何でも買えるから。」

琴葉「大丈夫ですよ。」

 

 琴ちゃんはソファから立ち上がって、自分の部屋に行った

 

 それを見送って、俺は小さく息をついた

 

 さて、どうするか

 

環那(とりあえず、リサにエマの面倒頼むかー。)

 

 俺はそんなことを考えて、リサに電話を掛けた

 

 さてと、この旅行中にどのくらい持ち直せるか

 

 これによって、この休み明けに仕事行けるかに関わる

 

 まっ、何とかしようとすると空回りしかねないし

 

 琴ちゃんと一緒に楽しむことを考えるか

 

 

 

 



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観光

 高速道路を走ること2時間ほど

 

 俺たちは温泉旅行の目的地に着いた

 

 観光地っぽい景観に賑わう人々

 

 結構、良い場所だ

 

琴葉「あなたの運転って、すごく安全ですよね。免許取ったの、最近じゃないんですか?」

環那「運転の感覚なんて、一回目で掴んだよ。あとはその場その場で応用するだけ。難しいことなんかなくない?」

琴葉「私は未だに苦手ですよ。運転。」

環那「いいんじゃない?琴ちゃんは助手席に乗ってればいいんだし。」

 

 この先も、運転を交代する気もないし

 

 無理にするようなことでもない

 

琴葉「そ、それは......///」

環那「ん?」

琴葉「これからもずっと、一緒にいられるということですか......?///」

環那「あたりまえでしょ。」

琴葉「///」

 

 愚問にもほどがある

 

 あの日から、それ以外の選択肢はないし

 

 それに、俺がそれを望んでるんだ

 

 考えるまでもない

 

環那「さてと、旅館に荷物預けて、観光でも行こうか。お昼ごはんもそこで食べよ。」

琴葉「はい。」

 

 俺たちはそう言って、旅館の方に向かった

 

 取り合えず、ご飯美味しいところは目星付けてるし

 

 琴ちゃんの気分に合わせて店に入るか

__________________

 

 しばらく町の中を歩いて、俺たちは海鮮料理のお店に入った

 

 お昼時で客が多いけど、一席相手て助かった

 

 いやぁ、これも日頃の行いのお陰かな()

 

環那「んー、俺はおすすめって書かれてる海鮮丼にするけど、琴ちゃんはどうする?」

琴葉「私も海鮮丼にします。」

環那「りょーかい。すいませーん。」

 

 俺は琴ちゃんの注文を確認し、それを店員に伝えた

 

 店内の状況を見た感じ、少し時間がかかりそうだ

 

 まぁ、琴ちゃんと話してたらいいだけの話だけどね

 

環那「さて、この後はどこにいこうか。」

琴葉「この辺りは何が有名なんですか?」

環那「んー。近くに神社があって、観光客はよく行くみたいだよ。」

琴葉「いいですね、神社。お守りとかほしいです。」

環那「じゃあ、行ってみる?人多いと思うけど。」

 

 琴ちゃんって、お守りとか好きだっけ?

 

 いや、今年は色々あったし、何か欲しいのかな

 

 開運のお守りとか

 

環那「じゃあ、次は神社に行こうか。その次は、歩きながら決めよう。」

「お待たせしましたー。海鮮丼でーす。」

環那「お、来た。(思ったより早かったな。)」

琴葉「ありがとうございます。」

 

 それから俺たちは届いた海鮮丼を食べた

 

 乗ってる魚は思った以上に鮮度が良くて

 

 流石に海に近い場所だと感心した

__________________

 

 “琴葉”

 

 お昼ご飯を食べ終えて、私たちは神社に来ています

 

 敷地が広くて、出店があって、観光客で賑わっています

 

 すごくいい場所です

 

環那「いやぁ、やっぱり混んでるねー。」

琴葉「そうですね。」

環那「手でも繋いどく?」

琴葉「!///」

 

 その言葉に、ドキッとしました

 

 私はもういい大人なのに

 

 こんな、学生みたいな反応をしてしまうなんて

 

 少し恥ずかしいと思いつつ、仕方ないと思ってる自分もいます

 

琴葉「......いいんですか?///」

環那「ダメな理由ある?」

琴葉「その、スキャンダルとか......」

環那「関係ないよ。そんなのいつでも握りつぶせるし。」

 

 さ、さすがに南宮君ですね

 

 私ならこんな簡単に言えません

 

 例え、同じ立場になっても

 

環那「ほら、どうする?」

琴葉「......///」

 

 彼は意地悪そうに左手を差し出してきます

 

 わかってるくせに

 

 すごく手をつなぎたいのに、恥ずかしくて言えないこと

 

琴葉「......ガサガサしてるかもですよ///」

環那「ははっ、可愛い手だよ。」

琴葉「か、揶揄わないでください///」

環那(うん。)

 

 彼はニコッと笑うと、ゆっくり歩きだしました

 

 なんなのでしょうか、この雰囲気は

 

 まるで恋人みたいに甘いです

 

 私たちはそんな関係ではないのに......

____________________

 

 あれからしばらく歩いて、本殿の方に来ました

 

 すごく大きな建物です

 

 別に神社巡りが好きとかそう言うのはないですが、見てみると感動するものですね

 

環那「さーて、お参りでもしますかー。」

琴葉「あなた、神とか信じてるんですか?」

環那「え、煽り倒してやろうかなって。」

琴葉「あなたはもう流石ですね。」

 

 彼には恐れることなんて何もないんでしょう

 

 やはり、私とは作りが違います

 

環那「琴ちゃんはどう?神とか信じてる?」

琴葉「神よりも、あなたを信じています。」

環那「ははっ、気分いいね、それ。」

 

 神が私を助けてくれた試しなんてありませんし、神はいなくても生きていけます

 

 そう言う意味では、私にとっては彼の方が大切で、信じるべきものです

 

環那「じゃ、2人して煽りに行こうか。」

琴葉「はい。」

 

 私たちはそんな会話の後、賽銭箱の前に立ちました

 

 取り合えず、持ってた5円玉を投げ入れて

 

 手を合わせました

 

琴葉(神なんて信じてませんけど、もし、いるとしたら......彼と私を引き離さないでください。彼さえいれば、私は......)

 

 私ってやっぱり重いですよね

 

 薄々感じてはいましたが

 

 人生を生きるのに、南宮君に依存してしまうなんて

 

琴葉(南宮君は......)

環那「いつかぶっ殺してやるよ。」

琴葉「なかなか恐ろしいこと言ってますね。」

環那「冗談だよ。半分は。」

琴葉「半分本気じゃないですか。」

環那「まぁね。(お、ちょっと元気出たかな。)」

 

 彼はやはりハチャメチャです

 

 でも、だから楽しい

 

 彼がいなかったら、今頃、私は......

 

環那「じゃ、なんかお土産でも買って行こうかー。」

琴葉「私、お守りとか見たいです。」

環那「オッケー。」

 

 私たちはすぐ近くにある社務所の方に行きました

 

 本殿が大きいだけあって、社務所も大きいです

 

 それに、お守りの種類も多いです

 

環那「好きなの買ってもいいよ。どれがいい?」

琴葉「そうですね......」

 

 私は並んでるお守りを眺めました

 

 どれもすごく綺麗で、可愛いです

 

 そんな中、一つのお守りが私の目に留まりました

 

琴葉「これ、可愛いです。」

環那「!」

 

 私が手に取ったのは、ピンク色のお守りでした

 

 可愛い狛犬の刺繡がされていて、他にもお花の模様があります

 

 形状も、ふっくらしていて可愛いです

 

環那「んー。」

琴葉「どうですか?」

環那「まぁ、可愛くはあるね。うん。」

琴葉「?」

 

 彼の反応がおかしいです

 

 何か、問題があるのでしょうか

 

 私はそう思って、手に持ってるお守りを見ました

 

琴葉「......あれ?」

 

 ちゃんとお守りを見てみると、そこには「安産守」と書かれていました

 

 つまり、これは、安全祈願のお守りと言う事です

 

 と言うことは......

 

琴葉「~!///」

環那(あー、やっぱり気づいてなかったかー。)

琴葉「す、すみません、他のに__」

「旦那様とご一緒ですか?」

環那「!」

琴葉「!?(だ、旦那様!?///)」

 

 私たちがそんなやり取りをしていると、巫女さんが話しかけてきました

 

 って、今、旦那さまって言われましたよね?

 

 私たち、夫婦に見えてるんですか?

 

 結構、年齢差あるのに

 

琴葉「え、えっと、この人は__」

環那「そうなんですよー。」

琴葉「!?///」

「まぁ、そうなんですね!」

 

 な、何言ってるんですかこの人!?

 

 気でも狂いましたか?

 

 私たちはそんな関係じゃ......

 

「そのお守りは、もしかして?」

環那「ははっ、そこはプライベートな話なので。ただ、あなたは間違っていないとだけ。」

「それはそれは、おめでとうございます!」

環那「ありがとうございます。」

 

 す、すごいです

 

 ここまでの話は全部嘘なのに、彼の心音は変わりません

 

 呼吸をするように嘘をついてます

 

「あっ、あんまり話過ぎても、お邪魔になりますね。」

環那「いえいえ、そんなことないですよ。」

「優しい旦那様ですね。奥様も幸せでしょう。」

琴葉「え、そ、そうですね。」

「ふふっ、お二人が幸せであることを神に祈っておきますね。お幸せに。」

環那「どうもー。」

琴葉「あ、ありがとうございます。」

 

 巫女さんはそう言い、どこかへ歩いていきました

 

 やけにコミュニケーション能力の高い巫女さんでしたね

 

 って、そうじゃなく!

 

琴葉「な、なんですか今の///私たちは///」

環那「まぁ、いいじゃん。」

琴葉「よくないですよ///あなたには......」

環那「別に、あれが嘘とは限らないし。」

琴葉「え......?///」

 

 彼はそう言い、悪戯っぽい笑みを浮かべました

 

 私はその言葉と表情を見て、心臓が飛び跳ねました

 

 こんな風に彼が言うなんて.......

 

環那「どうする?そのお守り、買っとく?」

琴葉「......はい///」

 

 そう頷くと、彼はそのお守りを購入しました

 

 その後、私たちは神社から出て、他の場所の観光に行きました

 

 ですが、あの会話を思い出して、恥ずかしくて

 

 なんだかたどたどしくなってしまって、そのまま時間が過ぎていきました

 

 

 



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欲望

 神社を出て、俺たちはしばらく町を歩いていた

 

 軽く食べ歩きとか、写真を撮ったりとかした

 

 それで、なんだかんだで部屋に入れる時間になって

 

 のんびり歩きながら旅館に戻った

 

環那「__おー、良い部屋だねー。」

琴葉「すごいですね。」

 

 今回泊まる部屋は、思ったよりも広くてきれいだった

 

 部屋の中に露天風呂もあるし

 

 普通の人間じゃ、会計の時に目玉が飛び出すだろうなぁ

 

環那「なんだかんだで、もう夕飯の時間だね。」

琴葉「今日は食べてばっかりですね。体重計の乗るのが怖いです。」

 

 ま、そんなに変わってないと思うけどね

 

 最近はあんまりご飯も喉を通ってなかったし

 

 それを加味しての今日の食事量だ

 

琴葉「少し座りましょうか。疲れました。」

環那「そうだね。」

 

 俺は置いてある座椅子に腰を下ろした

 

 いやぁ、座るとなんか安心するなー

 

琴葉「よっこいしょ......」

環那「隣座るの?対面の方が広いと思うけど。」

琴葉「ここがいいので。」

環那「そう?」

 

 まぁ、少し元気にはなってるけど、依存はどうしようもないよね

 

 それで俺が困ることなんてないんだけど

 

 むしろ、ウェルカムくらいの気持ちはあるんだけど

 

環那、琴葉「......」

 

 和室特有のにおいが鼻孔をくすぐる

 

 ま、和室にいい思い出ないんだけど

 

 雰囲気とか匂いは嫌いじゃないね

 

環那「楽しい?旅行。」

琴葉「楽しいです。あなたと一緒ですから。」

環那「自分で言うのもなんだけど、俺と一緒に旅行して楽しめるのっておかしいと思うよ。」

 

 正直、旅行行くならリサとかの方がいい

 

 俺は自分と旅行なんかしたくないね

 

 絶対に楽しくないもん

 

琴葉「それならそれでもいいです。」

環那「いいんだ。」

琴葉「あなたといて楽しいなら、いいんですよ。」

環那「そっか。」

 

 我ながら愛されてるな

 

 普通なら、俺なんかおすすめしないとか言うんだけど

 

 今は特に言おうと思わないな

 

 それでいいと思ってるから

 

琴葉「あなたはどうですか?いつもと様子、変わりませんけど。」

環那「琴ちゃんが楽しいなら楽しいよ。」

琴葉「私が楽しくなかったらどうするんですか。」

環那「琴ちゃんといるだけで楽しいって言うよ。」

琴葉「そ、そうですか///」

 

 なんか、適当な理由付けな気もするけど、珍しく本音だ

 

 琴ちゃんといると、楽しいしね

 

 だから、ここまで一緒に生活してきたわけだし

 

琴葉「あなたも大概、私のこと好きですよね......///」

環那「え、そうだけど。」

琴葉「!?///」

 

 俺、最近は割と素直だったと思うんだけど

 

 てか、ここまで来て気づいてなかったのか

 

 鈍感な子だな

 

琴葉「.......じ、じゃあ、私と、その......///」

環那「ん?」

琴葉「!」

 

 口ごもってる琴ちゃんに顔を近づける

 

 久しぶりにこんな近くで見るけど、綺麗な目だ

 

 澄んでて、純粋で

 

環那「俺と、どうなりたいの?」

琴葉「~!///」

環那「俺は琴ちゃんが好きだよ。だから、君が欲しい。」

 

 今、この子にキスしたらどうなるのかな

 

 顔真っ赤にして恥ずかしがるかな?

 

 それとも、嬉しそうに笑うのかな?

 

琴葉(み、南宮君が、私を好き!?///ど、どうすれば!///ていうか、顔、近づいてきて__)

 

(コンコン。)

 

環那「!」

琴葉「!?///」

 

 琴ちゃんとの距離がほぼゼロになりかけた瞬間、部屋のドアがノックされた

 

 な、なんて間の悪い

 

 いや、旅館の人は時間守ってるだけだから、何も悪くないんだけど

 

環那「はーい。」

『お夕飯をお持ちいたしました。』

環那「ありがとうございます。どうぞ、お入りください。』

 

 そう言うと、何人かの中居さんが入ってきた

 

 そして、大きい机の上に料理が並べられていく

 

 流石に高級なだけあって、結構な食材が使われていると見受けられる

 

「お飲み物はどうされますか?」

環那「俺は水でいいです。彼女には、お酒を出してあげてください。」

琴葉「いいんですか?」

環那「最近飲んでなかったでしょ?ここなら、いいお酒もありそうだし。」

琴葉「じゃあ......」

 

 琴ちゃんは渡されたメニュー表を見て、いくつかお酒を注文した

 

 ま、今日くらいは好きに飲ませてあげようか

 

 体調崩さない程度にね

 

環那「じゃ、いただこうか。」

琴葉「はい。」

 

 俺は琴ちゃんの体面に移動した

 

 そして、軽く手を合わせて

 

 並べられた夕飯を食べ始めた

__________________

 

 あれから1時間くらい、談笑しつつ夕飯を食べた

 

 琴ちゃんは久しぶりにお酒を飲んで、良い感じに酔ったみたいだ

 

 気持ちよさそうに寝息を立ててる

 

 俺はそんな琴ちゃんをベッドに寝かせて、お風呂に入ることにした

 

環那「はぁ~......」

 

 頭と体を洗って、湯船に浸かった

 

 いつもはシャワー派だけど、こういうのもいいね

 

 露天風呂っていうのも、雰囲気があっていい

 

環那「さて......(結構、順調かな。)」

 

 俺の予定よりも早く、琴ちゃんは回復してる

 

 この調子なら、職場復帰もすぐだろう

 

環那(仕事、か。)

 

 恐らく、俺は琴ちゃんと恋人になるんだろう

 

 そして、多分だけど、結婚もする

 

 年齢のこともあるし、あまり待たせられないし

 

 そうなった時、琴ちゃんはどうなるのか......

 

環那(......琴ちゃんは教師、続けたいだろうな。)

 

 こんなことは容易に想像がつく

 

 きっと、あの子は何が何でも教師でいるだろう

 

 そう言う生命体なんだろうし、それに......

 

環那「教師じゃない琴ちゃんは、なんだか嫌だしね......」

琴葉「__南宮君......」

環那「っ!?」

 

 そんな独り言を呟いてると、背後から声が聞こえた

 

 声の主なんて1人しかいない

 

 だからこそ、余計に驚いた

 

環那(ハプニング......ってわけでもないか。)

琴葉「一緒に入っても、いいですか......?」

環那「いいよ。」

 

 俺がそう言うと、琴ちゃんはゆっくりと湯船に入ってきた

 

 最初から服を着てないってことから、こうするつもりだったのが分かる

 

 何がしたいかは分からないけど

 

環那、琴葉「......」

 

 琴ちゃんが湯に入ってからしばらく、沈黙が流れる

 

 なんて声をかけるべきか分からない

 

 こんな雰囲気の琴ちゃんは初めてだから

 

琴葉「......南宮君。」

環那「どうしたの?」

琴葉「私は、あなたのことが好きです......」

環那「知ってる。」

 

 俺はそう答えた

 

 それに、これに関しては俺も同じだ

 

 俺は......

 

琴葉「あなたも、私のこと、好き......なんですよね......?」

環那「まぁね。」

琴葉「......」

 

 また、黙ってしまう

 

 何がしたいのか、未だに分からない

 

 それくらい、今の琴ちゃんはおかしい

 

琴葉「......私は、誰も愛したくないんです。」

環那「え?」

琴葉「だって、私が愛したら、死んでしまうから......っ」

環那「!」

 

 心臓が、少し痛くなった

 

 そして、やっとすべての意図に気づいた

 

 多分、今、琴ちゃんの中では綱引きが行われているんだろう

 

 愛するか愛しないかの

 

琴葉「お母さんも、お父さんも、みんな、死んじゃいました......っ。わたしがっ、愛したからっ。」

 

 ポタポタと、お湯に涙が落ちていく

 

 何度目だろう、この子の涙を見るのは

 

 胸が締め付けられて、自分にイライラする

 

琴葉「あなたのことは、好きですっ。でも、あなたにいなくなられる、くらいならっ。私は__っ!?」

環那「......」

 

 涙声で喋る琴ちゃんの唇に指を当てた

 

 彼女は驚いたように目を見開いている

 

 完全に勢いだけで動いた

 

 けど、どう動くべきかは、分かってる

 

環那「私はあなたを諦める......とか、そういうの受け付けてないから。」

琴葉「ん......っ。」

 

 そう言って、琴ちゃんの唇を奪う

 

 少しお酒のにおいがする、けど、甘い

 

 あの日と同じだ

 

環那「__2人のことは、決して琴ちゃんのせいじゃない。」

琴葉「でも__」

環那「これからは、俺がそうさせない。」

琴葉「!」

 

 もしかしたら、そう言う呪いめいたものがあるのかもしれない

 

 けど、そんなのは関係ない

 

 俺が全部、壊せばいいだけだ

 

 そのためのこの能力なんだから

 

環那「好きだよ、琴ちゃん。」

琴葉「......わた、しも......」

 

 か細い声で、琴ちゃんは話している

 

 まだ、不安なんだろう

 

 でも、ここで手は貸せない

 

 この子が自分の力で進まないといけないからだ

 

琴葉「私も、大好きですっ。南宮君が......っ!」

環那「そっか。よかった。」

琴葉「んっ......っ///」

 

 そうして、俺はまた、琴ちゃんにキスをした

 

 それは、さっきよりも深く、少し乱暴で

 

 俺の欲望がそのまま表れたようだった

 

 

 



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しばしの別れ

 一連のことを終えて、俺と琴ちゃんは湯船に浸かってる

 

 さっきとは違って、彼女はリラックスしていて

 

 俺の脚と脚の間にすっぽり収まってる

 

琴葉「私、教師を続けてもいいのでしょうか......」

環那「ん?」

 

 琴ちゃんはそんなことを言い出した

 

 なんか、訳アリっぽいな

 

 取り合えず、話を聞こう

 

琴葉「私は、教師と言う仕事が好きですし、誇りも持ってます。ですが、それでも、教師であるより、あなたと一緒にいられることの方が、幸せだと感じてしまうんです.....」

 

 そんな私が教師でいてもいいのか

 

 そう言わんばかりの声音だ

 

 正直、嬉しい気持ちはあるね

 

 でも......

 

環那「やめたいならやめてもいいけど、好きなら続けた方がいい。」

琴葉「!」

環那「後悔する琴ちゃん、見たくないからさ。」

 

 そう言って、軽く頭を撫でた

 

 きっと、教師としてのこの子の幸せは、俺では与えられない

 

 まっ、俺はそれ以上に幸せにするけどね

 

環那「でも、産休はちゃんと取ってよ。心配だから。」

琴葉「分かってます......///」

 

 後ろから、琴ちゃんを抱きしめる

 

 触れてると、幸せを感じる

 

 好きな子と触れ合うのって、こういうものなんだ

 

環那「愛してるよ。」

琴葉「私も、愛しています///」

 

 そう言葉を交わし、キスをした

 

 少しだけ長めの、優しいキスだった

 

 穏やかで、幸せな時間

 

 俺がこの子を幸せにするんだって、そう思った

__________________

 

 “琴葉”

 

 彼と一緒になって、1ヶ月ほどでしょうか

 

 私たちは平和に暮らしています

 

 彼はますます会社の改革を進め、短期間で社内環境を改善

 

 利益も前年の倍以上になり、いきなり伝説になると言われています

 

 私の方は、職場復帰をして、生徒たちの受験を手助けをしています

 

琴葉「それでは、この大学で決定と言うことでよろしいですね?」

「はい!」

琴葉「そうですか。おめでとうございます。大学でも、頑張ってください。」

「ありがとうございます!さようなら!」

琴葉「はい。さようなら。」

 

 今は、合格した子と最終確認をしていました

 

 この学校の生徒たちは優秀なので、そこまで長引くことはありません

 

琴葉(やはり、いいものです。)

 

 喜んでる生徒たちを見るのは、この職業一番の喜びです

 

 いなくなってしまうのは、少し寂しいですが

 

 それでも、喜びの方が大きいです

 

環那「__やっほー。」

琴葉「南宮君?」

環那「今、空いてる?」

 

 1人で感傷に浸っていると、ドアを開け、彼が入ってきました

 

 似合わない制服に身を包んで、いつも通り軽い雰囲気で

 

 私の方に歩いてきます

 

琴葉「珍しいですね。放課後に学校にいるなんて。」

環那「暇だったし、進路のことでも喋ろうかなって。」

琴葉「?」

 

 彼はそう言って、ふぅと息をつきました

 

 そして、真剣な表情になりました

 

環那「実は、新事業を海外の企業としようってなったんだ。」

琴葉「え?」

 

 私は一瞬、呆気にとられました

 

 彼の会社はこの間まで、ブラック気質が酷くて、状態は悪かったのに

 

 なんでいきなり、そんなことに?

 

環那「それで、向こうで俺が行かないといけなくなった。」

琴葉「それは、どのくらいの期間なんですか?」

環那「まぁ、3、4年くらいになると思う。」

 

 3、4年......

 

 感覚としてはさして長くもない時間

 

 ですが、彼と会えないとなると、話が変わります......

 

琴葉(私は......)

環那「取引相手が、折角だから海外の大学はどうだとも言ってたから、向こうの大学に通うことになると思う。」

琴葉「そう、なんですか......」

 

 話が入ってきません

 

 彼がしばらく日本にいなくなる事実が胸を締め付けてきます

 

 私は、どうすれば......

 

環那「はい、聞いて。」

琴葉「っ!」

環那「もー、泣かないでよ。」

 

 彼はパンっと手を叩き、笑みを浮かべました

 

 いっぱいいっぱいで気づいてなかったですが

 

 いつの間にか、泣いてたみたいです

 

環那「別に、ずっと向こうにいるわけじゃないから、たまには帰って来るよ。」

琴葉「でも、今よりも一緒にいられないじゃないですか......

環那「まぁ、そうだよね。だから、俺も準備してきたわけだし。」

琴葉「?」

 

 彼は鞄を開けて、中から何かを取り出しました

 

 小さな箱です

 

 あれって......

 

環那「結婚しよう。」

琴葉「......!」

環那「俺はどこにいても、君を愛してるよ。」

琴葉「///」

 

 この1年、彼と一緒にいたからこそわかる、心からの言葉です

 

 これは、本気のプロポーズです

 

琴葉「はい......///」

 

 上手く思考が出来ない中、私は辛うじてそう答えました

 

 嬉しい、幸せ

 

 そんな言葉が頭の中に浮かんできます

 

環那「よかった。結婚式は大分先になっちゃうけど、待っててね。」

琴葉「はい///何年でも、待ちます///」

環那「じゃあ、ちゃんと卒業してから、婚姻届けだそうね。」

琴葉「はい///」

 

 私は彼の言葉に何度も頷きました

 

 もう、今の私には思考する余裕がなくて

 

 彼に指輪をはめられる間は、一瞬たりとも動けないまま、されるがままになっていました

__________________

 

 “環那”

 

 風が冷たい季節が過ぎ、暖かい風が吹くようになった

 

 俺に関わってた皆は、大学に言ったり進級したりして、頑張ってるらしい

 

 自分で言うのもなんだけど、結構、人の人生引っ搔き回したからね

 

 いい方向に進んでるようで、安心した

 

環那「__さてと。」

 

 空港に来て、去年の出来事に思いをはせていた

 

 恐らく、あの1年は俺にとって、最も大切になるだろう

 

 そう思うくらいには、色々と変わった

 

リサ「なーに黄昏てんのー?それとも、日本離れるの寂しくなった?」

環那「別にそうでもないよ。今生の別れでもないし。」

友希那「相変わらずね。」

燐子「環那君はそういう人だもんね。」

紗夜「もう少し、人情的なものがあってもいいと思うんですけど。」

あこ「ムリじゃないですかねー。」

イヴ「まるで人の心がないです!」

環那「それは褒めてる?」

 

 人の心の有無は正直懐疑的だけど

 

 まぁ、昔よりはマシでしょ

 

エマ「私も、行きたかった......」

環那「すまないね。でも、エマには期待してるよ。日本で一番の医者になるんだよ。」

エマ「うん......」

 

 俺はエマの頭を撫でた

 

 寂しがってくれる家族っていうのも悪くない

 

 昔の俺じゃ、考えられなかったな

 

リサ「環那と話さなくていいんですかー?浪平先生ー?」

琴葉「わ、分かってます。こ、心の準備だけ__」

環那「ふぅ。」

琴葉「__ひょわああああ!///」

 

 俺は深呼吸をしてる琴ちゃんの後ろに忍び寄って

 

 耳に軽く息を吹きかけた

 

 すごい声が出て、面白かった

 

琴葉「な、何するんですか!///」

環那「いや、つい。」

琴葉「ついってなんですか!///」

 

 相変わらず、この子は面白い

 

 この数か月間、結婚生活を送って、すごく楽しかった

 

 幸せと言うのをよく噛み締められたと思う

 

琴葉「私のこと、叩けば鳴るおもちゃと思ってますよね......///」

環那「思ってない思ってない。」

琴葉「なんだかてきとうです!///」

 

 ちゃんと真面目に言ってるけど

 

 まぁ、よく鳴くとは思ってるんだけど

 

 夜の声、大きいし

 

環那「まぁ、そろそろ搭乗時間だし、ちゃんと話そうか。」

琴葉「!」

 

 俺は少し、真面目な顔をした

 

 一応、愛しの奥様としばしの別れだしね

 

 それらしいことはしておかないと

 

環那「ちゃんと落ち着いたら、結婚式挙げようね。篤臣さんに、ウェディングドレス、見せてあげたいし。」

琴葉「......はい///」

 

 琴ちゃんはコクンと頷いた

 

 正直、楽しみだ

 

 この子のドレス姿を見られるのが

 

 絶対に可愛いからね

 

環那「琴ちゃんは何か言いたいことある?」

琴葉「えっと......///」

 

 琴ちゃんは少しだけモジモジして

 

 少しして、意を決したように口を開いた

 

琴葉「ちゃんと、毎日、連絡してくださいね......///」

環那「うん、分かった。」

琴葉「ビデオ通話ですからね......///」

環那「分かってる分かってる。」

琴葉「それと、浮気は絶対にしないでくださいね......///どんなの美人な人がいても......///」

環那「するわけないじゃん。」

琴葉「帰ってきたら、うんと甘やかしてくださいね......?///」

環那「分かった。」

 

 ほんとに可愛い子だ

 

 このくらいの要求、余裕で叶えられる

 

 てか、浮気とか考えたこともなかった

 

琴葉「私からは以上です......///」

環那「随分と可愛らしい要求だったね。」

琴葉「ひゃ!?///」

 

 俺はそう言って、琴ちゃんを抱き寄せた

 

 寂しいというか、惜しいな

 

 日本でやるべきことがなかったら連れて行ってる

 

 そう言うわけにもいかないから、しばしの別れなんだけど

 

環那「愛してるよ、琴葉。」

琴葉「んっ///」

 

周り「!?」

 

 

 搭乗時間間近、俺は琴ちゃんにキスをした

 

 いつも通りの優しいキス

 

 琴ちゃんは最初こそ驚いてたけど、すぐに受け入れて

 

 なんなら、俺の頭に手を回してた

 

 それもまた、可愛いと思った

 

環那「じゃあ、行ってくる。」

琴葉「はい!///帰りを待ってますよ、あなた!///」

 

 そんな会話を交わし、俺はゲートの方に歩いた

 

 後ろで、バタバタと動いてる気配がある

 

 琴ちゃんが両腕を振ってるんだろうって、予想がつく

 

環那「じゃあ、またねー。ちょっくら世界変えてくるー。」

Roselia、イヴ(そんな軽いノリで言う事じゃない......)

エマ「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」

 

 軽く手を振りながら、俺は歩みを進めた

 

 さてと、俺の人生で5番目くらいに難しい仕事をしに行くか

 

 日本に帰ってきたら、1番難しい、琴ちゃんを幸せにするって言う仕事が始まるんだ

 

 今回の案件くらい楽勝でこなさないと、示しがつかないや

 

 

 



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3年後

 日差しが昇る空をかける飛行機

 

 ファーストクラスを取ったから、結構快適で

 

 周りはみんな寝てるのか、すごく静かだ

 

環那(やーっと、帰ってこれた。)

 

 俺はそんな中、そんなことを考えていた

 

 なんだかんだで、仕事も大学も3年で片付いた

 

 これで、安心して日本で暮らせる

 

環那(琴ちゃん、元気かな。まぁ、昨日の電話の時も元気そうだったけど。)

 

 あの子、ほんとに3年間毎日、俺に連絡をしてきた

 

 偶に高校時代の友達とかいたけど

 

 結構、楽しかったな

 

『__みなさま、ただいま、成田空港に着陸いたしました。これよりスポットへと移動いたします。飛行機が安全に停止するまで、どうぞお席にお座りのままお待ちください。』

環那(やっとついたか。)

『本日の日本は小春日和のあたたかで穏やかな1日を迎えております。これも、世界に誇る、日本の天才をお迎えする日だからかもしれません。』

 

 アナウンスはそう言って、事務的な放送を流していく

 

 てか、絶対にあれ、俺のことなんだよね

 

 変に向こうで有名になっちゃったから......

 

 俺、お忍びで帰ってきてるんだけど

 

環那(余計なことを......)

 

 俺は大きなため息をつきながら、飛行機が停止するのを待った

 

 取り合えず、今日は琴ちゃん仕事だろうし

 

 学校に会いに行くか

__________________

 

 “琴葉”

 

 彼が海を渡ってから、3年の月日が流れました

 

 私は現在29歳、今年で30歳になります

 

 ですが、今は年齢で悲観的になることはありません

 

 だって、私には世界一の旦那様がいるんですから

 

琴葉(彼は、私が思った以上にすごいことをしましたね。)

 

 彼の活躍は日本にも、と言うより、世界的に取り上げられました

 

 この3年間で、彼はいくつもの紛争を終戦させ、貧困地域の支援

 

 彼の会社自体も海外進出が成功し、今や世界トップクラスの企業になって

 

 それに加えて、世界最高峰の大学を過去最高成績で卒業したんですから

 

 正直、異次元過ぎてよくわかりません

 

琴葉「はぁ......」

 

 私の旦那様、すごすぎませんか?

 

 毎日、ビデオ通話で話してたんですけど

 

 なんだか段々かっこよくなっていったんですよね

 

琴葉(早く、帰ってきませんかね。)

エマ「琴葉、おはよう。」

琴葉「あ、おはようございます!」

 

 すごいと言えば、エマちゃんもです!

 

 エマちゃんも東大の理科Ⅲ類に合格して、今は医学部に所属しています

 

 正直、共通テストも第2次学力試験も満点で突破していて、顎が外れそうになりましたが

 

 まぁ、彼の妹なので仕方ないですね

 

琴葉「今日も実習ですか?」

エマ「うん。」

琴葉「頑張ってますね。あの人も喜んでますよ。」

エマ「それなら、嬉しい。」

 

 エマちゃんもここ数年ですごく成長しました

 

 身長が伸びて、顔も大人びて、スタイルも良くて......

 

 一度テレビで医学会の女神と紹介されていました

 

 本人は全く興味なさげでしたが

 

エマ「私はもう少しゆっくりできるし、琴葉はもう仕事でしょ?」

琴葉「はい!そろそろ出ますよ!」

エマ「じゃあ、ある程度の家事は私がしておくよ。」

琴葉「ありがとうございます!」

 

 私はエマちゃんにお礼を言ってから、家を出ました

 

 今日はなんだか、すごく天気がいいです

 

 何かいいことでもありそうですね

__________________

 

 学校に来て最初に仕事は、生徒の皆さんへの挨拶です

 

 校門の前に立って、新入生の皆さんを迎えています

 

 この時間は何度やっても楽しいです

 

 今年も個性豊かな生徒が集まってますし

 

琴葉(まぁ、彼がいた時ほどではないですけど。)

 

 あの代は歴代でもダントツで印象に残っています

 

 ていうか、主にあの兄妹2人に生徒会長の氷川さんなんですけど

 

 今思えば、滅茶苦茶してましたね

 

琴葉(今年は1年生の担任ですし、頑張らないとですね!)

「__うわっ、懐かしー。全然変わんないじゃん。この校舎。」

琴葉「え?」

 

 心中で意気込んでいると、声が聞こえました

 

 聞いただけで胸が高鳴って、幸せで、心の底から待ちわびた

 

 どこか緩さを感じる、男性の声......

 

琴葉(もしかして__)

環那「やっほー。」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、こちらへ近づいてきます

 

 私はそれを見て、一目差に駆け出して

 

 そのままの勢いで、彼に抱き着きました

 

環那「おっと。」

琴葉「あなた!///おかえりなさい!///」

環那「うん、ただいま。相変わらず、可愛いね。琴葉。」

 

 そう言って、彼は私を抱きしめてくれました

 

 幸福感で、頭がおかしくなりそうです

 

琴葉「い、いつ帰ってきたんですか?」

環那「さっき。空港から直接来たんだ。」

琴葉「そうなんですね!」

 

 生身に彼と会うのが久しぶりで、何から話していいか分かりません

 

 いや、何かを話す必要もないです

 

 ただ、一緒にいられれば

 

「おい、あれって南宮環那じゃない?」

「え?マジじゃん!?」

「テレビで出てた、あの!?」

「ていうか、あの2人ってどういう関係!?」

「いや、南宮って名字同じだから......まさか!」

 

 周りから、色んな声が聞こえてきます

 

 そう言えば、彼のこと、全然話してなかったですね

 

 名字は変えてましたけど、特に突っ込まれなかったですし

 

環那「あれ?もしかして俺、有名人?」

琴葉「そうですよ。今や、日本が誇る天才として、世界中で有名ですよ。」

環那「そう言う事になってるんだ。まぁ、いいや。」

周り(軽っ!!!)

 

 彼と抱き合ったまま会話を繰り広げ

 

 周りの生徒は全員、足を止めてこちらを見ています

 

 そう言えば、ここが学校の前だと忘れていました

 

 つい、嬉しくなって......

 

琴葉「い、一旦、離れましょうか......///」

環那「そう?別にこのままでもいいんだけど。」

琴葉「一応、仕事中なので......///」

環那(琴ちゃんから来たのに。)

 

 私は一度、彼から離れました

 

 私は大人なんですから

 

 家に帰ってから、思う存分甘えましょう(大人?)

 

琴葉「こ、コホン///それで、どうしますか?///久しぶりに学校、見ていきますか?///」

環那「そうしようかな。琴ちゃんと一緒に帰りたいし。」

琴葉「じ、じゃあ、ついてきてください///」

環那「はーい。(顔真っ赤じゃん。)」

 

 私は彼を連れて、学校の中に入りました

 

 久しぶりに彼を見た理事長と校長は、まるでトラウマの対象でも見たかのような顔をしていましたが

 

 快く(?)校内の見学を許してくれました

__________________

 

 “環那”

 

 久しぶりに羽丘に来たけど、結構懐かしく感じる

 

 時間にしてみれば1年もいなかったんだけど、今思ってもすごく濃い1年だったからね

 

 向こうにいた3年間と比にならないくらい

 

琴葉「__それでは、全員出席していますね!それでは、私から自己紹介の方を!」

 

 俺は今、新1年生の教室にいる

 

 久しぶりに教師をしてる琴ちゃんを見た

 

 3年前から変わらず、良い顔をしていて、続けてもらえてよかったって思う

 

琴葉「このクラスの担任になりました!南宮琴葉です!皆さん、よろしくお願いします!」

環那「ふふっ。」

 

 多分、婚姻届け出してからずっとこう名乗ってるんだろうなー

 

 なんだか、慣れみたいなものを感じるもん

 

「えっと、南宮ってことは......」

琴葉「はい!後ろにいるのは、この学校の卒業生で、私の旦那様です!」

(ま、マジか......)

(あの南宮環那と結婚って、どんなことしたら出来るんだろう.......?)

(先生、美人だもんねー。)

 

 生徒全員が俺と琴ちゃんを交互に見てる

 

 まぁ、俺って今、有名人らしいし

 

 そう言う事もあるんだろうね

 

琴葉「折角ですし、あの人に何か質問してみたい人いますか?一応、うちの学校のレジェンド卒業生ですけど。」

クラス『はい!』

琴葉、環那「多い。」

 

 てか、クラス全員、手挙がってるじゃん

 

 積極的でいいね

 

 高校生はこうでなくちゃ

 

琴葉「それでは、こっちに来て、色々応えてあげてください。」

環那「はいはい。」

 

 俺はそう言いながら、琴ちゃんのいる教卓の方に歩いた

 

 それで、質問に答えていったんだけど

 

 俺の海外での話とか、留学先の過ごし方とか、年収とか、琴ちゃんの好きな所とか

 

 いろんなことを聞いてくれて、結構楽しい時間を過ごした

 

 

 

 



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最終回:出来ること

 どうやら、俺は相当な有名人になってたらしい

 

 短い時間だったけど、日本の学生と交流してみて、結構楽しかった

 

 怖がられるんじゃなくて、尊敬されるっていうのは、気分が良いね

 

環那「いやー、良いクラスだったねー。」

琴葉「そうですね!」

 

 それで今は、午前中授業を終えた、琴ちゃんと帰ってる

 

 授業の準備とかもなかったみたいだし、校長とかにお話しして、帰らせてもらった

 

 すごい怖がってたけど、なんでだろうね?(すっとぼけ)

 

環那「今年1年も楽しくやっていけそうじゃん。」

琴葉「そうですね!折角なので、楽しい思い出をたくさん作ってほしいです!勉強も頑張ってほしいですけど!」

環那「まぁ、人によるんじゃない?俺みたいに何もしない子もいるし、何かする子もいるよ。」

琴葉「あなたは参考になりません。」

 

 と、手厳しいお言葉をいただいてしまった

 

 琴ちゃんは今日もキレがいいね

 

 なんだか安心するよ

 

琴葉「ですが、今日はあなたがいてよかったかもしれません。」

環那「なんで?」

琴葉「だって、クラスの皆さん、目が輝いてましたから!あなたの海外の大学のお話とか、すごく興味津々でしたよ!」

環那「まぁ、憧れる子はいるかもね。すべてが日本の大学よりもいいとは言わないけど、結構いいところだったから。」

 

 将来的に、向こうの大学を志望する子が増えたりとかするのかな

 

 今でもいないわけではないんだけど

 

 やっぱり、まだまだ少ないからね

 

 なんてことを考えつつ、携帯を確認した

 

環那「さて、そろそろかな。」

琴葉「?」

 

リサ「__環那ー!」

 

琴葉「!」

環那「あ、来た。」

 

 俺はそう言って、携帯をポケットに入れ、軽く手を振った

 

 その先には、Roseliaの皆とイヴちゃんがいる

 

 一応、リサには帰国の連絡をしておいたんだ

 

 琴ちゃんにはサプライズの為に何も言わずに来ただけ

 

環那「おひさー。」

リサ「久しぶり!」

燐子「おかえり......!」

イヴ「お久しぶりです!」

 

 まずは、この3人が駆け寄ってきた

 

 皆、なんだか大人になったなー

 

 なんとなく、雰囲気が違う

 

友希那「本当に、とんでもないことをしたわね。」

紗夜「驚きましたよ。」

あこ「すごいですよねー!」

環那「あはは、そう?」

 

 まぁ、世界は少しくらい変わったかな

 

 まだまだ全然なんだけどね

 

環那「じゃあ、ちょうどよくみんな集まったし、家行こうかー。」

琴葉「久しぶりに会いますし、一緒にお食事でも!」

リサ「さんせーい!」

 

 そうして、皆で家に向かった

 

 久しぶりに、俺も何か作ろうかな

__________________

 

 “琴葉”

 

 そうして、家に帰ってきました

 

 久しぶりにみんなで集まりますね

 

 部屋が狭い感じ、懐かしいです

 

琴葉「さぁ!乾杯しましょう!」

リサ「環那の帰国を祝して、かんぱーい!」

 

 私たちは即席で料理を作って、宴会を始めました

 

 一部の子たちは未成年ですか

 

 概ね成人済みです

 

リサ「いやー!環那とお酒飲むの楽しみにしてたんだよねー!」

友希那「そうね。」

環那「まぁ、昔から一緒にいるしねー。」

 

 あの3人は幼馴染でしたね

 

 長い間一緒にいた人たちです

 

 お酒が飲める年になった感動もあるでしょう

 

環那「ていうか、皆はここ3年何してたの?俺、これ聞くのを楽しみにしてたんだけど。」

友希那「皆、大学に通っているわよ。それに.....,」

環那「?」

リサ「なんと、Roselia!」

あこ「メジャーデビューしちゃいましたー!」

環那「マジで!?」

 

 彼は驚きの声を上げました

 

 彼女たちがデビューしたのはここ数年の話

 

 驚くのも無理はないでしょう

 

あこ「ほら!ライブの写真もあるよ!」

環那「ほんとだ。いやー、すごいなぁ。」

紗夜「あなたほどではないですけど。」

環那「いやいや、そんなことないよ。」

 

 彼は首を振りながらそう言いました

 

 謙遜って訳でもなさそうですね

 

環那「小さい頃から友希那が歌ってるのを見てたし、Roseliaの努力も知ってる。それに比べれば、俺のしたことなんて、ただのノリと勢いでしかないから。」

Roselia(そっちの方がすごいんじゃ......?)

環那「ライブ行きたいなー。チケット頑張って取るよ。」

紗夜「いや、あなたは招待すれば通るでしょう。」

 

 それはそうです

 

 今の彼は超有名人ですから

 

 いろんな観点で見ても、拒否されることはないでしょう

 

環那「そうなの?じゃあ、直々い事務所にお願いしようかな。」

リサ「うーん、社長の目玉が飛び出そう。」

イヴ「カンナさん!私のお話も聞いてください!」

 

 そう言って、若宮さんが手を挙げました

 

 そして、すぐに話し始めました

 

環那「イヴちゃんは、どうしてるの?」

イヴ「はい!私たちパスパレも、成長しました!去年に海外ツアーにも行きました!」

環那「おぉ、流石。」

イヴ「カンナさんの会社のCMに起用してもらって、話題性抜群でした!」

環那「それはよかった。またお願いしようかな。」

 

 あのCMはよかったですねー

 

 美容器具のもので

 

 若宮さんがすごく綺麗でした

 

環那「あれ、そう言えば、エマは?」

琴葉「エマちゃんは大学に__」

(バンっ!!!)

環那、琴葉「!」

 

エマ「__お兄ちゃん!」

 

 噂をすれば何とやら......

 

 勢いよく家の扉が開いて、エマちゃんが帰ってきました

 

 なんでいるの分かるんでしょうか?

 

環那「ただいま、エマ。」

エマ「お兄ちゃん!お兄ちゃん!///」

環那「あはは、くすぐったいよ。」

 

 エマちゃんは頭をグリグリとこすりつけています

 

 なんていうか、外見はモデルみたいなのに、彼の前では少女なんですね

 

 可愛いです

 

環那「大学は終わったの?」

エマ「うん!///お兄ちゃんが帰って来たってニュースになってたから、急いで帰ってきた!///」

環那「そっか。」

ノア「邪魔するぞ。」

環那「あら。」

 

 エマちゃんの後に入ってきたのは、ノアさんです

 

 湊さん達と交流があったから顔見知りです

 

環那「あらあらあら、ノア君じゃんー。」

ノア「キモイ。」

環那「ひどい。」

 

 珍しい彼の男友達です

 

 少しうれしそうに見えます

 

 仲がよさそうには見えませんが

 

環那「ノア君が送ってきてくれたんだ。」

ノア「いや、俺は偶然そこであっただけだ。」

環那「え?じゃあ、なんでここに?」

ノア「恋人に呼ばれてきた。」

環那「恋人?」

 

 あ、そうでした

 

 彼にはまだ言ってなかったんでしたね

 

 ノアさんは......

 

友希那「ノアは私の婚約者よ。」

環那「なんだって!?」

紗夜(珍しい。)

あこ(こんな顔するんだ。)

 

 彼は目に見えて驚いています

 

 恐らく、いつかはこうなるとは思ってたんでしょうけど

 

 いざ現実になると驚いてしまうんでしょう

 

環那「いやー、日本から離れてる間に色々進んだんだね。驚いたよ。」

ノア「ふん。貴様の思惑に乗ってやったまでだ。」

友希那「そうなの......?」

ノア「......いや。」

 

 湊さんは一瞬、悲しそうな顔をしました

 

 ですが、すぐにノアさんが訂正すると、笑顔になり巻いた

 

 湊さん、よく感情が出るようになりましたね

 

環那「ちなみに、他の皆は彼氏とかは__」

リサ、燐子、イヴ「いない(です)。」

紗夜「私も特に。」

あこ「あこもー。」

エマ「お兄ちゃん以外に興味はない。」

環那「そ、そう。」

 

 彼は気まずそうに目を逸らしました

 

 認められてるとはいえ、あの3人は特別でしたから

 

 思う所があるのでしょう

 

リサ「ていうか、作ろうと思えないよねー。」

燐子「ですね......なんだか、どの人も何かが足りないというか......」

イヴ「理想が高くなってますね......」

 

環那(スゥー)

琴葉「変な呼吸してますよ。」

 

 すごい冷や汗ですね

 

 彼の数少ない弱点なんじゃないですか?

 

リサ「環那ー?どうしたのー?」

環那「い、いや?なんでも?」

燐子「汗、すごいよ?」

イヴ「体調不良ですか?」

環那「だ、大丈夫大丈夫。」

 

紗夜(そろそろやめてあげればいいのに。)

あこ(まぁ、一切彼氏できてないのはほんとなんだよねー。)

友希那(言い寄られても断っているし。)

ノア(あいつ、大変だな。)

エマ(久しぶりにお兄ちゃんコレクション。)

 

 恐ろしいコンビネーションですね

 

 彼があそこまで追いつめられるなんて

 

 こんな姿、そうそう見られませんよ

 

環那「お、俺のことは気にしないで、どうぞお飲みくださいあそばせ。」

燐子「日本語おかしくなってるよ?」

 

 彼は今井さんと白金さんのグラスにお酒を注いでいます

 

 すごい動きですね

 

 お酌するのに一切の無駄な動きがないです

 

琴葉「ほら、あなたも食べてください。私もちゃんと特訓したんですから。」

環那「う、うん、いただくよ。」

 

 そう言って、私は彼の前に料理を置きました

 

 場もなんだかんだで盛り上がってきましたし

 

 楽しく食べて飲みましょう

__________________

 

 “環那”

 

 あれから3時間くらい経った

 

 最初の方は普通に胃袋がいかれそうだったけど

 

 まぁ、なんとか乗り切れましたとさ

 

環那「ふぅ......」

 

 飲み会もほどほどに落ち着いて、俺は一息ついた

 

 その隣には、もちろん琴ちゃんがいる

 

琴葉「楽しそうでしたね。」

環那「まぁね。」

 

 俺はそう言って、軽くお酒を飲んだ

 

 これは未だに得意じゃない

 

 前ほどじゃないけどね

 

環那「みんなで集まれるって、すごい楽しい。」

琴葉「それはよかったです。」

環那「それに、皆いるとちょうどいい。」

琴葉「?」

 

 まぁ、こんな風に集まることもないし

 

 それに、早く行っておきたいメンバーだし

 

 ちょうどいいかな

 

環那「ねぇねぇ、みんなー。」

 

 そう言うと、みんな、こっちに目を向けた

 

 それを確認して、俺は話し始めた

 

リサ「どうしたのー?」

環那「日本に帰ってまだ1日経ってないけど、やること言っとかないと思ってさ。」

友希那「?」

 

 皆、首をかしげてる

 

 まぁ、分からないよね

 

環那「俺、琴ちゃんと結婚式挙げるからさ、その時は来てねー。」

琴葉「!///」

あこ「おー!」

燐子「それは、行きたい......!」

イヴ「ぜひ!」

 

 みんな、すごい乗り気だ

 

 それを見てから隣を見ると、琴ちゃんは顔を真っ赤にしていた

 

琴葉「け、結婚式、そうですよね......///するって言ってましたもんね......///」

環那「楽しみだね。琴ちゃんのウェディングドレス姿。」

琴葉「か、からかわないでください///」

環那「からかってないよ。ちゃんと本気。」

琴葉「余計にタチ悪いです///」

 

 きっと、綺麗だろうな

 

 いくつになっても、この子は可愛いんだから

 

 出来るだけ早く見たい

 

環那「これからは、ずっと一緒にいるよ。愛してる、琴葉。」

琴葉「はい///私も、あなたを愛しています......///」

 

リサ、あこ「ふぅ~♪」

紗夜「なんだか暑いですね。」

燐子「仲がよさそうでいいね。」

イヴ「そうですね!」

友希那「私たちも......///」

ノア「せめて大学卒業までまて。」

エマ「2人は、必ず幸せになれる。私がそうするから。」

 

 幸せだよ

 

 可愛い奥さんがいて、一緒に騒げる友達がいる

 

 今までの人生、何回もそういう人間と離れ離れになってきた

 

 けど、これからは違う

 

 この幸せな日常を全部、守りたい

 

 周りだけじゃなく、自分もその輪の中にいるまま

 

 きっと、今の俺には、それが出来るから

 

 

 



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イヴルート
不純


 俺は自由になった

 

 幼い頃に立てた誓いは果たした

 

 だが、自由って言うのは意外と不自由だ

 

 ある程度やることがある方が、生きやすいことを初めて知った

 

 そう言う意味では、俺は恵まれてたのかな

 

環那(......退屈だ。)

 

 この感情に名前を付けるなら、これだろう

 

 退屈って、絶望的だ

 

 俺にとっては、自身の存在意義を失ってる状態で

 

 また、それを構築する必要があるんだから

 

環那(さて、と......)

 

 俺は橋の真ん中くらいで足を止め、高欄に腕をついて、缶コーヒーを置いた

 

 夜だから、色んな光が反射してる

 

 きっとこの中のいくつかは、残業してる社会人のものだろう

 

環那(いいな、やることあるって。)

 

 きっと、本人に言ったらブチギレる

 

 けど、今の俺は本気で羨ましいんだ

 

 忙しいのって、退屈よりは楽なんだから

 

環那「......まっず。」

 

 コーヒーを飲んで、そう呟いた

 

 これ、ブラックじゃん

 

 俺、甘党なのにさ

 

環那「はぁ......」

 

 歩くべき道がない

 

 まるで真っ暗な道を歩いてるみたいだ

 

 一歩間違えれば落ちてしまいそうな恐怖心がある

 

 久しぶりだな、恐怖__

 

イヴ「__カンナさん!」

環那「!」

 

 夜空の月から降り注ぐ、冷たいようで暖かい光

 

 ホッと安心してしまうような

 

 そんな光が、俺の心に差し込んだ気がした

 

環那「なんで、ここに?」

イヴ「リサさんから連絡があって、皆で探し回っていたんです!」

環那「そっか。それは、悪いね。」

イヴ「いえ、無事でよかったです......」

 

 イヴちゃんは安心したようにそう言った

 

 この子は優しい子だ

 

 いや、優しくない子、俺の周りにいないか

 

イヴ「よかったです......!」

環那「!」

 

 イヴちゃんはそう言って、俺に抱き着いた

 

 冷えた体に、この暖かさは沁みる

 

環那「悪いね。少し、頭を整理しようと思って。」

イヴ「そうだと思います。きっと、今までの人生を捧げていた人が巣立っていったんです。そう言う時間だって、必要だと思います。」

 

 イヴちゃんはいい子だ

 

 相手を理解しようとする姿勢がある

 

 相手の立場になって物事を考えられる、優しい子だと思う

 

イヴ「でも、私、思う所もあります。」

環那「?」

イヴ「私は、ユキナさんを少し良く思えません......」

環那「!」

 

 イヴちゃんは少し苦しそうな表情でそう言った

 

 かなり驚いた

 

 あの優しいイヴちゃんが、こんなことを言うなんて

 

イヴ「ユキナさんがいなければ、カンナさんは生きていなかったかもしれません......でも、それでも、カンナさんにあんなに尽くされて、他の人と幸せになるなんて......私は許せません。」

環那「......(正直な子だ。)」

イヴ「義手があるとはいえ、腕を失って、片目も見えなくなって、それでも、頑張って、きたのに......っ、その結果が、これなんて......あまりにもカンナさんが不憫です.......!」

 

 ほんとに、優しい子だ

 

 多分、俺より俺の感情を正しく受け止めてる

 

 俺が俺じゃなければ、こう思ってたのかもしれない

 

 けど......

 

環那「俺はね、この結果には概ね満足してるよ。」

イヴ「え......?」

環那「友希那と出会った時から幾度もシミュレーションをして、その中には俺と友希那が結ばれるというものもあった。」

イヴ「その、結果は......?」

環那「俺が友希那を幸せに出来ることはなかった。」

イヴ「っ!」

 

 俺のシミュレーションの精度はほぼ完璧だ

 

 それで、何度も何度も人生を生きた

 

 けど、友希那と結ばれて幸せに出来たことはなかった

 

 その理由は単純で、残酷な真実......

 

環那「幼馴染ではそうでなくても、恋人としては、気が合わなかったんだ。だから、俺じゃ、幸せに出来なかった。少し、悔しかったよ。」

イヴ「そんな.....ことが......」

環那「だから、あの子が現れてくれて、嬉しかった。友希那のパートナーとして、高い適正を持ってたから。」

イヴ「......!」

 

 だからこそ、友好的に接した

 

 正直、この結果はまぐれだし、シミュレーション外の出来事だ

 

 けど、望んだ結果には辿り着けた

 

 あの子なら、きっと、友希那を幸せにしてくれる

 

環那「予定通りなんだよ。」

イヴ「でも、それじゃ、カンナさんは......」

環那「それに、俺にはイヴちゃん達がいた。これが、今までのシミュレーションでも無かった、想定外だ。」

イヴ「え?」

環那「君たちがいなければ、イヴちゃんが言うようになったかもしれない。けど、実際はそうじゃない。」

 

 何が起きるか分からない

 

 それを体現したのが、あの子たちだった

 

 だから、特別なんだ

 

環那「今は少し寂しいけど、イヴちゃん達がいるから。失ったものより、得たものの方が大きいよ。」

イヴ「カンナさん......」

環那「だから、あんまり友希那を悪く思わないであげて。あの子は、普通の人間だから。」

イヴ「......っ。」

 

 イヴちゃんに力がまた強くなる

 

 けど、ただ怒ってるわけじゃない

 

 いろんな感情が渦巻いてるんだろう

 

 この子は、優しい子だから

 

イヴ「なら、私にその寂しさを埋めさせてください。」

環那「え?」

イヴ「私はアイドルです。ファンの皆さんを笑顔にするのがお仕事です。でも......私は、カンナさんを一番笑顔にしたいです。」

 

 イヴちゃんはそう言って、抱きしめた腕を解いた

 

 そして、少しだけ距離が開いて、目がばっちりと合う

 

 宝石のように綺麗な瞳だ

 

 輝きながら、澄んでいる

 

イヴ「私を、カンナさんだけのアイドルにしてください。例え、ほんの一時でも。」

環那「!」

 

 そこらにある証明が、まるでスポットライトのように彼女を照らしている

 

 なんて綺麗なんだろう

 

イヴ「手、こんなに冷たいです......」

環那「......っ!」

イヴ「私に、温めさせてください......///」

環那「イヴちゃん......」

 

 俺とこの子は異なる種類の人間だ

 

 例えるなら、天国と地獄の住人のようだ

 

 本来は交わってはいけないものだったんだろう

 

 でも、彼女が俺を選んでしまった

 

 自ら、堕ちて来てしまった

 

環那「ありがとう。でも、後悔するかもしれないよ。」

イヴ「私が後悔するのは、きっと、今のカンナさんを見捨ててしまう事です。」

環那「そっか......」

イヴ「!///」

 

 俺は彼女の頬に手を添えた

 

 柔らかくて、スベスベで、触り心地がいい

 

 ほんとに、この子は綺麗で、優しい子だ

 

 そんな子にこんなことを思うのは、俺がろくでなしだからだろう

 

 極めて不純で、醜くて、浅ましい感情

 

 俺はこの子を、宝石のような女の子を汚してしまいたい

 

 

 

 



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役割

 朝、目を覚ますと俺はホテルのベッドの上で寝ていた

 

 布団は全体的に乱れていて、湿り気のある部分もある

 

 この情報から、昨夜の記憶が呼び覚まされる

 

イヴ「すぅ......すぅ......」

環那(......イヴちゃん。)

 

 昨夜の彼女は、綺麗だった

 

 彼女を利用したようなものだったのに、優しく受け入れて

 

 それどころか、俺を憐れんでいるようにすら見えた

 

環那(よかったのか?俺は、この子を利用してしまって。)

 

 多分、本人は気にしないんだろう

 

 もし仮に俺がイヴちゃん意外と付き合うとしても

 

 今日の話を持ち出すことはないし、怒ることもない

 

 この子はそういうのじゃない

 

 だからこそ、罪悪感を覚えてしまう

 

イヴ「んん.......っ、カンナさん.......?」

環那「おはよう、イヴちゃん。」

イヴ「おはようございます!」

 

 しばらくすると、イヴちゃんが目を覚ました

 

 起きてすぐにスイッチが入るの、すごいな

 

 流石だ

 

環那「今日はお仕事ある?」

イヴ「この後にありますけど、大丈夫です!」

環那「それはよかった。」

 

 今、俺の頭はスッキリしてる

 

 これはイヴちゃんのお陰だ

 

 楽な道を選ばせてくれて、それでできた余裕で、頭を整理できた

 

環那「よかったの?イヴちゃん。」

イヴ「え?何がです?」

環那「俺に大切な体を利用されて。君には何のメリットもないのに。」

イヴ「いいんですよ!カンナさんのためですから!それに、私はカンナさんと繋がれましたから......///」

環那「......そっか。」

 

 予想通りの返事だ

 

 思った通り、全く気にしていない

 

 口で言ってるだけの可能性もあるけど、あまりそう言う気配を感じない

 

環那「不思議な子だ。」

イヴ「え?」

環那「俺が言えたことじゃないけど、イヴちゃんも大概、変な子だね。」

イヴ「えぇ!?」

 

 分かる、イヴちゃんの気持ち

 

 同機は違うとはいえ、誰かのために手を尽くす

 

 俺もきっと、そうだったから

 

環那「あの場所に来たのが、君で良かった。」

イヴ「え?」

環那「何でもないよ。そろそろ、部屋から出ないとね。」

イヴ「あ、シャワー浴びて来てもいいですか?」

環那「うん、いいよ。帰りは車で送っていくから。」

イヴ「ありがとうございます!」

 

 イヴちゃんはそう言って、お風呂場の方に走って行った

 

 それを見送って、俺は携帯を取り出して

 

 取り合えず、車を呼んで、大量に来てる連絡を返していった

__________________

 

 “イヴ”

 

 あれから、私はシャワーを浴びて、現場まで送ってもらいました

 

 それに、新しい服と下着も買ってもらっちゃいました

 

 お仕事に行くのに、昨日着てた服のままじゃ気になるだろうからと

 

 ありがたいですが、すごく申し訳なかったです.......

 

日菜「おっはよー!イヴちゃーん!」

イヴ「おはようございます!ヒナさん!」

日菜「ん?」

イヴ「?」

 

 ヒナさんは後ろから抱き着いてきました

 

 そして、クンクンと鼻を鳴らしました

 

 どうしたんでしょうか?

 

日菜「......イヴちゃん、環那君と何かあった?」

イヴ「!?///」

日菜「具体的に言うならー......」

イヴ「ひ、ヒナさん!///」

日菜「あ、ごめんごめん!」

 

 な、なんで分かるんですか?

 

 ちゃんとシャワーも浴びて来たのに

 

日菜「昨日、環那君探し行ってたし、やっぱりその流れ?」

イヴ「......はい///」

日菜「そっかー。」

 

 全部バレているみたいで恥ずかしいです

 

 ヒナさんだけにしか気づかれていないのが幸いですね......

 

日菜「多分、昨日、イヴちゃんが環那君を見つけたことには意味があるよ。」

イヴ「え?」

日菜「他の3人じゃ出来ない、イヴちゃんだけに出来ることがあるのかもね。なんとなくだけど!」

 

 ヒナさんはそう言って、クルッと振り返りました

 

 そして......

 

日菜「環那君が好きなら、その役割みたいなもの果たせばいいんじゃないかなー。あたしにはあれの良さは分からないけどねー。」

イヴ「そ、そうですか......」

 

 役割......

 

 他の人たちじゃできない、私だけに出来ること

 

 あるんでしょうか?そんなの

 

日菜「頑張りなよー。」

イヴ「は、はい!」

 

 ヒナさんはヒラヒラと手を振りながら歩いていきました

 

 なんだか、すごく難しいことを言われた気がします

 

 私がカンナさんに出来ることとは、何なのでしょうか?

__________________

 

 “環那”

 

 あれから一週間が経ち、月は11月に突入した

 

 空気は段々と冷え込み、冬と呼べる季節になっている

 

 冬に外に出るの、よく考えたら久しぶりだ

 

 俺は基本、檻から出されなかったからね

 

環那「はぁ......」

 

 白い息が出てる、懐かしい

 

 昔はこのくらいの時、何してたっけ?

 

 リサと友希那と遊んでた記憶はあるな

 

環那(久しぶりだなー。)

 

 俺は商店街を歩いてきて、羽沢珈琲店の前で足を止めた

 

 コーヒーの良い匂いがする

 

 最近は仕事が忙しくて足が遠のいてたし、久しぶりに入ろう

 

 そう思い、俺は店の扉を開けた

 

イヴ「__へいラッシェーイ!!」

環那「!」

イヴ「あっ。」

 

 扉を開けてすぐに聞こえる、元気な声

 

 聞くだけで元気になれるようで

 

 まるで魔法だな

 

イヴ「か、カンナさん!///」

環那「イヴちゃん、このお店はカフェだよ。元気なのは、いいけどね。」

イヴ「す、すみません......///お、お席にご案内します......///」

 

 俺はそう言うイヴちゃんについて行き、カウンター席に座った

 

 この時間はお客さんは少ない

 

 落ち着いてコーヒーを飲むにはいい時間だ

 

つぐみ「いらっしゃいませ、南宮さん!」

環那「やぁ、つぐちゃん。元気にしてた?」

つぐみ「はい!」

環那「それはよかった。」

 

 看板娘のつぐちゃんも元気そうだ

 

 ここは何も変わらない

 

 良いお店だと思う

 

イヴ「か、カンナさん!///ご注文はいつものですか?///」

環那「あぁ、お願いするよ。それと......」

イヴ「?///」

環那「イヴちゃんと話す時間が欲しいな。」

イヴ「!///は、はい!///少々お待ちください!///」

 

 イヴちゃんはパタパタと走っていく

 

 ほんとに、可愛い子だ

 

 そして......

 

環那(暖かいな。)

 

 まるで、彼女のいる場所だけが春になっているみたいだ

 

 ほっとして、心にしみわたる

 

 居心地がいい

 

イヴ「お、お待たせしました!///ブレンドコーヒーとチョコレートケーキです!///」

環那「ありがとう。イヴちゃんも座りなよ。」

イヴ「はい!///」

 

 この子といると、安心できる

 

 なんとなく、俺が強くなくても一緒にいられそうだから

 

 この子になら、弱みを見せても大丈夫だと思えるからかな

 

 色々理由はありそうだけど、今、俺が思っているのは......

 

 もう少し、この子と一緒にいたい、かな

 

 

 



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求めるもの

 あの日から、カンナさんが羽沢珈琲店に来ることが増えました

 

 しばらくはお仕事の関係であまり来れていませんが

 

 最近は、ほぼ毎日来ているらしいです

 

環那「今日はカフェモカとチーズケーキにしようかな。」

イヴ「かしこまりました!」

 

 カンナさんは全メニューを制覇しようとしているらしいです

 

 羽沢珈琲店は特別高級なお店ではありませんが、ほぼ毎日通うのは学生の身では難しいです

 

 まぁ、カンナさんには関係ないですけど

 

イヴ「__お待たせしました!カフェモカとチーズケーキです!」

環那「ありがと。」

 

 準備が終わって、注文された品物を出すと、カンナさんはニコっと笑いました

 

 今は他のお客さんはいませんし、カンナさんと話しても良いでしょうか?

 

イヴ「カンナさん、リサさん達とは最近どうですか?」

環那「みんな受験勉強で忙しそうにしてるよ。もう佳境に入ってるからね。バンドに勉強に、必死そうだよ。」

イヴ「た、大変そうですね。」

 

 そう言えば、皆さんはもう大学受験でしたね

 

 私もそう遠い話ではないんですが

 

 あまり、現実感がないですね

 

イヴ「カンナさんは大学には行かないんですか?」

環那「俺はまぁ、行く必要ないから。」

イヴ「確かに、そうですね!」

 

 カンナさんは社長さんです

 

 そんな人にとっては大学に行く必要もないですよね

 

 ただでさえ、お仕事で忙しいですし

 

環那「だから俺は、残りの高校生活を楽しむよ。」

イヴ「いいですね!私とも遊びましょう!」

環那「俺はいいけど、時間あるの?」

イヴ「大丈夫です!」

環那「そっか。なら、追々ね。」

 

 やりました!カンナさんとデートの約束が出来ました!

 

 私は他の皆さんと比べて遅れを取っていますし

 

 ここで少しでも追いつかないと!

 

環那「じゃあ、、俺はそろそろ行くよ。」

イヴ「もうですか......?」

環那「仕事があるから。悪いね。」

 

 少し寂しいですが、お仕事なので仕方がないです

 

 私はカンナさんがお店を出ていくのを見送り

 

 バイトのお仕事を再開しました

__________________

 

 “環那”

 

 最近、俺に不思議なことが起きてる

 

 その内容を簡単に言うと、仕事後とかに何かを求めるようになった

 

 その何かについてはよく分かってないけど

 

 多分、癒しを求めてるんだと思う

 

環那(......これじゃない。)

 

 今、俺が求めてるもの

 

 それを探してる

 

 動物の動画とか、リラックスできる音楽とか、色々なものを試してる

 

 でも、全部、何かが違う

 

 今はこれを求めてない

 

環那(なんなんだろ。)

 

 そもそも、前提が間違っているのか?

 

 俺が求めてるのは、癒し......

 

 そう思っていたんだけど

 

環那(少し、違うのかもしれない。)

 

 最近、これが満たされたように感じたのは......

 

 それを考えながら、携帯を操作する

 

 そうしてるうちに、画面はメッセージアプリに行きつき

 

 ある子のトークルームを開いていた

 

環那(......イヴちゃん、か。)

 

 恐らく、本能なんだろう

 

 俺が求めているものは、この子が持ってる

 

 なんとなく、そんな気がする

 

環那「また、羽沢珈琲店に行くか。」

(ピッ)

環那「あ?」

 

 疲れて腕をバタンとベッドに叩きつけた瞬間、無機質な機械音が鳴り響いた

 

 そして、すぐに、誰かに電話がかかる音がする

 

 ......これ、やばいかも

 

環那(やばっ。さっさと切って、べんめ__)

イヴ『__はい、もしもし?』

環那(はやっ。)

 

 驚きの早さだ

 

 これ、どうしようか

 

環那「あー、間違えてかけっちゃったんだ。ごめんね。」

イヴ『大丈夫ですよ!それにしても、すごい偶然ですね!私のトークルームを開いてるなんて!」

環那「......」

 

 何も意図はないのは分かってる

 

 けど、なんだ?

 

 少しずつ追いつめられてる気がする

 

イヴ『カンナさん?』

環那「......なんだろ。あんまりよくないかもなんだけど......」

イヴ『?』

環那「今から会えないかな。」

イヴ『えぇ!?///」

 

 なんとなく、俺はそう言ってしまった

 

 けど、彼女と会いたくなったのは事実だ

 

 特に何かしたいとかはないけど

 

 そんなことを考えながら、俺は彼女からの返事を待った

__________________

 

 “イヴ”

 

 夜の10時

 

 外に出るのには少し遅い時間です

 

 11月と言うこともあり、風も冷たくなっています

 

 そんな時に私は外に出て、近くの公園に来ています

 

 街灯がポツポツとついていて、所々明るいです

 

イヴ「あ、お待たせしました!」

環那「いや、待ってないし、呼んだの俺だから。」

 

 カンナさんはベンチに座ったまま、笑いかけてきました

 

 そんな風にされると、胸がドキドキします

 

環那「急に呼んでごめんね。」

イヴ「い、いえ///それよりも、どうして、会いたいなんて.......?///

環那「.......」

イヴ「.......?///」

 

 カンナさんは静かになりました

 

 そして、ジーっと私のことを見て

 

 少しして、口を開きました

 

環那「君に会いたかった。」

イヴ「え!?///」

環那「確かめたいことがあってね。それは、一目見て終わったけど。」

 

 確かめたいこと......?

 

 何か気になることがあったんでしょうか?

 

 そんなに隠すようなことはないんですが......

 

環那「やっぱり、そうだ。」

イヴ「えっと、どうしたんですか?」

環那「最近、仕事の後に疲れを感じることが多くなってね。その時に、求めてるものを探してたんだ。」

イヴ「えっと、それに私はどう関係してるんですか?」

環那「俺が求めてるのは、イヴちゃんだった。」

イヴ「!///」

 

 カンナさんの言葉に、顔が熱くなりました

 

 私が、求められてる

 

 リサさん達じゃなく、私が

 

 それが、嬉しいです

 

環那「イヴちゃんといると、心が安らぐ。だから、最近、羽沢珈琲店に行くことが増えたのかもしれない。」

イヴ「そ、そうなんですか///」

環那「あ、これ、暖かい飲み物。寒いでしょ?」

イヴ「い、今は少し、暑いです......///」

環那「?」

 

 な、なんだか、カンナさんがおかしいです

 

 まるで、これじゃ、私を.......

 

 い、いや、ウヌボレはダメです

 

 で、でも......

 

環那「今日は、少しだけお話したいな。それと、仕事後に電話できるときはしてくれると嬉しいな。」

イヴ「も、もちろんです!///毎日でも!///」

環那「あはは、ありがと。お言葉に甘えることになるかもしれないね。」

 

 カンナさんはそう嬉しそうに笑いました

 

 それからの私たちは飲み物を飲みながらお話をしました

 

 なんだか、少しだけ、距離が縮まった気がします

 

 それに、ヒナさんの言っていた役割......

 

 その答えに近づいているような気がします

 

 

 

 



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興味と本気

 学校と仕事を終えて、俺は家に帰ってきた

 

 食事と風呂を済ませて、部屋に入ると、どっと疲れが来た

 

 細胞一つ一つが重くなってるみたいで、動くのが怠い

 

環那「......ふむ。」

 

 ベッドに寝転んで、携帯を開いた

 

 さて、俺は今、イヴちゃんに電話をかけようとしてるわけなんだけど、ここで問題が起きた

 

 なぜか、俺は通話ボタンを押せずにいるんだ

 

 緊張している......のか?

 

環那(......よし、取り合えず、かけるだけかけてみよう。)

 

 携帯を操作し、通話ボタンを押した

 

 無機質な機械音が静かな部屋に響いている

 

 自分の心音がハッキリと聞こえる

 

 そうしていると、すぐに機械音が途切れ......

 

イヴ『はい!もしもし!』

環那「元気だね。」

 

 元気がでるような、可愛らしい声が聞こえて来た

 

 少し聞いただけで、なんとなく、楽になった気がする

 

環那「イヴちゃんは今、何してた?」

イヴ『今はお部屋でのんびりしていました!』

環那「そっか。」

 

 この子、のんびり出来るんだ

 

 なんだか、ずっと動いてるイメージがあった

 

 元気な子だからね

 

イヴ『カンナさんはお仕事でしたよね?お疲れ様です!』

環那「ありがと。まぁ、それほど......」

イヴ『?』

 

 いつもの癖で、余裕振ろうとした

 

 けど、それにとんでもない怠さを感じた

 

 それと同時に、もう一つ......

 

環那「......そうだね。きっと、疲れてるから、イヴちゃんの声を聞きたいんだろうね。」

イヴ『そうですか!なら、私、たくさん話します!』

環那「そんなに張り切らなくてもいいよ。」

イヴ『いえ!私もカンナさんとお話するのが楽しいので!』

 

 俺と話すのが楽しい、か

 

 変わった子だ

 

 こんなこと言う子は、ほんとに人類の1%未満だろう

 

イヴ『私、カンナさんのことをもっと知りたいです!』

環那「俺?」

イヴ『はい!カンナさんは未だに謎多き人物ですから!』

 

 別にそんなことはないと思うんだけど

 

 特に隠すこともないし

 

イヴ『カンナさんの好きなものは何ですか?』

環那「好きなものは特にないかな。」

イヴ『そうなんですか?』

環那「うん。俺が好きなのは、イヴちゃん達だから。ものじゃないかな。」

イヴ『!///』

 

 ものが者なら、あってはいるのか?

 

 まぁ、いいや

 

 なんとなく、響きとしては嫌だったし

 

環那「逆に、それ以外はないんだよね。」

イヴ『そ、そうなんですか///』

 

 と言っても、厳密には少し違う

 

 根本的に、イヴちゃんは他の3人とは違う

 

 俺がこの子に抱いてる感情は......

 

環那(なんとなくだけど......)

 

 自分を強く見せる必要がない......と感じてる

 

 一緒にいるだけで、癒されるような

 

 使命感も何もなく、一緒にいられそうな、そんな感じかな

 

環那「俺の好きな4人は、全員同じわけじゃない。イヴちゃんは、少し違う。」

イヴ『それは、よく言っていましたね///』

環那「イヴちゃんと一緒にいると、楽なんだ。リサとは少し違う感覚で。何というか、君といる時間はいつも優しい感じがする。」

イヴ『そ、そうなんですか?///それは、嬉しいです......///』

 

 一緒にいて安心する

 

 俺がそう思うのは、結構珍しいと思う

 

 リサ達の前じゃかっこつけようとするけど、イヴちゃんの前ではそうじゃなくても良いって思ってる節がある

 

 俺の好きになった子は、不思議な子ばっかりだな

 

 “イヴ”

 

 最近、カンナさんと一緒にいることが増えました

 

 リサさん達がお忙しいのもあると思うのですが

 

 それでも、やっぱり多いです

 

イヴ「な、なんだか、すごく褒めてくれますね///嬉しいんですけど......///」

環那『俺は元々、イヴちゃんへの評価は高いよ。』

イヴ「そうではなくて、その......今のカンナさんはまるで///」

 

 可能性はたしかにないとは言えませんけど

 

 でも、あのカンナさんがこんなに分かりやすく態度に出すのでしょうか?

 

 だって、カンナさんですから

 

環那『どうしたの?』

イヴ「今のカンナさんの態度では......勘違いしてしまいます///」

環那『勘違い?」

 

 もしかしたら、私のことを好きになってくれたのかも、なんて......

 

 自惚れなのは分かっています

 

 でも、そうであってほしいと思うことは、仕方ないんです

 

イヴ(もし、そうなら......///)

環那『それ、意外と勘違いじゃないかもだよ。』

イヴ「え......!?///」

環那『なんとなく、考えてることは分かるよ。』

 

 カンナさんはそう言った後、少しだけ間が空きました

 

 私は何を言えばいいのか分からなくて、口も開けません

 

 ど、どうしましょう

 

環那『俺、イヴちゃんと付き合ってみたい。』

イヴ「!///」

環那『これは興味と本気、両方ある。』

 

 興味......というのは、恐らく一緒にいると楽と言ってたことでしょう

 

 そう思ってもらえるのは嬉しいです

 

 でも、本気というのは、つまり、そういうことですよね?

 

環那『純度100%っていうわけじゃないから、嫌なら__』

イヴ「い、イヤじゃありません!///」

環那『そ、そう?』

イヴ「興味もあるけど、本気もあるんですよね......?」

環那「うん。俺は、イヴちゃんが好きだよ。ちゃんと。」

イヴ『!///』

 

 その言葉が、すごく嬉しく感じました

 

 恐らく、カンナさんの中では、他の人と同じくらいの好きだと思います

 

 興味の方が多いでしょう

 

 でも、こうんな風に好きな人に言われるというのは、嬉しいです

 

環那『じゃあ、イヴちゃんh俺と付き合う......ってことで良い?』

イヴ「はい!///よろしくお願いします!///」

環那「こちらこそ。イヴちゃんのこと、俺にたくさん教えて。」

 

 こうして、私とカンナさんは付き合うことになりました

 

 まだ、お試しのようなものだとは思いますが

 

 これから、カンナさんの一番になれるように頑張ります!

 

 

 



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誤解

 パッと目を覚ますと、外はまだ暗いままでした

 

 頭が少しぼーっとした、寝起きの時間

 

 そんな中で、私は昨夜のことを思い出して、一気に顔が熱くなりました

 

イヴ(か、カンナさんと、こ、恋人同士になれるなんて......!///)

 

 枕に顔をうずめ、足をバタバタしてしまいます

 

 嬉しいという感情が爆発しています

 

 初めて好きになった人と、仮にとはいえ結ばれるというのは、こんなにも幸せなのかと驚いています

 

イヴ(と、と言っても、恋人とは何をするのでしょうか?///)

 

 デートはもうしてますし、キスも、その先も......

 

 あれ?私とカンナさん、すごく色々な段階を飛ばしてるような......

 

 それこそ、恋人がすることはほとんどしてますね

 

イヴ(恐らく、今の立場に満足していたら、カンナさんにはちゃんと選ばれません。ちゃんと、私が出来ることをしないと。)

 

 色々と考えていると、落ち着いてきました

 

 私は、カンナさんが求めているものの原石のようなものです

 

 本気が100%になってくれるよう、頑張らないと

__________________

 

 “環那”

 

 大企業の社長、アイドルと交際

 

 この文面を見れば、民衆はなんと思うだろうか

 

 金でアイドルを買った社長、金に目がくらんだアイドル、もしくは、タブーを犯したバカか

 

 ざっとこんなところだろう

 

 どっちにしても、あまりイメージはよくないだろうね

 

 まぁ、俺にはどうでもいいんだけど

 

環那(若宮イヴか。)

 

 登校中、俺は携帯で彼女のことについて調べていた

 

 モデルとしての彼女は綺麗だと思う

 

 アイドルの方は最初はこけたらしいけど、今は持ち直して、人気も出て来てる

 

 いつもの態度に反して、波乱万丈な人生を送ってるみたいだ

 

環那(こういう感じなのか。)

 

 友達としての彼女を知っていても、それ以外のことは知らなかった

 

 俺はテレビを見る人間じゃないし、興味はあったけど、見れてなかったし

 

 今初めて、ちゃんと芸能人としての彼女を見た

 

環那(知らないことばっかりだな。)

 

 俺は彼女を知らない

 

 昔から一緒のリサはともかく、今年であった燐子ちゃんや琴ちゃんよりも知らない

 

 そして、その3人とは明らかに何か違って

 

 でも、確信していることもある

 

 そんな存在だ

 

イヴ「__カンナさーん!」

環那「あ、来たね。」

 

 今は放課後で、俺とイヴちゃんはデートの待ち合わせをしてたんだ

 

 つい考え込んでしまった

 

 危ない危ない

 

イヴ「お待たせしました!」

環那「そんなに待ってないよ。」

 

 体感はそこまで時間経ってないし

 

 実際の時間も10分くらいしか経ってない

 

環那「昨日の今日で早速のデートだね。」

イヴ「はい!すごく嬉しいです!」

環那「そっか。それはよかった。」

 

 目の前にして思う

 

 この子、俺の彼女でいいの?

 

 改めて考える必要もないくらい美人なんだけど

 

環那「じゃあ、行こうか。」

イヴ「はい!あ、その前に。」

環那「?」

 

 イヴちゃんはふぅっと息をついた

 

 どうしたんだろう

 

 何か気になる事でもあるのかな?

 

イヴ「私!カンナさんの一番になれるように頑張ります!」

環那「え?」

イヴ「ちゃんと見ててくださいね!じゃあ、行きましょう!」

 

 イヴちゃんはそう言って、元気に歩き出した

 

 なんとなく、彼女の思考は分かる

 

 けど......

 

環那「えぇ......?」

 

 色々と誤解があるみたいだね

 

 これは、誤解を解くのが先か、イヴちゃんが目的を達成するのか先か

 

 いや......普通に話した方が楽だよね、これ......

__________________

 

 “イヴ”

 

 私たちはショッピングモールの中にあるカフェに来ました

 

 いつもは羽沢珈琲店ですが、偶には他の場所もいいですね

 

 アヤさんも最近、こんな感じのお店のお料理の写真を投稿してましたし

 

イヴ「わぁ!すっごくオシャレですね!」

環那「喜んでくれてるようでよかったよ。」

 

 このお店のお料理はどれもオシャレです

 

 これが映えと言うものなのでしょうか?

 

イヴ「こんなお店が出来てたんですね!」

環那「知り合った飲食関係の会社の社長が、新店舗を出すって話をしててね。そこで知ったんだ。」

 

 流石はカンナさんです

 

 色んな事業をしているらしいですが、繋がりもそうなんですね

 

 紹介されるのも、なんだかかっこいいです!

 

イヴ「美味しいですね!羽沢珈琲店とは違った感じがしますね!」

環那「まぁ、コンセプトが違うからね。」

 

 確かにそうですね

 

 ここも雰囲気がいいですが、羽沢珈琲店とはまた違います

 

 暖色と寒色のように

 

環那「羽沢珈琲店の地域の人に愛される店づくりはすごくいいと思う。」

イヴ「そうですね!なんだか安心しますよね!」

環那「そこにイヴちゃんがいるから、俺は引き寄せられたのかな。」

イヴ「!?///」

 

 カンナさんは考える仕草をしながら、そう呟きました

 

 私に言っているというよりは、独り言のような感じでした

 

イヴ「か、カンナさん......///」

環那「あ、ごめん。つい考えこんじゃった。」

イヴ「い、いえ......///」

 

 嬉しさと恥ずかしさが同時に襲ってきます

 

 でも、そうなんですよね

 

 カンナさんは今は私の彼氏なんです

 

 好きと言う感情もあるらしいですし......

 

イヴ「か、カンナさんには、特別でしたから......///」

環那「あはは、そっか。」

 

 バイトはお仕事ですが、好きな人が来たら意識してしまいます

 

 声も高くなりますし、笑顔にもなりますし、テンションも上がります

 

 誰にでも全く同じ対応をするなんて、出来っこないです

 

環那「そう言えば、イヴちゃんはいつから、俺のことを好きになってたの?」

イヴ「えぇ!?///そ、それは......///」

 

 こんな風に直球で聞いてくるのは、カンナさんらしいです

 

 すごく恥ずかしいですが、私は話しました

 

 カンナさんが羽沢珈琲店に来た時に、優しさに触れて、好きになったことを

 

 その間の私は、顔から煙が出そうでした

 

環那「なるほど。」

イヴ「うぅ......///」

環那「あの時のイヴちゃんは疲れてそうだったから、気を遣ったんだけど。いいこともするものだね。」

イヴ「今は、少しだけ違うんですけど///」

 

 今は、弱さのあるカンナさんが好きなんです

 

 それでも、誰かのために頑張るから好きなんです

 

 だから、私の気持ちもこんなに......

 

イヴ(こんなに、大きくなったんです......///)

環那「俺も__」

イヴ「だから、今の好きは前の何百倍も大きいです!だから、私、もっとカンナさんに好きになってくれるよう、頑張ります!」

環那「えっと__」

イヴ「まずは、あーんをしましょう!カップルっぽいことはヒナさんに聞いています!」

 

 私はそう言って、カンナさんにパンケーキを差し出しました

 

 カンナさんは特にためらうことなく食べてくれました

 

 まだまだ、この関係も始まったばかり......

 

 もっと好きになってくれるようにしないとですね!

 

 

 



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一面

 私には最近、彼氏が出来ました

 

 お相手は別の学校の先輩で、学生の身で大企業の社長さんです

 

 性格は誤解されやすいですし、本人も認めていませんが、すごく優しいです

 

 いつも誰かのために頑張っていますし、何より、私以外にもその人を好きな人たちがいました

 

 それこそが、優しさを証明しています

 

イヴ「カンナさん!これがネットカフェなんですね!」

環那「うん。俺も久しぶりに来たよ。」

 

 そんな人と私はデートをしています!

 

 今は前々から興味があったネットカフェに来ています

 

 カンナさんは私の立場を気にして、あまり人の多い場所でくっついたりはさせてくれません

 

 ということで、ネットカフェです!

 

環那「一応、ここは完全個室で防音もしっかりしてるから__」

イヴ「えぇ!?///」

環那「え?」

 

 完全個室で、防音......

 

 そんな空間でカンナさんと2人きりなんて......

 

 私、私......

 

イヴ(ど、どうにか、なってしまうかも.....///)

環那「普通に喋っても大丈夫だよって話だったんだけど......別のこと考えちゃった?」

イヴ「ご、ごめんなさい......///」

環那「いや、まぁ、大丈夫だよ。」

 

 カンナさんは苦笑いを浮かべつつ、そう言います

 

 うぅ.....絶対にエッチな子だと思われてます......

 

 すごく恥ずかしいです......

 

環那「まぁ、入ろうか。」

イヴ「は、はいぃ......///」

 

 カンナさんにそう言われ、私たちは個室に入りました

 

 と、取り合えず、気を取りなおしましょう

__________________

 

 “環那”

 

 しばらく来てなかったけど、ネットカフェは中々いい

 

 防音がしっかりしてるから静かだし、飲食も出来るし、ネットも読書も出来る

 

 何より、密室なのがいい

 

 俺やイヴちゃんみたいな人間には、良い環境だ

 

環那「どうする?映画でも見る?」

イヴ「い、いいですね!そう言えば、チサトさんが出演した映画があるんです!」

環那「それはいい。見てみようか。」

 

 そう言って、PCで登録してる動画配信サービスを開いた

 

 そこで調べると、確かに彼女が写っている映画が出てきた

 

 すごいな、俺と同級生なのに

 

環那「ほう、学園青春ものか。」

イヴ「いつもとは違う制服もよく似合っていますね!」

 

 白鷺千聖......彼女は素晴らしいな

 

 決して目立つ役ではないけど、要所に彼女の技巧が伺える

 

 俺のイメージの中では、普段は落ち着いて、一歩下がって周りを俯瞰してるような感じだった

 

 けど、作中では軽いノリでヒロインの背中を押す役割だ

 

 恐らく、普段の行動とはかけ離れているだろう

 

 にもかかわらず、演技に一切の違和感がない

 

 見る側がどう受け取るのかを理解してる感じがする

 

環那「......すごいな。」

イヴ「カンナさんでも、そんなことを思うんですか?」

環那「もちろん。俺、自分のこと結構演技もいけると思ってたけど、彼女には敵わないな。」

 

 特別な人間というのは存在する

 

 演技という分野においては、日菜ちゃんすら凌駕するだろう

 

環那「演技力に加え、あのビジュアルだ。いい役者だと思う。」

イヴ「カンナさん、チサトさんを可愛いと思ってるんですか?」

環那「綺麗な子だとは思う。でも、1番はイヴちゃんだよ。」

イヴ「!///」

 

 イヴちゃんは白い頬を真っ赤に染めた

 

 可愛い反応だ

 

 少し嫉妬してたのも、可愛いな

 

環那「俺が好きなのはイヴちゃんだよ。」

イヴ「か、カンナさん......///」

 

 正直な感想を述べた

 

 少し暗めの空間をモニターから出る光が照らす中

 

 横にいる彼女は熱っぽい視線をこっちに向けていた

 

 “イヴ”

 

 カンナさんの言葉で、胸がドキドキします

 

 一番のはずがないのに、まるで、そう言う風に思えてしまいます

 

 カンナさんは嘘つきです

 

 演技も、すごく上手です

 

環那「それにしても、良い映画だね。爽やかな青春ってこういうのなんだって思う。」

イヴ「で、ですね///」

 

 映画では、主人公とヒロインが良い雰囲気になっています

 

 それと同じように、私の心臓の音も大きくなっていきます

 

 喉が渇いたときの水が欲しくなるように、私は何かを欲しています

 

 そんな私はそれを求めて、ゆっくり手を伸ばしました

 

環那「!(袖、掴まれてる?)」

 

 私はカンナさんの服の袖を掴みました

 

 なんだか、体が熱いです

 

 カンナさんなら、分かってくれます......よね?

 

イヴ「カンナさん......///」

環那「あー。なるほど。」

イヴ「ひゃ......///」

 

 カンナさんは私の右の頬に軽く触れました

 

 義手ではない方ですが、ひんやりしています

 

 顔が熱くなってる分、余計にそう感じます

 

環那「ここ、そう言う場所じゃないから。これだけ。」

イヴ「んっ♡」

 

 唇に熱い感触を感じます

 

 体中に力が入って、全身が熱くなって、なぜか目が潤んできます

 

 軽いキスなのに、すごく気持ちいです

 

イヴ「ちゅ♡はぁ♡んちゅ♡」

 

 少しずつ激しくなってきました

 

 頭がボーっとして、カンナさんしか感じません

 

 全神経を支配されているようです

 

イヴ(こ、こんなに、なんてっ///私、もう__)

環那「__ふぅ。こんなものかな。」

イヴ「っ!///」

 

 意識が真っ白になる直前に、カンナさんがフッと離れていきました

 

 狙いすましたかのようなタイミングで離れられ、悶々としつつも、どこか落ち着いています

 

 なんなんでしょうか、この感覚は

 

環那「不満そうだね。」

イヴ「うぅ......///カンナさん、イジワルです......///」

環那「好きな子には意地悪しちゃうんだ。」

イヴ「少し、変わりましたね......///」

環那「お陰様でね。」

 

 カンナさんはニコニコしています

 

 なんだか、今までよりもイジワルです

 

 ......でも

 

イヴ(それだけ、心を許してくれているという事でしょうか?)

 

 そう思えば、距離が縮まっているのでしょうか?

 

 リサさんやナミヒラ先生には少し意地悪ですし

 

環那「意地悪なのは嫌い?」

イヴ「嫌ではないです......でも、何度もされたら、どうにかなってしまいます......///」

環那「あはは。まぁ、今日は状況が状況だから。許してね。」

イヴ「はぃ......///」

 

 カンナさんはそう言い、小さく笑いました

 

 今日はなんだか、今までとは違う一面を見た気がします

 

 少しはいい関係になっている......のでしょうか?

 

 分からないですが、そうであれば嬉しいです

 

 

 



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我慢

 なんだか、カンナさんとの距離が大きく縮まった気がします

 

 まぁ、あの日のデートの後は色々と大変でしたが......

 

 それはそれとして、成果はありました

 

環那『__今日もありがとう。じゃあ、また。』

イヴ「はい!」

 

 今日も私とカンナさんは通話をしていました

 

 毎日、大好きな人の声を聞けて、話せて、すごく幸せです

 

 これがあるおかげで、私は今まで以上に毎日が楽しいです

 

 でも.....

 

イヴ「カンナ、さん......っ///」

 

 あの日以降、ずっと私は悶々とした感情に襲われています

 

 幸せなのに、満たされない

 

 あの感覚を知ってしまったから、あの快楽を味わってしまったから

 

 私の体は、カンナさんを求めてしまっています

 

イヴ「ぁ......///」

 

 通話が終わって数分後、私の体はピクンと震え、その後に小さくため息をつきました

 

 幸せなのに、楽しいのに、こんなことを考えてはいけないのに

 

 今の状態でも、私には過ぎた幸せなのに......

 

イヴ(もっと、カンナさんに愛されたい......///)

 

 私はそんなことを思いながら、顔まで布団をかぶり、眠ろうとしまった

 

 でも、なぜか、全く眠れなくて

 

 この悶々とした気持ちを解消しようとしてるうちに、夜が更けていきました

__________________

 

 “環那”

 

 最近、調子がいい

 

 何というか、気怠い感覚がなくなった

 

 ちゃんと、一日ごとに疲れが取れてるような気がする

 

 これは、人生で初めての感覚だ

 

環那「それでは、弊社もその方向で進めさせていただきます。」

 

 今日も今日とて、俺は仕事だ

 

 今ちょうど商談がまとまって、やっと一息つける

 

 これで、結構、味方は作れたかな

 

 いざと言うときに、そう言う存在が多いのは便利だ

 

環那「あー、疲れた。」

 

 取り合えず、これで今年の成果は十分でしょ

 

 むしろ、あのバカはなんであんなに利益低かったんだろ?

 

 まぁ、他人のことなんて分かんないから、考えても仕方ないか

 

環那(取り合えず、後のことは営業課に投げるか。)

 

 何事も練習が必要だよね

 

 優秀な人材の台頭を期待しておこう

 

環那「はぁ~、休憩休憩__」

(コンコンコン)

環那「!」

 

 休憩に入ろうとした瞬間、扉がノックされた音が聞こえた

 

 なんだろう

 

 そう思いつつ、俺は外の人物に声をかけた

 

環那「どうぞー。」

拓真「__失礼します。」

環那「あ、拓真君じゃん。どうしたの?」

拓真「今日は本社の清掃だったので、挨拶に。」

環那「あ、そうなの。」

 

 噂によれば、結構がんばってるみたいだ

 

 支社の社員からの評判もいいし、仕事も丁寧らしい

 

 まぁ、あのまま成長してるよりはまともになってるんじゃない?

 

環那「調子はどうだい?」

拓真「はい。仕事にも慣れて、先輩方にも親切にしてもらってます。」

環那「そう。」

 

 良い調子らしい

 

 あの一族の子どもなんだし、最初は怪訝な顔もされただろう

 

 それがこうなったのは、この子の人柄がなしたもの......なんじゃない?多分

 

 それなら、第2段階に移行してもいいでしょ

 

環那「じゃあさ、今日からはもっと周りを見るようにしてよ。」

拓真「周り......ですか?」

環那「そうそう。」

 

 別に何ら難しいものでもない、でも、単純なものでもない

 

 見るということの本質に気づかせる

 

 案外、気付いてないんだよね

 

環那「人間観察ってやつさ。」

拓真「なるほど......」

環那「さっさと身に付けなよ。本物の目を。」

拓真「!」

 

 俺はそう言い、ふぅと息を吐いた

 

 まぁ、これは鰻の調理と同じようなものだね

 

 一生終わることがないものって意味で

 

環那「ほら、もう行っていいよ。」

拓真「はい。失礼します。」

 

 そう言って、拓真君は部屋から出て行った

 

 さて、ここからはまた待ちの時間だ

 

 技能関連は俺にはどうしようもないし

 

環那(まっ、いいか。待つ分には。)

 

 俺は背もたれに体を預け、休憩を始めた

 

 仕事もいいけど、自分のこともどうにかしないと

 

 イヴちゃんとの誤解、未だに解けてないし......

__________________

 

 “イヴ”

 

 夜の8時

 

 私は今日、カンナさんをお家に呼びました

 

 お仕事とのことだったのでこの時間になっています

 

(ピンポーン)

イヴ「!」

 

 私が準備を終えると、インターフォンが鳴りました

 

 それを聞いて、急いで部屋から出て

 

 どたどたと足音を立てながら、玄関の扉を開けました

 

環那「こんばんは、イヴちゃん。」

イヴ「いらっしゃいませ!」

 

 姿を見るだけで、胸が高鳴ります

 

 本音を言うなら毎日会いたい......でも、そんなわがままは言えません

 

 毎日、すごくお忙しい人ですから

 

イヴ「ささ、あがってください!」

環那「じゃあ、お邪魔します。」

 

 カンナさんはそう言い、家の中に入ってきました

 

 そして、扉が閉じた瞬間

 

 私はカンナさんに抱き着きました

 

環那「おっと。」

イヴ「今日もお仕事お疲れ様です!///」

環那「ありがとう。でも、お疲れさまはお互い様じゃない?」

 

 そう言って、軽く頭を撫でてくれました

 

 幸せです

 

 でも、そんなことをされると

 

イヴ(体が......っ///)

環那「取り合えず、部屋行こうか。」

イヴ「え.....あ、はい!そうですね!///」

 

 あ、危ない所でした

 

 こんなところで我慢できないなんてことになっていたら......

 

 そんなことを考えながら、私はカンナさんとお部屋に向かいました

__________________

 

 “環那”

 

 イヴちゃんの部屋に通され、可愛らしい座布団に座ってる

 

 この部屋に入るのは初めてじゃないけど、改めて女の子らしい部屋だと思った

 

 オシャレな感じで、彼女らしいと思う

 

環那「それで、今日はどうして呼んだの?」

イヴ「それはですね、その......///」

環那「?」

イヴ「......カンナさんと2人になりたくて///(あわよくば......///)」

環那「あぁ、そういうこと。」

 

 そういうことか

 

 これは、俺にとっても好都合かもしれない

 

 試してみたいこともあったし

 

環那「そう言う事なら、一つ、お願いしてもいいかな?」

イヴ「お願いですか?(珍しいですね。)」

 

 イヴちゃんは少し驚いてるように見える

 

 まぁ、珍しいと思うしね

 

 お願いとかは叶える側である方が多いし

 

イヴ「それは、どんなものですか?」

環那「膝枕してほしいんだ。」

イヴ「え?」

環那「膝枕してほしいんだ。」

イヴ「いえ、聞こえなかったわけではないですよ?」

 

 動揺してるな

 

 まぁ、突拍子もないことだし、仕方ないか

 

イヴ「ど、どうして、してほしいんですか?全然、いいんですが。」

環那「彼女に甘える感覚って言うものが気になってね。」

イヴ「そ、そうなんですか!(これは、嬉しいですね!)」

 

 俺が説明を終えると、イヴちゃんはその場に正座した

 

 綺麗な姿勢だな

 

 確か、剣道部に入ってるらしいし、そこで学んでるのかな?

 

イヴ「どうぞ!」

環那「じゃあ、失礼して。」

 

 俺はそう言って、イヴちゃんの太ももに頭を乗せた

 

 柔らかい、けど張りがある感じがする

 

 それに、良い匂いもする

 

イヴ「どうですか?」

環那「心地いい。(あの時は分からなかったけど、こんな感じだったんだ。)」

 

 体の力が抜ける

 

 一日の疲れからくる流れに身をゆだねたくなる

 

環那「......」

イヴ「眠たいですか?」

環那「いや、大丈夫。でも、これはやめておこう。そうなりそうだ。」

イヴ「あ......」

 

 俺はそう言って、体を起こした

 

 彼女も疲れてるだろうし、俺ばかりと言うのも良くない

 

 あのまま寝ても迷惑だ

 

環那「イヴちゃんの話を聞かせてよ。君と話すのは、すごく癒されるから。」

イヴ「そ、そうですか!なら、たくさんお話しますね!(カンナさん、疲れてそうです......。私のワガママなんて、言っている場合じゃありませんよね.......)」

 

 それから、俺とイヴちゃんはしばらく会話を楽しんだ

 

 電話で話すのもいいけど、直接話すのもいいな

 

 電話で話すのじゃ、この感情は見えないんだから

 

 

 

 



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翌朝

 朝、目を覚ますと、いつもと違う匂いがした

 

 爽やかだけど、甘い

 

 なんだ、この匂い......

 

イヴ「すぅ......ん.......っ」

環那「......(あぁ、そうだった。)」

 

 あの後、俺は寝てしまったんだ

 

 寝落ちとか久しぶりにしたかも

 

 イヴちゃんの家って言うのもあるのかな

 

 

環那(俺にとっていいことなのか。この楽さは。)

 

 つい、この子といると緩んでしまう

 

 なんとなく、俺のワガママを受け入れてくれそうな気がするから

 

環那「......」

イヴ「ん......」

 

 俺は布団を被りなおして、彼女を抱きしめた

 

 暖かくて、柔らかい

 

 こうしているだけで、多幸感が押し寄せてくる

 

環那「......ほんと、可愛いな。普段の姿も、勘違いばっかりしてるところも。」

 

 俺はそう呟いて、目を閉じた

 

 今日はお互い休みだ

 

 もう少し、寝ても大丈夫でしょ

__________________

 

 “イヴ”

 

イヴ「!???///」

 

 朝起きると、カンナさんに抱きしめられていました

 

 暖かくて、なんだか病院のような匂いがします

 

 こんなに密着するなんて、すごくドキドキします

 

イヴ「......///(カンナさん......///)」

 

 好きと言う気持ちが溢れてきます

 

 こんな風にいられるのは、お互いの立場上、滅多にありません

 

 出来ることなら、ずっと、こんな風にしていたいのですが......

 

イヴ「......もし私が、アイドルじゃなかったら、普通の恋愛が出来たのでしょうか......?」

 

 誰にも詮索されず、好きなようにデートをして

 

 そして、ゆくゆくは2人で家庭を持って、幸せに暮らす

 

 そんな普通の幸せが、今はなによりも欲しい......

 

イヴ(もっと、一緒にいたい......)

 

 離れたくない、邪魔されたくない、何も気にせず......大好きな人と一緒にいたい

 

 そんなことを、つい考えてしまいます

 

 数か月にたまにあるマイナスな考えになってしまう日なのでしょうか

 

 アイドルじゃない私では、カンナさんの隣には立てませんよね

 

イヴ(変なことは考えず、今日も1日がんばりましょう!今日はカンナさんもいますし、朝食を作らないと!)

 

 私は渦巻いていた色々な考えを振り払い、ベッドから出ました

 

 ともかく、シャワーを浴びてから、朝食を作りましょう!

 

 ちゃんとアピールしないとですし!

__________________

 

 “環那”

 

環那(天使の本音......と言ったところか。)

 

 間が良いのか悪いのか

 

 俺には別に人の本心を盗み聞く趣味はないんだけど

 

 今回は有効な情報として受け取っておくとしよう

 

環那(純白の天使に見えた陰りか。)

 

 いつもは明るく振舞っていても、不安や不満は蓄積される

 

 明るい彼女の暗い部分に触れられるというのは、喜ばしいことだ

 

 天使の陰りの理由が自分だっていうのも、良い感覚だ

 

環那(おっと、いけないいけない。)

 

 これじゃ、俺を救った恩人であり、彼女である人が悩んでるのを喜んでるみたいだ

 

 もちろん、これは良い状態とは言えない

 

 イヴちゃんは元気な姿で笑顔を浮かべているのがよく似合う

 

 それに、外野ごときに彼女との関係を邪魔されるのも不愉快だ

 

環那「さて、と。」

 

 俺はベッドから降りて、部屋を出た

 

 そして、ゆっくりと階段を下りていく

 

 その途中、リビングの方から、何かが焼ける音と良い匂いがした

 

 俺はその方向を目指し、歩を進めた

 

環那「おはよう、イヴちゃん。」

イヴ「カンナさん!おはようございます!」

 

 リビングに入り挨拶をすると、彼女は弾けんばかりの笑顔で挨拶を返してきた

 

 やはり、彼女は綺麗だ

 

 朝、最初に彼女と言葉を交わせるというのは、幸せなことだと思う

 

イヴ「予備の歯ブラシがあるので、ぜひ使ってください!」

環那「おっと、それはありがたい。君の前に出るのに、清潔でないのは、無礼と言うものだからね。」

イヴ「私は気にしないですが......」

環那「俺の心持の問題さ。」

 

 俺はそう言い、リビングを出て、洗面所に向かった

 

 ここはまるで天国だな

 

 ただ、俺が居心地がいいと思える、変な天国だ

__________________

 

 洗面を済ませ、俺は卓についた

 

 パンに目玉焼き、ウィンナー、サラダと、良い朝食だ

 

環那「いただくよ。」

イヴ「はい!」

 

 俺は軽く手を合わせ、箸を持った

 

 どれも、丁寧に作られているのが分かる

 

 自分の為に彼女が少し気合いを入れたんだと思うと、すこぶる気分がいい

 

環那「__うん、美味しいね。」

イヴ「よかったです!でも、料理はカンナさんには敵いません。」

環那「俺のそれは大したものじゃないさ。俺には作れないからね。ある特定の人にとって、何よりも美味しく感じる物は。」

イヴ「!」

 

 俺は確かに、味覚的に美味なものは作れる

 

 ただ、それは決して難しいことではない

 

 先人が作り出した完全なるバランスを再現すればいいだけだからね

 

 でも......

 

環那「この朝食は、三ツ星レストランのディナーよりも美味しいよ。俺にとってはね。」

イヴ「そ、それは、褒めすぎです......///」

環那「大袈裟でもないよ。実際に、そう思ってるんだから。」

 

 俺はそれぞれの料理を口に運んだ

 

 どれも、彼女の気持ちというものが感じられた気がした

 

 好意というのは、分かりやすいな

 

 見抜こうとするまでもなく、向こうから教えてくれるんだから

 

環那「__ご馳走様。」

イヴ「お粗末様です!」

環那「美味しかったよ。とてもいい朝になった。......そのお礼と言っては何だけど。」

イヴ「?」

 

 俺は軽く姿勢を正し、イヴちゃんの目を見た

 

 すると彼女は頬を赤く染めながらも、目を合わせてる

 

 良い子だ

 

環那「デートしよ。クリスマスの日。日程の確認は日菜ちゃんに聞いてるよ。」

イヴ「!(初めて、誘われました。)」

環那「どうする?」

イヴ「い、行きたいです!絶対に!」

環那「そっか。じゃあ、来る日、お迎えに上がろう。」

 

 俺はそう言って、席を立った

 

 そして、卓上にある2人分の食器を取った

 

環那「これを洗った後、今日はお暇するよ。」

イヴ「そ、そんな!私がしておきますよ!?」

環那「折角、作ってくれたんだ。洗い物位するよ。あと、何かしてほしいこととかある?」

イヴ「それは......」

 

 俺がそう尋ねると、イヴちゃんは軽く俯いた

 

 そんな様子で数秒が経ち

 

 上目遣いでこっちを見た

 

イヴ「き、キスを、したいです......///」

環那「それはお応えできないな。」

イヴ「えぇ!?」

環那「だって__」

イヴ「!///」

 

 俺は彼女の頬に手を当てた

 

 手がひんやりしてたのか、少しビクッと震えていた

 

 可愛らしいな

 

環那「より良いタイミングがあるんだから。今するのはもったいないでしょ?」

イヴ「は、はい......///」

環那「じゃあ、俺は洗いものして、帰るよ。」

 

 俺はそう言って、キッチンの方に歩いた

 

 さて、約束も取り付けたことだし、準備をしよう

 

 手始めにすることは、向こうから来るし

__________________

 

 数分後、俺はイヴちゃんの家を出た

 

 取り合えず、準備の第一段階を終わらせないと

 

 さっきも気配感じたし、その辺に......

 

環那「__みーつけた。」

「ひっ......!」

 

 近くの物陰にいた、1人の男

 

 恐らくこいつは、ジャーナリストだ

 

 パスパレは人気上昇中

 

 揚げ足取るにはいい時期でしょ

 

環那「感心しないなー。気配駄々洩れ、身なりも汚い。何より......喧嘩を売る相手を見誤る。」

 

 俺は目の前の男をにらみつけた

 

 こういう時、手っ取り早いのは消すことだ

 

 だが、俺はあまり推奨しない

 

 足が付くのも嫌だし

 

 だから......

 

環那「あまりお勧めしないよ。俺を付け回すのは。」

「あ、あ......」

環那「.......この件から手を引け。長生きしたいならね。」

「ひぃぃぃぃぃ!!!」

 

 男は悲鳴を上げながら逃げて行った

 

 カメラもメモ帳も携帯も回収済み

 

 後はデータ確認して、交番にでも届けておこう

 

環那「邪魔するもんじゃないよ。人の恋路は。」

 

 俺はそう呟いて、その場を後にした

 

 さて、デートの準備をしないと

 

 天使を満足させないと、ほんとに地獄に落とされてしまう

 

 

 



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誘い

 今日は12月20日

 

 カンナさんとのデートまで、あと4日です

 

 ここ数日は楽しみで、ずっと浮足立っていました

 

 そんな状況でしたが、何とかここまで来ることが出来ました

 

 今は、デートに着ていく服を選んでいます

 

イヴ(どんな服を着ていけばいいでしょうか?)

 

 よくよく考えれば、私はカンナさんの好みを......いえ、カンナさんのことをよく知りません

 

 いつも、私のことを可愛いと言ってくれて、何かを否定されたこともありません

 

 なんとなく、カンナさんを理解した気でいましたが、実際はそんなこともなくて

 

 むしろ、秘密が多い人です

 

イヴ(考えれば考えるほど、不思議な人です。)

 

 リサさんですら知らないことがあるくらいですし

 

 私ではまだ、全然、理解できていません

 

 でも、これから、たくさん一緒にいれば、理解していけるはずです

 

 そのための、今回のデートです

 

イヴ(恐らく、答えはこのデートで出る......)

 

 これからも一緒にいられるか、それとも終わってしまうのか

 

 カンナさんはもう、決まっているはずです

 

 きっと、このデート中にその答えを教えてくれます

 

 私はそう考えると、少し、全身に力が入りました

__________________

 

 “環那”

 

 12月24日の夕方ごろ

 

 世間ではクリスマスイブと呼ばれる日だ

 

 そんな日に、俺は彼女を迎えに、車を走らせてる

 

環那「ふんふふーん。(おっ。)」

 

 見慣れた家屋が見えてくると、その前に一際目立つ、宝石のように輝く女の子が立っていた

 

 フロントガラスを挟んでも、あの輝きは遮れないらしい

 

環那(さて。)

 

 目的地に着くと、俺は車を止め、外に出た

 

 そして、待ってくれている彼女の方へ歩き

 

 出来るだけ、穏やかな笑みを浮かべた

 

環那「お待たせ。」

イヴ「私も今出てきたところですよ!」

環那「そっか。(ふむ。)」

 

 チラっと視線を下に移し、彼女の手を見た

 

 指先が赤い

 

 ついさっき出て来たというには、無理があるかな

 

 そんなことを考えながら、俺は彼女の手を取った

 

イヴ「!///」

環那「行こうか。デート。」

イヴ「は、はい!///」

 

 俺はそのまま、車のドアを開け、彼女を乗せた

 

 さて、いつも以上に安全運転しないとな

 

 万が一にも、事故に遭わせるわけにはいかない

__________________

 

 “イヴ”

 

 出発してから40分ほどが経ちました

 

 カンナさんの車は、なんだかすごいです

 

 全く揺れを感じないですし、シートの座り心地もいいです

 

 もしかしなくても、この車、すごく高級なんじゃ......

 

イヴ(か、考えないようにしましょう。)

環那「乗り心地は大丈夫?飲み物はそこにあるし、軽食も用意してるよ。あ、温度も言ってくれれば調節するよ。」

イヴ「だ、大丈夫です!カンナさんの運転もすごく上手ですし!」

環那「そう?このくらい普通だけど、気に入ってくれたようでよかった。」

 

 か、完璧すぎます

 

 と言うより、私、何もできてません

 

 いや、今に始まったことではないんですが......

 

イヴ「カンナさんといると、男性への基準が高くなりすぎてしまいそうです......」

環那「そっか。それは、よかった。」

イヴ「え?」

環那「気にしないで。ほら、窓の外、見てみて。」

 

 私はさっきの言葉が気になりましたが、言われた通り窓の外を見ました

 

 この車の助手席は右側なので、景色がよく見えます

 

 そこには......

 

イヴ「わぁ!」

 

 そこには、きれいな海が広がっていました

 

 夏とは違う、少し落ち着いた色に見えます

 

 この海も、すごく綺麗です

 

 静かに輝いていて

 

環那「今日のデートはこの海に関係するからね。遠くからの景色も楽しんでみて。」

イヴ「すごく綺麗ですね!って、海に関係するデートですか?」

環那「うん。やっぱり、俺たちは立場上、普通のデートをするわけにもいかないからね。そこで、マスコミが来れない場所に行けばいいって考えてね。」

イヴ「?」

 

 ど、どう言う事でしょうか?

 

 カンナさんの言いたいことは分かりますが

 

 それでも、マスコミの方が来ない場所とは......

 

環那「さぁ、もう少しだ。のんびり、会話を楽しみながら行こう。」

イヴ「はい!」

 

 それから、私はカンナさんとの会話を楽しみました

 

 正直、カンナさんの運転している車に乗っているだけでも、かなり嬉しいのですが

 

 まだまだ、デートはここからですよね!

 

 私、まだ何もできていませんし......

__________________

 

イヴ「__へ......?」

 

 車を駐車場に止めて、デートの目的地に着きました

 

 ですが、私はそこで呆然としています

 

 人間と言うのは、自分の理解できないものを見ると、何も考えられなくなるんですね

 

環那「内緒話をしたい人が数多く集まる船だよ。」

イヴ「そ、そうなんですか?」

環那「この船のチケットは入手ルートが特殊でね。マスコミ関係者はまず入れない。その上に雰囲気も良くて、食事も個室も質が高い。絶好のデートスポットだね。」

イヴ「そ、そうですね。」

 

 確かに、ここなら、カンナさんの近くにいても安心ですね

 

 ですが、カンナさん、どうやってこんな場所を見つけてるのでしょうか?

 

 私は全く知らなかったです

 

 チサトさんは知ってるのでしょうか?

 

環那「さぁ、行こうか。少し、普通とは違うデートへ。」

イヴ「っ!///」

 

 左手を差し出し、そう言うカンナさんの表情は、まるで悪戯をする前の子どものようでした

 

 好きな人のそんな表情と、少し非日常なデート

 

 そんな状況に、私はすごくドキドキしてしまいながらも、カンナさんの手を取りました

 

 

 

 



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結果

 海っていうものは、なんとなく、夏に行くイメージがある

 

 少なくとも、冬に進んでいく場所と言うイメージはないね

 

 でも、冬の海と言うのも趣がある

 

 少し冷たい色をしてる海も、芯まで冷やされるような風も

 

 どちらも、夏では味わえないものだと思う

 

 冬に船の旅をするというのも、趣深いものだと思う

 

イヴ「わぁ!ここが今日お泊りするお部屋なんですね!」

環那「なかなかいい部屋だね。」

 

 取り合えず一番高い部屋にしたけど、期待通りだ

 

 気密性、快適さ、どちらとも十分

 

 ていうか、バルコニーまでついてて、ほぼホテルの一室と変わらないな

 

イヴ「こんなお部屋、初めて泊まります!」

環那「そうなんだ。でも、それはもう、珍しいことじゃないかもしれないよ。」

イヴ「え?」

環那「俺、出来るだけ綺麗な部屋で寝泊まりしたいから。」

 

 そうなると、必然的にグレードの高い部屋に泊まることになる

 

 だから、このくらいの部屋は何も珍しくない

 

 イヴちゃんにとってもね

 

環那「まぁ、いいや。食事まで時間があるけど、何かしたいことはある?」

イヴ「なんだか、ゆっくりしたい気分です!カンナさんも運転で疲れているでしょうし!」

環那「そっか。じゃあ、海でも眺めながらゆっくりしよう。お茶を淹れるよ。ゆっくり座ってて。」

 

 俺はそう言って、ポットの前に歩いて行った

 

 予約したときに色々と頼んでおいたし、お茶もお菓子も色々ある

 

 金さえ払えば何でも注文聞いてくれるなんて、良い場所だ

 

環那(お湯の温度はこれくらいかな。で、後はティーパックを入れて。クッキーを皿にのせて。)

 

 そんな準備を済ませて、イヴちゃんの待ってるテーブルの方に歩いた

 

 紅茶の香りが鼻孔をくすぐる

 

 なんだか、心が落ち着くようだ

 

環那「お待たせ。」

イヴ「わぁ!すごくいい香りですね!」

環那「結構、評判良いらしいよ。まぁ、百聞は一見に如かずだ。飲んでみないとね。」

イヴ「そうですね!」

 

 俺はそう言いながら席に着き、そして、紅茶を飲んだ

 

 それとほぼ同時にイヴちゃんも紅茶を飲み始めた

 

イヴ「美味しいです!なんだか、ホッとします!」

環那「中々だね。」

 

 イヴちゃんに出しても差し支えないレベルだ

 

 高級を謳ってるだけはある

 

 他の紅茶とは明らかな違いがあるね

 

環那「クッキーもあるから、どうぞ。」

イヴ「いただきます!」

 

 イヴちゃんはクッキーを一枚つまんだ

 

 ジンジャークッキーが好きらしいから、用意してもらったけど

 

 果たして、気に入ってくれるか

 

イヴ「美味しいです!しかも、私の好きなクッキーです!」

環那「そっか。それはよかった。」

イヴ「カンナさんも食べてみてください!あーん!」

環那「!」

 

 驚いたな

 

 この子、これを自然にしてるの?

 

 油断ならないな......

 

 そんなことを思いながら、差し出されたクッキーを食べた

 

環那「......うん。美味しいね。すごく。」

イヴ「そうですよね!2人で食べるともっと美味しいです!」

環那「そうだね。(ほんとに、もう......)」

 

 マズい

 

 俺の本能が制御から外れようとしているのが分かる

 

 この感情はよく知っている

 

 この一年、何度も感じてるんだから

 

環那(困ったな......)

 

 “イヴ”

 

 カンナさんが固まってしまいました

 

 どうしたんでしょうか?

 

 何か考え事をしているのでしょうか?

 

環那「イヴちゃんは可愛いね。」

イヴ「え!?///」

環那「最近、よくそう思うんだ。イヴちゃんと会うのを楽しみに思ってることが多くなった。」

 

 カンナさんにそう言われて、私は体が熱くなりました

 

 会うのが楽しみ......そんな風に思ってくれていたなんて

 

 少しは、私の存在はカンナさんの中で大きくなれたのでしょうか

 

イヴ「じゃあ......」

環那「?」

イヴ「私の正式にお付き合いしてくれますか?」

 

 私はそう尋ねました

 

 これは、ワガママだと思います

 

 カンナさんと仮にとはいえお付き合いしているのに、あの日以降、私に触れてはくれません

 

 所謂、欲求不満なんです

 

 だから、ワガママになってしまいます

 

環那「やっぱり、気付いてたみたいだね。このデートがその答えを知る場だってこと。」

イヴ「はい。だから、覚悟してきました。」

環那「いい予測だと思うよ。でも、そうだな、全部は見えてないみたいだ。」

イヴ「え?」

 

 全部は見えてない?

 

 それは、どういう事でしょうか?

 

 何か、他に何かあるのでしょうか?

 

環那「まっ、答えは今じゃなくてもいい。お昼にって言うのも、いささか雰囲気に欠ける。」

イヴ「そ、そうですか。」

環那「こう見えて、意外とロマンチストなんだ。」

イヴ「あ、あまりそういうイメージはありませんけど......」

環那「え!?」

 

 私がそう言うと、カンナさんはひどく驚いていました

 

 私たちのイメージでは、カンナさんは周りなんて気にしないで、自分の道を突き進む

 

 その場の雰囲気も何もかもを変えてしまう

 

 そんなイメージがありました

 

環那「結構、雰囲気とか大切にしてると思ってたのになー。」

イヴ「ふふ。カンナさんには一番似合わないかもしれませんね。」

環那「えー。まぁ、意図して空気を壊すことも多かったし、仕方ないかー.......」

イヴ「でも、そうですね。カンナさんはそう言う事も出来ますよね。」

環那「?」

イヴ「今はこれ以上は何も聞きません。カンナさんのタイミングまで、楽しみに待ちます。」

環那「そうだと助かるよ。イヴちゃんに楽しんでもらうのが、一番の目的だからね。」

 

 そんな会話の後、私たちはお茶を飲みながら、色々な話をしました

 

 この先の結果なんて、今は分かりません

 

 そもそも、私が決められることでもありません

 

 その時まで、カンナさんと楽しく過ごしましょう

 

 後悔のないように

 

 

 



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答え

 結果よりも過程が大事って、結構言われがちだと思う

 

 俺自身、過程の美しさにこだわるタイプだから、その主張は理解できなくもない

 

 でも、結局それは結果ありきで

 

 それが伴わないと、いくら過程が美しくても意味がない

 

 結局の所、結果が伴えば、少なくとも不幸ではないという事だ

 

環那(だから、彼女の考えは非常によくわかる。)

 

 あれからしばらくして、夕食の時間になった

 

 ここのレストランにはドレスコードなんてものがある

 

 非常に面倒だけど、郷に入れば郷に従えってやつだ、仕方ないだろう

 

 そんなことを考えながら、彼女のことを待っている

 

イヴ「__お待たせしました!」

環那「おぉ。」

 

 10分ほど経った頃、彼女が更衣室から出て来た

 

 黒のレースのワンピースを身にまとい、少し色の濃いリップを付けてる

 

 いつもの彼女への印象とは違い、大人びた雰囲気を醸し出してる

 

環那(素晴らしいな。)

イヴ「ど、どうでしょうか?///」

環那「よく似合ってるよ。」

イヴ「なら、よかったです///えへへ///」

 

 彼女は嬉しくも照れくさそうにそう言った

 

 こういう表情も彼女の魅力の一つだろう

 

 綺麗で、愛らしい

 

環那「さっ、行こう。このくらいに行けば、時間に余裕もあるだろうしね。」

イヴ「あ、あの......!///」

環那「!」

イヴ「少しだけ、歩きずらいので......///」

 

 イヴちゃんが腕に抱き着いて来た

 

 ふむ、何がとは言わないが非常に素晴らしい

 

 自分が理性的な人間で良かった

 

 普段、衝動的に動く人間だと彼女の純粋さと相性が悪い

 

環那「そう言う事なら、この役目、謹んでお受けしよう。」

イヴ「はい!///」

 

 俺たちはそのまま、レストランに移動した

 

 さて、良い時間だ

 

 彼女とのんびり歩くのに十分な時間が残ってるから

__________________

 

 “イヴ”

 

 この船のレストランはすごい場所です

 

 普段なら、絶対に入れない

 

 まるで、別世界に来たような気分になります

 

環那「どうかな?前もって、イヴちゃんの好みを伝えておいたんだ。思ってたよりは食べやすいと思うけど。」

イヴ「そ、そうですね。思ってたよりはなじみのある感じがします。」

環那「そっか。ならよかった。」

 

 私の食事の所作は拙いですが、カンナさんは違います

 

 見ただけで分かるほど、美しいです

 

 それよりも......かっこいいです

 

イヴ(すべての動きに意味があるような、誰にも触れられない空間を作り出すような、そんな特別な感じがします。かっこいいです......///)

環那「イヴちゃんは好きなように食べればいいよ。誰にも文句なんて言われないからさ。(ねぇ?)」

周り「っ!!!」

イヴ「?(なんだか......)」

 

 周りの空気が変わったような気がします

 

 心なしか、温度も下がったような.......

 

 気のせいでしょうか?

 

環那「さぁ、ゆっくり食べると良いよ。時間はあるから。」

イヴ「はい!」

 

 カンナさんはそう言いながら、なんだかニコニコしています

 

 それを見ていると、私も嬉しくなります

 

 こんなに穏やかな笑みを浮かべるカンナさんは初めてかもしれません

 

環那(さてと。そろそろ最終フェーズに移るとしようか。)

イヴ(美味しいです!)

環那「ねぇ、イウちゃん。」

イヴ「ふぁい__!///(つ、つい変な返事を!///)」

 

 完全に食事に集中していました

 

 恥ずかしいです......

 

環那「そろそろ、この船は夜景の綺麗な港の近くを通るんだ。一緒に見に行かないかい?」

イヴ「いいですね!是非行きましょう!あ、早く食べた方がいいですか?」

環那「もう少し、のんびりでいいよ。時間はあるからね。」

イヴ「それなら良かったです!」

 

 私はまた、食事を再開しました

 

 この後もカンナさんと一緒にいられます

 

 なんだか不思議な感じがしますが、嬉しいです

 

 出来ることなら、この幸せな時間がずっと続いてほしいです

__________________

 

 “環那”

 

 あれから30分ほどが経った

 

 イヴちゃんが食事を終えて、レストランから離れた

 

 時刻は8時を過ぎ、海の上は真っ暗は船が放つ光で照らされている

 

 そして、少し遠くに、例の港が見える

 

イヴ「わぁ!綺麗ですね!」

環那「そうだね。」

 

 真冬の海上は冷える

 

 けど、彼女にはあまり関係ないらしい

 

 流石だね

 

イヴ「こんな景色を知ってるなんて、カンナさんはすごいです!」

環那「うーん。」

イヴ「どうかしましたか?」

環那「この綺麗な景色も、イヴちゃんと見るからより美しく感じられる。そう思ってならないんだ。」

イヴ「っ!!///」

 

 彼女といる時間は癒される

 

 心が落ち着くし、俺が強くある必要はない

 

 そう言う時間は幸せで

 

 俺の弱さを見せてもいいと思うくらいには、彼女のことを......

 

 “イヴ”

 

イヴ「か、カンナさん、それは......///」

 

 私はカンナさんの言葉に動揺しています

 

 その言葉はまるで、告白のような

 

 そんな風に聞こえて仕方ないです

 

環那「さぁ、答えを言おう。」

 

 カンナさんは穏やかな笑みを浮かべ、そう言いました

 

 緊張して、少し体が震えます

 

 そんな中__

 

環那「イヴちゃんは、少し俺を誤解している。」

イヴ「え?」

環那「あの日から、俺は若宮イヴのことを考えていた。一緒にいるときの安らぎも、美しさも、俺の頭から離れなかった。」

イヴ「!///」

 

 カンナさんに手を握られます

 

 義手じゃない方なのに、凍ってるように冷たい手です

 

 でも、心は温かくなります

 

 その証拠に、私の震えは止まりました

 

環那「この数か月、俺がイヴちゃんを好きじゃなかったときはない。けど、全然伝わってなかったみたいだし、ちゃんとした言葉で伝えて欲しいだろうからいうね?」

 

 鼓動が早くなります

 

 もう、ほぼ答えは聞いたはずなのに、次の言葉を待ちわびています

 

 早く、早く欲しいです

 

 その言葉を__

 

環那「俺は、イヴちゃんが好きだ。俺と付き合ってほしい。」

イヴ「はい!///喜んで.......!///」

 

 私は迷いなくそう答えました

 

 心の底から満たされるように感じます

 

 学校生活でも、芸能活動でも満たされない部分

 

 それが、いっぱいになったような気がします

 

イヴ「すごく嬉しいです!///私も、ずっと大好きです!///」

環那「うん。そんな感じがするよ。」

イヴ「!///(はわ......///)」

 

 カンナさんは笑みを浮かべたまま、私を抱きしめました

 

 こんな風にされるのはもちろん初めてです

 

 いつもは、人目を気にしてくれる方ですから

 

 今日は特別なようです

 

環那「うん。やはり、ここは冷えるね。部屋に戻ろうか。」

イヴ「は、はい///そうですね///(これは......///)」

 

 体の奥底から湧き出てくる幸せと、欲望

 

 痛いくらい疼く、蓄積された何か

 

 私はそれに耐えながら、カンナさんと部屋に戻りました

__________________

 

 “環那”

 

 どうしたことだろうか

 

 部屋に戻ってくる途中、彼女はあまり喋らなかった

 

 いつもは何もなくても楽しそうに話すのに

 

 一体、どうしたのだろうか

 

環那(取り合えず、声をかけてみるか。)

 

 上着を椅子に掛けながらそんなことを考え

 

 俺は彼女を法を見て、近づいて行った

 

 さて、何を話すのが適切かな

 

環那「イヴちゃ__」

イヴ「カンナさん!!」

環那「おっ......と。」

 

 彼女に声をかけた瞬間、すごい勢いで突っ込んできて

 

 俺はその勢いのままベッドに押し倒されてしまった

 

 流石に一瞬だけ思考が追い付いてこなかった

 

環那「どうしたの?イヴちゃん。」

イヴ「......すみません。でも、カンナさんにちゃんとした言葉で好きと言ってもらえて、付き合えて、もう我慢が出来ないんです。」

環那(......これはー。あー、そう言う事か。)

 

 分かっていたのに想定から外れてた

 

 そう言えばそうだったね

 

 イヴちゃんは__

 

イヴ「今まで、ずっと欲求不満でしたから///やっと、こうすることが出来ると思うと、我慢なんてできません!///」

環那「それはそれは。大変申し訳なかったね。」

 

 呼吸がいつもと違う、顔も紅潮していて、脈拍も不自然だ

 

 これは、まずったかな

 

 どうやら、俺は彼女の本能を押さえつけさせすぎたようだ

 

イヴ「もう、いいですよね?///」

環那「そうだね。今は止める理由はないよ。」

イヴ「なら......♡」

 

 そう言うと、彼女は妖艶な笑みを浮かべ、こちらに身を乗り出してきた

 

 ドレスが浮いて、胸元が見える

 

 ふむ、これは実に素晴らしい眺めだ

 

イヴ「いっぱい、しましょうね♡」

 

 その言葉と共に彼女の顔が近づいてくる

 

 やはり、どんな姿でも彼女は可愛いな

 

 ついつい、愛してしまいたくなる

 

 はてさて、我慢できないのは、君だけかな?

 

 

 



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最終回:良い子

 ついつい、昨夜は盛り上がってしまった

 

 まさか、俺が本能に抗えなくなるとは

 

 あの後結局、イヴちゃんは気絶しちゃったし

 

 何とか抑制しないといけないな

 

イヴ「う、うぅん......」

環那「あ、起きた?」

イヴ「カンナさん!__っ♡(き、昨日の反動が......♡)」

環那「......あっ。」

 

 やはり、昨日はやりすぎたみたいだ

 

 イヴちゃんの様子がおかしい

 

 もしかしたら、彼女の身体そのものを変えてしまったかもしれない

 

環那「ごめんね、イヴちゃん。昨日はつい、本能が制御を外れてしまった。」

イヴ「うひっ♡......だ、大丈夫、です......♡」

環那「ほ、ほんとに?」

 

 記憶が残ってるだけに、気まずさがあるな

 

 まさか、こんなに早く本性をさらけ出してしまうとは

 

 俺もまだまだみたいだ

 

 そんなことを考えながら、少し無言の時間が出来た

 

イヴ「あ、あの、カンナさん......///」

環那「どうしたの?」

 

 少しして、彼女は落ち着いたようで、話しかけてきた

 

 さて、どう出てくるか

 

イヴ「そ、その、昨日、私の名前を呼んでくれて、嬉しかったです......///」

環那「そっか。」

イヴ「私としては、イヴと呼ばれる方が嬉しかったです///」

環那「うーん、まぁ、別にそう呼ぶのはいいんだけど。」

イヴ「そう言えば、リサさんやユキナさん以外はちゃん付けなのはなぜですか?」

環那「うーん......」

 

 言われてみれば、考えたことなかったな

 

 なんとなく最初にそう呼んで、そのままなだけなんだよね

 

 よくよく考えれば、特に理由もなにもないな

 

環那「テキトーだね。」

イヴ「えぇ!?」

環那「最初にそう呼んで、特に変える機会もなかったから。別にこだわりがあるわけでもないんだよね。」

イヴ「なら、私のことはイヴと呼んでください!」

 

 彼女は元気な声でそう言った

 

 まぁ、別に呼び方はなんでもいい

 

 ていうか、本性はそう呼んでたし

 

イヴ「そっちの方が、特別感がありますから///」

環那「!」

 

 彼女はそう言って、右腕に抱き着いて来た

 

 自分が服を着てないことを忘れているのかな?

 

 まぁ、今は大丈夫だけど

 

環那「そういうものなの?」

イヴ「はい!」

環那「じゃあ、俺のことも呼び捨てにする?」

イヴ「えぇ!?い、いえ、それは、その、カンナさんは年上ですから......」

環那「そっか。まぁ、仕方ないか。」

 

 呼び方なんて、俺は何でもいい

 

 大切なのは、気の持ちようだ

 

 俺が彼女を愛することは、変わらない

 

環那「さて、そろそろ朝食にしようか。」

イヴ「はい!」

環那「じゃあ、服を着ようか。」

イヴ「え__ふ、服を着てません!?///」

環那「あぁ。」

 

 どうやら、彼女は自分の状態に気付いてなかったらしい

 

 俺はそんな慌てふためく彼女を眺めながら自分の準備をし

 

 その後は2人で朝食を食べて、残りのクルーズを楽しんだ

__________________

 

 クリスマスから2ヶ月が経った

 

 リサも友希那もエマも大学が決まり、クラスの雰囲気も緩み切ってる

 

 俺は大学になんていく気もないから、最初からゆるゆるだったけどね

 

リサ「で、どうなの?イヴと。」

環那「どうしたの?藪から棒に。」

友希那「昔からの幼馴染についに彼女が出来たのよ?気になるわ。」

エマ「私も。」

 

 どうやら、女性と言うのは恋バナが好きらしい

 

 エマまでそうだというんだから驚きだ

 

リサ「あー、気になるな―。こっぴどくフラれたからなー。」

環那「別にそんなに話すこともないよ。」

リサ「でも、日菜が『最近、イヴちゃんが変わったんだよねー。なんか大人っぽくなったって言うかー。』って言ってたよ!」

環那「......ふーむ。」

 

 なるほど、彼女か

 

 流石に鋭いな

 

 人のことなんて気にしていないようで、観察がよくできてる

 

リサ「恋は人を変えるって言うしねー。」

環那「あはは、そうかもね。でも......」

リサ、友希那、エマ「?」

環那「ほんとにそれだけだと思う?」

リサ「!?」

友希那「ほ、本当に何をしたの?悪いことじゃ、ないわよね?」

エマ「大丈夫。お兄ちゃんは愛した人には優しい......多分。」

 

 おぉ、エマまで不安になってる

 

 これは珍しいものが見られた

 

環那「まっ、大丈夫だよ。彼女に嫌われるようなことはしないさ。」

リサ「だ、だよね。」

友希那「さ、流石にね?」

エマ「大丈夫(多分)」

(~♪)

環那「ん?」

 

 3人と話してると、誰かからメッセージが届いた

 

 まぁ、誰から送られてきたかは分かるけど

 

 そんなことを考えながら、俺はアプリを開いた

 

環那「......ふーん。」

リサ「どうしたの?環那。」

環那「なんでもないよ。さて、俺は予定があるから、ここで失礼しよう。」

友希那「そう。また明日。」

エマ「私は今井リサ達と帰る。」

リサ「またねー!」

環那「あぁ、また明日。」

 

 俺は軽く手を振りながら、教室を出た

 

 さて、今日も会いに行くとしようか

__________________

 

 “イヴ”

 

 クリスマスの日から、私とカンナさんはお付き合いをしています

 

 今は公表はしていませんが、いつかはする予定です

 

 そんな状況ですから、私たちが会えるのはお互いの家などの、人目につかない場所です

 

 普通のカップルに比べ、気軽に会えるような関係ではありません

 

 でも、カンナさんは毎日会いに来てくれます

 

環那「ふむ。それで?」

イヴ「同じクラスの方に告白されました......」

 

 私は座ってるカンナさんに抱き着いたまま、今日のことを報告しています

 

 今日、私は同じクラスの方に告白されました

 

 少し話したことのある程度の方だったので、本当に驚きました

 

イヴ「放課後に教室で告白されて、色んな人に見られました......」

環那「中々、度胸のある子だね。」

イヴ「今まで、何回かこういうことはありましたが、お断りするのは慣れないです......カンナさんとの関係も公表できないですし......」

環那「そうだね。」

 

 少し、抱き着く腕に力が入ってしまいます

 

 大好きな人と普通に外を歩けないなんて

 

 アイドルの不便なところです......

 

環那「告白されてどう思った?」

イヴ「......えっと。」

 

 カンナさんからの質問に、私は言葉が詰まりました

 

 でも、どう言えば良いのか迷ってるわけではなくて

 

 この本音を言ってしまったら、私は......アイドル失格になってしまいます

 

イヴ「......全く、何も感じませんでした。」

環那「ふむ。」

イヴ「正直、相手の方の顔も覚えていませんし、ドキドキもしませんでした......」

 

 驚くほど何も感じませんでした

 

 カンナさんといると、他の男性が物足りなく感じてしまいます

 

 この2ヶ月間で、私の人への価値観は大きく変わってしまいました

 

イヴ「ファンの人も、学校の人も、色んな人に対する興味が薄くなっているんです......」

環那「大人は皆、そんなものだよ。近しい人物以外に抱く感情なんて、そんなものさ。」

イヴ「そう、なのでしょうか......」

 

 アイドルとして、ファンの皆さんは大切にするべきです

 

 学校の人たちも、応援してくれる人たちがいます

 

 そんな人たちにこんな感情を抱いていて良いのでしょうか......

 

環那「自分がどうありたいかによるけど......イヴはこの先、どうありたい?」

イヴ「......!///」

 

 カンナさんに頬を撫でられます

 

 胸がドキドキして、頭が蕩けそうです

 

 頭の中が、カンナさんでいっぱいになります

 

 ただでさえ、カンナさん以外、何も見えなくなったのに......

 

イヴ「ずっと、カンナさんのものでいたいです......///そう思うように、変わってしまいましたから......///」

環那「ふふっ、良い子だ。」

イヴ「ふぁ......///」

 

 私は身も心もカンナさんに堕とされてしまいました

 

 もう、他の男性なんて目に移りません

 

 カンナさん以外の男性に触れると、嫌悪感を感じてしまいます

 

 告白も全く心に響いてきませんでした

 

 もう、愛せないんです

 

 私の体に、カンナさん以外はダメだと、刻み付けられてしまったんです

 

環那「今日はどうする?」

イヴ「た、たくさん、愛してください♡あの人の告白が、完全に消えてなくなるまで♡」

環那「あぁ、いいよ。ほんとにイヴは、良い子だ。」

 

 そう言うカンナさんの目には狂気が宿っていました

 

 でも、その狂気が、私は嬉しいんです

 

 これが、カンナさんの本当の姿ですから

 

 それを求めてしまうのが私なんです

 

 もう二度と、他の誰かを今までのようには思えないかもしれません

 

 でも、それでもいいです

 

 カンナさんにとって“良い子”でいられるなら、他の何も__

 

 

 

 




ここから別のルート書きます。

取り合えず、全員を選んだ場合と途中で燐子を選ぶIFルートくらいです。


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EX1
ミス


 絡んできた男たちを全員倒して、俺は立ち尽くしている

 

 さっきまで盛り上がって、温度が上がっていた心が、また冷めていく

 

 その寒さが、俺を現実へ引き戻す

 

環那「......もっと騒げよ。」

 

 今日は俺の大切な幼馴染の門出だ

 

 友希那を知っていようが知らなかろうが騒げ、祝福しろ

 

 そうじゃないと......

 

環那「......俺が、可哀想な奴みたいになるだろ。」

 

 まるで、主役が去った舞台に取り残された役者

 

 己を主役と勘違いした道化

 

 そんな者に向けられる目は羨望でも、侮蔑でもなく、哀れみだ

 

 俺は、そんなものになるつもりはない

 

 大人しく舞台から降りるさ

 

「__うっ、ごほっ、げほっ!!!」

環那「......」

「いてて......一体、何が......」

環那「まだ舞台に上がるか。」

「お、おま、お前は!」

 

 ゆっくりと歩みを進める

 

 まだ、俺を舞台から下ろしてくれないのか

 

 引き留めようとするのか

 

 そんな怒りにも似た感情が湧き上がり......安心した

 

環那「そこのゴミ共を連れて去れ。次は......この程度では済まないぞ。」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!!お、起きろお前らぁ!!!」

「な、なんだ!?」

「俺達、あのガキにボコボコにされて__」

環那「君たちごときが俺をガキ扱いか。」

「う、うわぁぁぁぁあ!!!」

 

 目を覚ました男たちは俺の顔を見た瞬間、一目散に逃げて行った

 

 俺のこと、悪魔にでも見えてるのかな?

 

 自分を普通の人間とは思わないけど、少し傷つくな

 

環那「......さて。」

 

 静かだ

 

 もう幕は下りた

 

 俺と言う悪役も、やっと舞台を降りられる

 

 もう、満足だ

 

環那「.......」

 

 悪で終わる物語に誰も拍手は送らない

 

 胸糞悪さと遺恨のみが残る

 

 そして、静かに会場から去る

 

環那「......ざまぁみろ。」

 

 そして、悪はこう笑う

 

 静かに去る観客の背に、バカにするように舌を出す

 

 してやったりと言わんばかりに

 

 こうすれば......

 

環那(誰も、主役のことなんて考えなくなる。)

 

 十数年に渡る舞台は幕を閉じた

 

 後はひっそりフェードアウトしよう

 

 もう、俺が何かをする必要はないんだから

 

環那「.......やっと、これで......」

 

 冷たい空気が体の芯を冷やす

 

 つららで刺されているように、胸の奥が痛む

 

 不思議だ

 

 全ての理想を叶えた先が、こんな__

 

リサ「__環那ー!!」

燐子「環那君!」

イヴ「カンナさん!」

琴葉「南宮君!」

環那「.......!」

 

 冷たい空気を切り裂くような、暖かい光

 

 その光はあまりに眩しい

 

 暗闇にいる、悪にとっては

 

環那「......やぁやぁ、皆お揃いで。」

リサ「友希那から連絡あって、急いできたんだよ......」

燐子「環那君が危ないって......!」

環那「ははっ。それは、面白い冗談だね。」

 

 別に、危ないことなんてなかった

 

 むしろ、俺以外の関係者を心配するべきだ

 

 だって、俺は無傷なんだから

 

琴葉「いえ、来て良かったです。」

環那「え?」

イヴ「私もそう思います。」

 

 そう言われ、俺は首を傾げた

 

 なんで、心配されてるんだ?

 

 別になんともないんだけど

 

イヴ「今のカンナさんは、ひどく傷ついています......」

環那「!」

 

 俺はイヴちゃんに抱きしめられた

 

 それと同時に、不思議な感覚に襲われた

 

 安心、充足と言ったものを感じたんだ

 

琴葉「終わらせたのでしょう。過去のあなたが自分に課した使命を。」

環那「......」

琴葉「そして、あなたは寂しがっています。その使命があなたを南宮環那たらしめるもので、存在意義だったんですから。」

 

 否定の言葉が出ない

 

 全部、図星だ

 

 まるで、俺の言葉を代弁しているようだ

 

燐子「今までの人生の半分以上を費やしたんだもん。寂しくて当たり前だよ......きっと、すごく苦しいし、悲しいと思う。」

環那「......そう、なのかもね。」

 

 運命の人は俺のことを自分のことのように悲しんでる

 

 むしろ、俺の方がこうあるべきなのかな

 

リサ「ほんっと、バカなんだから。」

環那「っ......!」

リサ「かっこつけで、悪役ぶって、悪い部分は全部自分で引き受ける。バカだよ。」

 

 そして、一番の理解者は俺の頭を撫でてくる

 

 優しい口調で、バカって言いながら

 

 でも、それが、一番俺を楽にしてくれた

 

リサ「泣きたいときは泣いていいんだよ。」

環那「......」

燐子「もう、十分頑張ったんだから。」

琴葉「あなたにも泣く権利はあります。」

イヴ「私がずっと抱きしめてますから!」

 

......どうやら、この4人は俺を泣かせたいらしい

 

 でも、悲しいかな

 

 俺にはその機能が備わってない

 

環那「泣きはしないさ。」

イヴ「あれ!?」

環那「だって、今泣くのは、大切な人の門出を冒涜してしまいそうだから。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!」

 

 俺はイヴちゃんから離れた

 

 流石にずっとあのままではいられないし

 

 もう夜も遅いからね

 

環那「さっ、そろそろ帰ろう。」

リサ「もー、ほんとに意地っ張りなんだから!」

燐子「でも、これが環那君ですから。」

琴葉「かっこつけですね。」

イヴ「でも、少し元気になったみたいですよ!」

環那「ははっ、それは__っ.......!!!」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!?」

 

 歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、つま先からドロッと溶けていくような感覚に襲われた

 

 しまったなぁ......

 

環那「マズっ__」

リサ「環那!!」

イヴ「大丈夫ですか!?」

燐子「す、すごい熱......!」

琴葉「び、病院......いや、エマちゃんに見てもらわないと!」

環那(やらかしたな......)

 

 薄れゆく意識の中、4人の声が聞こえる

 

 つい、安心してしまったよ

 

 ほんと、好きな人と一緒にいると、気が緩んでしまうよ

 

 そんなことを思いながら、俺は意識を手放した

__________________

 

環那「__んっ。」

 

 電源が入った機械のように俺は目を覚ました

 

 外はもう、明るくなってる

 

 睡眠をとって体力は戻ってる......はずなんだけど

 

環那(体が重い......?)

 

 起きてすぐ感じたのはそれだった

 

 上手く体を動かせない

 

 これは、一体......

 

リサ「すぅ......」

燐子「んん......」

イヴ「かんな、しゃん......」

琴葉「んぅ......」

環那「......?(?)」

 

 冷静になって周りを見ると、4人が同じベッドに入っていた

 

 な、なんでこんなことに?

 

 俺が倒れたから看病してくれた......と言うのが可能性が高いか

 

エマ「お兄ちゃん。起きた?」

環那「エマ?」

 

 俺が落ち着きを取り戻すと、エマが部屋に入ってきた

 

 ちょうどよかった

 

 多分、昨日処置をしてくれたのはエマだろうし

 

環那「エマ、状況を説明してもらってもいいかい?」

エマ「大方、お兄ちゃんの予想通りだと思う。昨夜、お兄ちゃんをそこの4人が運んできて、私が処置をした後、離れるのが怖いからって、ずっと看病してた。」

 

 ふむ、想像通りの展開だね

 

 そりゃ、あんな倒れ方したら怖いよね

 

 まぁ、ただの電池切れみたいなものだけど

 

エマ「本当に大変だった......大丈夫って言ってるのに全員泣いてるし。離れたがらないし。」

環那「ははっ、苦労かけたね。」

エマ「問題ないよ。」

 

 エマは呆れた様子で4人を見てる

 

 ほんとに大変だったんだな

 

 今度、何かお礼でもしないとな

 

エマ「それにしても、大変だね。これほどお兄ちゃんを思う人が4人もいるなんて。」

環那「大変でもないさ。」

エマ「でも、誰か1人を選ばないといけない。」

 

 エマにそう言われ、少し考えた

 

 誰か1人を選ぶ......か

 

 確かに、非常に難題だ

 

 俺の気の持ちようの問題で......

 

環那「......正直、わがまま言うと、全員欲しいな。」

エマ「!」

環那「所詮、わがままだよ。こんなこと、この4人に言ったら、刺されるじゃすまないよ。」

エマ「......うん。(あぁ......)」

環那「エマ?」

エマ「ううん、なんでもない。お兄ちゃん、もう少しゆっくりしてて。私は朝食を用意してくる。」

 

 エマはそう言って、部屋を出て行った

 

 なんか急いでた気がするけど、気のせいかな?

 

 ていうか、この状態のまま置いて行かれた......

 

環那(どうしよ。)

 

 どうやっても体を動かせない

 

 自力で出ることは不可能

 

 うーん、これ、4人が動くまで待たないとだめ......だよね?

 

リサ(い、今、全員欲しいって言った......!?///)

燐子(そ、そんな、環那君......!///)

イヴ(こんな、わがままを、カンナさんが......!?///)

琴葉(それはそれで......でも、倫理的には.......///)

 

 

 

 



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一緒に

 あの日から、1週間が経った

 

 俺は特に変わりのない日常を過ごしている

 

 ......と、俺は思ってるんだけど

 

リサ「お、おはよー///」

環那「うん。おはよ。」

 

 なんだか、最近、リサの様子がおかしい気がする

 

 いや、リサだけじゃなく、燐子ちゃん、琴ちゃん、イヴちゃんも

 

 何というか、俺に対してよそよそしい気がする

 

環那(うーん。)

琴葉「おはようございまーす。」

環那「あ、琴ちゃん。」

琴葉「っ!///」

環那「?」

 

 教室に入ってきた琴ちゃんの方を見ると、目を逸らされた

 

 え、普通にショックなんだけど

 

 まぁ、琴ちゃんも家からこの調子で

 

 燐子ちゃんもまともに目を合わせてくれないし

 

 あのイヴちゃんまでも、似たような感じだ

 

環那(嫌われたって感じじゃない。んー、何があったんだ?)

 

 思い当たる節は......まぁ、細々とあるけど

 

 でも、その時点では何もなかったんだよね

 

 うーん......

 

環那(んー、どうしよ。)

 

 流石にずっとこの調子だと悲しいな

 

 でも、原因が解明できてないんじゃ動けない

 

 どうしたものか

 

リサ「ね、ねぇ、環那。」

環那「どうしたの?(やっと話しかけられた。)」

リサ「そ、そのー、環那って重婚とかどう思う?///」

環那「重婚?」

 

 ど、どうしたんだ?藪から棒に

 

 それにしても、重婚か

 

環那「本人たちが満足してればいいんじゃない?」

リサ「そ、そっか!///」

環那「どうしたの?」

リサ「い、いや、なんでもないよ!///」

環那「?」

リサ「ちょっと、お花摘みに......///」

 

 リサはそう言うと、そそくさと教室を出て行った

 

 もうすぐホームルームなんだけど

 

 まぁ、いいや

__________________

 

 学校が終わった

 

 さて、今日は何をするか

 

 仕事のスケジュールは空いてるし、勉強とかしないし

 

 取り合えず、買い物でも行こうかな

 

燐子「__か、環那君......!」

イヴ「カンナさん!」

環那「燐子ちゃんにイヴちゃん?」

 

 珍しいな

 

 2人でいるのも、こっちに来てるのも

 

 今日は一体、何が起きてるんだ?

 

環那「どうしたの?」

イヴ「す、少しお茶でもいかかですか!?」

燐子「は、羽沢珈琲店で.....!」」

環那「いいけど、なんでそんなに大声で?」

 

 イヴちゃんはともかく、燐子ちゃんまで

 

 こんな声、滅多に聞けないよ

 

環那「まぁ、取り合えず行こうか。」

燐子「そ、そうだね......!」

イヴ「行きましょう!」

 

 そんな会話の後、俺たちは羽沢珈琲店に向かった

 

 道中、異様に会話が少なかった

 

 けど、チラチラと2人からの視線を感じた

 

 俺、ほんとに何をしたんだ......?

__________________

 

 道中ほぼ無言のまま、羽沢珈琲店に来た

 

 それで、今はそれぞれが注文したメニューが来て

 

 それを軽く食べつつ、様子を伺ってる

 

環那(さて、どう出てくるか、もしくは、どう出るか。)

 

 2人の目的が分からない以上、下手な動きは出来ない

 

 でも、待ちすぎるのも時間を浪費するだけ

 

 ここで俺がやるべきは、2人から目的を引き出すこと

 

 幸い、そんなに駆け引きが必要なわけじゃないし

 

環那「それで、何か話があって来たと思うんだけど。どうしたの?」

燐子「え、えっと......」

イヴ「少し、カンナさんの将来像を聞いてみたいというか......」

環那「将来像?」

 

 え、学校の面談?

 

 急に聞かれても少し困るな

 

 特に面白いことも言えないし......

 

環那「会社の意識改革も少しずつ進んで、もう1,2年もすれば完成するだろうし。それが終われば、更なる基盤の強化と事業の拡大。それが終われば、さっさと社長なんて立場とはおさらばさ。」

イヴ「えぇ!?」

燐子「そ、そうなの......!?」

環那「元々、不本意な立場だしね。」

 

 まぁ、退いた後も利用はさせてもらうけどね

 

 金銭面を潤すために

 

 面倒事は後継に押し付けよう

 

イヴ「ま、まぁ、それはいいんです。もう少し、プライベートな部分と言いますか......」

環那「プライベート?」

燐子「その、結婚とか、その後の生活とか......」

環那「あー、そっちか。」

 

 つい、パッと思いつく方を言ってしまった

 

 そっちの方が簡単だからね

 

 2人が聞きたい内容の方が難しいな

 

環那「そうだなぁ。出来るだけ、自由であってほしいとは思うな。結婚したからと言って、自分のやりたいことを諦めてほしくない。」

イヴ「なるほど。」

燐子「寛容な旦那様になりそうだね......!」

環那「まぁ、負担になるなら、結婚そのものに意味がないからね。」

 

 自分の要望も言うべきだけど、配偶者の意思を尊重するべきだ

 

 俺はある程度ワガママでも受け入れられるし

 

燐子「じ、じゃあ、その、家族はたくさんいた方がいいとかある......?///」

環那「まぁ、子どもはいると可愛いだろうね。それも、将来の相手と要相談だけど。」

イヴ(つ、つまり、相談次第では、子だくさん......!///)

燐子(環那君との......///)

環那「?」

 

 2人とも固まったぞ?

 

 え、何が起こった?

 

 流石に子どもは話が飛躍しすぎか?

 

燐子「う、うん、聞きたいことは聞けたから、そろそろ解散しよっか......!///」

環那「え?」

イヴ「そ、そうですね!///環那さんもお忙しいでしょうし!///」

環那「別に暇だけど__」

燐子、イヴ「そ、それじゃ......!///」

 

 そう言うと、2人は自分の分のお金を置いて店を出た

 

 ポツンと取り残された俺は、呆然と2人が出て行った扉を眺め

 

 少し呼吸を置いて、カップを持ち上げた

 

環那(な、なんだったんだ?)

 

 俺はコーヒーを飲み終えた後、会計を済ませた

 

 2人が置いて行ったお金は今度返しておこう

 

 今日は、不思議なことばっかりだったな.......

__________________

 

 今日は不思議な出来事ばかりだった

 

 リサも燐子ちゃんもイヴちゃんも

 

 久しぶりに話したら様子がおかしかったし

 

 それに、やけに焦ってた

 

環那(うーん。)

 

 料理をしつつ、今日の出来事を整理する

 

 と言っても、整理するほどの情報がないんだよね

 

 3人の行動で一致する部分はあるけど

 

 会話内容はバラバラだ

 

 強いて一致する点を探すなら、結婚か

 

 まぁ、リサは重婚って言ってたけど

 

琴葉「__ただいまかえりましたー。」

環那「おかえり、琴ちゃん。」

 

 6時くらいになって、琴ちゃんが帰って来た

 

 大体いつも通りだ

 

 俺は軽く琴ちゃんの方に目を向けた

 

琴葉「今日のご飯は何ですか?」

環那「今日はとんかつだよ。ソースは何種類かあるよ。」

 

 もう揚げ終わってるので、キャベツを切っていく

 

 残りのメニューは豆腐のお味噌汁にお漬物

 

 うん、よくできた定食だ

 

 あとはキャベツを切って__

 

琴葉「あ、そう言えば、南宮君。あなたは、重婚などに関心はありますか......?///」

環那(キンッ)

琴葉「何の音ですか!?」

 

 いきなりのことに驚いて、包丁が指に当たってしまった

 

 こんなミス、初めてだ

 

環那「大丈夫。包丁が指に当たっただけ。」

琴葉「た、大変じゃないですか!大丈夫ですか!?」

環那「金属だから大丈夫だよ。」

 

 左手で切ってて良かった

 

 正直、気分で使う手変えてるけど

 

 今日の俺はどうも運がいいらしい

 

琴葉「あ、そう言えば......」

環那「それより、今日は一体どうしたの?皆、重婚やら、結婚やら。何か悩みでもあるの?」

琴葉「!」

 

 心配してキッチンに入ってきた琴ちゃんにそう尋ねた

 

 すると、琴ちゃんは目を逸らした

 

琴葉「それは......」

環那「それは?」

琴葉「......///」

 

 目が合わない

 

 琴ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、目を逸らされる

 

 うーん、これじゃ話は聞けないか

 

琴葉「えっと、話すので、少し待ってください......///」

環那「?」

 

 琴ちゃんはそう言うと、携帯を操作した

 

 その数秒後、玄関の扉が開いて

 

 何人かの足音が鳴った

 

リサ「お、お邪魔しまーす。」

燐子「お邪魔します......」

イヴ「お邪魔します!」

環那「早くない?」

 

 スタンバってた?

 

 そうとしか考えられない

 

 どう考えてもこの早さで集まれるわけないし

 

環那「取り合えず、座る?」

 

 そう促し、俺は4人に座ってもらった

 

 2人ずつが並んで座って、俺は1人で座ってる

 

 なんか、誕生日にでもなった気分だ

 

環那「それで、まぁ、4人が繋がってるは何となく想像つくけど、一体何があったの。」

リサ「いやー、実はー......」

 

 リサが事の詳細を話してくれた

 

 どうやら、あの日に俺が全員欲しいと言ってたのを聞いてたらしい

 

 その時点で、起きてたのかと驚いた

 

リサ「それで、話し合ったの。環那が良いなら、4人一緒に付き合うのはどうかって。」

環那「すごい話し合いだね。(なるほど、そう言う事か。)」

 

 そりゃ、あんなこと言ってたら目も合わせられないか

 

 ていうか、前向きなことに驚いたんだけど

 

燐子「みんな、環那君のことが大好きで、選ばれなかった3人はすごく辛いと思うから......」

琴葉「きっと、私たちはあなたに選ばれなければずっと誰ともお付き合い出来ないでしょう。」

イヴ「だから、みんな一緒にカンナさんといれば、幸せだと思いました!」

環那「そ、そうなんだ。」

 

 確かに、そうなのか

 

 俺は皆のことを完全には理解してない

 

 もし、俺が選ばなかったとして、そうなるのかはわからない

 

 けど、皆がそう思うなら、そうなんだろう

 

リサ「だからさ、その、あたし達全員、貰ってくれると嬉しいんだけど......///」

燐子「その、日本でも事実婚なら大丈夫だし......///」

琴葉「私たちは全員、この話には納得しています///」

イヴ「あとは、カンナさんがよろしければ///」

 

 とんでもない状況だ

 

 俺はこの状況にそんな感想を抱いていた

 

 ただでさえ、この4人に好かれてるのすら贅沢なのに

 

 まさか、4人一気にって

 

 贅沢どころか、罰当たりだな

 

環那(......でも、今さらか。)

 

 今まで散々、点に唾吐いて生きて来たんだ

 

 罰当たりなんて、考える必要もない

 

 むしろ、これは大きなチャンスなんだろう

 

 選べないまま、時間を浪費していたから

 

環那「ほんと、どうかしてるよ。みんな、世間的に見ればレベルが高くて、男なんか引く手あまたなのに。世界の損失もいい所だ。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!」

環那「でも、世界のことなんて、俺の知ったことじゃない。」

 

 俺は4人の目を見た

 

 全員が納得してるというのはほんとらしい

 

 なら、俺が迷う必要もないか

 

環那「だから、皆がくれたチャンス、ありがたく使わせてもらうよ。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!///」

環那「俺が全員幸せにする。後悔はさせないよ。」

 

 俺は4人に向けてそう言った

 

 うわぁ、すごい贅沢だ

 

 嬉しいよな、やらかしたような

 

 こんな感覚、初めてかも

 

リサ「やった!」

燐子「よろしくね、環那君......!」

イヴ「すごく嬉しいです!」

琴葉「思い切りがいいですね。南宮君。」

環那「喜んでくれたようでよかったよ。それと、思い切りに関ては皆ほどじゃないかな。」

 

 これは、誰にも不満が生れないように考えないとな

 

 でも、いいな

 

 楽しく考えられる課題はいいものだ

 

琴葉「あ、皆さん今日は泊っていくらしいので。」

環那「え、そうなの!?じゃあ、ご飯用意しないと。」

リサ「ご、ごめんねー。」

環那「あぁ、大丈夫。予備の食材は用意してるから。」

燐子「用意周到......!」

イヴ「何かお手伝いすることはありますか?」

環那「大丈夫。座ってて。」

 

 なんか、とんでもないことになったけど

 

 俺は欲しかった人たちを手に入れた

 

 これは、責任重大だな

 

 まぁ、のんびり、楽しみながら考えていくとしよう

 

 折角、4人と付き合うことになったんだ

 

 楽しまなかったら損でしょ?

 

 

 

 



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会議

 昨日は色々あった

 

 まさか、俺が4股するということになるとは

 

 やりそうと言われれば納得するけど、まさかだな

 

環那「......」

リサ「んー.....」

燐子「すぅ......すぅ......」

琴葉「......」

イヴ「すぅ......」

 

 なんか、最近こういうの多くない?

 

 いや、今回は全員同じベッドに入ってるから、前とは違うんだけど

 

 なんていうか、色々すごいな

 

環那「......(落ち着こう。)」

 

 今はただ、全員が器用に俺に抱き着いて、体の感触を感じて

 

 それに加えて、良い匂いがするだけだ

 

 ただそれだけの状況だ

 

環那(うん、それだけで片付けられるものじゃないね。)

 

 俺は落ち着きを保ったまま、ベッドから抜け出した

 

 4人全員起きないんだから、上手くやっただろう

 

 そんなことを思いながら、俺は朝食の準備をしにリビングに向かった

__________________

 

 まな板に包丁が当たる音で落ち着く

 

 冷静さと言うのは大切だ

 

 冷静さを失えば、思いもよらぬ事態が起きるからね

 

 そして、それに対応する力も弱まる

 

環那「うん。悪くない。」

 

 今日の朝食はコーンポタージュにバケット、サラダだ

 

 暇だったから一からコーンポタージュを作ってみたけど、悪くない

 

 インスタントよりも深みがある

 

 そして何より、店やインスタントで感じる物足りなさが解消される

 

 やはり、自分で作るのはいい

 

リサ「__あー!」

環那「!?」

 

 自分の料理の出来に満足しつつ、自炊の利点について考えていると、リサの大きな声が響いた

 

 ど、どうしたんだろう?

 

燐子「も、もう朝ご飯作っちゃってる......!?」

琴葉「い、いつもより早起きじゃありませんか!?」

イヴ「ベッドから出るのに気づきませんでした......カンナさんはシノビです!」

 

 リサに続いて、続々とリビングに入って来た

 

 全く話が掴めない

 

 一体、この4人は何をする気だったんだ?

 

環那「えっと、一体、どういうこと?」

燐子「折角、環那君と付き合えたから、朝ごはんをみんなで準備しようと思ってて......」

琴葉「彼女らしいことをしてみたくて......」

イヴ「良い彼女と思ってほしくて......」

環那「あー。」

 

 そう言う事ね

 

 なんていうか、可愛らしいな

 

 俺はそんなに尽くされるべき存在じゃないのに

 

 むしろ、皆は存在するだけでいいのに

 

環那「まぁ、それはまたの機会にとっておこう。時間はまだまだあるんだし。」

リサ「そーだね!環那の胃袋掴むチャンスはいくらでもある!」

環那「皆が作ったなら、別に毒物でも食べられるけど。」

琴葉「そんなもの作りませんよ!?」

リサ「あー、環那、鋼の胃袋だからねー。」

燐子「食べたことあるんですか......!?毒物を.......!?」

イヴ「い、一体なぜ!?」

 

 あれ?俺、そんなもの食べたことあったっけ?

 

 うーん、心当たりがないな

 

 でも、食べれそうなのは事実だな

 

リサ(友希那のダークマター、余裕で食べてたし。)

環那「まぁ、朝食にしよう。準備するから、皆は座ってて。」

リサ「何か手伝いはない?」

環那「ないよ。もうほとんど終わってるから。」

リサ「じゃあ!昨日に続いてごちそうになろ!」

 

 リサがそう言うと、4人は席に着いた

 

 俺は4人分の朝食を用意して、それをテーブルに並べ

 

 それを食べるのを眺めながら、コーヒーを飲んで一服するっていう

 

 非常に充実した朝を過ごした

__________________

 

 “リサ”

 

 朝ご飯を食べてから、環那は出かけて行った

 

 今日は仕事に行かないといけないらしい

 

 それで、今は4人でテーブルを囲んでる

 

リサ「さて。」

 

 今日の朝ご飯の件であたしたちには問題がうまれた

 

 これは、すっごく大変なことだ

 

 それは......

 

リサ「環那があまりに完璧すぎて、あたし達の存在価値ないよ!」

琴葉「なんであの人はなんでも出来るんですか!?」

イヴ「朝ご飯、すごく美味しかったです!」

燐子「お部屋も、すごく綺麗でした......」

 

 環那はありとあらゆる部分で抜かりない

 

 家事は一般レベルは越えてるし

 

 金銭面ももういくら稼いでるかも想像がつかない

 

 環那の欠点なんて歌くらいしか知らないよ

 

燐子「このままじゃ、私たち、環那君にお世話されるだけのダメ彼女に......」

リサ「そ、それはなんとしても避けないとね。」

琴葉「でも、どうするんですか?彼はご存じの通り隙なんてありませんよ?」

イヴ「うーん。カンナさんの隙を探すより、負担を減らすことを考える方がいいと思います!」

リサ、燐子、琴葉「て、天才......!?」

イヴ「えぇ!?」

 

 確かに、言われてみればそうじゃん

 

 今の環那ってどう考えても働きすぎだし

 

 そこから一つくらい奪い取ればいいんじゃん!

 

燐子「な、なら、皆が交代で環那君にお弁当を作るというのはどうでしょうか......?エマちゃんと浪平先生の分も一緒に作れば、負担を減らせますし......!」

リサ「いーねそれ!それで行こう!」

イヴ「カンナさんにアピールも出来ます!」

琴葉「わ、私も頑張ります。料理は未だに苦手ですが.......」

リサ「いやいや!環那なら何でもおいしく食べてくれますよ!」

 

 環那は好きな子には甘々なタイプだ

 

 多少失敗したくらいなら、むしろ可愛いと思うはず

 

 うん、いい案だ!

 

リサ「じゃあ、さっそく環那に連絡入れよう!」

燐子「どういう感じでローテーションを組むかも考えないと......!」

琴葉「メニューもあまり被らないようにしないとですね。」

イヴ「みんなでカンナさんを楽にしてあげましょう!」

 

 それから、あたしたちは4人で会議をした

 

 さて、環那にどんなお弁当を作ろうかな

 

 みんな一緒に付き合ってるけど、自分の色は出していきたいな

 

 

 

 



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弁当

 今日、俺は弁当の準備をしていない

 

 この家に来てからほぼ毎日準備してきたから、なんだか違和感がある

 

 なんで準備をしてないかって言うと、4人が俺に弁当を作りたいと言ってきたからだ

 

 何ともいい彼女たちだと思う

 

環那(さて。)

 

 弁当の中身は空けるまで秘密

 

 誰が作るかも直前まで聞かされない

 

 まぁ、琴ちゃんの日は分かるんだけどね

 

 同じ家に住んでるし

 

環那(今日は誰のかな。まぁ、大体分かるんだけど。)

 

 “リサ”

 

 環那へのお弁当作りの初日はあたし!

 

 やっぱ、普段からよく作ってるしね

 

 安心安定ってことで!

 

環那「まぁ、予想通りだね。」

リサ「反応薄くない!?」

環那「初日リサじゃない方が驚いてたよ。それくらい、今日がリサなのは必然なのさ。」

リサ「うぅ、なんか納得いかない......」

 

 環那ってそう言うとこあるよね

 

 なんでも予想しちゃうって言うか......

 

環那「4人の中で一番料理してるのはリサだろうから、流石に他の3人と比べれば一枚上手っていうのは予想しやすい。リサの腕は俺も買ってるしね。」

リサ「も、もうっ///なんか、誤魔化されてるような気がする......///」

環那「そんなことないよ。」

 

 環那はそう言うと、腰を下ろした

 

 その隣にあたしも座る

 

 屋上に人が少なくて良かった

 

 こんなに近くにいても誰にも見られないし

 

環那「さっ、お手並み拝見といこう。」

リサ「今日のは自信作だよー!」

環那「ふむ。」

 

 環那はそう言いながらお弁当箱を開いた

 

 今日のメニューはシンプルにのりべん!

 

 いろいろ工夫して、クオリティも高くできたと思う

 

 環那が帰ってきてから、色々研究したからね~!

 

環那「おぉ。すごい完成度。」

リサ「ふふん!環那にも負けないと思うよ!」

環那「流石に料理でリサに勝てるとは思ってないよ。」

 

 環那はそう言いながら、手を合わせた

 

 さて、やっと食べてもらえる

 

 環那の反応はどうかなー?

 

環那「__美味しい。」

リサ「!」

環那「鮭は完璧な塩加減、きんぴらごぼうも、出汁巻も絶妙だ。」

 

 おかずの方は好評みたい

 

 いつもと違って嬉しそうな顔してて、作った甲斐があったって思える

 

 こんな顔、今まで見られなかったからね

 

リサ「あ、環那環那。」

環那「どうしたの?」

リサ「ご飯食べる前に、のりめくってみて?」

環那「うん?」

 

 あたしがそう言うと、環那は箸でのりをめくった

 

 まぁ、サプライズって程でもないけど

 

 彼女らしい要素的なやつ、入れたんだよね

 

環那「これは。」

リサ「ど、どう?///桜でんぶでハートつくってみちゃったりして~///」

環那「......」

リサ「!?///」

 

 環那はのりの下を見た後、数秒間固まった

 

 そして、いきなりバッと動き出したと思うと

 

 お弁当箱を丁寧において、あたしの手を握った

 

リサ「ど、どどどうしたの!?///」

環那「リサの弁当、すごく嬉しいよ。でも、そうだな。わがままを言うとしたら......リサが欲しいかな。」

リサ「えぇ!?///」

 

 あ、あたしが欲しいって、そ、そういうこと!?

 

 環那がこんな風になるなんて......

 

 そんなにあれ、嬉しかったのかな?

 

リサ「......き、キス、しちゃう?///」

環那「うん。」

リサ「ちゃんと、加減してね......?///」

環那「善処はする。」

リサ「んっ///__」

 

 環那の顔が近づいてきて、唇が合わさった

 

 頭の中が、幸せで満たされる

 

 環那に神経を支配されていくような感覚が全身を駆け巡る

 

リサ(す、すごいっ///)

環那「......足りないな。」

リサ「ん~!?///」

 

 少し唇が離れると、環那はそう呟いて

 

 またすぐ、キスをしてきた

 

 さっき以上に深いキスはあたしの意識をもうろうとさせ

 

 それから、お昼休みが終わる5分前まで、ずっとキスをされた

 

 ......また、お弁当にハートいっぱいいれよ

__________________

 

 昨日のリサの弁当はすごく美味しかった

 

 心温まるというか、安心するというか

 

 リサの技量と気持ちを感じた

 

 さて、今日は......

 

燐子「はい、お弁当......!」

環那「ありがとう。って、なんで羽丘に?」

燐子「今、テスト期間だから。」

環那「あ、そうなんだ。」

 

 だったら、テストの方を大事にしてもらいたいんだけど

 

 弁当作ってて大丈夫なのかな?

 

 うーん......まぁ、本人が大丈夫そうならいいけど

 

環那「じゃあ、いただこうかな。」

燐子「うん......!」

 

 “燐子”

 

 環那君はお弁当箱を開けた

 

 私のお弁当は色々調べて、ハンバーグをメインにしました

 

 その他にはマカロニサラダに卵焼きと

 

 定番のお弁当メニューになってる

 

環那「__うん。美味しい。」

 

 環那君は最初にハンバーグを食べた

 

 いつもより目が開いてる

 

 本当に美味しいと思ってくれてるみたい

 

燐子「今回はソースと一緒に煮込んでみたの。そうしたら、思ってたよりも美味しくて。」

環那「ソースがよくしみてて、白米とよく合う。うん、すごくいい。」

燐子「......///」

 

 環那君のテンションが心なしか高い気がする

 

 気に入ってくれたのかな?

 

 それか、意外とハンバーグが好きとか?

 

環那「卵焼きは甘い味付けで、リサとは違う感じで美味しい。」

燐子「それは、今井さんが出汁巻卵にするって言ってたから、個性を出せるようにって。ハンバーグともあうかなって。」

環那「うん、すごくいいと思う。弁当としての一体感があるし、洋に寄せるなら、その判断は正しい。」

燐子「よかった。」

環那「それに。」

 

 環那君はお弁当を見つめている

 

 どうしたんだろう?

 

環那「燐子ちゃんの料理は優しい気がする。燐子ちゃんそのものを味わってるような気がするくらい。」

燐子「っ......!///」

環那「ん?」

燐子「そ、その言い方、少しだけ、いやらしいよ......///」

環那「え!?」

 

 私そのものを味わうって......

 

 そう言うことしてる風に聞こえて、変な気分になる

 

 環那君は純粋に褒めてくれてるだけなのに

 

燐子「あ、う......///」

環那「えっと、なんかごめん。別にそんなつもりはなかったんだけど。なんというか......うん、ごめん。」

燐子「~っ!///」

環那「燐子ちゃん!?」

 

 絶対に絶対にエッチな子だって思われた

 

 そう思いながら、私は屋上から駆け出した

 

 もうしばらく、環那君の顔、まともに見られないよ.......

 

環那「弁当箱、洗って返せばいいよね......?」

__________________

 

 “イヴ”

 

 3日目は私です!

 

 今日はテストの採点日でお休みで、ゆっくりお弁当を作れました!

 

 リサさんやリンコさんほど料理はしませんが

 

 それでも、頑張りました!

 

イヴ「カンナさん!お弁当です!」

環那「ありがとう。」

 

 と言うわけで、カンナさんにお弁当箱を渡しました

 

 学校には、カンナさんの名前を出すと簡単に入れてくれました!

 

 流石はカンナさん!

 

環那「じゃあ、開けるね__ん?」

 

 お弁当箱を開けると、カンナさんは首を傾げました

 

 おそらく、驚いたのでしょう

 

 だって......

 

環那「おかずだけ?」

 

 お弁当箱にはからあげにミートボールにたこさんウィンナー、卵焼き、ポテトサラダだけが詰められています

 

 そう、ご飯を入れてないのです

 

イヴ「ふふふ、そこで、これです!」

環那「あぁ、なるほど。」

 

 私はもう一つ、竹皮を取り出しました

 

 昔、映像でこのお弁当箱を見たことがあったんです

 

 それで使ってみたかったんです!

 

イヴ「おにぎりです!たくさん、愛情をこめて握りました!」

環那「ははっ、嬉しいな。」

 

 カンナさんは嬉しそうに笑っています

 

 こんな風に笑ってくれて、嬉しいです!

 

環那「じゃあ、いただくよ。」

イヴ「はい!召し上がってください!」

 

 カンナさんはそう言うと、お弁当を食べ始めました

 

 からあげは調べながら作りましたが、どうでしょうか?

 

 美味しいと思ってくれるでしょうか?

 

環那「うん、美味しい。特にこのからあげ、鶏肉にちゃんと味が付いてて、美味しさを強く感じる。」

イヴ「よかったです!」

環那「じゃあ、おにぎりもいただこうかな。」

イヴ「はい!どうぞ!」

 

 私は竹皮に乗ったおにぎりを差し出しました

 

 すると、カンナさんはおにぎりを一つ取り

 

 それを口に運びました

 

環那「__!」

イヴ「カンナさん!?」

 

 おにぎりを食べると、カンナさんは目を見開きました

 

 ど、どうしたのでしょうか?

 

 もしかして、マズかったのでしょうか.......?

 

環那「美味しすぎる。」

イヴ「そ、そうなんですか?」

環那「なんというか、説明できないんだけど、すごい美味しい。」

 

 カンナさんがすごく驚いています

 

 そ、そんなに美味しいんですか?

 

 普通の塩おにぎりなんですが

 

環那「多分、イヴちゃんの愛情が伝わってきてるんだろうね。このおにぎりは絶品だ。」

イヴ「よ、よかったです!///」

環那「これなら、いくらでも食べられそうだ。」

 

 カンナさんはそのままお弁当を食べ進めました

 

 みるみるうちにおかずもおにぎりも無くなっていって

 

 数分もすると、全て食べきってしまいました

 

環那「__ごちそうさま。」

イヴ「お粗末様です!」

環那「美味しかったよ。」

 

 カンナさんは満足そうな表情です

 

 少し作りすぎちゃったかと思いましたが、全部食べてくれました

 

 それがすごく嬉しいです

 

環那「思ったよりたくさんあって、午後の授業で眠たくなりそうだね。ははっ。」

イヴ「なら、少し眠りますか?」

環那「え?」

イヴ「ひ、膝枕位なら、いつでもしますよ......?///」

環那「......じゃあ、少しお言葉に甘えようかな。」

イヴ「はい!」

 

 そう言うと、カンナさんは私の太ももに頭を置きました

 

 今までなら、拒否されていたと思いますが

 

 今回はすぐに受け入れてくれました

 

 彼女になったからでしょうか?

 

イヴ「ふふっ♪」

環那「嬉しそうだね。」

イヴ「はい!だって、カンナさんがこんなに甘えてくれることなんて、滅多にないですから!」

環那「......っ!」

 

 私はカンナさんの頭を撫でました

 

 カンナさんはそれを拒否することなく、少し瞼が閉じました

 

 こうしていると、なんだか可愛らしいです

 

イヴ「いつでも、こんな風に甘えていいですよ?私は、それが幸せですから。」

環那「......皆に弱さを見せるのは、避けたいんだけどね......」

イヴ「なら、私だけでも。」

環那「......それも、いいのかもね。」

 

 そのまま、カンナさんは眠りにつきました

 

 その後、なぜか私もすぐに眠ってしまい

 

 5限目どころか6限目の授業もカンナさんはサボることになってしまい

 

 ナミヒラ先生に少し怒られてしまいました......

__________________

 

 “琴葉”

 

 4日目、最後にお弁当を作るのは私です

 

 今回のお弁当作りはあくまでお試しで

 

 後は南宮君次第で変えていくという風になっています

 

 それで、私も張り切ってお弁当を作ったわけなのですが......

 

琴葉「失敗しました......」

 

 私のお弁当の完成度はひどいものです

 

 他の3人はとても上手だったのに

 

 私、一番年上なのに.......

 

環那「あはは、そっか。」

 

 落ち込んでいる私を見て、彼は笑っています

 

 その手には、一応、私が作って来たお弁当があります

 

 他の皆さんには流石に別のものにしました......

 

琴葉「少しは進歩したと思ったのですが......」

環那「そう簡単にはいかないものさ。苦手を克服するのは、難しいから。」

琴葉「うぅ......」

 

 彼はいつも通り、少し笑いながらそう言います

 

 ここで変に慰めないのが、彼のいい所でしょう

 

 ほとんどの人には受け入れられないでしょうが......

 

琴葉「あなたも無理して__」

環那「じゃ、いただきまーす。」

琴葉「!?」

 

 無理して食べなくてもいい

 

 そう言おうとした瞬間、彼は卵焼きを口に運びました

 

 失敗して、焦げていて見た目も悪いのに

 

琴葉「な、なんで食べてるんですか!?」

環那「成功失敗に関わらず、彼女が作ってくれた弁当なら食べるでしょ。」

琴葉「!」

 

 彼はさも当然のようにそう言い

 

 パクパクとお弁当を食べていきます

 

 どれも、焦げていたり、硬くなっていたり、味付けを間違えたりしているのに

 

 嫌な顔なんて全く見せず、普通に食べています

 

環那「__うん。確かに、失敗してるね。」

琴葉「うぅ......」

環那「リサ、燐子ちゃん、イヴちゃんの方が料理は出来るね。特に琴ちゃんがリサに追いつくのは厳しいと思う。」

 

 彼はそう言いながらもお弁当を食べ進め

 

 そして、ついに食べ終えました

 

環那「でも、俺にとってそれは重要な問題じゃない。」

琴葉「え?」

環那「だって、俺にとっては料理が苦手なのに彼女が頑張って作ってくれたって言う情報だけで、十分だからね。」

琴葉「!///」

 

 彼はそう言いながら、お弁当箱を片付けました

 

 そして、それを横に置き

 

 また私の方に目を向けます

 

環那「別に苦手なことは苦手でいいんだ。必ず、琴ちゃんに出来て、他の3人に出来ないことってあるから。」

琴葉「......そうでしょうか///」

環那「そうだよ。」

琴葉「!///」

 

 頬に彼の手が添えられます

 

 紳士的な力加減は逆に疑惑の念を抱かせます

 

 彼は、私をどうしてしまいたいのかと

 

環那「苦手なことは、4人それぞれ埋め合えばいいんだ。俺は全員を愛してるからさ。」

琴葉「あなたはまた__んぅ///」

環那「.......」

 

 私が喋る前に、彼に口を塞がれました

 

 脳が幸せなこの状況を受け入れ、体から力が抜けます

 

 この時間に身をゆだねたいとそう思わされてしまいます

 

琴葉「__はぁ、はぁ///」

環那「ふふっ、学校でこういうことしてると、ちょっと悪いことした気分になるでしょ?俺は何とも思わないけど。」

琴葉「誰かに見られたら、どうするんですか......?///」

環那「気にしないさ。もしもの時は潰せばいいからね。」

琴葉「.......それを受け入れてしまいそうになってる私は、どうかしてます///」

環那「染まって来たね。」

 

 彼は笑いながらそう言いました

 

 恐らく、そうなのでしょう

 

 彼の常軌を逸した行動への拒否反応が少なくなり

 

 むしろ、それでもいいと思っている

 

 私は彼と出会って半年と少しで、染められてしまったのでしょう

 

 でも......悪くないですね

 

 彼のものになれたようで

 

 

 

 



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デート

リサ「__環那ー!来たよー!」

 

 土曜日の朝、俺の部屋に元気な声が響いた

 

 誰かが家に入ってきた気配は感じてたけど

 

 ヘッドフォン着けてたから、誰かまでは分からなかった

 

燐子「お邪魔します。」

イヴ「おはようございます!」

環那「あぁ、おはよう。」

 

 俺はヘッドフォンを外しながら、3人に挨拶をした

 

 さて、今日は何の用かな

 

環那「今日はどうしたの?」

リサ「デート行きたい!」

環那「え?」

リサ「デート行きたい!」

環那「いや、聞こえなかったわけじゃないよ?」

 

 これまた突然だな

 

 ていうか、ちょっと精神年齢下がってない?

 

 昔に似たようなこと言ってた時と声音が同じなんだけど

 

環那「どうしていきなりそんな話に?」

琴葉「やはり、恋人と言うのはデートをするものでしょう?私たちもしたいです!」

燐子「折角、環那君と付き合えたんだし......///」

イヴ「恋人らしいことは何でもしたいです!」

環那「なるほど、単純明快な理由だ。」

 

 彼女の願いは叶えるべきだ

 

 一応、俺も考えてなかったわけじゃないからね

 

 プラン自体はいくつかある

 

環那「なら、行こうか。」

リサ「え?」

琴葉「今からですか!?」

環那「皆が行きたいと思った時点で、俺の選択肢は即行動さ。いくつかプランは用意してある。駐車場で待っていてくれないかな?俺は着替えてから行くよ。」

 

 そう言って、一度4人には部屋を出てもらい

 

 俺は外用の服に着替えた

 

 さて、どのプランを使うか

 

 まぁ、応用も必要だろうし、臨機応変に行こう

__________________

 

 “リサ”

 

 環那の言う通り、駐車場で待っていると、一台の車があたし達の前に止まった

 

 まさか......なんて一瞬思ったけど

 

 流石にないよね!

 

環那「__いやー、買っておいて良かった。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「......」

 

 あー、うん、なんとなく分かってたよ?

 

 でもさ、誰も予想しないじゃん

 

 幼馴染は車持ってるとか

 

琴葉「い、いつのまに車なんて。」

リサ「浪平先生も知らなかったの!?」

琴葉「か、彼のお金のことに私はノータッチなので。」

燐子「やっぱり、環那君ってすごいですね......」

イヴ「これはすごいで片付けていいことなのでしょうか?」

 

 ダメだね

 

 流石にちょっとどうかしてる

 

 あたし達の常識に収まるような存在じゃないのは知ってたけど......

 

リサ「環那の財布の管理って、大変そう......」

環那「そう?心配しないでいいくらい稼ぐけど。」

琴葉「そう言う事ではありませんよ。」

環那「え?」

燐子「うん......金銭感覚は、大切だから。」

イヴ「節約は大事ですよ!」

環那「人によると思うけど。」

 

 環那は運転しながらそんな会話をしている

 

 なんていうか、安心感がすごい

 

 事故なんて起きないんだろうなって、ありえないのにそう思っちゃうもん

 

環那「俺の稼ぎは世界基準で考えても多い方だし、多少の散財くらいなら、生活に困ることはないよ?」

リサ「う、うーん、実際そうなんだけどね?」

イヴ「このままだと、私たちはダメ人間になってしまいます!」

環那「いいんじゃない?」

琴葉「いや、良くないですよ!?」

 

 環那は好きな相手にはとことん甘いタイプだ

 

 多分、この先あたし達がブランドもの欲しがったり、家を欲しがったりしても、普通に買うと思う

 

 だからこそ、ちゃんとしないといけない

 

 あたし達もちゃんと自立してないと、いい関係にはなれないから

 

環那「みんな真面目だね~。」

琴葉「ここであなたの金銭に甘えるような人間なら、まずあなたに選ばれないでしょう。」

燐子「これ以上、環那君の負担増やしたくない......!」

 

 皆、考えてることは一緒だ

 

 環那は何でもできるから、色んな事をしてる

 

 自分と同い年で学校に行きながら会社の社長とか考えられないし

 

 それに加えて、家事して、勉強教えて、エマの面倒見て

 

 正直、キャパオーバーだと思ってる

 

環那「あはは。変だね、みんな。」

燐子「変......!?]

環那「面白そうだし、期待しておくよ。頑張れ。」

リサ「なんで他人事!?」

 

 そんな会話をしながら、あたし達はドライブを楽しんだ

 

 けど、目的地はどこなんだろ?

 

 外はもう、全然見たことない場所だし

 

 まぁ、環那が考えてるし大丈夫か

__________________

 

 皆で話してるうちに目的地に着いた

 

 駐車場から分かる高級感

 

 周りに並んでた、環那の車に負けずとも劣らない高そうな車

 

 これは......

 

環那「女の子って好きでしょ?ファッション関連とか、スイーツとか。」

リサ「そりゃあ好きだけど。」

 

 周りを見渡すと、どこかしらで見たことがあるような高級ブランドの看板

 

 それに、好きな子の間では有名なブランドもある

 

 そして目が痛くなるような、すごい値が書いてる値札

 

 高校生でこの辺りの店に入ろうなんて、普通は思わないね

 

 だって、絶対に手が届かないもん

 

環那「高級品こそが良い物とは決して言わないけど、でも、人生で一回くらいは手に入れたいでしょ?」

リサ、燐子(もう持ってる......ていうか貰った......)

イヴ「何もない日に貰うのは気を遣いますけど......」

琴葉「私は、不相応ですし、似合わないので......」

環那「いやいや、琴ちゃんは似合うよ。飾らない姿も魅力的だけど、俺は色んな姿の琴ちゃんを見たいな。」

琴葉「!///」

 

 浪平先生の手を握りながら、そんなことを言ってる

 

 端から見たら、ただのナンパ男だ

 

 まぁ、本質は「貢がせてね」って言ってるわけだから、少し違うんだけど

 

環那「それに、2人にはまだ渡してないからね。」

琴葉、イヴ「?」

リサ「あー。」

燐子「そういうこと......」

 

 確かに、それは不公平か

 

 そうなると、ここに来た理由も分かる

 

 致仕方ないって感じかな

 

環那「さぁ、行こうか。俺も思考を始めないと。」

 

 そう言って、環那は歩き出した

 

 多分、あたし達の手助けはいらないね

 

 あたしは見守りつつ、初めての皆とのデートを楽しもうかな

 

 

 

 



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