凡キャラでGANTZ (フランディーニ)
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OP~ねぎ編①


初投稿です。
原作通りのアニメを観たい(願望)。


 

事実は虚構よりも不思議。

…違うな

事実は虚構くらい不思議?

 

 

 

気付いたら地下鉄のプラットホームで突っ立ってた。

 

……どこ駅よ?ここ。んん?首が動かない、ってゆーか眉から足指までピクリとも動かせん。

どーしたことだ。金縛りか?鼻がつまったら死んでしまふ。あら、まばたきは出来るな。

パチパチパチ…やべっ痒くなってきた。とりあえず眼球の水分は守れそーだ。

私の首筋は顔面に2時の方角を向かせて固まっている。なんで正面じゃないの?

動かせない視線の先には学ラン男子が居た。

 

こちらに背を向けているので彼の容貌は判らない。だがスラッとしたバランスの良い体型に見える。彼は電車を待っているようだ。プラットホームに居るんだから当たり前か。雑誌を立ち読みしている。本編へ読み進まず巻頭グラビアを熱心に視ているようだ。あ、老婦人が話しかけた。学ランは老婦人の顔を視ずに答え、老婦人は会釈して去る。…既視感。

これ、あのマンガの1話目じゃね?

 

な~んだ、夢か~。

今日の夢はマンガのキャラなりきりってか痛々しーな。誰の視点だ?

1話目に主人公と幼馴染以外の主要キャラ出ない筈だが。

 

老婦人再来。今度は老婦人の顔を見て話す学ラン。老婦人は悲しそうな顔で去った。

何これ?いつまでこの調子なんだ?この夢。こんなに動きが無くて良いと思ってるのかっ。

私は退屈しているぞ。さっさとアクションシーンにとびたまへ。

どーゆーつもりでこんな夢を見せてるんだ?私は。

このマンガの夢は何十回と見ている。そして毎回空気視点(?)。内容はおもに山場エピソードの再現。モブ視点で1話目を冒頭から、とか新鮮だわぁ(←嬉しくない)。

 

学ランこと主人公は雑誌を鞄に仕舞い暫く右方向を見てから正面へ向き直った。

もしかして本当にこのまま漫画どおりに進むわけ?この夢。

だとしたらこの後アレを視ることになるの? やだなぁ。

 

カッ 

 

靴裏を鳴らし、主人公の横に長身のヤンキーが立った。襟足長いオールバックのあいつである。あっちゃ~来ちゃったよ幼馴染~。これはもう確定でしょう。ですよね?

…気弱な人間は退避せよ。

 

ドサッ

 

主人公と幼馴染が横並び(この時点で幼馴染側は主人公に気付いていないため会話は無い)になって暫く、なにか重くてでかいモノがそれなりの段差から落ちた音が聞こえた。

 

「…!!なんだなんだっ?あのおっさんどーしたんだ?」

「ふらふら~って勝手に自分で落ちたんだよっ」

「おじさーん大丈夫ぅ~?」「駅員来ねーのかよっ」

「え~マジィ?」「おいっおっさーん!!」

 

驚いて騒ぐモブ共。ありそーでなかなか無い状況だから当然だな。

就職するまで電車を毎日利用していた私もフィクションでしか観たこと無いし。

 

「おし、決めた」

 

幼馴染が呟く。

決ーめーるーなー。

動けない。声出ない。ボケに対してツッコメないのがこんなに苦痛だなんて。

折角、モブといえどもキャラになって無謀な奴の近くに居るのに未だ私は金縛り状態。

これならいつも通り空気視点(?)で良いじゃん。キャラになってる意味無くね?

…もしかして止めよーとしちゃうから動けない設定?

「主人公…とめろよ(笑)」って読み返す度に思ったもの。

マンガのキャラだから仕方ないがこの幼馴染マジ不可解。

最初の話じゃ出ないけど弟(小学生)が居候先で待ってんだから我慢しろって~。

止めなかった主人公に非があるとは思わない。記憶の中で幼馴染は気の小さい子供だったし、そいつが見知らぬおっさんの為に線路へ降りるなんて想定外。

 

タンッ

 

鞄をプラットホームに置き線路へ降りる幼馴染。

落ちたおっさんを助けに走って行った。視界から消える。

常識的なみんなはあいつのように危険な線路へ降りたりせず駅員を呼ぶか非常停止ボタンを押そーね☆こんな状況で上手くいくのはフィクションの中だけですから。

あ、このマンガでは上手くいかなかったよ?知っての通り。

 

ザワザワザワ

「お~い何やってんだぁ?あいつ…死ぬぞ」「危ねーぞ。おいっ上がれ!すぐ!」

 

(おいっ!!おっさん起きろ!!)

 

おっさんを起こそうと呼びかける幼馴染の大声。

 

(… おい!!誰か!!降りて一緒に手伝ってくれ!!)

 

意識の無い成人男性を1人で運べない様子。やる前に気付いてっ。

想定外なことをするヤンキーを見てザワザワしていたギャラリーが静かになる。

誰も手伝いたくないってさ。

 

結果、泥酔で線路落ちて起きないおっさんのせいで主人公までかりだされた。

不本意な人助けである。彼はこのとき幼馴染を非常識と認定している。ならあっさり降りるなよ。幼馴染が主人公を名指しして助けを求めたとき周囲の人間共がきみを見たが、普段はそんなの気にしないでしょ?蚊に刺される程度の煩わしさだよね?常日頃から「他人なんてどーでもいい」と思っている設定だ。なのに手伝ってあげるなんて、主人公って絶対幼馴染スキだよ~これだからツンデレは~。いや、クーデレか?

うぅ…夢なのに、お腹痛くなってきた。

 

『まもなく2番線に電車がまいります。白線の内側におさがり下さい』

「おい…」「やべーぞ、おいっ」

(早くしろっ!!行け行け!立てっ早くっ!!)

 

プァァアアアン

(行け行け行け行け!!)

 

落ちたオッサンを肩車した主人公 それを幼馴染が押しているところだろう。

私の位置からじゃモブが邪魔で視えないが。このリーマンっぽいおじさん派手な鞄だな~。

 

ゴオオオオオッッ 

(おいっ!早くっおまえ達も上がれっ早くっ!!)

「おいおいっ!!」「きゃあぁあっ」

 

プラットホームに上がらず線路を走る学ラン2人。

幼馴染の提案で走って逃げることになったのだが、彼らは勘違いしていた。

 

ゴオオオオオッッ

 

「通過列車だぞ!!バカ野郎!!」

 

哀れな2人に向かって誰かが怒鳴る。

先頭車両の停車位置とか関係なかった。通過する列車の前をいつまでも走っていられない。

 

「きゃ―――――っ」

ザワザワ

 

キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ

 

「すき間っすき間っ!すき間探せっ!!…どっか!すき間っ!!」

「ねーよ!!ンなの!!」

 

此処の線路には退避スペースが無いようだ。

電車が私の視界を通過した。

 

バキャッッ 

 

 

 

 

 

 

…っ

 

… … … … …

 

視界が 揺れる

あっれ~?金縛りが解けたのだろーか?私は走っているよーだが走っている実感が 無い。

世界が。とつぜん白黒映画になった。そして流れる景色がスローモーション。それに、なーんかボヤケてんな。…? ジックリ見たいのか見たくないのかどっちなの?私は。

電車と衝突しバラバラになった人体が 宙を 舞う。

クルクルクルクルクルクルクルリと。

私の夢はいつも総天然色である。カラ―動画だ。なので大和撫子の髪がピンク色だったりしたのだが…自然な配色の追求に失敗して妥協したのか?わかんねーから白黒でいいやってな感じで。新鮮な内臓の色とか知らんし仕方ないね。

ふと 間合いに入る頭髪。

 

掌に衝撃。

 

私はソレをキャッチした。

随分と小さくなってしまった彼は思いのほかズッシリしている。

…。

…は?

 

「…△■■▢☓…」

 

目と口を限界まで開く女子高生。

同様な形相の大学生。

跪きプラットホームを胃液で汚すサラリーマン。

高校生2人分のひき肉を見て浮き足立つギャラリー。

どこの部位だか判らんもんが散乱したプラットホームに私は膝をつく。プチプチッと。なんか潰した。掌に生温かい頭髪の感触。人差し指と中指でその頬を撫でる。

 

私は彼の瞼を閉じ…蹲った。

 

 

 

 

 

 

「□た出△■たぞ…」

 

…?

旋毛への視線を感じる、いつの間にか瞑っていた目を開けた。

視えたのはプラットホームのザラザラとした表面、ではなくツルツルとした床。

年季の入ったコンクリ、じゃないフローリング?木目が視える。色彩も戻ったようだ。

上体を起こし声がした方を向くと眼鏡の男性が立っていた。

眩しーな。蛍光灯? 何故かチカチカする目の調子も気になるが、それより重要なモノが視える。6体の人間と犬一匹に囲まれたオブジェ。

ヒト1人入れそーな黒い球だ。

 

…まだ続くのか、この夢。

 

 

 

その部屋は右手が窓、左手が壁で、段差で二分された床の低い方こと奥手に黒い球が鎮座している。黒球をとりまく6人と1匹の配置は、左手前から時計回りに犬・眼鏡・おっさんB・おっさんA・少年・金髪・じーさんだ。黒球の手前、私の右斜め前で学ランの2人が草臥れたカンジで立って呼吸を整えている。私は2人に続いて現れたのだろーか?

死んだ覚えが無いんだが。

…。

眉間を揉みつつさっき起きたことを思い返す。

私(が担当してる誰か)はなんで黒球部屋に呼ばれてんの?死んだの?いつのまに?心臓麻痺とか?あれって即死するの?つーか人死に見ただけで心臓止まるとかありえないでしょ。

まぁ夢だから多少辻褄合わなくたって問題無いし、鉄道事故という「日常」の危険と、これから起こる「非日常」の危険をキャラとして対比するのも面白いけれど、

どんだけ死に易い設定なんだ?私(が装う人間)は。

 

「何か知んね―けどな!!助かったろ!ほら…」

「ほらッて…ハァ…オマエなァ…」

 

学ラン2人、幼馴染と主人公はプルプルして床に膝をつく。

 

「助かって ない…」

 

「ちっ。うっぜえ…」

「ここが天国だよ…死んだんだ。私達は」

「勝手にてめーだけ死んでろよ」

「はは…とりあえず。仮説の一つ、ですよね…」

「私はついさっきまで病院で癌と闘っていた。今は痛みも全く無くなっている…

 これをどう説明できる?」

 

じーさん・金髪・眼鏡の会話を黙って聞く主人公と幼馴染。

主人公は自身の胸部に手を当て、口に掌をかざす。鼓動と呼吸の確認だ。

幽霊なら地に足をつけて移動したり座る必要無くね?つーか脳も心臓も胃腸も無いのにどーやってモノ考えんの?

 

「おい…待て。待てよ、おい、あれ!!あれ東京タワーじゃねーか?」

 

右手全面に広がる窓の外、夜景を指す幼馴染。開けたいのか窓へ寄りクネクネする(笑)。

錠部分がツルツル滑ってつまめないのだ。

思わず吹き出したら幼馴染がこっちをチラ見した。あのキャラが現実に居たらこうなるってカンジの顔……か?今までの夢と何か違う、生え際が何となく……いや、あんなもんか。

主人公も錠開けに挑戦しようと窓へ張り付き、こけた。

 

暇だなぁ、

廊下へ続くドア横の壁に凭れ正座する(座り難いので靴は玄関へ置いてきた)。

私(が憑依するモブ)は膝上丈(短かっ)のプリーツスカートを穿いている。女装子でなければ女性だろう。主人公の初ミッションメンバーで女子って、ひとりしか該当キャラが居ない。

私(が動かす娘)服着てるし、登場するタイミング違うし、胸が……慎ましい。

うん。彼女ではない筈だ。

彼女ことヒロイン1号は2~4号と違って幼馴染スキだっけ。

主人公を全く(恋愛対象として)みて無かったのが切なかった(笑)。

 

「みんな!注目~っ!」

 

立って左手を挙げる眼鏡。

 

「今から、みんなで自己紹介しましょう!!

 先ず名前と職業…どーやって死んだか。最初は…僕で…ゴホンッ山田雅史ですっ。

 練馬東小で1年生を受けもってます。教師ですっ。

 スクーターに乗ってて事故っちゃいました。

 じゃ…じゃあ君から」

 

…ん?キョロキョロ…目が合った主人公に視線で促される。

主人公の髪、艶々だ。触るとツルツルなのよね羨まし~…じゃない。

私から?私も自己紹介するの?しなきゃダメ?

いやいや「はい、きみからお願いします」じゃねーよ?山田くん。

なんでだよ~夢の中っしょ?これ~。自分に自分を紹介するよーなもんじゃない、アホらし。

キャラで参加するとこんな弊害があるのねぇメンドくさ。

自己紹介か、どーしよっかな。私(が憑依してる女子)の名前知らない。

ってゆーか電車事故に居合わせた連中その①なモブだし設定されてないよね。テキト―でいいか。

 

「あー コホッ えー、佐藤ユウ…コです。えーと。たぶん私も交通事故…かなー」

 

坐したまま答える。

日本で一番多い苗字だってね~“佐藤”。“ユウコ”って読む名前も多いらしい。

都民に多いかは知らん。

「たぶん?」って誰かが呟く。よくある明言を避ける言いまわしとしてスル―しとくれ。

 

「じゃあ次」

 

「…玄野…計…高1…死にかたは…コイツの巻き添えで」

 

ちょっと小さめな声で自己紹介する主人公・玄野。キレイな茶髪の学ラン姿。今はホケッとしていない、はず。身長は同年代男子の平均より少~し小柄って設定。

「コイツの」のところで幼馴染へ顔を向ける。

 

「…。

 …そっか…。そっか…計ちゃん、ごめん。俺…喜んで手伝ってくれてるとばっかり」

「…」

「…はぁ…」

「あの…自己紹介…」

 

「あ…加藤勝。電車にアタック…」

 

(笑)奇抜な自己紹介をする幼馴染・加藤。襟足がモジャッとしているオールバックで眼光鋭いヤンキーみたいな外見の中身は作者いちおしの好青年。髪型に拘りがありそーだが学ランはノーマル。190cm超の長身。

「電車にアタック」のところで玄野に睨まれても気付かない天然…。

 

山田はじーさんを見る。

病床で永眠した老年男性は裸足にパジャマ姿。寝起きみたいな恰好でも威厳がある(笑)。

 

「鈴木五郎…。みんな知らないかな…」

「じゃあ次…」

「ああ?俺いーから。次行って。…ねえ誰かタバコ!!タバコ持ってない?」

 

死因はさっき言ったから名前だけの鈴木じーさん。金髪は自己紹介拒否。

 

「未成年の喫煙は、よくないよ~」

 

金髪に注意(?)する学ランヤンキー。

よく言った加藤。もっと言うと成人の喫煙も、よくないよ~(笑)周りの被害考えろ☆

ってか何で私の夢に喫煙者が居るのさ?削除していーのに。

 

「ばーか。俺ぁハタチだよ。誰かタバコねーの?」

 

どんだけ喫煙したいのか、立ち上がり部屋を見回し無視される金髪。

 

「西丈一郎、中2…。転落死…」

 

隅に座る少年がモソモソと自己紹介する。やはりアレがそーなのか。

元気少ないのは演技だろーから置くとして目つきと顔色わる。

 

「マジ誰もタバコ持ってねーの?」

 

金髪しつけー。

 

「じゃあ次…。」

 

「…」「…」

奥の壁に凭れて座るおっさん2人は静かに山田を見ている。強面だ。

 

「あの~次…お願いします…」

 

「こいつと俺は…ヤ・ク・ザ。…はい終わり」「…」

 

し―――――ん

 

「あ…。後…やってない人…」

チャッチャッチャッ ハッ ブンブンッ

「…終わりです」

 

 

 

 

 

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ チャ・チャーララ♪

 

うるせえっ。

室内なんだからもっと音量へらせ。嫌がらせか?ケンカ売ってんのか?

…。

黒球の歌に起こされた。

暇すぎてウトウトしてしまったょ。しかも正座したまま。痺れてるって足~。夢の中で居眠りするとか(笑)マジ疲れてるわ私。

夏休みを思い出す例の曲は未だ流れている。やっぱり音量でかすぎ。なんで?

 

加藤が玄歴史を掘り起こしたり憧憬を告白したりで玄野を困らせた後、バラエティ番組の関与を決めつけた山田の音頭で隠しカメラを探して時間が経過した、んじゃない?たぶん。

自己紹介後の記憶が無い。

立ってウロウロしてたっぽいメンバー達の視線が黒球に引き寄せられる。

 

「? ラジオ体操?」

「ほらっ、やっぱりバラエティ番組だよ!」

 

♪チャチャ~ララッ チャーラ チャッチャチャ~ラチャンッ♪

 

「なんだぁ?この玉から出てんの?」

 

“てめえ達の命は、無くなりました。

 新しい命を どう使おうと私の自由です。

         という理屈なわけだす。”

 

「なんか文字出てるぞ…てめえ…らの…」

 

黒球に近付き表面をのぞきこむメンバー達。

 

「なんだこれ?何言ってんだ。ふっざけてんな~。

 ウケねらってんじゃん。やっぱ電波少年かもな…。

 箱男って今やってるヤツの後の企画か、違う局のパクリ企画か…」

 

「この文章ってさ…なんか超バカバカしーけどさぁ。

 真面目に受けとるとすんげー怖い文章じゃねー?」

 

金髪と中学生が感想を述べると先の文章が消え、指令が表れた。

…わかっててもドキドキするなぁ。

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい

 

 ねぎ星人(ネギっぽい子供)

 特徴    つよい くさい

 好きなもの ねぎ 友情

 口ぐせ   ネギだけで、じゅうぶんですよ”

 

 

「なんじゃこいつ…気色悪~」

「ねぎ星人~?弱そ~」

 

わーい、ねぎ星人だ~。

 




ずっとオリ主視点。
ねぎ星人話はお察しな展開です(読みとばし可)。


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ねぎ編②

前回のあらすじ:
唐突に別人と化したオリ主「夢だな」
黒球の表示に安心。ねぎ星人ミッションならキャラでもついていけそう。



イタリア出張だったらどーしよーかと思ったよ。夢ならば充分ありえる(笑)。

ねぎ星人狩りってターゲットが2体だけ(標的として黒球に表示された仔ねぎは殆ど無抵抗で逃げるだけだから実質1体)の、いかにもチュートリアルってミッションだけど、それはスーツ着てる場合の話。着てない場合の難易度は中の上くらいか。

熊に接近戦挑むようなカンジ?

 

「なんかゲーム始まるんですかね~?」

「変なのっ!なんじゃこいつっ!」

「もしかして外に出れるんじゃないか?」

 

ガンッ

 

「… …すっげえ~…」

「オモチャでしょ…これ…」

「かっこえ~っ!!本物くせ~!重~」

 

「わっわあっ中にっ人がっいるっ!」

 

黒球から収納棚が3方向へ飛び出し、山田と金髪が武器を手にとって目を輝かせる。

球体の中で呼吸器を付け狭そーに体育座りし眠っている全裸ハゲ男を山田が発見。

不思議な部屋唯一の家具(?)オブジェの中身に注目するメンバー達。

はいはい、ごめんよ~っと。私は棚からYガンとコントローラーを選び鞄に仕舞う。

両方とも想定より軽い。Yガンのほうは片手で構えると少し重いかな?

壁とケース棚に挟まれた茶髪を見ちゃったが目は合わなかった。セーフ。

 

とりあえず、お前らスーツ着たまえ。ねぎ星人にアタックする奴は必須~。

あ、でもネギ狩りでスーツ着てた2人は1度も爪?で斬られてない。ちゃんと防げるのか謎だわ。Xガンは効くのにソードは折っちゃうし上位スーツ瞬殺なターゲットも他ミッションには居たからな~。関係無いか?

 

「ッてェ~ッ…ん?」

 

スーツケースが積まれた棚と壁の間から抜け出した玄野はケース表面の文字に気付く。

 

「え?お…」

 

さっきは妙にブサイクな表情だったけどフツ―にしてると主人公、美少…年だ。

その美少…年がケースをひとつ取り抱える。表面に“くろのくん”の文字。

誰が書いてんだろ(笑)アレって。

他のケースを見ていた玄野は、ものすごくつまらなそーな顔をして、もう1つケースを取り黒球から離れた。

 

「これ俺の?かとうちゃ??」

 

何故か犬を抱っこしていた加藤はそいつを床へ降ろし、ケースを玄野から受け取る。

こっちに寄って来た犬はデコピンしよーとしたら避けた。

さすがクリ―チャ―から逃げ続けてきた先達だ。勘が鋭い(笑)。

 

「コスプレか?」

「ちょッとカッチョよくね~か」

 

ケースを開けスーツを見た2人の感想。この違いが運命を分ける、なんてね(笑)。

他のメンバー達もケースの中身を確認して盛り上がっている。

でも着ないんだよな~。

 

「あれ?ひとつ残ってるよ。誰~?貰ってない人~」

 

山田がケースを掲げ部屋中の視線が私に集まる。

え?私のもあるの?べつに着たくないんですけど。つーか犬も持ってってないだろと思って見たら自分のスーツケースに前脚をのせ満足そーな奴がいた。

何その「勝った」みたいなツラ。蓋も開けれないくせに~。

ムカついたので全身をワシャワシャしてやった。野良なのに小綺麗。

 

私のスーツケースは無記名だ。手抜き?

 

 

 

「おい。畑中ぁ~っ。畑中…おい…」

 

ダンッダンッ 

自己紹介したほうのヤクザが見てる先で人間、の腰から下が走っている。

 

ドンッ

腿まで消えたところで壁にぶつかった。進もうと壁を蹴り続ける畑中の足首。

黒球表面にはメッセージと6つの数字、

 

“行って下ちい 00:58:41”

カチカチカチカチ

 

「畑中…」

「消えちまった…」

「あ」

「あん?…あっ。れ?」

 

次は金髪。

右手でXショットガン左手でXガンを振り上げバタバタと慌てる首なし人間。

徐々にスライスされていく人体。断面が蒼白く光っていて綺麗。一度分解されて転送先で再構築されるとか言ってる人いたなぁ。夢なのに怖ぇ~。

 

「ど~なってんだ…これ…」

「あっ」

「うお。おっおお」

 

3人目はヤクザ。

 

ピッ カチッ ギャコッ

4人目は西。落ち付いて何かの準備を終える。

 

「うっわああああ。っ……」

怯え蹲ったまま消えていく山田。

 

“00:53:40”

 

「どっどーする?みんな消えちまったっ。計ちゃんっ」

「あ」

「え…?もしかして俺も…消えてる?」

「心配しなくても、たぶン…大丈夫だと思う…」

「大丈夫って何でそんな、あれ?外だ…」

 

わりと冷静な7人目、加藤。

 

「え?…!!」

 

幼馴染の「外だ」発言に訊き返してからハッとする玄野。

開いたスーツケース、に収まる黒い全身タイツを見る。 

 

「ちッくしょう、そッか。時間あるか?」

 

人前でカチャカチャと学ランを脱ぎ始める主人公。

そんなに存在感無いかね?私。

むしろ何考えてんの?私。こんなの再現しなくていいよ~マンガとアングル違うし。

顔が美少女寄りだから異性の脱衣に見えんし…あ、言っちゃった。

 

「早く、しねーとッ」

 

プチップチッ 

シャツのボタンも外す。

 

「早く早く…」

 

パンイチ姿でスーツを掴む玄野。ここに(1号を除く)ヒロイン達が居れば大喜び、なのか?

 

「全部脱がないと着れないですよ?それ…」

「はァ?なに言ッて…」

「…」

「…」

し―――――ん

 

 

(あ!?)

廊下に玄野の驚いた声が聞こえてくる。続いて足元の犬も消え始めた。

私は靴を履き鞄をしっかり持って独り、転送を待つ。

これで私だけ玄関から帰されたらマジウケるんだけど。間違いで~す(笑)って。

…。

冗句はともかく残念だ。ヒロイン1号こと岸本が登場しないなんて。

活躍しないから居なくてもシナリオに影響ないかもだけど~

私の無意識マジ読めない。

 

 

 

… … …

 

 

 

外。

 

住宅街の一角。前方に見える手摺の向こうへ長い階段が続いているのか。

先に転送された7人は向こうを見ている。玄野は?

着替えの途中だね。

私も見おろすと階段の終点である道に並行な線路を電車が通過した。

 

「あれ何線でしたっけ?」

「とりあえず…最寄りの駅探すか…」

 

階段を下りていくメンバー達。黒球の指令は無視ですか、そーですか。

 

「!?」

西が山田を止めて、耳うちする。

 

「いっせんまん!?」

 

「あ~ぁ言っちゃダメだって~」

「なんだよ?一千万って」

「やっぱりテレビだってっ」

「なんでお前知ってんだ?」

「プロデューサー…。うちのお父さん…」

 

西の演技がカユい(笑)。あ、なんでもないです~話の続きをどーぞ~。

 

「…」

「おいおいぃ~マジかよぉ~」

「…一千万はゲームの賞金」

「ゲーム?」

 

「この地球には人間にバレないように犯罪者宇宙人が入りこんで生活している。

 僕は日本政府の秘密機関にスカウトされた。

 だから僕達は、その宇宙人をヤッつけに行くんだ」キリッ

 

「なんだ、そりゃ?」

「くっだんね~っ」

「まぁいいや、その宇宙人演ってる役者捕まえれば…一千万か」

「うん。コレに出てるから」

 

ブンッ スチャッ 

西が腕を振ると袖口からコントローラーがとび出し手首の上でとまる。

 

「おっ」

「これがここか?」

 

金髪がコントローラーを指す。

マンガではモニターのマップにターゲットがポイントされてたな。

 

「近いじゃん…」

「行くか、じゃあ…」

「本当か?テレビッて…死にかけたンだぜ…ソレに…。催眠術ッてのもなンか納得いかねー」

 

出発しようとする5人もとい西に疑問をぶつける玄野。しっかりスーツを着ている。

 

クスクスッ 

「催眠術…かけられたことあんの?催眠術だったら幻覚見せることなんて簡単なんだよ。

 みんな街角でスカウトされてんだけど…。

 あの部屋に来る前に誰かに話しかけられなかった? 覚えてない、か…」

 

「!?…」

 

マンガではここで駅の老婦人を思い出す主人公。横に立つ長身の幼馴染を見上げる。

違うよ?

 

「時間制限1時間かよ!!」

「急げっ!!」

 

賞金が出ると聞いてヤる気の出たヤクザ2人、山田、金髪が階段を下って行く。あと犬も。

西も行ったようだ。

 

 

 

「どーする?計ちゃん」

「…」

 

ターゲット捜しに出発した連中を見送り、全身黒タイツ男の意見を訊く加藤。

恰好だけならゲームする気満々な玄野は難しい顔。

 

「くだらん…帰る…」

 

一千万に興味の無い鈴木(元議員)。復帰出来ると思っているなら然もありなん。階段をゆっくり降りて行く。寒そうだ。

つーか私も足が寒いっ。そーいや12月中旬だっけ、しかも日没後。

帰るため鈴木はタクシーをつかまえに行くのだろう。ミッション中のメンバーは部外者こと一般人に視えない周波数(?)だから、どっち道つかまえられないが裸足にパジャマの老人を乗せてくれるのか?タクシーって。

 

電柱を見つめる玄野。広告に“一の宮”とある。

 

「一の宮?」

「どこだ?一の宮って」

 

言ってから「しまッたァ~ッ」て顔をした。コスプレ(スーツ着用)を後悔したところか。

でもお金と定期券は部屋の制服に入ってるだろ―し、電車で帰れてもTV視るだけでしょ?そんなにガッカリすんなよ(笑)。

 

「んで、帰る?おっさんは先行っちゃったけど」

「俺は連中のトコ行くよ」

「えっ計ちゃん行くのか?」

「なンかスッキリしないしさ…」

「そーだな…たしかに…」

 

玄野たちが仔ねぎポイントへ歩き出し、私も(無断で)同行した。

 

 

 

… … …

 

 

 

夜の住宅街。

ねぎ星人の住処と思しきアパートに到着すると先行した4人とターゲットは1階でモメていた。

 

ドカッ 

「こらっ!!カメラ止めろっ!!ディレクター!出て来んかいっ!!」

(~~~~~)

「ふっざけんなぁ!!服よごしやがって!!こらっ!!許さんぞ こらぁ!!」

ドスッ 

(~)

 

畑中の声でかっ。隣近所が全て集まって来そーな騒ぎである。

ミッション中のメンバーは姿と一緒に声はもちろん叩いた壁の音や歩く音まで消えている設定なので聞き咎められはしない(し恐いおっさんが暴れてたら注意せずに即通報だろう)けど。

畑中が怒ってるのは、仔ねぎが撒布した臭い粘液を3人が被っちゃった件ですな(もう1人のヤクザは金髪・畑中・山田の後方に居て、ちゃっかり避けてた筈)。

でも、おかしーな。玄野たちがここに到着するのって仔ねぎが2階から跳んだ直後だったような?

仔ねぎの声はよく聞こえない。しかし何かを殴るような音の後で聞こえる悲鳴と判るからか加藤がモジモジしている

 

ダッ 

 

あ~ぁ行っちゃった。

 

「うえぇっ。きったねえ~っ」

「あっ こらっ!!」 

タンタンタンタン

(ははっこいつ、バカだっ)

(ネギだけで。ネギだけでいーですっ)

(おいっ!!やめろっ!!おまえらっ!!)

 

臭い液に気を取られた4人の包囲を抜け階段を上り、後ろを気にしながら2階通路の突き当たりの柵に上るクリ―チャ―。追うメンバーの靴音と互いの声が響く。

 

「うわぁ…」

 

動く“ねぎ星人”を見上げ呻く主人公。

 

(どかんかい!こらっ!!)

ダンダンダン

(ネギだけでいーですっ)

「飛び降りて俺んとこ来いっ」

 

1人だけ階段を登らず柵の下で見上げる、ちゃっかりヤクザ。

 

「あ」

 

柵の上でちょっと屈んだ仔ねぎの跳躍、

 

ゴキャッ 

 

なかなか元気な音をたて、仔ねぎは車道へ衝突した。

 

 

 

「…」ゴクリ

 

目の前に墜ちたときは後ずさったものの、わりと近くで“星人”を観察する主人公。

奇妙な生き物を警戒しているのだろう中腰。

 

(大丈夫かっおいっ!)

 

2階通路の途中から顔を出し(たぶん仔ねぎを)心配する加藤。

2階で何してんだ?あいつ。

 

(ぐっ…!)

ゴンッ

 

『ネギ…だけ…で…』

 

ビチャッビチャッと体液(?)を垂らし路上から起き上がる仔ねぎ。フラフラして虫の息に見えるがマンガだとこの状態から走って逃げていた。しかも興奮した金髪が驚く程の速度。顔から落ちたので鼻はイッちゃったけど他の骨が無事とはスゴイ。

それとも回復力が違うのか?倒れていた数秒で骨がくっついたのかも。

 

「うっ」

 

顔を上げたクリ―チャ―のツラが血(?)塗れだからか呻く玄野。

私は仔ねぎにYガンを向けた。

 

 

 

捕獲銃の尻モニターに仔ねぎが映る。

彼(?)はこちらに気付いていない。距離は1.5mってところか?上下トリガーを引く。

プシュッ

射出される3つのアンカーボルト。

キュンッ キュンッ キュンッ

宙で三角形を作り飛行、3つを繋ぐワイヤーが小型なターゲットに絡みつく。

アンカーは三方向に位置を定め、

ボッ 

ビシシシッ 

路上に刺さり、仔ねぎを拘束・固定した。

 

 

ヨレヨレ状態で拘束され膝をつき固定された仔ねぎ。項垂れている。

そんじゃ、さよなら~。

下トリガーを引く。

カチッ 

ギョオッ

 

ジジジ ジジジ ジジジ ジジジジ ジジジ

 

上空からのびる光線で仔ねぎが頭頂部から消えていく、…転送か…分解か…

なかなか幻想的な光景だ。

ジッ ジジッ チュンッ …チッ

小柄なクリ―チャ―が消失し、光線も夜空に溶けた。

 

仔ねぎダルマ回避~。アレはあんまり見たくない。




カウントダウンタイマーが変かも。

鈴木氏は退場。

Yガン(捕獲銃)はいちばん使える武器だと思う。


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ねぎ編③

前回のあらすじ:
仔ねぎを逃走前に捕獲、転送した。





「おいっ ガキっ何だっ今の!?」

 

うわ、びっくりした。仔ねぎが居た場所と私を交互に見て怒鳴るのはちゃっかりヤクザ。

私のことか?「ガキ」って。目線が玄野の肩より下なので私(の外見)は小中学生かもしれない。

 

「ぅえっ?え、えーと。転送?です。上へ、送りました」

 

右手のYガンで真っ暗な空を指す私。

ウザいなぁ~いちいちリアクションに対応すんの。やろうと思えば話をちょっと変えられるみたいだけどやっぱ夢は空気視点(?)に限る。

 

「はぁ?…ふん。オメーも仕込みか…」

 

なんか1人で納得している。未だTVと思ってんスか?

これはTV番組じゃなく戦争、てゆーか残党狩り(?)ですから、ターゲットの数的に。何故か他のミッションと比べても不審なほど少ないから、ねぎ星人狩りのターゲットって(導入として凄く面白いから不満は無いけど)。次に少ないのは8体だったはず。ホントに他チームの取りこぼしだったりして。そんなミッションを回されるって…期待されてねーな東京チーム。

経験者がステルス中坊と犬のみだから?

話してる間に2階から3人降りて来た。金髪・山田・ちょっと遅れて畑中。

 

 

「あっ?あいつどこ行った!!」

「このガキがどっか送ったらしい」

「はぁ?」

「ガキが持ってる銃で撃ったら消えた。…俺らがここに来た時みてぇな消え方だったな」

「くそ!!」

 

プリプリしてる畑中に見たことを教えるヤクザ。

 

「なんだよ~終わりかぁ?つまんねー」

「…あの子が持ってる銃。僕らのと違うね」

「! ちっ ハズレか?これ」

 

山田の言葉を聞いて、持っているXショットガンを振る金髪。

 

「この服どーにかしろ!!」

 

畑中は服の汚れが気になる様子。

うわぁ、よく見るとテカテカ ネバネバしてるー。涎と血(?)がついたのは自業自得だけど。

仔ねぎの粘液は臭いらしー…くっさっっ。鼻つまんだら睨まれた。

 

「スタッフ出てこねーぞ」

「まだ…終わってないのでは?」

 

そーです。

まだメインターゲットが残ってる。祭りはこれからだよ~。

Yガンを仕舞い鞄からコントローラーを出してもう一体のターゲット・親ねぎの位置を確認する。どこまでネギ買い(奴も不可知化してるから野菜ドロボーかも)に行ってるのやら、

 

「あ、それ!ちょっと貸して」

 

山田にみつかった。さっきと言い冴えてるなメガネ。

う”っ、山田にもネギ汁けっこう付いてる。

 

「おい、どーいうことだ?」

「そっか!!これです!これ見て下さい!まだ居るみたいですよっ!ねぎ星人」

 

畑中にマップを見せて声を弾ませる山田。たのしそう。

 

「あっ」

 

金髪が山田の手からコントローラーをひったくり駆け出す。あいつもテンションたけ~。それを山田が追いかける。

あいつ(←金髪)走るの速いなぁ。

次のネギ星人も仔ねぎみたいに無害だと思っている。住宅街でやる安全な鬼ごっこ…って設定か?追われる役が子供サイズだと虐めっぽくない?TVでやるとマズそう。

ん?

 

「おい、こっちに渡せ。さっきの銃」

 

くさい人にカツアゲされた。

畑中のツラこえ~。

(偽)女児おどすなよ(笑)。後は主人公たちがやるから武器無くても問題無いけどね。

はい、ど~ぞ。Yガンなら加藤も持ってるし。

 

畑中にYガンを渡すとヤクザ2人も山田たちが消えた方向へ駆けて行った。

 

 

 

アパート前、路上。

…隣の人が何か変だ。

何故か空を見上げ無言な主人公。真面目な顔で考え込んでいる?

彼は腕組みを解き瞬きする。

 

「そーいや、加藤は?」

 

まだ2階じゃね?

 

タンタンタンタンタン

タッタッタッタッタッ

「計ちゃん!あいつらは!?落ちたネギ…星人も…」

 

噂をしたら来た。

…なんか加藤ボロボロなんですけど。畑中の妨害して殴られたとか?

今まで痛くて蹲ってたの?

 

「おいおい…どーした。大丈夫か?」

 

言いながら加藤の頬をつつく玄野。

 

「いてっ うう、いや…ちょっと。ってそれよりあいつらは?…まさか」

「あー、なンかネギ星人がもー1匹?居るとかで走ッてッた。

 さッきのヤツのコトならコイツに訊いてみな」

「!?そんなっ止めねーと。どっちに行った?」

 

止めなくて良いよ~何でそーなるんだよ(笑)懲りてねーよこいつ~。

後半は聞いてないっぽい。

まぁ折角のへんな夢だし、いいよ案内してあげる。

 

「こっちです」

 

脇腹を押さえている加藤を先導する私。今なら山場に間に合うかもな。

 

「おーい、やめとけッて~」

 

危険を嗅ぎつけたのか面倒だからか、その場を動こうとしない玄野。

お前も来い。

主役がいないと始まらないよ、っていうかバッドエンドるよ。

加藤の死亡率が100パーになっちゃう、とどめ刺されるから。

立ち止まって玄野を見る私につられたのか同じように見つめる加藤。

その視線に耐えかねて主人公も渋々歩き出す。

 

「計ちゃん。早くっ」

 

そーだ。早くしろ。走れ。

 

 

 

… … …

 

 

 

夜景と防護柵を背景にデカイ奴と対峙する誰か。

 

マンガと同じ場所かな?あれ。

路上には何かゴロゴロと散乱し、次の瞬間小さい方は仰向けに倒れた。

Xガンを構えた両手首と切り離されたのだろう短くなった両腕で宙を掻いて。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

吼えるデカイ奴。

怒ってるのはマンガ通りだけど何で?仔ねぎ虐めを見られてない筈なのに。

…あ、ねぎ臭いからバレたのか?なるほどね。

先行した4人は皆あのデカイ奴に返り討ちされた様子。

私たちと彼(?)の距離は50mほど。

 

「誰だあいつ? 誰だ?」

「ねぎ…星人…」

「…死んだのか?全員…。残ってんのって俺…達…だけ…?」

「アイツはヤバい。ヤバい感じがするッ。今なら…逃げられる。逃げるぞッ。

 ゆッくり…ゆッくり後ずさるンだ」

 

誰が見てもヤバいよ。容貌が鬼で、所業が殺人だもの。

 

「行こう…」

 

ソローリソローリ 

 

玄野の号令で静かに後退する私たち。

 

ソロソロ 

 

親ねぎがこちらに気付かないか警戒しつつ玄野と私、しんがりに加藤の順で静かに後退する。

…前後、逆じゃね?

スーツ着てる奴がスーツ着てない奴を盾にしてどーするよ。

玄野行け。そのスーツがあれば勝てる、シナリオ通りだ。ファン(←加藤)に良いとこ見せてやれ。

このままだと唯一のファンがバケモンに斬られちゃうよ?2m超えガッチリ体型のくせに素早いからなぁ親ねぎは、そーいや仔ねぎも逃げ足速かったし。

そう考えるとターゲットが好戦的じゃない場合すぐ時間切れになっちゃいそーねミッションて。

あ、私のことはお気になさらず、一般人を装って他人のフリしますので。学ランの上着(かなりブカブカ)しか装備してない痴女スレスレな美少女と比べたら私なんて空気のように目立たないでしょう、きっと。

マンガでは玄野と岸本が同じタイミングで逃げたのに主人公だけが追われてたし。

何故みるからに親ねぎを認識して逃げ出した岸本は奴に無視されたのだろう?

強そーなほうを狙った?黒いハンター達に恨みがあったのか?やっぱり取りこぼし?

 

ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ

 

2人とも動きがぎこちない。なんかカクカクしている。そーいう私も似たよ―なもんだが。

死なないと分かってても緊張する。なんという圧力だ親ねぎ、恐ろしい奴。

外灯さけても何故かバレるんだよなぁ。スーツのボタンがうっすら光ってるから?

うん、玄野のせいだね。

 

「あ…」

「あ、あ、ヤバ」

 

血溜りの中、立ちつくす親ねぎが、こちらを向く。

 

ドキッ

 

たわめるように姿勢を低くした親ねぎと目が合った気がした…

 

 

パンッ

 

「!?」

 

爆竹?って銃声か。

親ねぎに左腕を斬り飛ばされ倒れ伏していた筈のヤクザがチャカを弾いた様子。

マンガ通りに隠し持った拳銃を発砲する怪我人。ぅぉお、がんばれヤクザ。この場面スキだ。

ダッ

加藤が親ねぎに向かって走りだす。ちょっと待て紙防御。

 

パンッパンッパンッパンッ

連続する軽い音。着弾するたび後ずさり塀まで押される親ねぎ。

 

パンッパンッ 

ドッ

膝をつく。

 

パンッパンッ 

ドウッッ

右手をつき倒れる。完全に動きが止まった。弾切れ銃を構えたままヤクザは静かに敵を睨む。

 

「加藤!今だ!!」

 

玄野が叫び、加藤がトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

 

「うううう…う…うっぐっ…う…」

 

加藤は泣いているようだ。その足元には動かないヤクザ。汗と血と臓物と便のニオイが混ざり合いスゴイ刺激臭になって目に沁みている、わけではない。

それに背を向けている玄野と私は何をしているかというと…

 

ワイヤーの拘束から逃れようともがく…首と足先を動かす親ねぎを監視、と言うと仰々しいな。ただ見ている。

光るワイヤーは今のところ千切れそーもないがかなり恐い。うつ伏せ状態で下から睨みつけてくる親ねぎ。ゴツゴツした顔面は鬼瓦みたいだ。ヤクザの拳銃で撃たれ倒れた親ねぎは数秒で覚醒した。やっぱり回復力がスゴイのだろう。

 

『ヴォオア”ア”ッ ズモアッ』

 

かなり元気になった親ねぎが喚く。そーね、うんうん、何言ってんのか分からん。

日本語は「ネギアゲマス」しか言えんのか?こいつ。

そーいや「ユルシテクダサイ」とも言ってたな。作戦中のメンバーには無理な相談だ。

 

「加藤ッおいッ。その銃撃てッて、はやく。コイツ回復してきてンぞッ」

「…ああ」

 

ゴシゴシッ

コツコツコツ

袖で顔を拭い加藤が振り返る。

結局、玄野は何にもしなかったなー。

新規メンバーで唯一スーツ着てるのに終始驚き要員だった(笑)。キャラになってる私では主人公と親ねぎの追い駆けっこについて行けないから、これでよかったけど。

加藤が親ねぎに向かってYガンを構える。

 

「…これホントに撃っても…死なないんだよな?」

「だから、そーだッて。早くヤれ」

 

私を見て念を押す加藤に玄野が答える。移動時も言ったけど上(?)へ送られるらしいよ~。

送られて何されるかは知らん。

 

ギョーン

 

私も頷こうとしたら、まぬけな音が聞こえた。あらら。

 

「?」

「何だ?今の」キョロキョロ

「おッ。おい…」

 

周りを警戒するオールバックの肩を茶髪がたたく。

玄野に一発もぶたれていない親ねぎの頬が膨張して…

 

……ググウゥッ

 

バンッッ

 

破裂した。

 

 

 

「っ!?」

「え…、なン…で…」

「やっ…まだ、撃って…ねーぞ。俺」

 

ビチャビチャと親ねぎのひき肉が散った後、幼馴染を見て呟いた主人公にYガンを構えたままの加藤が答える。

 

バチッバチッバチッ バチッバチッ バチッバチッバチッ

 

音のほうを向く私たち。

チカチカ光る宙空を見ていると、

透明な人形が一瞬で彩色されるように少年が現れた。

西だ。

 

「あッ。おッおまえッ」

 

Xガンを構え、どや顔で歩いて来る中学生を指し玄野が吃る。

 

「…」ニヤリ

「オ…マエ、どこに居たンだ…?」

「近くに居たよ。ずっと…」

「…?」

「しょぼかったな。今回は」

「…お前…今…」

「?」

 

Xガンを袖に仕舞った西は加藤を見て首を傾げる。

 

「お前が撃ったのか?」

「そーだけど」

「なぜ…殺したんだ?こいつは動けなかった!」

「そっちも撃つ気だったろ?」

「俺は殺す気なんて無かった。これは捕獲用の銃だ。捕獲と転送しか出来ない!

 そーだよな?」

 

確認されたので頷く。うん、そーいう設定のはず、ねぎアパートからの移動中に教えた通り。

 

「…ふ~ん。同じことだと思うけど」

「!?」

「オマエ…。全部知ッてンのか?」

「さぁ?…全部は知らないけど、お前よりはね」

「…なァ、コレで終わりなのか?」

「ああ」

「どうなる…?これから…」

「まず…部屋に戻って」

「!? 戻れるのか!?」

「あとは自由…。家に帰ってもいいし…」

「帰れるッて!?マジ!?マジかよ帰れる!?」

「ああ…帰れるよ…。まぁ待ってりゃわかる」

 

シャコッ 

コントローラーをチェックする西。

 

「…!おい!!あいつらは?あいつらも戻れるのか!?」

 

路上に転がっているメンバーを指す加藤。

 

「無理だね…。あの部屋に戻れんのって生きてる人間だけだよ」

「そ…んな………

 いやっまだだっ、まだ間に合うかもっ」

 

ダッ 

バチャッ ビチャッ

 

「おーいッ 加藤ッ!どッちにしろ…手遅れだッてッ!」

「生きてる限りは胴体が千切れてても部屋に帰れば、もとに戻れるぜ…

 生きてりゃだけど…あくまでも…」

「!? ウソだろ…」

「なんで嘘…ま…信じなくてもいいけど

 おっ」

 

西の頭頂部が消え始めた。部屋への転送だ。

 

「お先…」

 

消えた。

 

「…」「…」

 

ニオイ付きグロ動画の破壊力。

夢なのにキモすぎて吐きそう。夢はここまで進化したってか?エンタメに要らないよ、この方向のリアリティは。何この臭気、私の布団周りがこのニオイになってるとか無いよね?どーゆー状況だよ。気になる。

アクションも終わったし、そろそろ覚めてほしーわ。

 

鉄臭い水溜りに膝をつき金髪と山田の脈を確認したりなんだりしている加藤を眺めながら、

ぼんやりしてるうちに私の番が来た。転送ラストは加藤か…

 

「あっ、あ!おいっ!おいっ!!…落ちつけ!もうすぐ戻れるんだっ頑張れ

 

途中で消える彼の声。

 

 

 

 

 

 

黒球部屋。

眩しっ。西と玄野、犬が居る。

ニオイ無くなったなぁ。血で汚れた靴下やイロイロと踏んだ靴裏もキレイになってる。

 

「こいつすっかり忘れてた。いっつも、ちゃんと帰って来んだよな~。役立たねーのに」

チャッチャッチャッ

「あ…犬…」

 

黒球の横に立った西と正面に座った玄野が犬を見ている。

チャッチャッチャッ ハッ フンフンフン

私に飛びつく犬。犬くさっ。うあーかわいーなコイツ。吠えないし。よーしよし。

 

ジジジ 

 

タタタッ 

ドタッ

転送された加藤がたたらをふんで尻餅をつく。鋭い眼差しが玄野を視界に入れて緩む。

 

「あっ れっ? 計ちゃんっ。あれっ…あいつは?ヤクザの…」

「ヤクザ?アイツは死ンでたンじゃないのか?…他の奴もダメだッたか」

「死んだっ!?」

「え…?」

「もう1人のヤクザなら、あいつもネギ星人に殺られたぜ。ハデにぶっとんでたな」

 

加藤と玄野の会話に西も加わる。

 

「やられた…って、え?」

「!!そーなのかッ?」

 

キョトンとする加藤。玄野が驚き訊き返す。

 

「はぁ?どーなってんだ?ネギ星人は?」

「…さッきオマエも見てたろ。覚えてないのか?」

「???」

「…」

 

話がかみ合ってない。

?で思考が埋め尽くされているであろう加藤の学ランはキレイになっている。

転送する際「ボロボロになる前の加藤」を採用したから畑中に殴られた後の記憶をもってないのだろうか?最終的に彼の学ランは上着がほつれてヨレヨレなうえに汚物と血にまみれていた。服装の破損や汚れ程度なら元の状態へ戻しても記憶無くならない筈なのに、なんで?

マンガではミッション中に判り易い外傷を負ったメンバーの記憶が転送後消えていた。

ということは…

じつは重傷だったの?肋骨とか折れてた?骨折してても走れるの?人間って。

妙に細かいなぁこの夢。

 

「おいッ…」

「!?」

「…誰だ?」

 

また誰か転送されて来た。頭頂部が見える。

ヤクザ達ほど背は高くなく派手な金髪でもない。

 

ジジジジ…

 

「おいおいマジかよ~何人生き残ってんだよ」

 

ジジジジジ ジジジジ 

 

「わかってんだスタッフ出て来んだ。…!?」

 

Xガンを構えて現れる山田。

 

「わっ」「危ねッ」

 

ギョ―――ン

 

ドタタッ

玄野と私で射線に近い加藤を引き倒し、山田…の持つXガンに注目する。

採点直前にチームメイトの誤射で退場なんてそんな笑e…バカらしーことになんなくてよかったね加藤。

 

「…」「…」「?」

「あ…?あれ…?ねぎ…星人…は…?」

 

またそれか。こいつも両腕を斬られる前までの記憶しか無いようだ。キョロキョロする山田。

 

「アイツはもういない。終わッた…らしい」

 

Xガンを構えたままの山田を睨みながら玄野が答える。

 

「!?…。

 は…ははは……よかった…生きてる…よかった、TVだったんだ…」

 

武器を下ろし床へ跪くと山田は掲げた両掌を何度も握り込んだ。




改変点:
山田生存。


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ねぎ編④

前回のあらすじ:
山田雅史(?歳、眼鏡)は生き残った。




♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

 

“それぢわ ちいてんを はじぬる 00:00:00”

 

「…」

「…?」

「…えッと?」

「ガンツが採点始めるぜ」

「はァ?ガンツ?」

「うん、ガンツ」

「なンだ?この玉の名前?オマエ付けたの?」

 

黒球を指し西を見る主人公。

 

「いや前から…」

 

“犬……やるき なちすぎ ベロ出しすぎ シッポふりすぎ 0てん”

 

「はぁ?」

「ベロ出し過ぎ…だって…。そりゃそうだ」

「くははは」

「キュウウウウン」

 

項垂れて脇へ移動する犬。こいつはどういう認識で黒球の前に座ったんだろう?

数回生き残る…黒球の前に立てば転送されて、もう部屋に呼ばれなくなると思ってるのかな?

だからガッカリ?

 

「落ち込ンでンだ。ははは」

 

“メガネ……やる気は みとめられるのだが… 0てん”

 

「これ。山田…さん?」

「…」

「えっ。何これ?…何の点数?」

 

“かとうちゃ(笑)……やくざやに~ おこられた 0てん”

 

「…」

「…さぶ…」

「…ウケ狙ってんのか?これ」

「う~…。ちょッとドキドキしてきたぞ。俺何点だろ…。

 ちょッとおもしれーかもこの採点。何の採点か、さッぱり分かンね―けど」

 

“西くん……3てんtotal90てん あと10てんでおわり”

 

「3点って…いいのか?」

「ちっ。3点かよ…」

「じゃあ…俺は…」

 

“くろの……ホケーとしすぎ 0てん”

 

「計ちゃん…」

「…ぷっ」

「オマッ 今笑ッただろッ」

「…」ニヤニヤ

「む~」

噴き出した西を睨み頬を膨らます玄野。

 

“佐藤(?)……1てんtotal1てん あと99てんでおわり”

 

「1点…ッて、しょぼッ」

しょぼ言うな玄野。0点よりマシですぅ~。

 

「これホントに何の点数なんだ?」

 

加藤の呟きを無視し画像を見る。

名前の横…眉より上で切り揃えた前髪におさげ頭の似顔絵。

ほほぅ「私」はこんな顔なのか、ってあの娘じゃないの?これ。

鞄を漁ると生徒手帳があった。ぉおぅマジか。

 

“私立勢綾高等学校 1年 小島多恵”

 

私はタエちゃんの姿をしているようだ。

道理で、玄野の身長が高く見えるはずだ。

小島多恵ことヒロイン3号。4人登場するヒロイン中唯一最終話で生存かつ主要キャラしていた。運動能力は並?な女子高生。主人公のクラスメイト。

身長は147cm(小6女子の平均値)。私と20cmも違う(笑)。

小島宅は玄野の下宿先と近いので利用線が同じかもだがネギ星人狩りに小島参戦なんてさすが夢だわ。ゲームかよ。

 

「…ねぎ星人はコイツが送ッて、ねぎオヤジは中坊が始末したから

 指令?のターゲットをヤッつけないと点数つかないンだと思う」

「ねぎ親父?大人のねぎ星人ってことか?」

「あーまァ、そー…だと思うけど…ドコまで覚えてる?

 ねぎ星人が2階から飛び降りて佐藤に捕獲されたトコは?」

「えっ この子が?」

 

驚いてこっちを見る長身。

加藤は捕獲したとこ見てないよ。それとその言い方だと私が素手でクリ―チャ―捕らえたみたいで、なんかイヤ。

 

記憶喪失2人に対し玄野が雑な説明を終えたところでガンツの表面から全ての表示が消えた。

もう飽きてきたな~まだ終わらないのかこの夢。ねぎ星人編終わんないと覚めないの?

 

「アレ?終わり?……ドコ行くンだよ」

「外。ドア開いてるぜ?」

 

廊下へ向かう西が振り返り玄野を見る。

 

「えっ。ホントにっ?」

 

西の発言に食いつく山田。

 

「…」「…」

「ちょっと待てよ…。こっちは訊きたいこと山ほどあるんだけどな」

「そうだ…!オマエいろいろ知ッてそーだし」

 

西センセーに質問会を提案する玄野たち。2人は西を睨んで、ない。

 

「いいぜ。…俺の知ってる範囲でなら」

「あっ!あっ、僕は帰ります。明日早いんでっ」

 

帰るの?山田。質問会に絡まないのか。

部屋を見回してから西の横を通って廊下の角に消える。

 

「…」「…」「…」

 

キィ ガチャ――ン

マジで帰っちゃった。私も帰ろーかな。

 

「…で、訊きたいことって?」

 

西に訊かれ瞬きしてから顔を顰める玄野。

 

「ンん。何から訊こー…。あ…あ…。何、なンなンだ一体…」

「何が…?はぁ?」

 

玄野の質問?に西が訊き返す。

おーい、それじゃ誰が聞いても何だか分からないよ~。話題を絞れ、整理しろ。

 

「それって、この状況について訊いてます? 星人の正体。ここに呼ばれた理由。

 私達の生死…」

「そうソレ!なァ俺達ッて生きてンのか?…電車に思いッきり轢かれたンだ。ソノはずだ。

 ソレに…俺こンなカッコなのに誰も気にして無かッた。

 もしかして見えてなかッたンじゃ…」

 

外歩いてる時は堂々としてたのに(笑)今頃気付いたの?玄野。

 

「そーいえば…」

 

計ちゃんコスプレしてたな、とか続けるなよ~加藤。話が逸れる。

 

「生きてる。…」

 

言ってから迷うような表情をする西。

 

「ンだよ…。本当なのかよ、オイ」

「…死ぬ寸前に助けられた者が、ここにやって来る。そう思っているよな?」

「…違うのか?」

「たぶん、俺の考えでは本体…オリジナルは本当に死んでる…」

「はァ?」「!?」

 

センセー、2人が話に付いて来てません~。

 

「ここにいる人間は…。ファックスから出て来た書類なんだよ」

「は?何が?ファックス?」

 

比喩が高度すぎて理解できない、と目を細める玄野…って言うと馬鹿にしすぎだな。えーと。

マシな表現考えるの面倒。

 

「ああ…コピーだ」

「コピーって…そんな」

「ガンツって、かなりいーかげんな奴だから…

 前にいたおっさんは帰ったらオリジナル死んでなくって…」

「なん…だそれ…。ちょっと待て、それって同じ奴が2人に増えたってことか?」

「困るじゃん。どーすンだ住むトコとか」

「さーな。…ま、平気だろ滅多に無いケースだ。でも俺の仮説はそれが理由」

 

その滅多にない事例になる筈だった娘は存在しなくなったんだよね、この夢では。

私はオリジナル岸本とコピー岸本は違うキャラと思っているのでちょっと残念。

 

「…」「…」

 

無言で顔を見合わせる玄野と加藤。2人とも蒼褪めた顔色。

話進まないから後にしろ。それと自宅にも病院にもオリジナルは居ないから気にすんな。だいたい走行中の電車に人間が追突されて生きてる確率ってどれくらいだよ。手首切った岸本と違うんだからさぁ、あのあと何が起こったら軽傷で済むの?

は?紙とペン?貸してもいいけど連絡先交換なら帰宅中にやれ。っつか玄関開いたからケータイ使えるんじゃね?

 

「…」

 

座り込む玄野たちを西が黙って見ている。まさか、

待っているのか?

この西、変だっ。偽物?ひとことの嫌味も言わず大人しく待つよーなキャラじゃない(笑)。

もしかして加藤が怒ってないからか?玄野たちからの敵意が無ければ穏便に接していたのかな?マンガでも。必要なときの連携用員にキープしとこう、みたいな。

何も知らない囮使うにしても単独で時間内にミッションクリアはキツイだろーし。

 

「加藤、ケータイ持ッてね―の?」

「まぁな。使わね―し」

 

訊くなよ玄野~。お小遣い無いうちもあるのよ?

そーね、私用ケータイなんて無くても困んない道具だよね。遊ぶ暇の無い人間にとっては。

 

「…他に質問は?」

「あ、えーと」

「そーだ。増えちゃッたオッサンのコト、前のッて言ッたよな…ッてコトは」

 

「ああ。俺が初めてこの部屋に来たのは1年くらい前」

 

遠い目をする中学生。

 

「昔から、ずっと繰り返して来たんだよ今夜みたいなこと。

 俺が来るよりずっと前からこの部屋は、常に何人かずつ…

 死んだ筈の人間が連れて来られて、死んだらまた補充して。

 何人も見てきた…人が死ぬとこ。

 今回なんかよりスンゲーのも…いっぱいあった。

 俺はそん中で、ずっと生き残り続けてきた…!」

 

「…」

「…チッ。マジかよ。こンなのに何度も呼ばれンのか…」

 

癒しを求め弟を思い出しているのだろうか天井を仰ぎ目を瞑る加藤。

配点の少なさとかで予想していてもショックだったのだろう舌うちして暗い顔をする玄野。

2人は悪い想像で頭がいっぱいらしく「人が死ぬとこ」から興奮しだした西に気付いてない。

ネクロフィリアな少年にドン引きなのは私のみ。

 

「…他に無いなら俺、行くけど。

 あ、そーだ。

 帰っても、ここのことは…誰にも話さない方がいいぜ? 頭バーンだからな」

 

加藤が「バーン?」とか言ってたが無視。

質問が無いことを確認したあと警告を残して西は去った。

何か色々省かれたような…

ま、いいか。

 

 

 

 

 

 

タクシーで移動中。

夜景が後ろへ流れてゆく。やっと帰宅だ。長かった。

じつは人生初タクシーなのよね。いや初とは言えないか?夢の中だし。

フツ―に一般車の後部座席だなぁ。

 

「あいつってさぁ」

「ン~?」

 

窓の外を眺めながら呟く加藤に訊き返す玄野。私はその間に座っている。玄野と小島は小柄なのでわりと余裕ある。「あいつ」ってどれよ?

 

「あのおっさん達のこと見捨てたのかなぁ?戻って来なかった奴らって全員、その…」

「あ~見捨てたッつーか…。ッてオイ加藤ッ」

 

西のことらしい。

主人公は途中で気付き運転手をチラ見。

うん、あれは囮作戦ののち見捨てたってカンジね。

初めて黒球部屋に呼ばれた人間(一部例外あり)…新規メンバーをターゲットにぶつけ情報収集と囮に使うのが西の常套手段。

 

「…何であんな嘘吐いたんだろう。

 あいつが賞金とか言わなきゃ連中も探しになんか行かなかったよなぁ。

 電車見て帰ろうとしてたし」

 

玄野の態度に気付かず言葉を続ける加藤。

こんなとこで頭破裂しないでね?去り際に西が告げた言葉の意味わかんなかったわけじゃないだろ。……だよね?

「ここのことを話す」と「頭バーン」。

つまり黒球部屋含む星人狩りに関する情報を関係者以外へもらすと罰として頭を爆破されるのだ。

まぁどんなに詳しく話しても聞き手(この場合は運転手)が信じなきゃ大丈夫とは思うが、こんな逃げ場無い場所で試さないで。ミッションと違って自分で洗わなきゃいけないんだぞ脳漿とか血とか脂とか。

運転手が驚いて事故るってこともありえる。

 

なんてね。考えすぎだね。あと数十分で終わるもんね、この世界。稀な体験でした○

 

「そーかもな。でも、そーいうルールかもしれないし…分ッかンねーな~。

 訊いてみれば?次ンときにでも」

「次って…。…はぁ…意味分かんねぇ…」

「…」

 

頭を抱えて唸る加藤を静かに見つめる主人公。西の意図に気付いているが教えないらしい。

こっちにも視線を向けた後、前方へ向き直った。

当事者が居ない今、彼の行動を説明して加藤を怒らせる気は私にも無いから安心しておくれ?

 

 

 

玄野の下宿先“ひばり荘”前。

2階建て8部屋のアパート。玄野の部屋は2階左隅で階段登ってすぐ。

暗い自室を見上げてから停車するタクシーへ振り返りちょっと笑う主人公。

 

「ンじゃ。…。また…今度…」

「ああ…。またな…」

 

ブウウウウ…

走りだすタクシー。遠ざかる主人公はこちらを見送らずさっさと階段を上って見えなくなった。次は小島宅。マンガと同じくタクシー代は加藤が奢ってくれるらしい。電車事故に巻き込んだ玄野の分だけでなく初対面な小島の分まで持ってくれるなんて太っ腹だねぇ。 

 

「あ!あのさ…さっき、な…。

 その、ありがとう。俺ちょっと考え事してて。次からは無いようにするから」

 

追い銭よろしくタダ乗り少女に礼を言う加藤。

こっちの台詞に被せるなよ~(笑)いつの何について言ってるのかさっぱりだし。

どういたしまして?

 

…キィ

バタンッ 

ブウウウウン

リアウインドウから見える加藤は笑って手をヒラヒラしていた。

…さらば、ギャップ萌え。

 

 

 

 

 

 

小島宅。

現在部屋のベッドに横たわっている。うつ伏せで制服のまま。鞄は部屋の隅。

勧められた夕飯と入浴を断り直行した。夢の中で食事とか危険だ。理由は……わかるな?

小島の部屋は、なんというか、掃除し難そう。

画材・イーゼル・作品(?)が並んでいるカワイイ部屋、だったと思う。

それらしいものがゴタゴタしている、と言うのも電気付けてなくて輪郭以上視えないから。

 

玄関…小島母…廊下…階段を通り過ぎるとき懐かしい気持ちになったのは何故だろう。

部屋の描写がある話は小島が可哀想であっさり読んだのに。

まぁ、アクション回以外は総じてあっさりですけど(笑)。

部屋が暗くて時刻を確認できない、21時前後だろうか。

あ~も~動きたくな~い。フカフカ

 

 

 

 

 

 

?…

???サワサワサワ

あれ?いつものとこにケータイが ない…。

どっかに置き忘れたか…

ヤバい。

起きろ。起きるんだ私。

2度寝したら遅刻する。起きなければ、まだ真っ暗だけど。

今日からまた愉快な一週間が始まる。まずは朝陽を拝む前に出勤だ、世知辛いことである。

よいしょっ。

パタン

…。

上体を起こしつっぱった両手を視点に横を向いて足を畳に乗せ…れなかった。

畳をすり抜けた踵が固い平らなモノに当たる。ツルッとした木の感触。

?…パタ パタパタ

布団は木枠に収まり枕許と足元に柵が付いている…ベッドだ。

ゆっくり踏み出した足裏は靴下越しに絨毯のモフモフを感じた。

 

ってゆーか小島部屋のままじゃん。

 

私は何の盛り上がりも無く 奇妙な事態を理解した。




ねぎ星人編終了(日常回を挟み)田中星人編へ続く。


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田中編①

前編のあらすじ:
ねぎ星人ミッションクリア。
岸本コピーではなく小島がメンバー入り。
山田生存。
加藤と西が険悪化していない(表面上は)。



『この…ここのホームで2人の高校生が線路に落ちた人間を助けた後、

 忽然と姿を消してしまったのですっ』

“初冬のミステリー 地下鉄でホームレスを救った2人の高校生が消えた?!”

 

ポリッ 

私は小鉢に盛られた糠漬けをとり齧る。

 

『あっち側まで走ってったんですけどぉ~電車が来ちゃって…見えなくなってぇ』

『え?…撥ねられたとこは見てないけどなぁ…』

『その時間このホームにいたけど、そんな高校生見なかったよ?

 なんか…集団催眠みたいな?ヤツなんじゃないスか…?』

 

『謎の高校生2人は実在するのでしょうかっ』

 

 

 

こっちの時間で昨日の宵、

TVに映るプラットホームで玄野見てからガンツに呼ばれネギ狩りして。

長~い夢…だと思ってたんだが違うかもね~。モグモグ

思い返してみれば最初からこの世界は不自由すぎた。こんなに融通の利かない夢はおかしい。

この家屋、が建つ町、の属する国、を養う惑星がよく出来た仮想世界ではなく当たり前に暮らしてきた現実世界と同等だ、と五感が示している。所謂、並行世界?致命的な違いを含む現実世界。私が唯一だと思っていた世界には隠れ住むクリ―チャ―や“ガンツ”みたいなモノは無かった筈だ。

調べると私が住んでいたマンションは存在せず知らない建物が表示された。

ネット検索しかしてないから何かの間違いって可能性もあるが私の人格(魂?)が小島に乗り移っている、ということは「私」という器に小島が代わりに入っている、あるいは魂(笑)を抜かれた私は「向こう」のどこかで倒れている……そっちのほうが困る。

これがフィクションに出てくる異世界トリップ及び憑依ってヤツか(笑)数ある可能性のうち2番目くらいに嫌な候補だが、とりあえず仮定しよう。知らない場所へ放り出され住む家まで無い、という状況でないことは喜ぶべき。衣食住が粗末な生活は辛い。

ただし既存の立場を演じるとなると問題がある。

この姿をしている限りそうそう疑われないとは思う。が、どの程度のものなのだろう?

 

母親の直観というものは。

 

いま(わたし扮する)小島多恵は用意された朝食を摂っている。対面に座りテレビを見る女性、小島母の態度を伺いながら。彼女は無言でワイドショーを観ている。オカルト好きか?

趣味が合うかもしれない。ボロが出そうだから会話は遠慮するが。

視線が外れている今のうちに食事を終えてしまおう。部活や委員会活動で急に登校時刻が早まったと言えば最低限の会話で済むだろう。

この世界が昨日、突然始まったモノでないなら「小島多恵」の人生があったはず。

会話のくい違いが恐い、挨拶のタイミング・調味料の好み・食べる順番・表情の選択ミスに怯えながら摂るなんて食材が勿体ない。小島が当たり前のように享受してきた贅沢、実母の手料理という毎日ありつける筈の朝食に対するリアクションは無表情、で正解か?

もっと気だるい感じのほうが自然かも(客観的には)寝起きだし。

娘の中身が違う、なんてバレたらすごく面倒そう。

最後まで秘密にしたい。

 

私は口に含んだ米飯を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

定期券あるけど駅の場所わかんねーよ、通勤っぽいヒトについてトボトボ歩く。

社会人が通勤するように学生は通学して勉強しなくてはならない、私が授業受けても無駄なのに。2度目の高校生活とかダルすぎ。許されるなら他のことしたい。

 

小柄な学生の小島と社会人の私は「性別以外の共通点が見当たらない」と言える程ちがうのに今のところ物を掴み損ねたり小さな段差で転ぶとかの支障は無い。違和感が少ない、というより身長の違いを比べる対象が無かったら気付かないレベルで同調している。それは助かる反面腑に落ちない。でも20cm低くなる程度の変化ならこんなもんか。低身長から高身長に乗り換え、おまけに性別まで変わっていたらまた違ったのだろうが。

 

今朝、事故を確信した時刻は午前3時だった。

平時「私」が起床していた時間だ。私の身体は女子高生のはずなのに生活リズムが社畜のままってオカシイだろ…。小島も3時起き生活だったのか?

どちらにしても超早起きだが無駄にはならなかった。シワシワになった制服のアイロンがけとかに時間かかったので。制服のまま寝るのは絶対にやめよう(泣)。

明日もこのままだったら2度寝しよう。

 

駅に到着。

小島と同じ制服を着ているグループについて降車する。高校まで案内よろしくー。

彼女の友人が話し掛けてきたらどうするか。知らない話題は聞き役に徹すればなんとか。解らない問いはくしゃみで誤魔化せるというのは、さて本当か。態とするくしゃみって難しそう。というか小島のキャラってどんなんだ?玄野への対応しか知らんのだが同じで問題無いのか?

地味に微笑んでればいいの?…学校も気が抜けない。一緒に住んでる人を欺くよか難易度低そうだけどー、いや相手のスペックによるか…。いっそキャラを作ってスベるのもテだな。

素でとりあえず臨んでみよう。

対応を考えながら女子高生をチラ見する。

…。

あれ?もしかして――

 

… … …

 

無事、教室前の廊下に着いた。

そして登校中、誰にも話しかけられなかった。

高校デビュー失敗か?小島。ぼっちなのね。

 

…親近感湧くなぁ。

 

 

 

 

1年生の教室が並んでいる。どれだろう小島のクラス。隅ではない筈。

手入れの良い茶髪に目が止まった。

見覚えがある横顔。教室の窓際、前から3番目に座った彼に男子生徒2人が近付く。

その1人が持った雑誌を広げ、

 

(何なんだよ、このカラダ!!なあ!!すっげ~よな~。反則だよっ。やーらしすぎ)

 

ス○ックみたいな男子がグラビアアイドルを指してはしゃぐ。奴の名は、たしか永沢。

話題は、あぁ昨日プラットホームで玄野が見てたアレな。

小島の座席を知らないので私は荷物棚の前に立つ。空席はあと数か所。

 

(スッゲ~よなッ、どこに生息してンだよ~こンなの)

 

頬づえをついて聞いていた茶髪こと玄野が相槌を打つ。

 

(うちの高校にゃあ、いねーな~)

(まァな。ハハハハハ)

(そ~いや昨日BSで始まったアニメがさぁ~あれ絶対ブレイクするよっ)

 

ぽっちゃりしたメガネ…松村が永沢に語る。欠伸する玄野。

主人公と松村は永沢を共通の友人にしてるだけで話が合うとかじゃなさそーに見える。

 

松村といえばイベントがあったな。今日だっけ?

 

 

 

 

 

 

屋上の通路。

松村に連れ出され相談される玄野。

屋内への出入り口から私が顔を出すと通路中程で壁に凭れて話す2人が視えた。

 

(…なぁ玄野)

(ハァ?)

(俺…今やばいんだよな~)

(何が?)

(俺…カツアゲくらってんだよね。2年の米倉に…。アニメ雑誌も買えないよ~)

(…)※記憶補完

 

「く・ろ・の・く~ん!!」

 

とりあえず呼んでみる。

小島は普段怒鳴ったりしないのだろう大声を出しにくいが問題無く届いたようだ。

弾かれたように背筋を伸ばしてからゆっくり振り向く玄野。

 

見逃さなくて正解だった。

玄野が松村に連れられ教室を出たときは一瞬「お手洗いか?」と思ったけどな。

ホケ面晒してる場合じゃねーよ?って、なにその訝しげな表情~もしかしてもう忘れたの?

マジで?巨乳美少女以外は記憶したく無いってか?それは知ってるが酷くね?

助けてやろうと思ったのに~やめよっかな~。

いや、クラスメートとして見覚えくらいあるよね。接点無かったから困惑してるのだろう。

 

「あのっ、先生が呼んでますっ。はやく早くっ」

 

そこに居るとキケンだよ~。はやく去らないと恐喝犯とエンカウントしちゃう、かも。

焦った様を装い両腕を振る私。パタパタ パッタリ パタパタパタ

(あ…玄野…あの)

松村が何か言ってるが無視しろ。危険感知(?)を働かせるんだ、命の危険じゃないけどね。

おもに自尊心と歯が危険。どーでもいい知人の懐事情より大事なモノでしょ?

来なかったらどーしようかな。…どーもしなくていいか私は早速困らない。

玄野だって犯罪者に絡まれて大怪我したとしても次のミッションまで息あれば治るし、たぶん。

とか思い待っていると彼はノコノコ近付いて来た。

 

 

 

玄野と屋内へ入り扉を閉じる。

ふぃ~まったく世話の焼ける奴だ。これで恐喝犯には見つかるまい。

 

「お、よく見たら…ッて、ハァッ? 

 …サトウ…だッけ」

 

今まで眠そーにしていた奴が目を瞠る。

サトウ?誰だよ佐藤って………

あ、私か。

 

「佐藤ッて勢綾だッたンだ…ジツザイシタンダ…」

 

玄野と小島が通う学校は私立勢綾高等学校。

 

「はい?」

 

バッチリ聞こえたけど訊いちゃう。

君も昨晩の出来事を覚えているんなら現実なんだろうねぇ残念なことに。そして同じクラスだよ☆

 

「や…中学生かと」

「…」

 

そーいや玄野って付き合いだしてからも小島の名前知らずにいたなー。それに私が自己紹介で偽名言ったとき、の前に目が合ってもリアクション無かったわ。同じ高校の制服着てたのに。

ってことは昨日のミッションで遇うまで存在すら認識していなかったのね。

はっ、もしかして他のクラスメイトもそーなの?だから話しかけてこないの?なんてこった、

どこの隠密キャラだよ(笑)。

 

「…で、呼ンでるッて誰?担任?職員室行けばいーの?」

「ん? あー、ごめんなさい。あれは方便というか…教員方は呼んでません」

「?」

「私…聞いちゃったんですよ。松村くんがカツアゲされてて…

 お金無いなら代わり…連れて来いと言われたって」

 

玄野の通う高校には恐喝犯が生息している…マンガ設定では。

そいつらに目をつけられた彼が今日の放課後、ガンツスーツの力で理不尽な要求を撥ね除けるイベントがある。本来なら私が出しゃばらなくても玄野が勝手に解決する話だ。

しかし私は見た、彼がスーツを仕舞ったケースを棚へ戻すところを。

そう、こいつはガンツスーツを持ってない。

やる気あんのか?

 

「…そーいえば、アイツ2年がどーのッて言ッてたけど。え?それで…」

 

やはりカツアゲについて相談されていたようだ。

まぁ相談と見せかけて松村の仕込みだけどね「2年」と玄野を遭わせるための。

誤解だとしても「2年」に難癖つけられた主人公を売っちゃうんだから同じこと。

恐いわ~、マジで恐喝犯が扉のむこうに居るのかよ。東京ありえね~。

 

「…はい。おそらく松村くんは玄野くんにカツアゲを押しつけようとしています。

 これからはやめたほうが良いですよ?松村くんと2人で行動するのは。

 犯罪者には接触しないように、なるべく注意して下さい」

 

面倒事はミッションだけで充分でしょ?

 

♪キーンコ-ン カーンコーン♪

 

「…」

 

反応が無いな。?……。

仕方ないか。ほぼ初対面の私より前から知ってる松村を信じるのが普通。

う~ん、最初のフラグは折ったし大丈夫かな?

 

「教室へ戻りましょうか」

「…ああ」

 

号令には間に合った。

私の高校生活って平和だったのね。

 

 

 

… … …

 

 

 

地下鉄のプラットホーム。

いまごろ歯コレクターに1話キャラがボコられてんだろーな~…学校の方角へ手を合わせる。

断じて尾行していたのではなく全くの偶然だが、視界の隅で玄野と永沢が談笑中。

松村は居ない。そーいや駅で一緒の描写は一度も無かった。利用線が違うらしい。

 

「これ朝のワイドショーでやってたけど本当かぁ?」

 

柱の張り紙を指す永沢。

 

“ホームレスを救った高校生2人を探しています。12月16日18時50分頃

線路に落ちた人を助けようとして急行列車に轢かれたと思われる高校生2人を探しています。

 特徴 1人は190cm以上の長身でオールバック 2人とも紺または黒色の学生服

 目撃証言はこちらまで… … ”

 

タイヘンだ~

加藤が簡単に特定されそーな内容だ。190超の学ラン・オールバックなんて、そうそう居ないって(笑)そこにお人好しって付くと加藤の学友だったら即バレしかねない人物像だし。

それに比べ玄野の特徴は学ランの色だけ。性別しか分からない。良かったねぇギャラリーの記憶に残らなくて(笑)。

 

「玄野、行くでしょ今から…」

「アッ!そッか…。川村ひ□る握手会か!?あ~今日だッたか…」

「はぁっ?お前ともあろう者が忘れてたのかよっ。どーした変な物でも食った?」

「なンだよソレ~…でも、どーしよッかなァ。川村■かる俺のモンになるワケじゃないしィ」

「な~に言ってんだ玄野。俺ら彼女一生できねーんだし夢くらい見よーぜ!ともに…」

「俺らッて…らッてなンだよ!俺もかよ!?」

 

ちょっと恥ずかしい内容を大声で言いながらじゃれ合う2人。

野郎共はそーいうつもりでアイドルの握手会へ行くのか~なるほどなぁ。

残念だが永沢よ今後高確率で玄野には彼女ができるぞ。それも容姿レベルがカンストしたような、まさにマンガのヒロイン級(神)な彼女だ。そのときこの友情はどーなるのだろう?

ニヤついてたら玄野と目が合った。

…… …… …

見つめ合うこと暫し。

 

「何?知り合い?」

「ああ。えッと…」

「あ、あいつクラスにいたな、たしか」

「そうそう。同じクラスの佐藤」

「佐藤?そんな名前だっけー…」

「え?」

 

さすがだ永沢。伊達に前髪パッツンじゃないね。さっさと訂正するんだ。佐藤☓→小島○。

 

「…まぁ、いっか」

「何が?」

 

永沢~っ

 

…もう、いいよ佐藤で。

私が言わなきゃ誰も気付かないだろう。

興味を失ったらしく2人は線路へ向き直った。

握手会か~行ってみたいけど混ざれず浮きそーだし無料じゃなかろ、やめとこ。

付いてくと玄野にストーカーだと思われかねないし。

ストーカーといえば、あの娘はこの世界に存在しているのか?

コピー岸本だけでなくあの娘まで削られたら泣いちゃうよ?私。

マジで。




改変点:
玄野と立花(歯コレクター)遭遇せず。

原作既読者は見る必要の無い解説①
小島母=ヒロイン3号こと小島多恵ちゃんの母親。下の名前不明。増えゆく捏造設定。
歯コレクター=カツアゲの元締め的な校内犯罪者。歯医者の息子。集金の邪魔者から歯も頂く。
一話キャラ=カツアゲ回の一話キャラ。後輩のお金を取り戻そうとしてボコられた。


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田中編②

前回のあらすじ:
夢じゃないかも、とりあえず様子をみる。
かつあげ話スル―。
数少ない女子キャラを削らないで(切実)。



願っても惜しんでも時はすすむ。

 

小島になって7日経った。

毎朝のガッカリ感が胃を直撃する&不眠症気味に加え連日の筋肉痛が気になるけれど体調は良好です。さすが十代。

これって最長、最終話までこの世界に居ろってことかな? 

意味わかんね~~責任者出て来い…

やっぱいいや出て来なくて、遭いたくない。

この事態が憑依(笑)ではなく細かすぎる明晰夢なら、起床して忘れる夢のように睡眠中は現実を覚えていないせいで2次小説めいた体験を継続してると思い込んでいる、という可能性も捨てたくない……今までの夢と現実両方覚えてるけど例外がナイとは限らない。

失踪&無断欠勤で住所不定無職になるとかやめてほしい。

いや幽体(?)離脱からの憑依だったら今頃「私」は植物状態or……そっちも洒落にならん。

なんで私?凡人を凡(スペック)キャラに憑依させるとか何がしたいの?何して欲しいの?

とくに意味は無いのかもしれないし無茶振りされても困るけど。

ひょっとして私は誰かの補助要員か?順当に行けば何度か退場するような役にファンをブチ込むなんてシナリオ改変しろって言ってるようなもんだし。戦えるけどマンガ知識が無い、みたいな人もこの世界に来ていて、誰かに憑依したそいつ捜してサポートしろと? 

…バカなの?

あのマンガはアレが完成形なんだよ、わざわざ変えるところなんて無いね。シナリオ通りが美しい。もしかして安易な救済希望とか?(笑)ガンツに関わる事故の全てを回避したいなら財閥とかいう黒幕の誰かに憑依させろよ、メンバーとして運命ひっくり返せ~なんて迂遠だって。

…。

解んないこと考えても仕方ない。適当な身の振り方なんて結果を見ても判らない。

あの後も恐喝犯との接触は無く玄野は目を開けて寝てる勢いでホケ―――――ッとしていた。

松村は他の生贄を捧げたのか。

「シナリオ強制力」とかいう謎の力が働いて、スル―した筈のイベントが忘れた頃に起きるかもしれない。もう色々と予測不能なので玄野がなんとかすれば良いよ。あのイベントは今後登場する強力な味方との遭遇イベントに繋がってたが無くても問題なさそーだ。

あぁでも起きたほうがいいのか?受難イベント。

私の行動で既に2つも玄野の活躍(?)がスル―されたんだ。クリ―チャ―との初バトル・恐喝犯撃退…。ひとつでも欠くと救世主が生まれないなら既に詰んでいるぞホモサピ社会(笑うしかない)って気付いたときはちょっと落ちた。が“破局”のはの字も見えないうちに諦めるのはバカらしい。誰かの思惑なんて知ったこっちゃない。駄々をこねても現状は変わらない。マンガ通りに進むなら関わるイベントは把握している。備えて活路へ修正しよう。

それが見当外れであったとしても。

 

玄野と同じく黒球部屋から装備を何も持ち出さなかったので練習ならず。

あの時は夢と思ってたからな~山田たちのこと笑えね~。

新聞部は…あ、小島は新聞部です。そんな設定でした、小島になってから新聞部の部室へ一度も行ってないのに部員からの苦情が全く無いけど。部でも存在感薄いのだろーか?

部室の場所分かんないんだよね~。本当に部員なら呼びに来い。

学生として授業はフツ―に聞いている。一日中ふて寝できる気分だが小島の内申書に響いたらカワイソーだし。私には小島時代(?)の記憶が欠片も無いから授業聞いてもマジで意味無いのだろーけど。最終話を終えれば元に戻るのだとして半年分以上の遅れを取り戻すの大変そ~。

小島家の一員(の居候)としては、ちょろっと家事なんかを手伝っている。主にお手洗いと浴場を始めとした邸内磨き。毎日タダ飯貰うのが心苦しくなったので立候補した。小島母はキレイ好きらしく重労働ではない。

小島母といえば、表情が「暗い」と指摘された。私は営業スマイルを維持していたのに。

意外と毒舌実母。この表情で社会人してたんでちょっと悲しい、どの辺が「暗い」のかはっきりしないし。他からも指摘があったら変更を考えようと思う。例え「陰気」で「胡散臭い」表情だろうとやらないよりマシな筈、望む答えも返そう。(よく知らないヒトを頼るのは最後の手段だが)前触れ無く開いた落とし穴から抜け出せないのが現状だ。生き残る為なら何でも使うべき。

無愛想で皮肉しか吐かない知り合いを、命懸けで助ける人間は稀だろう。

 

家事手伝いのついでに小島部屋を最適化。ゴチャッとした物を一掃だ。掃除し難いので。

嵩張らないポスターとかは良いとしてオブジェやら大きなヌイグルミを飾る趣味は無い。

捨てなければ問題無いよね?

マンガと同じく小島の趣味(?)は漫画描くことと読むことなようで蔵書がかなりの量。

私の2倍はある。もともと本棚にまとめてあったので整理する必要はなかったが…

これって新刊出たら揃えとかないとダメ系?初版が欲しいのかな?やっぱり。

描きかけの漫画は、どっかに応募するつもりで描いていたのなら残念だ。私には無理。

いや私の絵が壊滅的に下手って意味じゃないよ?まぁ小島と比べたら壊滅してるけど今は上手なのだ、矛盾じゃなく事実。スケッチブックの小島作品を見ているうちに魔が差して鉛筆持ったら不気味なことが起きた。サラサラと勝手に動くペン先、つーか手。そして出来上がる精密デッサン。ちょっとしたサプライズに落書きでも遺しとこうかと思っただけなのに、なにこれ。自動書記?ってちょっと眩暈がした。

でも原稿用紙に向かうと動かないのよ。物語の展望が無いから?ということで無理。

 

偶に絵の練習(?)する程度で勘弁して下さい家主ちゃん。

 

 

 

 

 

 

今日は12月24日。

クリスマス前日かつミッション当日である。2度目のクリ―チャ―狩りだ。

前回は18時50分ごろに学ラン2人が呼ばれたので今回もそのくらいかなぁ?と近所をフラついていたらコンビニに知ってる茶髪がいた。

 

玄野発見。

 

「こんばんは~」

「おー」

 

彼は挨拶(?)してすぐ雑誌へ視線を戻す。巨乳好きねぇ。

ところで私たちは暇だから良いけど呼ばれる時に仕事中の人、激混み時のレジ係とか会議中の発言者とか開演中の役者とか、とくに衆人環視の中で働いてるメンバーはどーなるんだ?

玄野たちの「電車にアタック」を目撃した連中の殆どは遺体という証拠が消失したことで見間違いと思い込んだようだが、そんな記憶と視力に自信の無い人でも何度も人体消失に遭遇すればおかしいと思うはず。あ、だから先触れがあるのか。(複製は別として)一回目の呼び出しで予兆に気付かないとマズそーね。転送されるところを2回以上一般人に目撃されたらアウトなんだな気の毒に。

でも慌てる人間を想像すると可笑しい(笑)。

丁度ミッションの日に鼓動を止めてもそういう呼び難い職種の人は採用しないのかな?

東京球のガンツは「かなりいーかげん」らしいからメンバーの都合なんて考慮しないのかも。

不都合な存在が現れたらガンガン爆破・どんどんターゲット化~って方針だったり。

コンビニで立ち読み中に消えるのもマズイな(笑)。防犯カメラで記録されそー。

雑誌持ったまま消えたら万引になっちゃうよぅ。おなか捩れる。

 

「…なに?なンでニヤニヤしてンの?…キモいンだけど」

 

真横に立って暇潰し(の妄想)をしていたら玄野に咎められた。

おや、見てたの?異性の脂肪に夢中なのかと思ってたよ。

たしかに、今夜これからミッションへ呼ばれるって知らない彼としては不審だろうな私の行動は。コンビニに来たのに買い物も立ち読みもせず外を見ながら含み笑いする人間……

うん、知ってても不気味だ。

でも「キモい」は酷いよ、十代(笑)の乙女に対して。

ニヤついても小島の顔はキモくなりません~

 

ゾクッ 

 

首筋に寒気を感じた。

 

「…?」ポリポリ

 

隣の茶髪は雑誌から視線を離さず首筋を掻いている。

玄野は夕食とか済ませてんのかな? これから、また2時間くらい帰れなくなるよ。

 

キュイイイイ…

 

耳鳴り…。

玄野が雑誌から顔をあげ、こちらを見る。目が合った。

 

ピキンッ 

 

金縛りだ。

もうすぐ転送か。

瞼以外動けない。…あの時と同じ。

 

 

 

… … …

 

 

 

「チッ」

 

私より先にコンビニから消えた玄野が、見覚えある中学生…の横にあるオブジェを睨み舌うちする。パサッと雑誌が床へ落ちた。

 

「クソ…。またかよ…」

 

うん、黒球部屋だね。前回の生き残りが揃っている。

 

「聞こえてんなら移動しろよ。まだ来るはずだ…」

 

促すのは中学生、こと西センパイ。

前回の体験を思い出しているのか呆然と突っ立つ玄野へ彼は笑い掛けてから前回と逆、壁側奥の隅に座った。別の部屋へ続く扉横だ。

「来る」って、あぁ新規メンバーのことか。ほとんどのメンバーが黒球正面に転送されるから邪魔になるってことね。私たちも照射進路を避けテキト―に座った。

 

 

「あっ出て来た」

 

山田が立ち上がる。そーいや生き残ってたなあいつも。

徐々に体積を増す新規メンバーを観察する彼の服装は今回も背広だ。

サービス残業お疲れっス~。

チームに割り当てられるミッションの難易度が生き残りの人数や性能で変わるって説があったな、どーなんだろ?マンガより1人増えたメンバーの影響って。

 

黒球に頭を向け川の字に寝っ転がって現れたのは野郎4人。

身を起こし部屋を見回すと1人が疑問の声を発した。

 

「はぁ?」

 

 

 

あの後さらに4人複製され、メンバーは13人と1匹になった。

現状把握に忙しい新規メンバー。それを無言で眺める生き残り。

 

ダンッダンッ

(んだよこれっ!!玄関、開かねーじゃんっ)

「東京タワー…」

(…)

「おばーちゃんっ早くお家に帰りたい~ぃ、ううう」

「ちょっと待ってて、ね」

「なんで全員のケータイ使えねーんだ…わっけわかんねーっ」

 

「おい!!どーなってんだこれっ!!誰か教えろ!!どこだよ、ここっ!!

 誰か説明しろっ!!てめえら!!」

 

先の4人組、ゾッキーの1人が喚く。

 

 

 

やかましい。

狭い室内で大声出すって、耳までおかしいの?

訊けば何でも答えてもらえると思うなよ、そんな義務無いから。

あいつ(ら)ケンカ慣れしてるくせに全く役に立たないから退場させて良いっスよ?センパイ。

あ、やっぱ待って、部屋が臭くなる。黙らせるなら外でよろしく。

 

「うめーなコレ」

「…うん」モグモグ

「へー、すごーい。器用だね佐藤さん。ごちそーさま」

 

そう言う山田は私の差し入れを食べていない。鞄へ仕舞っていた。気分が悪いのだろーか?

…いや解っている、ミッション直前にモグモグしてる玄野たちが異常だって(笑)。

そう思うなら持って来るなって? 私も黒球部屋に無駄なモノを意図的に持ち込むのは不謹慎かも?とは思ったけど、作っちゃったものは消費するしかないでしょう…とくに食べ物は。

私は作ってないけども。

いやスケッチよろしく多恵ちゃんの首下ジャック(というと聞こえが悪いし寧ろ逆)による自動調理でもなく小島母作シュトレン(ミディサイズ)だ。「すご」くて「器用」なのは彼女です。

(私演じる)娘が「暗い」のは疲れているから、原因は栄養不足、それも糖分不足だ、と小島母は結論したらしく数日まえ手渡された。どっさりと10個も。表情の違いは中身(?)のせいで動作不良は多分に(逃げ足強化目的の)走り込みのせいだけどな。装備の練習できないから持久力と走力を梃入れしよう、と5kmから始めたら1kmで倒れそうになった(笑)小島はジョギングしない派と検証。文化部なら当然か?吹奏楽部は結構鍛えていたような…。

まぁボチボチとやろう、筋肉痛以上の損耗は非効率。

ドイツのクリスマス菓子パンであるシュトレンは奇しくも好物なので嫌な状況を暫し忘却できたほど感激し手を付けたのだが、問題が起きた。

夕飯まで摂ることを加味すると1日に1個も消費できないとか流石ヒロイン。小柄な人間が小食ってマジだったのね…。しかも製作者が消費を拒否。美味しいおやつは複数で楽しもう的に誘ったらダイエットを理由に断られた&早いめに片せとも。小島父に知られたくないとのこと。怖いね糖尿病。

ということで他へ押し付ける。最低4個も減らせる宛があった、と持ってきた次第だ。

食べ物を捨てるのは嫌。

健啖家な2人にはお土産も持たせよう。

 

 

「…」モグモグ

「…」モグモグ チラッ

 

黒球の横、壁側に座る加藤と玄野。

加藤はちょっと新規メンバーを見たが間食を続行。

西も黙って様子を見ている。犬は、あれ?どこ行った?

前回同様今回も山田は自己紹介をやりたいのか立ったまま。クウキ読め(笑)。

 

「苛々すんなーこいつら。なんか食ってんし」

「なんか言え!!無視すんな!!こら!!」

「ゾクなめんじゃねーぞ!」

 

「おい、そこの背のでけーの」

 

ゾッキー共のリーダーっぽい奴が外を見ている男子高校生に問う。

 

「…俺が訊きて―っつの」

 

振り返り不機嫌そうに答える高校生くん。オバケは怖いがチビにはビビらない(笑)。

ゾッキーリーダー(仮)よ、その高校生ってお前らより後に現れたじゃん、なんで事情を知ってると思うの?ほら、窓を向いて錠に指を滑らせてるし。他人に状況説明できるほど部屋のこと知ってるなら今さらそんなことしないって。偶には頭使わないと劣化するよ?

あっ…手遅れか、ごめーん。

 

「とぼけてんじゃねーだろな」

「くっそ、こいつら」

「病院、か?あんだけ殴られたもんなぁ」

「病院に見えるかよっ」

「なんで、みんなピンピンしてんだ…」

「…」「…」「…」

 

玄関は開かない。窓も含め壁を壊せない密室で半数の人間は黙ってこっちを見ている。という異様な状況に段々怖くなってきたのだろう、黒球の前に集まり額をつき合わせ不安げなゾッキー4人。

マンガでは大人数に袋叩きされてたよね~お前ら。ゾッキーリーダーなんて腹を刃物でグサリだし。ヤクザの抗争かよ。東京ちょー恐い。

とか思いつつ眺めていたら刺し殺された奴と目が合った。

 

 

 

「おい餓鬼!さっきから何ニヤニヤしてんだ!」

 

ズカズカと寄って来て私を見おろし失礼な発言をするゾッキーリーダーことゾクA。

あ?誰もニヤついてねーよ目ぇ腐ってんの?

質問したいなら他の奴に訊け。そこに居る山田とか暇そーでしょ、

目を逸らすな(笑)自己紹介狙ってたんじゃないのかよ。

何故小島に絡むんだ?ゾッキー。近いメガネとイケメンそして美少女顔をスル―してモブに来んな面倒くさい。教室では誰も話しかけて来ないのに。

黒球部屋に呼ばれたことで隠密スキルが反転し存在感が出ているのだろうか?

いやいや人間にそんな機能無いって(笑)。

そーいや出番を待っている今の時点でミッション中のように周波数(?)変わってる、てゆーか不可知化してるのかな?球共々。この部屋カーテン無いし外から丸見えだものねぇ。

無人の部屋に明りだけ点いてるとか怪談っぽーい。

 

「お家に”~帰りた”~い”~!!お母さ”ん”に”あ”い”た”~い”!!」

 

ピリピリした雰囲気に反応して、ぐずっていた子供が泣き出す。大音量で。奴はホンキだ。

 

「ごめんね亮太。おばあちゃん、なんとかするからね」

 

困った顔で両手をもじもじする老婦人。

子供を宥めながら我慢という言葉を知らなそーな連中をチラチラと伺う。

 

「うっせーな糞餓鬼!泣くんじゃねー!」

 

危惧通り子供を睨むゾクD。暴走族の分際で騒音に文句を言う。

 

「わーん!!」

 

驚いて更に泣く子供。

…頭痛い。さっきから傍若無人だな~泣いてるときに叱られた経験無いの?躾って何歳から?

 

「殺すぞっ」

 

子供を脅すゾクA。気持ちはわかるが言葉は選べ。お前マンガだと子持ちだったよな?

 

「わ”~んっ!!!」

 

声量が上がると、加藤が立ち上がった。

 

 

 

部屋中が長身ヤンキーの挙動に注目する。

子供も泣くのをやめ緊張しているようだ。

うんうん、加藤って黙って立ってると恐いよね~。

身長と髪型もそうだが顔のつくり、とくに目元が酷薄そーに見えるっつーか。

ゾッキー共の瞳に怯えが宿り、ちょっと愉快。

 

「こn」

「加藤ッ ちょッと待ッた!」

「おまえ何言う気だ」

「えっ なに何?」

 

マンガと同じく場を収めるため説明を始め…ようとした加藤は玄野+αに速攻で止められた。

 

「何だよ?計ちゃん」

「まず座れ。あのな、なンつーか。情報与える相手は選ンだほうがいいッてゆーか…

 俺は終わッてからでいーと思うンだ。ミッション終わッてからにしよーぜ、そーゆーの。

 アレは一度体験しないと解ンねーよ」

「でも、それじゃあ前回と同じに…」

「前のこと説明したいなら止めないけど信じないと思うよ?僕だって未だ半信半疑だし」

「…」

 

ちらっと本音を洩らしたあと説明の無意味を主張する玄野と追従する山田。私も賛成だ。

それに加藤って、ねぎアパートで仔ねぎが飛び降りた辺りまでの記憶しかないから黒球表面に出る文章から読み取れる情報と同じ程度のことしか説明出来なくね?

 

「それは…そーですけど…でも、信じてもらえなくても判断材料にはなる。

 何も言わないよりか被害が減る筈だ。俺は説明してみる。

 って言っても殆ど知らないから…」チラッ

 

中学生に注目する3人。

ベテランに説明を補足してほしい様子。

 

「は?嫌だけど」キッパリ

 

「…」「…」「…」

 

やっぱりね~(笑)。




小島母関連は捏造。
山田によって変わる(かもしれない)田中星人ミッション。


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田中編③

前回のあらすじ:
二回目の新規メンバーは原作と同じ(山田生存による影響無し)。
説明を断る西くん。
一年以上ガンツメンバーしていなくても判る、ヤバイ奴らだ…(→ゾッキー達)。



「聴いてくれ。まず俺が知ってることから話す。

 これから全員武器を持って違う場所に移動することになると思う」

 

「はぁ?何だそりゃ。意味わかんねーぞこら」

「俺だってよくはわかってねーんだ。でも無理矢理にでもそーなっちまうんだよっ」

 

「ゲームか…なんかか?TV番組の」

 

睨み合う加藤とゾクAの会話に高校生が割り込む。

 

「いや!!ゲームでもTVでもないっ」

「TVじゃねーなら何なんだよ」

「それは…わからない。俺もこれが2回目だからな。知ってることはあんまり無いんだ。

 でも前の回の人間はTVの企画と勘違いして………死んだ」

「!?」

 

息を飲む新規メンバー達、と山田。

お~いお前もか。何を「半信半疑」したんだよ(笑)。

 

「え?あの…加藤くん?あの人達って…全員…?」

「はい。あのとき部屋に居なかった人は全員…」

 

うん、退場しました。

ミッション終了後、生き残り回収後に狩りエリアで倒れたままなメンバーの頭部が破裂する描写があったからマンガと同じルールなら回収されなかったメンバーが生存している可能性は無い。

 

「だよな?計ちゃん」

「ああ。ターゲット追ッてた連中で生き残ッたのはアンタ1人だけ…ッて、アレ?でも、

 そーすると…」

「計ちゃん?」

「いや、続けてくれ」

「?ああ。えっと、どこまで話したか…移動して、そのあとだな。

 外に移動するんだがそこで星人を見つけて捕まえなきゃならんらしい」

「セイジン?」

 

「……

 …宇宙人…みたいな奴が出るんだ」

 

恥ずかしいのか歯切れが悪い。新規メンバーから顔を背ける加藤。

この位置から視えないけど顔が赤いのだろう。

 

暫し沈黙。

 

「ぷっ」

「宇宙人ってかよ」

「ははははは。ばーっか」

「頭おかしーぜ」

 

爆笑するゾッキー共。

笑うのを堪えているのかリアクションに困っているのか無言の高校生。

一緒に呼ばれた若い女性がそれを見守る、物陰から。

 

「…計ちゃん、佐藤さんも、ほかに付けたすことあるか?」

 

うーん…チラ

隅っこに座るセンパイを見たらニヤリと微笑まれた。こっちの西は社交的だが…

小島が知ってたらおかしいことを省きながらゾッキー共も納得する理屈を考えるのメンドい。

もう放っといたら?マンガでは高校生くん以外居ても居なくても同じだったし。

 

「あとは…武器の撃ち方くらいか」

「それは向こうに行ってからのほうが…」

「そーだ、コピーの話は…」

「やめとけ、もッと混乱する」

「コピー?」

 

「ちっ結局なんだっつーんだよ」

「よくわかんね~」

 

不満そーに呟くゾクA、D。

 

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ♪

 

 

「うわっ!」

「何だ?おい」

「…」

 

突然の大音量にビクつくゾッキー共。その目前で黒球表面に文章が浮かび上がる。

 

「おっ …なんだこりゃ?」

「画面変わるぞっ」

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい

 

 田中星人(ロボっぽい人形。ボーダーTシャツ着用)

 特徴    つよい ちわやか とり

 好きなもの とり ちよこぼうル

 口ぐせ   ハァーハァーハァー”

 

 

2回目のミッションも1回目と同様にマンガと同じターゲットらしい。

都合が良いのか悪いのか。たぶん良いんだろーな。

 

 

 

 

「はぁ?田中ぁ?」「田中星人だぁ?」

「うっわマジ?ゲームみてーになってきた」

「TVかぁ?やっぱ」

 

ガシャッッ 

 

ドタタッ

「うおっ!」

 

黒球から武器&スーツ棚が展開し、しゃがんで指令を見ていたゾッキー3人(1人は立って見ていた)は尻餅をつく。

 

「す…げ…」

 

間抜けな姿勢でゾクAが呟くと玄野が立ち上がった。

パチンッ

指を弾いて親友を指す。

 

「加藤!あの服だ。アレ着れば良いンだよッ多分」

「服?」

「ホラ、アイツも着てるだろ。前回アレ見て着たンだよ俺も」

 

座る西に注目する玄野たち。

 

「…あ、ホントだ」

「クロノ君が着てた、あのコスプレスーツだよね?着ればなんとかなるの?

 …あれ着て外出るのは勇気要るなぁ~。でも、みんな着るなら」

「意味も無く着ねーだろ、あンなの。ソレに…」

「それに?」

「いや…なンでもない。とにかく着替えよーぜ」

 

玄野たちはガンツスーツを取りに向かった。

 

 

 

準備タイム。

加藤はガンツスーツをケースから出し難しい表情で眺めている。

マンガで誰かが言ってた「スーツ着用は基本だ」って。

ねぎ親子襲撃時に観測できた機能は(おそらくコントローラーと組み合わせて使用する)ステルス迷彩のみだったがマンガと同じなら外部からの物理攻撃を防ぎ、その気になれば無手でクリ―チャ―を撲殺も可能な程度の身体能力を与えてくれる。出所の分からない衣服を着用するのは気持ち悪いだろうが生身じゃターゲットと張り合えない、ほとんどの星人は人体破壊なんて一撃だしヒトより頑丈だから。着ないでターゲットと交戦し生き残ったキャラは、まぁワリと居るが奴らは規格外。少年漫画的特殊能力持ちのとんでも設定たちだ。退場したキャラのほうが多い。生き残りたいなら「着ない」という選択は無い。

但しガンツスーツもダメージは受ける、削られた耐久値を戻す手段は転送によるリセットしか無いし、ターゲットの攻撃力を外見で判断するのは難しく個体差がかなりあるので全て避けるつもりでいないと危険。筋力強化されていても運痴にはキツイ仕様。まぁ百戦錬磨(笑)の格闘家やアスリートがスーツ着たとしても初見の遠距離攻撃や範囲攻撃を完全に回避するのは厳しいだろう、予知能力でもない限り。とまぁ欠点はあるけど最低でも逃げ足は向上する。ヤバいヤツを避ける為に使え、って何言いたいのかわからなくなってきた。ともかく。

いつまでもスーツを眺めてないで早く着替えに行け。準備時間は無限じゃないぞ。

 

配られたスーツケースの前に座ってXガンを構えるゾクA。

スーツを観察するゾクB。

立ってXショットガンを持つゾクD。

私は“サダコ”と書かれたスーツケースをキッチンへの出入り口に置いた。

 

「玄関に1人ずつ行って。その服を着てくれ」

 

加藤がゾッキー共に話しかける。

やっぱり玄関を更衣室代わりにするらしい、マンガと同じく。

…ドアもロッカーも無いアレを更衣室とは認めんぞ。

 

「お前ここのリーダーかなんかかよ?」

「着るかこんなの…だっせえ」

 

真顔で「だっせえ」とか言うなって~(笑)黒球メーカーが聞いたら気ぃ悪くするよ。

折角支給されてんだから着たらいいのに勿体ない。

最初から装備武器完備なんて他フィクションのデスゲームと比べたらかなりの好待遇だよ?

ところでゾッキー用スーツケースの記名って見える限り“ゾク”と続くアルファベットで統一されてるのによく自分のスーツって分かったな~。とくにBとCの人。

 

「着たほうがいいですよ。帰れる確率が上がる」

「あの…本当に…。帰れ…る…んですか?」

 

加藤へ向かって老婦人が不安そうに呟く。子供はデカイヤンキーを見上げ無言。

 

「着た後に教えます。着て下さい…」

 

言い残して加藤は着替えに行った。

 

… … …

 

「…上に服着て良いんだよな?」

 

ガンツスーツの上にシャツと学ランを重ね着している高校生くん。長めの茶髪でサーファーのように日焼けしているが無表情でチャラくはない。こいつもかなりの長身だ。

着替え終わった加藤に問題無いか確認している。スーツに効果あると思って、いるのかないのか。

 

「ああ」チラッ

「…」コクリ

 

加藤の目配せに頷く玄野(着替え済み)。彼はスーツだけで行くようだ。両腿のホルスターに武器を吊っている。上に服を着る欠点は腿にホルスター付けられないこと、くらいか?服の上から付けられんこともないが。タイトな服だと筋力強化時にはち切れたりするかも(笑)マンガではありそーでなかった。

私は上着だけで下はスーツを出している。着ているのはハイネックのパーカーだ。フードを被りファスナーを上げれば顔がほぼ隠れるヤツ。カラ―は紺。

…次からは呼ばれる前に着替えよう。今後更にメンバーが増えたら着替える時間無くなりそーだ。寒いし落ち着かない。玄関で着替えるのはもう嫌です。

 

 

 

バタバタバタ

暇なのかゾクAは玄関へ続くドアを挟んでXガンをゾクDへ向け遊んでいる。

 

「…」ビクッ

「山田さん、どうかしました?」

「あ、うん…」

 

さっきからキョロキョロと挙動不審な山田は加藤が尋ねると背筋を伸ばした。

メンバー達が持ってるガン類を見てたっぽい。

 

ギョーン 

 

あ。

「あ…。出た…?」

 

ウウウウウン 

銃声の余韻が長く残る。部屋が超静かになった。

 

 

 

「やっぱオモチャじゃん、これ」

「音ばっかじゃねーか」

 

つまらなそーに吐き捨てるゾクB。武器に文句をつけるゾクC。

?…標的になった人見えないけど壁を撃ったのかな?

 

トト トトトト ハッ

 

黒球の陰から犬が、

もしかして撃たれたの犬?

…。

生き物撃つなよゾッキ~。先ずは無機物で試せって~アホか。

銃が本物だったらどーする気だ、って本物だけど。

…大丈夫だよね?

 

「あ…」

「…え…?」

「何ともないな…。なんだ?あの銃」

「ちが…。!?」

 

そろそろ爆ぜてもおかしくない、と思っているのだろう後ずさる山田と玄野。

親ねぎ破裂を覚えていない加藤は余裕で犬に近付き観察する。

 

プルプルッ ハッ トトト

 

犬は黒くコーティングされた身体を翻しキッチンへ。待てエロ犬。

…。

犬にスーツ着せといてよかった。

近くでグロいもの視たくない。本当に銃撃を一回以上耐えるのなガンツスーツ。

どんな攻撃を何回まで耐えるのか正確に知りたいけど、誰か検証した人いないのか?

西を見ると目が合った。あいつも同じこと考えてそう。

 

「俺たちには効果が無いのか?」

「使えないオモチャだッたら貸し出す意味無いし、そーかもな。…たぶン、この部屋にも」

「!そっか…銃で玄関壊せりゃ出られるのに」

「向こうに行ってから使えるようになるのかも。前回ヤクザの人には効いてたから…」

「え?」「…は?」

「…破裂したんだよ撃たれた箇所が。膨らんでこう…う…お”え”え”げろぉっ」

ビチャッビチャビチャッ

「うわっ」「ちょッ!?」

 

「ぅええ」「なに吐いてんだあいつ…」

 

山田の吐き物を避ける玄野たち。驚くゾッキーほか新規メンバー。

味方の攻撃は無効、みたいなゲームっぽい設定は無い。場所も無関係。残念だがスーツ無しだと何も防げないよ、メンバーとその私物なら武器で破壊できる(はずだ)。

ガンツを銃で撃ったり(星人が)刀で刺しても通らなかった描写はあったが直接武器で部屋を攻撃したキャラは覚えがない。でも玄野の予想は合ってると思う。部屋を攻撃出来ないっつか壊せないのは逃亡阻止のためもあるが内緒で勝手に使ってる部屋を壊したくないってのが主な理由だろう。ガンツはともかくそのお友達連中はメンバーのことを消耗品くらいにしか認識してないっぽいから。

なので加藤、クリア前に玄関から脱出は無理。別の理由でもお勧めしない。

 

前回の採点前、西は「ヤクザ(Aこと畑中)はネギ星人にやられた」と言ってたがマンガと同じく畑中はXショットガンもくらったっぽいな。マンガだと奴を誤射したのは金髪で、上半身と下半身が泣き別れしてた。そしてその後すぐ親ねぎに頭部を握り潰された。

ひどい最期だな。それを近くでバッチリ目撃した山田だ、思い出しリバースも仕方ない。

 

仕方ないけど……あ~ぁ、

マンガと違って、誰も破裂しなかったのに結局これかよ。

 

 

スクッ

指令をチェックしてからずっと座っていた西が立ち上がる。

 

「ガンツ。俺1番先にしてくれ」

 

彼は黒球…内のガンツを見つめ要求した。

そのテがあったか。

くさい部屋からさっさとおさらばしたい様子。

マンガではミッション前に部屋が汚れても戻ったら無くなってたっけ。

黒球の表示が変わる。

 

“行って下ちい 00:59:58”

 

横へスライスするよーに頭頂部から消えていく西。何度見ても凄いな~あれ。

全メンバー(山田は床を見ている)の視線が集まる。

 

「…」

 

 

 

「…?あの餓鬼どこ行った…?」

 

部屋を見回すゾクA。転送されるところを視たはずだが理解できなかったらしい。

 

「!!移動が始まったぞっ。慌てるなよっ、みんなっ」

「っ!外へ移動ってこれか?」

「ああ。別の場所に移動するんだ。これから1人ずつ」

 

加藤の発言に理解を示す高校生くん。

 

「意味わかんねーよ、手品か?あれ?」

「外に出るけど帰らないで、その場所に居てくれっ」

「外に出るとか言ってるぜ~」

「マジかよ~」ヘラヘラ

 

緊張感無いゾッキー共。今ここで手品する理由を言ってみろ(笑)ゾクA。

武器は持っているがゾッキー4人は誰もガンツスーツを着てない。

マンガでは1人くらい着てたはずだけどな~記憶違いだね、きっと(笑)。

 

「はン…今のうちに笑ッてろ…」

 

ゾッキー共を眺め呆れたように呟く玄野。奴ら以外は全員スーツ着用済み。

最後に幼馴染へ視線を向け肩を竦めると加藤は眉間に皺を寄せた。

 

「…」

「しょーがないッて!一応ミッションのこと教えたし、

 信じないアイツらがどーなッても自業自得だッて。自己責任ッてヤツ」

 

これから命懸けで戦うのに余計なことで集中力を使うな、と彼は言いたいのかな?

美しい友情だね。

教えろって煩いから言うとおりにしたのに全く情報を信じない奴なんて、私も無視で良いと思う。マンガと同じキャラだとしたらゾッキー共には加藤に心配される価値無いし。

 

「俺が…」

「アレ?」

 

加藤が言い終わる前に玄野の転送が始まった。




改変点:
中島とかいうゾク(C?)生存、ミッションもがんばっ。
マンガでは他のことに気をとられていた加藤はスーツ着ない人たちをとっても心配。


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田中編④

前回のあらすじ:
ゾク(C?)中島、ミッションに参加。
犬用ガンツスーツまで作る黒球メーカー。鳥虫用は無さそう、爆弾を設置できない大きさの生き物をメンバーから除外しているならば決め手は脳の大きさかも。




「うっ、またっ なんだ?こりゃ。どーなってんだ、おい」

 

徐々にスライスされていく美少女顔をみて眉を寄せるゾクA。

ダンッ 

頭部の無い玄野が窓側へ跳ぶ。

ツルッ 

ドタッ ドカッ ドンッ

転送された地点が車道の真ん中で、トラックにぶつかりそうになるんだっけ?たしか。

でもマンガと違ってガンツスーツ着てるから問題ないよね玄野側は…って、なんかマンガより激しーな。

 

「あっぶねっ!なんなんだよっ」

 

とか言いつつ部屋の端へ移動するゾッキー共。

うん、生身組は避難したほうがいいね。ぶつかったら痛いで済まないもの。

狭い部屋で飛び跳ねる玄野を高校生は呆然と見つめ、その場で衝撃に備える老婦人と子供。

ドンッ 

首なし玄野の肩が天井へぶつかる。ぶつかったように視えた電灯は無事。

つーか転送途中で逃げようとしても無駄だよな?

黒球部屋に残ってるほうの身体をどんなに動かしても転送される位置は変わらないんじゃなかった?

 

「計ちゃんっ どうしたんだ?!」

 

駆け寄る加藤の手を押し返し肩まで消えた玄野が両腿に装備した武器を確かめるように触る。トラックが真横を通り過ぎたあとに1体目のターゲットと遭遇するんだったか、マンガ通りなら。もしかして彼が田中ロボ1号倒してくれるのかな? 

頑張れ玄野、きみならヤれる。

 

「おばーちゃん、おばーちゃんっ」

 

子供を抱えた亀姿勢から起き上がる老婦人。消えていく祖母に抱きつく孫。玄野の次は彼女か。

 

「おばーちゃんっ」

「亮太っ」

「大丈夫だから むこうに出ても帰らないでくれっ そのままいてくれっ!」

 

目元まで消えた老婦人へ加藤が念を押す。

転送に害は無いと言いたいんだろうけど、マンガ通りなら向かう地点にターゲットがいることだし大丈夫か否かは玄野次第かと。

 

「おばーちゃんっ」

 

目の前で消え去った老婦人を呼ぶ子供を加藤と山田が心配そうに見る。

 

「うっ、なんだ?」

 

高校生くんも消えた。

続いて若い女性・犬・ゾクD・C・Bが転送され部屋から消失。

 

「次は俺か…」スカスカ

 

自らの頭頂部が無いことを左手で確認する加藤。

 

「じゃあ…」

 

いや、すぐ会うし挨拶とか要らないよ? 私は子供の横で加藤へ頷く。

 

「あっれっ?」

スッ 

子供も消えた。身体が小さいぶん消えるのがはやい。

残りは私・山田・ゾクA。……転送まだかなぁ。

 

 

 

… … …

 

 

 

ガ――――ッ 

電車が通過する音だ。

やっと転送されました。ここは、道路上?

今回も最後になるとは思わなかった、2度目じゃんっ。

 

「なんだ?今のっ」

「川に落ちてったぞっ」

(クェッ)

 

先に転送された野郎共が道路の柵…欄干にくっついて下を覗いている。

道路下は人口河川の筈だが何を視てるんだろう?面白いモンでもあった?

最初の田中星人っつーか田中ロボは、居ない。

…? 

向こうの曲がり角入ったとこで倒れてんのか?

西も見当たらない。まぁ奴はミッション中つねにステルスしてるから…

まさか。

私も欄干へ飛び付いた。

 

 

 

ギョーンギョーン 

 

ゴパァッ

 

発射音。そして川面が破裂する。

メンバー達の居る道路の下を通るコンクリで固められた人工河川。その中を妙に頭部のデカイ人間、に見えるロボが走り(?)まわっている。左右の脚を揃えたまま滑るよーな変な動きで。

ロボが顔を向ける先で乱れる川面。

ステルス西のXガンを田中ロボ1号が回避・反撃しているようだ。

彼はギョロちゃん踏んじゃったのね。

 

バシャッバシャッ

 

「何やってんだ?あのロボット」

 

誰にともなく訊くゾクA。

交戦する片方が消えてるからロボが独りで暴れてるようにしか見えない。

 

「一瞬、視えた…。アレ…あの中坊だよな」

「そう、だと思う…。あのロボットには視えてんのか?」

 

田中ロボが初めて啼いたとき、そして欄干の上へ目がけ啼いたときの計2回浮かび上がっては消えた人影について話し合っているのだろうマンガと同じセリフを吐く玄野たち。

なるほど~周波数を変えてターゲットを狙っていた西が小さい星人(ギョロちゃん(仮))を踏み潰してしまい、それに気付いて怒ったターゲットの攻撃をくらって橋の下、川へ飛び降りた。

その数瞬後に私が転送されたんですね。で、交戦中と。

…をい、なんでマンガと同じ展開になってんだ玄野。

倒しといてよ~マンガ通りに背後取ったんでしょ?

玄野にYガン渡しとけば良かったなぁ、最初は躊躇ってたもんね、大きな生き物殺すの。

 

 

コンビニ袋を持ったまま戦う田中ロボ1号。ずぶ濡れだ。

バシャッ 

跳ねて 啼く。

振動で内部破壊する超音波、が出るんだっけ?あれ。

 

クエ――――――――――――――――ッッ

ザパアッッ 

 

一際大きな水柱が立つ。

 

舞い上がった水滴が雨のように落ちる中、その宙空に無数のスパークが散る。

川に浸かる足の方から彩色するように小柄な人影が現れた。

 

 

 

「出て来たぞっ。やっぱそうだ」

「あっあの中坊だっ。ほらっあいつだっ」

 

足元へ向かって徐々に小さくなりスパークは消えた。

 

対峙し動きが止まる西と田中ロボ1号。

西がコントローラーを左手で弄った後、姿を消さず右手を上げ銃口をロボへ向ける。

 

ギョーンギョーン  

 

ザザザッ

Xガンを避けるため素早く横移動するロボ…

 

 

バキャッッ 

 

バッシャン

 

 

田中ロボの肩から上が爆散し残りが川面へ倒れた。数瞬後、離れた川面に水柱が立つ。

 

「おおっ!!爆発した!?」

「なんだったんだ?」

「頭なくなったぞっ!!」

「何だ!?何やってんだ!?」

 

何が起きたか理解してないゾッキー共。

お前らもこれからアレやるんだよ~。スーツのアシスト無しだけどガンバッテ~。

 

「倒したッ、スッゲ。アイツ…1人で倒したぜッ」

「これで終わりなのかな…」

「…ああ…帰れるのか?コレで」

「だと思うけど…あれ?こっち見てる…」

「ホントだ」

 

玄野・山田・加藤は川へ降りる階段へ向かった。

 

 

… …

 

 

私が川へ降りたとき、4人は岸へ引き上げた田中ロボ1号を囲んで観察していた。

…ぅわぁ、グロ。マネキンの中に腐った生ゴミつめたらこんなカンジか?

誰だよ~持って来たの~。

 

「うえッ何コレ、くッさ~」

「…生き物が入ってんのか」

「でも、スゴイよこれ。…本当に宇宙人なのかも」

 

玄野と加藤は鼻の辺りを押さえている。山田は物珍しそーだ。

クリ―チャ―観察もいいけど、これで終わりじゃないし新規メンバーは1人以外戦力にならないからミッションに戻ったほうが身のためだよ?

マンガ通りなら2か所に居る筈だけどもっと分散してたら一時間以内に全部倒すの厳しいかも。やっぱ乗り物欲しかったかなぁ?ゾッキーに教えたくなかったのよガンツバイク。

って、とにかく観察は後にしろ。1体に時間かけすぎだ君たち。時間無くなっちゃう。

 

「…」チラッ

 

なんかセンパイがこっち見とる?玄野にも視線を向けてるなチラチラと、

まぁいいか。時間足りなくなると困るので私から話を振ろう。

 

「おい、オカシーぞ。全然移動、始まンねーじゃねーか」ペシペシ

 

玄野が自分の頭頂部を叩きながら言う。

ターゲットをヤッつけたのに部屋へ転送されないのが不思議らしい。

別におかしくないよ~。ターゲットは一体のみ、なんて指令のどこにあったのさ。

 

「なんでだ…」

「…もう1匹居るんじゃないかな?前回みたいに…あ、それ」

 

山田が私の持っているコントローラーへ視線を向ける。

玄野らも手首に付けているのに何故か開こうとしないので、私は4人に見えるように差し出す。

 

「はい。まだ居るみたいですねターゲット」

「えッ…うげッ。マジかよ、こンなのが未だいるの?」

 

玄野がそれを受け取る。私が持ってると位置が低すぎて見辛いからな。加藤とか加藤とかに。

 

「2匹目か」

「捕まえねーと帰れないのか…」

「待って下さい、こっちも」

 

私は手を伸ばしてマップの縮尺を変え、もう1つのポイントを指す。

 

「!」「!?」

「…3匹…」

 

加藤が呟く。

マンガと同じならもうちょっと多いよ、残りターゲットが2体ではなく2ヶ所に集結してるってことだね。エリア全域表示に切り替えても2つしかポイント無いから、ほぼ確実に。

マップをもっと細かくすれば正確な頭数分かるだろ―けど、向こうから群がって来るんなら言う必要が無い。

 

「わわっ」

 

「そ…れっ…。鳥?」

「? !!」

「なっ何だっ!?」

 

ギョロギョロ ギョロ 

 

突然山田が声を上げた。彼を見ると西の足元を指して驚いている。

センパイの足元、仰向けに横たわる田中ロボの周りに、ちっさい生き物が集まっていた。

ハムスターくらいの大きさだ。2頭身で血走った大きな瞳の雛鳥。コレも星人である。

うほ~ギョロちゃんだギョロちゃん。ふわぁ~ホントにブサイク~。

おいで、おいで~踏まないから~

…逃げる背中はプリチ―。

 

「うわッなんだコレ?」

「…」

ダンッ ブチッ ダンッ ダンッ ブチュッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ

「ちっ」

ズザッ

ポチャッ ポチャチャッ パチャパチャ

(ギエーッ)(ギュイィ)ブクブクブク

 

「お、おい…」

 

突然湧いた奇妙な生き物を避ける野郎共の中でひとり行動した奴へ何か言い淀む加藤。

ギョロちゃん達を無言で踏み潰し終いに川へ蹴り入れた西は彼を睨む。

 

「おいっ。次行くぞ」

「?…あ、そうだね」

「なンだよ…。なに焦ッてンだ?」

「…」

 

あ~ぁギョロちゃん1匹欲しかったなぁ。

…なんて思ってる場合じゃない。

 

「西くん。ここに出てる時間てタイムリミットですよね。どうなるんですか?

 オーバーすると」

「え」「時間って…」「そーいや1時間だッけ。制限時間」

「…ああ。…。時間切れしたことは無い、けど…」

「けど…なンだよ?」

「最悪、死ぬかも」

「死ぬ!?」「ええっ!?」「はァ?またいい加減なコト…。……マジで?」

「…」

「な ンで…そンな…。なンでそう思う?」

「違反すると殺されるルールが他にもあるから」

「!」「!?」「ルールってそんなの…」

「説明されてないし約束してない…か?おめでたい奴ら…。

 この前言ったろ、部屋のこと誰かに話したら頭破裂するって」

 

トントンと自らの側頭部を示す西。

 

「は 破裂っ!?」

「あー…アンタ先に帰ッてたから…」

「…言っても誰も信じないだろ」

「はは、は…破裂って…爆弾でも入ってるの?頭に?」

「!」「ハァ?」

「たぶん」

「マジかよ…」

「とにかく時間切れはマズイ。ペナルティが何も無いならカウントする理由が無いはず。

 そう思わない?」

「…」

「時間は…あと39分か」

「やってみるしか…ないね」

 

ブルッとひとつ震えた後、山田がメンバーを見回す。

 

「行くか…とりあえず」

「そーだな」

 

 

 

マンガでは玄野単独ミッションで時間切れをしていた。

作戦失敗である。タイムアップのペナルティは点数没収。だから合計0点の3人&1匹と1点の私は困らない…って考えるのは楽観すぎか。没収される点数が無いメンバーは爆死かもしれない。玄野は46点失ってたから40点とか45点以下だとアウトってこともありえるが、ちょっと半端な数字だ。

貯金が(ほぼ)無くても即爆死は無い、と仮定して問題なのは次回ミッションに付く限定ルール。決められた点数をとってクリアしないと“死に”ってやつ。

玄野の時は“15点以上”だった。ノルマが一定であるかは不明。

そのとき玄野以外は全員新規メンバーだったしターゲットが多かったので平和的にクリアできた、が生き残ったメンバー多数で限定ルールに臨んだら悲惨だ。

フツ―にメンバー内で殺し合いになるだろう。

配点がマンガと同じなら今回のミッションをクリア出来ず次回のミッションに限定ルールが付いた場合、首尾よくボス(点数不明)を倒してなおかつ点数分配が上手くいっても2・3人しか生き残れない。

ただでさえ次回のミッションは厳しいのに難易度あがるとかありえんわ。

絶対阻止ね。

 

 

 

ゾロゾロと5人で橋の上…最初の道路へ戻ると新規メンバーが誰も居なかった。

マンガでも観戦に飽きて途中で帰ってたもんな~。すっかり忘れてた。

帰れずに戻って来るだろーけど、ここで待つのは時間の無駄。不満聞かされるだけだし~。

あら、犬も居ない。

 

「あいつら居ねーぞ…どこ行った?」

「帰ったんじゃないの?フツ―に帰れるのか分からないけど」

「…そーだ。ソレだよ!」

 

加藤へ返答する山田を指して大声を出す玄野。

 

「えっ どれ?」「計ちゃん?」

「前回あのオッサン…帰るッて言ッて別れたンだッ」

「何が?おっさん?」

「ほらッ前回いた鈴木ッてオッサン!」

「えっ と、ああ、癌で死んだとか言ってたおっさんか。でも、それが…」

「だからッ!爆弾だよッ。

 ヤクザ達と別行動してたオッサンまで戻らなかッたのが不思議だッたンだ…

 帰ッた奴ら…ヤバイぜ」

 

玄野が自らの頭を指し加藤を見る。

 

「!? おい西っ」

「…正解。エリア外へ出ても破裂する。範囲はマップに出てるよ」

「エリア…移動制限…」

「ってことは…」

「帰れないのか、やッぱり」

「くそっ」

ダッ

タッタッタッ

 

「! ッ加藤!?」

「おいっ あんな奴らほっとけ!」

「あいつら止めてくるっ!計ちゃん達はっ田中星人を頼むっ!!」

タッタッタッタッタッ…

 

「あ…」

「ちっ 偽善者が…」

 

玄野と西の制止を聞かず加藤は走り去った。

大丈夫かなぁあいつ。「ターゲットにタックルするな」って言う機会無かった。

絞め落としは有効だけどロボが複数体相手の場合危険だ。マンガでは超音波の集中砲火受けてスーツ壊れてたしターゲットに抱き付いて踏ん張るとか只のマト。マンガのようにギリギリセーフ、となる保証は無い。まず退場コース。

帰った奴ら止めた足で田中星人の巣へ行かないといいが。

 

……いや、行っても問題無いな。信頼できる援護があれば。

 

 

「じゃあ二手に分かれましょうか」

「佐藤?」

「西くん・山田さん・私の班と、玄野くんの班で」

「え~っ更に分散するの~?」

「俺ひとりかよッ」

 

「大丈夫ですよ(ガンツスーツ着て逃げ回れば。とりあえず瞬殺はされない)。

 ターゲットが1体なら(負けないと思うが一度に遭遇する数は多くて7体)。

 私達はこっちを担当しますから

 玄野くんは加藤くん達と合流してからもう片方(のボスこみで7体いる田中星人の巣)

 をお願いします」

 

嘘は言ってない。

 

「どーかな…この前はアイツに4人がかりで勝てなかったし」

 

左手のXガンを見つめる山田。親ねぎの迫力を思い出しているのだろう。

 

「なるほど、そーゆーコトなら。アイツ危なッかしーもンな~」

 

うんうんと頷いてから加藤が走り去った方を見る玄野。負けるとか全く思ってないねこいつ。ま、お前と加藤が組めば何にでも勝てるさ。

期待してるよ~今度こそ。

 

「さっきのより強い奴かも…ブツブツ」

「あ、それとあのターゲットの鳴き声ですけど、危なそーだから注意して下さい」

 

山田の独り言をスル―し助言してみる。

正確な回数は分からないが音波(?)を6回以上くらうとガンツスーツが壊れるかも。

生身だと1回で瀕死。

 

「アノ星人啼くだけだッたけど啼く度に水飛沫スゴかッたな。衝撃波か何かか?」

「ロボが故障するから殴ってこないのかも…」

 

「おい どっちでもいいだろそんなこと!奴らは銃で殺せるんだ。

 二手でも何でも良いからさっさと行くぞ」

「…?」「…」

 

西の発言で優先事項…目を逸らしたい現実を思い出した私達は担当するポイントへ向かった。




狭い密室でスーツ着たメンバーが「慌てる」と、たしかに危険。
西くんのスーツは「オシャカ」一歩手前。


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田中編⑤

前回のあらすじ:
時間切れヤバい。
田中星人一号をくだし、マップに表示されたポイントへ向かう(ねぎミッション時の)メンバーたち(犬は除く)。




夜の住宅地。

マップのターゲットを示すポイントに着いた。

普通車が通り過ぎる。その運転手はコスプレする歩行者に気付いてない、はず。

移動の最中山田が「僕も上に何か着ればよかった…」と何度か呟いていたけれど周波数変えない限りメンバーとターゲット以外に視認されないから平気だよ。

笑われるキケンも頭破裂する危険も無い。

 

「近いぞ」

「アパートは…無い…ね。このうちのどれか?いや、歩いて来るのか。さっきみたく」

 

周囲を警戒する西と山田。

クリーチャーの巣は玄野たちに押し付けたので私達はストリートファイトです。

今ごろ私達をギョロちゃんが見ているのだろうか。う~ん暗くて分からん。

 

「どうする?一度バラけて探す?」

「…」スタスタスタ

「あ…ちょっ…」

「じゃ、私はあっちを」トコトコトコ

 

道路の半ばに山田を残し、センパイは南、私は北へ歩き出す。

よーし忍ぶぞ―。山田から充分距離をとった地点で他人の庭へ飛び込んだ。

 

 

 

勢いでやっちゃったけど着地点に何にも無くて幸運だった。池とか鉢植えとか。

一般人に聞こえなくてもターゲットには破壊音でバレるからね。

不可視化…周波数を変えると一般人のほうに見つかるかも知れないのでそのまま物陰に体育座りする。フードを被り袖でスーツ下半分の光るボタン&その他を隠して、と。

虫の少ない季節で助かった。

 

ギョーンギョーン

 

(あっ。あっ来たっ)

タッタッタッ

 

暫く待っていたらXガンの特徴的な射撃音と山田の声が聞こえた。

ターゲットと接触した西を山田が加勢しに行ったっぽい。

 

路の両側から時間差で2体づつ、屋根の上から1体が合流して計5体がこのポイントのエネミー全戦力。

マンガと同じなら今私が隠れている民家の前を2体が通り過ぎるはず。

 

… …

ゥー ゥー

 

ぅごっ

マジで来たっ?

 

ウィィィイイン ウィィィイイン

 

もう、はっきり聞こえる。これってロボの動作音だよね?心臓が口から出そうだ。

 

ウィィィイイン ウィィィイイン

 

結構デカイ音だな……はやく行けよ。こういう焦らすような演出が一番イヤ。

 

ウィィィイイン ウィィィイイン

 

ゾンビ映画は大好物だがホラー映画は苦手なのよ。心臓に悪いって、あのテの演出は。

 

ウィィィイイン ウィィィイイン

 

あの塀の上に田中ロボの顔が覗いたら……

 

ゥー ゥー

… …

 

 

 

===□□□===

 

 

 

「速いっ このっ」

 

ザザザッ ズザッ 

田中星人と戦う西くんに合流しターゲットに銃を向ける僕。ドンッと塀が粉砕され視界が薄く煙る。またヨソの家壊しちゃった…。なかなか難しい。当たらない。僕らも相手も休まず動き続けているから、僕らが相手の鳴き声(?)を警戒するように向こうもこちらの射線に入らないよう立ち回っているのだから当然か。

 

「えっ2匹目!?うっわ あっちからも」

 

1匹に翻弄されているうちに2匹増え形勢逆転された。散らばって戦うのは不利だ。

 

「!!」

 

西くんの視線を辿ると更に2匹の増援が。2対5なんて絶望的じゃないか!

 

「はぁっ はぁっ はぁっ ちょっと!聞いてないよっ」

「黙って撃てっ」

 

ギョーンギョーンギョーンギョーンギョーンギョーンギョーンギョーンギョーンギョーン

 

僕と背中合わせになって銃を乱射する西くん。僕の泣き言に短く返す。

こんなピンチを何度も潜りぬけて来たのだろうか?スゴイな~この子。

僕も田中星人たちに近付かれないよう銃を連射する。でも、このままじゃ勝てないよ!

どうしたら…

 

って何あれ

 

頭上から光るナニカが飛来し…僕に絡み付いた。

 

 

 

=========

 

 

 

ちょっと、どーしちゃったの?西センパイ。共闘とか出来たんスね。

まぁ、ステルス機能壊れたから仕方なく、だろーけど。

拘束された5体(と1人)を私はいま屋根の上から見下ろしている。

あいつらって丈夫そうな四肢のあるヒト型ロボット(みたいな防護服?)なのにパンチもキックも体当たりもしてこないのは山田の言う通り衝撃に弱い機械を着ているからなのか、それとも中身のトリに腕部分が無いから、殴ったり捕まえたり投げたりの発想が無いのか?

買い物袋は持つのにね~。

駄目元でチャージショットを試したら成功して驚いた(笑)これYガンなのに出来るとはねぇ。

「チャージショット」とは複数の対象をまとめてロックオン…捕まえる標的を(この場合は)Yガン(もしくは弾?)に記憶させておき後で誘導弾を当てる方法だ。Xガン類の場合ねらいが外れないし何体も同じタイミングで処理出来る。マンガで数回成功したXショットガンでのチャージショットは弾が見えないので複数のターゲットが同時に破裂することしか分からなかったがYガンのソレは面白かった。ロックオンしておいたターゲット共を様々な軌道で追うアンカー達。どんなに素早いターゲットも捕捉さえ出来れば捕まえられそーだ。マンガの加藤はYガンでロックオンを成功させてたっけ、逃げられたけど。標準装備の性能良すぎだよ(笑)黒球メーカー。

この状態でトリガ―引いたら一度に送れるのかな?

田中ロボがワイヤーを千切る予兆は無い。

私は地上に居るであろうギョロちゃん達の目を避けるため屋根に伏せていた身体を起こし、フードをとった。

 

「!?」

 

動けなくなったターゲットを見回した西はXガンを構える。

 

ギョーンギョーン

 

「ええ!?何これ!ちょっとー!?」

 

田中ロボ共と同じく立ったまま拘束された山田が喚く。眼鏡がズレて落ちそう。

スーツ着たメンバーも普通に拘束できるのね、味方は無視されるかと思った。

いや態とじゃないよ?実験でもない。単に誤射です、練習出来なかったので。

動いてるマトに合わせるの難いわ。西は山田の向こう側に居たから外れた。

ウイッウィッ ウィイッ

拘束されたロボ共は首をクイクイしている。あ

 

『ギョブッ』

 

バキャッッ バキャンッッ 

ガッ ビチャッ ビチャッ パラパラ…

「うわわわっ」

 

ロボ2体が爆砕し破片と中身が山田へ降り掛かる。

 

タッタッタッタッ

驚く山田を回り込んで西は反対側のロボへXガンを向ける。

 

ギョーンギョーンギョーン

 

バカッ 

プシーッ 

 

『ギョエエエエエエエエエエエエエ!!』

 

拘束されている1体の頭パーツと首パーツの間から蒸気?が噴出。髪パーツと顔パーツの間が開く。ドバッと中身が飛び出し悲鳴を上げる。

 

「おわぁぁぁあああ!?」

 

飛び出した中身…鳥っぽいクリ―チャ―を見て叫ぶ山田。

雛同様、眼が血走っている鳥(成人サイズ)の嘴は短めで咽喉から大きめの突起が生えている。

細長い羽毛で覆われていて謎の液体でぐっしょり濡れていなければもっと大きく見えるだろう。足の指爪は前に3本、踵に1本。前述どおり肩はあっても腕が無い。

 

バキャッッ バキャンッッ バギンッバンッ 

ワイヤーで固定された田中ロボを西が全部破壊する。さすがセンパイ、遠慮無し。

ロボを脱いで逃げようとした奴は、ロボの頭パーツ・頭部の順に破裂した。

 

 

 

 

「大丈夫ですか~?」

 

「あ!佐藤さんっ。どこまで行ってたのっ!?じゃなかった良い処にっ これ取れないっ?」

 

どこって…きみらの真横、民家の屋根ですが? 

Yガンの射程は8m以上あるみたい。

拘束の解除はマンガで説明されなかったけど出来そーだよね、Yガンのどこかを操作すれば。でも今、検証するのはちょっと、失敗すると山田がターゲットの収容所(?)へ送られちゃうかも。完全に狩りエリア外だろ。爆死するわ。

山田のスーツはノーダメージみたいだから力入れればワイヤー千切れるんじゃね?ほら頑張れ。

でも自力でワイヤー切ったターゲットって田中ロボの14倍以上の点数だったしスーツの本気でも切れないかもなぁ。つーかスーツの筋力強化って元あるものをベースにしてるのか一律に怪力化してるのか、どっちなの? 

たぶん前者だと思うけどそれだと私、小学生男子についで非力ってことに…

 

「残り12分か。向こうは…まだやってんな」スタスタスタ

「えっ ちょ ちょっと!」

 

コントローラーを一瞥し歩き出す西を慌てて止める山田。

 

「なに?」

「このまま放置しないよね?」

「平気だろ。部屋に戻ればソレもとれるだろーし」

「冗談は止めて?!」

 

「あの~、力入れても動けませんか?」

 

本気出せ山田。

 

「え?えっ!?」

 

眼鏡の奥で瞬きする瞳。見た感じ血流が滞るほどキツく縛られてはいない。

拘束しただけでターゲットを壊しちゃったら捕獲銃とは言えないもんね。ターゲットの腕力と耐久を測って死なない程度に締め付けるのだろう、たぶん。

 

「え~と。ちょっと。足を揃えられますか?…そうそう、そのまま」

 

ギョーン ギョーン ギョーン

Xショットガンでアンカーを撃つ。足吹っ飛ばしたら、ごめ~ん。

 

路上に丼ぶりサイズの窪みをのこし、山田は解放された。

 

 

 

… … …

 

 

 

ターゲットの巣、最寄りの路上。

引き戸2階建ての古そうなアパートだ。

時間無いので走ったよ。アシストあっても疲れた。並走した山田が隣で呼吸を整える。

 

「あっ」「!?」

 

子供が立ち上がって声を上げる。老婦人もこちらに気付く。

2人は外の暗がりに座っていた様子。

 

「よかったっ無事だったんですねっ!他の人は…?」キョロキョロ

「あの中に」

 

山田の問いに、不安そうな顔でアパートの出入り口を見る老婦人。戸は開けっ放し。

玄野たち・高校生と背後霊・ゾッキーズ…の8人で入ったの?中狭そーなのに正気?

半数ほどスーツ着てない筈だが。加藤なら止めるだろーからゾッキー共の勇み足か。川で仕留めた田中ロボはそんなに弱そーに見えたかな~?ロボの中では一番積極的で素早かったのに。

 

「…」

 

コントローラーをチェックする山田。

 

「あと…8分か…」

 

残り時間を呟く。

アパートを眺めるだけで誰も動かない。建物内へ踏み込みたくない様子。

巣にはターゲットの親玉的ボス…田中ロボより確実に強いターゲットが居るって予感だね。

タイムアップが現実的になってきた

 

ガシャーンッ

 

ガラスの割れる音。ををっ、がんばってる…のか?

階を下りる足音が聞こえて来た。

終わったの?

 

ドタドタドタドタ

タンッ

ゾクD・Aの順で出て来る。…あれ?2人だけ?

折角、戸の横でスタンバってたのに~。

私が向けるYガンの銃口を見てゾクAがギョッとしたがゾクDに置いて行かれまいと通り過ぎる。

 

「あ…出て来た。あの」

「はぁっ はぁっ はぁっ」

 

タッタッタッタッタッ

ゾッキー共は山田を無視して道向かいの駐車場まで走って行った。

まだ終わってないみたい。顔面蒼白でちょっと口元が震えていたが……何ヲ見タノダロウ。




途中入ったのは山田視点。
捏造点:
Yガン(捕獲銃)で複数拘束。


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田中編⑥

前回のあらすじ:
田中星人VSオリ主たち(得点的には西くんのひとり勝ち)。
残るは星人の棲み処。




===□○◇===

 

 

 

時は少し遡る。

 

田中星人の住処と思しきこの建物は壁・床・階段にヒビが入っていて相当年季の入った木造建築だ。歩く度にギシッギシ鳴る床。さっき嗅いだばかりの異臭が微かに漂っているが……

立ち止まり黙って耳を澄ませてみる。田中星人は出てこない。俺は捕獲銃を構え、計ちゃんが開けたドアから部屋の中へ向ける動作を繰り返す。北条は背後で俺達の行動を傍観。奴がサダコと呼んでいる女性は玄関付近で壁に隠れこちらを覗いている。

…暇なら反対側の部屋をチェックしてくんないかな?

 

1階には誰も居なかった。2階に居るようだ。

時間をかけ過ぎた。

2階は端からひとつひとつ部屋を調べるのをやめて怪しい部屋から調べよう。

突き当たりの部屋とか。

前回は指令に無かった星人が出た、と計ちゃんは言っていたが今回も出るのだろうか?

玄関まで戻り狭い階段を見上げる。

ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ…

あと2段で2階だ。

鏡とか持ってないので直接見るしかない。階段の壁に背を預け振り返るように2階廊下を覗く。

進路クリア。

1階同様誰も居ない廊下を進み突き当たりのドアを開けようとしていたら居る筈の無い者の声が聞こえた。

 

「何だよ、な~んも居ねーじゃん」

「外人しか住んでねーだろ。こんなとこ」

「不法侵入じゃねーか。マッポ呼ばれっちまうぞ」

 

今回新しく来た連中だ。

建物内であまり大勢だと動きづらいと思い外に置いて来たのに。

待つのに飽きて様子を見に来たのか?スーツ着てないのに来るなよ危ねーぞ。

ギシッ ギシッ 

3人が2階の廊下を進む。

 

『裕三君?』『裕三君?』

 

ドキッ

あの声だ。

あの声が聞こえた。川で倒した田中星人と同じ声。最初のヤツも言っていたが裕三って誰?

ターゲットは廊下の両側に並ぶ部屋のどれかに居るようだ。

 

ギョロギョロ ギョロギョロ ギョロ

 

「うっ!?」

 

今のは北条か?…!

床にあの気持ち悪い小鳥が居る。あの時よりもたくさん。…たくさん?

 

ギイ ギイ ギイ

廊下の両側に並ぶドアが次々と開く。

 

ひとつの部屋から1匹づつ、あわせて4匹の田中星人が現れた。

 

 

「クソッ 一匹じゃねーのかよッ」

 

みんなの気持ちを代弁するように俺の隣で計ちゃんが呻く。前回は2匹だったらしいから今回は数が多い。あのマップでは狭い範囲に何体居るのか分からないのか。

北条・サダコ・男たちの1人が廊下の半ばで田中星人に囲まれている。まずい!

 

「おいっ!スーツ着てない奴は退がれ!逃げろ!!」

 

一歩踏み出し男2人に言ってみるが反応が無い。俺は捕獲銃を構え手前の田中星人へ向ける。

 

キイッ  

 

ドアが開く音。

左右に並ぶドアではない。

田中星人に囲まれた3人が俺、ではなく俺の後ろを見て(サダコは髪で隠れていて表情が分からない)目を見開いている。

最奥のドアが開いたようだ。

 

ゾクッ

 

生臭い風が吹いた。

 

 

 

 

部屋から流れ出たのか靄が床を覆っている。奥の部屋に何が居るのか気になるが北条達の表情を見ると振り返るのが恐い。あれから更に2匹の田中星人が部屋から出て来て俺と計ちゃんを見ている。…6匹か。奴らの表情は笑顔だ。

田中星人達が一斉に喋りだした。

 

ウィッ ウィッ ウィィッ ウィィッ ウィィッ ウィィィッ ウィッ ウィッ

『裕三君』『裕三君』『裕三君』『裕三君』『裕三君』『裕三君』

 

「ちくしょう。またかよ…」

ウィッ ウィッ ウィィッ ウィィッ ウィィッ ウィィィッ ウィッ ウィッ

「ゔッ」

 

呟きに反応したのか6匹が一斉に計ちゃんのほうを向く。

 

『裕三君?』

「…」

 

「痛っ いってえっ!くそっ」

 

囲まれた3人のうちスーツを着ていない男が肩から何かを取り床へ投げつける。『ギュエッ』と聞こえた、あの小鳥か?

 

『ギェエエ ギェエエエ ギェエエエエ』

 

それにつられて結構大きな声で啼き出す小鳥の群れ。

床に当たって潰れたような音がしたから、投げ落とされた奴とは別の小鳥だろう。

 

「ううう。痛ぇ」

 

男は首を両手で押さえている。

 

『ギェエエエ』『ギェエエエ』『ギェエエエ』『ギェエエエ』『ギェエエエ』『ギェエエエ』

 

全ての小鳥が啼いているのか、かなりウルサイ。しかし、それは、どーでもいい。

田中星人達の表情が どーやったのか怒り顔に変わっている。

それに……

 

ドッキン ドッキン ドッキン 

 

俺たちに敵対する星人6体、その口から次に出るのはあの啼き声か…。

でも奴らの行動より気になることがある。

 

…ギシッ ギシッ

 

それは背後で重く響く音。近付いて来る。

 

ギシッ ギシッ

 

「ぅ…わ…ァ…」

 

ギッ ギッ ドンッ

足音に計ちゃんの声が混ざる。ドアの横に立っていたから 見たのだろう。

 

ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ 

 

『…グルルルルルルル…』

 

斜め上から聞こえるのは唸り声?

 

…バケモノが、後ろに居る。

ドッキン ドッキン ドッキン

 

ドカンッッ

 

左腕に衝撃を受け俺の意識は途切れた。

 

 

 

… … …

 

 

 

「う…?」

 

風が 頬を撫でる。新鮮な外気だ。

上体を起こすと後頭部が何かに引っ掛かりパキパキと音を立てる。

痛いところはとくに無い。

何だ無傷か

 

ギョ――――ン 

 

ガッ ガッ 

(外したッ!? やッべー)

何かが倒れる音と、計ちゃんの声が聞こえる。

銃を撃ったらしい。…当たらなかったみたいだが。

割れた窓から頭と両腕を抜き立ち上がって振り返ると8割無くなったドアから黒いボール、によく似た星人の頭が覗いている。倒したのか?

壁は無事。俺は壁ではなくドアにぶつかったらしい。

 

『グオルルルルァ!ギョエルルルルルォッ!!』

 

パ――ン

 

咆哮と何かが割れる音。暗くなる廊下。空気が 震える

(わっ。あっ)

ドタタタッ

俺は部屋から飛び出した。

 

 

 

出てすぐに計ちゃんを発見。しゃがんで田中星人たちへハンドガンを向けている。

北条は階段側で同じくハンドガンを。それを見ている階段横のサダコ。

太った男と連中のリーダーっぽい男は逃げたのか見当たらないが、囲まれていた男は居た。

黒い3mくらいありそーな鳥(?)の足元に倒れている。

靄と暗さで所々が見えないが服装と体型からあの男と分かる。生きてんのか?

 

コオオオオオ

「!?」

 

気付くと田中星人の顔が近くにあった。その口内が光っている。さっき床に転がってた奴か?

 

クエ―――――――――――ッ

 

咄嗟に前転し距離をとる。

 

「くっそ…」

 

(ドンッッ)

 

ビリビリビリ

 

天井が震えた。

パラパラパラ

 

「え?」

「なんだ!?」

 

(ドンッドドンッ ドンッドンッ ドンッ ドドンッ)

 

天井の上…屋根裏で何か暴れている?

まだ何か出んのかよ?!廊下の奴らだけで持て余してんのに…

見ると、田中星人たちと黒い奴も音がする天井を向いている

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ 

 

「!!」

 

視界が真っ暗になった。

 

 

 

=========

 

 

 

私はボロアパート裏のマンション屋上で景色を眺めている。

ボロアパートこと田中星人宅の棟部が消失し粉塵に包まれた屋根。

やべっ予想以上に塵が凄い。未だモクモクと溢れ出ている。

スーツって肺とか呼吸器も強化してんのかな?違ったらごめんよ玄野たち。

粉塵ごしでもロックオン出来そうだが今度は捕獲ではなく狙撃だ。誤射なんかしたら加藤に怒られちゃう。ゾッキー以外はスーツ着てるから気を付けるのはゾクB・Cの2人くらい(ならヤッちゃってよくね?とも過ったの)だけど。いやスーツ壊れたヒトがいたらその限りではないか。きっちり肉眼でも確認したいので粉塵が晴れるのを待つ。…まだかな~。時間は、あと2分とちょっと。結局ギリギリだょ。

それはそうと、Xショットガンのスキャン超便利、外側から建物の骨組みや中に居る生き物・家具まで丸分かりだもの。生き物は骨格で、小物は輪郭で見分けなきゃなんないけどね。ガンツ武器がくっきり映ってたのは複製防止の為に内部構造のスキャンが出来なくなってるからか?それともターゲットの骨格がヒトと酷似してる場合見分けられるように?

武器持ってない骨格は2人、しゃがんでる奴と倒れてる奴。逃げ遅れたゾッキーか?

とか思っているうちに粉塵が晴れた。

 

わ~スッキリしたな~…柱は残したけど。

え~~と、しゃがんでるのは加藤、だな。あぁ黒い奴の足元のあれか?ゾッキーは。って、

うわっ怪人だっ鳥怪人がいるっ。他の田中星人よりちょっとだけ配点の高いボ(ーナ)スキャラだ、キョロキョロしてる。骨格だけよりデカく見えるなぁムッキムキだし顔が猛禽だ。

ロボの中身&ギョロちゃんが成長してもあんなのにはならないだろ。突然変異とか雌雄の差?

あんなファンタジーな奴と接近戦する奴はどーかしている。私じゃ絶対勝てないね。

 

カチカチカチカチカチカチカチッ

 

なぜか突っ立って動かなかったので楽にロックオン出来た。

この手軽さ、アーケードゲームのコントローラーかよって

…おっと、急がないと。

 

ギョーン

 

田中星人狩り、終~了~。

 

 

 

 

黒球部屋。

必死で非常用階段を駆け上ったから…ではないが膝が笑っているし下へ降りるのダルイしで屋上の柵に凭れ待ってたらわりとすぐ転送が始まった。

明るい室内に戻って来ると、さっきまでのことが夢幻のように思える。

例え眼前にフィクションで見た光景があってもだ。…いや、だからこそ、か?

前回同様最初に戻ったらしき西が黒球の横に立ちガンツを見おろしている。

 

「…」チラッ

「…?」

「…」ジッ

「…」

 

前方からプレッシャーを感じる(怯)ような気がするけど黙っているし気のせいだろう気のせいだ。

…。

とりあえずタイムアップ回避万歳。ボロアパートの大家にはご愁傷さま。

リフォームしたくらいじゃ再利用できないだろうあの建物。

って、やば。マンガと違って建物倒壊までしなかったから雛や卵が残ってるかも…。

田中星人が連れていた素足でも踏み潰せそーな雛ことギョロちゃんは0点ターゲットなので無視しても良いと思い込んでいたけどマンガで主人公が柱を撃って建物を壊す前に狩りエリアに散らばっていたギョロちゃん達が巣に集結していたとしたら…

 

「お?」

 

終わったことをグチグチと悩んでいると3人目が転送された。

 

「おー、生きてたのかオマエら」

 

生きてるよ~。度々酷いよ?玄野~。こっちは山田も無事だし生還率100パーだよ。

ちょっとすごくね?

 

「何言ってんの?そいつだぜ屋根ふっとばしたの」

「…はァ?マジか!?オマエやッたンじゃねーの?!」

「何で俺が。つーかお前ら時間かけすぎだっつの。ノルマくらいこなせって使えね―な。

 タイムアップギリギリだったし、死ぬかもって忘れたのか?」

「あー…。ッでも、しょーがねーだろッ。

 そッちに何匹出たか知ンねーけど。こッちはアタマが出たンだッ」

 

西の指摘にキョトンとしてから顔を顰める玄野。

「あー」ってマジで忘れてたの?しょーがなくねーよ大事なことだから忘れんな。

長いようで短いんだよ1時間って、まるまる狩りに使えるワケでもないし。

メンバーの転送開始からカウントしてたじゃん。

それに比べれば何を誰がどうやって倒したかなんて重要じゃないでしょ言わなくていいのにセンパイ、つか何で知ってんの?センパイ。おしゃかスーツだからか走らないので田中Bチーム遭遇跡に置いてきたのに。あの後追いついたのか。

 

「ふーん」

「スッゲーこえーツラのトリ頭でデカくて真ッ黒い奴。加藤が一撃でぶッ飛ばされて…」

「へー」

「なンだよッ。ウソじゃねーぞッ」

 

「むー」とか言って西を睨んでから玄野がこっちに向き直る。

あ、説教ですか?承ります。

 

「佐藤ッオマエ無茶すンなッ絨毯爆撃かよアレ。マジ死ンだと思ッたぜ~」

 

いやいや、私も事故るのは嫌だから出来るだけ留意したよ。でも一応謝っておこう。

 

「ごめんなさーい」てへっ

「おまッ 反省してねーだろッ!どッから出たンだよッ そのポーズ!」

 

くるっと回って右拳を側頭部、左拳を腰にあてウインクしたら怒られた。

え~?十代の乙女がやったんだからカワイ―っしょ?

 

「…はァ…つーかアレッて、どーやッたンだ?」

「それって屋根が爆発した話? なら僕も訊きたい。その銃でやったの?」

「屋根って…えっ!あれ佐藤さんがやったの?…そうか、そーなのか…」

 

玄野に謝ってるとき転送されたのだろう山田と加藤が話に加わる。

…なんか加藤が落ち込んでる~どうした? 目を逸らされたので放っといてやろう。

いつのまにか生き残り達の転送が終わっていた。




三分の一以上加藤視点。
改変点:
西くん、ゾクD、祖母と孫生存。


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田中編⑦

前回のあらすじ:
ミッション終了。
死亡キャラ3名生存。



新規メンバーのうち3人は無言で玄野たちを見ている。

 

窓の反対…壁を背に座り込む高校生。

それをキッチンのある部屋の影から見る若い女性。足元に犬。

黒球正面に座る老婦人&孫。

玄野たちは廊下へ続くドア付近に立っている。

 

「…おい。帰れるのか?これから」

 

窓の前で夜景を見ながら呟くゾクA。隣にゾクDも居る。

 

 

♪チ―――――――――ン♪

 

 

「あ…ガンツの…採点…」

 

トットットットッ

犬がオブジェの前へ移動する。

 

「ガンツ?」

 

高校生くんこと北条が呟く。

ゾッキー2人は退場したらしい。マンガ通り1人はエリアから出たのだろう。さっき2階に5人しか居なかったものね。ボスターゲットの足元で倒れてた奴も止め刺されてたんだな。

 

“犬……やるき感じられづ なんかしろ 0てん”

 

「キュウウン」

項垂れながら横へ退く犬。熊狩りする犬的な活躍を期待されても困るよねぇ。

リアルで拝めるならかなり観たいけど、あの変態的突撃はガンツスーツ着ても難しそう。

 

「なンかしろだッて、ははは。犬に無理言うなッて」

「何の意味があんだよ採点って…」

加藤に問う北条。

 

「それは…」「?」

西を見る加藤たち。

「…」

 

“ババア……やるきなちすぎ ガキ甘やかしすぎ 0てん”

 

「!?」

何がショックなのか驚愕する老婦人。

 

“泣き虫……しょんべん小僧 全部ぬぐな 0てん”

 

孫が文章を理解する前に老婦人が抱きしめる。

 

“チンソウダンその1……目つき悪すぎ 足遅すぎ 0てん”

 

「俺かこら、チンソウダンって!!んだこれ。ちくしょうっ」

ガンツの前でしゃがみ、抗議するゾクAもとい珍走団その1。

「ぷっ」

「沼田っ、てめっ」

じゃれるゾッキー共。

 

“チンソウダンその4……デブすぎ 腹へりすぎ 0てん”

 

「はははははははは」

「うっせーなっ」

 

“くろの……おおものねらいすぎ 0てん”

 

「やッぱなー。はァ。あそこで外さなきゃ…」

ガックリする玄野。

 

“かとうちゃ(笑)……てめえの本気はその程度? 0てん”

 

「…」

期待されてる~。加○◇茶スキなのか?ガンツ。

 

「サダコって…あいつか。どこいった…?」

 

キョロキョロするゾクA。

サダコの点数が出たようだ。マンガと同じなら文面は“サダコ……ホモのあとつけすぎ 0てん”。

いつの間にか大人数が黒球正面に立ち採点画面を見ている。

右からゾクA・D・玄野・西、後ろに山田・北条・加藤。

そこに居るなら座れよきみ達。

 

「そこに隠れてる」

 

キッチンがあるほうの部屋へつながる扉枠の陰を加藤が指す。

サッと隠れる恥ずかしがり屋さん。

このサダコ様はストーカー系無口女子って濃いめのキャラだけどヒロインの1人ではない。

狙いが玄野でも加藤でもないので。

 

「ホモの後つけすぎ…。ホモッて誰だ?」

サダコを確認してから画面に目を戻した玄野が呟く。

 

「!?………死んだ奴の中にいたんじゃねーの?」

答える北条。

 

「!!」

 

黒球表面に“ホモ”が表示されたのだろう。

野郎共が黒球から限度いっぱいまで退避した(笑)。ほとんど一瞬の早業。

採点画面が見易くなったよ、やったね。

“ホモ……やるきはみとめられるのだが…0てん”か、似顔絵付きだからどーしようもない。

窓際にゾクAとD、玄関側の壁に山田と加藤、壁際に玄野と犬、黒球を飛び越えて奥壁に西。

黒球正面に北条だけがポツンと立っている。

 

「ちっがっうっつの!ふっざっけんっなってめーらっ」

 

赤面して玄野を睨む北条。

ちょっとガンツ~いじめカッコ悪いよ~?実害無いんだからバラさなくても良いっしょ。

好みのひとが居ても遠くから見てるだけだしさぁ。……だよね?彼氏居ないよね?

 

「きもいっつーの!!近づくな てめえっ」

窓に張り付くゾクA、マジで怯えている。

 

「だっ、誰がっおまえなんかっ」

反論する北条。

 

「…」ジッ

玄野は無言で超警戒している(笑)。

 

「ホモって、あ・り・え・ね~」

奥の壁を背に呟く西。

 

「ホモじゃっホモじゃねえっ」

北条…。

 

“メガネ……緊縛プレイはどうだつた? 0てん”

 

「…は?」

「!」「!?」「…」

ヘンタイがもう1人?という目で山田を見る一同。

 

「違います。私が間違えてワイヤーをかけたんです」

かわいそう(笑)&濡れ衣なので、はいっとYガンを掲げ弁護してみる。

 

「へ?…あれ佐藤さんがやったの?」

「今頃かよ。気付くの遅~」

西センパイは知っていたようだ。つか消去法で解ることだな。

 

「ごめんなさい山田さん、ぶふっ」

「なんで笑うの!?」

 

「?」「ワイヤー?」

新規メンバーは理解して無さそーだ。説明は…今度でいいや。

 

“佐藤(?)……43てんtotal44てん あと56てんでおわり”

 

似顔絵が現在の髪型&服装に変わっている。

おさげからポニテに変えてみました。だって1つ縛りのがラクなんだもの。

 

「んだよこれ…なんでコイツだけ」

 

不満そうにこっちを睨むゾクA。

加藤が「星人をつかまえなきゃならない」って言ったの忘れた?

捕まえて「送る」かとどめ刺さないと点数にならんのよ。

つかゾッキーの疑問なんかどーでもいい、点数ついたってことはミッションクリアってことだ。0点続きで没収点の有無がわからなかったのだが杞憂だったみたい。

…はぁ、助かった。

 

「すッげーな…オマエ…」

 

こっちを見る玄野。何だ?その目。「すごい」って射的のこと?それとも、

 

「佐藤ッて何匹倒したンだ?」

「僕らの分は西くんがやっつけたから…アパートに残ってた奴だけだと思うけど」

 

玄野の疑問に山田が答える。

 

「田中星人6匹と黒い奴か…」

 

 

“西くん……115てん total115てん 10○てんめにゅ~から選んでください”

 

“100てんめにゅ~”

 

“1 記憶をけされZ解放される

 Ⅱ よし’強力な武器を与えられる

 3 MEM○RYのΦから人間を再生でちる”

 

 

「…解放…!!」

「そッか、このための点数…」

「100点…とれば…自由になれる…!?」

「あと、まだ…何回も参加して生き残んなきゃなんないんだな…」

 

数話(ミッション)はやく重大事実が判明。

みなさん2番目と3番目に興味が無い様子。

 

「ガンツ、2番だ」

 

「!?」

「…解放されなくて良いのか?」

「そーだッ。次も生きて帰れるとは限ンねーだろ」

「…」

 

メンバー達は解放を選ばなかった西を驚いた表情で見ている。

 

このままずっと参戦してラストミッションを生き残り『本番』を迎えるのと、記憶消されて無防備な状態で侵略に遭うのと、どっちが良い?って訊いたらどちらを選ぶんだろうコイツら。まぁ言わないけど。信じないだろ―し。私も断言出来ないしね~。

ホントにマンガ通り進むのだろーか?この世界。

 

 

 

 

採点終わったので解散。

西センパイが生き残ってるのに質問会をしない様子。

ミッションから解放される方法以外にも知るべき事あると思うけど……ま、いっか。

忘れ物は無いかね?一度閉めちゃうと次のミッションまで回収できないよ~?とくに玄野。

ちなみに装備のことね。私物は消されるらしい。

 

「おっ、まじで開くじゃねーか」

 

玄関を開けるゾクA。娑婆(笑)に帰れて良かったね、とりあえず。

北条と加藤も続く。

 

「うぉっ。このまま家に帰れんだなっ」

 

玄関から出てすぐ、通路の手摺に両手をかけ喜ぶゾクA。

 

 

… … …

 

 

マンション外の広場。

チャッチャッ 

犬が去って行く。迷い無い足どりだ(笑)。

 

「ドコに帰るンだろう…」

 

玄野が犬を見て呟く。何処だろーね。

気になるけど尾行してまで知りたくはないかな~。はやく小島宅行って寝たい。

 

「何日後かわからねーけど…。またあの部屋で会うことになるはずだ…。よろしくな…

 これから」

 

新規メンバーに挨拶する加藤。情報漏洩の罰則について言わないの?

まぁ、言っても誰も信じないか。装備を使って見せない限り。

北条たちは帰った。

 

おっと…。?

振り向くと真後ろに西が居た。

…ひょっ、何ですか?何か用?今引っ張ったの君だよね?

 

「…」ジッ

 

?… …

あ、もしかしてバレちゃった?田中ロボ1号を横取りしたこと。

その節は誠に申し訳ございません(笑)おねーさんの早とちりだと思って大目に見てほしいなぁ…。チラッ

…。

恐ぇーよ、その無表情。

 

「タクシー来たぞ!お~い」

「佐藤さーん」

 

玄野と加藤のことはとりあえず無視。ちょっと待て。

西が着ているガンツスーツのステルス機能が(あのあと一度も周波数変えて無かったから多分)壊れたあのとき、ターゲットの致命傷にならない位置を狙えてたらなぁ。

初射的で命中し、そこが急所だったのは奇跡だけど。

マンガでいう大怪我うん秒前な状況見て手が出ちゃったんだよ。

西センパイがあそこで退場するのはシナリオ通りだけど困るんで。

今回の標的の配点は判明していた。田中ロボ(12体)が5点、ボス(1体)が8点。

私が“田中星人”独り占めしても100点にとどかないので次回ミッションに備え“強力な武器”を所持するメンバーが必要だからセンパイには生き残ってもらいました、

って正直に言えば納得するかな?……うん、つっこみ所しか無い&さらに怒られそう。

私と西以外全員0点だったから言い逃れ出来ないし。

退場したゾッキーのどっちかがやった、とは思わないだろう。無理がある。

あ~ぁ、マンガ通り玄野・北条・加藤にも点数入ってたらバレなかったのに~。あいつらもっと頑張れっての。そんなんじゃいつまでたっても100点なんてたまらないゾ☆

 

「乗ってく?西くんも」

 

戻って来た山田が尋ねる。

5人は無理じゃね?私がタクシーやめて走ってもいいけど、未だガンツスーツ着てるし。

 

「…」プイッ

 

結局無言のまま西は踵を返し歩き去った。

苦情や警告じゃなかったのか?

 

何だったんだ…




西くんは特典武器(一個目)を手に入れた。
次は羅鼎院の文化財(偽)狩り編。


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あば&おこ編①

前編のあらすじ:
田中星人ミッションクリア。
死亡キャラ4人生存。
数ミッションはやく特典(解放条件)判明。




『あ…ああ…』

 

声が 聞こえる。

これは嗚咽だろうか。

 

暗闇に黒い背中が浮かび上がる。

ポツンと独り。

 

床に座り項垂れ丸めた背は小刻みに震えている。

嘆き悲しむ誰かの向かいに円い影。

 

『ふッ ふ ハァッあ”… □…○◇…。う”う”う”う”う”』

 

泣いていたのは黒球の前に座る玄野だった。

彼は不明瞭な言葉を呟き球面へ手をのばす。

………

北条…

サダコ…

山田…

加藤…

…ん?

ミッションで死んだ者をまとめたリスト。

加藤の証明写真の横。

そこには小島の写真があった。

 

『俺は…1人に…なッてしまッた…』                       

 

 

 

……は?

 

 

 

冬休み。

さらに暇になった&命に関わるので装備の検証を始めた。狩り場の下見も。

自堕落な未成年生活に慣れきっては社畜へ戻るときタイヘンかとまとまった休日開始に合わせてアルバイトする計画立てたのに禁止されちゃってさぁ。

いや校則とかではなく小島母の御達しで。近所のコンビニでも駄目だって。

「多恵がバイトに行くくらいなら母さんがパートに行く」とも言ってたな。…なんのこっちゃ。主婦業に飽きたってこと?なら暇を持て余す私が家事全部(家計やりくり以外)しますよ~趣味とか習い事始めたら?これだから日本人はワーカホリックって言われんだよ。欲しいものでもあるのかな。

貯金増やしてもあと一年くらいで日本円使えなくなるかも知れないのに。

私なんかこのまま帰れなきゃ貯めに貯めた蓄財がパーになるのに。

くっ…絶対に帰ってやる。

 

2度目のミッションから戻った晩(なかなか眠れずアラームで起きる直前(?)に見たから翌日の朝かもしれないが)見た夢は、あれは…どーなのかな?

小島(=自分?)が退場した夢。

デスゲームに2度も参加したメンバーが改めて怖がることでは無い。一線を越えた今、調整出来ているべき悩みだ。3度目のミッションもマンガと同じ内容なら一番ありえる結果だし。夢があんな内容になった理由があるとしたら、うまくいきすぎた2度のミッションに緩んだ緊張感を取り戻す為だったのだろう。

常に緊張なんてムリなのに。

 

ガンツスーツの上に厚着して外出。

すると重大なことに気付いた。

顔が寒くない。

寒風に晒されても平気なのだ。と言っても顔面のうち鼻と口はマスクとネックウォーマーでガード済みだったので目元と額(と耳)の感覚のみだが、生垣の枝が鳴っても小学生の帽子が飛ばされても快適なもんである。スーツを着ると剥き出しの頭部も何故か丈夫になるがそれと同じ理屈なのだろう(笑)私は寒いの苦手なので嬉しすぎる機能ですよ小躍りした程に。

え?気付くの遅いって? 言わないでよ~ミッション中はそれどころじゃなかったの(笑)。

 

検証①

武器の射程を確認。

この場合の「射程」はターゲットを「ロックオン(捕捉)できる距離」。

1km以上狙える設定の狙撃銃ことⅩショットガン(あんまり長距離狙撃しないからかXスナイパーライフルとは誰も呼ばない)はホントに地図上では1km弱離れている建物…に居る鳥を拡大して捕捉出来た。たぶん鳩(っぽい骨格)。

ダイヤルを操作しスキャン無しな望遠(暗視カメラ映像みたいな)仕様でも見てみた(鳩確定)。

マンガで主人公がアホとの決闘に使ったⅩガンは10m以下。Yガンも同様。

ちなみに、ロックオンしたまま1時間以上放っといたら勝手に解除されてた(笑)。

“LOST”だって~。

これは時間切れが原因なのか、効果範囲外へターゲットが出たからなのか、どっちだろう?

 

検証②

拘束解除はできる?

短距離射程が珠に瑕な捕獲銃、Yガンは敵対するメンバーや一般人に使うこともあるだろう。

そういうとき素速く解除出来ないと困ることがあるかもしれない。

誤射のほうがありえるけれど。

試した結果、銃には解除する仕掛けが無かった。アンカー側にも無かったが、踏み潰せると判明。銃で撃って破壊しなくてもスーツ着た足でアンカー部分を思い切り踏めばワイヤーが消えた。空き缶踏みの如く一息でグシャッとやると爽快。

ワイヤー部分はガンツソード(笑)でも斬れた(というより砕け散るカンジ?この消えかたはマンガと同様だけどその時は刃物や牙爪ではなく腕力任せに引きちぎった結果)。ミッション中にソードを持ち歩くつもりは無いけどね~。やってられるか接近戦なんて。

拘束解除の仕掛けを探る為に「送って」しまった家庭ごみの袋詰め(ダース単位)処分してくれたかなぁ?

 

検証③

ガンツスーツの手入れ方法と洗濯後の機能確認。

…いや、私もスーツ関連の検証をするなら「周波数(?)を変える」について調べるのが先だとは思うよ?でもミッション時でないと分からないことが多くてさぁ。まぁ、お預けです。

ってことで先ずは洗濯実験。取扱表示不備なので、ぬるま湯でLet's try !

水仕事と就寝時も着ることにしたし洗濯は重要である。謎素材の服はそもそも汚れるのか不明だけど洗えない下着を使用し続けるのは嫌。

マンガ単行本の巻末コラムで窓辺に干している面白写真があったが水分に浸けて洗っても大丈夫なのか否か…。あっ洗濯機は使いません、へんなもの回して壊れたら困る。

結果から言うと余裕だった(前回は川の中で駆けまわったヒトが居たし、後のミッションで川に胸まで浸かっていた描写があったから当然か?)。洗う前と同じように光るボタンと不感温な着心地。

季節がら空気が乾燥してるってこともあるが、すぐ乾くので検証後は毎回洗っている。

洗濯による色落ち・生地の摩耗は無いっぽい。不思議だ。

 

洗濯実験の前に次回ミッション・エリア(予定地)へ行ってみた。

マンガ通りのクリーチャー狩りを2度も体験した今となっては当たり前だけど某寺院は存在していた。でも結局外をうろついただけで小島宅へ戻った。

下手なことしてターゲットに気付かれ1人で闘うことになったらバカだし~周りの迷惑になるから。拝観料も勿体ない。

ターゲットの住処へ下見に行くのは無駄足かも。(珍奇な噂重点で)周辺情報を調べるくらいにしておこう。

 

 

 

鳥型クリ―チャーを始末してから17日後。

正月を挟み新学期がスタートした。心底億劫だ。

久しぶりのミニスカ超寒ぃ。セーラー服の下にガンツスーツはさすがにムリがある。

登校中なら首部分はマフラーで隠せるとしても脚部分が問題だ。膝横のボタンは靴下、靴部分は上に運動靴やローファーを重ね履き出来るが足首部分がごっついんだよ。

スカートの下にジャージは見ため的にパス。

一度贅沢に慣れると後戻りが辛いなぁ。

 

「じゃあっ席替えはじめて下さーい」

 

ガガ ガガガ ガガ

抽籤結果に一喜一憂しつつ席ごと移動するクラスメート達。

早めに移動を終えた私はその様子を眺める。

平和だねー。

マンガ通り玄野の右横に女子生徒が座る。涼しい目元と出したオデコがキュート。

この回にだけ出演する(もちろん最初…ってか私が小島のフリを始める前からクラスに居たと思うが接点無いので今まで気付かなかった)モブ美少女だ。

 

 

 

休み時間。

玄野を見ると、隣席の美少女を不自然にチラ見して…いない。あれ?

 

(玄野さぁ、あの地味~で、ちっちゃい女と付き合ってんの?)ニヤニヤ

(…ハァ?)

(え、え?玄野、彼女できたのかよ…)

 

玄野の机に集まった2人の片割れ、ぽっちゃり松村の爆弾発言。それを聞いたス○ック永沢が妙に焦ってから肩を落とす。床に跪きガックリと。演技過剰だよあの宇宙人~。

不審な動きの男子生徒を隣席の美少女も見ている。

…玄野に女の影だと?私も詳しく知りたいです。

 

(いや、永沢も知ってんだろ。さっき玄野が巾着袋渡してたあいつだよ)

(ああ?…な~んだ、あの女か)

 

何事も無かったように立ち上がり、ポンポンと膝を払う永沢。

したり顔で腕を組む友人に顔を向ける玄野。

 

(いや、あのな…)

(去年の終わり頃からだったか。よく帰り一緒になったし、ときどき駅で話してたけど、

 あれが彼女とかねーって)

 

何か言いかけた玄野の台詞に被せ、ない無い~、と手を振る。

 

(え、そーなの?)

(玄野の好み知ってんだろ?全然違ぇじゃん。ははは)

 

満面の笑みで高笑いする永沢。

話を振った松村は興味が失せたらしく無表情。私の位置から表情の見えない玄野は無言だ。

「玄野の好み」ってゆーと髪型に拘りは無いが細身の巨乳(矛盾している)で身長は低めなカワイイ系美少女か。ロマンチストだよね~。それはそうと…

悪かったな地味女で。

こちらを見る失礼な2名は私が睨む(練習しても薄目にしかならないので不愉快を表せたか不明)と目を逸らした。

ふっ、恋人がいたこともないお前らには分からんだろーが小島には素晴らしい魅力があるんだぞ?なにせ超美少女を差し置いて主人公をゲットしちゃうのだから。バカにすんな。

まぁマンガの話だから可能性のひとつでしかないけども。しかも私が小島の(操作している)うちはありえないIf。この世界の小島も玄野(の顔)を好いてる可能性は大だがそれなら「私」があるべき世界へ帰ってから告白でもストーカーでもすればよろしい。応援してるよ…別次元(?)から。

 

って話が逸れたな、マンガに居ないヒロイン登場かと思ったら私のことって…ガッカリだよ。玄野の恋バナを期待したら当事者でほぼ悪口って…

件の「巾着袋」とはアレだ。夢の影響もあるが正月にも実家へ帰らない玄野(はミッションの翌日声を掛けると通行人が2度見するほど驚いていた。近所にも星人が潜んでいる可能性に気付いたのだろうか?主人公の妄想はフラグになるから控えてほしい。ぼっち年越しは家族をガンツミッションに巻き込むまいとした行動…ではないんだよなぁ)を憐みいろいろ差し入れしたやつ。その空包みだ。

ご近所さんなのでつまんなそーにウロウロしてる姿をよく目撃しちゃって目障りなのよ。

生活費が少ないのか足りなくなったのか知らないが3食惣菜パンっぽいときも見掛けたし。

マンガで奴は朝ご飯に目玉焼き的なものを用意して食べてた筈、料理できるなら塩分過多で野菜が少ないぼったくり価格のコンビニ弁当ばっか食べるなよ自炊しろ、って思う。

 

つまり私と主人公の関係は「料理の練習(偽)する人間とその余り物を消費する人間」。

盛りぎみに言っても「友人」だ。なので安心しろ永沢、玄野に「恋人」はいない。

…4日後は知らんけどな。

 

 

 

今日は1月15日。

振り返ると早いもので「こっち」に来てもうすぐひと月だ。今夜は3度目のミッション。

滞在時間の消化は嬉しいが、へんな現状を終えるには越え難い障害が多い。

…ついにこのときが来てしまった。みなさん、マジヤバいです。

現在わたしは小島のベッドに寝転び中。大人しく転送を待っている。

服の下にガンツスーツを着て荷物を抱っこしているので眠ったまま呼ばれても大丈夫(無断で出掛けるともれなく小島母に叱られるけど)。

横になればマシになるかと期待したのに吐き気が全く治まらない、もう一度トイレへ行くべきか。

そーいや便意は状態異常としてカウントされるのかな?

マンガでは風邪っぴきとか骨折状態のメンバーが転送されて来ることは無く土足で床が汚れているようにも見えなかった。なのでミッションの支障になりそうな病気や怪我&部屋を著しく汚す添加物は再構成のタイミングでリセットされる筈だ、ミッション終了後と同じように。

内臓の劣化を気にしていたあのキャラは……小島には当て嵌らない例外だろう。

等々どーでもいーことを考えてしまう程に暇だ。

今回は前回より更に呼ばれるの遅ぇ。

マンガで加藤たちは寝に入ってから呼び出されてたから遅いってのは予想通りだけど。

え?今夜だよね?日時ズレるのは構わないがその分ミッションの難易度上げられたら…

うん、困るってレベルじゃない。あっ神(悪魔?)よ、これフラグじゃないからね?忘れて?

っつか忘れろ。

吐き気は状態異常に含まれそう…

 

ゾクゾクッ 

 

あ、きた。

私はコンビニへ行くと言って家を出る。

…この言い訳もいつまで保つやら。




次回はミッションの準備(in黒球部屋)。


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あば&おこ編②

前回のあらすじ:
暇を持て余し色々やったオリ主(たぶん意味無い)。
玄野(佐藤とエンカウント率高いような…監視とか?…寧ろお世話されてる気分) 
  ※ねぎミッション時のオリ主の失言を覚えているが放置。




===◇○○===

 

 

 

ガンツ部屋。

 

「まぁた出て来たぜ~」

 

転送されたマンションの一室には先客が居た。

男7人女1人。

便座に腰をおろした体勢で呼ばれた俺は下着とズボンを穿き直す。

拭く前に金縛りが来て正直焦ッたが幸いなことに違和感は無い。

 

「ちょっと待ってろよ。俺たちが先だから」

 

一方的に宣言する男。

…誰だ?

「先」ッて何が? ッつかなンだよアイツら。知ッた顔一人も居ねェぞ。

 

「では、なんなりと質問するがいい。俺がわかる範囲で答えよう」

「どこスか?ここ…誰ん家?」

 

別の男の質問に住職みたいな格好したオッサンが答えている。

…何やッてンだアイツ、どーゆーコト?前回居なかッたよな?あンなオッサン。

 

「わかりやすく言うと極楽浄土に往生する前の、ためしの場所…とでも言おうか」

「…。…。わかりやすくって…わかりにきーんだけど」

「極楽に往生する者。無間地獄に堕ちる者。死者が集い…いずれかにふりわけられる場所だ」

 

「プッ」

 

我慢できず笑ッてしまッた。俺に視線が集まる。

口を押さえ窓へ顔を向けるといつもの位置で光るシンボルタワーが視えた。

質問募集するから経験者かと思ッたぜ。なンなの「ためしの場所」ッて(笑)仏教用語?

あの坊主ここがどこだか知らないで嘯いているらしい。

ッてコトはアイツら全部新規メンバーか。

 

「!?

 おまえ…何がおかしい?…いや後で聞いてやる大人しくしていろ」

 

俺を見る坊主。生温かい視線がキモチわりィ。

俺が妄想に浸ッてニヤニヤしてると思ッたのだろうか?妄想してンのはオマエだ。

でも真剣なヤツらを見てると怒る気がしない。

坊主の出任せを信じた連中はこれから何を始めるンだろう?

こンな面白い茶番、止めるのは惜しい。

 

「俺も死んじゃってるわけ?死んだ感じしねーんだけど」

「たった今死んだ記憶があるだろう。死を認めぬ者は極楽への往生はできんぞ」

「…」

 

最初に俺へ話し掛けた男も質問するが坊主の答えに不満顔。

やッと思い出した、あの坊主テレビで見た奴だ。死ンだンだアイツ…ふーん。

それにしても、今回のメンバー豪華じゃねーか?格闘家や軍人ッぽいのまで居るぞ。

点数取り合うライバルだけど強いのが出た場合頼りになりそー…

 

ジジ ジジジ…

おッ 黒球からレーザーがのびて誰か転送されてる。あのデコは…

 

「加藤ッ」

「…」

 

声をかけたのに返事が無い。棒立ちで新規メンバーを見ている。聞こえなかッたのか?

 

「なんだ、まだいるのか。質問なんでも受けるぞ」

「……は?

 …計ちゃん、どーなってんだこれ?」

 

加藤を見て質問を促す坊主。

それに答えず不思議そ―に俺を見おろす加藤。知らないメンバーがたくさン居るからだろう。

しかもその1人はこッちに変な状況を訊くのではなく説明しようとしている。

今までと違う部屋に呼ばれたッてコトは無いと思うぜ?夜景が同じだから。

 

「何か分かンねーけど説明してくれるらしーぜ。この部屋のコト」

「はぁ!?あの人が? あ」

 

次は北条だ。

 

「おっ。ホ…。…」

 

腹の位置まで現れたイケメンになンか言おうとしてやめる加藤。

おま(笑)いきなり何言う気だ。

 

「…今、ホモって言おうとしたな」

 

加藤に近付く北条。怒ッている。未遂!未遂だから許してやれよ~。

コイツ天然だからさァ、いちいち怒ッてたら身がもたないッて。

 

「えっいや、べつに…」

 

一歩下がッて目を逸らす加藤。ウソをつくな(笑)。

チャッ チャッ チャッ チャッ ハッ

玄関へ続く廊下から犬、登場。

もしかして俺より先に転送されてた?

犬はキョロキョロしてからガンツ…の向こうに立ッている女を見て尾を振る。

女好きだよな~コイツ。サダコにも纏わりついてたし何でも良いのか?女なら。

 

「お~おまえも居たのかぁ。よしよし」

「これ全部新メンバーか…」

「みたいだな…」

 

犬を撫でる加藤。黒球の周りに座る連中を見る北条。その呟きを肯定する俺。

よく見たら加藤たちの背景…窓を背に西が座ッている。いつのまに。

 

北条の背後にサダコが転送された。

 

「わあああああああああああああ!!」ドタタッ

 

悪寒を感じたのか振り向かず前進しコケる北条。

床へ思いッきりぶつけた両膝や掌を気にせず、形振り構わず床を這う。

スッササッ

サダコは急いでキッチンへ隠れた……いや見ている。北条を……

 

一連の騒ぎを静観する坊主その他。

…?

ハァ…、

今までの新規メンバーよりよッぽど動きがねーよアイツら。期待外れだ。

俺以降に転送された奴らがお互いに顔見知りと判ッて少しは自分の仮説のおかしさに気付いたのかもな、あの坊主。

 

おかしい、か。

死後の世界とか信じてるワケじゃないけど俺が、俺たちが体験した現実のがオカシーよなァ。

あと5人で前回の生き残りが揃う。

…今日はどンな星人が出るンだろう?

ちょッとドキドキしてきた。

 

 

 

=========

 

 

 

黒球部屋。

 

「…。まだ…。来てない…のか…。あ」

 

ん?誰?転送途中だと首動かせないからなぁ。視界にギリギリ入らない。

明りの乏しい路上で金縛りになったのは、ちょっとビビったが無事に転送されたらしい。

声がした方向を見上げると目が合う、なぜか眠る時もオールバックな人と。

 

「こんばんわ~」

 

とりあえず挨拶。

 

「! お…おう」

「年賀状届きましたか?加藤くん」

「ああ。あっ、そうだ。今度住所変わるんだ俺」

 

満面の笑みで報告する加藤。

やっと居候生活をやめられるって話か。がんばったね~。

 

「引越しですか。大変ですね…手伝えることありますか?

 連絡いただければ、お手伝いしますよ」

「え…!」

「…お手伝い、しますよ?」

「いや、そんな…わるいって」

 

遠慮すんな苦学生。寧ろ引っ越し作業全て任せてくれて構わんよ?暇だし。

スーツあれば小島でも家具を1人で運べるしマンガで見た広さなら掃除込みで半日かからんだろう。弟くんとスーパー銭湯にでも行っといで、おねーさんがタダ券あげるから(笑)。

あっテーマパークチケットのが良い?

小島家は出不精と潔癖症しか居ないようで余ってるから快く貰ってくれ。

 

「オマエら緊張感ねーなァ。もうすぐミッションだぞ」

 

なんだよ玄野~。まだ指令出てないんだから雑談してても良いじゃん。

死刑宣告の前に甘い夢を語ったって良いじゃないか。こういう明日への希望ってヤツが逆境を生き残る力になったりするのだ。

…その力が足りるとは限らないけども。

つーか欠伸してる奴が「緊張感」言うな。きみの決意は外から判り難いって知ってるけどその顔はナイって(笑)口からタマシイ出ちゃうよ?

そうだ、こんな奴の相手してる場合じゃない。今のうちに検証しないと~。

 

 

廊下へ出て荷物から鏡を取り出し靴箱に設置。

ををっ映ってない…。やっぱり呼び出し後は素で透明人間らしい。

でも星人からはフツ―に視えているからターゲットである星人と周波数を合わせているのだろう。星人が始めから一般人と同じ周波数のときは違うようだが。

一般人から隠れるときに星人達がよく使う共通周波数みたいなものがあるのだろうか?もしくは省エネで維持し易い周波数があって、それを使っている?

ま、どっちでもいいか。待機中から消えているのは予想通り。問題は…。

コントローラーを操作する。バチッバチと震える空気。

あ、映った。青い上着の小柄女子が立って手を振っている。

ミッション中にタクシー止めて運転手と会話したアイドルはこの周波数を使ったのか。日常っつかミッション外の状態になっている。これを間違えて使わないようにしたかったのだ。

一般人に装備の機能を視られると厳罰対象になるので、マンガ設定なら。

即ち一般人の視界で周波数が変わる…消えたり現れてもアウト。周りに一般人が居る状況でステルス迷彩を試していて頭破裂した奴いたし。ステルス中スーツにダメージがあると一瞬現れたりするヤツはセーフとしても、コントローラーが嫌なタイミングで故障することはありそう。

マンガでステルス機能を使うキャラが少なかったのはこうゆう欠点があったからかな?

星人から隠れられているのかいまいち判り難いし。

 

よし。あんまり参考にならなかったけど検証は済んだ。

部屋へ戻って周囲を観察し…

フミッ

ん?何か踏んだ。廊下には何も落ちてないように視える、つか静かだな…あれ?

部屋を覗くと空っぽだった。誰も居ない…黒球も無いぞ、この部屋。別の部屋?…って、あー

そうか。

 

「…が…うかした?どうしたの?加藤くん」

 

うわっ。 

目の前に突然山田が現れた。壁を背に座る老婦人と子供がこっちを見上げている。

周波数を戻すの忘れてた。一般人と同じ周波数にするとミッション中のメンバーが視えなくなるようだ(笑)あたりまえか。正確にいうとメンバーが原因で発生した音全ても聞こえなくなる状態。不可知化ってヤツ?ミッション中のオートステルスって凄い。

 

「いや、えっと」

 

後ろで加藤が困ったように呟く。彼の足指か?私がさっき踏んだ物体。

 

「加藤くん、何か言いましたか?」

「いや、なんでもないでス」

 

ふーん?

私に何か話しかけてたっぽいが要件ではないらしい。私が今やってたこと説明し難いな~。

理解してないことを他人に説ける筈は無く…ま、いっか。

こいつらステルス使わないし言わなくても。

 

部屋へ振り返り今回のメンバー達を見る。

玄野の服装はパジャマ代わりのスウェット、裸足だ。生き残りメンバーは西センパイ以外全員眠る用の服装。布団入ってから呼ばれてるよねコレは。

でも新規メンバーは外出着に土足。昼間か帰宅途中に何かあって複製されたような出で立ち…

全員夜遊びまたは残業・深夜業務か?ネギ親子襲撃(初ミッション)のときは各々がガンツメンバーになるまでの描写が無く鳥型クリ―チャ―狩り(2回目)のときは事故直後に複製ってカンジだったが、新規メンバーはミッションの開始予定時間近くに事故った人がスカウトされることのほうが特殊で通常はミッション当日の朝から開始までの間いつ死体回収してもミッションの少し前に黒球部屋で複製されるのかな?

毎回ミッション開始一時間前に死んだ人しか呼ばれないのなら新規メンバー足りなくなりそーだし。とすると日の出直後に死んだ人は夜景見て驚くだろーね。

どちらにしても閉じ込めるならトイレくらい使用可にしてくれないと困っちゃうよ、ガンツ。

 

前回も玄野はスーツ(と武器)を持ち帰らなかったので忘れ物の心配は無い。

なぜ玄野は装備を持ち帰らないんだ? 必要無いのか、やる気が無いのか…

もしかして装備はミッション中しか使えないと思ってる?

マンガと違って初ミッションの採点後に西センパイがステルスしてみせなかったからな~。

玄野に限ったことじゃないけどスーツ故障イベントもトばしたからスーツの防御力を過信してそう。

 

新規メンバーは僧侶・ラッパー(?)・ふけた中坊・空手着・ゴルゴ(仮)・迷彩服・美女・リーマン・中分けメガネの9人。

前回ミッションでマンガより4人多く生還したのに変化無し。

 

新規メンバーは部屋の奥側半分で正面を避けて黒球の周囲に座り、反対に生き残りメンバーは廊下側の半分に固まっている。壁際の奥から老婦人・子供・山田。窓側の奥から加藤・北条・西(キッチンから覗いているサダコは普段のストーキングで見られない北条の寝間着姿に喜んでいることだろう。その足元に犬)。黒球正面の壁に玄野。そこには廊下へ続く扉の他にキッチンへの出入り口があって凭れかかれる壁の面積が少ない、でも窓際は落ち着かない。

…どこに座ろう。

転送は私で終わりっぽいな、足りない2人は多分もう来ない。

メンバー多いと座る場所に困る。

 

 

 

「あの坊主がスンゲー知ッたかでさァ。見てろよウケるから」ニヤニヤ

 

廊下への出入り口斜め前、玄野の隣に正座したら奴がスゴい愉しそーに耳うちしてきた。

勘違い僧侶なんかどーでもいいっての、そんなことよりサダコが背後に転送されて慌てる北条を見たかったよ~マンガ通りに驚きすぎてたかね?

 

「お前たち何か質問はあるか?俺が答えてやるぞ」

 

玄野の声が聞こえなかったのか聞いたうえでの判断なのかこっちへ話し掛ける僧侶。

 

「さっきから何なんだ、あのオッサン。前回いなかったよな」

「ああ。西は?知ってる?」

「知らねー、あんな奴」

「知らないの?あのお坊さんテレビに出てる人だよ!…サイン欲しい」

「いや、そーゆー意味じゃなくて…」

 

能天気な声は山田だ。こちらに話しかける僧侶を見て瞳を輝かせている。

サイン貰うなら日付も入れてもらうと価値上がるんじゃね?時間まで入れると偽物扱いされると思うけど。つーか小学校教諭という激務後なのに元気ね。やっぱり呼ばれると疲労もリセットされるのかな? 前回呼ばれるまでの筋肉痛は、いまいち違いが分からなかった。

 

「己の死を、どう捉えてよいか混乱しておるだろう」

「…」「…」「…」ゴソゴソ

「…。どこだ?ここは…」

 

他の生き残りメンバーが返事しないので加藤が僧侶に応対する。

パジャマの上に羽織ったドテラのポッケを調べて山田はガックリした。色紙はともかく油性ペンも持って無いらしい。

 

「解り易く言うと極楽浄土に往生する前の試しの場所、とでも言おうか」

「ためしの…場所?」

「死者を振り分ける場所だ。極楽か地獄かに」

「なるほど…。どーやったら極楽に行ける?」

「念仏を唱えるのだ。南無阿弥陀仏と…ひたすら唱えるがよい。

 唱える者は極楽浄土に行き、唱えぬ者は無間地獄に堕ちる」

 

「念仏って…」「…」「地獄…」

 

僧侶の説明を聴き終えて顔を見合わせる生き残りメンバー達。

さすがに納得した奴は1人も居ない。

みなさん「どうしようアイツ…」って表情。

 

「加藤、真面目に答えなくていーぞ。あの坊主部屋に来た奴全部にああ言ッてンだ。

 聞く耳もたねーから」

「…」

「あれマジなの?本気で言ってる?」

「さぁ…」

 

「…あんた、なんでそこまで断言すんのかよくわかんねーけど念仏なんか唱えても無駄だぜ?

 ここはそんな極楽浄土なんか関係ない場所だ。

 これから…地獄みたいな体験はするだろうけど。ここにいる人間はまだ死んでない。

 生きてんだ…全員…」

 

「!?」「!!」

 

加藤の「全員生きてる」発言に色めき立つ新規メンバー達。

やっぱり死者って言われるより生者と言われるほうが嬉しいし納得出来るよね感覚的に。

僧侶は無表情。

 

「ここにいる全員…あるハンティングをするために集められた。

 今は全員生きてるけど協力してやってかないと生き残れない」

 

「信じられないと思うけど本当なんです。僕らは経験者で、今はこんなカッコだけど。

 戦うための装備はこれから支給されます」

 

「…?」「…」

 

張り詰めた空気が弛緩した。

 

「…気が変になってもしょーがない。この状況ならな」

 

加藤と山田から視線を外し気の毒そうに呟いて俯く僧侶。

玄野は噴き出した。




玄野視点→オリ主視点。
ゾクAはゾクDと共にポカした模様。


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あば&おこ編③

前回のあらすじ:
黒球部屋の廊下で周波数(?)変更機能を検証(全体的によくわからんが、ミッション中に合わせるとヤバい数値はわかった)。



…ムア…ダブ…ナム…ミダ…ツナ…アミ…ブツ…ムア…ダブ…ナム…ミダ…ツナ…アミ…ブツ

 

中分けメガネ・美女・ゴルゴ(仮)以外の新規メンバーは僧侶とともに念仏を唱えている。

 

「…」

「はは…最初の時あの人が居たら…僕も一緒になって唱えてただろうな~」

 

彼らを眺め山田が苦笑する。

あのあと「死後の世界」説が気に入らない新規メガネが僧侶に再び話しかけた。

が、よく分からん理屈でぶった切られてた。僧侶曰くここがマンションの一室に見えるのも鼓動と呼吸を感じるのも全て「生きていたときの記憶がそう感じさせている」らしい。

死後の自我を認めたら極楽と地獄も認めたことになるんだって(笑)。

日本人の場合、死んで最初に訪れる処のイメージって河原か花畑じゃないの?

外国人(=空手着)も居る状況で同じ「試しの場」を見てることを変と思わないのはなんで?

 

加藤が立ち上がり念仏を唱える連中に近寄る。

どうしても勘違いを正したいらしい。マンガ通りの行動だけど、よくやるね~。

 

「もうすぐ、その玉が歌い出すはずだ。もうすぐだ待っててくれ。

 あんた達もよく知ってる曲だ。待っててくれ、ラジオ体操の曲だ」

 

「ちっ うっぜえなぁ!」「むこ―行けっ」

「Go to hell!」「電車にも乗ってるよね、こーゆー奴」

 

加藤を睨む念仏組。

わけ分かんないこと言われた他人のフツ―な対応…いや、ちょっと八つ当たり入ってる(笑)。

 

「ブン殴るぞコラ!!」

「放っておけ…」

 

いきり立つラッパーを僧侶が窘める。

 

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ チャ・チャーララ♪

 

 

「!!」「!?」

 

ホントに歌い出した?と驚く新規メンバー達。うるさい黒球と加藤を往復する視線。

 

「悪いけど坊さん…あんたよりは次がどうなるか分かってる」

「…」

 

睨み合う加藤と僧侶。

 

 

♪チャチャ~ララッ チャーラ チャッチャチャ~ラチャンッ♪

 

 

「もしもしぃ? クロノくーん 始まるみたいだよ~」ユスユス

 

曲が終わり、寝ている玄野を起こそうと揺する山田。

しかし無反応な茶髪。大音量な黒球の歌で起きないって…いつもどーやって起きてるんだろう?

目覚ましアラームとかに頼らなくても決めた時刻に起きれるってやつ?優秀な腹時計だね。

決めないで眠った場合いつ起きるんだ?

玄野はあぐらをかき首を片側へ傾けている。居眠りするならそんな姿勢じゃ駄目だ、背中を痛めると転送でリセットされなきゃ地味に不利。そして熟睡すんの速すぎ、さっきまで黒球の周りでブツブツ唱える連中眺めながら「何コノ絵面、ウケるー」とか呟いてたのに。

…。

密室で暴れたり不毛な問答するよりは静かなぶんマシだけど、

出番まで何してようと自由だけど、

暇だと眠くなるのも解るけど、

他人に凭れて眠るのは遠慮しろ。とくに私が隣に座ってるときは。

鼻をつまんでくれよーか(怒)後ろに壁があるんだからそっちに凭れろ、邪魔なんだよ。

小学生並みに小柄な小島だからか妙にバランスが悪いし。起きないと転がすぞ?マジだぞ~。

マンガで夜更かししてる描写はガンツ武器の検証だったか。何も持ち帰っていないのに謎だ。いっつも教室で眠そーにしてるか寝てるよなぁこいつ。

 

 

歌が終わり最初の文字が表示される。

立ち上がって黒球を囲む新規メンバー達。

 

「なんだ…?」

「てめえ 達の 命は 無くなりました」

「新しい命…新しい命?どう使おうって……使われるのか?」「私?私って?」

 

その文章は比喩とかじゃないのでそのまま受け止めるといいよ。

“どう使おうと私の自由です”の“私”はガンツのことだね、今のところ。

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい

 

 あばれんぼう星人(金剛力士の吽形)

 特徴    つよい おおきい

 好きなもの せまいとこ おこりんぼう

 口ぐせ   ぬん

 

 おこりんぼう星人(阿形)

 特徴    つよい おおきい

 好きなもの せまいとこ あばれんぼう

 口ぐせ   はっ”

 

 

ターゲット情報出た。やっぱり仏像(?)狩りか~、

“好きなもの”にお互いの名前があるのがとっても気になる記憶通りの指令だ。

“好きなもの、せまいとこ”って定位置に収まっているときか、とある場所を潜る為に屈んだときが好機だよっ☆てアドバイスのつもり?それか居る場所のヒント。スタート地点の置き物だから盲点だと思われてる?

2体分の情報が表示されるのはこの回唯一だ。ガンツの耳に指つっこんで画面の下スクロールを頼めば他のターゲット情報も出たりしてな。情報を載せてない=ガンツも知らない、ってのはありえないだろ。ターゲットの数と姿を把握してなきゃ掃討判定出来ないから。

前情報無しで送られたエリアに出るクリ―チャ―全部倒せって言われるよりはマシだけど一度のミッションで終わらせたいなら総数くらい教えといてほしい。

スペックの詳細は、ホントに知らないのかも。

 

ターゲット、とくにボスが本気出す前に倒せるといいなぁ。

予想が正しければなんとかなる筈。

ならなかったら…

 

「全部…きみの言った通りになる。何なんだ?きみは…」

 

新規メンバー達と黒球を覗き込んでいたメガネが左手で眼鏡を押し上げながら加藤を見上げる。

 

「俺だけじゃない。こっち側にいる人間は…! …。」

「人間は、なに?」

「…さっき山田さんも言ったけど俺たちは前からココに居たっつか来たことあるんだ。

 ここの法則に関して、そっちより少し知ってる程度だけど」

 

右腕を振って廊下側の人間…北条・西・サダコ・玄野・私・山田・子供・老婦人を示す加藤。玄野を見てちょっとフリーズしてた。

こいつ暇して寝てるだけだよ~大丈夫だよ?たぶん。

そんなことより前回生き残った筈のゾッキー2人が来てないのはスルー?マンガで誰も気にしてなくて不思議だった。

マンガと同じくあいつら、一般人多数の前でXガン使おうとして排除されたのかな?ガンツに。

 

「そろそろ開くから気を付けてくれ。もうすぐだ…」

 

黒球の両隣りと真後ろに立たないよう新規メンバーに指示する加藤。

誰かさんのように挟まれたら大変、でもないけど恥ずかしーからね(笑)。

 

チッ

ガシャッ

 

「こっちのケースにスーツが入ってるから着てくれ。1人づつ、ちゃんとあるから」

 

黒球背面、スーツケース棚の横に立ち、自分のケースを持ちながら説明する。

Xショットガン持って凄く嬉しそうな迷彩服は話きいてなさそう。

それ本物だからメンバーに向けないでね。

 

「惑わされるな!!馬鹿者共が!!

 此処は試しの場所と言っただろう。あれは人ではない」

 

大声で視線を集めると僧侶は言いがかりをつけて加藤を睨む。

 

「…煩悩の象徴だ!!奴について行く者こそ欲に負け、地獄に堕ちる者…

 お前達が手にしているモノは人殺すモノぞっ!!」

 

黒球から出て来たオモチャが人も壊せる機械だってのは正解だけど、てか見たまんまだけど

何、煩悩の象徴ってマーラのこと? 加藤がヒトから魔神(笑)に格上げされた。

僧侶はどこまで本気で言ってるんだ?不思議体験で妄想が暴走したか?

 

「ちょっ と待ってくれっ 俺はあんたらと同じ人間だっ!」

 

反論する加藤。他の奴が僧侶の言葉を信じたと思って人間主張する。

慌てなくても空手着の外国人くらいしか信じてないよ、たぶん。

 

「惑わされるなっ、そう見えているだけだ」

 

喚く僧侶。お前そればっかだな。

どんな反論しても、そう感じるだけ、そう見えるだけ。もっと面白いこと言えないの?

工夫しないと飽きられるよ?他人を言いくるめるのが生業でしょ?

 

「わっけ…わかん…ね…」

 

呆れた顔で僧侶を見る新規中坊。

 

「…この坊さんの言うこと聞くと死んじまうことになるぞ」

「はっはっはっはっはっ 死んだ人間が集まってるんだぞ?」

「…」「…」

 

「…とにかく着替えましょう!僕らだけでも」

 

玄関へ続く廊下を指す山田。長くない準備時間を思い出したのか生き残りメンバー達を促す。

僧侶と睨み合っていた加藤は未だ私の肩に凭れ眠り続ける親友の前にしゃがむ。

グッ

ギュウ

彼の手で玄野の頬肉がチョー伸びた。

 

 

 

「ホレの頬ひゃんとフいてる?…なンにゃンだアイツ」

 

感覚が無いのか頬を指し涙目な寝坊助。

ほっぺビヨーン玄野……ケータイが生きてる時にやってほしかった。

待ち受け見る度にほっこり出来ただろう。加藤は玄関へ着替えに行っている。

玄野は加藤に何したんだ?なんか怒ってたけど。加藤が新規メンバーたちを説得している最中に玄野は惰眠を貪ってたから?…その程度で怒るわけないな、ありえない。

ヒロイン1号居ないからケンカする理由無い(マンガでは岸本に慕われている加藤を一方的に玄野が怒っていた)し。う~ん?

あ、忘れてた。

 

「玄野くん、あのお姉さんにコレ渡してきて下さい」

 

“美形”と書かれたスーツケースを茶髪の脚上に置き、美女を目線で指す。

 

「ふェ?なンで?オマエ行けばイイじゃん」チラッ

「…」キランッ

 

玄野と視線を合わせた美女の双眸が光った……よーに見えた。ヒロイン2号の眼力ぱねぇ。

しかし彼は気付かない。スゴク面倒そう。

 

「私は他にやることがあります。それに玄野くんは着替えまだでしょう?

 ついでにスーツを勧めてください」

 

ウザいなぁお前。

私は犬にスーツ着せたり忙しいんです~。

声をかけるチャンスなんだから早く行けよ、

公共の場で口半開きにして眺めるほど好きなんだろ?巨乳美女が。

促さなくても賢い彼女なら自主的にスーツ着そうだけど念のため。

野郎共は勝手にしろ。

 

「スーツ着ないとヤバいもンなァ。しょーがねーな…」

 

どっこいしょ

と立ち上がり美女の方へ向かう美少年。眠気が抜けてないのかフラついて。

奴の恋愛脳が刺激されてないように見える。

謎だ。

 

 

 

着替え終わった8人(呼び出し前から服の下に着てる2名含む)は、未だ念仏を唱えるメンバー達を見ている(玄野と美女は着替え中。サダコは北条しか見てない)。

 

「あの連中にどーにかしてスーツ着てもらわねーと…」

「いーんじゃねーの別に…。俺らだけでなんとかなるんじゃねーか?」

 

ガンツスーツを着ようとしない新規メンバーを見つめ焦れる加藤。

前回ボスに小突かれた彼はスーツの重要性を痛感している様子。

北条はちょっと楽観的。「俺ら」って前回お前なんにもしてないじゃん。それに今回のが難易度高いのよ?ボス・ターゲットのスペックがシナリオ通りならちょっと良い服着た素人が何人集まってもノ―プランでは「なんとか」なりません。

 

「…いや…。一人でも死なせたくない…。

 一人でも協力してもらったほうが…全員が生き残る確率が上がる…!」

 

100点たまるまで生き残るために戦力は多いほうがいい、ってこと?

加藤は気が長いなぁ。今までメンバーより少ないターゲットのミッションしか経験してないのにライバルを増やす類いの安全策を選ぶなんて。

…まぁ、それで正解なんだけどね。

 

「聞いていいかな?色々と…」

 

自分のスーツケースを抱え加藤に話しかける新規メガネ。

 

「あ…ああ…」

「あの玉の中の男…あれ…何?」

 

加藤の自信無さ気な了承を受け黒球を見る。

おい、メガネ氏。さっきガンツのほっぺ引っ張ってたの見たよ。 

知らないよ~?初対面であんまイタズラすると1人だけ違う場所に飛ばされるかも(笑)。

 

「………。

 さぁ…?」

「何って、何だろう?あらためて訊かれると困るけど名前なら分かるよ。ガンツだって」

 

困った顔で答える加藤に山田が補足する。

 

「…ガンツ? ガンツねぇ…」

 

フムと口元に手を当てるメガネ。何か思い当たるよーだ。

 

「人間…にしか見えね―けど。あんなとこに収まってる時点でフツ―じゃねーよな」

 

北条も黒球を見て呟く。

人(?)ひとり入ってるのに装備が飛び出すところからして変だ。

開く前は中に居ないのかもしれない。

 

「じゃあさ…。誰なの?この会の主催…」

「会…」

「会って…集まりには違いないけど…なんだかなー」

「やっぱ、ガンツじゃね?お前らはたしか…3回目なんだろ?ここに呼ばれるの」

 

加藤を見る北条。

 

「へぇ…」

 

もう一度、黒球へ振り返るメガネ。

 

「あの玉に出てたように、これからその服着て武器持って、なんとか星人殺しに行くわけ?」

「…はい。そーっす…」

「なんとか星人って…あれ何…? 宇宙人?」

「…たぶん…」

「前回の星人はあきらかに今の技術ではムリそーな装備だったけど宇宙人、なのかなぁ?」

「そんなこと言ったら俺らが今着てるこれとかもオーバーテクノロジーだろ」

「! これが?」

 

「はっ」

 

加藤たちの会話を鼻で嗤う新規中坊。

念仏唱えながら聞き耳を立てていたらしい。器用ね(笑)。

 

「んだそれ?宇宙人ってかよ」

 

その隣でニヤニヤするラッパー。

~星人だから便宜上。「宇宙人」が気に入らないなら「クリ―チャ―」や「UMA」でも可。

 

「…さっき、そこの玉がレーザーで人間を描き出すとこを見たろ。

 あんなこと今の人間の技術で出来るか?それとも神か仏の仕業か?」

 

スーツケースを見てちょっと嬉しそーになった顔を無表情に戻し反論するメガネ。

ラッパーたちの嗤いが消える。

 

「僕が思うにこの玉は何かSFに出てくる転送機 みたいなモノだ。

 人が死ぬ瞬間、別の空間に移動させる機械…」

「はっはっ。バカバカしい…」

 

新規メガネはSFがスキなのだろう、鋭い見解だ。それを僧侶が笑い飛ばす。

 

 

 

「あっ」

 

北条が頭頂部から消え始めた。準備時間終了。マンガと同じく全員スーツ着用成らず。

 

「始まったぞっ」

「どこだよ…ここ」

 

狩りエリアの建物に見覚えが無いのだろう 目元まで輪切りにされた北条が呟く。

彼は棒立ちだ。とりあえず転送先に危険は無い様子。

 

「見ろ…地獄に堕ちるぞ…。あいつらは…」

 

消えていく人間を見て吐き捨てる僧侶。それが聖職者の言うことか?

頭頂部から徐々に、スライスされるように消えてゆく人体を新規メンバーは無言で見つめる。

 

「早く!!全員この服着てくれ!!死ぬぞ!!」

「着るかよ…ダッセェ」

「オタクっぽくて気持ち悪~ぃん」

 

加藤が必死で怒鳴るがラッパーと新規中坊は拒否。半分意地になってるのかも。

まぁ今回はボス攻略を失敗したら着ようが着てなかろーが全滅だ、どっちでもいいよ。

 

「念仏が止まってるぞ」

「つか…念仏、もういいや」

「俺ん家キリスト教だし~」

「!?…」

 

合掌を解きダラける2人。念仏に飽きたのかバカらしくなったのか

それを見て動揺する僧侶。…なんで動揺?念仏人口を増やせば解脱出来るとでも思ってた?

空手着とリーマンは神妙に手を合わせている。空手着外国人は無心って表情だけどリーマンは蒼褪めて、かなり必死だ。マンガの僧侶へむかって彼は「念仏唱えても極楽に行ける自信が無い」というようなことを訴えてたっけ。…何したのさ?

 

「お…」

「あり?北条は?…転送始まッてンのか」

「外に移動するのよね?」

「ああ、そンで先ず星人探して…。変なバケモンがたくさん出てくるかもだけど

 俺たちで何とかすッから。最初は見てるだけでいーから」キリッ

「う…うん、わかった」ポッ

 

加藤の台詞は、着替えから戻ってきた玄野に遮られた。

おい安請け合いするな。今日の星人も今までのミッションと同レベルなターゲットだと思ってるなら人生そんなに甘くないぞ。「平和ボケ」という名の病は2回ぽっちの経験じゃ治らないようだな。

玄野の後ろに付いて戻って来た美女(顔の小ささと理想的な体型がガンツスーツで強調されている。身長は170くらい)はスーツの首部分を弄る彼の横顔をガン見。

そんなに主人公の顔がスキか。

 

「…」チラッ

 

何故かこっちを見た後、溜息をひとつ吐き加藤がラッパー達の前まで歩いて行く。

そっか、スーツの力を見せるのね。今の目線はアレか?私も何かしろと?

何を?

 

「!?んだコラ…」

「…」

「…」

「…?」「…」

 

加藤がラッパーと新規中坊を両手に…ブラ下げないな。仁王立ちで見おろしている。

何がしたいんだ?相手も意図が解んなくて困ってんぞ(笑)何か言えよ。

残念ながら成り行きを確かめる前に

 

景色が変わった。




玄野の居眠り現場をみた加藤は、オリ主と玄野はお付き合いしていると思った。
桜丘もそう思ったので着替え中玄野に確認した。フリーならばアタックあるのみ。
ロリ巨乳好き「この前も同じコト訊かれたような…なンでそう思うンだろう?」
他のメンバーたちはカップルの存在に興味が無い。


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あば&おこ編④

前回のあらすじ:
ついに(狩り場への)転送が始まった。
(ガンツスーツの防御力しか知らない)加藤はラッパーたちの目前で仁王立ちし「俺を殴れ」的なことを言った。
そして無視された。



夜、路上。

歩道に面したコンクリ製階段の上に立派な大門…二重門が建っている。扉の両脇に仁王像。

軒下に看板。

 

“羅鼎院”

 

閉ざされた門扉に拒絶の意思を感じる、って何してんの?あいつ。

転送トップの北条が扉にくっついている。

私が近付いたら奴は振り向いて目を逸らした。

え?隙間から中が見えないか覗いてたって? 暇か。

おっサダコも来たな。彼女はこっちの位置を確認すると素早く門の下から降りて階段の横に隠れた。良い動きだ、あ奴スーツを使いこなしておる…じゃないよ。

恥ずかしがってる場合かっ、今の内に告白したまえっ。思いの丈を詳しくっ。

今日のミッションはマジでヤバいから。最後のチャンスかも。

 

「…」ジー…

「!?」ビクゥッ

 

サダコの視線に気付き怯える北条。ビビりすぎ(笑)。

…。

無理か。北条と2人きりじゃないとサダコは一言も喋らないんだった。

なんで転送順、北条とサダコの間に私を挟んだかな~ガンツ~。

結果はみえてるけど他人の告白って観てみたくない? ガンツとそのお友達は見飽きてるのかな? たしかに頻繁にありそーではある、ミッション中の告白イベント。吊り橋効果だね。

とか思いつつ私は階段横の駐車スペースにある普通車の陰へ移動しコントローラーを操作した。

 

 

 

(みんなー、ここから離れないでくれーっ)

 

加藤の声が聞こえる。

転送されたメンバーへの指示だ。新規メンバーにとって重要な内容である。

そろそろ僧侶も来るかな? 奴が転送ラストだったよね。

私は門扉の内側に立ち周囲を警戒している。やる事があるので一足先に侵入した。

扉越しの指示は無視だ、わるいね加藤。

え?どーやって入ったのって? それは、フツ―にジャンプして。着地するまで周波数変えてたから門番に気付かれてないと思ふ。門扉を破壊して侵入とか野蛮だよ(笑)。

はずしたはいいが、どこに置こっかな~

このカンヌキ。

 

「外の2体ってさぁ…」

 

!!

ガランッ ガランッ

私は恐る恐る声のほうへ向き直る、が誰も居ない。植え込みの葉が微かに揺れている、

…。

お化け?幽霊??ゴースト???やっぱ寺には……出るの?

怖ぇ~…

 

「門番の仁王だよな?指令の奴って」

 

…なんだ西か。

ビックリしたなぁもぉ。突然背後でしゃべるなよ~肝試しじゃないんだからさぁ。

カンヌキ落としちゃったじゃん。壊れたら弁償できないよ~…する気は無いけど。

 

「…そーですね~」

 

私はカンヌキを拾いながら透明人間の問いに答える。

すると外の声が聞こえた。

 

(なんだ?今の音)

(こん中じゃねーか?って開くぞ、これ。…おかしーな、さっきは閉まってたのに…)

(おいおい待てッて!なかッ何か居るかもしンね―から)

(そーだよっ ターゲットは仁王っぽかったし、きっとこの寺院が奴らの巣だよっ)

(いや、でも開けてみねーと始まんねーし)

(それは、そーだけど…)

(何、門の中に入るの? ここにいる奴じゃないの? なんとか星人って)

(!!)

(おぉ…)

(え~…これぇ?)

(マジかよ、コレ動くのか?)

(いや…でかすぎる、こんなの今まで遭ったことない…)

(だよねぇ。これは…さすがに)

(前の鳥の倍以上はあるな)

(違うかなぁ~)

(レーダーはどーなってる?)

(…反応は、この中だな)

(何か確かめる方法 無いの?)

(なら、コレで…。あ)

(…!)

(加藤?)

(まっ 待ってくれっ 帰らないでくれっ 戻って来いっ)

(ああっ!) 

(うっ)

(うわァ、またかよ…)

(おいっ あいつっ どーしたっ)

(死っ 死ぃっ!?)

(あの人…どうしたの?)

(あ~。えッと言い難いンだけど…)

(それ以上進んでみろっ あいつと同じにっ 頭がふきとぶぞっ!!)

 

…。

マンガと同じく帰ろーとした誰かが犠牲になったらしい。

あ~ぁ。加藤が「ここから離れないで」って言ったのに無視するから~。

エリアアウトで頭破裂するって、どう説明しても新規メンバー…実際に破裂を見てない、警告アラームも聴いてない人に信じてもらうの難しいなぁ。

辺りが静寂に包まれる。

私は無人の境内を歩み塀際の木陰へ向かった。

 

 

 

羅鼎院の広い境内に立派な伽藍が並ぶ。

二重門を入って右に鐘楼。門から真っ直ぐ伸びた参道の先に大仏殿。その右隣に庭園、奥に五重塔。大仏殿の左隣に金堂。それぞれの木造建築を石畳の参道で繋いでいる。各所に照明があってかなり明るい、もしかして防犯カメラ作動中か?どこにあるんだろう?

大仏殿の正式名称もなんたら金堂だけど、金堂はその寺院の本尊を安置する建物なので一番強力なターゲット、ボスが居る建物を金堂と呼ぶことにする。

 

マジで5体並んでるよ~

塀を背に木陰で座って金堂へ向けたXショットガン。そのモニターを見る。

前列3体後列2体の骨格が並んでいる。今回のターゲットは展示された仏像に擬態しているのだ。広い建物だが他に骨格…生物は居ない。前列のセンターがボスだったね確か。変な姿勢で座る骨格の周りにモジャモジャと放射状に輪郭が付いている。ターゲット共はポーズを維持し動かない。人目が無くても仏像のフリし続けるなんてタイヘンねぇ。

って、あれ?だとすると防犯カメラにターゲット映ってるのでは?

映らなくても定位置から消えているのが記録されたら困るよね? あるのか?引越し先。

 

(逃げろ逃げろぉっ)

 

お、

 

(うあああっ)(中に逃げろぉっ)(早く、あけろぉっ)

 

ギギギギギギギギギギギギ…

 

「早くっ早くしろぉっ!」

「うああああ!」

 

ドンッ

 

外に居たメンバー達と偽仁王が門から入って来た。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

加藤がYガンを向けた途端、仁王像は動き出した。

自らを囲ッていた柵を蹴り砕き俺たちを踏み潰す勢いで近付いて来た巨体。

慌てた連中は扉を押しあけ我先にと門をくぐり正面の大きな建物まで駆けた。

砂利と石畳の広場には幸いなコトに待ち伏せする星人の姿は見当たらず無人。

逃げる途中スゴイ音と共に両足が地面を離れ、いや背後からの圧力ッつーか…風だ。

ありえない強風に吹き転がされた。あのデカイ星人共の仕業だ。勿論俺も驚いた。

風で人体が浮き上がる、なンて初めて見たし体験したぜ。フツ―に暮らしてたら味わえない感覚にちょッと興奮した。奴らに殺意が無いなら何回か飛ばされるのもいい。怪我無いし。

スーツ着てない奴は痛そーだな。加藤があンなに言ッたのに着ない奴が悪い。

 

「ざけんなっ!あんなの勝てるかっ!」

 

新規メンバーの1人が喚く。

だからァ、スーツ着ないと……まァいいや。

 

「おわぁっ!!」

 

大きな建物に到着。

その正面、階段の最上段で踏み止まり北条・加藤・山田が巨体と対峙するも銃撃前に加藤が爪先で蹴られ戦線崩壊。ソレを見てひッくりかえる山田、じゃないな誰だ?あのメガネ。

仁王の1匹、あばれんぼう星人はこッちの武器が恐くないのか加藤たちが銃を向けても攻撃をやめない。ねぎ星人や田中星人の3倍以上ありそーな図体にも効くよな?この銃。

ダメだッたら無理ゲ―じゃん。

加藤は出入り口付近に背中で着地、すぐに起き上がる。

腹への衝撃もだがかなり飛ばされて固いコンクリに叩きつけられたのだ、フツ―なら大ケガだろう。やはりこのスーツは星人の攻撃を含めダメージを無効化するらしい。

スゲェ装備だ。ビビッてる場合じゃねェ。

 

ドンッ

ドゴーンッ

 

虫を潰すように拳を落とし続けるあばれんぼう星人。砕けた階段の欠片が散る。

「欠片」と言ッてもバスケットボールくらいある凶器。

 

「あ”あ”っ」「うあ”ぁ」「だっだぁっ」「あ”あ”あ”あ”あ”っ」

 

逃げ惑う奴らの悲鳴がうるせェ。

今のところ生身連中も含め誰も潰されてない。田中星人と比べたらかなりノロマなターゲット。なンだよデカイだけじゃん。デカイだけ…

加藤は座ッたまま、俺の隣に立つ女…桜丘も巨体のバケモノを見つめる。

 

ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ

 

『計ちゃんマジカッコイイよ。

 悟空とかケンシロウより、俺絶対いつか計ちゃんみたいになりたいよ』

 

加藤が、子供の頃ヘンなこと言ッてたな。今思えば無謀な俺を褒めていたンだ。

ケンカの強いガキ大将や徒党を組むイジメッ子に屈しないヒーロー。

そうだ…あの頃の俺は…今とは違ッた。

苦境を愉しみそこを乗り切ッた時のヒーロー的な自分の姿を想像して興奮していた。

そしてその通りになッていた。

アイツを倒す映像は浮かンでる。

ヤッてやる!!あン時みたいに!!

俺なら

 

勝てる。

 

 

 

=========

 

 

 

ギギィー 

バタンッ

 

開けっ放しの扉って妙に気になるんだよねぇ。

門扉を閉め金堂を眺めていると横手から音が聞こえた。

砂利を踏む様な音だ。しかし歩いている姿は無い。足跡も、よく分からない。音が止む。

…まだ居たの?西センパイ。

 

「暇ならアレとか倒してきては?新しい武器の試し撃ちに手頃だと思います」

 

ほどよい巨体だし、と鐘楼の横に居る偽阿形像(おこってる方)を指す。

大仏殿前が騒がしいので奴は門付近の私に気付いていない。

膝をつき左掌を砂利に擦りつけている。僧侶は退場した様子。

 

「ザコに興味無い。クロノ達がヤるだろ」

 

誰も居ないほうから返事が返って来た。

ちょっ(笑)何そのセリフ(笑)まるで強キャラだな(爆)そーいや隙を見て高得点を掠め取るのがセンパイでしたね。どうやってボスに突っ込ませよう、と思ってたけれど「金堂だから高得点ターゲットが居るかも」と言えば自主的にいってくれるか?

 

今回のミッション達成唯一の障害と言える金堂内のボスは、でたらめである。

序盤で出てくる敵キャラのスペックじゃない。マンガなら、フィクションなら敵キャラが理不尽なほど強力なほうが話が盛り上がるし面白いけど現実でそんなのに遭いたくない。

先ず防御面。

再生(破損部分だけ時間を巻き戻す)能力がある宝具を持っていて、それが破損しない限り頭部だけでなく例え全身を破壊しても数瞬で復活する。誰にでも使えるんなら是非とも欲しい装置だ。でもムリだろうなぁ、他のターゲットを再生する素振りは無かった。

スーツで強化した膝蹴りを顔面に受けても凹んでいなかったことから(蹴ったのが武術素人帰宅部の玄野だったことを差し引いても)素でかなり頑丈と言える。

次に攻撃。

その手段は剣と酸(左手に持つ瓶内の液体をぶっ掛けてくる)それとレーザー。とくに恐いのはレーザー、その射程は50m以上ありそう。門の下に居ながら金堂屋根のゴルゴを狙撃・追撃してたので。だとすると完全に射程内なんだよなぁ私たち。態々室内から見えない相手を狙わないと思うが金堂方向には常に注意が必要だ。しかも3種類の攻撃全てがガンツスーツを一撃で貫通する威力。それと杞憂であってほしいが、マンガで使われなかった宝具の性能も気になる。思いもよらない攻撃手段・特殊能力があるかも知れない。

最後は索敵(感知?)能力。

透明人間をバラバラにしていたので、耳に付いたり頭部にのっている「顔」の目全てが機能して周りの違和感を見逃さないのかも。または宝具による特殊能力の1つ?

処刑人のスペックは大体こんなカンジ。マンガで読み取れた限りは。

本当に遭いたくない。

 

こんな盛り過ぎターゲットにもフォローというか救いというか、弱点というか…謎の隙がある。再生能力があるからか、こちらの攻撃を回避しないこと(カウンター攻撃はあったけど)。

金堂に入らなければ率先して出て来ないことだ。

ビルが倒壊しているよーな騒音から侵入者の存在を知っていた筈なのに、金堂をメンバーが訪ねるまで参戦しなかった。こっちを油断させる作戦だった、あるいは定位置から動くと後が面倒なのだろう。だからギリギリまで出張らなかった、と考えられる。

なので会敵前に潰す…100点武器で建物ごとペシャンといくのが妥当かな。実に勿体ない。

西が消えてるので外装すらわからない“より強力な武器”はマンガのアレだよね?標準装備の機能がマンガと同じだし1回目の100点武器はアレの筈。違ったらYガンでなんとか…

あ、Yガンだと囮が必要だ。Xガン類と違い透視ロックオンできないもの。

囮か…。マンガと同じく金堂の屋根に居るゴルゴ(仮)に頼もうか。彼はマンガでレーザーを避けていた。

それにしてもどーやって登ったんだろう?生身なのに(笑)。

 

(ぉぉぉおおお!!)

 

お。漸く彼が活躍するらしい。

 

 

 

『う”お”お”お”お”…お”お”お”あ”あ”あ”』

 

玄野が巨体の足元をチョロついて見えなくなったと思ったら偽吽形像(あばれてる方)の背丈が減り空気が軋むような悲鳴が響いた。

手足が痛い痛いですね。

 

(やれるぞ!!やれるぞ おいっ!!)

(ぉぉぉぉおおっ!!)

(計ちゃんっ!!これ使えっ)

(ぅぉ…うおおお殺せっ!!殺せ―っ!!)

(やれっ!!)(殺せっ!殺せっ!)

 

あれ?Yガンを使ったのか。階段で四つん這い(?)になっていた巨体が消失。

玄野の手並みが鮮やかすぎて手を出せなかった門番の片割れ…偽阿形像(おこってる方)が右側の鐘楼から中心の参道へ移動し大仏殿を向いて仁王立ちする。

 

(行くぜ おいっ!やれんぞ!!殺れる!!殺れる!!)

(うぉおお!!行くぜ!おらぁっ!!)

 

おこりんぼう星人の股下から駆け寄る玄野が視える。それを追うメンバー達も。

英雄を追って最初に走りだした迷彩服は左右に一丁づつXショットガンを持ち両手が塞がってる&ガニ股なので後続全員に追い抜かれた。でも愉しそう。

 

(ぉおおおおお)(行け 行け 行け)(足を潰せっ)(殺せっ!殺せっ!!)

 

『ぬんっ』

 

ヒュ…

ビュオォォォオオオオオッッ

偽阿形像の左腕一振り。

風だ。

門前から大仏殿へ逃げたときと同じヤツ(私は塀際に居たから影響無かった)。

あのときはどっちがやったのか判んなかったけど。奴の特殊技なのかな?

風圧で吹き転がされるメンバー達。ターゲット後方の私にも微風。生身でくらっても(転んだ際に)擦り傷ができるかな~?ぐらいの攻撃だけど見た目は派手ね。

 

(なァッろォッ がォォおおッ!)

 

体重が軽いからか、偽阿形像に近いほど風の影響を受けるのか、先頭から最後尾へ吹き飛ばされた玄野が起き上がり謎の咆哮をあげつつ再突撃。

他は寝転んだまま。

 

『ぬ”あっ』

 

バガッッ

 

「!?がッあアああァ!!」

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ… 

ギギ ギ

2度目の強風を堪え更に間合いを詰めたものの横手から金剛杵を食らい玄野の動きが止まる。

力比べする両者。

 

「計ちゃんっ」

 

キュンキュン キュンッ

ザザッ

『!?』

ガッ ガッ ガッ

 

加藤のYガンによって偽阿形像の腹部と肘辺りがワイヤーでまとめられ、アンカーで固定された。玄野を打つため丸めていたターゲットの背筋がちょっと伸びている。

でかい獲物だと、ただの拘束も見応えある~……不安なカンジで。

巨体に対してアンカーセットの小ささが心許ない。

 

「大丈夫か!? 計ちゃんっ」

「クロノくん!!」

 

ターゲット拘束時、内側へ引きこまれた金剛杵に引き摺られ、その股下に倒れた玄野を心配し駆け寄る加藤と美女。スーツの強化でマジ走りなのか、ちょー速い。音スゴイ。ブレーキをかける靴底が石畳を削り、その礫から顔を庇う玄野は起き上がれない。

 

……あれ?

 

「あれって…」

 

後方から聞こえる呟き。透明人間も同じモノを見ているようだ。

ターゲットにゴルゴ(仮)の銃撃が無いことと関係が?とか思いつつ金堂へ視線を向け、

 

気付いた。




視点変更:オリ主→玄野→オリ主
加藤と同様ガンツスーツの防御力しか知らないが積極的な玄野。
オリ主「さす主(たくさんためてね経験値)」


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あば&おこ編⑤

前回のあらすじ:
順調にターゲットをヤッつけていたら何か来た。



羅鼎院、境内。

 

左側に伸びる参道を一団が歩いて来る。

 

現代日本にそぐわない唐甲冑姿の厳つい4人組と、その中心に半裸の1人という組み合わせ。

まぁ、境内でメカメカしい全身タイツ着て彷徨く私たちのが場違いだけども(笑)。

なんて考えてる場合じゃない。あの一団は金堂内に居た奴らだ。 

まだ出番じゃないでしょ君たち(笑…えない)。

何故、建物内で待ち伏せではなく外を闊歩してんだ……

分からないが、何をしに来たかは明白。

 

メンバー全員……玄野がボスの視界に入っている。

 

 

 

===■■====

 

 

 

「あいつらか?さっき見てたのって」

「…」

 

俺の質問に答えずターゲット共を見つめる佐藤。無表情でガン見だ。

…。

あの5匹が建物から出て来たのだとして驚くようなことか?

営業終了後の境内が騒がしければ様子を見にも来るだろう。

初期位置から動かない、決められた行動しかしないTVゲームのモンスターではないのだから。

住処を荒らされた星人の反応としては普通。

 

「おいっ」

「……く…ない」

「は?」

 

仏像達を見つめたまま佐藤は何か呟き一歩踏み出す。

正面から突っ掛かるつもりなら無謀だ。5体1だぞ、正気か?

 

「…は死なせない。今のあたしなら…」

 

ガチャッ

佐藤は歩きながら、ホルスターに吊った武器を…何度かボタンに指を滑らせながら抜き構える。頼りない動作。考えと行動が一致していないような…

 

小柄な背中を見送る。

 

…あいつ 死ぬつもりか?

 

 

 

=========

 

 

 

Yガンの射程は約10m。

もっと近付かないと捕捉できない。

…最初に思いついて却下した方法を試すことになるとは、わからないな~人生って。

 

つーか、どーなってんの?

 

ボスと玄野たちの位置を確認しヤバいと思ったとこまでは覚えている。

気付いたら既に一団との距離が12mほどになっていた。

何これ瞬間移動?なんで私はボスに近付いてんの?接近戦とかバカなの?

でも今さら退れない、やるしかない、逃げられない。って、あれ?なんでXショットガン持ってんだ。私は周波数を変え狙撃武器をポイした手でYガンを抜く。

レーザーと4体の手数を避けながら捕獲なんて絶対ムリ。

 

私(?)は玄野たちが居る場所の反対側からボス共に近付いていた。

急ぎ周波数変えたけど周りの厳ついSPに気付かれ、てるよね~さすがに。

小島の目立たないスキル(笑)が効いてればあるいは?

…いや無い無い。ジリジリと進む。

 

そろそろYガンの射程内だ。SPで死角が増えて狙い難い。一団の歩みが止まった。

 

げっ

 

 

 

===■■====

 

 

 

ピカッ

 

全ての衆生を漏れなく救済するとかいう複数の腕を背負い、頭部にも複数の頭を載せた特徴的な仏像、千手観音…に似た星人の背に並ぶ腕のうち左側の掌のひとつが、いや掌に載った何かが短く光る。

 

ジッ

 

境内に敷き詰められた砂利を溶かし裂くのは光の帯。石の断面から気体が浮かび、すぐに消える。

レーザーか!!

あいつ…佐藤は倒れない。レーザーの狙いが甘かったのか或いは…

 

ジッジッジッ

 

連続で仏像の間をレーザーが通る。

千手を守るように囲む仏像はそれぞれ顔の色が違い、レーザーは赤顔と肌色顔の間を4回。緑顔と赤顔の間を2回走った。

 

ザザザザッ 

ダンッ

ザザッ

 

砂利が地面を離れ 石畳が割れる。仏像共は音がする度に視線を向けるがその場を動かない。

千手のレーザーは動き続ける不可視の敵を追う。周波数を変えても千手から隠れられないらしい。厄介だn

 

ジュンッッ

 

目前をレーザーが過り門柱から煙が

……

少し離れよう。

 

 

 

=========

 

 

 

ジッジッ ジッジッ

「はっ はぁっ はぁっ ほっ」

 

予想通り、偽四天王が邪魔で横薙ぎレーザーが封印されている。

でもそれが何だっ。

全く楽じゃないっつの。全然見えないってのっ。運の所有量があるんなら、そろそろ使い切っちゃうよっ。

ゴルゴは何でこんなの避けれたんだ? なんで退場してんだっ。ここのゴルゴは生きてるけどっ。マンガではこんなに連続使用してなかったのにっ。

エネルギー切れ とか冷却時間 とか無 いのかい あのレーザー

 

「佐藤さんっ」

 

ババンッ

 

は?

 

 

私から見て偽千手ことボスの後方で暇そーにしていた偽多聞天の左肩が爆散した。

かろうじて胴と繋がっている頭部が背中側へ下がり、

 

バタッ

 

倒れる。誰かが助力に来たようだ。

 

加藤だった。

 

 

 

参戦した加藤を見つめる仏像は4体(ボス含む)。

彼はYガンを構えボスを睨む。Yガンってことはさっき偽多聞天を仕留めたのは別人か…

 

「佐藤さん?佐藤さん!?」

 

解ってると思うけど、それ佐藤さん(偽名)じゃないからね?千手さん(仮名)ですから。

って私のこと視えてないのか?…そーだよね未だ周波数戻してない。視えていたらおかしい。

でもそれなら何故来たんだ?どうしてこの事態に気付いたの?そして他人の名前連呼? 

プシュッ

 

…ま、いいか何でも。助かったし。私はトリガ―を引いた。

 

 

 

『きょ―――――っ きょ―――――っ きょ―――――っ きょ―――――っ』

 

ワイヤーで拘束されたボスが啼く。

偽千手の真手(フツ―に肩から生えている腕)も脇手(背負ってる複数の腕)もワイヤーでコンパクトにまとめられ胴にピッタリくっついている。

脳ミソ食ってないボスの言葉は理解できないな~。

やっぱ「離せ―」とかかな?言ってんの、ステルスを解いた私に向かって。

 

「少し黙ってくださーい」チャッ

『ぬぬ”』

 

再びYガンを構えると唸り(?)声で驚愕を表すボス。

再度トリガ―引くとどうなるか知って、るわけないよね。

…こいつの手足を全部引き抜いて頭上から酸をかけたい…そんな衝動が湧いてくる。

何故だろう?すごく憎らしい、仏像は嫌いじゃないんだけどなぁ。

ボスの凶悪な宝具は無傷だから宮殿(=レーザー出す装置)が使えないことも無い。隣接する他の宝具や胴部・大腿部を諦めれば。

運悪く逆行装置が壊れたらそのまま死にそうだし先ずやらないだろうけど。マンガでも拘束中はレーザーを使わなかった。

あのときはクリ―チャ―の精神が変質していたから同じように考えるべきではないが…

 

SP四天王は全滅し周りに倒れている。

それぞれ身切れていたり首が変なところで曲がっていたり。

 

「ハァッ ハァッ 桜丘ッて…何かやッてンの?」

「うふ」

 

明りの横でしゃがむ玄野に美女が笑いかける。

桜丘の技術はキックボクシングだったか「試合にも出てる」とマンガで言ってたが初段以上?

だから胸に話しかけるなら相応の覚悟が必要よ?玄野くん。

そんなんだからモテないんだよお前。いやモテなかったんだよ、か正しくは。

茶髪の無遠慮な視線を彼女は気にしてなさそう。

あのあと加藤を追って来た2人に四天王の残り3体は瞬殺されてた。

 

さて、折檻しようにも道具ないし、そろそろ潰しても~らお。

 

「にーしくーん」

 

……

返事が無い、ただの屍のようだ(笑)って、あれ?おかしーな。

 

「西くーん?! おーい!! 西丈一郎さーん!! 居ないんですか~!?」

 

「声でかっ。誰だよ?西?」

「さぁ?死んだ奴じゃね?」

 

かわりに聴こえるのは新規中坊とラッパーの会話。

なんとっ あいつ退場したの?いつの間に?まさか……流れレーザーで?

 

バチバチッ バチッ

「ぅお!?」

「…」

 

3mほど離れ千手を観察していた加藤の後方に西が現れた。こっちを見ている。

いや周波数は戻さなくていいよ返事をもらえれば。

あと加藤を盾にしてもレーザー防げないと思ふ。マンガ通りなら余裕で貫通するし1ターンでバラせる出力。

盾(笑)は驚いて西から距離をとる。

うん100点武器持って来てるね、よしよし。

 

「…なに?」

 

こっちを見てお返事するセンパイ。

声低いな~怒ってる? 大声で名前呼んだから機嫌わるいの?

仕方ないっしょ~どこに居るのか視えんのだから。周波数変えて探すのメンドい☆

何にしても、そう怒らないで。良い話があるんスよ。

私は偽千手を指す。

 

「それに100点武器撃ってください」

「…」

「なンで?捕獲銃で送ればイイじゃん」

「ああ、さっきの…。送るって、どこに送ってるの?」

「さァ?ドコだろ。アイツは『上』ッて言ッてたけど」

「上かぁ」

 

西が答える前に玄野と桜丘が割り込む。

茶髪はこっちを目線で指してから彼女と空を見上げた。今夜も星は視えない。

 

「強力な武器の威力、みてみたいな―と思いまして。

 それにそいつ、ボスっぽいし配点高いと思いますよ? ね、お願いします」

 

100点武器がマンガと同じ性能か確かめたい。拘束成功したからYガンで充分だけどな。

転送途中にマンガと同じ事態になっても再度拘束すれば済むだろうし宝具を使えないならどーとでもなる。

 

「…別に、いいけど」

 

わーい。

 

「は?コイツがボスなの?門番やッてたのより小せーのに?」

 

千手にちょっと近付き目を細める玄野。

大きさは点数と無関係みたいよ?偽仁王より偽四天王のほうが手強く、なかったのかな?

 

「見物するなら10m以上離れてくださ~い!ほら、玄野くんも」

 

お前だと13歩以上な。さっさと離れろ。

100点武器の一撃でスーツ壊れると思ったほうがいい。それ以上の威力もありえる。

 

大仏殿の階段横と塀際へ分かれスタンバるメンバー達。

デスクトップパソコンの本体を2つくっつけたようなゴッツイ武器、Zガンを千手へ向ける西。スーツアシストがあるから片手でラクラクです。そのままターゲットから5mの位置まで下がり背後をゆっくり移動する。

ZガンってXガンの豪華版かな?射程短いのに効果範囲広いとか扱い難い武器だ。試し撃ちで自爆したヒト居たりしてね。西がガンツに呼ばれ1年の間Zガンとった人って東京チームに居たことあるのかな?100点武器と一緒に取説とか貰え、ないか。そこまで親切じゃない。他チームとの情報交換で性能を知ってるの?

 

(とむゆ ぬぬすゆぐん ずぶつくるす)

 

「?」

 

立ち止まる西。

何だって?今なんつった?仏像語(?)か。

 

『きょ―――――っ きょ―――――っ きょ―――――っ きょ―――――っ』

 

再び啼く千手。なんとなくさっきより本気っぽい声だ。

 

「佐藤さん、やっぱり転送に…」

 

困ったような表情でこっちを見る加藤。彼は偽千手の扱いに不満な様子。

ですよねー。きみならそー言うよねー。拘束しといて実験台にするなんて悪者の所業だわ

 

バキッ 

カラ カラ

 

あ。

 

(!?)(今度は何だ)(うおっ)

 

音の発生源は大仏殿。建物を見る玄野たち。

 

ベキベキベキベキ ベキベキベキ

 

大仏殿入口から巨体が上半身を出した。

 

 

 

バキ バキバキ ガラガラ ガラ

 

惜しげも無く大仏殿の貫・柱・梁を破壊し、かなりデ…固太りな超大型仏像こと偽大仏が直立する。もう入口は見る影もない。

 

ガラガラン パキッ ゴンッ パキッ ガラ ガラガラ

 

支えを失い屋根が撓む様に崩れる。瓦が雪崩れていく。あ~ぁ勿体ない。

大仏は顔が約5mで座高が15mだから直立したら25mくらいだろうか。

門番をしていた偽仁王の3倍以上だな。

 

(!?なんっ…じゃ…ありゃあ)

 

大仏殿正面の参道に新規中坊と2mの人影。妙に頭が大きく変なポーズをとっている。

ザコ仏像も出たのか…

彼は抗戦中(?)のターゲットに背を向け、ありえない巨体を見上げる。

ミッション中に余所見とか危ないよ―?

 

大仏殿ひだり階段横に玄野・桜丘・メガネ・北条…サダコはどこだ?

塀寄りに加藤・山田・私。

閉まってる門際に子供が座り込み老婦人はカンヌキへ手を。足手纏いが入ってくるから止せ。

新規中坊の向こう側でチラついてるのはラッパーか。

上着の裾を翻す彼は長柄持ちのザコ仏像相手にがんばってる様子。

迷彩服と空手着は見えない。他のザコ仏像とじゃれているのだろう。

 

想像よりデカイよぅ偽大仏~。踏まれないうちにアレ何とかしないと…

 

ギギギギギ

中層(←高層は31m以上かららしい)建築のような巨体が地上の虫…メンバー達を睥睨する。

虫は言いすぎた。人間とハムスターくらいの差かな?

あ 止まった。

…西と偽千手を見ている?

 

「…うそ…でしょ…」

「あんなの…どーやって…」

 

雲をつくような、とはこーゆうことか。山田と加藤が偽大仏を見上げプルプルしている。

気持ちは解るが諦めるな、あいつ実は5点のターゲットだぞ。田中ロボと同じだ。

…配点低くないかって? 私もそう思うよ。




視点変更:オリ主→西くん→オリ主→西くん→オリ主


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あば&おこ編⑥

前回のあらすじ:
大仏(星人)はデカい。千手(星人)は放置。




===◇○○===

 

 

 

羅鼎院。大仏殿前。

 

「おいッオマエ 踏まれンぞ!逃げろ!」

 

そンでスーツ着ろッ、持ッて来てたろ?

 

「お…おお」

 

髪の逆立ッた仏像の拳を避けていた男は返事をすると鐘のほうへ駆けて行く。

その先には別の新規メンバー。仏像から奪ったのだろう槍?を振り回している。

…スーツ無しでスゲーなッ、と。

去る男と俺を交互に見る仏像の顔面を走る勢いのまま一撃。

気がかりな地響きの主はゆッくりと階段を下りて来る。

図体のぶン鈍重なのか歩幅のワリに移動が遅い。

殴り倒した仏像を視ると顔面が陥没していた。5匹1セットで出てきたさッきの仏像もXガンでヤッつけたから気付かなかッたが星人ッてワリと脆い? 挨拶代わりで致命傷かよ。

ソレはそーと、反則だよな~あンなデカイの…

見上げると大仏は俺を視ていない。好都合だがドコ視てンだ?

 

「桜丘は生身の奴らのフォロー頼むッ 俺たちはアレを…ヤるぞッ」

 

俺は銃口で大仏を指しながら新規のオッサン・北条・サダコを順に見る。

 

「ま…?」

「…しょーがねーな。足狙えばなんとか」ガチャッ

「…」チャッ

「ちょっと待って…。クロノくん…」

 

腕と肩を引かれ胸に軽い圧迫感。桜丘に抱き締められた。スーツは便利だが、損した気分。

…。

じゃねーよ!何?コレ。どーいうk

 

「絶対、一緒に帰るんだから…約束…」

「あ…」

 

桜丘は返事を待たず、さッきの男を追ッて行ッた。

…。

いや、ミッションに集中しろ俺。

 

今「死亡フラグ」ッて呟いた奴…ぶン殴るぞッ!

 

 

 

=========

 

 

 

ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン

 

一斉に玄野たちの射撃が始まった。

何故か偽大仏の足元を囲み、それしか持ってないメガネ・北条・サダコに合わせているのか腿のホルスターにXショットガンをキープしてる玄野もXガンでくるぶしや足首の表面をチマチマ削っている。ヒトが脚に500円玉大の傷を複数つくったら歩けなくなりそうだが偽大仏は気にせず歩き続ける。「ンだよ、コレ!全然火力足ンねェぞ!」ってやる前に気付け。

と思っていたら突如降る両手。偽大仏の前屈だ。

参道に叩きつけられた掌の下には……

偽大仏の左手を見てサダコがペタリとくずおれる。潰されたのは北条か

 

ドドンッッ

 

腹に響く音と共に悟り顔が消失した。

 

 

 

正確には頭部の三分の二が縦に削られ無くなった。ついでに右肩から先も。

断面から血潮がザァザァと降る。まるで…いや滝そのものだ。

右掌があった場所に巨大なミステリーサークル。砂利の地に赤い池って…グロッ。生臭いし。

畑にあるよーな長閑さは無い。ってゆーか、あの一帯が地獄を模したテーマパークのよう。

とめどない血の滝を眺めメガネは腰を抜かしている。

ひゃー、Zガン凶悪~。

偽千手の背後に居た西は偽大仏の近くへ移動したのだろう、また周波数変えているらしく見当たらない。巨大ターゲットの左下辺りに居るのかな?

グラグラと揺れている偽大仏は放っといても絶命するだろうが、もう1撃くらいありそうだ。みんな~注意して~。

 

ドンッッ

 

今度は片尻から削られ、偽大仏だったものは門側へ倒れた。

 

 

 

「わああああああああああ!!ぎゃあああああああああああ!!ぁあああああああああ!?」

「…」ギュウ

「なンだよ。元気じゃん」

「…すごいね。このスーツ…」

 

倒れた左腕の下から出て来た北条は無事だった。腰まで刺さるように埋まっているのでサダコの抱擁から逃げられず悲鳴を上げ続けている。見てないで掘り起こしてやれよ玄野&メガネ(笑)。北条のスーツから変な音が出てそーだけど、それどころじゃないよね(笑)。

 

「クロノくん!」

 

声のほうを見ると合掌ポーズのターゲットがいた。ぐんぐん近付いて来る。

 

「こっちはそいつで最後よ!」

 

美女はザコ仏像10体を担当していたらしい。その最後ってことは動きが速いっていうあのターゲットか? 一瞬で玄野とメガネは抜かれた。真っ直ぐ走って来たのに見逃すってどんだけ?

やだ、こっち来んな。即死攻撃なくても近付きたくない。

暴走仏像こと偽韋駄天を避けると入れ替わりに加藤が飛び付いた。

マンガと同じくその足首を掴んで動きを止めようと。そのままターゲットに引っ張られ宙を昇る彼。あ、驚いてる。

 

「えぇ~!?」

 

何がしたかったのか加藤と同じタイミングで階段にダイブした山田がうつ伏せから身を捩り偽韋駄天(+重り)を見上げ叫ぶ。あのジャンプ力で攻撃されたら生身組だけでなくスーツ組にとっても脅威だったのでは?

 

 

 

偽韋駄天はゴルゴが仕留めたらしい。

空中で頭部が四散した超速仏像に驚きつつこっちに集まる玄野たち。生きている筈なのに此処に居ない奴らはターゲット(死骸)を観察してるのかな? 珍しいのは解るけど自由すぎるよ(笑)あいつら。あとは……

 

「コレで終わり、だよな?」

「そーだな。レーダーにも、って…あれ?」

「?…ねぇあれ…どーやって倒したの?破裂してないね。…キレイに首が落ちてる」

 

会話する玄野と加藤にメガネが質問する。彼が指している方向は

 

!?

 

まさか、いや「脱皮」したらゴルゴが気付くだろ。って………ああ。

金堂の屋根に異形が立ち上がった。

 

 

 

===■■====

 

 

 

「うぅうああああああぁぁ」

「死ねッ」

「あああ おばーちゃんっ …ふぃっ おばーひゃ~ん」

 

さっきまで油断していたメンバー達が騒いでいる。この混乱を作ったのは仏像らしからぬターゲット。3対の腕と長い尾・首をもつ赤黒い星人。全身の皮膚を剥ぎ取った様な姿だ。

よく知らないがあんな仏像はさすがに無いだろう。全裸だし。

今回の星人は仏像括りではなかったらしい。拘束してあった千手の首を落としたのも奴か?

久しく見ない黒い刃が脳裏を過る。未だクロノたちは部屋を探索しきっていない。

 

「けほっ…千手と闘っているのは加藤くん、ですか?」

 

砂利の上で仰向けに横たわる女…佐藤が呟く。目に血が入り視えないらしい。スーツの頸部を緩め鎖骨辺りを自ら押さえている。

加藤ならお前の傍らに居るぞ。さっきから挙動不審で落ち着きは無いが。

 

「…?」ジャッ

 

加藤が目を瞠り跪く。ああ、今の質問はおかしいな。

 

「お前の肩を刺した星人ならクロノ達にじゃれついてるけど、あれは千手なのか?」

「…」

「おい?」

「ア~肩ガ、イタ~イ」

 

妙な間を空けたあと大袈裟に顔を顰める佐藤。

そりゃあ痛いだろうな肩に大穴が開いているのだから。

星人の急襲で3人の身体に風穴が開いた。そのうち生きているのはこいつだけ。

左肩を貫かれる直前に佐藤はメンバーへ注意を促した。

そんな余裕があったなら避けろよ。役立たずなんて放っとけ。戦力外は死んでよし。

 

俺の予想が正しければ佐藤は有用な情報を持っている。

今のは確実に重傷者アピールの演技だが、それほど余裕があるようにも見えない。意識があるうちに子細を訊いておくべきだろう。出血が多い。

 

「…」

「…佐藤さん…もう少し頑張ってくれ…頼む…」

「加藤くん?」

 

加藤の意味不明な発言に訊き返す佐藤。こんな状態の人間に何を期待しているんだ?

帰りの転送まで意識を保てという意味ならば他人に言われるまでもない。

 

「絶対死なせない…死なせないからな…!」ダッ

 

駆け去る加藤。佐藤は何かを言おうとするように口を開いたが何も告げず閉じる。

仏像姿の千手を見て狼狽えていたのに6本腕へ挑むのは放置か。

 

「…止めなくてよかったのか?星人に向かってったぞ、あいつ」

「いいんじゃないですか~?シッポには気を付けるだろーし。イッタ…チジ…イシ」

 

興味無さそうに目を瞑る佐藤。最後は呟きで聞こえなかった。周りがうるさい所為だ。

…尾による攻撃以外の脅威が無いみたいな言い方だな。

フィクションの所謂ボスキャラは変身後のほうが強くなるのに千手は違うのだろうか?

背面装備が重そうで線の細かった仏像姿よりエイリアンっぽくなった今の姿のほうが戦闘向けに見えるが…。強化ではなく弱体化?外殻が拘束されて仕方なく脱出した、というところか。

 

今も灯篭に照らされ佇む拘束されたままの千手(の抜け殻?)。

佐藤が口を滑らせなければ思いつきもしなかった筈だ、あれより大きな6本腕が中身だなんて。想像しないしする必要も無い。ミッションの達成条件はターゲットの調査ではなく駆除だし。…だからこそ信憑性が高いと思う。ガンツに浮かぶ指令から読み取れる内容じゃない。

佐藤には別の情報源があるのだろう。あるいはミッションを仕組む側の人間…

 

「千手と周りにいた奴らだろ」

「?」

「お前が銃で覗いてた建物に居たの」

「…」

「指令の2匹を無視して調べてたよな?あの星人に何かあんの?」

「…」

 

佐藤は瞑目したまま黙っている。

…死んだのか?

 

「おいっ」

「何か…特筆する点があるとしたら捕獲銃の拘束から脱出したところですかね。

 それと攻撃力。スーツを貫通する攻撃をしてくるとか、びっくりしました。

 西くんも無駄なことに思考を割いてる場合じゃないですよ?あいつの攻撃マジ痛いですから ターゲットに集中したほうがいい」

「…クロノ達が負けたらな」

「意外と暢気ですね。良いんですか?玄野くん達に点数とられても」

 

千手が本当にボスならクロノ達に譲るのは惜しい。

しかし大仏が出る前もそうだったが、なぜ俺に倒させようとする?

 

「…倒した途端自爆でもすんのか?あれ。レーザーはもう使わないっぽいけど」

「!?… ぶふっ あ いたた…」

 

口から空気を吹き出し肩に響いたのか痛がる佐藤。…笑ったのか?いまの。

 

「や、それは穿ち過ぎ…。無理に行けとは言いません。

 無理なら遠くで終わるのを待てばいい。怖くて近付くのが無理ならね。慎重さは大事…」

 

無理ムリ言うな。そんな安い挑発で俺が千手と闘うとでも…

!…俺を遠ざけようとしている?

 

「煙に巻こうとしても無駄だ。お前の行動はおかしい。

 始めから知ってたんだろターゲットの配置とスペック」

「さっきから何なんです?知ってるワケ無いでしょう。よく考えて下さい。

 そうだとしたら私のこの状況はどうなるんですか?知ってたらこんな大怪我しませんて」

「それは逃げ遅れたからだろ。鈍いんだよお前」

「…ウワァ…イイカエセナイノガツライ…」

「最初から変だったぞ。密室気にしないし寝てるし転送するし…」

 

ねぎ星人からだったな、こいつが参戦したのは。クロノ達より役に立っていた。

…不気味なほど冷静に。

 

「最初って、ねぎ星人のときですよね?去年の。あれからひと月は経つのに覚えてるなんて

 そんなに私が気になりますか?」

「気になる」

「え」

「お前なんの疑問ももたず当然って顔で送ってただろ星人を。

 捕獲銃でターゲットを拘束するところまでは偶然で出来るとしても、

 そこから転送するなんて予備知識無しでスムーズにやる奴がいるわけねーだろ」

「…」

 

再び黙る佐藤。さっさと白状しろ。

 

「えー?気になる、なんて困るなぁ子供は守備範囲外なんですけど」

「?!」

「交際相手を御所望ならもっと近場に目を向けて下さい。ほら、クラスメートに居るでしょ。

 ガタイがよくて女子力高そーな」

「おい、何の話を…」

「予備知識の話ですよ。実は情報源があります。そのしつこさに免じて教えましょう」

「!!」

「みんなには秘密ですよ?」

「…わかった」

「えっと…あー、う~ん?なんて言えばいいかな?持ってない人には説明し辛いんですが、

 所謂アレなんですよ私」

 

あれってどれだよ。

 

「予知能力者なんです」

「………は?」

「視えます……西くんが2人のお嬢さんに告られている情景が。

 あ、同時にじゃないですよ?」

「あの…」

「ふたまたが可能ですね。がんばっ」

 

何かアホらしくなってきたな。

 

「冗談です」

 

どこから?

 

「学生らしい清い交際だとしても同時進行はさすがにマズイ。お勧めしません。

 スーツを着ていれば女子の振るうドスなんて効かないでしょうけどバレたら世間体が…

 西くんにはかんけいナイカ…ムシロシタシミヤスク…テ…ウドイ…カ…。…」

「?」

「…」

「おいっ」

「…」

 

返事が無い。

今度こそ死んだか? …未だ何も訊き出せてねーのに。

照明が遠く血で染まっているため顔色は分からないが呼吸が浅くなり横たわる砂利の血溜りも広がっている。もう時間が無いらしい。

 

柵を越え階段に降り立ち現場を眺める。

 

階段を挟み反対側に広がるスペースで6本腕と向かい合うクロノ。

銃を構えているが何も出来ない山田たち。

遠巻きに見ている新規メンバー。

 

…進展無しかよ、使えねぇ。

倒せないなら場所を開けろ。

 

 

 

===□□□===

 

 

 

新手が飛んできた着後。

 

 

…え?

目の前で佐藤さんが仰向けに倒れた。

広がる血の匂い。

 

「うわァぁアあ!!」

ダンッッ

 

佐藤さんを飛び越え化け物の頭部に体当たり、いや顔面に右膝をいれるクロノ君。

ザザザザザ…

 

「くそッくそッ 殺してやるッ…」

 

後退する星人の背中が砂利を撒き散らしながら地を削る…

 

ガッガッガッ

ドンッッ

 

うわぁ!

バネ仕掛けの人形みたいに一瞬で身を起こし横回転する星人。

今度はクロノ君が攻撃を受けこっち、僕の隣のメンバーにぶつかり諸共転がっていった。

 

「あ…あああ…あ…あ…うぐっ… … …

 ! 佐藤さん!ごめん佐藤さん」

 

佐藤さんに近付き様子を診ていた加藤くんの声。

その足音が遠ざかって行く。佐藤さんを安全な場所へ運んでいったのだろう。

その行動は当然だけど、ちょっと待って!

 

「なんなのこ…れ…なんなの…」ガチガチガチガチ

 

ゆっくりとこっちを向く謎の星人。

ヌラヌラと光る赤黒い体表。首の長さと腕の数・肌の色以外は人間に近い…猫背から伸び垂れさがる首についた人形のように整った顔が僕を見下ろす。

周りに動けるメンバーがいない。奴と対峙するのは僕一人。

答えが無いと解っているのに、今考えることでも無いのに繰り返してしまう無意味な問い。

この激しい焦燥感…と寒気。大きなネギ星人を思い出す。

ここで 終わりなのかな僕…

 

ダッ ダンッ

 

2つの影が星人に迫る。

頭上からクロノ君。再び蹴る気だろう。

横からは新規メンバーの女性。さっき吹っ飛んだ彼にぶつかった不運は彼女かな?

両手にハンドガンを装備しているが構えていない。何を…

 

ギョーンッ

 

視界から星人が消え銃を構えるサダコさんが見えた。背後に居たようだ。

ドキッ

真っ直ぐこっちを狙っていた銃口が横へ逸れる。星人は横へ飛び避けたらしい。

…撃たれてないよね?僕。

 

「ォぉォオオお?!」「あっ」

ブンッ

 

目算が狂い一旦地面に降りたところで腕を掴まれ振り回されるクロノ君。

投げ飛ばされた彼の着地点へ先回りし抱き止めて、下敷きになる女性。

 

2人が離れたところを見計らって再び撃ったサダコさんも殴られ数m後方の植え木に突っ込んだ。…今の攻撃、ラリアットに見えたけど避けられる自信無い…

 

「西武線東長崎」

「ブクロの近く?んじゃ明日遊び行っていい?」

「明日かよっ。…うおっ!」

「わー…マジ宇宙人みてぇ…」

 

加勢が2人来た、ってスーツ着て無い人達じゃん!途中で加藤くんに会わなかったの?

4mくらい離れた新規メンバーへ星人が視線を向ける。

まずい!

 

「逃げて!はやく!!」

 

上手く逃げても数秒で追いつかれる未来しか見えないけれど、とりあえず逃げて!特急!

多少は僕が…スーツ着てる僕が足止めを…

 

!!

 

連結したワイヤーで正三角形を作って飛ぶ弾…

アンカーが星人の鼻先を掠め壁に当たってコトリと落ちた。撃ったのは…

 

「もう誰も殺らせねぇ…俺が相手だ、この化け物!」

 

頼もしい長身から気迫の籠った台詞が飛び出す。

戻るって信じていたよ加藤くん。




視点変更:玄野→オリ主→西くん→山田
告っていないが玄野を抱きしめちゃう桜丘。戦闘中に飛んでくれば待ちかまえることも辞さない。チャンスを逃さずスキンシップを狙うスタイル。


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あば&おこ編⑦

前回のあらすじ:
偽千手の中身は美形エイリアン(頭髪無し)だった…!
オリ主は死にそう。
北条は埋まったまま。



===◇○○===

 

 

 

アイツが啖呵きッた数秒後。

 

捕獲銃を落としッつーかはね飛ばされ多腕星人と素手で対峙する加藤を遠巻きに見る俺たち。

組み付こうと狙ッているのかアイツは腰を屈めギャラリーを見向きもしない。

動きを止めた星人を狙うべきかも知れねーが、さッきみたく軽く避けられそーだ。

加藤の邪魔になる。

 

「…」ゴクリ

「…」「…」「…」「…ヘ」

 

へっぷしゅっ

…ダンッ

 

両者が動く。一瞬で縮まる距離。

 

「っ…しっ!」

 

ヒトの3倍ある手数を掻い潜り左腿にとり付く加藤。傾く多腕星人、だが倒れない。

俺も行くぜ!

 

「うぐっ」

 

踏み切ると同時に加藤が殴られた。

いや、あの間合いだ肘を食らッたンだろう。

勢いよく振られる首。腿から片腕が離れ、両足を踏みしめた星人の尾が加藤の胴を強か打つ。

 

「加藤ッ!」

 

飛び蹴り2回目。さッきより上手くいッた!…が今度は倒れない多腕星人。なンだと?!

首を捩ッた星人と目が合う。…!!

戦慄しながら着地。攻撃は来ない。目を泳がせる星人の視線を辿ると加藤が居た。

今度は尾にとり付いている。

ん?…アイツあンなムキムキだッたッけ?…ッて、え?

 

ギリッギギギギギギギギギギギギ

 

「おらぁっ!!」

 

ブチッブチブチィッ ゴキンッッ

 

うわぁぁぁああ~!尾を捻じ切りやがッた!!

プッシャアアアァァァ…

噴出する体液を頭から被る加藤。バランスが崩れたのか尻餅をつく多腕星人。

腕だけで身体を引き摺り星人が後ずさる。

 

許すワケねーだろ!

 

「ちくしょうッ」

ガンッ 

 

「クソ野郎ッ」

ガシッ 

 

「死ねッ!!」

ズドンッッ 

 

右頬、左頬、次に腹を殴ッたら、尾を失ッた尻で後方へ滑ッて行ッた。

寝てンじゃねーぞ!コノ野郎!!

 

「計ちゃん!もういいよ はぁ …俺達の勝ちだ… はぁっ はぁ」

 

加藤が仰向けに転がる。立っているのが辛くなるほど草臥れたらしい。無茶しやがッて。

ビタンッビタンッ

放り捨てられた尾が未だ地をはねている。

ッと、急がないとヤバい。

 

鈍くなッた星人へ俺は捕獲銃を向けた。

 

 

 

=========

 

 

 

屋根の上でユラリと立ち上がった影が3対の腕を広げ、消えた。

おいおい…

 

「みんなっ…」

 

2mほど前方に着地した異形がこちらを見る。暫しキョロついた灰色の瞳と目が合う。

 

「もう1体…」

 

身体が重い。右手のYガンを握り直し肘を曲げる動作が、なんとも遅い。

 

「タ…」

 

屈んだ奴の尾が高く上がり頭上で緩く大きく回る。

1周…

2周…

3周…

 

「…ん?」

視界が 歪んだ

 

 

 

「佐藤…。うう…」

 

覚悟した衝撃は無く目前に瞳をウルウルさせた玄野が 居た。

その隣に笑顔の桜丘。明るい室内でこっちを見るメンバー達。

私は黒球部屋に立っている。

 

…え~と、これは

 

ポンと両肩を叩かれる。背後にも誰か……

 

「…」ボロボロ

 

うわっ。

泣きすぎだ~しかも、すんごい顔で~。どこの梅干しかと思ったよ加藤くん。

全員が生き残れなかったことがそんなに悔しいの? きみは理想が高すぎる。

ミッションは殺し合いだからね、こっちだけ無傷とか無理だって。運要素が大きすぎる。

 

「何で盾になッてンだ、びッくりしたろ!誰も頼ンでねーよ!」

 

玄野が喚く。「盾」って何だ?何のこと?

ガンツメンバーに矛役と盾役がいるならば(小島と)私は守られる役でしょう。

 

「あッ そッか!」

「どうしたの?」「クロノくん?」

 

声を上げた茶髪へ注目するメンバー達。

玄野は桜丘と山田の問いに答えず数回頷いてからこっちを見る。

 

「ドコまで覚えてる?」

「えっと、大仏のあと韋駄天が倒されて仏像っぽくないターゲットが出て…

 あとはさっぱり」

「さっぱりって…覚えてないの?倒れたきみを加藤くんが運んだことも全部?」

「や 山田さんっ!!」

「はい。最後に見たターゲットがラストだったんですよね?誰が倒したんですか?」

「それは西くんが…」

「…」「…」

「か…加藤くんとクロノ君も頑張ったよっ。うん。ほとんど2人で倒してたっ」

「ああ、すっげかったぜ。人間の動きじゃねーって。あれもスーツの力なん?」

「…! そーだな。そーかも」

「おまえ素手で化物のシッポ千切ってたもんな」

 

千切る?

どーいう状況だ?ちょっと見たかったかも。

私の質問に山田が答え、新規中坊・加藤・北条が加わる。

 

“00:15:02”

 

殆ど移動しなかったからか時間が余っている。

あの後すぐ私は重傷を負った…ってことか?腑に落ちないが事実なのだろう。

だから転送までの記憶が無い。

今回は予想外の事態がいくつかあった。でも、その考察は後にしよう。とりあえず、

生きてて、よかった…

 

♪チ―――――――――ン♪

 

残り時間を待たず、採点が始まった。

 

 

 

“さぼり……はしゃぎすぎ 0てん”

 

「もー なんなんだよこれ~!」

画面に向かって新規中坊が喚く。

他に0点だったのは、犬・子供・サダコ・山田・北条・私。

子供は隅で丸くなって、サダコはいつも通りで採点画面に関心が無い様子。

山田と北条(何故かホモ表記じゃなかった)は連続で0点なのにヘラヘラしていた。

 

致命傷を受けた(らしい)のに死んでなくてホッとしたが、小島が死ぬことで私はひと月前までの生活に戻れたのだろうか?

…。

すごく気になるけれど、それは慌てて試すことじゃない。違っていたら取り返しがつかない。

生き残ることがドンドン難しくなっていくミッションにこれからも参加し続けるのだ。

失敗すれば勝手にそうなる。

 

「どンまい」

玄野の良い笑顔頂きました。他人の0点がそんなに嬉しいのか?ん?

ガンツも“暗躍乙”じゃねーし(怒)。皆が誤解するでしょ。

 

“コンタ……1てんtotal1てん あと99てんでおわり”

 

「1点って…ぶぷっ」

「ちっ。おいリーダー。なんなんだ?これ」

新規中坊を睨み、舌打ちしたラッパーが加藤を見る。

 

「リーダー?」

「オマエのコトだろ」

「は?」

「いいじゃん。このままリーダーやれよ」ニヤニヤ

「え~っ、リーダーなら計ちゃんのほうが…」

「ムリムリ。俺そーいうキャラじゃねーし。ほらッリーダー仕事だぞ。説明しろ」

「…

 あ~、この点数はな、ミッションで星人をやっつけると入るんだ。

 俺たちはこれを100点ためなきゃなんない」

「なるへそ。俺は1匹もやっつけてないから0点か…

 ってことはあの仏像1匹で1点かよっ しょぼ~!…あれ?でもそれだと…」

「おい、ちょっと黙れ。…ふ~ん。あと99点ためると何が起きんだ?」

 

会話に割り込んだ新規中坊を押し戻し更に質問するラッパー。

 

「100点とれば3種類から特典を選べる。解放・強い武器・死者の再生…」

 

指折り説明する加藤。“解放”以外も覚えたんだね。

100点メニューを見たほうが解り易いけど今回は100点達成者がいないはず。

 

「解放…。…死者の…再生…って…マジ?」

「解放は、この部屋からっていうか…この部屋に呼ばれなくなることだと思ってる」

「まだ、解放を選んだ人いないんだよ」

「前回アイツが、強い武器を選択して…。あの大仏と最後のヤツをヤッた武器がソレらしい」

「死者の再生も…出来ると思うけど、試してはいない」

「そうか」

 

ラッパーは誰かを生き返らせたいのか?「解放」より「再生」に食いついてるように見える。

誰か言ってあげて“MEMORY”に無い人は無理って。…誰も覚えてないの?

 

“ミリオタ……1てんtotal1てん あと99てんでおわり”

 

「…」

迷彩服は点数に落胆せず…Xショットガンを撫でながらニマニマしだした。

ミッションを気に入ったらしい。

 

“空手家……2てんtotal2てん あと98てんでおわり”

 

「ねぇっ。あんた何匹倒した?」

「…」

新規中坊の質問に無言で人指し指と中指を立てる空手着外国人。

 

「1匹1点なの?やっぱり。100点とるのに何年かかんだよ~」

「いや!星人の配点は1匹づつで違うはず…」

「え、そーなの?」

 

“かとうちゃ(笑)……3てんtotal3てん あと97てんでおわり”

 

「俺は、おこりんぼう星人だったか?あれを1匹送っただけだ。なっ?配点が違うんだよ」

「かとうちゃ…」

「かとうちゃ…かっこわらい…って…ぶっ」プルプル

「…」

 

“くろの……8てんtotal8てん あと92てんでおわり”

 

「ク…クロノさん、あの…。すごかったです…」

「は?」

「門番を倒したときの…」ポッ

「…は、はァ…どーも」

顔を赤らめ見つめてくる男ことミリオタ迷彩服に主人公はドン引きだ。

 

“あねご……12てんtotal12てん あと88てんでおわり”

 

「スゲーよ。初めてでこの点数は」

「そーなの?」

桜丘は有能だなぁ。完璧超人か?

 

“西くん……25てんtotal40てん あと60てんでおわり”

 

大仏が5点だから千手は20点か。序盤にしては多いのかな?この配点。

リスクに対して少ないよ(笑)ホントに居るの?初見でアレに勝てるメンバー。

もちろん相討ち以外で。

仏像姿からレーザー攻撃を予想し光った瞬間避けるってどんな勘だ。

 

「…オマエは次も武器を選ぶのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「…」

「言っとくけど、とどめは早い者勝ちだぜ?」ニヤリ

「…そーかよ」

 

何故か西を睨み分かりきったことを訊く主人公。

加藤はともかく玄野はラストミッション前に100点ためるだろう。

できれば解放を選ばないでほしいけど。…居なくてもなんとかなるかなぁ?

 

「あ…雨」

子供の呟きに、メンバー達は窓の外を眺めた。

 

… … …

 

予想通り、傘・靴・財布の無いメンバー、とくにパジャマで呼ばれた人達は帰宅方法に困って呆然と外を見ていた。ミッション2回目の北条・サダコ・子供はともかく、3回目で呼ばれる予兆を知ってるのに着の身着の儘来ちゃったお前ら(玄野・加藤・山田)は迂闊だーっ。

とは言わなかったが、なにか察したらしくこっちを見て情けない表情をしていた。

 

結局スーツ着て走りました。

 

夜中のテンションなのか何なのか、建物の上とかショートカットしたりと5人は楽しそーだった。周波数を変えず笑い声とか抑えることもなく。

聞いちゃった人はビビったろーなぁ、自宅の屋根を通路にされた人も。

…私は周りの行動にビクビクしていた。

 

子供は桜丘が交番へ届けたらしい。




視点変更:玄野→オリ主
偽千手の中身が金堂からメンバー達の前に降り立ったとき玄野はオリ主の後ろに居た。
新規メガネ(宮藤)と老婦人は左右。
改変点:
犬・岡崎(ミリオタ)・JJ(空手家)・近藤(コンタ)・苫篠(さぼり)・桜丘(あねご)・加藤生存。
次回からはちび星人編。


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ちび編①

前編のあらすじ:
あばれんぼう&おこりんぼう星人ミッションクリア。
加藤ほか生存。




(転校生、入ってくるらしいぞ)

 

1月31日水曜日。

朝のホームルーム前、教室。

眠そーな玄野と松村に、永沢が話題を提供する。

 

(転校生?)

(男か?女かな)

(ぜーったい女だ!!俺のカンは当たる!!)

 

何故か玄野に力説する永沢。それは勘じゃなく願望では?

 

(俺も、なんかそんな感じする!女だ!!)

 

松村もテンション高ぇ。

 

(たぶんFカップあって~、ちょー可愛いって気がする)

(いいなぁ…おい、どこ座るんだよ、おい)キョロキョロ

 

空席を探し教室を見まわす3人

 

(げっ!玄野のとなりかよ…)

 

は主人公の隣席を見て停止した(笑)。

先日、席替えしたときは誰か座ってたと思ったが…。転入生の席ってどーやって決めるのかし? あ、私の席は廊下側の一番前になりました~。玄野の位置はあんまり変わり無い。

 

(男だな…たぶん…)

(ああ…男だ…。そんな気がしてきた)

(…そーいや、さッき違う制服着た女見た)

(え!!マジ!?)

(かわいかった!?)

(…)

(玄野っ!!)

(はッ…ま まァまァじゃねーの?)

(玄野席代われ!!)

(死ね…いや違う奴だ!きっと、そうに違いない!!)

(そーだぜ!玄野に限って)

(玄野だもんな!)

(あ~!うるせーなッ!関係ねーよ俺には 男だろ―が女だろーが!)

 

ぎゃあぎゃあ喚く2人に玄野は言い切った。

 

 

 

ホームルームが始まり、教室中の注目を浴びながら噂の人物が入って来た。

転入生は整った顔立ちの髪の長い、

男子生徒だった。

 

“和泉 紫音”

 

黒板にそう書かれた横に立つ長身。

 

「和泉くん背ぇ高いねぇ、何センチあるの?」

 

転入生を見上げ訊ねる担任教師。転入生…奴は視線を合わせない。

たぶん誰とも合わせていない。他人から見られることに慣れた所作で澄ましている。

 

(ちょっとぉ~)

(うんうん、すっげ~うっわぁ~)

(ちょー美形)

 

上等な新顔投入に喜ぶ女子生徒たち。

うん、ちょっと煩いね。もう少し人間扱いしてあげよう?

声高に容姿の感想言うのもどーかと思う(笑)。

 

「187センチです」

 

答えを聴いて更に騒がしくなる教室。

おもに「キャー」とかの悲鳴(?)で何言ってんのか分からん。

何このアイドル扱い。これからクラスメートになる人間への態度か?

…まぁ、この転入生が登校拒否になるなら大歓迎だけども。

 

「玄野くんのとなり」

 

担任の指示、隣席になる生徒の名を聴いて初めて奴は目を向けた。

 

 

 

同日、夕方。

今日もシナリオ通りなら、これからミッションの予定。

現在私は小島宅の近所を移動中。呼ばれる前の暇つぶし、ではない。

今日は前回より早く、ねぎ星人狩りのときと同じくらいの時刻に呼ばれるはず。

しかしこの風景にも飽きてきた。通学路と殆ど同じだものなぁ。この寒い時期に電車と徒歩でチンタラ登校するの嫌だし(定期が勿体ないけど)練習がてらスーツアシストで走ってみようか、などと暴挙を妄想したあと今朝のことを思い出す。

起こるべくして起きた新キャラ転入イベント…

あぁ憂鬱だ。

転入生は完全に主人公をロックオンしていた。原因と目的はマンガと同じなのだろう。

でも念のために確かめたほうが良いかな。思い込みで痛い目見るのは前回で懲りたし(痛かったことは記憶に無いけど左腕が取れかけていたらしい。覚えていたらトラウマものだね)。

前回のミッションは…いろいろ失敗したわりに生き残れたのでラッキーだったってカンジだ。

一番のうっかりは拘束した千手から目を離したこと。マンガでも奴は転送中の頭部を自ら切り離してワイヤーから逃れていたんだから同じ方法で第2形態へ移行したのは当然だった。

…あっぶねー。痛い目どころか思い込みで死ぬとこだったよ。

ここまでは油断からの自業自得だからいいとして、ちょっと腑に落ちないことがある。

それは偽千手の中身(最後に出た6本腕のエイリアンっぽい奴=頭部を自切した頸部断面から千歳飴の如くひり出てきた第2形態)の攻撃力が想定を超えていたことだ。マンガでは素(ことガンツスーツが故障している状態)の加藤を殴り倒すのに手こずってたから四天王モドキより弱いと思ってた。尾を使った刺突だけ攻撃力高いってありえる?…のか実際アレでノ―ダメージなスーツの防御力貫通したんだよね。被害者は老婦人・私・新規メガネ(とゴルゴ(仮)も?…あいつは生身か)。

…フツ―に脅威じゃん。

マンガで貫通されたのは液漏れスーツだったから「故障していないスーツなら防げたな、加藤は運が悪かった」とか思ってたよ。

もしかして千手観音形態時にダメージ与えなかった分強かったのかなぁ?

マンガでは桜丘の特攻で酸(?)をくらい逆行装置が壊れ上半身の半分が使いものにならなくなり、その後ゴルゴ(仮)に首絞められて、お疲れだったのかも。

それとも奴はヒトの脳みそ食べると弱くなるとか?

千手の中身は不定形なクリ―チャ―で、食べた脳のデータからエイリアンっぽい形態になったと思い込んでたからマンガと同じ姿で出て来たことにちょっと驚いた。マンガで食べられてたのはSFズキのメガネだったか。ゴルゴ(仮)の脳が食べられていたら違う結果になったのかな?

 

…と話が逸れたが、転入生の答えによっては実験したい。

 

目的地を見上げるとポッケのケータイが震えた。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

下校中。

俺の隣を今朝転校してきた男子生徒が歩いている。

ちょッと喋ッただけでキャーキャー言われてた奴だ。ッたく興奮し過ぎだッつーの女子。

…たしかにソコらのアイドルよりいい男だけども。

コノ転校生、派手なのは見た目だけな大人しー奴かと思いきやスポーツも得意で、転校初日に告られる(トップが同じ日に転校してきた美少女で放課後にも数件。ソレ全部を隣で見届けた俺はどーかしてた。ッつーかコイツもコイツだよ何で一人一人丁寧に対応してんだッ見るからに冷やかしッポイのも居ただろ、お蔭で帰宅時間が1時間は遅れたし)とか、ケンカ売ッてンのか?ッてレベルだ。そンなワケないけど。

女共の態度が露骨すぎてムカつき通り越して呆れた。道中もマジで視線が痛かッた。

美形は人生イージーモードか爆死しろとか思ッてたけど、いいコトばッかじゃねーのかも。

美形と言えば、ちょッと前に渋谷で偶然見かけたグラビア・アイドル、カワイかッたなァ…。乳もスッゲかッた。あのコもオフの時にジロジロ見られるのはアレだッたのか?だとしたら悪いコトしたかも。まァ許可無しで撮影する奴らよかマシだッたと思うけど。

…現実逃避はこのくらいにしておこう。もうすぐ着いちまうな、マジで俺ンち来ンのか?転校生。

なンかメンド―になッてきたなァ安請け合いすンじゃなかッた。

視線を向けると目が合う。

なンでガン見してンだーッ!

 

…なンなのコイツ。

 

 

… … …

 

 

「どーする?何もねーけど」

 

ウチに到着したので訊いてみた。

転校生こと和泉は俺の部屋を無言で見回している。そンな珍しーものねーだろ。…なンだ?

何か探してる?

 

「あれ…使えんのか?」

「ああ、コンピューター?インターネットでもやる?」

 

何だネットやりたかッたのか。別にいーけど茶は出さねーぞ。

 

♪デッデケデデッデデデデッ デデデデッデッデケデデッ♪

パクッ ピッ

 

和泉が椅子に座ッてOSをたちあげてる最中、メールが来た。

帰宅してすぐ送ッたメールの答えだろう。

 

“了解。今日の御裾分けは部屋へ持って行く”

 

佐藤からだ。今日も何かくれるらしい。ラッキー。食費が浮いて助かる。

このまえ冗談で鰻をリクエストしたら微妙な顔されたけど(笑)さすがにタダ飯で要求する食材じゃねーッて。

 

コンッコンッコンッ

返信しケータイを仕舞うと間髪いれずノック音が聞こえた。えッ外に居たの?

 

 

 

=========

 

 

 

“転校生が俺んち来てる。なんで今日はコンビニ行かねーかも”

 

うん、知ってる~。

近所のコンビニでブツを渡すことが多いからか来たメールだ。催促か?

仏像星人狩りのちょっと前から始めた援助だが、玄野は可哀想なことにならなかったし、

やめよ―かなぁ。

 

「佐藤?あれ?」

 

ドアをノックし待っていると茶髪が出てきた。

通路を見回す玄野。近くで突っ立つ小島に気付かずドアノブにかかった袋を開く。

 

「おー。…うなぎだ」

 

タッパーの中身を確認し唖然とする玄野。

なんだそのリアクション。リクエストから一週間ほど遅れたが、お望みの鰻ちゃんだぞ、

もっと喜べ。

 

「…冗談だったのに」

…。

冗談かよ、ならその時に言え(怒)。

そしたら鰻じゃなくて鰯にしたのに。生姜煮とか南蛮漬けとかハンバーグとか炊き込みとか…

小島母に素材を強請り調理した私の労力を返せ。私の偏食を怪しまれないよう小島両親分は昼用弁当にしたから睡眠時間を削ったし。

一般的な蒲焼同様焦げてるけど全部食えよ。そっちの水筒(すまし汁)もな。

 

…んじゃ、お邪魔しまーす。

私は玄野とドアの隙間に滑り込む。こんなとき小柄は便利。

 

ガチャーン

 

透明人間の侵入に気付かず彼はドアを閉めた。




視点変更:オリ主→玄野→オリ主


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ちび編②

前回のあらすじ:
転入生イベント。質問が嫌なので不法侵入からの盗み聞きを選ぶオリ主。



玄野私室。

ついに入ってしまったよ計ちゃん部屋。…うん、フツ―の部屋だ。マンガの背景と同じ。

例の話はこれからなのだろうノーパソ前で放置されていたらしき長髪男がこっち(を歩く玄野)を見ている。無表情が怖ぇ。

えっ周波数変えてる私は視認されてないよね?ちょっと逃げたくなってきた。

玄野はそれを無視して座卓に箸をスタンバイ。

そんなに空腹なの?

 

「誰か来たのか?」

「ん?いや、出前、みたいな……?」

 

手に箸と開けたタッパーを持ち首を傾げる玄野。そーだね~鰻重の無料デリバリーです…

最後の。最後にするって今決めた。

 

「ふっ、何だそれ? それよりこれ…このサイト」

「?」モグモグ

「見てみろよ…」ニヤリ

 

「なンだ?コレ。妄想は含まれていないッて…小説か? ん?…ッ ごほッ ごふッ」

 

画面の文章を読んで咳き込む玄野。

そこには、あの部屋へ呼ばれた者しか知り得ない情報、「GANTZ」について書かれて…いるのだろう。キッチンの前、半開きの障子から部屋を覗いている私の位置からは見えない。

あれ?今の私、サダコみたい? いやいや、ストーカーじゃないって。そんなに暇じゃ…まぁ暇だけど。これは大切な情報収集です。

 

「平気か?」

「あッ あ、大丈夫…」

 

和泉の問いに上の空で答える玄野。箸を持った手で口元をおさえ画面に顔を近付ける。

“ミッションのことバラしたら爆死じゃねーの?”という疑問の答えは転入生の説明を聞けば出るから落ち着け。焦ってタッパーとか落とすなよ? 笑っちゃうから。

 

「そうか。

 これは荒唐無稽なSF小説を載せてるサイトなんだけど日記っつうか、私小説風でな。

 知ってる奴らの間では、実際に起こってる事なんじゃないかって言ってる奴もいる。

 まぁ本当に管理人が中学生なら、よく出来てる話だとは思うけどな」

 

「!? むぐむぐ、…もぐ」

 

何言ってんのか分からんから食うか喋るかどっちかにしろ。あと立って食すなよ行儀が悪い。

おそらく「管理人が中学生」=西、と連想している玄野。

フツ―に考えてあいつしか居ない。

 

「最新はこれだ。あばれんぼう&おこりんぼう星人編」

 

へんな題名を滑らかに発音する転入生。

マンガでは田中ロボ編で西が退場したので、そのひとつ前のミッション内容であるネギ親子編で止まってたのに順調に生き残ってるぶん日記が続いているようだ。なんとなく検索せずにきたけど本当に在ったのね、このサイト。こういうので余所のチームメンバーが釣れたりするのかな? 釣れたところで大した情報持ってなさそーだし黒幕と目的がわかってもメンバーには無用の長物だろうけど。それか単に趣味?

 

「おい、くろの。くろのけい」

 

振り返り、玄野を見上げる転入生。

 

「ふァ…?あンだ…」モゴモゴ

「下の名前…けい…でいいんだよな?」ニヤリ

「あ…え?なンで…?」

「この、ねぎ星人のときから登場するキャラの名前。

 一人だけスーツ着たのに何もしてない“役立たず”…同じ名前だな」

「…」

 

煽られても玄野は無言。

怒りは空想で発散…メンバーの本名をそのまま日記に載せている野郎を脳内でフルボッコにしてるのであろう。

 

登場人物の“くろのけい”を手掛かりにして居場所を探し転校までしたっぽいな、あのロン毛。行動力ありすぎるよ~迷惑な…。

なんとかして西に日記の人物名を変えさせていたら…いや、それだと冒頭の宣言に反するから人物名出すのを阻止していたら、あいつの襲来を無しに出来たのだろうか?

でもネギ親子襲撃時は夢だと思ってたからな~。

過去の私を抓りたい。

 

「管理人と…知り合いか…?」

「ア…あ~ッなンでだ?ぐ…偶然かァ?何だ~コレ~」

 

どこまでバレるとアウトなのか分からないからか玄野が挙動不審。

肯定して大丈夫だよ。装備使わなきゃたぶん(使ってもその場で目撃者を消せば)大丈夫だから、おそらく爆死しないから落ち着け。声出しちゃダメと思うと余計笑えてくる。

 

「“くろのけい”なんて。そうそうある名前じゃねーけどな」

 

たしかに。珍しい組み合わせかも。

そーいえば他のメンバーは珍しい苗字少ないな。ねぎ親子回以外で自己紹介やってないから(サイトの管理人に本名知られてない人のほうが多いので)関係無いけど。

つーかマンガの西日記には(珍しいから取扱注意な)主人公の名前しか出ていなかったらしいが、リアル(?)ねぎ星人ミッションで活躍しなかった“クロノ”について西は何故載せたんだ? 載せるとしたら加藤のほうじゃね?

 

「あ!!もしかしたら俺の弟か?弟の友達かなンかかなァ~」

 

こっちの玄野にも中学生の弟が居るらしい。真実を混ぜて嘘を吐くのはファインプレーだ。

でもちょっと棒読み。

 

「…ここの掲示板にいる奴らすげーんだぜ。本気でこの小説が実話だと思い込んでやがる」

「へ…へ~」

「ねぎ星人編に出てくる一ノ宮って場所探して写真撮って来たりしてる。

 ほら…壁がこわれてるのが証拠だって。このクロノと連れのことを…

 地下鉄のホームレス助けて消えた二人の高校生と結びつけてる奴らまでいる」

 

あ~電車のアレね。今では都市伝説や怪談噺みたくなってるけど目撃者が多かったものなぁ。

 

「…」プルプル

 

無駄にキョロキョロする玄野。“全部バレとるやンけ”の顔かな?それは。

ホント笑っちゃうからやめろ。

 

「あと板橋区のアパート半壊。そしてこれだ」

「!」

「羅鼎院のミステリーサークル。

 田中星人の最後で手に入れた“より強力な武器”の痕跡じゃないかってことらしい。

 テロとか言われてた建物の大穴はTVや新聞でも見ただろうけど、

 これが出たことは一度も無い。…ってな今一番このネタで盛り上がってる」ニッコリ

 

そーいやミッション翌朝、じゃなくて昼(が本放送で私が観たのは夕方の再放送)のワイドショー“羅鼎院の崩壊”で前面の崩れた大仏殿が放映されていたのに、同じくらい異様で目立つ筈の100点武器ことZガンの痕や金堂・参道・照明の破損・大仏の足跡については詳しくなかったな。新聞も同じく。報道規制か?

 

「…」

「…」

「…」

「どうだ、おもしれーだろ。ウソくさくて」ニヤニヤ

「う…うん。うそ…ウソくせえ。は…はは…はは」

パタッ

ノ―パソを閉じる転校生。

マンガではガンツスーツを服の下に着ていると疑われた玄野だが、座卓に着く前にサクッと部屋着に着替えたし武闘派不良とのエンカウントも無かったので転校生からの「上着脱いでみせて」発言は無いようだ。予想外の危機を切り抜けたと安心したのか畳に座り寛ぐ彼はいつものホケ面に戻った。のんびりと茶を飲む。

……なんか違和感あるな。あ、今日は珍しく誘いが無いや、桜丘からの。

ミッション翌日から始まった猛アタックは凄かった、らしい。どんだけ玄野気に入ったんだ姐御。私としてはデート内容をいちいち報告してくる野郎がウザかった。どこ行って何食べたとか興味ねーよ。それに何だか恥ずかしい。桜丘に悪い気がする。

そーだ聞いて下さいよ信じられないことだが、あの2人未だチューもしてないそーですよ?

本当にお前はあの玄野か?彼女のどこが不満なの?

 

「そうだ、あのクラスに…さ」

「ぶッ な、なに?」

「…。…いや…何でも無い。邪魔したな…」ニヤリ

 

転校生は帰った、意味ありげに笑って。

玄野はウソ吐きとして大根だったから確信を持ったのでしょう。

私は入室時と同様に閉まるドアを滑り出た。

 

 

 

 

日没後、公園。

其処此処に植えられた樹木の枝葉が街灯を遮る薄暗い広場。

まだ18時をちょっとまわったくらいなのに寒いからかアベックも子供も居ない。

鞄を柵の隅に放り、独りブランコに揺られる学ランが視える。

座席キツくないのかな?児童用だろアレ。とか思ってたら奴は座面に足をかけ直立しグングン揺らしだした。うわ恐ぇ…。チェーンが地面と水平に振られてるし。梁かハンガーか分からんがギシギシと危険な音をさせている。

予想通りに飛んだ、っつーか宙へ放り出された。

 

ザシュッ ザザザザ…

ドッ

 

ブランコから8m以上離れた砂場の真ん中に無事着地かと思ったら滑って仰向けにコケる。

ガッシャンッ

反動で一回転したチェーンが梁に引っ掛かり揺れる座席。チェーンの連結部が片方破損したらしく先端に重りがあるほうの鎖だけ、無い方よりも余分に梁に絡まって複雑なことになっている。数分間大の字で寝そべった後、両脚をあげてから勢いよく立ち上がる転校生。その場で跳ねる。砂を落としているのだろう直立した奴は鞄を取りに行かずそのまま。

よく見ると首を動かして…周囲を見回している。

何してんだ?コンタクトでも落とした?(笑)今探すのは無駄だろ暗いし。

それとも…

 

「誰か…居るのか…?」

 

白い息を吐きつつ転校生が呟いた。

 

 

 

あら、アホな行動を笑ったの聞こえた?

それともカマを掛けたのかな? まぁどっちでもいいか。

あのサイトを読んでいるなら「情報漏洩者への厳罰」と「不可視化出来る装備」を知っているだろーし、ミッションメンバーが接触に来ることを予期…というより期待しているのかも。あの部屋について調べてる人間に自ら会おうとするメンバーが(万が一にも)居るとしたら、その目的は「嗅ぎ回ってる一般人を口封じ」だろうに、良いのかな?

奴の居る砂場の大きさは8×4mほどで、隅に忘れ物らしき小さなスコップとそれが入ったバケツが置いてある。こんな狭い砂場じゃ相手の足音や足跡に気付いてもそいつが本気で危害を加えるつもりなら避ける暇が足りないと思うけど、無いよりマシってか? でもさぁ、スーツのステルス機能が不可視化なのか、それとも不可知化なのかは私でも検証したよ?姿が消えても発した音は消えないし足跡も残る事くらいガンツメンバーなら知ってると思わない?

それに砂場の外からでもガン類で充分狙える距離ですし。

やっぱり周囲より頭抜けている自覚があると油断が酷いものなのか?

 

“18:30”

そろそろかな。

 

私は誰かのスコップに触れる。持った端から消えてゆく小さな影。

思いのほか固い砂面に公園で拾った枝で溝を掘る。

 

“招待ヲ受ケルナラ座ッテ目ヲ閉ジロ”

 

奴がすぐ読めるように逆さ文字にしてみた。これ書くの中学生振りだ~懐かしい。

スコップをメッセージ横に突き刺して離れる。忽然と現れた影(とその本体)に転校生はすぐ気付いた。

 

「!?」キョロキョロ

 

さっさと座れって~。部屋に行きたくないなら帰ればよろしい。

あのサイトがどこまで詳細なのか知らないけどファンがついてることから面白いっぽいし、フツ―ならこんな怪しげな誘いに乗って安全な場所から高みの見物が出来る立場を放棄することはないだろう、そのフィクションが殺伐としたものなら尚更に。

サイト閲覧者で手をうつ筈だ。

 

ゾクゾクッ 

 

はい寒気来ました~。もうすぐ呼ばれるな。

 

…で、どうする? 

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

「わわっ」

「…え?」

「アレ?」「あっ」

 

毎度の如くガンツ部屋。

現れた新顔を北条と山田がジロジロと見ている。

廊下側のスペースに始めから居たかの如く座る髪の長い男の服装は学ランだ、右脇に鞄。

今までと違い今日の新規メンバーはちょッとづつではなく丸ごと出てきたからか他のメンバー達も不思議そーな表情。ソレと…

俺は奥に居る奴へ視線を移す。

ソイツは今日もスーツの上に服を着ている。アレに何の意味があるンだ?1年以上ミッションに参加してンのに未だスーツが恥ずかしいとか?

俺の視線に気付きソイツもこッちを見た。最古参の中坊だ。

いま声がカブッたよな? 西も新しく呼ばれたアイツを知ッてる?

しッかし、どンな偶然だ。

何で和泉が此処に…

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ チャ・チャーララ♪

 

「オマエ、アイツのコト知ッてンのか?」

「…」

「おいッ!」

「あ…ああ、ちょっとな。そっちは?」

 

いつものコトだが、うるせー音だ

と思いながら西に近付き大きめの声で訊いてみる。が微妙な返答。

「ちょっと」ッて?全然分かンね―ンだけど。質問に質問を返すンじゃねーよ。

気になる言い方だが訊いても答えないときは絶対答えないからなァ。話を進めよう。

 

「今日クラスに来た転校生だ」

「それで?」

「…さッきまで俺ンちに居た。帰ッたあとは知らねーけど」

 

ウチに押しかけて変なサイトのコトを一頻り話した後さッさと帰ッた謎な奴。

 

「…ふ~ん」

 

ふ~んッて、オイッ、そッちの情報も出せよコノヤロー。あのサイトもどーにかしろ。

 

「クロノくん、このk

「なぁ計ちゃん、佐藤さん見なかった?」

 

桜丘の言葉に被さる加藤の問い。

 

「あ」「…」

 

そーいや居ねーなアイツ。ガンツの歌はじまッてるのに。

 

「100点ためるまで強制参加って話よね?呼ばれないこともあるの?」

「や、どーだろ…」

 

生きてる限り呼ばれンじゃね? 今までもチラホラと来てねー奴いたけど、

アレッて…

 

♪チャチャ~ララッ チャーラ チャッチャチャ~ラチャンッ♪

 

「廊下かな…」

 

歌が終わッた。フラフラと出口へ向かう加藤を見送る俺たち。

 

「は…ははは はははははは!!」

 

沈黙を破る大笑い。

呼ばれたときの姿勢のまま無言で部屋を見回していた新規メンバーこと和泉の奇行に視線が集まる。

 

「…」「何?こわ…」「どうしたんだ」

 

「…やった!マジだった!ここが……。すげぇ…!」

 

授業の試合で勝った時よりも瞳を輝かせると、胡坐から立ち上がり振り返る。

え?

 

「ぐっ」

 

片腕を伸ばした姿勢で止まる和泉、前傾した身体を横回転させ床に背中を打ち付けた。

 

「…」「…」

 

…コケかたまで派手な奴。

 

 

 

=========

 

 

 

黒球正面でロン毛が倒れている。

…やっぱり生贄なんて要らないじゃん。

まぁ、ガンツもこいつの行動力には驚いたかも知れないけど。

そんなにデスゲームしたいなら呼んであげよーじゃないのってことで実験してみたのだ。

マンガのガンツはこいつの参加を望んでいたし選ばれる可能性高いと思って。

座る和泉の首をソードでこう、ストン とね。

…。

冗句です(笑)

金縛り直前で、座るロン毛にかけたのはバックチョーク。

こいつと密着するのは嫌だが仕方ない。結構ギリなタイミングでした。

マンガで、呼ばれる寸前な硬直状態のメンバーに抱き付き黒球部屋に潜り込んだ奴らがいたからその真似だ。「奴ら」は星人だったのでメンバーと接触してれば見境なく呼ばれると思って。役割としては逆だと思うけどアレは抱き付いた人間がメンバーの服扱いされたんだろう。

何にしても実験が成功して一安心。マンガと同じことになるならこいつを放置は公害だもの。

しかしさっきのは焦ったなぁ。

無事に部屋へ転送され、離れて成り行きを眺めていたら肩を掴まれたのだ。

周波数変えたままだったのに何で分かんだよ?どーいう勘してんだ、って超ビビった。

悲鳴を上げなかった私スゴい、エラい。まだ鳥肌が立っているる。

奴の右手を外すとき手首がパキパキいってたのはいいとして、床へ叩きつけちゃった~。

…たぶん生きてる。

 

「おーい。何かよく分かんねーけど、見ろよ!ターゲット出てんぞ」

「ちび星人って何だよ。テキト―か?」

 

苫篠中坊とラッパー近藤の発言で周囲の意識が新規メンバーから黒球へ移る。

私はその隙にバイク部屋へ滑り込んだ。周波数変えるとき、っていうか消えるときは静かなのに解くときはうるさいからね。と、そんなことより「チビ星人」ってことは…

 

 

(“てめえ達は今からこの方をヤっつけに行って下ちい

  

  チビ星人    (渦巻ほっぺで耳と毛の無い小人)

  特徴      つよい 根にもつ 

  気にしてること 背の低さ 

  特技      人マネ 心を通わす”     )※記憶補完

 

 

今回もマンガと同じターゲットか~。

呼び出し日が同じだから予定(?)通り。

マンガでは前回の仏像狩りで主人公以外退場&新規メンバー0で玄野単独ミッションになってた狩りだ。1対10だったのに最後の1体まで減らしてたっけ。ならこんだけ頭数居れば楽勝かな?なんやかんやで今はメンバーの数が星人を(マンガと数も同じなら)上回ってるし。

やっとラクできる。ミッションは危険がいっぱいだからね何もしなくてもクリアできるなら隠れつつ隅っこに居たい。




ちび星人ミッション参加メンバー:
犬1頭・小学生1人・中学生2人・高校生5人・教師1人・DJ1人・外国人1人・?3人
和泉を転ばせたオリ主の護身術は学生時講座で齧った痴漢撃退用。


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ちび編③

前回のあらすじ:
一回分早くミッションに参加する和泉。
玄野「嬉しそうに爆笑とか新しい反応だ。加藤なみに変な奴」
オリ主「過剰戦力」



「オマエら今回はスーツ着ろよ~」

 

バイク部屋から出ると、前回着てなかった4人、近藤・苫篠・迷彩服・空手着に玄野が話しかけていた。主人公は呼ばれる前からスーツを着ている様子。全身タイツで仁王立ちだ。

あとで気付いたけど前回、寝間着裸足で呼ばれたから部屋の鍵も持ってなかったのでは?

帰宅後どうやってアパートに入ったのか。

今回も着替えを持って来てるように見えない。手ぶらに見える。走って帰るのかな?

タクシー代節約には賛成だけど前回のように騒ぐなら1人で帰れ。

 

「あ~それね…」

「分かってるし」

「当然ッス」フンスッ

「Is that strange skin suit?」

「は?」

「ああ、That's right! Please wear it for safety!」

「Um…にほんごでだいじょぶ…わかるよ」

「Oh,日本語お上手ですね。じゃあ安全のためにスーツの着用をお願いします」

「It's a shame,I wanted to fight in Karate costume. …OK.」

「ははは…」

「まぁ着ても安全じゃねーかもしれねぇけどな。前回の奴はヤバかった」

「そーだね。だんだんミッションの難易度上がってる気がする… 

 あ!」

バタバタ

「あ~よかった。入ってた…」

 

スーツケースを開いて愕然とした山田のスーツは鞄に入っていたようだ。よかったね。

…いつから入れっ放しなのか知らないけど。

 

「オマエそンなトコに居たのかよ。加藤が探してたぞ」

「?」

 

私が出て来た部屋に当然ながら興味を持ったらしく、バイク部屋へ向かう玄野&不思議そうな表情の桜丘とすれちがう。もしかして前回にバイク部屋の扉を調べてたのかな?彼女は。

黒球が開くと開くんですよ、その扉。

 

(お?おーッ スゲーッ かッけ~!バイクかコレ)

 

玄野の声を聞いてバイク部屋を見に行くメンバー達。後にしろ。

廊下へ行った加藤はいつまで探してるんだ?途中で右折してるけどそんなに長い廊下じゃない。数歩進んで角から覘けば終わりだろ、お手洗い(?)のドアノブ触れないし玄関には隠れるとこ無い(笑)そーいや靴箱って開くのかな?カラなのか?ちょっと気になる。

 

「おいっ おまえ大丈夫か!?」

 

玄関へ着替えに行った近藤と入れ違いに戻って来た加藤が倒れたまま無視されている和泉を見て声を上げた。

 

 

 

… … …

 

 

 

野晒しにされたようなソファ―と型落ちテレビが汚いコンクリの床に置いてある。物干し台の横に扉。天井は無い。扉の付いた壁の向こうにはビルディング、正面の派手な建物は上から数えて4階層までしか視えない。風が髪をさらう。

今回のステージ(笑)はオフィスビルの屋上だ。

 

「おい、気を付けろよ!どっから来るか分かんねーからなっ」

 

トップで狩りエリアへ転送されたロン毛に加藤が注意を促す。

奴はそれを聴いているのか無いのか、その視線は加藤が持つケースへ注がれている。

加藤の斜め後ろに居る私は全く見られていない。周波数変えてるからね。

気絶したまま消えていったのにやっぱり起きたのな。私が投げる前の状態に戻ったらしい。

ちっ(←舌打ち)。

 

「それ…」

「あぁ、これか?お前の分だ。服が入ってんだけど、とりあえず持っt」

 

加藤が言い終わる前にケースを引っ手繰る和泉。キョロキョロする。

落ちついて着替えられる場所は無いと思う。

こんな奴、生身で放置しといていいのに~。加藤はいい子だなぁ……憮然としてる(笑)。

 

「やっぱりお前があの“くろのけい”だったのか」

 

着替えを諦めたのかケースを左脇に抱え、玄野を見る和泉。

 

「あー…。まァ、うん」

 

視線を逸らし認める主人公。あの状況で知らんぷりするのは当然でしょう。偽証を批難される謂れ無し。それよりちょっと恥ずかしそうなのは何で?

“役立たず”以外にも何かディスられてたの?

 

「なに?計ちゃんの知り合い?」

「いや、クラスに来た転校生で…」

 

うん、それはもういい。

 

「ねーっ みんなー!!見てぇほら あれじゃなーい!?」

 

山田が最初のターゲットを発見した模様。屋上の柵を左手で握り右手で前方を指しつつメンバー達を振り返る。満面の笑顔だ。風がうるさいからか大声。

 

「え!どこ!?どこ…あっ居た!!居るぜっ あの上!!」

「声がでけーよお前ら。気付かれっぞ」

 

はしゃぐ山田と苫篠に呆れる近藤。

メンバー達が転送された屋上にある塔屋、その反対側、3台の一般的な空調室外機を右手にした正面の建物へ向かう13人分の視線(サダコはいつも通り…いや、北条との距離が近い。犬は屋上の染みに鼻を近づけ…舐める気だろうか?バッチィからやめなさい)。

向かいのビル“大◪生命”看板がたつ屋上にそれらしきモノが居た。

 

「一匹か」

「背中に何か付いてねーか?あれ」

「羽根?」

「…」

「…飛ぶんじゃね?」

「そーかっ だから屋上なんだ!今日のターゲットはみんな飛ぶんだよ」

「…」「…え~…」「…マジ?」

 

屋上に設置されたタンクの上、円錐状に傾斜する部分に座るターゲット。

道路を隔てた隣の屋上でこんだけ騒いでるのに他を向いている。何を見ているんだろう?

こっち無視ってことは好機だけど攻撃するのは未だ早い。

ポッケからコントローラーを出していると私の視界を黒い影が掠めた。

 

ダンッ

 

(は!あ!ああ!○△~▵ □△○■▢○□▵□▵)

 

虚空を舞う人影。

玄野がビル間の上空で何か言って……ころがった。着地成功。

スタート地点から向かいへ、ターゲットが居る屋上へ跳び移った。

着地点より高い空間へ続く階段横で起き上がる。

 

「ひょえ~っまたあいつだっ」

「クロノくんすごーい」

「怖くね―のか?よくやるな…」

 

いや、叫んでたでしょあいつ。あれが答えだよ。

 

「さすがクロノさんっ 俺たちも行こーぜっ」

 

瞳を輝かせてメンバー達を促す迷彩服、ではなく今はガンツスーツ着用の岡崎。

今日も左右にXショットガン。

ホルスター使った方が動き易くね?

 

「う」「え?」

「むり」フルフル

「や、あいつ1人で充分だろ。1匹だし」

「この高さはちょっと…」

「…」

 

揃って高所恐怖症か?

柵に群がってゴチャゴチャ言っている連中は何がしたいのだろう…。

Xショットガンで狙撃出来るから跳び移る必要は無いけども、玄野が一体目をヤれば後は勝手に集まって来るだろーし。

桜丘も行った。

玄野より低めに跳んで無駄の無い着地。再び走り始めるまでが実にスムーズだ、美しい。

岡崎は柵の下を覗いて停止している。行くんだろ?はやく行けよ。

 

スタート地点から移動したい。

マンガと同じ場所に転送されるとは思ってたけど狭すぎる。ここでこの人数が大立ち回り?無理だろ。コントローラーのマップでターゲットを探せるんだからマンガと同じ建物でなくてもよかったのに、もっと広いとこへ転送してよガンツ~。

すでに(透明人間2人含む)12人と1匹居るここに最大9匹のクリ―チャ―乱入とか人口密度高すぎ。なるべく高層な建築物が良いけど、どーしよっか。ターゲットが居る建物の反対側…

扉側正面の派手な建物なら一帯を眺めるのに都合良さそう。

地上を覗くと沢山の自動車が往きかっている。

…。

足りないかも助走距離。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「やっぱすげーな計ちゃんは…」

 

ダンッ

 

「きゃーっ」

「!?」

「うわっ」

 

…やっぱり一匹だけってこと無いよな。

タンクから降りた生物と向かい合う計ちゃん達の後ろ姿を見ていると子供が悲鳴をあげた。

振り返るとそこに居たのは指令の画像と同じ姿。

奥の部屋にあった、苫篠が乗ってきたモノホイール・バイクの横に立つ白い星人。直径が成人男性の背丈ほどあるタイヤ部分に左掌を当てこちらを見ている。なんだか嫌な目つきで。

“ちび星人”だったか、なるほど姿は佐藤さんより小さい。しかしその身体に不釣り合いなほど発達した腕を見ると弱々しい感じはしない、むしろ格闘を好みそーな星人だ。耳・眉・髪のない頭は天辺が出っ張っている。背に付いている寝袋のよーなものは何だ?羽根には見えない。何つーか、マンガから抜け出したような生き物だ。

 

「何だ、こいつどっから…?」

「ちび星人だっ!うへぇ~、なんかきもーい」

「みんな気を付けろ!お前は俺たちの後ろに…」

ダンッ

新たな着地音に視線を向けると3匹目が柵の右隅、室外機の前に、

ダンッ ダンッ

「ひっ」

左隅の柵上とテレビの奥にも一匹づつ。星人4匹に包囲されちまった!

 

「おい、使わないならそれ貸せ」

「え?」

 

捕獲銃を構える俺に右掌をつき出す新規メンバー。その目はホルスターに吊った筒を見ている。奥の部屋に落ちていた筒だ。

 

…別にいいけど、解るのか?使い方。

 

 

 

===□□□===

 

 

 

4匹の星人は暫くのあいだ僕らを眺めるとそのうちの1匹がこっちへ歩いて来た。

慌てて亮太くんの手を引き距離をとる僕。今日の彼は泣いていない。逞しくなったなぁ。

ちび星人は大柄な外国人…JJさんの正面で止まる。

一番強そうな人を選ぶなんて、見た目通り好戦的というか、腕力自慢の星人なのかな?

彼だけ銃を構えてなかったのが理由なのかも。

 

「…」ジッ

「…」ニヤリ

 

対峙するとやっぱり身長差がすごい。60cmくらい違う。でも星人は自信満々な表情…

 

ドッ ガンッッ ガシッ

 

え?

白い星人が右脚を踏み出したと思ったらJJさんは柵にバウンドして蹴り上げられていた。

 

 

「うそだろ…」

 

僕の隣で北条くんが呟く。

うん凄い早業だった。先ずJJさんのお腹を蹴り抜き柵にぶつかって跳ね返ったところで顎を蹴りあげていた。そいつは今、ビルの下。

落下した彼を追って行ったみたいだけど…うわっ走ってる、殴った。

この高さから降りても脚、平気なんだ…

ん?そんな暢気に観戦してて良いのかって? うん、今のところは大丈夫。

残り3匹も気に入った相手と対峙しているから。

北条くんも含めて僕らはお眼鏡に適わなかったらしい。

 

2匹目は我らがリーダー加藤くん。

彼は捕獲銃を蹴り落とされても気にせず屈んで相手の動きに集中している。

 

3匹目は近藤…コンタくんって呼んで良いのかな?

彼は跳び蹴りされて落ちていった、らしい。そう言って追いかけて行った苫篠くんと協力すれば大丈夫だろう、きっと。

 

4匹目は…え~と長髪の子。

って、ちょっと!スーツ着てないじゃないか、あの子!

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

目前で薄く笑うチビ星人。

こいつ、恐ろしく速い。

射撃をあてるのは難しいだろう。でも銃器が役に立たないなら殴るか絞めおとすしかない。

やるしか無いのか?

…。

捕獲銃が通用しなかったときに考えよう。うん未だ時間はある。

暫く星人と見つめ合っていると奴の視線が横へ流れた。

今だっ

低い姿勢で飛び込み捕獲銃を拾って一回転、すると視界が大きな影で埋まった。

バイクだ?!

(わっ)?

飛んで来たバイクを伏せて避ける。擦れ違ったとき悲鳴が聞こえたような、誰か巻き込まれたのか?

扉のある壁を背に起き上がると屋上の様子がよく分かった。

いつの間にかメンバーが6人と1匹になってる。星人も2匹しかいない。

ここに居ない連中はみんなビルの下か?

 

ドンッ ボンッ

 

突然、床とソファーが爆ぜる。舞い散る埃。

誰かが撃っていたのか。危ねーなっ!さっきの騒ぎで発射音に気付かなかったらしい。

 

「撃ち殺してやるっ」

「やめろっ味方に当たる!…あぶねぇ!」

 

プシュッ

左右の銃口を向ける岡崎に襲いかかるチビ星人。岡崎を押しのけ捕獲銃を撃つ北条。

 

バッ

ヒュンヒュンッ

空しく腹の下を通りすぎたワイヤーを眺める星人は死角から迫る男に気付かない。

飛んでワイヤーをかわした星人の下をすり抜ける男…新規メンバーは一回転して身を起こす。

 

『ギッ』

 

ガッ ガッ ゴロゴロ

宙で右脚とその残りに分断された星人は苦しそうにもがくと壁に当たり止まった。

学ランの男が握る筒…柄から黒い刀身が伸びている。あれって刀だったのか。

刀を構える新規メンバーを睨み一歩踏み出す別のチビ星人(出て来た奴らは今のところ全部同じに見える)。しかしすぐに襲いかからず睨み合う。

 

「…ふん、おもしろい。やってみろチビ…出来るなら、な」

 

じりじりと横へ動きながら中段に構え、星人を挑発する新規メンバー。

今なにか言ったか?あの星人。「やってみろ」って何を?っつか日本語解んの?あれ。

顔だけなら今までで一番人間っぽいけd

不意にこちらを向く星人。もしかしてアイツ俺の捕獲銃を蹴り飛ばした奴か?

…。

視線が合わない。どこを見てんだ?

 

ダンッ

一歩で柵上へ到達するチビ星人、その脚に力が入る。

向かうのは正面のビル。計ちゃんが居るほうだ。

行かせるか!捕獲銃でヤツの背を狙う。

プシュッ

あ。

ビルの間でかかるワイヤー。アンカーの噴射でバランスを崩すターゲット。

 

ちび星人は地上へ落下した……




視点変更:オリ主→加藤→山田→加藤
ちび星人のテレパシー(殺意)を受信し、和泉は挑発した。


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ちび編④


前回のあらすじ:
ミッション開始。スタート地点で乱闘。ポロポロ落下するメンバーたち。



間違えてトリガーを上下とも引いちまった。ロックオンするなら上だけで良いのに。

焦って手元が狂うなんて練習不足だ。そんな場所と時間は無いけれど。

柵へ寄り恐る恐る下を覗くとコンクリに叩きつけられたターゲット(?)が見えた。形がかなり変わっている。破裂したゴミ袋じゃねーよな?

その横でこちらへ大きく手を振る山田さん。無事だったようだ(バイクにぶつかって一緒に落ちたのはあの人だったか)。

バイクは真下ではなく分離帯に横たわっていた。どんな軌道であんなとこへ?

 

一般人を巻き込んでなくて、ほっとした。

 

 

 

=========

 

 

 

ビルの屋上。

1体目のキュー■ーちゃん(耳無し)が居た建物を正面として、スタート地点の右隣。

移動する前にターゲットの位置を確認したら、はじめ拠点にしようと思った派手なビルにも反応があったのでここに落ち着いた。いや派手なビルだけじゃなく其処ら中に反応がね。

ガンツがあの場所をスタート地点に選んだ理由が分かりました。

右(拠点)・右斜め前・正面(チビ1号)・左斜め前・左・左斜め後ろ・後ろ(派手なビル)・右斜め後ろ、とその右と後ろに各1つづつ反応が。なんでスタート地点になった屋上だけ居ないの?って配置だ。屋上から屋上へ跳んで移動のが速いけど仏像編の教訓から「ターゲットの周囲10m以内に近付かない(なるべく)」と決めたので一度落下して拠点に居たチビをやり過ごした。と言っても地上に降りたと殆ど同時に左右と斜め前の4体がスタート地点に集合したからあんまりサボれてない。

非常階段を使い屋上に着くとバイクが宙を舞ってて吹いた。相当邪魔だったのね。誰か巻き込まれてるし(笑)山田だった。不運な奴が墜ちた同じ歩道に外国人とターゲット1体は居たが、近藤と苫篠は何処?

 

それにしてもターゲット共が近場に揃ってたことが意外だ。

近くに居たならなんであのとき瀕死の“同胞”を助けなかったんだろう?

千切れた身体を元通りにする術があるよーには見えなかったけど止血くらいなら出来たよね。

あ、でもあいつら裸族だった。縛る紐や覆う布が無い。

マンガでは1体目が失血多量か何かで息絶えてから残りのターゲット共が参戦したので遠くからSOS念話(?)を受信して駆け付けたと思ってたよ。玄野に両脚と片腕をふっ飛ばされたターゲットが数mを頑張って這ってから漸く到着していた。駆けつけるの遅くね?と。

あのターゲット共には1対1を見守る慣習でもあるのか?「片方が絶命する迄が死合いです」って。ただの放置じゃん“同胞、同胞”言って怒ってたのに敗者に厳しーのな。

マンガと違ってハンター側が複数だから玄野たちと並行して加藤たちもターゲットと交戦してるんだろう、たぶん。

 

マップから最初のターゲット反応が消え、残りが動き出した。

次々と跳ぶ白い影。狙いは玄野たち。

スタート地点に居るターゲット2体は助けなくて良いのか?1体負傷して倒れてるっぽいが。

未だ生きてる同胞を優先しないらしい。狭いから後回し、とかじゃないよね?

それとも先ず少数を叩くってこと?1・2…5体か。2対1で勝利した卑怯者には倍以上の数で対しても構わないって?

脳筋じゃなかったのねチビ・クリ―チャ―。

 

スタート地点の右斜め前、私が居るビルの向かい側にある建物の屋上を見るとシナリオ通り玄野たちが居た。2人は大きな看板の下、ではなく塔屋横に棒立ち。

マンガと同じ方法でターゲットを仕留めたのだろうか? 

ぼっち玄野はチビの素早さを知ると工夫して倒していた。

先ずチビから逃げて跳び隣のビルへ、格闘中は後れをとるが逃げ足なら玄野が上らしい。

屋上に着いたら着地点近くの物陰で待つ、手も足も出なかった玄野を素直に追うチビ。

チビの踏み切り音を聴いたら物陰から飛び出し空中のターゲットを狙撃、という手順。

「空でも素早く動いてみろ」作戦だ。わーわかりやす~い(拍手)。

この方法で玄野は9体のターゲットを葬った。制限時間を半分使って3体(今スタート地点の反応も消えた)しか倒せていない現状と比べると鮮やか過ぎる。味方が居ない追いつめられた状況であんなハメ戦法を思いつく主人公凄い。って、待てよ?やっぱおかしくないか?1体目と玄野の攻防を見ていたら、方法を知っていたら騙し討ちに引っ掛からないよね?チビは目が悪いの?作戦にハマった奴は同胞に教えなかったってこと?念話の射程が短いとか?

…チビのほうが玄野より余程動揺していたらしい。

まぁ少数派だよね、自らが殺される直前や“同胞”が殺された直後に冷静な生物なんて。

 

最後の1体は空中で四散した8体の同胞を見て、やっと玄野の戦法を警戒し逆に追い回してたんだから。マンガでは近くで見ていなかったはず。ターゲットの数が増えたのか?

いやマップに他の反応は無い。それとも玄野は一度に1体しか狙撃出来ないと思ったとか?

いやいや、そんな思考の生物が居るワケ無いって1体は確実に死ぬじゃん。

 

この際どーでもいいことではあるけど気になる。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

白い星人が消え、ソレを送ッたレーザーも夜空へ上るように消えた。

…。

何処に送られてンだろう?宇宙空間とか?マジで刑務所的なトコだッたりして(笑)ねぎ星人のときに西が言ッてた「犯罪者宇宙人」やら「日本政府の秘密機関」やらは新規メンバーを囮にする為のウソだッた筈だ、無いか。

見かけによらず強かッたなチビ星人。動きが速すぎて銃が当たらないッてどンだk

 

「クロノくん!!」

 

ドンッ ドンッ

 

「!?」

 

ドンッ ドンッ ドンッ 

 

屋上にチビ星人たちが現れた。

 

 

 

「…ちくしょうッ、やッぱ1匹じゃなかッたか…」

 

周りを見回す。見えるだけで5匹居る。

設備の上からこッちを見降ろす姿は送ッたチビ星人と全く同じだ。

単独でも持て余してたのに、この数はヤバい…

 

「むッ?」 

 

【(ザザザッ)同胞を何処へやった!!許すまじ!!コイツが同胞を消した!!

 (ザザッ)許すまじ!!かけがえのない同胞!!(ザザッ)我らから同胞を奪った!!

 許すまじ!!(ザッ)許すまじ!!許すまじ!!】

 

頭の中に声が響く。脳の内側を擦られているような感覚…ノイズとともに、イラだち?冷水のような感情が流れ込ンでくる。

うぉッ、コレッてマンガとかでよくあるヤツだ。直接頭に声ッつうかなンだ…?考えッつうか

 

【(ザザッ)コイツを破壊しろ!!(ザッ)破壊しろ!!(ザザッ)解体せよ!!

 四肢をもいでしまえ(ザザザ)首もだ!!(ザザッ)引き千切れ!!粉々にしろ!!】

 

サッ

スッ

星人の1匹が右腕を挙げ、俺の右側に居る1匹を指す。

スッ

リーダーらしき奴に指名されたソイツは左拳を胸に当てた後、俺に向かッて歩いて来た。

ペタッ ペタッ

と足音が大きく聞こえる。

 

【(ザッ)気をつけろ同胞を消したヤツだぞ!!(ザザザッ)潰せ!!潰せ!!解体せよ!! 

 (ザッ)首をもいでしまえ!!解体せよ!!】

 

【(ザザザッ)おまえを(ザザッ)解体する】

 

対峙したチビ星人の宣言。

星人との距離はかなり近い。もう奴の間合いだろう、俺を睨ンでいる。

…見れば見る程キモチワルイ生物だ…顔が人間ッポイからか?

 

ガンッ

ドッゴッ

 

「がぁッ はッ」

 

顎と腹に衝撃。ほぼ同時にきた。やッぱ見えねェ!!

たたらを踏み後方へ下がると、左拳を振ッた姿勢のチビが消える。

 

「あ」

 

ガガッ

ガンッ

 

今度は顔面。続いて背中・腹、最後にもう一度背中に衝撃。

全身にきた圧迫感から不意に解放される。

もう自分がドコを向いているのか分からない。

どうなッてンだ 俺……

 

 

 

==□◇□○□==

 

 

 

「ああっ!!」

 

ドンッ

 

あたしの目の前でチビ星人2匹に天高く蹴り上げられたクロノくんが屋上へ叩きつけられた。

 

ドサッ

 

一度バウンドして大の字に伸びた彼に駆け寄ると苦しそうな表情だが呼吸はしている。

形のよい眉が歪み汗で光る滑らかな肌。

…よかった。骨は?手脚に感覚ある?

彼の手を握ろうと腕を伸ばしたところで引き離される。脇腹を打たれたようで一瞬息が詰まった。

 

フェンスにぶつかり身を起こす。遠くに見えるクロノくんの両脇から彼に近付く星人2匹。

グッ グッ

両腕を掴まれ起こされる彼。片腕に1匹づつチビ星人がつき抱えている。

クロノくんの膝は床についたまま。刑を執行される罪人みたいに……

 

「やッ マジかよッ やめッろッ ハァッ ハァッ」

 

周りを見回し声を荒げるクロノくん。可哀相に凄く怯えている。

スーツでも振り払えないなんてマズイわっ。

あたしと拘束されている彼の間に星人が1匹、こちらに背を向けている。今気付いたけど設備の上に居る2匹がこっちを見てるわね。あたしが動いてもすぐに潰す気か…。

 

「やめッろッオマエらっ…!あぐッ ちッくしょうッ」

 

気が動転していたのかしら…拘束して攻撃するのが目的じゃなかったのね。

星人達はクロノくんの両腕を…引き抜こうとしている。

あたしを監視していた2匹も加わり引っ張る4匹。星人達の足指が床にめり込む。クロノくんのスーツが膨張しそれに抵抗している。

 

ブチッ ピュッピュッ ブチッブチッ

 

彼の呻き声が悲鳴に変わりスーツの繊維が断裂し始めた。

隙間から洩れでる液体。

 

ボタボタ ビチャ ビチャ

ブチッ ブチッブチッ

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

両腕の付け根が裂け噴出する中身。夜空に絶叫が響き渡った。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

ビクッビクッ

俺の右手に…痙攣する黒い物体を抱える2匹のバケモンが見える。興奮しているのか見開かれている目。黒い物体…腕の先端は銃を握ッたまま。その断面から液体が迸る。

ああ、ちくしょう俺の腕…。

死ぬのか?俺……さすがにこの出血じゃ……

 

ゴキンッ

 

正面から響いた音に目を向けるとチビ星人の顔が変だッた。

肉まんみたいな頭部にはのッぺらぼーのように何も無い。

…首が捻れている?

ソイツの向こうに桜丘。

一閃。桜丘の鋭い回し蹴りだ。

見えたワケじゃない…一瞬ブれて構えを戻した桜丘の手前、立ッていた肉まん頭が消失したから。自らの首が刈られたコトに気付かなかッたのか更にチビになッた星人は立ッたまま。

ゴッ コロコロ…

真上に飛ンでいたのだろう仁王立ちなチビ星人の足元に頭部が帰る。

その音と共に俺の右手にいたチビ星人が動く。2匹とも。

一瞬で桜丘に躍りかかる白い影。障害物を避け高くジャンプする1匹。

!!

更に跳んだ。

いや、蹴られたンだな。踊るように蹴り足を戻し桜丘が俺を見る……

 

「ぅぐっ」

 

苦しッ。残る1匹が俺の首を締め上げてきた。

バシバシ叩くがビクともしねェ!ナニで出来てんだコイツら!ッて……叩く?

?!

俺が驚いているうちに接近したのだろう視界を覆う黒い凶器。桜丘の引き締まッた脛だ。

しッかりハッキリ視認できてるのは、アレか?俺がもう死ぬから?

コレ避けないと死ンじゃうから?

 

うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

暇だ。

転送された屋上に今は4人と…ああ、またサダコが背後に立っている、やめてくれねーかな?

びっくりするから。

あとは犬が1匹。狭い屋上をウロウロしつつ嗅ぎ回っているが星人の死体には興味が無いらしい。このミッションを仕組んでる奴は何を考えてんだ。犬に何が出来んだよ。自力でスーツも着れねーのに。こいつ加藤たちよりはやくからあの部屋にいるらしいのに未だ0点じゃねーか。生き残ってるだけで奇跡だぜ。

残り時間は10分程。未だ星人がいるようだが此処に来ねーってことは他のメンバーにじゃれてんだろう。加藤は落下した連中を見に行った。「ここを頼む」と言われたが見る限り屋上から落とされても殴られても平気そーだから杞憂だろ。唯一危ないのは新規メンバー…

あいつスーツ無しなのにかなり闘るな、脚を斬り落とした星人に止めを刺す姿は手慣れて見えた。こういう状況に慣れている?部屋に転送されて喜んでたのも腑に落ちねぇ。

 

「なんだ?」

 

見ているのに気付いたらしい。黒い刀を弄る手を止め俺を睨む男。

 

「おまえ疑問とか無いのか?」

「ん、そうだな…とくには、ない。…いや、ひとつ知りたい」

「だよな、こんな状況疑問しかねーy

「残り時間は?」

「おぅ、あと9分だ…って、それだけ?転送されるまで気絶してたよな。

 いきなりこんなことになってて不思議じゃねーの?」

 

時間制限もなんで知ってる?

 

「ふっ、この狩りは有名だからな…一部では」

「はぁ?」

「それに、お前らに訊いても仕方ない…

 

「あっ あれ」

「おい!ちょっと」

トントン

 

小学生と岡崎の大声で会話が遮られる。サダコも背を叩いてきた。なんだよお前ら

 

ドンッ

 

「お」

 

男と俺の間にチビ星人が降り立った。




視点変更:加藤→オリ主→玄野→桜丘→玄野→北条


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ちび編⑤

前回のあらすじ:
跳び移った先で原作のような目に遭う玄野。
姐御無双に恐れを為した(生き残りチビ)星人はスタート地点へ移動した。



「ちっ」

「きた来たっ!!」

 

獲物が罠にかかったことを喜ぶような、どこか不安になる笑みを浮かべた新規メンバーがチビ星人から距離をとる。こいつやっぱおかしーぜ。お前スーツ着てないんだぞ!一撃くらったら終わりかもしれねーのに喜んでる場合かよ!

しかし俺たちを横目で確認した星人はそのまま前方へと跳ねる。

扉のある高い壁の向こうへ消えた。

…。

え、この場合どーすんだ? ターゲットは俺らにつっかかってくるモンじゃねーの?

たしか時間切れはマズイんだよな。追いかけねーと!

 

「なっ」

ドンッ ガッ

 

驚く声に目を向けると新規メンバーが吹っ飛ばされていた。

時間差で来た2匹目のチビ星人にやられたようだ。進路に居たのを振り払われた格好か?

 

ドッ

「わっ?!」

 

柵を越えてったのは刀だろう。本人は幸運にも岡崎にぶつかったことで落下を免れた。

跳ね返って床に叩きつけられゴロゴロと転がる。

それを眺めキョトンとしているのは両手に銃持った奴。

 

「かっ はっ はぁっ はぁっ」

 

男は仰向けになって咳き込み、横を向いて止まった。

目を瞑り苦悶の表情。それもその筈、刀を顔や胴体の盾にしたとき一緒に衝撃を受けたらしく両腕がそれぞれ数か所折れている。服の上から分かる程ぐにゃぐにゃだ。

恐ぇー…小型の星人でも攻撃が当たるとこうなるのか、生身でミッションするもんじゃねーな。

悲惨だ。

 

惨事に気をとられている間に星人2匹は逃げ去ってしまった。

…ヤベぇ。

 

 

 

=========

 

 

 

スタート地点で横たわる学ランの周りに残った4人が座っている(サダコは北条の背後)。

介抱してあげてるのかな?みなさん優しーねぇ。

真下の歩道で加藤・山田・外国人が集まって、なんだろう…キョロキョロしだした。

加藤とあと2人が別れ走りだす。山田たちは和泉を轢き逃げした星人2体を追い、加藤はちょっと遠いもう1ヶ所へ向かうっぽい。そこには近藤たちがいるのだろう。

逃げたのか追ったのか知らないが随分遠くに居るなぁあいつら。山田たちが追うチビも移動速度はやい。このままだと数分で狩りエリアを出てしまいそう…

ターゲットはフツ―に出れるのかな?

 

残り3体。ラストスパートだ。

 

 

 

===□□□===

 

 

 

耳元で風が唸る。

前方の星人達になかなか追いつけないけど結構なスピードが出てるみたい。

今は街灯の届かない狭い道を駆けているのでJJさんは僕の後ろについている。

後方から破裂音がした。ゴミ箱にでも当たったのかな?さっき僕もやっちゃったけどポリバケツがありえない音で爆ぜてた。スーツの脚力出鱈目すぎる…他にも自転車や看板の持ち主さん、ごめんなさい。

あっと、こんなこと考えてる場合じゃない。集中しないと。たぶんもう時間無い。

角を曲がる前、速度を落としたときに飛びついて足を止めるしか無さそーだけど、まずはひとっ飛びで接触出来るくらい距離をつめないと…

 

「!」

 

さしかかった角を曲がるとチビ星人たちが止まっていた。

背景に壁。20階層くらいの凹凸控えめな建物。袋小路だ。

チャンス到来だけどいざ闘うとなると緊張する…後ろへ逃がさないようにしないと。

少し道幅が広くなったからかJJさんが前に出てくれた。頼もしい!

ズンズン前進する彼。チビ星人達は顔を見合わせ後ずさる。

JJさんの足が止まった。仕掛けるのかな?…。…あれ?動かない。

追いつき横へ並ぶと理由が分かった。…アラームだ。

 

♪ピンポロパンポン ピンポロパンポン ピンポロパンポン ピンポロ…♪

 

わー…これが噂の…。

これ以上進むと頭爆ぜるよ、の警告音。

今更だけど頭部に異物が入ってるって…想像すると気持ち悪い…。

壁を背にしたチビ星人まで2m弱だから大丈夫、かな?退いて誘き出すべき?ドキドキ

JJさんが一歩踏み出す。潔い!

それを見て右側のチビ星人が屈む。

 

ダンッ

 

すごい跳んだ。

でも屋上までは全然足りない、斜めってるし…って、え。

 

ダンッ ダンッ

 

左右の垂直にきりたつ足場こと壁を蹴って危なげなく屋上へ達するチビ星人。

三角跳び!?

すげ~~~~~!!初めて見たっ 生でっ!…じゃないっ逃げられた!!

 

「ぜィやァあッ!!」

 

星人を追って跳ぶ巨体。

僕が3角跳びに見惚れている間に助走をしたのだろう大ジャンプ!

 

ズガッシャンッ

 

…パラパラ

 

左のビルに…その上から2番目の窓に突っ込んでJJさんは消えた。

真上の壁も大きく凹み亀裂が…。

 

「…」

 

ま、まぁ、あの人なら大丈夫だろう。

気を取り直して残る星人にハンドガンを向ける。

そんな僕を見て、後ずさってガラスを避けていた星人もこちらを向き顎を引く。

ギョーンッ 

惜しいっ!フェイントをかけて撃ったのに外れた。

ドンッ

一拍置いて爆ぜる壁。

まだまだっ

ギョーン ギョーン ギョーン

スペースの広い右側へ銃口をずらしながら連射。

予想が的中し星人は右へ動いたが、あっちのほうがちょっと速かったかっ!? くそっ

 

!!

 

迂回して間合いをつめたチビ星人の拳が迫り……

 

バンッッ

 

尻餅をついた僕の上に星人の肉片が降った。

 

 

 

=========

 

 

 

黒球部屋。

 

“00:00:00”

 

ジジジジ…

学ランが転送されている。

奴が最後だ。

それを見てみなさん和やかな表情。今回は全員生還したからね。ちっ…運のいい奴め…。

それはそうとコントローラーのマップにメンバーの位置映らないってわりと不便じゃね?

ターゲットの位置で想像するしかない。ミッション中だけでもメンバー間で通信出来たら便利なのに。連携させる気あるの?黒球メーカー。…ん?だからマンガで西が言ったのか?

「仲間じゃない」って。

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

採点が始まった。

 

 

 

今回の0点は犬・西・山田・北条・サダコ・亮太・苫篠・岡崎。

メンバーよりターゲットが少なかったから仕方ないね(笑)次がんば☆

 

“佐藤(?)……3てんtotal47てん あと53てんでおわり”

 

ふむ、予測通り。

 

“くろの……3てんtotal11てん あと89てんでおわり”

 

「…」プルプル

自分を抱きしめるように両腕を擦る主人公。顔色が悪く震えている。

…腕とられなかった筈だが?スーツはノースリーブになってたけど。

 

“かとうちゃ(笑)……3てんtotal6てん あと94てんでおわり”

 

「1匹3点か…」

呟く加藤。思ったより点数が低かったのかガッカリしている?

 

“コンタ……3てんtotal4てん あと96てんでおわり”

 

「わりぃな…」

「いーって。次は俺を手伝ってもらうから」ニヤニヤ

「ふっ、ああ任せろ」

笑いあう近藤と苫篠。仲いーなぁこいつら。

 

“空手家……3てんtotal5てん あと95てんでおわり”

 

「…」ゴキコキ

無言で首をまわす外国人。

 

“和泉くん……3てんtotal3てん あと97てんでおわり”

 

「ハァ?」

驚いて和泉を見る玄野。

「奥のバイク部屋にあったあの筒から、こう刃が出てな、斬ったんだ」

「へ~…ッて、スーツ着て無かッたよな?」

「…」

加藤の説明後、無言でメンバーの視線を受け止める和泉の横に近付く人影。

そいつが何か言おうとしたところで画面が変わった。

 

“あねご……9てんtotal21てん あと79てんでおわり”

 

「…ボスでも出たのか?計ちゃんとこ」

「いや、指令のヤツだけ」

「あれを3匹も…」

「すっげー」

「…」

尊敬(?)の眼差しを浴びる桜丘。彼女は主人公の顔色を伺うように見ている。

外国人含めた野郎どもの視線に気付いた。ちょっと嫌そう。

 

表示が消える。採点終了だ。

…。

おかしい。

点数が合わない。

合計得点が27点なんて、3点足りない。マップのポイントは10ヶ所だったのに。

チビの点数が一律3点だとしたら1体分足りないってことだ。マンガのターゲットが10体だったから思い込みで数え間違えた? ありえないとは言い切れないが最悪を想定したほうが無難。ターゲットが残ってるのにミッションが時間切れ以外で終わるわけが無い。メンバーの欠員が無かったから退場したメンバーが倒した分、ということも無い。死骸を視認できなかったのは近藤たちと山田たちの担当したターゲット。

怪しいのは山田たちが追った奴ら…

今回私がとった点数は最後に残っていたターゲットのもの、の筈。山田たちが追った奴の1体。私はマンガで言う最終回までガンツメンバーでいるつもりだ。どこまで“記憶を消され”るか分からないし小島の生存率を上げるのにガンツスーツと転送リセットは便利。なので点数を無理して取る必要は無い。でも時間切れからの追加条件発生、その失敗と仲間(?)割れが怖いのでスタート地点から拠点に移ったあと出来るだけターゲットをロックオンしておいた、何処へ隠れても討ち洩らさないように。出来なかったのは近藤たちが相手した奴のみ。マップに残されたポイント2つのうちトリガ―を引く直前に1つが消え数秒後に最後の1つも消えた。だから山田か外国人がギリギリで始末したものだと思ってたのに。

エリアから消えた、いや…

 

「何か用か?」

 

不機嫌そーな声に考え事を中断された。

和泉は桜丘に点数で負けたのが悔しいのかな(笑)?

なんでも勝つのが当たり前でそれが退屈、とか思ってこんなゲームにまで手を出したのに、

面倒な人~。

 

睨まれても動じず西は口を開く。

 

「お前なんで戻ってんだよ?」

「…?」

「なんだ?おい。記憶無くしてんのか?」ニヤニヤ

「知らねーっつの」フイッ

「ちっ」

 

「どーいうことだ?西」

「あ…もしかして…」

「ああ、こいつ前にこの部屋に居たんだ、リーダーだった。すぐクリアしてったけど」

「え」「ハァ?」「!!」

 

センパイ暴露すんな、暗殺されるぞ。

そいつは所謂「危ない人」だから、刺激するなら私が居ないときにやって。

日常ではボロを出さないようかなり気を遣って人気者を演じてるのにミッション中やクリ―チャ―が絡むと思いつきで行動するっつかアホになるからな、そのロン毛。

…って和泉も驚いてる~。

 

「そーいうことか…あの小説に惹かれたのは懐かしいから…」

 

納得する和泉。ちょっとドヤ顔。

「知らねー」子供の言葉をコロッと信じている(笑)。

そこは怒るかガッカリするとこでしょ、スリルを感じて楽しむ為に参戦したんだよね?

デスゲームに憧れた自分は結局そのゲームにも一周で飽きた、という解釈もできる証言だよ?

今のところ奴の表情に狂気は見えない。

見えたら危険なのでそれは良いんだけど、なんで?

自称「なんでも人並み以上にこなす」奴がその可能性を思いつかないってことは無いはず。

ぬるゲ―でも工夫すれば楽しめるって考えかな?

それが出来るなら最初からそうしろ。工夫して日常を楽しめ。

あ、他人に迷惑かけない方向でね? とくに小島方面。

 

「ッてコトは、ナニか?

 1度100点ためて解放されたッてのに死ぬよーなメに遭ッてまた来たッてのかコイツ」

「…」

「まじか…」

「ひでぇ話だな…」

 

西は玄野の言葉に答えない。分かりきった問いを無視したのではなく疑問がありそーだ。

それに気付いた様子も無く和泉に同情するメンバー達。

短い期間に何度も死ぬのは本人が迂闊な所為だろ、和泉は死に戻りじゃないが。

ガンツに選ばれるのはラッキーだと思うけどねぇ。

老衰以外でこの世から居なくなる運命のニンゲン使って実験する場合、事前に了承を得るなら終末期医療を受けてるヒトしかメンバーに選ばれないから、多少強引な召集でもランダムで選ぶ今の方法にした仕掛け人達に感謝するべきでしょ。自らの過失で条件を満たしちゃったヒトはとくに。どーせ丁寧な説明あってもクリ―チャ―害して生きるほうを選ぶんだし。

「複製は前金で成功報酬は自由」と「そのまま消える」の、どっちがいい?って訊かれたら殆どの生物が選ぶモノは決まっている。ガンツは無駄な手順を省いただけ。

自主的に退場することは禁じられてないからミッションが嫌ならやめれば?

 

「じゃあ順番に着替えて解散ってことで」「おつかれー」

「僕らが先で良いかな?仕事が残ってるんだよ」「いーっすよ」

「ボクひとりでできるよ…」「そう?えらいぞー」ポスポス

「今日も交番連れてくのか?」「ううん、ケータイ持ってるって」

 

リーダー加藤の号令で帰り支度を始めるメンバー達。亮太の手を引いて玄関へ向かう山田。

私も小島宅へ戻ろ~。明日になれば疑問は解ける。…たぶん。

 

西に絡まれているロン毛を残しメンバー達は帰宅した。




視点変更:北条→オリ主→山田→オリ主
中央分離帯に落ち忘れられたガンツバイクはメンバー回収とともにエリアから消失、次回ミッションのメンバー招集時、黒球部屋奥の定位置に戻される予定。


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ちび編⑥

前回のあらすじ:
参加者全員生還でミッションはクリア。




翌日、昼。

遠くに校門が見える。片側のみ開かれた鉄柵。その近くに人影は無い。

学校は平和だ、今のところ。

風が屑入れを揺らす。チラシを折った箱だ。重しに石を入れているので飛ぶ心配はない。

スケッチブックを近付けて消しカスを屑入れへおとす。

ほほう…タイムサービス…平日の夕方にこんな特典が…

帰りにスーパー寄ろうか…人ゴミは嫌いだが野菜の袋詰めに興味がある。

“詰め放題”…良い響きだ。

それにしても、おもしろいように手が動くなぁ。もう半分くらい描けた。

先端が丸くなった鉛筆に気付き削ってあるものと持ち替える。小島のチビた鉛筆コレクションって捨てちゃ駄目かな~。延長軸でも無理な程小さいのを何故とっておくんだ

 

ガチャーン

 

扉の開閉音が聞こえた。

騒がしく駄弁っていた連中が教室へ戻り、やっと静かになったと思ったら…今頃屋上に何の用だろ?午後はサボるって人かな?暇を持て余してボケっとしに来たんなら優雅で羨ましい…

あ、今の私は忙しいよ?珍しく。2つのことを同時にやってるので。片方は自動書記だけど。

 

柵越しに風景を観察する。うん、さっきと変化無し。

遅いなぁ、もうすぐ昼休み終わっちゃうのに。正門通らないのか?

素直に犠牲者(予定)を見張るべきだったか。変装してても塀を余裕で跳び越せそうだものね。

先に登校したのが『本物』とは限らないけど。

 

傍らに影がのびる。

…また何か言われるのか。

今日は妙に話しかけられるなぁ答えるのが面倒すぎる。教室で同じこと…スケッチしてるときは誰も話しかけてこないのに。屋上は目敏い暇人の溜まり場か? 

……?

無断で隣に座った人物は古いスケッチブックを見ているのだろうか無言だ。

…べつに止めないけど一言くらい断れよ。そしたら私も「それR18Gです」と教えたのに。

いや指定はされてなかったと思うけどそれ並みって意味で。基準がよく判らない(笑)。

夢に見ても知らないよ~?まぁ素描だからグロに耐性あるひとにとってはそれほどでもないか。見本は寧ろ美しいし。屋上を去った連中は「グロいグロい」と爆笑だった。

小島の席から見える風景がネタ切れしてからは原作を思い出しながら描いていたので、ちょっと閲覧注意な作品が混じったのよね。中身入りのスラックスとか顔から出るものが全部出た子供とか頭部を減量した△ブとか

 

♪キーンコ-ン カーンコーン♪

 

とりあえず完成した&予鈴鳴ったので片づけを始める。

つーか、そんなに面白かったのかな?スケッチブック。没頭してた…いや、してるのか?

未だ私の用意した敷き物に座ってやがる。退けっての貸さねーぞ。小島家の備品だし。

帽子の下から隣人を確認する。

 

…和泉だった。

お前、ボードゲームはどーした。

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

男子トイレ。

 

出入り口に扉は無い。

入って右側に個室が並びタイル張りの床を挟んで対面に小便器。水色を基調にした空間。

個室の横に立ち奥…喚起窓の方向を見つめる3人。服装検査に引っ掛かりそうな奴らだ。

本鈴が鳴り終わったのに焦る様子が無い。

窓の前に立たせた2人の生徒を見比べている、…無防備で。

 

「おおーっ」「なんだよこれ」「はははは」

「なんだこれ」「なんで中野2人いんの?」

 

「違うってコイツッ。こいつニセモノだって!!」

 

「確かにコイツ変じゃん。何も喋んないし、まばたきもしねーぞ」

「うぇっなんか気持ち悪ぃっ。よく見たら表面絵みてーじゃねえ?気色っ !!

 おいっ触んのかよっ」

 

「なんか言え~」

 

3人組の1人…茶髪が奥へ進み件の人物に左掌で触れる……

 

ボンッ

 

湿った破裂音。

斑に染まる空間。

4人に遮られた床の一部を除き底面・壁・天井を彩る細かい飛沫。

浸食された電灯と日光そして…生臭い靄で空気まで薄ら色付いている。

窓側の天井に張り付いていた塊が落下。

 

ベチャッ

 

狭い空間を支配する色は赤。

 

5人分の絶叫が木霊した。

 

 

 

=========

 

 

 

教室。

 

黒板の前で教師がテキストを読み上げている。ちょっと遅刻したからか巻き気味で。

マンガではチビ星人狩りの翌日である今日このクラスで惨劇が起きていた。

別クラスの生徒(偽)が授業中に現れて暴れ、和泉・玄野・小島以外の生徒が…ってヤツ。

和泉が殺人鬼を机でしばいてたな~そして全く効いてなかった。

服に血をベットリとつけた生徒を見て「自習~」とか言いながら素早く逃げた教師が印象的なイベントでした(笑…い事じゃない)。それを言うなら「退避~」でしょ?間違えないで?

別クラスの生徒(偽)はチビが“人マネ”したもので、玄野がいるクラスに辿り着く前にトイレで4人解体していた。

 

…ええ、待ってたのです奴を。

 

マンガとは逆にチビをミンチにした。教室に来ないから成功した筈。

念話する相手に思考を読まれなくてラッキー。敵の油断は大歓迎。

 

屋上から教室へ戻る途中すれちがった男子生徒2人を思い出す。

そいつらの容姿にピンときて振り返ると1人は教室内へ1人は中を覗く姿。これは出たな、とイベント発生を確信し現場へ先回りしてトイレの置き物みたいな生徒(の胴内で縮こまる骨格)をロックオンした。現場は特別室の多い棟の1階隅。いちばん辺鄙な男子トイレから確認し最初で大当たりだった。見張っていたのかマンガで被害を受けた連中のひとりが出入り口付近に居たけど放置。透明人間が話しかけたら驚いて心臓止まるかも知れないし。

チビは何時から居たのかな?あそこに。そういう種類の大道芸人みたく不自然な直立不動の人間(偽)が居る空間で気にせず用を足していた連中がいたと思うとシュール…いや、同じ階で使用中の教室無かったから件の男子生徒3人以外には見付かってなかったのだろう。

ヘンな生徒(偽)を見つけて人気の無いところへ誘導したのかサボろうと辺鄙なトイレに行ったら居たのか知らないが後者だとしたら納得だ。悪ガキは「見てはいけないもの」とのエンカウント率が高いってこのことだね。

星人に姿を借りられた「中野」くんは完全に巻き添え。マンガでは同じ姿だからって無理矢理現場に連れてこられたように見えた。不運すぎる。そーいやスタート地点付近に“中野運送”の看板立ってるビルあったけどその関係者か?解体されるまでの「中野」くんはピンピンしてたからチビは見るだけで“人マネ”出来るのかもしれない。

あの能力って本来は買い出し用なのかな、コンビニ弁当食べたり雑誌を購読してたとか。

ミッションで使った奴はいなかった。マンガのときはハンターが主人公独りだったからやる意味が無かったけど。

 

今日は学校中のトイレ位置を確認するため1時間早く登校し、不自然さを無視してセーラー服の下にスーツ着てきたので現場を探しまわったり着替えるロスは無かった。

制服姿の群れに上下ジャージで混ざるよりはマシだろうと思ってネックウォーマーと靴下で要所を隠してみたら周りはいつも通り無反応だった(笑)あれ?これなら「毎日スーツで防寒」イケる? 2度目のトリガ―も消えたまま空き教室(周波数変更時も使用した。施錠の処理はお察し)で引いたから目撃者の心配は無い、たぶん。

 

マンガでこのイベントが起きた原因は主人公が1体討ち洩らしたこと。

でもターゲットに逃げられたのではなく逃げたのは玄野。(放棄された)Xショットガン2丁を装備した耳無しキューピーに追われて、タイムアップまでエリア内を逃げ回って…すごい怯えてたなぁ。

マンガと逆でこっちが怖がられているなら襲撃が無い可能性もあった。

私は戦略的撤退だと思うけど。“根にもつ”タイプらしいし。

そーいえばなんでチビはあの時逃げきれたんだ?ロックオンしたんだからエリアを出ても仕留められる筈じゃん。エリアの境界線を越えられると無効になるってことか。実際に逃げた奴が出たんだから不思議がっても無意味だけど、これもミッション限定の仕様と考えれば良いのかな?

ミッション時だけ自動でかかる不可知化みたいに。

“心を通わす”って能力の一部だろう、マンガでは『信号』を覚えられ捜索されたらしい。

信号って電気信号?脈拍や脳波のことかな?一度でも接触すると記憶されてしまうのだろうか。それとも黒球メーカー謹製爆弾を探知された?爆弾で区別してるなら態々3人揃ってる此処には来なさそう。私なら単独行動の奴を狙う。

不意討ちを狙うべく強い奴から順に。

 

マンガのチビ星人は腹癒せ目的&精神攻撃のつもりで玄野の仲間…っぽいクラスメートを解体していた。

昨日のミッションで一番恨まれたのって……

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

『刃物を持った人物が校内を徘徊しています。

 クラスごとに慌てず速やかにグラウンドへ避難して下さい』

 

休み時間。隣の空席を眺めていると物騒な放送が入ッた。

刃物ッて…ハァ?

…この寒いのにオカシナ奴が居たもンだ。

 

「おっこの声。体育の松田じゃねえか?」「誰か殺されたのか?」「刃物持ってるってー」

「刃物ってなんだ?包丁か?」「どーせカッタ―ナイフとかだろ」「鉈」「チェーンソー」

「こわい!」「意表をついて鋏」「シ□ーマンだ!」「◇ロックタワーかよ」「あれ鋏か?」

「や…マジな話このまま行って平気なのか?鉢合わせとか…」「えぇ~ビビりすぎ~」

「大丈夫だろルートの指定ねーし」「教師がどっかに追いつめてンじゃねーの?」「おお!」

「大捕り物だ」「ほかの棟か?観たいかも」「いや、そこは警察呼んだだろ」「だよなー」

「なんでもいいじゃん。早く帰れるし」「どっかよってく~?」「塾までなら付き合う~」

「…ねぇ!和泉くん戻ってないんだけど」「えっ」「ホントだっ」

「さっきの授業ずっと居なかったよぉ」「早退じゃないの?」「まさか和泉君が…」

「いやーっ」「うそー」ザワザワザワ

 

帰り支度をしながら噂するクラスメート。動揺しているらしくいつもより大声。

…放送の声は落ち着いてたから、もう解決してンじゃね? ソレか犯行現場の片付け中。

 

「俺達の誘いを断って教室を出て行きました…それが彼を見た最後の記憶です…」

「ううっ…良い奴だったのに…。…ぷっ」

「オマエらなァ…」

 

永沢の小芝居に松村がのッかる。おいッ命懸けの冗談か?

俺が居ない時にやれッつの…女子達の目が恐くなッてンぞ…

クラスの奴らは和泉が死傷したからこの場に居ないと思ッてるようだ。

何者かにトイレで刺された?俺はアイツが一般人にどーこーされるッて想像出来ね―けど。

鞄が無くなッてるから早退かもしンねーし。

仮にアイツが刃物野郎に遭ッてたとして、生身で星人に挑む奴を心配?ソレこそ冗談だろ。

逆にブッ殺してねーか心配。学校での温厚な人気者面がミッション中は剥がれていた。

危ないコトに嬉々として絡ンでいッたのかも。

 

クイクイ

「玄野くん、桜丘さんと連絡とれますか?」

 

肘辺りを引かれ振り返ると佐藤だッた。

何だよ?藪から棒に。

メールで良いの?は?生存確認?あッちでも殺人鬼が出たッてか(笑)…怒るなよ。

昼休みに2通メール来たから、ソレまでは生きてたンじゃね?

はいはい今電話するッて……

 

グラウンドに着き、呼び出し音を聞いていると人気者が現れた。

安堵するクラスメートの質問攻めを適当にあしらッて、こッちに来る。

何だよ~やッぱピンピンしてンじゃん~何故かジャージ着てるけど。髪も濡れてて生臭い…?

お? 横に居た筈の佐藤が俺の後ろへ回ッている。

深呼吸するジャージ男。

 

「撃つなら撃つと言え!」

 

なンだよ和泉?!

ビビッたァ~…ッて、アレ?ちょッと泣いてる?

「撃つ」ッて何が?もしかしてXガンのコト?なら学校に持ッてこねーよ?さすがに。危ねーからな色ンな意味で。

俺じゃなく佐藤に言ッてンならソレも違うぞ?コイツはさッきの授業でてたから、オマエと違ッて。だいたい学校で何に使うンだよ銃なンて。

 

解散後、走り去る2人は超目立ッていた。…何なンだアイツら。

 

 

 

… … …

 

 

 

次の日、いつも通りに学校生活は再開した。見たカンジなンの変化も無く。

板書をノートへ写しつつ思い出す。

犯行現場はC棟のトイレ。避難の原因は“不審物”だッたらしい。“不審者”じゃなく“不審物”?“刃物”はドコ行ッたンだよ…トイレに不審物があッたので大事をとッて全校避難に踏み切ッた、じゃ理由として苦しくないか?爆弾や危険物、毒物ではなく不審物ッて公表してるのも嘘くさい。調べてもなンだか解ンないッて?オーパーツ扱いかよ(笑)ソレッてまるで…。

噂するクラスメートを眺めながら永沢が「4組の中野そっくりの奴がトイレで破裂した」とか小声で言ッててドキッとした。情報源は目撃者(自称)で件の「中野」も破裂するところを見たひとりだとか。フツ―なら出来の悪い作り話だと思うけど、そンなカンジに生き物が爆ぜる武器知ッてるからなァ…。

永沢が仕入れた情報が全て事実で俺の予想が正解なら「中野そっくりの奴」は星人狩り用の武器で対処するべき危険生物だッたのだろう。なンでそンなモンが昼間の学校に?

でも、ソレを佐藤か和泉が始末したッてコトなら辻褄合う…。

あの2人には未だ確認を取ッてない、ッつか取れてない。訊く前に教室を出ていッたンで。

肝心なコト伏せると作り話になるから、クラスメートにミッション関連の話出来ないから説明を要求されないよう逃げたのかも。アイツらならサクッとホラを吹けそーだけど話が食い違ッてウソを疑われると困るッて口裏合わせに行ッたとか?…ピンと来ねーな。

昨日の今日で再び星人(?)が来て迎撃しに行ッた、とかでなきゃ何でもいいか。

詰襟の中に折りたたンだ部品に触れる。他の奴より安全だろ…コレを着ていれば。

俺はノートとりを再開した。




視点変更:オリ主→和泉→オリ主→玄野
ちび星人狩り終了。次回からかっぺ星人編。


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かっぺ編①

前編のあらすじ:
転入初日に目的を達成する和泉。
翌日、ちび星人狩り終了。
(トイレにいる星人に周波数を変えて近づいたせいで酷いことになった制服を和泉は授業サボって洗った※仕上げはクリーニング屋さん)



===□○◇===

 

 

 

西深角工業高校、教室。

期末試験が終わり、もう3月。

ちび星人のミッションからひと月以上経っている。このまま呼ばれないなら嬉しいが…。

 

今は昼休み、腹ごなしに将棋をうっている。向かいに座る友人がニヤリと笑った。

 

「王手!」

「おお~」「そーきたか」

「あっちゃ~…」

 

周りで見ていた友人達から歓声があがる。

やっぱつえ~。こんなに早く終わると申し訳ないなぁ。

 

「おい!!加藤!!加藤勝!!」

 

観戦にまわろうと席を立ち空いた椅子を引き寄せていると名を呼ばれた。

前にもこんなことあったな…嫌な予感。

廊下には見覚えのある先輩。以前と同じ胡散臭い笑顔の。

 

「…何か用スか?」

「付いて来い。お客さんだ」

「はぁ」

 

客?俺の知り合いが来…るワケ無いか、学校あるだろーし。

昼休み半分しか残ってないけどすぐ終わる話なのか?

…面倒事の匂いがする。

 

 

… … …

 

 

「う”ぉあ?!」

 

ダンッ

進行方向を黒い物体が横切り…壁に激突した。

先輩について歩いていたら突然、だ。

なにごと?………なんだ黒いパーカー着た人間か。ってあの先輩じゃん…じゃねぇ。

人間ひとりが右から左へノーバウンドで飛んでいた、どーやったんだ?

あの先輩嫌われてるから連合で下剋上されたのか?いや数人で投げてもあの勢いは出ねえだろ。何が起こっている?

現場は2年用トイレ前の廊下。壁に“ペンキ塗りたて”の張り紙…は関係無いと思う。

 

「変なのキタ~と思ったらマジでおもしろいことになってんじゃん…」

 

隣に立つ先輩が廊下を眺め呟く。「変なの」?

廊下の壁にぶつかってそのまま凭れている先輩…鬼塚は座り込んだ姿勢から動かない。

それとトイレの中を交互に見て騒いでいるのはその取り巻き達だろうか。

 

「加藤?!」

 

ひとりが俺に気付く。なんだよ?

 

「えっ」「加藤?」「加藤だ」「加藤っ」「なんで加藤まで…」「加藤!」「ぅわっ」

 

一斉に注目する取り巻き連中。総じて蒼褪めた顔色。

 

…俺なんかしたか?

 

前門の虎、後門の狼

って表情の連中を放置しトイレの出入り口を見ていたらスゴイのが出てきた。

髭の巨漢だ。いや熊みたいなカンジではない頭髪ともに整備された髭だ。

サラシを巻いた上に袖を千切り取った長ランを纏いオープンフィンガーグローブに包まれた右手で荷物の入った袋の紐を持ち肩に担いでいる。両腕もそうだが素足に下駄は寒そう。

フィクションの番長や格ゲ―のキャラみたい、と言ったら解り易いだろうか。

普通の奴がやったら滑稽な扮装だが2m近い背丈の筋骨隆々なこの男には似合う。似合いすぎている。えっとアレ何だっけ?あのキャラn

 

「なんや、きさん」

 

コスプレ男に睨まれた。

取り巻き達より後ろに居るのに俺は目立っていたらしい。…無駄にタッパあると損だなぁ。

 

「あいつは加藤勝。そこの鬼塚に1度勝ってる」

 

男を見上げ俺を紹介する先輩。いつの間にかトイレの横に立ってニヤついている。

ここが目的地のようだ「客」ってアレかよ。

周りの人間が端によったので仕方なく先輩たちに近付く。

 

「何言ってんだ香月。そいつ例の1年だろ?聞いてんぞ、ケンカしねーって」

「藤沢~おまえ知らねーの?」

「勝ったっていつだよ初耳だぞ」

「ん~と冬休み前かな」

「去年かよっ」

 

古い話を持ち出してどーいうつもりだあの先輩(香月って名前だったのか知らなかった)。

たしかに冬休みまえ俺は鬼塚をボコボコにしたけど喜んでやったことじゃない。

問題を解決する方法がソレしか思い付かなかったんだ。

俺の通う此処はよくない奴が集まる学校で理不尽な目に遭う人間が視界に入る頻度が高い。

それを毎回止めていたら奴らが恐れる人物、所謂番長?的な先輩に睨まれてしまった。

止めたって言っても絡まれてる友達に話しかけたり近付いて見てただけだったけど邪魔された側はかなりムカついていたようだ。

同級生・先輩関係無く同じ態度で止めてたのも悪かったのかなぁ?制服を着崩していたり私服だったりして学年の区別がつき難いんだよ此処の生徒って、授業サボる奴多いし。

とにかく俺も友達の扱われ方について譲る気が無かったので「勝負する」という結論を出した。番長…学校で一番強い奴を判り易くぶちのめすことにしたんだ。

てゆーかぶちのめした。計ちゃんたちみたいなヒーローに近付く為の道は想像以上に険しい。

いま考えてもアレ以上に効果的な方法は無かったと思う。

個室で用を足している途中、機動力の無い状態をボコッた。奇襲が成立したのは偶然だけど。

相手がプロボクサーって聞いて焦ったぜ。正攻法で勝てるワケねーっつの。

あのとき襲撃されそーってことと首謀者の情報を教えてくれた香月先輩には感謝している。

学校をシメようって話には乗れないが。

 

あのケンカで俺たちは平和を手に入れた。

あれから友達が絡まれたことは無い。フツ―な奴にとって肩身の狭い危険な学校でフツ―に暮らせている、でもデメリットがあったらしい。

香月先輩はコスプレ男をなんとかさせる為に俺を連れてきたようだ。教師を頼らないのは面子の問題だろう。テリトリーで暴れた部外者をタダで帰してはならない、みたいな。

そういうのは番長の役目じゃねーの?

気絶しているのかさっきから何も言わない鬼塚を見ると両鼻孔から出血し前歯が2本折れていた。白目をむいた顔は完全にグロッキーだ。顔面にくらった攻撃であんなに飛ばされたのか。

ひでぇ。ホントにひとりでやったんだとしたら…この状況じゃソレしかありえないが…

コスプレ男の腕力は星人並だろう。

 

ガランッ ガランッ ガランッ

 

廊下に出るコスプレ男。

こっちに背を向け歩く。…帰るのか?

向こうから来た野次馬が男を見あげ後ずさる。俺の後方にも集まってるのだろう騒がしさが増している。

 

男は荷物を床へ落とし下駄を脱ぎながら振り返る。

あ、やっぱケンカする気?

背筋がチリチリする。すっかり慣れちまった殺気ってヤツ、とはちょっと違うな。

日常で殺気放ってる奴がいたら悪目立ちするってレベルじゃねーか。

香月先輩無視して教室に居ればよかった、何これ?俺このままケンカしなきゃダメ?

この注目されてる状況でボロ負けはマズイだろーなぁ侮られたら元の木阿弥。なんとか引き分けねぇと。ったく何で鬼塚はこんな奴にケンカ売ったんだ?スゴイ強そーじゃん。

部外者なのに学校入り込んで生徒を気絶させるとか意味分かんねーし、犯罪だろ。

ヤバい奴じゃねーだろーな?

 

「あの」

「なんや」

「鬼塚…先輩がアンタに何かしたのか?それなら

「いや別に」

 

「俺、関係無い」と続ける前にあっさり否定された。

だとすると、なんの理由も無く初対面の人間ぶっ飛ばしたの?

…どーしようこいつ、ヤンキーなんかよりかなり危ない奴なんじゃ…

いや悲観するのは未だ早い。格ゲ―キャラのコスプレしてんだから、きっとこいつアレだよ。

 

「えっと。変なこと訊くけど…もしかして…道場破り、みたいな…?」

「おう、平たくゆうちそーゆうこつだな」

 

……!?

自分で訊いといてなんだが理解出来ない。今どきそんな…マンガみたいな…

道場破りなら道場行けよ~学校に乱入してんじゃねえ。アンタいくつだよ?高校生にケンカ売って意味あんのか?ある意味他流試合かもしれないけど。

男は半身に構え「きなぃ…」とか言っている。

俺、武道なんて体育の柔道くらいしか知らねーぞ?マジでお互いに得る物がねーだろ、このケンカ。

 

ヒュッ

 

開幕の突きをかわす。

ギリギリだがなんとかなった。開始の合図無かったけど、ケンカにルールは無いもんなっと

 

ガッ

「!?」

タ―ンしながら、突き手と服を掴みいっきに……やめた。

タンッ タタッ

両手を離して間合いをあける。

 

ヤバかった。背負い投げするとこだった、

 

今日はスーツ着てんのに。

 

ちょっと寒かったから学ランの下にガンツスーツ着て来たんだった、忘れてた。

あのまま投げなくてよかったぜ…計ちゃん投げたとき下敷きになった壁が軽く陥没してたからなぁ。道場破りと野次馬がヤバいことになるとこだった、あぶない危ない。

つーか問題解決したな、このまま平気な顔して殴られてればいいじゃん。全く効かないのが解れば諦めるだろう、スーツ着たメンバーを生身で殴ると手が痛ぇーし。

 

ちび星人と闘ってから数週間後、計ちゃんから“勉強会”に誘われたのを思い出す。

そのときテスト週間だったから文字通りの意味にとって勉強道具持って行ったら笑われちまった。「ミッションの」勉強会だって、ひでーよ計ちゃん!分かるワケ無いだろ(笑)。

その日は武器の性能を話し合ったり公園で鬼ごっこしたりと遊びのよ―な勉強会だった。

一抱え程ある置き物みたいな遊具を持ち上げ、鬼役にぶつかったソレが粉々に砕けたのには焦ったぜ。やった当人…北条が言うには「発砲スチロールみたいに軽」かったらしい。

生身でスーツ着用メンバーの攻撃を避けるのは恐かったなぁ、かなり。チビ星人のように目で追えないほど速いターゲットに慣れようという趣旨だったか。投石(?)の仕返しらしく最初につっかかられた北条がマジ逃げしてたのには笑ったが、すぐに納得した。

武器がプラスチック製の棒きれなのに迫力ありすぎなんだよアイツn

 

ヒヤリ

 

?!

咄嗟に大きく右へ跳ぶ。左耳の横を何か通りすぎてった。

…さっきと同じ突きか?

ドッキン ドッキン ドッキン

な…なんとか避けた、が速え~!!ホントに人間か?こいつ。今度こそ殺気も感じるし

 

ボボッ

 

俺と位置を入れ替え左右の突き。

…って、おおっ!!肘が顎を掠め

 

ぐっ?!

…いや痛くね―けど驚いた。膝を胸に食らっちまった。…コイツじつは星人か?

俺スーツ着てんだぞ!

さがって体勢を立て直す俺に追いすがる道場破り。蹴りも混ぜて畳み掛けてくる。

 

(なんだコレ)

(スゲーな、おい。あの1年もボクサー?)

(さぁ?知らねー)

 

風切り音の合間に先輩達の暢気な会話が聞こえる。

ほかの野次馬も勝手なこと言ってるが聞き流すしかない。今は避けることで手一杯……

 

 

♪キーンコーン カーンコーン♪

 

 

「! おっと。予鈴鳴ったから終わりだ。帰ってくれ」

 

体当たり?みたいな攻撃を避けて声をかける。

音と風圧すごかったなー今の。廊下がちょっと揺れたし。

藤沢って先輩が「あれは八極拳の…」とか言ってる。八極拳って中国武術の?

必殺技みたいなものか……まぁ、いいや何でも。終わったことだ。

くっそ~結局3発も食らっちまった。効かない攻撃を避けさせられたのも何か悔しい。

 

「なしけんや!まだ勝負は着いっちらん!」

「聞こえたろ?予鈴だっつの。ここ学校だぞ午後の授業があんだよ」

 

信じられないって顔で抗議する道場破り。

うるせーな!いきなり現れて他人の昼休み潰しといて被害者面?信じられないのはこっちだ。

…ちょっと八つ当たり入ったけどな。

 

「勝負つかなかったな~」「このまま続けてたら死人出たんじゃねーの」

「こんなスゲーもの見れるとは…」「金取れるレベルだよ」「両方バケモンだぜ」

「あーあ、これから体育だよ~持久走だって~」「まださみーっつーの」「フける?」

 

「あ、待っ」

 

不審者を廊下に残し俺たちは解散した。

 

 

 

=========

 

 

 

いつも白色灯に照らされる室内はオレンジ色に染められている。

夕日が綺麗だね~…あ、沈んじゃう。パッと明るくなる部屋。

今回は早いなぁ、さっき時計見たら17:40だった。

 

此処は黒球部屋だ。

 

…未だ夕食前なんだけど…

 

必要無いときに消灯するのはフツ―だがこの部屋が暗いと不気味。

誰がスイッチ押すでもなく勝手に点いた明りも。しかし黒球部屋を明るくする意味ってあるのか?一般人から見て無人の部屋に電灯点いてるほうが変だろ。ミッションまでの光源は夜景で充分だし。暇潰しに読書するメンバーはいない。

 

今日は3月8日、前回のミッションから36日後である。シナリオより9日も前の呼び出しだ。今回こそマンガに無いミッションだろうか?それも気になるけど…あ~ぁ

ビーフシチューが出来る時間に合わせて焼いたパンが冷めちゃうじゃん。

焼きたてが至上なのに~

 

「…なんや?ここ」

「…」

 

現実逃避しながら転送ビームを眺めていると加藤と一緒に変な奴が出てきた。




加藤日常回。概ね平和な高校生活。
香月センパイはあと一回登場する(かも知れない)。


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かっぺ編②

前回のあらすじ:
ちょっと早い時刻に呼ばれるガンツメンバーたち。
転送される加藤におまけが付いてきた。



間違えた、「変な“服装”の奴」ね。

改造しすぎてコスプレにしか見えない学ラン着たヒト。

うん、どー見てもチビ編後から主要キャラになるカンフー超人。ファンタジーな筋肉。

なんで居るの?登場しないと思ってたわ、複製される原因無くなったので。

和泉は新規メンバーをガン見。

 

「なんや、ここ何処ばい?しゃっきまで外に居たっちゃんな……加藤?」

「…」

 

超人は加藤の二の腕を掴んだ状態で呼ばれている、こりゃ事故だな。

彼は転送に巻き込まれたのだろう。

あの程度の接触でも転送事故になるのかよー。も少しはやく知りたかった。

加藤の通う高校で変態ボクサーをボコる超人のエピソードあったからついでに遭ったのかな?

マンガの加藤は偽千手(宮藤?)に刺され一旦退場し、それから3ヵ月くらいあとのミッションで再生(複製?)されていたので超人が高校巡りながら番長ボコるイベントでは遭わなかったけど…あれ?マンガでは裏番玄野とどつきあってたよね、小島の高校にも来てたのか? 気付かなかった。

 

「オイ…加藤どういうコトだ? 一緒に出て来たよな今…もしかして」

「ああ…たぶん。いや、俺が…連れて来ちまったらしい。俺のせいだ…」

「!」「?」

「何やお前。知り合いや?」

「…ここに居る人間はみんな顔見知りだ。初参加は、お前だけ…いまのところ」

「初参加?…どげなこつや、なんかん集まりか?」

「それは…」

 

ガックリと座り込んで事情を説明する加藤。

顔を左手で擦りながらポツポツと語る声に耳を傾けはしたが、やはり新規メンバーのお約束…窓や玄関を調べ始める超人。

「うそやん」って(笑)嘘でも夢でもないよ~残念だけど。

下駄がフローリングを叩く。

 

「しらごつちゃろう… いりえなか」

 

ひととおり試し終え黒球の前で呆然とする超人。

 

「何語だ?」

「日本語だろ」

 

それを見てヒソヒソする苫篠&近藤。

 

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ チャ・チャーララ♪

 

 

今日の新規メンバーは超人ひとりらしい。前回同様ガンツのスカウト(?)は無し。

知らないミッションか~…戦力が足りてるってことなら千手クラスが複数出たりはしないだろう…しないよね?しないって言え。桜丘と和泉がかなり強いから、ちょっと不安だ。

ステルスが通用するターゲットなら生き残れるか? だとしても後が辛いなぁ。

 

「おっ出たぞ」

「…ぷっ。なんだこいつ」

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい

 

 かっぺ星人(裸の大将をデフォルメしたような奴)

 特徴   なまる 汗かき

 好きなモノトカゲ 鳥

 口ぐせ  おーらのどーごがなまってんだ いってみろっつの”

 

 

おや“つよい”表記が無いターゲットだ~安心かも。

…じゃない、これ知ってるミッションだ。

 

パンダ削除ってことかな?

 

 

 

… … …

 

 

 

「ははは…また…なんや、いったい…」

 

本日2度目の転送に困惑する新規メンバー。スタート地点から大きな建物を見上げ呟く。

此処は踊り場を2つ挟んだ階段前の広場。右手にタクシーを待つ雨避けがある。

その向こうに駅があるらしいけど関係無いな。階段を上った先、左手の建物は博物館だ。

 

“大恐竜博 3月9日(土)~5月5日(日) 

 吠える!動く!大迫力の巨大恐竜がやってくる!”

 

広い階段とエスカレーターの間にある看板前に座り目を閉じるカンフー超人。瞑想か?

夢の中で瞑想すると目が覚めるの?

 

「どこだ?ここ」

「千葉だよ千葉!」

「幕張…か」

 

「? おーいッ和泉!」

「あそこ、あの建物にいっぱい居るみたい」

「博物館かぁ?」

「俺ここ来たときある。懐かし~」

 

「恐竜博…恐竜…。…。

 風!何度も言うけどこれ着ねーと危険だからっ 死ぬかも知れねーから ほらっ!」

「…いらん」

「風!」

 

加藤が持つスーツケースを見ようともせず断るカンフー超人。

部屋でも「はぁ?しょこん子供らも俺ちゃり強くなるんか?そいば着れだけで?」と言って加藤を睨んでいた。「子供」に小島も含まれそーだな、こっち見てたし。

初参加のミッションで超人がガンツスーツを着ないのはマンガと同じだからどーでもいいが妙に頑なな態度が気になる。加藤と仲悪いとか?あの善人が弟に言えないような悪さを超人の前でするわけないし、超人の倫理観はわりとフツ―なはず。超人って何すると怒るんだろう?

武者修行中の奴にとってクリ―チャ―と闘えるミッションに巻き込まれることはご褒美だし。

 

「外には居ねぇみてーだから、あの建物に入らなきゃ平気だろ。

 さっさと行って片付けよーぜ」

「北条…

 そーだな。行こう」

 

カンフー超人の動向はともかく、残念だな~。

予定が前倒しになったから本来8日後に参戦するはずのパンダはメンバーにならないっぽい。3月17日にまたミッションがあるなら別だけど。…犬と違って点数取ってたパンダの活躍観たかったのに~。マンガだとこのミッションは20:30頃終わった筈だから、やっぱり呼び出す時間も1時間以上早い。

…早くなったからってどーなることもないとは思うけど、ちょっと気になる。

残り5ミッション中2つまでしか開催日を知らない。予定がずれていくなら統一してくんないかなぁ呼ぶ時間帯。暗くなったら呼ばれるかも、って明るいうちに入浴を済ませないとバタバタしちゃうじゃん。マッパで転送とか気まずいし忘れ物確定。

 

ゾロゾロと階段を上って行くメンバー達。和泉と玄野&桜丘はもう博物館に入った様子。

小学生も今回はヤる気らしい、山田の腕をひき駆けて行く。恐竜スキなのかな?

今回のターゲットは攻撃力高めの巨大タイプ・たくさんいるザコ・止め刺さないとドンドン強化する変わりダネの3種。1体以外は外見が恐くてうるさいし不用意に近付いて瞬殺されることは無かろう。

健闘を祈る。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

ここは博物館のロビー。

先行したメンバーの仕業か元からか、受付の左右で口を開くゲート。

組み立てられた恐竜の化石が俺たちを見降ろしている。でけ~。

 

「こん中…か…」

 

捕獲銃…形状から名付けたYガンを右手に構え左手でマップを確認する。

近くにターゲットは居ないようだ。

全開な入口の1つ…左側のゲートをくぐり展示場へ入る。

 

勉強会でなんとなく武器に命名してみた。小型銃はXガン…撃ったときXの形になるしスキャンっていうかレントゲンっぽいからXレイのXでXガン。その流れで長いほうの銃もXショットガン、黒い刀はまんまガンツソード…シンプルイズベストってことで。

その場のノリで決めた安直な呼び方だからべつにいいんだけど頑として使わない奴の態度が気になる。和泉だ。

奴は俺のことが嫌いなのだろう。

挨拶してもシカトだし話し掛けるとき一回目で答えないし目が合うと睨むし。西より態度が悪い。

牽引力とか戦闘力の面でリーダーに相応しくないとか言われたら反論できないが面白くはない。

生き死にかかってんだからチーム内の不仲は解消するべきと解ってはいても俺から歩み寄るの、抵抗あるんだよなぁ。とっかかりが判んないし。

計ちゃん達と同じ学校でクラスも一緒とか妬まs羨ましい。

 

前面ガラス張りなロビースペースを照らしていた街灯は壁に遮られ、展示場内は数m先しか見通せない程の暗さだ。低い柵を跨ぎ本来なら客が入れないエリアを踏みしめ大小の障害物や植物を掻き分けポイントへ向かう。暫く歩むと水の匂いがした。

 

水溜り、ではない。“恐竜展”の小道具だろうつくりものの川だ。ガンツスーツの要所で光るボタンを映し揺れる水面…

ターゲットの居るポイントまで未だ距離があるけど、いちおう覗きこんで安全を確かめる。

透明な水中には当たり前だが、魚影はおろか藻すら生えていない。虫みたいなのは絵だな。

ザボッ ザボッ

橋が無いので川に浸かり歩いて渡る。水位は最深でサダコの肩辺り。北条が手を貸していた。あんなに仲良かったっけ?

 

川を渡りきり歩く。…お化け屋敷のように暗い、暗すぎる。

スーツの発光部分のお蔭で移動に支障無いけど照明の電源を入れに行ったほうがよかったか?

これじゃ不意打ちに対応できねーかも。

 

(そろそろターゲットがいるはずだ。注意してくれ)コソコソ

(わかった)

(ラジャー)ピッ

(おう)

(…)コクリ

 

俺と一緒に行動しているのは5人。

北条・サダコ・苫篠・近藤・JJだ。外の音は遠く虫もいないのでかなり静かだからか自然に会話が小声になる。

 

(…。…?)

(…どこだ)

(この辺り、だよな?)

(ん~?暗くて…分かりにきーけど、それらしー奴居ねーぞ)

(なんも襲って来ね―な)

(…)

(この前みたく同じ奴がたくさん出んのか?)

(さーな。寺んときは違ったけど。仏像くくりだったから同じっちゃあ同じか?)

(帽子の、あの弱そーなターゲットの仲間ってどんなんだよ)

(…)

(…?)

(とりあえず動いてる奴だ。俺たち以外の動いてる奴に注意してくれ)

(わかった)

(恐竜展なのに肝心の恐竜いねーじゃん。明日公開だろ?)

(立体映像つか3Dなんじゃねぇの?)

(へぇ、そーなのか)

(いや知らねーけど)

(…)

 

…おかしい、ポイントが移動してる?計ちゃん達が先に接触したのか?にしては静かだ。

もしかして前みたいにターゲットが俺たちを避けている?だとしたらマズイな。

建物内から逃がすと時間制限が……

出入り口を抑えるべきか、でも場所と数知らねえ…館内図見とくべきだったな。

…。

…だめだ、集中しねーと。順路に沿ってターゲットを追いかけよう。

 

 

 

=========

 

 

 

外。

メンバー達を見送って暫く。

複数の外灯が照らすターゲットの住処、とその周辺。

微風がそよいでも揺れるような植物は近くに無い。そんな静止した風景を乱す物体がひとつ。

博物館の出入り口へ続く橋で妙な奴がフラフラしている。地階(1階?)を出て橋の下から登って来たのだろう。着グルミのような頭身でなければ酔っぱらいと間違えたかも。

何故か歌ってるし。

 

『…♪…フンフンフ~ン』

 

静かなので大きく聞こえる。何の鼻歌だろう?

某スナック菓子のCMソングが似合いそーだが残念ながら違うメロディだ。

 

カチッ

 

指令のターゲット…ヨタヨタ歩く実物はかなり不気味だなぁ。

あーいう妖怪いなかったっけ?マンガの奴はブサカワだったのに。

初期形態の“かっぺ”は生身ギャルに負ける程度のスペックだったか。

頭でかいから小さく見えるけど身長は玄野と同じくらい。表面は人体の皮膚みたいな光沢。白無地のタンクトップに短パン、帽子を被っている。指令情報からの思い込みだろうか、ちょっと汗臭い。

用が済んだので静かに移動する。

 

完全に日がおちてるけど外灯多いしターゲットが近視や鳥目だとしても、たかが10mの距離…Yガンの射程ギリギリで遮蔽物無しだ、視界の動物を見逃すってことは無いだろう。だが一度も目が合わなかった。ガンツ装備のステルス迷彩は有効らしい。

次の実験に移ろう。

 

 

 

眼下で揺れる麦わら帽子。

私は今、建物の天辺に居る。周波数を変えたままターゲット共の住処っつか潜伏場所の隣に。

この建物は蒲鉾型で端がすぼまっている。ちび狩り時のビルと違い横に長い(奥行きが広い?)建造物だ。一般人に近付かず上れるルート…非常階段探したりドアを壊したりが無いぶんビルより登り易かった。屋上のように平坦な足場ではなく柵も無いのは気に掛かるが。

時間は、あと30分か。

かっぺ星人がやっと広場の端に辿り着く。右へ進むと階段だが足が大きすぎて下り難そう。

先端部…手足が四肢にたいして異様にデカイ。それが影響しているのか歩みが遅い。

そして歩法も変だからだろう50m程度を進むのに豪く時間がかかった。

3歩進んで2歩退がるなよ(笑)もしかしてあの名曲か?奴のハミングは。

全くあの曲に聞こえないのは音痴だから?星人には違って聞こえてるのかも知れない。

 

プシュッ

 

無事に目標を拘束するワイヤー。

Yガンまじ高性能(笑)ターゲットは突如現れた光るアンカーを目視していたが、やっぱり対処出来なかった。棒立ちで捕まったので麦わら帽子被ったまま、キョロキョロしている。

 

…よし。存分に仲間を呼びたまえ。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

「全長約9m体重約7tおよそ2億年続いた恐竜史の最も後期に登場した角竜で……」

「きゃーっ!?」

「見つかっているものの中では最大級の獣脚類で史上最大級の肉食動物でもあり……」

「うえぇ~ん!!」

 

転送された広場の階段を上り短い橋を渡ッて侵入した博物館。

ガラス越しの街灯が光源の薄暗い館内を進み、ひとり先へ行く和泉を追ッて開いている正面のゲートから展示場へ。更に見通しの利かなくなった周囲を警戒しながら暫く歩くとターゲットに遭遇した。

 

…ヒト型じゃねーのかよ!

毎度のコトながらガンツの悪意を感じる。

 

『グロォォオオォッ』

『ギャァァアアアアオォン』

 

恐竜だな、どー見ても。




やっと見つけた好敵手に再戦をせがんでいたら裏ステージに呼ばれてしまう風。
加藤の戦闘力は強化服のお蔭と本人にきき臍を曲げる。ふてくされ瞑想。
近場で暇潰しするオリ主に気付いてない。
恐竜展については勿論捏造。


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かっぺ編③

前回のあらすじ:
(なりゆきで)玄野チームと加藤チームに分かれ博物館侵入。
先にターゲットと遭遇する玄野チーム(+和泉)。
オリ主と風はサボり。



スナック菓子のイメージマスコットみたいなターゲットと思い込ンでいたからか「リアルな模型だ」ッて喜ンで近付き、桜丘の指摘で引き攣ッた山田の顔を思い出す…

 

 

 

グルルルル グルルルルルル

 

「いっ、ほんもの!?」

 

目前の大型動物がターゲットだ、と大きくなッた唸り声で解ッたらしく距離をとる山田と亮太。顎下のボタンに青白く照らされ闇に浮かびあがるその表情は不気味だ。

“大恐竜博”の看板あッたから「もしかして…」とは思ッたけれど“かっぺ星人”と恐竜にどンな関係が? 遠くに、非常灯でちょッと明るく見える植物と違う群れみたいな数体の影は動いてないがアレもターゲットか?

 

前脚の蹄で地を叩く四足動物…3本角の特徴的な頭部が有名な草食恐竜だ。暗いので体色は判然としない。サイに似てるとか言うけどドコら辺が?

嘴のような口角から涎を垂らしこッちを、歩み寄る人間を見ている。

 

「俺の獲物だ…」

 

左のレッグホルスターから柄を取り構える和泉。鍔から黒い刃が伸びてゆく。

ハイハイ解ッてるよ。邪魔なンてしねーッて……!?

星人の危険度を最初に計ッてくれるなら大助かりだ、と少し離れて観ていたら地が揺れた。

 

ゴゴゴゴ グラグラ

ゴゴゴゴ…

 

地震かよ!

俺は片膝をつき辺りを見まわす。

倒れてきそーなモンは…たくさんあるが天井が落ちてこない限りはスーツの耐久力で防げるだろう。じゃないと困る。ドキドキ

桜丘は俺と同じようにしゃがみ、山田たちは手近な木にしがみ付き、岡崎は…転がッている。両手が塞がッてるからそーなンだよ!ホルスター使えッつの。

外へ出るべきか?未だ1匹も仕留めてねーのに。

ひょッとしてコノ揺れはターゲットの仕業か?和泉が相手してる高さ2m超な4足獣よりデカイのが居るッてコト?ボスか?

 

『グロォォオオォ!!』

 

獣の咆哮、いや悲鳴だ。

見ると対峙していた両者の位置が入れ替わッていた。鮮血に何か足されたような嗅ぎ慣れない臭気が漂う。前脚を曲げ顎を地へ付けるターゲット。和泉の前に転がッてるアレは、足か?

敵に尻を向けたまま唸る恐竜。

 

『グロロロロ』

「…」

『グロロロルルル バンパク グロロロ』

「!?」 

『ヤスキヨ グルルルルルル ドウトンボリー ルルルロロ グルル シンセカイ グロロ』

 

グググ…

 

止めを刺す気だッたのだろうソードを掲げた和泉の腕が止まる。

その目前で上体を起こすターゲット。無事なほうの前脚で補助しつつ立ち上がる。

…2本足で。

 

『グロロ…アメチャン ヴルルルル』

ゴキッ ゴキッゴキッ ゴキッゴキッ

 

俺はXショットガンの銃口をターゲットへ向ける。

モニターの中で形態を変えていく恐竜…トリケラトプス、みたいなモノ。

骨が鳴るたび直立歩行に適した身体へ変わッてゆく。前脚の蹄が指状に伸び、後ろ脚の踵が地に付く。猫背な身長はあばれんぼう星人より少し低いか。

構えを解いて見上げる和泉に振り返る巨体。一瞬だけ光ッた目元…右は細く、左は円く。

 

『トリケラサン…グルルルル ツーテンカク グルルロロ コロロロ グロロロロ』

 

さッきから何言ってンだ?口閉じたままだし。日本語みたいに聞こえるけど意味不明。

いつの間にか地震は収まッたが、コイツとボスと遠くの奴らに囲まれンのは勘弁だ。

 

「和泉!」

「!?」

「手伝うか?」

「ちっ…必要無い!」チャッ

 

『グロォッ ポコポコヘッドッ グロォッ グロロォッ カナシイ イロヤネンッ グロロォ

 トラァッ!!』

 

意を決し両手で柄を握りソードを構え直す和泉。

ソレを見て呟きを怒声に変えるターゲット。

 

ダンッ

 

地面が爆発し巨体が宙に浮く。奴がジャンプのために踏み切ッた辺りを土煙が覆う。

 

ドドンッ

『トラァッ!トラァッ!』

 

和泉が居た場所に着地。

不満げに吼えるその目は土煙に紛れながら移動する人間を捉えているのだろう。

小刻みに動く首。

ここからじゃ腹から上は黒いシルエットにしか見えないのでターゲットの表情は分からない。

 

チュィィ―――――…

機械的な音とともに煙から細いシルエットが伸び、続いて和泉が姿を現す。

移動をやめたアイツが掲げるソードの伸びる音らしい。

おおッ?!

天井を目指しブレードが伸びるにつれソノ両肩や腿が太くなッていく。

…スーツが膨張してるッてコトは伸ばした分だけ重くなッてンの?アノ武器。

 

『グルォロロォッ! ハハハハ ハハハッ!!』

 

ターゲットは大口を開けて喚く。鼓膜に効く大音量。

…笑ッてンなアレ。そんな細い棒きれブチ折ッてやンぜ、みたいな?

 

ドンッ

 

身長700cm超と187cmが同時に地を蹴ッた。

 

 

 

 

伸ばし過ぎたブレードが折れるというコトもなく、巨大な怪物の拳が剣士に到達する前にその身体は縦に両断された。顔面から入り股を通り過ぎたブレードが地面、に似せた床に食い込ンでいる。

 

ズズンッ

 

左右へ倒れるデカブツ。

断面スゲーな、零れない内臓もそうだが尾までキレイに割られている。室内だからか、いつもより血臭がきつい。無風だから待ッても臭いままだろう。今までのターゲットと同様に“かっぺ星人”も独特の、例えるなら野生の牛?みたいな臭いを撒き散らすようだが解体専門の和泉に任せてばかりじゃあ臭いの元の接近を鼻で察知するのは無理ッぽい。

さて次のターゲットは…ッと。ん?

山田たちの後方から何か、

 

ゴゴゴゴ ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

はやくもオカワリが来た。

大きさからしてソコで内臓を曝している奴と同じのが2頭。山田たちが逃げるように道をあける。遠くの群れに動きは無い、アレはホントの模型らしい。

 

ゴゴゴゴ ゴゴゴゴ…

 

跪いたまま岡崎がXショットガンを腰だめに構え、桜丘もホルスターからXガンを抜いてこッちを見る。和泉は「ふん…2匹いようが…」とか言ッて嬉しそう。

 

…ああ、さッきから聞こえる地鳴りのようなBGMは俺の脳内補完ッてワケじゃない。

実際に聞こえている音だ。再びの地震である。

 

ゴゴ… …

 

強い揺れが収まり、ふと2頭が来る方向の反対側を見上げると、トランスフォームする草食恐竜よりデカイ、そして迫力のあるツラが、セットの角からこッちを覗いていた。

…。

…やァ。

 

俺たちは少なくとも3頭の恐竜に囲まれてるらしい。

蒼い顔でターゲット共(のモデル?)の解説を始める山田。泣きだす亮太。

オマエら少し落ち着け。例の映画みたいに熊すら一発で倒せない武器しか持たず生身で恐竜に遭遇したワケじゃない、部屋で用意できるフル装備で身を固め殺し合いを想定し来てるンだ落ち着いて対処すりゃ何とかなる。一番に斬りかかる奴が倒れない限り後方の俺たちは狙われないみたいだし草食恐竜ッぽい星人は殴る蹴るしかしてこない、未だ慌てる時間じゃない、

とか都合よく考えて落ち着くンだ。生き残るつもりなら。

 

…アノ新顔、ヤバい感じがする。

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

「!?」

「なんだ?」

 

(ギャァァアアアアオォン)

 

やっぱり聞こえる。大きな動物のものだろう鳴き声が…

別のフロア?玄野たちのほうか?

似た鳴き声を聞いたことがある…あれは映画だったけど…

寺では仏像モドキに襲われたし此処、博物館では展示物である恐竜がターゲットだったりして。

 

遅れて展示場へ入った俺たちは玄野たちに追いつかなったから奴らは別方向へ進んだか右のゲートを選んだのだろう。館内に設置された白亜紀後期の北米大陸を模したであろう風景…

よくみると2m四方の厚布(?)が張り合わせてある地面から伸びるつくり物の草木に阻まれながら2つ目の川を横断した直後、俺たちは低い草が点々と生える岩地で変なものに行きあたった。

 

「お…。お…」

「え?」「お」

 

「岩かと思ったら…。な…ん…だ、これ」

 

おそらくコレの向こう側は行き止まりだろうが、道を塞ぐように大きなモノが横たわっている。塊から3本に別れたうちの2本は右方向へ揃えられ1本は左後方へ流れ先端が見えない。

それぞれが大樹の幹みたいに太い…尾の付け根だろうか?それとも首?胴だけで一戸建てくらいありそーな巨体だ。恐竜の模型か。

 

「あ」

 

大きなシルエットから細長いモノが立ちあがった。

ソイツはこっちを見ているのだろう、頭頂はスナメリに似た輪郭。

巨大模型のものではなくその横、後ろ脚と前脚の間に収まっていたらしき生物の頭部だ。

後ろ脚の向こうでソレは首をもたげ無言。身体は横たわったまま。

 

「あ…あー。あいつあれだよな、草食べる奴」

「ジュ□シックパークかっつのっ 意味わかんねー」

「動いてるってことはターゲットだろ」

「生きてる恐竜だったら大発見だなぁ」

「…」「…」「…」

「撃っていい?」

「あ?ああ」

「こっち使え」ポイッ

「え」ハシッ

「撃ち方は同じだから」

「あっそ、わかった~」チャッ

 

このまえ玄野んちでやったミーティングにあいつは参加してなかったか。

加藤に放られたYガンを左でキャッチして右で構える苫篠。

歩いてデカ足(?)を回り込み長い首めがけ 撃つ。

 

プシュッ

 

至近距離で放たれた光るワイヤーが長い首に絡みついた。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

『キュゥン』

 

円らな瞳でこっちを…Yガンを構えた苫篠を見つめるターゲット。

ワイヤーが発光しているから表情がよく見える。…かわいい。

今気付いたけど室内でも送れるのか?

象ほどもある図体のうちほんの一部、首にしかワイヤーがかかってないのも気になる。

 

「よっしゃー!やったー!んで?こっからどーすんだ。リーd

バァンッ

 

風圧と轟音。

顔を庇った左腕を下ろすと苫篠は消えていた。

いや、弾き飛ばされていた。

 

「次郎―――っ!!」「はぁっ?」

 

着地点へ走る近藤。2度見する北条。サダコはその斜め後ろでXガンを構える。

…そーだなターゲットが抵抗するなんて当たり前だ。

首は動かせないんだから何か、別のもので。

…ふう。

落ち着け、俺。

奴は拘束されてんだ移動は出来ない、こっちが有利…

 

ヒョン ヒョンッ

ビビッ

 

ターゲットの足元に土埃が立ったと思ったら発光ワイヤーが砕けて消えた。

立ち上がるターゲットの背後でゆらめく長いシルエット…

 

「な…んだと」

「消えちまったぞ、あのワイヤー…どーする?加藤」

『ど… ど…する カ… カト… カトウ…』

「あれっ?」

「しゃべっ…た…ぞ…あいつ…」

『しゃ… しゃ… ぼしゃぼ った… じ… コイツ…』

 

可愛らしく首を傾げるターゲットの方向から、くぐもっているがたしかに聞こえた。

その口は閉まったままなのに。

 

「オウム返しかよ…。なんだよ一体…」

 

『無礼な… よくも縛り つ…けて…くれ…た …バラバラ に…して…やる』

 

「え?」

「へ?」

 

ちょっ、いきなり『バラバラに』って、はぁっ?それに『無礼』ってなんだよ何様?

あざとく首を傾げてたのに中身は全然幼くねえ!気位高ぇー!

 

グ グ グ グ

ターゲットの首が山型に反りかえる。

 

『愚か者… 恐れ…るが… よい…』

 

ドドンッ

 

「ぉっわぁ」

「わぁあ」

「Jesus!」

「…」ギョーン

 

地を打ち砕く首。誰かの銃が4つに開き一瞬だけ強く照らされる星人の全身。

全員回避成功。来ると分かってれば充分よけられる速度だ。でも恐い。

 

「…」「…」「…」

 

バァンッ

『ギャウ?!』

 

見えない弾がターゲットの肩を大きく爆砕。

避けながらの射撃が当たったらしい。サダコか?

激しく足踏みし垂れ下がる首。警戒するメンバー達。

 

数秒後、起き上がった頭部は印象が変わっていた。

 

『…死ね』

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

ヒョン ヒョン ヒョンッ

 

傷から血がピュ―ピュ―出たままゆっくりと歩む首長恐竜。

加藤が一番近いのに向かう先はサダコ。首を投げ縄のように回してるから狙いはテキト―かもしれない。少しでも元の場所を動けば見失うんじゃね?

ほら動けって!いつもの逃げ足はどーしたサダコ!

振り回す前に見たターゲットの顔は不気味通り越して凶相だった。目がギョロっとデカくなって捲れ上がった唇から鋭い歯が覗いていた。変わりすぎだろあれ。

 

だが、これで撃ち易くなった。

 

『首を一撃でおとしてやろうか… たてに割ってやろう…か…』

 

未だ首を振り回しているのに乱れない声。

首がおちるのはお前だ。

 

ギョーンッ

 

撃った直後、予想通り尾が飛んできたのでジャンプして回避。射撃時に光って変形する銃口は暗い中でかなり目立つからか撃った奴を攻撃してくるらしい。

首を回しながら尾で攻撃とか器用だな。…あれ?横腹に何か…

 

バァンッ

 

首の付け根が破裂した。よしっ狙い通り。振り回していた勢いで頭部(と首)はどっかに消える。……壁に当たった音かな?今の。けっこう遠くまで飛んだらしい。

プシューッ

新しい傷から体液が迸る。

ズンッ

惰性で歩く首無し恐竜……

 

「? あっ」

 

ズンッ ズンッ

 

…おかしいぞ…普通に歩いてねーか?

奴は俺の居るほうへ方向転換している。

 

ズンッ ズンッ

 

「なっ なんで…動いてんの?」

「知るかよっ」

 

それは此処に居る全員の疑問だ苫篠。いつの間に合流したのか知らねーけど元気そーだなお前。

あれの尻尾攻撃で十数mは飛んだのに…スーツ着ててもターゲットの攻撃食らえばバシバシ飛んでくから珍しくもないけど生身で受けていたらあれか?「全身を強く打ってまもなく…」の状態に? 大仏に地面へ打ち込まれてもこのスーツは耐えていたんだからあの程度なら余裕なのだろう。

でもあの後スーツから変な音してたから限界はありそう。

 

「首飛ばして死なねーってことは…全身を破壊すりゃいーのか?」

「え~、めんどくせー。あんなでっけぇ奴」

「待て苫篠!Yガンは」

「え、なに?」

「さっき渡した銃!」

「わりっ!失くしちった」

「…。……」チャッ

 

近藤の考察を聞いて嫌そうな顔の苫篠にYガン紛失を謝られ憮然とするリーダー、

 

「やらなきゃやられる…やるしかない…。

 首に脳幹が残っているとしてもポンプを壊せば止まるはず…。

 !! 胴の中心あたりに脈打ってる塊がある たぶん心臓だ 狙ってみてくれ!」

 

Xガンをターゲットへ向け指示をとばす。

加藤の真似をして俺もモニターを見ると、たしかに臓器(?)が密集した奥に怪しいのがある…心臓か。奴は星人だ、脳(があったか分からないがいちおう頭部)が無くても歩きまわる生き物が心臓潰して止まるのか疑問だけど、やってみるしかない。

 

ズンッ ズンッ

 

ギョーンッ

近藤のXガンが開いて光る。

 

ズンッ ズンッ

 

ボンッ

短くなるシッポ。

 

「はははは、へたくそ~」

「尾じゃなくて胴体だ 前よりの深部を狙ってくれ!」

「や、わかってっけど深部ってどーやって撃つんだよ」

「え?」

「え?」

「…え~っと スキャンしたい箇所を暫くモニターに映してっと勝手に奥を表示すっから!

 それをロックオンすれば…」

「ロックオンって、はぁ?弾出ねーじゃん!これ~」

「動きながらだと 狙いが 定まらねんだけどっ」

「いや、たぶん弾は出てないわけじゃなくて って

 来るぞっ!!」

 

グググ…

スザッッ

 

「わっ」「!」「ぐっ」「ぅえっ」「なっ」「Ouch!」

 

あぁ?なんだよ、くっそ!

ターゲットが逆立ちするみたいに後ろ脚を両方上げた、と思ったら弾き飛ばされていた。

口に入った土埃(?)を吐きだす。首と尾を落としたのに未だこんな攻撃手段があったとは、

油断したぜ。

キュウウウ ウウン

うっ、この音は…このスーツからだ。聞き覚えがある、大仏に埋められた後だったか。

ターゲットは前脚を支点に回転し俺達に足払い、のようなものをかけたらしい。

地面が円形に薄く抉れている。そこだけポッカリと植物が無くなっていて分かり易い。

 

ズンッズンッズンッ

 

再び歩きだすターゲット。少しペースが上がってる。向かう先は加藤。

…あいつ未だ攻撃してねーよな?恐竜(?)が今まで攻撃した奴に向かっていたのは偶然か?

 

「え?俺?」チャッ

「う、うて撃てっ!!」ギョーン

「当たれ!」ギョーン

「…」ギョーン

「Die!!」ゴッ

 

ギョーンッギョーンッガンッギョーンッギョーンッギョーンッギョーンッボコッギョーンッ…

 

Xガンを構え後退する加藤に迫るターゲットを包囲して一斉攻撃。

何故か丸腰のJJはその辺の岩を投擲。

 

 

 

 

「…はぁ はぁ はぁっ ぐっ。もういやだ… はぁ もういやだ…」

 

数分後、血溜りの中心にある塊から顔を背け加藤が呟いた。

 

…同感だ。




玄野「(ミッション中の)和泉は便利」
偽首長恐竜の顔パーツはハリボテ。仔ブラキオもお腹に目が生える。


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かっぺ編④

前回のあらすじ:
暗い博物館内で恐竜と戦う全身黒タイツ集団(玄野組は和泉のみ)。




「どーする加藤、さっきのとこ戻るか?」

 

Xガンの後部で自分の肩をたたきながら北条が俺に尋ねる。

ターゲットを見つけた場所と大分離れたからな。

でもどーしようか。あそこにあったアレが模型じゃね―なら、居たのって今回のボスだよなぁ大きさからして。レーダーを見ると、うん「さっきの」場所に星人反応が残っている。

しかし前に出たデカいターゲット…大仏もどきと同程度の耐久力だとしたら俺たちが持ってる装備の火力では心許ない。

 

「あ、お前どーしたんだ?それ」

「? 何がぁ」

「消えてる…」

「何言って…えっ あ…あー!なんだコレ~」

「どーした」「なんだよ大声出して…」「苫篠?」

「うえぇ、きったね~!」

 

騒ぐほうを見ると近藤の横に居る、たぶん苫篠だろうメンバーが着ているスーツのイルミネーション(?)が消えていた。耳元・顎下・肩・腹・腰・手首・腿ほか各部に付いているボタンが全て光っていない。隣の光源で、慌てるように動きながらその場で回る人間が辛うじて見える。故障か?こんなに暗い状況じゃ不便だ。

「汚い」って何が?ターゲットの一部でもスーツにひっかかってるのだろうか?

液体系は被ってもすぐ流れ落ちるから…

 

「ほら、これ」

「はぁ?ぅお…」

「手首からも…もしかして耳のとこのも?」

「あ~…ボタンみてーなヤツ全部イカれてんな。ヤバくね?そのスーツ」

「なんだよそれ~こわー!なんか怖ぇー!」

 

苫篠からプルッとしたものを渡された。掌を滑り床へ落ちる。

ボタン全てから漏れているらしい。黒くて少し粘ついた液体だ。

これで衝撃を吸収したりしてんのか?膨張する時とかどーなってんだろ。

原因は何だ?

苫篠はターゲットに二度弾き飛ばされたから?

…故障するんだなぁ…これ。

 

「俺も初めて見るけど…壊れてるとしたらもう通常の防御力は期待出来ねーと思う」

「…は…え?」

「だろーなぁ」

「苫篠は外へ戻ったほうがいい」

「えーっ マジ~?」

「…1人で大丈夫か?壊れると只の全身タイツになるんだろ?」

「じゃあどっかに隠れてろ、これやるから。マップ見てターゲットさければ大丈夫…

 ってアレ?」

 

北条の手元を覗くとレーダーのモニター、博物館の平面図から外れた位置…階段の横にポイントがひとつ

 

「外にも1匹居るぞ」

「お…」

 

…ゴゴゴ ゴゴゴ

 

「わわっ!な んだよっおいっ」

「地震か?」

 

『グアオオオオオオオオン!!』ビリビリビリ…

 

「わっなんか来るっ」

「おいっ これって…」

「あ」

 

『ギャァァァアアアアオン!!』ドンッ ドンッ

 

「えっ?」

 

『グァオオオオオオオオン!!』

 

恐竜が2頭現れた。

 

 

 

=========

 

 

 

あれから10分経過した。

博物館前は静かなまま。何で鳴かないの?あいつ…

チャッ

Xショットガンを構える。モニターに丸いものが映った…なんだ?あれは…

鼻ちょうちん?

直径20cmはありそうな大物だ(笑)リアルで初めて見たよ。

動けないから寝てるらしい。奴は襲撃に気付いてないのか?

ギョーン ギョーン ギョーン

射撃音が聞こえたからか目を覚ますターゲット。って言っても目は糸みたいに細いまま、船を漕いでいた頭部が止まっただけ。はぜずに縮む鼻ちょうちん。あ、欠伸した。

 

ドンッ ドンッ ドンッ

 

『キュ!?

 キューッ キューッ キューッ キュ――ッ キュ―――ッ キュ―――――――――ッ』

 

爆ぜた石畳を見て漸く状況を理解したのだろう鳴き出す。開かれた瞼。瞳孔の形はここからじゃ見えない。マンガでは錯乱したギャルと殴り合いしマウントとられた状態であの声を発していた。あのターゲットは日本語を喋る…どこかの方言で。会話が成立してなかったことからその内容に意味は無くネギ親子のようにそれしか日本語知らない、または鳴き声の一種みたいなもののようだが、それとは別の鳴き声…オッサン声が残念なあのキュ―音で仲間(?)を呼ぶ。博物館内のターゲット共は全て奴のペットってホントかな? 

 

恐竜共が現れた。

 

 

 

博物館の正面出入り口から続々と出て来るターゲット。

エミューとトカゲを足して割ったような容姿のザコ恐竜だ。

背丈は2mくらいで脚と頭部以外は羽毛に覆われている。前後に長いトカゲ面がなかなか恐い。うん、マンガ通り。

敵の位置が分からずキョロキョロする“かっぺ星人”の周りに集まってウロウロしている。

盾のつもりか?私は高所から狙ってるので無駄だ。隠れられてないよ~?

ザコ恐竜は指示を待っているのか暇そう。やはり奴は他のターゲットを使役出来るのか。

…ってドンドン出て来るなー。

ちび共と同じく個体差がイマイチ分からないザコ恐竜が既に30体以上居るのにまだまだ湧いている。橋が寿司詰め状態で渋滞してるよ…

館内へ行ったみなさんは大物狙いなのか?ザコ恐竜が殆ど減ってなくない?大きさの威圧感が他より低いからもっとヤッつけられてると思ったのに。

ザコと言っても生身の人間なら尾を振るだけで両断する猛獣には、それよりは鋭くないが牙と爪もある。でも難易度はザコ仏像以上偽四天王未満ってカンジなのでガンツスーツ着てれば小学生でも勝てるでしょ…1対1なら。

 

 

ザコ恐竜3体が階段を下りて行く。

背で滑ったりして楽しそーだ。その先にはカンフー超人。

何してんのー…

よせばいいのに迎え討つつもりらしい。何とでも闘っちゃうのかねあの人。

瞑想したまま…広い階段の下にある看板の影に隠れてれば気付かれなかったのに。いや匂いでバレたかな?恐竜の嗅覚は鋭かったとかなんとか。

化石と鳥類の現状で察せる古代生物のスペックとか眉つば、とか思っている間に踊り場で対峙する3体と1人。

 

(ヴォオッ)

 

食いでありそうな筋肉に噛みつこうと前へ出る1体。

超人も右脚を大きく前へ出し、ザコ恐竜の側面に背中をつける。

 

ダンッ

 

必殺技炸裂。鉄山靠だっけ?

 

ドンッ

 

吹っ飛び踊り場を転げるザコ恐竜。

けっこう効いてるようで横倒しになりスグには立ち上がれない様子。

モデルになったヴェロキラプトルは腰高50cm…大型犬ほどの大きさで体重が16kgなかったそうだがザコ恐竜は2m前後なので200kgくらいあるのだろうか?転がって咽喉や腹を見せた恐竜に素早く近付き、首を左腕で抱え喉笛辺りを殴る、殴る。

体勢的に肘が使えない。

暴れるザコ恐竜の首は固いらしく手間取ってるうち2体に囲まれた。あ

 

(ぐあっ!)

 

脚に食いつかれた。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「…」「…」「…」「…」「…」「…」ゴクリ

 

グルルル ルルル ルル ルル

 

電柱よりデカイ動物が俺たちを見下ろしている。

…苫篠が離脱する前に凄いのが来ちまった。

用途が分からない、身体にたいして小さすぎる前脚。発達した後ろ足。大きな頭部…

ティラノサウルス・レックス…T・レックスだな…映画から飛び出したような獰猛な姿。

遮蔽物の無い場所で、そんな2頭に凝視されたままでいる俺たちはバカだ……

 

グルルル ルルル ルル ルル

 

瞬きも出来ない中、剥き出しの牙が近付いてきた。

 

ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ

 

ギョーンッ

!!

土煙で視界が狭まる。ターゲットがそのでか頭、っつか凶悪な歯並びで地を抉ったのだろう。かなり動きが速い。

 

「おいっ?!」

 

北条の声に視線を辿ると咽喉を反らせ天井へ鼻を向けたターゲットの口元から何か生えていた。 2本の 細い

脚だ!

 

『…ッ ギャアアアンッ!!』

 

でかい下顎の左側が大きく破裂し、ああ!!脚が牙の奥へ吸い込まれた。

 

「マジかよ!」

「…んな…待て 戻せ―っ!!」ギョーン ギョーンッ

 

『グルルルル ゴルルルルル グルルロロロ グルロロロロロ…』ドンッ

 

足元で喚く人間へ一歩踏み出すT・レックス。

誰だ?食われたのは。

 

バクンッ

「くっそ…」ギョーン ギョーンッ

 

その牙をよけ更に射撃する北条。

 

「あっ」ズザッ

 

脚が縺れたのか転ぶ。

 

ボボンッ 

『ギャアアアンッ!』

 

ターゲットの口元が大きく抉られ、垂れる舌。横へ転がり踏みつけをよける北条…その上にボタボタと落ちる肉片。

 

ボンッ ババンッ

 

続いて内側から爆破されたように右眼球が飛び出し鼻孔のあった部分に大穴開通。

よろめき俯くT・レックス。頭部から体液とともに大小の塊が落ちる。舌や上顎・脳漿…

 

ドンッ ドンッ ゴッ

(ぐはっ)

 

跳ね起き落下物に駆け寄った北条がターゲットに蹴られ吹っ飛ぶ。おい?!

しかし追撃は無い。よく見ると蹴った奴の後ろにJJが。ゆったり揺れる太い尾に腕だけでぶら下がっている。動きを止めようと?

筋力は強化されても体重が増えるわけじゃないから、そりゃ無理だろ…って計ってないから知らないが。

 

ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン…

 

適当に逃げつつ恐竜を狙撃する近藤たち。

 

2頭目も沈黙し、1頭目に吐き出されたメンバーであるサダコの無事(スーツが壊れ右足首骨折)を確かめていると、その背景で山が動いた。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

退路にトリケラ背後にティラノ…

野生で共闘するコトがあッたのだろうか?…食性からして無かッたろーな。

 

「T・レックス か…」

 

サイズを戻したソードを振ってから構え直す和泉。ムカつく程に画になる動作だ。

 

「おもしろい…」

 

ああ、草食恐竜よか強いンじゃね?たぶん。

アイツは危険だ、と俺の勘が言ッてる(笑)し。注意しろよー。

さッきみたく唐竹割りで片付くならたぶん問題無いけれど、アイツも恐竜ッぽくないコトしそ―…

俺はXショットガンを構えトリケラトプスを………見上げる。

 

『グルルルル グルルル』ゴキ ゴキゴキ

 

またかよ。

さッきと同じく後ろ足で立ッて俺たちを、いやティラノサウルスを見る2頭。

もうアレ恐竜じゃねーよな。まァホントに“星人”なら最初ッから違うけど。

トリケラマンとでも呼ぼう。

 

『グァォォォオオオン!!』ゴゴゴゴゴ

 

数歩前進しトリケラマン2頭を威嚇するティラノサウルス。大声に震える地面。

 

「!?」

 

足元でスタンバッていたのに無視される和泉(笑)ムッとしている。顔芸はいーから早く倒せ。

 

しかし何でターゲット同士でメンチ切り合ッてンの?ケンカ?…新しいな。

俺たちが見ている前で始まる出会い頭のドツキ合い。和泉を踏もうとしてたのにティラノは殴るンだなトリケラマン…

 

「玄野!」

「なンだよッ!」

「俺が奴を殺るからトリケラもどきを押さえておけ!」

「ハァ?!」

「共食いされたら点数減るだろ!はやくしろ!」

 

言われてみれば…ッてコイツらじゃれてンじゃなく殺し合いなの?

 

『ギャアアア!』

 

頭上でティラノがトリケラマンの腕に食いつき千切ッた。2対1なのに肉食強えッ!

たしかに共食いだ。

でもソレなら消耗した勝者を襲うほうがラクで安全だろ、点数より命が大事。

それになンで俺がオマエの我儘に付き合うt

 

ドドンッッ

 

パラパラパラパラ…

脚に駆け寄る和泉の鼻先で消失するティラノの下半身。ズンッ…と残りが落下する。

地震だ~。

つくりものの雑木林に大穴が出現。床が地階へ抜けたらしい。周りの床も穴へ向け傾く。

流れ落ち吸い込まれていく血液とか色々。

これはアレだよな…大仏ンときの…

 

「ちっ」グッ

 

横たわる巨体の頭部に刃を突き刺す和泉。サクサクと何度も。おいおい何して…

ん?

口ン中が…なン…か…

ッて、ヤ バ…

 

ドンッ

 

ブォンッ

うっ…!!

 

(グロォォオオォ!!)ズズン…

 

脅威が通り過ぎたコトを頭皮で感じ、伏せた姿勢から起き上がる。

目がチカチカするし…耳鳴りも……大砲かァ?今の。おどろいた…。

 

『…グロロロロ』

 

見ると頭部の割れたティラノの直線状でトリケラマンが片膝をつき唸ッている。

そしてその背景、遠く離れた光の輪は壁が溶け落ちた跡なのだろう、途中の木や何かの先端も慎ましくまたたき焦げ臭い。

 

バンッ

『グロォッ!』

 

膝をついたまま和泉に掌を振り降ろすトリケラマン。高く跳び遠くに着地した人間を睨むが追わない。もしかして右脚の先、無くなッてる?

 

「ぎゃーんっ!」

ダンッ

 

亮太を持ッてジャンプする山田。居た場所を踏みつけるトリケラマン2…いや3号。

ケンカしてたティラノは沈黙し仲間は手負いなこの状況で逃げないらしい。

そのままこッちに来るデカブツ

 

ドッ ドッ ドッ

『トラァッ! アッ』

 

「うおッ…」

 

直前で避けようと待ッていたら不自然にこけるトリケラマン3号。顎で地面を削りながら丁度真横に来るデカイ頭部。ソレにガツッと銃口を当てる。

 

ギョーン

 

すぐ爆ぜないコトの利点ッてなンだろーなと思いつつ飛び退いた先で桜丘と目が合ッた。

ターゲットのデカ足を挟ンだ向こう側で彼女が満足そうに微笑ンでいたから、

爆ぜたところは見逃した。




サダコ→北条:
 好みのイケメン、目を離せない。
 (愛の)告白の機会を伺う(スト―キング本格化)
 仲良くなれたので関係を壊したくない(北条が偽大仏に踏まれてから現在)

北条→サダコ:
 リアル妖怪(スト―キングに気付いてから偽大仏に踏まれるまで)
 油断すると驚いてしまうが顔は綺麗だと思う(ちび星人ミッション辺り)
 背中を任せられる戦友、友達になれそう(現在)

玄野と桜丘:友達



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かっぺ編⑤

前回のあらすじ:
続恐竜戦。サダコと苫篠のスーツ死す。
恐竜(3頭)と勝負する風(生身)。




===□○◇===

 

 

 

ザザザザザ… ダンッ

 

飛ぶように過ぎてゆく見慣れない植物群。まぁ暗いから色や細部は分かんねーんだけど。

今、俺たちは撤退中だ…山みたいな動物(?)から。

さっき2つ目の川を飛び越えた。行きもこうするべきだったよなぁ、スーツが防水でよかったぜ。スーツが壊れた2人…苫篠は自力で走り(川を通過したときは近藤が手を貸した)、サダコは北条が運んでいる。

横抱きで。

彼女は恐竜の口内から生還、というか落下した時のまま未だ気絶している。

後で教えてやろう。

 

 

「おーい やべーぞ 振り回してるー!」

 

苫篠の大声。

ああ、分かってる。さっきからビュゴビュゴ聞こえてっからな!

だから少しでも引き離す為、遠くへ逃げる為に返事はできない。そんな余裕は無い。

つーかお前は後が無ぇんだから走るのに集中しろよ!「うるせえっ」って相手すんな近藤。

 

俺たちを追う山のようなシルエットは首の長い恐竜と添い寝していたアレだろう。

あのときは全体像が見えなかったが脚の形が似てたし、おそらく同じ種類っつか親子…奴の拡大版…

 

音が変わった…!

 

「伏せろぉ!!」

 

ドォンッッ

 

前方へヘッドスライディング。その頭上を薙ぐ強風。

…ひぇ~…

見える一帯の植物が地上から1mくらいで切り揃えられていた。ズズズ…と崩れ降ちる壁…

 

「みんな無事かーっ!?」

 

メンバー達を見回しつつ背後をチラリ。…また振り回している。今度は歩みを止めて。

 

「逃げろ!!」

 

俺が言う前に走り出した北条を追って撤退再開。

 

「もう少しで出口だ!止まるなーっぁぁあああ!!」

 

ドドドンッッ

 

縦に引き裂かれる曲がり角。その砕けた粉塵の中、声が聞こえた気がした。

 

…計ちゃん?

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

「加藤!!」

 

俺たちに最も近い…いや近付いて来るターゲットをマップで確認しポイントへ向かうと轟音と共に壁が崩壊した。直前に聞こえた大声の主に呼びかける。

返事が無いから交戦中か。

粉塵から飛び出し続々と目の前を通過する人影。逃走かよ!

別行動していたメンバー達だ。

先頭のヤツ無視すンな!

 

残ッた壁の背景に違和感が…

妙な音も…。風切り音?

 

「みんな伏せろーっ!!」

 

ドォンッッ

 

なンか居る!…トリケラマンやティラノとは比べ物にならない大きさのターゲット。ボスか。

ソイツの仕業だろう薙ぎ払われた内装が邪魔で動き難い。

今の攻撃は何だ?シッポ?はえーな…

 

「みんな逃げろ!!」

 

加藤が立ち止まッてこッちへ呼びかける。俺たちの背後に居るボス・ターゲットを気にしているのだろう忙しなく交互に見ながら。北条たちはそのままダッシュ。

…アレそンなにヤバいの?

 

「ふ… 逃げたい奴は逃げろ。俺ひとりで充分だからな」ザッ

 

ターゲットに向かッて歩きながら宣言する和泉。

そう?ンじゃ足止めヨロ~…ッてワケにはいかない。

流石にひとりは無理だと思う。最前線も先手も譲るけど。

俺たちが其々の進退を決心する間も、たぶン何かの恐竜だろうボスは長いモノを振り回している。

 

「あの大きさってことは…ディプロドクスかブラキオサウルス?」

「あ…あ…あ…」

 

ブラキオサウルスなら知ッてるぜ!超有名!…なンて言ッてる場合じゃない。

アレもトランスフォームしたり大砲撃ッてくるかも。

隣で震えてる小学生連れて撤退しろよ山田。

 

!!

 

「和泉!」

 

本当にボス恐竜と一騎打ちし暴走重機みたいな薙ぎ払いをくらッた命知らずを追いかける。

和泉は高い位置の壁をブチ抜いてロビー側に落ちたらしい。

やッぱ無理じゃん!

さッきより近付いたターゲットの向きからして尾ではなく首を攻撃に使ッてるッポイ。

和泉が2度目に受け流し(?)たとき金属がぶつかッて火花を散らすように明るくなり刃と接触する斧のようなものが一瞬だけ見えた。たぶんあそこ以外なら刃が立ッただろうに残念だッたな…アレで首を落とせたら終わッていたのに。

 

ロビーへ出る。

今まで暗かッたからかロビーがかなり明るく感じる。

他のメンバー達は外へ逃げたようだ。和泉は、未だ倒れている。起き上がれないのか?

もう一度囮出来ね―かな?アイツ。横取りみたいだからヤめといたけど和泉が薙ぎ払いを止めているうちに胴体の下へ駆け込ンで銃を撃ちまくるべきだッた。

アレが全力でないとしたら…住処を壊さないようボスは手加減をしていたとしたら奴を外に出すのは悪手だ。俺は加藤みたいに他人を心配するキャラじゃねーけど、あンな怪獣を街に放つのはマズイと思う。俺たちと星人は一般人から視えない仕様でも破壊は世界に反映されるようだから。

そーいやティラノを押し潰したアノ攻撃が無かッたな。

逃げたのかよアイツ。それとも100点武器は射程が短いとか?

あ、桜丘は残ッてる。逃げようッて?

ちょッと待ッて。

 

「生きてるか?!」

 

引き返してきたのか加藤が先に声を掛ける。

返事を待たず和泉のプラプラになッた左腕を肩にまわし、ゲートをチラ見。

怪獣の欠点は移動速度だな。スーツ着た俺たちのほうが断然速い。

 

「立てるか?オイ」

「…ぐ…。お…俺は…」

「なンだ?」

 

俺が呼びかけると返事があった。

和泉の状態は両腕骨折か…戦うのはもう無理だな、ッて変だぞ。

今日のコイツはこの前と違いガンツスーツを着ている。なのになンで怪我を…

違和感あると思ッたらスーツのボタンが光ッてない、かわりに表面が割れ何か出てる…液体?

 

「俺は…100点をとった男だ」

 

いや、ソレは知ッてる。

 

 

 

=========

 

 

 

頭に食いつこうとした1体の牙はかわしたものの右脚に食いつかれ引き摺られる超人。

超痛そう。それに奴が退場すると悲しむキャラが2人ほどいる(予定な)のでトリガ―を引いた。

数秒後、半数ほどのザコ恐竜が倒れたことで残りが恐怖から逃げ散る、なんてことは無く、超人ピンチ継続。神は彼を見捨てたか(寒)そーいやマンガでも逃げる奴居なかったな、いや玄野がチャージショットで殆どヤッたから不利に気付く前に全滅したのだろうけど。

脅威の正体がわからないまま留まる理由は謎だが駆除し回る手間が増えるよりは都合がいい。

あ、かっぺ星人が居るからかも。呼んだ奴が命令しないから逃げられない?

新たな目標を掲げてみよう。

周波数を戻し足場を蹴ってアピール、すると無事なトカゲ頭が一斉にこちらを向いた。

ここまで来れるものなら来てごらんなさーい(笑)。ペンペン

とバカにするような動きをしてみる。が、これもトカゲに通じず、私に近い(それでも数m下の)数体とかっぺ星人の周りに居る奴らを残し、結局は手の届く餌に殺到した。

 

うーん、焼け石に水…

 

ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン…

 

獲物より負傷しつつも超人の脚を放さない前列(一回目のチャージショットくらって機動力0な奴)を無理矢理どかし筋肉にありつこうと逸る後発をフツ―に狙撃。威嚇効果は?

猛獣が爆ぜるまで防ぎきれ超人。

彼に近付いた奴から次々狙撃、もう狙いはテキトーだ。胴への噛み付きを防いでいた超人の四肢は一般人と鍛えかたが違うお蔭か、錐の集合体みたいな牙の盾として使ったわりに原形を留めている。

正視が辛いレベルでボロボロだけど。

喰われる恐怖のなかでそんなに動けるとはメンタルも相当だな、ちょっと知りたいよ秘訣。

結果、ザコ恐竜は頭がヨワいと確認した。いや食欲が生存本能を上回っているだけか?

ゾンビじゃあるまいし…あっちは死人か。

とりあえず運が良いね超人。1発も誤射が当たらないなんて。

 

作業終了後、動かなくなった超人を眺め迷っていたら小島をマーク或いはかっぺを護衛(しつつ餌をチラ見)するザコ恐竜共が私たちから視線を外した。

 

(あ”あ”!!)

 

声がしたほうを向くと出入り口にメンバーが。もうそんな時間か。

先ずは北条だ。

颯爽と誰かを抱えてる…って、ををっ。やったねサダコ。吊り橋効果スゲー。

他の連中も慌てて出て来る。外国人がこけた。助け起こす山田+α。後方確認する岡崎。それを追い越す近藤&苫篠。走ってるってことはやっぱり……

止まった北条を訝しんでからザコ恐竜共に気付いたのか橋の半ばで詰まるメンバー達。

餌の争奪戦に参加しなかったトカゲ頭共と見合う。

…長いな。

館内にはもっと大きいの居たでしょ?警戒しずぎじゃね?

トレインしてきたターゲットと比べたら雑魚だから、さっさと走り抜けることを勧めるよ。

ほら、桜丘を先頭に残りのメンバーも出てきたし階段まで退避しないと踏まれるとおm

 

バ―――――ンッッ

 

あ、来た…ってチラノサンじゃない~。いきなりボスだわわ わ。

 

ズズズズン

 

博物館正面を縦に裂き、怪獣が地響きを立てながら進み出た。

館内に居たターゲットはアイツで最後らしい。

キラキラと街灯を弾くガラスの破片を纏い優雅に首を伸ばす巨体…親ブラキオ。

頭部の上下に生えている刃は肉厚で幅が広く横から見ると欠けた月に似ている。

かっぺ星人狩りのボス・ターゲットだ。モデルと同じなら全長は30mくらい。

読者のときは連想しなかったがデカいクリ―チャ―を協力(?)して狩るってアレだよなぁ、

まさにリアル・モン□ン。

…悪いけど、そこで止まってもらおうか。

 

ギョーン

 

2回目のチャージショット。

音を聞いてやることを思い出したのか、はじかれたように動きだすメンバー達。Xガンを構える桜丘を先頭にザコ恐竜共の間を走り抜ける。あ、かっぺの護衛が牙をむいた…前蹴りで吹っ飛ぶ。倒れていたトカゲが脚に喰い付こうと…走るついでに顎を粉砕。

…素敵っス姐御。

 

「あ”っ!」

「早くっあ”あ”っ!!」

 

無駄に急かす役立t…後続。

最後尾は3人…調子悪そーなロン毛の両脇にオールバックと茶髪が付き添っている。

新しい餌に喰いつこうと仲間にぶつかったり駆ける途中で転がり倒れるザコ恐竜共。それぞれ脚や尾が弾け飛んだのだ。

主人公が高い位置を見回し、こっちを見る。

…周波数変えるの忘れてた。

 

『ギャアァアァアァアァアァ…!!』

 

建物から完全に露出し天へ向かって吼える怪獣。

橋に踏み出してからは進むたび黒い(赤い?)跡が石畳に印されたので歩幅がよくわかる。

足裏の頑丈さに自信があるようで歩くとき足元を気にしない方針らしい。

…進路にザコ恐竜敷きつめても無駄だったか。

 

『許すまじ…』

 

『許すまじ小さき者ども』

 

呟くような大声、っていうと矛盾しているが、そんな声が響き渡る。

 

(アレ…しゃべッてるぞ。オイ…)

(喋った…)

 

玄野と山田が日本語を発する恐竜に驚いて振り返る。

悠長に見てんじゃねーよ。階段まで逃げることに集中しろ。

 

『我が子を殺めた者ども…この身亡びるまで滅してくれよう。覚悟せよ小さき者ども』

 

物騒な宣言をする怪獣。

をを怖。誰が仔ブラキオ仕留めたのか知らんがマンガと同じくお怒りじゃ~。

マンガではカミングアウトした玄野ひとりを追い駆けていたから『小さき者ども』の区別はつくんだろーけど報復に伴う破壊で邪魔が増えてもそれを全部捻り潰すと言いたいのか復讐をしても怒りが収まらないと言ってるのか…。リーチ長いぶん偽大仏より脅威かも。エリアを出ればターゲットの不可知化がとけるとして日本の武力が圧勝だと思うが爆撃可能な地域に奴が入るまで何百人犠牲になるだろう?

…ま、そんなもしもは無いが

 

ドドンッッ

 

巨大な胴が地面へ吸い込まれるように潰れ前後へ分かれる怪獣。

石畳に直径6mほどの池が一部重なるように2つ出来、尻側は橋へ頭側は階段へ倒れ沈黙。

踏まれなかった数匹のザコ恐竜も池の一部になった。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

(あっあれ変じゃね~?)(え?)(割れてない?やっぱ割れてるって)(はぁ?どこが)

 

階段の下を通る帰宅途中らしき歩行者たちが博物館を見上げ会話している。

階段の中腹でターゲットに紛れ倒れるズタボロになッた新規メンバーの横で「救急車!救急車呼んでくれ!!」と叫ンだ加藤は無視された。

今回も視えてないらしい、俺たちと“星人”は。

博物館前の広場から階段にかけて無数に倒れている(トリケラマンやティラノと比べたら随分と)小さい恐竜を眺める。

…コレ全部、佐藤がひとりで? ずッと外に居たのか。加藤たちと行動してると思ッてた。

ッて動いたか!?今。

…なンだ、落ち着いてよく見たら起き上がれないだけで生きてる奴のが多いじゃん。

 

ドンッッ

 

再びおちる不可視の円柱。

橋から垂れるデカイ尾の一部ごと小型恐竜が圧殺される。隠れてる奴…西は端から順に処理するつもりなのだろう。

未だ数十匹残ッてるターゲット全部の転送あるいは息の根を止めないとミッションが終わらないのだから仕方ない。

俺もXガンを構えなおした。




(透明人間)西くんは玄野チームに同行していた。
博物館内で踏みとどまったミッション狂い(+玄野)に構わず加藤チームに付いて博物館を出たがオリ主はターゲットと同じ周波数を変え忘れていたので西くんの脱出姿を見逃した。


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かっぺ編⑥

前回のあらすじ:
ラプトルサンの群れに襲われる風。超能力師弟の援護と助言が無いのでなるようになった。
親ブラキオ、階段を下りる前に胴の殆どを失う。




『ガルルオオオォォ… ゴハッ』

 

俺を見上げ威嚇していた小型恐竜の頭部が爆ぜる。

無抵抗な生き物を殺すのは予想通り気分が悪い。

命懸けでターゲットに止めを刺すコトとは違ッた方向で胸糞悪い。

加藤は(俺が貸した)Yガンで転送、岡崎は過剰にターゲットを分解したりと其々動けるメンバーが手分けしたので、もうすぐ今日のミッションは終わる……

 

「残りはこいつか」

 

ターゲットを見上げる近藤。

俺たちが恐竜の巣から脱出する前から拘束されているようだ。

思ッたよりデカイな“かっぺ星人”。3m近くねーか?映像の印象では弱そーだッたのに。

つか帽子とランニングシャツしか合ッてね―(笑)そのシャツも胸部しか覆えないほどパッツパツだ、明らかに指令よりもデブ。アレとは別者か?

小さい恐竜みたく“かっぺ星人”も数匹居たのかも、間違い探しみたく微妙に違う奴がたくさん…

…。

想像するとシュール。

 

「おい」

 

突然背後から声。

うわッ?!…え、誰も居ない……

 

「刺さないのか?とどめ」

 

なンだ西か。話し掛けるなら姿あらわせよ。

 

「そーですねー」

 

佐藤もいるらしい。オマエら消えたまま会話すンな。

近藤は俺を睨ンでいる。いや一人芝居じゃね―から、どンだけ寂し―奴だよ?俺。

目を凝らしても無駄だぞ。消えてる奴は同じく消えてる奴にしか視えないらしい。

ステルス機能、光学迷彩ッてヤツだな。佐藤も使えてるから標準装備だろう。

ああ、俺は使ったことない。興味あるなら詳しいコトは西にでも訊け。

とりあえず念じても消えなかッた(加藤に確認した)からガンツの部屋にある装備を組み合わせるンじゃねーかな? 着用者のイメージで消えたり色が変わッたりしたら危なくて普段着れねe

 

『おっ おーらのどーごがなまってんだぁ いってみろっつの~!』

 

考えていたら“かっぺ星人”が喚いた。

武器持ッた敵に囲まれて言うことがソレ?

うッせーよ!オマエのなまりなンて知るか!

 

『このなまけもの!』

 

イラッ

 

「何か意味あんの?」

「あると言うか無いと言うか…」

「は?何それ」

 

拘束しているのに送らないコトを不審に思ッてンだろう西の問いに曖昧な返答をする佐藤。

理由があるならハッキリ言え、気持ち悪ィ。

リミットまで余裕あるけどサクッと送ッちまえよ。早く終われば早く帰れるじゃん。

 

『かっぺムカツク』 

 

「うおっ?!」「おいおい…」

 

『かっぺムカツクかっぺムカツク』ミシミシミシミシ

『かっぺムカツクかっぺムカツク!』ビリビリビリビリ

 

「でかくなってる…でかくなってる…」「いやーっ!」

 

帽子が落ち胸毛と四肢の筋肉が脂肪に覆われワイヤーを押しつつはみ出る餅みたいな肉。

メンバーたちが見守る中、徐々に小さくなッていく“かっぺ星人”のシャツ(?)と半ズボン。

うえ~見たくね~…

 

『かっぺムカツク かっぺムカツク!!』バツンッ

 

プシュッ

 

数倍に膨れあがり解き放たれた星人は、動く前に再び拘束された。

 

 

 

=========

 

 

 

黒球部屋。

 

「今日も…たいしたことなかったな」

「そぉか?怪獣映画みたくてすっげかったじゃん!ホンモノは迫力がちげーよ」

「…」

「つーか、どこに居たの?お前」

「…」

 

中学生同士の会話は続かなかった(笑)友好的に訊いてんだから教えてあげなよセンパイ。

出しゃばり共が乱入する前にミッションが終わって機嫌が良い私が説明してもいいけど。

…余計なこと言うなって?すんません。

 

「!?」

「風!よかった…元に戻って」

 

最後にカンフー超人も帰還した。

大怪我の記憶は無いらしい。喜ぶ加藤を無視し周囲を鋭い眼差しで確認している。

やはり怪我人、それも瀕死のメンバーが最後に転送される傾向があるなぁ。

山田・私・和泉・今回の超人しかり、マンガの加藤・玄野・鈴木(おっちゃん)・坂田さん然り。

マンガの田中星人ミッションで主人公は走りながら帰還したから、その記憶はボス烏に捕獲される直前からつながっていて、鋭い鉤爪でつけられた肩と脚の大怪我をリセットされた為に記憶を失ったのだろうけど転送が最後になったのは屋根から落ちそーでピンチだったからかも。…嫌がらせ?

生き残ったんだから問題無いけど、強いメンバーが欲しいなら負傷した場合には優先して回収しろよ~マンガと違って生き残りたくさん居るからどーでもいいの?ガンツ。

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

“それぢわ ちいてんを はじぬる 00:00:00”

 

「は?ちーてん?」

 

座る向きを変え黒球を睨むカンフー超人。

 

「採点です…。まぁ初参加の人にはあんまり関係ないですけどね」

 

にこやかに答える山田。

やはり超人はおっさんと思われている(笑)のか敬語。

 

“いなかっぺ大将……0てん ないすガッツ(笑) TotaL0てん”

 

「む…0点…」

犬と小学生の次に表示された画面を睨み不満そーに呟く超人。

あだ名に関してはノーコメント。

 

「100点たまったら解放されるらしい…」

「しゃっきン恐竜は」

「え?あ…そうか。あれはみんなでヤッつけた。

 この部屋に呼ばれたらああいうのを毎回どーにかしないと帰れないんだ」

「む、なるほど…」

「ちゃんとスーツ着て協力すれば生き残れる。いろいろと言いたいことはあるだろうけど、

 一緒に頑張ろう」スッ

「加藤…」グッ

 

握手する長身ズ。

なんだか2人だけの世界な加藤&超人。

 

“ミリオタ……2てんTotaL3てん あと97てんでおわり”

 

「…」ナデナデ

得点少なくても幸せそうだなぁ岡崎は。満足そうにXショットガンを撫でている。

 

“メガネ……3てんTotaL3てん あと97てんでおわり”

 

「先は長いなぁ…」

瞬きしてから天井を見上げる山田。初得点おめでと~。

 

“サダコ……3てんTotaL3てん あと97てんでおわり”

 

「おっ、いつのまに」

「…」サッ

「やったなサダコ!…ホントにいつだ?」

「…」

「食われる前だから、あの首の長い…」

「あー… あれで3点か…」

「ひとりにしか点数入んないんだよな?」

「…」コクリ

 

蒼い顔で口元を押さえ頷く加藤。何を思い出したのか知らんが玄関開くまで我慢しろ。

「首が長い」ってことはブラキオ親子のどっちかだよね。親は西が仕留めたから仔ブラキオ…

キモイ最期になったってことはYガン使わなかったってこと?

マンガの仔ブラキオはカワイかったのに、今日出た奴は恐かったのか?

 

“あねご……3てんTotaL24てん あと76てんでおわり”

 

画面から離れた桜丘の視線が玄野と絡む。

さっさとくっつけよお前ら。ニヤニヤ

 

“コンタ……3てんTotaL7てん あと93てんでおわり”

 

「あの恐竜、1点ってことはフツ―にやっても楽勝だったってことか?」

「え~?まえの1点仏像は強かったじゃん」

「あんときはスーツなしだったろ」

「そーだな、そーいや」

 

マンガと同じなら今回は2点ターゲットがいないので近藤はザコ恐竜3体ってことか。

殺傷力が低かったり脆い星人はヤッつけても1点だってのはそのとおりだけど

時間切れは避けたいので点数低そうでも倒せるときは倒してね。

簡単に倒せるが高得点てターゲットも稀にいるヨ☆

 

“空手家……3てんTotaL8てん あと92てんでおわり”

 

外国人もザコ恐竜の頭踏み潰してたからそっちの得点だろう。

「空手家…」

超人が呟き外国人も彼を見る。おい、勝負なら他でやれ。

 

“かとうちゃ(笑)……4てんTotaL10てん あと90てんでおわり”

 

「佐藤さん」

こっちを見る加藤。怒っ…てはない様子。なんスか?

 

「いまさらだけど俺らが点数…

「あー、ソレ以上言うな。加藤」

「計ちゃん?」

(ちょッと、こッち来い)パタパタ

隅へ移動する玄野たち。なんだ?あいつ。

 

“とましの……5てんTotaL5てん あと95てんでおわり”

 

「あれ?」

「どーした」

「俺2匹しかヤッつけてないのに」

「…」「…」

「もうけたな。もらっとけば?」

「そーか?」

ガンツは“いい加減”らしいから間違えることもある…のか?

 

“くろの……6てんTotaL17てん あと83てんでおわり”

 

「トリケラマン、しょぼー」

…いま何て?

 

“和泉くん……9てんTotaL12てん あと88てんでおわり”

 

「おっすげっ」

「砲台ティラノとトリケラマンは同じ3点か」

「…」

賞賛する苫篠、分析する玄野を無視するロン毛。

館内にザコ恐竜いなかったなら討伐数はマンガと同じだろう。

 

「砲台…何だって?」

「ティラノ」

「は?」

「だからァ、こッちに出たT・レックス火の玉?みたいなヤツ撃ッて来たンだよ」

「…」「…」「…」

「いや ホントだッて!」

 

苫篠・北条・加藤の冷たい視線に赤面する玄野。「トリケラマン」はスル―。

 

「撃つってどっから? 恐竜は火吹かねーだろ」

「火ぃ吹いたらゴジラじゃん」

「ゴジラが出すのは放射熱線だよ」

「どう違うんだ?」

「あッ オッサンも見たよな、な」

「あはは、うん。シャワーじゃなくて砲弾みたいだったね」

「ふふっ、あたしも見た」

「マジで? T・レックスならこっちにも出たけど…」

 

加藤たちはティラノが砲撃する前にヤッつけたらしい。

マンガではスーツ着た人間に直撃した描写が無かったから、トリケラサンの胴を一撃で貫通する&余波で自動車が数m浮き上がる威力ってことしか分かんなかったけど撃たれなくてラッキーだったね。

 

“北条……10てんTotaL10てん あと90てんでおわり”

 

「…はぁ?」

なにやらソワソワしていた北条が採点画面を見て唖然とする。0点だと思ってたのかな?

 

「え、なんで」

「…こっちがあいつの点数なんじゃねーの?みんなで倒したあいつ…」

「1匹で10点か。ボスの子供だからか?」

「基準がわかんねーな。T・レックスが3点なのに。あれで難易度高かったのか?あいつ」

「近くに親が居たからじゃね?」

「寝てたけどなー」

 

こっちの親ブラキオもマンガと同じく仔ブラキオがヤッつけられるまで起きなかったようだ。

低血圧かな?

 

“佐藤(?)……21てんTotaL68てん あと32てんでおわり”

 

「おお…」

「な?」ニヤリ

画面を見る加藤にドヤ顔する玄野。

 

なにが「な?」だか知らないが、ちょっと獲りすぎたかも。

100点ためても特典1番を選ばないのに、武器も要らないし。

あと3種の100点武器がマンガの設定通りなら私には使いこなせそ―にない。

 

内訳は、かっぺ星人の10点たすザコ恐竜11体ですね。

加藤に怒られる危険を冒してかっぺ星人膨張(あの場合のバージョンアップ因子は拘束され続けたストレス?)をギリギリまで見守った意味はあった、と思う。初期状態のモヤシなかっぺ星人をヤッつけても点数同じだっただろうけどマンガの設定より少なくなってたら損した気分になった筈だ。超人が大怪我してなきゃもう少し粘れたが……

もやし(ギャルの拳で鼻血)→筋肉(超人とタイマンでグロッキー)→大入道(和泉に斬り殺され終了)の次もあったのかな?

 

“西くん……36てんTotaL76てん あと24てんでおわり”

 

「おおーっ!もうすぐ終わりじゃん。もしかしてボス倒したのお前?」

「…」

「またシカトー?かんじわる~」

「苫篠、コイツはコレがデフォだ。ほッとけ」ニヤニヤ

「あ、コミュ障ってやつ」

「ぶほッ」

 

玄野笑いすぎ~。加藤もプルプルしている。愉しそうだがその認識は勘違いだよ?きみ達。

センパイはコミュ障というより厨二by…いや、なんでもないです。

 

採点終了。

合計108点、3点足りない。今日も全員生還したから……親ブラキオが踏んだ分か。

館内にはマンガと同じ種類のターゲットが居たのだろう。存在を視認したのは、かっぺ星人と親ブラキオ・ザコ恐竜(ラプトル?サン)のみだけど。

ザコ恐竜は、マンガでは玄野と博物館内を探検してた“おっちゃん”の頭に1体喰いついてたので、かっぺ星人が呼んでも全部は出て来ないと思っていた。それかマンガより大幅に多いか、

数え間違えじゃないならマンガと同数、43体居た。

恐竜博の営業開始がマンガと同じ日ならミッションが早まった分増えている、いや生き残っているかもと期待したのに。マンガでチラノサン(エネルギー弾を吐くティラノサウルス)がトリケラサン(二足歩行化するトリケラトプス)にケンカ売って倒してたから(和泉に邪魔されなかった場合)その後、肉食恐竜らしく死(にたての)肉を喰ってたとしたらザコ恐竜も喰われてミッション開始日までに減っていたのでは?と想像して。




ステルス機能活用者が二名の東京チーム(この時点なら原作より多い)。
周波数の変更を使えないとガンツ装備の検証や訓練とか危なくて出来ないと思う。オフ用?
ミッションスケジュールが前倒ししたけど標的数は同じ。



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家庭訪問と部活動

前編のあらすじ:
かっぺ星人ミッションクリア。
(恐竜?含む)かっぺ星人以外の星人は出なかった。




♪デッデケデデッデデデデッ デデデデッデッデケデデッ♪

 

「誰だ、今頃…。和泉…?」

 

並べかけていた食器…茶碗を座卓に置き、着信元を確認する茶髪。

それを似てない兄弟&髭の十代が見ている。

此処は、とあるアパートの一階。高校生がバイトで維持する加藤宅だ。只今夕食の準備中。

私は重箱から大皿へ料理を移している途中だ。お、ご飯が炊けたなコンセントを抜こう。

何故私が他人んちで食堂のオバちゃん紛いなことをしているかというと話せば長…くもないが、

ピッ

「…。そーだけど何?今頃…。…加藤ンち。は?…」チラッ

 

思案顔でこっちを見る玄野。なんだね?

 

(佐藤もソコに居るか?ッて言ッてンだけどッ)

 

ケータイをポッケに入れ小声で報告してきた。

うん、それで?

 

(えッと、居るッて教えていいの?おまえアイツのコト嫌いじゃん。多分ここに来るぜ?)

 

あ、そーゆー意味ね。

きみにそんな気遣いが出来るとは知らなかったよ、姐御の躾かし。

いや和泉のことを快く思ってないのはお前だろ。こっちの玄野は奴に酷いことされてないからそーでもないのかな?あーいうのと連むってストレスじゃん。

きみは比較されることにトラウマありそーだし。

私はべつに「嫌い」ではないよ~普通フツ―。

まぁ「用が済んだならさっさと元の学校へ帰れ危険人物」とは思ってるけど。

そっかーそう見えたかー。

登校はHRギリギリ、下校は号令と同時、休み時間はお手洗、ランチは(周波数を変え)貯水タンクの上で摂ったりと遭遇しないように行動していたが、永沢たちと話しているとき以外居眠りしてる君が私の学校生活を把握してるとは思わなかった。奴以外にもクラスメートはいるんだから避けてる対象の特定もされないと思ってたわ。そんなに無関心そうだったか(慧眼だね)。

居るってことは伝えていいよ、加藤宅の場所知らんでしょ?あいつ。

…。

和泉が小島に何用かしら?

本来ならこのあと起こっていた筈のイベントで奴は彼女の名を出していた。

今日は3月15日。玄野が夜中の教室で和泉に発砲された日…

 

「居ないよ。うん…ホントだッて。うん。じゃーな」ピッ

 

ジェスチャーが通じなかったらしく玄野はツルッと嘘を吐き通話を終了した。

(笑)き・る・な・よ~、電話で済む用件だったかも知れないのに。

奴との会話イベントが不可避なら機械越しで相手するほうが気楽だ。もしかして君は他人にケータイ貸すのが不安なの? ガンツスーツ着てるからって握り潰したりしないよ~(笑)。

美少女顔が真面目な表情でこっちを見る。

 

「アイツに教えたのか?おまえンちの住所。居なかッたから俺に電話したみたいなンだけど」

 

…ありえねーよ。

私が首を振ると「は?あいつマジか…」と呟き黙った。

他人への興味が薄い玄野にもテキの異常さが判ったらしい(笑)。

うん、きみの認識通り。奴との接触を避けている私が住所を教えるわけがなく。

…動悸が激しくて数十分前に胃へ納めた夕飯がでそう。さっさと宿泊先へ戻ろ…

ん?

 

あいつは何処の“佐藤”さんちに訪問を?

 

 

… … …

 

 

かわいい三角屋根のおうちを確認後、見おろすとロン毛が居た。

あと数mで小島宅な十字路に。奴も周波数を変えているらしく影が無い。

ここで暇そーにしてるってことは見知らぬ佐藤さんは無事だろう。近所に佐藤姓は居ない(回覧板名簿と足で確認済)。

嫌な予感に従い行動して良かったわぁ2重の意味で、小島の心臓を止める気か?

…マンガのよーにはいかないぞ。

 

「っ まっ待てっ」

 

ぶぶー、

きみに命令権はありません~。

お勉強できるキャラなのに自分の状況判んないの?それとも混乱してる?ならちょっと意外~。そこらの一般人みたいにわかり易く慌てたりするんですね~、

ワイヤーで拘束されてるからって。

 

帰宅せずほっつき歩いていたのか学ラン姿な和泉。その胸から腹にかけて光る紐が巻き付き3っつのアンカーでアスファルトに固定されビクともしない。

奴が反対方向を見たタイミングで発射したからか簡単に捕獲できた(飛来するアンカー斬りそうだから用心してみた)。私が潜む(お向かいさんの屋根上)方向から目を逸らすまで何時間でも粘ってやろう、と決心してすぐ好機が訪れちょっと不完全燃焼?…なんてことは思ってない。

突然機動力を奪われ、ひとしきり驚いたあと肩から上だけで頑張っていた奴は私が目前へ着地すると動きを止めた。

Yガンのトリガ―を引くなって意味だろう制止の声をあげ、つづける。

 

「俺の話を聞け 誤解がある筈だ!」

 

やかましい。

透明人間の自覚を持て。町内の七不思議になったらどうしてくれる。まだ数カ月はこっちで生活するんだ、噂が拡散され都市伝説と化し浅慮な暇人に安眠を妨げられたら嫌。

それと「誤解」って何?

周波数を変え目撃者へ対策した状態で他人の家の周りうろついておいて潔白を主張するの?

どんな理由を捻るのかちょっと気になるけど言い訳を聞くより事実を確認するほうが早い。

私はストーカーを放置し小島宅へ足を向けた。

 

… …

 

小島宅と小島母(はカーペットに正座し木曜ドラマを真剣に鑑賞していた)の様子を見たあと

 

ドンッ ゴッズギャギギギギギギ……

ボンッ

 

盥にはった水溶液に洗い物を浸けてから玄関で靴を履いていると表からスゴイ音が

擦過音?

交通事故か、めずらし…

 

 

小島宅を出ると事故現場ができていた、

フロントの右側、ヘッドライトとバンパーが大きく凹み左側面が目減りした白ナンバー。

後輪の片方が外れたらしくタイヤがひとつ転がっている。

見覚えが無いからご近所さんの車ではなさそう。

角から自動車との接地面まで削れている(十字路を挟んだお隣の)塀。

無傷なフロントガラスの奥、膨らんだエアバッグで運転手の顔が見えない。

とりあえずケータイで119をプッシュ。

 

やっぱ十字路の真ん中に放置はマズかったか~、

ホントすんません……知らないヒト。

 

和泉は十字路内に倒れていた。殆ど移動していないということは衝突の勢いでワイヤーが切れたのではなく一旦衝撃を吸収してから切れたのか?

スラックスから露出する足首部分のボタンは光ったまま。ワイヤーがクッションになったぶん普通にはね飛ばされるよりもダメージは少ないだろう。なんで気絶…

 

パシッ

 

頭部を狙い投げたロッカリーを学ランの右手が捕る。

やっぱ起きてんじゃん。

 

「なんだ…石? お 前なに考えてんだ!いい加減にしろよ」

 

10cmほどの庭石を掴んだまま起き上がる和泉。こっちを睨む。

アホでごめんなさーい? さっさと転送しちゃえば良かったね。次はそうするよ。

 

「路上で寝てるから起こしてあげようと思って…

 

「阿部さんちにぶつかってるー。おかーさーん」「運転手出て来ないぞ 救急車!」

…ピーポー…ピーポー…ザワザワザワ

「あ 救急車」「誰か呼んだのか」「なに飲酒運転?相手逃げた?」「さぁ」

 

私の返答を複数の話声が隠す。

外出中か手が離せない作業中なのか肝心の阿部家以外が集まって来た。

わらわらとフロントドアを囲む近所の野郎共。窓を叩く爺さん。

 

(…帰ってもらえます?)

(…仕方ないな)

 

私が駅の方向へ顎をしゃくると態とらしい仕草で溜息を吐き、ロン毛は喧騒へ背を向けた。

 

おい、石は置いてけ。

 

 

 

… … …

 

 

 

翌日、昼。

C棟2階の準備室で一服中。

ここが新聞部の部室らしい、今日知った。

斜め向かいに座るのは新聞部員、ではなくクラスメートのサ■コパス。

いやマンガ知識で先を読んで連れて来たのではなく開き直って危険人物の回避を諦めたのでもない。

直接の原因は校内放送。

ご丁寧に場所の詳しい指示付きで呼び出されたため同席を回避できない状況に陥っている。

部室に着き暫くしたら入ってきてビビッたよ。部外者は遠慮しろ。

私を呼び出した部長っぽい女子生徒は和泉を見るなり「きゃー目が、目がぁ」とか言いながら薄い冊子&ICレコーダーとデジタルカメラを置いて去った。愉しいヒトだ。

なにやらビッシリと印刷されている冊子。企画書ということはあのイベントか、と思いつつ見ると当たりだった。マンガのときもこんな唐突に言い渡されていたのか?小島。

 

「…というわけなので部活動にご協力をお願いします」

 

はっきり言って協力する義務無いし帰宅遅くなるけど、どうよ?

大量殺人犯とは真逆のイメージ作り…満ち足りた好人物アピールにはなるんじゃね?

もう必要無いかも知れんが。

 

ちょっと広めな準備室の中央に設置された2台の長机。出入り口に近い隅に座る奴に提案してみる。私はその対角、窓を背にしている。その錠は上がってそうだが未確認。

教師がアンケート配ってたから消えたと思ってたのにな~このイベント。ぬかったわ。

これは和泉が新聞部主催のアンケートで「一番興味のある人物」(笑)に選ばれ特集組むから…ってイベントだ。マンガでも今日、小島は和泉にインタビューしていた。

私はそんな手順踏むつもり無かったんだけどねぇ。マンガの台詞をそのまま使える筈だから。

でも部長は小島に材料集めしか頼んでいないと分かったので予定変更せざるを得ない。

記事の作成までがノルマなら取材しなくてもでっちあげられたがICレコーダーの中身が必要ならそれは無理。対象の交友関係やクラスメートからの評判も集めろとか一日仕事じゃん、メンドくさっ。頼むなら昨日言ってくれよ~今日は半ドンだから今頃皆さん帰宅してるって。

和泉は冊子から視線をあげこちらを見る。

 

「…」

「あ、無理なら次点のかたに頼みますから断ってくれて構いませんよ?」

 

但し理由必須。お前が断った旨は新聞に載るでしょう。

 

「…」

 

おい無視すんな帰宅部。「忙しい」ならその経緯も要るぞ…

って詳しく訊いたら立派なインタビューになる?

 

「見返りは?」

 

…あ”? もう一度言ってくれる?

 

「こっちの疑問にも答えるってんならいいぜ」

 

疑問て…

そんなもん帰宅してググれよ。あれの情報量には勝てる気がしないぞ(真偽はともかく(笑))。

ミッション関係の疑問でも同じだ。仕掛け人たちの属する組織や本名なんて始めから知らないし、ヤバそうなことは言うつもりないから。

ガンツメンバーには振り切れないタイプの監視がついてそう、ルール違反直後の処罰もそうだけどメンバーの性癖や私生活をガンツが知っていることから出歯亀と呼んでもいいヤツ。

たぶん脳の爆弾で盗聴&盗撮されてる。ガンツは人間って感じしないからどーでもいいとして、そのお友達連中に視られているとしたら…

マジきめーっ(最キモ)。

って話が逸れたな。え、未だ記憶戻ってないの?

マンガでも断片的にしか戻らない設定だったけどそれでも先達(でもある後進?)メンバーに教えを請いたくなるほど忘れてはいなかったはず。寧ろ主人公たちより詳しいっつーか、ミッションに参加するだけじゃ判らない情報を知っていたような…?

西からの情報を確かめたいなら玄野に訊けば?ミッション直前や採点後なら他の意見も訊けるよ。

 

「もしかして昨日もその用事だったんですか~?

 お手数掛けましたね~、うちまで訊きに来てくれたみたいで~」

「…」

「構いませんよ。私にも予定というものがありますから、

 それで解決するなら重畳です。疑問に答えられるか保証しませんけど。

 急ぎで知りたいなr

「いや。

 …明日、会わないか?」

 

え~

 

「だめか?」

 

駄目に決まってんだろ

とは言わないでおく、とりあえず。

お腹空いたからインタビュー以上の時間を取られたくないってか?想像より和泉の疑問は多いらしい。それとも答えが長くなる類の質問かしら?

面倒事が新たな面倒事を呼ぶってよくある事だけど世知辛いわぁ。

4か月近くサボっておいて今更だろうと新聞部内で小島の立場が悪くなるのは避けたい。

実在しない場合も同じだけど「次点のかた」こと予備のインタビュー対象が小島のクラスメートでない場合、部に貢献するネタを逃がす惧れがある。

それにいま拒否したところで押しきられる予感しかしない。

奴は意思を通すだろう、各方面がどれだけ迷惑しようと自らの願望を諦めない。

和泉はそういう奴。

 

「…いえ、わかりました」

 

仕方ない、駅前のドラッグストアーみたいな騒々しくて人目があり無料でうろつける場所で質問会なら受けて立とう。

新宿に待ち合わせなら拒否します。

 

昨晩は待ち伏せお疲れさま~。

どんな疑問があるのか。急ぎじゃないなら夜に来るな。

周波数変えて待ってるから「鬱イベント発生か」と身構えたのに違ったし。

和泉がステルス機能を使う=証拠を残さない殺人の途中、と連想したのは早とちりだったようだ。最近考え方が物騒でいけない。

和泉がメンバーに戻っている今マンガでやったような無茶はしない、する理由が無いと判ってはいたが違った形でアホなことするかも…と頭の隅で警戒していたので小島母を害されてなくてホッとした。彼女は“MEMORY”に無いから再生(?)できない。

不可視化した小島を見逃さない為のステルスだったのだろう。

奴が一般(?)周波数で待っていた場合、声を掛けずコッソリ通り過ぎようと決めていた私の考えを見越したのだ。…当たり前だな、誰だって夕食後の急な来訪は迷惑だ。

それはそうと箇条書きにするのも面倒なほどある心配事が減るから君が早めに退場してくれるなら嬉しいけど、バレ易いわりにリスク高いからステルス機能を多用しないのが身の為だよ?

うっかり大声出しちゃう人はとくに。




同じクラスなのに学校で会話できないため(小島の)自宅に押し掛ける和泉。
“佐藤(?)”の本名はクラスメートに聞いた模様。

クラスメートA→佐藤(小島さん):
 暇さえあれば机に齧りついてスケッチしている人(12月下旬~和泉転入の前日)
 授業中のみ出現する学友。他の場所でスケッチしてるんだろう多分(和泉転入~現在)
気付く人には認識されているが声を掛ける程ではない。

新聞部部長(オリキャラ):1年生。就任したて。熱意は低いめ。


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インタビューと行楽

前回のあらすじ:
クラスメートの住所を調べて玄野にドン引きされ、小島宅の周りを徘徊してオリ主に殺意をもたれた和泉。新聞部部室でインタビューを受けることを了承。



ガラッ

「和泉くんっ こんなとこにいたー」

 

美少女が入って来た。後続は無くパシッと扉を閉める。

しっかり閉めないで~。その戸すりガラスでしょ、危険人物への抑止力が減っちゃう。

 

「…」「…」

「…えっと、取り込み中だった?」

 

返事を待たず空いた席こと和泉の隣に座ってから首を傾げる美少女…篠崎。超カワイイ。

やはりこういった仕草は美少女に限る。眼福がんぷく…と和んでいたらこっちを凝視された。

彼女は和泉と同じ日に転入し顔に騙され告白しちゃったうっかりさんだ。

危険人物の恋人である。今すぐ縁を切ったほうがいい。

 

「ああ、いまから新聞部のインタビューうけるから。悪いけd

「大丈夫です同席してください。和泉くんとお付き合いしている篠崎さん、ですよね?

 居てくれたほうが助かります。そいつと差し向かいとか息がつまるので」

「えっ」

 

あ、やべ。本音が出てしまった。「丁度いいので和泉くんのインタビューに参加して下さい」

と言うつもりで口が滑った。

篠崎の表情が強張る。

いや貴女の彼氏ディスったわけじゃないのよ?人見知りの一般論で

 

「すごくわかる~!そーよねっ 和泉くんって冷たいっていうか…

 近付き難くて秘密主義だし話題に困るときあるよね!やだっ 同志!

 みんな勘違いしてるから、あたしの感覚がおかしいのかと思ってた!

 裏表の無い善い人、なんて和泉くんと全然違うもん。訊き返しちゃった!」

 

席を立つ彼女の勢いに驚いているうちに両手を握られ上下に振られる。

…そんなこと思ってたのか篠崎。

マンガでも放置されぎみだったけどこっちの彼女も同じらしい。もっと言ってやれ。

和泉は、冊子へ視線をおとし「我関せず」という態度。

彼女の前こそ猫被れ。

 

「…同感です~。

 で、今から彼氏さんにたくさん質問しますけど

 自分のことって指摘されないと気付かないこともあるでしょう?

 そこを彼女の視点でアシストしてもらえたら早くインタビューが終わるはずです。

 お願いできますか?」

「…」

 

再び絶句する篠崎。どうした。

 

「彼女かぁ…自信無いかも~」

「?」

「でも、まかせて!」

「…」「…」

 

無表情な和泉・はりきる篠崎の対面に移動して中間にICレコーダーを置き

インタビューを開始した。

 

… … 

 

「…プロになればいいじゃん和泉くんならなれるよ」

 

マイブームを訊かれ演技なのかマジなのかサッカーについて熱く語る和泉。篠崎の的確なつっこみにユースがなんたらと返すが興味無い&知ってるので右耳から左耳へ抜けてゆく。

マンガ読んだ時も思ったけど、なんで篠崎は初耳って対応なんだろ~。

登下校中とか2人のときいつも何話してんの、もしかして無言…?

マンガでは次に時事関連の話題へ移行し終了していたがあれは途中を省略していたらしい。

まだ質問項目は続いている。

次は“好みのタイプ”か。彼女いるのに愚問だな。

 

「理想の女性像は?」

「えー。難しい質問だなぁ」

 

いや簡単だろ。横で興味津々て顔な人間の特徴を言語化すればいい。

 

「ほら、ひとつくらいあるでしょ。今まで付き合った人の共通点とか。思い当たりません?」

「前は男子校だったから」

「…!」グッ

 

ををっ美少女のガッツポーズ。そんな貴女も超カワイイ。

 

「とりあえず可愛い系で髪の長さはセミショート」

「? まぁ、すっきりしてるほうが好感を持てるが。

 女子はいろいろ遊べて面白いよな。凝ったアレンジとかすげーと思うよ」

 

和泉はにこやかに答える。すっきりがスキなら括るか切れよそのロン毛(笑)うざっ。

 

「そして身長は165以下の色白で大人しそうに見えて元気いっぱい」

「…ああ、そんで面食いな友達がいる」チラッ

 

その点は本人も相当だけど。

私が挙げる女性像に途中から気付いたのか和泉も彼女を見る。

マンガと同じく奴は碌に相手の顔を見ずお付き合いを了承したらしい。観察しなくても認識できる特徴…身長と声は好みの範囲なはず。虫除けのために先着順でOKした、とかじゃないよね?

 

「へ~フツ―っぽいコが良いんだ~。でもそんなにアバウトだと期待するコ増えちゃうよ?」

 

机に両肘をつき顎の下で手を組んでニヤニヤする「フツ―っぽいコ」。にデジカメ向ける私。

やべっ、ロン毛じゃなく美少女メイン写真のが多くなりそー。

和泉が見切れてるヤツは小島パソへ転送して壁紙にしよ。ありがたや。

 

「次は…。…」

「えっなに何?」

「…転入前の…奇行を知りたい…だそうです」

「あー…それな~」

「きこう?」

「私はよく知らないですけど

 和泉くんが先月の上旬頃やらかしたような行動のことだと思います」

「…」

「え~っ あたしも知りたーい!

 屋上から飛び降りて無傷とか壁走りしてセンセーに怒られたりしたの?やっぱり」

 

正確には“転校前の不思議ちゃんエピソード求む!”だ。

あ~ぁ、へんなことになってる…

って睨むんじゃねーよ和泉。私のせいにするな。逃げるから追ったって?犬かっ。

現状の“不思議ちゃん”扱いは通行人だらけの校内でお前が本気出したからだろ。

自業自得ですぅ~。

変顔で退場したくないならもうやるなよ?また休校になったら皆の迷惑だ。

ガンツスーツは学ランでほぼ隠れてるとしても動画撮られたら流石にヤバイと思うぞ?

あっ、小島の噂はありません。

「転校生がナニカを追いかけてた」ってオカルト的に囁かれてはいるけど。

何をしても注目されないってスゴいスキルだよね(笑)。

 

「渾身のネタがすべったり…いや…ノーコメントで…」

「えっ?」

「ノーコメントで」

「そっか~。妖怪なんてそうそう出ないよね、しょうがないよ。見たら教えてっ」

「…」

 

ぎこちない笑顔で何か言い掛けるが結局拒否るロン毛。

だよね~自分の奇行を暴露する奴なんていないって、しかもタダで。

恋人をフォローする篠崎は残念そうな半笑い。

あれ?いつのまにか彼氏の面白エピソードじゃなく本当にあった怪奇現象を期待してた?

噂の修正を諦めているのか曖昧に頷く和泉。

…誰が妖怪だっ。

 

「見て楽しいのは大型動物だ」

 

質問前に“好きな動物”を答えるインタビュイ―。企画書見て覚えたんだろう。

でも惜しいなぁそれは次の次、正解は“クラスメートKとの関係”だ。“K”ってあいつのことでしょ?友人って答えればいいじゃん、なんで自主規制?

トばしたいなら止めないけど。

 

「たとえば?」

「海獣とか。無駄のないフォルムが雄大で綺麗だと思う」

「怪獣かぁ、男の子って好きだね、そーゆーの」

「…。いや…シロナガスクジラとかの、な」

「どう違うの?」

「未発見の海獣も怪獣と呼ばれてそうですよね。

 不完全な死骸で漂着するUMAの正体は大体が大型の海棲哺乳類でしたっけ?」

「…そういう意見はあるな」

「巨大イカとか宇宙人とか言われてる画像のこと?海の神秘だよね~」

「…」

「そーいえば和泉くんて猫派?犬派?うちにペットいるの?」

「マンションにはいないけど…猫よりは犬がs

「もちろん猫派ですよね?ジャイアントパンダは大熊猫って書くし」

「…パンダはクマ科だろ」

「和泉くんパンダ好きなの?今度見に行こーよ!」

「あー…うん。今度な」

「うちは鳥いるから猫飼えないんだよねー。オカメインコなんだけど超カワイ―の、

 ほら」

 

その後は篠崎の写メ(神々しい白オカメだった)を見ながら和泉の戦争蔑視発言を聞いて終わった。あとはクラスメートの取材か、休み明けになるな。もつんだろーか充電。

 

「ねっ、タエちゃんて呼んでいい?」

「あ、はい」

「あたしのことも涼子って呼んで! あと…」モジモジ

「?」

「…タメ口でいいよ」ポッ

「…うん」

 

…これは、

仲良くしたいと思われてる?友達になってくれそーな予感、やったね小島、マンガ通りだ。

篠崎との遣り取りを日記に細かく書き残しておけば私が帰っても友達付き合いが終わらないかな?ムリかなー?

小島両親と担任教師以外に本名呼びされるのも初…いや3人目か。某放送部員と新聞部部長(仮)の次だ。

 

「涼子ちゃんはさっきの放送で私の名前を知ったの?」

「?んーん違う~」

「和泉くんに訊いて?」

「うん、今朝登校中に。びっくりしたよタエちゃんt

「ネットで知り合った奴が同じクラスだったって話。すごい偶然だって」

 

笑顔で答える美少女。早口で言葉を接ぐロン毛。

え?SNSじゃなくオンラインゲーム?その知り合いって説明したんだ?

似てるっちゃ似てるか。…そうか?

偽名とバレた経緯も謎だが和泉は小島の本名を担任に訊いたのかな?

入学時におこなったであろう小島の自己紹介をクラスメートの全員が覚えてないってことは無いと思いたいけど、どーかな~使わない記憶は薄れゆくモノ。

 

「日曜だし明日行こうよ」

「んー…」チラッ

 

取材ツールを鞄につめ動かした備品を元の位置へ戻し、見ると和泉に何かねだる篠崎。

目を逸らすロン毛。

面倒そうにするな~。

一度お付き合いを了承したなら誠意を見せなさい、ってこっち見んな。関係ね―し。

質問会なら次のミッションでも遅くないだろ。シナリオ通り明日呼ばれる、かもしれない。

 

「明日は小島と約束したからムリ」

 

おいぃ~っ(怒)。

言いおったこいつ。

フられるぞお前アホか…じゃない、アホだ。恋人を優先せずに何のお付き合いだよ。

それに小島の初友達をできた早々失くす気ならばやはりお前は私の敵だ。

ほら面食い美少女がこっちを睨んで……ないな。見てるけど。

 

「えっホントに?」

「言質とった」コクリ

「やだおめでとー!ならしょーがないね」

 

驚き顔の美少女に頷くロン毛。

何言ってんの?…ホント何言ってんの?

どこが「おめでとう」? 何も目出たくない、そして納得しないでっ。そこ怒るところっ。

止めてっ小島のために。君にしかできない。

 

「…

 やっぱり私も混ざりたいな~。3人で遊ぶんじゃダメ?」

 

私の顔色を読んだのか意を翻す篠崎。自信満々&首傾げカワイイ。

…だが惜しい、っていうか何も解決してない。

私はカップルのコブになりたくないし外出も嫌だ。

どうせ新宿とか渋谷とか池袋に行く気でしょ。絶対に嫌だ。

「奴ら」の屯す場所が決まっていてもそこを移動しない理由が無いから東京中が安全ではないし。きみの彼氏は一部のクリ―チャ―に顔バレしてるからね(マンガと違い恐竜狩りで遭わなかったので写真は出回ってない筈だけど)。

デートしたいなら自室でイチャイチャしとけ。

 

「…わかった。じゃあ明日の予定はお前が決めといて」

「うん!」

 

荷物をまとめ廊下へ向かう和泉たち。腹が限界で頭から消えたのかこっちを振り向かず。

 

…私の都合は訊かれなかった。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

3月17日の日曜日。

ここは動物園。軽く見て回るなら丁度いい施設だ。

俺は今、蓮の葉がチラホラと浮かぶ池を左手に歩いている。桜の開花はもうチョイ先かな。

うちでゴロゴロしてたら篠崎から(和泉の番号で)電話が掛かッて来てアイツへの言伝を頼まれたあと俺の状況と予定を訊かれた。

 

イロイロと忙しーようで桜丘からの誘いは無い、来週は大会だから。

出場することを俺に教える気が無かッたらしく「観に行く」と言ッたら慌てていた。

予選(ひと月前に終わッたらしい)も応援したかッたな~。生で格闘技の試合を観るの初めてなのでかなり楽しみ。

 

とか思いつつ答えられないでいたら強引に誘われ(俺のコトどンだけ暇人だと思ッてンだ?)て正直迷惑だッたが、たまにはいいかも。

隣には言い出しッぺの美少女。付き合ってる和泉も勿論一緒に歩いて……

いや、ちょッと先を走ッている。無駄に身長あると目立つなァ。

そのもッと先に白ッぽい服装のアイツ。

走らなくても動物は逃げないッて~恥ずかしーヤツら。

 

昨日までアイツは和泉を力いッぱい避けていたのに一緒に動物園とかどーゆー風の吹き回しだ?

一か月半前の「トイレで爆発」事件翌日からアイツこと佐藤は教室に寄り付かなくなッた。

授業が終わると同時に出て行き、はじまる直前に戻る。ソレを毎日ずーッと。

言うのは簡単だがやるのは地味に面倒そう。和泉は数度失敗していた(笑)。

まァ見たワケじゃねーから追いかけてまかれ始業時間を見誤ッたッてのは100パー俺の想像だ。遅刻する度に佐藤を睨ンでたから当たらずしも遠からず…

ッてそもそも和泉が転入した次の日から…正確には休校直前から佐藤を気にしだしたのが謎。

6時限目から休校になッたあの日、昼休みに何かあッたのかもしれないが(トイレで星人?が爆発し)和泉がサボッた五時限目の授業中教室に佐藤居たし前日のミッションでは接点が無かッた。おそらくステルス機能を使ッていたのだろう単独行動していた佐藤と、派手にコケたあと起きず着替える機会を逃し(笑)最初に転送された屋上から移動できなかッた和泉が会話できた筈がない。採点時もその後もそンなそぶりは無かッたのに。

数日で追うのをやめたのは……誰でもやめるな、あンなに注目されたら(笑)。

和泉の追跡が終わッたコトに佐藤は気付かなかッたのか(指摘されなきゃ気付きようがないけど)授業以外で教室にいる時間は短いままだッた。

それとも全部俺の勘違いで佐藤が避けてたのは別のヤツだッた?トイレを汚した謎の星人(?)みたいなヤツがうちのクラスに紛れてて何かの理由で排除出来ない、とか?

う~ん、ムリがある。

 

なンでアイツらは星人(?)に気付いたンだろ? 俺が鈍いのかな?

それとも装備の機能か? 和泉に訊こうにも事件の話題を出すと不機嫌になるからなァ。

 

「玄野くん 私達も行こっ」

 

うきうきと駆け出す篠崎。

え~?




マンガと同じくクラスメート(ほぼ初対面)に付き添われ和泉に告白した転入生・篠崎登場。
皆大スキ動物園(捏造)。パンダ鑑賞に変わった質問会。


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パンダと友人

前回のあらすじ:
和泉・篠崎・玄野と動物園へ。
オリ主「どうしてこうなった?」
和泉「昨日パンダとか言ったから…」



=========

 

 

 

篠崎と一緒に玄野が追いつく。

先行しちゃってごめんね☆苦情は和泉へどうぞ。

小島の隣に陣取ろうとするのを避けていたら2人から離れてしまったのだ。だから奴が悪い。

篠崎も居るんだから質問会するわけねーだろ。有料動物園に来てんだから動物観てろ勿体ない。

「混んでるから走ると逸れるぞ佐藤~」って言われなくても解ってるよ玄野~。

どーでもいいけどお前はいつになったら私の嘘に気付くんだ?

和泉の言にのっかって篠崎へ「佐藤はハンドルネーム」と答えたのに隣の茶髪は聞き逃した。

 

ちび星人狩りの翌日以来久しぶりに間近(半径1m以内……怖っ)で見たが相変わらずCGアニメのように整った和泉の顔面を凝視する女性客、総じて頬を染め口が半開き。

男性客の態度は大まかに3通り、少数は連れの関心をひいた対象を睨み、過半数は珍獣を見るような目で眺め、残りはキョロキョロと辺りを見回す。

レベルの高い美形3人という煌びやかな顔ぶれに番組撮影を疑いカメラでも探したとか?

私は3人の存在感で隠れ周囲の目に映ってなさそう(笑)。

そーいやマンガの今日、新宿区に居た、というか都庁で主人公と対峙したときと同じ服装じゃん和泉。少女の頭部へ銃口向けてたときと同じニット帽とストライプのシャツ。

マジで近寄るな。

 

パンダの話が出て見に行きたくなったのか篠崎は動物園行きを提案してきた。

いつもは休日=大掃除だけど「しょうがない」よね、友人の頼みだもの。

万難を退け、いや避け参加させていただきます。…できれば早く別れてほしいな☆

 

あ、でも夕飯つくる前にひと通り掃除したいんで私は明るいうちに戻るわ。

2次会は暇人同士楽しんでくれ。

 

 

… … …

 

 

最初で飽きたのか「追い駆けっこ」を思い出してリスクを悟ったのかあのあと和泉が小島に近付かなかったので恙無く園内を巡り目的のコーナーへ到着した。

奥のほうでゴロンゴロンするブチ熊が柵と檻越しに見える。

「パンダは案外凶暴」だっけ。

 

「わ~可愛い―…のかな?」

「遠いな」

「あの動きは楽しーのか?」

 

動物園に足を運んでも相当ラッキーじゃなきゃ近くで観察なんてムリだよね実際。

檻が無い場合かわりに深い堀があってそっちのほうが客から遠かったり。

まぁ客に怪我させたら面倒だから仕方ない。

 

「みて見て。あの子、開開っていうんだって」

 

案内板を指す篠崎。

“ホイホイ(開開) メス 1996年6月3日上野動物園生まれ およそ125kg”

 

「ホイホイか~」

「…呼んだら来るかな?」

 

まるい背中を凝視し呟く和泉。

良いのか?それ、成獣だし昼寝中には見えないけどマナー違反じゃね?

他の動物は隠れていてもスル―だったのに、やっぱりスキだろパンダ(笑)。 

彼女(?)は大規模な2回(最期の入れたら3回)含め6回もデスゲームに参加したが待機中に部屋で暴れたりしなかったからストレスには強そう。…寧ろ狩りで発散してた?

 

「おい ホイホイッ」「ホーイホーイ」「ホイホイちゃん遊ぼ~」「ホホイ・ホーイ」

 

本当に実行する3人。どーやって遊ぶんだ篠崎。名前変わってるぞ玄野。

隣の幼児が真似しそう、自重しろ高校生。

 

「お」

 

振り返ったジャイアントパンダが…

俊敏な動作で鉄格子へ迫り額をぶつけた。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

周りが黒いからか大きくみえる円らな瞳がこッちを見ている。

頭が大きく丸々としていて顔面パーツのバランスもよくカワイ―が…

さッきの勢い思い出すと……ちょッとコワい。

格子を前脚で掴み鼻を間から突き出してジッと俺たちを…

いや和泉をガン見している。

動物園でも通常運転だッた和泉の視線吸引力が雌といえどもパンダにまで及ンでいるのか?

女子グループやカップルの片割れはいいとして親子連れな母親の視線まで独占していた。

あいかわらず羨ましい通り越して気の毒なレベルだ。篠崎が居るのに何度も声を掛けられ渋面だッたから「手でも繋げば?」と助言したところ頼む前に腕へ抱きつかれ固まッたのには笑ッた。「女子が苦手」ッてマジだッたのか(笑)。

 

未だ見つめ合ッてやがる。…別の意味で恐くなッてきた。

ミッション大好きな和泉が注視してるからッて…このパンダ……星人じゃねーよな?

例えばこの園内にいる動物全部がバケモンと入れ替わッている、とか。

ははは…まさかね。

ミッション以外のときはどーやッて星人と区別するンだ(笑)周りの全てにXガン向けてスキャンするワケにいかねーしレーダーにターゲットとして表示されねーはず。

 

パンダが動いた。

こッちに頭を置き仰向けに横たわる。カーペットで転がる子供のようにゴロンゴロンと始めた。目線は和泉のまま。

 

「遊びたいのね。和泉くんと」

「…」「…」「…」

 

「近ーい、すごーい」と撮影していた篠崎がしみじみと呟く。そうだと良いな平和で。

 

「…またな。開開」

 

ソレから数分後、和泉がそう囁き俺たちは出口へと向かッた。

 

 

 

=========

 

 

 

日暮れからの集い…ガンツ・ミッションには老若男女さまざまな人間が招待される。

その中の異分子が2つ、

犬とパンダ。

マンガで共闘(?)してた他都道府県チームには人間以外のメンバーが見当たらなかったので東京ガンツの趣味かもしれない。

 

マンガで開開がミッションに初参加したのは今日。でも今晩行われる筈だったミッションは数日前にクリアしたので呼ばれない可能性が高い。

すなわちマンガと同じく今日なんらかの事故で開開の鼓動が止まっても複製されない。

…これって私のせいだよな~。やり直す機会があったとしても同じことするけど。

 

マンガの今日、和泉はある計画を実行した。

いつの間にか自室の引き出しにワいていたミニ黒球。それに浮かんだ文面を信じて。

 

“部屋に来たいひとは できるたけ いっぱい人を連れて来て下ちい”

 

一般人や(解放されてミッションを)忘れた者にとって意味が分からない要求。

だがスリルへの渇望からか必然か奇妙なサイトに辿り着いた奴には正しく理解できてしまう。

疑われないよう念入りに変装し奴は3ケタの人間を射殺した。

「生贄を所望する」って条件見て諦めないのも理解出来ないがミニ黒球にそう表示されたからって張り切りすぎ(恐)黒球部屋に387人も入るわけないだろ(全員が部屋へ行けるとは犯人も思ってなかったみたいだけど)。しかも例によって新規メンバーの選別は“いい加減”だし。

生き残れる人材が欲しかったのなら“よわいひと”に当てはまらないのなんて当選した24人のうち風とアイドルと超能力弟子(は反則レベルのターゲットに退場させられたが再生してもらえる人望こみ)の3人くらい。ラストミッションにすら辿り着けなかった和泉も含めて。

とにかくミッションに参加したい一心でありえない規模の完全犯罪を成し遂げ、主人公に首ちょんぱされたあと複製された部屋で奴は同じく複製された開開と出逢った。

 

あのとき小島は玄野を都庁へ誘き出す餌にされた挙句射殺されそうになっていたから私はイベントを潰した。

おそらく3月14日に、ミニ黒球に参加条件が浮かぶ前に奴をガンツ部屋へ招待したことで。

 

けど関係性が変わってるからこっちの玄野を呼ぶためなら小島じゃなく桜丘を狙っていたのかね。乱射魔vsヒロイン(ただし姐御は無手で生身。単に持ち帰ってないのかおしゃれに命をかけているのかミッション外の彼女はいつ見てもガンツスーツ着てない)のDream matchが見れたかも…だとしたら惜しいことだ。

いや西日記に姐御の名前が無いなら(マンガのそれには“クロノ”以外のメンバー名が記載されなかった、らしい。こっちで確かめてないけど)居場所を特定できない。ということは一番仲のいい(?)友人……永沢あたりが狙われた?

……

………ないわー。

 

 

「このうちは茶も出ないのか?」

 

笑いを堪えるような声に空想から引き戻された。

此処は小島の部屋。作業机に面した椅子に座りニヤつくロン毛が見える。

…あれ?おかしいな。瞼擦っても消えね―ぞ、この幻。

…。

なんで和泉のくせに小島の部屋に上がってんだ。玄野すら入れたこと無いのに。

お客さん第一号がこいつって……間違ってるっ。いろいろと間違ってるよ、

 

私がしたことだとしてもっ。

 

いや、いつかみたく無自覚な行動に驚いたわけじゃない、こうなった経緯は記憶している。

小島宅戻って掃除して夕飯作って小島母と摂って外出の準備していたら来たんだ、危険人物が。

そこまではいい。

で、応対した小島母が何故か私に知らせる前にリビングへ通してしまい「今日は居るよ~ゆっくりしてってね~(笑)」を真に受けて帰ろうとしない奴を小島部屋に隔離した。

小島一家に近付くんじゃない、〇〇すぞ(怒)。

……そーいや質問会の中止を提案し忘れてたな~。

でも動物園行きで予定が変わった=約束は白紙ってフツ―思うよね?

そんな「フツ―」は無い、なんて意見は認めない。

 

(疑問でしたっけ…何を訊きたいんですか?)

 

要点はまとまってるんだろ? 秒で終わらせてやるわ、こんな質問会。

まとまってなくても1つ答えたらお開きにする。答える数の言質は取られてない。

私は忙しいんだ。

…いやマジで。これから加藤宅行かなきゃだし~。

約束したカレーを加藤弟と他2名(また玄野が居たら3名)が待っている。

 

(…。あの部屋には、その日死んだ人間が呼ばれるんだよな?)

 

ドアとこっちを交互に見てから話し出す和泉。今日はクウキを読めたらしく小声で。

今頃その確認?西日記読んでるなら分かるだろ。私は軽く頷く。

察しの通り黒球部屋にはミッション当日に鼓動を止めたヒト(稀に四足動物)が複製されるよ。

それがどうした?

 

(前回の…恐竜のミッションで加わったコスプレ野郎いるじゃん)

 

風のことか。彼はかなり頼れる戦力だけど前回は活躍しなかったからね、その認識は仕方ない。でもカワイソーだからその呼び方はやめとけ。

 

(あいつは死んでないのに部屋に来た。加藤たちの証言が正しいなら、だけど)

 

あ~転送直前の加藤に触れていたことで諸共、黒球部屋に呼ばれちゃった件か。

嘘吐く理由が無いしお前には関係無くね?

ガンツメンバーになる裏ワザ(?)についての考察なら西とやってろよ。

センパイが興味持つかは知らない。

 

(路地から部屋へ移動したって。加藤の腕を掴んだらそうなったと)

 

うん、それ私も聞いたし覚えてる~。

つか回りくどいな、はやく本題を言え。

往来は内緒話に向かないけど移動しながら質問会にすればよかった。

 

(玄野達も言ってたが、あれはメンバーに連れて来られたってことだよな。ガンツじゃなく)

 

その表現はちょっと加藤に気の毒だが、まぁそうね。

 

(あのとき…

 俺を部屋へ招待したのはお前か?)

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

(あのとき、と言うと?)

 

小声で訊き返す佐藤…いや小島か。

会話を始める前に(縫い包みから取り出した)ライフルをドアへ向け眉間に皺を寄せていた。

部屋の外に聞き耳を立てる誰かが居るらしい。この程度の会話なら聴かれてもフィクションの話題と勘違いされる程度だろうが他に理由があるのかも知れない。付き合ってやろう。

小島は外出着に反射板をつけている。おそらくその下はスーツだ。少し訪問が遅かったら2日前の再現をしていたのだろう、待たされるところだった。

今日も加藤たちのところへ?

週に何回通ってるんだ……………………………まぁいい。

先程まで頻繁に腕時計へ視線を落とし苛立たしげに相槌を打っていた彼女の表情が今の問いを聞いて明らかに変わった。

やはり…

 

(ちび星人のときだ)

(…?

 和泉くんの転送見てましたけど、とくに他と違う点は無かったような…)

(いや俺もコスプレ野郎と同じ方法で、あの部屋に呼ばれた)

(そんなこと言われても…心当たり無いなぁ…

 それに私あの日は和泉くんより早く呼ばれたし。

 加藤くんと同じ方法で誰かが連れて来たとしたらまとめて転送されますよね?

 あのとき和泉くんは1人で出て来たから違うのでは?)

(俺を招待した奴は周波数を変えていた)

(言ってることがよく分からないんですけど、姿を見てないのに私だと思った根拠は?)

(あのとき室内で確認したメンバーは12人と1匹。

 前々回の参加メンバーが揃っていた …1人を除いて)

(それが私だ、と…。見当たらなかったから犯人って…。

 私は和泉くんと違って目立たないのでよく見落とされますけど、

 それが原因で疑われたのは初めてです)

(奇遇だな、俺も見落としたとしたら初めてだ)

(はぁ)

(…)

(…)

(本当に違うのか?)

(ですね~和泉くんをメンバーにする理由が無いし)

(それは…戦力の増強とか)

(えー?そういうことは一度でもボスを倒してから言ってくださいよ~ギャグですか?

 あ、冗句ですから睨まないでください。それに戦力不足とか思ったこと無いですし

 仮にそういう目的だとして転送事故が故意なら和泉くんが元メンバーだと知ってる人が犯人でないとおかしいでしょ。それにあの部屋に入れるのはメンバーだけとも限りませんよね?

 西くんが違うならガンツ側の何者かが姿を消して紛れ込んでいたのかも)

 

西って…あの影が薄いガキか。ガンツに隠れた顔まで確認してなかったが、あいつは無い。

小島の言う通り戦力に不満が無かったなら俺を呼びはしなかった筈、取り分が減る。

ガンツ側…主催者による招待ってのはありそうか…?

レーザーで強制転送できる相手に面倒な手順を踏み過ぎていたように感じる。

 

いずれにしても被害者の主観だけで立件は困難だろう。転送事故の証明すら出来ない。

犯行現場は不特定多数が出入りする小さな公園とメンバー退出後初期化される部屋。

俺と共に転送された奴がガンツスーツを着用していたなら物的証拠など始めから無い。

犯人…俺を招待した人物を焙り出すなら転送直後のタイミングしか無かった。

 

メンバー全員に真実を知らしめるなら、な。

 

 

 

=========

 

 

 

17日の日曜日もあっさりと和泉は退いた。

帰る前に握手を求められたけど。

友好の証ってか?でも所詮ポーズでしょ、と思いつつ差し出された左手を掴むと何故か右手で左肩をマッサージされたのでツッコミのつもりで腹パンしてやったら「これじゃない…」と呟いていた。本格的なSMプレイをお望みなら篠崎に相談しなさい。

 

ちびの襲撃(未遂)後なぜか怒って追いかけられビビッたので徹底して避けていたのに拍子抜けだ。危険人物の要求と疑問がささやかすぎて。

いや物騒で傍迷惑な事態にならなくて嬉しいよ?でも一か月半の苦労はいったい…

星人から逃げる練習にはなったかなぁ。多少は。

和泉初参加時の真実を奴が言いふらさないなら「私が犯人だよーん感謝をし」と答えてもよかったが一般人を態とデスゲームに放り込んだのには変わりない。それをネタに利用されたらつまらん。何度訊かれても知らんぷりするつもりだ。

 

 

加藤宅に着くと転がってTV鑑賞してた玄野に文句言われたので肉抜きカレーの刑に処した。

遅刻は私の過失だがゴロ寝して待ってた奴に言われたくねーっ暇なら加藤弟の予習くらい見とけ。お前が加藤弟の家庭教師(顔合わせの家庭訪問がメインだった)初日に風邪ひいて私が代役してから勉強見てる(ついでに御裾分けもしてる)んですけど?最初から私が頼まれたみたいになってるのはお前の仕業だろ、何にでも主人公補正が適用されると思うなよ?

どうせ私が小島宅へ戻ったあと加藤に分けて貰えただろうと思っていたから翌週のキックボクシング大会会場で午前の試合を消化した昼休み姐御に泣きついていた情けない茶髪の証言を聞きちょっと驚いた。見捨てられたらしい(笑)。

嘘泣き男をあやす桜丘は超デレデレでした。だから3回戦で判定負けしちゃったのかな~?

うん、玄野のせいだね。

 

 

 

明けた月曜日、彼氏(笑)を差し置いて連むようになった美少女とプラットホームに並んでいたら長身美少年と遭遇。一点をガン見する篠崎の視線を辿ったら居た。

「声掛けてみる?」じゃないよ、きみ彼氏いるでしょ。あっちも年上の彼女もちなはず。

小島に勧めるならあと半年待ってくれ(笑)。

…玄野とはあの後ニアミスしたのかな?彼は。印象は違ったが一目で判る玄野弟だった。

話し掛けなきゃ無害だからスル―。

 

 

 

あ、所謂Butterfly Effectなのか不思議なことに開開の訃報は無いよ。

ただ、

毎日決まった時間(17時頃)鉄格子に鼻と両腕を挟んだり柵際をウロウロする謎習慣ができたらしい。

 

 

 

その後は滞りなく終業式を終え、今日は3月31日。

…。

いや4月1日か?

「これから眠れると思ったのに…寝坊しそう…」と呟く眼鏡とセンパイ&犬以外が部屋のあちこちに転がっている。私も同様、寝てたからね。ゴロゴロしつつパジャマの下に着用したガンツスーツを確認する。うん異常無し、コントローラーも付いてるね。YガンとXショットガン置いてきちった~。けどま問題無し。いつも余っている。

疲れはリセットされている筈なのに起きるのが億劫。ツルツルな床きもちいい。

これでデカイBGMなきゃ快適なんだが、ミッションも遠慮したい。

ガンツの歌(?)が一小節終わったところで跳び起きた加藤が周りを確認後こっちを見る。

おはよー。

次々と目を覚ますメンバー達……1人以外。姐御、寝顔を鑑賞してないで起こせ。

夜型っぽい西と野良犬はともかく寝間着じゃない山田は仕事中だったのかな?持ち帰り残業?

草臥れた表情でガンツスーツを持っている。小学校教諭って春休み無いの?




どうでもいい質問に拘っていた和泉「佐藤(小島)は嘘吐き」

(ねぎ星人から数えて)6回目のミッションがはじまる…


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いぬ編①

前回のあらすじ:
恐いので行動範囲を抑えていたオリ主(いつもより)ちょっと遠出した(パンダ鑑賞と試合観戦)。



♪…チャ~ララッ チャーラ チャッチャチャ~ラチャンッ♪

 

 

「~何時だ?今。これからミッションかよ」

 

眉間に皺を寄せ黒球を見つめる北条。それをサダコが定位置で見守る。

うん、時計くらい置いてほしいね黒球部屋。腹時計があてになるか不明だが私の体感では午前2時前後。

 

 

“てめえ達は今す”>この方をヤッつけに行って下ちい

 

 いぬ□■星人(いつもより大分粗い画像…っつか砂嵐?)

 特徴    もふもふ すうじ

 好きなもの のぞき かけつこ

 あしおと  チャッチャッ             ”

 

 

何だ“□■”て文字化け?

只の“いぬ星人”ならあの“いぬ星人”だろうが…

単行本18巻で作画過程の紹介をしたとき出てた星人。

だとしたらガンツバイクを全部(2台しか無いけど)持って行くべきか。

主人公とおっちゃん(鈴木)が乗るバイクを群れが追いかけ、ボスらしき大型のターゲットに遭遇したところで終わっていた(2頁)。攻撃方法は咬みつきか? 集団でバイクを追う4足獣ってことしか分からない。

(主要キャラ含めてデッサン人形?で表現されていたから役割が逆かもしれないが)主人公にターゲットを銃撃させる為に運転手の鈴木がバイクのスピードを抑えていたのなら“いぬ星人”の走る速さは家犬と同程度かも知れない。それでも生身で逃げ切れる速度じゃないけど。

そーいやガンツバイクのトップスピードってどのくらい?

マンガでチラノサンを振り切っていたが大型のティラノサウルスは柴犬(32km/h)より鈍足らしいから参考にならない。黒球メーカーの遊び心で作ったんじゃないならスーツ着て走るよりは速いはず。もしかして疲労を気にせず“ながら射撃”する用のツールか?ターゲットが多くないと移動にラクってメリットしか無さそう。加速遅そーだし。

でもそれより問題は…

 

「おおっ?!」

「もうかよっ まだ着替えてねーぞ!」ツルッ

 

驚く声のほうを見るとすでに目元まで消えている近藤。

ぇえっ?

ぶっ叩いたつもりか黒球に右手を滑らす苫篠。

気持ちは解るがガンツへつっこむ前にあるだろ、やること。

 

「苫篠くん!」

「あ?」

「近藤さんにスーツと武器をっ!」

「あ…お、おうっ」

 

配ろうと準備していた山田からケースごと受け取りXガンを確保して顎まで消えた近藤の両手に押し付ける。何だか判ったようで彼はしっかりとそれを抱えた。

げっ、西と犬もいない…って、犬ーっ

転送ペースも速いぞ今回。

 

私はバイク部屋へ走った。

 

 

… …

 

 

スタート地点は広い路に付属する歩道。

普通車がすれちがえそうな幅にカラフルなブロックを敷き詰めたちょっと立派なやつ。

右手奥に丘が見える。今回の狩り場は住宅地か。

 

「あ~ しくじッたー!」

「計ちゃん…」

「ねえっ どうしようリーダー!どうしたらっ」

 

頭髪を掻きむしる玄野に桜丘が寄り添い加藤が見おろしている。

スーツケースを抱えた桜丘はパジャマのトップス姿。いつも美脚を強調した服装なのに白い生足が眩しい。スウェット姿の加藤は右にYガン左にXガンを所持。

玄野のスーツケースに中身が入っていないことを知った直後、という様子。

 

今かよ忘れ物イベント。

 

やはりシナリオの強制力が、って違うね。

スーツを他に置き忘れたら黒球部屋へ補充されないって知らないからだよね。

だから睡眠時に着ていなかった。

裸足と素手だし服の下にスーツを着ているように見えなかったからもしかして、とは思ったけど。

…加藤も裸足だ~

 

「!!

 まさか…

 はっ ははははは… 忘れて来たのか? はい1名死亡。決定~」

「くッそおおオオ!」

 

西の発言で悔しがる玄野。

ここ狩りエリアなのに周波数変えなくていいの?センパイ。

 

「っ!」「あなたねぇっ!」「西くんっ!」

 

何故か大喜びな中学生を睨む加藤と桜丘そして山田。

 

「思っても言っちゃ駄目だよ、そーいうこと」

「…」「…」「…」

 

山田の説教(?)で場がちょっと静まる。

 

「どうしよう?」

「どうしよう…」

「…」

「計ちゃんが闘えないなんて…戦力不足だ」

 

そっちか。

玄野の退場確率が上がったことを悲観してんのかと思った。

でも確かにそーかもね。今までの働きでミッション難易度を調整しているとしたら狩りに積極的なメンバーが1人でも欠けることは大問題。

 

「ひで~、心配してくれたンじゃねーのかよ~」

 

言いつつも頬を染めて口元がにやついている玄野。嬉しそーにしてる場合じゃないよ?

 

「あ、ごめん。でも心配してるだけじゃどーにもなんねーし…」

「たしかに」

「~もうっ!」

「慌てても仕方ねーよ。レーダーチェックしながら隠れてりゃ平気じゃね?

 …俺もそうするし」

 

揃って遠くを見る玄野たちの横で頬を膨らます桜丘に向かい呟く北条。

ミッションにエリアを丸ごと汚染するようなターゲットでも出ない限りは逃げる余地あるね。

ゆっくりとケースを閉めるスウェット姿の彼は平静を装っているがよく見るとプルプルしている。

 

「オマエもか…」

「…」

「加藤くんは大丈夫なの?…ケース持ってないけど」

「俺はここに」

 

スウェットをめくる加藤。

腹部に括りつけていたらしい、靴部分がちょっと嵩張る黒タイツを取り出す。

そんなところに(笑)。着るよりズボンに挟めてたほうが眠り易いのだろうか?

スーツがあるなら早く着れ(笑)いつまで不毛な会話を続ける気だ。

もう安全地帯じゃなく狩りエリアだから着替えるかコントローラーでターゲット位置を把握しないと危険。

そういう私は犬にタックルしたところ。あっメンバーの犬よ?

 

「おいッ何かないのか?」

「何が?」

「…スーツ無しで…星人から身を守る方法」

「無いね」

 

ガンツメンバー歴106日目の茶髪がベテランに問うがにべもない。

 

「何かあるだろ!一年以上もこンなコト続けてきてンなら1人や2人いたろ、忘れたヤツ」

「あぁ居たよ。あるのに着ない奴ならたくさん」ニヤニヤ

「いや、そーじゃなくて…」

「そのくらい自分で考えろ。できねーなら大人しく死ね」

 

マンガの忘れ物イベントは田中星人編の準備中だったか。玄野たちに抜け道を訊かれ勿体ぶっていた(結局教えずに退場した)西の腹案、ちょっと気になる。

 

「佐藤ッ何か方法ないか?」

 

犬をひっくり返し足部分を履かせていたら話をふられた。

藁にも縋りたいって心境か?玄野くん。

確実な方法を訊いてるなら知らなーい。ターゲットのスペック知らないから。

きみらと同じく今日の私はマンガ知識のアドバンテージ無いからな~……帰りたい。

マンガ通りならきみは逆境に強いはず。いっそスーツ無しで突撃して勘を磨け。

大丈夫、怪我と服の破損は転送で元通りさ。

テキト―に思い付いたにしては名案だ。美女に蹴られそうだから言わないけど。

って姐御が泣きそーだ?桜丘は想い人がスーツ無しで狩りに加わる展開を心配してんのかな?

玄野はそんなことしないって、クリ―チャ―に生身で突っ掛かったりしないよ。

誰かさんじゃあるまいし。

 

方法かぁ、ガンツバイクで逃げ回るのも手だけど

 

「周波数を変えたメンバーに触れていれば一緒に不可視化するかも、それで身を隠すとか」

「周波数を…変える?」

「消えるヤツかッ ステルスモード!」

「おおっ」「なるほど」「…」

「さすが佐藤さん。

 お前がいつも使ってるやつだよな、どーやるんだ?」

「は?…マジで?お前ら集まって情報交換なんかしてんのに未だそのレベルの理解度なの?」

「ヒント無しで分かるワケねーだろ。ケチケチしないで教えろッて」

「…」

「きみの助けが必要なの。お願い」

「…

 ふん。貸し1な」プイッ

 

提案者ではなく先達に教えを請う加藤たち。巨乳美女の懇願が決め手か了承するセンパイ。

…。

やっぱりこっちの西、変だ。

親切すぎる(笑)。

 

スーツを着せた犬を放しマップをチェック。

スタート地点は住宅地の入口らしく狩りエリアの端っこ。

10mほど北上すると(マップ上の)境界線。越えるとアウトなデッドライン、いやDeath lineか。

ターゲットは楕円型の外周に囲まれた住宅地の中心に1体、南東で住宅地を一部浸食するように接する空き地…公園?に1体、いや2体だ。その広さはエリアの6分の1ほど。

予想通り犬のいる現在地にターゲット表示が無いので彼(?)が標的という線は消えた。

マンガでもメンバーが直接標的になったことは無いし2頁のみだったが“いぬ星人編”でガンツバイクに乗っている描写があったってことは“かっぺ星人編”以降の話だから既に犬は退場している時期。消したいなら私達にヤッつけさせるより脳の爆弾使うほうが早くて確実だし。

縮尺を変えても同数。3体とネギ狩りに次ぐ少なさを喜ぶべきか、少数精鋭を怪しむべきか。

軽く助走をつけ私は車庫に飛び乗った。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

タッタッタッ…

「…?」

 

着替えと「周波数(?)の変え方」講習を済ませ、とりあえず一番近いポイントへ移動すると奇妙な光景があった。

横断歩道上に立ち、こっちへ背を向けている。が誰かは間違えようがない。

和泉だ。

奴が無造作に流す長髪が風ではたはたと揺れる。いつも思うが邪魔じゃねーの?

あれぜってー顔面に流れてるよな?

って問題はそこじゃない。前回ボス恐竜にスーツぶっ壊されて骨折させられたのは髪で視界が狭まってたせいに違いない、と密かに思ってるけど今は関係ない。

 

奇妙なのは奴の背景、と此の状況。

信号機と外灯に照らされ他より大分明るい十字路に座る獣。

狭い額に低い鼻。正面についた目は円い。三角形の大きな耳と長い髭。頬から胸元にかけて厚めな長い毛なみは淡色。身体の陰からチラチラと先っぽが見える尾は長そう。

路上に座った状態の高さは和泉と同じくらいありそーな、

 

猫だ。

 

規格外にでかいが“いぬ”ではない。

あれが今回のターゲット…

 

パッと見、でか(すぎる)猫は五体満足で血臭も無い。

というか寛いでいる、ように見える。猫らしい無表情は少しも動かないけれど。

和泉は転送後さっさと先行したはず。

あれが本当にターゲットなら何故攻撃を仕掛けていない?

 

近付くにつれ不気味さを増してゆくでか猫。

やっぱり…

小さいから可愛いんだなぁ…猫って。

大きさ的には近い実在する生物はネコ科最大のライガー、だっけ?アレではなさそう。

TVか何かで見た姿と全然違う。虎顔の短足じゃない。

左側の歩道に停車したモノホイールバイクの運転席に座る近藤・外部座席に寄り掛かる苫篠・街路樹を囲む植え込みの前にJJ。右側の電信柱横に風。

そんな周囲を気にせず猫のような“いぬ□■星人”…って長いな、猫星人でいいか。

猫星人は一点を、正面(方向の横断歩道上)に立つ和泉を見つめている。

目線は奴の顔面じゃなくちょっと下。ソードを警戒しているのかガン見だ。

動物特有の勘で俺たちを察知してるわけじゃなく視えてるっぽい。

確定だな。和泉がやらないなら俺が

 

ドキッ

 

光を反射する円い瞳が俺を見た。

 

「あっ リーダー!」「お」

 

すぐに視線を逸らした猫星人に溜息を吐き、声のほうを見ると苫篠と近藤がこっちへ手を振っていた。緊張感無いなぁお前ら銃ぐらい構えとけ。

 

「これどーゆー状況?いつから見合ってるの?」

「おっきなにゃんこ…」

 

計ちゃん達と別れ一緒に移動した山田さんが疑問を口にし、俺より前に出ようとする亮太の動きに気付いて両肩を掴む。今のところ大人しいがターゲットなら何時攻撃してくるかも分からない。あの図体だ一瞬で距離を詰められそう。

西も付いて来ている筈だが移動前に消えたので確証は無い。あいつのことだから単独で星人に近付かねーだろ。

レーダーを使ったステルスには姿を消す効果しかないらしいのに気配が分かんないってことは得意なんだな忍び足。駆け足で音をたてないコツも訊くべきだったか?さっきのように協力的な態度が今後もあるとは限らない。

そーいや消えててもターゲットのついでに斬り付けられるのは当然として流れ弾(?)に当たることはフツ―にありえるんだよな?だとしたらそんなに便利な機能でもない。

すぐに確かめられない状況になってから思い付くんだよな~こういうことって。

Xガンのスキャンにも映らないのか、ロックオンは可能なのか?

部屋へ戻ったら訊こう。

 

「俺らが着いたときからこんなカンジ…だったよな?」

「まぁそーだな。あいつと奴らの距離が今より空いてたけど」

 

奴「ら」?

 

「慎重なんだよ、あいつ」

「全然こっち見ねーとか言って、ちょっとっつ間合い詰めてるうちに背後とったっつーか

 あの距離になってるわけ」

 

は?さっき俺めっちゃ目が合ったぞ?

勘違い?偶然?

思い付いて振り返っても来た道には何も無い。対向車両の有無を確認しただけ?

ミッション中の周波数…ターゲットである星人と同じ周波数の俺たちが本当に視えてないならでか猫は只の通りすがりってことになる。でもそれならターゲットは?

「背後」は正面の言い間違いか?

 

「こーしてても埒が明かねーから、そろそろ次の場所移ろーかって言ってたとこ」

「そうそう」コクコク

「ちょっと待って。制限時間があるから手分けするのは名案だけど…」

「?」

「奴ら、ってどういうこと?」

 

山田さんの質問を訊いて顔を見合わせる近藤たち。

 

「あ?そりゃa

 

「ウワッ ワンッワワンッ キャンッキャンッ」

 

えっ いぬ?!

…って、うちの犬(メンバー)か。

植え込み横の路上で黒いのがクルクルと回っている、何やってんだ?あいつ。

尾を追いかけて、いや横っ腹になんかくっ付いt

 

(ウウウ…)

『グウウウ~~…フ―――――ッ!』

 

今度は何だ?!

唸り声はでか猫から。腰を上げ背を丸める獣。

狭い額にみるみる深い皺が増えてゆく…

 

『ッッゴワアアアァァァアアア!!』

 

う”っ

目と口を限界まで開き恐ろしい形相で前方…和泉を威嚇した!

 

ヴンッ

ドッ ダンッ

 

でか猫スピンで巻き起こる風。

空へ逃げた影が跳んだ頂点で増える。

片方はでか猫の背後へ着地、ソードを構え直す。

片方は4つ足で路上へ着地…いや、叩き落とされた

 

狼が。




犬(メンバー)の死因:偽大仏に踏まれた(原作の描写無し)。

玄野→オリ主:
ガンツ側の人間かと疑っていた。(ねぎミッションから数えて)3回目のミッションで死にかけたことと和泉参戦経緯を知ったことから出戻りメンバーかも?と思っている。

西くんはオリ主の(嘘)話を誰にも洩らしていない。


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いぬ編②

前回のあらすじ:
オリミッション開始。
西くんに周波数操作を教わる生身二人と加藤、山田、桜丘、サダコ、亮太。
猫(大)に攻撃される狼。
※グロ注意(犬猫派の方はとくに)※



=========

 

 

 

車庫を足場に登った屋根の上から見たターゲットは…

 

どっちだ?

 

Xショットガンのモニターに映る目標は2体。

1体は猫。

長毛種ということを差し引いてもぽっちゃり系と言えるプロポーションだ、くびれが無い。

但し大型犬の2倍以上ある体格の。

怖っ、何あれ~妖怪?猫又?……尾は1本か。

耳や目が微妙に動いてるし骨と内臓あるから置き物ではあるまい。公道のど真ん中に置く意味がわかんないし。

2体目は犬。

勿論ミッション先達の彼(?)とは別犬だ。

現場に着いた和泉で隠れてしまったが猫の手前に立ちこちらに尻を見せていた。

頭部は見えなかったけど狼っぽい毛並みと体型。ハスキー犬か?

角ばった尻からスッキリと脚がのび太い尾は巻いていなかった。骨格は(おそらく)普通。

不審点は4車線が交叉する十字路の真ん中に居るところか。首輪の有無は不明。

片方はどう見ても“いぬ”に見えないのでフツ―に考えて、あの変哲無い尻の持ち主が本命だが、穿った見方をすれば2頭ともシロで街路樹やはたまた電柱がターゲットってこともありえないこともない。

ほか2体の居る奥のスペースがもしも森林公園的な場所だったら森に紛れた数本のターゲットをヤッつける為には端から転送するしかない(植物系クリ―チャ―を伐採で処理できるとは思えない)。放火じゃ根っこが残ってしまう。

…。

いや実際、静物がターゲットって可能性は低いと思うよ?マンガの傾向からして。

寺院に紛れてた仏像とラストミッションの標的は見た目置き物だったけど人(一部動物や抽象的な物体)型ではあったし。

なんで今回はターゲット画像不備なんだよガンツ~。プンプン

 

双方、近くに飼い主や散歩紐は見えない。

何度確認してもマップに映る反応は1つ。遠くの2つも動いていない。

2頭のどっちかは通りすがりの野良生物。ヤッつけるのは避けたい。

クリ―チャ―っぽいのは猫のほう。ネコ科最大の雑種動物でもあんなに大きく育つまい。

星人の命名は“いい加減”だとして、ガンツは犬と猫の見わけがつかないのかな? ネコ目くくりなら指令の標的名を“ねこ星人”にすればよかったのに。

 

 

モニター内で立ち上がる猫。口をカッと開いた怒り顔だ。

残念ながら口内から火を出すとかは無くその場でクルッと一回転、跳んだ獲物へ猫パンチ。

真下へ叩きつけられ弾む毛玉。

追い打つ肉球スタンプで野良犬は再び視界から消えた。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

ゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロゴロ…

 

なんで狼?

どっから出てきた。

シベリアン・ハスキーより少し野性的な獣が猫星人に踏まれ平たくなっている。

咽喉を鳴らし徐々に前傾するターゲット。微かに軋むような音、

もしかして猫星人が今まで見ていたのはあいつ?

だから「背後」か。和泉に隠れて俺たちの位置から見えなかったようだ。

って納得してる場合じゃねぇっ

狼が潰れちまう!

 

ギョーンッ

 

『グゥッ』

 

ギョーン ギョーン ギョーン

 

構えた俺を見、ジグザグと後退する猫星人。やっぱ見えてるじゃん俺ら。しかも警戒されていた!

あの図体なのに跳躍・着地とも音が殆どしない。

不覚にも宙でトンボをきる姿に見惚れてしまった。小首を傾げる仕草もじつに優雅…

あれ?いつのまにか戻ってるぞ顔面。機嫌が直った…

 

ク~ン…スリスリ

 

狼が横っ腹を俺の脚に擦りつける。

…かわいい。

慣れてんなこいつ。飼い狼なのか?

猫星人を撃ってるうちに俺の後方へ回り込んでいたらしい。

…ん?

 

『フ―――――ッ!!』ザワザワザワ

 

再び怒る猫星人。きれいに生えそろった柔毛を逆立てこちらを睨む。

Xガンは全弾避けられたようだ。それなら、

 

「キャンキャンッ」

 

俺が武器を持ち変える前に

狼は逃げ出した。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

「あ」

「どーした?」

 

訊き返すと桜丘はレーダーを指した。

モニターに表示されたターゲットを表すマークが高速で移動している。俺たちの現在地へ。

桜丘と俺の待機する民家の横をもうすぐ通りそーなカンジ。

 

「はい」

 

俺に向かって左腕を広げる桜丘。右掌は俺の肩。

え?またアレやるの?…恥ずかしーんだけど。

敵は“いぬ”だから飛行タイプではないだろう、という理由で民家の屋根に隠れようと決まッたのはいいけど移動方法がちょッと…

 

「どうしたの?」

「あー…いや俺たち消えてるコトだしこのままでもべつに…」

「だめ」

「……なンで?」

「私ひとりじゃクロノくんを守りきれないかも知れないし…行けるとこまで逃げよう」

 

待機場所の変更を主張する彼女の眼はギラギラと輝き呼吸が荒くなッているような、

気のせいに違いない。

 

「…」

「…」

「…はい」

 

根負けして桜丘の首に両腕を回す。彼女は俺の肩と膝裏を持ッた。

所謂お姫さま抱ッこ。

…。

恥ずかしーッ 

周波数変えたメンバーにしか見られないとしても

はずかちーッ

 

「よーし そこ動くなよ―!」

「刀のがいいんじゃねーか?」

 

知ッている声が路上から聞こえる。ギャーッ。

俺が身を捩ると桜丘は屋根に降ろしてくれた。直前まで首の後ろからスンスンと聞こえた音は

幻聴だろう。

 

見おろすと近藤たちだッた。

乗ッてきたらしくバイクを後に歩く苫篠。運転席を降りながら辺りを一瞥する近藤。

ヤツらより手前にケダモノが立ち、首だけが振り返る。

すッげーデカイ……猫?

アレがいぬ星j

 

ゥアオオオォォォ…

 

!!

吠えたのは猫じゃない。ソレより北に居た大型犬……狼だ。

太い首を反らし夜空へ向け声を長く延ばしている。遠吠えするまで存在に気付かなかッた。

 

ォォォォォォ

 

静かな住宅地に木霊する。ッて、アレ?

 

(アオーン)(ワオーン)(キュアアァァ)(ウオーン)(キューン)(ウアーン)(アオーン)(ワオーン)(クオーン)(ウオーン)(キャンキャン)(ウアーン)(ワンワン)

 

狼の遠吠えに答えるような啼き声が溢れ…

たくさんの足音が近付いて来た。

 

 

 

==□◇□○□==

 

 

 

住宅地を縦断する4車線道路の脇道から駆け出て来る犬、犬、犬……

ダルメシアンやダックスフンド、バーニーズにシェパード、ラブラド―ルにゴールデン…

様々な種類が“いぬ星人”と狼の間に集まり壁をつくる…いいえ、星人の周りを囲んだ。

彼らは苫篠くん達ではなく円陣の中心へ注目している。

…狼の遠吠えに家犬の類を従える作用なんて無いわよね?

ってことは普通(?)の狼に見えるあれも星人、ターゲットの味方してるから歩道含め道路を埋めるこれ全部が星人なのか、

 

レーダーを確認する。

…。

この区画に出ているターゲットのマークは22コ。

やっぱり増えてる、でも変ね。ざっと数えて群れを構成する犬は30頭以上、数が合わない。

猫と狼以外は死角に隠れているってこと?

なら集まってきた犬たちはターゲットに操られ目暗ましに使われているだけのペット。ヤッつけるのは可哀相。

優先順位は低いけど。

もしかして20匹は消えている?

クロノくんと私のように不可視化している、としたらマズイわ。かなりマズイ。

 

「無視してっと斬っちまうぞ~お前ら」

「おいっ次郎 一旦退くぞ!こいつらたぶん…」

 

ターゲットまでの道を開けさせる為だろう、円陣外縁のシバやダックスに向かって刀を振り上げる苫篠くんに近藤くんが撤退を提案するが、

 

「おい、アレ…」

 

クロノくんが指すほうを見ると2人の退路を断つように別の群れが迫っていた。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

「苫篠!」

 

モサッとした頭へ呼び掛けるとすぐに気付いてこッちを見上げた。

近藤たちはソードを持ッてXガンをサブウェポンにしているようだ。アイツらの剣捌きを知らないが多勢に無勢。

スーツが無事なうちに包囲を抜けるべきだろう。

 

「ジャンプしろ 上がッて来い!」

「!」「よしっ」

 

「クロノくん!!」

 

声と同時に左腕を引かれた。振り向くと上目遣いでこッちを睨む桜丘。

あ、ゴメン。お口にチャックだよな、わかッてる分かッてる。いやホントに。

 

『カ――――――――――ッ!!』

 

ガガガガガ…ッ ドゴンッ… 

 

……ズシンッ パラパラ

 

何事?!

覆い被さってきた桜丘をどかし騒音の結果を確認するため彼女と一緒に屋根の下を覗くと案外近くに目があッた。

 

ベランダに落ちた頭部、その眼球が。

 

手すりにひッかかる残りのパーツ。

歩道と隔てる低いフェンスに垂れ下がる毛むくじゃらの下半身。

凹み斑模様になッた車両とソノ足元に横たわる千切れた四肢。

飛び出した肋骨や大腿骨ほか名称の分からない部位。

最後に響いた音の発生源だろう隣家の車庫を陥没させる電柱。電線が断裂しこッち側の外灯が消えグロさを緩和している。

俺たちの居る民家、路に面したその壁も塗り替えられているのだろう、路を隔てた反対側の壁を盛大に汚す鮮やかな液体。

肉片だらけな歩道・駐車場の背景、とくに低い位置の塀は酷い。

デカ猫を囲ンでいた群れが消え、周囲に犬の残骸が散らばッている。ヤッたのはアイt

 

「次郎!そいつっ」

 

あ、近藤と苫篠無事だッたの か

 

不意に振り回されスレートについた右掌から目線を上げると完璧なヒップライン、じゃなくて桜丘を挟ンだ反対側にケダモノが居た。

ピンと立ッた耳、高い鼻。太い首と丈夫そーな四肢。

一声で群れを呼ンだ狼…

ジャンプしてデカ猫の攻撃を避けたらしい。

視線は路上の猫へ注がれている。

 

タンッ

 

一度もこッちを見ず屋根を蹴る狼。

俺たち…いや空中の敵へ素早く向き直るデカ猫。

迎撃する前にソノ目が窄まる。猫が居たスペースを一瞬で駆け抜けた一頭…シェパードへ回転しながら尾を振るう。

 

ドンッ(ぶえっ)

 

横倒しでアスファルトごと凹むシェパードの胴。口と尻から中身が噴出。

さッき騒音出した武器、尻尾かよ!

 

「うえ~…」

「仲間割れか」

「クロノ達のほうに出たんだよな、この前あーゆうのが…ってクロノは?」キョロキョロ

「逃げたんだろ。俺らも行くか?」

「じょうだんっ 大物倒すチャンスだぜ!」

「あぁ、漁夫の利か…そう上手くいくか?」

 

周波数を変えている桜丘に手を握られたことで視えなくなッた俺への疑問をすぐに消し会話する近藤たち。観戦モードだ。「漁夫の利」はいいけど漁師ッつか観客が安全とは限ンね―ぞ。

 

近藤たちの退路を塞いだ群れは無事だが猫を囲ンでいた群れは壊滅か…

ゆッたりした動きで尾を定位置に戻す猫。

犬数頭が四方を囲む。アレ?諦めてない。

歯を剥きだし戦意充分ッてツラで巨体を睨む数頭は狼と同じく民家の上へ逃げ範囲攻撃をやり過ごしたンだろう。

犬は人間より運動能力高いらしいけど一瞬で2階屋へ飛び上がるのはムリだよな?

やッぱりヤツらも星人…

 

猫星人へ次々とアタックする犬星人たち。突ッ込ンでは去なされるが諦めない。

タイミングを合わせ前後から攻めたり壁を蹴ッて上空から仕掛けたり。

作戦のうちなのか無傷な群れは動かない。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

時は少し遡る。

 

聞き慣れないエンジン音が響く十字路。

獣たちが去った此処に用は無い。狼の逃げっぷりも凄かったが猫星人のスタートダッシュ、というか大ジャンプは圧巻だったな。…数分も保たないだろう。

 

ヒュィィイイ ルルルル

 

「いけ行けーっ!」(うるせー)

 

バイクで出発する苫篠たち。

ターゲット2匹につられてかあいつらも右側の車道を逆走だ。

乗り物使うならミッション中でも道交法は守れよ、一般人には避けようが無いんだから。

 

「どうする?加藤くん」

「え?」

 

山田さんの意図が分からなくて駆け出そうとしていた足を止める。

彼は亮太(はキョロキョロと辺りを見回し「今日の宇宙人は?」と今更なことを呟いている)と手を繋ぎ思案顔。戻って来る風とJJ。

 

「どげんした追わんけんか?逃げられたらしゃーしぃーなんやろう?」

「What happened?」

「いや、山田さんが」

「提案なんだけど、このまま全員で行動するより手分けした方がいいんじゃないかな?

 この先にも2匹ターゲットが居るわけだし」

「あぁ、そう…ですね」

「ってゆーかコンタくん達だけでなんとかなるかもよ?

 北条くんやクロノくん達も援護くらい出来るだろうし…」

 

前半は同意だが後半は駄目だ。

 

「生身のメンバーは星人に見つかるだけで自殺行為なんだから、

 巻き込む前提で考えないでください。計ちゃん達は逃げに徹すると言ってたし。

 今回は俺たちだけでやるしかないんです!」

「そ、そう…」

 

何故かどもる山田さんの声を聞き流しながらメンバー達を1人1人見る。

頷いてくれたのは風ひとりだがJJにも文句は無さそうだ。

和泉はレーダーをチェックしている…

 

ゥアオオオォォォ…

 

そのとき住宅地に遠吼えが響き渡った。

あの狼だろうか。今夜も曇っているのか月すら見えない、でも何となくあいつな気がする。

続く雑多な鳴き声。一帯で飼われている犬たちだろう、近所迷惑な。

…。

さっきも引っ掛かったことだが、狼が星人じゃないなら視えない筈の俺に擦りよるなんて変だしフツ―のペットが星人の声に答えのもおかしい…

メンバー達へ視線を戻すと嬉しそうに目を細める男がいた。

和泉だ。

 

「よかったな、迷う必要が無くなったぞ」

 

左手首につけたレーダーをトントンと叩き俺に笑い掛けてから踵を返す。行く先は…南。

慌ててマップを確認する。

 

「お、おいっ」

「…」ヒラヒラ

 

振り向かずテキト―に手を振ると和泉は走り去った。

全員で向かおうか迷っていた北のターゲットが1匹から22匹に増えたことをアイツは皮肉ったのだろう。

近藤たちが心配だ。はやく行かねーと。

和泉は南東の2匹を独りで片付けるつもりか。

 

…今回もボスが出るのかも。




観測位置的に顔が見えないので狼(タイリクオオカミ)を家犬(シベリアン・ハスキー)だと思っているオリ主「だいたい同じか」

桜丘「我は美少年を合法的にハグする権利を得た!クロノくんの艶髪いいにほひ…」

和泉「今回こそボスを仕留める」


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いぬ編③

前回のあらすじ:
(先行した近藤たちが居るであろう)ターゲットの増えた位置へ移動する加藤たち。

※引き続き、犬猫のグロ化注意※



暫く走ると四車線道路を塞ぐように広がる獣の群れが見えてきた。

構成するひとつひとつが妙に小さい。

フツ―の猫サイズ、よりは大きい。いや小さいのも居るが毛並みと後ろ姿が完全に猫じゃない。

狼に答えた犬か?こんなにたくさん…。

メンバーと闘って、はいないっぽい。なら何で集まっている?

 

20頭以上屯してんのに静かすぎる。

俺たちが背後に加わったことを察しているだろうに全部が身じろぎせず、それぞれの住処から急ぎ集まったにしては呼吸音も微か。不気味だ。

そして犬の口臭とは違う生臭さ…

 

「1匹だけか」

 

道路に座る猫の耳がピコピコと動く。

奴もこっちに背を向けているがあの尻尾は間違いない、さっきの猫星人だ。

猫タイプが他に居ないってことはレーダーの22匹(猫と狼抜かすと20匹)は手前のペット達? それにしては数が合わないし様子がおかしい。

行き違いになったとか? 

物陰に潜んでいるんだろうか?

後者の想像が当たってるとしたら理由は明白、星人を狩りに来た俺たちを待ち伏せて一網打尽にするため…

って罠じゃん。

レーダーへ視線を落とす前に猫星人がこっちへ振り返る。

ドッキン ドッキン ドッキン

無表情で向き直るターゲット。前脚の先がさっき見たよりも濃い色に変わっている。

やばい。脇の家屋も含めた現場全体を警戒したいのに集中できない。どうしても見えてる猛獣へ意識が向いちまう。

 

「…」「…」「…」…

 

歩いて来る猫星人に身構えたのか群れが動いた。

いや逃げろよ!この惨状が見えないのか?

お前らと同数かそれ以上があいつ1頭にやたれたって着いたばっかの俺でも連想したぞ。

狼が呼んだ別の群れだったものか、路は千切れた毛皮だらけ。

地面から生えたような格好で舌を出し虚空を見つめる頭部はイヌ科の動物。

星人かどうかは保留としても、なんてこった。誰かのペットが巻き添えに…

異様な雰囲気のなか葛藤する獲物を甚振るようにゆっくりと歩を進めるでか猫…

 

『ニ”ッ?!』カクッ

 

中央分離帯に溜まった犬塚に差し掛かった途端バランスを崩すターゲット。

左前脚が骸のひとつを踏み抜くように埋まり、見おろす猫目。

逆側の堆積物を散らし現れた大型犬…ダルメシアンの体当たりが広い背中にヒットした!

 

『ギァァァアアアァアァアアア!!』

 

肩の間あたりに重しを付けたまま苦痛の大声を上げる猫星人。

振り回されても離れないブチ柄。

柵や塀の小山からも犬が飛び出し猫の全身へ喰い付く。とくに腹部へ。

のたうちまわるターゲット。汚れる毛皮。噴き出す血潮。

そうか、骸に足をとられたんじゃなく偽装した犬による妨害…仲間の残骸に紛れ死体のフリを…

…。

賢すぎねーか?

 

ババンッ

 

爆ぜたのは猫星人の頭部。

力尽き右側面を下に倒れた途端爆発した。

残された身体の断面、食道と思しき穴が血よりも濃そうな液体を零し広がる。

数頭が群がる入口から出られなかったのか猫の洞から小型犬が這い出した。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

猫が負けるなンて意外だ。

攻撃が当たりだしてからは早かッたけど。

決め手になッたアノ攻撃、やッたヤツはいつ隠れたンだ?

猫が自慢の尾を振り回し力任せにすぎる解体ショーを催したあと生き残りとの攻防中、大型犬が死体をめくり(潜り?)下に隠れるトコを見逃すほど目を離した記憶は無い。

無傷の群れに対しても同じ。

破壊された犬が積み重なッた山は両側の歩道と4車線道路を跨り複数できていたが中心の闘いに気をとられていても視界に入る位置にあッた。

もしかして、同じ攻撃を食らッても千切れるヤツと千切れないヤツが居るッてのか?

猫を喰い殺した犬全部が円陣への薙ぎ払い時に無傷のまま吹き飛ばされ、出番まで死体のフリしていたッてのとどッちがありえそーな話だろう

 

タンッ

 

微妙に重要そーな思考を遮ッた音のほうを見ると毛玉が居た。知らないポメラニアンだ。

軽そーでフワッフワな小型犬にしか見えない。でもここは屋根の上。

…星人の1匹か。

 

「おっ」「なんだぁ?」

 

ポメラニアンと反対側の近藤たちも気付いた。

そうか、猫の次は俺たち。

ジッ、とこッちを見つめてから近付いて来る小型犬。周波数を変えていないメンバーが近くに居たンじゃ消えてても意味無いな、先に桜丘とぶつかるルートだ。

…。

俺の目がオカシ―のか?…ポメラニアンが膨張している。

 

モリ モリモリ ブチブチ…

 

ぅおぉ…、ドンドン円に近付いてンぞ、あのケダモノ。すでにバランスボールなみの大きさ。

内側からの圧力で伸びきる皮膚(?)はグロテスクな水風船…

 

ドボッ

ヒュルヒュルヒュル…

 

が消失した。

 

「なにあれ!こわいっ」

 

俺に抱きつく桜丘。

その「こわい」ものを蹴ッ飛ばしたのは誰なンだ?とは言わないほうが良いだろう。

 

「だ いじょうぶだから」

 

と繰り返し桜丘の背を撫でてみる。

見慣れた動物の変容に彼女はマジで怯えているのかちょッと苦しい。

スピンがかかッたらしく着地後弾まず路上に落ちたポメラニアンは左目の下が凹み眼球が家出。怖い物体をなるべく遠くへ飛ばすため堅そーな部分を蹴ッたようだ。

肩越しに見える犬風船はそろそろヤバい。

空いた左腕で狙いをつける。

 

ギョーン

 

あ、加藤。オマケがあるかも知ンねーから離れとけ。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

ドバンッ

 

(ギャンッ)(キャンキャン)(ギャアッ)バタバタバタ

 

誰が撃ったのか丸い生物(?)が盛大に破裂した。群れの前面が騒がしい。

ガンツ程に膨らんだ物体に嫌な予感がして顔を庇ったのでその時くっついたんだろう右腕から細かいものがパラパラと路上へ落ちた。胴にもついてる…パタパタ

白っぽい棘だ。骨?

メンバー達を見ると山田さんが額へ眼鏡を上げていた。また割れたらしい。

ミッション帰りの転送時、身に付けて戻れば壊れても復元される、とチビ星人の採点後に気付いて喜んでたっけ。

わっ

 

「ガルッ!」

 

咄嗟に避けた獣はバーニーズ。

慌てて群れを見ると30匹近い全部がこっちへ振り返っていた、身構えている。

歯を剥き出して威嚇顔。

いやいや俺たちは猫星人の仲間じゃねーって

 

「加藤!」

ギョーンッ

「気を付けろ!ソイツら星人だッ」

 

どこからともなく聞こえる声。

やっぱり計ちゃんからもそう見えるらしい。

 

「全部か?!」

「ああッ?!」

「ここに居る奴ら!!全部が星人なのか?!」

「たぶんッ!!」

 

たぶんじゃ困る!

群れの向こうのアスファルトが爆ぜ、乱れる隊列。

 

「レーダーの 印はそいつら よっ!」ボキッ

 

ダンッ

 

黒い人影が見える屋根から何か飛んできた。

そーいやさっきの爆発物もあそこから落下してたな。

路上にぶつかった獣がよろよろと起き上がる。マルチーズっぽい小型犬だ。

桜丘さんも「たぶん」と付け足したようだがアレについては俺も納得。

 

目から触角を生やす犬は犬じゃない。

のびてる伸びてる

 

(とうっ)(あっ バカ)

 

屋根から飛び降りた勢いで犬たちへ斬りつける黒い影は苫篠。

攻撃されたのは猫星人の周りでゴソゴソしていた奴ら。続いて近藤も着地。

 

「誰がバカだーっ!」

「はっ 当たってねーぞ!よく見ろ」

ギョーン ギョーン ギョーン

「ちっくしょー 猫やったの誰だよっ!」

「ははは」

ボンッ ボンッ バンッ

「あっ くっそ」

 

大振りを避けられ悪態を吐く苫篠。その背後をとったセントバーナードの背が破裂する。

直前に爆ぜた道路も計ちゃん達か?

隠れていてほしかったけど既に見つかっている現状、協力して一気に片付けるほうがお互いに安全だ。

援護のついてる近藤たちは問題無い。

 

俺はその場で捕獲銃を構え、JJと風は左右から前進。たぶん山田さんは亮太と後方へ。

競うように突き蹴りを繰り出す巨漢×2。短い悲鳴を上げ次々と宙を舞う犬星人たち。

俺は目の前のラブラド―ルへワイヤー発射。

 

「なんっ? 気ばつけろ加藤っ こいつら!」

 

風が続きを言う前に光るワイヤーが砕けて落ちた。

足元にアンカーの残る大型犬から生えた…あれは角?

いや刃物っぽい。顎の下辺りから計3本が放射状に飛び出ている。

後頭部からも生えてそうだ。なんだか痛そう

とか思ってる場合じゃねえ!

 

「みんな やつら刃を出すぞ!注意しろっ」

「ぎゃっ」

 

後方からの悲鳴。山田さんっ?!

振り向くと脇腹を抑え蹲っていた。横でおろおろする亮太。

アンカーを撃ち周りの犬を牽制しながら近寄ると彼はこっちを見上げた。意識はあるのか。

スーツは生きてるようだが血の匂いがする。寝間着を使うか…とりあえず強く押さえて、ああ、わかってますよね…

 

突っ掛かって来る犬星人を避け地を蹴る。

ひとまず離脱だ。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

負傷したらしい山田が加藤に手を貸されジャンプ。

俺たちの居る屋根のふたつ横に落ち着いた。加藤は路上の攻防へすぐ復帰し、亮太は怪我人に付き添ッているのだろう、上がッたまま。

犬星人が登ッて来なくなッたのでレーダーを確認。

南東の2匹は健在。

ココに居ない和泉が交戦中か?……何か忘れているような

現在地のターゲットはどれだけ減ッたか

アレ?

もう一度数え直す。やッぱり20匹居る…2匹しか減ッてねェ!

 

「おい こいつ!なぁ」

「ああっ!」

「…さっき斬った奴だ!!」

 

対峙する5匹から後ずさる苫篠。顔面の汚れた犬どもの後ろにはデカ猫の死骸。

アイツが刀を向けている犬星人は一見フツ―…いやよく見ると首の下から左前脚にかけて毛皮が無い、ッていうか赤剥け?

両前脚と頭に毛が無いヤツも居る。汚れかと思ッていたが…

 

「うわああぁぁあ!」ザシッ

 

ブッシュゥゥゥウウウ!

 

血しぶきを上げ倒れる赤剥けプードル。

飛びかかられ驚いたからかカウンター気味の逆袈裟。左腰から右肩へ抜けた斬撃でパックリと割れた腹から臓器が盛り上がる。

ちょッと暴れたあと仰向けで停止した。

フツ―の飼い犬とは違う目付きが不気味だッたけど、ああなると不憫だ。

何だよ苫篠、見間違いじゃん。星人だからッて斬り殺した生物は生き返らない…

はずの頭部が動く。

え?

そンな…ははは…マジか…

はみ出ていた大腸が住処へ戻ッていく。そーゆー虫みたいに。

瞼を擦ッている間に傷口は閉じ、蛇が這ッたよーな痕と血溜まりが残ッた。

 

(なんなんだよ…こいつらぁ…)

「ふんっ!」ダンッ

ガシッ

ガッ

 

おそらく2度、いや3度目の蘇生をした犬を凝視し棒立ちの苫篠。

近藤は襲いくる4匹を斬り飛ばす。頭部を落としたターゲットへ駆け寄り更に解体。

4分割したトコで邪魔され新手へ向き直る。犬の咬みつき、じゃなくて体当たりぎみの刺突を避けながら首級を蹴り飛ばす。電柱の高さを越えて北の空へと消えたソレは、エリア外へ出たのかも。

 

フィクションのゾンビは頭部をどーにかすりゃ倒せるッてのがセオリーだが、どーかな?

ゾンビは再生しねぇし。

残る3パーツのうち一番小さいひとつ…腰肉(?)パーツが不穏な動き。

3つの断面が交互に浮き上がるみたく揺れ体表が波打ッている。内蔵する何かが暴れているかのようだ。泡立つように膨らンだ各断面からズバッと触手(?)が生え瞬く間に犬の骨格を成形。次に血管で輪郭を覆い筋肉・内臓の順かな?途中、他の2パーツとぶつかッたが結合しようとも取り込もうともしなかッた。一度離れたらゴミ扱いか。煙や蒸気で覆われるコトなくクリア―な視界で観察できた。

…超グロい!

 

奮闘する近藤とシバイヌの間をアンカーが横切る。

再生したての犬星人(犬種不明)に巻き付く光帯。

 

「倒せない奴がいたら言え 俺が送る!」

 

上空から伸びるレーザーで消えていくターゲットを見ずキョロキョロする加藤。

横手からの突撃を避けXガンで牽制。

 

「そいつら全部そうか?!」

「おうっ その手があったな!やってくれ」

「1匹づつやるから!その…」

「邪魔しねーよ―にすりゃいいのか?!」

(もっと細かく斬りゃ再生しねーんじゃ…)

(銃使おーぜ)




数え方:一般犬猫……頭
    ターゲット…匹
疑わしきは星人(標的)。


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いぬ編④

前回のあらすじ:
玄野「狼星人に呼ばれた家犬星人は再生する」
※犬グロ化注意※



ヤッつけ方の判明後は早かッた。

…と言いたいがそーでもない。

Yガンによる転送と地道な解体を並行したのに大分時間をくッた。

無傷のヤツや再生して暫く経ッたターゲットは刃(?)を生やしてワイヤーを斬ッちまうから拘束する前にブッ叩く必要があッたし。

再生と刃生成を同時にできなくて助かッた。そンなヤツ西が持ッてる100点武器じゃなきゃ倒せないッての。

Yガンがもッとあッたら早く終わッただろーに加藤しか持ッて来なかッた(佐藤と西は装備してる筈だがここに居ない)からなァ。1つしか無いYガンで1匹づつ送るのを全員で待ッてる(JJと風は加藤のアシスト…寧ろ逆かも?)のは時間の無駄ッてコトで近藤たちを誘い実験した。地道な解体だ。致命傷を受け再生したターゲット…ハゲた犬星人を流れ作業で微塵切り。

ホントは「4つ以上に分割し様子を見る」を繰り返し、再生する起点だけ細かく出来たら無駄がなかッたンだけどそンな余裕は無かッた。

再生スピード早いし、星人の戦意落ちないしで悠長に観察する暇は…俺にしかないッてゆう(笑)

桜丘に止められちッたので俺だけ屋根から見物(犬の攻撃目標が分散するから援護射撃も駄目だッて)。犬の(体表に生える錐みたいな)刃はスーツを貫通するから接近戦のリスク的にはスーツ組と同じ筈だがガンツソードが重くて……スーツ着て無きゃ満足に振るえないッポイ。

手間が掛かッたワリに「細かくすれば再生しない(遅くなるだけかも?)」コトしか分からなかッた。イヤな暇潰しだ。

 

レーダーの反応が0になッても襲いかかッてくる犬(?)は何だッたのか。

ガンツが探知できない星人が居る?ソレッてターゲットなのか?ちょッと気になッたけど保留。未だミッション中だ、油断禁物。

加藤たちは南東のポイントへ向かッた。

近藤の運転で加藤が先行し残りは駆け足。もう一台は誰が使ッてンだろ?

腹を刺された筈の山田もついて行ッた。「よく見たら大したこと無かった」ッて他人騒がせな。

俺と桜丘ついでに亮太はココで“ひき肉”づくり。

一度「再生しない」と判断した肉片を大きい順で細かくしている。得物はXガン。

…殆ど射撃練習だな。

子供にやらせるのはアレかも。

アイツなら嬉々としてやるはずだけど、居ないモンは仕方ない。

 

残り時間は10分弱だ。

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

加藤らと別れ暫く。

寝静まる住宅街が終わり、なだらかな丘を覆う芝生の向こうに見えるのは林。公園か。

俺の予想が確かなら此処にボスが居る筈だ、ハイリスク・ハイリターンなターゲットが。

上等なスリルの予感に速まる鼓動。

 

往来と敷地の境に柵は無く芝生にしかれた小路を辿り林に侵入。

高く伸びた木々の間を行くと公園に相応しからぬ音が響いてきた。

騒々しい駆動音…

原動機付きの車輪が草根を削る音。そして一度体験したら忘れようも無い音と振動。

土木工事の重機がたてるものにも似ているが先月に某日某所で聞いたものが最も近い。

圧倒的に巨大な生物が地を踏み拉く音だ。

さっきの猫なんかより危険な存在がこの先に…

それはどのような外見でどんな凶暴性を秘めている?

思わず小走りで林を抜けると、そこには期待通りの光景があった。

 

ギュルルルルルル…

ズシン… ズシン… ズシン…

 

芝生を荒らしながら蛇行するモノホイール・バイクを追い回す怪物。

その大きさは家屋を悠々と跨ぎ或いは片足で踏み潰せそうな程で、体型と動きは猫よりも犬に近い。大股(と言ってもウィペットのようなスタイルの奴にとっては普通の歩幅)で追いながらバイクの背後へ前脚を振り降ろす。その度にグラグラ揺れ減速する車体の追撃はしない。

…遊んでいる。

ラジコンカーにじゃれる犬だな、あれは。

いつからやっているのか、広場に大きな傷みが少ないことから始めたばかりだろうか。

 

カサッ

 

カサッ カサカサッ

 

来た。

巨大なターゲットが逃げるだけの獲物に、俺が待たされることに飽きるまでもなく、

もう一体の星人が。

 

 

 

=========

 

 

 

異色なミッションだなぁ今回は。

エリアの東…山側の中腹にある小さめの灯台?(螺旋階段の上に直径4m程度の物見台がついた塔。ギリギリエリア内にあった都合のよい物件)の屋上に座って思う。

 

指令が当てにならないのはいつも通りだとして、

マップに映らなかったり。

ターゲットが増えたり。

一般犬を操ったり。

モブなのに再生(?)したり。

 

コントローラーを頼りに出来ないなら名前と外見くらい判るように表示してよガンツ(笑)それが仕事でしょ?

猫を囲んだ群れをAグループとして来た道を塞いだBグループが現れてもターゲットの反応が22匹より増えなかったことからBグループは優勢に見せて獲物を威圧する為の水増し要員…戦力外な一般犬だと思ってたのに、クリ―チャ―が混ざってたこともあれだがそのスペックには驚いた。

拉げても首が離れても宝具無しで再生する、しかも(役割的に見て)モブターゲットが。

インフレしすぎじゃね?

今のところレーザー撃ってこないから「今までのボスレベル」とまでは言わないが。

 

スタート地点の様子を再度眺めたあとXショットガンから目を離し四方を目視。

うん異常無し。

見える位置に犬猫は居ない、はず。

大猫はマップに映らないのだろう、ハスキーが猫から逃げたとき十字路の反応が消えていた。

コントローラーまじ当てになんねーっ。あんなのに不意討ちされるとかムリ、恐い。

犬タイプは…よく分かんないな~。

マップで確認できるのとできないのが混在している、が正解に近い?

確認できる犬は星人、できない犬は一般犬だとして全部が見える位置で停止或いは整列しているならまだしも動き回ってる状態を見分けるのは難しい。ってことで先ずは操っている主として最も有力かつ唯一見た目だけで判別できるターゲットの排除だ。さよならハスキー。

数百m離れた地点から狙う私の害意を察知し隠れたわけではないだろうけど、ちょっと目を離した隙に見失っちゃった。でも無問題。(十字路で2匹が見合っていた時にやっておいた)ロックオン機能を活用した。

期待していた効果…一般犬がバタバタと倒れ偽犬を焙り出せた、ということはなく犬たちの行動が一瞬止まったかな?くらいの地味なリアクションのみ。からのメンバー達へ敵対。

他へ移動するターゲット反応が無いままスタート地点最寄りの闘いは終わった。

逃げた形跡無しで反応が消えたんだからハスキー狩り成功、のはず。

頭部しか破壊してない(はずだ)けど再生しなかったのだろう。ちょうど頭部が再生の起点だったとか?

失敗だとしたら“いぬ□■星人”か一般犬かなんて気にしている場合じゃない。

ターゲットに対しては言うに及ばず鉄砲玉の如く襲ってくる生物は倒すしかないんだし。

後悔は生者の特権。

そんなことより心配すべきは控え戦力の有無だ。

ハスキーの遠吠えをトリガ―に増えたターゲット、それに後続が残されているか。

犬星人に加わる群れは2グループで終わりなのか?「エリア内から集めた分が無くなったから補充しよう」となったら困る。エリア外からも際限無く動員されたら余裕でタイムオーバーになっちゃう。

 

増援を呼ぶ能力はハスキー固有のものなのか?

南東の2体は外見からして疑わしい。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

遠ざかっていく風景が歪む。

メンバー達の攻撃であっさり動かなくなった犬たちは操られただけの部外者だったのかもしれない。もう確かめようが無いし配慮する余裕は無かったが…

苦しい。

日が昇ればたくさんの人たちがペットロスに気付くのだろう。

 

ルルルル… キッ

 

「ここだよな…奥か、って何だぁ?」

「あ…」ゴシゴシ

「星人?」キョロキョロ

「や、なんでもない。…急ごう」

「? ああ」

 

 

… …

 

 

林の入口へ着く前に異常を発見。

林の向こうにも公園が広がっているのか木々の黒い輪郭の上、うっすらと明るい夜空を背景に羽ばたき騒がしく啼くシルエットが見える。林に棲む鳥たちか。

真下の大木が傾き視界から消える。

 

パキパキパキパキ メキメキメキメキ ズシン…

 

薄暗い林の中はちょっと入ると拓けていた。

いや、奴らが拓いたのか。傾き隣の木々にひっかかったり切株や通路上に転がる幾本もの大木とその向こうに広場が見える。障害物が目立つなか唯一凹凸の少ない場所で刀を構える長髪男。

和泉だ。

犬星人は?

 

「上だ!」

 

闇夜を切り取ったような獣が一直線に落下。高い風切り音が無ければ見逃したかも。

狙いは和泉。

奴は慌てずバックステップ。屈んで一閃。

どうやったのか獣こと黒狼の身体が宙に停止し、斜め上方向へ振り抜いた刃は残念ながら外れた。

よく見ると黒狼の胴から同色の帯が3方向へのびている。真上・後方斜め上・正面。

黒狼の咽喉元からのびた帯は和泉の頭上を抜け、木に連結。

 

ビシュシュッ

 

和泉の切り上げに追われ上昇する黒狼。前後の帯を回収したため出遅れたのか血の華が咲く。

 

「やったか?!」

 

叫んだ近藤を睨んでからバク宙する和泉。着地した狼がジャンプしながら帯を降らす。

血は降らない。

骨まで達しなかった斬撃だとしても止血が早い?あいつも再生を…

和泉は長い切株の裏へ飛び込んだまま出て来ない。

 

「奴一匹だけか?」

「みたいだな…」

 

表情は分からないがこっちを見ているのだろう停止した黒狼から視線を外さず近藤へ答える。

よかった。さっきのような群れは居ないらしい。

いちおう警戒していたのに道中の足止めが無かったので此処に集結してることを疑っていた。

再び犬を傷付けなくて済むのは嬉しいが複雑。

此処は奴らの巣じゃないのか?

 

「来るぞ!」

 

!!

瞬く間に表情が見えるほど接近する黒狼。

切り刻み転送した犬たちより感情のみえる瞳。獰猛な笑顔…

 

バンッ

 

…の上半分が爆散。

 

「くそっ!」

 

声と共に黒狼の背から血が噴出。

宙で分割された獣の上半身が顔面で着地。

3回転して充分に体液を振り撒くと仰向けで停止した。下半身の断面ともに泡立ってない。

今、悪態を吐いた奴だろうか?透明化した何者かが荒い足取りで遠ざかっていく。

たぶん和泉だ。

 

「送っとくか」

「…そうだな」

 

念の為ターゲットの死骸を転送し俺たちも広場へ向かった。

 

 

 

=========

 

 

 

命中。

ってロックオンしたんだから当然だけど~。

頭骨の目元から上を失った骨格は、さらに2等分され転がったまま動かない。

増えない。

伸びない。

くっつかない。

ハスキー・タイプは再生しない?頭が弱点で固定なのか?確認できないままスライスされ消えた。

 

…どっちにしても最後のターゲット(?)には当て嵌らないか。

 

生物ですら無さそーだもんな~あれ。

うん、中身もスキャンできない物質でミッチミチだ。

あ、すぐに透視できないって意味ね?Xガン類のスキャン機能で。

モニターを動かさなきゃやがて背景に消えます。

そこまでやると意味が無いけどな。

 

胃に異物が詰まってるのではなく骨と内臓が無い。

白いシルエットをざっと観察した予測では、冷蔵庫や洗濯機などの家電・自転車・軽トラ・スクーター・長方形の板(たぶんドア)・傘・大きいものはショベルカー(?)で構成されている。

ショベルカーはバケットとクローラーしか判別できなかった。

所謂寄せ集めっていうか鉄クズがくっつき合って一体の獣を形作っている、ト□ンスフォーマーみたいな? 登場するフィクションを間違えている、ってゆーかフライングじゃね?

出るなら最終章でしょ、お前なんか知らんけど。

 

大きさ的には怪獣。20mには及ばなそう。

って見てるうちにモノホイールが食われた。白い輪っかは流れるように胴を移動し背中に到着。

おぉガンツバイクよ取り込まれるとは何事だ。

 

体内(?)の密度は濃いがカッチリ組み合っているわけじゃないらしい。配置は流動的。

ということは怪獣のどこかに犬星人の操縦室があると仮定して、場所が固定されていない可能性が高い。いやそれならまだマシか。中に居ると潰されそーだからって公園のどっかに潜み、こっそり遠隔操作もありうる。エリア内に居るのは確実…であってほしい。

 

機械生命だったら急所は動力か? どこだよ?エンジン。

あ~も~ちまちま透視するより潰したほうが早いっ。

Zガンを持て~、センパイはいずこ~?

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「うぉっ …ボスか?」

 

呟く近藤の横で最後のターゲットを見上げる。

林から出た芝生広場で巨大建造物、じゃなく生物か。…生物?

…、

まぁそれは置いとこう、和泉と超でかいターゲットが交戦(?)中。

…。

お前は…

何であれに正面対決?!

 

ガンッ ガンッ ガンッ ガッ ガンッ ガンッ ガンッガンッ ガンッ ギンッ ガンッ

 

強化した全身で踏ん張り長い棒で怪物の正面を滅多打ち。

あ、ソードかアレ。あんなに伸びるんだ…すっげー丈夫。折れず曲がらず刃毀れせず、って?

 

ターゲットはされるがまま。和泉を見おろし微動だにしない。いやゴツゴツした表面がなにやら蠢いている…

捕獲銃を構え観察していると怪物から小さいものが転がり落ちた、と言っても人間サイズ。

巨大ターゲットの陰で四つん這いから起き上がり、こっちへ駆けてくる

 

ゴッ

 

外灯に照らされる直前、真横へ吹っ飛ぶ影。撥ね飛ばした奴はフサッとした獣…

ってドンドン来た。

先頭の獣は怪物の真下を駆け抜け、次の獣は右、その次は左へと回り込んでいく。

他にも居たのか…

乱入者はでか猫、計6体。

 

ブォン

 

巨大ターゲットの腹が波打ち、上方向へ伸びた一部が腰のうえ辺りで塒を巻き拡散。

和泉と6体へ降り注ぐ…

げっ こっちにもきた。バレてたのか俺たち。飛んでくる細かいものを伏せて 避ける!

 

ドドドドドドド…

 

結構大きな音に振り返ると数cm後方の芝生が広範囲で消えていた。

これはヤバイ。

外灯を受け白く光る土煙が盛大に舞うなか巨大ターゲットに躍りかかる猫。

群れに殺られた猫より大きい、6体の中で一際でかい奴だ。トラ柄の跳躍。

 

バキャッ

 

浮いた状態で加速し飛び道具(?)を避けつつ背を大きく削り取る。

 

ゴッ ドドドド…

 

着地後止まらず移動したトラ猫の数瞬後、落ちた肉片(?)を散弾が撃ち抜いた。

蜂の巣になる…ブラウン管テレビ? 粗大ゴミくっつけてんのかあのターゲット。

トラ猫を鼻先で追う巨体が傾き砲塔の動きが止まる。

左前脚の膝部分、皿の欠けが原因か。ユラユラする巨大いぬ星人。左後ろ脚の踵も削られ転倒。

 

ドォンッッ

 

さっきよりも盛大な土煙で7体はスッポリと隠れた。




(ガンツバイクに乗り)巨大いぬ□■星人に追いかけ回され取り込まれ損なったのは岡崎。
デカ猫が6体も乱入したため和泉は焦っている。


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いぬ編⑤

前回のあらすじ:
巨大いぬ□■星人VSデカ猫たちを観戦する近藤と加藤。



スモークが晴れるとさっきと同じ位置に大分小柄になったターゲットが居た。

四肢を失い顎(?)を地につける姿は益々建物っぽい。

その周囲をちょこまかと走り回る6体。もう数分は駆け続けているのに衰えないスピード。

細身な白い影が鼻先を刈る。

 

コォオンッ

 

高い音をたてバウンドしたのはドラム缶。

 

コンッ カァンッ カン コロコロコロ…

ゴゴゴゴゴゴ…ズシンッ

 

芝生を転がる缶が止まる前に巨大ターゲットが崩れた。

表面の質感(?)が変わり剥がれ落ちる、と言うよりまとまりを失くす粗大ゴミ。

もう不法投棄の山にしか見えない。

 

「…は?」

「死…んだ?」

「わっ」

 

キュゥィィィィイイイイ… 

 

「わ”あっ!」

 

胃が浮き上がるような感覚と立ち眩みを感じたと思ったら俺の脚は地面から離れていた。

いつもより重く感じる頭部に戸惑いながら隣を見ると逆さになった近藤は耳を抑えている。

地面が 遠い

 

『ギョブッ!』

 

わりと近くに白い毛皮。

腹と脚が急激に細くなった獣が浮いている。

例えるなら紐の付いた砂時計。ああなる前の姿を見てなきゃ何の動物か判らなかっただろう。

ゴミ山の向こう側はわからないが他の猫星人たちも空中で停止…いや脚は動かせるようだ。

泳ぐ象の様な動作を繰り返している。

 

新手の仕業か?

視えない犬星人?

さっきの黒狼と同じ能力の奴か?

不可視の帯が俺たちを釣り上げ自由を奪っているのだとしたらシロ猫の周囲がおかしい。吐瀉物が衛星のように纏わりついている…

そうだ!

 

ドンッ

 

窪む地面。

クレーターの中心にはドラム缶。外灯に照らされたその表面と舞う芝が揺らめき…全く落ちない。

あれって…

 

バチッバチッバチッ バチッバチッ バチッバチッバチッ

 

スパーク音と共に出現するメンバー。

姿を消して斬り付けたそいつは缶にソードを振り下ろした体勢。靡く長髪。

切っ先は地面よりかなり上で停止。寸前で止められたのだろうそのブレードがじりじりと缶から離れてゆく。

 

ドンッ

 

俺の視力が正常なら和泉はソードの先を額に受け後方へ飛んでった。

ブレードが一気に屈したのだ。針金を曲げるようにグニャッと。

 

「うおぉぉおああああ!!」ギョーンギョーンギョーンッ

 

逆さ状態で射撃する近藤。狙いはドラム缶。

 

「?!

 おいっ ちょっ待てって… あ、あああぁぁあ!!」

 

不意に両腕を万歳しXガンを取り落とすと俺の横でグルングルンと側転しだした。

うわぁ~…

咄嗟に伸ばした左腕、に付けていたレーダーが破損。へこむモニターと変な音。

故障しちまった?!

衝撃でバランスを崩したまま顔面へかかる圧力が増してゆく。

なんとか持っていたYガンも手から離れる。

スゴイ速さで上下が入れ替わる景色。

ゴォゴォとうるさい音に聞き慣れたモノが数回混じった途端それらは止み…

 

暗転

 

 

 

=========

 

 

 

「だぁかぁらぁ、まだ残ってたんだってぇ~」

「はァー?」

「信じ難いけど事実なんだよ。あのあと移動中にまた襲われちゃって」

「マップに映らない星人?」

「そうかも」

「見てなかッたのかよ~」

「そっちもだろ」

「む~」「…」

「まぁまぁ。べつにいいでしょ終わったんだし」

 

睨み合う玄野と苫篠の間に入り笑う山田。チラリと黒球を見る。

確かに、まだ1分ちょっと残ってるね。

ここは黒球部屋。

最後は焦ったが無事にミッションをクリアしたらしい。

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

「う?」

「あ、リーダー」

「加藤!」

 

寝転がったまま周囲を見ていた加藤がガバッと身を起こす。

視線の先は近藤。安堵したように息を吐いた。

 

 

… … 

 

 

“犬……1てん よ<できまJた(笑) TotaL1てん あと99てんでおわり”

 

「…」「…」「…」

いつも通りにガックリしてガンツの前から退く犬。周囲は微妙なクウキ。

サダコ・北条・岡崎・小学生は0点だった。北条たちはマジメにクリ―チャ―を避けたらしい。

 

「3点か~。あっ」

「5点ッてコトは1匹1点…」「ああ、また…」

「アレ?」「え?」

「1点じゃないのか犬星人。さッきの犬の点数は別の星人か?何種類出たンだ今回」

「俺らは犬と猫しか見てねぇなぁ」

「クロノくんが撃ったアレは特殊だったとか」

「そーいや膨らンでたな」

「コンタは16点か~俺何点だろ」

「?さっき出てたぞ」

「え?いつ?」

「俺の前…」

「え~?見逃した~!」

「何やってんだよ…」

「いや消えるのが早いんだよ今回」

「そーだな、なンでだろ?」

「さぁ…忙しーんじゃね?」

「ガンツが?」

「…」「俺の点数~…」

「11点。累計16点だからあと84点よ苫篠くん」

「サンキューねーちゃん ってスゲーなおいっ半分以上稼いでんじゃん おっさん!」

 

どっちの「おっさん」だ。

数人が黒球前に立っているため全然見えない。採点済んだなら退きなさいよ(笑)。

犬風船の配点はちょっと気になる。

 

「あっ あ?!」「西 西!」

「お前ら邪魔なんだけど。ガンツ2番な」

 

センパイのために玄野たちが場所を空けると100点メニューが見えた。

画面が変わる。

 

“動物好き……1l2てんTotaL112てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”

 

まつ毛中分けロン毛も満点か。

私が玄野たちを覗いてる間にたくさんヤッつけてたの?

和泉がドラム缶に入ってた奴を撃ったのは見た。

加藤たちが宙でクルクルしだした&時間が押してたので、スキャンできない(真っ白or全透過だったからコンクリでも詰まってんのかと思ってた)ドラム缶を狙撃したら穴から素麺っぽいものが大量に噴き出しそれを和泉が駆除した。Xガンで。

…このタイミングで出ないよね?100点ターゲット。

 

後は加藤と私か、あれ?100点2人の後ってことは……

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

“佐藤(?)……12∞てんTotaL128てん l0❍てんめにゅ~か5選んでください”

 

計ちゃん達が空けた隙間へ佐藤さんが歩み寄る前にガンツの表面は再び特典画面へ変わった。

 

「いいなぁ佐藤さん終わりだって」

「まぁ順当だよな」

「おつかれさま」「…」

「どうするんだ?」

 

笑顔で労う桜丘さんの隣で計ちゃんは無言。選択を急かす和泉。

お前は黙っとけ。

特典1番の文言は“記憶を消されて解放される”だ。

爆弾から解放されても秘密を洩らさないようミッションに関する全ての記憶を削除されるんだろう、ここ数カ月の記憶を。

俺たち全員の思い出も忘れるってことだ。

…未だ先の話だと思っていたのに

もう会えない。

 

「…大盤振る舞い?」

「…」「…」「…」

「どれにするンだッて訊いてンだよッ 武器か解放か!

 最後までボケてンじゃねーッつの」

 

佐藤さんの呟きに凍るクウキを大声が戻す。計ちゃん!

 

「じゃあ3番で」

 

ジキジキジキジキジキ… 

彼女が宣言するとガンツ表面にたくさんの証明写真が表示された。横18列に縦11列の並び。初めて見る画面だ。

これは…もしや…

 

「え~っと、この人を再生して下さい」

 

ジジジ ジジジジジ

 

スーツを着たおばあさんが再生された。

 

 

 

=========

 

 

 

ハスキー・タイプは準ボスだったのか、2体しかやっつけてないのに60点も貰えるとはね~。

一体30点としたら偽千手より10点も多いじゃーん、ホント基準が判らんわ。

…お蔭でちょっと混乱しちゃってるよ皆さん。

 

「お”ば~ぢゃ~ん”!!」

「亮太、どうしたの?どこか痛いの?」

「何で武器を選ばない?すぐ死ぬぞあんな奴」

「?!」「和泉っ!」(マジかよ…)(誰だぁ?あのばーさん)

「死なないもん ばかーっ!!」(あー…寺んときに居たろ。エイリアンみたいのが出て)

(…)「っ ばかばかばかーっ!!」(うっうっうっ)(!ああ、あんときの)

「亮太? 亮太?」(さ…桜丘?)(どーしたんだ?あの女)

「どういうつもりだ?これから必要なのは武器だろ。足手纏いじゃない」

(???)(ちょっと何したの?クロノくん)「えッ俺?!」

「あ、えっとですね再生されたんです、あなたは」

「…はぁ?」

 

恐いロン毛に掴みかかれず大泣きする小学生。訝しげな老婦人。桜丘も泣いてる、貰い泣き?

 

「お前も100点ば越えとーぞ、加藤」

「え… あ、俺?」

「残りはお前やろ」

 

風の指摘でガンツへ注目するメンバー達。老婦人を指していたロン毛も問いをやめ視線を向ける。祖母の腹に顔を擦りつける孫と、顔を両掌で覆い座り込む桜丘は興味が無い様子。

本日4回目の100点メニュー。

 

「やッたな加藤」

「…うん」

「1番だろ?」

「…」

「言ッてたじゃん、弟ひとりにしたくないッて。…迷ッてンのか?」

「いや…」

 

玄野の問いにパクパクと口を動かすのみで答えない加藤。何だそのジェスチャー。

 

「大丈夫だッて。オマエが居なくても俺たちはなンとかなるよ。

 心配しなくても新メンバーに説明する役なら俺が引き継いでもいいし」

「じゃあ次のリーダーはクロノくんだね」

「ソレはヤダ」

「なんで?!」

「とにかく3番は無しな。キリがねーよ、死ンだメンバーをいちいち再生するなンて」

「…」

「! おいっ」

 

黒球を指す北条。見ると3択目の下に追加文が。

 

“はやく決めてくだちい 00:00:58”

 

「これって…」「はぁっ?!」

「あと1分もねーぞっ」「えっえっどーなるの?決めないと」「やっぱ忙しーのかぁ?」

「リーダー…」「急かしてんじゃねーよガンツ!待ちたくね―なら最初から1択にしとけ」

「加藤、オマエは充分やッたよ。1番を選べ」

 

「俺は…」

 

100点メニューの3番を選ぶ(あるいはガンツに頼む)と表示される“MEMORY”の証明写真たちはミッション中に退場したメンバーだ。知らない相手でも再生すれば感謝されるだろう、そのメンバーが復帰を望んでいれば。

あぁ滅多に無いと思うが、すでに再生されていて解放を選んでいるとしたら大迷惑だな。円満に再生したいなら見たことあるメンバー、ねぎ星人狩りから加入した人間のどれかを選ぶべきだね。僧侶の右隣の男性とかどうかな?

2番はお勧めだ。

これから(たぶん)ターゲット増えていくからZガンはお役立ちだよ。

フルコンプ狙うのもいいね、加藤なら3つ目の100点武器を使い熟せるかも。

…なんてな。

本命は1番でしょ?

マンガで初めて100点とったとき尊敬する幼馴染の再生と自分の自由を天秤にかけ、かなり悩んでたし、それほど魅力的な特典なんだよね?

だが選んだ場合、不利益をいくつか予想できる。

弟や友人に健忘症を疑われるならまだマシだ。仕事や学校での経験を忘れテスト赤点でバイトする時間が減ったり禁止になり解雇されたら親戚宅へ逆戻り。ガンツに関わる記憶以外は残るとしても、どこまでが関係無い記憶と判断されるか分からない。ガンツとそれに関連する出来事を催眠術や暗示で忘れたつもりになるのなら消される記憶は本人が選んだものになるからマンガの玄野のようにガンツの記憶のみがキレイに消えるとは限らない(自身の曖昧な記憶について玄野が無頓着なだけかも知れないけど)。

ガンツ装備無しで人助けもリスク高い。

奇跡が起きて最終章まで生き残ったとしても他人庇って退場する姿しか想像できない。

あっ、玄野より先に解放されることは気にしなくていいと思うよ?多分あいつ忘れてる。

 

悩みが解決したのかまっすぐな目をする加藤。

視線の先は小島。

?…ガンツは後ろですが。

異様に緊張したクウキのなか彼は運命(笑)の言葉を発した。

 

「2番」

 

…大穴だ~…




残りターゲット2体(黒狼とジャンクボス)の居る森林公園へ向かっていた山田たちは手前で再び犬の群れに襲われ、再生するターゲットは出なかったので和泉がボスにとどめを刺した少し後に全滅させた。

宙に浮かべられた加藤と近藤は激しく地面へ落とされたショックで気絶。
その際ガンツスーツは故障していなかったので(黒球部屋へ戻る前も)無傷。

ガンツメンバー撤収後、でか猫の生き残りは普通サイズに擬態→帰宅。

いぬがみ星人ミッション採点詳細:
“犬……1てん以下略”
(ジャンクボス由来の線虫もどき1体)
“メガネ……3てんTotaL6てん あと94てんでおわり”
(線虫に感染したばかりのペット=寄生ペット3体)
“あねご……5てんTotaL29てん あと71てんでおわり”
(寄生ペット5体)
“くろの……8てんTotaL25てん あと75てんでおわり”
(犬風船=犬星人1体)
“とましの……11てんTotaL16てん あと84てんでおわり”
(寄生ペット11体)
“コンタ……16てんTotaL23てん あと77てんでおわり”
(寄生ペット8体+犬星人1体)
“バンカラ……49てんTotaL49てん あと51てんでおわり”
(寄生ペット33体+犬星人2体)
“空手家……54てんTotaL62てん あと38てんでおわり”
(寄生ペット30体+犬星人3体)
“西くん……11❍てんTotaLl10てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”
(寄生ペット34体(?)。34点取得)
“動物好き……1l2てん以下略”
(ジャンクボス1体。100点取得)
“佐藤(?)……12∞てん以下略”
(狼1体+黒狼1体。60点取得)
“かとうちゃ(笑)……l10てん以下略”
(寄生ペット2体+犬星人14体。100点取得、14点切り捨て)


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ゆびわ編①

前編のあらすじ:
(捏造)いぬ星人ミッションクリア。
西くん・和泉・オリ主・加藤100点超え。
加藤は特典武器を選んだ。




4月10日。

派手な衝立と花輪の前でおじさんと女の子が会話している。

 

『本日のゲストはレイカちゃんでーす』

『『『カワイ―!』』』

 

おじさんが女の子を紹介し客席から声が掛かる。

ゲストの微妙な造作を表わすには足りない賛辞だ、そういう指示なのだろう。

 

『最近、恋愛とかしてるぅ?』

『仕事がすごく忙しいし学校も試験とかあるし』

 

台本通りなのか司会からのキモい質問に淀みなく答えるゲスト。

涼やかで聞き取り易い声だ。長い髪に露出度高めな服装の女の子は無い無いと手を振る。

 

『そっかぁーでもさぁ。好きな人くらいいるでしょ』

『そりゃあ気になる人とかは、いますけど~』

『『『えええ~!!』』』

『芸能界の人?』

『…えへっ、はずれでーす』

『わかった、高校の同級生だ』

『はい。もうすぐs

『『『え”え”え”~!!!』』』

『…』『…』

 

耳元を両掌で押さえる司会とゲスト。

 

『…えっと、今なんて?』

『数日後にそのコのバースデーなので贈るもののご意見を。

 何がいいと思います?プレゼント』

『う~ん、オッサンに訊かれてもなぁ。レイカちゃんから貰えるなら何でも嬉しいよ』キラッ

『『『ブ~~~』』』

『えぇ、ブーイング?!台本と違うよ~』

『『『ワハハハハハ』』』

『ホントに何でも喜ぶと思うよ? うらやましい奴だなー…』

『じゃあ2択。コスメとスイ―ツならどっち?』

『…気になる人って女友達?』

『そーです。好みが気になる人』

 

カメラに向かい微笑むゲスト。きらめく後光は幻か。

 

予定外だったのか彼女の笑顔に破壊力がありすぎたのか騒然となったスタジオ風景と驚いた美貌が数秒流れてからCMに変わった。

 

レイカ人気ありすぎ~。

 

 

 

… … …

 

 

 

翌11日、登校風景。

 

「昨日見た?レイカ、テレビでさぁ」

「ああ、放送事故」

「レイカってアイドルの誰かと付き合ってなかったっけ写真誌で見たことある」

「ああ別れたらしいぜー。それよりひとりで新宿行ってるってマジ?」

「先月の話じゃん」

 

近くを歩くカップルとその連れの会話。

 

「あれはわざとだね」

 

横の美少女が呟く。彼女のボブカットは今朝も美しい。

わざとって何が?

 

「レイカのあれは話題を変える為の行動よ、間違いない」

 

あぁ、司会しつけーっとは思った。

 

「それよ!だいたい現役アイドルに向かってする質問じゃないでしょ。

 違うとしか答えようがないって。相手が一般人なら大迷惑だし」

 

例えばそういう商売でもない未成年が肖像権を侵害されたり?

それが原因で顔も知らない他人に恨まれるとか?

 

「間が開いたし居るかも。行ってみねぇ?」

「さすがに今日は居ねーだろ、土日の昼間とかじゃねーと」

「あたしパス~、居たとしても人だかりしか見えないって。

 マスコミが見つける前にファンに囲まれてたんでしょ?前回は」

 

こっちでは起きないであろう騒動(?)を想っていると分岐後の経緯が判明した。

人気アイドルきっつ~。

「先月」「新宿」ってことはもしかしなくても3月17日の話だ。

黒球部屋の隅で体育座りしていたアイドルの姿を思い出す。

あの服装なら見つかっちゃうかも、スタイル隠せて無かったし。つか芸能人オーラ(?)丸見えのオシャレかわいい恰好だった。持ってないのか?もっさり服。誰にもバレずに買い物を楽しみたいのなら和泉ぐらい頑張らないと~。

 

カップル達から篠崎へ視線を戻すと彼女は項垂れていた。

 

 

 

… … …

 

 

 

今日は4月29日。

みどりの日、ではなくマンガ通りならミッション2本立てな日。

わ~豪華~(←嬉しくない)ケンカと屠殺好きにとってはウハウハなスケジュールだ。

最初はフツ―に星人狩り。

次は無力な一般人を狩るゲーム、標的は小島。

 

…小島の立場が違うので2つ目のミッションが起きる可能性は0に近い(←願望だ)けど、起きちゃった場合やることは決めてある。優先順位は決まっている。

 

「なんだよ、ここ…」「なんだ、こいつら…」

 

いつもの黒球部屋へ転送されるボーダーコリーを新規メンバー5人が見ている。彼(?)で最後だ。前回までの生き残りは老婦人と小学生と犬以外全員ガンツスーツを着用済み。

ヤる気満々ですなぁ。

 

(…!)

 

犬を捕獲し振り返ると、女性と目が合った。

彼女は扉枠の奥、玄関への角から顔と右腕を出して部屋を覗いていた。

一度引っ込みすぐ顔を出す。気まずげに視線を泳がせ再び隠れる。

 

マンガと同様、6人目の新規メンバーは人前へ出られない姿らしい。

新人5人への説明を加藤に促し玄野に犬を持たせてから廊下の角手前に口を広げたリュックを設置。サイズ合うかな?小島母も小柄なのよね。

 

「今日は多いな…。お前ら、生き残りたいなら俺らのマネをしてくれ」

「どーゆー意味だ…」

「ここ天国じゃねーの?」

 

加藤の提案を聞き坊主頭と色黒が呟く。

笑えな~い、

お前(ら)が天国行けるワケねーだろ。

 

「佐藤さん」

「ちょっと…。サダコさんも」

 

玄野の右隣からいつの間に移動したのか、廊下へ続く扉枠で桜丘が手招きしている。

いや「サダコさん」じゃねーから「鈴村さん」と呼んだげてっ。

(いつも通り表情は見えないがなんとなく)幸せそーに北条の守護霊していたサダコは首振りで拒否を表明したものの姐御の目力と「お願い。大事な話なの」との言葉で陥落。

女傑がいま射殺すように睨んだのは貴女じゃないから安心して。

 

 

… …

 

 

廊下の奥、下駄箱の前にはバスローブ姿の女性が居た。

目が赤い。

 

「あ、さっきの…。これありがとぉね」

 

左手を胸に当て弱弱しく微笑む彼女。おぉピッタリでよかったです。

…じゃないよ最悪。

マジでマンガ通りなの?東京の治安ヤバすぎね?

 

「あのね…」

「え、ちょ」

「?…ああ大丈夫。佐藤さんこう見えて高校生だから」

「…マジで?!」

 

マジです。

 

「じゃあ言うわね」

「…」

 

ひらたくいうと女性以外の新規メンバー5人は性犯罪者です、という内容でした。

…知ってる~。

 

「でね、消そうと思うんだけど。捕獲銃だっけ、あれで送れば抹消できると思う?」

 

メンバー(もしくは一般人)を星人の収容所(?)へ送れるのかは試してないので知らないけど出来ると思う。本当に収容所へ送られるなら狩り場1km四方を外れるワケだからミッション中に実行すれば永遠にさよなら出来よう。

 

「…」フルフル スッ

 

サダコさまは桜丘の提案に異を唱えるかの如く首を振り、指で喉を掻き切るジェスチャー。

『手緩い。極☆刑』ですね?分かります。

性犯罪者への罰はネットに素性を晒す→去勢→介錯無しの切腹が相応しい。

 

「でもこの服着てるとXガン効かないのよね…男のコたちには言えないし…」

 

桜丘にもサダコさまの考えが通じたようで思案顔。

リーダーは『極刑』に賛同してくれないだろーね、生きて罪を償えって言いそう。

あ、でもこっちの加藤はマンガの彼より融通利きそうだから言い方によっては協力してくれるかも? 居残りに武器を選択するなんてマンガの加藤ならありえないだろう。

 

~♪

いつもの騒音が響き渡り…終わる。

 

(とりあえずスーツ着てくれ、ケースに名前ついてるから。自分のじゃないと効果無いぞ)

「…」「…」「スーツ?」

 

加藤の指示が廊下まで聞こえてきた。憮然とする美女2人と興味を引かれるバスローブ女子。

これで「スーツ着せずに放置作戦」は駄目、と。

屑が一匹廊下に現れたが4人で見つめると部屋へ戻った。着替えならバイク部屋を使え。

っていうか■ね。

 

「そうだ、ワイヤーつけたまま放置しよう。星人にやらせればいい」

「…」コクコク

「捕獲銃もチャージショットできるの?佐藤s「!」

 

姐御のすわっていた目付きが驚きに変わり、サダコの美髪がちょっと乱れる。

 

「あ、あたし達でやるから、気にしなくて良いのよ? 消えて近場なら絶対に当たるし」

「!!」コクコク

 

「あたし達」に小島は含まれない模様。どうして頷くんだ美髪。

呼んどいて仲間外れとか無いわ。女子の端くれとして私もやるよ――なんなら全員。

 

「…」ポム

「優しい貴女に聞かせる話じゃ無かったわね」

 

サダコさまが小島の肩を優しくたたく。

それは置いといて桜丘、「優しい」って私のことか?そう思っているから除外されてる?

今まで見てなかったの?“佐藤(?)”の採点画m

ふがっ

新規女性がバスローブの裾を近付けてきて気付いた。目から水がポロポロ出てる、小島が泣いている。

あぁ小島は「優しい人」だよね、でも屑の末路ではなく貴女の災難を想っての涙かと。

 

「あのぉ」

「?」「どうしたの?」

「事故死をきっかけにデスゲームのメンバーにされたって話…ちょっと信じられないけど…

 支給される武器?で本当に仕返しが出来るなら自分で…。あの人たちのこと許せないし。

 怒って貰えるのは嬉しいんですよ?でも、手伝ってほしいわけじゃなくて…

 あと1時間半くらいで自由に出られるなら警察に…あ、ケータイ無いか」

「…」「…」

「…ごめんなさい」

「こっちも聖人か…」「…」コクリ

「?」

「違うのよ。警察に行っても不愉快な思いするかなって

 痴漢を突き出すのですら嫌なのに、あなたの場合は…ねぇ?」

 

うん、警察とかって被害者への配慮が足りないと思う。寧ろ加害者に手厚すぎ…

って話が逸れたな、桜丘の言いたいこととはちょっと違うんだ。

姐御たちは複製体だから犯罪の証拠が不十分かも、って話。

 

「!ああ、そうね。そうかも…」

「?」

「これはクロノくんが気付いたんだけど、無くなってるのよ。私たちの古傷」

「?!」「!!」

 

即座に確認する2人。サダコはヘソちら、女性は左手の中指を凝視。

 

「ってことは…」

「今のあなたは被害をうけていないあなた、ってことね」

「…」

 

泣き崩れる女性を受け止める姐御。

 

「…で、役割分担だけど…」

 

やっぱりやるの?

 

 

 

… … …

 

 

 

女性に泣いて止められたので姐御たちは矛先を収めた、屑を刺す視線は鋭いが。

もう狩りエリアへ来てしまったので害虫よりもクリ―チャ―に集中してほしい。

ここはビル街の歩道。

ターゲット反応は200m先にある建物とその周囲に分散している、数は8。

マンガと同じスペックかな?

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

狩りエリア。

ここは…六本木か。

近くに反応があるし通行人が多いのでスタート地点にバイクを置き駆け足で目的地へ向かう。

南にある楕円は例のイベントスペースらしい。

 

「気をつけろっ 通行人には俺たちが視えてない!」

「はぁ?ぉおっと」

「マジ…みたいだな 誰もこっち見てない」

「夢か?やっぱり」

「ふぅん、フツ―にぶつかるの?」

「たぶんなっ 騒ぎになると思うからやるなよ」

 

西や初参加時の北条とは違いガンツスーツのみで外へ出たのにあまり動揺していない新人5人。すれちがう一般人へ謎のジェスチャーを向けたりして反応を見ている。

今日の新規メンバーは皆素直にスーツを着てくれてよかった。

あと言ってないことは…

階段を駆け上ると手摺の陰からデカイ馬。

 

「来たぞッ!!」

 

計ちゃんの声を後ろに聞きながら星人の横を通り広場へ侵入。頭上には大きな円屋根。

ここに居るのは4匹(組?)か。星人の向こうに見えるテーブルと椅子がジオラマみたい。

遠近感を狂わす巨大な騎兵が、足元をチョロつく新規メンバー5人を睥睨する。

電柱よりも大きいその表面は濃い灰色一色でちょっとオバケや死神っぽい、長柄の刃は斧だけど。

 

「わっ わぁっ」「なっんだっ」「おいっ」「やべえ やべえっ」

 

一応散開して囲むが及び腰な5人。だよなぁ、まぁ追々慣れるさ。逃げないだけ立派…

とか思っているうちに3人が階段へ向かった。

おいっ

 

「帰るなよーっ!アラームが鳴ったら鳴らない方へ移動しろっ 死ぬぞーっ!!」

ぞ―――っ

ゾ――ッ

ゾーッ

 

結構響いたな…恥ずかしい…

ここを片付けたら探しにいこうか、…生きてれば採点前に転送されるし放っとこう。

あの逃げっぷりなら一番の危険は脳の爆弾

 

「同じのが、いっぱい居るぞっ」

 

苫篠が言うとおり4匹は同じ姿だ。

死神っぽい騎兵こと乗馬する地味騎士の表情は兜の陰で判らない。とさか部分は刃状、耳部分のすぐ上に牛角が一対、後部はうなじまで覆われている。全身鎧を着た背にはマント。

威嚇のつもりか竿立つ騎馬。

メンバー達はそれぞれ狙いを定め巨大騎兵と対峙する。

新規メンバーにヤらせよーと思っていたターゲットの隣を見上げているのは近藤たち。

 

(ああ~迷ったぁ~)(絶ってー迷うってここー)

 

通行人の平和な会話が広場に響く。

自分が変な騎兵のテリトリーに居る、なんて夢にも思っていないだろう。そのまま声は遠ざかる。

 

「外に1体 ここに向かってる奴が4体 8体いる!!」

 

姿は確認出来ないが岡崎も広場に居るらしい。

ターゲットがデカすぎて4体だけでも手狭っぽいのに増えるのはよくないな。広場へ残りが集まる前に倒しておくべきである。

一般人が多いことも気になるし、ぶつかるだけで命が危ない。星人たちも俺たち以外の地球人に自分たちの存在をバラしたくないだろうけどミッションは戦争だ。始まれば、どうなるか分からない。

 

「聞こえたか みんなーっ 早めに倒してくれっ」

 

様子見していたメンバー達もターゲットへ得物を向けた。




(ミッション狂の完全犯罪不発なため当たり前だけど)現役女子高生アイドル(兼女優?の)下平レイカ(ことヒロイン4号)は一度も死んでいない。玄野のヒロインにはならない。

ボブカット篠崎はレイカファン(捏造)。


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ゆびわ編②

前回のあらすじ:
加藤の号令でゆびわ星人ミッション開始。(帽子と坊主以外の)新規メンバー逃走。



「ありえねーっ ありえねーって これっ」

ビュゴッ

「あ

 あ? あ”っ!」

 

騎兵の振るう長柄斧が直撃し景気よく吹っ飛ぶ坊主頭。

いち早く気付いたのか帽子男は回避成功。

石畳へ背中から墜ちた坊主頭は俺が駆け寄る前に上体を起こした。

不思議そうに首をひねる。

 

「あれっ痛くねー。なんだよ、これ夢かぁ?」

キュゥゥゥウン ドロッ

 

使用者へのダメージは完全に防いだようだが代わりにスーツが壊れている。ボタンから液漏れだ。かけていた眼鏡は衝撃で粉々に?

 

「夢じゃない 現実だ! 今の攻撃でその服は壊れた さがってろ」

「うっそ。まじ?まじ?ヤバくね?」

「ホントかよ~。じゃあ勝てねーじゃん。あんなん勝てるわけねー」

 

わかったから早く退がれって。

まさか一撃でスーツを壊す奴らとは思って無かったけど動きは遅いほうだぞ“ゆびわ星人”。

見える攻撃を避けられないようじゃミッションは厳しいぞ。

人間サイズの星人相手ならスパッと動けんのかな?あの二人、じゃないと本当に詰み

 

ブォンッ

 

来た!長柄斧の薙ぎ払い。馬の足元へはもうちょっと。上半身狙いの斬撃を避けダッシュ。

次に注意すべきはでっかい蹄。

 

ドンッ

 

横っ跳びし更に前方へ跳ね後ろ脚へ到着する。

メキメキ メキッ

スーツの膨張を感じながら一抱えある足首に体当たり。

 

ベキンッ

…カッ ダカダカダカ

 

「おっわっ!!」「わぁあああああ!!」

 

坊主頭と帽子男のものだろう悲鳴が響く。

せっかく敵の注意を俺へ移したんだから静かにしてろ。

右後ろ脚のふんばりを失って暴れる馬から跳び箱のように降りた地味騎士は踵を返し柄物を構える

 

ドオォン

 

振り降ろされる長柄斧、に震える地面。

左へ避けた俺の横を掠める床材。

何度目かの薙ぎ払いを避け振り抜いた恰好で止まった騎士の脇腹目がけワイヤー発射、転送する。

あとは…

馬は横に倒れた姿勢で動かない。

新規メンバー2人がヤった…わけではないらしい。

おい、もう蹲らなくていい終わったぞ。

 

初心者と俺が手こずっているうちに他3騎は倒された。

左肘と脇腹・延髄を断ち割られた奴、胴体がグズグズになった奴、斜めに分割された奴が既に横たわっていた。馬の傷は1頭の首に破裂痕がひとつ。他2頭は無傷に見える。

山田さん曰く騎士に止めを刺したら「糸が切れたように」倒れたそうだ。動力が同じとか、そーいう生態のヤツなのか? 何でもアリだな星人は

 

「おいっ」

 

声のほうを見ると新規2人の片割れ、スーツが故障したほうの背丈が減っていた。

顎まで消え断面を晒す坊主頭。

ガンツ部屋へ帰還する転送だ。

 

終わりか。

 

未だ開始から15分ちょっとしか経ってない。

今回は楽勝だったな

うわっ

騒ぎに気付き振り向くと人が並んでいた。

めっちゃ撮られてる。すごい数の野次馬(?)だ。総じてケータイを構えている。

まぁこれだけ破壊されてたら撮りたくもなるだろう。足場のタイルは殆ど剥がれて割れてるしテーブルセットもバラバラかぺっちゃんこに踏み潰されて…

原因不明だとすぐに直せないだろうなぁ、謝れないし、つらい。

 

 

 

=========

 

 

 

黒球部屋。

さっきまで和気藹々としていたクウキが今は悪い。換気しなきゃーってムリだった~(笑)。

 

「…意味分っかんねーっ、ふざけんなっ」

「ふざけてねーし、落ち着いてくれ」

「チッ、誰かに視られたのかッて聞いてンだよ」

 

帰還早々加藤へ怒りをぶつけるグラサンへ冷たい視線を送る玄野。

 

「いわもっちゃん、どったの」

「知らないけど、視られるとマズイんだってぇ」

「視られるってどうやって?俺たちみんな消えてたんだろ」

「いや何か機械いじって消えたり出たりしてたら。頭がバーンって、上田死んじまって」

「えぇ~何それ~…」

「よくわかんねーな、それ機械関係あんの? なんでそー思うんだ。

 さっきのデカイ奴らの仕業じゃねーの?」

「…

 そーかなぁ、でもあんとき俺ら隠れてたし」

 

私物を散らかしたスペース、黒球と窓の間で話し合う4人。マンガ通り1人退場した様子。

それを見てる振りでアイコンタクトする加藤と玄野、

(どーいうこと?)(いいから。勘違いさせとけ)って感じか?仲いいねお前ら。

自動で不可知化しているミッション時にも情報漏洩の罰則が関わってくる、と玄野は予想していたようだがグラサンの発言で確信したらしい、ステルス機能の落とし穴を。

マンガでも同じ奴が一般人の周波数へ変わったところで小島に撮影されてからデスペナをくらってた。なのに彼女が一般人として居なくても退場するとは。絶対に視えないと油断して不可視化&可視化を何度も試し小島以外の一般人に撮られたってことなのか…

いや案外マンガでの退場理由と同じかもしれない。

 

小島が新規メンバーを撮影しているコマはマンガに無かったから。

 

①小島はミッション中にエリア内の風景を撮っていた。

②頭の爆弾を使われた新規メンバーは周波数を何度も変えていた。

③全身タイツの不審人物が居たことを小島は玄野の指摘で思い出していた。

④新規メンバーが映っている(であろう)フィルムを潰してもミッションが終わらなかった。

 

これらの情報から「小島は爆死メンバーの出没を目撃し且つ撮影したことでガンツミッションのターゲットにされた。ヒロイン4号がフィルムを処分する前に玄野が小島へガンツミッションについてペラペラ喋ったから或いは一度始まったミッションはターゲットをやっつけるか時間切れまで終わらないからガンツメンバーの物証を消しても意味が無かった」と私は解釈していたが小島のターゲット化には別の理由があったのかも。

“ゆびわ星人”に斬られそうになったあと視えない玄野を認識したことでターゲットにされたのなら辻褄が合う。

何をしようとマンガの小島は死ぬ運命だったのか。騎兵に首を刈られるかクラスメイトに背を斬られるかの違い。

ターゲットとして退場したから再生される機会を得たのなら、2人の選択は正しかった。

 

それはともかく加藤たちが罰則や脳の爆弾について説明しなかったとしても、コントローラーで遊んで問題ないとも(多分)言ってないんだから関係無いでしょ。

丁寧に教える義務無いしミッションの法則だと認識されている事柄は経験からの推測だ、ガンツは明言していないし予告無しで変わることもある。

盲信と油断で生じた不利益の責任をとるべきは本人

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

採点が始まった。

黒球へ注目するメンバー達。

0点は犬・山田・私・北条・サダコ・老婦人・桜丘・岡崎・苫篠・JJ・風

そして屑共。

 

「なんだよぉ俺たち全員0点じゃ~ん」

「ぎゃははは だっせーっ」

「おめーが何もしねーで逃げてっからだろぉ」

「ばぁ~っか」

「おまえもビビってたじゃんかー」

「へっへっへっ」

さっきまでの剣幕は幻だったのか笑うグラサン、と他3人。

 

“浦ちゃん……10てんTotaL10てん あと90てんでおわり”

 

「あ…」

「やったね!」「…」コクコク

姐御とサダコに褒められこっちを見る元バスローブ女子、浦中。

ひとつのYガンを複数で使いターゲットを捕まえた場合、拘束したメンバーではなく転送したメンバーに加点されると証明できた。

誰もマークしてない2体を拘束しといたのに1体分ということは、ミッション中の転送は一体づつしかできないってこと?ミッション中とそれ以外では送られる場所も違うのかな? 

機能検証時一遍に送れた家庭ゴミはどこへ?

 

“和泉くん……10てんTotaL22てん あと78てんでおわり”

 

「ふん…」

球面を一瞥した和泉が鼻をならす。

北条とサダコがステルスしてXガン向けてるターゲットの首をしれっと刈っていたなあのロン毛。右手のお荷物が気になった。

ソードがメインならZガン要らなくね?持ち運びに片手が塞がるのも不便だ。

某トンカチみたく呼んだら来るように出来ないのかな?特典武器だし。マンガで他人の拾パクした奴いたから狩りエリアに忘れた場合は没収扱いだろ。盗られても新品を用意されるなら100点ためずに増やせてしまう。

 

“コンタ……10てんTotaL33てん あと67てんでおわり”

 

「おおっ」

「おーっ」

高得点を喜ぶ近藤と苫篠。

 

マンガの“ゆびわ星人”は明らかに星人が視えていない一般人まで狙って刈り取っていたから六本木には今日来たばかりだったのかな?

何もないのに通行人が真っ二つになっていたら『怪奇現象だ』って騒がれる筈だし通行禁止だろう、そんな報道を見聞きした覚えは無い。

今までに狩った星人も移住したばかりだったのかも。田中星人は居付いて長そうだったか、ロボを着て何度かコンビニで買い物したと解釈できる描写があった。

 

“ガキ……10てんTotaL10てん あと90てんでおわり”

 

「やったぁ!10って~ん!」

「亮太…」

「なぁに?おばあちゃん」

「あんなこと亮太がしなくても…」

「なにが?」

「…」

彼は山田たちと組んでデカブツを蜂の巣にしたのかな?老婦人は狙撃できたのだろうか?

小学生は100点ためれるかも。

 

“くろの……10てんTotaL35てん あと65てんでおわり”

 

「クロノさん!さすがっす」

「ハハハ…。切れ味良すぎだッてこの刀」

ミリオタに尊敬の眼差しを向けられ後ずさる玄野。

玄桜ペアにくっついていたなんて、姐御に蹴られなくて良かったな岡崎。

 

“かとうちゃ(笑)……10てんTotaL20てん あと80てんでおわり”

 

「この点数ってさぁ。なんなの?」

「自由を買うためのポイント、かな。

 100点ためると特典メニューを選択出来て、その中に解放が含まれるんだ。

 つまり100点ぶん星人を倒さない限りミッションに呼ばれ続けるってこと」

「ふーん。きびしーねー」

「そーだね」

「っていうか意味分かんねー。なんなんだ、ここ」

「うーん…こーいうものだってことしかわかんないなぁ。僕たちにも」

「そっかぁ」「ちっ…」

 

色黒が加藤へ訊いた質問に山田が答える。奴は何考えてるのか判らんが坊主頭は不服顔。

何度も呼ばれるのがダルいならボスキャラ狙えばあと1回で終わるよ☆オツカレ~。

 

“西くん……20てんTotaL30てん あと70てんでおわり”

 

数秒表示された文面が消え採点終了。

 

「終わった。外に出られるはずだ」

 

「帰れるってー」

「ひょーっ」

「あっ ちょっと待った ほら!!」

「電話番号聞け!!」

「はぁ?」

「聞けってほら!」

「すっげー あれ 本物?!」

 

はしゃぐ屑共。アイドル不在なのに何を騒いでんのかと思ったら視線の先は桜丘だった、その胸部をガン見している。

気付くの遅~っつか無礼者。姐御が凄いのはそれを含めた全身だから~、あと内面。

声掛けたいなら顔面と素行リセットして出直せ。

 

「あれ?」

コートをさぐっていたポッチャリ帽子の手が止まる。

 

「何?」

「あっれぇ~マジかよぉ~…」ゴソゴソ

「だから何だよ」

「ケータイが…」

「え」「無いの?」

「う~ん…」

 

上着をひっくり返すポッチャリを放置し私物を漁りだす屑共。全員ケータイが無いのだ。

あらあら…

 

「落としてきたんじゃねーの?居たとこに」

「だよねぇ。そーいや君たちどーやって死んだの?」

 

「は?」

「部屋に来る前、あっミッション行く前だよ、覚えてるでしょ」

「あー…」「なんだっけ?」「…事故?」

 

北条と山田の問いに3人はへどもど。犯罪者の自覚はあるようす。

 

「知り合いみたいだし、まとめて交通事故かな? だったら僕と彼も同じだよ。

 事故直前に身に着けていたものしか転送後は持ち合わせてなかった。

 ケータイはバイクと一緒に置いて来たんじゃない?」

 

奴らの場合はバンみたいな普通車だな。

 

「マジかよー」「あ~ぁ」「ちぇ~高かったのにぃ」

 

事故時に紛失した、で納得しそーな屑共…

 

「そんなわけねぇ…俺のはポケットに入ってた。外に出る前は確かにあった…盗られたんだ!  お前か?!」チャッ

 

グラサンが目つきの悪い少年へXショットガンを向ける。やだ死亡フラグ(笑)。

彼には万引き犯設定があったけどお前の私物に興味無いと思ふ。

 

「何言ってんだ…殺すぞ」ガチャッ

 

Zガンを構える少年、西。…わりかし怒っている…

 

「ん だそれっ 俺に 向けるんじゃねぇっ!!」

「…」

 

「落ち着け お前ら!」

「やめろ西ッ ここでそンなもン使うな!…そーだッ ガンツに当たるぞ!いいのかッ」

「…」「…」

「くだらねぇ、たかがケータイ紛失で殺し合いって…。お前」

「ああっ?!」

 

狭い部屋でいきり立つ2人を制止する加藤と玄野。

奥側メンバーは壁に張り付き、廊下側メンバーは部屋から退避。

和泉に指され訊き返すグラサン。

 

「周りへ咬みつく前によく考えろ、

 この限られた空間で誰にも気付かれずに窃盗なんて可能か?

 こいつらの誰かが盗ったとしたら全員の共謀か黙認を疑うべきだ。

 それを迂闊に指摘するなんてありえない。

 わかるだろ? お前たちは新参者で、この部屋の住人に法は無い」

「…」

 

ロン毛の変な脅しに目を伏せる3人。色黒はやっぱり無表情。

いや無法者は少数だよ~銃刀法は違反してるけども。

 

「証拠が無いのに他人を疑ったこと、悪いと思ってんなら誠意を見せるべきだが

 動揺して口が滑ったんだよな? 大事なデータが入っていた、とか」

「いや、そんな…」キョトキョト

 

追い打ちを掛けられ挙動不審になるグラサン。図星かしら。

人間の顔面ってあんなに蒼くなるもんなのね~。和泉が仲間思いなのも意外、西の弁護だよね?

 

「あれ?みんなで協力なんてしなくても最初に帰って来た人なら可能でしょ。

 今日はえっと…4人目からラストまで10分くらいかかってたし」

 

クウキ読め山田~っ。

 

「僕より前に居たのは…新しいコと岡崎くんと、佐藤さんは何番目だった?」

「!」「…」

「ひっ」

 

屑共に視線を向けられ後ずさる浦中、スタスタと接近する色黒。

きゃーエンガチョ~

か弱い乙女へ伸ばされた手首を押して脛を払う。

 

「?!」「ム」

「ふげっ」

ドタッ

 

色黒は着地点に居たJJの足蹴で窓を滑り顔面から床へ落ちた。結構とんだなー…

 

「富!このやろっ」

 

(おそらく)色黒を心配しJJへ掴みかかるポッチャリ帽子。

スーツ着てんだからダメージ無いっての、大袈裟ねぇ。

壁の様な筋肉へ無謀な突撃をかましたポチャは顔面に突きをもらい尻餅ひとつ、黒球部屋なので床は揺れない。

キッチンへの扉枠近くで行われたそんな攻防(?)を北条は不思議そうに見ている。

 

「わっわわっ わっ」

 

声へ視線を向けると坊主頭が迫って来た。浦中と避けたら奴はそのまま廊下へ。帰るの?

 

「人殺し~!」「覚えてろぉ」「信じらんねっ」

 

つまんない捨てゼリフを残し、坊主頭に続く3人。殿の色黒は四つん這い(笑)。

何故かガンツソードを抜いた和泉の背景、(欠伸する)センパイ以外のメンバーは顔色が悪い。

 

「服まで忘れてっちゃったよ、あの人たち~」

 

ロン毛が帰るまで山田以外は無言だった。




和泉→今回の新規メンバー:
(ミッション主催者と繋がっているかも知れない小島に行動を否定されたので)要らないメンバーであり「ポッと出の無能のくせに小島に投げられるとか癪に障る」から斬って良いよね?

今回の新規メンバー→和泉:敵
※(ゆびわ星人こと)巨人を斬り倒していた武器を狭い部屋で振り回そうとした奴の印象で、
 (Zガンこと)謎の武器を向けてきた中学生へのヘイトは消えた。


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ゆびわ編③

前回のあらすじ:
ゆびわ星人ミッションクリア。
(周りの被害を無視するなら)主要キャラ単独でクリアできそうなミッションだけど、流れ的に開催。原作チームでも過剰戦力だったし。
※ゆびわ星人と騎馬の相関関係は捏造※



「で、何だったんだ?」

 

翌日、午後。

クイズ番組の出題傾向について愚痴っていたロン毛が話題を変える。唐突だな、おい。

 

「何の話ですか?」

「昨夜のあいつらだよ、大学生くらいの」

「…どーでもいい人達?」

「いや、そーじゃなくて…。…お前だろ、昨日の紛失騒g

「違います」

 

何でもかんでも私の仕業と考えないでよね、こちとらそんなに暇じゃねーし。

私は暗躍より貯金がスキだ。

…なんてな。

 

「本当に?」

「ケータイが消えた理由に心当たりはありますけど、私の口からはちょっと…

 どうしても知りたいなら被害者面の彼らに訊いて下さい、部屋に来るまえ何をしていたか。

 和泉くんならそれで顚末を察する筈です。でもガッカリすると思うなぁ、

 聞いて楽しい内容ではないしゲームとは無関係ですから」

 

処分するなら証拠は消して下さいねぇ。大騒ぎになってこっちへ飛び火したら迷惑。

Yガンを持ってないならやめておけ。

 

いま私たちは石垣沿いの歩道を歩いている。駅を出たのはついさっき。

目的地は篠崎邸、風邪で休んだ彼女のお見舞いだ。

帰ろうとしてたら和泉に誘われ、玄野に逃げられたので1対1。

スキップで去った茶髪は桜丘と待ち合わせかな? やっと気付いたのね姐御の素晴らしさに。

 

「…それは本当みたいだな」

 

聞き捨てならないセリフを吐いて黙る和泉。

それは私の嘘が下手ってことか?どこで判断したんだよ~、気になる。

奴の睨んだ通り屑共のケータイを没収したのは私だ。転送トップだったのでガンツ以外は知らないはず。

目的は強請りの防止と厭がらせ(笑)いつ捕まるかと怯えて暮らすがよい。

ああいう奴らは暴行画像をネタに被害者を搾取するらしい、ケータイ紛失は精神攻撃なはず。

部屋から解放される予定の浦中にとっては邪魔な経歴だし。

マンガで解放を選択した主人公は「電車にアタック」をさっぱり忘れていた(どころか居眠りの途中ぐらいにしか認識しなかったらしく学ラン着て自室で目覚めたことを全く気にしていなかった)ので、死亡原因を忘却する&クローンな彼女には不要と独断した。

あ、パソコンとかにバックアップがあったり大人しくしないなら桜丘の提案を採用するかも。

そういう面では次のミッションが待ち遠しい。

 

「?」

 

隣のロン毛が足を止め後方を振り向く。

私も確認すると結構遠くに人集りが見えた。ひとり以外は走っているような動き、マラソン大会か?

学ランではやらないか。

 

(おらっ とまれぇ!)

(ぎゃっ)ガチャンッ

 

学ランに赤いシャツを合わせている奴が乗り物ごと倒れた。その隣を走る長ひょろい男は一瞬気にしたのちスピードアップ。よく見ると後列の奴らは学ランではなく黒い上下。

追われているのは、加藤?

 

「何だ…?」

 

呟きつつ横道へ入る和泉。避けてやり過ごすつもりだろう。それで済むならラクだなぁ。

 

「あいつら人間に見えるけど違いますよ。星人です」

「は?」

「危険なクリ―チャ―です」

「…えっと……いや………マジで?」

 

私の言葉に驚く和泉。あんまり見ない表情で吃っている。

…嘘判断は勘なのか?

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

「ヒトの血液が栄養源で弱点は太陽光、掌から銃器や刃物を出します。

 周波数を変えてもコンタクトやサングラスを着用した連中には看破されるから注意して」

 

早口で説明しながら俺を押し出す小島。

それが本当ならヴァンパイアみたいだな、しかし今は昼間だ。

 

「素早いからソードでやることを勧めます」

 

鞄を奪われ黒い柄を手渡される。勝手に漁るな!

成程、ケンカにしては黒服たちの得物がおかしい、日本刀に見える。

それだけで星人の証明にはならないが嘘を吐く理由が思いつかない。

本当なら由々しき事態だ。

 

「私も援護しますけど独りで充分ですよね? 頼りにしてますよ」スゥ…

タンッ

 

言うだけ言って風景にとける小島。周波数を変え手近な屋根へ登ったのだろう。

ここで殲滅するから手を貸せってことか。

ミッション外で狩るのは勿体ない気もするが「頼り」にされちゃ仕方ない。

 

周波数を変え路へ戻ると困惑した加藤の顔面が数mの距離にあった。

足を前後へ開き腰を捻る。

学ランを内から圧迫するスーツ。

 

俺の力を魅せてやろう。

 

 

 

=========

 

 

 

「がぁうっ!」「あがっ あ」「うおーっ?!」

 

鮮血を撒き散らし暴れる者・傷口を呆然と見る者・苦しい体勢や小さくなった身体でピクリとも動かない者、それを倒れた姿勢から無言で見回す加藤。

マンガで度々見せた和泉の大技(笑)…十字路まで引きつけくり出した横薙ぎは追跡者たちの半数以上を無力化した。

事切れた者は顔・首・胸・腹のいずれかで輪切り状態。走っていた位置で様々だ。

加藤(のスーツ)に引っ掛からなきゃもっと倒せたかも。

…電柱が折れてる~

 

「何だぁ?!おいっ」「やべぇんじゃねーの?」「やべぇっ」「何が起こった、まさか…」

「狼狽えんなっ!!周波数を変えた奴だっ コンタクトをしろ!!」

「あ、はい ぎっ」

 

刃を通常サイズに戻し敵陣へ突っ込む和泉。

新たに(ポッケからケースを取り出し装着しようとする)1体が倒れた時点で進路に割り込んだブレザー男へ狙いを変える。素肌にブレザーを羽織るオシャレさん(笑)はマンガのあいつか。

 

アホな速度で斬り合う両者。傷を負うのは周りのモブ共。刀って危ないなぁ。

ポッケを漁りながら痛がるモブを盾に距離をとる和泉。

 

「サングラスしてる奴は位置確認しろ!!」「落ち着けっ」「位置は!?位置教えろ!!」

「そっち行ったぞっ そっちだ!!」

 

なにその子供みたいな方向指示。

マンガでガンツメンバーと戦争してると言ってたわりに色々とお粗末だ、訓練が足りないよ吸血鬼。

 

「こいつも一味か」「それっきゃねーだろ」「斎藤さんと互角だとっ」

「!…あいつを逃がすなっ」

 

見えない脅威に慌てる者・観戦モードになりすっかり目的を見失った者共へ命令するドレッド。そいつを含めアフロ・茶髪ロン毛・帽子・ガン黒以外が加藤を追う。

彼は石垣を登って柵を伝い赤シャツ男を救助しに戻った様子。

背を見せて遠ざかる長身。それにサブマシンガンを向ける茶髪モブ&数体

 

…にワイヤーが巻き付いた。

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

「なっ」「んだよこれっ」「おいっ これって」「まずいぞっ」

「わ”あ”っ」

「うっそ」「ちょ まt」ジジジジジ…

 

他にも各々喚きながら消えてゆく黒服たち。

昼間のワイヤーは見え難いのだろう、飛来するアンカーを殆どの敵は迎撃できず簡単に拘束された。張られていないワイヤー部分は刃に強いらしく斬ろうと反応した奴も失敗。

捕まった体勢がよかったのか新たに出した刃でワイヤーを斬り間一髪で転送を免れた男と、冷静に追跡を避け正確にアンカー部分を破壊した男だけが路上に残る。

ドレッド頭と手練れだ。

 

「くっそ。罠か」「…ちっ…めんどくせぇ」

 

高い位置を見回すドレッド、俺を睨む「斎藤」某。

何か勘違いしているようだが似たようなものか。

ドレッドはサングラスをしている、狙撃手を探しているということはこっちの装備が星人勢力にわれている?

 

…なら捕獲銃以外も警戒するべきだったな。

 

「ぶっ?!」

 

ひとりの頭部が破裂した。

 

「…」バサッ ガシガシ

 

無表情で上着を脱ぎ捨て、空いた左手で後頭部を掻きむしる斎藤。

倒れたドレッド頭を見るとそのドレッド部分は鼻から上ごと消えていた。

残りは一人

 

「和泉ぃ!!」

 

加藤?

…!

一秒の何分の一か、失念した星人へ振り返る。

奴は強い。

俺の動きについてくる、歯応えのある相手。

そいつに隙を見せてしまった。

 

奴は どこだ

 

 

 

=========

 

 

 

「和泉ぃ!!」

「!!」「?!」

 

大声へと振り向く和泉、動く斎藤。

ロン毛がサイドステップし迎え撃つ体勢になった頃、吸血鬼(?)は豆粒ほどになっていた。

逃げ足はっえ~っ

和泉の位置からは見えないだろう民家の上を飛ぶように遠ざかっていく。

あ、消えた。

スーツアシスト超えてない?あの脚力。

 

ガンッ

「はぁっ はぁっ お前 はぁっ なんってことを…!!どーすんだ、これっ

 ぐっ!」ズザッ

 

騒々しい路上を見るとスプラッターの中心で尻餅をつく加藤が居た。

その正面に拳を突き出すのは和泉。煩いからって暴力はいかんぞ(笑)。

 

「このっ」

「…」チャキ

 

加藤も周波数を変えたらしい。険しい目付きで睨む彼を和泉は見下ろしソードを構える。

あれ?やばい雰囲気だ。

 

「大丈夫ですかー?」

 

「あっ …え?」

「落ち着いて下さい、大丈夫ですから」

「だいじょう…ぶ…?」

「和泉くんが斬ったのは星人です、人間じゃありません。殺人事件ではありません」

 

生きてなくても転送できるから、他殺体が無ければ大丈夫、立件されない。

って加藤はそんなこと気にしてないか。

尊い人(間に見える星人の)命が目の前で奪われたことに混乱しているのだろう。

彼は人間以外の喪失にも心を痛めるタイプだが最優先は人命だ。

「人間」の定義って個人で違うらしいけど加藤の場合はどうなのか。

マンガと同じ過程で「変わった」吸血鬼なら戸籍があるはず、でも倫理観と主食(人間の食事でも生きられるが血液を摂取しないと頭痛に悩まされるらしいから栄養剤に近い?)が違う。

人間を広義で「捕食」する人間はいるけど愉しそうに解体ショー&飲血パーティーする人間はいないだろ、たぶん。

 

「どこが星人だっ どう見ても人間だ!」

「うるせぇなぁ…、よく見ろ。歯がおかしい」

「歯…」

 

ロン毛に向かって疑問を吼える加藤。面倒そうに答える和泉。

大口開けた胸像の犬歯は不自然に尖っている。

そんな小さな違いより判り易い証拠があるよ。

 

「彼らは吸血鬼みたいなもので太陽光を浴びると灰になります」

「…」「…」

「夕方の今、形を保っているのは薬の作用だそうです」

「…」「…」

「薬の効果が消えるまで試せないから今は証明できませんけど

 太陽光っぽい人工灯でも効いてましたから、

 夜遭遇した個体に当てたら砕け散りました。どういう作用なんですかねぇ」

「「遭遇? いつ?!」」

 

長身共の台詞が被る、あれ?じつは仲良し(笑)?

マンガの玄野が騎兵狩りから2つ後の招集直前に襲撃されてたよ。

今日遭遇したのは玄小和篠ダブルデート時、拉致しに来たグループだね。

東京チームのツートップを倒した奴が混ざってなくてラッキーだった。

来たら私は逃げます。

 

「…ちょっと前に」

 

帰宅途中って言えば自然かな?

「斎藤さん」グループの独断だとしてもリーダー逃がしちゃったしマンガ同様ほかの幹部が出て来なかったから2回目以降は必然&大勢が来そう、恐い。

 

「どうして…」

「ふーん、妙に詳しいと思ったら捕まえた奴が吐いた情報か。

 一味がどうとか言ってたし俺たちを敵と知ったうえで襲ってきたんだよな?

 …いつバレたんだ」

「私の場合は偶然だったみたいです。

 空を見上げたら半透明の人間が屋上を飛び跳ねていたから。あ、ハンターだ、って。

 奴らは私たちメンバーのことをハンターやゴキブリと呼んでいます」

「ゴキ…」

「はっ、害虫は向こうだろ」

 

私の出任せに気付かない(ように見える)2人。

つるっつると嘘が出てくるなぁ、わりと動揺してるのに。

本来なら40日以上前に終わってる筈のイベントが前触れ無く起きるとは、びびった。

まぁ平静に戻る時間が短いほうが都合はいい、イベント直後にイベントが来ない保証は無い。

 

「勝くんの心当たりは?」

 

最近は加藤弟を歩くん(ちゃん付けで呼んだら無視された)、加藤を勝くんと呼んでいる。

ちょっと言い難い。

 

「う~ん」「…」

「どこから追跡されたんですか?」

「駅前で待ち伏せされて… ! 車内で通話してた奴がこっち見てた。

 …あいつどっかで…どこだったか…。そうだ! あ~…あんとき気付いてりゃぁ…」

「どういうことだ」

「昨夜のミッションで部屋に帰る前…六本木で見た野次馬のひとり…だと思う。

 黒服じゃなかったけど仲間だったのか…」

「!」「もしかして写真を撮られた、とか」

「っ ああ、こっちにケータイ向けてた でも…」

 

不可知化モードを撮影可能かって疑問ならミッション翌日に追跡されたことが答えだが、フツ―のカメラじゃ無理だと思う。ステルスを看破する装備を作っちゃう彼らの技術で改造したケータイだから可能なのだろう、マンガでも幹部吸血鬼が撮影した画像で捜されていたのにすっかりと忘れていたよ。マトが和泉だったから?

吸血鬼の(たぶん)リーダー以外、人ごみに溶け込んでいるモブっつーか諜報員?にまで周波数の違う物体を撮影できるツールが行き渡っているとはねぇ。いやそういう役割にこそ必要か。

とにかくミッション中に周波数変えたメンバーが無頓着に街中歩いても監視カメラにひっかかったことは(妙な爆死が無かったことから多分)無い。

…2人は気にしてなさそ―ね。

 

「星人っていうくらいだ、視えないものを撮影する技術があるんだろ。

 サングラスやコンタクトでステルスを見破るらしいぞ」

「マジかよ」

「ああ、こいつに聞いた。でもラッキーだったなぁ」

「…は? どこが」

「殆ど雑魚だったが手練れが混ざってた。俺たちが通りかからなきゃ死んでたぜ、お前」

「…感謝しろとでも言う気か」

「べつにぃ」ニヤニヤ

 

何だか棘がある会話。

星人はメンバー共通の敵だしミッション外で点数つかないんだから誰が倒してもいいじゃん。

和泉は強敵と闘えて、加藤は危険生物に自宅を知られなくて幸運…

 

「あの人、大丈夫でした? 勝くんと一緒に逃げていた赤い服の」

「ん? あぁ気絶してるだけだったから向こうの角に置いてある。気付けば勝手に帰るだろ」

「知り合いじゃないのか?」

「学校のセンパイ。なんかしつこいんだ。付き纏われてたとこを囲まれて…ああなった」

 

♪タッタタータタタ・タター タッタタータタタ 

ピッ

 

ケータイを確認し情けない顔になる加藤。時間切れらしい。バイト大変だね苦学生。

片付けなら私がやるから早く行け、(第3ボタンあたりが裂けて返り血と埃まみれの学ランを)着替える時間も要る。ロン毛と睨めっこしたって一銭にもならん。

こんなこともあろうかと大判のポリ袋含む掃除セットは常備してるけど、フツ―サイズの箒とか落ちてないか。携帯用チリ取りと箒じゃ時間かなり掛かりそう。Xショットガン使うんじゃなかった(マンガの一回目の襲撃で和泉が散らかした分は誰が片付けたんだろう?)。

片付けきれない体液や爪とか髪が「肌を(日光に)強くする」薬の効果が消えて灰化する前に警察や何かに調べられても問題は無いと思う。吸血鬼由来だから謎生物の欠片、或いは造りもの判定されそう(玄野弟の友人たちは下っ端吸血鬼が片付けたのかな?)。

 

私が清掃中、和泉にメンバーの生存確認を頼んだら西しか応答しなかったらしい(笑)。

乱闘から清掃終了まで野次馬がひとりも来なかったのはちょっと不気味だったけど、そんなもんなのかな?君子危うきに近寄らず。

(冷静に考えたら迷惑にしかならないと気付いた篠崎邸アポ無し訪問は中止とし)夜、玄野部屋に集合し吸血鬼話で盛り上がった。近藤たちと祖母孫、外国人と社会人以外が集まりおもしろい光景に。

5分おきにメール出来るなら参加できたんじゃね?山田。

 

翌、登校直前に小島部屋で行った灰化実験は成功。

瓶詰&二重袋で灰は漏れなかったはず……吸血鬼はどうやって感染るんだろう?




ゆびわ(星人ミッションの野次馬に擬態していた吸血鬼が報告した結果)編。

動画撮って袋瓶詰め灰は彼方へ送った。

GANTZのスピンオフなら吸血鬼漫画を読みたい。
武闘派と慎重派(セミナー催したり皮膚強化薬つくる係?)の実態とか。


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野宿編①

前編のあらすじ:
ゆびわ星人ミッションクリア(マンガと同じ新規メンバー)。
一度目の(吸血鬼っぽい星人による)襲撃、撃退。幹部?斎藤は逃亡(生存)。



5月5日日曜、夜。

小島宅リビングで映画鑑賞中。

隣でポップコーン(シナモン味)をモグモグしているのは小島母。

夕食後に間食すんなダイエッター。私は食べないってば、だから多くないか訊いたのに。

就寝直前に歯磨きメンドい。映画脳のまま眠りたい。

 

広い地下研究所、通路と部屋を隔てる透明な壁越しに見える影。

完全に密閉された部屋の天井付近まで水分が満たしているのだろう濁った空間に佇むかの如く浮かぶのは白衣の女性。力を失った筈の瞼がパチリと開く…

 

朝食後に記念碑的(?)ゾンビ映画(のリメイク1号)、昼食後はコメディ風ゾンビ映画。

夕食後(歯磨きほか外見整備含む)入浴と翌日の準備を終え現在観ているのはゲーム風ゾンビ映画。

数日前から疲れるとわかっていたので今日はのんびり過ごすと決めていた。

 

連休まえ遊びに誘われたのだ、クラスメイトに。

 

小島に話し掛けてるとは思わなくて何度も無視したのに誘ってくれた女子はにこやかだった。

男女6人で夢の国観光ですか~ほほう…

女性陣は鈴木(リア充企画幹事。メガネ級長)・篠崎・小島。

野郎は杉原(同じクラス。話したことない)・上田(杉原と同じ)・和泉。

…うん、やめとくわ。

しかし篠崎にスケジュール(ノ―プラン)がバレていたので「GWはおばあちゃんちに行くのん」作戦を使えず、小島母を急病と偽ろうかちょっと真剣に悩んだ。

なんで合コン的企画に成立済みカップルが参加すんの?クラスの置き物に話が来たのは苦肉の策かしら。出遅れた皺寄せを持ってくるんじゃない(笑)誰が目当てか言ってみろ。

埃っぽくて狭いわりにぼったくりなのはテーマパークの宿命だから置いとくとして態々人混み見に行く趣味ねーし。しかも危険人物まで付いてくるって……何の罰?

 

結局、野口さん数枚をドブに捨ててきた。

喧しい場所で長時間待たされた&着グルミやコスプレイヤーより一般客との記念撮影を望む不思議な人のが多かったって感想しかない(篠崎含む序盤で逸れた4人は怒ってなかった)。

お土産を見て加藤弟が羨ましがっていた(口を窄めた顔が可愛かった)から「あんまり期待すると奈落へ突きおとされるよ」と言っておいた、冗句ではない。

落下を選ぶのは個人の自由だけど~

 

 

ゾクゾクッ

 

世のなか選択できないことも多いよね。

映画の山場を残し私は転送された。

 

 

 

… … …

 

 

 

ちょっとガンツ~前回のミッションから未だ一週間も経ってないよ、どーなってんの?

(マンガと同じなら)地球上の何処でも転送可能だろ、他のチームに回せよ。私知ってるんだからね、ガンツ(?)チームはたくさんあるって。この世界はマンガと違い日本の東京都にしか星人が移住せず加藤がリーダーを務めるチームしか存在しないなら仕方ないが、そんなわけない。

 

頭痛と偽ってゾンビ鑑賞を中止し小島部屋でスライス始まったので小島宅に戻るとき面倒なんだけど(怒)玄関使えないから。足場になるベランダが無いので窓から入り難い、壁とか傷付けそーだから極力避けたかったのに。小島母に部屋の中見られてたら無断外出の言い訳も要る。

そろそろネタが無い。

 

そーいや「東京チーム」って複数なのかな?

東京ひとつに23チームあるとは思わないけど人口多いぶん他都道府県より星人多そう。

なのに加藤チームを指名ということは数日前に遭遇した吸血鬼連が張り切っちゃって人手不足とか?あの時は確認出来なかったがマンガではガンツスーツの壊し方まで研究済みだったので数人は略取されてそう。そこから所在がバレ全滅か、こわ~い。転出したい。

 

騎兵狩り翌日の襲撃後、念のため加藤弟を小島宅に匿い(小島母が大喜びだった)加藤宅玄関に張り紙したが何も掛からなかったよ、残念。

“ゴキブリへ 明朝4時、光□丘公園にて待つ 清掃員より”

って解り難かったかな?

狙いが見え透きすぎで警戒された可能性もあるけど、あのリーダーが人間相手に芋引くことはあるまい。吸血鬼は張り紙を見ていない=加藤宅を特定されていないと判断。避難(小島母が乗り気だったからそのまま面倒見ようとしたら加藤に固辞されたので玄野の下宿が狭くなった)は3日で解除した。

もっとも利用路線が知られているので住所バレは時間の問題だろう。どうしたもんか…

ああ、加藤は変装も嫌だって。我儘言うな(笑)べつに特殊メイクまで求めてないよ?髪型変えて眼鏡かけるとかさぁ。(襲撃に対し)常に警戒することと比べたら簡単だろうに、何が不満だ

 

「佐藤さん」

 

オールバック至上主義者(笑)が話しかけてきた。

そーいや小島宅でもこの呼び方だったなぁ、なのに小島母はスル―だった、謎だ。

 

「今日のターゲット、もしかしt

「うっわ マジかよ~!!」

 

加藤の言葉を遮るように大声が響く。

 

最後に現れたのは男4人。恒例の新規さん、ではなく仲良し屑共だ。

「マジかよ」発言は元ポッチャリ帽子、今日は只のポチャ。どーでもいいな。

未だムショ暮らしではないらしい、4人とも私服姿。

いつまで娑婆に居る気だよ犯罪グループ~警察は何やってんだ。

マンガでも捕まってなかったから疑われても揉消すコネがあるのかな?それとも訴える被害者が0なのか?敵を数年ブチ込むのと引き換えに風評被害を受けるくらいなら完全犯罪を画策する、って考えなら納得ではある。

 

屑共は和泉からいちばん遠いキッチン前を陣取りヒソヒソしている、きも~い。

北条とサダコは廊下前へ移動。2人の後ろへ隠れる浦中。

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい 

 

 野宿星人(収まりの悪い頭髪で隈の濃い草臥れたおっさん)

 特徴      くろい しなない

 気にしてること 無宿 無職

 特技      のっとり なかマをふやす”

 

 

「え…?コレッて」

 

「何だよこれ人間じゃんデブの」

「殺すの?デブを?」

「なんだこの汚いデブ」

「…これも宇宙人?」

「まじかよ、どうみても只のデブじゃん」

 

玄野が呟き、“野宿星人”の首が2重顎に埋もれているからか屑共は偏った感想を言い合う。

 

「くろい…」

 

襲撃してきた連中を思い出しているのだろう顔を顰める加藤。

 

「野宿ってもしかしてホームレス?」

「仲間を増やすって…ははは」

「あいつら星人だったのかよ~上野か、山谷か?」

「なんだよ、前のでかいのに比べたら楽勝じゃねぇ?これ」

「銃で撃っちゃえばいいんでしょ。俺にまかせてよー。やっちゃうよ俺~」

 

エリアを予想する坊主頭、エア鉄砲で狙うポッチャリ。

 

「人間…みたいな星人?」

「どうみてもそこらのおっさんだ」

「これって…加藤くんが遭ったっていう…」

「あァ、ヴァンパイア」

 

苫篠たちも似たような感想、山田の呟きに玄野が答える。

 

「スーツの弱点まで知ッてるらしーぞアイツら、気ィつけろ」ガチャガチャ

「じゃくてん~?攻撃喰らいすぎると壊れるってフツ―じゃね~?」ガチャ パチン

「それがあるんだよ。ピンポイントなやつが」

「このボタン4箇所を同時に割ると機能停止するンだ」

 

両腿のホルスターにガンツソードとYガンをセットしてから自らの顎下と耳横を指す玄野。

ボタンを指先(の爪?)で割る方法でガンツスーツを壊されたキャラは鈴木(マンガのかっぺ狩りから海外遠征まで参加)と和泉だったか、マンガでは背後から顎を抱えるようにして割られていたけど一ヶ所づつ割ることも可能かな?例えば拳打でHit & Away。吸血鬼は「スーツとタメ張る怪力」だからか刀と銃(拳銃やサブマシンガン)を手から生成できるのに素手攻撃を選ぶ個体も居た。

たぶん一ヶ所ずつ狙われると本来の防御力が弾くんだろうが……弱点丸出しはどうかと思う。

 

「まじで?!」

「試したのか?」

「ンなワケねーだろ、スーツ無しは前で懲りたッつの」

「ヴァンパイア情報だ。メンバーを…捕まえて調べたらしい」

「僕たちのこと知ってて正体を見つける程たくさん居るってことは一度や二度のミッションで狩り尽くせない勢力ってことだよね…」

「かもな…」

「ってことは高得点狙えちゃう?100点越え目指そーぜ」

「…」

「んだよ~ノリ悪ぅ」

「楽観的だなぁ、中身まで一般人並みだなんて言ってないよ?」

「逃げても引き離せなかったしワイヤーに反応してた。

 メンバーとやり合うようなもんだぞ。それだけなら未だしも正面対決じゃ多勢に無勢だ。

 和泉も苦戦してたし…」

「加藤ッ」

 

玄野に遮られロン毛を見る加藤、ちょっとむくれてる。

斎藤を倒しきれなかったことを指摘し室内乱闘に成りかけたことを思い出したのだろう。

奥の壁に凭れる奴はソードを眺め薄笑い。加藤たちの会話に興味が無い様子。

 

「…」「…」「…」

「…アイツは放ッとけ」

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

先ず視界に入ったのは黒いマーク。

王冠?の下に矢印がついたような…

内側へ歪曲し向かい合う柱の間に掲げられ俺たちを見おろしている。背景は碧。

今回もどこかのイベント会場だろうか?

真っ青な半円型のステージ、じゃなくプール?へ向かい緩く下ってゆく観客席の丁度中間辺りに転送されたようで扇状に並んだ席は見えるだけで百以上。柱横のでかい板はモニターか?

どこからか浮かれたBGMが流れている。

 

「ぅお…」

 

振り返って2度驚く。

会場の規模は百席ではなく五百以上だった。3層構造でそれぞれ両端にゲートがあり階段で繋がっている。その先にテント付きの回転木馬、音源の一部はあれか。

会場へ落ちる日差しを遮るのはそれ自体にもいくつかの施設が詰まっていそうな厚みがある純白の屋根。支えるのは回転木馬が陣取る広い通りを境に対面する2棟の7階建てで、手前のでこぼこした壁には何故か軽装の人間が複数張り付いている。…クライミング?

芥子粒のような飛行機が空に軌跡を描いてゆく…

 

「…船?」

 

誰かの呟き。

ふね?船なのかこれ。どっかの水族館じゃなく?

言われてみれば空気が生臭い。

 

…いや、生ゴミ臭い?

っつか◇ンコくさi

 

「ほえ~…ゴーカ客船ってやつかぁ」

「日本にこんなんあんの?」

「いや外国だろここ。カリブ海かどっか…」

 

近藤の独り言に空を仰ぎつつ答える北条。国内ですらないらしい、なるほど…

 

「そーだね、昼間になってるし」

「なんで外国…」

「一匹近くに居るっぽいけd

 

「きゃああぁぁぁーっ!!」

 

報告を遮る悲鳴。

クライマーから視線を移す岡崎。注目するメンバー達。

 

ドンッ

…バタバタバタ…

ゴッ

 

重いモノが倒れ床材を叩くような音。視界の隅に何かが落下、座席の間を転がりおちる。

叫んだのは前回から加わった女性か。

風とJJが壁になって見えねぇ…

 

?!

 

2人の向こうで会場が消え、世界が黒に染まった。

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

スタート地点を暢気に見回す凡夫共。

そこに加わる異物に気付いたのは俺が最初だ。けれど先手を打ったのは女。

けたたましい声。

耳障りに思ったのか、後ずさる音源へ顔を向けるソレ。

2歩目を踏む前に黒刃がうなじとあごを抜ける。

 

軽い。

勢い余って少々姿勢を崩す程に。

宙を舞う頭から帽子が外れ長めの髪が露わになる。

何日も放置したような白髪交じりの癖毛と体型しか資料と一致していないが問題無い。

ミッション中のメンバーを視認するのは同類以外ならターゲットのみ。

 

加え決定的な証明もある。

 

仰向けの姿勢で出鱈目に床を叩く四肢から最初の勢いがなくなり漸く事態を理解したのか俺に向けられる視線複数。それらはすぐターゲットへ戻る。奴らも気付いたらしい。アクアシアターの観客席に転がる首無し星人の周りにあるべきもの、その不足に。

答えは血液。脳と心臓をつなぐパイプが全開したにも関わらず一滴も流れていない。座席や通路を伝い落ち塗装するはずの液体は皆無。青白く発光していない断面が何色か、なんて興味無かったが想像より黒ずんで見える。燻製肉よりも硬質な印象だ。血液が無いのに人体構造を模倣する意味は? どうせ真似るなら猛獣のほうが愉しめた。…動物じゃ多寡が知れてるか。

 

図らずも奴は指令の個体らしい、船に潜り込むための変装か空色の作業服が肌蹴、色褪せたジャケットが見える。こんな酷い匂いが紛れ込める船には乗りたくないな。

…匂い?

疑問が形を成す前に死骸の脈孔から黒いナニカが噴き出した。




ガンツスーツの弱点は捕虜吸血鬼(嘘)から抜いた情報と偽ってオリ主がバラした。

記念碑(?)らしいゾンビ映画は未鑑賞。コメディはオチがコメディだと思った。

乗員乗客数千人規模のクルーズ客船を舞台にしたパニック映画を観てみたい。ゾンビ出なくても可。


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野宿編②

前回のあらすじ:
野宿星人ミッション開始(オリミッションその2)。ミッション・エリアは昼間。
メンバー全員がスタート地点に揃うまでベンチに座っていたターゲットは起立した途端浦中に驚かれ何かする前にガンツソードで頸を刎ねられた。



===■■====

 

 

 

んだよ、つまんね―…

メンバー達に混ざって突っ立っていたオッサンを和泉が瞬殺し、その呆気なさにガッカリしているといつのまにか足元を黒い靄が覆っていた。

火事?!

急ぎ飛び退いたほうへ靄は広がらず、しかし潮風に逆らいメンバー達を包んでゆく。

足元から上半身へ集まり伸び縮みしながら留まる黒雲…

いや、生き物?

 

あれがターゲット…

 

「わ”ーッ わ”ーッ わ”ぁぁあアァァあ!!」ゴロゴロゴロ…

 

床から1m程度上で滞空する黒雲。周波数を変えているからか俺には近付いて来ない。

その直径10m近くありそうな範囲から最初に脱出したのはクロノ。馬鹿のくせに勘は鋭い、

屈んで転がり回避すると隣の足をペンペン叩き「おいッ しゃがめッ虫は上だけだッ」となかなか的を射たアドバイス…

 

虫なの?あれ。

 

虫(?)の大群こと黒雲から露出したメンバー達のスーツは生きてるらしい、ボタンは光ったまま。当人たちも弱体化や心神喪失の症状は無さそう、元気よく踠いている。

ガンツスーツは細かな生物の攻撃からもメンバーを守れるってことか?

スーツを着込んだ奴らのリアクションでは攻撃の有無すら判断できない。

悲鳴をあげていることから「虫」は口に入ろうとしないのだろうが

 

「なにあれっ」「小蠅?」「フ□キラー!□ースジェット!!」「無えよっ!」

「星人なのか?」「いや、虫じゃん」

 

掴めない敵を振りほどこうという無駄な努力を止め、四つん這いで包囲(?)を抜けるメンバー達。いくらか落ち着いた数人が外側から見た感想を言い合う。

 

「…どうする?」

 

ヤッつけるしかねーだろ。

 

「捕獲…はムリか。銃は?」

「ダメだッ 効いて無ェッ」

「刀もだ、擦り抜けちまう」

「くっそ~。あ、ゆっくり引いてみるとか。振り回せば腹で潰せねぇ?」

「…」

「吹き散らすのは?何かで扇いでさぁ」

「散らしてどーすんだよ」

 

まぁ虫捕りや殺虫用ではないよなぁガンツ武器。銃で捕獲可能は猫サイズ以上じゃね?

レーダーをチェックしたところ黒雲の位置にマーカーは無くターゲットではないと判断しつつも不審物を放置できず攻撃してみるものの失望を繰り返すメンバー達。

今のところ殺傷力無いからガンツに無視されてるだけであの大群は星人の一種だと俺も思う、

船全体の平面図にしてもターゲット反応0なのに転送始まらないし。

ターゲットから涌いたってだけでも駆除対象だろ、きもすぎる。

 

「よしっ」

 

何かを決意する加藤、に注目するメンバー共。

嫌な予感。

 

「叩くぞ! 一時間あればいけるっ とどまっている今がチャンスだ!」

「…」「…」「…」

 

捕獲銃をホルスターへ戻し空いた両手を構えつつじりじりと大群へ向かう馬鹿。

それを無表情で見送る間抜け共。

想像力無いのか?あいつら…

 

(うわぁ~面倒な…)

 

は?

 

(100点武器を撃ってみます?最大範囲ならいけると思います)

 

佐藤が話し掛けてきた、俺と同様に周波数を変えているからか小声で。

たしかに、散らばったメンバー達を追わず群れの大きさは10m弱なままだから効果範囲を最大にすれば一度に圧砕できそうだ、けど陸の見えない場所で足場にダメージ与えたくない。

和泉も同じ考えだから使わないのだろう。加藤の100点武器は何故かクロノが持っている。

 

(ですよね~沈没したら困ります)

 

無言を否定ととったのか佐藤は大群へ視線を戻した。

“野宿星人”がさっきの1匹だけなら今頃は部屋で採点されてるはず、レーダーに映らないターゲットが居るのかも。一般人っぽい姿でターゲット表示のされない星人ってのもウザそーだが俺たちのように消えているとしたらそのほうが厄介だ。互いに視えないなら先に動くのは悪手。もう少し様子を見たい。

 

「あっ!!」

 

レーダーを再度チェックしていると山田の大声が響く。

大群が動きだした。

 

 

 

=========

 

 

 

「わっ わっ動いたっ」「分かれるっ行っちまうぞっ」「とめろッ!!」「どーやって?!」

「…やばくねぇか?」

 

中腰で近付く全身タイツに危険を感じたのか、メンバー達を包んでいた位置から動きだした黒雲(に見える大群)は建物前で上昇し十数条に分かれ隙間やゲートへ吸い込まれていった。

というか逃げた?

 

やっぱ吸血鬼じゃないじゃん。

奴らなら“黒服”か“ホスト”星人だろう、名称がおかしい。なんだよ“野宿星人”って。

体内で羽虫飼ってる~なんて設定も無かったはず。飼ってるとしたら蝙蝠か?

マンガ同様ミッション・ターゲットにならないのだろう吸血鬼は。

まぁ無駄だよね、あいつら各自が感染宿主だから例のウイルスだかナノマシンを消すカウンターをホモサピ全部に植えでもしない限り根絶できまい。吸血鬼菌がヒト以外にも感染するものだったり空気感染だったらもっと無理だし数百年前から強ーい吸血生物が存在するわりにヒトは増え続けているんだから今慌てて対処しなくても誤差じゃないかな? マンガよりもメンバーが充実しているとはいえ逃げ場が限られた状況であの強キャラと遭うのは恐いからミッションにならないことに文句は無い。

そんなことより何で今だよ海外遠征。

カリブ海のクリ―チャ―ならカラカスとかフロリダチーム呼べって。どうせキューバやドミニカにもあるんだろガンツチーム。マンガの順番ならあと数カ月先のミッションじゃんエリア違うし。本来の遠征ミッションには地元チーム(以外も多数参加していたけど)も居たからスタート地点が違うだけで来てんのか?他のチーム。

 

今回のターゲットは“くろい”細かな羽虫を出すらしい。

口内や耳孔に入って悪さしないタイプなのは嬉しいな。侵入を試みる虫を防ぐ自信無い。

ある程度の群れならまだしも1・2匹じゃ見逃しそう。

対象が小さすぎてロックオン機能が反応しないのか、米粒サイズが1匹づつ爆散(?)してるからパッと見わからないのか判断出来ないが結局試していない範囲武器(Zガン)以外の攻撃が効かず、両手で挟むように叩き潰す方法しか使え(なさそーだが試す前に逃げられたので、これも適切か判ら)ない相手がターゲット扱いじゃないのは助かる。

逃げ隠れする羽虫なんて蠅1匹でも駆除に数分かかるのに制限時間足りないだろ。

初見の大型客船内を一時間も走りまわらされたあげく点数没収とかやってられない。

きっと吸血鬼共のような一般人っぽい姿なんだろーな点数のつく“野宿星人”は。大型客船に紛れ込んだホームレスを探すのか、客や船員に擬態したクリ―チャ―を見つけるミッションなのか?

指令の個体に住んで(?)た羽虫は切断面という大きな出口ができたことで噴出した様に見えたが鼻や耳等天然の孔からも出入りするとしたら見分け易そう。

でも一撃で船の底が抜けないことに賭けてZガン使ってみるべきだったよセンパイ~、虫(?)が0点のターゲットだとしても田中のギョロちゃんみたいな斥候かもしれない。あるいは…

 

あのままでは手詰まりだったが、北条の言うとおり船内へ行かれるのはヤバそーね。

 

 

 

… … …

 

 

 

なんと怪しからん職場か、

簡素な通路で調理師っぽい中年に圧し掛かりくねくねしているブルネット女を発見。

そんな2人をガン見する野郎共を放置し角を曲がると南国めいたBGMを圧す騒音が聞こえてきた。

 

「なんだ…?」

 

先頭じゃない加藤が呟く。

配膳係の通り道だろう細い一本道の途中から壁が透かし堀りされているもののメンバー達で構成された行列の前3人以降は視線が通らない。

 

「レストランみたい。客が騒いでる」

「あンなに虫がでたら当然だろ。あ、でもいつも通りなら視えてないのか?」

「…あれが星人なら隠す気なか。暴れとー」

 

風の静かな声がいつもより小さい。

桜丘と玄野より視点が高いぶん状況が解っているのか。視力もよさそーだし。

武人が動揺する相手とか怖い、虫人間みたいな奴でも出た?或いは不審者。(拒否反応を我慢できないレベルの)グロいターゲットより人間風ターゲットのほうが嫌と言われれば納得。殺害or拉致対象なわけだし。でも紛れ込んだのが(スタート地点に居た様な)浮浪者ならあんなに騒がれないか、異臭のするヒトでも飛行機に乗せてもらえるらしい。

 

聞こえるのは怒号と悲鳴に少々の笑い声、それと奇声。

Xショットガンのスコープ越しに見ると骨格が骨格を素手で襲っていた。抱き付いてパクパクと…顔面に食い付いている様子。

玄野に促された列が進み大きめな観葉植物の陰から裸眼で確認できた光景はなんとも…

 

「っ?!」

 

仰向けに倒れた人間の腹部から顔を上げる逞しい肩、の女性と目が合い息を飲むメンバー達。

口角を中心に赤く染まった顔が歪み

「yipe!」

斜め手前に居た中年女性を押し倒した。わがままボディ2人分の衝撃で拉げる椅子と植木鉢。

食人女が見ていたのは玄野たちではなく獲物らしい。

フロア内のいたる場所で同じように襲われる客、と給仕らしき船員。

ここが本当にカリブ海なら時差半日遅れだから朝食か。

大半は暴徒の間合いから離れ、なぜか遠巻きに惨状を伺っている(?)が一部は鬼ごっこ状態。

鬼役は全体の1割、15人ほどか。食事(?)中の奴等が参加したら3割超えそう。

3層吹き抜けの高い天井に大きなシャンデリアを吊り下げた立体的な構造のレストランは広く造られているもののテーブルと椅子が邪魔なので追いかけっこには向いてない。鬼役は横に大きな奴ばかりで、ちょっと鈍足だ。機動力に欠ける体型のうえ超人的ではなく一般的な腕力なのか客に制圧されている食人鬼(?)もちらほら。椅子でぶたれたり直でぶたれたり革靴で踏まれたり。

食人鬼(?)を打ちすえている数人は周りの客より落ち着いた雰囲気。薄着な周りから浮いたかっちり黒背広は要人警護か? 満身創痍で尚獲物に向かおうと這い進んだ食人鬼(?)は背中にテーブルを乗せられた。

まだ動いてる。

 

「…」「…」「…」

「変ね…」

「どーなってんだ今日のミッション。…関係無いテロ?」

「あれがターゲットなの?一般人に負けてるよ。僕ら要らないんじゃ…」

「星人じゃね―ならヤク中やビョーキか?ありえねーッて」

 

バックヤードへ続く通路を出、室内装飾の陰で相談するメンバー達。

亮太の目元は祖母の掌で覆われている。彼女も目を瞑って沈黙、いや何か呟いてる。

食人鬼(?)共がターゲットか確かめたいならコントローラー見ろよ、このフロアに居るのは

 

「Yikes!」

ガチャ―――ンッ

 

扉へ駆ける赤毛女性の真横、テーブルに男が激突。遠いギャラリーからも悲鳴がわく。

ひとつかふたつ上のバルコニーから落下したのだろう彼は白いテーブルクロスに覆われた天板に全身を預け身じろぎしない。

見上げると3階の柵に身を乗り出す連中が数人。客でも接客員でもなさそーな装備だ。

 

「Hey.Are you okay?【ねぇ、あなた大丈夫】」

「Doctor! Is there a doctor on this room?【医者は、この部屋に医師は居るか】」

 

冷静な声は同じ階の乗客。

泣いている幼女の腕に(たぶん)絆創膏をつけていた客こと細身淑女とチェーンスタンドを構え侍っていたカジュアル紳士が、他より重傷そうな怪我人こと仰向けで動かない男へ近寄り助けを募る。が名乗り出る者は無し。

ん?

怪我人へ視線を戻しこちらに背を向ける淑女、そのカーディガンに違和感を感じていると彼女の背景…メインっぽい出入り口に物々しい集団が現れた。

3階(?)に居た人たちに似ている、警備員か?

服装は海員制服(半袖Yシャツ)に防護ベストを足しただけの簡素さだが変な形状の長柄や銃を構えている。大型船なら発砲OKなの?

 

【脈が無い】【AED(自動体外式除細動器)は?…って、来たぞっ】

 

連れに答えてから出入り口の反対方向へ短く叫ぶ紳士。彼も診察台代わりへ飛び乗り、遅れて気付いた淑女と共に身構える。

そんな暇があるなら逃げたほうがいい。

 

2人(と重体)を目指し駆けるのは十数人。

その殆どが肥満体独特の動きで着衣に飛沫付き。食人鬼だ。

紳士たちの何が他より魅力的なのか標的を変えて集まって来る。

もしかして落下男もターゲット?彼も暴徒同様太鼓腹。

一般人に返り討ちされる同胞は無視してたのに突然互助精神に目覚めた?

危害はよくて救助はだめなの?

(今のところ)一体一体が仔ねぎに毛が生えた程度の戦力といっても多勢に無勢。

食人鬼共は落下男狙いだとでも思っているのか紳士たちは彼を隠すような位置取り。

危険な立場のまま他人を顧みるなんて加藤並みに希少な変人…そうか、勇敢で利他的だから目撃例が少ないのね為善者って。

淑女も(膝丈スカート下から出した)特殊警棒を展開、ヤる気だ。

ムチムチ通り越して力士体型9割な食人鬼連よりきみらのが運動機能は高そうだけどあの数に勝つつもりなら銃器が要るよ。

とか思いつつ私はトリガ―を引いた。

 

【むっ】【あれっ?!】

【隊長っ】

【落ち着け!…狼狽えるな…落ち着け。目を閉じて深呼吸しろ…おお…神よ…】

 

リンチされそーな乗客を守ろうと詰めた距離から進めず騒ぐ警備員たち。

瞬きする者・周りを見回す者・上司へ指示を仰ぐ者・訊かれて一喝し全く落ち付けない者。

彼らを留める障害は未知への恐怖と混乱あたりか。

テーブル上の2人も唖然としている。

 

【奴らは…】

【消えた】

【そんな、どこへ消えたっていうの…縦穴?…抜け道? どこにあるのよそんなもの】

【現に消えている。だが】

 

怯えた目のまま笑う淑女へ答えながら3番目に近い食人鬼…の尻でおされちょっと傾いたテーブルを見つめる紳士。倒れたグラスが落ちそで落ちない。

彼らに1番近い、1mほどしか離れていない食人鬼へは2人共視線を向けない。唯一自由になる頭を振り回し唸っている赤ら顔の老人に気付いていない様子。天板をうち一部脚元にかかってそーな唾すら無視。

 

これではっきりした。ワイヤーをかけた物体は一般人の知覚から消えると。

 

乗客乗員こと今回の一般人はターゲットを視認しているから今までの条件とは違うところもあるが「ミッション中にYガンのワイヤーで巻いた物体はガンツ武器と同じ周波数になる」ってことだろう。少なくとも今回は不可知化するらしい。

ステルス機能って不思議だ。ミッション中のメンバーは3種類の周波数(?)を選べる。

ひとつはオートで設定されてる周波数。一般人には姿と音を認識されない仕様。

ふたつめはターゲット(とメンバー)から姿のみ隠すもの。コントローラーが無いと選べない。

みっつめは一般人にもターゲットにも認識される状態。これもコントローラー必須だが選ぶ利点は何だろう? 




(居残る理由は別として)加藤はオリ主の負担を減らそうと特典武器を選択。
スタート地点への転送時、加藤と共にその足元へ現れたZガンを持ち主より先に玄野が拾い上げ渡す前に小蠅(っぽい何か)の大群がメンバーたちを囲んだ。
玄野「これオマエのだろ」
加藤「(使うと船底が抜けそうだしデカくて邪魔だなぁ)計ちゃんが使っていいよ」
玄野「マジで?(船内で使うのは心配だけどコレじゃないと倒せないターゲット出るかも。
   ていうか使ッてみたい)」※移動中の会話※

孫を抱っこする老婦人が呟いていたのは経文。

細身淑女とカジュアル紳士は警備員が来るまでの数十秒間耐えるつもりでいた。
自分たちと要救助者両方が必ず助かると確信した選択だが、勝ち目が薄くても実行した。
目の前で死にそうな人間を絶対に見捨てられない類いの人種。

メンバーたち「今回のミッションエリアは客船全体か(当たり前のように納得)」


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野宿編③

前回のあらすじ:
ターゲットらしき暴徒たちにワイヤーをかけるオリ主。
ワイヤーを発射したYガン、を持つオリ主と同じ周波数に変わる暴徒たち。
淑女「人間が消えた。怪奇現象?」
紳士(視えないが存在している、それは確実だ。しかし暴くべきか…無視するべきか…)


マンガでいう次あたりのミッションもターゲットだけ一般人から隠されていなかったが誰もYガンを使用しなかったのでどのタイミングで消えるか不明だったのだが、

転送姿を晒すよりマシってこと?

気掛りは情報漏洩の罰則。一度なら目こぼしするって意味ならもう此処ではYガンを使えない。大丈夫な可能性が高いけど最初に試したくない。未だ残っているフリーなターゲットどうしよう。

マンガの田中星人はコンビニ店員から買い物していた。普段の星人は「周波数を変える」ことなんて出来ず、ミッションに邪魔が入らないようガンツが変えているのなら今回やらない理由は?

マンガのガンツメンバー達は一般周波数のターゲットでも通行人の眼前でばんばん(ぶつ切り含む)ミンチにしていた。自身と似た形の生物がSFチックに消えるより突然破裂するほうがショッキングだと思うけどなぁ。あのミッションではターゲットが擬態をやめてから破壊してたっけ。

 

カチッ

ジジジ ジジジ…

 

奥まった建物内でも複数転送可能っと。なんで前回は出来なかったんだ?大きかったから?

拘束した十数体のスライスが大腿にさしかかると加藤が物陰から出てきた。後ろに玄野たちも続く。

 

「佐藤さんっ」

 

キョロキョロしながらシャンデリアの真下まで走って来る。

 

「佐藤さんっ!」

「おい加t

「佐藤さんっ!!」

 

やかましい。

親友を無視し喚いていた彼は横から声を掛けるとぶつかりそうになった(笑)落ち付け。

何だよ?リーダー。ヒトっぽい生き物を彼方に送ったことへの苦情なら受け付けないぞ。

問答は採点後で頼む。クリアしてみなきゃ“野宿星人”狩りの難易度は判らないのだサクサク進めたい。一般人が襲われる状況だとしてもミッション中の最優先事項はターゲットの処理だ。メンバーが早く片付けるほど被害者が減ると考えてくれ。解ってると思うが露骨な救助活動は禁止な。

暇なら一般人をレストランから遠ざける方法考えてよ。警備員は不審者の排除が仕事だから仕方ないとしても客や船員は何故野次馬を続けるのか。サプライズイベントだとか思っている感じでもない。脅威が減ってちょっと落ち着いたのかほぼ全員が力いっぱい声を出し始めたので幼児の鳴き声くらいしか判別できん。

ターゲットを移動させるほうが現実的か?

転送済みを差し引いても数が減っている。出口方面に気を取られていた間に逃げられたっぽい。弱くて鈍い分逃げる決断は早いらしい。残ったターゲットは気絶(?)や起き上がれない程度の手負いがほとんど(…そこまでヤッたならとどめ刺してよ)。

担いだり或いは一部を持って引き摺ったとしても一般人の視界から不自然に消えるのはワイヤー巻いた場合と同じはず。あ、蹴って動かせばいいか?掴んで対象が消え始める前に投げるほうが手加減は簡単かな? 消えるよりは動けない筈の人体が飛び交うほうが有り得そう? 

そういう現象あったよね有名なヤツ。勝手に飛ぶのも壊れるのも爆ぜるのも斬れるのも消えるのも全部ポルターガイストと思ってくれないかな~。すべては未知の法則…悪霊の仕業です…

 

【――班は散歩道階へ向かえ。ああ、此処と同じ状況らしい。

 発砲を許可する。なるべく殺すな。残りを鎮圧したら我々も合流する。

 キャンプス嬢は暴動発生個所を告知。封鎖した区画もな。客室待機推奨。

 次にδ班!…? 応答しろδ班! ダニエル! おいっ聞いているのか?!

 は? 何だっt

 

パラララララ…

 

とりあえず異常体験は無かったことにしたらしい、

無線へがなりたてる警備隊長(仮)の台詞に被せ馴染みのない音が鳴り響く。かなりうるさい。

此処ではなく上階

あ。

天井を向くと複数の銃口が鈍く光った。

 

パラララララララララララララララララララララ…

ガガガガ ビシッビシッ ピュンッ バババババ ガシャンッ ガガガガガ ガガガガガガ

【あ”あ”あ”あ”あ”】【あっ】【ぃいああぁぁっやああぁぁあああ】【ぎゃっ】

 

パンッ

 

突如始まった斉射は一発の銃声で終わった。

思いのほか長かったな。何発撃てるんだろ?マシンガンって。

ギャラリーは未だ騒がしい。なんで逃げないの?

私が潜むのは柱の陰、狙撃手共の足元(から床?を二枚以上隔てた)あたり。

シャンデリアの真下を含む天井の高い空間を挟んだ向かいのでかい壺で身を隠すのは、

加藤か。

近くのテーブル下で伏せてやり過ごせたっぽい淑女&紳士と警備員たちへ視線を向けた彼は安堵の表情。顔を出すと危ないぞ、Xガンで確認しろ。たぶん狙いは私たちだ。

天井へ銃口を向けスキャンしてみる。真上に骨格無し。その上は4体。

柵のすぐ近くに倒れている。

 

「どこだ、加藤!」「リーダー!」

「計ちゃんっ 佐藤さんは?」

「や、俺が知るか。つか喰らッたなら出てくンじゃね?消えてンなら…

「佐藤さんっ!!」

 

吹き抜けの場所を駆けて来た2人に加藤が答える。というか聞いてる。

 

「…?」キョロキョロ

「撃った奴らはもう居ないみたい」

「それか…いや、どッちでも同じだな。…これからどーする?解散でいーか?

 ここに居ても、もーやるコト無ェし」

「え?」

「これ見て。これが此処よね?」

「なるほど。…まだたくさん居るな」

「ああ…」

「じゃあ計ちゃんは…」

「うん、で…」

 

怖々と頭上を伺う加藤に寄りコントローラーを示す桜丘。

3人の元へ集まっていくJJ・山田・亮太・老婦人・風・岡崎そして浦中。

 

スタート地点で虫が逃げたとき分かれた群れのうち特に大きな3つが其々ひとつ上の観客席奥・スタート地点の右ゲート・左ゲートに吸い込まれた。

上階へ直行した和泉以外のメンバーは玄野を先頭に右ゲートから船内へ侵入したと思う。

屑共と犬も途上のアベック(?)に引っ掛かった後は知らないけど、ここに居ない近藤たちと北条たちは左ゲートへ行ったのかな?

 

やっぱメンバーの位置情報も欲しいな~と思いながらマップを弄っていたら側面図が出た。

桜丘が加藤へ見せていたのはこれか?

なるほど、レストランは3層ともに残敵0だ。

 

指定すれば部屋ごとの側面図も出るじゃん。

前回のミッションまでは水平断面図こと平面図しか出なかったから新機能だ。

(この次くらいのミッションは駅ビル内も狩りエリアに含まれていたけど)マンガでは積層構造な建物内のみでミッションってシチュ無かったからかな、マップは一種類だった。

なので「その階へ行かないと確認できないのか?進捗状況、不便だなぁ」と思っていた。嬉しい変化だ。装備の適切化としてこれ以降も同じなら尚宜しい。うまく使えば私でも無双できよう。生き残るつもりなら星人の意識外から攻撃するべし、って最強のヒトも言ってた。

それにしても、星人の位置をリアルタイムで正確に教えてくれるマップとかチートだな。

そして不思議だ。これほど把握しているなら直接送ったり爆撃できそう、ヒトにヤらせる必要無くね? 

やっぱり観覧されてそーだなクリ―チャ―狩り。マンガの最終章ではそれっぽい描写があった(あの寛いだ雰囲気でライブ映像を観られているのならミッションは毎回予定通りに催されていることになるけど)。目的が黒球メーカーの製品テストや出資者へのお披露目だけなら非効率な作戦を何年も続けないだろう。“MEMORY”できるならメンバーを維持する必要も無い、要る時に複製し消せばいい。軍人ではなく一般人をランダムにメンバー化する意味も不明。

マジで賭博対象だとして何を予想するのか。勝敗と生き残りの数とか?

終了時間まで含むと難易度高そう。メンバーとターゲットの位置で対戦結果を予想し一回のミッションで数回賭けるのかも知れない。

 

増えたマップ機能で確認した状況は…

あんまり良くない。

食人鬼を初視認時チェックしたマップと比べターゲットが減ってない。もう15分も持ち時間を消費したのに。いや平面図の印象と変化無しなら減ってはいるのか?だとしても他チームが来てるわりに加藤チームのスタート地点から最も遠い船首側の空白が少ない、ように見える。食人鬼タイプ以外の強敵に苦戦中か? ターゲットマークが点滅してるからメンバーの誰かは居るっぽい。でも今のところ“野宿星人”は一般人に負けるようなスペックだから警備員や客の奮闘もありえる。地元チームは強敵またはサービスミッション後でメンバーが極端に少ないとか?

銃撃が星人の仕業だとして重火器を恃むターゲットは初めてだしエリアが広いのも地味に面倒だけど、今までと比べて難易度高いのかな?このミッション。外国チームを呼ぶほどに?

…。

ひょっとして来てない? 遠征ミッションなのに地元チームがひとつも呼ばれてないのかも。

昼間はメンバーを招集できないから夜時間の東京チーム呼んだとか?

日本で昼時間にクリ―チャ―が暴れた場合も外国チームが狩ってたりして。持ち主も立ち寄らない私有地みたいなところがエリアになってて破壊痕が一般人にバレてないとか、

ありえないこともない。星人全部が夜行性なほうが不自然だろう。狭い日本ですらヒトの立ち入らない場所などごまんとある。

ターゲットは同じ階の船首・ひとつ上階の中央・塔のある屋上以下5層に多い。3つ目の範囲には大きさの揃った空間が並んでいる、さっき船内放送していた避難先…客室区画か。

下層へいくほど少なく、加藤たちの居る此処レストラン1階より下の従業員以外立入禁止区画こと船倉は皆無。星人側もエンジンルームを刺激したくないのかな?

あれ?

船倉に動力は銀河共通?

 

…ブブブブブ…

 

ん?

 

…プィ~ゥ…ブブブブブ ブブブ ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ

 

えー…

これって……

予想と同時に跪くと強めな風が頭上を過ぎた。

照明を浴び輝く色彩はアカガネ、右手からコーラルピンク、上階からは黄土色。

そんな3色の煙が宙でうねり 混じる。それはマーブリング靄っつか雲のよう。

有機的に変化する模様はシュールな美しさだが圧倒的に青みが足りない、

とか思ってる場合じゃない発する音からしてあれは、

 

「ぅわぁ~…」「またかよッ」ガチャッ

「計ちゃんっ時間が惜しい!アレはほっとこう。さっきと同じだ!たぶん」

「そーだなッ」

「いや、出入り口向こう側じゃん。入っても平気なの?あれ」

「え~やだぁ~」

 

「ちッ」ダッ

 

マーブル雲に突貫する玄野、と桜丘。とり残される加藤たち。

雲は紳士たちがしゃがんでいたちょっと手前から出入り口側を覆っている様子。

端が視えないから扉ぎりぎりまでの奥行きなら横幅はそれ以上、っていうかフロアを横断する規模かも、玄野たちが侵入しても動かない。見通し利かないからって一般人を撥ねるなよ~とか言う間も無く2人は戻って来た。

スタート地点のヤツより派手だが均しく羽虫の群れとのこと。衝突音や悲鳴が聞こえなかったのは回避できたからか、羽音に負けたのか。小虫でもあれほど集うと喧しい。

 

再び玄野が雲へ潜り、それに倣うメンバー達。障害物の対処は銃器のモニターを参考にするらしい。

スムーズにレストランを出たのだろう二度目は誰も戻って来ない。

見た目は悪いが即効性の罠は無い様子。だとしても皆さんチャレンジャーね、と呆れつつ私は雲をジャンプで越えた。

 

クリ―チャ―由来とみられる虫に触りたくないってのもあるが狙撃星人(?)共の居た階に興味があって。

件のバルコニー付近にはスキャンした姿勢で人間が倒れていた。

手や床に銃器。見たカンジ他殺3体・自決1体。ざっと観察後、蟲雲が切れた場所へ着地。

思ったより奥行きは無かったが様子を確認したい個体は雲の中。どうしようかな。スキャンだと体表の様子がわからない。

ガンツメンバーが居なくなったのに蟲雲が散らないのは通せんぼが目的じゃないから?

スタート地点の蟲雲が加藤の攻撃性(?)に反応して散ったのだとしたらXガン乱射で退くのかな?ガン類を使ってもすぐに逃げなかったのは弾が出ないところが武器と認識されなかったのか、使役主の命令待ちだったとか?

それは穿ち過ぎだとしても、テーブルクロスとかで叩くほうが嫌がられそうではある。

 

にしても大きいなぁマーブル蟲雲。遠回りしても触れずに通れなかったかも

 

【伝染病かしら】

【衛生用品の効果に期待、だな】

【…】

 

お喋りしながらマーブル壁から浮き出るように登場するカジュアル紳士たち。

視えないって幸せだ。向かう先はエレベーター。

「伝染病」ってあれか?狂犬病的な?

細身淑女はマスクと手袋を着用している。

“星人”がヒトの病状とは考えたくないな。どうしても戻らないなら変異か…進化か…

 

【君は部屋へ戻っていいぞ。依頼どころじゃなさそうだ】

【…私も付き合うわ。っ?!】

【どうした?】

【今、何かが…】

【…】

 

不意に背中を気にした淑女を一瞥し、周りを睨む紳士。

 

あぶない危ない…

 

さすがに触れたら気付くよね。

進路から避けた私の真横を通る淑女の服に付いていたモノをついつい払ってしまったのだ。

白いカーディガンに模様をつくる

ちいさな虫(十数匹)を。

 

その色は脚から羽から全身ピンク。

捕まえた一匹の形状はチョウバエっぽい…ちょっと潰れたからビミョー…小さい蛾かも?

 

紳士たちを見送らず私もポイントへ向かった。

 

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

 

「虫いないね~」

 

ああ。

 

「星人もいないね~」

 

…。

 

「北条くんはぁ」

 

 

「いくつだっけぇ高2だから16?あと二年弱しか学ラン姿観れないなんて悲し~。 

 知ってる?カジノって年齢制限あるの。べガスとマカオとシンガポールは21歳でね、

 居るんだってぇ20歳以上なら入場出来ると思い込んでる日本人の門前払い。ふふっ

 恥ずかしいよね~。同じ国内でも店によって違ったり外国人観光客は18でOKなのに

 国民は21歳ってところもあるらしいよ~。依存性高そーには見えないけど」 

 

まぁ思ったより退屈そうではあるよな、カジノって。ゲーム機がスロットしかねーし。

虫を見失ったフロアは気取った雰囲気の娯楽施設だった。折角の海上なのに窓が無い。

臙脂色のフロアにカジノグリーンの天板が並ぶ本物の賭博場。客が飲んでるのはアルコールか?昼間だからソフトドリンク?

アクアシアターに居たような浮浪者っぽい奴は見当たらない。緩い服装の奴もこざっぱりとしている。ターゲット反応は、あれ?通り過ぎてた?いや一層下の部屋か。

賭け事の依存性って学生の俺には飲酒喫煙中毒よりもピンと来ないけど、

 

金が減ったり増えたりすんのが楽しーんじゃねーの?パチンコとか競馬みたいに。

 

「パチは過程も楽しいよ~、元ネタ知らなくても演出コンプしたくなる」

 

ふーん…ん?それって体験談?

 

「ネットで見たんだよ~。うるさいのきら~い」

 

あぁそう…

 

「おっ? …?誰と喋ってたんだ?」

 

メインゲートへ戻る途中カドから苫篠が現れた。不思議そうな顔でキョロつくもっさり頭。

その背景に近藤も見える。

 

「向こうは居なかったぜ~」

「そーそ、警戒して損しちまった~」

 

左手の親指で背後を指す近藤。苫篠は右肩を回し相槌を打つ。

損ってこた無いだろ未だミッション中だし。見回りごくろーさん。

…。

やばいぞ、雑談してて一般人の観察してないとか言い難い。




(傾いた卓や凹んだテーブルクロス・観葉植物の葉などが元に戻った)小さな変化で、視えなくなった暴徒に何かが起きたことを紳士は悟ったが黙秘を選択した。

今回のミッションはオニ星人ミッションと同様にガンツメンバーがミッション用周波数、ターゲットが一般人と同じ周波数。
すなわち加藤が振り付きでキャラソンを熱唱しても一般人には視えないし聞こえない。

積層構造のせいでいつもより探索範囲が広いため新機能が追加された(マップ)。

淑女と紳士はレストランの2層上から落下した要救助者に銃弾が当たらないよう努めたが、
呼吸と心肺が回復せず奇妙な症状が現れたので後を警備担当者に任せ仕事に戻った。

※北条たちのカジノ観は捏造※
苫篠→サダコ:喋らない生き物。


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野宿編④

前回のあらすじ:
苫篠たちが真面目に見回りしていたと知り、ちょっと後ろめたい北条。




「…」トントン

 

連れが無言でレーダーを叩く。さっきまで饒舌だったサダコだ。

 

「おっ レーダー直った」

「下の階か」

 

あぁターゲット反応が出たヤツな。サダコの示唆に気付く苫篠たち。

今回の星人がマップを欺いたんじゃなくレーダーが故障してたって可能性は…あるのか?

 

「船首も出た。上にも居るじゃん、多くね?今回」

「前回が少なすぎだろ~。どっち行く? 北条は…」

 

一階下の空間に続いて船首の広い空間と徐々に増えてゆくターゲット反応。

…何だか嫌な展開だ。

 

「あれ?」

「あ?」

「これって、ここ…だよな…」

「…」「…」「…」「…」

 

全体マップを縮めカジノ内に絞る。現在地の左横に光るターゲットマーク。

ドッキン ドッキン ドッキン…

慣れねーなぁ、この感覚。

異様に大きく聞こえる鼓動を聴きつつ視界に入れたのはひとつのテーブル。

天板が半円型だ。ブラックジャックか。

シャッフルするディーラーを7人のプレイヤーが見ている。ドリンク片手の表情は笑顔。

ターゲット反応はひとつ、どれか1人が“野宿星人”

 

「Kjaer!」

「ぅえあぁあああああああ?!」

 

何だっ?

見ると叫んでいるのは苫篠だった。近藤に叩かれ黙る。

苫篠の足元にちらちら見える紅い爪が原因か?星人ではないようだ。もしかしてぶつかった?

…。

まぁ普通に考えてそれだよな。星人を警戒して一般人の動きに対応してなかった、というか俺たち通路を塞いでる。そりゃぶつかるわ

 

「No!」「What?」「Holy!」「No way!」「eeeeeeeeeek!!」

 

とかやってたら騒ぎだしたよ件のテーブル。ディーラーと対面のプレイヤーは無言。

というか喋れない。他人にカード束を詰められた口では何も言えない。外れてるよな?あの下顎。

いちばん大きな悲鳴のプレイヤーは無傷。他5人も苦しそうな隣人を助ける気は無いらしい。

ディーラーが“野宿星人”かよ。

 

最初に動いたのは従業員。

俺たちが武器を構える前にディーラーへタックル、というより羽交い締め?

ディーラー星人の右手はプレイヤーの口、左手は首を押さえているので脇下に腕を通し締め上げ、いや全く上がっていない。

ガッ

男ひとりを引き摺りながら悠々とプレイヤーへ顔を寄せ噛みつく星人。箇所は禿頭。

ブッ

ガリィッ

「~~~~~!」

パッと鮮血が散り頭皮を奪われるおっさんプレイヤー。あれは痛い…

頭頂部から額をとおり左瞼付近まで剥ぎ取られる生皮。用済みとばかりに被害者を突き飛ばすと顎下でブラブラ揺れる戦利品をディーラー星人は両手で口内へ納める。

喉を鳴らし大きくなる笑み。喰っている。

 

顎を外され頭皮を喰われ挙句に床へ倒されたプレイヤーに駆け寄る従業員…

ディーラー星人の目が次を探す。

やっと離れた!今がチャンスだ。

スーツの膂力なら被害者と従業員を暴徒から引き剥がすのは簡単だ。でも爆死は遠慮したい。

前回の新規メンバーは一般人に姿を視られ爆弾が起動した、というのがクロノの推測。

一般人に尻餅つかせた苫篠はセーフだったが罰則にひっかからない保証にはならない。

星人以外を消すのも嫌だ。

Xガンは論外だ。人間にしか見えない生き物を壊せるアイツは頭がおかしい。

 

命中させたのはサダコ。俺のワイヤーは大分直進しスロットを。いつも通りに消える星人。

あーぁ、あの筐体ゆかと接合してるじゃん。どこまで転送対象だ?

 

ひっ

スロットコーナーに着くと痴女が居た。思わず蹴り除けた俺は悪くない。

汗でテカテカなハム体女がスロットする客に背後から襲いかかってたら誰でもそうするだろ?

って星人か。ディーラーと大体同じ行動だ。

…恐ぇーよ!今回のターゲット、人間喰うなっ。

スロットのワイヤーを処理し、ハム女を拘束する。

 

「Grrrr...」

 

尻餅をついた姿勢で動けなくなると奴は不満そうに唸った。歯を剥き出した表情は獣っぽい。

転送し振り返ると一般人は溢れるメダルを集めていた。その歯型、痛くねーの?

動けるなら逃げたほうがいいぞ、星人が増えた。チラッと見たカジノマップはターゲットだらけだ。騒ぎでジャズっぽいBGMが聞こえない。

白髪女を押し倒す白髪男。換金窓口に腕を突っ込み悲鳴を上げる女。

禿げた白人オヤジの首を絞めるドリンク係。ディーラー3人に椅子でボコられる大男。

こんなに擬態していたとは。我慢比べでもしてたのか?

 

「動くんじゃねーよ豚野郎!」

 

白人中年の上で銃を構える苫篠。飛び蹴りして乗っかったので相手は聞いてないっぽい。

Yガンで0距離射撃は無理なんじゃ…

それにしても、丸い奴ばっかだな星人も被害者も。いや乗客乗員に多いのか丸いのが。

日本は肥満率が低いってきくし。

 

「うぜー奴らっ 最初っから暴れとけっつの、めんどくせー」

「だな。不意討ち相手も一般人だし」

 

苫篠の愚痴に答えたあと転送中のターゲットからレーダーへ視線を移す近藤。未だ結構居るぞ。一般人と星人が入り乱れているからマップで判断出来ない、面倒な状況だ。

結膜が充血し汗まみれ、なのは襲われている方にも当てはまりそーだから奇声を上げている奴が星人か?肌が灰色とか服がボロボロとか判り易い特徴が欲しい。

顔が血塗れなら確定だが噛まないと星人判定できないとしたら被害者に気の毒だ。

っつか星人なら俺たちを襲えよ!

 

電気虫に似たワンピースおばちゃんを床に押し付ける男へYガンを向ける。

…ん?

あのアメコミTシャツ、さっき助けた男じゃね?

 

 

 

===□□□===

 

 

 

両側にナンバーのみ違うドアが並ぶ通路で人工灯に照らされるのはアロハシャツの老人。

短く言い表すなら真夏のサンタクロース。

直進し彼へ巻きつくワイヤー。赤黒い液体で白いハーフパンツの左部分がぐっしょりと濡れている。空気の抜けるようないつもの発射音は騒音で聞こえない。レストランで聴いた斉射が喧しく響いてくる。あれやってるのエレベーター前なんだよなぁ、移動手段はそのとき考えよう。

それより問題はあの老人。出血箇所は左上腹部の抉れた噛み痕だし胸までかかるボリューミーな金髪髭なんて何人も居ないだろう、さっき助けたお爺ちゃんだ。でも全く怪我を庇わず表情もおかしい。めっちゃ笑顔、と言えば異様さが解るでしょ?

う~

とりあえず保留!2度手間になっちゃうけど判り易い脅威を先に何とかしよう。

 

「雅史先生っ!」

 

亮太くんが指すほうを見ると色黒の幼児が廊下を駆けていた。出てきたのであろうドアは開けっ放し。日本人の日焼けを超えた黒さの肌に涙が光っている。彼にいちばん近いのは僕だ。

続いて向かいのドアと奥の2つが開く。出てきたのは、

星人だっ!

小さな一般人にいちばん近い手前のにやつき顔へ射出口を向ける。

でもそれを読んでいたように視界から消えるターゲットたち。遮蔽物はドア。

そーいや別のターゲットを捕まえられるのかな?お爺ちゃん拘束中だけど。

…。

誰も出て来ない。待ち伏せされてる?あの客室は幼児が出てきた部屋だ。

 

幼児が僕の横を通り過ぎ、奥から戻って来たJJさんが部屋を覗いて顔を顰める。

一旦身を退いてから慌てて踏み込んだ。

 

部屋にあったのは複数の遺体。念のため亮太くんとカヨさんを通路に留めたのは正解だった。

海ではなく内側の施設を見おろせる窓の下に1体、ベッドの前に4体倒れている。うち1体は痩せているから一般人かな?いずれも破損しすぎで生前の造作が判らない。眼球が転がる床でふわふわと揺れる毛髪はかなりの量。5体分の人毛だ。たぶん全て毛根付き、頭皮も付いてそう。全開な窓ではためく破れたカーテン。

彼らの外傷は銃や素手では勿論のこと僕らの武器でも作れない傷に見える。

小蠅や人型以外の仕業かな? そいつの異様に怯えて幼児は通路へ逃げ出した?

 

【それは私が驚いた理由ではない。この部屋を覗いた時、部屋は虫だらけだった。

 色は茶色だ。黒くはなかった】

 

僕の独り言にJJさんが答えてくれる。何か恥ずかしいな、って虫がやったの?

屍体じゃなく生体に寄生する蛆なら聞いたことあるけど、星(虫?)人ならありえるか。

茶色い羽虫は肉食、生きてるお肉も食べてしまう…

喰われているのは表皮下の肉を少しづつ。レストランで出たカラフルな虫は何色だった?

 

「先生、行こ」

 

僕の右腕を叩くのは亮太くん。後ろにはカヨさんも。

僕が考えている間に誰かがやったのか御遺体たちは毛布で隠れている。

?!

…なんだ、何がブラブラしてるのかと思ったら窓の外で揺れるのはJJさんの脚か。

銃口を逸らした僕が近付く前に上へ消えた。上階のベランダに登ったのだろう。

未だ銃声が聞こえる。

 

「空巣みたい…」

 

カヨさん、言っちゃ駄目です。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「これでけつやか?」

 

ああ、やってくれ。

ドーナツショップの扉を閉じ風が自販機で蓋をすると歓声が上がった。ここは飲食店が揃う大通り。マップを見てもターゲット反応はショップ内のみ。ひとまず上手くいったな。

ショップに閉じ込めたのは星人で喜んでいるのは一般人。一部こっちを睨む人は仕方ない。

擬態した星人であっても彼らにとっては身内だ。擬態された人がどうなったかは考えたくない。

 

「君たちは、どういう…?」

 

一般人のひとりが話し掛けてきた、作り笑いと疑惑の視線。

今の俺たちはコスプレ姿を隠している。風はジャージで俺は背広。

シャドーストライプの灰色地に明るい水色が入ったジャージの上下を纏いワンレンズ型遮光眼鏡をかけた風は別人な雰囲気。ジョギングウェアの筈がいつものコスプレより強そーに見える。

俺はよくある形のサングラスに白シャツ、タイと背広の色は黒。

レストランに似た恰好の人たちが居たから有りかと思って。…はずしたか?

ガンツスーツを隠せて身バレしないならどう思われても問題無いな。

ゆびわ星人のミッション中あたまの爆弾を使われたメンバーの違反行為はガンツ武器(あの場合はレーダーか?)の性能を一般人に見せたこと。情報漏洩を禁ずる罰則で縛られた事柄は結構細かいらしい。大勢の前でYガンを使った佐藤さんの行動はセーフだったが(たぶんステルスしたまま使えばどの武器でもペナルティを喰らわないのだろうが)姿を現して使えばスーツの膂力アシストでもアウトだろう。一般人のひとりでも黒い全身タイツと怪力を結び付ければ俺たちの頭は爆ぜて無くなる。

というワケで売り物を拝借してまで変装した目的は怪我人の救助だ。それと誘導する為。

俺たちにはレーダーがあるけど一般人には無い。

ガンツミッションを知らない人たちに星人の居ない場所を教えるには周波数を合わせるしかない。誰が書いたかわからないメモを信じる人は少数派だろうし非常時に落書きを読む保証も無い。

ガンツスーツや武器を見せるのが駄目なら隠せばいい。予想は当たった。平均100kg超えてそーな星人たちを片手で放り投げたり自販機を担いだまま走っても脳の爆弾は無反応。

店内のターゲットはYガンで拘束してある。一般人たちは動転して気付いてないようだが表口だけ厳重に閉ざしても狂った知人や身内あるいは他人を閉じ込めておけない、裏口の向こう側は施錠していないから。

一般人たちに視えないようトリガ―を引くと店内の反応は瞬き、やがて消えた。

 

「普通の一般客…。普通?」

 

今度は風を見上げる一般男性。やっぱ怪力に見える?自販機は自動車より軽いですよ。

 

「…」

「良いじゃないスか古匠さん。ありがとね君たち、助かったよ」

 

鋭い男性が黙り、それよりちょっと若い男性は謝意を表す。応急処置したときも言われたが、むず痒いし心苦しい。傷の一因は俺たちだから。

店内で見つけた包帯を染める血が痛々しい。本人曰く暴徒の銃弾が掠ったものだ。

 

星人に友人や家族の擬態が含まれていた人達はその場や通路の椅子に座りドーナツショップを見つめ、数人は向かいの店へ隠れ、残りの十数人はレストラン方面へ移動を始めた。客室区画へ向かうのだ。マップ上では未だ星人が居るので止めたんだが聞いてくれない。

付いて行くしか無いか。

古匠さん達の移動に気付いた。怪我人と2人だけで船首方面へ行くだと?

 

「はぁ?船首側もだめ?何でわかる 客室区画から来たんだろお前ら そう言ったろ!!」

「古匠さん落ち着いてっ いや僕らも危険だとは思ってんだ。けどレ…っ…連れが居るから

 迎えに行かないと…」

 

怪我してまで逃がした女のコが2人、船首方面のたぶん大型劇場に居るらしい。

俺たちが助けに入る前の話か。

 

仕方ない。

 

風に客室区画組を任せ、俺は船首への同行を決めた。

 

 

 

=========

 

 

 

パラララ…

 

聞いたばかりの音にガラスを砕くものも混じる。

ひとつ上層の柵沿い通路から見おろすと人集りがあった、そこはピザショップ前。

彼らはショッピングモールの一角に朝食を求める集団ではなく店先を弾丸で削っている。

服装は様々。トッピングに蠅でも混ざってたのかな?

 

一層分を飛び降り暫く、ショップ前でマップをチェックしているとドアが開いた。

正確にはフレームだけ残して何が売り物か判らなくなった店構えの奥にある壁、ではなくテーブル?が横倒しのまま鈍くスライドし、見覚えのある顔が覗いた。

 

【ふん、堪え性の無い奴らめ】

【…それじゃあ片付かないでしょう】

 

注意深く気配を伺ったあとシャンと立ち鼻を鳴らす男性、と連れの女性だ。

また遇ったね紳士たち。

ガラス張りのピザショップを家具で強化し立て篭もっていた、で正解?

レストランで集中攻撃されそーになっていたことといい星人にモテるタイプなの?

バリケード作る暇があってよかったね。

紳士たちが店先から出てもガラス片を踏む音は続く。

 

【あっ どうしよう!】

【ど・どうした?!】

 

通路へ出た子供の第一声に動揺する中年男。親子だろうか?…ペアルックだ。

 

【う~ん】

【痛いのか?どこか…。おいっ貴様、医者だったな?息子がk

【ねえパパ、映画は食べたあとだったよね】

【映画?…ああ先行試写会は今日だったな。ちっ、迎えをよこせと言っておいたのに…】

【もう始まるんじゃないの?】

【いやまだ数分あると…くそっ止まってるじゃないか、これだから安物は…

 待ちなさい。朝食がまだだぞ】

【食事はもういいや。ポップコーンだっけ?あれ食べたい】

【映画なんて今度でいいだろ。貸し切りですぐに…なんなら公開を遅らせても…】

【やだっ 約束したじゃんっ】タタタッ

【あっ!

 貴様ら追えっ あの子を守れ!】

【…】【…】

【金なら払ってやるっ!】

 

えぇ~?

子供はともかく中年男はどこまで本気なの?

暴徒がうろついてんのに予定通りなわけないじゃん。

場違いなコントをやめ駆け出した親子に付いていく紳士たち。

レストランとは逆方向に試写会場があるらしい。位置関係はアクアシアター(スタート地点)→回転木馬→レストラン→ショッピングモール→試写会場?→船首か。

ここショッピングモールの両脇と屋上までという船の大部分を有す客室区画のターゲットは未だ点滅中。船首の同じ階にも反応あるけど結構な勢いで減ってるから無難な選択かも。次点はどこかに籠城。おすすめは救命ボートで脱出。あぁ自家用ヘリとか持ってるなら船首か屋上のヘリポートに呼ぶのもありだね。

ペアルック親子もレストランで見た顔だ。朝食を仕切り直そうとここに居たのかな?

今居る階層のエレベーターホールと途中に倒れていた一般人に黒背広が混ざっていたのは見間違いじゃなさそう。

 

そーいや、あれって何なんだろう?

噛み千切られた痕や弾痕のあるヒトは一般人、爆ぜ痕やガンツソードで断ち割られたヒトは“野宿星人”だとして、どちらの状態ともとれない犠牲者を視た。

 

ひとつは(おそらく)窒息。見える位置に目立つ外傷…索条痕や吉川線は無く、顔面の鬱血やチアノーゼもいまいち判別できなかったけど歯や口元・襟・顔が接する床に蠅のまとまった死骸がくっついていた。吐き物に混ざった蠅が涎(?)で飛べなくなり残っているように見えたので「蠅が咽喉に詰まった」と推測。体内に蠅ってことは窒息遺体はターゲット?

羽虫十数匹が食道を遡る姿を想像すると気持ち悪い。しかし(共生か寄生かわからないが)星人の飼っている蠅だとすると疑問だ。体内のどこで死骸になったのか、傷口から出る群れは元気なのに。

視えない蠅を誤飲した一般人の可能性は…いや、それより押し入った蠅を一般人が飲み込めず詰まった状況のがありえそう。

 

ふたつめは体表の異常。最初は薬品でもぶっかけられたものかと思ったのだがよく見ると違った。例えば酸を掛けられた肌が変色後どんな変化をするのか(観察したことがないので知らないが)少量ではなくかなりまとまった量…酸で満たした風呂桶にでも沈めなければ頭皮や足裏・腋の下も含めた全身が同じ症状にはならないだろう。服の傷みが無いのもおかしい。それは水膨れやケロイドではなく、例えるなら罅割れ。酷くなった皸に近い。本来と比べ色の薄まった肌に走る無数の割れ目を想像してほしい。それが全身にでき其々中途半端に剥がれている人(?)体だ。全く出血していなかったから、あれもターゲットなのか。丸いヒトは丸い体型のまま罅割れてたから水分を吸われて干乾びたのでは無さそう。ターゲットの持病や生理現象でないなら今回も指令の星人を襲う星人…“野宿星人”と敵対するクリ―チャ―が乗り合わせているのかも。窒息はともかく全身皸(仮)を起こす攻撃方法って何?

遭いたくない。

 

ピザショップを壊していた乱射魔共は店内を調べもせずに他へ向かったのではなく私が送った。

騎兵狩り以降一般人を狙いだしたターゲットは殆どが嗜虐や食事目的だったはず。

レストランでは噛み千切って咀嚼していたから今日のターゲットは食欲を満たす為に襲っていると思い込んでいたけれど、一般人しか居ない店を銃撃したってことは違うのかも。

立て篭もりにメンバーが混ざっていなくてラッキー。苦情は聞かないけども。

 

この船を手に入れたいのか?“野宿星人”は。




北条→和泉「頭がおかしい」

ガンツ・ミーティングに参加したメンバーたち(とリモート参加の山田)は人間そっくりの星人(学校に出た奴と吸血鬼、今回の野宿星人)を実在する人物に変身した成り代わりと判断している。すなわち野宿星人(だとマップ上で判る者・凶暴化した者)の知人や家族は一般人。
※学校に出た奴=最後のちび星人だったことはオリ主が教えていないので誰も知らない。

(エレベーター前の銃撃戦と関わりたくないため)客室のベランダから上層へ登るJJを老婦人は「空き巣」と形容した。その後は彼女も含め3人とも同じ方法で移動。
山田「星人が弾切れしてから相手をしたい。警備員の人たちが勝ってくれたらベスト」

古匠さんたち(オリモブ)は芸能関係者。



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野宿編⑤


前回のあらすじ:
乗員乗客とガンツメンバー以外に野宿星人をやっつけている存在がいることを怪しむオリ主。



 

===■■====

 

 

 

ここは大型劇場。船首に位置する空間。ここもスタート地点と同様3階分を使った施設だ。

眼下に並ぶ2階席と1階席を含めた収容人数はアクアシアターの倍以上だろう。

後部へ広がるほど高くなる天井の中心にある巨大な飾りはシャンデリアに見えるが今は役割を果たしていない。代わりの光源は陳腐なアクション映画。

そのBGMも本物のパニック劇を扇動している。視界に入るのは間抜け共の阿鼻叫喚。

 

指令の星人から湧いた羽虫の大群を追い300mは走ったと思う。

アクアシアターの2階客席を飛び越え大型客船を二分するメインストリートを通りすぎ

突き当たりのゲート手前で大群の末尾に追いついたのは予定調和ってヤツか。

奴らにとっての目的地に着いたから移動速度が落ちたんだろう此処はターゲットの巣だった。

 

“野宿星人”は一般人にも視えるらしい。

1階のステージと客席の間で首が飛んだ途端、悲鳴があがった。

ステージ上に生首が増えるたび大声が増え今は近場の会話すら聞き取り辛い喧しさ。

 

動かない奴・席を立つ奴・移動する奴…

会場の暗さも手伝って俺の位置からじゃ大きさと体型そして行動しか分からないが、先ず一階のステージ前に陣取るメンバーこと和泉につっかかってる連中は星人だ。倒れるたび靄が立ち昇る、銀幕を遮る影は小蠅だろう。

3ブロックに別れた座席のうち中央ブロックの観客はほぼ全てが和泉1人を囲んでいる。

両隣のブロックは包囲に加わる奴と逃げる奴が半々くらい。1ブロック200席ちょっとだから星人は400匹以上。それを一匹づつ斬首する和泉。初期位置から殆ど動かず順次処理、首を飛ばして残りを蹴る。機敏で無駄のない動きだ、得物が只の刀なら。

 

雑魚だからって遊ぶんじゃねーよ、ワンキル縛りか?余裕だな。

どーせ1匹1点だ、ブレード伸ばして刈っちまえ。20mくらい余裕だろ。

一度振り回せば終わるのにやらないなんて時間の無駄だ。

まさか群れに混ざる一般人を気にしている、なんて言わないよな?お前そんなキャラだっけ?

 

惨状から逃げない馬鹿や囲みの外周部で撮影・通話中の間抜け共なんぞに価値は無い。

1匹2秒弱で片付くなら支障は無いが星人が逃亡を選んだ場合ペースを維持出来なくなる。

俺らを認識出来ない一般人を巻き込まずに闘いたいなら時間制限無い時にやれ。

効率に縛られることが退屈でもルールを軽んじては本末転倒だ。それに他の懸念もある。

 

判別し難いのは席を動かない客。

やっぱり面倒だな、外見にクリ―チャ―要素が無いと。

劇場の最上階こと3階に陣取る観客は座ったまま。近くの敵(=俺)は視えず和泉は2層下で無双中なせいで行動を迷っているのか、興味が無いのか。隣と会話したりケータイを弄ったりステージ前の騒ぎを罵ったりは(たぶん)一般人。うるさいのなら他へ行け、上映中のマナーなんて既に誰も気にしちゃいない。

 

1階席で斬首を撮影する間抜けが倒れ2階席でも騒ぎが起き、それらの原因を知ると野次は止まった。あれがかっぺ星人みたいな仲間割れじゃないのなら“野宿星人”は一般人も襲うらしい。

人間を転倒させ喰らいつく人間(?)。

!!

悲鳴の発生した後方を見ると出口へ続く階段に寝そべる外人が。

上半身と両脚の距離が離れ頭部が無い。気付いて腰を上げる観客も次々と脳漿や臓器を撒き散らす。スクリーンからの光を反射しキラめく液体。

 

俺たち以外にもメンバーが居るらしい。

あの音が聞こえなかったってことは遠くから…同じ階の右翼か左翼端からの狙撃か、周りの声で聞き逃したか。

劇場に着いた当初はスクリーン側真ん中の最前列付近に集中していたターゲット反応が今や劇場全体に増えている。一般人と“野宿星人”の違いは今のところ血液の有無と虫を出すことのみ。

姿を隠し安全に倒したいのは解るけど、やっちまったなぁ。全部ハズレだぜ殺人犯。

偽善者の仕業だったらお笑いだ。

 

そうこうする間も“野宿星人”は手ぶらで正面から和泉へ向かっては斬首される。

何匹死んでも敵わないことに気付かないほど盆暗なのか、或いはほかの目的か。足止めならば何を待つ? 

羽虫が態と俺たちを劇場へ誘い込んだのならこのまま終わりはしないはず。

広い劇場内に異形や巨体は見当たらない。それっぽい像も無い。道中の通行人同様人種の坩堝ではあっても人間(とそれに似た外見の生物)しか居ない。周波数を変えている俺の目にも映らない星人が居るなら話は別だが。

 

映画の明度が下がる程にスクリーン前を上る幾筋もの靄・動物的な悲鳴・押し合い倒れる人間やモドキ。出口に近付けず和泉へも向かわない奴らは座席の下で息を潜める。殴り合いを始めた奴らは一般人同士なのか違うのか。気楽な現実逃避中に断頭(または階層)と乱射(しかも両方犯人不明)に前後を挟まれ、おまけに食人鬼まで居る状況で出る発狂者としては少ないか?

それにしても、ちらちらと目に付くあれ、星人の死骸に接触してる奴らは何なんだ?

頭の落ちたほうを指し何か言っている。ひょっとして“野宿星人”は仲間を蘇生できるとか?

指令にあった“しなない”ってそーゆう意味? 

 

作業に飽きたのか休憩か、座席上で直立し顎を上げる和泉。

 

ああ、あれか

 

スタート地点で見た大きさの数倍に成長している、広い天井全体に犇めく雲…

天井画とシャンデリア、半円状に並ぶ照明を覆い圧迫感を増す生きた靄、

あれ全部小蠅かよ。

ターゲットは殆ど虫飼ってたから、としても多い。鳥肌が立つ程に。

隙間から入り集まって来た分も含んだ群れか?

…これは期待できそう

和泉が座席から降りた瞬間、馴染みのある音が微かに聞こえた。

密室で数百人が発すかなりの騒音に紛れなかったのは偶然か。

死体の振りでもしていたのだろう背後から忍び寄り和泉が移動したことで見えた老婆が意外な速さで腕を振るう、そして四散した。よろめき歩く下半身。

その背後で爆ぜる生首や死骸は合計3発分。

 

崩折れ一際多く噴出した靄でスクリーンを遮ったのち同類に折り重なるターゲット。

それを一瞥もせず右上…最上階の右翼端を睨む和泉。

 

(おぉいっ外したぞ下手糞!)(おめーもだろっ)(撃て撃てっ)

ギョーン ギョーン ギョーン ギョーン…

 

狙撃した奴は同じ階に居るらしい、すこし遠い声。ケータイの光にスーツのものも混ざっているようで詳しい位置は判らない。マジで邪魔だな一般人。

ターゲットには当たった、から…あいつらマジか?

明らかに和泉狙い

 

ドンッ ダンッ

 

黒い人混みから飛び出し一階の通路へ着地する影2つ。

肉薄するターゲットを無視し開いた席へ飛び込んだ獲物に勝機を見たのか距離を詰める。

時間差で爆ぜる肉塊・座席・床。小蠅と埃で曇る現場。

和泉を消したいメンバーって…ああ、そうか。あいつらなら後2匹居る筈だ。

 

2階席経由で合流した仲間へ振り向く間抜け。こっちを指し何か発するデブ野郎。

右腕を失くし尻餅をつく馬鹿。とどめの前に群がられ、そのまま雑魚に喰われるようだ。

断ち斬られたってことは、おシャカになったかあいつのスーツ。

 

間抜けとデブへも群がる星人。

包囲されてビビッているうちに上から和泉の襲撃を受け人波に消えた。

…。

いつの間にやら一階席がターゲット専用スペースと化している。一般人は喰い尽くされたか。

 

実験がてらデブを蹴り落としたのは俺。2匹の出発地点で柵に乗り出しスコープを覗いていたから簡単だった。背後も注意だぜ?素人共。

乱戦中を遠くから狙うのは名案だ、というより雑魚にも勝ち目のある唯一の手だった。

しかしガンツ装備への理解が足りない。メンバー殺しをやるには早い。

強い駒を消すならミッションの勝ち筋が見えてからにしようぜ、仕返しが成功してもターゲットに殺られちゃあ無意味ってもんだ。

 

前回からの新規メンバー3匹を危なげなく下した和泉が駆けだす。

後に残った現場には妙な動きの星人共。数匹で襤褸きれを広げ丸いものを投げ合っている。映画に照らされた表情は笑顔。ボールは…バカ3匹の頭部、掲げる布はガンツスーツのなれの果て。

示威行為だろうか。

和泉が馬鹿たちのスーツを壊したから勝てたってのに滑稽な…

 

敵を追わずボール遊びに興じるターゲット共を放置し、俺も出口へ足を向けた。

 

 

 

… … …

 

 

 

(どっちからか分かるっ?)

(え?え?)

「…誰だか知らないけど 余計なことしてると死ぬよっ!どっか行きなっ!!」

(!?)

 

「あっはっは、こっえ~、強がってんのも今のうち~ってか」チャカッ

 

こっちも揉め事か。

劇場を出てすぐ、聞こえた大声は奇妙な脅迫。

劇場の3階出口を開き床の隙間を覗くと歩みを止めない長髪の向こうに見えたのはガンツスーツの男、とそいつの横に2名。メンバーではない。

気付かない男へ和泉は刀を振りかぶる。

 

(おい)

「あ?…!

 なっ ぅおっ くそっ ちょっ 待ってくr

ブッシュウウウゥゥゥ…

 

4・5撃目で胴に別れを告げる首。

暗い劇場よりは視えたが振りが速くて判別しづらい、けど多分その回数。

着地音で勘違いされないよう階段を使って現場に着くと待っていたかのように首無しスーツが床へ倒れた。あの男は和泉にケンカ売った無謀共の連れだ。妥当な末路である。

移動すら出来ず台詞の途中で終了とか雑魚すぎ、そんな下手すりゃ今日のターゲット以下な身体能力もアレだが、和泉を待ち伏せてたんなら一般人に目移りして背後とられるとかバカだろ、何がしたかったんだ?

なんて少し興味が出たけど当人共にはもう訊けないし頭の悪い奴の考えを聞くのは殆どの場合時間の無駄だ。

問題は…

シンメトリーな内装の左階段を背にした女2人は足元の新鮮な首と処刑人に無反応。

本当に視えていないらしい。

 

「何言ってるの?何なの?」

(…ちっ、よりによってこんなときに…)

「は?」

 

訝しむ表情で問う白服女へ答えず周りを警戒する青服女。

白服は何故か露わな左肩と下着を押さえる際どい姿。青服のワンピースは無事。

両方高校生、だった筈。青服はともかく白服は有名人。TV観なくても殆どが知ってる… 

ってそんなことはどうでもいい、

おかしいのは青服の態度。あの女もしかして…

 

「話は後。逃げないと」

「あ ちょっと」

「言うこと聞いて。死にたくないなら」

「死?え?」

「はやくっ」

「待って、戻るの?ここのほうが安全でしょ?銃声も聞こえないし…」

「視えない奴が居るの!何でわからないのっ!!」

「? さっきからわけのわからないことばっかり…もういい。付き合いきれない!!」

 

青服の手を振り払い言い返す白服。

生首はギリギリ踏まれていない。足元から白服を見上げる渇いた瞳、

っつか白服女の服破いたのってまさか…

青服たちはターゲット共の暴動を避け逃げてきたようだ。襲われたなら此処でケンカは無理だろう。

 

「ふん、どうでもいい」チャキッ

 

喚く青服たちから視線を外し劇場の出口へ向きなおる和泉。暗い角穴から異音が漂う。

 

なるほど

イレギュラーの処置なんて後回しでも問題無いか。

 

装備無しではムリゲ―だ。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

パラララララ ラララ…

ビシッ ビシビシッ チュインッ ガガガガガ…

 

舞い泳ぐCG魚と庭園を見送り、ホームドアが左右へ開くとそこは戦場だッた。

隣接する廊下の右に居る誰かと左に居る誰かが実弾を撃ちあッているらしい。

もしくは俺たちを待ち伏せか。とりあえず超ウルセ―。

 

周波数変えたから俺たちを狙ッて撃つのはムリなはず、でも射撃が途切れず出られない。

伏せた岡崎と跪いた桜丘たちに見上げられる。這い進ンでみる?

こンな危ない出口を試す意味ッて

 

「Why doesn't it stop?!」

「It's a waste of bullets!Shoot both legs of your opponent!!」

「That is a monster!!」「Fuck you!!」

 

銃声に混じッて罵声が聞こえる。内容は解らない、でも呻き声や笑い声ではない。

ッてコトは正気の一般人かもどッちかは。

外国の警備員は過激だな、いや両方星人じゃない可能性もあるけれど。

レストランで撃ッてきた奴らがミッションとは無関係の犯罪者なら…

シージャックとガンツミッションが偶然ダブッたとか? テロの一種や営利誘拐もありえる。

何にしても被弾は恐い、弾切れを待つか。

……

………待ッてる時間が勿体ない、上を片付けよう。

 

 

… …

 

 

「…ッ」

 

カゴが停止し再びドアが開いた場所は今まで見てきた内装とは違うコンセプトなのか近未来的で広さもあるフロア。ここで争ッた跡なンだろう散らかッた床に奇妙なモノが。

破壊されたマネキンだろうか、妙に小さい…

他に何も居なかッたので半透明な壁をつなぐ柱へ寄り、外を覗くとプールサイドだッた。

 

こッちはだいぶ混ンでいる…

 

船の屋上にプールッてどーなの?

普段なら呆れるか笑うだろーけど今はそンな気分になれない。

岡崎は左手で口を押さえ、前回からの新規メンバー(浦なンとか)は顔を背ける。

両サイドに設置された2種類のプールに挟まれた空洞…エレベーター内から見えた庭へ日光を当てる為だろう縦長の空洞以外を埋め尽くす勢いで倒れている無数の物体はさッきと同じく人間ッポイ何か。

見たカンジは制作中の木像。全身にクレーターが出来ているらしく等間隔でゴルフボール大に抉れた素材は赤黒い。頭部は頭蓋骨とその下まで削れ中身を晒している。手足は下手くそが造った木刀みたいで先端パーツは欠落。服を着て(?)いなければ人間…いや、人型だッたとはとても思えなかッただろう。 

額から小鼻を通る水分を感じる…体温調節のためではない…

指令のオッサン同様、服や床に血液が全く無いから星人の死骸だ。

どうヤッたらこンなコトに?

 

「見てっ」

「ぅわっ」「ひっ」

 

桜丘の指す方、後にしたばかりのロビーを振り返るとアレがいた。

壁一面にびッしりと。

うん“野宿星人”は虫に関連あるらしい。蠅ッポイ羽虫は腐るほど見たしな。でも、

アレは出ないでほしかッた。

 

「…」「…」「…」「…」ゴクリッ

 

バ”バ”バ”バ”バ”バ”バ”バ”バ”バ”

ぅおぉおおぉぉおおお?!

 

ゴキブリ(×???)の攻撃!

クロノの精神に50のダメージ!ッてか?!

エレベーターホールの外壁をうめ尽くしていた羽根ゴキが俺たちに殺到した。

両腕や肩に断続する衝撃。ひとつひとつはゴム鞠がぶつかる程度。でも相手がゴキブリ(大量)だと思うとちょッとした恐怖。

とか何とか強がりつつも為す術無く攻撃を受けること数十回、幾度目かの短いインターバルが来る――ここだッ

ギョーンッ

タイミングを合わせ突き出したXガンのトリガ―を引くと漸く羽音が消え去ッた。

 

「やった?」

「…はぁッはぁッ…ふう」

 

ガードを下ろしつつ呟く桜丘。答えるのはちょッと待ッて。

命中してても数匹じゃね?かるく数百匹は居たから。焼け石に水だし。

はァ…すッげェドキドキしてる…

 

「あっ、あれって…」

 

塔のような建物にターゲット反応が出たので、空洞から響く銃声を警戒しながら向かうと途中に残骸を発見。翅と脚と腹と、頭だ。道しるべの小石よろしく点々と続くゴキブリのパーツ。

…頭の小さいゴキだなぁ。

小蠅と違ってXガンが効くと判ッたのはいいが効率が悪い。次は100点武器でいくべきか。

 

そんなことを思いながら俺は扉を押し開けた。




西くんと同じ階の入り口から大型劇場へ入った(富岡を除く暴行犯)3人は扉を閉めてから間近な乗客を撃った。入場直前にチェックしたマップでは劇場内を星人が占領しているように見えたこと、外見で一般人と区別し辛いことから通り道周辺の人影をXショットガンで倒し移動。階下で目立つ和泉を発見。

西くんの実験:ガンツメンバーに対する直接攻撃。

白服女は衣装の破損をサイズのせいだと思っている。


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野宿編⑥

前回のあらすじ:
大量のゴキブリ()を撃退し塔へ向かう玄野たち4人。
※玄野たちがスル―し山田たちが後回しにした銃撃戦は同じもの。

(2021/3/9、登場人物の行動を修正)



=========

 

 

 

ショッピングモールが終わり巨大な円柱を迂回すると生存者が居た。

大きな観葉植物脇にしゃがむ背中は、なんだ紳士たちか。

頭数は同じだが連れの2人が変わってる。さっきの親子は?逸れたの?

4人は会話中。内容はわからない。彼らの見つめる先から発生するかなりの騒音で聞こえない。

 

両脇に観葉植物を飾った短めな連絡通路の先は広間。

派手な壁紙と調度・階段で飾られた天井の高いロビーを荒すのは……ドローン?

飛ぶ音はそっくり。

あのオモチャが黒球メーカーに魔改造されたらアレくらい動けるかも(笑)遠隔操作できる100点武器なら是非欲しい、なんて願望入りの冗句は置いといて。

実体の判らない速度の何かが大量に飛び交い損害を増やしている。

なるほど「ロビーへ踏み込む→即ミンチ」を警戒して紳士たちは部屋の外で様子を伺っていると。

…逃げるって選択肢は無いのかな?

加藤と見せかけ和泉タイプか?あの連中。

 

ミキサー内のような戦場で耐えるのは2人、いや4人か。

丁度中央辺りでガンツソードを振る全身タイツ、と黒背広。その足元にうずくまる奴が2人。亀姿勢の服装はさっきの親子と同じもの。

って、あれ?紳士たちも警戒してるってことは不可知化されてないの?あの未確認飛行物体。

 

目が慣れてきた。

 

猛威を奮うのは機械ではない、虫だ。

ブビビビビビビ…と機械的な騒音を発する昆虫は胴、と形容して正しいのか頭から胸までがヒトの頭部ほどある姿が黒いブレードと火花を散らし

ギィンッ

と鳴った外殻はかなりの強度。

翅で床を擦りホバリング、膝丈で滞空し同胞を避けながら上昇。

 

衝突しろよ面倒な。速度違反だ、ぶつかっとけ、

とか思っていたら視界の隅で事故が起きた。

 

4人と8m程離れた床に転がるデカ虫1号、そいつより通路近くでバタつくデカ虫2号。

天井付近で接触したらしく軌道を乱したものも数匹。ギャリギャリ鳴ってるが落ちてはこない。

ひっくり返った体勢を戻すも飛ぶ前に分割される1号、左翅を失う2号。刈ったのは和泉。

止まっていれば刃が立つらしい。

まぁ犬サイズの昆虫つっても所詮は空飛ぶ兜蟹。飛翔時の耐久力が異常なのだ。

って星人だから何でもありか。同胞を避ける反応速度で刃を受け流していたのかも。

 

翅と頭は蜻蛉だが腹が短く全身黒い、トータルでは蠅っぽいデカ虫も擬態で乗船していたとしたら古代虫の展示室まであるってことか?この客船。

でも標本が動きだしたって設定にしては数がおかしい、多すぎる。

古代生物なら化石だろう。

 

デカ虫2号に止めを刺した姿勢で浮くロン毛。腹に体当たりを食らった様子。

しかしタダで倒れないのは執念か、襲撃者を離さずブレードで抉る。

流石ミッション大スキ変j ん?

和泉の腕から虫の頭がころげて消える。床を鳴らす前にバシュッと。

盗ったのはデカ虫。

前脚(?)と牙で固定した同胞のパーツと飛び去る、と同時に仰向けのロン毛へ群がるデカ虫3匹。

急上昇した和泉は天井到着前に落下。凹んだ床からふらつきながらも立ち上がる。

 

中央で天井を見上げる黒背広、着地(?)場所で同様の和泉。

降りて来なくなったターゲット共は天井で休憩、してはいない。高い位置で旋回している。

窮屈そうな密集隊形で。

…?

もしや敵に接触してまで持ち去った死骸と何か関係が?

床に転がっていた2匹分のパーツもいつのまにやら消えている。

 

モニター越しの視界が塞がれた。

Xショットガンの射線を遮ったのはカジュアル紳士のジャケットだ。その背中が遠ざかり白カーディガンも付いてゆく。

向かう先はペアルック親子たち。中年男は上半身を起こしキョロキョロ。天井を見た表情は変わらず左右へ転じ子供を担ぐ。

虫が視えていないのか? 怖かったのは増える破壊と二次被害?

 

子供を右手で抱えこっちを、連絡通路を目指す中年。

それを見て奥の扉へ向かおうとした紳士は淑女と中年の左手に止められた。

あぁ「依頼」とか言ってたクライアントか?あのペアルック親父。

おっと…

紳士たちの近くに黒いパーツが落下。床を滑り前を横切っても一般人たちの目は追わない。

本当に視えてないようだ。

…当たったら怪我してたかな?

 

更に降る外殻の欠片をブレードで弾く和泉、避ける黒背広。

意外と命中したよXショットガン。効くとわかったことも朗報。増えた破損は不可抗力

 

「佐藤さん!…無事でよかった」

 

は?

親子を追いこっちへ駆けて来た黒背広に話し掛けられた。

おまえ加藤かよ。

何なのその恰好、人知を超えた達人護衛と思ってたわ。

一般人に知覚出来ない武器で不可知な高速飛行物体を弾くとかすっげぇ~~~って。

ありえなかったね。

言いながら彼は瞳を潤ませ拭う。デカ虫はそんなに恐かったのか。

 

「ここには和泉しか居ない。他のメンバーは客室区画、じゃねーかな?

 前回加わった奴らはやられたらしい、けど…。…」

 

「けど」何だよ?言い掛けてやめるな。

と思いつつマップをチェック。

十数分前よりターゲット反応が少ない。客室区画のロビーだろうか他よりちょっと広い空間と屋上?甲板の塔、その最上階に残っている模様。

レストランみたいな状況なのか、ここと同じようにデカ虫と交戦中か。

残り時間は10分。

 

「あっ!」

 

踵を返しロビーへ向かう加藤。戻ると危ないよ、デカ虫がアタック再開したから。

集中攻撃されているのはガンツスーツ着たロン毛、を助けに向かわず左折する長身。

Yガンを試しに行ったのか?

ガンツソードに耐える飛翔中の翅にワイヤーが負けなければ有効かも。

和泉の牽制で虫が失速した瞬間にワイヤーを届かせれば或いは。

 

ロックオンしているとモニターに入る痩身。

連絡通路へ駆けこんだのは加藤と1人の女のコ。

いや、彼は人間を抱えている、横抱きで。

怪我人は純白のリゾートワンピースから珠のような四肢を晒す美少女だ。

気絶の原因だろう頭部の傷だけでなく上唇すれすれまで覆った布で顔の造作は見えないけれど美少女な雰囲気。

2人ともガンツメンバーではない。彼は彼女たちを思い出して戻ったようだ。

…何してんの、加藤。

 

彼らにデカ虫が付いて来ない。周波数を変えている? でも透明人間のままでは紳士たちと合流できない。彼らも彼女たちの存在を知っているとしたら安否を確認するまで避難しそうにない。

加藤の斜め後ろで歩く青(色のワンピースという)服(装のこちらは顔面丸見えだからわかる勝ち気そーな美)少女が手にするのはYガン。

背後を警戒する彼女がデカ虫を捕まえるまでもなく3人は紳士たちの元に辿り着いた。

青服少女がガンツ武器を装備しているのに加藤のデスペナ用爆弾が作動していないってことは

 

ドンッッ

 

紳士の視線が加藤へ向く前に轟音が響いた。

 

 

 

… … … 

 

 

 

ジリリリリリリリ…

 

音のあと船が数度揺れたものの今は収まっている。鳴り響くのは火災報知。

船の被害は深刻らしい。避難所から救命ボートへ移動しろって放送も。

沈没に巻き込まれたならガンツスーツを着ていても無意味だろう。試したくない。

 

「何だよあれ、かってぇ…」

 

ロビーへZガンを向けながら呟く西。

大穴から溢れ出るくっさい煙を気にしていない。どこまで陥没したのやら…

不可視の大槌を喰らい一旦視界から消えたデカ虫共は何事も無かったかのように戻り滞空中。

いやさっきまでのデカ虫より若干大きく複眼が赤い、強度も違うから別種かも(複眼が赤くないデカ虫には特典武器を使ってないが)。

倒れたロン毛をデカ虫らはシカト。警戒する意味が無くなったかは姿勢や角度で判らない。

インパクト時、和泉は隅に転がっていたのでZガンで欠けてはいないはず。

ウエイトよセンパイ、撃ち方待て。クリ―チャ―の居る船内で水泳なんて嫌だから。嫌だよね?

出火位置によっては既にヤバい。Zガンはハイリスクと実証された(←悲しい)。

時間切れのペナルティーはマンガ設定より厳しいかもしれない、でも今すぐ退場よりは希望がある。和泉をやったのは奴らだ、正面対決は無謀。ステルスが効いてるとしても通路の真ん中に立つのは危ない。端に寄りたくないのなら奴らの高度より頭を低く

 

ヴ”ン”

 

背を押す圧力、迫る床。へんな羽音(?)は遠ざかる。

ドキドキ…

悪寒を超えた不快感が体表を走る。鳥肌すっげぇ。今のところ痛みは来ない。

思い付くのが遅れていたらヤバかった。

うつ伏せのままロビーを見る。さっきまでの敵影はキレイさっぱり消えている。

群れで移動か、あの一瞬で

 

「おい」

 

横を向くと目が合った。

同じくうつ伏せなセンパイだ。続けて睨むのは背中、にのってる小島の腕。

はいはい、すぐに退けますよ~って、動けない(笑)今頃なのか武者震いぎぎ。

 

西のパーカーは破損している。フードの先っちょとジャージに掛かる裾が不揃い。

首のボタンも点滅して……あ、小島のスーツも同様、じゃない。液漏れしている。

センパイのZガンも後部が短くなってパチパチいってる~…ヤバそうだったら窓から捨てよう。

無事で嬉しいなぁ小島の右腕。

センパイどついてそのままだったからデカ虫にちょっと触れたんだろう。

風圧だけでガンツスーツを壊したんなら恐すぎる。数分でも痛いのは嫌。

 

「死ぬぜ?加藤たち。…もう死んだか」

 

知人の末路を決めつける言葉は、うつ伏せのままコントローラーをチェックするセンパイの指摘だ。

その発言は加藤たちを心配してるととればいいの? そんなに盾になりたかった?

彼ら怪我人一行は和泉が戦闘不能になる前、避難放送の前に救命ボート乗り場へ向かった。

順調なら着く頃だろうしデカ虫らは余裕で彼らに追い付くだろう。何もしなければ君の予言は現実になる。特典武器の効かないターゲットを加藤が倒す術は無いかもしれない。

しかしそれを私に言われても困る。君だって彼らを守る為に途の真ん中で棒立ちしてたわけじゃないだろ。点数のためだよね?あとタイムリミット。

 

「これからどうなるんだ?」

 

震えがマシになったので仰向けに転がり鉢にぶつかったところで響く問い。

それも私に訊いてんの?

こっちはスーツ壊れ(たから離れると周波数変わっ)てて君を視れないんだぞ解ってる?

今日はエリアが外国だからミッション終了後が気になるって意味なのか?

心配しなくてもいつも通りでしょう途中までは。

黒球部屋へ戻って採点。時間切れなら点数没収。間違ってても知らん。

 

「さっきの虫は何なんだ?誰も殺せなかったのか?」

 

「何」って、マップに表示されてるからガンツが指定するターゲットじゃん。

落ち着いていると見せかけて混乱しているのか?センパイ。

通り過ぎて行った赤眼デカ虫をメンバーの「誰も殺せなかった」のか訊いてるなら知るワケない。メンバーの居場所すら把握していない。

つーか過去形にするな、未だ終わってないから。

 

西を放置し船尾へ向かう。

更に何か言ってたがもう知らん。知力キャラなら自分で答えを出せ。

転送まで暇だろう、床から起きる気が無いんなら。

ほか2箇所のターゲットには手が回らないが近場だけでも間に合わせる。

メンバー達の対応力はいまいち判らないけれど(時間切れ)罰則への危機感だけは信じてる。

 

うあ~ショットガンかさばる~

100m程移動した地点で(危機一髪体験やら何やらで忘れていたチャージショットのトリガ―を引いた後)射撃姿勢をとる。スーツアシストが無いので体育座りの変形だ。

生身狙撃は初体験だがやらないよりはマシだろう。来たれ火事場のなんとやら。

肉眼とマップで予め位置を確認しない標的も初かと思いつつ壁・柱・階段その他を透過し…

映る。

黒地に白く浮かぶ蜻蛉、っぽい蠅(?)が。

重なっている分を含め数十匹。他所の分が合流したか。

船の側面へ向かうほど増える二足歩行の骨格へ虫が接近、四散する。

よっしゃ効くじゃん。

それに初期(?)デカ虫へのロックオンが有効ってことはマジで赤眼は黒眼の進化

 

ズシンッッ

 

最悪の想像を振り払ってターゲットを定め深呼吸のあと息を止めた直後、足場を襲う大きな縦揺れ。内臓が偏る感覚

 

ガシャ―――ンッ

 

あ?

 

ドンッ

 

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

ここは避難路の終点。他より少し狭い通路。子供も大人も大声で、耳がバカになりそーだ。

皆がんばったんだなぁ。元気な人がこんなにたくさん、

最後の扉を押す中年男性。白い服のコは未だ気絶。青い服のコが心配そうに彼女の顔を見つめている。

船の側面に設置されていたのであろう頑丈そうな囲型救命ボートはクレーンとアームで支えられ乗客を待っていた。乗り込んでから海面へ降ろすようだ。

手強くて大きな虫を思い出す…

船外までは追って来ないと思いたい。

 

「あの…」

 

白服のコを座席に横たえ立ち上がると青服のコも席を立った。何だ?問題か?

 

「えっと…」

 

視線を向けると言い淀む。俯いた顔色は判らないが耳が真っ赤だ。

捕獲銃を手放したから不安なのかな?このボートにも照明弾くらい付いてると思うが…

俺は白服のコをロビーから運ぶとき青服の彼女に捕獲銃を貸した。

ソードの効き難い相手にどこまで通用するかは不明だったが目暗ましにはなるだろう。

素早く通路へ戻るには俺が怪我人を持つ必要があったし青服のコの細腕で扱えそうな武器は捕獲銃だけだった。

自身の頭蓋骨(?)内で何かが爆発するのは恐かったけれどミッションに巻き込まれた人がターゲットに殺されるなんて理不尽すぎる。

渡す時「捕獲銃」を「照明弾」と伝えたのが正解だったのか、俺の爆弾が作動する気配は無い。

 

「そこに居ると避難が止まる。戻るか残る、はやく決めろ」

 

!!

外国人男性の指摘で気付く。なんだか覚醒し直した感じだ。

そうだよ!時間が無い。恐がっている暇なんて無いんだよ俺たちには。

自信が無くても動かなければ最悪の想像は現実になる。

お蔭ですっきりした、ありがとう。

 

「Un?…こちらこそ」

「あ…」

 

男性たちへ頷いてからボートを出る。後続に何か言われたが言葉がわからない。

英語とは違うような、まぁいいか。少し道を開けてくれ。

 

広間に出た大きな虫は和泉と西、佐藤さんが居るからいいとして、他の状況はどうなった? 迷惑そうな顔の乗客たちを突き飛ばさないよう移動しながらマップをチェック。

船首区画のターゲット反応が消え、同じ階層を縦断中?

通路を曲がり狭まる距離。耳へ届く不吉な騒音。

急いで周波数を操作する。

 

ヴ”ン”

 

左右へぶれて迫る影。ソードを振ったが手応え無し。

背後で迸る液体。疑問の声と遠い悲鳴。ぶつかる何かを弾く背広。逆さで俺を見る碧眼。

視界に入る裾が赤い。辺りを翳める霧のせいだ。

っ!

振り返る途中に傾く視界。依れそうなものが近くに無い

 

バババババババババババババババ

 

緑、黄、黒と変わる靄。血臭に混じる青臭さと土の匂い。倒れる前に爆ぜる鉢植え。

照明が壊れたか、靄が晴れても暗いままの通路を漂うのは赤い光点。

 

熱っつ、うぐっ

左脛と右脇腹に激痛。スーツは故障したらしい。一撃でこれって反則だっ!

転がる度に増す血臭。出血を止める暇が無い。迫る殺意は5つ分。煩い羽音はそれ以上。

さっきより動きが遅い?鈍いような。眼が光るのに視えてない?

ぅわっ

ゴッ

3方からの風圧で反転する床と天井。眼に異物感と頭部へ衝撃。

被ったモノをそのままにして呼吸を止める。

 

静かだ。

 

光点も消えた。Xガンは持ってないから

 

……佐藤さん?




和泉は広間に放置。

西くんは通路に放置。

加藤を襲ったデカ虫をやったのは最後のチャージショット。


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野宿編⑦


前回のあらすじ:
ガンツソードでデカい虫を迎撃した加藤は通路に倒れた。




 

===◇○○===

 

 

 

一段暗い明るさだ。

太陽光と蛍光灯の違いだな。

現在俺は帰還途中。球面からのびるレーザーがヘソ辺りを描いている。

船上に残る下半身に衝撃は感じないが床の感触はある。今更だが不思議なもンだ、転送ッて。

残りは脚先。ブレードの切先は尖り特典武器のコードが腕に触れる。

 

「…時間切れ?」

 

こッちを見る山田。その隣で指を曲げ伸ばすのは小学生。俺に訊かれても困る問いだ。

他もターゲットが残ッているのに転送されたクチか。答えるメンバーはいない。

北条は俯き浦中は両掌で顔を覆い桜丘は俺の左手を握る。静まりかえる室内。

 

「えっ もしかしてやばい?」

「!」

「いや、何か起こるかもって話。球の表面にも出てるけどレーダーのカウントダウンタイマー

 転送される前に0だったでしょ。ミッション失敗なら……ペナルティーが、あるかも」

「ペナルティー?」「…」

 

沈ンだ雰囲気で気付いたらしき苫篠の質問に答える山田。

いやソレも懸念のひとつだが俺と桜丘・浦中が落ちてンのは別の理由。

 

「未だなのは加藤とJJと4人組と、ばあさんと…」

「あ…」

「へぅ」

「?」

「ふぇぇぇぇええええええええええん」

「…」

「びぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”…」

 

部屋を見回し呟く北条。泣きだした亮太を山田が抱える。え、また…?

 

「でっかい虫に。JJさんも…」

「っ」

 

山田の証言に息を飲む風、ガンツをチラチラと見る。俺も不安になッてきた。

 

「岡崎もやられた」

「岡崎くん…」「岡崎さん…」

 

アイツはデカイ虫に腹を断ち割られて動かなくなッた。即死だ。

あの4人もヤられたンだとしたら仏像以来の大被害

 

「リーダーも?」

「おいっ」

「かもな。偽善者プレイ張り切ってたし」

「なんか知っちいるんか?お前」

 

苫篠の疑問に答える西。しゃがんで床へ落としていた視線を風へ向け笑みをつくる。

 

「時間ねーのに一般人のお守してたぜ。死ぬのが順当だ」

「…」「…」「…」

 

人型は弱かッたから他の脅威…終わり間際に出たオバケ蠅は加藤のトコにも出たッてコトか。

片手間でアレの相手はキツイだろう。でも

 

「あいつは簡単にくたばったりせん。そげな無責任な奴じゃなか…

バンッ

「ガンツッ!!」

 

うわ、ビックリした。

奥の部屋から出てきたのは和泉。堅い表情で西の前を横ぎる。 

風が良いコト言ッてンのに何だよ?バイク部屋で何を

 

「次だ はやく次を転送しろ! っあいつを出せ!!」

 

黒球の右横に跪き片手を中へつッこむ和泉。左手のソードまで使いそーな剣幕…

「あいつ」ッて誰だよ、あと戻ッてない奴は…

へ?

そーいや居ないじゃんアイツ、まさか…

 

ジジジジ…

 

球から出たレーザーが黒い頭頂部を描き始める。高さは俺の腰より下。

 

ジジジジジ ジジジジ 

 

現れたのはXショットガンを構える小柄な姿。

床に座り立てた両膝の踵は揃えていない。

後方へ身体を揺らしたあと周りを見て立ち上がる。耳と首を撫で眠そうな顔。

 

「…何してんの?」

 

最後に、固まる和泉を眺め呟く。

 

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

 

いつもの音が鳴ッてしまッた。

 

「くッそォ…」

 

誰かが悔しげに呟く。

やめろよ、言葉にすると余計惨めだ。今回の脱落者は8人か…

 

「クロノくん…」

 

俺の顔を覗き込むのは桜丘。

あァそーだよ!言ッたのは俺だ。今更何言ッたッて無意味だ。失われたンだ、アイツは。

…歩に何て言えばいい?

 

「犬、トータル1点…」

 

お通夜のような空間に静かな声が響く。

黒球正面から移動した犬を凝視する佐藤の呟きだ。犬から間合いを充分とッた位置で。

犬は今回も0点か、やッぱいぬ星人ミッションの得点は奇跡だッたな。

ッて何でいま口に出した?

 

「次は…え?」

 

“サダコ 103てん TotaL103てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”

 

どういうことだ。瞬きしても表示は同じ。100点だと?しかもサダコが。

誰も言葉を発しないうちに画面が変わる、“100てんめにゅ~”だ。マジで…

 

“1 記憶をけされZ解放される

 Ⅱ よし’強力な武器を与えられる

 3 MEM○RYのΦから人間を再生でちる”

 

全ての特典は文面通りだと証明されている。ッてコトは…

 

「そっか、途中で数えんのやめちまったから。

 やつらが1匹1点でも100点たまるくらいにはヤッつけてたかも」

「でかい虫の点数が高かったんじゃね? あいつは応戦してたろ」

「あー…」

「きもかったなぁ。あれは」

 

「誰が倒したのかいまいち判んなかったけど」と続けた北条の意見に苫篠が口を挟む。

オバケ蠅の様子を思い出したのか蒼褪める北条たち。近藤は吐きそうだ。

サダコにヤらせて隠れてたの?オマエら。

 

「…」

 

北条がキッチンへの出入り口に目を向ける。倣ッて他のメンバーも。

サダコは壁の後ろに居るようだ。

壁を切り取った枠から黒い手が覗く。そのジェスチャーはVサイン。

武器か。ガンツも理解したのだろう、特典項目が霞ンでゆく。

次の山田も100点超え。

 

…何だ、悩ンで損したな。

 

 

 

=========

 

 

 

「2番だ」

 

画面が変わる前に宣言する近藤。

山田以降、西・北条・亮太・浦中・和泉・苫篠と続き全員100点超えだった。

山田が老婦人、メンバー達の反対を押しきって亮太がJJ、浦中が岡崎を再生した以外は武器を選択。まぁ野宿星人多すぎだったよね、巨虫は10点以上だったのかも。

誰も解放を選ばないのは、亮太への遠慮だろうか。

 

記憶トぶ前のアレ…ガラスの割れる音だったとしたら私は落下物によって怪我をしたっぽい。

直前の振動で耐久を削られたであろうガラス製の天井を屋上あたりから落ちた物が砕き破って丁度私の頭上に…

いや直撃だったら私いま此処に居ないよね、スーツ壊れてたんだから。

 

“くろの 135てん TotaL135てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”

 

「よしッ よし!」

「待て、玄野」

 

特典画面に喜ぶ玄野。の行動を制する和泉。怪訝そうな視線がロン毛へ集まる。

 

「?」

「知ってるか?俺たちは複製って説」

「ああ。オリジナルが死ンだから呼ばれた、ガンツにコピーされたッて仮説だろ。ソレg

「マジで?!じゃあ俺って俺じゃなくて俺の双子なの? 生き返ったんじゃねーのか…

 例えばあの婆ちゃんは婆ちゃんの双子の双子の双子の双子n

「多い」ベシッ

「った~ ぼこぼこ叩くな!バカになるだろっ」

 

玄野と和泉の会話に苫篠と近藤が挟まる。

 

「…とにかく、俺たちはガンツに選ばれ戦闘員として複製されたんだ」

「いや、だかr

「加藤は一般人の救助を優先していたらしいな。風、だったか」

「?」

「エリアへ送られる前はそんな服装じゃなかったよな?」

 

皆がスル―していた風の恰好にツッコミが入った。確かに気になるけども何なの?ロン毛。

 

「もしかして、一般人に姿を見せたのか?」

「!」

「はァ?そンなワケ無いだろ。前回のことは加藤も理解してた筈だ!」

「…」

 

和泉の問いに驚き玄野の証言に蒼くなるジャージ男。

「前回のこと」はミッション中一般人に姿を視られた場合の厳罰疑惑か。

 

「そうだ。姿ば見しぇて一般人ば誘導した」

「…」「…」「…」

「おいッ おいおいおいおい 何やッてンだッ オマエらッ」

「やっぱりな…」

「?!」

 

頷く風に慌てる玄野。「やっぱり」じゃねーよロン毛。もっと簡潔に言えっての腹立つ。

 

「気付いてないようだから言うが、リストに奴は載ってない」

「!」

 

ドヤ顔の発言に凍るクウキ。

マジで?“MEM○RY”に加藤の写真が無いの?

それって…

 

「一度決めた選択は変更出来ない可能性が高い。だから止めた」

「…ウソ…だろ…」

「ルールを重視しない奴にチャンスは無い、って意味だろうな。

 それとも一般人を構う戦闘員は不要ってことか。だから3番は選ぶな、無駄だ」

 

一般人を救助&姿を視せた罪で退場後の被再生権を失った、か。

“MEM○RY”はメンバーの死亡者リストではなく再生可能者リストって解釈だ。

何度目かの重たい沈黙に放置される3択。

 

…う~ん。一理はあるけど、

メンバーの扱いとしては中途半端かな。マンガで採点までに戻って来なかったメンバーは総じて退場していたし3代目加藤は最終話まで生きてたから断言は出来ないけど違う気がする。

ルール違反は再生も禁止なら他も同じはず、ねぎ狩りでエリア外へ出た鈴木氏はリストに載ってる。

 

 

フラフラした玄野が2番を選びバイク部屋へ消え暫く、風の選択が終わった。

何か起こるなら今…?

 

「おい」

 

黒球を見る私に声を掛けるのは和泉。

 

「…。時間切れのペナルティー、あるとしたらどんな内容だと思う?

 俺の予想は…」

 

時間切れの罰は次ミッションにノルマが追加されることだけど、関係無いと思う。

全員の点数が付いたし前回までの得点も没収されなかったから、たぶん時間切れ扱いじゃないよ今日のミッション。

 

それよりも加藤の扱いだ。

退場したのに再生出来ないメンバーは主催者の方針なのか?

単なるバグリなら次回には記載漏れが改善している?

加藤弟はしっかり者だから短期間なら独り暮らしは可能そう。問題は

 

「聞いてる?」

 

いや全然。どうしても「予想」を披露したいならセンパイかそこらの壁に聞いてもらって。

 

「あのさぁ、そっとしておきなって。ちょっと執拗いよ」

「黙れ雌豚」

「はぁ?」

 

「お前は賢いと思うけど、ひとつ間違っている。

 それは凡人に期待したことだ。俺たちについてこられなかった奴のことは忘れろ」

 

桜丘への暴言を挟み話し続ける和泉。

蹴られて■ね。姐御は肥満じゃねーから、手間の掛かった芸術だからっ。

同類と錯覚されそうな言動もやめろ、迷惑だ。

私が「賢い」なら小島もお前も此処に居ないし、ひとつ以上と言わず日常的に間違えてるし、加藤のこと言ってるならあいつは凡人じゃない。

希少種と判断していないのはお前くらいだろう、五体満足で今まで生きていたのが奇跡なレベルの絶滅危惧種、それが加藤だ。

忘れるのも無理だな、

ほら

聞こえるだろ

 

ジジジ ジジ ジ

 

見間違いや幻でないのなら

黒球からのびるレーザーは頭頂部を描き始めた。




俯く北条「人間っぽい奴消すのも嫌だが、デカイ虫とか無いわ。つかれた」

JJは乗客たちの、岡崎は(偶然で)浦中の盾になり退場。

黒球部屋転送後全回し意識を取り戻した和泉は西くんに(自分気絶)後の経緯を聞きオリ主の重傷を推理した→ガンツを急かす。

近藤はデカ虫の体当たりでバラバラにされた人体を思い出して吐きそう。


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野宿編⑧

前回のあらすじ:
加藤不在で始まる採点。
彼の退場に反発したり悲しんだり喜ぶメンバーたちの前で球面から転送レーザーが放たれた。



豪華客船の元通路な死体置き場。

年若い1体が微かに動く。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

Yガンは多分効かない、スーツが壊れた今ガンツソードは満足に振れないだろう。

酷い惨状なのに眠いし…。

めちゃめちゃにされた通路で息を潜めていると爆発音が聞こえた、虫が来た方向だ。

 

ピ―――…

 

この音は近くだ。本物の電子音…それとも耳鳴り…?

…あれ?目を開けたのに暗い。寒いし。このまま死ぬのか?俺…

…こんなことなら…あの時…

 

 

 

… … …

 

 

 

『ただいま~』

 

帰宅の挨拶に返事が無い。今日は家庭教師の日だから2人共居る筈だ。前みたいに屋外授業?

脱いだ靴を脇へ立て掛け首を捻る。ピキッてなった、いてて…

誰も居ないなら昼寝でもしよう。

 

襖を開けると吹き出しそうになった。

先越されてるじゃん。…まずい、笑ったら起きちまう。

レースのカーテンで穏やかになった日の光に照らされ畳に横たわるのはセーラー服。

左肩を下に横向きで眠る女子高生。

 

ドキドキ…

 

髪型はいつものポニーテールじゃない。癖の少ない艶やかな黒髪が畳に広がっている。

柔らかそうな頬。あの小さな手は滑らかでほんのり暖かかった。

 

彼女の傍らに膝をつき右掌で畳を押す…

あれ?昼寝出来ないよなこの体勢じゃ。

彼女の小作りな横顔が近付く。微かな寝息と甘い香り。

 

ドッキン ドッキン ドッキン…

 

『にいちゃん』

『?!』

 

振り向くと目が合った。赤い顔。

 

『がんばって』グッ

パタン

 

買い物袋を置いて去る弟。靴音が遠ざかり静寂が戻った。

…。

誤解だ!歩~~~!!

 

はっ

……あれ?

寝てたのか?俺。

何か幸せなのにすっごく恥ずかしい夢を見ていたような、動悸が酷い。

って何処だ?此処。

視えるのはプールと塔を繋ぐウォータースライダー、だと思う。大きな縦穴の側面にベランダが並ぶ…床を覆う沢山の遺体は星人か、人間のものとは思いたくない。

周囲360度は水平線。

へんな景色だ、解放感が無く只管不気味

…。

いやミッションエリアの屋上だとは思うんだけど、場所が変わったのがどうということではなく問題は配色、全てが蒼みがかっていて明暗が反転したモノクロ画像みたいな…

そうか、Xガンのスキャンなんだ。遺体全てが骨格だし視界にレティクルが付いてまわるとか【別の夢か?】

?!

へんだ、おかしいぞ俺の声。くぐもってるっつか反響してるっつーか

 

♪タッタタータタタ・タター タッタタータタタ・タター タタタタータ タタタタータ…♪

 

ぉおっ ん?

思わずポケットに手を突っ込むが阻まれる。っていうか触感が鈍い。でっかい手袋をつけているような?

部屋に置いて来た筈のケータイ、その着メロが流れるなか景色が暗くなり十字線が回転・縮小、右下へおさまる。代わりに浮かぶ像。

 

表示された画像はロボット。白抜きの設計図がゆっくりとまわる。

ごつくって長い腕に顔面パーツがお面っぽい。背中のチューブは何だろう?

肘(?)から伸びる刃が恰好良いな。

左右に出た文章と線で結ばれる各部。スペックの設定か。もしかして俺…

 

ロボットになった?

 

♪ブブーッ♪

 

は?

 

♪チャーチャーチャチャ~ラ チャ~チャラチャチャッ キュルキュルキュル チャーラ・チャンッ♪

 

いつもよりかなり短い歌が終わる。

端折りOP?

ってことは…

 

 

“君は今からこの化け物を駆除しなさい。

 

 蠅(さっきの大きな羽虫)

 特徴   大きい 複眼が赤く光る 動きが速い 外殻が頑丈

 好むもの 騒音 人肉                  ”     

 

 

指令が出たのは予想通り。

あのでかい奴、蠅だったのか新種に見えたけど。それはいいとして時間切れの罰則か?これ。

爆死じゃなく?

なんだよ西のやつ、脅かしやがって…

ターゲットを全部ヤッつける、この場合は駆除完了まで帰れないってのがペナルティなら納得だ。

討ち洩らした化け物をどうするのか、ずっと疑問だった。

ミッション終了と同時に“人肉”を狙う虫どもが消えるなら問題無いけど違うなら気になる。

途中で手放し他人に任せるよりずっといい。新装備という梃子入れで成功率あげてくれるとかホワイトだし。

…。

親切すぎて逆にきもい、やっぱ夢か?

 

ピピピピピ…

 

指令が消えたと同時にレティクルが復活しアラート、視界に矢印が出る。

緑色が2つ、黄色が1つ

右からだ!

 

ピッ

 

バックステップした俺の鼻先を通り過ぎる飛行物体。見回すと残り2つの方向からも迫る。

奴らの体当たりは強力だ。ぶつかるとヤバい ぅげっ

縦穴の対岸へジャンプする途中、見えたのは底に広がる無数の光点。

未だあんなにいるのかよっ!

 

次は4箇所に矢印。難しそーだな避けるのは。

 

パァ

 

真っ白になる視界。左掌の衝撃と同時だ。

回復しないまま前転。案外自由に動けるぞロボスーツ、というよりガンツアーマー(?)。

ガンツスーツ同様重さは無い。

光った虫は何処行った?咄嗟の張り手で木端微塵?

 

空を目指す不安定な柱。巻き上げられるビーチチェア。

途中で曲がった白帯に捩れ倒される高い塔。

 

帯状の群れはターゲットたち。碧空に歪な丸を描いている。

距離が遠すぎて攻撃できない、お互いに。

着ているアーマーの映像通り肘からソードが生えているならさっきの前転は無理だった。

転がりきれた腕に邪魔な出っ張りは無い筈だ。肘から飛び出すのか?あの武装。

どっちみち刀の間合いじゃ届かないが、ボタンで伸ばせるよな?ガンツソードと同じなら。

どの辺りに付いてんだ?

 

♪ブブーッ♪

 

今度は何だよ!何の駄目出し?ボタンが無いの?探すなってか!

丸腰でどうしろと?これって脱げるのか?元の武装は何処行った!

まて待てまて落ち付け俺…

装備と敵のチェンジ不可、やれることは限られる。

武器が手足で多対一、そういうことなら広さは敵だ

 

!!

 

縦穴へ駆け寄ると握った柵が溶け落ちた。光ったのはゴツイ掌の中心、の孔? 

薄く気体が洩れている。

 

ピピピピピ…

 

下げた視界に映る矢印。同じ方向に細かくたくさん。

うわわわわわ…

 

ピッ パァッパァッ パァッパァッパァッ…

 

突き出す度に光る掌。減る矢印。遠い虫にも穴が空く。

アームの真価はこっちだったか。腕の大きさからしてスーツよりパワーもありそう。

撃ち洩らしを避け張り手続行。

 

パァッパァッ パァッパァッパァッ…

 

屋上に開いた縦穴に中身があればそれと同体積はありそうな群れを削ること数分。

いや若しかしたら数十秒?

無我の境地な数秒間?

…時間出てたわ、あと10分。

?!

短いのか?このミッション。

 

側転しウォータースライダーに着地。逆立ちから前転、逆走。掌を向けると虫食いになる白い帯。

やっぱ強度が足りねーか、傾く滑降面から側面を経由し塔の残骸へ跳び移る。

 

振り向くと景色が変わっていた。

ひとつも無くなった遺体とビーチチェア、甲板は剥がれた部分のほうが多い。

ガラス(?)張りだった建物は柱と拉げたフレームのみ。ウォータースライダーは横倒しで全壊だ。

青い視界でうねる帯。頂点でバラけ建物の背後、船首上空を埋め尽くす。

さっきより増えている…

船内中から集まったのか?応戦してるのは俺ひとり?

いや佐藤さん達は負けたりしない、負けるワケがない。きっと何かの作戦だ。

わからないことに思考を裂く余裕は無い。

目の前の敵を倒すのみ!

 

佐藤さん

計ちゃん

歩っ 

俺は 必ず 帰る!

 

ぅおおおぉおぉおぉおおおおおおおおお…!!

 

 

 

… … …

 

 

 

床材の破片へ膝をつき目を開けるとフローリングだった。

蒼くない視界と日本の匂い。

戻って…来れたか…

わっ

 

「加藤ッ 本物だ 生きてる!加藤」

 

頭上から聞こえる声は計ちゃんだ。肩と顔面に巻きつく腕で視界が狭い。

生きてないと思われていたようだ。俺へのターゲット集中は予期しない事故?

いや、さっきのミッションは色々と変だった。大怪我して気絶までが現実なのかも…

「遅いよ。勝くん」

 

怒っている、隙間から見える佐藤さんが。

細めた目と眉間の皺は時々計ちゃんに向けている表情。

気遣いの現れだろういつもの笑顔が消えている、俺に怒ってくれている。

…嬉しい。

他所他所しい態度は知人の域を出ていないカンジで寂しいと思っていた。

友人になれた、そう思っていいのだろうか。

胸が苦しいっ 居た堪れないっ!

腕を伸ばしたのに届かないし。ちょっ、ごめん邪魔、計ちゃん。

 

…あれ?

もしかして俺が最後?

それにしてはメンバーが足りない、部屋に居るのは佐藤さん・計ちゃん・北条・サダコ・風…

桜丘さんと和泉は何やってんだ? すっげー睨み合ってる。恐ぇ。

 

「おい、出たぞ」

 

北条の声で計ちゃんが離れ、いつもの似顔絵が視界に入る。って俺からなの?いつもの前文と歌は?

 

“かとうちゃ(笑)……0てんTotaL20てん あと80てんでおわり”

 

…。

ぇえ…

あんなに頑張ったのに…

 

 

 

=========

 

 

 

レーザーに描き出されたのは加藤だった。

マンガに無い状況だが今さらだ。

親切な西・行動が(更に)アホになった和泉・親友が健在なのに解放を選ばない加藤とかこっちの彼らはちょっとへんだけど、男に抱きつくなんてやっぱり玄野もキャラがおかしい。

何故か正座で四方から尋問されるオールバック。死体蹴りはやめるんだ。

 

成程、狩り零しを加藤が処理したから通常の採点だったのか、助かったよ。

お前も睨んでないで感謝しとけ和泉。次のミッションがマンガと同じなら今のメンバーで割ってもノルマ達成できそうなターゲット数だけど、知らないミッションでターゲットが少数だと悲惨だからな。

 

時間切れで生き残ったターゲットことチビ星人は翌日に学校で暴れていたから、参加メンバーの玄野帰還後ほかのチームがチビ狩りを引き継いだり黒球メーカーの(技術的にはありそうな)衛星兵器や追跡兵器をかわしたりはしていなかったと思うしチビの生き残りは1体だった。

今日のターゲットは残党多数なため放置を選べなかったのだろう。

或いは後始末の方針が変わったか。

星人の恨みを侮って起きた被害が無視できなくなったとか?

クリ―チャ―について報道規制したり一般人の先入観に任せ原因をすり替えているだけで昼間に起きてる事件にも星人が多大に関わっているのかも。

まぁいくら暢気でゲーム感覚な主催者でもあの群れが人口密集地へ目を向けた場合の被害は想像するか。

 

しかし星人駆除を選んだのなら謎が残る。

何故チーム単位ではなくメンバー1人に任せたのか。

成功させたメンバーが0点なのに1回目は失敗し2回目に貢献してないメンバーはお咎め無しという不公平。和泉や風じゃなく加藤を選んだ理由も。

チームリーダーだから後始末とペナルティを被せる、なんて理屈は認めない。普段は役割の恩恵が無いのに責任だけ取らせるのはおかしいだろ、マジで貧乏籤じゃんリーダーポジ。

今までのミッションは加点するまでの水準に達しなかっただけで実は指揮加点とか鼓舞加点があるとでも言う気か? 本番はお前らが指揮するんだから考えてないよね、リーダーの育成なんて。

 

居残りメンバーがランダムだったなら小島を選ばれなくてよかった。

狙撃しか練習してないもの。小動物に接近戦は向かない、っつか選ぶな。

他人の命運とか背負えないし背負いたくない。

後始末が失敗したら時間切れのペナルティが復活していたに違いない。

 

とりあえず加藤失踪の言い訳を考えなくて済んだ。

その調子で最終回まで頑張ってほしい。




同意無しのほっぺにチューはセクハラや猥褻な行為に該当する場合があるので弟は兄の行動を止めるべきだった。加藤は自主的に留まったけど。

屋上の床を覆う沢山の骨格は倒れた姿勢で少しも動かないことから加藤は遺体と判断した。

加藤を屋上へ転送しアーマー()を着せたのは別の黒球AI。
命じたのはイギリスの富豪、身内が乗船していたことを遅れて知り急遽ねじ込んだ。
指令は英文を和訳したもの。
ガンツ部屋へ加藤転送時にアーマー()の所有権も移ったので“野宿星人”ミッションの得点(上限100点)と“蠅”ミッションの得点(上限100点)はガンツの采配で相殺された(計200点分)。

加藤はなんとかデカ虫を全滅させたが卵はどこかに残っている。
…という設定だと終局前にホモサピが滅びそうなので、多くの偶然(たとえば特効の病気とかに罹患)が重なり野宿星人は絶滅した、で御納得ください。

野宿星人:
虫型星人。(一般人視点の)不可知状態で口から侵入し産卵、骨と筋肉・眼球・表皮を残して成り代わり、足りない栄養を宿主以外からも奪う。未成熟な個体(子供)や痩せた個体は選ばないが宿主に咬ませた動物は傷口から幼虫が侵入し宿主と化す。
子蠅サイズからゴキブリサイズに成長すると宿主の傷口からではなく体表から(周りの組織を大きく吸収しながら)巣立ち。大きく狩り易い動物(人肉)や成長が遅かったり負傷した同胞を喰べて甲蟹サイズを目指す。
赤眼状態は総力戦モード。

大型劇場に居た乗員乗客は全て野宿星人の養分になった。

今回の採点詳細:
犬    0てん   TotaL1てん
サダコ  103てん TotaL103てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい
メガネ  106てん 以下略
西くん  130てん  
北条   110てん
ガキ   110てん
浦ちゃん 110てん
和泉くん 122てん
とましの 116てん 
コンタ  133てん 
くろの  135てん 
佐藤(?) 128てん
あねご  129てん 
借りパク 149てん 
かとうちゃ(笑)0てん TotaL20てん

部屋に居ないメンバーは帰った。玄関開いた状態で稼働する黒球。


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通り魔

前編のあらすじ:
野宿星人ミッションクリア。
老婦人・JJ・岡崎が退場するも特典で複製されメンバーに復帰。
ターゲットの“なかマをふやす”性質により追加ミッション“蠅”狩り発生。
加藤は頑張った。





「あ!!お母さん!?あと15分で帰るから!!」

 

5月13日月曜日。

下校後小島宅から加藤宅へ向かう途中、少女の声が聞こえた。

立ち止まり見おろすと人通りのない路で歩きながらケータイを耳へあてる女子学生が一人。

ちょっと態とらしくて必要以上の声量だったからか母子間のありふれた状況報告が、なんか耳に残るっていうか気になるっつーか、

 

他家の屋根上でしゃがんでいると新たに視界へ入る通行人。

そいつも少し遠い彼女を眺めていた。

 

 

 

… … …

 

 

 

寺社沿いの寂しい路をすぎ着いた公園で振り返る女子中学生。

満開の藤棚に映える整った造作を曇らせ一点を見つめる。

 

ザッザッ…

 

美少女の視線を浴びながら前進するニット帽。

偶然通り道が被ったのか、警戒する彼女の横をそのままゆっくり通り過ぎる

 

「…。…ほっ

 !!」

 

…はずもなく女子中学生の背後をとり美貌へナイフを翳した。

 

「動くな…。

 視える?ナイフ…。動いたら刺すから…」

「あ…」

「怖いか?」

 

驚きと怯えで舌の回らない美少女の正面へ移動しながら分かりきったことを訪ね顔を近付けるニット帽。

 

「へぇ…。かわいいじゃん…。

 これから、おまえ死ぬと思うけど。どう?どんな感じ?」

 

ナイフを見せびらかしつつ、半殺し以上の危害を加える、と宣言する他人に何も言えない女子中学生。目から涙が零れる。

 

ポロポロ

 

「何?泣くだけ?死んじゃうんだけど…。

 どーしようかなぁ、おなか横に裂くとドロッて腸が出てくんだよなぁ…

 顔の下半分切り落としちゃおうかなぁ」

 

「何、やってんですか?」

 

悦ぶ男の耳に第三者の声が届いた。

 

 

 

 

「何やってんですか?」

「なんだよ、おまえ…」

 

もう一度訊く中学生くん。首を捩り彼を視認するニット帽。

獲物が助けを呼ばないよう牽制か闖入者から視えない位置で女子中学生にナイフをつき付ける。

関係無い通行人なら見逃す、違うなら…

 

「そのコ…。俺の彼女なんだけど

 !?」

ズシャッ

 

関係を明らかにする少年が話し終える前に動いたのはニット帽。

 

一拍あと悲痛な声が響き渡った。

 

 

 

 

「ぎゅえぇぇぇぇぇ!!あ”あ”あ”…」

「…」「…」

 

喧しいこの変態が。

今にも死にそう、とアピる下品な悲鳴は私へ背を向け跪くニット帽が発している。

関節も外れてないのに大袈裟ねぇ(自身と似たような形の生き物を切り刻んで悦ぶタイプの)殺人犯の反応とは思えない。

 

9時方向から小島の横顔へささるのは被害者とその(偽称)彼氏の眼差しだ。

 

「ふひぃぃぃぃぃ!ぐすぐす…」

「…トンコツの…友達?」

「…」フルフル

 

小島が小中学生に見えるからか彼女に確認する中学生くん。

かぶりを振る女子中学生は(ハンドルネーム)トンコツ、未だ顔色が悪い。

丸腰で危ないことするから~、

マンガ読んだときも思ったのだが君(ら)は本当に危険人物を見つける気があったのか?

それなら防犯グッズのひとつやふたつ持っとけ、大音量が出るやつな。

小柄美少女の自覚が足りん。友人のノイローゼを緩和する目的で始めた通り魔探しだから見つける必要は無いが最悪の事態を想定していたにしては、あっさり追いつめられすぎ。

通りすがりのガンツメンバーが手を出すなんてこと滅多にないんだからねっ☆

 

彼女の台詞と状況からイベントを連想した私の行動はこうだ。

トンコツとニット帽目撃後、奴(のバタフライ・ナイフ)を警戒。人気の無い公園で通り魔と化したニット帽がトンコツから離れた時点で周波数を戻し、目撃者兼リア充へ辿り着く前にナイフごと片腕をとり肩関節を極め制圧。通り魔含む3者はマンガと同じ行動をしてくれたので難しくはなかった(少年、回避くらいしろ…)。野郎共への目隠しに使ったトンコツはバチバチ音を聞いた筈だがそれで透明化装置や黒球部屋を連想することは無いと思う。

“黒い球の部屋”ファンでも無いだろう。

 

通り魔イベントが今日とは。

10点騎兵狩りと大規模ミッション1回目の間にあった事件と記憶してはいたけど遭遇するなんて驚いた&意外だ。(マンガではガンツメンバーだった)中学生くんに(クリ―チャ―)狩り経験とガンツスーツが無いからイベント自体消えたと思ってたよ。

マンガはトンコツが刻まれそうなところで中学生くんことチェリー(←ハンドルネーム)桜井が颯爽(笑)登場し腹部を狙って突き出されたナイフを(制服に穴が開くことを嫌ったためか)ガンツスーツでコーティングした掌で受けとめ追い回したあと無力化、って流れだったか。

学ランだけでは危険な立ちまわりだ。

 

「きみは、いったい…」

 

困る質問きました。でも答えは用意してある、

 

「執行代理人」

「?」「?!」「!!」ビクッ

「…ではなく、通り魔Gメンです」

 

嘘だが。

 

「…」「…」「…」ガクッ

(Gメンて、あの?)

(フィクションでしょ?)

 

私の答えに揃って首を傾げるラブリーカップル(予定)。

内緒話すんな本人の前で(笑)言い分のおかしさは解っている。

 

「お手数ですが通報をお願いできますか」

「あ、はい」

「あたしがするよ!」パクッ ピッピップッ

「…」

「彼氏くん」

「?…あ」

「それ、拾っといて下さい。証拠品です」

 

ジト目×2をスル―し話を進める。

全員(致命)傷無くよかったね、通り魔は脱臼くらいしてもらおうか?

ロープの持ち合わせが無いのは有り物を使うとして、トンコツは怖がってるだろうし桜井に踏ませとこう。証言者は2人で充分だろ加藤宅へ行かねば、遅刻だ。

 

「えっと…え?」

 

通り魔本人の着衣で両腕を、靴紐で両足を縛りながら指示すると桜井の戸惑った声が。

解ってると思うが素手で触らないでね、と思いつつ証拠品を見て理由に気付く。

電話しに離れたトンコツを目で追う彼に拾わせた凶器、バタフライ・ナイフが眉用鋏みたくなっていた。

不自然にカールしたブレード。

ひょろ腕をひねるとき事故を防ぐ為に摘まんでいた部分が曲がった様子。やだ(スーツの力で普通にねじったら折れる通り越して千切れそうなので腕共々)優しく扱ったのに粗悪品。

尚更はやく去らねば。証拠品破損した、ってお巡りさんに叱られる~

 

「もしかして…きみもチカラが…?」

 

新しい出鱈目を考えていたら桜井からおかしな問いを投げられた。

…?

あぁ「チカラ」って超能力のことね。

護身術は腕力差あっても知識と経験無い奴へ背後からなら成功するとして、ブレード変形をスプーン曲げ、とでも変換したか。あれは異能というより手品じゃね?

いや桜井が超常現象を信じる夢いっぱいな少年だとか超能力者なりきり厨二病なのではなく当然の推理。マンガ通りなら彼は超能力弟子なのでマジものの異能者だから超能力=実在する特技であり日常。彼の師匠は銃弾を掌で数回受け止めてたし、銃(+α)を装備した長身男を数m持ち上げるレベルの念動力使いが実在するのだ、この世界には。

…う~ん、観たいけど我慢。

 

「…まぁ、そんなかんじです」

「やっぱり。きみも罪を清算する為にこんなことを」

「はい?」

「…。…僕はこのチカラで人を殺した、何人も。それが苦しくて…

 奪ってしまった命のぶん人を救いたいと」

 

現場を押さえ人殺しから被害者を救う、

彼自ら思い付いたように語っているがマンガ通りなら「通り魔捕縛計画」はトンコツの勧め。

それも問題だが、へんなこと言ったね今。

桜井の師匠も虐め被害を相談(?)した相手から超能力因子を貰い加害者殺害に至ったらしいが誰もがきみと同じ過程で行動するわけないだろ。

超能力師匠は通り魔探しなんてしなかった(と思う)し小島はただのぼっち。

マンガの桜井はミッションで気分転換できていたのか、こっちの彼のほうが参っている様子。

よく視たら隈が濃い。

こういう場合説教稼業はどんな答えを返すのか、ガンツメンバーの私に懺悔されてもなぁ。

 

「それは、偶然襲われたのではなく通り魔と被害者を探していたってこと?」

「うん。今後何人救えるか…一生をかけて償いを

「しなくてよろしい」

「!」

 

小島の口からうっかり出た否定の言葉を聞き顔を上げる桜井。通報を終え彼の横に来たトンコツは瞬きする。

 

「犯罪捜査は警察の仕事です。自重して下さい」

「え」

「余計な手出しであなた方が害されたら犯罪の助長です。

 単独捜査も意味不明ですが刃物を防ぐ術はあったんですか?超能力者くん」 

「でもきみだっt

「あるんですか?」

「…ないです」

「?!」

 

桜井の役立たず表明に驚くトンコツ。

そうだよ、かなり危ない状況だったんだよ。きみは勿論桜井も。

マンガの彼女は彼の念動力で持ち上げられただけでサイコメトリや霊視も出来ると思い込んでいた。刃物もATフィー◇ド的な不思議パワーで防げると楽観していたのだろう。

今の桜井はそこまで人外じゃない。

 

「話になりませんね、もしかして通り魔は刃物を持っていないとでも思っていたんですか?それは流石にありえないか他人は襲われても身内は安全という謎の自信を持っていたとしても。彼女はあなたの何でしょう?助手?囮?捨て駒?2人も殺めている犯人を女性独りで探させてどうなるか想像しました?昼間の往来で襲われない根拠は?犯罪者は捕まるリスクを計算するって決まりでもあるんですか?娯楽として殺人を選ぶような馬鹿に常識はどれほど残っていると思います?それに危険へ首を突っ込むパートナーなら使える超能力について詳しく説明しておかないと。切り札を曖昧にするなんて遊び半分にも程があります。出来ることと出来ないことを理解していなかったから彼女は恐ろしい経験をすることになったんですよ。PTSDって知ってます?あ、質問意見は後でまとめてお願いしますねトンコツ嬢。チェリーくんは泣き真似してる場合じゃありません。最初からあなたの問題です。どうしても陰のヒーローしたいなら独りでやりなさい勿論家族や友人を悲しませないように出来るだけ準備をした上で。そうだ老若男女多様な囮を演じられるよう特殊メイクの先達を紹介します序に護身術も学べてお得ですよ生き残れれば。変な人間を襲う習性がありますけど超能力を使わなければ平気でしょう。私の知る限り犯罪者を数十人討ちとってますから奴の攻撃を凌げるようになれば大凡の人間には負けない筈です。師事の対価と防刃装備を揃える金策頑張って下さい。学業・鍛練・捜査・内職そして一般人の振りと5足草鞋は眠る間も無いでしょうね、他人に殉ずる人生を選んでも欲求は解消されないと思うけど。さあ連絡先を教えて下さい。完結しないきつく険しい道でしょうが恩人を正義に捧げられるあなたには是非とも踏破して頂きたい」

 

「…うん…グス…それが僕の…グス…使命だね…」

 

ん?

返答した桜井を見つめる。聞き違いか?

…。

もしかして変人紹介されたいの? マジで3K活動するつもり? ここは断れよっ。

坂田師匠だって反対すると思うよ(新宿事件不発&ミッション不参加なせいで“怖い人”扱いし避けているなら関係無いが)?

消極的な喚き声を止め足元で唖然とするニット帽は私の言葉を全て信じたのだろうか。

他所で喋ってもいいよ~「マジで言ってるの?」と鼻で笑われたいなら。

 

マンガでは最終的にテレポート能力まで使っていた桜井が想像力でどこまでチートを実現するか心配だからって不可視化を解いて通り魔を制圧したのは失敗だった、桜井たちと知り合ってしまった。

この2人のみなら平気かもしれないが超能力師匠こと坂田さんの勘はヤバい、即死効果のある隠し事を持って遭いたくない。これ以上知人増やすのも記録がメンドい。

ステルス看破が透視(?)の応用なら半透明に視えたかもしれないし、トンコツの目には映らないと知って幽霊と勘違いされる可能性に賭けるべきだったか?

トンコツに接触する前にニット帽を彼方へ送りイベントを無かったことにするのはやめた。

マンガの通り魔と服装が同じだけのニット帽違いな可能性を捨てきれなかったし一般周波数な対象の転送はリスク高いから最悪の状況(=小島の命に関わる場合)以外控えたい。

それに桜井たちにとっても通り魔探しのリスクを安全(?)に体験する機会は要る。今の状況は偶然の結果だ。マンガにない第2第3の通り魔イベントが発生し知らないところで恩人を失くした覚醒チートがホモサピ駆除を始めたら困る。恩人2人の相次ぐ退場がトリガ―なら可能性は低いけど、終章待たずに滅ぶわ東京。

引くのは警察も(途中で何言いたいのか分かんなくなった私の説得(?)よりは地に足の着いた問題点をねちねちと)やってくれそうだから程々に収め押してみた。考えなおす序に私を嗜虐的な危険人物と認識してくれることも狙った。(殺人犯専門の)素人探偵(兼自警団?)を続けた場合べつの危険人物仲間を紹介されるかも、と忌避されたかった。

なのにどうして通り魔狩りに拘る…

マンガと同じなら通り魔の意見は参考にならない筈だし他の犯罪者も君の望む答えは持ってないと思う。寧ろ断罪する過程で後悔してる件と似たようなトラウマが増える可能性に気付いて。

マンガでは生け捕りに出来ていたけれど連中の全てがヘタレもやしとは限らない。

それに君だって解ってるよね?何人助けようがクラスメイトには関係無いって。徳やら霊なんてモノが在るとして「知らない他人をそんなに救ったのか、ならば許そう」なんて言うようなキャラだったのかな?君をサンドバッグと勘違いした奴らは。クラスメイトの血縁を護衛するほうがまだ鎮魂効果ありそう。終わったことをどうしても考えちゃうならもっとどうしようもないことを想像してみたら? 原発や食糧問題とか恩人の生存率なんてどうよ。経験から言わせてもらうなら不快な姿が脳内再生される現象は慣れるしか無いかと。所要時間は知らない。

そもそもマンガ通りにイベントが起きるなら余計なことをする暇は君に無い。

 

「素晴らしい覚悟です」

 

それをヤケクソではなく素面で決めた上で実力が伴っているならな。

 

「ただ、さきほども言いましたけど紹介する予定の先達はスパルタなので、

 こんなのに梃子摺るようでは…教えを請うこと自体が自殺行動です。

 すぐには紹介できません」

「えっ」「えー?」

 

ニット帽を軽ーく蹴飛ばしつつ言葉を続けると各々違う反応をみせる2人。

トンコツは嬉しそう。桜井は不満顔。

(弟子入り)採用条件が月謝のみ、なんて誰も言ってないよ。ていうか全部架空の話だからね、

ノイローゼ少年を殺人鬼ハンターに調教する係は存在しない。(人物モデルは存在するけど奴が了承すると思えないし君たちカップルに近付かせたくないから)紹介しようが無い。

しかし要点はそこじゃないので存在するていで続行。

超能力弟子から非公式通り魔ポリス見習いへのクラスチェンジには専用イベントが要ります

 

ファンファンファンファン…ピーポーピーポー…

 

おっと時間切れだ。

こっちに来てから耳にする頻度があがった感がある騒音を聞き流しつつ方針を決める。

面倒だけど放置はナイ。

連絡先交換せずに去ったら捜されそう。もう二度と桜井たちに遭いたくない。

何かの間違いでガンツの追っかけに加わられても困る為とある「条件」を出すことにした。

 

超能力師弟がガンツメンバーにならなかったことで折れてると助かるんだけどなぁトンコツの退場フラグ。寧ろ師弟が弟子の思い付きで退場しそう。

…坂田師匠の活躍を期待しよう。

 

胃の重たさを感じながら、私は予定の行動へ戻った。




執行代理人=遺族の代わりに敵討ちをする人(「フリージア(漫画)」に登場する架空の職業)。

トンコツ「通り魔Gメンって忙しいのね…」
桜井弘斗「(罪が重すぎて)生きるのが辛い」 

空手形ならぬ「条件」内容は終局編で発表予定。




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オニ編①

前回のあらすじ:
通り魔捕縛。中学生二人と少しお話した。




6月15日土曜日。

黒球部屋。

球面は電灯を映し沈黙している。

 

「これで全員かな?」

「たぶん、こんなもんじゃないのー?」

 

黒球の右に座る玄野。視線の先には背広姿の4人、今回の新規メンバー達だ。

茶髪の呟きっぽい問いに答える苫篠。異論は無い。

 

「なんだよここ…」

「さぁ…」

 

部屋を見回し呟く背広AとB。

今回5人目の新規メンバーは3歳くらいの幼児。保護者なし。

「きんにくらいだー」と連呼し風に付き纏っているから実母が日和っているうちになるようになってしまった彼だな。スケッチブックを開き嬉しそうに語る彼に「うんうん」と相槌をうつ風はガンツスーツ姿で呼ばれたので着替えを邪魔されなかったからか或いは加藤弟との生活で子供に慣れたからなのか面倒がらずに相手している、というかメンバーの殆どが幼児に注目している。

 

「可哀相に、こんなに幼いのにこんなとこに来てしまって…」

 

山田の発言に顔を見合わせる背広リーマン4人。

 

「お名前は?なんてゆうの?」

「…」

 

老婦人の質問に答えず俯き、風の後ろへ逃げる幼児。

暴力男が来る部屋には帰りたくないって。

 

「とにかくスーツを着せなきゃ」

「風くんお願いします」

「任しぇろ」

 

風が頷くといつもの歌が流れた。

 

 

 

 

“てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい

 

 オニ星人(オールバックに顎髭グラサンの強面な男)

 特徴     つよい

 好きなもの  女 うまいもの ラーメン

 きらいなもの 強いヤツ

 口ぐせ    ハンパねー”

 

 

「オニ星人…?」

「これ人間じゃねーの?」

「人間にしか見えねー」

 

「スーツを着てくれ!!人数分あるから」

 

指令の感想を言い合うリーマンズへ話し掛ける加藤。

やっぱオニ星人か~。マンガではボスの外見と“特徴”しか検証されなかったな。

ターゲットの好物や口ぐせなんて攻略の足しにならんからどーでもいいが。

 

「あれ着ろって?」

「勘弁してくれよー。何なんだ。どういう意味あんだよ」

 

素で訊く背広Aと嫌そーな背広B、ほか2人は部屋を調べている。

(笑)触れない錠に挑戦する背中は何度見ても面白い。

 

「早くしてくれっ時間がないっ 生きてまた家に帰れるんだぞっ

 俺の言うことをきいてくれっ」

 

加藤の指示にわりとあっさり従うリーマン達。生き残り達の視線にも何か勘づいたのだろう。

ケースの記名は視えなかった。

 

「これから全員の生き残りをかけた戦争に行く!!

 覚悟をしてくれ!!戦争だ!!これから戦争に行く!!

 何人生き残れるかわからない!!でもできるだけ全員で帰りたい!!」

 

「家に帰れるんだよなっ」

「家に帰るっ」

 

加藤の演説を受け、Xショットガンを構えるリーマン(元背広)Bは真剣な表情。ノリがいい。

Aは無表情すぎて変、緊張してんのかな? 生き残れるといいね、マンガと違って。

 

「あっ」「わっ」

「転送が始まった!!」

 

リーマンBの頭部を削るレーザーに驚くA。リーマンズに予定通りだと教える加藤。

スーツに着替え廊下から戻ると風の肩へのせてもらう幼児、すでに親子みたい。はやくね?

小さな頭部が消え始め風の眼光が強まる。

 

「タケシ。すぐ行くけん、そん場で待ってろ」

「はい!!」

 

親子兼師弟?

目頭をおさえる老婦人。ぼやける視界はいつもの仕様。

 

オニ狩りミッション開始だ。

 

 

 

… … …

 

 

 

狩りエリアは街中。

高層ビルの一角“池袋駅”前ロータリー。                     

停まる沢山のタクシーを眺める近藤たちと山田、外国人。うろうろする犬。

周囲を警戒する子連れきんにくらいだー。口元に右拳を当て考え中の玄野。見つめる桜丘。

駅ビルを見上げる岡崎と浦中。コントローラーを見て何かに驚いてから和泉と目が合い舌打ちされる加藤。の肩を叩く北条。背後にサダコ。大きなオブジェに腰掛ける亮太と隣で幼児を見つめ心配そうな老婦人。4人で固まって通行人を気にする新規メンバー達。

 

「ここって…池袋だよな」「池袋じゃん!!」

「なんだよ…」「このまま帰れんじゃねーの?」「駅すぐそこじゃん」

「かみさんに笑われるなー。この恰好」

 

呟くリーマンAに喚くB、肩を竦めるリーマンCとDは電車で帰りたい様子。

でも荷物置いてきたから無理かな?と自らのスーツを引っ張る。

 

「そこのオッサン達 帰るとか言ッてンなよ!」

 

4人へ怒鳴る玄野。

今回のスタート地点はエリアの真ん中あたりなので乗車までなら特に問題ないと思うけど電車が進みエリア・アウトすれば脳が爆ぜるから永遠に帰宅出来ない(ミッションが終われば一般人にもガンツメンバー由来の汚れや匂いを知覚できるのかな?血液や脳漿の付着した一般人の服をメンバー回収と同時に洗浄しているとしたらガンツ凄い)。

 

「はぁ?」「おっさん?」

「タイムリミットがあるんだ。すぐレーダー見てくれ」

 

おっさん呼びに反応するCとAへ微笑み、手首にくっつけたコントローラーを指し示す加藤。

リーマン達が二十代だとしたら「お兄さん」呼びが妥当と思うが高校生の「おっさん」定義は二十代からだって言うし…いやそうすると二十代は三十代を、三十代は四十代を「おっさん」と認識していることに? 

 

「ちっ、おっさんだってよ…」

「数が多いから別れて探そう 2人1組くらいに別れて行くぞ!」

 

ぶつくさ言いながらもモニターをチェックするA、小さくなり消える呟き。

その傍でメンバー全員へ指示する加藤。

マップには沢山の印が並ぶ。

 

「何?池袋で何探すの?」

「なんだよ何が居るんだ」

 

マップを見ながら訝しがるリーマンB・A。

 

「オニ星人だ。たぶん通行人に紛れてる」

「さっきのやつか」

「どんな攻撃してくるかは遭ってみねーと判んねぇ、油断しないでくれ。死んだら終わりだ。

 いいか、死んだら 今度こそ 終わりだ!」

「…」「…」「…」「…」

「今回は避けることに専念したほうがいいと思う、通行人が多い。銃の撃ち方は…」

 

脅しに聞こえる事実確認で静かになったリーマン達へ装備の解説を始める加藤。

当然のように貧乏籤を引くリーダーを気にせず方々へ駆けだすメンバー達。

 

私は奴らを見に行こう。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

駅ビルへ駆ける。

 

「これデスゲームってやつかな?あるじゃん漫画とかの」

「やめろよ~バカらしくなるだろ~」

 

「近くに1匹いる。注意しろ」

 

会話する新規メンバー、ツリ目と坊主頭へ振り返り教えるが注意力散漫な様子。

なんだかなぁ…

柵に到着し地階を見おろすとたくさんの通行人が。周りに靄や怪物など異常なモノは視えない。ターゲットは人混みの中か。

 

「あの辺かな」

 

レーダーで位置と動く方向はわかるがここからじゃどれがターゲットか判らない、先ず降りねーと。後続へ合図しコーヒーショップ横のエスカレーターへ向かう。

 

「どこ?さっきの奴か」

「たぶん…仲間だ。近付くぞ…」

 

坊主頭の問いに返す。ちらっと見た限り指令の顔は居ない、別の奴だ。

全く避けない人波をなんとか進む。多少ぶつかっても気にされないのは分かってるが変な感じだ。

 

「本当に周りの人間に視えてないんだ俺たち…」

 

エスカレーターに到着。上りと下りが隣り合うステップへ乗る。

新規メンバーの呟きを聞き流しつつレーダーをチェック。

おかしいな。

近付いたのにターゲットの動きが変わらない。気にせず歩いている。無視する気か。

まさか、俺たちの目的を知らない? それはそれでやりにくい…

周波数変えてないのに星人から視えてない、俺たちを認識していないって場合はありえるか?

 

「? どこだ?」

 

って新規メンバーに訊いても仕方ない。とりあえず下ろう。

 

「ったく。うしろの婆ちゃん押してくんだけど~」

「ちょっ ぷふふっ」

「我慢しろってぇ視えね―んだから」

「誰もこっち見ね―な」

 

最後尾でぼやく中分け頭にツリ目が答える。上りのエスカレーターに乗る一般通行人を指し同意する坊主頭。

いま視線が合ったような、

混んだエスカレーターに5人分の空きがあったら気になるのが人情として、上りに乗ってこっちをチラ見した数人のうち一人の動作に違和感が。

 

「戻んのか」「何なんだ」

 

降りてすぐ上りに乗る。ついてくる問いと足音を無視し、ひとりの通行人に近付く。

レーダーをチェックすると、やっぱりこいつだ。

 

「こいつが何だよっ」

 

いや星人に決まってんだろ状況を思い出せ。

さっきから恥ずかしい恰好で物騒な道具持ってうろついてる理由は“オニ星人”探しだ。

そんで捕獲。殺害はなるべく避けたい。

そうだ、ターゲットの反撃は当然。飛び道具で応戦されたらマズい、ここは人が多すぎる。

外へ出て、それから…

質問に答えず右手を挙げると後ろは黙った、でもターゲットにバレた!

 

「なんだよ、おまえら」

 

振り返り迷惑そうに俺たちを伺う奴、リュックを背負い眼鏡をかけた明るい髪色の男は一般人にしか見えない。

 

「や、えっと」「俺ら何やってんだろ…」

「俺たちが視えてる。こいつがオニ星人だ!」

「!」「は?」「マジで?」「…」ゴクリ

 

「ああ…警官いねーのかよ…」

 

恥ずかしそうに銃口を彷徨わせた新規メンバーたちが俺の指摘に驚く。こっちを眺めてから呟きつつ周囲を見回す茶髪男。

お巡りさんが居たとしてどうするんだ?と思っていたらジャンプした。

…高い!

逃げる気か。人混みを跳び越し柵へ向かってもう一度。

 

「ぅわあっ」「うっそ」「マジかっ」「すげっ」

「追うぞ!」

 

返事を待たず俺も地階へ跳ぶ。同時に手元からアンカー発射。

空中の俺を置き去りに最短軌道でターゲットを目指す。

着地し駆けていた男は光る帯に捕まった。

 

 

(見た見た?)(何が?)(どこ行ったんだろ。さっきの人)ザワザワザワ

 

通行人たちがざわめく。そっか視えなくなるんだ拘束すると。

新規メンバーも次々飛び降りてくる。

おい、あんまり奴に近付くな。俺の予想が正しいなら何も出来なくなった筈だが違った場合危険だ。ちまき状でも注意しろ。

 

「うわぁ…俺、かっこわる~」

 

光るワイヤーで締めつけられているのに茶髪男は平気そう。他人事って顔だ。

こっちの攻撃方法を知っているなら対抗策が用意されてて不思議は無い。

さっさと転送するべきだが、星人と話せるのなら訊きたいことが沢山ある。

 

「あのs

「撃たねーの?」

 

不思議そうに俺を見るターゲット。お前が言うか。

新規メンバー4人は自主的に捕虜へ銃口を向けている。全員Xガン類。

その立ち位置だと連れに当たるし一般人も近い、トリガ―は引くな。

 

「おいっマジでこいつ宇宙人なのかよっ」

「撃っ撃っていいのかっ?」

「人間にしか見えねーけど」

 

「撃っていいよ…あっでも眼鏡は勘弁、気に入ってんだ~」

 

最後の台詞はターゲット。中分け頭を見て促す。そういう問題じゃないだろ…

 

「やめろっ 通行人が多い!」 

「撃てってば…」ニヤニヤ 

「撃てって言ってるぞ」

「だから撃てってば」

「だめだっ 一般人に当たる 待てっ!」

「撃つってトリガ―2つだっけ?」

「…?なんだよおまえら」

 

もたつくツリ目を訝しそーに睨む茶髪。初心者ってバレたぞ、もう喋るなお前ら。

 

「本当に撃っていいのか?これでもう一度撃つとどうなるのか…」

「あぁ知ってるし。頭から消えちまうんだろ、転送…とか言ったか」

「…どこへ?」

「や、ははは…俺に訊くのー?それ」

「…」

 

周りの一般人が危険だから撃つなよ、という気持ちを込めて4人を睨んでからYガンの効果を訊くと淀みなく答えられた。どんだけ情報洩れてんだ。

でも変だな。佐藤さんが言うとおりメンバーがこいつらの情報源なら今まで生き残ったのに次のミッションに来なかった人たち、つか呼ばれなかった人たちが洩らしたってことになるが、

詳しい奴だったか? 寺のミッションに呼ばれなかったのはガラのわるい男2人。Yガンの効果と撃ち方教えたっけ?…覚えてない。俺たちがガンツメンバーに加わる前、西が加入する1年ちょっと前の頃やそれ以前のメンバーから得た情報だとしても、ミッションの情報バラすと消されるんだよな?訊き出すって無理なんじゃ…?




オニ星人編の新規メンバー(サラリーマンっぽい4人)
 A:坊主メガネ。本名は永島。モブオニAに吐き物をかけられ右腕と主要器官が溶解。  
 B:ツリ目もみあげ。本名不明。腹から象(変化オニ)が生まれ最後に退場。
 C:立て髪。本名不明。既婚者。跪いて降参宣言するもオニたちの吐き物をかけられる。
 D:真ん中分け。本名不明。既婚者。変化オニが内側から背中を破壊。
※マンガではレイカに引率してもらった。天国から地獄。



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オニ編②

前回のあらすじ:
オニ星人ミッション開始。新規メンバーは5人。
捕まえたモブオニAを尋問する加藤。



「質問に答えるなら見逃してもいい」

 

二度と拘束しない、とは言わない。

 

「へ~え、マジでー?」

「…」「…?」「…」「…」

 

ヘラヘラしたオニ星人を無言で見つめる新規メンバーたち。

 

「どうするんだ?」

「んー…まぁ言ってみなよ。でも俺下っ端だから~期待に沿えるかな~」

 

こいつは一般人に紛れていただけで何もしてない。少なくとも俺の前ではフツ―の人間だ。

殺したくない。こいつと比べたら学校の連中のほうがよっぽど星人ぽい。

うちには人型でも問答無用で切り刻む奴がいるから逃がさないようにしねーと。

最初の質問は、やっぱりこれだ。

 

「お前はヴァンパイアか?」

「…はぁ?」

「ヴァンパイア、なのか?」

「ヴァンパイアって…吸血鬼の?…そう見える?」

「いや…」

 

外見で判んないから訊いてんだよ。どの辺が“オニ”なんだ?お前ら。

 

「違うけど何、あいつらにストーカーでもされてんの?」

「…」

「そっか~。悪いねーあいつら弱虫だから、姑息なことするよな~。で?」

「え?」

「弱点でも知りたいわけ?」

「…」

「だよなぁ。知らないならヴァンパイアなんて呼ばねーよな」

 

“オニ”星人は吸血“鬼”じゃないのか。人間そっくりなのに星人みたいな逃げ方だから前遭った奴らと同類かと思った。ってことは日本刀やサブマシンガンを使わない…

わかり易い弱点も無いのだろう。今は夜だからそこはどっちでもいいけど不気味だな。

かなり居るんじゃないか?人間と区別できない容姿で紛れている星人って。

 

「こそこそ嗅ぎ回って返り討ちにあうとかウケる。大変だな~半端な奴らは」

 

「半端な奴」?…いやそれは後回しだ。連中を野放しにする限りまた襲撃されるって佐藤さんも言っていた、早いめになんとかしたい。俺が襲われるならまだしも…。

 

「奴らの数と溜まり場を知っているか?」

「…。…う~ん。覚えてないなぁ…。俺らの情報は?要らないの?」

「…後でな」

「…。今日潰すなら要らないかー…。あ、連絡先なら入ってるわ。ケータイに。

 これ解いてくれりゃあすぐにでm

「荷物の中か?」

「あーらら、ひっかかんないと。…どこしまったかな~、

 …なーんてな」

 

オニ星人の笑みが大きくなる。

 

「じゃじゃーん」

「!!」

 

「何やってんの~」「はははは」「ピンチだピンチ」「撮ったった」「5匹か…」

 

気付くと男たちに囲まれていた。

 

 

 

=========

 

 

 

今回のミッションは難易度高いほうだ。

賑やかしなモブすらスーツを一撃で破壊する。いや「撃」じゃなく「吐き」か。

溶解液って言うとちょっと恰好いいが吐瀉物のことだ。変装(?)状態でも吐けるのかは知らないしメンバーのお守する気(も余裕も)無い。他人やクリ―チャ―の吐き物を避けないような奴はフォロー不能。噴く速度遅そうだし予兆あるし胃液(?)なら何回も吐けまい、フツ―に避けろ。

それと数の暴力ね。前回は謎の時間差があったけど今回はそんなこと無いようなのでコントローラーを利用して囲まれないよう工夫してほしい。

…小まめにチェックすれば相手の特性にも気付くだろう。

 

ヤバい個は4体。

幹部とかボスとか呼ばれてたのにマンガではモブオニに指示を出してる描写が無かった。

倒された順で簡単にお浚いすると

岩オニ、堅い大きい素早い。ガン類が効くかは不明、風が倒したので。

水オニ、別名変化オニ。変態。たぶん不定形。不意討ちしか効かない系。

火オニ、不意討ちしか効かない系その2。ボス級だと思う。超能力師匠が辛勝。

雷オニ、ボス。やたらと素早い描写が気になった。ターゲット中最速かも知れない。

真っ向勝負は避けるべき。

 

そいつらが眼下に揃っている。

…出しゃばりも同数、いや5体居るな。

Ⅹショットガンの望遠モードなモニター内に野郎が9体、談笑(?)中。

マンガで見た星人間交流(?)が行われている。

マンガのターゲットは池袋駅構内でもウジャついてた。1体のモブオニ曰くオニ星人共は「ハンター」が池袋へミッションしに来ることを「知ってた」らしい。ガンツ(あるいは東京ミッションの主催者)がオニ星人の集会日を察知してミッションを企んだのではなくオニ星人がガンツメンバーの出現を知って集まったのならマンガと開催日が違うのかも。

 

イベント日程…

オニ星人狩り以降は公式設定が無い(ちらほらとマンガに出てきた日時は覚えているが色んな理由から参考にできない)。

“オニ星人”ミッション中に桜井宅前で降雪してたのは何だったのか、今は6月中旬だ。

(黒球部屋に召集するたびガンツがスーツを新調してるとしても)成長期なメンバーが多いのに5カ月以上も間を開けたら日常でスーツ着れなくなるから当然か?時期的に。

非番バトルは補給(=転送リセット)を期待できないし、雪が降る季節まで一週間~一か月おきにオリミッションご招待、って展開でないのは好都合。

この分なら秋までに帰れそう。

 

とか思っているうちに黒服じゃない3体が階段を下りだした。

メンバー達は、来ないな。燃えてる箇所も見えない。

残る1体は黒服5体とお喋り続行。

さて、やりますか…

む?

いま、へんな音したぞ。金属を擦るような不快な感じの。

構えていたXショットガンのスコープから目を離し右手奥にあるはずのドア方向へ注目していると地上の走行音や雑多なBGMに混じり足音が聞こえてきた。

 

『あれぇ?』

 

鉄骨の表からニュッと伸びる頭部。比喩ではなく頭部の倍くらい首が長い、肩の位置が低いとか言うレベルじゃない。首から下を隠しているのは警戒からか、

うげっ

そいつの向こう側からふたつめの首が登場、並ぶ。

 

『どした~?行けよ、はやく』

『いねーんだけど』

『は?』

『はやく行けって、つかえてんだよ後ろ』

『せまい狭いっ』

『だから居ねーんだって』

『はぁ?』

 

床面と平行に伸びゆらゆらしながら押し問答するクリ―チャ―(複数)。

「狭い」って胴体どーなってんの?

みっつ並んだ気持ち悪い奴らはハンターが見当たらず困惑している様子。

奴ら(の頭部)との間に遮蔽物が無いのに小島が見つかっていないのは御想像通り周波数を変えているから、だろう多分。

マンガ通りならオニ星人は一般人から視える状態でミッション中のメンバーを視認する。

一般人とガンツメンバーの周波数は違う筈なのに。

オニ星人も吸血鬼と同じくコンタクトやメガネで周波数の違いに対応しているとしてもミッション中とそれ以外で星人共の使用する看破グッズの対応する周波数は違う筈だ。

周波数関連の謎は他にもあるが特に不思議なことがある。それはミッション中にターゲット以外(この場合は吸血鬼)が看破グッズを装備しただけでガンツメンバーの台詞を理解していたこと。

星人の超技術で「どんなステルスも見破れる」レンズを作ったとしても会話はできない。

サングラスやコンタクトを装備しても周波数は変わらない。

ミッション中のオートステルスは不可視化ではなく不可知化だから看破グッズで姿は視えてもガンツメンバーの足音や発砲音と同じく声を聞き取れない筈だ。

とまぁ吸血鬼は今回どうでもいい。問題はオニ星人の可視限界だ。もしも奴らが看破グッズを使用していない場合、固有能力で二種類のステルスを看破っている、

…可能性を心配したのは杞憂だった。

 

『無駄足かよー』

『しっかりしろよな~』

『っかしーなぁ…』ニュルルル

 

2号と3号がひっこみ残った1号が顔の近くにケータイを翳す。小さな機械を摘まむのは太い蔓みたいな…

 

ドンッッ

 

塔屋が削れ、鉄骨が歪み、首が消えた。

ドアへ続く屋上の床は陥没。縦穴は自動車大の円形。

新しい方向から強風がおこり目を庇う。

残念だなぁ、

オニ星人のケータイ。一緒に潰れたかガレキと同化しちゃったよ。

マンガで奴らはこちらの位置をケータイでチェックしていたので、そのアプリ欲しかったのに

(次回以降のミッションはケータイ使えるはず)。

ガンツに装備の改変を頼むほうが早いだろうか?

ターゲットよりメンバー位置を表示するほうが容易なはず、要望無くてもやってほしい。

マップに表示されないターゲットの場合メンバーの位置で推測したりと用途ありそうなのに(日本中にガンツが行き渡っているなら数十人以上居る筈の)誰も不満に思わないのは、ちょっと不思議だ。

 

見上げると闇空に浮かぶシルエット。

ほかの装備と同様に要所が蒼白く光っているものの暗くて造りが解り難い。

マンガと同じなら輪の内側にグリップのないワンホイール・バイクを組み合わせたような外観の、飛行ユニットのものだろう微かな排気音(?)が遠ざかる。

…。

おいおい、

見ている前でどんどん高度を下げる飛行物体。

ボスの真上に差し掛かったとき、黒服のひとりが顔をあげた。

 

そーいや私服着てても大丈夫なのかな?

スーツとスーツの間って。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

エスカレーター前のフロア。

通行人の間からこっちへ近付く男たち。

「5匹」とは俺たちのことだろう、拘束した茶髪を囲むメンバーの周りをさらに囲む十数人。

攻撃するには少し遠い。

 

「遅ぇ~よ。お前ら」

 

顰めっ面で答える茶髪。

仲間の到着を待っていたらしい。質問に応じたのは時間稼ぎか。

腕っ節の強そうな髭男が一歩進み出、坊主頭とツリ目の新規メンバーが俺のほうへ移動する。

 

「聞いちゃいたけどさぁ~思ったより弱そーな奴らだなぁ」

「ひとり以外は初心者みたいよ」

「どれ」

「そのでかいの」

「ふーん」

 

ゴリッ ゴキッ

 

言いながら右に傾けた頭部の左半分が上方向へ引き攣る髭男。頭皮から血を溢しつつ生えたのは角。

 

グキキキッ

 

頭部と同程度の長さまで角は見る見る成長し頭皮が吸い込んだのか止まる出血。

人さし指中指と薬指小指がそれぞれ癒着し長い4本の触手に…

 

「おっおっおいっ」

「わっうわっ おっいっどーするよっ」

(何あれ?何あれっ)(うそっうそーっ)

「マジかよ!!マジかよ」

 

顎から生える角に引っ張られ左右へ裂ける下顎。割れた間から伸びる舌は長い。

口内からは細い管も10本ほど飛び出しユラユラ揺れる。

その醜悪な形相に睨まれ慌てる新規メンバー達。通行人も騒ぐ。後者はどういう認識なのか、何でも撮ろうとするのはやめろ。

 

(見てっあれっほらっ)(何あれ~っ)(うぉおお、すっげっなんだおい)(映画撮影?)

「撃っうっうっ撃つ撃つぞっ!」

「撃てっ撃てっ!」

 

数倍に伸び地を擦る触手化した腕と比べれば地味な変化だがズボンからのぞく足首ぶん脚も伸び、あっと言う間に普通の人間から2m超のクリ―チャ―に変貌した髭男。

伸びた首が捻れ上下逆さになった頭部とか確かに恐いけど、撃つなって言ったろ。

 

「先に逃げろっ 俺がやるっ」カチッ

「!?」「っ」「わわっ」「逃げろって何処へっ」

 

ここでXガンはまずい、Yガンでやる。退路が無い?なら跳び越せ!

 

『逃がさねーよっ』

「あ」

 

髭怪人の触手が坊主頭の足首を掴み転ばせたところで動きを止めた。

視線の先は青白く光る断面、をみせる茶髪

 

ヒョンッ バチャッ ゴッ コロコロコロ…

ブッシュウウウウウ

 

の首と胸が切り裂かれる。

転送中の頭部が転がり、胴の断面から血柱が噴出。ワイヤーが砕けても倒れない下半身。

 

(ぎゃあ)(う”わ”あ”あ”あ”ぁ”)(きゃあ きゃあー)(わ”-っわ”ぁーっ)

「なにを…」

(ぎゃあっ)(わっ わぁっ あ”っ)(わ”ーっ)(ぎゃあぁ)(わーっ)(ほんものっ!?)

「ちっ」

「永島っ」

 

ワイヤーが無くなったことで三分割されたオニ星人の周波数が戻ったのだろう本物の惨劇に恐慌するギャラリー。仲間を斬った髭怪人は俺を睨む。踏み潰した触手に気付いたらしい。倒れた坊主頭を助け起こすモミアゲの新規メンバー。潰した箇所で千切れた触手が、

 

「ひわわぁあああ」「待って…!」

 

一回転し空を斬る。ころぶモミアゲ達の背景で走り去るのは中分けと立て髪。

連れに置いて行かれ、それぞれ仰向けとうつ伏せで震える残りの新規メンバーを見おろす。

 

「俺が行ったら走れ」

「!」「あ」

ガッ

「っ 走れ!!」

 

予期しない方向から来た衝撃は赤い断面だった。生臭い液体が顔に当たる。

は?

とにかく合図を出し振りほどく。次に迫るのは髭面。パンパンになった頬が気持ち悪い。

 

『ぶぅっ』

バシャアッ

 

不快な音に続く水音。白い気体と異臭が広がる。

汚ねぇな!それに当たるとやばそーだ。

髭怪人へ振り向くと視界を塞ぐ筋張った触手。転がりながら見えたのは包囲を狭める怪人たち。

逆さまで、余分なパーツが多くても表情は判るもんなのか。

新規メンバー達は捕まらず星人たちは俺を標的と定めたらしい。

 

狙い通りの状況だ。




オニ星人の特性:ケータイでガンツメンバーの居場所を把握する。

出しゃばりこと吸血鬼の5体目はこのまえ和泉が討ち洩らした斎藤。

オリ主「吸血鬼の幹部は読唇術を修めている?(かっぺ星人ミッションにて和泉と氷川の会話)」

モブオニA:
擬態はどこにでも居そうな茶髪眼鏡。
Xガンで上半身を消し飛ばれたあと下半身だけでレイカを同胞の元へ誘導していた。
幹部オニよりしぶとい(ボスオニは頸と腹を斬られて死亡)。
誘導したあと他のオニたちと一緒にレイカのXガンでバラバラになった(たぶん)。
モブオニ全般が八つ裂き以上にしないと(生命活動を)止められないのかも。
下半身が本体で臍の下か足首あたりにも目があったら面白い。


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オニ編③

前回のあらすじ:
新規メンバーたちを逃がす加藤、モブオニAを加勢に来たオニたちを相手取る。



「はぁっ はぁっ はぁっ…」

 

両膝を掴み呼吸を整える。もう 動く敵は 居ないか…

首にかかった触手を摘まんで遠くへ放り投げる。内臓だったか、どーでもいいな。

ターゲットの唾液(?)で出来た浅い凹凸と長い触手の引っ掻き傷ですっかり荒れたエレベーター前の空間にはほかにも多くの星人が転がっている。

俺ひとりに殺到する異形たちを避け、捕まえ、殴り倒す間に改札へ続く通路から新手が湧き出し増えた分だ。比較的動作の鈍い相手ばかりで助かった。冷静になった今、脚の震えが止まらない。

…。

腰から下だけで掛かって来た奴がいたのは、夢だったのか現実か。

 

一般人はひとり残らず逃げ、坊主頭たち新規メンバー4人の姿も見当たらない。

戻って来ないということは無事だ。逃げた先に星人は居なかったんだろう、そう思いたい。

店内からのラジオ放送やプラットホームのアナウンスが大きく聞こえr

 

「きゃーっきゃーっ」「わ”ーっ」「いやーっ」「どっけっ うおっ おーっ」

 

騒ぎを見上げると一階上に増えてゆく人影。一般人か。

改札側ではなくスタート地点のほうから来ている。最後尾は警官、来た方向へ銃を構え

 

「と と ととと止まれーっ きさま!止まらんt

バチンッ

 

言い終える前に殴られる顔面。

胴との連結部が倍ほども伸びたあと千切れ床と平行な軌道で離れる頭部。

仰向けに傾き視界から消える残り。

柱の陰からゆっくりと進み出たのは星人。生身にとって奴らの触手は刃物以上の脅威らしい。

 

「動くなっ」

「先輩ぃっ なんですかっ こいつっ」

「しっ知るかっ」

「手をっ あっげろっ」

「うっ撃ちっますかっ?」

「待ってっ。うっ 動いたら撃てっ。」

(動いたらって…)(なんだ、あれ)(コスプレか?)

 

一般人と入れ替わりで警備員が到着。いや拳銃構えてるから警官?鉄道警察ってヤツかも。

刺又装備の2人を含め計6人が星人と対峙する。

 

『どっちだよ。どーやって動かずに手ぇ上げんだ?』

パンッ

 

先輩警官の命令にツッコんだ異形が軽い音によろける。

白い上着にじわじわと滲む液体。囲む一人の発砲だ。

 

「あっあっ動いたんでっ」

『いってぇー…。ちっ うっぜぇなぁ、お呼びじゃねぇよお前らなんて…

 !』

…ガンッ ゴン ドン

 

仲間の視線に言い訳する警官。

射手を睨みながら触手を広げるオニ星人の胸に命中した弾丸は殆ど効果が無いらしい、

奴は台詞を遮った物体を目で追わず、投げた姿勢の俺を見付け破顔した。

…案外弾むな、ゴミ箱って。

 

 

 

=========

 

 

 

今回のボス・ターゲットである雷オニは強敵だ。

武器は落雷と素早さ。風より立派な体格のオニ形態で殴る蹴るもしてくる。

背中に生えた角の用途は不明。幹部と同じく溶解液を吐かない。

(手を掲げたモーション無しでも撃てる)雷が直撃するとガンツスーツは故障、を通り越して四肢が破裂或いは鼻と口から血を吐き気絶する。両目が潰れたり歯が殆ど抜けたり鼓膜(+内耳?)の損傷は無さそうだったので田中ロボの超音波を受けた結果よりはキレイな外傷。心臓麻痺と火傷はスーツが防いだのかも。

装備で強化していても追いつけない動きに、マンガの玄野チームは人数で対抗していた。

リーダーのソードと風の技を当てるため一斉に纏わりつくという戦法。特攻に近い。

とくに丸腰で掴みかかって退場未遂した2名の執念と献身には噴i…感動した。

オニ狩りパーティーの団結力は異常(…あほとへたれ以外。初参加の幼児はマスコット、いや声援で貢献していた)。

 

そんなボスが最初とは。

 

肉眼でも視える大きな円。横に広い階段に出来た池の位置には確かに奴が立っていた。

起き上がる兆しは無い。

…。

ボスクラスなのにZガン一回で終わりって…人間形態でくらったからかな?

マンガのボスオニはモブオニと違って鉄山靠くらわなかったけど(たぶん)特別に技の無いメンバーの筋力+スーツアシストによる単純な関節破壊が効いてたから、玄野もボスの妨害に回っていれば風の必殺技でサクッと片付いてたのかも。

トータル0点のくせに身の程知らずにもリーダー詐称したへたれの体たらくを見ていないこっちの雷オニもマンガ同様ガンツメンバーへの舐めくさり発言吐いたんだろーなぁ…

断言すると覆されるお約束。フラグ回収早すぎ(笑)。大真面目に“対等”とか言ってるから不意討ちに対応できない。

 

まぁ終わったことはともかく、消防を呼ぶべきだろうか。ケータイ無いから呼べないや。

階段と周辺の煙と火がやばい。フラ■パン山みたいなってる。

血の池ができてすぐ大量の光点が一斉に現れ、幹部ひとりを中心に全方位へ放たれた。

その結果だ。

煙の中で流れ星みたいな光と火炎放射のような光がひっきりなしに瞬いているから未だ勝負は着いていない模様。

窓から入ったのかビル内を燃やす火はともかく階段を燃やし続け消える兆しの無い炎は何を燃やしているのか。ああいうもんなの? 壁に点いた(?)火も勢いを弱めない。

マンガでは火オニの火球を大量に投げ込まれた噴水が戦闘中ずっと燃えていた、あれと同じ現象か。恐らく術者をヤッつけないと消えない炎…

というか暴れる連中をどかさないと通常の消火活動すら出来ない。

いや判りきった考察並べる暇があるなら星人をどーにかするべきなのは解ってるよ?

強装備の囮を利用した狙撃が最適解。さっきから努力はしてる。

 

でも

…ロックオンできないので仕方ない。

 

ロックオン無しの狙撃も効果無し。

モニターの中心に合わせトリガ―引いてるのに、一向に破裂しない。だめだこりゃ。

狙撃出来ないなんて役立たずじゃん私~。(突撃☆星人交流会!的な意味で)カチコミいちばん乗りしたメンバーに任せるほかない。Zガンでオニボスぺしゃんとした奴だ。明らかに標準スーツではないものを纏っている。掌から光線出るヤツだよね?レーザーなら効くやも、頑張って当てるんだ。偽千手より高得点だと思ふ。

…。

予想はしてたけどマジかー。

マンガの火オニは想定外の超能力に視覚と機動力を潰されたので無警戒な頭上からの斬首で倒された水オニ同様「不意討ち」しか効かない系でまとめたのに「超能力」しか効かないとは。

そう思ってたなら桜井スカウトしとけって?ちょっとまえ遭遇したし?方法も確定してるし?

…ミッションの日時わかってても無しでしょ。

マンガの展開知ってたら出来ないよ、いくら私でも。

 

フードの奴(たぶん水オニ)の頭はふっ飛ばした。残りは倒れ燃えている。

帽子の奴(たぶん岩オニ)は側頭部が爆ぜたあと歩いて転げ、階段外へ落下。

吸血鬼連は帰ったみたい。火オニ狙撃に拘ってる間に消えた。ちっ。

 

異形なシルエットがぶつかり崩れる柵の一部。

(3m以上?)飛び上がって火球を撒く火オニ(形態はマンガと同じならニョロついた植物っぽいモブオニと違い長い角が一対生えてるだけのイケメン。ネコ科っぽい瞳孔はともかく鋭そうな歯と爪・悪魔めいた耳はコスプレの範疇)。火柱がたち大爆発。

(最初のブラ◇トボムで墜ちたままの)飛行ユニットを足場に跳ねる腕長スーツ(←誰なんだ?君は)。着地した火オニに振りかぶり、空振り。カウンターを全弾くらいつつ移動。

“強力な武器”としてひとつ上のランクなので飛行ユニットより頑丈なのは道理だが想定より耐久値ある印象。

そーいや標準スーツを捻じ切る念動力(?)に耐えてたな(余裕あったかは不明)。

スキャン画像が変だから火オニはヒト型の火になってそう、サラマンダーか(笑)イフリート?

奴は腕長スーツと違い肘ブレードやパンチ、レーザーを全て避けている。

…効かないなら避けないよな?至近距離なら物理も効くの?

火オニにはどっかの親分みたいな再生力が無い筈なので万が一に備えた保険かな?

とっても同意だけど、敵に慎重さは要らないよ。もっと油断してほしい。

 

他のやつ狙撃しよ。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

バチンッ 

「がっ」「え?え?」「はぁっ? あああ あっ」「やめてっ やめてーっ」「いやぁああ」

バッチンッ

星人の長い腕(?)が振るわれるたび雑音が減り濃くなる血臭。やられてンのは一般人。

 

上半身しか狙わない振り回すだけの攻撃を避けながら動きの止まッた胴体を低い姿勢で撃つ。

今回のターゲットはある程度バラバラにしないと止まらないが喉さえ潰せば吐きモノを阻止できる。

オニ星人共は連れが何匹ひき肉になッても逃亡しない。

 

人間全てを殺すつもりらしい。

 

散開後、歩道で俺たちが視える集団と遭遇した。

通行人が邪魔なため場所を変え応戦しようと俺を先頭に広場へ。

今回こそ件のヴァンパイアかと思いきや見ない間にバケモンになッていて驚いた。過程を観たかッたような、そーでもないような…。

避けられそうにない一般人を跳び越えながら移動中、手をつないで励まし合う岡崎&浦中を見て聖ちゃんがニヤついていた。岡崎めいつの間に…。

車道を使おうかとも思ッたが事故ッても困るから歩道の範囲内で地道に避けた。こッちが視えない動物の避け難さ、ソコらの星人処理より難易度高いとか面倒な…

そッかバケモンに驚いて通行人が道を開けたから目的地付近は走り易かッたンだろう。

前回同様視える星人…。

 

芝生の茂るライトアップされた広場を台無しにするうちに一般人は増えた。

星人目当てだからギャラリーだ。居合わせた通行人が態々知り合いを呼び寄せたらしい。

…平和ボケッて怖い。

俺たちの立場で上手いコト野次馬を遠ざける方法を思いついていたワケじゃねーけど、キモい外見と触れたらヤバそーなモノ吐く以外はどーッてコトないターゲットだ、ッて危険度低いめと評価しギャラリーを放置したのもマズかッたのだろう。

長い腕(?)でポケットから器用にケータイをとッた一匹が叫ンだ途端奴らの笑いは消えた。

聞き取れた言葉は『ボスがやられた』『皆殺しだ』。

 

なンで奴らの『ボス』が殺られると『皆殺し』?。殉葬なら同類でやッてろ。

自動車に轢かれるとか警官に(ドコだか知らねーけど急所?を)撃たれたッて線もあるけど、一般人にヤられる程弱い『ボス』じゃないならメンバーが仇のハズ。通行人を巻き込むな。 

つーか全然潜む気ねーよ“オニ星人”。

一時の衝動に身を任せるタイプの集まりなのか?それとも異形化は無自覚か?

本性を現し都民にケンカ売ッて、その後のこと考えてそーにはとても見えない。

ギャラリーに手ェ出さなきゃ多少変なのが居たッて何かのイベントと思われるかも知れねーのに。

考えてみりゃ前回からおかしかッたンだよな。見た目人間と変わンないからッて、狂人にしか見えないからッて星人が一般人に姿を見せるなンて。

捕食目的なら俺らみたく周波数変えて臨むほうが容易だ。一般人の反撃が通用するようなスペックなら尚更に。

海外ミッション以前のターゲットは自主的に隠れてたンじゃなくガンツがミッション用に隠蔽していたンなら野宿星人回から隠さなくなッたのは何故なんだ?

ガンツのルールはミッションを世間から隠し継続する為に在る、ッて認識が間違いなのか?

…ダメだ思考が迷走してる。

何にしても目立ちすぎの殺しすぎ。通行人・撮影会・警察官・報道マン関係無く血祭りだ。

歩兵じゃ治安維持できないッてトチ狂ッたお偉いサンの判断で爆撃とかされたら恐い。

 

「次は…あっちね」

「おうッ」

 

聖ちゃんたちと共に次のポイントへむかう。スタート地点の方向だ。

北西へ戻ると星人の群れが堂々と駅ビルに入るトコろだッた。

「あれ?」と首を傾げる岡崎をスルーし銃口を向けると最後尾の星人が歩かずに接近。仰向けに転がりビタンッと両腕(?)が床を叩く。跳ねて来たンじゃなく何かにぶつかり押されたようだ。

 

『あっ』

 

驚く視線の先には真新しいひき肉。

路上に広がる赤いシチューの手前に捻れた首・左右に寄生虫めいた触手・向こう側に露わな脹脛とくるぶしソックスを包むスニーカーが1セット。ソレの数メートル奥にも同じようなモノが視える。何だ先を越されたか。

 

ジジジ…

 

どうやら一足遅かッたらしく駅ビルに入ると唯一直立する一匹が消えてゆく場面だッた。

知ッている長身が俺たちに気付く。

 

「はぁっ はぁっ …」

「…」「…」「…」

 

荒い呼吸を繰り返すその口からは言葉が出ない。

お疲れ~、一人で全部殺ッたのか?

左掌で左膝を押して上体を支えつつ右甲で顔をこすると頬に赤い跡が付く。スーツの膂力で殴る蹴るは銃撃より早いけど汚れるのが難点だ。

あ、破裂した同類に押され無様にこけていた星人は岡崎が処理したから心配無い。

ちゃんとターゲット反応も消えた。次のポイントは…

西口方面の広場か。

草臥れた様子の加藤が見ている先には警官の後ろ姿。同じ服装が集まって揉めている。

新規メンバー達はどうなッた?

 

 

 

… … …

 

 

 

(4足メンバーと戯れていた奴らのパーツで)噴水の周りを散らかしたあと南へ向かうと右手に大きな建物が視えた。街灯その他で鈍く光る代紋。此処でも夢に見そうな光景が広がッている。

臓物をぶちまけた肉の塊・蹲る人間・呻く通行人と警官・明らかな硝煙の臭い・ボンネットの隙間から白煙を洩らすパトカー・公園よりは少ないバケモン…

ルーフが無くなッたパトカーには誰も乗ッていない。運転席のドアが半開きだから逃げきれたのか。弾痕はあッても倒れている星人は皆無。鉛玉の効果が薄いからパトカーぶつけてカウンターくらッたッてトコ?

警察署ッて爆弾系置いてないの?手榴弾なら一発で殺れそうだ。

 

「あっ」ダッ

 

駆けだした加藤は壁際でジャンプすると両腕を伸ばした。

空中でキャッチされる大きめの物体。

建物の入口を目指す星人の1匹が、着地した加藤たちに気付き進路を変える。

遅い!

 

バンッ

ババンッ バンッ

 

円柱を回り込む前に破裂する頭部。続いて別の星人共も部位が爆発・四散する。

アイツら走ンねーからマジで遅い。こッち見てなかッたし。

触手の先端や角だけを失ッた奴もいれば一瞬でミンチになッた奴も。建物の被害は無い。

やッぱ使うなら標準装備だ。嵩張らないしホルスター使えるし。ソレに比べ…要らねーなァ特典武器。持ッてるだけでかなり邪魔。いつもの指令、ターゲットの嗜好なんてトリヴィア要らねーからサイズとエリア情報を載せろ。特典武器はでかいターゲットを単独で倒す用だから街中エリアで人間サイズ相手じゃ使い途が無い。雑魚処理にいちいち目立つ痕跡を残すのは躊躇う、税金で直すンだし。

 

3階の窓から落ちて加藤にキャッチされた物体は細身の警察官。

腰に届く長髪でスカート穿いてたから女だろう。ソレを担いだまま壁から離れる加藤。

降ろされた位置で地べたに座ッたままの女は口を半開きにし無言。自分の無傷が信じられない、という表情に見えなくもない。両掌で自らの口元を覆う。

 

星人だッた物体を軽やかに跳び越え出入り口へ突撃する加藤。

気持ちは判るが少しは躊躇え。

待ち伏せを警戒しろッて意味は勿論だが俺が言いたいのは一般人に触れたコトだ。

バケモンが消えたり勝手に破裂するのは見たコトも聞いたコトもない生物に攻撃された動揺で有耶無耶になッて不思議じゃねーしXガンで撃った破裂は警察や自衛隊の狙撃、Yガンで転送され消えるコトさえ見間違いと片付けるかも知れない。

でも触るのはダメだろ。視えない存在とその関与を疑われてしまう。

 

一度ビシッと言うべきか、うん言うべ、と思いながら入ッた建物内は無人。

受付にも廊下にも人影が無い。被害者すら居ないッてコトは上階へ逃げたのか。

さッきの女は3階で追いつかれたから窓を開け脱出した?

…。

いい加減惨状には慣れたけど…すすンで見たいモンじゃない。

 

「静かだな…」

「さっきの人だけだったのかな」

「え?」

「逃げられた人」

「…」「…」

 

「ねぇ、呼ばれてる」

 

エレベーターに駆け寄ッた聖ちゃんが指摘する。無言で退がり武器を構える俺たち。

 

ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ ドッキンッ…

 

♪ピーンポーン♪

 

「…」「…」「…」「…」

 

「ふうっ ふうっ ふうっ …ひどい目に遭った…」

 

ホームドアの向こう側にいたのは星人でも加藤でもなく知らないオッサンだッた。




加藤にくっついていた内臓はオニ星人の触手がオニ星人を斬った際被った物。
それと加藤のパンチで爆ぜた物。
Yガンを使う合間にオニ星人を何度もどつくうち加藤の左ストレートは必殺技に昇華した。

池袋駅に居る単独行動のハンター(=加藤)を狩りにきたオニ星人は加藤にゴミ箱をぶつけられた。

知らないオッサン:
警察署の偉い人。オニ星人に遭遇したが勝手に爆ぜたので無傷。帰って汚れた制服を着替えようと自家用車へ向かう。


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オニ編④

前回のあらすじ:
加藤と合流した玄野たち。警察署内のオニ星人たちは誰かの処理済みだった。



===□□□===

 

「おばーちゃん…」

「…」ギュウ

「きんにくらいだーっ!!!」

 

ここは映画館前の路地。

JJさんと風くんの大暴れを応援するタケシくんと、座り込むカヨさんに抱きつかれ困り顔な亮太くんの前で僕はXガンを構えている。でも護衛ってわけじゃない。

「僕らの位置知ってるの?!」と叫びたくなるほど的確に集まってくるターゲットたちは目立つ2人に引き寄せられこっちまで辿り着けない…

事実を反芻していると仕事が来た。人影が角の看板横に現れる。

 

ギョーン ギョーン ギョーン

 

慎重に狙い発射。星人たちの断末魔やら千切れる音で余韻が消され暫く。

 

ボンッ ボンッボムッ

 

進行方向の道路が爆ぜ、その場で跳ねるように立ち止まった人影は逃げて行った。

一般人だったようだ。星人の場合は爆発を無視し解体待ちに加わる。

僕の役割はこれ。

ほっとくと一般人が星人たちに近付きすぎて巻き込まれるので通行止め係。

暇だしガンツ武器は弾数無制限みたいだから迷惑じゃないけれど不思議だなぁ。

駅から此処へ来るまでに結構な数のターゲットと…不幸な人たちを目にする筈なのに何で見に来るの? ネタ探しより保身して。

あれも気になる。

ビルの影に隠れちょっとしか視えないけど…火事だよね?あれ。

東の空を染める暖色のもくもく、火に照らされる煙だ。

打ち上げ花火みたいな音がちょくちょく聞こえるし、ミッションと同じタイミングの事故でないなら星人の仕業? 前回の星人は銃を使っていたから、爆弾投げて来る星人がいても不思議じゃない。音の発生元が変わっているのも気になる。数分前は駅より西側からと思わしい遠くから聞こえた。

…此処には来ないでほしいなぁ。

 

時間切れまでこのまま?という感想が出るより早く映画館前は静かになった。

やっと立ち上がるカヨさん。しゃがんで腕をひろげる風くんへ向かいタケシくんが駆けて行く。

 

「残りは…あの下でしょうね」

 

僕が呟くと東の空を見上げた全員が黙る。

火事場の星人は元々東端に居た奴だろう。スタート時から動いていないターゲット反応。

火事が起きたタイミングでメンバーの誰かと接触したのならほぼ経過時間中闘っている。

15分前に確認した1体はそのままだ。映画館前に着いたときは3体だったから大詰めだろう。

…オニ星人の親玉っていうと…磯巾着みたいなのだったらどうしよu

 

ドォンッッ

 

わっ?!

空気が震え一瞬だけ昼間のように明るくなった南側の路地に目が眩む。

ええっ?

視覚が捉えた物体に浮かぶ疑問。

何なの?

次に視えた人(?)にも自身の目を疑ったけれど前者のほうがインパクト強い。

映画館のある路地の南端T字路を東へ通り過ぎた彼らは……ロボとエスパー?

 

ドォンッ

 

再び聞こえる轟音。少し遠い。

 

「あ」

 

風くんの視線を追うと視えたのは角へ消える片足。東へ向かう人物が横切ったのだ。

次に出て来たのも全身タイツ。女性メンバーがぴったりと彼を追う。4人目は僕らに気付いたようだけどスル―。

風くんとJJさんが駆けだす。タケシくんは置いてったほうが良くない?

カヨさんは行きたくない様子。僕も一緒に残りたい。

 

役に立てない予感しかしないもの。

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

今日も大騒ぎだな…

犠牲者の傍で電話する一般人の横を通り過ぎながら思う。

未曾有の被害を出した前回のミッションは一カ月以上経った今も海外で騒がれているが日本では一週間程で収束した。というか別のニュースで上書きされた。

ミッションエリア(である巨大クルーズ船)にTV番組のロケで乗り合わせ重体と報じられたJKアイドルの奇跡的な復活に世間が注目した為だ。

でも今回は国内の騒動だから関心が移りそう。長引くかも知れないな…

 

ミッション内容がこれ以上エスカレートしないなら。

 

うん、今日は1番を選ぼう。

武器を選ぶなんてあの時の俺はどーかしてた。死のリスクと比べれば数カ月分の記憶喪失なんて瑣事だろう。今のところ特にやりたいことは無いけれど10代で人生終了は無理。

…。

いやマジで無理だ、死にたくない。でも俺だけ降りるのは何かなー…。

ダチになったサダコのことを忘れちまうのも不義理な気がする。

「何があってもガンツメンバーを続ける」と言ったサダコは夢で見て魘されるような光景を含むミッション関連の記憶を失うことを死ぬことよりも嫌だと思っている…そう思ってくれているのだ。

 

俺とサダコが最後だったのだろう辿り着いた現場、大勢の一般人と眺める街の一角は別世界と化していた。

 

(うわー…)

「うッ」

「あれ…どーやって近付くの?」

「…つか近寄れんの?」

 

火の粉を浴び後ずさる玄野。俺の前に並ぶ山田と苫篠が呟く。確かに普通なら近寄るだけで火傷だな。今にも橋梁を越えて来そうな災害の、熱は装備に遮断されているらしく感じない。

離れた位置からでも火事があるのは判っていたがここまでの規模とは…

火事場の三方を囲む高層ビルよりも成長した黒煙内で周囲を照らす炎が禍々しく揺れる。本来は現場を俺たちの視線から隠す筈の建物はほぼ全壊し、一階分の壁と内装を残すのみ。

手前に見える塊が消防車の残骸なら火災を消すのも俺らの役目か?

集まっていないメンバーは加藤たち初心者ツアー。西と佐藤は毎回見当たらないので居るのか居ないのか不明。あと犬は、まぁいいか。

 

「和泉くんは?」

 

山田が周囲を見回す。

あぁそんな奴もいたな。心配しなくても…あそこに居るんじゃね?

燃え盛る音に混ざり火事場から轟音と震動が響く。

あの中にメンバーが居るとしたら和泉だろ。

 

「おほーっ すっげ! おいっ見てみっ」

 

左手で持ったXガンを右手で指し促す苫篠を見て真似するメンバー達。

Xショットガンも持ってきてない奴はモニターを後ろから覗く。

ほぼ黒い画面に炎は表現されず白い枠線で描かれた階段を蹴る物体が目立っている。

白抜きされた人型のそれは頑丈そうな長い両腕を前方へ突き出すと奥へ半歩移動しジャンプ。

ゴウッ

直後、煙越しでも判る規模の火柱が立つ。腕長シルエットの居た辺りだ。

 

「両方星人か?」

「ツノあるほうだろ」

「何か変だぞ」

 

首を傾げXガンを叩く玄野。

それより苫篠たちの会話が気になる。ツノなんて……あった。 

よく見ると階段から胸像(?)が生えている。ぼんやりした影だが頭部にツノらしき装飾が2本、骨格ではない。…ん?

なんて思っているうちに消え、数歩離れた空間に現れる全身。

白抜きの長い腕に殴られ下腹部で分割される半透明な姿。

上下パーツがそれぞれ仰向けで着地すると階段へ融けるように消え今度は十数歩離れた位置に現れた。

 

「すげぇな」

「あァ強力な武器ッて言うコトはあるよ…」

「は?100点分の特典はこれっしょ」

「1回目はな、2回目か…3回目のヤツ」

「そーだな、こればっか貰ってもな」

「えっと、特典武器がどうしたの?」

「だから…腕が長いほう、特典装備だッて話」

「あっ」

「あれが…」

「ガンツ武器だから中身が視えない…」

「えっ そーなの?」

「武器はスキャンできない。ガンツスーツは透けるけど。…構造隠してンのは同じか」

「へー…。おお…!」ワキワキ

 

Xガンの銃口を右掌に翳す苫篠。星人をスキャンした時の様に自分の掌骨格が後方画面に表示されているのだろう。

あのスーツ(?)は標準装備の攻撃を完封しそうだ。少なくとも目の前で耐火性能を証明し続けている。

やっぱりあの中身は和泉なんだろうなぁ。特典武器だからって装備頼みで火事場につっこむような奴はあいつしかいない。例えばの話、最初から支給される武器とは違い取り説付きで「-150~5000℃までOK」と明記されても普通はしない。

腕長物体がメンバーなのは分かったが、ちょっと待て。

…やっぱりレーダーの表示は変わっていない。ターゲット反応は2つだ、もう一匹はどこに

 

ゴゴゴ…

 

ん?

 

ゴゴゴゴゴ…ズシンッッ

 

「あッ」「地震だ」「でかいぞ」(きゃーっ)(伏せろっ)(ケータイ割れたっ)

 

突然の揺れに騒ぐメンバーと一般人。車道の表面が罅割れる。

 

パラパラパラ…ズシンッッ ズシンッッ

 

控えめに降り注ぐ粒は細かくなった石?壁材か?

路面・煙と炎・橋梁と目線を順に上げていくと右手奥の建物に違和感が。

小さくなった?

いや…

 

ドンッッ

 

ビルが ひとつ増えて る

 

ガンッ

 

右肩への衝撃で上下が反転したと思ったら何かに後頭部をぶつけていた。縁石か。

仰向けで見上げる視界が悪いのは砂埃のせいだろう。

黒髪が左腕と顔面に被さる。口に入るから、覗き込むのはやめるんだサダコ。

 

立ち上がり背を向けた彼女の長髪越しに一部陥没した橋梁と、やっぱり異常なデカブツが視える。

俺はあれの攻撃でふっ飛んだらしい、仁王サイズの図体と不釣り合いな速さで車道を踏み荒らしている。大迫力かつ現実味のない光景だ。当然の如く蹴散らされ宙を舞う自動車は重さのないゴミのよう。

 

ドンッッ

 

巨人の足音とは異なる轟音。

特典武器が命中し巨体が倒れたのか一際大きな振動が全身に響く、強風が吹き濃くなる土埃。

続く狙撃音と圧殺武器が潰す音。何度も生じた爆発音が突如止み揺れは止まった。

…。

やったか?

 

…シン ズシン ズシン

 

まだか。さっきより小さいけれど同じような振動を感じる。

俺のように動けなくなったメンバーが何人居るか不明だが集中攻撃で倒せないとなると…

再生する星人か?

でかくて再生可能って、今回のボスはあいつの方か?

何にしても早く終わることを願う。火そのもののような星人の、攻略法は見当もつかないが。

 

目を閉じると滑らかな感触が再び頬を撫でた。

 

 

 

=========

 

 

 

北条たちが火事見物に加わる少し前。

 

結局最後は火オニか~

往来で群れる奴らは他のメンバーに(一方的に)任せ駅ビルやその他建物内へ入り込んだ分と逸れを処理したのち火事場(の観測点)へ戻ると数十分前の攻防は継続していた。

先送りにした問題を時間は解決してくれなかったなぁ。当たり前な結果にちょっとうんざりだ。

 

それにしても、ご苦労だね誰かさん。

見てない間にメンバーと合流し別れたかそこらで炭化してないなら30分ちかく動きっぱなしのはず。動かすストレス少なめなのかな?特典武器だけに。

感想を並べる間も瞬間移動の如く炎を渡る火オニ。それをでかい拳で追いつつカウンターをステップや側転で避ける上位スーツ。

…。

生死の懸かった集中力の凄さか。

双方の回避技術が向上している(火オニはマンガでもやっていた動き)。

とくに誰か、不規則に指向性を持つ火柱と発火位置の変化を如何にして勘付くの?

レーザー避けよりムズイだろ。

断言していたらごっつい肩に火球が直撃。やっぱりムズイ。

避けられた火球は地面にクレーターをつくり、建物を1ブロック分貫通し、街灯の支柱を蒸発させるのに上位スーツに当たると(ここまで聞こえないだけでそれなりに大きな爆発音を伴っているだろうけど)小規模な花火っぽい光だけで終わるなんて特典黒衣チートすぎぃ。

 

ていうか運癖設定どーなった…

散々誰かさん呼ばわりしてあれだけど、あの中身センパイだよね?

加藤(がリーダーを努める東京担当)チームで武器を3回選んだメンバーは西のみ。

100点貯めるたび貰える“強力な武器”は4種類。1回目はZガン、2回目は飛行ユニット、3回目が上位スーツのはず。

ボスっぽい数人狙いだとしても3回分の特典武器で固めたうえ死角になってそうな上空からステルス状態で不意討ちするなんて流石はセンパイ(基本的に)慎重派。

上位スーツの耐火性能高くてよかったね、標準スーツだと恐らく一撃で炭化する炎攻撃を墜落直後は全く避けられてなかったもの。

ある程度の慣れ或いは時間経過で上位スーツは標準スーツ以上のアシストをしてくれるようになるものの同期に時間がかかるってことなのか? だからマンガの海外ミッションで残骸(中身入り)がゴロゴロしていた? まぁ可能なら避けるよねぇ、外傷なくても衝撃で酔いそうだ。

特典武器って唯の選考落ちかも。ロマン仕様すぎて標準装備に採用されないヤツ。

大柄なメンバーの上位スーツでも横向きに持つとかちょっとした工夫で部屋の外へ持ち出せそーだけど周波数変えたとしても派手な痕跡や騒音問題で訓練場所選ぶから標準装備みたくオフ時にその辺で練習とはいかないし。鈍い状態を凌ぐ方法が無いのなら結構博打だ。

 

まぁ広範囲の反則技(=超能力や高熱)を完封する機能は魅力だし次のミッション(予定)では使い途あるから、今回も特典まで没収されそうな時間切れは避けたい。

しかし困った、

攻略法が見えない。未だ残り時間に余裕があるので慌てる段階じゃないけれどマンガとメンバーが違うだけでこんなに難易度が上がるとは。超能力師弟は偉大だ。

最終的に桜井はそこらのボス・ターゲットより人外化するのに星人枠じゃないし、今の彼にあの力があるなら気兼ね無く頼めたのになぁ…いや恨まれた場合詰む、危険だ。

一般人に事情話せないから拉致後の説得しか出来ない。

 

先に与し易い方を片付けよう、もう1体居る筈。

マップに表示されている2体のうち火オニではないターゲット反応はたぶん最後のモブオニ

だ。幹部に助けを求めて来た奴だろうか、火オニの部下ならいいけど弟子だと困る。

(幹部も含めたオニ星人共が全て同じ種族であることを前提として)オニ星人共に4種類の能力系統があるならば火オニ系のモブオニが居るかも。

マンガでは出なかったが火を出す前に処理された可能性はある、というか居る可能性は高い。

今センパイたちが暴れている火事場以外から爆発音を聞いたし火の燻る大穴を複数目撃した、それとマンガの採点に疑問がある。オニ狩りの前(のミッションであるマンガではゆびわ星人狩り)まで得点王だった玄野よりメンバー全員の得点が高かったことだ。

 

(オニ星人ミッションの採点結果からゆびわ星人ミッションまでの合計を引くと)和泉は70点・超能力師匠は84点・おっちゃんは85点・アイドルは92点・風は100点以上。

カンフー超人が主人公より高得点なのは順当だと思う。岩オニの点数が含まれているし元から玄野よりスペック高い(恐竜狩りでは初心者、ゆびわ狩りはターゲットが少なかった結果の0点だった)。アイドルは、オニ星人が他から集まる移動手段なスタート地点・池袋駅に居たから遭遇率の関係。超能力師匠は火オニを倒していた。主人公と同時に斬り付け分割した雷オニの点数は和泉に全て入ったのだとして、おっちゃんこと鈴木の点数が問題。彼は玄野と行動し主人公の手際を称賛していた、のに得点は上。加えて幹部を1体も倒していない。マンガの玄野は(水オニ含め)57点獲ったから多い28点分は何なのか。(メタな理由は別として)有り得そうなのは2つ。

 

①100点メニュ~開放に必要な頭数を片付け終えた玄野が遭遇したターゲットの大部分をおっちゃんに譲った。

②モブオニに高得点ターゲットが混ざっていた(マンガでは偶然目立たなかった)。

 

そいつ(ら?)の高得点理由がスペックだとして、いま隠れて(?)いるオニ星人が火オニ並みの火力持ちでも狙撃可能なら困らないが…別の理由な場合、標準のオニ星人ならフツ―に焼けるか融けるだろうから火事に巻き込まれず且つガンツメンバーを見張れるような…

ぅおっ

擬態でギャラリーに混ざってたら判んねーな、と思いながらコントローラーを開くとビルが揺れた。階段が崩れたのだろう一角の火が消える。土煙の中に何か

 

ズシンッ

 

店舗の屋根と階段を掴み立ち上がった影が

 

ドンッッ

 

橋梁を撃ち砕く。

 

ズシンッズシンッズシンッズシンッ

 

助走をつけて更に一撃。狙われたのは野次馬の集団…ってスーツ着てんじゃん、メンバーだ。

背丈が4倍以上な新手の足元へ駆ける全身タイツは4人。玄野と風とJJか、それと桜丘。

玄桜はZガンを使う様子、風は近くに置いてあるのだろうか手ぶらだ。JJは元々丸腰。

橋梁を見おろす(?)新手は頭部の無い人型。表面がゴツゴツしてるから岩オニか?マンガより明らかにでかい。頭部無くても元気なのは岩だから? バラバラに解体されたら停止するけど頭部以外が無事なら問題無いってか。

崩した橋梁を踏みしめ土埃を量産しつつ動きまわる大岩オニ(仮)。

メンバーのひとりが蹴られサイドパネルにめり込んだところで土煙に穴が空いた。綺麗な円だ。

1つ2つ3つ…

左腕を失い反回転、右膝をつく大岩オニ。

再度振り降ろされた視えない円柱を前転し避けるも転がった先で左足首を喪失。

そして大爆発。

屋上まで爆風が届く。

 

自爆か?

Zガンで潰しても爆発しない(筈だ)し爆弾内蔵箇所といえば胴体、は爆発直前無傷だった。

何の起爆か不明だがガンツメンバーの道連れを狙ったのだろう、歩道にまでクレーターがかかり防護柵や標識・外灯・植え込みは勿論のこと舗装が剥ぎ取られ随分シンプルに改装された。

今気付いたけど火勢が小さくなってるし、大岩オニが生まれた(?)残骸の火は消えたまま。

 

消えるのかよ火オニの火。

 

ならZガンで一斉に(火オニ含む)出火場所を潰してみる?

渡る火が無くなれば火オニも消えるかも知れない。今の100点武器所持数なら出来そう。

マンガのオニ星人ミッション時点で0だったのが(大岩オニその他が壊してないなら)11丁ある。

一度に全て消せなくても火オニの放火を防げば何度か機会があると思う。

ビルの火は、ちょっと削るだけなら倒壊しないだろう。

メンバーたちとの打ち合わせが要るし火中の匿身メンバーには知らせようがないので最後の手段だな。

 

私がサボっている間も動き続けていたのだろう上位スーツ氏は変わらず忙しそう

あ。

火の中で横転した車両内に透過不能な塊が視える。上位スーツっぽい形状だ。

 

…2台目?




奇跡的な復活を遂げたJKアイドル=野宿星人ミッション時の白服女
大型劇場に隣接する大広間で頭を怪我し植物状態以上の回復を見込めないと診断された翌日記者会見で完全復活を宣言した。

警察署内のオニ星人をバラしたのはオリ主(のXショットガン)。

岩オニがマンガ(3mくらい?)よりデカイ(8m超な)理由は…


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オニ編⑤


前回のあらすじ:
高所から火事場を俯瞰するオリ主、火オニに対する上位スーツ(使用者)の他に停止する上位スーツを見付けた。



 

まさか、

お代わりがあるの?

残機増えるなら前向きに入手を検討したい。

「ハードスーツ」や「岡スーツ」と呼ばれる上位スーツは標準装備以上に謎なアイテムだ。

マンガで主人公(及び語り手)の所属するチームメンバーはZガンまでしか(自力)入手しなかったし「本番」では転送のおまけで装備していたから仕方ないけど装着方法すら判らない。

それともセンパイ以外の誰かなの?あの中身。他チームの助っ人?

主催者の飛び入りは無いと思う。

 

中身が誰か知らないが(何十発浴びたとしても)あの火球やら火柱で三番目の100点装備が壊れたんなら火オニって案外高得点なのでは?

和泉より超能力師匠の得点が上だったし雷オニより高得点な可能性はある。

マンガの火オニは読者にあんまり評価されてなかったけど採点判定に関わる大きな要素がヤッつけるまでの梃子摺り具合なら100点いきそう。

そもそも星人呼称するような生物の戦闘力をどんな方法で測っているんだ、と言うか測れるの? 

星人のスペック(と言うと殺人や器物損壊の手際?)を知ってミッションを企画しているならもっと役立つ指令内容の筈だ。違うなら被害が多すぎる。ミッション中の行動でテキト―に採点してそう。もしくは、ボスクラスの高得点は1チーム全滅させる度に加算された結果だろう。

 

消防車らしき車両に埋まったまま動かない上位スーツは、まだ入ってるのか?あの中身。

火種が直撃しなきゃ標準スーツでも耐えられそうではある(サウナ並みの体感ならキツイが)。

とか思ってたら腕長スーツが動いた、かに見えたが違って車両ごとずれた。原因はヒトの骨格。

それはその場でもがくと転がり歩道の次に車道へ横転、漸く止まった。

サウナよりも熱いらしい。

望遠モードに変えて視たところボタンは点灯している。

マンガで燃やされたメンバーのようにスーツごと炭化してないから無事っぽい。

火オニ戦に参加しようと飛び込んだにしては変な動きだった。投げ込まれたのだろう。犯人は…

瓦礫の上に居た。

火事場と橋梁に挟まれたビル跡地を更に散らかし戯れるメンバー2人と大きなヒト型。

メンバー2人は玄野と桜丘。その倍近くある相手の身長は3m弱。

 

Xショットガンを構える玄野とXガンを持つ桜丘が示し合わせたように間合いを空け、不思議な踊りを披露する。腿上げ数回ののち上体を反って一回転、時計回りで身体を投げ出し側転を決め更に後退。桜丘はともかく意外と柔軟だな玄野(帰宅部)。(見物する余裕がありそうな一般人が周りに見当たらないし周波数はいつも通りっぽいので当然)飽きた観客への配慮、ではなく回避行動なのだろう。2人の目線からして犯人は大きなヒト型。

スキャンモードでは頭蓋骨が大分欠けているし望遠で観察するとマンガ版岩オニそっくりなので本物登場か、と思ったのに(大した射程じゃないが)遠距離攻撃手段があるなら別オニかも。

マンガでは相手が拳法使いだったから同じ土俵で闘っただけで石を(機関銃に近い速度で)ばら撒く特技があったのかも、玄野たちへ指先すら向けず仁王立ちのままなので体表のどこからでも飛ばせるヤツが。丸腰の奴に使ったら負けになる、とマンガの風戦では封印してた可能性はある。

最期は驚き顔だった。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

一段高い瓦礫の上に佇むのは怪人。

火事場に照らされ陰になッた前面の中で唯一濡れたように街灯を映す双眸が大物感を醸し出す。

…厳しい相手だ。

火中の変な奴は何かスゴそーな装備貰ッたアイツに任せるとして、奴は俺たち2人でやるしかない。風はトラックの荷台にめり込ンでから帰ッて来ずJJはうつ伏せで倒れたまま。

デカブツの自爆で発生した視界の悪さを利用し、残る敵(=動けるガンツメンバー)のうち一番デカい奴(=JJ)を戦闘不能にするあたり、基本的に俺たちを舐めてかかる星人らしからぬ賢さだ。

加えて聖ちゃんと俺の狙撃を避けながら放ッた針?のような攻撃は視え難く、かなり鋭利。

掠ッただけでスーツの防御を越えたらしく左二の腕に刺すような痛みがある。早いトコ取り除きたいが…

そンな暇は無さそーだッ

 

…ヒュッ

 

悪寒に従い右へ跳ンだ俺の耳に微かな音が届く。奴の足音と投げた礫が風を斬る音に混ざッて判り難い。

 

ヒュヒュ ヒュヒュヒュ ヒュンッ

 

走ッて跳ンで物陰に入ッたところで気付いた。

バカか?俺は。その辺の瓦礫じゃ(スーツを貫通する)針を防げない。

動き続けることが唯一の対処法。目隠しにはなるだろうが…

ヘンだな、針がとンで来ない。

瓦礫から顔を出すと黒いスーツの背中が視えた。

 

浮いていた右足の裏が着地し膝が曲がると左右の順番で空を掻く両腕、

3つ編みが解け広がり艶を増す。

 

「聖ちゃんッ!!」

 

着地した後頭部が一度弾み露わになッた美貌が再び隠れる。

背中を瓦礫に凭れると彼女は動かなくなッた。

 

「ぁぁぁあああぁあああああ”あ”あ”」

 

嫌だッ 聖ちゃんッ そンなッ!

倒れた彼女の背景が俺を見る。奴が聖ちゃんへ視線を戻す前に俺は地を蹴ッた。

視界をすぎる彼女と捨てた武器。近付く巨体と醜い貌。

 

そこを一歩も動くなよ

 

今すぐ頭をかち割ッてやるッ

 

 

 

=========

 

 

 

ジャンプし武器を振った玄野は一撃で弾かれ巻き戻しのような軌道で桜丘の近所に落ちた。

柄物が廃材なら当然か(回避時に捨てたXショットガンが最後の武器だったらしい)。

寝返りをうって彼女を認めた途端飛び付く茶髪。傍らで恋人の手を握り俯いてから漸く周囲を確認するとその動きを止めた。

 

視線の先は岩オニ、

の首無しver。

(鎖骨ギリギリまで削った分)低くなった座高で膝を折り沈黙している。

停止から一転、忙しなくキョロつき桜丘を抱えた玄野は跳んだ。

 

ドバンッッ

 

直後四散する星人、

岩オニのパーツが周囲へ破壊をばら撒く。飛び出ていた廃材が砕かれ瓦礫の表面が均される。

あいつもか。

 

高架上に(は寝かせた)桜丘と玄野。

瓦礫だらけのビル跡地全体を隠す土煙が晴れる。爆心地の凹みには何も残っていない。

前例(=大岩オニ?の自爆)が無かったら巻き込まれてたかもね玄野たち。

点滅していたターゲット反応が消える。

粉々になってもすぐに討伐判定できないって、火を渡る火オニのように岩オニが周囲の土や瓦礫と化し倒せていないことでも考慮したの?

そんなの火オニより面倒じゃん。

 

…そろそろ勝負に出ないとまずいなぁ、

マップが予兆を示しだした。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

“オニ星人”が蒼い景色の中ゆらゆらと歪み幾つもの靄が周りを彩る。

階段と周辺施設の表面からも生じては消える薄い靄は、その大きさはともかく濃淡は温度を表しているのだろう。

いま俺は、炎に囲まれているらしい。

地獄なんてモノが在るのならこんな場所だろうか。装備が無かったら生きていられない筈だ。

喉が渇く。

迷いなく靄へ飛び込んだ先頭に、倣った当初は平気だったのに。やはり直撃はマズッたか。

白い塊…おそらく火球をくらってから発汗が止まらない。目前下部に表示されたアーマー内の気温は60℃。さっきよりは下がった。

 

遡って十数分前。署内へ駆け込んだものの3階の廊下に着いた時点で一度も襲撃されないこと、ガン類でバラされた様な星人しか見当たらないことに安堵と少しの徒労を感じていると建物が揺れ、窓から出した顔面を熱風に焙らせながら知ったのは追われるガンツアーマーと追う怪人。

(たぶん轟音の原因で)警察署玄関へ移動したパトカーを盾に警戒する計ちゃん達を無視し2体は南へ走り去った。

 

現在、超高層ビルの足元で俺が対峙するのは怪人のほう。

この火事場も奴が作ったのだろう、まとまった炎で攻撃してくる。初めて視た時は自分の目を疑った。走りながら掲げた掌の上に火球をつくり敵の背中へぶつけるキャラとかどこのフィクションだ。放火や爆発を手軽に起こす漫画の超能力者みたいな技術だけでも厄介なのに崩しても千切っても堪えない星人なんて、どうしたらいいのか…

頭からツノが生えている以外は人間っぽかったのに骨格無いとか幽霊かよ?!

 

ゴォッ

 

火柱(?)に指先を掠めながら見えた車両は横転したまま。大穴の開いた腹をこちらに見せる。

あいつは復帰しないのか?

穴の奥に居るはずの、誰かの装備は俺と同じ。豪華客船で着た頑丈そうな外装…

 

ザゥッ …ボンッ

 

を車両ごと2条の衝撃波(?)が火で包む。

みるみるへたってゆく鉄塊。温度を思うと頭が痛い。

警察署から線路を横断し此処まで、あいつは何度も火球をくらっていた。いくら背後へぶつけられても起きあがり走りきったんだから正面からの一撃で壊れたりしないよな?

車両から出てこない原因(かもしれない攻撃)は大きいめの火球ではあったけど。

…。

スーツと同じで急所があるのか?

 

『ハンター!』

 

?!

声に振り向くと星人が居た。どういうことだ?

バックステップし確認する。やはり2箇所に星人が居る。と言っても新手ではない。

正面と2時方向に全く同じ姿とポーズで立っている。火を出す奴が増えている。

 

『みろ!みえるか』

 

あぁ視えてるよ…

俺より数段高い場所…2時方向に残る階段横の壁を足場に立つ星人、奴が掲げる右手の上、頭3つ分ほど離れ巨大な塊が浮かんでいた。

ツノを含めた星人の背丈よりもでかい…

 

『動くな!』

 

身構えた俺を叩く声。

は?

 

『少しでも動けば!これを!あれに!ぶつける!』

 

正面の星人がおろした右掌を俺へ向け左手で示す。

長い指がさしたのは火事場を見おろすランドマークタワー。

…!

サウナのようなアーマーの中で頭から血の気が引いてゆく。

いきなり喚いたと思えば、なに言い出すんだあの星人。

 

【よせっ落ち着け…】

『動くな!!』

【…。要求は?】

『腕を下ろせ!!』

【わかったから、はやまるな】

 

両手を上げると怒鳴られた。しかも下ろせって…まぁ元々手ぶらだ、掌を見せる意味は無い。

 

♪トントントン トトトッ トトトッ トトトントントン トトトッ トトトッ トト…♪

 

!!

ホールド・アップを改める前に電子音が曲を奏でる。着メロ?

 

『ちっ こんなときに…』ピッ『何だっ』

 

正面の星人が立つ方向から苛立った声が。電話出たのあいつ? しかし奴の口元は動かない。

 

『うん?…。そうするとこだ。…。ああ?うるせぇな。てめぇに言われたかねーよ。

 大体、話が違うだろ。あんなん出るなんて聞いてねぇ…。は?…ああ、わかった』ピッ

『ハンター!』

 

妙な独り言が終わり今度こそ口を開く火オニ1号。やはり同じ声にきこえる。

 

『武器を捨てろ!』

 

…?

……?

 

【意味がわからないっ こっちは手ぶらだっ】

『ふざけんなっ 中身入ってんだろ!…もう一度言ってやる 武器を捨てろ!』

 

命令を解せず困惑する。何なんだ、これ以上どう『武器を捨てろ』と?

仕方ないので自分の姿を想像する…やっぱり武器を持っていない。腕のギミックは外せないし……もしかして肘ブレードを折れと?掌の射出口を塞げって意味か?

…。

まさか、このアーマーから出ろと言いたいのか? 聞くと頷く火オニ1号。 

『はやくしろ』って、はじめからそう言えよ!……しかし、

脱げるのか?この装備。

 

怪人たちを追う途中、思いついてレーダーを操作したら着れた(?)ので脱ぎ方わかんねぇ。

ミッションエリアへ転送直後レーダーに表示されていた新しい画面、線画ガンツアーマーページを再び出し“Yes”を選択したら視界が蒼くなった。たぶん転送のように頭頂部から果物の皮剥きを巻き戻すように着たのだろう。視界にちらばる表示は何故かバグったように文字化け(?)していて着脱に関係あっても見分けがつかない。マジでどーやって脱ぐんだ?

ていうかこんなとこで耐火装備脱いだら…

 

ドンッ

 

言い訳を始める前に1号の背後が陥没した。

 

 

…ゴゥ ゴゥ ゴゥ…ボボボ…

 

見間違いか? 目の前で星人は消えた。霧散って表現が近い。逃げたのか?

さっきまで火オニ1号が居た少し後方には円形の凹み。

土下座一歩手前な姿勢で見回せば火オニ2号も居なくなっている。

…。

……。

えー…と…?

火事場に残されたのは俺だけらしい。

 

ドンッドドンッ

 

危ねっ

1・2歩の位置に3つの凹みが重なるようにできて思わず後ずさると浅い陥没を踏みしめる骨格に気付いた。数は2体。左右の手には見覚えのあるシルエット。

部屋の武器だろう、メンバーだ。

 

「リーダー?」

 

伺うように首を傾げる骨格①発した声はたぶん苫篠。骨格②は周囲を一瞥。

炎で中の様子が視えないから牽制として特典武器を使用した?もしかして消火に使ったとか?

武器のスキャン機能やレーダーのマップを使えない状況ってこと?

骨格①②…苫篠と誰かは嵩張る武器を右手で構え駆け寄る。

 

【あぁ俺だ】

「マジでっ すっげー!」

「おい後にしろ。リーダー」

 

「やめろよーはげちゃうだろ~」と言う苫篠の頭頂部をひっぱって留めると骨格②が空を指す。

視えたのは丸い月…

…いや動いている。風船の様にフヨフヨと。

 

「あれって星人関連だよな」

【まさか…】

 

苫篠たちは空に浮かぶアレが何か判らないなりに心配して来てくれたようだ。

でも説明は待ってくれ。問題の物体を見上げながら俺は精一杯考える。

此処からだと小さく見えるが、あの光る浮遊物体は貯水タンク大の火球…エネルギー弾?

とにかく爆発物だ。(今まで爆発したソフトボールやバスケットボール大の火球の威力から単純に考えて)小さく見積もっても家屋を丸ごと吹き飛ばすような。

そんな危険物が火事場の気流によるものなのかゆっくりとビルへ向かっている。

超高層ビルの壁面へ。

くっそぉ…何でアレだけ残ってんだ、出した奴と一緒に消えとけよっ!

とにかく(警察も含め)一般人は気付いても(建物内の人なら避難以外に)何も出来ないし、この装備で体当たりを試すくらいなら少しでも建物から遠いうちにXショットガンで誘爆させたい。ガンツアーマーについたレーザーの射出口から強めの風を出せるなら誘導出来るのに…

いや飛び続けていられないだろうし例えミッションエリアの境界線ギリギリまで運べても未だまだ街だ。落とせない。

残る手は…

 

「あっ」

 

こっちを見る苫篠の顔が別の景色に浸食されてゆく。

 

上手い方法を思いつく前に俺は部屋へ転送された。




火オニ戦の経緯:
①上位スーツN、飛行ユニットでオニ幹部らを奇襲。雷オニ瞬殺。
②上位スーツNvs火オニ(大規模な火事場を作ってから追い駆けっこ)。
③駅の西側まで足をのばし元の階段に戻る。火オニの火球で上位スーツN(の中の人)気絶。
④上位スーツ(に換装?した加藤こと)Kvs火オニ。
以下略、
なんやかんやで上位スーツ所持者以外の誰かに火オニは潰された。

火オニ:
「ボスが殺られた!よし燃やそう」
「何か重装備だけど俺の敵じゃない」
「同じ装備だけど二台目は中々やるな」
「気付いたら周りに敵しか居なくね?やばくね」
「人質とって逃げよう。ついでに目の前のハンター殺ってこ」
「電話だ。生きてたのかアイツ」
「ぺしゃん」


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オニ編⑥


前回のあらすじ:
火オニの置き土産に対処する前に加藤は黒球部屋へ転送された。



 

===◇○○===

 

 

 

「うッ」

 

何なンだよ…今回のボスは…。

俺の意識は暫くとンでいたのだろう、ビルの壁面に光るドーム(?)ができたトコまでは覚えている。

路上の隅で気付き聖ちゃんの被害を確かめた後みえた光景に言葉が出ない。

俺たちの上に細かい瓦礫が積もッていたのはこのためか。

さッきまで火の海だッた階段一帯が消失していた。

…いや橋梁と周辺のビルを巻き込むクレーターは直径100m以上ありそう。

 

よく無事だッたなァ俺たち。スーツは壊れたけど。

転送が始まらないので聖ちゃんを負ぶう。駅方面へ暫く歩くと轟音が響き土埃に追い越された。

バランスの悪くなッていた高層ビルが倒壊したのだろう。

 

…コレで終わり、だよな?

(たぶんメンバーの誰かに)狙撃されて自爆した奴と闘う前に結構時間はギリギリだッた。

気絶してた時間引かなくてもミッションは終わッているはず。スーツ同様故障したレーダーの画面は真ッ黒で確認できない。

くッそ、何でもいいから早く転送してくれッ!

エリア内の病院を探すべきか…

 

「クロノ…」

 

進行方向右隅で立ち上がる人影。北条か。汗でてかる表情は苦しそう。横からしがみ付くサダコは介添えらしい。

 

「オニ星人は…」

「たぶん倒したと思う。全部」

「たぶん?」

「レーダーやッちまッて。北条のは」

「俺のも同じだ。サダコのレーダーも暫く前に映らなくなった」

「…」

 

スーツが壊れていないサダコのレーダーまで使えなくなッているなら爆発が原因の故障とは違うのか?いつものミッションとは違う展開?次のミッションが始まッている?

アイツの言い分が正しいなら延長戦は有り得る、無事だろうか…加藤。

今、戦力になるメンバーッて何人残ッてンだ?

武器はサダコのXガン一丁のみ…

 

「あ」

 

北条の辛気臭い顔を睨ンでいると高い声が聞こえた。

聖ちゃんではない、が待ッていた状況に苛立ちが収まり嬉しさがこみ上げる。

あぁダメだ…温かいモノでぼやける視界を手の甲で拭う。

いつもはグロく見える転送が美しいと思える。彼女の青く光る断面を見守ッていると

 

…ゥゥゥゥゥン

ドガァアンッッ

 

上空を飛んでいたヘリが右手の建物に墜落した。

 

 

 

=========

 

 

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

 

“それぢわ ちいてんを はじぬる 00:00:00”

 

 

恒例のチャイム(?)を聴き表示をみて生還を実感する。 

一時はどうなるかと思ったょ…

最後の大爆発で拠点が倒壊したから。

ジャンプ中の転送とか奇抜~。

あんな高さから落下してみたことが無いので大分肝が冷えた。二度とやりたくない。

 

「ちいてん?」

 

名前不明の男性が呟く。どこに居たのか新規メンバー4名は全員戻った。

 

“メガネ……10てんTotaL16てん あと84てんでおわり”

 

「ターゲットをやっつけるとね…点数がつくんだよ」

「へー…」「…」

 

犬・小学生・老婦人・幼児のあと自分たちの0点が表示され、次に採点された山田に疑問の答えを貰う新規メンバーたち。

浦中・苫篠・北条・サダコ・桜丘・近藤・岡崎の採点が続く。

 

“西くん……43てんTotaL73てん あと27てんでおわり”

 

「…」

とくに何の感想も無く定位置へ戻るセンパイ。

今日の得点は丸ごと雷オニ1体分の点数かな?いや幹部じゃない奴を3体潰したか。

あの後ずっと火事場に居たならモブオニをヤッつける機会が無かった筈。火オニの加勢が来ていたとしても西が攻撃する前に熱か煙にヤられてそうだし。千手もどき2体分かぁ、ふーん。

 

“和泉くん……51てんTotaL73てん あと27てんでおわり”

 

「ちっ」

不服そうに舌打ちする和泉。予想より点数が低いって?

(前回のターゲット数ほどではなかったけど)多かったのに100点分狩れなかったのは不満かも。マジで幹部以外の強い星人が出たのかな?それとも吸血鬼に邪魔された?

外国人に続き玄野の採点が消え次が表れる。

 

“佐藤(?)……62てんTotaL90てん あと10てんでおわり”

 

おぉ惜しい。

幹部込みで十数体分の点数ならこんなもんか? 雷オニ1体が40点なら水オニと岩オニの点数は20~30点くらい? 火オニはもう少し上かも。

本当に上位スーツの耐火性能高くて助かった。

特典スーツを誰も持っていなかったら東京チーム全滅コースだったよね今回のミッション。

超能力以外で防げない攻撃をしてくる遠距離狙撃不可のターゲットを足止めするツール無しで倒す方法はあったのだろうか?

回避に熱心&幻影(?)らしきもので空蝉の術っぽいことまでしていたから例え全員で特攻しても効果無かったと思う。

 

“きんにくらいだー…106てんTotaL106てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”

 

「おおっ」

「さすが風くん!」

 

やっと100点超えが出て嬉しそうな苫篠と山田。部屋の雰囲気が明るくなって喜ばしい。

しかしターゲット数に対してクリア者が少ないな。殆どのモブオニが1点だった?

風は2番を選ぶ。

 

“かとうちゃ(笑)……116てんTotaL116てん 1O0てんめにゅ~から選nで下さい”

 

「すっげぇリーダー!100匹近くヤッたんじゃねーのぉ?」

加藤をよいしょする苫篠。

前回までの累計20点だから96体だな、オニ星人の幹部以外が一律1点なら。

 

「火の中に居た奴の点数も入ってんだろ」

「あ、そっか」

「いや違う。火を出す奴を潰したのは俺じゃない」

 

近藤の指摘を否定する加藤。あれ?彼が火オニを倒したと思われてるってことは…

 

「目の前で潰れたけど俺じゃない。特典武器持ってなかったs

「嘘を吐くなっ!!」

「?!」「わっ」「なに?」

 

加藤の証言を大声が遮る。何故かプルプルしている犯人は…

 

「和泉くん、どうしたn

「あの装備は3回目の特典だ お前が持っている筈がないっ」

 

山田を見もせずツカツカと前進しビシィッと音がなりそうな動作で加藤を指すロン毛。

メンバー達は口を挟まない。(西といつも通りな犬以外)総じてポカンとした表情。

えっと「3回目の特典」=上位スーツだよね。それを加藤が持つ、いや着てたんなら…

2人目の上位スーツ氏は加藤だったのか。

 

「装備って…ああ、あれって特典武器なのか」

「…」

「…知らねーよ。レーダーにのってたから使ってみただけで…」

 

加藤の言い訳(?)を険しい表情で聞く和泉。歯ぎしりするな(笑)。

クリア回数と装備が一致しないのは変だけどお前には関係ないだろ。

加藤に先を越されて悔しいのは解るけどあんまり怒ると皆に劣等感がバレちゃう(笑)後で恥ずかしいぞ。

寧ろラッキーと思え。加藤と(たぶん1人目の上位スーツ氏=)西が火オニを抑えていなかったら標準スーツしか着ていないメンバーが燃やされていただろうから。

どうしても理由が要るなら、リーダー特典か贔屓ってことで納得しとけ。

ガンツや主催者の思惑なんて考える時間が無駄だし、足りないコストは貰った(加藤)本人が払わされる筈だ。

て言うか重要なのは結果だろ。特典武器の所有数じゃない。

いい武器をいくつ持っていようと強キャラを倒せなきゃ意味が無い。それに、お前がミッションに参加する目的はクリ―チャ―と闘うことと本番で「日本人の優秀さを見せ」ることだろ?

なら標準装備以上の武器を持っていない方が楽しめるし証明できて好都合じゃん、加藤を羨むこと無くね?

 

火オニ潰したのお前だし。

 

奴が潰れる直前、飛行ユニットで火事場に突っ込んだの見てたよ。

篠崎に無断で自殺行動したのは褒められないが決断した勇気は称えてもいい。

火事場上空、は煙いから他の高所で機会を伺ってたんだよね?火オニへ急降下するまで気付かなかったわ。あの時2体に分裂、というより2箇所に存在(?)していた火オニのどちらも迎撃する素振りさえ見せなかったのは加藤(入り上位スーツ)に集中していたからか和泉が(飛行ユニットごと)周波数を変えていたのか…

当たりを引けたのは運だったの?

片方の火オニ、のちょっと離れた背後を潰したんだから偶然かな?

ハズレでカウンターをひとつでもくらってたら退場だったね。

でも待てよ?

ふたつ目の特典が「本番」で使ってた飛行ユニットと同じスペックなら少なからず耐火性あったのか?(搭乗者の片方は生身で)大気圏突入していたような…

思い違いかな?

 

「もうよせッて和泉~。よくわかンないけど今度でいーだろ、俺は帰るゾ疲れたし。

 皆も解散でいーよな?」

 

私が(あんまり意味の無い)考察している間に加藤は選択したらしく〆にかかる玄野。

メンバー増えてないから武器か。…ちょっと楽しみ。

 

「…」

「いいと思うよ。話し合っても想像の域出ないでしょ、

 ガンツが答えてくれるなら訊くほうが早いし」

「えっ やっぱり喋らねーんだこいつ…。簡単に出てこれそーなのになぁ」

 

特典武器誤配問題について和泉は主張し続けていた様子。ガンツに没収を促すのは損だぞ。

玄野と山田の結論は「考えるだけ無駄」他の口から改めて聞くと身も蓋も無い(笑)メンバーの殆どが同意っぽい。

興味無さ過ぎる議論だったのか黒球の中身へ目を向ける苫篠。暇潰しなら黙っとけ。

 

加藤の上位スーツ使用がガンツの誤配じゃないなら怪しいのは前回のミッション。

野宿星人狩りエリアに彼だけが長く留められたのは明らかに不審、野宿星人狩りとその残党狩りが別のミッションとカウントされていたなら妥当な給与だ。正常ではないが。

(マンガと同じ設定なら)通常は100点以上得られない筈の点数が一種類(?)の星人に関わるミッションで倍得られたのだろう。

“野宿星人”で100点(以上?)。

“巨虫(仮)”で100点(の倍以上オーバーしたくさい。加藤の証言では)。

それでも2回目のミッション前に上位スーツを支給されたのは異常だが特典武器を強制的に前借りさせられたから採点が0扱いだったのなら辻褄は合う。

やっぱり巨虫はヤバかったのか、前例を無視してでも野放しを防ぎたかったんだろう。

 

…話題に出ないからあの懸念は杞憂かな。

誰かに理由を訊かれる前に使い捨てマスクをポッケに仕舞った。

 

 

 

===???===

 

 

 

薄暗い部屋。カップを持ったまま画面へ観入る。

 

『今は沈静化しているようです。警察によって…えー…この…。何なんでしょーか、

 このハリウッド映画に出てくる…』

 

駅前に点々と転がる異形のパーツ。それを避けながら歩く少数と撮影する多数。

 

“池袋 謎の大量虐殺 死者負傷者多数!!爆破テロか?!”

 

『これがサンシャイン前です!!

 ご覧頂いている通りサンシャイン60の姿はありません!!周辺施設も見当たりません!!

 代わりに、おお~きな穴が開いています!!クレーターです!!

 信じられません!!何なんでしょうか!!』

 

息を切らせたキャスターがつっかえながら言葉を並べる。

演技ではなく本物の驚きと興奮だろう。居合わせたのなら羨ましいことだ。

ランドマークタワーの消失は、まぁどうでもいいだろう。

見ないうちに増えたメールの添付画像を拡大する。

不思議な生き物の死骸だ…分割した顎から飛び出した糸が顔全体に絡まった角付きの首…肉でできた管の、先端は指のようだ。

席を外している間に世界は一変したらしい。

いや一般人の認識が、というべきか。

眼鏡を外し椅子へ体重をかけると見上げた暗い天井に今まで集めた画像が次々と蘇る…

 

「隣人」を訊ねるときが待ち遠しい。




採点詳細:
メガネ     10てんTotaL16てん 
浦ちゃん    13てんTotaL23てん 
とましの    18てんTotaL34てん 
北条      21てんTotaL31てん 
サダコ     22てんTotaL25てん 
あねご     24てんTotaL53てん 
コンタ     24てんTotaL57てん 
ミリオタ    31てんTotaL31てん 
西くん     43てんTotaL73てん(モブオニ3体+雷オニ)
和泉くん    51てんTotaL73てん(モブオニ9点分+火オニ)
空手家     51てんTotaL51てん 
くろの     57てんTotaL92てん 
佐藤(?)    62てんTotaL90てん(モブオニ18点分+岩オニ)
きんにくらいだー106てんTotaL106てん(モブオニ57点分)
かとうちゃ(笑) 116てんTotaL116てん(モブオニ96点分)

Zガン(特典武器1個目)以外の特典武器はコントローラーで呼び出す仕様(捏造)。

墜ちたのは報道ヘリ。

加藤が次に入手する特典武器は4個目のアレ。

(一部のメンバーが)ミッションに行くたび置き忘れているっぽいZガンはガンツが(回収するのは当然として)補充している(捏造?)。


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ホスト編①


前編のあらすじ:
(超能力者無しの)オニ星人ミッションクリア。わりと手に負えなかった火オニ。延長戦無し。

現在の加藤チーム:
犬、中学生2、高校生6、教師、老人、小学生、DJ、外国人、大学生、幼児、サラリーマン5、年齢職業不詳2(サダコと桜丘)




 

高層マンションの一室。

ガンツの歌(?)が終わり球面に指令が表れる。変わらない、いつもの手順。

…今日も知らないミッションだ。

 

 

“てめえ達は今から この方をヤッつけに行って下ちい 

 

 ホスト星人(白髪の男。白シャツに黒いネクタイと上着)

 牛寺徴   モテる

 好きなモの 強いヤツ グラサソ 彡酉 

 こ㋻いも@ おひちま 

 □>”せ  コイツはつえー”

 

 

画像の顔は知ってる。

 

 

 

今日は7月4日。

池袋がえらいことになったあのミッションから3週間経つ。

オニ星人共は電車内でもやらかしていたそうだ、雑誌(を読んだ小島母の世間話)で知った。

未だ多くのメディアで取り上げられている。多数の出版物(←小島母の蒐集品)は暇潰しになった。

 

黒球メーカー達にとって世間へ流していい情報の範囲とか一般人の確認怪奇現象に対する認識とか(マンガで他のチームが担当していたものが加藤チームに回ってきたのなら星人は増えていないけど)ミッションが増えたりクリア過程が違ったりメンバーが違う&増えても本筋との乖離は少ないんだな、とか思っていたのに此処で吸血鬼狩り解禁(というより強制イベント)なのね。

無駄になったか、近々接触してくるであろう迷惑野郎を使った嫌がらせ案。

 

マンガに出た拠点はひとつ。

渋谷に出るへんなホストを尾行するだけで見つかるっぽいので私独りでも特定出来そうだが(多くても都内に居る総数の10分の1以下だろう)少数を駆除する為に(警戒と)恨みを買いたくない。

しかし数百人単位の集会とかするのだろうか?吸血鬼。

マンガでガンツミッションや黒球部屋にカチコミを仕掛けていた辺りオニ星人より賢そう。

嫌な予兆を感じつつ部屋を見渡すと前回からの新規メンバー2名が顔を見合わせた。

 

「ホスト星人…?」

「これ人間じゃねーの?」

「人間にしか見えねー」

 

飽きたよ、その会話。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「クラブ…?」

 

近藤が呟く。

他のメンバーも問題の入口である下って左折する階段をマップと見比べる。

入口の周りには何の看板も無いが間違いない。この下だ。

俺たちはターゲット潜伏場所へ続く地上入口から10m程の路地に転送されたらしい。

通行人は無し。

 

「けっこう居るな」

「出入り口って此処だけ?」

 

これから向かう空間に収まるマーカーを数え感想を述べる北条。首を傾げる山田さん。

準備がいいなら突入するぞ。

 

「あ、なぁリーダー」

「何だ?ホルン」

「……その呼び方やめねえ?」

「じゃあホm

「やめろっ」

「どうしたの?ルンくん」

 

何か言い掛けて怒りだした北条へ山田さんが続きを促す。

転送前に決めた偽名の頭文字を略しては最早誰だか判らない。

 

「…やめねぇか?入るのは」

「? そーいうわけにはいかないだろ」

 

表情を改めた北条の提案。一瞬なに言ってんのか解らなかった。

それって、ミッションを放棄したいのか?

エリア内で反応があるのは此処だけだ。

“おひちま”を恐がるターゲット…吸血鬼が棲んでる地下室に入るのは俺も気が進まないけれど、

 

「や、ミッションがどうこうじゃなくて、地上に誘き寄せるほうが有利じゃないかって。

 この出入り口大人数は通れないし此処で騒いでれば気付くだろ」

「騒ぐって…」

「そっか!天井から轟音すれば出てくるよな、この辺に特典武器うてば…

 待てよ? いっそ埋めちゃわねぇ?壊すなら同じだし」

「壊しちゃ駄目でしょ。武器に手榴弾無いのが惜しいよね、煙とか催涙ガスが出るヤツ」

「埋めて全滅させた場合、点数どーなんだ?」

「それは知らねーけどさ~。正面からやりあうよか楽じゃね?」

 

苫篠と岡崎も加わり話が進む。

「なんか人間みたいで気持ちわりーしー」との意見には同意だ、それに地下室ごと埋めるなら俺たちは安全そう。しかし

 

「悪いが却下だ。賛成出来ない」

「え~?」「…」

「星人が建物や道路を壊すのは仕方ねぇけど俺たちが壊すのは違うだろ。

 それにあの特典武器で電気系統やガス管とか避けて壊すのは無理だ、火が出たら危ない。

 何より…吸血鬼以外も居るかもしれない」

「あー…」「そっか、そーだよな」

 

この下にマジで吸血鬼しか居ないなら特典武器で建造物ごと押し潰す、その傍迷惑な選択肢に一考の価値はある。でも一般人の不在を知る方法が無いんだよな。

レーダーにターゲット以外は表示されないから。

 

「リーダー」

「え?」

 

計ちゃんが手を挙げる。今更だけど計ちゃんにリーダー呼びされると恥ずかしい。

…とか思ってる場合じゃないな。何だろう?

 

「いず…じゃなくて、アイツもう下りてッた」

「…」「…」「…」

 

出入り口を指し申し訳なさそーに計ちゃんが告げると静かな路上に罵声が響いた。

 

 

 

===■◇■===

 

 

 

地下クラブ。

2.5階層分ほど吹き抜けになった天井にミラーボール。スピーカーもいくつか。

右手にはボトルが並ぶ棚を仕切るカウンター。磨き上げられた床は控えめな照明を映している。

段差は判るが奥までは見通せない。ダンスフロアらしいギミックが見えるのだろうか?

 

黒服共が犇めいていなければ。

 

「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」…

 

異様に息の合った唱和が空間を震わす。

2階通路の柵越しに見えるたくさんの人影も合わせた「殺せ」コールは始まったばかり。

奴らの目線からして奥のほうに処刑される奴が居るのだろう。

 

ヒュッ

 

とりあえず手近な頸を刈る。

 

「?!」

 

振り向きかけた首も宙を飛ぶ。

 

ヒュン ザッ ズバッ

 

一歩踏み込む間に5匹の首無し体が膝をつく。

 

…「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」「殺せっ」

 

一連の異音は唱和に紛れたのか奴らは未だ俺の侵入に気付かない。

これじゃ草刈と同じだな。

居ないとみていいのだろうか、見張り役や監視役、

 

「っ」「なっ」「しn」

 

4歩目でやっと奴らに気付かれた。バーテンダーと数匹の頭部が床を鳴らす。

転倒に巻き込まれる瓶やグラス。割れモノが奏でるまとまった騒音でやむ唱和。

カウンターへ注目する間に増える死体。

刃を伸ばしもう一閃。

奥の様子が見えてきた。

 

ザワザワザワ…

 

黒服十数匹に囲まれ振り返る眼鏡男とその足元に倒れる死体、あと金盥。

服装からして眼鏡と死体は一般人、3体の首無しは全て女物の服装。着いたときに気付いた臭いはあれの血か。でかい盥2つを満たし床を汚す濃い色の液体は人間の血液…

 

「ハンターかっ」

 

長髪の黒服が身構えると処刑役だろう唯一刀を持っていた黒人の黒服が空けた右手で一般人の襟首を掴む。「殺せ」コールの対象はあの眼鏡…

黒服共の食事を目撃して口封じ、いやその辺の道端じゃあないんだ、そんな偶然ありえない。

獲物を解体する過程の慣習か?

 

考察しながら腕を振る。バタバタ倒れる黒服共。

ギンッ

頭上への落下物を弾いた直後、腰に衝撃。

体勢を整え、俺を蹴ったであろう相手を探すと新顔が脱いだ上着を黒服の1人へ投げ渡していた。

 

「よ~こそハンター。歓迎すんぜ」

 

「呼んだ覚えは無ぇけどな」と付け加えたそいつは丸腰など気にしない仕草で両腕を広げる。

濃いグレーのシャツに黒いスラックスを合わせた男の容姿はラテン系。癖のつよい髪は長い。

奴が吸血鬼のトップか?

クラブ内ではリーダーなのか、ギャラリーと化したその他大勢が奇声をあげ囃したてる。

背後も確認するとすっかり囲まれていた。

幹部っぽいラテン男を観察していた短い間に片付けたらしく俺と奴を囲む人垣の内側にさっきまであった死体や盥は消え、血液も拭いた様だ。

こちらを奴が指すと同時に黙るモブ。

 

「お前、知ってるぞ。死んだと思ってたわぁ見つかんねぇから」

 

眉尻と指を下げ言葉を並べるラテン男。

 

「生き残ったのかぁ、あいつらとやりあって。くく くっくっくっくっ…

 おぉい、大津!」

「なんだ?」

 

「あいつら」は前回のターゲットのことだろう。

奴が呼ぶと2階から返答。サングラスを掛けた坊主頭がのぞく。

 

「あいつら来るってー?」

「知らね。連絡はした」

「じゃあ仕方ないよな」

「そーだな」

 

次の「あいつら」は此処に居ない“ホスト星人”のことか? それとも“オニ星人”の生き残り…

点数にならないとしても向かってくるなら殺る迄だ。

坊主頭がひっこみ、やっとこちらを向くラテン男。

 

「様子見無しで本気で来いよ、すぐに終わりじゃつまんねぇ」ニヤリ

 

それはこっちの台詞だ。

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「なンだ…?」

 

先頭で下りた計ちゃんの呟きが聞こえる。

視線の先は人垣。手振りを交え大声で騒ぐ彼らの後ろ姿は黒の上下。

手前の床で横たわる、大事なパーツを欠いた者たちと似た服装だ。

…ん?

よく見たら黒服じゃない奴も居る

 

(…!…!)パクパク

 

落ち着いた色のジャケットを着た眼鏡のそいつは俺と目が合うと左腕を少し上げた。

強張った表情で俺たちをガン見している。

星人たちは何かに夢中の様だから奇襲出来るかと思ったが、そう上手くはいかないか。

あっ

隣に居た黒人が振り向くと眼鏡が顔から床へ倒れた。

黒人が脚をかけて倒した様だ、そうとしか見えなかった。眼鏡男は背中を踏まれ苦しそう。

 

「一般人じゃないの?あの人」

 

山田さんの指摘に納得する。そうか、ターゲットじゃないから服が黒くない。

さっき寄こした目力は助けを求める視線だったか。

でも想像と違うなぁ“ホスト星人”って呼称だから連れ込まれているのは女性かと…

いや、そうじゃない。

そんなことを考えている場合じゃないというのもあるが問題はそこじゃない。

 

ボンッ

 

黒人吸血鬼の頭部が爆ぜて飛び散る。メンバーの誰かが撃ったのだろう。

破裂音に怯えたのか頭を庇ってから大口を開ける眼鏡の男性。悲鳴のかわりに聞こえるのは

 

オオオォォォオオオオォォォォ!!

 

地下クラブ内を圧す歓声。

…歓声?

さっきから何を騒いでいるのか。新しい犠牲者に気付かないテンションで。

あの奥で何やってんだ…って、おいっ

 

人垣へ歩み寄った苫篠が1人の肩を叩く。それ星人だぞ!

しかし争いは起こらない。黒服は苫篠の手を弾くのみで振り返らず敵だと気付かなかった様だ。遅れて来た仲間とでも思ったのかな…

 

黒服越しでも判る太い腕を振り回しはしゃぐ(?)星人の横から戻ってくる苫篠。

「タイマンだって」と言ってから近藤のチョップをかわす。

…。

連中が俺たちを無視し熱中している見世物、ケンカかよ。

 

「うわぁー…大丈夫ですか?」

 

山田さんが声を掛けた相手はさっきの眼鏡さん。自力で起き上がりこっちへ歩いて来たので背中と顔面のダメージは軽い様だ。

眼鏡男性の頭髪や服に血とか色々くっついているからか間合い広いめの山田さん。

男性も一定の距離を保っている。

ヘンなスーツ着て、なにより銃器を装備した集団は妙なテンションの黒服連中よりも近寄り難いのだろう。って言うかフツ―に視えているんだよな?俺たち、…なのに一般人。

 

「ええ…お蔭さまで」

 

山田さんの問いに答える眼鏡さん。「お蔭」は吸血鬼の頭が爆ぜた件だな。

爆ぜると言えば、目の前で装備使ったのに平気そうだな頭の爆弾。

今のところメンバーの誰も破裂してない。クラブへ共に下りたメンバー全員の顔を確認出来た。

 

2ヶ月前ゆびわ星人のミッション中に破裂した新規メンバーの罪状はレーダーをいじって消えるところを一般人に視られたこと。

この仮説が正しいなら黒服の頭をふっとばしたメンバーが無事なのはおかしい。

部屋の装備を使ったメンバーを丁度眼鏡さんが見ていなかったとか?

…たぶん彼に視えていないメンバーが撃ったのだろう。俺たちも周波数を変えておくべきだったか。今までのミッションと元の周波数が違う場合手順が変わるのかな?

今更な後悔と装備の用法はひとまず脇へ置くとしてペナルティ不発の理由がルールの変更なら制限が緩くなるのは歓迎だ。身バレし易い状況は困るけど。




(今更考えた)作戦中の偽名:北条=ホルン、加藤=リーダー

罵声:勝手に先行した和泉への悪口。おもに北条と苫篠由来。

クラブで和泉を蹴った吸血鬼:
幹部。かっぺ星人ミッション終了間際の初登場時見開き画でいう左から2番目のイケメン。
2階(地下1.5階)から飛び降りるついでに和泉の頭を狙った物は酒瓶。

大津(名称捏造):
幹部。同見開き画でいう1番右の高身長。グラサン坊主。常識のある頭脳派(だったら素敵)。

眼鏡()を踏んでいた吸血鬼を狙撃したのはステルスしたメンバー()。


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ホスト編②

前回のあらすじ:
(吸血ホスト)クラブ潜入。一般眼鏡男を救助(?)。元から騒いでいたターゲット達に無視される加藤たち。




実を言うと今回のミッションが一般周波数でスタートしたのは想定内だ。

判断材料は3日前にガンツメンバーが雑誌に載ったこと。

 

計ちゃんに呼ばれ集まった畳の一室で雑誌を広げたのは北条。

それを見せられた時は驚いた。載った本人たちに教えられたから心臓が止まりそうな動揺は短くて済んだけど。

誌面デビューしたメンバーは北条と計ちゃん。

池袋ミッションの終了間際爆心地から移動する途中でガンツスーツ姿の全身が防犯カメラに映り込んだらしい。共に行動していた桜丘さんは角度の関係で、サダコは髪型のお蔭で顔出しを免れた。白黒画像の横に大きく載った見出しは、

 

“テロリストは学生?”“現場付近で目撃された4人。爆破テロとの関係は”

 

テロ犯と思われたのはサダコのレッグホルダーにXガンが付いていたから、なのか?

知らない人からは爆弾に見えなくもない。

オニ星人たちは丸腰だったからか計ちゃんたちがビル倒壊の主犯扱いだ。

TVや新聞では“宇宙人”の仕業で通ってるのに。

 

北条はクラスメイトから記事の存在を知ったらしい。

北条と計ちゃんの爆弾が作動しない理由として、疑う一般人が「人違い」で納得したことをガンツが信じたか、ガンツ部屋の武器を使う画像を観られなければペナルティは発生しないという仮説を前提に一般人目線では防犯カメラ映像がコスプレ姿で出歩く若者でしかないからガンツに見逃された、てことで落ち着いたのだが、問題は前回のミッション中にメンバーたちの周波数が勝手に変わっていたことと、ビルの崩壊に計ちゃんたちが関わったと決めつけた記事。

 

今回のスタート時、人混みでいつもの転送をされなくてよかった。

一瞬で身元がバレたりプライバシーを広められるのも嫌だが今発表されている記事や噂を考えると器物破損や銃刀法違反等いくつ罪状を突きつけられるか判らない。

 

「とりあえず出ましょう」

 

山田さんが避難を促すと眼鏡さんは無言で従った。

 

 

 

=========

 

 

 

「何なんですかね、このクラブ。人の首を切って血を飲むなんて…」

「ぇえ、そんなことしてたのあの人達」

「してたんです。あの奥のほうに女性の御遺体が…僕がみたのは3人分」

「ぅわぁ…」

「…僕は…生きて帰れるんでしょうか?」

「安心してください。大通りまでなら付き添えますから」

「それは有難い。駐車場までお願い出来ませんか?ここからちょっと離れてるんですけど」

「えっと、どのくらい?」

「此処から西に300mくらい」

「えー…うーん…」

「あっ迷惑ですよね。すみません図々しく」

「いやいや、そーいうんじゃないんです!ちょっと不都合があるだけで…

 行きましょうか!大通り迄ですけど」

 

マップを見ながら座っていると階段を上りきった2人が路上を見回したあと会話を始めた。

ガンツスーツ姿と一般人な服装のダブル眼鏡だ。

周波数を変えた私が居るのは彼らから数mほど離れた道向かい。背後は外階段付きの建物。

用が済んだら屋上へ戻るつもり。

 

「申し遅れました。僕はこういう者です」

 

芝居がかった所作で懐を探るとメカメカしい全身タイツ眼鏡へ紙片を差し出す一般人眼鏡。

彼らに近付き確認した文面は

 

“フリーライター 菊池誠一”

 

マンガの脇役と同じ肩書と氏名。ミステリーハンター御本人だ。

怪奇な噂の真実を求め、ヒトをクリ―チャ―にぶつけて見物するヤバい連中の秘密を嗅ぎ回っていたくせに吸血鬼に見つかっても無敵キャラと知り合っても無事に目的を達成した強運野郎だ。

余波で和泉と玄野兄(2機目?)弟、警察官含む一般人&国外の一般人を数十~数百人退場させたりと大活躍だった。

彼が吸血鬼の巣から出てきたってことは「ガンツチームと敵対する組織の建物」に(成り行き?で)突撃するイベント今日だったのか。玄野は何も言ってなかったから菊池は“くろのけい”に接触する前に此処へ…。

マンガ読んだときも思ったけど彼は自分が調べたことをあんまり信じてなかったんだな。謎の組織や星人にロマンを感じても血生臭さは連想しなかったらしい。クリ―チャ―専門の殺し屋集団に「敵対する組織」を武器無し単独で探すとか(例え取引材料を握っていたとしても)平和ボケとしか言いようが無い。

 

「これは御丁寧に…僕は、っと名刺入れは部屋だった…。山田と申します。山田雅史」

 

受け取った名刺を持てあまし結局首まわりの隙間にねじ込んでから自己紹介する山田。

…。

名告られたら名告り返すのは常識でありマナーだが、ミッション中に 本名を 告げるな(笑)。

おかしーなぁ。転送前に加藤たちと何やらわちゃわちゃと決めてなかったっけ?

一般人の目撃者用に偽名を考えてたよね?海外ドラマに出てきそうなコードネーム(笑)を。

そっち使えよ(笑)。劣化しにくい記憶力と似顔絵の腕、或いは後日再会する運を菊池が持ってないなら時間稼ぎにはなるでしょ。それとも気付いたのか?顔面丸出しで偽称しても意味が無いって。

私は上着のフードと使い捨てマスク(と光学迷彩)で顔バレ対策済みです。

 

それにしても菊池に遭っちゃったのは仕方ないとして、なぜ報道機関は“黒い球の部屋”とそれに登場する星人狩りメンバーの存在を隠さないのか。

メンバーの脳内に爆弾を設置してまでミッションに関する情報漏洩を防いでいたのはガンツだ。ガンツは(おそらく)黒球とセットで造られた存在。即ち情報漏れを防ぎたいのは黒球メーカー。マンガキャラの言動から推察する黒球メーカーとそのお友達の身分は権力者。(フィクションに登場する系の)手広く根を張るタイプの黒幕なら警察や報道機関に手を回し不都合な情報をいくらでも握り潰せる筈。

 

それにマンガとは状況が変わっている。

オニ星人ミッション中、通行人や野次馬が巻き添えになったのは同じだがマンガではオニボスこと雷オニが一般人たちを脅していた。目の前で警官の集団を蹴散らした後で。

そんな絶望の最中、颯爽と現れ傷つきながらも懸命に怪物と闘い奇跡の様に勝利したチームを英雄視し知りたがるのは必然。でも2週間前のミッションでは雷オニが早々にヤッつけられた&星人が全滅したあとオートステルスが終わり不可知化周波数が一般周波数へ変わった為オニ星人編の魅せ場は消えた

=全身タイツな謎の男女かっこいい祭り上げたい✕

 クリ―チャ―とテロリスト怖い政府なんとかしろ○ になる筈だ。

“黒い特殊部隊”の存在を偶然知る機会をひとつ失った世間はガンツメンバーの情報を欲していない。

なのにマンガと同じ程度に事実が周知されている。

私小説風サイト“黒い球の部屋”に登場する“星人”と“ガンツメンバー”の敵対関係…

都内で発見される原因不明の破壊痕とミッション記録の符合…

世界中で目撃例が増え続けるクリ―チャ―…

黒い球を象徴とするドイツの宗教団体…

 

“くろのけい”として別人が紹介されている記事も再現されているのが救いか。

的外れな記事や「ミッション記録(西日記)=ノンフィクション」の図式に懐疑的な記者さん達にはもっと頑張ってもらいたい。

雷オニと対峙する玄野たちの画像はマンガだとTV局へ渡らず消えたのに2週間前の防犯カメラ画像(メンバー否定派・テロ犯呼ばわり)が記事になった。あれが態とだとしたら何の為に?

公的機関への不満を逸らす目的で見逃した或いは提供したんじゃね?と陰謀説ズキが思いそうな展開か?

 

オニ狩り~ラストミッション期間の(情報漏洩に伴う)罰則について、マンガのメンバーは日常で装備を使わず有事はステルスを併用するか服や鞄で覆い隠して使っていたので機能していたのか判らなかった。

でもマンガ通りの順番なら次回にあたるミッションエリアに居た一般目撃者が(外部に情報を洩らしたりエリア外へ出ず)ボスの大暴れで全滅したとは思えないし、ゆびわ星人狩り時の屑はミッション中に爆ぜていた。それにミッション主催者の目的はメンバーの爆死ではなくターゲットの駆除な筈、サイバーパンクな殺し合いの勝敗予想と観戦が主目的だとしてもスーツ丸出しの山田が菊池と往来で駄弁っている現状、ミッション中のメンバーを一般人から隠す気が無くなったんならガンツから一言ほしい。(これが全国的な仕様変更なら他都道府県メンバーの一部もそうだが)今の東京(練馬?)メンバー、へたに退場させると困るのは黒球メーカーも同じだよ?

 

「そいつから離れろ!!」

 

ちょっぴり錆びた階を数段飛ばしで駆け上がっていると知人の大声が聴こえた。

 

 

 

===□□□===

 

 

 

僕たちの会話を遮り鋭く響き渡る警告。

発したのは

 

「北…条くん…? えっ…と、なにg

 

「そいつは星人だ!油断するなっ」

「?!」「!!」

 

険しい表情でXガンを構える北条くんが睨む先には僕と、もう1人しか居ない。

「そいつ」って菊池さんのこと?

僕の横で彼が息を呑む。

何も弁解せず、というより一言も発さず何度も僕と北条くんを往復した視線が止まる

 

バァンッ

 

と殆ど同時に破裂音。

僕の後頭部と背中を叩く細かい飛沫が道路を染める。

 

ああ…そんな…

 

振り返ると予想通りの光景。

仰向けに倒れた人間。光るボタンのスキンスーツ、首から下に外傷は無い。

首から上は…

…。

アスファルトが迫り左掌で表面を押す。喉まで上がった酸っぱいものを何とか留めると少しの間視界をぼかしてくれていた液体が頬を滑り落ちた。

 

まだ高校生なのに…こんなことって…

 

ぁあ悔やんでいる場合じゃない。彼が教えてくれたのに動けなかったら無駄になる。

でも、北条くん。菊池さんが何をしたのか判らないんだ。そんな相手から逃げる算段が浮かばない。

生き残る自信が無いよ…

 

僕以外の手が視界に入ったので見上げると彼は口を開いた。

 

「今のはあなたのお仲間ですか?」

 

 

 

=========

 

 

 

(山田さんが無事なんです、味方ですよね?大丈夫ですよね!撃たれませんよね?!)

(…。…?)

 

跪いて周囲を警戒する菊池と無言の山田。早口&挙動不審な強運眼鏡は高所からの狙撃を疑っているっぽい。

2人に無視されているヒトは動かない。

頭部を破壊されたソレは色白で痩せ型な…どう見ても全裸。黒い全身タイツではない。

「北条」が首から上を失いうつ伏せに倒れると暫くしてから肌へ吸い込まれるようにスーツと武器は消えた。

 

「北条」を倒した攻撃に驚き集中しているうちは思いつかないだろうけど、ガンツメンバーが絶命すると服装が変わるのか?と菊池は誤解しそう。

今までミッション中の犠牲者は星人もメンバーも時間切れの後…だいたい生き残りの採点が始まる辺りでどっかへ転送(或いはデータ化もしくは削除)されていたと思う。メンバーはデスペナ用爆弾を起動された後で。

溶けて乾燥し風に運ばれるまで遺体に不可知化をかけ続けるとは考えにくい。腐乱や白骨化を観察する趣味をもつ輩が主催者やその客に居たとしても異常な周波数をノ―コストで維持出来るとは思えないし何時か誰かが踏んずけちゃう。装備だけを回収する意味は無い(そーいや次回の公開ミッション、マンガの退場者は回収されたのかな?)。

脱落による服装チェンジと一緒に容姿も変わる、とは思わないよね?さすがに。

ミッション用の容姿設定があるとか光学迷彩より(ガンツスーツ機能にねじ込むのが)難しそう。

 

あ、「北条(の振りしていた全裸野郎)」の頭部をふき飛ばしたのは私ではない。

菊池へ銃口を向ける「北条」を上から眺め、へんなことになってる~とか思っていたとき地下から現れたメンバーの仕業(クラブで保護した菊池のお守は山田のみらしい)。眼鏡ズと同じ登場口に関わらず偽北条へ奇襲を成功させた状況で皆さん御判りかと思う、西センパイだ。

クラブに居る筈の知人が先を歩いていたので撃ったのだろう。

ガンツスーツを着たメンバーならXガン一発で爆ぜないと証明済みだし。

 

特徴的な発砲(?)音を聞いた筈の偽北条は不審な動きをした。回避モーションが奇抜とかではない、正しくはXガンの銃口が不審な動きを。具体的に言うと4つへ割れる前の部品が前方へ伸びた。有機的ににょろっと。それは中途半端な姿勢で菊池を見る山田の左耳を目指していた。「北条」は偽物だ、と私が確信したのはその時点。

今更だが、サダコさまがお憑きあそばせていない単独北条を見て気付くべきだった。センパイが動かなければ手遅れだっただろう。北条のフェミ心が仕事し隠れさせていたとしても彼女なら顔の半分くらいは覗かせてそう。サダコは北条ウォッチングに余念が無い(いつ飽きるんだろう?)。北条以外(の敵と味方が)全滅したにしては山田たちに追いつくのが早いし、加藤たちが下りてから消えた1体(とその前に和泉が減らした分)以外の星人反応に変化無いし。

て言うか新事実だな。吸血鬼にも他人に化けたり身体の一部を触手化する奴が居るなんて。

水オニかよ。

ガンツスーツだけでなく武器まで自前(手に持っている物だから腕の延長?)なところも奴っぽい。

…本当に水オニだったりして。

3週間前、私は確かに奴をヘッドショットしたけれど水オニなら来るとわかっている狙撃を無効化できる。マンガでは皮膚で包むように爆発を隔離していたが敵に気付かれない無効化方法もありそうだ。例えば立ち姿の外皮だけ残し主要部分は地面に変身してやり過ごすとか。あの時は雷オニに不意討ちした直後だったから警戒した筈。センパイは「北条」の処理方法に捕獲を選択しなくて正解だった(変化でワイヤーをすり抜けるだろうから)。

 

吸血鬼に変身能力あるほうが困る。ターゲット以外の星人はマップに表示されないし、

メンバーや知人はたまた周りを飛ぶ虫まで一々疑ってられん。

 

階段上りを再開するため立ち上がると眼下の彼らも移動を始めた。

山田たちの中では解決したのか頭をさげ合ってから大通りへ足を向ける。

 

無事に帰宅できるといいね。




(吸血ホスト)クラブ・サービス一覧:
 ①高身長の美形(吸血鬼)とお喋り。訊けば何でも答えてくれる(一部愛想が無い)。
 ②美形(略)の半裸ステゴロ鑑賞(某闘技場の如き熱気と迫力)。解説付き。
 ③ドリンクバー(大抵飲む暇は無い)。
初回料金は全身の血液。御利用有難う御座いました(斬首)。 

「北条」に変身した奴=水オニ:
オリ主に脳を破壊された岩オニに半ば同化して巨大化させたり自爆させたりした後ひとりで逃亡。クラブに幹部吸血鬼を訪ねていた時ちょうど菊池が連行されて来た。
和泉に潰される直前の火オニに電話してきたのもコイツ。


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ホスト編③

前回のあらすじ:
クラブから出た山田と菊池、コインパーキングへ向かう。




===□□□===

 

 

 

「…」

「…」「…」

 

路上に沈黙が落ちる。

…。

どどど

どうしよう。

更に星人が来ないうちに菊池さんを送ろう、と始めたところで躓いた。

知らない子と目が合ってしまった。

もう無視出来ない程に見つめ合っている。

 

「こんばんわ~」

「…どうも」

 

じりじりしていたら菊池さんのアシストが!

そうか、フツ―に挨拶で済むよね。恰好が変なだけだもん僕。池袋とか黒い球とは無関係デス。

 

Xガンを背中へ隠し、やや蟹歩きで進路をあけると知らない子は通りすぎた。

…ほっ。

 

「おい」

 

しかし安心した僕は甘かった。

 

「あれ…やったの、おっさん達?」

 

振り返ると、知らない子が指していたのは全裸星人。

脳内でお鈴の音が鳴る。

…殺人現場っ忘れてたっ!!

まずいよ!ドキドキしすぎて言葉が出ないっ。

 

再び菊池さんが対応する。

 

「おっさん呼びは酷いなぁ。まだそんな年じゃないよ、て言うか何のことだか分からない」

 

…彼もテンパっている様子。

 

「そこに転がってるじゃん、人間にみえない? 老眼なの? だかr

 

ダッ

知らない子が言い終わる前にダッシュする。菊池さんを肩に担いで。

背中ともっと後ろで何か言ってるけれど耳元で唸る風に紛れて聴こえなーい…聴こえない!

北条くんに化けた星人の頭を爆破した犯人は僕じゃない。でも銃持ってるし状況証拠揃ってるし!

通報されたら捕まっちゃう。

まだ教師やめたくないよ。エリア内に警察署無かったら死んじゃうよっ

 

「!」

ズザザッ「ぐえっ」

 

急ブレーキをかけるとアスファルトを削る音と呻き声が聞こえ止まった。

 

なっ…

 

なんで?

街灯の届かない裏道、ゴミやら埃が舞うなか倉庫の上に立つのはさっきの子。

…。

今ごろ気付いたけど……彼も黒色を纏っていた。

 

 

 

… … …

 

 

 

「もうやめたい、こんな生活…!」

 

対面に座り両手で顔を覆うのは知らない子、改め吸血鬼少年。

僕ら3人は従業員の休憩用だろう倉庫横に置かれた椅子を使っている。

普段はともかく今はミッション中。彼我の関係は敵対。

なのにどうして返り討ちにあわずヤッつけてもいないのか、原因は彼にある。

 

「…」

「…」「…」

 

Xガンで狙いつつも丸腰な少年に向かってトリガ―を引けず途方にくれていると倉庫から下りた彼はお世辞にも綺麗とは言えない石畳に跪き表面を殴った。

そして言った。

 

「なんで撃ってくれない」

 

拳を受けた敷石は浅く凹み、砕けていた。

 

「話を聞こうか」

 

促したのは菊池さん。

掌サイズの機械を弄ったあと舌打ちし手帳とペンを構える彼を気にせず吸血鬼少年が身の上話を始め今に至る。

少年はハンター(←僕たちのことだ)に殺されることで吸血鬼「生活」を「やめたい」らしい。

 

頭痛に苛まれ始めてから数日、へんなセミナーにひっかかったと思ったら友人たちを斬殺された。そのとき悲しみは無く喉の渇きしか感じなかった、との言。

吸血鬼たちの悪魔的な所業に加担させられ数ヶ月。殺人を見逃すほど化物に近付くような気がして人助けを試みるも失敗。自分のスペックでは絶対に勝てそうにない「奴」が居る一方で同じ不満を抱えてそうな同類はひとりも見当たらない。吸血不足による頭痛は耐え難い。

 

意外なことに彼は4カ月と数週間前まで人間だったらしい。セミナーと幹部の説明で転化を自覚したのは今年の3月。ナノマシンが人間を吸血鬼へ変えているのだ。

感染(?)経路は「わからない」がそのウイルスめいたものが体内に入った生物は全ての細胞が入れ替わるのに数週間かかり見た目は変わらないまま別物にされる。頑丈で力強い星人に。

一番の悩みは面倒くさい体質や化物スペックを隠す煩わしさではなく考え方の変化。

「自分が自分であって自分でない感覚」を他の吸血鬼と同じく自覚した彼は強い反発を覚えた。

 

吸血鬼の成り立ちを聞いた筈の周りが全く気にしていないのが理解できない。

人としての一生と正常な感情を奪われたのに何故受け容れる?

血液と闘争以外への興味を失った自分は、もはや自分ではない。

ほかの意思に操られてまで生きていたくない。

憎きナノマシンに操られた吸血鬼に殺されたり犯罪者や化物として捕まるくらいなら正義の味方の手で終わりたい…

 

初対面なのに重すぎる相談だ。

 

「正義の味方」か、僕らとは遠い言葉だよ。

「悪」魔的な吸血鬼を狩る集団は「正義」なの?安直すぎない?

戦争だって悪い国と善い国が敵対するワケじゃないんだし。ぁあ加藤くんなら「正義」かも。

ところで、素朴な疑問いいかな?

 

「あのさ、吸血鬼のグループって抜けられないの?」

「…」

 

余計な質問すぎたのか黙る少年。

だって吸血鬼いっぱい居たから、ひとりくらい居なくなってもバレなくない?

 

「ヤクザとかよくない集まりみたいに大変そうかな?足抜けは」

「…全員が毎日溜まり場に集まるわけじゃない。俺が消えても気にしない、かも」

「それなら距離をとってみなよ。合わない人達と無理に関わるからストレスがたまるんだし」

「いや、あんた話きいてたか?俺はバケモンになるのが嫌なんだ…!」

 

まぁその点は嫌なものを遠ざけても解決しないけど、

 

「血液確保の問題もある」

 

メモに忙しい人からも意見が出る。

そうでもないよ菊池さん。

 

「若い女の子の新鮮な血液しか受け付けないってんじゃなければ、僕が相談にのるよ」 

 

体重50kgの人で800ml血を抜くと気絶するらしいけど缶コーヒー1本で190mlくらいだから頻繁に大量じゃないなら僕が提供しても構わない。

汚染された恐れのある輸血パックの大量廃棄に繋がる事態や希少な型の横取りで起きる人命の危機に関わらない所から拝借すれば解決だ(装備を着た僕らと同程度のことが出来るなら簡単に保管場所へ忍び込めるはず)そんな所があるかって訊かれたら困るし窃盗は犯罪であり吸血鬼少年が嫌がる悪行のひとつなので最後の手段だろうけど。

 

「迷惑で違法で乱暴なことしなくても血を貰う方法は沢山ありそうだから保留として、

 本題の、ナノマシンだっけ?それに操られてるってのは違うんじゃないかな」

「え」

「吸血鬼のグループ、入って4カ月経つんだよね?」

「うん」

「君がいちばんの新入りなの?」

「いや…数日前ひとり増えた。他は知らないけど地味に増えてる」

「そう。で、そのヒト達の様子も」

「他の奴らと同じ。…?」

 

不思議そうな表情で答える吸血鬼少年。

 

「君は操られてないと思う」

「?!」

「少なくとも君より後に変わったヒト達より自我が残ってると思う。

 操られてるんならこんなところで敵と会話になってるのがおかしいでしょ。

 ナノマシンの言いなりな他の吸血鬼が僕らを敵と判断してるんだよ?」

「っ でも殺人を、それも知ってる奴を殺されても何も感じないんだ!

 人間なら怖がったり悲しんだり そういうのがある筈だ!!」

 

うーん

 

「全てがそうとは言い切れないな」

 

そうそう大量殺人とか猟奇的な事件起こす人間は居るしね。殺人犯の全てが隠れ星人でないなら、だけど。

ただ菊池さん、口にされると何か怖い。

 

「とにかく殺人犯でも場合によっては死刑にならないのに

 補助しかしてない子を撃ち殺すことはしたくない。転送もしない」

「でも血を飲んだから同罪だ」

 

被害者目線ならそうだけど僕は違う。少し追い回されて悩み相談うけただけ。

だから言われても困るんだ、長々と聞いといてなんだけど。

気の毒だなぁ程度の感情で「人」殺しは無理。

 

「僕らだって好きでこんなことしてないんだよ、やらないと殺されるからやってるの。

 人を襲う星人でもなるべく殺さないで捕まえる子もいるくらいだし。

 攻撃してこない丸腰のきみを事務的にヤッつけてくれるメンバーなんて居ないよ」

 

居たら異常者だよ。そっちが星人だよね。

 

「…あんたを人質にしても無理か?」

「それなら成功するかも、じゃないよっ冗談はやめて?」

「なら武器持って近付くくらいしか方法無いかぁ。貸してくれない?それ」

 

指名されたXガンをホルスターから外しグリップを彼へ向ける。

 

「2つともトリガ―引いたら撃てるから」

「…」

 

敵に武器を与えたワケだが問題無い。

人間を殺せる仲間に馴染めないから初対面の敵に相談するほど悩んだのだ。彼は僕を撃たない。

彼が今えらぶべき行動は逃走一択。捕獲拒否ならメンバーの前に出ないほうがいい。

エリア外へ出ればターゲットから外れるだろう。

僕たちと違い彼の脳に爆弾は設置されていないはず。あったらミッションにならない。

 

ていうか落ち込んじゃうなぁ。

罪悪感で自殺を考えるとか彼のほうが余程人間らしいよ、僕なんかより。

なんだかんだでミッションに慣れちゃった、星「人」狩りを肯定してしまった僕は人でなしだ。

そう再確認してしまう。

特典のひとつを選べば沢山の罪を帳消し出来るとすら思っていた。

僕が忘れても事件は消えないのに。

 

俯いてXガンを撫でる吸血鬼少年。

 

待てよ? 撃ち方教えたのマズかったかも。

彼の動作は速いから自殺を図ったら止められる自信が無い。

包丁とかだと痛そうだ、と一瞬で終われる銃器を入手する機会を伺っていたとしたら…

 

僕が後悔している間にゆっくりと立ち上がると銃を左手へ持ち変える少年。

話し中も思ったけど綺麗な顔だ。整っているのに親しみやすい造作はモテそうで羨ましい。

此処で失ったら沢山の人に恨まれそう。長身だから高校生くらいかな?

僕が笑顔をつくると彼も口角を上げる。逸れた視線を戻し細まる目元。

ふたつのトリガ―へ指のかかった銃口は 僕の眉間へ向けられた。

 

…あれ?

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

地下クラブ。

 

山田と一般人離脱後、暫く星人共を観察していると天井でまわる球体の輝きを何かが遮ッた。

人垣から垂直に跳び出した星人だ。

 

「ぅおっ?!」

 

ソイツは加藤の横へ着地しガクッと関節を曲げる。

垂れた黒髪が顔を隠す奴の服装は黒色の全身タイツ…

ッてガンツスーツじゃん。

オマエ何してンの?

 

「えっ 和泉?」「あっ」

 

メンバーの呟きと驚く声の直後、今度は半裸が跳ンで来た。外人顔の男だ。

裸足だから着衣はボトムのみ。

奴は俺たちの誰よりも階段へ近い床に着地すると右掌の甲をこッちへ向け軽く4指を動かしニヤつく。

和泉は振り返ッた姿勢で歯噛み、ていうか歯軋りが聞こえる。

何かヘンだと思ッたら、スーツだ。ボタンの光が消えている

 

「おいっ」

 

声をかける加藤を無視し駆け出す和泉。足首や手首のボタンから飛び散る液体が気になるのか急いで進路を空けるメンバーたち。グラサン男は既に見えない。

 

「追うぞっ」

 

誰かの声は続く足音に呑み込まれた。




山田急ブレーキ時に聞こえた潰れ蛙のような声の出所はお荷物の菊池。

吸血鬼少年を山田が「親しみやすい造作」と思ったのは似た顔を知っているから。

(頼まれてもいないのに)武器無し勝負に応じフツ―に劣勢な和泉。



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ホスト編④

前回のあらすじ:
ラテン顔幹部を追ってクラブをとび出す和泉。つづく加藤たち(ターゲット達も)。



===□○◇===

 

 

 

「はぁ?」「えっ何?何?」「ケンカ?」「やっだぁ~」「何だ?」「酔っ払いかぁ?」

 

追いついた場所は交差点。

半裸と和泉はさっき見た恰好のまま殴り合っている、いや互いに一発ももらってないから避け合いか。

歩道ではなく広い車道の横断歩道上で続く攻防。信号はとっくに赤だが車両に譲る気は無い様だ。

ドライバー達の視線も含め、予想通り見世物になっている。

ギャラリーに合流した俺たちへ注目は無い。ターゲットたち黒服集団は……あれ?居ない。

人だかりの後方にも居ないようだ。頭一つ分くらい突出するだろう長身たちの姿は見えない。

計ちゃん達も居ないぞ。なんだ、俺ともう1人だけか移動したの。

 

前回のミッションと同じく見物人は撮影してない人のほうが少ない。

和泉の爆死を心配するところだけど、奴と半裸の動きが速すぎる。カメラで捕えられるかどうか…

 

ゴシャッ

 

とか思っていると片方が自動車へ接触した。…和泉!

進路妨害された挙句ボンネットを凹まされフロントガラスに罅まで入れられた運転手は不運だ。

背中をガラスに預けたまま和泉は動かない。

半裸星人がまっすぐ向かう!

 

ガンッ

 

炸裂する蹴り。和泉の埋まッた車両が退がる。

…ことはなく蹴りを太い腕が受け止めた。風のぶ厚い筋肉だ。普段より更に膨張版の。

俺は和泉の脈をみる。

 

「おいっ 寝るなっ」

 

返事は無い。いつもの無視ではなくマジで意識不明らしい。代わりにギャラリーから疑問の声。

「今の音、何が鳴ったんだ?」ってどういう…

あぁ半裸星人の蹴りを風が防いだ「音」しか一般人に認識されなかったんだ。

俺と風は問題無く周波数を変えれたらしい。即ち野次馬にとっての透明人間。

 

「あ!! なーんだ、消えてんのか。びっくりさせんなよぉ~」

 

半裸星人は一足飛びで風から離れると左手でポケットを探る。

妨害したかったけど距離がありすぎた。

半裸裸足にサングラスを足した星人が風に迫る。選手交代でストリートファイト続行だ。

 

 

「おぼっ」

 

地響きの直後、聴こえた声。

放置したら救急車を呼ばれそうな和泉を(骨折箇所とか判らないまま)なんとか背負い…

振り返ったことに後悔した。

風の攻撃をくらい四散した半裸吸血鬼の声だったらしい。

顔中の孔から血を噴きだし胴体が爆ぜ四肢が方々へ飛び散った人間(っぽい星人)を見た感想だろう、跪いたり腰をまげては歩道や植え込みを汚す野次馬たち。街路が破壊と死者で溢れてしまった前回と比べるとすれば圧倒的に平和なのに絵面的に大惨事。

目撃者の殆どが一生覚えていそうな光景だ。

それに死因が不審すぎる。気持ち悪さで細かい所は気にならないと思いたい。

ガンツソードで斬り傷を付けるよりは透明人間の存在を隠せたか?

Yガンで処理できれば壊れた死体が残らず立体映像みたいな消えかたを見た数人はTVか何かの企画と思ってくれただろうが、仕方ない。星人が一般人へ危害を加える前に処理することのほうが俺たちの都合よりも優先だ。巻き添えが出る前に倒せたことを喜ぼう。

 

いつものように吐き気を飲み込み、俺たちはスタート地点へ戻ることにした。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

ダダダダダダダダダ…パララララララララ…タタタ…タタタタ…ダダダダダダダダダダダダ…

 

喧しすぎる銃声が夜の街路に響き渡る。

看板の裏に飛び込ンだ俺の近くを削る跳弾。左肩を預けた煉瓦に埋まるこの鉛(?)玉も吸血鬼由来なのだろう、手の変形だか分裂だか知らないが生成途中で発砲している奴がちらほら。

 

ッたく、星人ッてヤツラはムチャクチャしやがる。

百人以上で銃乱射とか数分待たずにパトカー来るぞ団体の。隠れ家を放棄する気満々か。

 

大騒ぎな此処は今回のスタート地点付近。

数m先にクラブ・ホスト星人の出入り口が見える。

和泉と半裸の星人がクラブを出て行ッたときは、他の吸血鬼に追われるカタチになッていたし、ぶッちゃけ俺も加藤と風について追いかける気になッていた。

でも血臭に慣れた鼻が外気を吸ッたとき気が付いたンだ。

 

このまま吸血鬼共を連れ回したら、前回と同じに成ンじゃねえ?

ミッションと無関係な死者だけで百人以上を数えたあの地獄と。

 

それでこの状況だ。

結局クラブ内のターゲット共(のおそらく)全てを往来に解き放ッちまッたが数十mの範囲に留めている。平和ボケな野次馬や運の無い警官が来るまでに片付けたい。

星人が生成(?)した銃弾は、スーツに効くのかどうなのか…

数発は耐えてくれると助かるなッと

 

ドンッッ

 

不可視の槌が路面を打つ。黒服は飛び退いたものの銃身を巻き込めた。

ほぼ同じ場所に数発目なので陥没が深まり少し気になる(この下に何も無いことを祈りたい)此処が、俺たちが担当する防衛線の最終ライン。

クラブの出入り口に接する街路の南側は岡崎たちが担当し、和泉たちが駆け去ッた側にあたる北は俺と数人が通せンぼッてカタチ。出て来た黒服共の殆どが北を目指すので半分囮だな。

 

聖ちゃんとJJ・苫篠が黒服共に殴り込み、俺と近藤が援護。それを突破あるいははみ出した奴を北条たちが潰している。クラブに居た一般人に俺たちが視えていたからこッちは全員ステルスしているが、岡崎たちも周波数を変えたンだよな?

南担当は幼児と小学生・婆ちゃんとミッション2回目の初心者含む顔ぶれだから敵を逃がさないでくれたら充分だけど…

もッと攻撃して欲しいかも。姿を見せないぶン出来れば派手に。挟撃の圧力が増えれば星人でも焦るはず。隙が増えれば処理が捗る。

そう思いつつ数人をロックオンすると視界の隅に彼女が見えた。

完璧な脚線がロン毛吸血鬼の額を砕き滞空したまま2匹目を葬る。アスファルトと平行に開いた脚を戻しながら縦回転。金髪吸血鬼の頭頂部を口元まで凹ませ反動で次へ。

 

…リミット無けりゃあ余裕かも。

 

 

 

===□□□===

 

 

 

ギョーンッ

 

よっつへ分かれ光る銃口。

 

ギョーンギョーンギョーン

 

着地するまでに更に撃つ。

 

軽業師さながらに動きまわりXガンを連射するのは吸血鬼少年。その標的は僕じゃない。

彼に狙われたなら一度だって避けられる気がしない。

肝を冷やした一射目は僕を逸れて放たれた。

 

「は?は?何が起こってn うわっ」

 

菊池さんの声が耳をうち破裂音は遠ざかる。暴れないでっ 退避します!

 

「舌を噛みますから黙って 大通り沿いでいいんですよね!」

「え?え?」

 

駆けながら投げた念押しに菊池さんは混乱ぎみ。

いや当初の目的ですよ、駐車場に停めた車で帰るんでしょう?

吸血鬼少年が仕掛けた相手は一発も被弾無し。即ち同じ吸血鬼。恐らくは、彼が負けを認めた上位者のひとり。

あなたが惧れていた危険が来たのだ特大の はやく帰って!

 

タタタ ダダダダ ガガガガガ ドンッ

 

…なんてこった。遠くからアクション映画みたいな音が聞こえる。

行き先にも居るっぽいよ吸血鬼。

持っていた菊池さんを路上へ降ろしレーダーを確認。

予想に反して大通りではないが脇道のひとつに沢山いる。吸血鬼クラブに接する通りだ。

クラブ内のターゲット反応がひとつにまで減っているのはどういう状況?

どうして場所を移したんだろ?

道へ出たターゲットがクラブに居た分ではなくエリア外からの増援ならば時間制限が心配だ。

終了ギリギリで増えたらどうしようもない。

 

「申し訳無いんですけど菊池さん。僕が送れるのは此処までです。

 道を…駐車場までの安全そうなルートを教えますから急いで帰ってください」

「は?」

「さっきのクラブには行かないで、危ないので絶対ですよ」

「此処から、ひとりで?」

 

周りを見回しながら菊池さんが訊き返す。吸血鬼と遭遇したら終わりだから恐いのは当然だけど、レーダー貸すのは流石にまずい。

 

「はい、ひとりで帰ってください。この辺に隠れるより離れるほうがマシだと思います」

「…」

「帰るならすぐで。隠れるならあと15分、いや銃声とか変な音がやむまで待ってから移動するほうが安全かも判りませんけど、どうかな、どっちにしても運でしょう。

 奴らに見つからないように…頑張って」

 

別行動をどう解釈したのか菊池さんは俯いた。武器ひとつ貸せず置いて行くのは心が痛むけれど、彼より危ない目に遭っている子を何とかしたい。すぐ動けるのは僕しかいない。

 

僕は元来た路を全力で駆けた。

 

 

 

… … …

 

 

 

倉庫のある裏道。

派手な頭の黒服と対峙する長身少年。

 

「どうした。ハンターごっこは終わりか?」

「はぁっ はぁっ はぁっ」ガチャッ

「…ふ」

 

黒服が瞬く間に距離を縮めると少年は後方へ避けた。

はらりと着地する黒い布。長身少年の上着の一部だ。

刃で逆袈裟の軌道を描いたのか斜め上へ伸ばした両腕と姿勢を戻し首を傾げる黒服。

指令の星人に似た容姿、同一人物かな?あの白髪男。

 

「何度も間違えるなよ。次は手首おとすぜ」

「…今日は休みじゃなかったのか」

「ん。ああ、その予定だったけど借りたヤツがハズレでな、暇つぶし」

 

外野の僕まで寒くなりそうな口調の脅しを受けて関係無さそうな答えを返す吸血鬼少年。

彼を見つめる白髪吸血鬼は咥え煙草を空いた右手で摘まみ紫煙を吹き出す。

 

「期待してんだお前には。ほら、言ったよな練習しとけって」

「ちっ」

カシャンッ

 

再び何かを催促する白髪吸血鬼。その無表情は玩具を期待する猫を思わせる。

吸血鬼少年は片手でポイッと銃を捨てると右手を広げた。

 

…あれが吸血鬼の武器生成…

 

右掌から地面へ向け鋭利な物体がせり出てゆく。

やがて柄になった端っこを握り、両手持ちで構える吸血鬼少年。

 

……

………。

 

路地裏で始まった斬り合いを見物し思う。

無理だ。

折角戻ってきたのに、援護したいのに、あれに割り込むヴィジョンが見えない。

手元に戻ったXガン…さっきより2人の距離が近いので誤射しそう。

ガンツソード…僕に剣道の才能は無い。ていうか竹刀の振り方とか覚えてない。

そもそも僕より動ける少年がXガン使って無理だったことを覆せるワケがない。

 

お互いに斬りつけようとしても刃と刃をぶつけ合ってはいないようで聴こえてくるのは足音のみ。憔悴してゆく少年を何も出来ないまま眺める。

再びお喋りを始めれば白髪の動きは遅くなるか止まるはず。その時しか機会は無い。

次に休むきっかけが少年の致命傷でないといいけれど

 

「氷川!」

 

裏道に声が響く。

 

「例の奴が来ているよっ」

「!」

「がぁっ?!」

ボタッ

 

黒服より奥まった位置から何者かが再び話し掛ける。その台詞に被さる苦鳴。

ついで落ちてきたのは長ひょろい物体。

 

「マジかよ。どこだ」

「はぁー…やっぱり見てない。スクランブル交差点、らしいよ15分前は」

「へっ」タンッ

 

「15分前だよー」と念を押す声に答えず駆け去る白髪吸血鬼。副流煙が鼻をつく。

少年は跪いている。欠けた腕の断面を抑えながら。

その足元でバシャバシャと濃い色の液体が水溜りをつくる。

 

「あれ?」

 

裏道の奥から現れ少年に歩み寄るのは女性。凛とした声のイメージ通りな黒髪美人。

彼女の服装はどこかへ行った白髪吸血鬼と同じ白シャツに黒の上下。唯一の違いはスラックスに収めていないYシャツの裾。

 

「アキラ…だっけ」

「…」

 

女性の問いに答えず壁へ拠りかかる少年。背を滑らせ座り込む。

 

「うわー。痛そう…

 え?待って。さっき斬られてたのアンタなの? なんで?」

 

少年の正面にしゃがみ首を傾げる女性。顔を覗き込んでいるのだろう。

 

「帰れ」

「…」

「此処は…危険だ。今すぐ…帰れ」

 

言い終えた少年の額が膝へ着くと、長い髪をはらい女性は立ち上がった。

 

「ねぇおじさん。何か知ってる?」

 

 

 

===□○◇===

 

 

 

「ひi ジジジ ジジジ…

 

褐色の口元が消え青白い光が顎を侵食してゆく。

JJに向いていた銃口は吸血鬼を数体転送したあたりで俺へ集まった。

ステルスを見破る道具の話を思い出しながら柵を越える。コンタクトレンズの有無は見ても判んないからサングラス装備を優先的に狙うべきだけど、そんな器用な真似は難しい。

大きめに退がると銃弾は追いかけて来ず、耳が靴音を拾った。

…。

あいつ今どっから現れた?俺の後方に居るってことは大通りのある方向からか?

クラブのある通りから脱出し計ちゃん達を振りきって大通りへ行った吸血鬼なら俺と風が戻る時に遭っているはず…

 

「おい」

 

ミッションエリア外から来たっぽい吸血鬼の第一声。周りの騒ぎなんて関係無いって顔だ。

微風に白髪と黒服の裾を靡かせ無造作に歩むと煙草を口から離し煙を振り撒く。

フィルターを摘まんでいないほうの手で握る得物が妖しく光った。

 

「お前ら、リーダーは?」

 

…は?

 

「お前らのリーダーはどこだ。答えろ」

 

俺が答えないことに苛立ったのか片眉を上げる白髪吸血鬼。要求を言い直す。

そんなこと訊いてどうするんだ?リーダーを倒せば俺たちが退くと思っている?

残念だけど時間切れまで退けないぞ、こっちも命が懸かってる。

ていうか吸血鬼はリーダーを倒せば退くってことか?

…あれ? 奴らのリーダーっt

 

「ゴキブリは頭の位置も知らねーのか。おい、聴こえてねーのか」

 

俺が、リーダーだけど…。

 

「…」

 

…。

 

「いちばん強い奴はどこだ」

 

奴も気まずかったのか、夜空を仰ぐ動作を挟み質問が変わった。

次は「お前ら」の中で「いちばん強い奴」を訊いてるんだよな?

誰だろう?ガンツメンバーで「いちばん強い奴」…。

いちばん点数獲ってるのは西だけど、あいつより風やJJのほうが断然つよい。

あ、でも特典武器を使えば勝負になるか。ガンツアーマーはチートだ。

 

西の居場所なら、知らないな。




半裸吸血鬼が透明人間の腕を蹴った音を指摘した一般人は、和泉へ向けた加藤の言葉をギャラリーたちのモノとしてスル―。

クラブに残っている一人は坊主グラサン幹部(大津※捏造苗字)。

白髪吸血鬼(氷川)vs吸血鬼少年(玄野アキラ)の現場へ、山田は周波数を変えて戻った。
結局何もしてない。

黒髪美人(きるびる)はステルス看破コンタクト装備。捏造苗字は夕張でいいかな。

某スクランブル交差点に行ったら人集りと死骸しかなかったのでクラブへダッシュした氷川。
(和泉がクラブに来たことを幹部たち+きるびるへメールした)大津が送ったメールは尚も未読。

ロングコートぎょろ目幹部と斎藤は元々欠席。


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ホスト編⑤

前回のあらすじ:
クラブ前の通りへ戻ってきた加藤、白髪吸血鬼に質問される。
白髪「強い奴(和泉)はどこだ」
加藤「強い(武器を持ってる)奴(なら西か?どこだろう)?」




わからない、と答えると白い眉間に皺ができた。

 

「ちっ、遅かったか…」

 

無表情ながら明らかにがっかりする白髪吸血鬼。その頭部へ向けトリガ―を

 

?!

 

引く動作の変更が間に合ったのは奇跡だった。

耳の横で金属(?)同士が擦れ合う音が大きく聴こえる。

銃弾をばら撒く吸血鬼たちは居なくなっていないし耳元の凶器は存在感を増しているのに、無感動な瞳から目が離せない。冷たい汗が頬を伝う。

数mを瞬時に詰めた白髪吸血鬼は姿勢と身長差のせいで俺を見上げている筈なのに、

見下されている気分…

 

ドッキンッドッキンッドッキンッ

 

俺が怯えを振りきる前に離れる刃と吸血鬼。

首刈りの盾を果たしたYガンは、もう使わないほうが無難だろう。

 

ビュオゥッ

 

飛び込み前転の真上を薙ぐ刃。横へ強引に転がると左足首に衝撃。段差にぶつかった勢いで立ち上がって見ると、白髪吸血鬼はアスファルトを突いた姿勢のまま他を向いていた。

 

視線の先には……黒服の死体。ターゲット数体が折り重なるように倒れ一部潰れている。

 

グチャッ バシャンッ バチャッ グシャッ ドンッ ドンッ ドンッ…

 

音のたびに死体が壊れ液体が跳ね跳ぶが踏み歩く存在は見当たらない。

アスファルトに足跡が付かなくなった頃ターゲット達が反応した。

 

ガガガガガ…

 

マシンガンによる十字砲火が何者かの輪郭を顕す。

 

ガガガガガ…

 

いや銃弾を受けるたび周波数が変わっては戻るようだ。薄らと現れては消える姿は

いつかモニターに表示された模型。腕部の長い頑丈そうな装甲服。

 

ガガガガガ…

 

どこに当たっても問題無く弾いているらしく歩調は変わらない。

避けないのは鉄壁アピールか。

 

パァッ

 

地面と平行にあがる左腕部。先端が光ると同時に消失する吸血鬼。

続いて右腕部もあがり反対側のターゲットを一掃。

 

「ぉおい あっぶねーなっ おm

ドォンッッ

 

咄嗟に伏せていたのか起き上がった苫篠の抗議に爆発音が被さる。

掌レーザーが消し残したパーツを巻き上げる爆風。

レーザーと吸血鬼たちの直線上にあった何かが引火し建物内で爆発したっぽい。

やはり空へ向けないと余計な被害を増やすらしい。

街中で使う装備じゃないなレーザー兵器。

 

ガガガガガ…

 

再び弾幕を張る吸血鬼たち。

レーザーを防げず銃弾の効果がみえなくても撤退を選択しないようだ。

ガンツスーツ同様ガンツアーマーにも耐久値はあるだろう。

でも火力が弱すぎたら無意味なんじゃ…

 

チカッ

 

煌めきと同時に視えた影が左腕部下を通り背後へ抜ける。

え?

 

ドンッッ

 

伏せた白髪を強い光が覆い隠した。

 

 

 

==○◇■○◇==

 

 

 

「ちっ、見掛け倒しかよ」ドゴッ

 

白髪吸血鬼に蹴られた特典スーツが路上を転がる。左腕の半分ほどを失った強化服は動かない。

…?

なんか違和感あると思ったら、白髪の武器が無くなっている。手ぶらの丸腰。

もしかして刀を犠牲に特典スーツを無力化した?

一斉に銃弾を受けた装甲に幾つか傷が出来ていたとして、そこを突いたら壊せるものか?

それとも、レーザーの射出口にでも入れたのだろうか?

あそこに刃を突っ込めばレーザーが暴発し自滅を誘える、と。

どっちにしてもヤバいぞアイツ。

少しタイミングがずれてたらレーザーに当たっただろうし、ぶっつけ本番なんだから自滅の規模が分からない。それでも実行するなんて…。暴発時に拡散したレーザーで他の吸血鬼共は細切れだ。

吸血鬼全般が和泉の様な向こう見ずタイプかよ。違うってんなら刀使いの拘りってヤツなのか?

まぁ飛び道具による効果を見た限り、吸血鬼の用意出来る武器で特典スーツを破壊する唯一の方法だったのだろu

 

ギョーンッ

「ぅぐっ」

 

屈んでX弾(?)を避けた白髪吸血鬼は射撃したメンバーの腹を蹴った。

ふっ飛ばされ近藤にぶつかるメンバーは苫篠。どっちも驚愕の表情だ。

近藤の驚きは星人に蹴られたのに痛みが無かったこと、ではなく相手の動きが視えなかったからだろう。

腹の衝撃を知った後に避けられたことを認識したのかも。

 

転がる2人を踏んづける革靴。

再び距離を詰めた白髪吸血鬼による体重の乗った踏みつけと逆の足裏が苫篠を襲う。

マトは顔面。

俺が行動する前に視界から消える白髪。

超スピードを見失った、のではなく遮ったのはメンバーの背中。

加藤だ

 

ガンッ

 

加藤は白髪の裏拳を前腕で防御し

 

ガッ

 

弾いて回した相手の蹴りを肩にくらう。いや加藤の力を利用した白髪男の回し蹴りか。

 

数m離した加藤へ放たれる礫。(速くて見逃した)何かを避けた対象へ踏み出さず跳び退く。

 

ドンッッ

 

へこむ車道。白髪の爪先すれすれで出来た陥没の深さは30cmくらい。直径は2m超

 

「!」

 

危機一髪を避けきった直後にしては退屈そうに細められていた目が開かれる。

 

漆黒の壁が奴に迫った。

 

 

 

===◇○○===

 

 

 

ドンッッ

 

まるで天災のような振動が地面を襲う。

俺よりも震源地に近い加藤たちは風圧を感じたかも。

やッたのは風。そーいや和泉が見当たらね―けど半裸を倒して合流だよな?

 

鉄山靠ポーズで落ち着く暇無く上体をひねる巨漢。白髪の攻撃を避けたようだ。

 

刀を失ってから白髪吸血鬼は武器を生成していない。

動きを止めて集中しないと刀や拳銃を出せないのかも。

若しくは、一日に具現化出来る量に限りがある?

ガンツの転送みたいに武器を他所から掌へ移動しているンじゃなく、マジで吸血鬼ボディから鉄の塊ひり出してンの?

 

今のうちに倒すべきだな。風のリーチが白髪を上回ッているうちに。

残り時間が3分きッてるし。でもルールが変わッたのか気紛れか、最近のミッションは制限時間を蔑ろにする傾向なので杞憂かも。

野宿星人の時みたく今回もメンバーを1人だけ残し(デス)ペナルティ無しでミッションが延長するのだとしたら居残りは風になるような気がしている。

吸血鬼を部屋へ呼ばない為に。

ミッション前の招集時と同様メンバーに触れている星人が帰りの転送に巻き込まれたなら、

そしてガンツの存在を知ッたなら、するコトは一つだ。

 

加藤の時とは違い延長ミッションに成功報酬があッたとしても俺は居残りを遠慮したい。

だッて特典スーツをアッサリ壊し範囲攻撃をスルッと避けるようなターゲットと1対1とか絶対に面倒くさい。無いと思うけど婆さんや犬を選ぶのもやめてほしい。ボス討伐失敗で全員の爆弾が作動したら嫌すぎる。

あ、でも聖ちゃんを選ぶンなら俺を選ンでいいぞガンツ。

手出しできない場所で帰りを待つくらいなら死神に体当たりするほうが、いくらかマシだ。

 

 

 

=========

 

 

 

♪ち――――――――――――――――――ん♪ 

 

“それぢわ ちいてんを はじぬる 00:00:00”

 

黒球部屋。

今夜も無事に採点へ辿り付けた。

犬の“0てん”画面を眺めながら思う。今回のミッション、不評だろうなぁ。

 

ミッション視聴者…黒球メーカーとそのお友達連中は(姿行動共に)意外性抜群のクリ―チャ―と人間が殺し合う臨場感と賭け事を楽しみたいはず。“星人”が銃と刀装備の人間(そっくりな吸血鬼)じゃいつもの半分も楽しめまい。

 

吸血鬼は伝承やフィクションによって設定が異なり、たいてい日光で消滅する偏食人間だ。

今回のターゲットは「日光で致命傷を受ける」「主食は人間の血液」という特徴があるため“ホスト星人”=吸血鬼と(メンバー内で)認識しているし、奴らが其処ら辺のビルで催していた(転化したて相手の)セミナーでも自らを吸血鬼のモデル、と紹介していたところから納得済みの呼称なのだろう。

 

死んだはずの一般人が夜な夜なクリ―チャ―を狩ったり狩られたりするマンガ“GANTZ”に登場した超能力者と吸血鬼は別の作品で出す筈のキャラだったらしい。

連載が続いたから味方キャラや敵キャラとして使ったのだとか。

みたかったなぁ、桜井やアキラが主人公のマンガ。終局を生き残って帰れればワンチャン…

…。

それはともかく、別の作品として考えていたなら当然ある筈だ。

それなりの裏設定が。

 

吸血鬼の裏設定…

マンガで無かった今日のミッション、吸血鬼狩りにはそれが関わっているのだろうか?

マンガでスル―した吸血鬼共を標的とした理由は?

無事に終わったから気にしない、というワケにはいかない今回は。

だって氷川に逃げられたから。

…。

本当いい加減にしろよガンツ及び黒球メーカーの〇□✕○□◇っ。

吸血鬼共に黒幕が襲撃されたとかされそうとかいう理由なら知らんし、勝手に■んでろ。

奴らの殖え方からして何回ミッションしようが根絶出来ないんだから刺激させるな。迷惑だ。

ちび星人のように学校来ても知らないから、逃げるからね(篠崎は任されるから足止め宜しくミッション狂い)。

いや私は努力したよ。チート白髪ホストざむらいのヘッドショットを狙い続けたさ、モブそっちのけで。…視界に現れたときは心臓が止まるかと思った。

寧ろ止まったかも一瞬。ていうか目が合う度に。

信じられます?あの白髪、ロックオンしようとする度に合わせてきたんだけど目を。

恐怖体験すぎてハゲそうだよマジで。

お蔭で今回0点すよ佐藤さん。この役立たず、と目で言うな玄野。

 

「あーっ!!」

「?」

 

大声をあげたのは山田。目線は玄野の顔面。

吸血美女に追われて氷川の後ろを通りすぎた時より強張った表情。

あぁもしかして…

見つめられる茶髪は自らの頬を軽く撫でつつ桜丘をチラ見。

 

「玄野くん、て兄弟とか、いたりする?」

「…は?」

「いや、そんなワケ無いよね…」

 

「できすぎてる」と俯く挙動不審眼鏡。

 

「2人兄弟よね、たしか」

「あー…うn

「名前は?!」

「ゔァ ア…キラだけど、それが何?」

 

情報を得て興奮する山田にドン引きしつつも玄野が答える。

その事実があまりの衝撃だったのか妙にゆっくり跪く眼鏡。

フローリングを見つめるメンバーを放置し「おねーさんの番だぜ」と言う苫篠に促され画面を見る桜丘。

 

最後、クラブ前の通りから狩りエリア枠へ向かうターゲットマーク以外の反応はひとつもマップに表示されていなかったから、そういうことだよなぁ…

 

「1匹1点かよ、しょぼー」と呟く西の意見と同じような台詞が飛び交ったり飛び交わなかったりしつつ採点は終わった。




役立たず云々はオリ主の邪推。
玄野「(マップの)境界線を見張ッてたのかな?」

採点詳細:
婆・リーマンA~D・タケシ TotaL0てん
犬       0てんTotaL1てん
ガキ      0てんTotaL10てん      
メガネ     0てんTotaL16てん
浦ちゃん    0てんTotaL23てん 
とましの    0てんTotaL34てん 
佐藤(?)    0てんTotaL90てん
ミリオタ    1てんTotaL32てん 
サダコ     1てんTotaL26てん  
コンタ     1てんTotaL58てん 
北条      2てんTotaL33てん  
空手家     2てんTotaL53てん 
きんにくらいだー4てんTotaL10てん   
かとうちゃ(笑) 5てんTotaL21てん  
くろの   107てんTotaL107てん    
あねご    32てんTotaL85てん  
和泉くん  105てんTotaL105てん
西くん   129てんTotaL129てん(水オニ分の得点は無し)
※幹部含めホスト星人の点数は一律1点=「しょぼい」。

★ストックが尽きましたので次話投稿は2週間~1ヵ月後になります(>_<)★


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ぬらりひょん編①

前編のあらすじ:
ホスト星人ミッションクリア。ガンツメンバーの退場者無し。



7月13日の土曜日。

日没後のコンビニで商品を探しつつ先日のミッションを思い出す。

(ターゲットがほぼ人間だったせいか)いつもより静かな採点中、センパイが溢した(配点の)話題に和泉と苫篠しか乗らなかった後の出来事を。

 

3人出た100点達成者のひとり、玄野は複製を選んだ。

彼の採点画面のあと誰も頼んでいないのに退場者リストを表示されたのだ。

ずらりと並んだ証明写真の末尾には玄野っぽい顔。

玄野(計)は「電車にアタック」以降一度も退場していないので(玄野弟こと)アキラ君だ。

…優しいじゃんガンツ。

ちょっと思ってしまった。あれが世に謂うジャ■アン効果…

いや■ャイアンよりは穏和で誠実だよねガンツ。比較してごめんょ。

 

兄(の100点と引き換え)に複製された弟は無表情で慌てていた。

自身の周囲がマンションの一室に変わったこと、全身タイツ集団の輪に身内がいること、直前まで相対していた奴が消えていることに驚いた様子。

斬り合っていた相手は一人。名称は「ひかわ」。

マンガの玄野弟は幹部以下の吸血鬼よりも強い設定だったし(何故か勃発した一騎打ちに)居合わせた山田も「白髪吸血鬼」と呼んでいたから、あの氷川に斬り殺されたのだろう。

なんというチャレンジャー。

偽北条が頭をふっ飛ばされた後、帰る菊池&山田と玄野弟がクラブ手前で鉢合わせたところは見た。でも追いかけっこ始まったから玄野弟はフツ―のターゲットよろしくガンツメンバーと敵対したと思っていたよ。違ったのね。

マンガと同じく吸血鬼コミュニティーに対してあんまり帰属意識が無かったとしても敵対者に味方して退場するなんて極端な子…

山田のどこかに命を懸ける価値を認めたから一度負けた相手に刃向かったのか?

雪辱戦の申し込みとミッションが被ったのかもしれない。

 

チート白髪ホストざむらいが「逃げた」理由は、吸血美女だ。

ちょっと意外な展開だった。

クラブ前の通りでドンパチする中に駆け込んだ山田、を追う黒背広の美しい女性はYガンで捕獲された。撃ったのはサダコ。

流れ弾(?)だったのか何なのか知らないが乱戦だったので避け難かったのだろう持った刀でアンカーを斬る間も無くあっさり拘束された吸血美女を見て、先ずサダコのYガンを蹴り飛ばしアンカーを踏んずけ女性を担ぎあげた白髪は疾風の速度でトンズラした。

唖然とする風(笑)。

ボス級吸血鬼氷川のスペックならあの手並みは当然としても戦いズキな奴が強敵放ってまで吸血美女を助けるとは思わなかった。

 

100点特典は①解放②武器③複製だ。

退場者リストにメンバーの身内を混ぜ特典③を選ばせたいなら黒球部屋に複製する必要は無い。

マンガでミッションのターゲットとして退場させられた小島も退場者リストにガンツメンバーと並んで表示されていたが黒球部屋に複製されなかった(複製された地点は小島宅の近所?複製小島は玄野の部屋に入るまで甘々カップル生活の断片記憶?というか当時のときめき?を忘れていた。透明な玄野に押し倒された時の外出着や和泉に斬られた時のパジャマ姿ではなく制服を着た状態で現れたのかと思っていたけれど数ヵ月間行方不明だった人間ならどんな恰好で戻っても不自然)。

ガンツメンバーの集まる部屋に複製されたのだから玄野弟は次回からミッションに参加させられるということ…

黒球メーカーのお遊びに参加している人たちの中に気楽なギャンブラー以外も存在するならば星人を手駒化する機会を逃さないだろう。今迄やマンガで採点時にターゲットを(メンバーの得点と引き換えの複製として)メンバー化しなかった理由は外見や文化の違いだろうか?如何にもなクリ―チャ―だとミッション外で野放しにできないし命令が通じないと星人狩りメンバーとして運用する前に爆弾が作動しそう。星人メンバー選びに戦力面を重視しすぎて黒球部屋待機中のメンバー全てを(デスペナが発動する間も無く)一撃で壊されては(観戦者にとってメインの?)賭けすら儘ならない。

まぁ星人メンバーだけ毎回消して再生したり単独で運用するとか少しの工夫で問題はクリア出来る、でもホモサピメンバーよりは面倒くさい。

玄野弟ならホモサピメンバーと同じように使えると思われたのかも。

黒球メーカー関係者内の規則で星人複製を控えていたのならオニ星人ミッションで半ば公になった事態を機に規則が変わったか、それとも吸血鬼はホモサピ括りってことなのか。元が人間なぶん常識を知ってるし外見がほぼ人間だから規則違反じゃないよね?みたいな。

(マンガ通りなら残り2回だが)これからも難易度の上がり続けるミッションの大失敗を防ぐために梃入れするつもりでメンバー化されたとしたらお気の毒…

 

「絶対に言うな!!」

 

狭い店内に大声が響く。

 

「シィッ アキラッ コンビニだぞここ。

 ははは、すンませーん。大丈夫ですからー」

 

次に聞こえたのは知ってる声。

涼しそうな(サマーニット&チノパン)姿の玄野だ、兄弟で買い物か。

彼らの実家ってどこにあるんだろう。

玄野の下宿生活が登校時間の短縮目的で許されたんなら遠い区? 他県ではないと思ふ。

コンビニ店員が疑いの眼差しを引っ込めると玄野弟の口が開いた。彼は黒いコート姿。

 

「もう少ししたら俺から言う。アニキは何もしなくていい」

「や、それ三日前も聞いたから。

 俺が言わないと風呂は入らない飯は食わない奴が何言ってんだ。

 何もしなくていいンならアキラが家事全部するのか?

 ゴミ出しとか掃除とか洗濯とか、これからはアキラが全部やるンだ?」

「違う、話をすり替えるな」

「すり替えてねーよオマエもゴミ出しくらいやれ。毎回俺がやるのは不公平だと思わねーのか」

「べつに思わない」

「思えよッ!」

 

再びレジから動いた店員に背を向け弟の肩を押す玄野。

玄野弟は兄の下宿先に居候しているらしい。ホスト星人ミッションからずっとなのだろう、

意外と仲よさげな会話。

 

「別に居たッて良いンだけどさァ家賃とか生活費なンて親持ちだし?

 でもお袋には言ッとけよ生存報告くらい」

「言わなくていい」

「そうもいかないだろ、何か近所で事件があッたとか何とか怖がッてたし。

 ちょッと長すぎないか?家出にしては」

 

家出少年かよ玄野弟。

友人があーなったあれが「近所の事件」なら、もしかして転化発覚からずっと帰ってないの?

それなら保護者は心配してフツ―だし行方不明者として疾うに手配書デビューしてそう。

業者に捜索依頼するといくら掛かるんだろ。

含まれるアレルギー物質の確認かカレーパンの裏を見る玄野の横で玄野弟は雑誌コーナーの向こうに流れる歩行者の更に遠くを見透かすような表情。

…兄の言い分は正しい、

弟が社会復帰を望むなら。

 

「吸血鬼」

「え?」

「吸血鬼ってどう思う?」

「ンだよ、いきなり…」

「鬼は妖怪のことだよな。他には神、犯罪者、死人…

 吸血ならヒルや蚊だってする。違いは血液を得る為に人間を殺さないことか」

「アキラ」

「…」

「もう忘れろ。諦めて受け容れるしか無いんだ。

 いくら考えたッて過去には戻れない。失ッたモノは二度と戻らない。

 でもな、どうしても抱えきれないことはぶちまけたッていい。

 聞いてやッてもいいぞ?暇だから」

 

怪人(よりの妖怪?)の話題には乗らず気遣わしげに呟く玄野。

前回のミッションで弟が吸血鬼を殺め、それを悔やんだ末の問いだと思ったのだろう。

虫や謎の生物ならともかく人間っぽい者の命を奪えば気に病むのが人情。

 

「はぁ…それはない。それはないだろ…」

「?」

「すっごく暗くて何考えてるか読めない不気味な身内は、いい奴だった。

 犯罪者予備軍とか思ってた俺の方だよ犯罪者は…」

「おい、不気味とか犯罪者ッて俺のことか?」

「傷付いた?」

「あ―傷付いたッ めッちゃ傷付いた 今日はキッチンで寝ろオマエ 床でなッ」

「ははは、ごめん。けどいい奴とも言ったじゃん、許して」

「うるせッ お世辞ッて見え見えだからッ」

「…マジな話さぁ俺アニキとこんなに喋れる、てゆーか会話になるとは思ってなかったんだ。

 一生へんな距離がある関係が続くと思ってた」

「ハァ? 言うほど喋ッてなくね? 寝てばッかじゃんオマエ」

「…何でうちってああなんだろ、サイコパスかな?あいつら」

「あいつら?」

「親父たちのことだよ。いくら俺がスポーツ万能で人気者で天才だからって、

 子供相手に露骨すぎだし。俺とアニキへの態度が違いすぎ。どっちも息子だっつーの。

 差別されて悲しくない人間は特殊性癖だってあの年になっても知らないのか?

 親父は誰かと比較されて冷遇されたら怒りや恨みパワーで格差を覆せるのかな?

 ダークサイド根性論者?」

「……何だよそれ~」

「というワケで、あの家には帰りたくない」

「どういうワケなのかさッぱり見えないけど、仕方ないから黙ッといてやるよ」

「アニキの下宿にも戻らない」

「は?」

「さっきも言ったけど、犯罪者で疫病神なんだ俺」

「疫?え?」

「もう帰れないってことだよ。わかった?」

「全然わからん」

「そうか。じゃあなアニキ」

「待て、ちゃんと説明しろ。家事がそンなに嫌なのか」

「…まぁ家事も嫌なんだけどさ。ちょっと一人になりたいんだ」

「アキラ!」

 

黒衣を翻し大股で出入り口へ向かう弟。兄の伸ばした手は掠りもしない。

二人は外へ消え、店員の機械的な声がコンビニに響く。

買い物カゴの中身は棚に戻しておいてやろう。

…やはり玄野弟は吸血鬼としてガンツメンバー化したらしい。

そして兄にカミングアウトしていない様子。

人間と暮らす吸血鬼が同居人に正体を隠しつつ日光消毒もされていない現状は偶然の産物か。

どうせ複製するなら転化前のほうが本人も喜んだと思うよガンツ(感染前の玄野弟をスキャンしてないから無理だろうけど)。

吸血鬼は夜しか出歩けないから以前の学校に通えない。“肌を強くする”“高価”な薬を入手できないと不自由すぎる。

 

「…何かドキドキしちゃった~」

 

隣でスナック菓子を物色していた筈の美少女が感想を述べた。

篠崎が楽しそうで何よりだ。和泉より玄野弟のほうが好みの外見なのかうっとりと頬を染める。

片や大量殺人鬼、片や人外(吸血必須)は二者択一を避けたい物件。

うっかり住んじゃった君には事故物件の発覚前に転居を勧める。

他人の痛みに無関心な和泉がマンガで唯一心からの気遣いを見せた相手は篠崎だ。

あれは大変意外かつ感動的な良イベントだったが一歩間違うと篠崎が退場するヤツ。

次回ミッションの前日だから時期的に間もなく起こる。

篠崎が居ないと和泉は真人間になれなさそう。でも退場迄の数分しかデレを見せない奴のために彼女が殺人事件に巻き込まれることはない。

是非とも積極的に出会いを探してほしい、面食いで肉食系巨乳な御友人と。

フラグが消えるなら相手が多少チャラくてもナンパ野郎でも祝福する。

 

「夏なら海かプールよね、水着買わなきゃ!明日行こ―ねっ」

 

…気が進まないなぁ。

 

 

 

… … …

 

 

 

9月3日火曜日。黒球部屋。

肩まで転送される山田。

先に呼ばれた生き残りメンバーは窓側手前から近藤・西・犬、壁側奥から北条・サダコ・たけし・苫篠と黒球向こうに居る4人組はオニ狩りから参加のサラリーマンたち。壁に近い1人が山田に挨拶する。

 

「あの…今日も…やらされるんでしょうか、前みたいなこと…」

「はい、まぁ」

「あ―…やっぱり。前回で終わりかと思ったのに」

「元気出して。いくつか気をつけていれば生き残れますから」

「いくつか、というと」

「ガンツスーツとレーダーを正しく装備することと指令を見逃さないことは当然として、

 ミッションエリアへ送られたら先ずはターゲットの位置を把握することです。

 手に負えそうも無かったら逃げちゃって構いません。勘や外見で判断して下さい。

 慣れるまではターゲットに近付かなくてもいいし、他のメンバーがやりますから」

 

山田の意見を聞き、ちょっと顔色のよくなるリーマンA永島。

あとの3人も神妙な態度で耳を傾ける。

アイテムは装備しないと意味がない・索敵手段を忘れるな・勝てそうなターゲットを狙え…

ミッション以外にも通じる真理ですね。

既に2回のミッションを経験したメンバーに対して今更すぎるアドバイスかと思うが、

前回の準備タイムでは各メンバーのフォネティックコード(笑)選定会議に遠慮して聞けなかったのかな?

 

「逃げるとき忘れちゃいけないのがエリアの境界線です。

 マップ上で確認できる四角い枠線ですね。

 そこを踏み越えてしまうと頭が爆発します。僕らの脳には爆弾が取り付けられているので。

 境界線に近付くとその爆弾が警告音を発しますから鳴らない方へ逃げてください」

 

爆弾のくだりで表情を歪めるリーマン達の中ひとり頷く永島は「あ、アラームってそういう…」と呟いた。オニ星人ミッションのとき加藤にでも聞いていたのだろう。

続きを話さない眼鏡と私服4人が見合う。

 

「終わりです。質問は?」

「…」「…」「…」「えっと、爆弾てマジですか?」

「はい境界線を越えたメンバーが爆死したことがあるので恐らく。

 なんか脱走扱いにされるんじゃないかな、禁則事項は他にもあるんですけど」

「他にも?」

「僕らの参加するこの狩り行為に関する話をメンバー以外に漏らしたり、

 Xガンやガンツスーツとか装備の性能を見せたりすること、かな?判ってる限りは」

「!」

「ほら言ったじゃん。よかったな!バレなくて」

「はぁ~…危なかった…」

「やめよっか、メールでこの話題出すのは」

「いや、お前だろ振ったの」

「え~っ お前らだって結構際どいこと打ってたじゃん!

 それに旦那のケータイだからって勝手に見るほうだろ悪いのは!」

「嫁の悪口は言うな」

「つーか俺、嫁と同じ部屋だし無いんだけどプライベートスペース。

 スーツと武器見つかるだけでアウトって詰んでね?練習できねーぞ射撃とか」

「それな」

「…まぁ一人暮らしじゃない人は持って帰らないほうが無難でしょうね」

 

その後も続くリーマンたちの雑談。

コインロッカーにガンツ装備を預けて練習時に取り出す案はお勧めしない。

いつ転送の兆しを感じても取り出しの間に合うロッカーが実在するなら別だけど。

ミッション生身参加は玄野以外にとっての退場フラグ。

ヤバいアイデアをスル―してこっちに来る山田。

 

「聞いてよ佐藤さん、アキラくんの事なんだけどね」

 

うん?玄野弟が何さ。

言いながら廊下へ出る山田に手招きされ近寄る。

…話題が分かったかも。

 

「彼はホスト星人なんだ」

 

まるで世間話のようにバラす眼鏡。声は抑えめ。

玄野弟が人間の変異体なのは知ってる。

“〇〇星人”はその場限りの綽名だと思うので「吸血鬼」と呼ぶほうが適切かも。

 

「僕が言わなくても分かってたと思うけど一応ね。和泉くんに訊かれたし」

 

は?

 

「顔が恐かったから佐藤さんも了承済みだって言っておいたよ。問題無いでしょ?」

 

事後承諾っ?

「了承済み」って何をだよ。

私にガンツの決定を左右する権限とかありませんから。

支障無いか問われれば是だ。

「星人がガンツメンバーに加入した」と言われても「ふーん」としか感想は無い。

問題あると思っても100点獲る以外にガンツメンバーを(生きたまま)やめる方法知らないし。

星人だからってガンツの扱いは変わらない。人間メンバーと同じく爆弾付きで行動を縛られる。

マンガで出た星人曰くガンツメンバーは特異な「信号」を発しているらしい。

昼間に学校襲撃したチビ星人とミッション中の星人の証言だから恐らく常時(。念話使いのチビ星人は玄野という個体が発する特有の電磁波を「信号」と称した可能性もあるが)。

「お前の信号」と「敵の信号」が頭の爆弾由来だとして、大方の星人と同胞がそれを感知できるなら人間のガンツメンバーより肩身が狭いと思う。ガンツメンバー化した星人と同じ種全てが他星人から敵対されないよう(人間メンバーよりも)熱心に捜されて消されそう。

狙ってもいないのにメンバーにされた吸血中学生(不登校)は無害っぽい(しスパイを働いたら爆発退場だろう)から置くとして、

私のどんな行動から「言わなくても(玄野アキラは吸血鬼と)分かってた」と山田は察したのか。

心当たりが無い。

ミッション中の私は周波数を変えてクラブ向かいの屋上に居た。一般周波数だった山田は知らない筈だ。

あの時、玄野弟は差し色皆無の黒服で日本刀まで持って部屋に複製された。服装と一般人らしくない武器を見て和泉は気付いたんだろう。

…気付かないほうが鈍感かも。

 

「彼さメンバーになったからもう吸血鬼たちから決別するしか無いじゃない?

 血液確保について相談されたんだ」

 

あぁ頭痛薬ね。

玄野弟は同胞の「食事」の相伴に与れなくなったから事情を知ってるヒトに頼んだのか。

生きてるヒトの血液でも治るんだな頭痛。それなら拉致して家畜化したほうがリスク少なくね?何で一々始末してたんだろ逆ナンしてきた女の子たちを。累計したら結構な人数でしょ。

マンガでは蜂の巣にしたメンバーや斬首した若い女性の血を飲んでいたから吸血鬼は殺した人間の血液しか受け付けないのかと思ってた。強いストレス下の分泌物で血を熟成させる、みたいな。

男性外国人の血を「いける」と飲んでいたし叩き斬った鈴木(70代?おっちゃん)から溢れる血を嬉しそうに見ていたから性別や年齢に頓着しないのだろう。

吸血鬼同士で血を融通し合えれば平和なのに。

 

「縫い針で指先から血を採るのって意外と痛いんだよね。刺した時もだけど治るまでも。

 それで考えたんだけどさ、ミッション中に確保したらどうかって。

 動脈切れても転送すれば元通りだし多めに確保できれば手間が省けると思うんだ」

 

にこやかに語る山田。手に持つペットボトルinバケツはその為か。

彼は頭頂部が消え始める度に自身の手首を斬り落とすつもりらしい。

…恐いからやめろ。

 

痛い話に鳥肌を立てていると部屋から悲鳴が聞こえた。




3月19日が(吸血鬼)セミナーで7月4日にホスト星人ミッションで、オリ主たちが玄野兄弟をコンビニで見掛けたのが13日だからアキラの家出はもうすぐ四ヵ月間(。7月13日時点)。

加藤「ガンツメンバーの身内なら死亡時にメンバーでなくても複製対象になるとすれば有難い」

和泉「ミッション当日の死亡者をガンツが勘で選ぶよりも
   ミッション中に死亡した一般人から選ぶほうが
   星人と戦う意思や身体能力を知った上で選定出来る分
   ガンツメンバーの質は向上するだろう(俺以上の才能は有り得ないけど)」

この世界は2002年(GANTZ:Gの年代設定は無視です)。

山田「違うよ、ミッション中に怪我したら使うんだよ。垂れ流しなんて勿体ないでしょ」
オリ主「大怪我を前提にするな」
※黒球部屋へ戻る際は怪我をする前の状態で転送されるから血液を確保した容器は無傷のメンバーに託さないと血液を持ち帰れなさそう。
ミッションエリアで新たに得た物(ガンツ武器以外)を持ち帰れない仕様ならバケツとボトルは綺麗なまま戻ってくる(西くんが拾った落とし物以外にガンツバイクや飛行ユニットの残機を増やせたら便利)。
追記:野宿星人時に風が借りた服はガンツに許可されたってことで。

日付を変更するかも。

次回は「ぬらりひょん編」完成後に投稿します。


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