ラブライブAnotherx2!~新人アイドルに窮地に追い込まれた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が奮起し、追いつくまでの話(予定 (ひいちゃ)
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#01『同好会、絶対絶命!?』
仲間たちとスクフェスを実現させ、短期留学に旅立っていった、虹が咲学園スクールアイドル同好会の部長、高方結友。
帰ってきた彼女を待っていたのは……暖かく迎えてくれた部員たちと、新たなスクールアイドル、そして同好会の危機だった!?
「やっと帰ってきた~。みんな元気かなぁ」
とても立派な校舎を前に、私はそうつぶやいた。
私は高方結友(たかかた ゆう)。この虹ヶ咲学園の二年生で、この学園にあるスクールアイドル同好会の部長。
2カ月前、仲間である部員たちと、スクフェスこと、スクールアイドルフェスティバルを実現させた私は、自分のさらなるステップアップを目指して、2カ月間の音楽留学に行ってきたんだ。そのおかげもあって、作曲のスキルもだいぶ上達した……と思う。このスキルで、みんなに素敵な曲をいっぱい作ってあげられたらいいな。
そのみんなとは留学中も、メールで連絡をとっていた。それによれば、みんなはμ'sやAqoursと合宿をしてきたみたい。みんなその合宿でさらにスキルアップしてるんだろうなぁ。どんな風になってるんだろう。早く会いたい。
おや、校舎の中から走ってくるのは……。
「うわぁん、先輩~! すっごく待ってました~!」
「うわぁっ、か、かすみちゃんっ……?」
栗色のボブカットの女の子が、泣きながら私に抱き着いてきた。
彼女は、中須かすみちゃん。ちょっとぶりっ子の気があるけど、努力家の女の子。そうそう、「かすかす」と言うと怒りだすのも付け加えておかないとね。だけど、いつも明るい彼女が、こんな泣きそうになっているのも珍しいな。何かあったのかな?
「ど、どうしたのかすみちゃん??」
「とにかく、こっちに来てください~~!」
「う、うわぁっ」
そして私は、かすみちゃんに手を引かれて校舎の中へと連れていかれた。
* * * * *
「みんな~! 先輩を連れてきたよ~!」
「あっ、結友ちゃん、おかえりなさい!」
部室に入った私を真っ先に迎えてくれたのは、セミロングの女の子。私の幼馴染、上原歩夢ちゃん。ちょっと控えめながらも、一歩一歩こつこつと頑張って前に進んでいくタイプの女の子だ。
「おかえりなさい、先輩」
「お待ちしてました!」
黒のロングの女の子、後輩の桜坂しずくちゃんと、かつてソロのスクールアイドルをしていて有名だった、同好会の前部長、優木せつ菜ちゃんも、泣き笑いの笑顔ながらも、私を喜んで迎えてくれた。本当に懐かしいなぁ……この雰囲気。
「あ、ありがとう……。それで、何かかすみちゃんが本当に切羽詰まってるって感じで、ここに連れてこられたんだけど……一体何があったの?」
私がそう聞くと、金髪の女の子、ダジャレ好きの宮下愛ちゃんが彼女らしくない、少し沈んだ顔でDVDをセットしながら答えてくれた。
「うん。とりあえず……これを見てみてよ」
そしてテレビの画面に映し出されたのは、二人のスクールアイドルのライブ映像だった。本当にすごいなぁ……。めちゃくちゃ迫力があるし、観客の盛り上がりもかなりのものだ。
「すごいなぁ……。うちの同好会にもこんなすごい新入部員が入ってきたんだね」
私がそうつぶやくと、みんなは半目で私の方を見てきた。え、違うの?
「部長、やっぱり鈍いのは変わらなかった」
「結友ちゃん。もしかして、時差ボケで寝たりない? それなら、彼方ちゃんが膝枕で眠らせてあげるよ~」
感情が乏しい表情の後輩、天王寺璃奈ちゃんと、いつも眠そうな先輩の近江彼方さんがそう言ってくる。鈍いつもりはないんだけどなぁ。
と、そこで、せつ菜ちゃんがこほんと咳払いをして、シリアスな表情をした。
「実はですね……。彼女たちは、私たち同好会とは別の、でもこの学校のスクールアイドルなんです。そして私たちは……彼女たちのパフォーマンスの前に、再び廃部の危機に陥っているんですっ!!」
「えええええええ!?」
新人スクールアイドルのパフォーマンスの前に廃部の危機に陥ってる、っていったいどういうこと!?
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#02『壁は乗り越えるもの』
「全ては、今から半月前、その時から始まったのです……!」
「いやせつ菜先輩。その、いかにもアニメのナレーションのような話し方はいいですから」
アニメのナレーション調に話し出したせつ菜ちゃんだったが、かすみちゃんのダメ出しをさっそく受けたのだった。
本当に懐かしいなぁ、この光景。本当にこの同好会に帰ってきたんだ、という感じがする。
「今から半月前、二人の留学生がこの虹ヶ咲に転校してきたんです。それで、その二人は、私たちのライブを見て触発されたらしく……」
そのせつ菜ちゃんの後を、スイスからの留学生、三つ編みが特徴の三年生、エマ・ヴェルデさんが引き継いだ。
「理由はわからないけど、同好会に入らず、二人だけでスクールアイドルを始めたの」
「それで、たちまち人気になったってこと?」
私……高方結友が聞くと、みんながこくりとうなずく。そして、スタイル抜群の三年生、朝香果林さんが話を続ける。
「えぇ。私たちが見ても、ドギモを抜かれるようなすごいパフォーマンスだったわ。それでたちまち、私たちの人気をすべてかっさらっていった、みたいな形になって……」
「今じゃ、かすみんたちがライブをしても、固定ファンや、かすみんたちの友達以外には2、3人がぽつりぽつりと来てくれるだけになっちゃったんですよねー……」
そう言って、みんなは沈んだ雰囲気でため息を吐いた。そうとう人気を奪われたのが堪えてるみたい。
でもその二人、本当にすごいな。始めてすぐ、果林さんが認めるぐらいのパフォーマンスをするようになって、しかも、同好会の人気をかっさらうほどになるなんて。留学してくる前から、ダンスや歌の練習をしてたのかな? それでこの同好会に入らなかった理由も気になる。
まぁ、ともあれ、みんなをこのまま沈んだままにさせとくわけにもいかないよね。
「みんな、手ごわすぎるライバルが現れて沈む気持ちはわかるけど、もっと元気出していこうよ! 元気で明るくいかないと、観客のみんなも喜んでくれないよ!」
「そ、そうですよねっ。熱さを忘れてはおしまいですっ! 皆さん、元気とやる気を出していきましょうっ」
「そうそう。あ、久しぶりにストリートライブやろうよ。私、みんながどれだけレベルアップしたか見てみたいな!」
「やりましょう、やりましょうー! このかすみんの魅力で、先輩だけでなく、観客の人たちを釘付けにしちゃいますよー!」
というわけで、私たちはさっそく部室を出て、ストリートライブをしに向かった。
* * * * *
そしてストリートライブをしたんだけど……。
『……』
再びみんな沈黙。観客は、いつも来てくれる固定ファンの他は、2、3人しか来てくれなかったんだ。もちろん、その人たちはみんな、とても喜んでくれたけどね。
でもそれよりみんな、観客がたくさん来てくれなかったことに落ち込んでいるみたい。うーん……。
と、そこに。
~~♪
どこかから、スクールアイドルらしい声。それに混じって喝采も聞こえてくる。
歌声は、私が知ってるどのスクールアイドルの声とも違う声だ。もしかして……。
「ねぇ、歩夢ちゃん。この歌声って、もしかして?」
私がそう聞くと、歩夢ちゃんはこくんとうなずいた。表情をさらに沈ませて。
「うん。さっき話した二人の新人。ランジュちゃんとミアちゃんの声だと思う」
こんな近くでライブやってたんだ。でもこれはチャンスかもしれない。私はさっそく、みんなに提案してみた。
「ねぇ、もう一度、彼女たちのライブを見に行ってみない? そしたら、何かつかめるかも」
私がそう言うと、みんな、いくらか表情を明るくしてうなずいてくれた。
「うん、そうだね。結友ちゃんの言う通り、何かつかめるかも」
「いわゆる敵情視察ってやつだね! いいねいいね!」
「確かに、二人のライブを見れば得られるものがあるかもしれませんね! ライバルから学び取り、さらにレベルアップする。実に熱い展開です!」
「せつ菜先輩のアニメ好きは本当にぶれないですね。でも、かすみんも、結友先輩の意見に賛成です! 彼女たちから学び取って、かすみんのかわいさをレベルアップさせちゃいますよー!」
「ふふふ、かすみさんらしいね。でも、相手から学び取ることって大切ですもんね」
「あれだけのパフォーマンスをする人たちですもの。きっと、得られるものは大きいはずよ」
「彼方ちゃんも、寝ないで、じっくりと観察するよ~」
「うん、さっそく行ってみようよ!」
「璃奈ちゃんボード『れっつごー』!」
そして満場一致で、私たちは歌声のするほうに行ってみた。
* * * * *
そしてその新人二人がストリートライブをしているところに行ってみると……。
「うわぁ……」
本当にすごい。ランジュちゃんとミアちゃんらしき二人のスクールアイドルたちが、激しく歌い、踊っている。
みんなが言う通り、そのパフォーマンスは圧巻。そのパフォーマンスのすごさを前に、周囲の観客たちも大いに沸き、夢中になっている。同好会のみんなも、そのパフォーマンスの前にまた見とれていた。
そして私はというと、二人のパフォーマンスを見て、一つ気づいたことがあった。
そしてライブは終わった。
「いや~、すごかったね~。愛さん、ライバルのライブなのに熱くなっちゃったよ~」
「うん……私もすごいと思った。璃奈ちゃんボード『きらきら~』」
「それで結友ちゃん。あの二人のライブを見て、何かわかった?」
「うん」
そして私は、みんなに、感じたことを話してみた。
「うん。あの二人の実力は練習とかそういうものじゃなくて、天賦の才能によるものじゃないかな、って」
「才能、ですか?」
聞き返したせつ菜ちゃんの言葉に、私はうなずいて答えた。
「うん。二人のパフォーマンスには、努力によるものとは違う何かを感じたんだ。きっとあの二人、特にランジュちゃんは、アイドルになるべくして生まれてきた子なんじゃないかな」
それを聞いて、みんなが思いっきり沈んだ。かなり打ちひしがれてるみたい。「天才がライバル」と聞かされれば、それは打ちひしがれもするだろう。だけど。
「ちょっと待って、みんな。私は二人を天才とは言ったけど、勝てないとは言ってないよ。それともみんな、相手が天才と聞いて、あっさり負けを認めるの? 夢を諦めるの?」
私がそう聞くと、みんな声を揃えて、「そんなことない!」と言い返してきた。うん、その意気だよね。
「でしょ? 確かにあの二人はすごい天才だけど、勝てない相手じゃないと思うよ。私たちには才能はないかもしれないけど、頑張る気持ちは誰にも負けてないじゃない?」
「はい、もちろんです!」
握りこぶしを作って即答するせつ菜ちゃんに、私は笑顔で話を続ける。
「確かに今は彼女たちには勝てないかもしれない。だけど、彼女たちを研究していいところを取り入れたり、一生懸命練習したりして努力すれば、きっとあの二人に勝てると思う。みんなはそんな子たちだと私は思ってるよ」
私がそう言って話を締めくくると、みんなの表情に明るさが戻り、その瞳に輝きと炎が宿ったような気がした。いつもの皆に戻ったみたい。よかった。
「う、うん、頑張るよ!」
「そうですね。私たちの戦いはこれからです!」
「そうだね! 逃げるなんて愛さんたちらしくないよね! 逃走じゃなくて闘争心を燃やさなくちゃ!」
「私も頑張ります!」
「かすみんも頑張ります! 絶対、No1スクールアイドルの座を取り返しますよー!」
「璃奈ちゃんボード『がんばるぞー』」
「ふふふ、相手が強いほど、乗り越えがいがあるってものよね。ねぇ、エマ?」
「うん!」
「彼方ちゃんも、寝ぼけてる場合じゃないな~」
うん、もうすっかり元のみんなだ。このみんなならきっと、あの二人に勝てると思う。そう確信できた。
「よし、みんな、あの二人を追いつき追い越すべく、がんばろう!」
「おーーー!!」
夕焼け空に、私とみんなの声が響き渡った。
とりあえず、ここまででプロローグ終了となります。
次回からは、前に話した通り、少し不定期気味になりますが、生暖かく見守ってくださると嬉しいです。
よろしくお願いします!
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#03『Diver DivaとBibiと果林の迷子』
「愛ちゃんと果林さん、頑張ってるかな」
そんなことを思いながら、私……高方結友……は、音ノ木坂学院に向かっていた。
頑張って努力して、新しいスクールアイドル、ランジュちゃんとミアちゃんを超えることを決意した翌日、みんなはさっそくさらなるレベルアップを図るべく、行動を開始していた。
中須かすみちゃん、天王寺璃奈ちゃん、エマ・ヴェルデさん、近江彼方さんのQU4RTZは、Aqoursの黒澤ダイヤさん、松浦果南さん、国木田花丸ちゃんのAZALEAと一緒に特訓するために沼津へ。
上原歩夢ちゃん、優木せつ菜ちゃん、桜坂しずくちゃんのA・ZU・NAの三人は、μ'sの高坂穂乃果ちゃん、Aqoursの高海千歌ちゃんに色々教わってレッスンするために音ノ木坂へ。
そして宮下愛ちゃん、朝香果林さんの二人、Diver Divaも、μ'sのBibiの三人、綾瀬絵里さん、矢澤にこさん、西木野真姫ちゃんに色々教わったりレッスンしたりするために、音ノ木坂に来てるんだ。
それで私は、みんなの様子を見に、まずは音ノ木坂に来た。そうだ、後で歩夢ちゃんたちの様子も見に行こうかな。
そう思いながら、Diver DivaとBibiが練習してるという講堂に行ってみると……。
「あはははは、何よそれ、すごく面白いじゃない!」
「まさかにこが、こんなに笑いのツボが浅かったとは知らなかったわ……」
「でも、こんなに受けてもらえて嬉しいよ。あ、結友ぴょーん、こんにちはー」
……愛ちゃんはやっぱりダジャレの練習をしていた。……あれ?
「ねぇ、愛ちゃん。果林さんは?」
私がそう聞くと、愛ちゃんは首をひねった。
「うーん。それが全然来ないんだよ。集合時間から一時間も経つのに……。それで仕方ないから、まず肩慣らしにダジャレの練習をしてたんだけど……」
「果林さんどうしたんだろう……って、あ。もしかして……」
と思ってると、愛ちゃんのスマホが鳴り出した。
「もしもし? あ、果林? もう一時間経ってるよ。どうしたのさ?」
『うん、それがね。道が全然わからなくて……。ねぇ、ここどこかしら?』
そんな会話を聞いて、三者三様の反応をするBibiの三人。
「果林って、そんなに方向音痴だったの……?」
「オトノキに来るまでに迷っちゃうなんて、どんだけなのよ……」
「わけわかんない……」
うん、気持ちはわからなくもないよ。
そして。
「それじゃ、これから迎えに行くから、そこで待っててよ」
『うん、わかったわ。すまないわね』
そして電話は切れた。
「そういうわけでごめんね。ちょっと果林を迎えに行ってくるよ」
「あ、私も行く。部長だし」
と出て行こうとしたところでさらに。
「あ、待って私たちも行くわ」
「そうね。にこも、弟たちが迷子になった時によく探しに行ってたから、迷子探しはお手の物よ」
「あ、私も……」
と真姫ちゃんが言ったところで、絵里さんがそれを止めた。
「ううん、私たちが探してる間に彼女が来るかもしれないから、真姫はここにいて」
「そうそう。ここはにこたちにお任せ♪」
「にこちゃんがそう言うと不安しかないんだけど……わかったわ」
* * * * *
そして私たちは果林さんを探しに出たんだけど……。
「うーん、いないわね……」
「にこの力をもってしても見つからないなんて、一体どこまで迷ったのよ~……」
虹ヶ咲から音ノ木坂学園への道をくまなく探してみたんだけど、果林さんは見つからなかった。にこさんもお手上げということは、よほどなんだろう。でも、一体どこに行ったんだろう……。
と、そのとき。
「あ、そういえば」
「どうしたの?」
すると、愛ちゃんはポケットからスマホを取り出した。
「りなりーに、果林捜索アプリを作ってもらってたんだった。果林のスマホのGPS情報から、彼女の居場所を割り出してくれるっていう優れモノ!」
「そんなのがあるんだったら、早く出しなさいよっ!!」
「まぁまぁ」
そして四人で、愛ちゃんのスマホの画面をのぞきこむ。え、これって……。
その時、同じタイミングで、私、愛ちゃん、絵里さん、にこさんの表情が半目になった。
* * * * *
「あ、いたいた、果林~!」
「あ、みんな……」
果林さん捜索アプリが指し示した場所に行くと、果林さんは確かにそこにいた。涙目になって。
「よかったわ。もうみんなと会えないと思ってた……」
「やだなぁ、そんなに泣くことじゃないじゃん」
「そうよ。だって……」
そこで、にこさんが果林さんの背後の建物を指さした。
「え?」
「ここ、オトノキの裏手よ」
「ええっ!?」
驚いた表情を浮かべて背後を振り返る果林さん。その頬が染まっていたのは見間違いじゃない、と思う。
* * * * *
「さーて、果林も無事見つかったことだし、かわいい仕草の特訓始めましょうか!」
「こーら、にこ。勝手にメニュー変えちゃダメでしょ。今日は歌とダンスの特訓よ。それじゃ、さっそく始めましょうか」
絵里さんがそう言うと、果林さんもいつもの勝気な笑顔を見せた。
「えぇ。絵里ちゃんのダンスは、さすがバレエやってただけのことはあって、見習うべきところがいっぱいあるわ。今回もいっぱい参考にさせてもらうわね」
「えぇ、それじゃやりましょうか」
「ぶーぶー」
「もう、にこちゃん。いつまでふてくされてるのよ。ほら、やるわよ」
そしてさっそくレッスンが始まる。にこさんはふてくされていたが、それでも真姫ちゃんになだめられて、レッスンに励んだのだった。
……時折見せるかわいい振り付けは、やはり意味があるんだろうか?
と、そこに。
「みんな。ジュース差し入れに来たよ~。あ、結友ちゃん、来てたんだ?」
「うん。愛ちゃんたちのレッスンを見てから、歩夢ちゃんたちの様子を見に行こうかと思ってた。あ、そういえば、今日は栞子ちゃんは一緒じゃないの?」
「うん。栞子ちゃん、今日は生徒会の仕事が立て込んでるから、それがひと段落したら合流するって」
「そうか。生徒会長とスクールアイドルやるって、本当に大変だなぁ」
* * * * *
一方そのころ、虹ヶ咲学園の生徒会室。そこで会長席に座った栞子が一人の女子生徒……ランジュと向かい合っていた。
「やっぱり、私たちの同好会に入ってはくれないんですか?」
「えぇ、栞子も、私の信条はわかっているでしょう?」
「はい。そしてあなたが、それを簡単に変えるような人ではないことも」
「それなら、私が同好会に入るわけがないこともわかってるはずよ? 申し訳ないけど」
ランジュがそう軽く謝ると、栞子は首を横に振った。憂いを持った表情を浮かべて。
「いえ……。ですが、あなたの信条ももっともですが、仲間と共に歩むことで得られることもまた多いと思います。私は、同好会のみんなと関わり、歩んできて、それを学びました」
「……変わったわね、栞子。前はそんなことを言う人じゃなかったのに」
「他人と関わると、人は変わるものですよ。でも私は、この変化を悪いとは思いません。うまく言えませんが、そう思うんです」
「そう。まぁいいわ。済まないけど、私はミアと二人で、自分たちのやり方を貫かせてもらうわ。あなたたちの頑張り、見守ってるわよ」
そう言ってランジュは生徒会室を退席していった。
「ランジュ……」
閉じた扉を見つめながら、栞子はそうつぶやいた。
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#04『穂乃果の想いと再びの毒料理?』
「それじゃ、歩夢ちゃんたちのトレーニングの様子を見に行ってくるよ。二人とも頑張ってね!」
「うん! せっつーたちによろしくね!」
「行ってらっしゃい。このトレーニングが終わるころには、一皮むけた朝香果林を見せてあげるわ。ふふふ」
二人に別れを告げ、私……高方結友は、幼馴染の上原歩夢ちゃんとともに、彼女たちが特訓している音楽室に歩いて行った。
体育室の扉の向こうから、愛ちゃんのダジャレがかすかに聞こえてきたことは気にしないでおこう。
* * * * *
「それで、歩夢ちゃんたちのほうはどう?」
「うん。穂乃果ちゃんや千歌ちゃんたちのパフォーマンスから、楽しい感じや、情熱というのかな? そういうのがいっぱい感じられてきて、それに触発されてか、私やせつ菜ちゃん、それにしずくちゃんも、いつも以上に頑張ってるよ」
「そっか。それは、A・ZU・NAのパフォーマンスもとても素敵になるだろうなぁ」
歩夢ちゃんとそんな会話をしながら歩く。すると、私がそう言ったところで、歩夢ちゃんがほほをぷくっと膨らませた。
「もう、結友ちゃん。みんなの様子を見るのはいいけど、ちゃんと私のことも見てくれないとダメだし、みんなに見とれてばかりいたらダメなんだからねっ」
「ははは、わかってるよ。もうあんなケンカはしたくないし、歩夢ちゃんは怒ったり泣いている顔より、笑ってる顔のほうが素敵だしね」
「も、もうっ……。結友ちゃんったら、そんなことばっかり言って……。でも、ありがと……」
そう言って、彼女は頬をかすかに染めて照れた。
あのスクフェス準備の中での歩夢ちゃんとのケンカの後、彼女は私への好きという気持ちをあまり隠さなくなっていた。それまではみんなが私とわいわい話してる時は、控えめに話す程度だったけど、今はむしろ積極的にその会話の輪の中に入っていくようになったんだ。とてもいいことだと思う。
一方の私も、周囲のことにばかり目を向けていたことを反省して、歩夢ちゃんによく目を向け、気を遣うようになった。
そのかいもあってか、二人の関係はケンカする前より、かなりよくなったように思う。
* * * * *
さて、音楽室に入ると、そこではせつ菜ちゃんとしずくちゃんが、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんの歌を聞いているところだった。あともう一人……。
「あ、海未ちゃん。海未ちゃんも来てたんだ?」
「はい。穂乃果が頑張っているのに、私が何もしないわけにはいきませんから。それに、彼女にはお目付け役が必要ですし」
「え~、海未ちゃん。私って、お目付け役がいないとダメなキャラなの~?」
「ご自分の過去と胸に聞いてみてください」
「ぶ~」
『あはははは』
海未ちゃんに厳しい指摘を受けて膨れる穂乃果ちゃんに、私たちは思わず笑いがあふれ出します。
そしてひとしきり笑ったところで。
「でも、本当にすごいよね。穂乃果ちゃんも千歌ちゃんも。歌、とってもすごいと思う。私たちも一生懸命練習してるけど、またその域までは達せない感じがするよ」
「そうですね。何か心構えみたいなものがあるんでしょうか?」
せつ菜ちゃんからそう質問され、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんは、そろって腕を組んで頭をひねりました。
「うーん。特にそんなかしこまったものはないかも……だけど」
「だけど?」
「私、歌が本当にとても好きなんだ。とても好きだから、その気持ちに嘘はつきたくないんだ」
「気持ちに……」
穂乃果ちゃんの話に、歩夢ちゃんがそうつぶやいた。
「うん。だから、歌った後に、胸を張って『歌が大好きです!』と言えるように心がけてる、かな。そうすれば、自然と、みんなにも私たちの歌が……うぅん、スクールアイドルの歌が好きって思ってもらえると思うから」
そんな穂乃果ちゃんの話を、みんな真剣な面持ちで聞いていた。広がる沈黙。そこに。
ぐぅ~。
歩夢ちゃんのおなかが鳴った。それを見て、みんなが微笑む。
「ふふふ、とってもかわいいおなかですね、歩夢さん」
「うぅ、恥ずかしいよ~、しずくちゃん。いちいち言わないで~」
と、そこで今度はせつ菜ちゃんのおなかも鳴った。そこで、彼女が腕時計を見る。
「あ、もうそろそろお昼ですね。そろそろお昼ご飯にしましょうか。実は今日は合同練習ということで、張り切ってお弁当作ってきたんですよ♪」
『え』
そのせつ菜ちゃんの爆弾発言に、私、穂乃果ちゃん、千歌ちゃん、海未ちゃん、しずくちゃんの笑顔が固まる。
そういえば、せつ菜ちゃんの料理は……。
「あ、大丈夫だよ、みんな。今朝、私も手伝ってきたから」
そうだったのかー。それは安心だね。
私たちは胸をなでおろして、さっそくお弁当におはしをつけた。
うん、さすがせつ菜ちゃん、というより歩夢ちゃん。とってもおいしい。いいお嫁さんになると思うよ。
それに……。
「この卵焼きもおいしそうだよね。これも、歩夢ちゃんが作ったの? ……はむ」
「ああ、それは歩夢さんが来る前に、私だけで作ったんです。自信作ですよっ」
* * * * *
さて、その日の練習を終えた私たちは、一度ニジガクに戻り、それから帰途についた。そして生徒玄関を出たところで……。
~~♪
「あれ、この声は……」
「アンジュちゃんの声だね。この近くで練習してるのかな?」
「そうかも。行ってみようよ」
「うん」
そして私と歩夢ちゃんは、その声にひかれるように、それが聞こえる方向に歩いて行った。
するとそこには……。
「~~♪」
木陰で華麗な歌声を響かせてる金髪の女の子……多分、彼女がアンジュちゃんなんだろう……の姿があった。
やっぱり、彼女の歌声は本当にすごい。心に響き渡るかのようだ。
そして、私は前からの評価を改めた。以前彼女のライブを見た時に、彼女の歌とダンスは天賦の才によるものだと思っていたけど、それだけじゃなかった。このような日々の鍛錬のたまものでもあったんだ。
それにしても、本当にすごい。でも、私は何かひっかかる違和感があった。
「本当にアンジュちゃんってすごいね、結友ちゃん」
「うん。……だけど……」
「だけど?」
そうつぶやいた私に、歩夢ちゃんがそう聞いてきた。
「彼女の歌には何か違和感があったんだ。確かに彼女の歌はすごくて、心に響くんだけど、何かが欠けているような……」
「欠けている何か……」
「うん。みんなの歌にはあるけど、彼女の歌にはないもの……。それが何かは今はまだわからないんだけど……。でも本当にすごいよね。でも、そんな彼女が、どうして私たちの同好会に入らないんだろう?」
「そうだよね……。栞子ちゃんが誘ってみたんだけど、良い返事はもらえなかったって……」
「そっか……」
私たちが再び彼女が立っていた木の方を見ると、そこには落ち葉がただ風に吹かれているだけだった。
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#05『QU4RTZのがんばり奮闘記』
さて。土日が明けた月曜日の放課後。
「さーて、今日も部活、始めましょー!」
「おー!」
かすみちゃんの元気いい号令で、今日の同好会の部活も幕を開けた。
「歩夢ちゃんたち、かなり良い調子に仕上がってたみたいね」
「うん。いい刺激をもらえたから」
「そうなんだー。でも、愛さんたちも、レベルアップしてきたよ! ダジャレにも磨きをかけてきたり!」
「そうですか。Diver Divaも成果あったみたいですね」
「もちろんよ。A・ZU・NAには負けないわ」
と、そこで。
「ふっふっふっ、先輩方。かすみんたち、QU4RTZも負けてないですよ!」
「うん。私たちも沼津で頑張ってきた……」
とかすみちゃんたちが自信いっぱいで話に入ってきた。
そういえば、かすみちゃん、璃奈ちゃん、エマさん、彼方さんたちQU4RTZは、沼津で、AZALEAと特訓してきたんだっけ。
「そうなの? ふふふ、QU4RTZもたくさんレベルアップしてきたみたいね」
「うん~。もうばっちりだよ~」
「色々大変なこともあったけどね」
* * * * *
2日前の沼津。
「あ、来た来た! お~い、みんな~!」
かすみんたちが沼津駅前に降り立つと、ちょうどそこに、黒澤ダイヤさんと松浦果南さん、そして国木田花丸ちゃん、AZALEAの三人がやってきたのです。
「皆さん、お久しぶりですわ。この前の夏の夏合宿以来ですか」
「お久しぶりずら~。みんなと一緒に練習するの、とっても楽しみだったよ♪」
「……うん。私も、花丸ちゃんたちと練習するの、楽しみにしてた。璃奈ちゃんボード『うきうき』」
そんなかすみんたちを見て、果南さんがにっこりと笑います。
「うん。私もとても楽しみにしてたよ。やっぱりトレーニングが一番だよね!」
そう元気そうに言う果南さんなんだけど、その笑顔が異常にまぶしいのは気のせいなのかなぁ?
「それじゃ、海岸に行ったらさっそく始めましょうか」
ダイヤさんがそう言うと同時に、内浦行きのバスがやってきました。
でもなぜでしょう? かすみんには、それが少しだけですが、地獄行きのバスに見えた気がしたのです。
* * * * *
その気は間違いではありませんでした。
「ひぃ……はぁ……。かすみん、もう限界なんですけどー……」
「私も……かなりきついかも……」
「彼方ちゃん、逆に疲れ過ぎて、眠れないよ~……」
「私も、限界……。璃奈ちゃんボード『ぱたりこ』」
内浦の海岸についてすぐ、トレーニングを始めたんですが、かなりのハイペースで、終わったころにはかすみんたちはもう立ち上がれないほどへとへとになっていたのでした。
果南ちゃんはまだ全然余裕があるみたいですが、ダイヤさんと花丸ちゃんも、かなり堪えているみたい。
「しょうがないなぁ、みんな。共同練習はまだまだ始まったばかりだよ」
「はぁ……はぁ……そうは言いますが果南さん、トレーニング、かなりペース速かったですわよ……」
「うん。いつもの倍はきつい気がするずら……」
え?
「ということはダイヤさん。いつもはこんなにきつくはないの?」
「はい。そうなのですが……」
「どうしてなのかなぁ……。そりゃ、果南ちゃんは体動かすの大好きなのは知ってるけど……」
「……あ」
と、そこで花丸ちゃんが声をあげました。何かに気がついたみたい。
「そういえば、数週間後に期末テストがあったずら。確か今日も、ダイヤさんに特別講習受けてたね」
「あ、そういえばそうでしたわ。果南さん、もしかして、講習のストレスを発散するために……」
「ははは、何を言ってるのかな。別にそんな……ごめんなさい」
ごまかそうとしていた果南さんでしたが、ダイヤさんと花丸ちゃんににらまれてしゅんと降参したのでした。
その彼女を見て、ダイヤさんがやれやれとため息をつきます。
「本当にそんなに勉強が嫌いなのは困ったものですわね……。果南さん、卒業したらアメリカにダイビングの勉強のために留学したい、と言っていませんでしたか?」
「うぐ……」
「そんなに勉強を嫌がっていたら、そもそも留学できないと思うずら」
「うぐぐ……」
ダイヤさんにそう言われて、へこむ果南さん。
「そうだね。それに、勉強ができないと、そもそも留学先の人と話すこともできないよ」
「そうですよ。それに~、そんなことでは、今度のおばか王決定戦、かすみんには勝てませんよ~?」
そう自慢そうに言っちゃうかすみんでしたが、そこに彼方先輩が……。
「あれ~、かすみちゃん。この前の勉強会の時、逃げようとして栞子ちゃんに捕まってなかったかな~?」
「うぐっ、か、彼方先輩っ。それは秘密ですよっ」
笑いが沸き起こりました。かすみんは思わず顔が赤くなっちゃいましたよっ。
そしてひとしきり笑ったところでダイヤさんが言いました。
「それでは今日はみんな疲れたことですし、明日改めて、しっかりと練習することにしましょう。……果南さん、明日また同じことをしようとしたら、黒澤ダイヤ秘密講習スペシャルコースを受けていただきますわよ?」
「わ、わかってるよ~……」
そしてみんなで、土曜日の宿である百千万旅館へ歩いていったのでした。
* * * * *
「そんなことがあったんだ?」
「はい。もう大変でしたよ~」
そして部室。かすみちゃんの話を聞き終えた歩夢ちゃんが、彼女とそう言葉を交わす。
そしてそこでエマさんが。
「でも、得られるものはたくさんあったよ~。やっぱり、Aqoursと練習してきてよかったと思う」
「うん。とてもいい合同練習だった。璃奈ちゃんボード『むんっ』」
どうやら、QU4RTZも実りある練習をしてきたみたい。よかった。
これは、次のライブは楽しみだなぁ。
するとそこに、栞子ちゃんが入ってきた。
「皆さん、集まっていたんですか。今度の週末のライブ、セッティングができました」
「やった! ありがとう栞子ちゃん!」
実は栞子ちゃんに、この自主トレの後に、ランジュちゃんとミアちゃんのスクールアイドルユニット『QUEENDOM』とのジョイントライブのセッティングをお願いしていたんだ。みんながどこまで彼女たちに迫れたかを見るためにね。
もしかしたらまだまだ全然かなわないかもしれないけど、それでもみんなの今の実力を測るのは今後の参考やモチベーションになると思うし、決して無駄ではないと思う。
私がそう礼を言うと、栞子ちゃんは少し頬を染めたが、すぐ真顔に戻って言った。
「いえ。生徒会長として当然のことですし、お互いにとってプラスになることだと思いましたから。礼を言われるほどのことではありません」
「それでもだよ。本当にありがとう。よしそれじゃみんな! セッティングしてくれた栞子ちゃんに報いられるように、頑張っていこう!」
私がそういうと、みんなはやる気に満ちた表情で返事を返してくれた。
「うん!」
「はい! 勝てずとも、せめて一矢報いる気で頑張ります!」
「生まれ変わった愛さんの力、見せてやるよー!」
「かすみんも、一矢どころか三矢も報いてやりますよー!」
「私も頑張ります!」
「私も頑張る。璃奈ちゃんボード『むん!』」
「みんなを笑顔にさせられるように頑張るよ! ね、果林ちゃん?」
「ふふ、そうね。一矢報いるどころか、彼女たちを逆転する気で頑張りましょ」
「彼方ちゃんも頑張る~」
「私も今できる精一杯で頑張らせていただきます」
みんな、やる気に満ち満ちていた。うん、これなら今度の週末のライブは、素敵で楽しいものになりそうだ。
「よーし、みんな、頑張っていこうー!」
『おーーー!!』
部室に、10人の声が明るく響いた。
読んでくださり、ありがとうございます!
次の話は、正月明け以降の投稿の予定です。
それまでお待ちくださると嬉しいです。良いお年を!
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#06『ファースト・ラウンド』
そして一週間後、ジョイントライブの日がやってきた。
その時まで、同好会のみんなはいつに増して熱の入った練習をして、私……高方結友もみんなに曲を作ってあげたり、みんなが作った曲を添削したりもした。
何しろ相手は、私たちよりずっと人気も実力も上のスクールアイドルだ。中途半端な練習や準備では一歩どころか半歩も、彼女たちに追いつくことはできないだろう。そのことは、私はもちろん、みんなも実感していた。
そしてこの日。私たちはやる気に満ちた表情で、控室にいた。円陣を組み、せつ菜ちゃんが掛け声をあげる。
「さぁ、いよいよジョイントライブです。私たちが今まで積み重ねてきた全てを全開放する気で頑張りましょう! 行こう、九色の虹を咲かせに!」
『ニジガサキー!!』
そこに係員の生徒が、準備の完了を知らせに来て、私たちは控室を出て、舞台袖へと向かっていった。
* * * * *
そして私たちが舞台袖で出番を待っていると……。
「あなたたちがスクールアイドル同好会ね? 今日はよろしくお願いするわ」
なんとランジュちゃんが私たちのところにやってきた。そして手を差し伸べてくる。みんなを代表して、私が握手に応じる。
こうして間近で見ると、すごい貫禄みたいなものを感じる。アイドルというか……お姫様、というか、女王様?
またそれと同時に、凛としたような空気も感じた。
すると、ランジュちゃんは手を放すと、髪をふわりとなびかせ、颯爽と立ち去ろうとした。
「あ、あの……?」
私がそう呼び留めようとすると、ランジュちゃんは立ち止まり、きっ、とこちらを振り向いて言った。
「ごめんなさい。私、慣れあうのは嫌いなの。それに今、私たちとあなたたちは敵同士なのだから」
そう言って去っていくランジュちゃん。そしてしばしの沈黙。
それが過ぎると、さっそくかすみちゃんが膨れだした。
「ぶー、なんですかあの態度! かわいくないですぅ! もっと親しくしてくれたっていいじゃないですかぁ!」
そこに、しずくちゃんがかすみちゃんをなだめだす。
「まぁまぁ。それに、ランジュちゃん、敵と慣れあうのが嫌いって言ってたけど、敬意は持ってたんだと思う。だってそうじゃなきゃ……」
「そうね。敬意とかそういうポジティブな感情を持ってなかったら、そもそも私たちのところに、握手をしたりしに来ないものね」
「うん、そうだね」
と、そこに。
「すいませーん。準備ができました! 一番目の方からステージへお願いします!」
係員の人がそう声をかけてきた。いよいよ出番だ。
私たちがどこまで彼女たちに追いつけたか、今までの頑張りが試される時だ。
「さぁ、いよいよ出番だよ! まずは歩夢ちゃん、頑張って!」
「うん!」
私の言葉にそう明るく返して、歩夢ちゃんはステージへと向かっていった。
* * * * *
そして9番目の璃奈ちゃんのステージが終わり、次はいよいよランジュさんたちのユニット、QUEENDOMの出番になった。ランジュちゃんとミアちゃんがステージに上がり、ライブが始まる。
相変わらずすごいステージだ。プロのシンガーに匹敵するほどの歌唱力、そして踊り。それが、彼女の生まれ持った才能と努力のなせるものだということは、私にもよくわかる。そのパフォーマンスのすごさに、同好会のみんなも圧倒されている。
観客もすごく盛り上がっている。熱狂という言葉がぴったりくるぐらい。私たちのライブの時以上だ。だけど、やはりその熱狂ぶりには何かが欠けていて、私はそれに違和感を感じた。
* * * * *
「相変わらず、すごかったね。QUEENDOM」
部室に戻ってくると、開口一番、歩夢ちゃんがそう言った。その話し方は打ちひしがれているというより、感嘆している感じだった。
「本当にすごかったですよね。あれだけのことができる才能持っているなんて、ずるいです~」
そう言って膨れるかすみちゃんだけど、ネガティブな感じはしない。素直にランジュちゃんの実力を認めている感じだ。
「そうね。でも、彼女たちもすごかったけど、私たちもかなりいけてたんじゃないかしら?」
「そうだね。きっと、一歩どころか、三歩ぐらい追いつけたんじゃないかなって思う」
「エマ先輩。それって、一歩とたいした変わらないような……」
そんな風に、みんなが今回のライブについて盛り上がっている間、私は、PCに向き合って、メールボックスをチェックしていた。多くはないが、だからと言って少なくもない、同好会に届けられたメールを見て、私は違和感の正体に気が付いた。それと同時に、ランジュちゃんたちに迫る手がかりも。
「そうか……」
「どうしたのですか、高方さん?」
そう聞いてきた栞子ちゃんに、私は向きなおって、自分の考えを話すことにした。
「うん。彼女たちの歌になくて、私たちの歌にはあるものの正体がわかったんだ」
「それはなんなのですか?」
そうしずくちゃんが聞いてくる。それに私は、確信をもって答えた。
「うん。それは『楽しさ』だよ。みんな、このメールの数々を見てみて」
そう言って、私はみんなにPCの画面に映っているメールを見せた。その文面には、いずれにも『楽しかった』『元気が出た』『また見たい』という楽しさを表す言葉がつづられていた。
「ランジュちゃんたちのライブは確かにすごかったんだけど、楽しいとは思えなかったんだ。少なくとも、みんなのライブのほうがずっと楽しかった」
「そうなんだ……。例えたくさんでなくても、見に来てくれた人たちの何人かが楽しいって思ってくれたのなら嬉しいね」
そう言って、歩夢ちゃんが目元の涙をぬぐった。
「今回のみんなのライブを見て確信したんだ。ただ上手な歌を歌ったり、素敵なダンスをするだけじゃダメだって。みんなを楽しいと思わせるパフォーマンスじゃないとダメだって。だって私たちはスクールアイドルなんだもん」
「そうですね! 結友さんの言う通りです!」
「みんな……うぅん、私たちがさらに歌やダンスに磨きをかけて、そのうえでさらに楽しさを追及していけば、私たちはきっとランジュちゃんたちを超えることができる。そう思うよ。みんな、もっと頑張っていこう!」
『おーーーー!!』
みんなが私の声に合わせて、掛け声をあげる。
こうして私たちは、さらなるステージに向けて、さらなる一歩を踏み出したんだ。
* * * * *
一方、そのころ、QUEENDOMのほうでは、一つの問題が立ち上がっていた。
ミアがこう言いだしたのだ。
「ランジュ……済まないけど、私はもう、スクールアイドルやめたい」
ランジュの性格は、スクスタとは違い、『敵に対して敬意は払うがなれ合いはしないし、敵は越えていくものと考えている。だけどどこか憎めない』というものに改変させていただいています。
さて。新たな一歩を踏み出したニジガクとは逆に、不協和音が生じだしたQUEENDOM。果たしてどうなるか?
次回も楽しみにしてもらえると嬉しいです。
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#07『迷子の子猫(ミア)』
「ランジュ。済まないけど、ボクはもう、スクールアイドルやめたい」
ジョイントライブのあと、ミアが発したその言葉を聞き、ランジュは衝撃を受けたが、表情は変えなかった。
表情を簡単に変えるべきではないと、彼女はわかっているから。
内心の動揺を押さえつつ、ランジュは相棒に聞いてみることにした。
「なぜ? さっきのライブを見ていたでしょ。みんな熱狂していたじゃない」
だが、ミアは首を振った。
「うん、熱狂してた。でもそれだけ。みんなからは楽しいという気持ちが感じられなかった。そしてボクも何回もライブをやったけど、楽しくなかった」
「……」
「あの子たちのライブを見て、楽しくなるかもと、ランジュの誘いにのったけど、やはりダメだった。スクールアイドルでは楽しめなかった。少なくともボクでは」
ミアの告白を聞き、ランジュはため息をついた。心のどこかが彼女を引き留めたいと叫んでいた。そしてもう一方では、彼女を優しく去らせてあげたいと訴えていた。だが、彼女の心の大部分、彼女が育ってきた中で築かれてきたものはそれを許さなかった。
「……わかった。あなたなら、私についてこれると思ったけど、残念だわ。どこへでも去りなさい」
「……わかった……」
そう言って、ミアは控室を出ていった。静かな中、扉が閉まる際に発した静かな音が、ランジュにはミアの、そして自身の声にならぬ泣き声に感じた。
「やっぱり、頂点に立つ者は一人、孤独ってことね。わかってはいたけれど」
そう強がるように言うランジュの目から、涙が一筋落ちた。
「ミア……」
* * * * *
控室を出たボク……ミア・テイラーは、行くあてもなく校舎をさ迷い、そして生徒玄関までたどり着いてしゃがみこんだ。
外には小雨が降っていた。まるで、今のボクの心のようだ。
ボクの家、テイラー家は有名な音楽家の家系だった。
その一族の一人だったボクは物心ついたときから、やはり音楽の特訓を受けていた。
その特訓が嫌だったわけではなかった。かといって好きというわけでもない。
生まれたときから、音楽はボクとともにあった。
いわば空気のようなもの。ただ空気を吸って吐くように、特に好きや嫌いといった感情を持つことなく、淡々と練習をしてきただけだ。
そして特訓の成果もあり、ボクは14のころには、プロの音楽家に匹敵する実力を身につけ、それに見合う、しかしボクの年齢には過分な名声も手に入れた。
でも、楽しくなかった。そんな生活の中、ボクは内心、楽しくなれるものを求めてあがき続けていた。
そんな中、ランジュに付き合って留学した虹ヶ咲学園で出会ったのだ。スクールアイドルと。ステージで楽しく踊り歌う少女たちと、彼女たちを見て、楽しく盛り上がる観客たちと。
それに楽しくなる可能性を見たボクは、ランジュの誘いに応じてスクールアイドルを始めてみた。でも……
楽しくなかった。
眼前にあったのは、いつもと非なるも酷似した光景。
辛くない、でも楽しくもない、あの光景だった。ただ、熱狂か感嘆かの違いだけだ。
やはり、スクールアイドルでも楽しくなれなかった。だから諦めることにした。
なのに。
なのに、どうしてこんなに胸に穴が開いた気持ちになるんだろう。
なぜこんなに悲しいんだろう。
雨はいつしか、どしゃ降りになっていた。
ボクが彼女にあったのはそんなときだ。
* * * * *
「あら、土砂降りになってきちゃったね」
私……天王寺璃奈……の傍らのしずくちゃんが、そう困惑したように言う。すると、かすみちゃんが……。
「ねぇねぇ、りな子。この雨をなんとかする機械って出せない?」
と、そんな無茶ぶりをしてきた。でも、そんなことは無理。
「出せない。私はド〇えもんじゃないもん。璃奈ちゃんボード『むーん』」
「え~」
私は内心、やれやれと思いながら、かばんから折り畳み傘を出して渡してあげる。
「はい。こんなこともあろうかと思って持ってきた。天気予報、午後から雨になると言ってたから」
「私も天気予報チェックしてたよ。かすみさん、ちゃんと天気予報見てなかったんだね」
私としずくちゃんがそう言うと、かすみちゃんは口をぷくっと膨らませた。まるでふぐみたい。
「ぶ~。だって、お寝坊して天気予報見ている暇がなかったんだもんっ」
「それって理由になっていないような……」
「うんうん……あれ?」
そこまで言って、私は人の気配に気が付いた。そのほうを向くと、一人の女の子がぽつんと体育座りしていた。何か気になるものを感じた私は、彼女の元に行ってみた。その私の後に、かすみちゃんとしずくちゃんも続く。
その女の子は、とても寂しそうで、哀しそうだった。まるで迷子の子猫のような……。
って、あれ? この子、見たことある。確か……。
「ミアさん? QUEENDOMの……」
私がそう聞くと、彼女……ミアさんは弱々しく、こくんとうなずいた。
「どうしたの? 傘がないなら、予備がまだあるから貸してあげるけど」
「帰れない……ボクの帰る場所はもうないから……」
そう言って、ミアさんはうつむいた。
彼女の言っている意味はわからないけど、嘘を言っていないことだけはわかった。
本当に迷子の子猫、ならぬ迷子のミアさん、なんだね……。うん、それなら……。
「ねぇ、それなら、私の家に来ない? 私のマンション、親がなかなか帰ってこないから大丈夫だし」
そう言って、私は彼女に手を差し伸べる。少し驚いた顔をしてこちらを見てきたミアさんに、私は優しく微笑んだ……表情の璃奈ちゃんボードを顔の前に掲げた。見ていないけど、しずくちゃんとかすみちゃんも微笑んでる気配がした。
それから少しの沈黙。ミアさんはちょっと戸惑っていたけど、私の手をおずおずと握った。
* * * * *
そして私のマンション。
私はミアさんと、着いてきた二人に、おじやを作って持って行った。あまり料理は得意じゃないけど、おじやぐらいなら作れる。
そしてさっそく『いただきます』をして食べる。……うん、おいしい、よくできた。ボードは使わないけど、璃奈ちゃんボード『えっへん』。
「ぱくぱく……うーん、とってもおいしい~。りな子、いいお嫁さんになれるよ~あちっ」
「ほら、かすみさん。あまり慌ててたべるからだよ」
かすみちゃんも、しずくちゃんもおいしく食べてくれていた。良かった。
「ミアさん、どう?」
「……わからない」
ミアさんは暗い表情でそう答えた。え、やっぱりおじやは外国人のミアさんの舌には合わなかったのかな?
「ご、ごめん。ミアさんにはおじやよりもリゾットのほうがよかったかな? 璃奈ちゃんボード『あせあせ』」
「わからない。……なぜ君たちは、あんなに楽しくスクールアイドルができるんだい?」
その言葉を聞き、私たちは顔を見合わせる。それは私たち自身、考えたこともなかった。
でも一つだけわかることがある。それは、理由はわからないけど、それを伝える手段はあるってこと。
だから私は、ミアさんにこう言った。
「ミアさん……それなら、私たちの同好会に体験入部してみる?」
ミアの一人称を間違えていたので、口調もあわせて修正しました。
それと性格と設定も、ランジュと同じくこの物語向けに改変しました。ご了承ください
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#08『How to teach fun?』
土砂降りの日の翌日のスクールアイドル同好会の部活。
「というわけでみんな、ミアさんを体験入部させてあげてほしい。璃奈ちゃんボード『ぺこりん』」
璃奈ちゃんが、体験入部希望者という子を連れてきた。それだけでもびっくりなのに、それがQUEENDOMのミア・テイラーちゃんだというから、さらにびっくり。
なかでも、栞子ちゃんは、QUEENDOMのもう一人のメンバーであるランジュちゃんと顔見知りということもあって、とても心配そうな様子だ。
「ミアさん……。ランジュと何かあったのですか?」
「うん、ランジュとは袂を分かつことになっちゃったんだ……」
ミアちゃんが語ることによれば、スクールアイドル活動を楽しめないと感じた彼女が、活動をやめることをランジュちゃんに話したら、彼女に切り捨てられて、けんか別れに近い感じで決別することになっちゃったらしい。当然、それを聞いて、かすみちゃんは激おこの様子。
「なんですかそれ! あまりにもひどすぎですぅ!」
「でも、ランジュも決して、本心で切り捨てる気ではないんだと思います。あの人はプライドが高く完璧主義ですから、ああいう言い方になったと思うんです。本心では、ミアさんとやり直したがっているのではないでしょうか……」
栞子ちゃんが、かすみちゃんをなだめるようにそう言う。ランジュちゃんと幼馴染だという栞子ちゃんの言うことだから間違いないかな。でも……。
「だけど、今のままじゃ、ミアちゃんとランジュちゃんが仲直りするのは難しいんじゃないかな。栞子ちゃんの話だと、ランジュちゃんは完璧主義だっていうし。厳しいかもしれないけど、今のミアちゃんじゃ、ランジュちゃんが受け入れるのは無理な気がするよ」
私の言葉に、ミアちゃんはさらに沈み、他のみんなも考え込んでしまってる。
しばしの沈黙。そこで、しずくちゃんが口を開いた。
「あの、それなら、みんなでミアさんにスクールアイドルの楽しさを教えるというのはどうでしょうか? あのライブを見る限り、ミアさんの実力はかなりのものがありますから、『スクールアイドルを楽しめない』という問題さえ解決すれば、きっとランジュさんと仲直りできると思うんです」
「私もそう思う。それに、スクールアイドル活動を楽しめないのは、私もとても悲しい。璃奈ちゃんボード『しゅん』」
しずくちゃんの意見に、璃奈ちゃんも賛同する。他のみんなもうなずいてるところを見ると、みんなも同じ気持ちのようだ。
そこで、せつ菜ちゃんが、部室の戸棚から何かを取り出した。それは……DVD?
「任せてください! ミアさん、ぜひとも一緒に、この『機〇戦士〇ンダム・逆襲の〇ャア』を見ましょう! きっと楽しくて、夢に見るほど心に残るはずですから! 現に作者も、その日の夢に見たそうですし!」
ミアちゃんに迫る勢いで、そう彼女を誘うせつ菜ちゃん。しかしその彼女にかすみちゃんが……。
「いや、せつ菜先輩。それ、スクールアイドルとは何の関係もないじゃないですか。楽しいとは別方向ですし。確かに、同じサ〇ライズつながりですけど」
そうばっさりと切り捨ててくる。それでせつ菜ちゃんが、OTLの形に崩れ落ちたのは言うまでもない(苦笑
「それなら、彼方ちゃんと一緒に昼寝してみない? そうすればとっても楽しくなるよ~」
「みんなでミュージカルをしてみるのもいいかもしれませんね!」
「愛さんのダジャレ100連発は!?」
と、彼方さん、しずくちゃん、愛ちゃんが口々に提案してくる。だけどいずれも、スクールアイドルとは関係ないような……。
「うーん、みんな、提案するのはいいんだけど……」
「みんな、ものの見事に、スクールアイドルとは関係ない方向にいってるのよね……」
みんなの提案を聞いていたエマさんと果林さんが困ったように言う。
二人も、私と同じことを思ってたんだね。
そこに。
「うーん、まずは、私たちの部活を見てもらうところから始めるのはどうでしょうか?」
立ち直っていたせつ菜ちゃんがそう提案してくる。それに、歩夢ちゃんも賛成した。
「うん、そうだね。私もそれがいいと思うよ」
「せつ菜ちゃんの言うとおりかも。それじゃさっそく、今日の部活、始めようか!」
「はーい! かすみんの魅力で、ミア子を楽しくさせちゃいますよー!!」
というわけで、色々あったけど、今日の部活が始まった。
* * * * *
そして終わった。今日も楽しい部活だったなあ。さて……。
「これが私たちの部活なんだけど、どうかな? ミアちゃん」
私がそう聞くと、彼女は一瞬顔を輝かせるが、すぐにそれを曇らせた。
「わからない……。みんなが楽しい様子なのはわかるんだ。だけど、ボクたちの練習とは変わらないように見えて、それでどうして楽しめるか……わからないんだ。ごめん」
そのミアちゃんの言葉に再び腕を組んで考え込む私たち。なんかこれは難題な気がするなあ。
「うーん、これは強敵だね。今日、敵がきただけに」
「愛さん。ミアさんは敵というわけではないんですから……」
「ぷっ、あははは!! 愛ちゃん、そのダジャレ面白すぎ~!!」
「……笑いのレベルが三才レベルの人が大ウケしてるみたいですよ。それはそうと……ミア子、楽しさというのは考えるものじゃない、感じるんだよ!」
「かすみちゃん、それ何を言っているのかわからないわ」
そうみんなが色々話してるところで、歩夢ちゃんが、私にスマホを差し出してきた。
「あははは……え、歩夢ちゃん、どうしたの? 誰かから電話?」
「うん。千歌ちゃんからだよ」
「千歌ちゃんから? 何かのお誘いかな? もしもし?」
そして私は電話に出たんだ。
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#09『タノシサノカケラ』
私たち……高方結友とスクールアイドル同好会のメンバー、そしてミアちゃん……は、沼津を訪れていた。
というのも、今日、この沼津で開催されるイベントで、Aqoursがライブをするというので、その手伝いに来たんだ。
「うわ~。とてもにぎやかだねぇ」
と愛ちゃん。
「そうだね。露店も出てるし、イベントというより、お祭りみたいだよね」
その愛ちゃんに、歩夢ちゃんが明るく笑いながらそう言う。
「あ。あそこで綿あめ売ってる。ミアさん、一緒に食べよ? 璃奈ちゃんボード『にっこりん』」
「うん。璃奈がそう言うなら食べるよ」
相変わらず、ミアちゃんは表情が固いけど、それでもなんか少し璃奈ちゃんと仲良くなってるみたいだ。
と、そこに。
「お~い、みんな~!」
会場のほうから、千歌ちゃんが駆けてきた。とても楽しそうな表情なのは言うまでもない。
「みんな、今日は来てくれてありがとう!」
「いやいや、私たちのほうこそ、呼んでくれてありがとうだよ」
私がそう答えると、千歌ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「私たちのステージは、夕方で、みんなに準備を手伝ってもらうのも、その1時間前ぐらいからだから、それまでは自由に楽しんでてね。時間が来たら連絡するから」
「うん、わかった。そしたらこのイベント、楽しませてもらうね」
「うん!」
そう元気にうなずいて、千歌ちゃんは再び会場のほうに駆けて行った。本当にとても元気だなぁ……。
と、そんな彼女を見て、ミアちゃんが戸惑ったような表情をしていた。何か気になることがあるのかな?
「どうしたの、ミアちゃん?」
「わからない……。イベントでのライブという大切な舞台、とても緊張するはずなのに、彼女はなんであんなに楽しそうなんだい……?」
そう困惑しているミアちゃんに、かすみちゃんがチッチッチッと指を振りながら言った。
「だからミア子。何度も言ってるじゃん。楽しさというのは考えるんじゃなくて、感じるものなんだよ!」
「ごめん、かすみ。何を言ってるかわからないよ」
「ぎゃふん!」
ミアちゃんがかすみちゃんにそうあっさり返して、かすみちゃんがコメディのようにのけぞる。
本当にコメディみたいだけど、これもかすみちゃんの、ミアちゃんに楽しそうを教えようとしている手段の一つ……なのかな?
と、そこで果林さんが。
「ふふふ、でも今回はかすみちゃんの言うことも一理あるわ。全ての答えが考えることだけで得られるわけじゃない。感じたものから考えることで得られるものもあると思うわ」
「ですよね、ですよねー! ふふふ、やっぱりかすみんはプリティ天才なスクールアイドルなのです!」
「かすみさん、調子にのらないの」
偉そうにするかすみちゃんに、しずくちゃんがそう釘を刺す。これもうちの同好会では当たり前の光景だ。これを見て、ミアちゃんも少しでも楽しさを感じてくれるといいんだけどな。
* * * * *
そして私たちは、イベントの縁日を楽しみに向かった。
おや、あれは……。
「あっ、ミスイベントの大会のエントリーをやってますね! くふふ、これはぜひとも出なきゃですよ~! ほら、しず子、行くよ!」
「きゃっ、も、もうっ、かすみさんったら強引なんだから……」
「だって、こんなのにはぜひとも出なきゃ!」
そしてかすみちゃんは、しずくちゃんを引っ張って、イベント大会の受付へと走っていった。さすがかすみちゃん。こういう出し物には目がないなぁ……。
と、ミアちゃんが別の屋台のほうを見ていた。それに璃奈ちゃんも気づいたみたい。
「どうしたの、ミアさん?」
「あれ、おいしそうだね。食べてみたいな」
「食べてみたい? それじゃ、私、買ってくる」
だが、ミアちゃんは首を振った。
「ううん。さっきは璃奈におごってもらったから、今回はボクにおごらせてよ。行こう、璃奈」
「うん! 璃奈ちゃんボード『にっこりん』」
そして二人は、たこ焼き屋さんに走っていった。本当に仲がよさそうだ。まるで姉妹みたいだ。
そして、買ってきたものを食べながら、私たちがミスコンを見ていると、それはやがて終わった。そして。
「ぶ~、なんで超絶かわいいかすみんが、ビリから二番目なんですかぁ!」
「まぁまぁ。他のみんなもきれいだったから仕方ないよ」
「かすみんだって、かわいさでは負けてないもん!」
ふくれ面のかすみちゃんと、そんな彼女をなだめているしずくちゃんがそろって戻ってきた。そんな二人を見て、思わず頬がゆるんでしまう。傍らを見ると、璃奈ちゃんと並んでいるミアちゃんも、ほんの少しだけど表情が緩んでいるように見えた。
* * * * *
そして、時間がやってきて、私たちはライブステージに駆け付け、ライブの準備をした。ミアちゃんは、璃奈ちゃんと仲良くお手伝いをしていたのは言うまでもない。
そして。
「大きな世界、広い世界が待ってるんだ♪」
ステージの舞台袖の私たちの前で、Aqoursのみんなが、楽しく歌い、踊っている。彼女たちが歌っているのは新曲『Fantastic Departure』。とても楽しく、未知の世界を目指す楽しさが伝わってくるかのような曲だ。
「本当にAqoursはすごいよね、結友ちゃん」
「そうだね。QUEENDOMもすごいけど、Aqoursも負けてないと思うよ」
「う~、かすみんだって負けてませんもんっ。でも、本当にすごいです……」
「私たちも実力も人気もついてきたと思いますけど、まだまだですね」
と話し合っているところに、いつの間にかライブは終わり、Aqoursのみんなが舞台袖に戻ってきた。
「あっ、千歌ちゃん、みんな、お疲れ様!」
私がそう言って、彼女たちにタオルを渡す。
「ありがとう! ふぅ、歌った歌った~♪」
「本当、頑張ったよね。やりきった、燃え尽きたって感じ!」
「そうですわね。今回も完璧でしたわ。……あ、千歌さん。皆さんにあのことを話さなくていいのですか?」
「あ、そうだ!」
ダイヤさんに言われて、千歌ちゃんが何かに気づいたみたいだ。どうしたんだろう?
「みんな、1曲だけだけど、出る気ない?」
『ええっ!?』
その千歌ちゃんの言葉に、私を除いた同好会のみんなが、声を揃えて驚いた。
そりゃそうだ。お手伝いだけのつもりだったのに、いきなりライブに出ないかと聞かれて驚かない人がいるだろうか? いやいません。
「実はね。スケジュールにちょっとズレができて、1曲分だけの時間が空いちゃったんだ」
「それで、何もしないでつぶすよりはと、みんなにもライブの時間をプレゼントしようかって話になったんだ。無理にとは言わないけど、どうかな?」
千歌ちゃんと果南さんの説明を受けて、みんなが考え込む。そこに。
「いいじゃん、出ようよ、みんな!」
「そうね。せっかくの機会だもの。出ないのはもったいないわ」
と、果林さんと愛ちゃんのDiver Divaの二人が真っ先に賛同する。
「うん、そうだね! 私も出てみたい!」
「はい! 私たちも思いを観客の皆さんにぶつけましょう!」
「はい!」
歩夢ちゃん、せつ菜ちゃん、しずくちゃん、A・ZU・NAの三人もやる気満々だ。
「うん、みんなで出ようよ!」
「そうだね~。頑張ろう~」
「よーし、かすみんの魅力で、みんなをメロメロにしちゃいますよ~!」
「璃奈ちゃんボード『頑張るぞー』」
エマさん、彼方さん、かすみちゃん、璃奈ちゃんのQU4RTZも元気にそう答える、と。
「ミアさん。ミアさんも、一緒に出よう?」
「え?」
璃奈ちゃんが、みんなから離れた位置に立ってたミアちゃんに声をかけ、手を差し伸べる。
「私、ミアさんと一緒に歌いたい」
「え、でも、ボクは部外者だし……」
そう躊躇しているミアちゃんの肩を、私は優しくたたいた。
「部外者じゃないよ。ミアちゃんは体験入部者、私たちの立派な仲間だよ」
「結友……」
「それにね。このイベントと、このライブで、ミアちゃんに見つけてもらいたいんだ。楽しさのカケラを」
「楽しさのカケラ……」
「うん。このライブで、少しでも楽しさを感じてくれれば、少しはミアちゃんのためになると思うんだ。無理にとは言わないけど……」
私のその説得に、考え込んでるミアちゃん。その彼女に、璃奈ちゃんが再び声をかける。
「行こ、ミアさん。きっと楽しくなると思う」
そこで気が付く。璃奈ちゃんは私が話してる間もずっと、ミアちゃんに手を差し伸べていたこと。
ミアちゃんその手を見つめて、そして……。
「うん……」
戸惑いながらも、その手をとった。そこでさらに観客席のほうからの歓声が聞こえてくる。
それに応えるように、みんなは舞台袖から出て行った。
そして、ニジガクのみんなのライブが始まった。みんな楽しそうに踊り、歌っている。ミアちゃんも、少し戸惑いを見せているけど、その表情は少し緩んでいる……ように見えたんだ。
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#10『TANOSII MASTER!』
彼女の評価が上がるきっかけになればいいのですがw
それでは、どうぞお楽しみください!
「うーん、うーん……」
ミアちゃんが、この同好会に体験入部してから2週間が経った。彼女はかなり、みんなと溶け込んだように思えるけど、まだ楽しさの理由は見つけられていないみたい。
そんな中、同好会の部活がお休みのある日、私……高方結友……が忘れ物を取りに部室に入ると、ミアちゃんが机に向けてうんうん唸っていた。何か悩み事があるのかな?
「どうしたの、ミアちゃん?」
「うん。久しぶりに作曲をしてみたくなったけど、なかなかテーマが決まらないんだ」
そう言って、頭をかきながら顔をしかめるミアちゃん。少しでも音楽に向きあおうとしてる彼女の力になりたいけど……。私の音楽の力で少しでも助けになれるかな?
「どんな風な曲にしたいの?」
「うーん。それもよくわからないんだ……」
「そうなのかぁ。うーん……」
そして二人して腕を組んで顔をしかめてると……。
「やっほー! あれ、結友っちに、ミアっち、二人して腕くんでうなって、どうしたの?」
元気に愛ちゃんがやってきた。本当に愛ちゃんはいつも元気だなぁ。
あ、そうだ! 愛ちゃんならいいアイデア出してくれるかも!
「うん。ミアちゃんが曲作りに悩んでて、私も何か手伝えたらと思ったんだけど……。何かいい案ないかな?」
「そうか。よーし! こんな時は、三人で散歩に行こうよ!」
* * * * *
そして私と愛ちゃん、ミアちゃんの三人はさっそく外に出かけた。今日の放課後は、同好会部活もないしちょうどいい。
でも、やっぱりミアちゃんは戸惑ってる様子。
「愛、どうして散歩に?」
「ん? やっぱり外でいろいろ遊んで楽しい気分になれば、曲作りも進むんじゃないかと思ってさ。それに今日はあれだし」
そう言われて、私もピンときた。
「あぁ、今日は美里さんのお見舞いに行く日だっけ!」
「うんうん。それで、お姉ちゃんに、またお土産話とお土産ダジャレ持っていきたくて! あ、ミアっち、ミアっちも一緒にお見舞いに行こうよ!」
「え……でも、ボクはそのミサトと面識がないし……」
ミアちゃんがそう言うと、愛ちゃんににこっと笑って、彼女の頭を軽くこつんとこづいた。
「もーっ。ミアっちったら。そんな遠慮しなくていいんだよ! ミアっちも来てくれたら、お姉ちゃんも喜んでくれると思うし!」
そして私たちは町に繰り出した。
* * * * *
町を歩いて、色々見て回っていると……。
「あ、結友さん、愛さん……」
「こんにちはだにゃー」
花陽ちゃんと凛ちゃんとばったりと出会った。相変わらず二人とも、本当に仲良しだなぁ。
「二人とも、今日は遊びに来たの?」
「うん! 久しぶりに原宿に遊びに行こうと思って!」
「私、原宿って行ったことないから、とても楽しみ……。三人は?」
花陽ちゃんがそう聞くと、愛ちゃんはにっこり笑って言った。
「うん! 愛さんたちは、お姉ちゃんのお見舞いに行くついでに遊びに来たんだ! そうだ! 愛さんたちも、一緒に原宿についていってもいいかな?」
「うん、もちろんだにゃ!」
そして私たちは、凛ちゃんたちと原宿に行くことにしたんだ。そして。
「ほら、ミアっち、クレープどうぞ」
「あ、ありがとう……はむっ。とってもおいしいな……」
「うん。私も、今までにクレープは食べたことあるけど、こんなおいしいクレープ食べたの初めて……」
ミアちゃんも、花陽ちゃんも、とっても幸せそうな笑顔を浮かべてる。なんかほっこりするなぁ……。
と、ミアちゃんが何かに気づいたみたい。
「ん、どうした、ミアっち?」
「いや、愛がとても楽しそうな顔してこっち見てるから、どうしたのかな、と思ったんだ。どうしたんだい?」
「そりゃそうだよ。誰かの幸せそうな様子見てるのって、とても楽しくならない?」
「楽しく……」
と、ミアちゃんは何かを考え始めた。愛ちゃんの言葉に、何か思うところあるのかな?
それからも私たちは、原宿をいろいろ遊びまわって、町を楽しんだんだ。
* * * * *
そして私たちは、愛ちゃんのお姉さん、美里さんの病室の前までやってきた。
あれから、凛ちゃんと時間いっぱいまで遊んだ私たちは、彼女たちと別れて、改めてこの病院にやってきたんだ。
「お姉ちゃん、入るよ?」
「あ、愛ちゃん。どうぞ」
そして病室に入ると、美里さんは笑顔で私たちを待っていてくれた。
「あら、新しいお友達? 愛の姉、美里よ。よろしくね」
「う、うん、よろしくね……」
美里さんに微笑んで挨拶されて、ミアちゃんはちょっとはにかみながらそうあいさつした。普段はクールな彼女だから、そんな一面を見ると、なんか頬がゆるんじゃうな。
まぁ、それはともかく、さっそく愛ちゃんがここまでに会ったことを話しながらダジャレを披露し始めた。それに私がウケて爆笑したのは言うまでもない。
「ふふふ……。今日もとても楽しくなっちゃった。ありがとうね、愛ちゃん」
「そう言ってもらえて私も嬉しいよ! あ、ミアっち。ミアっちも何か面白いこと言ってやってよ!」
「え、ぼ、ボクは……」
「私も、ミアちゃんのジョークが聞きたいな」
「そ、それなら……」
愛ちゃんと美里さんにせがまれて、ミアちゃんは少し躊躇した後、せきばらいをして……。
「『カンガルーは家より高く飛べるの?』『もちろん。家は飛べないからね』……どうかな?」
アメリカンジョークを飛ばした。それを聞いて、愛ちゃんと美里さんは面白そう、そして楽しそうに笑ってくれた。
でもそれより、その場にいた中で一番ウケたのは私なのは言うまでもない……。
* * * * *
「ミアっち、一緒に来てくれてありがとう。おかげでお姉ちゃん、とても楽しそうだったよ」
「ううん。ボクの稚拙なアメリカンジョークで喜んでくれて、とても嬉しいよ」
病院からの帰路。愛ちゃんとミアちゃんが話しながら歩いてる。その横で、私は相変わらず、爆笑していたけど。だって、愛ちゃんのダジャレも、ミアちゃんのアメリカンジョークも、とても面白いんだもん。
「でも……ありがとう、愛」
「ん?」
「愛が誘ってくれたおかげで、ボク、楽しさとは何なのか、どうしたら楽しくなるのか、朧気ながらわかった気がするよ。今なら、いい曲を書ける気がする」
「なんのことかなー? 愛さんは、楽しいことにミアっちを誘っただけだよ」
そして三人で仲良く歩いていく。周囲はすっかり暗くなっていたけど、その先に見える未来は、何か明るいような気がしたんだ。
ミアが言っていたアメリカンジョークは実際にあるものだそうです。一応までにw
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#11『モデルの朝香果林、スクールアイドルの朝香果林、そしてみんなの仲間の朝香果林』
と同時に、スクスタ本編で、スクドル部に転向した彼女に対するアンチテーゼでもあります。
ある日の朝。私……高方結友……は、部室で、ミアちゃんの作曲を手伝っていた。
あの愛ちゃんとのお出かけから、何か得たものがあったらしく、ミアちゃんの作曲はすいすいと進んでいった。
そんなところに。
「おはよう。あら、結友、ミア、早いわね。見たところ、あなたたちが一番早いみたいじゃない」
朝香果林さんが部室に入ってきた。
「あ、果林さん、おはよう」
「うん。湧き上がってくるものがあったからさ。それが消えないうちに形にしておきたくて」
「そう。でもやる気が出てくるのはいいことね。よいしょっと」
そういうと、果林さんは別のテーブルの前に座り、その上に弁当箱を下した。あれ?
「果林さん、今日は朝ご飯、弁当で食べるの? いつもは寮で食べてくるのに、珍しいね」
「ええ。たまには部室で食べるのも悪くないかな、と思ってね。今日は特別にお弁当を作ってきたのよ」
と、ふと見ると、ミアちゃんが、果林ちゃんの弁当箱を見つめていた。彼女の料理に興味があるのかな?
その視線に、果林さんも気が付いたようだ。
「あら、ミア。私のお弁当に興味があるの? ふふ、なんなら見てみる?」
「え、いいの?」
「えぇ」
そう言って果林さんは弁当箱の蓋を開けた。するとそこには。
「うわぁ……」
なんとも言えない光景が。このカオス具合は、せつ菜ちゃんの作る料理に匹敵するものがあるなぁ。
「これは……なんというかすごいね……」
「うん、相変わらずというか……」
「まぁね。でも、栄養はあるのよ? それ優先で作ってるから、見た目や味は保証できないけど」
そう言って果林さんは、そのお弁当をぱくぱくと食べ始めた。
そこに他のみんながやってきて、さっそく今日の朝練が始まった。
* * * * *
そして、朝練が終わり、授業が終わり、そして放課後。
放課後の練習が始まった。
まずは柔軟、さらにボイストレーニングや体幹トレーニング……。みんな、それらを一生懸命、そして楽しくこなしていく。もちろん、ミアちゃんも、表情は少し硬いままながら、みんなと一緒にトレーニングに励んでいた。
そしてそれらが一息ついたころ、果林さんがスマホの時計を見て言った。
「あ、ごめんねみんな。そろそろ、撮影の時間だから行くわね」
そう言って帰る準備を始める果林さん。その果林さんに、愛ちゃんが声をかける。
「え? でもまだ時間が……って、ああ。果林、方向音痴だもんね。そのぐらい時間かかっちゃうかー」
「ええ。これでも、まだギリギリだけど……。それはともかく、また明日ね」
そういうと、果林さんはきりっとした顔になって、颯爽と去っていった。さすがだなぁ……。
「果林は、毎日、とても忙しそうなんだね」
「まぁね。でも、多分、果林さんも好きでやっている二足の草鞋だからね。本人は苦じゃないんじゃないかな」
私がミアちゃんにそう言うと、彼女は戸惑ったような表情を浮かべた。どうしたのかな?
* * * * *
その翌日。同好会の部活は休み。
でもこの日も、私は部室で、ミアちゃんの作曲の手伝いをしていた。そこに。
「あら、今日も残って作曲? 精が出るわね」
果林さんがやってきた。
「うん。ミアちゃんの作曲がとてもノッてるみたいで。そういえば、果林さんは?」
「えぇ。ダンススクールに行く前に、忘れ物をしちゃって」
そう言って微笑む果林さん。そこで、ミアちゃんが思い切ったように口を開いた。
「果林って、モデル業については、とてもストイックなんだね。そんな君だったら、ランジュと組んだら……」
「組んだら、彼女と一緒にストイックに取り組んで、もっとすごいスクールアイドルになれたかも、って? そうね、そうなる未来はあったかもしれない」
果林さんはそこまで言って、「でも」と付け加えた。
「でも私は、その未来より、みんなとともに歩んでいける現在のほうがとても魅力的なの。そりゃあ、モデル界は、自分以外は全てライバル。ストイックに自分を鍛えた者が勝ちだけど、スクールアイドルは違う」
「違う?」
聞き返したミアちゃんに、果林さんはうなずいて続けた。
「スクールアイドルは、仲間と共に歩み、影響を受けあって、そして自分を磨いていく、そんな場だと思うの。そしてそうして磨きあったスクールアイドルたちが共鳴しあって、楽しい場を作り出し、観客を楽しませ、沸かせる。自分一人でストイックに自分を磨き高めて、観客を魅了する。そういうスクールアイドル像もありかもしれないし、それを否定はしない。だけど、私は今のやり方のほうが何より魅力的なの。少なくとも私には、朝香果林には、そんなスクールアイドルがぴったりだと思うのよ。それは、ランジュのやり方と私たちのやり方を両方体験してきたあなたならわかることじゃないかしら?」
「……」
その果林さんの告白を聞いて、また考え込むミアちゃん。そこに。
ガタンッ!!
何かがぶつかる物音がした。
「なんだろう? 誰かが来たのかな?」
* * * * *
私がドアを開けると、そこにはかすみちゃん始め、同好会のみんながいた。
「あれ? みんな? 今何か物音を立てたのはみんななの?」
私がそう聞くと、かすみちゃんが首を振った。
「いいえ。その前に、ラン子が、部室のドアの前で何か文句言ってましたよ。かすみんが仕掛けた悪戯の罠に引っかかったみたいです」
「ああ、あの罠か~。ドアの前に金属製の塵取りを置いといたけど、みんな気が付いて避けてたやつだね~」
「腹立たしそうにしてたよね。『なんでここにこんなものがあるのよ!』みたいなこと言ってたっけ」
愛ちゃんがそう言ったところに、ミアちゃんも、私の横からひょこっと顔を出してきた。
「ランジュが? 愛、彼女は何か言ってたかい?」
「いいや。愛さんが引っかかったことについてからかったら、逆切れしたように言い返して、来た方向に帰っていっただけだよ」
「そうか。ランジュ、ボクのことが気になって、様子を見に来たのかな……」
そして、ミアちゃんは、ランジュちゃんが歩いて行ったであろう、廊下の先を見つめていたのだった。
書いてみて、タイトルと内容とが、ちょっと食い違ってしまいました。
どうしてこんなことに(笑
それと、今回はAnotherx2版ランジュのちょっと憎めないところを少し書いてみた(つもり)のですが、いかがでしたでしょうか?
当初は、ランジュは抜けたミアの代わりに、自分と同じ部分があると感じた果林をスカウトしにきた、という流れにしようと思ったのですが、それはちょっと違うなと思ったので、このように改変しました。
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#12『ただいま、ランジュ』
「………」
ランジュは、自分たちに割り当てられた部室で、一心不乱にダンスや歌のトレーニングに励んでいた。
自分たちのライブを見に来てくれる観客たちに、満足のいかないライブは見せられない。ショウ家の人間としては。
しかし。
「はぁ……」
ランジュは、練習を、まだ途中なのに一度打ち切った。ミアが抜けてからずっとこの調子なのだ。
この虹ヶ咲学園の理事長も務めているほどの家であるショウ家の一員として、手抜きは許されないとわかってはいるのだが、どうしても気が乗らない。パフォーマンスの質も日々下がっている気がする。
今更ながらに、QUEENDOMにおけるミアの大切さを痛感するランジュだが、だがそれを受け入れることは許されない。
「そうよ。ミアと出会う前は、私一人で頑張ってきたんだから」
それなのに今更ミアの存在に泣きついていては、ショウ家の一員としては落第だ。どんな環境にあっても、最高の結果を出し続ける。それがショウ家の人間なのだ。
そう自分に言い聞かせ、ランジュはトレーニングを再開した。
しかし、ミアが抜けたことによる、パフォーマンス、そして心の穴は、なかなかふさがりそうになかった。
* * * * *
「よし、みんな。ここで休憩にしよう!」
私……高方結友がそう声をかけると、みんなは息を吐き、思い思いの形で休憩した。
「ふぅ、かすみんたちのパフォーマンスも、かなり上達してきたね、しず子!」
「そうだね。QUEENDOMに迫るほどになってきたんじゃないかな?」
そう仲良く話すかすみちゃんとしずくちゃんに、果林さんが釘を刺す。
「こーら、自信を持つのはいいけど、あまり持ちすぎてそれに溺れていたら、ランジュに足をすくわれてしまうかもしれないわよ?」
「わ、わかってますよぅ、果林先輩」
「ふふふっ」
そんな三人の会話を聞きながら、私は歩夢ちゃんにタオルを渡す。
「はい、どうぞ。歩夢ちゃん」
「あ、結友ちゃん、ありがとう。今日のトレーニング、どうだったかな?」
「うん。みんなとても上達してたよ。確実にQUEENDOMに迫ってる感じがする。もちろん、歩夢ちゃんもね」
「そうかな? それならよかった……」
その横で、ミアちゃんは机に向かって作曲をしていた。あの沼津でのミニライブ、そして愛ちゃんや果林さんとの関わりを通して、刺激や色々なものを受けたのか、ミアちゃんの作曲はさらにはかどっていった。私たちの存在が助けになったのなら、とても嬉しい。
「ミアっち。今日も作曲? とても精が出るね~」
「うん。もう少しで完成しそうなんだ……よし、できた」
そのミアちゃんの言葉に、みんなが集まってきた。そのみんなの前で、彼女が私に楽譜を手渡す。
「はい。これがボクが心を込めて作った新曲。結友、試しにこれを弾いてみてくれるかい?」
「うん、わかったよ」
私はそう言うと、楽譜を持って音楽室に向かって行った。それにみんなも続く。
* * * * *
そして音楽室に到着すると、私はさっそくピアノに向かって、その新曲を弾き始めた。
~~~♪
うん、とてもいい曲だ。とても楽しい曲調で、でも、心に訴えかける何かもあり、それが私や同好会のみんなにピッタリ。それに、ミアちゃんの私たちへの想いがとても感じられる。
弾き終わると、みんな、感動の表情を浮かべていた。
「どうだったかな? みんな」
ミアちゃんがそう聞いてくるけど、答えは決まっていた。
「うん! とてもいい曲! 私、感動しちゃった……ぐすっ」
と、歩夢ちゃんが目元の涙をぬぐう。
「うんうん、かすみんたちにぴったりで、それに、とてもじーんときちゃいますぅ!!」
「そうですね。私もかすみさんと同じで、目頭が熱くなっちゃいます」
かすみちゃんは目から涙をどばーってと流している。しずくちゃんも、かすみちゃんほどではないけど、目が潤んで、今にも泣きだしそうだ。
「想いが伝わるって、こういうものを言うんですね! ニュータ〇プでなくても、曲でこんなことができるなんて、感動です!」
せつ菜ちゃんが目に涙をためながら、拳をぐっと握っている。
「愛さんも、ガラになく、泣いちゃいそうだよ~! ね、りなっち!」
愛ちゃんは涙を流しながら、目をごしごししている。
「うん、私も、とても感動した……璃奈ちゃんボード『じーん……』」
璃奈ちゃんは璃奈ちゃんボードで顔を隠していたけど、その向こうの表情は言うまでもないだろう。
「とてもいい曲だよね、果林ちゃん!」
「そうね……。こんな曲には、めったにお目にかかれないわ……ぐすっ」
「うんうん。こんな素敵な曲が聞けるなんて、彼方ちゃんたちは幸せ者だよ~」
三年生トリオも、とても感動しているようだ。
その様子を見て、ミアちゃんははじめて、にこっと微笑んだ。
「気に入ってもらえて嬉しい。この曲、みんなにプレゼントするよ」
『ええっ!?』
ミアちゃんの言葉を聞いて、みんなは目に涙を浮かべたまま驚いた。
こんな感動的で素敵な曲をプレゼントすると聞かされて、驚かない者がいるだろうか? いやいません。
「え、い、いいの……? ミアちゃん」
そう聞く歩夢ちゃんに、ミアちゃんは再び微笑んで答えた。
「うん。これは、ボクからみんなへの贈り物。そして、ボクからのお礼。ボクを見つけてくれて、こうしてよくしてくれて、仲良くしてくれた君たちへの」
「ミアちゃん……」
「本当にありがとう、みんな。おかげでボクは、ランジュの元に戻れそうな気がする」
「ミアちゃん、それじゃ……」
私がそう聞くと、ミアちゃんは柔らかい表情のまま、こくりとうなずいた。
「うん。楽しさとは何か、そしてみんながどうして楽しいか、わかった気がする。それは、みんながお互いに仲良くやっていたからじゃないかって」
『……』
ミアちゃんの告白を、みんな真剣に聞いている。もちろん私もだ。
「仲良く、お互いを支えあい、競い合っていくなかから、楽しさが生まれて、それが育っていくものなんじゃないかと思えたんだ。そしてそれを気付かせてくれたのは、間違いなくみんなのおかげさ。本当にありがとう」
「ミアちゃん……」
そうつぶやく歩夢ちゃんの目から、また涙が一筋落ちた。
「今なら、ランジュと再びやり直して、みんなと練習しているのと同じくらい、いいやそれ以上に楽しくトレーニングして、そして楽しいライブができるようになると思う。みんなと練習するのも楽しいけど、私が一番、一緒に楽しく歩んでいきたいと思えるのはランジュだから」
「そうか……それはよかった」
ミアちゃんが締めくくった言葉に、私はそう言って微笑んでうなずいた。みんなも同じくうなずいている。
そしてそこで、愛ちゃんが。
「よーし、それじゃさっそくミアちゃんを連れて、ランっちのところに行こうか!」
* * * * *
その日もランジュは、一人黙々と練習をしていた。次のライブのために、引き続き自らを鍛えなければならない。どんな環境にあろうと、手を抜くことは許されない。それが、ショウの家に生まれた者の責務だから。
しかし、どうしても練習を続けるのに気が載らない。ふと思い出すのは、ミアと共に練習に励んだあの時のこと。
あの時の練習のなんて輝かしいことか。
そして今のなんと寂しく、重苦しいことか。
それでも、自分はショウ家の一員だからと、やる気を無理やりわかせて、再開しようとしたその時。
コンコン。
部室のドアが鳴った。
「どなたかしら? 扉は開いているわよ」
その声を受けてドアが開く。その向こうにいたのは、果たして、ミアとスクールアイドル同好会の面々だった。
「ミア……何の用かしら? 私と袂をわかって、スクールアイドルから逃げ出したあなたが」
内心では嬉しさを少し感じていたものの、やはり別れるに至った経緯から、どうしても話し方が厳しくなってしまう。
「ランジュ……。もう一度君とスクールアイドルをやりたい。もうスクールアイドルから逃げ出したりしない。楽しさを見つけたから。だから、ボクとまたデュオを組んでほしい」
それでも、ランジュはやはり冷たかった。
「そう希望を持つのは自由。でも、そう言うからには、私を納得させられるだけの実力を身に着けてきたんでしょうね? それに、一度やめると言った以上は、そう簡単に首を縦にふれないというのもわかっているでしょう?」
そのランジュの言葉に、さっそくかすみがかみつく。
「そんなこと言わないでもいいじゃないですかぁ! せっかくミア子がやり直したいと言ってきたのにぃ!」
しかし、そのかすみを、ミアが手で制する。
「うん、わかってる。だからそれを、ボクが今、この身をもって証明してみせるよ」
* * * * *
そして私たち同好会メンバー、ミアちゃん、そしてランジュちゃんは、講堂へとやってきた。
ミアちゃんのライブをするための準備は、簡素なものではあるけど、栞子ちゃんが喜んでやってくれた。本当に感謝。
そして、私たちが講堂で見守る中、きれいで可憐なドレスに身を包んだミアちゃんがやってきた。その表情は、自信にあふれながらも、そしてとても穏やかで、そして明るかった。
そして彼女の歌が始まった。
~~~♪
I'm still dreaming(まだ夢見てるんだ)
Can't hide this feeling(この気持ちに嘘はつけない)
I want to see a world that I have never seen before(まだ見たことのない世界を見てみたい)
その歌を聞いていたランジュちゃんの表情が変わったように見えた。
彼女も気づいたんだろう。この歌に込められた、ランジュちゃんへのメッセージを。
その歌詞には、このようなメッセージが織り込まれていたんだ。
ランジュちゃんと再び、見たことのない世界を見てみたい。
この気持ちに嘘はつけない。
そして、ランジュちゃんと、スクールアイドルとしての道を歩んでいくことを、いまだ夢見ている。
それは、ミアちゃんの、ランジュちゃんとやり直したい気持ちが強く秘められた歌詞だと、私は感じた。
そしておそらく、ランジュちゃんも。
歌は続く。
No one can stop me from being who I am(自分らしくあることを誰も止めることはできない)
I'm still dreaming(まだ夢見てるんだ)
ランジュちゃんはランジュちゃんであり、彼女の家がどうであろうとそれは変わらない。
そして、彼女が彼女らしくあることを、例え彼女の家の者であっても止めることはできない。
彼女の在り方を、彼女の家が縛ることはできないし、自ら縛られることもない。ランジュちゃんはランジュちゃんのままでいい。彼女の本当の心のままでいい。大切な人とともに歩むことを夢見ることを否定することはない。
~~~♪
そしてミアちゃんのミニソロライブは終わった。
* * * * *
そして彼女の歌が終わり、ミアちゃんが私たちのところにやってきた。ランジュちゃんの顔を正面から見据えて、口を開く。
「これがボクからランジュに伝えられる精一杯。もう一度言うよ。ボクはもう一度、君とスクールアイドルをやり直したい。だから、また仲直りして、デュオを組んでほしいんだ。もう、スクールアイドルをやめたいとは言わない」
そのミアちゃんを見つめるランジュちゃんの目に涙がたまっていく。
「わかったわ。あなたの今の実力なら不満はないし、それ以上に感じたわ。あなたの想い、私に伝えたいこと。心の深くまで染み込んだ。そして、ごめんなさい、ミア。あんなこと言って……」
「ランジュ……」
「そして、もう一つ……ありがとう。例え、何があろうと、私はショウ・ランジュ。ショウ家とは関係なく、私はランジュであり、それ以上でもそれ以下でもない。私がランジュであることを誰にも止めることはできない。本心を偽って、ショウ家のランジュであろうとする必要はない。そうだったのね……」
「それにも気づいてくれたんだね……よかった……。ランジュがショウ家の一員であることに、そうでなければならないことに、縛られ、追い詰められていたように思えたから、それが気がかりだったんだ……。そう、追い詰められることはないんだよ。どんなことがあっても、ランジュはランジュなんだ。それでいいんだよ……」
「ありがとう……ミア……そこまで私を想ってくれて……。また二人でやり直しましょう。テイラー家のミア・テイラーとショウ家のショウ・ランジュとしてではなく、ただのミアとランジュとして……」
「うん……。そして改めて言わせてよ。……ただいま、ランジュ」
「おかえりなさい……ミア」
そして二人は固く抱き合う。二人の絆が再び固く結ばれたんだ……。良かった……。
周りを見ると、歩夢ちゃんはもちろん、かすみちゃんも他のみんなも、涙ぐみながら、二人を見守ってる。
そしてミアちゃんが私たちのほうに向きなおる。
「ありがとう。これもみんなのおかげだよ……」
その彼女に、みんなを代表して、私が……多分泣き笑いの表情になってる……答える。
「ううん。私たちはミアちゃんの手助けをしただけ。仲直りしたのは、ミアちゃん、そしてランジュちゃんの心のおかげだよ」
「うん……」
と、そこにかすみちゃんが。
「なーんか、敵に塩を送った感じになっちゃいましたけど、まぁいいか。でも、かすみんたちがやってあげたんだから、二人とも、素敵なライブしてくれないとダメですよ~?」
「うん、もちろんだよ。楽しみにしてなよ。みんなの予想を軽く超えてあげるからさ」
「そうね。今なら、今までよりずっと素敵なライブができそうな気がする。負けないわよ」
そう言って、二人は、涙を浮かべながらもまばゆい笑顔をしてこたえたんだ。
本当はIm stillの歌詞を使う予定だったのですが、残念なことにIm stillはまだJASRACに登録されていないようなので、歌詞を省いています。ご了承ください汗
登録され次第、歌詞の一部分を入れる予定です。
また、ミアが同好会にプレゼントした曲は、この話で歌ったのとは別の歌です。どんな歌かは、次回のお楽しみ。
さて。次回はいよいよ最終回! 大団円ですよ。お楽しみに!
※21/09/10 I'm Stillが登録されたようなので、さっそく歌詞を掲載しました!
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#13『Love u My Friends!』
最後には、ちょっとしたサプライズも?
どうぞお楽しみに……していただけると幸いです。
「1,2,3! 1,2,3! よし、OK! みんな、良い感じだよ!」
ランジュちゃんとミアちゃんが仲直りして、QUEENDOMが再結成されてから数日後。
私たち……高方結友とスクールアイドル同好会の仲間たち……は、いつも通り、いやそれ以上に練習に励んでいた。
「よし、みんなここでいったん休憩にしようか」
私がそう号令すると、みんな一息ついて、思い思いに休憩に入る。
「ふぅ~。今日も練習も結構熱が入ったよね、しず子!」
「うん。今度の週末にはまた合同ライブがあるもんね。やっぱりライブがあると力が入っちゃう」
そうタオルで汗をふきながら言葉をかわすかすみちゃんとしずくちゃん。
そう、栞子ちゃんの計らいで、今度の週末、再び私たちスクールアイドル同好会と、再結成されたQUEENDOMとで、合同ライブをすることになったんだ。
楽しさを知り、固く絆で結ばれたQUEENDOMは、きっと今まで以上のすごいパフォーマンスをするはず。手は抜けないよね。
彼女たちに負けないようなライブをできるよう、しっかりトレーニングしなきゃ。
「ねぇねぇ、結友っち。もうそろそろ休憩終わりにして、練習再開しようよ。愛さん、早く練習したくて我慢できないよ~」
「うん……。私も、もっと練習したい……。璃奈ちゃんボード『むんっ』」
同じく、休憩しながらジュースを飲んでいた愛ちゃんと璃奈ちゃんが、そわそわしながらそう言ってきた。やる気に満ち満ちているって感じ。
「愛ちゃんと璃奈ちゃんがそう言ってるけど、どうする、みんな?」
答えは決まってるだろうな、と思いながら、私はみんなにそう聞いてみた。
返ってきた答えは予想通りだった。
「うん! 私も今すぐ練習再開して、もっともっと上手になりたい!」
「そうですね! 私のハートも、まだまだ燃え盛ってます!」
「彼方ちゃんも~、休憩時間中に一杯寝てたから、いつでもいけるよ~」
「本当に彼方はブレないわね。でも、私も同じよ。もっとうまくなりたくてうずうずしてるわ。エマは?」
「うん、私も!」
「かすみんはもっと休憩したいですけど~、でもみんなに差をつけられるわけにはいきませんから! 逆にいっぱい練習して、みんなを追い抜いちゃいますよ~!」
「私も、やる気十分ですよ! やりましょう、先輩!」
やる気に満ちたみんなの表情を見て、私はうなずく。
「よし、それじゃ続きやるとしようか」
『うんっ!!』
* * * * *
「ふぅ……かなり形になってきたね。ここらへんで休憩にしようか、ランジュ」
一通り躍った後、ボク……ミア・テイラー……は、ショウ・ランジュにそう提案した。
「そうね。でも、もう少しだけ。なんか今は、練習したくて練習したくて、しょうがない気分なの。あなたがいなかった間の、気が載らなかった時が嘘みたい」
そう言ってランジュは、再びダンスを始める。本当にとっても楽しそうだ。キラキラしながら練習に励むランジュを見て、ボクはふと笑いをもらす。
「? どうしたの、ミア?」
「いや。ランジュがとっても楽しそうだったからさ。それに、そんな明るい笑顔を見るのも、ボクが知る限り初めてだし」
ボクが素直にそう言うと、ランジュは少し頬を染めながら、ボクが手渡したタオルで汗を拭きながら、これまた嬉しそうに話した。
「えぇ。練習がとっても楽しいの。毎日が輝いて見えるくらい。あなたが同好会で見てきたものが、私にも見えるみたいだわ」
「ランジュ……」
「私、ショウ家の一員として生きる中で、大切なものを忘れていたみたい。人々を楽しませるには、完璧なパフォーマンスをするだけじゃなく、みんなを楽しませようとする気持ち、そして何より、誰かと時間を共有し、そしてその誰かと心を合わせて、そして楽しむことが必要なんだ、って」
「……」
「それを教えてくれたのは、同好会のみんな、そして何よりもミア、あなた。本当に感謝しているわ、ありがとう」
そう言うと、ランジュはボクに手を差し伸べてきた。その手を、ボクも握る。
「ボクは大したことはしてないよ。ボクは、楽しさを求めていただけさ」
「それでもよ。本当にありがとう、ミア」
そう言ってランジュは、それまでに見たことのないような柔らかい表情を浮かべた。
「それじゃ、次は二人でダンスを合わせましょうか。ミア、行けるかしら?」
「うん、今、しっかり休憩したから、いつでもいけるよ。いこうか」
* * * * *
そして、合同ライブの日がやってきた。
講堂には、虹ヶ咲の生徒たちだけではなく、周囲に住んでる人たち、そしてスクールアイドルファンの人たちもいっぱい集まっている。もう大盛況だ。
その中、控室で私たちは、ライブの準備を整えていた。
それが済んだところで、みんなが円陣を組む。そしてせつ菜ちゃんが掛け声をあげる。
「それではいきましょう。行こう、九色の虹を咲かせに!」
『ニジガサキー!』
と、そこに、ノックの音がして、ランジュちゃんとミアちゃん、QUEENDOMの二人がやってきた。
「今日、この日がやってきたわね。お互い、頑張りましょう」
そう言ってランジュちゃんは、あの時と同じように手を差し伸べてきた。でも前と違うのは、あの時の貫禄のある笑みとは違い、凛としながら、どこか柔らかさを秘めた笑みをしているってこと。きっと、ミアちゃんと仲直りしたことで、彼女にも良い変化があったんだろう。
「うん、こちらこそよろしくね」
私も、その手を握る。その手は、とてもあたたかった。そこに。
「すいませーん、QUEENDOMの皆さん、ステージへお願いしまーす」
「えぇ、わかったわ」
ランジュちゃんは係の人にそう返し、手を離した。そして微笑んで軽く会釈する。
「それじゃ、行ってくるわ。みんなのパフォーマンスも、楽しみにしてるわね」
そう言って、颯爽とその場を去っていった。やっぱりかっこいいなぁ……。
そして合同ライブは始まった。
* * * * *
QUEENDOMのライブは一言でいうと、とてもすごかった!
それまでのライブもすごかったけど、このライブはそれ以上! 二人のパフォーマンスもすごいし、歌もとても熱くてでも感動できて。場の盛り上がりもすごいものだ。前回とは違い、みんな楽しんでくれてるのがよくわかった。
改めて、二人がすごいのがよくわかる。
「ほ、本当にQUEENDOMはすごいね……。私たち、あれと並ぶほどのパフォーマンスできるのかな……?」
舞台袖で待機している歩夢ちゃんが、少し表情を曇らせながら、そう言う。他のみんなも少しおじけついてるようだ。
「本当に、仲直りであれだけパワーアップするなんて、ずるいです~!」
「本当にすごいわよね。でも、私たちは私たちのパフォーマンスをするだけよ。今までの頑張りを信じて、ね? そうでしょ、部長?」
ふくれてるかすみちゃんをたしなめるようにそう言った果林さんが、私にそう言ってきた。もちろん、私もそれには同意。
「そうだよ、みんな。私たちだって、彼女たちに負けないぐらい練習してきたじゃない。それを信じようよ」
「そうですね! 信じる心があれば、なんだってできます!」
せつ菜ちゃんがそう言いながら、ぎゅっと手を握る。
「その意気だよ。それにね、この合同ライブはQUEENDOMに勝つことが目的じゃないんだから。確かに勝てたらいいけど、それより大事なのは、会場のみんなをどれだけ楽しませることができるか、ってことだと思うよ。今のみんなならきっとそれができる。私はそう信じてるよ」
私がそう言うと、みんなの表情が明るくなってきた。うん、これなら心配なさそうだ。
「QUEENDOMの皆さん、ありがとうございました! それでは続いて、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆さんです! どうぞ!」
司会さんが、みんなを呼ぶ声が聞こえた。さぁ、いよいよ出番だ。
「さぁ、出番だよ。みんな、頑張って!」
『うん!』
声をそろえてうなずき、みんなは舞台袖からステージへ出て行った。
* * * * *
そして、みんなの歌が始まった。ミアちゃんが私たちのことを思って作ってくれた曲に、私が心を込めて歌詞を作った歌がこれから始まる。
~~♪
『頑張るのが好きで、重ねて来たらここにいたの』
みんなが一生懸命練習に励んでいる姿が、目に浮かんでくる。
~~♪
『キラキラ繋がって虹色があふれる。出会えた奇跡は何より宝物』
あの時、部室でかすみちゃんと出会い、それからしずくちゃんたち元部員たちを説得し、歩夢ちゃんたち新しい部員を誘い、ここまで歩んできた。
~~♪
『突然閉ざされて悔しい日もあったよね』
もちろん、その歩みは平たんとはいかなかった。
沼津にお祭りの手伝いに行ったとき、台風が来て、中止を覚悟した時もあった。
あと一歩、というところでμ'sの勝負に負けたこともあった。
スクールアイドルフェスティバルの準備で、一時ボランティアが集まらなくて、開催を諦めかけた時もあった。
~~♪
『時々ぶつかって、一人で不安になって』
いつも仲良しだったわけじゃない。けんかしたこともあった。いさかいを起こしたこともあった。
栞子ちゃんと衝突し、再び廃部の危機に陥ったことも。
歩夢ちゃんとけんかして、仲たがいをしてしまったことも。
だけど。
~~♪
『涙を越えたら、ねぇ虹が見えたの!』
でも、それでも自分たちを信じて、それを乗り越えてきた。そして私たちは今、ここに立つことができた。
~~♪
『キラキラ繋がって虹色があふれる! 出会えた奇跡は何より宝物』
みんながいたから、これを乗り越えることができた。みんながいてくれたから。きっとみんなと出会えなかったら、こんな素晴らしい瞬間には出会えなかったかもしれない。
本当にみんなとの出会いは、私にとって、いや私たち同好会全員にとって、一番の宝物だったと思う。いや、過去形じゃない。これからも今もこれからも、ずっと私たちの宝物だ。
~~♪
『大好きが咲いている僕たちのドリームワールド』
『一緒にかなえよう、飛び切りの明日へ行こう!』
『Love U My Friends!』
これからも私は、みんなと一緒に進みたい。明日に向かって。
きっとみんなと共に進めば、明日は今日よりも飛び切りの明日になるだろうから。
大好きで大切な同好会のみんなとなら!
ステージを見ると、観客のみんなもすごい楽しく盛り上がっている。反対側の舞台袖を見ると、QUEENDOMの二人も、とても感動しているみたい。もちろん私も、目からあふれてくるものをこらえきれずにいた。
そして合同ライブは、大盛況、大盛り上がりを見せて幕を閉じたんだ。
* * * * *
そして夕方。虹ヶ咲学園から伸びる道を歩く一人の少女がいた。その目はとても輝いていて、笑顔はあふれんばかりだ。
「ニジガクのライブ、噂通り、とてもすごかったデス! やっぱりスクールアイドルって、こんなに楽しく、熱く、そして感動できるものなのデスね! お小遣いをはたいて、日本に来日したかいがあったデス! よーし、クゥクゥも、ユイガオカに入学したら、絶対にスクールアイドルになるのデスよ!」
そして少女は楽しそうに、軽く踊りながら夕日の向こうへと歩いていくのだった。
END
いかがでしたでしょうか?
自分の作品ながら、書いているうちに、目からお湯が流れそうになるほど感動してしまいました。
多分これは、自分の文章ではなく、歌の歌詞の力かと。
本当に、『Love u My Friends!』は素晴らしい曲です(;_;
お楽しみいただき、ありがとうございました!
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