八雲廻戦 (シーボーギウム)
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八雲と五条

ゆかりん呪霊にしてみたったったwwwww

みたいなノリで生まれた話。


 とある農村。

 もはや、地図にすら描かれることの無い廃れた農村。ではない(・・・・)。その村は、明らかに何か正体不明の力によって、世界から隠されていた(・・・・・・)

 

「巫女様。今日の御夕飯でございます」

 

 その村は日本らしく全員が黒髪黒目。特に珍しくもない。しかし唯一、彼等に巫女と呼ばれ崇拝される一人の少女は例外だった。

 十二単を思わせる和服を身に付け、床に届いてしまう程長いその髪は、月光を吸ったかのように美しい黄金色をしていた。そして、その瞳は紫。この村で最も高貴で尊ぶべき色であり、巫女である彼女と、とある存在(・・・・・)以外、身につければ即座に極刑に処される色だ。

 

「………」

「如何なさいましたか?」

「食べる気分じゃ無いわ」

「では如何致しましょう」

「そうね、貴女、私の伽の相手をなさい」

「っ!?か、かしこまりました……!」

 

 巫女と呼ばれた少女の言葉は、この村において絶対。命じられることは至福であり、至上。少女に命じられれば、死すらも恍惚の笑みで受け入れる。それが彼等だった。

 その狂気の園の主たる少女は服を脱ぎ捨て、目の前の侍女にも服を脱ぐよう言いつける。少女の肢体は妖艶という言葉以外、いや、その言葉すら足りぬ、12という歳にはあまりにも不釣り合いな艶めかしさを持ち合わせていた。

 

「あ、あぁ………!」

「早く脱ぎなさい」

「も、申し訳ございません……!」

 

 侍女はその場で服を脱ぎ、気だるげに脱ぎ捨てた服の上に寝転がった少女の元へ向かう。

 

「楽しませてちょうだい」

 

 少女の言葉に、もはや歓喜で言葉を発する余裕すら消え失せた侍女は少女の身体を貪り始める。

 

「ふふっ………」

 

 その様子に、やはり少女は妖艶に笑みを浮かべる。

 数時間後、そこにいたのは侍女の身体を堪能し終え、腹が空いたのか膳に乗せられていた食事を取る少女と、恍惚の笑みを浮かべながら息絶えた侍女だった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「領域?」

「そうだ」

 

 夜蛾正道の言葉に、五条悟は首を傾げた。

 今回夜蛾から五条へ伝えられた任務の内容は、観測不能の謎の領域の調査。

 

「観測不能ってどういうことよ?観測不能ならそんな領域があること自体気付けないでしょ」

「見つけたのは偶然だ。そこ周辺で何件もの行方不明者が出ている。呪霊、ないしは呪詛師が関わっているとみていい」

「ふーん」

 

 興味無さげな五条に嫌な予感を感じながら夜蛾はため息をつきそうになる。そしてその想定通り、五条は夜蛾に背を向けつつ手をヒラヒラとさせながら去っていく。

 

「気が向いたら行くよ」

「…………はぁ」

 

 ため息は止められなかった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 しかし夜蛾の予想に反して五条は思ったよりも早く報告のあった場所、その上空に来ていた。

 

「こいつは驚いた」

 

 五条はその瞳を覆っていた布を僅かにずらし、その眼を片方露出させていた。その眼は六眼。あらゆる術式を視認し、情報を読み取る瞳だ。

 

(なるほど、誰も気付かなかったわけだ)

 

 五条をして、その眼無しには認識がズラされる。そこに明確に村が存在していながら、何も無いように感じてしまう(・・・・・・・・・・・・・)。並外れた術式行使。夜蛾の話では明らかに認識どころか侵入出来ない領域が存在していると気が付けたのは、無数の窓を動員しての調査を行ったが故だった。

 

「なんでこんな廃村(・・)隠してるのか知らないけど、何か良からぬことは行われてそうだ」

 

 口の端を歪めつつ五条はその地に降り立つ。その過程で張ってあった結界をぶち破ったが、彼はそんなことを気にする男ではない。

 彼は廃村を歩きつつ、周囲を見回す。そこには焼け焦げた民家や木々に絡め取られた民家、焼け死に、身体の養分を吸い付くされたかのような人々、そして何より、それにこびりつく残穢があった。

 

「一体何があればこんな荒れ方するのかな?教えてよ(・・・・)

 

 五条は虚空に目を向けて言葉を紡ぐ。しかし、反応は無い。

 

「早く出てきてくんない?こっちはあそこの立派な屋敷だけ壊れているように見せかけてるのもわかってるんだ。なんならあの屋敷、ぶっ壊してもいいんだぜ?」

 

 その場に居ないはずの何かに五条は言葉を投げかける。やがて、数瞬の後に彼の見つめていた虚空が裂け、そこから金の髪と紫の瞳を持った、中華風の服を身に付けた美女が現れた。

 

「嫌ですわ、そんな不躾な視線を向けられるのは。セクハラで訴えられますわよ?」

「ははは、呪霊の割には洒落が上手い」

 

 そんな会話をしながら、五条は内心驚いていた。呪霊相手に会話が成り立っていること、そして何より、自身が思わず戦闘態勢に入ろうとしたことに。

 五条悟は最強だ。自他共に認める、所ではない。もはや世界が彼を最強として定めている。そのレベルの最強。誰一人として彼には敵わず、敵対すること自体が死に直結する究極の理不尽。それが彼だ。

 

(その僕が本能的に警戒した)

 

 五条悟にとって警戒に値する。その時点で彼の目の前の呪霊は五条と同じく一線を画す怪物ということになる。

 

「君がこの惨状を作り上げたのかな?」

「いいえ?私は何も。ここの管理はしていましたけれど」

「呪霊の言うことを信じると思う?」

「信じようが信じまいがどちらでも構いませんわ。やっていないものはやっていませんもの」

 

 女の様子に五条は嘘をついていないことと、敵意も存在しないことを感じ取りながらどうしようかと思考する。祓うのは確定だが、戦意も敵意も無いのでは逃げを選択する可能性が高い。ここで追い詰めたところで祓い切れるか、と言われると五条でもその答えはNOだった。

 

「ああ、そうですわ」

「うん?」

「丁度いいです。あの子、育ててくださる?」

「は?」

 

 それだけ告げて、女は裂け目に引っ込んだ。そして裂け目が閉じるのと同時に、屋敷にかけられていた幻覚が消滅する。それと同時に、その屋敷から迸る呪力を感じた。

 

「これは、思ってたよりもヤバい呪霊だったみたいだ………」

 

 控えめに言っても1級クラスの、しかもここまで強烈に放出された呪力を五条相手に隠しきることの出来る呪術師はこの世に数える程しか存在しないだろう。

 

(さって、鬼が出るか蛇が出るか。どっちにしろ祓えるけど)

 

 五条は屋敷に近づいていき────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不快」

 

 

 

 ────咄嗟に、身を屈めてそれ(・・)を回避した。

 五条の背後の景色がズレる。放たれたのは超速、かつ広範囲の斬撃。

 

(なんて簡単なものじゃない(・・・・・・・・・・・・))

 

 六眼を持つ彼だからこそ感じ取れたその攻撃の正体。それは斬撃ではなく、空間を文字通り裂くという規格外にして、五条悟を傷付けうる一撃だった(・・・・・・・・・・・・・・)

 五条は警戒を最大限引き上げ、屋敷から現れた人間の少女に目を向ける。その姿は先程の呪霊そっくりだった。

 

「初対面の人にいきなり攻撃を仕掛けるのは失礼じゃない?」

「黙れ。誰だ貴様は?お前も私の平穏を邪魔したあの愚物共と同類か?」

「その愚物ってのがどんなもんかは知らないけど、僕は君の平穏を邪魔するつもりは無いよ」

「………ここにいる時点で、お前も私の平穏を乱す愚物と相違ない!!!!」

 

 ザンッ!と無数の空間が裂ける。五条は転移によって攻撃範囲から逃れた。空間ごと裂く攻撃故に、彼の纏う無限すらも意味をなさない。本来攻撃を届かせること自体が不可能な存在に届く攻撃。その範囲はほぼ無尽蔵であり、予備動作など無しに、軽く術式を行使するだけで全方位へ致死の一撃を撒き散らす。その実力は、五条悟(最強)に届きうるという前代未聞を成し遂げうるものだ。

 

 ────だが、それでもなお足りない。

 

「これは、久しぶりに本気出さないとね」

 

 最強の何たるか、それを知らぬ小娘に勝ち目は存在しない。

 

 





侍女ちゃんは幸せ過ぎて死にました。
この村の人間は老若男女問わず主人公ちゃんとおねんね(意味深)すると快楽と多幸感で脳がオーバーフローして死にます(迫真)


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八雲(その2)と五条

すまんかった。


「てなわけでその子連れてきたから、入学関係の処理よろしくお願いしまーす!!」

「おい、ちゃんと説明しろ…………」

 

 詳細の殆どを省いた五条の説明に、夜蛾は額に手を当ててため息を着く。

 

「だからさっき言ったじゃない、暴れてたその子を気絶させて連れてきたって」

「まだ報告すらしていないんだろう………」

「だから今のうちに向こう(京都校)に取り込まれないようにしたい」

「…………」

 

 五条はふざけた態度をやめ、真面目な声色で続きを話し始めた。

 

「秘匿死刑ってのは流石に無いとは思うけどね。まず間違いなく利用される。何せ嫌いで仕方がない僕を殺し得る、現状唯一の存在だからね」

「待て。いくら何でもお前を殺そうとすることは無いだろう」

「彼女が成長すれば問題ないんだよ。僕を殺せるんだぜ?新たな最強の誕生だ。それに言う事聞かない僕より、言う事聞くかもしれない子供を洗脳教育する方が遥かに都合がいい」

 

 まぁ彼女の性格じゃ目論見は外れるだろうけどね。とは五条の言だ。しかし五条はただ、と続ける。

 

「現時点で彼女は何も知らない。呪術師、呪詛師、呪霊。恐らくは彼女の近くにいたあの呪霊が呪霊であることすら認識してない。だから今の彼女にとっちゃ呪霊も呪術師も変わらないんだよ。そんな状況でアホな上層部がバカなことをして呪術師全体への不信感を募らせれば、最悪僕を殺せる呪詛師の完成だ」

「閉鎖された小さな空間で暮らしていた彼女にとって、今この世のあらゆるものが未知だ。その上素直で我儘。外から与えられる情報をそのまま受け取るような子だ。こっちで導いてあげなきゃ、向こうの権力やら血筋やらの絡むクソみたいな環境にもまれてストレスで爆発するだろうね。あと何より、」

 

 そこで一度五条は言葉を止め、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「許されていないのさ、若人から青春を取り上げるなんてね」

 

 それは少女の運命が決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 目を覚ます。周囲の壁は札で覆われ、私は椅子に座らされている。硬い椅子だ。その上よく分からない縄に両腕が拘束されている。つくづく不快だ。

 

「や、目が覚めたみたいだね」

「…………」

 

 不快な声に気分が落ちる。両腕の拘束と椅子を切断し、スキマを開いてその縁に座る。どうやらこの部屋の外へは繋げないらしい。不快。

 

「不快」

「襲いかかってはこないんだね」

「私が勝てない相手に無意味に挑む程愚かだと?不快。黙って這いつくばって私を崇めながら早急にこの場から失せなさい」

「残念ながらそうもいかないんだよね」

 

 空間を裂く。しかし不快目隠しはそれを軽く身をかがめて回避した。不快感が募る。

 

「話は聞いてくれるかな?」

「ちっ…………早くしなさい」

「んじゃ説明するよ」

 

 そこから不快目隠しが話し始めたのは、私が扱う『境界操術』を含む、様々な呪術を使う呪術師と、人の思念から生まれる『呪霊』の存在の説明だった。

 

「で?」

「君にはこれから呪術師の養成学校に通ってもらいまーす!」

「不快。却下」

「残念ながらそうもいかない」

「は?」

 

 不快目隠しはニヤニヤとした顔で続ける。

 

「あの閉鎖的な空間にいた君はこの世界の常識を知らない。それで生きていける程、この世界は甘くも無い」

「私がなぜその常識とやらに合わせる必要があるのよ」

「君がその常識に合わせず好き勝手するなら、僕は君を殺しにいかないといけなくなる」

「っ!」

 

 空気が変わる。重い気配をぶつけられ、不快感に眉を顰める。しかしその空気はすぐに霧散した。再びヘラヘラとしだす不快目隠し。よくよく見るとコイツ顔が良い。不快。私は男に興味は無い。だが顔の良い男は女を惹き付けるものだ。私の獲物が少なくなる。不快。

 

「君も死にたくはないでしょ?」

「……………」

「別に君の行動を全て監視するつもりは無い。それに直ちにって訳でもない。君はまだ中学生位だしね。将来ここに入学すると約束してくれればそれでいいのさ。後、もし君があの呪霊(・・・・)について教えてくれるなら便宜もはかれる」

「…………紫様のこと?」

「!」

 

 私が紫様のことを口に出すと不快目隠しは驚いた様な様子を見せた。恐らく情報を出し渋るとでも思っていたのだろう。

 

「話してくれるってことは」

「勘違いするな。それは別。紫様のことなんていくら話そうとお前でもどうしようも無いだけよ」

「言ってくれるね」

「ならお前、この空間が何か分かるの?」

 

 私が座るスキマを指さして問う。案の定不快目隠しは黙り込んだ。私の粗末なスキマで正体が見抜けないのだ、紫様のことをどうこうできるわけが無い。

 

「これはスキマ。私や紫様の持つ"境界操術"によって生み出される異空間。これはこの世にあるあらゆる微細な"スキマ"を開くことによって生み出されている。この異空間の中で再びスキマを開けば、如何なる場所にも向かうことができる」

「術式の開示か」

「黙って聞け。紫様は私が作り出すものとは比べ物にならない規模のスキマを作り上げる。文字通りここから世界の裏側に行くのも容易いし、私では1日維持するのが限界な所を紫様はここ数百年間維持し続けている」

「入る方法は?」

「紫様が開いたスキマから入る以外存在しない」

 

 そこで不快目隠しは黙り込んだ。コイツは強い。今の私では手も足も出ない。だがそれで紫様を殺せるかと言えばそうではない。術式への理解も、応用力も、もっと言えば純粋に持ち合わせる呪力の総量からして比べ物にならない存在。それが紫様だ。

 

「悠久を生き続け、あらゆる干渉を無に帰す空間にいる紫様は、仮にお前に勝てなくとも負けない。負けなければ、お前の寿命というどうしようもない結末を待ち続ければ良い」

「なるほどね。そりゃ厄介」

「ほら話したぞ?便宜をはかるんだろ?」

「それは所属を約束するならね」

「ちっ……」

「君僕のこと馬鹿にしすぎじゃない?」

 

 当たり前だろう。お前のどこに敬う要素があるのか。あるなら説明してみろ。

 

「はぁ……不快………」

「で、どうすんの?」

「…………いいわ、その話を受けてあげる」

「なら「ただし」うん?」

「お前は嫌よ。出来れば女、無理でもお前だけは私の教師役にはなるな」

「ははは!こりゃ随分嫌われたね」

「不快!」

 

 

 







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八雲と夜蛾


わーい評価バーに色がついたー!



 

 

 

「そういえば君、名前は?」

「不快。お前に何故私の名前を教えなければならない」

「いいじゃない。あ、僕は五条悟ね」

「不快。どうでもいい。興味も無い。できる限り早く私の前から失せろ」

 

 取り付く島も無い少女の様子に苦笑しつつ、五条は夜蛾のいる部屋に到着した。扉を開けて中を見れば、夜蛾は呪骸を作っている最中だった。

 

「君か」

「………お前が私にものを教える役割か?」

「い、いや、それはまだ決まっていない」

「そう」

 

 五条を超える生意気な物言いに若干表情の引き攣った夜蛾だが、気を取り直し話を続ける。

 

「君の名前は?」

「…………八雲紫月」

「っ!そうか…………では八雲紫月、君は何故呪術師になる」

「お前らがなれと言ったんだろうが」

「それを踏まえてだ。君は今まで全てが己の思い通りになる箱庭で生きてきた。だから知らないだろうが、この界隈は君の今まで通りは一切通用しない」

「で?」

取り戻そうとしても無駄だぞ(・・・・・・・・・・・・・)

「…………」

 

 少女、八雲紫月は傲慢だ。己の快・不快が最優先。故に最も心地よい環境を取り戻そうとする。事実彼女は力を付けた後似た環境を作り上げようと画策していた。だが、

 

「君が如何に強くなろうと、最早それはこの世界が許さない」

 

 彼女がその環境にいられたのは、八雲紫の力が全てだ。五条悟が認める、五条悟と同等の規格外。数百の年月を生き、長い時間をかけて作り上げた箱庭だったからこその環境。その上呪霊が最も栄えた、強かったと言える時代に生み出されたのがあの領域だ。到底現在の呪術界で作り出せるようなものではない。

 

「だからこそ改めて聞く。八雲紫月、君は何故、呪術師になる」

「そうね…………ならハーレムを作るわ」

「……………すまない、聞き間違えたようだ。もう一「ハーレムを作るわ」………………」

 

 紫月の背後で爆笑する五条にノールックで術式をパなしながら少女は言葉を続けた。

 

「反応を見る限り、この世界の常識的に複数の人間を侍らすのは異常なのかしら?だとしてもそれが何か問題がある訳では無いんじゃないの?」

「問題はある……複数の人間と交際すれば交際相手同士で「つまり受け入れさせれば問題無いと」…………」

「沈黙は肯定。なら問題ないじゃない」

「出来ると思うのか」

「別に?簡単よ。人間は快楽に弱い。心の内がどうだろうが肉体を屈服させれば自然と心も奪える。私があの場所でどれだけの女を相手したと思っているのかしら」

 

 さり気ないレズビアン発言で夜蛾の脳を更にバグらせながら紫月は謎のドヤ顔で語る。

 八雲紫月という少女は、いわゆる高いカリスマ性を持つ人間だ。優れた容姿と強者故の傲慢さ、自由奔放な態度。思うままに振る舞うその様が無意識に人を惹きつける。

 一つ勘違いを訂正しよう。紫月の伽の相手をした侍女は、始めからこの少女に心酔していた訳では無い。侍女は紫月を子供の頃から知っていたし、あの箱庭で最も尊ぶべき存在であると本気で信じてはいた。だがそれだけだ。心酔と言えるものでは、伽の相手をするのみで絶命する程のものではなかった。それを、紫月は術式も何も使うことなく己の持つ魅力と技術によって彼女を堕としたのだ。

 

「だからさっさとお前たちの常識とやらを私に教えなさい。そうしたらお前達の言う常識の範囲で、私は私が最も快楽を貪れる環境を作り上げる。その為に私は呪術師になるわ」

「まぁ………合格だ……………」

 

 堂々と言い放った紫月の姿に頭を抱えながら、夜蛾は彼女が呪術師に相応しいイカれた精神を持ち合わせていることを認めた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「いやぁ予想以上にイカれてたねぇ彼女」

「面倒なことにならなければ良いが………」

「ははは!それは無理でしょ!」

 

 夜蛾は五条の言葉に深いため息をつく。先程の数分の問答で分かったのは彼女の我が恐ろしく強いということ。それも五条レベルの強さだ。呪術師向き、と言えば聞こえはいいがそれは即ちイカレきった狂人であることと同義とも言える。

 

「しかし、八雲か………」

「ここで追加情報!なんと彼女僕が領域内で会った呪霊を紫様って呼んでました!」

「何!?」

「ま、驚くよねぇ」

 

 紫月との問答の際、五条が驚いたのはすんなりと話をしたことではなく、彼女の口から八雲紫の名が出てきたからだ。

 

「血なのか術式なのか、それは分かんないけど、何にせよ彼女には八雲紫との相当強い繋がりがあるだろうね」

「ただの信奉者という可能性は?」

「それ分かってて聞いてるでしょ?無いね。紫月自身が術式が同じだと言っていたし、少し見ただけだけど見た目もそっくりだった。紫月が少し歳とったら呪霊か人間かでしか見分けが付かなくなりそうなレベルでね」

 

 八雲紫。その名を知らない呪術師は、余程の無知だろう。呪術師の最盛期。その礎を作り上げた呪いの賢者(・・・・・)。簡易的な式神術式のみによって、式神系の術式では最強と言える十種影法術の式神をも容易く上回る式神を何体も繰り、規格外の結界術と無敵に等しい術式でもってあらゆる呪霊、呪詛師を鏖殺した、両面宿儺と同レベルの規格外。宿儺に対応して、呪いの女王とまで言われる存在だ。

 

「最期がわからずにいたとはいえまさか呪霊になって生き延びてたとは思わなかった」

「間違いなく呪霊だったのか………?」

「僕が見間違えると思う?」

 

 五条悟が直接見た、という何よりの証拠を提示され夜蛾は黙り込んだ。伝説級の呪術師が呪霊となっており、更にはそれと全く同じ術式を持つと主張する紫月の存在。それが事実だろうが虚構だろうが、不穏分子であることに変わりはない。

 

「これは報告せん訳にはいかんぞ」

「さって馬鹿な上層部が紫月に刺客を送り込むRTAスタートォ!!紫月の目の前に刺客が来た時点でタイマーストォップ!僕の予想では一週間後くらいかな!」

「やめろ………」

 

 夜蛾の切実な言葉が響く。彼の心労は、恐らく絶えることは無いだろう。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 夜蛾が胃薬の世話になることが確定した日の翌日。

 

「伊地知、続き持ってこい」

「いえ、その漫画はそれが最新巻でして………」

「は?なら作者に続きを持ってこさせろ」

「無理です!」

「何故だ!」

「私にそんな権限ありません!」

「ちっ、なら他に面白い漫画を持ってこい!」

 

 紫月は漫画にどハマりしていた。彼女に与えられた殺風景な部屋のベッドの上には無数の漫画が積まれている。因みに今彼女が呼んでいたのはHU○TER × HU○TERである。

 言葉尻が強い紫月だが、今彼女の目はかつてないほど輝いていた。漫画という娯楽は今までの彼女の人生に存在していなかったのである。しかしそれに付き合わされる伊地知は新たな心労の種に胃を痛めていた。この後顛末を聞いた夜蛾から胃薬を渡され静かに涙するのだがその話はまた別の機会にしよう。

 

「紫づっぶないなぁ、何すんの?」

「私がいつお前に名前で呼ぶ許可を与えた?」

 

 そこに現れる五条。態度はともかく機嫌の良かった紫月は一瞬の内に気分が急転直下で下がった。

 

「不快、失せろ」

「君の教師役が決まったから呼びに来たんだけど」

「お前が来るな!ソイツを直接私の部屋に呼べ!」

「流石に教えを受ける側でその態度はダメでしょ」

 

 その正論に紫月は黙り、凄まじく嫌そうな顔をしながらをベッドから立ち上がった。

 

「さっさと連れていけ………」

「はいはーい!んじゃ、ついてきて」

 

 不満顔で五条へ連れられていく紫月。伊地知は終始その様子を震えて見ているしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいるよ」

「ならお前は早急に失せろ。ついでに死ね」

「死ぬのは無理かなぁ」

 

 ヘラヘラとした態度を崩すことなく五条はその場から去っていく。その様に紫月はビキッと額に青筋を立てた。

 

(アイツはそのうち絶対殺す………)

 

 そう心の内で決めつつ彼女は目の前の扉を開け放った。

 そこに居たのは、特徴的な形の眼鏡とごく普通のスーツに身を纏った七三分けの男だった。

 

「貴女が八雲紫月さんですか」

「お前は?」

「七海建人。五条さんから貴女に常識を教えるように伝えられました。これからよろしくお願いします」

 

 一級呪術師。そして推定呪術師一の常識人七海建人。その人とのファーストコンタクトがここで行われた。

 

 





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八雲と七海


投稿遅れてすいません。
撃墜兄弟特別でライザップサトシで超必キメるのにハマってました。
ドスケベフレイムちゃんとKEN☆ZENシャイニングちゃんキツすぎるッピ!




(なるほど、地頭はかなり良いようですね)

 

 問題をスラスラと解答していく紫月の様子に七海建人はそう結論付けた。今、七海は簡単な四則演算から高校レベルの問題まで様々な数学の問題を用意し、それを紫月に解かせている。初め紫月は四則演算以上の知識を持ち合わせておらず、√やサインコサインなどに関しては全くの無知だった。が、しかしそれはあくまで概念を知らないだけで、七海が解き方を一度説明すれば後は少しも止まらずに問題を解き進めていた。

 

「これは一体なんの意味があるのよ」

「………常識とは、本来学ぶものではありません」

「質問に答えろ」

「質問に答える為の説明です」

「………」

「続けます。常識はあくまで身に付けるもの(・・・・・・・)。意識的にその常識を守ろうとする時点でそれは間違っている。それに、そもそも常識何てものは視点を変えればいくらでも変化します。日本の常識もアメリカから見れば非常識な部分がある。貴女が閉鎖的な環境で育ち、そこで身に付けた常識は、あくまで私達から見ると非常識なだけです」

「………あめりか?」

「………なるほど、それはおいおい教えます。簡単に言えば、住む場所、環境によって常識は変わるということです」

「そんなもの、不和しか生まれないだろう」

「そうですね。事実、昔はそれで戦争が起こったことすらあります。ですが今は国際化社会、技術の進歩で人は簡単に遠く離れた人とも関わりを持てるようになった。結果として、ある程度の常識の画一化(・・・・・・)が起こった」

「………要するに、私の持つ常識はその画一化された部分にすら届いていないと」

「そういうことです」

 

 はぁ、不快………と紫月が呟く。

 

「それで、どうしてこの問題を解くことに繋がるの?」

「常識を身に付ける上で最も簡単なのは学校に通うことです」

「がっこう………?」

「ええ、貴女はまだ高専に通う年齢にも届いていない。不安はありますが高専に来るまではそうするのが最善と判断しました」

「そこに女はいるの?」

「聞き方に疑問は尽きませんが、ええ、いますよ。男女共学の学校であれば普通に」

「男女共学………女だけの学校も「常識を学ぶ上で女子高は環境として不充分です」ちっ………」

 

 清々しいまでに欲望に忠実な紫月に、七海は思わずため息をもらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「98点です。学力には何ら問題ありませんね」

「ちっ、一問間違えた…………」

 

 その一問もケアレスミスだ。解き方を学んだ直後で数3レベルの問題までほぼ全問正解しているあたり相当に知力は高いと言える。

 

「学校に関しては適当な所を選んでおきます」

「問題は無いの?」

「何がですか?」

「お前ら、私のことを舐めすぎだ。私は紫様の血を引く存在だぞ?お前ら呪術師がそれを事実としているのかどうかは知らないけど、術式が同じことは認めざるを得ない」

「………」

「つまりお前らからすれば、私は特級相当の呪霊になりうる不確定要素。それを野放しにすることになると、理解できていないわけが無いだろ」

「………貴女がそれを心配する必要はありません」

「何故?」

「貴女が子供だからです」

「はぁ?」

「私達大人には子供を守る義務がある。それだけです」

「………」

「今日はこれで終わりにしましょう。入学などの手続きはコチラで済ましておきます。明日の予定は伊地知君に伝えておくので彼に聞いて下さい。では」

 

 それだけ告げて七海は部屋から出ていく。数分して、そこに入れ替わりで入ってきたのは伊地知だった。伊地知は部屋の中で中空を見つめながら考え込む紫月に首を傾げる。

 

「八雲さん、どうなさいましたか?」

「…………おい伊地知」

「はい?」

「敬意を払うに値する人間に対する相応しい態度を教えろ」

「え?は、はい、構いませんが………」

 

 奇しくも、紫月の成長を見ることとなったのだった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「紫月の調子は?」

「問題ありません」

 

 任務を終えた後、五条に高級焼肉店へ呼び出された七海は紫月に関することの報告をしていた。

 

「それで、要件は?」

「七海はせっかちだなぁ!もう少し先輩とのトークを楽しもうぜ?」

「要件は?」

「………案の定、上層部の動きがきな臭い」

 

 その言葉に七海は特筆反応は返さない。それは五条に紫月の教育を頼まれた時点で想定していたことだった。

 

「対応策はどうするつもりですか?」

「紫月はもう呪術師として登録はしておいた。とりあえず二級。んでもって僕と冥さんで一級に推薦しておいた。ついでに僕の権限フルで使って付き添いの術師を七海にした。これでしばらくは七海がそばにいる大義名分ができる」

 

 七海がそばにいれば流石の上層部も手は出せないでしょ!と五条。将来の不確定要素と現一級術師であり、その中でも高い実力を持つ七海では、現状その価値は確実に七海に傾く。その間に紫月を殺しうる程に強力な呪霊の任務を受けさせれば七海も死にかねない。

 

「刺客を送り込まれるのも七海がいれば抑制できる」

「その後は?」

「なぁに言ってんの?あの子は現状最も僕を殺せる可能性の高い術師だよ?それまでに特級殺せるぐらいに強くすればいいだけだよ」

「簡単に言いますね………」

「簡単だよ。紫月はもうゴールを見てるんだから」

「…………」

 

 八雲紫月の完成形(八雲紫)。辿り着くべき終着点を知っている、というのは呪術師にとって変え難いメリットだ。

 

「七海はゴールするまでの手助けをしてあげてよ。そんで特級になれば、上層部がちょっかいかけても意味が無くなる」

「特級ですか………」

「無理だと思う?」

 

 五条の言葉に七海は少しだけ考え、

 

「いえ、彼女なら容易く辿り着くでしょう」

「そ!だから僕達は辿り着くまで守ってあげればそれでいいんだよ。あ、七海呼び出しボタン押して」

「ご自分でどうぞ」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「夏油様」

「うん?」

 

 ある施設、そこにある自室にいた男、夏油傑は己の側近として仕える菅田に声をかけられ、思考から意識を浮上させた。

 

「少しお耳に入れたいお話が」

「言ってごらん」

「五条悟に娘が出来ました」

「!?」

 

 夏油傑。彼は呪術界最悪の呪詛師だ。だが初めからそうだった訳では無い。その詳細は省くが彼は五条悟と親友と言える間柄にいた存在でもある。だからこそ彼は五条という人間の性格を良く理解していた。故に今彼は人生最大、今後更新されることのないレベルの困惑に襲われていた。

 

「どういう………」

「ある少女を養子に取ったようです」

「その子の名前は?」

「五条紫月です。ただ………」

「うん?」

 

 言葉を濁した菅田に夏油は首を傾げる。しかし続く言葉に、その意味を理解した。

 

「少女自身は、自分を八雲紫月と名乗っているようです」

「っ!へぇ………」

 

 ニヤリ、と夏油の口が弧を描く。八雲の名は軽くない。その名を己のものと語り、その上で五条悟という最強の庇護に入れられた少女。その名が嘘にしろ真実にしろ何かあるのは確定だ。

 

「もう少し調べてくれ、私も別口で調べるよ」

「了解しました」

 

 部屋を出ていく菅田を見届けつつ夏油の表情はより深い笑みを浮かべていく。

 

「上手くコチラに引き込めないかな」

 

 一人の少女を中心に、大きな流れが生まれ始めていた。

 





サマーオイル傑登場。

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