月の少年と星に願う短冊 (ゆるポメラ)
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第0話 七夕祭りを一緒に

ゆるポメラです。
『月の少年とRoselia』で書こうと思ってたシナリオが偶然にも今回のイベントが出たので、このような形にしました。
ちなみに今作は『忘れられた月の彼方』では明かされてない主人公の秘密の1つをご案内します。

最後まで楽しんでいただけると幸いです。

それではどうぞ。


ここは羽丘女子学園(はねおかじょしがくえん)。歴史ある女子校である。

その放課後の廊下にて。

 

「んー……どうしよかなあー……」

「やっほ、ヒナ! どしたの? ヒナがそんな顔してるなんて珍しいね?」

「なにか考え事~?」

 

氷川日菜(ひかわひな)が考え込んでいると、クラスメイトの今井(いまい)リサ、明美瑠菜(あけみルナ)が声をかけてきた。

 

「あ、リサちーに瑠菜ちゃん。あのね、今週末に七夕祭りがあるの、2人は知ってる?」

「商店街でやるやつだよね? 知ってる知ってる!」

「わたしも知ってるよ~」

 

日菜が言ってる今週末に行われる七夕祭りの事については、2人は知っていた。

 

「あれにね、おねーちゃんと行きたいなって思ってるんだけど……」

「なるほど。誘いたいけど、断られそうだなって悩んでたってとこかな?」

「リサちー、なんでわかったの!? すごい!」

 

驚いた表情をしてる日菜を見て、

それは日菜ちゃんがしょぼ~んってしてたからだと思うよ~と瑠菜が付け足した。

 

「おねーちゃん、きっと忙しいよね。バンドとか、ギターとか……」

「誘ったりはしないの~?」

「……うーん。おねーちゃんとは一緒に行きたいけど、おねーちゃんの事、困らせたくないから……」

 

そうなんだ~と日菜に言う瑠菜。

 

「そうだ! 今日さ、Roselia(ロゼリア)の練習があるから紗夜(さよ)にそれとなく話してみるよ」

 

そんな日菜を見てか、リサが同じバンドメンバーで彼女の双子の姉である紗夜に聞いておくと言った。

 

「ホント!? リサちー、ありがとう……!」

「うん、期待してて♪ 一緒に行けるようになるといーね!」

「うんっ!」

 

じゃあ、よろしくねーと日菜は言うと、スキップをしながら行ってしまった。

その光景を見た瑠菜とリサは余程、嬉しいんだなーと思った。

 

「それにしても~……七夕祭りか~。もうそんな時期なんだね~?」

「そうだねー♪ あっ……悠里(ゆうり)は七夕祭りとかは行くのかな?」

 

リサが幼馴染みの名前を出した途端、瑠菜は複雑そうな表情をした。

 

「ゆうくんは多分……行かないって言うと思うよ。()()()()()()()()()だって言ってたし」

「え? でも悠里って、お祭りは好きだった筈だけど……」

「気になるなら、ゆうくんに聞いてみるといいかもよ~。練習終わりにでも」

 

まぁ……瑠菜がそう言うなら、紗夜に話してみる時に聞いてみよっかなと思うリサであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……そろそろ時間ね。今日の練習はこのへんにしておきましょう」

 

その放課後。

スタジオ併設型ライブハウス『CiRCLE(サークル)』にて。

 

Roseliaのボーカルであり、リサと悠里と瑠菜の幼馴染みである湊友希那(みなとゆきな)が言った。

 

「はいっ! お疲れ様でしたーっ!」

「お疲れ……さまでした……」

「ねえりんりん、今日の夜なんだけど……」

「うん……ギルド対抗戦……だよね? もちろん……参加するよ……」

「わあっ、やったー! ねぇねぇ、ゆうりんは?」

 

最年少のドラム担当の宇田川(うだがわ)あこが、キーボード担当の白金燐子(しろかねりんこ)と自分達がやってるゲームについて話す。

 

「……ごめん。この時期は忙しいから参加できないや」

「そっかー……」

 

遠目から見たら、少女にも見えなくもない中性的な少年、水無月悠里(みなづきゆうり)があこに言った。

彼は成り行きで友希那達が組んでるバンド『Roselia』の手伝いをしている。限られた時間だけだが。

 

ちなみに悠里は当初は断ったが、幼馴染みである友希那の熱意……他の4人にも負け、6人目のメンバー扱いとなっている……

 

「悠里さんはともかく、あの2人はいつも、家でゲームをしているのね」

 

ギター担当であり、日菜の双子の姉である氷川紗夜(ひかわさよ)があこと燐子を見て言った。

 

「あはは、そうみたいだねー? ……ね、紗夜ん家はいつも何してるの?」

「私……? 家では、別に……私は家に帰ってすぐ、自分の部屋でギターの練習か、勉強をしているわ。……そのくらいね」

「ふーん、そっかそっか。ヒナはどうしてるの?」

 

紗夜らしいなと思いつつ、日菜はどうしてるのと訊くリサ。

 

「……さあ……日菜のことはよく分からないわね……」

「じゃあ……ヒナと過ごすことってあんまりない……のかな?」

「……今井さん。一体何が言いたいの? さっきから歯切れが悪い質問ばかり……」

 

リサの言い方に違和感を感じたのか、紗夜が言う。

これは流石に隠せないかなーと思ったリサは正直に話す事に。

 

「実はさ、ヒナが紗夜と七夕祭りに行きたいって言ってたんだよね」

「日菜が……?」

 

それを聞いた紗夜は少し驚いた表情。

 

「うん。ヒナとあんまり過ごすことがないなら、この機会に、どうかなー? なんて……」

 

ちょうど練習も休みの日だしと付け足すリサ。

 

「……」

「あ、あはは! ごめんごめん! なんかアタシ、おせっかいだよね。紗夜の言う通り、歯切れ悪いっていうか……なんか、ゴメン!」

「わ、私は……そういう催しに興味ありませんから。それよりも、ギターの腕を磨くことのほうが……」

「……そっか……あはは、そうだよね! まあ、紗夜もさ、たまにはヒナと過ごすのもいいかな~なんて思ったら、さ……」

 

静まり返るこの空気。

絶対に余計な事をしちゃったと同時におせっかいも程々にしないと……と思うリサ。

 

「(日菜と2人で一緒に過ごすなんて……私は……)」

 

一方で紗夜も、今の自分には到底無理な事だと思っていた……

 

「…じゃあ僕は先に帰るから」

 

幼い頃から愛用している特注のショルダーキーボードをしまい終わり、5人に先に帰ると言う悠里。

ドアノブに手をかけ、扉を開けようとする彼にリサは瑠菜が言ってた事を思い出し……

 

「あ。悠里、あのさ……」

「……?」

「悠里は七夕祭りとかは行かないの……?」

 

そう彼に訊く。そして一瞬黙った後……

 

「……行きたくない。そもそも七夕祭りなんて……大嫌いだ」

 

表情は隠れてよく視えないが、吐き捨てるように言った後、その場から逃げるように帰ってしまった。




読んでいただきありがとうございます。
更新は注意書きにも書いてありますが、速かったり遅かったりです。
次回もよろしくお願いします
本日はありがとうございました。


※主人公とオリキャラの簡単なプロフィールです。


水無月悠里(みなづきゆうり)


容姿イメージ:『らき☆すた』の岩崎みなみ

誕生日:12月12日、いて座

血液型:A型

一人称:僕


明美瑠菜(あけみルナ)

容姿イメージ:『テイルズオブエクシリア』のエリーゼ・ルタス

誕生日:11月11日、さそり座

血液型:O型

一人称:わたし


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第1話 日菜の願い

ゆるポメラです。
前回の続きになります。

それではどうぞ。


「ただいま」

 

練習を終え、自宅に帰宅した紗夜。

…夕飯を食べ終えたら、ギターの練習と生徒会の資料も纏めないと……

 

「おねーちゃん、お帰り!」

「日菜……ただいま」

 

そんな事を考えてると、日菜がリビングにやって来た。

 

「あのね……っ! おねーちゃんに話があって、待ってたんだ!」

「話?」

 

日菜は紗夜に話があると言う。

一体、何の話なんだろうか……?

 

「あ、あのさ! 商店街の七夕祭り、一緒に行かない?」

「(……っ! 今井さんが言っていた……)」

 

その内容は、今日の練習終わりにリサが言っていた事だった。

 

「週末にあるんだよ! クラスでもその話題で持ち切りなんだー。もちろん、あたしもるるん! って楽しみにしてて!」

「……そ、そう」

「そ、それで……その……おねーちゃん、一緒に行かない?」

 

なんとなく……本当になんとなくだが、日菜は紗夜を誘ってきた。

 

「そういうお祭りってたくさん人が来るのよね?」

「えっと、それは……そうだけど……で、でも! な、なんかライトアップとかもあって、商店街の人達がんばってるんだって! きっとおねーちゃんも、るん! ってなると思うよ~」

「わ、私は、人混みが苦手だから……」

 

そう。紗夜は人混みが苦手なのだ。

 

「えっ……で、でも……っ! 屋台もいっぱい出るって聞いたよ! りんご飴とか、焼きそばとか、射的とか……あと、えっと……あ! パレードもあるって聞いたよ!」

「パレード……?」

「うん! 子供達が織姫と彦星の仮装して歩くんだって!」

 

ピピッて感じがするし、あたし見たいな~と言う日菜。

 

「……悪いけど、私は遠慮しておくわ。別の人を誘ったら?」

「おねーちゃん……?」

「私よりも、今井さんや同じバンドの丸山(まるやま)さん達と一緒に行ったほうがきっと、楽しいわよ」

 

さっきも言ったけど、自分は人混みは苦手だし、屋台の食べ物もあまり得意ではないからと付け足す紗夜。

 

「……そっか。おねーちゃん、ごめんね? 無理に誘っちゃって……」

「いいえ、いいのよ。それじゃあ私は、部屋でやることがあるから」

 

それだけ言うと部屋に行ってしまう紗夜。

 

「…………」

 

そんな姉の背中を見て。

 

「あたしは、おねーちゃんと行きたいのになあ……」

 

ポツリと寂しく呟く日菜だった。

 

「……(日菜のあの顔……少し、悪いことをしたかしら)」

 

自室に入ってからも、先程の妹の表情を思い出す紗夜だった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はあ……結局おねーちゃん、OKしてくれなかったなあ……」

 

そして週末。七夕祭り当日。

分かっていた事だが、紗夜を誘う事ができなかった日菜。

ダメ元で最後にもう一回声、かけてみようかと思い、姉の部屋に向かう事にした。

 

「おねーちゃ……」

「……」

「ギターの練習、してる……」

 

部屋ではギターの練習をしてる紗夜がいた。

邪魔したらダメだと思った日菜は……

 

「……仕方ない、かあ。七夕祭り、1人で少し見てこようかな……」

 

本当は紗夜と行きたかったが、1人で七夕祭り見ていく事に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

同時刻。水無月家。

 

「……(はあ、寝過ごした……)」

 

Roseliaの練習もなく、珍しく二度寝した悠里。

私服に着替えリビングに向かうと……

 

「にゃ~♪」

「わんっ♪」

「……おはよ。メル、メラル」

 

愛猫のメルと愛犬のメラルが悠里を出迎えてくれた。

この2匹は元々、悠里が高校1年になる春休みの時、旅行に行った帰りに海岸で捨てられていて、瑠菜と他4人で動物病院に連れて行ったのがきっかけ。

ある程度、回復した時に何故か悠里に懐いてしまったのである。

 

2匹は性別がメスで、種類はミックス種。

猫のメルが『ノルウェージャンフォレストキャット』と『メインクーン』のミックス、犬のメラルが『ポメラニアン』と『パピヨン』のミックスという珍しい種類。

 

ちなみに悠里は幼い頃から、特定の動物と会話ができる為、2匹の言葉も分かるのである。

 

「……今日が七夕祭り……か」

 

よく耳を澄ますと、商店街の方角から賑やかな声が聞こえた。

あぁ……そういえば今日が七夕祭りだったっけ……と溜息を吐きながら思う悠里。

 

「…ん。遅くなったけど、ご飯だよ」

「にゃ~」

「わん」

 

2匹の食事を用意しつつ、冷蔵庫に入ってた缶コーヒーを飲む悠里。

一応、ブラックコーヒーである。

そういえば、商店街で屋台があったような気がしなくもないが……

 

「……ああは言ったけど……」

 

練習の終わりに、リサ達に自分は七夕祭りが大嫌いだと言ってしまったが厳密には違うのである……

 

「……商店街に行くだけ……と思うなら行ってもいいよね……」

 

その考えでいこう。

そう思った悠里は部屋に戻って支度をし、食事中なのに見送りに来た2匹に出かけてくるねと言い、外に出るであった。




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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第2話 すれ違う二人

ゆるポメラです。
前回の続きになります。

それではどうぞ。


七夕祭りが行われている商店街に来た日菜。

そこでは、たくさんの人達が商店街を行き来していた。

 

「わあ~、すっごい人! けど、たのしそーっ! まずはどこからまわろーかな? 一番るんっとくる場所から……」

 

最初はどこから回ろうかと思った時、急に雨が降り出した。

 

「……わわっ、雨!? 嘘でしょ~!? 傘なんか持ってないよ~!」

 

突然の雨に、日菜は雨宿りができそうな場所に向かうのだった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いらっしゃいませー! ……って、日菜ちゃん!」

「あれっ? (あや)ちゃん! 何してるの?」

 

ファーストフード店にやって来た日菜。

店員が、同じバンドメンバーの丸山彩(まるやまあや)を見て驚く。

 

彩もお客が日菜だとは思わなかったが。

 

「ここでアルバイトしてるんだ。最近はあんまり出られてなかったんだけど……」

「そうなんだ。あたしはお客さんー♪ ちょっと雨宿りさせてー」

 

なるほど。そうだったんだーと彩の説明に納得する日菜。

 

「もちろんっ! せっかくの七夕祭りなのに、残念だね。日菜ちゃんは、誰かと一緒?」

「……ううん。おねーちゃんを誘ったんだけど、断られちゃった」

 

それを聞いて、残念だったねと言う彩。

 

「ま、しょーがないよね~。ところでところで、彩ちゃんのオススメはある?」

「そうだなあ……あっ、今ポテトの増量キャンペーンをやってるの! Mサイズの値段でLサイズのポテトが食べられるんだよっ!」

「いいねー、るんっとくるキャンペーンだね! じゃあ、それとコーラにしようかな」

 

ポテトの増量キャンペーンをやってると聞いて、るんっとした日菜は、それを注文する。

 

「はーい! ポテトLとコーラ、お願いしまーす!」

「は、はーいっ! かしこまいりました!」

「あれは、花音(かのん)ちゃん? 花音ちゃんもバイトしてたんだ」

 

奥から、彩と同じ学校に通ってる少女、松原花音(まつばらかのん)の姿を見つけた日菜。

 

「うん、そうだよ! それじゃあ、ポテトは揚げたてをもっていくから、席でお待ち下さい♪」

 

注文を終えて、彩にそう言われた日菜は、空いてる席を見つけ座る。

 

「……はあ。雨はやんだみたいだけど……全然、七夕祭りの気持ちになれないなー……」

 

外を見ると、いつの間にか雨はやんでいた。どうやら通り雨だったようだ……

しかし、とても七夕祭りを楽しめる気分じゃない。

 

もう帰ろうかな……と、日菜がそう思った時だった。

 

「(あれっ? 悠里くんだ)」

 

なんとなくレジの方を見ると、そこに見覚えのある人物の姿があった。

 

悠里だった。彼も雨宿りなのだろうか?

 

レジの対応してたのは、花音だった。

何かを話してるのは確かだが、内容は聞こえない。

しかし、日菜が見る限り、悠里の表情があまりよくなかった……

 

どうやら彼は、テイクアウト(お持ち帰り)するらしい。

頼んだ品を受け取ると、外に行ってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……すごい人だと思ったら、今日は七夕祭りの日なのね。早く頼まれた買い物を済ませて帰らないと……」

 

母から買い物を頼まれて商店街に来た紗夜。

それにしてもすごい人混みだと思ったら、七夕祭りだという事を思い出した。

 

「(日菜……誰かと七夕祭りに来ているのかしら?)」

 

日菜の事を思い出すと同時に、やっぱりこういう雰囲気は苦手だと思う紗夜。

 

そういえば七夕祭りで思い出したが……

 

『そもそも七夕祭りなんて……大嫌いだ』

 

日菜に誘われた日の練習終わりに、悠里がそう言ってたのがふと浮かんだ。

彼が帰った後、友希那とリサが何か引っかかるような表情をしてたのは今でも覚えてる。

 

「あら? あそこにいるのは、日菜……?」

 

そんな事を考えていると、日菜を見つけた。

 

「日菜……っ! 人が多すぎて声が届かない……!」

 

声をかけてみるが、人が多いせいで紗夜の声は届かなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はあ……日菜、どこへ行ったのかしら」

「あれ? 紗夜ちゃん!」

「丸山さん。それに、松原さん」

 

日菜を探していると、彩が声をかけてきた。その隣には花音も。

 

「こんにちは。紗夜ちゃん、どうしたの?」

「私は、母から買い物を頼まれて……それより丸山さん、日菜に七夕祭りに誘われなかった?」

「私? ううん。私は元々今日バイトのシフトだったから。それに、日菜ちゃん、紗夜ちゃんと七夕祭りに行けなくて残念がってたよ?」

「日菜が……?」

「うん。さっきお店に雨宿りに来てくれたんだけど、その時にそんな風に話してたよ」

 

彩に七夕祭りに誘われなかったかと訊ねる紗夜に、彩は元々バイトのシフトだったし、先程の出来事を紗夜に話した。

 

「そう……私は人混みやお祭りの雰囲気が得意ではないから、丸山さん達を誘ったほうがいいと言ったんだけど……」

「紗夜ちゃん。日菜ちゃんはきっと、私達じゃなくて、紗夜ちゃんと一緒に行きたかったんだよ!」

「う、うん……! 私もそう思うよ。雨宿りをしてる時の日菜ちゃん、ちょっと寂しそうだったし……」

「日菜……」

 

彩の言葉に花音も自分もそうだと思うよと言った。

それを聞いた紗夜は、彩と花音に母から買い物を頼まれてるから、これで失礼するわと言った後……

 

「日菜のこと……教えてくれてありがとう」

「ううんっ! それじゃあね!」

 

2人にお礼を言って、その場を後にするのであった。

 

「紗夜ちゃんと日菜ちゃん……大丈夫かな?」

 

紗夜と別れた後、花音が心配そうに彩に言う。

 

「うーん……どう、だろう……? 日菜ちゃん、紗夜ちゃんの話になるといつもと違う感じになるんだよね」

「そうなんだ?」

「うん……さっきの日菜ちゃんも、寂しそうだったでしょ?」

「確かに、そうだったね……」

 

彩と花音は、ポテトを食べてる時の日菜をチラッと見たが、表情が明らかに寂しそうだったのを思い出した。

 

「2人に何があったのかは分からないんだけど……なんだかすれ違ってる感じがして……」

「ちょっと、心配、だね……」

 

少なくとも、彩が見た時は、そんな風に感じたのだ。

 

「そういえば……悠里くんもさっき来てたよね?」

「う、うん」

 

ふと、思い出しかのように彩が呟く。

自分はポテトを揚げていたので、花音が代わりに対応してくれたのだ。

 

「なんか……悠里くん、七夕祭りがあんまり好きじゃないって言ってて……」

「え? そうなの?」

「うん。でも悠里くんって、お祭り自体は好きな筈だから、腑に落ちなくて……」

 

彩の疑問に花音がそう話す。

花音がそう言うのだから間違いないのだろう。花音と悠里は幼馴染みだから。

それに彩も去年、悠里には色々とお世話になったから、彼の性格もそれなりに把握してる。

 

「それで気になって、嫌な事でもあったのって聞いたの……そしたら……」

「そしたら?」

 

彩が花音に続きを促す。花音はちょっと言いにくそうに口を開く。

 

「今日の七夕祭り……()()()()()()()()()()()()なんだって……」

「えっ……」

「それで……悠里くんが七夕祭りがあんまり好きじゃないって意味が……なんとなく……分かっちゃって」

 

今まで見た事ないくらい辛そうな表情をしてたよ……と付け足す。

それを聞いた彩は……

 

「そう……だったんだ……(あの言葉、そう言う意味だったんだ……ね……)」

 

以前、悠里が彩に言ってた言葉の意味を理解してしまうのだった。

 

 




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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第3話 短冊の行方

ゆるポメラです。
前回の続きになります。

それではどうぞ。


「ん~……なんだかるんっとしない1日だったなあ。早く家に帰って、ゆっくりしよう……ん?」

 

雨がやんだので再び商店街を歩いていた日菜。

なんか今日は散々な日だったので、このまま家に帰ろうかと思った時、何かを見つけた。

 

「『短冊に願いを』……? へえ、おもしろそうっ!」

 

それは短冊だった。

『ご自由にお書きください』と書いてあるので、せっかくだし、書いていこうと思った日菜。

 

「えっとー、お願いごとはもちろん……(今日はおねーちゃんと一緒に七夕祭り、まわれなかったけど……でも……!)」

 

本当は紗夜と一緒に七夕祭りをまわりたかったが、せめて短冊にお願い事を書く事にした。

 

「よしっ、書けた! えっへへ~。叶うといいな~♪ あとは短冊を笹の葉に……」

 

願い事を書き終わった日菜は、叶うといいなと思いながら、書いた短冊を近くにあった笹の葉に付けようとした時だった。

 

「日菜?」

「おねーちゃん……!?」

 

紗夜が声をかけてきた。

突然の事に日菜はびっくり。

 

「こんなところで何をしているの?」

「あはは……おねーちゃんに断られちゃったから、1人で七夕祭り、見て回ろうと思って。雨であんまりまわれなかったけど」

 

苦笑いしながら紗夜に説明する日菜。

 

「おねーちゃんは?」

「私は……お母さんから買い物を頼まれたから。七夕祭りに用はないわ。その手に持っているものは?」

「短冊! お願い事を書いてたんだ~」

 

母から買い物を頼まれただけと答える紗夜。

日菜の手に持ってる短冊を見て、日菜はついさっきまでお願い事を書いてたんだと紗夜に言った。

 

「そう……」

「……」

「……」

 

お互いに会話が途切れる。

しかも、気まずいし、空気が重い……

 

「おねーちゃん、あの……わわっ!?」

「日菜、一体……!?」

「おねーちゃん、大変~~!! あたしの短冊、鳥がくわえて持って行っちゃった!」

 

日菜が紗夜に何か言おうとした瞬間、彼女の持ってた短冊を鳥がくわえて持って行ってしまったのだ。

 

「ほら、あの鳥!!」

「書き直せばいいじゃない。何をそんなに……」

 

何をそんなに日菜は慌てているのか。そもそもまた書き直せばいいじゃないかと言う紗夜。

 

「待って~!! あたしの短冊~!!」

「日菜、無理よ!」

「やだよ! あの短冊にはすっごくすっごーく大事なお願いを書いたんだから!」

 

短冊をくわえて行ってしまった鳥を追おうとする日菜。

紗夜が無理だと言って止めるが、日菜は嫌だよと言って聞こうともしなかった。

 

「だから、取り返したいの!!」

 

そう言うと日菜は、短冊をくわえて行った鳥が飛んで行った方角に向かって、走って行ってしまった……

 

「ちょっと、日菜……っ! ああ、もう……!」

 

溜息を吐きながらも、妹の後を追う紗夜だった。




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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第4話 懐かしい場所

ゆるポメラです。
今回は、ちょっとオリジナル要素が入ります。
ご了承ください。

それではどうぞ。


「はぁ、はぁ、はぁ……ううー……こっちに飛んでいったところまでは追えたのに、結局見失っちゃったよー」

「はぁ、はぁ……だから言ったじゃない。鳥を追うなんて無理だって……あら?」

 

鳥に持っていかれた短冊を追う日菜と紗夜。

公園の方まで飛んで行ったところまで追いついたはいいが、結局見失ってしまった……

 

紗夜がそもそも鳥を追う事自体、無理でしょと言いかけた時、公園のベンチに誰かが座ってる事に気づいた。

 

「……」

「悠里さん(くん)?」

「……紗夜ちゃん? それに……日菜ちゃん?」

 

悠里だった。

紗夜と日菜の声に気づいたのか、2人の方に振り向いた。

 

「…何してるの? 息切らしてるけど……」

「あ、いえ、その、これは……」

「ねーねー、悠里くん、短冊をくわえた鳥って見なかった?」

 

何て答えようかと思ってる紗夜をよそに、悠里のところに行き、短冊をくわえた鳥を見なかったかと訊く日菜。

 

「…短冊をくわえた鳥は知らないけど、短冊を落としていった鳥なら知ってるけど」

 

短冊ってこれでしょ?と、拾った短冊を渡しつつ、日菜の質問の答えを斜めに返す悠里。

 

「うん、これだよ!! よかったー!」

「……よく分からないけど……見つかってよかったね」

「うんっ! ……はあーっ……でも、走り回ったから疲れちゃったよ」

 

日菜の言葉を聞いた悠里は、紗夜に走り回ったってどういう事?と訊ねる。

その疑問は尤もだと思った紗夜は、粗方の説明を悠里に話す。

 

その話を聞いた悠里は、休んでいけば?と日菜と紗夜に言い、2人はお言葉に甘えて休んでいく事にした……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

お互いに何を話していいか分からない紗夜と日菜。

そんな時……

 

「……えい」

「「ひゃあっ!?」」

 

缶ジュースを2つ持った悠里が紗夜と日菜の頬に缶ジュースをピタッと押し付けた。

突然襲ってきた冷たさに紗夜と日菜は変な声を上げてしまう。

 

「…一度はやってみたいやつ。そのジュースは僕の奢りなのです」

「もー、嬉しいけど、急にやられるとびっくりするってばー!」

「あ、ありがとうござい……ます……」

 

頬を膨らませてる日菜に対し、紗夜は悠里の前で変な声を上げてしまい顔を真っ赤にしてしまう。

 

「…それにしても、昼間は友希那ちゃんとリサちゃん、夜は紗夜ちゃんと日菜ちゃんが来るなんて、今日は色んな意味で珍しい日……」

「え? リサちーと友希那ちゃんも来てたの?」

「…うん。さっきも言ったけど、昼間……いや、厳密には夕方近くか」

 

日菜の疑問に答える悠里。

彼曰く、ファーストフード店に行った後、この公園で過ごしていたら、友希那とリサが来たとの事。

なんでも、七夕祭りでお互いにはぐれてしまい、小さい頃に迷ったらこの公園に来てたからそうしてたとの事。

所謂、幼馴染みの勘だよと付け足す。

 

「悠里くんは七夕祭り行かないの? リサちーと友希那ちゃんと幼馴染みなんでしょー?」

「ちょっと日菜……」

「……嫌いなんだよ。七夕祭り」

「なんで?」

 

練習終わりの時の悠里を思い出した紗夜は、理由を知らない日菜を止めるが、日菜はなんで?と訊く。

 

「……命日なんだよ。七夕祭り。僕の双子の弟の」

「「え……」」

 

その言葉を聞いて悠里を見る紗夜と日菜。

 

「…別に()()()()()()()()()()……でも、死んだ事には変わりないから……だから七夕祭りは好きじゃないんだ。それでも嫌いになれないんだよ。七夕祭り」

「じゃあなんで……?」

「……嫌いなんて言ったのかって?」

 

日菜の表情を見て解ったのか、悠里が言い当てる。

隣で聞いてた紗夜も、その話だけだと、練習終わりに悠里が言ってた事と矛盾してしまうのだ……

 

「……弟が……汐里(しおり)が、七夕祭りが好きだったから。皮肉にも忘れられないんだよ」

「「…………」」

 

淡々と話す悠里。

 

「日菜ちゃんを見てるとさ、汐里の事を思い出すんだよ」

「あたし?」

 

突然、自分の事を言われポカンとする日菜。

 

「…うん。日菜ちゃんは汐里によく似てる。汐里も日菜ちゃんみたいに、るんって言ったり、天才……かどうかは分からないけど、他人の気持ちとかに聡い子」

「……」

 

それを聞いた日菜は、他人のような気がしなかった。

逆に会ってみたかったな……という気持ちが強かった。

 

「それより日菜ちゃん、短冊。笹の葉に付けなくていいの?」

「えっ……あ、忘れてた……」

 

えへへ……と言いながら悠里の指摘に気づく日菜。

やっぱり忘れてたかと言いつつ、自分もそろそろ商店街に行く予定だったからと付け足す悠里。

 

「えへへ、今日はすごい日だったから、ぎゅいーんって、いい夢を見られそー」

「いい日? 雨に降られるし、鳥に短冊を持って行かれるし、散々だったじゃない」

「そんな事ないよ! 悠里くんだって、ぎゅいーんって、いい夢を見れると思うでしょー?」

 

妹の言葉に紗夜は、どこがいい日なのかと言う。

そして今度は悠里くんもそう思うでしょー?と訊くと……

 

「……はいはい。()()()()()()()()()()()。あのね? 日菜ちゃんはそうかもだけど、紗夜ちゃん的には散々な日なの」

「えー……そういうものなのー?」

「うん。そういうもの」

「……」

 

日菜が明確に言いたい事が解ってるのか、悠里は独自の言い回しをしながら、そう言った。

その時の表情は、妹や弟を窘める姿に紗夜には視えた。




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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第5話 二人を結ぶカササギ

ゆるポメラです。
前回の続きになります。

それではどうぞ。


「ねえー、知ってる? 七夕の日に雨が降った時は、カササギっていう鳥が橋を作って、織姫と彦星が会えるようにするんだって」

 

3人で商店街に戻る途中、日菜がそんな事を言った。

もしかしたら短冊をくわえた鳥はカササギかもねと付け足しながら。

 

「カササギ?」

「白黒の鳥なの。サギってつくけど、カラスの仲間なんだよ」

「そうなのね。その話、初めて知ったわ」

「…あれ一応、カラスの仲間だったんだ……それは僕も初めて聞いたよ」

 

カササギの生態について初めて知ったと言う悠里と紗夜。

 

「この間、花咲川と羽丘との合同で、天文部の部活動やった時にこころちゃんに教えてもらったんだ!」

「日菜、天文部に入ってたのね」

 

まあ、合同の部活動といっても、花咲川の部員はこころちゃんだけで、羽丘の部員はあたしだけしかいないんだけどねと苦笑い気味な日菜。

ちなみに彼女が言ってる『こころちゃん』というのは、弦巻(つるまき)こころという人物で、悠里も話した事はある。

 

どんな人物か一言で説明すると、『笑顔という感情の具現化、もしくは精霊か女神』というのが悠里の認識である。

 

一方で紗夜は、そういえば、自分は日菜の事をほとんど知らないという事を思い出す。

……今までずっと、日菜から避けていたから。

 

「うん! さっきも言った通り、部員はあたしだけだし、天文部は『変人の住処』なんて言われて誰も寄り付かないんだけどね」

「……まあ、日菜が部員ならそうなるでしょうね」

「……あー、それは僕もなんとなく分かる気がする」

「えー! それ、どういう事ー!? もう、おねーちゃんてば! 悠里くんも!」

 

頬を軽く膨らませながら紗夜と悠里に抗議する日菜であった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「わあっ……! 見て見て! ライトアップされてて、すっごくキレイ!」

「本当だわ。見慣れた商店街が、こんなに変わるなんて」

「……この光景を見るのもいつぶりだろ」

 

商店街に着くと、ライトアップされていた。

 

「あっ、屋台もでてる! おいしそー♪」

「…というか、昔より屋台の種類が増えてない? 僕の気のせいかもだけど」

 

近くの屋台を見て日菜が言う。

小さい頃の時より屋台の種類が増えてるのは気のせいかと悠里は首を傾げながら呟いた。

 

「あの……おねーちゃん……」

「……仕方ないわね。お母さんには私から連絡をいれるから。ただし、あまり遅くなってはダメよ」

「やったあ! ありがとう、おねーちゃん♪」

 

日菜の言いたい事が解ったのか、あまり遅くならないようにと言う紗夜。

 

「何がいいかなっ? おねーちゃん、何がいい? 半分こしようよっ!」

「私はあまり、屋台の食べ物は得意じゃないから……」

「あっ! たこ焼きは? これなら半分こしやすいよねっ?」

「……ちょっと日菜、話を聞いてるの?」

 

そんな氷川姉妹のやり取りを見て……

 

「日菜ちゃん、たこ焼きもいいけど、半分こしたいなら、あそこの屋台のたこ焼き屋がオススメだよ。『双子たこ焼き』っていう裏メニューがあるから」

「悠里さん!?」

「なにそれー♪ るんってするー♪」

 

真顔でオススメの屋台を日菜に教える悠里。

紗夜は驚き、日菜は瞳をキラキラさせていた……

 

「じゃあ悠里くんオススメのそれにしよー♪ おねーちゃんと半分こ♪ あたし、買ってくるねー!」

 

そう言って、裏メニューのたこ焼きを買いに屋台へ向かう日菜。

 

「……本当に、仕方ないわね……」

「……そういう所も含めてほっとけないんでしょ? 姉としては」

「そうですね……」

 

裏メニューを注文してる日菜を見て呟く紗夜と悠里。

 

「…注文する流れまで、汐里にそっくりだな……日菜ちゃん」

「? そう、なんですか?」

「うん」

 

特に仕草が日菜に似てるという悠里。

それを聞いた紗夜は、悠里の双子の弟はどんな人物なのかと考えていた。

 

「おっまたせー! あれ? ふたりともなんで笑い合ってるの??」

 

すると、例のたこ焼きを買ってきた日菜が戻ってきた。

日菜は悠里と紗夜が笑い合ってる理由を訊いてきた。

 

というか、自分達は笑っていたのかと目線で会話する悠里と紗夜。

 

「なになに、なんの話をしてたの? あたしにも教えてー」

「……内緒」

「内緒よ」

 

なので、とりあえず内緒だと悠里と紗夜は答えた。

 

「えー! 気になるから教えてよ~」

「悠里さんとの秘密だから」

「…ふむ。僕はちょっと、そこの屋台でベビーカステラを買ってくるよ」

 

すぐ戻るよと言って、ベビーカステラを買いに行った悠里。

 

「…………」

「まだ、拗ねてるの? 日菜」

「だって、あたしだけのけ者にするんだもん。ずるいよ、おねーちゃん達だけー」

「別にのけ者にしてるわけじゃないわよ」

 

未だに拗ねてる日菜に紗夜は別にのけ者扱いしてる訳じゃないと言った。

 

「…ほいほい。ただいまなのです。日菜ちゃん、まだ拗ねてるの?」

 

そんな話をしてる内に悠里が戻ってきた。

紗夜に訊くと、ご覧の通りですと言われた。

 

「…………」

「…やれやれ。ちょっとだけなら教えてもいっか。日菜ちゃんは汐里にそっくりだなーって話だよ」

「えっ、そうなの?」

「うん。それ以上は内緒。紗夜ちゃんとの秘密だし」

「えー! 悠里くん教えてよ~」

 

気になるから教えてよ~と言う日菜に、悠里は紗夜との秘密だからと言うのであった。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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第6話 紗夜と悠里の願い、そして……

ゆるポメラです。
今回で最終回になります。
サブタイもちょっとだけ変えてみました。

それではどうぞ。



「んーっ、あったかくておいしー♪」

「日菜、こぼさないように気をつけなさい」

「だいじょーぶっ!」

「…いや。日菜ちゃん、口の右下にソースと青海苔が付いてるから……」

「えっ、嘘っ!?」

 

七夕祭りを一緒に楽しむ悠里と紗夜、日菜の3人。

悠里の指摘にそんなバカな!という表情をする日菜。

 

「そういえば、日菜ちゃん。短冊は飾らなくていいの?」

「あ、そっか! 忘れてた!」

「はあ……それじゃあ、あんなに走ったのはなんだったのよ」

 

悠里の一言で本来の目的を忘れてた日菜。

妹の反応を見て、あの時あんなに走った自分はなんだったと溜息を吐く紗夜。

 

「えへへ。ごめんごめん! ねえ、せっかくだからおねーちゃんと悠里くんも短冊、書いたら?」

「私は別に……」

「僕も別に……」

「いーじゃん、いーじゃん! ほら、あそこに書くスペースあるよ!」

 

短冊を書く事を渋る2人に、あたしは書いてる間に自分の短冊を飾ってくるからと言い残して行った……

 

「日菜! ……はあ……」

「……行っちゃったね……」

 

気は進まないが、悠里と紗夜は短冊が書けるスペースに向かう事に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……(願い事なんて……思いつかない)」

「……(流れで書く事になっちゃったけど……そもそも思いつかないし)」

 

短冊と軽く睨めっこする悠里と紗夜。

お互いに願い事というのが、思いつかないのだ……

 

「どの辺に飾ろうかなーっ! あたしのお願いごと♪」

 

日菜を見ると、短冊をどの辺に飾るか探してる最中だった。

 

「(ギターが上達しますように? バンドが成功しますように? ……何か違う)」

「(…歌が上達しますように? それとも、何回もループしてる自分の運命を変えられますように? ……何か違うな。そもそも七夕の神なんて当てにしてないし)」

 

とりあえず願い事を挙げてみる紗夜と悠里だが、何か違った。

 

「「((……そうだ))」」

 

ふと、ある事が浮かび、2人は短冊にペンを走らせた……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おねーちゃん、悠里くん、短冊書けた?」

「ええ。もう飾ったわ」

「うん。僕も飾った」

 

日菜が戻ってきて、紗夜と悠里に短冊は書けたのかと訊くと、2人はもう飾ったと言った。

 

「えっ、どれどれ?」

「日菜に見つからないような場所に飾ったわ」

「僕も紗夜ちゃんと同じ。そういう日菜ちゃんは飾れたの?」

 

自分達の短冊を探す日菜に、紗夜と悠里はそう言った。

 

「あたしはね……飾らなかった」

「えっ、どうして?」

「……」

 

悠里の言葉に日菜はそう答えた。

それを聞いて、紗夜は驚いた。訊いた悠里でもさえも驚いた……

 

「あたしのお願い……もう叶っちゃったから♪ えへへ」

「? どういう事?」

「……(なるほどね)」

 

紗夜は分かってないようだが、悠里は日菜の表情を見て解った。

 

「短冊にね、『おねーちゃんと仲良く過ごせますように』って書いたんだ。そうしたら、今日、叶っちゃった」

「日菜……!」

「…そっか。願い事、叶って良かったね?」

「うん! やっぱり今日って、すっごくいい日だよ♪ だからきっと、おねーちゃんと悠里くんが書いたお願いごとも叶うよ!」

 

笑顔で紗夜と悠里に言い切る日菜。

 

「ええ、そうね……いつか……私の願い事も叶う気がするわ」

「そうだね……いつか紗夜ちゃんの願い事も叶うかもね」

 

時間はかかりそうだけど……と、心の中で思う悠里。

彼女の願い事も実は検討がついてるのだ。

 

それは……

 

「(『日菜とまっすぐ話せますように』。きっといつか……叶えられたら────)」

 

という願い事だった。

紗夜ちゃん、顔に出やすいよって言ったら拗ねるかもしれないので、言わないでおく。

 

「日菜ちゃん。あそこに短冊が残り1枚あるから、もう1つ願い事、書いちゃえば?」

「あっ! ほんとだー! せっかくだから、あたし、書いちゃおーっと♪」

 

悠里が日菜にそう言った。

偶然なのか分からないが、水色と紫色が混じった珍しい短冊がポツンとテーブルに置いてあった。

 

「最後の1枚の短冊、どんなお願いごとにしよーかな……? そうだ♪」

「あの子、何を書いてるんでしょうね……」

「うーん……紗夜ちゃんと遊べる日が多くなりますように……とか?」

「それ、本当に書きそうですね……」

 

いつも以上に、るんるん♪と言いながら短冊に願い事を書く日菜。

その姿を見て何を書いたのか予想する紗夜と悠里。

 

書き終わった日菜は笹の葉に短冊を飾り、こちらに戻って来た。

 

「日菜、願い事、何を書いたの?」

「うん♪ 短冊にね、『汐里くんと友達になりたい』って書いたんだ」

「えっ……」

 

紗夜の質問に日菜は悠里を見ながらそう言った。

それを聞いた紗夜……特に悠里は驚いていた。

 

同時に思った。なんで彼女は短冊にそう書いたんだろうと……

 

「悠里くんから話を聞いた時……あたし思ったんだ。会ってみたいなって……」

「日菜! あなた、悠里さんの話を聞いてなかったの?」

「……紗夜ちゃん待って」

 

無茶苦茶な願い事を書いた妹に、紗夜は日菜が書いた短冊を取りに行ってきなさいと言いかけたが、悠里がそれを制止した。

 

「……もし仮に叶うとしたら、汐里の……友達になってくれるの?」

「うん♪」

 

その偽りない言葉は悠里でも解った。

実は生前、汐里は同年代の子達から変な目で見られていたのを悠里は知っていた。

 

 

どうして僕には友達ができないの……?

 

 

…僕がなんでもできちゃうから……?

 

 

ひっく!……大人の人達も僕が悪いんだって言うよぉ……

 

 

今でも悠里は覚えてる。

自分に弱音を言う汐里の姿を。

……人間は自分と違う物に嫌悪する。まだ幼かった汐里には辛過ぎたのだ。

 

推測だが、日菜も天才が故に汐里と似た経験をした筈だ。

けど、決定的な違いがあった……

 

それは男女の差で変わる評価……所謂、『男女差別』というやつだ。

 

自分も経験した事があるから解る。

尤も自分の場合は中学の時『落ちこぼれ』と『お前なんか死ねよ』という扱いだったが。

 

だから今日の七夕祭りに日菜が書いてくれた願い事と向き合わないといけないかもしれない……

 

「…そっか。汐里、()()()()()()()()()?」

『あはは……おにーちゃん、やっぱり気づいてたんだ……』

「「えっ……?」」

 

悠里の呼ばれた声に答えるかのように氷川姉妹の前に現れたのは、日菜と同じ156cmで遠目から見たら、少女にも見えなくもない中性的な少年だった。

髪色は悠里と同じミントグリーン色のショートヘア。瞳も薄い青紫色……

ただ唯一違うのは、前髪は紗夜と日菜から見て、若干短めで右に流しており、悠里と違ってややツリ目ではなく、クリっとした感じの目だった……

 

「あの、悠里さん、もしかしてその人が……」

「…ん。さっき話した弟の汐里。7歳で死んだけど、変わった思念体だから普通に成長はするよ。ちなみに僕と同じ16歳」

『おにーちゃん、自己紹介くらい僕だってできるよー!』

「…だって汐里、紗夜ちゃんを困らせそうだし」

『ひーどーいよー!』

 

澄まし顔をしてる悠里に地団駄をしながら抗議する汐里。

それを見た紗夜は、まるで自分と日菜のやり取りを見ているように感じた……

 

「でね、汐里。紗夜ちゃんの隣にいる妹の日菜ちゃんが、汐里と友達になりたいんだってさ」

『ほんと!? あ、でも……えっと……』

「? 日菜ちゃん?」

「……」

「? 日菜?」

「……」

 

何故か汐里を見て、ポケーッとした表情をしてる日菜。

悠里と紗夜が声をかけるが反応なし。

よく見ると顔が赤い事に気づいた悠里。

 

「あ、あの……あああ、あたし、氷川日菜だよ。じゃなかった……です!」

『えっと、水無月汐里(みなづきしおり)です。その……日菜ちゃんって呼んでもいーい?』

「う、うん……」

『おにーちゃんー、友達できたー♪ 初めての友達がこんなに可愛い子で、僕すごくピピピだよー♪』

「っ!? か、かわ……」

「はいはい。シオリズム、シオリズム。とりあえず嬉しいのは分かったから、握ってる手を離しなさい。日菜ちゃんがオーバーヒート状態だから」

 

日菜の手を両手で握りながら、ブンブンとはしゃぐ汐里。

よっぽど嬉しかったんだろう……

 

「日菜、どうしたのかしら……」

「……日菜ちゃん、汐里に一目惚れしちゃったか」

「そうなんで……えっ!?」

 

妹の様子がいつもとおかしい事に疑問を感じた紗夜だが、悠里の言葉で驚きの表情と声を上げてしまう。

あんまり興味を示さない日菜が異性に一目惚れである。

 

「…紗夜ちゃんの反応は尤もだと思うよ。現に僕も驚いてるから」

「あの……その割に落ちついてませんか?」

「そう? まぁ……紗夜ちゃんもその内、慣れるよ」

 

悠里と紗夜は、汐里と日菜……特に日菜には聞こえないように話すのであった。

 

「そういえば、悠里さんは短冊になんて書いたんですか?」

「僕? 紗夜ちゃんと似た感じ。『汐里とまた思い出を作れますように』って書いた。あ、2人には内緒ね?」

「ふふっ、はい。2人には内緒ですね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふんふーん! リサちー、瑠菜ちゃーん、おっはよー♪」

「ヒナ! おはよ♪」

「おはよ~♪」

 

翌日の羽丘女子学園。2年A組にて。

日菜は鼻歌を歌いながら、教室に入り、リサと瑠菜に挨拶をした。

 

「先週と違って、ずいぶんゴキゲンじゃん?」

「うんっ! 七夕祭り、おねーちゃんと一緒に行けたんだ」

 

それを聞いて、良かったじゃんと言うリサ。

瑠菜もおお~と言いながらパチパチと、手を拍手していた。

 

「色々あったんだけどね、すっごく楽しかったんだ♪」

「それで、紗夜とはいろいろ話せた?」

「うん! おねーちゃん、最初はいつもみたいに難しい顔してたんだけど……最後には笑ってくれて」

 

笑った顔、久しぶりに見たから、すっごく嬉しかったなーと2人に話す日菜。

 

「その気持ち、わたしも分かるよ~。来年はどうするの~?」

「うん! 来年もまた、一緒に行けたらなって思ってるの! だから、来年の七夕祭りの日、あけといてって言ったら……」

 

そんなに先の事、分からないよって言われちゃったと苦笑いで付け足す。

 

「あっはは! 紗夜の言う通り! けど、きっと紗夜は予定あけといてくれると思うな」

「そうかな? そう思う?」

「うん! ……あ、それじゃあ来年の七夕も、Roseliaの練習はお休みにしとかないとね?」

「あ~。わたし、リサちゃんの言いたい事が分かった~」

 

それは確かに大変だよね~と頷きながら、リサの言いたい事に納得する瑠菜。

 

「友希那、それでいいって言ってくれるかな~? 今年は偶々休みだったけど、来年はな~……」

「友希那ちゃん、休みにしてくるかな~……」

「えー! お願いっ! なんとかして、リサちー! 瑠菜ちゃーん!」

 

必死に2人に頼む日菜であった。

 

「あ! あとねー、七夕祭り、悠里くんも一緒に回ったんだよ」

「おっ。アタシと友希那も七夕祭りの夕方近くに公園で悠里に会ったけど、お祭り行ったんだー♪」

「日菜ちゃーん、ゆうくん、楽しそうだった~?」

 

瑠菜が訊くと、日菜はおねーちゃんと同じで笑ってたよと言った。

それを聞いた瑠菜は驚いた表情をしていた……

 

「他は~? 何かあった~?」

「他? えっと……」

 

他にはと聞かれた日菜はうーんと考える。

すると浮かんだのは、とある男の子の姿……

 

「……」

「ヒナ? おーい」

「……」

「日菜ちゃ~ん?」

「……えっ!? えっと……その……好きな人が……」

「「え?」」

 

すると今度は顔を真っ赤にして、もごもごと小声で何かを言う日菜。

彼女の突然の変化に驚いたリサと瑠菜は、聞き取れなかった為、もう一回言ってと促す。

 

「その、あたし……好きな人が……できちゃった……」

「「…………えーー!?」」

 

一瞬だけ目が点になったリサと瑠菜は、日菜の衝撃発言を理解した後、教室中を響かせるような大声を出してしまう。

 

「こ、声が大きいよ! リサちー! 瑠菜ちゃん!」

「あー……ゴメン。ヒナが好きな人ができたっていうから、驚いちゃって……っていうかそれって誰!?」

「七夕祭りの日にあったんでしょ~? 日菜ちゃんをこんな乙女チックな表情にさせた人って~……いたかな~?」

 

瑠菜とリサは日菜が惚れそうな人物を考えるが全く思いつかなかった。

まず自分達の通う学校は女子校だし、男子の知り合いと言えば、藍音学院に通う悠里とその後輩、合わせて3名くらい。

 

「? あっ。ゆうくんから電話だ~」

「悠里から? こんな朝から珍しくない?」

「うん~。どうしたんだろ~?」

 

瑠菜のスマホから悠里からの着信音が鳴った。

もうすぐ朝のホームルームが始まる時間帯だ。彼にしては珍しい……

 

本当にどうしたのだろうか?

とりあえず出てみる事に。

 

「は~い。もしもし~」

『もしもし、ルーちゃん? こんな時間にごめんね?』

「うう~ん♪ 気にしないでいいよ~。どうしたの~?」

『僕の学校、今から家庭科なんだけど、クッキー作るんだけど、昼休み辺りに羽丘女子学園(そっちのがっこう)に出来立てを持ってこうと思うんだけど……』

「わ~い。ゆうくんの手作りクッキーだ~♪」

 

用件は家庭科の授業で作ったクッキーを瑠菜がいる羽丘女子学園に昼休みに届けるというものだった。

実はこれ、初めてではない。

瑠菜がこの学校に転入した際に、理事長同士が知り合いな事もあってか、藍音学院の生徒である悠里が届けに来るのだ。

 

その時に悠里とよく昼食を食べるのだが、友希那とリサはこれが密かな楽しみだったりする……

 

『ちなみに日菜ちゃんって、もう来てる?』

「日菜ちゃん~? うん、隣にいるよ~」

『分かった。ルーちゃん、スピーカー状態にしてくれる?』

 

すぐ終わるからと言ってスマホ越しに瑠菜に頼む悠里。

喋り方から、日菜ちゃんに軽いイタズラしてやろうと感じだったのが、付き合いの長い瑠菜には理解できた。

リサもなんとなく、同じ事を思っていたらしい。

 

「もしもし、悠里くん? おっはよー♪」

『はろろーん、日菜ちゃん。今日は日菜ちゃんに、るんってするお知らせがあるんだよー』

「えっ? 何々♪」

 

スピーカー状態した瑠菜のスマホに近づく日菜。

悠里は、一度しか言わないから、よく聞いてねーと言うと……

 

『日菜ちゃーん♪ 今日、おにーちゃんとクッキー作るんだよ! 日菜ちゃんの口に合うか分からないけど、僕、頑張って作るからー♪』

「……あ、えっと……えっ……」

『…ほら。汐里、教室移動するよ『えー!? 日菜ちゃんともっとお話したいよー!』だーめ。授業に遅れちゃたじゃすまないの』

「……」

 

悠里とは別の声が聞こえた。

その声の主を聞いた日菜は顔を真っ赤にし、恥ずかしさのあまり悶絶していた。

 

日菜の反応を見た瑠菜は確信した。

彼女が言ってた『好きな人ができた』つまり……

 

「ゆうくんー、日菜ちゃんがさー……」

『すごい反応でしょ。ルーちゃんの考えてる事で合ってるよ』

「ああ~……しおくんか~。でもなんか意外だね~……」

「あのさ、悠里? アタシも訊きたいんだけど……悠里って1人っ子だったよね?」

『…まぁその事については、ちゃんと昼休みに友希那ちゃんと一緒に話すから』

 

そういう事だから授業頑張ってね?と言って悠里は電話を切った。

 

「リサちー! 好きな人が学校に来た時ってどうすればいいのー!?」

「え!? そこアタシに聞くの!? 瑠菜も笑ってないで、ヒナになんかフォローしてよ!?」

「え~? しおくんとお話すればいいんじゃないの~?」

「どうしよー! そうだ! 友希那ちゃんに訊けば……」

「いやいや、ヒナ!? 友希那に聞いても多分同じ事になるだけだと思うよ!?」

 

……尚、このやり取りは昼休みになるまで続いたという。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここまで出来たのも、読者の皆様のお陰です。
気が向いてて、もしかしたら、また別の何かを書いてるかもしれません……(イッタイナニヲダ)

※最後にオリキャラの簡単なプロフィールです。


水無月汐里(みなづきしおり)


容姿イメージ:『美鳥の日々』の春日野美鳥

誕生日:12月12日、いて座

血液型:A型

一人称:僕


それではまたいつかどこかでお会いしましょう。
ありがとうございました。


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最終話 水無月兄弟と氷川姉妹

ゆるポメラです。
紗夜ちゃん、日菜ちゃん誕生日おめでとう。

今回は最終回であり、後日談になります。
自分なりに頑張ってみました。

それではどうぞ。



午前中の授業が全て終わり、昼休みを迎えた羽丘女子学園。

2年A組の教室にて。

 

「あー……どうしよー……」

 

日菜が頭を抱えながら悩んでいた。

 

「ヒナ、いい加減に諦めなって♪」

「なんでリサちーはそんなに楽しそうなの!?」

「それはまぁ、ヒナが恋愛関係で悩んでるのが珍しかったから♪」

「うぅ~……っ!」

 

現に今も真っ赤な表情をしてる日菜にリサが楽しそうに言った。

 

「さっきの授業でも、先生からの問題を答える時の日菜ちゃん、答えはしおくんだーって言ってたもんね~?」

「っ!? い、言わないで~~っ!!?」

 

追い打ちをかける瑠菜の言葉を聞いて、思い出して恥ずかしくなったのか、その場で悶えだした日菜。

 

それは先程の英語の授業の時……

 

『それじゃあ、この問題を……氷川!』

『……』

『? おーい、氷川?』

『え? あ、はい……』

『お前なら簡単だと思うが……この問題を翻訳してみろ』

 

なんか日菜がいつもと違う気がした教師は、とりあえず問題を日菜に解かせてみる事に。

 

天才だし、この問題も彼女にとっては簡単だろうと教師やクラスメイト達も思っていたのだが……

 

『それじゃあ氷川、この問題の翻訳は?』

『あ、あたしの趣味はアロマオイル作りなんだ。し、汐里くんの趣味はなんですか?』

『全然違うし、つーか、汐里くんって誰だよ。お前どうした?』

 

全く違う解答をして、恥ずかしい思いを体験してしまったのである。

 

「うぅ~……」

「おや。3人揃ってどうしたんだい?」

「あ、(かおる)ちゃん。やほ~」

 

未だに日菜が悶えてると、クラスメイトの瀬田薫(せたかおる)が瑠菜達に話しかけてきた。

 

「日菜、どうしたんだい? いつもの君らしくないが……」

「それがね~? 薫ちゃん。実はかくかくしかじかで~……」

 

瑠菜が薫にしか分からないやり取りで話す。

それを聞いた薫は、驚いた表情をしつつ、日菜を見た後、瑠菜の話に相槌を打ちながら続きを聞いていた。

 

一方でリサは……

 

「……(話が薫に伝わってる辺り、瑠菜って凄いな。確か薫も悠里と瑠菜の幼馴染みなんだっけ?)」

 

2人のやり取りを頷きながら思った。

 

「なるほど、ね……フフ、そうか……」

「え? どうしたの?」

 

瑠菜の話を聞き終わり、何かに納得する薫。それを見て、どうしたのと言うリサ。

 

「いや、日菜。1つ私からのアドバイスだ。先ずは自分のペースでいいから、汐里と話してみるといい」

「あたしのペースで?」

「ああ。汐里は悠里と同じで、気遣い上手だからね。幼馴染みである私が保証するよ」

 

薫は日菜にそう言うと、教室から出て行った。

 

「とりあえず友希那ちゃんも誘って、外に行こうよ~」

「じゃあアタシ、友希那のクラスに行って呼んで来るね☆」

 

先にいつもの場所に行っててと瑠菜と日菜に言って、リサは教室を出て友希那を呼びに行くのであった。

 

とりあえず、お弁当をと日菜は鞄を開けるのだが……

 

「あ……」

「日菜ちゃん、どうしたの~?」

「……お弁当、家に置いてきちゃったみたい……」

 

うっかり家に置いてきてしまった事を瑠菜に呟くのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……」

「ヒナ、元気だしなって~……アタシのおかず分けてあげるからさ?」

「わたしのも分けてあげるよ~」

 

友希那とリサと合流した2人は、中庭で悠里達が来るのを待っていた。

 

「リサ。日菜のこの様子はどういう事?」

 

1人だけ状況が読み込めてない友希那がリサに訊ねる。

 

「あー、日菜ね? 昨日の七夕祭りの時に好きな人ができたんだって」

「……そうなの?」

「アタシと瑠菜も今朝知ったんだ。なんか悠里の双子の弟なんだって。友希那は悠里に弟がいるって知ってた?」

「……正直なところ、初耳ね」

 

そう答える友希那だが、心当たりはあった。

もう随分と昔だが、悠里が少しでも両親の負担を減らす為、『自分も家事を手伝わないといけないかも』みたいな事を言ってた気がする。

 

「日菜」

「あれ? おねーちゃ……ん?」

 

聞き覚えのある声がしたので、日菜は振り向く。

そこには何故か藍音学院の制服を着た紗夜?の姿があった。

 

「あれ~? 何してるの? しおくん~」

「ちぇっー、ルーちゃんは引っかからないか。残念☆」

「し、ししし……汐里くん!?」

 

瑠菜が首を傾げながらもその正体を見抜く。

ウイッグを外したその人物は、悠里の双子の弟の汐里だった。

 

汐里だと分かった日菜は思わず変な声を上げる。

 

「…だからルーちゃんにはバレるって言ったじゃんか。紗夜ちゃん、汐里がごめんね?」

「いえ、私は気にしてないので」

 

すると今度は悠里と紗夜がやって来た。

 

「おねーちゃん! なんでここに?」

「お弁当よ。今朝忘れていったでしょ」

 

忘れたお弁当を日菜に渡しながら紗夜が疑問に答える。

 

「…羽丘女子学園に行く途中で、紗夜ちゃんと会ってさ? 日菜ちゃんがお弁当を忘れたから届けに行くって言ってたから、一緒に来たんだ」

「それで……その、悠里さんが、お昼ご飯がまだなら、一緒に食べないかって誘われまして……」

 

悠里と紗夜が経緯を話す。

 

「……(もしかして悠里、紗夜が日菜にお弁当を渡したら帰っちゃうって思ったのかな?)」

 

リサがそう思いながら悠里に視線を向けると、彼女の思っている事が分かったのか、そうだよとばかりに軽く頷いた。

 

「あ。そうだ……はい、ルーちゃん。約束のクッキー持って来たよ」

「わ~い♪ ゆうくんの手作りクッキーだ~♪」

「これが友希那ちゃん、こっちがリサちゃん、それでこれが紗夜ちゃんのだよ」

「「「あ、ありがとう(ございます)……」」」

 

瑠菜にクッキーを渡した後、友希那とリサ、紗夜にも渡した悠里。

それぞれ違うラッピングをしており、瑠菜を除いた彼女達3人は顔を赤くしながら、お礼を言った。

 

ちなみに瑠菜はニコニコしながら3人を見ていたが。

 

「おにーちゃん、僕のジュースってどこ?」

「…汐里、休み時間に飲んでたじゃん」

「あ! そうだった。忘れてたよー……てへぺろ☆」

「……汐里くんのその表情、なんかるるるんっ♪ ってする……なんていうか、好き

 

汐里の仕草を直視したせいか、顔が崩れるくらいにやける日菜。

 

「ヒナがあんな表情するの……アタシ、慣れないんだけど」

「私も」

「私は少しだけ慣れましたが、あの表情の日菜は初めて見ました。今井さんも湊さんも慣れた方がいいかと……」

 

紗夜が友希那とリサにそう言うが、あの表情をしてる日菜に慣れろというのが難しい相談だなと2人は思った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「日菜ちゃん達の学校って広いんだねー♪」

「そ、そうかな……?」

 

校内を歩く汐里と日菜。

悠里と瑠菜の頼みで校内にある自動販売機まで向かっているのである。

 

「……(し、汐里くんと二人きり……薫くんはあたしのペースで話してみたらって言ってたけど……)」

 

日菜は汐里に何を話せばいいか悩んでいた。

まずは自分のペースで話してみるといいと薫に言われたが、話題が見つからない。

 

「おにーちゃんが言ってたんだけど、日菜ちゃんってアイドルなのー?」

「うん、正確にはアイドルバンドなんだ」

「アイドルバンド……って事は何か楽器やってるの?」

「あたしはギターやってるんだ♪」

 

すごいねーと言う汐里。あれ? さっきまで恥ずかしくて汐里と話せなかったのに、自然と話せてると日菜は思った。

 

「練習とか大変なの?」

「へ?」

 

汐里にバンドの練習というか、仕事の事を訊かれて驚いた表情になる日菜。

 

「あ、あたしかぁ~、普通だよ普通。仕事がそんなに難しくないっていうか……」

「そうなんだ? 日菜ちゃん()()()()()()♪」

「え?」

 

汐里の口から『頑張ってる』という言葉を聞いて驚く日菜。

 

「どうかしたの?」

「あ、えっと……あたしさ、他人から頑張ってるなんて言われるの滅多にないからさ……ちょっと驚いちゃって」

「そーなの? あ、でも僕もあんまり言われた事ないな……」

 

うーんと首を傾げる汐里。

でも家族のみんなや瑠菜達には頑張ってるって言われた事あるよと付け足す。

 

「でもでも! 日菜ちゃんは頑張ってると思うよ! 僕が保証するよ!」

「あっ……えと、その、ありが……とう……」

「どういたしまして♪」

 

顔を俯きながら、汐里に言う日菜。

今の自分は絶対に顔が真っ赤な筈だ。間違いない……

 

そんなやり取りをしてる内に目的地の自動販売機に着いた。

 

「わあー♪ 当たりが出る自販機だー♪」

 

自動販売機を見てはしゃぐ汐里。

羽丘女子学園にある自動販売機は、運が良いと当たりで好きなジュースがもう1本貰えるのだ。

 

日菜も週に1回程度は当たった事がある。

 

「日菜ちゃんはどれにするのー?」

「あたしは……じゃあー……これにしよっと♪」

 

お金を入れてボタンを押してジュースが取り出し口から出てくる。すると、スロットゲームが始まった。

 

『7777』が出れば、当たりである。

 

そして見事に『7777』が揃い、30秒以内に好きなジュースを選んでくださいと表示された。

 

「日菜ちゃんすごーい♪ 当たりがでたよ♪ もう1本どれにするの?」

「じゃあこれ♪ おねーちゃんが好きなやつにしよーっと♪」

 

そして2人で人数分のジュースを買って、悠里達がいる場所に戻ったのだが……

 

「…何? このジュースの数……」

「あははー♪」

 

悠里の呟きにあははーと笑う汐里。

6人分のジュースを買ってきた筈が、何故かその倍……12本のジュースが置かれていた。

 

「おにーちゃん、凄いでしょ?」

「…凄いけど……1人2本かぁ。1本は帰りに飲もうかな……」

「しおくんと日菜ちゃんが当たりが出る自販機をやると、当たる確率が倍になるんだね~。わたしこれ貰うね~?」

 

のほほんと言いながら瑠菜はジュースを手に取る。

 

「…てか汐里? 日菜ちゃんにクッキー渡したの?」

「あ! そうだった!」

 

悠里にそう言われ、うっかり忘れるところだったよと言わんばかりに、鞄から水色のラッピングされた袋を取り出す汐里。

 

「はい、日菜ちゃん♪ これあげる♪」

「あ、ありがとう……その、開けてもいい?」

「いーよ♪ 口に合うか分からないけど、僕的にるるるんっ♪ って感じだよ」

 

袋を開けると、中には星型のクッキーや何故か()()()()のクッキーが入っていた。

 

「……」

「? 日菜?」

 

そして何故かハート型のクッキーを見たまま固まる日菜。紗夜が声をかけるが反応がない。

 

一体どうしたのかと思い、紗夜が覗いてみると……

 

『可愛くて、おねーちゃん思いで、大事な大事な僕の友達の優しい日菜ちゃんへ♪』

 

チョコレート文字でそう書かれていた。

 

「……はうっ」

「日菜!?」

 

そして顔を真っ赤にしながら日菜は倒れてしまうのであった。

ちなみに目を覚ますまでの間、汐里が付き添ってあげたのは余談である。




読んでいただきありがとうございます。
これにて、この作品は本当に完結になります。
本日はありがとうございました。


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