錬成士と魔弾の射手で世界最強(更新停止中) (狩村 花蓮)
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アナザータイトル
幕間の小話。勇者side ”真由美が落ちた日” ”本当の恵理”


「皆さんこんにちは、獅童深雪です。」
「八重樫雫よ。よろしくね。」
「・・・・・・・・中村恵理です、よろしくお願いします!」
「ふふっ、恵理ったら、ガッチガチじゃない。」
「し、仕方ないでしょ!こういうの初めてなんだから!」
「あらあら・・・・・・・・さて、今回は私たちのお話のようね。」
「あのにっくきごm・・・・・・いえ、檜山君を置き去りにした後のお話ですね。」
「じゃあ、さっそく行ってみましょうか、では・・・・・・・・」
「「「さてさてどうなる幕間の話!」」」
「お、お楽しみに!」
「楽しむものなのかしら・・・・・・・・」


 

ハイリヒ王国の一角にある演習場には一人、自身の獲物をがむしゃらに振っているものがいた。雫である。他の生徒も訓練に明け暮れているが彼女もまた訓練をしていた。

 

こうなったのには理由がある。それは実戦初日で3名もの犠牲者を出したことが原因である。勇者一行の中で一番治癒に適性があった”治癒師”の天職を持つ白崎香織、魔弾の射手という前代未聞の天職を持ち

錬成士という天職を持ちながら戦闘能力がずば抜けて高い獅童真由美、そして、無能とさげすまれても諦めることなく、実戦で多大な功績を挙げた南雲ハジメ、勇者一行の戦力の最高峰の二人と勇敢なる少年を

 

仲間の手によって失った勇者一行は、そのことを忘れるように訓練へと明け暮れた。担任である愛子はその知らせを聞いて心神喪失状態になっている。そして真由美と親しい関係にあった恵理も、今は体調を崩している。

 

深雪は、まだあきらめていないようだ。まぁ、確率はとても低いが。しかし、その中でも、希望を捨てずひたむきに努力していたのが、真由美と香織の親友である雫だった。彼女の手には一本の日本刀が握られていた。

 

この日本刀は真由美が置き土産としてあらかじめ作っていたものだった。真由美は、いつ死ぬか分からないこの戦いで、せめて親友にはしっかりとしたもので戦ってほしいと、自身の武器を作る途中で作っていたのだ。

 

刀身には不純物がほとんど入っていない鉄と、刃先にはアザンチウムを薄く伸ばしたもの、そしてナノマテリア鉱石を混合したものが使われている。

 

早々折れることはない。しかも柄の部分には、雫の使う技に風の刃で追加攻撃を行えるように魔法カートリッジが内蔵されていた。

 

雫がこれを王都お抱えの錬成士たちに見せたところ、その場で気絶するほど興奮したという出来事があった。しかしそんな中彼女の振るう剣はどこか、鈍かった。彼女は剣をふるうたびに、嘔吐している。

 

「ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・これじゃ、駄目なのよ・・・・・・・・これじゃ、駄目なのにっ!」

 

彼女はあまり集中できていなかった。彼女を蝕んでいるもの、それは自己嫌悪だった。最愛の親友二人を守ることができなかった。誰からも頼りにされず、無能とさげすまれたハジメは動けたのに、自身は足がすくんで動こうとすらしなかった。

 

その事実が彼女を追いこんでいた。ついにその剣先が確実に鈍る。無理を重ねたせいで手に力が入らない状態で振っていた剣は、その手を離れ、勢いがついた状態で飛んでいき、彼女の左腕を浅く、傷つけた。

 

その音を聞きつけてなのか、勇者専属のメイドとしてそばにいるメイドの一人が中に入ってきた。

 

「雫様っ!?だれか、早く治癒師を呼んできて!雫様がっ!?」

「・・・・・・・・いいんです、気にしないでください。」

「ですがそのけがでは「いいから黙って!」・・・・・・・・はい。」

「・・・・・・・・ごめんなさい。私、頭に血が上っていました。少し、頭を冷やしてきます。」

 

雫はその場を去った。彼女の左手からは未だに血の雫が零れ落ちていた。

 

「どうしてよ・・・・・・・・どうしてなのよ!なんで・・・・・・・・こうなったの?」

 

雫は今、三人の墓標として作られた石の十字架の前へ来ている。これはハイリヒ王国の近くにある草原の小高い丘の上に建てられている。

 

雫はその前で、泣き崩れていた。

 

「どうして・・・・・・・・真由美は死ななきゃいけなかったの?どうして・・・・・・・・香織まで死んでしまったの?・・・・・・・・何で私は、助けに行けなかったのよぉ!」

 

雫は自分の心の中にたまっていたものを吐き出した。そして何度も、自分の拳を地面にたたきつけた。血がにじむ程に。

 

それからどのくらいの時が過ぎていたのだろう?あたりはすっかり暗くなっていた。

 

「そう言えば・・・・・・・・私、今日は何も食べてないなぁ。でも不思議ね、まったくおなかが減らないの。・・・・・・・・おかしくなっちゃった、私の体。」

 

雫は墓標に背を向けて、体育座りをしていた。そんな彼女の目は、虚ろだった。そんなとき、足音が聞こえた。雫がそっちの方を向くと、そこにいたのは、深雪と恵理だった。

 

手には花束が握られている。

 

「あら?雫。こんなところにいたのね。みんな心配していたわよ?」

「・・・・・・・・深雪、それに恵理まで。」

「大丈夫?雫ちゃん。随分と顔色が優れないけど・・・・・・・・」

「・・・・・・・・それは多分、これのせいよ。」

 

雫は左腕の、先ほどの傷を見せた。血は止まっているが、とても見ていられないような傷だった。

 

「あら大変。待っててね、今治療するから。」

 

深雪は懐からアーティファクトを取り出した。しかしそれはアイシングブルームではなかった。アイシングブルームとは似て非なるスマホに似たアーティファクトだ。

 

深雪はスマホで言う画面を操作し始めた。画面には1から9までのテンキーと、左右をそれぞれ示しているテンキーが表示されていた。深雪はそれの1と書かれたテンキーをおす。

 

すると見る見るうちに雫の傷が治っていく。

 

「深雪、それは?」

「これ?・・・・・・・・姉さんからの置き土産。名前はクイーンズブルームって言って。ほとんどの魔法を行使できるわ。」

「なるほどね・・・・・・・・それは便利だわ。」

「それにしても雫。こんなところで何をやっていたの?」

「・・・・・・・・何をしていたんでしょうね?私自身自分が今何をやっているのか分からないのよ。」

 

雫は静かに天を仰ぐ。その顔はどこかやつれていた。

 

「姉さんたちは絶対に生きてる。姉さんがそう簡単に死ぬはずないし、友人を見捨てるはずないもの。」

「・・・・・・・・そうだね。真由美はそんな人だった。だって、見ず知らずで別なクラスだった私ともそう言う風に接してくれたもん。」

「・・・・・・・・そうね。信じましょう、あの子たちを。」

 

雫たちは宿舎のような場所へ戻った。

 

そこから雫たちは訓練に明け暮れた。深雪はクイーンズブルームを使いこなすために。雫は自身の刀、真月(雫命名)を使いこなすために。

 

恵理は、呪術による、怨霊を操り使役する魔法に早く慣れ実戦で使えるようにするために。なお恵理にも真由美特製のアーティファクトが譲渡されている。

 

名前はG・コントロールトランスミッター、略してGコン(決して某なんちゃらXのあれではない)である。これは、恵理の怨霊を操る能力の底上げと体にかかる負担の軽減

 

そして、怨霊の見た目をちょっとデフォルメして使用者に見せるという機能がついている。しかしその機能はいい意味で裏切られることになる。

 

ここはハイリヒ王国から少し離れた草原。雫、深雪、恵理の三人はここで訓練をしていた。実戦形式のである。

 

ふと深雪が、恵理に尋ねる。

 

「そう言えば恵理。前から聞きたかったのだけど。」

「うん?何かな?」

「あなた、高校生になる前ってそんな性格してなかったでしょ。どうして性格とか喋り方を変えたの?」

「・・・・・・・・あっ、それ聞く?」

 

突然恵理の喋り方が変わる。それはまるで元に戻したような清々しさがあった。

 

「いやね、光輝君いるじゃん。あの子の周りにいる人たちって、すごく当たりが強いって言うか、変にマウントを取ってくる連中ばっかりだったの。それでごたごたに巻き込まれたくなかったからわざとこうした。」

「なるほどね。でも、ここにきてまで無理にそのキャラを演じることはないんじゃない?」

「そうだね・・・・・・・・うん、やめるよ、このキャラは。」

「えっと・・・・・・・・恵理、さん?」

「うん?なんだい雫さん。」

「その性格というかなんというか、それが素のあなたなの?」

「そうだよ、僕の本当のキャラってこうなんだ。」

「どうしてそこまで自分の素を隠し通せるの?どこかでぼろを出すと思うんだけど・・・・・・・・」

「そうだねー・・・・・・・・僕は”嘘”をつくのが得意だからね。騙し騙されの世界に生きていると自然とこうなるんだよ。」

「恵理はね、幼い時から両親に虐待を受けていてね。そんな時に、姉さんが自分のコネを使って色々したのよ。」

「真由美って・・・・・・・・本当に何者なの?」

「南雲君のお父さんの話によると、彼女は元々糸井川重工っていう会社の研究者をしている両親と一緒に暮らしてたんだって。

それで、小5にしてAIを作ってしまうというその腕と頭脳を買われて、いろいろなコネを持ってるらしい。でしょ?深雪。」

「え、えぇ。そうなのよ。」

「へぇ。すごい人だったのね、真由美って。」

「だから真由美は絶対に生きてるはずだよ。あんなにひどい環境にいた僕を、簡単に助けるんだから。今もどこかで何かを作ってるんじゃない?」

「そうね。だからこそ私は、姉さんを探しに行きたい。だから今は、力を付けないと。」

 

深雪たちはまた訓練に明け暮れるのだった。




j今回は短いですがここまでです。というか、これはあくまでも今後の展開につなげるための文字通りの小話なので、あまり長くは書きません。という訳で恵理の本当の性格が知れた回でしたね。ですがこれで原作のように敵対するということが無くなりました。

というかこのままだと真由美の仲間入りをするまであります。というかそれしかないです。っと、ここまで読んでくださりありがとうございました。次回からはまた本編に戻ります。それではさよーならー


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第一章 奈落編
第一話 プロローグ


魔法少女リリカルなのはと同じぐらい好きなありふれた職業で世界最強のIFストーリーを作ってみました。お姉さんっていいよね


「・・・・・・・・ん?」

 

外はすでに明るく、小鳥のさえずりも聞こえる。近くの時計はすでに6時を指している。

 

「もう朝か・・・・・・・・うーん・・・・・・・・!」

 

その少女は体を伸ばす。その部屋には昨日の夜やったであろうゲームがパッケージが開いた状態で放り投げてあった。よく見るとその部屋には、小説とマンガ本とそして大量のゲームのパッケージが所狭しと並んでいた。その少女は窓にかかったカーテンを勢いよく開け、ベッドとシーツを直した。その後軽く髪の毛を整え部屋を出て行った。

 

「おはよーございまーす‥‥ふぁ・・・・」

「おはよう姉さん。今日は珍しく早起きですね。」

「おはよー深雪。そして珍しくは余計よ。」

「おはよう真由美さん。もうすぐ朝ご飯できるから着替えてくるか顔洗って来たら?」

「おはよーハジメ。さんは入らないわ。堅苦しいのはなしでいいって言ったのに。もう。」

「おはよう真由美君。まぁそういわず、着替えてくるといい。」

「お義父さん。おはようございます。ではそうさせていただきます。」

 

その少女、獅童真由美は自分の部屋に戻って着替えを済ませる。服を脱ぐと年に似合わぬプロポーションがあらわになる。ただ一つ、右腕にできていた割と大きめな傷を除いて。

 

「この傷と付き合い始めてもう12年になるのか・・・・・・・・お父さんたち、何してるのかなぁ?フフッ」

 

真由美は急いで下着を変え、現在通っている高校のブレザーを着た。すると部屋の外から人の声がした。

 

「姉さん、朝食の準備ができました。部屋から出てきて早く食べてください。迷惑が掛かります。」

「はいはい、今行くわ。そんなせかさないで頂戴な、深雪。」

 

ブレザーのボタンを済めて閉め、部屋の扉を開ける。するとそこには彼女の妹、獅童深雪がいた。

 

「全く。姉さんはいつも準備が遅すぎます。」

「ごめんごめん。早くしようとは思ってるんだけどね?」

 

深雪はあきれたような顔をした。真由美はそれを見て効果音にてへぺろとでもつきそうな顔で謝った。その後朝食を食べて、それぞれ登校の準備をする。

 

「じゃあハジメ、私たちは先行くね。」

「うん。また学校で。」

「行ってきまーす。」

 

なぜ真由美、深雪と一緒に登校しないかというと、それは簡単に行ってしまえば彼女たちのルックスのせいである。真由美も深雪もそれなり・・・・・・・というかかなりといって差し支えないほどにルックスが整っている。それはさながらモデルのよう。

素で韓国の成形に成形を重ねて手に入れた体を持つアイドルと同等のプロポーションをしているため、いくら一緒の屋根の(うち)に住んでいたとしても、ハジメがごたごたに巻き込まれる可能性が高い・・・・・・というかすでに巻き込まれているのである。

そして今日もけだるいという心をポーカーフェイスで押し殺しつつ真由美は学校に向かう。教室に入ると数人が声をかけてきた。

 

「おはよう!真由美さんに深雪さん。今日もきれいだね!羨ましいよ。」

「こら香織。全く‥‥ごめんね?」

「いいのいいの、気にしないで。雫ちゃん、それにカオリンもおはよう。」

「うん!おはよう!」

 

「みんな仲良さそうだね。私も仲間に入れて欲しいな。」

「あら恵理、おはよう。いいわよ。一緒に話しましょう。」

 

その後他愛もない会話をしていると、始業時刻ぎりぎりになってハジメが登校してきた。(この時間に登校しているのは、ハジメがそれがいいと判断したからである。)深雪はトイレに行っているので教室にはいない。すると香織が席を立った。

 

「ちょっと行ってくるね。」

 

それに便乗して私も席を立つ。

 

「私も行ってくるわ。」

 

そうして二人してハジメのところに向かったのだがそこでいつもの光景が始まったのだ

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 

一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。

声を掛けてきたのは檜山大介といい、毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人で、大体この四人が頻繁にハジメに絡む。

これは癪だが檜山の言うことも間違ってはいない、彼はオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。

大人しくはあるが陰気さは感じさせない。単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。

では、なぜ男子生徒全員が敵意や侮蔑をあらわにするのか。その答えが彼女だ。というか彼女たち、なのである。

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

「ハジメ、遅いわよ。もう少し早く来なさいよ。もう。」

 

ニコニコと微笑みながら私とその少女、白崎香織がハジメのもとに歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍(とてつ)もない美少女だ。私でも嫉妬してしまうぐらいに。

腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。このような美女に声をかけられようものなら

男女問わず落ちてしまうだろう。私でもそうだったのだから・・・・・・ゴホンッ。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。

それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。そして真由美も、影では香織と勝るとも劣らない美貌のお姉さんという評価らしい。

まぁ、頼まれればなんでもするし(変なこととできないこと以外なら)嫌な顔は絶対しない。というか半ば趣味で引き受けてるから嫌とも思わないわけだけど。

頼れるお姉ちゃん的存在の真由美は主に女子に人気が高い、しかしなぜか香織と一緒にハジメのところに行ってしまうのである。男子の方からは、それが殺意の波動かと言われんばかりの視線を集め

女子からは訝しめの視線をハジメは受けた。すなわち、「何気軽に話しかけてんだ?アァ?」ということだ。そしてそれにまた面倒な相手が絡んできたのだった。

 

「香織に真由美、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に二人は優しいな」

 

そう、彼である。些いささか臭いセリフで香織と真由美に声を掛けたのが天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。

サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。

小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫と同じく全国クラスの猛者だ。雫とは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、

いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

今日もこの無自覚だ女神はさも当然のごとく爆弾発言を落としになる。ざわっと教室が騒がしくなる。

男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりにハジメを睨み、檜山達四人組に至っては昼休みにハジメを連れて行く場所の検討を始めている。

そして毎度恒例のごとくにして当然のように私も反論する。

 

「あら光輝、おはよう。それで勘違いしてるようだから訂正するけど、世話を焼いてるんじゃないの、世間話をしに来てるの。さっきのはあいさつのようなものよ。わかった?」

「それは分かったけど、南雲に世話を焼いてることには変わりないじゃないか。」

「あはは・・・・・・おはよう光輝君。この二人には感謝してるよ。それに、これは自業自得みたいなものだから。」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織たちの優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織たちだって君に構ってばかりはいられないんだから」

〝直せ〟と言われても、ハジメは趣味を人生の中心に置くことに躊躇いがない。なにせ、父親はゲームクリエイターで母親は少女漫画家であり、将来に備えて父親の会社や母親の作業現場でバイトしているくらいなのだ。

既にその技量は即戦力扱いを受けており、趣味中心の将来設計はばっちりである。

ハジメとしては真面目に人生しているので誰になんと言われようと今の生活スタイルを変える必要性を感じなかった。

香織と真由美がハジメを構わなければ、そもそも物静かな目立たない一生徒で終わるハズだったのである。そしてその空間についに入ってきてしまった。

そう彼の事を最も嫌う最強最悪の妹が・・・・・・・・

 

「毎度恒例!霧子さんキィーック!」

 

扉を開けた途端その少女、深雪が光輝の背中にクリーンヒットを入れた。受け身を取る暇さえなかった光輝はそのままうつぶせに倒された。

 

「もう、あなたって人は!この人と姉さんたちは好きで話してるのに適当な理由を付けて話をぶった切るとはどういう了見ですか!」

 

そのまま倒れて気絶している光輝に深雪は文句を言い続ける。こうして今日もまた学校生活の幕が上がった。

進むこと昼休み。深雪と真由美は教室でゆっくりお昼を食べていた。ちらっとハジメの方に向くと香織がハジメのところにいてそれに光輝が介入しているところだった。

 

「また始まりましたよあの人たちはもう・・・・・・・・」

「ちょっと行ってきましょうか。また騒がれたらゆっくりお昼も食べられないしね。」

 

そうして向かい始めた真由美たち。しかし、突然足元に紋章のようなものが現れ、そのまま真由美たちは消えてしまった。直前にこの教室の担任であり直前の授業担当者である

畑山愛子が何か言っていたようだが、その忠告は果てしなく遅かった。

 




という訳で始まった錬成士と魔弾の射手。魔弾の射手はもう劣等生のあの人の二つ名をぱk・・・いえリスペクトさせていただきました。


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第二話 転移させられたんだって

第二話ですね。頑張って書きますです。(何言ってんだこいつ)


「---ん。」

 

声が聞こえる

 

「--さん!」

 

また声だ。誰が呼んでるんだろ?

 

「姉さん!」

 

「はっ!?」

 

深雪の声で覚醒した真由美の目の前にあったのはいつもの教室ではなくいかにも高級そうな石材で出来た大きな広間だった。

 

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

 

ここは美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

 

「どこよここ・・・・・・・・」

 

真由美が戸惑っていると一人の男が入ってきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。

私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、これまた壁画の絵にかいてあったあの女性の顔のような寒気を催すような微笑を見せた。

 

その後、真由美達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。

 

おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメは最後方だ。

 

ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。

 

教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!

 

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……

 

「それでは、皆様が置かれている状況とこの世界についてお話しますぞ。」

 

イシュタルが口を開く。そして真由美たちをもってしてもうんざりするような長話をされた。それを要約するとこんな感じだ

 

まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

 

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

 

これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「そんな勝手なこと、許されるとでも思ってるんですか⁉それって要するにこの子たちに戦争しろ、ひいては人殺しをしろと言ってるんですよ⁉そんなこと、私が許容できるとでもお思いですか!」

 

そう言ったのは愛子だった。それを聞いて生徒たちは唖然とする。それはそうだ。だってやったこともないのに人殺しをしろというんだから。それに対してイシュタルは予想外の反応を示した。

 

「そんなの当り前でしょう。我々はそのためにお呼びしたのですからな。」

「ふざけないでください!この子たちはまだ子供で、人の命なんて奪ったことのない一般人ですよ!」

「それでも神があなた達をお呼びした。それは曲げられない事実なのですぞ。どうか受け入れてください。それにあなた達には、我々を救済するべくして与えられた力があるのです。

それを使わないとはどういう了見でしょうかな?」

 

イシュタルの放った言葉に愛子は今度こそ激高した。生徒はそんな愛子の姿を見て少し怖がっていた。当然だ。あまり怒ったことのない恩師が怒っているのだから。それをイシュタルは飄々と受け流す。これ以上の問答をしてもらちが明かない状態だった。

 

その時、光輝が口を開く。

 

「俺は・・・・・・・戦いたいと思う。苦しんでいる人を見捨てることなんてできない。だからみんな、やろう!この世界を救うんだ!」

「ちょっと光輝君⁉何を言って・・・・・・・・」

 

その言葉を愛子が言おうとした瞬間、生徒たちは例外を数人のぞいて全員腕を高らかに上げて「おぉ!」と叫んだのだった。こうして真由美たちはそのくそったれた戦争に加担していくのだった。

 

その後、いろいろと説明された真由美たちは各々の部屋を案内され、真由美と深雪は現在部屋にいる。同じ部屋だったのだ。

 

「ねぇ姉さん、私たちってどうなってしまうのでしょう?」

 

「さぁね。でも一つ分かったことがあるわ。」

 

「それって?」

 

「みんなは分からないかもしれないけど、私たちはその神とやらに駒にされたのよ。」

 

「姉さん。どうしてそんなことがわかるの?」

 

「深雪、落ち着いて聞いてね。私ね、1度愛玩奴隷にされかけたことがあったの。」

 

「えぇ!?」

 

深雪は驚く。とんでもないカミングアウトだったからだ。

 

「驚くのも無理ないわね。だってそのすぐ後にお義父さんが助けてくれたから。でも私はその時の男どもの、あの目を見て確信したわ。こいつら私を駒としか見てないってね。」

 

「そう、だったんですね・・・・・・・・」

 

「ちょうどその時だったかしらね。私が格闘術を始めたのも。」

 

真由美は懐かしむように顔を見上げる。

 

「そしてさっき、イシュタルさんいたじゃない?あれはうまく隠してるけど駒としか見ていなかったあいつらと同じ目よ。」

 

それを聞いて深雪は唖然としていた。

 

「まぁこんなこと気にしてもしょうがないけどね。とにかく寝ましょ。お休み、深雪。」

 

「はい。お休みなさい、姉さん。」

 

2人は床につくのだった。




次のお話で真由美の能力がわかります。あと、本編ではカットしましたが、真由美たちはすでに地球に変える方法が今のところないということを知っています。


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第三話 錬成士って聞くと弱く聞こえるのはナンデダロウネ?戦闘ならすっごく役に立つのに。

タイトルがネタに走る傾向にあるのにはご容赦ください。なんでも最近ストレスがどうのって医者から言われてまして(;^ω^)


翌日、私たちは大きな、それこそ校庭並みの広さをした広場に集められた。

 

「これから下山してハイリヒ王国へと向かいますぞ。あそこには受け入れの用意が整ってますからな。」

 

イシュタルさんはそういった。戦争参加の決意をした以上、真由美達は戦いの術を学ばなければならない。

 

いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

 

しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい

 

王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。

 

国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。そうして神山の麓までやってくると、そこは本当にゲームの世界にでも登場するような街だった。

 

「きれい・・・・・・・・」

「ほほう?カオリン、こういうのお好きかな?」

「ちょっと鈴ちゃんやめてよー!」

 

そう言って香織はクラスメイトの女子にその豊満な胸を揉まれている。

 

おっさんみたいなことを言って香織に引っ付いてるのは【谷口 鈴】人目を気にせずこういうことができる・・・・・・・要は変態だ。真由美はそれを仲睦ましく見ていると

 

深雪から声をかけられた。

 

「姉さん。」

「なあに深雪?もしかしてああいうのやりたいの?大胆ねぇ。」

「違います!」

「痛っ。」

 

真由美が冗談を言うと深雪は顔を赤らめながら、真由美の頭に鉄拳制裁をした。しかしそれが皆の気をほぐしたのか、クラスメイトのほとんどが笑っていた。

 

「で、なに?」

「いや、特段意味はありません。ただ姉さんにあそこで声をかければ何かしら言ってくるだろうと思いまして。」

「ちょっと深雪!?」

「まぁ、あの発言は想定外でしたが。」

「もう!」

 

真由美は拗ねてしまった。そんな真由美を見て、この姉は全く可愛くて困った姉だなと思う深雪であった。

 

そんなこんなで歩いていると、大きなお城の前にいた。どうやらハイリヒ王国の国王との面会が待っているのだろうと皆が同じことを思っていた。

 

するとその重厚な扉が開いた。その先には見知らぬ人が二人いた。そこはホール状になっていて、いわゆる大聖堂に形が酷似していた。すると二人の内の一人、初老の男性が立ち上がった。

 

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。

 

更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

玉座の手前に着くと、イシュタルはハジメ達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

 

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。

 

これで、国を動かすのが〝神〟であることが確定だな、とハジメは内心で溜息を吐く。それと同じぐらいのタイミングで真由美も溜息を吐く。思ったことは同じなのだろう。

 

そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

その後いろいろと説明が終わり、真由美たちは広場?に集められた。皆何が起こるのか不安がってた。するとそこに鎧を着た筋肉質のいかにも戦士な男が入ってきた。

 

「私がこの王国の騎士団長メルド・ロギンスである。君たちにはこれから重要なものを配る。いきなりで悪いがそれを受け取ってくれ。」

 

真由美たちはステータスプレートと呼ばれる銀色のプレートを渡された。そしてそこには自分のステータスと”天職”が表示されるらしい。

 

早速やってみた。すると真由美はこのような感じになった。

 

=========================================================

 

獅童真由美 17歳 女 レベル1

天職:錬成士 魔弾の射手

 

 筋力:10

 

 体力:10  (計測不能)

 

 耐性:10  (計測不能)

 

 敏捷:10  (計測不能)

 

 魔力:25  (技能:外気変換があるため実質∞)

 

 魔耐:20  (風力操作でバリアが貼れるため条件下で∞)

 

 技能:遠隔配置 風力操作 外気変換 疑似瞬間移動 偽装 錬成 質量置換 詠唱簡略 新技能習得 分解 言語理解

 

=========================================================

 

「何・・・・これ?」

 

真由美は唖然とした。いくらオーバースペック気味な力をもらったとはいえ、これはやばいだろってぐらいにチートな数が後ろに隠されているからだ。

 

「姉さん、どうでした?」

「それ僕も気になるな。」

 

深雪が話しかけてきた。ハジメも気になったのか近づいてきた。(なお数字の後ろのカッコ内は偽装の効果で見えなくしている。)

 

「こんな感じね。」

 

真由美がそれを見せるとハジメは驚いていた。

 

「真由美さんは僕と同じ錬成士なんだね。」

「それより私はこの[魔弾の射手]というのが気になります。どういうことでしょうか?」

「さぁね?私にもわからないわ。ごめんね。」

 

ちなみに深雪のスペックはこんな感じである

 

====================================

 

 獅童深雪 16歳 女 レベル1

 

 天職:氷上の女王

 

 筋力:10

 

 体力:100

 

 耐性:100

 

 敏捷:50

 

 魔力:∞

 

 魔耐:∞

 

 技能:詠唱簡略化 外気操作 気温天候操作 人口氷生成 言語理解

 

=================================

 

「うわぁ・・・・・」

「す、すごいね魔力系統に関してはあの光輝君を凌駕してるよ。」

「そうですか?ありがとうございます。」

「そう言えばハジメのスペックは?」

 

そうきかれてハジメはステータスプレートを見せる。

===============================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10

 

技能:錬成 言語理解

 

===============================

 

「私とあんまり変わらないのね。」

「うん。まぁこのぐらいが妥当じゃないかな?」

「そうですね。数値が高いというのはいいのかもしれませんが、それはつまり戦いに徴用されやすくなる事でもあります。」

「だから実際私たちは数値が低いほどいいのよね。」

 

3人がそんなことを話してると話し終えたのか男子数人がハジメのステータスプレートを覗きに来た。そう、言わずもがな、檜山達である。

 

「何そのステータス。よっわ。やっぱお前はここでも無能なんだな!ハハハッ!」

「あんたねぇ!」

 

檜山のセリフにさすがに堪忍袋の緒が切れた真由美は反論しようとする。しかしそれをハジメは遮る。そしてその時のハジメの目は見たことがあるものだった。

 

(久しぶりに見たわねその目。にしても”面倒だからおとなしくしててくれ”なんて、何か策でもあるのかしらね。)

 

「うんそうだね。だから僕は後方支援にでも回るよ。」

 

ハジメはそう切り返す。自虐をした後にこれを言われればよほど頭のいい奴でなければ正論を言うのは難しいだろう。

それは檜山とて例外ではなかった。

 

「ちっ!面白くない奴。もういこーぜ。」

 

檜山達はその場を離れていく。その時、メルドはこう言った。

 

「戦闘訓練は明日からだ!今日は部屋でゆっくりしていってくれ!」

 

そう言い終わるとどこからともなくメイドが現れ、番号が書いてある紙を配りだした。真由美達はそれに従って部屋に戻っていった。




個までは本編とあまり変わらないと思います。(カットしたところはあったけど)次回からはいろいろと変わりますので、お楽しみに。それにしても、この主人公はほんとに人間なんでしょうk・・・・イッツ!「誰が人間じゃないですってぇ!?」
何で真由美さんここにいるんですか!?まぁいいや次回お楽しみにー!


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第四話 戦闘訓練?ナニソレオイシイノ?

テストが無事に終わって少しほっとしている作者です(ボソッ 今回出てくるものは原作:ありふれた職業で世界最強 に登場するものではなく、完全オリジナルなものが多数出てきます。そう言うのが無理という方はブラウザバック推奨です。 ところでビルドのOP前の予告というかネタ部分というか、まぁやってみたくなったんでやります(;^ω^)

「やぁ、こんにちわ。みんなのお姉さん、獅童真由美よ。」
「姉さん、恥ずかしいんでそういうのやめてください。あっ、妹の深雪です。」
「相変わらずだね真由美さん。どうも、南雲ハジメです。」
「今日は初めての戦闘訓練よ!檜山とかいうやつが介入してきそうね・・・・マジでひねりつぶしたいわ。」
「何とか河さんも来そうですね。来たら蹴りをかましてやります。」
「まぁまぁ落ち着いて二人とも。という訳で。」
「「「さてさてどうなる奈落編第四話!」」」


翌日、真由美たちはメルドさんに連れていかれ、訓練場に来ていた。朝のうちに各々の戦闘服と【アーティファクト】が支給され、各々でやれることをやり始めていた。

 

「先に渡したアーティファクトは自由に使ってくれ。君たちの相棒になるのだからな。慣れておくに越したことはないぞ。」

 

ということらしいので、真由美と深雪は、ハジメと一緒に訓練場の周りにあった小高い丘の上にいた。人がいるところではあまり見せたくないらしい。

 

「それで、何からやろうか?一応格闘技に関してと護身術に関してはある程度教えることはできるけど?」

「そうか、確か真由美さんは格闘技やってたもんね。」

「じゃあ、一応格闘技の基礎を習うのはどうでしょう?」

「いいね深雪さん。そうしようか。」

「わかったわ。まぁ私のはほぼ独学に近いから、見慣れないのも多いかもだけど、頑張ってついてきてね。」

 

そうして真由美による戦闘訓練が始まった。二人とも覚えるのが得意なのか、すぐに教えた型を覚えて行った。それを見た真由美は

 

更に型を教え2人に覚えさせていった。その練習は夕方まで続き、真由美はこんなことを2人に提案した。

 

「すごいわね2人とも。ここまで覚えられたのなら上出来よ!という訳でこれから実戦訓練をしましょう。」

「実戦訓練ですか?」

「そうよ。二人にはこれから、私に同時にかかってきてもらいます。まぁ勝っても負けても何かあるってわけじゃないから気楽にね?」

 

2人は顔を見合わせる。しかしすぐに真由美の方を向き深雪とハジメは組みかかる。まずハジメが真由美にCQCを仕掛ける。それを真由美は真っ向から迎え撃ち、しばらく素手同士の決まらない戦いが続いた。

 

深雪はその後ろから足払いをかけ真由美はよろけた。深雪はそれを見逃さず、真由美を羽交い絞めにした。ハジメはそのまま鳩尾に拳を入れてノックダウンさせようとした。

 

が真由美はハジメの腹に蹴りを入れて突き放し、そのまま体を深雪の方に向け深雪の鳩尾に拳を叩き込む。さすがに耐えられない深雪はたまらず手の力を抜いてしまった。そのすきに真由美は拘束を脱し

 

ダウンから復帰したハジメのあごに掌底突きをかましてノックアウトさせた。そしてその後ろで立ち上がる深雪の腕をつかみ一本背負いの要領で地面にたたきつける。まさに容赦のない戦いだった。

 

真由美はそのまま二人の復帰を待ち、復帰したところで声をかけた。

 

「二人ともすごいじゃない!ここまでくれば並大抵の強姦野郎どもはイチコロよ。」

「全く・・・・・・・・姉さん・・・・・・・・は規格外ですね・・・・・・・・」

「全くだよ・・・・・・・・」

 

まだ二人は先のダメージが抜けてないのかよろよろと立ち上がる。真由美はそれを見て次は錬成に関しての訓練でもしようかと思っていると、三人ほど歩いてくるのが見えた。

 

その内の一人を見て真由美は嫌な顔をする。

 

「どうされました?姉さん。」

「・・・・・・・・檜山がこっちに来てる。」

「えぇ⁉」

 

その三人、檜山とその取り巻きはどうやらハジメを探しに来たらしく、ハジメを見つけるとにやにやしながらこちらに近づいてきた。

 

「よぉ負け犬。何してんだ?もしかして訓練か?ハハハッ!よくやるねぇ!無能のくせしてさ。こんな女どもに習っちゃってさ。恥ずかしいと思わないのか?まぁ思わねぇよな。だって無能なんだからさ!」

 

三人はゲラゲラと笑う。ハジメはそれを聞いてきたものがあったのか暗い顔をしている。深雪は自分と真由美を侮辱されたことに腹を立てているのか今にも蹴りかかろうとしている。その瞬間

 

三人の前から真由美は姿を消した。と思うと檜山の姿が消えた。

 

「グハッ・・・・・・・・」

 

何かにぶつかるような大きな音と苦悶に満ちた声が響いた。その方を向くと、10mくらい離れた木に檜山は打ち付けられていた。残された二人の前には真由美の姿があり、その姿に深雪は違和感を覚えた。真由美の姿が少し変だったからだ。

 

真由美のその黒い髪は若干白みがかかっていて、顔を見てみると、その赤い目からハイライトが消えている。アニメやゲームで言うヤンデレのような瞳をしていた。そして真由美はその口を開いた。

 

「急所は外してやった。奴は死んではいないわ。だが、これ以上何か言うのであれば・・・・・・・・」

 

真由美の表情が変わる。その顔は阿修羅を想像させるほどに怒りに満ちていた。

 

「殺すぞ貴様らぁ!」

 

その声は嫌というほど響いた。そしてその口調はいつものお姉さん口調ではなかった。その声によほどの恐怖を覚えたのだろう。残った二人は泣きながらその場にへたり込んでいた。

 

腰が抜けたのだろう。一人はその表情のまま固まっているから多分気絶している。すると麓から数人が上がってくるのが見えた。

 

言わずもがな、メルドと光輝たちである。先ほどの音と声を聴いて何事だと来たようだ。

 

「メルドさん私はこの人を治療します。」

「あぁ、頼んだぞ香織。」

 

香織も来ていた。そして香織は檜山の治療に当たった。それを見て本題に入るぞと言わんばかりに真由美たちの方を向いた。

 

「ここでいったい何があった?そしてお前たちは何をした?」

 

メルドの目つきが変わった。警戒しているのだろう。その問いかけに答えたのは真由美であった。

 

「あら団長様。わざわざ来ていただき感謝しますわ。実は、私たちの訓練中、あそこで伸びている檜山という不埒な輩が、私たちに因縁をつけてきて、南雲ハジメを侮辱してきたので、きつい一発をお見舞いしましたの。」

「お灸をすえたとでもいうのか?それにしてはやりすぎの気もするが。」

 

メルドの危惧はもっともだ。先の真由美の一撃で、檜山が飛ばされた木までの森林は根元から折れてもう地肌が見えていた。

 

「これぐらいしないとわからなさそうなので。これ以上かかわってこないというのならもうこんなことはしません。」

 

真由美はそう言った。メルドはその言葉に嘘はないと思ったのだろう。光輝を引き連れて檜山達を連れて行った。

 

するとお城の方から鐘が聞こえてきた。練習終了の合図らしい。

 

「今日はもう帰ろっか?」

「そうですね。今日は戻りましょう。行きましょう、ハジメさん。」

「うん。わかった。」

 

三人は何食わぬ顔で宿舎へと向かった。

 

その日の夜、真由美はメルドに許可を得て、王国お抱えの錬成士用の資材倉庫へと足を運んだ。そして鉱物が置いてあるエリアへと向かった。

 

(いくら格闘術に長けているといっても所詮、女子の筋力よりちょっと上ぐらいの力。武器がないと私は戦えない。)

 

彼女が渡されたアーティファクト(金属で出来た護符のようなものを扇子のように5枚ほどくっつけたようなもの)五風護扇はそれぞれに違った魔法を登録でき

 

魔力を流すだけで、登録した魔法を打てるようになるものだ。しかし、近接戦闘能力は皆無に等しい。つまり、格闘戦は素手で行う必要がある。その行為は

 

さすがの真由美でも限界がある。それに懸念を抱く彼女は新たなアーティファクトは作れないかと思い、ここに来た。

 

今の真由美のステータスはこのような感じとなっている。

 

===================================================================

 

 

 

獅童真由美 17歳 女 レベル3

 

天職:錬成士 魔弾の射手

 

 

 

 筋力:12

 

 

 

 体力:12  (計測不能)

 

 

 

 耐性:15  (計測不能)

 

 

 

 敏捷:20  (計測不能)

 

 

 

 魔力:30  (技能:外気変換があるため実質∞)

 

 

 

 魔耐:30  (風力操作でバリアが貼れるため条件下で∞)

 

 

 

 技能:遠隔配置 風力操作 外気変換 疑似瞬間移動 偽装 錬成 質量置換 詠唱簡略 新技能習得 分解 鉱物検索 想像形成 反転 言語理解

 

 

 

==================================================================

 

(やはりリーチは長いほうがいいし、遠距離までとはいかなくても中距離でも戦えるようにしたい・・・・・・・・そう、いつぞやのゲームに登場した、銃と剣がくっついてるやつ。)

 

「でも私、その武器の構造知らないしなぁ。想像ならできるんだけど・・・・・・・・あっ。」

 

真由美はふと自分の技能欄を見た。そして目に留まったのは、想像形成という技能だった。

 

(まって?もしこの技能が自分の想像したものを作れるとしたら?よし!案ずるより産むが易しよ!早速素材を探してみましょう。)

 

真由美は倉庫内を探し始めた。いろいろな鉱石を見て強度、そして魔力を流せるかどうかを調べながら探していた。すると倉庫の一番奥に差し掛かり、そこを見ていると、何やら異質な鉱石が置かれていた。

 

「何これ?ナノマテリア鉱石?なんでこんなSFチックな鉱石があるんだろう。・・・・・・・・ふむふむ、強度は問題なし。これなら作れそうね。」

 

真由美はそのまま想像形成と錬成を駆使して武器の制作に取り組んだ。試行錯誤すること約五時間。ついにその武器が完成した。

 

その武器は持ち手がウィンチェスターライフルに酷似していて、その先にはマグナムのような回転弾倉がついていた。その先には銃口の下に片刃剣がついているような独特な見た目をしていた。本体の色は黒で所々に青い線が入っている。

 

そしてもう一つ。こちらは武器ではなく武器と同じカラーをした柄に青白いクリスタルのようなものがついた鍵状のものだった。

 

「よしできた!これで近中距離に対応できるようになった。あとはカートリッジ代わりにこのアーティファクトの記憶能力を付加したものを作るだけだ。とその前に名前を決めなきゃね。えっと・・・・・・・・

 単純に・・・・・・・・よし決めた。、今日からあなたの名は、シグルドスラッシュよ。よろしくね。」

 

その名前を聞いて、その武器【シグルドスラッシュ】は心なしか喜んでいるように見えた。こうして真由美の相棒となる武器が完成した。これがどういう結末を生むか、それはまだ先の話である。




今回参考にさせていただいた武器の見た目はPSO2内に出てくるノヴェルガンスラと解錠リバレイトです。最近ラスターをやってまして、よく使うのでこれにしました。もちろんちゃんとリバレイトガンスラのような形態になるのでお楽しみに。


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第五話 ついに迷宮へ 前編

「どうも皆さん!みんなのお姉さん、真由美よ。」

「その挨拶をやめる気はないのですか姉さん。あっ、どうも皆さん。妹の深雪です。」

「ついに迷宮だってよ深雪!ワクワクするわね!」

「でもなんだか一波乱起きそうな予感しますよ私。」

「そういうときの勘ってよく当たるのよねぇ。そう言う能力でも持ってるの?」

「そんなわけありません!姉さんを危険にさらすような能力はいりません!」

「ちょっと深雪落ち着いて。言ってることがおかしくなってるわよ。でもまぁどっかの誰かさんに落とされるかもしれないわね。という訳で・・・・・・・・」

「「さてさてどうなる奈落編第五話!」」


真由美が資材倉庫で新たなアーティファクトと作っている最中、深雪は予想外の客人を迎えていた。

 

「はい、今出まーす・・・・・・・・どうしました?香織。」

 

そう、部屋に訪ねて来たのはなんと香織だった。

 

「いや、真由美はいるかなって思ってね。」

「姉さんならもう少しで帰ってくると思います。ここで待ちますか?」

「うん。そして、出来ればハジメ君も呼んできてほしいの。頼める?」

「ハジメ君をですか。わかりました、ちょうど隣の部屋なので呼んできますね。」

「えっ、いいの?というかとなりだったの?」

「はい。姉さんがすっごく喜んでましたよ。」

「そうなんだ・・・・・・・・」

 

深雪は部屋を出る。ハジメを呼びに行ったのだ。そしてそれと入れ違いになるような形で真由美が戻ってきた。

 

「あら香織。こんな時間にどうしたの?お姉さんとお話したくなっちゃった?」

 

真由美はいつものノリでそう言った。だが香織は顔を伏せて、首を縦に振った。

 

「えっ図星?やだやだ私いつものノリで言っちゃった。あの‥‥ごめんね?」

「いいのいいの、気にしないで・・・・・・・・それで、何してたの?」

 

香織は真由美が手に持っていたアーティファクト【シグルドスラッシュ】を指さしていた。

 

「あーいやこれは・・・・・・・・興味本位で?」

「なんで疑問形なのよ。」

「あははー・・・・・・・・気にしないで、ね?」

「だめよ。それに、さっきのこと反省してるんでしょ?なら話してちょうだい。」

「やっぱり気にしてたー!」

 

それを聞いて香織が笑った。それを見て真由美もつられて笑った。その後ろでドアが開く音が聞こえた。そこに入ってきたのは

 

「楽しそうだね2人とも。」

「えぇ、笑い声が廊下まで響いてましたよ。」

 

ハジメと深雪だった。

 

「えっと、どうしてここに?」

「深雪さんに呼ばれたんだよ、なんでも僕を呼んでる人がいるから深雪さんの部屋まで来てくれって。」

「香織さんが姉さんとハジメさんに話があるからと。」

「ふーん・・・・・・・・じゃあその用件を聞こうじゃないの。いったいどうしたの?」

 

真由美は振り返り香織の方を向いた。

 

「うん、じゃあ話すね。さっきまで部屋で寝てたんだけどね。その時に夢を見たの。」

 

香織の話は、簡単にするとこういうことだ。クラスメイトとどこかのダンジョンに潜った時に、罠にはまってさっきまでいた場所とは別の場所に行ったらしい。

 

そこで強い敵と戦って、何とか倒した。しかしその敵が最後のあがきと言わんばかりに香織に攻撃を仕掛け、それをかばったのがハジメと真由美だったのだ。

 

「それでそのあと私たちはどうなったの?」

 

「そのまま死んじゃったの。」

 

「そんな・・・・・・」

 

真由美は何とも言えない表情をし、深雪はショックからか顔を手で覆った。ハジメは顔を伏せる。ここが現実世界、いや日本だったら

 

そんなことがあるわけがないと笑い話になる。しかし、転移というまさに夢物語が自分の身に起こっている真由美達には、香織のその夢が

 

現実になる可能性を否定できなかった。

 

「それでね、三人はいなかったからわからなかったと思うんだけど。明日【オルクス大迷宮】ってところに行くんだって。それでね、わたしが

お願いしたいのは、二人に明日の大迷宮探索に行ってほしくないの。メルドさんは私が何とか説得するから。お願い!」

 

香織は目に涙を浮かべながら頭を下げた。それを見てハジメが何かを言おうとした。しかし先に口を開いたのは真由美だった。

 

ハジメは口をつぐむ。真由美の目が、瞳がまるで檜山との一件の時のような眼をしていたからだ。

 

「ごめんね香織。私にはそれはできない。」

「どうしてっ⁉」

「私とハジメがこのまま前線を離脱してしまったら、もしクラスの誰かが死んだとき、責められるのは私たちなの。何でいなかったんだってね。」

 

真由美の言ってることはもっともだ。いくらチートスペックを持つ彼らだって、初めての戦闘で死んでしまう可能性は少なくない。

 

それぐらい戦いというのは非情なのだ。人の命など簡単になくなってしまう。そして人の心というのも心底複雑である。もし目の前で

 

信頼している人が死んで、そこにいなかった人がいると、人はその人のことを責め始める。頭ではわかっていても心で納得できないのだ。

 

危惧しているのはそこだ。ただでさえ人を殺すことに慣れていないクラスメイトの誰かが死んで、もしその場に、クラスメイトからいい印象を受けていないハジメがいなかった場合

 

檜山あたりがクラスメイトをそそのかして、最悪ハジメは殺されてしまうかもしれない。そしてそこに真由美がいれば彼女はこの国中を敵に回すことになる、殺人に手を貸した逆賊として。

 

それぐらい今のクラスメイトの発言力というのは高い。こいつは逆賊だといってしまえば国王をはじめ国中の人々はそれを簡単に信じてしまうだろう。だからこそ真由美は香織の願いを断った。

 

その代償を考えて。

 

「それは、私が何とか・・・・・・・・」

「できると思う?何とかならともかく、あなたに。」

「それは・・・・・・・・」

「それに、あなたが私たちを擁護すればあなたまで逆賊と言われかねない。だからその願いは聞き入れられない。」

「そんな・・・・・・」

 

香織はうなだれてしまった。それを深雪が支えている。真由美はハジメに近寄り、耳元でこう呟く。

 

「あとはあなたに任せるわ。今の香織に私が何を言っても無駄だもの。香織を励ましてあげて。」

「うん・・・・・・・・わかった。」

 

真由美はそのまま部屋を出ていく。その場にいたのでは香織は落ち着かないだろう。そう判断したからだ。真由美はそのままお城の庭へと向かう。

 

すると見たことある人影がいた。メルド団長であった。

 

「あら団長、こんばんわ。」

「おぉ、真由美か。こんな時間にどうした?」

「ちょっと友人と喧嘩してしまいまして。それより団長。」

 

真由美は真剣な表情になったそれを見てメルドも表情を変える。

 

「明日、大迷宮に行くというのは本当ですか?」

「その時お前たちはいなかったな。あぁ、その通りだ。」

「団長、私はあなたに問いたい。」

 

真由美はそこで一度言葉を切りこう言った。

 

「あなたはいつ、私たちに人を殺すということをさせるのですか?」

 

メルドはその質問に驚いていた。その言葉を、年端も行かない少女から聞いたことが驚きだったからだ。

 

「・・・・・・・・何故、それを問うた?」

「私は以前、人を殺したことがありました。それも二人。」

 

またもやメルドは驚いた。人殺しをしたことにである。

 

「なぁ真由美。お前はいったい何をしてきた?いや、強いられてきたんだ?」

「べつに、ただ生きるために、です。そしてそれをしてきたからこそわかります。今の彼らには人殺しなんてできない。

平和な世界に生きていた彼らにできるわけがない。それはいずれ最大の弱点になる。」

「お前は・・・・・・・・」

 

すると真由美はいきなり首を左右に振りだした。

 

「あれ?ここは・・・・・・・・さっきまで部屋にいたのに。」

「おい真由美。」

「あれ?メルド団長?何でここにいるんです?というか私は何を・・・・・・・・」

「いや特に何かあったわけではない。たまたまお前が見えたから、声をかけた。」

「そうですか。では私はこれで。」

「おう。明日のためにしっかり寝ておけ。」

「そう言えば香織から聞きました。明日は大迷宮探索でしたね。わかりました。おやすみなさい。」

 

真由美は何かをぶつぶつ言いながら部屋へと戻っていった。メルドはその姿に疑問を持った。

 

(さっきのあれは何だったんだ?まるであいつの中にもう一人のあいつがいるような・・・・・・・・)

 

メルドはそう考えて、それはないなと首を振ってその考えを払った。しかし、彼が思ったことは正しかった。それがわかるのはあとの話である。

 

その頃真由美は部屋に戻っていた。今の真由美には部屋を出てあそこに行った時の記憶がないのだ。それどころか香織の話を聞いた直後からの記憶がないのだ。

 

部屋に戻るとそこには深雪がいた。

 

「姉さん。おかえりなさいませ。」

「う、うんただいま。それで香織は?」

「ハジメに連れられてハジメの部屋に行きました。」

「そう・・・・・・・・」

 

真由美はそのままベッドに体を預け、寝てしまった。

 

 

翌日、真由美たち勇者一行は【オルクス大迷宮】前に立っていた。そして今、その場所の光景に驚いている最中だった。

 

そこには様々な店が乱立しており、そこには冒険者がうじゃうじゃいた。そして大迷宮の入り口には何かを記録している女性が立っていた。聞いてみれば、入った人数を記録して、何人死んだのか確かめているのだという。

 

「さて諸君、初の戦闘だ。今まで鍛えたものを十分生かせるように頑張ってくれ。健闘を祈る!」

 

メルドは今回護衛の剣士数名を連れて、光輝たちの前に立つ。所謂先導役をしている。

 

クラスメイトの方を見ると、各々が別の表情をしている。楽しそうにしている人もいれば怖がっている人もいた。

 

その中でも不穏な表情をしている人物がいた。そう、檜山である。彼は昨日、香織を連れて自分の部屋に入るハジメの姿をたまたま見かけた。そして愚かにもそれを憎いと思っていた。

 

(あいつなんかより、俺の方がもっとふさわしいんだ!)

 

そして檜山はその考えのまま迷宮へと足を踏み入れた。それはのちにクラス全員を巻き込んで危険な目に合わせることになるのだが、この時の檜山にそんなことが想像できようもなかった。

 

しばらく迷宮の中を進んでいく真由美達。

 

すると魔物が襲ってきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

真由美達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

道中の魔物と呼ばれる敵も難なく撃破し、歩みを進めていく。そして一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

真由美達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。

 

ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

従って、真由美達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。すると真由美はその手のアーティファクト【シグルドスラッシュ】を壁に向けて、引き金を引く。するとその武器の銃口付近から魔法陣が現れ、白い氷の礫のようなものが連続で発射される。それが壁に当たるとその壁は嫌な悲鳴を

 

あげながら倒れていく。その後真由美は逆サイドの壁に疑似瞬間移動の技能を使って移動し、壁を切り裂く。そちらも悲鳴を上げながら倒れる。それをよく見ると壁ではなく壁に擬態した魔物だった。

 

「ほぉー、よくロックマウントの擬態を見破ったな。みんなも気をつけろ。こんな魔物がうじゃうじゃいるからな。」

 

どうやらロックマウントというらしい。それに気づいたのは偶然ではない。真由美は先の戦闘の前にレベルが上がっており、その際、技能:性質診断という、見たものの構成元素などを見られるという技能を手に入れ、試しに

 

使ってみると、壁のはずなのに生物のような構成をしていたので撃ってみたら擬態だったという訳だった。すると香織がキレイとつぶやいた。その目線を追うと、きれいな鉱石があった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり

 

加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。真由美はその鉱石に無意識のうちに”性質診断”を使った。するとその鉱石の後ろに何かあった。

 

それはまるでその鉱石を抜くと発動するトラップのよう・・・・

 

「だめ!それを抜いたら!」

 

その忠告は果てしなく遅かった。檜山達はその鉱石を引き抜いており、それに合わせて魔法陣が現れ、真由美達をさらった。

 

部屋の中に光が満ち、真由美達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

真由美達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

尻の痛みに呻き声を上げながら、真由美は周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは真由美と同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

真由美達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。真由美達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

まさか……ベヒモス……なのか……

 

 




次回ついにベヒモスとの戦いですね。さてどうなるのかな?ということで次回もお楽しみに。

このお話は原作をこちらの都合に合わせて改変しています。それをご了承ください。


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第六話 ついに迷宮へ 後編

前回の続きという立ち位置なのでネタパートはお休みです。なので私から軽く前回のあらすじを。
真由美は新たなアーティファクト【シグルドスラッシュ】を携え迷宮に潜る。そこで新たな技能:性質診断を得る。その後20層まで下り、真由美たちはとある鉱石を見つける。しかしそれは罠でその鉱石を取ると転移陣が発動しどこかに飛ばされる。そこにはベヒモスと呼ばれる化け物がいた・・・

それでは第六話 ついに迷宮へ 後編 お楽しみください!


「まさか・・・・・・・・ベヒモスなのか?」

 

その空間にメルドの声は嫌というほど響いた。その声に反応し、ベヒモスは真由美たちの方へ向く。その目はまるで今日の獲物を見つけたといわんばかりに。そして、その化け物【ベヒモス】は戦闘開始と言わんばかりに

 

咆哮を上げた。

 

「総員、階段付近まで撤退しろ!今のお前らじゃ無理だ!」

 

メルドが叫ぶ。パニック状態になっているクラスメイトは一斉に階段付近まで移動する。が、そこで足止めを食らった。階段前に魔法陣が展開され、大量のトラウムソルジャーが出現したからである。

 

クラスメイトはそれに応戦するが、パニック状態でまともに攻撃が当たらず、じりじりと押し返されている。するとトラウムソルジャーが一斉に凍った。クラスメイトが背後を向くと、そこには深雪が立っていた。

 

深雪の持つスマホ型のアーティファクト【アイシングブルーム】は使用者の氷魔法の威力はそのままに広範囲に広げる特性を持っている。そのため彼女が放った、敵を凍らせ一時戦闘不能にする魔法【氷獄】が

 

前方のトラウムソルジャーをまとめて凍らせたのだ。

 

「姉さん、今!」

「えぇ!任せて!」

 

深雪がそう叫ぶと、クラスメイトの前に真由美が立った。技能:疑似瞬間移動の効果だ。そのままシグルドスラッシュを構えて魔力を込める。

 

「風爪一閃!」

 

真由美はそれと同時に横なぎにする。シグルドスラッシュはその刀身に風の爪を纏い、凍った敵を横薙ぎに切り裂いた。

 

「深雪。敵の転送がこれだけだとは思えないから、転送されてきたときは氷漬けにしちゃって!」

「了解しました、姉さん。」

 

真由美はベヒモスの方へと向かった。

 

ベヒモスは光輝、香織、雫、そして光輝の友人である龍太郎とメルドが抑えていた。その後ろにはハジメもいる。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟」

 

光輝が切りかかる、がベヒモスはびくともしていない。

 

「どうする?このままじゃじり貧だぜ?」

「あきらめるな龍太郎。せめて、クラスのみんながここを離れるまでの時間を稼がなきゃ!」

「二人とも!前!」

 

光輝と龍太郎の目の前にはベヒモスの前足が来ており、このままでは二人とも奈落に落ちてしまう。二人はとっさに目をふさぐ

 

しかし、衝撃は来ず、その代わりに岩が砕けるような音がした。ハジメが錬成で、壊れてしまったとはいえ、岩の壁を生成したのだ。

 

「ありがとう南雲!」

「助かったぜ!」

 

2人はハジメにお礼した。しかしまた前足が二人の元に迫っていた。

 

「二人とも!危ない!」

 

ハジメは叫ぶ。錬成はクールタイム中だ。いくらハジメでも1秒以上のタイムラグが出てしまう。今度こそ確実に終わる。そう思った二人の前で、ベヒモスの足に半ばから亀裂が入り、後ろへと吹き飛ばされた。

 

「なんだ!?」

 

光輝は驚く。ベヒモスが後ろに吹き飛び、その目の前に真由美が来ていたのだから。階段からベヒモスのいる広場まではかなり離れている。いくら早くても1秒でこれるはずがない。

 

「二人とも大丈夫⁉」

 

香織が二人に声をかける。その間にも真由美はベヒモスにロックマウントにも使った魔法【エア・バレッド】で迎撃している。

 

その光景を見て光輝はうなだれる。

 

「なんだよ・・・・・・・・俺なんかよりも勇者してるじゃないか。」

 

するとそこへ、真由美が飛んできた。

 

「ハジメ、錬成で壁を作って!なるべく分厚い奴。私も作るから。」

「分かった!」

 

そして二人は同時に呟く。

 

「「錬成!」」

 

ベヒモスと真由美達との間に5mほどの分厚さの壁が出来上がった。そのすきに真由美は光輝の方を向く。

 

「光輝!あなたはクラスメイトの方に行きなさい!私にはあのパニックを止めることはできないけど、あなたならできるでしょ!何も勇者は戦うことだけが仕事じゃない!」

 

そう言っているうちに壁にひびが入っていく

 

「真由美!・・・・・・・・でも俺は・・・・・・・・」

「ぐずぐずしないで!あなたがあの場で先陣を切った時の覚悟はその程度なの!?早く行きなさい!早く!」

 

真由美はそう叱咤する。そう、真由美が言ったのは最初に集められた時の光輝の発言だった。光輝はそれを言われて覚悟しなおしたのか

 

「香織、龍太郎!一緒に来てくれ!クラスのみんなを撤退させる。」

 

2人に声をかけた。

 

「分かったぜ!」

 

「でも真由美たちは?」

 

香織が真由美の方を向き、言った。真由美はこう答えた。

 

「大丈夫、撤退を確認したら私たちも撤退するから!さぁ早く!」

 

「・・・・・・・・分かった!無事に帰ってきてよ!」

 

光輝たちはクラスの方へ向かった。そして龍太郎はハジメの横を通り過ぎるときハジメに言った。

 

「助かったぜ!その勇気はすげぇよ!ありがとよ!」

 

それを聞いてハジメは嬉しそうにしていた。その瞬間真由美たちが作った壁が破壊された。その瞬間真由美はシグルドスラッシュをベヒモスに向け、今打てる最大級の威力の魔法を放った。

 

「貫け!【エアロ・ブラスト】!」

 

周りの風が収束して一塊になり巨大な礫を形成し、ベヒモスに当たった。ベヒモスはその衝撃で内臓にダメージを負ったのか、後方に吹き飛ばされながら、悲鳴を上げていた。

 

真由美が再度引き金を引く。するとベヒモスの頭上に二つの魔法陣が出現し、【エア・バレッド】がベヒモスを足止めしていた。そのすきに真由美はメルドとハジメのところに向かった。

 

「メルド団長。光輝のいうことも正しいです。このままじゃじり貧だ。だからこれから私が錬成でベヒモスの周りを固めます。その間に後ろから魔法を奴にぶつけてください。効果はあります。

それは先の私の魔法で証明済みです。」

「でもそれじゃあ真由美さんに負荷がかかりすぎるよ!」

 

ハジメがそう言う。メルド団長もそれにうなずいた。

 

「その通りだ。それじゃあお前に負担がかかりすぎる。最悪死ぬかもしれんぞ?」

「それでも!」

 

真由美はそう叫ぶ。

 

「それ以外に方法がありません。それに光輝という旗印を失ったらそれこそ終わりです。だからどうかお願いします!」

「・・・・・・・・だったら、僕もいく。真由美さんを一人にはさせない!」

 

真由美とメルドは驚いた。まさかハジメの口からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。それが決め手となり、メルドは渋々頷いた。

 

「わかった。二人に任せる。だが死ぬなよ!」

「「はい!」」

 

メルドは光輝達の方へと向かった。真由美はハジメに近づき耳元で作戦を伝えた。

 

「もうすぐあの攻撃が止むわ。その瞬間あいつを一気に覆うわよ。」

「でもそれじゃあすぐ突破されるんじゃ・・・・・・・・」

「そこで、この鉱石を使うのよ。」

 

真由美が手にしていた鉱石。それはこの世界で一番固いとされている鉱石、アザンチウム鉱石だった。

 

「それは、アザンチウム!?どうしてそれを?」

「フフッ。資材倉庫に入った時に少しくすねて来たのよ。これを外側の壁に薄く張るわ。それで後ろの皆の魔法発動までの時間は稼げるわ。」

「そして準備を完了したと同時に錬成を解除。突破してきたベヒモスに集中砲火でチェックメイトよ。」

「わかった。やろう!」

 

と同時にエア・バレッドが効果切れで霧散した。それと同時にベヒモスが迫ってきた。真由美たちは作戦を成功させるため、簡単で、その時に最も効果的な呪文を唱えた。

 

「「錬成!」」

 

一気にベヒモスの周りにドーム状の壁ができ始める。それは一瞬にしてベヒモスを覆った。

 

 

それを遠くから見ていたメルドはクラスメイトに指示を飛ばす。

 

「真由美たちがベヒモスをとらえた!総員、詠唱開始!今の自分が持てる最大火力でいけ!」

 

それを聞いた光輝たちは詠唱を開始する。その中で一人だけ悪魔のような笑みを浮かべているものがいた。そう、檜山である。

 

檜山はハジメと真由美にとても憎しみを持っている。そしてこの混戦状態での一斉攻撃。この状況を見て檜山には悪魔の声が聞こえた。

 

つまり、「今ならやってもばれないぞ」ということだ。そう考えて檜山は詠唱を開始した。そして光輝たちが詠唱を完了した時、ちょうど真由美達の錬成の限界が来ていた。

 

「真由美さん、これ以上はっ!」

「分かったわ。タイミング合わせて!最後に足だけに錬成するわよ!」

「分かった!」

「じゃあ錬成一時中断!」

 

真由美とハジメの錬成が止まる。するとすぐにアザンチウムの壁にひびが入り始めた。その力は最高の高度を誇る鉱石ですら止められなかった。

 

ベヒモスが壁の中から出てくる。それと同時にその足は石の壁に覆われた。

 

「いま!」

 

真由美がそう叫ぶ。メルドはそれを聞き、

 

「総員、魔法発動!」

 

光輝たちの一斉法撃が開始された。それはほとんどがベヒモスに命中し、ベヒモスは悲鳴を上げその場に倒れる。ついにベヒモスを倒したのだ。

 

そう光輝たちが確信すると雄たけびが上がった。初の強敵撃破にみんな浮かれていたのだ。その中で檜山だけが苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

 

その横を香織が通り抜けていく、香織はそのまま向かって真由美とハジメに抱き着いた。

 

「やったね!真由美!ハジメ君!」

「うん。やったよ、香織。」

「う、うん。やったよ白崎さん。」

 

その光景を見ていた人たちはほんわかした目をしていた。ただ一人、檜山を除いて。

 

その瞬間、メルドが叫んだ。

 

「三人とも!伏せろ、まだベヒモスは死んでいない!」

「えっ?」

 

香織が声を発す、その瞬間真由美はハジメと香織を後ろに吹き飛ばした。

 

「何をするのまゆ・・・・み・・・・?」

 

香織が見た光景、それは圧力に耐えられずに所々から出血しながらシグルドスラッシュを必死に構えてベヒモスの足の一撃に耐えている真由美の姿だった。

 

「くっ!意外と・・・・・重いわね・・・・!」

 

その体からどんどん出血は増していき、ついに片膝をついた。ダメかと目をつぶった真由美。しかし実際に潰されることはなく。力が弱まっただけだった。何があったのかと目を開けてみると

 

そこには自前の剣で真由美の横で攻撃に耐えているハジメの姿だった。

 

「真由美さんだけに・・・・やらせない・・・・・!」

 

真由美はその言葉を聞いて思った。この人はやはりいい人だ、と。そして、出来るかどうか聞かずに真由美はハジメに言った。

 

「行くわよハジメ!」

「うん!」

「「うおぉォォォォォォ!!!!」」

 

真由美はその力の限界まで力を振り絞り、抑えている足を上へと払い上げた。それと同時に魔法がベヒモスを直撃する。そう、ただ一発を除いて。

 

一発の炎弾が真由美たちの足元に直撃し、足場にひびが入った。元々ベヒモスが暴れたせいでもろくなっている床だったが、その炎弾が直撃し、耐久値の限界を迎えた。

 

様々な魔法が直撃し、倒れたベヒモスの起こした振動で床が崩壊を始めた。

 

「姉さん!ハジメさん!」

「真由美!ハジメ!」

 

当然近くにいた真由美たちも巻き添えを食らい動けずにそのまま奈落へと落ちて行った。否、落ちかけた。しかし落ちる寸前でそれは止まった。

 

「絶対に、落とさせはしないよ!二人とも!」

 

そう、二人の腕をつかんだのは香織だった。しかしその努力は空しく終わった。香織がいた床が崩れたからだ。そのまま3人は奈落へと落ちて行った。

 

「そ・・・・んな・・・・・姉さん?」

 

その後に残ったのは崩れ去った広場へと続く階段だけだった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

深雪がその場に崩れ落ちる。そのほかのクラスメイトも一様に、唖然としているもの、泣き崩れるもの、そのほかの反応をしている中で、何とも言えない表情をしているものがいた。

 

そう、檜山である。

 

「(こ、これでいいんだ。ハジメなんかが”俺の香織”に手を出したからだ。そしてその関係を崩そうとする俺の邪魔をしたのが悪いんだ。あとは香織をどうにかして取り戻すだけだ。フヒヒッ)」

 

檜山は訳の分からないことを思っていた。自分で言ってることに矛盾に気づきもしない。だからこそ、目の前の”現象”に気づくのが遅れた。

 

辺りの気温が下がる、否、檜山の周りのみ。そう、周りが凍っていたのだ。檜山の周りだけ。

 

視線を上げるとそこには、なぜか深雪がいた。

 

 




後編はこれにて終了です。次回は檜山が処刑されるかもしれないシーンです。そして真由美たちのその後も書きますので次回をお楽しみに。


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第七話 奈落へと落ちて

「・・・・・・・・どうも皆さん。深雪です。」

「あからさまに落ち込んでるわね。あっ初めまして、八重樫 雫よ。よろしくね。」

「今日は、あの檜山とかいうゲス野郎を絶対に・・・・・・・・こr」

「ストップ―!それ以上は放送コードに引っかかるから。ね?という訳で。」

「「さぁさぁどうなる奈落編第七話」」

「姉さん・・・・・・・・」

(空気が重い!)


周囲の空気がどんどん冷えてゆく。精神的なものではなく物理的に。つまり、ほんとに”温度が下がっている”のだ。

 

そしてその急激な気温低下を引き起こしている人物とは今、檜山の前に立っている。否、立ちふさがっている少女、深雪だった。

 

その瞳はまるで汚物を見るように冷たく、それでいて異質な威圧感を放っていて、それは体が動かないほどだ。

 

「ど、どうしたんだよ深雪・・・・・・・・」

 

その空気に耐えかねて檜山が口を開く。

 

「気安くその名前で呼ばないでくれませんか?このゲス野郎。」

 

しかしそれを深雪は一蹴する。

 

「ななな何のことだ?」

「あら?ご自分で言ったことを記憶してらっしゃらない?これはこれは、随分と都合のいい頭をしていますね。このくそ野郎。」

「なんだと!?」

 

檜山は声を荒げた。しかしそのあと言われたことで背筋を凍らせることとなる。

 

「あなたは言いましたね、”アイツが悪いんだ”と。そしてあなたは適性が風なのにもかかわらず、火属性の魔法【炎弾】を放っていましたね?適性は風属性のはずなのに。」

 

深雪はこう続ける。

 

「私は最初、それに何も疑問は覚えませんでした。しかし、先のあなたのつぶやきを聞いて確信しました。一発だけ姉さんの手前に着弾した炎弾。それは床の耐久値が限界なことに気づいたあなたが、

”姉さんたちを落とそう”と”わざと”撃ったのだと。それはそうですよね。風属性魔法と違って、火属性魔法には爆発の効果がつきます。そしてすでに限界を迎えていた床を破壊するのにはそれで十分だと。

 

檜山は一気に顔が青ざめた。まさか、それだけでそこまで推理し、自分の犯行を一言一句違わずに当てるなんて。だからこそ檜山は焦った。冷静さを欠いた行動に出るのは明白だった。

 

「なな何を言っているんだ!ふざけるな!おい皆!こいつの言ってることはでたらめだ!そそうこいつだ!こいつがあの魔法で真由美たちを落としたんだ!」

 

檜山はそう弁解する。しかしその声に耳を貸す生徒は誰一人としていなかった。その瞬間、檜山の足に激痛が走った。

 

「あがぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!」

 

檜山の足が切断された。しかも両足だ。そこにあったのは氷の刃だった。

 

「ほんとは今すぐあなたをこの手で殺したい!・・・・・けどそれじゃあ姉さんたちの苦しみを味わわせることはできない。だから、あなたはここで魔物にでも食べられればいいわ。ではさようなら、いい死に方ができるといいわね。皆さん、行きましょう。」

 

深雪はそう言い、20層に戻るための転移陣の元へ戻った。他のクラスメイトもそれに続いた。

 

「おおおおおおおい!てめえらふざけるなよ!見捨てるんじゃねぇ!俺を助けろよ!なぁ!おい!無視するなぁ!」

 

檜山は叫ぶ。しかし彼は、助けるには罪を重ねすぎた。そう言わんとばかりに最後尾にいたメルドが檜山の方を向いて言った。

 

「獅童真由美、南雲ハジメ、白崎香織の三名は戦闘中に行方不明。檜山大介は戦闘中に仲間をかばって戦死。これで貴様の外当たりはよくなるだろう。」

 

そう言ってメルドは深雪たちの後を追った。そのあとに響いたのは檜山の絶叫だけだった。

 

 

「---み!」

 

声が聞こえる。ここはどこだろう?あたり一帯は暗闇だ。

 

「--ゆみ!」

 

またあの声だ。いったい誰を呼んでるんだろう?

 

「真由美!」

「はっ!?」

 

その声で真由美は目を覚ます。目の前には香織が涙を流しながら真由美を見ていた。

 

「良かった・・・・・よかったよ・・・真由美ぃ!」

「ちょ、ちょっと香織。痛いよ?痛いから抱き着くのやめて?ね?」

 

香織は慌ててその腕を離す。

 

「それにしても、香織。あの高さから落ちたのに何ともないのね?」

「あっ・・・それはね?」

 

聞けば、奈落に落ちたとき、真由美がとっさに周囲に風を巻き起こす魔法【エアロ・ストーム】を使って一時的に減速させたらしい。その瞬間、ハジメは

 

真由美のバッグの中から(真由美は資材倉庫からくすねてきた鉱石をすぐ使えるように、バッグを持ってきていた。)アザンチウム鉱石を使い即席のグライダーを作ったが、

 

上から降ってきた瓦礫が端に当たってグライダーは傾き、三人ともまた下へ落下。その時にはもう地面が見えていたらしい。その時真由美はハジメと香織を技能:疑似瞬間移動で地面まで瞬間移動させ、自分だけ地面に落ちて行ったらしい。

 

そこはたまたま水路になっていたので、頭を地面にぶつけることはしなかったが、それなりの速度で水にたたきつけられたこともあって、そのまま気絶したらしい。

 

「そう・・・・・ならよかったわ。結婚前の乙女の体を傷つけたら大変だもんね。」

「もう!それはあなたもでしょう?」

「そうね。フフッ。」

 

そうして真由美は立ち上がろうと両手を地面につける、否つけようとした。そこである違和感を覚える。左手が動かないのだ。よく見れば左腕には即席の当て木と服を破って作った三角巾がまかれていた。

 

「あっ無理に動かさないほうがいいよ?一応治癒魔法はかけたけど、骨折が治ったわけじゃないからね。」

 

どうやら左腕は骨折してるらしい。痛みはないから一応動ける。真由美は香織に助けられつつその場に立ち上がった。するとそこにハジメが帰ってきた。

 

「この先は全部真っ暗だ。無理せずにここにいよう白崎さん。っと、真由美さんもう起きたんだね。おはよう。」

「えぇ。おはよう。」

 

真由美は何げなくステータスプレートを見た。それは多分、スマホを不意に取り出すのと同じの行為なのだろう。すると技能のところに新たな技能が増えていた。

 

”構造知覚”と”暗視”である。

 

「なんか増えてるんだけど・・・・・・・・」

「おぉ!暗視だって。これで暗闇も安心して進めるね!真由美さん!」

「え、えぇ・・・・」

 

真由美はその技能を使ってみることにした。すると、どんどん辺りが明るく見えてきた。そして暗闇が見えるようになったがゆえに、見てしまった。

 

「なに・・・・・・・・あれ?」

 

それは、巨大な爪をもった熊のような見た目の魔物だった。




今回はちょっと手抜きじみてます。いやー檜山君どうなっちゃうんですかね?(ゲス顔)次回は爪熊(作者命名)との戦いから、ユエとの出会いまでを描くつもりです。ちょっと長くなりそうなんで投稿までに時間がかかるかと思います。ということで次回をお楽しみに!


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第八話 真の大迷宮と金髪の少女

「どうも皆さん。みんなのお姉さん、真由美よ。」

「こんにちわ。白崎香織です。」

「・・・・・・・・ハジメだ。」

「ハジメ!?なんか口調とか変わってない?」

「本編見ればそれの答えがわかるぜ?」

「ハジメ君・・・・・・・・かっこいい・・・・・・・・」

「「香織!?」」

「ま、まぁいいわ。それじゃせーの。」

「さてさてどうなる奈落編第八話!」」」

「この挨拶ってめんどくさいよな。」

「そういうこと言わない!」

「アッハイ」


「なに・・・・・・・・あれ・・・・・・・」

 

真由美はそうつぶやく。その顔はまるで、自分より格上の生物と対峙した時の顔のように、歪んでいた。

 

「どうしたの?」

 

見かねた香織が声をかける。その時、その化け物”爪熊”はゆっくりと真由美の方を向き、獲物を見つけたと言わんばかりに獰猛な笑みを作った。そしてその化け物はその右手を真由美たちへと振り上げた。

 

「やばい!皆伏せて!」

 

真由美がハジメと香織をかばう形で覆いかぶさる。その化け物がその腕を振り切ると、風の刃が真由美達を襲う。それを避けられなかった真由美はそれを

 

背中に食らってしまう。

 

「がはっ・・・・・・・・」

 

真由美の背中には大きな切り傷ができていた。その衝撃で内臓にもダメージを負ったのか血反吐を吐いてしまう。

 

「真由美!」

 

香織が近づいてくる。それと同時に回復魔法を使う。背中の傷が一気に回復する。

 

「うぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「「ハジメ!?」

 

その直後、ハジメが悲鳴と苦痛のこもった悲鳴を上げる。見るとその左腕が切断されている。

 

「さっきの余波でやられたの!?・・・・・・・・香織。」

「なに?真由美。」

「私が奴を引き付ける。適当な洞窟の中に入って隠れてて。」

「そんな!?やだよ真由美!あなたが死んじゃう!」

 

香織は泣きそうになりながら反論する。先の真由美の傷を見て、あの夢が現実になってしまうと思ったのだろう。しかし、化け物は刻一刻と迫ってくる。

状況が状況だ。真由美は香織の方を向いた。

 

「いいから!・・・・・・・・ここで二人に死んでほしくないの!だからっ!」

「・・・・・・・・わかった。死なないでよっ!真由美!」

 

香織は、ハジメを連れて岩陰の方に行く。背中の傷はまだ完全には治癒できていない。血が少しずつ漏れてきている。だが幸いにも左腕はもう動かせるほどにまで回復した。

 

「さぁ、どこからでもかかってきなさい!この化け物!」

 

真由美はシグルドスラッシュを構える。この理不尽とも思える状況に終止符を打つために。

 

ーーーーーーグルアァァァァァァァl!-----

 

化け物が再び咆哮をする。そしてその巨体に見合わない速度で突進してくる。

 

真由美はその突進をすんでのところで躱し、カウンター気味にシグルドスラッシュを振る。

 

「風爪一閃!」

 

シグルドスラッシュで切られたところを見て爪熊は一瞬動きを止める。その瞬間を真由美は見逃さなかった。

 

「まだまだ!ストレートインパクト!」

 

体を反転させ、その勢いで右ストレートを放つ。真由美がかつて習った格闘術の技の一つである。正式名称は【カウンターブロウ】相手の攻撃をぎりぎりで回避し、その反動を利用してカウンターを放つという技であり

 

今のは真由美が使いやすいようにアレンジ、改造したものだ。

 

その勢いに爪熊は対応しきれずそのまま壁にたたきつけられる。しかし、爪熊は難なく立ち上がり突進を仕掛けてくる。真由美はそれを同じように回避しカウンターを叩き込む。

 

そんな攻防が続き、このままではいずれ武器が破損するだろうという状態となった。いくら外気変換があるとはいえ、武器は消耗品だ。いずれ壊れてしまう。

 

「このままじゃ力が足りないか・・・・・・・・仕方ない!一度使うと壊れるまで元に戻せなくなるけど、使うしかない!」

 

真由美はそうつぶやく。そしてシグルドスラッシュの持ち手横のボタンを押した。すると回転弾倉の上部に特殊な形状をしたソケットがせり出て来た。そしてついに彼女の武器はその真価を発揮する。

 

真由美は懐から青いプレートを取り出した。そう、シグルドスラッシュを作る過程で作っていた鍵だった。

 

「シグルドスラッシュ、リミッター解除!全機能解放!」

 

真由美はその鍵”解錠アスカロン”をシグルドスラッシュ上部のスロットに差し込む。するとシグルドスラッシュの装甲部分が解除されてゆき、青白い刀身がその姿を現した。

 

「さぁ、これがシグルドスラッシュの本当の姿。アスカロンスラッシュ!さぁ、決めるわよ!武装形態変更、ツインガン!」

 

するとシグルド、否アスカロンスラッシュの見た目が変わり二丁拳銃のような見た目になった。そう、真由美が初めてとはいえ想像形成をして5時間もかけた理由はこの変形ギミックに

 

てこずったからなのである。(もちろんシグルドスラッシュの時に使用していた魔法記録用のカートリッジはそのまま使える。)真由美はそれを爪熊に向け引き金を引く。

 

エア・バレッドの魔法陣を複数重ねて連射性能を引き上げるというとんでもない発想で生まれたそれはミニガンもかくやという連射速度で爪熊に迫る。その威力は一瞬で爪熊の右腕を消し飛ばす。

 

「次!武装形態変更、ランチャー!」

 

真由美は二丁拳銃を上に投げる、するとその武器は巨大な大砲になって戻ってきた。真由美はそれに魔力を流す。大砲にエアロ・ブラストと同等のエネルギーが貯まり始める。

 

「魔力圧縮率最大!チャージ完了!エアロ・カノン、撃つわ!ファイヤー!」

 

真由美はその引き金を引く。圧縮された風の魔力は破壊の権化とかし、周りの岩ごと爪熊に迫る。爪熊はそれをとっさに回避したが、それでも残った方片方の手を失い満身創痍となっていた。

 

それでも真由美は止まらない。

 

「これで終わりよ!武装形態変更、ナックル!」

 

今度は手全体を覆うナックルになった。そして真由美はとどめの一撃と言わんばかりに構える。

 

「アースブレイクインパクト・エアロブースト!」

 

文字通り大地をも砕くほどの衝撃波は真由美の風魔法による加速で威力を増し、振り返りこちらを見ていた爪熊の胴体にヒットする。その一撃は余すことなく全身に伝えられ、爪熊は死体を残すことも許されず、その体を爆散させた。

 

真由美は構えをとくと構造解析を使い。爪熊が”消えた”ことを確認し、ハジメたちを探した。否、探しに行こうとした。するととてつもない叫び声が聞こえた。真由美は嫌な予感がしたのか、その声の方へと駆けた。

 

 

真由美は声のする方に向かった。

 

(まさか・・・・・・香織たちに何か・・・・・・・・無事でいてよ二人とも!)

 

真由美は 技能:疑似瞬間移動 を使い、ハジメたちがいると思われる横穴に突入した。しかしそこには信じがたい光景が広がっていた。

 

確かに二人はそこにいた。そう、いたのだ。真由美の知るハジメと香織は。今、真由美の目の前にいるのは、瞳の色が赤く変色し、黒色だった髪が白くなっている、変わり果てた姿の二人だった。

 

近くには何やら特別な成分を含んでそうな液体と、何かの肉。恐らく、さっきの爪熊がここに来るまでに殺した魔物の肉を食べたのだろう。

 

「まさか・・・・・・食べたの?魔物の肉を・・・・・・・・」

「・・・・・・・・あぁ、食べたさ。腹減りすぎて死ぬところだったしな。」

「あなたは気づかなかったのかもしれないけど、あれからもう”1週間”たってるんだよ?まぁ合ってるかは分からないけどね。」

 

今、なんと言ったのか?一週間もたった?そんなはずない、あの戦闘は10分もかかってないはず。真由美は思考をめぐらす。そして一つの確信を得た。そう、その原因は彼女の技能:外気変換 質量置換が派生して、新技能:魔力変換 体力変換 栄養変換

 

を覚えたからである。どうやらこの3つの技能、常時発動の上、魔力を変換し栄養に変え体に必要なものを生成するとんでもない技能なのである。しかも、技能:外気変換 のおかげで魔力は無限に近い(というか∞)ので

 

その技能が働かなくなるということはない。まさにチート技能なのである。つまり、体力が減ることなく戦闘を繰り広げていたために、時間感覚というものが狂ってしまったのだ。

 

「それよりだ。真由美。」

「「俺の(私の)大切を傷つけたくそ野郎はどこだ?(どこ?)」」

 

その瞬間、辺り一帯を濃密な殺気が包んだ。いくら二人分の殺気とはいえ、その密度は真由美ですら汗をにじませるほどだ。

 

(なかなかの殺気を出せるようになったじゃない・・・・・・・・でもまだ甘いわよっ!)

 

辺りが凍り付いた。否、静止した。それは真由美の殺気によるもの。その密度は二人の殺気を相殺するどころか、それ以上に高まっていた。

 

「・・・・・・・・まだまだ甘いか。やっぱお前には勝てねぇわ。」

「そう簡単に超えられちゃ、あなたの師匠なんて言えないからね。超えたいんだったら、殺気だけで相手をひるませなさい。それこそ腰を抜かすレベルのね。」

 

・・・・・・・・何か、目覚めてはいけない友情?を目覚めさせた気がするが、まぁいいだろう。真由美は先までの戦闘のことを話した。

 

「そうか、あのクソ熊はもういねぇのか。くそっ、お礼に右手吹っ飛ばしてやろうと思ったのに。」

「あー・・・・・・・・それね。私、あの熊の両腕吹き飛ばしたけど?」

「マジか!やったぜ、俺の左腕を持ってった報いを受けたか!」

「(なんか性格がねじ曲がってるなぁ・・・・・・・・まぁあの激痛に耐えたんだから仕方ないのかもしれないわね。それにしても、真由美かぁー。期せずして私のことを呼び捨てにしてくれた。

 やっと願いが叶ったわね。フフッ。)」

「おい真由美、心の声が駄々洩れだ。それにしてもそんなに呼び捨てで呼んでほしかったのか?あっちにいたときからそう呼んでくれとうるさかったが。」

「ふぇ?あーいや、私たちってもう家族じゃない?だからそう呼んでほしかっただけよ。お姉さんもう感激よ!」

「おっおう・・・・・・・・そうか・・・・・・・・」

 

真由美の性格も色々と変わってしまったことに本人は気づいているのだろうか。そんな中香織が真由美に謝ってきた。

 

「どうしたの?いきなり。」

「だって、あの時私何もできなかったから・・・・・・・・せめてもっと私に力があれば・・・・・・・・」

「気にすることないわ。あの時、私の指示を聞いてくれたから、私はアイツを倒すことができた。むしろあそこで一緒に戦ってたら間違いなく死人が出た。

 そうしたらハジメが悲しむじゃない。だからこの話はここで終わり。あなたが気にすることは何もないわ。」

 

それを聞いて香織は泣き出してしまった。恐らく気にしていたのだろう。そして貯めていたものが一気にあふれ出した。真由美はそっと香織を抱きしめ頭をなでていた。それは本当にお姉ちゃんを想像させる

 

そんな図だった。それと同時に彼女は気を失ってしまった。思った以上に出血がひどかったのだろう。貧血で倒れてしまったのだ。真由美の目が覚めたのは、あれから二日はたったくらいだったと記録しておく。

 

真由美が目覚めた後話し合った結果、とりあえず装備を整えるということになった。

 

理由は二つ。まずは武器の問題だ。今の状態でまともな武器を持っているのは真由美だけだ。しかも先の戦闘でだいぶダメージを受けてしまった。これ以上無理をさせようものなら

 

この武器は木っ端微塵になってしまうだろう。しかし、さすがというのだろうか。ハジメは逃げる最中にとある武器の素材になりそうな鉱石を大量に入手していた。

 

そして試行錯誤すること約2日、ついに出来た。ハジメの技能:纏雷 の効果を最大限に生かせる装備、回転弾倉式拳銃型超電磁砲”ドンナー”である。

 

そして現物ができたということはあとは簡単だ。幸い香織も技能:雷神 という雷を使うことができる技能を入手していたため、真由美は”想像形成”を使い

 

ドンナーと同じものを作る。しかし、彼女のは回転弾倉のやつではなく、自動拳銃(オートマティック)タイプだ。香織の身体能力を考えると、大型の回転弾倉式ではなく

 

現代風のオートマティック式にしたほうがいいという真由美の判断だ。二人はそれを難なく使いこなし、ハジメに至っては、狙撃手もかくやという精密射撃ができるようになった。

 

次に問題になってくるのは、この奈落の暗さだ。今は真由美がハジメと香織の手を取って移動しているが、戦闘になれば離さざるを得ない。魔物を食えばその技能を入手できることがわかっているため

 

真由美は、それまでのつなぎとして、いわゆる”暗視ゴーグル”を作ったのだ。暗視ゴーグルといても眼鏡タイプで、レンズ越しに暗闇が明るく見えるようにした。そしてこの暗視ゴーグル改め暗視眼鏡には

 

一定値以上の光を感知すると自動で暗視を停止してくれる機能も付いている。なんと便利なことか。それを使い真由美たちはこの奈落を捜索し始めた。そして真由美たちは一つの結論に至った。

 

”この奈落はまだ下がある”ということに。香織が探索中に下に潜れそうな階段を見つけたらしい。真由美たちはいつでも敵に対応できるように、慎重に降りて行った。

 

そこからは、まぁ色んなことがあった。主に敵に関してである。こっちを見るとみられたところが石化し、暗視眼鏡と同様の効果をした目を持ったコウモリ型の魔物や

 

酸を吹きかけながら部屋中を縦横無尽に駆け回るヘビ型の魔物。さらには牛人間もどきの魔物がいたりした。ちなみにその牛人間もどきは上裸どころか全裸だったので

 

香織が取り乱して愛銃”ナハト”(真由美命名)を乱射してたのはいい思い出である。そしてしばらく降りていた時、三人は巨大な扉の前にたどり着いた。

 

「・・・・・・・・ねぇ?ここが最終階層だったりすると思う?」

「・・・・・・・・いや、最終階層にしては道中の敵がいなさすぎる。ありんこ一匹出ないとなると、その線は薄いな。」

「あっやっぱりそう思う?ダヨネー・・・・・・・・」

「ハァ・・・・・・・・さっさと地上に戻りてぇのに・・・・・・・・」

「あきらめちゃだめだよ二人とも!ここまで来れたんだもん。何とかなるよ!」

「「天使や・・・天使がおるぞ・・・・・・・・」」

 

などと軽口を叩けるほどには戦ってきたのである。真由美はその扉を開けようとする。しかし、真由美の力では開かない。大きすぎて開かないのだ。じゃあどうするか。

 

「「錬成で扉作るか。」」

 

こうである。やはりこの二人は脳筋なのだろう。

 

「・・・・・・・・なんかハジメと真由美に失礼なこと言った輩がいる気がする。」

 

おっと香織さん詮索はやめてくれ。そしてその目をやめてくれ、死んじゃうから・・・・・・二人は錬成で扉を作っていく。中に入るとその部屋は暗いけれども、真由美たちが飛ばされてきた大広間にそっくりな作りで、ちょうど真ん中には

 

謎の四角いオブジェクトが置いてあった。これを作った人はかなりの独創的なセンスをお持ちのようだ。

 

「何もなさそうね。」

「あぁ、さっさと次の階層に行く階段探そうぜ。」

「・・・・・・・・ァ」

「うん。・・・・・・うん?香織、なんか言った?」

「ううん。何も言ってないけど?」

「ハジメは?」

「何も言ってないぞ?」

「じゃあもしかして・・・・・・・・あれ?まっさかぁ、そんなことあるわけ・・・・・・・・」

 

真由美は構造知覚を使った。(ちなみに、構造知覚は性質診断の進化したバージョンで、いつの間にか変わっていた。)

 

そう、あの独特なオブジェクトにである。・・・・・・・・あったよ。あっちゃったよ。

 

そのキューブから読み取れたのは謎の鉱石の反応と、わずかな生体反応であった。

 

「なんでやねん・・・・・・・・」

「どうかしたのか?」

「あのキューブあるじゃない?あれの中に人が埋まってるのよ。」

「なっ!?」

「うそっ!?」

 

まじである。真由美たちが近づくと、マジでいた。金髪の少女だ。年齢は・・・・・・・・12歳ぐらいか?の少女が胴体と頭以外をキューブに埋められていたのだ。

 

「あなたたち・・・・・・・誰?」

 

喋ったよこの女の子。

 

「・・・・・・・・どうする?私は助けたいけどなこの子。ダメかな?」

「白s・・・・・・香織。・・・・・・・・正直面倒ごとに巻き込まれる気しかしないが、ここで助けなきゃ後味悪いだろ?なぁ真由美。」

 

ハジメは真由美に聞こうと横を向いた。しかしそこに真由美はいなかった。すると前からハジメにとってはおなじみのあの音が聞こえてきた。

 

「おまっ、もう始めてんのかよ!はえーなおい!」

「だって、この素材固すぎて今の装備じゃ砕けないんだもん。」

 

真由美はそのキューブに”錬成”を使っていた。しかし、いつもは一瞬で終わるはずの錬成がなかなか終わらない。

 

「何この箱!?私の魔力弾くんだけど!」

 

そう、さっきから真由美の魔力に抵抗していて、なかなか進まないのだ。するとハジメがそのキューブに触った。

 

「行くぞ真由美!」

「うん!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」

 

ハジメと真由美は錬成を使う。しかし一向にキューブが崩れることはない。その時真由美が錬成を止めた。

 

「どうした真由美?」

「あったまきた!ハジメと香織は後ろ下がってて!そしてそこの金髪少女!」

「はひっ!?」

「歯ぁ食いしばってよ!」

「ふぇ!?」

「武装形態変更、ナックル!必殺!アースブレイクインパクト・エアロブースト・セカンド!」

 

ついに使ってしまった。文字通り大地を砕き岩盤すらように砕くその拳が先の風の魔力による加速の二倍の速度を持ってキューブに襲い掛かる。流石に耐え切れなかったのか、キューブはあっさり砕けた。

 

後ろにいたハジメたちはというと

 

「「えぇ・・・・(困惑)」」

 

ドン引きである。そして二人は誓ったのだ。このお姉さんを怒らせてはいけない、というか絶対怒らせないと。というかさっき自分で”この装備じゃ壊せない”とか言ってなかったっけ?

 

「錬成である程度強度落としたのよ。だから砕けたの!」

「何言ってんだ、というか誰に向かって言ってんだ?」

「えっ?ドクシャ=サンだけど?」

「おっ、おう。」

 

ここの住人はこっちの声まで聞こえるのかな?かな?・・・・・・・・ゴホン

 

そんな二人の心境をよそに、真由美はその金髪少女に質問する。

 

「あなた、お名前は?」

「・・・・・・・・分からない。忘れてしまった。」

「そう、じゃああなたはどこから来たの?」

「分からない・・・・・・・・」

「あらまぁ・・・・・・・・」

 

困ったことにこの少女、自分のことすら覚えていない。しかしそのあとの発言に三人は固まってしまう。

 

「私は吸血鬼だった。なぜかここに300年も閉じ込められてた。」

 

真由美たちは絶句していた。まさかほろんだはずの吸血鬼が生きているとは。しかし真由美たちにこの子を捨てるという選択肢はなかった。

 

「とにかく、まずはあなたの名前を決めないとね。ハジメ、香織、何かいい案ない?」

「・・・・・・・・”ユエ”でいいんじゃないか?見た目が”月”っぽいし。」

「それ採用!あなたの名前はユエよ。これからよろしくね?私は獅童 真由美よ。真由美でいいわ。」

「よろしくねユエちゃん。私は白崎香織。香織って呼んでくれると嬉しいな。」

「俺は南雲ハジメだ。ハジメでいい。よろしくな、ユエ。」

「真由美、香織、ハジメ・・・・・・・・よろしく!」

 

とその時部屋が振動した。目の前にはサソリ上の巨大な化け物がいた。




今回は少し長くなってしまいました。次回は最下層での戦いまでを描こうと思います。では、次回をお楽しみに!・・・・・・・・今回メタ発言多くない?


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第九話 最後の番人と自動人形(オートマタ)

UAが4000を越えました!あぁ・・・・・感謝の極みっ!恐悦至極にございます!

「何やら作者が舞い上がってるわね。みんなのお姉さん、真由美よ。」
「いつものことだと思うから気にしちゃだめだよ。香織です。」
「放置安定だな。ハジメだ。」
「ユエ、よろしく。」
「そういえばハジメ、NieR:Automataってゲーム覚えてる?」
「あぁあれな、そういやお前とすっごくやりこんでたっけな。すげーおもろいよなあれ。」
「実はね、今回のお話に、オートマタが出てくるかもなんですって。」
「ほぉー、そいつは見ものだな。」
「お話がまとまったところで、いくよ?せーの」
「「「「さてどうなる奈落編第9話!」」」」
「香織、この挨拶は何?」
「作者の趣味ね。」


拝啓、父さん。あっちで何をしてますか?さぞかし楽しんでるのでしょうね。えっ?私ですか?私はですねー

 

「何この敵!?固すぎるでしょ!」

 

サソリもどきの魔物とドンパチしてます。

 

「ちっ!これじゃ歯が立たねぇな!」

「こっちもダメ、雷神の力をフルで使ってるけど傷一つつかない。」

 

そう、現在真由美たちは、金髪の吸血鬼少女”ユエ”を助けた後に出て来たサソリもどきと戦っているのだ。そしてこのサソリもどきに3人が苦戦している理由。

 

それはこの敵の表面皮膚の硬度にある。ハジメと香織の超電磁砲”ドンナー” ”ナハト”の直撃をもらってもいまだに目立った損傷は与えられていない。

 

「えぇいまどろっこしい!武装形態変更、両手剣!」

 

真由美がアスカロンスラッシュの武装形態を銃剣から両手剣へと変えた。真由美はエア・ブースターという自分の足元に風を起こし、疑似的に飛行を可能にする魔法(エアロ・ブースト同様、真由美のオリジナルである。)で

 

サソリもどきの上まで上がると、その青白い刀身に風の魔力を纏わせる。

 

「シュラークド・ブレイカー!」

 

文字通り、触れたものすべてを粉砕し破壊しつくさんとする、破壊の権化ともいえるその強烈な一撃は、サソリもどき(真由美たちいわくフェイクスコーピオン)ごと地面を砕き、陥没させた。

 

流石に今の一撃には耐えられなかったのか、フェイクスコーピオンのその堅牢な皮膚に亀裂が走った。それを真由美たちが見逃すはずがなく、真由美はエア・バレッドを生成し、追い打ちをかけるように撃ち続け、ハジメと香織も

 

その銃でもって傷を狙い撃ちにしている。というのも、このフェイクスコーピオンとの戦いが始まって既に2時間は経っている。真由美は外気変換と体力変換があるため息切れはしていないが、ハジメと香織はすでに意気が上がりつつあり

 

その集中力も鈍り始めている。だからこそ、真由美としてはさっさと戦闘を終了したいのだ。

 

「次!武装形態変更、両手銃!ポジション、スナイパー!」

 

両手剣が両手銃へと変わり、バレルが延伸された。すると、周囲の外気を吸収し始める。真由美はその場で静止し、銃身上部のスコープを覗き、例の暗視眼鏡と同期させる。本来あの暗視眼鏡はこのスコープと連動し

 

情報を処理する目的で作ったのだ。暗視の機能がついていたのは、真夜中、新月で月明かりもない場合での狙撃時に、見やすくするためである。暗視眼鏡のレンズ部分にレティクルと着弾予想点が表示され、目の動きに連動して目まぐるしく動いている。

 

その下には、魔力圧縮率がゲージで表示されており、その値はすでに80を示していた。そのゲージはなおも進み、ついにゲージが100に差し掛かった。

 

「圧縮魔力、充填完了。マキシマムエア・ブラスト。シュート!」

 

真由美が引き金を引く。銃身内で圧縮された魔力が解放され、真由美の風魔法最大級の威力を誇るエア・ブラストが、圧縮魔力の加速を受けて、その速度と威力を上げ、それは容易に硬質の皮膚を貫き、魔物の弱点である”核”を露出させた。

 

しかしそれはすぐに修復されてしまった。自動修復的な技能でも持っているのだろう。それを見て真由美は悪態をつく。

 

「このままじゃ埒が明かないか・・・・・・・・ハジメ、香織、一気に決める。奥の手行くよ!」

「あぁ!」

「任せてっ!」

「武装形態変更、抜剣!」

 

 

奥の手、それはユエを助ける前に戦った、サイクロプスとの戦闘中にひらめき、戦闘終了後に真由美がそれ用に自分のとハジメと香織の武器に改造を施した

 

某スーパー戦〇のような攻撃手段のことだ。ハジメはドンナーの撃鉄下部にあるスイッチを押し込み、香織はグリップの左横のスイッチを押した。

 

すると、

 

『It's Time for Railgun's Buster』

 

といういかにもなセリフが聞こえ、ハジメたちの周りを包み込む。真由美も回転弾倉上部、解錠アスカロンが刺さっている部分を再度押し込む。

 

『It's Time for Slashing attack』

 

真由美の周りを青白い魔法陣が包む、そしてその刀身に青白い魔力が収束して行く。

 

「二人とも行くよ!」

「おう!」

「はいっ!」

「「「ハァっ!」」」

 

真由美が飛び上がり、ハジメと香織がその引き金を引く。その弾丸は、銃が耐えられる最大級の威力で撃ちだされる。その赤色と黄色の閃光はサソリの核を易々と射抜く。

 

その瞬間、真由美が大上段から縦に一気に切り裂き、そのまま横薙ぎにその刀身をふるう。今更だが奥の手とはつまるところ必殺技である。武器の耐久値を著しく消費する代わりに

 

武器の壊れるぎりぎりまで威力を貯め、各々の武器に合わせた、文字通り必殺級の威力をふるうことのできるシステムだ。真由美はこれをバスターファンクションシステムと名付けた。

 

その破壊力はすさまじく、フェイクスコーピオンは爆発したのだった。・・・・・・・・うん?魔物は爆発しないだろって?

 

・・・・・馬鹿野郎、爆発するからいいんじゃないか!・・・・・・・・ゴホン。その後真由美は構造知覚を使おうとして、その違和感に気づいた。

 

そう、フェイクスコーピオンの情報どころか、その奥の構造まで”視えている”のだ。彼女の技能:構造知覚は強化され、構造情報知覚という、そこに存在するものすべての情報を、有効範囲の制限なく見れるものへと変わっていった。

 

しかも、そこに何がいて、どういうものを持っているかとか、生物の情報まで読めるので、罠などは、よほど緻密に組んだものでない限り、真由美の前には意味をなさなくなった。そしてここで、真由美の技能の一つ、真由美が今まで

 

興味を示さずに放置していたのもあって、鍵がかかっていることは分からなかったが、確かに制約が解除された。そう、”分解”である。文字通り、魔力を消費して、指定したものを原子レベルまで分解する。

 

しかし、その魔法は分解の範囲によって消費量が跳ね上がる。例えば一辺1mの正方形の鉄の塊を分解するのに消費する魔力を1とすると、10mだと100、100mだと10000という風にすこぶる燃費が悪いのだ。

 

いくら外気変換があって魔力が∞とはいえ、真由美が一度に消費できる魔力はたかが知れている。(ちなみに、負荷に見合わないものを分解しようとすると体がその圧力に耐えられず、最悪体の一部が吹き飛んでしまう。)

 

真由美はこの魔法は有事の時以外は使わないと決めた。その後フェイクスコーピオンの殲滅を確認すると、真由美は次の階層に続く階段を探し始めた。ちなみに今回の戦闘で完全空気だったユエは、直接魔力操作という技能が使えるらしく

 

無詠唱で上級魔法が打てるらしい。その後の戦闘は、それはもう数の暴力といわんばかりの数の魔物と戦う階層ばかりだった。そのまま階層を下っていく。すると、地下なのに草木が生い茂る異質な空間が広がった階層に出た。

 

しかもその階層は魔物の反応などが真由美の技能をもってしても見つけることができない。しばらく進んでいると、謎の敵が胞子状のものをばらまいてきた。それをハジメと香織とユエはもろに浴びてしまった。

 

毒の類ではなさそうなので、そのまま放置して、真由美はその生物を”一応”双機銃形態で倒した。(ちなみに真由美はその胞子を分解で消していたが、3人分まで消すことはできなかった。)しかし、その胞子を放置したのが

 

真由美たちの最大の油断だった。

 

「どうしたの?疲れた?」

「まじか。疲れてるんだったら言えよ?無理は禁物だ。」

「・・・・・・・・違う。」

「じゃあどうしたの?」

「「二人とも逃げてっ!」」

「「っ!」」

 

ユエはその手から魔法を、香織はナハトを、それぞれ撃った。そう、”真由美達に向けて”

 

よく見ると、二人の頭には花のようなものが開花しており、その後ろから草で出来た体を持つ魔物”ドライアドがその姿を現した。

 

ドライアドは真由美たちの方を見ると、頭を傾げた後、すぐに獲物だといわんばかりの目を向けた。しかし、これもまた最大のミスだった。そう、”敵にとって”

 

真由美の内から、大量の魔力が溢れた。真由美のトレードマークであるその赤い瞳には完全に光がなく、その目は細められている。そう、キレたのだ。

 

彼女にとってもう一人の妹みたいな存在のユエと、大切な友人の香織を勝手に操るという行為を彼女が看過するわけないのだ。

 

真由美がその右手を横に振りぬく。すると二人の頭から花のようなものが消え去った。それとともにハジメでさえ体がすくむ程の強烈なプレッシャーが辺り一帯を飲み込む。

 

真由美は疑似瞬間移動で香織たちの横に行くと、ドライアドの胸部に掌底突きを放った。そして二人の耳元で一言囁く

 

「あとは任せて。」

 

真由美は二人を疑似瞬間移動でハジメのもとに飛ばす。そしてまだ息が残っているドライアドに向かって殺気を放つ。

 

ドライアドは金縛りにでもあったかのごとくその体を硬直させた。そこに光の鎖が巻き付き、ドライアドの四肢を固定する。

 

真由美はアスカロンの武装形態を”大砲”形態にし、チャージを開始する。その圧縮率は前に使った時の比ではない。

 

真由美は解錠アスカロンを押し込んだ。その姿はもはや死神だった。

 

『It's Time for blasting attack』

 

無慈悲にそう告げる。それはまるで終焉を告げるラッパのごとく。

 

真由美の周りを青白い魔法陣が包み込み、砲身部分に収束して行き・・・・・・

 

真由美は引き金を引く。その瞬間、無慈悲に解放された破壊の権化はドライアドが苦し紛れで展開したツタのバリアを容易に貫通し

 

その体を襲う。

 

ーーーーグギャァァァァァァァァァァァァァァァアアアーーーーーーーーー

 

絶叫。ドライアドは死体をその場に残すことも許されず、その場からきれいに”焼失”した。

 

ハジメたちはその光景にただただ戦慄を覚えた。自分の周りにいる人間を傷つけたものに対してあそこまで冷徹になれるのが驚きだったからだ。それは心が壊れて歪に固まったハジメでさえ

 

その心を折られるレベルであった。

 

「おい真由m・・・」

「さぁ、邪魔者はいなくなったことだし、先に行きましょ?」

 

ハジメはまた固まってしまう。そして誓った。絶対に真由美を怒らせないと。もし本気で怒らせようものなら、それこそ”終焉”誰も勝てない、神ですら敵ではない、文字通りの魔王が降臨してしまう。

 

そう思ったがゆえに、ハジメは真由美のことは注意しながら行動するようになったのはまた別のお話。

 

真由美たちはドライアドだったものを無視して、最後の階層へと向かった。

 

 

真由美達の前にそびえ立つは大きな扉。真由美は構造情報知覚を使う。そして階段がないことを確認し、ここが最後の部屋だと確信した。

 

「ここで最後のフロアよ多分。階段がなかったからね。」

「そうか、やっとここまで来たのか。」

「うん・・・・これで地上に戻れるのかな?」

「多分ね。これ以上、下がないとするならそう考えていいと思うわ。」

「そっか・・・・・やっと戻れるんだね。」

「でも、ゲームで言ったらこういう時って大体ボスがいるじゃない?」

「だな。RPGの基本だ。」

「この先に生体反応があったわ。しかもこれまでに見たことないスケールよ。」

「・・・・・・・・大丈夫。ハジメたちは負けない。私も頑張る。」

「ユエちゃんにそこまで言われたんじゃあ、お姉さん頑張らないと!」

「よし、行くぞ皆。」

「「「おー!」」」

 

真由美たちが部屋に入ると、入ってきた扉が閉まり、壁で埋められる。そして、目の前の石像らしきもの(正確には胴体とそれを守る殻)から首が生えてきた。いや、出て来たというべきか。

 

そしてその何かはハジメたちの方を見ると、その口を開き、何かのエネルギーを貯めていた。

 

「!?避けて皆!」

 

真由美がそう言い、各々が避けた瞬間、先ほどまでいた場所に白い光線が当たり、地面を削った。

 

「あの攻撃はやばい!皆!絶対に当たらないでよ!あの光線の威力は多分私の火力と遜色ない威力がある!」

 

それを聞いた一同は驚愕の表情をあらわにする。真由美の、ドライアドに撃った一撃。それと同じ威力とは何の冗談だ?皆は同じことを思っていた。

 

ハジメと香織はその敵”ヒュドラ”の胴体に愛銃で攻撃していく。その威力はやはりいかんなく発揮され、もうすぐ胴体の甲羅が割れそうなところまで行ったその時

 

「なっ!?」

 

ハジメは再び驚愕することとなった。なんとさっきまでダメージを与えていた部分が再生されたのだ。見ると、6本の首の内の一本(緑色の頭をした首)が回復魔法のようなものを使っていた。

 

「皆、悪い知らせだ。どうやらあの回復する首を何とかしないと永遠に回復されちまう。」

「だったら・・・・・・」

「そうね。その首をはねるだけだわ!武装形態変更、両刃剣!」

 

真由美は武器の状態を、真ん中に柄が来るタイプの両方に刃がついてる剣の状態へと変化させた。そして持ち手上部、回転弾倉近く、柄に最も近い部分のスイッチを押し込んだ。

 

『It's Time for Slashing attack』

 

その直後、両方の刃に青白い魔力が収束されていく。ハジメと香織もそれぞれのボタンを押し込む。

 

『It's Time for Railgun's Buster』

 

2人の魔力が、赤い閃光とともにその銃口に収束して行く。

 

「「ハァ!」」

 

2人は引き金を引く。魔力が通常の倍近く収束され、銃が耐えうる最大威力にまで高められたその銃弾が、ヒュドラの首に迫る。その閃光は容易に首の根元に大穴を開ける。ヒュドラそれを回復しようとする。

 

しかし、真由美はそれを許さなかった。

 

「させるものですか!」

 

直線上で限界まで加速した彼女はもはや音速を越えており、その勢いのまま、両刃剣の前と後ろをすれ違いざまに振りぬき、二連撃となって、その首を刈り取った。

 

「ユエちゃん、残りの首の足止めをお願い!二人はその援護!少しだけ時間を稼いで!」

「ん!火葬!」

「武装形態変更、大砲」

 

ユエが最上級魔法、火葬を放つ。するとヒュドラの首の周りに火炎で出来た円ができており、それはどんどんサイズを縮めていき、ついにヒュドラの首に当たった。その炎は

 

ヒュドラの皮膚を容易に焼き、その奥の肉の部分を焼く。ハジメと香織はそのあらわになった肉の部分に弾丸を打ち込んでいく。真由美は、ランチャー形態となったアスカロンスラッシュの引き金の隣のボタンを押し込んだ。

 

『It's Time for blasting attack』

 

ドライアドを跡形もなく一瞬で消し飛ばした破壊の権化は、真由美の操作により、先ほどよりもよりワイドレンジとなり、ヒュドラに襲い掛かる。その威力はいかんなく発揮され、残りの首を跡形もなく消し去り

 

その胴体に風穴を開け、中の核を消滅させた。

 

「勝った・・・・・・・・の?ねぇ、勝ったの?真由美。」

「勝ったと思うけど・・・・・・・・」

「あぁ、勝ったと・・・・・・・・思うぞ?」

 

そして皆、体を縮こませ、手を上に上げた。

 

「「「「やったー!!!!」」」」

「やったよ皆!勝ったんだよ私たち!」

「あぁ、勝った。勝ったぞ俺たちは!」

「んー!勝った。」

 

香織はユエとハジメに抱き着き、喜んでいた。ハジメとユエは目を合わせると、仕方ないかというような目で香織の背中に手をまわした。しかし、真由美の中では何かが引っ掛かっていた。

 

そう、それは先のヒュドラの状態を調べたときと、今のヒュドラの状態を調べた値が一緒なのだ。つまり、今あの化け物は真由美達が入ってくる前と同じ状態・・・・・・・・まさかっ!

 

「みんな離れて!まだ生きてるっ!」

 

その直後、先ほどまでとは色の違う首がその口の中に先ほどの光線”極光”を今にも撃ち出さんとしていた。それを見て真由美はとっさに体が動いた。いや、動いてしまったのだ。真由美はハジメたちの前に立つと、技能:分解 を発動した。

 

(初めて使う。さっきの説明にあった通りなら、私はあれを”視ている”し、情報もある。お願いもってよ!私の体!)

 

その瞬間、ついに極光が放たれた。それは射線上の障害物を消し去りながら、真由美の張った分解の壁に激突した。ぶつかったと同時に分解が発動、極光を分解していく。

 

最初こそ分解できていたが、段々体中から血が溢れてくる。そう、魔力キャパシティを越え始めたのだ。しかし彼女は分解を解除しなかった。

 

(ここで私がこれを解除したら、間違いなくハジメに当たる。そうなったら今度こそ彼は死んでしまうっ!ならばどれほど痛みが来ようとこれを解除しない!ある人物が言っていた。”戦闘には感情は不要”とっ!ならば痛いという感情を私は捨てるっ!

もうこれ以上・・・・・・・私の前から大切な人を奪わせないために、私はこの場だけ、感情を捨て去る!)

 

彼女の決意に反応し、一つの技能が追加される。その名は自動人形(オートマタ)彼女の感情を消すという行為は、戦闘をする感情なき兵士、人形に成り下がるのと同義だった。だからこそのオートマタ。もっともこの時の彼女にそのようなものを見る時間はなかったが。

 

極光がやむ。彼女は見事極光に耐えきったのだ。しかしその代償は高くつくこととなった。

 

ーーーーグチャーーーーーーーーー

 

辺りに血が飛び散る。その音にハジメたちは閉じていた目を開け前を見る。その目の前に彼女が、自分たちを守ってくれたあの少女がいるはずだ。しかし、彼らの目に彼女が映ることはなかった。その代わり、彼らの足元には凄惨な状況が待っていた。

 

「なん・・・だと・・・!?」

「そん・・・・な・・・・・。」

「・・・・・・!?」

 

三人が目撃したもの。それは、分解のキャパシティに耐えられず、四肢のすべてが爆散し、それぞれから血を吹き出す真由美の姿だった。

 

「真由美!真由美!まゆみ!返事をしてっ!お願いまゆみぃ!」

「死んじゃいやっ!お願いだよ!目を開けて!」

 

香織とユエは必死に呼びかける。が、真由美の返事はない。香織の額には涙と汗がにじんでいた。先ほどから何度も回復魔法をかけている。が、傷口がふさがらなかったどころか血が止まる気配がなかった。

 

「お願い!そのあっけらかんとした声を聞かせてよ!カオリンって言ってよ!皆のお姉さんよって言ってよ!・・・・・・お願い!死なないで・・・・死なないでよぉ・・・・・・」

 

ついに香織の魔力が切れる。これ以上の治癒行為はできなかった。そこにヒュドラがその首でもう一度極光を放とうとした。しかし、それは不発に終わった。否、相殺されたのだ。ハジメの手で。

 

ハジメの手には、真由美が使っていたアスカロンスラッシュが大砲形態で握られていた。彼の右目から血が流れる。相殺したとはいえ、それは完全ではなく、ハジメの右目をつぶしたのだ。しかし、今のハジメにはそんなことは

 

”どうでもよかった”のだ。ハジメは先ほどから自問自答をしていた。

 

(真由美が倒れた。)

(真由美が死にそうになっている)

(どうしてこうなった?)

(真由美のせいか?否違う、慢心していた俺のせいだ。)

(ここに落ちてきてからずっと真由美に助けてもらっていた。)

(それに甘えていた。)

(それゆえに真由美に重荷を背負わせた。)

(負荷をかけすぎた。)

(俺のせいだ。俺が油断さえしなかったら。)

(あいつを殺せていたら。)

(あいつは真由美を傷つけた。)

(じゃあ傷つけたあいつは何だ?)

(敵だ。じゃあどうする?邪魔をするあの敵を。)

(邪魔者は、殺す)

(殺して殺して殺しまくる)

(たとえ身内であろうと)

(たとえ仲間だろうと)

(敵は・・・・・・・・)

(殺す!)

 

ハジメはポーチの中から黒い筒状のパーツを取り出した。それはハジメの銃”ドンナー”の先端にはまるような形をしていた。

 

ハジメはそれをドンナーにはめる。すると

 

『docking All ok』

 

機械的なアナウンスが流れ、ドンナーは巨大な片手銃となった。ハジメはスイッチを押す。その瞬間、彼の赤い魔力が赤い閃光とともに収束されていく。

 

『It's Time for special shoot Buster』

 

先の必殺技の比ではない、それこそ魔力収束率は、真由美の大砲のそれに近い。ハジメはそれをヒュドラの核があった部分へと向けた。もうすぐ傷がふさがるところまで直されてはいたが、確かにそこには核がしっかりと存在した。

 

「せいぜい、あの世で後悔するんだな。じゃあ、死ね。」

 

言霊というものがある。今のハジメの声はまさしくそうだった。その言葉を呟くと同時に引き金を引く、通常でもとんでもない破壊力を誇る弾丸が、通常の必殺技の比じゃない威力で撃ちだされる。それは治りきっていないヒュドラの皮膚を容易に貫き

 

複数あった核をすべて粉砕した。ヒュドラはその余波で大きく吹き飛ばされ、肉塊へと変わった。それを見たハジメはその場に膝をついた。その目には確かに、涙が流れていた。

 

 

「ここ・・・・・は?」

 

真由美は不思議な空間で目を覚ます。そこには何もなくただ真っ白い空間が続くのみだった。

 

「確か私はみんなをかばって・・・・・・・・それで・・・・・・・」

 

彼女は思い出す、そのあと自分がどうなったのか。

 

「そっか、ここは死後の世界か。私、死んじゃったのね。ごめんハジメ、香織、ユエ。強く生きて。私はここでリタイアするけど、しっかり帰らないとお姉さん怒っちゃうよ?だから、どうか無事で。私はもう行くよ。」

 

真由美は再び目を閉じる。否、閉じようとした。

 

「待ってくれ。」

 

そう、誰もいないはずの空間に声が聞こえたからだ。真由美はその方向を見る。するとそこには、元の世界、地球で全世界のゲームファンを魅了した太ももの持ち主が立っていた。

 

「あれ?私いま目がおかしいな。何で目の前に2Bがいるの?」

「あなたの心がそう願ったからだ。」

 

その黒いミニスカートのような戦闘服を着た少女、2Bははっきりとそう言った。

 

「あなたは一時的に感情を消した。我々と同じような存在となった。だからあなたには、自動人形(オートマタ)という技能が付加された。」

「えぇ?」

「しかし、あなたはこちら側に来るべきじゃない。あなたはまだれっきとした人間だ。”こちら側”に落ちようとするのは感心しない。だからこそ、私たちはあなたに協力する。」

「どういう・・・・・・・・こと?」

「あなたが”人間らしくあるため”に私はあなたに力を貸す。だから、二度と、自ら感情を捨てようとするのはやめてくれ。」

「なんだかよくわからないけど・・・・・・・・分かったわ。」

 

すると、何も無かった白い空間に亀裂が入っていく。

 

「どうやら時間のようだ。あなたは、元居た場所に帰るんだ。」

「どういうことっ!?意味が分からない・・・・・・・・せめてもう少しっ!」

「もし戻ったら、オートマタ、と言ってくれ。そしたら、私はまたあなたに会えるだろう。」

 

崩壊は進み床にも亀裂が走る。

 

真由美はその中に落ちてしまった。

 

「・・・・・・・・人類に、栄光あれ。」

 

その少女、2Bは最後に確かにそう言った。




いやー、最近になって、この前売ってしまったニーアをどう買い戻そうかなと思っていて、YouTubeに上がってたゴーバスターズを久々に見て、ネタを使いたくなって、無理やり今回にねじ込んだ作者です。ナニヤッテンダコノサクシャ。今回も今回とて少し駆け足になってしまいましたね。そしてついに次回で奈落編は終了です!次回が投稿されると同時にアンケートは終了させていただきます。あと、オリキャラが三人ほど増える予定がありますので、その時は、また出したよこの作者ぐらいに思っててください。ではまた次回!


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第十話 2Bとオスカー・オルクス 

前回の投稿からほどなくしてUAが5000を突破いたしました!皆さん本当にありがとうございます!恐悦至極!感謝の極み!・・・・・・・・それはそうと、この章が終わったら魔法科のIF作品を書きたいなと思ってまして。もし書いていたら、そちらも見て頂けると
モチベにつながりますので、どうかよろしくお願いします。まぁ作者のどうでもいい話はここまで。ではいつもの、行ってみましょう!

※2020/12/22 加筆+修正しました。
 2021/03/01 衣装に関する部分を修正し、そのあとの部分を少し改変しました。

「もっとまじめにやってよあの作者。っとどうも皆さん、真由美です。」
「あの真由美がふざけなかった・・・・だと!?っと、ハジメだ。」
「失礼ね!私だって真面目に挨拶ぐらいするわよーだ!」
「あはは・・・・・・・・今までのの挨拶を見た人にはにわかには信じられないんだよ。香織です。」
「ユエ。よろしく。」
「?ここはどこだ?っとすまない。ヨルハ二号B型、通称2Bだ。」
「それは僕も気になるよ。やぁ、オスカー・オルクスだ。」
「だって、今日はあなたたちがメインになってくる回だからよ。」
「「???」」
「はいはい、二人して?を浮かべなくていいから。という訳で・・・・・・・・」
「「「「「「さてさてどうなる奈落編第10話」」」」」」」
「ちなみに今回で奈落編は最終話です。」
「・・・・・・もっと早く言えよ。」




「・・・・・・・・ん?ここは?」

 

真由美の目に映ったのは見知らぬ天井。その部屋は、とても豪華な作りになっていた。現代風にいうなら、アニメで出てくるお城の部屋のようだ。

 

真由美は自分の周りを見回す。自分は今とても大きなベッドに寝ており、部屋の中でひと際存在感を放つその窓からは、太陽の光が差し込んで・・・・・・・・

 

ん?太陽の光?真由美は違和感に気づいた。

 

「太陽の、光?」

 

ーーーーーーーガチャンーーーーーーーー

 

彼女が呟くと、その後ろで、何かを落とす音が聞こえた。そこには、お湯が貯まっていたであろう桶を落とし、真由美の方を見つめる香織の姿があった。

 

「真由美っ!」

「うわっ!?」

 

香織は真由美を見るなり駆け出し、真由美に抱き着いた。香織は真由美の体にしっかりと抱き着くと、そのまま動かない。それはまるで、真由美がそこにいることを感じているような

 

そんな感じの光景だった。

 

「良かった!良かったよぉ!真由美が生きてた!本当に・・・・・・・・良かった!私はあの時何もできなかった!だから、あの夢が本当になるんじゃないかってっ!・・・・・・・・心配でっ!でも真由美は生きてた!良かったよぉ・・・・・・・・」

 

香織は子供のように泣きじゃくった。それは今の香織の心がどれだけ救われたのかを表すように。彼女の溜め込んだ思いが一気に溢れ、それが止まるまで少しの時間を要した。

 

真由美はそれを見て、とっさに香織の頭をなでようとする。それはいわゆる母性本能からくるものなのだろう。そこで真由美はまた一つ、不自然なことに気づいた。

 

彼女の両腕は、分解のキャパシティオーバーによる負荷で爆散したはずなのに、今の真由美にはちゃんと両腕があったのだ。しかしそれは生の腕ではなく、義腕だった。

 

よく見ると、足も義足がはめられている。しかし、それは外見上全くといっていいほど生の腕と変わらず、皮膚の感覚もちゃんとある。真由美は一瞬、自分の腕が復活したのかと勘違いするぐらいには

 

そっくりだったのだ。そこにまた人がやってきた。金色の髪をなびかせるその少女、ユエは香織がなかなか戻ってこないことを心配し、様子を見に来たのだ。そして彼女は真由美の起きている姿を見るなり、ハジメを呼びに走ったのだった。

 

それからほどなくして、ハジメがやってきた。しかし真由美は再び驚くことになった。そう、爪熊との戦いで切られた左腕には、黒い色の義手がはめられている。まだ慣れていないのか操作はぎこちないが、それでも割と使いこなせている。

 

「真由美・・・・・・・・とりあえず無事でよかった。けどな、あんまり無茶をしてくれるな。お前は俺の”大切”なんだからさ。」

「うん。ごめんね?迷惑かけちゃって。」

「全くだ。でも、それを咎めることはしねぇよ。だって、文字通り命がけで守ってくれたんだもんな、俺たちを。」

「うん・・・・あの時は考える前に体が動いちゃってた。だから、そういってもらえてうれしいな。ユエちゃんもごめんね?」

「ん。大丈夫、気にしてない。でも、あれだけの無茶をもうしないって約束して。」

「分かったわ。お姉さんとの約束ね。・・・・・・・・ところでハジメ、あの後どうなったのか説明してくれる?」

「あぁ、分かった。」

 

ハジメは口を開く。なんでも、あの化け物”ヒュドラ”の核を撃ち抜き、肉塊へと変えた後、奥にある扉が開いたらしい。ハジメたちはすでに満身創痍でこれ以上敵が出てきたら叶わない状態になっていた。しかも、まったく動けない真由美を連れていては

 

とてもじゃないが満足に戦闘できない。だからこそ、ハジメたちはその扉を警戒しながら、どうやって切り抜けるか模索していた。しかし、その奥から魔物が出てくることはなく、いざその扉の向こうに入るとそこには広大な土地と、豪華な城が立っていたという。

 

ハジメはそこで驚愕する。なんと太陽があったのだ。本物の太陽ではないが、オリジナルと変わらない太陽のようなものが確かに浮遊しており、昼夜の概念も存在するという。ハジメはとりあえず建物の中に入り真由美を適当な部屋のベッドで寝かせると

 

何か使えるものがないか探したという。するとお誂え向きに工房があったので、持ってきた鉱石と一緒に義手義足を作ったそうな。ちなみに真由美につけているのは試作モデルのため、実戦に耐えうるものではないらしい。

 

「・・・・・・・・という訳だ。」

「なるほどねぇ・・・・しかしここまでの出来となると、相当高度な錬成士がいたのかな?」

「かもな。少なくとも俺には無理だが。」

 

真由美はそのままベッドから出る。ここについていろいろと調べたかったからだ。しかし、そこであることを思い出す。

 

(あれ?私夢の中で誰かに、ある言葉を言ってくれって言われたような気がする。なんだったっけ?えぇッと・・・・)

 

「・・・・・・・・オートマタ?」

 

彼女はそう呟く。すると彼女の前に青白い魔法陣が現れた。しかし、真由美はその魔法陣の形に既視感を感じた。そう、その魔法陣の正体とは

 

「まさかっ!転移陣だって!?」

「なにっ!?ユエ、戦闘態勢だ。何かやばいものが来るかもしれない!」

「ん!真由美は私が守る!」

「私も、真由美を守るよ!」

 

真由美以外の三人は戦闘態勢に入った。しかしそれを真由美は静止させる。

 

「大丈夫よ。少なくとも敵じゃないわ。」

 

真由美はその魔法陣を見続ける。すると現れたのは、なんと真由美をこの世に引き留めた黒いミニスカートのような戦闘服を身にまとい、目隠しのようなもので目を覆い、巨大な剣と白い刀を背負った少女、”2B”だった。

 

「ここはいったいどこだ?機械生命体の拠点ではないようだが・・・・・・・・」

「やぁ、2B。また会ったね。」

「うん?あぁ、あの時の人間か。挨拶が遅れた。私はヨルハ二号B型。2Bだ。よろしく。」

「うん。私は獅童真由美よ。よろしくね。」

「あぁ、よろしく頼む。」

 

2人仲良く話すその光景を見て、ハジメたちは戦闘態勢をといた。するとハジメが一歩前に出る。その顔には好奇心という文字がはっきりと見えていた。

 

「なぁ真由美。ほんとにこれは2Bなのか?」

「私が呼んだようなものだからあっちのとは少し違うかもだけど、本物よ。」

「ほぅ・・・・・・・・そいつは興味あるな。」

「あなた・・・・・本格的に研究者脳になったんじゃない?」

「否定はしない。」

 

その後、いろいろと紹介を済ませた真由美たち一行は、屋敷の探索をし始めた。すると工房の奥にある扉が目についた。真由美はそれを見て、直感的に何かを感じ取ったのか、ハジメ以外を外で待たせて

 

ハジメと一緒に奥へと進んでいく。そこは今までとは違い、洞窟のような作りになっている。そうそれはまるで迷宮のよう。真由美とハジメは暗視を使い奥へと進んでいく。すると開けた場所に出た。

 

よく見ると、その床には巨大な魔法陣のようなものが書かれており、その前には玉座と、そこに座る、服を着た骸がいた。真由美たちがその魔法陣の中に入ると魔法陣が起動した。

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つ真由美の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

 話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。驚きながら彼の話を聞く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、真由美が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。

 

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。

 

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

 

何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

 

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。

 

そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君達に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、真由美の脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

「なんか・・・・・・・とんでもないお話を聞いちゃったわね。」

「あぁ。でも、これで覚悟は決まった。」

「えぇ、そうね。」

「「腐った神を殺して、元の世界に帰る。」」

 

この話を聞いた二人は、そう決意した。この理不尽をことごとく潰し、元の平和な日常を謳歌することを胸に抱いて。

 

「それにしてもハジメ。この魔法は・・・・・・・・」

「生成魔法?鉱物に様々な特性や魔法を付加できるらしいな。」

「これ、もし技能が付与出来たら無限動力機関、作れるんじゃない?」

「・・・・・・・・確かにそうだな。よっし!早速作るぞ!」

「あっ待ってハジメ。」

「どうした?」

「ちょっと・・・・・・・・試しておきたいことがあるんだ。それに・・・・・うまくいけば、オスカーさんをよみがえらせられるかもしれない。」

「どういうことだ?」

「まぁ見てて。」

 

真由美はそういうとアスカロンスラッシュを取り出した。

 

「武装形態変更、導器。」

 

アスカロンスラッシュが、先の方に護符のようなものがついた扇子のような形をとる。真由美はそれを一枚取り出し。オスカーの骸に”張り付ける”そして、技能:自動人形(オートマタ) を発動した。

 

『自動人形作成プロトコル開始。構成元素を選択。人間と同様のものに設定。魔力核の形成をオンに。構成終了。触媒を準備。個体名オスカー・オルクスの骨を検知。該当者の人格と記憶を再構築。エラーチェック。問題なし。プロセス正常に終了。

自動人形、作成完了。』

 

辺り一帯を白い魔力が覆う。そしてそれは中央部、オスカーの遺体があるところに収束して行き・・・・・・・・オスカーの遺体だったものは完全に”オスカー”へと”変わった”。

 

「・・・・・・・・んっ、ここ・・・・・・・・は?」

「!?成功・・・・・・・・したの?」

「・・・・・・・・あぁ、成功したぞ!」

 

この日、真由美は死者蘇生?を成し遂げたのであった。

 

 

その後、オスカーにいろいろと事情を説明すると、オスカーはとても興味深そうに話しを聞いてくれて、協力してくれることとなった。そしてその夜、真由美は館の屋上で一人ぽつんと外の景色を眺めていた。

 

すると、屋上へと続く扉が開く。真由美が後ろを振り返るとそこには、ハジメが立っていた。

 

「どうしたの?こんな夜更けに。」

「そのセリフそのままそっくり返すぜ。で、こんなところで何やってんだ?あぶねえだろ。女一人なんて。」

「私を誰だと思ってるの?あなたの格闘技の師匠よ?そんじょそろらの賊なんぞにやられる私じゃないわよ。」

「俺はお前を一度も師匠なんて呼んだ覚えはないが。」

「・・・・・・・・うん。そうだったわね。なぁんだ、私ったら。なんか舞い上がってるみたいね。フフッ。」

「・・・・・・・・なぁ真由美。」

「うん?なあに?」

「・・・・その・・・・・・・・さ。お前が過去に何があったかは知らないが、もし俺たちを信頼してくれるなら、その・・・・・話してくれないか?お前の過去。」

「何よ藪から棒に。レディの秘密を聞き出そうとするのは感心しないわね。」

「お前のどこに淑女な要素がある?」

「面と向いて言われると心に来るものがあるわね。・・・・・・・・でも、そうね。あなたには話していいかな。・・・・・・・・聞いてくれる?私の話。」

 

ハジメは無言でうなずく。真由美はそれを見ると、顔を景色の方へ向けて、口を開いた。

 

「私ね、元々お嬢様だったの。苗字も獅童じゃなくて、糸井川って言ったんだ。」

 

糸井川。その名前をハジメは覚えている。糸井川重工といえば、家電製品制作から兵器開発まで幅広くやっている大手機械メーカーだ。

 

ハジメはふとこんなニュースを思い出す。それは、今から2年前、糸井川重工の社長、糸井川繁里の娘、糸井川真彩とその旦那が殺されたというニュース。そしてその夫婦の娘二人が攫われたという・・・・・・・・

 

ハジメは気づいた。

 

「糸井川って・・・・・・・・まさかお前!」

「そう、そのまさかよ。糸井川真彩の娘、糸井川真由美。それが本当の私よ。」

 

ハジメは苦虫を嚙み潰したような顔をする。あの事件は、殺され方がむごいと、ニュースやSNSで騒がれていた。その娘ということは、その現場を誰よりも近くで見ていたことになる。

 

「私はあの後、裏社会へ入ったわ。いえ、入らされたのよ。当時中学一年生だった私と深雪は、愛玩奴隷として売られそうになったわ。自分で言っちゃあれだけど、出るところが出てた私は

そう言うのが”好きな連中”には格好の的だったのよ。」

「・・・・・・・・」

「あら。びっくりしちゃった?フフッ。無理もないわね。私もその時はそんな感じだった。」

 

真由美は、ハジメの方を少し見た後にすぐ視線を戻して、話を続ける。

 

「愛玩奴隷なんてものにはなりたくなかった私は深雪を連れて逃げたわ。それはもう必死に。なりふり構っていられなくなって、お金を盗んだこともあったわ。そして時には私の体を使って、時にはお金をちらつかせて、私は

隠れながら逃げて行ったわ。だけど、ある日、私たちの目の前に追手が来てしまった。その時、深雪は左足を、追手が持ってた銃で撃たれて、歩けなくなってしまった。その時に私の中で何かが壊れた。深雪を、最愛にして最後の

家族である深雪を傷つけられた私は、その追手の銃を奪って、その引き金を引いた。そこから私はおかしくなった。もう、人を殺すのに抵抗がなくなってしまったの。私はそのまま、幾度となく追いかけてくる追手を

その手で殺し、必死に逃げたわ。そして力尽きた。その時私を助けてくれたのは、当時格闘技の名門として知られていた森本道場師範代、森本雄三郎の妻、森本恵子さんだったわ。私は、その人の協力のもと、格闘技を教えてもらって

今私が使っている技を会得したわ。名前がついていないから、つけるとしたら森本流格闘術とでも呼びましょう。私はその後、恵子さんの旧姓である獅童を名乗るようになり、今に至るわ。・・・・・・・・ハジメ。私はね、クラスメイトが思ってるほど

出来た人間じゃないの。人を殺すこと、犯罪に手を染めるのに何の抵抗も後悔も感じない、ただのクズなのよ。だからねハジメ、これはお姉さんからの忠告。いや、経験者からの忠告。その銃の引き金を引くのにためらいをもって。関係のない人まで

手にかけたらあなたはきっと戻れなくなる。だから、迷わずに引き金を引いていい相手は、私みたいなクズだけよ。」

 

ハジメはただ、絶句することしかできなかったのだ。ハジメと同年代でありながら、これほどの闇を抱えている少女を、ハジメは見たことがない。申し訳ないとは思うが、その闇は恐らく、ユエ以上のものだろう。

 

すると真由美がハジメに抱き着いた。その顔には涙が浮かんでいる。

 

「ユエと香織から聞いたわ。あなた、あの二人の告白を、受けたそうね。私が寝ている間に。そしてそのまま夜の経験もしてしまった。」

 

ハジメは焦る。そう、真由美が寝ている間、ハジメは館の大浴場でゆっくりしていた時に、その場にユエと香織が乱入。そのまま告白され、夜の営みへと発展してしまった。

 

冷や汗ものだ。これに怒らない人間はいない。だって、自分が寝てる間にそこまでの関係を持っていたら、誰だって何してんだと怒りたくなるものだ。しかし真由美は予想外の答えを返した。

 

「フフッ。焦ってる焦ってる。でも安心して?私は嬉しいのよ。ハジメが初めて自分の意思で物事を決めたことが。そしてこれは私からのメッセージ、になるのかな?いい?ハジメ。あなたに好意を向ける人

叱ってくれる優しい人が向ける好意には必ず答えなさい。そして助けを求めてる人がいたら助けるの。あなたを叱ってくれる人を含めてあなたに好意を向ける人。それはあなたの内面を見て、全部ひっくるめて

あなたが好きって言う証拠だから。・・・・・・・・ハジメ。目をつぶってくれない?」

「分かった。」

 

ハジメは目をつぶる。すると・・・・・・・・

 

ーーーーーーーーーーチューーーーーーーーーーー

 

ハジメの頬に何かが当たったかと思うとそんな音がした。ハジメはびっくりして目を開けると、真由美がハジメの頬にキスを、していた。

 

真由美は顔を真っ赤にしながらハジメに言う。

 

「これは私からあなたへのプレゼントよ。私のことは忘れてもいい。でも、そのプレゼントのことだけは、忘れないでね?」

 

真由美はそういうと、そそくさと出て行ってしまった。その後ろ姿が、どこか失恋した後の女子のような姿だったのは、おそらく気のせいだろう。

 

翌日、真由美はハジメとオスカーの助けを借りながら何かを作っていた。それはレス〇ュー〇ォースに出てくるレス〇ュ―スト〇イカ―のようなフォルムをしていた。

 

「これがお前の言ってた奴か?」

「そうよ。多目的大型6輪式装甲戦闘車両、マギアストライカー。総重量210トン、動力には私の技能、外気変換と魔力変換を付与した特殊エンジン、通称、”マギアエンジン”を搭載。武装は

車体中央部、エンジンルーム上部に格納された、フリージングカノン。車体前方、ライト部分の下部に設置された牽制用エア・バレット。後部は格納庫になっていて、人員は最大50人。乗用車サイズの

ものが2機格納可能よ。ちなみに、この車両には、カードスラッシュによるコマンド制御型のバスターファンクションシステムが搭載されているわ。」

「ほう・・・・・・・そいつはすげえな。」

「僕にはこれがさっぱりわからないんだけど、とりあえずすごいというのは分かった。」

「あ、そうだオスカーさん。あなたはここに残るの?」

「うん、そのつもりだよ。」

「であれば、設計図を今から渡すので、今からその二機を作ってもらいたいのです。」

「えぇ!?あのスケールのものをあと2機も?」

「大丈夫ですよ。設計図の通りに作れば失敗しませんし、専用のオートワークステーションを作りますから。時間がかかってもいいから、お願いします!」

「・・・・・・・・分かった。君みたいな美少女の頼みはミレディ以外は断らないようにしてるんだ。錬成士として僕はその依頼を受けよう。」

「ありがとうございます!」

 

こうして真由美が構想した戦闘車両シリーズ、通称マギアシリーズは、オスカーの手で作られることになった。その後、真由美は車両を外に出すための

 

専用リフトを作り、その出口はライセン大渓谷に出るようになった。

 

その後、彼女は武器を新造することにした。彼女の武器”アスカロンスラッシュ”はヒュドラとの戦闘ですでに限界を迎えていた。

 

そのため早急に新しい武器を開発しなければならなくなった。そして出来たのが通称”ベルグザッパー”初期形態はツインガンで形状変更により、ライフル、ツインダガー、ツインソード、バスターソードへと変貌する。

 

(ちなみにベルグザッパーにもバスターファンクションシステムが搭載されている。)この武器は従来のエア・バレッドを撃ちだす方式ではなく、魔力弾を撃ちだす方式へと変わっている。これまで同様、魔力の圧縮度合いや出力次第で

 

弾丸の連射能力、強度、火力が調整できるようになっている。これは彼女の義手に後述するあるものが組み込まれたため、必要ないと判断されたからである。

 

ちなみにその真由美の義手義足はハジメとオスカーの合作で完成した。

 

手のひらに当たる部分と足裏に当たる部分には生成魔法で、エア・ブースターを付与した、噴射モジュールが内蔵され、両腕両脚部には神結晶(ハジメたちが舐めていたあの液体を生成したもの)と呼ばれる魔力を貯蔵できる鉱石が使われている。これには生成魔法で

 

真由美の技能 外気変換が付与されている。これにより、真由美本人からの魔力供給+外気からの直接魔力変換ができるようになった。そのため、分解に回せる魔力キャパが増えたために、ヒュドラの極光レベルであればギリギリ分解しきれるようになった。

 

そのうえでそれに指向性を持たせることにも成功しており、ベルグザッパーの放つ魔力弾に付与することも可能になった。彼女の義手はまさにとんでも兵器とかし、その上その義手義足にはあのアスカロンスラッシュが形を変えて組み込まれている。

 

真由美がベルグザッパーを作っている最中に「捨てるのがもったいない」と呟いたからである。

 

カートリッジ式の記録魔法の展開機能はそのままに、ナックル・ソード・ライフルの3モードの固有技を撃ちだせるようになっている。(なお、カートリッジを格納するための回転弾倉は使用上二基に増設されている)

 

そのため両腕部にはライフルモードで言う銃口が展開方式で格納されていたり、右腕には展開式の高硬度高周波ブレード(ハジメ命名)が格納されてたりする。それにしてもこの少年、やりすぎである。

 

ハジメはドンナーの対の武器となるシュラークと電磁加速式狙撃砲シュラーケンと電磁加速式機関砲:メツェライを作り、ハジメ自身も義手にいろいろ細工をし、乗り物として魔力二輪、四輪駆動車を作った。

 

香織には真由美から電磁加速式サブマシンガン:ウヴァールが贈られた。香織の体形と身体能力からこのぐらいがちょうどいいと真由美が判断したためだ。

 

ユエはその手先の器用さで、真由美たちの服を作った。そしてついに、地上へと戻ると決めた日がやってきた。(ちなみに2Bもオスカーと残ることになった。マギアシリーズの開発を手伝ってもらうためだ。)

 

やってきたのだが、ハジメは地上に戻る前にどうしてもツッコミたいことがあった。それは・・・・・・・

 

「なぁ真由美?」

「ん?なぁに?ハジメ?」

「なんでそんな真っ黒い衣装なの?」

「この素材が一番いろいろな耐性が強かったからよ。」

「アッハイソウデスカ」

 

そう、今の真由美の恰好はどこぞの死神代行を彷彿とさせる黒一色のローブ状の服だったのだ。しかし頭にあるフードを見るとシスターを彷彿とさせるからもう訳が分からない。

 

しかもこの服に使われている繊維、毒、酸、火などに対する高い耐性を持つほか、耐刃、耐衝撃、耐魔法などを持っているほか、着用者の筋力を若干アシストしてくれるパワーアシストまでついているというチートっぷり。

 

なお、これは分解で消し切れないものからのダメージを防ぐためにと、真由美が色々技能やら耐性やらを付けた結果の産物というのがまた恐ろしい。

 

 閑話休題(それはさておいて)

 

真由美はこれからのことを考える。

 

「さて、ここからどうするかな。」

「なら、ライセン大迷宮へと行ってみるといい。あそこにいるやつは・・・・・・・・正直いけ好かない奴だけど腕は確かだ。」

 

とオスカーが提案する。

 

「どちらにせよみんなのもとに戻る前に色々準備しておいたほうがいいか・・・・・・・・分かったわ。そこに行ってみることにする。ありがとねオルクスさん。」

「構わないさ。それに、君から頼まれたものも、恐らくすぐできるから。」

「楽しみにしていますね。」

「任せてくれ。錬成士としてしっかりと役割はこなすさ。」

「じゃあオルクスさん、そして2B。後をよろしくね。」

「任せてくれ。」

「この身に変えても守ると誓おう」

 

真由美たちはマギアストライカーへと乗った。真由美は既定の手順に従い、エンジンを始動させる。すると風を吸い込むような音が響きだした。

 

エンジンが魔力の変換を始めたのだ。それはすぐに最高レベルに到達し、真由美はアクセルを踏む。この時、マギアストライカーは初めて動き出した。

 

その中で真由美は、ハジメたちに声をかけた。

 

「この世界に来てしまった事実は変えられないけど、帰る手段は必ずある。だからその方法を探しに行きましょう。」

「そうだな。早く元の世界に帰りたい。」

「その時はユエちゃんも一緒に連れて行こうね。」

「うん、私も真由美たちのいた世界に興味がある。」

「いい?私たちは4人で最強、この4人ならだれが来ても勝てるわ。」

「あぁ。」

「えぇ。」

「ん!」

「・・・・・・じゃあ、行きましょうか!」

「「「おー!」」」

(待っててね深雪。からなずあなた達を迎えに行くから。)

 

こうして、真由美たちは地上へと戻るのだった。

 

 

その頃、深い渓谷のそこで、頭にウサギの耳のようなものを生やしたウサギが、今か今かと何かを待っていた・・・・・・・・

 

第一章 迷宮編 Fin

 




駆け足気味でかいたから今回2Bの会話が少なかったような・・・・・・・・ということで原作では生きていなかったオスカー・オルクスを真由美さんは自動人形というチートスキルで生き返らせました。しかしこの能力はポンポン使えるとチートなので、次の回が上がるまでに新しい設定を考えておきます。
2Bの戦闘に関しては、ライセン大迷宮編が終わったらになると思います。今回で第一章は終了です。それに伴い、檜山の処遇についてのアンケートは終了とさせていただきます。皆さまご投票ありがとうございました。

次回、第二章、ライセン大迷宮編でお会いしましょう。(次に上がるものがそれとは限りませんが(;^ω^))


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第二章 ライセン大迷宮編
第十一話 ハウリア族の残念ウサギ?


「やぁ皆さん、また会ったわね。みんなのお姉さん、真由美よ。」
「お前の挨拶って相変わらずだな。ハジメだ。」
「真由美っていっつもこうじゃない?香織です。」
「ん。もはや病気の類。ユエ。よろしく。」
「マスター・・・・・・・・さすがに擁護しかねるぞ。2Bだ。」
「みんなひどくない!?お姉さん泣いちゃうわ・・・・・・・・」
「はいはい分かったから。ということで・・・・・・・・」
「「「「「さてさてどうなるライセン大迷宮編 第十一話!」」」」」
「最近の私の扱いがひどい気がするわ・・・・・・・・」


小鳥のさえずりが聞こえる。近くに森があるのだろうが、生憎とここには石しか転がっていない。

 

そう。ここは渓谷だ。オルクス大迷宮からほど近い場所に位置する、【ライセン大峡谷】と呼ばれる場所だ。そこには驚くほど何もない。渓谷なのだからそれは当たり前なのだが・・・・・・・・

 

しかし、何もないそこで起きたのは、轟音。まるで大きな岩同士がぶつかったような音だ。崖の部分に止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。そのすぐ後、崖の一角が不自然にせりあがっていく。

 

そこから出て来たのはその体を白と青を基調とした装甲で覆っている装甲車だった。

 

 

その青と白を基調とした装甲車、”マギアストライカー”を動かしていた運転手、獅童真由美は次の目的地、ライセン大迷宮を探すためにその装甲車を走らせていた。しかも、装甲車の幅が渓谷の壁ギリギリまであるのに

 

彼女は一切ぶつけることなく、かなりのスピードで走っていた。なぜこんな熟練の運転手みたいな芸当ができるのか。それは彼女の腕にある。

 

その彼女の腕は一見すると生身の腕に見えるが違う。偽装で見た目をごまかしているだけで、今の彼女の腕は義手だ。だからこそ、機械の精密なコントロールを可能にしているのだ。

 

しかし彼女はその運転をやめざる負えなくなった。彼女の移動手段の一つであるこの装甲車”マギアストライカー”には彼女の技能:構造情報知覚を付与し、レーダーとして使えるマップが組み込まれている。

 

そこに点が二つ映った。

 

「真由美、車を止めちゃって・・・・・・・・どうしたの?」

 

そう彼女の運転席の後ろから顔を出してきた可憐な少女は名を白崎香織という。真由美と一緒に奈落へと落ち、生還した少女だ。

 

「いやね、レーダーに何か映ったのよ。二つ。一つは敵で間違いないのだけど。」

「ほう、ここにレーダーに映るほどの生物がいるとは思えないが。」

「そうなのよね・・・・・・・・ハジメ、運転をお願い。」

「任せろ。」

 

彼女が話しかけた相手は南雲ハジメといい、彼も奈落から生還した人間だ。真由美と同じ錬成の天職を持ち、彼が作った武器の数々は、真由美たちの武装の原型となっている。真由美は、ハジメの方を振り返ることなくそう言って、運転席を降り

 

上部ハッチを開けた。ハッチを開けるとその体をひんやりとした空気がなでる。渓谷だからだろうか、やはり少し寒い。真由美は特に苦労することなくその身をハッチの上へと運ぶ。そして技能:構造情報知覚 を使用し先ほどの反応があった方を向ける。

 

するとやはり、二つ反応があった。彼女はそれを確認すると自分の腕の、義手の調子を確かめるようにその腕を振った。特に違和感はなく、これなら戦闘になっても問題ないと思った真由美は赤いフレームをした伊達眼鏡もとい

 

暗視機能付き多機能眼鏡改(香織命名)を付けた。真由美はこの眼鏡をコスプレのつもりでかけていたのだが、つけるならいっそのこと改造してやろうと、この眼鏡を作った。しかもこの眼鏡のフレームは、あのアスカロンスラッシュと同じ素材が使われているため

 

そう簡単に壊れることはない。彼女はそれを付けると、左目のレンズにレーダーを、右目のレンズにレティクルを表示させ、新しい武器の起動コードを口にした。

 

「ベルグザッパー、起動。武装形態、ツインガン。」

 

本来起動コードを言う必要はないのだが、これを言うと彼女の心は戦闘状態へとスムーズに移行できるため、彼女は切迫した状態以外ではもっぱら言うと決めている。

 

真由美の手には青と黒に塗り分けられた片手銃が握られた。彼女はそれを確認すると、義足に内蔵されたブースターを起動させる。一気に空中まで上がると、レーダーが指し示す方へと向かった。

 

 

真由美が飛行し始めてからさほど立たない頃、恐竜みたいな魔物に追いかけられてる人がいた。いや、正確には、人のような何かがである。

 

その髪は水色をしており、何とも露出度の高い服を着ている。そしてなんといっても、その頭にきれいに生えそろっている”うさ耳”が彼女にはあった。

 

真由美はその光景を見て、手前の子は敵じゃないなと判断し、その後ろの恐竜のような魔物の方を一瞥する。そして彼女はその両手の銃を変形させる。

 

「武装形態変更、ライフル。」

 

真由美はその両手の銃を互いにくっつけるようにした。するとその銃は変形をはじめ、ライフルの形状を取る。するとその銃口に魔力が収束して行く。真由美の眼鏡のレティクルは彼女の目線に合わせ目まぐるしく照準を修正していく。

 

そしてそれが固定された瞬間、真由美は息を止め、引き金を引く。撃ちだされた魔力弾は寸分たがわず、恐竜型の魔物の核を打ち抜き、魔物を狩った。その前を走っていたうさ耳少女は何が起こったのかわかっていないようだ。

 

今も目をこすったりしている。彼女はベルグザッパーを待機状態にし、そのうさ耳少女のもとへ降りていく。と、その後ろからマギアストライカーが姿を現した。ゆっくり走っていることから、まだ運転に慣れていないことがうかがえる。

 

もっとも、初運転であそこまで上手に動かせる真由美の腕が異常なのだが。そのうさ耳少女はまたもや目をぱちくりさせている。そしてこれは夢と何度もつぶやいていた。真由美はさすがにまずいと思ったのか。声をかけた。

 

「大丈夫だった?けがは無い?」

「はえ?・・・・・・大丈夫です。それよりあなたは?というか今空から降りてきませんでしたか!?」

「まぁ、飛んでたからね。それよりあなたのお名前は?」

「あっはい、シアです。」

「わかった、シアね。私は獅童真由美よ。よろしく。それでここに何故いたの?」

「そうだっ!あなたにお願いがあります!私たちを助けてください!」

「ちょっと待って、落ち着いて。分かったから話をしましょう。」

 

そのうさ耳少女、シアの話によると シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの

 

他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。

 

性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。

 

しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。

 

しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。

 

国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。

 

樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。 故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 

 全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。

 

魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 

 そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

「・・・・・・・・OK、事情は分かったわ。ちょっと待っててね、必要なものを持ってくるから。」

「・・・・・・・・え?助けてくれるんですか?」

「?何、当り前のこと言ってるのよ。そこまで聞いたんだもん。ここで投げ出すなんてマネをしたら軽蔑するわ。自分のことを。」

「あっ、ありがとうございますっ!」

 

真由美はマギアストライカーへと戻った。そしてハジメたちに先ほどのことを伝えた。

 

「私は助けたいと思う。みんなはどう思う?」

 

真由美が問う。

 

「いいんじゃねぇの?ってか、お前なら絶対そう言うと思ってたからな。気にすんな。手伝うぜ。」

 

と、ハジメ

 

「私もハジメ君に賛成。あの子がかわいそうだもん。助けたいよ。」

 

と香織

 

「皆が助けたいって言うならそれに従う。もとより反対する気はない。」

 

とユエ

 

「じゃあ決まりね。ハジメ、ストライカーの運転を任せられる?」

「分かった。任せてくれ。」

「ユエと香織はストライカーの上部ハッチから外に出て。敵は複数いると思うから、その都度狙撃してくれて構わないわ。」

「「分かった。」」

「じゃあ、シアさんを連れてくるわね。」

 

真由美はそういって外へと出て行った。そして数分後、真由美はシアと呼ばれるその少女を連れて戻ってきた。

 

「ななななんですかここは。私が見たことないようなものがいっぱいですー。」

「ここは‥‥そうねぇ、私たちの移動基地よ。」

「イドウキチ?」

「そう。まぁ、住むところよ。」

「へぇー!すごいです!」

 

はじめてみるものに興奮を押えられないシアを横目に、真由美はマップを開く。

 

「それでシアさん。あなた達一族がいるところはどこ?」

「えっと・・・・・・・・ここら辺ですね。」

 

シアがマップに指をさす。するとそこには赤い点が表示され、それが真由美の眼鏡に反映される。

 

「ここね。了解、ハジメ。私はこのまま先行するわ。」

「そうか。分かった。気を付けてな。」

「分かってるわよ。それじゃあね。シアさん、あなたの家族は絶対に救うわ。」

「ふぇ?・・・・・・・・はい!」

 

そう言うと真由美はストライカーから降りた。彼女は再度、義足のブースターを起動し、シアが指定した座標へと飛翔した。ハジメはそれを確認すると、マギアストライカーを動かし始めた。

 

 

真由美が指定座標の近くまで来ると、案の定魔物がいた。飛行タイプなのであろうその魔物は、執拗に何かを襲っていた。その視線の先に目をやるとやはりそこにはシアと同じ耳を持った人、亜人族の中の”ハウリア族”だった。

 

「やっぱりかぁー、ほんっと、早く来て正解ね。んじゃま、仕事を始めましょうか。武装形態変更、ライフル。」

 

彼女はメガネの照準機能を起動した。それと同時にベルグザッパーをライフルモードに変える。そして横のスイッチを押した。すると

 

『It's Time for blasting attack』

 

と毎度おなじみの音声が流れ、彼女の周りを青白い魔法陣が包み込む。それと同時に、照準が固定される。真由美は空中で直立し、息を止め、その引き金を引いた。周囲の酸素を取り込み分解し、陽電子へと変え、放つそれはもはや陽電子砲であり、それは魔力を帯びながら

 

ハジメと香織のレールガンをも上回る速度で目標を貫いた。彼女の義手に内蔵された魔力タンクの魔力が1/4ほどなくなる。たったこれだけの分解でこれほど魔力を消費するのだから、やはりもうちょっと最適化と効率化をするべきだなと心の中で

 

若干後悔する真由美。しかし、その体はまだ戦闘をやめることはなかった。まだいたのだ。先ほどの陽電子砲を、生物的本能で、真由美が貫いた一体以外はかろうじて避けたのだろう。真由美は、義手の性能を試すために、その魔物に肉薄する。

 

「カートリッジ、エアロ・ブースト選択、ロード!」

 

彼女がそう言うと義手の部分から音がする。(彼女の服の袖はすでに捲られている)義手に仕込まれていた魔法記録カートリッジを仕込んでいた回転弾倉が回転して、その魔法を起動(road)した音だ。それと同時に義手の拳の先には見えない空気の塊が

 

魔力による圧縮を受けて、どんどん収束していた。

 

「これ使うの久々ね。必殺!アースブレイクインパクト:エアロ・ブースト!」

 

彼女はその魔物の核を正確に捉えていた。ゼロ距離まで近づき、渾身の一撃を、その両腕から一撃ずつ放つ。ただでさえ一発で必殺級のアースブレイクインパクトを二発も叩き込まれては、魔物が敵うはずがなく、その魔物は体を爆散させた。

 

それを見て逆上したのか残りの二体が真由美に襲い掛かってきた。しかし真由美は焦ることなく、その顔にいたずらな笑みを浮かべると、一気に上へと向かった。その瞬間、残りの二体を赤い閃光と白い閃光が貫き、その体を炎が焼き尽くした。

 

その発生場所に目をやると、マギアストライカーの上に立つ、ハジメと香織とユエがいた。真由美はマギアストライカーの方へと降り、ハジメたちにねぎらいの言葉をかけた。

 

「さすがね三人とも。ハジメと香織の精密射撃には舌を巻いたし、ユエのその無詠唱魔法の威力も目を見張るものがあったわ。」

「まぁ、伊達に練習してたわけじゃないしな。」

「わたしは・・・・・・・・うん、あの地獄のような練習をしてたらいやでも上がるよ。」

「・・・・・・・・ん、もっと褒めて。」

 

三人とも別なように聞こえて、根っこは同じというような回答をした。その後、シアを連れ出し、先ほどのハウリア族の前へと向かった。




今回はシアとの遭遇から始まりましたね。原作乖離が激しいですがそこは容赦ください(;^ω^)それにしてもシアの残念要素はどこへやら・・・・・・・・ではではじかいもごあいどくしてください!(何言ってんだこいつ)


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第十二話 想定外の敵との遭遇 前編

久々に手を付けますねこれ・・・・・・・・でも早く書ききらなければ・・・・・・・・

「投稿者がなんか言っているわね。こんにちわ皆さん。みんなのお姉さんの真由美よ。」
「ハジメだ。なんだかこの挨拶も久しぶりな気がするな。」
「さてと、今日は何かとんでもないものと遭遇する気がするわ。」
「・・・・・・・・何かとてつもないフラグの予感がする。気を付けよう。」
「という訳で・・・・・・・・」
「「さてさてどうなる第十二話!」」


真由美たちは現在マギアストライカーを渓谷出口の方へ進めている。ハウリアたちがいた場所が渓谷の上の森だったから、急な坂を上ることのできないストライカーでは迂回するしか道がないのだ。

 

そして運転している真由美以外のメンバーはというと・・・・・・・・

 

ハジメは何かよくわからないものを錬成している、香織はウヴァールという名前を気に入らずに改名した電磁加速式短機関銃、ブリッツ(ドイツ語で稲妻という意味)に早く慣れるために構えの姿勢を何度もとっている

 

ユエは、自身で作ったオリジナル魔法をハジメが作った魔導書的なものに書いていた。これはオスカーの隠れ家にいたときから続いていたらしく、真由美が一度突っ込んでみると本人曰く

 

「もし私の魔法を習得出来る奴が現れた時用に作っている。」

 

とのことらしい。弟子を作る気満々である。ちなみにユエのオリジナル魔法の一つである”炎柩”は真由美も試したが、分解ほどではないものの燃費が少し悪いので、その部分を改良し、

 

インパクトの加速用魔法として腕の記録カートリッジホルダーの中にいれている。

 

なおこれを作った時にユエから妬み顔をされたことは秘密である。

 

「そう言えば、真由美さん以外の皆さんのことはなんとお呼びすれば?」

 

シアが唐突に呟いた。

 

「ん?あぁ、名前を言ってなかったな。俺は南雲ハジメ。ハジメでいいぞ。よろしくな。」

「私は白崎香織。香織でいいよ。よろしくね、シアちゃん。」

「ユエ。よろしく。」

「はい!ハジメさんに香織さんにユエさんですね。よろしくですぅ!」

 

シアはうさ耳を激しくたたんで伸ばしてを繰り返している。嬉しいのだろう。

 

「自己紹介は終わった?そろそろ出発するわよー。」

「出発?この基地は動くのですか?」

「さっき見なかったっけ?まぁいいわ、その通り動くわよ。」

「なんですとぉーーー!?!?!?!?!?!?」

 

シアは驚愕をあらわにする。当然だ、この世界には車などはない、当然こういうメカメカしい乗り物も存在しないのである。

 

真由美はそのままシアの家族がいる場所まで向かった。

 

その途中、真由美はシアに、持っていた疑問を聞いた。

 

「どうしてあなただけあそこにいたの?」

「家族に言われて。あとは私の”能力”ですかね。」

「能力?」

「はい、簡単に言ってしまえば私の能力は少し先の未来を見ることができます。」

「えっ!?それってすごい能力じゃない!どのくらい先まで視えるの?」

「分かりません。」

「わからない?」

「えぇ。この能力は行使すると魔力がごっそり持っていかれてしまうので、今はせいぜい”5秒先”が限界です。」

「へぇ・・・・・・・・あとで調べてみようかしら。それで、その能力で何を見たの?」

「あなたたちがそのへんてこな乗り物で出てくるところをです。そして、渓谷の魔物たちをたやすく倒しているところを。」

「なるほどね。それでそれに頼ったわけだ。」

「そういうことです。でも、すいません。なんかいいように使ったような感じで。」

「ううん、気にしてないわ。それに、悪事に加担しろって言われたらさすがに嫌がるけど、助けてほしいって言うなら悪い気はしないわ。」

「!?ありがとうございます!」

「いえいえ。みんなもそれでいいわよね?」

「あぁ。お前が決めたんなら俺は構わないぜ。」

「私も。それに、私も助けてあげたいもん。」

「私も、いいよ。」

「みなさんも・・・・・・・・本当に私は恵まれてますぅ!」

「うふふ。喜んでくれたようで何よりだわ。」

 

そんなことを言っていると、先ほどのハウリア族の集団がいたところまでついた。真由美はストライカーの後部ハッチを開放し、シアを連れて外へといった。

 

「お父様!」

「おぉ、シア。無事だったか。」

「お父様もご無事で何よりです!」

「それでシア、こちらの方々は?」

「私たちを助けてくれたお方です!」

「では、先ほどの魔物を貫いた閃光は・・・・・・・・?」

「はい、私がやりました。」

 

真由美はお父様と呼ばれたひとの前に出る。なんというのだろうか、年相応の貫禄があるひとだった。

 

「これはこれは・・・・・・・・我らの窮地を救っていただき感謝します。私の名前はカム・ハウリア。ハウリア族の長を務めております。」

「これはご丁寧に。私は獅童真由美。しがない旅人です。」

 

真由美も自己紹介をする。名前を名乗るのは大事だ。古事記にもそう書かれている。

 

「お父様、この方は凄いんですよ!イドウキチ?なる動く拠点を動かせるんです!」

「なにっ!?動く拠点だと?・・・・・・・・ぜひ我々にも見せてもらいたいのだが・・・・・・・・」

「えぇ、構いま・・・・・・・・せん・・・・・・・・よ?」

 

真由美がそう言おうとした途端、近くで何かが落ちるような音がした。それと同時に真由美の方に大きな影が伸びていた。

 

真由美が上を見上げてみるとそこには・・・・・・・・

 

「なんじゃァあれはぁ!」

 

巨大な石の動く像、すなわちゴーレムがいた。

 

「カムさん、とりあえず話はあとです。こっちへ!」

「わ、分かった!」

 

真由美はカムたちを連れストライカーへと向かう。後部スペースには幸い全員が乗れた。真由美はコクピットへ戻る。

 

「あれは・・・・・・・・ゴーレムか?」

 

ハジメが呟く。

 

「おそらくね。ストライカーに搭載している生物のみを感知するレーダーに映らなかったんだから恐らくは。」

 

真由美は急いでストライカーの全システムを立ち上げた。

 

「作っておいてよかったわ。緊急時の全システム強制起動ボタン。さぁ、飛ばすわよ!」

 

真由美はアクセルペダルを思いっきり踏み込んだ。ストライカーはおよそその巨体に似合わない速度で加速を開始する。その速度はすぐに時速200kmをマークする。

 

しばらく走り、ここまで離せば行けるだろう。そう思っていた真由美に香織が問う。

 

「ねぇ、真由美?」

「何!?」

「ゴーレム、心なしか近づいてきてない?」

「えっ!?」

 

真由美は後ろを振り向く。するとなんということだろうか、ゴーレムが砂煙を巻き上げながら向かってきているではないか。

 

「くっ!仕方ない。フリージングキャノン展開、迎撃開始!」

 

ストライカーの両脇から砲身が展開する。それは後ろを向くと、冷凍の属性を持った魔力弾を放つ。これはユエの魔導書にあった氷属性の魔法を砲身機関部に使っている

 

親和性の高い鉱石に生成魔法を使って付与したものだ。”当たった部位を急速冷凍する”という効果を持った魔力弾は次々にゴーレムに着弾する。しかしそれでもなおゴーレムは追跡をやめない。

 

どんどんスピードを上げ、ストライカーへと迫ってくる。そして、その巨腕を振りかぶり、地面へとたたきつける。それはどんどんストライカーの近くに当たり、真由美は回避を迫られていた。

 

そんな時だった。

 

「きゃぁ!」

「香織!?どうしたの?大丈夫!?」

「いててて・・・・・・・・大丈夫だよ、少し頭を打っただけ・・・・・・・・」

「ちょっと香織、あなた頭から血が流れて来てるわよ!」

「えっ?・・・・・・・・本当だ。血が出てる・・・・・・・・。」

「ユエちゃん、治療お願いできる?」

「うん。任せて。」

 

なんと先ほどの衝撃波で香織が頭を打ったようだ。頭から若干血が流れている。

 

真由美はそれを見た後、ストライカーを反転させる。

 

「真由美、どうしてストライカー・・・・・・・・を?」

 

ハジメが質問しにかかる。しかしそれは中断されることになる。彼女の、真由美の顔がすべてを物語っている。

 

「もうあったまきた!よくもやってくれたわねぇ!」

 

ついに真由美の堪忍袋の緒が引きちぎれたのだ。

 

「リミッター解除、バスターファンクション準備、ターゲットサイト、目標をマーク!」

 

マギアストライカーが180度反転した。それと同時に両脇のキャノンの銃身部分がどんどん延長していき、その中で魔力が収束されていく・・・・・・・・!

 

『ターゲット、ロックオン』

 

車両搭載型のAIはどうやら日本語をしゃべるらしい。真由美は懐からカードを取り出した。そしてそれをハンドルについているカードリーダーにスラッシュし読み込ませる。

 

そして、叫んだ。

 

「バスターファンクション、フリージング・ブラスター、発動!」

『フリージング・ブラスター』

 

その瞬間、両脇のキャノン部から瞬間冷凍の性質を持つ収束砲が撃ちだされた。それはゴーレムに当たるとその巨体を一瞬で凍り付かせ、崩壊させた。

 

「すごい・・・・・・・・」

「あぁ、まさかここまでの威力とは・・・・・・・・」

「しかも、凍らせただけ。これは強い・・・・・・・・」

 

香織、ハジメ、ユエがそれぞれの感想を述べる。かくいう真由美もその威力にびっくりしていた。

 

(オスカーさん、さすがにここまでの威力のオーダーは出していないよ・・・・・・・・)

 

と真由美はボソッと心の中でつぶやくのだった。

 

 

真由美たち一行は、ライセン大渓谷の出口へと再び進み始めた。カムたちがこの先のフェアベルゲンという亜人族たちの住処まで行きたいというので

 

護衛を兼ねて向かっているのだ。護衛といっても並みの魔物ではマギアストライカーに太刀打ちすることは不可能なのだが・・・・・・・・

 

現にその道中、何回か魔物と遭遇したが、マギアストライカーの正面ライト下部に設置されたエア・バレッドでことごとく粉砕☆されている。

 

するとシアがそわそわし始める。そしてそれは出口に近づいて行くごとに、大きくなっていく。真由美は何事かと思い、シアに聞いた。

 

「ねぇ、シアさん。どうしてそんなにそわそわしてるの?」

「・・・・・・・・いえ、もし帝国兵がいたらと思うと、気が気でなくて・・・・・・・・」

 

当然である。自分たちを奴隷としか見ない人種ばかりの帝国兵のことを気にするなというのが無理な話である。

 

「気にするな・・・・・・・・とは言えないわね。大丈夫よ、あなた達を帝国兵の手に渡すような真似はしないから。」

「いえ、それもあるんですが・・・・・・・・」

 

シアにはまだ懸念事項があるようだ。

 

「ん?まだ心配事があるの?」

「・・・・・・・・帝国兵はあなた達の同類です。もし戦闘になったとして、あなた達に負担をかけてしまうのではと・・・・・・・・」

 

シアの危惧はもっともだ。真由美たちと帝国兵は同じ種族。ということはもし戦闘になった場合、同族殺しに等しいことをしなければならない。

 

嫌悪感と抵抗があるというのは当然の話だ。しかし、真由美は言った。

 

「・・・・・・・・私たちはね、同じ人間同士でも平気で争うの。だからそう言うのはあまり感じないわ。」

「えっ?」

 

真由美たちにとって、人殺しは確かに忌み嫌うものである。しかし現代では、戦争という形で同族殺しが横行している。

 

真由美自身も、いくら相手が汚れていたとはいえ、人を殺している。そう言う観点から見ればそういった普通の感性はすでに真由美の中から消え去っている。

 

そんなことを話していると、出口についた。しかしそこに帝国兵の姿はない。どういうことかと辺りを見回すと、以前は人の形をしていたであろう死体があった。

 

見るも無残な形で放置されている。その近くには鎧が落ちていたので恐らく帝国兵だったのだろう。真由美はストライカーを降り、その死体の調査を始める。

 

その死体は何かに潰されたような死に方をしていた。

 

(やけに死体の匂いがしない・・・・・・・・死んでまだそんなに立ってないのかな・・・・・・・・?)

 

そんなことを考えているときだった。後ろから大きな地響きがする。その音の方を振り返ってみると・・・・・・・・先ほどのゴーレムの数倍の大きさはあるであろう巨人が、そこにいた。

 

幸いにもまだこちらには気づいていないようだ。しかしその巨人の進んでいる方がまずかった。

 

(あっちって確か・・・・・・・ホルアドの町がある方じゃ?まずいっ!?)

 

真由美はストライカーの方に急いで向かい、ストライカーを急発進させた。

 

「シアさんごめん、予定を少し変更する。」

「何があったんですか?」

「あのゴーレム、ホルアドの町に向かってる!」

「何!?」

 

ハジメが驚く、香織も声こそ出ていないが凄く驚いていた。

 

「あのゴーレムをを止めなきゃ・・・・・・・・行くよ!」

 

真由美たちはゴーレムを破壊すべく、ゴーレムの後を追った。




ここまで読んで下さりありがとうございます。展開が少し変わりましたね。さてさて皆さんではまた次回お会いしましょう。さよーならー


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第十三話 想定外の敵との遭遇 後編

「こんにちわ読者の皆さん。白崎香織です。」
「ユエ、よろしく。」
「シアですぅ!よろしくお願いしますぅ!」
「それにしても前回、とんでもないものと相対することになったね。」
「うん、そして真由美たちの作ったものがとんでもないことが分かった回でもある。」
「そう言えばお父様から聞いたんですけど、一撃で壊れたあのゴーレムは、あの大型のゴーレムの中で無限に生成できるらしいですよ?」
「「えっ!?」」
「えぇッと確か名前は・・・・・・・・思い出せません!」
「「えぇ・・・(困惑)」」
「ま、まぁいいや。それより二人とも、いつものやるよ。」
「うん。・・・・・・・・では。」
「「「さてさてどうなる第十三話!」」」
「皆さんの活躍、楽しみですぅ!」


ここはホルアドの町の郊外にある大規模な草原である。魔物もそこまでいるわけではなく、いたとしてもそこまで強くなく、またてきたしているわけでもないため、ちょっとした憩いの場のような扱いとなっている。

 

がしかし、そこに今、本来いるはずのないものが現れた。30mはあるだろう巨体に人間の四肢のようなものが合わさった石像のようなもの。それはまるで、要塞兵器のようであった。そしてその後方約30mにはその車体を蒼く塗られた戦闘車両

 

マギアストライカーが、その要塞に向けて攻撃を行いながら追走していた。

 

 

”大型の正体不明の物体がホルアドに向けて接近している” この知らせを勇者一行が知ったのは、すでにホルアドまで500mを切った時だった。これを受け、ハイリヒ王国はすぐさま勇者一行をはじめとする

 

兵力のほとんどをホルアド近郊の草原へ終結させた。勇者一行を含む攻撃隊はすぐさま魔法による攻撃を開始するも、距離が距離だけに当たっても大した威力にならない。今ホルアドの町は、絶望に包まれていた。

 

 

一方その頃、真由美たちはというと・・・・・・・・迎撃をしていた。

 

ハジメと香織は外に降りて迎撃をしている。香織は地面に伏せ、ハジメが作った電磁加速式狙撃砲シュラーゲンを借り受け、狙撃をしている。

 

その弾丸は関節部分を的確にとらえている。しかし、威力が足りずに破壊には至っていない。ハジメはストライカー内で作っていた電磁加速式ロケットランチャー、オルカンを使ってその巨人の頭部に重点的に攻撃を当てている。

 

しかしそれでも火力が足りない。真由美はストライカーに搭載されているすべての武装で迎撃をしている。それでも、かの敵を破壊するには至っていない。そんな中ハジメに持たせていた試作型通信機から通信が入る。

 

「どうしたのハジメ?」

『多分迎撃が始まった。魔力弾が次から次へと飛んでくる。そこまで距離がねぇぞ』

「分かった。私もおりて迎撃する。」

『了解だ』

 

ハジメは通信を切った。真由美はAIに指示を出す。(このAIは真由美が昔AIを作ったことがあるために容易に用意できた。なお、これを作るのに想像形成を使ったのは内緒である。)

 

「オートドライブ起動、迎撃対象、前方大型敵個体。」

『了解、オートドライブ、起動します。』

 

真由美はストライカーを降りる。その後もストライカーは自動で運転を続け巨人の迎撃を続けている。

 

その時通信が入った。ユエに持たせた分だ。

 

『真由美、戦況はどうなってる?』

 

ユエには不測の事態の回避のためマギアストライカー後部のカムたちが乗っているところに一緒に居てもらっている。

 

「ちょっとやばいかも。」

『何か手伝う?』

「やっぱりだめだ、ユエちゃん、急いでオルクスさん呼んできて!」

『うん、分かった。』

 

ユエはオスカーのもとへ向かったようだ。通信が切れる。その間にもその巨体が刻一刻と町へ迫っていく。

 

真由美は通信機に向かって叫んだ。

 

「皆、よく聞いて。これから分解砲を使う。射線上にいないでね。もろとも分解しちゃうから!」

 

真由美は返事を待たず、ヘルグザッパーをライフルモードにし、横のスイッチを押す。

 

『It's Time for blasting attack』

 

毎度おなじみのセリフが流れ、真由美の足元に魔法陣が展開する。そして腕に内蔵されている神結晶の内部から魔力が消費されていく。

 

分解が発動したのだ。真由美の眼鏡の照準器は、彼女の目の動きに合わせつつも目標地点に狙いを付けていく、そして照準が固定される。

 

「ターゲットロックオン、ファイア!」

 

分解の能力を伴った青白い閃光は目標の脚部に命中し、その足の一部を分解し破壊した。生物であれば追い打ちが必要だが、ゴーレムなどの無機物はこれで崩壊する。

 

自重を支えきれなくなるのだ。真由美は足止めに成功したのだ。しかしその期待は裏切られることになった。なんとその分解でつけた傷が見る見るうちに修復されていったのだ。

 

「なん・・・・・・・・ですって!?」

 

真由美は絶句する。あれだけの巨体をあの速度で再生させる魔法なんて真由美は知らない。

 

というか魔力の総量的に不可能なのだ。

 

『おい真由美!どういうことだ!?お前の壊したところが再生してるぞ!』

「私だってわからないわよ!・・・・・・・・どうすればいいのよ!?」

 

その時ふと故に持たせた通信機から声が聞こえた。その声はユエとは違うが、聞き覚えがある声だった。

 

『ユエさんから話は聞いた。みんなよく聞いてくれ。その巨人は要塞兵器、ジーグリンデ。かつて我々を滅ぼすためにエヒトが作った悪魔の兵器だ。再生能力がすさまじい。生半可な攻撃じゃあすぐに再生されてしまう。』

「それじゃあ、どうやって破壊するんですか?」

『ジーグリンデの胴体中央、核となっている部分を破壊するしか方法はない。しかし、中に入る術はない、ゆえに外からコアのある部分ごと破砕するしかない。』

「・・・・・・・・私たちの武器ではあの堅牢な装甲は破れませんよ。それに、ストライカーのバスターファンクションはあと最短でも5時間の冷却を必要とします。このままでは冷却が終了するまでに町についてしまいます!」

『あと10分粘ってくれ。もうすぐ新しい戦力が完成する。何とかそれまで町への侵攻を阻止するんだ!』

「そんな無茶な!真由美の武装でもあいつの足止めができなかったんだぞ!」

「ハジメ、落ち着いて。」

「けどよぉ!」

「いいから!・・・・・・・・本当に10分で仕上げれますか?」

『あぁ。錬成士の名に懸けて10分で仕上げて見せる!』

「・・・・・・・・分かりました。あなたに賭けます。絶対に仕上げてください。」

「おい真由美!?」

「もう時間がない。私たちに力ではあれを止める手段がない。ならば少しでも可能性がある方に賭けるしかないよ。お願いハジメ、分かって。」

「・・・・・・・・分かった。頼むぜオスカーさん。」

『もちろんだ。』

 

オスカーの通信が切れた。真由美はそのまま通信機に向けて言う。

 

「今聞いてもらった通りよ。10分間時間を稼ぐ。やるわよ二人とも。」

『分かったよ!守ろう、私たちの手で!』

『あぁ。神とやらに反抗するためにも、ここの住人は死なせねぇ!そうすれば神もすこしは悔しがるだろうさ!』

「OK。じゃあみんな、やるわよ!」

『うん!』

『おう!』

 

ついに真由美たちによるジーグリンデ破壊作戦が始まった。成功条件はただ一つ、ジーグリンデの破壊!

 

 

 

 

その姿を観察するものがいた。黒一色のローブを纏い、口元しか見えないその”何か”は真由美たちを見て、不敵に笑い、何かを言い始める。

 

「せいぜいあがくがいい。異世界より来たりし人の子よ。そのままこの世界の命とともに消え去るといい。」

 

そう言うとその”何か”は一瞬でそこから”消えた”。まるで、そこに元から存在していなかったかの如く。

 

 

 

 

先ほどの通信からすでに9分が経過していた。真由美たちは持てるすべての力を使ってジーグリンデの足止めへと動いていた。

 

ハジメはオルガンで、香織はシュラーケンで、真由美はヘルグザッパーで、それぞれ、ジーグリンデの関節を狙っていた。

 

しかし、その甲斐なくジーグリンデはすでにホルアドの町から見える距離にまで迫りつつあった。勇者たち一行もまた魔法による攻撃でジーグリンデを押し返そうとしている。

 

ホルアドの町から5kmは離れているであろうそこからでもジーグリンデをはっきりととらえることができたということから、その体の大きさは容易に想像ができる。その巨体を

 

魔法のみで壊すことは不可能に近い。現に勇者一行を含めた防衛戦力は魔力切れで脱落していく人がどんどん増えて行った。真由美たちもすでに限界が来つつある。

 

ハジメたちの武装の弾薬もすでにその9割を使い果たしており、すでに弾切れが近くなっていた。真由美もすでに4つあるうちの神結晶の内の2つの魔力ストックが無くなっており

 

3つ目ももうすぐ枯渇する状態であった。本人の魔力から回してはいるが、たかが知れているだろう。すでに限界が来ていた。そしてついに・・・・・・・・

 

『真由美ごめん、弾薬がもうない!』

『こっちもだ、もう弾薬がねぇ!』

 

香織たちの武装の弾薬が尽きた。

 

「分かった。二人はストライカーに戻って。そこから援護を。」

『分かった。』

『お前も気を付けろよ、真由美!』

「えぇ、分かっているわ。」

 

2人はストライカーへと向かった。しかし、真由美ももう魔力ストックに限界が来ていた。

 

(すでに魔力ストックの残量が4分の1を切ってる。私自身の魔力も残り少ないか・・・・・・・・どうしたものかしら。)

 

するとヘルグザッパーに異変が起こった。

 

「えっ?ちょっと何、いきなり撃てなく・・・・・・・・って、そんな!?回路破損?使用不能!?」

 

彼女の武装は魔力弾を生成する基部そのものが破損し、生成することができなくなっていたのだ。そしてついに神結晶の魔力ストックも底をつく。

 

既に彼女には生体維持用の魔力しか残っていなかった。

 

打つ手がなくなった真由美達。巨人は着々とホルアドに近づいている。

 

「そんな・・・・・・・・ここまでなの?」

 

しかしそこに、手を差し伸べるものがいた。

 

『待たせたね皆。マギアセイバーの爆誕だ!』

 

突然ユエに持たせた通信ユニットから聞き覚えのある声がした。と同時に後ろから何かが走ってくる音がした。

 

そこには、ストライカーと同じ装甲色をし、車体後方に長い砲身を持った、まるでレス〇ューセ〇バーのような機体がいた。

 

「オスカーさん!ロールアウトできたんですね!」

「あぁ、思ったよりもあの全自動工場(オートワークステーション)が役に立ったよ。まさか5日を半日で終わらせ、さっきのオーダー通りに10分で仕上げるんだから。」

「うん、あの速さには私も驚いた。」

「ユエちゃん・・・・・・・・ありがとう!」

「うん!」

「それで真由美さん、あなたのマギアシリーズの機体を作成の都合上今は大きさ順で分けている。僕はこれらを便宜上カテゴリーと呼んでいる。

そしてカテゴリー2、中型の機体は全7台中3台が完成している。マギアドリル、マギアターボ、マギアライザーの三台だ。有効に使ってくれ。」

「ありがとうございます、まさかこんなに早く仕上げてくれるなんて。」

「いや、僕は自分の仕事を全うしただけだ。それに、あなたの残したものが凄く役立っただけだし、気にすることはない。しかし困ったな。

私ではこれをうまく操れない。誰か変わってくれると嬉しいんだが・・・・・・・・」

 

オスカーは唸る。しかし真由美はそれをすぐに決めた。

 

「ハジメッ!」

「分かった。オスカーさん、そいつは俺が運転する。変わってくれ。」

「あぁ、よろしく頼む。」

 

ハジメはセイバーの方に移った。そして再びオスカーが話し始める。

 

「中型の機体は全部カードスラッシュで呼び出すことができる。合体もできるから使ってほしい。」

 

するとユエがカードを持ってストライカーに飛び移ってきた。

 

「はい。これ、オスカーから。」

「ありがとうユエちゃん。ハジメ、あなたはセイバーであいつの足を止めて!私がその隙にドリルで突撃する!」

「分かった。行くぞ!」

「えぇ!」

 

真由美とハジメはそれぞれ対応するカードを取り出した。そして叫ぶ。

 

「マギアドリル!合体!」

『マギアアップ』

 

カートをスキャン部分にスラッシュする。すると、AIがそう音声で告げた。するとマギアストライカーが後部のカムたちを収容しているブロックから真っ二つに分かれた。そして真由美たちが乗っている部分と

 

その車体の両脇に二対の大型ドリルがくっついたようなデザインをした機体、マギアドリルと合体した。

 

「完成、マギアドリルストライカー!」

 

真由美がそんなことを言う。それにしてもこの人、ノリノリである。

 

一方セイバーはその場で停止し、その巨大な砲身を巨人に向ける。そして言う。

 

「行くぜ!ターゲットロック!」

『ターゲット、ロックオン。』

「バスターファンクション、ライトニングバレッド、発動!」

『ライトニングバレッド』

 

その砲身に雷属性の魔力が収束して行き、それは稲妻のごとき砲弾と化す、そしてそれは巨人の頭に直撃し、その巨体を地面へと追いやった。

 

「いまだ真由美!」

「任せて!行くわよー!ターゲットロック!」

『ターゲットロックオン』

「バスターファンクション、バーストドライバー、発動!」

『バーストドライバー』

 

セイバーの前を猛スピードで駆け抜けていったストライカーは、後部についた短射程ブースターで跳ね上がると、前方のドリルに魔力が収束し巨大なドリルの形をとる、

 

そのまま、その巨人の胴体めがけて、ストライカーは駆け抜ける!

 

「貫けぇー!」

 

その強靭なドリルはその巨体を貫く。しかしその巨人はまだ破壊されない。コアが破壊できていないのだ。

 

その剛腕を使って真由美たちのもとへ振り下ろそうとする。その時、オスカーが叫んだ!

 

「その穴から見える赤い結晶、それさえ破壊すればすべて終わる!とどめをさせ!」

「了解!」

 

真由美はストライカーを降り、その赤い結晶、コアへと飛翔する。それと同時に彼女の右腕にはどんどん魔力が収束して行く。

 

真由美が自身の魔力、その全てをもって、吠える!

 

「これでとどめよ!アースブレイクインパクト・プロミネンスディセンブリーフィニッシュ!」

 

地を割るほどの一撃が、ユエの作った魔法の灼熱の炎と、すべてを無に帰す最強の分解の力をもって、最大威力で打たれる。そのコアがその威力に耐えられるはずもなく、あえなく爆散。

 

そのコアが巨人の巨体を支えていたのだろう。その巨人はまるで断末魔のような嫌な音を放ちつつ、その巨体を崩壊させていった。

 

「真由美・・・・・・・・やったよ!やったんだよ私たち!」

「香織・・・・・・・・えぇ、そうね。私たちは、やり遂げたのよ!」

「やったなふたりとも!」

「うん。よくやった。」

「ハジメ、それにユエも・・・・・・・・本当にありがとう。」

 

こうして、ジーグリンデが町へ到達するという最悪の事態は阻止された。その日のうちにホルアドの町は普通に戻り、勇者一行を含めた戦力はハイリヒ王国へと引き上げて行った。そして真由美たちもまた

 

カムたちを送るべく、フェアベルゲンへと向かった。




ここまで読んで下さりありがとうございます。ちなみにまだロボット化はしません。もっと先になります。さて急展開でしたが楽しんで頂けたでしょうか?作るの早すぎだろとかいうツッコミはなるべくなしの方向で・・・・・・・・

私もここで出すのは早いと思っていました。が、話のつじつまというか、そう言うのをあわせる関係上早めに出すことが決まりました。すいませんでした。それと、原作よりハジメの性格が少し違うのは気にしてはいけません。

ハジメはそこまでトータスの人たちを守るという気持ちはなかったはず・・・・・・・・まぁいいか。ではまた次回お会いしましょう。さよーならー


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第十四話 フェアベルゲンを目指して。

「はぁーい皆さん。真由美さんよー。」
「真由美の挨拶がなんか変わった。どうも皆さん、白崎香織です。」
「イメチェンよイメチェン。」
「挨拶を変えるのがイメチェンだったらなんでもイメチェンになっちゃうよ!」
「そのツッコミはおかしいと思う・・・・・・・・今回はシアたちハウリア族の里帰りのお話ね。」
「でもタイトルからして絶対にそこまで行けないよね。っと、時間だね。ではいつものを。せーのっ!」
「「さてさてどうなる第14話!」」


 

要塞兵器 ジーグリンデを破壊し、ホルアドの町に侵攻するのを阻止した真由美達。

 

そのあと真由美はストライカー後部を再接続し、カムたちに謝罪をした。しかしカムたちは

 

それにあまり怒っている様子はなく、「守ってくれた方に文句なんてとんでもない」と、むしろ感謝をしていた。

 

しかし、彼女たちは明らかに疲労していた・・・・・・・・

 

 

「すいませんオスカーさん、それにハジメ。私の武器と装備を直してもらっちゃって。」

「いや、いいんだ。これは元々僕たちを滅ぼすために作られた兵器を破壊するためにその力を存分に発揮させた結果こうなったんだ。むしろ感謝しているぐらいだ。」

「それに、俺たちが作った時には見つけられなかった弱点も見つかったしな。まぁ色々改良するさ。」

 

真由美たちはオスカーの隠れ家へと戻ってきた。今回の戦いで消耗した部品、武器弾薬の補給をするためにである。

 

念のためストライカーのオーバーホールも行われることとなった。なので現在は動ける戦力がセイバーしかいない状況なのだ。

 

カムたちハウリア族はオスカー邸の客間で休ませている。オスカーが気を利かせてくれたおかげである。

 

ちなみに香織はユエとシアを伴ってジーグリンデのパーツを集めている。ジーグリンデの装甲には特別な鉱石が使われているということらしいので

 

真由美が香織たちに頼んだのである。そして彼女自身も今は義手義足を予備のものへと交換していた。ストライカーと同時に真由美の義手義足もオーバーホールすることとなったのだ。

 

真由美自身、たった数度の戦闘で本格的な修理が必要となるとは思ってもみなかったらしく、最初は困惑していた。なおハジメの義手も例外ではなかった。

 

しかし収穫もあった。まずは真由美が魔物の肉と食べて新しい能力が得られるのかという実験と、魔物の肉を食べた際の副作用(ここでは猛烈な細胞破壊)の度合いの実験を行ったところ

 

真由美は能力を得ることに成功し、細胞破壊という副作用もなかった。ハジメたちのように髪が白くなるということもなく、黒髪のままだった。これは彼女の技能:分解がそう言った負の効果を

 

分解しているんだろうという見解がなされた。実際食べる前と食べた後では魔力量に若干の差異があったことからも証明できる。そしてもう一つは彼女の技能に直接魔力操作が追加された点にある。

 

元々彼女の魔法は、カートリッジシステムによって既にオート化されている。その速度は直接魔力操作に匹敵するため、今まで香織たちと肩を並べて戦えていた。しかし彼女のカートリッジシステムは

 

増設したとはいえ12個分しか保存できないという欠点がある。その問題が解消されたということは戦闘において大いに役立つといってもいい。そのおかげで義手につけていたカートリッジシステムは取り外すことが可能となり

 

新たな装備が追加されることとなった。

 

「オスカーさん、これは?」

「題して、グランドディバイダ―だ。」

「グランドディバイダ―?」

 

その義手の右側、利き腕の方に追加された部分に折りたたまれた状態で収納され、それが展開されるとそれは、まるで丸鋸のようなものだった。

 

「そう、アザンチウム製の極薄刃を超高速で回転させ、それを魔力刃として撃ちだすことで文字通り地面をも切断できるほどの威力を出すことができる、僕の試作兵器の一つさ。

モードは三種類、『フレイムディバイダ―』『フリーズディバイダ―』『ストームディバイダ―』がある。これは文字通り、炎、氷、風の属性を持った刃へと変化する。一番無難なのは

ストームディバイダ―だろうね。ほぼすべての環境に対応している。それぞれのモードにはそれに対応したスイッチを押せばチャージが開始されるから、試してみるといい。」

 

真由美は、改良された義手と義足を取り付け、オスカー邸の庭へと出た。するとそこには的が用意してあった。真由美はその右手の義手を前にかざす。

 

「グランドディバイダ―、展開。」

 

少量の起動用の魔法を発動し、その義手から折りたたまれた状態で刃が露出する。そしてそれは展開し、丸鋸のような刃に姿を変える。そしてその刃を支える基部には、赤、青、緑とそれぞれの色に分けられた

 

スイッチがあった。真由美はそのうちの緑色のスイッチを押し込んだ。すると周囲の魔力を吸収し、その刃は魔力刃を形成する。その色は透明に近い。真由美は足を開き、左手を前に突き出し、右手を背後に持っていき

 

振り上げる構えを取った。

 

「ストーム・・・・・ディバイダ―!」

 

そのままその腕を前に振り上げた。刃に収束された魔力刃はそのまま的へ飛んでいき、その的を切り裂いた。

 

「うん。おおむね予想通りの威力だ。」

 

さすがにとんでも威力である。いい忘れていたが、真由美のステータスは今このような感じとなっている。

 

=========================================================

 

獅童真由美 17歳 女 レベル 不明

 

天職:錬成士 魔弾の射手

 

 

 

 筋力:計測不能

 

 

 

 体力:計測不能

 

 

 

 耐性:計測不能

 

 

 

 敏捷:計測不能

 

 

 

 魔力:計測不能

 

 

 

 魔耐:計測不能

 

 

 

 技能:遠隔配置 風力操作 外気変換 疑似瞬間移動 完全偽装 錬成 質量置換 詠唱簡略 新技能習得 分解 

    暗視 情報構造解析 飛行 自動人形作成 疑似思考回路作成 直接魔力操作 気配遮断 言語理解

 

 =========================================================

 

思いっきり人間をやめている。そんなこんなでちゃっかり技能が増えた&進化した真由美は、様々なものを作った。その一つが”電磁加速式グレネードランチャー”

 

通称『パハーブ』である。(ドイツ語で放物線という意味)これは文字通りのグレネードランチャーで、電磁加速することによって現存するグレネードランチャーよりも飛距離が

 

圧倒的に長くとれる設計になっている。これは真由美が香織用にと作ったものである。次に、宝物庫改め『アイテムパック』である。これは良くゲームであるなんでも入るバックを想像して

 

真由美が作ったものである。なんでも入る。人間すら入れる。ただし取り出すときは要注意。中の時も止まっているので生モノを入れても腐る心配はない。万能袋である。

 

自身の装備も改修した。ヘルグザッパーⅡである。従来のモードに、ランチャーの系譜に当たるカノンモードとマシンガンの系譜に当たるアサルトモードが追加され、本体強度も

 

前身機よりも向上し、照準機能も最適化されている。義手義足に関しては、オスカーの作ったグランドディバイダ―のほかに、アンカーショットが内蔵された。これは両手両足それぞれに一基ずつ内蔵され

 

人一人ぐらいだったら余裕で支えられるほどの強度を誇る。ソードモードには魔力を流し込むことで強度を増加させるブーストモードが内蔵された。ガンモードはエア・バレッドをはじめとするエア系統の

 

魔法が撃てるように改良が施された。ナックルモード(通常モード)ではアースブレイクインパクトの根本的な見直しがされ、威力と魔力効率が改良された。分解に関しても、燃費が少々上がった。

 

神結晶の魔力タンクは神結晶の増加+質量増加に伴って総量が劇的に増えた。義手義足自体の強度もジーグリンデのパーツを一部使用したためとても高いものとなっている。

 

カートリッジシステムは左腕の一基のみになったが、直接魔力操作ができるようになったのであまり影響はない。そしていろいろあったその日の夜、真由美はまたオスカー邸の屋上へと足を運んでいた。

 

その手には一枚の設計図が握られていた。それを持ち、ただ何もせずそこにいるだけで、もし手元にタバコがあったら火をつけて吸いそうな勢いである。そんな中真由美が呟きを漏らす。

 

「ねぇ、父さん。私がやってることは、深雪のためになってるかな?これで、良かったのかな?」

 

その呟きはまるで疑問を投げかけているようだった。しかしここには一人しかいない。誰も答えれる人はいない。

 

するとそこにハジメと香織とユエがやってきた。どうやらハジメたちも何かをしに来たらしい。

 

香織が声を上げる。

 

「真由美・・・・・・・・いたんだ。」

「うん。ここにいると、色々思い出せるから。」

「そっか・・・・・・・・ねぇ、真由美があの糸井川の娘だったって言うのは本当なの?」

「・・・・・・・・ハジメから聞いたのね。その通りよ。私は糸井川の娘だった。」

「寂しくは・・・・・・・・ないの?」

「・・・・・・・・どうなんでしょうね?そんなの、考えたことなかったわ。ただ生きるのに必死だったから。」

「・・・・・・・・ごめん。」

「いいのよ。気にしないで。」

 

香織が聞いたこと。真由美はその質問に答えることができなかった。しかしその目には確かに一筋の涙が流れていた。

 

 

翌日、真由美はオスカーのもとへ向かった。その手には昨日の設計図が握られていた。

 

「オスカーさん。これ、作れないでしょうか?」

「どれどれ・・・・・・・・なっ!?こっこれは君が考えたのかい?」

「えぇ。どうでしょうか?作れそうですか?」

「作れないことはないが、相当かかるぞこれは。」

「いいんです。これは使わないに越したことはないので。でもどれだけかかってもいいですから一応制作をお願いします。」

「分かった。新たなカテゴリー3のビークルとコンセプトは同じだ。やってみるよ。

「よろしくお願いします。」

 

真由美はそのまま修理が完了したストライカーに乗った。がそこにはハジメの姿はない。セイバーの方にいるのだ。香織とユエもそちらにいる。

 

真由美はストライカーについている通信機を取った。

 

「ハジメ、準備はできた?」

『あぁ、こっちはいつでも問題ない。』

「了解。じゃ、行くわよ。」

 

真由美たちはハウリア族の生まれ故郷、亜人族の里フェアベルゲンへと進路を取った。

 

 

道中、大きな戦闘はなく。真由美たちはフェアベルゲンがあるという森、ハルツィナ樹海へとやってきた。

 

ここには大迷宮があるらしい、主目的はシアたちの護送だったが、ついでにここの大迷宮も見て行こうという話になり、本来の目的を忘れそうになったのは別のお話である。

 

樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「さて、カムさん。これからどうするの?お尋ね者なんでしょう?」

「えぇ。ですから私もそこまでのことは考えておりません。」

 

すると、その樹海の奥から何かが出て来た。 その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 

 




今回はここまでです。ここまで読んでいただきありがとうございました。


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第十五話 亜人の里 フェアベルゲン

「よう、ハジメだ。元気にしてるか?」
「こんにちは皆さん。白崎香織です。」
「今回は亜人族の里での話だな。」
「そうだね。でも、なんだか歓迎されてるようには見えなかったなぁ。」
「どうせ今回も面倒ごとだ。じゃあいつものいくぞ。」
「「さてさてどうなる第十五話!」」


 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

目の前にいた亜人はその手に持った槍を真由美たちに向けてくる。それはそうだろう、同じ亜人族が忌み嫌うべき人間族と一緒に居るのだから。

 

その亜人はその目を細めた。それを見たカムが前に出る。

 

「あ、あの私達は……」

 

その額からは滝のように汗が流れている。カムはとても焦っているのか、必死に言い訳を絞り出そうとする。しかし、目の前の亜人には聞く耳などなかった。

 

むしろカムを見て、警戒を強めた。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

一発の銃声が鳴り響いた。ハジメの銃である。その視線の先では先ほどの亜人が額を抑えてうずくまっていた。

 

「うるせぇよ。相手の言い分聞かねぇでなんで一方的に殺そうとしてきたんだ?お前ら。ふざけてんのか?」

 

その声で、集まってきたほかの亜人族も動きを止め、立ちすくんでしまう。それを見て真由美は口を開く。

 

「私たちは敵ではありません。あなた達と敵対する気もありません。ですからどうか、矛を収めていただけませんか?」

「人間の言うことが信用できるか!また攫うんだろう?我々亜人を!あの時の兵士のように!」

 

しかし真由美の説得空しく亜人族の人々は再び槍を向ける。ハジメと香織は、すでに銃を構え臨戦態勢を整えている。

 

(どうすればいいの?私たちに交戦の意思はない。でも相手は戦おうとしている。もし誰かがやりを突き刺そうと動けば確実に蹂躙が始まる。それじゃあカムさん達を安全に送り届けられない!どうすればいいの?

考える、考えるのよ私。どうすればこの絶望的な状況をひっくり返せるかを!)

 

真由美はひたすらに最悪の事態を避けることを考えていた。その時ふと、大迷宮のことを思い出した。それはライセンから出発する前にオスカーから話された内容だった。

 

「ライセン大迷宮とハルツィナ樹海?」

「そうだ。この近くには二つの解放者たちの住処がある。しかし樹海の方は亜人族の助けがないといけないから、先にライセンを攻略することをお勧めするよ。」

 

(確かオスカーさん、ここにも迷宮があるって言ってたっけ?これならっ!)

 

真由美は声を張り上げる。

 

「私たちはこの樹海にあるという迷宮に用があります!解放者たちの残したものです!そこに案内していただければあなた達に手を上げることはしません!」

「信じられるか!嘘をついて、そこまで我らが欲しいか!」

「ちがっ、そう言う訳ではっ」

「言い訳無用!ここでその命散らせ!皆の者、かかれぇ!」

 

それでもなお、亜人族の戦士たちは聞く耳を持たなかった。リーダー格だと思われる亜人が襲い掛かるように指示を出す。

 

真由美は防げなかった。これかは始まるであろう虐殺を。真由美は仕方なくヘルグザッパーⅡを取り出す。

 

真由美が亜人との戦闘を開始するべく構えを取った時、驚くべきことが起こった。

 

「何事かね?」

 

その声はその柔らかさとは裏腹にとてもよく響いた。亜人たちが動きを止める。そして一斉に声のした方へと向く。真由美たちがその目線の先を見ると

 

霧の奥から、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。

 

威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、”森人族”いわゆるエルフなのだろう。

 

「長老様!?なぜここまで来られたのですか!」

 

どうやらそのエルフはフェアベルゲンの長老なのだろう。そこにいた亜人たちは全員、そのエルフの男性に頭を下げている。

 

「報告を聞いて少し気になったのでな。してそなた、解放者という言葉、どこで耳にしたのだ?」

「本人からです。オルクス大迷宮の創設者、解放者の一人、オスカー・オルクスその人です。」

「ほう、しかしその者は当の昔に息絶えているが?」

「私には死者蘇生に近い能力があります。強大すぎる力がゆえにそこまで乱発できるものではないですが・・・・・・・・」

「・・・・・・・・どうやら嘘はついていないようじゃな。おぬしたち、ついてくるがいい。我らの里まで案内しよう。ハウリア族の者たちもだ。一緒に来るがいい。」

 

その言葉で周囲の亜人たちはいっせいに目を見張った。

 

「しかし長老様!ハウリアはまだしも、この者どもは人間です!我らが同胞をさらったあのにっくき兵士と同じ種族の者どもです!それなのに我らの神聖なる領地へと入れるなどっ!」

「その者たちは嘘をついておらん。これでもわしは長老なのだ、人を見る目はあると自負している。それに、そこのお嬢さんが我々を本気で捕らえる気があるなら、私たちはとっくに捕らえられてるわ。」

 

なんとも食えない爺さんだ。最初に真由美を見たときにはすでに、真由美の実力を見抜いていたのだ。真由美たちは長老と呼ばれた老人の後をついて行った。

 

 

「さぁついたぞ。ここが我らの聖地、フェアベルゲンだ」

「うわぁ・・・・・・・・きれい。」

「幻想的ってのはこういうのを言うんだろうな。これはいいものを見た。」

「うん。こういうところって憧れてたんだー。素敵。」

 

長老と呼ばれた男について行った真由美たちが見たのは、木々の中に様々な住居が点在するとても幻想的な雰囲気な場所だった。

 

そこには森人族以外にも様々な亜人が仲良く過ごしていた。確かに王国よりは小さいが、活気の良さで言えば断然こっちが上だろう。

 

世間話をする人や、仲良くはしゃぐ子供たちなど、まるで昔の日本を彷彿とさせるような生活感であった。そんな中、真由美たちの近くで

 

遊んでいた子供たちが、真由美の方に近づいてきた。

 

「おねーさんたちだぁれ?」

「うーん・・・・・ここに遊びに来た人だよ。ここはいいところだからね。来るのが楽しみだったんだ。」

「そうなんだぁ!おねーさんたち、たのしんでいってね!」

「うん、ありがとうね。君たちも気を付けて遊ぶんだよ?」

「うん!じゃーねー!」

「またねー。」

 

男の子が声をかけて来た。真由美はそれに手慣れたような感じで相槌をうっていた。

 

「真由美、お前こういうの慣れてるのか?」

「うん。昔はよく小さい子供たちと遊んでたからね。もっとも、ハジメはお義父さんのお手伝いで全然来てくれなかったけどね。」

「そんなことも、あったっけな・・・・・・・・」

「覚えてないの!?・・・・・・・・ハジメ、さすがにそれはひどいよ。」

 

真由美がハジメにジト目を向ける。ハジメは目をそらしている。そんな光景を香織たちは苦笑いをしながら見ていた。

 

そんなこんなでしばらく歩いていると、ひときは大きな建物が見えて来た。どうやらここが目的地のようだ。中に入ると椅子が並んでおり

 

その長老と呼ばれた男はその中でもひときは豪華な椅子に座った。

 

「さて、諸君。まずは迷宮の攻略の証を見せてはくれまいか?」

「それは構いませんが、どういうのを見せればよいのでしょう?」

「我らも伝承づてでしか知らないが・・・・・・・・証と呼ばれる丸いものを持ってはいないか?」

「・・・・・・・・あっ、もしかしてあれかな?」

 

 

真由美はポケットの中から丸い指輪のようなものを取り出した。その指輪はオスカーの隠れ家から出るときに持っていけと言われてオスカーからもらったものだ。

 

真由美はそれを長老に手渡した。

 

「・・・・・・・・確かに、伝承通りの物のようだな。そなたらはオスカーの隠れ家にたどり着いたようじゃ。ようこそフェアベルゲンへ、わしはここで長老の座を預かっているアルフレリック・ハイピスト。

申し訳ないがその迷宮は今はいけんのでな。しばらくここで休んでいくといい。」

「その申し出はありがたいのですが、私たちは本来、迷宮に行く予定ではなかったのです。」

「ふむ、ではどうしてここまで来たのかな?」

「ハウリア族に頼まれたからだよ。あんたたちに見捨てられたからさまよってたら、魔物と帝国兵に襲われてハウリア族はほぼ壊滅状態だったらしい。」

「そこにたまたま我々が通りかかり、助けることになったのです。」

「ふむ、そういうことだったのか。我らの同族”だったもの”を助けてくれたのには感謝する。」

「だったもの、とは?」

「意味も何もそのままの意味よ。彼らはこの里の禁忌を犯した、そしてこの里で禁忌を犯した者は一族ごと処刑されるという決まりでな。逃げた時点で我らはハウリア族を見捨てていたのだよ。」

「・・・・・・・・私にはあなた達の里の掟にどうこう言えないというのは重々承知しています。しかしそれを承知であえて言わせていただきます。アルフレリックさん、あなた達のそれは同族殺し、程度で言えばあなた達が

忌み嫌う帝国兵と同じです。」

「人間風情が何を言う!貴様たちに言われる筋合いはないわ!」

「ジン・・・・・・・・」

 

熊人族の男が話に割って入ってきた。その男、ジンと呼ばれたその男はは真由美たちの方をにらむとアルフレリックの方へと向き直り、口を開く。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の男、ジンだけでなく

 

その後ろをついてきた、他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。しかし当のアルフレリックはどこ吹く風という様子だった。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧どもが資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そして真由美たちを再び睨む。

 

フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。

 

二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、真由美に向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、華奢な体つきの真由美に向かって振り下ろされた。

 

亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。

 

シア達ハウリア族と傍らの香織、ハジメ、ユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった真由美を幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

ズドンッ!

 

衝撃音と共に振り下ろされた拳は、あっさりと真由美が掲げたて平手に止められていた。

 

「なにっ!?貴様、どうして私の拳を、っ!」

「今はお話し中です。少し黙って頂けませんか?」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

真由美はその拳を握り、どんどん力を強めていく。骨からはなってはいけない類の音が鳴り始め、ジンは悲鳴を上げた。その異様な光景を見ていたほかの亜人族は驚きを隠せずにいた。中には手で顔を抑えていたものもいた。

 

「そこまでだ!」

 

アルフレリックはそう声を張りあげ、その喧騒を止める。ジンも観念したのか、その拳に力を入れるのをやめた。

 

「私たちはハウリア族が守れればそれでいいのです。ですからフェアベルゲンをどうこうというのは正直考えていません。ですからあなた達がハウリア族に手を出さないというのなら我々も何もしません。」

「・・・・・・・・しかし、掟だとハウリア族は処刑せねばならん。」

「アルフレリックさん・・・・・・・・」

 

真由美は目を細める。その顔は「まだいうか!」という感じの顔だった。しかしアルフレリックさんは止まらなかった。その腰にかかっていた短剣を引き抜き、およそその年齢に見合わないスピードでその剣を付きの要領で

 

カムの方へ突き出す。突き刺さった音が聞こえ、真由美は顔を青ざめさせた。ここにはカムのほかにシアもいるのに目の前で親殺しをされてシアが耐えられるはずがないと思っていたからである。しかしその予想とは裏腹に

 

カムの苦しむ声もシアの悲鳴も聞こえなかった。真由美が後ろを向くとアルフレリックの短剣はカムの牛尾で、従者が運んできた肉に刺さっていた。しかしその音は何かを刺し殺すのには十分な音を出した。

 

「今ここでハウリア族族長カムは死んだ。ここにいた長老たちが証人じゃ。死んだ人間は処刑できん、他のハウリア族に関してはフェアベルゲンに滞在することは許さん。即刻出て行ってもらう。そして今後一切の里内への

介入、及び援助を行わないことを覚えておけ。以上だ。」

「・・・・・・・・本当に、食えない人だ。」

「ふふふ。これでもここの長老は長くやっていてな。いろいろと経験があるのじゃよ。・・・・・・・・ここからしばらくはなれたところに魔物の少ない場所がある。そこに住処を作るといい。」

「それはこっちで何とかしましょう。お世話になりました、アルフレリックさん。お互いに無益な争いをせずに交渉ができたこと、光栄に存じます。」

 

真由美は他のみんなを連れてフェアベルゲンを出るのだった。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。次回はハウリア族を鍛え始める回ですね。ただ、原作の方とちょっとというか、だいぶ変わるかもしれないのでよろしくお願いします。ではまた次回お会いしましょう!


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第十六話 ハウリア族を鍛えたい

「皆さんどうもこんにちわー。香織です。」
「ユエ。皆、元気してた?」
「シアですぅ!よろしくですー!」
「今回は・・・・・・・・うん、台本読む限りなんか不穏な空気な予感するね。」
「メタい話、作者は自衛隊が割と好きらしい。」
「そのくせにわかなのはちょっとイラつきますけどねっ!」
「まぁ作者は一般低能眼鏡チンパンジーだし仕方ないよ。という訳で、せーのっ!」
「「「さてさてどうなる第十六話!」」」
「楽しみにするですぅ!」
「主にハウリア族の変化が凄いみたい。楽しみ。」
「ユエさんっ!?不穏なこと言わないでくださいよぉ~。」


 

三人称side

 

フェアベルゲンでの一件を済ませた真由美たち一行は、近くにあった結界の残り香?のようなちょっとした広場に来ていた。

 

「ここなら確かに魔物も寄り付かなそうね。」

「確かに、なんか感じが違うな。」

「ん、結界がまだ生きてる。これなら一週間は持つ。」

「それにしても迷宮に行くのにあと一週間かかるのって、なんかもどかしいね。」

「正直、私の技能【情報構造知覚】を使えば行けそうだけどね。」

 

そう、このフェアベルゲンを含めたハルツィナ樹海を包むこの霧の結界は適性のないものを迷わせる効果を持つ。

 

そしてその霧の濃度が一番強いのが樹海の奥にあるという大迷宮なのだ。その霧は一定の周期で濃さが変わり、通れるようになるには

 

あと一週間はかかるとアルフレリックは言っていた。なので真由美たちは一週間待機しなくてはいけないのだ。

 

「このスペースにはストライカーやセイバーは入れないしなぁ。さてどうするか・・・・・・・・」

 

一週間待機、何もすることがない。要するに暇なのである。真由美は思考をめぐらす・・・・・・・・そして一つ、思いついた。

 

「あ、そうだ。ハウリア族を鍛えよう。」

 

こうして真由美による『ドキドキッ!ハウリア族を強くし隊”短期間集中コース”』(真由美命名)が始まろうとしていた。

 

 

「さて、ハウリア族の方に集まって頂いたのはほかでもありません。我々はいまでこそあなた方をお守りしていますが、我々は旅をする身。いずれはあなた達と離れなければいけません。」

「はい。それは承知の上です。なのでこれから我々で住処を作ろうという話に・・・・・・・・」

「心配ご無用!住処は私たちで用意します。しかし、この結界を無視して敵がやってこないとも限りません。その場合は戦う必要が出てきます。」

「・・・・・・・・我々には戦う力がありません。」

「だから、家族が殺されるのをただ見てるだけだと?」

「えっ?」

「そんな弱気でどうしますか!遅かれ早かれあなた達は戦う必要が出てきます。それは百も承知でしょう?」

「しかし我々にはっ!」

「ということで我々・・・・・・・・いや私はあなた達を鍛えます。」

 

真由美はそう言うと口を上につり上げた。

 

「ハジメ、例のあれはできた?」

「あーあれか、精神と時の部屋もどき。中との時間のサイクルは1時間でむこうでは一年になるようにセットしておいた。食事も出るようにしといたぞ。あれを作るのは苦労したぞお前。何徹したか分かんねぇ・・・・・・・・俺は寝る。」

「ありがとね、ハジメ。」

 

何て物を作らせたんだ真由美さん。そう、彼女がハジメに作らせてたのは、某なんちゃらボールに出てくる精神と時の部屋もどきである。アイテムパックの時間停止の概念を応用して作ったものだ。

 

これはひとえに彼女の技能【想像形成】をユニット化したワークステーションありきのものだ。本当に原作のありふれはどこへやら・・・・・・・・カムたちが中に入るとそこには

 

地球で言う学校のような建物に巨大なグラウンド、さらに各種トレーニング機器などが揃っている。

 

「真由美さんここは一体・・・・・・・・」

「ここでカムさん達には私の講義による座学とと体つくりをやってもらいます。」

「そう言えばシアは?」

「彼女はとりあえず後回しで、まずはあなた達を鍛えます。それに、彼女には別な方が稽古をつけているでしょうしね。」

「そ、そうですか・・・・・・・・」

「じゃあ早速行きましょうか。あなた達は約一年間ここで過ごしてもらいます。」

「1年!?それではあっという間に大迷宮前の霧が薄くなる期間を逃してしまいますぞ!?」

「だからこそのこの空間ですよ。」

 

こうしてカムたちの特訓が始まった。

 

「これからは私が考えたこのタイムスケジュールに従ってもらいます。それと、私が指示したことなどに対する返答は「了解」のみです。分かりましたか?」

「え?しかしそれでは・・・・・・・・」

「返事は?」

「りょ、了解!」

 

彼女の作ったスケジュールは、自衛隊を参考にしているため、起きる時間、訓練、そして座学という工程のすべてが緻密に組まれている。そしてカムたちはこれを繰り返していった。

 

「どうしたネム!足が遅くなってますよ!それでもやる気はあるんですか!?」

「了解!」

「じゃあもっと速く走りなさい!あと十週追加!」

 

ある時、格闘訓練では。

 

「いいですか、格闘戦は自分の獲物がなくなった時や、武器を使えなくなるまでの距離に接近されたときに使う技です。しっかり身に着けること。いいですね?」

「了解!」

 

と、最初は穏やかだったものの・・・・・・・・

 

「どうしたんですかアン?そんな痛がってるように見せても敵は攻撃をやめてはくれませんよ?受け身をしっかりとってくださいこれは訓練ですが失敗すると本当に大けがしますよ!」

「了解!」

「もういちど、先の動きをやって!体にしっかりと覚えこませて!」

 

などとかなーりスパルタ指導をしていた。しかし、ただ苦しいだけじゃない、飴と鞭のように・・・・・・・・

 

「今日はみんなで焼肉を食べましょう。さぁどんどん食べてください」

「了解!」

「あと、口調は崩して構いません。」

「了解!やったぁ久々の焼肉だぁ!」

「あーそれ私が食べようとしてた肉―!」

「取られた方が悪いんだよ。ハハハっ!」

「なにおぉ!それならこうだ!」

「なっ!?俺が狙ってた肉を―!」

 

とこう言った感じにたまーに催し物を開くことで、切り替えることを身に着けさせた。そして、ある日、カムたちを一日休ませた真由美は一度外に出た。その際、カムたちには申し訳ないが

 

中の時間は止めた。真由美が出て来た理由、それはカムたちの武器をどうするかだ。

 

「ハジメ。」

「うん?なんだ急に。」

「カムさん達の武器なんだけど・・・・・・・・どうしよう?」

「どうしようって・・・・・・・・普通に弓とか剣とかじゃないのか?」

「私ってばそのことをすっかり忘れて、座学で銃に関すること教えちゃって・・・・・・・・」

「まじか・・・・・・・・そうしちまったものは仕方ねぇな。じゃあ銃を作るしかないだろう。」

「本体はまぁ何とかするとして、弾はどうする?」

「ふむ・・・・・・・・資源の問題で火薬はダメか・・・・・・・・じゃあ魔力弾にするしかねぇな。」

「魔力弾?でもそれだと反動が・・・・・・・・」

「そこは衝撃をしっかり伝えるようにカスタムするさ。そしてお前の技能【外気変換】を使えば魔力の問題も完璧だ。それに魔力弾なら音もしねえしな。後はマガジンを魔力ストックとして、出なくなったら交換でいいだろう。」

「そうね。それなら簡単に作れそう。ありがとうハジメ、あとはこっちでやるわ。」

「あー。じゃあ俺も行くわ。」

「どうして?」

「純粋に興味があるんだよ。それに、カムたちがどこまで強くなったのか見たいしな。」

「なるほど・・・・・・・・でもこの部屋を管理する人がいなくなるんじゃない?」

「すでにお前が作った”AI”で自動管理に切り替えたさ。」

「・・・・・・・・本当に、何でこんな世界でそんなものが使えるようになっちゃったんだろ?」

「俺に聞くな。」

「デスヨネー」

 

2人はそんなことを言いながら部屋へと入るのだった。

 

その後、真由美とハジメはカムたち用に作った魔力弾式小銃「零式小銃」を作りカムたちに持たせた。勿論射撃訓練をするためにだ。

 

この銃はそれぞれに簡易的な生体認証システムを搭載しているため万一的に奪われてもトリガーがロックされただの鉄の塊と化すようになっている。

 

なおこの技術は真由美が新しく作ったわけではなく、ステータスプレートの技術をそのまま使っただけである。

 

そして、真由美が体力づくりや座学による銃の知識を叩き込んだおかげか、カムたちはすぐに銃になれ、使いこなせるようになった。

 

そこで真由美はついに、戦術を扱う練習を組み込んだ。

 

 

この精神と時の部屋もどきは便利なもので、作りたいものを思い浮かべれば簡単にそれと全く同じセットが形成される。

 

カムたちの訓練用に使っていた建物もこの機能で作った。そして今カムたちの前には巨大なビルが建っていた。

 

「それではこれより人質救助訓練を始めます。」

「はい!」

「今回のシチュエーションは建物の五階フロアに数人の銃で武装した敵グループと人質にされた少女がいるという設定です。制限時間は15分。人質を死なせることなく敵グループを殲滅しなさい。以上、何か質問は?」

「・・・・・・・・」

「ないようですね。では、作戦開始!」

「了解!」

 

結果から言おう。成功だった。カムたちは、ニンジャもかくやという無音で建物内に侵入、そのまま敵がいるフロアに到達し、そのまま敵を殲滅した。

 

あのカムたちが、である。戦う術を知らず、戦いを嫌い逃げ続けてきた彼らの隠密行動力は、地球にあるどの特殊部隊にも勝るほどだった。

 

「これならそろそろ実戦に出してもいいか・・・・・・・・」

「そうだな。彼らの隠密行動力なら、戦えるだろう。」

「じゃあ、これにて『ドキドキッ!ハウリア族を強くし隊”短期間集中コース”』は終了だね。」

「あぁ、そうだな。」

 

こうしてハジメたち・・・・・・・・いや真由美によるハウリア族改造計画は幕を閉じたのだった。




短いですが今回はここまで。ここまで読んでいただきありがとうございました。ではまた次回お会いしましょう。


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第十七話 カミのシト

「こんにちは皆さん。真由美さんだよ。」
「香織です。」
「ハジメだ。」
「ユエ。よろしく。」
「さて今回は・・・・・・・・えぇ・・・(困惑)私の作ったものが壊されるの?」
「本当?あのすっごく頑丈そうなやつが?」
「ホントみたいだな。まぁ、ご愁傷様ってやつだ。」
「ちょっとーそんな言い方ないでしょうよー。」
「落ち着け不真由美。」
「今なんて言ったのユエちゃん。何か名前の前に余計な一言入れなかった?」
「うるさい・・・・・・・・という訳でいつもの、やろう。」
「だな、じゃあ行くぞ。せーの。」
「「「さてさてどうなる第十七話!」」」
「ちょっとユエちゃーん!」


 

~四肢が機械の少女は、ある一人の女性・・・・・・・・いや女性の見た目をした何かを見上げている。あまりにも整いすぎた顔と体。そしてその背中に生える一対の天使を思わせるような翼。

 

その何かはその顔を得狂気の混じった笑みで覆うと、その口を開いた。

 

「私は、神の使徒、プロトタイプ №001・アリス。あなたは神の操る盤面にふさわしくない。そのために私が、あなたを葬ります。」

 

その顔はどことなく、機械仕掛けの少女と似ているような気がした・・・・・・・・~

 

 

 

三人称side

 

カムたちハウリア族の実戦投入のための訓練課程が終了し、真由美たちは精神と時の部屋もどきから出て来た。

 

すると外では4日たっていた。少し、ずれがあったのだろうか?

 

「ハジメ、4日経ってるってほんと?」

「あぁ、少し設定をミスっちまった。」

「そっか、まぁいいけどね。」

 

本当にどうでもいいのである。そういえば、ユエやシア、香織たちはどうしているのだろうか?

 

ユエたちにとっては4日の出来事だったが、真由美は一年近く彼女たちのことを見ていない。

 

当然人間だから恋しくもなる。それにストライカーやセイバーのメンテナンスもやらなければならない。

 

しかしまずはユエたちの安否確認をせねばなるまい。

 

確かめに行こうとしたときにそれは起こった。くぐもった音と大きな振動、そして黒煙、真由美に見えたのはそれだった。

 

「なんだ今の!?」

「爆発よ!」

 

そう、爆発である。しかも今回ばかりは位置が悪かった。

 

「あの方角にあったのって・・・・・・・・まさか!?」

「どうしたんだ真由美?」

「まずいことになったかもしれない。ハジメはカムさんたちを連れてユエ達と一緒に奥へ避難。私が合図をするまで絶対に動いちゃだめよ。」

「・・・・・・・・あぁ、わかった。気を付けろよ。」

「分かってるわ。」

 

真由美はそう言うと、脚部スラスターを起動、一気に上空まで上がる。森の霧を抜けると、一気に森の入り口の方へと向かった。

 

___________________

 

 

真由美がそこにつくと、そこにあったはずのマギアストライカーなどのビークルがなかった。正確に言えば、あったであろう痕跡を残し、すべて燃えていた。

 

すると真由美お手製の通信機に連絡が入ってきた。オスカーからだ。

 

『真由美君か?』

「オスカーさん。どうしました?」

『大変なことになった。私が完成させ試運転を行っていたマギアシリーズがすべて破壊された。それをやった何かは恐らく君たちの方に向かった!もうすぐ君たちのところにつくぞ!』

「どういうことですか!?しっかり説明を!きゃっ!?」

 

突如握っていた通信機が破壊された。何かに撃たれたのだ。真由美が上空を見るとそこには、銀色の髪色をし、アニメでしか見れないようなぼっきゅっぼんな体型をした、天使がいた。

 

「あなたはいったい・・・・・・・・」

 

思わず真由美は口走る。

 

「私の名前はアリス。神の使徒です。」

 

その天使の名はアリスというようだった。どことなく真由美と似たような顔立ちしているのは気のせいだろうか?

 

「神の使徒・・・・・・・・エヒトとやらの使いか何か?」

「えぇ。主はあなたの盤面への参加を望みません。あなたと、その一味はここでイレギュラーとして始末します。」

 

すると、アリスという天使は問答無用でその手に持った大剣を振り下ろしてきた。

 

真由美はとっさに義手のブレードを展開して受け止めるが、それはまるで豆腐を切るがことくいともたやすく切られた。

 

「ブレードがっ!?くっ!」

 

真由美は義手に内蔵されている小型レールガンをゼロ距離で叩き込んだ。それと同時にブースターで一気に後退。ヘルグザッパーを起動し構えた。

 

ブースターを最大出力で使ったために舞い上がった土煙が晴れてくると、そこには銀色の翼を自身の前に構え、至近距離で放ったレールガンの弾を一切通していない

 

無傷の天使がいた。

 

「この程度ですか・・・・・・・・あのお方の手を煩わせるほどでもない。」

(小型とはいえハジメのドンナーや香織のナハトと同じ威力をゼロ距離で撃ったのに無傷!?)

「・・・・・・・・いったいどういう仕掛けなのかしら?」

「敵にみすみす教えるとでも?」

 

その瞬間、天使の姿が”ブレた”。気づく頃にはすでに眼前でその大剣を振り下ろそうとしている。

 

「っ!?ソードフォーム!」

 

真由美はそれをソードフォームで受けるが、やはりそれはいともたやすく切られてしまう。

 

ヘルグザッパーは破壊された。真由美に残された近接武装はない。真由美はまたもブースターを吹かし距離を取る。その隙に新装備”グラウンドディバイダ―”を展開した

 

「グラウンドディバイダー展開、魔力収束・・・・・・・・完了!」

 

選ぶスイッチは緑、ストームディバイダ―だ。収束された魔力はそのまま魔力刃となり直径1m程度の大きさとなった。そしてディバイダ―側の腕を後方に、

 

足を前後に開き、重心をしっかりとかける。そして叫んだ!

 

「ストーム・・・・・・・・ディバイダァー!」

 

遠心力で加速された魔力刃はあのジーグリンデの装甲を理論上易々と砕く凶悪な威力でもって天使のもとへと飛翔する。

 

天使もさすがにまずいと判断したのか、その魔力刃を避ける・・・・・・・・ことはしなかった。天使は背中の羽を展開し、その魔力刃を易々と受け切って見せた。

 

しかもその魔力刃はまるで元々そこになかったかのように消え去ったのだ。

 

その光景を見た真由美は、あるシーンを思い出した。あの魔力刃は何らかの力によって”消えた”。それは忘れもしない、真由美が初めて分解を行使したあの光景・・・・・・・・

 

(まさかっ!?)

 

そう。いくらイレギュラーな能力とはいえ、技能で存在するのだ。それをいとも簡単に操る神なら、それをすることぐらい朝飯前。そう、つまり天使の羽が持つ力とは。

 

「まさか、あなたもそれが使えるとはね。こうして敵に回るとよくわかるわ、”分解”の能力はねッ!」

「さすがですイレギュラー。先ほどのあれを視ただけで私の能力を言い当てるとは。」

「おほめに預かり光栄よ。最も、こんな状況でなきゃ素直に受け取るんだけどねっ!」

 

真由美はポケットに忍ばせておいた鉱石を取り出した。そして彼女の天職:錬成士の技能を使った。

 

「錬成っ!」

 

すると彼女の手にあった鉱石が形を変えていく。そしてそれは一本の武器へと変わる。光を反射し、触れたものすべてを両断せしめる武器、日本人にはおなじみ、日本刀の爆誕である。

 

「そんな武装でどうしようというのです?」

「こうするのよッ!」

 

真由美はスラスターを吹かし、天使へと肉薄する。そしてその手の日本刀を振り下ろす。

 

「無駄なことを。」

 

天使は武器で受け止める。その武器には分解の極薄フィールドが形成されているため今度もまたそのカタナはたやすく切られる・・・・・・・・ことはなかった。

 

なんとそのまま鍔迫り合いを演じていたのだ。

 

「何故、その武器は壊れないのですか?」

「あら?まだわからないのかしら。目には目を、歯には歯を、分解には分解、でしょ!」

 

真由美は手の力をどんどん強めていく、それに比例して分解の出力も上がっていく。そしてついに相手の分解の出力に真由美の出力が勝ったのか天使の持つ大剣はにひびが入っていく。

 

「もう・・・・・・・・少しぃ!」

 

真由美はダメ押しとばかりに背中に魔法陣を展開、”エア・ストーム”を発動し、さらに加速をかける。その力に負けたのか、天使の持つ大剣は半ばから折れ、粉々に砕け散った。

 

「やった!」

「などとは、思わないことです。」

「グハッ!?」

 

真由美は大剣を叩き割ったと同時に後方へ吹き飛ばされた。スラスターやブースター、義手内蔵のギミックで何とか体制を戻した真由美だったが、その顔には絶望の表情が宿る。

 

「まさか貴女がここまでやるとは、正直私も驚いています。その力に敬意を払い、私も本気を出させてもらいます。」

 

瞬間、天使の周りには強烈な光が走った。その光が引くと彼女の姿は変わり、本当の天使に見えた。

 

元々銀色だった髪色は、光を放つ黄金色に。瞳の虹彩は虹色に。背中には先ほどまであった翼がさらに巨大になって生えている。そしてその手には、先端が二股に分かれ、らせん状の意匠が入った光の槍が握られていた。

 

真由美は悟った。先ほどまでの彼女は、一切本気を出してはいなかったのだと。

 

「では、改めて名乗りましょう。」

 

彼女の声は不思議と響いた。

 

「私は、神の使徒、プロトタイプ №001・アリス。あなたは神の操る盤面にふさわしくない。そのために私が、あなたを葬ります。」

「プロトタイプ?」

「私には感情というものが補助的に備わっています。そして今、私はこの戦いで感情が高ぶっています!あぁ、こんな気持ちになるのはイシスと戦った時以来ですよ!」

「イ・・・シス?」

「さぁ、イレギュラー!この私を満足させてください!」

 

その天使、否アリスは、真由美へと肉薄すると、身の丈はある光の槍を軽々と振りぬいた。真由美はそれを刀で受けるも、その力に耐えられずに後方へ吹き飛ばされる。その衝撃で刀は粉々に粉砕してしまった。

 

真由美は体勢を立て直そうとする、しかしアリスはそれを許さなかった。彼女は高速で真由美の背後へ飛び、その背中を思いっきり蹴り上げる。衝撃をもろに受けた真由美の体は上空へと昇っていく。

 

その高度はオゾン層に入るかというレベルの距離だった。アリスはそのまま真由美の体に殴る蹴るを繰り返す。まるでサッカーボールのごとく吹き飛ばされ続けた真由美はアリスにとどめと言わんばかりに

 

光の槍で腹を叩かれる。真由美は音速もかくやというスピードで地面へとたたきつけられる。その衝撃はすさまじく、彼女の義肢はどれも粉々に砕け、彼女自身も魔物の肉と食った時の変異で体が頑丈になったとはいえ

 

人間の範疇を越えてはいない。個の硬度から地面へとたたきつけられたのだ。無事で済むはずがない。頭から血を流して倒れている。すでに呼吸は、無かった。

 

「何の音だ!?」

「まるで爆発みたいな・・・・・・・・」

「ん!?真由美ッ!」

 

するとそこに、ハジメたちがやってきた。騒ぎを聞きつけたのだろう。その後ろにはなぜか所々が汚れていたり傷ついていたりするが完全武装したカムたちがいる。

 

しかし、彼らは遅すぎた。もう、真由美は息をしていない。

 

「真由美?おい、返事しろよ真由美!」

「真由美!ねぇ起きてよ真由美!」

「真由美。起きる、早く!真由美!」

「真由美さん?起きてくださいよ真由美さん!」

 

どれだけ声をかけても真由美が返事をすることはおろか目を開けることも、呼吸することもない。

 

するとハジメたちはアリスの方を向く。

 

「・・・・・・・・か?」

「うん?なんと言いましたか?聞こえませんでしたよ、イレギュラー。」

「・・・・・・・めぇか?」

「もっとはっきり言いなさい。聞こえません。」

「てめぇかぁ!真由美をこんな目に合わせた奴はァ!」

 

ハジメが、吼えた。ハジメシュラーケンを宝物庫から取り出し、照準する間もなくアリスへと撃つ。しかしアリスには効果がない。

 

今の彼女にとって、分解の効果範囲を体の周りに張り巡らすことは簡単だったのだ。

 

「おや、イレギュラーが一人死んだのにまだ抵抗しますか。いいでしょう、その心意気に敬意を表し、殺します。」

 

アリスが突撃しようとしたとき、彼女を火炎で出来た竜が噛みつき、上空へと追いやる。ユエの魔法だ。そしてそれに追い打ちをかけるように6発の榴弾がアリスに襲い掛かった。香織の武器、パハープだ。

 

「よくも真由美を!」

「絶対、許さない!」

「おやおや、随分熱烈な攻撃ですね。しかし、残念です。それでは私には届きません。」

 

しかし、彼女はそれを意に介することなく、炎竜を振り払い、榴弾の一発を香織のもとへ蹴り返す。

 

それは香織の足元で爆発し、近くにいたユエごと香織を吹き飛ばす。

 

「香織!ユエ!」

「さぁ、残るはあなただけですよ。」

「まだ・・・・・・・・終わってない!」

「あなたなんかに・・・・・・・・負けない。」

 

しかし、香織とユエはかろうじて生きていた。顔の半分は流血で覆われているが。

 

「・・・・・・・・ふむ、そこの二人はまだ息があるのですか。では、最大火力で葬りましょう。」

「最大火力だと?」

「安心してくださいイレギュラー。あなたは痛みを感じることなく文字通り、この世から消滅します。」

 

アリスは空高く舞う、そして上空で静止すると、右手を天高く掲げる。すると彼女の持っていた槍が、光のエネルギーキューブとなり、それは丸みを帯びながらどんどん肥大化し、巨大な槍へと変貌した。

 

《我ハ天ニ力ヲ求ム、地ヲ焼キ払イカノモヲ撃滅セシメントスル”力”ヲ》

《神槍解放 end of Longinus》

 

光の槍は膨大なエネルギーを持ってハジメたちに襲い掛からんとする。そのままぶつかれば文字通り”跡形も残らない”だろう。ハジメはうなだれた。そして目をつぶった。

 

”ただ元の居場所に帰りたかっただけ”それだけの願いすらかなえられないことに絶望したのだ。しかし、いつまでたっても燃えるような感覚はない。その瞬間、目の前に何かが刺さったような音がした。

 

ハジメたちはその目をおそるおそる開ける。するとアリスの腹部は何かで貫かれており、ハジメたちの目の前には銀色に輝く槍が刺さっていた。

 

「イ・・・・・・シス。一体・・・・・・・・何の真似です!?」

 

アリスの後ろには、黄金色に輝くアリスの髪色と対をなすように銀色に輝く髪の天使がいた。髪色をのぞけばアリスと瓜二つである。

 

「いったいイレギュラー相手にどれだけの力をかけているのです?地を割るほどの一撃を使うものではありません。」

「いったいなぜ、私ごとイレギュラーを殺そうとした!イシス!」

 

アリスは声を荒げる。それにも臆することなくイシスは冷淡な口調で言い放つ。

 

「プロトタイプ№001アリス、あなたの感情制御はもう抑えることのできないレベルにまで達しました、創造主はあなたを廃棄なさると決定成されました。つまり用済みです。イレギュラー共々、消えなさい。」

「そんなこと・・・・・・・・そんなことを主が言うはずがない!」

「いえ、これは決定事項です。さぁ、死になさい。私の愛おしいアリス。」

 

すると、イシスという名の天使の背後から、ざっと百体だろうか。イシスと似た顔立ちをした天使がぞろぞろと出て来た。その手には赤い色をした槍が握られている。

 

「イシス!あなたは絶対許さない!必ず地獄へ送ってやる!」

「えぇ、期待しないで待ってるわ。じゃあね、アリス。・・・・・・・・”放て”」

 

その天使はその槍をアリスもろともハジメたちへと投擲した。その槍はアリスの体をいともたやすく貫き、そのままハジメの方へとやってきた。

 

ハジメはドンナーとシュラークを取り出し迎撃する。香織はナハトで、ユエは”炎葬”という魔法でそれぞれ迎撃する。

 

真由美をかばうように。しかし、それは神の槍。破壊できるはずもなく、軌道を変えるので精いっぱいだった。

 

それは次々と、それでいて着実にハジメたちにダメージを与えて行った。ハジメは左腕の義手を破壊され、真由美とユエはそれぞれ片足に槍を受け、動けない。

 

攻撃が止んだ。すると真由美の近くにアリスが落ちて来た。体中が穴だらけの状態である。槍を至近距離であれだけうけ続けたのだ、原形を保っているのはさすがの耐久値というべきだろう。

 

「あら?まだ死んでいなかったのね。まぁいいわ。これで終焉よ。」

 

イシスはその手に光の槍を握る。その槍はどんどん巨大になっていき、イシスはそれを投げようとした。

 

しかしその瞬間、辺りは青白い光に包まれ、イシスの持っていた槍が消えた。ハジメはその発生源を向くとそこにはアリスの姿はなく、代わりに、虹彩が虹色に輝き、その手にアリスと同じ槍を持った人物が立っていた。

 

そう、それは、アリスの攻撃で死んだはずの真由美本人であった。

 

____________________________

 

「ここ・・・・・・・・は?」

 

真由美は見知らぬ空間にいた。何もない、真っ白な空間。

 

「あら?気が付きましたか。」

 

すると唐突に声をかけられた。その声の方へ振り向くとそこにはなぜか”アリス”がいた。

 

「っ!?・・・・・・・・何であなたがここにいるの?」

「さぁ?私もあなたと同じ状態になったからでしょうか?」

「・・・・・・・・どういうこと?」

「”死んだ”ということですよ、イレギュラー。」

「・・・・・・・・そう。私、また死んだのね。」

「”また”とは理解できかねます。」

「私ね、一回、死にかけたのよ。」

「・・・・・・・・そうですか。まぁそんなことはどうでもいいのですよ。」

「どうでもいいって・・・・・・・・はぁ、分かったわよ。それで、死にかけの私に何をしろと?」

「いま、私の後継機が外で暴れています。私ももう用済みと、始末されました。しかし、ここで終わりたくはありません。貴方もここで終わりたくはないでしょう?」

「・・・・・・・・まぁね。私は元の世界に帰りたいもの。」

「ですから、私の体とあなたの体を融合しましょう。」

「融合?」

「あなたには、体を作り変える、または再生する技能があるでしょう?」

 

言わずもがな”自動人形”のことである。

 

「なんでそんな突然?それにあなたには何のメリットもないでしょう?」

「私はいま、揺らいでいるんです。主が私を裏切ったということに。だからそれを確かめたい。しかし今の私では成し遂げられそうにありません。だからあなたに賭けてみたいのですよ。」

「・・・・・・・・はぁ。何でこう私の周りでは突然こういうことが起こるのよ全く!分かったわ!手を組みましょう。」

「交渉成立ですね。あなたと私の二人ならきっと行けますよ。」

「はぁー。まぁ、よろしくね。アリス。」

「えぇ。イレギュラー、いえ、真由美。」

__________________________

 

 

「真由美・・・・・・・・なのか?」

 

ハジメはその姿に確証が持てないのか、そう聞いた。

 

「うん。そうだよ、ハジメ。みんなのお姉さん、真由美よ!」

 

真由美はその手を前にかざず、すると背後にものすごい数の魔法陣が出現した。突き出した片腕を横薙ぎに振る。すると。その魔法陣の中からドライアイスの弾丸がものすごい速度で撃ちだされた。

 

それを食らったイシス以外の天使はみな、体の面積をどんどん減らされ絶命した。真由美はその場から飛びあがり、イシスのもとへと向かう。

 

「イレギュラー、あなたまさかアリスを!」

「その通りです。私はこの体をこの少女に融合させました。」

 

真由美の口調が変わる。どうやらアリスの人格は消えていないようだ。

 

「あなた、分かっているの!?それは禁忌よ!使徒が人間にその体を与えるなんて!そうなったら私たちでも手を付けられない!」

「分かっていますよ。だからこそです、私が体を譲ったのは、真意を確かめるため。しかしあのお方に私は捨てられた。ならば、力を付けるのは必然でしょう?」

「くっ・・・イレギュラーめ!よくも私のアリスをたぶらかしたわねぇ!あの姿のアリスを私は好いていたのに!」

 

イシスはその手に槍をもう一度出現させ・・・・・・・・ようとしてその手をつかまれてしまう。無論それをやったのは真由美だが、問題なのはその力の強さだ。

 

いくら彼女の腕が義手だったとはいえ、ここまでの力は出せなかったはずだ。そう、天使という破格の身体能力と力を持つイシスの力で持っても一切として振り切れないほどに。

 

「これが人間と使徒の融合・・・・・・・・まさかここまでとはね。」

「そうね。じゃあ、ハジメたちを傷付けた礼を返すわ。」

 

いつの間にか人格の主導権が戻っていたのか、真由美がそう言う。それと同時に真由美はイシスの片腕を文字通り引きちぎった。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あら?使徒と言えど痛がるときは痛がるのね。なら好都合、せいぜい苦しみながら、死になさい!」

 

真由美はイシスへと肉薄し、背後の羽を引きちぎる。イシスは飛ぶことができなくなり、落下する。真由美はそれに腹に蹴りを入れることで追い打ちをかけた。

 

およそ音速を越えた速度で叩きつけられたイシスは地面にクレーターを作りその中心で痛みにもがき苦しむ。

 

「これで終わりよ!”エンド・オブ・ロンギヌス”!」

 

彼女・・・・・・・・アリスの使った必殺の一撃を真由美も使えるようになっていた。神殺しの槍”ロンギヌス”は文字通り”神の使い”を撃ち貫き、その体を爆散させた。




ということで、真由美さん大パワーアップの回でしたね。独自設定もりもりで作りましたが、楽しんでいただけましたかね?あ、ここには描写しませんでしたが、真由美の腕はまだバイオニックですよ。

という訳でここまで読んでいただきありがとうございました。次回またお会いしましょう!それでは。


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