問題児達が異世界からやってくるそうですよ!神様も連れて! (天津神)
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プロローグ

普段通り、ぶっとび文章。なお、大和は筆者の気持ちがわかり、たまに、長文をカットしてくれます。


 

 

 

「次は、第八五世界に行ってもらう」

まただ。私にはいつも仕事が入ってくる。

しかも、いつも私だけだ。有給とりたいが中々とらせてくれない。

鬼だ。こいつ。

「はぁ。わかりました」

 

–––箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房。

「………うまく呼び出せた?黒ウサギ」

「みたいですねぇ、ジン坊っちゃん」

黒ウサギと呼ばれた十五、六歳に見えるウサ耳の少女は、肩を竦ませておどける。

その隣で小さな体躯に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年がため息を吐いた。

黒ウサギは扇情的なミニスカートとガーターソックスで包んだ美麗な足を組み直し、人差し指を愛らしい唇に当てて付け加える。

「まあ、あとは運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです!』と伝えてしまうのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうと黒ウサギは思います」

握り拳を作ったりおどけたりと、コロコロ表情を変えながら力説された少年も、それに同意するように頷いた。

「何から何まで任せて悪いけど………彼らの迎え、お願いできる?」

「任されました」

ピョン、と椅子から黒ウサギが跳ねる。

『工房』の扉に手をかけた黒ウサギに、少年は不安そうに声をかけた。

「彼らの来訪は………僕らのコミュニティを救ってくれるだろうか」

「………。さあ?けど“主催者”曰く、これだけは保証してくれました」

クルリとスカートをなびかせて振り返る。

おどけるように悪戯っぽく笑った黒ウサギは、

「彼ら四人は………人類最高クラスのギフト持ちだ、と」

 

––––第八五世界

「さて、これから学校か……」

アリサは大きく伸びをしながら、窓から見える街の景色を見る。

「何年振りかな……」

アリサ。アリサ・ターニアはリビングに行き、机の上に置かれた一つの手紙を目にする。

「あれ?なんでここに?」

アリサは一人暮らしだ。勿論、アリサは手紙をリビングの机の上になんか放置したりしない。

「差出人は……ないか」

手紙には、『柊大和殿へ』と書かれている。

「な、なんで!本名の方を!」

そう、アリサの本当の名前は、柊大和。とある事情でこのように名前を偽っていた。

「と、兎に角、中身を見ないと」

中にはこんな文が書かれていた。

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』

 

「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

上空4000mに飛ばされたアリサこと柊大和は、事の顛末を一瞬で理解し、世界の知識を呼び込む。

「事のあらましを、時の始まりを告げる。我にカトラを!」

能力を封印する術を解除するため、呪文を唱え、全ての能力が発動するのを感じる。

「メタトロン」

近くでは、三人が同様に落下している。

そんな中、大和は知識を大量に得ていく。

三人が湖に落ちた音がすると、柊大和はようやく気づく。

「落ちてること忘れてた………」

柊大和は仕方なく、重力を操作し、自分の体を浮かせる。

いろいろと人外な一面を見せる柊大和(もうめんどくさいから以降は大和)は、神だ。

世界には八百万以上もの神がいる。勿論、出鱈目な力を持つものも少なくない。

その一人が大和だ。

果たして、大和はこの世界でどう生きていくのか………。



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第1話

普段はドン亀。書き溜めは一気に放出


 

 

 

「わっ」

「きゃ!」

四人の視界は間を置かずに開けた。

急転直下、彼らは上空4000mほどの位置で投げ出されたのだ。

落下に伴う圧力に苦しみながらも、三人は同様の感想を抱き、同様の言葉を口にした。

「ど………何処だここ!?」

眼前には見たことのない風景が広がっていた。

視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。

眼下に見えるのは、縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。

彼らの前に広がる世界は––––完全無欠に異世界だった。

 

湖に落ちた三人は陸地に上がりながら、それぞれが罵詈雑言を吐き捨てていた。

一方、一人だけ、湖に落ちていない者がいた。

「なんで……」

青い髪を靡かせながら湖の上を歩き、陸地に向かう。

「で、青い髪を持つアンタは?」

いかにも『俺問題児!』というオーラを出している、逆廻十六夜が湖から歩いてきた人に聞く。

「私?私は、アレ?なんだったかな?ちょっと待って」

耳を動かしながら、空を見上げる。

「あ、あったあった。えーと。設定、読み込み!ふ〜ん。めんどくさいなぁ」

この間に青い耳がピッコピッコと動きまくる。

「私の名前は、柊大和です。いや〜意外と名前がそのままだった」

「ほぅ。それで、その耳はなんだ?」

十六夜が興味津々とした声で大和に尋ねる。頭の上を指しながら。

「え?耳?」

大和は手を頭の上に持ってくる。

その手は、柔らかい感触の存在を訴えてくる。

「ウサ耳!?なんで!?」

赤色がかかった蒼い目が、大和の驚愕の度合を知らせる。

「アンタも知らないのかよ。というか、そろそろこの状況を説明する人間が現れるもんじゃねぇのか?」

「そうね」

 

そんな中、湖近くの草むらの中で黒ウサギは考えにふけっていた。

(なんで、“箱庭の貴族”が?いえ、今はそんなことは関係ありません。そろそろ……)

「––––仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

草むらに隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

四人の視線が黒ウサギに集まる。

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴と、ウサ耳も気づいているんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「歴史通りだから」

「………へえ?面白いなお前」

軽薄そうに笑う逆廻十六夜の目は笑っていない。三人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠もった視線を黒ウサギに向ける。大和はただ、無感情で見つめる。黒ウサギはやや怯んだ。

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?特にそこにいらっしゃる同士ほど」

黒ウサギは大和を最後に指した。

「断る」

「却下」

「お断りします」

「いや、そこは断らないほうが…」

「あっは、殆ど取りつくシマもないですね♪」

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。

しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。

(肝っ玉は及第点。この状況でNOなどと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくそうなのは難点ですけども)

黒ウサギはおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている––––と、大和が不満そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

「えい」

「フギャ!」

力いっぱい引っ張った。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?しかも、同族の貴女に!?」

「なら、遠慮無く値踏みするのはやめてほしいな」

「あ、ハイ。すみません」

大和の静かな怒りに黒ウサギは素直に謝った。

「わかったなら良い」

大和はすんなりと黒ウサギの耳から手を離す。

「はぁ。こんなはずでは」

「てい」

「フギャ!」

今度は春日部耀が、黒ウサギのウサ耳を抜きに掛かる。

しばらくの間、黒ウサギは逆廻十六夜達三人に遊ばれ、大和はそれを傍観するだけだった。

 

「––––あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

逆廻十六夜の言葉から、黒ウサギは淡々と説明をした。

そして、逆廻十六夜が質問をする。

「この世界は………面白いか?」

「–––––YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

黒ウサギは明るくそう答えた。

「ねぇ。ちょっといいかな?」

「ハイ?」

「黒ウサギのコミュニティは今、どんな状況なの?」

黒ウサギの顔に影がさす。

それに目ざとく反応する大和。

「やっぱり。黒ウサギのコミュニティは、『ノーネーム』で、とてつもなく貧乏だと」

大和は呆れたように言う。

「ま、まさか。気づかれるとは……」

「隠すのは良くないと思うよ、黒ウサギ。まぁ、原因が原因だしね。『魔王』が潰したんだしねぇ」

「な、なんでそのことを!?ていうよりも、柊さん。貴女は何者なんですか……」

膝をつく黒ウサギ。

そんな黒ウサギに逆廻十六夜は尋ねる。

「おい、黒ウサギ。俺達にちゃんと話してくれるんだよな。コミュニティの事について。あと、その『魔王』という素敵なネーミングがある奴のことを」

はっきりとした怒気と好奇心を含ませた声だった。

「ハイ………」

黒ウサギは涙目になりながら、淡々と包み隠さず話した。

 

黒ウサギの説明が終わると、逆廻十六夜は大きな声を上げて笑った。

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねぇ」

逆廻十六夜は、黒ウサギの話を全て聞き、感想を告げる。

「いいな、それ」

「––––––………は?」

「HA?じゃねぇよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

黒ウサギの反応に不機嫌になる逆廻十六夜。

「え………あ、ハイ。で、あの御三人はどうでしょうか?」

黒ウサギはおずおずと久遠飛鳥と春日部耀、大和に尋ねる。

「私はそれでいいわ」

「私は、ただ、友達を作りにきただけだから」

「なら、私が友達第一号に立候補していいかしら?」

「………うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」

「よかった」

「で、柊さんは?」

「私は黒ウサギのコミュニティに入るよ」

「いえ、そっちではなくて…」

「あ、友達のほう?」

「うん」

大和は首をかしげる。

「いや、友達ってなんか気づかないうちになるものだし、私はその方が気楽だし。それで、『今から友達!』みたいな感じは一方的な押し付けの感じがするし。だから、今は考えない」

「そ、そう」

「だから、時間をかけていきたいな、とは思っている。これでいい?」

大和は耀に尋ねる。

「うん。そんな感じでも、いい」

その間、黒ウサギはずっと放置されていた。

 

黒ウサギは、十六夜達のせいで時間がだいぶ取られていることに気づき、箱庭の入り口にいるジン坊ちゃんの事を思い出す。

「と、兎に角今は早く箱庭に戻らないと」

そんな黒ウサギを気にせずに大和と十六夜は話していた。

「柊は元の世界で何をしてたんだ?」

「元の世界………たくさんあるからわからないけど、あおり運転してる運転手を跳ねた事だってあるし………」

「意外とアクティブなんだな」

「だって、その時は警察だったし、煽られてたし、急に止まれなかったし」

この間、春日部耀(以降は耀)と久遠飛鳥(以降は飛鳥)は黒ウサギのウサ耳を名残惜しそうに見つめている。

「あ、そういえば」

「?十六夜?」

「俺、ちょっくら世界の果てを見てくる」

そう言って逆廻十六夜(以降は十六夜)は何処かへと走っていった。




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第二話

書き溜め放出(笑)


 

 

 

––––場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で戯れる子供達がいた。

「ジン〜ジン〜ジン!黒ウサの姉ちゃんまだ箱庭に戻ってこねぇの〜」

「もう二時間近く待ちぼうけでわたし疲れたー」

口々に不満を吐き出す友人たちにジンは苦笑しながら、

「………そうだね。みんなは先に帰っていいよ。僕は新しい仲間をここで待っているから」

ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な少年–––ジンと呼ばれた少年は取り巻きの子供達に帰るよう指示を出す。

「じゃあ先に帰るぞ〜。ジンもリーダーで大変だけど頑張ってな〜」

「もう、帰っていいなら早く言ってよ!わたしの足なんてもう棒みたいよ!」

「お腹減ったー。ご飯先に食べてていい?」

「うん。僕らの帰りが遅くなっても夜更かししたら駄目だよ」

ワイワイと騒ぎながら帰路につく少年少女と別れる。ジンは石造りの階段に座り込む。一人になって暇を持て余したのか、外門を通る人々をぼんやりと眺めていた。

(箱庭の外に作られた国が最近活発になってきたって聞いたけど、ペリベッド通りは“世界の果て”と向かい合っているから閑散としているなぁ………)

そんな風に色々と考えていると、黒ウサギ達の姿が見えてきた。

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの御四人様が–––––」

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と素敵なウサ耳をお持ちの方が」

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に。あと、柊さんはいつのまにか消えてい………」

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

「「「うん」」」

明らかに一人分声が増えていた。

「あれ?今、誰かいませんでしたか、他に?」

「ここだよ。ここ」

声がした方に黒ウサギが向いた途端、大和が現れた。

「ど、どこにいってたんですか!」

「ずっとついて行ってた。能力の実験をしながら」

「な、なるほど。兎に角、黒ウサギは十六夜さんを連れて戻ります。皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

黒ウサギは髪を黒色から緋色に変え、飛び去って行った。

「………箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

「ウサギ達は………」

「はい、早く行こう」

ジンの言葉を遮って大和が進む。

「あ、待ってください」

「私達も行きましょうか。ね、春日部さん」

「うん」

 

四人と一匹は身近にあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

「紅茶を三つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」

「にゃー(ネコマンマを!)」

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

………ん?と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げる。しかしそれ以上に驚いていたのは耀だった。信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いただす。

「三毛猫の言葉、分かるの?」

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話ができるの?」

珍しく動揺した声の飛鳥に耀は頷いて返す。

「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

「うん、きっと出来………る?」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

途中で、品の無い声がジンを呼ぶ。

ジンを呼んだのは虎みたいな印象を受ける大男。

その大男はなんの遠慮もなしに相席をしてくる。

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」

「「烏合の衆の」」

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧と……は、“箱庭の貴族”!?」

大男は大和とジンの言葉にキレたと思ったら大和の姿に驚く。

「おい、ジン。お前、“箱庭の貴族”を二人ももつ気か?」

「一応、異世界からの召喚。“箱庭の貴族”かどうかは……」

「そ、そうか。で、ジン。お前はコミュニティの状況について話しているのか」

「そ、それは………」

大男の少しきつめの質問にジンは答えない。

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら………こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねぇ仁義があるぜ」

「………」

いかにもジンは言いづらそうに顔を俯かせる。

「知ってるよ。ジンの所属する“ノーネーム”の現状は」

「い、いつ知ったんですか?」

「黒ウサギが少しおかしかったからカマかけて聞いた」

「「………」」

「で、あんたの名は?」

「おっと失礼。私はガルド=ガスパー。“フォレス・ガロ”のリーダーです」

「そう。じゃあガルドさん。この御二人に説明してあげて。コミュニティの名前と旗が持つ意味を」

「おや、貴女は知ってるんですか?」

「全てをね。アンタ達がヤッタことも」

大和のこの発言にガルドは冷や汗をかく。

「では、説明いたしましょう」

ガルドの長々しい説明が、始まる。

 

「要するに、ブランド?」

「まぁ、そういうものです」

「身分証明書みたいなもの?」

「そうです。それで、貴女達は身分証明のできない“ノーネーム”に入りますか?よかったら、“六百六十六の獣”に入りませんか?」

ガルドがさりげなく飛鳥達を誘う。

「いいわ」

「は?」

「間に合っていると言ったのよ。私は別に“ノーネーム”でも構わないうえに、春日部さんというお友達もできましたから」

「うん。私もそう思う。“ノーネーム”に入って、柊さんと仲良くなりたい」

「ですが………」

「黙りなさい」

ガチン!とガルドは不自然な形で、勢いよく口を閉じて黙り込んだ。

本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、全く声が出ない。

「………!?………………!??」

「貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい」

飛鳥の力のこもった言葉に、ガルドは従ってしまう。

その様子に驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥達に駆け寄る。

「お、お客さん!当店でもめ事は控えてくださ–––––」

「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていって欲しいの。多分面白いことが聞けるはずよ」

「面白くはないと思うけどね………」

首を傾げる猫耳の店員を制して、飛鳥は言葉を続ける。途中、大和が口を挟んだが。

「貴方はこの地域のコミュニティに“両者合意”で勝負に挑み、そして勝利したと言っていたわ。だけど、私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うの」

「“合意しなければいけない状況”にどうやって追い込んだか」

「そう。柊さんが言った通り、どうやったのかしら?教えてくださる?」

ガルドは悲鳴を上げそうな顔になるが、口は意に反して言葉を紡ぐ。

そして周りの人間もその異変の原因に気づき始める。

この女性、久遠飛鳥の命令には………逆らえないのだと。

「き、矯正させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった。その後は、子供を人質にして働かせる」

「で、子供達は何処に?」

「もう殺した」

その場の空気が瞬時に凍りつく。

ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。大和はあまり変わってないが。

「初めてガキ共を………」

 

「黙れ」

 

ガチン!!とガルドの口が先ほど以上に勢いよく閉ざされた。

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしらね」

飛鳥が指をパチンと鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は消え、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと、

「こ………この小娘がァァァァァァァァ!!」

雄叫びとともにその体を激変させた。巨躯を包むタキシードは膨張する後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

「テメェ、どういうつもりかしらねぇが………俺の上に誰が居るかわかってんだろうなァ!?」

ガルドの怒りの声は飛鳥に向けてのものだが、一人、ガルドに対して怒りを露わにした者がいた。

「テメェこそ、誰に今喧嘩売ってるのか分かってんのか」

大和だった。

髪は青色のままだが、目の色は赤色に変わっていた。

「知るか!!俺の後ろにはな、魔王がいるんだぞ!」

「知るかよ。お前を今ここで消したら関係ねぇだろ」

「やれるもんな………」

「黙りなさい」

飛鳥の声によって、ガルドは口が開けなくなる。しかし、ガルドの怒りは収まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。それに割って入るように耀が腕を伸ばした。

「喧嘩はダメ」

耀が腕を摑む。更に腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。

「ギッ………!」

少女の細腕には似合わない力に目を剥くガルド。そこに大和が話しかける。

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」




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