シトリー分家の上級悪魔 (やまたむ)
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零
ということで、シトリー眷属の一般兵士リメイク、シトリー分家の上級悪魔のスタートです。
え?設定の大幅改編はリメイクとは言わない?いやいや、キャラクターの根幹は変わってないので大丈夫ですよ。
毒親が二人ともいなくなっただけで。
ただ、アヤナの基本となるところをどうするかは物凄く悩みましたけどね。
と、まあ、軽い裏話はここまでにして、本編へどうぞ。
私立駒王学園。初等部から大学部まである一貫校。
そこに入学したての《アヤナ・マルファス・シトリー》は、ウッキウキだった。
新しい制服に袖を通し、短いスカートを気にしながら、自分の眷属たちと同じ高校に通えることが心から楽しみだったからだ。
「で、なんで、アヤナさんが真ん中なんですか?」
「え? だって、治奈ちゃんと、海樹くん、カリューちゃんに、メイクちゃんたちと一緒に同じ学校に通えるんだから、主である私が中心なのは当然でしょ?」
「いや、そうじゃなくて……」
そこまで言うと、少年は「いいですよ。もう」大きなため息をつく。
「あ、もしかして、治奈ちゃんと隣がよかった? ごめんね。今から変わるから」
「え? 別に気にしなくてもいいですよ? 私も主さまと一緒に学校に通えるのは嬉しいですから」
「いやいや、そう言わずに。ほら、海樹くん」
アヤナは黒髪黒目の少年、《
「なんで、そんな……」
「あの……えっと……私……先にいきますね!!」
足の形の窪みを歩道に作り、治奈は走って学校へと向かう。
「ほら、海樹くんがうじうじするから」
「あ、ちょっと、治奈さん、危ないですよ!! フード脱げちゃう!」
アヤナの小言を無視して、海樹も走り出す。
「あ、逃げた……。ふふふ、私から逃げられると思ってるのかな? 聞こえてるんだよ、安堵のため息とか、そのあとのイチャイチャとか」
悪役のような笑い方をしながら、あとを続くアヤナ。町全体とまでとはいかないものの、聴覚の鋭い彼女は、ある程度の距離であれば、どんな音でさえ聞き分けることができる。
そんな彼女は、普段からよく聞く呼吸音を耳にして、少し歩くテンポを早める。
アヤナは目的の男子生徒を見つけ、そこに向かって小さな歩幅ではあるが、駆け出した。
「おーい、匙センパーイ」
男子生徒は声をかけられたことに反応し、振り替える。
「ん? あぁ、なんだ、マルファスか」
そう言うのは、ヤンキー臭さの残る少年、匙元士郎。
「シトリーの方で呼んでくれてもいいんですよ?」
アヤナは匙の手を握りながら尋ねる。
「いや、そっちはなんか……呼びづらくてな」
「それなら、普通にアヤナって呼ぶのは?」
「それは、それで難しくないか?」
匙は一拍あけて、そう回答する。
アヤナには許嫁が存在する。そのため、気安く名前で呼んでいいものか日本人感覚で気になる匙。
だが、アヤナは気にしたそぶりもなく、スマートフォンを取り出し、ある文面を見せる。
「それよりも、見てくださいよ! 最近、あのクソが連絡してきたんですよ! なんでも、新しく落とす予定の聖女がこの町に来るから、ついたら連絡してくれって!!」
「ふーん」
「うぅ……」
瞳に涙をため、泣き真似の準備をするアヤナ。
「ちょっ、まて、ここでなくな。泣かないでくれ。俺が会長に殺される。で、するのか?」
「え? しないですよ? するわけないじゃないですか。人の眷属枠を利用してハーレム補強しようとするクズ変態の手助けなんて」
「それは、言い過ぎじゃ……」
「あんなのが許嫁なんて、嫌すぎですしね」
「ディオドラ・アスタロトだったか?」
「はい。クソドラ・アスタロトです」
うーん、俺が間違っているのか? と疑問に思う匙。
だが、アヤナの平常運転ぶりに、どうやら、自分が間違っていたと認識する。
門が見え始める距離につくと、アヤナは少し匙から距離をとり、門を潜る。
これは、アヤナ・マルファス・シトリーの上級悪魔の物語だ。
ということで、アヤナちゃんは、親が違えば、性格も変わる。このアヤナちゃんは寂しがりよりも、独占欲強めな感じです。
ちなみに、味覚は変わってないです。ソーナずキッチンに対抗できる数少ない戦力です。
ちなみに、自作品の糸使いの高校生活より、丹芽海樹を出張させましたが、アヤナではなく、彩南の方も出張させます。
当然、漢字の方なので、活動報告にのせた設定の方ですね。
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壱
私、アヤナ・マルファス・シトリーは運に恵まれていない。
それは、親の血筋がとか、そういったものではなく、単純に、許嫁の趣味から思考、何もかもが、私と合わないことから、私が勝手に結論付けたことだ。
ディオドラ・アスタロト。現魔王、アジュカ・ベルゼブブ様の実弟で、アスタロト家次期当主。私のようなシトリーの分家の悪魔だと、嫁入りさせて、マルファスの血を残しつつ、純血の悪魔を残すことも視野に入れたとてもいい案。
ではあったんだけど、あの、クソドラ……じゃなかった。ディオドラ・アスタロトという存在は、なんといってもシスター(妹的な意味ではなく)コンプレックスみたいなものを患っている。
セラフォルーお姉ちゃんみたいなシスコンならまだしも、敵対勢力相手に率先して落としにいくのは……ねぇ……? それに、私の眷属すら自分のものと認識している節がある。
海樹くんも、治奈ちゃんも、メイクちゃんも、カリューちゃんも、私の眷属なんだから、髪の毛一ミリたりともあのカスドラ間違えた。ディオドラに渡すつもりなんてない。
髪の毛からクローン作られてもしゃくだしね。ん? となると、DNAマップから手に入れられないように手を回すのもあり? よし、今度、ソーナお姉ちゃんに相談してみよう。
うん。そうしよう。ついでに私にできる婚約破棄作戦も一緒にたてよう。
とまあ、ここまでグダグダと婚約者の愚痴を漏らしたのには、訳がある。
「なんで、あの、クズドラなんかと、お茶会しないといけないの? やる意味なくない? メイクちゃんもそう思うでしょ?」
私は、薄桃色の髪にくすんだ青色の瞳の私と同じくらいの身長で、私と大きく差のついた肉塊を二つ持つ童顔の眷属、《メイク》ちゃんに尋ねる。
「冥界に『仲いいですよ』ってアピールがしたいんじゃない? 今の冥界って娯楽とかないから」
「だからって、変なゴシップたてる必要ないと思うの。私、あの人のこと大っ嫌いだし」
「そこは、お父上の顔をたてると思って」
メイクちゃんの言うことも最もだ。お父さんの家系的に、断絶しているわけだから、そこから再興していくにしろ、血を残していくにしろ、必然的に純血悪魔の許嫁は必要だった。まあ、私に弟とかが生まれたら、その子を主軸とした再興になっていくことは間違いないし、私が男の子を産んでも同じことになるだろう。
別に、それがいやとかじゃないし、むしろ、マルファス再興には少しは手伝いたいとは思っている。けど、それ以上に、ディオドラ・アスタロトという存在が相容れない。
「はぁ……。ほんと、なんで、お茶会にマスコミとかも入れるかなぁ……」
「アヤナさんにちゃんとした格好で来てもらうためじゃない?」
「くっ、ほんと、あのクソ男。変なところで手を打つのがうまいんだから」
「アヤナさんがノーガード過ぎるって言うだけかもしれないけどね」
「そんなことないもん! 私、警戒心マシマシでいくよ。なんのために、カリューちゃんと治奈ちゃん。それから、メイクちゃんや海樹くんを連れていかないとおもってるの」
「そういう意味じゃないよ。そもそも、護衛としてあたしか、カリュー連れていけって話」
「いや」
「なんで」
「ディオドラに眷属見せるほど、私の眷属は安くない」
「アヤナさんの身の安全の方が大事じゃ?」
「私は大丈夫なの。だってディオドラだもん」
「アヤナさんの中でディオドラはドンだけ弱いの……」
「弱いとかじゃなくて、単純な話で、あのクソは、メディアの前とかで、いい格好するタイプのナルシストだから、変な襲撃がない限り平気ってだけ。あの手のタイプは算段がついてから確実に実行してくる。じゃなきゃ、教会の勢力の聖女のもとに怪我して行かないよ」
「なにかあったの?」
私はうーん、と悩む。正直、これは眷属にすら話さない方がいいんじゃないか? という内容だ。あのクソは、信心深い信徒が好みで、その信じていたものから裏切られたときの絶望した顔と、それを仕組んだものからの壮大なマッチポンプでハートキャッチディオドラする。
今回の件だって、おそらく私に『アーシア・アルジェントが絶望したときに僕が最高にかっこよく登場するために協力しろ』と、念押しするためだろう。だから、行く気がない。
かといって、メディア露出を避けると、マルファスの名を広める機会を逃す。正直、マルファスという名前だけだと今の冥界では通じない。だから、お父さんはシトリーの分家に婿入りしたわけだし、私もアスタロトと婚約を結ぶのを渋々承諾したわけだ。
まあ、当然だけど、私は一切ディオドラに貞操を明け渡す気はないし、眷属すらその視界に納めさせる気はない。
海樹くんと治奈ちゃんはあのクソと会ったことあるけど、二度とあいつの前に連れていかない。だって、あのクソの治奈ちゃんを見る目が、完全に『もうこの女は僕のものだ』みたいな感じだったもん。
それ以来、私はディオドラに会うときは一人で、護衛はお母さん経由の知り合いに頼んで行くようにしている。
「はい、終わったよ。でも、ほんとに一人でいいの?」
「大丈夫。それに、私は眷属を連れていかないだけで、護衛がいないって訳じゃないから」
「それでも」
「もう、メイクちゃんも心配性だなぁ。ディオドラの出すものに何が仕込まれてるのかわからないから手をつける気なんてないから。それじゃ、いってきまーす」
私はメイクちゃんに背を向け、マルファスの紋様の浮かぶ魔法陣を使い、ディオドラの屋敷に転移した。
※※※
これから、まずは護衛との顔合わせ。そのあとにマスコミの取材。それから、ディオドラとの茶会。
はぁ、ほんと、なんで、こんなことしないといけないのかな。
「今日は突然呼び出してすまないね、アヤナ」
「いえ、気にしなくてもいいですよ。私も暇でしたし」
「そうかい? ならよかった。君も学生だからね。無理をさせたら悪いと思っていたんだ」
そう思うなら呼ぶな。マスコミもな。私たちは、互いに張り付けた笑顔のまま会話をし、また、その光景を、冥界のテレビ製作会社がカメラに納めるため、私はできるだけ、カメラ写りのいい位置取りを意識した動きをする。
ただ、いわゆる身長差カップル的な捉え方をこんなやつとされたくないので、ある程度の距離感を保ち、テレビ会社に手を振ると同時に、すっと延びてきたディオドラの手を弾く。
何回か、『仲良しアピール』をしようとするディオドラの手を避けながら、アスタロト邸の客間に通される。
「で、さっきのはどういうつもりだい?」
「あなたに触られたくなかった。悪いとも思ってない」
「君のそういうところ、本当に嫌いだよ。で、返事は?」
「なんのことかしら?」
「とぼける必要はないさ。これから、君の通う学校のある町に元聖女が来たら、僕に連絡をして欲しいって話だよ」
「いいわよ。忘れてなければ」
「君はどうせ都合よく忘れるだろう? これから、何回も連絡するから」
チッ……ばれたか……
仕方ない。そういうことなら、
「それについては構わないわよ。あなたが何をしようがあなたの勝手。私が動かない理由もわかってると思うけれど、私を巻き込んでまで、自分の趣味に走らないでちょうだい」
「なに。来たら連絡してほしい。それだけのことだよ」
「認知したらね」
「君を信頼しているよ」
うすら寒い笑みを張り付け、互いに笑いあい、庭の方へと移る。さて、これからが本番だ。ディオドラから変なもの盛られないように、出されるお茶は飲まないようにしないと。
※※※
ディオドラとのお茶会は無事に何事もなく終わった。
結局、お茶を飲まないことを指摘されたが、『この種類のお茶は余り好きじゃないんです』といってかわしながら、一時間の無駄時間を流すことに成功した。
私だって暇じゃない。今日だって、このディオドラとのお茶会はついで、で、本題は、あるお方に会うためだ。だから、『ディオドラとのお茶会に行く気がない』なのだ。
私は、アスタロト邸のVIPルームに足を運ぶ。
そのドアの前で、深呼吸し扉を三回叩いた。
「どうぞ」
そう声が聞こえ、私は『失礼します』と告げ、部屋にはいる。
「やあ、よく来てくれた。アヤナ・マルファス・シトリー。ディオドラのことはまだ好きになれそうにないか?」
「はい」
「ハハハ、そうだろうと思ったよ。日本での学生生活の方は?」
「そっちはすごく楽しいですよ。ディオドラよりいい人がたくさんいますし」
「弟が嫌われ過ぎてて不安になるが、そういう話をしに来た訳じゃない。そのことは、君もわかっているのだろう?」
「そうですね。兵士の駒一つでいいんでしたっけ?」
私は、魔法陣から、自分の悪魔の駒をとりだし、アジュカ様の前に置く。
「あぁ。君の要求は、神器の認識に作用するような術式を組み込んでほしい。そういうもので間違いないね?」
「はい。無理をいっているのはわかってますが、契約者からのお願いですから」
「龍と人間のハーフ。龍の気に耐えられないがゆえに起きた不具合……。なら、悪魔に転生させて、人間でも龍でもなくす。突飛な考えだが、嫌いじゃない。彼女のご両親に許可は?」
「とってあります」
「よし、なら、早速術式を組んでいこう」
そういうと、アジュカ様の手元に魔法陣のようなものが現れ、悪魔の駒に対してキーボードを叩くような形で、改造を施していく。
どんな感じで変わっているのかはわからないが、ものの数分で、悪魔の駒の作り替えが完了した。
「それじゃあ、今度は私からの要求だ。入ってきたまえ」
アジュカ様がそういうと、奥の方のドアが開かれ、二本の狐のような尻尾を生やした女性が現れた。
「彼女は?」
「《
「では、なぜ、私にこの話を?」
「妖怪側からは《土蜘蛛》を眷属にしている君に預けたいと言付けられていてね。どうやら、他の悪魔たちは信用されていないみたいなんだ。必要に応じて転生させてもいいとも言われている」
「え、えっと……つまり?」
「この子を預かってくれ」
うーむ。これはまた……。
「ものすごい案件を持ってきましたね……」
私はアジュカ様に対してそういった。
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弐
私の呟きにたいし、アジュカ様は何も言わなかった。
「まあ、君らにあとは任せるとするよ。あぁ、そういえば、君はこれから病院だったか……それなら、こちらで、送っておこうか?」
「いえ、そこについては大丈夫です。病院に行くとはいえ、あの子の様子と眷属化ですから、待合室で待ってもらえば、そんなに影響はないと思いますし」
「ふむ。そうか。他に何か言いたいことは?」
私は、うーんと悩むふりをして、
「ディオドラとの婚約破棄を……」
「純血の上級悪魔の保護のためだ。許してくれ」
訴えようとしたが、ダメだった。
「転生悪魔でも純血として維持できるじゃないですか……」
「君みたいな子が上にいると、私も楽だったんだけどね。そういうわけにもいかないのさ。君も使っているだろう? 『下僕』と。どんなに愛情を注いでいようが、仲がよかろうが、『所有物』や『別種』の存在として根強い。ゆえに、転生悪魔との間の子ではなく、純血の上級悪魔との子を産んでほしいんだよ」
「その発言、セクハラに該当しますよ?」
「揚げ足とりをしている段階では、論戦に勝てないということを意味する。そんなに、ディオドラとの婚約が嫌なら、ちゃんと交渉の場においての下準備をしてから、持ちかけることだ」
「……たまに感情で動くくせに」
私は、プイッと四志津さんの方へ向く。
四志津さんのなにかに、触れていたのか肩を震わせ笑っていた。
「あの、どうかしました?」
「いやいや。鬼や土蜘蛛を眷属にしてるって言われとたっから、どんな大男が来るんか思うたら、こげん愛らしい嬢ちゃんが来て、おどろいとったら、婚約破棄要求しとるんやもん。理解できひんかったわ」
「大概失礼ですね。この人」
「人ちゃうで、九尾やで。そんで、嬢ちゃんって強いん?」
「上級悪魔として見たら、弱いと思いますよ?」
「なるほどねぇ。んじゃ、あんさんの元つくんはイヤやわ。実力がないやつの庇護っちゅうんは、ちーぃと不安があるしな」
失礼だな、この九尾。まあ、実際のところ、私の実力的に、攻撃面での実力は低いから、強い弱いというときに、攻撃面だけを見ると、上級悪魔の中では下の下に該当するだろう。
これを否定するつもりもないし、否定したとしても、嘘だと言われておしまいだろう。
「まあ、彼女自身はとても弱いさ。だが、正直なところ、この子の本質は攻めではなく守りで発揮される。少なくとも俺はそう評価するな」
一人称を変えたことから、もうこの人のなかでは、プライベート的なものなのだろう。
私がそんなことを思っていると、九尾さんも反論し始める。
「そんなんいわれても、本人が弱いっていうとるやん」
「なるほど。確かに、そうだな。それも一理ある」
「せやろ、せやろ?」
「だが、実際に見たわけではない。彼女は、自身を過小評価する癖があるからね。実際、俺たち魔王ですら、継承できた魔力は一種類で、彼女のような二つの家からの継承する形で魔力を有するのは珍しい。それに加え……」
「ちょっと、ストップ。待ってください。なんで、魔王様が私のことをそんなに評価してるんですか?」
「弟の許嫁の調査をしただけさ」
い、意外だ……。アジュカ様が、弟の許嫁に関心を持っていたとは……。
「というのは嘘でね。セラフォルーからいやというほど聞かされていたんだ。『君に、ディオドラはふさわしくない。もっとふさわしい男……具体的には、サーゼクス以上の存在がいるはずだ』とね。それで少し、興味が湧いて調べたというのが、本当のところさ」
ことの顛末を聞き、セラフォルーお姉ちゃんの私に対する過大評価と、なぜ、アジュカ様が私に興味を抱いたのかがわかった。うん。でも、さ……。
「公私混同はしないって言ってたのに……」
「実際、調べてみて、実力的に、悪魔社会に必要ではあるということだけはわかったしな」
「なるほどな。魔王二人が評価する悪魔なんやね。かといって……」
信用できるだけの能力があるようには見えない。
とでも言いたいかのような、目で私を見てくる。なるほどなるほど。
「そういうことなら、軽くゲームでもしようか」
は?
私と四志津という九尾さんは二人して、『なにいってるのこの人?』みたいな反応をしていた。
※※※
そして、私たちはアジュカ様の計らいにより、アスタロト家のトレーニングルームにお邪魔することとなった。
「さて、それじゃあ、簡単なルール説明といこう」
そこから、アジュカ様のルール説明が進んでいく。
そもそも、なにが原因で、こんな事になったのか定かではない。おそらく、アジュカ様は、この人を預かりたくないなにかがあるのか、それとも、私に預けたいどうしてもという理由を語りたくないのか……。
うーむ。やっぱりよくわからない。
とりあえず、まとめると、私は四志津さんの攻撃を一時間避けきれればいい。といういたってシンプルなものだった。
一応、ゲームのため、被弾回数が三回いくと私の負け、一時間たって被弾回数が二回以下だと私の勝ちと言うものらしい。
「それで、私が使っていいのは、魔力で四志津さんは自由。大分不利じゃないですか?」
「せやせや。こんなペドッ子がうちの術、受けて無事なわけないやん」
「ペドじゃないです」
「そういうんどうでもええから。で、どないするん? こんな子供相手に本気だせっちゅうんか?」
「こんな子供みたいな見た目でも上級悪魔だ。やってみないとわからないことがある。そうだろう?」
「それもそやね」
なにやら、二人の間で話がまとまったっぽい。
「そんじゃ、合図任せんで。このペドッ子の実力。見せてもらおうやないの」
「ペドじゃないです!! せめてロリですぅ!!!!」
私の反論後、アジュカ様が合図を出し、ゲーム開始となった。
※※※
「そんじゃ、手始めに……」
四志津の手に青白い炎が灯り、大きく振りかぶると、アヤナに向かって投げた。
「あぁ、なるほど」
アヤナが呟きながら、手を伸ばしその炎を払い落とすような動作をすると、青白い炎は、消えてしまった。
それをみて、ニヤリとなにか面白そうなものをみたといわんばかりの笑みを浮かべる四志津。
彼女は、次々と炎を出して放つという動作を繰り返す。
アヤナはその一つ一つに両手をつかい、払っていくが、最終的に量に対し追い付けなくなったのか、サイドステップや側転などを使いながらかわしていく。
所謂弾幕シューティングゲームみたいな状況になっているのだ。
「へぇ、やるやないの」
「ありがとうございます」
「あんさん、手ぇ振らんと魔力の扱いできんのちゃうか? その手が追いつかんくなってから、一発も払ってへんで」
「あなたこそ、炎の弾の射出に腕を振ってるじゃないですか」
「言うなぁ。ま、ええわ」
そう言いながら、先程と変わらず青白い炎を作り出す四志津。何回か放ったあと、両手を胸のまえに持ってくると、炎の塊を作り大きくしていく。
「うわぁ。これは……」
アヤナは自身の目の前に、水の魔力で集めた空気の塊渦巻かせはじめ、炎の塊に向け、対抗しようとする。
「普段なら結界で封じ込めるか、威力を削ぐんだけど、ルールで魔力だけだから」
炎の塊が、四志津の全身を隠すくらい大きくなり、放たれる。だが、アヤナの用意していた竜巻の規模は段々と大きくなり、炎の塊を呑み込んでしまう。
消しきれなかった炎は竜巻の一部となり、四志津を襲おうとする。
「やば……」
アヤナ瞬間的に、水の魔力で作り出していた空気の動きを止める。
が、すでに放たれているのは、自身のコントロール下にない『物理現象』だけ。段々と弱くなっていくとはいえ、炎が当たるまえに、消せられるのかと言われれば、否だ。
「あとは任せたまえ」
手元の魔法陣を操り、アジュカが竜巻を乗っとり、進路を大きく変更した。
結果として、アヤナの魔力によってひきおこされた竜巻は、四志津を襲うことはなく、静かに消え去った。
「な、なんやの、あれ……」
四志津は恐怖からか、瞳に涙を浮かべながら、ペタンと床に腰を落としてしまう。
「あの、大丈夫ですか? 怪我とかは……」
「あ、あぁ。だいじょぶ。それより、なんなん、あれ? あんさん弱いんとちゃうかったんか?」
「それは、事実ですよ。リアスさんとか、サイラオーグさん、シーグヴァイラさんと比べると私なんてめちゃくちゃ弱いですから」
「ほーん。んで、魔王さんからみたこの三人ってアヤさんと比べるとどれくらい強いん?」
「ふむ。なかなか、難しい質問をしてくれる……そうだな。アヤナ・マルファス・シトリーと比べると、パッと見の派手さならリアス・グレモリーが、バランス面ではサイラオーグ・バアルが、特異性ならシーグヴァイラ・アガレスが上に出るだろうな。それに加え、リアス・グレモリーに関しては滅びの魔力がある。破壊力だけで見ると、アヤナ・マルファス・シトリーの何倍もあるといっても過言ではない」
アジュカは主観を交えながらではあったが、できるだけ中立的な評価を下した。少なくとも、アヤナと四志津はそう感じ、疑問を抱いていない。
「だが、この三人は、防衛戦に重要な『情報収集能力』に欠けるきらいがある。なにかが起きるまえに潰すという点において、ソーナ・シトリーとアヤナ・マルファス・シトリー、そして、ギルギザン・バルバトスの三人を越えるような若手の上級悪魔はいないだろうな」
「あの、私、攻めの能力は……」
アジュカの評価にたいし、アヤナは異義を唱えようとした。だが、それは、四志津によって阻まれてしまった。
「竜巻引き起こしといてなにゆーとんねん」
「いや、あれ、実際は水の魔力で小さな渦を作って、風の魔力で、周りから風を集めただけなんですよ。破壊力も、この一連のゲームでどこも破壊できていないことから、そんなにないってことの証明になっていますよね?」
「なるほどなぁ。確かに破壊力っちゅーより、防御力の方が大きいようには感じたわ。見た目はごっつ派手やったんに」
「いえ、さっきもいった通り、『水の魔力』で作った小さい渦なんで、それが周囲の空気に干渉して、ひとつの竜巻を作っていたんです。そうなってくると、残りの規模とか破壊力とかは、竜巻の干渉力に左右されるんですけど、私のは結構低いんです。せいぜい、外側からの攻撃の排除とかにしか使えません」
「一応、本気の彼女はフェニックス家の三男をぼこぼこにする程度の実力はある」
「あれは、初見殺しですから!! 二度と使いませんからね!!」
「まあ、んなこたぁ、どうでもええねん。それより、うち決めたで」
四志津の言葉に、疑問を抱くアヤナと、「やっとか」と安堵のため息をつくアジュカ。
そして、その言葉に続いたのは、
「うち、この嬢ちゃんの眷属になったる」
アヤナの驚きの声が、空間を支配した。
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参
眷属になる。
そのフレーズを聞き、私は耳を疑った。
「いや、なんで!?」
そして、つい、そのことを尋ねると、
「うち、ノリの軽い子ぉが好きやねん。んで、ソーナ・シトリーとギルギザン・バルバトスの二人にも会うたんやけど、二人とも中々の堅物やったんよね。それで、このひとんとこにこれから住むんかぁってなると、なんか踏み切れんくてな。そこで、ソーナ・シトリーの嬢ちゃんがあんさんはどうやぁっていってくれたんよ」
「結果として、君を気に入ってくれたみたいでよかった。俺もようやく『ゲーム』の運営に戻れる。それじゃあ、彼女のことは任せたよ」
そういってアジュカ様は広い訓練室みたいなところから出ていった。
え? あれ? もしかして、ここから、二人で病院までいかないといけないの?
「ほな、うちに『悪魔の駒』ちょうだい」
すごい軽いノリで駒を要求する四志津さん。まあ、私も別に精力的に眷属を集めようって言う訳じゃないから、こうやってさっさと眷属の枠が埋まっていくのは嬉しいんだけど、昨日の今日で渡すって言うのも……。
「一応言うけど、うちは本気やで。八坂さんからも、悪魔になりたいならなったらええっていわれとるし、あの人じゃあ、うちの面倒まではみれへんっちゅうことやねん。じゃけん、あんさんのとこで生活させてや」
「そういわれても……」
「後生や。うちかて不安なんよ。じゃけん、あんさんの実力を知りたかったんよ。天狐クラスになったら独立するから、よろしくたのんます」
四志津さんは私に深々と頭を下げる。
本気であることは確かなようで、今にも断られないか心臓をバクバク言わせ、返事を待っているため、私も心を決して言うべきなのだろう。
「わかりました」
私がそういうと、パァッと表情が明るくなる。動悸こそ変わっていないが、体の震えが消えていることからも、安心しているのが伝わってくる。
「戦車の駒でいいですか?」
「お、ええでええで。にしても、なんで戦車なん? 僧侶とかんがうちにあっとると、思うんやけど」
「僧侶とか騎士だと、足りないんですよ。私の場合」
「ていうと?」
「あの竜巻って、実際の自然現象と比べると相当威力が低いんです。たぶん、四志津さんの足を止める程度の風しか起こせてないんですよ?」
私がそういうと、四志津さんは『はぁ?』みたいな顔をしていった。
「嘘やな。実際うち壁に叩きつけられたし」
「竜巻の外側だったからですよ。内側はそんなに強くありません。酸欠みたいなことも起こせなくはないですけど」
「ほら、あんさん。十分強いやん」
「でも、その程度です。他の上級悪魔は私の竜巻以上の攻撃力の魔力攻撃ができますし、私の魔力程度なら、簡単に弾き返す程度の芸当は、可能です」
「ほなかて、あんさんの竜巻に負けたうちは、あんさん以下ってことにならへんか?」
「それは、正確じゃないです。悪魔社会の力の基準が純粋な筋力や魔力なので、私みたいな『術』の威力が評価されることは珍しい部類です。悪魔の駒もそこに例外はないと思います」
そういうもんなんやなぁ……と、四志津さんは言う。
そういうものなんですよ。まあ、これはアジュカ様から明確に『これが『
「それじゃあ、私たちも転移しましょうか」
「そういや、病院に行く予定やったんよね。すまんな、うちのわがままに付き合わせてもうて」
「いえ、いいですよ。面倒くさくはありましたけど、久しぶりに『魔力だけ』での戦闘ができましたから」
「そんなら、よかった。それで、これから病院なんやろ?」
「はい。ドラゴンと人間のハーフの子を眷属にしに行くんです」
「ドラゴンの? へぇ、面白そうやないの。どんな子なん?」
「かわいい子ですよ。臆病だけど、心を開くとすごく甘えん坊で、母性本能がくすぐられて、成長をすごくみたい子なんです。他にも」
「はい、ストップ。なんとなくやけど、あんさんの感じつかんだわ。やめやめ。あんさん、やっぱシトリーの悪魔やわ」
「マルファスでシトリーですから」
私は胸を張り、そう答える。私にとってマルファスであることと、シトリーであること両方とも誇りだ。
両方の家の魔力の特性が、自身に受け継がれており、また、マルファス家の再興のために貢献できることはすごく嬉しい。
その一歩として、種族関係なしに眷属にしている……あれ? ちょっと、待って。私、眷属悪魔にしている子達って大体追放とかされてなかったっけ? えっと……海樹くんと治奈ちゃんは五大宗家から命を狙われていたところを私が拾って、カリューちゃんは鍛冶の秘伝を持ち出したと言うことで追放された一族の末裔。メイクちゃんは、ドワーフの技術から逸脱した技能を持った、慣例主義的な考え方に嫌気がさし、反発した結果追放されたお父さんがいるため、北欧からの監視で自由に生きられないからと私のもとに売り込んできた子……あれ? あれあれ?
もしかして、私いわく付きの子ぐらいしか眷属にしてない……?
「ま、いっか。みんな私の大事な子だし」
「なんや? 何かあったんか?」
「私って複雑怪奇な事情を抱えた子を眷属にしやすいんだなって」
「そうなん? まさかやけど、うちもその一人にはいっとらんよね?」
「ふふ。さぁ、どうでしょうね」
「教えぇや、アヤさん!」
「自分の胸に聞いてみてください」
「自慢の胸しかないで?」
「そんな堕性の塊のなにがいいんだぁ!!」
「あ、ちょっ、アヤさん!?」
胸をつきだし自慢してきた四志津さんの胸を、私は鷲掴みにしもみし抱く。
おらおらおらぁ! ここかぁ? ここがええんかぁ?
そんな邪な感情をぶつけ、じゃれ合っていると、時間が迫っていることに気がつく。
「流石に時間をかけすぎました。いきますよ」
「せやったせやった。元々はドラゴンと人間のハーフって子のとこに行くんやったな」
「そうですよ。それじゃあ、お手をはいしゃく。はい、じゃーんぷ」
私は四志津さんの手を取り、ぴょんっと飛び跳ねる。
「はい、とーちゃく」
「うわ、はや。ってか、なんや? 魔方陣やら通った記憶ないんやけど、どうやったんや?」
「ちょっとした裏技みたいなものです。それより、目的の病室に向かいますよ」
「せやった、せやった。そっちが優先やったわ。にしても、ドラゴンかぁ……うちかすまへんか?」
「かすみますよ。同時期に、ドラゴンのハーフと九尾の狐。この時点で結構な話題を生みますから。それに……」
「それに?」
「ドラゴン系の神器所有者が二人、うちの学校に通ってますしね。その時点でお察しです」
うおぅっふ、と変な声を上げる四志津さん。一応女の子なんですから、そんなはしたない声を上げないの。そんなことを思いながら、私はその子の病室の扉を開け放つ。
「万結ちゃーん。きたよー」
「アヤナちゃん。待ってたよ。でも、ディオドラさんとのお茶会、よかったの?」
「いいのいいの。そんなことより、はいこれ。約束の
私は魔法陣を展開して
「こんなに!? いいの? 私よりもすごい人とかに使った方が……」
「いいの。それに、万結ちゃんを治す代わりに眷属にするって約束したじゃん」
「でも……」
「でも?」
「レーティングゲームとか、多分私じゃ役に立てないと思うし」
あ、なるほど。そういうことか……いきなり『やっぱり眷属入りはなしに……』なんていいだしたから、何事かと思ってたけど。そういう事……
「ねぇ、万結ちゃん。私、レーティングゲームで勝つために眷属集めをしてるわけじゃないんだよ?」
「そうなんか?」
「そもそもの話、レーティングゲームは政治的な目的で行うことの方が多いの。上級悪魔同士の婚約もレーティングゲームで決めることなんて一般的だし、それこそ、商談で利用することだってある」
「お、おう……それが、勝つための眷属集めをしない理由になるんか?」
「いえ。そもそも論の話です。要は、私は、私が『この子欲しい。海樹君ハーレムの一員になれるかも!』って素質の子位くらいしか眷属にする予定はないの」
フンスとない胸を張りどや顔を決める。
「お、おう……」
「あの、アヤナちゃん?」
「なに?」
「さっきから気になってたんだけど、その人は?」
「あれ? 言ってなかったっけ?
「
「ええんちゃうん? うちからしてみりゃ、アヤさんがこんなほしがる人材がどんなんか気になるし」
「わ、私は……別に……」
「わーっとるわーっとる。あんさんもアヤさんみたいな感じで、なんかすごい力あんねやろ? 神器の影響で入院し取るみたいやし。それが治りさえすれば、相当な実力が……」
「ないですよ? 私、10歳からずっとここに入院していたので……」
「でも、万結ちゃん、ドラゴンの中でも龍王クラスは確実にあるんじゃないかな?」
今のところは。正直、神器を使いこなせて禁手化したら、もっと強くなるんじゃないかな?
「ほへぇ……やっぱ、そうなんやな」
「アヤナちゃんは過大評価するから……」
「でも、私の駒八個分の価値は絶対あると思うよ?」
「なんや。もう答えでとるやん。むしろ、そこを否定したらアヤさんの目ぇが信用できん言うとるんもんやで?」
「そ、そんな……私、別に……」
「なら、受け取ったらええやん。アヤさんの眷属になるんは嫌やないんやろ?」
「そうですけど……」
「なら、躊躇う必要なんてないんやない?」
おぉ……これは、四志津さんに任せれば丸く収まるやつなのでは?
「なあ、アヤさんもまゆゆんが眷属入りすれば、戦力的にも十分なるんやろ?」
「え? あー。そうですね……正直、戦力とかは、考えてないですけど、万結ちゃんが外で自由に生きたいって思うなら眷属入りして欲しいかなって。今日の退院の話だってもともとは、私の眷属になることで成立する話だったわけだし」
「なんや、決定事項やったんか?」
「そうですよ。万結ちゃんもそれでいいってことで話を進めていたので、私もちょっと困惑してるとこです」
「だ、だってぇ……」
「まゆゆんも、ええんやろ? なら、受けとりぃや。というか、はよまとめんと病院側に迷惑ちゃうんか?」
「そ、そうですよね……この駒の数の価値に見合うかは分からないですけど、がんばります」
最後に四志津さんからの後押しもあり、万結ちゃんは私の兵士の駒を受け取ってくれた。
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