辺境の勇士と聖なる学舎の異端児 (すろうぺーす)
しおりを挟む

プロローグ 「初めに、神々は賽子を振った」

 

 

 

 盤の上では、冒険者達と怪物が死闘を繰り広げていました。

 暗い森の奥で暴れる、石化の牙を持つ大きな怪物、蛇王(バジリスク)

 一党を組んだばかりの駆け出し冒険者達は、その巨体から繰り出す素早く重い攻撃に、翻弄されてしまいます。

 

 はらはらと他の神々が見守る中、小さな神様が勇気を出し、恐る恐る賽子を振ります。

 ころころ、ころり。

 

 ーーー賽子(サイコロ)の出目は全て六。大成功です!

 

 只人の戦士が長剣を振り、暴れまわる蛇王を斬ると、蛇王は「グオオオオッ!」と空に向かって叫び、そのまま倒れました。冒険者達の大勝利です!

 

 皆が歓声を上げて、拍手をします。冒険者達の勝利を讃えましょう。怪物達の健闘を讃えましょう。大盛り上がりのどんちゃん騒ぎです。

 怪物を用意した神様は「怪物を強くし過ぎたかもなぁ」と少し反省します。次は大蛇にしておこう。

 

 「あー、今日も面白かったなぁ」

 

 見学をしていた《幻想》の女神様は、弾けるような可愛らしい声で呟きました。うん、やっぱり冒険はこうでなくっちゃ。

 観ているだけでも楽しいですが、やはり、自分も迷宮(ダンジョン)を作りたくなってしまいます。

 今度はどんな迷宮を用意しよう? 初めは……やっぱりゴブリン?

 いやいや、それはありきたりすぎるのかな? どうだろう?

 そうやって、ああでもない、こうでもないと考え事に耽っていると、何やら盤に光の橋がかかったではありませんか。

 

 「あれ? 何だろう?」

 

 その光を辿ると、見慣れない盤を見つけました。勿論、用意した筈はありません。

 突然ふわっと現れた新しい盤。それがこちらの盤に向かって光を伸ばしていたのです。

 そこでは、少女達が懸命に大きな怪物と戦っているのが見えます。

 

 むむむと唸り、《幻想》の女神様は首を傾げます。はて、これは何だったかな?

 

 そうして「ああっ」と手をたたきました。

 これは、他の神が用意した盤。何でも、何処かの神が勝手に模写した、この盤とは異なる世界の複製なのだとか。

 全く、いくら元々の世界に影響が出ないとはいえ、許可を取らなきゃ、そこの神様が困るでしょうに。

 でも……まあいっか。こちらが盤に誘われているのだから、誰も文句は言わないはず。理由ならそれで良いでしょう!

 

 冒険の切っ掛けは、いつだって突然訪れるのですから。

 

 「さて、どんな怪物を用意しようかな? と、まずはこの世界の事を知らなくちゃね」

 

 何故この盤が現れたのか深く考えずに、《幻想》の女神様は、覗き見しつつ、駒を用意し始めました。

 

 ーーーこの瞬間から、既に賽子は振られていたのでしょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一話 「扉と誘い」

 

 

 【聖テレサ女学院】

 

 城塞都市ランドソルの学舎で、うら若き乙女達の学びの場である。その上、生徒の大半が良家の子女という(とある人が見れば、目と胃が痛くなるとのこと)、所謂、超お嬢様学校だ。

 

 その学院に在校している生徒の内、三名は、変わり者……もしくは、異端児と称されている、【聖テレサ女学院(なかよし部)】のメンバーだ。

 

 活動内容は、『教育的見地における社会的構造に準じる共存的融和の意識向上』。

 簡単に言えば、『学校を共学にするっていいよね?』ということである。

 ……本当の目的は(奨学金の為に)仲良くなることだが。

 

 実際のギルド結成の理由は、対外的に『仲の良さ』を形にして示すためである。

 

 聖テレサ女学院では、年々生徒の数が減少しており、その改善のために共学化の道を模索することになっていた。

 その施策のため、学院の上層部はそれをエサにして、彼女らに『試験的に新しく入った男子学生と仲良くしろ』などの、よくわからない難題を吹っ掛けてるのである。

 

 正直、ヤバい。誰も彼も、単純に、尚且つ物凄く。

 

 そんな学院の夜、象牙の塔で。

 

 そこでは何故か、黒いオーラを纏っていそうなエルフと、妙にキラキラしたオーラを纏った少女が心底めんどくさそうに、その扉の前に立っていた。

 

 「パイセンこんな時間に何の用があんの?」

 「分からないです。でも、もっと時間考えて欲しくないですか、クロエ先輩?」

 「わかりみ」

 

 クロエと呼ばれた金髪の気だるげなエルフは、一際大きくため息を吐いた。

 彼女は聖テレサ女学院の二年生であり、治安の悪い市街地出身ゆえのその独特な言い回しと、黒いオーラのお陰で不良と間違われる。

 しかし実際はそうではなく、家族が好きで、人のことを思いやる事の出来る、とても優しい照れ屋なのだ。

 まあ、この事を彼女に話せば殴られるだろうが……少なくとも、悪人ではない。

 

 「ま、話だけでも聞いときますか」

 「ですね。可愛い先輩の頼みですから。それに、眠たいですし」

 

 もう一人の少女の名は、チエルという。

 一年生であり、【聖テレサ女学院(なかよし部)】の最年少。

 見た目通り明るく社交的、全体的に天才で可愛らしいという、ここまで聞けば才能ある素晴らしい生徒だが、毒舌家で、隙あれば『ちぇるーん♪』などという造語【ちぇる語】で話す、うざ絡みするなどといった行動を起こす事が多々あり、非常に残念な生徒である。

 しかし、これらは意図的に道化を演じているだけであり、単に皆を楽しませたい一心での行動である。決して悪意はない。

 

 「はぁ……開けますよ、パイセン」

 

 クロエが象牙の塔の扉を開くと同時に、チエルは中に飛び込むように入っていった。

 

 「にゃっ、あぶ!? はぁ……こらこら、人が退くまでは飛び込まない。急に子供みたいな事をーーー」

 「ちぇるーん♪ こんな時間に何の用ですか、ユニ先輩?」

 「あ、パイセン。夜分遅くにどもっす。

……おいチエル、無視か、てか無視だな。よし、いいかめんどいし、忘れよ」

 

 横でクロエが咎め、愚痴るのを無視して、声をかける。

 すると、本の横で座り込んでいた幼い容姿の生徒がぴょんこぴょんこと跳ねる。

 

 「やあ諸君。待っていたよ。我々【ユニちゃんズ】の目的ではない、僕個人の頼みとはいえ、よくぞ来てくれた」

 

 得意気な笑みを浮かべ、胸を張る彼女はこの学園の最上級生、ユニ。

 図書館棟の研究室である象牙の塔に住む彼女は、子供っぽい外見と裏腹に、『博士』の学位で呼ばれるほどの学園の大天才だ。

 しかし、『テレ女のやべー奴』と呼ばれるほどのなかなかにやべー趣味があるとの事だが……ここでは触れなくともよい。

 

 「はぁ……いつまでその名で呼ぶの? 没案という事実をねじ曲げたいの?」

 

 クロエが、困ったように呟く。

 このように、ユニは毎度の如く【なかよし部】ではなく、即没案となった【ユニちゃんズ】だと主張しているが、当然、残る二人に却下される。

 

 「テンション高いですね、ユニ先輩」

 

 チエルの驚いたような表情は、一瞬で冷めた目に変わる。感情表現が豊かである。

 

 「後輩の貴重な睡眠時間削って何のようですか? 私は今すぐお家に帰って眠りたい気分なんですけど」

 「ちょーちょー、待ちなってチエル。まず話だけ聞いとこ? パイセンがどうでもいいことで呼び出したかも知んないけど、とりあえず聞いとこ? そしたら、ちゃちゃっと帰ろ」

 

 小さく「面倒だし」と付け加える。

 

 「君達、すぐに帰れると思うかい? それと、先程の少しの感動を即刻返してもらいたい……が、それは脇に置くとしよう。

 ともかく、出ていこうものなら、魔法を使ってでも止めてみせる。今日のぼかぁ本気なんだ」

 

 不満げな顔を見せ、ユニは言った。

 それと同時に、クロエもため息をつく。

 

 「今日バイトなくても、明日までに見つけたいんでさっさと眠りたいんすよ。勘弁して」

 

 聖テレサ女学院では、校則によりバイトは禁じられているが、クロエの家庭は、あまり金銭的な余裕がない。

 学費などの負担で、家族に迷惑を掛けないよう、学院の生徒や関係者に気づかれないように働いている。

 以前は怪しげな仕事をしていたのだが、謎の怪盗に襲われ、辞めざるをえなくなった。

 そのため、出来ることなら早く仕事を探さなければならない。

 当然、二人とも彼女の事情を知っている。汲まない訳にはいかない。

 

 「提案なのだが、僕が君の雇用主となるのはどうかね?

 一日だけの、それも数時間のバイトだ、クロエ君。小遣いなら払ってしんぜよう。不完全な研究品を腹いせに売ったお陰で、僕の懐はあったかい」

 「わーマジ神。でもパイセンから受け取るのは、なんつーか心が痛いわ。フツーにバイト行く」

 

 申し訳なさそうに、クロエが言う。まあ、無理もない。

 良い提案と思っていたユニがむむむ、と唸る。さて、どうしたものか。

 

 「ところで、何の用だったんですか?」

 「よく訊いてくれた、チエル君っ」

 

 早めに切り上げたいチエルが訊くと、目を輝かせつつユニが指を指す。

 指した先にあったのは、幾何学的な模様の書かれた黒い扉であった。

 

 「あれ、何です?」

 

 二人が、その異様な扉に興味を示したのを見て、得意気な顔をした。

 

 「全くわからん」

 「は?」「え?」

 

 二人の怪訝な表情は、ユニの顔を曇らせるのに充分だった。

 ユニは困ったようにため息を吐き、話を続けた。

 

 「端的に換言しなくともよかろう。

 先程も言ったように、分からないんだ、何も。

 何故にこの扉が象牙の塔にあるのか、そもそもこれは何なのか、何処に繋がっているのか……全くもってわからん。

 だからこそ、君達を呼んだのだ、後輩諸君」

 「は、はぁ? つまり?」

 

 チエルが問うと同時に、状況を理解したクロエがげんなりとする。

 

 「何が起こるのか、興味深くてそわそわしていたんだ。さあ、共にこの扉を開こうではないか」

 「「却下!」」

 「むぅ、意地でも開けるぞ僕は。既にこの塔全体に施錠魔法を掛けている。逃れられんよ。道連れは多い方がいい」

 

 不穏な事を呟きながら、ユニは扉に向き直る。

 

 いきなりこんな扉が沸いて出たのだ。

 この世界が虚構という可能性があると思っていたが……やはり、間違いはなさそうだ。

 すぐにでも確めねば。

 

 ユニがそうぼんやりと考えていると、汗をたらたら流しながら後輩二人が必死に声をかけてきていた。

 

 「いや、待ち。ちょい待ち。イミフな理由で巻き込んだ挙げ句、イミフな扉開けるとか危ない事しない……ほら、おばちゃん飴あげるから」

 「そうですよユニ先輩! 何しようとしているんですかっ! 頭ちぇるったんですか!?」

 「む、むぅ……」

 

 しかし、嫌がる二人を無理に連れていくのは、人としてどうか?

 

 (……それは良くない)

 

 残った理性が、ユニを押し止めた。

 今夜は謝罪して、帰宅していただくか。

 

 「君達、今日はすまなかった。すぐ魔法を……」

 

 解こうと言いかけた途端、ギィイイと不快な音が鳴った。

 ユニの、すぐ後ろから。

 

 「ちょ……パイセン、後ろ」

 「何で、扉が?」

 

 クロエとチエルが、青ざめた顔で指を指す。

 ーーーいや、青ざめている訳ではない。

 

 「……まさか」

 

 嫌な予感がした。

 突然、周りが淡い光に包まれていたのだ。

 考えられるのは、今、後ろにあるものだ。

 

 ユニが慌てて振り返ると、

 

 「!?」

 

 あの扉が開いていた。

 中から、青い光を放ちながら。

 それに気づいたときには、ばたりと、床に倒れ込んでしまっていた。

 続いて、チエルが、クロエが膝をつく。

 

 「……う……な、なんです、これは?」

 「な、何だ……一体、何、が……ぁ」

 「……く、ぅやばっ……パイセン……チエ、ル…」

 

 クロエの瞼が閉じられていく。それは皆、同じだった。

 まるで眠りにつくように、意識が、薄れていく。

 身体が徐々に、光に包まれていく。

 

 (何が、起きて……あれ?)

 

 チエルが、必死に目を開けると、扉の先に、光ではっきり見えないその奥に、誰かが居るのが見えた。

 

 (……だ、れ?)

 

 チエルの疑問は、声に、音になって出ることはなく。

 

 扉の光が強まった次には皆、意識を失った。

 

 

 

 最後に見えた光景はーーー

 

 “薄汚れた鉄兜の誰かと、白い神官服を身に付けた少女”

 

 であった。

 

◇◆◇

 

 しばらくして、扉は消えた。

 まるで、初めからそんなものはなかったかのように忽然と。

 

 ーーー象牙の塔にいた、三人と共に。




( ゚A゚ )<「想定してた数十倍の人数、読んでくださってる……」

(ノ_<)ゴシゴシ

( ゚A゚; )<「マジか……有難い。頑張ろ」

というわけで、拙いかも知れませんが、頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 「目覚めた場所は」

 

 

 下卑た笑い声。

 数人居るのか、足音が多い。

 声が大きくなった瞬間、何かを振るおうとする音がした。

 

 「っ」

 

 咄嗟に飛び起き、避ける。

 

 「はぁ……何これ?」

 

 緑色の何かがいた。

 汚れたこん棒を、錆びた短剣を、ひび割れた槍を持って。

 

 「人……じゃ、ないっぽいな」

 「GOBGOBB?GOGOB!」

 

 クロエが呟くと奇妙な声を発し、それぞれが武器を振るった。

 

 (急だな……てか、わりと遅っ)

 

 軽く避ける、避ける、避ける。

 そして、確信した。

 

 ーーーこいつらは、敵だ。

 

 「はぁ……目覚めたら汚いゴブリンとか、聞いてないわしんどいし。チエルとパイセンの無事、確かめたいから……そこ退きなよ」

 「GOBBB!GOBAAA!!」

 

 一匹のゴブリンが飛びかかり、こん棒を振るう。

 ヒュン、と音がした。

 鮮血が舞う。

 屍が落ちる。

 血塗れになったゴブリンの死体が。

 

 「GOBB!!?」

 「はぁ……ふざけんなよ、邪魔だっての。こんなか弱い乙女に寄って集って鬱陶しいわ。服汚すな殺すぞバカども」

 

 いつの間にか、クロエの手に一振りの短剣が握られていた。

 彼女の愛用する、『フロムダスク・ティルドーン』。

 あの瞬間、短剣の刃が的確にゴブリンの喉を斬り裂いたのだ。

 その光景を見たゴブリン達が、一歩、二歩と後退る。

 

 ーーーあんな奴に勝てる訳がない。

 ーーー……勝てない? あの女に、勝てないっ? 何故だ?

 ーーーオレ達の勝利は確定していた筈! 何もかも奪うのはオレ達の筈ッ!

 ーーーアイツが来たから悪い! アイツがいるから悪い!

 ーーー全部あの女がいるせいだ! オレ達は悪くないッ!

 

 そんな自分勝手な思考が、ゴブリン達の中で溢れ出す。

 その身勝手な思考が、ゴブリン達をその場に止めさせた。

 

 「GOBABB……GOB!!」

 

 ーーーオレ達を襲った報いを受けさせよう。

 ーーーまずは、あの女を捕らえて殺してやる。いや、死ぬまで凌辱してやる。

 

 ゴブリン全員が、恨みと怒りを持って武器を構える。

 全ては、アイツが悪いから。

 

 それを見たクロエは、呆れたように呟いた。

 

 「はぁ……逃げるようなら見逃そうと思ったけど……ま、邪魔すんならしゃーない」

 

 柄を握りなおし、わざとらしくため息を溢す。

 

 「さ、誰から逝っとく?」

 

 血を払うように振るい、不敵に嗤った。

 

◇◆◇

 

 「……う、ん……ここは? っ」

 

 目を覚ますと、冷たい感触した。異様な臭いに頭を掴まれた気がして、一気に目が覚める。 

 何かが腐ったような臭いがする。頭が痛い、気持ち悪い。

 それに、周りに誰もいない。

 

 「ユニ先輩! クロエ先輩!」

 

 そのせいか、起き上がろうにも力が上手く入らない。

 それを無視して、チエルはふらふらと立ち上がった。大切な二人を探さなければならない。

 

 「早く、先輩達を探さなきゃ……あっ」

 

 足が縺れる。傾いた体はそのまま地面に……

 

 「おっと」

 

 叩きつけられる事はなかった。

 誰かが、チエルを抱き起こしたのだ。

 聞き慣れた声がした。

 

 「クロエ先輩っ」

 「ちょーまち、一旦落ち着く。ここはわりとヤバい」

 

 鋭くも優しい声で、クロエは囁いた。

 見ると、彼女の服に血が付いている。

 

 「先輩、怪我をっーーー」

 「返り血。ほんと、最悪。洗う手間増えるっての」

 「そ、そう……いや、一体何の……! っユニ先輩は!?」

 「待ちなってチエル。パイセンは……まだ見てない。落ち着いたらさっさと探すよ」

 

 そう言って遮り、ため息を吐いた。同時に、何処からか取り出した棒つきの飴を舐める。

 

 「あんまし、気分晴れねー……ま、それどころじゃないか」

 

 クロエが、本日何度目かのため息を吐き振り返る。

 チエルが目線の先を追うと、何やら蠢くものがあった。

 

 「GOROB!」

 「GOOB!GOROBBB!!」

 

 それは、武器を手に取り囲む、緑色で背丈が小さい醜悪な怪物。

 

 「ゴブリン!? 魔物がどうして……」

 「話は、こいつらぶちのめした後でよろ。はぁ……いないと思えばこれか……マジうざいわ」

 

 愛刀を構え、怪物を睨む。

 

 「さ、お目覚め間もないかも知んないけど、無理ない程度に逃げるよ。埒空かんし、パイセン探さんと落ち着けんし」

 「……わかってますよ。チエルも、ユニ先輩の事が心配ですからっ!」

 「GOBB!?」

 

 真正面から襲いかかったゴブリンを殴り、狼狽えた者も流れるように突き、槍や剣を軽く避ける。

 達人のような立ち回りを見せるが、チエルは全くの初心者だ。クロエのように、多少の経験があるわけでもない。

 聞きかじったものを、自分流に可愛くアレンジした。ただそれだけ。

 その筈なのだが、ゴブリンが一撃も入れることが出来ない。寧ろ、向かう端から吹き飛ばされる。

 

 (ホント、そんなのどしたら身に付くの。自分流とか……ま、いいか何でも)

 

 「……ふっ」

 「GOOROA !?」

 「GOGAUAA!!」

 「GAABBB!!」

 

 一瞬で疑問とともに三体のゴブリンを斬り伏せる。

 とにかく、急がなければならない。

 残りのゴブリンを倒した後、すぐに探しに行かなければ……。

 

◇◆◇

 

 「はあ……は、ぁ……」

 

 油断してしまった。

 襲いかかる魔物に魔法を使い、倒し、難なく退けたと思った。思ってしまった。

 最後の一体が後ろから短剣を持って飛びかかってきたのだ。

 反射的に魔法を放ったお陰で、掠り傷で済んだ。しかし、毒が塗られていたらしい。

 

 「まずい、な……」

 

 体から力が抜けていく。寒気がする、痺れてくる。

 解毒の魔法は知っている。しかし、この状態ではまともに使えない。

 少しづつ、毒の進行を抑える程度しか出来ない。

 

 (二人は無事だろうか?)

 

 こんなことに捲き込んでしまった。すぐにでも謝りたい。

 何より、無事でいてほしい。

 痺れがどんどん酷くなってくる。

 このまま、僕は死ぬのだろうか?

 目の前が霞む。息が、詰まる。

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 誰かが駆け寄っていた。

 足音からして数名、いるらしい。

 

 「解毒剤(アンチドーテ)です!……飲めますか?」

 「……っ、あ……」

 

 どうにかして、差し出された瓶を持ち、中の液体を飲み干す。

 苦い……が、視界と体の痺れは少しよくなった。

 

 「……すま、ない……助かった」

 

 礼を述べ、顔を上げる。

 白い神官服を着た、金髪の少女がいた。聖職者なのだろう。

 その周りには、奇妙な集団がいる。

 民族衣装のようなものを纏った蜥蜴のような人、ほっとしたような顔で髭を弄くる老人……ドワーフだろうか?

 耳の長い、アオイ君やクロエ君と同じエルフの少女。

 そしてーーー

 

 「駆け出しか……何があった?」

 

 薄汚れた鉄兜の男が、神官の少女の側に立っていた。




小鬼殺し「駆け出しか?」
ユニ「え、何?……誰?」

ってなりそう……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間章 「混沌の者/太陽のような少女」

 

 

 

 儀式が成るまで、後僅か。

 

 人の身体に、虫のように六本腕を生やし、蠍の尾を持つ四ツ目の異形は舌舐めずりして、その時を待っていた。

 

 暗黒の彼方より遥かに遠く……否、今宵は近くに在るという異なる世界で、脅威とされた者達の欠片。

 それは、遠き世界の同胞からの贈り物。

 愛しき神々の祝福を授けられた触媒。

 

 (……他にはないだろう)

 

 祈るように持ち、祈らぬ者(ノンプレイヤー)である彼はぐにゃりと口を三日月型に歪ませた。

 

 《ーーー汝、秘術をもって怪物を作り、恐怖を世に撒き散らせーーー》

 

 覚知の神より賜った使命は、この胸の中で暗い高揚感と共にある。

 嗚呼、素晴らしい(エクセレント)! 四方の世に混沌あれ!

 とはいえ、神聖なる儀式に邪魔が入るのは御免だ。

 

 時間さえ稼げれば問題はないが……。

 

 矮小でありながら、凄まじい悪意を持った悍ましい怪物を利用しよう。

 異界の友への返礼として寄贈した怪物達が少し惜しいが、本命ではないのだ。どうにでもなる。

 それに、必要なのは雑兵程度の者共である。

 小鬼(ゴブリン)など、女さえ与えれば容易に増える。

 

 (まずは、怪物の肉体を再生させなければ……)

 

 合成させる為の、母体となる優秀な怪物が必要だ。

 彼はそれを、異世界の怪物の欠片から作り出すつもりでいた。

 

 (……さて、どうしたものか)

 

 欠片を手に思案する。

 これ程の物を授かったのだ、産み出す恐怖が失敗作であってはならぬのだ。

 

 その中で特に目を引くのは、奇妙な金属片だ。

 聞けば、学習し、更なる高みに至る兵器なのだという。

 やはり脅威とするならば、こちらが良いだろう。

 夥しい程の、魔の瘴気を流し込んだ。

 

 

 

 

 

 ーーー病的なまでに毒々しい桃色のその欠片が、妖しく光り、ごぼりと音を立てて膨らんだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 【美食殿】の活動として、上質な山菜の採れる山に現れた岩を喰う魔物の撃退というクエストを受け、私達は山中の穴だらけな洞窟にて件の魔物の討伐をしていたのですが……。

 

 「やあ! 手伝ってくれて助かったよ。怪我はないかな?」

 「うん! ありがとう」

 「はい、大丈夫ですっ! こちらこそ、ありがとうございます!」

 「いや、手伝ってもらったのはこっちだから感謝するけど……一体何なのよあんたら……?」

 

 猫耳をぴくぴくと動かし、キャル様が怪しむような目で見つめる先には、突然空から降ってきた御三方。

 

 様々な魔法を扱い、サポートから攻撃までこなした、博識そうな方。

 洗練された動きにて敵を翻弄し、嵐のように斬り続けた、刀使いの方。

 ペコリーヌ様のように軽々と太剣を振るう、太陽のように眩しいお方。

 

 (本当に、どなたでしょうか?)

 

 主様とペコリーヌ様はすぐに打ち解けてしまわれました。

 どのような方であれ、助けて頂いたのですから初めにお礼をしなければ。

 

 「ああそうだっ! 自己紹介していなかったね、うっかりしていたよ」

 「こちらも失念していた」

 

 その前に、その女性は思い出したかのように大きな声で言いました。

 ……そういえば、まだ、お互いに名前を知らないままでした。

 

 「そうでした、まだお名前を訊いていなかったですね。初めに私から。コッコロと申します」

 「ユウキだよ~」

 「……キャルよ」

 「お腹ペコペコのペコリーヌっです!」

 

 元気なペコリーヌ様を見て、楽しそうに綺麗な笑みを浮かべて、太陽のような方はこちらに向きなおった。

 

 「初めまして、僕はーーー」

 

◇◆◇

 

 この出会いがあのような事件になるとは、私達は思ってもみませんでした。




投稿が遅くてすみません。

書き直しが終わらない……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。