鋼の魂と共に (宵月颯)
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登場人物・設定集

この話の細かい設定と登場人物に対する条件の説明。


=主人公紹介=

 

 

※クジョウ・ハスミ

 

同連載中の幻影のエトランゼの主人公。

漢名は九浄蓮美、呼び名はハスミ、性格は真面目であるが敵対者には三倍の報復を行う。

年齢は二十歳、性別は女性、五感の先である第六感…念動力を扱う者。

属する世界ではAM乗りで諜報部出身の軍人であった事もあり、その手の分野に秀でている。

これにより重火器や爆薬の扱いが手慣れている。

ある事情により、この話(鬼滅の刃)の世界に引き込まれた。

転移後に動けなくなった所を物語の主軸である竈門炭治郎に助けられる。

表向きは出稼ぎ中の細工師で通している。

物語の始まりである鬼舞辻無惨の襲撃から竈門家の人々を炭治郎と共に守るも山小屋から出てきた禰豆子を庇う形で負傷し致死量の血液を無惨より注入され鬼化してしまう。

この結果、ある事が切っ掛けで呪いに打ち勝つも所持していた能力大半を封印される事となった。

異質な鬼であり左右の眼が鬼の眼と人の眼と言うオッドアイ状態で鋭利な爪はネイルパーツで隠している。

鬼化後は以前よりも食事量が増えてしまった事に困っている状態。

無惨との初戦で恐怖を感じずに戦闘を行えたのは無惨以上の強敵を相手にしていたので全然怖くなかったのが理由。

那田蜘蛛山事件後の柱合会議にて鋼柱に就任。

お館様の指示で違反隊士達にハー〇マン軍曹式・新兵訓練を叩き込む。

その後、経過が良好だった事で更なる犠牲者達(質が落ちている隊士等)を増やす事となる。

無限列車事件で上弦の壱と交戦し痛み分けの引き分けに持ち込む。

遊郭事件終盤に無惨の裏で暗躍していたジ・エーデルの策略で炭治郎達が瀕死の重傷を背負う。

同時に巨躯の鬼と上弦の鬼との連戦で負傷した自身も瀕死状態であったが、覚醒した血鬼術(DG細胞)によって回復させる結果となった。

 

 

<封印された能力>

 

※念神召喚・不可→召喚に必要な鍵である刀が現出不可能。

※時空転移・不可

※長距離転移・一部限定(県内程度なら数回は可能)

※物質召喚の制限(所持している物の中で出せる物資がコンテナ一個分のみ)

※アカシックレコードへの一部アクセス・不可

 

 

<手に入れた能力>

 

※全集中の呼吸・常中

※鋼の呼吸

 使用日輪刀の形状:大太刀(モンハンの某太刀に近い形)で鍔は菱形を四つ重ねたもの(四神が彫られ、各象徴色が色づけられている)。

 刀の色は藍と紺の混合(時折、輝いて見えるのは銀河を象徴している。)

 帯刀する時は琴の形にした絡繰り箱に入れて偽装している。

 

*壱ノ型・裂鋼(サキガネ)

 文字通り対象を切り裂く剣術。

 

*弐ノ型・突鋼(ツキガネ)

 太刀の硬さを利用して対象を突き刺す剣術。

 

*参ノ型・覇鋼(ハガネ)

 重い剣圧と剣撃を相手に与える一撃特化に近い剣術。

 

*肆ノ型・烈鋼(レツガネ)

 参ノ型を広範囲に剣撃を放つ剣術。

 

*伍ノ型・護鋼(ゴガネ)

 防御の型で相手の攻撃をその威力ごと弾き返す剣術。

 

*陸ノ型・弾鋼(ダンガネ)

 剣圧で空気の刃を生み出し離れた相手を切り裂く剣術。

 

*七ノ型・墜鋼(ラクガネ)

 別途で作った複数の戦輪を上空に投げ飛ばし、その上を跳躍し高く上空へ上がる。

 その落下速度を剣圧に乗せて敵に目掛けて切り裂く剣術。

 かつて無限の開拓地で出会った夜に輝く月姫から受け継いだ技。

 

 

<鬼化に伴う変化>

 

※意地と根性で太陽克服

※鬼特有の身体能力

※夜目が効く

※鬼特有の人体への食欲無し(人と同じ食事を取れるが通常時よりも数倍の量が要。)

※身体維持の為に一日数時間の日光浴必須

※血鬼術・鋼ノ界(血液を媒介に鉱物であれば、どれでも操れる。)

※血鬼術・白銀の守り(血を媒介に瀕死の負傷者すら癒す銀膜を生み出す。)

 

 

 

=主軸の主人公=

 

 

※竈門炭治郎

 

鬼滅の刃の主人公。

ある時から鬼舞辻無惨を倒す為に何度も逆行を繰り返している。

何度も続けているが、救いたい命を救えずに輪廻に囚われていた。

ハスミと出会い、協力する事で活路を見出す。

願いの代償として自身の妹とハスミが鬼化する宿命を背負う。

何度も逆行を繰り返しているので既に全集中の呼吸・常中とヒノカミ神楽・完成型を扱える。

普段は水の呼吸で戦闘を行う。

自慢の鋼鉄のオデコは健在中。

遊郭事件後に瀕死の重傷を負い、主人公が覚醒させた血鬼術で回復。

現在もある程度の毒と負傷に耐性を持つ結果を迎えた。

 

 

※竈門禰豆子

 

炭治郎の妹。

物語の切っ掛けとなった少女であり、今回も無惨によって鬼にされてしまう。

鬼化前は年頃の女の子らしく可愛いものが好きな子だった。

兄を通して出会ったハスミの事を他の弟妹と共に姉の様に慕っている。

自慢のデコピンは鬼となっても健在との事。

 

 

 

=忌々しい黒いワ…もとい仇敵達=

 

 

※鬼舞辻無惨

 

鬼滅の刃におけるラスボスかつ倒すべき相手。

運命の日に竈門家を襲撃するも失敗し撤退する際に禰豆子とハスミを負傷させ鬼化させた。

鳴女の血鬼術で撤退するも出入口を封鎖する前にハスミによって収束手榴弾(24年型柄付手榴弾の六連タイプ)を『Fire in the hole』されて向こう側で爆破された。

致命傷ではないので生きているが、炭治郎共に自身の知らない戦い方で手数が多いハスミの事を危険視している。

下弦の鬼を粛清後、ハスミを捕らえる為に新たな動きを見せる。

更に手を組んでいたジ・エーデルの反乱と彼の奇天烈な行動で右往左往する事となった。

 

 

※ジ・エーデル・ベルナル

 

主人公側の世界で滅ぼされたが、悪意の残滓がこちら側の世界で構築された。

現在は複数ある姿の内のジエー博士の姿で再構成され固定されている。

元々の技術で無惨の鬼を拉致改造や巨躯の鬼を生み出して更なる混乱を生み出した。

主人公曰く『面白半分で世界すら滅ぼす事も厭わない愉快犯』であり『無惨以上に倒すべき宿敵』と告げている。

 

 

=変異の過程で出現した鬼=

 

 

※巨躯の鬼

 

ジ・エーデルが無惨の鬼を勝手に拉致改造を加えた文字通り災害級の巨大化した鬼。

鬼を核に複数の動物や昆虫をベースに改造されており、現在の鬼殺隊では柱以外に対処が出来ない相手。

主人公が対処する事で少なからず脅威化は防いでいる。

那田蜘蛛山に出現した三十にも及ぶ巨大蜘蛛の巨躯の鬼を倒した事が切っ掛けで主人公は巨躯の鬼討伐専門の柱へ就任する形となった。

 

 

※新上弦の鬼

 

現在の上弦の鬼が主人公やジ・エーデルの出現により、全く持って使い物にならないと判断した無惨が秘密裏に候補に選別していた異国の鬼達。

夜天の零を筆頭に七人の候補者が存在する。

刀鍛冶の里・襲撃事件中に前炎柱・煉獄槇寿郎と客将アウストラリスの手によって新上弦の陸は討伐された。

 

 

=主人公に協力する者達=

 

 

※志摩崎悠雨(シマザキ・ユウ)

 

炭治郎らが沼鬼から救出した十六歳の女子。

本来の流れでは沼鬼の餌食となっていた娘の一人。

服装は緑色の着物に袴と橙色柄の七宝焼きの髪飾りを付けている。

父親は東京方面で志摩崎製薬会社を営む華族。

北西の町にやって来たのは静養先から実家に戻る時の中継地点として利用していた為。

西洋文化や噂の鬼狩りに興味を持つお年頃。

主人公が無惨と二度目の接触後、本人から重火器に必要な薬剤を提供する様に協力する。

 

 

※叙荷(ジョニー)

 

主人公に与えられた鎹鴉。

一人称は俺様、間違った意味で西洋文化に染まり切っている。

主人公の事はお嬢と呼んでいる。

 

 

※磨鋼さん

 

主人公に付いた刀鍛冶。

感情喚起の際にボディビルダー張りの肉体美を見せつける。

主人公から日輪刀を打ち直しの際に出る屑鉄で薬莢を作成し提供している。

後に作成される戦闘用の手甲も彼の力作。

本名は磨鋼鉄人(まごうてつひと)。

 

 

※アウストラリス

 

主人公と同じ世界から転移していた武人。

こちら側の世界の制約によって本領を発揮出来ずにいるが、発揮していた場合は無惨が裸足で逃げ出す程にヤバイ存在。

制限があっても無惨の鬼を素手で殲滅出来るのでハンデの様になっている。

紅霧村事件後に合流したものの、現在はジ・エーデルの足取りを追う為に別行動中。

この話に置ける彼の経緯に関しては『幻影のエトランゼ』を参照。



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再度の立志編
変えた結末への代償


彼は泣いていた。

彼は願った。

彼は戻っては巡る。

何度も巡り巡って未来を変える為に。

その手を繋ぐ手を増やす為に。

その願いは強欲なのだろうか?


いや、私が言えた事ではないが…




津々と降り注ぐ雪。

 

山々を覆っては雪と氷に閉ざされようとしていた。

 

冬の訪れ、動物は冬眠し草木は春を迎えるまで土の底へ。

 

尚も白い白い景色だけが周囲を包んでいた。

 

 

******

 

 

山から麓の村へ流れる川。

 

その川の水汲み場に一人の女性が倒れていた。

 

 

「…」

 

 

寒さのせいではないが体が思う様に動かない。

 

酷く頭痛がして考えが纏まらない。

 

私は何故、ここにいる?

 

 

「…」

 

 

ここへ来る前に声が聞こえたのは覚えている。

 

男の子の声だった。

 

悲しい声で悲しい思いを抱えて叫んでいた。

 

何度も何度も繰り返していた。

 

この輪廻を終わらせたいと願っていた。

 

掴み取れなかった手を繋ぐ為に繰り返していた。

 

それは大きな願いであり呪いでもある。

 

どんな願いでも代償は支払わなければならない。

 

それを彼は理解しているのだろうか?

 

 

「あのっ…大丈夫ですか?」

「ぁ…」

 

 

動かない体を余所に物思いに耽っていた私の前に現れた少年。

 

彼は籠を担ぎ、昔ながらの防寒具に深靴と呼ばれる草鞋を履いているのが判った。

 

声を掛ける少年に対して私は出来得る限り首を上げて相槌を打った。

 

 

「動けないんですか?」

「…(コクリ」

「この近くに俺の家があるんでそこへ行きましょう。」

「…(コクリ」

 

 

少年に支えられた私は厚意から彼の家で休ませてもらう事となった。

 

申し訳ないと思うが体の回復に今は努める事にする。

 

 

 

<数時間後>

 

 

 

雪雲は晴れる事無く降り注いでいた。

 

先程よりも暗くなり始めていたので恐らく午後三時から四時位の時間だろう。

 

彼の家…山小屋に辿り着くと夕餉の準備をしていた彼の家族の姿が見えた。

 

 

 

「兄ちゃん、お帰り…ってどうしたの!?」

「竹雄、悪いけど禰豆子達と一緒に布団の準備を頼めるか?」

「兄ちゃん、この人は?」

「水汲み場で倒れていたんだ。」

「行き倒れ?」

「分からない、ケガをしている様には見えなかったけど…」

「炭治郎、どうしたの?」

「母さん、この人が水汲み場で倒れていたんだ。」

「こんな寒空に?分かったわ、早くその人を家に。」

 

 

 

しばらくして囲炉裏に似た独特の匂いが漂ってきた。

 

私は漸く目が覚めた様だ。

 

先程の頭痛やこわばりもなく動ける様になったのは有難い。

 

目が覚めた私に幼い男の子が顔を覗き込んでいた。

 

 

「にいちゃん、さっきのひとがおきたよ。」

「…」

「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ…ここは?」

 

 

私はこの家の住人である竈門家の人達が利用している水汲み場で倒れていた事。

 

竈門家の長男である炭治郎君にここまで運んできて貰った事。

 

今は吹雪で外に出られないと言う説明を受けた。

 

 

「そうだったのね。」

「所でどうしてあの場所に?」

「水筒の水を補充しようとして川沿いに寄ったの、その時に気分が悪くなってしまって…」

「そうだったんですね。」

「助けて頂きありがとうございます。」

 

 

私ことクジョウ・ハスミはお礼を告げた後、自身の自己紹介をした。

 

自分は細工師で出稼ぎに出かけた所、路銀が少なくなったので近くの村に細工物を売ろうと立ち寄る予定だった事を話した。

 

恐らく本当の事を話しても理解出来ないと思ったからだ。

 

 

「まあ、まだ若いのに…」

 

 

炭治郎君達の母親である葵枝さんから関心の声を受けた。

 

彼の他の弟妹達は私の話を信じてくれた様だが、炭治郎だけは嘘を付いていると確信していた。

 

後で説明して置こう。

 

私は一宿一飯のお礼として細工物の一部を無償で提供した。

 

ちりめん細工の簪や七宝焼きのブローチは葵枝さんと娘さんである禰豆子ちゃん、花子ちゃんに。

 

木工細工の玩具は息子さんの竹雄君、茂君、六太君に。

 

炭治郎君は長男だからと拒否していたが、もしもなら売っても構わないと話して細工を施した短刀を渡して置いた。

 

刃先が鋸になっているので山仕事でも使える代物である。

 

この時代の農村…炭売りで家計を支える農民は最下層の中で困窮に陥った職業であると歴史の授業で学んだ事がある。

 

理由は昭和恐慌による煽りが原因。

 

まだその波が来たわけではないが、いずれ身受けなどで農村の人々は自身の娘を売らなければならない程の困窮が待っているのだ。

 

この子供達が大人になって家族を持つ頃にはそれが訪れているだろう。

 

そして…二度目の世界大戦に晒される。

 

絶望の時代が迫っていようともこの人達はこの地で生き続けなければならない。

 

気休め程度にしかならないが、不作になっても食料を確保出来る術を伝授しておこうと思う。

 

 

<その夜>

 

 

竈門家の人々が寝静まった頃、私はふと眼が覚めたので厠へ行こうと起き上がると炭治郎君の姿がなかった。

 

丁度、外にある厠へ出ると積もった雪に足跡があったので厠を済ませた後に足跡を追ってみた。

 

暫く足跡を進むと炭治郎君が木の棒で素振りをしていた。

 

足音に気が付いたのか炭治郎君がこちらへ顔を向けていた。

 

 

「ハスミさん、どうしてここに?」

「厠に行く途中で貴方の姿が見えなかったからどうしたのかと思って。」

 

 

炭治郎君は昼間の仕事と終えて家族が寝静まった後にこうやって鍛錬を続けていたと話してくれた。

 

理由は話せないと答えて…

 

そして同じ様に私も質問を受けた。

 

 

「あの…ハスミさん、貴方は何処から来たんですか?」

「多分、話しても信じて貰えないと思うけど…」

 

 

私は炭治郎君に真実を告げた。

 

私は異なる世界から来た者で戦いの最中にここへ落とされた事。

 

元の世界に戻る為の条件を探している事も話した。

 

 

「私は何か理由があってここに落とされた、それは間違いないわ。」

「切っ掛けとか変わった事はありませんでした?」

「そうね、声が聞こえた事位かしら…」

「声?」

 

 

私はここへやってくる前に聞こえた声の事を話した。

 

 

 

 

 

『鬼舞辻無惨、必ずお前は俺達が…鬼殺隊が倒す!!』

 

 

 

 

 

 

少年の声で怒りと悲しみが入り混じった声が聞こえた。

 

 

「!?」

「それは貴方の声に似ていた。」

「ハスミさん…」

「竈門炭治郎君、貴方は同じ時間を巡り…未来の記憶を保持する者。」

「…」

「貴方はその輪廻に囚われてしまっている、私はその輪廻を崩す為にここへ呼び寄せられたと思う。」

 

 

何度も繰り返して救いたい命を救う為に輪廻に囚われてしまった。

 

何度も繰り返そうとも失敗し挫けそうになっても進む。

 

その流れを変える為の兆しが訪れた。

 

 

「貴方との出会いも偶然じゃないわ、流れを変える為の兆しが訪れたと感じるの。」

 

 

貴方の持つ嗅覚と同じく私の感覚が貴方に引き寄せられた。

 

貴方と一緒に事を成す事が私が貴方と出会った理由であると話した。

 

炭治郎君は雪が積もった場所で正座し声を上げた。

 

 

「お願いします、俺に力を貸して貰えませんか?」

「勿論、そのつもりよ。」

 

 

放ってはおけない。

 

私は救える命があるのなら救うと決めた。

 

生きる世界は違えともこの必然に感謝したい。

 

だから、精いっぱい足掻こう。

 

私も雪の上で正座する炭治郎君に伝えた。

 

 

******

 

 

翌朝、私は葵枝さんに路銀が貯まるまで数日間滞在の許しを得て竈門家に滞在する事にした。

 

表向きは路銀稼ぎだが、本来の目的は炭治郎君の仇敵である鬼舞辻無惨を倒す為に協力する事。

 

その襲撃が一週間後に迫っていたので炭治郎君と共に路銀稼ぎと夜中の鍛錬に勤しんでいた。

 

襲撃後、鬼舞辻無惨を倒すまで住処を追われる事となるので道中の路銀は多いに越した事はないだろう。

 

日中は竹雄君と炭の材料にする木材を切る作業を手伝いながら細工物を作って売り物を増やした。

 

細工物と言っても飾り物だけではなく日用品で使える便利道具の作成も含まれている。

 

麓の村で炭と一緒に売ったら物珍しさで完売したので売り上げは上場だ。

 

生活の知恵とは便利なものである。

 

 

<一週間後>

 

 

無惨襲撃の日、私達は麓の村へ下りずに売り物を作るふりをしていた。

 

売り物がなければ麓の村へ下りる理由も無い為だ。

 

その日は天候も悪い事も重なって不信に思われなかった事も幸いだった。

 

そして運命の夜を迎えた。

 

 

「…」

 

 

吹雪の吹きすさぶ音が響く中、悪意の念がジリジリと近づいてくるのが解る。

 

炭治郎君も類まれな嗅覚で感じ取った様子だ。

 

彼に促される形で葵枝さん達を起こして奥の部屋の襖の中へに避難する様に説明。

 

その様子を悟った葵枝さんは子供達を襖の奥へ避難させてどんな事があっても絶対に出てこない様にしてくれた。

 

事前に麓の村で聞いた『人食い化け物』の噂には助かった。

 

 

 

「炭治郎君、守りは私に任せて。」

「分かりました、家族の事は頼みます。」

 

 

 

小声で話す中、コンコンと戸を叩く音が響く。

 

その相手が悪意の念の大本であると察した私は炭治郎君に相槌を打ち、奇襲へと移った。

 

 

 

「!?」

 

 

 

相手が戸を開くと同時に出てきたのは投げつけられた短刀。

 

相手もそれに察して戸から離れた。

 

 

 

「酷いですね、私は道を尋ねようとしただけなのに…」

「こんな雪山でその恰好はないと思いますけど?」

「お前からは腐った血の匂いがする…何の用があってここへ来た?」

 

 

 

小屋から出た炭治郎と閉じた戸の前で陣取るハスミ。

 

雪山には合わない洋装姿の男性に対して答えた。

 

 

 

「その忌々しい花札の耳飾り、あの男の子孫は根絶やしにする……それだけだ。」

 

 

 

洋装の男性の背から伸びる刃先が付いた無数の触手。

 

その触手は炭治郎の持った斧と打ち損ねた触手をハスミが携えていた刀で振り払われた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

異能の力を持つ鬼に対して人間がその一手を避けたのだ。

 

相手は人間の筈、たかが斧と刀ではじき返されると思わなかった。

 

その赤い眼差しと息の音…少年はあの忌々しい男と同じ気配をさせていた。

 

女の方も違う…鬼を目処前にして恐怖心と言う欠片が何処にもない。

 

双方共に共通するのは死地にいようとも生きる事を諦めない意思を秘めていた事。

 

その意思を屈服させ絶望させたいと洋装の男性こと鬼舞辻無惨は思った。

 

 

「余所見は禁物。」

 

 

女は隠し持っていた拳銃を無惨に向けて撃った。

 

あくまで牽制と相手のヘイトを自身へ向けさせる程度の扱いである。

 

この時代、日本の拳銃と言えば回転拳銃で二十六年式拳銃や自動拳銃で南部式大型拳銃等であるが彼女が使用している拳銃は違う。

 

後の年号である昭和後期に米国で開発される拳銃・デザートイーグルである。

 

理由は女性が男性を一撃で怯ませるにはどうすればいいか?

 

体術を駆使して人間の鍛えられない眼球や股間を狙う方法もあるが、それでは男性側が体術の熟練者の場合に差が出てしまう。

 

なので護身用の銃で怯ませる方法を取る事にしたのだ。

 

彼女の場合は得物である刀があればどうとでもなるが、手数は多いに越した事はない。

 

ちなみに炭治朗は拳銃の音に吃驚し何時もの顔芸を披露していた。

 

 

「え…えーーーーーーーー!?」

「炭治郎君、声が大きい……。」

「いや、あの、その!?」

「拳銃に吃驚するのは判るけど、相手が相手だから対戦車ライフルとか重機関銃位持ってこないと殺傷率は低いわよ。」

 

 

まあ普通の人間なら当たり所によるけど出血多量で瀕死に出来るわよ?

 

この時代で対戦車ライフルと言えばマウザー M1918がギリギリ妥当か…

 

バイオでハザードなロケットランチャーかミサイルランチャーでも撃ちたい気分だわ。

 

これだってマグナム弾に念動フィールド張って貫通力を上げているからマシだけど。

 

 

「貴様…っ!」

「人も日々進化する、肉体だけじゃない知識も応用もまた人の可能性。」

 

 

異形の気配がする貴方には解らないでしょうけど?と付け加えて置いた。

 

ボタボタと血を垂らす触手の一つを拳銃で撃ち抜いたのだから驚くだろう。

 

…一瞬で再生させられたのは癪に障るけどね。

 

冬季における日が昇るまで後一時間、それまで足止めしないと…

 

 

 

「フフフ…面白いな小僧に女。」

「…」

「お前達なら素質はある……鬼にならないか?」

 

 

出たよ、典型的な勧誘。

 

まあ、勿論…答えは決まっているけど。

 

 

「「答えは断る!!」」

 

 

はい、即答させて頂きました。

 

 

「…ならば、死ね。」

 

 

デスヨネー。

 

 

>>>>>>

 

 

朝日が昇るまで奴との攻防が続いた。

 

雪に残る血飛沫と争った跡。

 

微かに残る血と硝煙の匂い。

 

荒くなる呼吸の音。

 

 

「っ。」

「ふん、如何に強かろうが人間の限界はそこまでと言う事だ。」

 

 

無傷で抗っただけマシだと思う。

 

勿論、守る相手がいなければ二人して突撃していたよ。

 

それでも今回はお前を泳がせる形で目を瞑る。

 

いずれ吠えずらかかせる為にも。

 

 

「ちっ、もう夜明けか…鳴女!」

「待てっ!?」

「小僧、今しばらくは命は預けよう……だが、女!」

 

 

一瞬だった。

 

神様はいつも残酷だった。

 

 

「お兄ちゃん!?」

「禰豆子!出るなぁ!?」

「危ないっ!」

 

 

突然の行動に油断をした私は体の方が動いていた。

 

奴の触手が私の左脇腹を貫き、戸を開けた禰豆子の左側の額を掠ったのだ。

 

その時、貫かれた場所から毒々しい血の匂いと負念が湧き出ていた。

 

 

「あ…。」

「貴様に致死量の血をくれてやる、陽光に焼かれ跡形もなく消えるがいい!」

 

 

それが彼と私の代償の始まりだった。

 

 

 

=続=

 




後で主人公設定をUPします。



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己の足掻きと鋼の意思

呪いと祝福は表裏一体。

願うのは明日のみ。

だから人は抗うのだ。

目処前の理不尽だろうが宿命だろうが。


一瞬の一撃が空しく引き抜かれ、ハスミの衣類は鮮血でジワジワと流れ出した。

 

貫かれた場所から焼けるような痛みとボタボタと落ちる血。

 

内臓を痛めたのか喉元へ逆流する血反吐。

 

 

「ハスミさん…」

「私の事はいいからっ早く禰豆子ちゃん達の所へ…うぐっ。」

「は、はいっ!」

 

 

私は茫然とした炭治郎君の声を最後に口元を抑えて地面に膝を付いた。

 

 

「…」

 

 

何、これ?

 

身体が焼ける様に熱くてめくれ上がる様に痛い。

 

それにこの毒々しい負念は?

 

怨嗟や憎悪と言った負念が全身の血管を巡る様に這いずっている。

 

息が苦しい…痛くて熱くて気持ちが悪い。

 

 

「っ!?」

 

 

視点が定まらない視界を遮る冷たい手の感触。

 

耳元で奴の声が聞こえる。

 

耳障りな卑怯で残酷な…嫌な声。

 

 

『どうだ?人でない何かになる気分は?』

「…」

『これから貴様は肉体が耐え切れず肉塊となるか?このまま太陽に焼かれて死を迎えるか?夜明けを迎える前に鬼と化して守った者を屠るか?』

「…」

『どれも貴様が辿る結末だ……さあ、目処前の結末にどう抗う?』

「…」

『運良く鬼となったのなら貴様を手駒として使ってやるぞ?』

 

 

ああ、奴は怯えているんだ?

 

やっと倒せた相手を屈服させようとしている。

 

何処まで絶望し狂気に堕ちるのかを観客席から歓声を上げる様に。

 

でも、残念ね?

 

 

「私は何度でも抗う……可能性の全てを使ってでも抗って見せる!」

『くっ!?』

「さっさと私の中から出ていけ……この黒ワカメ頭っ!!」

 

 

私が屈服する事は在り得ない。

 

私が膝を付き従う相手はただ一人だけ。

 

あの人ならこう話すだろう。

 

 

 

 

_どんな事があろうとも足掻け!お前は俺が認めた女だ!!その程度で膝を付くお前ではないっ!!_

 

 

 

 

私の中で彼の声が脳裏に響いた。

 

 

「…バカな、私の支配から抗ったと言うのか?」

 

 

鬼舞辻無惨は驚愕していた。

 

目処前の光景に。

 

 

「…(まさか?」

 

 

確実に細胞破壊を引き起こす致死量を超えた血を与えた筈なのに。

 

その女は私の支配に抗った上に細胞崩壊を迎えていない。

 

雪空に指す僅かな日光に晒され身体を焼かれようとも…

 

いや、反動で肉体が動けないのか?

 

ならばいい、このまま鬼と化し日光に焼かれて消滅するだろう。

 

 

「鳴女。」

 

 

ベン!

 

 

「貴様の抗いも無駄な行為だったな?」

 

 

鬼化した禰豆子の飢餓を止めている炭治郎とその家族。

 

先に夜明けを迎えた場所で膝を付いたまま動かないハスミ。

 

その光景を目にした後、無惨は琵琶の音と共に現れた襖の出入口から撤退した。

 

その筈だった…

 

 

「これは?」

 

 

ゴロン。

 

 

己の本拠地に撤退した無惨の足元に転がる物。

 

知る者なら即座にその場を離れただろう。

 

無惨が入ったのと同時に封鎖される僅かな隙間にハスミは投げ入れたのだ。

 

ピンが抜かれた手土産式・収束手榴弾(別名、ポテトマッシャー六本巻き)を。

 

 

「…手土産位は持って行って貰わないとね?」

 

 

血だらけの腹部を抑えて立ち上がったハスミの言葉を最後に襖は閉ざされた。

 

 

「あの女ぁああああああ!!?」

 

 

無惨は閉ざされた襖を最後に硝煙と爆発音に巻き込まれた。

 

 

 

******

 

 

 

「…あ、どうせならC4爆弾と破片手榴弾も括り付けておけばよかった。」

 

 

今度で遭ったらマジで保有している重火器全部を撃ち込んでやろうかな?

 

あの人達もゾンビだろうがBOWだろうが容赦するなって言っていたし。

 

まさかこの世界でも鬼と遭遇するとは…

 

こういう事に関しては縁が在ると言うか何と言うか?

 

 

「…明るいな。」

 

 

自身の肉体が日光によって焼ける匂いも音もしない。

 

ただ、雪雲の隙間から出ている光は程良い温もりと暖かいと感じる。

 

振り向けば、泣いて炭治郎と家族に縋りつく禰豆子の姿があった。

 

母親の葵枝さんに頭突きを喰らって正気を取り戻したらしい。

 

そのお陰か、もう飢餓の状態は去ったようだ。

 

 

 

「後はもう一つの気配が厄介か…」

 

 

 

もう一つの気配、人であるが殺気立っている。

 

恐らくは炭治郎君の話した鬼滅隊の隊士だろう。

 

それも手練れである柱。

 

 

「ハスミさん、避けて!」

 

 

こちらへ向かってくる人物の匂いに察したのか炭治郎の声の後に一瞬の剣戟が弧を描いた。

 

だが、それを遮る様に刀と刀が衝突し合う音が響いた。

 

 

「いきなり攻撃とは…無粋ね。」

「…自我があるのか?(それに飢餓状態でもない?」

「だったら何だと言うの?」

「…」

「あのね、そこは黙る所じゃないと思うけど?」

 

 

聞いてた通りだけど本当に主語とか大事な部分が抜けてるし。

 

これじゃ余計に誤解を生むでしょ?

 

同僚の人達…相当参ってたかもね。

 

 

「はぁ、まあいいけど…」

 

 

そう考えるハスミを余所にとある場所の人々が盛大に噂クシャミを同時にしたのは言う迄もない。

 

 

「所で聞きたい事があるのだけど……貴方、あの男の事を知っている?」

「男?」

「昨晩、この家の人達を襲った洋装の男…相手は鬼だと名乗っていた。」

「!?」

「奴は鬼舞辻無惨と名乗っていた。(名乗ったと言うか勝手に人の精神領域に入ってきたんだけど。」

「お前は…」

「?」

「何故、奴の名を名乗って平然としている?」

「私にも分からない。」

「そうか。」

 

 

本当に話が続かない人ね。

 

どうしよう、炭治郎君に関係がある人だし…あんまり深入りする訳にはいかないし。

 

 

「お前…片目だけが鬼なのか?」

 

 

山風が一度吹き、ハスミの前髪を浚った。

 

鬼になった為に伸びた前髪で見えなかった目元がはっきりしたのだ。

 

そして襲ってきた青年こと冨岡義勇はハスミの眼を見て答えた。

 

今もガチガチと響く刀に映った自分の目元を確認するハスミ。

 

右目はいつもと同じであったが、もう一つの左目だけは変化していたのだ。

 

猫の様に瞳孔が切れている眼である。

 

 

「一体、どうなって…?」

「その腹の血の跡…奴の血を受けたのか?」

「恐らくは、戦闘中に致死量の血が如何とかは聞いていたから。」

「そうか。」

「奴は私を殺すつもりだったらしいけど失敗したって事でいいのかしら?」

「奴の呪いが効かない以上はそうとしか言えないだろう。」

 

 

またややこしい問題が…

 

兎に角、情報を整理しないと。

 

 

「あの、何が起こったのか説明しますので刀を収めませんか?」

「鬼の提案を聞くと思ったのか?」

「半分はまだ人間です。(多分。」

「そうか。」

 

 

会話が続かないと話が出来ないんですけど?

 

もう本当に空気読みなさいよ、この人は!

 

 

 

******

 

 

 

昨晩の惨劇から早朝を迎えた竈門家の山小屋にて。

 

先程の剣士である冨岡義勇の自己紹介と着替えを済ませた竈門家の人々を交えて話を進めた。

 

禰豆子ちゃんはあの後、彼が用意した竹の轡を噛まされて布団に入っている。

 

私と違って太陽の光を浴びたくない様子だったのが理由だ。

 

炭治郎君と私は昨晩に旅の者と装ってこの家を襲撃した鬼の事について説明した。

 

 

「それが今の俺達が解っている事です。」

「次はそちらが説明する番ですよ?」

「断る。」

「ねえ、炭治郎君…彼の頭に風穴開けてもいいかな?(いい加減、話が進まないんだけど?」

「あー鉄砲は駄目ですよ!!絶対に!?」

 

 

炭治郎君、私はまだ優しい方だからね?

 

知り合いの軍曹なら既に威嚇を通り越して自白させる勢いで撃っているからね?

 

 

「まあ、そっちがそうなら別にいいんですよ……その男の写真を運良く撮れたのにね?」

「何!?」

「えーーーー!!いつの間に!?」

「そもそも『人食い化け物の噂』があった時点で襲われた時に正体が判らないと対応出来ないでしょ?」

「確かにそうですけど…」

「そこで君の小屋の周辺にカメラをいくつか設置して戦闘の合間にシャッターが自動で押される様に細工して置いたのよ。」

 

 

戦闘中もカメラが破壊されない様に誤魔化すの大変だったわ。

 

シャッターのライトが反応した時に拳銃で邪魔したし。

 

時代が時代だから白黒写真なのが残念だけと…

 

後、二人ともギャグ顔芸が凄いからね?

 

 

「問題はここでは現像処理出来ないって事かしら?」

「どうしてですか?」

「写真は反転現像処理って方法で撮影した画像を現像するんだけどその機材に薬剤、暗室がないと作業が進まないの。」

「ここで手に入りますか?」

「暗室は兎も角、他は高価なものだし…東京近辺に行かないと専門の店がないから無理そうね。」

「そうか…」

「…それで情報の交換条件はどうされますか?」

 

 

仏頂面で暫く悩んだ後、義勇は提案を受けると告げた。

 

これにより鬼滅隊と判明している鬼の情報などを手に入れる事が出来た。

 

そして竈門家の人々の処遇だが、狭霧山の育手の元へ案内される事となった。

 

ここに居ても鬼にまた襲われる可能性がある為だ。

 

竈門家の人々に荷造りと禰豆子ちゃんを入れる籠を用意して下山準備を進めて貰った。

 

そして必要最低限の物だけを準備して小屋を後にした。

 

途中までの下山は義勇が同行し残りの移動は私と炭治郎君に任された。

 

何やら鴉に手紙を括り付けて連絡を取っていたが、狭霧山に居ると言う人物へだろう。

 

別れ際に義勇に例のカメラを渡して置いた。

 

もしも現像方法が判らなければ連絡する様にと念を押して置いた。

 

この時代の専門職の人なら現像出来ると思うが念の為だ。

 

 

「俺はここで。」

「冨岡さん、色々とお世話になりました。」

「狭霧山へ向かう道中は危険かもしれませんが、そこの彼女が居れば何とかなるでしょう。」

「ハスミさん…女性の方にこんな事を頼むのは筋違いでしょうがよろしくお願いいたします。」

「大丈夫です、狭霧山までの守りは引き受けました。」

「ありがとうございます。」

 

 

葵枝さんから礼を受けた冨岡はその場を去り、私は引き続き同行する事にした。

 

冨岡が去った後の様子を花子ちゃんや茂君達が『早いね。』と感想を話していた。

 

竹雄君に関しては『早っ!?』と普通の反応をしてくれた事にお姉さん安心したよ。

 

荷物を積載した荷車を押し進めながら私達は狭霧山へと歩みを再び進めた。

 

 

=続=



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御山の天狗と呼吸

生き残った命。

生まれ変わった命。

記憶の輪廻を巡る命。

どちらでもない狭間の命。

命の起源は違えど、確かに存在する。


竈門家の生家を後にして一週間が過ぎた。

 

狭霧山へ向かう為に荷車を押しながら私ことハスミは竈門家の護衛をしながら旅を続けていた。

 

道中、休憩を取ったお堂で炭治郎君が話していたマ〇キボイスのお堂の鬼に遭遇したが…

 

相手は一人だったので特に苦も無く倒す事が出来た。

 

うん、炭治郎君が斧で注意を引き付けて禰豆子ちゃんが頸をサッカーボール蹴り。

 

他の鬼がいない事を確認してから竈門家の人達をお堂の中に避難させ、私が残った肉体をぶつ切りレベルで切り刻んで崖から落として置いた。

 

最終的に日が昇り、お堂の鬼は日光消毒(と、言う名の消失)されました。

 

その様子を天狗の面を付けた老人が見ていた。

 

どうやら冨岡義勇が話していた人物で育手の鱗滝左近次氏である事が判明。

 

炭治郎君に対して問い掛けをし炭治郎君が応答した後…

 

そのお堂の敷地で喰われてしまった人達を埋葬しつつ狭霧山へと再び歩みを進めた。

 

日が昇ったのもあり炭治郎君は禰豆子ちゃんを背負ったまま鱗滝氏と共に先に狭霧山へと向かった。

 

私は竈門家の人達の護衛があるので後追いの形となった。

 

 

******

 

 

「成程、先に義勇から文を受け取ったが…この様な事があるとは。」

 

 

 

私達は狭霧山の鱗滝氏が使用する山小屋に遅れて到着した。

 

荷車の荷解きをする前に鱗滝氏に改めて挨拶を済ませた後、先に着いていた炭治郎君と共に事情説明を始めた。

 

その内容に俄かに信じがたいがと言う声だったが…

 

改めて禰豆子ちゃんの様子と私の変化を見て貰った事で信じて貰えた。

 

 

「人を喰らわずに自我を保つ鬼達か…」

「炭治郎君、禰豆子ちゃんは?」

「実はこっちに着いてから眠ってしまったんです。」

「…そう。」

「禰豆子と言う少女の状態はまだ分からんが、お主は自身の変化に関して自覚している事はあるのか?」

「はい、ここ一週間で判明した事をご説明させていただきます。」

 

 

鬼と化した私に起こった変化。

 

一つ、人への飢餓はないが人間と同じ食事が可能で人よりも数倍の量を必要とする。

 

一つ、日光を浴びても消失しないが逆に一定の時間内に浴びていないと体調を崩す。

 

一つ、鬼となる前に使用していた己の持つ力の大部分が使えなくなってしまった事。

 

一つ、鬼舞辻無惨の名を話しても自身に肉体崩壊の呪詛が発動しない事。

 

 

「以上が判明している事です。」

「ふむ…(炭治郎同様に瞬時に判断し己の状態を把握している。」

「私は鬼となった時点で鬼滅隊に追われる立場、無理を承知で貴方に告げます。」

「炭治郎と同様に鬼滅隊に入る件か?」

「はい、手がかりが少ない今…鬼舞辻無惨を追うには隊に入隊し鬼の情報を得るしかないと判断しました。」

「…(冷静に判断し最も効率のいい答えを出す、何よりも覚悟を決めた意思の強さは認めねばならんな。」

「最も鬼舞辻無惨と交戦した時、奴に効率的な負傷を負わせる武器を持っていれば話が違いましたが…」

「どう言う事だ?」

 

 

ハスミの会話の中である事を思い出した炭治郎はハスミに問う形で鱗滝に伝えた。

 

 

「そう言えばハスミさん、無惨が逃げる時に何か投げていましたけど?」

「ああ、奴が撤退する時に投げ入れたのは収束手榴弾よ。」

「収束手榴弾?」

「主に水路とか鉱山の掘削作業に使用されるダイナマイトが発展したものね、例として一本で炭治郎君達の住んでいた山小屋一軒を吹き飛ばせるわ。」

「え…?」

「無惨の撤退先に投げ入れたのは鉄線で六本ほど巻き付けたもの…命中していれば四肢から肉塊まで完全に吹き飛んでいるわね。」

 

 

さらりと笑顔で答えたハスミの表情を見て炭治郎は吃驚顔芸と声を荒げた。

 

 

「え--------------------!!!?」

「どうせなら火薬追加と破片を撒き散らす破片手榴弾も付けて置けばと後悔したわ。」

「いやいや、何でそんな物騒なものを持っているんですか!?」

「父が武器商人をやっていたの…その伝手もあったし女の一人旅には備えあれば憂い無しでしょ?」

「刀の他に鉄砲で戦っていましたけど色々と別の意味で怖いです。」

 

 

色んな意味でどう反応すればいいのか困った表情をしている炭治郎。

 

ハスミは静かに告げた。

 

 

「そもそも日輪刀で頸切るしか鬼を倒す方法はないとは限らないんじゃない?」

「えっ?」

「鬼に有効な毒があれば毒を入れた銃弾で怯ませたり、再生が不可能なまでに爆薬で細切れにするなり方法は幾らでもある。」

「…」

「もう一つは日光に弱いなら西洋方面で発見された菫外線を発生させる灯りが有効かもしれない。」

「きんがいせん?」

 

 

菫外線とは1960年代以前に使用されていた紫外線の名称である。

 

 

「主に医療や化学関連で使用されているものだけど、最近の研究で太陽から発生している可視化光線の一つとされているわ。」

「???」

「ごめん炭治郎君、もう頭の中爆発気味の内容だったね……簡単に話せば必要な材料さえあれば夜中でも日光に鬼を晒せる代物を作れるって事。」

「…(すごい、そんなものが作れるなんて。」

「ただ、あくまで理論上の事よ?私の推測段階だから試作品を作って鬼に試してみないとね…それと。」

「何か?」

「さっき話した私の戦い方は絶対に広めちゃ駄目よ?」

「どうしてですか?」

「この戦い方は鬼だけではなく人にも害を成す戦い方…広まれば使い所を間違える人も出てしまうでしょうね。」

「…」

「これは鬼舞辻無惨と配下の鬼達を倒す為の手段として使うだけに留めたいの、判ったかな?」

「は、はい。」

 

 

ダイナマイトを開発したノーベルですら自身の発明がいずれ戦争に使われる事を危惧していた。

 

何処の世界でも何かが生み出されると良からぬ方向に使いたがる人間が出てくる。

 

私の戦い方も後の世で使用される戦い方ばかりだ。

 

相手の意表を突くには十分な方法だが使用する武装は最低限こちらの時代に合わせたものを使う。

 

この世界の未来史を変えない為に。

 

近代兵器の基礎となった兵器を使用したと記録に残るソンムの戦いがそれを示している。

 

理由も無い大義無き戦いはただの殺戮でしかないのだから…

 

 

「鱗滝さん、話の筋を折ってしまい申し訳ありません。」

「構わん、お前の言う戦い方で指摘しようとした部分があったがお前は理解していた。」

「以前、戦術を学ぶ際に教わった心構えを実践しただけです。」

「その心を忘れるな、人も戦うだけの存在となれば…それは鬼と変わらん。」

「はい。」

「では、炭治郎とハスミ…ワシの元で修行するに値するか課題を出す。」

 

 

「「宜しくお願い致します。」」

 

 

炭治郎と私は鱗滝さんに一礼し課題クリアの為に狭霧山の頂上まで向かった。

 

ちなみに私達が課題中だった頃。

 

話し合いで葵枝さん達は鱗滝さんの山小屋で引受先が決まるまで生活する事が決定した。

 

その中で竹雄君が炭治郎と同じ様に修行したいと申し出たが、炭治郎が不在の間に家族を支える者が居なくなってしまう事を説明した後…本人は諦めて帰る場所を守り、待つ側になった。

 

何よりも竹雄君は恐らく呼吸が扱えなかったと後に鱗滝さんより話を聞かされた。

 

炭治郎君達の一族で長男が扱うヒノカミ神楽…それは肉体の限界を超えて鬼舞辻無惨を倒す為だけに編み出された日の呼吸のあるべき形。

 

呼吸とは鬼殺隊の者が使用する呼吸法で大きく成長させた肺に酸素を送り血液の循環を良くさせたもの。

 

酸素の供給量が大きければ呼吸を扱う者達の身体能力は飛躍的に上昇する。

 

だが、これは諸刃の剣でもある。

 

肉体への酸素供給を強めれば肉体の老化が早まると言う事だからだ。

 

寿命の前借り…痣者への一歩手前に立たされる。

 

炭治郎君が話していた事だったがこれに関しても調べる必要がある。

 

呼吸とは何か?

 

痣者とは何か?

 

二年間と言う修行の中で見出した己の呼吸についてもまた可能性の一つと視ている。

 

私はただ荒波となったこの流れに沿うだけだ…

 

 

=続=



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願う霊と散らない花

器を無くしても帰りたい。

見えなくても傍に居たい。

幼い魂達は御山に存る。


覚悟を持って刀を持ち戦う者。

一つの願いを叶える為に。

花は散ってもまた咲くのだ。


狭霧山に来て早数か月。

 

今日も炭治郎が油断して滝壺に落ちる音が響く。

 

 

「大丈夫?」

「へ…平気です。」

「それならいいけど風邪を引かない様にね?」

「ふぁい。」

 

 

私は近くの川岸に辿りついた炭治郎の元へ行き、拭きものを手渡して話しかけた。

 

本人は慣れていると話すが季節が春を迎えても山の水はまだ冷たい。

 

無理をしない様にと告げて私は自分の修行に戻った。

 

 

「…(流石に大人げない位に絶対&必ず殺す気満々で罠仕掛けているよね。」

 

 

これには訳がある。

 

炭治郎君が鱗滝さんに用意された最初の罠をいともたやすく避けてしまったからである。

 

これに対して何が何でも罠に掛からせたいと鱗滝さんの修行魂に火を点けてしまった。

 

その為、日々難易度が上がりまくっているのである。

 

 

「はぁ…(これが俗に言う…いともたやすく行われるえげつない修行法ですかね。」

 

 

ちなみに私は普通に歩いている場所に向けて飛び出してくる刃物や竹槍を避けながら竈門家の人達が生活する麓近くの山小屋まで釣瓶型の桶に入った水を運んでいた。

 

 

******

 

 

一方その頃、山小屋の近場に作った畑に種植えをする竈門家の人々の様子を見ながら縁側付近で末っ子の六太を寝かしつけている鱗滝の姿があった。

 

 

「…」

 

 

 

>>>>>

 

 

 

略啓、鱗滝左近次殿。

 

 

寒村の山小屋に住む一家が鬼舞辻無惨と思われる鬼の襲撃を受けました。

 

しかし、その一家はその家族の長男と細工師と名乗る女性によって守られましたが…

 

残念ながら一家の長女と細工師の女性は鬼舞辻無惨の血を受け鬼にされました。

 

所が、その長女と女性は人を襲わず女性に至っては自我を保っていました。

 

この事もあり半日程、この家族を監視していましたが長女と女性が人間を襲わないと判断致しました。

 

鬼にされた二人には何か他と違うものを感じます。

 

そして一家の長男と女性は鬼殺の剣士になりたいとの事で家族共々そちらに向かわせました。

 

少年の方は貴方と同じく鼻が利き、女性に至っては異国の鉄砲で鬼を退けた手練れです。

 

驚く事は双方共に俺の初撃を退けた点です。

 

もしかしたら“突破”して“受け継ぐ”事が出来るかもしれません。

 

どうか育てていただきたい。

 

手前勝手な頼みとは承知していますが何卒御容赦を。

 

御自愛専一にて精励くださいますようお願い申し上げます。

 

 

怱々、冨岡義勇。

 

 

 

>>>>>

 

 

竈門家が狭霧山を到着する数日前に送られた文の内容を思い出す鱗滝。

 

横で眠る六太を撫でながら呟いた。

 

 

「義勇、恐らくお前が指摘した通りあの者達は兆しやもしれん。」

 

 

人を喰らわず、今も日光に晒さない様に奥の部屋で眠り続ける禰豆子。

 

旅の細工師と名乗り異国の知識と技術に鉄砲を操るハスミ。

 

まっすぐな意思と揺ぎ無い意思で修行を続ける炭治郎。

 

それはまるで石を落とした水面に浮き出る波紋の様に広がっているやもしれん。

 

 

「鱗滝さん、六太の面倒を見て頂いて有難うございます。」

「構いませんよ、それよりも子供らを育てるにも何かと物入りだろう。」

「はい、生まれた場所であんな事があってもあの子達は懸命に生きようとしています。」

 

 

六太の様子を見に葵枝が鱗滝の元へやって来た。

 

鱗滝と話をし自分は食べ盛りの子供を六人も抱えていようと母親してしっかりと育てねばと決めていた。

 

その願いも届かず残酷に。

 

息子であり長男の炭治郎が妹の禰豆子を元に戻す為に今も鬼狩りに入る為の修行をしている。

 

何故、止めなかったのかと鱗滝は葵枝に尋ねた。

 

 

「止めようと思わなかったのか?」

「ええ、炭治郎が禰豆子を元に戻す為に必要な戦いに出る事を…あの子が決めたのなら私は止める事は出来ません。」

「…」

「きっと何時かこうなると思っていましたから。」

「どういう事ですか?」

「夫が亡くなる前に夫の祖先が花札の耳飾りを付けた侍に救われた事をきっかけに竈門家は代々の長男…今は炭治郎が付けている耳飾りと神楽を引き続いだと話を聞いた事がありまして。」

「ふむ…」

「日の出を模した耳飾りと一夜を掛けて舞う神楽…伝承したヒノカミ神楽は鬼を退治する為の神楽だったのでは?と思うのです。」

「そうか。」

 

 

修行の合間に炭治郎が夜な夜な練習しているヒノカミ神楽は何処か呼吸にも似た動作がある。

 

炭治郎が父親に『疲れない呼吸』があると話していた。

 

ハスミは『それは恐らく全集中の呼吸に似た体内の血をより効率よく全体に巡らせる為の方法。』であり『ヒノカミ神楽は鬼殺隊が使う呼吸と何処か繋がりがあったのでは?』と推測した。

 

それが本当であれば、何処かの時代の鬼狩りが竈門家に謎の呼吸を教えたと言う事になる。

 

そして呼応する様に鬼の首魁・鬼舞辻無惨による竈門家の襲撃。

 

話を聞いたハスミは『あくまで予測ですが、竈門家は無惨の弱点となる何かをヒノカミ神楽として伝承していた可能性がありそうですね。』と推測している。

 

異国の知識と技術そして歴史と民謡に関する考察と推測に古き伝承を紐解く解読術。

 

これが兆しでなければ何だと言うのだろうか?

 

運命ではなく必然的に炭治郎とハスミは出会う為にあの日に出会ったのだ。

 

鬼舞辻無惨と言う鬼を倒す為のこの世に持たされた一つの希望として…

 

 

 

******

 

 

<一年後>

 

 

狭霧山の中腹に位置する巨石の前。

 

炭治郎は最終選別と呼ばれる鬼殺隊へ入る為の試験に行く為の課題を終えても修行を続けていた。

 

理由は巨石の前で出会った錆兎と真菰の事である。

 

二人の正体はハスミが『あの子達は残留思念……云わば幽霊の様な存在よ。』と看破した。

 

二人は過去に最終選別でとある鬼によって殺され、その魂は今も縛られている。

 

 

「よく俺達の正体が判ったな?」

「うん、私も驚いた。」

「ハスミさん、どうして二人が幽霊だと?」

「何時も黄昏時と丑三つ時にしか姿を現さないからよ。」

 

 

その二つは一番この世とあの世の境が曖昧になる時間帯。

 

狭霧山は清浄で浄化に優れた霊山である事。

 

炭治郎が二人の事を見えたのは大人に成りきれてない段階の世代だから。

 

 

「最も私はこの手の厄介事を仕事にしていたから見分けがついただけよ。」

「もう何でもアリですね。」

「人間、慣れるとどうとでもなるの。」

「ハハ、面白い弟妹弟子達だな。」

「フフッ本当だね。」

 

 

右頬に傷を持つ錆兎と小柄な真菰は久し振りに笑い合っていた。

 

死して尚もこの山で自分達の願いを叶えてくれる存在を待ち続けた末に漸く出逢えたのだから。

 

 

「最終選別、頑張れよ。」

「私達もここから応援しているからね。」

「解った。」

「大丈夫、何時か願いが叶う時が訪れるから。」

 

更に一年後、数々の想いを背負って私達は最終選別の地。

 

藤襲山へ赴くのだった。

 

=続=

 




=竈門家襲撃から一ヶ月後の事=

ある町で鉄扇を持った鬼と少女と言っても可笑しくない女性の剣士が戦っていた。

だが、何者かの介入により双方の戦いは中断した。

夜明けを迎えた後、女性剣士は深傷を負うが死ななかったものの昏睡状態に陥り、二年後になっても一向に目覚める気配がなかった。

この状況を崩す兆しが訪れるのはもう少し先の事。

花は散ってもまた咲くのだ。


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最終選別と巨牙の鬼

藤の花が薫る御山。

鬼狩りを目指す者が集う。

七日間における生と死の牢獄。

真の意味で生と死を賭けた戦いが始まる。




最終選別の地、藤襲山。

 

一年中藤の花が咲き乱れる山。

 

鬼にとっては牢獄と化す場所。

 

鬼滅隊に志願する者はここで最終選別を生き抜き鬼狩りとなる。

 

生と死の狭間、夜と言う闇の世界で戦う為に過酷な試験となるだろう。

 

 

******

 

 

藤襲山へ向かう前の事。

 

私ことハスミと炭治郎君は鱗滝さんより最終選別に向かう為の衣服と厄除の面を渡された。

 

鱗滝さんと同じ羽織は葵枝さんら竈門家の人達が修行中の私達の為に作ってくださったのだ。

 

自分達は祈る事しか出来ない。

 

無事に帰ってこられるようにと丁寧に縫われていた。

 

厄除の面は鱗滝さんが最終選別に向かう弟子に渡すお守りだそうだ。

 

炭治郎君のは日輪が描かれ、私のは睡蓮の花が描かれていた。

 

どうやら私が着ていた羽織から睡蓮が好きなのだろうと思ったらしい。

 

師匠ながら、弟子の事を良く見てくれているなと思った。

 

 

「では、行って参ります。」

「うむ、気をつけてな。」

「兄ちゃん、頑張ってな。」

「おう、竹雄…母さんと禰豆子達の事を頼むな。」

「任せてよ。」

 

 

狭霧山の山小屋の前で出発の挨拶を交わした。

 

 

「炭治郎、ハスミさん、気を付けて。」

「ありがとう、母さん。」

「はい。」

 

 

花子、茂、六太に『いってらっしゃーい!』と元気に手を振られながら私達は狭霧山を下山した。

 

炭治郎君は去り際に鱗滝さんに『鱗滝さん、いってきます!錆兎と真菰によろしくと伝えてください!』と告げた。

 

 

「炭治郎、何故お前が…」

 

 

炭治郎の告げた名前に反応し『…死んだあの子達の名を知っている?』と鱗滝は呟いた。

 

 

 

>>>>>>

 

 

 

狭霧山を離れて数日後。

 

私達は試験会場である藤襲山へと到着した。

 

名の通り、藤が咲き乱れる場所であり柱で囲った広場の前では他の育手の元で修行をしていたと思われる候補生達が集結していた。

 

その殆どが炭治郎君と同じ年代の男子が多く、女性は私と蝶を指先に止まらせた少女位だ。

 

人数はざっと二十一名。

 

鳥居の前に提灯を携えた少女達より最終選別の説明が始まった。

 

 

「皆様、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。」

「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり外に出る事はできません。」

「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中狂いて咲いているからでございます。」

「しかし、ここから先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。」

「この中で七日間生き抜く。」

「それが最終選別の合格条件でございます。」

「では、いってらっしゃいませ。」

 

 

少女達の説明が終わるのと同時に候補生達は山の中へ駆け上がった。

 

私は炭治郎君に後から追いつくからと話して最後に残る形で入った。

 

入る時に少女達に告げて置いた。

 

 

「逃げなさい、この山の奥から鬼とは異なる得体の知れない気配がする…場合によっては候補生達の全滅もあり得るわ。」

 

 

と告げてから奥へと進んだ。

 

 

「あの方は…」

「お館様に文を送りましょう、あの方の言葉が本当ならば何かが起こる筈です。」

 

 

少女達は狐の面を付けた女性の言葉を信じて鬼殺隊本部へ急ぎの文を出した。

 

だが、文を出したものの鬼殺隊の柱は各地の担当区域に出現した謎の鬼と交戦中との事で動ける柱がいなかった。

 

鬼滅隊設立史上最悪の事態が着々と候補生達の足元に忍び寄っていた。

 

 

「炭治郎君!」

「ハスミさん!」

「無事の様ね。」

 

 

飢餓状態の鬼を切りながら炭治郎君の気配を追い、ニ~三体切った所で合流する事が出来た。

 

 

「はい、所で何かあったんですか?」

「山の奥の方で鬼の他に妙な気配がしてね…炭治郎君も鬼と異なる妙な臭いがしない?」

「いえ、まだ何にも。」

「そう、となるとまだ動いていないって事か…」

「?」

 

 

鬼の気配に混じって異様な気配が動かずに山の奥地で陣取っていた。

 

基本鬼は群れない。

 

では、鬼と異なる何か?と推測した。

 

 

「炭治郎君、貴方の言う手腕が発達した異形の鬼を倒した後…私はその気配を追うわ。」

「だったら俺も…!」

 

 

無茶をする炭治郎君に対して私は正論で静止させた。

 

 

「まずは様子見、私が偵察して一緒に倒せるのなら協力してくれればいい。」

「わ、判りました。」

 

 

私は戦闘を行う際に必ず偵察と調査と考察と対応策を練る。

 

土壇場だったら戦闘中に調査し弱点を見つけるだけだ。

 

無用な犠牲を出す事はしないしさせない。

 

私は自身の命がある限り、出来得る事をするだけ。

 

炭治郎君の無茶ぶりは二年間の修行生活で身に染みて理解しているし。

 

神様レベルで本人無自覚のド天然タラシである事も危惧していた。

 

 

「…(竹雄君も禰豆子ちゃんもこの炭治郎君の天然タラシで頭抱えていたものね。」

 

 

私は軍属時代の同期だった幼馴染を思い浮かべてしまった。

 

飲んだら即気絶確定の特製栄養ドリンクが懐かしいわ。

 

 

「この腐った匂い…ハスミさん、奴が来ます!!」

「っ!?」

 

 

炭治郎君の嗅ぎ取った鬼の匂い。

 

それは鱗滝師匠やその弟子達の因縁の相手。

 

通称、手鬼である。

 

 

「また来たな、俺の可愛い狐が…」

 

 

無数の手に捕まれた候補生らを救助し逃がしてから私達は体制を立て直した。

 

かなり怯えていた様子だったし逃がした二人は再起不能だろう。

 

 

「狐小僧、今は明治何年だ?」

「今は大正時代だ!」

 

 

炭治郎が答えるとこの某御大将ボイスの鬼は叫び狂った。

 

 

「アァアアアアア!!!?!?年号がぁ!?年号が変わっている!!」

 

 

憤激し足で地面を抉る様に地団駄を踏む。

 

 

「まただ!!また!!俺がこんな所に閉じ込められている間にアァアアア!!許さん!許さんんん!!」

 

 

怒りで己の腕を血が滲むまで掻き毟っていた。

 

 

「鱗滝め、鱗滝め、鱗滝め、鱗滝めっ!!!」

「お前が鱗滝師匠が捕まえたと言う鬼か…!」

「そうさ、忘れもしない四十七年前…アイツが鬼狩りをしている頃だ。」

「四十七年前…江戸時代の慶応の頃ね。」

 

 

恐らくこの鬼は蟲毒と同じ原理でここまで異形化したのね。

 

鬼も人の変化前…鬼同士の共食いで飢餓を補う事で無数の無惨の血が巡り、より強い力を増す事が出来る。

 

奴はこの藤襲山と言う壺の中で生き残った呪詛そのもの。

 

 

「何人喰った…?」

「五十人近くだ…十三、お前と女で十四と十五だ。」

「まさか!?」

「俺が喰った鱗滝の弟子達の数だよ…そこの餓鬼とお前で丁度十五人目だ。」

 

 

奴は『鱗滝の弟子は必ず俺が殺して食ってやるって決めているんだ。』とニタニタ口元を隠しながら笑っていた。

 

その中で真菰と錆兎の最後も聞かされた。

 

狐の面は奴にとっての目印、これまでに十三の兄姉弟子が奴に喰われたのだ。

 

 

「炭治郎君、遠慮はいらないよね?」

「はい。」

 

 

呼吸が鋼の様に固く鋭くなる。

 

呼吸が清らかな水が熱く燃える。

 

互いの呼吸の方法は違えどそれは目処前の鬼を倒す為に剣技が煌めく。

 

 

「私から行く……鋼の呼吸、壱ノ型・裂鋼っ!」

 

 

鋼の如く地面を抉り地中に奥の手を隠した手鬼の手腕を土塊ごと切り裂く。

 

その反動で吹っ飛ばされた手鬼の頸を隙の糸が張り詰めた。

 

 

「水の呼吸、壱ノ型・水面切りっ!!」

 

 

水面の一閃が手鬼の頸を切り裂いた。

 

鬼を前にしても怯まず呼吸も乱れない。

 

彼らにあるのは覚悟の違い。

 

恐れず前へと進む決意の表れだった。

 

 

「…(借り物だけど打刀サイズの刀では私の呼吸に合わない。」

 

 

かつては連撃による手数を増やす剣戟を使っていた私だったが…

 

鬼化の影響によって力の反動が強くなってしまいかつての剣戟が使えなくなってしまった。

 

極端に言えば鬼化の過程で生まれた鋼の呼吸は巨大な太刀や巨剣による一撃必殺の為の呼吸。

 

火器はその補助に当てる戦法にすべきだろうと私は思った。

 

そんな考えをしていた横で炭治郎君が頸を切られ消え逝く手鬼の手を握り祈った。

 

次に生まれ変わる時は人間でありますようにと…

 

 

「!?」

 

 

手鬼が消えたの同時に響く地響き。

 

 

「ハスミさん!」

「構えて炭治郎君、来るよ……私が感じていた気配の源が。」

 

 

こちらに向かって広がる気配と異様な匂い。

 

それは先程の手鬼達とは比べ物にならなかった。

 

 

「あれは…!」

 

 

眼で目視した異形。

 

それは先の手鬼よりも大きく異形で湧き出る不快な気配。

 

一言で表すなら化け物と表現してもいい存在。

 

詳しく表現するなら狼と猪を掛け合わせた四足歩行の化け物。

 

それが獲物を見つけるのと同時に口元からだらしがない位の涎を垂らしていた。

 

地面に落ちた涎は地面を溶かし草木へ飛び散り腐食させていた。

 

こんな化け物が他の候補生の元へ向かったら試験処か大パニックを引き起こす。

 

 

「この匂いは…?」

「炭治郎君、アイツから無惨の気配がする……もしかすると奴と関係があるかもしれない。」

 

 

炭治郎君の話になかった余りに巨大な異形の鬼。

 

恐らくは私と言う異物が入り込んだ事で生まれた存在。

 

確実に無惨にとっての不確定要素を倒す為だけに生まれた自我無き化け物。

 

 

「覚悟は?」

「もう出来ています、行きましょう!!」

「判ったわ!」

 

 

流石に油断は出来ないので仕込んでおいた手榴弾のいくつかを奴の口に目掛けて放り込む。

 

奴は咀嚼して破壊しようとしたが、圧力による爆破の影響で奴の口元が木っ端微塵に弾け飛び夥しい血が流れていた。

 

 

「ガァアアア!?!?」

 

 

続けて炭治郎君と連携し半々で奴の四足の筋を狙う。

 

俗に言う動き封じである。

 

足の顕を切られた事で奴の巨体は地面に転がり再び奇声を上げた。

 

 

「ハスミさん、一緒に奴の頸を!」

「ええ!!」

 

 

二人は型の中で最も重い剣技を奴の頸に向けて放った。

 

 

 

「水の呼吸、捌ノ型・滝壺っ!!」

「鋼の呼吸、参ノ型・覇鋼…!」

 

 

双方共に上段から打ち下ろす剣技であり威力はその倍である。

 

その剣圧が異形の鬼の頸の肉と骨を抉り砕き切り落とした。

 

日輪刀が弱点なのは変わらないが、大きさが大きさなので二人以上でなければ切れなかっただろう。

 

 

「ハスミさん、この鬼は一体?」

「判らない、ただ一つ言える事は炭治郎君が経験した過去以上の何かが起こり始めているかもしれないって事だけね。」

「何かとは?」

 

 

私は首を横に振って不明だと知らせた。

 

動かなくなった異形の鬼の死体を観察するとある事が判明する。

 

素体に使われた動物の死骸が日本古来の種ではない。

 

毛並みや大きさから外来種の可能性が高い。

 

そしてこの異形の鬼はその外来種の動物と鬼となった人間を掛け合わせたキメラの様なモノ。

 

そこに自我はなくただ人間を襲い喰らうだけの化け物。

 

しかし、この藤襲山に出現したのは何故か?

 

 

「調べる必要があるかもね…」

 

 

私は死骸となった異形の鬼の一部を幾つか検体として保存して保存用のケースに入れた。

 

日光に当てれば消えてしまうので細心の注意が必要である。

 

 

>>>>>>

 

 

ハスミと炭治郎の活躍により緊急事態は避けられた。

 

この初日のドタバタの後、残りの最終選別の試験終了まで静かに終わった。

 

手鬼や超大型の異形の鬼を倒したからだろうか?

 

弱い鬼が間を置いて襲い掛かってくるだけで特に気にしなかった。

 

雨の日も晴れた日が交互に巡り、七日目を迎えた朝に生き残り達は最初の広場に集結した。

 

その数は僅か五名、残りは死んだか試験続行不可として下山していた。

 

何事も無く階級と隊服の支給がなされ鎹鴉(内一匹は雀)が一羽ずつそれぞれの肩にや手元に降り立った。

 

そして刀の材料になる玉鋼を選ぶ段階になって顔に傷のある少年が少女の片割れに悪態をついたので…

 

 

「ねえ、君…話聞かなかったの?」

「な、何だよ?」

 

 

私は持っていた刀の鞘で傷の少年の弱点にフルスイングしておいた。

 

 

「っううううう!!!!!?」

「人の話は静かに聞く事、女の子の顔に怪我をさせない事、これ常識よ。」

 

 

傷の少年にフルスイングした所を同時に抑える顔を青褪めさせたタンポポ頭の少年と炭治郎君を余所に。

 

そのまま私は殴られて口を切ってしまった案内役の少女にハンカチを渡した。

 

 

「少し切れてるし後で腫れるかもしれないから御家に帰ったら薬を塗って患部を冷やして置いてね。」

「…ありがとうございます。」

 

 

それから傷の少年に女の子に謝罪させ各自で玉鋼を選んだ後、藤襲山から下山した。

 

 

「炭治郎、試験合格おめでとう。」

「ハスミさんも合格おめでとうございます。」

 

 

私達は互いに試験合格を喜び合い狭霧山へと帰路を向けた。

 

これからが本番であり戦いの始まりでもあった。

 

 

=続=




※鋼の呼吸

鬼化した主人公が編み出した呼吸。
名の由来は所属部隊の名称から一文字拝借した。
鋼の如く固く、動じず、力強く、精神支柱が折れない人物が扱う。
鬼化の影響で鬼特有の腕力もあり、この呼吸も大太刀や巨剣を武器として使用する事で効果を発揮する。
派生となった呼吸は現在の所は不明。


=今回使用した型=


*壱ノ型・裂鋼(サキガネ)
文字通り対象を切り裂く剣術。

*参ノ型・覇鋼(ハガネ)
重い剣圧と剣撃を相手に与える一撃特化に近い剣術。


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色変の刀と旅立ち

己の刀を携えて。

剣士達は旅立つ。

その先は夜の世界。

闇夜を超えて立ち向かえ。


私ことハスミは炭治郎君と共に最終選別に合格し藤襲山を下山。

 

下山と同時に私は鱗滝師匠の元へ急ぎの文を送った。

 

内容は試験中、藤襲山に出現した超大型の異形の鬼の件である。

 

もしも各地で似た様な出来事があれば情報が欲しいと内容に添えて。

 

速達でと意味を込めて自身に付いた鎹鴉に文を括り付けてから話した。

 

 

「急いで…この文を狭霧山の鱗滝師匠の元へ届けて欲しい。」

「分かったぜ!美人のお嬢さんの頼みとあっちゃあ~叶えるのが男の意地ってもんよ!!」

「…」

 

 

何この…某七色の声様ボイスのエ〇ィ・マー〇ィーみたいなノリは?

 

そもそも鎹鴉って話せるんだ、へー。

 

この世界にも人語を解せる鴉っていたのね。

 

 

「ハスミさん、大丈夫ですか?」

「うーん、少しだけ吃驚したかな?」

「えー!少しだけー!?」

 

 

炭治郎君、何時もの顔芸する気持ちは解るよ。

 

でもね…

 

世の中には人語を介する生物っているのよ。

 

戦友に猫型の使い魔と契約したり、獣人とかいたり、ちなみに私…異星人の恋人がいるからね?

 

私はその事を自分の中で留めていた。

 

 

「炭治郎君、最終選別の疲れが残っているけど狭霧山へ帰りましょう。」

「はい。」

 

 

私は炭治郎君を鼓舞し狭霧山へと引き続き帰路を向けた。

 

七日間の攻防で水色の羽織は雨と泥で汚れてヨレヨレ。

 

当然入浴などもしていないので汗臭さも漂う。

 

昔、無人島で一週間サバイバル訓練していたのを思い出す。

 

 

「…よく頑張ったね。」

「俺は長男だから父さんの分まで皆を引っ張っていかないと…」

「炭治郎君。」

「はい?」

 

 

私は労いの言葉を炭治郎君に掛けるも、いつもの口癖が出たので覆させた。

 

 

「長男は関係ない、貴方は貴方で頑張った…それは誇っていいし時には甘えていいの。」

「ハスミさん。」

「貴方の様に親を無くして背伸びして無理に大人になろうとしていた子を何人も見てきた。」

「…」

「貴方位の子はまず一杯悩んで沢山考える事が大事、何度失敗したっていい…自分が正しいと言う答えを出せばいいの。」

「俺っ…俺。」

 

 

私は同じ師の下で修行した同期でも年上だから炭治郎君の事を放ってはおけなかった。

 

この時代の長男はどうしても古い因習に…言葉に縛られてしまう。

 

気持ちは解る、それでも少し位は甘えてもいいと思うのだ。

 

涙を堪えてずっと我慢していた炭治郎君を私は抱き締めた。

 

今いるルートには人気はないし泣くなら十分泣けるだろう。

 

一杯泣いて、一杯思いを吐き出して、前へ進めばいい。

 

私もまた記憶を持ったまま転生を繰り返す運命を知るからこそ支えたいと思うから。

 

同じ人生と記憶を繰り返すと言う事は経験した喜びの他に怒りや苦しみ、悲しみをまた繰り返す事だから。

 

 

******

 

 

数日後の夜、私達は狭霧山の山小屋へと辿り着いた。

 

夜も更けていたので時代が時代なだけに灯りが乏しい地域は提灯がなければ視界を確保出来ないだろう。

 

幸いにも私は鬼化の影響で夜目が効くし今宵は月が出ているのである程度は明るい。

 

木の棒を杖替わりにする位に炭治郎君の疲弊は凄まじい。

 

山小屋が見えてくると足蹴で戸が蹴り飛ばされたのを目視する。

 

その正体はずっと眠り続けていた禰豆子ちゃんだった。

 

炭治郎君は倒れながらもこちらに気が付いた禰豆子ちゃんを抱き締めていた。

 

 

「禰豆子ぉお…やっと目が覚めたんだな、俺と母さんや竹雄達も心配したんだぞ。」

「…」

 

 

禰豆子ちゃんはそのまま抱きしめたまま炭治郎君の頭を撫でていた。

 

こちらの様子に気が付いたのか竈門家の人達や鱗滝師匠も出てくると帰還の言葉と抱き締め合った。

 

 

「炭治郎、ハスミさん…お帰りなさい。」

「只今、母さん。」

「葵枝さん、無事戻りました。」

 

 

竹雄君達も口々に『お帰り。』と告げていた。

 

その夜の夕餉は賑やかだった。

 

囲炉裏の前で炭火焼きの川魚や吊るされた鉄鍋からは山菜と野鳥の肉がグツグツと煮込まれていた。

 

寒村の山小屋に居た頃よりも竈門家の顔色は良くなっている。

 

ここ二年間の食生活の変化だろう。

 

食事も終わり、竹雄君達が安心して眠りに就いた後で私と炭治郎君は藤襲山で起こった出来事を鱗滝師匠に告げた。

 

 

「内容は先に送らせて頂いた文と同じです。」

「ふむ…弟子達を喰らった鬼の他に巨体の鬼か。」

「はい、無惨の気配の他に炭治郎君が鬼と幾つもの獣の匂いを感じ取りました。」

「ハスミ、直に見たお前の意見を聞きたい。」

「では、こちらで分かった範囲からで宜しいでしょうか?」

 

 

ハスミは藤襲山に出現した巨体の鬼について改めて説明した。

 

一つ、その鬼は余りにも巨大で一例として山小屋二つ分の大きさ。

 

二つ、その鬼は自我がなく一つの鬼に複数の獣が合わさっていた。

 

三つ、掛け合わさっていた獣は狼と猪でどちらもこの国の種ではなく外来種。

 

四つ、無惨の気配があったので何らかの関りがあるのは確実。

 

五つ、一体なら兎も角…複数が現れたのなら柱が出なければ勝ち目がない。

 

六つ、一体の頸取りは最低でも手練れが二人以上で力に秀でた剣圧が必要。

 

七つ、今回の鬼の姿は西方の国の伝承にある伝説の魔物…キメラに酷似している。

 

 

「以上が私が得た情報です。」

「…」

「奴の遺体は死亡を確認した後で遮光布に巻いて戦闘場所へ放置してあります、最終選別で来訪していた使者の方に話を通して置いたので今頃は本部へ引き渡されていると思います。」

「相変わらず手際が良いな。」

「敵がより大きな戦力を出してきたのであれば、対抗する為の絡め手繰り手を増やすだけです。」

「それが剣技と並行して扱う銃や爆薬も含まれているのか?」

「はい、そして私が編み出した呼吸についてですが…」

 

 

私が編み出したのは水の呼吸ではなく鋼の呼吸。

 

鱗滝師匠の話では始まりの呼吸から水・炎・風・岩・雷の五つの呼吸が生み出された。

 

枝分かれする様に水から蛇・花、花から蟲の呼吸。

 

炎から恋、風から霞、雷から音の呼吸が生まれた。

 

鋼の呼吸と呼ばれる呼吸を扱う剣士は存在せず、新たな派生だろうと推測された。

 

また、剣術の型を見て貰ったが示現流に酷似していると指摘されました。

 

私に剣術指南の基礎を叩きこんだ師が示現流の使い手だったので似るのもしょうがない。

 

その為、『貸し与えた打刀では本領を発揮できなかったのでは?』とハッキリ言われた。

 

 

「示現流?」

「江戸時代に薩摩藩を中心に広まった一撃必殺の剣術の事よ。」

「この流派は主に刀は太刀や野太刀を使用し幕末にその流派と戦った武士の中には、自分の刀の峰や鍔を頭に食い込ませて絶命した者がいる。」

「えーえええええ!!!?(相手の頭を食い込ませるって…どれだけ力が掛かっているんだ!?」

「呼吸も相まって日輪刀も太刀の大きさにしたら鬼の頸ごと潰すかもしれないわね?」

 

 

もはや潰れたトマトですわ。

 

元隊長なんて冷凍マグロの解体ショーをやろうとして舞台ごと切ったお茶目様ですから。

 

もはや炭治郎君が脳内混乱状態で話が進まないと悟られたのでそのまま就寝。

 

体力の回復や修行を続け、作成された日輪刀到着日の十五日目を迎えた。

 

 

「お前が竈門炭治郎か?」

「は、はい。」

 

 

この炭治郎の刀を打った刀鍛冶の鋼鐡塚さんと私の刀を打ってくれた磨鋼さんが到着した。

 

二人ともかなりの曲者で片方は人の話を聞かないし、もう片方はエグイ位に肉体美を見せつけてくるので唖然だった。

 

で、問題の日輪刀は別名色変わりの刀とされ持ち主によって色が変わるとの事。

 

炭治郎君は黒刀、私は紺と藍色が合わさった刀だった。

 

鋼鐡塚さんは子供かよって位に暴れまくり、磨鋼さんは歓喜でボディビルダー張りのポーズを披露した。

 

もう何でもアリだね。

 

 

「カァアア、北西、北西の町で若い娘が行方知れずとなる、階級・癸の炭治郎、ハスミ両名は北西へ迎え。」

 

 

刀も到着し、炭治郎君の鎹鴉からの任務を受けた後。

 

私達は隊服に着替えて出発の準備を進めた。

 

竈門家の人々は本部から下働きの仕事があるそうで紹介先に移動する事が決定。

 

後で使いを寄越すそうだ。

 

 

「では、行ってきます。」

「落ち着いたら時々、顔を見に行くから!」

 

 

炭治郎君は禰豆子ちゃんの入った木箱を背負い、私は片目を隠す眼帯と外套を羽織って鱗滝師匠と竈門家の人々に見送られながら狭霧山を再び下山した。

 

 

 

=続=

 




※主人公の鎹鴉
間違った意味で西洋文化に染まりまくった鴉。
前に仕えていた人が西洋文化に興味を持っており、その関係からである。
前任者は生きているが左足を失う負傷で鬼滅隊を除隊しており、横浜方面でその手の仕事に着手している。



=最後にさよならを=


最終選別が終了し狭霧山へ帰還した当日の深夜。

私達は竈門家の人達に留守を頼み、例の巨石が置かれた場所へ移動した。

そこにはもう一人、文を受け取って現れた人物が待っていた。


「ぎ、義勇さん!?」
「久しぶりだな。」
「一体どうして?」
「…私が呼んだの。」
「ハスミさん。」
「俺を呼んだ理由は何だ?」
「そろそろかな?」


丑三つ時、月明かりに照らされた巨石の前に現れた狐の面を付けた少年少女達。

その中に彼らの見知った相手が居たのだ。


「錆兎…なのか?」
「真菰、お前達…」


鬼に食い殺され亡くなった者達が生前の姿のまま現れた。

これは幻か奇跡か?


「皆、貴方達と最後に話をしたいと願っていました…私はほんの少し力を貸しただけです。」


私と炭治郎君は別れの言葉を告げる彼らの邪魔をしない様に姿を消した。

手鬼を倒した事で霊と化した彼らがここに居られるのは今晩だけ…

最後に伝えたい事があるのなら伝えてと念を押して置いた。

彼らが二人に対して何を語ったのかは秘密にしておいた。

内容は似たり寄ったりだったし…


「私達はもう行くね…きっとまた会えるから。」
「義勇、俺の思いを継いでくれてありがとう。」


一人、また一人と姿を消していった。

遺恨は怨霊と化す要因、憂いなく彼らを行かせる為に必要な事だ。


「錆兎、真菰…皆、見守っててくれ。」
「俺達は必ず無惨を倒す…失った命の為に生きる為に。」


願いは紡がれる。

いつか大きな形となって支えられるだろう。

その後、鱗滝師匠達から私の力の事について質問攻めにあったが正直に話して置いた。

理解できる範囲までだが、隠す必要はないので。


=終=


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沼の鬼と姿無き巨牙の鬼

夜な夜な娘が攫われる。

音も無く静かに。

奴は知らなかった。

己の隠れ場所が一番危険な場所である事を。



狭霧山を下山し北西の町へとやって来た私達。

 

道中、秘蔵品を使ったので移動距離を稼げている。

 

炭治郎君は初乗りだったので放心状態だが期にはしていない。

 

河川に港が築かれた町は例の事件の噂で持ち切りだった。

 

町の茶屋で休憩を取りながら店の女将にそれとなく噂話を伺った。

 

 

「娘が行方知れず?」

「そうなのよ、家の中に居ても外に居ても夜な夜な町の娘さん達が攫われているの。」

「そうでしたか…」

「皆、嫁入り前の娘さんばっかりで…かどわかしにでもあったんじゃないかって。」

 

 

『かどわかし』とは現代における『誘拐』の事である。

 

鬼の仕業じゃないかと考える私を余所に女将さんはヒソヒソ声で話を進めてくれた。

 

 

「それと、ここだけの話……近くの監獄所に送られる罪人達がニ~三日前に化け物に喰い殺されたらしいのよ。」

「化け物ですか?」

「噂じゃ何処からともなく巨大な蛙の声が聞こえたって話しだよ…。」

 

 

例の超大型異形鬼か?

 

また調べる必要があるって事か…

 

 

「…早い内に町を離れた方がいいかもしれませんね。」

「そうしな、そうしな、そろそろ夕暮れだしどっかで宿取って朝の内に出た方がいいさね。」

「色々と教えて頂き有難うございます。」

 

 

おかわりのお茶を頂いた後、私は隣に座っていた炭治郎君に話しかけた。

 

 

「だ、そうよ。」

「今夜も出てきますかね?」

「帰りが遅くなりそうな年頃の娘さんに張り付いていましょう。」

「…分かりました。」

 

 

私達は非公式の組織であり政府の眼を欺きながら行動している。

 

静かに密かに事を進める事もまた私達に必要なスキルだ。

 

私は炭治郎君が話していた鬼への対策を練りながら熱めのお茶を一口啜った。

 

 

>>>>>>

 

 

その夜。

 

 

「い、いやああああ!!何か凄い変態が出たー!!?」

「だ、大丈夫ですから!」

「まあ、確かにそうよね。」

 

 

女の子の足元から自身のテリトリーに引きずり込むって本当に変態の所業だわ。

 

その変態こと沼の鬼と交戦中の私達。

 

沼鬼に連れ去られそうになったこのお嬢様と恋人を家まで送ろうとしたカップルが狙われたので助太刀した所である。

 

因みに血鬼術で作り出した沼の領域に入り込んだので問答無用で閃光手榴弾と破片手榴弾を投げ入れました。

 

凄まじい光と叫び声で這い上がってくる沼鬼。

 

ギリギリと歯軋りが凄いよね…

 

 

「何だ、お前は!妙なものを使いやがってっ!!」

「ただの爆弾ですけど?」

 

 

分身した三体の内、二体の頸を取って残りの一体の逃げ場を封じて置いた。

 

日輪刀で四肢切断しているので再生は出来ないし逃げる事も不可能。

 

 

「さ・て・と・ここからは私と少しお話しましょうか?」

「テメエの様な嫁の貰い手にも居ねえ女に話す事は…!?」

「何ですか?良く聞こえませんね?」

 

 

私は近くの木に奴を括り付けた後、普通の小刀で大事な急所を切ってあげました。

 

何故かって?日輪刀で切ったら終わりだからよ?

 

何度も再生させて切ってあげてぐうの音も出ない位に締め上げるだけですよ?

 

炭治郎君とカップルの片割れが大事な所を抑えて青褪めているのは気にしない。

 

女の結婚が十六歳が目安とか基準にして貰っては困る。

 

ハハッ、私はまだ優しんだよ?

 

知り合いの曹長だと海軍式罵り集・新兵訓練編の罵詈雑言の末に心根折ってますからね?

 

 

「はい、女の子に歳を聞いたらどうなるか…身を持って知ってくださいね?」

 

 

約、一時間後。

 

炭治郎君に被害に遭った三名を家に送り届けて戻ってきた頃に私は沼鬼の頸を切って始末しておいた。

 

 

「あ、お帰り。」

「今、戻りました…沼の鬼は?」

「無惨の呪いで情報は無し、異形の鬼についても収穫は無かったわ。」

「そうでしたか…」

「炭治郎君も気が付いているよね?」

 

 

それは藤襲山で感じた気配と独特の匂い。

 

瓦がバキバキと割れる音と共にそれは現れた。

 

 

「ハスミさん、あの建物の上に例の鬼が!」

「解ってるわ、試作品の試し所ね…炭治郎君、そのまま目を塞いで!!」

「は、はい!」

 

 

姿を隠せる超大型異形鬼。

 

私は隙を見て試作品の紫外線手榴弾を投げつけ発光させた。

 

その姿を見て私は苦虫を潰した表情で炭治郎君に告げた。

 

 

「炭治郎君、今度の相手は厄介よ。」

「どういう事ですか?」

「あの異形の鬼、合成された獣は蛙とカメレオンよ。」

「カメレオン?」

「アフリカ大陸やインドに生息する生き物で蛙の様に長い舌と周囲の背景に溶け込んで獲物を取る習性があるの。」

「それじゃ、姿を消す化け物って…!?」

「十中八九、奴の事よ。」

 

 

紫外線手榴弾で一時的に姿を視覚化させたけど早期決着が好ましい。

 

火傷した皮膚が修復し効果が無くなれば逃げ出してしまう。

 

取って置きの重火器を使うか…

 

出し惜しみしていたら町の人に被害が出てしまう。

 

茶屋の女将さんにはお世話になったしせめてものお礼をしておかないとね。

 

 

「炭治郎君、奴の注意を引き付けられない?」

「やってみます!」

「合図をしたらこっちに引き寄せて!」

 

 

大きさが大きさである事と早期決着が望まれる現状。

 

この時代で炸薬兵器を使う羽目になるとは思わなかったが致し方ない。

 

既に奴には追尾用の発信機を取り付けてある。

 

何処へ逃げようとも無駄な事だ。

 

 

「炭治郎君、今よ!」

 

 

私は準備が整った事を炭治郎君に告げると町外れへ引き付ける様に合図を送った。

 

今までの行動で解決策がある事を察してくれた彼はそのまま異形鬼を引き付けてくれた。

 

更なる合図と同時に私は彼を避難させてこちらへ口腔を開けて呑み込もうとする奴の口に目掛けて放った。

 

 

「脳天ごと弾け飛べっ!!」

 

 

今回使用したのはFIM-92 スティンガー。

 

携帯式防空ミサイルシステムで主にヘリや低空飛行の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどの破壊に使用。

 

別名『毒針』の異名を持っている。

 

因みに1ユニットは現代の日本円のお値段で換算すると400万人の諭吉さんが必要。

 

お高いですよね…

 

グスタフカールでも良かったのですが、今回はコレにしました。

 

某有名な宇宙忍者怪獣とやり合った武器だそうなので。

 

とまあ、ご説明している間に異形鬼の口腔内に入り込み見事に脳天ごと爆散しました。

 

余波が凄いので着弾と同時に私も撤退してます。

 

勝敗は奴が上空に跳躍してくれた事が私達の勝利に繋がった。

 

 

「炭治郎君、頸…行くわよ?」

「は、はい!」

 

 

頭は吹き飛ばしたが肝心の頸は残っている状態なので二人で切断し、完全に沈黙したのを確認した。

 

 

 

「今回で二匹目か…」

「ハスミさん、この鬼からも無惨の匂いがします。」

「私も奴の残滓を感じ取ったわ。」

「藤襲山で遭遇したのと同じなのでしょうか?」

「恐らくは…合成された生物が違う点から何かの実験を行っているのかもしれない。」

「実験?」

「こんなのが何体も出れば、鬼殺隊だけじゃなく国一つが滅ぶ。」

「!?」

「奴は神経質で臆病で隠匿ヒッキー型…世間を騒がせてまで異形鬼を作る理由はない筈よ。」

「なら、どうして?」

「何者かが無惨の血と鬼を手に入れて実験をしている、もしくは無惨の協力者が現れたの二択に絞られる。」

「無惨の協力者?」

「後者を選択するなら研究資金が潤沢で生化学面に精通した協力者の可能性が高い。」

 

 

炭治郎君、人間は誰もが正しい訳じゃない。

 

場合によっては鬼と言う不老長寿の立場に魅了されて協力する輩も出てくる。

 

鬼殺隊が政府非公式で在り続けるのはそう言う側面の人間が現れる事を危惧したお館様の采配だろう。

 

暗黒時代を迎える前の時代。

 

不穏な空気と気配はこの国を静かに包み込もうとしていた。

 

 

******

 

 

翌朝、二体目の異形鬼を遮光処理し人目に付かない位置まで移動させてから鎹鴉に文を持たせた。

 

これも鬼殺隊本部で調査して貰う為だ。

 

町を離れる際に和巳さんと里子さんに再会し彼らからお礼の言葉を貰った。

 

彼らも無事に祝言を上げられそうだと炭治郎君が安堵した顔で見ていた。

 

二人と別れた後、私は炭治郎君に話した。

 

 

「炭治郎君、これだけは覚えて置いて。」

「は、はい…」

「死ぬ筈だった相手を助けた場合はそれ相応の対価が必要になる……あの異形鬼はその代償かもしれない。」

「まさか…偶然じゃ?」

「この世に偶然なんてない、あるのは必然だけ…そうなる流れ無理矢理変える場合はそれ相応の必然に立ち向かうしかないの。」

「…」

「炭治郎君、結末を変えたいのならどんな困難でも諦めずに立ち向かいなさい。」

 

 

私は『その為にここへ呼び寄せられたのだから。』と告げた。

 

炭治郎君は言葉の意味を考えながら次の目的地である東京府・浅草へと私と共に歩みを進めた。

 

その道中で沼鬼に捕まって喰われそうになった娘さんの一人である志摩崎悠雨と再会。

 

彼女も実家のある東京へ帰る途中であり、お礼がしたいので近くに来たら会いに来て欲しいと父親の名刺を頂いた。

 

彼女は御付きの方が運転する自動車で早々に町を離れて行った。

 

 

「炭治郎君、もしかしたら手がかりを掴めるかもしれない。」

「えっ?」

「その為には彼女の力が必要だけど…」

 

 

私は貰った名刺の内容を見て炭治郎君に告げた。

 

暫くしてからの事だが、ハスミらは今回の事件の折に町で知り合った和巳さんと里子さんが無事に祝言を上げたと茶屋の女将さんから文を受け取った。

 

 

=続=

 




※志摩崎悠雨(シマザキ・ユウ)

今回、炭治郎らが沼鬼から救出した十六歳の女子。
本来の流れでは沼鬼の餌食となっていた娘の一人。
服装は緑色の着物に袴と橙色柄の七宝焼きの髪飾りを付けている。
父親は東京方面で志摩崎製薬会社を営む華族。
この町にやって来たのは静養先から実家に戻る時の中継地点として利用していた為。
西洋文化や噂の鬼狩りに興味を持つお年頃。


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暗躍する者と宿敵との再会

因果は引き寄せられる。

可能性の矛先が巡り巡って。

こちらに定まっただけの事。

この身はあの方だけと誓った。

何人たりとも領域へは踏ませない。


私ことハスミは炭治郎君と共に北西の町を後にし次の任務地である浅草へと向かった。

 

秘蔵品は目立つ為、途中しか使えないので目的地に近い場所で隠した後に浅草へと入った。

 

目的の鬼が現れる兆しがなかったので日中は二年前の無惨との一戦で保存して置いた写真の現像依頼。

 

並行して東京に近い場所に住居を構える志摩崎家に訪問する事にした。

 

理由は沼の鬼との戦いで出会った志摩崎家のお嬢様である悠雨お嬢様との約束を果たす為だ。

 

 

「お…大きいですね。」

「そうね、医療器具の製造や薬品を扱う商人ともなれば規模は大きいわよ?」

「ひぇ…」

「…(軽くカルチャーショック受けてるわね。」

 

 

東京の住宅街…現代で言う豪邸や屋敷が並ぶ場所の一つ。

 

名刺の住所を頼りに志摩崎家の屋敷へ私達は辿り着いた。

 

流石に鬼殺隊の服では目立つので洋装に着替えての訪問であるが…

 

因みに禰豆子ちゃんの箱は私の方で用意したジェラルミンケースの外装を貼って偽装している。

 

屋敷の方に言伝を頼み、ようやく中に通して貰えた。

 

洋風の客間でお茶を出されてから暫く待っていると扉を開ける音と共に彼女の声が聞こえてきた。

 

 

「お久しぶりです、御二人とも。」

「悠雨お嬢様、この度はお招き頂き有難うございます。」

「そんなにかしこまらなくても…」

「いえ、私達はある任務中の為…最低限の礼儀はさせてください。」

「仕事熱心ですね。」

 

 

悠雨にもメイドの方が用意したお茶を一口飲んでから本題に入った。

 

 

「それでお礼の件なのですが…」

「どのような事がご要望ですか?」

「この写真の方に見覚えがありませんか?」

 

 

ハスミは一枚の写真を取り出した。

 

そこには一人の洋装の男性の顔が映っていた。

 

 

「この方……麗夫人の再婚相手でしょうか?」

「お知り合いで?」

「ええ、正確には父の仕事関係の方ですけど…写真の方は貿易会社を営んでいる月彦氏です。」

「…」

「この方がどうかしましたか?」

「私達はこの方に接触したと思われる人物を追っています。」

「まあ…。」

「そして潜伏先が浅草であると判明しまして…恐らく月彦氏本人は接触者と商談程度の相手で事件には関与していません。」

「月彦氏は人脈が広いですから…そうだわ!次の夜会でその商談相手の方もいらっしゃるかもしれませんわ?」

「夜会ですか?」

「ええ、主に商談や財閥のお見合いに使われる夜会なのですが…どうかされましたか?」

「ハスミさん?」

「悠雨お嬢様、差し出がましいでしょうが…その夜会である品の噂に持ち込んで頂けませんか?」

「ある品ですか?」

 

 

私はかつて無惨によって鬼にされた時に垣間見た記憶から奴の弱点に成り得る品物を取り出した。

 

 

「珍しい…青い彼岸花なんて見た事もありませんわ。」

 

 

青い彼岸花は存在する。

 

学名はリコリス・スプリンゲラーと呼ばれ、中国を原産としている。

 

ただ、この花は完全な青色ではなくピンク色の花弁の先端が青いだけの種類。

 

完全な青ではない。

 

恐らく、奴が探し求めているのはこの彼岸花の変異種ではないかと推測していた。

 

僅かに使える能力で炭治郎君を辿って彼の子孫が存在する未来を視た所、僅か一年の内で三日しか咲かず…日のある内にしか自生しないと言う条件で発見されている。

 

しかも発見者のミスで絶滅すると言うオチ付きでだ。

 

まあ、この条件では鬼である彼らに見つける事は困難だろう。

 

今、彼女に差し出した青い彼岸花は白の彼岸花に青色の水に付け込んで着色したものを押し花に加工している。

 

要はフェイク、これで引っかかれば良いのだが…

 

お嬢様には『偶然、浅草で青い彼岸花の押し花の栞を持っていた人を見かけた。』と夜会に噂を流して貰う手筈は整った。

 

炭治郎君には事前に『私は鬼殺隊の隊士である事を隠して無惨に接触する。』と告げてある。

 

今回で仕留めるつもりはない、あくまで情報収集が目的だ。

 

例の異形鬼の出所が不明な以上は下手な行動は取れないし鬼殺隊の総戦力バランスが整っていない状況では無理強いは出来ない。

 

この接触で不明確だった繋がりが明確になれば、今後の方向性を決められる。

 

お嬢様には噂を流す程度で後は首を突っ込まない様に念を押して置いた。

 

下手をすればこちらの関係性が知られ、お嬢様にも危険が迫る。

 

当人は残念がっていたが、例の件で協力して貰わなければならないので今回の事は納得して貰った。

 

一通りの作戦を立てた後、私達は志摩崎家の屋敷を後にした。

 

 

******

 

 

<数日後>

 

 

ここ帝都内の豪邸にて。

 

商談やお見合いの誘いなど財閥の黒い思惑が蠢く夜会が開かれていた。

 

立食式なのか、各々がお酒のお供と共にワイングラスを片手に各々がブラックオーラ満載の談笑を楽しんでいた。

 

 

「少し疲れてしまったので休ませて頂きます。」

 

 

談笑をしていた青年実業家の月彦氏はホールを後に豪邸の中庭に移動した。

 

 

 

「…(青い彼岸花を持った存在が浅草に滞在しているとは、好機だな。」

「見つけましたよ。」

「!?」

 

 

夜会が開かれている屋敷の中庭は人気もなく静かな場所だった。

 

だが、とある来訪者によって殺伐とした気配が漂っていた。

 

その理由は目処前にある中庭の噴水の縁に座る女性の姿だった。

 

 

「漸く会えましたね?」

「貴様は…!?」

「二年ぶりと言うべきでしょうか…鬼舞辻無惨?」

 

 

まさか、生き延びていたと言うのか?

 

あの状況で?

 

私の血を致死量以上に与えたの言うのに?

 

鬼と化したにも関わらず、私の呪いすら解除して?

 

いや、己が死の淵にいようとも私に一撃を与えた者…

 

ならば、あの女は上弦と同じ力を手に入れたと言うのか?

 

 

「おやおや、随分と驚いていますね?」

「女、お前はどうやって生き延びた?」

「意地と根性で何とか…それでも鬼としての特徴は残りましたけどね。」

 

 

クスクスと笑みを浮かべた後、ハスミは片目を覆う眼帯を外して閉じていた片目を見開いた。

 

深淵を思わせる深い蒼の瞳には鬼の特徴である切れた眼孔が刻まれている。

 

 

「ならば、完全な鬼と化す事を受け入れれば良かったものを…」

「私は他人を喰らってまで生きるつもりもないし今後もその考えは変わらない。」

 

 

ハスミは『それに私は今まで通り、人と同じ食事で事足りるので。』と付け加えた。

 

 

「あくまで人であり続けると…無様だな?」

「人の生き方は人それぞれ、自分の生き方を他人に罵られる筋合いはないですよ?」

「…」

「罵るのなら救いようのない馬鹿として放置するのが一番ですし。」

 

 

無惨はかつての己の人としての生涯で受けた差別的屈辱を思い出した。

 

赤子が死の淵より蘇った事、その後もその身を蝕む病は癒える事も無かった。

 

周囲からは死を望む声とそれに伴う暗殺者らからの攻防と権力争い。

 

今までそう言った思想の人間しか私は出会った事がなかった。

 

だが、目処前の女は根本的な価値観と考え方がそれとはかけ離れている。

 

 

「では、人と鬼の狭間に落ちたお前を受け入れる者がいるのか?」

「在るのなら共に生き、受け入れられないのなら自分で居場所を探すだけですよ。」

 

 

世界は広い。

 

受け入れてくれる地は何処かに存在する。

 

それを探し続けて見つける事を諦めないと誓った。

 

 

「それと貴方がお探しのモノはこれですか?」

 

 

ハスミはスッと青い彼岸花で出来た押し花の栞を取り出した。

 

 

「噂の者とは貴様だったのか…」

「その様子ではこの花に何か執着があるみたいですね?」

「何故、そうだと?」

「貴方の血で鬼にされた時、記憶の様なモノが流れ込んで来た…それだけです。」

「…(致死量以上の血を与えた事で私の記憶が流れ込んだのか。」

「彼岸花は薬の原料にされていますが毒性の強い球根花…当時の人は使い方を誤ったのでしょう。」

 

 

扱い方を間違った事で亡くなった人は大勢いる。

 

例えとして全身麻酔用の麻酔を完成させ更にそれを使用した術式を完成させた華岡青洲ですら奥方の眼の光を奪い実の母親を死に追いやってしまったと聞いた事がある。

 

何かの犠牲無くしてこの薬も完成しなかった。

 

それは願いの為にそれ相応の対価を求めるような…

 

場合によっては残酷な選択肢なのかもしれない。

 

 

「鬼になったのは貴方のせいじゃない。」

「…」

「もしも、あの薬が効かなければ…貴方は人のまま終わっていたかもしれない。」

「あれは奇跡に近い。」

「貴方に架せられた代償は余りにも酷いと思った……千年近くの孤独もあれば人の精神を狂わせてしまう。」

「私が孤独だと?」

 

 

孤独と言う意味を知っているからこそ語れる。

 

長い年月がどれだけ正常な精神を脅かすのかも識っている。

 

あのエゴイスト共やバアルに堕ちた者達が一例だ。

 

それでも群れを脅かす天敵が現れれば、群れもまたそれに対応する。

 

 

「貴方は自分の行った行為を天災と同様に考えているらしいけど、それは貴方にも当てはまるわよ?」

「如何言う事だ?」

「噂の鬼狩りがそうではなくて?貴方は自然の摂理の中で過剰に人を喰らい続けた…それに伴い生態系の均衡が崩れたの。」

「…」

「貴方は貴方自身の手で天敵を作り上げてしまったのよ……鬼狩りと言う天敵をね?」

 

 

千年と言う時の中で鬼舞辻無惨と言う天敵を倒す為に人は鬼狩りを生み出し呼吸を編み出し鬼を切る刀まで生み出した。

 

人の進化とは常に生きる為の戦いから生み出されるもの。

 

 

「あーあー随分と言われ放題じゃな?」

 

 

無惨とハスミの会話を割って入って来た人物。

 

白衣姿の珍妙な老人、強いて言うならジャガイモにひじきを生やした独特の顔立ちである。

 

 

「黙れ、貴様……どうやってここに来た?」

「それは、ワシの技術でじゃよ?」

「最悪の貧乏くじ引きましたね、鬼舞辻無惨。」

「…如何言う事だ?」

「そりゃーそうじゃよ、ワシとあの子はちょっとしたお知り合いだからにゃ。」

「ええ、最悪の再会よ?ジエー・ベイベル…いえ。」

 

 

ハスミは眼を伏せたまま、現れた男の真名である『ジ・エーデル・ベルナル』と答えた。

 

 

=続=

 





※ジエー・ベイベル

極度の快楽追求主義者であり、他人の事を意に介さない自己中心的・唯我独尊な性格であり、自分以外の存在全てを玩具やゴミクズとしか見ていない。
極度のマゾヒスト且つサディストでもある。「善悪」という観念的な意見は一切意に介さず、行動に一切悪びれることがなく、全てを嘲笑し弄ぶ。俗に言う「高二病」レベルの人。
更にその言動・行動は現実の人間が持つ本音の集合体であり、いわば「何気ない、無自覚の悪意の塊」。

SRWシリーズに置いて変態中の変態の烙印を押せる人物であり倒す理由が明確な人物でもある。
この物語に置ける彼の行動履歴は『幻影のエトランゼ』の第二章を参照の事。



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瓦解する境界線と目覚めた兆し

境界線は崩れる。

均衡の崩れは世界の終焉。

秒読みは始まった。


前回、飄々と現れたジエー・ベイベル。

 

ハスミは静観し無惨は苦虫を潰した顔で老人を見ていた。

 

 

「オッス!元気してた?」

「聞きたい事は山程ありますけど……どうやって生き残ったのかしら?」

「そうだにゃ…君とその仲間達にフルボッコにされたのは覚えてるよーw」

「…(つまり、空白事件の記憶しかないって事?」

 

 

ジエー・ベイベル…いや、ジ・エーデル・ベルナルはかつて私が居た世界で『空白事件』と呼ばれる戦乱で次元崩壊を起こそうとした人物だ。

 

その姿は幾多の並行世界に存在する己の同一人物と入れ代わり立ち代わりを行う事で姿を変えて逃避を続けていた。

 

明確に追い詰める事が出来たのは奴の愉快犯的思考に揺さぶりを掛けた事とこちらの『とある力』によるもの。

 

所属する部隊の仲間達と共に戦い…奴を倒した筈だった。

 

あの状況での生存は不可能に近い。

 

だとすれば、消失する前に別世界の同一人物にその意識を移し替えたのだろうか?

 

 

「いつもの姿は如何しましたか?」

「しゃーないでしょ?君らに倒された後にこの姿で復活したら強制固定されちゃったのにゃw」

「…その話し方、どうにかならないのですかね?」

「これがワシの話し方のスタイルだもん♪」

「…」

 

 

うん、『気持ちは十分理解しますよ。』と思いつつお怒りが臨界に達しそうな無惨の様子に対し。

 

私は『手を下すのは構いませんけど、この変態生物はそう簡単には消えないと思われます。』と遠い目をした。

 

 

「いい歳したお爺さんがぶりっ子しても気色悪いのですが?」

「いやん、もっと責めていいのよ?」

「…(駄目だ、奴と話してたら余計に吐き気がして来た。」

 

 

ジエーの姿の為、余計にキモさが増しているのもあり吐き気を覚えるハスミ。

 

痺れを切らしそうになっている無惨に対して、私はさり気無く忠告はして置いてあげた。

 

 

「戯言はそこまでにしたらどうだ?」

「話の通じない相手に話をしても無駄だと思いますけど?」

「…」

「但し、協力する相手を間違えた事ははっきりと伝えて置きます。」

「如何言う事だ?」

「貴方はどちらかと言えば慎重派、奴はその逆と言えば解りますか?」

「あの様子を見ればな…」

「なら、例の巨大な異形の鬼に関しては?」

「…何の話だ?」

 

 

眉を顰める無惨の疑問に答える様にジエーが己のテンションを変えずに答えた。

 

 

「それね~ワシが適当に弱い鬼を核にして改造したビッグな鬼の事を言っているんだよ。」

「貴様、私の許しも無しに…!」

「えーだって君の配下って日中は使いモンにならないし、だ・か・ら~ワシが改造してあげたのにゃ?」

「その結果、各地で大騒動になりかけてますけど?」

「ん?そうなったら君が片付けてくれてるし~別にいいでしょw」

 

 

もうあのジャガイモなフェイスにC4爆弾付けて爆破したい気分。

 

後、何度も草生やすな。

 

この世界の歴史いや秩序を壊す気がこのひじきパンマンは…

 

 

「余所様の理を持ち込むとどうなるのか…理解していると思ったのですがね?」

「いや~ここにそう言うのをぶっこんだら…どーなるのか見たかったんだよね~♪」

「…それは人だけではなく鬼も全て滅ぼすつもりですか?」

「モチのロンw」

「だ、そうですよ?」

 

 

奴は完全にこの世界で破壊と言う遊びを始めている。

 

この世界に生きる命すら軽んじる行為。

 

誰かが止めなければならない。

 

私がこの世界に呼ばれた理由の一つだろう。

 

私の考えは置いてといて、問題の無惨が止めようがない状態になっている。

 

 

「ジエー、最初から私を利用したのか?」

「それは、お互い様じゃないのかにゃ?」

「…」

「君はワシを通して青い彼岸花の所在が知りたかったんじゃろ?」

「それが貴様の命を保証する理由だった筈だが?」

「別に君に倒されてもスペアは幾らでもあるから痛くも痒くもなかったんだよ~」

「何だと…!」

「ぶっちゃけ、君みたいな陰険顔が絶望しまくった時にどう歪むのが見たかったんだよね♪」

 

 

怒りの沸点が臨界を越した無惨の異能がジエーを貫こうとしたが、幻影の様に通過し地面にクレーターを作っただけだった。

 

 

「じゃ、ワシは適当に今後も遊ばせてもらうからよろしくにゃん♪」

 

 

ジエーはいつものペースを崩さずにその場から姿を消した。

 

夜だったのと木々の影で気づくのが遅かったが、先の姿は立体映像…つまり、別の場所から中継していたと言う事だ。

 

 

私は『忠告はしましたよ?』と告げておいた。

 

 

「奴は誰かの下で素直に働く性分ではない……寧ろ、状況を炎上させる危険生物です。」

「奴は私が仕留める…時に女、その彼岸花は何処で手に入れた?」

「…正確にはまだ手に入っていないが正論です。」

「如何言う事だ?」

「これはあくまで見本、お探しの現物は後…百数年待たないと咲きませんよ?」

「百数年だと?」

「貴方がお探しの青い彼岸花はある条件下でしか咲かない希少種です。」

「聞かせて貰おう。」

 

 

その青い彼岸花は一年の内、三日間だけ日のある内に咲く花。

 

しかし、一年単位では完全な青ではなく斑な青い花弁を咲かせず数百年の間隔を開けてから完全な青色として咲く。

 

その年の気象条件も関わると思いますが、次に完全な青い彼岸花が咲くのが今年から百数年後。

 

 

そして確実な原生地は中国の奥地です。

 

 

「千年探し続けても見つからん筈か…まさか日中だけ咲く花だったとは。」

「それで、このまま鬼殺隊との小競り合いを続けますか?」

「いや、あの様な雑魚共など放っておく……目的の花の所在をお前は知っているのだろう?」

「交換条件になりますけどね…私としても貴方があの異形の巨鬼の出所じゃない事だけ知れた事は十分収穫でしたから。」

「敵の敵は味方とでも?」

「ええ、今後も貴方達は人間を餌にする事を止める事は出来ない、それは鬼狩り達との戦いを止める事は出来ないのと同じ。」

 

 

人も鬼も争いと血を求めてしまうから。

 

燻ぶった闘志は殺意になり狂気にも成り得る。

 

一度点いた火種が消えないのと同じ様に…

 

憎しみの連鎖は止まる事がない。

 

それでも何処かでその連鎖を断ち切らなければいけない。

 

 

「だが、お前は人にも成れず鬼にも成れず…狭間の存在としてここに在る。」

「それが可能性の一つであったとすれば?」

「貴様の言う一時的な解決策だと?」

「そう思ってくださっても結構です。」

 

 

不思議な女だ。

 

この女とあの少年に出会ってから状況が変わっている。

 

浅草で遭遇したあの花札の少年も恨みではなく悲しみの眼をしていた。

 

鬼に対する根本的な考えが変わったのか?

 

 

「それと一つお聞きしたい事があります。」

「何だ?」

「貴方は自然に鬼と化したのですか?それとも人為的に鬼と化したのですか?」

「それを聞いてどうする?」

「貴方の口から直接聞いてみたかっただけですよ。」

「随分と詮索が好きと見える。」

「全てを知る事で真実へと辿る…それが希望で在り絶望で在っても。」

 

 

一方的な言い分だけでは真実は判らない。

 

何が原因でそれに至ったのか理由は必ずある。

 

例外はあるがそこまでに成った要因は何なのか?

 

全てを識った上で私は解決策を探す。

 

 

「次に会う時までにお前が求める答えを考えて置こう、女。」

「ハスミです。」

「?」

「私の名です、一方的にこちらが貴方の名を知るだけでは失礼と思いましたので。」

「そうか…」

 

 

無惨は目元を見せないまま姿を消した。

 

恐らくは先の音で騒動になっている夜会に顔を出しているのだろう。

 

私はクレーターになった場所だけ直してからその場を去った。

 

 

「倒すべき敵は一人だけ……後は繋げなかった手が繋がるかは私の手腕次第か。」

 

 

人と鬼の夜明けは近い。

 

そして最厄の戦いもまた幕を開けるのだ。

 

 

=続=








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呪いは積み重なって呪詛と化す

経歴は詐称される。

証拠と言う概念に辿り着けなかったから。

可能性を見いだせなかったから。

全ては『鬼』のせい。

それはただの偽りの方便。


夜会が行われていた場所から移動した私ことハスミ。

 

別行動中だった炭治郎君と合流し彼が出会った鬼の医者である『珠世』の元へ向かう事になった。

 

道中、使いの『愈史郎』と言う鬼に案内されるが…

 

 

「君、今…禰豆子ちゃんに何て言ったかしら?」

「醜女と言ったが?何が悪い。」

「醜女ねぇ…ふーん。」

「お前な、禰豆子は醜女じゃ…!?」

「!?」

 

 

愈史郎の顔擦れ擦れにサイレンサー付きの拳銃より一発放たれる。

 

その一撃は夜の街に何の障害も残さずに解き放たれた。

 

 

「もう一回言ってくれるかな?誰が?何ですって?」

「お、お前…な、何てモノを…!?」

「君、鬼でしょ?頭の一回や二回位吹っ飛ばしても平気だよね?」

「冗談にも程があるぞ!?」

「知らないわよ、初対面の女の子に醜女なんて発言も失礼だと思うけど?」

「ぐぬぬぬ…」

「それとも貴方の教養と礼節はその程度なのかしら?」

「醜女を醜女と言って何が悪い!」

「そう、残念ね…だったら少しお遊びと逝きましょうか?」

「お前、禰豆子とハスミさんに謝れ!」

「誰が謝るか!」

「ハスミさんが怒ったら俺でも止められない!あの人は鬼相手に鉄砲と手榴弾で反撃する人だぞ!!」

「な!?」

「そうなったらお前の体が挽き肉になっても止まらないぞ!!」

「もう、炭治郎君ったら私だって加減するわよ?」

「…(無惨の逃げた先に手榴弾を投げ入れていたのは誰でしたっけ?」

 

 

そんなやり取りをしつつ禰豆子ちゃんに不細工と発言したのでちょっと絞めて置きました。

 

炭治郎君も妹を侮辱された事に憤慨していたが私の絞めシーンでドン引きしている。

 

うん、気にしない。

 

この愈史郎君には、たーっぷりとお説教をして置いたのでしばらくは大人しかったです。

 

本日の教訓は『発言は良く考えて言いましょう。』です。

 

 

******

 

 

日光を通さない様に加工された和室。

 

その一室で待っていた黒い振袖の女性と私達は対峙した。

 

 

「初めまして、私の名は珠世と申します。」

「ご丁寧にすみません、私はクジョウ・ハスミと申します。」

「炭治郎さんからお聞きしましたが、貴方が例の鬼ですね?」

「はい、これを見て頂ければ判ると思います。」

 

 

私は自身の眼帯を外すと伏せていた眼を開けた。

 

鬼特有の切れた眼孔。

 

珠世はその眼を見て驚きを隠せなかった様だ。

 

 

「本当に片目だけが鬼化しているのですね、そして人を喰らう事もなく日光を恐れない体質。」

「…異質と思いますか?」

「いえ、どちらかと言えば奇跡と思えますね。」

「奇跡か…」

「ハスミさん、炭治郎さんにもお伝えしましたが貴方と禰豆子さんの血を調べさせて貰えませんか?」

「血を採取して調べる事とは?」

「鬼を人間に戻す薬を作る為です。」

「…(炭治郎君が話していた通り、禰豆子ちゃんを元に戻す為と無惨を倒す為の薬であり武器となる代物。」

 

 

完成すれば禰豆子ちゃんは人に戻れる。

 

だが、その完成には長い時間とサンプルが必要だったと炭治郎君から聞いている。

 

今回は私と言う異質な鬼の血がある以上はそれなりの変異は起こるだろう。

 

 

「分かりました、私としても自分の血の事を調べて欲しいと思っていましたので。」

「ありがとうございます。」

 

 

私は珠世さんへ了承し血を採取して貰った。

 

年代が年代なので注射針がかなり太いのと強烈な痛みがあったのは言わないで置く。

 

 

「珠世さん、一つお聞きしたい事があるのですが…」

「何でしょうか?」

 

 

採血を終えた珠世に対して私はある疑問を告げた。

 

 

「森羅と言う魑魅魍魎対策を行う組織と逢魔と言う妖を中心とした組織をご存じでしょうか?」

「!?」

 

 

ある組織の名を答えると珠世は驚いた顔で声を上げた。

 

どうやら面識がある様だ。

 

 

「何故、その名を?」

「…」

 

 

ここで私が抱えていた疑問が一つ解決した。

 

その名を知る事はここが大正時代の物質界である事を指す。

 

炭治郎君達との旅の道中で時折見かけた紅い羽織を付けた集団。

 

森羅の隊服である紅いジャケットの前身だろう。

 

そして鬼とは別に遭遇した鎌鼬などの妖も存在していた。

 

双方共に組織間抗争で疲弊していたらしく大規模な活動はしていない。

 

彼らが本格的に動いていれば無惨ですら立場は危うくなっていただろう。

 

 

 

「ややこしい事になったわ…」

「あの…ハスミさん?」

「ああ、ゴメンね…ちょっと個人的に関係を持っていた所だったから。」

 

 

頭を抱えるハスミを心配して声を掛ける炭治郎。

 

関係者と言う言葉に反応した珠世が質問をして来た。

 

 

「ハスミさん、貴方は森羅若しくは逢魔の一員なのですか?」

「正確には違います、一時期森羅の方に協力していた間柄なだけです。」

「そうでしたか…」

「…それも先の時代での話ですし。」

「っ!?、どう言う事ですか?」

 

 

ハスミは炭治郎との出会いから自身の出身について説明した。

 

並行世界、物質界、森羅と逢魔の争い、九十九事件と必要なキーワードだけを告げた。

 

 

「では、貴方は別の世界における後の時代の人間なのですか?」

「そう解釈して頂いても構いません。」

「…」

「私がここへ来た理由は炭治郎君の声が聞こえた事に関係があります。」

「ハスミさん。」

「逆行の輪廻に囚われた炭治郎君を救う事……それが解決に繋がると思っています。」

 

 

何度も同じ悲しみと痛みを繰り返す事。

 

それは耐え難い苦しみ。

 

どんなに変えようとしても何処かで失敗してしまう。

 

それを嘲笑うかの様に願いは届かない。

 

だからこそ終わりを告げる兆しは訪れた。

 

 

「貴方は炭治郎さんと同じで他人の為に動けるのですね。」

「状況によっては…ですよ。」

「そんな事はありません。」

「珠世さん…」

 

 

珠世さんは『それが貴方の優しさなのですね。』と告げた。

 

一部の人から見れば善行に見えても、これは独りよがりの偽善。

 

褒められる様な事じゃない。

 

 

「さてと、炭治郎君…もう気づいているよね?」

「はい。」

「どうかされました?」

「貴方達以外の鬼が敷地内に潜入した様です。」

「えっ!?」

「馬鹿な、俺の血鬼術が発動している…」

「その無惨に加担していた人間の置き土産と思われます。」

「!?」

「それが私が彼と同行している理由にして私が倒すべき相手です。」

 

 

炭治郎君が箱を背負ったのと同時に私達は部屋を後にした。

 

 

「炭治郎君、予定通りに二匹の鬼をお願い。」

「ハスミさんは?」

「紛れ込んでいる大型を仕留めてくる。」

「判りました、禰豆子もいいな?」

 

 

炭治郎君の問い掛けに禰豆子ちゃんは箱の中で爪をカリカリさせて了承の意を送る。

 

 

「屋敷を出たら別れるわよ?」

「判りました。」

 

 

炭治郎君の言う流れ通りなら進行方向…ベクトルを操る鬼と鉄球並みの鞠を操る鬼が仕掛けてくる。

 

二匹の能力は理に適っている。

 

科学知識に洞察と瞬発力を会得していなければ防ぎようがないだろうが…

 

透き通る世界を会得している炭治郎君なら対処は可能だろう。

 

問題は紛れ込んでいる大型の鬼、今度はどんな合成鬼?

 

まあ、出てきても倒すだけよ。

 

 

>>>>>>

 

 

「おる、おる、ここに花札の付けた人間が…!?」

 

 

一瞬だった、屋敷から出てきた二つの人影。

 

鉄砲の音が二つ。

 

最後に剣戟。

 

目を瞑ったままの鬼の両手が射貫かれ、頸を落とされた。

 

 

「そんな…矢琶羽!?」

 

 

十二鬼月に召し上げられる筈だった自分達が何故?

 

 

「ごめん。」

 

 

カランと花札が揺れる。

 

その剣戟は水の様に清らかで心地良いものだった。

 

 

「今度生まれ変わる時はまた人間になれますように。」

 

 

炭治郎は切った鬼の頸の瞼を閉じさせると静かに祈った。

 

同時に屋敷の敷地内に落ちてくる巨大なナニカ。

 

 

 

「ふう…」

「え、えーーーーもう倒しちゃったんですか!?」

「いや、この大型鬼…攻略方法が簡単だったし。」

 

 

だって、この蝙蝠と梟の合成鬼。

 

目元に閃光弾撃ってから背中に飛び乗ってグレランの焼夷弾撃って火だるまにして、開いた口に菫外線放射の破片手榴弾入れて差し上げました。

 

で、怯んだ所で両翼切って落下を利用して頸を切断致しましたが…何か?

 

 

「…」

「対処方法が判っていると始末し易いわよね?」

「ソウデスネ。」

 

 

炭治郎がカタカナ言葉になっているのは気にしない。

 

流石に騒ぎを起こしたので屋敷を手放す事になった珠世一行。

 

浅草で鬼にされた男とその奥さんを連れて屋敷を離れると告げた。

 

引き続き、猫の茶々丸を通して連絡をする手筈になった。

 

先程、倒した鬼から血を採取したが無惨に近い鬼ではないので薬の調査には使えないだろう。

 

 

「炭治郎君、ちょっと気になる事があるんだけど…」

「どうかしましたか?」

「ここに来る前に少し調査してみたけど犯人は鬼ではないのに鬼に襲われたって案件がいくつか判ったの。」

「えっ?」

「恐らくは被害者側の保証金狙いと一部の隊員の怠慢ね。」

「…」

「この案件には必ず鎹鴉が近づけない場所や鎹鴉が鬼にやられたって報告があるの。」

「それって…」

「口封じね、死人に口なしって言うでしょ?」

「じゃあ…」

「本当に鬼に襲われた案件もあれば、そうではない案件もあるって事。」

 

 

そんな事が続けば本当に必要とされている場所に救いの手が届かない。

 

足の引っ張り合い。

 

職務怠慢の末の隠蔽工作。

 

 

「それが本当なら鬼殺隊は…」

「世の中正しい事だけでは成り立たない、力を持ってもそれを扱う人間の精神もまた成長しなければ意味がないもの。」

「すぐにお館様に。」

「待って、まずは証拠を集めないと……これはあくまで私の力で調べた事で在って物的証拠がないの。」

「ハスミさん…」

「大丈夫、成る様になるわ。」

 

 

さてと、職務怠慢の糞隠蔽工作をする輩様。

 

御覚悟は宜しくて?

 

 

=続=

 



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那田蜘蛛山編
藤の家と蜘蛛の山へ


新たな仲間と藤の家での一時。

次なる地は人食い蜘蛛が住まう山。

それは偽りの家族が支配する。

私は全てを燃やして灰燼と成す。




前回の浅草の一件から二か月が経過した。

 

私ことハスミは炭治郎君と禰豆子ちゃん、三人の鬼を狩る旅を続けていた。

 

その最中、鼓を扱う元十二鬼月の鬼と交戦。

 

討伐と血の採取を終えるが、珠世さんからの報告はまだ上がっていない。

 

そして…

 

 

「フハハハハハ!!」

「はぁ…またやってるし。」

 

 

とある屋敷の敷地内。

 

走り回る猪の被り物をした少年とそれを見て呆れているタンポポ頭の少年。

 

鼓の鬼が住まう屋敷で知り合った我妻善逸と嘴平伊之助と言う二人の少年。

 

その彼らが道中で旅の仲間に加わった。

 

偶然か必然か?善逸は聴覚、伊之助は触覚と炭治郎君と同様に五感の一部が優れている。

 

私も五感の先の第六感…思念に関する能力を扱えるので不思議な取り合わせとも言えた。

 

話は戻るが何度目か後の鬼との交戦で三人の蓄積した負傷を癒す為に近場の『藤の家』に留まっている。

 

ほぼ無傷で疲労程度の私はその後も指令を受け、引き続き鬼の討伐を行っていた。

 

だが、弾丸の消費がここ最近激しいので自力での増産に勤しんでいる。

 

ついでに日課になった日光浴を縁側で実施中。

 

 

「こら、ハスミさんが弾薬関係を弄っている時は静かにするんだろう?」

「いいわよ炭治郎君、もう終わりだから…」

 

 

私は弾丸をケースに収納し道具を片付け終えると次の道具の整備に移った。

 

銃のメンテは終わっているので追加で仕上げたある道具の試験テストの準備を進めた。

 

 

「何をしているんですか?」

「火炎放射器の点検。」

「…」

「害虫駆除にも使用されたけど、これも戦の道具に使われたモノよ。」

 

 

現時点では必要な薬品が高価な為と運用に難があったので使用される事が少なかったが…

 

後の発展で活用方法が増えた。

 

そして第二次世界大戦末期に日本でも使用された…

 

どう使われたかは調べれば解るだろう。

 

 

「他にも空気中に薬を散布するモノもあるわ。」

「ハスミさん、どうして…」

「今後の戦いで敵がどう出るか解らない、少しでも手数を増やす為よ。」

 

 

炭治郎君の話通りなら那田蜘蛛山に出現する鬼は蜘蛛=虫を利用している。

 

なら、特製の殺虫剤か燃やすしかないだろう。

 

 

「こっちの散布用の道具には藤の花の成分を濃縮したものが入っている、普通の鬼なら嗅いだだけで肺をやられる代物よ。」

「もしかして…」

「そうね、成分上は人には無害で濃いめの香水に近いから…まあ、炭治郎君が嗅いだら暫くは鼻が利かなくなるわね。」

 

 

流石の私も試験的に嗅いだだけで暫く吐き気が止まらなかったし。

 

念の為、禰豆子ちゃんにはガスマスクでも持たせて置こう。

 

 

「この可燃性粘液が入った薬弾が数回分しかないから火炎放射器は使用出来て十回が限度。」

「可燃?」

「要は物を燃えやすくする為の薬で火炎放射器はその溶液を利用して対象を燃やす。」

「つまり。」

「天候や風向きの関係もあるけど、雑魚を一掃するか強敵との目晦まし程度にしか使えない。」

 

 

火炎放射器は元々戦場で使う場合、最も狙われやすく寿命の短い武装とされている。

 

逆にジャングルや森林地帯に逃げ込んだ敵を追い詰めるのに効果的な武装だ。

 

 

「…(もう少し特殊弾薬を補充して置くべきだったわ。」

 

 

雨が降っていても燃やせる試薬が在れば別だが、今は所持していない。

 

以前、植物を操る鬼との交戦で使い切ってしまった為だ。

 

通常弾なら兎も角、他の弾薬となると限りがある。

 

弾薬を安定的に作れる場所を確保しても技術が発展途上な為に数回分しか確保出来ない。

 

薬莢は刀鍛冶の里で磨鋼さんに無理を承知で試作して貰っている状態。

 

確実に鬼を殺傷し貫通させるには日輪刀と同質の金属を使ったフルメタルジャケット弾が有効である事が判明した為だ。

 

その為、使い所を注意しながらホローポイントや破片侵襲弾、ピストン・プリンシプル弾と組み合わせて使用している。

 

薬莢への火薬詰めは日中で時間がある限り、自力でやっている始末だ。

 

 

「…(ジ・エーデルの行方は掴めていないし、今頃ややこしい事に手を出していそう。」

 

 

一部の能力を封印されている今、奴に空白事件当時の大軍を出されたら元も子もない。

 

あのバカにも何かしらの制約が掛かっている事は確かなので様子見状態が続いている。

 

その代用品が例の改造された異形の大型鬼達だ。

 

最終試験時の一体、北東の町の一体、珠世さんの屋敷に現れた一体で三体。

 

ここ最近の別行動時に現れた四体で合計七体を処理している。

 

そろそろ奴的に嫌味な戦術を考えて来そうな気もしなくもない。

 

 

「ハスミさん、大丈夫ですか?」

「ああ、ごめんね。」

 

 

話を途中で切って考え事をした私に話しかける炭治郎君。

 

私は謝罪した後に大丈夫と告げた。

 

 

「あんまりにも異形の巨大鬼の出現率が多いのと尻尾巻いて逃げる隊員が時々いるからイラっとしちゃって…狩猟用の麻酔弾を逃げる輩のお尻に撃ってもいい?って思ったわ。」

「ハスミさん!それ駄目ですって!!?」

「表情は美人なのに言ってる事が物騒って…」

「流石は俺様の子分!度胸が違うぜ!!」

 

 

私は炭治郎君達かまぼこ隊の何時もの顔芸を目処前で披露された後、屋敷の塀を超えて飛んできた鎹鴉を発見した。

 

 

「お嬢、本部から人食い鬼が出るって噂の山に調査に出てくれって依頼だぜ。」

「噂の山、場所は?」

「北北東にある那田蜘蛛山って山だ、今日中に出発すれば夜には到着するぜ?」

 

 

同じ様に鎹鴉達から伝令を受けた炭治郎君達も同様の命令らしい。

 

 

「夜の山か……あれの出番ね。」

 

 

早速、準備を進めていた武装の出番であると私は予感を感じた。

 

 

*******

 

 

私達は伝令を受けた後に出立の準備を各自で進めてから門の前に集合。

 

屋敷の主であるおばあさんから火打石で切り火を受けて藤の家を後にしようとしたが…

 

伊之助本人がが意味が解らずおばあさんに向かって憤慨していたので私が優しく絞めてから出発した。

 

横で善逸が『こえぇえ…』と青ざめていたいた事に突っ込みは入れていない。

 

 

「どの様な時でも誇り高く生きてください…か。」

 

 

出発の際に話したおばあさんの言葉は『どんな時でも諦めずに前に進んでください。』と言う意味合いを込めて答えたのだろう。

 

この戦いは時には挫折するものも少なくはない。

 

そう言った隊士達を見てきたあの人なりの気遣いの言葉だった。

 

私はおばあさんの言葉の意味が解らず怒っている伊之助に解り安く説明。

 

そんなやり取りを進めながら私達は北北東に向かった。

 

因みに浅草へ移動する際に使用したアレは限定的になっている異空間に収納している。

 

山の中での戦闘なので使い所はないだろうが念の為だ。

 

夜間活動様に人数分の暗視ゴーグルに菫外線手榴弾や設置型地雷も準備して来たので安心です。

 

 

「なあ、炭治郎…」

「善逸、どうしたんだ?」

「あの人、周囲に拳銃ぶっ放すつもりかな?」

「うーん、かもしれない。」

「やっぱこえぇえよ、あの人。」

「怒らせなければ、ハスミさんは優しい人だよ?」

「そうだけどさ…」

「それよりも善逸。」

「ん?」

「任務先で勝手に逃げたら後が怖いし止めて置いた方がいいよ。」

 

 

 

善逸の脳内回想・鼓屋敷にて。

 

 

『まずは落ち着いてから人の話は聞く、判らないからと言って人を手当たり次第に殴らない、これ常識だからね?』

『スイマセンデシタ。』

 

 

何処からか取り出した鎖で伊之助を縛り上げて締め上げたハスミ。

 

その表情は笑っているが後光から真っ黒い怒りが見えていた。

 

これにより伊之助がハスミに逆らう事は一切無くなったが態度は相変わらずである。

 

引き続き、元の現実に視点を戻す。

 

 

「鬼より怖い人っているんだな。」

「うん、あの人…情状酌量の余地がない鬼に対して容赦ないから。」

 

 

炭治郎は青ざめた善逸に対して静かに告げた。

 

そして夜も更けて那田蜘蛛山への山道に近づくと隊士らしき人物が倒れているのを発見した。

 

 

「あれは…!」

「ちっ!」

 

 

道端に倒れた男性の隊士が顔を上げて助けを乞うが、その背中に薄っすら見えた糸の様なモノを見つけたハスミはすかさず火炎放射器を取り出して糸を焼き切った。

 

 

「頭を伏せろ!」

「ひっ!?」

 

 

糸らしき物体が焼き切れた事で体の自由を得た隊士。

 

ハスミは隊士に対して質問した。

 

 

「何があった!」

「それが…」

 

 

隊士の話によると私達よりも先に一個隊数の隊士達が山へ入山。

 

山中へ入って暫くしてから隊士同士で切り合いが発生し、命からがら逃げてきたとの事。

 

 

「成程、逃げて正解だったかもね。」

「ハスミさん、一体何が…」

「これよ。」

 

 

説明を受けた一行、ハスミの発言に質問する炭治郎だったが…

 

ハスミは先程の隊士の背中に残っていた糸の様な物体を見せる。

 

 

「糸?」

「恐らく血鬼術の一種でしょうね、対象を糸で操ってから見えない位置で切り合いをさせて自滅させる。」

 

 

となると山全体が鬼の棲み処であり罠の密集地帯。

 

先に入山した隊士達は既にやられているだろう。

 

 

「炭治郎君達、ちょっと準備しようか?」

 

 

私は入山前に炭治郎君達へ藤の花の抽出液を隊服に噴霧。

 

禰豆子ちゃんには気化した薬液を吸い込まない様にガスマスクを付けさせた。

 

倒れていた隊士には鎹鴉に経過報告の伝令を頼んで下山して貰った。

 

 

「ここが北北東側だから、今は南南西への風か…」

 

 

風向きが悪いので火炎放射器の使用には注意が必要。

 

さっきは風が吹いていなかったので糸を燃やす事が出来たが…

 

倒れていた隊士に付着した糸は蜘蛛の様な粘着性の強い糸だったので燃やすしかないだろう。

 

日輪刀で切ると言う事も考えたが、夜で見えにくい上に糸は頑丈で切りづらい。

 

ここに潜んでいる鬼は蜘蛛を媒介とした血鬼術を使用しているだろうし。

 

 

「行こう、炭治郎君達。」

「はい!」

「ひぃい…」

「おっしゃあ!」

 

 

私達は倒れた隊士と別れて入山する。

 

さあ、始めよう。

 

過激で大胆な火祭りを?

 

 

=続=

 

 

 



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燃える山と裏切り者の襲撃

断ち切る為に全てを燃やす。

進む者達。

死と恐怖で繋がれた家族。

だが、何処にでも裏切り者はいる。






前回、那田蜘蛛山に入山した私達。

 

移動道中で善逸が肩に引っ付いた蜘蛛にビビッて何処かに走り去り迷子になってしまった。

 

流石に追う事が出来ず、蜘蛛の巣が張り巡らされた場所の奥へと向かう。

 

そこに誰かを支えて膝を付いた隊士を発見。

 

炭治郎君が階級と名前を告げて声を掛けた。

 

 

「応援に来ました、階級・癸の竈門炭治郎です。」

「癸!?癸が何人来ても一緒…へ?」

 

 

無言でハスミが周囲に張り巡らされた蜘蛛の巣を火炎放射器で焼き払っていた。

 

この時代の少し先の火炎放射器は背にタンクを背負う物が主流となっている。

 

が、ハスミが使用しているのはアサルトライフルの様に簡単に携行しカードリッジタイプの燃料タンクを交換する方式に改造を施したものである。

 

サーモバリック弾を使用する事も可能だが今回は害虫駆除が目的の為、上記の火炎放射器を使用している。

 

その為、木々の間に張り巡らされた蜘蛛の糸だけを処理する事が可能。

 

因みにこの熱気で蜘蛛の巣の処理だけでは無く足元にいた小さな蜘蛛が逃げていっている。

 

目処前の光景に村田と言う名の隊士が唖然としていた。

 

 

「えっと…」

「ああ、すみません…あの人はクジョウ・ハスミさん、同じ癸の隊士です。」

「あれで癸?」

「炭治郎君、その隊士にもあの薬液付けて置いてくれる?」

「は、はい。」

 

 

ハスミから携帯噴霧器を渡された炭治郎。

 

使い方は事前に説明を受けていたので村田の隊服に薬液を噴霧する。

 

 

「これって藤の花の匂い?」

「藤の花の成分を抽出した液だそうです。」

「それを付けていれば、鬼に襲われずに山を下山出来るでしょ?」

 

 

退路は入山の際に作って置いたので跡を辿れば降りられるとハスミは付け加えた。

 

 

「ああ。」

「下山する前に何が起きたのか説明して貰えると助かりますが?」

「そうだな、実は…」

 

 

村田の話によると自分を含め十名が入山。

 

山中に入って少ししてから突然隊士同士で切り合いを始めてしまい、既に何人かが切り合いで殺られたとの事。

 

先程、救助した隊士の話と照らし合わせるとこの一個隊と行動していた隊士だろう。

 

夜間で相手の姿が判らずに固まって行動したのが原因。

 

もしも今回の手の様な鬼でなければ生存率が少し高かったと思う。

 

 

「下山出来た隊士が一名、村田さんと気を失った隊士で合計三名。」

 

 

ここで他の隊士三人が死亡している。

 

残りの四名はもっと奥か…

 

 

「反対側から入った隊士達とも連絡が取れないし…もう柱を呼ぶしか。」

 

 

絶望しきっていた村田に対し伊之助が何時もの暴力で対応。

 

村田の様子から喝を入れる必要があると思い、今回の伊之助の行動に関しては放っておいた。

 

 

「テメェ、オレらが弱えってか?あ!?」

「何だよ、この猪頭は!?(そもそも俺の方が先輩なのに。」

「彼の事は仕方がないですが、私達も戦う為にここへ訪れた訳ですし…弱いと一蹴されるのもどうかと思いますが?」

「う…(猪頭は兎も角こっちの女性は同い年かな?正論すぎて調子狂う。」

 

 

気を取り直してハスミは伊之助に声を掛ける。

 

 

「伊之助君、鬼の位置は解る?」

「そん位、晩飯前だぜ!」

「…それを言うなら朝飯前だからね。」

 

 

ハスミは伊之助の言い間違いをさり気無く訂正。

 

気にせず、地面に刀を突き立てた伊之助は獣の呼吸・七の型を発動。

 

伊之助の研ぎ澄まされた触覚が鬼の位置を探る。

 

 

「居たぜ、この先に鬼がいる。」

「流石ね。」

「フハハハハハ!!俺様に掛かればざっとこんなもんよ!」

「炭治郎君、先に進むわよ?」

「分かりました。」

「村田さんは負傷した隊士を連れてこのまま下山してください。」

「判った、気を付けろよ。」

 

 

気を失った隊士を村田に任せると三人は鬼の気配がする方向へと向かった。

 

進むに連れて張り巡らされた蜘蛛の巣の増えて来ているのが解る。

 

 

「にしても蜘蛛の巣が鬱陶しい!」

「それだけ目的の鬼に近づいている証拠だ。」

「伊之助君、私が燃やすから方向だけ教えて。」

「癪だが、頼んだぜ。」

 

 

ハスミが増えてきた蜘蛛の巣を焼き払い、伊之助が方向を指示し進む。

 

そして糸に捕まった隊士達を発見した。

 

様子から察するに他の一個隊だろう。

 

既に四人の隊士が事切れている。

 

一人は息苦しそうに呼吸をし、もう一人の女性は泣きじゃくりながら『柱を呼んで!』と告げていた。

 

 

「でないと皆殺してしまう!!」

「もう殺させないわ、大丈夫だから。」

 

 

私は周囲に張り巡らされた蜘蛛の糸を火炎放射器で焼き払った。

 

糸から解放された女性隊士に近寄り安否を気遣う炭治郎。

 

 

「大丈夫ですか?」

「あの…私、私。」

「糸はさっき焼き切れました、もう大丈夫です。」

「こっちにも生きている奴がいるぜ?」

 

 

伊之助が発見し解放されたものの両腕を骨折した男性隊士の様子を見るハスミ。

 

 

「内臓に骨が…」

「骨は刺さってないわ、骨自体が肉離れを起こして内臓を圧迫しているだけよ。」

 

 

ハスミは刺さっていると思われる個所を確認すると骨の位置がずれている事が判明。

 

少し体を捻じらせて圧迫していた骨を元の位置に戻した。

 

 

「ううっ!?」

「内臓は兎も角、両腕の骨折はどうにもならない…応急処置はして置くわよ?」

「ハスミさん、また蜘蛛が…」

「伊之助君、炭治郎君を鬼の居る方向に投げ飛ばして!」

「ええっ!?」

「その方が早い、山の王なら出来るわよね?」

「任せろ!」

 

 

伊之助君が渾身の馬鹿力を発動し炭治郎君を上空に投げ飛ばした。

 

 

「行ってこい!紋次郎っ!!」

「炭治郎だっていってるだろぅぅぅ!!!」

 

 

キラーンと効果音を付けたくなるような感じで鬼の居る方向に炭治郎君は投げ飛ばされていった。

 

 

「あの、貴方の名前は…」

「お、尾崎よ。」

 

 

ハスミは携帯噴霧器を取り出すと尾崎に投げ渡す。

 

 

「尾崎さん、その噴霧器の薬液を蜘蛛と周囲に撒いてください。」

「え?」

「突起の窪みから薬が出ます、出す時は窪みを前に小さい突起の頭を下に押すと噴き出します。」

「わ、判ったわ。」

 

 

再び蜘蛛の糸を吐き出そうとする小さい蜘蛛の集団。

 

尾崎は言われた通りに噴霧器の薬液を蜘蛛に向かって噴霧した。

 

薬液を浴びた蜘蛛は痙攣を起こして引っ繰り返り、生き残った蜘蛛は何処かへ逃げて行った。

 

 

「この匂いって藤の花?」

「はい、それには藤の花の成分を濃縮した液体が入っています。」

「それで蜘蛛が逃げたのね。」

「ええ、隊服に噴霧すれば鬼避けになりますので後の事は頼みます。」

 

 

男性隊士の応急処置を終えた私は尾崎さんに噴霧器をそのまま渡して負傷した隊士を預けた上で別れた。

 

そのまま伊之助君と共に炭治郎君の跡を追った。

 

本来で在れば先程の人達は亡くなってしまう運命だったが、何とか数名だけは救う事が出来た。

 

 

「さっきまであった鬼の気配が一つ消えやがったぜ。」

「恐らく炭治郎君がやったのね。」

「ちっくしょう!俺の分も残していきやがれってんだ。」

「いや、まだ潜んでいるかもしれない。」

「何で解る?」

「那田蜘蛛山は規模が大きいし気配がまだ感じ取れないだけで隠れている可能性もある。」

「成程、旨い所は残っている訳だな?」

「そう言う事、その分手強いかもしれないけど。」

「フハハハハハ!!この俺様に敗北はない!」

 

 

…伊之助君、悪い事は言わないがもう少し知恵を付けよう。

 

君はさり気無く私に誘導されているんだが?

 

円滑に事を進める為とは言え、そういう手を使う私も酷いと思う。

 

鞭を与えつつ飴を差し出すとはよく言ったものね。

 

 

「おい、あれは!」

「鬼?いえ…あれも人形にされた死体ね。」

 

 

移動道中に大鎌を両手に付けた頸のない鬼の様な躯体の残骸を見つける。

 

どうやら炭治郎君が倒した後の様だ。

 

 

「ここに居ねえなら、遁治郎はもっと先か…」

「炭治郎君ね、位置は?」

「ここをまっすぐだ!」

「判ったわ!」

 

 

炭治郎君が通ったと思われるルートには既に蜘蛛が糸を張り直している。

 

私は燃料が残り僅かとなった火炎放射器を蜘蛛の巣に向けて放った。

 

進むべき道を切り開く為に…

 

 

******

 

 

「十二鬼月がいるわ…」

「判っているよ。」

 

 

炭治郎は糸で隊士達と鬼の人形を操っていた女性の鬼の頸を水の呼吸・伍ノ型『干天の慈雨』で切り裂いた。

 

優しい最後を与えてくれた炭治郎に対し、彼女は消滅の際に危険が迫っている事を告げた。

 

 

「十二鬼月…下弦の伍がここにいる。」

 

 

珠世さんとの約束を果たす為にも十二鬼月の血を集める。

 

 

「おーい!紋次郎っ!!」

「伊之助、ハスミさん!」

「炭治郎君、無事の様ね。」

「はい、二人のお陰で糸で操っていた鬼は倒せました。」

 

 

炭治郎と合流した伊之助とハスミ。

 

だが、その喜びを崩す存在が彼らを見下げていた。

 

 

「母さんを殺したのは君達?」

「!?」

「誰だ、テメェ!」

「…(子供の鬼?けど、この気配は。」

 

 

満月の夜だった為に月明かりで相手の様子が互いに見えやすかった。

 

木々の間に細い糸で綱渡りをする様に現れた白い鬼の少年。

 

彼の手にはあやとりをする様に糸が存在した。

 

 

「ふうん、あの方の言っていた花札の少年と眼帯の女って君達?」

「だったらどうだって言うのかしら?」

「あるおじいさんが言ってたんだ、君らは強いから気を付けてねって。」

「まさか…!?」

「僕らは無惨様に媚びる必要もない、だって…父さんも姉さんもこんなに強くなったんだから。」

 

 

現れた二体の異形の巨大鬼。

 

一体は顔は牛と蜘蛛を合わせたもので人の形を保った巨躯の鬼。

 

一体は上半身が女性で下半身が蟹と蜘蛛を合わせた巨躯の鬼。

 

 

「父さん、姉さん、アイツらから僕を守って。」

 

 

襲い掛かろうとする二体の巨躯の鬼達が動きを止めた。

 

 

「どうしたの…!?」

「奴の事を詳しく聞かせて貰いましょうか?」

 

 

ハスミは火炎放射器を仕舞うと背に掛けていた絡繰り箱から刀を取り出した。

 

それは巨大な大剣で中央には戦輪と呼ばれる武器が九枚程窪みに連結されていた。

 

重量など気にもせず、ハスミは片手で振り回し構えていた。

 

 

「…ハスミさんが刀を抜いた。」

「あれがアイツの刀ってバカデケェ!?」

「伊之助、ハスミさんは本気だ。」

「どういう事だ?」

「ハスミさんが刀を抜くのは死ぬ気で戦えって合図でもある。」

「全力か…悪くねえ!」

「俺達も行くぞ。」

「おっしゃあ!任せとけ!!」

 

 

炭治郎と伊之助もまた刀を構え直して巨躯の鬼に向かった。

 

これは鬼殺隊の本部に鎹鴉が到着した頃に起こったの出来事。

 

お館様こと産屋敷輝哉の指示により柱二名が那田蜘蛛山へ向かわせる事となった。

 

だが、柱二名でも驚愕する出来事が那田蜘蛛山で起こる事は誰にも判らなかった。

 

それが起こるのはもう少し時間が過ぎてからの事である。

 

 

=続=

 



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一騎当千の鋼と日ノ神の神楽

ヒノカミは太陽の様に巡る。

全てを浄化する炎の様に。

鋼の志は全てを薙ぎ払う。

行く手を阻むものを切り裂く為に。




那田蜘蛛山で戦闘が繰り広げられている頃。

 

ここ鬼滅隊本部の産屋敷邸では鎹鴉が息を上げながらお館様に伝言を伝えていた。

 

 

「よく頑張って戻ったね。」

 

 

情報を伝えた鎹鴉に対し労いの言葉を掛ける黒い着流しを纏う男性が告げた。

 

 

「そうか、私の子供達はやられてしまった者も居れば…少なからず生き残れたものもいるんだね。」

 

 

男性ことお館様…産屋敷耀哉は那田蜘蛛山に十二鬼月が居ると判断し柱を向かわせる決断を下した。

 

 

「柱を向かわせなければならない。」

 

 

お館様は屋敷の奥に控えていた柱二名の名を告げた。

 

 

「義勇、しのぶ。」

 

 

座敷に刀を置き、控えていた二人は了承の言葉を返した。

 

 

「「御意。」」

 

 

しのぶと呼ばれた小柄な女性は了承を得たい様子で義勇に声をかけた。

 

 

「人も鬼も皆仲良くすればいいのに…富岡さんもそう思いません?」

「…」

「だんまりですか?」

「それが本当にお前の本意で在ればな…胡蝶。」

「相変わらず、失礼な人ですね。」

 

 

義勇はしのぶを名字で呼び、深意を尋ねた。

 

それが『お前の本意なのか?』と。

 

優しい笑みを浮かべるしのぶだが、自身の上辺だけの言葉を読み取った義勇に苛立ちを隠していた。

 

 

「人を喰らう鬼は斬る、だが…人を喰わない鬼や鬼であり人でもある存在が現れたらどうする?」

「…人を喰わない鬼に鬼でも人でもある存在ですか?」

 

 

義勇が語ったその言葉の真意をしのぶが知るのはもう少し先の事。

 

 

******

 

 

時は戻り、那田蜘蛛山の山中にて。

 

月明かりに照らされた開けた場所。

 

白い鬼の少年と己の家族と称する異形の巨躯の鬼が二体。

 

それらに対峙する炭治郎、伊之助、ハスミの三人。

 

 

「あの少年の鬼以外、二体の鬼に自我は無い様ね。」

「ハスミさん、どうします?」

「炭治郎君はあの少年の鬼を、伊之助君と私で巨躯の鬼を引き受けるわ。」

「判りました。」

「おう、デケェ鬼は俺に任せな。」

「なら、牛の顔の方の鬼をお願い。」

「俺様に不可能はない!」

 

 

先程の糸で操る鬼との戦闘ダメージが少ない分、二人の戦う余力は十分にある。

 

巨躯の鬼は様子を見ながら頸を切るとして…

 

ジ・エーデルと接触したあの少年を問い詰める為にも炭治郎君の力が必要。

 

 

 

「父さんと姉さんを見ても逃げないなんて。」

「普通の思考なら逃げているでしょうね。」

 

 

死地を潜り抜けてきた私達にはこの程度の恐怖は如何とでもない!

 

まあ、一人例外がいるけど…

 

 

「…(あれはあれで自分に自信を持てば凄い馬力を出せるんだけど、その辺は本人の問題だからね。」

 

 

戦闘中であったが絶賛行方不明中の善逸の事を考えていた。

 

私は気を入れ直して相手の状態を観察する。

 

 

「やっぱり、蜘蛛の瞬発力と蟹の防御力を併せ持っているのか…」

 

 

世界には大雑把に三種類の蜘蛛が存在する。

 

一つは木々の間や狭い空間などに巣を形成する見慣れた蜘蛛。

 

一つは水の中で生活するミズグモ。

 

最後は土の中に穴を掘って袋状の巣を形成するジグモである。

 

元となった生物を辿るとすればオオツチグモだろう。

 

地球上でもっとも大きいとされる蜘蛛はオオツチグモ科に分類される蜘蛛と調べた事がある。

 

南米に13㎝程の大きさの同じ分類の蜘蛛が居る位だし、目安とすれば350ccの空き缶位の大きさだね。

 

問題は相手がコモリグモの習性も持っていると非常に厄介なのだが、戦いながら調べるしかない。

 

 

「毒性は兎も角、この馬力…トリクイグモって呼ばれる肉食蜘蛛に近い能力に似ている。」

 

 

私は炭治郎君と伊之助君と別れて、姉と呼ばれた巨躯の鬼と交戦を開始した。

 

糸での拘束攻撃から巨躯の鬼に似合わない跳躍力に少々驚いていた。

 

 

「ちっ!」

 

 

前世上で見た某パニック系映画のジャンピングスパイダーを思い出した位である。

 

手段がない限り、あの巨体に捕まったら逃げる術がない。

 

 

「蟹の手も邪魔だけど、隙だらけ。」

 

 

私は一旦刀を上空に高く放り投げた。

 

そのまま密着型の機雷を取り出し、鬼の攻撃を避けながらスライディングで鬼の下に滑り込み腹の殻に接着させた。

 

これはガンヲタ皆さんご存知のチェーン・マインの小型版。

 

この後の展開は御覧の通りである。

 

 

「柔軟性を保つには何処かの殻が柔くないといけない、腹を弱点にしたのは不正解だったわね。」

 

 

私は落下する刀をキャッチしてから起爆スイッチを入れた。

 

同時に機雷が連鎖爆発を引き起こし、鬼にダメージを与えた。

 

相当のダメージだったのかかなりの奇声を上げる鬼。

 

 

「…(博識な隊士なら腹を斬る弱点に気づいたでしょうね。」

 

 

ハスミは刀を構え直し、呼吸を行う。

 

足元が爪先から少し沈んだ瞬間。

 

その瞬間で巨躯の鬼を十字に切り裂いた。

 

巨躯の鬼の頚と肉体は押し潰された様に潰れ斬れた。

 

 

「鋼の呼吸、壱ノ型・裂鋼。」

 

 

その様子を戦いながら観察していた伊之助。

 

 

「…(アイツ、刀の一撃がクソ重てぇのか。」

 

 

それは回避不可の一撃必殺の剣技。

 

相手を圧倒しその重圧で切り裂く。

 

元を辿れは自身もまた危険に晒す剣技でもある。

 

最大を十とすれば防御が零と化す諸刃の戦闘方法。

 

 

「戦闘中に余所見をしない!」

「おわっと!?」

 

 

ハスミが姉鬼を始末すると伊之助が相手を務めていた父鬼の猛攻が一層激しくなった。

 

 

「クソッ、牛蜘蛛野郎の頚も硬てぇが拳の一撃も速ぇ!」

「成程、鉄柱を鋸で斬るのと同じ状況か…」

「どうするんだ!」

「伊之助君は奴の注意を!私が頚を斬る。」

「癪だが頼んだぜ!」

「…(こっちは牛の突進力と蜘蛛の柔軟性を利用した近接型。」

 

 

だが、攻撃の動きに法則性はなく出鱈目に馬鹿力を振るっている事が解る。

 

ハスミは刀を構え直し頸を刺すように両断し肉体を切り裂いた。

 

 

「鋼の呼吸、弐ノ型・突鋼、参ノ型・覇鋼、合わせて穿鋼。」

 

 

自身が苦戦した頸をハスミはいとも簡単に切り裂いた事に伊之助は腹を立てていた。

 

力の差、技量、そう言ったものが自分に足りないと改めて実感させられたのだ。

 

 

「伊之助君、大丈夫?」

「ああ…」

「腕の出血が酷いから止血はしておくわよ?」

「…」

 

 

父鬼をかく乱させる為に無茶をさせ過ぎた。

 

調子に乗っていた部分もあるだろうが、自分の驕りに気づけたのならそれでいい。

 

私は止血剤と包帯を取り出して伊之助の腕に応急処置をしていく。

 

 

「紋次郎は?」

「さっきの戦闘で離れ離れになったみたい。」

「道理でアイツの気配が移動続けてる訳だ。」

「ねえ、気づいていると思うけど…戦闘中、何処かで落雷の落ちる音がしたわよね?」

「ああ……もしかしてあの泣き虫か?」

「善逸君よ、あの子もあの子で頑張った様子ね。」

「…」

「伊之助君があの鬼の注意を引き付けてくれたお陰で頸を切れたわ、ありがとう。」

「お、おう。」

 

 

誰かに褒められる事になれてない伊之助はほわほわな気分になり、なんとなく悪くないと感じていた。

 

 

「止血はしたけど、無理はしないで。」

「判ったぜ。」

「…(判っているのかな?」

 

 

止血箇所である両腕をブンブン振り回している伊之助に対して私は少々呆れた感じもしなくもなかった。

 

 

「炭治郎君の場所は?」

「白い奴の居た場所からもっと奥の方だ。」

「…行きましょう。」

 

 

炭治郎君達なら大丈夫と思うが、何か嫌な予感がする。

 

私は伊之助君に移動を促して跡を辿った。

 

 

>>>>>>

 

 

一方で那田蜘蛛山に柱二名が到着し二手に分かれた頃。

 

行方不明だった善逸は人を蜘蛛に変える血鬼術を駆使する兄鬼と交戦。

 

無事倒したものの兄鬼が使役する蜘蛛に手を噛まれた事によって毒に置かされていた。

 

口と鼻から出血し息が荒くなり、手足に痺れが回っていた。

 

兄鬼曰く使用した毒は人を蜘蛛に変える物。

 

 

「…(せっかく、生き延びたのに。」

 

 

毒で声を発する事が出来ず、ヒューヒューと息が漏れていた。

 

走馬灯の様に自身の育手の幻影が見える中、凛とした声が聞こえてくる。

 

 

「もしもーし、大丈夫ですか?」

 

 

蟲柱・胡蝶しのぶの到着によって善逸の安全は保障されるのだった。

 

 

そして…

 

 

先程の異形と化した父鬼と姉鬼の残骸を発見した水柱・冨岡義勇。

 

 

「どれも頸を一撃…」

 

 

普通の刀なら在り得ない切断面を観察する義勇。

 

現時点で柱が苦戦している頸を一撃で切り裂く隊士。

 

姉鬼の残骸に関しては爆薬を使用した形跡があった。

 

 

「…ここに来ているのか?」

 

 

義勇は移動した跡と思われる足跡を辿り、追跡を再開した。

 

 

更に那田蜘蛛山の最奥にて。

 

白い鬼こと累と対峙する炭治郎。

 

 

「ねえ、訂正してよ。」

「しない、お前のやっているのは家族でもない…ただの恐怖と暴力で纏め上げた偽物の絆だ。」

 

 

自分は正しいと答える累の問いに憐みの表情を向ける炭治郎。

 

忘れてしまった家族の絆と愛情を手探りで求める累。

 

求める事は誰にも止められない。

 

ただ、やり方が間違っていると気づかせたいと願う炭治郎。

 

 

「もういいや、十二鬼月の僕にそんな言葉しか出来ないのなら…」

 

 

累が瞳に刻まれた下弦の伍の証を見せつけても怯まない炭治郎。

 

累の糸と炭治郎の日輪刀が火花を散らす。

 

そして糸の一撃が炭治郎の目元を掠めようとした時。

 

 

「グ、ウウウゥ!?」

「禰豆子!?」

 

 

炭治郎を庇う為に箱の中から禰豆子が飛び出し防いだのだ。

 

 

「兄ちゃんが油断したばっかりに…ゴメンな。」

「ム…」

 

 

禰豆子は首を振って否定し大丈夫であると手探りで教える。

 

累は目処前で起こった兄妹の絆に感化し欲しいと切望した。

 

僕に妹を差し出せと…

 

 

「お前に禰豆子は渡さない!」

 

 

炭治郎の息が燃える。

 

熱く、赤く、輝くように。

 

それは日輪の様な熱さ。

 

 

「ムウ!?」

 

 

炭治郎の日輪刀に禰豆子の血が付着し爆炎を纏った刀へと変貌する。

 

禰豆子の血鬼術『爆血』の覚醒。

 

そして疑似的な熱を帯びた刀の発動。

 

 

「ヒノカミ神楽!肆ノ型 灼骨炎陽っ!!」

 

 

累の頸を瞬時に切り裂き、灼けるような痛みを負わせる。

 

原初の鬼を滅する為の呼吸の剣技。

 

それは複雑に枝分かれした鬼の眷属を滅するには十分な威力だった。

 

 

「僕が…」

 

 

頸を切られた累は走馬灯の様に思い出した。

 

自分が家族の絆を断ち切ってしまった事を。

 

願わくはもう一度、本当の家族に会いたいと。

 

自分を迎えに来た家族の抱擁の中で泣きじゃくりながら謝罪の言葉を告げた。

 

 

「ゴメンナサイ…」

 

 

=続=



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駆け抜ける騎馬と夜明け

迫る大群。

駆け抜ける鋼の騎馬。

新たなる戦いの予兆。

兆しはすぐそこに。


炭治郎が禰豆子と共に下弦の伍を倒した頃。

 

善逸ら毒に侵された隊士達の応急処置後。

 

しのぶは西から南南東へ向かっていた。

 

そこでとある物を発見する。

 

 

「これは…繭でしょうか?」

 

 

南南東の木々で日を通さない洞穴。

 

そこに無数の巨大な繭を発見した。

 

数は三十程度。

 

中身は既に無く、内側から這い出した様に繭が切り裂かれていた。

 

そして繭の数の三倍位の白骨死体の残骸。

 

蜘蛛の習性に酷似している為か、肉体の中身を搾り取られた様な遺体も存在した。

 

 

「洞穴の主は出て行った後、では…何処へ?」

 

 

しのぶの呟いた疑問と同時に山の各所で地響きが発生する。

 

 

「これは、地震!?」

 

 

ただ揺れるのではなくある一定の間隔を開けて起こっている。

 

これは何かが通過していると認識するしのぶ。

 

 

「あれは…!」

 

 

しのぶは揺れが一瞬収まったのと同時に洞穴から出て洞穴の上へと向かう。

 

見晴らしのいい場所へ出ると南南東へ向かって移動する何かを目視する。

 

月明かりと土煙で上手く認識出来ないが、動く物体である事は理解出来る。

 

このまま放置すれば大きな被害が出てしまう事も悟った。

 

 

******

 

 

時は戻り、累を倒した炭治郎と禰豆子。

 

二人はヒノカミ神楽の反動と傷を負った影響で動けずにいた。

 

禰豆子に関してはある程度止血したのが解ると箱の中へ戻っていた。

 

 

「…(呼吸を整えろ、ゆっくり血の巡りを均一に。」

 

 

前回よりも修行の回数を増やしていた為に全身への負担はある程度軽減されているものの…

 

ヒノカミ神楽の反動は大きかった。

 

理由は前回よりも技の強さが増している為である。

 

刀の切れ味、技の速度、振り下ろす筋力、それらが前回よりも強くなった。

 

威力が強くなれば、代償として肉体への反動も大きくなる。

 

炭治郎は技を出す事は出来なくても行動は可能なまでに体力を整えた。

 

 

「…」

 

 

やっぱり、ヒノカミ神楽の反動が強くなっている。

 

呼吸をより安定させて次に繋げる様に修行しないと…

 

 

「おーい、紋次郎っ!!」

「伊之助!ハスミさん…ってぐへ!?」

「伊之助君、炭治郎君の名前を間違えてるし腹に突撃しないの。」

 

 

考え事をしている間に伊之助、ハスミと合流したが…

 

猪突猛進な伊之助の頭突きを腹部に喰らう事となった炭治郎である。

 

 

「白い鬼の少年の着物…無事に倒したのね。」

「はい、何とか…」

 

 

炭治郎は頭突きされた腹部を摩りながら先程の着物を畳み直して地面に置いた。

 

そして祈りを捧げた。

 

ハスミもそれに続いた。

 

 

「こんな少年まで鬼にされていたなんて。」

「…この鬼は下弦の伍と名乗っていました。」

「十二鬼月そして無惨に反逆した鬼、か…」

 

 

残っていた下弦の伍の衣服からジ・エーデルの気配は感じられない。

 

この子は奴の改造を受けていない、となると受けたのはあの二鬼だけか…

 

 

「!?」

 

 

突如、発生した地震。

 

 

「な、何だぁ!?」

「地震?」

「いや、これは……!」

 

 

揺れが一瞬収まったのと同時にハスミは何かを察し近くの木の上に上る。

 

天辺まで上ると双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。

 

 

「そう言う事か!」

 

 

南南東へ向かって迫り来る土煙。

 

先程の姉鬼と呼ばれた巨躯の鬼の子供らしき異形の鬼が山を下っていたのだ。

 

 

「ハスミさん、何があったんですか!!」

「炭治郎君、伊之助君、さっき倒した巨躯の鬼の他の個体が大群で南南東に下ってる!」

「えっ!?」

「マジか!?」

「このまま南南東に下ったらあのおばあさんの居た藤の家紋の家が破壊されるわ!!」

「どうすれば…!」

「…一か八か止めるしかない。」

 

 

日の出まであと数刻ある。

 

あの速さから換算して戦うなら…

 

 

「叙荷!」

「はいよ、お嬢!」

 

 

私は上空で待機していた鎹鴉に声を掛ける。

 

 

「救援に来た隠に台車で入山場所に置いてある荷物をここに持ってくる様に頼んで。」

「あのでっかい包みか?」

「そう、大至急で!」

「よっしゃー!俺様に任せて置けって!!」

 

 

叙荷は高速で救援先の隠に伝達しに行った。

 

ハスミはそのまま木の下に降りて炭治郎達と合流する。

 

 

「ハスミさん、どうするんですか?」

「そうね…」

 

 

ハスミは近くにあった枝で地面に簡単な図面を書く。

 

 

「私達が居るのはココ、現在も大群は南南東へ下っている。」

 

 

ハスミは続けて大群が通過するルートにある開けた場所に印を付ける。

 

 

「この開けた場所で大群を迎え撃つ。」

「無茶ですよ!」

「炭治郎君、出来るから提案しているのよ?」

「ま、まさか………アレですか?」

 

 

炭治郎、悟りすぎて久々の顔芸が炸裂。

 

 

「そ、炭治郎君達は応援に来ている隊士と合流してこの開けた場所の更に南南東…場所の区切りに集合させて欲しいの。」

「判りました。」

「伊之助君も一緒に行ってあげて。」

「何でだよ!」

「炭治郎君は下弦の鬼との戦いで消耗が激しい、子分を守るのが親分なんでしょ?」

「ちっ、しゃあねえ!」

 

 

私は隠達から超特急で届いた荷物を確認した後、炭治郎君らを救援に来た隊士達の元へ行かせた。

 

合流は一刻後。

 

それまでにお膳立てをすればいい。

 

 

「久々に飛ばそうか。」

 

 

私は届いた荷物の保護カバーを外して中のバイクに搭乗した。

 

月夜に響く爆音と唸る音。

 

エンジンが掛った所で目的地まで木々の間を私は駆け抜けた。

 

 

>>>>>>

 

 

別れてから半刻後。

 

鎹鴉と隠の案内で救援に駆け付けた隊士と他の隠が集まっている場所へ辿り着いた炭治郎達。

 

場所は兄鬼と交戦した善逸が居た場所。

 

その善逸は全身に包帯が巻かれて処置済みの名札が張られていた。

 

 

「善逸~無事だったのか!」

「何だ?その恰好!」

「…」

 

 

毒の影響で声の出せない善逸は伊之助の態度に苛立ちを覚えたが反論できる状況ではないので無視した。

 

炭治郎は階級が上の隊士を探し出し、指示を出している義勇の姿を発見する。

 

 

「冨岡さん!?」

「炭治郎、お前も来ていたのか…?」

「あの…実は!」

 

 

炭治郎は義勇にこれまでの経緯を話し、南南東へ下っている大群をハスミが一人で抑えている事を告げた。

 

 

「彼の話している事は本当ですよ。」

「胡蝶か…」

「その子の言う大群が居たと思える洞穴を先程発見しました。」

 

 

しのぶは『もぬけの殻でしたけど。』と付け加えた。

 

引き続き炭治郎より状況を聞き、話し合う義勇達。

 

 

「…数が不明な大群、頸を斬るにしても手が足りない。」

「そうですね、隊士の殆どが負傷している状態ですし…」

「今もハスミさんはたった一人で…俺。」

「…行こう。」

「冨岡さん。」

「もう冨岡さんは相談も無しに決めてしまうんですから…」

 

 

しのぶは隠に指示し護衛と負傷者と共に山を下山する様に命令した。

 

炭治郎を始め、戦える隊士は柱と共に南南東の開けた場所へと向かった。

 

因みに伊之助は腕の負傷もあり、義勇に紐でグルグル巻きにされた後に強制離脱させられた。

 

 

*******

 

 

同時刻、現場に到着したハスミは大群に目掛けてグレネードランチャーで閃光弾と炸裂弾を交互に分けて大群に発射。

 

動きを止めて怯んだ隙にバイクで突撃し破片手榴弾と菫外線手榴弾をばら撒きダメージを与えていく。

 

足を負傷した鬼はすかさず頸をバイクの突撃を利用し日輪刀で切断していく。

 

これにより五体の巨躯の鬼が倒されたが残り二十五の鬼が残っている。

 

日の出まで時間が長いのもあり、長期戦を強いられる事を覚悟した。

 

 

「こうなったら大盤振る舞いしかないか…」

 

 

バイクのコンソールを起動させミサイルランチャーのボックスと機関銃を稼働させる。

 

既に弾薬は対鬼用に切り替えているので怯ませる事は可能だろう。

 

ハスミはハンドルを握りしめて再度の突撃を行った。

 

 

「これだけの火力なら再生すら出来ないでしょうね。」

 

 

大群の中心に向けてミサイルランチャーと機関銃を発射。

 

先程の閃光弾と手榴弾の影響が続いているらしく大群の多くは頸や肉体を削り取られる様に爆散、四散した。

 

 

「焼き蜘蛛の盛り合わせの出来上がりってね。」

 

 

だが…

 

 

「あれが大群のボスか…」

 

 

最後に残っていた色違いの巨躯の鬼。

 

他の鬼よりも一回り大きくボスの役割を担っていると予測した。

 

しかし、肝心の大群は先程の爆撃で壊滅し動けるものはいなかった。

 

一鬼対一騎の戦い。

 

知恵が回ると思われる鬼もハスミの行動に危険視し間合いを取っていた。

 

 

「早い所、終わりにしようか?」

「…」

 

 

鬼は糸束を吐き出し拘束しようとしたが、ハスミはバイクを素早く移動させて回避する。

 

そして…

 

 

「これにて御終い。」

 

 

隠し持っていたグレネードランチャーを鬼の口に目掛けて発射し爆発で怯んだ所で頸を断ち切った。

 

ハスミが蜘蛛が完全に沈黙したのを確認する為に菫外線手榴弾を投げつけた。

 

爆発を確認し完全な無力化を察した後、バイクを停車させて降りた。

 

 

「救援、無駄にしちゃったな…」

 

 

爆撃と銃撃で焦土と化した場所でハスミは呟いた。

 

鬼の家族は消え去り、那田蜘蛛山は本当の意味で夜明けを迎えた。

 

 

=続=




武装可変バイク・疾駆(しっく)
(モチーフは某未来からの暗殺者を開発した会社が作成した対人戦用バイクと5が3つ付く作品に出ていた可変バイクを合わせたもの。)

過去に主人公が白兵戦で使用していたバイク。
巨躯の鬼の大群と交戦した際に使用。
武装としてミサイルランチャーと機関銃、各二丁。
バイク各所にアーミーナイフ数本と手榴弾、使用重火器の弾倉が仕込まれている。
自動追尾モードと操縦モードがあるので故障がなければ誰でも運転は可能。
本人は通常マニュアルで動かしている。
電動式でバッテリーは三日分の日光で完全充電が可能。
定員は操縦者を含めて二名まで。


炭治郎も一度乗車した事があるが余りの速さと轟音で放心状態になった事がある。
後に伊之助が破壊しそうになり主人公の逆鱗に触れたのは言うまでもない。


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柱合会議編
柱合会議と鬼の眼


全てはここから。

真実を白日の元へ晒す。

憎しみの始まりは何処から?

戦うべき相手は別にいる。


那田蜘蛛山での戦闘から数刻後、夜明けを迎えた。

 

戦える隊士を引き連れた柱達が目的の場所に辿り着いた直後に見た光景。

 

それは焦土と銃撃の跡が残る戦場だった。

 

三十は存在しただろう巨躯の鬼の置き土産。

 

それらが切り裂かれ爆発四散し壊滅に陥っていた。

 

これらを一人で成し遂げた人物が階級・癸の隊士だった事にも在り得ない状況だった。

 

だが、目処前の惨状を見ればそうとしか言いようがない。

 

そして鎹鴉達が飛び交う。

 

 

「柱は癸の隊士・竈門炭治郎ならびにクジョウ・ハスミ両名を連れ、柱合会議に参列せよ。」

 

 

片言、濁声で発言する鎹鴉達。

 

皆、内容は同じ物。

 

これだけの大事をこなせば本部も黙って見ている訳にもいかないのだろう。

 

 

「…(ここからが修羅場か。」

「もしもーし。」

「はい、何でしょうか?」

「貴方がクジョウさんですね?」

「そうですが…?」

「鎹鴉達の指示は聞きましたか?」

「…ええ、貴方は柱ですか?」

「ええ、ご同行お願いますね?」

「判りました。」

 

 

大群を抑える為に弾薬を多く消費し補充の算段を考えていた私ことハスミ。

 

到着した柱の一人である蟲柱のしのぶに声を掛けられ指示通りに従った。

 

 

******

 

 

時刻は夜明けを過ぎて朝方を迎えようとしていた。

 

場所は鬼殺隊の本部。

 

無惨の放った鬼達すら発見する事が出来ずにいる場所。

 

それが自身の拠点エリアの郊外…そのとある場所に秘匿されていたとは思いもしなかっただろう。

 

木を隠すなら森の中と言った所だろうか?

 

 

「では、目隠しを外してください。」

 

 

隠に目元の布を外す様にと告げられる。

 

那田蜘蛛山での戦闘後、本部へ向かう手前ルートで位置が判らない様に目隠しをされていた。

 

本部到着まで外さない様にと念を押されている。

 

指示を受けて目隠しを外した後、周囲を確認すると…

 

 

「…(日本庭園か?鬼殺隊を動かしている以上、それなりの財力があっても可笑しくないか。」

 

 

手入れの行き届いた庭園、足元には庭園用の石が敷き詰められている。

 

私ことハスミと炭治郎君の両名は目元の布を外し、引き続きその場で待機していた。

 

 

「ハスミさん、この後の事ですが…」

「炭治郎君…大丈夫よ、成り行きに任せましょう。」

「は、はい。」

 

 

私は『感情に任せて話しても意味がない、頭に血が上った連中にはそれなりの正論を叩き付ける事。』と付け加えて置いた。

 

 

「…(柱の態度に怒って鉄砲を乱射しないといいんだけど。」

 

 

炭治郎は恐らく起こるであろう大乱闘を冷や汗を出しながら怯えていた。

 

二年前に自宅で起こりそうになった義勇に対する乱射未遂の事をトラウマの様に思い出す始末である。

 

 

「お館様の指示とは言え、癸の隊士を会議に参列させるって…派手に地味だな。」

「…」

「うむ、何か理由があって呼ばれたのだろう。」

「…(あの男の子可愛い、女の人は片目が眼帯…怪我かな?折角綺麗な顔しているのに。」

 

 

暫く待っているとザワザワと騒がしい話声が聞こえてきた。

 

恐らくは他の柱だろう。

 

ジャラジャラと派手な身なりの青年、数珠を持った大男、炎を彷彿させる髪色の青年、ピンクと緑のグラデーションカラーの女の子。

 

ぼーっとしている髪の長い炭治郎君位の少年、近くの松の木に寝そべっているオッドアイの青年、そしてしのぶと義勇。

 

計八人の柱と思われる人物達が集合したのだ。

 

 

「お館様が末端の隊士を呼ぶ理由、あるとすれば重大な違反位だろう。」

「…(このオッドアイ糞蛇、理由も聞かずに悪者扱い?」

「違反って事は裁判か?」

「…(ジャラジャラ派手男よ、それを決めるのはお館様であって貴方じゃない。」

「ならば、お館様のお手を煩わせる事もあるまい。」

「…(坊さん…年長者?なのにまともと思ったら脳筋か!」

「うむ、ここで罪状を聞き斬首すればいい!」

「…(声、うるさ!?」

「お館様がいらっしゃらないのに勝手な事をしていいのかしら?」

「…(このピンクちゃんいい子過ぎる、お姉さん歓喜。」

「まあまあ、皆さん…事の次第はお館様が来てからでも良いのでは?」

「…(蟲柱さん、それがまともな発言よ。」

「俺もそれでいい。」

「…(水柱、毎度の事ながら主語と肝心な部分を抜かして話すな。」

 

 

炭治郎君から聞いてはいたけど、ここまで自己主張が強くて話を聞かない上司ってどんだけですか?

 

余りにも頭が痛くなってきた。

 

もう少し理解があると思ったけど、私の見当違いだったわ。

 

あー威嚇射撃位はしてもいいよね?

 

 

「…(ハスミさんの怒りが頂点に達している、このままじゃ柱と全面対決に。」

 

 

ハスミから極度の怒りの匂いを感じ取った炭治郎。

 

かつてハスミを頂点に怒らせ逆鱗に触れた伊之助へのお仕置き光景を見ている。

 

その光景を思い出し、冷や汗がダラダラと流れていた。

 

 

「何か面白れぇ事になってんな?」

 

 

最後の柱だろうか?

 

これまた鬼も逃げそうな人相の傷跡だらけの青年がやって来た。

 

 

「不死川、遅えぞ?」

「わりぃな。」

「いえ、お館様がお見えになっていないのでまだ遅刻ではないですよ?」

「そいつらは?」

「お館様の指示で呼ばれた末端の隊士達だ。」

「それで裁判って聞こえたが、こいつら隊律違反でもしたのか?」

「不明だ、だが…柱合会議に末端の隊士を呼ぶのなら裁判と思った。」

「なら、お館様の手を煩わせる事もねえ…ここで斬首すりゃあいいだろう?」

「…(お館様がいらっしゃる前なのに良いのかな?」

 

 

これは駄目だね。

 

貴方達にとっては隊律違反かもしれないが…

 

こっちにはこっちの事情があると言う事を弁明すら許さないのか?

 

色々と情報をかき集めて置いたけどもう教えない。

 

 

「…」

 

 

一通り様子見したけど…

 

柱全員がそれぞれ何かを抱え込んでいると言うのは理解できた。

 

例えとすれば、心の闇とかトラウマの様なモノ。

 

自分だけで一杯一杯だったり諦めや死に場所を求めている。

 

確かに末端の隊士の質が落ちるのも解るわ。

 

那田蜘蛛山で他の隊士の技量を見定めていたけど…

 

真剣に末端の隊士達への戦術指南や定期訓練をやらせていないもの。

 

鬼討伐で多忙とは言え、指南役を置くとか出来なかったのか?

 

今は良くてもちょっとの事で戦力は軒並み総崩れになるわね。

 

これ、中から色々と改革しないと無理ゲーだわ。

 

 

「あの、そこの隠さん…こちらの方達が全員柱の方達で?」

「ああ、そうだが?」

「成程、私達の兄弟子の冨岡さんと先の討伐先に赴いた胡蝶さん以外は初見だったので。」

 

 

ハスミは監視役で控えていたの隠の一人に質問した後。

 

納得の末、勝手に斬首すると会話している柱に対して反論した。

 

 

「会話に乱入させて頂きますが、そちらの方達が隊律違反を起こしているのでは?」

「何?」

「鎹鴉達から送られた本部の指示は柱合会議に私達を参列させる事とお聞きしました。」

「確かにそうですね。」

「本部の指示ではないのに勝手に罪状を決めて斬首する……それこそお館様への『反逆』にして隊律違反なのでは?」

「ならば、お館様のご命令にはない行動は慎むべきなのだろう。」

「んで、何でお前らが呼ばれた?」

「鬼殺隊にとって有益な情報を持っているからではないでしょうか?」

「情報だと?」

「鬼殺隊設立史上最悪の出来事に関する事と言えば解りますか?」

 

 

ハスミは柱達の会話で正論を説き、柱達の勢いを相殺させた。

 

簡単と言う訳ではないが、柱達の話し方や雰囲気から性格と思考を分析。

 

それなりの回答をする事で有無を言わせない状況を作り上げてしまったのである。

 

この様子に炭治郎も心の中で『ええー!!柱達を一斉に黙らせてる!?』と顔芸を披露していた。

 

 

「数か月の間に発生した巨躯の鬼が正にそれではないですか?」

「巨躯の鬼…各地で発生している町や村の全民失踪事件の原因ですね。」

「それなりの巨体ですので人を喰らう量も普通の鬼より貪欲でしょうし。」

「成程、那田蜘蛛山で発生した三十と言う巨躯の鬼蜘蛛の大群を一人で倒した貴方だから答えられる考察なのですね。」

 

 

しのぶの発言に周囲の柱の表情と気配が変わった。

 

 

「はぁ!?」

「よもや!」

「…信じないぞ。」

「…(あんなに美人な人が巨躯の鬼を一人で一掃するなんて素敵でカッコいい!」

「事実ですよ?」

「ああ…」

 

 

他の柱達は在り得ないと答えるがしのぶと義勇は実際の現場を見ている為に真実であると告げる。

 

抉れた大地と銃撃の跡、硝煙の匂いが漂う場所に転がった巨躯の鬼だったもの。

 

あの光景は一生忘れる事はないだろう。

 

 

「柱二名の証言もある以上は有耶無耶に出来んだろう。」

「俺達でさえ手を焼いている奴らをたった一人でかよ…」

「その女の事は判った、問題はそっちの餓鬼だ。」

 

 

不死川と呼ばれた青年は他の柱の話を遮り、話題を変える。

 

その視線は炭治郎に向けられた。

 

 

「女の方は兎も角、その餓鬼まで呼ばれたのは何でだ?」

「鎹鴉達の話によれば、彼は那田蜘蛛山に潜んでいた下弦の鬼を切ったそうです。」

「それなら癸から階級を一つ上げられる程度の話だろう?」

「いえ、その他にも柱の条件である既定の五十の鬼も切っているとの事ですので…」

「だとしても階級は癸…良くて庚辺りに上がる位だろう?」

「まあ、その件はお館様の判断に任せましょう。」

 

 

会話が続く中でお館様こと産屋敷耀哉とご子息二名の案内で謁見場に到着した。

 

それに反応し、柱全員が謁見場の反対側の庭園で跪付いた。

 

私と炭治郎君もそれに倣い跪く。

 

お館様の様子から恐らくは盲目、ご子息や鎹鴉達から情報を得ているのだろう。

 

そして、お館様に纏わりつく不穏な思念。

 

…百年いや千年位は凝縮されているだろう。

 

正に呪詛と言っても不思議じゃない。

 

 

「私の可愛い隊士達、今日はいい天気なのだろうね。」

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです、益々のご多幸をお祈り申し上げます。」

「ありがとう、実弥。」

「…(私が言いたかった、お館様へのご挨拶。」

「恐れながらお館様、柱合会議の前にこの隊士達をお呼びになられた理由をご説明頂きたく存じますが?」

「そうだね、驚くだろうが…ここに鬼が一人いる。」

 

 

「「「!?」」」」

 

 

「炭治郎、鬼となってしまった君の妹は君の持つ箱の中かな?」

「はい。」

「では、君の妹には人を襲わないと言う証明しなければならない…出来るね?」

「判りました!」

 

 

驚く柱を余所にお館様は柱達を静止させ、炭治郎に証明の証を立てる様に告げた。

 

炭治郎は箱を背負うと一度失礼してから日陰になっている座敷に上がり禰豆子を箱から出した。

 

 

「禰豆子、これから兄ちゃんが傷をつける…我慢できるね?」

「むー。」

 

 

炭治郎はまだ怪我の直りが遅い禰豆子に無理を承知で用件を告げると禰豆子は頷いた。

 

炭治郎は日輪刀で自分の腕を傷付け出血させると禰豆子の前に差し出した。

 

 

「…」

「…(頑張れ、禰豆子。」

 

 

禰豆子の加えている竹の隙間からボタボタと流れる唾液。

 

禰豆子は手を血が出るまで握り締めた後、暫くしてからそっぽを向いた。

 

 

「どうなった?」

「鬼の女の子は兄の腕から流れた血に反応せずそっぽを向きました。」

「これであの子が人を襲わないと証明出来たかな?」

「お館様、少々失礼する。」

 

 

お館様が状況を尋ねるとご子息の一人が状況を伝えた。

 

他の柱達も疑心暗鬼に成りつつも認めなければならない状況に困惑していた。

 

だが、不死川だけは納得がいかず禰豆子の元へ行き同じ様に腕に傷を付けて差し出した。

 

しかし、結果は同じで禰豆子はその差し出された腕すらもそっぽを向いた。

 

 

「鬼の女の子は不死川様の血にも反応せずそっぽを向きました。」

「これで証明出来たと思う、禰豆子は人を襲わないと言う確かな証明をね。」

 

 

炭治郎は腕の止血を済ませると禰豆子に労いの言葉を掛けてから箱に戻し元居た場所へと戻った。

 

同じく不死川も腑に落ちない表情で元の位置に戻る。

 

その後、鱗滝師匠、冨岡義勇、竈門家の家族からの嘆願書の説明を受けた。

 

もしも鬼として暴走した場合は嘆願書に記載された人物全員の頸を斬る事と…

 

 

「まず、炭治郎と禰豆子、ハスミをここへ呼んだ理由…彼らは二年前に鬼舞辻無惨と遭遇している。」

「何ですと!?」

 

 

お館様の発言で更なる動揺を起こした柱達。

 

聞きたい事は山ほどあるが、お館様の静止で本題を続けた。

 

 

「そして炭治郎とハスミは一夜を掛けて炭治郎の家族を鬼舞辻無惨から守り切った筈だった。」

「お館様、発言をお許し頂いても宜しいですか?」

「正確な状況を知る君達が話した方が良さそうだね…炭治郎、ハスミ。」

「では、その時の状況をお話しします。」

 

 

私と炭治郎君は二年前に起きた竈門家襲撃の日の出来事を告げた。

 

日輪刀も無い状況で炭治郎君は斧、私は鉄砲で応戦。

 

夜明けを迎える頃、兄を心配し飛び出してきた禰豆子ちゃんを庇って私が負傷し守った筈の禰豆子ちゃんも額にかすり傷の負った事を。

 

 

「妹は鬼にされ…ハスミさんも鬼になった筈でした。」

「なった筈?」

 

 

炭治郎君の言葉に疑問を持ったしのぶ。

 

無惨の血を受けた人間は例外なく鬼にされる。

 

だが、鬼にされた筈のハスミは日差しの下に平然と立っていた。

 

 

「ハスミ、その眼帯の下の眼を皆に見せてくれるかな?」

「はい。」

 

 

お館様の指示の元、ハスミは立ち上がり左目を覆っている眼帯を外した。

 

閉じられた瞼を開き現れたのは鬼の眼。

 

だが、それは血の様に紅い眼ではなく蒼い眼だった。

 

 

「この事から私は何かの兆しではないかと思っている。」

「兆しですか?」

「そうだよ、禰豆子と同様に彼女も無惨の支配を跳ね除け鬼の力は残っているが人としても生きていける。」

「正確には禰豆子ちゃんは睡眠、私は日光浴と人と同じ食事…かなりの量を必要とします。」

 

 

私は『それだけで人を喰わずに居られるのなら奇跡と言えます。』と付け加えて置いた。

 

 

「もう一つ、炭治郎達は浅草で鬼舞辻無惨と再度遭遇し追手も差し向けられたと報告があるね。」

「人に擬態している鬼舞辻無惨と遭遇した炭治郎君達と当日行われた財閥同士の夜会に忍び込み無惨を発見した私に対する報復と思われます。」

「ハスミ、君は何処まで無惨の情報を手に入れている?」

「推測の部分も入りますが、無惨が配下を使って何を探し求めているのかは突き止めました。」

「判った、ありがとう。」

 

 

話す事は山ほどあるが、お館様の体調も考慮し一度お開きとなった。

 

続きは夜に行う柱合会議で話す事が決定した。

 

 

「最後に炭治郎、ハスミ、君達には柱見習いと柱となって貰えないだろうか?」

「えっ?」

「お館様、それは…」

「君達は証を立てた、そして鬼を規定数以上討伐している…炭治郎に関しては周りの眼もあるから表向きはハスミの継子にしておいたよ。」

 

 

お館様の発言に他の柱も驚愕していたが、お館様本人からの拝命で在る以上は覆せない。

 

認めさせる為に今後も実力と証を立てなければならないだろう。

 

 

「判りました、クジョウ・ハスミ…柱就任を拝命致します。」

「同じく竈門炭治郎、柱見習いを拝命致します。」

 

 

お館様直々の拝命を私達は受けた。

 

未来を変える為には致し方ない事とは言え回りくどい手を少々使わせてもらった。

 

 

「では、休憩を挟んでから会議の続きをしよう。」

 

 

お館様はそう答えるとご子息と共に屋敷の中へ戻って行った。

 

 

「炭治郎君、腕の傷もあるし次の会議までに治療してくる?」

「はい、そうします。」

「では、私の屋敷に連れて行ってください。」

「え?」

 

 

しのぶの指示で有無言わずに炭治郎は禰豆子ちゃんの箱ごと控えていた隠達にドナドナされていった。

 

 

「…(あらら。」

「ハスミさんでしたね…急展開な事が多すぎたと思いますが柱就任おめでとうございます。」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします…しのぶさん。」

 

 

表面上は笑っているけど、鬼を嫌悪する感じはひしひしと伝わってくる。

 

 

「本当に片目だけ鬼の眼なのですね…後で血を取らせて貰ってもいいですか?」

「ああ、いいですけど…何に使うので?」

「今後の研究にと思いまして。」

 

 

こう言う所が何となく珠世さんとデジャヴを感じるのは気のせいだろうか?

 

気にしないで置こう。

 

 

「そう言えば、ハスミさんの呼吸は水の呼吸ですか?冨岡さんに炭治郎君と兄妹弟子同士ですし。」

「炭治郎君は水の呼吸ですが私の呼吸は鋼の呼吸です、何処の派生かは不明ですが…」

「鋼ですか?」

 

 

聞いた事のない呼吸に混乱するしのぶ。

 

 

「文字道理に鋼のごとく強固で鋭く一撃必殺の重点とした呼吸です。」

 

 

私は背負っている琴箱を指差し『日輪刀もそれに相まってかなり巨大なんです。』と付け加えた。

 

 

「胡蝶、自分ばっか喋ってねえで俺らも紹介させてくれよ。」

「すみませんね宇髄さん、色々と気になる事が多かったので。」

 

 

宇髄と呼んだジャラジャラ青年を始めとした他の柱の自己紹介を受けた後。

 

聞きたいと言っていた無惨の姿に関して軽く説明して置いた。

 

そこである事が判明した。

 

二年前に冨岡さんに預けたカメラが本人の不注意で紛失したとの事だ。

 

しかも無惨の姿を写したネガが日光に当たってしまい使い物にならなくなってしまったと言うオチ。

 

 

 

「冨岡さん、私…あの時云いましたよね?大事な物なので扱いにご注意くださいと?」

「すまん。」

「だから、炭治郎君もしなくていい怪我をしたと言う訳ですね?」

「!?」

 

 

はーい、もうストレスマックス限界点突破です。

 

私は刀を地面に置いた後、冨岡さんに対して知り得る限りの関節技を披露し最後にアルゼンチンバックブリーガーを死なない程度に決めてあげました。

 

 

「毎回言いますけど主語と肝心の部分を抜かしての会話をしないでください、ややこしい!」

「…」

「あれマジで死んでねえか?」

「大丈夫ですよ、痛い内は死んだに入りませんので?」

 

 

関節技をこれでもかと言う位に締め上げられた義勇は地面に伏せていた。

 

その光景に宇髄も唖然としていたが、ハスミの発言に対して心の中でボソリと呟いた。

 

 

「…(胡蝶がもう一人増えやがった。」

 

 

=続=

 



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戦いの矛先と真実

鬼の始祖と鬼を生み出した祖先。

二つの戦いは拡大し広がっていく。

水に広がる波紋の様に。



引き続き、鬼殺隊本部・産屋敷邸にて。

 

前回のカメラ紛失の件で話し合い(物理)をし冨岡さんを締め上げた私ことハスミ。

 

抜刀はしていないので隊律違反ではないだろうと思いたい。

 

だが、大事な情報を潰した事に関しては怒ってもいいと思う。

 

 

******

 

 

「予備のネガを持っていたから良いものを…貴重な情報を。」

「…不可抗力で。」

「と、なると…写真を現像する店選びを失敗したとか?誤ってネガ入れの蓋を開けてしまったとかですか?」

「…(コクコク」

「後で炭治郎君に説明した上で謝罪するなら大目に見ます。」

 

 

知り得る限りの関節技を叩き込んだせいか、ズキズキと痛みで背中を摩っている冨岡さんに対して発言するハスミ。

 

彼女の後光には鬼神様が降臨した様な気配を漂わせていた。

 

 

「ちゃんと本音を出して話してくださいね?ややこしいので?」

「…(ブンブン!!」

 

 

先程の連続関節技を喰らいたくないのか頸を縦に振る速度が異様に早かったのは気にしないで置く。

 

富岡さんの声って某山猿様に六つ子の長男だったり極度のヘタレと親友を裏切りそうな声とかに聞こえるからどうしようもない。

 

 

「妹弟子に叱られる兄弟子…情けない。」

「まあまあ、伊黒さん…本人の前で本当の事を言わないで上げてくださいよ。」

「胡蝶、お前も人の事言えねえぞ?」

「…(あの冨岡さんにお説教、何時もの冨岡さんっぽくなくて可愛い。」

 

 

伊黒と呼ばれたオッドアイに続き、しのぶ、不死川達が今の惨状に突っ込みを入れていた。

 

一人感性が違うピンクっ子がいるが、気のせいと思う事にする。

 

 

「そう言えば、クジョウ…鬼を相手に鉄砲使ったって言ってたな?」

「ええ、それなりの対処は必要でしたから…」

 

 

音柱・宇髄天元に話かけられた私は彼に答えた。

 

 

「…鉄砲だけで仕留めたのか?」

「いえ、頚斬りに日輪刀と撹乱に爆薬も使いましたよ。」

「通りで、微かだがお前から硝煙の匂いが漂っている。」

「那田蜘蛛山でも使用しましたので。」

 

 

あの状況下で援軍の到着は見込めなかった。

 

最善策として手の内を出したまでよ。

 

 

「お館様の許可を頂き、弾丸に再利用出来ない日輪刀の欠片を使用してますから殺傷力は高いですよ?」

「…鬼を仕留める為の銃弾って訳か。」

「ちなみに薬莢にも藤の花を加工して作った毒薬も仕込んでます。」

「まあ、それは興味深いですね。」

「時と場合に寄りますが…卑怯な相手程、逃がす必要はないのでは?」

 

 

被害拡大を最小限に。

 

そして連鎖的に引き起こされる騒動を沈める為に。

 

喰う者、喰われる者。

 

生きるか、死ぬかの瀬戸際に立たされた時、人は生き残る為の選択をする。

 

その相手が鬼だろうとゾンビだろうと得体の知れない者だろうと変わりはしない。

 

 

「鬼と同族のお前が言う事か?」

「半分は…ですが?」

「お館様が認めようが俺は認めねえからな?」

 

 

彼こと風柱・不死川実弥の言葉はもっともだ。

 

何処から現れたの不明な成り損ないの私が鬼を倒す事が認められないのだろう。

 

だが、それはこちらも同じ事。

 

 

「認めなくても…私も貴方の事、認めてないので。」

「はぁ!?」

「そちらが手を焼いているとぼやいていた巨躯の鬼を倒せないのなら足手まといと言っているのよ?」

「テメェ…!」

「…相手に文句を言うのなら巨躯の鬼を二十や三十位倒してから言う事ね。」

 

 

声だけに〇〇王とか呼ばれそう。

 

正直、明鏡止水開眼後のキング・オブ・ハートやフルメタな高校生の方がまだ性格的にマシだわ。

 

ついでに言えば、戦闘能力と戦術構築にも天と地の差があるし。

 

 

「この女ぁ…!」

「不死川、止めとけ。」

「止めんなぁ!伊黒、宇随!!」

「…あの冨岡に説教して屈服させる相手だぞ?」

「口で勝てねえ相手に喧嘩を売るのは止めとけよ。」

「うむ、口先で不死川に勝てるとはすごいぞ!!」

「煉獄、不死川を煽るな!?」

 

 

伊之助君といい勝負よ、この激怒風柱が…

 

まあ、実力不足である事を認識させる事は出来たから良しとしますか。

 

霞柱はどうでもいい的な雰囲気で、岩柱は喧嘩仲裁出来なくてずっと泣いているし。

 

本当に仲間同士の連携が完全に出来ていない。

 

後…炎柱、横でピーピーとうるっさい!!

 

 

「一体何が…?」

 

 

治療から戻ってきた炭治郎が眼にしたのはどうでもいい修羅場。

 

富岡はどんよりオーラを出しつつ隅の角で体育座り、不死川はイライラと殺気で鬼を二、三体切れる勢い。

 

その不死川を止めている伊黒と宇随。

 

相変わらずの炎柱こと煉獄。

 

と、他を除いての修羅場が展開されていた。

 

 

「炭治郎君、お帰り。」

「ハスミさん、ただいま戻りました。」

「腕の傷は大丈夫?」

「はい…それと善逸と伊之助にも会ってきました。」

「そう言えば、二人とも怪我してたものね。」

「屋敷の人に尋ねたら回復には暫く掛かるそうです。」

 

 

こちらへ向かう途中…二人の状況を聞いたが善逸は毒、伊之助は両腕と喉の負傷。

 

完治までには時間は掛かるだろうと思っていた。

 

 

「所でハスミさん、これは一体どう言う事なんですか?」

「ちょっと、色々とね?」

「色々ですか?」

「そう、色々。」

 

 

ハスミさんのあの笑顔は絶対に聞いてはいけない合図だ。

 

匂いでも判る、これは関わってはいけない。

 

 

「炭治郎君、そんなに冷や汗をかかなくても大丈夫よ。」

「だ、大丈夫です。」

「炭治郎君は正直だから顔で嘘だって解るわよ?」

「…うう。」

 

 

嘘つけない性分な為か顔に出てしまう炭治郎。

 

申し訳ない表情で唸っていた。

 

 

「炭治郎君、まだ会議もあるけど…もう少し頑張れる?」

「大丈夫です。」

 

 

私は真っ直ぐ過ぎる答えを出した炭治郎君に対して無理をしている事を理解した。

 

我慢する時としない時の判別が鈍いのだろう。

 

 

「ハスミさん…?」

「辛かったらちゃんと言うのよ?」

「はい。」

 

 

頑張った事を褒める相手が居れば別だろうに。

 

私は頭を撫でている炭治郎君の健気さに心配する事しか出来なかった。

 

 

******

 

 

その後、柱合会議が再開。

 

産屋敷邸の一室にてお館様とご子息様、柱全員が集合していた。

 

私は炭治郎君と共に鬼舞辻無惨の能力、姿、浅草での状況を説明した。

 

 

「成程、月彦と言う偽名で人の世に入り込んでいたんだね。」

「はい。」

 

 

先に炭治郎君が浅草の通りで遭遇した無惨の状況を説明。

 

人の姿に化け、人の妻子を騙して家族を装っていた事。

 

その後を追えない様に別の場所で騒ぎを起こして姿を消してしまった事。

 

柱になる前の一隊士にそれ以上の行動は自殺行為と認識して貰った。

 

続いて、私が浅草に滞在中に手に入れた情報を開示した。

 

 

「無惨は月彦の姿では青年実業家と言う触れ込みで商いを行っており、政財界にも幅広い縁を持っている様です。」

「政財界か…」

「この事から無惨の拠点は帝都内の何処かまでは絞りましたが、下手に手を出す事は出来ないと判断しました。」

「理由は?」

「この鬼殺隊が政府非公認組織だからです。」

 

 

鬼殺隊が政府非公認である事はその戦力は鬼を滅する為のものであり、戦争や人殺しの道具ではない事。

 

別の角度から見れば産屋敷一族が無惨に対抗する為に使役する私兵団とも言える。

 

もしも…鬼殺隊が政府公認であれば、その力を手に入れようとするだろう。

 

 

「成程、無惨は何も知らない人間達を利用し守りを固めているのだね?」

「はい、潜入した夜会で主に貿易関係の政府高官や帝国陸軍に海軍の上層部にも繋がりを持っている事は判明しています。」

「それは…厄介な事だね。」

「その通りです。」

「えと…どう言う事なんですか?」

 

 

お館様の納得に私の説明で混乱する恋柱・甘露寺蜜璃。

 

恥ずかしがりながら解り安い説明を求めていた。

 

 

「下手に無惨に奇襲を掛ければ、政府高官を利用し…鬼殺隊そのものを国家反逆を企てる賊として扱う事も可能って事よ。」

「そんな…」

「在り得る話とは言え、守るべき人が敵になる…これは鬼殺隊にとって屈辱でしょう。」

 

 

今後の行動次第で守るべき人が自分達を追い詰める敵となる。

 

長く鬼滅隊に所属している柱達はやり場のない思いや感想を述べた。

 

 

「成程な、こっちが無惨の姿や拠点を発見して絞れても軽はずみな奇襲は出来ないって事か。」

「…胸糞悪ぃ。」

「ああ…人の思い込みがそうさせてしまうのだな。」

「面倒くさいね。」

「鬼は姑息、だが…これ程までの姑息な手段、無惨はもっとも卑劣である事は明白だ。」

「そうですね、私達も策を練る事も視野に入れないといけません。」

「うむ、正々堂々と戦えんのは仕方がない。」

「寧ろ…姑息な存在で陰湿、陰険、臆病者、干物隠居爺の黒ワカメ頭に正々堂々は無理でしょう。」

「ハスミさん…相当根に持ってますね?」

「…二年前、奴の撤退先にもっと爆薬追加しても良かった位よ。」

「一升瓶六本分の火薬を仕込んだ爆薬を使って置いてですかー!?」

「米俵三俵でも足りないわよ。」

「ええ…(もしも、使ってたら俺の家どうなっていたんだろう。」

 

 

顔芸祭りも程々にハスミは話の議題を戻した。

 

 

 

「話を戻しますが、その無惨の正体を知り協力関係を結んでいた人間がいます。」

「無惨の協力者?」

「はい、その人間が今までに発生した巨躯の鬼を生み出していた存在です。」

「君はその存在を知っているのかな?」

「…嫌悪すると言う程に。」

「名は何と?」

「その者の名はジ・エーデル・ベルナル……私が追っていた宿敵の一人にして狂気の科学者です。」

 

 

ジ・エーデル・ベルナル。

 

優れた科学者であるが、己の出す研究結果に酔いしれ人を人とも思わない狂気の存在。

 

奴の研究によって滅ぼされた国は数知れず、被害者は億を超えるだろう。

 

そして奴は倒れたとしても長年の研究で己の精神を自身の精神と波長の合う人間に憑依する事が出来る方法を発見してしまった。

 

肉体の死は在っても精神の死は無く、何度でも蘇る事が出来てしまう。

 

長年追っていた身としては最悪の敵の一人である。

 

 

「歴史上に存在しない若しくは消えた国や技術の名残は奴の関与があったとされています。」

「…それは無惨以上の敵と見てもいいかな?」

「はい、下手をすればこの国どころか世界そのものが奴の手によって滅びを迎えるでしょう。」

 

 

事実だ。

 

奴の行動で私の居た世界も滅ぼされかけた。

 

今はこの世界の制約が架せられた以上、お手製の起動兵器群は使用出来ない。

 

奴は代替品として巨躯の鬼を生み出した。

 

更なる被害が出る前に捕縛し倒さなければならない。

 

 

「それ程の相手を君は追っていたのだね。」

「はい、その道中で無惨の鬼の呪いを受けた次第です。」

「ハスミさん。」

「那田蜘蛛山を縄張りにしていた少年の鬼はジ・エーデルと接触していた…そして無惨への裏切りも答えていました。」

「自らが生み出した鬼に無惨が裏切られると?」

「はい、今後も無惨の生み出した鬼達の中から裏切り者や巨躯の鬼が出現するでしょう。」

 

 

無惨による統率の取れなくなった場合。

 

首輪を外された鬼達は見境なく人間を襲うだろう。

 

日を克服した鬼が出てくる前に奴を仕留めなければならない。

 

 

「判った、ハスミ…君には引き続き無惨の情報収集と巨躯の鬼討伐専門の任に付いて貰いたい。」

「御意。」

「炭治郎も通常の任務が入るだろうが彼女の力になってくれるかい?」

「判りました。」

「他の皆も今後の鬼の行動に注意しながら討伐に励んで欲しい。」

 

 

他の柱達もお館様の新たな指示に従った。

 

 

「最後に無惨が配下の鬼を使って現在も捜索しているものがあります。」

「探し物?」

「はい、それは『蒼い彼岸花』と呼ばれるものです。」

「蒼い彼岸花?」

「それが無惨を鬼へと転じさせたものだと……奴の血を受けた際に流れ込んで来た情報です。」

 

 

それが文字通りの植物なのか別の物を指し示す物なのかはっきりと明確になっていない。

 

通常では存在しない蒼い彼岸花。

 

 

「逆にこれが鬼となった人を人間に戻す事が出来る代物ではないかと思っています。」

 

 

無惨に対抗する為の力。

 

鬼を人に戻す事が出来る可能性の代物。

 

 

「お館様、この情報は引き続き…私の方で調査を続けます。」

「判った、情報が入り次第…鎹鴉で連絡を送ってくれるね?」

「はい。」

 

 

その後は各柱からの報告を受けて柱合会議は終了した。

 

炭治郎君が危惧した事件まで残り二か月。

 

救う為の下準備を進めなければならない。

 

悲劇を繰り返させない為に。

 

 

=続=

 





=呪いの矛先=


その夜。

私はお館様から直接呼ばれた。

理由は産屋敷一族に掛けられた呪い。

私は無惨の過去を垣間見た事を鎹鴉でお館様に伝え、産屋敷一族に掛けられた呪いに別の意図があるのではないかと告げた。


「では、君は私達の一族に掛けられた呪いは別の思惑が絡んでいると?」
「はい、呪われるべき存在は産屋敷一族だけではありません…鬼を生み出すきっかけとなった薬師も呪われる対象ではなかったのか?と推測しています。」
「確かに…産屋敷一族から鬼が出たと言う事のみが古い文献に残っている。」
「だからこそ、その者にとって好都合だったのです。」


産屋敷一族から鬼が出た。

恨み、怒り、憎しみの全てを産屋敷一族が背負わせよう。

そうする事でその者達…薬師の一族は上手く逃げおおせたのです。

これにより一族を根絶やしにする短命の呪いは産屋敷一族が背負う事となった。


「無惨の悪行によって培われた千年以上の呪い全てを覆す事は出来ません。」
「…」
「ですが、説得する事で和らげる事は可能かと思います。」


無惨によって奪われた何千人もの命が帰ってくる訳ではない。

私はただ、出来得る限りの事をするまでだ。

私の…ガンエデンとしての巫女の浄化の力。

その力でお館様の呪いを出来得る限り、浄化しようと試みた。

結果、お館様は眼に光を取り戻す事が出来た。

だが、呪いの根源となった人達の答えは産屋敷一族の総意を持って鬼をこの世から滅する事が条件だと告げた。

それまではむやみに一族の命を奪う事はしないと答えた、

これはご子息達の命も保証する事も盛り込んでいる。


「彼らは今後産屋敷一族の者達の命を奪う事はしないと告げました。」
「そうか…」
「ですが、産屋敷一族が『鬼をこの世から滅する。』事を放棄した場合…呪いは産屋敷一族を再び蝕む事になります。」
「肝に銘じて置こう。」


私も調べなければならない。

薬師一族の生き残りを探し当てなければならない。

奴が関わっている以上、好き勝手にさせない為に。









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修行と見極め

見極める。

誰がどの特性に秀でているか?

そして伸ばしていけるかを?


前回の柱合会議から翌日の事、検査を含めて蝶屋敷に一晩お世話になった。

 

私ことハスミは炭治郎君と共に善逸君と伊之助君が入院している病室へと足を延ばした。

 

何か叫びまくって屋敷の女の子達に迷惑をかけていたので二人を締め上げて置いた。

 

困っていた女の子達の一人である傷病者の看護をしていた神崎アオイと言う少女から目から鱗状態の眼差しで見られた。

 

 

「怪我をしているのなら安静にして処方された薬をしっかり飲む事、判ったわね?」

「は、はいー!!」

「…!!(コクコク」

「…(この二人を一気に黙らせるなんて。」

 

 

同じ様に屋敷に通院していた村田さん達にも再会。

 

那田蜘蛛山で救出した人達の中で軽傷の人もいれば重傷を負った人もいるので致し方ない。

 

ついでに下弦の伍にサイコロステーキにされそうになった奴もね。

 

私が半分鬼で柱に就任した事を隠の一人に説明され吃驚させたのは申し訳ない。

 

ある程度の挨拶周りが終わった後、既に用意された私の屋敷に移動。

 

お館様は初めから私を柱にする気だったようで手回しが早いと思った。

 

屋敷の手入れは隠の人達が行ってくれていたので直ぐに入居が出来る状態。

 

有難く使わせて貰う事にし、そこで炭治郎君と秘密の話し合いを始めた。

 

 

「肺の強化を中心とした身体強化をしたいって?」

「はい、何かいい手段はないでしょうか?」

「あるにはあるけど……かなりキツイわよ?」

「それでも俺は……後悔したくないんです。」

「例の炎柱を救う為、だったわね?」

「そうです。」

「覚悟が出来ているのなら私は止めはしないけど…本当に厳しく行くわよ?」

「お願いします。」

 

 

私は炭治郎君の決意が固い事を確認した後、修行場の準備が必要なので数日待機して貰う事にした。

 

当の炭治郎君は暇だからと屋敷の掃除から家事全般をやり始めてしまったので申し訳なく思う。

 

取り合えず、私は炭治郎君の為に修行に必要な演習場の作成に取り掛かった。

 

まあ簡易的なものにしろ設置には二日位掛かる。

 

この鋼屋敷の周辺は修行するのに適した場所が多いので軽く加工したものを設置するだけで十分だろう。

 

 

「さてと、本格的な修行なんて何時振りかな…」

 

 

私は炭治郎君用の修行メニューを構築し準備を進めた。

 

炭治郎君は肺の強化と長期戦に耐えられるようにする為の身体強化の修行。

 

何時ものヒノカミ神楽は空いている時間でして貰う事にして…

 

この希望に沿ったメニューとすれば、あれだね。

 

うん、あれしかない。

 

 

>>>>>>

 

 

二日後。

 

特に鬼討伐の指示が入ってこないので他で上手く回しているのだろう。

 

この辺は有難いが、新たな情報が入らないのは正直困る状況だ。

 

取り敢えず、今出来る事として修行に専念しよう。

 

 

「まず、これを渡して置くね。」

「これは何ですか?」

「工場とかで使われるマスクよ、修行以外の日常生活中はそれを付けておいてね。」

「判りました。」

 

 

衛生マスクの正式な普及は1934年頃に発生したインフルエンザの流行が切っ掛け。

 

今の時期は工場や採掘所で使われるものが相場になっている。

 

炭治郎君に渡したのはガーゼと紐で造った簡易的なもの。

 

不織布マスクなんて便利なものは、この時代にないので致し方ない。

 

修行内容を説明した後、炭治郎君と共に基礎ランニングから開始した。

 

 

「まずは走り込みから、走れるだけ走って行くわよ。」

「はい!」

 

 

まず、炭治郎君に指定したルートの走り込みをさせた。

 

高地トレーニングは肺活量を増やす為に必要な要素の一つ。

 

その後は水中トレーニングと管楽器を吹かせる修行も行った。

 

色々やって数時間後。

 

 

「ご苦労様。」

「うへぇ…」

「食事休憩したら次の修行をするわよ。」

「は、はい。」

 

 

休憩時、手軽に食べられるように梅のおにぎりと筋力を付けるおかずを準備した。

 

日々の食事も筋力増加に影響し、中でもタンパク質と野菜のビタミン類が筋力増加に繋がる栄養素の為。

 

良く肉ばっかり食べる人もいるが食べ方を失敗すると筋力ではなく体重を増やすだけとなる。

 

要はバランス良く食べる事が大事って事ね。

 

 

「所でどうして山道で走り込みなんですか?」

「炭治郎君は雲取山や狭霧山で修行した時、呼吸がしづらいのを覚えている?」

「は、はい。」

「山って高い所に登れば登るほど呼吸に必要な酸素濃度が減っていくの。」

「…息がしづらいって事ですか?」

「そうそう、毎日高地での走り込みを続けていけば…少しの呼吸で済むし持久戦にも耐えられる様になるって事。」

「成程。」

「それと平行して筋力増加の食事や運動も取り入れていくから頑張ってね。」

「判りました。」

 

 

食事休憩後。

 

 

「ハス!ミさん~!これって!何か!意味が!あるん!ですか!?」

「あるから大丈夫、そのまま布の上で飛んでて。」

 

 

後半の修行メニューは巨大トランポリン。

 

現在、炭治郎君に丸腰で飛び跳ねて貰っている。

 

慣れてきたら帯刀した状態で飛んで貰うつもりだ。

 

 

「これ!何て!言う!んですか!?」

「それはトランポリン、躰全体の筋力強化と体幹を鍛えられるの。」

「そう!何です!か!」

「更に下半身の筋力もより強化出来るし慣れれば跳躍力が上がるわよ?」

「が!頑張り!ます!」

「話してる所、悪いけど舌噛まない様にね?」

「はい!」

 

 

傍から見れば遊んでる様に見えるが、れっきとした修行である。

 

まだ序の口だが、ある程度慣れたらトランポリンしている状態で銃弾を斬る訓練も入れていく予定だ。

 

今は修行に慣れましょうレベル、慣れたら順次バージョンアップしていこう。

 

 

「…(これでも軽い方なんだけどね。」

 

 

真面目に頑張っている炭治郎君の為にも出来得る限りの助力はするつもりだ。

 

 

「なのに、貴方達…何へばっているの?」

 

 

「「「「そんな事言われても…」」」」

 

 

「貴方達は、まだ山道の走り込みしかしてないでしょ?」

 

 

私は炭治郎君の修行と平行してお館様の指示で違反者のお仕置きメニューを行っている。

 

職務怠慢の末、減給処分の下った隊士達。

 

鬼討伐を偽り、虚偽申告を行った隊士達。

 

そう言った者達が集まっている。

 

 

「…グダグダ言う暇があるなら丸太を担いで後五往復してきなさいよ。」

 

 

私は『サボったら判っているわね?』と答えた後、再開合図としてP90で威嚇射撃して置いた。

 

 

「もしも…逃げ出したら全身蜂蜜まみれにした後、毒蛇を放った特製の養蜂場に吊るすわよ?」

 

 

ハスミの宣告に対し、この場に居る隊士達に『逃げる』と言う選択はゼロに等しかった。

 

理由は該当隊士達の違反判明の後、お仕置きと称して強制訓練に全員参加させられているのである。

 

ここ二日間の間に修行場の制作を始めとした活動に奴隷の如く馬車馬の様に働かされていた。

 

逃げようものなら重火器装備で地の果てまで追跡され、最終的には投げ網でドナドナされる始末。

 

別口で風柱とどっちがヤバいかと賭け事をしていた連中すら黙らせていた。

 

文字通り、敵に回したら最厄の存在が降臨したのである。

 

 

「…(鬼よりこえぇ。」

「…(いや、半分鬼だし。」

「…(もう勘弁して。」

 

 

この場の違反隊士達は『こんな事なら違反なんてするんじゃなかった。』と後悔していた。

 

それ位にハスミのお仕置きメニューは過酷なのである。

 

心根を折る発言から自尊心すら砕く毒舌が披露され、柱レベルの修行を酷使し心身共に疲弊させた。

 

それでも逃げようものなら全身負傷を覚悟の上で逃げ出すしかない。

 

その結果、約一名が見せしめとして全治二か月の負傷を負って蝶屋敷送りとなっている。

 

これに関しては逃走ルートに設置されたハスミの罠に引っかかった末の自業自得な末路なのだが…

 

 

「…(本当に便利よね、これ。」

 

 

ハスミが持っている資料にはこう書かれている。

 

 

『マオ姉さんの海兵隊式罵り手帳・新兵訓練編。』

『相良曹長流、陣代高校ラグビー部・訓練項目一覧書。』

 

 

敢えて言うなら取り扱い注意のものであるが、旨く利用すれば鬼なんて目じゃない位の気力と根性が付く代物。

 

精神面と体力的に質が落ちてると他の柱達が愚痴っていたので成果を出してみようと思った次第である。

 

 

「…(そもそも言い出しっぺがするべき事でしょうよ。」

 

 

隊士の質が落ちているのは隊士に定期的に訓練をさせていないからである。

 

試験場の藤襲山の管理に関してもお館様に放逐した鬼の進化の危険性に関して抗議文で送った位だ。

 

何処かで流れや改革を行わなければ、鬼殺隊そのものの存続に関わる。

 

育手の中で指南役を務められる者は居ないのかと進言もしたが、首を横に振られる始末。

 

で、結局…こっちに振られた訳である。

 

 

「…(まあ、使える程度には心身鍛えましょうか。」

 

 

私は錘を付けた鉄の棒で素振りしながら修行とお仕置きの監督を行った。

 

 

******

 

 

修行開始から一か月が経過。

 

当初の目的通り、炭治郎君の肺活量の強化と体幹トレーニングに成功した。

 

これで無防備になった空中でも体の位置をずらしたり防御態勢を取る事が出来る。

 

少し遅れて、伊之助君、善逸君の順に修行に参加。

 

各自任務もあるので全員の行動はバラバラであるが、要所要所の強化は出来たと思っている。

 

お館様に提出する報告書には各々の成長速度は違うが、継続して鍛える事は可能だと記載して置いた。

 

が、お館様の返信と指示書にて追加人員の修行を見て欲しいと仕事を増やされた。

 

 

「…そろそろ模擬戦でもさせてみるかな。」

 

 

隊士同士の戦闘はご法度であるが、修行と訓練に必要だと進言したらあっさりとOKされた。

 

よっぽど隊士の質に関して悩んでいたのだろう。

 

他の柱達も自分らの修行で手一杯らしく手が回っていない。

 

上司としてそれはどうかと思ったが、放っておく事にする。

 

今は結果と実績を出して云々言わせない事が大事。

 

これで覆せれば、彼らも変わるだろう。

 

 

「これより模擬戦闘による対戦をします。」

 

 

引き続き、鋼屋敷近辺の修行場に集まった炭治郎君ら修行中の隊士達。

 

話の内容に関して炭治郎君から質問された。

 

 

「あの、具大的には?」

「模擬戦だから木刀による一対一形式、相手が戦闘不能か気絶したら終了よ。」

「成程。」

「これは自分に足りないものを自分自身で発見する為のものである、なのでしっかりやる事!」

 

 

ハスミは『少しでも手を抜いたら…判っているでしょうね?』と後光に鬼神様を降臨させて注意していた。

 

その様子に他の隊士達は高速で首を縦に振っている。

 

この一か月間、修羅場とも言える修行を行ったので『逆らったら容赦ない恐怖』が身に沁みしていた。

 

 

「…(皆、ハスミさんの恐ろしさが身に染みてしまったんだな。」

 

 

この光景に炭治郎はホロリと涙を流した。

 

 

「ちなみに今回の対戦で成績の悪かった人は私が直々に相手をしてあげるから………死ぬ気で頑張ってね?」

 

 

やるか、やられるか?

 

守ったら負ける、攻めろ!

 

死ぬ気で反撃するんだ!

 

と、言う三つのフレーズが隊士達の脳裏を駆け巡った。

 

 

「早速、対戦相手はくじ引きで決めるから選んでね。」

 

 

事前に準備してあった紐のくじ引きで各自の対戦相手が決定。

 

 

「じゃ、準備が出来次第…順次対戦を開始するわね?」

 

 

後にこの模擬戦闘はいずれ行われる訓練に取り入れられた事は誰も知る由もない。

 

後の現代に遺される鬼殺隊・公式記録の一説に伝説の修行とその地獄の光景を綴った記録となる事も誰も知らない。

 

 

=続=

 




無限列車事件まで後、一か月。


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慈悲無き支配者

動き出す思惑。

それは変異の証。

存在しない者が存在する事はその流れもまた変わる。


鬼殺隊にて地獄の修行が行われている頃。

 

とある場所にて。

 

 

******

 

 

ベン!

 

ベン!ベン!

 

 

「…」

 

 

美しい黒髪の女性が琵琶をかき鳴らす。

 

複雑に位置する座敷と通路が入り組んだ場所。

 

灯篭の灯りのみの薄暗く何処までも長く広い空間に響き渡る。

 

 

「…」

 

 

ベン!ベン!ベンベン!!

 

 

「ここは…」

 

 

いつの間にかこの場所に現れた鬼の青年が言葉を漏らす。

 

琵琶の音が複雑に鳴るのと同時に上下左右が反転し入り組んだ場所に複数の男女が現れた。

 

彼らも鬼であり、その眼には文字が刻まれていた。

 

『下弦』と…

 

今宵、この場所に集められたのは『下弦の鬼』。

 

そんな事が出来るのはたった一人だけだ。

 

複数回、琵琶が鳴り響くと下弦の鬼達は一か所に集められた。

 

 

「「「???」」」

 

 

琵琶を鳴らしていた女性の傍に立つ黒い芸妓風の女性。

 

その眼は血の様に赤い鬼の眼。

 

何が起こったのか分からない下弦の鬼達は動揺したまま。

 

芸妓の女性…いや、声は男性の声色で答えた。

 

 

「首を垂れてつくばえ、平伏せよ。」

 

 

その場の全員が悟った、目処前の芸妓は鬼舞辻無惨であると…

 

 

「お許しください、お姿が普段のものと似ても似つかなかったので…」

 

 

恐れながら下弦の肆と刻まれた少女が答えるが気に喰わない様子で無惨は告げた。

 

 

「誰が喋って良いと言った?」

「!?」

「貴様らの下らぬ意志でものを言うな?」

 

 

少女は額に冷や汗が滲み出て手元を濡らした。

 

余りの恐怖に身震いするかの様に。

 

 

「私に聞かれた事のみ答えればよい。」

 

 

無惨は語った。

 

累…下弦の伍が殺されたと。

 

裏切りを犯したものであったが、子供ならではの残虐性を気に入っていた。

 

どうして下弦の鬼はこんなにも弱いのか?

 

 

「…(どうしてもと言われても俺達に。」

「判らないと?」

「!?」

 

 

下弦の陸の思考を読み、答える無惨。

 

それが無惨の逆鱗に触れた。

 

 

「お、お許しください!?」

 

 

下弦の陸は無惨の一部である肉塊に生きたまま咀嚼された。

 

 

「もはや十二鬼月は上弦だけで良いと思っている…故に今宵を持って下弦の鬼は解体する。」

 

 

続けて、いつも鬼狩りから逃げ出す下弦の肆、保身の為に無惨の血を欲した下弦の弐、その場から逃げ出した下弦の参を順に粛清した。

 

集められた場所を染める血飛沫。

 

それをうっとりと見つめる洋装の優男の姿の下弦の壱。

 

 

「私は貴方に殺される事、それは夢見心地に御座います。」

 

 

目処前に迫る死を歓喜し本心で答える下弦の壱。

 

彼の元から持つ嗜虐的で変態要素の入り混じった性質がそうさせている。

 

根っからのサイコパス気質な彼は己の死すらも喜んで受け入れていた。

 

その本心を読んだ無惨は肉塊を使って彼の頸に己の血を流し込んだ。

 

 

「気に入った、私の血をふんだんに与えてやろう。」

 

 

血を注ぎ込まれた下弦の壱はその場で痛みと苦しみにのたうち回っていた。

 

更なる鬼の血に順応出来なければ死、出来れば更なる力を得る事が出来る。

 

無惨は未だ足元に転がる下弦の壱・魘夢に告げた。

 

 

「花札の様な耳飾りを付けた少年を生け捕るか殺せ…そうすれば更に血を与えてやろう。」

 

 

告げ終わると琵琶の持った鬼の女性に指示を出し、血反吐を吐き続ける魘夢を無限城より退場させた。

 

同時に無惨は元の青年の姿に戻るといつの間にか控えていた侍風の男性に声を掛けた。

 

 

「黒死牟…来たか。」

「ここに。」

「貴様に命ずる、眼帯を付けた成り損ないの女を生け捕りにしろ。」

「成り損ない?」

「どうやったかは不明だが、二年前に私の支配を断ち切り鬼に成り損なった女がいる。」

「…」

「その女は片目だけが鬼の眼となっている故、常に眼帯で隠している。」

 

 

無惨は更に告げた。

 

花札の耳飾りを引き継いだと思われる小僧と同様に私を追い詰めた存在。

 

あの塵芋の様な男の思惑でこちら側から裏切り者が数多く出た以上、更なる鬼の素養を持つ者が必要だ。

 

奴らを釣る為の餌は撒いた。

 

時を見て襲撃を掛けよ。

 

 

「仰せの通りに。」

 

 

無惨の指示を受けた後、黒死牟と呼ばれた鬼は琵琶の音と共に姿を消した。

 

同じ様に続けて鳴る琵琶の音と共に無惨は夜の街へと舞い戻った。

 

 

「さて、お前はどう動く……夜天の零よ?」

 

 

無惨の呟きが夜風に掻き消されるのと同時に。

 

別の場所で月を眺めている人影が夜の森へと姿を消した。

 

 

=続=

 



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成果実戦と長月の悪夢

この日、鬼は恐怖に堕ちる。

この世で最も恐ろしいのは人間であると…

お前達は敵に回してはならない存在を敵に回したのだ。


時は戻り、お仕置き&強制修行を行っていた頃。

 

鋼屋敷の郊外に設置された修行場にて…

 

 

「この屑共、ゆったり走らない!!」

 

 

毎朝の事ながら怒声が響き渡る。

 

 

「全く持って何と言う様でしょうか?」

 

 

話し方は丁寧であるが、心を槍で突かれる様な毒が染み出ている。

 

 

「貴様らは塵!屑!蛆虫!この世で劣った壁蝨以下の存在よ!!」

 

 

人を人として扱わない発言にげんなりしている隊士達。

 

そんな彼らは逃げ出す事も出来ずに修行を続けていた。

 

 

「よく聞け!糞蟲共!!私の目的は貴様達の中から根性のないひねくれものを見つけ出し楽しむ事よ!!」

 

 

「「「…(え!?楽しむ!?」」」

 

 

「赤子の小指程度の物しか付いていない根性無し共!!根性があるなら今の課題を終わらせな!!」

 

 

「「「…(はぅ!?」」」

 

 

「それともそんな事もこなせないのかしら?人間以下の屑のロクデナシ?そんなのだから彼女すら出来ないのよ……塵蟲さん達?」

 

 

冷ややかな目で修行中の隊士達を罵る私ことハスミ。

 

大半の隊士達がピンポイントで本当の事だったらしく項垂れていた。

 

その後も心根を折る発言から男の尊厳を奪う発言によって打ちひしがれる状況が続いた。

 

 

「貴方達、他の柱達から何て言われているか知っているかしら?」

 

 

休憩時間中、真っ白くなって体育座りを始めた隊士達にハスミは答えた。

 

 

「質の悪くて使えない隊士ですって、前線で戦っているのは柱だけではないと言うのにね?」

 

 

ハスミはクスリと笑った。

 

 

「だから、貴方達が柱を超えて見たいと思わない?」

 

 

布石を落とす、高みへ向かう為に戦うべき相手を自分の手で倒せる様に仕向ける。

 

反逆の意志を持たせ、強く在れる様に。

 

 

「勿論、今のままでは柱に近づく事は出来ない……より過酷な試練を受けて貰う。」

 

 

柱以上に特訓を重ねて、鬼すらも恐怖させる存在へと至る。

 

ハスミは改めて訓練中の隊士達に答えた。

 

 

「今の立ち位置を変える覚悟はあるか!?」

 

 

「「「あります!!」」」

 

 

「より強い鬼を怯えさせ、強敵と戦う覚悟はあるか!?」

 

 

「「「あります!!」」」

 

 

「ならば答えは一つ!状況を把握し!どんな困難にも抗え!!」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 

これから一か月後、彼らは毒舌と暴言に生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされる修行を叩きこまれた。

 

この経緯は後の『長月の悪夢』の要因であり、鬼殺隊に遺された設立史上最悪の戦闘記録と化す。

 

 

******

 

 

修行開始から一か月後。

 

某所にて鬼が集団で人を喰らう事件が発生。

 

急遽、鋼柱率いる修行隊士達が実地試験をかねて任務を受ける事にした。

 

 

「…」

 

 

草木も眠る丑三つ時。

 

任務を受けて被害が発生している現地へ向かったものの…

 

既に村一つが襲われ、村人が一人残らず食い殺されていた。

 

生き残りも居ると予想され鬼の逃げた先へ向かう事となった。

 

 

「諸君、私達の目的は何だ?」

 

 

「「「鬼抹殺。」」」

 

 

「では、行動を開始する……各自、速やかに配置に付け。」

 

 

鬼の集団が根城にしていると思われる廃寺跡地。

 

それを見降ろせる場所に鋼柱らが集結した。

 

だが、隊士達の様子が一月前と変わっていた。

 

その眼は無慈悲に獲物を狩る眼だった。

 

隊士達を配置に付かせた後、ハスミは一人呟いた。

 

 

「容赦はしない、雑魚鬼を差し向けてこっちの力量を見定めようとしたお前にはもう慈悲はない……黒ワカメ頭が。」

 

 

タバコでも嗜んでいれば一本位は吸っていただろう。

 

しかし、私は煙草が苦手で匂いが駄目な方である。

 

理由は余程の事がない限りは止めて置けと知り合いに言われた事が切っ掛け。

 

その代わり、酔わない程度に酒は嗜んでいる。

 

 

「やはり、駄目だったか…」

 

 

ハスミはサーモグラフィー付きの双眼鏡で廃寺の内部を観察する。

 

観察の結果、動いている影は全て鬼。

 

残りの村人は全て喰われた後で生き残っている者はいない。

 

申し訳ないが鬼共と共にご遺体を火葬させて貰う。

 

 

「自分達が消し炭にされるのはどんな気持ちかな?」

 

 

ハスミはSMAW・ロケットランチャーを取り出すとサーモバリック弾を装填。

 

廃寺に目掛けて発射した。

 

ここしばらくは乾燥した風が続いていたせいかより燃えやすくなっている。

 

まさかの襲撃に鬼達は廃寺から飛び出し逃げようとしたが、壁伝いに隠れていた隊士達によって頸を斬られていた。

 

 

「一匹残らず潰せ!!」

「こっちに居たぞ!」

「クソっ!まだ生きていやがるぜ!」

「鋼柱様の奇襲で相手は動揺している!どんどん数を減らせ!!」

 

 

殺気だった隊士達は喰われる恐怖など物ともせずに頸を斬った。

 

反撃される前に目と手足を捥ぎ取れ、襲われる前に口を潰せ、喰われる前に頸を斬れ。

 

それが鋼柱が隊士達に教え込んだ必勝法だった。

 

潰してしまえば鬼も再生に手間取るだろう。

 

鬼も人と同じく異形化前では弱点が残っている。

 

頸以外に目や口に手足を取ってしまえば攻撃が出来ない。

 

相手の行動方法を潰し、手段がなくなった時に頸を狩る。

 

柱は一瞬で頸を狩る事が出来るが、一般の隊士達はそれが出来ない。

 

だからこそ、改善案として個人ではなく集団で行動する方法を選んだ。

 

那田蜘蛛山の件の様な事件では使えない方法だが、普通の鬼ならば逃げるしかない。

 

鋼柱と言う元軍人が隊士達を効率よく行動する集団に仕立て上げた以上、逃走するしかないのだ。

 

偵察、斥候、前衛、後衛、主力の五点に戦力を纏めて効率よく敵を一掃する。

 

数が少なくても油断する事を禁じ、より強敵ならば生きる事を最優先し情報を持ち帰る。

 

適材適所の心得を隊士達に教えた。

 

 

「まあ、何処の世界にも部下を置いて逃げる腰抜けがいるのだけどね?」

 

 

鬼の集団の頭をやっていたと思われる異形の鬼が逃走を謀り、逃走ルートに待機していたハスミと接触した。

 

 

「お前、眼帯の女………お前は…お前は!?」

 

 

その頭の鬼は恐怖した。

 

絶対に敵に回してはならない相手を敵に回した。

 

鬼舞辻無惨に反旗した成り損ないの鬼。

 

鬼殺隊に所属する裏切りの鬼。

 

奴に遭遇したら最後…草木も残らない荒地と化す。

 

 

「おやおや、部下を放って置いて自分だけ逃げるなんて…図体ばかりデカくて随分と肝が小さいですね?」

「ひっ!?」

「仏様に懺悔する覚悟は出来ていますか?」

 

 

ハスミは頭の鬼ににっこりと笑っていない表情で告げた。

 

 

「今まで喰った分の痛みをお前にも味合わせてやるから…ね?」

 

 

頭の鬼は恐怖の余りにハスミに突撃したが、至近距離で拳銃を顔面に撃たれ鼻を潰した。

 

 

「いでぇえええ!?」

「いやいや、まだ序の口だよ?」

 

 

地面に転がる頭の鬼の手足を撃ち抜き、顔面を固定する。

 

 

「ゆ、許してくだ!?」

「そうやって、今まで喰った人間の言葉をお前は素直に聞いたのか?」

 

 

答えはNOである。

 

空腹でやっとありつけた餌を逃がす生き物はない。

 

弱肉強食、喰うか食われるか?

 

自然の摂理に従えはそれは正しい事なのだろう。

 

だが、人間は生きる為に抗う。

 

それだけ貪欲なのだ。

 

 

「ふう…」

 

 

頭の鬼にありとあらゆる苦痛を味合わせた後、頸を斬った。

 

本当ならば、四肢を斬って日光に晒す方法も考えた。

 

が、次の任務が入っているので早期収拾に早期退却を選んだ。

 

遺体は出来得る限り隊士達と共に墓を作り埋めた。

 

残りは隠に引き継がせたので麓の町の警官隊が駆け付けるまでには終わるだろう。

 

 

 

>>>>>>

 

 

数日後、浅草の茶屋にて。

 

 

「おい、不死川…お前何があったんだ?」

「…」

「宇随、隊士達の質が急激に上がり始めたのは知っているか?」

「ああ、その話は俺も聞いているぜ。」

「それを成し遂げたのがあのクジョウだ。」

 

 

どんよりしている不死川に代わり宇随に説明する伊黒。

 

 

「アイツが?」

「嘘ではない、奴の修行を受けた隊士達は僅か一か月で鬼の集団を無傷で仕留めたらしい。」

「マジか…」

「甘露寺から修行を受けた隊士達が凶暴で強くなりすぎて怖くなったと話していた。」

「で、それが不死川の落ち込みとどう言う関係が?」

「その隊士達は不死川の殺気にすら恐怖しなくなった。」

「ぶっ!?」

「喜ばしい事だか、柱を舐め切った以上…鬼殺隊の指揮に関わる。」

「…そりゃな。」

「不死川がクジョウに反論したのだが…」

 

 

『身から出た錆でしょ、あの隊士達は過酷な修行をこなして立派に戦える様になった…それに隊士達の定期訓練をサボって質を下げていた張本人達が文句を言える立場かしら?』

 

 

「図星と正論を言われて打ちひしがれている訳だ…既におはぎを十個位やけ食いしている。」

 

 

そんなんこんなで不死川の愚痴に付き合う形で茶屋に引っ張られた伊黒は山詰みにされた皿と湯呑を指さした。

 

 

「どんな修行をしていたんだ、アイツら?」

「修行を見かけた胡蝶の話では奴らは毎日塵屑以下の扱いを受けて罵倒され死ぬ覚悟で修行をさせられていたらしい。」

「…どんだけだよ、それ。」

「胡蝶が『素晴らしい罵倒用語、今後使わせてもらいますね。』と話していた。」

「蝶屋敷にも犠牲者が増えるな。」

「そうだな。」

 

 

本日も顔芸は通常運転です。

 

 

=続=

 




<その頃のかまぼこ隊>


「ハスミさーん!!これも意味あるんですか!?」
「いやーーーしぬー!!?」
「フハハハ!!ビヨーンビヨーンしてて面白いぜ!!」
「ある程度したら、引き上げるからまた飛び降りてね?」


某、渓谷にて川へ直撃スレスレの連続バンジージャンプ中の三人であった。


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無限列車編
反逆の一手は何か?


全てに置いて偶然ではなく必然が重なる。

重なり合った必然が奇跡を呼び込んだ。

もう一度、あの時の光景を思い出せ。



鋼柱率いる訓練隊士達が無傷で鬼の集団を仕留めた事件から更に一か月後。

 

汽車に乗り合わせた乗員乗客が行方不明になると言う噂が舞い込んできた。

 

私ことハスミは鋼屋敷にて汽車で起こった事件を炭治郎君に一通り思い出して貰った。

 

但し、私が提示したのは状況だけで答えではない。

 

同じ事の繰り返しでは前と同じ結末になってしまうからである。

 

一通り聞いた私は改めて流れを一つずつ推理し解決していく方法を提示した。

 

 

「その事件は鬼一人ではなく複数の人間が関わっていた。」

「えっ!どうして判ったんですか?」

「理由は複雑だけど説明が付く。」

 

 

前提として汽車の事件は汽車のみが無事で乗員乗客全てが行方不明。

 

その規模の人間を喰らうにしても普通の鬼では無理がある。

 

異形化の鬼…いや、血鬼術を駆使する下弦級の鬼が潜んでいる可能性が高い。

 

それもかなりの知恵者がね。

 

これに人間の協力者…恐らくは車掌を含めた乗員。

 

乗客を逃がさない為と疑い始めた乗員を始末するのには弱みを握られた人を使ったのでしょうね。

 

それでも血鬼術にも限界があるし効果を高める為に何か触媒になるものを利用している。

 

逃がさない様にする…これは毒に麻痺、意識昏倒する血鬼術でしょう。

 

理由は客車内に血痕が残っていなかった。

 

恐らくは目立たない様に掃除されてるか、鬼自体が何かに擬態する能力か何かで痕跡を消しているかのどちらか。

 

最も効率がいいのが汽車自体と融合して人間を喰らう方法。

 

この方法なら指定した相手を喰わずに任意の相手を喰らう事も出来て汽車に痕跡を残さない。

 

…本当に良く考えられたものね。

 

 

「…(凄い、話した情報は少ないのにあの事件で起こった事の大半を言い当てている。」

 

 

だからこそ流れを変えずに奴らに一泡吹かせる。

 

それもとびっきりの秘策でね。

 

ハスミは炭治郎に条件を告げた。

 

 

「まず、一つ目は下弦の壱の眠りの罠を回避しない事。」

「と、言うと?」

 

 

夜明けを迎えさせる為の時間稼ぎその一。

 

夢の中の罠を受け入れる事。

 

但し、夢に溺れず現実から逃げない事。

 

 

「同時に禰豆子ちゃんに指定の時間…時計の音が鳴ったら血鬼術で縄を解いて貰う様にするから。」

「判りました。」

「ムー。」

「目覚めるタイミングは夢の中で腕に巻かれた紐が切れたら合図よ?」

「はい。」

「その協力者達も今回居る場合に限るけど、流れが変わらなければ来ている筈よ。」

「また争う事になるんですね。」

「ああ、気にしないでね……いざとなったら、これでお話するから。」

「あのー拳銃は止めましょう?」

 

 

この人なら拳銃で締め上げるなんて朝飯前だし。

 

寧ろ、あの四人の命が危ない。

 

 

「二つ目は乗客を守りつつ下弦の壱との戦いを長引かせる事。」

 

 

今回も炭治郎君と伊之助君が下弦の壱を抑え、乗車している炎柱と共に善逸君、禰豆子ちゃん、私で乗客を守りつつ時間稼ぎに呈する。

 

上弦の参が仕掛けてくる事は判っている以上は技の出し過ぎに注意する事。

 

目的は夜明けを迎えるギリギリの時間を稼ぐ事と相手に悟られない事。

 

 

「三つ目は私か炭治郎君のどちらかで上弦の参との戦いに介入する事。」

「何故です?」

「上弦の参が好戦的でより強い相手と戦いたいと言うのであれば狙わずにはいられない。」

「成程…」

「そして、奴の戦い方を熟知している貴方だから頼んでいるのよ…炭治郎君。」

「…」

「例外として無惨はこの戦いに余計な存在も差し向ける可能性も否定出来ない。」

「それじゃあ?」

 

 

ハスミは例外が出た場合、自分が対処すると炭治郎に告げた。

 

そして、その時…炎柱を守る事が出来るのは炭治郎だけであると付け加えた。

 

 

「炭治郎君、もしも余計な存在が出た場合は貴方が炎柱を守りなさい。」

「判りました、今度こそ…絶対に。」

「辛い戦いになるけど……生きましょう、皆で?」

「はい!」

 

 

その為の修行を続けてきた。

 

炭治郎にはもう迷いはない。

 

掴み取る為に生きる為に戦うと誓ったのだから…

 

 

******

 

 

私達は念密な準備を整えて汽車乗車の日を迎えた。

 

本来、合流の指令を受けたのは炭治郎君達のいつもの三人。

 

私は『彼らの修行の成果を確認したい』と言う理由から任務ではないが同行する形にした。

 

駅のホーム内でまたもや暴走しまくる伊之助君を締め上げ、私の琴箱に全員の刀を隠して乗車。

 

購入した切符はそのままである。

 

暫くすると列車が発車し、間を置いてから最後尾で各自に刀を返却し客車内を移動。

 

そして何両車か目で『旨い!』と言う叫びが聞こえてきた。

 

 

「この声は。」

「ハスミさん、知っているんですか?」

「間違いないわ…炎柱・煉獄杏寿郎の声よ。」

「何ですか、あの声は。」

「前に柱だけの宴会に誘われた時にも同じ事していたのよね。」

「…えー。」

 

 

善逸の質問に答えるハスミ。

 

その表情は呆れてものも言えない位に遠い眼をしていた。

 

 

『旨い!』

 

『旨い!』

 

『旨い!』

 

 

音の根源である車両に入ると声は車両内を響かせており、周囲の乗客をドン引きさせていた。

 

取り敢えず、その牛すき焼き弁当・十箱分食べ終わったらお小言でも添えて置こう。

 

 

=続=

 




無限列車編・その壱


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夢はただ夢のままで

夢は夢。

現実は現実。

優しい夢に惑わされず。

残酷な現実を歩め。


前回の煉獄杏寿郎の食事が終えてしばらく経ってからの事。

 

彼の第一声がこれである。

 

 

「す、済まなかった。」

 

 

下らない理由であるが、説明の為に少し遡る。

 

 

******

 

 

鋼柱ことハスミは炎柱・煉獄杏寿郎に対し告げた。

 

 

「人目を気にせず食事をする……それは別にいいんですけどね。」

 

 

ハスミは冷めた目で答え始めた。

 

 

「その声の音量…何とかなりませんか?周りに迷惑ですけど?」

 

 

杏寿郎の心に一撃目。

 

 

「それに任務前なのに腹八分目所が満腹以上になって動けるんですか?」

 

 

杏寿郎の心に二撃目。

 

 

「はっきり言いましょうか?貴方のそのデカい声と弁当の買い占めで鬼殺隊に苦情が殺到しているんですよ?」

 

 

杏寿郎の心に三撃目。

 

 

「我が強い人でしょうからすぐに直せとは言いませんが…せめて公共の場での迷惑行為は止めませんかね?」

 

 

杏寿郎の心に四撃目。

 

 

「貴方は柱なのでしょう?柱じゃないんですか?」

 

 

杏寿郎の心に五撃目。

 

 

「柱なら他の隊士の見本にならなくてはならないのに…何で恥を晒しているんですか?」

 

 

杏寿郎の心に六撃目。

 

 

「貴方の行動一つで柱の品格どころか鬼殺隊の品格を落とす事になるんですよ?」

 

 

杏寿郎の心に七撃目。

 

 

「柱の自覚があるなら直せるところから直すべきでは?」

 

 

杏寿郎の心に八撃目。

 

 

「こんな事ではお館様に示しが付きませんね?」

 

 

杏寿郎の心に九撃目。

 

 

「そう言う行動が『鬼殺隊はガサツで品格のない組織である』と言われ続けるのですからね?」

 

 

杏寿郎の心に十撃目。

 

 

「「「…」」」

 

 

ハスミの毒舌説教により煉獄杏寿郎・撃沈。

 

その様子を静聴していた炭治郎らかまぼこ隊も唖然を通り越して冷や汗状態。

 

周りの客からは称賛の声が上がっていた。

 

 

「いいぞ、姉ちゃん!」

「本当にこの人うるさくてねぇ。」

「ええ、寝付いた子供が起きてしまうわ。」

「元気がいいのは構わないが時間を考えて欲しいものだね。」

 

 

こういう理由である。

 

時は、最初の発言に戻る。

 

 

「…(煉獄さんが真っ白に燃え尽きている。」

「…(こえぇ…ハスミさんの連続毒舌。」

「…(ギョロ目が燃え尽きている。」

 

 

ハスミは燃え尽きた煉獄を放置し座席に座った炭治郎君達へ夜食を差し出した。

 

メニューはおにぎり、から揚げ、卵焼き、いんげんと人参の煮物、漬物。

 

おにぎり以外は全て爪楊枝で取れる様に一口大の大きさになっている。

 

無論、食事中も静かにと念を押して。

 

 

「先程はすまなかった、柱として礼節がなっていなかった。」

「…以降は注意してくださいね。」

「うむ、肝に銘じる。」

 

 

声的には地獄公務員の五秒で射殺の人なんだけど、イメージが崩れるわ。

 

炭治郎君との会話の邪魔をしちゃ悪いし、仕込みだけしときますかね。

 

 

「…」

 

 

ハスミは誰にも気が付かれない様に服の裾から小型の機械を起動させ、各車両へ移動させた。

 

その機械は通路を通り過ぎた乗員や乗客に引っ付いて別の車両に移動するなどして誰にも気が付かれずにひっそりと下準備を進めた。

 

引き続き、話をしている煉獄と炭治郎。

 

 

「黒刀か、それは出世が見込めないな……何処の系統を極めればいいのかわからんからな。」

「そうですね…」

「若しくは新しい呼吸を生み出す可能性も秘めていると思いますけどね?」

「クジョウの呼吸は系統が不明とされた鋼の呼吸だったな。」

「その系統に関しては独自解釈もありますけどね。」

「と、言うと?」

「鋼は岩から生まれ加工され炎と水で鍛えられ風によって人の手に持てる温度へと変えられるからです。」

「…成程。」

「その話は後で…炎柱、貴方の家系は鬼殺隊に深く関りがある家系だとお館様よりお聞きしました。」

「それがどうしたんだ?」

「何処かの時代で鬼殺隊から抜けた隊士が居たりしませんでしたか?」

「ふむ、聞き覚えがないが我が家の記録書に遺されている可能性があるが…」

「炭治郎君の家系は何世代か前に呼吸を使う鬼狩りの剣士に救われ、それ以降…長男が代々ヒノカミ神楽として舞を継承したとあります。」

「それが、竈門少年が使っていた剣術に由来すると?」

「はい。」

「やはり、記録書を読み返さなければ俺もはっきりとした事は言えんな。」

「そうですか…」

 

 

答えは判っている、それでも証拠がない限り炭治郎君の呼吸が『日の呼吸』と断定される事はない。

 

周囲を認めさせる為の証拠と結論を知らしめなければ…

 

 

「切符を…拝見。」

 

 

そうこうしているうちに車掌さんが切符を切りに来たので各自切符を切って貰った。

 

 

 

パチン。

 

 

 

切られたのと同時に車内の電灯が一瞬消えかかり、また点き始めた。

 

そこに現れたのは複数の眼を持つ巨漢の鬼。

 

 

「車掌さん、火急の事にて帯刀を許して頂きたい。」

 

 

乗客達が奥の客車へ避難する。

 

炭治郎君によって逃げ遅れた乗客の安全確保が出来たのと同時に煉獄は刀を抜いた。

 

 

「炎の呼吸・壱ノ型、不知火。」

 

 

炎のうねりが鬼を焼き尽くすかの様に切り裂いた。

 

 

同じ様に別の客車に現れたナナフシの様な鬼をも倒し、炭治郎達に称賛される煉獄。

 

そこで全てが途切れる。

 

 

「…」

 

 

こんこん、ころり、こん、ころり。

 

ようこそ夢の世界へ。

 

 

******

 

 

現実の世界では炭治郎君らかまぼこ隊と煉獄、ハスミが座席で眠りに就いていた。

 

先程の鬼の被害は無く、他の乗客達も眠りに就き…誰一人動く者は居なかった。

 

例外を除いて。

 

 

「命じられた通り、切符を切りました。」

 

 

車掌らしき男はある存在に懇願する。

 

『夢』を見させてくれと。

 

 

「ご苦労様、でも…もう少し手伝ってもらうよ?」

「!?」

「人数が足らないんだ、判ってくれるね?」

 

 

眼と口が付いた手の存在は男に告げた。

 

同じく、手の後ろに控えていた男女四人にも同じく指示を出した。

 

 

「前と同じ様に鬼狩り達の『無意識領域の核』を壊すんだ。」

 

 

進められていく敵の先手。

 

深い夢に誘われる炭治郎達。

 

その夢の中に他者が入り込んだ。

 

 

>>>>>

 

 

「お兄ちゃん!」

「にいちゃん!」

「にいちゃ!」

 

 

家族に囲まれて何時もの仕事を続ける炭治郎。

 

父の病気は治り、一緒に麓の町に炭を売りに行くのだ。

 

 

「善逸さん、私…泳げないの。」

 

 

川を飛び越えられない禰豆子を背負って桃園を駆け巡る善逸。

 

好きな女の子と過ごす時間は格別だ。

 

 

「俺達、洞窟探検隊!!」

 

 

伊之助は子分になったポン治郎、チュウ逸、ウサ子と共に大ムカデになった昼寝中の列車を洞窟の主として戦おうとしていた。

 

 

「お帰りなさいませ、兄上。」

 

 

何時もの任務を終えて、屋敷に帰宅する煉獄。

 

帰りを待っていた弟と全てに嫌気が差し拒絶する父親。

 

いつもの日常を体験していた。

 

 

「…黙れ、この糞野郎が!!」

 

 

若い女性に乗り換えた最初の恋人に裏切られたハスミ。

 

もう男を愛さないと誓い、復縁を申し出た恋人を張り倒した。

 

男の尊厳も微塵もない言葉を吐きかけ大事な所を蹴り上げる。

 

 

「…!?」

 

 

この光景を見ていた車掌は思わず手で抑え込んでいた。

 

青褪めた顔で周囲を散策し無意識領域への道を探し出す。

 

先程の手の存在に渡された錐で空間を引き裂き、中へと入っていく。

 

 

「ここは一体…?」

 

 

そこにあるのは何処までも続くアンティーク調の図書館の書庫。

 

それは長々と続いており、何処に核があるのか不明だった。

 

だが、目印の様にビロードの絨毯が行き先を指し示していた。

 

ゆっくりと絨毯が敷かれた先へと進む。

 

そこにあった核は不思議な色合いだった。

 

まるで夜空を閉じ込めた様な印象を残す核だった。

 

 

「これを壊せば…!」

 

 

車掌は持っていた錐で核を壊そうとしたが、足元が突然宙に浮かんだ。

 

そう、開き戸の様な蓋が地面に開いて車掌が落ちて行ったのだ。

 

 

「あ、あああああ…!?」

 

 

蓋が閉じられるとそこに書いてあったのは『連続スーパーイナ〇マキックへの入り口』。

 

本棚の間から本来居る事が出来ない存在が現れる。

 

 

「夢の中に入ってくる敵の対処の仕方位は周知しているよ。」

 

 

彼女は答えた。

 

夢は夢を見る本人のイメージが具現化したもの。

 

ならば、もっとも危険な核の周囲に罠を張るイメージをすればいいだけの事。

 

 

「…念動者を甘く見たわね。」

 

 

時計の音と共に彼女は自身の腕に炎が揺らめいたのを確認すると眉間に銃を突き付け撃った。

 

現実へ舞い戻る為に。

 

炭治郎は己の頸を刀で斬り、善逸は転んだ拍子に頭を岩に撃ち付けて、伊之助は暴れまくりすぎて谷底へ落ちて、煉獄は父親が投げつけた徳利から弟を庇って。

 

それぞれが偶然もあるが、夢の中で死へ直結する行為を起こった。

 

 

******

 

 

「さてと、こんなものかしらね。」

 

 

先に目覚め、自分達の夢に入って来た鬼の協力者達を縛り上げて威嚇射撃を続けるハスミ。

 

先程の男女三名と車掌は銃で至近距離スレスレで撃たれ続けたのでもれなく失神中。

 

炭治郎君の夢に入った男は敵対行動を取らなかったのでそのままに。

 

 

「えげつない…」

「人の夢の中を覗き見たのだからまだマシな方よ。」

「ついでにアイツらの髪の毛全部抜いてやろうぜ。」

「後に取って置きなさい、それよりも…」

「鬼ですね。」

「ええ、炭治郎君と伊之助君は鬼の捜索…残った私達で乗客の安全を守るわよ。」

「よもや、よもやだ…柱として不甲斐なし。」

「穴が在ったら入りたいと?」

「そうだな!」

「穴に入る前にやる事をやってからにしませんか?」

「そうだな。」

 

 

いざ、反撃の時。

 

夜明けまであと六刻。

 

 

=続=

 




無限列車編・その2。


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敢えて言うべきは現実だと言う事

反撃の時。

予期せぬ介入者。

それらを相手にしよう。

攻め手の全てを出し終えるまで。


夢から目覚め、現在の状況を確認する一行。

 

鬼の協力者である四人の男女と車掌の話によると…

 

鬼は夢を見させる鬼である事。

 

列車に乗車した乗員乗客は全員喰われた事。

 

自分達は鬼狩りを行動不能にする為に夢に入り込む術を教えられた。

 

これによって事件に関わった隊士全てが鬼に喰われた。

 

と、ハスミの説得(銃器で物理)によって判明した。

 

 

******

 

 

「炭治郎君、この鬼に慈悲は要らないわよね?」

「…勿論です。」

「…(炭治郎もそうだけどハスミさんもマジギレしている。」

 

 

善逸は二人の様子にふと思った。

 

人の弱みに付け込み、他者を陥れるやり方。

 

他者を思いやれる炭治郎なら怒るのは当然だ。

 

ハスミさんに関してはいつもの修行の時の様な怒り方じゃない。

 

何処までも鋭く真冬の水の様に冷たい眼だ。

 

それはまるで鍛え上げられた鋼の様に。

 

 

「炎柱、この列車は汽車を除いて客車が八両編成で合っている?」

「ああ、事前の情報の通りなら間違いない。」

「なら、炭治郎君と伊之助君で列車に取り付いた鬼を残りで乗客を守ると言うのでどうですか?」

「何故、その分け方なのだ?」

「炭治郎君と伊之助君は鬼の探知する能力に優れている…善逸君は狭い所でも動きが制限されないから乗客の守りに呈して貰う。」

「…」

「勿論、禰豆子ちゃんもね。」

「ムー。」

「他の三人は解るが、何故竈門妹まで…」

「証拠が必要なのでしょう?禰豆子ちゃんが人を襲わないと言う生き証拠をね。」

 

 

お館様が話していた通りの人物だな。

 

 

『彼女は任務を全うするが理に合ってない理不尽な行動は取らない。』

 

 

『彼女は標的を逃さずに必ず捕らえる、何処へ逃げようともその足取りを追う。』

 

 

『彼女は認めてもなくても事を進める、また相手の能力を見定める眼が鋭い。』

 

 

『そして状況を見極める決断力も早い。』

 

 

『だからこそ必要だった…炭治郎と同様に彼女の存在が鬼殺隊にね。』

 

 

もう少し、少年達や彼女の様子を見る事にしよう。

 

 

「炎柱、聞いてたのかしら?」

「ああ、済まない。」

「もう一度、説明する…前方の二両を炎柱、三、四車両目を善逸君、五、六車両目を禰豆子ちゃん、最後尾の二両を私が担当するわ。」

「何故、その布陣に?」

「…ここ暫くの鬼の動きが妙だったからよ。」

「妙とは?」

 

 

雑魚鬼ばかりで十二鬼月階級の鬼が出現していない。

 

それはまるで嵐の前の静けさに様にも思える。

 

今回の他者の夢に介入する血鬼術を操る鬼は十二鬼月階級と仮定。

 

現在の戦場は移動中の汽車。

 

この状況を鬼側から見たとして思う事は…

 

 

「鬼は全て無惨と繋がっている、禰豆子ちゃんや私と言う例外を除いて。」

「…もしや。」

「鬼側からも戦闘を監視されている以上、別の伏兵が出てくる事も視野に入れただけよ。」

「その為の布陣なのだな?」

「そう言う事です。」

 

 

無惨ではなく、あの糞芋ヘッドが巨躯の鬼を出す可能性も否定出来ない。

 

奴はこちら側が窮地に陥った際にここぞとばかりに手を出してくる。

 

もしも…の状況に対応出来る布陣が先に述べた通りだ。

 

場合によっては客車自体を何両か破棄する必要が出てくる。

 

 

「…(列車と言う孤島、乗客と言う人質、逃げ場のない密室が揃った以上は向こうは必ず仕掛けてくる。」

 

 

ハスミは少し息を整えてから縛って置いた協力者達を威嚇射撃で叩き起こし話しかけた。

 

 

「起きろ。」

 

 

「「「「ひっ!?」」」」

 

 

「縄を解く、代わりにこっちの命令に従って貰う……妙な真似をしたら判っているな?」

「わ、判りました!!」

 

 

「「「「…(脅し方が酷すぎる。」」」」

 

 

炭治郎達は先程のお話を見ている為、ハスミの話し方はそっち系の言葉にしか聞こえなかった。

 

拳銃で威嚇射撃をし、ぐうの音も出ない程に言葉攻めをしている。

 

その姿は到底、正義の味方とは思えない姿であった。

 

 

「こう言う輩は下手に放置すると碌な事にならない。」

 

 

その時、縛られていた一人で三つ編みの女が答えた。

 

 

「何よ、アンタは……何も知らない癖に!」

「そうよ、私は貴方の事なんて知らないし逆に貴方も私の事も知らない……お互い様でしょ?」

「それは…」

「何が遭ったとか詮索する気はないけど、人は誰しも何かを抱えて生きているのよ。」

「…」

「それでも生きている以上は前を向いて生きて行かなければいけないのよ。」

 

 

ハスミは最後に『自分がこの世で最も不幸だと言う考えは捨てろ!』と冷たい眼で答えた。

 

 

「ハスミさん…」

「炭治郎君、嫌な場面を見せちゃったわね。」

「いえ、ハスミさんはハスミさんなりに伝えてくれたんですね。」

「そう言う事になるかな、戦場で戦争孤児とか家族を失った人を見続けてきたから…」

「…」

「話は御終い、さっき話した通りで鬼狩りを始めるわよ?」

 

 

私は話を切り上げて炭治郎君達に任務の続行を告げたが…

 

予測していたその時が訪れた。

 

 

 

ガキョ!

 

 

 

突如、響く金属同士が擦れ合う音。

 

音に反応したハスミは現在居る五両目から最後尾に移動する。

 

急ぎ、六両目と七両目を移動し最後尾に到着すると…

 

 

「…」

 

 

最後尾の八両目の天井を破壊し侵入してきた存在。

 

 

「巨躯の鬼…蠍と百足の混じり物か!」

 

 

肉体は百足に近いが手足の部分は全て蠍の手と同じ鋏状の物に置き変えられている。

 

背中に存在する毒針の尻尾も複数存在し油断出来ない。

 

最後尾は乗員乗客共に不在だったのが幸運だったが、七両目からは僅かながら乗客が居る。

 

後を追って来た炭治郎達にハスミは指示を出す。

 

 

「炎柱、炭治郎君達、前言撤回!乗員乗客全てを一両目と二両目へ移動させろ!!」

「判りました!」

 

 

ハスミは琴箱からP90を二丁取り出し囮となる行動へ移る。

 

 

「お前の相手は私だ!」

 

 

******

 

 

「善逸、伊之助、急いで乗客を前の車両に移動させるんだ!」

「ひぃいい!!何であんなのが居るんだよ!」

「うるっせえぞ!とっとと運べや!?」

「むー!」

 

 

先程の巨躯の鬼の出現により眠ったままの乗員乗客を全て前方車両へと移動させる一行。

 

鬼と協力していた車掌に乗車している人数を聞き出した所。

 

乗車した乗員乗客合わせて65人。

 

前方車両にその多くが乗車していたので残りの乗員乗客を救出するのに時間は掛からなかったが…

 

未だ、鬼の姿は見えず最後尾に出現した巨躯の鬼の存在がある限り逃げ場はない。

 

炭治郎は全員の確認が済んだ後、客車の外へ出て最後尾に届くように声を掛けた。

 

 

「ハスミさん!!全員救助しました!!」

 

 

その言葉を聞いたハスミは銃撃で甲羅部分を損傷し内部が飛び出ている巨躯の鬼の頸を斬り、お土産に菫外線手榴弾と複数の炸裂式グレネード弾を数個放置し最後尾から脱出した。

 

同時に七両目の客車と最後尾の客車の連結部を破壊してである。

 

凄まじい爆発音と共に爆風が各車両を揺らすが、一時的な事で列車は走行を続けていた。

 

 

「炭治郎君!伊之助君!鬼の居場所は!?」

「伊之助…」

「ああ、ここより前の所だぜ!」

「なら、頼むわよ!」

 

 

ハスミは琴箱にP90を収納し拳銃を取り出す。

 

同時にとある起爆スイッチを起動させてから外へ出て前方車両へと移動する。

 

 

「…(ああ言う手合いにはこれが一番ね。」

 

 

同時刻、客車内の至る所に仕掛けられた小型の装置が何かを噴霧し始めた。

 

 

「妙に騒がしいと思ったら彼らが失敗したんだね。」

 

 

引き続き、客車の上にて。

 

汽車の失踪事件に関わっていると思われる鬼を発見した炭治郎と伊之助。

 

 

「お前が夢を操っていたのか?」

「そうだよ、人は脆い。」

 

 

洋装の優男風の鬼…下弦の壱は告げた。

 

夢の中では人は誰しも脆く崩れやすいと。

 

今までに汽車で失踪した乗員乗客や鬼狩りに夢を見させて、最後に絶望する悪夢で締めくくり食い殺す。

 

それは滑稽で愉快だったと話した。

 

同時に鬼の眉間に銃弾が突き刺さる。

 

 

「この変態サイコパスが。」

「痛いなあ…あれ?君は無惨様が言っていた眼帯の女かな?」

「だとしたら?」

「そこに居る花札の小僧と一緒に僕が始末してあげるよ。」

「…上手く行くかしら?」

「!?」

 

 

突如、血反吐を吐く下弦の壱。

 

 

「恐らく、先程の巨躯の鬼はお前の仲間だろう?」

「どうし…」

「だと、すればアレは囮。」

 

 

見抜かれていた?と苦しみながら頸元を押さえる下弦の壱。

 

 

「そこから推測して、一気に乗員乗客を纏めて喰らうなら客車自体に同化していると踏んだだけよ。」

「げぇ…」

「予め、各車両に藤の花の毒を機械で散布して置いたのよ。」

 

 

ハハ、手の上で転がしていたのは自分じゃなくて…

 

彼女…の方だったんだ。

 

これじゃあ、無惨様も危険視するよね。

 

 

「炭治郎君、伊之助君、奴はもう動けない。」

 

 

その合図と共に汽車の機関部に同化していた下弦の壱の頸を二人が切り裂いた。

 

石炭をくべていた乗員が錐を出して炭治郎君に刺そうとしていたので遠慮なく錐を撃ち落としておいた。

 

下弦の壱が倒された事で横転の危機が迫る汽車。

 

私は空となった三両目以降の客車の連結部の破壊し切り離した。

 

少しでも横転の衝撃を減らす為である。

 

そして客車の重心を安定させる為に乗客を左右に偶数になるようにバラけさせた。

 

未だ、血鬼術の影響で目覚めない乗客乗員が外に投げ出されないように縄で固定して貰った。

 

汽車の緊急ブレーキも使用し、後は運に任せるしかない。

 

その後、揺れる車体は徐々に速度を落として開けた場所で停止した。

 

今回、ブレーキを使用したので横転の危機は避けられた。

 

停止したのを確認してから周囲を見る。

 

予期せぬトラブルで夜明けはまだ遠い。

 

 

「「た、助かったぁ。」」

 

 

「二人ともご苦労様。」

「煉獄さん達は?」

「無事よ、客車で乗員乗客が投げ出されないようにしてくれたから。」

「よかったぁ。」

 

 

先程の乗員はさっきの衝撃で気絶し泡を吹いていた。

 

うん、大丈夫だろう。

 

後、髪毟ろうとしている伊之助君。

 

遠慮なく、やってよし。

 

 

「…炭治郎君、来たみたいよ。」

「!?」

 

 

高速で接近し土煙を上げる物体

 

土煙が静まると現れた存在。

 

曇っていたが僅かに照らされる月明かりで見えた奴の眼。

 

その刻まれた数字にハスミは答えた。

 

 

「…上弦の参。」

 

 

=続=

 




無限列車編・その3


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焔は誇り高く鋼は煌めき日輪は光を灯す

宿敵と宿敵。

予期せぬ来訪者。

刃は火花を散らせ呼吸は荒々しく吹き荒れる。

これは奇跡ではなく。

必然の痛み分け。



紅梅色の髪の異国風の衣装を纏う上弦の参。

 

今まで対峙してきた下弦の鬼とは違う殺気。

 

油断すれば全滅する。

 

その通りだと、その場の鬼狩り達は本能で悟った。

 

 

******

 

 

停車した汽車から下車し上弦の参と対峙する煉獄とハスミ。

 

炭治郎達は客車の乗員乗客を守る為に柱の権限で待機命令が下された。

 

 

「下弦の壱を囮にして来て見れば柱が二人も居るとは……好都合だ。」

「囮だと?」

「奴はあの方の裏切り者…下弦などいくらいようともお前達に勝てないのでは無用の産物でしかない。」

「…(成程、無惨とジ・エーデルは完全に敵対したって事で確定か。」

 

 

上弦の参の会話は続き、私はある事を告げた。

 

 

「それで…お連れ様はどちらに?」

「クジョウ、どう言う事だ?」

「客車に取り付いた巨躯の鬼…奴は既に虫の息だった。」

「何だと…?」

「取り付いていたのは肉体の前半の部分で後半の部分は綺麗に切断されていた。」

 

 

あれだけの巨体を一撃で迷いもなく一刀両断した。

 

それはかなりの手練れであると言う証。

 

 

「他の柱が苦戦している巨躯の鬼を一撃で切断出来る存在と言えば同じ鬼位でしょう。」

「ほぅ?良き見解の眼を持っているな…眼帯の女子よ。」

 

 

上弦の参の背後より現れる侍風の鬼。

 

その顔には六つの眼が付いており、上弦の壱と眼に刻まれていた。

 

まるでその場に既に存在していた様に現れた事で煉獄らは冷や汗を流した。

 

 

「上弦の壱…だと?」

「…(気配で分かる、奴はとてつもない手練れだ。」

 

 

まさか、上弦が二体も現れるなんて…

 

想定していたとは言え、分が悪い。

 

上弦一体に付き柱三名で漸く対等に戦える相手。

 

炎柱を守りつつ戦うにしても限りがある。

 

炭治郎君には念の為、上弦の参に割り込みが出来る様に合図はして置いたけど…

 

上弦の壱次第で状況は変わってしまう。

 

 

「女子よ、貴様があの方の元へ差し出すに相応しいか見極めさせて貰うぞ。」

「ご指名どうも、こちらも敗北確定のままにされるのは虫唾が走りますので。」

「クジョウ。」

「炎柱、上弦の参の相手は任せる。」

「承知した。」

 

 

互いに戦う相手が決まると相手の元へと移動する。

 

ハスミは琴箱から刀を抜いた後、地面に箱を置いて刀だけで戦う選択をした。

 

理由は手練れで在れば銃器など相手にとって無意味であるからだ。

 

 

「鬼殺隊・炎柱、煉獄杏寿郎。」

「十二鬼月・上弦の参、猗窩座。」

「鬼殺隊・鋼柱、クジョウ・ハスミ。」

「十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。」

 

 

深夜の荒野に一迅の風が吹く。

 

それを合図に互いの肉体が得物が動き始めた。

 

それは眼では負えない移動速度。

 

何処かで火花が散り、何処かで一瞬動きが止まる。

 

強者同士が生み出す世界。

 

 

 

「強いな、杏寿郎!」

「鬼相手だが…光栄の極みだな。」

「その強さを失わせるのは勿体ない。」

「何が言いたい。」

「鬼に成れ、杏寿郎。」

 

 

猗窩座は告げた。

 

鬼に成れば、永遠に高め合う事が出来る。

 

ここで失わせるには惜しい存在だと。

 

 

「断る!命は限りがあるからこそ尊いのだ!!」

 

 

煉獄は命の尊さと限りある時間の中で強く輝き続けるのだと叫ぶ。

 

命の本質と限りある輝きの強さを知っているから答えられるのだ。

 

 

「女子よ、何故…完全な鬼と化す事を拒否する?」

「成る必要もない、私は私のまま…ありのままの自分で在りたい。」

「ならば、言葉通りに全てを受け入れる事に鬼と化す事を受け入れぬ?」

「必要がないからだ。」

「…」

「永遠の命とか若さとかどうでもいい…私は生まれた種族のまま、命ある限り精一杯生きる!」

「尚も拒絶するか…」

「永遠に生きる事は永遠の孤独と喪失でしかない。」

「!?」

「鬼と同様に永遠を生き…その過程で心と精神を病み、限りある命を妬む者を大勢見てきた。」

 

 

永遠の命の代償は完全な死を失う事。

 

次の生へと導かれずにただ現世を彷徨う亡者と成り果てる。

 

人を喰い、ただ時間だけが過ぎる存在に何の意味がある?

 

 

「逆に鬼と化して何を得られたのか?答えて見せなさいよ!」

「っ!」

 

 

黒死牟は言葉の意味に対する返答が出来ずに怒りだけを剣先へ向けた。

 

心の何処かで理解はしているものの鬼が全て正しいと塗り替えられる。

 

返答をしないのではなく出来ないが正論だろう。

 

 

「それ以上……言わせはせんぞ!」

「!?」

 

 

声が彼ではなく別の存在へ変異する。

 

弾かれた日輪刀。

 

黒死牟の刀はハスミの心を貫いた。

 

 

「ぐ……。」

 

 

鼻を突き抜ける鉄の臭いと口元に溢れる血。

 

 

「終わりだな。」

「どちらが…?」

「!?」

 

 

ハスミは戦闘中に刀の戦輪を上空に移動させ、黒死牟に直撃する位置へと移動させたのだ。

 

それが黒死牟の頭部に突き刺さる。

 

 

「…油断したのはこちらだったな。」

 

 

黒死牟の頭部に突き刺さる戦輪。

 

頭部の一部を損傷しても動ける生命力。

 

それも上弦の鬼ならではの事なのだろう。

 

 

「貴様の戦術に免じてこの場を去ろう……次に相対する時は鬼と化すか死を覚悟するのだな?」

 

 

黒死牟は戦輪を振り落とし、刀を抜くと血液を振り払い刀を鞘に戻した。

 

 

 

「鳴女。」

 

 

ベン!

 

 

突如、現れた襖へ黒死牟は移動し撤退して行った。

 

 

「…(何が免じてだ?次遭ったら脳味噌かち割って消し炭にしてやる!!」

 

 

先程の負傷で衣服に染みわたる血液。

 

半分鬼である以上は回復力は普通よりも早いが、塞がるまでの血液の流出はどうしようもない。

 

 

「炭治郎君…」

 

 

炭治郎君の声が聞こえる。

 

 

「お前の好きにはさせない!!」

 

 

致命傷ではないが負傷しつつある煉獄を庇って猗窩座と対峙する炭治郎。

 

その呼吸は水ではなく全てを焼き尽くす太陽の炎。

 

心は当に決まっている。

 

 

「俺はお前達を許さない!!」

 

 

ヒノカミ神楽・㭭ノ型 飛輪陽炎。

 

 

「なっ!?」

 

 

それは陽炎の様に。

 

それは蜃気楼の様に。

 

見えない剣先と焼ける様な痛み。

 

己の血鬼術でも認識出来ない闘気の流れ。

 

猗窩座は見えぬ剣戟によって右肩ごと腕を切り裂かれた。

 

 

「…(何だ、此奴は?柱でもない奴に俺が負けるのか!?」

「下等生物に負ける気分はどう?」

「お前は…上弦の壱が撤退したのか!?」

「さっさと尻尾を巻いて逃げる事ね?梅干し頭君?」

 

 

毒舌めいた言葉を告げるハスミ。

 

その言葉に怒りを露わにする猗窩座だったが、既にタイムリミットは近づいていた。

 

同時に明るく成り始める夜空。

 

夜明けの光を察して猗窩座は目晦ましに土煙を上げ、近くの森へと撤退した。

 

 

「竈門少年……君は?」

「煉獄さん、良かった…生きて。」

「竈門少年!?」

 

 

炭治郎はそのまま技を使用した反動で気絶し地面に倒れた。

 

一撃に呼吸を集中させた為に体への負担が一気に来たのだろう。

 

下弦の鬼にも同じ呼吸を使い、上弦の参を相手にするのにも同じ呼吸を使用した。

 

その呼吸は水の呼吸ではなく、未知の呼吸。

 

 

「紋次郎!?」

「炭治郎!?」

 

 

客車の護衛に呈していた伊之助らも炭治郎に駆け寄ってきた。

 

 

「紋次郎は?無事なのか!?」

「大丈夫だ、恐らくは呼吸の使い過ぎだろう。」

「よ、よかったぁ…よかったよぅ。」

 

 

禰豆子の入った箱を背負った善逸は泣きじゃくり、伊之助も無事である事に安堵していた。

 

 

「炎柱、苦境は乗り切った様ね。」

「その様だ……!?」

 

 

ボタボタと出血が止まらずに衣服を血で染めるハスミがゆっくりと歩み寄ってきた。

 

普通の常人ならば、出血多量で死亡しても可笑しくない血液を流している。

 

 

「これ?…かすり傷だから安心しなさい。」

「いや、いや、いや、かすり傷超えてるんで!??」

「見た目だけでしょ?」

「うむ、血を流し過ぎて認識が甘くなっているみたいだな。」

「だ・れ・が・馬鹿になった…ですって?」

 

 

ハスミ、善逸の両こめかみに拳でグリグリを炸裂。

 

 

「いだだだだ!!!!???何で俺!?」

「言い出しっぺだから。」

「酷っ酷過ぎるーーー!!!」

 

 

しばらくしてから善逸を開放。

 

ハスミは出血の割に何故無事であるのかを説明した。

 

 

「上弦の壱に刀で刺される直前に中の内臓の位置を移動させたのよ。」

 

 

肉体内部の内臓の位置を任意で動かすには相当の鍛錬が必要になってくる。

 

伊之助の関節を外して行動出来る方法の更に上位の荒業だ。

 

あくまで危機を脱する為の方法なので素人がすれば死に至るだろう。

 

 

「一歩間違えれば内臓損傷は免れなかったわ。」

「どんだけ修行しているんですか、貴方は?」

「そうね、子供の時から死ぬ気でかしら?」

 

 

修行の難易度が違うのよとハスミは付け加えて置いた。

 

その後、隠の到着で負傷者が運ばれる中。

 

 

「一番の負傷は炎柱と炭治郎君、とっとと連れてく!言われたら動く!!ちんたらしていたらその尻を蹴り上げて鉛球をぶち込むわよ!!」

 

 

隠の殆どが男性だったので言葉の意味が解ると馬車馬の様に行動を開始。

 

寧ろ、血液をボタボタ流して拳銃で威嚇射撃している鋼柱の姿にドン引きしている様子もあったりした。

 

 

後に鎹鴉の伝達で各所に通達が行われた。

 

 

「カァアア!!」

 

 

汽車の事件で下弦の壱と接触し竈門炭治郎が討伐。

 

並びに、上弦の壱と参が出現。

 

炎柱、鋼柱が応戦し撤退。

 

炎柱、竈門炭治郎の両名が中傷。

 

鋼柱、瀕死の重症だが本人の指示により中傷者の移送を最優先。

 

列車の乗員乗客は全員生存・被害無し。

 

 

「カァアア!!」

 

 

願いの元に史実は書き換えられた。

 

だが、痛み分けの勝利と敗北であった事に変わりはないだろう。

 

 

=続=

 




無限列車編・その4(終)。



<余談>


撤退する猗窩座。

その後、無惨の折檻と元の任務への指示を受けて任務へ戻る時。

背中に何かが貼られており、引き剥がすとこう書かれていた。


『次に会ったら持てる火力を持って消し炭にする、鋼柱より。』


と、宣戦布告の言葉が綴られていた。


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安静第一なのに周りが騒がしい

一つ目の流れを変えた。

それなりの負傷をした。

だが、周りは黙っていなかった。


前回の汽車での一件後。

 

汽車に同化していた下弦の壱を討伐し事件は解決。

 

汽車の名札に『無限』と記されていた事から『無限列車事件』と本部に記録が残された。

 

世間一般では移動中に起こった落石によるトラブルと言う事で片付けられた。

 

あの協力者達も人命救助に協力した事もあり、鬼殺隊側からのお咎めはしなかったが…

 

私個人から外部協力者として各地へ点在して貰い、不可解な情報の提供をして貰う事で落ち着いた。

 

何か『この世の終わり。』の様な顔をしていたが、気にしない。

 

その内の一人は肺の難病だったので手持ちの複合ナノワクチンを打って置いた。

 

時間は掛かるだろうが、徐々に回復に向かっていくだろう。

 

先に負傷で運ばれた炭治郎君と炎柱は互いに骨折と裂傷等で済んだので致命傷にはなっていない。

 

しのぶさんも陰湿オーラ醸し出して『貴方が一番致命傷なのに何をやっているんですか?』と言われたが…

 

私は『二人は裂傷に骨折もしていたし、早く運んだ方がいいと思っただけよ。』と話して置いた。

 

多分、心配されたっぽいが念の為…静かに謝って置いた。

 

鬼に対する怒りは何処へ行った?な感じだったが、彼女にも何か変化があったのかもしれない。

 

話は変わり、現在の問題は上弦の鬼が出現した事と柱が二名も戦闘不能の負傷を負った事である。

 

恐らく柱が二人いなければ、事件関係者全員の全滅はほぼ決まった様なものだった。

 

それだけの戦闘能力を持っていたと柱二人の証言もあり緊急柱合会議が開かれたそうだ。

 

偶然の偶然が重なった事による生還。

 

出現した上弦の鬼の戦闘能力と驚異的な再生能力。

 

問題はまだまだ山積みである。

 

 

******

 

 

数日後、私も刺された傷は塞がったが…出血量が多かったので頭痛を伴う貧血に陥っている。

 

ぶっちゃけ言うなら月ものが来たのと同じ位に物凄く機嫌が悪い。

 

 

「何で俺まで…」

「…ス、スイマセンデシタ。」

 

 

炭治郎君達の見舞いに来ていた善逸君と伊之助君が余りにも五月蠅かったので脳天に三段拳骨を喰らわせて窓側に吊るしてある。

 

うん、某う〇せ〇わ!のノリの如くね。

 

ついでに『病室では静かに!!』と看板も付けて置いたわ。

 

何か通りかかったアオイちゃん、遠い眼で吊るされた二人を見ていたな…

 

 

「次、余計な事で起こしたら銃弾が飛ぶからね…?」

 

 

無言かつ鮮やかに事を済ませたハスミの発言に対し同じ病室で寝ていた炭治郎君と炎柱が二人で青褪めた表情で静かに答えた。

 

 

「「ア、ハイ……。」」

 

 

ハスミは自分のベッドに戻るとそのまま横になった。

 

本来なら部屋を変えて貰えば済む事だが、生憎…何処かの馬鹿が個室で暴れた上に破損させてしまったので使えないのだ。

 

その為、相部屋にタコ詰め状態なのである。

 

暫くすると声を小さめに話している二人の会話が聞こえてきた。

 

 

「竈門少年、あの時は済まなかった…」

「煉獄さん。」

 

 

未だ、点滴やギプスが取れず動けない状況が続く二人が動かせるのは口位だ。

 

煉獄は隣で横になっている炭治郎に対して伝えた。

 

 

「…あの時の俺は君達に後を託して死ぬつもりだった。」

「そんな、どうして?」

「列車で話しただろう、俺の家族の事を…」

 

 

前炎柱として誇り高く家族思いの父が母の死を切っ掛けに酒に溺れるようになった事。

 

それと同時に何かの書物を破り捨てて刀を置いてしまった。

 

母の死と何かを知った事が重なっての行動だと思う。

 

俺は母の遺言通り、柱を目指した。

 

俺を慕ってくれる弟の為に、全てを投げ出し叱咤しかしなくなった父に認められたい為に。

 

その結果、自分を追い込んでしまった。

 

 

「クジョウに言われた通りだった。」

 

 

列車で彼女に言われた言葉。

 

 

『自分の思いを偽り、ただ刀を振るい、全てを投げ出したくて…死に急いでいる様にしか見えない。』

 

 

図星だった。

 

 

『勝手に死ぬのは構わないけど、それは託した者と残された者の思いを踏みにじる様なもの……後を託した貴方の母親があの世で悲しんでいるでしょうね。』

 

 

その通りだった。

 

死を予期した時に見えた母の顔はとても悲しそうだった。

 

 

『責務を全うする事も大事かもしれないけど、母親なら自分の子供の命を心配するのは当然だと思うわよ?』

 

 

子を持つ親なら当然の願い。

 

恐らく死を予期していた母上が託した言葉の中に俺や父上、弟の命を大事にと想いも込められたんだと…

 

 

「ハスミさんは自他共に厳しい所はありますけど、それは誰かを思っての行動なんです。」

「そうだと思った。」

「俺もハスミさんの全てを知っている訳ではないんですけどね。」

 

 

そう言えば、二年近く一緒に居るのにハスミさんの事を聞いた事がないな…

 

いつか聞く機会があったら聞いてみよう。

 

 

「あの、煉獄さんはまだ…」

「君や彼女に救われた命だ、もう無謀な事はしないさ。」

「はい。」

 

 

長々と二人の話を聞いていると廊下が軋む音が聞こえる。

 

音から察するに二人分の軋む音。

 

どうやら見舞いの人?らしい。

 

 

「…」

「兄上、お加減はどうですか?」

「父上、千寿郎、久しぶりだな。」

 

 

横でチラ見した所、炎柱をショタにしたかの様なクリソツの男の子と同じく壮年にした様な男性が訪ねてきた。

 

本当に遺伝って凄いね。

 

マトリョーシカかよ?っと思ったのは気のせいと思いたい。

 

 

「竈門少年、紹介しよう…父の槇寿郎と弟の千寿郎だ。」

「…そ、そっくりですね。」

「うむ、皆からよく言われる。」

 

 

炭治郎君、君の発言は間違っていないよ。

 

誰だって見たら言うと思う。

 

 

「上弦と戦ったそうだな。」

「はい。」

「負傷したと文を預かったが、この体たらくか……才もない凡人が余計な事をするからだ。」

「申し訳ありません。」

「その程度の力量なら柱など辞めてしまえばいいものを…」

「父上、それは…」

「千寿郎、お前は黙っていろ!」

 

 

成程、これが炎柱の心の闇の原因か…

 

これで良く性根が曲がらなかったものだわ。

 

正直、某ジャンクフード好きの次元将とジ〇リ&宮〇ア〇メ好きの傭兵の方が遥かに性格がマシだと思う。

 

 

「ふざけるな!いくら父親でも言っていい事と悪い事があるだろう!!」

「何…?」

「酒の匂いをさせた貴方よりも煉獄さんの方が柱にふさわしい!煉獄さんに謝れ!!」

「下位の隊士が知った様な口を聞くな!」

「煉獄さんに謝れーーー!!!」

 

 

炭治郎君、良く言ってくれた。

 

頭突きするのは良いが、それ以上は身体に悪い。

 

後は私がするよ。

 

 

「…」

 

 

私は枕元に隠した拳銃を取り出して酒の匂いを漂わせた煉獄父に威嚇射撃をした。

 

千寿朗に関しては驚いて尻餅を付いている。

 

 

「!?」

「い、今のは…」

 

 

一撃の銃弾は煉獄父の耳元を掠める様に壁に風穴を開けた。

 

 

「「あ…………」」

 

 

この時、炭治郎と杏寿郎は先程とは打って変わって顔を青褪めさせた。

 

ギリギリと絡繰り人形の様に音のした方向へ頸を曲げる。

 

 

「…さっきからピーチクパーチク五月蠅いんだけど?」

「な、何だお前は!?」

「五月蠅いって言っているのよ……こんのー酒浸りジジイっ!!」

 

 

ハスミは目覚めの悪い苛ついた表情で起き上がった。

 

同時にベッドマットの下に隠して置いたP90で煉獄父の周囲に人型を作る様に射撃を開始。

 

それと同時に顔面キックをお見舞いした。

 

 

「へぶっ!?」

 

 

余りの出来事と酒精が回っていたせいで回避行動を取れなかった煉獄父。

 

文字通り、撃ち抜かれた壁ごと二階から一階へと転落する事となった。

 

転落時に受け身を取ったのでダメージは少ないが突発的な行動を起こしたハスミに対して反論していた。

 

 

「さっきから聞いているが、何だお前は!?」

「鬼殺隊・鋼柱、クジョウ・ハスミだ。」

「鋼柱だと?」

「人が横で眠っている時にグダグダと五月蠅いんですけど?」

「俺のせいではないだろう!」

「黙れ、酔いどれジジイが………少しお話ししましょうか?」

 

 

続けてどっから出したのか不明なミニミガンを取り出し襲撃体制に入るハスミ。

 

この時、煉獄父は悟った。

 

逃げなければ命はないと…

 

 

「な、何だそれはーー!!!???」

「あら~只の携帯式自動機関銃ですわw」

 

 

その場から逃走する煉獄父とミニミガンを発射させながら怒りを通り越したウフフな天国表情で後を追っかけて行った。

 

 

「…兄上、あの人は一体?」

「彼女は鋼柱のクジョウ・ハスミと言う女性だ。」

「柱なのですか?」

「ああ、二か月前に就任したばかりのな……」

「凄い人ですね。」

「うむ…鬼に対してあの様に銃や爆薬で戦う有望な隊士である事は間違いない。」

 

 

杏寿郎は静かに『あの様に怒らせると後がとんでもないがな。』とボソリと告げた。

 

 

「…そうですね。」

 

 

千寿郎は納得した様に怯えながらも父親の逃走劇を穴の開いた壁から覗いていた。

 

 

「これは一体!?」

「神崎さん、実は…」

 

 

点滴の様子を見に来たアオイが病室の惨状を見て大声を上げてしまっていた。

 

経緯を炭治郎が説明し『ああ、成程。』と納得した。

 

ちなみにハスミの居たベッドの上にはご丁寧に壊した壁代と書かれた用紙と代金(色付き)が置かれていた。

 

 

******

 

 

その後、蝶屋敷より…かなーり離れた森から銃撃の音と爆撃の音が半日中響いていたとの事。

 

目撃した隊士や隠からはドン引きの光景だったらしく口々にこう語っていた。

 

 

『鬼を超えた何かが通り過ぎて行った。』

 

 

『ウフフ~wwアハハ~wwと笑い声が聞こえてきて怖かった。』

 

 

『鋼柱様考案の新修行だと思います。』

 

 

『めっちゃ楽しそうでしたよ。』

 

 

『一瞬、御褒美か何かだと思いました。』

 

 

『俺も鋼柱様に尻をバンバンしばかれたい///』

 

 

『鋼柱様、多分サラシ巻いてなかったせいですっげーたゆんたゆんしてたわ…眼福乙。』

 

 

後にズタボロになった煉獄父が発見されたが、その姿は哀れな状況だったらしい。

 

文字通り、服はボロボロ、顔面と右目に複数の青痣と両頬に張り手跡が刻まれていたとの事。

 

 

『この根性の曲がった酒浸りジジイ!』

 

『亡くなった奥さんに顔向けできるのか!?』

 

『そんな情けない姿を草場の陰から奥さんが軽蔑の眼で見ているぞ!!』

 

『文句があるなら父親らしい事をしてみなさいよ!!』

 

『そんなのだから息子達ににも愛想付かされるのよ!』

 

『態度と考えを改めないとその内…本気で絶縁されるわよ?』

 

 

と、ハスミに襲撃から駄目出しとボロクソに言われた事もあり、煉獄父はお館様に抗議文を送ったらしいが…

 

 

『気持ちは解らなくないけど、もう十分休んだよね?』

 

 

『いくら父親でも杏寿郎に対する暴言は良くないと思う。』

 

 

『反省の意を込めて打診していた指南役の件宜しくね。』

 

 

とさらりとスルーされたとの事。

 

流石の煉獄父もお館様の命令には背く事は出来ず、後日指南役として鬼殺隊・本部に顔を出したとの事。

 

なお、煉獄父に頭突きをかました炭治郎はその時の衝撃で治りかけていた骨折のヒビが戻ってしまったので退院が先延ばしとなった。

 

 

=続=

 




<裏話>


とある深夜。


「本当によろしいのですか?」
「うん、私としても槇寿郎には立ち直って欲しいからね。」


『あのままでは杏寿郎や千寿郎が可哀そうだからね。』と告げるお館様。


「事と次第に寄っては容赦出来ませんが?」
「大丈夫、遠慮なくやってしまいなさい。」


と、煉獄父の指南役へ引っ張り出す件が密かに行われていたのはお館様とハスミの秘密である。

※ 教訓、策士と策士が合わさると地獄を見る。

余談、主人公の体型はB91・W58・H84である。


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変化と進展

流れは時として変化を齎す。

それは凶と出るか吉と出るか?

誰にも判らない。


前回から三日後。

 

私ことハスミは任務で骨折し入院中の炭治郎君と炎柱より先に退院した。

 

二人は残り半月程の入院が必要なので仕方がないが…

 

命があるだけまだマシな方だろう。

 

私は特に大きな任務はなかったので引き続き他の隊士達の修行を見る事となった。

 

 

*******

 

 

鋼屋敷近郊の修行場にて。

 

ハスミを筆頭に鬼殺隊の修行を行う隊士達が集合。

 

二か月前の修行で精神的にも屈強な隊士に変貌した者達。

 

何か判らんが罵られたい眼差しで見る一部の隊士達。

 

今回から修行に参加する隊士達が集合しているが、少々場の空気に慣れないのかオドオドした雰囲気が残っていた。

 

 

「数日であるが、長らく修行の場に居られず申し訳ない。」

 

 

前線に立つ者として謝罪と共に修行者達にハスミは話を続けた。

 

 

「聞いての通り、無限列車事件で上弦の鬼が出現した事もあり…今回より修行難易度を上げて行く!」

 

 

全体の七割が『『『ガンホー!ガンホー!』』』の掛け声と『『『おっしゃー!』』』の掛け声が響いた。

 

残りの三割が『『『えっ!?』』』な表情で掛け声組を見ていた。

 

 

「いいか豚共!我々の目的は何だ!!」

 

 

「「「悪鬼抹殺!!」」」

 

 

「我々の理想の強さは何だ!!」

 

 

「「「鬼の天敵!!」」」

 

 

「柱を超える覚悟はあるか!!」

 

 

「「「あります!!」」」

 

 

「ならば結構!これより修行を開始する!急ぎ配置に付け!!」

 

 

「「「イエス・マム!!」」」

 

 

掛け声と共にそれぞれが行っている各修行場へと移動する。

 

残ったのは初回の隊士達のみ。

 

 

「これが私の修行を耐え抜く事が出来た二か月後の君達だ。」

 

 

余りの光景に唖然とする初回の隊士達。

 

 

「私は他の柱とは違う、個々にそれに似合った実力を伸ばせる者を見捨てたりはしない。」

 

 

今までの行動で他の柱と一線を画す行動を起こしているのは事実である。

 

 

「お館様の指示により新規参加者への修行を行う。」

 

 

ハスミは修行内容を説明しつつ続けて新規参加者達に話す。

 

 

「…この中に尻尾巻いて逃げようとする根性無しは居ないと思うけど。」

 

 

逃げたらただじゃ置かないわよ?と付け加えた。

 

早速、新規参加者は用意された丸太を担いで指定ルート内の往復マラソンを開始。

 

丸太の重量と往復マラソンに指定された山道ルート。

 

それらを毎日こなす事で肺活量と筋力を付けさせる。

 

定番の修行から始まった。

 

これは鋼柱監修の修行の始まりに過ぎず、次のステップから凶悪性が増してくるのである。

 

炭治郎達はやった連続トランポリンで銃弾を斬る修行や川へ接触ギリギリバンジージャンプなど数えたらキリがない修行が待ち受けている事を新規参加者達は知らない。

 

現在、更なるステップに移った他の修行中の隊士達は…

 

落下する岩石を刀で斬ったり避けたりしながら頂上に向かう修行。

 

滝から落下する河水を全て刀で打ち返す修行。

 

鋼柱が対鬼用に飼育している元闘犬で鬼殺犬のゴンタ君とゴンゾウ君の襲撃から罠が満載したエリアを逃走する修行。

 

等々、傍から見れば死亡一歩手前の修行が行われている。

 

 

「先ず先ずか…暫くはこれで様子見。」

 

 

とまあ、言っても上弦の壱と参を相手にするには実力が足りない。

 

上弦の壱は炭治郎君が話していた通り、呼吸を使っていたし…

 

参は殺気対応の体術使いだから…垂れ流し状態の殺気をどうにかしないと荷が重いわね。

 

…戦力上、他の柱も修行が必要かもしれない。

 

このままだと永久ループ地獄になりそう。

 

 

「おうおう、派手にやってるな!」

「…」

 

 

ハスミが考え事をしている矢先に修行場に現れた宇髄天元と伊黒小芭内。

 

修行の様子を見に来たようだが、他にもある様子だった。

 

 

「音柱に蛇柱……何?野次馬かしら?」

「…そんなんじゃねえよ。」

「ああ。」

「なら、何の様?」

 

 

二人は顔を見合わせると話を続けた。

 

 

「お前…一番重症だったのに煉獄の事、守ってくれたんだろ?」

「…その事を言いに来た。」

「その事なら礼の必要はないわ、私は上弦の壱を足止めしていただけで炎柱を守ったのは炭治郎君よ。」

「それは胡蝶からも聞いている。」

「だが、上弦の鬼が二体も出た戦場で無事に戻れたのは奇跡だ。」

「そうね。」

「…ありがとな。」

「俺からも礼を言う。」

「受け取って置くわ………所で二人は炎柱と親しいの?」

「まあな。」

「…」

 

 

二人の話を聞くとこの場に居ない甘露寺ちゃんを含めて柱の中で付き合いが多い方だそうだ。

 

特に蛇柱は幼少期に前炎柱…あの酒浸りジジイこと煉獄父に救われたらしい。

 

病死した奥方がまだ存命だった頃の事なので今と比べ物にならない位に熱意のある人だった様だ。

 

そんな彼らでも炎柱の心の闇に寄り添う事は出来なかった。

 

 

「無限列車事件での炎柱は死に急いでいたわ。」

「やっぱりな…」

「知っていたなら相談する事も出来たでしょうに。」

「人の家の厄介事に首を突っ込む訳にはいかなかったからな。」

「それでも死んでしまったら本音で話す事は一生出来なかったと思うわよ?」

「その為に鬼殺隊の隊士は遺言書を書いている。」

「本音は隠したままって事もあるわよ?」

「何故、そうだと?」

「ああ言う性格の人って自分で伝えたい最後の想いを…隠して持って行ってしまう事もあるのよ。」

 

 

自分の言葉でいつか言おう。

 

それでも拒絶されてしまう。

 

いつしか拒絶される事を恐れてしまう余りに心の内に隠してしまった。

 

 

「炎柱は父親と腹を割って本音を話していれば良かったのよ、盛大な親子喧嘩でもする位に。」

「それ、周囲がとんでもねぇ事になるぜ?」

「…同感だ。」

「周囲が止めればいい事よ、何の為の鬼殺隊で柱で仲間なの?」

 

 

ハスミは一息置いてから伝えた。

 

 

「貴方達はそれぞれが自分自身で一杯一杯で周囲に無関心すぎるのよ。」

「…」

「貴方達は腹を割って話を聞いてあげる仲間じゃないの?」

「言われてみりゃ…そうだよな。」

「仲間を信じて手を取り合う事も必要だと思うけど?」

「ただ居ただけで余り考えた事は無かった。」

「それに鬼殺隊の生存率が少ないのは隊全体の修行と訓練不足に…個々の精神的な治療が必要だからよ。」

「治療だと?」

「そうね、例えば…鬼に襲われた後でも悪夢を見続ける隊士とか居なかった?」

「ああ…胡蝶の所にそんな隊士が居た。」

「そう言った人達への対応も今後必要になっていくわ。」

 

 

ハスミは修行を続ける隊士達の様子を見ながら話を続ける。

 

 

「彼らも自分の恐怖と向き合って戦おうと立ち上がった、それが出来たのなら心の強さを伸ばして行けばいい。」

「心の強さか…」

「伸ばせない、戦えない、そんな隊士達には別の方法で戦う意味を与えてあげればいい。」

「別の意味?」

「隠に入ったり、拠点を帰る場所を守る、刀鍛冶の様に戦う力を作る、それは様々な方法よ。」

 

 

命ある者にとって衣食住は大事だ。

 

そのバランスが取れなければ戦い続ける事は出来ない。

 

 

「私は命ある限り生き続ける事が戦いだと思っている。」

 

 

私にとって命を投げ捨てる犠牲はこの世に生まれてきた事に対する冒涜だと思う。

 

もしも軽蔑されたり拒絶されても自分に恥じぬ行動で胸を張って生きればいいと…

 

あの人は私に教えてくれた。

 

 

「あ。」

「どうした?」

「?」

 

 

ハスミは双眼鏡でとある方向を見ると何処からかRPGを取り出し、距離を確認してから発射。

 

盛大に上空で爆発し爆発で飛び出た網が脱走者を捕らえた。

 

続けて拡声機を出して指示を出す。

 

 

「ゴンタ!ゴンスケ!脱走者が出たから噛み付いてこい!!」

 

 

掛け声の後に響く二匹の犬の遠吠え。

 

同時に上がる土煙と脱走者の悲鳴。

 

 

『ぎゃぁああああーーーーーー!!!』

 

 

そして犠牲者の捕獲に成功した声が響いたのである。

 

 

「聞いていた以上にえげつねえな。」

「ああ…」

 

 

音柱と蛇柱はこの光景を白い眼のドン引き顔芸で見ていた。

 

 

=続=

 




<とある裁縫係の災難>


鬼殺隊服縫製係の前田まさお。

通称ゲスメガネと呼ばれている。

ある日、彼はとある人物の逆鱗に触れる事となった。


「…」


彼は全裸(下着アリ)の状態で木に吊るされていた。

その顔はメガネは破損し全身青痣とタンコブだらけと言う悲惨な状態。

彼の頸に吊るされた看板にはこう書かれていた。


『この者、超が付く変態の豚なので日没まで吊るす。by鋼柱』

『注意・日没まで弄らない様に。』


と、書かれていた。

これに関して女性陣からは軽蔑の眼で見られ、男性陣からは『あーあーやっちまったな。』で鋼柱の修行でドMに目覚めてしまった一部の隊士達は『ゲスメガネ!!テメェだけズルいぞ!!』と『俺らも鋼柱様に罵られたいのにー!』と『羨ましいぞ!糞野郎が!!』などドン引き発言をしていた。

ゲスメガネを発見した風柱は『自業自得だ。』とスルー。

後にゲスメガネは誓う。

懲りずにもっとスケベな服を作ってやると…


「あのメガネ、懲りずに…」


鋼柱、再び谷間を強調した隊服を支給され…ゲスメガネフルボッコ・ループへ。


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争う前に現実を見ろ

目処前の戦力。

そして敵の実力。

真似ていても脅威である事に変わりはない。


前回から半月後。

 

炎柱と炭治郎君が機能回復訓練を行っている頃。

 

 

******

 

 

「よぉ、半鬼女。」

「風柱か、何の用?」

「ちぃとばかし、お前とやり合う為に来た。」

「…お館様の許可は?」

「んなもんは取ってある、木刀とは言え容赦はしねぇぞ?」

「そう…」

 

 

私ことハスミは修行場での訓練中の最中、鎹鴉からの指令書にて。

 

この人相クソ悪い度Maxの風柱こと不死川実弥との模擬戦をお館様に依頼されたのだ。

 

別に構わないと思った。

 

風柱の怒りで敵をたたっきる癖をどうにかしないと今後に響いてくると理解していたので…

 

遠慮なく、ぶっ飛ばす事にしました。

 

テヘッwっとしたい気分で。

 

 

「さてと…」

 

 

ハスミは拡声機を取り出し、修行中の隊士達に指示を出す。

 

 

 

「豚共!屑虫共!本日の修行は一時中断!今から十分後に柱同士の模擬戦を執り行う!!見稽古としてその眼に焼き付けろ!!」

 

 

「「「イエス・マム!!!」」」

 

 

「急ぎ、闘技場へ移動!!遅刻した者はその尻に銃弾をぶち込むぞ!!!」

 

 

「「「イエス・マム!!!」」」

 

 

指示を出された隊士達は修行道具を素早く片付け、修行場から闘技場へ移動を開始。

 

ハスミは拡声機を仕舞ってから唖然としている風柱に静かな声で答えた。

 

 

「…」

「風柱、言ったからには………本気でやらせて貰うわよ?」

「おう、上等だぁ…吠え面かかせてやるよ。」

 

 

風柱、正直に思う。

 

貴方の殺気は全然恐怖を感じない。

 

私は…それ以上の恐怖を感じた事があるから。

 

私はあの恐怖を忘れないし忘れてはならないと思っている。

 

それは憎しみにも似た感情である事は理解していた。

 

 

~十分後~

 

 

鋼柱が筆頭に無限列車事件前に設営した闘技場。

 

身稽古用の観客席と広々とした対戦用の敷地。

 

周囲には緩衝材を仕込んだ壁に囲まれている。

 

 

「随分と面白れぇ所をこさえたな?」

「元々は一人対百人の斬り合いの修行を行う為に造ったのだけど、模擬戦専用の闘技場としても使用しているのよ。」

「なら、テメェを容赦なくブッ飛ばしてやるぜ。」

「あ、ちょっと待ってて。」

 

 

ハスミは一度静止させると闘技場の隅に行き、付けていた服装以外の装飾品を全て外した。

 

それは一つ一つが地面へ落ちる毎に地面に沈んでいった。

 

 

「!?」

「本気でって言ってたでしょ?それと…」

 

 

ハスミは専用の木刀を投げ渡した。

 

 

「何だぁ?」

「普通の木刀でやり合うと折れるから一番強度の高いのを選んでおいたわ。」

「本赤樫か…?」

「それに油を染み込ませてあるから少し重いけど。」

「日輪刀で打ち合う方がいいが、お館様の命令もある…別に構わねえよ。」

「じゃあ、始めるわよ?」

「おうよ。」

 

 

準備が終わり、互いに木刀を構えようとした時。

 

 

「派手に面白そうだな!!」

 

 

「「!?」」

 

 

「なら…司会・進行役はこの祭りの神である宇髄天元様が取り仕切るぜ!!」

 

 

突然の宇髄の登場で両者共に息ピッタリで突っ込みを入れる。

 

 

「「宇髄(音柱)、何勝手な事をしてやがんだ(している)!!」」

 

 

その様子にドヤ顔で宇随は答えた。

 

 

「んな、面白れぇ対戦を見逃す俺様じゃねえぜ?」

「…あの野郎っ。」

「…風柱、後であの祭り馬鹿を潰していいかしら?」

「応よ、そこは同感だぁ。」

 

 

物騒な話し合いを余所に気を取り直して、二人は模擬戦を開始した。

 

先手必勝で不死川が木刀で突撃してくるものの…

 

ハスミは接触前に身体を横にずらして回避する。

 

 

「口先だけじゃねえって事か…!」

「言った筈よ、本気で行かせて貰うと?」

「上等だ!?」

「遅い…!」

 

 

ハスミは戯言を続ける不死川の予測を上回る速さで木刀を弾き飛ばした。

 

 

「な…!」

「…」

 

 

眼や感覚で追い切れない速さ。

 

それは鬼の体質からではなく元からの鍛錬も含まれている。

 

これはハスミ自身の事であるが、彼女は常時鍛錬の為に錘を常に体の至る所に付けていた。

 

それを外した事により、先程の様な異常な速度を出せているのである。

 

 

「言っておくけど、それ……上弦の壱と同じ速度よ?」

「!?」

「無限列車事件で遭遇した上弦の壱の速さがそれだった……その速度はあくまで目安よ。」

「てぇことは?」

「場合によってはさっき以上の速度に追いつけなければ勝ち目はないって事よ。」

「…他にもあるって顔だなぁ?」

「今の反応速度では奴の斬撃を避け切れない。」

「んだとぉ?」

「奴は一度の斬撃に無数の斬撃を組み込んで攻撃している。」

「それがテメェの知った事か?」

「その通りよ。」

 

 

ハスミはもう一度、不死川に告げる。

 

 

「これだけは言える、今の状況では柱が束になっても勝ち目はない。」

「んだと!?」

「怒りに任せた攻撃だけでは意味がないって言っているのよ?」

 

 

この人相クソ悪Maxめ。

 

ぶっちゃけ言うならハイパーモード取得前のキング・オブ・ハートと同じだ。

 

正直アレ…取得させようか迷っている。

 

成長はしているけど、迷いが降り切れてない今の彼では扱えない。

 

 

「…迷いがある刀では奴に届かない。」

「っ!」

「それでも打ち込んでくる覚悟はあるのかしら?」

「勿論だ、テメェに吠え面かかせる迄は何日でもぶった切ってやるよっ!!」

「…(覚悟は良いけど……正直、駄目だこりゃ。」

 

 

ハスミはため息をついた後、出来得る限りの殺気を闘技場に干渉させた。

 

それは一般の隊士でも発狂するレベルの殺気であり、本来の立ち位置で干渉させていたモノである。

 

とても重苦しく、動けば命はないと感じさせる気配。

 

 

「テメェ…何だよそりゃぁ。」

「言った筈よ、本気を出すと……普段は周囲が反応しやすいから抑えているけど、出せと言われたら出せるのよ?」

 

 

不死川は目処前の存在に冷や汗を流していた。

 

同じく司会進行を行っている宇髄もまた背中に収納していた刀を握りそうになった位である。

 

 

「明鏡止水。」

「は?」

「何の邪念も無く、静かに落ち着き澄み切っている心の状態の事を示す……その窮地に立った時、それは貴方の力になる。」

「それが何だって言うんだよ。」

「見せてあげる、私も学んだ……その意味を。」

 

 

ハスミは木刀を構えると先程の言葉通りの心のままに木刀を振るった。

 

それは不死川を通り過ぎて後ろにあった緩衝材の入った壁を細切れにしてしまう。

 

確かにあった斬られた感覚と何かが通り過ぎた感覚。

 

 

「今の感覚をよく覚えて置いて。」

 

 

ハスミは拡声機を取り出すと身稽古に参加していた隊士達に修行の再開を言い渡す。

 

そして茫然と立っている不死川をそのまま放置し身支度を済ませてその場を去って行った。

 

 

「おい、不死川…大丈夫か?」

 

 

同じく茫然としてしまった宇髄も正気を取り戻し、闘技場に遺された不死川に声を掛けた。

 

 

 

「ああ…」

「…煉獄と竈門達が生き残れた理由が漸く判ったぜ。」

「どういう事だ?」

「クジョウは……アイツは戦場を経験している。」

「戦場だと?」

「それも鬼狩りの規模じゃねえ方の…な?」

 

 

それも俺よりも人の死を経験しすぎている。

 

場慣れしすぎていると思ったが、経験の差が桁違いだった。

 

的確な指示と戦術に上弦と対等に渡り合える戦闘力を隠している。

 

お館様がクジョウを引き入れた理由に納得した。

 

 

「解り安く言うなら戦争経験者って言った方が早い。」

「…」

「もうしばらく様子見が必要かもしれねえな。」

「宇髄、もう一つあるぜ。」

「俺も同じ事を考えていた所だ。」

「俺らも本格的に修行のやり直しが必要だってな…」

「同感だ。」

 

 

不死川の言葉を否定せずに宇髄もまた頷いた。

 

 

=続=

 





<甘露寺ちゃんの甘味速報>


「はぅ~ハスミさん、これすっごく美味しい!」
「材料が丁度揃ってね、お気に召したかな?」
「勿論!」


本日の甘味、焼きたてワッフルの塩バニラアイス添え・蜂蜜付き。


「ハスミさんがアイスクリンの作り方を知っていたなんて…」
「海外を旅していた時に学んでね、果物が在ればもっと美味しいのが出来るけど。」
「これでも十分だよ、このワッフルもさっくりしてもっちもちでアイスと蜂蜜に合う~♡」
「…(ワッフル…既に五十枚目突入してるけど大丈夫かな?」


その後、作って置いたアイスクリン3㍑分が甘露寺ちゃんによって食べ尽くされたのは別の話。

ワッフルの大きさ:一般のどら焼きと同じサイズ。


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異洲磨村編
失踪からの大事件


時は流れて、文月の頃。

鬼狩りの合間に起こった出来事。

それは異国からの侵略。

この世は摩訶不思議。

何が起こっても不思議ではない。



雨期を過ぎて夏の日差しが照り付ける頃。

 

この期間は鬼の出現率が極端に減る時期でもある。

 

逆に冬場などの日照時間が少なくなる頃に鬼の出現率が上がり始める傾向があった。

 

鬼殺本部に残る鬼の出現統計を取ってみた結果…判明した事だ。

 

流石に気づくだろうと思ったが…

 

この件に関して、誰も調査もしなかったらしい。

 

正直、頭が痛くなった。

 

 

******

 

 

文月の初めの夜。

 

…それは訪れた。

 

 

「皆も知っての通り、任務中に甘露寺蜜璃が消息不明になった。」

 

 

 

日々の鬼狩りを終えた頃。

 

夜明けと共に鎹鴉から齎された緊急招集からの緊急柱合会議。

 

お館様から語られた報告に他の柱達も動揺を隠せなかった状況。

 

その皮切りに煉獄と胡蝶が甘露寺の安否を心配していた。

 

 

「甘露寺が行方不明と?」

「一体、どうして…?」

「蜜璃にはある場所の調査任務を与えていた。」

「ある場所?」

 

 

お館様と共に屋敷の縁側で鎮座するご子息の二人が移動し大きめの地図を柱に向けて見せた。

 

 

「ここに掛かれている異洲磨(いすま)村と呼ばれる村へ調査に赴いていた。」

 

 

地図の中心に異洲磨村と書かれた海岸沿いの集落。

 

詳しい周辺の情報は碌に掛かれていなかったのでほとんどが不明だ。

 

 

「その村に嫁入りする娘達が村へ辿り着く前に行方不明になっているそうだ。」

「お館様、発言をお許し頂いても宜しいでしょうか?」

「ハスミ、何かな?」

「他にも村に近づいた年頃の娘達も行方不明になっている…ではないですか?」

「その通りだよ、そこで蜜璃を調査に向かわせたんだ。」

「異洲磨村に関して他に情報はありますか?」

「隠からの情報で判明している事はその村は明治初期頃に異国の者達が村への移住希望の人々と共に開拓した位だよ。」

「…」

「皆も日々の鬼狩りで多忙だろうが、どうか蜜璃を…助け出して欲しい。」

 

 

お館様は柱で話し合い状況を打破して欲しいと告げて屋敷の奥へ去って行った。

 

現場の事は現場に任せた方がいいと言う判断なのだろう。

 

 

「甘露寺が…甘露寺が…!」

 

 

ここに約一名程、落ち着きがない蛇柱がいる。

 

傍から見れば怨念込めた陰湿オーラを醸し出したストーカースレスレの行動に見えるから止めなさい。

 

本当に周囲が呆れるから…

 

後、無一郎君…可哀そうだから後ろで背中にツンツンしながら一緒にしゃがんでなくていいからね。

 

 

「しかし、甘露寺が行方不明とは…何やら不吉な予感の前触れかもしれん。」

「だな、それも只の鬼が相手じゃない可能性もあるってか。」

「十二鬼月かぁ?」

「…その可能性も否定出来ない。」

「クジョウ、お前はどうみる?」

 

 

悲鳴嶼を始めとした残りの柱達が話し合う中でハスミは自身の鎹鴉に手紙を持たせて飛ばしていた。

 

 

「流石に情報が少なすぎる、異洲磨村周辺に待機している隠達に追加の調査依頼を出したからそれ待ちよ。」

「追加ですか?」

「…もしかしたら相手は鬼ではない可能性もあるかもしれない。」

「?」

「一体どういう事だ?」

「異洲磨村と言う名前と開拓者の中に居た異国の者って言うのがどうも引っかかってて。」

 

 

下手すりゃ某ネギトロに鰹のタタキや鯵のなめろうとかの案件だし。

 

…何かあると困るし爆薬の追加をして置こう。

 

 

「てぇ事はお前が追っている奴と関係の奴か?」

「それも否定出来ないから情報が必要なのよ。」

「鬼舞辻無惨の生み出した鬼とは別の異形の者達…妖怪や妖の類と?」

「場合によっては…」

「成程な、甘露寺の消息も分からねえし情報が少なすぎる以上は下手に動けねえか。」

「…早ければ、次の早朝に情報が届く予定よ。」

「では、私達は追加情報が入り次第…再度話し合いをすると言う事で宜しいですか?」

「うむ、鬼の出現率が少ない時期とは言え油断は出来んからな。」

「炭治郎君も情報が明確になってないから余り口外しない様に。」

「判りました。」

 

 

私達は一度解散し、各任務地の巡回を行いながら追加情報の到着を待った。

 

 

~翌日~

 

 

時はお昼頃、どう言う訳か甘露寺を抜いた柱全員が鋼屋敷に集合していた。

 

理由はお館様より今回の一件は柱に一任する指示を出した為である。

 

で、会議をしやすいこの屋敷に集まった訳だ。

 

 

「…何で私の屋敷が集会場になっている訳?」

 

 

外の気温は例年を通り越して暑さを増して寝苦しい夜を迎える日々が続いていた。

 

その過程で鋼屋敷には快適な冷暖房設備を独自に備えている為に集会場と化している状況だった。

 

 

「ハスミさんの屋敷はどうしても過ごしやすくて…」

「うむ、涼しくて過ごしやすい。」

「…(これが本当の快適器具の蟻地獄状態。」

 

 

端で扇風機の風に当たりながら『アーーー。』ってやっている無一郎君。

 

畳の上でごろ寝している宇髄。

 

冷蔵庫から麦茶を取ってきて勝手に飲んでいる富岡達。

 

炭治郎君に至っては御煎餅とかの軽い茶菓子の用意をしている状態だ。

 

 

「はぁ…」

 

 

私は呆れてため息をついた後、鎹鴉の叙荷が持ってきた手紙を軽く目を通した結果。

 

目星を付けていた該当情報のいくつかが当たった事を示していた。

 

 

「それでは追加した隠からの調査情報が届いたので整理に掛けたいと思います。」

 

 

ハスミは隠から届いた情報を元に話し合いを進めた。

 

 

「異洲磨村は入江の様になった場所を利用した漁村であり、村独自の風習が残る場所だそうです。」

 

 

入江の周辺は崖が多く、拠点としては陸から攻めにくい地形。

 

海辺も独特の海流があり、船での潜入も困難。

 

文字通り難攻不落の地だろう。

 

 

「風習?」

「ええ、仏様じゃなくて魚神(うおがみ)様と呼ばれる御神体を祀っている。」

「漁村ならではの風習か…」

「隠の話では異洲磨村の住民は殆どが男性、女性が生まれにくいと言う理由から嫁探しを明治中期頃に始めた。」

「うむ、理由が理由だけに怪しい所が多すぎる。」

「怪しい所?」

 

 

煉獄の怪しい発言に時透は?を浮かべる。

 

ハスミの説明に続いて胡蝶も自身の答えを告げた。

 

「これだけ頻繁に女性が生まれないし嫁探しを続けている事が不自然なのよ。」

「子は授かりものと言いますが、不自然に女性が生まれない時期が長すぎますね。」

「嫁入りならまだしも村周辺に近づいた年頃の娘達が行方不明と言うのが決定打。」

「人買いか?」

「風柱、それなら救いようがあるけど…」

「人柱、神嫁…その類か?」

「マジか?宇随。」

「音柱の言う通りよ、その視野も含めているわ。」

「えっと、つまり…」

「行方不明者は全員生贄にされている可能性があるって事。」

「そんな!」

「まだ確証がないから何とも言えないけど、村総出で何かを隠蔽している事は確かよ。」

「どうしてそこまで解ったんですか?」

「炭治郎君、私は隠へ情報を集めさせる時にある条件を付けた質問を周辺の村人にさせたのよ。」

「条件?」

 

 

隠に与えた条件付きの質問。

 

友人の娘が嫁入りする道中で行方が解らなくなった。

 

もう半月も姿が見えない。

 

誰か知らないか?

 

この質問の答えに対して特定の回答した場合、その人は黒である。

 

知らない。

 

この周辺は海沿いの崖が多く事故に遭ったのではないか?

 

うちの村ではそう言った娘子は来ていない。

 

拐かしでも遭ったんじゃないのか?

 

と、回答した者が怪しいって事。

 

 

「何故怪しいと?」

「この問いは何処の村に嫁入りしたとは答えていない事が重要点よ。」

「成程、質問の問いが悪辣だがな。」

「フフっ、そうですね。」

 

 

炭治郎の混乱を他所に宇髄と胡蝶は納得した意味で答えた。

 

 

「犯人はこの問いで自分が犯人と暴露しちゃっているのよ。」

「へ?」

「つまり、犯人に自分達の事だと錯覚させて真意を引き摺り出したの。」

「???」

「炭治郎君、解らな過ぎて頭が爆発しちゃった。」

「意地悪な問題を出すからですよ。」

 

 

ハスミ、炭治郎に対し詳しく分かりやすく説明。

 

 

「そうか…それで相手は自分達の事だと思ってしまったんですね。」

「そ、これで異洲磨村は完全な真っ黒で周辺の村々も何か知っている。」

「となると下手に下級の隊士を動かす訳にはいかないな。」

「だな、柱の甘露寺が取っ捕まった以上は手練れが行く必要があるぜ。」

「柱が合同で動く事になるとはな…」

「では、こちらでの指揮対応の柱を数名を省いて編成しましょう。」

 

 

話し合いの結果。

 

潜入に悲鳴嶼、宇髄、伊黒、富岡、クジョウ、炭治郎の

六名が選出。

 

残りの煉獄、不死川、時透、胡蝶の四名は本部で通常任務をこなしつつ待機の形となった。

 

そして…

 

 

「そう言う事で音柱と蛇柱には女装して貰います。」

 

「「ハァ!?」」

 

「ちょっと待て!」

「何故、俺達が!」

 

 

ハスミの案件で反論する二名。

 

二名に対して最もな説明を続ける。

 

 

「相手の狙いが多い方がいい事と変装と化粧してもバレにくいからよ。」

「富岡はどうなんだ!」

「…愛想がないから無理。」

「!?(心外だ。」

「岩柱は論外、そもそも無理がある。」

「嗚呼、役に立てずにすまない。」

「炭治郎君は顔に出やすいから却下。」

「…ですよね。」

 

 

ハスミの的確な説明で反論出来ない二名。

 

この事から諦めを通り越して自棄糞状態の発言をした。

 

 

「あーったくよ、やりゃいいんだろ!派手に女装をな!!」

「甘露寺の為だ、恥を忍んでやる。」

「それでは宜しくお願いしますね。」

 

 

甘露寺救出の為、柱総出の潜入任務が始まる。

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その一。


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矛先は広がる

鬼狩りの間で騒ぎが起きた頃。

ここでも一つの騒動が起こっていた。

矛先は更に広がる。

そして…


とある雨の日。

 

帝都内のとある屋敷にて。

 

 

「では、商談成立で。」

「こちらこそ、有意義な商談が出来ました。」

 

 

どんよりとした厚い雲が覆う雨の日。

 

月彦は表向きの立場での商談を行っていた。

 

太陽が出ていなければ鬼も活動範囲を広げられる。

 

その為、天候が悪くなる雨期や日の落ちる時間が早い冬場を中心に活動している。

 

 

「そちらがお探しだった苗木ですが、次の貨物船で届く予定です。」

「それは朗報ですな。」

 

 

商談相手の初老の男性は商業相手としては信頼出来る相手であり、何度か商いの件で話し合いをしていた。

 

この時代に置ける義を重んじた相手だからだろうか。

 

そんな彼らの談笑を遮るような報告が起こってしまった。

 

 

「社長、失礼します!」

「どうしたんだ?」

「それが…明日到着予定の貨物船が事故で沈没しまして。」

「何だと!?」

 

 

速達で届いたのだろう電報を持って室内に入室した社長秘書。

 

内容確認の末、急ぎ知らせに来た様だ。

 

 

「事故の詳細は犠牲者は?」

「乗組員多くは近くの漁村で助けられましたが、甲板に出ていた何人かは海に投げ出されたとの事で…」

「…何と言う事だ。」

 

 

この時代の航海にも危険が伴う。

 

現代の様に空からの救助や海からの救助がスムーズに行える訳ではない。

 

今回の場合は陸に近かった為にその多くが難を逃れたが、数名の犠牲が出た事に変わりはない。

 

 

「事故の場所は何処だったのだ?」

「それが…」

 

 

社長秘書が口ごもる様に伝えた場所。

 

 

「馬鹿者!あの海域はどんな事が在っても通るなとあれ程…!」

「申し訳ありません、進路を変えたのは船長らの独断だった様で。」

「まさか異洲磨沖の海域に入ってしまうとは!」

「社長、異洲磨沖とは?」

「海での商いを行う者なら誰でも知る呪われた海域と呼ばれる場所です。」

「呪われた?」

「ええ、海流は激しく多くの船が座礁し転覆する事で通る者はいない海域…現地の漁村を除いてはですがね。」

「漁村?」

「異洲磨沖に繋がる入江には異洲磨村と呼ばれる村がありまして、その村の漁師達だけは何故か事故に遭わないのですよ。」

「…」

 

 

社長の言葉に月彦は静聴しつづけるが…

 

社長は『呪われた海の血筋』や『死の海域』、『化け物が住まう場所』と一人ぼそぼそと呟いていた。

 

 

「故に商いを行う我々の間では異洲磨沖に立ち入ってはならない暗黙の了承があるのです。」

「そうでしたか…」

「月彦さん、例の品をお渡しする事が出来ずに申し訳ありません。」

「いえ、命あってのモノです…犠牲となられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。」

「ありがとうございます。」

 

 

月彦は商談の件を済ませ、社長の屋敷を後にした。

 

 

 

~その夜~

 

 

無限城にて。

 

上下左右が複雑に反転した空間にて。

 

 

『全ての鬼に告げる、現在の任を中断し異洲磨村の情報を集めよ。』

 

 

月彦こと鬼舞辻無惨の意思の元で命令が下される。

 

 

「鳴女、貴様は現状のままだ。」

「仰せのままに。」

 

 

暫くすると無惨の元に集まる情報。

 

それは人の世では到底出てくる情報ではないものが多かった。

 

 

『魚顔の男だけの村民。』

 

 

『消える娘子。』

 

 

『新月と満月の時に現れる魚神の化身。』

 

 

『彼の異国より来訪した異形の血筋。』

 

 

余程の怪異に詳しい者でなければ理解が出来ない情報。

 

それらを元に無惨は言葉を零した。

 

 

「異形の者達よ、この私の求める物を失わせた償いはして貰うぞ。」

 

 

古き世からこの地に住まう者へ手出しをした異国の怪異。

 

それは一つの戦いでもあるが…

 

手を出してはならない存在達に手を出してしまった事に怪異達はまだ知らない。

 

知れば最後、恐怖の底に落ちるだろう。

 

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その二。


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相手が誰であろうとも

人生は何事も経験と言う言葉がある。

流れに沿って行えば水の様になる。

それは本人の意思とは真逆の意味で。

流される事を選ぶのか遡る事を選ぶかは自分自身である。


前回の恋柱失踪の報告を受けて二日後。

 

私ことハスミは全回のメンバーと共に異洲磨村へ移動していた。

 

バイク?今回は使えませんので爆薬多めに水でも反応する手榴弾も持参した。

 

相手が相手なのでスタンガンとスタングレネードは必須ですわ。

 

ついでにご友人から譲り受けたとある粉末の銃弾も持参してます。

 

やるなら徹底的にです。

 

 

******

 

 

某山道にて。

 

不安そうな表情でため息を付く炭治郎。

 

その様子に隣で歩いていたハスミは話しかけた。

 

 

「はぁ。」

「炭治郎君、どうしたの?」

「いえ、その…」

「善逸君と伊之助君の事でしょ?」

「あ、はいそうです。」

「大丈夫よ、今頃…風柱が死亡一歩手前で鬼狩りの訓練していると思うから。」

「…(それが心配なんですけど。」

「それに、それ位の殺気に耐えて貰わなきゃならない事態にもなる可能性もあるわ。」

「…そうですよね。」

「ま、毎度の事で風柱の逆鱗に触れて怒られていると思うけど。」

「あー。」

 

 

ちなみに私が使っていたバイクより火力が弱くなるが、別口のオートバイを鬼狩りの移動手段の一つとして検討出来ないかお館様に申請。

 

しかし、鬼狩りを密かに遂行するに当たって配備は危険と判断されたものの。

 

風柱がそのオートバイを気に入ってしまい…今では暴〇族な感じで乗り回している。

 

あの人相でオートバイ乗り回してたら鬼も裸足で逃げるわ。

 

 

「そう言えば、ハスミさんはどうして異洲磨村が怪しいと?」

「異国の国と魚神って言葉を聞くと…ある邪教の集団の事を思い出してね。」

「じゃきょう?」

「よこしまな…宗教、災いを齎す神様を崇拝する組織って言った方が解りやすいかしら?」

「災い…」

「彼らがその宗教と関りを持っているかは不明だけど、念の為にね。」

「…」

「もしも関りを持っているなら村人全員が狂信者…狂っていると思った方がいい。」

「狂っている?」

「そう、人は誰しも宗教が関わると己の信じる神様と張り合う事があるから…下手をすると戦争ものね。」

「そんな…」

「有名な天草四郎の乱の様に異国の古い時代には宗教戦争も起こっていた位よ。」

 

 

実際に宗教がらみで亡くなった人々は多く、諸説あるが…あの有名な『オルレアンの乙女』も犠牲者の一人とされている。

 

現代では信じる神は人それぞれとなり、宗教は例外を除いて自由に選べると言うのに…

 

時代背景は調べれば調べる程に真っ白い部分もあれば真っ黒い部分も良く見える。

 

 

「どうして仲良く出来ないんですか?」

「…それは全人類共通の永遠の問題ね。」

「問題?」

「人はどうしても思想や願いの違いで争ってしまう、穏便に解決出来るのは稀よ。」

「…」

「生きている以上は生きる事が戦い……その過程で争いは切っても切り離せない。」

「ハスミさん。」

「ま、一つ違うのは争う事をやるやらないの選択肢を選べる事よ。」

「選べる?」

「全員が戦える様に出来ている訳じゃない、守る者や平穏を望む者もいる…その事を忘れないでね。」

「はい。」

 

 

私と炭治郎君が話す中で他の四人は静聴していたものの、特に横槍はなかった。

 

この話に思う所があるが、各自でそれなりの答えを導き出したらしい。

 

綺麗事の様でもあるが、内容はかなり重いモノだ。

 

今回の戦いに置いて、そう言った状況に出くわす可能性があるので私は問い掛けの意味合いで話に出したのだ。

 

甘露寺ちゃん救出の為とはいえ、他者の住まう村へ潜入するのだから…

 

 

「前から聞きたかったのですが、ハスミさんのご両親は?」

「母は私が幼い時に、父は海外で商いをしているわ。」

「商い?」

「父は異国の人で武器や弾薬等の商品を主に扱う商人なのよ。」

「…」

「海外では過去の戦乱の根本を変えてしまうとされている兵器の研究が進められているわ。」

「兵器ですか?」

「ええ、私が使っている銃すら超えるものよ……配備されれば複数の国を巻き込む戦乱が起こる。」

「…」

「その結果、国は兵器によって守られるけど良い結果にはならないわね。」

「何故、判るんですか?」

「戦争に導入される兵士の死傷者が格段に跳ね上がるからよ。」

「!?」

「兵器の導入は即ち殺傷力の向上であり、使ったら最後……ものの数分で屍の山が築き上げられるわ。」

 

 

今の年代なら最初の大戦が該当するだろう。

 

近代兵器の導入によって兵士と民間問わず、その死傷者の総合計数は軽く万を超えた。

 

更に二度目の大戦はその進化を受けた兵器によって大規模な戦乱を巻き起こした。

 

下手をすれば、世界そのものが崩壊する核兵器が導入された大戦でもある。

 

恐らくは鬼殺隊の多くが経験するだろう。

 

後、数年もすれば震災が晒され不景気に不作と言う絶望の時代が訪れるのだから…

 

 

「炭治郎君、これだけは言わせて。」

「ハスミさん。」

「私は確かに銃や爆薬を使う…それは戦いを早期に終結させる為に使っているにすぎないの。」

「…」

「それでも戦う為に向かってくるのであれば撃つ覚悟も含めて私は躊躇いも無く引鉄を引くわ。」

「…覚悟。」

「そう、生きる為に相手の命を奪う覚悟よ。」

 

 

覚悟の度合い。

 

戦場に出る者は一度引鉄を引けば戻れなくなる。

 

 

「炭治郎君、貴方は優しすぎる所がある……それは貴方の長所であり短所。」

「…」

「忘れないで、これから戦うだろう相手には貴方の優しさは命取りだと言う事を。」

「はい。」

 

 

これから戦う相手はただ本能のままに異物を屠る相手。

 

私は躊躇いなく刀を振り、引鉄を引くだろう。

 

油断すれば守れるはずの命を守る事は出来ないから。

 

 

>>>>>>

 

 

一日近く使用して私達は目的地の異洲磨村に近い集落へと辿り着いた。

 

既にその村の年頃の娘達は何人かの行方不明を期に無事だった娘達は村を去っている。

 

現在は地方の町や村へ身を隠しているとの事で暫くは安全だろう。

 

行方不明騒動が発覚した後、事前に隠へ噂を広める様にと伝えたのが功を成した。

 

 

「さてと、予定通りに話を付けるか?」

「ああ。」

「…」

「…甘露寺。」

「急ぎましょ、恋柱の事もそうだけど先に捕まった娘達の事も気がかりだわ。」

「はい。」

 

 

私達は集落を纏める村長らと話を付け、異洲磨村へ潜入する話を持ち掛けた。

 

誘拐された娘達を助ける事を条件に協力を申し出てくれた事は有難い。

 

翌日、その集落に嫁入りをする一家が泊っている噂を流して貰った。

 

案の定、噂を聞きつけた異洲磨村の村民達はそれはめでたいと自分の事の様に話していたとの事。

 

餌は撒いた。

 

後は網に掛かるのを待つばかり。

 

 

=続=

 




IFルート・異洲磨村編その三。


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網にかかったのはどちら?


烏合の衆は慄く。

数だけでは倒せない相手もいる。

一人一人が一騎当千の刃である限り。

彼らを止める事は出来ない。


 

異洲磨村から南下した所にある集落。

 

その村に嫁入りをする一家が宿泊している。

 

一人は銀色の髪が映える美しい女性。

 

一人は左右の眼の色が異なる艶やかな黒い髪の娘。

 

一人は珍しい白磁の肌を持つ藍色の髪の娘。

 

纏めて言えば、見目の美しい女達である。

 

 

「…(あー、この派手に糞な時間が派手にムカつく。」

「…(どこぞの雑魚に甘露寺以外に笑顔なんて向けたくもない。」

「…(二人とも、笑顔が途切れてるけど?」

 

 

宿泊場の縁側で笑顔を振りまく女性陣(二名程、ヤローの女装)。

 

予定通りに女装し準備を整えた音柱と蛇柱の二名と私ことハスミ。

 

表に出していないが、内心この糞時間がさっさと過ぎないかと苛立っていた。

 

音柱の宇随は紫色の着物で髪を夜会巻きで簪で纏めてうなじを強調した首元美人。

 

女装だとバレない名演技と口元の紅でエロく見える為に事情を知らない男の村民に被害が出ている。

 

キセルでも持ってたら極〇の妻たちの妻にしか見えない。

 

蛇柱の伊黒は緑色の着物にサラサラの神に櫛タイプの簪で纏めた儚げ娘。

 

生まれつき喋れない設定にしているので余計に儚さが強調されていた。

 

本人はこの世の終わりの様な表情をしているが任務なので耐えて貰おう。

 

んで、当の私は青色の着物で同じく簪で纏めた清楚な娘に仕上げてある。

 

この着付けの監修は音柱の嫁さんズに炭治郎ママこと葵枝さんのお陰。

 

あの時の四人が鬼気迫る位にノリノリだったのは見なかった事にする。

 

 

「…(早速、来たみたいね。」

 

 

早朝に揚がった魚を売りに来た異洲磨村の漁師達。

 

嫁入りの話に対して口々に答えていた。

 

 

めでたい。

 

めでたい。

 

めでたい。

 

メデタイ…

 

メデタイ…

 

メデタイ…!?!!!?

 

 

 

異洲磨村から魚を売りにやって来た漁師達は自分の事の様に囃し立てた。

 

異洲磨村の漁師達は皆魚顔と呼ばれる独特の素顔をしていた。

 

昔から魚の神を祀っている為に次第にこうなったのでは?と漁師達は気にしていなかった。

 

その彼らの瞼がない眼で娘達を見る眼は本能に動かされつつあった。

 

美しい娘らを村へと…

 

そして彼らは目処前の餌に食らいついた。

 

それが罠とも知らずに…

 

 

******

 

 

その夜、集落から娘達が連れ去らわれた。

 

本能のままに魚独特の磯臭いニオイを残して…

 

 

「行ったか?」

「そうみたいです。」

「竈門炭治郎、奴らの足取りはお前の嗅覚が頼りだ。」

「はい!」

 

 

暫くしてから奴らを足取りを追う為に冨岡、竈門、悲鳴嶼。

 

夜道の中で奴らの足取りを追う為の手段として竈門の嗅覚を頼る事となった。

 

日々、ハスミの監修で嗅覚強化の訓練を行っていたので支障はないだろう。

 

因みに訓練で使用した物で最も強烈だったのはニシンの塩漬けをそのまま缶詰にして発酵させたものである。

 

竈門自身、最初に嗅いだ時…余りの臭いで失神したのは言うまでもない。

 

 

「…(磯臭いニオイに混じってハスミさんの香水の匂いがする。」

 

 

異洲磨村の漁師達を追って夜道を疾走する三人。

 

海辺に近いのか磯の臭いが道中混じる様になった。

 

 

「竈門、方角は?」

「このまま前方…直進です!」

 

 

磯の臭い、足元を混乱させる草と泥の感触。

 

進むにつれて感じる嫌な気配。

 

 

「冨岡さん…」

「炭治郎、クジョウの話していた通り……この村は尋常じゃない。」

「冨岡の言うとおりだ、奴らは鬼以上に危険な輩である事は間違いない。」

 

 

夜道を駆け抜け、森を抜けると異洲磨村を見渡せる場所へと辿り着く。

 

月夜に照らされた場所に不可思議な霧が村を囲む様に包んでいた。

 

余りにも静かな入江に入ってくる海水と真っ黒と言える海水の色。

 

夏場なのに気持ち悪い位に寒気が伝わってくる。

 

磯の臭いに紛れているが、微かに血の臭いも混じっている。

 

ここで何が起こっている?

 

 

「…」

 

 

静けさを保った村。

 

キイ、キイ、と音を立てながら軒下に吊るされた銛の先。

 

その先は何かの血の様なモノが付着している。

 

 

「炭治郎、これは?」

「人の血ではないようですが、何かの血である事は確かです。」

「かなり大きいが、捕鯨もしていたのか?」

「錆鉄と磯の臭いが強すぎて詳しくは…」

「夜とはいえ、村人の気配が全くしないのはおかしい…二人とも十分注意しろ。」

「…(コク。」

「…はい。」

 

 

その時だった。

 

雲で月の光が遮られると同時に家屋から出現する存在。

 

人と魚を合わせた生物…魚人である。

 

その眼は魚と同じ本能に染まった眼と鮫の様に相手を喰い千切れる牙を口元から見せていた。

 

この場が底の深い水辺だったら勝ち目がなかっただろう。

 

今は陸地で立地上、炭治郎達に分があった。

 

 

「この先は通させて貰うぞ!!」

 

 

ヒノカミ神楽・参ノ型 烈日紅鏡

 

水の呼吸・弐ノ型 水車

 

岩の呼吸・参ノ型 岩軀の膚

 

 

それぞれが広範囲に剣戟を行う技を繰り出す。

 

炭治郎ら三人対魚人こと深き者達との交戦が始まったのである。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

連れ去らわれた三人は異洲磨村の奥にある教会の地下へと監禁されていた。

 

そこには同じ様に捕らわれた娘達が捕まっており、気を失っていた。

 

呼吸で気絶したふりをし村民が居なくなったのを確認してから三人は行動を開始。

 

捕らわれた娘の中に甘露寺蜜璃の姿を発見した伊黒は彼女に近づいた。

 

 

「甘露寺!?甘露寺!!」

「おいおい、マジかよ?」

「…これは鱗。」

 

 

意識を失った甘露寺の両足から桃色の鱗が生え始めていたのである。

 

 

「ちょっと調べる必要がありそうね。」

 

 

ハスミは監禁場所に置かれた蒼く輝く薬品の入ったボトルに眼が行った。

 

 

=続=

 




IFルート・異洲磨村編その四。


※ニシンの塩漬けをそのまま缶詰にして発酵させたもの。
シュールストレミングの事。

一般の缶詰は密閉した後に加熱処理を行うが、シュールストレミングは作る工程では加熱処理は行わない。
そのまま密閉した後に缶の中で発酵させる必要がある為が理由。
加熱すると発酵せずにただのニシンの塩煮状態になる。
発酵には大体二年程掛かり、缶が中の発酵ガスで膨れると食べ頃の合図である。
ガスを抜かずに放っておくと爆発して中のシュールストレミング汁が飛び出るらしい。
開封時は人気のない森の中で樽に水を入れてその水の中で開封するとガスや汁が飛び散らないとの事。
主人公はこのガスと汁を攪乱用の臭気剤に使用している。



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狂気の記録

遺された品々。

それが指し示すもの。

奴らは捨て置けない。

存続の為に滅ぼさなければならない。


引き続き、異洲磨村・教会の地下にて。

 

捕らわれた娘と恋柱・甘露寺を発見した私達だったが…

 

娘達と甘露寺ちゃんに異変が起きていた。

 

 

******

 

 

教会の地下。

 

その中は幽閉の為にいくつかの牢屋と医薬品が置かれた医務室らしき場所。

 

気配と中の状況から何かの実験を行っていたらしい。

 

 

「…」

「クジョウ、何か判ったか?」

「室内の棚の薬品は殆ど医療用のだけど、こっちの箱の薬は劇物よ。」

「劇物?」

「解りやすいのなら毒薬、例えとしてトリカブトの粉末とか。」

「マジか…」

 

 

伊黒が室内の端に置かれた瓶に触れようとした所、ハスミはそれを静止させた。

 

 

「蛇柱、その瓶には触れるな!」

「っ!?」

「その瓶は水酸化ナトリウムに苛性ソーダ…どちらも人体に付いたら瞬く間に溶ける代物よ。」

 

 

室内を調べるハスミ。

 

その状況を宇髄と伊黒の二名に告げた。

 

薬品の中に危険な代物が含まれていると…

 

 

「奴らは、この村で一体何をしていたんだ?」

 

 

気絶したままの恋柱を介抱する伊黒が答える。

 

その疑問を解く可能性がある記録書を本棚の隅にこっそりと隠されていたのを発見したハスミは宇髄らに伝えた。

 

 

「ここに古い記録書があったわ、これで少しは…」

「異国の言語か?」

「巧妙に内容を隠す為に英語、イタリア語、ラテン語に…これはキリル文字だからロシア語も組み合わせて文章を作っている。」

「…判るのか?」

「所々にかすれている部分もあるから何とも言えない、判る範囲は読めると思う。」

「なら、そっちはお前に任せて俺らは甘露寺達を逃が…」

「…それは止めて置いた方がいい。」

「何か分かったのか?」

「恋柱達は何かの薬品を打たれた跡が残っている、その薬品の正体を調べないと鱗の症状を止められない。」

「下手に動かすのは出来ねえってか。」

「そこで気になったのが、この瓶の薬品。」

「…!」

「光っているのか?」

「…瓶の名札には『人魚の涙』って書いてあるわ。」

「人魚?」

「昔話に出てくるあの猿の上半身と魚の尻尾がくっ付いた化け物だったか?」

「こちら側ではそうね…でも、西洋のデンマークって国では全く違う扱いよ。」

「?」

「そちら側の人魚伝承は美しい女性の上半身と魚の尻尾を持った絶世の美女とされているわ。」

「他には?」

「銅像や絵画の場合だと服なんて着てないから上半身ほぼ全裸を髪の毛で隠している描写で描かれている事が多い。」

 

 

伊黒、不謹慎だが人魚になった甘露寺を想像。

 

 

 

 

 

 

『きゃっ!?伊黒さん…そんなに見つめたら恥ずかしいです///』

 

 

 

 

 

妄想の後に僅か数秒で鼻血を暴発。

 

その様子に宇髄とハスミは静かに見ていた。

 

 

「おーおー、派手に妄想でぶっ飛んだな。」

「…(この甘露寺ちゃん限定のヘタレが。」

 

 

中の人的に言えばラッキースケベ。

 

その遺伝は平行世界を跨ぐのか?

 

本当にご都合主義な因果律…容赦ないわ。

 

鏑丸もどうしよう?って首元で混乱しているし。

 

 

「まあ、本来は相手を誘惑する為の姿で気性は鮫と同じって事かな。」

「鮫と同じだと?」

「ある一説では人魚は本来精霊の一種だったけど、人間に仲間を殺された事によって復讐した後…海辺の漁師や船乗り、男性を好んで襲って喰らう妖怪に成り果ててしまったとされているわ。」

「ある意味で鬼と同じって事か。」

「ただ、人魚にもいくつか種類があって人間と良好な関係を結んでいる人魚や人間と一切関わらずに生きている人魚もいる。」

「お前曰く色んな人魚がいるから一区切りにするなってか?」

「そう言う事よ。」

 

 

ハスミはボロボロの記録書を解読した部分を暗唱しながら会話を進めていた。

 

解読する事に判明する村で行っていたとされる行為。

 

異形と化した為に女子が生まれない。

 

異形の根源で女子の生贄を欲する魚の神。

 

種族繁栄の為の人間の女子を同族へと転化させる行為。

 

変化に対応しきれなかった女子達の遺体処理方法。

 

総合的に纏めれば、村全体で女子を使用した人体実験を行っていた。

 

全ては異形と化した自分達の繁栄とこの世を支配する為の力を得る為に…

 

記録者は人間の医者で自身の命の保証に女子達を犠牲にしていたようだが、何時しか耐え切れなくなり…この記録書をここへ隠して自殺した様だ。

 

 

「あの糞野郎共が…」

 

 

ハスミはボソリとドスの効いた声で呟いた。

 

 

「奴らはネギトロ程度じゃ生易しい……細胞の隅から隅まで消し炭にしてやる。」

 

 

共に居た伊黒と宇髄はハスミの殺気に驚きを隠せなかった。

 

宇髄自身は以前にハスミの本気の殺気を目の辺りにしているので耐性がある程度出来るが…

 

伊黒と彼の相棒である白蛇の鏑丸の方はそうはいかない。

 

彼女の殺気を始めて感じ取り、額から冷や汗をかいていた。

 

鏑丸に関しては伊黒の服の中へするりと入って引っ込んでしまった位である。

 

 

「…」

「伊黒、アレがアイツの隠していた殺気だ。」

「…あれがか?」

「ああ、俺も不死川も最初は刀を抜きそうになっちまったけどな。」

 

 

甘露寺が意識を失っていなかったら真っ先に恐怖し気絶していただろう。

 

それだけの殺気をハスミは放っていたのだ。

 

 

「とりあえず、恋柱達を戻す方法は見つかったわ。」

「…本当か!」

「但し、材料は兎も角…解毒剤の調合には蟲柱の協力が必要よ。」

「んで、猶予は?」

「……彼女達の投与記録のカルテから計測して早期投与者は明日の夜までが解毒可能時刻よ。」

「不味いな…。」

「ええ、今は深夜…つまり、最終時刻は本日の夜一二時。」

 

 

明確にされたタイムリミット。

 

一刻も早く、薬の調合法と甘露寺達を本部若しくは薬の調合が出来る場所へ移動させなければならない。

 

話し合いの結果、他の三人と合流し捕らわれた娘達の避難を優先する事となった。

 

 

「問題は相手の規模ね。」

「ああ、人質を守りつつてぇのが入っているしな。」

「…ここに居る人質は恋柱を入れて九人。」

 

 

見た所、恋柱達は監禁と薬の影響?でやせ細っている。

 

岩柱が三人、音柱が二人、蛇柱が一人、水柱が二人、炭治郎君で一人で何とかなるかな。

 

 

「今は岩柱達と合流の後…恋柱達を連れて撤退するしかないわね。」

「…お前は?」

「殿やるわ…単独で巨躯の鬼を殲滅している私だから適任と思うけど?」

「そりゃそうだな。」

 

 

岩柱達と合流後、恋柱達を引き連れて撤退。

 

後に近くの集落へ向かい、鎹鴉に文を持たせて蟲柱と合流と言う方針で固まった。

 

撤退の殿は私、確実にネギトロの後に殲滅…駆逐じゃ。

 

 

「可愛い恋柱にここまでやってくれたのだから遠慮は要らないわよね?」

「…同感だ。」

「お前ら、ものすっげー派手に悪人顔になってるぜ?」

 

 

容赦なく策略を張り巡らせる顔芸も程々に。

 

魚人共よ。

 

覚悟は出来たか?

 

……撤退だけどネギトロ案件で駆逐開始する。

 

長ネギ背負って待っておれ!

 

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その五。


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鮪の叩き風・殲滅戦の幕開け

覚悟は出来たか?

宜しい。

ならば、殲滅戦の開始だ。


引き続き、異洲磨村の教会地下にて。

 

私は脱出経路を確認と確保する為に一度室内を出た。

 

炭治郎君達の到着で出払っており、見張りは数名居た程度だった。

 

勿論、サーチ&ステルス・キルでご臨終させてから内部を捜索して脱出経路を確保した。

 

 

******

 

 

その道中で礼拝堂の教壇に妙なものを発見したハスミ。

 

 

「ダゴン秘密教団…って隠す気ゼロですか?」

 

 

デカデカと聖書らしき分厚い書籍には先程の名称とグロデスクな魚の神様が描かれている。

 

 

「まあ、あの神話って人の皮とかで造った本があるって言うし……こういうもんなのだろうね。」

 

 

グロイ発言はソコソコに。

 

脱出経路は異洲磨村の断崖絶壁にある鉱山跡地。

 

その中を通る必要がある。

 

拉致された時に通ったルートを逆走する手もあるが無理があるだろう。

 

理由はシンプルに異洲磨村は入ったら最後…出られない構造になっている。

 

奴らは急斜面の崖を下って村へ入っていた。

 

海路か鉱山跡地を通るルートの二つで村から出入りしていたのだろう。

 

海路は危険すぎるので鉱山跡地を通るルートしか方法はない。

 

 

「…(恐らく、鉱山跡地は奴らの縄張りで地の利は奴らにある。」

 

 

しかも…テケリリとか出そうなルートなのよね。

 

某魔導書の精霊様が出してた黄色の透明クッション風版は可愛いんだけど…特にぷにっと感が。

 

モノホンは見つかったら即逃走案件と言う。

 

…考えても仕方がない。

 

今はやるべき事をするだけだ。

 

 

「っ!外の様子が変わった?」

 

 

脱出ルートの確認を終えて地下道から礼拝堂に戻ってきた私。

 

あれだけ騒がしかった外の音が一瞬静かになった。

 

私は地下室の二人に合図があるまで恋柱達の護衛を頼んでから外へと向かった。

 

 

「あれは…!」

 

 

無数の斬撃と何かで抉られた跡が至る所に残っている。

 

跡を見ると、つい先程付けられた様だ。

 

 

「この跡は…上弦の鬼が来ているのか?」

 

 

私はこの痕跡から、無限列車事件で遭遇した二体の鬼がこの地に来ている事を理解した。

 

恐らく、魚人側と何か接点があったのだろう。

 

仲間であれば、ここまでの襲撃を行う必要はない。

 

ここから指し示す答えは…鬼側は魚人側と敵対していると推測出来る。

 

 

「…(様子を伺ってから行動に移した方がいいわね。」

 

 

私は以前戦闘が行われている場所へと向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻。

 

魚人の群れと交戦していた炭治郎達だったが…

 

突如、乱入してきた二つの存在があった。

 

 

「竈門炭治郎、奴らに間違いはないのだな?」

「はい。」

 

 

悲鳴嶼の問い掛けに答える炭治郎。

 

悲鳴嶼は眼は見えずとも周囲の気配で相手が誰なのかを認識している。

 

その気配を出している相手が尋常ではないと悟っていた。

 

気配の主は上弦の鬼であり長年の宿敵を守護する上位の鬼が二体現れた。

 

敵である以上、細心の注意が必要である。

 

 

「また会ったな、竈門炭治郎。」

「…猗窩座。」

「今日は杏寿郎はいないのか…まあいい。」

「?」

「俺達は貴様らと戦う為に来た訳ではないからな。」

「…」

 

 

何時もの調子ではなく淡々と炭治郎に話す上弦の参・猗窩座と沈黙を続ける上弦の壱の黒死牟。

 

 

「どういう事だ?」

「貴様ら…に関係の…ない事…だ。」

 

 

冨岡の問い掛けに対してあっけない答えを出す黒死牟。

 

 

「鬼である以上は斬る…っ!?」

「はいはい、周囲状況を確認しないでやたらに抜刀しない。」

 

 

冨岡の行動を脳天空手チョップで一時静止するハスミ。

 

ある程度は加減しているのだろうが、痛いものは痛い。

 

冨岡は空手チョップを受けた頭を押さえて屈んでしまった。

 

その様子に唖然としたまま答える炭治郎。

 

 

「は、ハスミさん!?」

「炭治郎君、岩柱と水柱も無事の様ね。」

 

 

悲鳴嶼は合流してきたハスミに対して状況を確認する。

 

 

「クジョウ、宇髄達は?」

「二人は恋柱達の保護をしているわ、少し問題があるけど…」

「問題?」

「二人は村はずれの教会で恋柱達と待機、後で合流を。」

「判った。」

 

 

ハスミは続けて目処前の上弦達に推測を含めて話しかけた。

 

 

「無惨の護衛が雁首揃えて現れるなんて……奴らも色々な方面に手出しをしている様ね?」

「貴様、理由を知っているのか?」

「半分は推測だけど……奴ら、深き者共は己の目的の為なら手段を選ばない。」

「奴らの目的とは何だ?」

「…奴らが崇拝する魚神様の復活よ。」

 

 

奴らは魚神様の復活の為に人間の娘を生贄に捧げてきた。

 

しかし、その復活までに時間を必要とし自身らの存続も必要だった。

 

そこで奴らは仲間が居る異国の地よりあるモノを取り寄せた。

 

だが、異国の地の闇社会に存在する敵対組織にそれを奪われた。

 

奴らは深き者共にとって最重要品である品を奪ったと知らず、金銭取引で深き者共に取引した。

 

事を大きくしたくない深き者共は金銭を支払い、その品を取り戻しこの地へ送ろうとした。

 

ま、良くある話だけど敵対組織は金銭の更なるつり上げをしたみたいでいざこざが発生。

 

…奴らも欲に眩んで深き者共の怒りに触れたのよ。

 

で、敵対組織は最後の最後で帝都内の貿易会社を利用して品物を隠してしまった。

 

流れ流れで…ある貿易会社が所有する船が狙われた。

 

 

「それが鬼舞辻無惨が人の世で行動する際に利用している取引相手の会社の船だった。」

 

 

船の積み荷に紛れたソレを取り戻す為に船は深き者共によって沈没。

 

その積み荷の中に無惨が必要としていた何かがあって回収が不可能となってしまった。

 

 

「それが鬼側が深き者共を追う理由かしら?」

「ハスミさん、どうしてそこまで…」

「無惨が利用している帝都内の貿易会社には網を張っていたのよ……で、今回の件で関係性のある不可解な海難事故と被害に遭った会社や企業を調べて、その会社の貨物目録をちょっと拝借して最近の記録を複写した次第よ。」

「…」

 

 

炭治郎曰く開いた口が塞がらないとはこの事である。

 

ハスミは異洲磨村へ潜入する前の僅か一日でここまでの経緯に辿り着いたのだ。

 

彼女に取って情報は何よりの武器。

 

それがかつての立場で敵対勢力を震え上がらせたのだ。

 

 

「それに…その品物が原因で恋柱達の問題になっているのよ。」

 

 

教会の地下室に置かれた『人魚の涙』と呼ばれる発光する薬品。

 

死亡した医者の残した記録書に寄れば、あれは人体に著しく変異を促す代物。

 

無惨の血による人間の鬼化と似た物質に近いのかもしれない。

 

人魚の涙を投与された女性は奴らと同じ種族に変貌する。

 

それも一握りの話で適合出来なかった女性は確実に死に至る。

 

…人体変異は神への冒涜の象徴なのかもしれない。

 

 

「元に戻す事は出来ないんですか?」

「それは大丈夫、もう調べは付いているから蟲柱を呼んで解毒剤を調合して貰うだけよ。」

「よ、良かった。」

 

 

炭治郎の心配を余所に解決策は出来ていると答えるハスミ。

 

 

「問題はもう一つある、このまま奴らを野放しに出来ない事。」

 

 

深き者共を野放しにすれば、再び第二・第三の犠牲者が出る。

 

今後の為にも奴らの殲滅を提案する。

 

 

「けど、鬼殺隊は鬼を狩る事が目的……今回の件に頸を突っ込む必要はないわ。」

「ハスミさん…」

「ま、私は奴らをマグロのタタキにする事は確定だけど。」

 

 

ハスミは後光に閻魔様を召喚した様な気配を漂わせながら答える。

 

 

「恋柱と女の子達をあんな目に遇わせたのだから……ただじゃ置かないわ。」

「冨岡さん、悲鳴嶼さん、どうしましょう。」

「あれは…無理だ。(止めようがない。」

「右に同じく同じ意見だ。」

「いっその事、ガトリング砲で奴らをミンチに壊滅させた後にナパームとロケランで村ごと爆破しちゃおうかしら?」

 

 

単語の内容を知る者ならそれが途轍もなくヤバイ事だと言うのが理解出来るだろう。

 

だが、今の年代は大正初期で理解出来る者はいない。

 

上弦の壱と参に関しては既に無表情で混乱に陥っていた。

 

 

「て、言うか…ここに来るまでに何体かマグロのタタキにしてあげたし大丈夫でしょう。」

 

 

ハスミの通ったルートに居た深き者共は隠し持っていた破片手榴弾によって見事なまでのマグロのタタキにされていた。

 

今も村の家屋があった場所に夥しい血とタタキと化した肉塊が飛び散っている。

 

 

「手を出したらどうなるか…奴らには身を持って知って貰いましょう。」

 

 

異洲磨村が地図上から消失するまで後三時間。

 

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その六。


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切り札は最後に

切り時を間違えるな。

それは反撃の一手。

それは相手を屈服させる手段。


話し合いを続ける中で、突如引き起こされた地響き。

 

時折、聞こえる断末魔。

 

何かが潰れて弾ける音も聞こえた。

 

ただ言える事がある。

 

その正体は自ら目処前に現れたのだから…

 

 

「あれが魚神様…まるでダゴンじゃないの。」

 

 

そう称するしかない風貌の化け物。

 

海より這いより現れたるもの。

 

 

「岩柱、二人を連れて教会に居る音柱達と合流後…ここから脱出を。」

「クジョウ、お前はどうする?」

「奴を仕留める…ここから奴を絶対に出してはならない。」

「待ってください、ハスミさん!!」

 

 

私は静止を聞かずに炭治郎君に預けて置いた絡繰り箱を回収してその場から移動した。

 

奴を…仮名・ダゴンをこの場所から出してはいけない。

 

もしも防げなければこの国は滅亡する。

 

教会に通じていた別の坑道の奥にあった実験施設はその名残なのだろう。

 

ここにあの芋ひじき野郎の居た痕跡があったのは間違いない。

 

 

「…(そして、奴に神性的な要素はない。」

 

 

ここに来てから感じられない気配がある。

 

本来の奴らには奴ら特有の気配が存在した。

 

それがここでは一切感じられない。

 

指し示す答えは『奴らに神性がない』と告げているのと同じ事。

 

紛い物なら全力を持てば戦える。

 

 

「持って来た装備でギリギリ仕留められればいいけど…」

 

 

普段倒している巨躯の鬼位であれば携行している銃器だけでどうにでもなる。

 

だが、今回の相手は巨躯の鬼よりも数倍デカい相手である為に容易に倒す事が出来ない。

 

それでも奴の眼を教会から遠ざけなければならなかった。

 

 

「お前の相手はこっちだ!」

 

 

私は迷いを捨てて、RPGを取り出してダゴンの頭部に狙撃した。

 

奴はこちらの攻撃に気づき、そのまま追いかけてきた。

 

私は撤退が完了するまで囮を続けた。

 

だが、一人では限度がある。

 

流石の私も奴に投げ飛ばされた家屋の残骸を避けるタイミングを見逃してしまったのだ。

 

 

「!?」

 

 

その時だった、投げ飛ばされた筈の家屋は打撃と斬撃で吹き飛ばされたのだ。

 

 

「どうして…」

「勘違いするな。」

「我らは無惨様の命で奴らを一人残らず始末する命令を受けている。」

「敵の味方は味方でもなさそうですし、ご勝手にどうぞ。」

 

 

自身の主の命令を忠実に従う上弦達。

 

今回の目的は恋柱達の救助であって鬼の討伐ではない。

 

私は「但し、流れ弾にはご注意を。」と告げて彼らを放置し、攻撃を再開した。

 

が、その最中だった…

 

 

「しまった!?」

 

 

私は奴に拘束された後、海に叩き付けられる様に投げ飛ばされた。

 

その勢いは凄まじく、普通の肉体なら即死を迎えていただろう。

 

この身に流れる無惨の血がそれを阻害した事は確かだった。

 

 

「…(さっきの反動で動けない。」

 

 

海面に叩き付けられたショックで四肢が動かない。

 

自身の身体が海の底へ沈んでいくのが解る。

 

 

「っ!?(息が…」

 

 

肺までダメージが来ていた?

 

もう…息が続かない。

 

 

「…(ここまで来て。」

 

 

深く、深く、沈んでいく。

 

昏い海の底へ。

 

ゆらりと海に溶ける流れ出た血。

 

それは海底に沈む何かへと辿り着き、動き出した。

 

脈動を打つ様に海の底から血の主を携えて這い上がって行った。

 

 

「地震!?」

 

 

異洲磨村の外れにある教会。

 

岩柱達は音柱達を合流し、渡された手書きの地図を頼りに取られた恋柱達を担いで脱出しようしていた。

 

その最中、起こった地響きに反応した炭治郎達。

 

 

「…いや、地震にしちゃおかしいぞ。」

「宇髄、どういう事だ?」

「冨岡、伊黒、海の方を見て見ろ。」

「あれは!?」

「!?」

 

 

地震に似た現象と同時に入江の海の中心が渦巻いていた。

 

それは何かが這い上がろうとしている様子でもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

異洲磨村の戦闘場では。

 

海より這い上がるモノと共に脱出したハスミは答えた。

 

 

「血鬼術、今回ばかりは使わせて貰う必要があるみたいね…」

 

 

ハスミの発言に上弦の壱と参は息を呑んだ。

 

血鬼術は発現条件が困難な上に種類も様々だ。

 

だが、人を喰らっていない成り損ないの鬼が血鬼術を発現させている。

 

これはある意味で素質があったのでは?と言えるものだった。

 

 

「…(禰豆子ちゃんが発現させられたのだから私もやれる事はやらなければならない。」

 

 

ハスミの発現した血鬼術は鉱石物質を操るもの。

 

異洲磨村の海岸一帯はとある物質を含んでおり、鉱山跡地にもとある鉱石の残骸が残っていた。

 

それらを術で集めて構成すれば、あるモノが完成する。

 

 

「血鬼術・鋼人………大物には大物と相場が決まっている。」

 

 

周囲の鉱石と物質を構成させ、生み出したのは鋼鉄の巨人。

 

彼らからみれば妖怪ダイダラボッチを想像出来るだろう。

 

 

「…(格闘戦ならゲシュペンストに象った方がやりやすい。」

 

 

相手は紛い物のダゴンでも油断は出来ない。

 

また海の中に引きずり込まれない様に注意しないと…

 

残存していた異洲磨村の住民は全てダゴンを呼び起こす際の犠牲となった。

 

その為、炭治郎らの撤退が完了した今…奴と戦うには好条件の場となっていた。

 

能力自体は公衆の前で見せる様なものでない。

 

だからこそ、この村の地形は目隠しに最適なのだ。

 

 

「さてと散々追っかけ回してくれたわね……今度はお前がタタキになる番よ?」

 

 

ハスミの発言はある意味で処刑宣告。

 

目処前の在り得ない状況に対してダゴンは焦りの行動を見せた。

 

自分こそが有利な状況であると確信し過ぎた結果だった。

 

 

「!?」

「…(カイ少佐、貴方の直伝…使わせて貰います。」

 

 

同質量同士の衝突、だが…耐久性に関してはこちらが有利であり奴が海の底へ逃げない限りはこの戦場で戦って貰おう。

 

 

「…(動きをトレースし柔軟に俊敏に、物質構成を変えながら奴を仕留める!」

 

 

その構えは柔道の構えだったが、滲み出る恐怖を本能で察した奴は無防備に突撃を開始。

 

だが、その判断は間違っていた。

 

相手の胴着を掴み取り、相手の力と質量で投げ飛ばす動作。

 

所謂、背負い投げである。

 

 

「まだこんなもんじゃないわよ!!」

 

 

続けて連続殴打からの回し蹴りが炸裂し、ダゴンの顔面と顎を砕いた。

 

回し蹴りの時点で頸椎損傷をさせているが、回復能力もある程度あったらしく再び起き上がった。

 

 

「…(ここまでダメージを与えても回復する…何か促す物があるのか?」

 

 

ハスミは頭部ではなく肉体の方へ攻撃を開始し、とあるモノを探し当てた。

 

 

「あれか!」

 

 

巨人の腕によって切り裂かれた奴の肉体から出始めたナニカ。

 

ハスミはそれを逃さず、巨人の腕で奴から抜き取った。

 

 

「!?!?!??!?」

 

 

ナニカを抜き取られたダゴンは奇声を上げ、その肉体を維持出来ずに塵となって崩壊した。

 

 

「これが原因か…」

 

 

ハスミは抜き取った物体を確認した後、それを破壊した。

 

サラサラと砂になったそれは力を失い巨人の手から流れ落ちて行った。

 

紛い物の禍々しい魚神様は塵となって母なる海へと帰って行ったのだ。

 

 

「ジ・エーデル・ベルナル……必ず見つけ出してこの手で始末する。」

 

 

それが、巻き込んでしまった私なりの懺悔なのだから。

 

 

******

 

 

夜明けと共に異洲磨村の周囲を覆う霧は晴れ、日の光が辺りを照らし始めた。

 

上弦の鬼達は夜明けを迎える前に撤退した様だ。

 

入江の先の海に沈められようとしている隕石の塊。

 

それはハスミが使った血鬼術の触媒であった。

 

 

「沈めてしまったが、良かったのか?」

「過剰な戦力は余計な戦乱を招くだけよ。」

「人目に付け難いこの場所ならば、隠し通せると?」

「そうね、今の人の技術では水深数千と言う海の底に到達する事は出来ない。」

「お前が決めたのならそれでいいのだろう。」

 

 

冨岡らに異洲磨村の入り江に沈めた隕石の塊の件について問われた。

 

ハスミは余計な力は余計な戦いを招くだけだと告げて引き続き血鬼術を使って隕石の塊を沈めた。

 

 

「沈め終わったので村から出ましょう、忌まわしき村は静かに消した方がいいので。」

 

 

ハスミは宇髄と相談し、異洲磨村の急斜面になっている崖に爆薬を仕掛けて異洲磨村を埋める事にした。

 

住民無き村と忌まわしい風習の痕跡を消す為とは言え、致し方ない。

 

村から脱出した後、異洲磨村は爆破され静かな入り江が残るだけとなった。

 

せめてもの鎮魂の意を込めて慰霊碑とお経を上げて彼女らは去った。

 

この日を持って異洲磨村は地図上から消滅。

 

それはある意味で人類に静かな平穏を与えた瞬間でもあった。

 

 

~後日~

 

 

公式の記録で異洲磨村は局地地震による土砂災害によって全滅した事にされた。

 

後にあの海域を通る船舶に支障が出なくなった事で異洲磨沖は平穏を取り戻した。

 

そして娘子の失踪も無くなり、周辺の村々に活気が戻っていった。

 

事件に関わった柱達はお館様に事件の真相を説明し鬼の仕業ではない事を告げた。

 

更にお館様より事件中に鋼柱が目覚めさせてしまった血鬼術に関してはお館様の指示で使用禁止が決定された。

 

 

~更に数日後~

 

 

蝶屋敷にて…

 

 

「ん~おいしぃ!」

 

 

病室の一室でお見舞いの甘味(水羊羹)を取っていた甘露寺。

 

何時もの食欲も戻って来たので頃合いを見て機能回復訓練後に現場復帰する予定だ。

 

 

「一時はどうなる事かと思ったわ。」

「甘露寺さんが無事で良かったです。」

「そうね、何事も無くて良かったわ。」

「しのぶちゃんやハスミさん…皆に迷惑かけちゃったね。」

「甘露寺ちゃんが気にする事はないわ、なってしまったのは仕方がない事だから…」

「そうです、私達もそんな事が起こるなんて予想も付きませんでしたし。」

 

 

救助が早かった事で症状が出ていた甘露寺や娘達は調合された解毒剤によって完治。

 

経過観察で後遺症もない事から娘達はそれぞれの村へと返された。

 

甘露寺は最も症状が重かったので大事を取って現在も療養中である。

 

 

「伊黒さん達は?」

「男衆は全員、交代交代で甘露寺ちゃんの担当地区の見回りをしているわ。」

「甘露寺さんは安心して休んでくださいね。」

「うん、早く戻れる様に頑張るわね。」

 

 

開けられた病室の窓から夏の風が入り込み、風鈴を鳴らした。

 

チリンと。

 

 

=続=




IFルート・異洲磨村編その七(終)。


<補足>

異洲磨村はジ・エーデル・ベルナルが興味本位で作り出した実験場。
その過程で彼の手を離れた後、技術を学んだ一部の人間達が悪用。
その結果、異洲磨村は魚神を祀る村となり周辺の村々から娘達が失踪する伝説が生まれた。

娘達を使った実験は魚顔となった村民が血族を増やす為に必要だった為。
実際、ジ・エーデルが例の神話を元に制作した薬品が残っており利用されていた。
薬品自体は男性は誰でも適合出来るが、女性の適合者は一握りである。
…薬を阻害する成分を入れない限りは神話通りの薬品である事は間違いない。

魚神様の正体は魚神様と言う偶像を作る為に造った紛い物。
体内のコアを抜き取れば自然消滅するが、肉体維持の為に生贄=生きた生物の細胞が必要だった。



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閑話休題編
突撃、お宅の家庭事情


失言ではない。

良くある結末である。


無限列車事件から一か月が経過。

 

暦は既に年越しの準備期間に入っている。

 

そんな私は鋼柱邸の暖房設備の改築中である。

 

 

「ふう、こんなものかな?」

 

 

鋼柱邸の裏側は主にこの空調管理室の他に離れの銃器管理用の武器庫や火薬精製の研究小屋も備えている。

 

危険ではあるが、普段はただの倉庫として偽装してある。

 

今回は空調&温度管理室のボイラーの点検だ。

 

炭治郎君は炭や薪を使わないのか?と言うが、安全な太陽光パネルを屋根に風車に偽装した風力発電を屋敷に通しているので大丈夫である。

 

このボイラーは屋敷中のパイプを伝って夏は冷水を通して冷房に、冬は温水を通して暖房にしているのでエコなのだ。

 

更に現代のドイツでも利用されている理想的なボイラーでもある。

 

ちなみに沸かした温水はお風呂にも利用中。

 

寒い冬に薪を利用したお風呂もいいが、時短で入浴出来るお風呂はいいものさ。

 

同時に炭治郎君の作ってくれた炭は基本炊事場用に使用しているので無駄にはしていない。

 

ここまではいいのだが…

 

 

「この屋敷、たまり場になりつつあるのは気のせいかな?」

 

 

天気が良かったので炬燵布団を干して電気炬燵を出したのだが、その便利さの噂によって釣られた数名が居る。

 

 

「はぁ、出たくない。」

「ぬくい。」

「こりゃあ、派手に便利だよな?」

「うむ、中々抜け出せん。」

 

 

柱が数名程、炬燵を囲んで出てこなくなった。

 

順に時透、冨岡、宇髄、煉獄の四名。

 

ご丁寧に台所から蜜柑まで出してきている始末だ。

 

物凄く、表情がたれぱ〇だ状態なのは気にしない事にする。

 

断りも無く人の家の…それも干したてほやほやの炬燵布団を掛けた炬燵でぬくぬくして蜜柑食べるって…

 

 

「…炭治郎君、撃っていいよね?」

「だ!駄目ですって!?」

 

 

武器庫からP90を取り出した私ことハスミに対して全力で静止させる炭治郎君。

 

うん、腕力は戻ったみたいだね…お姉さん安心した。

 

 

「ハスミさんの気持ちは解らなくもないですよ?」

「しのぶさん、判ってはいましたけど…静かすぎません?」

「それは置いといて、折角の楽しみを横から取るのはどうかと思いますし。」

 

 

炭治郎君が暴走しかけた私を抑えている間に栗花落カナヲと共に訪ねてきた胡蝶しのぶ。

 

ここまでの経緯を観察するとしのぶは結論を告げていた。

 

 

「しのぶさんは何の御用で?」

「炭治郎君達の様子見を兼ねて噂の炬燵を見に来ただけですよ?」

「断りを入れているだけでもマシだと思うしかないわね。」

「ちゃんとお見舞いの品も持ってきてますのでお茶にしませんか?」

「そうするわ…ボイラーの点検も終わった事だし。」

 

 

~半刻後~

 

 

鋼柱邸の一室、先程の炬燵を置かれた部屋とは違う部屋に来客であるしのぶ達を通して一服していた。

 

こちらの部屋は先程の温水を通したパイプによる暖房設備でホカホカになっている。

 

 

「しのぶさん、カナヲちゃん、足元寒かったら横の籠に入った膝掛けを使ってね。」

「わざわざすみません。」

「…(コクリ。」

 

 

ローテーブルの横に置かれた籠。

 

カナヲは籠の中に入っていた花柄の膝掛けに興味を持った様子だ。

 

 

「カナヲちゃん、その柄が気に入ったの?」

「///」

「カナヲ、正直に答えて大丈夫ですよ?」

 

 

カナヲが籠から取り出した花柄の膝掛けは白の下地に紅い花が描かれている。

 

花は寒椿であり、最近見頃を迎えたばかりの花だ。

 

 

「とても綺麗だなって…思った。」

「良かったら、残りの生地で作って蝶屋敷に持って行ってあげるわよ?」

「えっと…」

「カナヲ、良かったですね?」

「はい、師範。」

「後でカナヲちゃんの分の他にアオイちゃんやなほちゃん達の分も見繕って置くわね。」

「いつもすみませんね。」

 

 

私は『日頃からしっかり働いているあの子達へのご褒美ですよ。』としのぶにヒソヒソと話して置いた。

 

 

「話の筋を折ってしまったけど、用件は炭治郎君達の事だけではないのでしょう?」

「ええ、ハスミさん……先の任務で上弦の弐と交戦したと聞きましたが?」

 

 

しのぶさんの言う通り、無限列車事件後の二週間目に私は上弦の弐と遭遇し交戦した。

 

本人は偶然だったらしく、ある程度戦った後に撤退。

 

私としては取り逃がしてしまったが正しい。

 

その事でお館様からお咎めは無しで上弦の弐の情報公開とその対応策を練る様にと指示されている。

 

で、調査の結果。

 

炭治郎君から聞いていた通り、奴は数百人規模の宗教団体・万世極楽教の教祖だった事が判明した。

 

流石に一般人扱いされており、巷で有名な教祖であると知れ渡っている以上は下手に手を出せない。

 

オマケに一部の政府高官からも贔屓にされているので余計なのだ。

 

 

「そうだけど?」

「詳しい話を聞かせて貰えませんか?」

「…しのぶさん、あの変態の事を知っているの?」

「はい、私の姉の仇ですから。」

「…判ったわ、こっちで判明した範囲だけでいいかしら?」

「お願いします。」

 

 

私はしのぶの心情を考慮し上弦の弐の情報を整理した上で答えた。

 

 

「正直に言えば、奴の血鬼術は呼吸を使う鬼殺隊にとって天敵よ。」

「天敵ですか…」

「奴は自身の血を媒介に周囲の水分を利用して氷にする血鬼術、その氷が体内に入れば瞬く間に呼吸を封じられる。」

 

 

現時点で上弦の弐が現在のポジションに居られるのも教祖としてのカリスマ性だけではなく血鬼術もあってだろう。

 

 

「呼吸で戦う鬼殺隊にとっては呼吸を封じられれば、どんなに鍛えても普通の人間と同じ状態…だからこそ対策は必要だと思ったわ。」

「それは私の毒や貴方の鉄砲や爆薬でと言う事ですか?」

「そうね、もう一つ問題は奴の解毒速度よ……中途半端な毒の濃度では奴に解毒されてしまう。」

「高濃度の毒が必要と?」

「それは追々調べていきましょう、奴に確実に仕込む手段も含めてね?」

「判りました。」

 

 

それから周囲が聞けばガタブルする発言がいくつかあり、締めくくりにハスミはしのぶに答えた。

 

 

「そう言えばハスミさん、呼吸を封じられたのならどうやって退けたのですか?」

「あ…あの変態糞野郎なら顔面に銃弾数十発叩き込んだ後でナパームで黒焦げにして股間に数回蹴り入れて置いてやったけど?」

「まあ、それだけではないのでしょう?」

「勿論、菫外線手榴弾と破片手榴弾を収束させたお土産爆弾をお見舞いしてやったわ。」

「それでその後はどうなりました?」

「両目に目掛けて五寸釘をぶっ刺して顔面殴打したらヒーヒー言いながら逃げるし、頸切ろうと追いかけたら敵の血鬼術でかく乱の上に撤退されちゃったのね。」

 

 

追跡時に陣代高校の用務員さんよろしくのチェンソーで追っかけたのは言わないで置く。

 

 

「それは残念でした……後でお土産爆弾の使い方を教えてくださいね?」

「勿論よ、丁度…妨害用の強力な臭気剤と麻痺煙幕も試したばかりだったからそれもね。」

 

 

禍々しい気配を出しながら、ニコニコと物凄く物騒な会話を続けるハスミとしのぶ。

 

カナヲは?マークを浮かべながら良く分からずに静聴していたが、隣の部屋から盗み聞きしていた炭治郎達は顔を青褪めさせながらガタガタしていた。

 

順に炭治郎、宇髄、煉獄、冨岡、時透は心の中で先程の会話に対して呟いていた。

 

 

「…(ハスミさんの爆弾攻撃がしのぶさんにも浸透している。」

「…(胡蝶まで爆薬使うのかよ、俺の派手さが遠ざかっちまう。」

「…(う、うむ…いくら鬼でもその場所の蹴りは痛いぞ。」

「…(ガタガタガタガタ。」

「…(何か楽しそう。」

 

 

教訓、敵に回してはいけない人材に危険物を渡してはならない。

 

 

~年末まで二週間~

 

 

鋼柱邸から離れた訓練場にて。

 

 

「おーい!」

「あっ、玄弥久しぶり。」

「炭治郎も元気そうだな。」

 

 

訪ねてきたのはモヒカンの様なヘアスタイルの少年、不死川玄弥。

 

風柱こと不死川実弥の実弟である。

 

 

「今日も鉄砲の訓練?」

「ああ、鋼柱…ハスミさんがいつでも訓練していいってお墨付き貰ったし。」

「悲鳴嶼さんはいいとして…玄弥のお兄さん、相当怒っていたから大丈夫かなって。」

「思い出させるなよ、あれで兄ちゃ…兄貴が血管切れる位に喧嘩し始めたし。」

 

 

心配した顔で話す炭治郎とゲッソリと表情を青くした玄弥。

 

これは無限列車事件から一週間後に起こった騒動。

 

その日、ハスミは玄弥の修行内容で岩柱こと悲鳴嶼より相談を受けた。

 

ハスミは剣技に限定するのではなく、形を替えてみたらどうかと話した。

 

その後、玄弥には木製の様々な得物を使用して貰って自身に合う戦術を試して貰った。

 

結果、玄弥は鉄砲などの銃器に才がある事が判明したのだ。

 

これに関して首を突っ込んできたのが風柱だったのである。

 

風柱は弟を鬼殺隊から除隊させたいようだったが、岩柱の説得とハスミの弟を野放しにした場合の危険性を告げるも頑固として了承しなかったのである。

 

で、ハスミがブチ切れて『そんなに野放しにしたいなら、君の弟君を私の弟君にしちゃうけどいいかしら?』と発言。

 

その場の地形が変形を起こす位の柱同士の素手バトルが勃発。

 

 

『さっさとくたばれや、この大猿女!!』

『黙れ、このわんわん犬が!』

『誰が犬だぁ!?』

『犬じゃないわね、屑虫の方が良かったかしら?』

『けっ、今に吠え面かかせてやるぜぇ!!』

『減らず口は上弦の壱と対戦した私に勝てたら言いなさいよ?』

 

 

と口汚い言い争いも起こしていた。

 

暫くしてからお館様の鴉によって仲裁が入った。

 

玄弥の処遇は可能性があるのなら別の戦術で隊士を増やしたいと言うお館様の指示によって風柱の介入を禁止し岩柱と鋼柱の元での修行が決定した。

 

風柱はお館様より『弟を危険に晒したくないのは解るが、少し頭を冷やしなさい。』と釘を打たれた。

 

現在、玄弥はお館様の命令によって特注の日輪銃を扱える様に日々訓練しているのである。

 

 

「炭治郎君、もしだったら貴方も投擲の練習をして置く?」

「いつもの修行じゃなくてもいいんですか?」

「戦場は常に空気が変わりやすいから、他の技術を学んでおいて損はないわよ?」

「はい、判りました。」

 

 

正直言うと炭治郎君の投擲技術はずば抜けている。

 

神楽をしているからだろうが、刀の技量に合わせて投擲の技術も向上していた。

 

これはある意味で戦局を変えてしまう切り札になる日が来るだろう。

 

 

「炭治郎君…炎柱の継子の件、正式に受けるのでしょう?」

「はい、ハスミさんには何時もお世話になっているのにすみません。」

「それはいいのよ、貴方には貴方の目指す道があるのだから止める事はしないわ。」

「ハスミさん…」

「まあ、行くには…私の出す卒業試験を合格してからの話だけどね?」

 

 

卒業試験とは?

 

これは私がかつて修行していた『梁山泊』と呼ばれる場所でやった卒業試験と同等の内容である。

 

時間内に指定された行程を全て出来れば合格と言う至ってシンプルな説明だが、問題はその内容だ。

 

それは砂時計が流れ切るまでに指定された道筋を通り、最終場で待ち構えている私を倒す事。

 

現時点で卒業者は出ていない。

 

面白半分で他の柱達もやっているが、誰もが時間切れで成功していない。

 

戦術に呼吸を使っている以上は長期戦に耐えられなければならないからだ。

 

砂時計の時間は約十三時間で落ちる様に設定してある。

 

これはヒノカミ神楽の一晩中踊り続けると言う点を応用した為だ。

 

成功した場合『透き通る世界』、『疲れない呼吸・応用版』、『新たな呼吸の型』のいずれかを習得出来る様になっている。

 

寿命を短くしてしまう痣者にならない様に配慮はしているが、どう足掻いても痣の発現者は出てくるだろう。

 

この件で珠世さんにも話をし痣者の延命方法を模索している。

 

決戦前に見つかればいいのだが、そうはいかないだろう。

 

 

「私も半分鬼じゃないし、偶に炎柱邸に行きたい時は事前に言ってね?」

「…ハ、ハイ。」

「炭治郎、が…頑張れよ。」

「…ありがとう、玄弥。」

 

 

同じ様に卒業試験を受けて鬼殺犬のゴンタとゴンスケに噛み付かれてギャーギャー騒いでいる善逸と罠に嵌って気絶した伊之助の姿を余所に炭治郎は顔を青くしながら力なく答えた。

 

通算十回目の不合格の事であった。

 

 

=続=

 



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人の話は最後まで聞け

それはある日の出来事。

罵倒する声。

唸る機械音。

遠い眼が三つ。

そして、新たな鬼の噂。


鬼狩りを続ける一方で遂に年が明けた。

 

私ことハスミがこの時代に流れ着いてから三年目の年明けである。

 

ジ・エーデルに関する碌な情報が手に入らないまま、鬼狩りを続けていた。

 

そして…

 

 

******

 

 

「黙って人の話を聞かないのか……このジジイが?」

 

 

私は炎柱、炭治郎君と共に炎柱邸を訪れた。

 

理由は煉獄家が所有する炎柱の書を閲覧する為である。

 

炭治郎君の記憶通りなら炎柱の書に記載されていた『始まりの呼吸』に関する部分は読めなくなっているだろう。

 

ま、成り行きに任せる事にしようとしたが…

 

人の話は全く聞かないわ。

 

炭治郎君や炎柱を一方的に罵倒するわ。

 

聞いててイライラしてきちゃった。

 

んで、流石の私も煉獄父の態度に二度目の堪忍袋の緒が切れた訳ですわ。

 

 

「お、お前は!?」

「どうも、この間は随分とお世話になりましたね?」

「…」

「前に炭治郎君の頭突きを喰らっても、まだ態度を改めない様で?」

 

 

顔は笑っているが、滲み出る気配が尋常ではなかった。

 

前回は酒が少し回っていたせいで油断した煉獄父だったが、今度は何が在ろうと対応出来ると踏んでいた。

 

だが、鬼殺隊で噂される巨躯の鬼退治専門の柱である事がどう言う意味を持つのか改めて思い知るのである。

 

 

「ちょっと、楽しいお話しをしましょうか?」

 

 

ハスミは絡繰り箱からあるモノを取り出した。

 

それは善逸用に脚力強化の修行で使っていたチェンソーである。

 

塩で湖の街からこんばんはwなアイスホッケマスクも常備していた。

 

 

「な、なんだそれはーーーーーー!!!!!」

「只の森林伐採用の電動鋸ですけど?」

 

 

ハスミが機材が出ている紐を引くとエンジン音が響き渡る。

 

これを使用した修行を見た事のある杏寿郎は青褪めた表情で父親に告げた。

 

 

「父上、念の為に言いますが…………………………………本気でお逃げください。」

 

 

だが、時すでに遅し。

 

煉獄父はハスミのチェンソー追跡に巻き込まれて逃走を開始。

 

その様子を残された三人が遠い眼で見送った。

 

 

「相変わらず、凄い人ですね。」

「うむ、鬼殺隊に入隊する前に無惨と遭遇しここに居る炭治郎と共に一夜掛けて生き延びた経緯があるぞ。」

「えっ!?」

 

 

兄の杏寿郎の発言に驚愕する弟の千寿郎だったが、二度も強烈な光景を見ているので言葉通りなのだろうと納得していた。

 

続けて兄に対して質問を続けた。

 

 

「あの…あの方本当に人ですよね?」

「正確には違うぞ、クジョウは鬼舞辻無惨によって鬼にされたが…半分人で半分鬼と言う稀な変化をしている。」

「えっ?」

「成り損ない故に人と同じ様に太陽の元へ出る事や鬼の様な力を振るう事が出来るんだ。」

「つまり…あの人は半人半鬼。」

 

 

千寿郎の言葉に少し動揺する炭治郎だったが、杏寿郎はそれを覆すように告げる。

 

 

「だが、俺達の仲間である事は変わりない。」

「…煉獄さん。」

「君や君の妹、そして彼女に救われた命だ…俺は君達を認めている。」

「はい。」

 

 

形は変わってしまったが、認められた事に炭治郎は安堵の表情で答えた。

 

その後、三人で炎柱の書の件で話し合いをしたものの…

 

炎柱の書の『始まりの呼吸』に関する部分は煉獄父によって損壊。

 

千寿郎が出来得る限りの範囲で修復する事に決定した。

 

更に杏寿郎は炎柱の書の件で逃げ帰ってきた自身の父と殴り合いをし、流れ流れで腹に抱えていたものを一気に吐き出す結果となった。

 

死去した母親の最後の言葉。

 

抱え込んでいる事を家族として告げてくれない不満。

 

派生であれ、生まれた呼吸は呼吸に変わりない。

 

それぞれの呼吸に変わりなどいない。

 

生まれた呼吸にはきっと意味があるのだと告げた。

 

殴り合いの後、煉獄父は酒瓶を持って自室に引きこもってしまったがその表情は何処かすっきりしていたそうだ。

 

一歩ずつだが、願いはまた一つ叶えられたのだ。

 

 

>>>>>>

 

 

先の出来事から数週間後。

 

京都・大阪方面への捜査指令が届いた。

 

人目に付きにくいビル街の屋上から街の様子を見ていたハスミと鎹鴉の叙荷の姿があった。

 

 

「叙荷、指示は何て?」

「京の街と大阪に顔はズタズタに切り刻んで内臓だけを抜いて殺害するって猟奇事件が起きているから調査してくれだってさ。」

「内臓か…犠牲者は?」

「主に若い女の子、若しくは顔立ちが美人って評判の女性だってさ。」

「まるでジャック・ザ・リッパーみたいね、ま…あっちは娼婦が標的だったけど。」

「お嬢、その話も後で聞かせてくれよ。」

「あれは未解決事件の上に伝承話、あんまりいい話じゃないわよ?」

「異国の話なら俺様大歓迎だぜ!」

「君は本当にそう言う話に首突っ込むの好きだね?」

「俺様、異国文化が大・大・大好きだもん。」

 

 

叙荷のアレは物珍しさに眼を輝かせる旅行者と同じタイプだね。

 

 

「さてと、事件の情報を集めますか…」

 

 

大阪、京都間を行き来し情報を集めた結果。

 

事件発生の間隔は週に二回の三日置き。

 

真夜中や人通りの少ない場所での犯行。

 

大阪もそうだが、京都の五条橋下の遊郭でも同様の事件が起きていた。

 

警察も犯人の手がかりになりそうな証拠は発見出来ておらず八方塞がりの状況らしい。

 

被害が広まる一方の為に大阪、京都の警察間で合同捜査に踏み切ったとの事だ。

 

で、京都に在住する藤の家紋の家の一人が警官をしているとの事で秘密裏に被害に遭ったご遺体を見せて貰う事になった。

 

ちなみに検死解剖後のどキツイご遺体様です。

 

 

「…成程。」

 

 

調査した結果、内臓部分は抉り取られたのではなく内臓だけが強力な力で吸引された為に内壁が壊死し捲れていた。

 

これは人の手で出来る犯罪ではない。

 

恐らくは鬼の仕業だろう。

 

 

「生きたまま内臓を吸われたのか。」

 

 

今の死者の顔は既に眠ったようにされているが発見当時は酷い形相だったそうだ。

 

私は藤の家の警官に礼を告げた後に裏口から警察署を後にした。

 

 

「生き肝を喰らう悪食の鬼か…だとすると。」

 

 

私はピックアップしていた鬼の出現する可能性のある場所へと向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

「よくも、私の邪魔を…!?」

「おやおや?急に黙って、どうかしました?」

 

 

夜の帳に響く筈の銃声音。

 

それは拳銃に付けられた遮音性の筒で遮られた。

 

放たれた銃弾は鬼の首を掠めて地面に突き刺さった。

 

 

「その眼帯は、お前は……成り損ない!?」

「被害者たちの生き胆を喰らっていたのはお前か?」

 

 

案の定、京都の五条橋下の遊郭で新たな被害者の生き胆を喰らおうと襲っていた。

 

木を隠すなら森の中。

 

遊郭の暗い路地裏で絡み合った姿を見れば、下種な考えの人はお外で褥事と思うだろう。

 

だからこそ発見が遅れてこのような状況に陥ったのだ。

 

「美が失くなれば捨てられる女子を喰らって何が悪い?」

「たとえ若さとか美しさが失くなっても愛し続ける人もいる。」

「偽善者め。」

「どっちが?」

「まあいい、お前を喰らえば私は十二鬼月に!?」

「そう言う無駄な妄想は地獄で。」

 

 

鬼が動くのと同時に鬼の首は既に切り裂かれていた。

 

 

「!?」

 

 

被害者を襲っていた鬼は遊郭の遊女に擬態した元陰間の鬼だった。

 

陰間とは男娼…つまり美少年版の娼婦の事。

 

使い物にならなくなったのか年齢が訪れて棄てられたのだろう。

 

生きる為に必要な知識や技術を身に付けなければ生きられない時代。

 

この時代、一部を覗けば誰でも生まれを憎みたくなるだろう。

 

それだけ人の心は荒み始めているのだ。

 

 

「くそ…もっと力を付けて、吉原の十二鬼月を…」

「吉原?」

 

 

陰間の鬼は最後に呟くと静かに消えていった。

 

襲われた女性は気絶はしているものの無事である。

 

協力者である警官を鎹鴉で呼び出して保護して貰った。

 

今回の切り裂き魔事件は逮捕直前の犯人が首を切って河に身を投げた事にして貰い、終わりを告げた。

 

公式記録で『切り裂き魔事件終息・犯人死亡』と翌日の朝刊に掲載された。

 

 

「叙荷、お館様に急ぎ報告を。」

「事件解決したって言うのに、お嬢…一体どうしたんだ?」

「吉原の遊郭に十二鬼月が潜んでいる、しかも音柱の管轄でくノ一の奥方達が現在進行形で潜入している。」

「そいつはヤベェ話だ。」

「今回の事件の詳細と一緒に、急げ!」

「あいよ!超特急で行ってくるぜ!!」

 

 

叙荷はハスミの指示を聞くと東に向かって飛び去っていった。

 

 

「炭治郎君、君の言う事件は早期に起こるわ。」

 

 

これは遊郭事件が始まる一ヶ月前の事だった。

 

 

=続=



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遊郭編
どうみても人攫いです


説明無き行動。

誤解を招き、不快感を滲み出させる。

憤怒の化身が背後から忍び寄る。

ジリジリと。


無限列車事件から三か月が経過。

 

春の芽吹きが見え始め、梅の花が咲き誇る頃。

 

鬼殺隊は変わらず鬼狩りを続けている。

 

上弦の鬼の情報が入らず右往左往の状況だった。

 

だが、ある事件が始まる一か月前に打ち消された。

 

 

******

 

 

「クジョウ、君も任務帰りか?」

「炎柱。」

 

 

炎柱こと煉獄杏寿郎に話しかけられた私ことハスミ。

 

鬼殺隊本部へ帰還しお館様に大阪、京都方面で起こった事件の詳細と帰還道中で接触した巨躯の鬼二体についての詳細を話し終えたばかりだった。

 

一体はアルマジロと犀、もう一体はスカンクと超高温ガスを噴出させる蟲の合成鬼。

 

一体は四方への突撃攻撃を回避すれば難なく倒せたが、後者は体内で精製される超高温ガスによる火炎攻撃を繰り出してきたので厄介であった。

 

 

「そうよ、事件解決の帰還道中で巨躯の鬼と遭遇したから追加報告もして来た所。」

「また出たのか?」

「ここの所、出現していなかったから油断した所を…一息にでしょうけど。」

 

 

だが、あのひじき芋がこんな手で巨躯の鬼を出現させるのは不自然だ。

 

何か大きな前触れの様な…そんな気がしてならなかった。

 

 

「それよりも他に何か用事でも?」

「ああ、今度の潜入任務先に上弦の鬼が潜んでいる可能性があると報告があり…その場合に対し柱三人での合同任務が決定した。」

「例の吉原の件かしら?お館様も思い切った事を。」

「次の任務では、その吉原の遊郭を担当している宇髄を中心に君と俺が合流し捜査に当たって欲しいとの事だ。」

「他の担当地区は?」

「君のお陰で隊士達の練度が上がってきている、試験的に柱不在の担当地区へ隊士を増員して対処するそうだ。」

「…(お館様、最初からそれが狙いだったんじゃ。」

「兎も角、君が拒否しようともお館様の指示に従ってくれ。」

 

 

別に拒否はしていない。

 

只、人選に少し問題があると思っただけである。

 

 

「…所で炎の呼吸は熟練したの?」

「どういう事だ?」

「前に貴方の父親へ追跡劇を二度やったけど、貴方と元炎柱の動作に大きな差があった。」

「そんなに違っていたのか?」

「酒浸りで碌に刀を振るってなかった期間があったと言う割に…アレは隠れて鍛錬していたと思うけど?」

「…」

「それに今のままじゃ貴方の呼吸は長期戦に向かない……最悪、短期決戦型で終わるわ。」

 

 

ハスミの見解に対して杏寿郎は問質した。

 

 

「その理由を聞きたい。」

 

 

やる気があるや癖を直す意欲があるなどを彷彿させた前向きな発言に対してハスミは理由を話し続けた。

 

 

「貴方は呼吸を使う際に一撃一撃に全力を掛けているでしょ?」

「確かに…」

「どんなに全力でもいずれは力尽きる、いつの日か無惨の拠点に殴り込みを入れる予定なら猶更よ?」

「つまり?」

「解りやすく言うなら火加減ね、貴方は常にどんな料理でも火力を最大限にしている状態よ。」

「ふむ…そう言われれば。」

「癖を直したいなら、だし巻き玉子(・・・・・・)を一人で造れる事から始めるべきかな?」

「何故、だし巻き玉子?」

「もっともな理由なら貴方の弟さん…千寿郎君に聞くといいわよ?」

 

 

後は自力で悟る事と告げるとハスミは話を切った。

 

 

「所で炎柱、貴方も蝶屋敷に?」

「うむ、定期検査を受けてくれと胡蝶からきつく言われているのでな。」

「ま、怒らせるよりは素直に行くのが吉よ。」

「う、うむ…」

「…(あの表情から察するに以前にやらかした系ね。」

 

 

杏寿郎の真っ青な表情を察したハスミは特に問う事はしなかった。

 

その後、単独任務の間の情報交換をしつつ私達は蝶屋敷へ足を運んでいた所…

 

更に単独任務帰りだった炭治郎君とも合流し蝶屋敷へと向かった。

 

 

「む、何やら騒がしいな?」

「あれは音柱とアオイちゃん達かしら?」

「まさか…」

 

 

蝶屋敷まですぐ其処と言う所で何やら騒いでいる声が聞こえてきたのである。

 

屋敷の住人であるアオイとなほが連れて行かれそうになっていた。

 

それをカナヲとすみ、きよ達で止めている状況だった。

 

一足先にその場へ直行する炭治郎。

 

 

「ど、どうしたの!?」

「人さらいです~!たすけてくださぁい!!」

「こんの馬鹿ガキ…」

 

 

傍から見ても音柱が女の子を二人担いで拉致る構造しか見えない。

 

そんな姿から杏寿郎とハスミが静止に入った。

 

 

「年端も行かない子供にそれはないと思うぞ、宇髄?」

「女の子達に何をしているのかしら?暴徒鎮圧用のゴム弾と電気ショックのテイザー銃…どちらをその無駄な筋肉に撃たれたいか選びなさい?」

 

 

ちなみにハスミは片手にゴム弾を装填した銃とテイザー銃を構えて威嚇している状態である。

 

 

「お前らも人の話を聞けー!!」

「拒否権はないわよ?」

「特にクジョウ、お前はその物騒な奴を下ろせや!!」

「音柱の説明か何かが足りないからこうなっているのでしょうがー!!!」

「任務だ!任務!遊郭に連れて行く女子隊士を探しに来ただけだ!」

「だったら本人の意思表示を確認しなさいよ!なほちゃんとアオイちゃんが怯えているでしょうが!!」

「俺は上官だ!上官の命令は絶対だろう!」

「それはしのぶさんの許可を貰った上でしているのかしら?」

「やべ…」

「…(してないんかい!」

 

 

しのぶに見つかった後の事を想像しつつも敢えて何もフォローするのを止めたハスミ。

 

本人が身を持って知った方が二度とやる気も起きないだろうと判断した為である。

 

そんな事を考えていたハスミを余所に杏寿郎はある事を宇髄に告げた。

 

 

「そう言えば、君の鎹鴉から伝達は届いていないのか?」

「どういう事だ?」

「貴方が受け持っている調査地区に上弦がいると発覚したのよ。」

「!?」

「今回から上弦が潜む地区には柱同士が合同で調査する事になった、勿論…君の調査に俺達が同行する様にとお館様の指示だ。」

「俺達って…」

「君に同行する柱は俺とクジョウの二人、他は担当地区から離れらない事から任務帰りの俺達に白羽の矢が立った訳だ。」

「そう言う事だからアオイちゃん達は必要ないわよね?」

「待てよ、遊郭に忍び込ませる隊士が…」

 

 

以前、炭治郎君が話した通りなら遊郭に潜入するのは炭治郎君、善逸君、伊之助君の三人だ。

 

それならば、その通りに動いた方が得策だろう。

 

私は丁度いい隊士が居る様な形で提案した。

 

 

「それなら炭治郎君は?」

「は?」

「え?」

「よもや?」

 

 

見事に素っ頓狂な声と顔芸を披露する音柱、炭治郎君、炎柱の三人。

 

本当に見てて飽きない顔芸だわ。

 

 

「年齢的に丁度いいでしょ?後、人数不足なら善逸君と伊之助君も追加するし。」

「成程な…こいつとアイツらに女装させるって訳か、面白い案だな?」

「アオイちゃん達を危険な目に遇わせられないし、ある程度の自衛が出来る三人なら適任と思っただけよ。」

 

 

そして私は炭治郎君に了承するかを確認した。

 

 

「と、言う訳だけど…炭治郎君は引き受けてくれる?」

「勿論です、アオイさん達を危険な目に遇わせられないですから。」

「後は二人を探して了承を得るだけかな、今後の打ち合わせもかねて何処かで詳しい話を…」

「なら、お前の屋敷で。」

「はい?」

「うむ、クジョウの屋敷は過ごしやすいし会議にうってつけだ。」

「…(アンタらね。」

 

 

年中快適と言う経緯から柱達のたまり場と化した我が鋼屋敷。

 

今回の話し合いもしなければならないので仕方がなく来訪に関しては了承した。

 

 

「時に音柱。」

「何だ?」

「背後で物凄い笑みを浮かべているしのぶさんに事の次第を説明した方がいいと思うけど?」

「…」

 

 

無言でくるりと背後に向き直る宇髄。

 

そこには背後から般若のオーラを出したニコニコ顔のしのぶの姿があった。

 

 

「どうも宇髄さん、先程聞きましたが…私の了承も無しにアオイとなほを勝手に連れて行こうとしたとか?」

「…胡蝶。」

「何をそんなに怯えているんですか?別に何もしませんよ?」

「…」

「ハスミさん、私の代わりに先程のゴム弾とテイザー銃でしたっけ?この脳味噌まで筋肉で出来ている人のお尻にでも撃ってあげてください。(そうでもしないとこの人は何度でもやりそうなので。」

「…音柱、悪く思わないでね。(あれは凄まじくお怒りの状態だわ。」

「うぉい!?」

 

 

しのぶのある意味で凶悪な圧に逆らう事は出来ない。

 

諦めた視線でハスミは音柱の筋肉尻にテイザー銃とゴム弾入りの銃を発射。

 

テイザー銃で動きを止めた後に尻に数発ほどゴム弾を直撃。

 

晴天の日中に音柱のド派手な悲鳴がド派手に木霊したのだった。

 

 

=続=




<だし巻き玉子の理由>


ある日の炎柱邸にて。

台所で弟の千寿郎と話す杏寿郎の姿があった。


「だし巻き玉子を?」
「ああ、クジョウから癖を直すなら自力でだし巻き玉子を作れと言われてな?」
「それは…兄上にとってかなりの難題ですね。」
「そうなのか?」
「はい、理由は多くあります。」


だし巻き玉子は簡単に見えて実際は繊細な料理です。

火加減も大事ですし、だしを入れた卵液を焦がさずに水分が逃げない様に加熱する必要があります。

また、だしを多く入れるので厚焼き玉子より崩れやすく簀巻きで形を整えるまで気が抜けません。

それらの工程を注意し丁寧に行う事でだし巻き玉子は完成します。


「そんなに奥深い料理だったのか?」
「はい、ある有名な料理店ではだし巻き玉子を如何に繊細に作れるかでその料理人の技術が解るそうです。」
「ふむ。」
「クジョウさんの言う通り、だし巻き玉子の工程や火加減は兄上の悪い癖を直す為のいい修行なのかもしれませんね。」


千寿郎は兄である杏寿郎が如何にどんな事にも全力過ぎて力加減を失敗する姿を多々見て来た。

これにより米を炊くだけで台所を数回爆発させる事も多々あり、入室を禁止していた位である。

今後の事を踏まえて、兄の修行の為に人肌脱ぐ事を千寿郎は心に決めた。

しかし、この修行の為に煉獄家では暫くの間…玉子料理が続いたとの事。


=終=


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遊郭潜入会議

作戦会議。

物事を有利に進める為の段取り。

相手は上弦である事を忘れてはならない。


前回の件から一時間後。

 

尻にえぐいダメージを負った音柱の協力の元。

 

単独任務帰りの善逸と伊之助を拉致し鋼柱邸へと連行。

 

祭りの神とか山の王とかめんどくさいキャッチフレーズのある各自の自己紹介を済ませた後。

 

段取り通りに会議が行われようとしていた。

 

 

******

 

 

私ことハスミは任務帰りの善逸君と伊之助君にお茶と山盛りの茶菓子を出した後、次の任務の詳細と人手が足りない事から協力を要請。

 

何時もの事ながらギャーギャー喚いていたが、根気よく説得(本気の殺気)すると泣いて了承して貰えた。

 

 

「具体的にはどうすれば?」

「炭治郎君、善逸君、伊之助君には女装して貰って遊郭へ潜入して貰うわ。」

「え、女装?」

「年頃の女子隊士達は殆ど出払ってて顔と背丈に問題ない三人を集めたのよ。」

「それで俺達が遊郭に潜入する事になったんだ。」

「うぇええ…まさか女の子の恰好をする羽目になるなんて。」

「音柱、潜入させる店の目星は付いているの?」

 

 

尻のダメージが地味に酷いのかごろ寝した状態で宇髄は答えた。

 

身長の事もあり、長座布団二枚使いである。

 

 

「ときと屋、荻本屋、京極屋の三つだ。」

「理由は?」

「足抜けが不自然に出ている事と遊郭で一、二を争う有名な店だからだ。」

「切見世は?」

「そっちには碌な情報は無かった。」

「足抜けに関係した人は?」

「不明だ、大体が『好いた人と一緒になります。』で足抜けした花魁達の日記に締めくくられている。」

「成程、なら…遊郭は大当たりね。」

「何故、そうだと断言できる?」

 

 

横で伊之助と共に茶菓子(サブレ)を貪っている杏寿郎がハスミに対して問う。

 

既に二缶目が空を迎えていた。

 

 

「胡散臭さが多すぎるのと調査が雑過ぎる。」

 

 

遠い眼でハッキリと断言したハスミに対して宇髄が更に質問する。

 

 

「なら、お前ならどう調査する?」

「日記から筆跡鑑定、室内の指紋鑑定、遊郭で秘匿されている裏話を探す。」

「筆跡に指紋だと?」

「人の筆跡は個人個人で癖が出る、前の筆跡と最後に書かれた筆跡を調べれば別人が書いた事が判るわ。」

「指紋は?」

「指紋も個人個人で違いがあって最も解りやすい目印とされている、専用の粉で指紋を調べれば本人と別人が区別出来る…今回は捜査対象が不在だから筆跡鑑定と遊郭だけに伝わる話を調べる方向で行くわ。」

「…」

「足抜けも不特定多数の人間が出入りしているから顔見知りじゃなければ見分けがつかないし発見しにくい。」

 

 

ハスミは続けて意味深な事を告げる。

 

 

「足抜けなら遺体が何処で転がっているか判別出来ないし誰も探さないから喰われていても不自然じゃない。」

 

 

ごろ寝する宇髄もその言葉に反応し視線を変えた。

 

 

「それに喰った形跡が発見されていないから大事にされていない…そうでしょ?音柱。」

「成程な、お館様がお前を柱にした理由が何となく解ったぜ。」

 

 

余りにも不自然さが残る失踪に関するハスミの考察に対して宇髄は納得の答えを告げた。

 

 

「遊郭は歴史が古いし鬼が潜んでいても不自然じゃない、恐らくは遊郭に紛れてもバレない立ち位置に鬼は居る。」

「…お前が鬼ならどの立ち位置から人を襲う?」

「花魁、若しくは幇間(ほうかん)。」

「その二つに絞った理由は?」

「花魁ならある程度の期間を遊郭で過ごした後で身受けで遊郭を出る…自身が知る人間が亡くなった頃に新規の花魁として忍び込めば喰い場を失わずに済む。」

「もう一つは?」

「幇間なら宴会やお座敷にいても不自然じゃないし補助の役割だからちょっとの間に抜けても本番の花魁で時間を稼げる。」

 

 

炭治郎君が遊郭で遭遇した上弦の鬼は花魁に化けていた。

 

ただ、花魁が鬼だと言う確証も証拠もない。

 

だからこそ、最もらしい証拠を掴まなければならない。

 

 

「最後は遊郭にある鬼の隠れ処…喰い場の捜索ね。」

「喰い場?」

「遊郭と言う場所で人を捕らえて喰らうなら、人目に付かない安全な場所を確保してから喰らうと推測する。」

 

 

血鬼術を使用する事を想定すれば、そう言った行動が出来る知恵者が潜んでいる。

 

血鬼術が使えなければ、騒ぎになるしすぐに討伐されているわ。

 

京都で討伐した陰間の鬼が答えた吉原の上弦の情報と音柱の情報を照らし合わせると遊郭に上弦の鬼が潜んでいる事は確定すべきね。

 

 

「柱三人での合同捜査は妥当な判断よ、相手の血鬼術が判らない以上は下手に動く事は出来ないけど…調査は行える。」

 

 

それにそう言う奴をぐうの音も出ない位に攻めまくって『今、どんな気持ち?』って煽るのも楽しそうだし。

 

 

「ハスミさん、何だか怖い匂いが漂っています。」

「俺も聞こえてる。」

「お黙り、相手が上弦である以上は他の上弦が援軍で呼ばれる可能性がある。」

「他の上弦?」

「私達は負傷しつつも上弦を退けた、あの無惨も策を練ってくるわ。」

 

 

遊郭と言う地形で騒ぎを起こさずに行動しやすい上弦がね。

 

 

「クジョウ、もしや上弦の参か?」

「若しくは上弦の壱か弐が動くと推測しているわ。」

「もしもそうなったら厄介だな。」

「弐と参の対応はギリギリ出来るけど壱を相手にするとなるとそっちの援護はほぼ出来ないわね。」

「いや、上弦の参が現れたら俺が対処しよう。」

「炎柱…」

「奴との決着は俺が付けなければならない。」

「……一言言っていいかしら?」

「何だ?」

 

 

ハスミは杏寿郎の発言に溜息を付いてからネチネチと告げた。

 

 

「あのね…上弦の参は殺気対応の血鬼術を使っているから戦闘になると殺気垂れ流し状態になる炎柱には対処しづらいの!!」

「なぬ!?」

「なぬもマヌルネコもない!それで危うく死に掛けた癖に自信あり気に対処するって言わないの!!」

「しかし!」

「兎に角、乱戦になる確率が高くなる以上……上弦の参が出てきた場合の戦いは炭治郎君と一緒に応戦する事!以上!!」

「ハスミさん、あの…」

「いい?炎柱の暴走を止められるのは炭治郎君だけよ、判った!?」

「は、はい!!」

「それと炎柱!奴と対等に戦いたいなら、だし巻き玉子を自力で作れる様になってから言いなさいよね!!」

「…ぜ、善処する。」

 

 

先程の様子を見ていた宇髄はボソリと告げた。

 

 

「流石に四人目の嫁には無理だな。」

「え、四人目の嫁ってアンタ何言ってるんですか?」

「俺には嫁三人いるからな?」

「はぁあああああああ!!!!嫁が三人も!三人もいるの!?」

「文句あっか?」

 

 

善逸、宇髄に対して口答えをした為に腹パンを喰らって自滅。

 

その横で茶菓子に集中し貪っていた伊之助も参戦するが余計な事を言って更に自滅。

 

キリがないのでハスミは決定事項で締めくくった。

 

 

「話がかなり離れたけど…最初の段取り通りに私と三人は遊郭に潜入、炎柱は夜だけ客を装うのと切見世の調査、音柱は連絡役と独自目線での調査でいいわね?」

「年齢的にお前にはド派手に無理があるけ…」

「何か言ったかしら?」

 

 

宇髄の余計な発言に対し、ハスミは室内の押し入れに隠していたガトリング砲を取り出しながらニッコリと告げる。

 

 

「…」

「会議終了って事で…音柱、遊郭までの案内宜しく。」

 

 

=続=



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嫁探しと不穏な流れ

花街へ。

そこは愛憎渦巻く場。

そして熾烈な争いの場。

最高格にのし上がる為には裏がある。




前回の鋼屋敷での会議後。

 

私達は音柱の案内で遊郭に近い藤の花の家紋の家へと向かった。

 

そこで炭治郎君達をちょっとばかり大改造させてました。

 

******

 

 

「三人共、完成したわよ。」

 

 

炭治郎君は肌艶がいいのと赤みが多いので控えめに。

 

善逸君は金髪を生かして付け毛を足した。

 

伊之助君は元から素材がいいのでほんのりと白粉と軽く目元の整えて置いた。

 

私ことハスミは完成した事を告げて三人に手鏡を渡した。

 

 

「凄い…傷の跡が消えてる!」

「ほぇええ。」

「あんまし違和感ねえからいいか。」

「炭治郎君のはゴム製の傷を目立たなくする素材を使っているから強く擦らないでね?」

「判りました。」

 

 

その様子を見ていた杏寿郎と宇髄はまたもや顔芸を披露していた。

 

 

「うむ、どこからどう見ても娘だ!」

「逆に拙い様な気もしなくもないが、今回は多めに見てやる。」

 

 

私は自身の化粧も終えると化粧箱を家主に返却して置いた。

 

 

「こんなものかな?」

「ハスミさん、眼が!」

「練習して片目を人の眼に戻せるようにしたのよ…まあ、油断すると鬼の眼に戻っちゃうけど。」

「ある意味で凄いですね。」

「何事も精進あるのみよ、炭治郎君。」

 

 

私は炭治郎君達よりも二歳上の一八歳設定にして置いた。

 

元々、鬼化の影響で成長が遅延しており二一歳になろうとも三年前のあの日の年齢と外見をほぼ保っていた。

 

事情を知らなければ年齢通りの娘に見えると思う。

 

 

「頼まれていた品をお持ちしました。」

「ありがとうございます。」

「残りは遊郭の管理を行う屋敷に保管されていると思いますが…今も保管しているかは判り兼ねません。」

「いえ、ありがとうございます。」

「…何を頼んだんだ?」

「此処数十年間の遊郭番付と新聞よ、ちょっと気になる事があってね。」

「まあいいけどよ。」

 

 

私は受け取った年間の遊郭番付と新聞を一枚ずつ確認しながら気になる名前をピックアップしていった。

 

 

「一定間隔で足抜けと行方不明に自殺者……それと似た様な名前がちらほらと。」

「何か判ったのか?」

「炎柱、顔が近い。」

「む、すまん。」

「明治中期の番付まであったから何とかなったし、こっちの推測は当たっていたわ。」

「と、言うと?」

「目的の上弦の鬼は花魁に扮している。」

 

 

ハスミは卓袱台にいくつかの番付とある期間の新聞記事を広げて見せた。

 

 

「これよ、ある花魁が番付の上位に繰り上がる頃に元上位の花魁が項目から消えているわ。」

「項目には身受けや足抜けと書いてあるが?」

「それは建前、新聞記事に行方不明者に花魁と関係が?って書いてあるでしょ?」

「…」

「ただでさえ遊郭を縮小させる件が政府から出始めた頃だったし波風立てたくなかったのでしょうね。」

「ハスミさん、この太夫って言うのは?」

「それは花魁の前身、太夫は江戸時代に使われていた遊郭の最高位の意味よ。」

 

 

ハスミはピックアップしたいくつかの花魁の名前を指し示した。

 

そのいくつかの名前を炭治郎は口に出していた。

 

 

「辰姫太夫、茨姫太夫、椿姫花魁、星姫花魁…」

「この姫と言う名が付いた太夫、花魁が番付に出てくると他の太夫や花魁が謎の失踪を遂げている。」

「どうして姫なんですか?」

「この上弦は恐らく己の強さの証として姫の名前に固執している……さぞや、自分に自信があるのでしょうね。」

 

 

一部の上弦しか遭遇していないが、それぞれが己の力に固執せず鬼狩りと戦っていた。

 

壱と参は根っからの武闘派、弐は策を練る方針での戦闘に長けている。

 

いずれ遭遇する上弦の肆、伍、陸がどの様な方法で戦いを挑んでくるかは不明。

 

だからこそ油断は出来ない。

 

 

「クジョウ、遊郭の上弦が花魁に化けているとするとお前なら何を注意する?」

「音柱、さっきから人に考察させてばかりじゃないかしら?」

「さてな?」

 

 

ハスミはため息を付いてから推測出来る範囲で宇髄に答えた。

 

 

「売れっ子の花魁ならある程度…自分の好きに出来るから住んでいる間取りは日の当たらない部屋、肌に悪いからとか口実を付けて極力日のある内は外へ出ない、花魁名に姫と付ける位だからかなりの我儘で気性が荒くて性根がひん曲がり巻くって物凄く性格が悪いと推測するけど?」

「派手にすげー言われ様だな。」

「逆もあると思うけど、無惨の鬼が慈悲の心を持つ事はないと思う。」

「…」

「奴が鬼全ての生命線を握っている以上、腹心の部下であろうとも慈悲は与えられない。」

「…(もしかして、あの鞠の鬼の事を言っているのかな?」

「上弦ならば人は虫けら扱い……ある程度は抑えているでしょうけど、無惨製の鬼由来の気性は変わらない。」

 

 

ハスミの考察、推測、結論はほぼ言い当てていると言える。

 

それは彼女自身が持つ『とある能力』や軍属時代に培われてきた経験からだ。

 

但し、彼女は最後にこう付け加えている。

 

 

「ま…あくまでこれらは私の考察や推測、本当の真実は自身の眼で確かめる事ね。」

 

 

必ず付け加える彼女の口癖。

 

他人の情報だけを鵜呑みにせず、本当の真実は自分自身の手で見つけ出す事。

 

あくまで彼女の考察や推測は結論へ辿る為の軽い道標程度だ。

 

間違った結論は余計な諍いの原因に発展してしまう。

 

自身の提供する情報は薬にも毒にもなると理解している為に付け加えているのだ。

 

 

「それと話していた三人の奥方を探す話はどうするの?」

「先に話した店に潜入させたが、三人共…行方が途絶えたままだ。」

「だとすると急いだ方がいいわね。」

「っ…それは派手に判っている。」

「炎柱、念の為…切見世に音柱の奥方達と同じ名前の花魁が移動したか調査して欲しい。」

「承知した。」

「そして発見したら音柱と合流してから救出を。」

「何故だ?」

「わざと逃がされた…そして上弦に監視されている可能性がある。」

「!?」

「上弦の花魁に化けた鬼は鬼狩りや繋がる相手と判断した相手を簡単に逃がす事はしない。」

「成程な、その為の俺達か?」

「そう言う事よ、それに奥方を助ける役割は旦那である音柱の方がいいのでは?」

「…派手にその通りだな。」

 

 

持たせるのは危険だが上弦が相手である以上、それなりの対策と言う事で。

 

 

「これは選別よ。」

 

 

ハスミは音柱に取っ手付きのケースを渡した。

 

 

「そいつは?」

「私が愛用している手榴弾数発とボウガンが入っている、説明書付きよ。」

「ぼうがん?」

「ボウガンは矢を装填して撃ちやすくした銃ね。」

 

 

ハスミはケースを開けさせると簡単な説明を続ける。

 

中にはボウガン一式と矢が数発分、二種の色分けされた手榴弾が四発分収めされていた。

 

 

「矢は対鬼用に加工してあるから折れ難いし、しのぶさんと共同開発した高濃度の藤毒を装填してあるわ。」

「こっちのは?」

「紫は菫外線手榴弾、黒は毒煙幕手榴弾、どちらも対鬼用よ。」

「…」

「使わなければそれでいいけど、相手が相手だから。」

 

 

宇髄と杏寿郎は心の中でボソリと思う。

 

 

『『お前(君)が持っている武器の方が派手に危険だ。』』

 

 

口に出せば三倍毒舌で返されるので遠い眼の顔芸で無言を通した。

 

 

「最後にひじき芋の動向が余りにも静かすぎるから…念の為よ。」

 

 

ハスミは何か言いたそうな二人の表情を無視しそれなりの理由を告げる。

 

 

「話はここまで、音柱…段取り通りによろしく。」

「へいへいっと。」

 

 

ハスミは借りた番付と新聞を家主に返してから先に準備を終えた炭治郎達と共に花街へと向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

売人に変装した宇髄の手引きにより、ときと屋に炭治郎、京極屋に善逸、荻本屋に伊之助とハスミと言う形で潜入する事となった。

 

荻本屋は元々番付に載る様な花魁が居なかったので顔立ちの良い伊之助と共に買い取られた形だ。

 

数日後、荻本屋に新参の花魁が姿を現した事で吉原の花街は大賑わいとなった。

 

この事である花魁は苛立ちと好奇心を隠せずに居た。

 

 

「あら…見目はいいじゃない、この私が鯉夏花魁と一緒に喰ってやるわ。」

 

 

その花魁は擬態を少し解いて口元を歪ませる。

 

艶のある口元には鬼特有の牙が姿を覗かせていた。

 

 

=続=



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目処前の障害は各個撃破

詰めの甘さは自身への障害。

出来得る限りの戦術と戦略を繰り出す。

私は容赦しない。




吉原の遊郭。

 

荻本屋で遊女の教養を学びつつ上弦の情報を手に入れる為に日々潜入捜査を続けていた。

 

伊之助改め猪子は声を少し高めに出すとハスキーな女の子ボイスに近いのでそれで済ませた。

 

ちゃんと教養は教えたので特に問題はない。

 

うん、某オンラインゲーム小説の主人公を思い出したのは気のせいと思う。

 

 

******

 

 

二日後、萩本屋の奥さんに連れられて猪子と共にとある花魁の居る部屋へ案内された。

 

 

「まきを、新しい子が入ったんだけと挨拶出来るかい?」

「…」

「まだ調子が悪そうだね。」

「女将さん、こちらの部屋は?」

「ああ、アンタより大分前に入った子でね…名前はまきをって言うの。」

「…(まきを、音柱の嫁の一人か?」

「数週間前から調子が悪いって言ってね、部屋から出てこないんだよ。」

「…(微かに血の匂い、まさか!?」

「まきを、また後で来るわよ?」

「ちょっと失礼しますね!」

 

 

私は猪子に先んじてまきをの居る部屋の外側の襖を全開にする様に合図した。

 

それはこちらの合図と共に全開される。

 

私は入室と同時に室内へ藤の花の香水が入った瓶をぶちまけた。

 

しのぶさんと共同開発した超濃縮香水の為、鬼なら即座に撤退したくなる代物である。

 

ちなみに少し嗅いだ私でも肺がヤバイです。

 

 

「ひっ!?」

 

 

女将さんが声を上げるのも無理はない。

 

室内は無惨に切り裂かれ何かに襲われた跡と点在する血の跡。

 

ズタズタに切られた跡が残るまきをが倒れてたのだ。

 

 

「女将さん、急いで医者とお湯と清潔な布を!私が介抱します!」

「頼んだよ!!誰か!誰か来とくれ!!?」

 

 

本日は晴天、春一番の強風で風向きも良好。

 

まきをの部屋は日光の当たり具合が良いのでいい感じに日差しが入ってくれた。

 

外の襖を開けたのも風通しを良くする為で理由がある。

 

まず、猪子が開けた外側の襖から廊下側の襖の一部へ風が当たり室内に一種の濁流が出来るのでそれを利用。

 

この為、毒薬レベルの香水の匂いが一気に室内に広がったのである。

 

流石の鬼もこの状況に混乱し拘束していたまきをさんを手放して撤退。

 

嫌味がてらにまきをに絡みつき拘束していた帯らしき物体へ直接香水をぶちまけて置いた。

 

今頃、余りの臭さに地団駄踏んで憤慨しているだろう。

 

ざまぁWである。

 

 

「猪子、天さんにこの事を伝えて来て。」

「判った。」

 

 

猪子に売人に扮している天さんこと音柱へ連絡をする様に告げた。

 

鎹鴉を使わないのは何処で鬼側から監視されているか判らない為である。

 

 

「蓮子、まきをは?」

「大丈夫です、ただ酷い切り傷が出来ているので暫くはお座敷に出せませんね。」

「そうかい、無事でよかったよ。」

「女将さん、一瞬でしたが…まきをさんを縛っていた人の影を見たのですが。」

「もしかしてそいつが…」

「?」

「実はここ最近、遊女の足抜けや禿の子が自殺するって事が多くてね…そいつが襲っていたのかもしれなくて。」

「様子を見る限り…そうかもしれませんね。」

「まきをも売れっ子の花魁だったから狙われたんだね…無事で何よりだよ。」

「医者の方は?」

「今呼んだからもう少しで来るよ、先に血の汚れだけでも取っちまおうね。」

「判りました。」

 

 

私は女将さんや他の遊女の人達と一緒にまきをの介抱をし天さん経由の医者に扮した隠に一芝居して貰った。

 

まきをは切り傷からの化膿や酷い過労で入院が必要だと花街の外で療養する形に話をした。

 

本来なら切見世へ送られるのだが、私がまきをの分まで稼ぐと告げて外での療養を了承して貰った。

 

 

「全く、アンタも人が好過ぎるよ。」

「良く言われます。」

「ま、その分頑張って貰うわよ?」

「判りました。」

 

 

女将さんに愚痴られつつ、一人目の救助に成功した。

 

 

>>>>>>

 

 

まきをの救助から二日目。

 

切見世が点在する区域にて。

 

 

「ここか?」

「ああ、我妻とクジョウが聞いた話じゃ…この長屋だそうだ。」

 

 

夜明けを迎えつつある早朝。

 

日が当たりにくい長屋の一つに集まる二人の鬼狩り。

 

 

「煉獄、合図と同時に反対側の窓を開けてくれ。」

「承知した。」

 

 

切見世の長屋へ夜明けの日差しが入る瞬間と同時に戸と窓が全開に開け放たれる。

 

 

「!?」

 

 

同時に投げ込まれる藤の花から調合された煙幕。

 

高濃度の煙幕は室内に広がっていた帯の物体を麻痺させ動けなくさせた。

 

室内に寝かされた女性を宇髄が確保し煉獄が帯を細切れに切り裂く。

 

一瞬の事だったので帯の主である鬼は帯の消失で混乱しているだろう。

 

鬼が日中動けない事は鬼側も理解しているが、最も動けない時間に行動された。

 

それを行えるのは鬼舞辻無惨が危険視した成り損ないの鬼。

 

その鬼が自身に迫っている事を帯の鬼は理解しただろう。

 

寝首を掻かれるのは誰か?

 

 

「天元さ…」

「今は話さなくていい。」

 

 

宇髄は寝かされたままの状態になった女性が自身の妻である『雛鶴』である事を確認。

 

鬼の潜む店から逃げる為に毒薬を服薬しここへ逃げたものの帯を操る鬼に監視されていたとの事。

 

 

「宇髄、彼女が?」

「ああ、俺の嫁の一人だ。」

「クジョウが救った嫁を合わせると二人、後は一人か…」

 

 

宇髄は雛鶴に解毒剤を飲ませると煉獄と共に切見世から撤退し作戦を練った藤の家へと移動した。

 

 

=続=

 



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早期開戦の兆し

忍び寄る気配。

それは異質な鬼の気配。

地の底より唸り上げる。

これはその前兆。


前回、音柱と炎柱が切見世での救助をしている頃。

 

花街の遊郭が並ぶ区域で妙な地響きが発生。

 

地響きが収まると遊郭の一部の道が崩落し所々が穴凹だらけになっていた。

 

花街に住む人々は花街を建設する際に掘った場所がいくつか残っていた。

 

それが今頃になって地響きで地盤沈下したのでは?と納得している。

 

この突如発生した地盤沈下に便乗し地下の喰い場から音柱の嫁の一人と帯の鬼に拘束されていた人達を救出した私ことハスミ。

 

救助の際、高濃度の藤毒で弱らせた長い帯を日差しに当てたら拘束されていた人達が自然に出て来たので特に苦はなかった。

 

同時にただならぬ気配を地下から漂わせている事を気付いた私は静かに次の策を練った。

 

 

******

 

 

遊郭潜入から三日後。

 

遊郭の仕事は基本夜からの為、日中は芸事の練習と教養を学んだり前日の跡片付けや当日の準備に勤しむ。

 

一通りの仕事が済むと夜を待つ間、それぞれに空き時間が出来た。

 

その合間を使って情報交換を行っていた。

 

場所は店の屋根の上。

 

 

「ううっ、何で俺の所が大当たりなんだよ…」

「…善逸。」

 

 

物凄く不安な表情でネガティブオーラを醸し出している善逸。

 

理由は彼が潜入した京極屋に目的の上弦の鬼が潜んでいると発覚した為である。

 

横で炭治郎が慰めているが変わりはない。

 

 

「ま、人質の救出をしたし本命の鬼の機嫌が悪い事は明白だからしょうがないわよ。」

「元々煽ったアンタが原因でしょうがー!!!」

「黙れ、何の為の潜入捜査と救出作戦だと思っているの?」

「そうですけど…」

「…もっぺん、二刀流・電動鋸で逃走劇でもする?」

「す、すみませんでしたーー!!!!」

 

 

鬼の懐に忍び込んでいる善逸にしてみれば、いつ襲われても可笑しくない状況。

 

そんな状況を作ったハスミに抗議するが三倍の毒舌とお仕置き発言で返された。

 

 

「兎も角、上弦の鬼が捕らえていた音柱の嫁達と行方不明だった花魁達の救助は成功したわ。」

「ハスミさん、後は…」

「炭治郎君、これで上弦の鬼を仕留めるだけの話だったけど…珍客が地面の底に控えている可能性がある。」

「地面?」

「連日の地響き…推測だけど巨躯の鬼が潜んでいるわ。」

「例の大物か?」

「伊之助君の言う通りよ、地響きから察するに標的は地面を掘り進んで移動していると思われる。」

「上弦の鬼に巨躯の鬼…もう勘弁してよ。」

 

 

善逸が絶望した格好で落ち込んでいる所を余所にハスミは気配を隠して現れた存在に告げた。

 

 

「そう言う事だから、音柱…巨躯の鬼が現れた以上は上弦の鬼の討伐はそっちに任せるわ。」

「ああ、煉獄も居るし上弦の鬼は俺らに任せておけ。」

 

 

『え?いつの間に!?』と驚く善逸と伊之助を余所に気づいていた炭治郎は普通に接していた。

 

 

「宇髄さん、お嫁さん達は?」

「三人共…怪我の方が大したことはない。」

「良かった。」

 

 

炭治郎へ軽い返答をした後に宇髄はハスミに話しかけた。

 

 

「クジョウ、後で嫁達が礼を言いたいそうだ。」

「任務が終わってからでもいいかしら?」

「そうだな、こっからが正念場だしな。」

「京極屋の蕨姫花魁そして地の底を行き来する巨躯の鬼…討伐すべき相手は大物ばかりね。」

 

 

普通の会話に聞こえているが、宇髄とハスミの表情は険しい。

 

戦いの場となるここでどれだけの被害が出るか予想もつかないからだ。

 

早期解決に持ち込めればいいが、そうはいかない。

 

それだけの相手と戦う事を自覚しているからこその表情だった。

 

 

「炭治郎君は引き続き、鯉夏花魁の護衛を。」

「判りました。」

「善逸君は蕨姫花魁の機嫌を損ねない範囲で監視。」

「…はい。」

「伊之助君は見つけた穴の他に別の喰い場がないか探して。」

「おうよ、任せて置け。」

 

 

私は三人に指示を出してから音柱らと解散、私自身もいずれ現れる蕨姫花魁いや上弦の鬼が荻本屋へ忍び込むのを待った。

 

獲物と思った相手がそれ以上の化け物である事を恐れるがいいわ。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃、京極屋では。

 

 

「…」

 

 

日光を通さない北側の部屋で歯軋りをしながら、鏡の前で化粧を整える花魁が居た。

 

 

「くそ、あの鬼狩り共め……よくも私の獲物を。」

 

 

忌々しい藤の花の匂いは消えず、喰らう筈だった獲物達は奪還された。

 

残るは見目が余り良くない非常食として残していた獲物だけだった。

 

それでも喰わなければ自身の美貌を保てない。

 

京極屋の売れっ子花魁である蕨姫花魁は人払いをした部屋で地団駄を踏んでいた。

 

自身が受け持つ禿の子達はお使いに出しているので不在。

 

その為に鬱憤を晴らす相手がいないのだ。

 

 

「こうなったら…ときと屋の鯉夏花魁と荻本屋の睡蓮花魁を手に入れるしかないわね。」

 

 

美しさの中に隠れる残虐さ。

 

蕨姫花魁こと上弦の陸である堕姫は既に無惨から警告を受けていた。

 

自身の喰い場を死守出来ずに頸を斬られる無様な失態を犯せば即座に粛清されるだろう。

 

無惨は上弦の鬼達へ鬼狩りに属する成り損ないの鬼を捕らえろと指示をしていた。

 

だが、相手は上弦の壱や弐を撤退に追い込んだ強者。

 

それも自身と同じ女である事が気に喰わないのだ。

 

そんな馬の骨とも判らない輩に負けたくない。

 

その思いが堕姫を焦らせていた。

 

 

「見てなさいよ…成り損ないの鬼の女、私こそが無惨様に相応しい事を見せつけてやるわ。」

 

 

だが、堕姫は知りもしないだろう。

 

戦う相手が如何に恐ろしい存在であるかを。

 

知らない今が幸福である事を後に自覚するのだった。

 

 

=続=



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無数の記憶を求めて

鬼の始祖は何故彼女を狙う?

それは始まりの日。

鬼との繋がりを得た時に見えたモノ。


無限列車事件の翌日の深夜。

 

帝都内の富裕層の屋敷が並ぶ地区のある屋敷にて。

 

 

「上弦の鬼と在ろう者が……失態だな、黒死牟、猗窩座?」

「申し訳ございません。」

「無惨様の仰る通りです。」

 

 

屋敷の一室で書物を閲覧する少年に対して跪く上弦の鬼達。

 

身体の至る所の血管が暴発し血反吐を吐きだしていた。

 

その様子を冷ややかな目で見る少年は只の少年ではなかった。

 

人の眼から鬼の眼へと戻し、子供とはかけ離れた言葉を発した。

 

その少年は人の世に溶け込む為に擬態した無惨の姿の一つである。

 

 

「裏切り者を利用し…あの成り損ないの鬼の女を捕らえようとしたが、あの女の方が一枚上手だったか。」

 

 

上弦の鬼の眼を通して無限列車事件の経緯を監視していた無惨。

 

双方共に予期せぬ事態があったにせよ、鬼狩りはそれすらも跳ね除け上弦を退けた。

 

最悪な事に女は己と敵対する鬼狩りに属している。

 

 

「再度、成り損ないの鬼の女を発見次第…捕らえて私の前に連れてこい。」

 

 

無惨は目処前の上弦とこの場に居ない上弦に命令を下した後『あの女は青い彼岸花を知る唯一の手掛かりだ。』と告げた。

 

上弦達は指示に従い、その場を去って行った。

 

 

「あの女、クジョウ・ハスミと言ったか……あ奴には聞かねばならぬ事が多い。」

 

 

三年前のあの日、あの女に血を注いだ時に見えた記憶。

 

一度目の大きな戦乱。

 

帝都を襲った巨大な地震。

 

その後に発展した科学技術。

 

予期せぬ大飢饉。

 

二度目の世界を巻き込んだ戦乱。

 

この国に二度墜とされる死の光。

 

焦土と化した帝都と敗戦の言葉。

 

再度の復興、発展、成長。

 

 

「あれが今後訪れる未来の姿ならば、鬼狩りは自然消滅するしかないと言うのに。」

 

 

実に愚かだ。

 

人は何処まで行っても人。

 

己の過ちで滅びを迎える危機へ歩んでいると言うのに。

 

だとすれば、あの女は一体何処から現れた?

 

まるでその時を生きて来た様に記憶を持っていた。

 

 

「あの女の記憶にはまだ続きがあったな。」

 

 

得体の知れない鉄の巨人達を操る者達。

 

それらを扱う戦乱。

 

地の底からの侵略者。

 

天より現れた侵略者。

 

同族同士の争い。

 

 

「あれは先の人間が辿る未来の一つなのだろうか?」

 

 

同時に見えた過去の記憶。

 

古代文明や失われた国の記録。

 

絶滅した動植物の記録。

 

 

「何故、数十年程度しか生きていない人間がそこまで知れた?」

 

 

今の人類が到底到達出来る範疇を超えていた。

 

ならば、何処から知識や記憶を得た?

 

聞かねばならない。

 

お前は何処から現れたのだと?

 

 

「青い彼岸花すらもお前なら見つけられるのだろう?」

 

 

少年の姿に擬態したままの無惨はテラスから見える月を見上げた。

 

 

*******

 

 

時は戻り、吉原の遊郭。

 

夜は更けて、店仕舞いを終わらせた荻本屋の一室に一人の来客が訪れていた。

 

 

「どなたかしら?」

 

 

鏡の前で簪を外して髪を梳く女性の姿。

 

同時に音も無く室内に現れた帯を纏った女性。

 

 

「アンタが睡蓮花魁ね?」

「だとしたら?」

「アタシがアンタを喰らってあげるわ…光栄に思いなさい?」

「そう…」

 

 

帯を纏った女性は挑発する様に部屋の主に話しかける。

 

帯が女性を襲う瞬間、室内にチュンっと銃声が響き渡った。

 

 

「…」

「な…」

 

 

帯の女性の頬を掠める銃弾。

 

それは部屋の主が懐から抜いた拳銃によるものだった。

 

 

「愚かね。」

「よくも私の貌に傷を!?」

「この程度で癇癪とは、上弦が呆れるわ…」

 

 

部屋の主は花魁の衣装を脱ぎ捨て隊服へと変更する。

 

背に滅の文字を掲げる鬼にとって忌まわしき存在。

 

 

「…まさか鬼狩り!?」

「さあ、どうする?」

 

 

室内で銃を構える女性ことハスミ。

 

 

「ちっ!」

 

 

だが、帯の女こと上弦の陸・堕姫は室内から離脱し荻本屋の屋根へと飛び移った。

 

 

「よう、派手に待ちくたびれたぜ?」

「!?」

 

 

既に荻本屋の屋根の上には罠が仕掛けられていた。

 

二名の柱と三人の鬼狩りと言う罠を。

 

 

「うむ、待った甲斐があった!」

「出やがったな、蚯蚓帯!」

「ううっ。」

「お前の相手は俺達だ…!」

 

 

宇髄を始め、煉獄、伊之助、善逸、炭治郎が刀を構えて待ち構えていたのだ。

 

 

「くっ!」

 

 

同時に屋根へ飛び移ったハスミも合流し陣形は出来上がったも同然の状況だった。

 

 

「炎柱、民間人の避難は?」

「鎹鴉達と隠達を経由して避難させた。」

「しっかしお前もド派手な嘘を考えつくな?」

「単発地震とそれに伴う発電所の不備の事ですか?」

「君のそれらしい説明のお陰で片が付いた。」

「異国でも発電所の事故の事例があったので役立ちましたよ。」

 

 

堕姫の襲撃が予想された日、ハスミは隠達へ指示をし発電所の事故を装って遊郭の住民を避難させる計画を立てた。

 

最もらしい経緯を遊郭の人々は説明され、続々と店仕舞いと共に避難したのである。

 

 

「此処には民間人は誰もいない、互いに思う存分に実力を発揮出来る。」

「お前…あの方の仰っていた成り損ないの鬼か?」

「だとしたら?」

「お前を倒してあの方の前に引きずり出してやる!」

「残念だけど、私は貴方とは戦わない。」

「はぁ?」

「貴方と戦うのはそこにいる彼らよ、私には別の相手が居るのでね?」

 

 

ハスミは戦う価値もない様な話し方で帯の鬼に告げた。

 

 

「ふざけるな!」

「ふざけてはいない、見目を美しく取り繕っても中身が空っぽの貴方と戦う意味はないわ。」

「!?」

「図星?まあ、貴方は京極屋でも散々な言われ様だったみたいだし…」

 

 

僅かな事で癇癪を起こしてモノに当たる姿勢。

 

まるで成長していない子供。

 

身体がどんなに美しくも心は成長せずに我儘のまま。

 

そんな気配が滲み出ている。

 

 

「まあ、奴を仕留めた後も貴方が生き残ってたら彼らの加勢はするけど?」

「アタシの事を馬鹿にして……決めた!アンタの相手はアタシよ!!」

「…人の話、聞いていたの?」

「アタシが決めたならそうなのよ!!」

「ほんとーに我儘、相手をする意味がないって言っているのに。」

「アタシは上弦の陸、戦う価値があるのよ!!」

「なら、貴方に本当の事を言っていいかしら?」

 

 

ハスミは地団駄を踏む帯の鬼に溜息を付いた後、静かに告げた。

 

 

「貴方、他の上弦より弱いでしょ?」

 

 

=続=



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ただ銃を握り撃つだけ


相手が誰であろうとも戦わなければならない。

それが目処前の障害であろうとも。

銃身を鈍らせるな。


 

ハスミから語られた言葉は上弦の陸・堕姫へ怒りを買わせるには十分な言葉だった。

 

 

「貴方、他の上弦よりも弱いでしょ?」

「アタシが弱いですって!?」

「貴方の血鬼術は帯、それを獲物の収納と武器にしているだけ。」

「だから何なのよ!」

「ハッキリ言えば、それらは補助支援向きの能力であって上弦にするには戦闘力が足らない。」

「!?」

「そこから推測し感じ取った気配から察するに…上弦の陸は二体存在する。」

 

 

ハスミの語った考察と推測に堕姫は表情を変えた。

 

 

「…(何此奴…お兄ちゃんが隠れているのを見破ったの?」

「最初は二重人格で攻防の血鬼術でも使っていると思ったけど、今までの様子から察するに空っぽの貴方にそこまでの器用さはない。」

 

 

己の力を過信し血鬼術を完全に生かし切れていない。

 

恐らくは遊郭と言う縄張りから出た事がない為。

 

井の中の蛙大海を知らずとは良く言ったモノね。

 

貴方が上弦に上り詰めたのは足りない部分を補う何かがあった。

 

それが本来の上弦であり貴方は只のオマケ程度だと理解した。

 

 

「アタシがオマケですって…?」

「奴の性格上、あの無惨が何故貴方を切り捨てなかったのか理解出来ないけど。」

「あの方を…」

「黙って聞け、お前は既に無惨に捨てられても可笑しくない立ち位置に居る。」

「っ!」

「自らの喰い場を失い、鬼である事が身バレし、遊郭と言う安全な潜伏先を失った以上…貴方は逃げ場のない崖の上に立たされているのと同じなのよ?」

「ふざけるな!アタシはこれまでに柱を七人仕留めて来た!それを弱いと言わせないわよ!!」

「私にとっては弱いけど?」

「な!?」

「正直に言うなら上弦の壱や参を相手にした方がまだ手応えがある。」

 

 

ちなみに弐は氷の血鬼術さえ気を付ければ、全然…苦でもないわ。

 

 

「…(嘘でしょ、上弦を馬鹿にしているの?」

 

 

堕姫は更なる混乱に陥った。

 

目処前の成り損ないの女は上弦が弱いと告げた。

 

単に馬鹿にしているのではい。

 

対策する事が出来るからこその発言であると理解した。

 

上弦が弱いと言うのなら女にとって鬼よりも強い存在が居たのか?

 

そう考えてしまう。

 

 

「元軍人を舐めて貰っては困る。」

 

 

クジョウ・ハスミは元軍人。

 

詳しい理由は明かせないが、事情があり脱走兵の汚名を被っている。

 

それなりの軍属経験を積んできた彼女にはこの程度の修羅場は慣れていた。

 

若しくは戦場に慣れ過ぎて感覚が鈍っているとも言える。

 

戦場と戦うべき相手を把握し対応策を練って攻撃するのはいつもの事。

 

鬼達は圧倒的な戦闘能力と限定的な不死の力で戦っているに過ぎない。

 

上弦の壱や参の様に武道を極めているのなら苦戦は強いられる。

 

だが、血鬼術や鬼の特性に頼り過ぎて戦術すら構築出来ない相手に彼女は負けない。

 

状況を把握し打開策を構築し標的を仕留めるだけだからだ。

 

 

「話は終わり、貴方はその足りない頭で目処前の力に敗れるといいわ。」

 

 

ハスミは宣言した通り、堕姫の相手を先程まで静観していた宇髄らに任せた。

 

 

「音柱、炎柱、炭治郎君達、宣言通りそっちは任せる。」

「祭りの神に任せな。」

「承知した。」

「ハスミさんも気を付けて。」

「もうどうにでもなれーーーー!!!」

「おっしゃあ!ぶった切ってやるぜ!!」

 

 

戦う価値もないと判断したまま、戦うべき相手が迫っているのを感じ取りながらその方角へと向かった。

 

 

「何なのアイツ…」

 

 

あの女、こっちを見向きもしなかった。

 

馬鹿にしているの?

 

私は上弦の陸よ?

 

弱いから相手にする必要もないですって?

 

ふざけるな。

 

ふざけるな。

 

ふざけるな!!

 

ふざけるな!!!

 

アタシは上弦の陸、最も美しい鬼よ!!

 

あんな不細工に負けてたまるものか!?

 

あの方を侮辱し上弦の鬼を舐めた態度は許さない!!

 

アイツはアタシが仕留める!

 

 

「待ちなさいよ!!」

「ハスミさん、後ろっ!?」

 

堕姫は腰に巻いた帯を操り、移動を開始したハスミの背後を狙った。

 

だが…

 

 

「だから詰めが甘いのよ、貴方は?」

 

 

ハスミから冷たい言葉が語られた。

 

 

「え?」

 

 

自身の身体に付けられた無数の穴。

 

ハスミはP90を二丁取り出すと堕姫の帯ごと撃ち抜いたのだ。

 

振り向かず、腕を交差させて背後に迫る堕姫の帯を狙った。

 

精密射撃…いや、余りにも駄々洩れの気配を感じ取ってその先に反撃したに過ぎない。

 

 

「警告はしたわ、但し貴方が先に攻撃した…ま、そんな弱い攻撃なんて弾いてやったけど。」

「そんなアタシが…何で?何で?」

「だから貴方はオマケなのよ。」

 

 

足りない頭を全回転させて答えを見つけてみる事ね。

 

 

「アイツ、派手にえげつねえな?」

「う、うむ…胡蝶の言葉に何処か似ている様にも思える。」

「つか、上弦の鬼がボロクソに言われまくって初手を完全に反撃されてるってどうよ?」

「竈門少年、彼女はいつもああなのか?」

「えと…物凄く怒っている時はさっきの通りです。」

 

 

「「…」」

 

 

「やっぱ…あの人怖い。」

「ナンカゴメンナサイ。」

 

 

妙な所で顔芸を披露する羽目になった一行。

 

解りやすい表現なら駄々をこねたおこちゃまの相手をしている様な状況。

 

それを第三者目線で宇髄達は見せられていたのである。

 

 

「…派手に流されちまったが、仕切り直しだ!!」

「うむ、敵が混乱している今が好機!」

「行くぞ!!」

「俺ら勝てるのかな?」

「勝てるじゃねえ!勝つんだよ!!」

 

 

宇髄の言葉通り、仕切り直しをし堕姫へ切り掛かった。

 

ハスミの忠告通りに堕姫の内に潜むもう一人の上弦の陸に注意しながら…

 

 

「こっちにも蚯蚓ですか?」

 

 

堕姫の戦闘区域から離れて遊郭の単発地震の要因となった巨躯の鬼と対峙するハスミ。

 

その正体は蚯蚓にサナダムシや複数のワームを合体させた生物だった。

 

遊郭区域の地盤が緩んだ場所から這い出て鎌首を上げる巨躯の鬼。

 

 

「…愛しのカオリちゃん18歳のきしめん事件を思い出しちゃった。」

 

 

ハスミは顔を青褪めさせた後、仕切り直しをして迎撃行動に移った。

 

 

「さて、虫退治と行きましょうか?」

 

 

=続=



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乱入する脅威



目処前の標的を追って殲滅した。

後は残された脅威と戦うだけ…

ただ、それだけだった。



 

 

 

******

 

 

その戦いの場には言葉は無かった。

 

夜の闇に響き渡る銃声音と一定の感覚で聞こえる呼吸音。

 

時々、轟く爆撃音。

 

花街の家屋は既に奴の巨体によって区画の半分が全損していた。

 

戦場ではよくある事、それだけだ。

 

家屋は直せばいい、命あっての物種である。

 

 

「…」

 

 

前よりも耐久性が上がっている。

 

それでも油断はしない。

 

ただ目処前の巨躯の鬼を打ち貫き切り裂くだけ。

 

それだけでいい。

 

 

「キシャァアアア!!!」

 

 

奴は狙っていたのだろう。

 

この花街を訪れる客人や遊郭の人々を喰らう為に。

 

地の底で頃合いを見ながら這い出る時を。

 

だが、誤算だったわね。

 

お前が空腹で我慢が聞かずに這い出てくる時を待っていた。

 

その空腹ではお前の巨体は維持出来ずに若干残る理性も失い暴れるしかない。

 

さあ、お前が求める餌はココだ!

 

但し、喰われるつもりもないけど?

 

 

「っ!」

 

 

ダラダラと体液を口腔から垂れ流し、目処前の餌に喰らいたい。

 

膨大な空腹の余りにそれだけが本能によって支配されていた。

 

巨大なワームと化した蚯蚓型の巨躯の鬼は更なる突撃攻撃を繰り出す。

 

クワセロ、クワセロ、クワセロ!!と言葉を発したい様に。

 

 

「そろそろ茶番は終わりだ。」

 

 

巨躯の鬼に向けて言葉を発したハスミは自らの日輪刀を抜いた。

 

自身よりも重心が重い巨刀。

 

それを片手で振り回して構えを取った。

 

再度の突撃を開始した巨躯の鬼は無数の牙で埋まった口腔を開けて彼女を呑み込もうとした…

 

 

「腹を減らしてだらしなく口を開ければ喰えると思ったのか?」

 

 

口元から漏れる呼吸は鋭く鋼の如く。

 

 

「鋼の呼吸……参ノ型・覇鋼。」

 

 

相手の突撃に逆らう様に巨刀の斬撃が巨躯の鬼の巨体を横一閃に真っ二つにした。

 

それは巨体に潜んでいた核となる鬼の頸をも切り裂く。

 

魚の三枚おろしの様な見事な断面図となった巨躯の鬼の死骸が崩落した花街に遺された。

 

グズグズと音を立てて消えていく巨躯の鬼の死骸。

 

消化器官には消化途中だった遺体の残骸が漏れ出ていた。

 

恐らくは巨躯の鬼の移動道中で運悪く喰われたのだろう。

 

 

「…」

 

 

ハスミは死骸に向けて合掌し死者の冥福を祈った。

 

 

「上弦の鬼が高みの見物?」

 

 

ハスミは背後から感じ取った気配に対して告げた。

 

その言葉を返したのは無限列車事件で戦った上弦の壱。

 

 

「戦いの邪魔になる者をお前が片付けるのを待っただけだ。」

「…(遠回しに言えば正々堂々と戦いたいか、こっちが貧乏くじを引いた感じもしなくもないけど。」

「あの方より貴様を確実に捕らえよと命じられた。」

「黒死牟の他に来ていたのは感じ取ったけど、上弦の鬼が成り損ないの鬼相手に二対一で戦う気なのかしら?」

 

 

倒壊しかけた木製の電柱に立つ猗窩座に対してハスミは答えた。

 

 

「俺は女の相手はしない…っ!?」

「戦場に出れば、老若男女問わず関係ない……貴方の発言は侮辱にしか聞こえない。」

 

 

ハスミは拳銃で威嚇射撃をし猗窩座の頬を掠める程度に放った。

 

戦場は男だけのものではない、巻き込まれれば女子供老人すら兵士と成り得る。

 

言葉通りの戦場を見たハスミは侮辱であると猗窩座に答えた。

 

彼の言葉に対して黒死牟は六眼を伏せて答えた。

 

 

「失言だったな、猗窩座。」

「…」

「その者の言う通り、性別問わず覚悟を決め…戦場に出ている者に対して侮辱に当たる。」

「話の分かる人ね、身なりから察するに元武将?だったのかしら?」

「…とうに昔の事だ。」

「こちらも失言でしたね、失礼した。」

 

 

互いに、一度刀を交えている事から相手の力量を見極めての発言。

 

ハスミは自身の発言により目元を一瞬動かした黒死牟の動きで真実だと見極めた。

 

それは対人戦だけではなく兵を動かす為の戦術の知識を持ち合わせていると判明した為である。

 

 

「…堕姫、上弦の陸と戦っているのはあの時の柱共か?」

「言わずとも、そちらも気配で分かるのでは?」

「猗窩座。」

「判っている、杏寿郎との戦いは目処前の女を捕らえてからだ。」

 

 

ハスミは『炎柱、めっちゃストーカーされとるやん。』と心の中で思いつつ猗窩座の心を揺り動かす言動を告げた。

 

 

「そうして貰えるかしら?炎柱はまだ燃え上がり始めた火種程度だから。」

「杏寿郎が火種だと?」

「彼はもっと成長する…本当の意味で煉獄と言う焔を巻き上げる様に。」

「何故、貴様が答える事が出来る。」

「彼が改善すべき点を遠回しに告げたからよ、その答えに辿り着いた時…炎柱は貴方が求める至高の果てに達する。」

 

 

彼が目指す炎はただ燃えるのではない、不死鳥の様に再生と浄化を司る炎なのだから。

 

まあ、どっちかと言えば彼は燃え盛る虎の方が似合っているけど。

 

 

「その時、貴方は彼と対等に戦えるのか見物だけど?」

「成程、上弦の壱がお前を認めた理由が判ったぞ。」

「どういう事かしら?」

「お前もまた戦いを喜ぶ狂人に過ぎないからだ。」

「そうね、狂人呼ばわりは失礼だけど…間違ってもいない。」

「?」

「私は私、ただそれだけよ。」

 

 

判っている。

 

心の何処かで戦いを喜んでいる自分が居る事を。

 

あの人と繋がった日にそれを自覚した。

 

守りたいが故に自分自身が狂人へと変貌していくのが理解出来た。

 

それは生きる事こそが戦いだからだ。

 

但し、相手の命を軽んじる事はない。

 

目処前の戦闘狂を覗いてはだけど…

 

 

「まあ、私自身が狂人呼ばわりされる日が来るとは思わなかったけど…」

「油断するな、猗窩座。」

「!?」

「音柱じゃないけど苛烈に行きましょうか?」

 

 

若干笑いながらハスミは隊服の上に着ていた羽織と白い和服を脱ぎ捨てた。

 

脱ぎ捨てた白い和服のみは地面をめり込ませる様に沈んでいった。

 

先程まで巨躯の鬼相手に錘を付けた状態で戦っていた事になる。

 

そして音柱と同じ袖なしの隊服だけの姿なった。

 

 

「日の出を迎えるまでどちらが撤退するかの我慢比べをね?」

 

 

=続=





※蚯蚓の巨躯の鬼

全長二㎞、胴回り二mの巨躯の鬼。
活動エリアを絞るなら鳥取砂丘の様な砂漠地帯が好ましいが現在の日本列島にそのような場所は限られているので地盤が緩くなったエリアに放たれた。
空腹時以外は地面の中で休眠しているが、空腹時は街一つ呑み込む事が可能な食欲を引き出す。
ジ・エーデルは最初帝都に放とうとしたものの主人公が同行した鬼狩り達が遊郭へ向かっている事を察知しそちらへ移動させた。
彼曰くどちらの勝敗構わず面白可笑しく引っ掻き回せれば良かったらしい。



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二人で一つ

美と醜。

どちらも切り離せないもの。

それは対義語の様に。




前回、ハスミが花街に現れた巨躯の鬼を討伐し上弦の壱と参の乱入を受けて交戦をし始めた間の事。

 

遊郭に潜んでいた上弦の陸と対峙し戦闘を開始。

 

同時にハスミが警告したもう一人の上弦の陸の出現に注意しつつ戦闘を続けていた。

 

 

******

 

 

「何よ、この筋肉馬鹿と戦闘馬鹿は!!」

「俺様のド派手な肉体美に恐れをなしたか?」

「うむ、宇髄のその返し方は見習いたいな。」

 

 

上弦の陸・堕姫が繰り出す帯の攻撃を躱しつつ攻撃を加える宇髄と煉獄の二名。

 

炭治郎らは二人の死角から攻撃を繰り出す帯の動きを遮っていた。

 

 

「…(もう一人の上弦の陸が出てきていない今は迂闊な行動は出来ない。」

「なんなのもー!!このうねうね帯はー!!」

「蚯蚓帯は俺様が全部ぶった斬ってやるぜ!!」

 

 

炭治郎は前もってハスミに上弦の陸との戦闘に関して相談をしていた。

 

それに関してハスミはこう告げた。

 

 

『前提として炭治郎がやるべき行動は…』

 

 

上弦の陸が二体一組の鬼である事を忘れないこと。

 

頸切りは二体同時が必須なので柱の援護をすること。

 

もしも戦闘の配置が換わったり柱に何らかの危機が起きた場合は炭治郎君が頸を取る事。

 

相手の毒攻撃はすぐに話さない事、何かの拍子で見つけた様にすること。

 

長期戦が予想されるので周囲の状況や自身の状態を注意しつつ戦闘を行う事。

 

相手の毒攻撃の頻度が上がってきたら禰豆子ちゃんの血鬼術で毒を浄化させる事。

 

絶対に柱や自分達を欠損させる攻撃を受けない事とさせない事。

 

状況を把握し冷静な判断で行動をする事。

 

 

『私も巨躯の鬼を仕留めたら援護に回るけど、もしも来られない場合は別の上弦の乱入があったと思って頂戴ね。』

 

 

炭治郎はハスミとの約束を守り、同時に目処前の柱を守る事に専念した。

 

 

「竈門!」

「はい!」

「デケェ鬼の音とクジョウの鉄砲の音が消えた!何か匂うか!?」

「駄目です!目処前の鬼の匂いが強すぎて!」

「ちっ、アイツが予想した通り…他の上弦の鬼が来たのか?」

「ならば、ここは早期に仕留めるしかない!」

「応よ、アイツにばかりド派手ないい恰好させられねえからな!」

 

 

過去の情報から上弦の鬼に対して柱三人が対応するのが好ましい。

 

だが、戦闘を続けている柱は二人、その内の二人が庚の階級隊士。

 

そして秘匿されている柱見習いだけだ。

 

十分な戦力を回した以上、負ける訳にはいかない。

 

 

「宇髄!今だ!!」

「任された!!」

 

 

柱二名による猛攻。

 

上弦の陸の頸は煉獄の援護によって宇髄によって切られた筈だった。

 

 

「うぁあああん!頸…切られちゃったよ!!!」

「…(何だこいつ、頸を斬ったのに消えてねえ。」

「宇髄さん、その鬼から何かが出てきます!!」

「っ!?」

 

 

炭治郎の言葉で危険を察知し上弦の陸から離れる宇髄。

 

それと同時に上弦の陸の周囲に放たれる技。

 

彼女から出てくるもう一人の上弦の陸が現れた。

 

 

「しゃあねえなぁ、頸位…自分でつけろよなぁ。」

「うぇえええん、お兄ちゃぁあ!!」

 

 

その言葉によって確信した。

 

あの鬼こそ真の上弦の陸。

 

本来の戦いはこれから。

 

 

「宇髄さん、煉獄さん、あの鬼達は恐らく…」

「ああ、頸を同時に斬るしかねえ奴らって事だな。」

「よもや、クジョウの読み通りになった。」

「つか、アイツ…どんだけ考察に優れてんだよ。」

「宇髄と同じ忍では?」

「いや、元軍人って本人が言ってただろ?」

「軍人か、女子の軍人は初めて見たぞ。」

「異国だと女の徴兵があったんじゃねえか?」

「それは悲しいな…」

「ああ。」

 

 

彼らの会話の後に新たに現れた上弦の陸は名を告げた。

 

兄の妓夫太郎と妹の堕姫。

 

二人で一つの鬼であり最強を名乗った。

 

此処にハスミが居れば彼らの行動から戦術を組めただろう。

 

更なる長期戦を強いられると思ったが…

 

 

「な?」

「え?」

 

 

無駄口の間に二体の頸は斬られたのだった。

 

一つは爆撃音、一つは紅蓮の炎、一つは太陽の輝き。

 

 

音の呼吸・肆ノ型 響斬無間。

 

炎の呼吸・伍ノ型 炎虎。

 

ヒノカミ神楽・幻日虹。

 

 

宇髄が上弦の陸の周囲を混乱。

 

煉獄が堕姫、炭治郎が妓夫太郎の頸を切り裂いたのだ。

 

 

「何で、何で、何で!?」

「恨めしぃな!俺はまだ何もしてねぇえ!!!」

 

 

頸を同時に斬った事で上弦の陸達の肉体が消失を始める。

 

 

「いや、いやよ!助けて!助けてお兄ちゃん!!」

「梅っ!?」

 

 

相向かいに転がった二つの頸は空しく叫び。

 

そして死の淵で己の生涯を思い出した。

 

 

「どうして…俺らは奪われなきゃなんねえんだよ。」

「奪われる前に鬼に成っちまう前にどっか遠くにでも妹を連れて逃げれば良かったんだよ。」

「…」

「兄であるなら妹を守るのも当然だ…だが、君は妹に大切な事を教えられなかった。」

「何だよ…!」

「誰かを思いやれる言葉、きっと鬼になる位に貴方達は酷い仕打ちを受けたと思う。」

「…」

「今度、生まれ変わる時はまた兄妹で幸せになって下さい。」

「幸せか…そんな世界があるなら。」

 

 

堕姫の次に消えて行く妓夫太郎は宇髄らの言葉に答えつつ言いかけた言葉を最後に消えた。

 

炭治郎は消えた二人に対して合掌し祈りを捧げた。

 

 

「さてと、苦戦してるクジョウの援軍にでも行くか。」

「うむ、そうだな。」

 

 

二人の柱は先にその場を去ろうとするが…

 

 

「何だろう、この匂い?」

 

 

炭治郎は嗅ぎ慣れない匂いに反応した。

 

石油に似た匂いと機械油の匂いだ。

 

そして…

 

 

「宇髄さん!煉獄さん!逃げっ!?」

 

 

時遅し。

 

その場に居た四人は光に巻き込まれた。

 

同時に別行動中だった善逸と伊之助もその光に巻き込まれていた。

 

花街の至る所に光る閃光。

 

それはある視点から見れば爆撃によるものだった。

 

 

>>>>>>

 

 

上弦の陸討伐後、他の上弦の鬼を相手にしていたハスミ。

 

夜明けが近くなった頃、二体の上弦の鬼は撤退。

 

ハスミ自身も無事とは言えない怪我を負っていた。

 

 

「…っ!」

 

 

片足を引きずりながら炭治郎らと別れた場所へ向かっていた最中だった。

 

腕は複雑に折れた事で機能しにくくなり腫れ上がり、所々に斬撃よる出血が目立っていた。

 

酷いモノは片方の肩の肉が抉れてボタボタと失血している事である。

 

自身が起こした爆撃音とは違う音を聞きつけ、出来得る限り早く歩みを進めた。

 

漸く辿り着いた時には朝日が見え始める頃だった。

 

 

「炭治郎君?」

 

 

爆撃によって吹き飛ばされた家屋。

 

所々で壊れた家屋が燃え始め、黒い煙を放っていた。

 

そして爆撃と爆風で吹き飛ばされた炭治郎達を発見したのだ。

 

 

「そんな…」

 

 

再会した一行は所々から出血。

 

炭治郎は顎の骨を折ったのか口元から出血し所々の裂傷で気絶。

 

煉獄は左目と腹部に家屋の破片が突き刺さっており出血が止まっていない。

 

宇髄は右目と左腕を破片で切ったのか出血し腕は使い物にならない程に千切れかけていた。

 

善逸は家屋の破片で両足を挟まれた状態、伊之助は爆風の火傷と切り傷が酷かった。

 

 

「早く鎹鴉に…」

 

 

ハスミは連絡を取る為に鎹鴉を呼ぼうとしたが、自身も限界を迎えてその場に倒れ込んだ。

 

声を上げようにも既に声も大きく出せない位に疲弊していた。

 

 

「…」

『ひょひょひょ!大当たりだったねぇ!』

「!?」

『おっひさ!ジエー博士だよ?』

 

 

何処から聞こえるか不明な放送音。

 

その声の主にハスミは反応するも声を出す気力も失いかけていた。

 

 

『いや~君達、随分と勝敗上げてたから…この辺でワシから絶望をプレゼント!』

 

 

この世界の理によって起動兵器は使えない筈だった。

 

だが、これは紛れもなく爆撃の痕跡。

 

 

『制限もあるけど、1.5m位の起動兵器なら難なく起動出来たんだよね?』

「!?」

『そのテストも兼ねてこの辺一帯を爆撃したんだよW』

「…」

『ま、君にも仕返し出来たしさっさと野垂れ死にしてね?』 

 

 

 

放送音はそこで途切れ、残されたのは燃える音と只の静寂。

 

唯一無事だろう禰豆子は日の出を迎えた事で出てくる事が出来ない。

 

誰も助けを呼ぶ事も出来ない状況でハスミは静かに涙を流した。

 

巨躯の鬼と上弦を二体相手にした負傷が響いており、尚も続く出血で意識が朦朧とする中。

 

 

「…(お願い、誰でもいいから誰か彼らを助けて。」

 

 

願う言葉は祝福か呪いか?

 

気を失い出血が続くハスミの血液が自らの意思で動き始めた。

 

その血は気絶し倒れた五人の元へと移動を開始。

 

彼らに触れた血は銀色の膜を形成し損傷部分に纏わりついた。

 

それは無数の六角形を形成し定着し保護していた。

 

知る者はそれを禁忌の産物であると理解する。

 

それは彼女の中に眠っていた悪魔の力が目覚めた瞬間だった。

 

 

=続=




<蝶屋敷での異変>


遊郭での戦いが激戦を迎えている頃。

任務を終えて帰還したばかりのしのぶにカナヲはあるモノを見せた。


「カナヲ、どうしたの?」
「師範、これ…急に壊れてしまって。」


カナヲが見せたのはハスミから送られた花の髪留め。

大きな花の飾り部分が急にヒビ割れて壊れてしまったとの事。


「…後でハスミさんに相談しましょうね。」
「あの…師範、皆は無事ですよね?」
「ええ、宇髄さんや煉獄さんも同行していますから」
「…」


しのぶは不安に陥ったカナヲに対して大丈夫と告げるしかなかった。

本当は不吉な予感がすると告げたい位に。


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それは祝福か呪いか?

縋った先は何処?

差し伸ばされた手は誰?

その正体は誰にも判らない。





朝日が昇り夜明けを迎えた花街。

 

遊郭に巣くう鬼の姿は消え、こちらも真の意味で夜明けを迎えた。

 

夜の光に朝の光が照らされたのだ。

 

だが、その功労者達は崩壊した花街で命の危機に瀕していた。

 

 

******

 

 

「てーへんだ!てーへんだー!!」

 

 

花街に近い藤の花の家紋の家へ一羽の鎹鴉が降り立った。

 

その鎹鴉の名は叙荷、鋼柱の鎹鴉である。

 

 

「誰か、誰かいねえか!!」

 

 

この藤の花の家に待機していた隠の一人がそれに気づいた。

 

 

「何が遭ったんだ?」

「早く救護を!!柱が!!お嬢達が死んじまう!!」

「!?」

 

 

主人とは真逆に慌ただしいと評判の鎹鴉が焦りを含んだ涙声で叫んでいた。

 

事態は深刻であると悟った隠はすぐさま他の隠達を叩き起こし、現場へと向かっていった。

 

同じく虹丸、要、松衛門、チュン太郎、どんぐり丸と言った彼らの鎹鴉達も本部への通達、近隣の隠達や隊士に援軍の要請を行っていた。

 

同時刻。

 

いつも以上に夫の帰りを待つ事が不安になり、宇髄の嫁達が崩落した花街へ到着していた。

 

 

「天元様!!」

「天元様~!!」

「居たら返事をしてくださいぃ~!!」

 

 

順に雛鶴、まきを、須磨の三人である。

 

鬼と戦った痕跡とは言え、花街の家屋は殆ど破壊しつくされており捜索は困難だった。

 

爆撃による家屋の倒壊と所々に火事が発生しているが、爆撃の反動が運よく倒壊した家屋と家屋の間に火移りしない隙間が出来ていたので大炎上までに至っていなかった。

 

破裂した水道管の水が地面から噴き出て鎮火に一役買っているのもある。

 

だからこそ彼女達は捜索が可能だったのだ。

 

 

「てんげんさぁまああ!!!」

「須磨!今は許す!!ありったけの声で叫びな!!」

「まきをさん、わっかりました!!!てんげんさまぁああああ!!!」

「一体何処に。」

 

 

日の出を迎え、花街に日光が完全に差した頃だった。

 

雛鶴が見慣れた姿を発見し二人を呼んだ。

 

 

「二人とも!こっちよ!!」

「!?」

「天元様!?」

 

 

衣服が灰や泥で汚れにまみれるまで捜索を続けた三人。

 

漸く、夫を見つける事が出来た。

 

但し、最悪の形であるが…

 

 

「天元様…」

「…そんな?」

「…」

 

 

爆撃で家屋に吹き飛ばされ重傷を負った五人と人としての機能を損なう損傷で倒れた一人を発見。

 

普通であれば、出血多量若しくは爆撃のショックで死亡していても可笑しくない時間が経過していた。

 

だが、彼らは不可思議な現象によって生き延びていた。

 

 

「何なのこれ?」

「ひぃいい!!何かこの変なの動いてますー!!」

「うっさい!」

 

 

彼女達が驚くのも無理はない。

 

愛する夫や仲間の隊士達に付着した銀色の物体は生物の様に蠢いている。

 

特に攻撃する訳でもなく、触れると軟体生物の様に動く程度。

 

水銀?と三人は思ったが、それに似た全く見当もつかない物体が付着しているとしか理解出来なかった。

 

 

「と、兎に角…須磨は隠に連絡!」

「は、はい!!」

「まきを、天元様と他の人達を!」

「判ったよ!」

 

 

須磨は隠へ連絡を取る為に鎹鴉を探しに。

 

雛鶴とまきをは倒れたままの宇髄達の介抱を開始。

 

その頃に鎹鴉の呼び掛けよって近隣の隠達が到着した。

 

隠達の迅速な対応によって応急処置が施された後に雛鶴達が同行し六人は蝶屋敷へ。

 

残りは事後処理の為に残った。

 

任務を終えた伊黒が現場へ駆けつけた後には既に搬送された後だった。

 

 

「一体、何が起こったんだ?」

 

 

吉原の花街、その遊郭に巣くう上弦の陸の討伐に成功した鬼殺隊。

 

だが、予期せぬ乱入者達によって柱が三名と同行した下級隊士が三名共に瀕死の重症を負うと言う結末を迎えた。

 

無限列車事件に続き、これもまた痛み分けの勝利であり敗北でもあった。

 

 

*******

 

 

一方。

 

無限城で撤退を促された上弦の壱と参が理不尽なパワハラを無惨から受けていた頃。

 

とある場所で遊郭消失の要因である爆撃を行ったひじき芋が自室で抱腹絶倒していた。

 

 

「にょほほほほほほ~!!」

 

 

第三者目線から見ればドン引きする表情を浮かべているこの変態ひじき芋博士ジエー・ベイベルことジ・エーデル・ベルナル。

 

ゲスい表情でひとしきり大爆笑を行った後、普段通りの状態に戻った。

 

 

「いや~あんなに上手くいくとは思わなかったよ♪」

 

 

いーっつも折角作った巨躯の鬼であの子とバトッて貰ってたんだけど~

 

ぜーんぜん、駄目で返り討ちに合うし~見てて楽しかったけどね。

 

そろそろ、絶望でも味わって貰おうと吃驚大サービスしたら大当たり。

 

再起に時間かかるか、仏壇で両手合掌のポッくらチーンだね♪

 

いやーええもん見せて貰えたよーWWW

 

 

「あれ?何のアラート?」

 

 

ジ・エーデルはアラートの鳴ったコンピューターのコンソールを動かして画面に映った映像を見ると…

 

目玉ドコー?な位に口あんぐりをさせていた。

 

 

「うっそーん!そんなのアリ!?」

 

 

映像の先には意識を失ったハスミの肉体から出た謎の物体が移動し負傷した炭治郎らを保護していたのだ。

 

ジ・エーデルが折角起こした絶望は、彼女の中に眠るパンドラの箱を開けてしまったのだ。

 

 

「あ、忘れとった!あの子…あの細胞の感染者だった!?」

 

 

ありゃ…ずーっと前にハッキングした記録調書には除染完了したって記載してあったし、可笑しいね?

 

何で?何で?

 

………電球ポーンっとね!!

 

 

「そう言う事か!だから鬼にならなかったのね!!何か面白い事になってきたわんWW」

 

 

ジ・エーデルは映像からの見た現状といくつかの考察の末にある結論を見出した。

 

 

「あの無惨ちゃんの鬼化の力は科学的根拠で説明出来るし面白い事に使えそうだにゃW」

 

 

ゲスい表情で彼は答えた。

 

 

「まさか、あの子の中にDG細胞(・・・・)が残留していたとはねー!」

 

 

=続=




※DG細胞

機動武闘伝Gガンダムに出てくる金属細胞。
元は長年に渡る戦乱によって荒廃した地球環境問題を改善する為に生み出された。
だが、戦争の道具にする輩の介入によってシステムは暴走し人類抹殺を行う様になった。
DG細胞に感染した生物はDGと言う起動兵器の傀儡になる。
例外として我の強い精神力で感染の進行を遅らせたり感染しない場合がある。
感染後は肉体が徐々に機械化し身体の100%…つまり脳内まで感染した場合、治療方法はない。


<原作との違い>

主人公は本来属する世界で発生したDG細胞に感染した経緯があり、原作と違うのはDG自体に人類抹殺の意思はなく、人を傷つける事も自身が壊される事も怖がる子供の様な性格へと変貌していた点。
色々とあり、原作の様な暴走はなくDG細胞感染の経緯も自身を守る為にした自己防衛によるものである。


<遊郭編での覚醒>

主人公の残留していた微量のDG細胞は暴走しない所か体内で共存共栄の道を選び、今の今まで細胞の数を増やしていたがほぼ眠っていた。
だが、鬼化や瀕死の重傷によって細胞が目覚めて行動を開始。
現在は負傷した近場の鬼殺隊の身体に感染し迅速な治療行為を行っている。



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遥か遠き日の夢

死の淵から這い上がってきた彼ら。

見る夢は誰の夢?

それは紐解く夢。



前回から数日後。

 

鎹鴉からの報告で吉原の遊郭に潜む上弦の陸は討伐された。

 

だが、花街に潜む巨躯の鬼と増援で現れた二体の上弦の鬼によって花街は全損。

 

公式記録では近場にあった発電所の事故と言う事で収められた。

 

花街は崩壊したものの花街の人々は生きている。

 

政府からの通達で縮小されていったり、別の形へ変えて存続していくだろう。

 

ときと屋の鯉夏花魁は身受け人の元へ。

 

京極屋は目玉の花魁を失った事で店を畳み新天地へ。

 

荻本屋は睡蓮花魁と猪子を失ったものの…

売人の知り合いから二人に入る保険金を店の再建に使って欲しいと言伝を告げられた。

 

この事件を遊郭事件と呼称し鬼殺隊・本部に記録された。

 

 

******

 

 

その鬼殺隊・本部では緊急柱合会議が開かれていた。

 

何時もの会議を行う場所で悲鳴嶼、不死川、時透、胡蝶、甘露寺、伊黒、冨岡の七人の柱が集合。

 

柱が三名と柱見習い一名と数が足らない状況で輝哉は言葉を告げた。

 

 

「私の可愛い剣士達、この多忙な中で良く集まってくれた。」

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです、益々のご多幸をお祈り申し上げます。」

「ありがとう、小芭内。」

「鎹鴉を通して通達しているが、遊郭に潜む上弦の陸を天元、杏寿郎、炭治郎達が共同で討伐した。」

 

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

 

「ハスミも遊郭に潜んでいた巨躯の鬼を討伐し援軍として現れた上弦の壱と参を相手にたった一人で交戦し撤退させた。」

「なんと!」

「だが、彼らは無惨の鬼とは異なる存在からの攻撃を受け…その場に居た隊士全員が瀕死の重傷を負った。」

 

 

百年越しにもなる勝利からの一瞬の敗北。

 

続けて輝哉ことお館様からしのぶへ容体を聞いた。

 

 

「しのぶ、彼らの容体は?」

「今も意識は戻っていませんが、容体が安定しています。」

「そうか、例の現象は?」

「未だ宇髄さん、煉獄さん、ハスミさん、炭治郎君らに取り付いたままです。」

 

 

しのぶの発言に対して冨岡が違和感な声で答えた。

 

 

「取り付いた?」

「はい、お館様…このままご説明に移っても?」

「うん、彼らの詳しい容体も含めて頼むよ。」

「御意。」

 

 

お館様の指示で何が起こったのかをしのぶは説明し始めた。

 

 

「鎹鴉からの情報では彼らは発見時に死んでいてもおかしくない状態だったのです。」

 

 

火傷から無数の裂傷、骨折に眼球と内臓の損傷、四肢の千切れ。

 

殆どが出血多量による失血死に陥っている状態。

 

宇髄さんと煉獄さんは片目眼球が潰れ腹部内臓の損傷や片腕が千切れかけていました。

 

炭治郎君は顎の骨が折れて至る所の裂傷。

 

善逸君は打撲と両足の複雑骨折。

 

伊之助君は酷い火傷に裂傷。

 

ハスミさんは片方の肩の肉が抉れ両腕は骨が折れて膨れ上がり千切れかけ、刀による切り傷が深すぎて血溜まりが出来る程の出血を起こしていました。

 

この状態では応急処置や蝶屋敷へ搬送しても間に合わなかったでしょう…

 

 

「それが今では容体が安定しているのです。」

「しのぶちゃん、それって取り付いたって事と関係が?」

「甘露寺さんの言う通り、先程の宇髄さん達の負傷した部分に謎の物体が取り付いています。」

「謎の物体?」

「はい、見た目は水銀の様ですが…まるで生きた鉱物の様なものなのです。」

 

 

しのぶの発言に不死川、伊黒、悲鳴嶼、冨岡の四人からの驚愕発言が開始。

 

 

「何じゃそりゃー!?」

「俺は信じないぞ!」

「生きた鉱物とは一体?」

「!?」

 

 

時透は相変わらず?マークを浮かべて混乱している。

 

 

「つまりどういう事?」

 

 

混乱する男衆を余所にしのぶは決定的な言葉を答えた。

 

 

「これはハスミさんに偶然目覚めた血鬼術ではないかと思います。」

 

 

更なる混乱を招くと思ったが、お館様が口元に人差し指を添えて静止し話を継続させた。

 

 

「ハスミも無惨の血を受けていたからね、可能性はあったと思う。」

「はい、禰豆子さんも炭治郎君の危機で鬼を燃やす血鬼術が目覚めたと話していた事がありましたので。」

「ハスミに目覚めた血鬼術がどんな作用を引き出すのか不明だけど信じてみたいんだ。」

「お館様、引き続き宇髄さん達の事は私の方で経過を観察致します。」

「頼んだよ、しのぶ。」

「御意。」

 

 

残りの上弦は五体、巨躯の鬼の出現も微々たるものだが出現が確認されているので警戒を怠らない様にとお館様が話を締めくくった。

 

 

>>>>>>>

 

 

その頃、意識が戻らない炭治郎達はと言うと…

 

何処へ行っても元の場所に戻ってくる空間に閉じ込められていた。

 

ちなみに服装は全員揃って何故か死装束である。

 

 

「俺達どうなったのかな?」

「うーん、よく覚えていない…禰豆子もいないし。」

「何も感じねえし変な場所だな?」

「うむ、不可思議過ぎて良く分からん!」

「派手にどうなってんだが、つか煉獄…流石に少し考えようぜ。」

「…覚えている限りでは私や皆も死んでも可笑しくない負傷していたから仲良く三途の川に来ているとか?」

 

 

善逸の不安発言から炭治郎の正直な回答、伊之助のむしゃくしゃ、杏寿郎のポジティブ、天元のストレートな突っ込みが展開される中。

 

最後のハスミの発言に全員が固まった。

 

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

少しの間の後に始まるのは毎度お馴染みの絶叫時間である。

 

 

「いーやー!!!俺ら!!俺ら死んでるの?ねえ!どうなってるの!?」

「善逸、少し落ち着こうよ。」

「炭治郎ー!!これが落ち着いてられるか?俺ら死んだかもしれないんだぞ!?」

「俺だって何が何だか…」

「うっせぇぞ!!」

 

 

かまぼこ隊のいつものやり取りを見ながら様子見をする大人組。

 

 

「しかし、こうも簡単に死んでしまうとは…」

「若しくは…生死の境を彷徨っているだけかもしれないわね。」

「クジョウ、お前…我妻で遊んでやがるだろ?」

「反応が楽しいから少しね。」

「アイツ、うるせえからとっとと黙らせろや。」

「まあ言い出しっぺは私だし、しょうがないわね。」

 

 

ハスミ、暴走中の善逸に楽しいオハナシ中。

 

 

「混乱させてゴメンナサイ、煩くしてゴメンナサイ、死んでてゴメンナサイ。」

「善逸大丈夫か?」

「…」

 

 

隅っこで体育座りをしながらブツブツと呟く善逸と慰める炭治郎らを置いといて。

 

大人組は引き続き話し合いを続けていた。

 

 

「はぁ!?お前…派手にデケェ鬼に他の上弦の鬼と戦ってたのか!?」

「しかも二体とは!」

「組み合わせは無限列車事件の時の二人よ、但し仕留め損なったけどね。」

「お前、本当に何者だよ?」

「見た通りの存在と言う事で。」

「良く分からんな。」

「とりあえず、そっちは上弦の陸を仕留められたのでしょ?」

「ああ、お前の足止めのお陰でな。」

「うむ、手ごわい相手だったが宇髄や竈門少年達のお陰で無事に頸を斬る事が出来た。」

 

 

宇髄らは影の功労者であるハスミに礼を伝えた。

 

一通りの情報交換の後に本題へと入った。

 

 

「んで、ここは一体?」

「私にも判らない、敵の血鬼術ではない事は確かよ。」

「だが、彼女の言う通り俺達は全員負傷している…文字通りに死に掛けているがただしいのでは?」

「最後に見た現状からだと、それ位しか思いつかないのよね。」

「ド派手に臨死体験するとは思わなかったぞ。」

「それにこうして話していられるのも不思議な位よ。」

 

 

深まる謎。

 

その答えは直ぐ傍に近づいていた。

 

 

「これは…」

 

 

話し合いを続ける一行の空間の景色が変わった。

 

梅の木に止まるメジロ。

 

ある人物に取って見慣れた風景でもあった。

 

 

「ここ雲取山だ…それにあれは俺の家です!」

「間違いないわ、私も冬の間だけど見た事がある。」

 

 

炭治郎とハスミは景色の場所が竈門家の生家であると告げる。

 

杏寿郎はこの空間が炭治郎の夢の中ではと告げるが誰かが出てくるのを察したハスミが話を静止させた。

 

 

「もしや、ここは竈門少年の夢の中?」

「待って、誰か出てくる。」

 

 

縁側で剣士らしき人物が赤子を抱いて座っていた。

 

同じ様に家の中からお膳を持って現れた青年の姿があった。

 

 

『本当に申し訳ない、客人に子守をさせてしまって。』

『気にするな、疲れているのだろう…子供を産んで育てる事は大変な事だ。』

 

 

他愛もない会話。

 

額に痣のない炭治郎にそっくりな青年は赤子の父親。

 

室内の奥で眠る人物は奥さんだろう。

 

炭治郎と同じ花札の耳飾りを付けた剣士は命の恩人と言われていた。

 

剣士は長居はせずに出て行くと話すが、青年はそれを静止したもの…

 

茶を啜る無言のままの剣士に対して青年は答えた。

 

 

『…判りました、ならばせめて貴方の事を後世に伝えます。』

『必要ない。』

『しかし…後を継ぐ方が居なくて困っておられるのでしょう?』

『…』

『しがない炭焼きの俺には無理でも、いつか誰かが…』

『必要ない。』

 

 

剣士は必要ないの真意を青年に答えた。

 

 

『炭吉、道を極めた者が辿り着く場所はいつも同じだ。』

 

 

時代が変わろうともそこに至るまでの道のりが違おうとも必ず同じ場所に行きつく。

 

 

『お前には私が何か特別な人間に見えているらしいがそんなことはない。』

 

 

私は大切なものを何一つ守れず人生に置いて為すべき事を成せなかった者だ。

 

 

『何の価値もない男なのだ。』

 

 

愛した妻も生まれてくる筈だった子を守れず、鬼と成った双子の兄を斬れなかった。

 

この戦国の世で何も…

 

 

『縁壱さん!そんな事はないです…貴方は俺達を守ってくれました。』

 

 

約束します、貴方の舞を俺達が後世に伝えると!!

 

だから…〇〇〇〇〇〇〇〇〇!!!

 

 

『!』

 

 

ここでこの夢は途切れた。

 

本当に炭治郎君の夢だったのだろうか?

 

現実か?夢か?

 

私達は同時に蝶屋敷の病室で目覚めた。

 

目覚めた私達を見て吃驚し花瓶を割ってしまったカナヲと再会。

 

彼女の話では遊郭事件から約一か月ぶりの目覚めだったそうだ。

 

後、部屋の隅っこに隠れている三毛にゃんこの茶々丸よ…本当にゴメンね。

 

 

=続=

 



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紅霧村編
白銀の守護


形容しがたい何か。

それは在るべき形を守る者。

だが、ある意味では禁忌の力。

その時代に存在してはならない力だった。



前回から一時間後の事。

 

お見舞いの品であるカステラを持参して隠の後藤さんの巨大声によって駆け付けた蝶屋敷の人々。

 

すみ、きよ、なほの三人に慌てて洗濯したシーツごと持ってきてお化けになってしまったアオイが病室に駆け付けたのだ。

 

 

「無事でよかったですぅ。」

「カステラが落ちてる。」

「あんぱんあげますね。」

「すみません、私の代わりに任務に行ったばかりに…!」

 

 

と、炭治郎君らの周囲が騒がしいのと半面に宇髄に関して無視されていた。

 

 

「おい、俺は…!!」

「無理と思うわよ。」

「うむ、宇髄が遊郭事件の前のやらかした騒動が原因だな。」

「けっ!」

 

 

その後、私達が目覚めた事を聞きつけた鬼殺隊の面々が任務の合間に顔を出していた。

 

音柱は三人の嫁達に号泣され抱きつかれていた。

 

炎柱は弟君に引っ張られて連れて来られた煉獄父と軽い話し合いをしていた。

 

どうやら改善された様子で安心した。

 

まあ、アル中な酒柱に逆戻りしたら『死ぬ気で逃走中・第三弾』をするけどね。

 

周囲が生還の喜びに浸る中で私が考えるべき問題はこれである。

 

 

「…(やっぱりDG細胞よね?」

 

 

DG細胞はDGのコアから三大理論に基づいて起動しているのだけど…

 

ちなみにこの三大理論は増殖・再生・進化の事ね。

 

とりあえず、私の中で残留していたDG細胞のお陰で皆も助かったって事か。

 

と、すると私の鬼化が進まないのはDG細胞のお陰って事?

 

それなら鬼化する所か人間のままの筈だし。

 

もしかしたらこのDG細胞の異物除染の力が弱いのかしら?

 

近場に居た炭治郎君達にも取り付いているけど暴走している訳でもない。

 

本当に欠損部分や負傷した傷を治しているだけだし。

 

…今は様子を見るしかないわね。

 

問題は鬼殺隊にどう説明するかって事だけだわ。

 

いっその事、私の血鬼術って事にしておこうかな?

 

 

「なほちゃん、手鏡ある?」

「あ、はい…今持ってきますね。」

 

 

私はなほちゃんに手鏡を持ってきて貰い自身の顔の状態を見た。

 

上手く包帯で隠れているが、はみ出てしまっている部分からDG細胞が今も感染している状態が見えていた。

 

 

「本当にズタボロ。」

「ハスミさん…」

「大丈夫、ご飯食べて日の光を浴びて寝れば良くなるわ。」

「はい。」

 

 

ちょっと涙目になっているなほちゃんに私は大丈夫と告げた。

 

但し、周囲が余りにも騒がしいのが玉に瑕。

 

 

「えー!!なにこれ!?」

「傷跡に何かが貼り付いている?」

「くっそー!これ全然とれねー!!」

「うむ、見事なまでにとんでもない事になっているな!!」

「寝ている間に随分とド派手な事になってんな!」

 

 

その後、アオイちゃんに『病室では静かに!!』とお叱りを受けるのはいつもの事だった。

 

 

******

 

 

 

更に数週間後、傷が癒えた私達は機能回復訓練に参加。

 

何時もの柔軟から薬湯の高速引っ掛けなどお決まりのメニューを行った。

 

炭治郎君達に取り付いたDG細胞は跡形もなく姿を消した。

 

恐らくは役目を終えて眠ったのだろう。

 

後々、除染させないといけないが今は彼らを守って貰おうと思った。

 

 

 

「「お館様の御成です。」」

 

 

「無事再会出来た事を嬉しく思うよ、天元、杏寿郎、ハスミ、炭治郎。」

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです、益々のご多幸をお祈り申し上げます。」

「ありがとう、天元。」

 

 

任務に復帰する事が可能となった私達はお館様に呼ばれた。

 

産屋敷邸にて事後報告を行う為である。

 

 

「早速だけどハスミ、君に目覚めた血鬼術…それを緊急時に置ける救命措置として使ってくれないかな?」

「お館様、それは…」

「勿論、君の血鬼術に攻撃性はない事はしのぶの経過報告で判っている。」

「…」

「この決定には実弥や小芭内は拒絶していた、それでもあの事件の様な事が在ればそうは言っていられない。」

「…お館様。」

「どうか、君の仲間…私の可愛い剣士達を守って欲しい。」

「御意。」

 

 

本当は危険だから多用して欲しくなかった。

 

だが、ジ・エーデルの巨躯の鬼や規模が不明な機動兵器がいつ牙を向くか判らない。

 

出来る事なら使う事がない事を祈りたいが、そうもいかないだろう。

 

 

「そして君達に急を要する任務を告げなければならない。」

「お館様、あの…それは一体?」

「三日ほど前、ある村に派遣した実弥と小芭内の消息が途絶えた。」

「よもや、不死川と伊黒が?」

「お館様、その村の名は?」

紅霧村(あかぎりむら)、通称…雛形の里と呼ばれている。」

 

 

お館様は続けてその村にまつわる噂を告げた。

 

 

「そこでは人形に死者の魂が宿ると言う噂が立ち込めているんだ。」

「…鬼かジ・エーデルか、調べるには十分な内容ですね。」

「ハスミ、君なら捜索に乗ってくれると思ったよ。」

 

 

お館様はニコリと微笑むと任務の間の隊士達の編成を告げた。

 

 

「引き続き、柱の不在地区には前回同様に下級隊士達を派遣しておいてある。」

「これで柱が五人も抜ける事になる…厄介な事だな。」

「ま、遊郭の上弦を倒した以上は奴らも暫くは手を出さないだろう。」

「出来得る事なら早期に解決すべきね。」

「はい。」

 

 

お館様はそれぞれの柱の顔を見て名を告げて任務を通達した。

 

 

「では、天元、杏寿郎、ハスミ、炭治郎、よろしく頼むよ?」

 

 

四人はお館様に向けて言葉を紡ぐ。

 

 

「「「「御意。」」」」

 

 

=続=





アンケートにご参加頂き有難うございます。

アンケートの結果、今回を含めてIFルートの雛形の里こと紅霧村編を開始。

時系列は遊郭編後と刀鍛冶の里編の間の話になります。


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温泉で語ろう

柱二名の消息。

告げられた緊急任務。

往くべき先は曰く付きの場所。

これはその道中の話である。


お館様からのご命令で紅霧村へ向かっていた私達。

 

今回のメンバーは私ことハスミ、音柱、炎柱、炭治郎君、善逸君、伊之助君。

 

前回と同じメンバーだった。

 

恐らく、お館様は私が目覚めさせてしまった血鬼術の経過観察の為に任務を与えたのだろう。

 

お館様は私の血鬼術=DG細胞の危険性を薄々気付いている。

 

毒を以て毒を制すつもりなのだろうか?

 

今はただ目処前の任務に集中するしかない、か…

 

 

******

 

 

渓谷を沿って作られた旅路を移動する三台の単車。

 

天候は良好、程良い暖かさと四月後半の風が心地良い。

 

 

「しっかしド派手に速ぇえな!!」

「うむ、これのお陰で僅か三日で目的地に向かえるとは!」

「二人とも余所見しないで運転に集中。」

 

 

音柱と炎柱がはしゃぐのも無理はない。

 

遊郭事件後、私はジ・エーデルが本格的に介入する可能性がある事を予測。

 

かねてから移動兼戦闘バイクを数台程搬入する事にしたのだ。

 

で、風柱に続き…現在進行形で音柱と炎柱が乗り回している。

 

ジ・エーデルの介入時の戦闘は火力と戦力が必要。

 

だからこその措置としてお館様に許可を頂いた。

 

今回の任務先は長距離…最南端の地。

 

ちなみにバイクは三台で炭治郎君らかまぼこ隊は一人ずつ後部座席にしがみ付いて乗車して貰っている。

 

ちゃんと三人にはバイク搭乗時は騒がない様にと強ーく念を押して置いた。

 

 

「ハスミさん、紅霧村ってどんな所なんですか?」

「そうね、元は絡繰り人形作りを生業とする集落だったそうよ。」

 

 

私は音柱の後ろで相乗りしている善逸君の質問に対して答えた。

 

雛形の里と異名を持つ紅霧村は絡繰り人形作りを生業する村。

 

長い歴史の中でその技術力を買われて鉄砲や大砲を作る事もあった。

 

但し、紅霧村の奥にある鉱山を求めて集落は歴史上の中で自由を奪われる時代も存在した。

 

現在は帝都や京都の人形劇用や異国の人々が土産物として購入する程度の絡繰り人形を作っている。

 

お館様の話では数か月前から村の様子がおかしく、近隣の村々に死者を模した人形の化け物が出ると噂される様になった。

 

 

「絡繰り人形ってゼンマイで動くアレ?」

「基本はそうだけど、異国で造られていたのはそうではないわ。」

「どういう事ですか?」

「似た構造で製造された拷問用の道具があるのよ。」

「拷問!?」

「一例として鋼鉄の処女と呼ばれる犠牲者の全身の血を抜く道具がそれね。」

「具大的には…?」

「血管の太い所を目掛けて太い棘が全身に突き刺さって血抜きをするの…犠牲者は出血多量で確実に死亡する。」

「ちょっと!?なんちゅうもん作ってんだよ!!」

「作成されたのは戦時中だったし、捕虜に敵の居場所を吐かせる為に使用されていたのよ。」

「ヒデェ…」

「戦後は徐々に拷問器具は廃止されて、一部の技術は橋を上げる装置に使われたりと多用されているわ。」

 

 

戦いによって生み出された技術は数多くの利益を生んだ。

 

戦いこそが永遠に続く存続への道と言うシャドウミラーの様な思想にも似ているけど…

 

戦争云々は関係ない、道具は使う人次第で毒にも薬にも変わる。

 

ただそれだけの事。

 

 

「恨みの矛先が噂の根源か…或いは。」

「鬼か、お前が追っている奴か、だろ?」

「そのどちらかだったら…こちらでも収拾出来るけど、逆に人が起こした騒動だったら?」

「俺達の介入は出来ない領域、潔く去るしかなるだろう。」

「だが、不死川と伊黒が姿と消した……俺達の目的は二人の奪還だ。」

「判っているわ、もしも…ジ・エーデルの介入だったら私が奴のひじき芋頭に風穴開けてやるけど。」

「…ハスミさん、相当根に持っているみたいだ。」

「発言が怖ぇええ。」

「ウン。」

 

 

移動道中での話は目的地へ中継する予定の場所まで継続。

 

その夕刻に中継地点にある藤の花の家紋の家へと辿り着いた。

 

バイクは目立つので空いている馬小屋へ隠して一行はここで一泊。

 

人気のない早朝に出発する事となった。

 

 

 

>>>>>>

 

 

カポーン。

 

 

「「「はぁ~」」」

 

 

引き続き、藤の花の家紋の家にて。

 

この家は旅館を経営しており、一行は夕食前に露天風呂で一息ついていた。

 

ちなみに某顔文字の様な声を上げているのは炭治郎君らかまぼこ隊。

 

横で水も滴る良い野郎状態で入っている宇髄と煉獄の二名。

 

念の為に言うが露天風呂は仕切りがされて男女別である。

 

 

 

残念ながら!!!

 

 

 

男女別である!!!

 

 

 

以上!!

 

 

 

「ムー♪ムー♪」

「禰豆子ちゃん、気持ちがいいね。」

 

 

ハスミは禰豆子の面倒を見ながら一緒に女湯の露天風呂で入浴中である。

 

同時に入浴前には男衆にはある事を告げていた。

 

 

 

『もしも覗いたら…六連式ガトリング砲で全身に風穴開けるからそのつもりで。』

 

 

ある意味で処刑宣告を喰らった男衆は顔芸込みで『あ、ハイ。』で締めくくった。

 

 

「こっちはもう桜は全部散ったと思っていたんだけどよ…」

「まだ少し名残があるのだな。」

 

 

四月終わりの名残風で何処からか舞って来た桜の花びらを見ながら宇髄と煉獄は答える。

 

 

「音柱、炎柱、食事が終わったら会議でいいかしら?」

「そうするか?」

「うむ、ならば…寝酒は程々にしないとな。」

 

 

仕切り越しで大人組は食事後に紅霧村についての対策を練る事に決定。

 

 

「…(無惨とジ・エーデル、どちらが出てこようとも同じ様に殲滅するだけよ。」

 

 

大掛かりになりそうな任務の前、今は少し熱めの温泉を堪能する事にしよう。

 

ハスミはそう思いながら半月の夜空を見上げた。

 

 

=続=




※武装可変バイク・疾駆(しっく)、紅蓮(ぐれん)、轟天(ごうてん)。

過去に主人公が白兵戦で使用していたバイク。
主に巨躯の鬼の大群と交戦時に使用。
疾駆の基本武装はミサイルランチャーと機関銃、各二丁。

各バイクの各所にアーミーナイフ数本と手榴弾、使用重火器の弾倉が仕込まれている。
自動追尾モードと操縦モードがあるので故障がなければ誰でも運転は可能。
本人は通常マニュアルで動かしている。
電動式でバッテリーは三日分の日光で完全充電が可能。
定員は操縦者を含めて二名まで。

紅蓮は実弾砲を積んだ砲撃型、轟天は牽引用アンカーと巨大化させた暗器を積んだ対空型。

車体色は疾駆が白、紅蓮が赤、轟天が黒。
主人公は今回の任務で同行したメンバーに伝えていないが三台とも自立モードに移行すると人型に変形が可能。
ジ・エーデルの本格的な介入によって戦力増加を余儀なくされた苦肉の策である。



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兵器を操る者

敵の姿は見えず。

指し示される言葉はただ一つ。

動く人形。


前回から数刻後、夕餉を済ませた私達。

 

春の名残が残る山菜と筍、川魚料理で一息つく筈だったが…

 

その料理のメニューに天麩羅があったので伊之助君が暴走。

 

オチとして私の毒舌説教と音柱の拳骨込みで軽く絞めて置いた。

 

仲居さんに『あらあら、まるで親子みたいですね。』と言われ…

 

音柱とハモって『『全く違います!!』』と弁解して置いた。

 

家主から『おかわりはいっぱいありますよ。』と言う事でとりあえずは収めました。

 

ちなみに炎柱は騒動の横で『うまい!』の連続発言と丼の山を築いていたが、私自身も身体維持の為にそれなりの量を食べなければならないので放っておいた。

 

その後は予定していた紅霧村での調査の件で会議を開始した所だった。

 

 

******

 

 

「まず、紅霧村とその周辺の地図を滞在中の隠経由で取り寄せて貰ったわ。」

 

 

卓袱台に地図を広げるハスミ。

 

地図には紅霧村とその周辺の状況が記されていた。

 

 

「随分と閉鎖的な村なのだな?」

「この形だと村自体が砦にもなるんじゃねえか?」

「そうね、長年に渡る外部からの侵略を防ぐ為に今の作りになったそうよ。」

 

 

煉獄と宇髄の言葉通り、紅霧村は村周囲が崖に囲まれた天然の砦。

 

村の中心地、その地下には坑道へ下りる時や鉱石を運ぶ時に使用する人力の大型昇降機があるらしい。

 

坑道の他に地下水脈もあり、水源の確保や土壌も良いので農作物を自力で生産出来る。

 

この事から戦乱の頃、敵は兵糧攻めすら行えなかったと思われる。

 

 

「この印は?」

 

 

炭治郎が地図に記された印に気が付いたのでハスミが追加の説明を続けた。

 

 

「鎹鴉から聞いた風柱と蛇柱の侵入した経路よ、その場所は可動式の橋になってて出入りの際はこの橋を渡らないと村から出られない様になっているの。」

「まさに難攻不落、進路も退路も自由に塞げるとは……見事な砦の村だ。」

「クジョウ、例の人形の件は?」

「隠経由で聞いた風柱達からの最後の情報では、正体は勝手に動く絡繰り人形だったそうよ。」

「勝手に?」

「恐らくは自動人形……オートマターの一種かもしれない。」

「オート?って何ですか?」

 

 

続けて善逸からの質問に対してもハスミが説明を行った。

 

 

「オートマターと言うのは予め決められた指示を人形に組み込ませる事で特定の動きを行える様にした自動で動く人形の事よ。」

「異国じゃあ普通にあるのか?」

「昼間の運転中に話した物程度ならあるけど、問題の現物に関しては直接見ないと私にも判別が難しいわ。」

「…となると、作戦を変えた方がいいな。」

 

 

宇髄からの提案で問題の人形の捜索、それが済み次第…村への潜入と消息不明の風柱達の行方を追う形となった。

 

余り時間が取れないが、探すべき場所を絞る為にも致し方ない。

 

そして大人組から就寝を促されるかまぼこ隊。

 

 

「つー事で餓鬼共は明日に備えて寝ろ。」

「いいんですか?」

「うむ、君らも長旅で疲れているだろう…早く寝るといい。」

「明日も夜明け前に出るから早めに起きてね。」

 

 

何時ものペースで漫才じみた会話をする善逸と伊之助。

 

 

「それならお言葉に甘えて…」

「じゃ、寝るぜ。」

「お前は少し自重しろよ!」

「くかーzzzzZZ!!!」

「てか!もう寝てるし!?」

「すみません、先に休みます。」

 

 

善逸は鼻提灯を作って爆睡している伊之助を担ぎ。

 

炭治郎は禰豆子の入った箱を持って隣の部屋に向かった。

 

 

「…アイツら、いつもああなのか?」

「大体は。」

「クジョウは面倒見がいいのだな。」

「炭治郎君が仲裁に入ってくれるから半分だけどね。」

 

 

遺された大人組は顔芸込みの愚痴の後に茶を啜りながら話を続けた。

 

 

「で、お前は何処まで知っている?」

「何をかしら?」

「とぼけんなよ、今回の件…お前なら察しがついているんだろ?」

「…恐らくはジ・エーデルの仕業と見ているわ。」

「根拠は?」

「奴は何処かに生産工場を構えている、理由は遊郭での爆撃が奴の仕業であり…その爆撃を行える兵器を作れる場所があると推測したからよ。」

「もしや、俺達が負傷した時の?」

「そうよ、鎹鴉が発見した時はその場に居た全員が瀕死の重傷…私も上弦の壱と参の攻撃を受けて死ぬ一歩手前だったわ。」

「…だが、君の血鬼術で事無きを得たのだろう?」

 

 

二人は既に終わった事と思っているのだろう。

 

私は問題はそこではない事を理解して貰う為にある事をした。

 

 

「…炎柱、少し手を借りるわよ。」

「む、判った。」

 

 

私は普段は引っ込ませている鬼の爪で炎柱の片手の甲を少し切った。

 

暫くすると炎柱の傷から銀色の物体が滲み出し薄い膜を作っていった。

 

 

「これは?」

「まだ、お前の術が続いていたのか?」

「私も何度か試験してみた所、これは常時発動型の血鬼術の様なの。」

「…」

 

 

この力で多少の傷は直ぐに治るが重症の場合は完全に意識を失う。

 

 

「ジ・エーデルも既にこの力に気が付いてると思う。」

「…なら、今回の騒動は!」

「私達をおびき寄せる為の罠よ。」

「!?」

「そして紅霧村は奴の生産工場、動く絡繰り人形は奴の生み出した対人兵器と思われるわ。」

「その村に不死川と伊黒も捕らわれていると?」

「ほぼ確定と見ていい。」

「ややっこしい事になったな。」

「今回の件が鬼によるものでない以上、皆が関わる必要はないわ。」

 

 

ハスミは出来る事なら巻き込みたくないと告げようとすると。

 

 

「クジョウ、君らしくない判断だな。」

「俺達も奴に恨みがある、ここらでド派手に反撃してやってもいいだろ?」

「炎柱、音柱。」

「お前には嫁を救って貰った恩がある。」

「うむ、お館様からも君の宿敵が現れた際には協力してやってくれと言われているのでな。」

「…既にお館様は察していたのね。」

 

 

今は、その気持ちを受け取って置くわ。

 

 

=続=



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天災は忘れた頃にやってくる


言葉通りの現象。

天才は天災であり。

理不尽で無尽に力を振るう。


 

お館様の指示で紅霧村への捜索隊が組まれ、ハスミら第一陣が本部から出立した頃。

 

ここ紅霧村のある場所ではある人物達は危機に落ちていた。

 

 

******

 

 

「…」

「…」

「そんなに睨まなくても、別に取って喰うつもりないんだけどね。」

 

 

紅霧村の地下坑道のの更に最下層にある空間。

 

そこには今の技術では到底製造する事が不可能な施設が建造されていた。

 

知る者が居れば、そこが兵器の生産プラントである事が判明しただろう。

 

 

「自己紹介がまだだったね、ワシの名はジエー・ベイベル、ジエー博士って呼んでちょ♪」

「んな事はどうでもいい!!さっさとこれ外せや!この糞ジジイ…っ!?」

「不死川!?」

「あんまり口が過ぎると~電気ビリビリで痛った~い思いをしちゃうけど?」

 

 

状況からジエーに捕らえられた風柱の不死川実弥と蛇柱の伊黒小芭内。

 

ジエーの生産プラント内部の一室にて、天井から下げられた手錠に繋がれた二名とその下でコンソールを弄るジエーの姿があった。

 

不死川に関してはジエーの気に障る事を言った為に電気ショックを受けていた。

 

その状況に伊黒はジエーに叫んだ。

 

 

「ジエーと言ったな!俺達を捕らえてどうするつもりだ?」

「そうだね……君は顔がいいからオジサンと良い事しちゃうとか?」

「…(オエ。」

 

 

ジエーの発言に顔を青褪めさせる伊黒。

 

奴のキモイ表情と下種な発言で嫌悪感MAXの気持ち悪さが全身を伝ったのだろう。

 

伊黒の首元に隠れている白蛇の鏑丸も主人と同じ表情をしていた。

 

 

「ま、冗談はさておき……君達鬼狩りならあの子から事情は聞いているんじゃない?」

「あの子?」

「そりゃ勿論、クジョウ・ハスミって子だよ。」

「彼女とお前に何の関係が?」

「んーとね、切っても切れない御縁って言うか?殺し合う仲とか?そんな感じ?」

「てぇ事は、テメェはあの半鬼女の言っていた糞ひじき芋か?」

「いやん、すっごい罵倒♪もっと言ってもいいのよw」

 

 

「「…」」

 

 

「何で黙っちゃうの?もしかして放置プレイって奴?」

「知るかっ!!!」

「…(クジョウがしきりに奴に風穴開けたいと言っていた意味が分かった。」

 

 

相変わらずのテンションに不死川は怒り、伊黒は心の中で顔芸をしつつある意味で察した。

 

 

「そういう事で君達はハスミたんを誘き寄せる為の餌になって貰いまーすw」

 

 

ジエーの目的たる発言に対して驚く二名。

 

 

「「!?」」

 

 

状況から見るに只の捕虜程度と思ったが、別の目的があった事を知る事となった。

 

 

「最も爆撃した遊郭でぶっ倒れたあの子から出て来たアレに用があるのよ。」

「…半鬼女の血鬼術の事か?」

 

 

ジエーは血鬼術?と頸を傾げたが何かを察して話を続けた。

 

 

「そ、多分使い方は未知数だけど、ワシが改造すれば面白い能力になるのよね?」

「何だと?」

「それは秘密ー♪」

「…この糞ジジイ。」

「だって、調べないとまだ確証がないもんw」

 

 

人を煽り人に不快な発言を続けるジエー。

 

彼は二人に残酷な行為を行う事を告げた。

 

 

「ついでに言うと君らにも協力して貰うけど?」

「んだと!?」

「ふざけるな!」

「もっちー拒否権もへったくれもないよw」

 

 

ジエーは引き続きコンソールを動かして天井から伸びる手錠を上に上昇させた。

 

どうやら別室に送られる模様である。

 

 

「テメェ!!ふざけんな!細切れにすんぞ!この糞ジジイ!!」

「不死川の言う通りだ、覚えておけ!!」

 

 

抵抗と言う抵抗も出来ずに二人は別室へと移された。

 

 

「はふ~すっごーく騒がしい連中だったね。」

 

 

ジエーも似合わない溜息をついた後にメインモニターのコンソールに移動しカタカタと打ち出した。

 

 

「さってと、二人は後でいくらでも弄れるし……こっちの作業を終わらせちゃおう。」

 

 

モニターの先に映し出されているのは無数の対人兵器の製造エリアと得体の知れない何かが培養槽で改造を受けていた。

 

 

「にょほほほほほほ~ハスミたん、この世界の制約がある以上はいつもの戦闘は出来ないけど…これだけの兵器群を君だけで止められるかな?」

 

 

ジエー・ベイベル…真の名をジ・エーデル・ベルナル。

 

この愉快犯は放置すれば、いずれ世界を混乱させるだろう。

 

史実通りの戦乱ではなく人類抹殺と言える滅亡すら惹き起こせる。

 

鬼狩りと無惨の鬼との争いが篝火ならば、奴の行動は核弾頭による焦土を生み出す。

 

危険極まりない存在が彼だ。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、紅霧村の外では。

 

 

「兄貴に蛇柱…連絡が遅いな。」

 

 

近くの集落で本部との連絡役として残っていた不死川玄弥。

 

鎹鴉を通した定期連絡の時間も過ぎており、不安を感じ取っていた。

 

暫く待機していると開けられた窓から鎹鴉がやってくる。

 

 

「やっと来たか、随分と遅かったな。」

 

 

玄弥は鎹鴉に労いの言葉を掛けるが、状況を一変させる発言をしたのだ。

 

 

「緊急!緊急!風柱と蛇柱が紅霧村へ侵入後に消息不明!消息不明!」

「何だって!?」

「紅霧村周辺に人を襲う動く人形が出現、現在この集落への侵攻は無し。」

「急いで本部に知らせねえと!」

 

 

玄弥は自身の鎹鴉を呼ぶとこれまでの調査報告と柱が行方不明と言う緊急事態を本部に連絡を送らせた。

 

 

「頼んだぞ!」

 

 

一羽の鎹鴉が危機を知らせる為に飛び立った。

 

だが、この時玄弥は知らなかった。

 

紅霧村では既に兄達の身に危険が生じていた事を…

 

それは最悪の形で遭遇する事となる。

 

 

=続=

 



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ハスミ式オハナシとは?

お弁当争奪戦。

分けるべき物は分けましょう。


早朝、お世話になった藤の花の家紋の家の旅館を後にした。

 

切り火と出立の挨拶に出てくれた家主から移動道中で食事を取れる様にとおにぎりの入った包みを手渡された。

 

気を使って貰い申し訳ないと思う。

 

逆に物足りなさそうな顔をしている伊之助君とちょっと量が足りないけど我慢している炎柱には残念だが我慢して貰おう。

 

後で私の持参した携帯食も追加しとこう。

 

流石に任務中に腹の虫で抗議じゃ洒落になりません。

 

 

******

 

 

夜明けを迎えて暫くした後、一度休憩を取ってから再出発。

 

例の如く、おにぎりの取り合い合戦が開始。

 

人数分を横取りし余計に食べようとした伊之助君に私ことハスミは雷を落としました。

 

 

「伊之助君、ちょっとそこでオハナシしようか?」

「ア…」

 

 

背後に閻魔オーラを醸し出したハスミに片方の肩をポンポンされる伊之助。

 

その様子を見た善逸と炭治郎は表情を青褪めた後に硬直した。

 

 

「ひっ!?」

「ハスミさん。」

 

 

普段はオハナシ程度で済ませているが流石に堪忍袋の緒が切れました。

 

私は近場の道の端に伊之助君を正座させ私も相向かいに正座をした。

 

久々に説教タイムを開始。

 

 

「さて、伊之助君…言いたい事は解るよね?」

「ハイ。」

「おにぎりは人数分用意されています、人の断りもなく余分に食べる事は出来ません。」

「ハイ。」

「それでも貴方は強制的にかつ無理やり強奪して食べようとしました。」

「ハイ。」

「何で怒っているか判っているよね?」

「ハイ。」

 

 

一言、一言の圧が凄すぎて時間が止まったかのように宇髄を含めた四人は動きを止めていた。

 

 

「伊之助君、前に教えた事を復唱して。」

「勝手に人のメシを取らない、食べたい時は相手に言う、皆で均等に分ける。」

「まだあるわよね?」

「すぐに怒らねえ事。」

「はい、良く出来たね?」

「…ハイ。」

「いい事?次もやったら………洗濯板で尻叩き以上のお仕置きよ?」

「ハイ…」

「…返事はハッキリよね?」

「ハイ!?」

 

 

ハスミの洗濯板で尻叩きの発言に四人は顔芸で白目を剥いていた。

 

伊之助は先程の勢いが消えて意気消沈の真っ白に燃え尽きた状態。

 

そんな状況に対して四人はボソリと心境を吐露した。

 

 

「何か伊之助への躾がかなりヤバい事になってるぜ。」

「…う、うん。」

「…うむ、尻に洗濯板は痛いな。」

「…クジョウと結婚した奴は絶対に地獄を見るぞ。」

「それは同意する、元柱である父上に自棄酒すると襲われる恐怖を植え付けたのも彼女だからな。」

「煉獄の旦那はクジョウの逆鱗に触れた結果じゃなかったか?」

「それもあるな。」

「元柱から恐怖の対象にされるって…」

「ちなみに竈門少年の頭突きも恐怖の対象らしい。」

「…その節は済みません。」

「炭治郎の頭突きって普通の鬼なら怯ませられるもんな。」

 

 

クジョウ・ハスミ、後の未来で騒動を起こした結婚相手となる相手に鉄拳制裁の腹パンをお見舞いするのだが…

 

そのダメージが軽いじゃれ合い程度にしか効いていない強靭な存在である事を炭治郎達は知る由もなかった。

 

 

「さてと気を取り直して朝御飯取っちゃいましょうか?」

 

 

そんなハスミは四人の呟きをさらりとスルーしたのだった。

 

 

「移動経路から察するに大分距離を縮められたから…昼過ぎには目的地に到着出来そうね。」

「ハスミさん、そのまま目的地へ向かうんですか?」

「いえ、目的地手前の集落に向かって待機中の隊士と合流する。」

「そうだな、また情報が入っているかもしれない。」

「音柱の言う通り、今回は距離が距離だから鎹鴉からの情報の行き違いがある可能性は否定できないわ。」

 

 

ひと騒動の後に遅めの朝餉を取る一行。

 

ハスミは自身で作図した地図を見ながら炭治郎と宇髄に説明をしていた。

 

 

「それと敵の総本山に計画も無しに突っ込む事はやらないから。」

「う、済みません…」

「なら、どうする?」

「一度、周辺の偵察をした方がいい。」

「だな、向こうが俺達の侵入に気が付いている可能性もある。」

 

 

ハスミは少し考えてから偵察メンバーを伝える。

 

 

「偵察に行くのは私と音柱、炭治郎で。」

「あの…どうして俺?」

「能力は申し分ないけど、善逸君と伊之助君じゃ騒がしくてすぐに見つかるからよ。」

「ついでに言えば煉獄は二人の足止めだな?」

「そう言う事です。」

「成程…(デスヨネ。」

 

 

柱二名からの最もな意見に対して納得する炭治郎。

 

 

「それに敵が消息不明の風柱達を捕らえていても不思議じゃないわ。」

「えっ!?」

「考えてみなさい、鬼狩りの精鋭である柱が二人も消息不明になると言う事はそれなりの危険が起こったって事。」

「確かに…」

「実力は申し分ないのだから、恐らく二人にはどうする事も出来ない状況が続いている。」

 

 

目的地へ近づくに連れて嫌な気配を感じる様になった。

 

ジ・エーデルは人を嘲笑し人を貶める手腕を持つ。

 

だからこそ用心しなければならない。

 

最悪の場合、風柱達は奴に洗脳されている可能性もある。

 

油断は出来ない。

 

 

「クジョウ、アイツらも喰い終わったしそろそろ行くか?」

「もう少し休ませておいて、乗っている間に車酔いで吐かれても困るから。」

「車酔い?」

「食事を取った後に十分な休憩を取らずに急激な揺れや運動をすると起こる胃の拒絶反応よ。」

「電車とは違うんですか?」

「そうね、電車は兎も角…単車は結構揺れるからその反動でなりやすいわよ?」

 

 

ハスミは『考えて見なさいよ、乗車中に自分の背中に吐かれたくないでしょ?』と静かに告げた。

 

 

「そりゃ困る。」

「そうですよね。」

「そう言う事だから、もう少し休憩取りましょう。」

 

 

=続=

 



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感覚を信じて進め


向かうは敵の総本山。

蠢く殺人兵器を潜り抜け。

深い地の底へ潜れ。


 

予定通り、昼過ぎに紅霧村に近い集落へ到着した私達。

 

その集落に待機していた玄弥と合流し、宿泊先の家で事の次第を聞かせて貰った。

 

 

「…成程、報告通りに二人だけで紅霧村に向かったのね。」

「最初の定期連絡は来ていましたが、約束の夕暮れ時になっても戻って来ませんでした。」

「玄弥君が本部に緊急連絡を早めにしてくれた事は正解よ。」

「もしかして兄貴達に何か?」

「ええ、あくまで推測…深く考えなくても大丈夫だから。」

「あ、はい。」

 

 

思春期らしく女性が苦手な玄弥であるが、ハスミに対しては普通に接している。

 

彼曰く、ハスミは年上のお姉さんと言うよりも面倒見のいい母親に近いらしい。

 

銃器に関する修行も付けて貰っているのである意味では先生の方が正しいのかもしれない。

 

 

「玄弥はお兄さんと合同の任務になってたんだ。」

「そうなんだけど、道中物凄くピリピリしてて蛇柱様の仲裁が無かったらどうなっていたか…」

「大変だったみたいだね。」

「ああ…(だって、ブチ切れした兄ちゃんにタマ取られそうな位の気迫だったし。」

 

 

玄弥と話し合う炭治郎。

 

その道中の恐怖を玄弥は震えながら話していた。

 

 

「…(伊黒、何時もの毒舌役が珍しく仲裁役かよ。」

 

 

同じ様に宇髄も心の中で突っ込みを入れた。

 

引き続き話し合いを続ける一行。

 

 

「玄弥君からの情報を踏まえて、これからこの集落を拠点にして行動を行うわ。」

「で、俺らで偵察をしてくるからお前らは煉獄と待機な。」

「炭治郎君、偵察には禰豆子ちゃんも連れて行きたいかな?」

「勿論、連れて行きたいです。」

「悪いのだけど、この偵察には連れて行けない。」

「どうしてですか?」

「今回はあくまで偵察が目的、情報の入手次第で一度集落に戻るから。」

「もしも箱の中の妹にも何かあったら困るのはお前だろ?」

「は、はい。」

「出来なさそうなら偵察に連れて行く隊士を変えるから正直に言ってね。」

「判りました。」

 

 

炭治郎君、君には悪いがジ・エーデルは閲覧者もドン引きする変態なのよ。

 

サディストの発祥者であるマルキ・ド・サド氏も泣いて喜ぶと思う位に。

 

そんな変態野郎に禰豆子ちゃんを引き合わせたくない、絶対に。

 

『うひょひょひょひょ~♪』って奇声上げたり変態中のド変態発言はすっごく引く。

 

鞭でぶっ叩かれて猫にマタタビ顔で喜ぶヤバさは画面外の皆様も周知の事だろう。

 

うっ、思い出しただけで吐き気が…次に鉢合わせしたら三倍返しの爆撃をしちゃる。

 

とハスミの中で一人顔芸が展開されていた。

 

 

「宇随、待機の方は承知した。」

「頼んだぜ、煉獄。」

「我妻少年と嘴平少年に不死川弟は俺と待機…」

 

 

偵察の後に敵本陣への殴り込みは全員でと決定。

 

偵察の間の待機メンバーを煉獄が話し終えようとした時だった。

 

 

「待ってください!」

「玄弥君、どうしたの?」

「俺も一緒に連れて行ってください。」

 

 

玄弥の必死な発言に対して宇髄が提案しハスミは別の目的を含めて了承した。

 

 

「…風柱が心配なのね?」

「はい、無理を承知でお願いします。」

「クジョウ、どうする?」

「玄弥君には私が出来得る銃器の戦術を叩き込んで置いたし、実地訓練も兼ねて腕前を見せて貰いましょうか。」

「連れて行く…でいいんだな?」

「ええ、撤退の成功率を上げるのに越した事はないわ。」

「それで竈門は決まったか?」

「はい、禰豆子をここに置いて俺も行きます。」

「判ったわ、偵察は今話した四人で行う。」

 

 

偵察組は宇髄、ハスミ、炭治郎、玄弥。

 

待機組は煉獄、善逸、伊之助、禰豆子。

 

以上が決定し会議は終了、偵察時間まで時間を潰す事となった。

 

 

>>>>>>

 

 

夕刻を迎える頃。

 

 

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ?」

「炎柱、話し合い通り指定時間になっても連絡がない時は…」

「任せて置け、言われた通りに対処しよう。」

 

 

紅霧村へは呼吸を応用した走りで移動。

 

バイクを使わないのは相手にこちらの動きを察知されてしまう為。

 

日中の空いた時間に調査した所、奴の監視範囲から集落が外れていた事は幸いだった。

 

だからこそ、拠点として利用出来たのだ。

 

 

「善逸、禰豆子を頼む。」

「判ったよ、でも…気を付けろよな?」

「うん、必ず戻るから。」

 

 

炭治郎は善逸に禰豆子の入った箱を預けていた。

 

 

「玄弥君、紅霧村まで一直線に走るけど付いて行ける?」

「やってみます。」

「貴方に合う呼吸が見つかったとはいえ、無理は禁物よ?」

「はい。」

 

 

鬼殺隊では彼に呼吸の才能がないと思っていたが…

 

全くの誤解である。

 

彼は剣技対応の呼吸に才がなかっただけであり、銃器対応の呼吸には才があったのだ。

 

つまり、相性の良い武器に合わせた呼吸使えれば…誰でも呼吸は使える。

 

これは千寿郎君にも当てはまるだろう。

 

修行するかは彼次第だが、必要であれば呼吸に目覚める修行は手伝うつもりだ。

 

千寿郎君は周囲への気配りが出来るので刀ではなく中距離の槍か長刀、遠距離からの和弓の方が扱いやすい思う。

 

極めるまでは単独での任務は難しいが合同任務では才を放つだろう。

 

持ち運びの関係もあるだろうが、昔の鬼狩り達は刀一筋で通していた事が様々な呼吸使いを生み出す障害となっていたのだろう。

 

思いっきり偏りすぎと思ったのは気のせいじゃないと思う。

 

 

「クジョウ、出発するぞ!」

「了解。」

 

 

私達は夕暮れの闇に紛れて紅霧村へと出発した。

 

 

=続=



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道化は嗤う

進んだ先に待つのは絶望。

踏み込んだ先は奴の手中。


前回から数時間後。

 

夜も更け月がくっきりと見え始めた頃。

 

私達は紅霧村へ向かって疾走し辿り着いた所だった。

 

 

******

 

 

「ここが紅霧村。」

 

 

直に見た事ではっきりした事がある。

 

紅霧村は自然に出来た地形を生かして作られた村ではない。

 

人為的にそれらしく作られた村だ。

 

今は月明かりのお陰で見やすくなっている。

 

 

「凄い光景ですね。」

「普通、滝の水で円形に削られるか?」

「正直無理がある。」

「あれは出入口の橋?」

 

 

玄弥が指差した方向に可動式の橋らしき物体が見えていた。

 

だが、その周辺には例の人形が徘徊していた。

 

宇髄と炭治郎が人形の造形を確認、確認出来たハスミは断言した。

 

 

「あれが例の人形か?」

「人形と言うよりも五月人形の様な甲冑を着けていますね。」

「間違いないわ、あれはジ・エーデルの生み出した対人兵器よ。」

「て、事は予測通りか?」

「ええ、ここはジ・エーデルの研究所ね。」

 

 

最悪の事態は的中しているだろう。

 

満場一致で様子を確認する為に中へ潜入する事になった。

 

今から潜入する事を集落にいる待機組に鎹鴉に伝えて貰った。

 

 

「し、死ぬかと思った。」

「…同じく。」

「お前ら情けねえぞ。」

「…(真夜中の渓谷でフックショット渡りはキツかったかな?」

 

 

渓谷の間、紅霧村側の崖に内部へ侵入出来そうな孔を発見。

 

静音タイプのフックショットで渡ってきたのである。

 

炭治郎君と玄弥君は泣き顔状態の顔芸を披露。

 

呆れた表情で言葉を返す宇髄。

 

申し訳ない表情を心の中でしたハスミだった。

 

 

「何だこりゃ?」

「文字通りジ・エーデルの研究所…奴の拠点はこう言う作りになっているのよ。」

「よく判らない素材で天井から壁と床を埋めていますね。」

「鉄の扉ってのも珍しいよな。」

 

 

物珍しそうに通路内を見渡す宇髄達。

 

 

「炭治郎君、風柱達の匂いは?」

「微かですか、この先からします。」

「急ぎましょう、潜入した以上はもう気付かれているわ。」

 

 

ハスミは炭治郎らに動く様に促すと炭治郎の嗅覚を頼りに移動した。

 

時には下層へ通じる昇降機も利用。

 

その道中で監視用の機械や対人兵器が出てこなかった。

 

まるで此方を誘う様に下へと向かっていった。

 

 

>>>>>>

 

 

それから更に数時間が経過。

 

外は既に深夜を迎えた頃。

 

一行は長い探索の末に広い空間へと辿り着いた。

 

 

「随分と派手に広い場所だな?」

「匂いもここで途切れています。」

「兄貴…」

「構えて、何か来る。」

 

 

ハスミは空間内の殺気を感じ取り、抜刀を促した。

 

宇髄も気配を感じ取ったのか既に臨戦態勢。

 

炭治郎と玄弥も得物を抜いて構えた。

 

 

「っ、全員散れ!!」

 

 

宇髄は此方に仕掛けられた攻撃に見覚えがあり、急ぎ回避を指示した。

 

 

「今のは…」

「あれは間違いない、兄貴の呼吸だ。」

「何だって!?」

「こっちは蛇柱の呼吸ね。」

「クジョウ、お前の推測が当たっちまったな?」

「ええ、残念だけど。」

 

 

攻撃の跡から最悪の光景を予測した柱二名。

 

 

「不死川!伊黒!隠れてねぇで出てきたらどうだ!!」

 

 

宇髄の言葉に反応し出てくる二名。

 

その眼はハイライトを失い、機械的に動いている様子だった。

 

「兄貴…どうして?」

「ハスミさん、二人は一体…」

「二人は恐らくジ・エーデルに操られているわ。」

「そんな!?」

「奴はこう言った技術も持ち合わせている、相手を油断させて楽しむ為にね。」

「クジョウ、この二人を戻すには?」

「気絶させるか、若しくは頭の何処かに小さな装置が付いていると思う、それを壊すしかないわ。」

「んじゃ、ここは俺らに任せろ!」

「音柱…」

「俺達が食い止めます!」

「兄貴達をこんな目に遇わせた奴に一泡吹かせて下さい!」

「判ったわ。」

 

 

ハスミは三人に促されて空間を後にした。

 

目指すはジ・エーデルの居る部屋。

 

階段を見つけると下へ下へと走り続けた。

 

 

******

 

 

紅霧村の最下層。

 

そのメインルームらしき空間に侵入したハスミ。

 

扉は重火器で爆破された後に蹴り飛ばされ、見事にひしゃげていた。

 

そして『待ってましたw』と言う表情でジ・エーデルが出迎えた。

 

 

「ジ・エーデル!望み通りに来てやったわよ!!」

「おっひさーw元気だった?」

「お陰様で、久しぶりに三途の川に片足突っ込んだわ。(流石に安駄婆様にはお会いしなかったけど。」

「あらーそうなの?まあ君なら生還出来ると思ってたけど。」

「無駄な話はいい、それよりもよくもやってくれたわね?」

「何の事かな?」

「とぼけるな!お前が風柱達を洗脳した事よ!!」

「えー楽しかったでしょ?」

「っ!」

 

 

煽りに煽るジ・エーデルの表情。

 

ハスミは奴の足元に威嚇射撃を行った。

 

必死に逃げる反面、嬉しそうに回避するジ・エーデル。

 

 

「いやん、コサックダンスなんか踊っちゃったじゃない♪」

「何処までも悪意の塊であるのは変わりないわね……いや、前回を通り越してそれ以上よ。」

「ヤダもうハスミたんってば、そんな君の侮蔑の眼も好きよ?」

「…」

「さーてと、本題に入ろうかな?」

「お前の狙いは判っている……言わずともね。」

「そうだね、君がDG細胞なんてメッチャオモロイ物を持っててくれた事は感謝するよ。」

「狙いはそれか?」

「そうそう、それが在ればもっと面白いお遊びが出来るもん♪」

「ふざけるな!」

「君も判っているんでしょ?その力がどんな影響を齎すかを?」

「っ…」

「ま、油断してくれた事には感謝よ?」

「何!?」

 

 

足元に伸びて絡まる金属製の物体。

 

振りほどこうとするも時既に遅し。

 

構えていた銃器を弾かれ拘束された。

 

 

「まさか…これは!?」

「ピンポーン!お察しの通りDG細胞だよ?」

「どうやって…」

「遊郭に残っていた君の血痕跡からちょちょいのチョイってね。」

「…(あの時の!?」

「DGのコアは流石に再現出来なかったけど、君が居れば別だよ?」

「…」

「冷静な君でも判ったようだね。」

 

 

DG細胞を動かせる存在をコアにする。

 

それによってDG細胞を操ると言う事か…

 

想定していたとは言え、酷い失態だ。

 

 

「それに偶然とは言え、君の眷属?になった野郎共にもかなりの影響が出るだろうね?」

 

 

ジ・エーデルの言葉でハスミの脳裏に炭治郎らの顔が浮かんだ。

 

 

「ジ・エーデル…!」

「じゃ、君の体にあんな~事やこんな~事をしてあげるからね?」

「!?」

 

 

ジ・エーデルはコンソールを操作し注射器型のマニピュレーターを起動させる。

 

そして無防備となったハスミの首筋に何かを投与した。

 

 

「何を……!?」

「うひょ?効いてきたかな~♪」

 

 

謎の薬剤の投与後、ハスミの身体に異変が生じていた。

 

 

「…(息が。」

 

 

呼吸が熱くなり、息が出来なくなる。

 

全身が捲れる様な痛みと苦しみが引き起こされていた。

 

徐々に皮膚を浸蝕する銀色の膜。

 

 

「………皆…逃げ、て。」

 

 

ハスミは薄れゆく意識の中で発した言葉を最後に意識を失った。

 

 

=続=

 




紅霧村付近にて。

村へ流れる河川近くに現れた存在。


「ここか、とうとう見つけたぞ。」


月明かりに照らされた銀色の髪。

彼は独り言を答えた後、一直線に村へと向かった。



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最愛人降臨

事態は重く最悪の展開に。

更なる危機が訪れるのか?

否。

目論見は崩れる物。


前回、ハスミがジ・エーデルの潜む最下層のメインルームに突撃した頃。

 

宇髄らと別れた場所で柱二名のストレスが頂点に達しようとしていた。

 

 

******

 

 

炭治郎と玄弥はある人物達の様子に戦慄していた。

 

 

「「…(色んな意味で意味で怖い。」」

 

 

閻魔が降臨した様なオーラを出すこの柱二名の事である。

 

 

「あんの糞ジジイ……潰すっ!!!」

「細切れにする!存在自体をこの世から抹消する!!」

 

 

ハスミからの助言と宇髄らの奮闘で洗脳から解放された不死川と伊黒。

 

先程まで宇髄にドヤ顔で痛い所と突かれていた。

 

それも彼が信頼されているから出来る事である。

 

二人に更なる逆鱗を与える事になるが、何時もの茶番程度の事だ。

 

 

「クジョウの話していた通り、こんなので人を操れるとはな…」

 

 

宇髄は先程まで不死川と伊黒のうなじに付いていた装飾が施された金属の塊を見ていた。

 

取り外す際に中心部を破壊したので今は機能はしていない。

 

口癖の様にハスミは異常な技術力と科学力を持つジ・エーデルを危険視していた。

 

 

「…(確かに、こんな技術が世に出回ったらヤバイ代物だ。」

 

 

元忍の宇髄もまた察し理解した。

 

先程の機械ですら扱い方次第では国一つ操れる。

 

あの無惨よりも最悪の事態が訪れだろう。

 

 

「炭治郎、ど…どうしたんだ?」

「わ、判らな……ああああ!!!」

 

 

突如、床に膝を付いた炭治郎。

 

近くに寄った玄弥が安否を気遣うが、炭治郎に起こった事は尋常ではない現象だった。

 

 

「何だよ、これ…」

「ううっ…!」

 

 

炭治郎の体に起こった異変とは一度は死の淵から呼び戻した白銀の守り。

 

それが意識を失わせる程の発熱と全身の痛みを引き起こしていた。

 

 

「くそっ、俺もか…!?」

 

 

少し遅れて、宇髄もまた同じ様に白銀の守りが暴走を開始した。

 

今もビキビキと音を立てて白銀の膜が人である細胞を侵食し続けている。

 

それは人でない者へ変えるかの様に。

 

 

「おい、宇髄、クソガキ、何がどうなってんた?」

「不死川、宇髄と竈門はクジョウの血鬼術を受けている。」

「まさか…」

「不死川弟、クジョウは何処へ?」

「あのっ、この先に居る親玉を倒しに向かいました。」

「…玄弥、そいつらの事を任せるぞ。」

「兄貴、判った。」

「不死川、恐らくは。」

「…あの血鬼術の暴走、つまりはあの半鬼女の身に何かあったって事だ。」

 

 

かつての実弥であれば、血鬼術の暴走で頸を斬ると宣言しただろう。

 

だが、ハスミの巨躯の鬼討伐の活躍や下級隊士への戦術指南など鬼殺隊に貢献している事を考慮し様子見の判断をしたのだ。

 

実弥本人が素直ではないのは変わらずであるが…

 

 

「ほっとけ!」

「不死川、誰に言っている?」

 

 

気を取り直し、実弥と小芭内はハスミが向かったとされる場所へと移動した。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃。

 

 

「随分と前のデータより様変わりしちゃってるね、この細胞。」

 

 

仕切りがされたメインルームでメインモニターを見つつコンソールをカタカタと打つジ・エーデル。

 

 

「ま、元々の細胞自体は完全に消失しちゃってるしーこれも変異し過ぎたのかも。」

 

 

はふーと口を尖らせて溜息をつくジ・エーデル。

 

ひじき芋と称される顔でのキモい表情は変わらずである。

 

 

「他の方はどうかな~」

 

 

別のコンソールを操作し戦闘があった室内を映し出し、様子を伺った。

 

映像には倒れた不死川と伊黒の姿が映し出されていた。

 

 

「ありゃま、あの二人もうやられちゃったのね。」

 

 

ま、ハスミたんも居たしこっちの手を看破しちゃったんだろうね。

 

あいっ変わらず、こっちの手を読むの上手いんだから…ワシ、すねちゃいそう。

 

 

「でも~それ抜きにしてもハスミたんの身体にあんな事やこんな事も出来るからすっごく気分いいねー♪」

 

 

ジ・エーデルの現在の表情。

 

表現をするならグラビア雑誌をニヤニヤと見ているおっさんの様な。

 

推しのアイテムをモザイクを付ける事を推奨する表情で愛でる人の様な。

 

そんな痛い方々を足して倍増させたものである。

 

 

「っ…」

「あら、投与剤が少なかったのかな?」

 

 

ハスミは仕切り越しの先の隔離室に移され、今もジワジワと暴走したDG細胞の影響を受けていた。

 

隊服の開けた部分から見えるDG細胞の浸食は何処となく破廉恥な感覚を呼び起こしている。

 

ジ・エーデルがニヤけるのも無理はない。

 

このまま浸食が続けば、DG細胞が利用された原作通りの最悪の状態に変化するだろう。

 

ちなみにジ・エーデルの呟きは、DG細胞の浸食速度が前のデータより遅い事に関してである。

 

この為、コンソールを動かし注射器型のマニピュレーターでハスミに投与剤を追加された。

 

気を失い、意識が戻らない無防備な状況だったので抵抗らしい抵抗は出来ていない。

 

投与剤の追加でハスミは更なる発熱と痛みで目を見開き苦しんでいた。

 

間の悪い事に声が出ず、かすれた音しか出てこなかった。

 

 

「…ぁ!?」

 

 

鬼化と同様にDG細胞は肉体を金属に置き変える金属細胞。

 

その痛みは凄まじく、自身の意思が保てているのが奇跡だろう。

 

意志の弱い人間なら瞬く間に感染が進行しゾンビ兵へと変貌している。

 

ハスミは持ち前の強靭な意思の力で今も抑えているのだ。

 

 

「ハスミたんも粘るねぇ。」

「…」

「まあ、時間の問題だし~放置プレイを楽しみながら見物してよーっと!」

 

 

ジ・エーデルが歓喜の声を上げるのと同時にメインルームの扉が再度破壊された。

 

ちなみに入れ替えしたばかりの新品である。

 

 

「また会ったな、この糞ジジィ?」

「貴様の塵の様な命乞いは済んだか?」

 

 

扉を破壊したのは不死川と伊黒の二名。

 

その表情は正にカチコミを行う893の様な表情だった。

 

 

「ありゃー随分とご立腹の様で♪」

「ったりめーだ!!テメェのせいでどんだけ赤っ恥かいた事か…覚悟は出来ているだろうな?」

「風穴を開ける程度では済まない、貴様の屑芋の様な頭をかち割って魚の餌にしてやる。」

「もう~そんなに怒っちゃやーよ?」

 

 

ぶりっ子顔芸のジ・エーデルの火に油を注ぐ発言に対し不死川と伊黒の怒りは臨界点と突破した。

 

 

「そんな君達にぽちっとな♪」

 

 

ジ・エーデルはコンソールにあったボタンを押して何かを起動させる。

 

 

「何だ?」

「判らない。」

 

 

不死川と伊黒の居る場所に機械音が鳴り響いた後。

 

その足元は一気に崩れた。

 

 

「ちっ!?」

「罠か!」

「下に出来立てほやほやのビックな鬼ちゃんがいるから、あの世に直行へ行ってらっしゃいw」

 

 

室内の奥に入り込み過ぎた事で落下を止められず、そのまま二人は落とされていった。

 

 

「さてと、気を取り直して~放置プレイ見物を再開しよっと!?」

 

 

その時だった。

 

隔離室の壁が破壊され粉塵が巻き上げられるが、暫くし収まるとそこに新たな侵入者が現れた。

 

 

「え…うそ~ん!?」

 

 

ジ・エーデルは一度硬直すると目玉ドコーの表情から有名絵画の叫びの様な表情へと変貌する。

 

 

「俺の女に手を出すとはいい度胸だな…ジ・エーデル・ベルナル。」

「あばばばば!!!」

「…」

「…ハスミ、後は任せろ。」

 

 

破壊音で目を覚ましたハスミは侵入者の姿を確認すると一度目を見開いた。

 

何かを言おうとしたが、声が出ないままの為に口の動きで相手に状況を伝えた。

 

 

「えーマジで!?何でココにいるの!?」

「貴様には関係ない事だ。」

「ちょ!?」

「……覚悟して貰おうか?」

 

 

構えを取る侵入者。

 

 

「あーワシ、死んだかも?」

 

 

この時、ジ・エーデルの確定事項な発言が呟かれた。

 

侵入者の相手はある世界で『次元将』と呼ばれた存在だったのだから…

 

 

=続=



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この拳にかけて

突如の再会。

その力に縋る事なく自らの力で脱する事を行使するが…

彼は違った。


突如の乱入者。

 

それはある意味で戦局の天秤を大きく揺るがすもの。

 

だが、この世界の制約は彼の力を縛った。

 

 

******

 

前回から引き続き、ジ・エーデルのメインルーム。

 

隔離室の中へ侵入し意識を取り戻したものの倒れた状態のハスミを横抱きにした侵入者。

 

 

「俺の女に手を出し、この様な姿にさせた報いは受けて貰うぞ?」

「えー君だってまんざらでもないんじゃない?」

「…」

 

 

ジ・エーデルはいつもの発言でこの場を切り抜けようとしたが、彼には通じなかった。

 

彼はそう言った会話が不快に感じる為に虫唾が走っていた。

 

同時に自身の背を預ける存在に対する扱い。

 

それこそが彼の怒りを掻き立てていた。

 

 

「…(気を付けて、奴の施設には。」

「判っている、ここへ訪れる前にいくつか内部の施設を破壊して置いた。」

「…(お早い判断で。」

「奴の手の内はお前が良く知っているだろう?」

「…(おっしゃる通りです。」

 

 

ハスミの口の動きで会話を続ける侵入者。

 

問い掛けに対して回答する侵入者の行動に呆れを通り越して何時もの行動と言う事で応対した。

 

 

「ま、まさか…」

 

 

ジ・エーデルは侵入者の発言に対してコンソールを動かすと各施設の様子をモニターに映し出した。

 

 

「え、えー!?」

 

 

ジ・エーデルが驚くのも無理はない。

 

苦心して製造した対人兵器のプラントや地下に放った巨躯の鬼が残骸と屍を晒していたのだ。

 

 

「あのオオサンショウウオだったか、あの程度の力量で俺に勝てるとでも?」

「うそーん、あの大型水槽の中で。」

「ふん、俺には雑魚に等しい。」

 

 

侵入者が雑魚と言うのも無理はない。

 

彼自身がそれを成し得る異常な戦力を持っている為である。

 

但し、疑問が残る。

 

先程のオオサンショウウオ型の巨躯の鬼をねじ伏せたとしても…

 

核である鬼の頸を日輪刀で斬らなければ、瞬く間に再生してしまう。

 

それをどう防いだかと言う事だ。

 

 

「…(あの、奴をどうやって仕留めたのですか?」

「こちらに来る道中で折れた刀を手に入れた、それを奴の頸にねじ込んだだけだ。」

「…(折れた刀ですか?」

「ああ、刃先は折れていたが…刺し込む位の刃は残っていたのでな。」

「…(それ、もしかして日輪刀じゃ…」

「不明だが、その刀で化け物の頸を討ち取った時に消し炭の様に消えていた。」

「…(奇跡ですね。」

「そうだな。」

 

 

偶然とは言え、何処かに回収しきれなかった日輪刀が残っていても可笑しくない。

 

彼はその一本を発見し巨躯の鬼をその拳で撃ち倒し、止めを刺したのだ。

 

もしもその折れた日輪刀が無ければ、ある意味で連戦していたと思われる。

 

 

「すっごー。」

「無駄な話は終わりだ。」

「え、えと。」

 

 

ゴキャ!?

 

 

 

「まずはこの一撃を喰らって貰おう。」

 

 

侵入者はハスミを横抱きにしたまま、高速で移動しジ・エーデルの顔面に拳をねじ込んだ。

 

 

「へぶぉ!!!?」

 

 

その拳を受けたジ・エーデルの表情は涙目からの魂が抜けた状態に陥った。

 

そのまま数回バインドしメインルームのモニターに撃ち付けられた。

 

痙攣と見事までに奴の顔は拳がめり込んだ跡が残り、暫くは目を覚まさないだろう。

 

 

「ハスミ、状況説明を聞きたい所だが…」

「…(奴に体内のDG細胞を暴走させる薬剤を打たれたせいで声がまだ。」

「解毒は出来るか?」

「…(まだ少し掛かります。」

「判った、ここを離れるぞ。」

「…(待ってください、ここには一緒に潜入した仲間が。」

「…数は?」

「…(メインルームの地下に二名、上層の空間に三名です。」

「承知した。」

 

 

侵入者はハスミから状況を聞き出し、行動を共にしていた者達の事を教えられた。

 

 

「ここで待っていろ。」

「…(了解。」

 

 

侵入者はメインルームの地下に落とされた風柱達を引き上げる為に吹き抜けとなった場所から落下していった。

 

 

「…(見事な縄なしバンジージャンプ。」

 

 

ハスミは侵入者にメインルームの入口付近に下ろされ、その場で待機していた。

 

暫くすると不死川と伊黒を担いだ侵入者が上がって来た。

 

ちなみに脱出経路はなかったので側面の壁を壁蹴りして登ってきたとの事だ。

 

 

「何だよ、コイツ。」

「あり得ない力だ。」

 

 

大の男に担がれて上がって来た二人には男の威厳総崩れとなり相当堪えただろう。

 

凄くウンザリ顔をしていたのは突っついてやらない事にしよう。

 

「おい、半鬼女…どうなってんだ?」

「…」

「何か言えよ。」

「待て、今のハスミはジ・エーデルに投与された薬剤によって身体が思う様に動かせず、声も出せない状態だ。」

「半鬼女、そうなのか?」

 

 

不死川の問いにハスミは首を縦に降った。

 

 

「ったく死体取りが死体になってどうすんだよ。」

「所で打たれた薬と言うのは?」

「ハスミによると血鬼術を暴走させる薬だそうだ。」

「…そうだったのか。」

「さっき宇髄とクソガキがぶっ倒れたのはそのせいだったって訳か。」

 

 

ハスミは侵入者に代弁して貰い、話を続けた。

 

 

「あの糞ジジイはどうなった?」

「…(あそこよ。」

 

 

ハスミが僅かに動く指先で場所を指し示すと引き続き気絶しているジ・エーデルの姿があった。

 

 

「お…見事に顔面潰れてらぁ。」

「清々する。」

 

 

色々とストレスMAXになる事をやられていた二人にとっては清々しい程にざまぁwな展開だった。

 

 

「…(奴が身動き出来ない内にここを奴もろとも破壊しないと。」

「ああ、腕が鳴る。」

「…(先ずは上層の空間に残っている三名と合流し脱出を。」

「脱出の件は承知したが、破壊に関して…その必要はない。」

「…」

「この拳にかけて、この俺が全てを破壊する。」

「…(相当怒ってらっしゃる様で。」

 

 

バキバキと片手を鳴らす侵入者。

 

ハスミはその様子を遠い目で静観した。

 

 

=続=



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説明からの脱出


よくある事。

走れ走れ。

逃げろ逃げろ。

目指すは外の世界。



 

前回のやり取りから少し経った頃。

 

侵入者の救援によって窮地を脱したハスミ。

 

だが、その身を蝕む毒は今も毒を齎した。

 

 

******

 

 

「…(最優先でジ・エーデルの確保をお願いします。」

「ああ、あの輩には少しばかり問い質す事が多いからな。」

 

 

前回同様に指先をバキバキを鳴らして臨戦態勢を続ける侵入者。

 

色々とあり過ぎて聞きそびれていた侵入者の正体を問う不死川と伊黒。

 

 

「話がそれちまうが、テメェは何モンだ?」

「クジョウの知り合いと言うのは理解出来るが?」

「俺の名はアウストラリス、ハスミとは生涯を共にする事を誓った仲だ。」

 

 

「「…は?」」

 

 

侵入者ことアウストラリスの名と共に告げられた自己紹介。

 

その発言に不死川と伊黒は一瞬の沈黙の後に顔芸を披露した。

 

 

「…(アイツ、結婚してやがったのか?」

「…(そもそもクジョウと結婚する相手も相手だが?」

 

 

ハスミは二人の顔芸で色んな意味で間違った解釈をしていると判断。

 

後で正確な説明をすべきと思った次第である。

 

 

「鏑丸、どうした?」

「伊黒、奴がいねえぞ!」

「!?」

 

 

伊黒の首元で静観していた白蛇の鏑丸。

 

異変を察知し友人である伊黒に知らせた。

 

同時に不死川がジ・エーデルの姿がない事に気づき、声を荒げた。

 

破壊されたメインルームのモニターに奴の姿はなく、隠し扉の様なモノがキィキィと音を立てていた。

 

 

「…(だから言ったのに。」

「ハスミ、どうする?」

「…(逃げてしまったものは仕方がないです、今は上層の広間に移動してください。」

 

 

ジ・エーデルの逃げ足は凄まじく早い。

 

それを知っているハスミは最優先と告げたが、少しの間に取り逃がしてしまう結果となった。

 

今は他の仲間との合流を最優先にすべきとアウストラリスに説明した。

 

 

「…(今の奴なら、ここを爆破する可能性があります。」

「それも奴の茶番か?」

「…(はい、それも想定内の内ですけど。」

 

 

アウストラリスとの会話中に割って入ってくる不死川と伊黒。

 

 

「半鬼女、この後どうするよ?」

「お前達の仲間と合流すべきと言っている。」

「そうだな、奴を逃がした以上…ここを脱出する事が最優先だ。」

「ちっ、結局収穫は無しか…」

「その件に関しても後だ、収穫とやらの有無は後に判別出来るだろう。」

「お、おう。」

 

 

一行は破損したメインルームを後にし、二手に分かれた上層部の広間へと向かった。

 

その道中に敵の影は無く静かで不穏な空気を漂わせていた。

 

この頃になるとハスミに打たれた投与剤の効果が薄れてきたので声も出せるし歩ける様にはなった。

 

 

「…そういう訳だけど、質問は?」

 

 

合流後、説明の後に顔芸祭り第二弾開催。

 

特に音柱と炭治郎君は吃驚し過ぎ。

 

まるで私に婚約相手がいない様な言い方だったし。

 

失礼するわね。

 

その後、音柱と炭治郎君は解毒が済んだ私の血鬼術で暴走を鎮めたので動ける様になった。

 

一度使用すると術者が死ぬまで外せない様になったので心配。

 

瀕死の負傷を治せると言う点では今後の鬼殺隊には必要不可欠だろう。

 

無惨討伐まで目を瞑ろうと思った。

 

そのまま紅霧村の外へ向かう為に話しながら上へと移動していた時だった。

 

 

「ハスミさん、一つ疑問に思った事があるんですけど?」

「何かな?」

「紅霧村の本当の住民はどうなったんですか?」

「それだけど…」

 

 

ハスミは説明した。

 

アウストラリスが倒したオオサンショウウオ型の巨躯の鬼。

 

その巨躯の鬼が潜んでいた地底湖を改造した大型水槽の底。

 

そこに砕かれたものもあったが、何百の人骨が沈んていたとの事だった。

 

本来の住民は恐らく…

 

 

「そんな…」

「奴に取って人の命とはそう言うものよ。」

 

 

それだけじゃない、奴はこの村で対人兵器の生産と水棲型の巨躯の鬼を製造していた。

 

もしも…これらが世に放たれれば、瞬く間に混乱が起こる。

 

最悪事態は私の血液を奪われた事だ。

 

 

「血ですか?」

「ええ、私の血液……傷を癒す血鬼術もその血を媒介にしている。」

 

 

血の中に潜むDG細胞のサンプルを持ち去られた。

 

ここを放棄した事は別の拠点を奴は所持している。

 

そこで研究を再開するに違いない。

 

推測していた以上、ここで拘束したかった。

 

 

「奴の手に渡った以上、巨躯の鬼も強化された個体が今後出てくると思う。」

「…敵に塩を送る結果となったか。」

「出来得る事なら奴を追うべきでしょう。」

「そうだな。」

 

 

炭治郎との会話に入って来たアウストラリス。

 

彼もまた危険視の言葉を発した。

 

 

「…(ハスミさんとアウストラリスさん、互いに信頼し合っている匂いがする。」

 

 

アウストラリスさんの物凄く強い匂いと何かを背負っている匂い。

 

何か理由はあるんだろうけど、深く入り込まない方がいいな。

 

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

その時だった、大きな振動と複雑に揺れる施設内部。

 

 

「おい、何がどうなってやがんだ!?」

「ジ・エーデルの奴……ここを爆破する気ね!」

「ええ!?」

「兎に角、上を目指すわよ!」

「わ、分かりました。」

 

 

一行は外へと通じる通路を急ぎ上がって行った。

 

道中で一部の天井が崩れたり壁に埋め込まれた電子盤が爆発したりなどのハプニングがあったものの。

 

何とか脱出する事に成功した。

 

 

=続=



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境界を超えるな

その境を超えてはならない。

人と鬼の戦いだけではない。

これは人類存続の為の戦い。

境界はその為にある。


前回、爆破される紅霧村から脱出した一行。

 

ジ・エーデルを捕縛する事は叶わず、奴は再び行方を眩ませた。

 

情報は手に入らず仕舞いかと思いきや…

 

ハスミはジ・エーデルの潜んでいたメインルームこと研究室に移動する道中。

 

通りかかった電算室と呼ばれる場所に小型の機械を放って取れる情報は根こそぎ取っていたとの事。

 

その為、紅霧村で起こった出来事はある程度判明出来たらしい。

 

炎を所々に吹きながら崩落していく紅霧村を後にし拠点の集落へと向かった。

 

 

******

 

 

紅霧村での出来事から数時間後。

 

一行は集落へ一心不乱に向かっていた。

 

 

「…」

 

 

行方を眩ませたジ・エーデルの次の標的が拠点にした集落である可能性が高い。

 

奴はやられたらやり返す時の度合いが地味に酷い。

 

下手をすれば、紅霧村で製造され破壊されていない対人兵器の一部を差し向ける事も可能だからだ。

 

奴があの兵器プラントを一纏めにする事はない。

 

元の世界でも何が遭っても出撃させられる様に巧妙に隠している事もあった。

 

一筋縄ではいかない。

 

それがジ・エーデルのゴキブリ並みのしぶとさなのだ。

 

私ことハスミはそんな考え事をしながら他の仲間と共に集落への移動速度を合わせた。

 

移動道中で風柱に集落が狙われる話について問われたが、私は確定事項であると告げた。

 

 

「半鬼女、さっきの話は本当なんだろうな?」

「奴の事よ、奴の砦を一つ潰したのだから報復があっても可笑しくないわ。」

「ちっ、あの糞ジジイ…次遭ったら切り刻んで潰してやる。」

 

 

無事に集落へ到着した一行。

 

集落はまだ攻撃を受けておらず、丑三つ時の静けさを保っていた。

 

 

「んで、煉獄達は何処だ?」

「…あの一番大きな家です。」

 

 

炭治郎が滞在先の家屋を指差して案内する。

 

中に入ると禰豆子がオロオロしながら困ってる状態と例の如く倒れた三人が痛みと発熱で苦しんでいた。

 

 

「禰豆子!」

「ムー!」

「ごめんなぁ、遅くなって。」

「うー。」

 

 

炭治郎は困っている禰豆子に駆け寄り、頭を撫でて落ち着かせると待機していた煉獄達の様子を見る。

 

 

「酷い…さっきの俺と同じだ。」

「クジョウ、どうだ?」

「大丈夫、今…落ち着かせる。」

 

 

紅霧村で倒れた炭治郎らと同じくハスミは倒れた彼らに駆け寄り、暴走した血鬼術に触れて沈静化させていく。

 

徐々に白銀の膜は消えていき、痛みと熱も同じ様に無くなっていった。

 

他の二人よりも先程の状態から回復した煉獄が意識を取り戻した。

 

 

「…ううっ。」

「煉獄、無事か?」

「宇髄か…俺達は一体?」

「紅霧村でひと悶着あってな。」

 

 

宇髄らは紅霧村で起こった出来事を説明した。

 

ジ・エーデルがハスミに血鬼術の暴走を引き起こす薬を打った事で血鬼術の影響を受けている自分達にも異変が起こった事。

 

ハスミの仲間が駆けつけてくれた為に最悪の状況を打破出来た事。

 

奴によって紅霧村が爆破され崩壊した事を全て。

 

 

「あの村にクジョウが追っている奴が潜伏していた。」

「半鬼女の血鬼術の暴走もそれが原因だ。」

「伊黒、不死川、無事だったか!」

「煉獄、迷惑を掛けて済まない。」

「俺らも…ドジ踏んじまったぜ。」

 

 

何時もの調査の筈が、ここまでの大事になってしまった事に二人は謝罪した。

 

なってしまったものは仕方がない、こういう事もあると言う事で互いに場を収めた。

 

 

「ハスミ、奴が動き出した。」

「…今、行きます。」

 

 

家屋の外で待機していたアウストラリスに声を掛けられたハスミ。

 

予測通りの事が起こったと説明を受け、様子を見に外へと出た。

 

 

「…」

「いつも思いますが、奴のお遊びは度が過ぎますね。」

「だが、敗北する様な規模ではなかろう?」

「はい。」

 

 

集落に迫る対人兵器の群れ。

 

その奥に紅霧村で倒したのとは違う個体の巨躯の鬼。

 

ハスミ達の様子を察して家屋から出てくる宇髄達。

 

 

「随分と派手な進軍だな?」

「よもや、よもやだ、話に聞いていたがこれ程までとは…」

「炎柱、集落の人達は?」

「君達が偵察を行っている間に隠経由で避難させた。」

「なら、問題ないわね。」

 

 

ハスミは偵察に向かう前に集落の住人を避難させるように手筈を行っていた。

 

結果として襲撃を受ける事になったので骨折り損のくたびれ儲け的な行為にはならなかった。

 

 

「随分と手際がいいじゃねぇか?」

「どんな戦でも被害に遭うのはいつも一般人よ、私は出来得る限りの事をしただけ。」

「…そうかよ。」

「戦う相手は一般人の命を考慮しない、目処前の障害は全て消す事しか指示されていない。」

 

 

ハスミは実弥に『心を持たない戦う機械とはそういう物よ。』と付け加えた。

 

 

「…(アレは何時もの怒り方じゃねえな。」

 

 

これは道具にされる奴らへの慈悲って奴か?

 

いや、道具にする奴らへの怒りの方が合っているな。

 

アイツなりの感情ってやつか…

 

 

「奥の巨躯の鬼は音柱達が仕留めて、集落に向かってくる対人兵器は私と彼で片付けるわ。」

「たった二人でか?」

「戦い慣れしている私達の方が分がある。」

「しかし…」

「…なら、そっちは任せるぞ?」

「宇髄!」

「煉獄、適材適所って言うだろ?」

「宇髄の言う通りだ…俺達は巨躯の鬼を仕留める。」

「何故、そう思える?」

「テメェもアレを見れば解る。」

 

 

煉獄はハスミがたった二人で大群を抑えると告げた事に対して反論するが…

 

宇髄、不死川、伊黒の三人は何かを悟った様な判断で告げた。

 

 

「炭治郎君達も巨躯の鬼の方へ行って頂戴。」

「ハスミさん…」

「大丈夫、私と彼は慣れているから。」

「足が鳴るぜ!」

「それを言うなら腕だよ!?腕!」

「緊張感がないよな、お前ら。」

 

 

玄弥とかまぼこ隊のやり取りを聞いた後、ハスミは彼の元へ移動した。

 

 

「作戦は決まったか?」

「はい、私達で対人兵器群の相手と一直線に巨躯の鬼への道を切り開きます。」

「成程、敵の質より量を取ったか。」

「お気に召しませんか?」

「いや、大分訛っていた所だ……圧倒的な数を潰すのも悪くない。」

「…(まあ、鬼狩りの刀じゃ対人兵器の装甲を斬れない可能性を考慮しただけなのですけどね。」

 

 

ジ・エーデルの対人兵器。

 

奴がジエー・ベイベルとしてカイメラ隊に製造提供した兵器群の事だ。

 

サイズダウンさせたモノでコルニクス、レオー、アングイス、カペルの四種類。

 

レムレースを出してない所を見ると切り札扱いか制御出来ていないと見ている。

 

遊郭事件で爆撃を行ったのは、恐らくアングイスとコルニクスの二体だろう。

 

これだけの戦力を出せば勝てるとでも思っているのか?

 

本来の機体に乗れれば済む事だが、この世界の制約で出現させられない。

 

寧ろ、出した場合の周囲への被害が不味い。

 

今はEF方式で戦うしかないだろう。

 

その為の武装バイクを数台持って来たのだから。

 

 

「疾駆、紅蓮、轟天、神風、薙蛇は集落の守りを!アリの子一匹逃すな!!」

 

 

私は待機状態の武装バイク達に指示を出した。

 

ちなみに神風と薙蛇は風柱達に貸した武装バイクの名である。

 

 

「集落の防衛を第一として状況に応じて各々の行動を任せる!」

 

 

機械仕掛けの単車達は創造主の指示に従う。

 

単車から人の形に変化し各々の得物を抜刀した。

 

それはEFと呼ばれる世界で再生されたPT達の様な風貌だった。

 

 

「は?」

「よもや?」

「信じられん。」

「おい!」

「えーーーーー!!?」

「はいーーーー!!?」

「何だと!?」

「む?」

「考えが追い付かないと言うかなんと言うか。」

 

 

そう言うモノに耐性がない一行の発言は以上である。

 

 

「説明は後、今は大群を押さえる。」

 

 

ハスミは驚愕顔芸をしている一行を放置し続けて武装バイク達に攻撃の指示を与えた。

 

 

「各機、前方の大群に一斉掃射!前衛が崩れた後は巨躯の鬼への道を切り開け!!」

 

 

武装バイク達は各々の重火器を駆使し前衛を総崩れにさせ、一直線に集中攻撃を加える。

 

巨躯の鬼への道を文字通りに切り開いた。

 

 

「今よ!」

「行け!」

 

 

ハスミとアウストラリスが合図の様に叫んだ。

 

同時に突き進む鬼狩り達。

 

相手はコモドオオトカゲとコブラを合わせた合成鬼。

 

どちらも毒性の強い生物の掛け合わせであり油断ならない相手だ。

 

 

「アウストラリス、私達も続きましょう。」

「承知。」

 

 

アウストラリスは指を鳴らした後に拳を握り締め、ハスミは琴箱から手榴弾一式とガトリングガンを取り出す。

 

互いに合図した後、右陣と左陣の兵器群に突撃。

 

武装バイク達は指示通りに集落の守りに呈し、倒し損ねた敵機を倒していった。

 

 

「ド派手に馬鹿デケェ蜥蜴だな!」

「うむ、強敵である事は確かだ!」

「尻尾は異国の蛇か、虫酸が走る。」

「ケッ、ぶった斬っちまえ雑魚と同じだ!!」

「動きが速い!」

「もうイヤーーーーー!!」

「フハハハ!ぶった切って黒焼きにしてやるぜ!!」

「イモリと間違えてるだろ!?」

「うー!」

 

 

巨躯の鬼に群がる攻撃を仕掛ける一行に遠方から射撃攻撃を仕掛ける玄弥と彼を援護する禰豆子。

 

止まない攻撃は巨躯の鬼を疲弊させていく筈だったが…

 

巨躯の鬼は動きが鈍くなる所か余計に攻撃を強めていた。

 

ここで酷い反撃を受ける事となる。

 

尻尾の毒蛇が毒液と共に無数の毒針を発射。

 

その一端が玄弥と禰豆子に向かった。

 

 

 

「駄目だ!」

「玄弥!?」

 

 

玄弥は咄嗟に禰豆子を庇う為にその背に毒針を受ける事となった。

 

実弥の叫びも虚しく響いた。

 

「大丈夫か?」

「う。」

「…良かった。」

「禰豆子、玄弥に解毒を!」

「むー!」

 

 

禰豆子による血鬼術の解毒を行うが、毒針は消えず毒素は玄弥に広がり続けていた。

 

 

「解毒が出来ていない!?」

 

 

炭治郎はその光景に驚愕し判断が鈍ったのと同時に毒針を受ける事となった。

 

だが、ハスミの血鬼術による守りでそれは防がれた。

 

 

「竈門少年!」

「俺は大丈夫です、それよりも玄弥が!」

「竈門妹、君は不死川弟を連れて集落に行くんだ。」

「うー。」

 

 

煉獄の指示で禰豆子は玄弥を担いで集落へと移動を開始した。

 

 

「不死川、伊黒、お前らは下がってろ!」

「んだと!」

「俺達はまだ戦える。」

「馬鹿か!奴の毒を受けたら解毒方法がねぇんだよ!」

「ちっ!」

「俺らはクジョウの血鬼術で解毒出来ているが、お前らは違うだろ!」

「だが…」

「不死川さん!伊黒さん!逃げて下さい!!」

 

 

動きの鈍りは死地への道。

 

実弥らは蜥蜴の牙と毒蛇の牙を受ける事となった。

 

ミシリと肉が裂け、骨が砕ける音が響いた。

 

 

「不死川!伊黒!?」

「くそっ。」

「しくじっ…た。」

 

 

咬まれた同時に体内に侵入する毒素。

 

徐々に変質する皮膚。

 

肉体が溶けて腐っていく臭い。

 

後数分の命かと思いきや…

 

 

「無事か?」

「いえ、間に合いはしましたが…」

 

 

跳び蹴りで圧倒され、巨刀で頚斬られる巨躯の鬼。

 

アウストラリスとハスミが駆けつけたのだ。

 

 

「クジョウ!」

「奴らは蹴散らしたわ、それよりも…」

 

 

頚を切った事で消し炭となっていく巨躯の鬼。

 

解放された不死川達だったが毒の影響は消えていなかった。

 

 

「畜生…!」

「うっ!」

 

 

毒の影響で血反吐を吐き、肉体が腐りつつあった。

 

 

「緊急措置よ、血鬼術を使うわよ?」

「いらねぇ…」

「お館様の命令でも?」

「ちっ。」

「不死川、ここは…」

「…先に弟を頼む。」

 

 

ハスミ達はここへ来る道中で合流した玄弥達を連れて巨躯の鬼を仕留めた。

 

不死川は先に毒を受けた玄弥の治療を優先してくれと告げた。

 

ハスミは『素直じゃないわね。』とボソリと呟いた後に玄弥から治療を始めた。

 

夜明けを迎えた戦場。

 

周囲には鉄屑と化した対人兵器の残骸と消え逝く巨躯の鬼の亡骸が転がっていた。

 

 

>>>>>>

 

 

その後、アウストラリスの件は鬼殺隊本部に持ち込まれ色々と騒動が起こったが…

 

それを語るのは次回に続くのだった。

 

 

=続=




一週間後の夜明けを迎える少し前。

鋼屋敷では衣服を整えたアウストラリスが室内を後にし屋敷を去ろうとしていた。

ハスミは少しの音でそれに気づき、乱れた身なりを整えてから準備をする彼の近くで控えていた。


「…行かれるのですね?」
「ジ・エーデルの行方は俺の方でも探ろう、お前はお前が交わした約束を果たせ。」
「ご命令通りに。」


ハスミは静かに屋敷を後にするアウストラリスの背後に控えた状態で答えた。


「寛大なご配慮ありがとうございます…陛下。」
「ハスミ、前に答えた筈だ……俺はあの玉座に戻った訳ではない。」
「…心得ています。」
「ならばいい、今はお前は俺の片腕……それを忘れるな?」
「了解しました。」


淡々と語られる言葉。

理由を知る者はこの言葉の意味を理解しただろう。

陛下と言う言葉の意味を。


「アウストラリス、ご武運を。」
「ハスミ、お前も武運がある事を。」
「はい。」


ハスミは鋼屋敷周辺に散らばっている隠達が居眠りをしているのを確認した後。

アウストラリスに監視が手薄な位置を伝えて本部から離脱させた。


「片腕か…」


判っている。

私はあの人の背を守る事を選んだ。

それは共に戦う同志である事を自覚させる意味で。

それでも互いを繋ぎ合う事を止める事は出来ない。

愛している事を真の敵に悟られない為にも今は同志であればいい。

=終=

明けましておめでとうございます。


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拒絶の意思

事の終わり。

そして新たな戦いの兆し。

争いは終わる事はない。

これはねじ曲がった事で起こった戦乱。


前回の紅霧村での一件。

 

紅霧村の周辺で死者を模した人形が徘徊すると言う噂が本部に持ち込まれる。

 

鬼殺隊の柱、風柱・不死川実弥と蛇柱・伊黒小芭内、庚の隊士・不死川玄弥の三名による偵察の任が与えられた。

 

紅霧村に先行した風柱と蛇柱の両名はジ・エーデルの罠によって囚われ行方不明。

 

その三日後に後続で音柱・宇髄天元、炎柱・煉獄杏寿郎、鋼柱・クジョウハスミ、庚の隊士・竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の六名を派遣。

 

紅霧村に近い集落を拠点に音柱、鋼柱、竈門隊士、不死川隊士の四名による偵察を開始。

 

調査の結果…

 

紅霧村の全住民はジ・エーデルの生み出した巨躯の鬼によって全滅。

 

ジ・エーデルの実験施設として改装され、巨躯の鬼の製造場と化していた。

 

風柱、蛇柱の両名はジ・エーデルによって洗脳され音柱らと交戦。

 

鋼柱はジ・エーデルの後を追い、追い詰めるも血鬼術を暴走させる投与剤を打たれて拉致される。

 

その後、鋼柱の仲間によって窮地を脱する。

 

ジ・エーデルを再度追い詰めるも逃走され、紅霧村は奴の手によって崩落。

 

一行は拠点とした集落への脱出を余儀なくされた。

 

ジ・エーデルの置き土産である巨躯の鬼と対人兵器群の強襲を受けるが、一行で壊滅に追い込む。

 

しかし、巨躯の鬼の腐食毒によって不死川隊士、風柱、蛇柱が重傷を負う。

 

鋼柱の血鬼術による緊急措置により、一命を取り留める。

 

その後、ジ・エーデルの行方は不明のまま本部の指示により帰還の形となった。

 

以上が紅霧村で起こった出来事の経緯である。

 

 

******

 

 

紅霧村での出来事から五日後。

 

ここ鬼殺隊本部では事後報告を行う為に臨時の柱合会議が行われていた。

 

因みに風柱、蛇柱の二名は蝶屋敷で現在も療養中に付き不在である。

 

先程の経過報告書を読み終えたお館様よりお声を掛けられた。

 

 

「ご苦労だったね、天元、杏寿郎、ハスミ、炭治郎。」

 

 

名を呼ばれた一行は一礼を行う。

 

続けてハスミは発言の許しを得た後に謝罪の言葉を告げた。

 

 

「お館様、此度の件に関して申し訳ありません…こちらの不手際で柱負傷の失態を犯してしまいました。」

「ハスミ、君が危険視しているジ・エーデルの拠点を失わせた事は有利に働くはずだよ…負傷した実弥達の解毒や傷も血鬼術で早期治療が行えている。」

「…」

「私からもありがとう、彼らの命を救ってくれて。」

「いえ、これ以上…柱も隊士も失わせる訳にもいけませんので。」

 

 

ジ・エーデルの本格的な介入によって死に陥る隊士も少なからず出てくるだろう。

 

一番の問題は水棲型の巨躯の鬼と対人兵器群の導入。

 

無惨の鬼討伐以上の苦戦を強いられる。

 

 

「ハスミから聞いていた以上にジ・エーデルとは危険な人物なのだね。」

 

 

人を操る術、鬼を改造し巨躯の鬼と化す技術、近代兵器に関する科学力。

 

ハスミが常に危険視し警告をするのも無理はない。

 

対人兵器群の残骸を見させて貰ったけど、人の世に現れれば鬼以上の最厄と化すだろう。

 

 

「無惨の介入がなかった事だけは救いと言うべきか。」

「おっしゃる通りです。」

「ハスミ、君の仲間と言う…そちらの御仁に付いて紹介して貰ってもいいかな?」

「御意。」

 

 

ハスミはお館様と会議参加者達にアウストラリスの紹介を行った。

 

 

「彼の名はアウストラリス、私が本来所属する組織の当主です。」

 

 

筋骨隆々しい異国人。

 

自身同様に組織を束ねる物。

 

そして当主でありながら自ら出陣し前線で戦う変わり者。

 

 

「当主自ら戦場に出るとは変わった人なのだね…」

「部下ばかりに任せて置けんからな、こちらの方が性に合っている。」

「貴方のその前向きな姿勢は…とても羨ましく思う。」

「ハスミから事情は伺っている、この組織は人の世に隠れ…鬼舞辻無惨と呼ばれる鬼の始祖と奴が生み出した鬼と戦っていると?」

「アウストラリス…」

「本来であればハスミは俺の同志だ…早々に除隊を願いたいが、ハスミに掛けられた呪いを解く為にもそちらに属している方がいいだろう。」

「その件に関してはハスミから説明を受けている、そちらの組織に多大な迷惑を被る事も…」

「ジ・エーデルの件は標的の一つに過ぎん、俺達が追うのはその者よりも強大な敵。」

「強大な敵?」

「異常な異能の力を駆使し人類をも操る存在……俺達が追う者はそう言う存在だ。」

 

 

アウストラリスの語っている事は間違いではない。

 

傀儡の皇帝としてサイデリアルを纏め上げ、いつの日か『御使い』を打倒する為の組織である事。

 

私は彼の意思に賛同し付き従う事を選んだ。

 

 

「アウストラリス、君が良ければ鬼殺隊に協力して貰えないだろうか?」

「断る。」

「…(デスヨネ。」

 

 

お館様の誘いをあっさりと跳ね除けるアウストラリス。

 

彼は誰かの下に就く性分ではない。

 

それにお館様の人を掌握する声に彼は囚われる事はない。

 

どんな相手だろうと抗う力を持ち得ているからこそ出来得る事。

 

そして許容範囲を超えた勧誘に対して口を濁す様にお館様へ答えた。

 

 

「此方からは優秀な同志を協力者として其方に属させている……其方としても十分な利益に繋がっていると思うが?」

 

 

アウストラリスは『俺は自ら前線に出る事もあるが、部下を蔑ろにする事はない。』と付け加えた。

 

 

「……失礼した、貴方にも守るべき者達がいる事を失念していた。」

「…」

「ハスミの事は引き続き此方で預からせて貰っても構わないだろうか?」

「それはハスミ自身が交わした契約だ、俺が如何こうする事でもない。」

「アウストラリス、私は…」

「ハスミ、お前は交わした契約を果たせ。」

「っ!」

「…二言はないぞ?」

「承知しました。」

 

 

アウストラリスとハスミの間に交わされた約束。

 

そして引き続き彼女が鬼殺隊での活動を許可する意味でもあった。

 

 

「産屋敷殿、ハスミを引き続き其方に預ける。」

「責任を持って預からせて貰います。」

 

 

アウストラリスと産屋敷耀哉と交わされた契約。

 

それは新たな戦乱を呼び込む兆しでもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

更にその後。

 

アウストラリスはハスミとの情報交換を含めて一週間程の滞在の許可を貰い、鋼屋敷での滞在を始めた。

 

彼と腕試しを求めて柱が数名程対戦をしたものの、参加者全員が見事に完敗。

 

そもそも体術で人外レベルの領域越え戦闘能力を秘めた彼に挑むのは自殺行為に等しい。

 

これにより筋肉に自信を持っていた宇髄が一本取られて落ち込んだり、鬼殺隊最強と謳われた悲鳴嶼ですら同じく目隠しした状態で戦い一本取られている。

 

更に負傷から回復した不死川が噛み付く位に何度も組み手をしたが、此方も一本も取れずに敗北していた。

 

 

「くそっ!」

「不死川と言ったか、今のままでは何度やっても同じだぞ?」

「どんな反射神経してんだよ!」

「宇髄と悲鳴嶼は己の殺気を押し殺す事が出来ているが、煉獄と貴様に関してはまだまだだ。」

「面目ない。」

「うぐっ。」

 

 

改善出来ていない点をストレートに言われて図星となる煉獄と不死川。

 

ハスミは二人の状態に対して助言を入れた。

 

 

「アウストラリス、既に二人はその事を自覚しています……ただ適した修行が足りないだけです。」

「成程な…それが先程の組み手の結果か?」

「欠点は誰にでもあります。」

「半鬼女、テメェは一言多いんだよ!!」

「文句があるなら彼から一本取ってから言いなさいよ?」

「んだと!?」

「そう言えば、クジョウ…君はアウストラリス殿と組み手をした事は?」

「あるにはあるけど…」

 

 

「「長引き過ぎて引き分けになっている。(わ)」」

 

 

「うぉい!?」

「つまり、何度やっても決着が付かないと?」

「そう言う事ね。」

「よもや。」

 

 

と、言うやり取りが在ったり…

 

ハスミが進めていた強化訓練の更に上を行く修行を行ったり等のやらかしを起こした。

 

更に胡蝶と甘露寺から恋バナ目線での押し問答がハスミに対して展開される事件も発生。

 

珍しい事はアウストラリスが煉獄槇寿郎と酒を酌み交わす姿が炎柱邸で見られたとの事だ。

 

目まぐるしく一週間は過ぎていき、アウストラリスは宣言通りに鋼屋敷を去って行った。

 

彼曰く、潜伏しているジ・エーデルの動向を探る為に単独行動へと移るとの事だった。

 

こうして紅霧村事件は災厄の一端と再会を齎して終結したのだった。

 

 

=続=



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鬼殺隊の日常編
笑ってはいけない爆笑耐久訓練


謎時空。

それは突発的な行為を行う時に使用される世界。

それは時に楽観的に時に窮地に陥る世界。

要はご都合主義である。



ある日の事。

 

鬼殺隊に置ける正月の行事を終わらせた翌日の事である。

 

お館様より、とある訓練が柱一同に架せられた。

 

 

「そう言う訳で君達には笑いに対する耐久訓練を行って貰うよ?」

 

 

柱合会議に呼ばれた柱一同は理解不能の顔芸込みで声を一斉に上げた。

 

 

 

「「「「「「はい?」」」」」」

 

 

 

新年早々から素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。

 

お館様が何時もの儚げな表情ではなく何かを企んでいる表情だったからだ。

 

柱の代表として悲鳴嶼がお館様に質問した。

 

 

「お館様、何故その様な催物を?」

「そうだね、私の…思いつきかな?」

 

 

 

「「「「「…(思いつき!?」」」」」

 

 

 

「これは隊士達への身稽古も兼ねているんだ。」

「身稽古を?」

「うん、柱の修行がどんなものなのかを見て貰うには丁度良い機会だと思わないかい?」

「は、はぁ?」

「そう言う訳だからよろしくね。」

 

 

こうしてお館様の思い付き催物が開催される事となった。

 

 

******

 

 

お館様からの催物開催宣言から三日後。

 

ここ、産屋敷一族が管理する無人島に柱達が集結させられていた。

 

 

「お館様は何を考えて柱の修行を…」

「身稽古と言ってはいたが、どうやって隊士達に見せるのだ?」

「それに関しては大丈夫だと思うけど?」

「どういう事だ?」

「お館様から『遠隔でその場の状況を撮影出来るカメラは造れないか?』って申告されたの。」

「んで、造ったと?」

「そう言う事ね、凝りに凝って画質や色彩も鮮明に出る様にしたから…かなり高価な出来になったわ。」

「何でもアリだな、お前。」

 

 

冨岡の発言から始まり、煉獄の疑問、ハスミからの説明で宇髄から納得の声が続いた。

 

 

「ただ、ある問題が浮上した事は確かよ。」

「問題?」

「この修行…恐らくは私がお館様に進呈した強化訓練案の一つで訓練島の修行よ。」

「訓練島?」

「そうよ、日輪刀がない状態で何処まで活動出来るかを想定した修行。」

「そりゃ随分と過酷じゃねえか。」

「なら言うけど、もしも日輪刀が何かしらの条件で奪われたり紛失したら…貴方達は戦えるの?」

 

 

悲鳴嶼と伊黒の疑問、不死川の訓練に関する評価に対してハスミは辛口発言で答えた。

 

その発言に胡蝶は少し考えてから答えた。

 

 

「無理でしょうね……刀があってこその鬼狩り、柱である私達でも撤退を第一とした行動が求められます。」

「…そう言った状況を想定した訓練がこの訓練島なのよ。」

「成程、君らしい考えの訓練案だな。」

「流石の私も無人島を用意出来る程の財力はないから、案件だけお館様に進呈して置いたのだけど…まさか、実行に移すとは。」

 

 

心の中で『お館様、どんだけ金持ちやねん。』と思ったハスミだった。

 

 

『あー、あー、聞こえているかな?』

「お館様?」

「ど、何処から!?」

『吃驚しただろうね、ハスミに頼んでカメラに電話機能も付けて貰ったんだ。』

 

 

島の至る所からお館様の声が響いた。

 

時透は?マークを浮かべ、甘露寺は吃驚して慌てている。

 

ハスミは装置の設計者なので驚かず、お館様に言葉を返していた。

 

 

「お館様、無事に聞こえて何よりです。」

『うん、それじゃあ耐久訓練を始めようか。』

「お館様、難易度はどの程度に?」

『そうだね、柱なら完全に攻略しなければならないから…地獄で行こうか?』

「…ご自由に。」

『では、開始するよ。』

 

 

島にアラートが鳴り響くのと同時に待機していた鎹鴉達から小包が届く。

 

各自、小包を開封し中身を確認。

 

判子を押す枠が数か所に配置された島の見取り図と小刀が入っていた。

 

 

「これだけで島を攻略するの?」

「クジョウ、この修行はどうすれば合格だ?」

「地図通りに移動して見取り図に掛かれた枠全てに判子を押す…それがこの修行の合格条件よ。」

 

 

現代風に言えばサバイバルゲームを兼ねたスタンプラリー方式である。

 

 

「ハスミさん、そう言えばお館様に難易度って言ってましたね?」

「あれは、簡単な順に梅、竹、松と最高難易度の地獄の四つに分けているの。」

「その難易度で一般隊士が合格出来るのは?」

「良くて竹まで、松からは一気に難易度を上げているから。」

 

 

松から一気に難易度が上がり、地獄は言葉通りに地獄の訓練が待ち構えている。

 

一般隊士が合格出来る範囲が竹なのは、そこまでが実力を引き出せる限度だからだ。

 

松を合格したければ、自力で全集中の呼吸の常中をこなせなければならない。

 

これは無惨討伐の為の地獄の訓練なのだ。

 

 

「常中が出来ている炭治郎君達でも松はギリギリって所かしら?」

「どんだけ難易度上げているんだよ。」

「死に物狂いでやらなきゃ死ぬのはこっちよ……それ位、耐えて貰わなきゃね。」

「そいつは同感だぜ。」

「で、全部の判子を押すまでの道程に不特定多数の罠が大量に仕掛けてある…文字通り五感を駆使しないと合格出来ないわ。」

「あらあら、地獄と言うに相応しい修行なのですね。」

「ちなみにアウストラリスが喜んで何百回もやっている合格不可能難易度の閻魔ってのもあるわよ?」

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

「用意するのは良いけど、あの人…仕掛けた罠全部破壊しちゃうから準備するのが大変なのよね。」

「…お前ん所の大将は脳筋かよ。」

「前向きに挑戦精神が強いって事で。」

 

 

そんなやり取りをした後、一行は出発地点から最初の判子がある場所へと移動を開始した。

 

一行の装備は各自の日輪刀と羽織がない状態で支給された小刀と島の地図だけである。

 

因みに伊黒の鏑丸は本部でお留守番。

 

だが、一つ目の判子がある場所へ辿り着く頃には柱が全員精神的がへばっていた。

 

 

「どう云う罠だよありゃ…!」

「尻が痛い。」

「つか、脳天に金タライが派手に痛てぇだろ!」

「連続の銅鑼鳴らしで耳が痛いです。」

 

 

爆笑耐久訓練なので罠が全て地味に響くものが設置されている。

 

本来なら死ぬ一歩手前の罠が仕掛けてあるのだが、爆笑耐久訓練なのでこの配置なのだ。

 

因みに罠に嵌った柱の受けた罠は以下の通り。

 

不死川は顔面に生クリームの皿が直撃。

 

伊黒はゴム製のバットで尻殴打。

 

宇髄は脳天に金タライ落下。

 

胡蝶は偽の罠を避けた先に連続銅鑼鳴らしを受けていた。

 

 

「お前らはまだマシだ。」

「うむ、これは地味に効くぞ!」

「うぇえ、これベトベトするわ…」

「ああ…涙が止まらゲホッ!?」

「…取れない。」

「お館様、エグイ罠を…ううっ。」

 

 

冨岡は網に引っかかった後に墨汁を掛けられる罠。

 

煉獄は焼き芋の匂いがする落とし穴に嵌った。

 

甘露寺はヌタウナギが満載された沼に落下。

 

悲鳴嶼は顔面に唐辛子の粉が入った紙袋が激突。

 

時透は背中に無数の玉蒟蒻が入り込み。

 

ハスミは藤の花の香水液の噴射を受けた。

 

 

「…(初回からこれって、強烈な罠を考えましたね。」

 

 

先程の香水液で少々吐血気味のハスミは罠の立案者達を密かに呪った。

 

 

「いくらお館様でも、んなエグイ罠を思いつくもんかよ?」

「不死川の言う通り何かの悪意を感じる。」

「ぶっちゃけ派手に言うとそうだよな?」

「ハスミさん、大丈夫ですか?」

「何とか…」

「血吐いているし無理しちゃだめよ。」

「少し休めば、戻るから大丈夫よ。」

 

 

第一の判子を各自押し終えた一行。

 

先程の罠から状態が回復するまで休憩を取っていた。

 

 

「目が見えぬとは言え、これは痛い。」

「僕も背中が気持ち悪い。」

「墨が取れない。」

 

 

これは笑い所ではない。

 

寧ろ怒りのボルテージを上げている状態である。

 

 

「…何か可笑しくない?」

「可笑しいとは?」

「さっきの罠道を考えると笑いと言うよりも怒りしか彷彿しないのよ。」

「確かにそうですね。」

「多分、これってやる側より見る側の方が笑うと思うのだけど…」

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

「お館様、聞こえていますか?」

『ハスミかな、聞こえているよ?』

「まさかとは思いますが、これ…耐久訓練をしているのは柱では無いのでは?」

『君の推測通り、耐久訓練を受けているのは一般隊士達だよ?』

 

 

「「「「「「…(やっぱり。」」」」」」

 

 

「てぇ事はつまり?」

「お館様と一緒に観戦している一般隊士達が耐久訓練中って事。」

『そう言う事、初回から失敗者が多くてね…数が多いから各自の失敗回数を数えている所だよ。』

「なら、俺らは?」

「俗に言う見世物状態よ。」

「お館様…」

「これはこれで地味に響きますね。」

「これが後、何回あるの?」

「判子の数は全部で八個、残り七個ね。」

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

『そう言う事だから引き続き頑張ってね。』

 

 

そこで途切れる島内放送。

 

一行はどんよりな表情で各自の想いを答えた。

 

 

「これが後七回。」

「地味に効くぜ、コレ。」

「お館様、何考えているんだよ!!」

「うむ、俺もこれ以上続くと耐えられそうにない!」

「煉獄、ハッキリ言わないでくれ。」

「私も冷静で居られなくなりそうです。」

「しのぶちゃん、気持ちは解らなくないけど抑えようね。」

「…」

「ああ、柱の団結力が欠如していく。」

「岩柱、それは言ってはいけないお約束です。」

 

 

その後、柱による判子巡りが再開。

 

地味に効く罠の数々を受けて最終地点の判子を押す頃には柱達の精神は限界値を超えており、手が付けられない状況に陥っていた。

 

これは鬼なら数百体斬れると言える程の気力が高まり切っていた。

 

後に島から帰還後、鬼が出現した報告を受けた柱達は現場に急行し余りの殺気に任せて鬼の頸を刈り取ったとの事。

 

 

ある意味で修行は成功したと言っても良いが、精神面によろしくない効果もあったので後日、この案件は却下された。

 

同時に罠発案者が一般隊士達に掛けた募集だったとの事で立案者達は後に展開される柱による合同訓練で地獄を見るのだった。

 

 

=続=

 



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再会と判明

再会は必然。

判明は希望と絶望。

願うのは夜明け。


前回の臨時柱合会議後の夜。

 

ここ鋼屋敷で私ことハスミは滞在中のアウストラリスに情報交換を行っていた。

 

 

******

 

 

「成程、三年間もここに。」

「無限力の介入とは言え、先程の期間を鬼狩りとして過ごしていました。」

 

 

私は元の世界での情報を得つつ、こちら側での情報をアウストラリスに伝えていた。

 

その期間は三年間、私達が目的を達する為の障害には十分な長い期間である。

 

だが、私の中に潜む無惨の呪いや炭治郎君ら鬼殺隊の事をあるので問題解決までここに居る事を許可して貰った。

 

ちなみにアウストラリスは紅霧村事件が発覚する数日前に転移していたとの事。

 

 

「俺がここへ訪れられたのも無限力の介入によるもので間違いないだろう。」

「アウストラリスもですか?」

「ああ、お前の行方不明から数日後の事だ……先んじて向こうでの状況はガドライト達に任せて置いた。」

「後でお礼をしないとですね。」

 

 

封印戦争終結直後とはいえ、何も出来ないのが歯痒い。

 

無限力による私達に次の行動を早期に起こせない為だろう。

 

 

「アウストラリス…他に変わった事は?例えば使えない能力はありませんか?」

「…お前の言う通り、次元将化による巨大化が出来ん状態だ。」

「やはりですか…」

「ハスミもか?」

「はい、私の場合は無惨の呪いもありますが念神を召喚出来ません。」

「…EFの時と同じ状況とは。」

「毎度お馴染み、アカシックレコードからの世界の秩序を乱さない為の措置ですね。」

「本領を発揮出来んのは些か難儀だな。」

「慣れるのも大事ですよ、縛りもまた自身を強くする鍛練と思って下さい。」

「…致し方ないか。」

 

 

腑に落ちない表情をするアウストラリスだったが、納得するしかなかった。

 

 

「しかしジ・エーデルが別の形で復活していたとはな。」

「記憶に関しては空白事件の終盤、AGとは切り離されている状態の様です。」

「奴の悪意の残滓とでも?」

「その解釈で間違っていません。」

「あの愉快犯め、何処まで引っ掻き回せば済むのだ?」

「此方で消し炭にしても足りないかと。」

「本来の力が使えんとなると厄介だな。」

「仰る通りです。」

 

 

無限力が茶番劇を求めているとはいえ、今回の一件はやりすぎだ。

 

悪い意味でこの世界の史実を書き換えてしまう可能性を否定出来ない。

 

在るべき史実こそが世界が定めた歴史。

 

何人たりとも変えてはいけない。

 

変えたら最後、この世界は消失してしまうのだから…

 

 

「ハスミ、これからどうする気だ?」

「引き続き、鬼舞辻無惨と配下の鬼の討伐並びにジ・エーデルの始末が目的です。」

「双方共に野放しには出来んな。」

「ジ・エーデルの件は何時もの事なのですが、無惨と鬼殺隊の関係も少し違和感を感じたので…」

「違和感?」

 

 

ハスミは調査した因果関係についてアウストラリスに話した。

 

戦国の世に痣者と呼ばれる鬼狩りが生まれた事、これにより無惨が人の世から一時的に消えた。

 

同時に鬼狩りから無惨に与する者が現れ、当時のお館様のご先祖が殺害された事。

 

遊郭事件で眠っていた時に見た夢の内容と鬼殺隊に残った記録書を再調査。

 

それらを考察した所…ある答えが導き出された。

 

無惨が執拗に花札の耳飾りを付けている炭治郎君を狙うのは『始まりの呼吸の継承者』である事。

 

戦国の世で始まりの呼吸を生み出した剣士が竈門家にそれを伝授し繋ぐ証として花札の耳飾りを残した。

 

その剣士の双子の兄が無惨と取引し鬼と化し、当時のお館様を殺害した事。

 

これは痣者と始まりの呼吸を知る者を消す為。

 

始まりの呼吸の剣士を孤立させ当時の鬼殺隊を弱体化させる為。

 

これにより後世で痣者になる兆しの柱や剣士を秘密裏に始末させられた事で更なる弱体化が起こった。

 

 

「成程な。」

「他にも調べるべき個所があるので全てではないのですが…」

「では、痣者とは?」

「一種のオーバーヒート、対無惨戦において最終決戦状態です。」

「…」

「そして寿命を削る諸刃の剣とも言えます。」

「諸刃の剣か…」

 

 

人体の体温は大体三十六度から三十五度位。

 

それを四十度以上の熱と心拍数を上げる事で無惨に対抗出来る肉体に切り替わり、それに応じた剣術を行う事が出来る。

 

だが、その行為は人体を著しく損傷させ寿命を削る云わば寿命の前借。

 

痣者が二十五歳までに死去するのはそれが原因だからだ。

 

そしてこれにはある思惑も絡んでいると思われる。

 

 

「思惑?」

「痣者がこの世に長く生きられない……それは呼吸の使い手を最終的に抹消させる為と思われます。」

「訳は?」

 

 

ハスミは目元を伏せて答えた。

 

 

「無惨と鬼無き世界で痣者が生き残ったらどうなりますか?」

「…戦いの道具だな。」

「その通りです。」

 

 

もしも痣者が平均寿命まで生きられたら、後の大戦で戦いの道具にされるだろう。

 

常人よりも鍛えられた肉体に多彩な剣技。

 

呼吸の方法が帝都の軍部に漏れれば間違いなく接収に来るだろう。

 

鬼を滅する呼吸が護るべき人を殺める事になる。

 

最悪の場合は国の道具に成り果てる事。

 

それだけは避けなければならない。

 

 

「ハスミ、お前はどう考える?」

「無惨討伐後、呼吸や戦術に関わりの全てを封印し抹消するしか無いでしょう。」

「つまりは鬼殺隊の解体か…妥当な判断だ。」

「お館様も其れは承知していると思います。」

「…」

 

 

事実、この世界の歴史を興味本位で調べた事がある。

 

前世と同様の歴史を辿った世界。

 

公式記録に鬼殺隊の記録は一切残ってなかった。

 

これは歴史の影に消え去ったと推測した。

 

 

「今後、どうする気だ?」

「痣者の発現はいずれ起こる…私は痣者となった人達を救います。」

 

 

発現したこの力ならそれが出来る。

 

そして呼吸を封印する事もまた可能だ。

 

護るべき人達を護るために。

 

 

「俺からはなにも言わん、お前がすべき事を為せ。」

「はい。」

 

 

ハスミはアウストラリスと話終えた後、潜んでいた客人に静かに告げた。

 

 

「音柱、今の話をお館様に告げるのは自由だけど…よく考えてからにする事をお奨めするわ。」

『!?』

「私は今の通りに行動する、それは変わる事はないわよ?」

 

 

ハスミはそう答えると温くなった茶を啜った。

 

 

=続=

 



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酒で語る事

何かを通して語る事。

それは不安や悲しみ。

語れない事の為に酒はある。


鋼屋敷滞在から三日目。

 

噂は噂を呼び、鋼屋敷には筋骨隆々な異国人が滞在していると隊士達へと話が伝わっていた。

 

巨躯の鬼を素手で倒した者。

 

柱を組み手で伏せた者。

 

と、言った噂話である。

 

その噂を聞きつけ、前炎柱が彼を訪ねた事から今回の話が始まる。

 

 

******

 

 

その夜。

 

炎柱邸の縁側にて。

 

 

「お館様の客人とは言え、呼び出しに応じて貰い感謝する。」

「いや、俺自身…其方とも話がしたいと思っていた。」

「話だと?」

 

 

人払いされた炎柱邸で語り合う煉獄槇寿郎とアウストラリス。

 

互いに話し合いたいと言う奇遇にも似た偶然がそうさせたのかもしれない。

 

 

「事情はハスミとご子息から聞いている。」

「…ならば、知っているだろう。」

「人は過ちを犯そうともやり直せる、それまでに時間を要するだけだ。」

「そうだな。」

 

 

アウストラリスは酒の入った升を受け取ると軽く一飲みした。

 

 

「程良い辛さの酒だな。」

「気に入って貰えたか?」

「ああ…」

 

 

軽く酒が回った所で本題に入った。

 

 

「俺に話とは?」

「君は何故戦う事が出来る?」

「…余り考えた事がなかったな。」

「では、改めてどう思う?」

「俺には果たすべき約束がある…それだけだ。」

「果たすべき約束?」

「鬼殺隊が無惨討伐を掲げる様に俺達はある敵を追い倒す事を目的としている。」

「ある敵?」

「俺やハスミ、同志達はその敵によって故郷、家族、仲間を失った。」

 

 

生まれた故郷を失い。

 

愛しい家族を失い。

 

共に戦う仲間を失った。

 

 

「…」

「そちらと同様に復讐と言っても変わりはないだろう。」

「根は同じと?」

「そう言う事だ。」

 

 

奪われたものを取り返す為に愛した家族と仲間の無念を晴らす為に日夜戦い続ける。

 

いつ終わるのかと言えぬ長き戦いを今日の今日まで行っていた。

 

 

「俺は組織を纏める当主である以上、最後の最後まで投げ捨てる事はない。」

「覚悟が強いのだな?」

「ハスミには『肩の力を抜く事も必要では?』と良く言われるな。」

「…あの娘らしい。」

「養父の話では母親を目処前で失ってから自他共に厳しくなったらしい。」

 

 

成程、あの娘も誰かを失っていたのか。

 

だからこそ腑抜けた俺にあれだけの叱咤が出来たのだな。

 

 

「いつも『失ってからでは遅い。』と口癖の様に言うのはそこからだろう。」

「失ってからでは、か…」

「何かを告げられずに終わる者、何かを成す事が出来ずに終わる者……戦いの中でそう言った仲間を見続けた事でより酷くなった。」

 

 

真の敵に対しては容赦なく切り捨て、情状酌量の余地がある者には救いの手を差し伸べる。

 

自らも日々研磨し前線で戦う事を求める。

 

彼女も元は組織を束ねる当主だった故に出来得る事を成そうとしているのだろう。

 

 

「あの娘が組織を運営していたのか!?」

 

 

アウストラリスの発言に対し呑んでいた酒で咽た槇寿郎。

 

 

「今は信頼する父親達に預け、俺の元へ下ったがな。」

「…(あの齢で下級隊士達への戦術指南が出来ていたのはそれだったのか。」

「ハスミは戦闘能力もそうだが、仲間への戦術指南も良い筋をしているぞ?」

「確かに個々の特徴を良く観察し長所を伸ばし短所を改善している。」

「その点に関しては産屋敷殿も称賛していた。」

 

 

確かに鬼殺隊が目まぐるしく戦勝を続けているのも竈門君と彼女が現れてからだ。

 

那田蜘蛛山事件後の折に彼らは柱見習いと柱に任命。

 

無限列車事件では杏寿郎らと共に乗車した民間人を救い上弦達を退けた。

 

遊郭事件でも宇髄君らを筆頭に上弦の陸を倒し遊郭に潜む巨躯の鬼を滅した上で他の上弦を撤退に追い込んだ。

 

紅霧村に出現した巨躯の鬼や絡繰りの大群もまた彼らが介入した事で被害は無かった。

 

変わりつつあるのか?

 

何故だ?

 

本来なら杏寿郎は無限列車事件で殉職し宇髄君は遊郭事件で左目と左手を失い柱を退任した。

 

その後の事件はまだ始まっていないが一体何が起こっていると言うのだ?

 

 

「煉獄槇寿郎、俺が話したいと言った事を告げて構わないだろうか?」

「構わないが…」

 

 

アウストラリスは一息ついてから答えた。

 

 

「煉獄槇寿郎、其方は前の記憶を持っているだろう?」

 

 

その言葉に槇寿郎の持っていた升が震えた。

 

 

「!?」

 

 

アウストラリスは続けて言葉を繋げた。

 

 

「安心しろ、この事は竈門炭治郎も気づいている。」

「竈門君もか!?」

「人払いをさせたのはそう言った話をする為だ。」

「…」

「ハスミの話では竈門炭治郎は同じ人生を何度も繰り返しているらしい。」

 

 

終わらない物語。

 

終わらない戦い。

 

終わらない輪廻。

 

心が、魂が、精神が、その全てが泣き叫び擦り切れる位に繰り返しが起こっている。

 

既に数える事を止める程の輪廻を繰り返していた。

 

 

「そうか、竈門君は何度も繰り返しているのか…」

「竈門炭治郎の願いがそうさせているのかは不明だがな。」

「竈門君らしい考えだ。」

 

 

全てを救う為に何度も何度も繰り返し失敗に終わっても諦めない。

 

それを誰かに言えずに己の心に隠して刀を振り続ける事を選んだ。

 

 

「ハスミも痣者に関しての情報を調べ、その対抗策を構築中だ。」

「痣者…鬼舞辻無惨を倒す為の変化か。」

「煉獄槇寿郎、この話を聞いた上で燻るつもりはないのだろう?」

「何が言いたい?」

 

 

アウストラリスは懐から紅い液体が入った小瓶を槇寿郎に手渡した。

 

 

「これは?」

「ハスミの血液、あの血鬼術を発動させる条件となる物だ。」

「!?」

「ハスミは血鬼術と産屋敷殿や周囲に話しているが本来は異なる力だ。」

「血鬼術ではないと?」

「その通りだ、あの者が本来持つ祝福であり呪いとも言える力……鬼から人へ戻った後でもそれは発動させる事が出来る。」

 

 

それは痣者の末路を打ち消す力。

 

だが、生き延びた先に待ち受ける絶望の時代を彼らに与える事になる。

 

祝福であり呪い。

 

それは使う者次第で切り替わる。

 

 

「再び刀を持ち、夜の闇と戦う事を選ぶのなら使え。」

「…少し考えさせてくれ。」

 

 

槇寿郎はそう告げると黙った。

 

余りの展開に考える暇もなかっただろう。

 

暫く考えた後。

 

アウストラリスに酒が終わったと告げてお開きにした。

 

 

「今宵は良い酒の席だった、いずれまた酒を酌み交わそう。」

「その時は良い酒を用意して置く。」

 

 

アウストラリスは炎柱邸を後にし鋼屋敷へと歩みを進めた。

 

更に暫くした後、槇寿郎は升に残った酒を飲み干してから小瓶を見上げた。

 

 

「瑠火、俺も死地に踏み入ろう……杏寿郎達を助ける為に。」

 

 

その独り言を最後に小瓶の蓋は開かれた。

 

 

=続=



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とーとつに飯テロ

時に思う。

無性に食べたくなる物。

それが空腹となった亡者を誘う。


前回の滞在から四日目。

 

唐突にアレが食べたくなった。

 

うん、作ろう。

 

 

******

 

 

二日前の日中、蝶屋敷の食堂にて。

 

 

「アオイちゃん、居るかな?」

「ハスミさん、どうしたんですか?」 

「明後日のお昼だけ食事を無しにして貰いたいのだけど?」

 

 

事前に食堂で取る食事のキャンセルを行う為に尋ねて来たハスミ。

 

 

「珍しいですね、任務ですか?」

「そうじゃないわ、その日は個人的に自炊しようかと思って。」

「自炊…ですか?」

「そうよ、それで断りを入れようと思ったの。」

「それは構わないですが、ハスミさん…何を作るんですか?」

「ライスカレーだけど?」

 

 

ハスミの発言に一時停止する蝶屋敷の四人。

 

 

「「「「…」」」」

 

 

その様子にハスミが一声かけた。

 

 

「アオイちゃん…すみちゃんときよちゃんとなおちゃんも止まっているけど?」

「ハスミさん!ライスカレーを私達にも貰えないでしょうか!?」

「一度に多く作るから別に大丈夫だけど…」

「是非、お願いします!!」

「…(四人共目が輝いているけど、そんなにカレーライスが好きだったのかな?」

 

 

カレーライス、最初はコルリと呼ばれ…万延元年にあの福沢諭吉が「増訂華英通語」に掲載した事で後の日本の国民食とまで上り詰めるきっかけとなった。

 

しかし、当時まだライスカレーの普及に至らず見た目の関係で広まりが遅かった。

 

明治に入ると軍関係の学校の食堂メニューに加えられた。

 

それから数年後に有名な和菓子メーカーやホテルがライスカレーを食堂に加えた事で広がり始める。

 

更に国産のカレー粉や即席カレールウの原型もこの頃から完成し、主に軍関係で広がり始めた。

 

今から数年後にはある食堂がライスカレーを販売し始めた事で爆発的にカレーの普及が起こる事となる。

 

そんなカレーの歴史を思い出していたハスミは現実に戻った。

 

 

「じゃあ、明後日のお昼頃に炊いたご飯を人数分用意しておいてね。」

「判りました。」

「人数が増えたら明日までに私の鎹鴉に伝えて頂戴、仕込みの関係もあるから。」

「はい。」

 

 

アオイちゃん達の期待の圧を最後に私ことハスミは蝶屋敷を後にした。

 

 

「取り敢えず、材料を集めないとね。」

 

 

私は武装バイクに搭乗し任務先の横浜へと向かった。

 

それから翌日。

 

横浜の方面で出現したカマキリとネズミの巨躯の鬼を討伐。

 

早朝、横浜の市場でカレーに必要な香辛料をインド人の商人から数種類程購入し手に入れたのだった。

 

 

「後は肉類と野菜に果物……乳製品はあるかな?」

 

 

その後、横浜から帰路である帝都の市場にも足を運んで必要な材料を手に入れる事が出来た。

 

お館様への報告を行った後、私は鋼屋敷へ帰宅。

 

お風呂を済ませた後に仕込みに入る事にした。

 

因みに定期訓練をしている隊士達は出払っており、今は訓練が休業状態である。

 

なので、料理に没頭出来る時間が出来たのである。

 

 

「まずは炒め玉葱と肉の仕込みからするかな。」

 

 

カレーを作る際に炒め玉葱と肉の仕込みは一晩寝かせ派なので今日中に終わらせて置く。

 

夜中にルウの素を作って翌日のお昼に間に合わせる形にした。

 

作り置きの合わせ香辛料は風味が落ちてしまうので作るギリギリに行う。

 

これは謎の食通少佐からの秘伝なので仕込みは大事にしている。

 

まあ、呼吸を使って食材を切っている時点で手早く出来るのは有難い。

 

 

「粗熱を取った後に平らに伸ばしてトレーに入れて冷やしてと。」

 

 

肉は一口大にした後に下味を付けて、香辛料にヨーグルトを混ぜたものを入れて漬けて置いた。

 

今夜は緊急の任務が入らなければ、時間通りに作れるが…

 

そうもいかないと思うので進める工程は進めて置く。

 

 

>>>>>>

 

 

翌朝。

 

特に任務が入らなかったので無事にカレーを煮込む事が出来た。

 

軽く朝食と取った後、ニ~三時間位日向ぼっこしつつ仮眠してお昼前に起きた。

 

厨房でカレーの入った寸胴鍋に火を再度通して温め直す。

 

味見もしてあるので後は蝶屋敷に届けるだけである。

 

 

「これで完成と…」

 

 

私はアオイちゃん達に渡す分のカレーを容器に移して籠に入れた。

 

カレーだけでは味気がないので副菜と飲み物も用意。

 

お昼手前の時間になりそうなのもあり、私は歩みを速めた。

 

 

「「「わぁ~」」」

 

 

丁度、忙しい時間が終わった頃に蝶屋敷に到着。

 

カレーの匂いに気が付いたすみちゃん達から可愛いワクワクな表情を見せて貰えた。

 

 

「アオイちゃん、ご飯は大丈夫?」

「はい、準備万端です!」

 

 

私はアオイちゃんと共にカレーの配膳と副菜、飲み物の用意。

 

食器運びはすみちゃん達が積極的にやってくれたので助かりました。

 

 

「お約束のカレーをどうぞ。」

 

 

合図と共に更に可愛い声が食堂に響いた。

 

 

「「「「頂きます!!」」」」

 

 

四人の様子を見る限り、甘めのカレーにして置いて正解だった。

 

辛すぎると食べ辛いのもあるので。

 

 

「辛くないね。」

「うん。」

「甘くておいしいね。」

「///」

 

 

定番の福神漬けとらっきょは普通に食べているので大丈夫そう。

 

飲み物はラッシーがおすすめだが、この時代ではヨーグルトの普及が余り進んでいない。

 

なので冷やしたレモネードにして置いた。

 

 

「カレーの容器は後で取りに来るからゆっくり食べてね。」

「判りました、ありがとうございます。」

 

 

私はカレーを楽しむアオイちゃん達の邪魔にならない様に食堂を後にした。

 

鋼屋敷に戻ると任務帰りの炭治郎君達かまぼこ隊が帰って来ていた。

 

 

「お疲れ様、へとへとみたいね?」

「ハスミさん、只今戻りました…」

「何かあったの?」

「三日連続で任務を振られて漸く戻ってきました。」

「俺も…限界。」

「…腹減ったぜ。」

 

 

私は三人に先に風呂入ってと告げてから厨房に向かった。

 

入り方は炭治郎君に教えてあるので特に問題はないだろう。

 

数十分後、汚れを落として落ち着いた三人にライスカレーを提供した。

 

 

「これってライスカレー?」

「旨いのか?」

「ハスミさんのライスカレー、久しぶりだな。」

「炭治郎は知ってるのか?」

「うん、狭霧山で修行している頃にハスミさんが作ってくれたんだ。」

「へえ~。」

「ライスカレーだけじゃ足りないと思うから他にも作って置いたわよ。」

「天ぷら!じゃねえか!?」

「似ているけどフリッターって言う異国の揚げ料理よ、ライスカレーに合う食材にしてあるから。」

 

 

正直に言えばカロリーの暴力であるが、激務でお腹を空かした彼らには丁度いいだろう。

 

頂きますの合図と同時に高速で掻っ込む三人。

 

 

「うんめぇ!!」

「生き返る!」

「すっごく美味しいです!」

 

 

その後、数杯分のカレーと副菜を完食した三人は程良く眠くなり隣の部屋で眠ってしまった。

 

部屋は日光遮断が出来る部屋なので禰豆子ちゃんも一緒に眠っている。

 

 

「さてと、片付けでもしますかね。」

 

 

私は三人が食べ終えた食器の片付けを始めた。

 

後日、このカレーの噂を聞きつけて柱VS下級隊士達によるライスカレー争奪戦が開催されるのはまた別の話。

 

 

=続=



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刀鍛冶の里編
失望と転落


流れは変わった。

物事が上手く行かず。

期待から失望へと変化した。

用済みの秒読みは始まったのだ。


遊郭事件後の翌日。

 

ここ無限城に上弦の鬼達が集結していた。

 

それは例外の覗いて実に百三十年ぶりの招集である。

 

 

 

べベン!

 

 

 

複雑に展開された無限城の内部。

 

琵琶を掻き鳴らす琵琶鬼こと鳴女。

 

無惨の命により、琵琶を鳴らして上弦の鬼達を集めていた。

 

 

 

「ヒョ。」

「…」

 

 

猗窩座は茶室の様な造りの場所に置かれた壺を見る。

 

その壺から出てきたのは目元が口で口が目の異形の鬼。

 

 

「これは、これは、猗窩座様。」

 

 

彼の名は玉壺、上弦の伍の鬼である。

 

 

「いやはや、お元気そうでなにより…九十年振りでございましょうか?」

「…」

「おそろしい、おそろしい。」

 

 

同じ様に階段の間で手すりに隠れて答える老骨の鬼。

 

 

「暫く会わぬ内に玉壺は数も数えられなくなっておる。」

 

 

老骨の鬼の名は半天狗、上弦の肆。

 

彼は玉壺の間違えた年数を訂正した上で告げた。

 

 

「呼ばれたのは実に百三十年振りじゃ、割り切れぬ数字、不吉な丁、奇数。」

 

 

半天狗は『おそろしや、おそろしや。』と怯えて手すりに隠れ続けた。

 

 

「…(妓太郎と堕姫の二人は来ていないのか?」

 

 

同じ様に騒がしい二体で一体の上弦の陸が姿を見せていない事に猗窩座は心の中で頸を傾げた。

 

だが、一番虫唾が走る相手から話しかける事が鬱陶しいと思っていた。

 

 

「やあ、やあ、猗窩座君、ひさしぶりだねぇ?」

「…」

「え~無視かい?つれないなぁ…」

「琵琶女、無惨様はいらっしゃらないのか?」

「まだ、御見えになられていません。」

 

 

猗窩座は上弦の弐の童磨を無視し鳴女に状況を聞いたが、呼び出しをした本人が不在であると彼女は告げた。

 

逆に上弦の壱の黒死牟は既に謁見の間の様な造りの座敷に鎮座している。

 

彼女の話では一番最初に呼び寄せたらしい。

 

 

「黒死牟殿、お久しぶり。」

「…」

「えー猗窩座君と同じ?」

 

 

気を取り直して玉壺に話しかける童磨。

 

壺の美しさを称賛されるが、扱い方が余りにも人にとっては非道なので良い評価ではないが味わいがあると玉壺は告げた。

 

そんな雑談を行っていると黒死牟から一声かけられる。

 

 

「無惨様のお見えだ。」

 

 

べべん!!

 

 

琵琶の音と同時に天井部分に出来た実験室様な造りの場所で液剤をピュレットで試験管に入れている無惨の姿があった。

 

上弦の鬼達は姿を認識するとその場で跪いた。

 

 

「妓太郎が死んだ。」

 

 

実験台のシャーレに薬剤が数滴落とされた。

 

 

「上弦の月か欠けた。」

 

 

百十三年近く変動しなかった上弦の月が欠けた事。

 

それは無惨の逆鱗に触れるには十分な事実だった。

 

その様子に童磨が自身の目玉をほじくるなどで謝罪の意思を見せたが、無惨は興味なく答えた。

 

 

「必要ない貴様の目玉など、妓太郎は負けると思っていた…案の定堕姫が足手まといだった。」

 

 

癪に障るが、あの成り損ないの女の言葉通りだ。

 

あ奴の卓越した状況判断と戦術構築、出来得るものは欲しいモノ。

 

 

「くだらぬ、人間の部分を多く残していた者から負けていく…だが、それもいい。」

 

 

無惨は上弦の鬼達に告げた。

 

 

「私はお前達に期待しない。」

 

 

現代で言えば、失望の意思でありリストラされる社会人に向ける言葉に聞こえる。

 

童磨はそれに対して返答するものの…

 

 

「また悲しい事をおっしゃいなさる、我々が貴方様の期待に応えなかった事があったでしょうか?」

「産屋敷一族を未だに葬っていない、成り損ないの女を捕らえていない。」

 

 

ビキリと無惨の顔が歪んだ。

 

 

「そして『青い彼岸花』を見つけていない、何故何百年も見つけられぬ?」

 

 

私は貴様らの存在理由が判らなくなった。

 

私は劣化を齎す変化が嫌いだ。

 

 

「ヒイィイイ。」

「返す言葉もない。」

「申し訳ございません。」

「俺も探知探索は不得意だからな…」

 

 

四人の上弦が言葉を返すと玉壺だけは情報を掴んだと叫ぶものの…

 

それが不確定な情報である事を無惨は見抜き、玉壺の頸を捻じり切った。

 

自らの手にその頸を乗せて全員に答えた。

 

 

「これからはもっと死に物狂いでやった方がいい。」

 

 

私は上弦だからと言う理由でお前達を甘やかしすぎたようだ。

 

そこで考えた。

 

 

「お前達にある変化を与えよう。」

 

 

無惨は告げた。

 

 

「私の命令で別行動をしていた鬼達を新たな上弦の鬼として選別した…お前達が今後失敗を犯せば即座に称号を剥奪する。」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「そして選別した鬼達が新たな上弦の鬼と成り替わる……精々精進する事だな?」

 

 

上弦達は新たな上弦の鬼候補の宣言によって己の地位が揺らいだ。

 

 

「玉壺、情報が確定次第…半天狗と共にその場に向かえ。」

「は、はいいぃい!!」

「ヒィイイ、しょ…承知いたしました!!」

 

 

その言葉を最後に無惨は鳴女の琵琶で姿を消した。

 

 

「序列の乱れ…精進せねば。」

 

 

黒死牟は独り言を告げると一目散にその場から去った。

 

 

「…」

 

 

引き続き童磨に絡まれるのを嫌った猗窩座もまた早々に姿を消した。

 

 

「あ~あ、黒死牟殿も猗窩座君も帰っちゃったか……ねえ、玉壺。」

「な、何でしょうか?」

「僕も一緒に連れてってよ。」

「それは出来ませぬ、無惨様の指示は私と半天狗殿と…」

「俺暇だし、戦力位にはなるよ。」

「鳴女殿!ワタシを。」

 

 

無惨の命令に逆らえない玉壺は鳴女に自身の身体と一緒に半天狗を同じ場所に飛ばして欲しいと告げる。

 

 

 

べん!

 

 

 

琵琶の音と共に玉壺と半天狗も姿を消した。

 

 

「あれ…」

 

 

ぽつーんと一人だけ残された童磨。

 

 

「おーい琵琶の君、良かったらこの後俺と!」

「お断りします。」

 

 

残っていた鳴女を誘うも拒否の言葉で一括され、極楽教の自室へと戻された。

 

現・上弦の鬼はその場から全員去ったが、ある鬼達が残っていた。

 

 

 

「あれが今の上弦?」

「ふむ、随分と時代錯誤な者達が多いですな。」

「…」

「放って置けよ、あいつらの誰かが居なくなれば…晴れて俺たちが上弦の鬼だ。」

「それよりも、皆様ったら誰も上弦の陸の座を欲しがりませんね?」

 

 

一言ずつ言葉を残す鬼達。

 

順に中国の民族衣装を着た少年。

 

英国の紳士風の初老の男性。

 

絡繰り人形を持った性別不明の人形師。

 

胴着姿のガラの悪いおっさん。

 

羽毛の扇子で口元を隠しながら話すドレスの女性。

 

誰もが現・上弦の鬼に対して酷評を告げ、ドレスの女性は誰も空席の称号を欲しがらない事に対して周囲に話した。

 

 

 

「誰も一番最後の称号なんて欲しがらないよ。」

「それもそうですわね、失言でしたわ。」

「ホッホッ、マドモアゼルはユーモアがあっていいですな?」

「あら、ミスターったらお上手ですわね。」

「はぁ、どうでもいいっつうの。」

「…」

 

 

彼ら事、新たな上弦の鬼達は高みの見物をしながら己に与えられた命令の為に表の立ち位置へと戻って行った。

 

史実では現れなかった新たな上弦の鬼達。

 

それは継続の証であり兆しでもあった。

 

 

=続=

 



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日輪刀破損騒動

刀は酷使し続ければ折れる物。

だが、丹念に打った刀が破壊される。

それはある意味で新たな脅威。


紅霧村事件から数週間後。

 

現在、鬼殺隊存続に関わる大事件が発生していた。

 

 

******

 

 

前回の柱合会議から数週間しか経過していない状況。

 

事は急を要するとの事で緊急招集を受け、柱が集結した。

 

 

 

「「お館様の御成です。」」

 

 

鬼殺隊本部のいつもの場所。

 

御子息達からの声に始まり、お館様の言葉が続いた。

 

 

 

「引き続き、多忙な所を呼び寄せてしまって済まないね。」

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです、益々のご多幸をお祈り申し上げます。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

お馴染み、お館様への長寿を願う言葉の後に会議の本題に入った。

 

 

「鎹鴉から聞いてはいると思うが、新たに鉄の装甲で覆われた鉄の鬼が出現した。」

「鉄の鬼ですか?」

「うん、討伐先で遭遇したハスミと炭治郎から説明して貰えるかな?」

 

 

「「御意。」」

 

 

ハスミは鰐と亀の巨躯の鬼との戦闘中に現れた鉄の鬼こと『鉄鬼』の奇襲を受けたと答えた。

 

彼女は巨躯の鬼と対峙していたので炭治郎が交戦したものの…

 

鉄鬼の頸は斬れず、皮膚から跳ね返って刀が折れてしまったとの事だ。

 

 

「この有様です。」

 

 

炭治郎は折れた自身の刀をお館様と柱に見せた。

 

刀は刃毀れし真っ二つに刃先が折れてしまっている。

 

その破損した刀に対して宇髄と煉獄が感想を告げた。

 

 

「こりゃまた…派手に折れたな。」

「うむ…見事な折れ具合だ。」

「鋼鎧塚さんに何て言えば…」

「炭治郎君、今回…刀が折れたのは貴方のせいじゃないわよ?」

「ハスミさん。」

「ジ・エーデルがあの金属を生成したみたいだから。」

「あの金属って?」

 

 

炭治郎の言葉にハスミは静かに告げた。

 

 

「超弾性金属…私が知り得る限りで対処が厄介な金属よ。」

 

 

超弾性金属とはイベント戦闘よる烈風正拳突き・改でお馴染みのアレである。

 

 

「超弾性金属って言うのは、打撃、斬撃、銃撃、爆撃が一切通じない金属の事…文字通り、攻撃が跳ね返る事から命名されたそうよ。」

「そんな金属があるのか?」

「複雑な工程が必要な金属で自然界にはない金属……まさか、私もアレを復活させるとは思わなかったわ。」

「あの糞ジジイ、余計なモン作りやがって!」

「風柱、それは同感よ。」

 

 

伊黒の質問と不死川の癇癪に応対するハスミ。

 

 

「クジョウ、これに対する対処法はないのか?」

「あるにはあるけど、現状では準備に手間が掛かる。」

「準備?」

「超弾性金属はその特性から急激な加熱と冷却で一気に脆くなるの。」

「急激な加熱と冷却…」

「私の場合はグレネードランチャーによる燃焼弾と冷却弾の交互撃ちで対処したけど…手持ちの弾薬が無くなるし冷や汗が出たわ。」

 

 

冨岡の質問に返答し感想を告げたハスミ。

 

本人も所持弾数がギリギリで冷や汗が出たと話した。

 

 

「今は鋼屋敷の工房で弾薬を生成しているけど、冷却弾に関しては薬剤の精製に時間が掛かるから大量生産が出来ないのが難点ね。」

「対処方法が判っても制限があるのか…」

「ややっこしいね。」

 

 

悲鳴嶼と時透からもしょうがない感じて答えられた。

 

 

「後は武装バイクの紅蓮と氷桔による連携攻撃位かしら。」

 

 

目立つので極力遠距離移動用に使用して貰っている武装バイク。

 

砲撃戦用の紅蓮と奇襲戦用の氷桔は文字通り火炎攻撃と凍結攻撃が行える。

 

だが、双方共に一台ずつしかないので極力被害が多い地域に回すしかないだろう。

 

 

「それでも対処方法があるだけ救いでしょうか。」

「うん、私達でも切れない相手じゃ助けられないもの。」

 

 

胡蝶と甘露寺も刀で対処できない脅威に対して不安の声を上げていた。

 

 

「お館様、鉄鬼の出現地域には引き続き私が赴きます…手薄になる地域への配置転換を願えますか?」

「判ったよ、ハスミ…配置転換の件は他の柱達と話し合いで決めて貰っていいかな?」

「御意。」

「それと炭治郎。」

「は、はい。」

「君は刀鍛冶の里へ向かって刀を修復して貰っておいで。」

「御意。」

 

 

新たなる脅威。

 

それは新たな戦いの兆しであり新たな脅威が迫る暗示の様でもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

お館様の退出後。

 

他の柱と話し合いをし鎹鴉達から鉄鬼の出現率が多い地域をハスミが担当。

 

巨躯の鬼は他の柱が共同で対処する事になったが、何らかの理由で倒せない場合はハスミが対処する状態が続いていた。

 

一方で炭治郎はお館様からの宣言通り、刀鍛冶の里へ向かう準備を進める。

 

善逸と伊之助は割り振られた任務に当たっているので不在。

 

炭治郎は戦力が乏しい状況で隠の案内の元、一足先に刀鍛冶の里へと向かうのだった。

 

 

「炭治郎君。」

「ハスミさん…」

「刀鍛冶の里での件は先んじて炭治郎が対処して欲しい、私も出来得る限り其方へ向かう算段を考えるわ。」

「判りました。」

「玄弥君と甘露寺ちゃんが刀の修復で先に移動していると思うから多分大丈夫だと思うけど…」

「いえ、俺も出来得る限りの事をします。」

「無理をしないでね。」

「はい。」

 

 

炭治郎はハスミとの会話の後、鋼屋敷を後にし案内役の隠と共に移動を開始した。

 

 

「さてと、私もそろそろ出発しますかね。」

 

 

ハスミもまた、武装バイクを引き連れて出発の準備を進めた。

 

=続=



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隠された里


秘境の里。

里長との謁見。

刀は使われてこその刀。

飾り刀もあるだろうが、刀は斬る為の刀。

その境を忘れてはならない。


前回から少し遡り、件の事件の翌日。

 

新手の敵によって刀を折ってしまった炭治郎。

 

刀の修理の依頼を鋼鎧塚宛に手紙を出したものの…

 

 

『お前にやる刀はない。』

 

『憎い、にくい、呪ってやる、にくい、憎い。』

 

『ゆるさない、ゆるさない、呪う、許さない、のろう、ゆるさない。』

 

 

と怨念が籠った殴り書きの手紙が半日後に届いたそうだ。

 

 

******

 

 

任務後の健診を終えた炭治郎は蝶屋敷の一室ですみ達と歌舞伎揚げを食べながら話をしていた。

 

 

「…どうしよう。」

「鋼鎧塚さんはちょっと気難しい所がありますからね。」

 

 

本来、鬼狩りの任務では刃毀れや刀が折れる事は多々ある。

 

当人の技量もあるが、鬼の頸は個体によって強度が違う。

 

刀に蓄積する疲労度も異なってくる。

 

柱ですら刀が折れる相手と対峙する事があるのだから猶更だ。

 

刀は守るべきものの為に使われてこその刀。

 

使う者も打つ者もどっちもどっちだと言う事だ。

 

 

「炭治郎さんは里に向かうんですか?」

「うん、案内役の隠の人が来る筈なんだけど……手違いで遅くなっているんだ。」

「そうなんですか…」

 

 

刀鍛冶の里。

 

その場所は複数に配置され、鬼殺隊でも場所は誰も知らされていない。

 

理由は鬼の襲撃を防ぐ為だ。

 

この為、移動手順も複雑になる。

 

一定の距離で最初の隠が次の隠に引継ぎを行う。

 

これを複数回行う事で漸く里に到着する。

 

定期的に道順、移動要員の隠、案内役の鎹鴉達も入れ替わるそうだ。

 

お館様の屋敷はこれと同じ要領で更に複雑に隠されているとの事。

 

ちなみにハスミさんにこの話した所…

 

 

『これ…探索と探知に長けた鬼がいたら即座にバレるわよ?』

 

 

と遠い眼をしていた。

 

 

『実際に前の記憶で探索探知の鬼がお館様の屋敷を発見してしまったのでしょ?』

 

 

炭治郎は前の記憶で実際に起こった事例を幾つか話しており、ハスミはそれを元に考察と推測した結果。

 

 

無惨はお抱えの上弦の鬼を三体…いや四体も一気に失った。

 

同時に刀鍛冶の里での事件後に禰豆子ちゃんが太陽を克服した。

 

あの無惨の性格上、あるか不確定の『青い彼岸花』よりも『太陽を克服した禰豆子ちゃん』を狙うのは必須。

 

柱による下級隊士への訓練が無事に行えたのも無惨が鬼殺隊本部の場所を発見する事に方針を変えたから。

 

正に偶然の偶然が重なったのね。

 

 

『問題は私やジ・エーデルと言う異物が居る事で流れが変わっている可能性がある事。』

『流れですか?』

『そう、炭治郎君が経験した流れが一部変わる可能性がある。』

『…』

『その事も頭の隅っこに置いて頂戴、いつか流れが変わる兆しが解ると思うわ。』

『はい。』

 

 

そんな事を考えながら蝶屋敷を後にし鋼屋敷で準備を整えた上で案内役の女性の隠と合流。

 

何度かの交代移動の末に炭治郎は刀鍛冶の里へと到着した。

 

 

「外しますよ。」

 

 

炭治郎は目隠しと耳栓、鼻が利くとの事で鼻栓をされた状態で刀鍛冶の里までおんぶされていた。

 

里に到着後はそれらを外された。

 

 

「すごい建物ですね!しかもこの匂い…近くに温泉がありますね?」

「はい、ありますよ。」

 

 

三~四階建ての家屋を見て興奮する炭治郎。

 

御自慢の鼻で近場に温泉がある事も察知した。

 

 

「あちらを左に曲がった先が長の家です、一番に挨拶を願います。」

「はい!」

「私はこれで失礼します。」

「ありがとうございました!!」

 

 

ここまで担いでくれた隠に礼を言う炭治郎。

 

それはやまびこの様に里に築かれた温泉まで聞こえて行った。

 

その温泉では…

 

 

「ん?」

 

 

独特の桃色と若草色のグラデーションに三つ編みに結った髪。

 

温泉の淵で少し涼んでいる女性の姿。

 

 

「今、感謝の言葉が聞こえた。」

 

 

彼女の名は鬼殺隊・恋柱の甘露寺蜜璃。

 

 

「誰か来たのかしら?」

 

 

彼女も刀の整備の為に里へ訪れていた。

 

今は蓄積した疲労を取る為に温泉に浸かっていた。

 

 

「何だかドキドキしちゃう。」

 

 

恋柱はその名の通り、いつもキュンキュンする話題に眼がなかった。

 

因みにこの温泉の効能は切り傷、火傷、いぼ痔、切れ痔、便秘、痛風、糖尿病、高血圧、貧血、慢性胆嚢炎、筋肉痛、関節痛、鼻炎、へその痒み、性格の歪み、思いやりの欠如、失恋の痛みである。

 

病名と痒み以外は関係ないと思うのだが…効能は一応あるのだろう。

 

蜜璃が『お肌がツルツルになるわ』と独り言を言っているので美肌効果もあると思われる。

 

様子を見る限り、程良い熱さの湯加減でいい感じに疲れが取れるだろう。

 

実際の入浴シーンは残念ながらこの文章には含まれていない。

 

 

残念だか含まれていない!

 

 

以上!

 

 

「あら?何の声かしら?」

 

 

入浴を続ける蜜璃は頸を傾げつつも温泉を堪能するのだった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

 

「フシュウウ…」

 

 

刀鍛冶の里の奥深くの林の中でひょっとこの仮面を付けた男が荒い息を立てながら小さな家屋に籠っていた。

 

 

「俺の刀を折った奴め…万死に値する。」

 

 

それは傍目から見ると禍々しいオーラが漂っており、近寄りがたい状態だった。

 

彼の名は鋼鎧塚蛍。

 

炭治郎の担当刀鍛冶である。

 

 

「フシュゥ…」

 

 

かつて刀を刃毀れさせた炭治郎を包丁四つ携え蝶屋敷近辺で一夜を掛けて追っかけ回した経緯がある。

 

そもそも戦闘専門の隊士を追っかけられる刀鍛冶と言うのもおかしいのだが…

 

その謎はある意味で解明不明の領域とも言えた。

 

 

=続= 





<独り言>


鋼鎧塚の『万死に値する』の万死がバンシィに聞こえた筆者は…何だろう。


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取り敢えず話そう

里での休暇。

再会した仲間。

松茸ご飯に丼の山。

静かに時間は過ぎていく。


炭治郎は案内役の隠と別れた後、里長の家に向かった。

 

里長こと鉄地河原鉄珍と対面。

 

丁寧な挨拶をする炭治郎に対して鉄珍はかりんとうを上げたりして話が進められた。

 

炭治郎の刀の件と担当である鋼鎧塚が行方不明である事が告げられた。

 

炭治郎は自分が刀を折ってばかりいるからと責めたが…

 

 

「いや、違う。」

「?」

「折れるような鈍を作ったあの子が悪いのや。」

「…」

 

 

鉄珍の圧に押された炭治郎。

 

同じ事を何度も経験しているが慣れないものである。

 

その後、鋼鎧塚が現れない場合は別の担当を付ける事と体が疲れていると思うから温泉でもと勧められ話はお開きになった。

 

 

「…(毎度の事とは言え何とかしないと。」

 

 

と内心困りつつ里の人に温泉の場所を案内された。

 

 

「この上が温泉となります。」

「判りました、ありがとうございます。」

「では、私は夕餉の準備をしますのでごゆっくり。」

 

 

里の人を別れた炭治郎は温泉の階段を上がろうとした所…

 

 

「あーーーー!炭治郎君、炭治郎くーん!!」

「あっ、気を付けてください!!乳房が漏れ出ます!!?」

 

 

温泉の道から下ってくる浴衣姿の甘露寺蜜璃と合流。

 

炭治郎、その様子に吃驚と赤面状態。

 

この場に蛇柱・伊黒小芭内が居れば即座に切り捨てられていただろう。

 

 

「ねーねー、きいて、きいて!!」

「お、落ち着きましょう!危ないので!!」

 

 

甘露寺の話では温泉に来た隊士に声を掛けたものの無視された事に泣いていた。

 

特徴は鶏の様な頭と話している事から玄弥だろうと炭治郎は悟った。

 

炭治郎は今夜のご飯は松茸ご飯と告げると甘露寺は喜んでその場を去った。

 

そして…

 

 

「死ぬかと思った…」

「玄弥、お疲れ様。」

「おう///」

 

 

不死川玄弥、只今思春期真っ盛りの為に乙女な甘露寺の姿に眼も向けられなかったとの事。

 

 

「確かに乳房が浴衣から出そうになれば驚くよね。」

「言うな!思い出すからよ///」

「ごめん。」

 

 

温泉に浸かりながら互いの近状報告をしていた。

 

ちなみに禰豆子は炭治郎達から見えない位置で泳いでいる。

 

 

「そう言えば、ハスミさんや善逸達と一緒じゃないのか?」

「ハスミさんは別地区に現れた新手の鬼の討伐、善逸達は別の単独任務で不在なんだ。」

「新手の鬼?」

「俺…その鬼とやりあって刀を折っちゃって。」

「それでここに来たって事か。」

「うん、本当はハスミさんと一緒に行動する予定だったんだけど…」

「さっきの刀を折ったから別行動になった訳だな。」

「ハスミさん、火薬庫からいっぱい拳銃とか弾を準備してニコニコしながら『久々の大物狩りと炭治郎の刀の弔い合戦もしてくるわね…ウフフフ。』って出発前に言ってたよ。」

「…相変わらず怖いなあの人。」

「うん。」

 

 

玄弥と炭治郎は禍々しい気配を背に漂わせたハスミを想像していた。

 

知る人は『汚物は消毒』と言うフレーズが合っている表情だっただろう。

 

 

「「はぁ…」」

 

 

そんな二人の様子もつゆ知らず、禰豆子は楽しそうに温泉を泳いでいた。

 

 

「む?」

 

 

******

 

 

一方その夜。

 

新手の鬼『鉄鬼』の出現が確認された地区にて。

 

 

「諸君、準備はいいか?」

 

 

鉄鬼の集団が進軍している様子を伺える高台にてハスミは後方に控えた隊士達に告げた。

 

 

「「「イエス・マム!」」」

 

 

隊士達は準備万端と言う合図で答える。

 

 

「これより鉄鬼の掃討を始める、手順通りに行動せよ!!」

 

 

ハスミは指示を出し終えた後、自ら鉄鬼の前に立ちはだかった。

 

 

「あの時の様にはいかないわよ?」

 

 

ハスミは所持していたグレネードランチャーを構えると砲撃を開始。

 

攪乱を兼ねて敵のど真ん中で発砲し足止めをする為だ。

 

同時に高台からも武装バイクによる砲撃が開始された。

 

ハスミは着弾地点を感覚で割り出し上手く避けながら攪乱を続けた。

 

鉄鬼の超弾性金属を破壊する為の工程である急激な加熱と冷却による攻撃。

 

次第に鉄鬼らの装甲は赤く燃えては凍結し燃えては凍結を繰り返した後、脆くなった音を鳴らした。

 

 

 

「頃合いだ!全員突撃!!」

 

 

 

ハスミはタイミングを見計らい合図を出した。

 

 

 

「「「イエス・マム!!」」」

 

 

 

高台で待機していた隊士達は下へと下り、脆くなった鉄鬼の装甲を切り裂き頸を跳ねた。

 

 

「そのまま追い込んで切り続けろ!敵は混乱している!!好機を逃すな!!」

 

 

ハスミは引き続き隊士達に指示を出しながら攻撃を続ける。

 

 

「「「イエス・マム!!」」」

 

 

この光景に対し任務に参加していた村田とハスミの地獄の訓練によって軌道修正された獪岳は白目状態でこう思った。

 

 

「柱こぇええええ…」

「いや、柱云々の前にあの人自体が怖いんですけど…」

 

 

二人のボソリ声を聴いていたハスミは静かに言った。

 

 

「あらー二人とも訓練が足りなかったかしら?」

 

 

その言葉に対して二人は命からがらの即答を行った。

 

 

「「滅相もありませんっ!!!」」

 

 

二人も理解していた。

 

そんな愚痴を言えば通常の二倍三倍の訓練が待ち受けている事を…

 

それも他の柱がやっている訓練のその先位の過酷さである事を理解していた。

 

こうして鉄鬼の討伐は騒がしくも壊滅へと追い込んだのであった。

 

 

=続=



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異変の兆し

運命が再び揺れ動く。

新たな悪意を携えて。

新たな悲しみを秘めて。



炭治郎が刀鍛冶の里に滞在している頃。

 

ある場所で異変が起きていた。

 

 

******

 

 

寺と隣接する共同墓地。

 

そこへ花束と水の入った取っ手付きの桶を携えた一家が訪れていた。

 

 

「何時振りですかね、こうして三人で墓参りに訪れるのは?」

「半年ぶりだ…墓の掃除を任せきりにして済まなかったな、千寿郎。」

「いえ、兄上は柱の仕事がありますし家の事は俺に任せてください。」

「…」

 

 

煉獄家の次男、千寿郎の言葉から始まり杏寿郎は応対、槇寿郎に関しては無言のまま歩みを進めていた。

 

半年ぶりの墓参り。

 

今回は月命日であるが、一家揃っての墓参りは半年ぶりである。

 

 

「…」

「父上…」

「父上、兄上、どうされましたか?」

 

 

煉獄家の墓までもう少しの所で槇寿郎と杏寿郎は動きを止めた。

 

千寿郎はただならぬ様子に声を掛けたが、二人の表情は変わらなかった。

 

それもその筈、今は日中であり本来なら在り得ない名残が漂っていたのだ。

 

 

「父上、千寿郎を頼みます。」

「判った。」

 

 

杏寿郎は名残の元へと急いだ。

 

だが、遭って欲しくない光景が目処前に広がっていた。

 

 

「っ!父上!!」

 

 

杏寿郎の声に反応し槇寿郎と千寿郎は声の場所へと急いだ。

 

そして、二人はその場の光景に愕然とした。

 

 

「父上、これは…」

「…」

 

 

駆け付けた二人が見たもの。

 

煉獄家の墓石が破壊され遺骨を納める場所が荒らされていたのだ。

 

最悪な事に収められた骨壺の幾つかが投げ出された状態で放置されている状態。

 

その状況下で杏寿郎は冷静を保っているが、明らかに動揺し目を見開いた状態で言葉を紡いだ。

 

 

「父上……落ち着いて聞いてください。」

「杏寿郎…」

「母上の骨壺だけが無くなっています…どこにもありません。」

 

 

骨壺は真っ白な陶器の器。

 

槇寿郎の妻で二人の母親である瑠火の遺骨を納めた骨壺。

 

それには目印になる様に生前彼女が好きだった花の絵が描かれた紙が貼られていた。

 

余生が終わり墓に収められる時に傍に寄り添える為の目印だった。

 

その骨壺だけが見当たらなかったのだ。

 

 

「っ!?」

 

 

杏寿郎が周囲の破壊された骨壺を確認しても紙の貼られた骨壺は見当たらなかった。

 

煉獄家の墓所が人ではない何かに荒らされ、瑠火の骨壺だけが無くなった。

 

微かに残る気配、それが指し示す物は…

 

 

「恐らく、何者かが母上の骨壺を奪ったようです。」

 

 

それは何の為に?

 

理由は判らない。

 

同僚達がその場にいれば、何かの情報が得られたかもしれない。

 

だが、今は墓が荒らされた上に骨壺を奪われたとしか情報が得られなかった。

 

 

「父上、兄上。」

 

 

千寿郎も動揺し言葉を上手く話せない。

 

月命日の墓参りは彼らに絶望を与えたと言えるだろう。

 

その後、お館様にもこの出来事が報告された。

 

お館様の指示で同様の事件が起こっていないか調査を進めた所…

 

各所の墓所が荒らされると言う事件が多発している事が判明。

 

何かの前触れであり、危険性を考慮して柱と階級甲の隊士が調査に出る事が決定。

 

同時期に煉獄槇寿郎が消息を絶ってしまい、ある意味で大騒動となった。

 

 

>>>>>>

 

 

先の騒動から二日後。

 

鉄鬼の出現がほとんど無くなり、警戒しつつも通常の巨躯の鬼討伐へ向かっていたハスミ。

 

出現が確認されたと報告があった地区へと移動していた。

 

 

「…(ジ・エーデル、今度は何を仕掛けようとしている?」

 

 

鉄鬼の投入を継続し数で押せばこちらにもかなりの被害が出ていた。

 

それを止めたかの様に鉄鬼の出現が無くなった。

 

その代替として何を起こす?

 

不安が過るばかりだ。

 

 

「あれは…水柱?」

「クジョウ、何故ここへ?」

 

 

移動先の地区を担当する冨岡と合流したハスミ。

 

冨岡はハスミの来訪に関して少し驚いていたが、すぐさま通常に戻った。

 

 

「この地区に巨躯の鬼が出現したと聞いて駆け付けたのだけど?」

「そうか。」

「……主語抜けてますけど?」

「す、すまなかった…援軍感謝する。」

「及第点、ですかね。」

 

 

冨岡の主語や語るべき部分を抜かした話し方に対してハスミは軌道修正を行った。

 

ちなみに軌道修正で使った方法は連続で関節技を叩き込む事である。

 

冨岡は過去にやられた連続関節技が相当効いたのか顔を青褪めながら主語を付けて答えた。

 

 

「出現した巨躯の鬼の情報は?」

「まだ掴めていない。」

「成程…叙荷から教えて貰った場所まで向かうしかないわね。」

 

 

ハスミは冨岡と共に巨躯の鬼が出現したとされる場所へ移動。

 

道中、巨躯の鬼の移動跡と思われる跡を発見し移動方向へと向かった。

 

所が…

 

 

「どうなっている?」

「…」

 

 

移動先にあったのは既に事切れた巨躯の鬼の死骸。

 

消失具合から少し前に倒されたらしい。

 

頸は一撃で両断されており、上弦の鬼が徘徊していると思われたが…

 

 

「「!?」」

 

 

首元が切られた感覚と鋭い殺気。

 

冨岡とハスミは帯刀している刀に手をかけたが…

 

それは無意味と化した。

 

 

「はや…!?」

「っ!?」

 

 

上弦の壱を超える速さと恐るべき殺気。

 

二人は刀を手にする前に損傷を負った。

 

冨岡は両大腿部の裂傷。

 

ハスミは片腕ごと切り裂かれたのだ。

 

そして負傷した二人の前に現れた侍装束の男性。

 

顔は目元以外は布で隠されていたが、特徴的な眼だけは認識出来た。

 

 

「…」

「…上弦の鬼なのか?」

「刻まれた眼の数は零…恐らくは上弦の零と呼ぶべきと思う。」

 

 

瞳に刻まれた文字は夜天の零。

 

史実になかった上弦?の零の出現。

 

それは変異が起こった証でもあった。

 

 

「夜天の零、お前の目的は何だ?」

「…」

「沈黙か、こちらに情報は渡さないと?」

「…」

「それとも無惨に発言するなとでも命令されているのか?」

 

 

何度かの応対をするも夜天の零は無言のままでこちらと対峙していた。

 

 

「クジョウ、動けるか?」

「動けるけど、片腕を吹っ飛ばされているし攻撃力が半減するから期待はしないで欲しい。」

「判った。」

 

 

水柱…上手く止血しているけど、今回の相手は悪すぎる。

 

こちらの警戒を意図も容易く突破した。

 

何とか朝を迎えるまで持ちこたえないと。

 

 

「君達は呼吸は出来ているね、だけど…それは疲れる呼吸だ。」

「疲れる呼吸だと?」

「命を削り死に至る呼吸の事だよ。」

「…(全集中の呼吸の事を言ってるのか?」

「大丈夫だよ、僕が止めてあげるからね。」

 

 

優しい声でそう告げると視界が赤く染まった。

 

一瞬の内に肺へ突きの攻撃が行われたのだ。

 

 

「水柱!?」

「あがっ!?」

 

 

倒れ伏す冨岡と叫ぶハスミ。

 

夜天の零は続けて言葉を紡いだ。

 

 

「君はどうして動いていられるのかな?」

「半分鬼で半分人…鬼舞辻無惨は私の事を成り損ないの鬼と呼ぶ。」

「そうか、君がね?」

「…」

「普通よりも頑丈なのだろう?なら楽しませてくれるかい?」

「ふざけるのも大概にして貰うわよ!」

 

 

片腕切断と言うハンデの中でハスミは冨岡を守りながら夜天の零と交戦。

 

防戦一方の末、その攻防は夜明けまで続いた。

 

その過程でハスミは瀕死に近い損傷を受けた。

 

 

「楽しかったよ、また相手をしてくれるかな?」

「…」

 

 

夜天の零は再戦の言葉を残して襖の先へ消えた。

 

続けて夜明けを迎えた事に安堵しハスミは意識を手放した。

 

切り刻まれ地面に転がった片腕と腹部損傷によって出来た血だまりの中で。

 

そして損傷部分に広がる銀色の膜が二人の命を繋いでいた。

 

 

「お嬢、お嬢!?」

 

 

朝日を迎えたのと同時に飛んできた鎹鴉の叙荷と寛三郎。

 

それぞれの相棒の元へ降り立つも相棒の返事は無かった。

 

 

「義勇、寝ているのか?」

「じーさん!?寝ているんじゃなくて気絶しているんだよ!!」

「義勇、無茶ばかりするのう。」

「あーもう!俺、応援呼んでくるからここは任せたぜ!!」

 

 

叙荷は寛三郎を残して待機している隠の元へと急いだ。

 

暫くの後。

 

救援に駆け付けた隠によって二人は救助された。

 

 

水柱・冨岡義勇、両大腿部の複雑裂傷と肺と背中に損傷。

 

鋼柱・クジョウハスミ、片腕切断と肺と腹部複雑損傷。

 

 

蝶屋敷へ到着後には二人の出血は止まっていたが、損傷部分は未だに鋼柱の血鬼術で修復途中。

 

今回の襲撃で二名の柱が戦線離脱する事となった。

 

 

=続=

 



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冒涜者を追え

死者を冒涜する者。

燻ぶる炎は再びうねりを上げる。

その悪意を射手と共に撃ち貫け。


煉獄槇寿郎が鬼殺隊より消息不明の扱いをされている頃。

 

当の本人はかつて現役時代に培ってきた情報収集能力を駆使し件と同様の事件を独自に追跡。

 

だが、墓荒らしの痕跡を辿る事しか出来ないので後手に回っていた。

 

 

******

 

 

消息不明扱いから三日後。

 

 

「…」

 

 

ザシュッ。

 

 

「!?」

 

 

痕跡を辿った先に現れた鬼の頸を斬る槇寿郎。

 

鬼自体が一般隊士でも相手に出来る技量しかなかったので呆気なく倒せた。

 

 

「…(瑠火。」

 

 

独自に追う事を決めた際に鬼殺隊の隊服を纏う訳にはいかず、現役時代に羽織っていた衣服で行動している。

 

羽織も目立たぬように黒地の羽織を羽織っていた。

 

死者を冒涜する者を討ち取る為の決意の証でもあった。

 

 

「こんな夜更けにたった一人で鬼狩りか?」

 

 

その時、もう一人の気配を感じ取った。

 

数週間前に酒を酌み交わした相手の声が聞こえた。

 

 

「その声は?」

「久しいな、煉獄槇寿郎。」

 

 

槇寿郎は気配の正体である存在の名を告げた。

 

 

「アウストラリス…トラか、ここで何をしている?」

「偶然ではなく、其方を探していた。」

「…そうか。」

 

 

姿を現し、淡々と事の次第を説明したアウストラリス。

 

その対応に槇寿郎もまた納得した。

 

 

「その様子では何かあったのか?」

「…」

「詮索はしない、一人で成し遂げる理由である事は理解した。」

「トラ…」

 

 

槇寿郎の追い詰めた様子に詮索はしないと告げたアウストラリス。

 

そしてある情報を告げた。

 

 

「もう一つ…関係性があるか不明だが、ある情報だけは伝えて置く。」

「?」

「数日前、磁器で造られた人形を操る鬼と遭遇した。」

「人形?」

「ああ…ハスミにその事を伝えた上で調査して貰った所、骨灰磁器と呼ばれる手法で造られた事が判明した。」

「骨灰だと?」

「本来は牛の骨を利用した白磁の磁器だそうだが、回収した欠片の一部を竈門炭治郎に嗅がせた所……抹香と人の骨の匂いがしたそうだ。」

 

 

アウストラリスと語った情報。

 

それは墓荒らしと関係性のある情報だった。

 

この時、槇寿郎は瑠火の遺骨だけではなく他の遺骨も盗まれた事を知らなかった。

 

その事を含めて追加情報として告げた。

 

 

「!?」

「ハスミも水柱と共に新手の上弦の鬼との戦いで負傷し今は動けん、故に産屋敷殿から其方の行方を含めて捜索依頼を俺が請け負った次第だ。」

「…俺を連れ戻すのか?」

「いや、その判断は此方に委ねられた……邪魔をする気はない。」

「すまん。」

「だが、無茶をせん様に監視を依頼されている。」

「お館様は俺に捜索を認めると?」

「その様だ。」

 

 

遠回し的な言い方ではあるが、追撃の任を委ねられた槇寿郎。

 

それはお館様の采配と止める事が出来ないのなら任として公式に指示を出す事にしたのだろう。

 

アウストラリスは槇寿郎にその磁器の人形を操る鬼の潜伏先を発見した事を話した。

 

「既に例の鬼の所在は掴んでいる。」

「…本当か?」

「どうやら、帝都の青山霊園近辺を中心に活動しているようだ。」

「公共墓地…二十数年前から移管された場所か。」

「ああ、ハスミの話では移管工事の最中で隠れ処を作るにはうってつけの場所だろうと推測している。」

「…」

「その敷地内に工房を構え、磁器の人形を作る為の材料に事欠かないと思ったのだろう。」

 

 

戦うべき鬼がそこにいる。

 

槇寿郎は恥を忍んでアウストラリスに話した。

 

 

「…アウストラリス、頼みがある。」

「何だ?」

「先程、お館様より俺を監視すると言ったな?」

「ああ。」

「ならば、俺と共について来てくれるか?」

「…元より、そのつもりだ。」

「済まない。」

「構わん、竈門炭治郎の願いと同様に俺も酒を酌み交わす相手を失う訳にもいかんのでな。」

「無事に戻ったら前と同じ酒を用意しよう。」

「楽しみにしている。」

 

 

二人はそのまま合流し青山霊園のある帝都へと向かった。

 

既に夜明けを迎えた事もあるので日のある内に移動し夜に備えた。

 

 

「…」

 

 

アウストラリスは連絡要員として追って来たハスミの鎹鴉である叙荷に目配りした。

 

叙荷はその相槌に気が付き、その場を飛び去って行った。

 

鬼殺隊本部に居るお館様に事の次第を告げる為に。

 

今、新たな歯車は動き出した。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

炭治郎が刀鍛冶の里に滞在中の頃。

 

鬼殺隊本部では、動ける柱が集合し会議を行っていた。

 

ちなみに刀の修理で里に居る時透と甘露寺は省かれる。

 

 

「聞いての通り、新たな上弦の鬼が現れた。」

「冨岡さんとハスミさんを襲撃した鬼ですね?」

 

 

悲鳴嶼としのぶの会話から始まり、伊黒と不死川もそれに反応した。

 

 

「上弦の零、あのクジョウでさえ撤退させるのが精一杯とは。」

「半鬼女も手こずる相手か、遭遇してぇもんだぜ。」

 

 

二人の反応に対して煉獄と宇髄もそれに続いた。

 

 

「うむ、上弦の壱を超える鬼か…油断ならないだろう。」

「だな…それに冨岡とクジョウがその鬼に派手にやられたんだろ?」

「はい、冨岡さんとハスミさんは現在も療養中です。」

「ちょっと待てよ、冨岡の奴は呼吸の型に相手の攻撃に切り返す型があったろ?」

 

 

不死川の疑問に対し答える人物が現れた。

 

 

「相手はそれすらも無効にする剣技の持ち主だったのよ。」

 

 

会議に使用している広間の襖を開けて現れたハスミ。

 

本部に搬送されてから実に三日目の姿である。

 

 

「クジョウ、傷の方は良いのか?」

「肺の方は完治したけど、斬られた腕の方はそうもいかないわ。」

 

 

宇髄に返答するハスミ。

 

言葉通り、蝶屋敷で支給されている医療着を纏ったままである。

 

軽傷は完治しているが、斬られた腕の具合はまだ悪く三角巾で固定している。

 

本来なら安静しなければいけない状態である事にしのぶはハスミに注意を促した。

 

 

「ハスミさん、いくら血鬼術で回復させているとはいえ…まだ動いてはいけない状態なのですよ?」

「しのぶさん、どうしても伝えないといけない事があるからここに来たのよ。」

「伝える事?」

「上弦の零……夜天の零は上弦の壱よりも危険な相手よ、今の柱が全員総出で戦っても勝ち目はない。」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「マジか?」

「冗談ではないのか?」

 

 

不死川と伊黒の問いにハスミは答えた。

 

 

「瞬時に肺を一突きした時に高速で内部の肺を細切れにする相手でも?」

 

 

険しい表情をするハスミの発言に納得したしのぶ。

 

 

「成程、冨岡さんの回復が遅いのはそれが原因なのですね?」

「肺は呼吸を使う剣士にとって重要な臓器、奴は鬼狩りを素早く倒す手法に慣れている。」

「では、クジョウの血鬼術がなければ冨岡は…」

「最悪の場合、呼吸困難の末に死に至ったでしょうね。」

「ちっ、鬼側も厄介な連中を出してきやがったのか。」

「…もう一つ悪い情報がある。」

「何だ?」

「前日、アウストラリスが磁器の人形を操る鬼と交戦した。」

 

 

そしてハスミは決定的な最悪の情報を答えた。

 

 

「最悪な事にその鬼の眼には上弦の陸と刻まれていたそうよ。」

「はぁ!?」

「上弦の陸は煉獄と宇髄、竈門が討伐しただろう!?」

 

 

不死川と伊黒の驚愕にハスミは推測を告げた。

 

 

「恐らくは穴抜けに新たな鬼を上弦に加えたと推測しているわ。」

「クソが!それじゃあ倒してもキリがねぇ!!」

「正直な話、隊士の訓練計画を速めた方がいいかもしれない。」

「人員は割くのは不本意だが、戦力強化は致し方ないだろう。」

「ならば、時透と甘露寺が戻り次第…話を薦めよう。」

「基礎体力の方は音柱と合同で非番の隊士に順次行っているわ。」

「だな、後は他の面の強化って所だ。」

「腐り切った気力と干物な根性を根本的に鍛え直したから、ちょっとやそっとじゃ倒れないから安心してね。」

 

 

ハスミの発言に対し納得する遠い眼をした煉獄と宇髄に張り切る悲鳴嶼。

 

 

「確かに。」

「ありゃな…」

「うむ、鍛えがいがありそうだ。」

 

 

しのぶは話す事が無くなったと思われるハスミに告げた。

 

 

「ハスミさん、話はもういいですか?」

「ええ、私は蝶屋敷に戻るわね。」

「今回は致し方ないですが、今は安静にお願いしますよ?」

「判ったわ。」

 

 

ハスミは告げる事だけ告げると安静の為に蝶屋敷に戻って行った。

 

 

=続=

 



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細胞を以て毒を治めよ

時に毒は使い方次第では薬にもなる。

但し、これは毒ではない。

とある細胞の話。


前回の会議の場を後にしたハスミ。

 

蝶屋敷に戻る道中で咳き込み口元を抑えた。

 

 

「少し無茶ぶりが過ぎたか…」

 

 

ハスミは口元を抑えた手を見ると鮮やかな色の血痰が付着しているのを確認した。

 

血鬼術で負傷した臓器の中の肺を先に修復したものの…

 

切断された片腕と内臓の一部は傷ついたままである。

 

無茶は程々にするべく、蝶屋敷内の病室へと移動した。

 

 

「クジョウ、起きていたのか?」

 

 

病室に戻ると目が覚めたばかりの冨岡に声を掛けられた。

 

 

「…水柱、漸く目を覚ました様ね?」

「俺はどの位寝ていた。」

「今日で三日目よ、私の血鬼術でも負傷した臓器や刀傷の完治にはもう暫く掛かるから安静にして貰える?」

「そうか。」

 

 

ハスミは軽く応対した後、ベッドに入り横になった。

 

 

「今、他の柱にあの上弦の情報を伝えて来た。」

「鎹鴉は?」

「叙荷はまだ使いに出している、だから直接話に行ったのよ。」

 

 

叙荷は現在アウストラリスへ情報共有させる為に飛ばしたままだ。

 

現在は移動先である帝都に向かっているだろう。

 

 

「クジョウ、奴を…あの上弦の零をどう見る?」

「危険な鬼…文字通りと思ったわ。」

 

 

あの間合いで柱の肺を一瞬の内に貫いて細切れにした。

 

技量の異常さは上弦の壱を超えている。

 

例え、今の柱が総出で戦っても勝てる見込みはない。

 

 

「…」

「対抗策とすれば、お館様が秘匿していた情報…痣者への覚醒位でしょうね。」

「痣者?」

「但し、痣者になった場合…その人は二十五まで生きられない。」

「!?」

「寿命の前借、命を燃やし尽くす、文字通り命を懸ける必要がある。」

「だが、必要なのだろう?」

「無惨を倒す為にも必要な処置であるけど……自身の命を捨てる覚悟はあるの?」

「可能性があるのなら…!」

 

 

話し合う中でハスミはお館様から資料整理と痣者の考察を纏める様にと命令された事がある。

 

その調査結果で判明した痣者に関する情報を冨岡に話した。

 

命を捨てる覚悟があるのか?とハスミは冨岡に質問し冨岡は覚悟があると告げるが…

 

 

「この馬鹿タレ。」

 

 

遠い眼をしたハスミはベッドから起き上がると冨岡のオデコに三撃デコピンを炸裂。

 

一気に三本の指を冨岡のオデコに弾いたので本人はベッドから転落しオデコを抑えながら悶絶。

 

 

「自分の命を軽んじるな、このヘタレ。」

「っ~~~~~~~~!!?」

「本当に錆兎の言う通り貴方は馬鹿よ、また鱗滝さんを泣かせる気?」

「!?(グサッ!」

 

 

冨岡義勇、久しぶりの図星突かれた白目顔芸を披露。

 

 

「言って置くけど、柱や可能性のある隊士を不完全な痣者にさせる気はないから。」

「不完全だと?」

「言葉通りよ、このまま伝承通りの痣者の覚醒を行えば命はないわ。」

「…お前にはそれを覆す事が可能なのか?」

「理論上の事で確証はないけどね。」

 

 

正直に言えば、賭けだ。

 

血鬼術と誤魔化しているDG細胞が自己進化、自己再生、自己増殖の三大理論を持っている以上。

 

使い所を間違えなければ、痣者の前借となる命の消費を抑える事が出来る。

 

感染し定着が進んでいる柱は兎も角、問題は感染していない柱をどうするかだ。

 

本来は余り感染させたくない代物、それでも戦う為の補助が必要ならば致し方ない。

 

 

「私の血鬼術は負傷した部位を修復するもの、それを応用する事が私の提案する手段よ。」

「…」

「この事はお館様に進言はしてあるけど、お館様がどう判断を下すかは不明ね。」

 

 

DG細胞、使い所を間違えれば危険な代物。

 

感染経験がある私からしたらこんな感じだった。

 

それはまるで酒で泥酔を起こす様な、異常な力を得た高揚感に呑まれる。

 

精神的…心に弱さがあれば一気に狂気へ染まる。

 

今回はそれを制御するコアがない事が救いだ。

 

そして私に残留していた細胞は密かに増殖を繰り返し他者へ感染するまでに力を取り戻した。

 

遊郭事件は偶発的に紅霧村事件では緊急措置として使用したが、油断は出来ない。

 

紅霧村での一件で自身と他の感染者が細胞で繋がっていると判明した。

 

あの一件以来、ある程度は制御と把握は出来る様にした。

 

今後もこの細胞を拒絶はするつもりはない。

 

この子はただ怖がっていただけ、あの事件の時も助けを求めていた。

 

 

『ずっと一緒だよ。』

 

 

この子はほんの小さな微粒子になりつつも私と居る事を選んだ。

 

もう一人のこの子と切り離され、DG細胞としてのこの子が私の中に残った。

 

戦場に出始めたばかりでヒヨッコだった頃の…三年も前の話。

 

 

「おーい、お嬢っ!!」

 

 

冨岡との話し合いの中でハスミが一人考えに耽っていると鎹鴉の叙荷が窓の縁に着地した。

 

 

「叙荷か、どうだった?」

「お嬢に言われた通り、旦那には伝えて置いたぜ……まぁちっと問題もある。」

「問題?」

「炎柱の親父さんが単独行動してるって話……お嬢の旦那と合流して帝都の青山霊園に向かったぜ?」

「それはお館様も容認しているの?」

「勿論、お館様が直々に極秘指令を与えたってさ。」

「そう、アウストラリス達が追撃中の鬼が壊滅するのも時間の問題ね。」

「どう言う事だ?」

 

 

ハスミと叙荷の会話を聞きつつ最後の言葉に対して質問する冨岡。

 

 

「アウストラリスは私よりも強い……あの人、異国の戦艦も素手で軽く解体しちゃう人だから。」

「…は?」

「因みに一隻や二隻の話じゃないわよ?」

 

 

「「…」」

 

 

「機会が合ったら見せてあげたい位だわ?」

 

 

ハスミの発言に開いた口が塞がらない状態の冨岡と叙荷。

 

 

「問題は青山霊園が地図上から消失する可能性がある事ね。」

 

 

ハスミは遠い眼をしながら更なる爆弾発言をしたのだった。

 

 

=続=

 





<とある手紙>


=拝啓、クジョウ・ハスミさん=


禰豆子さんと貴方の血を受け取り、日々調査しておりました。

今回は貴方の血液に変化があった事をお伝えしようと思います。

例の遊郭の一件以降、貴方の血が無惨の血を徐々に無力化している事が判明しました。

何かしらの変異と思いますが、これは鬼と成った人を戻す切っ掛けになると思います。

同時期に禰豆子さんの血も同じ様に変化を見せています。

二つの血が無惨に対抗しうる武器になる日も近いと思います。

今は確証が取れませんが、引き続き血液の譲渡をお願いします。


珠世より


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霞を晴らすのは?

思い出せない。

すぐに忘れてしまう。

それでもいつかは蘇る。

大切なナニカ。


鬼殺隊・本部で新たな上弦の鬼の出現とそれに伴う被害情報が確認されている頃。

 

ここ刀鍛冶の里では、とある修羅場が展開されていた。

 

 

******

 

 

里に点在するの林の中にて。

 

 

「ねえ、鍵を渡してよ?」

「絶対にダメです!」

 

 

言い争う二人の少年。

 

片方は独特の長い髪の霞柱の時透無一郎。

 

もう片方はひょっとこの仮面を付けた八歳くらいの少年で名は小鉄と言った。

 

 

「何で、もうすぐ壊れるのなら最後に使われた方が本望でしょう?」

「それが嫌なんです!絶対に誰にも渡しません!!」

「そう、なら勝手に持っていくよ?」

「うっ!?」

 

 

無一郎によって衣服の首元を持ち上げられ締め上げられる小鉄。

 

無一郎はそのまま片手で持ち上げたまま小鉄に問う。

 

 

「壊れたならまた作れば?」

 

 

無一郎は続けて話す。

 

君がそうやって下らない事にぐだぐだしている内に何人死ぬと思っている訳?

 

柱の邪魔をするってそう言う事だよ?

 

柱の時間と君達の時間は全く価値が違う。

 

少し考えれば解るよね?

 

刀鍛冶は戦えない。

 

人の命を救えない。

 

武器を作るしか能がないから。

 

 

「ほら、鍵。」

「っ!」

「自分の立場を弁えて行動しなよ、赤ん坊じゃないんだから。」

 

 

その時、無一郎の手を叩き倒す存在が現れた。

 

 

「配慮が全然ない、間違っているのは君の方だろう……時透君。」

「誰?」

「俺は竈門炭治郎、階級甲で鋼柱の継子だ。」

「ああ…柱見習いの?」

「君は刀鍛冶の人達を侮辱している……訂正してくれ。」

「どうして?」

「確かに柱は重要な存在だ、だけど刀を打つ人達を侮辱するのは許さない!!」

「?」

「それは…俺達は刀が無ければ戦えないからだ!!!」

 

 

ハスミさんも話していた。

 

前衛で戦う柱や隊士達に戦う力と想いを託すのが刀鍛冶達や隠の人達。

 

後衛で刀鍛冶の人達と隠の人達が傷ついた柱や隊士達を癒し補助する。

 

そう言った関係性は対等である。

 

柱や隊士は刀がなければ戦えない。

 

刀鍛冶や隠の人達は刀があっても戦えない。

 

互いに手を取り合って鬼殺隊は成り立っているって。

 

そんな扱いをすれば、戦う力を失う。

 

 

「無一郎君、もしもだけど刀鍛冶達が…刀を打つ人達が居なかったら君はどう戦うの?」

「それは…」

「彼に謝るんだ、俺は柱見習いだけど…間違っている事は見過ごせない。」

 

 

後方支援が如何に大事かをハスミに叩き込まれた炭治郎。

 

日頃の行い次第でその人の人望が薄れて隊律を乱す一因となる。

 

部隊を纏めて戦うのなら柱としてあるべき姿を見せなければならない。

 

無一郎が小鉄に行った事は正にそれである。

 

 

「下らない話に付き合っていられないよ。」

「っ!」

 

 

無一郎は一瞬の隙を突いて小鉄から鍵を抜き取って去って行った。

 

 

「ごめん、俺が余計な事をして鍵を取られちゃって。」

「いえ、見ず知らずの俺を庇ってくれて…」

 

 

炭治郎は小鉄と改めて自己紹介を済ませた後、鍵について話をした。

 

 

「そう言えば、さっきの鍵って?」

「絡繰人形です。」

 

小鉄の先祖が作ったもので百八の動作が行え、人を凌駕する力を持ち合わせているので戦闘訓練にも利用しているとの事。

 

その人形は戦国時代に造られたもので老朽化が進んでいる事。

 

小鉄の父親が管理していたが、早逝し小鉄自身が技術を学んでいた最中だった事もあり完全に直す事が困難になってしまっている。

 

 

「…ハスミさんが使っている形を替えられるオートバイみたいなのかな?」

「炭治郎さん、そのハスミさんって?」

「鋼柱のクジョウ・ハスミさん、俺に戦術指南を教えてくれているんだ。」

「まさかあの噂の…!!」

「噂って?」

 

 

小鉄の話では異国の絡繰りと銃器を操り、自身よりも巨大な刀を振るって鬼の大群を斬っては捨てて斬っては捨ててと化け物の様な女傑だと里に噂が流れていた。

 

仮面越しであるが、キラキラと眼を輝かせているだろう小鉄を余所に炭治郎はこの時思った。

 

 

『間違っていないけど、本人の前で言わない方がいい話だ。』

 

 

青褪めた表情で冷や汗を掻く炭治郎だった。

 

 

「!?」

 

 

林の奥で刀同士が弾かれる様な音が響き渡った。

 

 

「何だ!?」

「さっきの人がもう…こっちです!」

 

 

小鉄に案内されるまま炭治郎は後を追った。

 

 

>>>>>>

 

 

林の奥へ辿り着くと無一郎と人の形を模した人形が戦い合っていた。

 

互いの見えない剣戟が林を揺り動かし、その光景は凄まじいモノだった。

 

 

「あれが…俺の祖先が作った戦闘用絡繰人形の縁壱零式です。」

 

 

小鉄の説明の後に炭治郎は思い出していた。

 

 

「…(縁壱さんを象った人形、あの中に。」

 

 

あの六本腕の人形の中に無惨を倒す為の刀が眠っている事を…

 

 

「何で腕が六本なの?」

「腕ですか?」

 

 

亡き父親から聞いたと言う小鉄の説明によると…

 

人形は実在した剣士を模して作られた絡繰。

 

腕を六本にしなければ、その剣士の動きを再現出来なかった。

 

絡繰が作られたのは戦国の世の事であり、既に三百年余りが経過している。

 

古い時代に作られたとは言え、その技術は凄まじく今となっても解読が不能との事。

 

修理の為の設計図は残っているものの、同じものは二度と作り出せない。

 

目処前で動いている絡繰も壊れてしまったら直す事も出来ない。

 

小鉄は自分には兄弟はいない、父親が生きている内に技術を学ばなければならなかった。

 

刀鍛冶や絡繰整備の才に恵まれなかった何も出来ない自分に打ちひしがれていた。

 

 

「わずか二か月で柱になった理由もわかるな…(確かに無一郎君の才能は凄い。」

 

 

この時、無一郎の鎹鴉である銀子が自慢げに話しかけて来た。

 

無一郎は日の呼吸の使い手だった子孫である事を自慢し高飛車に答えていた。

 

その様子に炭治郎は真実を答える事は出来なかった。

 

無一郎は日の呼吸の使い手だった双子の兄の子孫。

 

その兄は無惨の鬼として今も生きている事を…

 

自分は日の呼吸の剣士から日の呼吸をヒノカミ神楽にして先祖代々から受け継いでいた。

 

受け継がれた呼吸は『血縁』だけではなく『人の思い』も繋がっている。

 

今は言えないと悟って炭治郎は銀子の話を淡々と聞いていた。

 

 

ガキン!

 

 

そうこうしている内に無一郎は縁壱零式の腕を斬り落として沈黙させた。

 

 

「僕の刀、使い物にならなくなったから貰っていくね。」

 

 

斬り落とされた腕が持っていた刀を一本強奪し銀子と共に去って行った。

 

 

「…(無一郎君の記憶が戻らない限り、あのままが続くんだな。」

 

 

記憶を取り戻す切っ掛けが出来ず、炭治郎は悲しい視線を去って行った無一郎に向けた。

 

そして木に登って落ち込んでいる小鉄にデコピンを一撃やった後に声を掛けた。

 

 

「小鉄君。」

「ううっ…俺がしっかりしなきゃなのに、俺の代で終わるなんて。」

「小鉄君、君には未来がある…十年後二十年後と時間はあるんだ。」

「炭治郎さん…」

「君はまだまだ学べるんだ、だから…頑張ろう!」

 

 

その後、雨が降り始めた中で縁壱零式が動くかの点検後に再稼働。

 

小鉄は復活し、本来の毒舌をかましながら炭治郎に縁壱零式での修行を言いつけた。

 

有無言わさず即時開始。

 

これが約一週間ほど続いたのである。

 

休憩は無し、絶食、絶水、絶眠のオンパレード。

 

因みにハスミも似た様な修行をやらせていたので耐性が付いていた。

 

この極限状態で炭治郎は一度だけ三途の川を渡りかけた。

 

そして当初の予定だった動作予知を獲得したのである意味で修行にはなっている。

 

無一郎がやった修行よりも遥かに効率が良かったので、無一郎は罰が当たる様に時間を無駄にした。

 

 

「うまぃいいいいいいいい!!!」

 

 

炭治郎、七日目に縁壱零式を破壊し修行を完遂。

 

一週間振りの梅干しおにぎりと玉露のお茶にありつけたのだった。

 

 

「お疲れ様でした、炭治郎さん。」

「うん、修行に付き合ってくれてありがとう。」

 

 

その時、人形の頭部が崩れ落ち中から刀が出てきたのである。

 

出て来た刀は戦国時代に作られたもので質の良い鉄で作られていると推測された。

 

二人は好奇心で刀を抜いてみるが、残念ながら錆びていた。

 

そこへムキムキマッチョと化した鋼鐡塚が登場。

 

発見した刀の取り合いになり、自分が研ぎ直すと言って鋼鐡塚が持ち去ろうとした。

 

その時、茂みから鉄穴森が登場し鋼鐡塚が折れない刀を打つ為に体力強化を行っていた事を説明。

 

回りくどいやり方に小鉄が愚痴ると小鉄は鋼鐡塚より頸から持ち上げられるわ、止める為に炭治郎と鉄穴森と共に鋼鐡塚の弱点である脇をくすぐるなどの茶番劇の後…

 

鋼鐡塚は三日三晩掛かると言って刀を持って自身の工房へと去って行った。

 

 

「と、言う事があったんだ。」

「何かお前の所って…表現出来ない事が起こるよな?」

 

 

その夜、煎餅を齧りながら滞在中だった玄弥に一連の出来事を愚痴る炭治郎だった。

 

同時刻、刀鍛冶の里にある温泉から里に下る道にて。

 

 

「ちょっとのんびり長湯し過ぎたな、明日も早朝から作業だってのに…」

「…」

「あの…何をしているんですか?」

 

 

下り階段に置かれた壺を見つめる女性の姿があった。

 

里の男性はその女性に声を掛けるが…

 

 

「…」

 

 

女性は壺の中に謎の物体を数個入れた後、何処から出したのか不明な鉄箱に壺を密閉。

 

 

「急いで里に行って、鬼が現れた。」

「え!?」

「早く!警報鳴らす!!」

「は、はい!!」

 

 

男性は駆け足で里へと戻って行った。

 

 

「そろそろかな?」

 

 

カップ麺の様な言い方で鉄箱の様子を伺う女性。

 

同時に鉄箱から悲鳴が響き渡った。

 

 

「ぎぃやあああああああああ!!!?!?!!!!?!?」

 

 

女性が先程の壺の中に投げ入れたのは超濃縮藤毒の粉末、シュールストレミングの粉末、温泉水である。

 

程良く溶けた薬剤が壺の中で鬼への毒液を化して猛威を振るっていた。

 

鉄箱で出口を塞いでいるので出る事も叶わず、壺の中に潜んでいる鬼は悲惨な目にあっていた。

 

何とか鉄箱を破壊し血反吐を吐きながら壺から這い出る軟体生物を思わせる鬼。

 

 

「き、貴様…おぇ…一体、なにwおぶぅ…」

「こんな所に壺があったら不自然でしょ?予防よ予防。」

「お、お前は…!?」

 

 

壺の鬼こと上弦の伍・玉壺。

 

彼の目処前に現れた女性は無惨から捕らえろと命令されていた存在だった。

 

 

「まだ、試したい道具があるのよね…付き合ってくれる?」

 

 

冷酷な表情をしたハスミは小型のUVライトを構えると玉壺に照射。

 

玉壺はこの時、まだ知る由もなかった。

 

目処前の相手が途轍もなく凶悪存在であった事を…

 

 

=続=

 




=没ネタ=

※玉壺の壺の中に入れようとしたもの。

C4爆弾、ダイナマイト、破片手榴弾、閃光手榴弾(紫外線版)。


※玉壺の壺をフルスイングしようとしたもの。

アイアンのゴルフクラブ、鉄バット、棘付き棍棒(いずれも日輪刀と同材質)


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奇襲からの足止め

それは予期されていた。

足取りを追えるのはお前達だけではない。

足元を掬うのはこちらである。




前回から三日ほど遡る。

 

私ことハスミは上弦の零との戦いによる負傷から復帰。

 

刀のメンテナンスも兼ねて刀鍛冶の里へと訪れていた。

 

里長からのほぼセクハラまがいのご挨拶の後、先に来ている炭治郎君達を探していたものの…

 

御取込中だったので自分のやるべき事に専念する事にした。

 

 

******

 

 

私は奇襲が予想される日まで里の一帯を調査。

 

調査結果、攻め込まれれば…瞬く間に掌握されてしまう最悪の状態だった事が判明。

 

今のままでは駐在中の隊士らで食い止める事はおろか壊滅するだろう。

 

これは巨躯の鬼や上弦級の鬼が現れても同じだ。

 

今までよく壊滅に追い込まれなかったのか不思議な位である。

 

私はこの状況下で視野し考察する。

 

鬼に入り込まれた場合、里の人を何処から逃がすか、鬼は何処から攻めるか。

 

手順を誤れば、多大な被害を出してしまう。

 

念の為の武装バイク達も目立たせない様に潜ませている。

 

奴らに慈悲は必要ない。

 

 

「さてと、腕が鳴るわね。」

 

 

下手に対地型の設置式罠を仕掛けるのも危険なのでドローンタイプの罠を仕掛けて置く事にした。

 

網に掛かれば、手痛い反撃になるだろう。

 

これに関してはお館様や里長にも許可を貰っている。

 

建前は試験的な実地実験。

 

本音は鬼の襲来を予期した上での妨害作戦。

 

奴らが懐に入った瞬間、地獄を見せてやるわ。

 

 

「…(上弦の伍と肆以外の新手の鬼が来ない事を祈りたいが…念には念を。」

 

 

恐らく、穴埋めの上弦の鬼候補は他にも存在する。

 

でなければ、こうも簡単に増員出来る筈がない。

 

無惨は使えない鬼は即座に切り捨てる。

 

なら、候補達はそれなりの血鬼術や実力を持っていても可笑しくはない。

 

 

「…(他の候補の血鬼術は不明…判明しているのはアウストラリス達が追っている上弦の鬼は人形を操る能力だけか。」

 

 

情報が余りにも少ない。

 

確認済みの現上弦の鬼の能力と姿は炭治郎君から教えて貰っているから何とかなるけど。

 

今回の目的は里の人達の護衛と上弦の伍と肆の討伐。

 

戦うべき相手を見誤ってはいけない。

 

 

「…」

 

 

上弦の伍は複数の壺を介して分身体を作り出して里を襲撃。

 

上弦の肆は斬られる事によって己の分身を生み出し最大四体の上弦級の鬼が生成される。

 

伍は里の襲撃し混乱、肆は滞在中の隊士達の始末って段取りかしらね。

 

 

「確かに良く出来た作戦……けど、単純すぎて対処しやすいわ。」

 

 

肆は炭治郎君達に任せて、伍の分身体の足止めが私かしら。

 

んで、霞柱には伍の相手を引継ぎして、残った分身体の殲滅と新手の鬼の始末が打倒ね。

 

 

「ま、成る様になるでしょう。」

 

 

時は金なり、敵は上弦。

 

ハスミは口元でニヤリと笑みを浮かべた後、里周辺に罠を仕掛けて行った。

 

 

>>>>>>

 

 

時は戻り、温泉と里を繋ぐ階段の場。

 

ハスミが仕込んだ毒で行動が制限された玉壺はハスミに叫んだ。

 

 

「貴様、何故ワタシの襲撃を見抜いた!?」

「ここを襲撃するのは時間の問題だった…いずれ起こるそれだけよ。」

「答えになってないぞ!」

「そうよ、今回の遭遇も偶然だし。」

「偶然…(無惨様が仰っていた通り、この女は上弦を目処前にしても動じていない。」

「元々、今まで里を襲撃しなかったのが不思議だったのよね。」

「は?」

「戦国の世に鬼狩りの一人が無惨の元に下った……そこで大体の情報が無惨に渡ってしまっていた。」

 

 

それにより当時の産屋敷一族の当主が殺害された。

 

同時に刀鍛冶の里も壊滅に追い込まれていても可笑しくはなかった。

 

その鬼狩りも里の情報は持っていた筈だし。

 

猶の事、壊滅に追い込むなら襲われていても不思議じゃない。

 

けど、無惨はそれをする事はなかった。

 

当時の産屋敷一族の当主を殺害すれば鬼殺隊は機能しなくなると思ったから。

 

でも、読みが甘かった様ね。

 

 

「甘いだと?」

「人間は鬼よりも諦めが悪い種族だからよ。」

「…」

「オマケに奇襲しようと思ったら捕まった……貴方、本当に上弦?」

「貴様が異常過ぎるのだ!!」

「異常ね…そう言う事は入り込んでいるお連れ様に言う事ね。」

「!?」

「里に潜り込んだのが貴方一体だけと思っていないわよ、それに余程の実力と血鬼術が無ければ里壊滅なんて無理だろうし。」

「小娘が!愚弄す!?」

「無駄口は聞きたくないな?」

 

 

ハスミ、玉壺の顔面にUVライトの光で顔潰しを引き続き決行。

 

 

「ぎやぁああああ!!!?」

「あのね、貴方は袋のネズミなの?」

「ひぃいいい!!」

「解る?捕まってどうしようもない状態なの?」

「ううっ…(この小娘、無惨様よりも酷い。」

「ま、上弦の陸を倒した時点で予想出来た事だし…どうでもいいけどね。」

「貴様は人間の前に鬼だろう!何故あの方に仕えん!!」

「うっさいわね、そんなの決まっているじゃない?」

 

 

あんな小物に使える義理はない。

 

私が使えるべき相手は既に居る。

 

それともあの黒ワカメや貴方達を糞雑魚認定してやろうかしら?

 

 

「…(あの方や上弦を雑魚だと?」

「人の世は日々進歩しつつあるのに貴方達は鬼の耐久性と血鬼術に頼り過ぎて進化していないじゃない?」

 

 

ハスミの正論は玉壺の脳裏に雷を落としたのだった。

 

 

=続=

 



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傀儡の糸


意思無き人形。

それは手繰り寄せられ。

操られる。

その糸は悪意の一角。


 

炭治郎らが刀鍛冶の里で上弦の鬼からの襲撃が行われる日。

 

ここ、帝都の青山霊園でも新・上弦の陸となった人形遣いの鬼との戦いが行われる日でもあった。

 

 

******

 

 

現代で青山霊園となる土地。

 

本来の史実にはなかったが、何故か墓所の増設計画が続いている。

 

再び墓地として静寂を取り戻すには少し時間が掛かるだろう。

 

現在も追加された土地の整地や花木を植林。

 

一部には墓石の部品が置かれているものの組立には至っていない。

 

既に墓地として使用されているが、大規模な墓地となる事から管理所が設置。

 

界隈にはお墓参りや清掃代行等の墓地茶屋や花屋、石材店などが連なる予定との事。

 

また、帝都で政府上層部と異国の外交官との会談と来訪パーティーがあり…その警備で墓地の警備が手薄になる日は今夜。

 

それが潜伏している鬼との決着を着けるタイムリミット…制限時間である。

 

 

「…ハスミの情報からは以上だ。」

「…」

 

 

時は昼時。

 

帝都内の食堂、客席の一つで茶を啜っているアウストラリスから得られた情報で静止状態と化した煉獄槇寿郎。

 

更に彼が平らげた丼の山々が机の上に作られており、その様子に自身の長男とその元継子の事を思い出したのは言うまでもない。

 

因みに同じ様に食事をしていた客達から店の従業員らが目玉が飛び出す位に驚く始末。

 

店の店主に関しては、驚きつつも見事な平らげぶりに嬉しい表情と支払い大丈夫か?な不安な表情が入り混じっていた。

 

 

「代金の心配は不要だ、手持ちはある。」

「そ、そうか。」

 

 

閑話休題。

 

 

「決戦は今夜だ、油断はするな?」

「無論、承知の上だ。」

 

 

二人は代金を支払った後、店を後にした。

 

 

~数時間後~

 

 

時は夕刻を過ぎて夜の闇の始まりを迎えた。

 

帝都は夜の闇に包まれつつも電灯の明かりに灯され賑わいを収めていない。

 

未だ、電灯の設置が行き届いておらず夜の闇に閉ざされる地方の山奥や海辺とは泥土の差である。

 

しかし、今夜は違った。

 

異国の外交官を招いたパーティーが行われる事により、帝都民への外出自粛が行われていた。

 

現在、外出しているのは警備担当の警官や軍人、パーティーに招かれた上流階級の人間だけである。

 

但し、それは帝都の中心地だけであり…郊外の墓所には行き届いていなかった。

 

人目を隠す木々が生い茂る墓地へ忍び込む二つの人影が存在した。

 

 

「トラ、気配は?」

「この先からだ、姿を隠している工房もそこだろう。」

「そうか…」

 

 

霊園に生い茂る森の中へ二人は歩みを進めた。

 

日が落ちた森の中を奥へと進むと気配はより一層静寂に満ちた。

 

 

「槇。」

「判っている…トラ、得物は?」

「奴らを屠るなら拳で十分だ。」

 

 

アウストラリスは鬼を倒すのは刀ではなく拳と告げた。

 

だが、鬼の頸を拳だけで取るには不可能である。

 

しかし、アウストラリスは事前にハスミより日輪刀と同質の素材で出来た手甲を渡されていた。

 

それは扱い方次第で手刀と言う刃と化す装甲。

 

形は違えど、それもまた鬼滅の刀であった事に間違いはない。

 

 

「やはり、陶器の人形か…」

 

 

林の中を掻い潜り現れたのは陶器の人形。

 

感じられる気配も微々たるものだったので、一般の隊士なら手を焼いていただろう。

 

 

「槇、雑魚は俺に任せろ。」

「トラ、しかし…」

「この程度の数は俺一人で十分だ。」

 

 

アウストラリスは露払いをする為に一人残ると宣言。

 

相手の能力が未知である以上、分断を避けたいと槇寿郎は反論するが…

 

アウストラリスは提案を捻じ曲げなかった。

 

 

「話の最中に手を出すか…人形である以上は無駄な詮索だったな。」

 

 

話の最中に人形の一体がアウストラリスに飛び掛かったものの…

 

それは一瞬の内に退けられた。

 

アウストラリスは飛び掛かって来た人形の頭部を鷲掴みすると尋常ではない握力で握り潰した。

 

鬼の血鬼術で強化されているか生み出されている陶器人形の耐久は通常の攻撃では破壊出来ない筈だった。

 

それをアウストラリスは平然とやってのけたのだ。

 

 

「やはり頭部が弱点か。」

 

 

陶器人形の頭部に仕込まれた球体型の核を取り出したアウストラリス。

 

それを破壊すると目処前の頭部を破壊された陶器人形はピクリとも動かなくなった。

 

 

「ハスミ曰く、この手の対象は頭か体に弱点がある…例外もあるが倒すなら徹底的に潰すしかない。」

 

 

アウストラリスはそれだけを話すと姿を消した。

 

いや、周囲の人形が認識出来ない速さで移動し一体、また一体と破壊されていった。

 

その時間は僅か五分程度。

 

槇寿郎は思う、彼らは鬼殺隊と関りを持つ前は鬼以上の存在と戦っていた。

 

人の限界を超えた強さ、鬼を翻弄する異常さ、それが彼らの強みなのだと。

 

 

「槇、周囲の敵は粗方片付けたが……」

「恐らく、奴らは斥候だ。」

「やはり大元は別にいると?」

「その通り、奴らの守りが強くならない内に進むぞ。」

 

 

周囲の敵を片付けたアウストラリス。

 

槇寿郎と共に敵の動きを読み、先に進む事を話して奥へと向かった。

 

道中で監視を行っていると思われる人形を素早く倒し、目的の場所らしき所へと到着した。

 

 

「読みは確実だった。」

 

 

辿り着くと古びた火葬場が佇んでいた。

 

ここ暫くの間、使用されたのか独特の燃え滓の臭いと焼窯用の薪が積み上げられていた。

 

周囲の監視は粗方片付けていたので二人は周辺と火葬場の小屋と焼窯を調査を始めた。

 

調査結果は酷いモノだった。

 

 

「…酷い臭いだな。」

「人の遺体を焼くと出る臭いだ、恐らく遺体処理の為に使われていたのだろう。」

 

 

ここに潜む鬼は手当たり次第、骨壺や遺体を回収していたと思われる。

 

回収したものの喰える遺体ではないのも含まれていたのだろう。

 

証拠隠滅の為に火葬し残った骨を陶器の人形の材料にし作り上げた。

 

小屋の中に材料らしき人間の骨の一部が残っていたのも頷ける。

 

 

「この鬼は人の遺体から供給をしていた、己の食料と戦力を…な。」

「瑠火の遺骨もこうなったのか…」

 

 

奪われた妻の骨は恐らく陶器の人形の材料にされているのだろう。

 

槇寿郎は机に置かれた妻の骨壺の中身が取り出されているのを確認した。

 

 

「槇、どうやら家主が戻ってきた様だ。」

 

 

二人が小屋から出ると全身に布を被った鬼らしき存在が現れた。

 

布の奥に潜んだ眼には上弦の陸と刻まれていた。

 

 

「貴様が人形共の主か?」

「…私の工房に入るとは、鬼狩りは礼儀がなっていない様だ?」

「外道に礼儀は不要だろう?」

「ふん、せっかくだ…新たに生み出した私の人形の餌食になって貰おうか?」

 

 

上弦の陸は人形劇の様な糸を指先から出すと手元に手繰り寄せた。

 

林を潜り抜け、現れたのは百足の様に複数の関節が接続された殺人人形。

 

 

「悪趣味な人形だな。」

「貴様らには解るまい、この美しさが…」

「…」

「特にこの顔が美しいだろう、花の絵が描かれた紙札が張り付けられた骨から作り出したのだ。」

「!?」

「実に美しい骨だった、白く脆かったがとても繊細だった。」

 

 

上弦の陸は語った言葉に槇寿郎は怒りを覚えた。

 

 

「貴様…!」

「私は骨を陶器人形にする事で冥福を祈る……だが、教会の連中は神への冒涜としたがな?」

 

 

上弦の陸は語る。

 

当時、陶器人形師だった自分は冥福を祈る為の人形を生み出してきた。

 

死者の骨を陶器に混ぜこみ、生前の形を保った人形は遺族から感謝されていた。

 

だが、教会の連中はそれを冒涜とし私を死罪に追いやった。

 

死に際に人形を造る腕を斬られ失った私をあの方が拾い上げて下さったのだ。

 

 

「あの方への忠誠は絶対、私は鬼狩りから陶器人形を造ろう……栄えある最初の人形はお前達だ。」

 

 

上弦の陸は殺人人形を二人に嗾けたが、それは一瞬の内に終わった。

 

人形の頸は槇寿郎が切り裂き、躰はアウストラリスが粉々に砕いた。

 

核を破壊された人形の頸を抱えた槇寿郎は答えた。

 

 

「よくも俺の妻を……瑠火をこの様な姿にしたなっ!!」

「!?」

 

 

その怒りは烈火。

 

槇寿郎は戦う為の人形を失った上弦の陸を横一閃した。

 

 

「!?」

「炎の呼吸・壱ノ型 不知火っ!」

 

 

槇寿郎の一撃で林を突き抜け、整地中の荒地に吹き飛ばされた。

 

 

「ぐうぅううう…人間風情が。」

「その人間風情に押されているのは誰だ?」

 

 

土煙が収まる前にアウストラリスの拳の連撃受けて上空へと吹き飛ばされた。

 

 

「くそっ、もう一人は何処へ!?」

 

 

上弦の陸こと傀儡は上空へ殴り飛ばされた際にもう一人の鬼狩りを探すものの…

 

その姿は見えず、体制を立て直そうにも異常な拳圧で身動きが取れずにいた。

 

それが自身の最後である事も知らずに。

 

 

「行けっ!槇!!」

「!?」

 

 

アウストラリスの叫びと共に傀儡の頭上が紅く燃え盛る。

 

 

「炎の呼吸・玖ノ型っ!!煉獄ぅうううう!!!!」

「がぁああ!!?!?」

 

 

天より墜ちる炎の一閃。

 

それは全てを燃やし尽くす炎の一撃。

 

紅の刃先は同じ様に打ち上げられた奴の頸を切り裂いた。

 

 

「な、何故…」

「愛する者の死を悼むやり方をお前は間違えた……全てがお前の様な考えではない。」

 

 

愛する者を人形の材料とし形を残す者、灰燼と化し遺体をを天へと送る者。

 

埋葬のやり方は文化が違えども押し付けてはいけない。

 

奴は一方的に押し付けようとした。

 

そして墓を暴き死者を冒涜した。

 

墓を暴いた時点でお前は間違っていた。

 

 

「…」

「逝け、地獄でその罪を悔いろ。」

 

 

槇寿郎は傀儡に告げると落下し地面に激突する前にアウストラリスの跳躍で地面に降りた。

 

傀儡は一瞬涙を流した後、地面に落ちる前に塵と化し消え去った。

 

その様子を見届けた槇寿郎は先程の陶器人形の頸に語り掛けた。

 

 

「瑠火、帰ろう…杏寿郎達が待っている。」

 

 

やっと取り戻した妻の遺骨にそう答えた。

 

 

******

 

 

夜明けを迎えつつあった頃。

 

槇寿郎は朝日が差し込む場に佇む存在を視た。

 

妻である瑠火の悲しくも嬉しい笑顔を…

 

 

『貴方、ご立派でした。』

 

 

彼女の口元はそう答える様に動いていた。

 

一瞬の出来事、その後の眩暈で再度同じ場所を視た時には彼女の姿はなかった。

 

 

「槇、動けるか?」

「済まないが肩を貸してくれ、年甲斐もなく動き過ぎた。」

「判った。」

 

 

人の出が激しくなる前に二人は応援に来た隠達の補助により霊園を後にした。

 

その後、二人を見張っていた鎹鴉によって本部へと情報が通達された。

 

元炎柱・煉獄槇寿郎、協力者・アウストラリス、両名により新・上弦の陸を討伐。

 

奪われた遺骨の回収は隠によって速やかに行われた。

 

瑠火の遺骨と同様に陶器人形にされた遺骨に関しては…

 

元の形に回収する事は不可能なので陶器を再び砕いて骨壺へと収められた。

 

これにより刀鍛冶の里襲撃と平行して起こった墓荒らし事件は幕を下ろした。

 

 

=続=

 





=別に読まなくてもいい設定=


※傀儡

新・上弦の陸に選ばれた人形遣いの鬼。
元は異国の地(フランス)で陶器人形を造る人形師。
当時、遺族の了承を得て死体の骨を使って陶器人形を造っていた。
だが、当時の背景から異端と見做され教会から悪魔とされ処刑。
陶器人形を依頼した遺族達も巻き込まれない様に彼一人に責任を押し付けた。
処刑の際に両腕を斬り落とされ失血死しかけた時に異国を旅していた無惨によって鬼になった。
以降は陶器人形を使って蒼い彼岸花の捜索を行っていた。
本人の戦闘能力は高くないが、自身の生み出した無数の人形を操る事で戦力を高めていた。
今回、早期決着が付いたのは攻撃手段である陶器人形を失った為。

早い話、お手製人形が無ければほぼ雑魚。


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警告は鐘の音と共に


里に響く音。

早期の警告。

現れるは壺より現れた異形。


 

鋼柱の指示によって逃げた里の住人は急ぎ里長に里内に鬼が出現した事を報告。

 

里の人々を逃がす為に監視役の住人によって里の鐘が鳴り響いた。

 

少し早い里襲撃騒動の始まりの合図だ。

 

 

******

 

 

鐘の音が鳴り響く数時間前。

 

里にある二階建ての長屋の一室にて。

 

 

「えっ!ハスミさんが来ている!?」

「知らなかったのか?」

「う、うん、ずっと小鉄君と絡繰人形を使った修行していたから。」

 

 

煎餅を齧りながら話し合う炭治郎と玄弥。

 

ちなみに禰豆子は里から出立した蜜璃に貰った折り紙で遊んでいる。

 

 

「と、言う事はハスミさんも刀を研ぎに来たのかな?」

「いや、違うらしいぜ?」

「?」

「里長の護衛についていた隊士から聞いた話だと…」

 

 

玄弥から聞かされた話。

 

上弦の陸討伐後に鬼の動きに統率が見え始めた。

 

その活動によって任務中や帰還道中の隊士が狙われるようになった。

 

いずれ、本部や協力体制にある藤の家紋の家に刀鍛冶の里も発見される。

 

予防策として鋼柱の進言により、里の防衛強化の案が出された。

 

 

「里の防衛…」

「ああ、かなり深刻そうだったって…話してくれた奴も言っていた。」

 

 

ハスミさんがここに来ている。

 

俺が話した通りに事が起こる可能性からハスミさんは既に里の防衛に移っている。

 

 

『里に到着出来たら私は私個人で動く…炭治郎君も気を付けて行動してね。』

 

 

個人で動くって言ってたけど…

 

 

「玄弥、ハスミさんが来たって事は…」

「…訓練が地獄絵図で鬼が出ても地獄絵図だよな。」

 

 

青褪めた表情で二人は煎餅を齧るのだった。

 

 

「ム?」

 

 

そんな二人の心情に禰豆子は?を浮かべていた。

 

 

>>>>>>

 

 

時は戻り、上弦の伍・玉壺発見から数十分後。

 

 

「で?どうやってここを見つけたのかしら?」

「ひぃいい…」

「話さないなら舌を引っこ抜こうか?」

 

 

なんなら某黒い湾岸方式でお仕置きでもするけどね?

 

 

「ヒョヒョヒョッ…ワタシに構っていていいのか?」

「何が?」

「里にはワタシの配下を向かわせた、もうすぐ阿鼻叫喚の絵図が始まる。」

「へぇ?」

 

 

玉壺の発言に全く動じないハスミ。

 

言い方は汚いが、相手の話を耳をほじくりながら聞く様な態度と言うべきだろう。

 

 

「所で。」

「な、なんだ?」

「何か聞こえない?」

 

 

玉壺は里がある方角に耳を向ける。

 

聞こえてくるのは聞きなれない音。

 

それを知る者は誰もが口にするだろう。

 

銃声音だと…

 

 

「…まさか。」

「その配下さん達も尻尾巻いて逃げる前に仕留められちゃいました。」

「あ、ああ…」

「それと…こういった方がいいかしら?」

 

 

ハスミは告げた。

 

 

「罠に嵌ったのはそっちなのよね?」

 

 

と、冷ややかな眼で玉壺を睨み付けた。

 

 

~同時刻・里外部の森林~

 

 

玉壺は自身の血鬼術で分身を作り出し里を包囲する様に進軍させていた。

 

しかし…

 

 

 

チュイン。

 

 

 

分身の一体が赤い光線を通過したのと同時にハスミが仕掛けていた迎撃ドローンが作動したのである。

 

装備ついては一時的に相手の動きを鈍らせる程度、ある意味で挑発行為だ。

 

だが、一連の動きは想定済み。

 

その行動の先に必要な本命は既に待機していた。

 

 

 

ブォン。

 

 

 

林の中を素早く移動する物体。

 

ハスミが用意した武装バイク・疾駆のエンジン音である。

 

ドローンが相手の位置を各武装バイクに転送。

 

待機していた武装バイクの一つ疾駆がその場所へと移動したのだ。

 

 

 

ジャキッ。

 

 

 

人型に変形した疾駆に搭載されたマシンガンが炸裂。

 

日輪刀と同質素材の弾丸が上弦の伍の配下を文字通りの挽き肉へと変貌させる。

 

同時に早期に殲滅する為の弱点も捜索し配下の身体から出ている壺が弱点であると発見。

 

すぐさま、壺を中心に攻撃を集中させた。

 

壺を破壊された配下達は肉塊へと分解し消滅。

 

この疾駆が対処した配下は殲滅した。

 

だが、アラートの鳴った場所は数か所に及んでいる。

 

他のエリアに配置されたドローンの発信地点には別の武装バイクが移動し対処。

 

瞬く間に里を襲撃する配下は一掃されつつあった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、里内の二階建て長屋の一室。

 

眠っていた炭治郎の鼻を摘まんで起こす無一郎。

 

彼は鉄穴森さんを探していると告げた。

 

 

「鉄穴森さんなら鋼鐡塚さんと一緒にいると思うよ?」

 

 

事情をきいた炭治郎は一緒に探すと無一郎に告げる。

 

 

「なんでそんなに人に構うの?君には君のやるべきことがあるんじゃないの?」

「人の為にする事は結局…巡り巡って自分の為にもなっているものだよ?」

 

 

炭治郎は最後に『俺も行こうとしたから丁度いいんだよ。』と告げた。

 

その言葉に反応する無一郎。

 

 

「え…今なんて?」

 

 

その時だった。

 

外から聞こえ始めた聞きなれない音。

 

 

「今の音は?」

「今のは銃声の音…ハスミさんが戦っているのか!?」

 

 

同時にこの部屋に侵入する存在が訪れたのだった。

 

襖を開けてぬるりと這いずる様に現れた老人の鬼。

 

眼が裏返っており、刻まれた数字が見えなかったが独特の気配で二人は気づいた。

 

この鬼は上弦の鬼であると…

 

 

「霞の呼吸 肆の型・移流斬り。」

 

 

無一郎は刀を瞬時に抜き、畳の上でスライディングする様な形で上弦の鬼に斬りかかるが、天井に張り付き回避してしまう。

 

その隙を狙って炭治郎がヒノカミ神楽・陽華突で天井ごと刺そうとするが、それも回避された。

 

が、禰豆子が畳の上に着地した瞬間を狙って上弦の鬼に腹蹴りをかました。

 

そして漸く無一郎が頸を斬ったものの様子が一変した。

 

 

「!?」

 

 

頸を斬られた筈の鬼の頭と胴体が再び動き出し分裂したのだ。

 

頭の方の鬼が持った紅葉型の扇によって無一郎は外に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「時透君!?」

 

 

扇を持った鬼は可楽、胴体から分裂した錫杖を持った鬼は積怒と名乗った。

 

 

「カカカ、よく吹き飛びおったわ。」

「貴様と一緒に分裂すると…」

 

 

積怒の錫杖から放たれた雷撃で炭治郎と禰豆子は一時昏倒するが…

 

鉄砲の音と共に積怒の頭部が何かによって粉砕された。

 

 

「炭治郎!禰豆子!無事か!?」

 

 

破壊された長屋の屋根の上から日輪銃を構える玄弥の姿があった。

 

 

「何とか!」

「ム!」

 

 

玄弥と合流し体制を立て直す炭治郎と禰豆子。

 

 

「カカカ、積怒よ油断したのう?」

「ふん、邪魔者は全て消し炭にしてしまえばよかろう。」

 

 

里内部での防衛戦が開始されたのだった。

 

 

=続=



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花火の名残


君は誰?

朧気な記憶の中。

君は微笑んでいた。




 

刀鍛冶の里、崩落しつつある長屋で分裂した上弦の肆と交戦を開始した炭治郎、禰豆子、玄弥。

 

一方で分裂した上弦の肆の一体。

可楽によって吹き飛ばされた無一朗はある場所へと落ちていた。

 

 

「霞柱…!?」

「あ、半鬼の…」

「さっきの様子といい、向こうにも鬼が出たの?」

「うん、ここに飛ばされた。」

「あらまあ…霞柱って身軽だから仕方がないわね。」

「あんまり考えた事ないや。」

 

 

上弦の伍をほぼ一方的に絞めていたハスミ。

 

その最中に無一朗がその場へ落下。

 

現在に到る。

 

 

「何か、すごい事になってるね?」

「あーこの上弦の足止め?と言うより拷問中。」

 

 

引き続きモザイク要の状況に追い込まれていた上弦の伍こと玉壺。

 

その玉壺は妙な呻き声をあげていた。

 

 

「ハァハァ…(よく分からんが、もっと弄り攻めて欲しいと思うのは気のせいか?」

 

 

ハスミ、更にMを増産。

 

本部で訓練を行っている一部の隊士達がM化している要因の一つでもある。

 

 

「コイツ、何か悦んでない?」

「そう?」

「うん、気持ち悪いくらいに。」

「…じゃ、始末しよう。」

「僕もそう思った。」

「あら、珍しい…何時もならどっちでもって言うのに。」

「相手は上弦の鬼なんでしょ?さっさと始末した方がいいと思う。」

「正直…奴らの情報を吐かせようとしたけど、収穫ないしそうするわ。」

「異議なし。」

 

 

情報が得られないと判断したハスミは玉壺にトドメを刺そうとしたが、予期せぬ乱入者によって阻まれた。

 

 

「っ!霞柱、左に避けて!」

「!?」

 

 

ハスミの指示で乱入者による攻撃を避ける無一朗。

 

その攻撃は地面を抉り大穴を空けていた。

 

 

「まさか貴方が派遣されるとはね…久しぶりと言うべきかしら?」

 

 

ハスミは土煙の中にいる人影の正体を察して答えた。

 

 

「上弦の参…猗窩座。」

「…久しぶりだな、なり損ない。」

 

 

土煙が引くと同時に姿を表した猗窩座。

 

拳を構える前に後ろで壊滅的な状態にされている玉壺に答えた。

 

 

「玉壺、里の襲撃に失敗した様だな?」

「ヒッ!?」

「あの方からの言伝だ、鬼狩りもろともその命を持って滅ぼせとの事だ。」

「それは…!」

「命があったとしても数字剥奪は覚悟しておけ。」

「ああ…」

 

 

ハスミは猗窩座の言葉で状況を察した。

 

 

「…」

 

 

成程、長年の部下を切り捨てる方向に方針を変えたのか。

 

ここまで追いつめた以上は奴も本気でかかってくる。

 

だとすれば、やる事は決まった。

 

 

「霞柱、上弦の伍の相手を頼める?」

「そっちは?」

「参の相手をするわ、どのみち対処方法が判っている私の方が分がある。」

「…判った。」

 

 

戦う相手を決めた私達は二手に別れて対処。

 

ハスミは猗窩座に殺気を利用し、その場から誘導させると開けた場所で止まった。

 

 

「猗窩座、貴方の相手は私よ。」

「女の相手は俺は…」

「前にも言ったが、戦場に出れば性別は関係ない…戦士に侮辱を重ねるのなら容赦しないわ。」

 

 

侮辱の言葉。

 

その言葉にハスミは反論と殺気で返した。

 

 

「そうだったな。」

 

 

猗窩座はその殺気に答える様に構えを取った。

 

 

「貴様もまた強者である事を失念していた。」

「…」

「俺が勝ったらお前をあの方の元へ連れていく。」

「逆に貴方が負けた場合は?」

「…」

「ま、言わずとも結末は理解したわ。」

 

 

ハスミは別の場所で控えていた武装バイクの一体に指示を出し、背負っていた絡繰箱を投げ渡した。

 

その手に持つのは己の日輪刀のみである。

 

 

「ここで貴方を含めた上弦達を仕留めさせて貰う。」

 

 

ハスミもまた刀を構えた。

 

 

「遊郭での決着をつけさせて貰うぞ!」

「あの時は二人同時だったものね…勿論そのつもりよ。」

 

 

一迅の風の夜風が吹く。

 

木々のざわめきの後に二人の姿はかき消えた。

 

所々で土煙を上げ、金属が弾かれる音が響く。

 

ハスミは身の丈程の太刀を猗窩座は己の拳で戦い合っていた。

 

素手と大剣では隙の差が出てしまう。

 

更に大剣は一度振るう度に大きな隙が生じる。

 

相手がスピードを生かした戦法を使うなら尚の事。

 

その隙を逃す筈はない。

 

 

「貰った!」

 

 

至近距離に入り込み拳を撃ち込もうとする猗窩座。

 

しかし、それは風に乗って防がれた。

 

 

「貴方程のインファイターは数多く見てきた、なら…対策案も構築せずに戦う阿保はいないでしょ?」

 

 

風に乗って響く車輪の様な音。

 

ハスミは太刀を振るうと同時に戦輪を上空に逃がしていた。

 

それと同時にわざと隙を生み出したのだ。

 

至近距離と遠距離に入れば戦輪の餌食に、拳が届く範囲の間合いを取れば太刀による斬撃の猶予を与えてしまう。

 

 

「私は拳だけの相手に銃は使わない、相手に失礼だからね。」

 

 

正直、当たらない相手には弾が無駄が本音だけど。

 

 

「…杏寿郎と同様に貴様も強者だ、認めよう。」

「それはどうも。」

「だが、女…何故そこまで戦える?」

 

 

猗窩座の疑問。

 

何故、ここまで熟練した戦いを行えるのか?

 

見目から察するに鍛練に打ち込める年月は十年そこそこだ。

 

だが、感じ取れる殺気は何十年も鍛練した熟練者に近い。

 

 

「そうね、しいて言うなら…それだけの相手と戦ってきた。」

 

 

人と鬼の戦い以上の戦い。

 

その戦いの渦中に身を置いてきた。

 

軍人として人同士の戦争に、時には侵略者と、時には異形の存在と戦ってきた。

 

染み付いた殺気はそのせいかもね。

 

 

「人と鬼の戦い、私はそれも戦火の一端だと思っているわ。」

「…」

「逆に聞くけど、貴方は強者と延々と戦ってどうする気なの?」

「戦い続けられるからだ。」

 

 

鬼になれば死ぬ事も老いる事もない。

 

永遠に鍛練する事が出来る。

 

 

「…虚しいわね。」

 

 

ハスミは呆れた様子で答えた。

 

その様子に反応する猗窩座。

 

 

「何だと?」

「なら、強者の存在しない世界になったらどうする気だったの?」

「強者の存在しない世界だと?」

「言葉通りよ、そんな世界にあるのは渇きだけ。」

 

 

戦う事もその力を振るう相手も存在しない世界。

 

知り合いの四本腕の剣士が話していたわ。

 

 

『高みを目指した結果、辿り着いたのは渇きだけの世界だった。』

 

 

虚しさだけの世界に辿り着いただけだった。

 

何故だか判る?

 

終わりが在るからこそ人生は尊いのよ。

 

 

「人生が尊いだと?」

「命と同様に限り在る人生もまた尊いのよ、終わりが在るからこそ人の命も人生も一瞬を輝く。」

「…」

「老いはその果ての達成、もしくは次代に繋げる意思を渡せる。」

 

 

鍛練は一世一代では終わらない。

 

限り在る命が志…意志を繋いでいくのよ。

 

 

「それを理解せずにただ戦うだけの人生…いや、鬼生なんて虚しいわね。」

「…(何の為に戦う、か?」

 

 

ズキリと猗窩座に頭痛が襲う。

 

 

「っ…!?(何だ?これは?」

 

 

猗窩座の脳裏に浮かんだもの。

 

痩せ細り病で床に伏した丁髷の男性。

 

笑顔で話し掛ける胴着の男性。

 

申し訳なさそうに赤面状態の少女。

 

少女と共に夜空に打ち上がる花火を見る光景。

 

 

『また一緒に見ましょうね、狛治さん。』

 

 

その少女の笑顔は己を縛る支配者によって遮られた。

 

 

『猗窩座、あの女を喰らえ!!』

 

 

強制命令に背けず、獣の様な勢いでハスミの肩に喰らい付く猗窩座。

 

 

「っ!?」

 

 

一瞬の隙で回避の遅れたハスミはそのまま押し倒され左肩の肉を持っていかれた。

 

頸に近かった為に頸動脈の血管を傷付けてしまい出血が止まらない。

 

呼吸で止血するが、血鬼術で応急処置が済むまで暫くは片腕が使い物にならないだろう。

 

 

「その気配は無惨か?」

「女、貴様の事を侮っていた。」

 

 

猗窩座の様子と気配が変わった事で無惨によって猗窩座の主導権が握られたと察したハスミ。

 

だが、彼女が気にしている問題はそこではなかった…

 

 

「…」

「ここで貴様を…!?」

 

 

先程、ハスミの肉を喰らった猗窩座に異変が起きた。

 

大量の血反吐とのたうち狂う様に地面を地団駄し始めた。

 

まるで藤の毒を喰らった鬼の様に。

 

 

『猗窩座…どうやらお前の命運もここまでの様だな。』

 

 

無惨は猗窩座の様子から使い物にならないと判断し数字剥奪の末に放逐した。

 

呆気ない最後。

 

ハスミは苦しみ抜いた末に動きの止まった猗窩座を見つめた。

 

 

「?」

 

 

ピクリと動く猗窩座の指先。

 

異形化していた髪の色から皮膚の色が人の色に戻っていたのだ。

 

 

「…」

 

 

一通りの変化を終えた後に目覚めた猗窩座。

 

片目だけは鬼化のままで上弦の文字には✕の跡が刻まれていた。

 

 

「猗窩座?」

 

 

ハスミが告げた名に対して彼は否定した。

 

 

「違う!」

 

 

彼は全てを思い出した上で答えた。

 

 

「俺の名は狛治…鬼舞辻無惨は俺の敵だ!」

 

 

来るべき史実は再び狂い始めた出来事だった。

 

 

=続=





<猗窩座が狛治に戻った理由>


ハスミの中に定着しているDG細胞が無惨の鬼化を解いた。

但し、呪いの部分は解呪されていないので半人半鬼のまま。

纏めると科学的には治療済み、呪霊的には不完全な状態。

他の鬼でも半鬼化は可能かもしれないが、結果的に無惨を倒さなければ人間には戻れない。



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全てが万能ではない


人を鬼にする血。

だが、それは万能ではない。

限られた確率の中で。

それを覆す要因も存在する。


 

前回から一時間が経過した。

 

猗窩座改め狛治の様子を伺うハスミ。

 

その姿は人そのもので間違いないだろう。

 

但し、片目だけは鬼化のままである事を覗いては…

 

 

「猗窩座いや狛治だったわね、貴方は何処まで覚えている?」

「…」

 

 

ハスミの問いに対し狛治は暫く考えてから答えた。

 

自身が最も信頼していた家族を奪われ、その怒りで犯人達を血祭りに上げた事。

 

そして守るべき者も居場所も失った事を自覚した時に無惨に鬼にされた事。

 

今に至るまで人を喰らい強き者と戦うだけの時間を過ごしていた事。

 

 

「成程ね。」

「妙に納得が早いな?」

「まあ…貴方の事情を知るまでは、江戸の出で罪人って事だけは判別出来る程度だったけど?」

「!?」

 

 

ハスミは狛治が話していない部分をいとも簡単に判別していた事を告げた。

 

その言葉に狛治は驚きの表情を見せた。

 

 

「理由は簡単でその両腕の入れ墨が決定打よ。」

「これか?」

 

 

狛治は現在も袖のない異国風の衣装を纏ったままなので腕に入れられた三本線の入れ墨に視線をやった。

 

ハスミは続けて理由を告げた。

 

 

「その入れ墨は江戸で罪を犯した証、種類はあるけど三本線は罪の回数を示し、当時の江戸を追放された者を示すのよ。」

「当時?」

「現在は幕府も無くなって政府制に政治転換、今は警官って言う奉行所の役割を持った人達に代替わりしているし……入れ墨も徐々に廃れつつあるわ。」

「成程、無惨がお前を恐れた理由が判ってきた。」

「相手の身のこなしや言葉遣いに服装や雰囲気は色んな情報を得るのに打って付けなのよね。」

 

 

元国際警察機構&某壁際のいぶし銀が率いる元諜報部隊の出身を舐めないで頂きたい。

 

血も涙もない生きるか死ぬかのスパルタ訓練を受ければ、例外を除けば誰でも嫌でも身に付く。

 

 

「それで、貴方は無惨を裏切った後…どうする気なの?」

「俺一人でも無惨を追う…元鬼だった俺が。」

「今更、鬼狩りと仲良しこよしは出来ないと?」

「…そうだ。」

「でしょうね、お館様は兎も角一部は反対するわ。」

「…」

「ただ、鬼殺隊は貴方を野放しに出来ない状況でもある。」

「?」

「貴方は鬼から不安定ながらも人に近い存在に戻れた一例よ?そんな驚異の相手をお館様や無惨が逃がすと思う?」

「お前は違うのか?」

「それもそうだけど…今回は貴方と言う検証結果が出た事が問題なのよ。」

 

 

鬼を限りなく人に近い存在に戻せる事例が出た。

 

それは現在の戦況バランスを崩す兆しでもある。

 

炭治郎君も間違いなく縋るでしょうね。

 

それでもこれは呪いであり祝福。

 

今の状態では完全な人には戻れない。

 

判断出来るのは鬼としての捕食行為を失わせる程度だろう。

 

 

「叙荷、見ているのでしょ?」

 

 

ハスミは軽くため息を付いた後、隠れて監視している自身の鎹鴉を呼んだ。

 

 

「お嬢、そりゃもうバッチし!」

「…お館様にこの事を伝えて。」

「他に内容は?」

「元上弦の参の降伏と私の血で鬼から半鬼状態に戻った事も含めて頂戴。」

「そこまでしゃべっちまって大丈夫なのか?」

「それだけ、今回の事は波乱を呼ぶ……まどろっこしい事はお館様に一任するわ。」

「ほいよ、じゃ…ちょっくら行ってくるぜ!!」

 

 

ハスミは必要な要件を叙荷に話し伝えると叙荷は飛び去って行った。

 

 

「随分と口が軽い鴉だな?」

「それを覗けばいい子なのよあの子は?」

 

 

狛治は叙荷の様子に遠い眼をしハスミは軽く毒づいてからフォローをした。

 

 

「俺はこのまま鬼狩りの元に連れて行かれるのか?」

「その流れにした、それに私が監視すると付け加えてある。」

「お前の監視…だと?」

「妥当な判断だと思ってくれないと困るわ、別の柱が監視に付くとしても安全は保障出来ないわよ?」

 

 

炎柱に預ければ、毎日の様にあの大声と生活の末に酒柱と大乱闘は確実。

 

蟲柱に預ければ、研究と称して血抜きや肉体の一部欠損は免れない。

 

風柱に預ければ、即頸切断。

 

と、ハスミは他の柱に預けた場合の狛治の処遇がどの様になるかを説明した。

 

 

「…」

 

 

ハスミは久々に他人の顔芸…顔を青褪めさせた狛治の様子を見ながら彼の返答を待った。

 

 

「…判った、その後の処遇はお前に一任する。」

「素直で宜しい。」

 

 

ハスミは答えるであろう返答に静かに返した。

 

 

「それに貴方も無惨と戦うなら修行が必要でしょ?」

「修行だと?」

「何事も鍛錬は必要、戦うべき相手はそれだけの存在なのでしょ?」

「確かにな。」

「だから君に相応しい相手が鍛錬相手をしてくれるわ。」

「?」

 

 

狛治は鍛錬相手の正体を気にしつつもハスミの発言に冷や汗を掻いていた。

 

 

「取り敢えず…鍛錬の件は他の上弦を細切れを通り越して挽肉にしてからだけど。」

「…(上弦相手にその言いようが出来るお前が恐ろしいのだが?」

 

 

先程の状況から上弦の伍と肆の末路を想像した狛治だった。

 

 

******

 

 

先程から数刻後、鬼殺隊本部にて。

 

 

「これはこれは…」

「お館様?」

「どうかなさいましたか?」

 

 

本部内の広間で叙荷からの手紙と言伝を聞いたお館様とご子息達。

 

 

「ハスミが上弦の参を確保したそうだよ?」

 

 

「「え?」」

 

 

お館様は那田蜘蛛山事件後の柱合同会議後にハスミの治療で眼の視力は回復している。

 

この為、叙荷の手紙も自身の手で読み返せているが…柱達の前では失明したままにしていた。

 

手紙を読み終えた後、遠い眼とチベットスナギツネの様な表情でお館様は答えた。

 

在り得ない様な表情で声を上げる御子息達。

 

 

「それに厄介…いや、夜明けの兆しも見つかったみたいだね。」

「夜明け?ですか。」

「うん、炭治郎達と彼女はどこまで奇跡を見せてくれるのかな?」

 

 

最後に御子息達に聞こえないような声で呟いた。

 

 

「…あの未来を変えるのは並大抵の事じゃないからね。」

 

 

=続=

 



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襲撃の知らせ


本来であれば交わる筈のない人物達。

だが、未来史を変えた事によって引き起こされた。

新たな戦いの幕開け。


 

上弦の鬼による里の襲撃の知らせを受けた鬼殺隊・本部。

 

お館様は襲撃の様子に違和感を感じ取り…

 

定期報告に訪れていた柱達二名に緊急の派遣を行った。

 

 

******

 

 

刀鍛冶の里へ向かう道中の事。

 

里への道を知る鎹鴉鴉の案内で移動する二名の柱。

 

本来であれば、里への道順は複雑な経路となっているのでそう簡単には辿り着けないのだが…

 

現在、道案内をしている鎹鴉は緊急時に置ける里への移動手段として里への道順を全て熟知していた。

 

 

「…」

「煉獄、親父さんの事でも考えていたのか?」

「ああ…」

 

 

派遣された煉獄と宇髄は里へ疾走しながら話を続けた。

 

 

「安心しろよ、クジョウの鎹鴉の話じゃアイツん所の大将が付き添っているんだろ?」

「だが、父上はその…」

「ったく。」

 

 

溜息を付いた宇髄は煉獄の前に一度立ち止まってオデコにデコピンをかました。

 

 

「な、何をするんだ!」

「お前、クジョウに諭されてから随分大人しくなったが…心配し過ぎなんだよ。」

「そうなのか?」

「自覚無かったのか?」

「う、うむ。」

「親父さんは元柱だぞ?息子であるお前が信じなくてどうするんだ?」

「宇髄……そうだな。」

 

 

煉獄の曇りがちな表情が元に戻り、何時もの調子を取り戻したのを確認し歩みを戻そうとしたが…

 

 

「カァアアアア!」

 

 

別の鎹鴉が訪れると二人に緊急連絡を告げた。

 

 

 

「鋼柱の絡繰りと隠によって里の住民の避難完了、里内で鋼柱が上弦の参を捕獲!霞柱が上弦の伍を討伐するも負傷!現在は恋柱、庚隊士・竈門炭治郎並びに不死川玄弥と鬼の竈門禰豆子が上弦の肆と交戦中!!」

 

 

その緊急連絡に対しての二人の反応は…

 

 

「ハァアアアアア!!!!?」

「よもや!?」

 

 

何時もの顔芸込みでド派手に声を上げたのであった。

 

 

「アイツ、この俺様を差し置いてまたド派手な事を!?」

「まさか上弦の参を捕まえるとは…!」

 

 

鎹鴉は続けて連絡内容を答える。

 

 

「更に里へ巨躯の鬼が出現し鋼柱が対応、炎柱と音柱は至急救援に向かえ!!」

 

 

危機的状況である事は間違いない。

 

だが、異常過ぎる程の戦いに遭遇しているので二人は動じなかった。

 

 

「…クジョウから猗窩座の事を聞かなければならない。」

「だな、馬鹿デケェ鬼の相手を俺らもしてぇしな。」

 

 

常識的な人物なら避けたい相手だ。

 

だが、それすらも慣れてしまうこの状況。

 

常識を超えて非常識になってしまうとこうなるのである。

 

 

「うっし、さっさと里に向かうか?」

「うむ!」

 

 

だが、二人を妨害する様に周囲に地響きが唸った。

 

 

「宇随…!」

「どうやら、あの糞ひじき芋野郎ってのも俺らを行かせたくないらしい。」

「うむ、確か…爺塩田だったか?」

「じじえんでんじゃねぇし!ジ・エーデルだっての!!」

「そうか!!」

 

 

素で新手の巨躯の鬼を嗾けた相手の名前を言い間違える煉獄。

 

それに対してツッコミを入れる宇随。

 

本人が目処前に居れば、余りにもウザい位にツッコミを入れていただろう。

 

 

「問題は…クジョウの奴がいない以上、下手に殲滅って訳にはいかなそうだぜ?」

「どうやらその通りみたいだ…」

 

 

地響きの音は近く。

 

接近しつつあるのは理解出来る。

 

目視出来る所まで現れた巨躯の鬼。

 

それは巨大な鎌爪を背に持つ大猿。

 

最悪な事に奴が通過した周辺には異様な光景。

 

現在の季節は夏。

 

その真逆の光景が広がっていたのである。

 

 

「見ろよ、奴が通った場所が派手に凍ってやがるぜ?」

「っ!宇随!?」

 

 

大猿型の巨躯の鬼が大口を開くと放たれたのは冷気の息吹。

 

奴の息に触れた木々は瞬く間に凍結し…

 

奴の歩みによる振動で崩壊する脆さへと変貌している。

 

あの攻撃を喰らえばひとたまりもないと二人は理解した。

 

瞬時に息吹の放たれた方向から離脱し体制を整える。

 

 

「あんのデカ猿っ!!」

「宇髄!次が来るぞ!」

「ちっ!」

 

 

大猿型の巨躯の鬼は息吹で標的を仕留められないと悟ると次の行動へと移る。

 

それは柔軟な巨躯を生かした高速スピン体当たり。

 

背に生えた鉤爪は標的を逃がさず抉る為の武器でありストッパー。

 

動きの速い体当たりに接触すれば、柱であっても一溜りもないだろう。

 

 

「接近すれば体当たり、後退すれば氷の息吹…」

「デケェ図体の癖に知恵が回りやがる!」

「これまでの巨躯の鬼とは違うらしい…」

「ひじき芋も本腰を上げて来やがったって訳か。」

 

 

これまでの巨躯の鬼はハスミが対応しその多くが駆逐されていた。

 

だが、静けさの後に現れた巨躯の鬼は更なる進化を経て現れた。

 

巨躯の鬼は体当たり攻撃が避けられると認識した後、攻撃方法を切り替えた。

 

息吹で作り出された巨大な氷塊を幾つも生み出し雪合戦の要領で宇髄らに投げつけたのだ。

 

 

「その位の氷塊!俺様が叩き割ってやるぜ!!」

「待て、宇髄!?」

「!?」

 

 

何か様子がおかしいと悟った煉獄だったが時すでに遅し…

 

 

「くそっ!?」

「宇髄っ!!」

 

 

巨躯の鬼より放たれた巨大な氷塊。

 

それを砕いて攻撃を回避しようとするも内部より飛び散った液体でそれは罠と発覚する。

 

破壊された氷塊の内部から飛び出た液体は宇髄の身体へ付着し瞬時に凍結させていく。

 

同じく煉獄もその液体が降りかかり身動きが取れなくなっていく。

 

 

「何だよこりゃ…」

「…体の熱が奪われる。」

 

 

徐々に肉体を凍結させ肉体の体温を奪っていく。

 

硬直の時間が長引けば低体温症からの凍死へ繋がる。

 

全身に凍結が広がり切ると次第に二人の唇が紫色へ変質し呼吸をするのも辛くなっていく。

 

万事休す。

 

絶体絶命の中でそれは聞こえた。

 

それは一瞬の中の走馬灯の様に。

 

 

「これは?」

 

 

『本当にそれでいいのか?』

 

 

「?」

 

 

『嫁達はどうするんだ?』

 

『父上と弟を置いて行けるのか?』

 

 

「…何だ、こりゃ?」

 

 

真っ暗な空間に相対する様に自分自身が立っていた。

 

それは口々に答える。

 

 

 

『命を賭けるのか?』

 

『自分を捨てても?』

 

『戻れる一線を越えようとしている。』

 

『戻るなら今しかない。』

 

 

 

現時点は二人はそれを拒絶した。

 

ここで戻れは後悔すると…

 

 

「んなの知ったこっちゃねえ!!」

「その通りだ!」

 

 

絶対的な絶望の中でも諦めない意思。

 

 

「んな所で逃げたら…この宇髄天元様の名が廃るわ!!」

 

 

天を目指す派手を司る漢の叫び。

 

 

「此処で逃げれば煉獄家の恥!御先祖様達に顔向けが出来ん!!」

 

 

前を向く事を選んだ炎の漢の覚悟。

 

 

『そう…』

 

 

自分自身の姿をした存在は幼い洋装の少女へと変化した。

 

 

『嫌な質問してゴメンナサイ。』

 

 

謝罪の言葉を伝えてから少女は答えた。

 

 

『でも、大丈夫だから。』

 

 

大丈夫と言う言葉と共に。

 

 

『私とお姉ちゃんが護るから。』

 

 

ニッコリと少女が笑うと二人の意識は現実へと引き戻された。

 

 

「今のは?」

「俺にも…訳判んねぇわ。」

 

 

二人は自分自身の身体の異変に気付く。

 

先の巨躯の鬼の凍結攻撃を喰らって身動きが取れない状況に陥っていた。

 

だが、その拘束の原因だった氷塊は何時の間にか砕かれている。

 

そして…全身に湧き上がる灼熱の熱さ。

 

 

「煉獄!行けるな!?」

「うむ!!」

 

 

滾る熱さは刀すら燃え上がらせる。

 

だが、その代償たる痣が二人の顔にくっきりと刻まれていた。

 

揺らめく炎と音を奏でる譜面。

 

 

 

=続=

 




※大猿型巨躯の鬼

背に無数の鉤爪を持つ全長五メートルのゴリラ型巨躯の鬼。
肉体を覆う体毛も鋭い棘で出来ており触れればダメージを負う。
体内に摂氏-2000℃の凍結ガスを生成し同時に凍結液を作り出す事が可能。
巨体の割に柔軟な造りになっており、高速スピンアタックを可能としている。
生み出したジ・エーデルはイエティやウェンディゴをイメージして作ったと思われる。
刀鍛冶の里へ放ったのは紅霧村での雪辱と新兵器の試験運用が目的らしい。
もしも上弦の肆と伍が対峙したとしても巨躯の鬼の馬鹿力と凍結攻撃で結果的に敗北している。


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晴れた霞の先に


霞に隠された記憶。

目覚めて朧を映す。

君はもう迷わないから。


 

時は戻り、時透無一郎対上弦の伍・玉壺との戦闘。

 

玉壺の放った水の血鬼術から脱出した無一郎。

 

彼の霞は消え、過去の想いと共に目覚めた。

 

 

******

 

 

無一郎が思い出したのは家族。

 

杣人だった父、母、双子の兄。

 

慎ましく山で家族で幸せだった。

 

だが、母の熱病を期に両親を失った。

 

父は嵐の中、薬草を取りに行った際に。

 

母は熱病でそのまま。

 

残されたのは双子の兄と自分。

 

兄の名は有一郎。

 

楽観的だった両親や僕とは違って兄はしっかりした人だった。

 

喧嘩ばかりだった僕らだけどそれでも懸命に生きていた。

 

春先のある日、白樺の精の様な人…あまね様が訪ねてくるまでは。

 

あまね様の話で剣士になりたいと願がった僕だったが…

 

それを止めたのは有一郎だった。

 

楽観的で何も出来ない僕への戒めだったのだろう。

 

それを期に僕らは話をしなくなった。

 

そして運命の日が訪れた。

 

ある暑い夏の夜だった。

 

僕らは家の戸を開けたまま寝そべっていた。

 

それが原因で鬼を呼び込んでしまった。

 

兄は僕を庇って片腕を斬り飛ばされた。

 

絶体絶命の中で…

 

 

『つまらねぇ命なんだからよ!』

 

 

その後の事は良く覚えていない。

 

気が付くと襲って来た鬼は四肢を切り裂かれ頭部を潰されていた。

 

何時しか朝日が昇り、鬼は塵になった。

 

僕は傷つきながらも家へ戻った。

 

兄さんは生きていた…

 

でも…

 

 

『仏様…どうか弟だけ…は。』

 

 

片腕を失い、血を流し過ぎた為に事切れる寸前だった。

 

弟は優しい子、だから弟だけは助けて欲しい。

 

天に願った。

 

 

『無一郎…の無…はむげんの……無。』

 

 

お前は自分の為だけではない誰かの為に闘える。

 

無限の力を引き出せる選ばれた人間なのだから…

 

 

「小鉄君、大丈夫?」

「は、はい…」

 

 

玉壺の放った小型の使役鬼よる怪我で躰の至る所が血だらけだった小鉄。

 

一時的だが脅威は避けた。

 

 

「後は…僕に任せて。」

 

 

彼に宿ったのは己の意思だけではなく目処前の鬼を仕留める殺意。

 

 

「ひょっひょっひょ~おやぁ?」

 

 

己が負傷しようとも研ぎを止めない鋼鎧塚へ止めを刺そうとした玉壺だったが…

 

無一郎の剣戟がそれを拒んだ。

 

 

「私の術から抜け出しただと!?」

「今度は逃がさないよ…」

 

 

無一郎の顔に浮かんだ痣を気にするも玉壺は血鬼術・蛸壺地獄を発動。

 

小屋を破損させ無一郎と倒れていた鉄穴森を絡め捕った。

 

だが、無一郎の手には彼の為の刀が握られていた。

 

悪鬼滅殺の文字が刻まれた刀を…

 

 

「霞の呼吸・伍の型…霞雲の海。」

 

 

霞の様な幻影に触れた蛸の足は細切れに切断された。

 

 

「素早いみじん切りだ…だが、壺の高速移動にはついてこれないようだなぁ?」

「そうかな?」

「!?」

 

 

無一郎の言葉と同時に玉壺の頸に切れ込みが入る。

 

 

「随分感覚が鈍いみたいだね、何百年も生きているからだよ?」

 

 

切り込みが浅かったが、頸を狙えると宣言した無一郎。

 

その言葉に玉壺の怒りの沸点が上限に達しようとしていた。

 

 

「…舐めるなよ、小僧っ!」

 

 

そこからは怒涛の勢いだった。

 

痣を覚醒させた無一郎は先の血鬼術で受けた毒の影響を気にせず戦えていた。

 

繰り出される鉄の様な魚を使役する玉壺の血鬼術。

 

 

「…(苦しくない、躰が軽い、今なら何でも出来る。」

 

 

無一郎を阻む障害はない。

 

今あるのは鬼を斬る事だけ。

 

だが、玉壺も最終手段を残していた。

 

 

「お前には私の真の姿を見せてやる」

 

 

玉壺は答える。

 

この姿を見せるのは無一郎で三人目。

 

本気を出した私には誰であろうと勝てん。

 

口を閉じろ馬鹿餓鬼。

 

この透き通る様な鱗は金剛石よりも尚硬く鋭い。

 

私が壺の中で練り上げた…

 

 

「この完全なる美しき姿に平伏すがいい。」

「…」

「…」

「…」

「何とか言ったらどうなんだ!この木偶の坊が!!本当に人の神経を逆撫でする餓鬼だな!!?」

 

 

これに対し無一郎は言う。

 

 

「いや、だってさっき黙ってろって言われたし…」

 

 

これに関しては正論である。

 

 

「それにそんなに吃驚しなかった…」

 

 

無一郎の発言が言い終わる前に玉壺は怒り狂った。

 

玉壺の拳が地面を殴打すると殴打された部分は鮮魚に変異する。

 

玉壺は己の力と優美さを伝えるが無一郎は笑みを浮かべて答えた。

 

 

「どんなに凄い攻撃でも当たらなければ意味がないでしょ?」

 

 

木々の陰に隠れていた鉄穴森は無一郎の姿に対し『笑顔が怖い』とブルっていた。

 

 

「こんのぉ…餓鬼がぁあああ!!!!!?」

 

 

玉壺は血鬼術・陣殺魚鱗で予測不能な攻撃へと転じる。

 

接触すれば先の様に触れた部位が鮮魚に切り替わってしまう。

 

だが、無一郎は思い出す。

 

 

『あの鬼と戦って帰った僕は兄と一緒に死を待つだけだった。』

 

 

夏の暑さが事切れた兄と負傷した自身を蛆が腐った肉を骨を喰らっていく。

 

死の淵を見た。

 

運良く訪れたあまね様達に助けて貰わなければ僕は死んでいた。

 

記憶を失っても体は覚えている。

 

死ぬまで消えない怒りと共に。

 

だから僕は鍛えたんだ。

 

血反吐を吐き、鍛え続けて叩き上げたんだ。

 

鬼を滅ぼす為に!

 

奴らを根絶やしにする為に!!

 

 

「私の華麗なる本気を見るがいい!!」

 

 

玉壺の放つ連撃の最中。

 

無一郎は無へ転じた。

 

 

「霞の呼吸・漆の型…朧。」

 

 

それは亀の様に遅く姿を消す際は瞬きの一瞬。

 

その呼吸の型は最高速度で攻撃を仕掛けていた玉壺を追い抜いた。

 

手負いである筈の無一郎が上限を倒す。

 

それは異常事態を示していた。

 

 

「くそぉおおおおお!!あってはならぬことだぁあああ!!!」

 

 

頸を斬られた玉壺の叫び。

 

 

「人間の分際でぇ!!この玉壺様の頸をぉおお!!よくもぉ!!?」

 

 

頸を斬られた以上、待つのは死。

 

 

「悍ましい下等生物がぁ!!!」

 

 

玉壺は断末魔を叫ぶ。

 

優れた鬼、優れた生物、人の何倍もの命よりも価値がある。

 

弱く、ただ生まれたら老いるだけの人間をこの高貴な手で作品にしてやった。

 

 

「この下等な蛆虫共…!?」

 

 

無一郎の一閃で玉壺は最後を迎える。

 

 

「もういいからさ…」

 

 

無一郎は刀を鞘に戻して答える。

 

 

「さっさと地獄に行ってくれないかな?」

 

 

>>>>>>

 

 

玉壺の死を確認した後、避難していた鉄穴森は無一郎へ駆け寄る。

 

 

「時透殿!!大丈夫ですか!!?」

 

 

何が起きたのか判らず興奮気味の鉄穴森。

 

だが、無一郎の様子は次第に悪くなっていった。

 

 

「大丈夫、大丈夫、いま…すごく調子がいいんだ。」

「あの…時透殿?」

「こてつくんのところへ…」

 

 

無一郎の限界を超えて泡を吹いた。

 

 

「おえ」

 

 

鉄穴森の顔はひょっとこのお面で隠れているがムンクの叫び状態になっている。

 

 

「と、時透どのーーーー泡吹いてますけど!!!!?」

 

 

無一郎は痣の影響で限界まで戦えたが、毒が解毒された訳ではない。

 

故に先の痺れ毒が再び全身に回り呼吸困難に陥ろうとしていた。

 

 

「やばいやばいやばいやばい!!!?」

「横向きにした方が良いですよ?」

 

 

混乱する鉄穴森を余所に冷静に答える小鉄。

 

 

「ぎゃーーー!!小鉄少年の亡霊!?」

「失礼な!ちゃんと生きてますよ!!」

 

 

衣服が血だらけになり生きているのか不思議な状態の小鉄。

 

だが、小鉄は生きている理由を答える。

 

 

「これ、腕から出た血で…腹の方は刀の鍔を入れていたので無事だったみたいです。」

 

 

小鉄は鉄穴森に見える様に刀の鍔を取り出した。

 

炭治郎が新しく出来る刀に付けて欲しいと願った形の鍔。

 

それは炎と日を重ねた形であった。

 

 

「そうだ、これ炭治郎さんから!」

「これは?」

「大きな怪我をしたら使えって渡された薬です。」

 

 

小鉄が出したのは赤い液体が試験管型の容器に入った薬である。

 

 

「では、時透殿に!」

 

 

小鉄は炭治郎に教わった通り無一郎の隊服の袖を捲って腕に容器を刺した。

 

注入される薬剤の影響で無一郎の負傷部位に銀膜が覆っていく。

 

 

「これ本当に大丈夫なのですか?」

「炭治郎さんの話では鋼柱の回復薬らしいので。」

 

 

無一郎はそのまま気絶。

 

修復第一を優先する為に無一郎を眠りに就かせたのだ。

 

霞柱・時透無一郎対上弦の伍・玉壺。

 

勝者、時透無一郎の瞬間だった。

 

=続=

 



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