バーチャルだけど現実 対戦(合法ロリ)編 (道長(最近灯に目覚めた))
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年甲斐もなくはしゃぐのはやめましょう
「MTGってどういうゲームなわけ?」
実家の居間で、シルバーのノートパソコンを抱えた妹が、突拍子もなくそんなことを言った。妹の口からその言葉が聞けるとは到底考えられなかったので、頭が意味を理解するのに数秒の間を要した。
「悪い男にでも引っ掛かったか?」
「違うし。彼氏いたけど、大学受験で自然消滅したし」
「マジか。いやマジか」
これも衝撃的な発言である。具体的に言えば2点位のダメージ。
「お前がヤリ捨てられたのは良いとして。いきなりどうした?」
「良くないし。まだ膜は無事だし」
「ウッソだろお前。そこはヤっとけよ」
「進学校行ったくせに、高卒の童貞で彼女もいない兄貴には言われたくないわ」
「よく分かってるじゃないか」
どうでもいいけど。
常在効果で忠誠度がマイナスされて、プラス能力起動にリアルマネーが必要なプレインズウォーカーがいるってマジ?
プロテクション(親)目的以外に使い道ないでしょ。
「彼女とか1:1交換すら出来ないアド損カードだろ」
「そういうところなんだけど。高校受験前日に「シンクロ召喚!」とか言ってたら誰だってキレるわ。ちゃんと勉強してた姉さんが落ちて、なんでアンタが受かるわけ?」
「流石に大学は落ちたけどな。私立ならワンチャンあったけど。でも、あのまま大学行ってたらどうしようもないクズになってたと思うわ」
「ホント、そういうところなんだけど」
軽蔑8割、呆れ2割の視線を投げかけてくる。姉さんを見習い、兄を人間のクズ扱いする妹に心底感心する。
ずいぶんマトモな人間に育ったじゃないか。兄は嬉しいぞ。姉さんには及ばないが。
「カードをいじる私を生ゴミ扱いしていたお前から、TCGに対して好意的かつ意欲的な質問が出るのは正気とは思えんのだが。神話生物にでも会った? 不定の狂気? 精神分析なんてもってないぞ」
「常時発狂してるのが目の前にいるんだよなぁ。……まあ、私もあの頃は毛嫌いが過ぎたと思う」
「いや、その感覚は正しい。この家のクズは私1人で間に合ってる」
「なんでこの人は息を吐くように自己否定出来るわけ……?」
否定もなにもクズは一生クズなんですよ。その中で社会に適応しようとしているのが良いクズ。諦めてるのが悪いクズ。
幸いなことに、日本社会は税金を納められる程度の能力さえあれば、クズでも人間として生きていける位には懐が広い。人種も宗教もLGBTにも比較的寛容な国だ。
え? 私? クソみたいなクズだけど?
「何故ここまで話が逸れる。すまん。私も結構動揺してるな」
「我ながら変なこと言ってる自覚はあるけどさ。うん。実を言うと」
そう言って抱えていたノートパソコンを開いて見せてきた。画面には大手動画サイトのマイページが映っている。
アイコンには見覚えのないアニメキャラ?が使われていた。
「お前動画投稿してるん?」
「一応ね。……いわゆるVtuberなんだけど」
「ほほーん」
Vtuberねぇ……。名前しか知らん。
「反応薄くない?」
「そもそもVtuberがなんなのかよく分かってないから反応しようがない」
「絶対否定されると思ってた」
「んー、やれとは絶対言わんけど、人の道を踏み外さなければ、まぁ。私には、お前を否定出来るほどの論拠も信用も責任も無いわけで」
ちょっと安心したように息を吐く妹。
給料をガチャとカードに費やしてきた人間にとやかく言う資格は無いわ。
むしろなぜ安心する?
「母さんには言うなよ。ややこしくなる」
「当たり前じゃん。こんなこと兄貴にしか話さないって」
「それは喜ぶべきことか? それとも悲しむべきか?」
さあ? どうでしょうと、妹がニヤケる。
大学生になっても髪も染めず、初めてのマトモな長期休みにこうやって実家に帰ってきた。
別に咎める要素は、無い。
緊張も完全に解いたようで、表情が目に見えてイキイキし始めた。本音を喋ってくれるのは嬉しいが、自分と似て調子にのりやすい性格はどうにかならないものか。
「見ての通りギャル系Vでさ」
「色々盛ってるな。こういうキャラじゃないだろ? お前」
「うっさいわ。ギャップ萌えってやつ? 見た目こんなんだけど、常識人ってことでやってる」
一番見た目で近いのは艦◯れの鈴谷だろうか。妹とは……似てるっちゃ似ている。美化し過ぎな点は否めないが。
「納得。妥当なところだ。で、見てる人は?」
「それなんだよね~。同期と比べるとノビがイマイチでさ」
「ん? やってるのはもしかして私のゲームか? あの時RINEで聞いてきたのはこれか」
サムネのライウン先生で一発で分かった。肩のライウン砲が今か今かと狙いを定めている。
ゲーム的に知名度は低いが、コアなファンは付きそうだ。コッチ路線で攻めさせた訳ね。
「マネージャーさんに家にあるゲーム言ったらこれになった。なんであの時『管理局強行偵察』勧めて来たわけ?」
「様式美。と言いたい所だが、初手ラストレイヴンは攻め過ぎだろ」
「結局ライウン避けて1回目のエンディングで一旦凍結しちゃったよ……。最後までやったら変わってたのかな?」
「配信だし、初っ端からダレるのも良くないから最低ではないんじゃね? その無難な選択肢が視聴者に受けるかは別として」
「だよねー」
しばらく妹の文句なり愚痴なりに付き合っていると、おもむろに動画をクリックする。
「で、最初の話に戻るんだけど」
「お前、こっちに戻ってからも配信してたのか。ってなんじゃこりゃ」
一昨日投稿されているその動画には、大分強烈なサムネが使われていた。
「一昨日の夜、兄貴と友達2人で騒いでたでしょ。その隣で簡単な配信してた時の切り抜き動画」
「すまんな。声入ってたか」
遮るのは古い家の薄壁一枚だから、ちょっと騒げば当然声は聞こえるわけで。
「それは何も言わず配信してた私が悪い。てか、むしろコッチがごめん」
「どうせ帰省を理由に全く配信しないのは、視聴者に申し訳ないって思ったんだろ?」
「うん……。まあ見てもらえば分かると思うんだけど」
再生ボタンが押されると、場面は妹が質問を読み上げようとしていた所だった。
「続いてのマシュマロは、えーと、実家に帰省するとのことですが、何か楽しみにしていることはありますか? んー、一番はお母さんの料理かな。あとは兄さ「膝邪魔ァ!」へっ!?」
突然、魂の叫びが割って入った。いや、もう心の底から膝が邪魔だったんだろうなっていう感じの。
「……私ともう一人で大爆笑してたわ。理由としてはアイツはオズグッド患ってたせいで膝がな。自分の膝にマジギレしてたわ」
心あたりはある。あり過ぎた。その後も結構変なテンションでやってたのも覚えてる。
「うん。最初はリスナーのみんなも困惑してたんだけど、段々兄貴達の会話を聞きたいってなったから、マイク調節して隣の会話を拾う流れになってね」
「なんだそりゃ」
マイクの調整が終わった妹が、隣の部屋の話し声を拾い始めた。もちろん、映ってるのはVだが。
くぐもっているが、全体的に声が大きいため十分聞き取れる。
「5マナ出して、ていっ」
「ここで
「いや、キツいのは事実だけど、〈レン6〉奥義と〈リリアナ〉布告の択迫ってるからマシでしょ」
「そうだけどさ〜。えぇ〜……。その
「タノシイ! タノシイ!」
「人の心ないわコイツ」
配信主が一切喋らず隣部屋を盗聴するという狂気の企画は続く。
よく分からないが、脊髄だけで回せるデッキというのがウケたらしい。
「
「……勢いで続唱から〈ボブ〉出したけど、これってもしや〈ボブ死〉あるのでは。殴れる〈ボブ〉で殴って……、終わり」
「エンド時に〈コアトル〉キャスト、キャントリップ。……これ〈ボブ〉放置正解か? 殴って何もなければどうぞ。〈ボブ〉2体目は多分プレミじゃない?」
「そうだと思う。アップキープに〈ボブ〉の効果解決。うげっ、〈コラガンの号令〉で3点受ける。〈ボブ〉2枚目は……〈血編み〉ィ!? 4ダメ。……とりあえず唱えるのは〈血編み〉か。続唱は〈思考囲い〉……、唱えたら死ぬわ」
「すまん。手札に〈ポルトガル人〉おる」
「……まけまけまけっ! アメリカが介入した時点で負けよ」
「そもそもMTG自体がアメリカのゲームなんですがそれは」
その後も所々ピックされて動画が終わる。配信者が一切喋らない配信とは。
「こんなわけで、兄貴にMTG教わるって感じで動画配信するから。よろしく」
「お前は何を言っているんだ」
どんなわけだ。まるで意味がわからんぞ。
「なんか視聴者から膝邪魔の人に出て欲しいって言う声があってね。いきなりは無理だから、まずは兄貴からって」
「アイツはまぁわかる。アイツが配信始めたら絶対マイリス入れるもん。私はわからん」
「兄貴も『脊髄よりばか』、『ボブに殺された男』、更にごく一部だと『A級戦犯』の名前で地味に話題になってるんだけど」
「最後のはコンプライアンス的にどうなの? ないないないない」
その後はもうマネさんと話してる。リスナーも期待している。という言葉に押され、声と肘から先のみで出演という条件を強引に飲まされた。
アリーナの方を上げてる人はそこそこいるらしいが、紙の初心者向け配信をしているVがちょうどいなかったらしい。どうやら妹の方向性はニッチ向けに振り切られているようだ。
どうせ一過性のものだろう、そう思って気楽に迎えた配信当日。
「算数ゥ!」
もう少しだけ配信に出なくてはいけなくなってしまったのは言うまでもない。
兄……二次元の美少女は消耗品と考えるクズ。可愛ければなんでもいい。
友人(脊髄)……姉というものに幻想を抱いている。カードゲームはそこそこ。だが右手力は最強。エヴァで全盛期ニセコイや化物語に勝つ。
友人(膝が邪魔)……ゲーム関連最強だが、正座が出来ないのとロリコンなのが玉に瑕。膝はやっぱり必要とのこと。
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初配信
間違ってることがあれば言っていただければ。
「リスナーのみんなー、こんチッス!今日からまた通常営業で配信していくよ~」
初めて訪れた妹の部屋は小綺麗に片付いていた。自室で配信しているとはいえ、年頃にしてはモノが少ない方だろう。
手慣れた様子で配信を始める妹を、しげしげと見つめてしまう。うまいものだ。この姿を見ると採用されたのも合点がいく。よくも家族ですら見付けられなかった妹の才能を見出だしてくれたと思う。マネージャーさんには打ち合わせの時にお礼はしたが、これが終わった後にもう一度頭を下げねばなるまい。
(まあ。これだけ成長しても、微妙に抜けてるのは変わらんな)
妹を挟んで向こう側にある襖が目についた。
恐らくこの部屋を掃除した時、色々詰め込んだであろう押し入れの戸が僅かに空いている。
「――ということで今回はゲストがいます。兄さん、自己紹介」
「どうも。『
あいさつは噛まずに出来た。
妹から紹介されてマイクのスイッチを入れる。ミスしてもカバーしてくれる存在がいるという安心感が、緊張感を程よく緩和してくれる。
コメントを見る限り、自分を歓迎してくれる人が多いようだ。
「さーて兄さん。企画を始める前に、初めて動画配信の感想は?」
「自分が動画に出る日が来るとは夢にも思わなかった。流石に立ち絵はないから、某フリー素材を使わせて貰ってるけどな」
「だよねー。私も兄さんを出すことになるとは考えてもみなかったよ」
「他人の褌でウンタラカンタラとかいう諺があるが、まさか妹の褌でやることになるとは」
「言葉のチョイス!」
コメント欄が若干湧く。少しは笑ってくれたようでなにより。せっかく時間を割いて見てくれているのだ。出来るだけ楽しい時間を提供したい。
「直接的に言うなら『妹のアカウントで配信』だぞ?」
「それも何か含むものを感じるなぁ」
「おや? 反応してくださっている人の中に、きくうしの方がいらっしゃるようで。古戦場から逃げてこられたのでしょうか」
コメント欄が「古戦場から逃げるな」という言葉で更新されていく。なるほど。これは結構楽しい。妹の努力を横からかっさらうようで、素直に楽しめないのが残念だ。
自分はクズだが、誰かの成果や努力を踏みにじったり、横取りする様な人間にはなりたくない。実践出来るかは別として。
「まぁ。妹の人気に便乗して、ノコノコ配信に参加する人間のクズが言うことではないですね」
「ちょ、兄さん!?」
そうだよ(便乗)という言葉でグラブル用語が上書きされた。
ホモの方も多い、と。無論、反応している人の中には私が出ることに対するアンチもいるが。
「ホント出来た妹で助かってます。本人がクズでも、家族が優秀だと実に楽です。人生イージーモード」
「それ以上視聴者のみんなを煽らなーい。そろそろ本題行くよー」
妹が慌てて話を遮った。やはりVをやってても真面目キャラらしい。Vの名前を見た時*1も思ったが、ある種の安全装置か。マネージャーさん曰く、誰とコラボしても絶対に荒れない安全牌なようで。パッと見地味だが、会社としては非常にありがたい存在とのこと。
「MTGについて、だったな。実は自分もちゃんと始めて1年も経ってない」
「えっ、ウソ」
「ホントだ。TCG歴自体は長いが。だから視聴者の皆さまと一緒に上手くなれればと思います」
カメラがセッティングされたテーブルに切り替わる。特殊な処理がされているらしく妹がカメラの撮影範囲内に入ると、『薑スズネ』に変換されるらしい。技術って凄いね。
「MTGの設定について簡単に説明しよう。プレイヤーは『プレインズウォーカー』という次元を股にかける魔法使いという設定だ。妹よ。魔法使いといえばなんだ」
「そりゃ魔法じゃない? アブラカタブラ、ちちんぷいぷい」
「チョイスに時代を感じるがほぼその通り。MTGにおいてはそれを『呪文』という。では『呪文』に必要なものは?」
視聴者に「ちちんぷいぷい」の一部に邪な気配を感じた人間がいた他、様々な呪文が書き込まれていく。
「んー……、杖? 箒?」
「間違っちゃいないが、私が望んだ答えじゃあない。答えは魔力、正確にはマナという燃料が必要になる。そしてそのマナを生み出すのが『土地』。MTGのカードを最も大雑把に分けると種類は2つ。『呪文』と『土地』だ」
「魔法使いなら自分の魔力で唱えられるじゃないの?」
ルールだから、と言えれば簡単なのだがそれだと白けるだけに違いない。少し仰々しく説明してやろう。
「……プレインズウォーカーの使う魔法は強力無比だ。人ひとりではとても賄えない。たった1マナで大地を灼く稲妻を起こし、世界を滅ぼすような怪物だろうと、簡単に次元の彼方へ放逐したりな」
「えっ。スゴっ!」
「中にはマナを生み出す道具もあるが……それはとても希少だ。あらゆる意味で。Lotus、MOX、MTGをやったことがある人なら、これを聞いて思わず身構えてしまうプレイヤーだっているんじゃないか?」
反応はそこそこ、だが動きが少なく急かすコメントが少し見受けられる。何より私ばかり喋っていることに不満を持っている層もいる。
妹の素直な反応を可愛く思っている視聴者がいるのが幸いか。
「視聴者も説明ばかりでは飽きるだろうから、実際のカードを見てみるか。テーブルの上の箱を開封してみてくれ」
「オッケー。なんか男の人が描いてあるね」
ウェルカムデッキを開封し始める妹、私の好みで黒にしてしまったが、果たして残りの30枚のデッキは何色か。
「赤と黒のカードが出てきたよー」
「ラクドスカラーか。最近、強化された色だな」
朝ディカーで結構な強化パーツを貰えた色のはずだ。黒はオムナスにハブられていたが。
「とりあえず赤のデッキの一番上のカードを見てくれ。『シヴ山のドラゴン』というカードだ」
「THEドラゴンって感じだねー。強そう」
「マジックを代表する1枚だな。黎明期の赤を支えたフィニッシャーだ。カードの右上になにか書いてないか?」
「数字と、なんかマークが書いてある」
「それがその呪文を唱えるために必要なマナの数だ。『シヴ山のドラゴン』には④という数字と、赤のシンボルマークが2つ書いてある。つまり赤2マナを含めた6マナがないと、『シヴ山のドラゴン』は手札から唱えられない」
「4マナの部分はどんな色でも良いわけ?」
「ああ。そこは何色でも構わない」
「へぇー。よく見ると『山』っていうカードに同じマークが印刷されてる」
「察しがいいな。それが土地と呼ばれるカードだ。『山』は赤マナが出る土地。『シヴ山のドラゴン』を呼び出すには、その『山』が6つないといけない」
「なんか壮大な話だね。こんな山が6つも必要なんて」
「他にも説明することは山ほどある。『山』だけに」
「はっ?」
妹と視聴者から総ツッコミをくらった。予想はしていたが想像以上に堪える。
「……だが、時間もないから一度やってみるぞ」
「うわ、逃げたよこの人』
キリがいいのでここまでにします。
前書きのとおりMTG初心者向け講座も兼ねてます。もし、何か読んでみたいこと、必須情報が抜けているなんてことがあれば活動報告やメッセージで受け付けます。気楽にどうぞ。
むしろそれをネタに書かせていただきます。よろしくお願いします。
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初配信2
読んでくださるだけでなく感想や評価をくださる方がいらっしゃってびっくり。
皆さんありがとうございます。
追記
12月15日17時30分。
致命的なルールミスを発見。ブロックした時タップ、召喚酔いの挙動とかデュエマやんけ……。
上記は修正済みです。他にミスがあれば言っていただければと思います。
「赤と黒、どっちのデッキを使いたい?」
「迷うなー。兄さんはどっちが好き?」
「黒」
「即答かー。じゃあ黒使う」
「理由は?」
「兄さんに好きなデッキ使わせて勝てる未来が見えない」
「まぁ、好きに選べ。所詮はウェルカムデッキだ」
実はウェルカムデッキ同士の対戦は長期戦になりやすいため、サルベージ手段がある黒が有利になりやすい。ただし火力で除去されるクリーチャーが多いのもあって、赤が有利な面も確かにある。
「次はデッキのシャッフル。最初はカードが固まってるから念入りにやっておいた方がいい」
「トランプも最初に7並べやると悲惨になるよね」
コイツは悪魔か。
「トランプ買って最初に7並べをやるやつなんてお前位だよ」
「一応全部あるか確認したいじゃん」
「普通に確認しろ。トランプだって自由を夢見て工場の生産ラインから出荷されるんだ。「ねぇスペードのジャックくん。君はなんのゲームが好き?」「ボクはブラックジャックがいいなぁ。ハートのクイーンちゃんは?」「大っ人〜。私は普通にババ抜きかなー」って包装から解き放たれてる所に7並べェ? 残酷な人間だな。お前」
「えっ? なんで私責められてんの? 少なくとも7は望んでるよ!」
「7が望んでるのはセブンブリッジだ」
出来る人少ないけど。でも7並べだけは絶対に望んでないね。彼らは。7並べとはトランプ達にとって、自分達の宿命を思い起こすための悲壮な儀式なのだ。
「人の都合で生み出された玩具がやっと自由になったと言うのに、再び出荷前の如く規則正しく整列しろと? アメリカがイギリスの下に合併するようなもんだぞ?」
「そもそも私の配信でトランプの気持ちについて説教されるとか意味不明過ぎない!? 何これ、自分で言っといて何言ってるか分かんなくなってきた……!」
視聴者も大分困惑しているようだ。いかん。だからなぜ話が逸れる。
「妹が血も涙もないヤツだと分かったところで始めるか。最初は手札を公開しながらやろう。初期手札は7枚な」
「いや、これ絶対私は悪くないよ……」
「俺は悪くねえっ! 俺は悪くねえっ!」
「ネタは詳しく知らないけど。バカにされてるのだけは分かる」
ぶつぶつ文句を言いながらもシャッフルした山札から7枚カードを引き、手札を晒す。
「土地3枚に2マナクリーチャーもいるからやっていいと思うぞ? 私ならキープだ」
「キープって?」
「マジックは初手を見て駄目だと思ったら、デッキに戻してシャッフルした後もう一回引き直せる。ただし、引いた7枚のうち引き直した回数分、手札をデッキボトムに送らなくてはいけない。1回引き直したら1枚、2回なら2枚。これをマリガンと言う」
「じゃあ手札が悪すぎて試合にならないってことはあんまりない? 手札の枚数は減るけど」
「というよりMTGは土地と呪文の関係上、マリガンがないとやってられない。実はこのマリガンのやり方も何度か変更されている。現行のマリガンは、最初に正式採用されたチャンピオンシップの名前からロンドン・マリガンという名前が付けられた。これのせいでコンボデッキ有利の土壌になったという反論もあるが、どっちもどっちだな」
モダンのフォーマット限定で具体的に言えば、ロンドン・マリガン方式と『トロン』や『アドグレイス』、『the spy』等の相性が良過ぎる所為だが、ここで言う必要はあるまい。
マリガンなしのカードゲームプレイヤーからは「羨ましい」、「マリガン採用したら先攻有利が加速する」といったコメントが見受けられる。遊戯王なんかは手札2枚から制圧するデッキもあるから仕方がないと思うが。デュエマも全体のカードパワーが高いって聞くし。
他のマリガン出来ないゲームのバランスを嘆くプレイヤーもいるが、マリガン前提のゲームシステムの完成度が高い、というわけではない。
結局は好みの問題だ。
「私もキープだな。では、とりあえず私の先攻から始めるか。アンタップステップ、アップキープステップ、ドローステップ、なんだが。先攻1ターン目にドローは出来ないので実質何もない」
「あれ? 後攻はドロー出来るの?」
「あぁ」
「じゃあ先攻不利のゲームじゃん。手札の多い方が有利なのは、初心者でも分かるよ」
「いい着眼点だ。確かにそうだ」
しかしそれだけでは勝てないのも事実。これは実際にやってみないと分からないだろう。
「メインフェイズに入る。その名前の通り、一番やれることが多いフェイズだ。ここで出来るのは土地を置くこと、呪文を唱えること。土地を置けるのは基本的に1ターンに一度、1枚だけ置ける。私は『山』を置く。唱えることで〈戦場〉に置かれる呪文、土地を『パーマネント』と言う。特に条件がなければ〈パーマネント〉は縦の状態、要はアンタップ状態で置いていい。そして1マナで唱えられる呪文もないのでターンエンド」
その他の処理は実際に動いた時にやるべきか。
「じゃあ私の番だね。ドローしてそのアンタップってやつで『沼』置いて終わり」
「ターンを貰おう。一番はじめのアンタップステップで場でタップしているカードが縦になる。今回は『山』がアンタップの状態だから、特にやることはないな」
「タップって?」
「『沼』のカードを見てみろ。グルリと回ってる矢印の横に、黒マナを生むって書いてあるだろう」
「……つまりカードを一回転させると黒いマナが1つ出てくる?」
「それを1フィート上からやるとヴィンテージの禁止カード*1になるな。縦のカードを横にすることと覚えてくれ。アンタップは横になったカードを縦にすること」
「はーい」
「ではドローしてメインフェイズ、『山』を置く。2枚の『山』をタップして赤マナを2つ出す。そして2マナの『ゴブリンの通り魔』を唱えよう」
手札から乱暴そうなゴブリンが戦場に現れた。パワー2、タフネス2。これで熊と同じ強さらしいので、既に普通の人間には対処不能だ。
「お~、でたでた。ということは私、攻撃されちゃう?」
「いや、クリーチャーは攻撃する時タップする必要があるんだが、唱えられたターンは〈召喚酔い〉という状態なので、自分からタップ、アンタップすることが出来ない。速攻という能力を持っているクリーチャーは別だが。だからこれでターンエンド」
「じゃあ私のターン、『沼』置いて私も『歩く死骸』を出すよ。兄さん殴れないし、終わり」
「ターンを貰う。アンタップステップで山がアンタップする。アップキープ、ドロー。山を置いて3マナ『恐れなき矛槍兵』をキャスト。パワー2、タフネス3だ。あとは何もせずターンエンド」
「ゴブリンで攻撃は?」
意外そうな顔で妹が聞いてきた。カードゲームをやったことがないのなら〈ブロック〉の感覚を知らないのも無理はない。一緒に〈ライフ〉についても教えるべきか。
「クリーチャーが戦闘を行うフェイズを〈戦闘フェイズ〉と言う。やることを大雑把に言うと、〈攻撃を行うクリーチャーの指定〉、それに対する〈ブロックを行うクリーチャーの指定〉、そして〈戦闘ダメージの処理〉だ。仮に私がここで『ゴブリンの通り魔』で攻撃を宣言したとしよう。次にお前が〈ブロッカーの指定〉に入る」
「じゃあ『歩く死骸』でブロック」
「そのまま『ゴブリンの通り魔」と『歩く死骸』が戦闘する。カード右下の数字を見てくれ。左がパワー、右がタフネスだ。ゴブリンのパワーは2、タフネスも2。死骸も同じだ。パワーはこのクリーチャーが与えられるダメージ、タフネスは体力で0以下になると〈戦場〉から〈墓地〉に送られてしまう。今回はお互い2のダメージを受けてタフネスが0となるので、どちらも墓地に送られる。〈ブロック〉しなかった場合は、プレイヤーへ2点のダメージが入る。プレイヤーの〈ライフ〉は〈20〉。これが0以下になったら負けだ」
「あと10回攻撃しなきゃいけないんでしょ? じゃあ攻撃した方がいいじゃん?」
「自分が最初に言ったことを思い出せ。先攻はドロー出来ない。ここでブロックされると1:1交換になる。もし1:1交換を繰り返していったらどうなる?」
「あ。先に先攻の手札が無くなるね」
「例外はいくらでもあるが、今このデッキでそれをする価値は低いと、私は考える」
「なるほど。じゃあ兄さんは攻撃しないで私のターンね。『沼』を立てて……ドロー!」
一部の敏感な男性が不穏なコメントを残すが、真面目なコメントもいくつかあった。1人でも興味を持ってくれたら、妹の会社やウィザーズ社への義理は果たせただろう。
「『沼』置いて3つタップ。『男爵領の吸血鬼』を出して、終わり!」
「アンタップ、アップキープ、ドロー……ふむ」
ここでこれか。そろそろ〈インスタント〉について教えるタイミングか?
「コンバット、『恐れなき矛槍兵』。さっきは言い忘れたが、タップしたクリーチャーは攻撃出来ないし、ブロックに参加出来ない」
「そうなんだ。んー、ブロック……しない!」
「ほう。では2点ダメージだな。戦闘終了後再びメインフェイズがある。そこで『山』を置き、3マナで2枚目の矛槍兵を唱えてターンエンド」
『男爵領の吸血鬼』がパワー3、タフネス2だから、とりあえず1:1交換を狙ってくるのかと思ったが違うのか。
私も多分ブロックしないが。
「じゃあ私のターンになってアンタップしてドロー。3マナで『殺害』! 対象は縦の矛槍兵!」
「破壊される」
「じゃあ『男爵領の吸血鬼』で攻撃するよ」
「ん? 『男爵領の吸血鬼』で殴るのか?」
「そうだけど」
……あれ? 私の勘違いか?
「すまん、『男爵領の吸血鬼』貸してくれ」
「いいよ」
カードにはフレーバーテキストだけで効果はないし、ステータスも3/2で間違いない。
「……ちなみになんで殴った?」
「だってブロックされなかったら3点ダメージだし、ゴブリンにブロックされてもゴブリンやっつけられるじゃん」
「吸血鬼とゴブリンは相打ちだぞ?」
「えっ? なんで?」
「えっ?」
「えっ?」
妹は心底不思議そうに首を傾げた。
「算数ゥ!」
悲報。ウチの妹、大学生なのに1桁の引き算が出来ない。
「マジか。私の妹は算数が出来なかったのか。すまん。気がつかなかった。兄貴失格だったわ。ごめん。マジごめん」
「えっ。えっ。なんでそうなるの?」
「だって身内が大学生になって2引く2が出来ないんだぞ? よく今まで生きてこれたな。むしろ偉い。ウチの妹チョーエライ!」
「バカにするなぁバカ兄貴! 2引く2くらい出来るわ!」
「答えは?」
「0!」
「じゃあなんで吸血鬼で殴んの!?」
「だってゴブリンが先にやられるでしょ! 2と3なら3の方が強いじゃん!」
「なるほど……、いや、そういうゲームじゃねえからこれ!?」
理由は分かった。 ウチの妹が結構脳筋ということも。
「それやったらタフネスいらんわ。何か特殊な効果がない限り、クリーチャー同士の戦闘は〈自分のクリーチャーのタフネス〉引く〈相手のクリーチャーのパワー〉を同時に行う。今回の場合『吸血鬼』のタフネスが0、『ゴブリン』が-1になるからお互いに死亡する」
「あぁ。そういう意味なのね……。じゃあ攻撃しないし、『殺害』も唱えないなー」
「構わん。巻き戻していいぞ」
「じゃあ『沼』置いて4マナの『張り出し櫓のコウモリ』を出して終わりかな」
「ターン終了時に1マナ払って『ショック』。コウモリに2点ダメージ。タフネスが-1になるから破壊される」
「へっ? 呪文ってメインフェイズしか唱えられないんじゃないの?」
「〈インスタント〉は別だ。マナさえあればいつでも唱えられる。さっきの『殺害』もそうだな」
「ホント? ……ちょっと待って」
妹が額に手を当て、少しの間考え込む。
「よくよく考えると先攻って、こっちが1マナで動いた後に2マナで動けるじゃん」
「そうだな」
「もしかして後攻ってメチャクチャ不利?」
「お前マジックのセンスあるよ」
ふとパソコンを見ると、コメント欄がスゴイ勢いで流れている。
結局妹は巻き返せず、この試合は私が勝った。
ハーメルンの短編は4話までなので、次で一区切りにしたいと思います。
アンケートを取りますので是非投票していってください。
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ついしん
さいきん『ふぉーすおぶうぃる』がとなえられるようになりました
ほめてください
でゅあるらんどってとってもたかいとおもいましたまる
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調子に乗った妹がいるので躾することになりました
他の案に投票してくださった方、ありがとうございます。友人と解説系が思ったより人気で困惑しました。
とりあえず一旦一区切りとなります。また、試験的に投稿コメント的なものを文中に入れてみました。
「……『殺害』を『シヴ山のドラゴン』に」
「破壊される」
これで飛行クリーチャーはいなくなる。
「『墓起こし』、『張り出し櫓のコウモリ』で攻撃」
「ブロックは出来ない。負けだな」
「……勝ったぁ!」
妹がガッツポーズをして満面の笑みで喜ぶ。私が配信に参加して3回目、やっとの思いで掴んだ初勝利だ。
:おめ
:鈴ちゃん初勝利おめ
:デッキ入れ替えもあったけどやっと勝ったな
「ありがとうみんな! この勢いで重大発表しちゃうよ! なんとみんなのおかげで収益化することが決まりました! はい拍手!」
「マジか。寝耳に水なんだが」
配信参加3回目にして、ようやくマトモにコメントを読める様になった。
コメント欄はお祝いのメッセージで溢れかえってるが、自分は喜びより戸惑いの方が大きい。
ウチの妹を金払ってまで見る? ないない。
ジェ◯ミー・クラークソンくらい面白ければ金払いたいと思うが、コイツのトークに金を払う気はない。
コイツにレ◯サスLFAを「摘みたてのブルーベリー」と表現する感性があるか?
あるいはt◯dのジョン・ベネットに「くま◯ンの方がマシだ!」と叫ばせる豊かな発想力があるとでも?
いいや。ないね。言葉で金を稼ぐっていうのはそういうことだ。
「ふははは、もう負ける気がしないよ私は! そうだ! 兄さんの本気のデッキ出してよ!」
「はぁ? お前、私のデッキのフォーマット分かってんのか?」
「フォーマットって何?」
「ボクシングで言う階級みたいなもんだ。守らないと不幸な事故が起きる」
「階級差如きで今の私が倒せると思うな! もしかして負けるのが怖い?」
「えぇ……皆さんどう思います?」
:かわいい。でもちょっと調子乗りすぎ
:調子に乗る鈴ちゃんかわいい。でも酷い目に遭う鈴ちゃんはもっとかわいい
:これはいつもの調子に乗って失敗するパターンですねぇ
:妹の躾くらいちゃんとして♡しろ(豹変
:本人が望んでるならやむなし
「……えー大半の視聴者さんの賛同を得られたしやるか」
「そうこなくっちゃ! 私は勝つよー」
ちなみにボクシングで例えるなら、はじめて1ヶ月の素人がミドル級のランカーに喧嘩売る様なものである。
こうして、惨劇の幕が上がった。
「先攻は譲ろう」
「じゃあ、『沼』を置いて終わり」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。『新緑の地下墓地』をエントリー」
「……? 何その〈土地〉」
出された土地を訝しげに覗く妹。そういえば特殊地形について一切話していなかった。
:フェッチランドか……
:3色はこれ無いと話にならない
:これはモダン以下確定ですねぇ間違いない
:何このカード?
:黒緑フェッチいきなりヤバそうなのが……
「MTGには5色の基本土地以外にも色々あってな。これは〈フェッチランド〉と言ってタップと1点ライフロスしてサクることで、対応する基本土地タイプを持つ〈土地〉を〈戦場〉に出せる。『新緑の地下墓地』は『沼』か『森』の基本土地タイプを持つ土地を持ってこれる」
「サクる?」
「生け贄に捧げることだ。TCGにはスラングが結構多い。私も最初に言われた時、困惑したわ。『ボブ』もその1つ。ちなみに別なカードゲームの話だが、ラブライブのあるキャラが『ドム』って言われてた」
「どうしてジオンのモビルスーツがラブライブに……?」
「分かるのか?」
「コメントでたまにガンダムネタ出てくるし、少しは。ラブライブは全然分かんないけど」
:ドム!?
:初耳なんだけど
:知らんがな
:多分ヴァイスシュバルツのノンちゃんのことだと思われ
……知らない人の方が多い?
まーたアイツの内輪ネタか。なんなんだろう、カードゲーマーの絶妙なネーミングセンス。ヴァイス自体が固有名詞が多い割に似た能力が多いから、スラングが生まれやすい土壌なんだが。
「とりあえず『新緑の地下墓地』をサクって『血の墓所』をショックイン。『血の墓所』は〈ショックランド〉と言われる基本土地タイプを持つ2色地形だ。2点ライフを払うとアンタップイン出来て、黒マナと赤マナ、好きな方のマナを出せる。支払わない場合はタップイン。だから残りライフは17」
「ああ、だから『ショック』ランドね。いいのかなー? そんなに自分のライフ削っちゃって」
「『稲妻』1枚って考えると実際痛い。『バーン』相手だと悩みどころだ」
:バーンに対しては悩むよね
:黒緑フェッチから黒赤土地?あっ(察し
:ジャンドか…モダンではフェアデッキだが
:フェアデッキ?フェアってことは弱い?
:逆なんだよなぁ……
:まだ土地事故があるから(震え声
「黒1マナ、『コジレックの審問』。効果は相手の手札を見て、土地以外の3マナ以下の呪文を1枚選んで捨てさせる」
「1マナの手札破壊!?」
「むしろ1マナじゃないタダのハンデス呪文がモダンで採用されるのは余程だぞ。対応ないなら早く公開しろ」
「……はい」
:やっぱり黒と言えばハンデスだよなぁ?
:えっ?こんな簡単にピーピングとハンデスしていいの?
:マジックは手札破壊に対して比較的寛容
:打ち消しが青しか出来ないから
:ハンデスがないと非パーマネント呪文に対してなんも出来なくなる
:夏の帳(ボソッ
:1マナのクリコマとかなんで刷ったし
しぶしぶ公開された手札の中身は2マナの『歩く死骸』、3マナの『男爵領の吸血鬼』、4マナの『グレイブディガー』。残り3枚が土地。墓地からクリーチャーを回収出来る『グレイブディガー』が若干気になるが、4マナは対象に出来ない。それに、今なら2ターン目の動きを縛った方が強い。
「『歩く死骸』を捨ててもらおうか」
「オーケー、……これ次のターン土地置くだけで終わりになる?」
「ドロー次第だな」
『歩く死骸』が墓地に送られてターンエンドを宣言。妹は2マナのカードを引かなければ、このターンは沼を置くだけになってしまう。
「ドローして……むぅー、『沼』置いて終わり」
まぁ、そんな都合の良いことは早々起きないわけで。
「ターンをもらう。『血染めのぬかるみ』を置く。これはさっきのフェッチランドの黒赤版」
手元を見る。自分でやっといてなんだが、ここでクリーチャーが出てない時点で、妹は相当厳しい。
「フェッチ起動、『草むした墓』をショックイン。残りライフ14」
「そんなにライフ削って良いの?」
「削ってでも出したいカードがあるんだよ。土地2つをタップして赤緑2マナ、『レンと六番』をキャスト」
「……〈プレインズウォーカー〉って私達プレイヤーのことじゃなかったっけ?」
:げえっレン6!?
:レ ガ シ ー 禁 止 カ ー ド
:もう土地事故起きないねぇ!
:PWマウントもうはじまってる!
:何がやばいの?
:Wrenn and S◯X!
:やめるんだ!
既に察した経験者も多いようで。2マナで早急に処理しなきゃいけないカードが出てくるというのは、かなりキツい。マジックはマナという枷があるため、除去を優先すると自分の動きが遅れてしまう。
「〈プレインズウォーカー〉も広義的には魔術師だからな。詳しいことは省くが、カード化されているのもいる。〈プレインズウォーカー〉には〈忠誠度〉というものが設定されていてな。カード右下の数字だ。『レンと六番』なら〈初期忠誠度〉は3。これを上下させてテキストの〈忠誠度能力〉を自分のターンに1度だけ使用可能で、0になると墓地に送られる」
「ふーん。じゃあ『レンと六番』はいきなり一番下の-7の能力は使えない?」
「それが出来たら色々とぶっ壊れるな。〈神ジェイス〉が本当に〈神〉になるぞ。あと〈プレインズウォーカー〉はクリーチャーで直接攻撃して〈忠誠度〉を減らすことが可能だ」
〈忠誠度〉は〈プレインズウォーカー〉のタフネスみたいなもの。マジックでは〈格闘〉出来るという能力がない限り、〈クリーチャー〉が〈クリーチャー〉を直接殴ることは出来ないため、挙動の違いを説明しなくてはいけない。
「その場合の計算式は〈忠誠度〉引く〈クリーチャーのパワー〉。〈クリーチャー〉側は〈プレインズウォーカー〉側に何か明記されていない限り、何も起きない。〈忠誠度〉は『ショック』等のプレイヤーに当てられる火力呪文でも減らせる」
「意外と脆い? 〈プレインズウォーカー〉って」
「……やってみればわかる。+1の〈忠誠度能力〉を起動。効果は墓地にある土地を1枚までサルベージ出来る。墓地の『血染めのぬかるみ』を手札に。これで〈忠誠度〉が4になる。こんな風にカウンターが必要なものはダイスを置いておくと分かりやすい。自分が使うなら準備するのがマナーだ。これくらいは貸してくれるプレイヤーも多いけどな」
6面ダイスの4の部分を『レンと六番』の上に置いて手番を渡す。
:何が強いのか分からん
:全部強い
:3色デッキが色事故起きないって言ってる
:タフネス1に人権なし
:2マナのくせにもう稲妻圏外
:更地にPW着地いっそ無視したいけど放置すると負ける
:これがティボルトならしばらく無視出来るんだけどな
妹がコメントをちら見するが、まだ余裕の笑みを浮かべている。これだけだと、精々フェッチの使いまわすしかないからまぁ(感覚麻痺)。
「タフネス1は『コウモリ』位だし、こっちも土地伸びるから大丈夫でしょ。じゃあドローして『沼』。3マナで『男爵領の吸血鬼』出して、どうぞ」
「ドローまでいってメインフェイズ。『レン6』の〈忠誠度能力〉を起動、『ぬかるみ』回収で〈忠誠度〉が5に。……布告から入るのは最後の手段か」
多分『苦悶の吸引』で早々に除去されるのが一番寒い。そこをケアするなら『タルモゴイフ』から切るべきか。
「2マナで『タルモゴイフ』。墓地のカードは〈ソーサリー〉と〈クリーチャー〉だからパワー2、タフネス3。『地下墓地』置いてターンエンドまで」
「墓地のカード関係あるの?」
「『タルモ』は墓地にあるカードの種類分、パワーとタフネスが上昇する。今は2種類だから2/3だが、フェッチを切ると3/4になる」
「……ん? 2マナで3/4のクリーチャーって聞こえたんだけど、私の聞き間違い?」
「3点クロックなんて『稲妻』1枚分だしヘーキヘーキ。フェッチでショックインするのと同じよ。『稲妻』は1マナだし」
:タルモくんオッスオッス
:十分なんだよなぁ
:マナレシオ壊れる
:インスタント落ちると4/5になるんだぜ?
:2マナ4/5…普通だな!
:鈴ちゃんの吸血鬼が3マナ3/2なんですがそれは
段々妹の顔が素面に戻りはじめた。まだ戦意は感じるが。
「アンタップ、アップキープしてドロー。う、う~ん。戦闘フェイズ、『吸血鬼』で『レンと六番』」
「タルモでブロック。この時フェッチ切って『沼』。残りライフ13」
「ブロッカー宣言したときに3マナ、『タルモ』に『殺害』!」
「では私も沼から黒1マナ、『吸血鬼』に『致命的な一押し』」
「1マナの除去!? でもこれって2マナ以下のしか対象に出来ないんじゃ……」
「〈紛争〉という能力があってな。唱えるターンに自分の〈戦場〉にある〈パーマネント〉が〈戦場〉から離れるのが発動条件。『致命的な一押し』はその条件を満たすと4マナ以下まで対象に出来る。別に〈タルモ〉が破壊された時でもいいんだが」
墓地に落ちた『新緑の地下墓地』を指差す。
「〈土地〉も〈パーマネント〉の一種だということは覚えてるか?」
「そうかフェッチランドが墓地に……ってそんなのあり!?」
「ルール上は一切問題ない」
お互いに『タルモゴイフ』と『男爵領の吸血鬼』を破壊して戦闘フェイズが終了。第2メインに入る。
「こっちが3マナでやっとクリーチャー除去してるのに、あっちは1マナで飛ばしてくるんだけど……」
:カードパワーが)ふとすぎるっぴ!
:タルモ除去出来たし……
:プッシュは5マナ以上はさわれないから(5マナのクリーチャーが出せるとは言ってない
:ちょっとマスカン多すぎんよ~
「……『沼』置いて終わり」
「ターン貰ってドローまで。『レン6』の〈忠誠度能力〉、〈地下墓地〉回収。〈カウンター〉が6に。『ぬかるみ』置いて即起動、『山』持ってきて残ライフ12」
「……そのフェッチランド使い回せるのズルくない?」
「やっと気付いたようだがもう遅い。実は2マナのプレインズウォーカーは最強でした」
「なんかスゴいイラッとくる」
「黒2マナ含めた計3マナ、『ヴェールのリリアナ』」
「スルーされたと思ったらまた〈プレインズウォーカー〉?今度はなに?」
「〈忠誠度能力〉起動+1の能力。効果は各プレイヤーは自分の手札から1枚選んで捨てる」
「え゛っ」
妹の喉からVtuberとして出してはいけない声が出た。
:もう駄目だぁ…おしまいだぁ…
:キレイにマウントとられたな
:勝ったな風呂入ってくる(フラグ
:その程度のフラグは心と一緒にへし折られるんだよなぁ
3枚の手札を見つめた後、ひとしきり頭を抱えると、やっとこさ声を出す。
「……オーディエンス使います」
「視聴者のみなさーんお願いします。しばらくパソコンは見ませんし、ヘッドホンは外しますね」
「ダイジョブダイジョブ、いけるって。ギリ首の皮一枚で繋がってるって……!」
妹が恥も外聞もかなぐり捨てて視聴者に助けを求めた。
多分、更地に『レン6』着地の段階で飛頭蛮になってると思うんですけど(小並感)
しばらくすると「いいよ」と、声がかかり振り向く。
「同時に捨てる効果だからせーので捨てるぞ」
「うん」
「「せーの」」
捨てたカードは自分が『新緑の地下墓地』、妹が『歩く死骸』。
「なるほど」
「『グレイブディガー』は捨てられないから2択だったんだけどね。うん」
「ところで私にはまだ1マナ残ってるんだが?」
「……あっ」
:あっ…
:あっ…
:あっ…
:あっ…
:鈴ちゃんと視聴者の心が1つになった瞬間である
「ちょっと待って」
「待たない」
「私が何したっていうの?」
「多分結構な数のプレインズウォーカーの顰蹙を買う発言をしたな」
「謝るから。土下座するから」
「謝って済むならTwittarは燃えないんだよ」
「いいじゃん! 初勝利に収益化告知だよ!? 嬉しかったんだもん! 楽しかったんだもん!」
「感動的だな。だが無意味だ」
「ゆ る し て !」
「黒1マナ」
「鬼! 悪魔! 兄貴!」
「『思考囲い』。さあ、お前の手札を見せろ」
「ちくせう……」
妹の手札は『グレイブディガー』と『沼』。
:やはりハンデスは悪…
:フェアってなんだよ(哲学
:クソだよ!クソ!ハハハハ
:視聴者の心ごとへし折りにかかるスタイル
:いうて1:1交換でライフロスあるし…
:対価は払ってる(釣り合ってるとは言ってない
「落とせるのは『グレイブディガー』だけだ。『思考囲い』は落とせる呪文に縛りは無いが、代わりにライフを2点失う。残り10」
「ざぁ~ん~こぉ~くなあにきのてーぜー」
:急に歌うよ!?
:ピッチが絶妙にズレてる
:腹の底ってより地獄の底で歌ってそう
「さっさと窓辺から飛び立てー!」
「実の妹から自殺を教唆されるとは思わなんだ」
「くそう……、こっから巻き返してやる……!」
「ターンエンドだ」
「アンタップ、アップキープ、ドロー!……終わり!」
「土地でも引いたか? アンタップ、アップキープ、ドロー。『レン6』起動。『地下墓地」回収で〈忠誠度〉が7に。『ヴェリアナ』+1喋ってハンデス」
「まーた変な言葉使ってる。はいはい『沼』ですよー」
「私は『地下墓地』。赤緑含めた3マナで『運命の神クローティス』。今はただの破壊不能〈エンチャント〉。次のターンからお前の墓地のカードを1枚追放して呪文なら2点ドレイン、土地なら1マナ生成」
「……これって詰んでない? 墓地からクリーチャーいなくなるんでしょ?」
「手足もがれて毎ターン検便されるだけだから。まだいける」
「言い方が絶望的に汚すぎる!」
「目は見えるし喋れるから。まっ、多少はね?」
「ホントに多少だよ!」
:実の妹を達磨にして毎日検便する男
:兄貴実はファイレクシアだったりしない?
:おにーさんゆるして!
:鬼畜(直球
:鬼兄
:エロゲのタイトルにありそう
:購買層も製作者も闇が深過ぎる
ジャンドは相手のリソース枯らせるデッキだから至って普通のプレイである。ブン回ってるのは確かだが。
ターンを渡しても何もせずに戻ってきた。またクリーチャーを引けなかったようだ。
「『クローティス』で『グレイブディガー』追放で2点ドレイン。12:18。『レン6』喋って『地下墓地』」
「あれ? 一番下のは使わないの?」
「多分使い切るより維持した方が強い。〈ヴェリアナ〉でハンデス」
捨てられたのは『見栄え損ない』。確かにこの状況だとクリーチャー除去はいらない。私は『地下墓地』を捨てた。
「『コラガンの命令』、これは4つあるうち2つの効果を選べる。モードはハンデスとクリーチャーの回収。最後の1枚捨ててもらって、私は『タルモゴイフ』を回収」
「ねぇ、弱い者イジメって楽しい?」
「正直なんも楽しくない。だが被害者振ってるお前を見て、最後までやらなくてはいけないと思った」
「あ、はい」
最後の『沼』が捨てられる。最初の勢いは何処へやら、すっかり小さくなっている。
「ちなみに『レン6』の-7の能力だが、効果は手札の土地を自分の墓地にある〈ソーサリー〉、〈インスタント〉として唱えられる様になる、だ。言っておくが私の手札に土地はあるし、『コラガンの号令』は〈インスタント〉だ。つまり次のターンで『レン6』をなんとかしないと、毎ターンドロー時にハンデスなんだが分かってるな?」
「もう勘弁してください……」
「ターンエンド。さっさと引け」
「はい……」
:ついに目と喉も潰されたんですけど
:心臓は動いてるから……
:レン6着地の時点で負けとかもうわかんねぇな
:33-4
:なんでや!阪神関係ないやろ!
妹が机に突っ伏すと同時に負けを宣言して、適当な解説をした後放送を終了した。
後日、いわゆる投げ銭によって作られた、妹のデッキと勝負することになるのだが、このアーカイブに載るかは未定である。
もし続きが書いてほしけりゃ感想なり評価なりするんだな!
ウソです。ごめんなさい。1人でも新しいプレインズウォーカーが増えたり、灯を取り戻してくれたプレインズウォーカーがいてくれたら幸いです。
もちろん、現役のプレインズウォーカーの方に読んでいただけたというのなら光栄です。
ありがとうございました。
今回は力尽きたのでカラーパイの話はありません。
需要は分かりませんが整理してのち、カラーパイで1本作ろうと思います。それで今度こそ一区切りになると思います。
MTGに振り切るか、物語として書くのか悩み所先輩なので。
出来ればもう少しだけお付き合いください。
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カラーパイ1(白青黒)
今年もよろしくお願いします。
カラーパイですが青までは以前後書きに書いてあったものとほぼ同じです。
あと再びアンケートを取らせていただきます。
「今回は時間が余ったな。いつもならもっとかかるんだが」
「今日はもうやらないよ。流石に心が折れたから……」
テーブルの上でべたーっと張り付く妹を見るに、今日はもうヤル気はなさそうだ。しかし尺が余っているのも事実。なにを話すべきか。
「……カラーパイについて話すか」
「カラーパイ?どこかのゲテモノ料理?」
「正直アメリカかイギリスあたりにありそう、と思った自分がいるが違う」
5色に色分けされた体に悪そうなパイを一瞬思い浮かべてしまったが、かぶりを振って妄想をかき消す。
「呪文が5つの色に分かれているのは周知のとおりだが、それぞれ得手不得手がある。それが分かると、見ている人にも自分の組みたいデッキが、イメージ出来るんじゃないかと思ってな」
「あー確かに。私もいつか自分のデッキ組みたいけど、どういうデッキ組みたいか全然想像つかないし」
「ではまず『白』から話そう」
「『白』ねぇ。回復魔法とか得意そう」
思い浮かべたのはホイミかケアルか、それが問題だ。ディア? 果たしてあの世界に白魔法なんて存在するのだろうか。
「白魔法って言うくらいだからな。大体合ってる。白は全体主義の色だ。秩序、道徳を尊重し、平和や平等であることを求める。実際のゲームの動きとしては、結構何でも出来る色だったりする。クリーチャー全般が優秀で、除去も豊富、除去最強色と言う人もいる。アーティファクトやエンチャントともそれなりに相性が良い。お前が言う通り回復も得意だな」
「じゃあ1番強いの?」
「いや。実はそうでもない。何でも出来るが、全てが80点の模範生と言ったところか。『神の怒り』に代表される豪快な全体除去が軒並み優秀な一方で、全体主義が祟って一方的に有利になることが難しい色なんだ。例えば『流刑への道』というクリーチャーを追放する呪文があるんだが、これは除去されたプレイヤーに、タップ状態とは言え土地を与えてしまう。法を重視するあまり、敵であろうと対価を渡してしまうのさ」
「なんかいいね。スポーツマンシップみたいで」
「どうだか。私はにとっては5色の中で1番嫌いな色だ」
「えっ? なんで」
「詳細は省くが、黒の方がよっぽど平等な色だよ。マジック黎明期にデザインされた白のカードに『天秤』というカードがある。これは白の語る平等とやらがよく分かるカードであり、とある伝説の立役者でもある。詳細は自分の目で確かめて欲しい」
「ふーん。私は好きだけどね。白」
「お前は下着の趣味も白よりだったな」
「ちょっと何言ってんの!?」
何って洗濯物を兄に干させるお前が悪い。兄に見られていい下着なら、視聴者の方にも公開しても問題あるまい。
コメント欄も盛り上がっている。お前の下着じゃなかったら私だって反応するのだが。
「代表的なデッキも少し話そうか。1番は何より『白ウィニー』と呼ばれるアグロデッキだろう。軽量の優秀なクリーチャーを並べての速攻。ちょっとしたデカブツは優秀な除去で乗り切る。最悪は『神の怒り』でリセットして敵の懐に切り込むビートダウンデッキ」
「無視しないでくんない!?」
「あとは『Death&Taxes』。日本では『デスタク』の愛称で呼ばれることが多い。それこそ『白ウィニー』系統のクリーチャー主体の癖に、ロック、コントロール、ビートダウンが組み合わさってるから扱いが非常に難しい。だが強力なデッキだ。あとは青と手を組んでのコントロールは黎明期から続く伝統的な戦法だな。最近は緑が混じることも多いが」
「無視するなら余計なこと言わないでほしいんだけど」
「言われて困るようなもん着けてないだろ?次は『青』だ。お前は『青』にどんな印象を持つ?」
「兄貴の思考と嗜好が異常すぎる。……『青』ね。水と空の色だし、綺麗な印象あるよね」
と、言いながらも私の話に合わせてくれるのが我が妹である。自分よりも全体の円滑な進行を優先するのが、実に『白』的だ。
「それは流れゆくものを扱うという性質に表れてるな。『青』の根本的な欲求は、より多くの知識とそれにより生み出される成果だ。知識こそ力と捉え、ひたすらに万能であることを求める。それ故に回りくどく、予想外の事態に脆い。ゲームでの特徴と言えば打ち消しとドロー、それに尽きる。ただし直接的な破壊は出来ず、立ち上がりが遅い」
「打ち消しって?」
「相手の呪文を唱えさせないことだ」
「ズルい!」
ちなみに妹が好感を抱いた『白』にも唱える呪文に縛りをつけるカードがあったりする。
「白も大概なんだがな……。まぁ、思ってる通りだ。相手のやりたいこと縛りつつ、一方的にゲームを進めるのが得意。エンチャントはそうでもないが、アーティファクトとの相性は抜群。ソーサリーとインスタントは言わずもがな。かの『パワー9』でアーティファクト以外の呪文は全て『青』。その一枚、『Time Walk 』はたった2マナで追加ターンを得る最強呪文だ。名実共にマジック最強の色だよ。クリーチャー最弱色のはずが、今じゃ最強クラスになってるし」
「何かあんまり好きになれないかも……」
「そう言うな。今じゃ打ち消しもドロースペルも弱体化してるし、環境の抑止力になってる面も少なからずある。エターナルでオールイン系のコンボデッキが少ないのは打ち消しのおかげなんだから。『Force of Will』だけじゃ足りなくて『否定の力』まで投入してるからな。今のレガシー」
「ホントぉ? なんか信用出来ないんだけど」
胡散臭そうに私を見る。実際エターナルのバランスは青と無色アーティファクトであるのも事実だ。
「……アーティファクトと組んで無限ループをキメるのも『青』の十八番だな」
「やっぱダメじゃん!」
「打ち消しとドローを駆使した重コントロールデッキが一番マトモだが、代表はやはり、あの悪名高き『MoMa』だろう。対策は平地六千枚と鞄いっぱいのガラスの仮面とか言われてた。流石にそれは冗談だが」
「なにそれ?」
ソリティアがクッソ長い癖に途中で止まる可能性があるから、デッキが回り始めても投了するに出来ない。じゃあその時間をどうする?
そんなツッコミ所満載の理由である。
「他の色と組んでの無限ループデッキも山ほどあるが、それ以外だと一番はクロックパーミッションの代名詞、各種『デルバー』か。レガシーでは必ず目にするデッキで、2ターン目から3/2飛行持ちで殴り、それを豊富な打ち消しで守り抜く」
「あれ? 意外とマトモ?」
「……レガシーではな」
「そのレガシーっていうのは、さっき言ってたフォーマットのこと?」
「勘がいいな。詳しくは別の機会に話すが、モダンよりもヤバい環境だと思ってくれ」
「……あ〜はい。なるほどね」
さっきの惨状を体験しているだけに合点がいったようだ。土地コンを握っていた友人が遊びでやったらむごいことになった。追放コストはあるのに永遠に脱出出来ない『ウーロ』とかはじめて見たぞ。
「そろそろ『黒』の話をしよう。私が一番好きな色だ」
「兄さんが好きって時点でイヤな予感しかしないんだけど。触った感じ墓地利用とクリーチャー除去があったよね。あとさっきはハンデスも使われた」
「よく分かってるじゃないか。黒が得意とするのはクリーチャーの除去とそのリアニメイト、そして手札破壊。特に手札破壊は黒の専売特許だ。クリーチャーは極端な性能を持ついわば尖った性能をしたものが多い。アーティファクトは直接的な破壊が出来ないため使うのはともかく、使われるのは苦手。エンチャントも最近破壊出来るようになったが、自分の場にあるものは破壊出来ない。契約は必ず履行するというのも『黒』が『黒』たる所以だ。実際にデメリットと引き換えにした強烈なエンチャントを多数輩出している」
「ふーん。で、性格は?」
「利己的で現実主義。弱肉強食、力こそ全て。利用できるものはなんであろうと利用する超道徳。圧倒的な個人主義。穢れた沼からマナを引き出し、あらゆる手段で相手を追い詰め、死者をも利用する。時には自身の犠牲も厭わず目的を完遂する」
「ただのDQNじゃん! どこかのラスボスじゃん! うわぁ、絶対好きになれないわぁ……」
嫌悪感を露にしているが、『黒』にとっては『白』の方が傲慢に映る。法や平和という言葉を盾に、自分の都合を押し付けてるだけではないか。
「強力だが、ライフロスや何かしらの制限があるカードが多い。先程のゲームで使った『コジレックの審問』、『致命的な一押し』、『思考囲い』、『ヴェールのリリアナ』。全て強力なカードだが、一癖あるカードばかりだったろう? ライフロスはもちろん、選べるカードに制限があったり、『リリアナ』に関しては自分の手札を捨てた上で、相手に選択権がある」
「多少リスクがあったところで、こっちの方がキツイわ! 『黒』キライ!」
「……そうだな。折角出した6マナの『墓起こし』、これを1マナで除去されたらどう思う?」
「そりゃあイヤだよ。6マナのカードが1マナのカードと交換だなんて」
「白はそれがあるぞ。しかも破壊ではなく追放だ」
「『白』で言ってた『流刑への道』のこと? ……土地あげちゃうし、仕方ないんじゃない? 『黒』の『致命的な一押し』も『殺害』も一方的な除去じゃん」
「『致命的な一押し』は〈紛争〉条件を満たしても4マナまで、『殺害』に関しては3マナだぞ。特に『致命的な一押し』は後攻1ターン目から使われることを考えれば、妥当な性能に収まってる。『流刑への道』はデメリットはあっても特に縛りはないし、破壊不能すら除去出来る追放だ。どっちが平等かと言われたら『致命的な一押し』だと思うが?」
「……うるさ〜い! とにかく『黒』はキライなの!」
「全体主義を掲げて自分の都合をゴリ押してくる『白』らしい模範解答だ。気に入らないものに関しては『黒』以上に冷淡に、残酷になれる色だからな」
「ハンデスとか卑怯じゃん!」
「それを言ったら呪文を唱えること自体を縛りつけるロックの方が理不尽なんだが。このまま続けてもラチが開かんな。そろそろ代表的なデッキの紹介に移ろう。短期決戦なら『スーサイドブラック』。直訳すれば自殺する黒。その名の通りライフ、手札を投げ捨てて自分が死ぬ前に相手を殺すという暴力的な『黒』の魅力に溢れたデッキだ。青と組んでのコントロールデッキも実に優雅で『黒』らしい。打ち消しと手札破壊で相手の行動を華麗に捌く様は、コントロールのお手本だ。コンボデッキなら、MTG史上最も美しいデッキと言われる『ピットサイクル』も見逃せない。あの美しさこそ『黒』の真骨頂よ。本来は敵対色の『白』と組んでというのも、勝つためには全てを利用する『黒』という色を如実に表している。コンボデッキなら『リアニメイト』も……」
「主張に一貫性がなくない!? あと『黒』だけやたら説明が長い! そろそろ時間になるんだけど」
妹に遮られ、時計を見ればまもなく終了時間だ。折角良いところだったのに、残念。
……5分くらい延びても、バレへんか。
「仕方ないだろう。全部『黒』の特徴なんだから。ぶっちゃけ同色内でメタりあってる節がある。『黒の真の対抗色は黒』なんて言われてるからな。それくらい1枚1枚の主張が強いのよ。これも個人主義の極みたる『黒』の特色よ。黒だけに玄人向けってな」
「兄さんかしょうもないギャグを言ったのでお開きとします。みんな、またねー」
「ちょっと待て! まだ説明が終わってな」
とりあえずここまでとなります。
本当はもっと紹介しなくてはならないことがありますので、また何か言っていただければと思います。
前書きに書かせてもらった通り、アンケートを取らせていただきます。解説系だけでなく、他配信者を出すことも検討中です。一応ある程度はカラーパイを元に登場人物のイメージしてますので、アンケートの参考にしていただければと思います。
白……妹
青……妹と同期の合法ロリ
黒……兄
赤……先輩のゲーマーな男性。
緑……先輩の女性(巨)。
無……???
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カラーパイ2(赤緑無)
そしてアンケートも回答してくださる方がまさかの100名超え。評価までしてくださった方、ありがとうございます。
これは書かせてもらうしかありませんね。もう少しお付き合いください。
「さて、今回は前の話の続きだな。そう、『黒』には様々なデッキがあってだな」
「違うでしょ」
冷たい視線が突き刺さる。その目は対妹氷河期とも言える、高校生時代を思い起こさせた。妹の態度が軟化しつつある今、再びあの生ゴミを見るような目で見られたら、心が粉砕骨折をする自信があった。
「……『赤』だったな」
「そうだよ」
「色の役割的にはイメージ通りだと思うが」
「いや。分かんないって」
「つまり煉獄さーーーん! ってことだ」
「もっと分からんわ!」
見たところまんま『赤』を象徴する様に見える。詳しくは知らんが。
「結局前と同じ感じか。『赤』は自由で感情的な色だ。己の心に耳を傾け、自分にとって一番愉しいこと、正しいことのために行動する」
「なーんか『黒』と似てるね。ただの自己中じゃん」
「友好色だしな。他の3色が少なからず全体主義寄りの色のなのに対して、『赤』と『黒』は個人主義の色だからな。『白』から見れば『赤』と『黒』は同類に見えるのかもしれん。ただ『黒』から見れば『赤』と『白』の方が近しく見える」
「なにそれ、ありえないんですけど。時間は守るし、配信内容は必ず打ち合わせするし、SNSにも出来うる限り注意を払ってる私が、あの自由人と似てるとか言われたら……キレる」
「あー、うん。すまん、変なスイッチ押したか。それよりお前がSNS利用してることに私は驚きだよ」
「今時SNSくらい普通でしょ。曲がりなりにも動画配信してるんだし」
お前の私生活なんか誰も興味無いわ。と思ったが、動画の宣伝と横の繋がりを考えると妥当だと気がついた。何より、今の妹を下手に刺激すると流れ弾が飛んでくる可能性が高い。
元々はグータラの癖に対人関係やキャンパスライフでも、模範的な態度で日々を過ごしている妹。そのせいか、何かの切っ掛けで私以外に対して感情的になるとヒッジョーに尾を引く。今思えばあの冷たい目も、誰にも当たれないから私に全部ぶつけていたのだと思う。
「傍目から見れば社会全体を第一とするか、個人の意思を第一に考えるかの違いだな」
「いくら個人の意思が大事だからって限度があると思うよ」
「まあ、『赤』にとってはルールなんてクソ喰らえだからな。『黒』ですら自分に利益があるなら規則は破らん。正直『黒』も『赤』と同類扱いされるのは心外だ。外から見ると矛盾まみれに見えるくらい自由でありたい色だと思ってくれ。『赤』の最優先事項は人生を謳歌することであり、それの最善の近道は自分に正直であることだと思ってるんだ。混沌と感情、そして衝動を象徴する色だが、その根幹は至ってシンプルだ」
「私とは絶対合わないね」
「実は『白』と相性いいんだぞ? 『赤』って」
「ウッソ!?」
「エヴィン」
「は?」
「忘れてくれ」
いかん。つい余計なことを言ってしまった。
「……クリーチャーはパワー偏重で速攻が得意。ソーサリーとインスタントは何より『稲妻』に代表される火力呪文だろう。これ抜きに『赤』は語れん。そして意外に思うかもしれんが、ドロー関係が結構優秀な色だったりする」
「なんで『白』は出来ないのに『赤』は出来るわけ?」
「アドバンテージを稼ぐドロースペルはあまりないがな。捨ててドローか、ドローしてから捨てるようなものが多い。それはそれで強いんだが。そしてエンチャントを『青』以外で唯一、直接破壊出来ない色になってしまった。使うのも苦手だ。アーティファクトは使うのも得意だが、破壊するのはもっと得意という関係。形の無いものは壊せないというのも『赤』の特徴だ。逆に形あるものは壊せるということで、相手の土地への干渉、破壊を現在許されてるのは『赤』だけだ」
「そういえば兄さんのデッキも手札と場と墓地には干渉してきたけど、土地だけは破壊しなかったよね」
「下手にマナ基盤を弄るカードを刷ると、ゲームにならなくなる。良くも悪くも土地は聖域なんだ。主なデッキ紹介に移ろう。まずは間違いなく『バーン』だろう。『稲妻』に代表される3点火力と軽量クリーチャーを次々繰り出して、噛み合えば3ターン目に勝負が決まる。赤の速攻を語る上で忘れてはいけないのが『スライ』だ。初期の『赤』、というよりはマジック全体に革命を起こした黎明期のデッキだ。『赤』に速攻というイメージを定着させたのは彼等の功績が大きい。コントロールもあるにはあるが、基本的には息切れしやすい色だからあまり多くない。コンボデッキは火力との相性がいいということで結構見るな。例えば『青赤ストーム』か」
「聞きたいことは色々あるけど、彼等って?」
「『スライ』という名前は使用者であるポール・スライから来ている。構築したのはマジック最初期の偉大なデッキビルダーにして、マナカーブ理論の提唱者ジェイ・シュナイダー。ちなみにジェイ・シュナイダーはのちに『シュナイダーポックス』というデッキを産み出してる」
「人の名前がデッキ名になるんだ。なんかスゴい!」
「当時はネットが発展してなかったから、デッキの区分が今ほど体系化されてなかったというのも背景にある。何より皆それぞれの独自理論と視点でデッキ構築をしてたからな。コピーデッキからのチューニングしか出来ない私から見れば、当時のプレインズウォーカー達は全員名ビルダーよ」
今ではネットの発達と体系化がされ過ぎて特異な名前がデッキ名になることはめったにないがな。ビルダーにとっては寂しい時代になってしまったのかも知れない。
人の名前を冠したデッキと言えば『ヤソコン』というのもあるが、あれはデッキブランドの一種だし、ヤソ専用だから別枠だろう。
「続いて『緑』といこう。これも分かりやすい色な気がするな。まあ、大自然のことだな」
「これはイメージどおりだね」
「『緑』は自然そのものであり、受容の色だ。あらゆる事象を自然のサイクルの一部として捉え、他者との共存を望む」
「へえ、優しい色なんだね。仲良く出来そう」
「全体主義的な色、だが、言っただろう? 自然そのものと」
「……?」
どうにも思い当たらないようだ。妹は不思議そうに首を傾げている。
……嫌いなものの長所は中々認めたがらないが、一度受け入れたものに対しての視野が狭くなるからな。人間誰しもそうなんだが、こいつはそれを露骨に出しすぎる。正直過ぎるのも考えものか。
「自然災害も緑の一側面だということだ。」
「あ、なるほど。でもお天道様には勝てないって言うし」
「弱肉強食も緑における真理のひとつだ。生命を慈しみはするが、弱者が淘汰され、強者の糧になることを当然のことだと思ってる。また文明を忌み嫌う。ここが『白』との決定的な違いだな。逆に人には初めから役割が定められており、運命は変えられないと考えていることが両者の共通点だ」
「なーんか説明に悪意を感じるんだけど」
「私が嫌いな色No.1とNo.2だからな。そりゃ悪意も混ざるさ」
「解説者失格じゃん!」
「人間が人間である限り完璧で公正な判断は不可能だ」
「そうあろうと努力しようよ!」
「善処しよう。『緑』の特徴だが、とにかくクリーチャーと土地、マナ加速の色だ。クリーチャーの優秀さは『タルモゴイフ』でよく分かったろう?」
「うん。嫌というほどね」
「クリーチャーが絡めば何でも出来る、というのが『緑』だよ。そしてそれを活かしきる土地のサーチも『緑』の得意分野だ。その一方生命を慈しむという考えからクリーチャー除去はほぼ皆無。エンチャントは除去も利用も得意という二面性を持つ。アーティファクトは破壊するだけ。なによりマナの扱いは5色の中で最も得意。一時的なマナ加速力は『赤』、『黒』も可能だが、安定感は緑が随一だな」
「じゃあクリーチャー主体のデッキが多いのかな?」
色のイメージもそうだが、動きも分かりやすいデッキが多い色だからか妹の反応は悪くない。友人(膝邪魔)も最初は『集合した中隊』を使うビートダウンデッキだったようだし。
……それなのになぜ、私に『ジャンド』を勧めたのだろうか。
「まぁいいか。そうだな。シンプルなビートダウンや、大型クリーチャーを出すランプデッキ、どちらも得意だ。ただ安定しやすいマナ基盤を利用してのコントロールも存在する。4色使う『土地コントロール』というアーキタイプがあるが、実質はほとんど『緑』と『青』のデッキだ。もちろん大量のマナはコンボデッキにも利用される。『赤』が混じるし、毛色は若干違うが『タイタンヴァラクート』も『緑』だからこそ成立するコンボデッキだ」
「……何か『緑』だけやたら短くない?」
「クリーチャーとマナが回り優秀、それだけ覚えてたら『緑』は十分だからな。良くも悪くもクリーチャーが主体の色だ。強いて言うなら色メタがやたら強い」
「色メタ?」
「対抗色がマジック最強色の『青』と、『赤』と並んでその次点とも言われる『黒』だからな。仕方がないとは言え『夏の帳』はやりすぎだ」
「ふーん。よく分からないけど、打ち消しもハンデスも好きになれない私は大歓迎だけどね」
「だからといって1マナで打ち消し+1ドローは無い。……これで5色は終わりか」
何をするにしても半端な時間だ。特定のデッキをクローズアップするには足りないし、配信も終わるに終われない。
「一応『無色』について話すか」
「色が無いカードもあるんだ」
「あるのは主にアーティファクトだな。どの色でも使える分、性能は若干抑え目。ただ便利なのには間違いないし、無色であることの強さを把握出来てなかった頃のアーティファクト関連は、正気とは思えないカードパワーに設定されてる。今でこそ灰色だが、昔のアーティファクトは枠が茶色だったことから、色が出る土地を入れないアーティファクトデッキは『茶単』なんて呼ばれる」
「どれくらい強いの?」
「『パワー9』の内6枚はアーティファクトだぞ」
「……控え目にいってヤバくない?」
「ヤバイぞ」
『Mishra's Workshop』とか何を考えて刷ったんだ。2マナ土地ですら強すぎるということで、規制がかかるんだぞ?
3マナ出る土地とか一周回って笑えてくる。
「それと有名なのは『エルドラージ』だな。無色をテーマにした特殊なカテゴリーだ。マナコストは高いがスペルは軒並み強力。ビッグマナを代表するデッキだ」
「それはコンセプトが分かりやすいね」
比較的回しやすいデッキだが、特性上いわゆる「右手が光る人向け」の部分が、どうしても拭いきれない構築が多いため、好き嫌いがはっきりするアーキタイプだ。私は正直、親の敵レベルでヘイトを向けてる側。
「ちなみに勘違いしがちだが、土地は基本的には無色のパーマネントだから気をつけろ」
「色のついたマナを出すのに? ちょっと驚き」
「友人とやったとき、色マナが出る土地は有色のパーマネントだと勘違いして、『全ては塵』が「ぼくのかんがえたさいきょうのじゅもん」になってた。自分が使うカードくらいはWikiで調べることをオススメする」
「大事なことだね。……まだ終わるには早いけど大事なお知らせなのでここで言っておきます。私と兄さんだけでやってきたMTG関連の配信ですが、次回は他のVtuberの方とコラボしまーす。詳細は別で知らせるね」
「コラボか。じゃあ私もお役御免か」
やっと肩の荷を下ろせるなと、思わず大きく息を吐く。楽しかったが時間が縛られるし、不特定多数に観られるのでストレスを感じていたのも事実だ。
あとは妹中心に適当にやって貰えれば――
「何言ってるの。兄さんもやるんだよ?」
「お前バカだろ。絶対バカだろ」
大丈夫? 今背負わせた荷物、可燃性だったりしない?
カチカチ山のタヌキみたいなことにならない?
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フォーマット1
そのせいで今回は『フォーマット』の話までいけませんでした。
UAが10000超えたことは嬉しい限りですし、きっと興味をもってくださった初見の読者さんもいると思うんです。もうゴールしていいのかな? とも思いますけど。
どうしてこうなったんでしょう?
「ということで始まりましたコラボ企画! 今回から3連続でゲストに登場してもらいます。早速ですが先輩、どうかお願いします」
「はーい、ご紹介いただきました。リリー・ナテュールです。今回はスズネちゃんにお呼ばれしちゃいました。マジック・ザ・ギャザリングのことは全然知らないので、どうかお手柔らかにお願いしますね」
今回はコラボということで当たり前だがコラボ相手がいる。お相手は妹と同じ会社に所属している先輩Vtuber。エースとは言わないものの、そのマイク越しでも滲み出る育ちの良さと、丁寧な物腰、天然ぶりから結構なリスナーがいるようで、企業内では安定感のある3番手位にいるそうだ。
アバターは大雑把に言えば、金髪エルフのお姉さんといったものを使用しているのだが、本人も負けず劣らずのかわいらしい美人さんである。そして妹曰く、結構なお嬢様らしい。実家にベヒシュタインのグランドピアノ、しかも戦前のものがあり、ピアノの腕も相当だとか。
何故そんな人がVtuberになって、よりによって妹と仲が良いのか。世の中わからないものである。
「ほら、兄さん。あいさつ!」
「……スズネの兄です。自分、本当にここにいて良いんですか?」
「もちろんですよー? スズネちゃんのお兄さんに会えるのを、とても楽しみにしてたんですから」
もっと分からないのは自分の立ち位置だがな!
内容の都合上どうあがいてもオフコラボになるわけで。つまり、分かるだろうか。私は非常にデリケートな立場にいるのだ。
「あれ? 兄さん、ガラにもなく緊張してる?」
当たり前だ。一歩間違えれば明日にでも社会的焼死体になるんだぞ。さっきから冷や汗が止まらねぇからよ……。
希望の花〜♪ がいつ流れておかしくない。
「そんなに緊張しないでください。何かあったら私達でフォローしますから、ね?」
下手にフォローされると地獄にスローされそうなんだよなぁ。
ただ、その辺は会社も分かってるようで、今回は会社が所有するスタジオを使用しての配信だ。そこまで分かってるから素人を出演させるなと言いたい。なお、今回の配信に合わせて遂に私にアバターが製作された。
見た目は完全にコ◯ンの犯人だ。
……これ絶対狙ってるよね? ええい、ままよ!
「とにかく今回のテーマにいくぞ。お題は『フォーマット』だ」
「たまに出てたけどちゃんと話すのは初めてだね。先輩は?」
「え〜と。カード資産の差が、直接勝敗に影響しないように定められたとしか……。新しく始める人が不利になりにくいように、ですよね?」
驚いた。ちゃんとWikiに目を通してるのか。正直知識0から説明しなくてはいけないことを覚悟してたのだが。
「制定理由はその通りです。100点の解答だと思いますよ。まさかズバリ言い当てられるとは」
「テーマは先に出していただきましたし、アーカイブもチェックさせてもらってました。スズネちゃん、すっごく楽しそうでしたね」
「いやいやいや。私が一方的に虐められてるだけなんですけど!?」
「そうですか?いつもより生き生きしてましたよ?」
「そりゃあ、兄が相手ですから遠慮はなくなりますけど……」
「私にも、遠慮しなくていいんですよ~?」
「えぇ~……、これ以上は先輩に対して不敬にあたる気が」
「フフフッ、真面目ですね、スズネちゃん。そういうところも先輩は大好きです」
「わわっ、ちょっと先輩!?」
先輩が突然、妹を抱きしめた。妹は「溺れる!溺れる!」と言って手を中空にさまよわせている。
女性の胸部装甲って可変式なんだなーと、初めて知った。高級スイートのベッドに飛び込んでも、きっとあそこまでは沈まんぞ。
プハッと、ようやくまともに息を吸えるポジションを確保した妹が、息も絶え絶えに話し始めた。
「な、なんか距離が近くありません?先輩。いえ、不快とかそういうわけではなく」
「はい。実はチーフマネージャーさんにお願いされまして」
「チーフさんが?」
それ言っていいのか? と思いつつもド素人が口をはさめるはずもなく黙って見守るしかない。下手に動けば「ガイアッッッ」のごとくボゴボコにされるだろうから。
「チーフさんが打ち合わせの時、『適当に女同士仲良くしてれば「百合てぇてぇ」とか言って、ついでに可変装甲の描写でもしてやれば見てる人が喜ぶでしょう。『てぇてぇ』がなんなのかよく知らんけど。きっと高評価もくれるでしょう』と、呟いてましたので」
「リリーさぁーん!」と、スタジオの隅でそのチーフさんが叫んだのが聞こえた。だが、彼の悲劇はここで終わらない。
「そういえば『正直緑と青の一騎討ちだと思ってたんだ。何で赤が2位なんだよ。見てる人の3割がホモとかどうなってんだ。……もういい。ホントは赤最後のつもりだったけど、希望者が少ない順に書いたろ。人気あるやつがトリなら文句は無いはずだ。赤が2番目になってるし、嘘は言っとらん』……緑とか青とか赤ってなんなんでしょう?」
妹の追撃により膝から崩れ落ちたおっさんが黒服の手により引きずられていった。
南無。チーフの処遇は神のみぞ知る……。
「ところでなんで私ばかり『てぇてぇ』なんでしょう?」
「……ん? どういうことですか」
「だって『百合』って、私の名前の和訳じゃないですか? スズちゃんもこんなに可愛いのに。私。怒っちゃいますよー?」
「「えっ」」
「そういえばお兄さん、全然お話しされてないですね。どう思われますか? こんなに可愛い妹さんなのに『てぇてぇ』されないなんて」
久し振りに妹とハモったことにもツッコミたくなったが、そんな余裕は、ない。
このまま観葉植物になるつもりが、引っこ抜かれて百合の間に移植されてしまった。
(やめてくれ! 自由とかお日さまとか要らないの! 観葉植物は植木鉢で平穏を享受させてもらえればいいんだから!)
移植した張本人は悪気の無いほんわか笑顔でこっちを見てくれてますけど。正直このまま挟まりたい自分がいるのも事実だが、勢いに身を任せたら破滅へまっしぐらだ。ボーナスの時、調子にのってフェッチランドを揃えた時のことを忘れたか。定期預金のことをすっかり忘れてて酷い目にあった。
……いや。そもそもだ。
まさか、『百合』の意味を知らない?
『フォーマット』どうこうより、そっちの方を知っておいて欲しかった。
(どっちだ。どっちがマシだ)
なんで中継ぎに悩まされる投手コーチみたいなことになっているのか。このまま『百合』の意味を教えればフェードアウトは容易に見える。しかしこの天然ぶりが彼女の魅力と考えると……。
(高確率で
時間がない。急いで決断しなくてはいけない。思考時間は10秒に満たない。が、人生で一番濃密な10秒間だった。
……百合に挟まるより、ユリを汚す方が重罪だよな?
妹にアイコンタクトで合図を送る。
ごまかす?
ごまかすぞ。
視線だけ寄越した妹と目だけで会話しつつ、同盟を結ぶことに成功。
「多分違うと思いますよ? 兄さんなら意味を知ってるんじゃないかなー?」
明智光秀に裏切られた織田信長ってこんな気持ちだったんだろうなって。
「わー、そうなんですか。お兄さんは物知りなんですね」
「なにせ我が家の雑学王ですから!」
「私が雑学王とか初耳なんだが? 少なくとも草花に関しては興味がないから知らん」
「文脈的に違うでしょ。パソコンの前で『百合サイコー!』とか言ってたじゃん。私は分かんないけど」
生涯で一度たりとも言っとらんわ。第一家族の前で同人誌読む勇気なんか狗にでも食わせてしまえ。クソッ、逆に状況が悪化したか。
……いや、まだだ。まだ終わらんよ。
「視聴者の中に知ってる人がいるんじゃないか?」
「あっ、やられた」
「そうですねー。見てる方で知ってる人はいらっしゃいますかー?」
甘いわ。私の人生の8割は口車とゴマすりよ。正攻法で生きてきたお前とは場数が違うわ。ちなみにコツはどんな場面でも嘘は言わないこと。
: 知らんな
: 教えておにーさん
(ブルータス。お前もか)
カエサルも最期はこんな気持ちだったんだろうなって。
なんでこういう時だけ息ピッタリなんですかねぇ? 視聴者のみなさん。
「っシャァオラ!兄さん。みんな『百合』の意味を知りたがってるんだよ」
妹が勝ち誇ったような笑顔で私を見る。もう逃げられまい、という勝利宣言だろうか。
ここで知らないです、と言ったら妹に負けた気がする。
正直に話せばそれだけで済めばいいが、リリーさんのこの感じ、そこから延焼が起きて大惨事が起きそうな気配がするんだよ。
あ~リアルで『思考囲い』を打ちたい。リリーさんの頭の中を覗いて致命札抜き取りたい。
そもそもチーフさんとやらが余計なことを言わなければ……。
……チーフさん? そうか。
「チーフさんの言ったことだし、いわゆる業界用語なんじゃないですか?」
自分の蒔いた種だ。自分で刈り取ってもらうのが筋だろう。うん。間違ってない。
「業界用語、ですか?」
「以前の放送で『サクる』って、私言ったじゃないですか。そんな感じで『百合』も、マネージャーさん達の間で使われる言葉だったんじゃないかと。あくまで推測ですが」
これも嘘は言ってない。『百合』も元々は業界用語だし、マネさんの中では本当に『百合』なる業界用語があるのかもしれん。いや、ホント知らんけど。
「なるほどー、私、また勘違いしちゃいました。『サクる』って初めて聞いた時も、てっきり後ろから『サックリ』いくことかなーって」
「あははは。なんで微妙に私と同じことを考えるんだ……。実は私も最初はそういうことだと思ってました。生け贄のことを英語で『Sacrifice』というところから来てるそうです。あとでチーフさんに聞いてみたらどうです?」
「そうですねー。そうします」
……こうやってパレスチナ問題は生まれたんだろうなって。
とにかく急場は凌ぎきった。妹が先輩の後ろで舌打ちしたのが見えるが、今はスルーしかあるまい。
「そろそろ『フォーマット』の話をしてもよろしいでしょうか」
「あっ、すいません。ついついお二人とのお話が楽しくて」
ふわりと、笑顔になるリリーさん
無垢の笑みって、こういう笑顔のことを言うのだろう。
色々勘違いしそうになるからやめてほしい。なんというか、自分が受け入れられたような気分になる。
クズは拒絶された方が楽なんですよ。妹みたくストレートに否定してくれた方が万倍やりやすい。
「……ではアイキャッチのあと、すぐに説明に入りましょう」
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フォーマット2
「今回説明するのは『スタンダード』、『パイオニア』、『モダン』、『レガシー』、『ヴィンテージ』の5つのフォーマットについてだ」
用意されたホワイトボードに書き込んでいく。
「相変わらず汚い字ー、変わんないね。先輩いるんだし、もうちょっと丁寧に書いたら?」
「大丈夫ですよ。全然読めますから」
コメント欄にも流れるが、自分の字はとても褒められるようなものではない。これでも他人が読める範疇になったんだから、随分とマシになったのだ。流石に仕事は、他人と情報を共有しないと何も出来ないし。
「読めるんならいいだろ、続けるぞ。どうして『フォーマット』が制定されたかは先輩が先に言ってくれたとおりだが……」
「リリーで構いませんよ?」
「……ではリリーさんで。妹の面倒を見ていただいてる身としては呼び捨てには出来ません」
「はい。分かりました先生」
「ブッッ! 先輩、何言ってるんですか!?」
私の言いたいことも、出せないことも妹が全部言ってくれた。吹き出さなかった自分を褒めてやりたい。視聴者も盛り上がっている。
「だって私達に教えてくれるんですよ?だったら先生ですよね?」
「そうですけど! 例えばタバコや酒を教えてくる人を先生って呼びますか!?」
ほう……?
お前ハイスラでボコるは・・・
妹が発言後「あっ」と、声にならない声をあげるが時既に遅し。ついげきの失言でさらにコメントは加速した。
私はあえて何も触れず
「このまま説明してもいいか?」
と言うと妹は必死に釈明してきた。私はリリーさんに話を振って回避。
これは一歩間違えると炎上して大ダメージを受ける隠し技なのでコメント欄が騒ぎはじめた。
私が
「これは口で説明するよりも体感する方が早いかもしれない。スタッフさん。黒のウェルカムデッキの内容、スクリーンに出してもらえたりします?」
と言うとコメント欄は静かになっていった。
まだ妹が何か言ってるが時既に時間切れ、スルーを決め込んだ私にスキは無かった。たまの無視出来ない発言もスタッフさんを手伝っている振りをして撃退。
終わる頃にはズタズタにされた妹がいた。
基本セット2020ウェルカム・デッキ 黒
土地 (13)
13 沼/Swamp
クリーチャー (12)
2 男爵領の吸血鬼
2 張り出し櫓のコウモリ
1 沼踏み
1 残忍な異形
1 グレイブディガー
1 墓起こし
1 骸骨射手
3 歩く死骸
呪文 (5)
1 苦しめる吸引
1 墓暴き
1 闇の療法
1 見栄え損ない
1 殺害
「さて、ここで2人に問題です」
「だから違うんです。そういう意味じゃなくて……えっ、なに?」
「なんでしょう。先生?」
「……もういいや。このデッキに30枚ピッタリ足して、可能なかぎりこのデッキを強化してください。同名カードは4枚まで、というルールさえ守れば、あなた達の知りうるマジックのカードを全て使ってくれて構いません。考える時間は3分。3分の間なら質問も、手元にあるタブレットで調べるのもありです」
「はっ? ちょっと待って」
「分かりましたー」
「ではスタート。視聴者の皆さんも是非参加してみてください。出来上がったデッキはマシュマロまでどうぞー」
正直自分も思い付きで言ったことなので、模範解答はない。
(『ヴィンテージ』の制限カードを適当に4積みすればいいか。『黒蓮』と、黒だから『教示者』は4積み確定だとして)
ヴィンテージの制限リストを開く。
(多色は恐らく厳しいな。黒単と言えばあの『ネクロディスク』か。無制限の黒ならサーチカードには困らないから実質12枚の『ネクロポーテンス』が……だめだ。仮に『ネクロポーテンス』で10枚ドローしても撃てるのが豆鉄砲だけじゃ勝てない。自分で言っといて30枚縛りが存外キツいぞ。これ)
『ネクロポーテンス』でアドバンテージを稼いで殴り倒すのなら、殴れる時間を作れるカード、『露天鉱床』や『3なる宝球』を積みたいところだが、それだけで30枚のスロットを圧迫する。これに早出しを容易にするマナ加速を積まなくてはいけないのだ。
(『Black Lotus 』、『暗黒の儀式』、『Mox Jet』のマナ加速12枚。『悪魔の教示者』、『吸血の教示者』に『ギタクシア派の調査』を合わせてのサーチカード12枚。そこに『ヨーグモスの意思』を1枚入れて計25枚。実際のスロットは5枚だから、積めるのはキーカード2枚のコンボ1セットが限度。黒単色2枚の低マナ即死コンボなんてあったっけ?)
あるんだろうなと、思いつつも全然イメージが出来ない。
(『ヴィンテージ』の即死コンボなんて、知り合いが『逆説ストーム』を実際に回して見せてくれた時しか……あっ)
あったよ。黒単色でも出来る即死コンボが。
「先生に質問です」
ちょうど思い出した時に声がかかる。手をピンと伸ばして質問の許可を取る模範的生徒がいた。リリーさん、そこまで熱心に演技しなくてもいいんですよ? さっきから妹の視線が痛い。
「この変態兄貴が……」
うるせえ。男はみんな変態なんだよ(暴論)。
「なんでしょう? リリーさん」
「土地のカードは何枚くらいが目安なんでしょう?」
スペルではなくマナ基盤に着目するところに、先輩の初心者らしからぬセンスを垣間見た。てっきり30枚全てをスペルにするのかと思っていたのだが。
「大体20枚は入るんじゃないでしょうか? 多色だともっと増えますが」
「ありがとうございます。そうすると残りは22枚になるから……」
「なるほどねー。……じゃあ私は残り17枚? でもそれって……」
妹は私の『ジャンド』にこっぴどくやられた経験がどう出るか。
思考時間の3分が終了。あとは足した30枚を各タブレットに入力して公開だ。
「まずは妹からいくか」
「オーケー。結構頑張ったよ」
効果音とともにデッキレシピが画面に映る。
土地 (9)
4 深緑の地下墓地
3 血染めのぬかるみ
1 血の墓所
1 草むした墓
クリーチャー (6)
4 タルモゴイフ
2 運命の神クローティス
呪文(9)
4 思考囲い
2 致命的な一押し
3 コラガンの命令
プレインズウォーカー(6)
3 レンと六番
3 ヴェールのリリアナ
「多色にしたか」
「兄さんの使ってるカード全部強かったし。『レンと六番』でフェッチランド使いまわせば勝手に土地は増えるじゃん?」
「まあ。確かにそうだな」
「そういえば先生も色んな土地をデッキから出してましたね」
「色は多い方がやれることが増えますから。黒はアーティファクト触れない色みたいだし、『コラガンの命令』は外せないでしょ」
「わー、スズちゃん流石です」
自信満々な所悪いが、ツッコミどころ満載のデッキに結構なコメントが書き込まれている。
どうやらコメント欄を確認する勇気はまだないようだ。今は構築の話ではないので触れないでおいてやろう。あとでエゴサした時、身悶えするのを楽しみにしておく。
「じゃあ次はリリーさんで」
「はい。私はこんな感じになりましたー」
土地 (8)
4 深緑の地下墓地
4 血染めのぬかるみ
クリーチャー (4)
4 闇の腹心
呪文(14)
4 思考囲い
4 コジレックの審問
4 致命的な一押し
2 苦しめる吸引
プレインズウォーカー(4)
4 ヴェールのリリアナ
「……」
「ど、どうでしょうか? すいません。全然知らないので変なデッキになっちゃってると思うんです」
「全部黒のカードなんですね。色増やすべきじゃないですか?あと『闇の腹心』ってなんですか?」
訳知り顔でリリーさんのセレクトを批評し始める妹。
すごいなー。あこがれちゃうなー。
……うん。これは私が多色のカードは強いって印象を植え付け過ぎたか。
「そうですよね~。手札破壊だけじゃ限界がありますし。『闇の腹心』は黒の低マナの強いクリーチャーを探したら見つけました。ライフを払ってデッキから追加ドローが出来るみたいなんですけど、今見てみると『苦しめる吸引』だけじゃライフ回復手段が足りませんね~」
「多分『リリーさんとお前のデッキどっち使う?』って言われたら、半分以上はリリーさんのデッキ使うと思うぞ」
「なんで!?」
ショックを受けた妹が音をたてて椅子から転げ落ちた。
いい反応するな。今のお前はちょっと面白いわ。
それとスカートはもうちょい長い方がよかったな。
「あとでコメント見返しておけ。想像以上に堅実にデッキを組みあげられたので驚きました」
「そう……なんですか?」
「上から目線ですが、短い時間でよくぞここまで、と言わせてもらいます」
「わぁ~、褒められちゃいました。ありがとうございます」
「えへへ~」と、照れ笑いをするリリーさんはとても可愛らしい。首をコテンと傾けるのもポイントが高い。
見てるだけならエルフっていうより天使ですね。直接関わると天使の姿で悪魔みたいなことされますけど。
触らぬ神に祟りなしである。
「それに比べ私の妹は……」
「じゃあ兄貴はどうなのさ」
「私か?こんなのだ」
呪文(17)
4 暗黒の儀式
4 吸血の教示者
4 悪魔の教示者
4 ギタクシア派の調査
1 ヨーグモスの意志
アーティファクト(13)
4 Black Lotus
4 Mox Jet
3 通電式キー
2 Time Vault
「……なぁにこれ~?」
「え~と……?」
2人が困惑した表情でスクリーンを眺める。2人は全く知らないカードだから当然の表情だ。
コメント欄もドン引きの様相を呈している。
:石油王のデッキ
:どのフォーマットでも組めないんですがそれは
:これは黄金の黒の塊
「1ターン目か2ターン目に『Time Vault』と『通電式キー』で無限ターン作って勝つ。残りはそれを可能にするためのサーチカードとマナ加速カードだ。……改めて見ると『Will』はともかく『青フォース』と『緑フォース』へのガードが低すぎるな。これ」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「……理解出来なくてごめんなさい」
「こういった事態を防ぐ為に『フォーマット』が存在するんだ。マシュマロにもいくつかデッキが投稿されてますし、実際に見てみましょう」
その時、私の携帯が鳴った。あまりのタイミングの良さに思わず取り出してしまう。
「すいません。すぐ電源切ります」
どうやらRINEの通知だったようだ。画面のメッセージは
友人(膝邪魔)
ギタ調とヴァンチューの8スロットならデモコン4でコンボパーツ増やした方がいいだろ
……見てるんかい!
ということで次回はご協力いただいて作成してもらったデッキを載せさせていただきます。
突然のメッセージに驚かれた方も多かったと思います。申し訳ありませんでした。そして反応していただいた方、協力していただいた方、ありがとうございます。
折角の配信ものなのにマシュマロなるものが無いのは寂しいなと思い、感想をいただいた方と評価をいただいた方メインで、協力の依頼を送らせてもらいました。
ホント無茶振りすいませんでした!
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フォーマット3(投稿デッキ紹介)
今回紹介出来なかった方は次の回で紹介させていただきます。
「最初の方は出題から3分以内に投稿してくれた」
「はやっ!」
えるしぃ
:多分自分ですね。パッと作っちゃったので自信ないです
:はえーよホセ
:固有時制御でも使ってらっしゃる?
「いやいやいや。そのスピードだけで十分だから、えるしぃさん!」
「同感だ」
「スゴイですね〜。こういうのをサラマンダーよりずっとはやーい。っていうんでしたっけ?」
「多分違うんじゃないですか?カップ◯ードルよりはやーいの方が一般的かと」
当時のことを知っている人がこれを見ているかは分からないが、その台詞はいるであろうガチ恋勢のためにもやめておいた方がいいと思います。
「そうなんですか?」
「そうですよ。個人的には固めが好きなので2分30秒位で開けますけど」
「実は私、インスタント麺食べたことないんです」
「先輩、マジですか? あれだけ料理上手なら使う機会なくても納得ですけど」
「恥ずかしながら……、世間知らずで申し訳ありません」
苦笑いするリリーさんの発言に妹が目を見開いて驚く。私は流石お嬢様と、感心してしまった。
……これはベタだがいい動画のネタでは?
「即席麺なんて食べずに済むなら一番ですけどね。今度動画配信してみたらどうですか?初めてカップ麺作ってみたって」
「えーと……興味のある方いらっしゃいますか~?」
「私はあります。カップ焼きそばだと、なおよろしいかと」
「ちょっと兄貴」
「シッ!黙ってろ」
ジェスチャーで黙るよう示して、妹の側に駆け寄る。リリーさんはコメントを確認してるため、こちらの動きに細かく注意は向けられない。
「インスタント初心者に、いきなりカップ焼きそばは難易度高いでしょ」
「お前、リリーさんがお湯を入れた時に一緒にソース入れたり、湯切りの時に中身ごとシンクに流してアタフタするリリーさんを想像してみろ。どう思う?」
カップ焼きそば初体験の人間がやる凡ミス。妹がやっても鼻で笑うだけだが、絵面がリリーさんになるだけでバン◯シー並みの値打ちになるとは思わんかね。
「……クッソ可愛くない?いやでも」
「リリーさんなら致命的なことにはならんだろ。バズるチャンスだと思え」
リリーさんの発言にコメント欄には「みたい」という文字が流れていく。カップ麺初体験、しかもカップ焼きそばと聞けば期待値が否応なしに上がるだろう。
「分かりました~。今度やってみます」
「「おぉ~」」
「その時はお二人にご馳走しますね?」
「「えっ?」」
リリーさんの手料理(カップ焼きそば)?
これはきっと、インスタント食品の調理過程すらイメージ出来てないパターンですね。いきなり中身取り出してフライパンで炒めたりしない? 大丈夫?
「……時間が合えばよろしくお願いします。改めて最速で投稿されたデッキを紹介しましょう。前述のとおり一番早く投稿してもらいました。日頃からデッキビルドに親しんでいる熟練者の方だと思います」
時間が合えば、ね。顔も知らない叔父を無限に死なせてでも絶対に時間は合わせんぞ。
土地 (11)
沼×11
クリーチャー(8)
深淵の迫害者×4
ファイレクシアの抹消者×4
インスタント(6)
致命的な一押し×4
四肢切断×2
ソーサリー(2)
灯の収穫×2
プレインズウォーカー(3)
夢を引き裂くもの、アショク×1
闇の領域のリリアナ×2
フォーマットはモダンです。迫害者と抹消者でビートダウンするデッキになりました。ヴィンテージはもうちょっと待ってください。
「『ヴィンテージ』版もお待ちしてます。デッキの概要は下部のコメント通りですね。リリーさんは不足する手札を『闇の腹心』で補う路線でしたが、こちらは息切れする前に相手を倒すアグレッシブなデッキのようです」
「『深淵の迫害者』って?」
「黒2マナ含む4マナ、6/6飛行トランプル持ちクリーチャー」
「それって壊れてない?」
妹は訝しんだ。
「でぇじょぶだ。コイツがいる限り、コイツをコントロールしてるプレイヤーはゲームに勝てないっていう決定的なデメリットがある」
クリーチャーによる攻撃以外の勝ち手段を持つデッキが数多く存在するMTGにおいて、このデメリットは文字通り致命傷になりうる。
「でも、それを見越してこのデッキは組まれてるんですよね?」
「察しが良くて助かります。例としては『灯の収穫』ですね。自クリーチャーを生け贄にして、クリーチャーかプレインズウォーカーを破壊出来る。このデッキならではの採用かと」
実際最速4ターンで6/6飛行クリーチャーが殴りかかって来たら対処に困るデッキがほとんどだ。各『タイタン』がこれと同じサイズを誇るが、4ターン目で出すには余程特化しなくてはいけない。直接的なアドバンテージこそ生まないが、デッキにいるというだけで一定の圧力をかけられる。序盤の除去を迷わせる、というだけでもアグロ系にとっては十分な仕事だ。
そして勿論、黒単悲劇のエースを忘れてはいけない。
「あと『ファイレクシアの抹消者』も黒の4シンボル、5/5トランプルに火力への高い耐性を持つ、このデッキの中核ですね。黒単以外では採用困難なフィニッシャーである点も踏まえて、スーサイド要素も入った黒らしい強化をしてると思いました。除去も豊富で、クリーチャー合戦に持ち込めばそうは負けない構築ですね。ただ強いのは確かですが、『四肢切断』は狙っていれたのでしょうか……?」
黒が好きな身としては邪推せざるを得ない、因縁の組み合わせだ。
「何か変なの入ってたの?」
「変ではない。簡単に言えば無色1マナと4点のライフロスでタフネス5以下を破壊できるインスタントだ」
「強いじゃん」
「『抹消者』さんも破壊されちゃいますね~」
「リリーさんのおっしゃるとおりです」
そう、強いカードだ。強すぎたんだ。当時『1人去るとき』なんてネタが話題になるくらいに。黒使いのプレインズウォーカーによる悲哀塗れのコメントも散見される。
「『抹消者』と『四肢切断』には切っても切れない縁がありまして、以前言った黒の対抗色は黒ということです。話すと長くなるので次に行きます。次の方は……『スタンダード』のフォーマットでやってくれたようです」
「『スタンダード』って普通って意味だよね?」
「その名のとおり一番競技人口が多いフォーマットだ。詳しくは後で話すが、使えるカードは最も少ない分、最近のパックのみでデッキを組めるから、安価で手に入りやすいカードでデッキが組める。参入そのものはしやすいフォーマットだ。ウェルカムデッキも一応、このフォーマットが基準になってる。極論紹介するこの30枚を積んで、MTG取り扱ってる店で『スタンダードやりませんか?』って言えば、すぐ対戦出来るぞ」
「じゃあ私の知ってるカードも入ってるかな?」
「かもな」
土地(11)
11 沼
クリーチャー(13)
3 盗賊ギルドの処罰者
2 収得の熟練者
2 ニマーナの空踊り
4 夜鷲のあさり屋
2 悪ふざけの名人、ランクル
ソーサリー(6)
2 血の長の渇き
2 大群への給餌
2 大釜の贈り物
初心者ですがやってみました!
ディミーアローグをベースにしたんですが青を入れるスペースがありませんでした。メインアタッカーは切削で肥大化した夜鷲のあさり屋と速攻持ちのランクルです。
ここまできれいさっぱり使われないのを見ると、いっそ清々しさすら感じる。
:すんげー青入れたい
::残り30枚ディミーアにしたらほぼマイデッキ
:やっぱ30枚縛りがな
「沼以外全部知らないんだけど。しかもこれ初心者の人が組んだの?」
「ウェルカムデッキのカードが1枚もありませんねー」
「正直ウェルカムデッキのカードは、カードパワー的には微妙なものばかりですからね」
それはそれで寂しいが、あまりに優秀なものを入れると市場に悪影響を与えるから難しいところだ。
「戦い方としては、前のデッキと同じビートダウン。ただし、さっきのが単体で強い『迫害者』、『抹消者』を採用してインスタントとプレインズウォーカーの採用枠を作ったのに対し、こちらは『切削』と『ならず者』シナジーで押しきっていくクリーチャーデッキになってる」
「ホントだ。今まで出たデッキのなかでクリーチャーが一番多い」
「一見クリーチャーを並べて殴る脳筋に見えるが、速攻と飛行+α持ちの『ランクル』と、優秀な除去でプレインズウォーカーへの対応力もある。一度回りさえすれば私の『ジャンド』よりパワーはあるだろう」
「マジ!? じゃあ私このデッキ使う!」
「『スタンダード』で見れば、かなり強化に成功してる型だとと思ってる」
青を入れるスペースがないため、本格的な『ローグアグロ』には出来ないが、その分『夜鷲のあさり屋』をメイン採用することでサイズ不足を補っている。
「でも以前の配信でスズちゃんのクリーチャー、1回しか出てませんよ? それもすぐ除去されちゃいましたし」
「あれは出来過ぎですけどね。『ジャンド』は除去とハンデスで仕事をさせないデッキですから。1:1交換はリアニメイトカード『大釜の贈り物』でなんとかなりますが、全体除去が天敵なのはクリーチャーデッキの宿命ですね」
「パワーが上がっても相性そのものは厳しいわけね。残念」
「私の土俵で、そう簡単には負けてやれんな。特にお前には」
そもそも骨格となっているウェルカムデッキが、全体除去を食らったら畳むレベルの被害を受けるため、いっそ捨ててしまうのはアリである。
「逆に前のデッキはビートダウンデッキでありながら、全体除去受けても1枚のサイズがデカいから、その後のクロックも刻みやすい。1:1交換は割り切る。そもそもしたくとも出来ない、させにくいカードを採用してるのが特徴。フォーマットの違いはあれど、同じビートダウンでもメタとして採用するカードが変わってくるのも、マジックの面白いところです」
先に紹介したデッキなら『終止』や『戦慄掘り』の方が優先度が高いし、横に並ぶデッキ相手なら『神の怒り』と『至高の評決』になる。
「メタって?」
「流行ってるデッキそのものを指す場合と、それに対する対策カード、相性がいいデッキに使われる場合がある。これに関しては文脈で読み取ってもらうしかないな。いくらでも話せますが、時間がないので次にいきます。次は……なるほど」
土地(4)
4 漆黒の要塞
呪文(12)
4 暗黒の儀式
4 悪魔の教示者
4 深淵への覗き込み
エンチャント(2)
2 地獄界の夢
アーティファクト(12)
4 Black Lotus
4 Mox Jet
4 水蓮の花びら
キルターンは若干遅くなりますが、最悪自分に『深淵への覗き込み』打てるので安定感はあるはず
「そういう使い方もあるか。もうちょい頭柔らかくしないとなぁ」
「……クリーチャー採用なし? 嫌な予感がするんですけど」
「成長したな」
「これってもしかして先生と同じ感じでしょうか?」
「こちらのデッキの勝ち方は相手がドローする度に1ダメージを与える『地獄界の夢』を設置、そのあと対象プレイヤーのライフ半分を引き換えに、デッキの半分のカードを引ける『深淵への覗き込み』を相手に打って勝つデッキですね」
にけ
:自分です。被っちゃいましたね
:初動は遅いけどこっちは緑フォースへの耐性上がってる
:タイトになるけど否定の契約詰める余地があるのはデカい
「エゲツな! でも流石に『スタンダード』では組めないんでしょ?」
「マナ加速系と土地、サーチカードは『スタンダード』はおろか『ヴィンテージ』でも規制されているものが多いが、コンボパーツ2枚は『スタンダード』でも使えるぞ?」
「どうしてそんなカード作っちゃうのかなぁ!?」
堪忍し切れずといった感じで、妹が台パンした。
はいはいマローのせいマローのせい。と言うのは簡単だが、逆にビートダウンデッキしかないTCGというのも寂しいと思わんかね?
「……何マナ必要なんでしょう。そのコンボ」
リリーさん思案気な顔で呟いた。組まれた腕の中で窮屈そうに胸が形を変える。質問は鋭いですが胸は柔らかそうですね(棒
「流石に鋭い。『地獄界の夢』こそ3マナですが『深淵への覗き込み』は7マナ。マナ加速やサーチなし、妨害もないならばクリーチャーで殴った方が効率がいいですね」
「それを踏まえてバランスをとられてるんですね〜。ウィザーズ社はすごいです」
「と、言うことだ。私の言いたいこと全部言ってもらったぞ。お前もこの察しの良さを見習え」
「言われなくても先輩のことは見習ってますよ〜」
「そんなことありませんよ? スズちゃん」と、妹とリリーさんがイチャコラし始めたので、しばらく私はフェードアウトすることになる。
ちなみに言いたいことはリリーさんに言ってもらったが、本当のことは言ってもらってない。
ようは経験豊富なウィザーズでも
えるしぃ(バチコリータ)さん、にけさん、もう1人の方は匿名で送ってくださったのでお名前は載せられませんが、ありがとうございました。
こんな小学生並みのコメントで良いのか、という自分がいます。
誰か1人いただければいいと思っていたら、想像以上にいただいたのでパンク気味です。非力な私を許してください。ホントは理想のウェルカムデッキも募集する気だったんですが、ちょっと厳しいですね……。
カップ焼きそばは……MTG関係ないのでどうなんでしょうね。需要あればあとがきにちょろっとって感じでしょうか。
なお感想は「涙が出るほどうめぇ」と「非常に新鮮で、非常においしい」だそうです。
良かったですね。
そういえば緑の人にばかり目がいってますが、妹も白マナ出せそうな感じです。
特に深い意味はありません。
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フォーマット4(投稿デッキ紹介)
ちょっと実在の人物名が入ってるので何かあったら書き換えます。
「おっ? えるしぃさんのヴィンテージが間に合ったっぽいですね」
その言葉に反応した2人が画面に向き直る。そのままやっててもらってもよかったんだけどね。一応初心者向けMTG講座だから、この配信。
土地(1)
1 トレイリアのアカデミー
クリーチャー(3)
1 グリセルブランド
1 引き裂かれし永劫、エムラクール
1 約束された終末、エムラクール
インスタント(9)
1 吸血の教示者
1 神秘の教示者
1 渦まく知識
2 暗黒の儀式
1 Demonic Consultation
1 Ansestral Recall
1 浅すぎる墓穴
1 裂け目の突破
ソーサリー(7)
1 伝国の王璽
1 Time Walk
1 悪魔の教示者
1 チャネル
1 ヨーグモスの意志
1 Time twister
1 Wheel of Fortune
アーティファクト(10)
1 ライオンの瞳のダイアモンド
1 モックス・ダイアモンド
1 水蓮の花びら
1 Black Lotus
1 Mox Emerald
1 Mox Jet
1 Mox Pearl
1 Mox Ruby
1 Mox Sapphire
1 三なる宝球
時間が無くて制限カードをひたすら積む感じになってしまいました。
三なる宝球出せばとりあえず動けなくなるし、エムラクールかグリセルブランド出せれば勝ちじゃないですかね?
えるしぃ
:時間無かったからマジック最強クラスのフィニッシャーを適当にぶちこむ形になりました
:雑ゥ!だが一理ある
:ヴィンテージは知らんけど他のフォーマットよりは降臨早そうだしなぁ
「仮にフォーマットをヴィンテージに合わせるとこうなるよなって感じだな。勝ち手段に関しては、この縛りだと即死コンボは一種類が限度だし」
「また即死コンボ?」
「正確には即死級のコンボだな。誰だって2、3ターン目に15/15の『TimeWalk』内蔵の耐性及び除去持ち飛行クリーチャーが出てきたら誰だってゲーム投げる。あるいは7/7で7枚ドローとかな」
「何言ってるか分からないけどロクなカードじゃないねぇ!?」
「具体的にはどんなやり方なんですか?」
「『裂け目の突破』による踏み倒し、『伝国の王璽』によるリアニメイト、マナ加速からの正規召喚ですね。ただそれだけだと時間がかかる上に一切アドバンテージを獲得出来ないので、各パワーカードで補ってるようです」
「ほとんど1枚しか入ってないのは、その『制限カード』だからですか?」
「ほぼ全てがそうですね。『ヴィンテージ』は基本的には禁止カード無しで戦う環境なので、そこで制限という時点で大体のことは察していただけるかと。ウィザーズの黒歴史が饗宴しているフォーマットです」
「それゲームとして成り立つの?」
「知り合い曰く、一周回って成立するらしい。制限カードまみれだから、デッキそのものがリソースになるせいで変なコンボが積めないとかなんとか。詳しくは知らないが」
『王冠泥棒、オーコ』が機能する場面、機能させるデッキもあるそうだ。
そして最近『夢の巣のルールス』というカードが、『ヴィンテージ』の禁止カードリストに20年振りに追加されたとか。
令和のカード、マジ令和。
「とりあえずヴィンテージまで出たから、お次は変わり種だ。見た時思わず唸ってしまった。確かにマジックはこういう楽しみもある」
「なに? どうしたの?」
「いや。自分がマジックをやろうとしたきっかけは、これだったなと」
「そういや、昔は遊戯王だったよね。何があったわけ?」
征竜禁止後の9期、シャドール、クリフォート、ネクロス、辺りが差し合いしてる環境、その後の彼岸まではまだ楽しく出来たんだがなぁ。
猿とヒグルミが先攻蓋閉じゲーを加速、抑止力になるために刷られたはずの幽鬼うさぎと、次の灰流うららがトップメタ以外を駆逐する辺りから完全に離れてしまった。シャドール新規で一瞬戻ったがそれっきりだ。
別にディスりたい訳じゃないが、自分がやめた理由はそんなものである。
正直グッドスタッフデッキが環境にいない時点でカードのバランスはあまりよろしくない。強すぎても困るのだが。
「遊戯王は先攻制圧か、それを返せるデッキ、開発者が想定してるデザインドのコンボデッキしかなくてイマイチ個性が薄いと思ってな……。実際は違うんだが、そう感じてしまった時点でもうやれないな、と思った」
「要は飽きたのね」
「んー、ちょっと違うんだが。目は食べたいのに胃は油ものを受け付けないというか、ランド派からシー派に改宗したというか」
「先生がマジックを楽しいと思う理由は何ですか?」
あんまり遊戯王ディスりで終わりたくないと思った時に、ちょうどリリーさんが助け船を出してくれた。変わらないほわほわした微笑みで話してるあたり、天然でやってるのかもしれないが、この辺が人気の秘訣だろうなと感じた。
「色んなデッキが環境にいますからね。トップメタと言っても大会入賞率が10%を超えるデッキは基本的には滅多にありませんし、大会には必ずメタゲーム外のデッキを持ち込む人や、昔から同じデッキしかつかわない人がいますから。『アーキタイプ』に関しては次回話しますが、とにかくデッキの種類が豊富なんです」
「配信も人が多い方が楽しいですからねー。でも、あまり多いと、いつも観てくれる人を覚えるのも大変です」
「そういや、先輩って最初の方はリスナー全員の名前読み上げてましたよね?」
妹の発言に素朴な疑問が持ち上がる。人気配信者がそんなことしたらマトモに放送できないのでは?
大変だからといってやめると、視聴者からは人気に驕ったように見えるから難しい問題だろうに。
「はい。実は観てくれた人の名前を読み上げるだけで配信が終わっちゃったことがありまして……。それ以来お名前を呼ぶのはホドホドにしてます。まだまだ未熟者です」
「伝説の配信ですよね~。SNSに拡散されて同接が最後の最後まで増え続けたっていう」
「あ、あのスズちゃん? 恥ずかしいのでこれ以上は……」
顔を赤くして当て所もなく手をさ迷わせるリリーさん。
それをやられてしまったら、視聴者も名前を呼ばれなくていい空気になるわな。ゴリ押しだが一番敵を作らない正攻法だ。
「……マジックのメタ読みもそんな感じですよ。とても環境のデッキ全てに対策は出来ないので、どのデッキに有利を取りにいくか考えるんです。難しいですが、とても楽しい時間ですね。しかしマジックに興味を持った一番のきっかけは、とあるカードを見たからです。そのカードについてはデッキを紹介してから話しましょう」
土地(12)
12沼
クリーチャー(6)
3 よろめくゴブリン
1 脳蛆
1 肉裂き怪物
1 忌まわしき者
インスタント(6)
2 奇怪な突然変異
2 パイ包み
2 胆汁病
ソーサリー(4)
4 コジレックの審問
アーティファクト(2)
1 ゴルゴンの首
1 Living Wall
《ラノワールのエルフ》のフレイバーテキスト
──小枝を踏み折れば、骨を折ってあがないとする──
デッキは画像と一緒に、どうぞ。
「……画像と一緒に?」
「これがその画像だ。ちなみに食事中の方は見ない方がいいです」
「え? それってどういう」
『脳蛆』のカードが大画面にアップされた。
耳の穴からグロテスクな芋虫が這い出てくるイラストだ。
「グロいグロいグロい! ストップ! ストーップ!」
目をつぶって絶叫する妹。確かに見ていて気持ちのいいものではない。
「ちょっと待ってちょっと待って! えっ? 今の耳から虫が出てたよね!?」
耳を押さえ声を張り上げる。SANチェック失敗して、アイデアに成功した探索者みたいだなと思った。
:うげっこれは
:キモい(キモい
:誰だよこのデッキ考えたやつ
:耳がヤバイ音量的な意味で(迫真
:それはどうかな?(自分の耳の穴をほじりながら
:よかった出てきたのは真っ黒な耳クソだった
:それ虫のウ○コじゃね?
「いやー、うん。間違いなく強化だな。予想の斜め上だったけど。一本取られました。誰が考えたんですかね? これ」
デーテ
:ワイやで
:お前だったのか…
:悲鳴助かる画像○ね
:よくもこんなキ○ガイデッキを
:イラストはウィザーズ公式なんだよな…
「意外だな。お前、ホラーそんなに怖がらないのに」
「あれは最初からそういうもんだと観てるから大丈夫なの! いきなりだったら誰だってビビるわ!」
「リリーさん大丈夫ですか? 驚いたでしょう?」
「確かにちょっと。でも虫さんが耳から出てるだけですよね?」
そう言うリリーさんは至って平然としていた。
「ええ、まぁ……。それだけですが」
「そういう虫さんもいるでしょうし、そもそも人間の体には沢山の細菌がいますから、そこまででは」
「……マジかよ」
なんというか、わかんねぇな、これ(考察放棄
:おっそうだな
:えぇ…(困惑
:そういやホラゲーで一回も悲鳴聞いたことないな…
:強い(確信
「もう消した?」
「消えたぞ」
「ホント?」
「あぁ」
薄目を開けて恐る恐るスクリーンを見ようとする。が
「まだ写ってんじゃぁぁあん!? 嘘つき!」
「いや。視聴者がもとめてんのはこういうのかなって」
「スズちゃん、ただ耳から芋虫さんがにょきにょきしてるだけですよー?」
「先輩の口からそんな発言が飛び出すとは思わなかった!」
「今、口に虫がいたような……」
「も う や め て !」
首を振って、耳を押さえつけて目を力一杯瞑っている。
「妹が配信放棄したので、リリーさんに説明しますと、デーテさんはイラストのインパクトを強化した訳です」
「なるほど~。ところで私もエルフですし、『ラノワールのエルフ』さんみたく、小枝を折った人の骨は折った方がいいんでしょうか?」
「いえ、『ラノワールのエルフ』が豪快なだけじゃないですかね(震え声)」
「そうですかー?」
「そうですよ(迫真)」
リリーさんはどうか純国産(?)エルフであってください。
万が一『ニッサ』みたくなったら『親衛隊』に殺される。
「っと、今のはグロテスクなイラストや極端なフレイバーテキストでしたが、カードのデザインもマジックの魅力の一つです。私をマジックに誘ったカードはこれ」
画面に青い魔導士の姿が映された。
両の手の間に青の呪文を蓄え、今まさに解き放たんとする男のイラストだ。
:出たな神
:財布を刻む者
:マジックを象徴するカードの1枚だよなー
「『精神を刻む者、ジェイス』。初出は2010年発売の『ワールドウェイク』。マジック史上初の4つの忠誠度能力を持つプレインズウォーカー。1枚で青がなんたるかを体現する、高い汎用性を備えた、あらゆるフォーマットで活躍する類稀なパワーカード」
「わぁ~、カッコいいですね」
「目を開けろ妹よ。お前の好きなイケメンだぞ」
「……フード被ってるから雰囲気イケメンの可能性があるんだけど」
チラリとタブレットの液晶を覗き込み、顔をあげる。
イケメンや美少女は人間を元気にするよね。見るだけなら。
「ちなみに日本語訳では『精神を刻む者』となっているが、私は英語名の『Jace, the Mind Sculptor』の方が好きだ」
「なにそれ。厨ニ病ってやつ?」
「『sculptor』が『刻む者』と訳されてるんだが、『sculp』本来の意味は彫るとか、彫刻する、という意味だろう? 他人の精神を思うがままに彫造してしまう彼を表すには、『刻む』という言葉では表現しきれてない。だからと言ってこれ以上の訳があるわけじゃないんだが」
「相変わらず変なことにこだわるねぇ、兄さん」
「実際最初に和訳を見た時、原文はmutilateとかmangleだと思ってな。sculpだと知って少し拍子抜けした。今ではむしろしっくりきてるが」
奥義だけ見ると、確かに『刻む』がぴったりだ。しかしカード全体を見た時、『sculp』の方がデザインにフィットする。
「妙な話だが、彫刻っていうのは西洋の芸術なんだと感じた。日本語には彫刻する者を的確に表せる言葉を見つけられない。少なくとも私には」
「彫刻家って言葉があるじゃん」
「それは彫刻に家がくっついただけだ。私にとっては彫刻と家を一緒にすること自体が論外。だったら芸術家の方がまだ適当だ」
「ホントよく分かんないなぁ、それがマジックを遊ぶ上で必要なわけ?」
「一切必要ないな。ただ『Sculptor』でジェイスは表現出来るが、『刻む』、ましてや『彫る』じゃ全然足りない。それだけの話だ」
「マジで関係ない話だね。次いこう。次」
「これはただの横道だが、デザインは大事だよ。イラスト、名前、フレイバーテキスト、カードの効果を含めてな」
どうでもいい雑談なのだが無言のリリーさんを見ると、何故か神妙な顔をして悩んでいる。
「あの、リリーさん?」
「……表現は大事ですよねー。型が決まってても、そこに自分を流し込まなきゃいけないんです。どれだけ歪で、窮屈で、苦しくても」
「へっ?」
「ありがとうございます。先生、ちょっとだけ前進出来た気がします」
「あ、はい、どういたしまし……て?」
何故かお礼を言われてしまった。
「……そうだ、美麗なイラストもマジックの魅力の1つですよ。特に基本地形は、各次元ごとに違うものが書き下ろされるから、お気に入りのものを見付けやすい。フォーマットが違かろうと基本土地は使えるので」
「そうなんですか?」
なんとか話を本題に戻す。自分で逸らしておいてなんだが、彼女を相手にすると調子が狂う。
「自分が使っているのはJhon Avonが描いたものです」
「綺麗な山だね。ちょっと登ってみたくなる」
画面には赤い空に白い山という雄大な風景が映された。
「Unシリーズのものは全て人気だな。あとは不動の一位、グルランド。それとAPACシリーズには日本の富士山が描かれたりしてる」
パラパラとスライドショーのように画面が切り替わる。
「タッチが全然違いますね。わざわざ名指しで仰ってましたし、色んな人が描かれてるんですか?」
「ええ。それぞれのアーティストに必ず熱烈なファンがいます。有名所だと、そのグルランドを描いたTerese Nielsen、あのBlack LotusのChristopher Rush、プレインズウォーカーをデザインしたAleksi Briclot、日本人の代表なら、FFの原画を担当する天野喜孝氏が『リリアナ』を描いたことで話題になった」
「あのFFの!?」
「あくまでゲストだけどな。もしかしたらこれからも、何かの拍子に寄稿してくれるかもしれないが」
他のイラストレーターも名だたる面子なんだがな。日本人ならやっぱりFFか。
「最近だと……Seb McKinnonか」
『エルドレインの王権』のキービジュアルを描いた人だ。
「スッゴイ苦々しい顔してるけど何かあったの?」
「いや、Mckinnonは好きなんだ。大好きと言っていいくらい」
あの見た者を異世界に迷い混ませるような独特の世界観と、それを表現しきる緻密なタッチ、果たしてあの1枚を描くのに、どれほどの研鑽を積んだのだろうか。
私は好きだね。王道のファンタジーのものも、ゴシックホラー調のものも。
「いや。好きすぎて知り合いから『Fae』のプレイマットまで買ってしまってな……。冷静に考えるとプレイマット1枚にあの値段は適正だったのかどうか」
「いくら?」
「諭吉1枚じゃ足りない。適正どうこう言うなら、Mckinnonに1万って考えたら逆に不安になるくらいなんだが。自分が値段つけて良いレベルじゃない」
「……まあ、それ位なら」
「あと正確にはMckinnonじゃないんだが、ゲストイラストレーターによる作品の『Dance』も一緒に買った。これも諭吉1枚では買えてない」
「……合計は?」
「3じゃ足りんな」
「バッカじゃないの!?」
うるさいわい! そんなこと自分が一番知っとるわ! あの大胆な黒の余白を見たらいつの間にか諭吉が消えてたんだよ!
:10年後に鑑定団に出てそう
:残念! 1000円!
:額縁の方が高そう
:Sebの絵が魅力的なのは認めるがプレマに10k以上か……
:脊髄の方が賢い
「芸術にはお金がかかりますから仕方ありませんよ。スズちゃん?」
「先輩が言うなら分かりますよ。でもコイツの薄給でそんなことしたら破産しますって。まさかリポ払いとかしてないよね?」
「流石にそこまではいってない。しばらくは米と納豆だけだが、元々TCGは金がかかる趣味だからな。その辺含めてそろそろフォーマットについてちゃんと説明するか」
真面目な顔をして2人に向き直る。ほとんど雑談で時間が過ぎてるのだが、幸い視聴者数はほぼ横ばいだ。
改めて説明しようとしたところで、リリーさんが手をあげる。
「リリーさん?」
「カップ焼きそば、ぜひいらしてくださいね? そんなに食費がピンチなのでしたら」
……『ラノワールのエルフ』はカップ焼きそばの野菜はカウントにいれるのだろうか?
えるしぃさん、デーテさんありがとうございました。
特にデーテさんの視点は完全に予想外でした。イラスト、大事です。MTGに限らずTCGのイラストはどれも魅力的ですよね。
私もMckinnonのプレマ欲しいんですけどね。出回んないし高いでもう。
他の方の作品を読むと高確率で掲示板回あるんですけど、私の場合読んでくれてる皆様の感想以上のものが思いつかないんですよね。
その分感想欄で遊んでいただけたらなと思います。
2代目チーフへの質問、要望はこちらへ
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フォーマット5(フォーマットについてだけ知りたい方はここだけでも十分です)
次からはもっとスマートに書こうと思います。
「まずは『スタンダード』。MTGにおいて最大の競技人口を抱える花形フォーマット。特徴はなんと言っても『ローテーション』の存在だろう。毎年10月に使えるカードセットが更新される。具体的に言えば発売日から2回目の10月を迎えると、そのカードセットは使えなくなってしまうんだ。目安は発売日から2年弱位か」
「折角買ったのに使えなくなっちゃうの!?」
「もったいないですねー」
驚く2人。特に妹は良いリアクションをする。実際TCG初心者にとっては衝撃的な内容だろう。MTGが敷居が高いと言われる大きな理由の1つだ。
「短く見えますが、TCGで同じデッキが2年もトップメタであり続けるということはまずありえません。新商品が出れば環境が動きますし、出さないと利益が出ません」
「そういうもんなの?」
「環境に変化が無いとメタが固まりきってしまうから、それはそれで良くない。新パック毎に禁止カードが出るようなのも好ましくはないが」
「前者は飽きるし、後者はついていけなくなるか」
「商品が売れないと企業が潰れちゃいますよねー。どちらかに偏り過ぎても人が離れてしまいます」
2人とも要点を理解してくれたようだ。このまま説明を続けて良いだろう。
「ウィザーズ社は、その難題を使えるカードプールを限定し、ルールとして明文化することで競技性に昇華させた。『スタンダード』はメタゲームの変化を楽しみ、環境を読むことを含めて戦う『フォーマット』でもある。使えるカードプールが狭ければバランスが取りやすいし、新カードも出しやすくなる」
「『スタンダード』を追いかけてる人なら、そういった変化を楽しめるプレイヤーさんですからねー」
リリーさんは笑っているが、妹はイマイチ納得していなさそうだ。多分『スタン落ち』したカードのことが気になってるに違いない。
どっちにしろ下環境について説明するから、今は触れるタイミングではないか。
「利点は参入難易度の低さ。新パックメインのフォーマットだからカードが手に入りやすく、一部を除いてかなり安価にカードが買えます。色を絞って、コモン、アンコモンで揃えれば、5000円でそれなりのものが組めるのではないでしょうか。ショップ側も理解してるから『スタンダード』専用のコーナーを作っていることがほとんどです」
「難点はその『ローテーション』、ですか?」
「そのとおりです。新パック毎に環境が動くのと、必ず『スタン落ち』が発生します。遊べる時間がない社会人だと、折角買っても一回も使えず環境落ち、ということもありえます。自由になるお金はそんなにないけど時間はある、学生向けの『フォーマット』かもしれません。『英語の勉強も兼ねた遊びがしたい』と言えば、親の財布も緩むかも」
「英語のパックも国内で販売されてるようですからねー」
「そして買った親の方がハマり出すまでがワンセットです。あと『スタンダード』環境は『MTGアリーナ』でデジタルカードゲーム化してるので、いきなり買うのは、という人もどうぞ。基本プレイ無料、近々アプリ版も出されるようですし」
実際今、『スタンダード』を紙でやるのはリスクが大きい。昔は『ほとんど禁止が出ないフォーマット』が誘い文句だったのが、今は過去最高枚数の禁止カードを排出している。紙だと補填はないが、『アリーナ』なら補填される。よほどでない限り紙で『スタンダード』を始める必要はないだろう。
さて、そろそろ妹をつっつくか。
「何か言いたいことはあるか、妹よ」
「その『スタンダード』で使えなくなったカードはどうなるわけ?公式の大会では使えないイラストになるの?」
「そういった『スタン落ち』したカードを受け止める『フォーマット』が『パイオニア』だ」
スクリーンが切り替わり画像がラヴニカ次元のものになる。各ギルド門の他、『ジェイス』と『ニヴ=ミゼット』がいる。
「イケメンじゃん」
「使えるカードは2013年発売『ラヴニカへの回帰』以降のカード。本来は『モダン』がこの役割を担ってたんだが、あまりにカードプールが広くなりすぎたため作られた『フォーマット』だ。実際『スタン落ち』したデッキをそのまま使っても勝ち負けは別として、それなりに戦える」
「あぁ、『モダン』って公式でサポートされてるんだ。てっきり身内の特殊ルールなんだと思ってた」
「そういうのもないことはないがな。『2サイクル』とか。フォーマットの特徴は『フェッチランド』が使用できないため、多色化すると途端にマナ基盤がタイトになる。3色以上のデッキを組むのは何か明確な強みがない限りオススメ出来ない」
『5色ニヴ=ミゼット』とか。ただ『血染めの月』に代表される『マナディストラクション』戦術が少ないため、一度回り始めれば多色のカードパワー差でなんとかなったりするが。
「良いところは『スタンダード』と同じく参入難易度の低さ。カードプールが『スタンダード』より広いのも相まって、選べば『スタンダード』より安く一線級のデッキが組めることもある。それこそ『スタンダード』から入って、『スタン落ち』したデッキをそのまま『パイオニア』のパーツで強化すればいいから入りやすい」
現『スタンダード』を長くやっていれば自然と遊べるようになる『フォーマット』だろう。正式な制定自体も最近だから初心者も多い。
「ただ制定されたのが最近なので人が少ない。私の地域だと『モダン』の大会は十数人集まるが、『パイオニア』は下手をすると片手の指で足りる規模の時がある。あと新規カードの影響を露骨に受けるからメタゲームの変遷が割りと激しい」
マナ基盤が厳しいからコンボデッキは組みにくいと思ったら、そんなことはないからな。一応『ヴィンテージ』でも戦える『The SPY』が組めちゃうし。
「良くも悪くも『スタンダード』の延長線上にある『フォーマット』ってわけね」
「裏を返せば、お友達と一緒に始めやすい『フォーマット』、なんですね?私達みたいな学生が遊ぶには、丁度良さそうです」
「そんなところです」
人数の少なさは顔馴染みを作りやすいことでもあるからマイナス面だけではない。
要はこれからの『フォーマット』ということである。今から始めれば、数年後には君も後方腕組みおじさんになれるかもしれない。
「お次は『モダン』、私がやっている『フォーマット』だ」
「兄さんが使ってるのは『ジャンド』だっけ?」
「『モダン』では制定当初からあるデッキだな。使えるのは2003年発売『ミラディン』のカードから」
「『モダン』と命名された割りには、かなり古いカードが使えるんですね?」
そう。制定当初は正しく『モダン』だったのだ。が、今では大正モダンみたいな意味になってきている。
「おっしゃるとおり、時が経つにつれモダンのカードプールも莫大なものになってきて、『スタンダード』落ちのデッキを受け止めるには不適切なものになってしまいました。『パイオニア』が出来た理由が納得出来たでしょうか?」
「はい。先生」
ちょっと油断していた。そう邪気無く笑顔で「先生」なんて言われると目覚めそうになる。美人さんだからなおさら。なので、手元の水を飲んで誤魔化す。無論妹にはモロバレなので、冷たい視線が突き刺さっているのだが。
「環境としてはとにかく多彩なデッキがあります。最初期の調整不足カード、特に青のパワーカードや狂ったアーティファクト、イカれ……コホン。イカした土地が存在しないため5色のパワーバランスは概ね公平です」
「もしかして元々はオーバーパワーのカードを切り離すために作られたんでしようか?」
「それもありますね。本場アメリカでは『スタンダード』を凌ぐ人気があるとか。私の地域だと一番人がいます」
「ふーん。じゃあ環境としては安定してるんだ」
ところがどっこい、メイン5つの『フォーマット』のなかでもトップクラスに即死コンボや無限ループを勝ち筋にしやすい環境だったりする。
「人によっては一番の地獄と言われる『フォーマット』だぞ?」
「マジ?」
「青のパワーカードが存在しないとは言ったが、同時に強力な打ち消し呪文も使えないという事情がある。お陰でオールインコンボデッキへのメインデッキでの対抗手段がほぼ無いデッキが多い。いくら使える土地が絞られているとは言っても、『フェッチランド』と『ショックランド』が使えるから多色化も容易。MTGの歴史の中でも指折りのインフレが起きた『ローウィン』~『ミラディンの傷痕』のカードが使用可能なのもあって、カードパワーに対して打ち消し呪文の性能が追い付いてない」
お互いにやりたいことをぶつけ合う、基本的にはそんな『フォーマット』だ。試合時間も全フォーマット中一番短いと言われている。
「でも人気のある『フォーマット』なんですよね?」
「単純に色んなデッキが環境にいますから。それでいてトップクラスのデッキがいきなり環境外に落ちることは少ないですし、『レガシー』ほど凝り固まってる訳でもないので。カードプールが広がったおかげで、メタゲーム上に必ず天敵となるデッキがいる場面が多いです。個人的には社会人で紙を始めるなら一番オススメの『フォーマット』です」
昔は『スタンダード』並みに環境が荒れていたようだが、今では一周回って一番安定している『フォーマット』ではないだろうか。『モダンホライゾン』の様な例もあるから油断は出来ないが。『モダン』以下を対象にした特殊セットの存在は置いておこう。
「それと、環境がある程度安定してるのもありますが、初心者が参入出来るギリギリのラインの『フォーマット』というのもありますね」
「なんでギリギリ? そりゃ知らないカードはいっぱいあるだろうけど」
これがTCG界共有の悩みであり、MTGが醸し出す『敷居の高い初見お断りの店』感最大の要因だろう。
「2人に問題です。私の『Jund』、ズバリいくらでしょう?メインデッキだけで構わない」
「突拍子もなく難問出すね」
「これはタブレットの検索はなしですか?」
「検索もコメント見るのもなしでお願いします」
2人とも悩んでいるが、正直当てられるとは微塵も思っていない。
「『スタンダード』が5000円でしょ? 強そうだし20000くらい?」
「うーんと、50000円位でしょうか。先生は社会人ですし」
「いやいや先輩、所詮カードゲームですよ? その値段なら新品の据え置き機とソフトがセット買えちゃいますから。子供の遊びで1枚の平均がワンコイン越えちゃいけないでしょ」
「あっ、そうですね。んー、でもデザイナーさん雇ってるみたいですし、それなりの値段がしそうな気も……」
「あー、忘れてました。でも1枚の値段が1000円近くするゲームって誰がするんです?」
「2人とも、時間も押してますし答えはそれでいいですね?」
「いいよー」
「はい」
「ファイナルアンサー?」
「みの◯んたかこいつ。うん。ファイナルアンサー」
「ファイナルアンサーでお願いします」
ダカダカダカダカダカダカダカ……
「まさかのセルフドラムロォル!? しかも口!?」
「……(ドラムロールを口ずさみながら)」
「見つめるな! ためるな! ウザいわ! 自分で時間潰してどうすんの!?」
「ざぁんねん! 2人とも不正解!」
「ちょっと似てるのが腹立たしい! 外れたことよりそっちのが癪にさわるわ!」
「お二人とも仲が良いですねー。羨ましいです」
「これのどこが仲良く見えるんですか!? 先輩!」
「? 全部ですよー?」
「すいません。答え言っていいですか?リリーさん」
「どうぞー」
「……いいや、もう。で、答えは?」
「十万以上」
「はっ?」
「えっ?」
2人が固まった。まあ、そうだよね。60枚の手のひらサイズの紙に十数万かかるとは誰も思わんわ。そんなこと知らせずに『Jund』勧めやがったからな、アイツ。給付金がなければ即死だった……。
コメント欄もドン引きの様相である。
「もう一回言って」
「十数万かかってるぞ」
「何言ってんだこのクソ兄貴」
過去最低温度の視線を放つ妹がいた。予想通りとは言えキツいものはキツい。
「ちなみにどのカードがどれくらいするのでしょうか?」
リリーさんの質問に答えないわけにはいかないだろう。こういった事情も説明しなければ、解説として成り立たない。
「まずは『土地』周りからいきましょう。『モダン』以下で必ず使われる『フェッチランド』、これが最初の障壁です。黒緑の『新緑の地下墓地』が4×6000で24000円、残りのフェッチランドは2000円前後だと計算して4枚で8000円。黒赤『ファストランド』が3枚で6000円。『ショックランド』が1枚1000円くらいとして3枚3000円。『キャノピーランド』だったり、基本土地が『Unhinged』という人気土地なので他も1000円前後しますが、必須ではないので大体40000円以上と計算出来ます」
スクリーンに出される計算式に我ながら感心する。よく集めたなと。紙1枚にかけてる値段じゃないわ。冷静に考えたらプレマどうこう言ってる場合じゃないね。MTGをやるとTCG関連の金銭感覚が狂う。3000円3積みとか4積みが安く思えるもん。
「続いて『クリーチャー』、皆大好き『タルモゴイフ』が1枚5000円だから4枚で20000円。『歴戦の紅蓮術士』が3500円位で2枚入ってくるから7000円。『死の飢えのタイタン、クロクサ』は大体3000円で、『運命の神、クローティス』が……、まぁ1000円か、1枚ずつで4000円。『血編み髪のエルフ』は安い。1枚500円で4枚だから2000円、合計33000円」
「500円ならって思ったけど、4枚積んだら2000円じゃん。ヤバイ、感覚麻痺してきてる」
「次は花形『プレインズウォーカー』。『ヴェールのリリアナ』はショップで買うなら6500円くらいかね?3枚で19500円。『レンと6番』、コイツが一番高くて店頭で1枚8000円なら買いか。3枚で24000円。他にも値段がつく『呪文』を含めてえーと、10000円は越えるな」
「急に雑になったねぇ!?」
「だってお前の視線を受け続けるのが辛いんだもん」
「当たり前だよ! 十三万も60枚の紙にかけるとは人間だとは思ってなかったよ!」
「『Jund』に関しては高いカードの詰め合わせみたいなところがあるから高騰する。『フェッチランド』と2色土地を抜いて、赤単の『バーン』にすれば頑張れば10000円台で収まるじゃないか?」
『稲妻』を代表に火力呪文はそこまで高くない。『稲妻』以外の火力は『バーン』位にしか使われないし、その『稲妻』も再録が多いから状態を気にしなければ300円台、私は170円で買えたのもある。
「『フェッチランド』が高いんですねー。どうしてでしょうか?」
「単純に強くて便利なのと、需要があるからですね。人気のある『モダン』と古参がよくプレイしてる『レガシー』でどちらも合計で8枚前後採用されてますし。本腰いれて紙の『MTG』を始めるなら、この『フェッチランド』から集めることを推奨します。呪文はデッキによって使うものが変わりますが、色が合うなら『フェッチランド』は必ず使いますから」
「でも高いじゃん。なんで『モダン』が一番オススメな訳?」
「一度作ったデッキが無駄になりにくい。流石に禁止されたら無理だが、しばらくやれなくて久しぶりに復帰、ということになってもそれなりに戦える。特に『Jund』みたいなグッドスタッフデッキは、デッキリストを見て、数枚アップデートするだけで準環境級には戻れるからな。『スタンダード』や『パイオニア』は新パックの影響を露骨に受けるせいで、一度置いてかれると取り戻すのが難しい。学生なら問題ないだろうが、社会人に環境を追わせ続けるのは酷だろう」
コンセプトを定めてデッキを組めば、環境デッキと相性ゲーに持ち込める程度のカードプールを誇るのが『モダン』だ。一番個性が出しやすいフォーマットかもしれない。
「それと『スタンダード』はMTGアリーナがあるし、『パイオニア』もアリーナで再現出来るようにしている動きがあるからな。何より最近は禁止カードが連発されてる荒れた環境だ。デッキそのものが組めなくなる危険性がある。そういう背景もあって、時間のない人に先に述べた2つの『フォーマット』はオススメ出来ない。結果的に『モダン』のデッキより出費が嵩む場合もあるからな。ただ初期投資が嵩むから『モダン』は社会人の新人プレインズウォーカー向けだ」
「だからって十数万は、ねぇ?」
「ちょっとびっくりしちゃいました。でも理由は納得ですねー」
「まあ、予算は50000円程あれば準環境級のものは組めると思います。それと、カード1枚が高いからプロキシ……、自分でカラーコピーしたものを使っても、フリーなら文句を言う人は少ない。気になるデッキがあるならプロキシから始めていいと思う。ただ、使うときは必ず相手にことわりをいれることを忘れずに。最低限のマナーです」
こんなものか?
興味があるなら自分で調べてもらった方がいいし、最大の障害であろう金銭面は話した。そろそろシメに入らないと時間が押している。
「残り2つはちゃっちゃとやろう。私自身の知識不足もあるが、『レガシー』や『ヴィンテージ』からはじめる初心者なんてほとんどいないだろうし、いても私の埒外だ」
「理由はやっぱり予算?」
「そうだ。無論、プレイ難易度の高さもある。まずは『レガシー』、ここからは『エターナル』と呼ばれる環境だ。使用可能なのは禁止指定されたカード以外全て。『モダン』までは辛うじてシャバだが、『レガシー』から終身名誉死刑囚みたいなカードが登場してくる」
「オーバーパワーのカード達、ですね?」
「お察しのとおりです」
『レガシー』を語る上で欠かせないのが『土地』と、『打ち消し』だろう。『アーティファクト』は『オーコ』のせいで下火気味だから省くとしよう。
「いわゆる『再録禁止カード』、色々例外はありますが『強すぎるから二度と再録しません』と公式で宣言されたカードが使われる『フォーマット』になります。代表は『デュアルランド』。『フェッチランド』で持ってこれる基本土地タイプを持ちながら、何のデメリットもなくアンタップインして2色のマナが出せる」
「でもお高いんでしょう?」
「人気のない安いものでも20000円以上、人気のものになると最低でも十万円近くする。2色デッキでもこれが2~3枚必要という素敵仕様」
「つっこむ気も起きなくなってきたよ」
「どんな土地でも1坪だけ買ってやる」と言われたら、「1坪分のβ版『Volcanic Island』が欲しい」と答えるといいんじゃないかな?
家を建てる方が間違いなく安く済む。
「ただ同時に多色化にリスクが生じる環境でもある。『不毛の大地』という基本でない『土地』を破壊する『土地』が存在してな。『デュアルランド』も例外ではない。『モダン』までは『クリーチャー』や『プレインズウォーカー』に焦点がいくが、『レガシー』は強力な『土地』と『打ち消し』が中心の『フォーマット』になる」
それこそ『エターナル』のバランスは『青』と、おぞましい『アーティファクト』群の存在を前提に成り立っている。
特に『青』を入れないデッキは『打ち消し』と便利な『ドロースペル』を捨てるリスクを常に頭にいれなければいけない。
「カードプールが広いということは、コンボデッキばかりなんですか?先生」
「いいえ、『Force of Will』を代表とする強力な打ち消しが多数存在する関係で、ジリジリとした鍔迫り合いの時間が非常に長い『フォーマット』です。コンボデッキ自体は多いですが、ビートダウン系のデッキも一定数います。『打ち消し』を警戒してコンボに全てを注ぐデッキは非常に少ないですね。逆に普通のビートダウンデッキが飛び道具……、即死コンボをサブプランで仕込んでいる場合もあります」
知り合いが使っていたのはシミックカラーの『Food chain』か。『氷河のコアトル』や『自然の怒りのタイタン、ウーロ』でのビートダウンと、『Food chain』に特定のクリーチャーを組み合わせた無限マナコンボから、『歩行バリスタ』の無限火力を使い分けるデッキだった。
「メタゲームは最近『オーコ』と『アーカムの天測儀』、『ホガーク』が暴れてますが、基本的にはほとんど動きません。忙しい人が時間があったらやるには丁度いいかもしれませんね。懐事情が許すなら。そしてそんな凶悪犯が集う刑務所、『レガシー』ですら出禁をくらったカードが行き着くのが最後の『フォーマット』」
処刑台の向こう側、ウィザーズ社の消せない罪、原初の混沌。
「『ヴィンテージ』。行き着くところまで行き着いた人間、いや。暇を持て余した神々が遊ぶ『フォーマット』。『レガシー』までが現世なら、この『ヴィンテージ』はあの世とか天界にあたる存在だ。どんなぶっ壊れカードでも1枚だけならデッキに入れられる。カードパワーを理由にした禁止カードは『夢の巣のルールス』以外なし。他は銀枠のジョークカードを代表に、マジックであることを放棄するようなカードばかりだ」
何も知らない人間が『MTG』を知るのは、実はこの『ヴィンテージ』のカードがきっかけではないだろうか?
社会的ニュースになるほどの事件が起こるのも、この『フォーマット』の特徴だ。
「これはちょっと知ってるかもしれません。たしか『パワー9』でしたっけ?」
「あぁ、兄さんも言ってたね。何なのそれ?」
「おそらくMTGで最も有名なカード『Black Lotus』。各色のマナを出す5つのアーティファクト『Mox』。青1マナで3枚のカードをドロー出来る『Ancestral Recall』。青を含む2マナで追加の1ターンを得る『Time Walk』。青を含む3マナでお互いの墓地と手札をデッキに戻して7枚引く『Time Twister』。これらの最初期に登場し、その後のマジック史に多大な影響を与えた9枚のことを指す。『ヴィンテージ』はこの『パワー9』を使うことを前提にした『フォーマット』だ」
コメントを見る限りこれだけは知っている人は多い。有名なのは勿論、ロマンの塊みたいなカードだからね『パワー9』。
「ちなみにいくら?」
「再録禁止カードの筆頭だ。全部買おうとすると安いもので揃えても1000万……とは言わんが、500万じゃ難しいな」
「ノーコメントで」
「あははは……、本物の宝石でも、そこまでするのは中々ありませんねー」
「本物の宝石はマナが出ないが『Mox』はマナ出せるから『Mox』の方が良い、なんてジョークがあるくらいですから。そんな『フォーマット』なので、蔓延るデッキは常軌を逸しています」
あの『頭蓋骨絞め』が無制限な時点でね。単に『打ち消し』を構えて殴るだけじゃ間に合わない環境だ。『Will』頼みだったりすると、その前に手数で押しきられる。
「レベルがカンストしてるとか、神様にチートもらって無双とか、TSして美少女になったとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてない。『ヴィンテージ』を即死をぶつけ合う俺Tueee! 『フォーマット』だと勘違いしてる人間が多いのも事実ですが。そっちはむしろ『モダン』です」
「それは果たしてちゃちで済むのか?」
「『ヴィンテージ』はそもそも前提条件が違うんだよ。こう……、ゲームをする上での致命的な欠陥やバグを楽しめるプレインズウォーカー達の集まりだ」
例えるなら、なんだ。
「バグったカー◯ィボウルを正式レギュレーションとして楽しむとか、戦国BA◯ARA Xで対戦する為だけに中国から『(飛行機で)一本です』とか笑顔で言い始める……」
「狂気しか感じない!」
「あるいは鬼滅◯刃の日輪刀が全部ドン◯ッチソードとか、魔◯ダイコンブレードに置き換わってるような感じだ。描写そのままで」
「台無しだよ! 鬼滅せられないよ!? 単行本の表紙見ても何の漫画か分からなくなるよ!?」
鬼を滅する気が微塵もない表紙が出来上がるだろう。ネギなのに。そもそも刃なのか? あれ。
それくらい『ヴィンテージ』は違う世界なのだ。
「健康に良さそうですねー」
「それどういう意味ですか先輩!?」
「きっと外でごっこ遊びする子が増えますよー? 刃物は危ないですから。お野菜で遊ぶのはダメですけど、最後にちゃんと食べれば、農家の方も子供なら許してくれるんじゃないでしょうか」
「……」
本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわかんねぇ……。
下手に突っ込むとこっちが混沌に引きずられそうだ。
「……まぁ、長々と『フォーマット』について話しましたが」
とどのつまり、『フォーマット』が生まれた最大の理由は。
「要は友人やこれから友達になる人と楽しく遊ぶ為のもの、ということです。MTGに限らずTCGを楽しむコツは、同じくらいのレベルで楽しめる友人と、面つき合わせてワチャワチャ遊ぶことですから。『フォーマット』はあくまでそれをやりやすくするための指針に過ぎません」
TCGの楽しさの根幹は誰かと気軽に、それでいてある程度対等に触れ合える、そんなコミュニケーションツールであることなのだと思う。
まさかの1万文字オーバーの説明書。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。デッキと桁が1つ違うんじゃないかって? 10万文字とかやめてください死んでしまいます。
色々齟齬があると思いますので、その時は言ってやってください。可能な限り直します。直せなかったらごめんなさい。
なんでカップ焼きそば人気なんでしょう? そして9名のホモの方の為に、この1話でフォーマットをまとめました。マイノリティに配慮する作者の鑑とは私のことです(大嘘
こんなマイナーネタをお気に入りにしてくれる方には感謝しかありません。わざわざ感想書いてくださる方は言うまでもく。
2代目チーフへの質問、要望はこちらへ
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アーキタイプ1(借金大王)
さっさと全色出せるよう頑張ります。
「ということで今回もコラボを始めていくわけだが……、どうした妹よ。乗り気じゃなさそうだな」
自分が冒頭の挨拶をしてる時点でおかしいし、始まる前から妹のテンションが低いし、そもそもコラボ相手と打ち合わせを一切してなくて今も会場にいない。どうなっているのか。
(そしてなぜ醤油さしがテーブルにあるんだ……)
「……ごめん。今日は『アーキタイプ』だっけ?さっさと終わって帰ろう。うん」
「枠はきっちりやらんとまずいだろう。第一コラボ相手が……」
「いいからいいから。よく分かんないけどデッキのタイプだっけ?」
「いや、だから……」
ずいぶんと妹が急かしてくるが、そんなにコラボ相手が嫌なのか。打ち合わせもせず、時間になっても現れないあたり、妹が嫌いなタイプのフルコースなのは確かだ。私も好きなタイプではないが。
と、ここで音楽が聞こえてきた。このイントロは……。
「借◯大王?」
「げっ、来ちゃったよ……」
スタジオに小走りで長身の男性が入ってくる。Vとしてどう写ってるかは分からないが、装飾品の類いは時計くらいで、ラフに着こなすTシャツとジーンズがよく似合っている。
顔は十分二枚目、二枚目で通じるんだが……。
:来たな借金大王
:クソノ金返せ
:BGMの使用料でまた借金が増えるぞ
(まあ、ありえんわな)
「別に来なくてよかったんですよ。久園先輩」
「いんや、いつも袖にされるスズちゃんからのお誘いときたら来るしかないっしょ」
「じゃあなんで遅れたんですか?」
「元カノから逃げてきた」
:その言い訳何回目だ
:ホントだろうとウソだろうとクズ過ぎる
:クーズ!クーズ!クーズ!
コメント欄も大盛況だ。会社のNo.2という情報はもらっていたが、登場だけでこの反響振り、流石である。
「真偽はともかく、遅れるなら連絡くれませんか?」
「じゃあディスコかRINE教えてよ」
「誰が教えるか。普通に事務所に連絡してください」
「えー、いいじゃん。てか今フリーだからさ、スズちゃん俺の彼女になってくんない?」
「それ女性Vtuberに毎回言ってますよね? 挨拶代わりに口説くのやめたらどうですか?」
「ということではじめましてスズさんのお兄さん。登場と挨拶が遅れて申し訳ありません。大変失礼しました」
あまりにも礼儀正しい態度に面食らったが、こちらに向ける視線でなんとなく意図を察することが出来た。
「こちらこそ黙っていて申し訳ありません。はじめまして久園さん」
「ゾノでいいですよ。言いにくいんで。リリーのヤツとは違って、妹さんにはご覧のとおり迷惑をかけてばかりなんですよ」
「OK。じゃあゾノで。私の方も好きに呼んでくれて構いません」
「では義兄上と……」
「そんな大層な人間じゃない。コイツをもらってくれるなら、これ程嬉しいことはないし」
「じゃあアニサンで。てかマジ? アニサン公認だってスズちゃん」
「なんで私を置いて意気投合してんの!? 一番失礼されてんの私なんですけど!?」
だってこう、近いものを感じたんだもん。コイツ多分コッチ側だなって。
「お義兄さまにご挨拶しただけじゃない、スズちゃん」
「彼氏面しないでくれません? 先輩とつき合うくらいなら、私は出家します」
「だそうだ。本人の意思は大事だ。今は諦めてくれ、ゾノ」
「アニサンに言われたらしゃーない。残念、また今度」
あっさり引き下がるあたり、本当に挨拶代わりなんだろう。妹もよくきっぱり断るものだ。ゾノとの絡み方で女性ライバーは振り分けられているのかもしれない。
「前みたくすっぽかせばよかったのに……」
「だって面白そうだし。リリーがバズったのって2人が原因っしょ?ネギと大根」
そうだ。あの配信のあと日輪刀をネギと大根、その他野菜に置き換える雑コラが一時的に流行ったのだ。
お労しや、兄上。
まさかネギに負けるとは。ちなみに大根とネギの二刀流をするリリーさんは何柱なんだろうか?
ネつながりで根の呼吸?
やめなされ……やめなされ……。惨いクソコラやめなされ……。
「特に面白いことなんて言えないんだが?」
「自然体でいいと思うけどね、アニサンは」
「そうか?」
妹やゾノがいるから私は添えもので十分か。気が楽でいい。
おっと、大事なことを聞くのを忘れていた。
「そういえばゾノのMTG経験は?」
「ない。けど、他TCGの経験はある。遊戯王とかデュエマも多少は触った」
「色のイメージとマナの概念は? これは遊戯王だが、エンドサイクの強さとか」
「なんとなくなら」
「なら説明の手間が大分省けるな」
そのあたりが分かってるなら飲み込みはスムーズだろう。カラーパイもそうだが、TCG初心者だと、相手のターンエンド時にインスタントをうつとか、フェッチランドを起動させる強さを理解するまで時間がかかる。
「一番違和感感じたのは、クリーチャーが呪文扱いってことだな。スズちゃんはすんなり理解したみたいだけど」
「えっ、あれって『クリーチャーを呼ぶ魔法』って意味じゃないの?」
「そのとおりだ。ただ他のカードゲームだとクリーチャーやモンスター、キャラクターは『魔法』ではなく『物理的な経路できてもらう』みたいな扱いでな。MTGのように、全てがあくまでも『呪文』として一括されているTCGは珍しかったりする」
「へぇー、そうなんだ」
「あとカードごとの特殊裁定が存在しないのも特徴だ」
「すげぇな、それ。遊戯王とか特殊裁定まみれだぞ。それならまだしも、W◯kiにすら正しい挙動が載ってないことあるし」
「あれはゲームデザインをシンプルにしようとし過ぎて、むしろこんがらがったパターンだからな。元々漫画の中のゲームを再現しようとした、所謂キャラゲーが発祥だからしかたない部分もある」
タイミングを逃す、ブリューナクが発端となった調整中まみれのW◯ki、カードが違います、等々やらかしたこともあるが、よくゲームとしておとしこんだと思う。
「他の大きな差異は遊戯王のチェーンにあたるスタックが、1つ解決するごとに優先権が発生すること、攻撃宣言の巻き戻しが基本的に発生しないことぐらいか?」
あと打ち消しが直前の呪文じゃなくても対象にとれること。発動を無効にするカードは、遊戯王だと直前のチェーンに積まれたカードしか対象に取れないことが多い。
「ごめん、全然わかんない」
「該当場面になったら改めて教えるさ。遊戯王プレイヤーになんとなく伝わってくれたらいいと思って話したから」
「えーと、今日のテーマは『アーキタイプ』だっけ?それにしても喉が渇いた」
そう言ってゾノは醤油さしに手を伸ばした。
「いや何やってんの? ゾノ」
「水分補給だけど?」
「醤油で!?」
塩分過多で病気になるぞ!?
私のツッコミも虚しく、醤油さしの中身はゾノの口の中に吸い込まれていった。
「……今日は普通にコーラか。アニサン知らなかったんなら勿体ぶった方がよかったねぇ。そういやスタッフさん、今日のこれ、いくらです?」
特売で買ったんで30円くらいでーす。
スタッフさんの声がスタジオ内を通りすぎていった。中身コーラなのね。なら安心……、いや何故に醤油さし!?
:チッ、今回はハズレか
:ガチ醤油だったとき意地で配信やりきったのほんますこ
:黒酢回一番好き
これ下手な芸人より身体張ってるよね。コンプライアンス的に大丈夫なのか?
「つまり借金30円追加と……。モデルの調整してくれたのはいいんだけど、最初の頃より借金の額がなぜか増えてんだよね~。どうしてだろうね~」
:夜◯駆けるを夜逃げの歌なんかに替え歌するから…
:示談金ヤバかったな
:初3Dで3Dモデルの請求書渡されたの草
:その後記念パーティーで開催費請求されたのもっと草
:調子にのってロマネ・コンティなんて開けるから…
「あらゆる手段を講じて俺の借金増やそうとしてくるからね。社長筆頭に」
真っ黒じゃねえか。借金カタにして働かせるなんて私よりもよっぽど真っ黒だよ!?
多分設定なのだろうが、不安になったのでカメラの設定を確認してから、妹にそっと耳打ちした。
「おい、妹よ。設定だとしてもやりすぎじゃないか?」
「半分ホントだよ。元交際相手関係で借金があったらしくて、それを理由に応募したらしいし。合格した時、ウチの社長が無利子で肩代わりした額がはじまりってわけ」
「それ社長の方がヤバイな」
やはり素人に簡易とは言えモデルを準備するだけのことはある。
……あれ?これもしかして私もヤバイやつ枠? いやいや、そんなはずはない。
私は善良とは言い難いが、平々凡々な一市民だ。
「そろそろ『アーキタイプ』、いっていいか?」
「おっと、すまんアニサン。説明お願いします」
「ではアイキャッチのあと、説明に入らせてもらう」
所詮は妹におんぶにだっこされてやらせてもらっている身なのだ。勘違いすると痛い目にあう。
それを改めて肝に銘じた。
感想のやつ拾わせてもらいました。ありがとうございます。
赤の元ネタは無論あの人。
実際会うとスゴイいい人らしいんですけどね。また格ゲーやってくれませんかね……?
カップ焼きそばはまだです。代わりに別なオマケが付いてます。別に読まなくても支障はないです。
どうでもいい話
「そういえば先生はなんでカードゲームが好きなんですか?」
配信が終わり、挨拶をそこそこに済ませてスタジオを出る時、リリーさんから声をかけられた。妹は次の配信のための軽い打ち合わせで、既にここにはいない。
「急になんでまた。それと無理に先生呼びしなくてもいいんですよ?」
「いえ、先生は先生です。純粋に興味があるだけです。こちらこそ無理にお答えいただかなくて大丈夫ですよ」
「いや。無理じゃないですが……、特別な動機はありませんよ?」
「でしたら是非」
私がカードゲームが好きな理由ねぇ。別に大したものじゃない。
「リリーさんは花札はご存知ですか?」
「えーと、同じ絵を集めて点数を競うゲームですよね?」
「合ってます。ウチは小さい頃、親と一緒に花札で遊んでまして、金賭けて」
「えっ!」
「賭けるたって親から渡された100円です。役なしの点取りむしですから、動いても30円くらい。……でも10円負けでも悔しいもんは悔しいんです。50円なんて取られようなら泣いてましたからね、自分。そして泣くと「泣くなら混ぜられない」って怒られて、混ざりたいから我慢してやってました」
手加減は多少してくれたのだろうが容赦はなかった。おかげで鍛えられた部分もあるが。
「そんなわけでまぁ、子供心ながら本気ですよ。姉と妹はあんまり興味がなかったみたいで、すぐに両親との3人勝負になりました。10円、20円の世界でだいの大人と子供が真剣勝負するわけです」
端から見れば異様な光景だろう。でも、それが私の楽しみだった。
「本気の勝負ですからね。所々にその人の考え方の癖、というか本音、人間が出るんですよ。不思議ですねぇ。たかが手遊び、絵札と足し算が分かれば出来る単純なゲームなのに」
父親は大雑把、母は抜け目がなく確実。私は……ひねくれた子供だったと言っておこう。
「それを面白く思ったのが原点ですかね、今思うと。TCGとなるとデッキそのものにも個性が出ますし、自然と引き寄せられました。そこから紆余曲折あってMTGに行き着いたわけです。……私ばかり喋って申し訳ないです」
ちょっと気が緩むとすぐこれだ。ほらリリーさんだって引いてる。
「いえ。とても面白いお話でしたよ。……遊びでも人間が出るんですねー」
おや、意外と聞いてくれていたようだ。じゃあ、もう少し踏み込んでもいいか。
「私から言わせてもらうと、遊びだからこそ本気になれるんですよ。本気になるから、その人の中身が垣間見えるんです。例え本気になっても『遊び』で終われますから」
異論は認める。でも遊びってそういうもんじゃないだろうか。
「金と時間の使い方でその人の人間性が分かる」、母はそう言っていたが、このご時世、私はそこに遊びを加えてもいいと思うのだ。
余計に自分がクズになったわ。どうしてくれようか。
「なるほどー……、じゃあ私もデッキを作ってみるので、その時はお相手願えますか?」
「もちろん。喜んで」
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アーキタイプ2(アーキタイプについて知りたい方はここだけで十分です)
なんか色々禁止になりましたね。環境を健全にするにはいいですが、ここまで来るとTier1組むの躊躇っちゃいますね。
ジャンド大勝利ですけど(小並感)
なおレガシーはアルカニスト禁止の模様。
「『アーキタイプ』というのはデッキの分類だ。妹の言ってたとおりだな」
「それは何となく知ってた」
「まぁ、俺もそんな感じだと思ったわ」
「つまりはそういうことだ」
…………。
沈黙が場を支配する。
「いや、何か話してよ!」
それに耐えられなかったのは妹だった。
「配信とっとと終わらせたいって言ったのはお前だろう? ということでまた次回、以上! 解散!」
言ったじゃん最初に。さっさと終わらせて帰るって。
「早く終わったし焼肉行くかー。開幕5分出て投げ銭は折半でしょ? チョロい仕事だわー。残りはよろしくね、スズちゃん」
焼肉か、そういえば数年は行ってない。陰の者には行く金も機会も動機もないしね。金は……、米と塩があればなんとかなるだろう(適当)。
「あー、久しぶりに牛タン食いたくなってきた。塩とレモンで」
「俺カルビで白飯かっこみたい。普通にチェーン店でいいっしょ?」
「いいぞ」
あんまり高いとね。肉に遠慮しちゃうからね。「焼肉は肉が従」って大◯ハンチョウが言ってた。
ゾノがスマホを取り出すのを見ながらも、視界の隅で顔を白黒させる妹に注意を向けるのも忘れない。
「もしもし? 久園です。タクシー一台寄越してくれません? 手持ち20円しかないんで請求書はウチの社長宛てで。ダイジョブ?じゃ、お願いしまーす」
「ぶっ!?」
連絡をとるゾノの言葉に、むせずにはいられなかった。
「手持ち20円!?」
「社長持ちだから大丈夫でしょ。社長の奢りだからアニサンも遠慮しなくていいよ?」
「すまん。奢られるのとTwittarは宗教上の理由でダメなのよ。自分の分は自分で出す」
「こまけぇこたぁいいんだよ。とにかく行きましょ」
「……私は自分の分しか出さんからな」
こうね。奢られるのは性にあわない。精神的に悠々しないから。
それ以外は大賛成だ。
「「へい! やっきにく! へい! やっきにく!」」
「いい加減にしろよバカども」
やっと妹が突っ込んだ。スルーならスルーで面白そうだったんだが。
「おいおい。もうゾノがタクシー予約しちゃったんだけど? 今更なんだ」
「私1人で出来るわけ無いじゃん。やめてくれないと」
「「やめてくれないと?」」
満面の笑みで妹はこう言い放つ。
「泣くぞ。本気で泣くぞ。現役女子大生が恥も外聞も投げ捨てて大泣きするぞ」
「オーケー、説明を始めよう」
「もしもし?久園です。すいません。さっきのタクシーキャンセルです」
眼尻に光るものが見えたことには絶対に突っ込むまい。
調子に乗りすぎたね。途中から全力でふざけてたからね。すまんかった。
「繰り返すが、『アーキタイプ』というのはデッキの分類だ。具体的なデッキ名を出せば『白ウィニー』、『MoMa』、『ネクロディスク』、『バーン』、『緑トロン』。マジックの長い歴史において様々なデッキが生まれたが、カードや環境が変わっても、そのデッキの動き方と勝利手段でデッキの種類を定義出来る、という分類方法だ」
「動き方と勝利手段?」
「そうだな。クリーチャーで殴って勝つデッキと、相手のライブラリーアウト、デッキを0にして勝つデッキが同じ種類だと思うか?」
「あー……、やったことはないけど違う、かな?」
「格ゲーで言うスタンダードキャラと投げキャラ、ハメキャラみたいな感じか」
「ゾノの例が分かりやすいかもしれん。流行りのA◯exだっけ? それだって色んなキャラがいるらしいけど、おおまかな分類はされてるんだろ?」
やったことないから知らんけど。FPSみたいな人間性能要求されるゲームは膝邪魔な人に任せてるから。エ◯バで弟とアカ共用して、勝率5割越えてるとか控えめに言って頭おかしいでしょ。
フ◯ムゲー? あれは慣れだから。
「そういう感じで、数多のデッキを大体3種類から6種類くらいに大別するのが『アーキタイプ』という訳だ。3種類で分けるなら『ビートダウン』、『コントロール』、『コンボ』。6種類に分けるとビートダウンが『アグロ』と『ミッドレンジ』に分かれて、『ランプ』、『撹乱的アグロ』が加わる。一般的には3種類の方が市民権を得てるな」
とは言ってもこの分け方も万能じゃないんだが。
「それでも全てのデッキがこれに当てはまる訳じゃない。『バーン』が本当に『アグロ』かと言われれば首をひねらざるをえないし、『トロン』は『ランプ』だが、人によっては『土地コンボ』の一種として括る場合もある」
「じゃあなんで分けてるの?」
「1つは自分のデッキをブラッシュアップする時の基準だな。それこそ赤白で組んだ速度重視の『バーン』に、クリーチャーが優秀だからといって緑を足すか?」
「えっ、ありじゃないの?」
「……なるほどね。いくら強いからって緑を足したら『バーン』を選ぶ意味がないわな」
妹とゾノで真逆の反応だった。
これはTCG未経験者と経験者の違いだな。判断自体はどちらが正しい、という話ではない。
「赤白の『バーン』に緑を足すと最大の武器である速度が失われる。いかに素早く3点ダメージを6~7セット当てるか、というデッキだから、普通は2色で、入ってくるクリーチャーも限られる」
「あ、そっか。速攻がないクリーチャーは召喚酔いがあるから、出してもすぐにはダメージを与えられないね」
「3色だとどうしても出足は遅くなるしな。ただお前の考えも、頭ごなしに否定は出来ない。仮に『バーン』が流行ったら、直接火力への対策に対する対策でクリーチャーの採用枚数が増やすのも1つの答えだ」
「でもそれって火力主体の『バーン』ってより、クリーチャー主体の『ビートダウン』じゃないか?」
そして『アーキタイプ』の答えはゾノが言ってくれた。
「ゾノの言うとおりだ。今回の事例なら『アグロ』の強みを消してまでクリーチャーを足すなら、最初から『ミッドレンジ』を組めばいい」
赤白の『バーン』を無理に環境に合わせるくらいなら、いっそ『ナヤビートダウン』にするか、割りきって対策してないデッキを狩るくらいの戦略の方がよほどスマートだろう。
『バーン』自体が小回りの効かないデッキということを差し引いても尚、だ。
「いくら強いからって、『アグロ』に15マナ必要なエムラクールは入らない。逆に序盤が手薄になる『ランプ』デッキが、それを補うために僧院の速槍を積みこんだらコンセプトが崩壊する。強いなと、思ったカードを自分のデッキに入れるか迷った時、『アーキタイプ』のことを覚えていると、少しだけ判断しやすいかもしれない」
「メタ読みだけじゃないんだ」
「むしろメタ読みは流行ってるデッキの中心カードに焦点が当たる場合が多い。だから『アーキタイプ』目線だと若干大雑把すぎる」
『コントロール』相手だからといって、自然とメタれる『アグロ』系のデッキが次点になる訳じゃない。『コントロール』でも回復ギミックが無理なく入ると、途端に『アグロ』は厳しくなる。
お前のことだよウーロ。
しかし妹の口からメタ読みという言葉が出るとは。半年前の自分は思いもしなかったろうに。
「そもそも『アーキタイプ』という概念が一番大事になるのは、『自分がどういうデッキを使いたいか』というデッキビルドの際、最も基本的な部分を見定める時になる」
「格ゲー、アクションゲームの持ちキャラ、装備選びの段階ってわけね。どのキャラがしっくりくるか」
「理解が早くて助かる。そういうビデオゲームよりも調整は効くが、合わないキャラを選んだら悲惨だろ」
「勝率とモチベに直結するからクッソ大事だな。それ」
「そんな感じで初心者にこそ『アーキタイプ』は重要だ」
懸念材料だったゾノが話についていけてる、むしろ追い越す勢いなので、このまま各タイプの説明にいけるだろう。理解の早さは格闘ゲームや対戦型アクションゲームに、TCGとの類似点が少なからずあるのも起因してそうだ。
「先に断っておくがメインはモダン環境の話だ。また私の主観が多々入るということを忘れないで欲しい。ではまず『アグロ』から。戦術は軽いクリーチャーを並べて、相手が動き始める前に殴り倒す。イメージ的には1ターン目からクリーチャーを出していって、4~6ターンでほぼゲームを決める」
「これは分かりやすいね」
「兵は拙速を尊ぶってやつか。速いってのはそれだけで強いよな」
分かりやすい強さというのは大事だ。ただ突き詰めるとかなりシビアだったりする。
「強みは2人が感じたとおり、速さ=強さの『アーキタイプ』。弱点はそれしかないこと。相手がどんなデッキだろうと、攻める以外に選択肢がない。ゲームが長引けば長引くほど不利になる」
「パンジャンドラムみたいなヤツだな」
「微妙に間違ってる気がするぞ。ゾノ」
火ダルマになって襲いかかるという意味では正しいが、自爆はしないからな。どちらかというと軽装兵のナイフで一突きな気がする。
首を傾げた妹が口を開く。
「なにそれ?」
「イギリスが作った珍兵器、詳しくはググれ。ただ選択肢の無さは分かりやすさでもあるから、初心者でも回しやすい。デッキ全体が前のめりだから手札事故も比較的少ない方。また1点のダメージが想像以上にデカイ、極まるとパズルゲームみたくなる。使う方も使われる方も神経質になるデッキだ」
「じゃあ私にピッタリだね」
「……ハッ」
「今鼻で笑ったよね!?」
ちょっとなに言ってるか分からなかった。
所詮は私の妹だぞ? 弁えろ。
「有名どころは一応『バーン』と『青赤果敢』、『黒赤ビートダウン』。このあたりをうまく使える人は本当に計算が早い。対応を誤ると3ターン目ライフ15くらいから即死する」
「謝罪もお詫びも早い方がいいかなー」
「そういうところだぞ」
「スズちゃん向きじゃない気がするけどね。もうちょい自由度があった方がいいんじゃない?」
「……まぁ、久園先輩にしては良いこと言ってくれましたかね。ありがとうございます」
「お礼はデート一回でいいよ」
「やっぱ今のなしで」
そろそろ次に入るか。
「つぎは『ミッドレンジ』。『アグロ』はスピードに全振りしてたが、こっちはスピードを落とす代わりに1枚1枚のカードパワーを意識したデッキ。ぶっちゃけ私の『ジャンド』だな。『ジャンドコントロール』なんて呼ばれることもあるが」
「つまり兄さんみたく単純な人が使うデッキ、と。パワーカード投げつけて勝つんでしょ?」
「いや、逆じゃね? スズちゃん」
「えっ、だって私の兄が使うデッキですよ?」
「そうだな。我ながら身の程知らずだったと思う」
妹にお返しとばかりに煽られるが返す言葉がない。
なんでこんな択の多いデッキを選んだのか、自分で使っていて分からなくなる時がある。
アホなの?死ぬの?
「格闘ゲームでもさ、スタンダードキャラは動かすのは楽なんだけど、それと勝てるようになるのは別の話なのよ。勝つだけなら、むしろハメキャラ、投げキャラの方が早い」
「ゾノが的確過ぎて私の存在価値が怪しくなってきたな。動きを理解するのと、勝ち筋が読めるのは別物ということだ。タルモゴイフのこと覚えてるか?」
「2マナのやたら強いクリーチャーでしょ?覚えてる」
さて思い出してみよう。4ターン目で妹の場には3/2の男爵領の吸血鬼、私の場には2/3のタルモゴイフ(土地とインスタントが落ちれば4/5)とレンと6番(忠誠度5)。
「仮にあの時、除去をうたなかったらお前はもう一体クリーチャーを出せたはずだ。どうして出さなかったんだ?」
「そりゃ、あのクソデカタルモくんを除去しなきゃ、殴り倒されるだけじゃん」
「除去を優先したせいでクリーチャーを展開出来ず、プレインズウォーカー2枚にマウントとられたわけだ。更に言えば、先にレンと6番がいたせいで攻撃を強要されてる」
「あー、アーカイブ見たけど完全に動かされてたね、スズちゃん。カードパワーの違いはあるけどさ」
タルモゴイフはモダンでも『ビートダウン』、『コントロール』問わずに対処を強要するつよつよクリーチャーだ。
レンと6番に関しては動画のとおりだ。放置したら死ぬ。
「待って、兄さんはそこまで分かってたわけ?」
「そりゃあ審問で手札見えてたし。あそこはリリアナ布告との2択だったが、手札の除去を吐かせた方がお前が苦しみそうだったからな」
「性格悪っ!」
ハンデス使うヤツは皆そうよ(偏見)。
ハンデスと除去の強要で攻守がキレイに入れ替わったからな、あのゲーム。
「『ミッドレンジ』は自分から動いて相手を消耗させるデッキだ。『アグロ』の延長線上にあるのもあれば、実態は『コントロール』に近いものもある。『ジャンド』は後者だな。青以外の各色の優秀なカードを集めると、自然と出来る『アーキタイプ』かもしれない」
「グッドスタッフデッキってやつか、だから高いのね。俺にはちょっと組めないかなー」
「色が合えば採用されるカードばかりだから単純に需要が多い。『ジャンド』なんかは土地以外はレガシーでも採用されるカードも多いからな」
流石にそのまま持ち込むには悠長なデッキだが。
レンと6番、モダン禁止になる前に採用されてた死儀礼のシャーマンに至っては、レガシーで禁止を食らっている。
「だからカード自体は強くて分かりやすくても、やれることの多さに比例してやたらと択が多い。そしてゲームによって相手を捌くゲームか、自分から攻めるゲームか一定しない。そのくせ一手の誤りが致命傷になる。60枚全て同じというデッキも滅多に無いし、同じデッキでも使ってる人間によって強さが大きく変わる。定義が一番あやふやで、値段も相まって全体的に上級者向けの『アーキタイプ』だ」
「じゃあなんで組んだの?」
「そんなの私が何も考えてないからに決まってるだろ」
パッと見ハンデスして除去してタルモリリアナレン6出して血編み投げれば勝つ簡単なデッキだったんだもん。
実際回すと思ったより高いし難しいし、勝てないしで驚いた。
「ただし長くMTGをやる気ならオススメする。禁止にはなりにくいし、次に説明する『コントロール』と同じく力量がダイレクトに反映されるから、上手くなったことを実感しやすい。そういう意味では初心者向けだ」
「そういう意味じゃスタンダードキャラか。ただ値段が据え置き機買うより高いのがな。で、『コントロール』ってのは?」
「『コントロール』は相手が動けなくなったところに少数の脅威を投げ込んで勝つ。要は打ち消しやロックをメインに相手の勝ち筋を弾いて、何も出来なくなった所に神ジェイスや5テフェあたりのアドを稼げるフィニッシャーを出す。主に青の優秀なカードを集めた『アーキタイプ』」
これも言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。
「でもそんなキレイなゲームなんてそう多くない。そもそも打ち消してばかりでは絶対に勝てないから、どこかで無理をしなくてはいけない場面がある。この勝ちにいく判断と、何を打ち消すかの判断が難しい」
だから敢えて2~3マナ帯で処理を強要させるカードを採用したデッキもある。『石鍛冶の神秘家』とか『時を解す者、テフェリー』こと『ゲスハゲ』とか。テフェリーは特にストレスなく使える。
相手はストレスがマッハだが。
「……あぁ。私は除去をうったせいでクリーチャー出せなかったけど、『コントロール』は自分から動くと打ち消せなくなるわけね」
「コンセプトに背く動きをしてるわけだから、当然スキが出来る。だが、打ち消し呪文だっていつもあるわけではないから、どこかでアドを稼がなくてはいけない。神ジェイスやテフェリーが採用される理由だな。あと、どの『アーキタイプ』もメタ読みを求められるが、『コントロール』と『ミッドレンジ』は特にそれが重要だ」
「アクションゲームでもキャラ対策は大事だからな。受けキャラは特にそうだ」
ゾノの言葉を参考にすると、対戦ゲームを良くやる人にとっては『アーキタイプ』=使用キャラや装備。メタ読み=キャラ及び装備対策、あるいは立ち回りと言うと分かりやすいか?
「環境に刺さるカードじゃないと、とてもコントロールなんて出来ないからな。あと『ミッドレンジ』以上にデッキ単価が高くなりがちだ。これもMTGに入り込める人向けの『アーキタイプ』となる。有名なのは伝統的な『白青コントロール』か。初手で白青土地が出たら高確率で『コントロール』だと思っていい」
「防御は最大の攻撃、って感じか?『コントロール』は。俺にはちょいと気が長すぎるな」
「私は嫌いではないかな?でも疲れそう」
「同じく長期戦を意識するが、かけた時間を攻撃に転換するのが『ランプ』だ。代表は各種『トロン』や緑のマナクリーチャー、マナアーティファクトを採用するデッキ。可能な限り高速でマナを溜め込み、準備が出来次第、高マナ域の強力なスペルを上から叩きつけるデッキ。性質上『ミッドレンジ』と『コントロール』の中間くらいのゲームスピードになる」
モダンを代表するデッキで根強い人気がある。『トロン』が流行ってる環境は良環境、下位に沈んでいる時は禁止カードが出る可能性があるとも言われる。
「『コントロール』を見るにこれも難易度高そうだけど……」
「どうだろう、案外投げキャラみたいじゃない?」
「序盤の凌ぎ方を覚えるのに苦労するが、最終的には攻めのデッキだからな。終始読み合う『コントロール』より負担は軽い。苦しいのは前半のマナ加速部分、後半に溜め込んだマナの使用先を引けるかどうかだな」
回ったときは読み合い拒否の蹂躙が出来るが、噛み合わなかった時の『ランプ』は本当に悲惨だ。
「回れば生半可なメタカードなんぞものともせず踏み潰す。ただしどうしても事故率は高い。高マナのスペルを序盤に引くと全く動けず、後半に土地やマナ周りのカードを引くとなにも出来ない。キープ基準も経験に大きく依存する」
それと『ランプ』に使われるファッティは『ランプ』以外で採用されることが少ないため、マナクリーチャー以外はそこそこ安く組める。『エルドラージトロン』もアーティファクトを妥協すれば安いパーツが多い。
「最後は時の運、真理だな」
「前半の組み立て作業が難しいってわけね」
「『アグロ』がナイフなら『ミッドレンジ』はこれから弾を装填する拳銃やライフル、『コントロール』と『ランプ』は繊細なスナイパーライフル、乗り込み前の戦車だな。主流のデッキは大体この4つに分けられる」
基本的には『アグロ』は『コントロール』と『ランプ』に強く、『ミッドレンジ』は『アグロ』に強く、『コントロール』と『ランプ』は『ミッドレンジ』に強いという構図が出来上がる。
これでメタが一回りするわけだ。例外はあるが。
「ん?『撹乱的アグロ』と『コンボ』は?」
「その2つはあまりに独特過ぎてな。前者は当てはまるデッキがかなり少ないし、後者は逆に膨大だ。『撹乱的アグロ』からいこう。『撹乱的アグロ』自体が耳慣れない言葉だと思うが、一番分かりやすい言い換えは『クロックパーミッション』かね?」
「前言ってたよね? 『デルバー』だっけ?」
「一番有名なのはそれだな。1~2マナのクリーチャーを出して殴りつつ、相手の致命打や邪魔なクリーチャーを打ち消しや除去で捌く」
「……それ難しくない? 色んな意味で」
「なんでですか先輩?」
そう。そもそも成立させるのが難しい『アーキタイプ』だ。
「前提条件に1~2ターン目にクロック、ある程度パワーがあるクリーチャーと、それを守り、相手のライフを0にするまで敗北を引き伸ばせる、打ち消しなり除去が必要だ。これも0~1マナくらいのものが望ましい」
「……そんな呪文あるの?」
「だから『デルバー』の主戦場はレガシーなんだ。モダンのカードプールで『クロックパーミッション』を行うのはかなり難しい。だったら打ち消しの分でクリーチャーを並べた方が早い」
「確かに普通の『アグロ』とは毛色が違うな」
Willや目眩まし等、0マナで妨害出来る打ち消しの存在がなければ『クロックパーミッション』は難しい。返し1マナの致命的な一押しが本当に致命傷なのだ。
「あとは『Death&Taxes』がある意味『撹乱的アグロ』か?あれも独特過ぎて分類が難しい」
「それも前聞いたね」
「出したクリーチャーで除去やロックを行うから何とも言えない。扱いも難しい」
「んー、『クロックパーミッション』するなら普通に『アグロ』にした方が楽じゃね? どっちにしろやられる前にやるなら」
あまりに都合が良すぎるゾノの疑問。
……計算して言ってるのか、それとも素で疑問に思っているのか分かりにくい。どちらにせよ良い着眼点なので利用させてもらうが。
「それをさせてくれないのが『コンボデッキ』の存在だ」
これが最も好き嫌いの分かれるカテゴリーだろう。
「いわゆる即死ギミックや、無限ループを達成することを前面に押し出した『アーキタイプ』、方法は様々だがロクなものがない。例えば3~4ターン目で、更地にクリーチャーが出てきたと思ったら即死したり」
「一体何が起きた!?」
「欄干のスパイ着地、自身の効果で生け贄に。効果でデッキを上から捲って、土地が出るまでデッキを墓地送り、土地がないから全て墓地へ。あとは墓地でガチャガチャやって12点ドレインと合計16点のクロックで殴り倒す」
「それ大丈夫なの!?」
「あらゆる対策が刺さるがやられて気持ちの良いものではないな。正直○イプどころか公開○ナニー見せられる気分だ」
「言い方ァ!」
「もちろん異様に難しいのもあるけどな。手札、墓地、マナ、デッキ全てを駆動させて回す『ピットサイクル』。ライブラリー修繕を繰り返してデッキをループさせる『サニーサイドアップ』なんかは一人回しのお友達だ」
でもアレにだけは対戦相手いらんでしょ。
読み合いもクソも何もないんだよ。欄干のスパイか、密告人引けるかどうかしかないし。
最初に思い付いた人はスゴいけど。
「別な例だと、『アドグレイス』はデッキを引ききって土地を火力にするスペルで勝つ。『ヘリオッドカンパニー』は無限ライフと無限火力を勝ち筋にしてる」
「それが『クロックパーミッション』が出来た理由か。殴るだけじゃ間に合わない」
「ゾノが納得してくれて何より。レガシーで普通に殴り倒そうとすると『コンボ』の方が早くなる。だから打ち消しを積む『クロックパーミッション』が『ビートダウン』の基準になってる」
『黒赤ビートダウン』なんかは3ターン目に殴り倒すのも不可能じゃないんだけどね。だが、それくらい早くないと、ノーガードでコンボと張り合えない。
ちなみにヴィンテージだと1ターン目黒蓮Mox土地修繕からの荒廃鋼の巨像2ターンキル布陣が、黒蓮Mox土地ダク・フェイデンからのコントロール奪取Time Walkで負けることがあるらしい。
「今までの『アーキタイプ』はナイフとか銃、戦車だったが、『コンボ』はミサイル、『撹乱的アグロ』は工作員といった感じだ」
「『コンボ』だけ別世界だね。工作員ってことは『撹乱的アグロ』は『コンボ』に強いってことね」
「あくまで私見だけどな」
こう言ってる間にも環境は動いているし、私よりMTGを分かっている人は山程いる。
それでもどうやって始めればいいか迷っている人が、少しでも参考にしてくれればと思う。
「散々私意と偏見にまみれたことを言ったが、誰になんと言われようが自分が好きで勝てる、デッキ選びはそれが一番だと思う」
次回は遂に青担当が登場。
ちなみに久園先輩の下の名前は悪男です。妹の扱いが悪い? マルドゥカラーならこんなもんでしょう。前がアブザンなので鬱憤が溜まってたのかと。
次回はエスパーカラーだし仲良く出来ますかねぇ?
前回は久しぶりに評価いただいちゃいました。感想とはまた違った嬉しさがありますね。
カップ焼きそば書く時間がない……。すまぬ……。すまぬ……。
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対戦編1(vs Azorius)
出来れば今日か明日中に後編をあげたいです。
「はーい、それじゃあ連続コラボ最終回、はじめていきまーす。まずはゲストさんの自己紹介から」
「ソフィー・ライブラリアンなのです。よろしくなのです」
さて、連続コラボも遂に最終回。トリを飾るのは妹の同期のライバー、ソフィーさんだった。
アバターは青髪のスタイルのいい魔女。魔法図書館で司書をしてる設定らしい。
「今回はコラボ最終回ということで、対戦をメインにやっていくことになるのだが……。ソフィーさん、ウェルカムデッキはどれがいい?」
「必要ないのです。既に組んできているのです」
「ソフィーちゃんスッゴいやる気じゃん! よーし、早速やろう」
腕まくりする仕草をしながら妹が意気揚々とデッキを取り出す。が。
「いえ。ソフィーはお兄さんとの対戦を所望するのです」
「えー、なんで?」
見た目中学生の少女にすり寄る現役女子大学生がいた。身長は140cmあるかないか、ワンチャン小学生にも見える妹と同い年の彼女は、無感情な硝子玉のような目で妹を見つめて告げる。
ちなみに妹はそこそこ有名な私立大学に一年在学してから、国立大学に入り直しているため、ソフィーさんの方が一学年上だったりする。
その後もしつこく食い下がる妹にラチがあかないと思ったのか、バッサリとこう言った。
「推定ですが、正直スズさんではソフィーの相手にならないのです」
「――」
笑顔のまま妹が固まる。
誰もつっこまなかったが、まあまあ犯罪臭漂ってたからな? アバター同士ならそうでもないが、現実は非情である。
妹もそうだがアバターと、いわゆる魂の特徴が特定されない程度には一致させる、というのがこの会社の方針なのだが、ソフィーさんにはそれが当てはまらなかった。
ただしこの姿は変身魔法ということらしく、特定の条件を満たすとリアルに寄せたアバターに切り替わってしまう。
例えばネットゲームで負けが込むとか、一定時間喋らなかったりとか。彼女の初バズりもこの変身が解けた切り抜きが原因らしい。
社の方針と設定とはいえ、実績のない新人に立ち絵が最初から2パターン用意してあるのは、期待値の高さだったのか、はたまた社長の酔狂か。
「スズさんが黙ったのでお兄さん、よろしいですか?」
「……えぇ。フォーマットは『モダン』*1で大丈夫ですか?」
「問題ないのです」
だが一番の人気の要因は通常時の冷静さと、想定外の事態が起きて取り乱した時とのギャップだろうが。
今回それが見れるとは限らないが。
「いつまで呆けてるつもりだ。どけろ」
「はっ、えっ、あっ、うん。私どうしてればいいの?」
「その辺で踊ってろ」
「オーケー、盆踊りでいい?」
「構わん」
「よし、じゃあさっそく……って踊るか!久園先輩じゃあるまいし」
踊ったのか、ゾノ。一体どのタイミングで何を踊った*2のやら。
「まあ、空気で構わんがな」
「それは不味いから」
「邪魔にならない程度に喋ってろ。アドバイス出来るほどは、やりこんでないだろう?」
本来なら妹と初心者のソフィーさんで、わちゃわちゃ遊んでもらうつもりだった。打ち合わせでもソフィーさんは同意していた気がするんだが。
マネージャーさんには急な予定変更もあり得る、と前もって言われていたが、まさか本当にこうなるとは。
席に座ってデッキを取り出す。
でも正直期待していた自分がいたのは事実だ。彼女がモダンのデッキを組んでくることに。
「では、よろしくお願いします」
「よろしくなのです」
「ダイスの上でいいですか?」
「大丈夫なのです」
ダイスの結果は私が5、ソフィーさんが10。
「先攻を貰うのです」
先攻はソフィーさん、マリガンチェック*3はお互いにキープ。
1マナのハンデスがないのは残念だが〈致命的な一押し〉*4はあるし〈タルモゴイフ〉*5があるならキープだろう。
「アップキープ、ドロースキップ。〈霧深い雨林〉*6を置いて終わりなのです」
「おっ? アップキープドロー……、プロキシ*7じゃなくて本物か。大変だったんじゃないですか?」
「……安くはなかったのです」
青緑のフェッチランド、盛りは越えたがまだまだ値段はする。
「……これ一万近くするフェッチランドじゃ」
「モダンで〈ウーロ〉*8、レガシーで〈オーコ〉*9が禁止になったから、もっと値段は下がるはずだがな。正直〈コアトル〉*10と〈夏の帳〉*11だけなら緑を入れる理由が薄い」
しばらくはショップ側も下げないだろうが、この値段なら同じ対抗色フェッチの〈沸騰する小湖〉*12の方を買うし。
「……〈怒り狂う山峡〉*13をタップイン。ターンエンド」
「エンド時に〈霧深い雨林〉を起動するのです。ライフが19になって〈島〉*14。青1マナで〈選択〉*15。占術は……そのままでドロー」
「あらためてターンエンドで」
「ソフィーのターンなのです。アップキープ、ドロー。〈溢れかえる岸辺〉*16を置いて終わりなのです」
「ターンを貰います。アップキープ、ドロー。〈黒割れの崖〉を置きます。これは黒赤のファストランド。場の土地が2枚以下ならアンタップイン出来ます」
「把握したのです」
さて。〈霧深い雨林〉から出てきたのが〈島〉なら、デッキはもう決まったようなものだろう。
「『青白コントロール/Azorius Control』ですか。随分渋いものを選ばれましたね」
「……もしかしたら『青赤果敢』かも知れないのです」
「そしたら〈霧深い雨林〉や〈溢れかえる岸辺〉は赤のフェッチランドですし、〈島〉からの初動〈選択〉はほぼありません。それに〈僧院の速槍〉*17、〈スプライトのドラゴン〉*18がこのターン出てこないなら、『青赤果敢』はほぼ負けですよ」
何より『青赤果敢』で『ジャンド』を相手取るのはキツい。一方『青白コントロール』なら、どちらかと言えば有利に戦える。
表情には出さないようにしてるが恐らく当たりだろう。
(しかしアゾリウスか。〈致命的な一押し〉が現状死に札になったな。まあ、それは〈歴戦の紅蓮術士〉*19の弾に出来るからいいとして)
ここでのアクションを〈タルモゴイフ〉にするか、〈死の飢えのタイタン、クロクサ〉にするか、今引いてきた〈思考囲い〉*20にするか。
「黒赤2マナ、〈死の飢えのタイタン、クロクサ〉をキャスト。出た時の効果でソフィーさんが自分の手札から1枚選んで捨てる。それが土地なら3点ダメージ。この〈クロクサ〉は脱出してないので、この後墓地にいきます。通りますか?」
「脱出というのは?」
「墓地にあるこのカード以外の、墓地にある5枚のカードを追放して黒2マナ、赤2マナの合計4マナを払うと場に出てきます」
「6/6が2マナで出てきたからうわって思ったけど、やっぱり相応に重いんだ」
「これは1~2枚差すには丁度いいカードだな」
対になるはずの〈ウーロ〉は1マナ多い癖に4枚差しもザラだったし、倍の値段で取り引きされてたがな。
〈クロクサ〉を選んだ理由だが、まず打ち消さないし捨てたカードで多少情報が得られるからだ。『コントロール』相手に〈タルモゴイフ〉や〈思考囲い〉を闇雲に使うのは勿体なさすぎる。
この対面なら最低限どちらかは通したい。
「……通るのです。捨てるのはこれです」
「では〈クロクサ〉を墓地へ」
捨てられたのは2マナの打ち消し呪文〈マナ漏出〉*21。〈タルモゴイフ〉や〈思考囲い〉を唱えていたら間違いなく打ち消されていた。ここで捨てたということは、最低もう1枚は打ち消しを構えているはず。
「ターンエンド」
「宣言時に〈溢れかえる岸辺〉を起動、〈神聖なる泉〉*22をタップインするのです」
「何もありません。そのままどうぞ」
「ターンを貰うのです。アップキープドロー。メインフェイズに〈島〉を置くのです」
「どうぞ」
「青白含む3マナ〈時を解す者、テフェリー〉*23。+1の忠誠度能力を起動、忠誠度が5に。これでソフィーはソーサリーをお兄さんのターンに唱えられるのです。そしてお兄さんは〈テフェリー〉が場にいる限り、インスタントタイミングで呪文が唱えられないのです」
「……なるほど、効果は分かりました。対応ありません」
「ソフィーのターンはこれで終わりなのです」
「私のターンですね。アップキープ、ドロー」
一応の2択か。〈思考囲い〉、〈タルモゴイフ〉のダブルアクション。もう1つは〈歴戦の紅蓮術士〉で〈致命的な一押し〉ともう一枚スペルを切って、横に広げつつデッキを掘る。
打ち消しを警戒しなくていいから、クロックが2以上残る前提なら後者も悪くない。が、裏目が怖すぎてやる意味がない。
「〈新緑の地下墓地〉置いて即起動、〈沼〉*24を出して残りライフ19。1つよろしいですか?」
「なんですか?」
〈テフェリー〉を出したあたりから「ふふーん」と、鼻歌でも歌いそうな雰囲気を醸し出しているソフィー嬢。表情はあまり変わっていないためなんとなくではあるが。
〈時を解す者、テフェリー〉は確かに強力なカードだ。実際、コイツ1枚で詰むデッキは少なくない。
「多分〈否定の力〉*25握ってらっしゃいますよね?」
「……どうしてそう思うのです?」
「土地フルタップで相手にターンを渡しつつ、忠誠度を保ったまま〈テフェリー〉を守る手段なんて、それくらいしかないですから。ただし私は採用していませんが、〈突然の衰微〉*26は打ち消されないのでご注意を」
「そうなのですか。覚えておくのです」
「恐らく〈血編み髪のエルフ〉*27に対しての牽制と、クリーチャーに対しての後出し-3即起動からの返し〈レン6〉*28-1能力での除去を嫌ったんでしょうね」
「……」
この沈黙は図星っぽいなー。どちらも『ジャンド』の主力だから意識するのは正しい。
しかしだ。
「〈沼〉をタップして黒1マナ、〈思考囲い〉。対応なければ手札を見せてください」
「っ……」
一瞬だが顔色が変わった。
ハンデスに対して〈否定の力〉をうちますか? というわけである。対応しないなら手札を見られた上で1枚落とされるが、〈否定の力〉をうつなら1マナで1:2交換である。
こちらとしてはどっちでもおいしいし、ソフィー嬢はどっちもやられたくない。
しばらくの沈黙。
「通る、のです」
「では拝見」
手札は〈虹色の眺望〉*29の土地が1枚と、〈否定の力〉、〈謎めいた命令〉*30、〈ドミナリアの英雄、テフェリー〉*31。
「これハンデス引かなきゃ負けてましたね」
「……早く、選ぶのです」
「まあ、焦らずに。勢いでなんとかなる手札じゃないんですよ。こちらは」
「自分の兄ながら性格悪いなー。知ってたけど」
煽りでもなんでもなく、事実だから仕方ない。ここで迷わず〈謎めいた命令〉を選べるような神手札なら問題ないのだが。
まぁ、ほぼ1択なんですけどね。
「〈ドミナリアの英雄、テフェリー〉で。ライフを2点失います。残り17」
静かに〈ドミナリアの英雄、テフェリー〉が墓地に捨てられた。+1でドローしつつ土地2枚をアンタップ? ちょっと強すぎない? 2回も起動されたら負けに近い。
まだわからないが、ガードをあげるポイントとタイミングを誤ったように思う。『ジャンド』はソーサリータイミングだけでもそれなりに動けるし、なんなら〈血編み髪のエルフ〉だって『速攻』持ちだから最低限の仕事はできる。
「緑含む2マナで〈タルモゴイフ〉墓地は土地、クリーチャー、ソーサリー、インスタント、プレインズウォーカーだから5/6」
「いやおかしいでしょ、そのカード」
一見すると有利に見えるが、まだ五分から、こちらが微妙に不利だ。〈時を解す者、テフェリー〉によって『続唱』が封じられてるのは厳しいし、次のターンに-3起動で〈タルモゴイフ〉は間違いなく処理される。
「ターンエンド」
とにかくゲームはまだ始まったばかりなのだ。
朝見たらオリジナルの日刊に載っててビックリ。こんなニッチ作品でも載るんですね。
皆様のおかげです。ありがとうございます。
後編も可能な限り早くあげられるように頑張ります。
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対戦編2(vs Azorius)
最後にまたしてもどうでもいいアンケートがあります。
「ソフィーの番なのです。アップキープ、ドロー」
状況を整理しよう。まずソフィー嬢が
LP18
手札4
土地
〈島〉〈島〉〈神聖なる泉〉
そのほかのパーマネント
〈時を解す者、テフェリー〉忠誠度5
私が
LP17
手札4
土地
〈怒り狂う山峡〉〈黒割れの崖〉〈沼〉
そのほかのパーマネント
〈タルモゴイフ〉5/6
となっている。先ほどの〈思考囲い〉で彼女の手札4枚の内3枚は〈虹色の眺望〉、〈否定の力〉、〈謎めいた命令〉なのは分かっている。
そして初動は恐らく
「〈テフェリー〉の-3の忠誠度能力を起動するのです。お兄さんの〈タルモゴイフ〉をバウンスして1ドローなのです」
「対応ありません」
だろうな。しかし3テフェにはヤバイ常在能力を持っていながら、何故バウンスに1ドローがついてるのか。
コレガワカラナイ。
「〈虹色の眺望〉を置いてアイムダン、なのです」
「アイムダン?」
「ターン終了の意味だ」
「あぁ、I'm doneね」
「古参の方で使う人がたまにいるな。ではアップキープ、ドロー……」
おいおい土地か。まずい、盤面も手札にも干渉できない。
「メインフェイズ入って〈タルモゴイフ〉をキャスト、対応は?」
「少し、考えるのです」
対面の彼女は口許に指を添え、しばらく手札を見つめ。
「〈虹色の眺望〉を起動、ライフが17点になって〈島〉をエントリーするのです。青3マナ含む4マナで〈謎めいた命令〉。効果は打ち消しと1ドロー」
「では〈タルモゴイフ〉が墓地へ」
「1ドローするのです」
ここでもうワンアクション動ければ、天秤がこちらに傾き始めるのだが、中々そうはいかない。
「〈踏み鳴らされる地〉*1をタップイン、ターンどうぞ」
「アンタップ、アップキープ、ドロー……メインフェイズに、入るのです」
「どうぞ」
「まずは〈テフェリー〉の上の忠誠度能力を起動するのです。忠誠度が3になるのです。そして」
有効牌でも入ったか?
ドローしたカードを見た時に雰囲気が変わった。メインフェイズに入ることを、わざわざ視線、間で問うように確認したのも怪しい。表情こそ無機質なのだが、仕草とか雰囲気が妙に分かりやすい人だ。
「青2マナ含む4マナ〈精神を刻む者、ジェイス〉*2」
「……引かれたましたか。通りますよ」
「兄さんの好きなカードじゃん」
「自分で使うのは好きだが、使われるのは話が別だ」
ハンデスの弱い所よね、こういう今引きに対処出来ないのは。これで3ターン目の〈テフェリー〉が妙手に近くなった。
「〈ジェイス〉の+2の忠誠度能力を起動、プレイヤー1人のデッキトップを見て、そのままにするかデッキボトムに送るか選べるのです。対象はお兄さんなのです」
「どうぞ」
「……そのままでいいのです。〈溢れかえる岸辺〉を置いて、ゴー」
「ではターンをもらってアンタップ、アップキープ」
さてさて、トップのカードはなにかなー(棒)。
「ドロー……、なるほどね」
ちょっと厳しいな、これ。
「……ちょいあったまってきた。どうしようもないな、これ」
「なに言ってんの兄さん」
「見てみるか?ハンド」
「どれどれ……、あー……」
「温かそうだろ?」
「知らないけど、うん」
土地3枚にスペル2枚。スペルの内1枚は〈致命的な一押し〉だから完全に腐ってる。〈歴戦の紅蓮術士〉だって、この盤面をすぐに解決出来るカードではない。
「いや、やれることはあるから本当に詰みってわけじゃないんだがな?プレインズウォーカー2枚出してる『青白コントロール』にこれはもう」
しかも白マナ出せるから〈流刑への道〉*3を考えると、〈怒り狂う山峡〉も安易に起動できない。それに今は〈紅蓮術士〉を通してデッキを掘りたい。
(いかん、妹と盛り上がり過ぎたか)
そう思ったが、対面が気分を害した様子はない。むしろ楽しそうに、少しだけ羨ましそうに見ているような気がする。
ただ、私の苦しむ姿に愉悦してるだけかもしれないが。
「……お待たせしました。赤2マナ含む3マナ出して〈歴戦の紅蓮術士〉、対応は?」
「ノーレスポンスなのです」
「なら着地時、手札を2枚捨てて2ドロー」
「……〈テフェリー〉がいるのに可能なのですか?」
「〈3テフェ〉の常在型能力は『インスタントタイミングで呪文を唱えられない』で、誘発型能力や起動型能力を封じてるわけじゃないので、これは発動します」
「了解したのです」
「ややこしいねー。でも穴があるから許されてるのかな?」
「許されてるわけじゃないが、モダンで禁止にならないのはそのあたりだろうな」
一方で〈もみ消し〉が禁止になってる。1マナで誘発型能力と起動型能力を打ち消せるのは、モダンではやりすぎという考えなのだろう。フェッチランドで土地持ってこれないとなると、ゲームが出来ない。
「〈致命的な一押し〉と〈黒割れの崖〉を切って2ドロー。この時スペルが1枚捨てられたので1/1のエレメンタルトークンが1つ出ます」
肝心のドローの内容は、と。
「遅いけどギリ間に合ったかねぇ。赤1マナで〈稲妻〉*4。対象は〈テフェリー〉」
「〈テフェリー〉が破壊されるのです」
片方はまた土地だ。まあ、それでもかなりマシな手札になった。
「〈血染めのぬかるみ〉置いてターンエンド」
「……〈溢れかえる岸辺〉を起動するのです。1点払って〈平地〉。そこから1マナ出して〈流刑への道〉を〈紅蓮術士〉へ」
「……〈紅蓮術士〉は追放されます。〈流刑への道〉の処理で〈森〉*5持ってきます」
個人的には握っていた方が強い気がするが、2枚目を持ってるのか?
フラッシュバック*6を嫌ったにしても過剰過ぎると思う。
「5テフェ? でも積んで2枚だろうしな」
「強いのになんで?」
そう言えば妹との対戦はほとんどハーフデッキだったな。ならば簡単に説明しておこう。
「5マナ出すって結構大変なんだよ。私もマナカーブ理論に詳しいわけじゃないから雑に計算すると、60枚デッキで土地を24枚いれた場合、4割を11枚の内5枚引いてなきゃいけない」
「聞くだけだと確率低そうに思えるね」
「ドロースペルその他は無視してるがな。だがコントロールと言えど、5マナ以上のカードは安易に積めないのも事実だ。わざわざ『青白コントロール』を選ぶ人間が、確率論を無視するような構築をするのは考えにくい。んー……、ここで無理するようなカードってなんだ? っと、ごめんなさい。ターンどうぞ」
「テイクマイターン。アンタップ、アップキープ、ドロー」
「ソフィーちゃんがちょっとカッコいい言葉使ってる!」
律儀に無言で待つソフィー嬢に声をかける。下手に絡むと燃えそうだから、こちらから話しかけるのは最低限ですませたいが、ここまで静かにされると申し訳なくなる。あと「Take my turn」を気合いをいれて言った気がする、ゲームには関係ないが。
さて改めて考えよう。
下手すれば6マナ必要なカードだ。『青白コントロール』で採用されそうなのは〈終末〉*7だが、今打つ意味はない。あれだって『奇跡』コストで白1マナで打てるから採用するのであって……、代替コスト?
「もしかしてサメか?」
「……メインフェイズに入って〈ジェイス〉の上から2番目の能力を起動するのです」
「〈渦巻く知識〉*8ですね。どうぞ」
「3枚引いて……2枚戻すのです。〈神聖なる泉〉をアンタップイン、残りライフは14点なのです。そこから6マナ」
多分アタリだな、これは。〈致命的な一押し〉切ったのは失敗か?
〈サメ台風/Shark Typhoon〉
「なんかB級映画みたいなカード」
「性能もB級であって欲しかったんだがなぁ」
性能はA級*9なんだよ、何故か。別に6マナ出さなくてもサイクリングにトークン生成が付いてるのが偉すぎる。
「ターンエンドなのです」
「エンド時に〈ぬかるみ〉切ってライフ16。〈草むした墓〉*10タップイン」
「何もないのです」
「私のターン、アンタップしてドロー、メインフェイズ。手札何枚でしたっけ?」
「2枚なのです」
……しかし〈ジェイス〉で〈渦巻く知識〉してその動き?
実際プレッシャーかかるし、辛いが。
「戦闘フェイズへ、4マナ払って〈怒り狂う山峡〉起動。〈山峡〉と〈トークン〉でジェイスへ」
「ノーレスポンスなのです。〈ジェイス〉の忠誠度が1に」
「いや、〈ジェイス〉の忠誠度は0になりますよ?」
「えっ」
まぁ、だよね。
ようやっと明らかに表情が変わった。動揺しているのが手に取るようにわかる。
「まず〈怒り狂う山峡〉が起動します」
「そうなのです。3/3のエレメンタルクリーチャーになるのです」
〈山峡〉をタップさせるところで6面ダイスの1の面を上にして、〈山峡〉に『カウンター』として乗せる。
「殴る時に『1/1カウンター』が乗って4/4になります。これと1/1の〈トークン〉で殴って5点」
ソフィー嬢の口が声にならない「あ」の形になった。しかし、すぐさま取り繕って動きを見せる。
「ごめんなさいなのです。〈怒り狂う山峡〉の起動効果に〈否定の力〉をピッチコストで」
「起動型効果、誘発型効果に対して、打ち消し呪文は基本的に使えません。唱えている訳ではないので。〈時を解す者、テフェリー〉がいてもフェッチランドが相手ターンに使えるのと、ある意味同じです。一応〈もみ消し〉という、それ用の打ち消し呪文は存在しますが、モダンでは禁止になってます」
「……」
ピシリと、音を立てるようにソフィー嬢がフリーズする。
これは……どうなんだ?
不特定多数のオーディエンスはいるが、あくまで野試合で相手は初心者だ。
「どうします?野試合ですし〈サメ〉出す前まで巻き戻します?」
「いえ、結構なのです」
「いや、ここかなり大事……」
「け っ こ う な の で す!」
「あっ、すいません」
えぇ~……、なんか怒られたんですけど。確かに私がドローした後だから、不確定要素が確定してしまっているのは気になるところなんだが。
第一ソフィーさんのプレイングも、間違いとは言いがたいし。
「え~?私も知らなかったし巻き戻して貰った方が」
「気が散るのでスズさんは黙っているのです」
「……」
虎口に自ら飛び込むとは愚かな妹よ……。
私も無神経だったか。ソフィー嬢は手加減を嫌うタイプなのか。
「では戦闘後メインフェイズに〈育成炭泥地〉*11を置いて、早速緑マナ出してライフが15に。〈黒割れの崖〉から赤マナ出して、〈レンと6番〉。通りますか?」
「……通るのです」
「では一番上を起動して〈新緑の地下墓地〉を回収、ターンエンド」
何かあったら終わった後に言おうか。それでも怒られたら、もう私が出なければいいだけだ。
これ終わったら何を書けばいいんですかぇ?
ネタあったらなんか言ってやってください。一応個別のデッキに焦点を当てようとは思ったのですが。
需要あるならMTG以外も書く所存でございます。
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対戦編3(vs Azorius)
追記
コイツまたルールミス(ブロック時のダメージの割り振り)やらかしましましたよ。やっぱ好きなんすね~(白目)
あ ほ く さ
消したらこの作品?
(二度のルールミスは)マズイですよ!
皆さんどうかお慈悲を……。
場の状況
ソフィー
LP14
手札2
土地
〈島〉〈島〉〈島〉〈平地〉〈神聖なる泉〉〈神聖なる泉〉
そのほかのパーマネント
〈サメ台風〉
兄
LP15
手札1
土地
〈沼〉〈森〉〈踏み鳴らされた地〉〈草むした墓〉〈怒り狂う山峡〉〈黒割れの崖〉〈育成炭泥地〉
そのほかのパーマネント
エレメンタルトークン1/1
〈レンと6番〉忠誠度4
「テイクマイターン、アンタップアップキープ、ドロー」
〈レンと6番〉を通したソフィーさん。土地がフラッド気味のこの状況でいても、手札2枚を引き換えにする価値はないと判断したのだろう。だが、〈ジェイス〉の〈渦巻く知識〉で戻したカードに逆転の手段はあるのだろうか。
「終わり、なのです」
「ではアンタップからドローまで」
……遅いとは言え強いな。4枚積んでるから引きやすいカードではあるが。
「〈血編み髪のエルフ〉、『続唱』の処理までいいですか?」
「どうぞなのです」
デッキトップを捲る。
「〈コジレックの審問〉*1。手札を見て3マナ以下のスペルを捨ててもらいます」
「……少し考えるのです」
自身の手札のうち2枚のカードを裏面で場に出しながら、〈血編み髪のエルフ〉と〈コジレックの審問〉に顔を寄せる。
考え込んで前屈みになった時ショートカットの髪が零れて、日焼けとは無縁そうな、なまっちろい首筋が露わになる。ついでに服のサイズが微妙に合ってないのか、力んで屈んだことで背中側に空洞が出来て、綺麗な肩甲骨がチラッと見えた。
20フレームの中段は反応出来ないが、1フレームのパンチラは見逃さない。そんな言葉が頭をよぎった。
「〈コジレックの審問〉に〈謎めいた命令〉、モードは打ち消しと1ドローなのです」
勝手に気まずくなっていたところで、ソフィー嬢の対応が決まったようだ。〈審問〉が打ち消されたか。
「〈審問〉は打ち消されます」
「……〈謎めいた命令〉の1ドロー、場の〈サメ台風〉の誘発能力で4/4のサメトークンが出るのです」
場に「さめとーくん」と書かれた、手作り感あふれるトークンが出てきた。もしかして自作か?
ツッコミたくなったが、今は勝負か。
「今回は関係ありませんが、〈サメ台風〉の誘発能力は唱えた時点で発動しますから、〈謎めいた命令〉の解決前にトークンが出てくるので覚えておくといいですよ」
「……勉強になったのです」
「こうやって偉そうに言ってますが、〈謙虚〉*2なんて使われたら私も処理できないので、ショップとかで気になったら、店員さんに聞くと答えてもらえることもあります」
それにしても〈サメ台風〉が厄介だ。クリーチャーなしで出されたから、動かないと勝てないのに、動くと打ち消しとサメが飛んできて負けに直結する。
対面のマナは残り2、手札は3。とにかく戦闘か。
「コンバット。〈血編み〉でアタック」
「宣言後に〈選択〉、1/1トークンが出て来て占術は……下なのです。ドロー。1/1トークンでブロック」
〈選択〉の存在を忘れていた。
「なるほど、やられました」
「1/1トークンは破壊されるのです」
しかし、これで残り1マナ。
(〈呪文嵌め〉*3が飛んできたら投了ものだが……)
ここで動かないと負けるから仕方ない。
「〈血染めのぬかるみ〉置いて即起動、ライフが14に。〈山〉を持ってきます。黒黒赤赤出して〈育成炭泥地〉で1点ダメージ、残り13。では墓地のカードを5枚追放」
「あ……」
……忘れてたっぽいな。『コントロール』は自分だけじゃなく、相手のリソースも管理しなきゃいけないから難しい。私もしょっちゅう抜ける、というより自分のリソースすら忘れる。
「〈死の飢えのタイタン、クロクサ〉*4、通りますか?」
「通る、のです」
「では着地時に効果、手札の中から自分で1枚選んで捨ててもらいます」
「……〈汚染された三角州〉*5を捨てるのです」
「では土地が捨てられたので3点ダメージ。〈レンと6番〉の-1能力を起動してプレイヤーに1点ダメージ」
訝しむような、少しの間。
「……通るのです」
「〈レンと6番〉の忠誠度が3に、そちらの残りライフは10、ですね。ターンどうぞ」
今、土地を回収してもマナ伸ばす意味がほぼない。だったら〈クロクサ〉ワンパン土地落としに、トークンや〈レン6〉1点火力を絡めて倒せる状況を作った方がまだ追い詰められる、という判断だ。〈稲妻〉を引く可能性も0ではないし。
「テイクマイターン、ドロー」
それでもまだ負けうる、というのが現状だ。どうあがいてもクリーチャーで殴って勝つ、という手段しかないため、〈謎めいた命令〉で時間稼ぎと1ドローされるだけで結構キツい。
「戦闘フェイズまで、トークンで攻撃なのです」
ここで攻撃? また有効牌を引いたのか。
「何もありません、残り9点」
「アイムダン、なのです」
しかし〈謎めいた命令〉は既に2枚見えている。引けないわけじゃないが、〈神秘の聖域〉*6禁止で、手軽に使い回すことは出来なくなっているはずなんだが。
「こっちの番ですね。アップキープでドローまで……ん?」
そういえばいたね、君。欲しい時にこなくて、どうでもいいときに手札にいるもんだから、定期的に抜きたくなるんだけど。
「……あぁ、でもこれ」
普通、速攻を持たないクリーチャーは戦闘後に出す方がいいんだが、今回に関しては戦闘前に出した方が強いかもしれない。
「緑含めた2マナ」
「通りますか?」
「……? カードを見せて欲しいのです」
ソフィー嬢にカードを手渡す。
「なになに?なんかスゴいの出たの?」
「やっと復帰したか。別に大したカード*7じゃない」
拒絶されたショックで魂が抜けてた妹が再起動した。早速ソフィー嬢に肩を寄せて〈漁る軟泥〉を覗き込む。
「2/2のクリーチャーで、緑1マナで墓地のカードを追放? クリーチャーだと1点ライフを回復して1/1カウンターが乗るんだ」
「解説ご苦労」
「なーんだ。別にスゴいってわけじゃないね」
「そうだな」
2マナのクリーチャーとしては標準的なマナレシオを持ちながら、墓地を見れる。優秀ではあるが打ち消しそのものへの解答とはなり得ない。
彼女の手札が〈謎めいた命令〉なら私の負け、だが。
「……もしかしてこのクリーチャーは、召喚酔いしていても墓地の追放が可能なのですか?」
「可能ですね」
「タップしていても?」
「そうです」
途端に顔が険しくなる。
召喚したターン、マナさえあるなら任意のタイミングで複数回使えることが〈漁る軟泥〉の強みだ。
こちらの緑マナの数と墓地のカードを確認するソフィー嬢。やがて苦虫を噛み潰したような顔で、自分の土地を2つタップした。
「……スタック。青含めた2マナで〈瞬唱の魔道士〉*8を唱えるのです」
「対応はありませんよ」
「着地時に〈瞬唱の魔道士〉のETB能力*9が発動、対象は〈謎めいた命令〉なのです。」
「どうぞどうぞ」
「解決後再びスタック、フラッシュバックを得た〈謎めいた命令〉。4/4トークンを出して、モードは……」
「……そっか。この子が出るとフラッシュバック妨害されちゃうから、今出すしかないってこと?」
「正解。ETB能力は唱えた時ではなく場に出た時に誘発するから、〈軟泥〉着地後に〈瞬唱〉を唱えると、フラッシュバック指定前に主要な呪文が飛ばされる。緑マナは最大4マナまで出るし」
こうして話している間にも、対面の彼女は自身の手札とこちらのフィールドを交互に見つつ、無言で思索にふけっている。勝つか負けるかの瀬戸際だ。存分に悩んでほしい。
「フルタップと1ドロー、なのです」
「では解決後に〈漁る軟泥〉が着地」
さてさて、予想通りとは言えこちらも追い込まれているのは事実。どうしようか。
「今のうちに呪文を追放した方が強いかね。緑2マナ出して、〈漁る軟泥〉で墓地に残っている〈謎めいた命令〉と〈流刑への道〉を追放。そして〈レン6〉の1点バーンを〈瞬唱〉へ」
「ノーレスポンス、〈瞬唱の魔道士〉は破壊されるのです」
「終わりで」
「アンタップからドローまで……っ」
またソフィー嬢が固まった、余程酷いカードだったのか、それとも。
(この悩み方だとまた急所引かれたか、いや〜キツいっす)
「……お待たせしたのです。まずはトークン2体で攻撃するのです」
「通ります。残りライフ1」
「戦闘後メインフェイズに6マナ」
「全てのクリーチャーをそれぞれのデッキボトムに送る*10のです」
「破壊じゃなくて!?」
「それちょっとエグいなー、〈終末〉でのトークン誘発にスタックで〈軟泥〉効果。そっちの墓地の〈瞬唱〉追放してライフゲイン、ライフが2点に」
「では改めて〈終末〉を解決するのです。トークンを追放して、ゴー」
「プレインズウォーカーである〈レンと6番〉以外はデッキボトムへ。〈育成炭泥地〉起動、サクって1マナで1ドロー」
そこまで悪くない、が〈否定の力〉が邪魔だな。〈タルモ〉あたり出せれば殴って勝てそうなんだが。
「アンタップ、アップキープ、ドロー」
マナが寝てるとは言え、〈否定の力〉を打たれたら即終了。しかもあっちは手札が3枚。動けば〈山峡〉を起動出来ないから、折角ならもう一手欲しい。
「〈レンと6番〉の+1を起動、対象は〈育成炭泥地〉」
「ノーレスポンスなのです」
「ではそのまま置いて、ドロー効果を即起動」
舐めるように、カードを引いた。
「ぶっ!」
「汚ったな!」
あまりにアレな引きだったものだから、喜ぶより驚いてしまった。
「すまんすまん。ソフィーさんも申し訳ない」
「問題ないのです」
表情こそ最初の無表情に戻っているが、緊張しているのだろう。その証拠に、ポケットからハンカチを取り出して手を拭いている。
(……ここは花を持たせてやるべきか?)
正直、私自身は結構満足している。ある程度拮抗したデッキ同士の対決で、大きなプレイミスはしなかったし、その時どきのベストな動きを選択出来たと思えるからだ。
私は負けてもノーダメージだが、しかし彼女は違うだろう。あんな意気揚々と勝負を挑みながらミスして負けたとなれば、SNS上で話題になること間違いなしである。
ライバーとしてはそれがいいのかもしれないが、私個人としては初心者が煽られるようなことはしたくない。ソフィーさん、煽り耐性低そうだし。
(……いや、でも勝ったら勝ったで、性格的にこっちの手札を確認してきそうだ。すぐデッキをしまう? 感想戦やサイドデッキについて話す予定だったから、それは不自然なんだよな。バレると余計に傷つける)
それに自分だって初心者に負けたくない思いはあるしなぁ。
あーやだやだ、こういう時はエゴイストな自分が嫌になるねぇ。
「想像以上に引きが良かったもので。ここまで来て最後に手を抜くのは失礼ですね」
ほら。パッと見丁寧だけど、所詮は自分を正当化するための言い訳だ。「うっかりしてた」とか言って、適当に片付ければいいのに。
「黒1マナ、〈コジレックの審問〉。対応は?」
「……〈否定の力〉なのです。ピッチコストは〈呪文嵌め〉。〈サメ台風〉が誘発するのです」
「どうぞ。〈審問〉は打ち消されます」
場にはサメトークン。このままだと負けるため、もちろんまだ動く。
「赤1マナで〈稲妻〉。対象はサメトークン」
「う……破壊されるのです」
これで場は空に、あとは手札をむしり取るだけ。
「3マナ払って〈ヴェールのリリアナ〉*11。対応ないなら+1喋ってお互いにハンデス。私は手札0なので変わらず」
「何もない、のです……」
「うわぁ……これ兄貴の方がエグかったパターンだったか……」
ぺたりと、最後の手札が墓地に置かれた。
「〈マナ漏出〉ですか。私はターンエンド」
有利だが〈選択〉、〈流刑への道〉から1/1トークン2体で負ける。
「……アンタップしてドロー。……終わりなのです」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。リリアナ+1に対応は?」
「〈瞬唱の魔道士〉をキャスト! フラッシュバック対象は〈選択〉なのです」
「では手札を捨てるのは私だけですね。〈地下墓地〉が墓地へ」
〈瞬唱〉は出されてしまったが、〈選択〉1枚ならまだ負けない。
「〈レン6〉の-1を起動。〈瞬唱〉に1点ダメージ」
無言でソフィーさんが〈瞬唱の魔道士〉を墓地へ送った。
「〈山峡〉起動してコンバット」
「〈選択〉をフラッシュバック、1/1トークンが生成されるのです。占術は……下なのです。ドロー、ブロックはなし」
「1/1カウンターが乗って5点、残りライフも5点ですね。ターンエンド」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。……サメトークンで攻撃」
「通ります。残りライフ1」
「ゴー」
「ではターンをもらって、ドローまで。〈山峡〉起動してコンバット」
少しの沈黙が流れる。
「ソフィーの負け、なのです」
「……ありがとうございました」
頭を下げつつ、それとなくソフィー嬢の様子を見る。
「……」
(あー、これは)
彼女の名誉の為にも、私はしばらく声をかけない方がいいか?
「めっちゃ良い勝負だった! スゴイね、ソフィーちゃん」
「べつに、そんなこと、ない、のです」
流石はプロか。少し声が震えてるがちゃんと聞き取れる。妹も気付かないフリをして会話を続ける。
「えー? 私なんてなす術なく達磨にされたよ?」
「それは、スズさんが考えなし、だからなのです」
「ひっど! 私にだけ厳しくない!?」
「……事実を言ってるだけなのです」
「事実しかないな」
「兄貴にだけは言われたくないわ!」
思ったより立ち直りが早かったな。存外気が利くじゃないか妹も。私の妹とは思えんな。
……姉さんの妹だからか。
「とりあえず一戦終わったから解説いくぞ。今度は『サイドデッキ』を含めた感想戦だ」
禁止改定があったから書き直さなきゃいけない問題。一区切り待ってください。
次回か次々回でまた一区切りのつもりです。
区切ったら何しましょうか。最初はデッキ紹介か、人気のある組み合わせでどうでもいいオマケでもしようかとも思いましたが、どうなんでしょう? 掲示板回なんていう案もいただきましたけど、キャラ5人でヒイヒイ言ってる人間に書けるんですかねぇ? 需要あるならチャレンジしてみますが。
1組だけ人気皆無の組み合わせがあるんですよね。どういう意味なんでしょう(震え声)
何かネタがあれば言ってください。別に載ってない色の組み合わせでも大丈夫です。
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