赤き冒険者の辿り着く先は (ジャスサンド)
しおりを挟む

冒険1 陽気な旅路で

テイルズ 熱が再び燃え出したのとリハビリがてらに新しい作品を書いてみました。
完全に勢いで書いたので続くかどうか未定ですが


チュンチュン、と囀ずる小鳥の鳴き声。

それを程好い温かみに密かに快感を覚えながら長槍を背負った男は平坦な道を歩く。

黒のブーツの下で土の感触を味わい、明るめの赤いコートと短めの黒髪を揺らす風に心地好さを感じる。

 

「おーい!早く来なよ。こっちに何か装置があるよ!」

 

「ああ、すぐ行く」

 

快晴の空に響く先を行く同行者の声。男は手短かに返事をすると、やや歩行速度を早める。

道が平坦から下向きの傾斜に変わったところで男は同行者に追い付く。

草木の生い茂った地面には奇妙な模様が彫られた装置のようなものがあった。

その前で男は腰元の革製ポーチから丸まったおにぎりを二つ取り出し片方を同行者に手渡す。

 

「一度休憩にするか。朝からまだ何も口にしてなかっただろう」

 

「そうしよっか。食べ終わったらさっそく装置使って中に入ろ、う~今から楽しみだよ~!」

 

「同感だ。面白い冒険の予感がする」

 

二人は装置の目の前で遅めの昼食を取ることにした。

揃っておにぎりを頬張り白米を噛み締めながら話を始める。

 

「この装置の向こうにはどんな面白いものがあるんだろうね」

 

「装置の見た目から考えるに里の物と同じようだしもしかするとアンマルチアに関係した何かがあるのは確実だろう」

 

「そうだったら願ったりかなったり。とことん調べんぐ!?」

 

急いで食べたばかりに白米が喉に詰まり顔を真っ青に変える同行者。

その様子に自分の分をさらっと平らげた男は軽く笑いながら、同行者の背中を軽く叩く。

 

「食事くらいゆっくり落ち着いてしたらどうだ?謎は逃げたりしないさ」

 

「うっ、げほっげほっ!ありがと、助かった助かった、あはは」

 

「今からそんな調子で大丈夫か?言うまでもないと思うがこの先にある場所にはトラップが仕掛けられている可能性もあるんだぞ?」

 

「へーきへーき、さて!お腹もいっぱいになったし早速探検レッツゴー!」

 

危うく窒息しかけたことなどすっかり記憶から抜け落ちたのか、同行者は軽快なステップを踏んでそそくさと装置へ向かい、操作を始める。

本当に大丈夫か、と口に出しかけた言葉を飲み込んだ男は口元を綻ばせると、赤い石が埋め込まれた腕輪をつけた左手首側の親指と中指を打ち合わせパチンと音を鳴らす。

 

「何かあれば叱られるのは俺の方なんだがな…まあ何時も通りにやれば問題ないか、さて探索スタートだ」

 

 

装置を使って辿り着いた先は遺跡だった。

遺跡はどうやら地下遺跡のようで太陽の光は差し込まない。

だが光源はところどころ遺跡を支える役割を担っていると思われる柱に配置されており、群青の光が薄暗い内部を照らしている。

 

「至るところに青い光…里にも似たような仕掛けがあったな。壁の紋様も僅かではあるが共通するのがある、入り口の装置といいやはりここはアンマルチア族の遺跡でほぼ決まりのようだな」

 

「みたいだね。でもどのくらい昔に造られた遺跡なんだろ、こんだけデカイのなんて久々だよ」

 

「少なくとも三世紀は昔に造られただろうな。三世紀前の文明を記した文献に載っていた遺跡の絵がこの遺跡によく似ている」

 

微かに空間を照らす青い光を頼りに壁やそこに刻まれた文字、不思議な力で移動する床を手当たり次第に調べ各々の分析を口にする二人。

 

「移動仕掛けの床まで同じとはさすがアンマルチア族の遺跡だな…入り込んだ魔物がいるのが少々面倒だが」

 

「こっちのは里にはないのがあるよ。何かの機械かな」

 

途中外から同じように入ってきたであろう魔物に邪魔されつつも、遺跡内部を粗方調べ尽くした二人。

男は同行者が手を付けている機械に着目する。

その機械の奥には床に丸く縁取られた装置のような物が置かれていた。

 

「これもアンマルチア族の発明した技術か…動かせるのか?」

 

「これがこうだから、ここをこうしてっと。うんたぶん平気」

 

「俺はそういう機械は専門外だから口出しするのもおかしな話だと思うがお前の手つきを見るたび不安になるのは気のせいか?」

 

「えーなんでよ」

 

「いや、問題ないなら一向に構わないんだが、毎度毎度見ただけで使い方が分かるお前がいつか間違って変なことに引っ掛からないか心配でな」

 

こういう遺跡で珍しい遺物を見つけたらいつもそうだ。

ちょっと外見を調べただけでそれがどういう物なのか何をすれば動かせるのか、こちらが答えが出せず手をこまねいている間には既に手に取るように把握している。

十何度目かですっかり馴染んだが、いずれミスをして危険な目にあうのではないかと思うと末恐ろしくなってくる。

しかしその心配を他所に同行者は恐れなどないかのように装置を操り、たちまちの内に起動させてしまった。

 

「大丈夫だって心配しないで。もし何かあったらその時はその時ってことで。お、動いた!」

 

「相変わらずの早業だな…」

 

余りの速さに男の口から出たのは尊敬よりも呆れの言葉だった。

その言葉を聞いているのかいないのか同行者は着々と指を動かせ、立体映像を投影させる。

見たところ映像は、長めなツインテールが特徴的な小柄の少女の形を成していた。

 

「うひゃあ、変わった幻だね」

 

「これは…アンマルチア族の少女、なのか?だとして何故過去のアンマルチア族はわざわざ少女の幻を記録としてこの遺跡に残した」

 

「んー今のところは何とも言えないな。他には何もないみたいだしこりゃ期待外れかな」

 

「もう行くのか?もっと探索する行為自体を楽しんで…っておい、聞いてるのかー」

 

大方見終え装置を切った同行者は遺跡に目ぼしいものもなくなったと分かると、自分たちが来た方とは反対の出口を目指して歩き出す。

呼びかけても反応がないことを不審に感じた男が装置から視線を切り離して見る。

 

「…やれやれ」

 

自由奔放過ぎる同行者がもう自分の声が届かない場所まで行ったのだと察した男は、お手上げと言いたげな仕草をとってから渋々駆け足で急行した。

 

「勝手過ぎるな。本当に」

 

 

遺跡を出た先は先程見た景色に似通った道が広がっていた。

より一層元気になる同行者を恨めしそうにジト目で睨む男は手頃な岩の上に座り、ポーチから地図を広げて位置を確認する。

 

「んくっ~!遺跡には満足だけどやっぱり日差しはいいね。体がスカッとするよ」

 

「それはよかったな。グレルサイドから遺跡を通ってバロニア方面に抜けたなら今はウォールブリッジか。夕暮れ時までにはバロニアまで辿り着きたいところだが」

 

今二人がいるのはグレルサイドと王都バロニアの中間地点に設置された要塞ウォールブリッジ。その近辺の原っぱ。

ウォールブリッジは王都防衛のために築かれた堅牢な要塞のような建造物で、他国から攻められた場合に備えて常に兵を在中させている。

 

「あれがウォールブリッジか。実際に見たのは初めてだよ。ほんと大きいね~」

 

「バロニアの重要拠点の一つだからな。それにしては警備の兵士の様子がやたら警戒心剥き出しのような気がするが」

 

地図から目を離して振り返って見ると、ウォールブリッジ門を警備する甲冑を着込んだ二人の兵士から発せられる刺々しい視線が妙に気になってしょうがない。

 

(以前来た時は兵士達にあれ程まで緊迫した雰囲気はなかったように思えるが…何かを警戒しているのか、いや探しているのか?誰を?)

 

通常時に比べていささか警備の目付きが険しいような気がするが、あちらはこれといって目立った動きは見せていない。

こちらを視野に入れているのにも関わらず。となると少なくとも自分たちは探し物の対象には入っていないということだろう。

しかし一度抱いた疑念を解消せねば気が済まない性分をしている男は手頃な大きさの岩を枕代わりにする同行者に、一言声をかける。

 

「ちょっと離れる。すぐ戻るから変なことはするなよ」

 

「ほーい」

 

男にそう適当に相槌を打った同行者は木陰へと移動する。

お腹が満たされているからか、遺跡探検の疲れからか睡魔に襲われ、瞼が重たくなる。

寝てはなるまいと懸命に開こうと尽力する同行者の視界にふとそれまでなかった紫色の髪が映り込む。

 

「ん~?」

 

気になって目を開けると紫色の髪をツインテールに束ねた小柄な少女が覗き込むようにこちらを見ていた。

 

「……」

 

瞬間、同行者の眠気が吹き飛んだ。

無言で同行者は腰を上げると少女の肩に触れた。

 

「うぎゃああ!?」

 

その刹那少女は無表情のまま同行者を拒絶する意思表示に突き飛ばし、面白い速度で飛んだその体は岩に激突し騒々しい物音が付近に響く。

 

「今のは何の音だ!?無事か、ソフィ!」

 

「あの人が…触ってきた」

 

只ならぬ音を聞き付けて少女の元に背丈の似た二人の男が駆けつけた。

片や黒衣に映えた金髪が印象的な高貴な育ちが顔立ちをした男。

片や白衣を纏い堅実そうな雰囲気を醸し出している男。

どちらも鞘にしまわれた剣を携えており、ソフィと呼ばれた紫髪の少女を庇うように前に進み出る。

 

「触れた…触れたよね」

 

「何者だ!?」

 

白衣の少年が警告を出し腰に回した剣の柄本に手を添えるも、同行者は聞く耳を持たず二度ソフィの肩に腕を伸ばす。

 

「妙な音が聞こえたがまた何をしでかしたんだパスカル」

 

三人と一人の間に不穏な雰囲気が流れ、一触即発になりかねない状況が進行する中場を離れた男が戻ってきた。

彼は同行者と三人を交互に見渡すと、同行者に向かって目を細めて呆れたように呟く。

 

「しばらく離れた内に何かあったんだ?」

 

「あ、おかえり!ねえ、見てよあの子」

 

「それよりもまず状況を説明してくれないか?」

 

「んとねえ、あの子があたしのところに来てさ」

 

「あの子…?」

 

男は視線を同行者から切らし三人組へと移す。

白衣と黒衣の少年らより小柄な体格をしたソフィに目を落とす。

 

「彼女、どこかで会ったような気がするが気のせいか…?」

「でしょでしょ!さっきの装置に関係があると思うんだ!」

 

「装置、ああ、先程も見たような気がしたのはそれでか」

 

同行者が嬉々として語った内容に納得する男。

その彼が会話にあった装置を振り返っているとソフィは同行者の方を指で指し示し、男に言った。

 

「その人が急に触ってきたの」

 

「そうなのか?」

 

「だってさ似てたんだよ。さっきの装置にあった幻に」

 

「だってよりも先に謝ったのか?」

 

「ううんまだ」

 

「なら先に謝罪をするのが当然だ。他人に迷惑をかけたらどんな言葉よりもまず先に謝罪を言うべきだとフーリエ姉さんからも教わっただろう」

 

「ほ~い」

 

男にそう注意と言うよりもお叱りを受け、のんのんとした声色で返した同行者はソフィの前まで移動するときぱきぱと謝りを入れる。

 

「えっと、さっきはごめんね。驚かさせちゃってさ」

 

「俺からも謝らせてほしい。すまない、俺の連れが迷惑をかけたようで」

 

「うん、びっくりしたけどもう気にしてないよ」

 

「許してくれるの?ほんとに?よかった~じゃあ触ってもいいよね?」

 

「言った矢先に同じことをするんじゃない」

 

「ふえ〜」

 

男は動きを予測していたのかまたしてもソフィに触れようとする同行者の首根っこを片手で掴み取り、自分の手元に引き戻す。

ぶーたれる同行者の首根っこをそのまま離さず、男は黒衣の少年に目がいく。

 

「彼は…」

 

「誰?もしかして知り合いだったりする?」

 

「…そちらの彼、違っていたらすまないがリチャード殿下ではないだろうか?」

 

同行者の言葉を無視した男の口からもたらされた名に黒衣の少年は目付きを険しくし、白衣の少年も警戒を強め始めた。

 

「まさか…!追手か!」

 

「こんなところまで、リチャードをどうするつもりだ!」

 

「落ち着いてくれ。あんまり大声を出すと気付かれてしまうぞ、見張りの兵に見つかっては都合が悪いのだろう?」

 

男は浴びせられる敵意に近い警戒心にたじろぐ気配を見せず寧ろ彼らを気遣う言葉を投げかけた。

その態度に少年達は警戒心を緩めたのか険しい面持ちと戦闘態勢を解き、話を聞き入れる。

 

「僕らの事情を知っているようだけど貴方は一体?」

 

「まだ名前を名乗っていなかったな。俺はヘンリー、こっちはパスカルだ」

 

「パスカルだよ、よろしく~!」

 

「ヘンリー、もしや貴方は-」

 

「リチャード彼を知ってるのか?」

 

「世界各地を巡る冒険家で数多くの地を回りその旅の記録を本にしているんだ。僕も城でよく彼の本を読んでいたよ」

 

「そんなに凄い人なのか」

 

黒衣の少年-リチャードから聞いて白衣の少年は物珍しそうにヘンリーに視線を戻す。

それを受けてヘンリーは照れくさそうにするでもなく淡々とした声色でリチャードに問うた。

 

「先程見張りの兵士から聞いたのだがリチャード陛下は追われている身だそうだな。本当なのか?父である国王を殺めたと彼らは言っていたが」

 

「違う。リチャードはそんなことはしていない。リチャードは罠にかけられて今も命を狙われているんだ」

 

「父を殺したのは叔父、セルディックだ。僕達は彼の手の者から逃れるためにグレルサイドに行こうとしているところなんだ」

 

「濡れ衣を着せられたということか…そういうことなら協力させてもらおう」

 

尚もパスカルの首筋を掴んで離さないヘンリーの申し出にリチャードと白衣の少年は意外そうな顔をする。

 

「いいのかい?」

 

「ああ、その話が本当なら放ってはおけないしな。それに何より…」

 

チラリと、ヘンリーはソフィへキラキラした好奇の眼差しを送るパスカルに目をやる。

 

「パスカルの興味が君たちの仲間に夢中のようだからな。申し訳ないが彼女の興味が完全に解消されるまでリチャード殿下と共にいてもいいだろうか?」

 

「申し訳ないだなんてとんでもない。むしろ協力してくれることに感謝します。俺はアスベル。アスベル・ラントです」

 

「わたしはソフィ。よろしくね」

 

「短い間になるだろうがよろしく。それでリチャード殿下たちはグレルサイドに行くと言っていたが」

 

「グレルサイドには僕の助けとなってくれるであろう人がいるからね。でもグレルサイドに行くにはこのウォールブリッジを通らなければならない」

 

大陸と大陸を繋ぐように建てられた要塞、ウォールブリッジ。

リチャードらの目的地であるグレルサイドはこれを越えた先にあるのだが、警備の兵士がいる以上普通に通過することはできない。

 

「だが別の道を探そうにもそんなものがあるかどうか」

 

「ある」

 

悩むアスベルの言葉にヘンリーが間を置かず即答する。

 

「本当かい?」

 

「この地中にある遺跡を通っていけば兵士たちに悟られることなくグレルサイドに行けるはずだ。俺たちも先ほどグレルサイド方面からその遺跡を調べてここに来たから情報の信憑性については心配しなくていい」

 

「そうだね。それにソフィにあの幻を見せれるし、まさに一石二鳥ってやつだね」

 

パスカルに関しては主に後者の方が重要度が高いと思っていそうだが、二人とも善意で協力を申し出てくれているのはこれまでのやり取りで充分に伝わってきた。

アスベルは二人の言葉に従おうと思ったが、言葉を出すよりもまずリチャードに意見を求めた。

自分が何を思ったとしても今一番に考えなければならないのはリチャードの安全であるからだ。

 

「どうする?リチャード?」

 

「僕は彼らの意見に賛成だよ。悪い人には思えないし、他に思い付く方法もないしね」

 

リチャードも二人を信じるに値する人柄の持ち主であるとみなしたようだ。

彼が自分と違わぬ判断を下してくれたことにアスベルは安心と喜びを抱いた。

 

「どうやら賛成みたいだね。それじゃあ今すぐレッツラ、ゴー!」

 

「静かにしろ。見つかってしまうぞ」

 

意気揚々と高らかな声を上げるパスカルを対照的な落ち着いた声で諌めるヘンリー。

 

本当に大丈夫だろうか…先ほどとは違った懸念がアスベルを襲った。




戦闘終了後掛け合い

パスカル「この勝利を近所のおばさんに捧げる!」
ヘンリー「具体的にどの辺りだ?」
パスカル「えっとねぇ、右隣の家のおばさん!」
ヘンリー「その家にいたのは若い夫婦だったな」
パスカル「あれ?そうだっけ、だったら真向かいの家のおばさん!」
ヘンリー「そこはおばさんではなくおじさんだったな」
パスカル「えー、どこ行ったんだろ。おばさん」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。