東方澪咲禄 (見知らぬ誰か)
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第01話

「行かないでよ。○○○」

 

 懐かしい夢を見た。それはとてもとても昔、私が6歳ぐらいの頃、紅魔館の主(ぬし)で私の主(あるじ)お嬢様に拾われた当時の記憶だ。思い出……いや、想い出……ただの小さな思いじゃない、想い。

 お嬢様、狂気の安定している妹様、パチュリー様、美鈴、小悪魔が全員で紅魔館の門の前に立っていた。

 あれは、確か満月の終わった十六夜の夜だった……

 

 私達は誰かを見送っていた。その誰かとは誰だっただろうか?

 

 でも、私の言った後半が聞こえない、人の名前を言っているのだろうが……聞こえない。

 

「ほら、咲夜。泣かないの」

 

 お嬢様に頭を撫でられ、美鈴にぐずっている私……幼い頃の小さい私。

 何であんなに泣いているんだろうか?

 

「行っちゃ嫌!!」

 

 幼い私が誰かに向かって叫ぶ。その誰かは口を開いて言った。

 

「そりゃあ、流石の咲夜からの頼みでも聞けないなぁ……」

 

 若干ふざけたように言う誰か……一体誰だろう?思い出せない……一体、誰だったろうか?

 

「まったく、咲夜をこんなに泣かして……帰って来なかったらグングニルで刺すからね。おまけにフランのレーヴァテインもね」

 

 お嬢様の真剣な、遊びの無い言葉。笑ってはいたのに目が笑っていなかった。

 

「おいおい、レミリア……帰ってきてないのにどうやって刺すんだよ」

 

 お嬢様が困ったような顔をする。

 

「ねぇ、また遊んでくれる?○○○」

 

 妹様が寂しそうな声で誰かに言った。

 妹様の言った誰かの名前も聞こえない。酷いノイズが走るような音でしか名前が分からない。

 

「ああ、相手になってあげるよ。でも、ちゃんと俺の居ない間も練習はするんだよ?」

「うん!!」

 

 妹様が誰かに言われた事で元気になる。

 

「じゃあ、帰って来た時はいつもみたいにお話をしてね!いつもみたいな話じゃなくてお土産話だよ?○○○の話は面白いから」

「いつも話してるのは殆ど嘘ばっかりだし、面白い事も無いと思うが……分かったよ」

「わぁーい!!」

 

 そう言えば、薄らとではあるが妹様が自主的に自分の力を練習し始めたのはこの頃だったような気がする。

 

「私にはその序でに美味しいお土産も頼むよ」

「どさくさに紛れてそう言う無茶を言ってくれる…………」

「分かった?持ってきなさいよ?」

「はいはい、了解」

 

 誰かはその後、他の美鈴やパチュリー様、小悪魔に一言づつ言ってから私の前に来る。

 誰かが何か言う前に幼い私は言った。

 

「…………や」

「困ったなぁ……このまんまじゃ、流石に駄目だしな……」

 

 誰かは私を真っ直ぐに見る。再び幼い私が言う。

 

「…………絶対に……や」

「じゃあ、これをあげよう」

 

 誰かは幼い私に何かを渡した。それは私が今も使っている純銀で作られた鎖の付いている懐中時計だった。今、私の使っている少し輝きの薄れた懐中時計とは違いキラキラに輝いている懐中時計だ。

 

「これが、俺と咲夜を繋ぐ物だ」

「ほんと?」

「ああ、本当だ。出来るだけ早く帰って来るよ。咲夜が大人になる頃にはね」

「……約束?」

 

 幼い私は小指以外を握った手を誰かに差し出した。

 

「ああ、約束だ」

 

 誰かは同じく小指以外を握った手を差し出し、小指同士を絡ませながらそう言った。

 

「ん…………」

 

 誰かと私は同時に手を離した。

 

「じゃ、皆行ってくるよ。何か用事があった時は皆に渡してある魔導石で頼むよ」

 

 誰かはそう言うと背を向けてどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「じゃあねー!!○○○!!」

 

 最後に聞いたのは幼い私が言った誰かへの叫び声。

 そして夢の最後に見たのは淡い青色の光だった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 今日は何故か寝起きの悪い私が珍しく普段よりも2時間ほど早くスッと目覚めた。その代償は、夢の謎だった。

 

「あれは、誰だったのかしら……?」

 

 顔は黒インクで塗りつぶしたように見えず、名前の部分だけが酷いノイズで聞こえない。

 

「……磨導石…………」

 

 咲夜はベッドから降りると時間を止めて自分の部屋ありとあらゆる引出しや収納スペースを探し、夢の中で聞いた『魔導石』を探した。

 

「これかしら…………」

 

 部屋を散らかしながら小一時間ほど探して見つかったのは引出しの最奥にあったのに色褪せていない銀色の石だった。

 私は散らかった部屋を片付けて、ついでにメイド服に着替えて身なりを整えてから時間の停止を解く。

 

「……これ、どうやって使うのかしら……?」

 

 私は部屋にある椅子に座り、テーブルに頬杖をつきながら銀色の魔導石を眺めた。

 

「……すこし霊力を込めてみましょうか」

 

 私は霊力をコントロールし魔導石に霊力を込めるが何も起こらない。

 

「…………」

 

 更に多くの霊力を込めるがやはり何も起こらない。

 

「……あっ……!!」

 

 何となく懐中時計を見ればまもなく朝食の時間だった。

 

「大変!!」

 

 私は急いで厨房に向かうがそこには先客が居た。厨房からはいい匂いがしてきており料理をしているようだった。

 

「…………ん?もしかしてメイド長の方?」

 

 そう聞いてきた人は髪が真っ白だった。

 

「ええ、そうですが何か」

「んじゃ、咲夜なんだね?」

「ええ、紅魔館のメイド長を勤めている十六夜 咲夜です」

 

 その人は何かを焼いていたのか火を止めてフライパンに乗っていた物を皿に乗せてからこっちを向いた。

 肌は驚くほどに白く、髪も真っ白で目は紅かった。俗に言うアルビノと言う奴だろう。

 

「貴方は?」

「あれ?覚えてないか?」

「見覚えがありませんね」

「んー……あんときゃ美鈴にぐずるほどに俺が行くの嫌がってたのになぁ……

 しゃあないか、俺は水無月 澪羅だ」

「水無月……澪羅……」

「ま、以後お見知りおきをってところだな」

 

 彼は作ったのであろう料理を全てカートにのせて食堂に運んだ。

 食堂にはすでにお嬢様に妹様、パチュリー様、小悪魔、美鈴まで座っていて飲み物を入れるグラスもナイフ、フォーク、スプーンも用意してあった。彼が1人で全て用意したのだろうか?

 彼はカートで持ってきた料理を運ぶと同時にグラスに飲み物も注いで行く。お嬢様と妹様には人間の血を、他の者には彼が見て上物だと思われるワインを。用意してある血のお替わりも36度前後のお湯に浸していて、ワインも冷やして置いてある。料理からテーブルマナー……何から何まで分かっているようだった。

 

「さて、咲夜。椅子に座りな?レミリアが始めるそうだ」

「え……?」

「メイド長の席はあっちだ」

 

 水無月様が指したのはお嬢様の左斜め前の席だった。

 訳の分からないまま私は椅子に座り、彼は何時も空席だった私の前に座った。

 

「じゃ、私の親友であり執事長である『水無月 澪羅』の帰宅を祝って……乾杯!!」

『乾杯!!』

 

 お嬢様がそう言ったので私は訳の分からぬままワインの入ったグラスを挙げてワイングラスをぶつけないように乾杯をした。

 本日の朝食メニューはビーフシチューにローストビーフ、サラダにフランスパン(恐らく彼の自作だと思われる。理由は昨日在庫を確認したが無かったため)だった。さらに個人メニューでお嬢様と妹様には人肉ステーキ(量的に400グラムほど)、パチュリー様と小悪魔、私と水無月様は牛肉ステーキ(私は300グラムでパチュリー様、小悪魔は350グラム、彼は400グラム)、美鈴には北京ダック(鴨1匹丸ごと)が置いてあった。しかも、お品書きまで用意してある……恐ろしい用意周到さ加減ね……。

 照明は普段は蝋燭を使っているのに今回の朝食は様々な所に配置してある淡い青色の光を放つ立体魔法陣で部屋を照らしていた。

 

「綺麗……」

「咲夜、手が進んで無いけど具合でも悪いのか?」

「え……あ、大丈夫ですよ」

「なら、良いけど」

 

 彼は立ち上がって飲み物を乗せたカートから血液の入ったボトルを手に取り、

 

「レミリア……ん…………お嬢様、血のお替りは如何ですか?」

「前と同じで良いわよ。疲れるでしょう?はっきり言って堅苦しい敬語は咲夜だけで充分よ」

「そうか?なら、良いんだけどさ……

 レミリア、血のお替りは?」

「貰うわ」

「あいよ」

 

 彼は慣れた手付きでお嬢様のグラスに血を注ぐとカートに血のボトルを戻し、カートを押して妹様の所にまで行って……

 

「フラン、血のお替りは?」

「頂戴!!」

「はいよ、承ったよ」

 

 妹様のグラスに血を注いだ。

 

「ありがとう!!」

「どういたしまして。それで力の制御はどうなった?」

 

 そこでパチュリー様が入る。

 

「一番結界強度の低い1枚目を破らないほどにまで制御出来るようになったわ。」

「良くやったな、フラン」

 

 水無月様が妹様の頭を撫でる。

 

「わーい!!」

 

 妹様が喜んでひっくり返りそうになるのを水無月様が止める。

 

「フラン、後ろに勢い良くよっかからない。倒れたら危ないだろ?」

「はーい」

 

 その次はパチュリー様の所へ行き

 

「ワインのお替りは?」

「ええ、お願い」

 

 水無月様はパチュリー様のグラスにワインを注いだ。

 

「ありがとう」

「こあは?」

「あ、お願いします」

 

 水無月様は小悪魔にもワインを注ぐ。

 

「ありがとうございます」

 

 水無月様は今度は私の方に来て

 

「咲夜、ワインのお替りは?」

「あ、私は良いですよ」

「そうか」

 

 彼はカートを置いてから元の席に座った。

 

「で、咲夜は憶えていてくれた?」

「どうせ咲夜の運命見て分かってるんだろ?」

 

 私の話をしているようだけど……話が見えない。

 

「……まぁ、認めたくないけど」

「じゃ、チップ寄越せ。俺が行く前に決めた事だろ?」

「うぅ…………」

 

 お嬢様は自分の服のポケットの中から青い石を出した。

 

「渡したくないけど……」

「はい、頂きました」

 

 水無月様はその石を受け取ると床に置いていたバッグから何か銀色の塊を取り出して、魔法陣を展開したのを見て私は椅子を倒しながら立ち上がりスカートの中にあるナイフを取り出すが……

 

「咲夜、そこを動くんじゃないよ。澪羅が親友である私に危害を加えるわけ無いだろう?」

「信用出来ません」

 

 私は彼にナイフを突き付ける。

 

「言っても無駄だ、分かってるだろ?レミリアならさ…………

 俺の首筋にそのナイフを突き付けながらで良いから、このまま続けさせろよ」

 

 彼はそう言って続ける。

 お嬢様から受け取った石と銀色の塊の一部を切り出し宙に浮かべる。その2つは徐々に近づくと1つの立体魔法陣に囲まれて形が変わっていく。

 最後に一瞬だけ強く光るとそこには青色の石が嵌め込まれた銀色の指輪があった。

 

「はい」

 

 水無月さんはお嬢様に指輪を渡した。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 レミリアは右の人差し指にその指輪を嵌める。

 

「ま、何だ?遅くなったお土産って所だ」

「ありがと。それより、咲夜に掛けた魔法解いてあげたら?」

「ま、それもそうだな」

 

 彼はそう言って指をパチンと弾いた。

 その瞬間、様々な小さい頃の記憶と私の澪羅への想いが戻ってくる。

 

「え…………あ…………」

 

 私は今の状況を把握する。

澪羅を憶えていない私が澪羅が魔法陣を展開したため臨戦体制に

澪羅にナイフを突き付ける

澪羅がナイフを突き付けられながらお嬢様の指輪を作る

お嬢様に指輪を渡す

ナイフを突き付けられたまま澪羅が私に掛けていた魔術を解く←今ここ

 私の顔が真っ赤になっているのが見なくても分かる、そうなっていると感じる。

 

「あ……あ……あ………………」

 

 私は恥ずかしさから時間を止めてその場から逃げた。



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第02話

 咲夜が居なくなった後の食堂。

 

「あの顔が見たかったのよね」

「俺もだよ。なんせあいつは完全で瀟洒だからな」

「あら、珍しいわね。意見が一致するなんて」

 

 酷いな……気が合うから親友だと思ってたんだが。

 

「さて……あの頃からあいつが俺の事から好きだってのは知ってるけどね」

「なら告白でもすれば良いんじゃない?」

 

 おいおい…………

 

「いや、それも考えたけどさ?つまんねーじゃん?俺的にはわざとあいつに告白させたら面白くね?って思ってさ」

「あら、私と同じ意見ね」

 

 なんだかんだ言ってもレミリアと俺は気が合うらしい。考える事もほぼ同じだ。

 え?何で男の俺が告白をしないのかって?そりゃ勿論、咲夜が真っ赤な顔で告白する顔が見たいからに決まってるじゃん。あいつが羞恥の顔に染まる事なんて殆ど無いからな。楽しめるときに楽しんでおかなきゃ人生楽しくないしな。

 

「さてと……どうするかな…………懐中時計の調整もしてやりたかったんだけどなぁ……」

 

 ばっさり言えば今は何となく会いたくない。あくまでも何となくだ、他意は一切無いと言い切れる。だからこそ、俺は逃げの選択肢を選ぶ。女性の心を知っておきながら刺激しようとは俺は思わないのだ、むしろ『どっか行っちゃったんだから探して来い』なんて言われたって絶対に探さない、流れに任せるだけだ。

 それに俺としては咲夜に恋愛感情を持った事は無い。だからこそ、無用に刺激をしないようにしているのだ。

 

「パチェ、フラン、美鈴、こあ……おいで?」

 

 その一声だけで4人はこっちに来る。

 

「それぞれに渡した魔導石……あるよね?」

 

 それぞれが魔導石を取り出す。パチェは紫、フランは紅、美鈴はオレンジ、こあは黒だ。それぞれ色を変えているのは俺のイメージカラーにしているから。

 

「それぞれが欲しいアクセサリーにこの魔導石を加工して作ってあげよう」

「本当?」「ほんとうっ!?」「ほんとですか!?」「本当に?」

 

 三者三様……もとい四者四様のほぼ同じ答えが帰ってくる。

 

「ああ、本当だ。先ずは……そうだな、パチェにしよう」

「私……?」

「何が良い?」

 

 パチェは少し悩んでから言った。

 

「イヤリングで、両方とも」

 

 パチェが俺に魔導石を渡す。

 

「あいよ」

 

 俺は銀色の塊から少し切り出して、浮かべて立体魔法陣を展開しアクセサリーに加工していく。最後の一瞬に紫色の光を放つと宙には紫の魔導石を組み込んだイヤリングが出来上がった。

 これには魔力増強の効果を付与させた。

 

「ほい」

「ありがとう……」

「んー次は美鈴」

「あ、はい」

 

 美鈴は渡しながら言った。

 

「ブレスレットでお願いします」

「ん……少し石が足りないな……仕方ない、作るか……」

 

 俺はバッグから無色透明な大きな結晶を取り出してそこそこの大きさの物を切り出して魔力を込める。

 輝きを放ちながら無色透明な切り出した結晶がオレンジ色に染まっていく光景が俺は好きだ。

 

「よしっと……ま、話をする事が出来るのは同調させているこの少し大きい奴だけだが……問題は無いだろう」

 

 俺は銀色の塊を切り出して球形のに幾つか整形していく。これをオレンジの物にもやって行く。必要数が集まった所でその球に穴を作り、その穴に魔力で編んだ『魔糸』を通して輪にする最後に両端を繋げて完成。

 特に何も掛けなかったとだけ言っておこう。

 

「ありがとうございます。澪羅さん、こんな技術あったんですねぇ……」

「まぁな……次、フラン」

 

 フランも魔導石を渡しながら言ってくる。

 

「ネックレスが良いな!!私の羽みたいなのが良い!!」

「ああ、分かった。良いよ」

 

 俺は6つの透明な結晶とフランに渡した魔導石を縦長の8面体を切り出すと透明な結晶をそれぞれ透明感のあるオレンジ色、黄色、黄緑色、緑色、蒼、紫色にして、それから追加で2つ透明な結晶を切り出しそれを両方とも銀色に染めると紅を中心にして2番目に蒼と紫、3番目にオレンジと黄、4番目に緑と黄緑、最後の5番目に銀色2つを配置してその両端に銀色の鎖を繋いで輪にした。

 掛けたのは妖力を吸うというものだ。フランの妖力は多すぎる、幾ら制御できるようになったとはいえ、危なすぎるのだ。

 

「はい」

「わーい!!……ん?でも、この色……」

「そう、紅魔館の主要メンバー揃えてみたよ。ちょうど色的にもぴったりだったし」

「ありがとう澪羅!!お姉さま!こんなの貰ったよ!!」

 

 フランがレミリアの所に見せに行く。

 

「良かったわね、フラン」

「うん!」

「大事にするのよ?」

「絶対、大事にする!!」

 

 そんな会話を聞いた後、ここに居る最後の人物の番だ。

 

「さて、最後だよ。こあ」

「あ、はい。そうですね」

「何が良い?」

「あ、あの……私、い、要らないです」

 

 …………少し納得がいかない。あの頃はこあによく相手になって貰ってたからそのお返しなんだが……。

 

「……理由、聞いても良いかな?」

「あくまでも私はパチュリー様に仕える小悪魔ですから。貰えません」

「なら、仕方が無い。パチェ」

 

 意地でも貰ってもらう事にしよう。

 

「パチェのよく居る大図書館に居る小悪魔……何体居る?」

「ま、まさか小悪魔全員分作る気ですか!?」

「当たり前。で、パチェ、何人居る?」

 

 パチェは少し考えて言った。

 

「2、30人は居るんじゃないかしら?」

「ん……中規模立体魔法で事足りるな。レミリア、紅魔館のホール使わせて貰うぞ」

 

 材料の問題があるが……何とかなるだろう。

 俺は立ち上がって食堂から出ようとするがこあに止められる。

 

「なんだい?こあ。これは俺の恩返しに過ぎないんだよ。小さい俺があの大図書館で本を読めたのはお前のおかげなんだから」

「…………要らないです」

「よし分かった。ここの妖精メイドの分も作ろう。レミリア、何人ぐらい?」

「えーと……4、50人ぐらいね」

「ん……何とか中規模で足りるな。」

 

 魔術の規模は良いにしても材料足りるか怪しいが……何とかなるだろう。

 

「どうだ?これなら受け取るか?」

「……い…………す……」

「何だって?聞こえない。俺に聞こえるギリギリの声で言いから言ってみな?」

「私のだけで良いです……作って下さい……」

「合点承知」

 

 俺は席に戻り、こあもこっちに来る。

 

「こあ、何が良い?」

 

 こあは少し考えてから言った。

 

「……ネックレスをお願いします」

「良いだろう。デザインはこっちで決めて良い?」

「はい」

 

 俺はこあから黒い魔導石を受け取ると切り取った銀色の塊を加工した物と組み合わせてネックレストップを作り、作っておいた紐通しに銀色の塊を加工して作った細かい鎖を通して完成。

 何一つ一切掛けなかった、掛けたのは感謝の気持ちだけ。

 

「出来たよ。simple is the bestってね。シンプルなのが一番だ」

「ありがとうございます」

 

 コアは受け取って早速首に掛けた。

 さて、あとは姫のみだな。まったく、さっさと出てくれば良いものを……

 

「さてと…………咲夜、居るのは分かってるよ。出て来な?」

 

 咲夜が姿を現す。相変わらず顔は真っ赤で、沸騰しているようだ。乙女なんだねぇ……咲夜も……分かってた事だけど。

 

「咲夜、懐中時計と魔導石を出しな。懐中時計を綺麗にして調整してやるから」

「……分かったわ」

 

 咲夜が懐中時計と魔導石を俺に差し出す。やはり、銀色の懐中時計は輝きを失っていた。

 

「ふぅ…………あの頃は面倒くさい複雑な魔法で解くのにも時間が掛かる奴を掛けたからな……」

 

 俺は魔法破壊の立体魔法陣と調整の立体魔法陣を同時に展開し懐中時計に掛かっている魔法を解いて調整した。

 

「あっ…………」

 

 そこにはただの銀色ではなく月のように優しく輝く懐中時計があった。少し青色が混ざったような白色の懐中時計がそこにはあった。

 そこに俺は1つの魔法を掛けた。それは『その状態を維持する』魔法である。

 

「はい、咲夜。これからはその輝きが消える事は無い」

「ありがとう……」

「じゃ、咲夜。この魔導石で作るアクセサリーは何が良い?」

 

 咲夜は少し固まってから、

 

「アクセサリー?」

 

 と聞き返した。

 

「そ、アクセサリー。何が良い?」

「そうね……指輪が良いわ」

「あいよ。デザインはこっちでやらせてもらうぞ」

 

 俺は魔法陣を展開して銀色の塊を切り出すと咲夜から受け取った銀色(実際に俺が染めた色は月の色)の魔導石を宙に浮かべて1つの立体魔法陣で括って、形状を変えていく。最後の一瞬に光が強く瞬くとそこには月の色をした石の嵌った指輪が出来ていた。

 

「ほら、出来たぞ」

「あ、ありがとう……」

 

 咲夜はおずおずと手を出して指輪を受け取って右手の人差し指に嵌めた。

 

「やっぱり、お前にゃ月が似合うな」

「つき?」

「そう、十六夜の如くな」

 

 咲夜の名前は紅魔館の主、レミリアとその親友の俺が付けた名前だ。

 十六夜はレミリアが考えて、咲夜は俺が付けた名前だ。

 十六夜は満月の後の月……これは咲夜が十六夜の夜に拾われたからと言うのが理由で、咲夜は『月』は『夜』に『咲く』というあの頃の俺の不思議な連想によって付けられた。おそらくではあるが『月』と言うのは咲夜の銀色の髪を指していたはずだ。昼には映えない華(髪)も月夜の夜には映える、そんな考えだったのだろう。昔の俺は随分とロマンティストだったんだな……驚きだ。

 

「さてと……レミリア、夕食を再開しようじゃないか」

「そうねぇ……それよりも“あれ”を見せなさい」

 

 ああ、あれね……俺が平面の魔法陣の巨大化を解消するために縮小化しつつも効果と性能が高く、制御しやすい魔法陣を開発する途中で出来上がった宝石のような立体魔法陣ね……そこそこお気に入りの魔法で最近は薄い青の他に紅に緑も使えるようになった。

 

「え…………あれ?“あれ”を見せるの?今ここで?」

「良いじゃない。久しぶりに見せなさい」

「……ま、親友の頼みだ。受けるとしよう」

 

 俺は両腕を広げてある一点を中心に立体魔法陣を展開していく。立体魔法陣がどんどん組み合わさっていき徐々に宝石のような形状になる。そして最後……その魔法を発動させる。

 一瞬だけ強く輝き、そこには魔力で形成された薔薇の形を模した魔石があった。これが俺の十八番『魔法の石(マジック・ストーン)』だ。

 

「以上にございます」

 

 俺が指をパチンと鳴らすと薔薇の形を模した魔石は魔力に戻って、様々な色を放ちながら散っていった。実はこの魔力が散る過程に一手間加えると弾幕が張れたりする。

 

「澪羅、腕を上げたわね」

 

 パチェに誉められる。

 

「何、戦闘に使えないお遊びの魔法さ。俺の7石関係が4割、趣味の魔法付加(エンチャント)に3割、戦闘2割、その他1割だし」

「その他の1割は?」

「教えられない」

「どうして?」

「秘密、これだけは教えられない」

「まさか、禁忌に手を出したなんて言わないわよね?」

「出したよ。禁忌なんてどうでも良かったからね」

「で、結果は?」

「一番最初は超絶火力の弾幕が出来上がった」

「どれくらい?」

 

 はて、あれはどれくらいの威力だったろうか……レーザーに弾幕、爆発もあるから…………

 

「紅魔館ぐらいは普通に塵に出来るレベル?」

『………………』

 

 その言葉に全員が言葉を失っていた。

 多分出来たはず。一番最初に一発ぶちかましたらあのやろうが止めんかーって飛び蹴り食らわせて中断させられた。痛かったな、あれ……。

 

「ま、それは良いとして」

『何も良くない!!』

 

 何がさ……何が悪いって言うのさ?

 

「…………てかさ、いい加減飯を再開しようぜ」

『あ…………』

 

 俺の一言で全員が席に戻った。



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第03話

 ようやく色々な出来事が一応収まり、全員が席に着いて朝食が再開される。

 にしても、俺の設定した魔法は効いていたようだな。記憶を消すのではなくその記憶に繋がる回路を認識しないようにする魔法。人間の記憶の制限ってかなり難しいとはパチェの受け売りだ。なお、なぜこの魔法掛けたのかと言えば咲夜の仕事に支障をきたすと思ったからだ。でも、実際この魔法は記憶を消すのではないので認識出来ていない記憶は認識出来ないだけで成長と共に成熟されていく……いや、そうなるように人間の脳は出来ている。

 これの実験台になって貰った咲夜には後で謝っておかないとな……。何か怒られそうで怖いんだけどさ……でも、あいつの為だし俺は悪くないぞ。あいつの心の中の考えはすぐに表に出るんだ、そんなんじゃ仕事なんかしてられないし……うん、やっぱり俺は悪くないな。

 

「にしても、魔法の腕なんかあげて、あんな事出来るようになって……澪羅は何がしたいのかしら?」

 

 レミリアがそんな事を聞いて来る。

 はて…………何がしたいんだったかな……ああ、確か…………

 

「確かパチェに魔石の事を教えて貰って興味を持ったんだと思った」

「えー……」

「実際、作った魔法なんて使えないようなの多いよ?

 ま、出た先でも紅魔館でやるような家事全般はやってきたけどな」

「……無駄にならなかったんなら良いんだけどね」

 

 レミリアはそう言って食事に戻る。

 

「れいらー!!私も少しだけど魔法使えるようになったよ!!」

 

 フランが右の手のひらの上に紅の立体魔法陣が浮いている。パチェ辺りが教えたんだろうか?

 

「凄いね、フラン。それはどうやって憶えたんだい?」

「パチェに教えてもらった!!」

「そうか~良かったなぁ」

 

 やはり出所はパチェだったらしい。何故教えたのかは不明だが……聞けば良いや……今ここで。

 

「パチェ、フランに教えた理由は?」

「あなたの立体魔法陣による魔法陣の簡略化による魔法陣サイズの縮小を考えたのだけれど上手くいかなかったからフランに試させたのだけど……」

「……けど?」

 

 何でそんな『けど』なんて接続詞が入るんだよ?

 

「縮小は出来たのだけれどその簡略化した部分をフランの場合は妖術でカバーしてて役に立たなかったのよ」

 

 そりゃあ、そうだ。

 

「パチェ、立体魔法陣は多角的に魔法陣を掛けていく形で立体にするんだぞ?俺は立体魔法陣で魔法陣の簡略化をした覚えは無い」

「え…………そうなの?」

「そうなのじゃないよ。俺の立体魔法陣の目指した形は効果の効率化と制御のしやすさを求めた形だよ。俺の魔法陣は元の形のまま縮小化しただけなんだからさ」

「魔法陣の多方向からの多重掛け……」

「そう言う事」

 

 俺は食事に戻る。

 

「澪羅」

 

 咲夜が俺に話し掛けてくる。顔が赤いのは少し収まって来たようだ。もう少しあの恥ずかしさに染まった顔がもうちょっと見たかったんだけどな……仕方ないか。

 

「何?咲夜」

「今日、ちょっと出掛けない?」

 

 …………外は……あ、ここからは見えないんだった。

 

「咲夜、今日の外の天気は?」

「雪だったわ。出掛けるにはいい天気よ。季節はずれの冬だけどね」

「なら良いんじゃない?」

 

 ま、晴れじゃなければ何でも良いさ。季節はずれってのが少し気になるけどね。

 

「じゃ、レミリア。咲夜のお休みを貰うよ」

「ま、今日ぐらいはあげるわ」

 

 さて、もうそろそろ良いかな?

 

「さて、全員食べ終わりましたでしょうか?」

 

 すぐに全員が返し方は違うが意味的には同じ返答を返してきた。

 

「では、デザートをお持ちいたします」

 

 俺は各人の食器を回収してカートに乗せて厨房に行く。厨房に着くと回収して来た食器を水に浸し、汚れが落ちやすいようにしてからデザートのケーキと紅茶をカートに乗せて食堂に戻る。

 

「お待たせいたしました。朝食のデザートは苺のタルトとなっております」

 

 俺はその場で7つのカップに紅茶を注ぎ、その隣に置くと平面魔法陣で各々の前に置いていく。

 

「こんな事も出来るのね」

「パチェは精霊魔法にだけ興味持ちすぎだよ。他の事にも興味を示さなきゃ」

「そうね」

 

 俺は席に座りデザートを食べていく。うん、自分で作ってなんだけど美味しいな、予想以上に美味しい。菓子屋でも始めようかな……嘘だけど。

 

「澪羅、美味しいわね」

「私もビックリよ。澪羅がこんなに菓子作るの上手だなんて」

「美味しい!!」

「「美味しいです」」

「美味しいわね……」

 

 順はレミリア、咲夜、フラン、こあ/美鈴、パチェだ。

 その後は全員一言もしゃべらずに食べる。ものの10分で全員が食べ終わった。

 

「では……」

 

 俺は立ち上がって全員の食器を回収して厨房に持って行き、すぐに朝食の食器も一緒に洗い始める。

 水は刺さるように冷たいが特に問題は無い。

 

「あー……冷てーなぁ…………」

「冬だもの、仕方ないでしょう」

 

 咲夜、遅いな……従者なんだからすぐに来いよ。

 

「悪いわね、遅くなって」

「別に良いよ」

「冷たそうね。私が洗いましょうか?」

「良いよ、女のお前にやらせる事じゃない」

「そう?」

「そ、食器を拭いてくれりゃ良いよ」

「分かったわ」

 

 俺が食器を洗い、咲夜が俺から渡された食器を拭く。

 さて、咲夜に聞いてみますか。

 

「ところで、季節はずれってどういう事?」

「ああ、それね……今は何時だか知ってる?」

「たしか5月だったような……」

「そう、5月になっても雪が降りつづける今年のおかしな季節」

「なるほどね……」

「暖房の燃料が切れそうで怖いのよね……」

 

 ……そうなのか……一体何が起こっているのやら…………。

 

「それであなたは何処に行っていたのかしら?」

「ま、顕界と幻想郷にね」

「……え?」

「幻想郷と顕界」

 

 咲夜が驚いたような顔をしております。

 因みに俺は知っておりました。『紅霧異変』でたいがい分かりました。博霊の巫女に返り打ちに遭った挙句、宴会費用を前額持たされたとか……実はその宴会に参加したりもしてました。

 

「もしかして紅霧異変とか……」

「それで開催された宴会に行ったりしたよ?」

「…………」

 

 咲夜の顔が熟れたトマトみたいに真っ赤になりました。気付かなかった自分が恥ずかしいんだろうな、原因は俺だけどね。

 

「あ、そうそう。俺、お前に謝る事があったんだった」

「え……?」

「実は俺が出て行った6歳の時に俺の魔法の実験台になってもらってたんだわ」

「じ、実験台?」

「そ、記憶の制限な」

「な、な、な、な…………」

 

 その瞬間、咲夜の瞳が真っ赤に染まって……気付けばナイフに囲まれていた。

 

「メイド秘技『殺人ドール』!!」

「ウワォ!」

 

 こりゃあ、洒落になってないや。俺は飛んできたナイフを能力で全て床に落とした。

 

「え……?」

「さて、終わりだ。準備して門の前に集合な」

 

 俺はタオルで手を拭いて自分の部屋に向かう。紅魔館の間取りは変わっていないはずだからそのまま行く。

 自分の部屋の前に着くとズボンの右ポケットの中から部屋の鍵を取り出し、鍵を開けて部屋に入る。俺の出て行ったときから変わっていない、魔法によって埃の積もっていない綺麗な部屋。

 

「着替え着替えっと……」

 

 俺は執事服の上から黒いコートを着て、いつもの魔法道具を仕舞っているバックを持って部屋を出て鍵を閉めてから門の前に行く。

 

「よう、美鈴」

「Zzz……」

「キュッとしてドカーン!!」

 

 一瞬で右手に魔法陣を展開してそれを握り潰して眠っていた美鈴の足許を爆発させる。

 

「ぎゃー!!」

「起きろ。キュッとしてドカーン!!」

 

 二度美鈴の足許を魔法によって爆発させる。前回は空気が吹き飛ぶだけの爆発だがダメージ無しバージョン、今回は爆風ありのダメージありバージョンだ。

 

「次から寝てたら2回目の奴やるから」

「は、はい……まだ咲夜さんのナイフの方が良かった……」

 

 次の瞬間、紅魔館の方から青色のナイフが3本飛んできて、美鈴の顔のすぐ横を通り過ぎてその先にある木の幹に刺さった。

 

「これでも?」

「さ、最近寝ながらでもナイフを避ける技能を手に入れたんですよ!!」

「じゃ、咲夜に今さっきやった魔法のインスタント版渡しておく」

「ノォウゥゥ~~~……」

 

 さて、美鈴がOTL状態になって咲夜も来た所だし行くとしますか。



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第04話

「待たせたわね」

 

 咲夜はマフラーをして外に来た。メイド服は冬用なのか長袖だが、スカートは膝上のスカートだ……寒そうだがタイツを穿いているため寒くは無いらしい。

 

「いや?別に待っては居ないよ」

「そう?」

 

 咲夜は震えながら門の前に立っている美鈴を見て、納得した。

 

「あ、これ渡しておく」

 

 澪羅が咲夜に渡したのは赤、オレンジ、黄色の順で放射状になっていて透明感のある正六面体の魔石だった。

 

「なにこれ」

「爆破術式を魔石にしたもの。爆発範囲は最小半径1メートルで最大7メートル

 名称は『爆魔石』そのまんまだね」

「どうやって使うのかしら?」

 

 澪羅は自分のポケットから1つ爆魔石を取り出して実演した。

 

「んー……爆発する場所を思い浮かべて、これを握り潰す」

 

 握り潰し、爆発した場所は門の正面の木の根元だった。

 

「フランの『キュッとしてドカーン!!』が元だな」

「……これで何をすれば良いわけ?」

「美鈴が寝てたらキュッとしてやれば良いんじゃね?」

 

 咲夜はなるほど……と頷いてメイド服のポケットに仕舞った。

 ちなみにこの爆破術式の範囲指定には澪羅が発つ前に紅魔館のあらゆる所に設置していた策敵術式を応用したもので確定させている。

 

「で、何処に行くんだ?」

「別に買い物に付き合って貰うだけよ」

「そうかい、じあ行きますか」

 

 そう言って2人は歩き出した。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 30分程で人間の里に辿り着いた澪羅と咲夜、だがその里に活気は無く人1人として歩いて居なかった。

 

「ま、流石にここまで冬が続けば気が滅入るよなぁ」

「これじゃあ、買い物できなそうね……どうしようかしら…………」

 

 色々と困る2人である。とはいえこれでは買い物どころではない。まず物売りですら開いていないのだから。

 

「1日休暇貰ったし。この異変を解決すれば元に戻るだろうし……宴会も楽しめるから良いんじゃねぇか?」

「じゃ、私はこのまま異変を解決しに行くけど……一緒に行く?」

「行きたいのは山々だが、生憎と術式セットが無いからこのまんまだと簡易術式しか組めなくて火力不足だな。1回戻る」

「じゃあ、先に行ってるわよ」

「ああ」

 

 2人は別れ、咲夜は飛んで行き澪羅は紅魔館に戻る。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「さて」

 

 俺は紅魔館に戻り、自分の部屋に来ていた。普段から持ち歩く鞄の中に様々な魔法の道具や媒体を詰め込み、咲夜から無断で部屋の一番奥の物置にあったナイフを拝借させて貰い、魔法付加して強化したナイフもその鞄に突込むと、飛翔能力を付加させた靴を履いて空に飛び立つ。

 目指すは……何かが流れている感じのする方向だ。

 適当に簡易魔法を組んでいるとチルノが来たから俺は脛に着けていた拳銃のホルダーから拳銃(FN-ファイブセブンとかって言ってた気がする)を取り出して引き金を引いた。勿論、実弾なんてものは入れていない、なぜならここの妖怪や妖精に効かないからだ。よって引き金を引いて発射されるのは魔力弾だ。

 なんで銃なんてものを使うのかと聞かれれば何かが発射されるイメージがすぐに湧いて来るからの一言に尽きるだろう。何かを飛ばす感覚なんて簡単には理解出来ない、だから俺は顕界のものを利用するのだ。

 発射された魔力弾は真っ直ぐに進み、チルノの額に当たる。そして魔力の放出によって爆発が再現される。勿論、実銃にこんな爆発なんて起こるはずが無い。チルノは気を失って落ちていく、下は雪だし怪我はしないだろうから俺は進む。そうして進んだ先に居たのは……

 

「レティ・ホワイトロックか」

「そうよ」

「まぁ、何だ?お前らには楽園かもしれんがお前達が存在出来てるのはここに居る人間のおかげだし、通してくれないか?」

「いや」

「なら、忘れ物は消す事にしよう」

 

 俺は右だけだった銃を左にも持って構える……が…………

 

「やーめた。通っても良いよ」

「何だそりゃ」

「だって3人ぐらいにちょっかい出して全部負けたんだもん」

「それで?」

「怪我しちゃった」

 

 良く見れば右腕に怪我をしていた。

 そう言えば妖怪に治癒魔法って効くのかね?やばい、試したくなってきた……あれ?それ以前に弾幕ごっこって怪我をしないようにしてるんじゃなかったのか?まぁ、そんな事はどうでも良いや。

 

「治してやろうか?」

「治せるの?」

「多分治せると思う」

「多分って……」

「魔法使いってのは好奇心旺盛なんだよ。知りたいんだよ、いろんな事をさ」

「じゃあ、試して見れば?」

「サンキュー」

 

 俺をとレティは地面に降りると俺は治癒魔法を展開する。

 

「何か違和感あったら言ってくれよ?妖怪を治療するのは初めてでな、何が起こるかわかんねぇから」

「分かったわ」

 

 俺が治癒魔法を怪我した右腕に当てると傷口はどんどん塞がっていき、最終的には傷跡すらも残らずに消えた。

 

「これからの為に聞くが、何か違和感は無かったか?」

「何も無かったわ」

「サンキュー。妖怪にも治癒魔法は効くのか

 あ、銀髪のメイド服着た奴は来たかい?」

「ええ、あっちに行ったわ」

「ありがとう。じゃあな」

 

 俺は飛んで、レティの指差した方向に飛んでいく。その先には……

 

「マヨヒガかぁ……嫌だから隠蔽魔法掛けてっと……」

 

 俺はそこを真っ直ぐに進んだ。その先にあったのは…………

 

「これは……冥界への入り口か?確か幽明結界って聞いたけど……随分と薄くなってんな…………」

 

 幽明結界はこの世とあの世を分ける結界だからこんなにゆるいとだめな気がするが……恐らくこっちだろう。

 俺はその中になんの気も無く入って行った。

 

 入った先にあったのは長い長い階段だった。その横には灯篭があって明かりがあり、その間には桜が満開で咲いていた。

 

「…………」

 

 俺は飛んでショートカットするのではなく、1段1段桜を愉しみながら階段を登って行った。なぜだか急ごうとは思わなかった。

 だがそれも途中で飽きた。1段飛ばし、2段飛ばし、3段飛ばし……と増えて行き最終的には20段飛ばしの途中で階段が途切れた、そこには金髪金眼の普通の魔法使い『霧雨 魔理沙』と咲夜が、刀を背中と腰に佩いていて半霊を抱いている銀髪の半人半霊の少女が向かい合っていた。

 

「何してんの?」

「勝てないのよ、この半人半妖に」

「何も通じないんだぜ。霊夢は倒せたから通ったらしいが」

「ふぅん……じゃ、お相手願おうかな」

 

 俺は立体魔法陣を複数同時展開して魔石を構築させて欲しい物を形作っていく。その形は…………

 

  日本刀

 

 硬さは硬と柔を持ち合わせ、切れ味は最高、そして軽い。そんなのをイメージして創り上げる俺の一品……その銘の名を『紅銀(くぎん)』という。刀身自体は銀色だが刃の部分が血のような紅の刀、刀身の長さは2.8メートル。そのうち完全物質化する予定だが、今は急造品だが……我慢しよう。

 俺は一応のもう1つ作るために再び立体魔法陣を展開してもう1本創って行く。銘の名は『紅月(くづき)』、刀身は月の色で白に青を足したような色で刃が血の色の日本刀で刀身の長さは1.6メートル。

 俺は紅銀を背に佩き紅月を腰に横になるように佩いた。

 

「名前は?」

 

 銀髪の少女が聞いてくる。

 

「水無月 澪羅だ」

 

 彼女も返してくる。

 

「魂魄 妖夢です」

「魂魄か……一応聞くよ、答えたくないなら答えなくても良い……

 あんたの祖父は……魂魄 妖忌であってるか?」

 

 彼女がビクリと反応する。さて、返事は?

 

「ええ、私のおじいさまは魂魄 妖忌です」

 

 なら、言わなきゃな…………

 

「なら、事伝手をを頼まれてる」

「なんですか?」

「『西行妖を咲かせてはならぬ』だそうだ」

「その理由は?」

「聞かされなかった」

「それでは止める理由になりません」

 

 彼女はそう言って刀を抜いた。非常に長い刀だ……あれはゆうに3メートルを超えてないだろうか?

 俺も紅銀を抜いて臨戦体制になる。構えは彼女の使う魂魄流のオリジナルアレンジで多少変わっているが、臨戦体制となると構えなんてものは無く、自然体だ。あの爺さんがそうだったから俺もそれに習った。構えるよりも自然体の方が受けやすいのだ。どの方向からでも。

 

「おじいさまの…………」

「驚いている暇は無いぜ?」

 

 俺は飛び出し間合いに入った瞬間に左斬上行うが、彼女は恐ろしい反応速度で一歩下がりそして長い刀でその攻撃を防ごうとするが……

 

「甘いね」

 

 この紅銀は俺のような筋力の無い魔法使いでも使えるように軽くしているのだ。それゆえに、本来ならば剣術上級者もしくは師範代レベルで無ければ出来ない斬撃の軌道変更が出来るのだ。

 だから俺は、斬撃をそこで止めて突きを放った。突き出すだけならどんな速度でも出来るのだ。

 

「ごふっ……!?」

「まだだぜ?」

 

 俺はそこから手の届く場所にあった彼女の剣の刀身を持って何の抵抗も無く取った。無刀取り……爺さんの技を憶えるのに何年掛かった事か……あ、あの妖忌の爺さんは少し(だいたい1年ぐらい)だけ幻想郷に居ました。その間剣の稽古をしてもらいました。残念ながら魂魄流の技には適正のあるものが少なかったからあまり憶えられなかったけど、1つだけ秘儀が習得できました。

 

「ふっ……!!」

 

 俺は突きから今度は右斬下を行う。

 

「くっ……」

 

 彼女は何とか回避に成功するが距離が開きすぎた。俺はその隙を見逃さず、畳み掛ける。

 

「零ノ太刀 壱ノ章」

 

 俺は完全に予備動作無しでの突進による切り払いを放つ。すんでの所でその攻撃が避けられる。どんな反射神経だ……初太刀すら見えないはずだが……抜きの部分が拙かったか……未熟だな。

 

「何ですか!?その攻撃は!?」

「喋ってる暇があるのか?」

 

 俺は次の動作に入る。

 

「零ノ太刀 弐ノ章」

 

 今度は動きすらも感知できない秘儀だ。俺は一瞬で彼女の背後にまわり、柄尻で首を思いっきり強打して気絶させる。

 ちなみにこの『零ノ太刀』だけど仕組みは簡単で遅いフェイントを入れた瞬間に神速で移動する、これだけの仕組みだよ。俺は何とか出来てるけど爺さんの『零ノ太刀』は圧巻だったな。

 

「さて……おそらくこの奥は西行妖か…………」

 

 もう8割方咲いているのだろう。俺は彼女を地面に寝かせて魔理沙と咲夜に向く。

 

「どうする?行くか?」

 

 速攻で反応してきたのは魔理沙だった。

 

「霊夢も終わって無いみたいだしな」

「私も」

 

 咲夜も賛成のようだった。なら、行きますか。

 俺と魔理沙と咲夜は西行妖のある方に歩いて行った。




強引だとか気にしないでね


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第05話

 歩いて行った先には荒れ狂いつつも美しい弾幕の嵐を放つピンク色の髪を持つ女性とそれを防ぐ為に結界の中に入っている少女『博霊 霊夢』が戦闘をしていた。霊夢の方の結界はかなり危なげで今にも破られそうだった。

 

「っち!!」

 

 俺は移動可能型の魔力結界を自分の周りに追従するように展開すると弾幕の嵐の中に突っ込んだ。

 

「「澪羅っ!?」」

 

 咲夜と魔理沙が叫ぶが返事なんてしない、する気も無い。

 流石に弾幕の嵐の中だけあって移動可能型結界では強度がかなり心許無かった。だから俺は弾幕の嵐に入った瞬間、霊夢の所に移動して霊夢の結界の中に入った。

 

「澪羅なんで来たのよっ!!」

「梃子摺ってるようだから助けにね」

 

 俺は張ってある結界の陣を崩さないように陣に沿って掘削魔法で深さ1センチほどの溝を彫って行く。溝が出来ると俺は陣に掛かれている五芒星が外側の円と触れているところに魔法付加をしたナイフを突き刺した。

 

「な、何をするつもり?」

 

 大量の汗を顔に浮かべている霊夢が聞いてくる。

 

「別に、禁術を行うだけだ」

「き、禁術!?」

「霊魔結界を作る。その上に更に血による強化を行う」

「……禁術……」

 

 俺は鞄の中からナイフを1本取り出して迷わず左の手の平を斬った。

 

「……っ!」

「あ、あんた……」

「別にここを吹っ飛ばして異変解決するだけなら俺の術をぶっ放せば良いだけだが……流石に冥界を吹っ飛ばすとなると色々と面倒なんでな……」

 

 左の手の平から出てくる血を彫った溝に流していく。それだけで今ある霊力結界が強化されていくのが分かる。それが見える。血が陣全てに流れると俺はナイフによる魔力結界を張ると同時にその魔力の波長を結界の霊力と合わせる。すると今まで薄い青だった結界が銀色になる。

 

「禁術完了……」

 

 俺はそう言って立ち上がると紅銀を抜いた。

 

「何をするの?」

「禁術」

「澪羅……あんたって禁術ばっかり使うのね」

 

 五月蝿い。

 

「仕方ないだろ?俺の攻撃魔法の大半の適正は禁術だったんだから」

「それって魔法に適正が無かったんじゃないの」

「攻性魔法だけだ。あと、魔法適正が無いわけじゃない」

 

 俺はそう言ってから紅銀の刀身に俺の血による禁術結界を張ってから結界の中から出る。

 

「仕切り直しと行こうじゃないか?亡霊の姫様」

「あらぁ……?あなたは?そしてその構え……妖忌の」

 

 亡霊の姫は不思議そうな顔をしてそんな事を言った。何時の間にか弾幕も無くなっている。

 

「あの爺さんには鍛えてもらったよ。ついでに事伝手もな」

「事伝手?妖忌が?」

「言われたのはこれだけだ。

『冥界の大きな桜『西行妖』を咲かせてはならん』

 だそうだ。あの爺さんはそう言ってどっかいっちまった」

「理由は聞いてないのでしょう?」

 

 理由……ああ、そう言えばあの爺さん亡霊姫の親友にでも聞け……とか何とかって言ってたな。

 

「親友にでも聞けば分かるんじゃね?あの爺さんはそんな事を言ってたよ」

「紫が……?」

「ま、ここまで来ちゃったら止められる筈無いし、親友とやらに聞く時間も無いから止めるよ

 ……アンタ、名前は?」

「西行寺 幽々子よ」

「水無月 澪羅だ」

「じゃあ、始めましょうか?」

 

 亡霊姫は後ろに扇を広げてそこから桜色の蝶のような弾幕を放ち始める。俺は紅銀に張った禁術結界で防いで突き進む。

 

「反魂蝶 -八分咲-」

 

 いきなりのスペルカード……大量の蝶が避ける場所も無いほどに放たれるが……

 

「ふんっ!!」

 

 紅銀を祓って禁術結界の一部を飛ばして亡霊姫までの道を作る。勿論、すぐに他の蝶で道は無くなる。禁術結界で防ぎながら強引に突破しようかとも思ったが、飛ばした禁術結界の損傷具合を見ると真っ青になる。殆ど破壊されていて触れただけで崩れた。反魂蝶とやらは恐ろしい威力のようだ。

 

「ちっ!!使いたかないが……出し惜しみしてるわけにゃ行かないか……血符『紅ノ槍(レッドスピア)』」

 

 俺は反魂蝶を避けながらスペルカードを発動させた。

 紅ノ槍は俺の血液から生成された大量に発射する攻撃で、ぎりぎり避けられる程度の穴しか作らずに発射し続ける。

 

「厄介ねぇ……」

 

 幽々子はそう言いながら全体に発射していた蝶を自分に当たるものだけに向かって放ち始める。

 

「無理だろう……こりゃ負け戦じゃね?血槍『血ノ槍(ブラッディスピア)』」

 

 紅ノ槍を発射しながら俺は一転突破の長槍血ノ槍を放った。

 流石にこれならばと思ったのも束の間、幽々子は蝶を発射するのではなく血ノ槍を防ぐように自分の目の前に蝶を一直線に配置した。

 

「っ!?」

 

 俺はすかさずその一直線に並んだ蝶に紅ノ槍を一点集中で放った。

 血ノ槍は突破力はあるが少し弾速が遅い。だから基本的には単体ではなく他のもいくつか混ぜて発射する。今回は紅ノ槍……あの蝶を突破できるかは分からないが、ちょいと紅ノ槍には細工をしてある。それは…………

 

「何っ!?」

 

 紅ノ槍に爆発機構を施したのだ。名付けて血符『紅ノ槍:爆(レッドスピア・ボム)』。

 良い感じだ。大量の蝶を大量の爆発が薙ぎ払って行く……これならいける…………通る!!

 

「ふふっ♪」

 

 不気味な笑みを浮かべた幽々子は蝶を俺と同じように爆発させた。真似るなよ……オリジナリティが消えるじゃないか……まったく。

 爆発によって一発目の血ノ槍は消えたが、俺はすぐに指の間に槍を右手で4本、左手も4本の計8本を生成し、一直線に放った。

 

「あらあら……」

 

 幽々子は俺の放った血ノ槍がただ直線に飛ぶだけだと判断したようで横にスライドして避けた…………が、

 

「クフッ!?」

 

 血ノ槍は幽々子の背後(・・)から貫いていた…………いや、貫きはせずに先端を丸くして衝撃を与えただけだ。殺しはしないし、怪我も与えない。

 てか、当たった瞬間に幽々子の弾幕は消え去っていた。やったね、あとは……あの西行妖に溜まっている春の結晶を砕いて幻想郷に戻すだけだ。

 俺は西行妖に近付き、幹に埋まるようにして存在する桜色の結晶を紅銀で一閃し破壊する。その一閃だけで結晶は粉々に砕けて爆発するように広がった。ま、これで異変解決ってか?




久しぶりの投稿ですね……いやぁ……困った物だ。最近やる事多すぎる……


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第06話

「世の真相は誰もし知らざりき……てか?」

 

 桜満開の木の枝の上で俺は紅魔館の執事と言うのもほっぽりだして博霊神社の宴会に来ていた。

 異変を解決したことで幻想郷には春が訪れた。1月ちょっとはずれたが……ま、そんなのも良いと俺は思う。

 

「おい、良いのかよ?紅魔館の執事なんだろ?」

 

 木の下で酒を飲んでいる魔理沙からそんな事を言われるが……別に気にしちゃいない……どうせ来るだろうしな。

 

「良いじゃねぇか……何かに縛られるのは嫌いな性分でね」

「じゃあ、なんで紅魔館の執事なんかになったんだ?」

「レミリアはあいつには短く、俺には長い付き合いでな……」

「へぇー……」

「よっと……」

 

 俺は宴会の席から酒瓶と盃を魔法で木の上まで持ってくる。

 

「便利だなぁ……」

「魔法使いなんてこんなものだろ」

 

 魔理沙が不器用なだけで器用な魔法使いなんていくらでもいるのだ……パチュリー然りアリス・マーガトロイドしかり……

 

「まぁ、魔法使いは性格が魔法の行使に出るからな」

「それは私が適当だと言いたいのか?」

「違うのか?」

「そ、それは……でも、お前はどうなんだよ」

「寧ろ俺はかなり慎重だぜ?そうでなきゃ禁術なんかを主に使うかよ」

 

 行使に使う魔力自体はそこまで多くなくとも威力が高い禁術だが、一部弊害がある。その弊害の1つが『行使における制御の難しさ』だ。それこそ。針の穴に糸を通すような感覚だ。魔法をぶっ放す魔理沙には恐らく出来ない……いや、やってはいけない。

 

「でもなんで禁術なんかに手出したんだ?」

「見るなよ?って言われると見たくなるだろ?そういうこと」

「興味本意かよ」

「まぁ、通常魔法に行き詰ってたってのもあるけどな」

 

 魔法を使ってて違和感があったのだが……その違和感が『通常魔法に対する適合率』の高さだった。

 ……簡単に言えば、通常魔法が簡単すぎて詰まらなかっただけ。大概の研究はすぐに終わってしまった……そこで手を出したのが血を使った禁術……正式名称は『禁忌魔法術式』なんだとか。

 俺は禁術に手を出した時胸が躍った。威力・規模共に大きくて制御が難しく、研究も簡単には進まない……かと言って簡単に行き詰るでもなくどんどん新たな発見がある禁術に俺はのめり込んだ。

 時間はあっという間に通り過ぎて気付けば人間の身体を捨てて魔法使いの種族の身体になっていた。今思うとあれは一種の禁術の副作用だったのだろう。

 

「お、主犯も登場か」

 

 魔理沙の見た方を見れば今回の異変の主犯である白玉楼が主『西行寺 幽々子』とその護衛剣士兼庭師の『魂魄 妖夢』が来ていた。

 

「あら、歓迎してくれても良いじゃない」

「肴も用意しました」

 

 魚の刺身の盛り合わせか……おお、刺身が旨いと評判の楼白魚じゃないか。確かに酒の肴にはもってこいの品だな。

 俺は木から降りて刺身を一切れ口に入れる。

 

「旨いな……切り方も上手だし」

「あ、ありがとうございます」

 

 あ、切ったの魂魄の方かい。にしても……

 

「あの爺さんの面影がまったく無いって……逆に怖いんだが」

「そう言えばおじいさまをご存知でしたっけ」

「まぁね……まぁ、あの爺さんも飯作るの上手かったっけ……」

 

 何回か食わせて貰ったけどかなり旨かったなぁ……

 

「剣の技……習ったんですよね……水無月さん」

「澪羅で良いよ。めんどくさい」

「じゃあ、私も妖夢で」

「剣ね……剣というよりもどっちかと言えば心構え的なものだよ。剣の技なんてひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……7つぐらいだ」

 

 まぁ、剣を……刀を振るうならまずは心からだから文句は無いけどな。刀を振るうときは心を無心に、昂ぶっていても常に心の底は冷静で有れ、力で振るうのではなく先ずは心で振るえ……などなどなど……座禅とかも良くやったっけ……洞窟の奥底で水滴がピチョーン……ピチョーン……って音を聞きながら座禅してたときはほんとに心が静まったっけな……

 

「それで剣の教えを乞うたと言えるのですか?」

「まぁ、いつの間にか消えてたし、今となってはどうにも……」

 

 あの爺、何の前触れも無く消えやがって……せっかく刀でも打ってみようと思ってたのが一気に冷えちまったよ……良妖夢はい機会だったのにな。惜しい事をしたよ……魔力の打ち方も同じにしてみようかと思った矢先に消えやがって……お礼に刀をやろうとしたのが一瞬でぶち壊しだ。

 

「ううん……おじいさま一体何処へ……」

「さぁね」

 

 俺は更に刺身を一切れ口に放り込む。

 さて……そこそこ宴会も楽しんだしもうそろそろ帰るかなぁ……紅銀と紅月も魔力から魔石に完全物質化したいところだし。

 

「よっこいせ……」

 

 俺が立ち上がって神社から居なくなろうとすると不意に袖を誰かに掴まれた。袖を掴んだ手は白く細い……腕をたどればそこには妖夢……

 

「何か用か?」

「あの…………」

 

 何か思い悩んでいるようにモジモジと何かを言おうとしては止め言おうとしては止めていた……頬も心なしか紅くなっている様な……そんな感じがする。

 

「一体何の用だ?」

「あの……もしよけれ「あ、澪羅!こんなところに居たのね!」……」

 

 いきなり俺の名前を呼ばれたので声の聞こえたほうを見れば紅魔館御一行様が宴会会場に来ていた。声からしてレミリアが俺を呼んだのだろう……妖夢黙っちゃったよ……

 

「なんだよ、来てちゃ駄目なのか?」

「私と一緒に行動しなさい。日傘なんて持つのが面倒よ」

 

 ああ、俺の能力を必要としてたのね……でもレミリア、お前日光浴びようが少し体が気だるくなるだけだろ。

 

「前に俺がちょいと出て行くときにお前こう言ったじゃん『別に貴方が居なくても日光浴びても大して問題無いし言ってくれば』ってさ」

「それはそうだけど……」

「まぁ、それは聞かなかった事にしておくよ……」

 

 紅魔館御一行のため美鈴やフラン、咲夜にパチュリーまで来ている。パチュリーまで来るとは珍しいな。つか、フランに関しては日傘を差してないな……やっぱりスカーレット吸血鬼は日光に対して強いのか……十字架も効かない、ニンニクも効かない、日光も効かない……どこに吸血鬼の弱点があるのかね……

 

「澪羅、別に行くのは構わないのだけど一言言ってからにしてからにしてくれないかしら?」

「これからは気を付けるよ……」

 

 咲夜はそう言っているがあくまで注意だけだろうな。

 てか、咲夜の視線は俺の顔じゃないな……左手の包帯か……

 

「咲夜、気になるか?」

「…………別に」

「ならそんなに注視するな。俺でも気になるぞ」

「そうね、気を付けるわ」

 

 うーん……なんか咲夜の数少ない言葉の内に棘があるような感じがするなぁ……まぁ、良いか。とにかく妖夢の用事だ。

 

「で、妖夢。何を言おうとしてたんだ?」

「え、えー……と……出来ればなんですが剣の稽古をして貰えればと思いまして……」

 

 剣の稽古か……俺、そこまで剣は上手くないんだがなぁ。むしろ教えるのが下手だ。魔法使いゆえに教えるの下手で実践が得意なんだよね……ああ、そうか。

 

「稽古は無理だが手合わせぐらいなら良いぞ」

「ホントですか!?ありがとうございます!!」

 

 不安そうな顔をしていた妖夢の顔が安堵したような嬉しいような顔に変わる。剣士なんだなぁ……剣の相手して貰えるってので嬉しいと思うは……魔法使いは基本孤独ゆえに分からないや。

 

「………………」

 

 な、なんか冷たいものが突き刺さって居るような……そう、この感覚は咲夜が投げナイフを構えているときの目に射抜かれたようか感覚……

 

「な、何かな咲夜」

「いえ、随分仲がよろしい様で何よりよ」

 

 にっこり笑ってるけどなんか……あれだ、雰囲気的に笑ってない。目が笑ってない……トテモコワイデスサクヤサン。

 

「……………………」

「……………………」

 

 え、なんで咲夜と妖夢は睨み合ってるの?なんか火花が散ってるような感覚がするんだけど……誰か知らないですか?なんでこうなっているのか……

 

「えーと……水無月さん?」

「澪羅?」

「あ、レミリアと西行寺……何の用で?」

「「あの2人、何かしたの?」」

「むしろそれは俺が聞きたい」

 

 その言葉を聞いた今睨み合っている2人の主人は向かい合ってニヤリと笑った。

 え、ちょっと待って?その笑い方何!?怖いんだけど!?すごく怖いんだけど!?

 その後、あのニヤリとした笑いはなんだったのかと2人に聞いてもはぐらかされるだけで一切答えて貰えなかった……一体なんだったのだろうか……。咲夜と妖夢は弾幕勝負をしたが……結局引き分けで終了、熱い戦いだったため良い酒の肴になったとさ。




……この作品を楽しみにして居る方々へ……申し訳ございません。現実の事情と最近興味を持ったものによって忙殺されてしまいまともに執筆できず……誠に申し訳ありません。
今月はこれにて終了となってしまいますがこれからもよろしくおねがいします。


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