訳アリのチート君 (シン レイス)
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一話

 

「.......」

 

 

目が覚めたらそこは知らない場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、待って、ホントに知らないんだけど。どこよここ?

 

内心慌てながら周りをキョロキョロと見回しても、黒一色で何もないところだった。

 

 

 

「.......どうしy「こんにちは」っ!?」ビクッ

 

これからどうしようかと困っていると、いつの間に目の前にいた老人にも若者にも見えるちょっとぼやけてる不思議な人がいた。

 

 

うん、自分でも何言ってんだって思うよ。なに、ちょっとぼやけてるって。認識疎外の術かなんか使ってんの?つーか気配が全くしなかったんだけど........忍者?......とりあえず、

 

「.....こんにちは」

 

挨拶はちゃんと返そう。

 

「うん、こんにちは。それにしても、ずいぶんと落ち着いてるね?」

 

「.....そうですか」

 

自分はコミュ力がないのでとりあえずそう返したが、

 

 

はあああああ!?んなわけあるかい!!!目ェ覚めたら知らない場所とか、突然現れたアンタとか、わからな過ぎて落ち着いてる訳ないだろ!!と、心の中ではだいぶ荒れていた。

 

 

「あはは、結構荒れてるね」

 

「!?」

 

え、今心読まれた....?

 

「僕は君たちが言うところの神様ってやつでね」

 

チョット何イッテルカワカンナイ

 

「それで別の世界に転生させる魂を選んでいたら、ちょうど死んで候補に挙がってきた君が選ばれたってわけ!」

 

へー、ちょうど死んで候補に挙g.........ん?

 

 

「.....死んだ?」

 

「死んだ」

 

 

「.....誰が?」

 

「君が。最期どうやって死んだか覚えてない?」

 

....................................................あ

 

 

「.....自転車で下校してたら転んで、そこに大型トラックが突っ込んできて......」

 

言われて思い出した、俺死んでるやん。

 

「ちなみに即死だったらしいよ」

 

そんな嬉しくない情報いらんわ。

 

しかし、俺としてはうれしい話だ。あっちの世界には親も親しい友人もいなかったから未練もないし、転生物は二次創作小説読み漁って夢に見てたし。

 

「これから行く世界とほしい能力は君が指定できるよ。どうする?」

 

「.....それじゃあ、行く世界は『僕のヒーローアカデミア』で、能力は『上書き』でお願いします」

 

「ほうほう、能力の細かい設定はどうする?」

 

「.....えっと、あの....上限なし、制限なし、デメリットなしでお願い、したい、です......」

 

要望を言っていると神様が静かなのが気になりチラッと見てみると、とてもニヤニヤしていた。これはもしや....

 

 

 

 

 

「ふふふ、そうかそうか、俺tueeeがしたいんだね、しょうがないよね、男の子だもんね~」ニヤニヤ

 

やっぱりばれてたー!!いやあああ!!恥ずかしいよぉ.....

 

 

「ごめんごめん、そんなにすねないで」アハハ

 

うぅ...ちくしょう....心読まれるって碌なもんじゃねぇな....

 

「でもごめんね。デメリットは能力に釣り合うもののリストの中からランダムで付けられるんだ。でも、上限と制限は無くせるから」

 

うーん、やっぱり全部都合よくはいかないか。まあ他二つは通ったから良しとしよう。

 

「.....分かりました」

 

「うん、ほかに何かあるかい?」

 

「.....あ、あと」

 

「お、何々?」

 

「.....その、能力じゃないんですけど、俺が生きてた世界のアニメと漫画とゲームの情報を全部もらえますか?....えっと、技とか、曲とか...」

 

この要望は能力じゃなので通るかが怪しいところだが....

 

「ふふん、余裕だね♪」ドヤァ

 

通るんかーい

 

「他はもうないかい?ないならもう転生させちゃうけど」

 

.....他は特にないな、よし。

 

「.....お願いします」

 

「OK!記憶は残ったままだから!それじゃあいっくよー!!」

 

そう言いながら神様はさっきまでなかった杖(のような何か)振り回し始める。そこで俺は、自分が読んだ作品の中に急に穴に落とされる展開があったのを思い出して身構える。

 

「それーー!!」

 

掛け声とともに杖がこちらに向けて振られると、何かが光るということもなく、ただただ俺の意識が薄れていく。

 

 

落とし穴とかじゃなかったから優しいなと思いましたまる

 

 

「------」

 

「.....?」

 

神様が何か言っていたが、聞き返す前に意識が完全に消え、聞くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男がいなくなってから、神は暗い顔をしながら男の人生が記されている書類を見直していた。

 

「.........物心つく前に親に捨てられ、彼の怖い姿のせいで小・中学校でいじめられ、悪い女に引っかかって女性不信になって.....やっと新しい人生を歩めると思ったら、彼の引いたデメリットがリストの中で一番悪い”アレ”なんて....。彼が楽しい人生を送れるように祈るしかないのか.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オギャー!、オギャー!

 

 

 

はい、えー、生まれました。俺です。名前はまだない。

 

どうやら生まれた時からすでに意識がはっきりしているらしく、周りがどういう状況かが理解できる。

 

「お母さん、元気な男の子ですよ」

 

誰かに抱きかかえられながら母親と思われる人の前に持ってかれる。

 

おぉ、母さんちょっと美人じゃね?となると父親の顔が気になるな。

 

「やったな筆子(ひつこ)!!大きい立派な男の子だぞ!!」

 

「えぇ、本当ね典人(のりと)さん」ハァ、ハァ、

 

母さん声きれいだけど父さん声普通だな。てか母さん大丈夫?なんかすごい疲れてるけど。俺どんだけでかかったの?

 

 

 

 

 

あれから母親も落ち着いて、今は三人で病室にいた。

 

「なぁ、この子の名前どうする?」

 

お!ついに俺の名前が聞ける!ヒロアカは個性に関係する名前が名前が多かったからな。俺の個性は「上書き」の筈だからどうなるんだろう?

 

「フフフ、実は決めてあったの。この子の名前はね?......」

 

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐義昭(いがらしよしあき)

 

それが俺の名前らしい。.......普通だ.......。とりあえず今は個性が使えないのでおとなしく赤ん坊として過ごそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに父親はフツメンだった。

俺が生まれてから結構時間がたった。もうすぐ四歳になるが未だに個性は発現していない。あの神様が4歳ちょうどで発現するように設定したのかはわからないが、こればっかりは待つしかない。

 

あと、神様がミスったのか姿は前世と変わらなかった。俺は前世ではヤクザの組員と勘違いされ、職質を何回もされるほどの姿だったので必然的に......

 

『うえぇぇぇぇん』

 

俺を見た子供たちにめっちゃ泣かれた。凹んだ。それを見ていた俺の親とその子の親が、お前の顔じゃしょうがないと言わんばかりの苦笑いで俺を励ましてきた。それを見てさらに凹んだ。赤ちゃんとか保育園児が泣くのはまあわかるとして、小学二年生が泣くなよ。年上に泣かれた俺が泣きたくなるわ。

 

 

 

4歳になった。

 

キーーーン

 

「.....?」

 

朝起きると、頭の中に変な音が響いた。俺はもしやと思い、布団から出てごみ箱に入っていた紙を取り出して、

 

「.....上書き」

 

フッ

 

 

 

 

 

 

.................できた....

 

 

できた、できたできた!ようやく個性が使えた!しかも俺が想像した通りに!!

 

俺は今、ただの紙をガムテープに変化させることができた。”この紙はガムテープである”と個性で上書きしたのだ。そして、俺の想像通りに使えて上限も制限も無いとなると.....

 

「.....上書き」

 

ボオォ

 

よし!よし、よし!できた!Huuuuuuuuuu!!!

 

 

 

こほん、あの神様超いい仕事してくれたな。

 

今度は俺に対して、”俺は火を使える”という上書きをしたのだ。するとどうだろう、なんとガスバーナーのようなきれいな火を立てられたではないか。

 

これこそが俺が考えた本当の個性の使い方、能力のストックだ。こうやって使える能力を増やしていけば、俺は様々な能力が使えるようになるのだ。フフフ、俺が恐ろしい.....

 

”考えた個性が自由に使える”という個性も魅力的だったが、もし自分が使おうとしなくても考えただけでうっかり発動してしまう可能性を考え、それだと取り返しのつかないことになる危険があったので選ばなかったのだ。そして俺の個性はあくまでも上書きがメインなので、自分が使おうとしない限り個性は発動しない。つまり危険性がグンと下がる。フフフ、俺が恐ろしい.....(二回目)そして”口に出さなくても頭の中で上書きできる”ように上書きしてから、

 

一方通行(アクセラレータ) 常時発動!)

 

これである。細かい設定は後でするとして、とりあえずこれを常時発動しておけばほとんど危険なことはなくなるのである。といっても今発動しているのは自分にとって危険なものや攻撃を反射するだけの”なんちゃって一方通行”であるが。

 

「.....よし」

 

親に報告に行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、起きたか。おはよう、義昭。誕生日おめでとう」

 

「おはよう、義昭。誕生日おめでとう」

 

「.....ありがとう、おはよう、パパ、ママ」

 

リビングに向かうと父さんと母さんが挨拶してくるので同じように挨拶を返す。前世の分も含めて精神年齢は20歳なのでパパママ呼びは恥ずかしいが、違和感をなくすためにそう呼んでいる。

 

「.....二人とも、僕個性使えたよ」

 

「!本当か!?やったじゃないか!ようやくだな!」

 

「ええ!本当に良かった....。それで、どんな個性なの?」

 

「.....パパ、ママ、誰にも言わないって約束できる?」

 

この個性はとんでもなくチートなので、あまり人の耳に入るのはよろしくないのだ。俺の放つ雰囲気が変わったことに気づいたのか、二人も真剣に答えた。

 

「ええ、約束するわ」

 

「もちろんだ」

 

「.....分かった」

 

 

 

そして俺は、二人に自分の個性について話した。話を聞き終わった二人は驚愕を露わにしながらこう言った。

 

 

 

 

 

『チートだな(ね)』

 

「.....うん、チート」

 

そう言うと思ったよ。しかも二人の個性は強力というほどのものではないので、その二人から生まれた俺がこんな個性だから余計に驚くだろう。

 

 

「...確かにこの個性は多くの人に言っていいものじゃない。それをちゃんとわかってて聞いたんだな。えらいな、義昭」

 

「そうね。4歳でその判断ができてるのはすごいわね」

 

二人も分かってくれたようだ。まあ実際は20歳なんだけどね。

 

「.....じゃあ僕、部屋戻るね」

 

「おう、後で出かけるから準備しとけよー」

 

「寝ないでね♪」

 

「.....分かった」

 

その後は家族三人で出かけて遊び、帰ってきておいしいケーキとプレゼントをもらい、楽しく過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はもう寝るだけとなったときに、俺は神様に言われたことを思い出した。

 

(デメリットは能力に釣り合うもののリストの中からランダムで付けられる、だったか?)

 

そういえば今日は能力を結構使ったのに反動が来てないなと思い出す。

 

俺はそれが気になって布団から起き上がり、あるものを表示する

 

(ステータスオープン)

 

俺は個性を使い、自分のステータスをゲーム画面のように表示できるようにした。こうすることで自分のことをしっかりと把握できるようになった。

 

(デメリットは......)

 

画面の中の〈個性〉の文字をタップし、デメリットを調べていくと....

 

 

 

 

 

 

「..................は.....?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【寿命が縮む】

 

 

 

 

頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

神様、デメリット鬼畜過ぎない?



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二話

はい、おはようございます。まさかのデメリットにびっくりしてあまり眠れなかった五十嵐義昭です。いや、なにさ。【寿命が縮む】って。むしろその文字見て寿命縮んだよ?どうしてくれんのよ?

 

.....いや、ふざけてる場合じゃないな。結構やばいぞ、これ。説明読んだらそこまで大きくない上書きでも一週間とか普通に消えていくんだけど。ヤバイよ。これじゃあ俺めっちゃ早く死んじゃうよ。....こうなったら.....

 

(上書き)

 

 

 

 

...ピッ....ピッ.........チラ...

 

 

 

ダメかあぁぁぁ......。デメリットが消えてない.....。

 

今”俺の個性にデメリットは無い”という上書きを試してみたが特に変化はなかった。消えたらデメリットの意味がないし、当然っちゃ当然なんだけどね。それじゃあ今度は、

 

(上書き)

 

 

 

...........チラ....!

 

嘘!消えてる!やった、嬉しい誤算だ。絶対消えないと思ったのに4秒位だけど減っtーー

 

 

 

「ゴフッ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

「ッッガアッアァァアアア!!!」

 

ブチッブチッ ダラダラ

 

痛い痛い痛い!なんだこれ!この血の量!体の内側と外側を一緒にズタズタにされてるような...!いや違う、マジでされてるんだ!とにかく回復を....!

 

 

「..か...ぁ..う、わが、き....」

 

スゥー

 

 

 

「かはっ、はぁー、はぁー....」

 

自分の体を怪我がなかった5分前の状態に上書きし、何とか危機を脱したが.....

 

 

「危ねぇ〜.....」ドサッ

 

倒れるように床に体を預ける。咄嗟に上書き出来たから良かったが、もし出来なかったら意識を失ってそのまま死んでただろう。それほど4歳児にはキツイ怪我だった。たった4秒縮めただけでこれかよ...

 

するとドタドタとこちらに走ってくる音が聞こえてくる。...ヤバいな。結構でかい呻き声あげちゃったし、聞こえちゃったか。

 

 

「大丈夫!?すごい声が聞こえたけど!」ダダダッ

 

母さんに。

 

 

 

「ッ!?どうしたの義昭!!それにそのすごい量の血は......!?」

 

そう。俺は体をどうにかすることだけしか考えていなかったので、血は溜まったままなのだ。

 

「.....ママ」

 

「な、何!?」

 

「.....リビング行こうか」

 

「え?...う、うん....?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....」

 

「.....」

 

気、気まづい.....!空気が重い....!

 

「...怪我は、ないの?」

 

「.....個性で治した」

 

「...そう」

 

 

会話、終!了!

 

まぁ、そりゃあ息子のあんなシーン見たら、いや、息子じゃなくてもそうなるか。

 

「...あれは、何?」

 

「.....」

 

「どうして、あんな事になったの?」

 

「.....僕の個性のデメリットを克服しようとした反動で」

 

「....デメリットって...?」

 

「.....言えない」

 

自分の息子の個性で息子自身の寿命が縮むと伝えるのは酷だろう。

 

「.....ママ。僕はこれからしばらく部屋に篭もる。絶対に入ってこないでね」

 

「?どうしtッ!?あなたまさか、そのデメリットを克服しようと...!?」

 

母さん鋭いな。まぁ嘘をついてもしょうがないので黙って頷く。

 

「どうして!?あなたはまだ4歳なのよ!?あんな血だらけになるようなこと今やらなくても「今だからだよ」ッ!」

 

「.....今だからこそ、早くやらなきゃいけないんだ」

 

この先どのくらい個性を使うかが分からないからこそ、早いうちに縮む寿命を少しでも多く縮まないようにしなければならないのである。

 

「よ、義あ「いいね」っ.......分かったわ....」

 

俺の気迫にたじろいだのか、一歩後退りながら答えた。

 

「.....ありがとう、パパにも言っておいてね。どのぐらいかかるか分からないから。」

 

「...えぇ...」

 

母さんからの返事を聞いた俺は、ゆっくりと自室に向かって歩き出す。背中に感じる心配そうな視線を無視しながら.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....フゥー、よし」

 

部屋に戻ってきた俺は、あの症状の対策としていくつか上書きを行う。

 

(上書き、上書き、上書き)

 

一つ目は”自動回復(再生)”、二つ目は”痛覚無効”、そして三つ目は”俺が解除しない限り上書きは消えない”という上書きをする。こうすることで体がボロボロになっても痛みはなく、傷つくのを自動回復で食い止めている間に、体の怪我がない状態に上書きするという作業ゲーになるのだ。上手くいくかはまだわからないが....。まあとりあえず、

 

義昭、行きまーす!

 

(上書き)

 

ブチブチ ダラダラ

 

体は傷つき血はあふれてくるが、痛みはなく苦しさもない。どうやら成功したようだ。よかったぁ~...。あ、早く治さなきゃ。

 

(上書き)

 

スゥー

 

よし、ちゃんと治って...あれ?

 

体の確認をしていると一か所治っているが傷跡になっている場所があった。もしかして、デメリットをなくそうとする上書きでできた傷は完全には消えない....?よく探すと、一回目のものも同じようになっていた。

 

(....上書き)

 

....うん、変化なし。どうやら消えないようだ。....まあいっか。どんどん行こう!

 

(上書き、上書き、上書き、上書き、上書き上書き上書き上書き上書き上書き)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....あなた、あの子大丈夫かしら?もうだいぶ長い間部屋にこもったままだけど...」

 

「...俺も不安だよ。ドア越しに会話してる感じは、全然おかしくはないんだがな...」

 

「....不思議な子ね。4歳とは思えないわ」

 

「うん、あの年であの落ち着きようははっきり言っておかしい。周りの子供と比べても妙に達観してるし」

 

「そうね、あの気迫は4歳が子供が出せるようなものじゃなかったわ」

 

「...とりあえず、今は待つしかないか...」

 

「...それしかないわね...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから二か月が経った。俺は飯や風呂の時以外の時間は全てデメリットを少なくすることに費やした。親には結構声を掛けられたが、上書きしながら会話をして大丈夫なことを伝えた。その結果.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めっちゃ縮んだ!!なんと!上書きして縮む最大の寿命を一週間にまで抑えられたのだ!!!WRYYYYYYYYYY!!!最っ高にハ↑イ↓ってやつだぁぁぁぁ!!!

 

こほん、頑張って個性を使っていたが一週間が限界なようだ。それ以上は個性を使っても一秒も縮まらず、怪我だけをするという結果になった。そして、デメリットを少なくするための上書きで寿命が縮むかが心配だったが、一回した上書きの内容は何回でもできることが分かった。つまり、寿命が縮むのは最初の一回だけで、二回目以降の上書きや上書きで使えるようになった能力は寿命を気にせずに使うことができるのだ。だからめっちゃ上書きした。それはもう大量に上書きした。なんかもう「上書き」がゲシュタルト崩壊するほど上書きした。つまり俺の使える能力は......

 

(ステータスオープン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物質変化、炎操作、一方通行(常時発動)、寿命縮小、自動回復(再生)、痛覚無効、水操作、風操作、雷操作、土操作、影操作、重力操作、時間操作、想像具現化、復元、隠蔽、索敵(常時発動)、肉体強化、頭脳強化、威圧、咆哮、瞬間移動、ワープゲート、個性干渉無効

 

めっちゃ増えた。もうヤバイ。何がヤバイってもう、もう!(語彙力低下中)

 

しかも全部上限なしの制限なしで、上書きで増やした能力のデメリットは消せるようだから全部強い。エグい。ていうか想像具現化だけでもうやってける気がする。しかし、この世に絶対はないので体もちゃんときたえよう。上書きも寿命が縮んじゃうのでやたらと使わずに考えて使おう。それにしても、俺がした行動も能力になるとは思わなかった。何、寿命縮小って。縮める寿命がなくなったら相手死んじゃうじゃん。...もしかして...

 

(....進化)

 

「寿命消滅」パッ

 

あああああああ!軽い気持ちでやったらとんでもないもんできちゃった!!!しかも進化は寿命縮まないんかい!!

 

....なんか、もういいや、疲れた、リビング行こう.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

「!義あっ.......!?」

 

「...義昭..あなた..」

 

「.....おはよう」

 

二か月ぶりに二人の顔を見たが、少しやつれている。どうしたんだろう?

 

「.....どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないだろ!?二か月も部屋にこもって、顔も見せないで!」

 

「そうよ!それに、やっと出てきたと思ったらそんなに傷だらけになって....」

 

....そうか、心配されるっていうのはこういう感じなのか。前世じゃ心配されることがなかったからよくわからん。それにこの二人は優しいから、傷だらけの息子を見たら余計に心配するか...

 

「.....ごめん」

 

「まったく。それに、その傷はどうしたんだ?全身にあるじゃないか」

 

「.....デメリットを小さくしたときの反動で付いた」

 

「義昭の個性で消せないの?」

 

「.....この反動で付いた傷は完全には消せなかった」

 

「...そう..」

 

三人とも黙り暗い雰囲気になる。なんか罪悪感が....

 

「そのデメリットって何なんだ?」

 

「.....言えない」

 

「そんなにひどいものなの?」

 

「.....それも言えない」

 

これだけは親にも言う気はない。本当は能力を増やす個性の使い方も誰にも教えないつもりだったのだ。

 

『そう(か)....』

 

これ以上問い詰めても俺が答えないことを悟り、空気がさらに重くなる。なんか罪悪感が....(二回目)

 

「...義昭、部屋から出てきたってことはもう大丈夫なんだな?」

 

「え?....まあ、大丈夫じゃないけど、デメリットはだいぶ抑えられたけど...」

 

急にどうしたんだろう?

 

「...よし!飯食いに行こう!」

 

『え?』

 

父さん壊れた?

 

「義昭が部屋から出てきたことと、義昭が個性のデメリットを克服したことを祝って外食だ!な!」

 

「...ええ、そうね。でも、部屋から出てきたら最初に私の料理を食べさせようと思ってたんだけど?」

 

「え、あ、その、えーっと...」ダラダラ

 

「フフフ、冗談よ。行きましょうか」

 

「お、おう!....よかった...」ボソ

 

「聞こえてるわよ?」

 

「何でもないです!」ピシィ!

 

......この二人は...

 

『ほら、義昭』

 

「....うん!」

 

俺の親がこの二人でよかったと、心の底から思えた瞬間だった。



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三話

俺の個性のデメリット事件から月日が経ち、俺は小学三年生になった。入学式では俺の顔を見た子供がほとんど泣いたり、学年が変わるたびにクラスメイトに一回は怯えられたり、隣の席の女子に声をかけただけで泣きながら謝り倒されたり、小三になっても一人も友達ができなかったりなど、いろいろあったがこれと言って大きい事件は何もなかった。何もなかった...(泣)

 

父さんと母さんも普通に過ごしており、俺たち三人は静かに、けれども幸せに過ごしていた。あ、そういえば二人の呼び方についてだが、小三になったからもういいだろうと思って変えたのだ。最初にそう呼ばれた二人は、子供の成長を感じて嬉しいような悲しいようなという顔をしていた。え?俺は今なにしてんだって?

 

 

 

 

曲作ってますけど、何か?

 

いや、正しくは頭の中にある曲の情報をパソコンの音楽制作ソフトに打ち込んでるって言った方が正しいのだろう。流石に幼稚園児がパソコンを使いこなしてるのは違和感がありすぎるので、小二辺りでパソコンを使い始め、たどたどしく見せながら音楽制作ソフトをいじりだしたのだ。中学生になったら動画投稿を始めようかとを思っている。一回打ち込んだ曲を両親が聞かせてくれと言ってきたので聴かせたところ、

 

 

「すごいじゃないか!流石俺の子だな!」

 

「将来有望ね!」

 

 

など、普通の子供を褒めるように言っていたが、夜中にトイレに行くために起きたところ、二人がどこかの評論家のように俺が打ち込んだ曲について語り合っていたのを目撃した。しかも聞こえてきた言葉の大半が曲を褒めるものだった。俺が作った曲ではないので正直罪悪感はあるが、自分が好きな曲を褒められるのは嬉しいものだ。

 

こっちの世界には俺が生きてた世界の曲やアニメが全然なかった。ベートーベンやドヴォルザークなどは同じだが、アニソンやアーティストなどは知らないものばかりである。アニソンじゃなくても好きな曲は多くあったので、神様に頼めばよかったなとすごく後悔した。そして俺以外が俺の知っているアニメを知らないと思うと軽く凹んだ。

 

アニメの情報も頭に入っているので、俺が直接ディスクに入れることも可能だろうが、それは今じゃなくてもいいだろう。

 

...あれ?...いけるかなあ..

 

(上書き)

 

..っ...はは...マジかよ...本当にチートだな、この個性...

 

今ダメ元で上書きしたところ、”俺が少しでも覚えていたらその曲の情報を得られる”という能力を得ることができたのである。つまり...

 

 

ギュオオオオオオ!!

 

ああああああ!すごい量の情報が頭の中にいいいいい!!

 

この後俺は、思い付きで得た膨大な量の情報を、床の上をのたうち回りながら頭の中で整理することに三十分費やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報の整理を終えた俺は、入力を中止して、糖分の補給のためにリビングに向かう。疲れた頭には糖分やからねえ~♪

 

お菓子を食べながら時間を確認する。両親は買い物に行っているが、先ほど帰るという連絡があったので、もうすぐ家に着くだろう。それまでは曲を打ち込んでようかね。

 

 

 

曲を打ち込んでいるときに、あれ?ディスクに直接入れられるなら、わざわざパソコンに打ち込まなくてもいいのでは?と思い、個性を使って試してみたところパソコンを打たなくても一瞬で入力できてしまい、今までの時間は何だったんだろうと悲しみに打ちひしがれながら時間を確認すると、あれから一時間も経っていた。...二人とも遅いな...?

 

こちらから連絡しようか考えながらテレビをつけて、面白い番組はないかとチャンネルを変えていると、あるニュース番組で手が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、ヴィランに人質として利用され、事件に巻き込まれている多くの人の中に紛れている父さんと母さんの姿が映っていた。

 

 

 

 

理解が追い付かなかった。なんであの二人が人質になってるんだ。ただ買い物に行っていただけなのに、なんで二人が巻き込まれなきゃいけないんだ。なんで、なんで。頭の中でそれだけが繰り返される。そうだ、いつだったかはわからないが自分で言ってたじゃないか、

 

 

この世に絶対はないんだ

 

だから二人が買い物に行っただけだとしても、巻き込まれる可能性がないわけじゃない。そして、二人が攻撃されて命を落とす可能性も....

 

 

「.....行かなきゃ...」

 

気づいた時には鍵も閉めずに家を飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人質を解放しろ!」

 

「ヒーローはまだなのか!?」

 

「うるっせえなあ!お前らはとっとと失せろよ!」

 

「剛田さん、あいつらもうやっちゃっていいっすか?うるさくてしょうがないっすよ」

 

「いや、こっちには人質がいるから下手に手は出せない。ほおっておけ。」

 

「ウーっス。おら!早く金入れろよ!」

 

 

義昭の両親は買い物の帰りに、お金を引き出すために銀行に寄っていた。しかし不運なことに、そこへ三人の銀行強盗がやってきてしまったのである。二人はほかの人と一緒に警察の助けを待っていた。

 

「うう、怖いよ、ママ」

 

「大丈夫よ。大丈夫だから」

 

「うるせえよ。黙ってろ」

 

ダァン!

 

鼠根田(そねだ)は女の子を連れた母親に向けて、自分の前歯を弾丸のように撃ち出す。

 

「ぐっ....!」

 

「ママ!」

 

「...大丈夫..だから...ね?」

 

「.....」スッ

 

「!てめえ!何してんだ!」ダァン!

 

「があ....!」

 

「どうした」

 

「こいつ携帯で外と連絡とろうとしてました!」

 

「...一応取っとくか。鼠根田、人質の携帯全部取り上げとけ。」

 

「分かりました。全員携帯出せ!」

 

鼠根田が携帯を回収している後ろで、剛田が時間を確認する。

 

「....時間か。毒山、一人選べ」

 

「やっとですか。それじゃあそうですねえ~....。この女ですね。まだ希望を失ってない目が気に入らない」

 

毒山が選んだのは五十嵐筆子、義昭の母親だった。

 

「筆子!!」

 

「......」

 

五十嵐典人は悲痛な声を上げるが、筆子は俯いて答えない。

 

「頼む!俺が代わりになるから、筆子は助t「てめえは黙ってろ!」ぐあぁ...!」

 

「あなた!」

 

毒山は手のひらから毒を出し、典人の腕を掴む。そのせいで典人の体に毒が回っていく。剛田が筆子の腕を掴んで立たせ、カメラの前に連れていく。

 

「見えてるか?警察共。最初に死ぬ犠牲者だ。恨むんなら判断と行動が遅い自分たちを恨むんだな」

 

剛田が自分の腕を岩のようにがちがちにして膨らませ、筆子の上に掲げ、頭を一発で潰せるように勢いよく振り下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と同時に銀行の入り口が吹き飛び、剛田も一緒に吹き飛ばされた。

 

 

 

何が起こったのか誰も理解できていない中、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーおい」

 

 

 

 

ゾクッ

 

『!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....誰の親に手ェ出してんだ...?」

 

 

 

一人の声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は個性で現場の状況を見られるようにしながら、重力操作で俺の重力をなくし、風操作で自分を浮かして空を飛んでいる。ワープゲートや瞬間移動は、移動する場所をしっかり把握していないと使いずらいため、こうして空から探しているのだ。といっても、現場についてすぐに何かをするわけじゃない。個性の使用はヒーローしか認められておらず、普通の人は外で使ってはいけないのだ。俺なら使ってもばれないだろうが、最悪な場合以外は進んでルールを破る気はない。

 

ダァン!

 

『ぐっ....!』

 

『ママ!』

 

.....どうやら備えておいたほうがよさそうだな。そう思い、使える能力を個性で増やしながら現場へ急いで飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛んできたことがバレないように、隠蔽を使いながら現場に降り立った。ヒーローはまだ来ていないようだ。もう二人も撃たれているのに何をしているのだろうか。

 

「おい、警察とヒーローはなにやってるんだ!」

 

「もうすぐ時間になっっちゃうわよ!?」

 

時間が経つにつれて周りの人がさらに騒ぎ出すが......時間?もしかして、

 

「.....あの、すみません」

 

「ん?っえ!?子供!?....あ、ごめんなさい、何かしら?」

 

「.....時間になっちゃうってどういうことですか?」

 

「...犯人が指定した時間までにお金と逃走用の車が用意されてないと、一人ずつ殺していくって....」

 

やっぱりそういうことか。

 

「.....犯人は何時を指定したんですか?」

 

「ええ、6時15、ふ、ん....」

 

女の人が時計を確認しながら言うと、顔から血の気が引いていった。これはもしかしなくてもそういうことか...?

 

俺も女の人の時計を確認すると、6時15分ぴったりの秒針があった。

 

 

『...時間か。毒山、一人選べ』

 

 

!まずい!犯人が動いた!ヒーローは一体何をしてr

 

 

 

 

 

『やっとですか。それじゃあそうですねえ~....。この女ですね。まだ希望を失ってない目が気に入らない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........あ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

 

『!?』

 

 

.....もう、ヒーローは待ってられないな....

 

俺は黙って銀行の入り口に向かって歩き出す。

 

「.....」スタスタ

 

「!おい、君!中は今、危ないから...!」

 

 

 

「--なにか?」

 

 

「!?....い、いや、何も....」ゾッ

 

「?.....そうですか」

 

男の人に声をかけられたが、何でもないようなのでそのまま銀行に向かう。そして入り口を破壊し、そのまま剛田というやつを斥力を使って吹き飛ばす。さて、

 

 

 

「ーーおい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お仕置きの時間だ

 

 

 

 

「.....誰の親に手ェ出してんだ...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀行にいる人々が予想だにしないことが起きて動揺している中、一番動揺しているのは、

 

 

 

 

 

(...なんだ、なんなんだ!....こいつは...!!)

 

 

吹き飛ばされた剛田だった。全部順調だったのに、突然イレギュラーが発生したのだから、動揺するのは当然だろう。そして剛田と同じくらい、

 

 

 

 

 

 

(やっべ、思ったより強かった。斥力ってこんな飛ぶのか。というか周りの人驚きすぎだし怯えすぎじゃない?そりゃあ急に入り口が吹き飛んだら驚くけど、そんなに?さっきの男の人も怯えてたように見えたけど....え、俺そんなに顔怖い?..ショック...)

 

義昭も動揺していた。

 

...まあ、顔怖いのは知ってるけど...あ、もしかして、

 

(ステータスオープン)

 

....やっぱりか。

 

威圧(発動中)

 

どうやら俺の感情に反応して勝手に発動されるらしい。まあ、自分の意志でも発動できるから便利っちゃ便利だな。っと、こんなこと考えてる場合じゃなかった。

 

周りを見ると、犯人も固まってたので今のうちに、

 

(鑑定)

 

ここに来る間に増やした能力の一つ、鑑定で人質全員を見る。...怪我をしているのは撃たれた二人だけのようだ。俺は怪我人の二人に意識を向けながら

 

パチン!

 

指パッチンをする。すると、

 

スゥー

 

「え?....なにこれ...」

 

「すごい..!怪我が治って...!」

 

二人の怪我があっという間に治っていく。俺は復元と、新しく増やした能力の(消滅)を同時に使い、弾を消して怪我がなかった状態に復元するということを一緒に行ったのだ。消滅は人に使うとヤバいが、こういう時は便利である。そして、毒を喰らった父さんを治すためにこの場で上書きして能力をゲットし、使う。

 

パチン!

 

パアー

 

「..毒が消えてく...!」

 

新能力(浄化)の誕生である。よし、これで全員大丈夫だな。

 

「おい!てめえ誰だ!」

 

「いきなり出てきて勝手なことしてんじゃねーよ!」

 

お、犯人二人起動。ここで一個質問してみよう。

 

「.....1~5の中から好きな数を選べ」

 

あ、これ質問じゃない。命令じゃん。

 

「はあ?ふざけてんじゃねえぞガキが!これでも喰らえ!」ダァン!

 

鼠根田が自分の前歯を俺に向かって撃つが、俺は一方通行を常時展開しているので、

 

 

キイイン  ドスッ

 

「...え?....あ、ああぁぁああ!ぐっあぁ!痛えええ!」

 

「!?鼠根田!」

 

必然的に攻撃は跳ね返り、鼠根田自身が攻撃を食らうことになる。所謂自滅ってやつだ。

 

「お前!何しやがった!」

 

「.....選べ」

 

「っ、チッ!3だよ!ホラ答えたぞ、この数字はなんなんだよ!?」

 

真面目かこいつ。普通得体の知れない奴の言うこととか聞かないだろう?まあ、答えないと攻撃されると思ったんだろうけど。んじゃ、答え合わせと行こうか。

 

「.....答えは」スッ

 

「!」

 

パチン!  グキ グキ グキ

 

「!があ、ああ痛え!...俺の、腕が...!」

 

「.....お前の右腕の外れる関節の数だ」

 

俺はそう答えながら、自滅した鼠根田と右腕を抑える毒山自身の影を操り、動けないように地面に縫い付けた。

 

「.....大人しくしてろよ」

 

そう言いながら、俺は剛田のほうに歩いて行った。



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四話

吹き飛んだ剛田の方に歩いていくと、個性を使って衝撃を抑えたのか、すでに立ち上がってこちらを睨んでいた。俺が想像したよりも硬度はあるようだ。一応これを言っておこう。

 

「.....仲間二人は捕まった。大人しく降参しろ」

 

「ふざけるな...!クソガキが、俺たちの計画を潰しやがって...!」

 

うん、知ってた、ここでおとなしく捕まるわけがないって。まあこれで言ったという事実は作れた。なのでこの後やることはただ一つ、

 

「.....そうか、なら」

 

 

 

 

 

 

 

こいつをねじ伏せるだけだ。

 

 

「俺の親に危害を加えたことを後悔させてやる」

 

肉体強化と瞬間移動を使い、剛田の後ろに移動して回し蹴りを放つ。

 

「グァ....!」

 

ドガーン

 

...当たったらすごい勢いで飛んでったんだけど。威力の制限も無いからただの蹴りでもすごい威力だ。考えて使おう...。影で剛田を引きずりながらそう思った。

 

「こんの..!」

 

「.....来ないのか?」

 

俺の発言に切れた剛田は岩のような腕で殴り掛かってくるが、

 

キイイン 

 

「!?」

 

無駄なんだよ...無駄無駄...

 

攻撃が一方通行に跳ね返され剛田が驚いている間に、懐に潜り込み鳩尾に重い一発をズドンとかます。剛田は立っていられなくなったのかへなへなと座り込むがこのまま終わらせる気はない。

 

「.....立て。降参しないんだろう?」

 

剛田の頭を掴んで立たせ、続けさせる。

 

「ハァ、ハァ、おら!」ブン!

 

さっきと同じように殴ってくるが、威力も速度も落ちている。なので普通に右に避け、また一発入れる。その後立たせて殴ってを4,5回繰り返すと、顔が原型をとどめていないぐらいボロボロの剛田が座り込むので、同じように立たせるために手を伸ばす。

 

「.....まだだ。こんなもんじゃ全然足りなーー」

 

 

ガシッ

 

「!?」

 

しかし、突然両隣から取り押さえられたのでそれは叶わなかった。誰だと思い俺を取り押さえているやつを見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてくれ...!俺たちは大丈夫だから....!」

 

「...お願い..、もうやめて...!このままじゃあなたが....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーヴィランになっちゃう...!」

 

 

 

 

 

悲痛な面持ちで俺を説得している両親だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀行にいる人々は目の前の光景を信じられなかった。先ほどまで自分たちの命を握っていた銀行強盗を、突然現れた子供が倒してしまったのだから。そして何より、

 

「...なんだよ、あれ...」

 

「いや..!悪魔...!」

 

「えぇ~ん!怖いよぉ~!」

 

子供から感じるプレッシャーが凄まじいのだ。子供は全員泣き出し、大人でさえ腰が抜けるほどのとてつもない圧に場を支配されている。この場にいる者全てが、”子供の皮を被った何か”と錯覚に陥ってもおかしくなかった。

 

少しすると子供が剛田に対する拷問を始めた。時間的には拷問というほどの長さではなかったが、その光景はまさしく拷問だった。一発で意識を消し去るほどの威力を持つパンチを入れ、剛田が座り込むと無理やり立たせてまた同じパンチを入れる。その行為が4、5回繰り返されたのだ。人質だったはずの人々は、彼が助けてくれたということを忘れ、人質だった時よりも強くヒーローと警察を求めた。彼らの目には、子供はヴィランよりもはるかにヴィランのように映っていたのだ。

 

しかしこのとき、二人だけ例外がいた。

 

 

「...早く、止めないと...!」

 

「..えぇ、あの子をヴィランにするわけにはいかない...!」

 

 

子供の親である二人は、自分たちのためにあんなことをさせてしまったという罪悪感と、これ以上あんなことをさせないためにも、絶対に止めるという覚悟を持って、子供の方に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてくれ...!俺たちは大丈夫だから....!」

 

「...お願い..、もうやめて...!このままじゃあなたが....!」

 

 

 

「ーヴィランになっちゃう...!」

 

苦しそうにそう言う二人を見てハッとして周りを見回すと、この場にいる全員が怯えた表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を見て

 

 

 

....あー、やっちまった。威圧をほったらかしにしてたし、人前で能力も使っちまった。しかも中継されてるから多くの人に見られてるだろうし、二人も俺の親だとバレたし、これからいろいろ言われるかもしれないな...。

 

 

「.....ごめん」

 

「謝るな...俺たちの方こそ、すまない...!」

 

「...ごめんね..!」

 

 

?何で二人が謝るんだろう?悪いのは俺なのに...まあなんにせよ、

 

俺は抱き締めてくる二人の背に手を置き、少し力を入れながら一番思っていることを伝える。

 

 

 

 

「無事でよかった」

 

 

 

『...!!』

 

その言葉を聞いて何か思うことがあったのか、二人の抱き締める力が強まった。ヒーローと警察が来るまで、俺たちはお互いに抱き締め合ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は少し落ち着いてから、”この事件を見た人は俺が能力を複数使ったことを忘れる”という上書きをした。人の記憶を勝手にいじるのはあまり気持ちのいいものではないので、必要最低限にした。しかし、事件を見た人全てという不特定多数の記憶を上書きしたため、規模がデかったせいか初めて一回で一週間の寿命が消えた。少しショックだったがこのデメリットはどうにもならないし、人前でミスをした罰として割り切ろう。それに今回の上書きのおかげで(記憶改竄(かいざん))というヤバそうな能力もゲットできたし。そしてなぜこんなことを考えているかというと、

 

 

絶賛現実逃避中だからです。

 

目の前を見ると警察とヒーローが数人ずついて、全員が俺を見ている。しかも皆表情が険しいという全く嬉しくないおまけつき。やだなー、怖いなー怖いなー。

 

「...さて、なんであんなことをしたのか理由を教えてもらえないか?」

 

 

目の前にいる男の人が聞いてくる。俺は最低限の上書きしかしていないので、俺が銀行で暴れたり銀行強盗をボコボコにしたりしたことは、皆ハッキリと覚えているのだ。なので、俺は現在事情聴取中なのである。

 

「.....両親が危なかったので」

 

「だからって君が行く必要はなかった!場合によっては君も危なかったんだぞ?」

 

「.....俺が行った方が早かったので」

 

「だとしても君はまだ子供だろう!おとなしく警察とヒーローに任せた方が賢明だった!」

 

警察の人の意見に周りの人たちも大きくうなずいて賛同している。へー、つまり、

 

 

 

 

 

 

「.....なるほど。つまり俺があそこでとるべきだった行動は”自分の親を見殺しにすること”だと、あなた方はそう言うんですね?」

 

『!?』

 

そういうことなのだ。俺はギリギリまで待ってから突入したが、あれ以上待っていたら母さんは確実に殺されていた。つまり、この人たちの言い分だと見殺しにしろと言っていることと同じなのだ。

 

「いや、それは....」

 

「.....それに、警察もヒーローも来たのは事件が終わってから。その場にいない人たちに何をどうやって任せろと?.....自分はちゃんと待ちましたよ。それこそ、母さんが殺されそうになるまで。..だけど、そんなときになってもヒーローも警察も来なかった...」

 

『......』

 

誰も何も話さないが、気になったことがあったので近くの人に聞いてみる。

 

「.....剛田は以前に人を殺してますか?」

 

「!?...え、えぇ...二年前に二人...」

 

「.....やっぱりか...」

 

「や、やっぱりって?」

 

一人で納得しているとさっき俺が聞いた人が聞いてきた。これも理由の一つだから話した方がいいか。

 

「.....あいつの目には迷いが感じられなかった。人を殺した人間は、まともじゃないやつの場合、”一人殺したら何人でも一緒だ”と考えることがあります。そしてあいつはそのケースに当てはまっていた。だからこそ思ったんです。このままじゃ確実に殺されるって。」

 

『......』

 

何でずっと黙ってるんだろう?独り言みたいでちょっと恥ずかしいんだけど...。

 

「.....別に責めてるわけじゃないんです。ヒーローは遅れてやってくる、当然です。情報をもらってから動くんですから。ただ、今回はそれじゃすまない状況だった。だから自分が動いた。それだけです。

 

 

 

 

 

その場にいなかった人たちに、後からやってきて注意される筋合いはありません」

 

 

 

 

『っ.....!』

 

俺の言葉が刺さったのか、それぞれ苦虫を潰したような顔をする。やべ、責めてないって言ったのにめっちゃ責めてるような言い方しちゃった。突っ込まれる前に早いとこ退散しよう。

 

「.....もういいですか?表に親を待たせているので」

 

「...ああ、行っていいよ。ありがとね...」

 

「?.....失礼します」

 

部屋を出てから振り返ってみると、皆さん通夜の時のような顔をしていた。大丈夫?

 

 

 

 

あ、そういえば俺小四じゃん。すっかり忘れてた。あんなズバズバ言う小四嫌だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義昭が出た部屋の中には、暗い顔をしている大人たちがいた。大人たちはお互いに思ったことを、沈んだ声で伝え合っていた。

 

「....先輩、あの子すごいっすね...」

 

「...あぁ、ぐうの音も出なかった。小学四年生とは思えないな...」

 

「えぇ、特に殺人犯の考え方の話の時はビックリしましたね。どうやってあの考えを出したんでしょう....?」

 

「...さぁな...」

 

その後も少し話してから仕事に戻るが、彼の言い方が、まるで経験したことがあるようにも聞こえることと、話している時の表情に感情が感じられなかったことは、誰も口に出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきたぜ!マイハウス!いや~疲れた疲れた、もう今日はやることやって早く寝よう。そうしよう。

 

一刻も早くベッドにダイブするために脱衣所に向かう。あ、ベッドは小学校に入学したときに父さんが買ってくれた。謝謝(シェイシェイ)

 

「義昭、ちょっと来て」

 

すると、親からお呼びがかかったので声のする方に向かうと、真剣な顔をした二人がいた。何だろう?

 

「.....何?」

 

「...あのね、今日みたいなことはもうしないで欲しいの。もちろん、あなたの個性が強いのは分かってるわ。でもね、あなたに何かあったらと思うと心配なのよ...」

 

「義昭が助けてくれたことには感謝してるんだ。だが、親としてはなぁ...」

 

....そうか。俺はまた心配をかけてしまったのか。反省しないと。

 

「.....分かった。それじゃあせめて、」

 

パチンッ

 

俺は2人に意識を向けて個性を使う。

 

「?今何かしたの?」

 

「何も変わってないような...」

 

2人は俺が何をしたか分からず、キョロキョロしながら戸惑っていた。しかし見えないだけでちゃんとあるのだ。

 

「.....見てて」

 

俺はそう言いながら、近くにあった物を母さんに向かって投げた。

 

キイイン

 

「キャ!...え?」

 

目の前で攻撃が跳ね返ったことに驚く母さん。父さんも何が起こったのか分からないという顔をしていた。

 

「.....俺が常時展開している能力を二人にも発動した。これで大体の危険なものは反射されるから」

 

「...ありがとう」

 

「ありがとな」

 

二人はお礼を言ってくるが、二人の安全が最優先なので問題ない。寿命が少し縮んだけどこれで二人の命が守れるなら安いものだ

 

「.....うん、それじゃあ、お休み」

 

『お休み』

 

お礼が欲しくてやったんじゃない。俺は二人が無事ならそれでいいのだから。さ、風呂入って寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

あんなことがあった次の日だが、学校は普通にあるので行かなきゃならない。めんどいよ、パトラッシュ...

 

「行ってらっしゃい」

 

「.....行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着いたのだが、何かがおかしい。登校してからずっと視線を感じるのだ。そんな怖い顔してんの?俺。

 

結局教室の前についても視線は消えなかった。逆に増えた。何故だ。

 

ガラッ

 

シーン...

 

俺が教室に入ると静まり返り、大半の人が怯えが混じった表情で俺を見てくる。残りの人は何故かニヤニヤしているが、時々黒板をチラチラ見ているので俺も黒板を見てみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は化け物

 

 

 

 

その言葉が大きく書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、俺か。



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五話

黒板には大量の誹謗中傷が書かれており、見たところ俺の机も同じようになっていた。

 

「おい、化け物が来たぞ。俺たちもボコボコにされちゃうよ」ニヤニヤ

 

「やめろよ、聞こえるだろ。ボコボコにされたらどうすんだよ」ニヤニヤ

 

「ホントよ。ねぇ皆?」ニヤニヤ

 

『.....』

 

なるほど、あのニヤついてる奴らが犯人っぽいな。その他大勢は怯えは本当だがこの件には無関係のようだ。

 

「おい化k、五十嵐!あの時の気持ち教えてくれよ!」

 

「そうだぜ化けm、五十嵐!」

 

中途半端に言い直してるせいで化け物って呼ぼうとしてるのバレバレだし。やかましいヤツらをスルーして机の中身の確認をした。教材とかにも書かれてたら困るからな。

 

「おい!無視してんじゃねぇよ化け物が!」

 

よかった、中身までは手を出していないようだ。

 

「こっち向けよ化け物!」ブンッ

 

振り向くとアンチその1が物を投げてきていたので、

 

キイイン! ドスッ

 

『!?』

 

顔面スレスレを通るようにベクトルを弄って丁寧に返してあげた。向かってきた速度とぶつかった時の衝撃をそのまま返しているので、速度は向かってきた時より上がっている。

 

あぁそうだ、言うのを忘れていたが、昨日の夜になんちゃって一方通行からちゃんとした一方通行に進化させた。昨日は反射して当たったのが強盗だったからよかったが、これからも反射するたびに人を傷つけるかもしれないので、ちゃんとベクトルをいじれるようにしたのだ。いつか「三下ァ!」って言ってみたい。

 

「.....何でこんな事を?」

 

「あ..、あぁ...」

 

「!お、お前が気に入らなかったんだよ!ずっと無口でクール気取りやがって!そしたら昨日の事件があった!お前みたいな化け物と一緒に居たくねぇんだよ!」

 

俺の反射を喰らって震えてるやつの代わりに、アンチその2が説明する。みんなニュース見てたってことか。それで、俺に不満を持ってたやつらの感情が爆発したらしい。アンチその3の女何もしてないな。にしてもクール気取ってるったってなあ...

 

「.....ただ、話すのが苦手なだけなんだが...」

 

「うるせえ!そんなこと信じられるかよ!」

 

うーん、そりゃそうか。嫌ってるやつの言うことなんか信じたくはないわな。

 

「.....他にそう思ってたやつはいるか?特に何もしないから、正直に手を挙げてほしい」

 

俺がそう言うと3人が決まづそうに手を挙げる。他は本当に思っていないかわからないが、今のところアンチ組含めて6人らしい。そんじゃあとっととやるか。こういうのは早い方がいいし。

 

 

 

 

 

 

「.....自分が紛らわしい態度をとってしまったせいで誤解を招き、不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

6人に対してきれいな90度を作って、頭を下げた。

 

『!?』

 

「お、お前、何言って...」

 

俺が謝罪するとクラスにいるやつ全員が驚いていた。6人も理解できていないようだ。

 

「ちょ!五十嵐君!それでいいの!?」

 

「.....何がだ?」

 

「だって明らかに理不尽な言い分じゃん!なのに五十嵐君が謝るなんておかしいよ!こんなひどいことした人たちに!」

 

その他の内の一人の女子が俺に聞いてきたので何がかを聞くとそんなことを言ってくるが、え?ひどいこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言ってるんだ?こんなのひどくもなんともないだろう?」

 

 

『....え?』

 

 

 

 

 

 

 

義昭と同じクラスになった人は、最終的には大半が彼のことを"無口で真面目な優しい人"と認識するようになる。

 

自分の見た目や前世での経験もあるため、人と話すことが少ないが、話し掛けるとちゃんと反応するし、掃除の時間で他がふざけている中で1人黙々と掃除していたり、授業もちゃんと受けていたりという真面目さもある。更に成績優秀なので、試しに分からないところを聞くとちゃんと理解できるまで、丁寧に優しく教えてくれたのだ。ギャップが良いという女子がいるほどである。

 

その彼から発せられた言葉に、一同は理解が追いつかなかった。

 

「...ごめん、なんて言ったの..?」

 

「?.....こんなのひどくもなんともないだろう?」

 

唯一再起動した委員長が聞くが、返答はさっきと同じだった。

 

「.....机もボロボロじゃないし、教科書とかも無事だ。上履きと椅子にも画鋲が仕込まれていない。机の上に花瓶も置かれていない。暴力はさっき受けかけたが、これだけっていうのは相当に優しいぞ?」

 

全員がおかしいと思った。明らかにイジメに分類されるような精神的ダメージを与えるものなのに、それを無表情で見て優しいと言ったのだ。

 

「...何かそう思われる心当たりとかあるの?」

 

「.....特に無いな」

 

「じゃあ何で謝ったの?心当たりも無いのに...」

 

 

 

「?....俺の周りで起こったことは全部俺のせいって教えられたからな。なら俺が謝るのが普通だろう?」

 

 

 

『っ...!』

 

意味が分からなかった。それと同時に、彼は今までどのような事を経験してきたのだろうと戦慄した。

 

もちろん彼の言う経験は全て前世での事である。今世では普通の子供と変わらない生活を送っている。そのおかげで女性不信はどんどん治ってきており、コミュ障も僅かだが改善されていっている。だが、義昭は自分の事を誰にも話していないので、クラスの人々は知るはずも無かった。

 

「...だから、すまなかった。許してくれないか?」

 

「も、もういいよ!もういいから...」

 

「...俺たちも、悪かったよ...変な難癖つけて....」

 

「?....悪いのは俺だろう。お前らが謝る必要は無い」

 

『っ....』

 

アンチ組は、謝罪が受け入れられないのはこんなにも辛いのかと思った。その他の人も、義昭の常に自分が悪いと言う発言に思わず目を背けてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

俺が謝ったらみんな黙ってしまった。why?よく分からない空気になったが、取り敢えず許してもらえたようなので一件落着だなと思っていると、

 

 

 

「あ!いた!」

 

「.....ん?」

 

 

謎のオレンジ色の髪をサイドテールにした女の子が現れた。

 

 

よし。

 

 

 

話す

 

>逃げる ピッ

 

 

義明は逃げるを選んだ。

 

 

 

 

 

 

「あのさ!」

 

しかし回り込まれた。

 

「.....なんだ?」

 

「助けてくれてありがとう」

 

 

 

「ーは?」

 

突然お礼を言われ、よく分からずにちょっと間抜けな声を出してしまった。いきなりどうしたのこの子?大丈夫?

 

「昨日の銀行にアタシも居たんだ」

 

『!?』

 

「.....そういう事か」

 

「彼処にはアタシの家族も一緒に居たんだ。両親を守らなきゃって思ったのに体が動かなかった...。だからお礼を言おうと思って朝から探してたんだ。うちの学校で見た事のある顔だと思ったからさ。だから改めて、」

 

 

 

「アタシを、アタシの家族を助けてくれて、ありがとう」

 

その女の子は、真剣な顔で感謝を伝えてきた。だが、

 

「.....俺は自分の親を助けることしか考えていなかった。他の人のことを考えていなかったんだ。だからお前が感謝する必要はない。」

 

俺は完全に自分のために行動したのであって、そこに”他の人を助ける”という気持ちははっきり言って一ミリも存在していなかった。そんな相手にわざわざ感謝をするのはおかしいだろう。

 

「うぅ..そっか...」シュン

 

ちょ、そんな顔しなくても。この女の子はかなり上の美人の部類に入るほどの容姿なので、シュンとした姿だけでも精神的に来るのだ。黒板と机に書かれてる誹謗中傷より何倍も心が痛い。

 

「.....まあ、その、なんだ...」

 

ポフッ  ナデナデ

 

かわいそうに見えてきたので、女の子の頭に手を置いて撫でる。

 

「.....無事でよかったな」

 

「!...うん!フフ♪」

 

かわええ。なんやこいつ。....だんだん顔が赤くなってきたな。怒ってるかもしれないからやめておこう。

 

フッ

 

「あ...」

 

「....ん?」

 

「!な、何でもなっ!!何これ!?」

 

俺の追及を拒むように顔を背けるとギョッとしたような反応をする。俺の机と黒板を見たようだ。

 

「誰がこんなことしたの!?」

 

『.....』

 

「黙ってないで何とか「おい」っ何!?」

 

「.....これはお前が来る前に終わったことだ。話を蒸し返すな。」

 

「だけど「いいな?」っ...分かった。だけどアンタはいいの?あんな事言われて」

 

 

 

 

 

「ー慣れてるからな」

 

 

 

『!?』ゾクッ

 

「な、何...?慣れてるって...?」

 

「.....そんなことより、そろそろ名前を教えてくれないか?ずっとおいとかで呼ぶのは大変だ」

 

「...分かった。じゃあアタシからいくからアンタも教えてね。

 

 

 

アタシは拳藤一佳。よろしくね!」

 

「.....五十嵐義昭。よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

あの後はあまり時間がなかったため、拳藤は少し話してから連絡先を俺に渡して帰っていった。その時にクラスの男子は嫉妬と羨望が入り混じった視線を俺にぶつけていた。わかるよ。拳藤美人だもん。そりゃモテるわ。

 

そして、そんな男子たちに対する女子たちの視線が冷ややかであったことは、胸にしまっておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

アタシは自分の家で彼について考えていた。

 

「...慣れてる、か...」

 

自分が直接話した時のことと、五十嵐と同じクラスの友達から聞いたことを思い出しながらソファに倒れる。まだ関わり始めたばかりだが、拳藤はこれだけは確信していた。

 

 

あいつはどこかが壊れている、と。

 

慣れてると言ってた時のあいつの表情ははっきり言ってヤバかった。何もかも諦めたような顔をしていた。友達から聞いた話も異常だった。あの数の誹謗中傷を見て、これだけなら相当優しいと言ったらしい。その後も理不尽な相手に自分から謝ったり、自分の周りで起きたことはすべて自分のせいだから自分が謝るのは当然だとか言ったりしたようだ。さらに自分の言ってることは何もおかしくないと思っている顔をしていたそうだ。正直信じられなかったが、あの顔を見てしまったら信じざるを得ない。

 

「...あたしが支えてやらなきゃ...!」

 

何でこんなことを思ったのかはわからないが、アタシは強く意気込んだ。

 

 

 

....そういえば、あいつに頭撫でられたんだよな、アタシ...。あの時、なんだか安心したんだよな。

 

「....///」カァ~

 

アタシは自分の手を頭に置いた。...何かが違う。

 

「....何やってんだろ...」

 

あいつは今まで会った男子とは全然違う。騒がないし嫌な視線も感じない。大人しいやつも過去にはいたが、あいつの落ち着き具合は桁が違う。それでいてあの見た目であの身長なので、少し背の低い大人っていえば通用しそうだ。

 

「..んん..」

 

考えていると睡魔が襲ってきたので、そのまま睡魔に身を委ねた。最後に頭に浮かんだのは、アタシの頭を撫でていた時の無表情でありながらなぜか困っているように見えた顔だった。



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