冥界に剣聖あり (ポン酢おじや)
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葦名の大将

『迷えば敗れる』

 

 

多くの者達を斬ってきたが、この言葉がわしの全てとなった。

 

 

葦名を追われた幼き頃に相手した雑兵

 

国盗り戦にて相手した田村

 

水のように流れる剣技を扱う巴

 

修羅に呑まれた飛び猿

 

 

僅かでも迷えばこちらが殺られていた

 

しかし最後の最後にわしは隻狼に敗れた。

 

思えば...弦一郎の屍を見下ろしたあの時、わしの心中では僅かに迷いが生じた。

 

だが我が孫が命を使ってまでも、わしに一つの願いを託したからには応えぬわけにはいかぬと迷いを払った気でいた。

 

そんなわしと違い、隻狼は迷わず九郎の願いを果たす為だけに刀を振るった。

 

今思えば彼奴と対峙した時点でわしの敗けは決まっていたのかもしれん。

 

 

しかし、そんな敗けを匂わせた戦だったが...

 

 

まこと血が滾ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明かり一つ無い黒い空。

命を感じぬ樹木。

時折漂う人魂。

 

人の世では決してありえない森に、一人の男が現れた。

 

その男はボロボロで黒く汚れた藍色の羽織と袴を着ており、背が高くかなり痩せた老人だった。

頭には三叉槍のような立物がついた兜を被っており、左目には痛々しい刀傷があった。

 

そして腰には長い鞘をさして、右手には両刃で蓮の鍔がある長刀が握られていた。

 

この男の名は葦名一心。

戦国末期で剣聖と呼ばれた豪傑である。

 

 

 

一心はゆっくりと目を開けた。

 

目を動かし、辺りを見渡す。

 

「.....ここはどこじゃ...」

 

一心は見覚えの無い風景を見ていると、すぐにその視線は自分の腹に移る。

 

腹には大きな傷が残っており、さらに手で自分の首を触ると太い傷があることに気づく。

 

「...隻狼め...見事なものだ」

 

一心は立ち上がり、持っていた刀を鞘に戻す。

 

「となると...ここはあの世か」

 

一心は再び辺りを見渡すが、人どころかここには生命の気配すら感じられない。

 

何かおかしいこの場所だが、彼は全く驚いていない。

 

「カカカッ...面白き場所よ。さぁて、三途の川は何処か」

 

一心は兎にも角にも歩き始める。

あまり死後については詳しくないが、彼はこの怪しげな森を抜ければ何かあるかもしれぬと考えた。

 

 

 

 

 

 

暫く歩くが、景色は変わらない。

冷たい風が樹木や一心の羽織を揺らし、時折見える漆黒の空は一層ここを不気味にさせる。

 

「ふぅむ...珍しき場所じゃ...人はもちろん虫すら居らぬ」

 

一心は諦めずに歩くと、奥から青い光のようなものを見つける。

一心は青い光など怪しいと感じるも、同じ風景を何度も見るよりはマシとそこに向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

青い光が近づくと、その正体は青い火が灯された燈籠だった。彼はいくつもの燈籠で照らされた長い階段に辿り着く。

 

「青き炎...実に美しい。赤き炎とは大違いじゃ」

 

一心は階段の上を見つめると、ゆっくりと階段を登り始めた。

 

 

 

長い階段をようやく登りきると、目の前には高身長の一心ですら驚く程の巨大で花一つ実っていない枯れた大木がそこにあった。

大木には一つの注連縄に縛られており、広い広場の中心にまるで戒めのように植えてある。

 

「見事な樹じゃ...咲けば美しかろうに」

 

一心はゆっくりとその大木に近づいていく。

すると巨大過ぎて見落としていたが、樹の根本には柵で囲われた場所があることに気づく。

「んん?...なんじゃこれは」

 

柵の内側には何もなく、桜の花びらがほんの少し落ちているだけだった。

 

「桜か...つくづくわしは桜に縁があるな...」

 

すると一心は後ろにいる何者かに気づき、ゆっくりと刀を抜いて振り向く。

 

「...何者じゃ」

 

振り向いたその先には、一人の少女がいた。

白く短い髪に、緑色の見慣れない服を着た少女がそこに立っていた。

そして少女の背中には、一心の持つ刀と同じ長さ程の刀、そして小太刀の二本を背負っている。

一心と比べ、遥かに背の低い少女には似合わぬ物だった。

 

 

女子(おなご)か...」

 

一心は相手が小さな少女だとわかっても、刀を鞘に戻さない。

どんな相手であれ、刀を持つ相手に警戒を解くわけにはいかない。

 

「ここは立ち入り禁止です。すぐに出ていってもらいましょうか」

少女から発せられる可憐な声には、明らかに敵意と怒りが込められている。

そしてその一言だけで、一心の心にはある確信を持った。

 

 

強い

 

 

目の前の少女は見た目からは想像できぬ相当な手練れの剣士であり、葦名の道場にいた剣士達よりも遥かに格上。

一心は既に死んでいる。

 

しかし彼の貪欲なる強さへの渇望は、死んでからも治まらない。

 

 

「さて...どうするか」

「どうするも何もありません。すぐに立ち去ってください」

「断る...と申したらどうする」

「そうですか。なら」

 

少女は背中に背負った長刀を鞘から抜いて、一心に刃を向ける。

 

「魂魄妖夢、参ります」

「名乗りか...カカカッ!面白い!ならば...葦名一心、お主の実力を見てやろう」

 

 

 

 

明らかになめられた態度に、妖夢は足に力を込める。

 

相手は人間。

対してこちらは半人半霊。

刀を持っているが、人間では力はもちろん速さにすら敵うかどうか怪しいものだ。

 

妖夢は地面を思いきり蹴り、一瞬で一心の元へ移動する。

並みの剣士なら刀で受け止めることもできずに斬られてしまうだろう。

 

しかし今回は違った。

 

妖夢は知らなかった。

 

目の前の男は幾度となく死闘を重ね、貪欲に強さを求め、あらゆる技を飲み込む怪物であると。

 

一心は妖夢の刀をいとも簡単に受け止める。

さらに人間でありながらも、彼は妖夢の力に負けぬ強さだった。

その痩せた体、細い手首からは想像もできない。

 

「な、何者なんですか...!」

「中々の力...女子とは思えぬ」

「このぉ!!」

 

妖夢は一心の刀を受け流し、構えを変えて突こうとする。

しかし彼は妖夢の攻撃を弾き、左腕の肘で彼女を突き飛ばす。

そしてすぐさま彼女の腹を目掛けて刀で突いた。

 

妖夢はすぐさま回避し、一心と距離をとる。

 

しかし一心は体を少し屈むと、一瞬で距離をとった妖夢へと近づき刀を振り下ろす。

 

彼女は何とか受け止めるが、驚きの連続で明らかに顔に焦りが見える。

 

「強い...!」

「むぅん!」

 

一心は妖夢を刀ごと押しきると、彼女の足元目掛けて刀を横に振るう。

彼女は背負っていた小太刀を直ぐ様抜いて、一心の下段攻撃を受け止めた。

そして長刀を一心目掛けて振り下ろすも、彼は直ぐ様防御し攻撃は弾かれる。

 

「仕方ありませんね...!」

 

妖夢は再度距離をとり、長刀を鞘にしまった。

一心はすぐに彼女は居合い攻撃をしてくると判断する。

 

「現世斬...!」

 

妖夢は敵の視界から消えるほどのスピードと同時に刀を抜いて一心へ攻撃する。

斬られた瞬間流石に彼でも後ろに吹き飛ばされるが、すぐに何も無かったかのように立ち上がる。

 

「ふ、防いだ...!?」

 

妖夢は一心へ攻撃した瞬間、大きな金属音を聞いていた。

 

彼女渾身の居合いですら彼は防御したのだ。

 

「...速い...見事じゃ」

「ま、まぐれに決まってる!」

 

妖夢はもう一度鞘に刀をしまい、再び構える。

 

「カカカッ...中々滾るではないか...」

 

すると一心も刀を鞘にしまった。

妖夢と同じ居合いの構えをしたのだ。

 

「なめるな...!」

 

妖夢は突進し、刀を抜こうとした。

 

しかしその瞬間右肩に衝撃が走る。

 

「...え?」

 

妖夢は目の前に赤い液体が散らされた光景を見た。

そして自分の右肩を見ると、血が溢れ出ている。

 

「み、見えなかった...」

 

妖夢はまだ刀を抜いていない。

対する一心は既に刀についた血を払い、鞘にしまおうとしていた。

 

「まだまだじゃ。精進するがよい」

「くっ...」

 

妖夢はその場で膝を地面につける。

 

「まだ...まだ終わっていません!」

 

彼女は直ぐ様立ち上がり、刀を構える。

一心はその勇ましい姿を見るも、彼の血は既に冷めていた。

 

「終わりじゃ」

「まだ私は倒されてません!」

「...仕方なし」

「いきます!!」

 

妖夢の覚悟をみるや一心は、刀を再び抜き妖夢の前に立つ。

 

「参れ」

「はぁぁぁ!!」

 

妖夢は文字通り全身全霊で一心を攻撃する。

長刀を使って広い範囲攻撃。

小太刀を使った奇襲。

二刀流による連続攻撃。

 

しかしどれも一心に弾かれる。

 

妖夢は通常の攻撃では弾かれてしまうと判断し、小太刀と長刀を構えた。

 

「断霊剣!成仏得脱斬!」

 

二つの刀を交差するよう斬ると、彼女の目の前で桜色に光る巨大な柱を出現させる。

 

流石にこれにはあの男はただではすまない。これを機に反撃に撃ってでる。

 

 

 

そう思った矢先

 

 

 

桜色に光る柱から白く半透明な線が彼女の体を再び斬り裂いた

 

 

「カハッ....」

 

妖夢は何がなんだかわからず、その場で崩れ落ちる。

柱が消えると、奥に居合いの構えから刀を抜いた状態の一心がいた。

 

「真空波...?」

 

一心は刃を飛ばしたのだ。

秘伝竜閃である。

 

彼はゆっくりと妖夢に近づいていく。

 

「...女子相手に使うつもりはなかったのじゃが...使わねば危険と思ったものでな」

 

妖夢は刀を支えに立ち上がる。しかし二回も斬られ、血が止まらぬこの状態ではもう戦えない。

 

苦しむ表情の彼女を前に、一心は刀を鞘にしまう。

 

「これで終いじゃ。手当をするがいい」

「!」

「さて、お主...聞きたいのじゃが、ここは何処か」

妖夢は答える前に倒れてしまった。

 

「答えられぬか...ならばあの階段を降りるとするか」

 

一心は倒れた妖夢を通り過ぎ、階段へ向かう。

 

 

しかし彼は歩みを止める。

妖夢は再び立ち上がっていた。

 

「...立つか」

「このまま引き下がれません...!」

「...良かろう」

 

一心は妖夢の方へ振り返り、渋々刀を抜こうとする。

その表情は誰から見ても嫌そうな顔だった。

例え相手は剣士だろうと小さな女子。

だが覚悟は本物だ。

 

ならば斬らねば彼女に失礼であろう。

 

 

しかし一心の刀を掴んだ手に、細い手が乗せられる。

 

「!」

「そこまで」

一心は横を見るといつの間に接近してのかわからなかったが、そこには美しい女性がいた。

桜色の綺麗な髪に、どこか儚げな顔立ち。

白と水色の着物で身を包み、命を感じさせぬ気配。

 

一心の顔には一滴の汗が垂れていた。

 

彼から見ても、その女性はどこか不気味に思わせる。

 

「何者じゃ」

「そこにいる可愛い剣士の主人」

「ほぉ...お主が」

「試合はこれでおしまい。これ以上あの子の血は見たくないの」

「...よかろう」

 

一心は鞘にしまい、刀から手を離した。

そして彼はフラフラの妖夢を見る。

 

「中々楽しめた。良き剣士じゃ」

「.....」

「さて、お主の名は」

すると不気味な女性が一心に説明し始める。

 

「魂魄妖夢って名前」

「魂魄...知らぬ名だ。どこの生まれじゃ」

「冥界ね」

「冥界...?」

「つまりここ」

「ここは冥界と申す場所か」

「...あれ?驚かないの」

「...驚く?何故じゃ」

「ここ、死人が来る場所よ?」

 

女性の言葉に、一心は思わず吹き出す。

 

「...カカカッ!まさか死人が訪れる場所でも戦えるとは...面白い!」

「変な人ね...そうだ。貴方私の屋敷に来ない?」

「ほう、お主の屋敷がここにあるのか」

「貴方の腕を見込んで頼みたいことがあるの」

「...よかろう!」

「じゃあ決定ね」

 

すると女性はボロボロの妖夢に近づき、あっという間に彼女を抱き抱える。

 

「ちょ!?幽々子様!?」

「はいはい動かない。怪我してるんだから」

「じ、自分で歩けますよ!」

「駄目」

「幽々子様~!」

 

二人は階段を降りていき、一心もついていく。

 

 

 

 

 




よろしくお願いします


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白玉楼

生きる者は訪れぬ冥界。

そんな場所に建つ広大な屋敷『白玉楼』

そこには一人の主人と庭師が住むだけだという。

 

 

三人は巨大な門を通り抜けると、まず美しい庭が視界に広がった。

 

「ほぉ...見事な手入れじゃ」

「全部この子がやってくれてるのよ」

「剣の腕に加え見事じゃ...まったく驚かされる」

 

二人の会話を聞いて、幽々子に抱き抱えられてる妖夢の顔は赤くなっている。

 

その表情を見て幽々子は楽しんでいるようだ。

 

 

屋敷に入ると、一心は客間に待たされる。

 

あの主人は妖夢の治療を行っているのだろう。

 

しばらくすると幽々子が部屋に入り、一心の正面に座る。

「見事な屋敷じゃな」

「気に入ってもらって良かったわ」

「さて...わしらお互いは何も知らぬ。教えてもらおうか、お主の事」

「そうね。なら私から自己紹介するわ。私は西行寺幽々子。ここ冥界の白玉楼の主よ」

「...葦名一心。わしは葦名の主と言ったところか」

「葦名...どんなところなの?」

「まこと美しき場所よ。だが人外なる力も眠っておる。わしもその力に染まった老いぼれじゃ」

「人外?どういう事?」

「わしはそこらの刀で斬られても死なぬのよ。見た目は人でも...最早人ではない」

「不死って事かしら」

「そうじゃ」

「なら私たち正反対ね」

 

幽々子の言葉に、一心は疑問に思う。

正反対とは何の事か?

すると彼女は淡々と説明し始めた。

 

「貴方は死なない。けど私はもう死んでるの」

「死んでいる...?」

「私は亡霊...魂を持たない存在」

「ほう...確かにお主らからはあまり生気が感じられぬと思ってはいたが...しかし亡霊と言えば透けるものであろう?」

「触れもするし、食べることも飲むことも出来るわ。普通は透けてて人魂でふわふわ漂う事しか出来ないけど...私は特別」

「あの娘も亡霊か」

「いえ、あの子は半分だけ。もう半分は人間よ」

「半霊...なんと不思議な事もあるものじゃ」

 

すると幽々子は一心の服装を見る。

 

「随分とボロボロね」

「わしが動くとすぐ破れる。だがこの格好が一番動きやすい」

「破れすぎて着物じゃ無くなってるわよ?」

「カカカッ!」

 

一心は笑うと、幽々子もつられて少し笑う。

 

「ふふ...面白い人」

「さぁて、西行寺とやら。頼みとはなんじゃ」

「...あの子に剣の指導をしてくれないかしら」

「指導とな」

「あの子には腕や資質もあるのだけども...あと一押し足りないって感じちゃうの」

「ふぅむ...」

 

一心はしばらく悩むが、ゆっくりと頷いた。

 

「構わぬ」

「ほんと?嬉しいわぁ」

「しかしわしは手加減というものを知らん。あの小娘に葦名流を嫌と言うほど叩き込むが...よいか?」

「ええ、あの子のいい経験になるわ」

「よかろう」

 

一心は立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「わしがあの小娘にこの事を伝えよう。どこにいる」

「左に行って二つ隣の部屋よ」

 

一心は幽々子の説明通り、妖夢がいる部屋へと向かう。

 

「少しは楽しくなるかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は斬られた場所に包帯を巻かれ、布団で安静にしていた。

半人半霊の彼女はそこらの人間よりも、何百倍と頑丈だ。

しかしそんな彼女に動けないほどの傷をつけたあの老人は何者なのだろうか。

 

そんなことを妖夢は考えていると、部屋の襖が強く開かれ、一心が入ってきた。

 

「いいっ!?」

 

あまりの驚きに、近くにある刀を取ろうとするが痛みで動けない。

 

「まて、そう構えなくてもよい」

一心は妖夢の布団の近くに座ると、刀を自分の右に置く。

 

「お主の主から頼まれた。今後わしはお主の剣の指導に当たる事となった」

「し、指導?貴方が?」

「傷が癒え次第、稽古をしようぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり過ぎて頭が混乱してます」

「カカカッ!そうだろうよ。それより、傷はどうじゃ」

妖夢は包帯で巻かれて自分の傷に触れる。

 

「.....すぐ治りますので」

「...そうか」

 

一心は少し安心すると、妖夢の近くにある刀を見る。

 

「その刀...お主のだろう」

「え、ええ」

「見せてはくれぬか」

「...どうぞ」

 

妖夢は長刀と小太刀を一心に渡す。

彼はゆっくりと刀を抜いた。

 

「.....いい刃じゃ。名はあるのか」

「楼観剣、そちらは白楼剣」

「楼観剣...ふぅむ」

 

一心は楼観剣を鞘にしまうと、妖夢に返した。

 

「お主は...二本の刀を扱うか」

「そ、そうですが」

「中々見事な連携だった。あの光る柱を産み出した技も中々驚かされたものよ」

「あ、ありがとうございます」

 

妖夢は少し照れて、布団で頬を隠している。

 

「しかし...お主はまだ未熟よ」

「.....」

「お主の剣筋には迷いが見える。それが消えた時...敵は消える」

「迷い...ですか」

「迷えば敗れる...それを常に心得よ」

 

一心は自分の刀をもって立ち上がる。

 

「ではな。よく休み、傷を癒せ」

「あ、は、はい。よろしくお願いします」

 

一心は部屋から去り、襖を閉じる。

 

静かになって部屋に一人、妖夢は動かす襖を見つめていた。

 

「...あの強い人が稽古してくれる。少しは強くなれるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界には朝も昼もない。

永遠に夜が続く。

しかし夕食や朝食などは決められており、現在は夕食の時間だ。

いつもは妖夢が作るのだが、現在妖夢は負傷中。

 

なので幽々子が簡単なものを作り、一心と彼女の二人での食事となった。

 

「済まぬな」

「いいのいいの。たまにはあの子も休ませてあげましょ。お口に合うといいけど」

「カカカッ!構わぬ...それよりも、そこに置いておるのは」

「お酒よ。一心さんはいける口?」

「好物じゃ」

「なら良かった」

 

幽々子は持っていた酒瓶と猪口を二つ用意し、注いでいく。

そして酒が入った猪口を一つ一心に渡した。

 

「では、頂くぞ」

「召し上がれ」

「...ぷはぁ!うまい!」

「いい飲みっぷりね」

「死する前も、死んだ後も酒はうまい!カカカッ!」

幽々子も猪口に入った酒を飲んでいく。

一心は幽々子が作ったお握りや、漬物、お味噌汁や少し焦げた魚等を食べていく。

 

「うむ、うまい」

「よかった。お料理するなんて何十年ぶりだったから」

「何十年か!今まで誰が作っていたのじゃ」

「妖夢よ。あの子の料理は絶品なんだから」

「ほぉ...料理までうまいのか」

「何でもできるのよあの子は」

「カカカッ!葦名にも欲しいものじゃ」

「駄目よ。妖夢は私のなんだから」

「...だが最早...滅んだ葦名には意味は無し...」

「滅んだ?」

「酒の席じゃ。老人の戯言と思うて聞いてくれるか...西行寺」

「...ええ」

 

一心はゆっくりと語りだした。

酒を飲みながら時には嬉しそうに、時には悲しそうに。

孫の弦一郎、九郎、内府、梟...そして隻狼。

死ぬ前に葦名で起こった出来事を全て話した。

 

幽々子は話を優しく聞き、ただ黙って彼の全てを受け止める。

 

 

 

 

酒が尽きる頃、ようやく一心の話に区切りがついた。

 

「.....そしてわしは...隻狼に敗れここに行き着いた」

「...」

「葦名も、家も全て失って...わしにあるのは不死斬りのみじゃ」

「色々あったのね」

「.....少し飲みすぎたか。どうも口が緩い」

「いいじゃない。今日くらいは」

 

幽々子は別の皿に分けた料理を持って、立ち上がる。

 

「妖夢に食事届けてくるわ」

「うむ」

「それと、まだお酒飲みたい?」

「カカカッ...そうじゃな」

「了解」

 

幽々子は襖を開けて、部屋からでる。

 

 

一人になった一心は、空いた襖から見える空を見た。

 

「.....」

 

今頃葦名は内府に占領されただろう。

しかし気がかりなのは九郎と隻狼の事だ。

 

自分を倒した後、彼等はどうなったのか。

 

死人の訪れる場所では調べようも無し。

 

「...最早わしに出来ることはない」

 

一心はそう自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 




次回 葦名流稽古!


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指導開始

次の日

一心はあれからさらに酒を飲み、いつの間にか酔い潰れていた。

兜も刀も装備したまま、食事をした場所で倒れ布団を被せられていた。

 

「...うぅむ」

 

一心は体を起こすと、そこにはお茶をのむ幽々子がいた。

 

「...粗相をしたな」

「いいのよ。貴方の話も聞けたし」

「...魂魄は...」

「まだ寝てるわ。もう、どれだけ深い傷負わせたのよ」

「カカカッ...わしの刀は亡霊すら苦しめる事が証明されたか」

 

一心は直ぐ様立ち上がり、部屋を出るため襖を開ける。

 

「様子を見てこよう」

「お願いするわ」

 

一心は再び妖夢の部屋へと向かう。

 

 

 

 

一心はゆっくりと襖を開けると、そこには幽々子の言う通り妖夢が布団で寝ていた。

しかし苦しむ様子はなく、近くに変えた後の包帯があるが血がついていなかった。

それを見るや一心は襖を閉めて、音を立てぬように幽々子の部屋へと戻る。

 

 

 

「あら、どうだった?」

「...カカカッ...治りが早すぎるわ」

「人間じゃないものあの子」

「...魂魄と刀を交えた時も思うたが...あの容姿で其処らの剣士など歯が立たぬ程の力を持っていた。半霊というのは人間よりも遥かに強いのか」

「半人半霊はそういうものよ」

「カカカッ!今更わしが教えることがあるか?」

「その半人半霊を打ち負かした貴方だからこそよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢はゆっくりと目を開ける。

体を起こすと、昨日までの痛みは無くなっていた。

こういう負傷した時すぐに治るのはありがたい。

 

妖夢はすぐに服装を整え、刀を装備する。

部屋を出て、主人である幽々子の所へと歩き出した。

 

「失礼します幽々子様」

「あら妖夢。もう大丈夫なの?」

「お陰さまで」

「なら良かった。じゃあ一心さん、あとはよろしくね~」

 

幽々子がそういうと、一心は立ち上がる。

 

「さて、ここには道場はあるか」

「こちらです」

 

妖夢と一心は部屋を出る。

 

しばらく歩くと、葦名にもあった道場に似た場所へとたどり着く。

 

壁には木刀や竹刀、棒や長刀用の棒が飾られ、稽古をするには十分すぎる広さもある。

 

「うむ、中々じゃ」

「では、よろしくお願いします」

「おう!まず...お主はどのような鍛練をしておる?」

「素振り千回、体力作り、筋力強化などです」

「まず素振りを見よう」

 

妖夢は飾ってある木刀を掴むと、一心の前で素振りをして見せる。

木刀が振り下ろされ、強い風の音が道場に響き渡る。

 

「ふむ、...まだまだ踏み込みが足りぬ」

「踏み込み...」

「お主は腕のみで刀を振るうだけじゃ。そこに足を加えれば...木刀でも石すら砕ける」

「.....」

「やってみせい」

 

妖夢は一心の言う通りにやるも、先程と変わらない。

 

「うーん...」

「カカカッ!どれ!手本を見せよう」

 

一心は木刀を妖夢から受けとると、その場でゆっくりと木刀を振り上げる。

 

「今からするのは葦名流の基じゃ」

 

一心は右足で床を強く踏み、木刀を振り下ろす。

その瞬間妖夢の髪が風でなびき、足の衝撃は彼女の全身を震わせた。

 

「す、すごい衝撃ですね」

「葦名一文字。そう呼ぶ」

「葦名...一文字...」

「これを極めろ。まずはそこからじゃ」

「は、はい!」

 

 

 

妖夢は葦名一文字の鍛練をしているうちに、もう夕食の時間となってしまった。

 

「ふむ、ここまでじゃ」

「ふぅ...ふぅ...」

「見事。今日だけで葦名一文字を極めるとは」

「まだ...まだです」

「では、西行寺のところへ戻るとするか」

「りょ、了解です」

 

一心は彼女の成長に驚いていた。

葦名一文字は基礎とはいえ、短時間でここまで極める者はそうはいない。

素質は十分。

幽々子が言っていたもう一押しと言うのもわかる気がした。

 

そんな一心の期待とは裏腹に、妖夢はかなり疲れていた。

ただの素振りならこれほど疲れることはないだろう。

しかし一文字は全身全霊を一撃で叩き込む技。

 

半人半霊といえども、かなりきつい。

 

(これが葦名流...この人の剣術...疲れるけど...とても興味深い事は確かだ)

 

妖夢が祖父から学んできた剣術は、『あらゆる物を斬る』事を目標にした剣術だ。

その課題の中には雨、空気、時や光を斬る事が含まれる。

葦名流はもしかしたらその目標へ近づくための第一歩になるかもしれない。

 

妖夢はそう予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

二日後

 

妖夢の葦名一文字は、誰が見てもかなり鍛えられたと判断できた。

その日一心は彼女の前に、腰まであろう高さの丸太を用意した。

 

「よし、魂魄」

「はい!」

「木刀で、これを割れい」

「木刀でですか」

「お主なら出来る筈じゃ」

 

妖夢は言われた通り、木刀を持ってゆっくりと振り上げる。

 

「...はっ!!」

 

妖夢は強く踏み込み、木刀を振り下ろした。

木刀が当たった瞬間、衝撃で丸太は真っ二つに割れる。

踏み込みの衝撃は、道場の床を軽く凹ませるほど強かった。

 

「カカカッ!見事じゃ!」

「これが葦名一文字...」

「さて...一文字を会得したならば...次は鯉じゃな!」

「鯉?」

一心は別の木刀を持つと、妖夢の前で構える。

 

「魂魄!まずはわしを斬ってみよ!」

「は、はい!」

 

妖夢は一心と同じく木刀を構え、彼に斬りかかる。

 

「やぁ!!」

「ぬん!!」

 

一心は妖夢の攻撃を弾いて見せる。

その瞬間彼女の体には強い衝撃が起こり、後退りしてしまう。

 

「う...い、今のは」

「登り鯉...これも葦名流じゃ」

「登り鯉?」

「襲いかかる刃を弾く...鯉が滝を登るようにじゃ」

「鯉が滝を...」

「魂魄、もう一度じゃ」

「は、はい!」

 

妖夢は言われた通りに、もう一度一心に斬りかかる。

すると彼は同じように弾くが、先程の全身に渡る衝撃はない。

しかし一心が弾いた直後に反撃し始める。

その反撃を受け止めた瞬間、妖夢の両腕にかなりの衝撃が走る。

 

「くぁ...!」

 

妖夢は木刀を落としてしまい、震える腕をみる。

 

「これは下り鯉じゃ」

「下り...」

「刃を弾き返し、そこへ苛烈に畳み掛ける...滝を下る鯉のようにな」

「...」

「ただ防ぐのでは足りぬ。弾き、さらに削る...そうして死闘を越える...」

「成る程...」

「さぁ構えぃ」

「は、はい!」

 

 

妖夢の特訓は、確実に彼女を強くしていく。

 




次回!リベンジ一心!


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葦名流 最終試験?

妖夢と一心の特訓が始まってから既に2週間。

彼女は葦名流をほぼ全て会得していた。

葦名一文字、登り鯉、下り鯉、幹の息吹 陽、流水、葦名一文字 二連。

これだけの技をたった二週間で会得した妖夢は、剣聖一心から見ても優秀と言わざるを得ない。

 

そしてある日、一心は彼女に葦名流の最後を伝授しようと彼女と共に道場へ立つ。

 

「...さて魂魄」

「はい!」

「ここまで見事じゃ。わずかな期間でよくぞ葦名流を極めた」

「あ、ありがとうございます」

「そして...これがわしの教えられる葦名流最後の技じゃ」

「最後...」

「とは言うても...かつてお主と刃を交えたわしならわかるが...簡単に会得できてしまうだろう」

「え?そうなんですか?」

「最後に教えるのは...奥義、葦名十文字じゃ」

「十文字..」

 

一心は木刀と鞘を持ち、木刀を鞘にしまった。

 

「居合い...!」

「そう、葦名流最後の技は居合いじゃ」

 

一心はしばらく居合いの構えをすると、掛け声と共に木刀を鞘から抜く。

凄まじいスピードで彼は木刀を右横、そして縦に斬る。

用意していた打ち込み台には十字が刻まれ、粉々に砕け散る。

 

「葦名十文字...より速く、より疾く斬るのを突きとめる技じゃ」

「.....」

「かつてお主が見せた居合い...あれ程の抜刀が出来るならば容易な技よ」

「そ、そうでしょうか」

「まずは...やってみせい」

 

妖夢は言われた通り、木刀を鞘にしまい居合いの構えをとる。

 

そして掛け声と共に木刀を抜いた。

 

妖夢の十文字はより正確に、そして素早かった。

 

打ち込み台は一心の打ったものより綺麗な十文字を刻み、後ろに倒れた。

 

それを見て一心は大笑いする。

 

「カカカカカカッ!!魂魄!見事じゃ!!」

今まで聞いたことのない嬉しそうな声に、妖夢は少し驚いてしまう。

 

「え、あ、ありがとうございます」

「見事な十字、素早さ、あのエマよりも上かもしれんぞ」

「あ、あはは。どうも」

「...葦名流の奥義を極めたな!まさかここまで速く全てを極めるとは」

「...速かったんですか?」

「おう!葦名の者達よりも遥かにな!」

「ち、ちなみに一番速かったのは...誰なんですか?」

 

妖夢の質問に、一心は揚々と答える。

 

「間違いなく隻狼じゃ」

「隻狼?」

「隻腕の狼...あれほど不思議な奴いなかった」

「隻腕...」

「あやつは一日で葦名流を極めた。まだまだ無駄は多かったが...」

「い、一日!?」

「そしてわしを完膚無きまで斬った男じゃ」

 

その言葉に妖夢は愕然とする。

今目の前にいるこの怪物を斬った。

それだけでその隻狼という男がどれだけ強いか理解できる。

 

「カカカッ!さぁて魂魄。技は全て教えた...だが」

「だ、だが?」

「実戦で使えなければ意味は無し。今夜...外にてわしと戦うのじゃ」

「!」

「無論真剣...葦名流を使いこなせぬならば...お主を再び斬ってやろう」

「...」

「いいか魂魄」

「は、はい」

「迷えば、敗れる。それを肝に命じよ」

 

一心は木刀を元にあった場所に戻し、道場からでる。

 

残された妖夢は今夜再びあの男に挑む機会がいきなりやって来て、嬉しい感情と同時に恐怖が混じっていた。

 

「...勝てるのかな...」

 

(迷えば...敗れる)

 

「...勝てる。私なら。迷えば敗れる...そう教わった」

 

妖夢は打ち込み台の片付けをして、道場から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は幽々子に夕食を作り終える。

しかしその食事に一心の姿はなく、恐らくもう外で待機しているのだろう。

 

「うーん、やっぱり妖夢のご飯は美味しいわね」

「.....」

「...行くのね?」

「はい」

「...彼を貴方につけて正解だったわ。今の貴方ならどんな敵でも倒せるわよ」

「そう...でしょうか」

 

妖夢の明らかな不安の表情に、幽々子は溜め息をつく。

すると幽々子は妖夢に手招きをする。

 

「妖夢」

「は、はい」

 

妖夢は幽々子に近づくと、彼女は妖夢の頭をギュッと抱きしめた。

 

「貴方なら大丈夫」

「.....」

「一心ちゃんに見せてやりなさいな。貴方の成長」

「...はい」

 

幽々子はゆっくりと妖夢を離すと、彼女から不安の表情は消えていた。

そして立ち上がり、一礼してから部屋を出る。

 

「行って参ります」

 

妖夢はそう呟き、白玉楼の外へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は楼観剣と白楼剣を持ち、白玉楼の門を開ける。

するとそこには、空を見つめる一心の姿があった。

 

「魂魄よ。迷いは晴れたか」

「はい」

「...よき顔じゃ。では参れ」

 

一心はゆっくりと不死斬りを抜く。

妖夢も楼観剣を鞘から抜き、一心へ刃を向ける。

 

「参ります」

 

妖夢は一心に向かって走り出す。

そして一回転しながら、リーチの長い楼観剣で彼を攻撃する。

一心は難なく弾く。

しかし妖夢は弾かれても攻撃を止めない。

彼女はさらに攻撃するも、二回目の攻撃は強く弾かれる。

そして一心は弾いたと同時に反撃してきた。

左下から右上に斬り、妖夢に防御されると右上から左下に斬り下ろす。

 

「くっ!」

 

一心はこの反撃に下り鯉を使っている。

しかし妖夢は下り鯉を、同じく葦名流『流水』で衝撃を減らす。

 

すると一心は不死斬りを両手で持つと、妖夢に横に払う攻撃をすると同時に彼女の後ろへとすり抜ける。

 

そして大きく不死斬りを振り上げた。

 

「!」

 

葦名一心の一文字。

妖夢は避けることもできたが、この一撃は受けることを決意。

 

「ぬぅん!!」

 

一心が力強く振り下ろすが、妖夢は渾身の一撃で彼の一文字を弾き返した。

さらにそのまま攻撃し、一心の腹を斬りつける。

 

「ぐっ!」

 

初めて一心に傷をつけた。

これならいける。

妖夢は楼観剣を振り上げ、強く踏み込むと同時に刀を振り下ろした。

 

「はぁ!!」

「むん!」

 

一心は妖夢の一文字を防ぐも、彼女はもう一度刀を叩き込んできた。

葦名一文字・二連である。

 

さらにこの技は腕の衝撃によるダメージを減らすという効果もあるため、先程の一心の一文字による衝撃は緩和された。

 

すると一心は肘で妖夢の腹を突き、さらに突きによる攻撃を仕掛ける。

 

妖夢は吹き飛ばされるも、楼観剣で彼の突きを弾いた。

 

彼女は直ぐ様連続で攻撃して来ると思っていたが、一心は距離をとり不死斬りを鞘にしまう。

 

「くっ!」

 

妖夢は白楼剣を抜いて、二刀流になる。

一心の不死斬りが鞘から抜かれると、彼女は凄まじい速さで十字に斬られた。

 

何とか防御に成功するも、十文字の衝撃は妖夢の腕にかなりのダメージを与えていた。

 

(流水をしてもまだ痺れが消えない...わかってはいたが、稽古の時は手加減してくれたんだ。これがこの人の本気..!)

 

妖夢は一心と距離をとると、深呼吸をしてゆっくりと喋り始めた。

 

「一心さん」

「.....」

一心は答えない。

勝負に集中しろとでも言いたい表情だ。

しかし妖夢は話をやめない。

 

「私はこの勝負...葦名流皆伝の最終試験とは思っていません」

「む...」

「貴方に負けた時からずっと考えていました。いつかやり返してやると!」

 

妖夢は二刀を構える。

 

「葦名流をも取り込んだ今の私で!貴方を破る!」

「!...カカカッ!面白い!」

 

一心は刀を握り直す。

「よかろう!ならば斬って見せよ!魂魄妖夢!」

「参ります!葦名一心!」

 

妖夢は楼観剣を顔の前に出し、祈るように目をつぶる。

 

「魂魄『幽明求聞持聡明の法』!」

 

妖夢の後ろに漂う人魂が、妖夢そっくりに変形しはじめる。

 

「カカカッ...また不思議な技を」

 

妖夢は自分に変化した人魂と共に一心を攻める。

人魂は白楼剣を手に、素早い攻撃で彼を攻める。

 

「ぬぅ...!」

 

しかし一心はその全てを弾き、人魂の隙を突こうと構える。

しかしその瞬間人魂は元に戻り、その後ろから妖夢が葦名十文字を放つ。

 

一心は防ぎきれず、十文字を受けてしまった。

 

「ぐっ.....」

 

しかし一心は倒れず、一文字を放つ。

妖夢は一文字を避けて、彼の背中を攻撃。

 

「やるではないか」

 

一心は後退する。

初めて彼が退いた。

 

妖夢はこれを逃さず、直ぐ様居合いの構えをとる。

 

「現世斬!」

 

妖夢は突進し、間合いをとらせない。

さらに居合いからの一撃を加え、休みをさせぬよう攻撃。

 

「ぬぅ...」

「まだまだぁ!」

 

妖夢はすぐに一心の方を向き、楼観剣を大きく振り上げる。

 

「断命剣!『冥想斬・一文字』!」

 

この技は本来なら楼観剣に気を込め、目の前の敵を気で形成された刃で斬るものだったが、葦名流の踏み込みを加えることで威力、リーチを格段に増強させ敵が避けられないようになっていた

 

一心も巨大な気で構成された楼観剣を避ける事はできないと踏み、両手で不死斬りを握り全力で受け止める。

 

あまりの強さと衝撃に、彼でさえ片ひざを地面につける。

 

「ぬぁぁぁ!!」

 

一心は妖夢の攻撃を受け流すが、地面に妖夢の刀が触れた瞬間地震と疑うほどの衝撃が辺りの地面を走る。

 

しかし一心は好機とみて、走って妖夢に接近する。

彼は不死斬りで攻撃するが、妖夢の白楼剣によって阻止される。

 

しかも攻撃が弾かれた瞬間、一心の周りに残像が出来るほどの速度で走り出す。

一心の目には、妖夢が6~7人に増えたように見えている。

 

しかもその残像全てが刀から手を離さず鞘にしまって移動している。

 

そして動きが止まった瞬間、残像全てが一心に襲いかかり葦名十文字を放った。

 

流石の一心も防ぎきれず、あまりの衝撃に空へ飛ばされる。

そして地面に体がつく瞬間巨大な桜の花の幻影と共に、妖夢が上から兜割りを仕掛けた。

 

「空観剣『六根清浄斬』!」

 

楼観剣が一心の兜に当たり、彼が地面に叩きつけられた瞬間大量の煙が舞う。

 

妖夢は煙から出て、刀を構える。

 

 

 

 

「はぁ....はぁ....」

 

流石の妖夢も、残像に加え全力の葦名十文字を使うのは骨が折れるらしい。

 

煙が晴れ始めると、そこには兜を脱ぎ捨てた一心が立っていた。

 

「.....流石じゃ」

 

兜では防ぎきれなかったのか、額からは血が溢れ一心の顔の半分は血で濡れている。

 

「さぁて...ここまで鍛え上げた我が弟子に...褒美をくれてやらんとな」

「まだ...立つんですか」

 

妖夢は楼観剣を構える。

すると一心は不死斬りを鞘にしまった。

 

「刀に気を込め刃にする...見事じゃ。葦名...いや日本で出来るものはいなかろう」

 

一心の不死斬りに、黒と白の気が放出しはじめる。

 

「しかし、その技...飲み込んでやろう」

 

一心は不死斬りを抜くと、その刀身には巨大なドス黒い気を纏っていた。

 

「な...な...」

 

一心は不死斬りを大きく振り上げる。

その姿は妖夢が先程一心にくらわせた断命剣『冥想斬』に酷似していた。

しかし気も刃の大きさも妖夢とは比較にならない。

受けるのは勿論避ける事すら無理だ。

 

 

「そ、そんなのあり...?」

「むぅぅん!!」

 

一心は振り下ろすと、当たり一面に大きな風と衝撃が走る。

黒い気は全てを斬り裂き、地面を抉った。

 

妖夢のすぐ横には巨大で太い一本の長い線が刻まれている。

 

一心はわざと外したのだ。

 

「ふぅむ...中々じゃ」

「ず、ズルいです!私の技を真似るなんて!」

「カカカッ!強くなる為ならわしはあらゆる技を飲み込む...」

「け、けどぉ!これ葦名流の皆伝試験でしたよね!?」

「これを試験ではないと決めたのはお主じゃ」

「んぐ...」

「...魂魄妖夢よ」

 

一心は不死斬りを鞘にしまい、妖夢の前に立つ。

そして彼女の頭を撫でた。

 

「皆伝じゃ!お主は葦名流を全て使いこなしておったぞ!それに加えあの見事な技の数々!素晴らしき女よ!」

「.....」

「わしはお主の技に惹かれ、思わず飲み込んでしまった...許せ」

「...まぁ...いいですけど」

「カカカカカカッ!死んだ後でこれ程の剣士に巡り会えるとは...わしは嬉しいぞ!だが...まだまだわしを斬るには鍛練が足りん」

「むぅ...く、悔しい」

「しかし...いずれは...」

「え?」

 

一心は妖夢の頭をくしゃくしゃと回し、まるで娘を可愛がるように喜んでいる。

対して妖夢は負けたからか真似されたからか苛立っているが、彼の喜びの表情につられたのかどこか嬉しそうだった。

 

「さぁ、西行寺に伝えに行こうではないか」

「は、はい」

 

二人は白玉楼へと入っていく。

 




葦名流を知った妖夢と一心の真剣勝負が書きたかっただけですはい。
いつか槍もった一心とも戦わせますので、ゆっくりとお待ち下さいな。

老衰一心も登場させたい。どっちかというと剣聖ってこっちだし


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八雲

「まずは...酒じゃあ!!」

 

一心と妖夢が帰ってくるや否や、広い客間にて三人の小さな宴会が行われた。

妖夢の葦名流皆伝のお祝いである。

 

「お疲れ様妖夢」

「ありがとうございます幽々子様」

「どうしたの?浮かない顔して」

「えーっと...何と言いますか」

 

葦名流皆伝したが、勝負には負けた。

二度も負けるなんて、とても主人には言えなかった。

 

そんな妖夢とは裏腹に、幽々子は全てお見通しである。

幽々子は妖夢の耳に近づき、こっそりと話す。

 

「一心ちゃんに負けちゃった?」

「ッ!?」

「大丈夫よ妖夢。またいつかやり返せばいいじゃない」

「...幽々子様をお守りする立場としては...」

「もう妖夢、そんな難しく考えないの。今はお祝いしましょ、ね?」

「うう...」

 

妖夢は目の前に並べられた料理をみる。

するとあることに気がついた。

 

「そういえばこの料理はどうしたんです?」

「藍ちゃんが作ってくれたわ」

「藍さんが?」

「今も台所にいるんじゃないかしら」

「わ、私手伝ってきます」

「ちょっと、宴会の主役がどこへ行くのよ」

「でも藍さんに任せっきりも申し訳ないですし...それに」

「それに?」

妖夢は幽々子の前に置かれた料理の皿をみる。

大皿7~8枚が置かれており、全て綺麗に平らげられていた。

この皿は一心と妖夢が来る前に既に置いてあったものだ。

 

実は幽々子はかなりの大食いである。

 

幽々子が食事をするときは、いつも台所が大慌てだ。

恐らく今回も台所にいる藍は焦っているだろう。

 

「では行ってきます」

「あ、ちょっと...もう」

 

妖夢は部屋を出て台所へと向かってしまった。

 

「あの子ったら」

「カカカッ!よいではないか...真面目な魂魄らしい」

「もう、そもそも免許皆伝の試験なのに何で貴方が勝ってるのよ」

「わしもあれは葦名流を確かめる試合と思うてたが...カカカッ!どうも血が滾ってのう」

「まったく...」

「しかし...葦名流を見事に会得し使いこなしていた...あの娘はこれからも強くなるぞ」

「当然でしょ...あの子だもの」

「カカカッ...」

 

すると襖が開き、一心の知らない女性が入ってくる。

 

「はーい、こんにちは幽々子」

「あら紫。貴方も来たの?」

「妖夢ちゃんの葦名流皆伝のお祝いにね...って早速主役いないじゃない」

 

その女性は金色の髪に毛先をいくつか束にして布で結んでいる。

紫色の見慣れない服を着ており、幽々子とはまた違った不気味さと妖艶な雰囲気を出していた。

 

「誰じゃ」

「ああ、これは失礼。私は八雲紫...お見知りおきを、葦名一心さん」

「ほぉ、わしを知っておるか」

「かの剣聖にお会いできるなんて光栄ですわ。あの動乱の時代の、しかもあの怪物だらけの葦名を支配していた人ですもの」

「あの時代...?」

「あぁ、気にしなくてもいいですわ。説明が面倒になるだけですし」

ヘラヘラと笑いながら疑問の答えを隠す彼女に、一心はほんの少し不愉快になる。

しかし酒を飲んでその不愉快な気持ちを紛れさせた。

 

「それにしても...何で死んだ貴方が冥界にいるのかしら」

「わしにもわからぬ...仏に見放されたか」

「三途の川渡ったの?」

「カカカッ!記憶にないな!」

「ならなんで閻魔の裁判受けてない人がこんなところに」

「その裁判とやらに受ける価値無しと見なされたか...あるいは人ではないからか...」

「竜胤...それに関わったからかしら」

「!ほぉ...その名をよく知っておるな」

「これでも賢者と呼ばれる私よ?知ってて当然」

 

一心はまさかこの死人が募る冥界で、竜胤の名を聞くことになるとは思わなかった。

すると紫は、一心の顔をみて呟く。

 

「...貴方は聞きたくない?貴方が死んだ後の事」

 

一心はその言葉にピクリと反応し、酒をもった手が止まる。

 

「.....」

「気になるんじゃない?私なら教えてあげられるわよ」

「...いらん」

「...そう?」

「.....わしは敗れた。知る権利もない」

一心は酒を飲み干すと、溜め息をつく。

 

「しかし...わしはこれから何をすればいいのか」

「そうねぇ...これからも妖夢ちゃんの稽古続ければ?」

「カカカッ...わしが教えることはもうない。後は魂魄次第よ」

「ならだらっとすればいいじゃない。戦国時代じゃそんな時間もなかったでしょ?」

「カカカッ!そうか、それもいい」

「...とか言いながら納得いかない顔ね」

 

再びピクリと反応する一心。

すると彼は顔を隠すように、お酒を一気に飲む。

 

「.....」

「なら私から退屈しないプレゼントをあげましょうか」

「ぷれぜんと?なんじゃそれは」

 

紫の言葉に幽々子が反応する。

 

「あら紫、幻想郷の住人でもない人にプレゼントだなんてどういう風の吹き回しかしら」

「友達の従者を強くしてくれたお礼よ」

「ふーん...本当かしら」

「どうせ彼にたいした時間はないわ。あの黒白閻魔が裁判を受けていない彼を放って置くわけないし...それにあの子の修行に丁度いいかも」

紫は一心の顔に近づき、不気味な笑みを浮かべながら話す。

 

「近いうち貴方に数人のお客さんを送るわ。その子達とここ冥界で存分に戦いなさいな」

「ほぉ...」

「ちなみに、どれも妖夢ちゃん以上の強さ...貴方に勝てるかしらね」

「...カカカカカカッ!このわしに『勝てるか』か...面白い...八雲とやら」

「何かしら」

「受けて立とうではないか。その客とやらを全て食ろうてくれる」

「あらあらあら...それは楽しみねぇ」

一心はこれ以上ないほどの笑みを浮かべた。

魂魄以上の強人と戦える。

まだ強くなれる。

そう思うと一心の心は、喜びと期待に埋め尽くされた。

 



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紅魔

葦名流皆伝の祝いから一週間。

一心は冥界で紫からの客を待っていた。

 

時折妖夢の鍛練にもふらりと現れ、彼女に稽古をつけることもある。

しかしその稽古中でも、どこか上の空だった。

 

時折幽々子と酒を酌み交わす時もあり、妖夢も無理矢理参加させられた事もある。

 

こんな平和な日々も悪くないと、一心は思いつつあった。

しかしどれだけ酔おうと、どれだけ笑顔になろうと、必ず心の奥底には強さを求める何かがいた。

 

より強く、もっと強く

そう語りかける自分がいる。

 

そしてその日がやって来た。

 

 

その日一心は朝食を終えて妖夢の稽古を見ていた。

すると急に目を見開き、刀を持って立ち上がる。

 

「...来たか」

「?どうしたんですか?」

「客が来た。八雲のな」

「ああ、紫様が宴会で言ってた...」

「そうじゃ...退屈しない相手らしいな。カカカッ!楽しみじゃ!」

 

一心はすぐに玄関へと向かう。

妖夢も一時鍛練を中断し、彼へついていく。

 

 

 

 

 

 

 

「たのもー!来てやったわよ!」

白玉楼の門からは、一人の幼い声が向こうから聞こえていた。

 

一心は玄関へたどり着き、妖夢は急いで門へと向かう。

 

「えーっと...何方でしょうか」

「そっちが呼んどいてどなたはないでしょ!」

「紫様から聞いたのでしょうか」

「そうよ!ここにすんごい強い奴がいるって聞いたのよ!会わせなさい!」

「い、今開けます」

 

門を開くとそこには青髪で真紅の瞳を持ち、背中には蝙蝠の羽を生やした小さな女の子がいた。そして後ろにはメイドの格好をした銀髪の女性がいる。

 

「やっと開けたわね!」

「あ、レミリアさんでしたか。それに咲夜さんも」

「久しぶりね妖夢」

「あ、外じゃ何なのでどうぞなか...」

 

レミリアは妖夢が言い終わる前に、ズカズカと彼女を無視して門をくぐる。

 

「んで、私達に挑みたい奴は何処にいるの?まさか半々のあんたじゃないでしょうね」

「は、半々って私の事ですか」

「何よ間違ってる?」

「い、いや」

「じゃあいいじゃない...それよりも」

 

レミリアは屋敷の玄関を睨む。

すると屋敷から、一心が現れる。

 

「なんじゃ...お主魂魄よりも幼いではないか」

「む、あんたが紫が言ってた葦名一心ね。いきなり私を子供扱いとはいい度胸じゃない」

「カカカッ...これは失礼した」

「それにしても痩せてるわね。ほんとに強いの?」

「さぁてな」

「!」

レミリアは一瞬一心を見て何かに気づくと、彼を指差し宣言した。

「決めたわ。まず私が相手になってあげる」

「ほぉ、お主がか」

「そうよ...あと聞きたかったのだけど。紫の言うとおり弾幕ごっこじゃなく真剣勝負をご所望なのは本当なの?」

「弾幕ごっことやらは知らぬが...真剣での勝負を望むのは確かじゃ」

「ふーん」

 

レミリアは一心の腰にある刀を見る。

「刀使うの?」

「うむ」

「...」

 

レミリアはジッと一心を見つめる。

一心は何故目の前の子供が見つめてくるかわからなかった。

 

レミリアは過去何十人、何百人と人を喰らってきた。

そして彼女はいつの間にか人間を見れば、そいつがどんな人生を歩み、どれ程の実力者なのかわかるようになっていた。

そしてそんな彼女から見た一心の感想は

「...強いわね」

「んん?」

「...久しぶりに吸血鬼として本気が出せそう」

 

レミリアはまさに極上の飯を見つけたような嬉しさに満ちていた。

強い者の血はうまい。

吸血鬼の人生で学んだことの一つだ。

 

目の前の人間は、そこらにいる奴よりも遥か高みに到達している。

 

紫は最悪殺しても構わないと言っていた。

手加減しなくてもいいのだ。

 

ごっこではなく殺し合い。

 

レミリアの頬はだんだんと上がっていく。

 

「...それで、どこでやろうかしら」

「ここではやるなと言われておる。やるなら外でじゃ」

「そう...なら早くやりましょ」

 

レミリアの表情を見ると、一心はあることに気づく。

目の前にいる子供は、人間ではない。

 

彼女からする濃い血の臭い。

引き込まれそうな紅い目。

背中に生える羽。

そして彼女から漂う死の気配。

 

人間では真似できない特徴ばかり。

しかし一心は微塵も迷わず、ただどうやって目の前の敵を斬ることのみ考えていた。

「.....カカカッ...血が滾る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白玉楼からしばらく森を歩き、丁度いい広さの場所があったのでここを勝負の地と二人は決めた。

幽々子や妖夢も観戦するためついてきている。

 

剣聖 葦名一心

対するは吸血鬼 レミリアスカーレット

 

二人はお互い前に歩き始める。

一心は刀を抜き、レミリアの前に立つ。

 

「さて...お主の名を聞いていなかったな」

「そうだったかしら?」

「名乗れ...」

「偉そうな人間ね...まぁいいわ。私はレミリアスカーレット...人間の血を吸う吸血鬼よ」

「れみりあ...聞き慣れぬ名じゃ。それに吸血鬼とは...?」

「吸血鬼を知らないの?」

「知らぬ」

「なら今から嫌と言うほど味あわせてあげる」

 

レミリアはゆっくりと空中に浮き始める。

 

「弾幕ごっこならまだしも...真剣勝負で人間が吸血鬼に敵うなんて思わないことね」

「カカカッ!ならばその自信...斬ってやろうではないか」

 

一心は刀を鞘にしまい、居合いの構えをとる。

 

「むん!!」

 

一心は刀を瞬時に抜き、レミリアに向けて空を斬る。

 

その瞬間透明で薄い線がレミリアの体を斬り裂いた。

 

「!」

「幼き女子を斬る...あまり気は進まぬな」

「...へぇ」

 

一心は空中にいるレミリアを見る。

彼女は右肩から腰まで斬られたが、全く痛みも感じている様子はない。

 

「...やるじゃない」

 

レミリアは大量の蝙蝠に変化し、空を覆い尽くす。

その中の数十匹は一心に襲いかかるも、彼は難なく蝙蝠を不死斬りで斬っていく。

 

「蝙蝠に化けるか...面白き技よ」

すると蝙蝠達が一ヶ所に集まり、その中からレミリアが現れる。

 

「楽しい楽しい勝負の始まりよ」

レミリアは一瞬で一心の元に移動し、鋭い爪をもった両手で彼を攻撃する。

一心はレミリアの両手を受け止めるも、じりじりと押され始める。

 

「ぬぅぅ...」

「力も悪くないわ」

 

一心は三つの事に驚いていた。

一つはレミリアの両手を刀で受け止めているにも関わらず、彼女の手が斬れていない事。

二つ目はこんな幼い見た目でも、自分以上の怪力を持っていること。

三つ目は、先程の竜閃で彼女を斬った筈だが、傷が消えていること。

 

一心はレミリアの攻撃を流し、後ろに下がると不死斬りを鞘に戻し居合いの構えをとる。

そして直ぐ様抜いて葦名十文字を繰り出した。

 

レミリアの体に十字が刻まれるも、また大量の蝙蝠に変化してしまう。

そして別の場所から現れると、体の十字傷は消えていた。

 

(...斬っても蝙蝠に変化し傷が癒えてしまう...なんとも不可思議な体よ)

 

レミリアはその見た目からは想像もできない身体能力と、石すら果物のように斬れてしまいそうな鋭い爪の攻撃で一心を追い詰めていく。

しかし彼もただやられるだけではない。

時折彼女の爪を避けその隙に斬る等の反撃をするも、彼女は蝙蝠に変化し傷を癒してしまう。

 

これではいくら一心といえども、体力が持たない。

 

「このままじゃ貴方負けるわよ」

「.....」

「それとも万策尽きたのかしら?」

 

一心はレミリアの攻撃を避けると、彼女の背中を斬る。

しかし彼女は再び大量の蝙蝠へと化けた。

すると一心は不死斬りを鞘にしまうと、力を溜める。

 

(?何してるのかしら)

 

レミリアは一心の謎の行動に首を傾げる。

 

そして彼は高く飛び上がり、空を飛ぶ蝙蝠達の中心へとたどり着く。

「でやぁぁぁ!!!」

 

一心は声と共に刀を抜き、空中で蝙蝠達を薙ぎ払う。

 

蝙蝠のほとんどは一心の不死斬りによって全滅。

地面には次々と蝙蝠達の死体が降り注ぎ、黒い霧となって消えていく。

 

すると黒い霧がある場所へと集まると、そこから横腹を押さえたレミリアが現れた。

そして押さえている場所からは赤い血が服に滲んでいる。

 

「くっ...私に傷をつけるなんて...」

 

一心は地面に降りると、レミリアへ走り出す。

 

「むん!」

「無駄よ!!」

 

レミリアは攻撃された瞬間またもや大量の蝙蝠へと変化し、今度は蝙蝠が一心の攻撃を受けぬよう広範囲に飛んでいく。

 

レミリアは一心の攻撃を受けていたわけではない。

受ける前に体を多くの蝙蝠へと変化させ、刀を避けていたのだ。

 

かつて隻狼が使っていた霧からすのようなもの。

斬られたように見えるのは、ただの演出だ

 

そして変化したこの大量の蝙蝠のほぼ全ては囮。実はその中の一匹はレミリアが化けた本体があり、見た目は完全に他の蝙蝠と一緒。

先程彼女が怪我をしたのは、一心の薙ぎ払いにより本体まで傷つけられたからである。

 

レミリアは悠々と蝙蝠に化けて飛んでおり、次はどこへ体を構築させようかと考えている。

 

すると一心はゆっくりとこちらを向いた。

 

「!?」

 

レミリアは偶然こちらを向いたかと最初は思ったが、

明らかに視線が本体の蝙蝠を見つめている。

 

「そこか」

 

そして一心は不死斬りを鞘にしまい、直ぐ様本体目掛けて竜閃を放った。

 

「ぎゃっ!!」

刃は見事本体を斬り裂き、それと同時に全ての蝙蝠が息絶えた。

 

黒い霧が集まり、その中から再びレミリアが現れる。

そして肩に血が滲み、その顔は苦痛の表情だ。

 

「カカカッ!見抜いたり!」

「このぉ...!」

レミリアは爪で攻撃するも、刀で強く弾かれ反撃を受ける。

 

「かはっ!!」

「既に見切った」

 

レミリアは斬られ、後ろに下がる。

彼女は斬られたことよりも、驚いていることがあった。

 

(どうして!?傷が癒えない!刀で斬られたくらいじゃ傷は再生する筈なのに!)

 

吸血鬼にはいくつも能力があるが、その中には怪我を塞ぎ再生する能力がある。

しかし銀や聖水等を使われると、普段よりも再生が遅くなってしまう。

 

だが今回は違う。

傷の再生が始まらないのだ。

 

これではいかに吸血鬼だろうと、死にはしないが厄介この上ない。

 

「その刀...何か変ね...!」

「これか...これは不死斬り。死なぬ者をも殺す刀じゃ」

「あー、成る程ね...いかにも私向けの刀だわ」

 

レミリアは大きく息を吸い込むと、自分の手から紅く光る巨大な槍を生み出した。

 

「スピア・ザ・グングニル...!」

「.....ほぉ」

「これが私のメイン...さぁ、第二ラウンドよ」

レミリアはグングニルを構える。

一心も不死斬りを握り直した。

 

「参れ」

「上等!」

 

一心の不死斬りとレミリアのグングニルが交わった瞬間、何十もの金属音が響き渡る。

しかもぶつかり合う二人の武器からは、火花が飛び散っていた。

 

「ぬぅぅ...!」

「流石にこれは耐えられないでしょ!」

 

レミリアはグングニルを押しきると、一心の不死斬りが弾かれる。

直ぐ様一心は防御するも、グングニルを受けた瞬間またもや弾かれた。

 

「不可思議な槍じゃ...」

「人間ごときが私の槍を受けきれると思って?」

一心はあの槍を受けきれないと判断し、後ろに下がる。

あの槍に触れると、まるで即座に何十回もの連続攻撃を受けるような衝撃を受けるのだ。

 

現代の物に例えるなら、刀で電動ノコギリを受けるような感覚である。

 

下がる一心に対して、レミリアは距離をとらせないよう走りながらグングニルを振り回し攻撃。

グングニルの攻撃は確実に一心を苦しめる。

 

「ぬぅぅ!」

 

一心は不死斬りを振り上げ、一文字・二連を仕掛けるもグングニルの前では簡単に弾かれてしまう。

さらに竜閃をも仕掛けるが、飛ぶ刃もグングニルは斬れなかった。

 

 

すると一心は不死斬りを鞘にしまい、黒い気を集める。

そして抜いた瞬間大きく振り上げた。

かつて妖夢との戦いでも使った冥想斬・一文字である。

 

しかし一心が振り下ろそうとした瞬間、レミリアはグングニルを思いきり彼へ向けて投げた。

 

一心は咄嗟に避けるも、間に合わずグングニルは彼の肩を貫いた。

 

「がっ...!」

一心はここに来て初めて後ろに倒れる。

グングニルの特性と、レミリアの全身全霊の投げは一心ですら耐えられなかったのだ。

 

「そんな大技やらせると思う?」

 

レミリアは再び手からグングニルを生み出し、一心に見せつける。

 

「まだまだ何本でも生み出せる...さぁ、どうするのかしら」

「.....」

 

一心は貫かれた肩を見る。

すると肩はゆっくりと再生し始めていた。

それを見ると、一心は悲しそうに笑い立ち上がった。

 

「カカカッ...これが開門か...」

レミリアも再生する一心の肩をみて、驚いている。

 

「貴方...人間じゃないの...?」

「.....そうじゃ...わしは既に人ではない」

「なぁんだ。人間かと思ってけど同類だったのね」

「レミリアとやら」

「何かしら」

「お主なら...お主ならば我が全てをぶつけられそうじゃ」

「?」

 

すると一心はその場で強く踏み込む。

 

「ふん!はぁぁぁぁ!!」

 

そして地面から自分の身長を遥かに越える十文字槍を取り出した。

 

「なっ!?」

「血が滾ってきたわ...行くぞ」

 




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悪魔払い

「行くぞ」

 

一心は槍を左手に持ち、刀を右手に握る。

異様な光景だった。

それはレミリアから見てもそうだろう。

 

(槍と刀...普通なら愚策も愚策。あれほどの剣士が両手で刀を使わず、片腕では重くて扱いにくい槍を使うなんて...何かあるのかしら)

 

レミリアはグングニルを構える。

 

すると一心はレミリアに向かって走り出した。

そして飛び掛かりながら不死斬りで二連続攻撃してくる。

レミリアは二回とも防ぐが、次の瞬間

 

「むうぅん!!」

 

一心は左手に持つ槍を大きく振り回し、レミリアに攻撃する。

水のように流れる連激。

しかしどれも滝のように激しい一撃。

 

「くっ!!」

 

レミリアが槍をグングニルで弾いても、弾かれたその勢いで槍を回転させ次の攻撃に移ってしまう。

弾く度にどんどん連激が強くなっていく。

それは吸血鬼である彼女でさえ腕が痺れてきているほどだ。

そして一心はこれ以上の連激は無茶と判断すると、彼女目掛けて槍で突く。

 

いきなりの突きでレミリアは対処できず、横腹を突き抜けて攻撃される。

しかし不死斬りと違い、一心の持つ槍は特別な素材など使っていないただの十文字槍だ。

傷つけた箇所は即座に再生していく。

 

「はっ!ただの槍なら私には効かないわ!」

「カカカッ...わかっておるわ」

 

一心は突いた槍を強く引き戻す。

 

一心が持つ十文字槍にはこんな言葉がある。

『突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌』

十文字槍は攻撃のバリエーションが豊富であり、状況によって攻撃の種類を変えられる事ができる。

だからこそ一心は、かつて十文字槍を使いこなした田村の技術を飲み込んだのだろう。

 

引き戻した瞬間枝分かれしている槍の刃がレミリアの背中を押して、彼女を無理矢理一心の近くに寄せる。

 

「んな!?」

「ふん!」

油断していたレミリアは、正面から不死斬りの攻撃を受けてしまう。

その傷は再生せず、傷からは血が溢れ出ていた。

 

「このぉ...」

 

レミリアは後ろに下がるも、一心は前へ前へと進む。

休む暇も与えず、彼は素早い不死斬りと重い一撃の槍を交互に使いレミリアを苦しめる。

 

「なめるなぁぁぁ!」

 

レミリアはグングニルを一心に向けて思いきり投げた。しかし刀と槍を使った防御でグングニルを受け流される。

彼女はその隙に一心の膝元まで駆け寄り、両腕を交差し一心の腹を爪で刻む。

 

「ぬぅぅ」

「あははは!このまま...」

 

レミリアはこのまま押して彼の体をバラバラに裂いてやろうとするが、次の瞬間

 

大きな爆発音が響き渡る。

 

「へ?」

 

レミリアの胸には大きな穴が開いていた。

そして一心の片腕には、小さな火縄銃が握られている。

 

いくら吸血鬼といえども、胸に空いた大穴により口から血が溢れ出す。

 

「ゲホッ...」

 

しかし一心は彼女を休ませてくれない。

彼は不死斬りを鞘にしまうと、直ぐ様抜刀してレミリアの腹に不死斬りをくらわせた。

 

レミリアは吹き飛び、地面に倒れる。

だが既に胸の大穴は完全に再生しつつある。

どうやらあの火縄銃も十文字槍同様特別なものではないらしい。

 

「はぁ...はぁ...」

 

流石のレミリアも息が切れてきた。

すると上空から一心が槍を振り上げながら飛び掛かってくる。

直ぐ様彼女は回避し、一心の槍は大きな衝撃と共に地面に突き刺さった。

 

一心は槍を地面から抜くと、不死斬りを大きく振り上げた。

 

そして踏み込みと同時に振り下ろすが、レミリアは蝙蝠に変化させて回避。

一心は直ぐ様本体の蝙蝠を見つけようとするも、蝙蝠達はすぐに別の場所へと集結した。

 

レミリアは体を構築し、一心から距離をとることに成功。

 

「カカカッ!吸血鬼とは誠に面白い!」

「はぁ...はぁ...何笑ってるのよ...勝負はここからよ!」

 

レミリアは左手から紅く光る鎖を出現し、右手からはグングニルを再び生み出す。

左手を前に差し出すと、何本もの鎖が一心へと向かっていく。

 

「むん!」

 

一心は鎖を不死斬りで弾くが、鎖は刀に巻き付き他の鎖と連結して地面に突き刺さる。

「ぬぅぅ」

 

不死斬りはかなりの力で締めつけられ動かせない。

レミリアはそこを逃さず、近づいてグングニルで一心を攻撃。

彼はすぐに槍で防御するも、グングニルに弾かれてしまう。

しかし弾かれた勢いでレミリアに反撃し、彼女を後退させた。

その隙に不死斬りに黒い気を集め、鎖を無理矢理破壊する。

 

そしてそのまま鞘に戻し、力を溜めた後横に薙ぎ払う。

 

黒い気で形成された刃は広範囲を薙ぎ払い、レミリアのグングニルさえミシミシと嫌な音を立てさせた。

 

「このぉぉ!」

 

レミリアはグングニルを投げようと、力をため始める。

しかし一心は投げさせまいと、火縄銃を構える。

(一発なら大丈夫!一心まで距離はあるし、火縄銃の攻撃ならすぐに再生する!)

 

しかしその考えは直ぐ様崩れ落ちる。

一心の持つ火縄銃からは五回連続で玉が撃ち出されたのだ。

 

「!?」

 

レミリアの四肢に鉛玉が貫通し、体勢を崩してグングニルを地面に落としてしまう。

 

すると一心は槍の持ち方を変えて、レミリアと同じように投げる体勢になる。

 

そして思いきり十文字槍を彼女に向けて投げた。

 

「んな!?」

 

レミリアは四肢を銃で撃ち抜かれていたとはいえ、その場で飛び上がり槍を避けることが出来た。

槍は深く地面に突き刺さり、彼女は避けた事を安堵する。

 

しかし次の瞬間一心はレミリアへ向かって走り、突き刺さった槍を踏み台にして彼女の正面へと飛ぶ。

 

「!」

 

一心は既に不死斬りを鞘にしまっており、居合いの構えをとっていた。

そしてレミリアに葦名十文字を繰り出す。

 

「せぃやぁ!!!」

「くぅぅ!!」

 

レミリアは間一髪、自らの体を大量の蝙蝠へと変形させた。

 

「残念!届かなかったわね!!」

 

レミリアは蝙蝠達を瞬時に集結させ、体を構築させる。

そして落としたグングニルを拾い、一心の体へ突き刺そうとする。

 

しかし一心は再び不死斬りを鞘に戻した。

そして黒い気を込めて、不死斬りを抜く。

抜かれた瞬間黒く太い半透明な線がグングニルをまるで果物のように切断する。

 

「ぐ、グングニルが...!」

「竜閃...まだまだ鍛えられる」

 

一心は地面に降りると、再び不死斬りを鞘に戻す。

だが今回は今までの居合いとは違っていた。

これまでは力を限界まで溜めて放つものだったが、今はむしろ逆で全身を脱力させていた。

 

「またその攻撃...!」

「.....」

 

一心は不死斬りを握る。

 

(このままでは再び斬っても...蝙蝠に変化され逃すのみ...ならば...)

 

「ふぅぅ.....」

 

一心は大きく息を吸い込むと、レミリアに突進する。

 

(変化する前に斬るしかあるまい!)

 

彼女はグングニルや鎖の生成に間に合わないと判断し、彼の攻撃を避ける事にする。

 

蝙蝠変化ならば彼の攻撃で避けられなかったものはない。

変化した後もすぐに終結させれば問題ない。

距離さえとればグングニルを生成して反撃することも可能だ。

 

レミリアは一心の攻撃を待ち構える。

 

しかしこれが彼女の敗因となった。

 

一心は脱力から攻撃に転じ、不死斬りを抜こうとする。

しかし次の瞬間、彼は既に顔の前で不死斬りを鞘に戻していた。

 

「え?」

 

レミリアは一心の行動が理解できなかった。

刀を抜こうとしたのに、結局抜いていないのだ。

 

しかし刀が鞘へ完全に戻された瞬間、レミリアの体に一本の線が刻まれた。

 

そして彼女の全身は、次々と現れる謎の刃によって斬り裂かれていく。

彼は刀を抜いていない。

なのに体は斬られていく。

 

「.....」

 

レミリアはその場で両膝を地面につけた。

もう何回不死斬りで体を斬られたか。

常人ならばとっくに倒れる傷ばかり。

しかし吸血鬼といえどもやっと限界が訪れた。

 

「...あーあ...今ので力入らなくなっちゃった」

「ふぅ...ふぅ...」

一心も息を切らしていた。

今の居合いで相当な体力を持っていかれたらしい。

それもその筈。

これは老境に至るまでに剣の心技を極め、葦名流の無駄を削ぎ落とし、かつての己が最後に編み出したものなのだ。

 

自らの名前をつけた剣技。

秘伝 一心である

(...やはり無駄が多い...かつてのわしなら息ひとつ乱れずにやれたものだが...)

 

「カカカッ...死地に至るまで極めた己だからこそ...未だ強さを求める今のわしじゃ出来ぬのも当然か...」

 

一心は座るレミリアを見下ろす。

 

「見事...その一言に尽きる」

「...吸血鬼が膝を着くなんて恥さらしもいいとこだわ」

「.....」

 

一心はその場に座り、刀を右に置く。

 

「カカカッ!滾ったものだ...お主はどうじゃ?」

「.....ふふ、そうね。久しぶり滾ったわ」

「お主の爪、紅く光る槍、どれも見事なまでに強かった...吸血鬼とはまこと面白い」

「.....」

「だが乗り越えた!そして飲み込んだ...カカカッ!」

「...むかつく」

「のうレミリア!酒を飲まんか!?」

「はぁ?」

「わしはお主を気に入った!共に酌み交わそうぞ!」

「...こんな傷で?」

「勝負の後ほどうまい酒はない...そうは思わぬか?」

「...まぁ思わなくはないわね」

「カカカッ!」

 

一心は立ち上がると、傷だらけのレミリアを持ち上げ担いだ。

 

「ちょっと!何するのよ!」

「動けぬのだろう?ならば静かにしておれ。運んでやる」

「恥ずかしいからやめなさい!咲夜!!助けて!」

 

勝負を見届けていた咲夜は、一心に近づいていく。

 

「お嬢様が嫌がっております。どうかお離しくださいませ」

「んん?動けぬのだから仕方あるまい」

「.....そうですね。仕方ありませんね」

「ちょっと咲夜!?」

 

咲夜は担ぐ一心の後ろについていき、彼女は一心が担ぐレミリアを凝視していた。

 

そして静かに鼻血を垂らす。

 

何故なら目の前には、愛しい主人のパンツが見えていたから。

 

(ナイス!お嬢様を傷つけられた時は殺そうと思ったけど...この光景を見せてくれたなら許すしかないわ!)

 

咲夜さんは満面の笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方観戦していた幽々子と妖夢も、一心と共に白玉楼へと帰ろうとしていた。

 

「すごい戦いだったわね妖夢」

「...ええ」

「吸血鬼に勝っちゃうなんて思わなかったわぁ」

「...ええ」

「?どうしたの?」

「...私もまだまだなんだなと...実感してしまいました」

「...相変わらず真面目ねぇ」

「.....」

 

妖夢は一心を見つめる。

葦名流を教わり、二度刃を交えた彼女でもまだ彼の全力を見ていなかった。

そして今のが彼の全力だったのだろうか?

妖夢はある予感がしていた。

まだなにか彼は全力を隠しているのでは?と

 

だが同時に恐怖も覚えた。

 

あれ以上の全力があるならば、一心はどれだけ強いのだろうか。

そして全力でぶつかったであろう一心を倒した隻狼とはどのような人なのか。

 

まだまだ気になることばかりである。

 

 




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本当にありがとうございます!

隻狼クリアした人ならば...妖夢の予感は当たっていることに気づくでしょうね(絶望)


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閻魔の約束

「だーかーら!ボンって想像してバーンって手から出すの!」

「.....」

 

あらゆる所に包帯を巻かれたレミリアと一心は、戦いのあと宣言通り酒を酌み交わしていた。

 

「のうレミリアよ。確かにわしはあの紅く光る槍をどうやってその手から出したかを聞いたが...その説明ではわからぬぞ」

「これだから人間は...どうしてわからないのかしら!」

 

レミリアは猪口にある酒を飲み干しながら怒鳴る。

顔も赤くなっており、かなり酔っているようだ。

 

「てかそもそも魔力もない貴方にできるわけないでしょ」

「魔力...とな」

「ていうか槍ならもう持ってるじゃない」

「カカカッ!確かにな」

「あー...お酒は傷に染みるわねぇ」

「だがうまぁい!」

「うまぁい!じゃないわよ!誰のせいでこんな傷だらけになったと思ってんの!?」

 

一心も猪口に注いだ酒を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は料理を作り終え、ようやく宴会に参加していた。

幽々子はお腹いっぱいと話し、風に当たってくるとのこと。

なのでレミリアの付き添いで来ていた咲夜と一緒に飲んでいた。

 

「...咲夜さん、一心さんをどう思いますか?」

「...元気な人って感じかしら」

「あ、えっと...言葉足らずでした。あの人の強さをどう思いますか?」

「...確かにお嬢様を戦闘不能まで追い込んだのは評価する。ただそれだけよ」

「...咲夜さんなら勝てますか?」

「お嬢様には悪いけど、正直余裕よ」

「え!?」

「私の能力知らないわけないでしょ?あれは弾幕ごっこよりもむしろそう...実践向きだからね」

咲夜は時を操る能力を持つ。

すべてが止まった世界で、彼女のだけが動ける。

流石に時の前には一心もどうしようもないだろう。

 

「時を止めた世界で一心にナイフを刺す...何てことはできないけど、百本や二百本のナイフを用意して囲めばあっという間よ」

「な、なるほど」

「まぁ...実際はどうなるかわからないけどね」

 

咲夜は妖夢の作った料理を食べる。

 

「ん...腕あげたわね」

「あ、ありがとうございます」

「後でレシピ教えて頂戴」

 

 

 

 

 

 

しばらくして、宴会はようやく収束し始めていた。

レミリアは酒がまわり、咲夜の膝の上で熟睡。

 

妖夢もうたた寝していた。

 

一心は酒を片手に縁側へと移動し、幽々子と共に飲んでいる。

 

「この暗き空も...慣れてしまったな」

「ずっと夜もいいものでしょ?」

「...ぷはぁ...ああ、悪くない」

 

すると一心の隣に、いつのまに来たのか八雲紫が座ってきた。

 

「こんにちは、一心さん」

「八雲か」

「この度は勝利おめでとう。私からのお祝いよ」

 

紫は持っていた酒壺を一心に渡す。

彼は酒壺に入った匂いだけで、その中身が何かわかった。

 

「ほぉ、竜泉か!」

 

早速一心は猪口に注いで、一気に飲み干す。

 

「..かぁ!うまぁい!流石は竜泉じゃ!」

「それは良かった」

「八雲...よく手に入ったの」

「大抵のものなら用意できるわ」

「カカカッ!羨ましい限りじゃ!」

 

すると紫と幽々子も竜泉を貰い、飲んでみる。

 

「美味しい...」

「あら本当...いい風味にコクのある味...」

三人は竜泉の味を深く堪能し、深く息を吐いた。

 

「それにしても...あの吸血鬼まで倒しちゃうなんてね。正直驚きよ」

「カカカッ!あの小娘は見事なものじゃ」

「レミリアは幻想郷でも実力上位なのにねぇ」

「幻想郷...前も西行寺が言っておったな」

「私やレミリアが住んでいる世界のことよ。誰からも忘れられた者達が最後に辿り着く楽園」

「忘れられた...か」

「良い所よ。時折喧嘩もあるけど、基本的に平和だし」

「平和...」

「強くなりたいと願う貴方には合わない場所かしら」

「カカカッ!こやつめ」

 

一心は猪口に入った酒を飲む。

酒に写った自分を見て、彼はため息をする。

 

「...強さを求めるは時に虚しいものよな」

「...」

「だが...その強さのお陰で内府に恐れられた」

「そして貴方が倒れたとき、内府は攻めてきた」

「...」

「...あの忍さん...」

「んん?隻狼か?」

「.....自害したわ」

 

一心はその言葉を聞いて、ピタリと動きが止まった。

 

「.....」

「九郎ちゃんを人に返すために、竜胤との関係を絶つために、最後の不死を忍さんは成敗したの」

「...そうか...丈と巴の願いを継いだか」

「.....そして九郎は人として生き、人として死んだわ」

「.....あの男...愛想は無し、その上無口だがどうも憎めぬでなぁ...一度は修羅の影が見えたが...そうか、成したか」

 

一心は猪口に入った酒を飲み干し、隣に置いた。

 

「.....天晴れじゃ」

「...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは」

 

 

 

 

 

三人は声のした方を振り向く。

そこには赤と白の布をつけた緑の髪の色をした女性が立っており、服装も紫と同じく不思議な物を着ていた。

 

「夜間にすみません。幽々子さん」

「映姫さんじゃない~。今日はどうしたの?」

「どうしたも何もありません」

「ならやっぱり一心さんのこと?」

「ここ冥界は罪の無い死者が成仏するか、転生するまでの間を幽霊として過ごす世界です。なのに裁判どころか川すら渡らぬ者がここにいては、我々の仕事は意味を成さなくなりますからね」

「確かにそうね。なら一心さんを引き取りに来たのかしら?」

「...今日はその事についてお話に来ました」

 

映姫は明らかに視線を逸らしている紫を見る。

 

「貴方にも聞いてもらいましょう。妖怪の賢者よ」

「うわっ、めんどくさ」

「めんどくさいではありません」

「相変わらず堅物ねぇ」

 

映姫は一心の前に立って、持っている笏を一心に向ける。

 

「まずいくつか質問をしましょう。貴方は葦名一心で間違いありませんね?」

「...お主は誰じゃ」

「...失礼、私は四季映姫ヤマザナドゥと申します」

 

紫は一心の耳に近づき、小声で話す。

 

「この人閻魔様よ」

「ほう...地獄で裁くという」

「マジ本物の閻魔。しかも超がつくほど生真面目」

「本人の前で言うことではありませんね」

 

映姫は笏で紫の頭を軽く叩く。

 

「痛い!」

「さて、質問に答えてもらいましょうか」

「...確かにわしは葦名一心じゃ」

「では次に、貴方は故意に裁判を避けたのですか?言っておきますが嘘はお見通しですからね」

「...いや、気がついたらここにいた」

「...そうですか」

 

映姫はため息をついた。

これがもしも故意であれば、違反者としてさっさと連れていける。

しかし故意でなければ、是非曲直庁のミスどころではなく死神のミスということもあり得る。

 

頭を悩ます種が今、芽生く所か花となりそうだ。

 

「はぁ...でしたらまず謝らなければなりませんね」

 

映姫はその場で深々と頭を下げる。

 

「貴方がここに来てしまったのは恐らく我々のミス。申し訳ありません」

「.....」

 

映姫は頭をあげると、笏で口を隠し考え出す。

 

「貴方は確か不死でしたよね...それが原因だと上は判断しています」

「だが...わしは不死斬りで斬られた...死んだ筈じゃ」

「...うーん」

 

すると紫も映姫に話し出した。

 

「死んでそのまま放置されたなら一心は怨霊に変化し地上をさ迷っている筈よ」

「見る限り一心さんは怨霊ではありませんね」

「ならどういう事かしら」

「...怨霊ではないという事は一度は死んで死神に魂を回収されはしたが、三途の川へ魂を導く最中に逃げたか...迷ったか...そこはまだわかりません」

「それでたまたま冥界に来たっていうの?しかもこの時代に?」

「.....まだ調査不足ですので何とも言えません」

 

映姫と紫は悩んでいると、一心は少し笑いだす。

 

「カカカッ!どうでもよいではないか...閻魔様はわしの命を回収しにきた。そういうことであろう?」

「ええ」

「ならばすればよいではないか」

「...本来ならそうしたいのですが」

「んん?」

「...貴方は未だ不死。我々は貴方の魂を回収することができないのです」

「では如何する」

「貴方はもう一度死ななければならない。そして死んだ時、我々は貴方の魂を回収できるようになります」

「ほう...」

 

すると一心は腰に差した不死斬り『開門』を映姫に差し出す。

 

「ならば丁度よい。ここに不死を殺す刀があるぞ」

「残念ですが、その刀は使えません」

「使えぬ...?」

「貴方はその刀で不死となり黄泉帰ったと聞きます。その刀と貴方は一緒...同族と捉えられた者は殺せません」

「なにをわけのわからぬ...」

「とにかくその刀は貴方を殺せない...それは確かです」

「ではどうする」

「そこは我々にお任せください。近い内に不死をも殺す武器を持って貴方の魂を回収に来ますので」

 

映姫はそう話すと、一心は目を丸くし笑いだした。

 

「...カカカッ!!八雲よ、これではまるで閻魔から挑戦を受けてるようじゃ!」

 

紫は一心の言葉に、乗っかってみることにする。

 

「確かにこれは宣戦布告ですわねぇ」

映姫は驚き、すぐに否定する。

 

「そんなつもりはありません!」

「閻魔様、よく考えてくださいな。一心さんがここにいるのはそちらの不備と認めましたよね?それにも関わらず『後で貴方を殺す武器をもって魂回収に来る』と宣言される...どう考えても挑戦ですわぁ」

「うっ...」

「どうするの?一心さん」

「無論...わしの魂欲しくば...奪うがよい!しかないではないか!カカカッ!」

 

一心は地獄の魂回収を『欲しければ取ってみろ』と逆に抵抗したのだ。

 

映姫は頭を手で抱え、ため息をつく。

 

「はぁ...どうしてこんな面倒なことに」

「カカカッ!安心せい。わしはここから動かぬよ...用意が出来たならばいつでも来い」

「...なら冥界から出ないことを約束できますか?」

「おう、誓う」

「...わかりました...上と相談してきます。では幽々子さん、一心さんをしばらく冥界に預けますので」

「はいはい~。逃げないように見張っておくわ」

「お願いします...それと一心さん、魂回収を抵抗する理由はなんですか?」

「...さぁてな...カカカッ!」

「...なら次会うときは、裁判で」

「おう、楽しみにしておるぞ」

 

映姫は後ろを向き、白玉楼を去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「地獄に...しかも閻魔に喧嘩売るなんてどこまで命知らずなのよ」

「カカカッ!その方が面白いではないか!」

「全く...」

「それより八雲、次の客はいつ来るのじゃ」

「え?」

「今わしには時間がないことがわかったのでな。閻魔が来るまでに...客を連れてこなければわしは地獄行きじゃ!」

「あ、そ、そうね...」

 

(閻魔が命取りに来るってのにまだ戦いたいの!?まぁ居てくれるならあの子の修行になるしありがたいけど)

 

「じゃあ明日連れてくるわ」

「よし、楽しみにしておるぞ」

 

一心は満足そうに笑った。

 




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ありがとうございます!
( ; ゜Д゜)なぜこんなに増えたのだぁ!?

次回!一心大苦戦!?


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博麗

映姫が訪ねて来てから何時間過ぎただろうか。

レミリアは寝たまま起きなかったので、咲夜は主を抱えて館へと戻ると話し冥界から去っていった。

 

一心はというと、あのまま飲み続けて縁側で寝てしまっている。

 

 

そんな一心とは違い、妖夢は急いで朝食の準備に取りかかろうとしていた。

昨日は宴会の途中で寝てしまい、すっかり寝坊してしまったからである。

 

「ああー...早く作らないと幽々子様に怒られる!」

 

妖夢は直ぐに台所へと走る。

そして辿り着くと、そこには驚きの光景があった。

ご飯や味噌汁、焼き魚や煮物等が既に出来上がっていたのだ。

 

「あ、あれ?」

「遅いわよ妖夢」

台所には誰かが立っていた。

黒のまっすぐで綺麗な髪。

袖が無い肩と腋の露出した赤い巫女服、後頭部に縫い目入りの大きな赤いリボン。

 

楽園の素敵な巫女 博麗霊夢である。

 

「霊夢さん!?どうしてここに!?」

「あのバカスキマ妖怪がいきなりここに連れてきたのよ。んで腹空かしてさ迷ってた幽々子に頼まれ朝食作ってるわけ」

「ゆ、幽々子様が?」

「どっかの半人半霊の庭師が酒飲んで眠ってたからね。作る条件に私も食べる事を加えたけど」

「え、す、すみません」

「いいのよ、私もお腹空いてたし」

「て、手伝います」

 

妖夢は直ぐにエプロンを着て、調理を手伝う。

 

 

 

 

 

 

誰かが頬を叩いている。

心地よく寝ていたのに、誰が叩いているのか。

 

「...むぅ」

 

一心はゆっくりと目を開けると、そこには見慣れぬ女性の顔があった。

 

「...誰じゃ」

「ほら起きなさいおじいちゃん」

「...おじいちゃん...?」

 

女性は一心の肩を持って無理矢理起こす。

 

「ほぅら!朝食出来たから食べちゃいなさい!」

「なんじゃ...んん...いい匂いじゃ」

「ちょっと妖夢!あんたも手伝いなさい!この人無駄に身長高くて重いんだけど!」

「ええ!?私もですか!?」

「ご飯冷めちゃうでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「...それで、お主は誰じゃ」

「博麗霊夢よ」

「博麗...」

 

一心、幽々子、妖夢、霊夢の四人は朝食を食べている。幽々子はまるで掃除機のようにご飯を食っていた。

妖夢は茶碗に白米がなくなると、直ぐ様盛りつけて主人の前に置く。

これが当たり前なのだから、驚きだ。

そんな早業を無視して一心と霊夢は話し始める。

 

「さて...博麗とやら、ここに何用じゃ」

「紫にいわれてきたのよ。最近してる修行の成果を一心って人に戦って見せろって」

「ほぉ、ではお主八雲の客か」

「そういうことね。あんたが一心?」

「そうじゃ!」

「ちょっと背が高い普通のおじいちゃんじゃない。片方の目塞がってるけど」

「む...」

霊夢は一心の風貌など全く気にせず、味噌汁やご飯を味わっている。

すると不意に一心は、霊夢にある質問をした

 

「...お主は人間か」

「そうよ?純度100%人間よ」

「...カカカッ!やっと人間が相手か!」

「あんたもじゃないの?」

「わしは...人ではない」

「あらそう」

「驚かぬのか」

「人外なんて日常茶飯事よ。むしろ人間が少ないわ」

 

霊夢は焼き魚の骨を箸で取りながら、一心の質問に答えていく。

すると霊夢は一心の腰にある刀を見る。

 

「物騒なもの持ってるけど、妖夢と同じ剣士って奴なの?」

「んん、そうじゃ」

「痩せてるのに力でるの?」

「カカカッ!戦えばわかることじゃ!」

「...そうね」

 

霊夢は食べ終わると、食器を台所へ運んでいく。

 

「じゃあ、少し休んだら始めましょ」

「よかろう」

 

霊夢は部屋を出ていった。

すると入れ替わりのように、紫が入ってきた。

 

「おはよう」

「八雲か」

「霊夢には会った?」

「今しがたな」

「そう。どう感じた?」

「.....掴めぬ」

「え?」

「どこか掴めぬ女よ。しかし不思議と心地がいい」

「...」

「まるで空を自由に悠々と漂う鳥を思わせる...カカカッ、まこと不思議な女じゃ」

「...まぁあの子ほど自由な子はいないわ。当たらずとも遠からずって感じかしら」

紫は一心の隣に座り、ゆっくりと話す。

 

「恐らく貴方はあの子には勝てないでしょうね」

「...ほう」

「霊夢は妖夢やレミリアとはまるで違う...まぁ何が違うかは戦ってみないとわからないかしらね」

「カカカッ!面白い!」

一心は立ち上がり、部屋を出ようとする。

すると紫も立ち上がった。

 

「待って一心さん」

「んん?」

 

紫は後ろから兜を取り出し、一心に被せる。

 

「おお、これは」

「修理しといたわ」

「ありがたい」

 

かつて妖夢との戦いで割れてしまった兜を、紫が直してくれていた。

一心は紐を結ぶと、縁側から外に出る。

 

「霊夢に伝えぃ。門の外で待つとな」

「ええ、わかったわ」

 

一心は門の外へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、白玉楼の門が開き霊夢が現れた。

 

「待たせたわね」

「おう」

「じゃ、何処でやろうかしら」

「この先を行くと広場がある。レミリアともそこで交えた」

「じゃあ行きましょうか」

 

二人は一緒に歩き出した。

 

「それにしてもボロボロな服着てるわね」

「これが一番動きやすいのでな」

「それにしたってもう少しまともなやつあるでしょ」

「カカカッ!...それにしても、今日魂魄は来ぬのだな」

「今日は行かないと伝えてって言われたわ」

「ほう、珍しき事よ」

 

 

 

 

 

しばらく歩くと、レミリアとの戦いの跡が残された広場へと辿り着く。

 

「また派手にやったわね」

「吸血鬼とやらは中々強かった。派手に暴れてしまったわ」

「けど勝ったんでしょ?やるじゃない」

「カカカッ!確かに飲み込んでやった」

「さて、やりましょうか」

 

霊夢は持っていたお払い棒を構えた。

一心は驚き、刀を抜く前に質問する。

 

「お主...その棒で戦うつもりか」

「あーご心配なく。一応霊力使えば刀くらいは弾けるわ」

「...うぅむ」

 

一心ですら流石に戸惑いを隠せない。

細い木の棒に白い紙がついているだけの物で、刀を持つ相手と戦うというのだ。

 

なのに八雲紫は一心は霊夢に勝てないと宣言している。

 

一心は大きく息を吸い込む。

 

「迷えば...敗れる」

 

そして不死斬りを鞘から抜いた。

 

「行くぞ」

「かかってらっしゃい」

 

一心は迷いを払い、まずは素早い突き攻撃を仕掛ける。

 

しかしその瞬間。

 

「ふん!」

「!」

 

一心のもつ不死斬りは華麗に避けられ、さらに刀を踏みつけられてしまう。

 

「これは...」

 

一心は直ぐ様不死斬りを引き戻し、構え直す。

 

「そんな突きじゃあ踏まれて当然ね」

「.....」

 

すると一心は不死斬りを鞘に戻し、霊夢の足元目掛けて抜刀し攻撃。

だが霊夢は不死斬りが当たる前に高く飛び上がり、一心の兜を踏みつけた。

 

「中々速いわね」

「ぐ...」

 

一心は後ろに下がり、もう一度不死斬りを鞘に戻した。そして力を溜め、葦名十文字を繰り出す。

 

しかし横に不死斬りを払った瞬間霊夢は屈んで避け、次に縦に振り下ろすが彼女は左へ回転して避ける。

 

己の葦名十文字をこうまで避けられたのは人生で初めてである。

 

そして直ぐ様霊夢を追いかけ、薙ぎ払うも後ろに体を曲げ紙一重で避けられる。

 

「あっぶないわねぇ」

「...」

 

すると一心は黒い気を不死斬りに溜めて、大きく振り上げる。

 

「せやぁぁ!!」

 

一心は強い踏み込みと共に、不死斬りを振り下ろした。

辺りに爆風が起こり、地面は大きく削られた。

 

しかし霊夢はいつの間にか一心の後ろに移動しており、お払い棒で思いきり彼の背中を叩く。

 

「殺す気か!」

「うごぁ!」

 

一心は前に屈んでしまう。

しかし直ぐに立ち上がり、振り向いて不死斬りで横に薙ぎ払う。

 

だが薙ぎ払う瞬間、彼女は刃を踏み台に高く飛び上がり一心の頭を再び踏みつけた。

 

「ぐおっ!」

「そろそろ首痛めるわよ」

「ぐぬぅぅ!!」

 

一心は不死斬りを鞘にしまい、力強く抜刀した。

透明の白い線が霊夢に襲いかかるも、霊夢はほんの数センチ移動して避けた。

 

「ならば...!」

 

一心は不死斬りを鞘にしまい、さらに力を溜める。そして抜刀すると、白い線が霊夢に襲いかかる。

 

「おっと」

 

霊夢は軽々と避けるが、その後白い線が刻まれた場所に衝撃波が走る。

 

しかし霊夢は刻まれた場所から直ぐ様離れたため、衝撃波の被害を受けない。

 

その後一心は何度も攻撃を続けるも、全て華麗に避けられてしまった。

 

しかしある時肘で攻撃すると、霊夢は避けられずに食らってしまい後ろに下がる。

 

「せいっ!!」

 

一心は最速の突きを仕掛けるも、霊夢は簡単に見切って踏みつける。

 

「ぬぅぅぅ!」

「さぁ、早く本気を出しなさいな」

 

霊夢はお払い棒で一心の顔を思いきり払う。

 

「ぐぬぉっ!」

 

一心は顔を押さえ、未だ息一つ乱れていない霊夢を見て笑みを溢す。

 

 

 

「血が滾るわぁ!!行くぞ博麗ぃぃ!!!」

 

 

 

 

一心は地面を踏みつけ、走りだすと十文字槍を拾い早速霊夢を突く。

 

「ほい!」

 

しかし霊夢は十文字槍の突きを見切り、踏みつけた。

 

「かぁっっ!!」

 

一心は踏まれた十文字槍を引き戻し、腰から火縄銃を取り出し発砲。

 

だが霊夢は右へ走って弾丸を全て避ける。

 

彼は霊夢を追いかけ、高く飛び上がり十文字槍を彼女目掛けて振り下ろす。

しかし避けられ、背中をとられた。

 

「槍も使うのね」

「ぬぅぅん!!」

 

一心は十文字槍を振り回し、霊夢に連続攻撃を仕掛ける。水の流れように攻撃をするが、霊夢は流れに逆らわないかのように最低限の動きで避けていく。

 

さらに連激を途中で止め、不死斬りで葦名一文字を繰り出すも霊夢は一心の腕を蹴って技を妨害。

 

一心は霊夢と距離をとり、十文字槍を彼女目掛けて思いきり投げる。

霊夢は槍を避けるため飛び上がった。

一心は刺さった十文字槍を踏み台に霊夢の前にくる。

そして黒い気を溜めた不死斬りで葦名十文字を繰り出した。

 

しかし霊夢は空中で一回転し、まるで奇跡のように十文字を避ける。

一心の十文字は、彼女のほんの少しの髪を斬っただけであった。

 

「よっと」

二人は地面に降り立ち、一心は刺さった十文字槍を抜く。

「さぁ、続きをやりましょうか」

 

霊夢は余裕の表情だが、一心の顔は驚きの表情のうえに冷や汗をかいていた。

時間にすればわずか数分の戦いだが、一心は彼女の異常さを体の底から感じ取っている。

八雲紫が言っていたことは嘘ではない。

しかしここで敗けを認めて退くような一心ではない。

むしろこれまで以上に血が滾る思いでいた。

 

「...カカカッ...!凄まじいの一言に尽きるわ」

「...?」

 

霊夢は一心の後ろの空を見ていた。

この冥界は永遠に夜が続く。

なのに空にはどんよりとした雲が集まり、今にも大雨が降りそうだ。

冥界の天候が変わるなど、異常この上ない。

すると雲はバチバチと光始める。

 

「...貴方のせいなの?あれ」

「.....」

「厄介なことになりそうね。私もそろそろ修行の成果を見せますか」

 

すると霊夢はお払い棒を前に構え、懐から博麗と書かれた形代を数枚取り出した。

 

「あのスキマ妖怪から教わった儀式...御霊降ろし...実戦だとどんな感じかしらね」

 

 




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(´;ω;`)お気に入りしてくださった方々にも感謝しかありませぬ...!


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痺れるような修行

「はっ!」

 

霊夢は日本語ではない言葉を喋り、金剛力士の阿形のポーズを取る。

すると阿攻という赤い文字が胸に現れ、彼女の体は赤い気に包まれる。

 

「...やっぱ気持ち悪!」

 

霊夢は口に手を当てて、吐き気を押さえる。

 

(贄代わりの形代使っても気持ち悪い..!紫はこの御霊降ろしを何回も連続使用してた奴もいるから大丈夫とは言ってたけど...こんな気持ち悪くなるのにそんなバカいるわけないでしょ!)

 

一心は霊夢へ向かって走る。

 

「せやぁぁ!!」

 

一心は十文字槍を霊夢目掛けて振り下ろす。

すると今まで攻撃を避けていた霊夢が、お払い棒を使って攻撃を受け流したのだ。

 

「むぅ!?」

「強っ!そんな細い手首でどっからそんな力でるのよ!」

一心は懐から銃を取り出し、霊夢に向けて発砲。

だがその前に彼女は札を四枚目の前の空間に張り、青い半透明な壁を作り出す。

壁はヒビが入るも銃弾を受け止めた。

 

「ぬぅ!」

「そんなものも持ってたのね」

 

すると一心は銃をしまい、その場で一回転すると同時に十文字槍で薙ぎ払う。

壁は破壊され、札は灰となって消えた。

 

「亀裂が入ってたとはいえ結界を破るなんてやるじゃない」

「でぇい!!」

 

一心は高く飛び上がり霊夢目掛けて十文字槍を振り下ろすも、避けられた上に懐へと侵入を許す。

そして彼女はバク転をしつつ一心の顎を蹴り上げる。

 

「昇天脚!」

「ぐぉっ!」

 

一心は顎を押さえ、後ろに下がる。

 

「やっぱり筋力は上がるわね...」

「ぬぅぅん!」

 

一心は不死斬りを横に払うも、霊夢のお払い棒によって弾かれる。

霊夢は後ろに飛ぶと同時に、札を三枚一心へと投げた。

 

札は全て不死斬りによって落とされるも、一心は札の固さに驚いた。

 

「ただの紙ではない...まるで鉄のような固さじゃ...」

「私特製のありがたーい御札を叩き落とすなんてバチが当たるわよ」

「カカカッ!面白き女じゃ!」

 

一心は不死斬りを持つ手に力を込める。

 

「はぁぁぁい!!」

 

すると一心は鞘にしまうことなく、秘伝竜閃を放った。

 

霊夢は竜閃を弾くも、腕に相当な負担がかかり痛がっている。

 

「痛ッ...あんたの攻撃受けるもんじゃないわね」

「まだじゃあ!!」

 

一心はもう一度竜閃を放った。

しかし霊夢は左へ走り、竜閃を避ける。

すると霊夢を包んでいた赤い気が消え去り、霊夢は再びお払い棒と形代を取り出し喋り始める。

 

「今度は...これ!」

 

霊夢は形代を上に投げて、両腕を広げ片足を上げるポーズをとった。

 

(恥ずいったらありゃしないわね!)

 

すると剛幹という黄色い文字が霊夢の胸に現れ、黄色の気が霊夢を包み込む。

 

「さぁかかってらっしゃい!」

一心は軽く飛び上がると、霊夢に二回不死斬りを食らわせる。

霊夢はお払い棒で一心の攻撃を難なく防御した。

しかし先程とは違い手を痛がる様子もなく、一心は不審に思う。

ならばと彼は十文字槍を振るい、猛攻をしかける。

 

まず右上に払いそのまま叩きつけ、左下へと払いもう一度叩きつける。

そして最後に渾身の突きを仕掛けた。

 

霊夢は槍の攻撃を全て受け止め、突きでさえも弾き飛ばす。

そして彼女はお払い棒で一心の兜を思いきり叩いた。

 

大きな金属音が響き渡り、一心は一瞬ふらつくも直ぐに不死斬りを霊夢目掛けて払う。

 

彼女は後ろに飛んで、一心と距離をとった。

 

「ふぅ...頑丈ね」

「カカカッ...」

 

すると二人の間に、大きな雷が落ちてくる。

轟音が響き渡り、霊夢は雷の光で思わず目を隠す。

 

「キャッ!...もう何よ!」

 

すると辺り一面に雷が落ち始め、さらに強い風が吹き荒れる。

 

「ったく...どんな天候よこれ」

「.....」

 

一心は辺りに降り注ぐ雷を見て、笑みを浮かべる。

「カカカッ...雷か」

「もうさっさと終わらせましょ。疲れたし家に帰って寝たいわ」

霊夢は形代を取り出し、上に投げる。

そして座禅を組み手を下に広げた仏のポーズをとった。

すると胸に青色の月隠の文字が現れ、霊夢の姿が見えなくなる。

 

「!消えたか...」

 

小さな足音はするものの、姿は見えない。

この風の音で、足音での場所の特定が難しい。

 

 

 

霊夢は一心へゆっくりと近づいていく。

 

(探してもいない...こっちの場所を把握してるのかしら...ならこのまま接近は危険ね)

 

霊夢は力を溜め始める。

すると周りに光る巨大な玉を大量に出現させた。

 

(夢想封印!)

 

巨大な玉は全て一心に向かっていく。

 

「せやぁ!!」

 

しかし一心は黒い気を纏った不死斬りで、光る玉を次々に一刀両断していく。

 

「無駄じゃ博麗ぃ!姿を見せい!!」

 

一心は全ての玉を斬り、大声を出して霊夢を探す。

そんな状況を見て、霊夢は驚いている。

 

(わ、私の夢想封印を斬った...てか斬れたんだあの玉)

 

遠距離攻撃が通じないとわかり、霊夢は仕方なく近接を仕掛けることにする。

 

(そろそろこの隠れる御霊降ろしの効果も切れる...やるなら早くしないと)

 

霊夢はお払い棒を握りしめ、一心の背中を攻撃しようとした。

 

「そこじゃぁぁ!!」

 

すると一心は空中へと飛び上がり、十文字槍を空へと掲げる。

 

「!バレた!」

「逃がさぬぞ博麗ぃ!」

 

すると一心の十文字槍に雷が当たり、武器が激しく黄色に光始める。

 

「な、なによそれ」

「ぬぅぅん!」

 

一心は十文字槍を霊夢目掛けて薙ぎ払う。

槍を振るった瞬間、轟音と共に雷が襲いかかった。

 

霊夢は紙一重で十文字槍を避けるが、顔には驚きの表情が出ていた。

 

「あっぶな...」

「やはり避けたか...」

 

一心は十文字槍を振るった勢いを使い、一回転しながらもう一度飛び上がる。

 

そして今度は不死斬りを上に掲げ始めた。

すると雷は不死斬りに当たり、刀は雷を帯びて巨大になる。

 

「くらえぃ!!」

 

一心は雷を帯びた不死斬りで、思いきり横に振るう。

すると不死斬りから光輝く刃が飛び出し、霊夢に襲いかかった。

 

「くっ...仕方ない!」

 

霊夢も巨大で広範囲に襲いかかる刃を避けることはできないと判断し、受け止めることにする。

 

しかしお払い棒で受け止めた瞬間

 

 

「あばばばばばばばばっ!!?」

 

 

全身に強烈な痺れと、とてつもない衝撃が駆け巡る。

 

「ようやく一撃...!だが、渾身の一撃じゃ」

 

一心は地面に降り立ち、不死斬りを見る。

 

「竜閃と巴の雷を組み合わせたが...カカカッ!中々使えそうじゃ」

霊夢の体を駆け巡っていた雷がようやく抜けて、彼女は地面に倒れる。

口やあちこちから黒い煙が出ており、びくっとたまに震えている。

 

「ゲホッ!ゲホッ!...よ、よくも私に怪我させたわねぇ...!」

 

霊夢はお払い棒を使って立ち上がり、一心を睨む。

 

「もう容赦しないわ...!」

 

霊夢は形代を上に投げて、右手にお払い棒を持ち夜叉のポーズをとる。

胸には夜叉戮という文字が現れ、霊夢は赤黒い気に包まれる。

 

「さぁいくわよ!」

「参れ!」

 

霊夢はお払い棒を構え、一心に突っ込んでいく。

 




今さら隻狼公式アートブックを購入。
一心様かっけぇ..


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雷返し

霊夢は一心へと走りだし、強烈な飛び蹴りをくらわせる。

一心は不死斬りで防ぐも、中々の威力に一歩後ろに下がる。

 

「...」

「はぁっ!!」

 

霊夢はお払い棒と蹴りを交互に繰り出し、一心に攻撃させる機会を与えない。

 

不死斬りを振るおうにもお払い棒で防がれ、十文字槍を使おうにも攻撃が激しすぎる。

 

一心は霊夢の猛攻に押されていく。

すると一心の足は何かを踏んだ。

石でも木の枝でもない。

 

すると霊夢は一心から離れ距離を取る。

 

「!」

「神技『八方鬼縛陣』!」

 

一心の足元には、札が八角形になるよう地面に配置されていた。

そして札が光を放ち、八角形の巨大な光る柱を生み出した。

 

「ぬぅぉぉおあ!!」

 

一心はその光る柱に触れてしまい、大きな痛みと衝撃が走る。

直ぐ様柱から離れるが、距離をとった先の地面にも札が置いてあった。

 

「くっ!」

 

再び同じような光る柱が生み出され、一心はくらいつつも脱出。

 

「ぬぅぅ...いつの間にこれ程の罠を...」

 

一心は辺りを見渡すと、至るところに札が地面に配置されていりことに気づく。

 

「...姿を消した時に貼ったか」

 

一心の予想は当たっていた。

先程霊夢が月隠の御霊降ろしをして姿を消した時に、辺りに札を配置していたのだ。

 

「カカカッ...やるではないか」

 

一心は霊夢の方を振り向く。

既に辺りには大雨が降りだしており、まるで台風が来ているような天候であった。

「...八雲が申していた事は嘘ではなかったな」

「...紫が?」

「わしは博麗には勝てぬ..と宣言されたわ」

「...ならもう諦めるの?」

「カカカッ!!むしろ逆じゃ!」

 

一心は不死斬りと十文字槍を構える。

 

「魂魄、レミリア...ここに来てから二人の強者と刃を交えたが...お主が一番わしの血を滾らせる」

「.....」

「さぁ再び刃を交えようぞ...この昂り、わしを倒す以外収まりはせぬわ!」

 

一心は霊夢目掛けて走り出す。

 

「ならさっさと倒して終わりにするわよ!」

 

霊夢も一心へ走り出した。

 

「かぁぁ!」

「はぁぁぁ!」

 

霊夢のお払い棒と、一心の不死斬りがぶつかった。

その衝撃は雨を一時的に吹き飛ばし、風をも止ませた。

 

何十合と二人の武器は交え、二人の勝負は今まで以上に白熱した。

 

一心の兜は弾き飛ばされ、霊夢の袖は斬られてボロボロになっている。

 

ようやく二人が距離を取ると、お互いようやく息を深く吸った。

 

「はぁ...はぁ...」

「ぜぇ...ぜぇ...」

 

(これ程女で強いのは初めてじゃ...流石のわしも息が乱れてきたか...)

 

(このお爺ちゃん何なのよ...!修行とはいえ私の攻撃をここまで受けてまだ立つなんて...人間じゃないらしいけどそこらの妖怪よりよっぽど化物ね..)

 

二人の間には、雨と風、雷の轟音のみ響いていた。

 

そして霊夢の体を包んでいた赤黒い気がようやく晴れる。

 

「...時間切れね」

一心は息を整え、霊夢目掛けて槍を振り下ろす。

すると彼女は戦い当初のように、槍を避けた。

 

さらに葦名一文字を仕掛けるも、足払いによって一心は体勢を崩し妨害される。

 

一心は刀を鞘にしまい、広範囲に薙ぎ払うも紙一重で避けられ顔に蹴りをくらう。

 

十文字槍を振るい連続攻撃を行うも、全て避けられ最後の突きも見切られ踏まれてしまう。

 

「.....」

「はぁ...はぁ...」

 

しかし一心は攻撃を避けられ、見切られても焦りはなかった。

むしろ何かに集中しており、霊夢を休ませずに攻撃を続ける。

すると霊夢の動きが乱れ始める。

今まではまるで攻撃がどのように来るかわかっているように避けていたが、段々と避け方が雑になってきていた。

 

そして霊夢は避けるではなく、一心から距離をとってそもそも当たらないようにし始める。

 

「はぁー...はぁー...」

「...息が乱れておるぞ」

「はぁ...はぁ...まったくめんどくさいわね...」

「...」

 

霊夢の体力は限界に近い。

しかし一心も既に手の痺れが取れず、槍を持つ手も疲れが現れていた。

 

「...使うつもりはなかったけど...ここまで来たらやってやるわ」

 

霊夢はもう一度夜叉勠の御霊降ろしを行った。

そしてお払い棒を構えると、力を溜め始める。

 

「夢想天生」

 

すると霊夢の体が半透明になり、一心へ歩いていく。

彼は不死斬りで葦名十文字を繰り出すも、刀は彼女の体に当たらない。

 

「!これは...」

 

霊夢はお払い棒を強く横に振るい、一心の横腹に攻撃する。

一心の攻撃は彼女に当たらないが、霊夢の攻撃は彼に当たる。

 

「がっ...!」

 

これではどうしようもない。

しかも霊夢は夜叉勠のお陰で攻撃の力が上がっている。

 

「せやぁぁ!!」

 

一心は十文字槍を振るうも、最早霊夢は避ける動作すらしない。

銃で撃つも、彼女に当たらず頭をお払い棒で突かれた。

 

「ごはっ!」

そしてとうとう十文字槍を地面に落とし、頭を押さえ後ろに下がる。

 

一心は不死斬りを鞘にしまい、竜閃を放つ。

 

「でやぁぁ!」

 

しかし刃は霊夢の体をすり抜け、霊夢はそのまま一心の腹を思いきり突いた。

 

「がはぁ.....」

 

一心は吹き飛ばされ、不死斬りを支えに立ち上がる。

 

「カ...カカカ...あともう少しなのだが...」

 

霊夢はお払い棒を振り払い、肩にのせる。

 

「私の勝ちよ」

 

霊夢はそう宣言するが、一心は不死斬りを構える。

まだ終わっていない。

霊夢はため息をすると、彼に向かって歩き出す。

彼も霊夢へ向かい歩き始める。

 

そして霊夢はお払い棒を一心の頭目掛けて振り下ろした。

 

しかしその瞬間、一心は紙一重で霊夢の攻撃を避ける。

 

「!」

「...これか」

 

霊夢はお払い棒を横に振り払うが、一心は深く屈んで避ける。

ならばと彼女は一心の腹を目掛けて突くが、彼は見切りお払い棒を踏みつける。

 

「なっ!?」

「カカ...カッ!飲み込んだ...!!」

 

霊夢はお払い棒を引き戻し、距離を取る。

一心は不死斬りを構え、ゆっくりと霊夢へ近づいていく。

その姿、気迫に彼女は後退りした。

(攻撃が避けれる...!)

 

霊夢は一心を攻撃していくも、全て避けられる。

まるで自分がそうしたように。

 

突きをすれば踏まれ、足を狙い下段攻撃すると飛び上がり頭を強く踏まれる。

 

そして霊夢はとうとうお払い棒を踏まれた時に手放してしまった。

 

夜叉勠の効果も切れて、霊夢の腕も限界に達したのだ。

しかも夢想天生が解けつつあり、彼女は既に透明ではなくなっている。

 

「はぁ...はぁ...」

「博麗よ...」

 

一心は地面に落ちたお払い棒を霊夢の方に蹴る。

 

「これが...最後じゃ」

「.....なによ、武器持ってない今がチャンスよ?」

「カカカッ!丸腰の相手を斬れるものか」

「...後悔させてあげるわ」

 

霊夢は近くにあるお払い棒を取る。

 

一心は不死斬りを構えた。

 

「技は既に飲み込んだ...後はお主を倒すのみ」

「やれるもんならやってみなさい」

「行くぞ!」

 

一心は全力で高く飛び上がる。

そして不死斬りを空に掲げ、雷を刀に纏わせる。

 

「さっきの...!」

 

あの雷の攻撃を受ければ、間違いなく負けるだろう。

 

「くらえぃ!!」

 

一心は不死斬りで霊夢を薙ぎ払う。

 

 

 

 

すると霊夢は飛び上がり、一心の雷による攻撃を空中で受け止める

そして霊夢の体にはあの時の痺れと衝撃は起こらず、彼女は笑みを浮かべてお払い棒を空中で構えた。

 

「あんたの雷お返しするわ!」

 

一心は地面に降り立ち、空中にいる霊夢は雷を纏ったお払い棒を振り下ろす。

すると一心は笑みを浮かべ、霊夢を見た。

 

「やはりそう来るか博麗ぃ!!」

 

一心は飛び上がり、お払い棒に纏った雷を空中で受け止める。

「なっ!?」

「雷返しは隻狼との戦いで既に学んでおるわぁ!!」

 

一心は雷を纏った不死斬りを霊夢に振り下ろした。

 

「...マジかぁ」

 

雷攻撃は霊夢に当たり、彼女はもう一度とてつもない痺れと衝撃を味わうこととなった。

彼女は意識を失い、その場で倒れる。

一心は地面に降り立ち、倒れた霊夢を見下ろす。

 

「はぁ.....はぁ.....勝ち.....じゃあ」

 

一心も後ろに倒れ、そのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて空はいつもの夜になり、台風のような天気は消え去った。

 

白玉楼では紫達が霊夢の帰りを待っていたが、門から現れたのは気絶した霊夢を担いだ一心であった。

 

その光景に皆が愕然とし、特に紫は霊夢が負けたという事実に誰よりも驚いた。

 

二人はすぐに治療され、寝かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...紫よ」

「...何かしら」

一心は治療され、布団の上で座っていた。

本当は絶対安静なのだが、不死だからという理由で酒まで飲む始末。

 

見舞いにきた紫は、複雑な気持ちだった。

 

「まさか霊夢を倒すなんてね」

「カカカッ...こちらも死にかけであった...」

「それでも最後に立ったのは貴方」

「.....いや」

「え?」

「博麗は本気ではなかった...いや、最後に本気を出したというのが正しいか」

「.....」

「もしも...あやつが最初から本気であれば...わしはすぐに負けていたであろう」

 

一心は酒を飲むも、あまり気持ちよく酔ってはいなかった。

 

「...見事な女よ...」

「...」

「あやつが葦名にいれば...」

「...一心さん」

「んん?」

「これで私からの客は全て送ったわ。貴方は見事全員を倒した」

「.....」

「流石剣聖...私の予測を見事に外したわね」

 

一心は笑みを浮かべて、酒を一気に飲み干す。

 

「カカカッ...感謝するぞ八雲よ」

「え?」

「今わしは...自らの全盛をも越えたと確信しておる...これならば」

「ならば?」

「...あやつに勝てる」

「あやつ...?誰のこと?」

「カカカッ!もうすぐわかる!」

 

すると一心の部屋の襖が開き、霊夢が現れた。

 

「霊夢!」

「ちょっと出てなさい紫」

「貴方動いちゃだめじゃない」

「殴られたい?」

 

紫は霊夢の拳を見て、直ぐ様部屋を出る。

彼女は一心の前に座ると、彼の近くにあったお酒を飲んだ。

 

「...ふぅ、あーおいし」

「博麗...何か用か」

「私を真似たわね」

「カカカッ!」

「負けるなんて何年ぶりかしら...悔しいわ」

「お主も...本気ではなかったであろうに」

「...」

「図星か?だが、あの体が透ける技は本気であっただろう」

「まぁね、それでも負けるとは思ってなかったけど」

「雷返しも見事じゃった。たった一撃受けるだけで返す方法を当てるなど、そこらの者では無理じゃ」

「勘よ勘」

「勘?」

「私の勘はよく当たるんだから」

 

一心と霊夢は静かに笑う。

「気に入ったぞ博麗」

「それはどうも」

すると一心は後ろに隠していた竜泉を取り出し、霊夢の前に差し出す。

 

「飲め...褒美じゃ」

「偉そうに言うわね」

「勝者はわしじゃ」

「まったく」

 

霊夢は猪口を差し出し、一心はそれに竜泉を注いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季映姫は地獄のとある場所にて、一つの人魂に話しかける。

 

「...上は貴方を送ることに決めました」

「.....」

「今のところ、彼を殺せたのは貴方のみ」

「.....」

「彼を殺しなさい。それが貴方の役目...肉体は超特例措置として私たちが用意しました。生前とまったく同じものです」

「...」

「彼もまた囚われの身...解放してあげてください」

 

映姫はその場を去る。

人魂は、彼女についていった。

 

 

 

 




次回、最終対決!


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隻腕の狼

その日妖夢はいつものように修行していた。

その近くには幽々子、一心が座っている。

 

「葦名流は極めた...」

「カカカッ!そのようじゃな」

 

すると妖夢は修行を中断し、一心の前に座る。

 

「一心さん...」

「んん?」

「私...すごい後悔してるんです」

「ほぉ...何にじゃ」

「一心さんが霊夢さんと戦う時...私は見に行きませんでした」

「...」

「それは霊夢さんが勝つと確信していたからです。霊夢さんは幻想郷でも最強といっても過言ではありませんでしたから」

「カカカッ!最強か!確かに過言ではないな!」

「でも貴方は勝った...」

「...」

「私は貴方の全力をまだ見てません。霊夢さんとの戦いでは...」

「ああ、わしも全力だった」

「やっぱり...」

すると一心は笑い、妖夢の頭に手を乗せる。

 

「カカカッ!全く弱気になるでない魂魄」

「...え?」

「お主が鍛えれば、いつかわしもお主相手に全力で挑む日も来よう...まずは鍛練あるのみじゃ」

「...はい」

「しかし...まずはどの程度鍛えたか見てやろうではないか」

 

一心は木刀を手に取り、立ち上がる。

 

「さぁ参れ!」

「は、はい!」

 

幽々子は二人の修行を見ながら、お茶を飲む。

そして道場から見える暗い空をじっと見つめた。

 

「...もうすぐお別れね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修行を終え、三人は夕食を済ましていた。

妖夢は修行の疲れで寝てしまい、一心と幽々子は縁側に座っていた

 

「.....」

「...地獄から連絡がきたわ」

「ほう」

「今夜来るって」

「カカカッ...やっとか」

 

一心は不死斬りを鞘から抜き、刃を見る。

 

「地獄からの使者がくるのに随分と楽しそうね」

「...」

「...隻狼さんが来るんでしょ?」

「...何故そう思う」

「幻想郷の強者を倒した人がそこらの死神で倒せるわけないじゃない。なら一度貴方を倒した人が適任...って地獄側は考えると思ってね」

「.....」

「それを全てわかった上で、閻魔に喧嘩売ったんでしょ?」

 

一心は幽々子の言葉を聞いて、さらに笑いだす。

 

「カカカッ!見抜いておったか!」

「強さを求める貴方ならこのくらいするわ」

一心は不死斬りを鞘に戻し、空を見上げる。

 

「...魂魄にわしとあやつの見届け人となってもらう」

「え?」

「魂魄に見せるのじゃ...わしの全力をな」

「...」

「魂魄の心中にわしを残せば...暫くはいい修行相手となろう」

「...そう」

「構わぬか」

「ええ」

一心は立ち上がり、幽々子を見る

 

「魂魄との修行...ここの暮らし...悪くはなかった」

「貴方とのお酒、美味しかったわ」

「...世話になった」

「妖夢ちゃんを鍛えてくれてありがとう」

 

一心は妖夢の部屋へと向かう。

 

「さらばじゃ...西行寺幽々子よ」

「いい旅を...葦名一心さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魂魄よ」

妖夢は名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開けた。

そこには一心が見下ろしており、彼女は直ぐ様起き上がる。

 

「!?一心さん!?」

「出かけるぞ」

「え?」

一心はそう言い残すと、部屋を出た。

妖夢は何が何だかわからなかったが、とりあえず着替えて一心についていく。

 

庭に出ると、白玉楼の門の近くで一心は待っていた。

 

「どうしたんですか?」

「...今夜地獄からの使者が来る」

「!」

「恐らく相手は...わしを斬った隻狼じゃ」

「え!?」

「...魂魄よ、お主はその戦いを見届けるのじゃ」

「見届ける...?」

「そしてお主の心中に刻め...わしの全力を」

「心中に刻む...」

「そして強くなれ!お主にはその才がある!」

 

一心は妖夢の頭を撫でる。

 

「いつかお主はわしを越える」

「わ、私が?」

「そうじゃ...必ずな」

 

妖夢は一心の言葉ががまるで最後のように聞こえた。

一心が負ければ地獄に魂を回収される。

もう二度と会えないだろう。

しかし霊夢を倒した一心に、最早敵う相手がいるのだろうか?

それが例え一度負けた相手であっても。

妖夢は思わず、ポツリと一言一心に呟く。

 

「...負けません...よね?」

 

一心はその言葉を聞くと、黙ってしまう。

妖夢はその反応に、胸が締めつけられる。

 

いつもなら笑って、自分は負けない、飲み込んでやると言ってくれる。

しかし何も言わない。

 

もしかして一心は何かを予感しているのだろうか?

敗けの匂いを嗅ぎとったのではないのだろうか?

 

すると妖夢の顔に焦りが見え始める。

 

「い、行ってはだめです」

「...んん?」

「ま、まだ私は貴方に教わっていません」

 

違う。

一心からは葦名流を全て教わった。

「そ、そうだ!修行しましょう!妖怪の山という場所にいい修行場が」

「...何を言うておる。わしが教えられる事は全て...」

「まだ...まだです!」

 

妖夢は必死に話す。

 

 

 

 

すると二人の近くで、足音が響く。

 

一心は音のするほうに振り向いた。

 

「...隻狼か」

 

森から現れたのは、かつて葦名の国にて鍛え上げられた熟達の忍。

竜胤の御子に仕え、たった一人で主人を葦名から救いだした男。

 

そして剣聖葦名一心を斬った唯一の剣士。

 

忍義手をつけた隻腕の狼。

 

「.....」

 

隻狼は一心の前まで歩くと、片膝を地面につけて頭を下げる。

その背中には、赤の不死斬りを背負っていた。

 

「一心様」

「久しいな...隻狼よ」

「...」

「カカカッ...お主に斬られた傷が疼いてくるわ」

「.....もう一度貴方を斬りに参りました」

「地獄からの使いだろう」

「はっ」

 

妖夢は隻狼を見る。

この男が隣にいる葦名一心を斬った男。

殺気を感じない。

だがその姿は異様だった。

 

とくに左手に装着してある謎の義手が目に留まる。

 

妖夢は無意識に、刀に手を伸ばす。

 

「.....」

 

すると隻狼は妖夢を睨んだ。

その瞬間彼女の顔に冷や汗がどっと流れる。

恐らくこの冥界、幻想郷に関わるようになってから初めて味わう明確な殺意。

殺すというシンプルな意思を宿す目に、妖夢の腕は震える。

弾幕ごっこで鍛え上げた心は、あっという間に崩れた。

 

「隻狼よ、この娘は関係ない」

「...はっ」

 

隻狼は頭を下げる。

そして彼は密かに握った刀から手を離した。

 

「さて...この先に丁度よい広場がある。そこで死合おうぞ」

「御意」

 

一心は広場へと歩き始めると、隻狼と妖夢もついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が歩いていると、一心は隻狼に話しかけた。

 

「隻狼...お主、九郎を人に戻すため自害したそうじゃな」

「.....」

「...見事な覚悟、天晴れじゃ」

「...それが我が主の為でした」

「...あの閻魔に何を言われた?」

「.....貴方を解放させよ...と」

「カカカッ!」

 

 

 

 

 

 

三人は広場にたどり着いた。

そこはレミリア、霊夢との激戦の跡が残されている。

 

「隻狼、先に行って待っておれ」

「はっ」

 

隻狼は言われた通り、先に広場の中心へと歩く。

 

一心は妖夢の方に振り向き、優しく話しかけた。

 

「これで別れじゃ魂魄」

「.....」

「そう悲しそうにするな」

 

一心は妖夢の頭に手をのせ、くしゃくしゃと撫でた。

 

「わしの姿を最後まで見届けるのじゃ...そして刻み、覚えよ。さすれば心中にてわしは残る」

「...寂しくなりますね」

 

妖夢の目には、涙が浮かんでいた。

それを見た一心は、妖夢と同じ目線になるように屈む。

 

「葦名を失い、全てを失ったが...最後の最後にわしの技を受け継ぐ弟子ができた...これ程嬉しいことはない」

「.....」

 

一心は妖夢の両肩に手を乗せる。

 

「...妖夢よ、体を大事にな」

 

そう話すと、一心は立ち上がり隻狼の方へ振り向いた。

そしてゆっくりと不死斬りを鞘から抜く。

 

「...師匠!」

 

妖夢の言葉に、一心の歩みは止まる。

 

「.....」

「...師匠...私は貴方を越えて見せます!お達者で!」

 

妖夢は涙を拭き、その場に座る。

 

一心は笑みを浮かべ、歩み始める。

 

 

 

 

 

「ああ...迷えば...敗れる...!」

 

 

 

 

 

 

一心は隻狼へ向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせた」

 

一心は隻狼の正面に立った。

 

「.....」

「さぁ、始めよう」

「.....」

「お主はもう不死ではない。回生はできぬ筈じゃ」

「.....」

「死ねば終わり...わかっておるな」

「...はっ」

「ならば...」

 

 

「参れ!隻狼!」

 

 

 




UA10000突破!
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狼の狩り

隻狼は刀を鞘から抜く。

刀には樋、または血流しという工作がされており、これにより普通の刀よりも軽くなっている。

隻狼は刀を両手で持ち、腰を深く落として顔の横に刀を斜めにして構える。

 

この構え方は『柳』の構えに似ており、本来は敵の攻撃を受け流す、受け止める場合の構えである。

 

「その構え...懐かしく感じるな」

「参る」

 

隻狼は走りだし、早速一心に連続で刀を振り下ろす。

 

一心は攻撃を弾き反撃するも、その反撃すら弾かれた。

 

隻狼は葦名流を極めており、登り鯉、下り鯉、流水を取得している。

さらに彼は弾くタイミングが完璧で、弾いた時の衝撃は剣聖といわれる一心といえども苦しめる。

 

「流石じゃ隻狼...弾きの正確さは全く変わらぬ」

 

すると一心は隻狼と距離を取り、不死斬りを鞘にしまい力を溜める。

そして葦名十文字を繰り出した。

 

しかし隻狼は完璧に弾き、その直後一心に攻撃する。

 

「ぐっ...」

 

一心は直ぐ様葦名一文字を仕掛けるが、隻狼は回避し彼の背中へ回り込み攻撃。

 

「ぐあっ!」

 

一心は距離を取るため後ろに下がるも、隻狼は迷わず彼目掛けて走る。

 

そして決して休ませぬように、彼は攻撃を続ける。

 

(休む暇を与えぬか...流石わしを斬った男じゃ)

 

一心は不死斬りを鞘にしまい、黒い気を刀に纏わせた。

 

「!」

「くらえぃ!!」

 

一心は黒い気を纏わせた不死斬りを、強い踏み込みと同時に振り下ろす。

しかしその瞬間隻狼は忍義手から紫色の鉄傘を広げ彼の攻撃を弾き、しかも弾いた直後傘を閉じて一回転し鉄扇と刀を同時に攻撃。

一心の腹に八の字を刻んだ。

 

「かはっ...!」

すると一心は再び不死斬りを鞘にしまい、力を溜めて抜刀し秘伝竜閃を放つ。

 

隻狼は陽草の印という左手の人差し指を立てて、それを右手で掴み右手の人差し指を伸ばす構えをする。

忍義手には鴉の羽を束ねた忍具『霧がらす』を装着していおり、一心の竜閃を受けた瞬間黒い霧と鴉の羽を残してその場から消える。

 

「!」

 

そして竜閃を放った方角とは別の所に隻狼が現れ、一心に突進し刀を横に払う。

 

彼は防ごうとするも間に合わず、一撃食らった。

 

「ぬぅぅ...」

 

隻狼はそのまま攻撃を続けるも、一心攻撃を紙一重で避け反撃する。

 

隻狼は反撃を弾いて刀を構え、突きを仕掛けるも一心は突きを見切り刀を踏みつけられた。

 

「はぁ!」

 

一心はお返しとばかりに突きをするも、彼もまた不死斬りを見切り踏みつけた。

「ぐっ!」

 

一心は不死斬りを引き戻し、鞘にしまう。

そして黒い気を纏わせ、葦名十文字を繰り出した。

 

隻狼は一心の技を完全に弾くも、不死斬りに纏わせた黒い気は彼の体を傷つけ体力を奪う。

 

隻狼は不死斬りに黒い気を纏いながら戦う一心を見て、眉にシワを寄せる。

 

今目の前にいる一心は、かつて相手した一心ではない。

隻狼はこの言葉を体全体で感じていた。

 

「...」

「隻狼よ、今のわしは...葦名にいた時とは違う。冥界にて強者と戦い、鍛えられた」

一心は黒い気を纏った不死斬りで構える。

 

「...今度は敗けぬぞ」

一心がそう話すと、隻狼は刀を構える。

 

「.....斬って見せます...一心様」

 

一心は不死斬りを鞘に戻し、抜刀して下段攻撃を行う。

すると隻狼は回転しながら飛び上がり、足の甲で一心の頭を攻撃。

仙峯寺拳法 仙峯脚である。

 

「ぐっ!」

 

隻狼は回し蹴りで追撃を行う。

しかし一心は蹴りを防ぐと、掌底打ちを行い隻狼を突き飛ばした。

 

隻狼は後ろに転がるも、すぐに体勢を立て直した。

 

そして刀を鞘に戻し力を溜めて一気に抜くと、その瞬間一本の細い線が一心の肩を斬り裂いた。

 

「ほぅ...竜閃を取得していたか...だが!」

 

一心も不死斬りを鞘にしまい、黒い気を纏わせ抜刀し 黒い刃を隻狼へ飛ばした。

 

「!」

「...わしの竜閃には程遠いわ!」

 

隻狼は竜閃を防ぐも、あまりの衝撃と黒い気によって吹き飛ばされる。

彼は直ぐ様体勢を立て直し、忍義手に火吹き筒を装備した。

一心は隻狼の近くに移動し、連続攻撃を仕掛ける。

そして最後に下段攻撃すると、隻狼は飛び上がり一心の頭を強く踏み込んだ。

そして地に降りる瞬間火吹き筒を彼に向ける。

 

火吹き筒からは巨大な炎が放出され、一心の体は炎に包まれた。

 

「ぬぅ!」

 

さらに隻狼は刀を横に払い炎を纏わせ、そのまま炎上した一心を攻撃し始める。

「小賢しい真似を...」

 

一心は燃えながらも、隻狼の攻撃を防御し反撃する。

だが炎により一瞬だけ隙ができると、隻狼は刀を鞘に戻し火を纏った葦名十文字を繰り出す。

 

その一撃で一心は大きく体勢を崩すと、隻狼はそこを逃さず刀の柄頭で彼の胸を押し喉目掛けて突きを仕掛ける。

しかし彼はさせまいと手で刀の軌道を反らし、喉ではなく肩を貫かせた。

 

「まだじゃ...」

 

隻狼はすぐに刀引き抜くと、一心の血が大量に吹き出す。

 

「まだじゃ!隻狼ぉ!!」

 

一心は強く地面を踏み込み、その衝撃と爆風で体を燃やしていた炎を消し去る。

そして十文字槍を地面から左手で取り出し、肩にのせる。

 

「血が滾ってきたわ!」

 

一心が槍を取る間に隻狼は忍義手に錆び丸を装着した。

 

一心は十文字槍を連続で振るい、隻狼に攻撃を仕掛けるも全て弾かれる。

まるでこの攻撃は熟知しているように。

 

この時彼の中ではあることが確信に変わった。

 

 

(やはりな...隻狼はわしと初めて戦った時の動きを全て覚えておる...ならば同じ技は通じぬか)

 

 

隻狼は弾いた瞬間忍義手から錆び丸を出して、一心に連続攻撃を仕掛ける。

さらに錆び丸からは毒の霧を生み出し、辺りに撒き散らしていた。

 

「ぐっ...」

 

一心は辺りに散らばる毒の霧を吸い込んでしまい、体力を徐々に失う中毒状態となってしまった。

 

「かっ...は...毒か...!」

 

すると隻狼は一心が隙を見せるやいなや刀を彼の頭目掛けて振り下ろす。

 

しかし一心は攻撃を弾き、後ろに下がって不死斬りを鞘にしまい黒い気を纏わせる。

そして広範囲に薙ぎ払いうも、隻狼はギリギリで弾いて見せた。

 

「ぐっ...」

 

隻狼は完璧に刀で防いだが、防御した後刀を地面に刺していなければさらに後ろに吹き飛んでいただろう。

 

そしえ再び黒い気が隻狼の体を深く傷つける。

 

すると一心は隻狼目掛けて十文字槍を振り下ろすが、彼は簡単に避けた。

しかし一心は避けられるのを予想し、直ぐ様一回転して勢いをつけた十文字槍で下段攻撃を行った。

 

だが隻狼はそれすらも避けて、一心の頭を踏みつける。

 

「おのれ...」

 

一心は銃を取り出し連射するも玉は隻狼に全て弾かれ、ならばと文字槍で突くも見切られ踏まれてしまった。

 

一心の腕もそろそろ痺れが取れなくなってきている。

 

「やりおる...だが」

 

一心は十文字槍を構え、後ろへ飛び上がりながら隻狼に向けて槍を思いきり投げる。

 

「!」

 

隻狼はその場で飛び上がり槍を回避するも、その直後槍を踏み台にして居合いの構えをしている一心が飛んできた。

 

「せやぁ!」

 

一心は葦名十文字を繰り出し、隻狼を地面へと吹き飛ばす。

新たな技に隻狼は完璧に弾けなかったものの、どうにか防いだ。

 

地面に降りた一心は、そのまま隻狼へ突進し十文字槍で追撃する。

しかし隻狼は左下から右上に刀を払うと、後ろに回転して距離を取った。

 

「ほぉ...寄鷹の者達の技か」

 

そして隻狼に銃を連射し、黒い気を纏わせた葦名一文字を繰り出す。

しかし隻狼は一文字を弾くと、背負っている赤の不死斬り『拝涙』を鞘から抜いて薙ぎ払う。

 

「ぐおっ...!」

 

赤の不死斬りは一心の体を大きく傷つけ、体勢を崩した。

隻狼はそこを逃さず一心の上から襲いかかり、彼の胸を突き刺す。

 

「ぐぬぅ...!」

 

すると辺りに黒い雲が集まり、大雨、突風、雷を引き起こす。

 

「まだじゃ!まだわしの首は落ちてはおらぬ!」

 

一心は十文字槍を上空に掲げ、降ってくる雷を受け止め纏わせた。

 

「かあっ!」

 

一心は十文字槍で薙ぎ払うと、隻狼は飛び上がり雷を受け止め横に振るう。

 

しかし一心ももう一度飛び上がり、雷を受け止めた。

 

「さぁどうする隻狼!」

 

すると隻狼は霧がらすを発動し、雷攻撃を受けた瞬間上空へと移動し雷を返す。

 

「!」

 

一心は上空で雷を受けようとするも、霧がらすの攻撃が速すぎて飛ぶ時間さえなかった。

一心は打雷してしまい、全身に強烈な痺れと衝撃が走る。

 

「ぐぉおっ!!」

 

一心は地面を強く踏み込み、痺れを全て地面に流す。

 

「かはっ...はぁ...はぁ...雷返しを返すか...カカカッ!」

 

一心は十文字槍を振り回し隻狼に渾身の一撃を加えると、秘伝竜閃を二連続繰り出した。

 

「はあぁぁい!!」

 

隻狼は竜閃を弾くと、腰を深く構え突進する。

一心に突き攻撃をすると彼を踏み台にして上空へ飛び、回転しながら二連続薙ぎ払う。

 

「ぐぅっ!」

 

一心は十文字槍で薙ぎ払い、その直後黒い気を不死斬りに纏わせ薙ぎ払う。

 

しかし隻狼はそのどちらも弾き、赤の不死斬りを抜いて力を溜める。

 

「かぁぁ!!」

 

一心はさせまいと飛び上がり、十文字槍を隻狼目掛けて振り下ろした。

 

 

しかし

 

 

隻狼は不死斬りを思いきり薙ぎ払うと、十文字槍ごと一心の腹を斬り裂いた。

 

「がはっ!!」

 

二つに斬れた十文字槍は地面に落ち、霧となって消える。

一心は地面に落ちて、不死斬りに斬られた箇所を触った。

 

「.....」

 

血が止まらなかった。

不死斬りで斬られると、傷は再生しないらしい。

 

 

 

 

「はぁ....はぁ...」

 

 

 

隻狼は不死斬りを鞘にしまい、刀を抜いた。

そしてゆっくりと一心に近づいていく。

 

「.....」

 

一心は起き上がらない。

その顔は驚きと言うよりも、呆れに近かった。

 

「.....死んで強さを求め...冥界にて鍛え上げたが...まだ届かぬのか」

 

一心は不死斬りを支えに、ゆっくりと立ち上がる。

 

「.....一心様」

「隻狼よ...これで...最後じゃ」

 

一心は不死斬りを構えながらゆっくりと隻狼に向かって歩く。

すると不死斬りが黒い気を纏い、段々と濃くなっていく。

そしてとうとう燃え始め、一心のもつ黒い不死斬りは黒い炎に包まれる。

体の至るところが傷付き、胸や腹からは不死斬りによって傷つけられた場所から血が溢れる。

しかし歩く一心の姿からは今までの勇ましく荒い雰囲気とは一変し、まるて水のように静かだ。

 

隻狼はその姿を見ても、刀を構える

 

「一心様...まだ、強さを求めますか」

「それがわしじゃ」

「.....それほど傷ついてもまだ...戦いますか」

「...何が言いたい」

「...最早貴方に守るべきものも、果たすべき目的もありませぬ...それでも、強くありたいのですが」

「.....」

「...俺は...貴方を救う為ここに来ました」

「救う...?」

「貴方は強さに捕らわれている。貴方を...強さという鎖から解き放ちに来たのです」

 

一心は不死斬りを強く握りしめ、その顔は少しばかり怒りが見えた。

 

「カカカッ...解き放つか...」

「一心様」

「ならば倒してみせよ...言い聞かせてみせよ...貪欲なまでに強さを求める心中のわしに」

「.....」

「隻狼、再びこのわしの首を斬ってみせよ」

「.....参ります、一心様」

 

 

 

 

 




隻狼が使う形代の計算はしておりません(!?)
かっこいいからそれでよし
ちなみにお気に入りは傘と霧がらすです。


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剣聖 葦名一心

一心は不死斬りを構え、ゆっくりと歩く。

 

隻狼はこれまで通り息をさせぬほどの連続攻撃をしかけようと、一心へ向かって走り出した。

 

しかし攻撃した瞬間、一心は紙一重で避ける。

 

「!」

 

さらに攻撃するも、一心はまるで流れる水のように避けてみせる。

そして燃えた不死斬りを振り下ろすと、隻狼は防御できず斬り裂かれた。

 

「!」

 

あまりの速さに防御が間に合わない。

さらに傷口が黒い炎で燃え、隻狼に激痛が襲いかかる。

 

「くっ...」

 

すると一心は後ろに下がって不死斬りを鞘にしまい、葦名十文字を繰り出した。

すると不死斬りから十字の黒く燃える刃が飛び出て、隻狼に襲いかかる。

 

隻狼は弾きに成功するも、一心は彼のいる場所へ瞬時に移動し再び葦名十文字を繰り出す。

 

「葦名十文字...二連じゃ」

「っ...!」

 

隻狼は十文字を弾くも体勢を大きく崩し、一心はそこを逃さず不死斬りで突く。

隻狼は忍義手から鉄傘を広げるも、不死斬りは傘を貫き彼の肩を貫いた。

 

「うおっ...!」

 

一心は不死斬りを引き戻し、その勢いで隻狼の傘目掛けて振り下ろすと鉄傘は真っ二つに斬られた。

 

隻狼はすぐに一心と距離をとり、斬られた鉄傘を見る。

断面に傷ひとつなく、まるで果物のように一刀両断されていた。

 

「カカカッ...あれほどわしの攻撃を防いだ傘がようやく斬れたか...」

 

隻狼は霧がらすを装着する。

 

一心は不死斬りを振り上げ、隻狼の足元を狙う下段攻撃を仕掛ける。

 

隻狼は避けるために飛び上がるも、その瞬間一心も飛び上がり不死斬りで攻撃し、彼を地面に叩き落とす。

 

そして不死斬りを鞘にしまい、浮きながら抜刀し縦に薙ぎ払った。

 

隻狼は受け止めるも、早くも手首が限界に達する。

 

一心は地に降りると同時に隻狼の頭目掛けて不死斬りを振り下ろすも、彼は霧がらすを使い羽と霧を残してその場から消える。

 

隻狼は別の場所へ移動し攻撃を仕掛けるも、一心はまるで移動した場所を知っていたかのように攻撃を避ける。

 

「!」

 

隻狼は寄鷹斬り 逆さ回しを仕掛けて距離を取ろうとするも、一心は攻撃を避けつつ瞬時に彼の所へ移動した。

 

「寄鷹の技は通じぬ」

 

一心は葦名一文字を繰り出し、隻狼が弾くとさらに連続で不死斬りを振り下ろす。

二連続弾かれると彼は飛び上がり、兜割りにも似た一文字をくらわせる。

 

三連もの不死斬りを受け止めた隻狼は、直ぐ様忍義手に装着してある忍具を変更する。

 

新たに装着したのは爆竹だった。

 

隻狼は直ぐ様爆竹を辺りにばらまき、大きな爆発音を引き起こす。

しかし一心は怯みもせず黒く燃える不死斬りで、爆竹の爆発ごと薙ぎ払った。

 

そして一心はその場で強く踏み込むと、目の前の地面が黒い炎に包まれる。

そして不死斬りの切先を燃えた地面につけ、思いきり振り上げた。

 

すると黒い炎が前方に広がり、隻狼のいる地面を包み込む。

 

「っ!」

 

隻狼はすぐに飛び上がって炎を回避した。

 

「まだじゃ!」

 

一心は片足を上げて、踏み込みと共に葦名一文字を繰り出す。

隻狼は一文字を防ぐと、彼は怯みもせず黒い炎を纏った不死斬りで薙ぎ払った。

炎はまるで隻狼に襲いかかるように広がり、辺りはまるで地獄のように燃えている。

 

一心は不死斬りを鞘に戻さず、竜閃を繰り出す。

すると刀から放つ燃える黒い刃が五つに割け、斬った物を例外なく燃やし尽くす。

 

隻狼は刃の間を通り抜け一心に攻撃するも、彼は攻撃を避けて半回転しながら反撃。

だが隻狼は反撃を弾き、爆竹をばらまいた。

 

隻狼は追い斬りを繰り出すが、一心は攻撃を弾いて後ろに下がる。

 

すると不死斬りを鞘にしまい、唸り声を発する。

 

「くぅぅう....かぁっ!!」

 

抜刀して不死斬りを地面につけると、辺りに黒い炎の柱が何十も現れた。

 

「!」

隻狼は炎の柱を回避するも、一心が不死斬りを鞘にしまいながら隻狼に突っ込んでくる。

 

「今ならば...!」

 

一心は目にも留まらぬ速さで不死斬りを抜いて、一瞬で鞘に戻す。

 

隻狼は気づかぬ間に腹から肩にかけて斬られ、さらに複数の黒い刃が彼を斬り刻む。

そして最後に一心は渾身の居合い斬りを繰り出した。

 

完璧な秘伝 一心である。

 

 

隻狼は最後の居合い斬りは防いだものの、一心の攻撃にとうとう耐えられず刀の刃は砕けてしまった。

 

「.....」

 

隻狼は持っている刀を鞘に戻し、背負う不死斬りを抜いた。

 

 

一方、一心は既に限界に達しつつあった。

不死斬りで斬られた傷からは血が止まらず、体力を奪い苦しめている。

 

「...長くは持たぬか」

 

一心は腹の傷を見て、自分に残された時間は少ないことを確信する。

 

隻狼は赤の不死斬りを構える。

 

「...カカカッ...まだ立つか...!」

「貴方を斬るまで...何度でも」

「最早不死身で無いだろうに」

「.....」

 

一心も黒の不死斬りを構える。

あちこちで黒い炎が燃え盛り、二人の間に緊張が走った。

 

「...血が滾るな...この緊張は」

「.....」

「...さぁて、わしに残された時は少ない...」

「...」

 

隻狼も一心の傷を見て、彼の言うことは正しいと理解していた。

「迷えば敗れる...わかっておるな」

「...はい」

「ならば...行くぞ」

 

一心は隻狼へ向かって走り出す。

隻狼は爆竹から霧がらすに変え、不死斬りに力を溜める。

 

隻狼は不死斬りで大きく薙ぎ払うが、一心は即座に屈んで避ける。

 

一心は隻狼へ近づき刀を振り下ろすが、攻撃を弾かれ距離を取られる。

 

「.....覚えたか」

 

先ほどまで受けることすらできなかった攻撃を、完璧に弾いた。

隻狼は既に今の一心の攻撃を記憶しつつある。

 

「ぬぅん!」

 

その証拠に一心は葦名十文字・二連を繰り出すも、全て完璧に弾かれる。

しかも一心の持つ不死斬りの黒い炎が、隻狼の持つ赤の不死斬りの前に消えて影響を与えていない。

 

赤の不死斬りに纏う赤黒い気が、黒い炎を相殺しているのだ。

隻狼は一心に突っ込み、不死斬りを振るう。

「カカカッ!流石隻狼じゃ!」

 

一心は隻狼の攻撃を受け止め、二人は鍔迫り合いに発展する。

赤の不死斬り『拝涙』、黒の不死斬り『開門』の二本が火花を散らし、その衝撃で辺りに燃えている炎をかき消した。

 

「ぬぅぅ!」

 

すると隻狼は鍔迫り合いに押し勝ち、一心の『開門』を上に弾く。

そのまま腹を斬ろうとするも、一心の蹴りによって『拝涙』は防がれ弾かれた。

 

「せやぁぁぁっ!!」

 

一心は『開門』で葦名一文字を繰り出し、隻狼は『拝涙』に気を溜めて薙ぎ払った。

 

周辺に大きな金属音が響き、二人の間に『開門』の刃が地面に突き刺さる。

 

一心は折れた『開門』を見ると、笑みを浮かべる

 

「見事!ならばこれを受け止めてみよぉ!!」

 

一心は鞘に『開門』を戻しながらその場で一回転する。

そして回転の勢いを利用し、『開門』を抜刀した。

 

 

鞘から抜いた『開門』は、折れた部分から黒い炎が集束され黒紫色の刃へとなっていた。

一心は強く踏み込みと同時に『開門』で薙ぎ払い、飛び出す黒い刃は大きく横に広がり飛んでいく。

 

すると一心の目の前の地面、飛んでいく刃が通った場所が黒紫色に光始め、巨大な光柱を何百も生み出していく。

そして黒紫色の柱は早く生み出された物から大爆発を起こし、あらゆるものを破壊していく。

 

隻狼は飛んでくる刃を『拝涙』で受け止めるもその衝撃はあまりに強く、刃は真っ二つに折れた。

後ろに吹き飛び飛ぶ黒い刃を避けることはできたが、隻狼のいる地面からは黒紫の柱が生み出される。

 

隻狼は柱が生み出された瞬間連続で霧がらすを発動し、なんとか一心の元へ距離を詰めようとする。

しかし黒紫の柱は霧がらすを燃やし尽くしてしまい、隻狼はもう避けることができなくなった。

 

すると彼は刃の折れた『拝涙』を、一心の方へ思いきり投げた。

 

「!」

 

一心は飛んできた『開門』を弾き飛ばし、刀は一心の上へと飛んでいく。

その間に隻狼は黒紫の柱の僅かな隙間を乗り越え、一心へあと少しのところまで近づいた。

 

「乗り越えたか...!たが刀はもう無いぞ!」

 

一心は黒紫の刀身になっている『開門』を振り上げ、隻狼は忍義手に先程斬られた鉄傘を装備し一心の攻撃を受け止める。

 

当然鉄傘では防ぎきれず破壊され、さらに忍義手も耐えきれず壊れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし隻狼は忍義手に絡まった一心の『開門』を反らし、右手に持っている折れた刀の刃で彼の胸を突き刺した。

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

 

隻狼が持っていたのは、先程折れて地面に突き刺さっていた『開門』の折れた刃であった。

 

一心は崩れるように両膝を地面につけた。

だが彼はまだ諦めず、胸にある刃を掴み、直ぐ様抜いて反撃しようとした。

 

 

 

 

 

 

しかしその瞬間

 

 

 

 

 

 

隻狼は上空に弾かれ落ちてきた『拝涙』を右手で掴み、一心の体を斬り裂いた。

 

 

 

 

「.....」

 

 

 

 

 

 

 

一心は『開門』を手放し、胸に刺さる刃を掴んでいた手も力なく落ちる。

 

今の一撃が、彼の体を限界へと到達させた。

 

「.....勝てぬ...か」

「...」

「.....見事じゃ隻狼」

 

一心はゆっくりと正座し始める。

 

そして隻狼は『拝涙』を握りしめた。

折れてはいるが、人の首を斬るにはまだ十分な長さの刃は残っている。

 

「...強さを求め...ここまで鍛え上げた...満足じゃ」

「...一心様」

「おう、もう思い残すことはない。わしは全てを出しきった...だがお主はそれを全て乗り越えた」

「.....」

「わしはお主には勝てぬ...」

 

一心は兜を脱ぎ捨てる

 

「.....」

 

そして最後に一心は、この戦いを見ていた妖夢を見る。

 

彼女は涙を流し震えながらも、じっと耐えて二人を見ていた。

 

それを見た一心は、笑みを浮かべて頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

「さぁ...やれぃ!隻狼!」

 

 

 

 

 

 

 

「...地獄にて、また相まみえましょうぞ...一心様」

 

 

 

 

 

 

 

隻狼は『拝涙』を彼の首に振り下ろした。

 

 

 






剣聖 葦名一心
心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

鬼仏に対座し、戦いの記憶と向き合うことで、
攻め力を成長できる

冥界にて再び相対したのは、幻想郷の強者との戦いを経て、かつての己すら越えた一心であった








秘伝・冥戰
不死斬りを用いた秘伝の流派技
形代を消費して、使用する

納刀の構えから、強い踏み込みと共に薙ぎ払い、真空波を繰り出す

力を溜めると、斬り払った後、光る柱を生み出し、激しい爆炎を引き起こす

冥界にて三人の強者を踏み越えた一心が、己を斬った相手を如何にすれば斬れるか、そう考え抜いて生まれた剣技

これすら切り抜けるならば、最早他の技など通じぬ

剣聖・葦名一心は、そう呟いた







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あれから...

二人の戦いが終わって既に一日たっていた。

 

妖夢はいつもの鍛練を終え、正座し休んでいたしていた。

 

「.....」

 

あの後、隻狼は一心の魂を連れて冥界を出ていった。

一心の魂は幻想郷にある中有の道、三途の川、そして裁判所へというルートで向かう筈だ。

 

妖夢は正座をやめて、少し足を緩み一息つく。

 

「.....」

 

妖夢は二人の戦いを最後まで見届けて、その凄惨たる勝負に肝を冷やした。

 

そして一心、隻狼の二人の戦い方を心に刻み、何回か心中にて対決した。

しかしどちらも妖夢が惨敗し、まだまだあの二人には程遠いと痛感する。

 

 

「...お夕飯の用意しなくちゃ」

 

妖夢は竹刀を戻し、汗を拭いて着替え台所へと向かう。

 

すると縁側には、幽々子が空を見ながら何もせず座っていた。

一心がいなくなってからは、何もせずずっとこうしていることが増えた。

そして食欲も前と比べ、減っている。

とはいってもほんの少しだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事の時間になると、妖夢は料理をテーブルの上に置いていく。

 

いつもは一心と酒を飲んでどんちゃん騒ぎだったので、今日の食事はやけに静かだと妖夢は感じていた。

幽々子もそれは同じだったようで、積極的に妖夢に話しかけて盛り上がろうとしている。

妖夢も主を心配させたくはないため、なるべく楽しそうに答えた。

 

 

 

 

幽々子が食事を終えて寝ると、妖夢は後片付けをして一人縁側にて空を見上げる。

 

「...寂しいな」

 

ふと無意識に妖夢は呟いてしまう。

すると顔を赤らめ、幽々子に仕える身としてそんな恥ずかしい言葉はいってはいけないと活をいれる。

 

「.....」

 

それでも、妖夢は自分の師がどうなったか知りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隻狼よ」

「...はい」

「迷えば敗れる...わかっておるな」

「...はい...ですが」

一心は銃を持ち、引き金を引く。

 

パン

 

軽い音が周囲に響き渡り、銃から発射された弾は棚の上にあるお菓子の箱に当たる。

 

「はい当たり~」

 

屋台の中にいる鉢巻きを巻いた中年の男が、倒されたお菓子の箱を一心に手渡す。

 

「カカカッ!!どうじゃ!隻狼!」

「.....一心様、そろそろ向かわねば閻魔が怒りまする」

「構わぬ!今回は奴等の不手際と認めておるしな」

「...しかし」

「お主に敗れ、どこに連れてかれると思いきや...まさか祭りとはな!」

「...いえ、ここは中有の道といい、三途の川へと通じる道...避けては通れぬ道なのです」

「なら仕方あるまい!地獄の連中には中有の道にて迷ったと伝えればよい。それにしても『しゃてき』という訓練はつくづく面白い!」

「...訓練ではありませぬ」

一心は銃の先端にコルクを詰めて、再び棚の上にある景品を狙う。

引き金を引くと、袋に命中し後ろに落ちた。

 

「はい当たり~おじちゃん上手いねぇ」

「カカカッ!短筒しか撃ったことはなかったが...飲み込んでやったわ!」

一心は屋台のおじちゃんに落とした袋を渡す。

 

「しかしあんたも珍しいね。普通死んだら人魂になって喋れもしないんだが...あんたは完璧に人の姿だ」

「カカカッ!だからこうして楽しめる」

「たまーにいるんだよ。人魂にならずに生前の姿をしたまま霊になる奴」

「ほう」

「余程生前に何か凄いことしたんだな」

「カカカッ!」

 

すると一心の目の前に置かれていたコルクが無くなった。

 

「おう隻狼!銭を貸せぃ!こるくとやらが無くなってしまったわ」

「一心様、そろそろ行かねば」

「む...ならばそろそろ店を変えるか。ではな主人」

「ああ、毎度あり。また寄ってくださいな」

 

一心は銃を置いて、隻狼と共に屋台を離れる。

 

ここは中有の道。

三途の川の川へと通じる道であり、常に多くの屋台が開いている。

この屋台は地獄の収入を少しでも増やそうと閻魔達が考えたものであり、屋台をやっている者達は全員地獄へ落とされた罪人達だ。

「さぁて、次はどこへ入るか」

「一心様、そろそろ三途の川へ。死神が待っております」

「カカカッ!待たせておけぃ!おう、あれはなんじゃ!?」

 

一心は近くにある屋台に向かって走り出す。

隻狼は頭を悩ませながらも、一心から離れるわけにもいかないのでついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は縁側にて座っていると、門の方から足音がする。

そこには霊夢とレミリア、そして付き添いの咲夜が歩いてきた。

 

「霊夢さん...レミリアさん...咲夜さんも」

「こんばんは妖夢」

霊夢は妖夢の隣に座ると、レミリア達も霊夢の隣に座る。

 

「どうしたんですか?こんな夜中に」

「ここいつも夜じゃない」

「そ、そうですけど」

「あいつが死んだって聞いてね。ってことでお酒持ってきなさい」

「へ?」

 

するとレミリアが妖夢の方を向く。

 

「お酒よお酒。死んだら人って酒飲むんでしょ?」

「いや必ずしも飲むわけでは...」

「いいから持ってきなさい!」

「は!はい~!」

 

妖夢は急いで台所へと向かい、お酒を持ってくるために走る。

 

妖夢はいくつか酒を持ってくると、霊夢は直ぐ様コップで酒を飲み始めた

 

「...ぷはぁ...あー、いいお酒ね」

レミリアはお酒をチビチビと飲んでおり、対して霊夢は直ぐに自分のコップに酒を注いで飲み始める。

 

「それにしても、あの一心が倒されるなんてね」

「.....」

「どこの誰?あの怪物を倒したなんて常識はずれの奴は」

「...隻狼と呼ばれる、かつて一心さんを倒した人間です」

 

人間という言葉を聞くと、レミリアはため息をつく。

 

「霊夢といい、あの黒白魔法使いといい...人間ってヤバイ奴はとことんヤバイわね」

「ははは...それには同意しますね」

「ちょっと何よ、私が化け物みたいじゃない」

「ちゃんと理解してるようでよかったわ」

 

レミリアと霊夢が睨み合っていると、妖夢は二人の会話を聞いて少し笑顔になる。

 

「.....」

 

すると霊夢は妖夢の表情をみて、軽く息をはいた。

 

「ま、落ち込んでなくてよかったわ」

「え?」

「あいつは賑やかな奴だったからね...静かすぎるここに似合わないほどに」

「そう...ですね」

「喧しい奴がいなくなると、それはそれで寂しくなるのよね」

 

霊夢の言葉を聞いて、相変わらず勘がいいと妖夢は思う。

 

「...確かに寂しいです...けど、私はあの人からいろんな物を受けとりました」

「.....」

「それで私は...決めたんです」

 

すると頬が少し赤く、コップに入っていた酒を飲み干したレミリアが妖夢に話しかける。

 

「へぇ、半人前が何を決めたのかしら」

「半人前...」

 

妖夢はレミリアの言葉に文句を言いたかったが、堪えて続きを話す。

 

「私は...あの人を飲み込んでやるって。それでもっと強くなるんです」

 

それを聞いた二人は、大笑いし始めた

 

「あははは!どこかで聞いたような台詞ねぇ!」

「完全にあいつの影響受けてるじゃない」

「そ、そうですかね」

 

すると霊夢は立ち上がり、庭へ歩いて妖夢を見る。

 

「さて、お酒貰って気分いいし...妖夢、貴方にちょっと稽古つけてあげるわ。一心を飲み込むって言うからにはそれなりに強くなったんでしょうね」

「え!?」

「それはそうでしょう霊夢。あの一心を飲み込むって宣言したんだもの。霊夢程じゃなくても私並みには強くなってる筈よね」

「ちょ、ちょっと待ってください。一心さんがいなくなってまだ一日ですよ!?」

 

するとレミリアは妖夢の服を掴み、立っている霊夢の前に放り投げる。

 

「痛っ!」

 

妖夢は庭に放り投げられ、倒れる。

「さぁ妖夢。今回は弾幕ごっこじゃないわよ...真剣試合って奴ね」

「あ、あの...ま、まだ私は修行不足でして...」

「関係ないわ」

「あ、あの霊夢さん...酔ってます?」

 

恐怖の笑みを浮かべる霊夢に、妖夢は涙目で震える。

 

「た...」

 

 

 

 

 

「た、助けて師匠ぉぉぉ!!!」

「逃がさないわよ妖夢ぅぅ!!」

 

 

 

 

その瞬間、霊夢の夢想封印が妖夢に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三途の川

 

「ここか」

「はい」

 

隻狼と一心はようやく三途の川に到着し、辺りを見渡す。

 

「霧が濃いな」

「...ここはそういうものだと聞いています」

すると二人の前方から、女性が乗っている一隻の小舟が近づいてくる。

女性は長く赤い髪を二つに分けて結んでおり、着ている服は着物に似ている何かで、腰に何か布のようなものを巻いている。

 

小舟が二人の前で止まると、その女性は鎌を持ちながら船を降りた。

 

「やぁやぁ、あんた達が四季様の言ってた人だね?私は小野塚小町。あんたを迎えにきたよ」

すると隻狼が女性に対応する。

 

「...この方を頼む」

「はいよ。さっさと仕事を終わらせようじゃないか」

「...一心様、この小舟にお乗りください」

 

一心は隻狼に言われるがままに、小舟に乗った。

 

「...お主は乗らぬのか」

 

隻狼は一心が小舟に座るのを見届けるが、自分は乗ろうとはしなかった。

 

「はい、別の船がありますゆえ」

「そうか」

一心はため息をして、隻狼の顔を見る。

 

「...これを渡れば...わしは死ぬのだな」

「...はい...皆が地獄にて貴方の到着を待っています」

「ほう!皆とな」

「葦名の者達です」

 

それを聞くと、一心は大笑いする。

 

「カカカッ!あやつらか!そうかそうか...再会が楽しみじゃ!」

「...また向こうでお会いしましょう。一心様」

「おう、ではな隻狼」

 

小町は二人の会話が終わると、小舟に乗って船を押し出す。

 

小舟が進むにつれて隻狼の姿がどんどん霧で隠れていき、一心は完全に消えるまでじっと見ていた。

すると小町が鎌で船を漕ぎながら、一心に話し始める。

 

「さて、あんた名前は?」

「んん?閻魔から聞いておらぬのか」

「詳しくは聞いていないのさ。隻狼が連れてる人を三途の川に渡らせろとしかね」

「そうか。ならば...わしは葦名一心じゃ」

 

葦名という言葉を聞いて、小町は腕を組んで悩み始める。

 

「葦名?どっかで聞いたことがあるような」

「ほぉ、葦名という名を知っておるのか」

「あ、思い出した。むかーし葦名って場所で魂導く仕事をしたね」

「導く?」

「死んだ魂をここまで導くって事。といっても臨時だったから一日限定だったけど..いやーあの時の仕事は過去一番忙しかった事を覚えてるよ」

 

小町はため息をして、その時の状況を話す。

 

「ほう...」

「なんかその時戦争中だったのかすんごい人が死んでね...魂がわらわらと沢山いてさ」

「戦ならば死人は出る」

「ここだけの話...実はその時死んだ魂は全て回収したんだけど...あまりに多すぎて三途の川に連れて行けずに逃げた奴もいるんだよね」

「逃げた?」

「逃げたっていうかどっか行っちゃったんだよね。魂ってふわふわしててちゃんと統率しないとはぐれちゃうんだ...めんどくさくて集中してなかった私も悪いけどさ」

 

すると小町は笑いだす。

 

「まぁ一日限定の仕事だったし、他の死神に任せればいいやって思って逃げた魂は放って置いたんだ!あっはっはっは!」

「カカカッ!お主も悪じゃな!」

「今じゃいい思い出さ!...ま、その逃げた魂もちゃーんと他の人に回収されたと思うから大丈夫大丈夫。もしも回収されてないならずーっとさ迷う事になってるだろうけど」

「カカカッ!」

「あっはっはっは!」

 

二人は笑いながら、船を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三途の川の先にある是非曲直庁本部

ここは三途の川を渡った魂に裁きを下す場所であり、四季映姫が勤める場所でもある。

 

 

映姫は是非曲直庁本部の資料室にて、過去の魂回収の記録を見ていた。

 

「ふぅむ...葦名...葦名...あ、やっと見つけた」

 

映姫は一心が死んだ日付の葦名の魂回収記録の資料を見つけ、ページをめくりながら読んでいく。

 

「全く...まずはこの時期で魂回収の仕事をしていた死神に話を聞く必要がありますね...今後こういうことがないように言い聞かさないと」

 

そして映姫は担当死神の名前が書かれているページを見つけた。

 

「どれどれ...古い資料のせいで文字が掠れて読みにくいですね。お...の...づか...こ.....」

 

映姫は自分のいった、当時の担当死神の名前に疑問を抱いた。

 

「...おのづか...こまち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか...ね」

 

映姫は資料を一旦閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




剣聖 葦名一心
心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

今はその残滓のみが残り、
記憶は確かに狼の糧となった

隻狼に敗れ、死神から逃れ、一心の魂は長く現世でさ迷った
やがて冥界にたどり着き、漂う多くの魂を集め、かつての己の肉体を得る

そして冥界に住まう剣士に出会い、その者に己の全てを託し、安堵して地獄へと逝った







どうも、ポン酢おじやです。

この度はここまで『冥界に剣聖あり』を読んで頂きありがとうございました。
お気に入り、評価、感想、しおり等をしてくれた方々には感謝しかありません。
全部で15話と短いとは思いますが、皆さんのおかげでなんとかこの小説を終わらせることができました。

 
これを読んで少しでも葦名一心の魅力を感じていただけたら嬉しいです。

 では皆さん、最後に隻狼本編にて
・回復なし
・ノーダメ
・艱難辛苦
・鐘憑き
・体力、体幹全て非表示
・アイテム使用不可
・流派技なし
・忍具なし
・雷返し禁止
・回生禁止
を条件に本物の一心様に会いに行こう!(血反吐)

 
では、ノシ



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