ひとくい処 (TTY)
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ひとくい処

プロット無しで勢いのまま書きました。
オチも用意してません。
そんな話があったってノリで読んでもらえれば幸いです。


 ──1軒目はどこにするんだ?

 

そうだなー・・・・・・。──

 

鬼2人組は繁華街を歩いて店を探していた。

主人のポケットの中に潜んでいる俺の右隣から、繁華街の出す声に混じってはっきりと聞こえる。

 

──よし、ここにしよう!!

 

・・・・・・ここペット同伴オッケー?

 

こいつにゃ悪いがオッケーだ、行こう行こう。──

 

のれんの幕は上がる。

 店内は和風な仕上がりで、軽快な民謡が天井のスピーカーから流れてくる。

店員の指示によって連れられたのは、割と広い座敷席だ。

夜の流れで押し寄せるはずの酒の席が随分と空いている。

この2人が鬼である所以だろうか、俺の目にとって相当なゲテモノでも来るのだろう。

しかしのれんに店名が書かれていたはずだが、俺がいたのはポケットの中、上手く見えなかった。

そしてポケットから外に出て、テーブルに置かれた。

 

──最初はやっぱビールだな。

つまみはどうするんだ?

 

おう、そーだな。

つまみは・・・・・・やっぱ定番のこれだ。

俺好きなんだよなーこれ。

 

あぁ・・・・・・うん。

じゃあ呼ぶか、すいませーん!!──

 

2人の会話から注文に至るまで、人の声なんて聞こえなかった。

鬼の声も遠くなので聞き取れないが、それらしき声は聞こえる。

店員はすぐに来て、彼らの注文を聞き出す。

しかしその最中、しきりにこちらを見つめては心配そうな顔をしている。

そりゃそうだ、頼んでるものがものだからな・・・・・・。

 しばらくして、ビールとつまみが来た。

俺が心配されるそれはつまみにある。

 

──ほへぇ、噂には聞いてたがマジなんだな。

 

そーそ、マジよマジ。

 

素っ裸の人がわんさか盛られてる、てか生きてるよ!!──

 

そう、つまみは人間だ。

俺と同じような人間共が、老若男女問わず盛られている。

上の方なんか呑気にいびきをかいてたり、こちらをじっと覗き込むやつだっている。

そんな場合じゃないだろうにとは思うが、悲しい事にそうやって彼らは今日までを生きてきた。

 この世界について少し話そうか。

昔から人と鬼は共存して暮らしてきた。

だが途中から鬼達の生活レベルが急加速し、人類は鬼に管理されるようになってしまった。

その管理時代が、俺のひいじいさん辺りの世代だ。

そんな訳で俺にとってそんな事は歴史の1ページに過ぎず、今の世の中を当たり前のように生きている。

鬼の会話に出てきたように、人は今だとペットとしての扱いだ。

とはいっても、ペットとして飼われるのは全体の1割程度。

残り9割は・・・・・・今皿に盛られてるような奴らだ。

愛玩動物としてミニブタとかを想像してもらえればきっとわかってもらえるだろう。

彼らは食われる為に生きてきた。

会話はろくに出来ず、身体を無理矢理成長させる薬にどっぷり浸かった、人の形を保った何かだ。

 

──ささ、食べよ食べよ!!──

 

寝ていたやつが箸につままれ、起きない内にそのまま口に放り込まれ・・・・・・ぐしゃぐしゃになった。

 

──ひぇぇ、お前口真っ赤だ気持ち悪!!

 

人間ってよ、ほら血液真っ赤だってゆーから。

へもぐろびんとかゆーの。

 

やっぱ入らない方が良かった、酔いが覚めちまいそうだ。──

 

人喰い鬼と化した相方はこちらを見てニヤニヤしだす。

やめろ、そんな目で見るな。

口を開くな、臓物や骨が砕けたミンチ肉が見える。

もはやここに倫理なんて無かったのだ。

ペットとして俺を飼っている鬼も、ついに人間に手を出した。

箸でまさぐり、とうに圧に負けてぐったりとした物を恐る恐る口に運ぶ。

 

コリッ

 

頭蓋骨が割れる音が聞こえた気がした。

俺の精神がどうにかなりそうだ。

そうなる運命だったとはいえ、同じ形の生き物が目の前で食われてるのは気分が悪い。

 

──・・・・・・あぁ、案外美味いんだな。

 

そーかそーか!!

じゃあ踊り食いやろーぜ!!

この皿の上で欲情してる奴取れよ!!──

 

もはや息も絶え絶えで食事時の顔じゃない主人をよそに相方が指を指したのは、男女2人組だ。

死を悟ったのだろうか、会話はせずとも子を成そうと必死だ。

時間は無い、逃げ場も無い。

それでも0の中から希望を見出そうとしている。

・・・・・・そこを箸が一突きし、男女の腹は貫かれた。

 

──生きたまま食っちまえって。

 

・・・・・・無理だ、こんなの見せられちゃ。

どうせ残したら食われるか捨てられるかだ、一思いに殺した方がマシだ。

 

殺すとかゆーなよ、楽しい食事なのにさ。──

 

主人はもはや顔が崩れるほど泣いていた。

繁華街を練り歩いてから20分もしていないのにこれだ、相当こたえたらしい。

 

──俺はもう帰るわ。

飲めるような状態じゃねえ、すまなかった。

 

釣れない奴だな、誘う俺も悪かったよ。

今日は俺の奢りにしとくから許せって。──

 

そして俺は再びポケットの中へ戻った。

隙間から覗いていると、他にも料理はあった。

揚げ物やら焼き物やら、色々ある。

のれんをくぐってようやく、この地獄のような居酒屋の店名がわかった。

 

ひとくい処。

 

もう行く事は無いだろうし、行きたくもない。




 連載全く更新しないまま季節を跨ぎましたが生きてます。
・・・・・・1400字しか書けてなくて絶望してます。


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