この素晴らしい世界の火継ぎを! (出没する18禁)
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1話

赤く不気味に光る生気のない目が男を見下ろす。

(相手の技量を見誤ったか。ここまでとはな)

掠れゆく意識の中で男は呑気にもそんなことを考えていた。

(寒い。いつになってもコレだけは慣れないものだ)

──怖くは無かった。

男にとって死は帰還でしか無く大した意味を持たないからである。灰へ伏し、火へ還る。

(ザクッ)

突き立てられた剣がトドメとなり男はそこで事切れた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面白銀の世界でパチパチと子気味良い音を立てて燃える焚き火。火というものは人の心を落ち着けてくれるという。

「くそぅ!あんの駄女神め!クエストの報酬全部酒場で溶かす奴があるか!?」

しかし、青年の心は全く穏やかでは無かった。

問題の張本人は未だに納屋でグースカ寝ている、それが更に彼を怒りへと駆り立てる。

「よし。決めた。あの羽衣売ってやる。」

そう宣言し、女神(笑)の衣服を剥ぎ取りに行こうとしたその時、

火がよりいっそう激しく燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どういうことだ。)

男は困惑していた。

(最後に休息した篝火はここじゃないはずだが)

彼のような不死人は事切れた時点で最後に休憩した篝火に帰還する。

そのはずが、

(ようこそ冒険者の街アクセルへ…か。)

全くもって知らない場所に飛ばされたのだ。

男は少し考えたあと周りを見渡した。

そこには、パチパチと音を立てながら燃える焚き火と驚愕し目を見開いたままで固まっている男がいた。

「あ、あ、あんたどこから出てきたんだ!?」

どこから。と聞かれても男自身焚き火から出てきたとしか言いようがないのだが、、、

「貴公。質問に質問で返すようで申し訳ないがここはどこだ。」

「やっぱり異世界だからテレポートとかあるのか...ん?あぁ、ここはアクセルっていう場所だけど…。」

アクセル。やはり聞いたことの無い場所だ。

男は試しにロスリックという場所に聞き覚えはないかと聞いた。

「ロスリック…?知らないな。聞いたことも無い。それよりあんたどうやって出てきたんだ?魔法か?テレポートの魔法なのか?!」

知らない…か。

「貴公。私はこの地に踏み入れてまだ日が浅いのだが、情報を集めるのに適した場所などあるだろうか?」

「おい!質問に…まあいいか。情報収集ならギルドがいいと思うぜ。」

「ふむ。ギルド…か。向かってみるとしよう。貴公、休息中のところ邪魔をして済まなかった。これはほんの礼だ。」

男は青年に礼として金貨を渡した。

「礼なんて…え。あ、いや、やっぱり貰っておきます。」

青年に礼をした男はその場を去りギルドへ向かうべく早速アクセルという名の街へ足を踏み入れた。

 

 



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登録

お気に入りしてくれた方ありがとうございます!
1週間に1.2話投稿のペースで行こうと思ってます。
所々文が変だったりしますが、これが初投稿なので勘弁してやってください。
今回から男→騎士にします!
騎士の装備は狼騎士1式です!カッコイイからね!


青年に勧められたとおりにアクセル酒場に入ってみると中は賑わっていた。

女を口説く者もいれば食事をする者も居る。

または仲間と酒を飲み交わす者達も──。

【仲間】。孤独な永遠の旅をしてきた騎士にとってそれは天よりも遥かに縁遠いものだ。

憧れないのか。と言われれば多少は憧れたかもしれない。だが、騎士は不死人。死を重ね、死を見続けてきた者は次第と人間らしさを忘れる。

故に彼は仲間を作らなかった。

否──。人間味を忘れたからこそ仲間抜きでもあの過酷な世界で使命を遂行出来たのだろう。

何度も、何度も、何度も─。

そんな感慨に耽けっていると不意に、

「おい兄ちゃん、あんた新入りかい?」

強面の男に声を掛けられた。その男からは殺気こそ感じないがどこか身構えさせられる威圧感があった。

「そうだが。」

そう騎士が答えると

「クックック、やはりそうか。ライセンスの登録ならあそこのカウンターで出来るぜ…。登録しておいてまず、損は無い。」

(ふむ。ライセンス…か。なにかの許可証の様なものだろうか。)

「貴公、気遣い感謝する。」

「クックック。いいんだ、気にするな。新人は皆で育てるもんだ。それよりもあんた。他の奴らとは違う雰囲気があるな。さながら不死鳥の様だ」

(っ!?この男、まさか私が不死人であると感ずいているのか?)騎士は多少だが動揺した。不死は迫害されるものであるからである。

不死人であることをばらして欲しくなければ──。なんて言われたらたまったものではない。

 

 

 

「あいつまーた言ってるよ。」

「大抵の新人はあいつの適当な言葉に載せられちゃうんだよなw」

騎士と強面男の会話を遠くから聞いていた男二人はそんな話をしながらエールをグイッと煽った。

─────────────────────

強面男の事は後で処理するとして、男が言っていた冒険者ライセンスを取得しておいた方が良いということは本当らしい。

取り敢えずカウンターにいる女性に話だけでも聞くことにした。

「貴台、突然済まない。ライセンス?というものについて聞きたいのだが。」

「え、、。あっはい!ライセンスについてですね?ライセンスはギルドから出される依頼を受注するのに必要ないわゆる許可証のようなものです! 身分証明書の役割もするので冒険者と活動するためには必ず必要なものですね!」

(ふむ、許可証……か。それに依頼とは?)

「ライセンスの取得には登録料が必要になります!」

(登録料、、か。)

話を聞く限り冒険者をしなくてもライセンスは取得しておいた方が良いらしい。しかし騎士は生憎この地の通貨など持っていない。

何かしら売るしかなさそうだ。はて、なにかちょうどいいものは…。あった。

「済まない。この地に来たばかりでな。取得したいのだが金がないのだ。この貨幣は使えるだろうか?」

そう言って騎士は【錆び付いた金貨】を手渡した。先程の青年の反応から察するにここでも多少は価値があるものなのだろう。

「…。これは、、金貨?ですかね?見たことない紋章です…。換金できるかどうか聞いてきますね!」

そう言って女性は裏手へ走っていった。

 

しばらくして……。

────────────────────

「はい!無事換金出来ましたよ!ギルド長でさえ見たことの無い紋章の金貨でしたが、混ぜ物一切無しの純金性だったので登録料を引いてもかなり手元に残ると思いますよ!」

とことこと戻ってきた女性はそう述べた。

「それでは。早速登録の方に移ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、よろしく頼む」

「はい!ではまず、このカードに触れてください。このカードに触れるとその人物のステータス…いわば、能力や適正が分かります!能力値や適正からジョブを選んでもらうことになっています!」

説明されたとおり、騎士はカードに触れた。

 

「はい、ありがとうございます。……え?ネームプレートの欄が読めなくなってますね。こんなことありえないんですが、、、その他には、、ッ?!筋力、生命力、魔力、それに器用度も俊敏性も全て平均の倍…いや倍以上あります。。勇者にも匹敵する…いや超える能力値ですよ?!」

周りから騒音が消える。深淵にも似た嫌な沈黙だ。

「これだけの能力なら最初から上位職につけますよ!クルセイダーだって、ソードマスターだって何にでもなれ「騎士で頼む」」

「………へ?」

「もう一度言う。騎士で頼む。」

「えっ!でも上位職に就いたほうがこの先とても楽ですよ?他の冒険者の方々だって喉から手が出るほど欲しい職業ですよ?それでも中位職の騎士で良いのですね?」

「ああ、騎士で頼む。。。」

「分かりました…。騎士で登録しておきます。ホントに後悔してないんですね?では、後日金貨のお金を登録料分を引いてお渡ししますのでまた足を運んでください。」

女性はすこし残念そうにした。

周りの嫌な沈黙を背に受けながら騎士はギルドを後にした。




騎士が頑なに騎士でありたいと思ったのは自らが受けた使命を今でも果たしたい。そう思っているからです!


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宿

短い!でも勘弁して!


沈黙に耐えかねて出てきてしまった騎士は仕方なくギルドの外で情報集めをする事にした。

(それにしても嫌に視線を感じるな)

それもそのはず。スラリと伸びたその身に甲冑を纏い、ユラりユラりと歩く姿はさながら亡霊だ。

初心者冒険者の街には全くそぐわない風貌の男が街道を歩いているのだから視線を向けるのは仕方ないだろう。

(この甲冑が原因か…。しかし脱ぐ訳にはいかない。)

そう。脱ぐわけにはいかない。防御力を失うことは死に直結する。まだここが完全に安全かは分からない

 

とりあえず腰を下ろす場所とこの街の情報が必要だ。そんなことを考えながら亡霊は街をユラりユラりと歩いた。

─────────────────────

騎士は街を徘徊し町外れの宿を取った。

騎士が文字通り路頭に迷っているとそれを見つけた宿の主が、新人さんならと一泊タダで泊めてくれたのだ。

(ありがたいものだ。)

久しく受ける優しさに騎士は感慨に浸った。

騎士はランプの光と木の匂いにつつまれながらとりあえず今日得た情報をまとめることにした。

・【螺旋剣の破片】【帰還の骨片】は使えなかった。

・火が陰っていない。

・始まりの火を知っているものが居ない

・正常な人が居る

・ステータスと呼ばれるものがある。

 

…こんな所だろうか。

とくに不思議なのは火が陰っていないことだ。

街をある程度歩いたが狂っている者はいなかったし亡者化した者がいる訳でもない。

平和そのものだ。

そんなことを考えていると宿の主から呼ばれた。

─────────────────────

ギイギイと軋む階段を降りていくと声を掛けられた。

「っと。まだその甲冑付けてんのか?頭だけでもいいから脱げよ。誰も盗みやしねぇよ。」

「だが、「だがじゃねぇ。脱げ。そんなんじゃ俺様特製のシチューは食えねぇぞ?」」

騎士は仕方なく警戒しながらも頭の鎧だけ外すことにした。

「ハッハッハ!ビビりすぎだぞあんちゃん!そんなんじゃ冒険者はやってけねぇぜ?それよりも、部屋の方はどうだ?問題ないか?」

「ああ、私には勿体ないぐらいの良い部屋だ」

「ハッハッハ!褒めてもなんも出ねぇぞ?ほら飯にしよう。」

そう言って主は食卓に夕食を並べ始めた。

「ん?どうした?そんなとこに突っ立って。もしかして夕飯、もう済ませちゃってたか?!」

「いや。貴公、違うんだ……。違うんだ。」

「?…。そうか。違うならいいんだが。ならさっさと食おうぜ?」

「ああ」

そう言って夕飯を並べ終わった主は食べ始めた。

 

 

 

騎士は久しぶりに食べ物を食べた。

100年?200年?

もっと長い間。騎士は食べ物を食べなかった。

使命を受けてから。1度も食べなかった。

食べる必要がなかったから?

そうだろう。

食べたくなかったから?

そうだろう。

思い出してしまうから?

 

 

 

 

 

……そうだろう。

 

 

 

思い出してしまっては折れてしまったからだろう。何年も何年も何千年も何万年も永遠に近い時間同じ使命を果たし切るため。

騎士は人間らしさを捨てなくてはならなかった。

食べることなんてしてしまったら。

かつての平和な頃の記憶を思い出してしまうから。友人や家族と囲んだ食卓を。

でも、たまには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出すのも悪くないな。」

「ん?なんか言ったか?」




短くてすみません!
リアルがかなりかなり忙しいのです!


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前話以上に短いお話です!
ちょっとした話なので読まなくても全く問題ないです!
次から長いの頑張ります。


「ふぅー食った食った。やっぱり俺って料理の天才か?宿なんか辞めてレストランでもやろうかなぁ。」

「貴公の料理の腕は確かなものだ。」

「ハハッ!やっぱりそうか?」

凝り固まって薄れた騎士の心を多少ながらほぐすほど主のシチューの味と暖かさは確かなものだった。

「時に貴公。」

騎士は自身のソウルから【ジークの酒】を出しながら話を切り出した。

「おいあんちゃん今それどこから、、まぁいいか。。。なんだ?」

「ロスリックという場所を知っているか?それともアノール・ロンドという場所に聞き覚えはないか?」

「おー!この酒いけるなァ!ん?いんや知らねぇなぁ。」主はジークの酒を傾けながら答える。

「不死身の人間や死んでも火から生き返る人間の話を聞いたことはないだろうか?」

「魔族とかならまだしも人間でそんなのは聞いたことないなぁ。そのオスリック?ってのも全く聞いたことねぇなぁ。」

「ロスリックだ…。そうか。知らない…か。」

「そこがあんちゃんの故郷なのか?」

騎士は少し考えたあと。

「あぁ。」と細く答えた。

─────────────────────

「うげぇ。その酒、美味いが馬鹿みたいに度数強いなぁ。うぇ。ダメだ気持ち悪い。俺は早めに水飲んで寝るぞ。あんちゃんも明日には出てくんだろ?早めに寝とけ。食い終わった皿は流しに入れといてくれればいいからな。」

言うだけ言うとフラフラしながら主人は廊下に出ていった。

「ああ、そうするつもりだ。」

少し遅めの返答をした後、騎士は皿を流しに入れ、主人の分と自分の分の皿を洗い始めた。

洗いながら、騎士は思い出していた。

昔酒を交わしたタマネギ鎧の男のことを。

皿を洗い終わり廊下に出ると主が、倒れ込むようにして寝ていた。

─────────────────────

主を部屋へ戻した後。

未だに残るシチューの温かさに身を包まれながら騎士は自室で明日の予定を立てた。

(明日は、、、まずギルドにいって金を受け取った後、依頼とらやらを受けてみるか。いや、依頼の前に宿主に礼をするか。さすがにタダ飯タダ泊は気が引ける。)

おおよその予定を立てると騎士は暇になった。

不死は寝る必要がない。故に長い間騎士は寝ていなかった。

(寝る……か。)

部屋に鍵を掛け、鎧は──。その後、心地のよい木の匂いが溶け込んだ少しだけ埃っぽいベッドに横になった。そのベッドはこの宿の主人の人柄を表したような暖かさだった。

(寝方など忘れてしまったな。)

 

騎士は大きく部屋の空気を吸い込み。鎧を脱ぐと、そのまま深い眠りについた。

 




みじけえ!
そして次話から駄女神とカズマさん出演です!
頑張ります。


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依頼

ああ、貴方でしたか。
1000字を越え2000字を越え2500字も越えた!
ヒヒャ、ヒヒャハ!ハハハハハハ!
私はやったんだァァァァ!!!!


朝起きると主はもう朝飯を用意していた。

(ほんと、何から何までありがたいことだ。)

朝飯を食べていると主が不意に

「なぁ。あんちゃん。あんた昨日オスリック?について話したよな。それにそこが故郷だとも。そこはホントにあんちゃんの故郷なのか?そこについて話している時どうしようもなく寂しそうで苦しそうだった。」

「ロスリックだ。それに……ッ。」

騎士は確信を突かれたような気持ちになった。

いや確信を突かれたのだ。

昨日の夜。主と食卓を囲んでから。

騎士は思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あぁ。ここにずっと居たい。》

騎士は何も答えられず、主もそれ以上聞かなかった。

騎士は朝飯を食べ終わると主に礼を言い、宿を逃げるように後にした。

 

…日差しが眩しい。

────────────────────────

ギルドの扉を開けると外とはまた違った喧騒が襲ってきた。

「はい!ジャイアントトードの討伐ですね?承りました!次の方ー…あ。貴方でしたか。ちょっと待っててくださいね。」

しばらく待っているととことこと女性が戻ってきた。

「はい!こちらが金貨分のお金です!」

騎士は金を受け取ったあと続けて、

「感謝する。あと、依頼?というものを受けたいのだが」と言うと

「依頼ですね?あちらのクエストボードから選んで頂けますよ!受けたい依頼のクエストペーパーをお持ち頂ければそこで依頼受注ということになります!」

騎士は言われた通りクエストボードの前に立ち一番最初に目に入った「ジャイアントトード討伐」というものを受けてみることにした。

─────────────────────

ジャイアントトード。

大きいカエルと言うからバジリスクのようなものを想像していた。

しかしどうだ。でてきたのはバジリスクよりも遥かに大きい色とりどりのカエルだ。

大きさは破壊力だ。大きければ大きいほど1体1では有利になる。その点で言うとバジリスクはそれほど脅威ではなかったのかもしれないが、、、まぁ、あれはあれで別の面でとても厄介だった。

それはともかくジャイアントトードの攻撃をローリングやステップで回避しながらどうしたものかと考える。直剣で攻撃しているがなかなか決め手となるような攻撃が上手く入らない。(となればこれだな。)騎士が自身のソウルから取り出したのはとても人が使うとは思えない剣。【黒騎士の大剣】。ローリングの後バックステップでカエルの攻撃を、回避するとそのまま走り込みカエルの脳天目掛けてその大剣を叩きつけた。

 

 

 

 

結果は…言うまでもないだろう。

脳漿ぶちまけて倒れ込む巨体の返り血と周りの冒険者の畏怖が騎士を包んだ。

───────────────────────

一方そのころ。

 

「ああああああああ! 助けてくれ! アクア、助けてくれえええええ!」

 

「プークスクス! やばい、超うけるんですけど! カズマったら、顔真っ赤で、超必死なんですけど!」

 

カズマは巨大カエルに追われながら助けを求め求めて走り回っていた。

 

騎士はそんな景色を比較的近くから眺めていた。

あくまでも自分に助けを求めている訳でもないのに青年の無様を観ている訳は青年がここからどう打開するのか、単純に気になっただけである。

(ふむ。ほとんど防具もなしに怪物に挑むとは。それに青髪の少女は何をしているのだ。何故爆笑しているのだ。)

騎士がそんなことを考えながらしばらく眺めていると。

「あ゛っ」

「は?なんでお前が喰われてんだぁぁ!」

パクッといかれた。

……少女の方が。

騎士はふぅと一息つくと少女を飲み込んだカエルの元へ走り込み大槌を振り下ろした。しかし当たり所が悪かったようだ。口に含んでいた少女を吐き出すとこちらに敵対心を向けてきた。

騎士はすかさず戦技【踏み込み】を使用し、敵の攻撃を受けながら横振りの一撃をカエルの腹に打ち込んだ。カエルは大剣の衝撃を受けきれなかったらしくカエルが頭を垂れて怯んだ。すかさず眉間にタガーを刺し、捻じるようにして傷口を抉りながら横へ切り裂く。カエルはそのまま倒れ込みしばらくビクビクと痙攣した後絶命した。

 

 

 

青年は騎士とカエルの死体を見比べたあとこう漏らした。

「えぇ……」

───────────────────────

 

「ううっ……ぐずっ……あ、ありがど……、あ、ありがどうございまず……っ! あああああああああんっ…………!」

粘液でネチョネチョの泣いている少女とカエルの返り血と脳漿でギトギトの騎士。未だに腰が抜けて立てない青年。騎士は心の中で

(混沌(カオス)だ。)

そう呟いた。

騎士はとうの昔に痛みなど忘れたはずだった。

しかし今は周りからの視線がとても痛い。

その挙句。

「あ、えっとあの、その。アクアを助けてくれてありがとうございます。金目の物なら少ないですが全て置いていきます。なんならその自称女神も差し上げます。なので。なので命だけは見逃して頂けませんであられませんでしょうか。」

青年は騎士に命乞いをしている。

(私を悪魔か何かだと思っているのだろうか。)

騎士がスっと立ち上がると青年がヒッと短い声を挙げた。

「貴公。別に私は命を取ろうと言う訳ではない。安心したまえ。とりあえず今日はその女子をつれて帰った方がよいだろう。」

「え。あ。そう、そうですね。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。ほら、アクア。悪魔の騎士が慈悲を掛けてくれたよ。さぁ帰ろう。」

騎士がアクアと呼ばれる女子の方をみると小さく震えながら何かを呟いている。

余程怖かったのだろうか。そんなことを考えながらみていると

アクアは不意に立ち上がり、

 

「ぐすっ……。女神が、たかがカエルにここまでの目に遭わされて、黙って引き下がれるもんですか……っ! 私はもう、汚されてしまったわ。今の汚れた私を信者が見たら、信仰心なんてダダ下がりよ! これでカエル相手に引き下がったなんて知れたら、美しくも麗しいアクア様の名が廃るってものだわ!」

そう言ってカエルへ向かって走り出した。

「あ、おい!まてアクアァ!」

青年が止めるも時すでに遅し。

「神の力、思い知れ! 私の前に立ち塞がった事、そして神に牙を剝いた事! 地獄で後悔しながら懺悔なさい! ゴッドブローッ!」

ドスの効いた声で叫びながら殴りかかった。

アクアの拳は光り輝き。それはまるで流星の如く。カエルの腹へ吸い込まれて行った。

ブヨンッ…

 

 

 

ノーダメージのカエルとアクアが見つめ合い

「……カ、カエルって、よく見ると可愛いと思うの」

パクッ

 

 

 

瞬間、カエルは脳漿をぶちまけた。

───────────────────────

泣きじゃくるカエル粘液ネトネトのアクアと血まみれ脳漿まみれの騎士、そして哀れな青年のことを、ギルドは歓迎しなかった。




次は頑張りません。
誤字等ありましたら報告お願い致します。


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家路

前投稿したのと内容はあまりかわらないです!
お気に入りめちゃくちゃ嬉しいです!ありがとうございます!
矛盾点とかの指摘はかなり助かってます!
今回の話も短いですし文もなんか変ですが推敲してやると思って読んでやってください!お願いします!


街へ帰るとカズマ一行は身体を覆う汚れを落とすため大衆浴場へ向かうことにした。

(帰る途中でお互いの自己紹介とかしたけれど、結構良い人なのかもな。)

カズマは脱衣場で服を脱ぎながらそんなことを考えていた。

(この前は金貨くれたし。今回だってアクアと俺のことを助けてくれたし。)

一通り脱ぎ終わり、裸になったところで

「ところで騎士さん。」

「なんだ。」

「そのままお風呂に入るつもりですか?」

「そうだ。」

「…」「……?」

「そうだ…。じゃねぇよ。鎧つけたま風呂にはいるとかどんなプレイだよ。あ、ごめんなさい。」

騎士さんは少し悩んだあと。

「……。貴公の言う通りだな。風呂の時ぐらい脱ぐとしよう。」

そう告げた。

(おぉ!遂に悪魔スプラッタ騎士の顔が拝めるのか!さてさてどんなもんだろうなぁ。)

鎧の下から現れたのは、

イケメンとバキバキの筋肉だった。

─────────────────────

騎士とカズマ、それにアクアはカエル討伐の報告の為ギルドへ向かった。

(風呂で鎧と服を脱いでからカズマはずっと不機嫌そうだったが何故だろうか。)そんなことを考えながら歩いているとギルドに着いた。

ギルドへ着くと早速討伐達成の報告をした。

討伐したカエルは移送サービス込みで5000エリスで買い取ってくれるらしい。

青年…いや。カズマが小さく。

それはそれは小さく──。

「うそだろ…おい。土木のバイトと稼ぎあんま変わんないぞ。」と漏らしていた。

騎士一行は早速得た金で初の依頼達成の祝杯?を上げることにした。

カエル肉の唐揚げを食べながらアクアは、

「アレね。二人じゃ無理だわ。今回は騎士がいたから助かったけども。やっぱり仲間を募集しましょう!」

正直。少し考えればわかる話ではないだろうか。

聞くところによるとカズマ少年達は私と同じ駆け出し冒険者らしい。

駆け出し冒険者が二人、三人パーティを組んだところであまり意味がない。

そもそも。カズマ少年もアクアも化け物とおおよそ対峙する服装とは思えない。軽装も良いところだ。

「でもなあ……。仲間ったって駆け出しでロクな装備もない俺達と、パーティー組んでくれる奴なんかいると思うか?」

(カズマ少年の言う通りだな。)

「いるじゃない。そこに」

(ほぅ、そんな物好きがいるんだな。)

「え、騎士さんか?確かに仲間になってくれたら心強いけれどもちょっとスプラッタな所があるしなぁ。それに迷惑になっちゃうだろ。」

(……?それって私のことか。)

「ほのふぁたしのなかあにふぁれるのよ」

「飲み込め。飲み込んでから喋れ」

 

口の中のものをゴクリと飲み込み

 

「崇高なる女神でアークプリーストの私の仲間になれるのよ?仲間にならないなんて選択肢は無いはずよ?なんなら仲間にしてください。って言われてもおかしくないはずだわ!!ゼッタイ!ゼッタイに!そうよね?えーっと騎士?」

「……。」

「騎士?」

「あぁ…。済まない…。私は──。私は……仲間に─。ダメだ、済まない。貴公らの仲間にはなれない。」

「え……。なぁんでよぉ!私が!私が誘ってるのよ?!崇高なる女神様でアークプリーストの私が誘ってあげて「済まない。本当に……。済まない……」」

「アクア…。無理に誘うのは辞めよう。」

「うぅ。でも。でもぉ」

「……カズマ少年の心遣い感謝する。アクアにもカズマ少年にも悪いが、私は。仲間にはなれない。」

重く苦しい沈黙の中

騎士は重い空気と一緒にカエルの肉を飲み込んだ。

─────────────────────

カズマ達と別れたあと騎士はあの宿主の所へ行き宿泊代のら500エリスと飯代の100エリスを渡した。なかなか主人が受け取らなかったので半ば強引にだが…。

主に金を渡した後街を歩いた。

(寒い…な。)

天候は曇りだが気温は低い訳では無い。

それなのに騎士は寒さで震えていた。

それは果たして気温から来るものなのだろうか。それとも──。

 

 

 

(…火だ。火を、見たい。)

あの暖かい場所に戻りたい。

帰るべき場所──故郷。

(忘れてしまいたい。忘れなくてはならない)

食卓を囲む温かさ。他愛のない話をする温かさ。

あの火の暖かさで塗りつぶしたい。

騎士はボロボロになったタリスマンをグッと握ると、

(奇跡【家路】)

不死の呪いによって歪められた力を騎士は使った

 

(ここは…初めてカズマ少年に会った所か。)

いまは燃え尽きた焚き火が地面を黒く染めている。

突然騎士は思い出したかのようにソウルから捻れた剣を取り出した。

(もしかしたら…。)

おもむろに剣を焚き火があった場所に刺し、不死の遺骨をパラパラと撒く。

すると…。ゆっくりとそして確実にら螺旋の剣を生暖かい火が覆った。

騎士がそっと手をかざすと火は大きく燃え上がり。騎士を優しく包んだ。

(暖かい。)

 

"篝火”のそばに腰を下ろし暖を取りながら、騎士はまだ口の中残るカエル肉の味を噛み締めた。




アクアは不憫が良く似合う


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書きたいこと書けなかった


 

火で暖まった騎士は気まずい別れ方をしてしまったカズマ達に一応謝っておこうとギルドへ訪れた。

ギルドへ入り辺りを見渡すとカズマ達は端の方のテーブルに突っ伏していた。

「…………来ないわね……」

アクアが寂しそうに呟いている。

 

騎士が近づくと

「ッ!?!!近づいてきたという事は仲間になりたいの?!そうでs……。あぁ、誰かと思えば私という崇高な存在のお誘いを断ったただの愚か者じゃない。」

すかさずアクアにカズマがゲンコツをいれた

 

「騎士さんすみません。こいつ結構根に持つタイプで…。「ちょっと!!私のことをぶつのよ!!最低!!冷酷!! ヒキニート!!」」

「はいはい……おい、ヒキニートはやめろ」

「うんぁぁん!またぶったわね!崇高な私のことを!」

 

(ヒキニート……どんな意味だろうか。まあ、いい)

騎士は軽く咳払いをした後

 

「カズマ少年よ。見たところ仲間を募集しているようだな。それになかなか仲間になってくれる人がいないようにも見える。」

 

「…。そうなんですよ。この自称女神がハードルを上げすぎたせいで面接どころか希望してくる人も居なくて」

 

「うう……。だってだって……」

 

アクアの設定した条件は至ってシンプルで【上位職のみ募集してます】だった。

この世界の上位職というものは普通の人には成れない、かなりレベルの高いものであるらしい。

 

「…。そうか、それは……大変だな。」

 

「他人事?!」

そんな会話を続けていると

 

「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

 どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。

 そして、黒くしっとりとした質感の、肩口まで届くか届かないかの長さの髪。

 俺達に声をかけてきたのは、黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子まで被った、典型的な魔法使いの少女だった。

 

カズマが

「そうだけど」と応えると

 

少女はいきなりマントを翻し、

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」

 

騎士は兜を付けておいてよかったと思った。

なぜなら自分は今。カズマやアクアと同じ微妙な表情をしているだろうから。

 

「冷やかしか。」カズマがそう告げると

 

「ち、ちがわい!」少女が言い返す。

 

するとアクアが

「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」

 

 アクアの問いにその子はこくりと頷くと、アクアに自分の冒険者カードを手渡した。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……! ……という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか? ……そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べていないのです。できれば、面接の前に何か食べさせては頂けませんか……」

─────────────────────

カエルのもも肉を満足そうに頬張るめぐみん少女を見ながら騎士は謝るタイミングを見失ってしまったことを後悔していた。

 

「……飯を奢るぐらい構わないけどさ。その眼帯はどうしたんだ? 怪我でもしているのなら、こいつに治してもらったらどうだ?」カズマが切り出した。

 

「……フ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり……。もしこれが外される事があれば……。その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう……」

(なんてことだ。その幼い身体に呪いを封じ込めているとは。)

 

「へえー……。封印みたいなものか」

 

「まあ噓ですが。単に、オシャレで着けているただの眼帯……、あっあっ、ごめんなさい、止めて下さい引っ張らないでください!」

(カズマ少年がもしやらなかったら私がやっていた。)そんなことを騎士は思う。

 

「……ええと。カズマに説明すると、彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来となっている特徴的な紅い瞳と……。そして、それぞれが変な名前を持っているの」

 

 めぐみんの眼帯を引っ張っているカズマに、アクアが言った。

 

 (……なるほど。名前といい眼帯といいおかしいのはそういう訳なのか。)

それを聞くとほらと言いながらカズマは引っ張っていた眼帯を話した。

ベチッと眼球に眼帯がぶつかり

「いったい!目がァァ!」

 眼帯を解放され、悶絶した後。気を取り直しためぐみんは。

 

「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

と目を抑えながら答えた。

 

「……ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」

 

「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」

 

「「…………」」

 

 思わず沈黙するカズマとアクア。と私。

 

「…………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな? 仲間にしてもいいか?」

 

「おい、私の両親の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

 

 カズマに顔を近付けているめぐみんに、アクアが冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない? 冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄い事よ? 爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

 

「おい、彼女ではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい。それにずっと気になっていたがそこの怖い人はなんなんですか。怖いです。」

 

「あぁ。そこの怖い人は騎士さんだ。」

(怖い人か。たしかにそうかもな)

「私の誘いを断った愚か者でもあるわ。」

アクアが補足する。

 

「まぁ、とりあえずなんか頼むといいよ。俺はカズマ。こっちはアクア。それに騎士さんだ。よろしく、アークウィザード。」

そう言いながらカズマはめぐみん少女にメニューを手渡す。

 

少し不機嫌そうなめぐみん少女を見ながらいつ謝ろうかと騎士は考えを巡らせた。




お気に入り保存ありがとうございます!
こんなつまんない小説ですが読んで下さってありがとうございます。
次回戦闘描写があるので頑張ります。


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悪魔

ねぇねぇ。怖い人。時間とモチベをちょうだい!


「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

カズマ少年とアクアは満腹になっためぐみん少女を連れ、ジャイアントトードにリベンジに来ていた。そして、どうしてか騎士も一緒にきていた。

 

平原の遠くの遠く離れた場所には1匹のカエルの姿。

 

そのカエルは、こちらに気付いて向かって来ていた。

 だが、更に逆方向からも別のカエルがこちらに向かう姿が見える。

騎士が刀を抜きながら別のカエルの方へ走り出そうとすると

 

「待ってくれ!あいつのことは俺たちに任せてくれませんか?」

 

騎士が刀から手を離すと

 

「ありがとうございます。アークウィザードは遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。近い方は……。おい、行くぞアクア。今度こそリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろ? たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」

 

「元って何!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は! アークプリーストは仮の姿よぉ!」

 

 涙目でカズマの首を絞めようとしている自称女神を、めぐみんが不思議そうに。

 

「女神……?」

 

首を傾げてこちらを見てきたが騎士も首を傾げることしか出来なかった。

 

するとカズマが

 

「女神……を、自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

 

 俺の言葉に、同情の目でアクアを見るめぐみん。

 涙目になったアクアが、拳を握ってヤケクソ気味に、近い方のカエルへと駆け出した。

 

「何よ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ! 見てなさいよカズマ! 今のところ活躍してない私だけど、今日こそはっ!」

パクッ

(案の定……か。アクア。足止め感謝する。)

 

騎士がカエルの体内に居るアクアを助けに行こうとすると

いきなりめぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。

騎士は危険を察知し距離をとる

 うねる空気の中

 魔法を唱えるめぐみんの声が大きくなり、めぐみんのこめかみに一筋の汗が伝う。

 

「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが、究極の攻撃魔法です」

 

 めぐみんの杖の先に光が灯った。

 膨大な光をギュッと凝縮した様な、とても眩しいが小さな光。

 

 めぐみんが、紅い瞳を鮮やかに輝かせ、カッと見開く。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 平原に一筋の閃光が走り抜ける。

 

 めぐみんの杖の先から放たれたその光は、遠く、こちらに接近してくるカエルに吸い込まれる様に突き刺さると……!

 

 その直後、凶悪な魔法の効果が現れた。

 

 目も眩む強烈な光、そして辺りの空気を震わせる轟音と共に、カエルは爆裂四散した。

 吹っ飛んできためぐみんを捕まえながら騎士はその威力に少し驚嘆する。

 爆煙が晴れると、カエルのいた場所には二十メートル以上のクレーターができており、その爆発の凄まじさを物語っていた。

(杖を触媒にしているということは魔術か?これ程の力をなぜ少女が行使できるのだ。)そんなことを考えていると

さきほどの衝撃で起きたのだろうか。

地中から追加のカエルが現れた。寝起きだからだろうか。動きはかなり鈍い。するとアクアを助け出そうとしているカズマ少年が

 

「めぐみん! 一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

 カズマ少年はそこまで言いかけて、めぐみんの方を向くと同時。そのまま動きを止める。

 

 そこにはめぐみんが倒れていた。

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ……!?」

 

 

 「おぉぉぉい!!何してんだァァ!!!騎士さァァァんお願いしまァァァす!!」

 

承った。

 

騎士は頷くと《めぐみん入りカエル》の方へかけて行った。

もぐもぐと咀嚼しているカエルの元に着くとカエルの背中を踏み台にして跳躍しながら左手に呪術の火(じゅじゅつのひ)を装備する。

右手をカエルの口に突っ込むとめぐみんを引っこ抜く。「うぇ〜。生臭いですぅ。」

そして代わりに"滾る(たぎる)”左手を突っ込む。

【たぎる混沌】

悪魔の命の欠片をカエルの口に残したまま手を引き抜くとそのままめぐみんを抱えて走った。

 

 

 

瞬間──。

 

 

 

カエルは爆散した。




【たぎる混沌】
デーモンの王子が最後に灯した炎
混沌としたその欠片を、投げつける呪術
混沌の欠片は着弾地点で激しくたぎり
一瞬の収縮の後、大きく爆発する
デーモンにとって、それは命の欠片だった

このフレーバーめっちゃすき。


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メリクリ
最近ブラボにハマってるサンタから
ちょっと早めのクリスマスプレゼントです。


 

 

「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう…………。おんぶぅ…。おんぶぅ……。ぐすんっ…………。」

 

 私とカズマの後を、粘液まみれのアクアがめそめそと泣きながら付いて来る。

 

「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですね……。知りたくもない知識が増えました……」

 

アクアと同じ粘液まみれのめぐみん少女がカズマ少年の背中におぶさりながらやってくる。

カズマ少年におんぶされるめぐみん少女をみて「私の事をおんぶなさい!」と言われたが丁重にお断りした。やめてくれ。鎧にそのヌメヌメがつくのは"死んでも”ごめんだ。

 

魔法を使う者は、魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削る事になるらしい。

 魔力が枯渇している状態で大きな魔法を使うと、命に関わる事もあるそうだ。

 

「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん」

 

 カズマ少年の言葉に、背中におぶさっためぐみんが、「ギクッ」と小さな声を漏らした。そして、それに続くように

 

「…………使えません」

と答える。

 

(使えない?それはやはりそういう事なのだろうか。)

 

「…………は? 何が使えないんだ?」

カズマ少年が戸惑いながら答える。

 

「…………私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」

 

「…………マジか」

 

「…………マジです」

 

 カズマ少年とめぐみん少女が静まり返るなか、今まで鼻をぐすぐす鳴らしていたアクアが、ようやく会話に参加する。

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事? 爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」

 

確かにアクアの言う通りだ。

あれ程の力を有していながらあれ以下の力を行使出来ないわけがないだろう。

なぜ爆裂魔法しか使えないのだろうか。

するとめぐみん少女が

 

「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなのです」

と呟いた。

そして続けざまに

「もちろん他のスキルを取れば楽に冒険ができるでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう。……でも、ダメなのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない! だって、私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

「素晴らしい! 素晴らしいわ! その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」

 

騎士の長年の勘と経験が警鐘を鳴らしていた。

"こいつはやばいかもしれない”

 

 よりによってアクアが同調しているのがその証拠だろう。

 カズマ少年が無言でこちらを振り返った。

騎士はカズマ少年を慰めるようにゆっくりと頷いた。

 

カズマ少年はなにかを決めたような顔をすると

「そっか。多分茨の道だろうけど頑張れよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けにしよう。うん、まあ、また機会があればどこかで会う事もあるだろ」

 

 その言葉に、カズマ少年の肩をより強くめぐみん少女が掴む。

 

「ふ……。我が望みは、爆裂魔法を放つ事。報酬などおまけに過ぎず、なんなら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるなら、我は無報酬でもいいと考えている。そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費とちょっとだけ! これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか!」

 

「いやいや、その強力な力は俺達みたいな弱小パーティーには向いてない。そう、めぐみんの力は俺達には宝の持ち腐れだ。俺達の様な駆け出しは普通の魔法使いで十分だ。ほら、俺なんか最弱職の冒険者なんだからさ」

 

カズマ少年はそう言いながら、ギルドに着いたらすぐに追い出せるようにか、必死でしがみついてくるめぐみんの手を緩めようと躍起になっている。

 

 が、その俺の手をめぐみんが摑んで放さない。

 

「いえいえいえ、弱小でも駆け出しでも大丈夫です。私は上級職ですけどまだまだ駆け出し。レベルも6ですから。もう少しレベルが上がればきっと魔法使っても倒れなくなりますから。で、ですから、ね? 私の手を引き剝がそうとしないで欲しいです」

 

「いやいやいやいや、一日一発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いから。くっ、こいつ魔法使いのくせに意外な握力をっ……! お、おい放せ、お前多分ほかのパーティーにも捨てられた口だろ、というかダンジョンにでも潜った際には、爆裂魔法なんて狭い中じゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ。お、おい放せって。ちゃんと今回の報酬はやるから! 放せ!」

 

「見捨てないでください! もうどこのパーティーも拾ってくれないのです! ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします! お願いです、私を捨てないでください!」

 

 背中から離れようとしないめぐみんが、捨てないでだのと大声で叫ぶためか、通行人達がこちらを見てひそひそと話をしていた。

 すでに街中に入っているため、見てくれだけは良いアクアもいるせいか、やたら目立つ

 

(これは……。まずいな。)

 

騎士がこれまで感じたことの無い。

 

確かな予感だ。

 

《逃げろ》

 

騎士はいきなり【古老の結晶杖】を取り出す

【見えない体】を詠唱した。

騎士が見えなくなるのと同時に周りからこんな声が聞こえてきた。

 

「──やだ……。あの男、あの小さい子を捨てようとしてる……」

 

「──隣には、なんか粘液まみれの女の子を連れてるわよ」

 

「──あんな小さい子を弄んで捨てるなんて、とんだクズね。見て! 女の子は二人ともヌルヌルよ? 一体どんなプレイしたのよあの変態」

 

 ……間違いなくあらぬ誤解を受けている。

 

「な、ななな、なんかただならぬ雰囲気に!違いますよ!皆さん!違いますよー!騎士さん!騎士さんも何とか言ってください!あれ?騎士さんどこいった?騎士さん逃げやがったな!?騎士さんンンンンンンン!!おい騎士ィィィィィ!!!」

 

それに追い討ちをかけるように口元を歪めためぐみん少女が「どんなプレイでも大丈夫ですから! 先程の、カエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えてみせまぁ、ングッ」

 

めぐみん少女の口元を抑えながらカズマ少年は

 

「よーし分かった! めぐみん、これからよろしくな!」と絶叫した。

 

カズマ少年には見えていないはずなのだが彼と目が合った気がして、騎士は久しぶりに恐怖を覚えた。




クリスマス 男子シングルス出場予定です。
応援よろしくお願いいたします。


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危機

かなり変えました。
ゴメンね


2人目

 

「はい、確かに。ジャイアントトードを三日以内に五匹討伐。クエストの完了を確認致しました。ご苦労様でした」

騎士がカズマ少年に一応謝ったあと、私達はギルドへ報告に来ていた。

報告を終えた後は粘液まみれのアクアとめぐみん少女を大衆浴場に追いやった。

 

「しかし本当にモンスターを倒すだけで強くなるんだなぁ」

 

カズマがそんなことを漏らす。

 

(確かに不思議な感覚だ。)

しかし騎士はどこかでこの感覚を感じたことがあった。

それは例えば─。

敵の武器を持った時。

かつての持ち主の記憶。

思い出が流れ込んでくる。

思い出を継ぐからこそ初めて使う武器でも騎士は使いこなすことができる。

カエルにトドメを刺した時そんな感覚を騎士は感じていた。

 

「ではジャイアントトード二匹の買い取りとクエストの達成報酬を合わせまして、十一万エリスとなります。ご確認くださいね」

 

十万。金貨のを換金したときが五十万だったからあの金貨1枚にはこのクエスト5回分の価値があった訳か。

 

「割にあわねー」

カズマ少年がそう漏らすのも無理ないな。

 

そんなことを話しているとアクア達が風呂から帰ってきた。

するとカズマ少年は思い出したかのように

 

「なあ、スキルの習得ってどうやるんだ?」

 

と聞いてきた。騎士はスキル自体あまり詳しくないので分からないと答えた。

 

「え。じゃあカエルを爆散させた火球ってなんだったんですか?」

 

「【呪術】と呼ばれるものだ。だが、恐らく貴公らが言うスキルの類ではないだろう。」

 

「あんたって愚かな上に謎がほんとに多いわね」

 

アクアが話を割って入ってきた。それに続くようにしてめぐみん少女が

 

「スキル習得? そんなもの、ギルドカードに出ている現在習得可能なスキル欄を……。ああ、カズマのクラスは初期クラスの冒険者でしたね。冒険者は、誰かにスキルを教えてもらうんです。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらう。すると、カードに習得可能スキルって欄が現れるので、スキルポイントを使ってそれを取ればいいんです。そして、一度習得したスキルは使えば使うほどに鍛えられ、スキルレベルが上がっていく。頑張ってスキルを鍛えていけば、冒険者でも本職のスキルに匹敵する力が得られるはずです!」

 

(ふむ。スキルというものは使えば使うほど成長するのか。)

 

そんなことを考えていると

 

「ねえ、スキルが欲しいんでしょ? 盗賊スキルなんてどうだい?」

銀髪の女性が、話しかけてきた。

 

少し寒そうな服装に、腰にはタガー。頬には傷がある。

その隣には、ガチガチのフルプレートメイルを着込んだ金髪ロングの女騎士。

 冷たく、取っ付きにくい印象の酷薄そうな女性だった。

 二人とも、俺より一つ二つ年上だろうか。

 カズマ少年がドギマギするのを必死に隠しながら冷静に

「盗賊スキル? えっと、どんなのがあるんでしょう?」

カズマ少年の質問に、上機嫌で。

「盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、まだクラス冒険者なんだろ? 盗賊のスキルは習得にあんまりポイントもかからないしお得だよ? どうだい? 今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」

 

カズマ少年はさきほどのドンヨリした空気を吹き飛ばすように

 

「よし、頼む! すんませーん、こっちの人にクリムゾンビアお願いします!」

と言った。

─────────────────────

スキルの習得というものに興味があった騎士はカズマに着いてきていた。

「まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。

見ての通りの盗賊だよ。で、こっちの無愛想なのがダクネス。こいつのクラスはクルセイダーだから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」

「ウス! 俺はカズマって言います。んでそこの怖そうな人が騎士さんです。クリスさん、よろしくお願いしやっす!」

 冒険者ギルドの裏手の広場。

 カズマとクリス、そしてダクネスと騎士の四人は、今は誰もいない広場に立っていた。

「では、まずは敵感知と潜伏をいってみようか。罠の解除なんかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃあ……、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」

「……ん。分かった」

 ダクネスという女騎士が、言われたとおりに素直に向こうを向く。

 すると、クリスがちょっと離れた所にあるタルの中に入り、上半身だけを出す。

 そして向こうを向いているダクネスの頭に、何を思ったのか石を投げた。

 そして、そのままタルの中に身を隠す。

すると

(ッ?!たしかにクリスの気配が薄くなった。これが潜伏か)

「……………………」

 すると石をぶつけられたダクネスが、無言のままスタスタと、ぽつんと一つしかないタルへと向かって歩いていく。

「敵感知……。敵感知……! ダクネスの怒ってる気配をピリピリ感じるよ! ねえダクネス、分かってると思うけどこれはスキルを教える為に仕方なくやってる事だからねお手柔らかにああああああああああああ、やめてえええええええええええええええ!」

 隠れていたタルごと、ダクネスに横に倒されてそのままゴロゴロと転がされ、クリスが悲鳴を上げている。

カズマ少年は

これでほんとにスキルを覚えられるのか?という顔をしていた。

 

 

 

 

「さ、さて。それじゃあたしのイチオシのスキル、窃盗をやってみようか。これは、対象の持ち物を何でも一つ奪い取るスキルだよ。相手がしっかり握っている武器だろうが、鞄の奥にしまい込んだサイフだろうが、何でも一つ、ランダムで奪い取る。スキルの成功確率は、スキルレベルとステータスの幸運に依存する。強敵なモンスターと相対した時とか、モンスターの武器を奪ったり、もしくは大事に取っといたお宝だけかっさらって後は逃げたり。色々と使い勝手のいいスキルだよ

。じゃあ、あなたに使ってみるからね? いってみよう! 『スティール』っ!」

 クリスが手を前に突き出し叫ぶと同時、その手に小さな物が握られていた。

 それは……。

「あっ! 俺のサイフ!」

 (なんと。一瞬でカズマ少年の財布が移動しただと?)

「おっ! 当たりだね! まあ、こんな感じで使うわけさ。それじゃ、サイフを返……」

 クリスは、俺にサイフを返そうとして、そしてにんまりと笑みを浮かべた。

(まずいな。クリスは仮にも盗賊だろう。なら恐らく…)

「……ねえ、あたしと勝負してみない? キミ、早速窃盗スキルを覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。それが、あたしのサイフでもあたしの武器でも文句は言わない。この軽いサイフの中身だと、間違いなくあたしのサイフの中身や武器の方が価値があるよ。どんな物を奪ったとしても、キミはこの自分のサイフと引き換え。……どう? 勝負してみない?」

 (やはりな…。)

騎士は面倒事に巻き込まれそうな予感と共に【霧の指輪】を付ける準備をした。

 

しばらくカードを弄っていたカズマだが準備が整ったらしい。

「準備できました。」

「いいねキミ! そういう、ノリのいいヤツって好きだよ! さあ、何が盗れるかな? 今ならサイフが敢闘賞。当たりは、魔法が掛かってるダガーだよ! こいつは40万エリスは下らない一品だからね! そして、残念賞はさっきダクネスにぶつける為に多目に拾っといたこの石だよ!」

(ふむ。ランダムに盗むからそういう事もできるわけか。)

「ああっ! きったねえ!! そんなの有りかよっ!」

カズマ少年が抗議する

 

「これは授業料だよキミ。どんなスキルも万能じゃない。こういった感じで、どんなスキルにだって対抗策はあるもんなんだよ。一つ勉強になったね! さあ、いってみよう!」

(ごもっともだ。どんなことにも対価は伴う。)

カズマが助けを求めたが騎士は首を横に振るしかなかった。

すると観念したように

「よし、やってやる! 喰らえ、『スティール』っ!」

 

カズマ少年はその手を広げた。

その手に握られていたのは

「……なんだこれ?」

 一枚の黒い布切れだった。

カズマ少年はそれを掲げると

「ヒャッハー! 当たりも当たり、大当たりだあああああああああ!」

「わああああああああああああああ! ぱ、ぱんつ返してええええええええええええええええええええっ!」

 

 騎士は素早く、それはそれは素早く【霧の指輪】を付けるとその場から速やかに離れた。

 




次話はちょっと遅れます


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野菜

やぁ!みんな!お気に入り気づいたら100超えてたよ!
ありがとうございます!


 

 

酒場へ戻るとアクアに人だかりが出来ていた。

 

「アクア様、もう一度! 金なら払うので、どうかもう一度花鳥風月を!」

「ばっか野郎、アクアさんには金より酒だぁ! ですよねアクアさん! クリムゾンビア奢りますから、ぜひ花鳥風月をもう一度!」

 

「なーに。してんだアイツらは」

カズマ少年がそう呟く。

(ほんとにそのとおりだ。アクアは何をしているのだろうか。)

 

「ああもう、芸って物はね? 請われたからって何度もやる物ではないのよ! 良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ! 受けたからって同じ芸を何度もやるのは三流の芸人よ! そして私は芸人じゃないから、芸でお金を受け取る訳にはいかないの! これは芸をたしなむ者の最低限の覚悟にして、それに花鳥風月は元々あなた達に披露するつもりだった芸でもなく……。あっ! ちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね、あんたのおかげでえらい事に……。って、どうしたの? その子は」

 

ダクネスの後ろに隠れるようにして付いてくるクリスにアクアは興味を示した。

私に聞かれても困る、

と首を横に振るとダクネスが

「……ん。クリスは、カズマにぱんつ剥がれた上に有り金毟られて落ち込んでいるだけだ」

 

「おい何口走ってんだおい、待てよおい待て。間違ってないけど、ほんと待て、騎士さんも首横にばっか振ってないでなんとか言ってくださいよ」

 

「しかし、、、カズマ少年。ダクネスの言っていることは間違えていないだろう。」

 

女性の下着を公然の場で振り回したあげく金までむしり取るのは流石に外道がすぎるというものだ。よって騎士は首を横に振るしかなかった。

 

「それでカズマはスキルを習得出来たんですか?」

めぐみん少女が聞いてくる。

 

カズマ少年が不敵に笑うと

「ふふ、まぁ、見てろよ?喰らえッ!!『 スティール』!!」

カズマ少年が握るは白い布。

 

「……なんです? レベル上がってステータス上がったから、冒険者から変態にクラスチェンジしたんですか? ……あの、スースーするのでぱんつ返してください……」

 

騎士はため息をつきながら兜を外し、

少し緩んだ口元を隠しながら

酒場のマスターに《クリムゾンビア》を頼んだ。

─────────────────────

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

ギルド中に響く声。

騎士は酒をグイッと飲み干すと素早く兜をつけ、

ギルドの受付へ行った。

「貴公、忙しいところすまない。緊急クエスト?というものについて聞きたいのだが。」

「はい!緊急クエストは文字通り緊急の依頼です。今回の緊急クエストの内容はキャベツの討伐です!」

「貴公。その、すまないが、キャベツ…とは。」

 

「この私!アクア様が説明したげるわ!!キャベツってのは野菜よ。説明は以上!!さっさと騎士も行くわよ!!」

 

半ば引きずられるようにして騎士は外へ連れ出された。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気付いている方もいるとは思いますが、キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました! キャベツ一玉の収穫につき千エリスです! すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!」

 

(聞けば聞くほどわからなくなる。いったいなんなんだ。そのキャベツとやらは。)

 

その時、冒険者ギルドの外で歓声が巻き起こった。

 何事かと、歓声の方をみると街中を悠々と飛び回る緑色の物体の姿が飛び込んでくる。

 

 呆然とその訳の分からない光景に思わず立ち尽くす騎士とカズマ少年の横にいつの間にか隣に来ていたアクアが呟く。

「この世界のキャベツ達は飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえておいしく食べてあげようって事よ」

 

「俺、もう帰って寝てていいか?」

カズマ少年はそう言うと返答を聞く前にそのまま帰っていった。

 

騎士が帰っていくカズマ少年の背中を眺めていると。不意に後ろから衝撃を受け、よろめいた。

(くっ…キャベツにぶつかられたか。かなりの力がある……ッまずい!!)

よろめいた隙を着くように次のキャベツ。その次のキャベツ──。

(単体がさほど脅威ではなくても数が増えればそれは脅威となりうる。これは不味いぞ)

そう判断すると騎士は右手にセスタスを装備し【我慢】を使用する。

そのまま【古老の結晶杖】を取り出し、魔術を、詠唱する。【瞬間凍結】

生命を奪う冷気が騎士の眼前に広がる。

ボトリ、ボトリと冷凍されたキャベツが落ちる。

(ふむ。効果は抜群か。しかしこのキャベツとやら。なかなかに、学習能力が高い。冷気が危険と見ればそれを避けるようにして飛んでいく。と、なれば。)

騎士は【頭蓋の指輪】を装備する。

すると周りに居たキャベツが全て騎士に向かってくる。そしてそのまま冷気の餌食になっていく。

 

「ちょっと騎士!取りすぎよ!私にも寄越しなさい!!ギャァァァァァァァァ!!!!ちべたぃぃぃぃ!」

 

キャベツに混じってアクアも餌食になった。

 




矛盾解消作業に追われてます。


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休(再投稿)

誤字が多すぎたので再投稿です。
特に変更点は誤字以外ありません。


キャベツ狩りを終えた騎士はカズマ少年達と別れを告げて酒場で休んでいた。

ちなみに、氷漬けになったアクアは他の冒険者のファイアーボールに炙られる事によって回復した。

そんな光景を思い出して綻んだ口元を騎士はサッと隠した。

(まさか、私が笑うとはな。感情なんて久しく忘れていたはずなのだがな。)

クリムゾンビアを頼もうとマスターに話しかけようとしたその時。

 

【使命を果たせ】

騎士は不意に頭を抑える。

 

【使命を果たせ】

騎士は机に突っ伏して苦しみ出す。

 

【使命を果たせ】

騎士は不意に立ち上がり、

 

【使命を果たせ】

(帰らなくては。)

 

騎士はユラリユラリとギルドを出ると町外れの方へ歩いていった。

──────────────────────────

「最近騎士のこと見ないわね。」

アクアがカエル肉を貪りながら言う。

 

「騎士……あの怖い人のことですか。あの人の強さならここら辺のモンスターにやられることは無いでしょうから別の街にでも行ったんじゃないでしょうか?」

 

「めぐみんの言う通りね。アイツなら死ぬことはないわ。ならそう考えるのが妥当よね。まぁ、崇高な私の誘いを断った男の事なんてどうでもいいけど、」

 

「お前なぁ。根に持ちすぎだろ。それに、ほんとにそうだと良いんだがなぁ。俺はなんか嫌な予感がするんだよ。」

カズマはそう呟くのだった。

─────────────────────────

騎士は町外れで火を眺めていた。

(帰らなくては。だが、、どうやって。)

焦り、、、脅迫的なまでに練り上げられた使命感は騎士のことを追い詰めに追い詰めていた。

騎士は少しでも誤魔化すために火を眺めているのであった。

すると、

「ここらへんはあまり人がいないな。ここから攻めるのが良さそうだ。クックック。人間共はまさかこの最弱の街に魔王軍幹部デュラハンのベルディアがいるなんておもわ……うわァァっ!びっくりした!!貴様ァ!!いつからそこにいた!!」

首なし?の騎士に見つかった。

 

騎士は刀に手をかけながらゆっくりと立ち上がると

「貴公こそ。何者だ。」

と答えた。

(大振りの大剣か。かち合うのは分が悪いな。)

そんなことを考えながら騎士はゆっくりと距離をとる。

すると首なし騎士は

「私を見ても驚かないのだな……。私の名はベルディア。魔王軍幹部で、いずれ人類を滅ぼすものの1人だ。貴様も名乗れ。」

 

「私には。名はない……。あったのかもしれない。だが、忘れた。

それに………必要もない……。」

 

「名無しの騎士か。ふはは。面白い人間だな……。聞くが、何故そこで火を眺めていたのだ。暇なのか?」

ベルディアが聞いてくる。

 

「いや。ただ落ち着くのだ。それに貴公と同じで、私にも果たさねばならない使命がある。」

 

「ふ、そうか。しかしまあ。貴様もなかなかに、歪んでいるな。私が言えたことではないがな…。」

 

「なぜ…。なぜ貴公はそんな姿になったのだ。」

火の前に腰を落ち着けながら騎士が聞く。

 

「首を跳ねられてな。冤罪だよ…。裏切りだったかもな。死んだ理由など忘れた。思い出したくもない。ただただ。憎しみだけが私をつなぎ止めた。それでこんな姿になった。で、復讐のために魔王軍幹部をやってるのだ。」

いつの間にか横に来たベルディアがそんなことをいった。

 

「ハハッ。久しく焚き火などやらなかったがなかなか悪くない。なあ、名無しの騎士よ。貴様の使命とはいったいなんなのだ。」

 

「火を……思い出を継ぐことだ。」

騎士はベルディアに【ジークの酒】を渡す。

 

「ふはは!!思い出か。それは良い事だな!」

酒を飲みながらベルディアは言う。

 

「そうだろうか。私のやっていることは正しいのだろうか。」

 

「正しいかどうかと聞かれればそれは分からない。それに貴様が1番分かっているのではないか?」

 

「そうだな。そうかもしれない。」

 

「それに、、騎士の私が言うのも変な話なのだが。。使命……。これは必ずやらなくてはならないことではないと思うのだ。使命を守った結果。自分が被害を受けたり。誰も救われないこともある。目の前にちょうど良い例が居るだろう?自分でも考えることが大切なのだ。そして、自分がそれをしたいかどうかもな。」

 

「ふふ。貴公は騎士として失格だな。」

 

「ふはは!確かにそうだな!しかし…とても大切なことだ……。では、私はそろそろ行く。美味い酒の礼だ今回は見逃す。貴様なら誰かに私のことを話すこともあるまい。……2週間後にここを攻めるつもりだ。それまでにやりたい事・・・・・を見つけてここから出ていくんだな。 」

それだけ言うと、ベルディアは馬に乗り去っていった。

 

(やりたい事……か。)

騎士はベルディアの言ったことを思い出しながら揺らめく火を眺めた。

 

 




コタツあったけぇ。執筆頑張ります


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使命


お久しぶりです。
そして、今年もよろしくお願いします。(すみません身内の不幸があったのでおめでとうとは言えないです。)
久しぶりの投稿となりました。内容忘れてると思います。
御安心ください。投稿者である僕も忘れてました。
それでは!騎士と素晴らしい世界のお話をお楽しみください。


 

ベルディアと話した後。

騎士は実に3日ぶりにギルドへ足を踏み入れた。

「ん。あ!なによ騎士。生きてたのね。」

 

「おい、いきなり生きてたのねは失礼だろ。」

 

「失礼も何も無いわ!私への信仰心が皆無な騎士に気を使う必要なんてないもの!!」

アクアはそういいながらベっと舌を出す。

 

「すみません騎士さん。それはそうと、騎士さんココ最近見ませんでしたけどなにしてたんですか?」

カズマ少年聞いてくる。

 

「あぁ。貴公らには心配かけたようですまない。少し、、用事があってな。」

 

「そうだったんですか。まあ、騎士さんが死ぬことはないと思ってましたがね。」

カズマ少年がそう返す。

 

辺りを見渡すとカズマ少年、めぐみん少女とアクアに加えてダクネス騎士がいた。クリスは居ないようだ。

 

「つかぬ事を聞くが、ダクネス騎士よ。クリスはどうしたのだ。」

 

「ん?クリスか?あれとはパーティを解散したのだ。いまはこの、カズマのパーティに加えて貰っているのだ。。これが……これが、なぁ……最高なのだぁ。」

と、ダクネス騎士が後半顔を紅潮させながら答えてくれた。

 

騎士は無言でカズマの方へ振り返ると

「騎士さん!?俺にそんな趣味はないですからね?!」

騎士は何も言わずに前を向き、カウンターへ座ると、頼み損ねていたクリムゾンビアを頼んだ。

そして、弁解しようと詰め寄ってくるカズマ少年、顔を紅潮させながらクネクネしているダクネス。宴会芸を繰り広げるアクア、カエル肉を貪るめぐみん少女を見ながら騎士は

やりたい事について再考するのであった。

──────────────────────

「金が必要だ。」

カズマ少年がそういきなり切り出した。

「何言ってんのよヒキニート。金が欲しいのはみんなでしょ?」

カズマ少年はギロッとアクアを睨むと

「お前が欲しいのは散財する金だろうが。俺が欲しいのは、安定した生活を手に入れる為の、元手の金の事を言ってる。本来なら俺は、お前からチート能力でも貰ったり強力な装備を貰ったりで、ここでの生活にはあまり困らないはずだった訳だろ? そりゃあ、俺だってロクに何もしてないのに、いきなり都合よく無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくないよ? それに、やけになったその場の勢いとはいえ、チート能力よりお前を希望したのは俺なんだし! でも、俺はそのチート能力や強力アイテムの代わりにお前を貰った訳なんだが、今の所、チート能力や強力な装備並みにお前は役に立ってくれているのかと問いたい。問い詰めたい。お前が泣くまで問い続けたい。どうなんだ? 最初は随分偉そうで自信たっぷりだった割に、あまり役に立たない自称元なんとかさん」

 

「カズマ少年。少し言い過ぎだ……。少し…。」

 

「なぁんで少しを誇張するの!少しじゃないわ!かなりよ!それに、、、それに…うう……、も、元じゃなく、その……。い、一応今も女神です……」

 

「女神! 女神ってあれだろ!? 勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一丁前になるまで魔王を封印とかして時間稼いでみたり! お前は昼間からビール飲んでる今の現状で、本当に女神を名乗っていいのか!? この、カエルに食われるしか脳の無い、宴会芸しか取り柄のない穀潰しが!」

 

「わ、わああああーっ!」

 

泣き伏せるアクアを見てカズマ少年は満足そうにした。

しかし、アクアもやられっぱなしではない。

 

「わ、私だって、回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか、一応役に立っているわ! なによクソニート! じゃあ、何の為にお金が必要なのか言って御覧なさいよ!」

ダンッと机を叩きつけながらアクアはそう抗議した。

 

「おれは、日本から来たことを生かしてこの世界に無い日本の製品を作って売りさばこうかとおもってんだよ。でも、そのためには元手が必要だろ、、、って!おい、アクア手から血が出てるぞ!」

どうやらさっき机に叩きつけた時に負傷したらしい。

 

「ッ!?今気づいたわ。あー。こういうのって気が付いちゃうと痛く感じるのよね。」

 

騎士は【ヨルシカの聖鈴】を取り出すとアクアの手を掴んだ。

「え、なによ、、セクハラよ?ちょっと何とか言いなさいよ。」

騎士がチリンッと鈴を鳴らすとふわっとアクアの手を温かな光が包み込んだ。

すると──。

「おい!アクア!手治ってるぞ!」

 

「え、、ほ、ホントじゃない!?………。騎士…。え、えっと。あの……。その、、ありがとね。」

騎士は鈴をしまいながら1度だけ頷いた。

 

「騎士さん。ほんとに何者なんですか。。。回復魔法までつかえるなんて。。というか、あれ自体が回復魔法かどうかさえ怪しいですし──。」

 

「……。ちょっと待って。騎士が回復魔法使えたら。私の存在意義が無くなっちゃうじゃない!! ……。あのぉ。カズマさん?……。私の事…捨てたりしないわよね?」

 

「騎士さん。俺と仲間になってくれませんか?」

 

「ぴゃーーーーーー!!!!」

聞いたことない声をあげながらアクアはカズマ少年に泣きついていた。

 

騎士は頭を掻きながら再び鈴を取り出しチリンと鳴らした。

 





今年も安定の短さでやっていきます。
次は凄いデカい(何がとは言わない)リッチーを出したいです。
お楽しみに!


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14話

大変お待たせしております。



街から外れた丘の上。

 そこには、お金の無い人や身寄りの無い人がまとめて埋葬される共同墓地がある。

騎士はあまり墓地に良い思い出がなかった。

(墓地…か。とりあえずグレートクラブを取り出せるようにしておくか。)

この世界では埋葬方法は土葬。

そう、死体をそのまま埋めるだけだ。

そのせいか、死体に霊が乗り移りゾンビと呼ばれる存在になる事が度々あるのだ。

騎士達が墓地にいる訳はカズマ少年の資金集めのためにゾンビメーカー退治のクエストを受けたのだ。

ゾンビメーカー。名前の通りゾンビを作るモンスターだ。綺麗な死体に乗り移り、ほかの死体を眷属にしてしまうらしい。しかしゾンビメーカーの戦闘能力は弱いらしい。

今の時刻は夕方にさしかかろうとしていた。

 騎士一行は墓場の近くで夜を待つべくキャンプをしていた。

「ちょっとカズマ、その肉は私が目を付けてたヤツよ! ほら、こっちの野菜が焼けてるんだからこっち食べなさいよこっち!」

 

「俺、野菜苦手なんだよ、焼いてる最中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」

 

「あ!アクアずるいです!お肉取りすぎですよ!」

 墓場からちょっと離れた所で鉄板を敷いて焼肉しながら夜を待つ。

騎士はあまり腹は減っていなかったため、鉄板の下の火を眺めながら計画を練っていた。

 (一応篝火を作っておくか。いや、カズマ少年もいるのだ。説明が……厄介だな。)

カズマとアクアが肉の取り合いをする中、騎士は難儀するのであった。

 

────────────────────

騎士が火を眺めていると

カズマ少年がマグカップを取り出し水を入れると

「ティンダー」と唱えた。

するとカズマの指から火が出た。

細く揺らめく火を見た騎士は何を思ったか呪術の火を取り出した。

カズマの家庭魔法【ティンダー】とは違い温もりは感じない。

「……!?騎士さん!?手ぇ燃えてます!燃えちゃってますよ!?」

カズマ少年がお湯を吹き出しながら言う

「あぁ。燃えている。」

 

「あぁ。じゃないですよ!早く消さなきゃ!!」

 

「これは…。この火は大丈夫だ。もっとも、これが火であるかすら定かではないが。」

 

「えぇ…。騎士さんってほんと謎ですね。」

 

騎士は少し沈黙した後。

呪術【ぬくもりの火】を唱えた。

 

空中に"火”が浮かぶ。

 

「うわ、なんですか。これ…。なんて言えばいいんですかね……。あたたかいって言えばいいのか…?」

 

「何よこれ、火?なんか……、なんか変にぬくいわ、それに落ち着くし……。騎士のくせになんか生意気ね。このッこのッ」

アクアがぬくもりの火を消そうとする。

 

「アクア。やめてください。この火けっこうぬくくて心地良いんですから。何でしょう……。カエルの中の温かさに似てます。」

 

「知りたくもない情報教えてくれるな。」

カズマ達が談笑に花を咲かせる間、騎士はただ、ただただ団欒の火を眺めながら夜を待っていた。

 

─────────────────────

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね? 私、何か、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんだけれど」

 月が昇り、時刻は深夜を回った頃。

 アクアがそんな事をぽつりと言った。

「……おい、そういった事言うなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そして取り巻きのゾンビもちゃんと土にかえしてやる。そしておいしいご飯食べて馬小屋で寝る。その計画以外のイレギュラーな事が起こったら……。騎士さん。お願いいたします。」

(……私は用心棒では無いのだがな……。しかし、まあ着いてきている時点で私もそのつもりだったか…。)

騎士はコクリと頷いた。

 敵感知を持つカズマ少年を先頭に、カズマ達は墓場へと歩いていく。

すると、

「敵感知に引っかかったな。居るぞ、一匹、二匹……三匹……四匹……」

(4匹か。少し多いな。しかし問題まあ、誤差の範囲だろう。)

 

そんな事を騎士が考えていると、墓場の中央で青白い光が走った。

 それは、妖しくも幻想的な青い光。

 

 遠めに見えるその青い光は、大きな丸い魔法陣。

 

 その魔法陣の隣には、黒いローブの人影が居た。

 

「あれ。ゾンビメーカー……じゃない気がするんですが……」

 めぐみんが自信無さ気に呟いた。

「私もめぐみん少女に賛成だ。あれは、、、恐らくゾンビメーカーではないだろう。」

 

 その黒いローブの周りには、ユラユラと蠢く人影が数体見える。

 

「突っ込むか? ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場に居る以上、アンデッドには違いないだろう。なら、アクアがいればまず問題はない。それに騎士さんもいるんだ。」

 

 その時、アクアがとんでもない行動に出た。

 

「あ――――――――っ!!」

 

 突如叫んだアクアは、何を思ったのか立ち上がり、そのままローブの人影に向かって走り出す。

「ちょっ! おい待て!」

 カズマの制止も聞かずに飛び出していったアクアは、ローブの人影に駆け寄ると、ビシと人影を指差した。

 

「リッチーがノコノコこんな所に現れるとは不届きなっ! この私が成敗してやるわっ!」

─────────────────────

長い時を経た大魔法使いが、魔道の奥義により人の身体を捨て去った、ノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。リッチー。

 強い未練や恨みで自然にアンデッドになってしまったモンスターとは違い、自らの意思で自然の摂理に反し、神の敵対者になった存在。

そんな存在が

 

「や、やめやめ、やめてええええええ! 誰なの!? いきなり現れて、なんで私の魔法陣を壊そうとするの!? やめて! やめてください!」

「うっさい、黙りなさいアンデッド! どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんでしょ、なによ、こんな物! こんな物!!」

 

 ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクアの腰に、泣いてしがみつき止めていた。

 

(とりあえず亡者とは違って知性はあるようだ。)

 アクアは絡んでいる相手をリッチーだとか言い張っている。

とりあえず知性があるなら話してみても良いのではないだろうか。

 

「やめてー! やめてー!! この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂達を、天に還してあげる為の物です! ほら、たくさんの魂達が魔法陣から空に昇って行くでしょう!?」

 

 リッチーの言う通り、どこから集まってきたのか、青白い人魂の様な物がふよふよと魔法陣に乗り、そのまま魔法陣の青い光と共に、空へと昇って行く。

 

「リッチーのクセに生意気よ! そんな善行はアークプリーストのこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい! 見てなさい、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!」

「ええっ!? ちょ、やめっ!?」

 

 アクアの宣言に、慌てるリッチー。

 アクアが手を広げ、大声で叫んだ。

 

「『ターンアンデッド』!」

 

 墓場全体が、アクアを中心に白い光に包まれた。

 アクアから湧き出すように溢れるその光は、リッチーの取り巻きのゾンビ達に触れると、ゾンビ達が掻き消す様にその存在を消失させる。

 リッチーの作った魔法陣の上に集まっていた人魂も、アクアの放った光を浴びていなくなった。

 その光はもちろんリッチーにも及び……。

「ぎゃー! か、身体が消えるっ!? 止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!! 成仏しちゃうっ!」

 

「あはははははは、愚かなるリッチーよ! さあ、私の力で欠片も残さず消滅するがいいわっ!」

 

「おい、やめてやれ」

 いつの間にかアクアの背後に立っていたカズマ少年は、アクアの後頭部をダガーの柄でごすっと殴った。

「っっぎゃー!? い、痛、痛いじゃないの! あんた何してくれてんのよいきなり!」

 

ギャーギャーと喚くアクアを無視して騎士は頭を抱えて震えながらうずくまるリッチーに声を掛けた。

 

「貴公災難だったな。もう大丈夫だ。」

そう言って騎士は手を差し伸べた。

 

「お、おい大丈夫か? えっと、リッチー……でいいのか? あんた」

アクアを落ち着けたカズマ少年がリッチーに声を掛けた。

 

 よく見ると、リッチーの足元が半透明になっており、軽く消えかかっている。

 やがて徐々に半透明になっていた足がくっきりと見える様に戻り、涙目のリッチーがフラフラしながら立ち上がった。

 

「だ、だ、だ、大丈夫です……。あ、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました……っ! えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 言って目深に被っていたフードをはねのけると、現れたのは月明かりに照らされた二十歳位にしか見えない黒髪の女だった。

 

「えっと……。ウィズ? あんた、こんな墓場で何してるんだ? 魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないのか?」

 

「ちょっとカズマ! こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、あなたまでアンデッドが移るわよ! ちょっとそいつに、ターンアンデッド掛けさせなさい!」

 カズマ少年の言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに魔法を掛けようとする。

するとカズマ少年が

「騎士さん。」

騎士は立ち上がるとアクアを羽交い締めにして組み伏せた。

 

「ちょっと!離しなさいよ!セクハラで訴えるわよ!」

もがくアクアを見てウィズがカズマ少年の背後に隠れ、怯えた様な困った様な顔をしながら、

「そ、その……。私は見ての通りのリッチー、ノーライフキングなんてやってます。それで、アンデッドの王なんて呼ばれてる位ですから、私には迷える魂達の話が聞けるんです。そして、この共同墓地の魂の多くはお金が無いためロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデッドの王な私としては、定期的にこの墓場を訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです。」

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが……。アクアじゃないが、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 カズマ少年の疑問に、ウィズが言いにくそうに憮然としたアクアをチラチラと気にしながら。

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金が無い人達は後回し……と言いますか、その……、あの……」

 

 アークプリーストのアクアがいるので言いにくいのだろう。

 

「つまりこの街のプリーストは金儲け優先の者がほとんどで、こんな金の無い連中が埋葬されてる共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないって事か?」

「え……、えと、そ、そうです……」

 

(まぁ。ただで引き受けるお人好しも多くないのだろうな。)

 

「それはまあしょうがない。でも、ゾンビ起こすのはどうにかならないのか? 俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」

 カズマ少年の言葉に、ウィズは困った表情を浮かべ。

「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力で勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれればここに来る理由も無くなるんですが……。…………えっと、どうしましょうか?」

 

(…ふむ。どうしたものだろうか……ッ?!)

騎士が良い案がないか思案したその時アクアが騎士の一瞬の隙を突いて羽交い締めから逃れるやいなや

 

「私の目の前に現れたことを後悔するがいいわ!!喰らいなさい!!!!」

 

「ッ!!おい!アクア早まるな!!…この距離、、!? 騎士さんも間に合わない!ウィズ!逃げるんだァァ!」

カズマ少年が絶叫する。

 

「え、えぇ!?待って!まってぇ!!またあんなの食らったらほんとに消えちゃいます!!まっ、待ってぇ!!!」

 

「待たないわ!!邪を払うッ神々の聖なる光!!タァァァンアンデッドォォォ!!」

 

………。

何も起こらない。

【沈黙の禁則】

ロンドールの黒教会の奇跡。

その奇跡は範囲内にいる存在の魔法を封じるというもの。

 

(……ギリギリ…だったな。間に合ってよかった。)

騎士は【フィリアノールの聖鈴】をしまいながら

そう思った。

 

「た、たすかったぁ。」

へなへなとへたり込むウィズの声だけが暗い墓地に響いた。

 

 




次も頑張ります。
狼草マラソンがつらすぎて


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イザコザ

次回は無印ダクソの奇跡出そうと思ってます。
主人公はダクソ3の不死人だと言ったな。あれは嘘だ。


 

「おい、もう一度言ってみろ」

 カズマ少年は静かに、しかし確かな怒りを込めて呟いた。

 

 先日ゾンビメーカー討伐のクエストを失敗した為、金が無いカズマ達は少しでも金になるクエストを受けようと、割のいいクエストが無いか探していた所。

 

「何度だって言ってやるよ。上級職が揃ったパーティで、何でゾンビメーカー討伐なんて簡単なクエスト失敗するんだよ。大方お前が足引っ張ってるんだろ? なあ、最弱職さんよ?」

そう言って、同じテーブルにいた他の仲間と笑い合う戦士風の男。

 立ち上がって抗議しようとするアクアを騎士は諭しながら、注がれた水を飲む。

(……ぬるいな。)

 

 

……相手の言う事も一理ある。

 ゾンビメーカー討伐クエストで、ウィズを見逃そうと言い出したのはカズマ少年と私だ。

 ウィズを討伐とまではいかなくても、ゾンビメーカーではなくてリッチーだったと報告していれば、ここまでバカにされる事も無かっただろう。

 だが、ウィズの事は秘密にしといてやろうと言い出したのはカズマ少年だった。

 

「ゾンビメーカー退治についてだが、貴公、少し勘違いしている。足を引っ張ってしまったのはカズマ少年ではなく私だ。」

カズマが驚き、目を丸くして騎士を見るが何も言わなかった。

 だが、無言で耐えているカズマ少年を、その男はビビッて何も言えないでいると受け取ったらしい。

「おいおい、何とか言い返せよ最弱職さん。ったく、いい女ばっか引き連れ、腕っ節の良さそうな傭兵まで雇って貴族気取りか?どいつもこいつもいい女で、しかも全員上級職ときてやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?」

 そしてギルド内に巻き起こる爆笑。

 

騎士が腰の得物に手を掛けながら立ち上がろうとすると、

「騎士さん!!……。騎士…さん、いいんです。」

 カズマ少年が騎士を諭しながらも堅く拳を握る。

 

そんなカズマ少年にめぐみん達が声を掛ける

 

「カズマ、相手してはいけません。私なら何言われても気にしませんし」

 

「そうだカズマ。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」

 

「そうよカズマ。あの男、私達を引き連れてるカズマに妬いてんのよ。私は全く気にしないからほっときなさいな」

 

 典型的な三下だ。

 普通なら、相手する程の事じゃない。

 

 何とか耐えようとしていたカズマ少年だったが、男の最後の一言には耐えられなかったようだ。

 

「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずでよろしいこって! おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんよ?」

 

「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 冒険者ギルドの中が静まり返る。

騎士はぬるい水を飲み干した。

 

「……えっ?」

 俺に絡んでいた戦士風の男が、思わずマヌケな声を出した。

 

「代わってやるよって言ったんだ! おいお前、さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばっか抜かしやがって! ああそうだ、ゾンビメーカーの討伐は、事情があって俺の判断でクエストキャンセルしたんだよ! それは認める! だがなあ、お前! お前その後なんつった!」

「カ……、カズマ?」

 おろおろするアクアが、怒り狂うカズマ少年におずおずと声を掛ける。

 そして、いきなり激怒したカズマ少年に若干引きながらも男が口早に言ってきた。

「そ、その後? その、いい女三人も連れてハーレム気取りかって……」

 カズマ少年は思い切りテーブルに拳を叩きつけた。叩きつけた手には血が滲んでいる。

 その音にギルド内の皆がビクリとする。

 

「いい女! ハーレム!! ハーレムってか!? おいお前、顔にくっついてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなの? どこにいい女が居るんだよ、教えてくれよ! いいビー玉付けてんな、俺の濁った目玉と取り替えてくれ!」

 

「「「あ、あれっ?」」」

 

 なぜか俺の後ろで俺のパーティメンバーの三人が、それぞれ自分を指差しながら小さな声で呟いた。

 

「なあオイ! 教えてくれよ! いい女? どこだよ、どこに居るってんだよオウコラッ! テメーこの俺が羨ましいって言ったな! ああ? 言ったなオイ!」

 いきり立つカズマ少年に、背後からおずおずと声が掛けられた。

「あ……あのう……」

 恐る恐る右手を上げて、三人を代表するかの様なアクアの声。

 カズマ少年はそれを無視してなおも続ける。

 

「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!? 苦労知らずだああああああああっ!?」

「……そ、その……。ご、ごめん……俺も酔ってた勢いで言い過ぎた……。で、でもあれだ! 隣の芝生は青く見えるって言うがなあ! お前さんは確かに恵まれている境遇なんだよ! 代わってくれるって言ったな? なら、一日。一日だけ代わってくれよ冒険者さんよ? おい、お前らもいいか!?」

 言って、その男は自分のテーブルの仲間にも確認を取る。

「ま、まあ俺は構わないが……。今日のクエストはゴブリン狩りだしな」

「私もいいよ? でもダスト。あんた、居心地が良いからもうこっちのパーティに帰ってこないとか言い出さないでよ?」

「俺も構わんぞ。ひよっ子一人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、良い土産話を期待してるぞ?」

 絡んできた男と同じテーブルに居た仲間達は口々に言った。

 

「ねえカズマ。その、勝手に話が進んでるけど私達の意見は通らないの?」

「通らない。おい、俺の名はカズマ。今日一日って話だが、どうぞよろしく!」

 

「「「は、はあ……」」」

 絡んできた男の三人の仲間は、若干戸惑い気味の返事を返した。

 

騎士はどちらについて行くべきか難儀するのであった。

 

────────────────────

 

「お願いします!!騎士さん!!今日だけで良いのでアイツらのおもりしてやってください!!!!」

 

「構わない……。が、タダでとなると少し、難しいかもしれない。」

 

「、、、分かりました。今回の報酬を差し上げます。それをおもりの依頼料として貰えませんか?」

 

「分かった。それでいい。ゴブリン退治、気をつけたまえよ、、、甘い仕事にほど危険が付き纏うものだ。」

 

よって騎士はカズマの居ないパーティについて行くことになった。

その時、クエストが張り出してある掲示板の方から聞き慣れた声がした。

 

「ええー。ゴブリン退治ー? 何で街の近くにそんなのが湧いてるの? もうちょっとこう、ドカンと稼げる大物にしない? 一日とはいえ他所にレンタルされるカズマに、私達が日頃どれだけ有り難い存在かを見せ付けないといけないのよ」

 

 カズマ少年に絡んだ男にアクアが難癖付けているらしい。

「い、いや、あんたらが実力があるのは分かるが俺の実力が追いつかねえよ。アークプリーストにアークウィザードにクルセイダー。これだけ揃ってればどんな所でも行けるだろうけどよ、まあ今回は無難な所で頼むよ」

 

「ハッ!しょうがないわね!今回はゴブリン退治程度にしておいてあげるわ!」

 

騎士はこれから襲ってくるであろう"問題”に頭を抱えるしか無かった。

 




今回は短め。
次話は長めです。


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波乱

推敲しました。
再投稿でさ。


"問題児”達のおもりを引き受けた騎士はゴブリンが出没するという山へ向かっていた。

(崖際に差し掛かった商人や旅人を数で取り囲み襲う……か。)

受付嬢に言われたゴブリンの特徴を騎士は整理していた。

(数…、数が多いことは大きな脅威となりうる。いくら一個体一個体が弱くても囲まれて全員から攻撃を貰えばひとたまりもない。)

 

「ねぇ!まだ着かないの?わたし疲れたんだけど!!」

 

「ゴブリンは群れます。群れてる所に我が爆裂魔法をドカンッ!!です。フッフッフッ」

 

「ゴブリン……。私も最初は抵抗するが、取り囲まれて身を封じられてしまい……ハァハァ、身動きが取れない所を…ゴブリン共に、、わたしは……私は!!!…ハァハァ…良い!!」

 

(他のパーティのメンバーが参加するから多少はマシになるかと思ったが……。通常運転のようだな。)

 

「なぁ!あんたらはどんなスキルが使えるんだ?一応把握しておきたい。」

 

(ダスト…と言ったか。味方の戦闘力を知っておくことは大切だな。)

 

「まずはあんたからだ。クルセイダーの姉ちゃん。」

 

「ん…?私か?私のことは盾として使ってくれ!防御力には自信がある!仮に私が嫌がったとしても無理やり盾として使ってくれ!!ハァハァ…」

 

「ハッハッハ!!おもしれぇ冗談だな!だが、女の子を盾になんか出来ないぜ!前線を張ってくれるって事でいいんだよな?分かった。次、アークプリーストの娘だ。」

 

「私は回復とか色々なんでも出来るわ!!アンデッドだってなんだってこの聖なる拳が砕いてやるわ!とりあえず何か困ったらこのアクア様に任せると良いわ!」

 

「ハッハッハ!!自信家だな!流石上位職のアークプリースト、頼もしすぎるぜ!! 了解!!怪我したら速攻アクア様に頼むからな!次、アークウィザードの娘だ。」

 

(このダストと言う男はアクアやダクネス騎士の言葉に違和感を感じないのだろうか?だとしたら相当に、鈍い…な。)

 

「私はですか。私は最強にして最高の魔法。爆裂魔法が使えます!」

 

「ば、爆裂魔法だと!? なんてこった!すげえな嬢ちゃん!」

 

「フッフッフッ。嬢ちゃんではないですが、あなた、爆裂魔法の凄さが分かるとは分かりますね?」

 

「たりめえだ!破壊に特化した至高の魔法、当たったら相手を塵に還すんだろ?王都でも滅多に使える奴は居ないって聞いたぞ?」

 

「むっ。き、貴公。あまり褒めすぎると……」

 

「そうでしょう!そうでしょう!!あなた話が分かりますね!!それを、あのカズマときたら全く爆裂魔法の良さを分かっていないんですよ。」

 

「まぁ、所詮ただの冒険者ってことだな!こんなすげぇ魔法使いがパーティメンバーにいるなんておらぁあいつが羨ましいぜ」

 

「貴公!!その辺でッ……」

 

「クックック。しょーーーがありませんね!!そこまで言われてしまっては我が魔法の真髄ッ!!見てもらうしかありませんねぇ!!」

 

「……は?」

 

「お、遅かった…か。」

騎士は急いで【ヨルシカの聖鈴】を取り出そうとするが──。

めぐみんの詠唱によって周囲に突如吹き荒れた風によって鈴が飛ばされてしまった。

 

(ッ!!ま、マズイ!)

 

「我が混沌よりうねりし魔力の渦、竜をも殺すその力を持って敵を砕け!!現出せよ!!!!「ちょッ!!待ッ」エクスプロージョン!!!!!!!!!!!!!!」

一瞬の静寂。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!

灼熱の熱線が辺りを包み込む。

「フハハハハハ!!!!!!これが我が、、ち、力、です!!」

パタンとその場に倒れ込んだめぐみんを騎士は支え。未だに空いた口が塞がらないダストの肩に手を置いた。

 

「貴公……。貴公が半分悪い。」

 

めぐみんを抱えて、未だに自分が如何に凄いかを語り続けるアクアと、いまだ想像の快楽に浸っているダクネスを連れて今日は町へ引き替えそうとした。すると突然。砂煙を破るようにして黒い影が現れた。その黒い影を見るやいなや開けっ放しだった口を動かしてダストが叫んだ

「し、しょ、ッ初心者殺しだ!!」

(察するに先程の爆発を聞きつけてきたのだろうな。……、デカイ…。)

ドス黒い猫科の猛獣と対峙しながら騎士は思考を巡らせる。

(あの素早い動き。厄介だな。)

ダストは驚きの連続で腰が抜けてしまったようで、地面にへたりこんでしまっている。

それに気が付いた初心者殺しは騎士からダストにターゲットを変更した。

(ッ!?動けないものから狙うとは獣のくせに狡猾なやつだ。)

初心者殺しの牙がダストの首にかかる瞬間──。騎士は初心者殺しとダストの間に割って入り、手に持った盾を初心者殺しの顔面に叩きつけた。

 

ギャウンッ!!と吹き飛ばされた初見殺しは受身を取り、立ち上がると騎士を睨みつける。騎士が体制を整えようとアクアとダクネス騎士の方を振り返ると。

「不意打ち……周りには逃げも隠れる場所もない…。私が…私が盾となるしかない……ようだな…ハァハァ……そ、そして…私は……わ、私の身体によ、欲情した獣風情に…あ、あんな事や…ハァハァ…良い!! うぉぉぉぉぉぉ!」

 

「ッ!!貴公!!まッ、待つんだ!!」

 

騎士の制止を聞かず雄叫びを上げて初心者殺しに飛び込んで行くダクネス。

 

「ハァハァ…かかってこい!獣が!!」

 

そう言って斬りかかって行くダクネス。しかし全く攻撃が、当たらない。

それどころかおおきく振りかぶった隙を突いた初心者殺しに突き飛ばされてしまった。

 

(なんと、あのダクネス騎士を吹き飛ばすとは…なんという筋力だ。あのパワーにあの速さ。なかなか厄介だな。)

 

「ふん!どいつもこいつも情けないわね!!あんた達はそこで指をくわえて見てるが良いわ!こんな猫程度一瞬で倒してやるわ!」

 

吹き飛ばされたダクネスと入れ替わるようにしてアクアが初心者殺しに突っ込んで行った。

 

「喰らいなさい!!ゴッドブロォォォ!!…あれ?」

 

アクア渾身の一撃は初見殺しに綺麗にかわされてしまった。そしてお返しとばかりにアクアは噛み付かれた──、脳天を。

 

「いっっったい!!くい込んでるから!!牙がくい込んじゃってるから!!いだい!いだい!」

 

騎士はアクアが足止めをしているうちに初心者殺しの腹目掛けてタガーを突き立てた、

腹に傷を負った初心者殺しはギャアッと声を上げて飛び退いた。

 

(クッ…浅いか。行動不能のダクネス騎士に負傷したアクア、魔力切れのめぐみんに腰が抜けたダストか。流石に全員を庇いながら戦うのは大変だろう。しかし、逃げるにもあの素早さだったら直ぐに追いついてしまうだろう……なら。)

 

騎士は【ヨルシカの聖鈴】をチリンと鳴らした

瞬間──。初見殺しの動きが鈍くなる

「うっおぉぉ、なんだそれ。急に初心者殺しの動きが鈍くなった」

 

 

【緩やかな平和の歩み】

範囲内の歩みを遅くする逃走の為の奇跡。

平和とは、つまり全くそれで良いのだ。

 

「貴公!!ダクネス騎士を連れて逃げたまえ!!アクア!!泣いていてもめぐみんを抱えるぐらいは出来るだろう?任せたぞ。」

 

「ひっぐ、わ゛、わがっだ…わがっだよお゛」

 

「わ、分かった!だ、だが騎士。あんたは!?」

 

 

「私は…こいつを仕留めていく。」

 

──────────────────────────

 

騎士は獣と睨み合いながら獣の事を分析していた。

(初心者殺し……。ゴブリンなどの弱いモンスターの周りに住み着き、弱いモンスターを狩りに来た弱い冒険者を襲う狡猾なモンスター。中級職が3人居て初めて安全に倒せるようになると言われるほど凶暴かつ危険。ゴブリン退治に行った冒険者のパーティが無惨な姿となって発見されることも少なくなく、故に付けられた名前が初見殺し……。特に注意すべきは素早い動きとそこから繰り出される連撃……か、厄介だ。)

 

(それにしても、負傷しているものから狙うとはどこまでも狡猾かつ不愉快な獣だ。)

 

騎士はふぅっと一息つくと。

自身のソウルから槍を取り出した。

 

騎士と初心者殺しが睨み合う。

騎士の落ち着いた息遣いと、初心者殺しの獰猛な息遣いがだだっ広い草原に浸透していく。

突如。ブワッと風が吹き、葉が舞い上がる。

その一瞬を突いて"初心者殺し”が駆け出した。

向かって来る初見殺しに向かって騎士は槍を突きつけた。

 

──が、初心者殺しは高く飛び上がると騎士を踏み越え、アクア達の方向へ向かって行った。

 

(ッ!?しまった!!)

 

初心者殺しは始めからダスト達のことを狙っていたらしい

「おいおい!マジかよ!!こっちは人1人担いでるんだぞ!!勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!アークプリーストの姉ちゃんんん!!いま!今困ってますからァァァ!!」

後ろから迫る足音に気が付いたダストはそう叫ぶと初心者殺しから少しでも離れようと走る速度をあげた、

しかし、それが悪手となった、

「やばいやばいヤバッ…うぉおッ」

 

ダストはあろう事か転んでしまった。

 

後ろから迫る足音。

 

顔見知りの冒険者が無惨になった姿。

 

突き刺さる殺気。

 

「ちくしょう!!殺られるくらいならやってやる!!うぉぉぉぉぉぉ!」

 

ダストは意を決して振り返ると剣を振り上げた、

 

が、初心者殺しの狙いはダストではなくダストが担いでいた"ダクネス”だった。

 

彼女はいま気絶しており、無抵抗だ。

 

 

「あッ待ってく、」

 

ドシュッッッ

 

草原の綺麗な緑に赤が混ざる。

 

鮮血と臓物が混ざり地面に染みわたる。

 

「あっ、あッ、あ。」

ダストは目の前で引き起こされた惨状に声にならない悲鳴を漏らす事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初心者殺しを"槍”が貫いていた。

 

 

 

【幽鬼のジャベリン】

 

腹を貫かれた初心者殺しはギャアギャアともがいた後、そのまま絶命した。

 

騎士は腰が抜けてしまったダストを見下ろし、

「貴公……。これでも、カズマ少年はおんぶにだっこだろうか?これでも、カズマ少年は苦労知らずだろうか?」

 

ガタガタと震えるダストと獣の亡骸を一瞥し、騎士はダストに投げ捨てられたダクネスを抱えると、

 

「彼には気の毒な話だが、私にはそうは思えない……。」

騎士はそれだけ言うと、

もう見えなくなってしまった、アクア達を追う事にした。




すぃりあすにしようか迷った結果中途半端な結果に。
ごめんちゃい。


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失って気付く者

お股です。
短いけれど呼んでくれたら嬉しいです。


初心者殺しの報告をアクアに任せ、魔力切れで倒れためぐみんにポーションを飲ませた後。

未だに気絶したダクネスのことを騎士は椅子に寝かせた。

(……なぜ、何故だ。どうしてダクネス騎士は少し嬉しそうな顔をしているんだ。)

初心者殺しの攻撃によって全身傷だらけなのだが、ダクネスの頬は紅潮し、ニヤつきながら涎を垂れ流していた。

すると─、

〈おい見ろよ…あのクルセイダー、あんなあられも無い姿にされてるぞ〉

〈ああ、エロいな、おっと間違えた…ああ、やばいな。あの騎士が何かしたに違いない。そうだッ!!そうに違いない〉

〈ああだろうな。あんな美人をあんなにするなんて羨まし…おっと、違う違うなんて羨ましいんだ。〉

〈くっころかな。〉

〈あぁ。くっころだろうな。〉

 

(…聞こえているぞ……)

騎士は【くっころ】と言う謎の言葉に疑問を抱きながらも自身に降り掛かった不名誉をどう振り払うか難儀してしまった。

(弁明するべきだろうか?いや。だが、弁明した方が逆に怪しいだろうか。ここは1度、"ノーカウント”だとでも言ってみようか…うーむ、うーむ……おっとそうだった)

 

騎士はふと思い出したかのように自身のソウルから【フィリアノールの聖鈴】を取り出すと【中回復】を鳴らした。

ふわりと暖かい光が騎士たちを包み込み、みるみるうちにダクネスの傷は癒えていった。

 

〈ッ!!おいなんだあの光!!〉

 

〈あれは恐らく洗脳の類いだろう。可哀想に、あの姉ちゃんはアイツに洗脳されているんだ。〉

 

騎士は深い溜息を吐くと、未だにだらしのない顔をしているダクネスの顔にタオルを掛け、水を1杯頼んだ。

 

(カズマ少年よ。はやく…早く帰ってきてくれ。)

 

そんな事を考えていると──。

ギルドのドアが開いた。

 

「あ、ああ、ああぁ。か、か、か、ガズマ゛ざぁぁぁぁん」

 

雄叫びを上げながらアクアが駆け出す。

 

カズマはアクア、ダクネス、めぐみんを一瞥した後、

至って冷静に──。

初めから分かっていましたと言わんばかりに。

そっとドアを閉めた。

─────────────────────

「何があったかは分からない─。いや正確に言うと想像はつくがしたくないし、知りたくもない。」

カズマが最初に言った事がこれだった。

 

「なぁいいからとりあえず聞いてくれ!まずそこのアークウィザードだ!爆裂魔法が使えるって言うからすごいなって褒めたんだ。そしたら見せてやるって言い始めて…それにそこのクルセイダーの姉ちゃんは防具も付けてないのにモンスターに突っ込んで行くし、攻撃は当たらないし、そこのアークプリーストはなんか……なんかとりあえずあんまり役に立たないし!!そこの騎士はなんか怖いし!!」

ダストが半狂乱になりながら説明したがカズマは

 

「そうか。それは大変だったな。そしてこれからはもっと大変になると思うけれど頑張ってくれな。」

それだけだった。

 

「…は?そ、それってどういう…」

 

「よっしゃ!!今日は新パーティ結成を記念してお祝いだ!!飲むぞー!!」

そうカズマが言うとそれに続くようにして、

ダストのパーティメンバー"だった”男と女が、

「「おー!」」

と相槌を打つ。

 

「たのむぅぅぅぅぅ!謝るから!!お前を馬鹿にしたこと謝るからァァァ!!オレを元のパーティーに戻してぐれぇぇぇぇ!!」

ダストの悲痛な叫びは虚しくも。

ギルドに響くだけだった。

 

閑話休題。

騎士は膝をついて絶望に沈むダストを尻目にかけながらカズマの方へ寄ると

 

「カズマ少年。そちらのパーティメンバーとは仲良くなれたようだな。」

 

「ん。ああ、そうですね。この人達がきちんと"連携が取れて”かつ、"まとも”だったからですかね。」

 

「……そのようだな。貴公らにはカズマ少年が世話になったようだ。私からも礼を言わせて欲しい。……ありがとう。」

 

「え!いえいえ!そんな!世話になったのはむしろ私達の方です!!カズマったら凄いんですよ!!初級魔法しか使えないのにクリエイトウォーターで水を出した水をフリーズで凍らせて敵の足場を悪くしたり、クリエイトアースとウィンドブレストで敵の視界を奪ったり……とにかく立ち回りが凄いんです!私なんかより全然凄くて…。」

 

「そうか。……カズマ少年。その……本当に彼女達を捨ててしまうのか?」

 

「捨てッ…言い方!!まさか、冗談ですよ。あいつら多分俺が見捨てたら一瞬で野垂れ死にますよ。1度仲間にすると言った以上、ある程度の責任は取りますよ。それが仲間……友ってもんでしょう?」

 

「……そうか。そうだったか。」

 

人は欲に溺れ、裏切り・傷付け合う物。

"昔”からそれは変わらない。

家族だろうが、友人だろうが、

それは関係のない事だ。

彼もそうだったのだろう。

故に彼は嫌悪した。

「なにを思い出そうとも、友で居させてくれ」

だからこそ彼はそんな純粋な"欲”を持っていたのかもしれない。

 

騎士は記憶を無くした、無欲な"友”のことを思い出していた。

 

「騎士さん?どうしました?」

 

「ん。いや。少し考え事をな。」

 

騎士はそう返すと、

カウンターに座り酒を頼んだ。

今日は"欲深く”も少し高い酒を飲もう。

 

それでこそ、人の道なのだろうから。




暗月たのすぃ。


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