狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い (Luly)
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謎の空間(参の始)

「…んぁ?」

 

本を読んでいた男……に見える少女、彼方がふと本から顔を上げた。

 

「………まじか。記録が増えた。…ったく」

 

本だらけの空間を迷うような素振りも見せずに歩いていく彼方。やがて一つの本棚の前で止まった。

 

「やれやれ、また何か始めるならせめてどれか一つでも連載終わらせてからにしやがれっての……」

 

彼方は愚痴を呟きながら跳躍し、跳躍した先で一冊の本を本棚から抜き出した。

 

「……“狩人達と魔術師達の運命”、ね。原作は“Fate/GrandOrder”……はてさて、一体どんなことになることやら。」

 

彼方はため息をついて虚空を見つめた。

 

「……Luluna姉さんもそうだが、あいつも色々無理してんじゃねえのか?」

 

ポツリと呟いたその言葉が空間内に広がった。

 

「…まぁ、俺が言うことでもないか。…それで」

 

彼方はこちらを見つめた。

 

「…さっきからずっと俺の後をついてきてるあんたは一体何のようなんだ?」

 

その言葉に私は硬直する。何故なら、私は透明になっていて見えないはずなのだから。

 

「言っておくがこの世界の中で俺に透明化は通用しない。何故ならこの世界の全体が俺の支配領域だからな。」

 

彼方の言葉をじっと聞く私。彼方はため息をついて手を広げた。

 

「大方ここが何なのか、気になってるんだろ?…簡単さ、ここはあいつの中。…あいつの、記憶の中だ。」

 

私はその言葉に首を傾げた。

 

「ここに来たってことはあいつの記憶が知りたいってことだ。ここは、あいつの記憶が全て保管されている。思いついた物語、楽しかった思い出、作り出したキャラクターの情報……なんでも保管されている。ここは、書庫の形をした記憶倉庫なのさ。ここにある全ての本はあいつの記憶。まぁ、それでもいくつか欠けてるんだがな。」

 

そう呟いた直後、彼方は私をまっすぐと見つめた。

 

「あんたは読者。あいつは作者。ここは人と人を……創作と読み手を分断する境界。そして俺はその記録を護り読者を導く者。さて……あんたは、ここで何を観ると望む?」

 

その彼方が持つ本から浮き上がった文字には、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

本来交わるはずの無かった3つの並行世界。それらが交わった時、この物語は始まった。

 

 

「相棒!こっちに何かありそうですよ!」

 

「嬢、あまり先に行かないで?私心配になるから…」

 

「大丈夫です、かの黒龍を退けた相棒なら絶対に!!」

 

 

とある大陸の青い星と。

 

 

「……よし。一狩り行こうか。」

 

「にゃ~」

 

「分かった、連れてくから待ってくれ」

 

 

とある村々の英雄と。

 

 

「ここは……どこ?あの本はあるけど、何があるかもわからないうちは何もできないかな…」

 

「オォォォォォ…」

 

「ネルル、周辺の警戒お願いできる?」

 

「オォォォォォ」

 

「ありがとう」

 

 

棘の生えた小さな龍を従えた謎の本を持つ少女と。

 

 

「あ、あなた達は誰なの!?」

 

「先輩、所長、私の後ろへ。敵意はなさそうですがあちらもサーヴァントの様ですので。」

 

「頼んだわよ、キリエライト!」

 

 

大盾を持つ少女とその側にいるオレンジ髪の少女と銀髪の少女。

 

 

出逢うはずの無かった英雄と魔術師が重なったその時、運命は変化を告げる。

 

 

 

 

と───




始めてしまいました新連載。何してるんでしょうね、私は…


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特異点F 冬木
第1話 運命の始まりと???


やっと第1話です。作るの時間かかりました。あと投稿前に設定したんですけど、タグの“東方ロストワード”っていうのはちょっとそれと関係ある技とアイテムが出るからなんですね…東方Projectそのものには関係ないです。


おかしい。

 

「システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木。ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠 確保。アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください。」

 

ここの様子はおかしい。来たばかりの私でも、そう思う。だって、さっきまではこんな状態じゃなかったんだから。

 

「…探さないと」

 

私は彼女を探しに来て、今ここにいる。早く彼女を見つけて、脱出しないと……

 

「…ぁっ!」

 

「……………、あ。」

 

いた。傷は、深いけど。でも。

 

「しっかり……今助けるから!!」

 

「……いい、です。助かりません、から。それより、早く、にげないと…」

 

「諦めちゃ……」

 

ダメ。そう言いかけた時、Dr.ロマンと呼ばれている人の言っていた“カルデアス”というものの色が真っ赤になった。

 

「!?」

 

「あ……」

 

「観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。」

 

シバ。彼の話ではシバは望遠鏡と言っていたけど……

 

「近未来百年までの地球において 人類の痕跡は 発見 できません」

 

「え……」

 

「人類の生存は 確認 できません。人類の未来は 保証 できません。」

 

「カルデアスが……真っ赤に、なっちゃいました……いえ、そんな、コト、より……」

 

「中央隔壁 封鎖します。 館内洗浄開始まで あと 180秒です」

 

「…隔壁、閉まっちゃいました。……もう、外に、は。」

 

彼女は自身の身体がかなりの傷を負っているというのに私のことを心配してきた。

 

「……うん、そうだね…一緒だね?」

 

「………」

 

「コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません。」

 

今思うことじゃないけれど、コフィンって確か棺桶の意味じゃなかったっけ…

 

「レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号48 藤丸立香 を マスターとして 再設定 します。」

 

アナウンスがよく分からないこと言ってるけど無視。今は…

 

「アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。」

 

「……あの………せん、ぱい。」

 

「うん?」

 

「手を……握ってもらって、いいですか?」

 

「…うん、それくらいなら。」

 

私は彼女の手を握った。

 

「レイシフト開始まで あと3 2 1」

 

(…ごめんなさい、お兄ちゃん)

 

私は心の中で自分の兄に謝った。

 

全行程 完了(クリア)。ファーストオーダー 実証を 開始 します。

 

その言葉が聞こえた瞬間。

 

私の視界を、光の輪が襲った。

 

 

 

───ある場所に少女達がいた。

 

彼女達は竜と龍と獣と魚と虫。そして人が交わる世界にいた。

 

一人の少女は母と父に憧れて狩人となった。

 

もう一人の少女は育ちの地で狩人に憧れて狩人となった。

 

彼女達は共に道を歩んだ。

 

彼女達は願った。

 

どうか、世が平和でありますようにと。

 

平和でなければ、私達がその平和を乱すものを追い払うと。

 

爪を用いる少女。

 

空を翔ける蟲を用いる少女。

 

彼女たちの願いは、運命に干渉し。

 

世界を越えて、その姿が“英雄”と刻印された。

 

その型名(クラス)は───

 

 

 

───またある場所に、一人の少女がいた。

 

彼女は人が竜達と信頼関係を築き、使役する世界にいた。

 

彼女は竜達に好かれやすかった。

 

彼女は龍と仲が良かった。

 

彼女と竜達は、共に世界を飛び回った。

 

彼女は願った。

 

どうか、この世界に災いが降りかかりませんようにと。

 

永遠にこの世界が続くようにと。

 

もしも災いが降りかかれば、その災いの根源を私が潰すと。

 

龍に愛されし少女。

 

彼女の願いは、運命に干渉し。

 

存在するはずの無かった彼女が、世界を越えて“英雄”と。

 

“世界の守護者”と、刻まれた。

 

その型名(クラス)は───

 

 

 

相棒!こっちに何かありそうですよ!

 

嬢、あまり先に行かないで?私心配になるから…

 

大丈夫です、かの黒龍を退けた相棒なら絶対に!!

 

それ信頼されているって思っていいの?

 

当然です!…そういえば、相棒はあちらにいた時はどんな狩猟をしていたんですか?

 

え?

 

オトモさんもあちらの時からの付き合いなんですよね?でしたら、あちらでも狩猟していたはずですよね?

 

あ~…うん。

 

もしよかったら教えてくれませんか?相棒の話、聞いてみたいです!!

 

そこまで話せることないと思いますにゃよ?

 

それでもです!!

 

…旦那さん、どうします?

 

…うん、今度機会があったら教えてあげるよ。でも今は…

 

…穴、ですね。大団長が教えてくれた謎の穴。私達に調査して来いと。

 

信頼してくれてるみたいだからいいんだけどさ…ま、いっか。ちゃんと捕まっててね

 

なんか嫌な予感にゃ~……

 

…う、わっ!?

 

あ、相棒!?ひ、引きずり込まれる…!?

 

ちょ、ちゃんと捕まっててよ!!?

 

わ、分かったにゃ~!!

 

は、はいぃぃぃ!!

 

 

 

……よし。一狩り行こうか。

 

にゃ~

 

分かった、連れてくから待ってくれ

 

…あまり無理するでないぞ、龍歴院のハンター殿。

 

大丈夫、これでも10年以上やってるから。

 

ならばよいのだが……

 

それより、彼女からの連絡とか…あった?

 

む…まだ無いな。新大陸と大陸が繋がったからと言って、交易船を使って文通とはな…

 

あはは…まぁ、少しの間連絡できなかったからね

 

彼女もこちらに戻ってくればよいというのに。そうすればお主も嬉しいであろう?

 

まぁ、ね。でも、彼女は推薦されてあっちに行ってるんだしなぁ。

 

推薦されていたのはお主もであろう…

 

それは言わない。もう決めたことだったし。…行くよ、二匹とも。

 

はいですにゃ♪

 

アオン

 

気を付けて行け。必ず戻ってくるのだぞ。

 

任せ……てっ!?

 

ふにゃ!?

 

オウン!?

 

は、ハンター殿っ!?は、早く手を!!

 

この穴っ……来るな!!村長は僕が戻らかなった時のために龍歴院に連絡しろ!!

 

しかし!

 

はやく!!心配するな、必ず戻ってくる!!

 

……信じるぞ、ハンター殿!!

 

……しっかりつかまれっ!!

 

旦那さん、衝撃に注意するにゃ!!

 

分かってる!僕から振り落とされるなよ!?

 

ア゛オ゛ン゛っ!!

 

 

 

ここは……どこ?あの本はあるけど、何があるかもわからないうちは何もできないかな…

 

オォォォォォ…

 

ネルル、周辺の警戒お願いできる?

 

オォォォォォ

 

ありがとう

 

…Gaaaaaaa

 

…戦闘になりそうだね……ネルル。お願いしていい?

 

オォ

 

うん。行くよ、ネルル!!汝我が声に応え、その真の姿を開放せよ!!

 

オォ……ゴォォォォォォ!!!

 

それと……あなたに決めた!お願い、ゼルル!!

 

……ギョァァァァァァッ!!

 

「「「「Gaaaaa!!!!」」」」

 

私をただの女の子だと思わないでよね!!これでも天才って言われてるんだから!!ネルルは近接、ゼルルは遠隔系でネルルを補助!!

 

ゴォ!」/「ギョァ!

 




気がついたと思いますけど今作のFate/Grand Orderマスターは女性です。ただ言葉で分かったと思いますけどお兄さんがいます。その辺に関してはまた後程。
それとこのフォントの文字はモンスターハンターの言語だと覚えておいてください
ちなみにこれはモンスターの鳴き声、こっちはモンスターの咆哮です


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第2話 漂流者と猫

設定は組めるのに内容が組めないという状態に陥っています。新年最初の投稿がこれでいいのでしょうか…

追記:タグを少し変えました。


えっと…

 

とりあえず、状況整理。

 

私はいつの間にかこの周囲が赤く燃える場所にいて…

 

「ご無事ですか、マスター?」

 

私が助けに行った彼女…マシュが変身してサーヴァント(?)になってて…

 

「ああもう、いったい何がどうなってるのよーー!!」

 

私のことを追い出したカルデアの所長さん……オルガマリーさん、だっけ?が襲われてて…あ、ちゃんと助けたからね?

 

で、サーヴァントが何かとか色々説明受けたりして………

 

……で。

 

「みゃぁ~…」

 

しばらく進んだ先で猫に似た何かを見つけたんだけど。

 

「…先輩。所長。あれは…」

 

「…猫、だよね。」

 

「…猫、ね。なんでこんなところにいるのかしら?」

 

「フォウ?」

 

「フォウさんじゃありませんよ?それで先輩、あれは猫なのですよね?私が知っている情報とは違いがあるようですが……」

 

「…うん、猫、な、はず……なんだけど。」

 

その猫が、()()()()()()()()()()()()()()()以外は、普通の猫と同じ……はず。

 

「…オルガマリー所長、純粋に聞きます。あの猫、何か気になることとかあります?」

 

私が聞くと、オルガマリー所長は不機嫌そうな顔をしてから口を開いた。

 

「…そもそもこの特異点になんで猫がいるのよ?それに、いつまで二足歩行してるのよ。普通、猫は四足歩行でしょ?あなた、こんなことすらも分からないのかしら?」

 

「…そう、そこなんですよ。なんで、二足歩行なんでしょうか?」

 

「は?」

 

私は不機嫌そうな声を聴きながらその猫ちゃんを見つめた。

 

「おかしいんですよ。私の知る限りでも、ずっと二足歩行を保てる猫なんていません。なのに今私達が見ているあの猫は、常に二足歩行状態です。静止状態ならともかく、移動しても二足歩行を保っている……私とは立場が違った所長なら、何か知っていたりしませんか?」

 

「…ふん。そういうこと。」

 

そう言って所長はその猫を見つめた。

 

「…そうね。神霊、という意味で見れば猫神…“バステト”かしら。それから日本の猫又。こっちは妖怪と言われるものだけれど、怨みを持った猫が反英霊になったと考えればおかしくないと思うわ。…とはいえ、あれはまた別ものでしょうけど。…ロマ二、ちょっと。」

 

〈ハイハイなんでしょうかマリー所長?〉

 

「あの猫からサーヴァント反応は出てるかしら?」

 

〈………〉

 

この無言の時間が少し長く感じる。多分、ドクターは調べてくれてるんだろうけど。

 

〈…えぇ。計器がおかしくなったのでなければ、微かにサーヴァント反応があります。〉

 

「微かに?それはどういうことですか、ドクター。」

 

「正確に述べなさい、ロマニ・アーキマン。」

 

マシュと所長の言葉にドクターは少し悩んだような声を上げた。

 

〈…正確に、ですか。どう言ったらいいでしょう。確かにあの猫からサーヴァント反応のようなものは観測できるのです。ですが、それが()()()()()()()。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…そんなものなのです。……サーヴァントの霊基も、()()()()()()()()()()()()()()です。対応なさる時はお気をつけて…〉

 

「ふぅん?あの猫が、ね…」

 

「となるとドクター、私の状態とは違うのですか?」

 

〈全く違う。確かにマシュも基本七基に分類されない霊基。だけどあの猫からは魔力は感じられてもサーヴァント反応は凄く弱い。…ところで、あの猫何かを探しているように見えないかい?〉

 

そのドクターの言葉に私達が猫ちゃんの方を見ると、確かに何かを探しているようだった。

 

「……ドクター。あの子、連れていっても、いいかな?」

 

「何言ってるのよ!?」

 

「危険です、先輩!」

 

所長とマシュから反対の声が上がった。けど……

 

「…気になるの。あの子の探しているものが何なのか。それに……」

 

そこで私はドクターの方を向いて言った。

 

「私の直感が囁いてる。あの子は、この先で必要になるって。」

 

〈……立香ちゃん。君の直感は、当たるのかい?〉

 

「少なくとも、危険な時はよく当たるよ。お兄ちゃんと一緒にいた時、嫌な予感がして引き止めたら目の前で交通事故起こったし…ゲームの時とかでも致命傷になる攻撃の前に警鐘慣らしてたことあったし……もちろん、危険じゃなくても当たることは多かった。」

 

〈…ゲームじゃないし、後戻りはできない。最悪の場合、君が死ぬかもしれないよ。それでもいいのかい?〉

 

「……うん。私の直感は警鐘を鳴らしてない。逆に、あの子を連れていかないと考えた方が警鐘を鳴らす。それにこの警鐘は、私の感覚が確かなら“死への警告”だよ。」

 

〈そうか……分かった、立香ちゃんに任せる。〉

 

「ドクター!?」

 

マシュが驚きの声を上げた。

 

〈その代わり、約束してくれ。絶対に、そこから生きて帰ると。マリーと、マシュを連れて。〉

 

「うん。任せて。そういうことですから、所長。」

 

「…好きにしなさい」

 

「所長まで!…先輩、どうしても行くというのなら私を連れていってください」

 

マシュのその言葉に、私は頷いた。

 

「流石に置いていかないよ。所長も、いいですか?」

 

「…えぇ」

 

「わかりました。」

 

そう言って私達はその猫ちゃんに近づいた。

 

「…ねぇ、猫ちゃん」

 

「!?」

 

声をかけると、驚いたように振り向いた。

 

「みゃぁぁ?」

 

「誰か探してるの?」

 

「みゃ~……」

 

「良かったら、私達と行動しない?」

 

その言葉に猫ちゃんは私をじっと見つめた。

 

「……っ!?」

 

突然、猫ちゃんが警戒したような態勢になった。それを見てマシュが猫ちゃんを警戒する。

 

「マスター、離れていた方が…」

 

「……違う。」

 

私はそう呟いた。その言葉にマシュが怪訝そうな顔になるけど気にしない。だって、私の直感が反応した。死の、気配。

 

「マスター?」

 

「…違う。マシュ、警戒するべきは()()()()()()()()()()()!!」

 

「えっ…?」

 

〈マシュ、立香ちゃん、敵性反応だ!!それもかなり多い!後ろからきているぞ!!〉

 

「っ!?」

 

「みゃぁぁぁぁぁ……」

 

猫も戦闘態勢を取った。具体的には、背中に背負っていた剣を構えただけだけど。

 

「「「「Gaaaaaa!!!」」」」

 

「ひぃっ!?は、早く何とかしなさい!」

 

「了解です!指示をお願いします、マスター!!」

 

「うん…任せ……え?」

 

指示をしようとしたとき、私の声が消えた。

 

「マスター?」

 

「…猫、ちゃん?」

 

私の、視線の先には……

 

「にゃぁぁ!!」

 

「「Gaaaa!?」」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「そんな…!?ドクター、あの子は…やはりサーヴァントなのですか!?」

 

〈そんな、馬鹿な…!!間違いない、()()()()()()()()()()()()()()!!〉

 

「今の…?説明しなさい!」

 

〈そんなこと言われても困ります!!こんなの観測するのは初めてです、こっちも何も言えません!!ただ、一つ言えるのは……〉

 

ドクターが言葉を口にしようとしたとき、大きな破砕音が聞こえた。

 

「みゃっ!?」

 

「猫ちゃんの剣が…!!マシュ!!お願い、猫ちゃんを助ける時間を作って!!」

 

「分かりました、戦闘を開始します!!はぁぁぁ!!」

 

残る数は7体。30はいたはずの骸骨たちを、あの子は一匹で、それもそこまで時間をかけずにここまで減らした。そんなあの子を、見捨てられない!!

 

「みゃ………」

 

マシュの盾が骸骨たちを押し出し、猫ちゃんと骸骨たちの間に距離ができる。

 

「……今っ!!」

 

直感が警鐘を鳴らさないタイミングで走り、猫ちゃんを抱えてからとんぼ返り。ちょっと足が滑ってひやりとしたけど無事に保護は出来た。

 

「よ、良かった……」

 

「……」

 

猫ちゃんは私の腕の中で私を見上げていた。その後、周囲をきょろきょろと見渡してからため息をついた。

 

「…ふふっ、人間みたいだね。」

 

「みゃぁ?」

 

「何でもないよ。」

 

「…あなた、怖くないの?」

 

所長が私に話しかけてきた。

 

「何がです?」

 

「得体のしれない猫を抱えていることよ。自分の敵かもしれないのに、よく抱えてられるわね。」

 

「あ~……」

 

確かに、所長の言うことももっともだった。

 

「それにその猫、もう武器がないでしょう。戦闘に役に立てるのかしら?」

 

「にゃー!」

 

「抗議してますよ、所長…」

 

「な、わ、私が悪いの!?武器が使えると言っても武器がなければただの役立たずでしょう!?」

 

「にゃぁぁぁ!!!」

 

「きゃぁぁぁぁ!!ひっかくんじゃないわよぉぉ!!」

 

「……なんというか、シュールというかなんというか。」

 

「フォウフォウ。」

 

私は猫ちゃんと所長の乱闘を傍観してた。

 

「マスター、戦闘終りょ……何してるのでしょうか、オルガマリー所長は……」

 

「さぁ……?」

 

とりあえず私達は猫ちゃんと所長の乱闘が終わりを迎えるまで待ちました。

 




次も立香さん達側視点の話になりますね。すみません、かなり時間がかかってます


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第3話 襲撃者と味方

描きたいのが描けたような描けてないような。とりあえず第3話です


〈落ち着きましたか?〉

 

「…えぇ、落ち着いたわよ。」

 

〈相手はサーヴァントに近い存在なんですけどね……普通のサーヴァントより力が弱いのでしょうか…〉

 

「…そう、なのでしょうか?」

 

「それはないと思うよ、ドクター。」

 

私はドクターの言葉を否定した。

 

〈立香ちゃんはそう思うんだね?何故だい?〉

 

「直感ばかりなんだけどさ…猫ちゃん、力が出し切れてないように感じるの。」

 

〈力が、ねぇ…〉

 

「契約してないからでしょうか…?」

 

「サーヴァントなら確かにあり得るけれど…得体のしれない猫と契約するのは少し反対ね…」

 

ちなみにそんな猫ちゃん、今現在私に抱えられてる。

 

〈そもそも契約とか分かるんでしょうか?意思はあると思いますが言語も通じないような“猫”という相手です、契約云々の前に言葉を通じさせないと難しいかと…〉

 

「…でも、猫ちゃん私達の言葉分かってるような気がするんだけど…」

 

そう。気になるのはそこ。さっきから、私達の言葉に頷いたり首を横に振ったりしてる。これって、私達の言葉を完全に理解してるんじゃ……?

 

〈う~ん……それに関しては何も言えない……ん?その子、何か警戒してないかい?〉

 

「え?」

 

「……」

 

確かにドクターの言う通り、猫ちゃんの表情がさっきの骸骨兵が来た時のものと似た感じになっていた。

 

「どうしたの───」

 

「───あら。」

 

その、声。それが聞こえた途端、私の全身の鳥肌が立った。

 

「まだ居たんですね、生き残り。」

 

(直感が、反応しなかった───)

 

〈3人とも、気をつけろ!!その反応───〉

 

(───怖い。この感覚、これ、は───)

 

〈そこにいるのは、サーヴァントだ…!〉

 

(感じたこと、ない……!!)

 

「みゃぁぁぁ……」

 

猫ちゃんが威嚇する。でも、猫ちゃんに武器はもう、ない。戦いには、出せない。

 

〈魔力反応増大……!?逃げるんだ、立香ちゃん!!奴は敵だ!!〉

 

身体が動かない。逃げないとだめなのに、動かせ、ない。

 

「落ち着いてください、先輩!ここは私が───」

 

その瞬間、相手がマシュに距離を詰め、攻撃を振るった。

 

「………!!」

 

「あ…マシュ!!」

 

「何してるのっ!!」

 

所長が私を引き留める。

 

「あ…」

 

「ロマンの言う通り逃げるの!」

 

「で、でも…」

 

「でもも何もないわよ!!見えないの、あの光景が!!あんなのに入っていっても死ぬだけよ!!」

 

「…ぁ」

 

「それに、わかっているんでしょう?あなたも私も、奴の姿を見ただけでこんなに震えている。ただの人間に何ができると言うの?」

 

所長の、言う通りだった。私も、所長も、凄く震えている。

 

「マシュを信じなさい。同じサーヴァント同士よ、勝てないわけじゃないわ。」

 

「……同、じ?」

 

私はマシュを見た。

 

「……マシュと、あれが…?」

 

それは───

 

「違う、と思う…」

 

「…」

 

「だって、あの子は……」

 

その先を口にしようとしたとき、ガキィっという音がした。その方向を見ると、マシュの盾が弾かれたところだった。

 

「…助け、たい。」

 

「……」

 

視線を感じて腕の中を見ると、猫ちゃんが私のことをまっすぐに見つめていた。

 

「……にゃぁ」

 

まるで、“行くのか?”と聞いているかのよう。

 

「助けに…行きたい。でも…どうしたら。」

 

「…にゃあ!!」

 

猫ちゃんは一度鳴いて、地面に飛び降りた。

 

「……あああもう!!勝手にしなさい!!私は隠れておくわ!!」

 

「…死ぬつもりはない。けど…」

 

「にゃぁ!」

 

まるで、“死なせない”と言っているかのようだ。本当にこの猫ちゃんは、不思議。

 

「あの子も、死なせない!!」

 

私は、手ごろな岩をもって高台にのぼり、相手が武器をマシュに振るおうとする寸前で、飛び降りた。

 

「せん、ぱい……?」

 

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

「…ふざ、けるなぁ!!」

 

私に迫る、相手のビーム。だけどそれを、私は空中で躱す。

 

「なっ!?」

 

(スカイダイビング体験とかやっててよかったぁ!?)

 

と思ったけど多分あまり意味はない。

 

「っ!」

 

持ち直したマシュが盾を振るうけど、それは相手に阻まれた。

 

「この、小癪な……!」

 

「…にゃぁぁぁ!!」

 

〈そんな、猫の魔力反応増大!?これは…!?何故だ、一体どういうことだ!?〉

 

追撃。猫ちゃんの叫びと共に放たれた、()()()()()()()()が相手の肩を抉った。

 

「くっ…!?このっ!!!」

 

猫ちゃんはマシュの盾の後ろに隠れ、私はマシュと一緒に盾を支える。そこに攻撃を入れてくる相手。

 

「お、重い……!」

 

私とマシュの二人で支えてるけど、すごく重い。猫ちゃんも一緒になって支えようとしてくれてるけど、全く重みは軽減されない。

 

〈まずい…そのままだと押し切られる可能性が高いぞ!()()を出されれば、流石に分が悪い……!!〉

 

ドクターの慌てた声が私とマシュの間に聞こえる。私の直感も五月蠅いくらいに反応している。このままだと、危ない。

 

(私達の生きる道は、あるの……?)

 

私の直感は、選択に対して特に強い。この選択は危険か、危険じゃないか。もしこの選択をすれば、死ぬか、生きるか。今まで、この直感に助けられたことは多い。私も、お兄ちゃんも…そして、私の友達も。だから、私はこの直感を信じてる。私のこの選択は、生きる道があったはず!!

 

(お願い。教えて!私達の、生きられる道を……!!)

 

そう、願って辺りを見渡した。

 

(…猫ちゃんに、反応してる?)

 

直感は、猫ちゃんを見た時に生きる道を示した。

 

(猫ちゃんに、何かできるの?)

 

〈まずい、魔力反応増大!!あれが来るぞ!!〉

 

ドクターの必死な声が聞こえる。

 

「…先輩、逃げて、ください。ここにいては、ひとたまりもありません。」

 

「冗談…言わないでよ…!」

 

迷ってる余裕は、ない。いちか、バチか。

 

「猫…ちゃん!」

 

「みゃ?」

 

「何か…出来る?この状況を…切り抜ける、何か……!!」

 

「……」

 

「おね…がい!!何か…私達を助けられるなら……何か…!!」

 

「……」

 

猫ちゃんは、少しだけ考えるしぐさをして、上空を見つめた。

 

〈なっ……!?猫の魔力反応増大!!それもさっきより大きい!!これは……まさか!?〉

 

猫ちゃんは、息を大きく吸った。そして───

 

 

「みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

大きく、鳴いた。

 

「っ!?うるさ…」

 

〈ぎゃぁぁぁぁ!!耳がぁぁぁぁぁぁ!!〉

 

「鼓膜の部位破壊を達成しました」

 

〈何を言っているのかな立香ちゃんは!!〉

 

「いや……なんか言わないといけない気がして」

 

うん。唐突だけど、なんか言わないといけない気がした。

 

「みゃぁぁ、みゃぁぁぁ!!」

 

そしてさらに、空中から巨大なブーメランを投げる。

 

「なっ!?」

 

体勢を崩した。

 

「マシュ、今!!」

 

「っ、はぁぁぁぁぁ!!」

 

体勢を崩した相手にマシュの盾が刺さった。

 

「そんな…!!どう…して…!?」

 

その相手はそんな言葉を残してその場から消えた。

 

「き、消えた……?」

 

「…サーヴァント反応消失……か、勝てました……」

 

「勝ったの……?生き、てる……?」

 

私は安堵で腰が抜け、その場に座り込んだ。

 

「だ、大丈夫ですか、先輩!?」

 

「大丈夫だよ…ちょっと気が抜けただけだし……」

 

「…申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに…」

 

申し訳なさそうにするマシュ。それを見て、私はマシュを見つめた。

 

「何言ってるの?骸骨とかの時も、今も、マシュがいたから私は生きてるんだよ?…ありがとう、マシュ。」

 

感謝の言葉を伝えると、マシュの顔が赤くなった。

 

「…そんなこと、ありません…わたしはたすけられてばかりですから…」

 

「…さ、所長と合流しようよ!隠れてもらってるはず───」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

周囲に響く、所長の叫び声。嫌な予感がしてそっちを見ると、そこにあったのは───

 

「……う…そ。」

 

サーヴァントが、さらに3騎。それに、()()()()()()()()()()()()

 

「所長が、人質に……!!」

 

「その上3騎とも先程のサーヴァントと同等の魔力です…!」

 

(同…等!?そんなの、勝ち目がない…!!)

 

絶望的状況だ。こんな時に、私に何か力があればいいのに───

 

「マスター。」

 

「マシュ?」

 

「…今度こそ、逃げてください。巻き込まれたあなたはここで死んではいけない。」

 

「え…ちょっ!?」

 

抗議の言葉も聞かず、マシュはサーヴァントに向かって行った。

 

「何言ってるの、マシュ!止まって!!お願い!!」

 

私がそう叫んだ、その直後───

 

A(アンサズ)

 

(…声?)

 

その声がした直後、1騎が燃え上がった。

 

「な…!誰だ…!?」

 

B(ベルカナ)

 

その声が聞こえると、数瞬後に所長がサーヴァントの腕の中から脱した。

 

「まっ、待て貴様…!」

 

言葉を紡いでいる途中で、そのサーヴァントを木の皮みたいなので編まれた巨人が掴んだ。

 

「………!?ガハッ!!」

 

「我が魔術は炎の檻 茨の如き緑の巨人 因果応報 人事の厄を清める杜───」

 

(詠…唱?)

 

その詠唱と共に巨人が現れた。

 

〈この反応は魔術…?だがこんな大魔術、現代の魔術師が出来るはずがない…!!〉

 

(え…?)

 

それと、同時に。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「■■■■■!?」

 

〈なんだ、あれは!?大量の矢、それもこちらからは見えない場所から正確に襲ったのか!?〉

 

「…焼き尽くせ、木々の巨人」

 

「みゃぁぁぁぁぁ!!」

 

〈そしてなんだその猫のテンション!!ともかく、そんな遠距離攻撃とそんな大魔術、出来るとしたら二人……いや、2騎!!〉

 

私からすれば、猫ちゃんは喜んでいるように見える。

 

魔術師(キャスター)と…弓兵(アーチャー)のサーヴァント!!〉

 

「“焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!!」

 

「スピリスーーーー!!!」

 

「にゃぁぁ!!」

 

男性の声と共に上空から女性の声。それと共に炎の柱が立ち上った。

 




ちなみにこの作品の立香さんはそこそこ強化されています。魔力量とか、直感の付与とか。そして最後に誰か出てきましたね……次回までのお楽しみでしょうか?


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第4話 あり得るはずの無かった漂流者達・前

多分前後編になります…そして投稿そのままにしちゃいました


 

───時は、少し戻る。

 

 

……ったた…

 

私は、その場で体を起こした。…体が痛い。どうやら、穴に手を触れた後どこかに投げ出されたみたいだけど。

 

っ、相棒、大丈夫ですか?痛いところなどはありませんか?

 

嬢…?

 

目を開けると赤い炎に包まれた地と私を見て心配そうにしている嬢の姿があった。

 

…どのくらい、気絶してた?

 

私達がここに来てからどれくらい経っているかはわかりませんが…少なくとも、30分は。相棒が…相棒が目を覚まさないので心配しました。

 

そう言って嬢が涙目になる。それを見て私は嬢の頭に手を置く。

 

ごめんね、嬢。イヴェルカーナの時もそうだったけど、嬢には本当に心配かけちゃうね。

 

い、いえ…それに、イヴェルカーナの時は私が原因ですから…

 

そう、申し訳なさそうに呟いた。私は苦笑した後、周囲を見渡した。

 

…ここは?幽境の谷とか、火山じゃないみたいだけど。

 

えぇ…恐らく、ここはどこかの拠点の跡地だと思われます。

 

拠点?

 

はい。見たことのない素材ですが、家らしきものが在った形跡があります。…これを。

 

嬢が私に石、みたいなのを渡してきた。みたいなの、というのは歪すぎてそれを石と呼べるか不明だったから。

 

石…じゃない、確かにこんな素材見たことない。嬢、これはどこで…?

 

そこら中に落ちてました。あたりを見てください、相棒

 

そう言われるがままあたりを見ると、確かに大きさは様々だけど似たものがあった。

 

…相棒。

 

うん?

 

聞きにくいのですが………オトモさんは、どちらに?

 

…え

 

嬢の言葉に周囲をもう一度見渡す。…確かに、私のオトモアイルーの姿は、ない。

 

え…嘘!?ジュリィ、知らない?

 

…すみません、私も相棒が起きるまで周囲を調べたのですが……オトモさんの姿は、見つけられませんでした…

 

そんな……

 

私にとって、あの子は大切な相棒。ハンターを始めてからずっと一緒にいた子。その子が、いない。そのことは、私の心にのしかかっていた。

 

…相棒。ひとまず移動しませんか?私達と同じようにあの穴を通ってきているのなら、この場所に来ているはず。前のようにアステラにいるなら、心配することはないのかもですけど…

 

前、というのは私達が新大陸に来た時のことだ。確かに、私達はあのときも離れ離れだった。

 

とりあえず、相棒は武器を探してください。何が起こるか分からない状況下で、()()()()()()()です。

 

うん…え?

 

私はその言葉に嬢を見た。

 

え、私武器装備してるよね?

 

…いえ。あの穴に触れる前は確かに弓を…“ミスト=グレイシア”を担いでいました。ですが今は……

 

私は背中に触れる。…()()()()()()()()()()

 

…分かりましたか?

 

…うん。とりあえず、一緒にいた方がいいだろうね…

 

ですね…私も武器がないのでお役に立てるかはちょっと微妙ですが……

 

いざとなったら剥ぎ取りナイフでどうにかなる。

 

……それは、まぁ、確かに。

 

私達が持つ持ち物の中で一番の鋭さを持つもの。それが“剥ぎ取りナイフ”。鋭くてどんなモンスターにも刺さるんだけど破壊力は持たない、不思議なナイフ。

 

…さぁ、移動しましょうか───

 

嬢がそう言ったとき、私の耳が何かをとらえた。

 

っ…?

 

相棒?

 

何か、来る?

 

え…

 

私は剥ぎ取りナイフを構え、近くに落ちていた小さな石ころをスリンガーに嵌めた。嬢にも石ころを渡し、スリンガーに嵌めるように指示する。

 

…油断は、禁物。そうだよね。

 

油断せずに構えていると、音がしたところから、人のような骨が姿を現した。

 

骨───!?

 

「「「Gaaaaa!!」」」

 

その骨たちは私に見境なく襲いかかってきた。

 

───シッ!!

 

私のナイフは骨の身体を走るが、大したダメージは入れられていないみたいだ。

 

…相棒!!

 

その声に嬢の方を見ると、嬢は右手でアイテムポーチを押さえ、左手にビンを持っていた。

 

アイテムポーチ、ビン、近接……あっ!!

 

…ありがとう、嬢!!

 

私はそう叫んでから骨から少し距離を取り、アイテムポーチからとあるビンを取り出した。

 

私は弓使い……なら、各種ビンは携帯してる!!そして、ここで使うべきは───

 

私はビンを骨に向かって投げた。その後、もう一本、次は違うビンを取り出してビンの中身をナイフに塗った。その、直後。

 

 

ボゴンッ!!

 

 

爆破音。

 

「「「Gaaaa!?」」」

 

どう、“爆破ビン”のお味は?そしてここからは近接の時間!!

 

“接撃ビン”の中身を塗った剥ぎ取りナイフで骨を切りつける。結果は……

 

「「「Aaaaaaaa!!」」」

 

上々…!これなら通る…!嬢!

 

は、はい!

 

少しだけ、時間稼げる!?

 

分かりました、相棒!!

 

私が後ろに退くと同時に剥ぎ取りナイフを構えた嬢が前に出る。

 

やぁぁぁぁぁ!!

 

時間がない。早く終わらせないと…!

 

嬢に武器のことを言われて気がついた。私は今、新大陸に来た時と同じ状態だ。だから今私は、着慣れたあの装備達じゃない。一撃貰って、何が起こるか分からないし、全部避けるしかない。問題は、砥石の時間がどれだけあるか…!

 

あった!“接撃砥石”!!

 

接撃ビンと砥石の調合で作り出せる“接撃砥石”。この砥石にはそれなりにお世話になった。

 

…これで…よし!嬢、変わって!

 

…!はいっ!!

 

嬢が強化撃ちをし、骨たちを怯ませた。

 

あなた達の相手はこっちだよ!!

 

そう言い放ってから、三閃。それだけで、その骨たちは崩れ落ちた。

 

…ふぅ。

 

相棒、ご無事ですか?

 

うん。…でも、このナイフだけで戦うのはちょっと…ううん、かなり危ない。早く、武器になりそうなものを探せればいいけど…

 

そうですね……っ!相棒、まだです!まだ来ます!!

 

言ってる、そばから…!!

 

嬢の言う通り、先程と同じ骨たちが私達の方へと向かってきていた。先程よりも、数が多い。

 

くっ……流石にあの量は荷が重い…!せめて、どんな武器種もいいから武器があれば──!

 

虫が嫌いとか、重い武器が苦手とか言ってられない。何か一つでも武器があれば。そう、思った直後。

 

 

カッ

 

 

っ!?

 

あ、相棒!?

 

急に私の手元が、閃光を発した。否、嬢の手元も、だ。

 

ま、まぶし……光の、中に……何か、見える?

 

これは…?

 

私達が無意識にそれに手を伸ばすと、閃光が消え。一張の弓と、一振りの大剣が、その姿を現した。

 

これ、は…

 

まさ、か…

 

“バスターソードI”───?

 

“鉄弓I”───?

 

嬢と私がそれぞれ呟く。どちらも、新大陸に来て初めて触れた武器だ。

 

…嬢!私が時間を稼ぐから───

 

───“接撃砥石”で切れ味強化、ですね!分かりました!

 

流石…私の相棒!

 

私は弓を構えて骨を狙った。

 

っ!

 

一気に引き絞り、矢を放つ。当然だけど、それだけじゃ倒せない。

 

かったい…でも、負けない!

 

矢をつがえて、矢を放つ。それを、繰り返していた時だった。

 

 

ピュォォォン、ピュォォォン……

 

 

───!!

 

風と共に流れてきた、かすかな音。それに私は、聞き覚えがあった。…ううん、ないはずがない。だって、それは、()()()()()───!

 

 

ピュォォォン、ピュォォォン……

 

 

これは…音色、でしょうか?

 

…うん。そうだよ。

 

嬢の問いに私は答えた。その言葉に嬢は不思議そうな顔をする。

 

…あなたが、もしかしているの?

 

その呟きをすると、私に力が湧いてきた。“()()()()()()()()”、“()防御力上昇【小】”…それの()()()()()()…!!

 

 

───やりなよ

 

 

あの子の声が、聞こえた気がした。私の、大切な友達の声が。

 

…うん。任せて…

 

あの子と一緒なら、誰にでも負ける気はしない。あの子の言葉と、あの子の旋律は───私に、力をくれる!!

 

……はぁぁぁぁ!!

 

私が放つは、貫通の矢。時間はかかるが、それなりに効果はある“竜の一矢”!!

 

 

フォンファァン、フォンファァン

 

 

笛。“()()()”。たちまち、私の傷が治る。

 

嬢、避けて!!

 

私の代わりに時間を稼いでいた嬢に声をかける。その声を聴いて、嬢が横に跳んだ。

 

…貫けぇっ!!

 

そんな私の気合と共に放たれた矢は骨たちを貫通して。

 

その中間程で、爆発を起こした。

 

よしっ!

 

…相棒ってたまに変なもの作りますけど強いの多いですよね。

 

そう?

 

砥石で属性付与するとか普通出来ないと思いますけど……って相棒、後ろ!!

 

え?

 

私が振り向くとそこには───

 

「Gaaaaa!!」

 

さっきより少し大きい骨が私に向かって剣を振りかざしてた。

 

 

ちょっ、なんで構えないんですか!?

 

大丈夫だよ。…ね?

 

そう呟いた瞬間、グシャッ、というような音がした。

 

やれやれ。気づいていたんだね?

 

うん。あの旋律、あなたしか思い当たらないし。

 

光栄というべきなのか何なのか…ひとまず、そこで待っていてくれ。

 

はいはい。

 

その言葉の後に一際大きな音が聞こえたかと思うと、骨が吹っ飛んだ。

 

ふむ。こんなものかな。さてと、怪我はないかな、お嬢さん方?

 

そこにいたのは、大きな鈍器を担ぐ長髪の男性───

 

お嬢さんはあなたもでしょ?見ないうちに少し男の子っぽくなった?

 

…ふむ。…やめてくれ、君に言われるとなんか刺さる。

 

───ではなく、男装した女性がそこにいた。

 

ていうかそんな話し方してるから私と一緒にいるときに夫婦なんて言われるんじゃなくて?私は別にいいんだけどさ…

 

ぐっふ……僕は女として見られていないのだろうか……

 

どうだろうね…私はともかく、あなたはどうだろう…少なくとも私といるときは女性として見られてないかもしれないね?

 

ぐはぁ………!

 

ちょ、相棒っ!?

 

まぁ、この子の弄りはこの辺にして。

 

……久しぶり。また会えて心の底から嬉しい。…親友。

 

僕もだ。久しぶりだな、親友よ。

 

私は彼女の持つ武器を見た。

 

…“ベルダーホルン Lv.1”。私達の思い出の狩猟笛。…持っててくれたんだね。

 

当然だとも。僕らの旅立ちの一本だ。君は、その武器ではなかったけども。

 

私の新大陸での旅立ちの一張だよ、これは。…ごめんね、私達の思い出の弓じゃなくて。

 

いいと思うよ。大陸と新大陸…それぞれで武器が変わるのは当然だ。

 

そっか。

 

え、えっと……は、話が読めないのですけど……?

 

あ。嬢を置き去りにしてた。

 




オリジナルのことに関してはまた今度。


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第5話 あり得るはずの無かった漂流者達・後

時間かかりました……オリジナル描写ってやっぱり難しいですね


 

…ふむ。とりあえず整理しよう。

 

軽く互いの自己紹介をした後、親友が口を開いた。

 

君のオトモアイルーは、この場にはいない。元の場所にいるかもしれないし、この周囲にいるかもしれない。

 

私はその言葉にうなずく。

 

穴を通ったというのならば、この場所にきてはいるはずです。アステラにいる可能性は、ないとは言い切れませんが低いかと。

 

それは同感だ。僕と一緒に来た二匹も、すぐそこにいる。

 

親友が目を向けた先にいるのは、笛を持った猫とこちらを見つめる犬。猫の方はアイルー。犬の方は…ガルク、と言ってたはず。

 

ならば、この場所のどこかにいるはずだ。探してみるしかないか。

 

うん…ごめんね、私のために…

 

気にするな。僕らは支え、支えられて戦ってきた。そうだろう?

 

そうですにゃ。貴女様が気にする必要はないのですにゃよ。

 

親友と、親友のオトモアイルーに励まされた。それを聞いてたら、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。

 

うん……ありがと。…ところで、いくつか聞いていいかな。

 

なんだい?

 

まず、そのベルダーホルン。それとベルダー装備一式。それ、どこで?

 

私が着ているのはレザー装備一式。大陸での最後の仕事の後、それまで着てた装備が壊れちゃって、普通の…鎧も何もついていない服に着替えた後、新太陸に行って貰った最初の装備。ちなみにその時の服は戦闘用じゃないのに無理させたから破けました。…流石に所々破れた服のままアステラ内を案内されるのは辛かったよ、先輩……まぁ、裸にならなかっただけいいんだけどさ…

 

分からない。ベルダーホルンのほうは手元が光ったと思ったら出てきたもので、ベルダー装備一式は気が付いたら着ていたものだ。

 

…っていうことは私と同じ感じなのね。じゃあ次。

 

そう言って私はガルクを指さした。

 

その子は?少なくとも私が大陸にいた頃は一緒にいなかったはずだけど。

 

あぁ…そういうことか

 

親友は納得したような表情になって口を開いた。

 

僕の出身地は知っているだろう?

 

うん…私の出身地のベルナ村…じゃなくて少し離れたカムラの里、だよね。

 

そう。ベルナ村はあくまで育ちの地なだけで生まれたのはカムラの里。まぁ、ベルナ村も僕にとっては故郷だけどね。

 

お父さんとお母さん、それに村長…それ聞いたら喜ぶだろうなぁ…

 

君のお母さんとお父さんには感謝しているよ。…っと、話がそれたね。…おいで

 

親友がそういうとガルクが親友に近づいた。

 

この子は…僕が最近里帰りした時に里長から貰った子だよ。彼女は、まだハンターとなって日が浅く、人見知りも激しい。だけど、僕にだけは恐れようとはしなかった。だから、凄腕のハンターでもある僕に託したかったんだそうだ。

 

そっか…女の子なんだ?

 

そうだよ。

 

……なんか私たちの旅路、女の子ばっかりだね……

 

相棒、それは私にも言ってますか?

 

うん。

 

だって嬢も女の子だし。親友も、私も、私達のアイルーも女の子だし。

 

まぁ、気が向いたら大陸に帰ってくるといい。ベルナ村長もきっと喜ぶぞ。

 

そっか…結構最近、そっちには向かったんだけどね。

 

そういうと親友は納得したような表情をした。

 

黒龍か……ギルドのほうで討伐隊に名を連ねる君の名前を見たとき、まさかとは思ったが。やはり、帰ってきていたんだね。

 

まぁ、少しだけね。

 

どうせ、今回()一人で撃退したのだろう?

 

いや、エイデン君がいたから…厳密には一人じゃなかったよ

 

エイデン…?

 

親友は疑問気な声を出した後、すぐに手を叩いた。

 

あぁ、彼か。元気そうだったかい?

 

元気だよ?私のことなんて忘れてたみたいだけど。

 

おい……

 

まぁ…あまり私は行かなかったからねぇ…狂竜化とかの討伐クエストはやってたけど。

 

む…それもそうか……っと話がそれたな、他には何かあるかい?

 

……じゃあ、今までずっと気になっていたことを聞いてもいいかな。

 

うん?

 

私は少しためらいながら口を開いた。

 

貴女は……私のことが……好き、なの?

 

ごっふぉ!?

 

あ、むせた。

 

けほっ、けほっ……年頃の女の子が冗談でもそういうことは言うものじゃないと思うよ?

 

真剣に聞いてるんだけど?あと年頃の女の子は貴女もでしょうが。

 

……

 

あ、目を逸らした。

 

…ま、いっか。今は。落ち着いたら、答えを聞かせてね。

 

……あぁ

 

親友は小さくため息をついてから辺りを見渡した。

 

君のオトモを探すというけど、どうやって探すんだい?

 

え?

 

この場所で探すにしても、普通に探したら時間がかかるだろう。どうやって探すつもりなんだい?

 

え、空から探そうと思ってるけど。

 

…………は?

 

親友が呆気にとられたような顔で問い返した。

 

…もう一度聞かせてくれ、どこから探すと?

 

空から。ね、嬢。

 

はい。翼竜を使えば、空から探せると思います。

 

……そ、そうか…

 

若干引いている気もするけど、とりあえず私は翼竜を呼ぶことにする。

 

 

ピュゥイッ

 

 

いつものように指笛を吹く。そうすれば、翼竜たちは来てくれる……は、ず………

 

……あれ?

 

私はもう一度指笛を吹いた。変化は、ない。

 

どうしましたか?

 

()()()()()()()

 

…?そんなはずはないと思いますけど…

 

嬢が指笛を吹いた。

 

……あれ。確かに来ませんね。

 

でしょ?

 

…なら、どうするんだい?

 

う~ん…

 

私が悩んでいると、嬢がふと顔を上げた。

 

……ファスト、トラベル?

 

嬢?…っ!?

 

その言葉の数瞬後に強い閃光。

 

 

アァァァァ

 

 

…翼竜の声

 

閃光が収まったかと思うと、そこには三匹の翼竜…“メルノス”がいた。

 

えっと…嬢?

 

……もしかして、この翼竜達呼び出したの私ですか?

 

た、多分…?

 

え、えぇ……?

 

…ふむ。武器と言い、その翼竜と言い…ここはいろいろと不思議だな。

 

それは私も感じていた。…ともかく。

 

嬢、とりあえず翼竜に自由に飛んでくれるように指示してくれる?

 

そうですね…この辺の地理は分かりませんから自由に飛んでもらった方がいいでしょう。

 

…そういえば、そっちはワイヤーみたいなのって持ってる?

 

糸でいいならば“鉄蟲糸”があるが…

 

そっか。

 

そう言って私は飛んでいる翼竜の足にワイヤーをひっかけた。それを見て嬢もワイヤーをひっかける。

 

じゃ、行くよ!

 

ちょ、詳しく教えろ!?あぁもう、見様見真似だ!!

 

親友も見よう見まねで光る糸を翼竜の脚にひっかけた。

 

やればできるじゃん!

 

伊達にカムラ出身のハンターじゃないんでな…!

 

いや知らないけど。

 

知っておけ!?ていうかこれ、翔蟲とは色々違うな……!?

 

まぁそうでしょ…

 

相棒!これは…!

 

嬢の声に私は周囲の景色を見渡す。そこにあるのは炎、炎、炎、炎…あらゆる場所が炎で焼き尽くされた紅い地だった。

 

これは……ひどいな

 

うん…

 

一体、誰がこんなことを……まさか、この地にも黒龍が…?

 

嬢の言うことももっともだ。だけど、この状況を作れそうな古龍は他にもいる。

 

炎王龍…もしくは炎妃龍。それから煌黒龍とかもこの状況は作れそうだが…あとは、あれくらいか。

 

…紅龍、ミララース。違う?

 

流石。かの古龍ならばこの地獄ともいえる光景を作り出すことは十分に可能だろう。

 

そんな会話をしていた時だった。

 

 

 

みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

 

「「「……!!」」」

 

周囲に響き渡る、その鳴き声。

 

サイン、コール……ですにゃ

 

しかも、この声は……

 

……スピリス

 

相棒、声はあちらから!!

 

嬢がその方向を示した。だが、先程から私達以外の風を切る音がする。

 

「Gaaaa」

 

っ、旦那さん、下にゃ!!

 

なんだ…あの骨の飛竜のようなのは!?

 

親友の声に下を向くと、大量の骨で出来た飛竜が私達の下へと向かってきていた。

 

行かせない、ってことかな……なら、蹴散らしてから

 

……行け

 

えっ…?

 

私は親友が小さく呟いたのを聞き返した。

 

行け!!ここは僕がやる!君はすぐに自分のアイルーと合流しろ!!

 

え、でも…

 

早く行け!!

 

強い剣幕で言われ、空中で片手で狩猟笛を構えた。

 

そら、行け!!約束する、必ず生きると!!

 

………無事でいてよ!?

 

当然だ、僕が君との約束を守らなかったことがあったか!?

 

ない、けど───

 

なら早くいけ!彼女は、君のことを待っているぞ───

 

親友はそこで言葉を切った。

 

───ルーパス!!

 

…分かった!また…後で!!またあとで会おうね───

 

私は、親友の名を呼んだ。

 

───リューネ!!

 

あぁっ!!

 

そう言って親友───リューネは光る糸を翼竜から外し、骨の飛竜へと向かって言った。

 

 

ピュゥイッ!!

 

 

私は指笛を吹き、翼竜に向かう方向を指示する。

 

良かったのですか、相棒!

 

大丈夫!!彼女は───リューネは、私との約束を破ったことは一度もない!!

 

ですが、相手は私達でもわからないものです!!それ…を……

 

嬢の声が消えていった。

 

……リューネ?リューネと、ルーパス……まさか。

 

嬢?

 

相棒。貴女達は……まさか……

 

「「「Gaaaaaa!!!」」」

 

嬢の言葉はそんな咆哮にかき消された。大量の骨。人間に近い影が3つ。それが、私のアイルーとその近くにいる人間たちを取り囲んでいた。

 

…嬢はここにいて!

 

え、えぇ!?

 

私はそんな嬢の驚きの声を無視してワイヤーを外し、空に身を投げ出した。

 

標的は……とりあえず、骨どもから!!

 

空中で弓矢を構え、骨を狙う。狙うのは、骨の継ぎ目。

 

…っ!!

 

矢を放つ。すべての骨を撃ち抜く数の矢を放ち終わった後、人間に近い影3つのうち、一番巨体の相手を狙う。その瞬間───

 

っ!?燃えっ!?

 

3つの影のうち、一つが燃え上がった。一瞬視界を遮るが、5本の矢を番えて巨人のいた場所に放つ。それを、合計5回。25の矢が、巨人を襲うように。そして、総ての矢が狙った敵を襲った時。

 

みゃぁぁぁぁぁ!!

 

視認、した。オレンジの髪の女の子の近くにいるアイルー。紛れもなく、それは───

 

「“焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!!」

 

スピリスーーーー!!

 

にゃぁぁ!!

 

私のオトモアイルー。“スピリス”の姿だった。

 




合流っ!次回はfate側とモンスターハンター側の初顔合わせですかね…


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第6話 言葉

タイトル通りといえばタイトル通りです。


私達の前からあの3騎のサーヴァントの姿が見えなくなった後、杖を持った男性が現れ、その直後弓を持った女性が空から降ってきた。

 

…うん、降ってきた、でいいと思う。降りてきた、なのかもしれないけど。って、またもう一人女性が、それも大きな剣を持った女性が降ってきた……いや、あれは下りてきたの方が正しいね。鳥みたいなのにつかまってたから。うん。

 

「ラ~ク!」

 

「みゃぉん」

 

「あっ…猫ちゃん!」

 

あとから降りてきた女性が言葉?のようなものを発した時、猫ちゃんがそちらに走り寄って行った。

 

(…あっ。あの人たち。あの子の…)

 

あとから降ってきた女性に抱きかかえられた猫ちゃんの表情を見て理解した。あの人たちが、あの子の飼い主だと。

 

〈なんだ…これは!?いったい、どういうことだ!!〉

 

「ドクター?」

 

ドクターの訳が分からないというような声にマシュが反応した。

 

(立香ちゃん、気をつけろ!!先ほどの猫…その子の近くにいる2人!!あれはサーヴァントだ!!それだけじゃない、あの猫も正真正銘サーヴァントだ!!)

 

え……

 

「どういうことよ、ロマニ!!」

 

〈先ほどまで、確かにあの猫はサーヴァントかどうかわかりにくい状態だった!だが今は違う!そこにいる2人と会った瞬間、完全にサーヴァントとして成立したんだ!!恐らく、それが正しい状態なんだ!!失われていた霊基が彼女らの手によって補填された!!つまり───〉

 

「この場所に───」

 

〈───4()()()()んだ!!その場所に!!マシュ以外のサーヴァントが!!〉

 

「なっ……!」

 

もし、あのサーヴァントたちが全員私達の敵だった場合、私たちの生存は───絶望的。

 

そう思った直後、ドクターがさらなる絶望に突き落とす言葉を放った。

 

〈なっ…!まずい、その場所に近づく()()()3()()()()()()()()()()()!!こんなの、もう絶望的じゃないか!?〉

 

今いた4騎と、さらに来る3騎。合計、7騎。でも、それって……

 

「おかしいわよ!!」

 

所長が叫んだ。

 

「だって───聖杯戦争は、聖杯戦争で召喚されるのは7騎のはずでしょ!?さっきまでで倒されたのは4騎!この特異点に───1()1()()()()()()()()()()じゃない!!」

 

〈それ、は…っ!来たぞ!!〉

 

ドクターの声にサーヴァント達の方を見ると、一人の男性と犬と猫が空中から降りてきた。男性が背中に背負っているのは……ハンマーのような、何か。多分、鈍器で間違いないと思うけど。

 

「…」

 

直感は反応してない。なら、敵と断定して逃げるのはまだ早い…と思う。

 

「あ、あなた達は誰なの!?」

 

だから、まず私は問いかける。そしたら、マシュが私の前に盾を構えて立った。

 

「先輩、所長、私の後ろへ。敵意はなさそうですがあちらもサーヴァントの様ですので。」

 

そう言ったマシュの体は震えてる。…でも、今回はそれに頼ることにする。

 

「頼んだわよ、キリエライト!」

 

「はい、所長…」

 

「…ありがとう、マシュ。頼りにさせてもらうね。」

 

正直、私も怖い。

 

「……やれやれ、助けてやったのに随分と不審がられたもんだ。」

 

ローブ、だったかな。それを着た男の人がそうつぶやいた。

 

「ま、次々と襲われてちゃそうなるわな!」

 

私としての第一印象は、“元気”。そして“軽快”。

 

「んじゃま、緊張をほぐすために自己紹介と行くか!俺の真名は“クー・フーリン”!そこにいるあいつらは知らねぇが俺は話が通じるサーヴァントだぜ。」

 

クー・フーリン。それが、今話しかけてきた男の人の名前。

 

「…んで、そこにいるお嬢ちゃんらは何なんだ?」

 

クー・フーリンが猫ちゃんたちのいる方を向いてそう言った。

 

「こいつらを害しなかったってことはお前さんらも狂ってないんだろ?何もんだ?」

 

「……」

 

女性たちは何も答えず、私の方を見つめていた。

 

「あなたたちは…誰?」

 

「…」

 

大きな剣を背負った女性が口を開いたのが見えた。

 

「ディジュ?」

 

………うん?

 

「アーダ、サムレティカ?」

 

…あれ??

 

「えっと……え?」

 

「……ア、アーダー!」

 

大きな剣を背負った女性が弓を使っていた女性に声をかけた。

 

「サムレ、フェクトリスミダ…」

 

「デュー…サクタ、ラムセルミス…」

 

…うん。理解。分かりたくなかったけど、最悪の状態だって理解した。

 

 

 

()()()()()()()。もしかしたら相手にはわかってるのかもだけど、私達に言葉が通じない。

 

 

 

 

───side ルーパス

 

 

 

どうしましょう、言葉が通じません…

 

う~ん…困ったね…

 

私達の言葉が通じない。相手の言葉の意味はなんでか知らないけど分かる。だけど、私達の言葉が通じないのは流石に辛い。

 

速く警戒解きたいんだけどね…どうしたものかな

 

どうする、このままでは何もできないぞ?

 

言葉の壁だね……ん、言葉?

 

私は何かを思い出せそうだった。

 

どうしましたか?

 

言葉、言葉……嬢、そういえばさ

 

はい

 

穴の調査に来る前、大団長から何か渡されなかったっけ?

 

大団長から…?……あっ!!

 

「ねぇ!あなたたちは誰なの!?名前だけでも、聞きたいんだけど!」

 

オレンジ色の髪の少女が叫んでいるのが聞こえる。

 

ごめんなさい、ちょっと待って!

 

「…やっぱり、言葉が分からない……」

 

そんな少女の呟きが聞こえた。やっぱり通じてなかったんだ…

 

ありました、これです、相棒!

 

嬢がアイテムポーチから取り出したのは一冊の本。編纂者としての本じゃなくて、いろんな言語が書かれてる本。

 

ちょっと見せてもらえる?

 

はい!

 

私はその本を受け取って中を開いた。

 

「……なぁ、早くしてくれねぇか。これ以上時間かけてっと、敵として認識するぜ…?」

 

その声を聴いて、私は言葉を探した。そして───

 

あった

 

“日本語”。そう書かれた言語の発音が、彼女たちの言葉と一致した。

 

…この言葉を使えば、意思疎通できると思う。

 

ふむ…ルーパス、君達はこんな本をどこで?

 

今はそれどころじゃないからあとで話す。

 

リューネにそう言って少女たちのほうに向きなおった。

 

「……言葉。」

 

「え…?」

 

「わかる?私の、言葉。」

 

少女が驚いた表情で頷いた。それに私は、肩をなでおろした。それと同時に、分かったことがある。

 

 

 

この世界は、()()()()()()()()()()()()だ。私達は、大団長や…大団長と一緒にいたことのあるアルテミスという人のように、()()()()()()()()()()()

 

 

 

───side 藤丸立香

 

 

 

「……言葉。」

 

「え…?」

 

その女性が放ったのは、紛れもなく日本語だった。

 

「わかる?私の、言葉。」

 

慌てて私は頷いた。それと同時に彼女が安堵したように息を吐いた。

 

「よかった……通じなかったら、どうしようかと思って」

 

「え、えっと……え?え??」

 

「なんでい、普通に喋れる……違うな、その本のおかげか。じゃ、もう一度名乗るか。俺の名は…」

 

「クー・フーリン、でしょ?言葉自体は聞こえてたから、名乗ったのも分かったよ。」

 

「……お前さんら、何もんだ?」

 

クー・フーリンさんが警戒心を高めた。

 

「安心して、敵じゃないから。…多分。…それよりも」

 

彼女は猫ちゃんを抱き上げて私の方を見た。

 

「この子を保護してくれたのはあなた?」

 

「え、あ、はい!」

 

「…ありがとう。」

 

「みゃお!」

 

猫ちゃんが手を上げた。お礼を言ってくれてるのかな。

 

「…二人とも、言葉分かった?」

 

彼女はハンマー(一応ハンマーということにしておく)の男性と大きな剣の女性の方を向いてそう言った。

 

「はい、相棒。なんででしょう、別の言葉なはずなのにストンと認識できますね」

 

「同感だ。これは何故だ…?」

 

「…まぁ、それはあとにしようか。」

 

今まで私の知らない言葉を使っていた全員が日本語をスラスラ話しているのは少し違和感があるなぁ、とか思った。

 

「…とりあえず、移動しない?少し休めそうなところまで。私達もちょっと今の状況を把握したいから、安全な場所で話したいんだけど。」

 

「…だって、ドクター。」

 

私はドクターに指示を仰いだ。

 

〈僕より所長に指示を仰いだ方がいいと思うけど。まぁいいや、所長?〉

 

「…なんですか。」

 

〈どうか指示を。休むか、休まないかです。立香ちゃんは元々一般人、今倒れられても危ないと思いますが…〉

 

「…いいでしょう。休息も重要です、一度拠点に戻りましょう。そこのサーヴァントたちもです。」

 

「へいへい…っと。」

 

クー・フーリンさんは即座に反応した。だけど、猫ちゃんの飼い主さんたちは反応しなかった。

 

「なにしてるの、あなた達も早く来なさい!!

 

「…あれ、私達も呼ばれてたの?」

 

「あなた達もサーヴァントでしょ。呼ばれてないとでも思ってたの?」

 

所長がそう言ったとき、彼女たちが首を傾げた。

 

「「「サーヴァント……って何??」」」

 

「「……………はぁ?」」

 

所長が“何言ってんのコイツ”みたいな目で見てたのが印象的だった。そのあと、“いいから来なさい”って言われて霊脈の場所まで行くことになった。ちなみにフォウくんはなんかため息をついてた。

 




ハンマーのようなもの……うん、狩猟笛ってそのまま見たら鈍器にしか見えないような気もしなくもないのでこうしました。
ちなみにモンスターハンターの言語───この作品では“竜人語”と言うようにしますけど───の方は結構適当です。現時点で私の持っている資料が少なすぎて適当に設定するしかなかったんです。許してください。実際に言葉の翻訳ができるようだったらそれを使うようにします。

竜人語の意味↓

「ラ~ク!」→「お~い!」

「ディジュ?」→「あなたは?」

「アーダ、サムレティカ?」→「あなたたちが、この子を?」

「……ア、アーダー!」→「……あ、相棒!」

「サムレ、フェクトリスミダ…」→「これは、もしかしてですが…」

「デュー…サクタ、ラムセルミス…」→「うん…これは、多分…」


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第7話 自己紹介と現状把握

1日1話書き上げるの少し辛いですね…

UA2,000ありがとうございます!


「あれ?こんな本あったっけ?」

 

霊脈のところに戻ってきた私たち。少しみんなから離れて周囲を見渡してたら見慣れない赤い装丁の本があって私は思わずつぶやいた。中を見たけど何も書いてない。

 

「…ま、いっか。」

 

私はその本を拾い上げてみんなのところに戻ることにした。

 

「マシュ、戻ったよ~」

 

「あ、お帰りなさい、先輩。…その本は?」

 

「今すぐそこで拾ったんだけど…」

 

「危険なものでは…?」

 

「なんも書いてないよ?ほら。」

 

私はマシュに本の中を見せた。

 

「……確かに、何も書かれていませんね。」

 

「でしょ?…で、所長は…」

 

マシュが所長のいる方を見た。

 

「…もうしばらく待った方が良いでしょう」

 

〈その方が良いだろうね。サーヴァントに対してサーヴァントとは何かを教えるっていうのはなんか変な気がするけど。〉

 

「……そっか」

 

…それからしばらくして、所長の話が終わったみたいだから所長たちと合流した。

 

「…サーヴァントは使い魔、かぁ…でもなぁ…」

 

弓を持った女性……あれ、よく見ると女の子?がそう呟いてた。

 

「あら、戻ってきてたのね。それじゃあ、説明してもらいましょうか。」

 

所長がそう言って女性たちのほうを見た。

 

「あなたたちは一体誰?どんなクラスのサーヴァントなの?」

 

「…私は…」

 

一番最初に言葉を発したのは弓の女の子だった。

 

「私は…“ルーパス”。“ルーパス・フェルト”。新大陸古龍調査団第5期調査団のハンターで、龍歴院ギルド所属のルーパス・フェルトです。それで、こっちが私のオトモアイルーの…」

 

「“スピリス”ですにゃ。助けていただきありがとうございますにゃ。」

 

〈キェェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!〉

「猫ちゃんが喋った!?」

「猫が…喋った!?」

「ネコさんが喋った…!?」

「フォウ、フォウ!?」

 

さっきまで私たちが保護してた猫ちゃんが喋って私達はそれぞれの反応をしてた。あとドクターはうるさい。

 

「えっと……そんなに驚くことなの?」

 

ルーパス、と名乗った女の子が疑問そうに話しかけてきた。

 

「はっはっはっ!お前さんら、さては神代の英霊だな?それだったら猫が喋ってもおかしかねぇ!」

 

「神…?アルバトリオンのこと?」

 

「は?」

 

「え?」

 

…なんか、話が通じてないみたい。

 

「と、とりあえず…!他の人の名前とかも聞きたいな。」

 

「あ、じゃあ次は…嬢。で、いい?」

 

「僕は構わないが…彼女はいいのかい?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

そう言って大剣の女性が口を開いた。

 

「私は“ジュリィ”。“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”です。新大陸古龍調査団第5期調査団の編纂者で、相棒…ルーパスのパートナーです!」

 

「ジュリィさん…でいいの?」

 

「はい!ちなみに私のモットーは“迷ったら食ってみろ”です!!」

 

「イビルジョーか…」

 

「…まぁ、嬢って新大陸にいる人たちの中でたまに“ウケツケジョー”って言われてるから…」

 

「なんだそれは…」

 

「相棒!?」

 

イビルジョー、というのが何か分からなかったけど、なんか仲良さそう。

 

「で、最後は僕らか。」

 

最後に、残っていたハンマーの男性が口を開いた。

 

「僕は“リューネ”。“リューネ・メリス”。ルーパスと同じで龍歴院所属のハンターだ。ちなみにこっちはオトモアイルーの…」

 

「“ルル”ですにゃ。」

 

〈マタシャベッタァァァァァァァ!!〉

 

「うるさいですにゃ。ちなみにこっちはオトモガルクの“ガルシア”ですにゃ。人見知りなので隠れていますがにゃ…」

 

ルルさんにバッサリ切られてドクターが落ち込んだ。

 

「じゃあ、よろしく…なのかな?ルーパスちゃん、リューネ君。」

 

「「……うん?」」

 

二人が首をかしげた。あれ、私何か間違えたこと言った?

 

「……君?」

 

「あれ?リューネ君って男の子…だよね?」

 

「ぐはっ…」

 

「あっ…」

 

リューネ君がその場で地面に手をつき、ルーパスちゃんが何かを察した表情をした。

 

「え、違うの?」

 

「…えっと…ごめん、名前聞いてなかった」

 

「あ、立香だよ」

 

「あ、ごめん…えと、立香、でいいかな…リューネは女の子だよ?」

 

「………ゑ?」

 

…って、いうこと…は……

 

「リューネ君、じゃなくてリューネちゃん…なの?」

 

ルーパスちゃんが頷いた。

 

「…ご、ごめんなさい、リューネちゃん!まさか女の子だと思わなくて…」

 

「ごふっ…」

 

「リュ、リューネちゃんーーー!?」

 

リューネちゃんが撃沈した。それを見たルーパスちゃんが遠い目でつぶやいた。

 

「なんか、この光景見るの久しぶりだなぁ…」

 

「いや、相棒?助けません?」

 

「よくあることだから何とも言えないけど…とりあえず秘薬飲ませれば少ししたら復活するよ」

 

「秘薬でも時間かかるんですか…」

 

「精神的なものだからね…まぁ自業自得といえばそうなのかもだけど。」

 

言ってる場合じゃないと思った私は多分間違えてない。ちなみにルーパスちゃんからリューネちゃんは何か食べさせられて、そのあと少ししたら復帰した。

 

「えっと…私たちは自己紹介終わったから、そっちの自己紹介聞きたいんだけど…」

 

「あ、ごめん…えっと、じゃあ私からでいいかな。」

 

「いいよ?あとリューネはちょっと凹んだままだからあまり反応しないのごめんね…」

 

「う…罪悪感が……」

 

「よくあることだから。」

 

よくあることなの?って思ったけど、とりあえず。

 

「私は“藤丸 立香”。一応カルデアのマスター?らしいんだけど…」

 

「カルデア?」

 

「うん。人理保証機関、とかなんとか…」

 

「人理継続保証機関フィニス・カルデアです。覚えなさい。」

 

所長に訂正かけられちゃった…

 

「ふ~ん…あなたは?」

 

「人理継続保証機関フィニス・カルデア所長、“オルガマリー・アニムスフィア”です。一応、藤丸の上司に当たります。」

 

「将軍みたいなものでしょうか…?」

 

「総司令と同じ感じだって考えていいと思うよ、嬢。」

 

「なるほど!」

 

やばい、ルーパスちゃんの言ってることが分かりにくい…

 

「それで、盾を持っているあなたは…?」

 

「先輩のサーヴァントの“マシュ・キリエライト”です。こちらはフォウさん。

 

「フォウ!」

 

フォウくんがあいさつした…のかな

 

「それで、先ほどから声だけが聞こえているのが…」

 

〈医療部門の“ロマニ・アーキマン”だ。唐突ですみませんがミス・ルーパス、そしてミス・リューネ。あなたたちは何の英霊でしょうか?〉

 

本当に唐突に聞いた。

 

「…ミス、っていうのは“さん”とかの敬語系の意味だよね?だったらそれはいらない。敬語じゃなくていいよ。」

 

〈で、ですが…〉

 

「それと一つ確認させて。英霊っていうのは聞いた限りだと、英雄とされる亡くなった人なんだよね?」

 

〈え、えぇ…そうですが〉

 

「そして、サーヴァントというのはその英霊を使い魔として召喚したもの。そのサーヴァントが、私たちとそこにいるクー・フーリン。」

 

「おう。」

 

「…なら、私たちが“英霊”なのはおかしいよ。」

 

ルーパスちゃんはそう言った。その言葉に所長とクー・フーリンさんは怪訝そうな目をした。

 

「…だって、私たちは()()()()()()()。ね、スピリス。」

 

「にゃ。私たちは死んでいませんにゃ。穴の調査に来て、この場所に飛ばされたんですにゃ。」

 

「「〈穴の…調査?〉」」

 

私とマシュ、ドクターの声がそろい、それにルーパスちゃんがうなずいた。

 

「新大陸に突如現れた謎の穴。ボウガンの弾や、スリンガーの弾、弓の矢をその穴の中に打っても返ってくることはなく、人が近づいても何も起きない謎の穴。レーシェンの“門”にも似てる気はしたけど、私たちが見た門とは少し風貌が違う気がしてた。」

 

「レーシェン?それって、ウィッチャーの…?」

 

私は結構ゲームとかやったりアニメとか見る。だから、聞いたことのある単語が聞こえて、それを口にしたんだけど…なんか、ルーパスちゃんが反応した。

 

「ウィッチャーを知ってるの!?」

 

「え…う、うん…?ゲームになってるし…」

 

「ゲーム…?ウィッチャーが…ゲラルトがいるんじゃなくて?」

 

「私の知る限り、ウィッチャーっていう人はこの世界にいないかな…」

 

「…そっか」

 

この感じ、もしかしてウィッチャーと会ったことがあるのかな。

 

「…ごめん、話が逸れたね。私と嬢、それからスピリスはその穴の調査、穴がどこに繋がっているかの調査に来たの。流石に近くで見ているだけじゃ分からなかったから、その穴に触れたら…」

 

「この地にいた、というわけです。」

 

「穴に触れて冬木に…?」

 

〈なんか、レイシフトと似てるような気がしなくもないですね。〉

 

それはなんとなく思った気もする。

 

「…あれ、冬木っていうのはこの場所の名前?」

 

「はい。ここは冬木。西暦2004年の日本にある冬木という都市です。」

 

「日本…?」

 

「……あれ、日本を知らない?」

 

ルーパスちゃんは少し遠慮がちにうなずいた。

 

「生きてたなら日本くらい知っててもおかしくねぇだろ?なんで知らねぇんだよ?」

 

クー・フーリンさんは知ってるみたい。クー・フーリンさんの言葉を聞いて、ルーパスちゃんが少し悩んだ表情になった。

 

「…立香、いくつか聞いていい?」

 

「うん?」

 

「……フラヒヤ山脈、アルコリス地方、龍歴院、ハンターズギルド、ユクモ村…」

 

唐突に何かの地名?を言い始めた。

 

「シキ国、ジォ・ワンドレオ、シュレイド王国……ミラボレアス。」

 

そこまで言ってルーパスちゃんは私を見た。

 

「今私が言ったものの中で、どれか一つでもいい…聞き覚えは、ある?」

 

その問いに、私は首を横に振った。色々なゲームをしてるけど、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…そっか。」

 

「今のが何だっていうのよ?」

 

「…みなさん、落ち着いて聞いてください。」

 

「ジュリィ…さん?」

 

ジュリィさんが確信したような目で私たちにこえをかけた。

 

「…私たちは、()()()()()()()()()()()()()()。どうやら私たちは、元々いた世界からこの世界へと飛ばされてしまったようです。」

 

…………え?

 

「どういうことだ、それは?」

 

「今、私が言った地名や組織名、そしてミラボレアスという名前。これらは、結構有名な名前なの。特にシュレイド王国なんて、おとぎ話とかにもなってるくらいだから()()()()()()()()()()()()()。…アヤ国以外は、だけど。」

 

「相棒、あそこに関しては全く情報がないのでどうしようもありませんよ…」

 

「そうなんだけどそれ言っちゃおしまいだよ…」

 

なんかよく分からないけど…

 

「世界が違くて、ルーパスちゃん達は調査中に召喚された、ってことでいいのかな」

 

「ん…まぁ私達はそんな感じだけど……リューネは?」

 

「…うん?」

 

「…まだ凹んでるの?いい加減にしなさいな。」

 

「あぁ…すまない」

 

「…いい加減スカートとかの装備にすれば?性別間違われるの嫌でしょ?」

 

「考えておこう…」

 

一応持ち直したみたい。

 

「それで、こちらに来た時だったな?」

 

「うん」

 

「ルル、ガルシアと共に一狩り行こうとしてたら足元に穴が開いたんだ。それに落ちていったらこの地にたどり着いた。」

 

「…だって。…ちなみに何狩りに行こうとしてたの?」

 

「む…ドスマッカオだが。最近大量発生したらしい。ベルナ村長の依頼で狩りに行こうとしていたところだ。」

 

「あぁ…」

 

なんか遠い目をしてた。なんか思うことでもあるのかな?

 

「とりあえず、私達から話せるのはこんな感じかな。クラス…だっけ、それは私達も分からないかな?」

 

「…ロマニ、霊基パターンはどうなっているかしら。」

 

〈…()()()()()()()()()()()()()()()です。あの猫…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。〉

 

「そう…」

 

〈ただ、一つだけ。〉

 

「?」

 

ドクターがジュリィさんの方に目を向けた。

 

〈ミス・ジュリィ、でしたね。〉

 

「あの…私もミスとかいりませんよ?」

 

〈ではジュリィさん、と。貴女の霊基パターンはキャスターです。〉

 

「キャスター、ですか?確か魔術師、ですよね」

 

「俺と一緒、ってことか?だが、魔術師要素どこにあるんだ?」

 

それは思った。ちなみにジュリィさんも首を傾げてた。

 

「…ところで、ジュリィさん達は…」

 

マシュが遠慮がちに声を発した。

 

「“宝具”は使えるのですか?」

 

「ん?俺の宝具は見せたよな?確か。」

 

「クー・フーリンさんのはウィッカーマン、でしたっけ。」

 

「そうだ。“焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”、それが俺の宝具だな。…んで、嬢ちゃんたちは…」

 

ルーパスちゃん達は首を傾げてた。

 

「あの…私達宝具が何か分からないんですけど……」

 

「はぁ?さっき教えたじゃない。」

 

「宝具というものが何か、じゃなくてどんな宝具を持っているかが分からないんだ。僕も、ルーパスも。」

 

その言葉に所長が面倒そうな顔をした。

 

「はぁ?リューネはともかく、ルーパスはさっき使ってたじゃない?」

 

「え?」

 

「さっきの全体射撃よ。あれが宝具じゃなくて何だというのよ。」

 

確かに、さっきの射撃は凄かった。けど、それを聞いてルーパスちゃんが首を傾げた。

 

「あれは()()()()()なんだけど…?」

 

「…は?」

 

「ただただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだけど……何かおかしいかな?」

 

「ごめん、色々おかしいと思うよ、それ。」

 

「…まぁ、私が編み出した奥義だからなぁ…おかしいって言われても仕方ないのかな?」

 

「僕と一緒にいたころは()()()()()()()()()()()()()使()()()()()がおかしいのだろうか…?僕も奥義はあるが…」

 

……どうやら、ルーパスちゃん達って色々とスペックがおかしいみたい。

 




ちなみにハンター、アイルー、ガルク、受付嬢の名前はオリジナルです。そしてクラス判明してるの受付嬢だけっていう…
さてと…あと本格的に登場してないのは“棘の生えた小さな龍を従えた謎の本を持つ少女”ですけど。冬木で登場するのは間違いないのでお待ちください。

追記:この作品では“モンスターハンター”シリーズはFateの世界に存在しないことにしてあります。


あらすじ内の用語解説

とある大陸の青い星→ルーパス・フェルトのこと。

とある村々の英雄→リューネ・メリスのこと。

棘の生えた小さな龍を従えた謎の本を持つ少女→現在未合流

大盾を持つ少女→マシュ・キリエライトのこと。

オレンジ髪の少女→藤丸 立香のこと。

銀髪の少女→オルガマリー・アニムスフィアのこと。


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第8話 通り名と特訓

特訓開始。あと通り名…異名みたいなのが明かされます。


「宝具が使えない、かぁ…」

 

ルーパスちゃんはマシュの話を聞いて少し悩んでいた。

 

「私とリューネは奥義があるからともかく…ここぞというときに大技が使えないのはちょっと辛いかもね…」

 

「確かに…かと言って奥義を教えても使えるかどうかなど分からないしな…」

 

「うん…結構特殊って言われてたもんね、私達の奥義。」

 

そのルーパスちゃん達の話を聞いてて気になることができた。

 

「…ねぇ、ジュリィさん。」

 

「はい、どうしました?」

 

「さっきからルーパスちゃん達が言ってる“奥義”、って何?」

 

「奥義、ですか?」

 

さっきから少し話に出てくる奥義。ルーパスちゃんが言うには技術の一つらしいけど。

 

「奥義というのは、ハンターさんたちが本来一生涯をかけて編み出す技で、正式名称“狩人奥義”のことです。“技を極めたその先に、その技の真髄たる奥義あり”。…私達の世界で最初に奥義を編み出した人の有名な言葉です。ただ、奥義を編み出せる人なんて本当に少なく、その編み出す前に狩猟時、または寿命などで死に至ることもあるくらいです。」

 

「へぇ…そんなに難しいの?」

 

「最低でも30年ハンターをやってないと編み出すことはできない、というのはよく言われることです。」

 

「さ、30年……」

 

…ってことは、ルーパスちゃんたちは私より年上になるんだけど…

 

「…ですから、私は相棒が奥義を持っているなんて思ってなかったんです。というか初耳です。」

 

「え?」

 

「相棒に年齢を聞きたいのでしたら直接聞いてはどうです?…相棒!」

 

「ん~?」

 

ルーパスちゃんがジュリィさんの声に反応した。

 

「何、嬢?」

 

「立香さんが聞きたいことがあるそうです。」

 

「…?何?」

 

「え?え、えっと…」

 

呼ばれちゃったし、聞いてみることにする。

 

「ごめん、失礼かもしれないんだけど……ルーパスちゃんって今いくつなの?」

 

「私の年齢?」

 

「うん」

 

「…19だけど。」

 

「「〈若っ!?〉」」

 

嘘っ、私とほとんど変わらない!?

 

「ついでに言えばリューネも私と同い年だけど」

 

「ちなみに私は23ですね」

 

あ、ジュリィさんの方が年上だった…って、ちょっと待って!?

 

「え、ジュリィさん!奥義を持つのには30年かかるんだよね!?」

 

「平均では、ですけど。…ちなみに相棒、奥義を編み出すまでにかかった時間は…?」

 

「えっと…3年、()()()()()()1()1()()かな。リューネは?」

 

「同じく3年だ。」

 

「……やっぱり、天才だったのですね、相棒たちは…」

 

ジュリィさんがそう呟いた。…天才?

 

「“天才”。()()()()()1()5()()()()()()()()()()()()()のことを言います。…聞いたことがあったのですけど…」

 

そう言ってジュリィさんがルーパスちゃんたちのほうを見た。

 

「…“ルーパス・フェルト”。“リューネ・メリス”。“スピリス”。“ルル”。……あなたたちは、“歴戦の天才集団”…なのですか?」

 

少し震えた声でそう言った。

 

「……え、何それ?」

 

ルーパスちゃんは心当たりがないみたい。

 

「“夫婦”は聞いたことはあるけど、“天才集団”?それは聞いたことない…」

 

「……相棒。“大陸の最強夫婦”、というのはご存じで?」

 

それを聞いた時、ルーパスちゃんの顔が引き攣った。

 

「それ私の()()()()()()()()()()()()()…」

 

「……やはり。“大陸の最強夫婦の娘”。それが、私が知る天才集団の一人、“ルーパス・フェルト”という人の情報です。」

 

それを聞いてルーパスちゃんが頭を押さえた。

 

「それ十中八九私じゃん……大陸の最強夫婦がどこに住んでいるかわかる?」

 

「ベルナ村…」

 

「完っっ全に私だぁ……」

 

「げ、元気出すにゃ旦那さん!!」

 

な、なんか、すごい落ち込んでるけど大丈夫なのかな…?

 

「…ところで、夫婦って?」

 

「え?あぁ…ほら、リューネって男の子みたいでしょ?」

 

「ぐふぅっ」

 

うわぁ……今、素でリューネちゃんの精神にダメージ与えたよ、ルーパスちゃん…

 

「で、私が…まぁ、自分でいうのもあれだけど完全に女の子で、すごくリューネと仲がいいから“夫婦みたい”ってたまに言われるの。ちょっと装備も関係してるけど。」

 

「そ、そうなんだ…」

 

「まぁ、仲いい人に聞いた限りだけどね。私たち女の子同士なんだけどなぁ…ってたまに思うけど。」

 

「そ、そっか…あの、リューネちゃん大丈夫?」

 

さっき精神的ダメージを受けてたリューネちゃんに声をかける。

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

〈それ大丈夫じゃないときのネタじゃないかい?〉

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

「…まぁ、リューネは大丈夫だと思うよ。私が大陸にいたころは姉妹というより夫婦って言われることの方が多かったし。今はただの幼馴染なんだけどね。」

 

「…ルーパスが新大陸に行ってからあまり言われなくなったのでな…油断していた。」

 

「あぁ……」

 

な、なんかよくわかんないけど…リューネちゃんが大丈夫ならいっか。

 

「…そういえば…クー・フーリン。宝具っていうのは英霊の本能みたいなものなんだよね?」

 

「ん?おう。」

 

「だったら、極限まで追い詰めれば自動的に、本能的に発動できるんじゃないの?」

 

「……ほぉ?」

 

クー・フーリンさんが目つきを鋭くした。

 

「英霊じゃねぇ、って言ってる割にはよくわかってんじゃねぇか。」

 

「ハンターは…特に古龍種と戦うハンターは常に死と隣り合わせだからね。ハンター業始めてからたった1年で古龍種と…しかも禁忌クラスと戦うことになった私達がここまで生きてられる秘訣みたいなものだし。」

 

「……古龍種っていうのが何か分からんが…お前さんら、さては結構な死線潜り抜けてきてんな?」

 

「まぁその時はお父さんとお母さんも一緒に来てくれてたからまだね…」

 

なんかルーパスちゃんとリューネちゃんがすっごい遠い目をしてた。

 

「…ねぇ、古龍種って?」

 

「自然災害。って言ったらわかる?そこにただ在るだけでその場所の生態系を乱すもの。」

 

「……うわぁ」

 

なんか想像以上にやばいものと戦ってたみたい。所長とマシュも顔を青くしてた。

 

「普通の古龍種ならまだいい…が、一国を滅ぼした伝承のある古龍種などはこちらも死を覚悟して挑まねばならんからな……」

 

「国を…滅ぼす…?」

 

「さっき言ったミラボレアスが最たる例だね。まぁ、機会があったら教えてあげるよ。…で、クー・フーリン。」

 

ルーパスちゃんが視線を向けた先、つまり所長の背後にクー・フーリンさんがいた。

 

「おう、じゃあ特訓だ。」

 

「ちょ…なんで私のコートにルーンを刻んでるのよ!?ていうかいつの間にっ!?」

 

「あんたなら雑魚ぐらい何とかできんだろ?だからだよ。ほれ、来るぜ。」

 

そう、クー・フーリンさんが言ったとき───

 

「Grrrrr……Zuaaaaaaa………!」

 

骸骨が、その場に現れた。

 

「意味が分からないんですけどーーーー!!?」

 

所長がそう叫んだ…いや、骸骨だけじゃない。あれは……

 

「キシャァァァァァ……」

 

「骨の……ドラゴン!?」

 

「いえ、先輩!あれはワイバーンです!!骨、ですが…」

 

「あ~……リューネ、あの竜、倒してきたんだよね?」

 

「む…視界内にいる骨の竜は全部叩き潰したはずだが…残党が残っていたか。」

 

リューネちゃんは戦ったことあるのかな?

 

「残党を残したのは僕の責任だろう。ならばあの竜は僕が始末するとしよう。」

 

「じゃあ私はオルガマリーにサーヴァントが近づかないか見張りながらリューネを援護するね。」

 

「頼む。」

 

「…あ、言っておくけど私は最悪な事態の時の保険。オルガマリーと立香を守れるかどうかはマシュ、あなたにかかってるからね。」

 

私達を守れるかはマシュ次第。少しわかりにくいけど、ルーパスちゃんはこっちを…マシュを手助けするつもりはないみたい。

 

「じゃあ、行ってこよう。」

 

リューネちゃんは何か手元から光が伸びたかと思うとそちらに引き寄せられるかのように跳んだ。

 

「まずは…墜ちろ!!」

 

一瞬でドラゴン、じゃなくてワイバーンに近づいたかと思うと、ハンマーを上からたたきつけた。

 

「ギャァァァァ!?」

 

「ルーパス!」

 

「はいはい───弓固有狩技、壱ノ壱…“トリニティレイヴンI”ッ!!」

 

その場で構えたルーパスちゃんが矢を番えて三連射。全部の矢が地面に落ちたワイバーンを貫通していった。

 

「───強い」

 

「おらおら、よそ見してる場合じゃねぇぞ!!」

 

「…先輩、所長、私の後ろへ!先輩は戦闘準備をお願いします…!」

 

「うん、マシュ!」

 

ルーパスちゃんたちは、大丈夫。だったら、私は私を先輩って呼ぶマシュの成長を見届けたい。そう思って、私はマシュの方に目を向けた。

 




奥義
ハンターたちそれぞれが編み出す究極の絶技。ハンターたちが目指す狩猟技術の到達点。ハンターを志す者はこの奥義を編み出すのを目標とすることが多い。編み出すために30年かかると言われているが、人によっては15年以下、下手すれば10年以下で編み出すこともある。なお、奥義を編み出すのはかなりの難易度を誇り、下手すれば奥義を編み出す領域にたどり着けないまま寿命による死を迎えることも少なくはない。


狩技
ハンターたちが使う狩猟技術の一つ。ハンターが精神力を爆発させて放つ大技。奥義は人それぞれが編み出す本人に対して最適の技術であり教えても使えるかどうかが分からない技術なのに対し、こちらは誰かに教わり、扱うことのできる技術。そもそも奥義は“狩猟技術の到達点”なのに対し、狩技は“精神力を爆発させて放つ大技”なので別物といえば別物。



ちなみに奥義はこの作品オリジナルです。モンスターハンターwiki見たら狩技の方に“言わば「奥義」である”って書いてあったんですけど、この作品では狩技と奥義は別物ってことで、お願いします。
それと、ルーパスはモンスターハンター:ワールド、及びモンスターハンター:ワールド アイスボーンのハンターを基に、リューネはそれ以前のシリーズとモンスターハンターライズのハンターを基にしてます。にも関わらず、ルーパスが狩技を使えるのはベルナ村出身だからです(主にカリスタ教官のせい)。まぁ、ルーパス達の過去に関してはまたいつか話すと思います。…多分。


追加報告:活動報告の方でちょっとしたお話があります。それと、少しの間アンケートを取ります。活動報告の方へは私のページを開くのが面倒な方は下のURLからどうぞ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=253895&uid=316165


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第9話 笛と奥義と宝具

前書きって書くことなくなるんですよねぇ…
UA3,000突破、お気に入り10件突破ありがとうございます!(なんで投稿してなかったのに増えたんだろう…?)


「限界、です───これ以上の連続戦闘、は───すみません、クー・フーリンさん──」

 

あれからマシュは戦い続けて、今、体力が切れた。

 

「こういった根性論ではなく、きちんと理屈にそった教授、を───」

 

「…はぁ」

 

クー・フーリンさんがため息をついた。

 

「───わかってねぇなぁ。こいつは見込み違いかねぇ。ルーパスとリューネっつったか、あいつらのほうがよっぽど見込みがあるな。」

 

「え…」

 

「ほれ、見てみ。」

 

その言葉に私達がルーパスちゃん達の方を見ると、()()()()()()()()()()して、リューネちゃんがこっちを見つめてた。

 

(あの、短時間で───?)

 

「あいつらが相手にしてたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。それを、()()()使()()()()()()させやがった。骸骨どもより多く、骸骨どもより強い。そんなやつを、()()()()()()()()しやがった。同じ人間なんだろう?なんでこうも違うかねぇ。」

 

「っ…」

 

「…まぁいいか、そん時はそん時だな。んじゃあ次の相手は俺だな。」

 

「え……」

 

「味方だからって遠慮しなくていいぞ。俺も遠慮なしで立香を殺すからよ。」

 

その言葉からは、本気の意思が感じられた。私の直感も、強く反応してるから本気で間違いない。

 

「クー・フーリン殿。その話、僕も入っていいだろうか?」

 

「あん?別にいいが、流石に二人がかりは酷じゃねぇか?」

 

「いや…僕は攻撃しない。だがクー・フーリン殿を補助することはできるだろう。」

 

リューネちゃんが相手になる。それだけで、どれだけの差ができるのか、考えたくもなかった。

 

「お前さんもキャスターだったのか…?…ともかく、邪魔だけはすんなよ。」

 

「あぁ。約束しよう。…ルーパス。」

 

「一応用意はしておくけど…無理させすぎちゃだめだよ?こっちも調合量に限りはあるし。」

 

「あぁ、分かっている。」

 

そう言ってマシュとクー・フーリンさん、リューネちゃんは向かい合った。

 

「…マスター、下がってください…!私は───先輩の足手まといにはなりませんから……!」

 

「…うん。信じてる。」

 

「そうこなくっちゃな。んじゃあまぁ、まともなサーヴァント戦と行きますか!」

 

そう言ってクー・フーリンが杖を構え、リューネちゃんがハンマーを構えた。

 

「ならば最初の支援だ。」

 

リューネちゃんはそう言って、数回ハンマーを振った後、ハンマーの持ち手の部分に口を付けた。

 

「…え?」

 

「あ~…」

 

 

ピュォォォン、ピュォォォン……

 

 

少しした後、ハンマーの先からそんな音が鳴った。

 

「お?おお??」

 

クー・フーリンさんが不思議そうな声を出した。それと同時にリューネちゃんがハンマーの持ち手から口を離す。

 

「どうかな?」

 

「なんだこりゃ…?不思議と力が湧いてくる……?リューネ、てめぇ何しやがった…?」

 

「さて、ね。ルーパスならわかるだろう?」

 

その言葉にルーパスちゃんが頷いた。

 

「リューネが使ってるそれ、私の生まれ育った場所の武器だよ?しばらく触れてないといってもその()の旋律忘れるわけないでしょ。」

 

(…ふ…え?)

 

ルーパスちゃんはリューネちゃんの持ってる武器を“笛”って言った。あれって、ハンマーじゃないの…?

 

「…まぁいい、おら、気を引き締めろよ!全力でかかるからな!」

 

「……っ!」

 

マシュが盾を強く構えた直後、ドクターの慌てたような声が聞こえた。

 

〈まずい…リューネちゃん、キャスターの霊基になっている……恐らくは純粋な補助型だ!攻撃のクー・フーリン、補助のリューネちゃん!補助も何もないマシュは不利だぞ!!〉

 

「そんな…!」

 

「少しは補助できるから何とかなるかな?」

 

ルーパスちゃんはそう言って緑色の粉を撒いた。

 

「…!?体力が…!?」

 

「…()()()()()か」

 

リューネちゃんが呟いたのに気が付いた。生命の粉塵、って何だろう。

 

「……ねぇ、ルーパスちゃん。」

 

「ん~?なぁに?」

 

「リューネちゃんが使ってるのってハンマーじゃないの?」

 

「え?ちがうよ?」

 

「え…」

 

ハンマーじゃ、ないの?

 

「あれは“狩猟笛”。別名“ハンティングホーン”。確かにハンマーから派生した武器種だけど、リーチの長さとかで区別化はできるよ?」

 

「えっと…笛、っていうことはあれは楽器なの?」

 

「もちろん。一流の笛師はまさに攻奏一体で狩猟を行うけど。」

 

「“攻奏一体”……?」

 

「うん。」

 

そう言いつつルーパスちゃんは黄色い粉を撒いた。

 

「何だぁっ、いきなり硬くなりやがった!」

 

「ルーパスからの支援だな。僕も支援ができるがルーパスも支援はできる。流石に僕が相手にいるのは不利だと感じたのだろうよ。」

 

「はっ、戦いがいがあるな!!」

 

クー・フーリンさんは楽しそうだった。

 

「リューネは…さ。」

 

「うん?」

 

「リューネってさ。私が知る中で最高の支援師なんだよね。だから、リューネが敵に回ると結構辛くなる。」

 

「……」

 

「こっちも粉塵には限りがあるし…早めに終わってほしいんだけど。」

 

この言葉を聞いた時、私は思った。

 

「…ルーパスちゃん…ってさ。」

 

「うん?」

 

「リューネちゃんのこと、どう思ってるの?」

 

「……」

 

ルーパスちゃんはすぐには答えなかった。

 

「……私の、最高の相棒、かな。だって、ずっと一緒にいるもん。」

 

「ずっと…?」

 

「物心ついたころから、私が新大陸に行くまで。ずっと、私達は一緒に戦ってきた。」

 

「…」

 

「…この先、多分、リューネはリューネの奥義を使うよ。」

 

「え…?」

 

ぽつりと言われた一言。それは、ルーパスちゃんのあの射撃みたいなものがマシュを襲うことを意味していた。

 

「そんな…相棒、危険です!今の状態でもぎりぎりですのに、奥義なんて…!!」

 

「大丈夫だよ」

「大丈夫ですにゃ。」

 

ジュリィさんの危険だという言葉を、即座にルーパスちゃんとスピリスちゃんが否定した。

 

「……どうして、そう思うのですか?」

 

〈僕も聞きたい。どうして、そう思うんだい?〉

 

ジュリィさんとドクターが同時に聞いて、ルーパスちゃんが小さく笑った。

 

「だって、この中で一番といっていいほどリューネと付き合いが長いのは私だよ?幼馴染の───親友の奥義を、私が忘れるわけない。知ったうえで、私は大丈夫だって言ってる。」

 

「……」

 

「17年。それだけの年月を、私はリューネと共に過ごしてきた。当然、奥義の効果だって知ってる。」

 

「そういえば私とルルは旦那さん達が6歳の頃からの付き合いですにゃ。ですから私は11年、ルルは13年の付き合いににゃるんですにゃ?」

 

「私の知っている限り、旦那さんの奥義が増えたというのはありませんですにゃ。すなわち、ルーパスさんが覚えている奥義だけですにゃ。」

 

ルーパスちゃん、スピリスちゃん、ルルちゃんがそう断言した。

 

「ふむ。マシュ殿!」

 

「は…はい!」

 

「少し…こちらも本気を出そう!」

 

そう言って、リューネちゃんがハンマー、じゃなくて狩猟笛の手元に口を近づけた。

 

「クー・フーリン殿!」

 

「あぁ?」

 

「決めるといい!今より此処に捧げるは僕の奥義だ!僕の真髄……みせてあげよう!」

 

「お?お、おう…?」

 

クー・フーリンさんが困惑している中、リューネちゃんが笛を吹き始めた。

 

 

♪♪♪~♪♪、♪~

 

 

それはさっきみたいなただの音じゃなかった。何度も連なる、長い音色。

 

「これ……音楽…?」

 

私が呟くとルーパスちゃんが頷いた。

 

 

 

 

{戦闘BGM:古代の息吹}

 

 

 

 

「そもそも、ハンターたちはモンスターと戦うときにこんな楽器を付けているの。」

 

そう言ってルーパスちゃんが私に渡したのは小さなオルゴールだった。

 

「この楽器は不思議でね?モンスターと会ったとき、自動的に鳴り出すの。私達の世界には楽器にも種類があって、この楽器みたいな“自奏楽器”、狩猟笛みたいな“狩猟楽器”、あとは…演奏団、っていうのがいてね。その演奏団が使う“娯楽楽器”。基本的に、音楽の演奏は娯楽楽器で行うものなんだ。」

 

そう言ってルーパスちゃんはリューネちゃんの方を見た。

 

「でも、リューネは音楽演奏の楽器としての扱いが難しい狩猟楽器を使って演奏しながら戦う。戦いながら、音楽を演奏する。…私には無理だよ、そんなの。これでも多少笛の扱いには自身あったんだけどね。だからあれは、リューネの奥義なんだよ。」

 

「あれが…奥義。」

 

「…旋律効果は、“鼓舞”。味方と認識した相手に、鼓舞…なんて言ったらいいかな、やる気を出させる?みたいな。」

 

「鼓舞……」

 

「生粋の補助師。“戦闘爆音を用いる笛師の少女”…それが、リューネの通り名だよ。」

 

戦闘爆音ってなんだろ…って思ったけど、そこでクー・フーリンさんの笑い声が聞こえた。

 

「ははっ、最高に気分がいい!そら、行くぜ!主もろとも燃え尽きなぁ!!」

 

〈まずい、宝具が来るぞ───!〉

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める杜───」

 

さっき、私達を救ってくれた詠唱。それが、今は怖く感じる。

 

「倒壊するはウィッカー・マン!オラ、善悪問わず土に還りな───!!」

 

先ほどの巨人が現れる。すごく、怖い。でも、守ろうとしてくれてるマシュは───

 

「ぁ……あ………」

 

もっと、怖いはず。なら、私ができることは───

 

「……お願い…頑張って…マシュ!!」

 

「…ああ、あぁぁぁぁぁぁ───!!」

 

そのマシュの叫びが聞こえたとき。

 

マシュの盾が、光を放った。

 




…BGM、古代林より火山が良かったですかね?“汚染炎上都市”ですし。
それと、楽器に関しての話はこの作品オリジナルなので悪しからず。ゲームではBGMがシステムの制御で流れますけど、現実では流れないと思いますから…謎の工房技術で作られた“何もしていないのに音楽を発する楽器”を所持しているということで。工房技術ということにしておけば大抵のことは何とかなるという精神で。
……ところで読者の皆さんってルーラーとアサシンが好きなんですか?アンケートで募集してるクラスは召喚予定のサーヴァントの中でも追加召喚クラスなので話が分かれるんですよね。ちなみに冬木修正後の召喚話の予定は下記の通り。

1話目 ハンター達の召喚

2話目 もともと召喚を予定していたサーヴァント達の召喚

3話目 アンケートで一番票が多かったクラスの追加召喚


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第10話 疑似宝具解放、攻奏一体奥義

特訓終了~


光が収まった時、そこに巨人の姿はなかった。

 

「あ……わたし……宝具を、展開できた……んですか……?」

 

マシュが信じられない、といった表情で呟いた。それに対して、クー・フーリンさんが口笛を吹いた。リューネちゃんは笛から口を離してこっちを見ていた。

 

「何とか一命だけではとりとめるとは思ったが、まさかマスター共々無傷とはね。喜べ…いや、違うな。ほめてやれ、立香。あんたのサーヴァントになったお嬢ちゃんは間違いなく一線級の英霊だぜ。なぁ、リューネ。」

 

「……ふむ。僕の奥義は補助特化に近いが、その奥義の効果がかかっているクー・フーリン殿の一撃を止める、か。クー・フーリン殿の強さがどれほどかは知らないが、僕より補助の幅が狭いルーパスの補助だけで受け止めるのは凄いのではないかな?」

 

「…リューネの奥義って常時継続旋律だからねぇ…」

 

ルーパスちゃんがそう呟いた。

 

「先輩…私、今…!」

 

「…うん。すごかった。」

 

「っ……!」

 

「フォウ、フォーーーウ!」

 

〈……驚いた、こんなに早く宝具を解放できるなんて。マシュのメンタルはここまで強くなかったのに…〉

 

ドクターが本当に驚いたような声で言った。

 

「マシュ殿は護る側の人間ではないのか?大きな盾を武器とするならば、攻める側ではなく護る側だと考えるのが最適だ。ただただ堅牢なる護りに、攻める方法を教えて何になる。」

 

リューネちゃんがそう言った。

 

「ハンターと編纂者だってそうだ。編纂者になりたい者に狩りの方法を教えて何になる?ハンターになりたいという者に本の編纂の方法を教えて何になる。人は適材適所、自分の持ち味を生かせる場所を探すべきだろう。」

 

な、なんか同い年くらいなのに凄く説得力があるんだけど……

 

「…まぁ、ジュリィは編纂者でありながらハンターでもあるけどね。」

 

「いつの日か相棒と肩を並べて戦いたい、それが私の想いですから!」

 

そうなんだ…

 

「…なんか言いたいこと色々言われちまったけどよ。これだけやっても、真名をものにするには至らなかったか。」

 

「あ…はい。宝具は使えるようになりましたが、まだ宝具の真名も、英霊の真名も分かりません…」

 

マシュがそう言って少し落ち込んだ。

 

「……そう。未熟でもいい……仮のサーヴァントでもいい。そう願って宝具を開いたのね、マシュ。」

 

所長が柔らかく笑ってマシュに話しかけてた。

 

「あなたは真名を得て、自分が選ばれたものに……英霊そのものになる欲が微塵もなかった。だから宝具もあなたに応えた。…とんだ美談ね、御伽噺もいいところよ。」

 

「あの、所長…」

 

「ただの嫌味よ、気にしちゃいけないわ。宝具が使えるようになったのは喜ばしいわ。…でも、真名無しの宝具は使いにくいわね…」

 

所長はそう呟いて、少し悩んでから顔を上げた。

 

「…ロード…“ロード・カルデアス”。カルデアというのはあなたにも意味のある名前じゃない?あなたの霊基を起動させるには通りのいい名前だと思うけれど。」

 

「…は、はい!ありがとうございます、所長!」

 

〈ロード・カルデアス…うん、それはいい。マシュにぴったりだ!〉

 

マシュが喜んだみたいでよかった…

 

〈そうなるとすぐに試したくなるのが人情だよね。クー・フーリン、マシュの相手を……〉

 

「いや、僕がやろう。」

 

ドクターの言葉を遮ってリューネちゃんがそう言った。

 

「宝具というものに、僕の奥義がどこまで通じるか見てみたくなった。」

 

「……あぁ。そういえばさっきの奥義、()()()()()()もんね。」

 

ルーパスちゃんの言葉にマシュが固まった。

 

「あれで、不完全だったの……?」

 

「立香。私は言ったはずだよ?“一流の笛師はまさに攻奏一体で狩猟を行う”って。」

 

「で、でも……それは一流の人の話だよね?」

 

「うん。言っておくけど───」

 

そこでルーパスちゃんは小さく笑みを浮かべた。

 

───私は“リューネは一流の笛師じゃない”、だなんて()()()()()()()()よ?

 

「…さぁ、行こうか。最初から行くぞ!」

 

リューネちゃんが笛を吹き始めた。奥義の、合図。

 

「マシュ、気を張りなさい!!相手は貴女よりも戦い慣れしてるのよ!」

 

リューネちゃんの笛から音楽が流れる。でも、さっきと違う曲…?

 

「…ルーパスちゃん、この曲聞いたことは…?」

 

「ない…あれは……」

 

「旦那さんの“感覚弾き”ですにゃ!!」

 

感覚…弾き?

 

 

 

 

{戦闘BGM:運命~GRAND BATTLE~}

 

 

 

 

「感覚弾きって何よ?」

 

「感覚弾きっていうのは…頭に思い浮かんだ旋律をそのまま弾くこと。」

 

「つまり?」

 

「新しい音楽を作り出す、っていえば分かる?感覚弾きができる人は大体絶対音感を持ってる。」

 

絶対…音感

 

「リューネは絶対音感持ちで…そして音楽に対しての完全記憶能力を持ってる。以前に演奏団への勧誘とかあったくらいだからね…絶対音感持ちの完全記憶能力持ちなんて凄く珍しいから。しかもそれが音楽に特化してるなんていったら、演奏団に入れたくなるよね。」

 

でも、とルーパスちゃんは言った。

 

「リューネは演奏団に入ることはしなかった。そのまま、ハンターであることを選んだんだよ。…これが、私達が9歳の頃の話。思えば、リューネの奥義の欠片はここから目覚めてたのかもしれない。」

 

「奥義の…欠片?」

 

「先程、奥義については説明しましたよね?奥義を編み出す前に、そのきっかけとなるような出来事が存在することがあるんです。それを、奥義の欠片ということがあるのですよ。…ちなみに相棒の奥義の欠片は何だったのです?」

 

「剛射と大タル爆弾。つまり空中からの攻撃と広範囲への爆発、だね。」

 

「…なるほど」

 

私はその話を聞いて別に爆発した様子なかったけど、って思った。

 

「……ちなみに、あれ多分()()()()()()よ?」

 

「「……えっ!?」」

 

私達がリューネちゃんとマシュの方を見ると、そこにはリューネちゃんに圧されているマシュの姿があった。

 

「あれで手加減してるというの!?」

 

「十分してるよ。奥義を使ってるとはいえ、息継ぎのタイミングが早い。息継ぎっていうのは音が途切れるタイミングだけど、リューネはそれを限りなく少なくすることができる。それとあれ、そこまで集中してない。ね、ルル。」

 

「にゃ。旦那さん、()()()()()()()()()()()()()()()()ですにゃ。」

 

「何よ…それ!?舐めてかかってるというの!?」

 

所長の言葉にルーパスちゃんが首を振った。

 

「それは違う。確かにリューネは戦闘にほとんど集中してない。リューネは今、手加減に集中させてる。」

 

「手加…減…?」

 

「私達の相手は古龍。古龍っていうのは自然災害。そんな()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

ということは、リューネちゃんは。

 

「マシュを、万が一でも殺さないように?」

 

「ん~…ちょっと違う。」

 

「え?」

 

「確実に勝てるように手加減してるわけじゃにゃい。手加減したうえで、自身を乗り越える壁として立ちはだかる。そういうことですにゃ。旦那さんはそういう人なのですにゃ。」

 

「乗り越える、壁…」

 

「───終わりにしよう!」

 

その声が聞こえて、私はマシュの方に集中した。

 

「行くぞ…!───狩猟笛固有狩技、参ノ壱…“音撃震I”ッ!!」

 

「あぐっ!?」

 

マシュが笛の先から放たれた音波?で吹き飛ばされた。

 

「逃がさん!!狩猟笛固有鉄蟲糸技、“震打”!!」

 

光る糸を伝った音波がマシュを襲った。

 

「くっ…!」

 

「最後だ、持って行け!狩猟笛固有鉄蟲糸技───」

 

〈なんてこった、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ!?つまりあれは、彼女の純粋な技だ!!〉

 

光る糸がマシュの盾とリューネちゃんを繋ぎ、私の直感も次の一撃が来ることを察知する。

 

「っ、宝具、展開します……!」

 

「───“スライドビート”ッ!!」

 

「“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!」

 

リューネちゃんの技とマシュの宝具が激突する。

 

「…ねぇ、ルル。」

 

「なんですにゃ?」

 

「あの技は…?」

 

「“鉄蟲糸技(てっちゅうしぎ)”ですにゃ。カムラの里に行ったときに旦那さんが覚えた技ですにゃ。」

 

「…そっか。」

 

そんな会話が聞こえてきたと思うと、何かを弾いたような音と共にマシュとリューネちゃんが離れた。

 

「…はぁ……やれやれ。」

 

そう呟いたかと思うと、リューネちゃんは狩猟笛を背中に背負った。

 

「まさか、それなりに手加減していたとはいえ、スライドビートを完全に受け切られるとはね。」

 

「……」

 

「全く、宝具というのは凄いな。…いや、それだけじゃない。真の力を発揮できないままでも護るという意志が強い君もすごいのか。」

 

「ぁ…」

 

「その何かを護るという意志。忘れるな、マシュ殿。その意志はハンターにも通じる。…これで僕が言いたいことは終わりだ。」

 

「…ありがとうございます、リューネさん!」

 

認められたみたい。良かったね、マシュ。

 




うん…使いたかったんです、“運命~GRAND BATLLE~”。
ちなみにリューネの奥義は簡単に言えば“戦いながら常に笛を吹き続ける”というものです。


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第11話 直感の先、咆哮の正体

11話……色々怖いです

それと前回の話で出た“感覚弾き”について少し補足。
感覚弾きとは、本編中でもルーパスが少し話した通り、新しい曲を作り出す技術です。ですが、皆さんもご存じだとは思いますが、“運命~GRAND BATTLE~”という曲は現実に存在します。では何故“リューネがその曲を作り出した”という風に書かれているのか、ですが。そもそも私達が見ている側では、“運命~GRAND BATTLE~”というのはゲームのBGMとして存在している曲です。ではそのゲームの中の世界ではどうでしょう。その曲が存在している可能性がある、とは言い切れません。もしもその世界にその曲が存在していなければ、それはその世界においてはその人が作り出したものになります。この作品の世界は“Fate/Grand OrderのBGMが存在しない”と定義して構成していますので、あの曲はあの世界において“リューネが作り出した曲”になっているわけです。つまり…

“読者の皆さんがいる現実世界では確かにゲームBGMとして存在してはいるがその世界に存在していなかったその世界を描いたゲーム由来の曲をリューネが弾いたために周囲にリューネが作成したと認識された”。

言っていることが長いですがこれが前回の話で起こった現象です。はっきり言っておきますが私自身はあの曲の作曲に何も関係がありません。この現象は今後も度々起こりますので認識の方よろしくお願いします。本当は前回の後書きに書くべきだったと思うのですが、気がついたのが投稿終了後でしたので……説明が遅くなり申し訳ありません。


「さてと、特訓も終わったことだし……大聖杯に向かうとするか?」

 

クー・フーリンさんがそう言った。でも…

 

「…ごめん、待ってくれる?何かを…何かを、見落としてる気がするの。」

 

「何か?」

 

「うん…」

 

直感がそう言ってる。何かを、見落としてる。この場所に、まだ…“何か”がある。そう思ったときだった。

 

 

ゴォォォォォォ!!!

 

 

「「「「「〈っ!?〉」」」」」

 

突如その場に響く大きな声。その声を聴いて、ルーパスちゃんとジュリィさんが顔を青くしてた。

 

「…ジュリィ、この…咆哮、って。」

 

「…まさか。ありえません、この世界は私達とは別の世界なのですよ!?」

 

「どうした、ルーパス?」

 

「だって、これは……!」

 

 

ギョァァァァァァッ!!

 

 

「「っ!?」」

 

さらに響く声。それを聞いてルーパスちゃんとジュリィさんが顔を見合わせた。

 

「相棒、この咆哮…!()()()()()()()()()の…!」

 

「間違いない、よね……」

 

「教えなさい!何だっていうの!」

 

所長が怒ってルーパスちゃんに詰め寄った。

 

「しょ、所長!?」

 

「……私も、実は半信半疑なの。実物を見てみないと、確かなことは言えない。」

 

ルーパスちゃんはそう言って私達を見た。

 

「……行って、みる?…死を覚悟した上で。」

 

“死を覚悟した上で”。そう言ったルーパスちゃんのその眼は、冗談を言っているようには見えなかった。

 

「…うん。行ってみたい。」

 

「先輩!?」

 

「気になるから。このまま見過ごすことができるか分からないし…危険となる要因は、先に取り除いた方がいいと思うし。」

 

〈う…結構正論叩いてくるなぁ…〉

 

私がルーパスちゃんを見つめていると、ルーパスちゃんは小さく、本当に小さくだけどため息をついた。

 

「……ジュリィ」

 

「はい」

 

「立香達の護衛、お願いできる?」

 

「…はい。こちらに手が回らないかもしれないから、ですね。」

 

「うん。万が一、()()()()()()()()()()()()()()けど…その時はマシュ、あなたが頼りだからね。」

 

「っ…は、はい!」

 

そうマシュが返事した後、ルーパスちゃんが周囲を見渡した。

 

「…咆哮はあっちからだったよね。」

 

「そうだな…」

 

「…いこう」

 

ルーパスちゃんが先頭になって、ジュリィさんが最後尾になる。ルーパスちゃんは右手を矢筒に添えていつでも矢を抜けるようにしてる。

 

「「Gaaaaaa!!」」

 

「邪魔するな!」

 

あ、骸骨数体出てきたけどリューネちゃんが一撃で粉砕した……

 

〈うわ…骸骨兵を一撃で粉砕とか凄いな…流石鈍器、骨に対して効果抜群だ……〉

 

「多分、それだけじゃないと思うよ。リューネちゃんのこれまでのハンターとしての人生が力を貸してくれているんだと思う。」

 

〈意思の力、ってやつかな?…それにしてもリューネちゃん達のクラスって本当になんだろうね?リューネちゃんはまた元に戻っているし、ルーパスちゃんはアーチャーのクラスになっている。武器を構えている時だけ従来のクラスが示される、っていう感じなんだ。〉

 

でも、今ルーパスちゃんは武器構えてないけど…それを伝えたら…

 

〈ルーパスちゃんは今の状態で“武器を構える”と同じような状態なのかもね。戦闘準備状態…か。……うん?〉

 

ドクターの言葉が疑問符を帯びた。それと同時に、周囲に小さな音が鳴り始める。

 

「……この、音楽は。」

 

「……相棒っ!この曲は……」

 

「これは……?」

 

発信源はリューネちゃん、ルーパスちゃん、ジュリィさんのオルゴール。

 

「……“古龍を脅かす獣牙”」

 

「この曲……と、いうことは……相手になるのは」

 

ルーパスちゃんが頷いて弓を構えた。

 

「リューネ、ルル、スピリス。戦闘準備、スピリスはブーメラン援護をお願い。」

 

「あ、あぁ…」

 

「…旦那さん、頑張ってほしいにゃ。」

 

な、なんか空気が張り詰めてきた……と思ったその時だった

 

〈なっ……!?気をつけろ、皆!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ!!〉

 

「サーヴァント反応も…?」

 

「12騎目のサーヴァント……!」

 

そう所長が呟いた時、轟音と共に1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……えっ!?」

 

私が後ろを振り向いた時には、その骨はもう跡形もなくなっていた。

 

「……ジュリィッ!!気を引き締めて、皆を守って!!」

 

「は、はい!相棒!!」

 

その声でルーパスちゃんの方を見ると、黒い棘の生えた大きな翼をもつ……何だろ?モンスターがそこにいて見つめていた。

 

「……やっぱり…“古龍を脅かす獣牙”だったから、あなただと思ってた。」

 

ォォォォォォ…

 

そのモンスターは少し唸ってからルーパスちゃんから離れていった。

 

「ルーパス、あいつは…?」

 

「……滅尽龍“ネルギガンテ”()()()()()()()()。どうして、あれが、ここに……」

 

「ネルギガンテ…?」

 

私は聞き返したけど、答えは帰ってこなかった。

 

「相棒!今はネルギガンテを追わなくては!あんなものがいては、落ち着いて調査してはいられません!!」

 

「…うん。ゾラ・マグダラオスの前例があるもんね…“導蟲”、起きて!」

 

ルーパスちゃんがそう叫ぶと、ルーパスちゃんの腰のあたりにある光る…籠?から緑色に光る点みたいなのが現れた。

 

「ネルギガンテの匂いを追って!!」

 

ルーパスちゃんがそう言うと、光が青色になって何かへの道を示し始めた。

 

「行きましょう!…って、オルガマリーさん?」

 

ジュリィさんが不思議そうな声を発したから何かと思って所長の方を見たんだけど…

 

「……しょ、所長!?……駄目です、失神してます!」

 

〈嘘だろ!?いやしかたないか、あんな生き物見たことないし…でも、ここで待たせるのも…!〉

 

「…なら、マシュが運べばいいんじゃないかな?私を運んでたし。」

 

「…じゃあ、私は周囲警戒をしますね。これでも相棒と同じハンターなんです、戦うことくらいできます!」

 

「あ…じゃあ、お願いします。」

 

マシュが所長をお姫様抱っこした。ジュリィさんは大きな剣の柄に手を添えていた。

 

「…あれ?ジュリィさんってもしかしてマシュより力ある?」

 

「さぁ…どうでしょう。」

 

そんな会話してから、私達はルーパスちゃんの後ろをついていった。…っていうか結構ルーパスちゃん達早い…

 

「……いた!」

 

〈な…見つけたのかい!?こっちの視界では見えないんだけど!?〉

 

ドクターの言う通り。だけど、ルーパスちゃんには見えてるみたい。

 

「ルーパスは結構目がいいからな……僕は聴力、ルーパスは視力が強みだ。特に…古龍に対してはその特殊なエネルギーをその視界に収める。それが反応したのだろう?“龍気視認”…それがルーパスのその視認能力に付けられた名前だ。」

 

「そんなことより、リューネ気を引き締めて!()()()()()()()()()!!」

 

「………は!?」

 

「えっ!?」

 

古龍の気が二つ。ということは、そこで…

 

「自然災害が同時に二つ起こってる…?」

 

そう呟いた時、さらに2体の骸骨兵がこちらに吹っ飛んできた。

 

「…ふんっ!!」

 

でもその吹っ飛んできた骸骨兵はリューネちゃんが狩猟笛で打ち返した。

 

〈凄いぞ、ホームランだ!でもってサーヴァント反応があるぞ!〉

 

一言多いと思ったけど確かにネルギガンテっていうモンスターと…なんかすごく大きいモンスターの姿が見えた。それが視認できた時、ルーパスちゃんが息をのんだ音が聞こえた。

 

「嘘っ、冥灯龍“ゼノ・ジーヴァ”!?」

 

「“ゼノ・ジーヴァ”…思い出したぞ、新大陸で新規発見された完全新種の古龍!!」

 

「そして…古龍たちの向かう先に人!!」

 

「……!襲われてるのか!?なら…!」

 

リューネちゃんの言葉を聞いて、ルーパスちゃんが三本を束ねた矢を放った。

 

ゴォッ!?

 

その矢はネルギガンテというモンスターの翼に刺さり、そのモンスターがこちらを向いた。

 

ォォォォ……

 

「……」

 

ルーパスちゃんは立ち止まって、リューネちゃんは狩猟笛を構えた。

 

……ゴォォォォォォォォォォ!!

 

「戦闘開始…まさか、この状況で古龍と戦うなんて思ってもみなかった!!」

 

「ルーパス!手を!!」

 

リューネちゃんがそう叫んだ直後、ネルギガンテがルーパスちゃんの目の前に跳び、その場所に殴りかかった。

 

「っ…ルーパスちゃん!」

 

「大丈夫です、相棒なら。…あそこに。」

 

いつの間にか前に来ていたジュリィさんが指していた場所、空中。確かにそこに、リューネちゃんとリューネちゃんの腕に抱かれたルーパスちゃんがいた。

 

「え、いつの間に…!?」

 

「殴りかかってくる一瞬の隙、その時に相棒はリューネさんに抱かれて跳び上がってました。」

 

〈え…見えたの?〉

 

「えぇ、まぁ………って、あれは…」

 

その声を聴いてルーパスちゃんの方を見ると、大量の矢がネルギガンテを襲っていた。

 

「…うわぁ」

 

〈すごいな……あれが彼女の奥義なのかな?〉

 

「私も深くは知りません。が、先程のより精度が薄いですね。」

 

あれで…?…と思ったけど、ネルギガンテはその矢を体を振っただけで落とした。

 

「…黒棘の時は本当に通らない。ほら、早く逃げて。」

 

「……」

 

ルーパスちゃんは地面に着いた後、その近くにいた女の子に逃げるように伝えていた。その女の子は、ルーパスちゃんを見て不思議そうな顔をしていたけど。

 

「…来なよ、ネギ」

 

そう呟いたかと思うと、ネルギガンテがルーパスちゃんの前に来て警戒しながら殴りかかろうとし、大きなモンスター…ゼノ・ジーヴァだっけ、が口を開けて…それに対してルーパスちゃんが矢を引き始めて───

 

 

 

「ラピーアッ!!!(止まってっ!!!)」

 

 

 

「「ッ!?」」

「っ!?」

 

女の子が何かを叫んだと同時に、ネルギガンテとゼノ・ジーヴァが攻撃の手を止め、ルーパスちゃんは矢を地面に放った。ルーパスちゃんはその女の子を呆然と見つめていた。

 

「……え?」

 

「ジュリィ…さん?」

 

「ネルル、ゼルル、ラクタードセティア。」

 

ォォ……

 

ギァァ……

 

女の子がその言葉を言うと、ネルギガンテとゼノ・ジーヴァが女の子の近くに行った。

 

「あの女の子が使ってる言葉……()()()()()()()()?」

 

「…え?」

 

ジュリィさんの呟いたことが示すのは……

 

〈まさか……()()()()()()()()()()()()()からの…?〉

 

ドクターの言う通りだと私は思う。…多分。私の直感が、それは違うって騒いでるから、確定ではないと思うけど。

 




いよいよ最後の一人が合流しますよ~…
ちなみに次回の視点はルーパスです。竜人語が出てきましたからね。竜人語が分からない立香さん視点では描写が面倒くさい+誰にも伝わりません。


竜人語訳

ラピーアッ!!!→止まってっ!!!

ネルル、ゼルル、ラクタードセティア。→ネルル、ゼルル、こっちに戻ってきて。


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第12話 その少女、古龍と契約する者

にゃ~♪


 

 

止まってっ!

 

私の耳に聞こえた女の子が発したその声。それは確かに、私達の世界の言葉だった。

 

ネルル、ゼルル、こっちに戻ってきて。

 

ォォ……

 

シァァ……

 

(古龍が…人に…あの子に従った!?)

 

これまでずっと相手にしてきた私から考えてみれば、考えにくいことだった。

 

…ごめんね、怖い思いさせて。ゼルルは戻ってもいいよ。ネルルは……戻りたい?

 

ォォ

 

…そっか。一緒にいてくれるんだね。ありがとう、ネルル。…ゼルル、送還

 

女の子がそういったと同時に、ゼノ・ジーヴァの姿が…ううん、ゼノ・ジーヴァの龍気自体が一瞬でその場から消えた。

 

…それで

 

女の子が私達の方を見た。同時にネルギガンテも私達の方を向いて警戒する。

 

あなたは…いえ、あなたたちは?

 

私と、傍に降りてきたリューネに向けてそう聞かれた。けど、ネルギガンテの殺気が凄い。

 

…ネルル、少し殺気抑えなさい。あなたたちの殺気で失神されても困るから。

 

…ォォ

 

ネルギガンテが女の子の言葉に従い、殺気を抑えた。すごい、不満そうだけど。

 

…もう一度聞きます。あなたたちは、誰ですか?

 

私は……ルーパス。“ルーパス・フェルト”。

 

…そう。どうして、ネルルを傷つけたの?

 

え…

 

あなたの言葉は理解できた。聞いたことなかった言葉だけど。だけど、私の友達を何で傷つけた?

 

友…達?

 

友達…?古龍が、か…?

 

リューネも同じことを思ったみたいで、そう聞き返していた。

 

……

 

ネルル、殺気

 

 

強めの殺気が漏れてたネルギガンテに一言いうだけで黙らせた。

 

どういう…こと?

 

…あなた、私より年上よね?“召喚師”を知らないの?

 

「「召喚師……?」」

 

リューネと声を揃えて聞き返した。女の子が“え?”って感じの顔をしたけど知らないものは知らない。

 

……あなたたち、どこの出身?

 

私はベルナ村……

 

僕はカムラの里だ。

 

ベルナ村……?ベルナ村の“ルーパス・フェルト”…?

 

女の子が首を捻った。

 

…私の覚えている限り、()()()()()()()()()()()()()()()()けれど。

 

…え?

 

あなたの名前は?

 

今度はリューネに向かって聞いた。

 

“リューネ・メリス”…だが。

 

リューネ……リューネ・メリス……

 

相棒!

 

そこでジュリィが私達に駆け寄ってきた。

 

どうかしましたか?

 

あ、ジュリィ……ねぇ、ジュリィ。“召喚師”って知ってる?

 

召喚師……ですか?

 

うん。

 

…いえ、知りませんね。初耳です。

 

…やっぱり?

 

私より知ってることは多いかと思ってジュリィに聞いてみたけどやっぱり知らなかった。

 

……ねぇ

 

…なに?

 

あなたの名前。聞いてない。

 

私の…?…あぁ

 

女の子はそう言ってため息をついてから私達の方を見た。

 

…“ミラ”。“ミラ・ルーティア”。とりあえずそう呼んで。

 

“ミラ”…?それって、ミラボレアスの……

 

…へぇ…

 

何か意味ありげな声を発したけど、理由は分からなかった。

 

悪いけれど、私の記憶の中にルーパス、リューネ、ジュリィっていう名前の人は存在しない。答えて、あなたは誰?

 

そんなこと言われても……私はただのハンター、ただの“ルーパス・フェルト”だよ…?

 

ハンター?何それ?

 

……

 

……

 

 

 

「「「「え???」」」」

 

 

 

なんか、変なことを聞いた気がする。

 

えっと……何か私変なこと言った?

 

いや…ハンターって?()()()()()()()()()

 

 

……なんか、嫌な予感がしてきたんだが。

 

奇遇だね、リューネ。私もそんな気がしてきた。ともかく。

 

あなたの…出身地は?

 

私?シュレイド地方…だけど。

 

……リューネ、聞いたこと…

 

ない。シュレイド地方には何度も行ったが“ミラ・ルーティア”という名前は聞いたこともない。

 

え?

 

今度はミラと名乗った女の子が困惑する番だった。

 

聞いたことないの?私の名前を?

 

ない。これでも各地を飛び回っているが全く聞いたことがない。

 

……“ミラ・ルーティア・シュレイド”。それが私の名前。これでも聞いたことがない?

 

ない……まて、“シュレイド”……()()()()()だって!?

 

それ…って…()()()()()()()()()()()()()ですか!?

 

え、う、うん……

 

リューネとジュリィに迫られて少し引いていた。

 

ほらほらリューネ、ジュリィ、そこまでにしてあげて?ネルギガンテが警戒心高めてるから。

 

っ、あ、あぁ……

 

あ、ご、ごめんなさい…

 

う、うん……?

 

ミラはまだ困惑しているみたいだけど、ネルギガンテが寄り添ったことで落ち着きを取り戻した。

 

……えっと。…ミラ、でいいかな。あなたは…あのシュレイド王国の王族の末裔なの?

 

う、うん……そう、だよ?一応第一王位継承者なんだけど……?

 

「「ほぇ…」」

 

私とリューネから気が抜けたような声が出た。

 

「えっと…ルーパス、ちゃん?ごめん、私達状況理解できてないんだけど……全く言葉分からないし…」

 

あ、立香達のこと忘れてた。マシュもよくわからないっていうような顔してる。

 

「ごめん、もうちょっと待って?…それで、ミラは私達の敵じゃない…のかな?

 

え、う、うん……?そういうあなたは?

 

私はあなたがネルギガンテに襲われてると思って助けに入ったつもりだったんだけど……

 

…………あぁ。

 

あ、ミラが遠い目をした。傍にいるネルギガンテもなんか顔を掻いてる。

 

そういえばネルル、最初の頃、私とその状態で一緒にいると…ね。

 

ォォォ……

 

…なんか、大変だったのかな。…ジュリィ、あの本は?

 

こちらにあります、相棒。

 

私はジュリィから言語の本を受け取って、ミラに渡した。

 

これ、読んでもらえるかな。多分、あなたも立香たちの言葉が話せるようになると思う。

 

あ、うん…

 

ミラが本を受け取ったのを確認した後、私はネルギガンテの前に立った。

 

…ごめんなさい、何も知らずに攻撃なんかして。

 

………ォォ

 

…許すって。

 

…ありがとう。…ところで、ミラは龍の声が…というか言葉が分かるの?

 

うん。……ん、大体わかった。

 

速いな…

 

リューネがそう呟くと、ミラは得意げな顔をした。

 

これでも“東シュレイド一の天才”って呼ばれて結構有名だからね。……でも、あなたたちは聞いたことないんでしょ?

 

「「ない。」」

 

声をそろえて言わなくても…

 

ただの偶然。少ししょぼんとした後、ミラは立香たちの方を見た。

 

「えっと…これで、いいのかな。」

 

分かった、って言っていた通り、きちんと日本語を使えていた。




さてさて、そろそろ冬木も終わりになりますね…追加召喚サーヴァント何にしましょうか。


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第13話 誤差

タイトル通り。この話組むの少し時間かかりました。
UA4,000突破、お気に入り20件ありがとうございます!
それと、冬木のアンケートは第14話投稿時点、2021/01/25 18:00で打ち止めとさせていただきます。


「えっと……これでいいのかな」

 

そういった彼女の声は人を自然と魅了させるような、そんな声だった。

 

「あなたの…名前は?」

 

「私は……ミラ。“ミラ・ルーティア”。…………“ミラ・ルーティア───シュレイド”。東シュレイド所属の召喚師です。」

 

なぜか三回に分けて名乗った。なんでだろう?それと…召喚師……?

 

「えっと……ミラちゃん、でいいのかな。」

 

なんだろう、少し呼びにくいような…

 

「…呼びにくかったら、ミルティと呼んでいただければ。」

 

「ミルティ…ちゃん?」

 

でも、確かにこっちのほうが呼びやすい気がする。

 

「…えぇ。こっちはネルギガンテのネルル。」

 

ォォ

 

ネルギガンテっていうモンスターがこっちに対してお辞儀した。…え、古龍って人に対してお辞儀とかするものなの?

 

「…それで、あなたたちは…?」

 

「あ、私は“藤丸 立香”。えっと…人理継続保証機関フィニス・カルデアのマスターです。それから…」

 

「“マシュ・キリエライト”です。私が背負っているのが所長の“オルガマリー・アニムスフィア”さん、私の足元にいるのが…」

 

「フォウフォウ!」

 

「…フォウ、っていうの?」

 

「え」

 

「フォウ!?」

 

マシュが名前を言う前にミルティちゃんが───いや、やっぱりミラちゃんの方が良いかな。ミラちゃんが名前を当てた。

 

「私、獣魔の言葉分かるの。」

 

「獣魔…?」

 

ミラちゃんはそれに答えずに、クー・フーリンさんの方を向いた。

 

「お兄さんは?」

 

「おう…お兄さんに見えんのかい、俺は。」

 

私から見てもクー・フーリンさんはお兄さんレベルだと思うけど…?

 

「俺はクー・フーリン!キャスターのサーヴァントだ。」

 

「サーヴァント?」

 

ミラちゃんが何それ?っていう感じで聞き返した。

 

「……その様子、ルーパス達と同じで別の世界からの漂流者か?おい、軟弱野郎。あのミラっつう嬢ちゃんのクラスはわかるか?」

 

〈きみ酷いな!?でもってキャスターだ!間違いない!〉

 

「ほぉ…」

 

「……なに、その薄っぺらいような弱々しいような腑抜けっていうかなんとも言えない弱者だけどずっと気を張っているような声は。」

 

〈ひゃっほう幼女にもガチの毒舌で言われちゃったぞ!!泣いていいかなぁ!?〉

 

いやでも実際今すっごい毒吐いたよね、ミラちゃん……幼女……幼女?なのかな?私より身長低いけど……いや、そうでもないかな……目測で115cmくらい?…十分小さいね、確か幼稚園年長さん───つまり6歳5ヶ月の女の子の平均くらいだ。

 

 

 

作者コメント:こんな時ですがちょっと身長解説

 

       藤丸 立香…158cm

       マシュ・キリエライト…158cm

       オルガマリー・アニムスフィア…162cm

ルーパス・フェルト…140cm

       ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ…146cm

       リューネ・メリス…150cm

       ミラ・ルーティア・シュレイド…114cm

       

忘れないようにっていうのとついでで書きました。ハンターたちはほぼほぼ独自設定です。では本編に戻ります。……何気にミラの身長が全サーヴァント中最低身長。(by.Luly)

 

 

 

〈…っと、ボクはロマニ・アーキマン。よろしく…〉

 

「…まぁ、よろしく。」

 

〈いきなりで申し訳ありませんが、ミス・ミラ。あなたはルーパスちゃんと同じ世界の方ですか?〉

 

「…そう思った理由は?それとミスと敬語はいらない。」

 

〈……言葉だよ。先程使っていた言葉。そしてルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんの先程の会話。僕らの知らない言葉だったけど、君達には通じていた。そうだろう?〉

 

「…えぇ、まぁ。」

 

〈ならば同じ世界出身と考えた方がいいのだろうけれど、どうだろうか。〉

 

「……」

 

ミラちゃんは少し顔を伏せてからルーパスちゃんの方を見た。

 

「…ハンター、ね…」

 

「ミラちゃん?」

 

「…ねぇ、あなた…ルーパス、だっけ。」

 

ミラちゃんがルーパスちゃんに話しかけた。

 

「なぁに?」

 

「あなたの世界に、召喚術師……“サマナー”っていた?」

 

「サマナー……?」

 

ルーパスちゃんが聞き返した。

 

「…ううん、いない。」

 

「…やっぱり、か……」

 

「やっぱり?」

 

私はその言葉に聞き返してみた。

 

「…私はミラ。ミラ・ルーティア・シュレイド……恐らく。私は…そこにいる彼女らとは、()()()()()()()()()()()から来た。」

 

「「よく似た別の世界…?」」

 

思わず私とマシュは同時に聞き返した。

 

「言語も同じ、地名も同じ、存在する生き物も同じ。だけど、決定的に違う点が一つ。」

 

〈それは?〉

 

「「「()()()()()()()()()」」」

 

ミラちゃん、ルーパスちゃん、リューネちゃんが同時に言った。

 

「自然…ここでは古龍のことですね。古龍に対してどういった対応をとるか、それが私たちのいた世界とミラさんのいた世界の違いです。」

 

「どういった対応をとるか…?」

 

ジュリィさんの言ったことにも聞き返してしまった。

 

「さっき、ルーパスさんはネルルに…古龍である滅尽龍“ネルギガンテ”に躊躇いなく弓を引いて矢を当てた。私たちの世界じゃこの行動は基本的に考えられない。私達ならまず、威嚇でそのモンスターの周囲に矢を当てる。基本的にそうすれば気は引けるからね。それをせずに矢を当てたっていうことは、余程の野蛮人か、別世界の人間───それこそ、古龍達と戦うのを主とした世界の人間か。それくらいしか私には考えられない。」

 

ミラちゃんもしっかりしてるなぁ…私より小さいのに…

 

「私達の世界でのモンスターたちとの接し方は“信頼”。小型でも、中型でも、大型でも。それこそ古龍でも、その世界に生きるものとしての対話を用い、契約し、使役し、モンスターと人が協力し合う世界。…あなたたちは?」

 

「接し方は“抗争”。人とモンスターの縄張り争いです。小型中型大型古龍、どんなモンスターだとしても狩猟技術による対話を用い、自然と人間が調和しあいます。稀にモンスターと人との間に信頼関係が生まれることもありますが、ごく稀です。対立し、時に狩り、時に狩られる。生と死が隣り合わせの中で戦い続ける、それが私たちの世界です。」

 

ジュリィさんがそう説明した。…結構ルーパスちゃんたちの世界、物騒というかなんというか。ドクターも向こうで苦笑いしてる…

 

「…私達の世界では、“術式”を用い、モンスターと契約し、使役する者を“召喚術師”。通称“サマナー”という。サマナーはほとんどギルドに登録されていて、ギルドからの要請で世界中を飛び回ったりするけれど。あなたたちの世界では?」

 

「私達の世界だと、“武器”を用い、モンスターを狩猟、または討伐し、自然との調和を図る者を“狩人”。通称“ハンター”というね。ハンターはほとんどギルドに登録されていて、ギルドからの要請でいろいろ世界中を飛び回る。此処にいるリューネがいい例だよ。」

 

そういえばルーパスちゃんたちって結構高レベルのハンターさんたちなんだっけ…

 

「……似ているけど違う、か…」

 

〈…ミラちゃん、一つ聞いていいかな〉

 

「?」

 

〈君は英霊かい?〉

 

「英霊?」

 

あ、この反応は理解してなさそう。

 

「英霊っていうのはこの世界独自の…なのかな、英雄って言われた人がなくなった後になるもの、だったはず。ちなみに私達は死んでないから英霊…じゃないはずなんだけど。」

 

ルーパスちゃんがそう説明した。ざっくりとしてるけど大体あってると思う。

 

「…?私、まだ死んでないはずだけど……だよね、ネルル。」

 

ネルギガンテが頷いた。…結構長い関係なのかな?

 

〈参考までにここまで来た経緯を御聞かせ願えますか?〉

 

「ん……と、空間の穴みたいなのができてて、それの調査を依頼されて調査に来たら穴の中に吸い込まれていつの間にかここに…」

 

「ルーパス達と同じか…そして死んだ記憶もない、と。状況は僕らと同じなのかな?」

 

「…まぁ、実際他の人よりは死に近いかもしれないけどね。」

 

ミラちゃんがそんなことを言った。…なんでか知らないけど、ミラちゃんのその言葉には力強い重みがあった。

 

(ミラちゃんって、一体…?)

 

「…ところでここは?」

 

「2004年の冬木、っていう都市らしいよ?」

 

「へぇ…燃えてるのは………なんか、嫌な予感がする」

 

とりあえず、所長が気を失ったまま戻らないし私達は霊脈の場所まで戻ることになった。…流石にミラちゃんに許可されたからと言って古龍の背中の上に乗って空を飛ぶのは怖かったけど……あたりを一望できたからいいかな。…すっごい燃えてたけど。

 

「……相棒。」

 

「ん?」

 

「…とてつもなく、嫌な予感がします。何か、大切なものを失ってしまうような……そんな予感が。」

 

「……」

 

ルーパスちゃんの目が鋭いものになっていたのと、私の直感が激しく警鐘を鳴らしているのに強い不安を覚えながら、私達を乗せたネルギガンテは空を翔けた。

 




キャラ別の過去に関してはまたいつか。これであらすじに出てたの全員揃いましたね。


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第14話 触媒

ミラ・ルーティアの年齢が明かされますよ~
それと作品のタイトルを変更します。あまり変えるつもりはなかったのですが、このタイトルのままは何か違う気がすると思いましたので。タイトルは以下の通り。

旧タイトル“狩人達と魔術師達の運命”



新タイトル“狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い”

最後に、アンケートへのご協力ありがとうございました!オルレアン開始後にオルレアン終了後の召喚アンケート設置しますのでお待ちください。

アンケート結果
(0) 狂戦士、魔術師、槍兵
(6) 魔術師、裁定者、暗殺者
(6) 槍兵、騎兵、弓兵
(1) 弓兵、魔術師、魔術師
(1) 狂戦士、騎兵、槍兵


「ただいま~……」

 

「あ、お帰りなさい!」

 

私達は霊脈の拠点でルーパスちゃん達、つまり異世界の住人達を迎えた。なんで迎えた、なのかというと、さっきネルギガンテに乗って霊脈の拠点に戻ってきた後、ルーパスちゃん達がクー・フーリンさんとマシュ、それからスピリスちゃんにここの守護を任せてどこかに行ってたから。

 

「…おかえりなさい、ルーパス、ジュリィ、リューネ、ミラ。そしてそのオトモ達…」

 

「…あ、落ち着いた?」

 

「えぇ、おかげさまで…古龍とかいろいろ難しいことばかりだけど、何とかなるわ…」

 

オルガマリーがそう言った。まぁ、確かにスピリスちゃんが話した内容って色々難しかったもんね…

 

「…何か分かった?宝具に関して調べてくる、と言って出ていったようだけど。」

 

オルガマリーが聞いたけど、ルーパスちゃん達から帰ってきたのは否定だけだった。

 

「ジュリィが何か分かりそうな気がしたらしいけど、肝心の解放まではいかなかった。ロマンの言う限り、スピリスの“サインコール”、それと“メガブーメランの技”。それから私とリューネの奥義に魔力反応があったらしいけど…」

 

「そういえばさっきドクターになんか聞いてから出て行ったね…ね、メガブーメランの技って?」

 

「そのままの意味だよ?巨大なブーメランを投げるの。ね、スピリス。メガブーメランの技、どこで使った?」

 

「にゃ…マシュさんと立香さんが戦ったサーヴァント…でしたかにゃ、それの気を逸らすために使用しましたにゃ。」

 

私とマシュが戦ったサーヴァント…ってライダー、だっけ。

 

「そう…あの時ね…立香が無事でよかった……」

 

「それを言うならオルガマリーも。あの時すごく心配したんだから…」

 

私たちの会話にルーパスちゃんが首を傾げた。

 

「あれ?私達がいない間に結構仲良くなってない?」

 

「あぁ、ルーパスちゃんが貸してくれたオルゴールと…なんだろ、飴?みたいなのが気持ちを落ち着かせたんだって。」

 

私がそういうと、ルーパスちゃんが柔らかく笑った。

 

「“鎮静の飴”が役に立ったようでなにより。意外と調合面倒なんだけどね、あれ。」

 

「何が必要なんだ?」

 

「飴と“ウチケシの実”、“クタビレダケ”、“マヒダケ”、“ネムリ草”、“滋養エキス”。それぞれの効果を8割くらい打ち消させてから強化させたもの。なんでか知らないけど安らぎを与える効果になった。」

 

「…相変わらずだな、ルーパスは。効果を知っているということは使ったことがあるのか。」

 

「まぁね。使ったことないやつを人にあげたりしないよ。」

 

なんかよくわからないけど、触れちゃいけない気がする。

 

「あ、そうそう。これ、出かけてるときに。この子が見かけたから気絶させてみたらしいけど、知ってる…?」

 

そう言ってミラちゃんが近くにいた狼…え、ちょっと待って狼!?…とりあえず、その狼の背中から黒い人を下した。

 

「あん?…アーチャーじゃねぇか。」

 

クー・フーリンさんがそう言った。アーチャー…?

 

「アーチャーは大聖杯前、セイバーと聖杯を守る最後の砦だったはずだ。……適当に徘徊してたミラにやられたのか?…すっげぇダセェ。」

 

「死んではないから意識が戻ったら襲ってくるかな…?麻痺してるだけだし。」

 

「麻痺、ねぇ……」

 

そう言ってクー・フーリンさんはミラちゃんを見た。

 

「…そこの狼は何だ?」

 

「ランのこと?」

 

「ラン?」

 

「…あぁ、ごめん、説明不足だった。雷狼竜“ジンオウガ”。ランっていうのはこの子の名前ね。この子は古龍じゃないよ。」

 

ォォォォン

 

その…ジンオウガ、だっけ。が小さく吠えた。…にしても、すっごい電気…

 

「必要ないなら、こっちで倒しちゃうけど。」

 

「あぁ、必要ねぇだろ。」

 

「ん、ラン。」

 

ミラちゃんがそう言った途端、ジンオウガがアーチャーのサーヴァントを踏み潰した。そこからアーチャーの体の崩壊が始まる。

 

「おっかねぇ。マジでギリギリで抑えてあったのかよ。」

 

〈…ルーパスちゃん達、ちょっといいかな?〉

 

ドクターが少し真剣な表情で話しかけてきた。

 

「なに?」

 

〈単刀直入に言おう、君たちをカルデアの方に招きたい。だが、サーヴァントとして在る以上、君たちが召喚されるかどうかは運だ。何か、君たちを由来とするもの。触媒となるようなものはないかな?〉

 

「「「「触媒…?」」」」

 

ルーパスちゃんたちが悩み始めた。

 

「…その触媒って何でもいいの?」

 

〈良ければ君達だと断定できるもの。そうでなければ君たちが身に着けているものから縁をたどって召喚することになると思う。それを立香ちゃんにわたしてくれないかい?〉

 

「私達だと断定できるもの、ね……」

 

ルーパスちゃんは少し考えた後、左手から何かを外す動作をした。

 

「はい、立香」

 

その言葉に私が慌てて手を差し出すと、手の上に銀色の輪っかを落とされた。……って待って、これ…

 

「「指輪!?」」

 

「うん。それなら私だって断定できるんじゃないかな。」

 

「こ、こんなの貰えないよ!」

 

「でも…多分、それなら十分だと思う。その指輪には私とリューネの軌跡が刻まれてるから。」

 

「…あぁ、これか。」

 

そう言ってリューネちゃんが見せたのは左手の薬指にはめられた指輪だった。…え、左手の薬指って…

 

「言っておくが着けている指に深い意味はないぞ。」

 

「うん、知ってる。」

 

「…でも、こんなの貰えないよ。返してくれればいい、って言っても借りていられるかどうか…」

 

そう言ったらルーパスちゃんたちは困った顔をした。返したら受け取ってくれたけど。

 

「ん~…じゃあ、これは?」

 

そう言ってルーパスちゃんが取り出したのは一本の矢。すごく古びてて、矢としての力を発揮するかどうかすらわからない感じ。

 

「それは……“原初の矢”」

 

リューネちゃんがそう呟いた。原初の矢?

 

「懐かしいな。ルーパスが初めて放った矢だ。もう10年以上前になるのか…ならば」

 

リューネちゃんが出したのは一本の縦笛。こっちもすごく古びてる。

 

「“始まりの笛”。なんだ、考えることは一緒なんだ?」

 

「あぁ。これならどうだろうか?」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんはドクターに聞いた。

 

〈あぁ、大丈夫だろう。あと問題は君たちのオトモ達なんだが…〉

 

「スピリスとジュリィは多分私というつながりを通じて召喚されるんじゃないかな。」

 

「ルルとガルシアも僕というつながりによって召喚されるだろう。」

 

「…そっか。そうだよね。」

 

〈3人とも、やけに自信ありげだね?その根拠は?〉

 

「「「自分の直感」」」

 

迷ったときは直感を信じる。それが私だし。

 

〈それで、ミラちゃんは…〉

 

「…これくらいしかない。」

 

そう言って差し出したのは真っ白な指輪だった。小さい白い龍の頭が指輪についてる感じのやつ。あ、彫ってあるわけじゃないよ?あしらわれた、っていうのかな?

 

「これは?」

 

「“リングドラグーツ”…とある龍との契約の証。…その贋作。大切なものだけど、私はそれくらいしか思い浮かばなかった。」

 

「……」

 

〈……ミラちゃん、聞いていい…かな?〉

 

「?」

 

〈さっきからずっと気になってたんだけど……君、一体幾つだい?〉

 

「私の年齢?…あ~…」

 

結構失礼なこと聞いてる気がするけど、ミラちゃんはそれを気にしてる様子はなかった。

 

「一応これでも16…だけど。」

 

「……」

 

〈……〉

 

え?

 

 

「「「「「「〈16っ!?〉」」」」」」

 

 

「え?あ、うん。」

 

「え、ごめん、身長は!?」

 

「114cm…」

 

ちょっと待って16歳にしては小さすぎない!?

 

〈嘘だろ!?明らかに小さいのに16歳だって!?何かの間違いだろ!?〉

 

「…あぁ…私、とある事情で9歳の頃から成長が止まっちゃってるから。」

 

〈とある…事情?いやその前に、9歳の頃の身長だとしても-2.5SD、いやそれ以下!!8歳7ヵ月女子の-2.5SDと同じってどういうことだ!?間違いなく低身長だぞ!!〉

 

あ、流石ドクター、その辺詳しいんだね。ちなみに私が知ってるのは良く創作キャラとか作ってたことあって調べてたからだね。

 

「…まぁ、私もともと体が弱かったし。そもそも医者からは恐らく10歳まで、限りなく長く見積もっても15歳を迎えられればいい、って言われてたレベル…」

 

その言葉を聞いて呆然とした。私だけじゃない、マシュも、オルガマリーも、ルーパスちゃんも、リューネちゃんも、ジュリィさんも……皆が呆然としてた。確かに肌がすごく真っ白だけど。こんな小さな子が、余命を伝えられていたなんて。

 

「16って伝えると結構驚かれるから慣れた…」

 

そう言ってミラちゃんはため息をついた。

 

〈いや君どんな生活を送ってきたんだ一体!!〉

 

「普通といえば普通。才能と引き換えなのかは知らないけど、“短命”、“低身長”、“病弱”の…呪い、なのかな。そんな感じだから。」

 

「才能?」

 

そう聞くと、ミラちゃんは小さくうなずいた。

 

「曰く…“あらゆる獣魔に愛される才能”、って言ってたかな。数十年に一度いればいいくらいの才能なんだって。これのせいかもしれない、ってお医者様が。」

 

「…あれ。でも…いま16歳なんだよね?15歳までしか生きられないんじゃ…?」

 

私が思わず呟くと、ミラちゃんは小さく笑った。

 

「さっき言ったとある事情でね。私の寿命は人並みまで延びてるの。体が成長しない代わりに、寿命は人並みにあるんだよね。」

 

「…」

 

「まぁ、そんな話は今話すことじゃないと思うけどね。12くらいから私は世界を飛び回ってたし。実家に帰ることなんてほとんどなかったから。」

 

そうだったんだ…

 

「妹にもちょっと迷惑かけちゃったからね。これでも私三人姉妹の長女なんだよ?1つ下の妹が14になったときに王位継承権渡したし。」

 

「……え?王位?」

 

「あれ、言わなかったっけ。………あ、言ってないや。」

 

忘れてた、っていう感じの表情をしてた。

 

「私、一応王族の末裔なんだよ。はるか昔…シュレイド王国という国があった時、その国を治めていた王族の、ね。」

 

……ってことは

 

「「「「王妃様!?」」」」

 

「…じゃなくて王女かな。」

 

その突っ込みを聞いた時、オルガマリーが倒れた。

 

「オルガマリー!?」

 

「所長!しっかり!!」

 

回復するまで少しかかりました。

 

「…私の呪い。“短命(その生命、常に死の淵なり)”、“低身長(その背丈、年齢に見合わず)”、“病弱(その生気、常人よりか弱し)”。そして───」

 

私は、この先の言葉を聞き逃した。けど、後で聞いたら確かに言ってたみたい。4つめの呪い───

 

 

「───“不老不変(その肉体、決して老いず決して変わらぬ)”」

 




とりあえず詳細データは冬木が終わってからですね。ごめんなさい。


訂正

“リングコネクティア”という名前だったのを“リングドラグーツ”に変更

指輪の見た目説明を変更

(以上2021/01/28)


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第15話 相対するは剣士の英霊

ん…なんか微妙です。
あと少しR18関係のことを示す言葉が入ってますけど、一応隠してますし大丈夫…ですよね?それから私は多分R18作品は書きません。


「これが…大聖杯。超抜級の魔術炉心じゃないのよ……なんで、極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

超抜級、っていうのがよくわからなかったけど、なんかすごそうなことは分かる。

 

「……まるで、“龍脈の収束地”。冥灯龍ゼノ・ジーヴァが生まれ落ちた場所。そんな感じがする…」

 

そのルーパスちゃんの言葉にジュリィさんとミラちゃんが頷いてた。

 

〈資料によると、製作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない、人造人間だけで構成された一族の様ですが。〉

 

「悪いな、おしゃべりはそこまでだ。奴に気づかれたぜ。」

 

クー・フーリンさんの示す方向を向くと、確かにそこに黒い鎧を着た女性がいた。

 

「あれが…アーサー王…?」

 

〈間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。〉

 

でも…私が知ってるのだと男性だったような。

 

〈伝記とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろう?お家事情で男の振りをさせられてたんだよ、きっと。〉

 

「私の世界のシュレイド王国の方は女性である私が第一王位継承者な時点でお察しかな?お父さんに聞いた限りだと、王座に就くのはどっちの性別でもよくて、王族直系血族の一番年上の子供が第一王位継承者になるって言ってた。それが正妻・正夫の子でも側室の子でも、はたまた平民と結ばれて出来た子でも全く問題なし。その代の王と結ばれて出来た一番最初の子供が第一王位継承者なんだって。」

 

〈なんかすごいな……ということは一夫一妻制じゃなくてミラちゃんの世界のシュレイドは多夫多妻制なのか…〉

 

「ちょっと、子供になんて話してるのよ。」

 

〈考えてみればそうだ!?〉

 

「ちなみにその代の王の子供が王の退位直前になっても生まれなかった場合、王が王位継承者であった時の次の王位継承者の子供が王となる。もしも王位継承者が全員いなくなってしまった場合はとある儀式をした後、全国民の中から自薦と承諾済みの他薦、そしてその中から国民総出での投票によって新たな王が選ばれるらしいよ。」

 

〈ふむふむ……ちなみにとある儀式って?もしかして人柱とか?〉

 

ドクター、物騒だと思うそれ…

 

「えっと…少なくとも人身御供とかではないよ。」

 

あ、違うんだ…ってあれ?あのアーサー王、攻撃仕掛けてきたりしないと思ったらミラちゃんの言葉に聞き入ってる?

 

「んと…“誓約の泉巡り”、ってお父さんは言ってたかな。」

 

「誓約の泉…ですか?」

 

「“誓約の泉巡り”…世界各地にあると言われる魔法の泉。…なんだっけ、火属性を司る“火炎”、水属性を司る“水流”、雷属性を司る“雷電”、氷属性を司る“氷結”、龍属性を司る“龍気”の属性泉。それから場所を示す“天界”、“大地”、“冥界”の世界泉。それと……あぁ、そうそう、清らかであることを示す“純潔”、生命力を示す“再生”。最後に起源泉。全11個の泉を二人の男女と宮廷魔導師、もしくは巫女のたった3人で巡るの。」

 

「へぇ…巡るだけなの?」

 

「んと…確か最後の“起源の泉”で二人で一糸纏わぬ姿で泉の中に入って肌を重ねるとかなんとか……」

 

「「〈ぶっふ!?〉」」

 

ドクター、クー・フーリンさん、オルガマリーが吹いた。アーサー王も少し顔が険しくなってる?

 

「こ、子供になに教えてんだ!?てめぇの親は!?」

 

「いや、これ教えてくれたの古龍達……言っておくけど詳しいことは教えてくれなかったよ?私も興味なかったけど。」

 

それに対してドクター達の視線がネルギガンテに集まった。ネルギガンテは居心地が悪そうな感じだったけど。

 

「…って、なんで古龍がそんなこと知ってるんだ?」

 

〈た、確かに…なんでなんだい?〉

 

「その泉を司っているのが古龍達だから。」

 

ミラちゃんはそう簡潔に答えた。

 

「“火炎”の炎王龍“テオ・テスカトル”、“水流”の大海龍“ナバルデウス”、“雷電”の幻獣“キリン”、“氷結”の冰龍“イヴェルカーナ”、“龍気”の天彗龍“バルファルク”、“天界”の鋼龍“クシャルダオラ”、“大地”の煉黒龍“グラン・ミラオス”、“冥界”の屍套龍“ヴァルハザク”、“純潔”の黒龍“ミラボレアス”、“再生”の滅尽龍“ネルギガンテ”。…そして、“起源”の祖龍“ミラボレアス”。これら11古龍がその泉を司る象徴なの。」

 

〈ミラボレアスが…2体?〉

 

「…その話はまたいつか、かな。そろそろ進めないと。」

 

〈待ってくれ、その前に聞かせてくれ。〉

 

「…なに」

 

ミラちゃんが少し不機嫌そうだった。…なんか、ごめんね

 

〈その誓約の泉巡り…新たな王を決める儀式だと聞いたけど、それ以外にも何かあるのかい?〉

 

「…誓約の泉巡りはちょっと特殊な婚姻の儀でもあるの。真に愛する二人の男女とそれを見届ける見届け人の宮廷魔導師、もしくは巫女が一緒に泉を巡る。二人の愛が完全なものだと証明されて、初めて誓約の泉巡りは完全に終わりを迎える。次の王家を確定することができる…つまり王家を成立させることができる。もしも、二人の愛が完全でないならば、王家は確定せず、また誰かが誓約の泉巡りを行わなくてはならない。愛の完全な証明、すなわち“死訪れし刻まで共に在れ”。これを見定める古龍達は誓約の泉巡りをした夫婦の生涯を見ているからね…一度完全でないと判断を下したならば王家成立の証たる“王家の指輪”は破棄される。」

 

「…あぁ。そういうことかよ。っていうかなんでそんなことまで知ってるんだよ?」

 

「私が“古龍の巫女”だから。古龍達に泉巡りが行われることを伝え、それが見定めてもらうことを依頼する者だから。…本来は、王家の人間がなるものじゃないけど。次の王位は私じゃないし、お父様がこれからも王家に関われるようにって。…まぁ、民からは慕われてたし、私が王にならないって決まった時もすごく悲しまれたし……実際お父様に直談判しに行く人や私に謁見申し込んできて考え直してくれないかって言いに来る人いたけどね。」

 

「…ほう。貴様は民から慕われ、愛された王女だったのか。」

 

「なぁっ!?てめ、喋れたのかよ!?」

 

今まで声を発さなかったアーサー王が初めて声を発した。

 

「なに、何を語っても見られている故に案山子に徹していた。しかし…」

 

アーサー王がミラちゃんを見つめた。

 

「………………小さいな。」

 

「余計なお世話っ!!溜めて言うことじゃない!!」

 

「貴様幾つだ?見たところ6つくらいのようだが、そうではあるまい。若いならばまだ成長の兆しはあるだろう。」

 

「これでも16っ!!低身長の呪いみたいなのかかってる上に結構前から成長止まってるの何か悪い!?」

 

「……すまない」

 

「謝られるのがなんか腹立つし謝られると私怒れないんだけど……」

 

なんか落ち込んでたから頭撫でてあげたら気持ちよさそうな顔してた。猫かな?あとちょっと可愛いって思っちゃったのは悪くないと思いたい。

 

「すまない……本当にすまない」

 

「うるさーい!!」

 

なんだろう?なんでか“すまないさんの早期顕現”っていう言葉が思い浮かんだんだけど。“すまないさん”って誰だろ??

 

「…それにしても、だ。」

 

アーサー王がマシュの方を見た。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

 

「っ…嬢ちゃん、気を付けろよ。あれは筋肉じゃなく魔力放出で飛ぶ化け物だからな…!」

 

「っ…来ます、マスター!!」

 

「うん…負けないよ!」

 

「私もやる…少しだけだけど!!」

 

ミラちゃんがそう言って杖を振ると、ミラちゃんの周りに白色の……波紋?みたいなのが現れた。その数、5。

 

「…装填、解放。素にある属性は風、鋼の龍が用いし龍風。是なるはその力を秘めし魔弾!!」

 

〈詠唱か!?いやしかし、宝具の解放じゃなさそうだ!〉

 

「ただの射撃魔法だけどね…レーッ!!」

 

ミラちゃんがそう叫ぶと、波紋から30個程の風の塊が放たれた。

 

「ぬっ…!?」

 

「あれは…」

 

「鋼龍“クシャルダオラ”の…“龍風圧”か。」

 

龍風圧?…あ、そうだ

 

「ねぇ、ルーパスちゃん。」

 

「ん~?」

 

「もし…無事にカルデアの方に来れたら…その時は、ルーパスちゃんたちの世界の言葉を教えてくれないかな。」

 

「ん…いいよ」

 

「ありがとう。」

 

そう言って私達の視線は戦闘に戻った。

 

「まさか、キャスターの小娘がこれほどとは───!だが!――卑王鉄槌。極光は反転する――光を呑め!」

 

「…マシュッ!ネルルッ!!」

 

〈宝具だ、聖剣が来るぞ…!ミラちゃん離れて……ってそれなんだい!?〉

 

ドクターの言うとおり、ミラちゃんを黒い棘の生えた大きな翼が包み込んでいた。

 

「あ、あれネルギガンテだ。」

 

「ですね。あの黒棘はネルギガンテのものです。ならばあれは、ミラさんを守るための…!?」

 

「ミラさん、時間稼ぎありがとうございます…宝具、展開します…!」

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”!!」

 

「“疑似展開 仮想宝具/人理の礎(ロード・カルデアス)”!!」

 

宝具と宝具の衝突。ネルギガンテに護られたミラちゃんはネルギガンテが圧力に耐えられなかったようでこっちに吹き飛んできた。

 

ォォ、ォォォ……

 

「ごめん、無理させて…」

 

「ミラちゃん、大丈夫…?」

 

「私の心配より彼女の心配。貴女の使い魔なんでしょ。」

 

その言葉を聞いて少し気分が落ち込んだ。私は、マシュを“使い魔”として。道具として見たくはなかったから。

 

「使い魔を失ってもいいの?それは、あなたの心に影を落とすんじゃない?」

 

ミラちゃんは少し辛そうに呟いた。

 

「…私は、使い魔をただの使い魔として、道具としてしか見ない人は嫌い。どんな生み出され方をしたとしても、その使い魔は生きてるんだから。……立香。貴女はそういう風にならないでほしい。」

 

「……ありがとう。」

 

…私からすればミラちゃんはサーヴァント召喚の先輩になるのかな。だったら、素直に忠告は聞いておいた方が良い気がする。それに、ミラちゃんは使い魔をちゃんと道具として見るようなことはせず、愛する人だってわかったから。

 

「あああぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

マシュの盾とアーサー王の聖剣の衝突。マシュが少し押されてる。

 

「……ふん!」

 

「…っ!?」

 

聖剣の出力が上がる。それで押され気味だったマシュはさらに押されやすくなった。

 

「……」

 

わたしは…

 

「……っ!」

 

もう……

 

「っ!?先輩!?」

 

「私は…もう……」

 

私はマシュの盾を支えていた。マシュは気づくの遅れたみたいだけど。

 

「なにやってるの!?」

 

「もう…いやなの。…私は………!」

 

「──!?」

 

はっきりと、アーサー王が驚愕した表情が見えた。それと同時に、私の手にある赤い紋様が二画、消える。

 

「もう…私は……!親しくなった人を……誰も失いたくないの…!!」

 

「聖剣が…押される…!?」

 

お兄ちゃん……みんな……力を貸して……!

 

「「……はぁぁぁぁぁああ!!」」

 

私の願いと共にマシュが持ち直し、聖剣を完全に押し返した。

 

「くっ…まさか、完全に受けきられ、反射までされるとはな…」

 

反…射…?

 

「聖杯を守り通すつもりだったが、己が執着に傾いた挙句、敗北した。結局、どう運命が変わろうと私一人では同じ末路を迎えるということか───」

 

そう言った後、アーサー王は私をじっと見つめた。

 

「マスターである娘。心しておくがいい。」

 

私…?

 

「グランドオーダー───聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだということを。貴様もいずれ知るだろう、貴様に課せられた運命というものを───」

 

そう言ってアーサー王は消滅していった。

 

「私に課せられた…運命…?」

 

私はアーサー王の言葉を繰り返していた。

 

「…なんか、納得いかねぇ。が、俺はここまでか。後は頼むぜ、立香。それにルーパス達もな。」

 

その声にクー・フーリンさんの方を向くと、クー・フーリンさんも消滅しかけてた。ルーパスちゃん達は何も問題はない。

 

「え…なんで」

 

〈サーヴァントは聖杯戦争が終わると消滅する。それが普通なんだよ。もしかしたらルーパスちゃん達はこの聖杯戦争に呼ばれたわけじゃなかったのかもね。〉

 

「そうかもな。俺の記憶の限り、ルーパス達のような姿は見たことねぇしな。…もしも次があるなら、そん時はランサーとして呼んでくれや。」

 

そう言い残して彼は消滅した。

 




はてさて、一体どうなることでしょうか。
というか冬木もそろそろ終わりますね…私早くゲームのメインストーリー進めないとです…(未だキャメロット)


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第16話 編纂者(キャスター)召喚師(キャスター)。記録と喪失。

この話が作りたかった。でも色々と書いた影響で本文が5,000文字超えたのは反省点ですね。

あとタイトルの所で出てくれなかったのでここに正式名書いておきます

第16話 編纂者(キャスター)召喚師(キャスター)記録(レコード)喪失(ロスト)


「…アーサー王、クー・フーリンさんともに消滅を確認しました。…私達の勝利、なのでしょうか…」

 

〈あぁ…よくやってくれた、マシュ、立香ちゃん!所長も喜んで…所長?〉

 

冠位指定(グランドオーダー)……どうしてその呼称を…?」

 

「…オルガマリー、何か気になることでもあるの?」

 

「え……あぁ、ごめんなさい。少し考え事をしていたわ。不明なことは多いけれど、ここでミッションは終了とします。」

 

オルガマリーはそう言ったけど、私はそんな気がしない。何故なら、私の直感がまだ警鐘を激しく鳴らし続けているから。なら、まだ何かあると思う。

 

「オルガマリー。」

 

「なにかしら?」

 

「ありがとう、ここまで。ここまでこれたのはオルガマリーのおかげだと思う。私だけじゃ、ここまでこれなかったと思うから。良かったら、これからもよろしく。全部を頼る気はないけど。」

 

そう言ったら、驚いた顔をしてた。でもすぐに表情を戻した。

 

「…感謝は後ででも聞くわ。ひとまず、あの水晶体を回収しましょうか。アーサー王が異常を起こしていた理由。冬木の町が特異点になっていた原因はどう見てもあれのようだし。」

 

「はい、至急回収……!?」

 

マシュの声が途切れたと同時に、私の直感の警鐘が激しさを増した。流石に頭が痛くなってくる。けど、こんな警鐘は初めて。

 

 

「やれやれ、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。」

 

 

その、聞こえたその声は。

 

「48人目のマスター適正者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ。」

 

その声を、私は知っている。その方向を見ると、確かにその人がいた。

 

「レフ教授!?」

 

確か名前はレフ・ライノール。思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。曰く、“この者を信用してはいけない”。ルーパスちゃん達も、その声の主を警戒してる。その警戒は一目瞭然、ミラちゃんのネルギガンテと対峙した時の比じゃない。

 

「レフ…?レフなの…?」

 

その人に近づこうとしたオルガマリーを、マシュとルーパスちゃんが止めた。

 

「オルガマリー、離れて。……あれは、“人”でも、“龍”でもない。」

 

「ルーパスさんの言う通りです。…あれは、私たちの知るレフ教授じゃありません。」

 

「え…?」

 

ふと目をそらしてみると、フォウ君がその人を睨め付けるように見ていた。……そういえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

〈レフ!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのか!?〉

 

「うん?その声はロマニ君かな?君も残ってしまったのか。全く…」

 

その言葉の後、その人、ルーパスちゃんの話だと人でも龍でもない何かが歪んだ笑みを浮かべた。

 

「どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間っていうのはなぜ定められた運命からズレたがるんだい?」

 

その言葉に私はゾクッとした感覚に襲われる。

 

「そんな中でももっと予想外なのは君さ、オルガ。爆弾は君の足元に設置したはずなのになぜ生きてるんだい?」

 

爆弾。その言葉を聞いたと同時に、ドクターからこの場所に来る前に聞いたことを思い出した。

 

【ここが爆発の基点だろう。これは事故じゃない、人為的な破壊工作だ───】

 

なら、この事件の首謀者は。

 

いま私の視界の中に居る、この男である、ということ。

 

「どういう、こと?」

 

「いや、生きているというのは違うな。君の肉体はもう既に死んでいる。トリスメギストスはご丁寧にも、この土地に残留思念となった君を転移させてしまったんだね。」

 

「…そういうこと。」

 

ミラちゃんがそう呟いた。

 

「道理で…変な感じがすると思った。肉体はないが魂のみ在る。一つの存在として成立していない…か」

 

「オルガ。君は生前、レイシフト適性がなかっただろう?肉体があったままでは転移ができない。わかるかい?君は死んだことで初めて、望んでいた適性を手に入れたんだ。だからカルデアにも戻れない。戻った時点で、君の意識は消滅するんだからね。」

 

「戻れない…って、嘘でしょ…?私が…消える?」

 

「そうだとも。だがそれでは君があまりにも哀れだ。特別に見せてあげよう。今のカルデアを。」

 

その時、空間が歪んだ。歪んだ空間の奥にあるのは、赤くなったカルデアス。

 

「何よ、あれ……立香、マシュ、あれ……嘘、よね?」

 

私達は静かに首を振ることしかできなかった。だって、あれは私達が実際に見たものだから。

 

「最後の慈悲だと思ってくれたまえ。君の宝物に触れるといい。」

 

「カルデアスに…?な、何を言ってるの?だって、カルデアスよ…?」

 

ルーパスちゃんとジュリィちゃんが厳しめな顔をしてた。

 

「カルデアスに触れるなんて……何を言ってるの?高密度の情報体よ?次元が異なる領域…なのよ?」

 

「あぁ、ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。…まぁ、どちらにせよ。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ。」

 

そう平然と言うレフ・ライノールの存在に、私は強い嫌悪感を覚えた。

 

「ふ…ふざけないで!っ!?」

 

「所長!?」

 

オルガマリーの身体が、浮き上がった。まるで、引き寄せられるかのように。

 

「…相棒」

 

「…ジュリィの…直感。それはまさかこれを…?」

 

「いや…いや、いや!!」

 

「相棒。」

 

「ジュリィ?」

 

「だって、やっと褒めてもらえたのに!!やっと認めてもらえたのに!!」

 

「オルガマリーさんを、引き止めることは可能ですか?」

 

「え…?」

 

「こんなところで死にたくない!!せっかく…せっかく友達もできたのに!!」

 

「…どういう、こと?」

 

「…少し、少しだけで、いいんです。時間を…稼いでほしいんです。」

 

ルーパスちゃんが所長の方を見つめた。けど、そのまま首を振った。

 

「無理だ…あれは私の手に負えるものじゃない。」

 

「そう、ですか……」

 

ここで何もできない私が辛い。また私は、友達を失ってしまう…

 

「…ジュリィさん、って言ったっけ。」

 

「はい?」

 

「…なんとか、できるの?」

 

「…私の勘が正しければ。」

 

「…分かった。」

 

「「え…?」」

 

ミラちゃんが、杖を構えた。

 

「いい?私が稼げるのはほんの少しだけに近い。そこからは貴女の展開速度での勝負になる。…失敗は、許されないからね。」

 

「……」

 

「いいからさっさと準備!!急がないと本当に手遅れになるよ!!あとこれ、持ってて!!」

 

「は…はい!!」

 

そう言ってジュリィさんは手帳を受け取ってから目を瞑り、ミラちゃんはオルガマリーを強く見据えた。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「……術式、展開。」

 

ミラがそう呟くと、その足元に白色の陣が展開された。

 

「時間がない…─────────」

 

〈な…ミラちゃんの魔力反応増大!?これは…まさか宝具か!?でもって凄まじい速度の高速詠唱だ!?こんなの、いくら天才だとしても16歳の子供ができていい芸当じゃないだろう!?〉

 

ロマニのその声が聞こえる。その詠唱に使う言葉は総て竜人語だが、早すぎて聞き取れない。

 

「──────…あぁもう!!我が心意、我が言霊を用いて詠唱を省略する!!今ここに穿つは喪失の呪文也!!」

 

詠唱省略。そんなことまで起こし、ミラが杖をオルガマリーに向けた。

 

「展開せよ!“常識より(クリエイト)───」

 

〈宝具、来るぞ!!〉

 

「───名を喪いし語(ロストワード)”!!!」

 

その杖から噴射された魔力は、オルガマリーを直撃した。

 

「ちょっ、ミラちゃん、なにやっ………て?」

 

立香が問い詰めようとしたが、途中でその勢いがなくなった。

 

「先輩?」

 

「…ねぇ、マシュ。」

 

「はい」

 

「…あの人、誰だっけ?」

 

「へ…?」

 

立香はオルガマリーのことを示して、再度言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「先輩!?何言ってるんですか、あの人……は……」

 

反論しようとしたマシュの言葉も途中から消えていった。

 

「あの、人は……あれ?」

 

そう言いつつ、マシュも呟いた。

 

 

 

…ドクター。()()()()()()()()()()……?

 

 

 

〈君たちボケちゃったのかい!?忘れちゃダメだろう、あの人は我がカルデアの………カルデアの…………〉

 

別の時間にいるロマニでさえ、こう呟いた。

 

 

 

()()?いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?

 

 

 

ミラが宝具を放ってから声を発した全ての人から、“オルガマリー・アニムスフィア”という()()()()()()()()()()()()。そんな状態だった。

 

しかし、例外は在った。

 

「今よっ!!」

 

「…時間稼ぎ、ありがとうございます!今助けます、待っててください!!」

 

術者たるミラと、謎の手帳を渡されたジュリィは、その存在を忘れていなかった。

 

「宝具解放…行きます!“あらゆるものを(ページ・オブ)───」

 

編纂者たるジュリィは、その本を開いてその宝具の名を告げる。

 

「───吸い込み記す入口の頁(レコード)”!!」

 

その瞬間、オルガマリーの身体が光に包まれ、どこからか巻き起こった風と共に身体ごと本に吸い込まれた。

 

 

あらゆるものを吸い込み記す入口の頁(ページ・オブ・レコード)”。それは、編纂者という職業の在り方が宝具となったもの。

 

編纂とは、多くの文献をあつめ、それに基づいて、新しく記述した書物に関して用いる用語であり、著作者の年譜や著作目録の作成などに用いる言葉である。それを行う編纂者は、まさに情報統括のエキスパートになり、その“記録する”という概念が宝具と化した。

 

その効果はいたって単純。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

扱いを間違えれば、生き地獄にもなる宝具である。しかし、本の中に存在するは永久の時間。本の中に吸い込まれた存在は、休眠状態で過ごすことになる。

 

そして、ミラの宝具。“常識より名を喪いし語(クリエイト・ロストワード)”。

 

こちらもいたって単純だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

この宝具で今回ミラがやったことは三つ。

 

一つ、カルデアスの“次元が異なる領域”という概念の抹消。

 

二つ、“引力に引かれる存在は肉体がない”という現在の状態の抹消。

 

三つ、“オルガマリー・アニムスフィアという名の存在がいた”という認識を抹消。

 

読者の皆さんなら知っている人はいるだろう。“ロストワード異変”を。

 

ミラが使う呪文の一つ。“喪失の呪文”は、このロストワード異変を彼女の意思で引き起こすもの。

 

()()()()()。これはサーヴァントの真名を、強制的に忘却させることができる宝具だ。

 

しかし、これには問題がある。

 

一つ。カルデアスの概念を抹消したために次の観測がうまくいかなくなる。

 

二つ。死んでいるが肉体が生きていることにされているという異常。

 

三つ。オルガマリー・アニムスフィアを“オルガマリー・アニムスフィア”だと認識できない。

 

彼女はこれを分かったうえでこの宝具を起動した。

 

しかしこれはロストワードを生み出す呪文であってロストワード異変そのものではない。

 

ただしこのロストワードは性質的には異変と同じだ。

 

そして、こちらのロストワードは作成されてから全部の力を発揮するまで、少しだけ時間がかかる。

 

ロストワードの影響を受けないもの。それは、ロストワード異変に関わったなら知っている人は多いはずだ。

 

 

「…ミラさん、大丈夫です!!」

 

「了解…ロストワードを解除するよ!“全てを記録せし筆記帳(メモリアル・インデックス)”、ロストワードは“次元が異なる領域”、“引力に引かれる存在は肉体が存在しない”、“オルガマリー・アニムスフィア”!!!」

 

ミラの手元から手帳が浮かび、それが強い光を放った。

 

「まぶっ……あれ?」

 

「先輩…!?あれ、所長はどこへ!?」

 

「っ!?ていうか…私達…いま…オルガマリーのこと忘れてた……!?」

 

 

ミラがしたのは単純だ。ロストワードの答え合わせ。“全てを記録せし筆記帳(メモリアル・インデックス)”。ロストワードを作る宝具と対になる宝具だ。

 

そもそもロストワードの扱いについてはミラはよく知っている。世界の常識に対してのロストワードは長く維持していれば維持しているだけ、危険なものと化すものだ。ミラが発動前に言った“ほんの少し”。それは、ロストワードを成立させてから世界全体に被害が出ないと確信した最低レベルのラインを示している。

 

ロストワードが封印する宝具ならば、インデックスは解放する宝具。一対の対概念宝具である。

 

ジュリィがロストワードの影響に巻き込まれなかったのは、ミラが渡していた手帳が対ロストワードの守りの作用を働いたのだ。

 

そして、ジュリィは直感のみで宝具を起動し“オルガマリー・アニムスフィアという名前だった存在”を標的として記録の宝具を放った。

 

記録(レコード)喪失(ロスト)。これが、二人の宝具が引き起こしたことだ。

 

 

 

side 立香

 

 

 

「───!?そこのサーヴァント、何をした───!?」

 

レフ・ライノールの声が聞こえる。私もミラちゃんとジュリィさんの方を呆然と見つめてた。

 

「…何って…一人の人間を、救っただけ。まだ生きていたいと願った一人の人間を、救っただけ。」

 

「はい。それが、私の宝具のようですから。」

 

「何を寝ぼけたことを…そのまま連れ帰ったとしても、その女は既に死んでいる外に出した途端───」

 

「いいえ!」

 

ジュリィさんが力強く否定した。

 

「…いいえ、死にません。死なせませんし消させません!!」

 

「……ふん。好きにするがいい。」

 

レフ・ライノールは興味が失せたというようにジュリィさんから視線を外した。

 

オルガマリーは、ジュリィさんに救ってもらえたのかな。私にできるのは、またオルガマリーと話せるようにと願うことだけだった。

 




流石にここまでの文字量を書いたのは初めてじゃないですかね…
あとは帰還して…それから召喚書かないとです。


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第17話 約束

書いてる話の文字量の差よ…

UA5,000突破、ありがとうございます!ちなみに私はイベントクエスト回りながらAP回復待ちの時間にマテリアルを読み、執筆してます(はよキャメロット攻略せいとか言わないで)!


「…ふん。興が削がれたが、言うべきことは言っておこう。」

 

そう言ってレフ・ライノールは私達の方へと向き直った。

 

「改めて自己紹介をしようか。私は“レフ・ライノール・フラウロス”。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。」

 

…処理っていう言葉を聞いて、嫌な予感が倍増する。というか、ここまで来たら多分当たってる。

 

「聞いているな、ドクター・ロマニ?共に魔道を研究した学友として、最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みになった。おまえたち人類は、この時点で滅んでいる。」

 

〈…レフ教授。…いや、レフ・ライノール。それはどういう意味ですか。2017年が見えないことに関係があると?〉

 

「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ。未来が観測できなくなり、おまえたちは“未来が消失した”などとほざいたな。まさに希望的観測だ。未来は消失したのではない。焼却されたのだ。カルデアスが深紅に染まった時点でな。結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない。」

 

時代が、存在しない。考えられるのは、過去改変によって起こったタイムパラドックス。…だけど、そんなものじゃないと思う。焼却、って言ったし。

 

「カルデアスの地場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。」

 

その言葉が聞こえた時、ミラちゃんのいる方からゾワッとする空気が流れてきた。背筋が凍る、というかなんというか。…いや、ミラちゃんだけじゃなくてルーパスちゃんとリューネちゃんたちの方からも。

 

〈…そうでしたか。外部と連絡が取れないのは通信の故障ではなく、そもそも受け取る相手が消え去っていたのですね。〉

 

「……ふん。やはり貴様はさかしいな。真っ先に殺しておけなかったのは悔やまれる。だがそれもむなしい抵抗だ。カルデア内の時間が2016年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。」

 

その言葉を聞いた時、私が持ってきた()()()()()()()()()()()()、ような気がした。

 

「もはやだれにもこの結末は変えられない。何故ならこれは人類史による人類の否定だからだ。お前たちは進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのではない。」

 

そんなことを言うレフ・ライノールの顔は邪悪、ともいえるようなそんな顔だった。

 

「自らの無意味さに!自らの無能さ故に!我らが王の寵愛を失ったが故に!!何の価値もない紙クズの様に、跡形もなく燃え尽きるのさ!!」

 

そう言った途端、周囲が揺れ始めた。地震、かと思ったけど直感がそうじゃないって騒いでる。

 

「おっと。この特異点もそろそろ限界か。…セイバーめ、おとなしく従っていれば生き残らせてやったものを。聖杯を与えられながらこの時代を維持しようなどと、余計な手間を取らせてくれた。」

 

それを聞く限り、あのアーサー王は……変質しつつも、この世界を守ろうとしていたように聞こえる気がするけど。

 

「では、さらばだロマニ。そしてマシュ、48人目の適性者、名も知らぬサーヴァント共。こう見えても私には次の仕事があるのでね。君たちの末路を楽しむのはここまでにしておこう。このまま時空の歪みに飲み込まれるがいい。私も鬼じゃあない。最後の祈りくらいは許容しようじゃないか。」

 

そう言ってレフ・ライノールはその場から消えた。揺れはどんどん酷くなっていく。

 

「地下空洞が崩れます…!いえ、それ以前に空間が安定しません!」

 

「空間…」

 

「ドクター!至急レイシフトを実行してください!このままでは私はともかく、先輩とルーパスさん達まで……!!」

 

〈分かってる、もう実行しているとも!でもゴメン、そっちの崩壊の方が早いかもだ!!その時は諦めて───〉

 

「ロマン!ここの空間座標は!?」

 

ミラちゃんがいきなり叫んだ。

 

〈え…〉

 

「ここの空間座標が固定できていれば、ここの空間だけが維持できていればそのレイシフトっていうのはできるの!?」

 

〈え…り、理論上は!?〉

 

「なら私が()()()()()()()()()()()()()!!その間に!!」

 

〈え、えぇ!?〉

 

「早くしてよ!?私の術もそこまで持たないから!!」

 

そう叫んでミラちゃんは自分の杖を地面に突き刺した。その瞬間、ミラちゃんを中心に白い光のドームが出来上がった。同時に()()()()()()()()()()()()()

 

「詠唱無しはキッツい…!早くして……!!」

 

〈なんてこった、()()()()()()()!?いや違う、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───〉

 

無駄口はいいから早くしろ!!こっちの魔力が持たない!!

 

〈は、はぃぃ!!〉

 

「「怖っ!?」」

 

ミラちゃんって、結構怖いところあるんだね…でも、表情見るかぎりすっごい辛そう。

 

〈…すまない、二分耐えれるかい!?〉

 

「分かったから話しかけるな!!気が散る!!」

 

〈は、はい!すみません!!〉

 

「……ね、立香。」

 

レイシフトを待っているときに、ルーパスちゃんが話しかけてきた。

 

「うん?」

 

「あっちに無事に戻れたら……その時は、真っ先に私達を召喚してくれるかな。」

 

「え?」

 

「何をするよりも先に、真っ先に私達を。特に、ジュリィが召喚されるように。」

 

「え、う、うん…?」

 

「…よかった。ちなみに私は代表で来ただけだから全員の総意だよ。」

 

そうなんだ……なんかドームが小さくなっているような…

 

「…流石に意思の力だけで展開するのは重すぎる……!」

 

〈よし、準備出来たぞ!!レイシフト開始だ!!〉

 

そのドクターの声が聞こえたと同時に、あの時と似た感覚。

 

「…またね、立香。約束。」

 

「うん…約束!」

 

約束。それは、私が守れなかったことのあるもの。だけど、今回の約束は…守りたいな。そんなことを思ってたら、私の意識は切れた。

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

「…行っちゃったね。」

 

「あぁ…」

 

私達は残された小さな空間の中で時間を過ごしていた。

 

「この後どうなるんだろう。」

 

「さて、私にもわからないですにゃ。」

 

「…ルーパスさん」

 

スピリスが呟いた後、ミラが話しかけてきた。

 

「…逆探知、できた。」

 

「え」

 

「…空間を繋げる。ここはもう、ギリギリ。」

 

そう言ったミラの別の杖を振った先に、私達がこの世界に来た時の穴みたいなのが出来た。

 

「これを通れば、カルデアという場所に行けると思う。」

 

「ミラは…?」

 

「私は最後。空間の維持は、私しかできないと思うし。」

 

それを言われると何も言えないけど。

 

「早く。繋げすぎているとあっちにも被害出る。」

 

「あ、うん!…リューネ、先に。」

 

「あ、あぁ…すまない、先に失礼する。」

 

流石リューネ。私の性格を分かっているというかなんというか。

 

「…旦那さん、後でにゃ。」

 

「…お待ちしています。相棒。」

 

スピリスとジュリィも行った。あと残っているのは、私とミラだけ。

 

「さ、早く。」

 

「…ミラ。」

 

「…なに?」

 

「…ごめんね、いきなり襲いかかって。」

 

「……それはいいって言ったでしょ。」

 

「…そっか。…一緒に、行こう?」

 

「……分かった」

 

ミラが杖を地面から引き抜くと、光の球体みたいなのが消えた。それと同時に迫りくる、崩壊の壁。

 

「早くっ!」

 

私とミラは、同時に穴に飛び込んだ。

 

 

その時、私は私のサーヴァントとしての力の総てを知った。

 




冬木終了。次回はハンターたちの召喚回です。


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第18話 帰還、最初の召喚

そろそろ設定も投稿しないとですね…流石にいきなり日本語話し始めた理由とか気にするでしょうし。

あと昨日(2021/01/28)少し触媒の話をしたところを変えました。ミラの触媒である指輪の説明と指輪の名前、間違ってたのです。


「…ん」

 

「よーし、君はずいぶん良い子でちゅねー。何あ食べる?木の実?それとも魚?」

 

声が聞こえる。目を開けるとそこには美女…美女、でいいのかな?がいた。

 

「んー…ネコなのかリスなのかいまいち不明だね。でもいっか、可愛いから!」

 

「フォーウ……ンキュ、キュウゥ……」

 

確かにフォウ君って何の生物なのかわからないよね…

 

「ん?おっと、本命の目が覚めたね。それでこそ主人公というやつだ。」

 

私は主人公なつもりはないけど…?

 

「おはよう、こんにちは、立香。意識ははっきりしているかい?」

 

「え…あ、はい…あの、貴女は…?」

 

「んー…まだ思考能力が戻ってないのか。こうして直接話をするのは初めてだね。」

 

「あの…目を覚ましたら美女がいてびっくりしたんですけど…」

 

「へぇ?目を覚ましたら絶世の美女がいて驚いたって?わかるわかる、でも慣れて。」

 

絶世、とまでは言ってない気がするけど。

 

「私はダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな?」

 

ダ・ヴィンチ…?それって、確か有名な画家の…?

 

「とりあえず、話はあと。君を待っている人がいるんだから、管制室に行きなさい。」

 

「待ってる人…ですか?」

 

私を待っている人、って言って思いつくのはドクターとマシュ…それから……あっ

 

「…約束」

 

「うん?」

 

「すみません、失礼します!!」

 

私は部屋を飛び出して管制室の方へと向かった。しばらく話してたらここはカルデアで、管制室への道も思い出したから大丈夫。

 

「はぁ…はぁ…ここ、っ!」

 

息を切らしながら管制室に飛び込んだ。

 

「あ、先輩おはようございます。…大丈夫、ですか?」

 

「おはよう、マシュ…私は大丈夫。それより、ドクターは…?」

 

「あぁ、来てくれたのか。じゃあ───」

 

「ドクター、その前に。」

 

「…うん?」

 

「召喚って…どうするんですか」

 

あの場所を去る前にルーパスちゃんと約束したこと。それを先に、終わらせた方が良い気がする。

 

「…ブリーディング後じゃダメかい?」

 

「お願いします。サーヴァント…7体。それだけで、いいんです。」

 

「それ、結構多いの気が付いているかな?…まぁ、いいか。じゃあついてきてくれ。」

 

私達はドクターに連れられて、マシュの盾と同じものが置いてある場所にたどり着いた。

 

「ここは…」

 

「こちらは召喚室です。召喚用のものは…こちらに」

 

そう言ってマシュが見せてきたのは金色の札だった。

 

「これは?」

 

「所長が作っていた英霊召喚用の触媒となる札です。ちょうど、十四枚ほどありますが…」

 

「…それ以外の方法は、あるの?」

 

「あるといえばありますが…?」

 

オルガマリーが残してくれていたものなら、それはオルガマリーが戻ってきてから使ってあげた方が良い気もする。

 

「それは後の召喚に残そう?今は、それ以外の方法を使ってみたい。」

 

「…わかりました。ドクター、サークルを起動してください。」

 

「あぁ…ん、サモンプロクラム起動、サークル展開……行くよ、立香ちゃん。」

 

私の手元にはあの特異点でもらった矢、笛、指輪があった。

 

「出てくれるといいけど…」

 

〈霊基固定!召喚されます!これは…先程の未観測クラスです!?〉

 

「一発かい!?」

 

あれ?今の声、どこかで聞いたことのあるような…?そんなことを思ってたら、光の中から人の姿が出てきた。

 

「……うん?あぁ、ちゃんと召喚は成功したんだね。」

 

聞いたことのある声。女性だけど、その声は低くて男性だと間違えかける。

 

「…おや、僕が一番乗りなのか。ならば改めて自己紹介と行こうか。」

 

赤い鎧に身を包み、背中に背負っているのは…三味線。さっきとは別の姿だけど、本人だってわかる。

 

「“リューネ・メリス”。ハンター…狩人のサーヴァントとして現界した。これでも女なので気を付けてほしい。それなりに気にはしているのでね。先程ぶり、だね?立香殿、マシュ殿。それから、ロマン殿。」

 

リューネちゃんが、そこにいた。

 

狩人(ハンター)の…サーヴァント?」

 

「あぁ。特異点を出た後、僕らは“座”とかいうところに一時的に送られてね。そこで自分のクラスと宝具、スキルその他もろもろを知ったのさ。」

 

「さっきと姿が違うのはそのせい?」

 

「あぁ。詳しいことはまた後で話そうか。後がつかえているからね。」

 

そう言ってリューネちゃんは私の隣に来た。

 

「次を頼めるかい?」

 

「あ、あぁ…サークルを回してくれ!」

 

〈分かりました……霊基固定、クラスは…ハンター…なのでしょうか、この霊基は??〉

 

誰が出るんだろう、と思ってみていたら、そこに現れたのは犬だった。

 

「オォン」

 

「おや、ガルシア。君が先に来たか。」

 

「ガルシア…って確か、リューネさんのオトモガルクでしたよね?」

 

マシュがそう言うと、リューネちゃんはうなずいた。

 

「あぁ…ガルシア、おいで。」

 

「ォン」

 

一声鳴くとリューネちゃんの足元に駆け寄っていった。

 

「速めに終わらせよう、次々やってくれ!!」

 

ドクターの掛け声でサークルが回り出す。

 

〈霊基固定、召喚されます!!クラスは…キャスター…()()()()()()!?なんだこの霊基!?〉

 

「む…」

 

確か、キャスターはミラちゃんとジュリィさんの二人だけだったはず。だけどなんか霊基がおかしいみたい。そう思っていたら、サークルの中に人影が現れた。

 

「…キャスターのサーヴァント。真名“ミラ・ルーティア・シュレイド”。召喚に応じ、顕現いたしました。…遅くなりました、立香さん。」

 

「ミラちゃん…ありがとう、私達を守ってくれて。」

 

「いや、別に……感謝されるようなことしてない、よね?」

 

その言葉にドクター、私、マシュの三人が同時に首を横に振った。

 

「君のおかげでレイシフトが間に合ったんだ、礼を言わないと失礼だろう?」

 

「…そっか。さ、早く召喚したら?後の4騎も、召喚されるのを待ってるよ。」

 

私はうなずいて召喚サークルを回してもらった。

 

〈クラス、ハンター!来ます!〉

 

「…にゃ?あれ、私達の中では私が一番乗りですかにゃ。」

 

そこにいたのは猫。アイルーというモンスター。なんか、服がもこもこしてて可愛い。

 

「では自己紹介にゃ。サーヴァント・ハンター。真名は“スピリス”ですにゃ。これでもニャンターとして戦っていた時もあったのでそれなりにはお役に立てると思いますにゃ。どうぞ、よろしくですにゃ。」

 

ルーパスちゃんのオトモである、スピリスちゃんが来た。

 

「おや、まだルーパスは来ていないんだね。」

 

「旦那さんはまだみたいですにゃ。実際旦那さんの方が早いと思ってましたにゃ。」

 

「…ね、ねぇ、スピリスちゃん?」

 

「何ですにゃ、立香さん」

 

「もふっていい?」

 

「…まぁいいですにゃ。とりあえず次を回すにゃ。」

 

私はスピリスちゃんをもふりながらサークルを回してもらった。

 

「…にゃ。この感覚は」

 

〈クラス、ハンター!実体化します!〉

 

光が収まった時、そこにいたのはまたアイルーだった。こっちはメイドさんみたいな衣装。

 

「ハンターの霊基でけんg…何してるにゃスピリス。」

 

「もふられてるにゃ。」

 

「見ればわかるにゃ!!どうしてそうにゃってるにゃ!?」

 

ちょっと言い争いを始めてしまった。

 

「こらこら、ルル。名前を名乗りなよ。」

 

「にゃ…そうだったにゃ。真名、“ルル”ですにゃ。ルーパスさんはこの後来ますにゃよ。」

 

そう言ってルルちゃんはサークルからどいて、その後にサークルが回り始めた。

 

「これで6騎目か……触媒があるとはいえ、よくここまで出るな…」

 

〈来ます、ハンター!!〉

 

その声と共に現れたのは、銀髪を三つ編みにした女の子。あ、ちなみにリューネちゃんは白髪のショートなんだよね。

 

「…召喚に応じ顕現しました。クラス・ハンター。真名は“ルーパス・フェルト”です。……こんにちは、立香。」

 

「うん…これからよろしくね、ルーパスちゃん。」

 

「うん。よろしく、立香。…ところで」

 

「あ…スピリスちゃんもふらせてもらってるけど大丈夫?それとその装備、どうしたの?」

 

ルーパスちゃんの装備は緑色の…ドレス?っていうかなんていうか…なんて言っていいかわからないけど、女性っぽい感じ?ミニスカートだし。リューネちゃんの方は赤色の鎧みたいな感じだったんだけど。

 

「あ~…これは宝具の効果だね。まぁ、詳しいことはまた今度。後この装備はレイア一式っていうんだよ。リューネのはレウス一式ね。まぁ私のは新大陸版でリューネのは大陸版だけど。あとスピリスはそのままでいいよ。」

 

そう言ってルーパスちゃんは私の隣に来た。

 

「さ、これで最後だね。来てくれるといいけど。」

 

サークルが回り出す。これで来なかったらどうしよう、とか思ったけど、ミラちゃんが私の手を取ってくれてその不安が消えた。

 

〈クラス…キャスターです…んん!?キャスター…ハンター…いやこれどっちだ!?〉

 

「…ダブルクラスか?いや、四騎士を混ぜることは可能だがエクストラを混ぜることは…」

 

ドクターがそう言っているうちに、そのサーヴァントが召喚される。

 

「……クラス、キャスター。召喚に応じて参りました。真名は“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”。長いのでジュリィとお呼びください。」

 

「…これで、全員だね。」

 

「…はい。また会えてうれしいです、立香さん、マシュさん!」

 

「ちょ、ボクは!?」

 

ドクターはスルーされた。

 

「がーん…」

 

「…ふふっ」

 

ミラちゃんが笑ってた。それを見てルーパスちゃん達も微笑みを浮かべてたけど、ジュリィさんが本を開いた。

 

「では、オルガマリーさんをここに呼び戻します。」

 

その言葉を聞いてジュリィさんの方に注目が集まった。

 

「…聞いてもいいかな。本当に、所長は生きているのかい?」

 

「えぇ。私の力だけでは完全に肉体を持たせることはできませんが、何か…杭、というか世界と存在をつなぎとめる楔になるようなものがあれば肉体を持たせられるのですが…」

 

「楔、か…」

 

「…ともかく、出しましょう。仮の肉体はあるので。」

 

そう言ってジュリィさんは目を瞑り、深呼吸をした。

 

「…開け扉よ。ここに示すは知識を伝える本の扉。編纂せし情報を顕現する伝達のページ。先に飲み込みし少女の魂をここに。」

 

「詠唱…?いや、魔力が上がっている!?」

 

「紡ぎ、繋ぎ、是なるは情報の出口!体無くせし少女の魂よ、我が声に応え書の中より出でよ!!」

 

「立香。」

 

「ルーパスちゃん?」

 

「耳、ふさいでおいた方がいいよ」

 

私は言われたとおりにした。

 

「宝具解放!“あらゆるものを吐き出し伝う出口の頁(ページ・オブ・リリース)”!!」

 

ジュリィさんの宝具が解放された途端、周囲を強い光と強い風が襲った。

 

「なんだ…!?本から出てきた紙が人の形を…!?」

 

ドクターの言葉にジュリィさんの方を向くと、確かに大量の紙が本の中から生み出され、その紙が徐々に人の形を形取っていった。

 

「一体…これは?」

 

「…くるよ」

 

何を、って言おうとしたけど、それはすぐにわかった。

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

悲鳴を上げる女性の姿。私は、それに見覚えがある。

 

「ミラさん、眠らせられますか!!」

 

「分かった!!“スリープ”!!」

 

ミラちゃんの杖の先から青い光弾が放たれたかと思うと、その女性は意識を失ったかのように声を消して落ちてきた。

 

「おっと」

 

その女性をリューネちゃんがお姫様抱っこで抱え、床に寝かせた。

 

「……なっ、()()!?」

 

マシュの言う通り。そこにいたのは、魂だけの存在になり、こちらへの帰還はできないと言われていたオルガマリーだった。

 

「…どういうことだい?それにあの叫び声は…まるで、さっきの続きのような。」

 

「…この本の中は、()()()()()()()()()んです。ですから、この人にとっては()()()()()()()()。だから強制的に眠らせてもらったんです。」

 

…とりあえず、ドクターに調べてもらって無事らしいことは分かったから、オルガマリーが起きるまで待つことになった。

 




ということでオルガマリーさんは生存。どこで傍点入れようと考えてたとか忘れてて困ります。
所でジュリィさんの使った宝具ですが、あれは記録と解放で対になってます。
書の中に情報を記すことを“記録”。
その書を誰かが読むことを“解放”。
“記録された情報が誰かの内に知識として解放される”。これがジュリィさんの一対宝具の大本になってます。前々話でも書きましたが、編纂とは、多くの文献をあつめ、それに基づいて、新しく記述した書物に関して用いる用語であり、著作者の年譜や著作目録の作成などに用いる言葉である。それを行う編纂者は、まさに情報統括のエキスパートなわけです。その情報は、誰かしら読むことはあると思います。えっと…簡単に言えば。作者である私が“記録”の元、読者である皆さんが“解放”の先。こう言って通じたら…いいんですけどね。

…あ、そうそう。作中のキャラクター達とかに何かしてほしいこととかあったら遠慮なくどうぞ。…召喚するサーヴァント何にしましょうか。

…ところでこの話を読んでくださっている皆さんって誰が召喚されると思います、もしくは誰が召喚されてほしいですか?既にほとんど決まってはいますけど、皆さんの予測が私は知りたいです。ちなみに召喚されるのは本編に出てきた金色の札の枚数と同じ数です(つまり14騎)。うち1騎はオリジナルですので実際のところ13騎の予測が聞きたいのです。メッセージでもよし、感想でもよしですよ。…ただ、感想に関しては運営対処されないようにだけ気を付けてください。いや真面目に。ちょうど今日は金曜日。明日明後日は小説投稿がないのでじっくり考えてもいいかもしれません。(バーサーカークラスで大団長とか言われたら少し笑います。馬鹿にしてるわけじゃないですけど。)…とまぁ、これを言っても基本的には誰も話してくれないのですけど。

それでは長文失礼いたしました。


今回のルーパスの装備…下位レイア防具一式(新大陸版) ゼノ・メートラ

今回のスピリスの装備…上位カガチネコ装備一式(新大陸版)

今回のリューネの装備…下位レウス防具一式(現大陸版) シャミセン【鳥】 Lv.1

今回のルルの装備…下位ギルドネコ防具一式 ギルドネコレイピア


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第19話 集合、そして起動せよ冠位指定(グランドオーダー)

構成組むのに時間がかかりました。


 

「…ん」

 

私がミラちゃんから借りた本を読んでいたら、隣のベッドから声がした。

 

「……ここ、は」

 

「あ、オルガマリー!起きたの!?」

 

「立…香?」

 

オルガマリーが目を覚まし、体を起こしていた。

 

「…あ、れ?私…カルデアスに…死んだはずじゃ……」

 

「ううん、死んでないよ。私もよくわかってないけど、ジュリィさんが助けてくれたみたい…」

 

「ジュリィが…?」

 

オルガマリーがそう言ったとき、部屋のドアが開く音がした。

 

「あ、起きましたか?」

 

「…え、えぇ」

 

「体の不調とか、あります?」

 

「いえ…ないわ。」

 

「…ならよかったです。ひとまず、お風呂とかは入らないようにしてくださいね。入っても魂自体は大丈夫ですが。」

 

ジュリィさんがそんなことを言った。お風呂がダメ…?

 

「ねぇ、なんでお風呂がダメなの?」

 

「え?あぁ、オルガマリーさんの身体が、()()()()()()からですよ。」

 

「「え?」」

 

オルガマリーの身体が…紙で出来てる?

 

「オルガマリーさん。貴女はどこまで覚えていますか?」

 

「えっと…一応レフに冬木で殺されかけたところまでは。その先は…ちょっと曖昧ね。」

 

「ん、大体覚えていますか。でしたら…」

 

ジュリィさんはジュリィさんとミラちゃんがしたことを説明した。曰く、ミラちゃんがオルガマリーの存在そのものを世界に見失わせ、見失った隙にジュリィさんがそのオルガマリーの魂を情報として定義して本の中に吸い込んだんだって。オルガマリーの存在そのものは今もジュリィさんの持つ本の中にあって、今ここにいるオルガマリーはその欠片。サーヴァントと座の関係性みたいなのを再現した、みたい。私にはよくわからなかったけど。

 

「紙を顕現媒体として構成したので、しばらく不自由だと思いますけど大丈夫ですか?」

 

「え、えぇ…生き残れただけでも嬉しい、と思っておいた方が良いわね。」

 

「他によさそうな媒体があるといいんですけど…私の力だけじゃ完全蘇生はできなくて…すみません。」

 

「……まぁ、しばらくは我慢するわ。それより、助けてくれてありがとう。」

 

「いえ…とりあえず、起きたのでしたら行きましょうか。」

 

そう言ったのを聞いて思い出した。オルガマリーが起きたらブリーディングだって。

 

「行こう、オルガマリー。ブリーディングだよ。」

 

「えぇ……あの、立香。」

 

「うん?」

 

「そのオルガマリーっていうの、なんとかならない…?呼びにくいでしょう?」

 

「ん~……」

 

まぁ確かに呼びにくいっていうのはあったかもしれない。そこまで気にしてなかったのもあるけど…

 

「…じゃあ、マリー…って呼んでいいかな?」

 

実は“オルマ”っていうのもちょっと考えてたんだけどね。なんか呼びにくいような…

 

「…えぇ、是非。」

 

「じゃあ、マリー。一緒に行こう?」

 

「…えぇ。」

 

その後、マシュやさっき召喚したルーパスちゃん達と合流して管制室に入った。

 

「入ります。」

 

「やぁ、来たね。」

 

「あ、マリー!」

 

「えっ、きゃぁっ!」

 

私の隣にいるマリーに突進してきた人がいた。マリーはそのまま地面に倒れたけど。

 

「…あぁ…よかった……ちゃんと生きてる…」

 

「ちょっ、セリア…!離れて!?」

 

「…あ、ごめん、お姉ちゃん。」

 

「「お姉ちゃん!?」」

 

あ、マシュも驚いてるから知らなかったみたい。

 

「…とりあえず離れて。動けないから。」

 

「しょ、所長…?その方は…一体?」

 

「…私の妹よ。ほら、自己紹介」

 

「初めまして、“ルナセリア・アニムスフィア”です!お姉ちゃん…マリーからは“セリア”って呼ばれています!」

 

「よ、よろしくお願いします…?」

 

その人…ルナセリアさんはマリーの服のオレンジ色の部分を薄い紫色にしたような服を着ていた。

 

「私が使えるのは主に治癒魔術ですね。アニムスフィアの魔術も使えますがマリーほどじゃありません。」

 

へぇ…って思ってドクターの声がした方向を見ると、見覚えのある人影が見えた。私が首を傾げて見続けていると、その人物が不意にこちらを向いた。

 

「……え?」

 

確かに、最近帰ってこなかったけど、ここにいるなんて思わない。けど、その顔は私がよく知ってる顔。

 

「……お兄…ちゃん…?」

 

「…あぁ。名前を見たとき、まさかとは思ったんだが…やっぱり、お前だったんだな。立香。」

 

私のお兄ちゃん。名前は、“藤丸(ふじまる) 六花(むつか)”。女の子みたいな名前だけど、れっきとした男性。もう会えないと思っていたお兄ちゃんが、そこにいた。

 

「どうして…ここに。もしかして、私みたいに…?」

 

「いや…俺にマスター適性はない。レイシフト適性もほぼほぼない。俺はここに機械のメンテや食堂の管理に呼ばれたんだ。」

 

「…そっか。」

 

お兄ちゃんは死んでない。そう分かっただけでも、私の気持ちは落ち着いた。

 

「…あぁ。やっぱり、兄妹だったのね。同じ“藤丸”だったから、気にはなっていたのよ。」

 

「まさか、兄妹そろってカルデアに来るなんて。何が起こるかわからないね、お姉ちゃん。」

 

マリーとルナセリアさんは知ってたみたい。

 

「…ん゛ん゛。…感動の再会中すまないが、ブリーディングを始めたい。所長、情報は所長が眠っている間に纏めたので、お願いできますか。」

 

「…え、えぇ。でもいいのかしら?私で。」

 

「所長だからお願いするんですよ。僕なんかより所長の方が気も引き締まるでしょう。」

 

「…わかったわ。」

 

マリーはドクターから書類を受け取って一読してから私達の前に立った。…って、一読しただけでドクターに返したんだけど…

 

「…まずは、カルデアの所長としてお礼を言います。あなたたちのおかげで、特異点Fは消滅したわ。ありがとう、マシュ、立香、そして異世界のサーヴァントたち。」

 

「私達は特に何も…ねぇ、リューネ?」

 

「あぁ…そこまでやったことはないしな…」

 

「それでも、みんな頑張ったからだと思うな…ね、マシュ。」

 

「はい。先輩の言う通りです。」

 

「私のことも救ってもらったし…っと、脱線するのはいけないわね…ロマニ。ついさっき、シバを復興させてカルデアスをもう一度見てみたそうね。それを見せてくれる?」

 

「はい、こちらに。」

 

ドクターの言葉の後、管制室のカルデアスが真っ赤になって浮かび上がった。

 

「…信じたくなかったけれど、本当のことだったのね。」

 

「うん…」

 

「カルデアスの状態から見るに、レフの言葉は真実だ。外との連絡も取れないし。このカルデアだけが、通常の時間軸にない状態なんだろう。崩壊前の時間に留まっている、っていうか。」

 

「時のズレ。でも、それは永遠じゃない。ここも時間が動いている以上、いつかその時間に追いついてしまう…」

 

「ミラちゃんの言う通り。このカルデアは宇宙空間に存在するコロニーのようなものだ。外の世界は死の世界。この状況を抜けられなければ、だけど。」

 

その言い方、何か方法があるように聞こえた。

 

「…それで?それを言うためだけにここに呼んだわけじゃないよね、ロマン?」

 

「あぁ。復興させたシバで、もう一度地球をスキャンしてみたんだ。ただ、未来のじゃなくて、過去の…ね。その結果が、これだ。」

 

ドクターの言葉と共に映し出されたのは青い地球。…だけど、すごく歪んでる。

 

曰く、“この戦争が終わらなかったら”。“この航海が成功しなかったら”。“この発明が間違っていたら”。“この国が独立できなかったら”。そういった人類における重要点が、改変された。

 

これらの事象は、改変されると過去改変が起こされても働くはずの修正力もうまく効かないらしい。…それが、7つ。

 

「…こうなってしまった以上、私は貴女に聞かなくてはならないわ。」

 

マリーはそう言って私に向き直った。

 

「マスター適性者48番、藤丸立香。貴女には、この人類史と戦う決意はあるかしら?特異点とは言えど、これは紛れもない人類史そのもの。貴女に人類の。カルデアの未来を、背負う覚悟はあるかしら。曖昧な返答は許さないわ、今ここで返答しなさい。」

 

マリーの目をみて真剣に言っていることが分かる。というか、見る前にもこれは現実だってわかっていたけど。なら、私の出す返答は一つ。

 

「私なんかでいいのなら…ううん、違う。やるよ。またみんなで、こんな時じゃなくても…笑い合いたいから。」

 

その言葉を発した時、マリーは少し泣きそうな顔をしてた。けど、すぐにその表情を元に戻した。

 

「…そう。ロマニ、聞いたわね!」

 

「えぇ、もちろん!では、これよりカルデアはオルガマリー所長の下、新体制に入る!」

 

それを聞いてお兄ちゃんたちの気配が引き締まったのが感じられた。

 

「目的は人類史の保護、及び奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物たる聖杯。私達が戦うのは先も言ったように人類史、つまり今までの歴史そのものよ。私達の前に立ちはだかるのは多くの英霊、英雄よ。それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜になるわ。私達は人類を守るために、人類史に立ち向かわなくてはなりません。」

 

言葉にされて思ったけど、結構矛盾してるよね、これって。人類を守るために人類の歴史に刃を向ける、って。

 

「けれど、生き残るにはこれしかない。…いいえ、未来を取り戻すにはこれしかないわ。これらをもって、作戦名をファーストオーダーから改めます。」

 

そして、マリーはその言葉を発した。

 

「カルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・G(グランド).O(オーダー)。魔術世界における最高位の使命をもって、私達は未来を取り戻す!」

 

 

「「「「「「…了解!」」」」」」

 

 

私達の旅は、ここから始まる。

 

「立香、明日は英霊召喚をするわよ。」

 

「ちょ、まだ召喚するんですか!?今七基…」

 

「残念だけど、今ここにいる異世界の住人たるサーヴァントたちは全員直接立香をマスターとしているサーヴァントよ。資料を見る限り()()()()()()()()使()()()()()()()ようだし。カルデア所属のサーヴァントでこちらから自由に動かせるのはマシュが立香をマスターとしている以上、ダ・ヴィンチしかいないわ。」

 

「え…ってことは、七基のサーヴァントを立香ちゃん一人で維持しているのかい!?」

 

「えぇ、そうよ。」

 

それを聞いたけどよく意味が分からなかった。

 

「いいわね、立香?」

 

「あ…うん!多分必要なことだと思うから…」

 

「よろしい。では今日はこれで解散とします。」

 

マリーがそう言うと、全員が管制室の外に出ていった。

 

「…どうする、立香。」

 

「ん…どうしよっか、お兄ちゃん。」

 

「ゲームでもするか?」

 

「え、あるの?」

 

「あぁ。俺の部屋に置いてある。」

 

結構久しぶりの兄妹交流なのにそれでいいの?って言われそうだし、たまに言われたけどいいの。これが私達の兄妹の形の一つだから。

 

「…あ、そうだ、お兄ちゃん。」

 

「ん?」

 

「“テオ・テスカトル”、って聞いたことある?ミラちゃんが言ってたの聞いてからどこかで聞いたことのある名前だと思ってたんだけど。」

 

ゲーム関係に関しても、アニメ関係に関してもお兄ちゃんの方が詳しい。私が勝てるのなんてライトノベルとかマンガとかその辺だから…

 

「テオ・テスカトル?それ、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?結構戦うのめんどい炎王龍だよな?」

 

「……あっ。」

 

確かにそうだ。あのゲーム好きなのに何で忘れてたんだろう……

 

「テオがどうかしたのか?」

 

「えっと…もしかしたら、私…モンスターサマナーの世界の人間を召喚したかもしれない……」

 

「は…?…ともかく、俺の部屋で詳しく聞かせてくれ。」

 

そのあと私達はお兄ちゃんの部屋に移動してしばらく話をした。

 




冬木の章はこれで終わりです。一応次からは今現在で設定できている分+公開してもネタバレにならないレベルのルーパス達の情報公開です。実は完全に設定できてるわけじゃないので今後変更されることがあると思います。あと基本的にモンスターハンターの方のキャラクター達はコピー&ペーストで量産したステータスです。召喚が終わったら簡易的な人物紹介も書きますね。


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幕間 状況把握と初めての本当の英霊召喚
第一回設定紹介群その一 ルーパス・フェルト


まずはルーパスから。基本的にメインになるキャラクターです。


真名:ルーパス・フェルト(Lupus・Felt)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に似てるとか言ってはいけない。実質ただの偶然。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。(新大陸の)之は龍を追いし白き風の一撃。(白き追い風)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。大剣ならば真・溜め斬り、太刀ならば気刃兜割、片手剣ならばフォールバッシュ、双剣ならば空中回転乱舞・天、ランスならばカウンター突き、ガンランスならば竜杭砲、スラッシュアックスならば属性解放突き、チャージアックスならば超高出力属性解放斬り、ハンマーならば叩きつけ連打、狩猟笛ならば音波攻撃、操虫棍ならば空中攻撃、ライトボウガンならば起爆竜弾、ヘヴィボウガンならば狙撃竜弾、弓ならば竜の一矢。これらが一番最後に来て終わる連撃宝具。

 

我、ここに告ぐ。(新大陸の)之は龍を滅せし青き星の一撃。(導きの青い星)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。大剣ならば真・溜め斬り(強撃)、太刀ならば居合抜刀気刃斬り、片手剣ならばジャストラッシュ、双剣ならば回転斬り上げ、ランスならばカウンタークロー構え、ガンランスならば起爆竜杭、スラッシュアックスならば零距離解放突き、チャージアックスならば属性廻填斧強化斬り、ハンマーならば回転飛びつき、狩猟笛ならば響音攻撃からの響周波【歪】、操虫棍ならば急襲突き、ライトボウガンならば反撃竜弾、ヘヴィボウガンならば超適正狙撃竜弾、弓ならば竜の貫通千々矢。これらが一番最後に来て終わる連撃宝具。

 

弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)

対軍宝具

 彼女が編み出した奥義ともいうべき技。空中にいるときに過剰集中した状態で周囲の時間が遅くなったと思ったときに、一瞬で視界に収められる領域の敵の数と強さ、位置を把握、総ての敵を死に至らしめる程の量の矢を放つ。時間停止ではなく過剰集中での時間遅延なのでまだましな方だとは思うが、はっきり言って人間技ではない。

 

 

 

クラススキル

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

 

固有スキル

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

特殊装具

 概要:装備している特殊装具によって効果は変わる。

 

いにしえの秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“新大陸”と呼ばれる地で5期団の推薦組として派遣されたハンター。新大陸崩壊の防止、アルバトリオンの撃退、現大陸にてミラボレアスの撃退などの数々の功績により相棒の受付嬢、オトモアイルーと共に英霊となっていた。出身はベルナ村。現大陸に残った“リューネ・メリス”とは幼馴染。年齢は19歳とかなり若い。オトモアイルーの“スピリス”と受付嬢の“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。なお、一番連携がうまくいくのは幼馴染のリューネ。得意な武器種は弓。リューネと同じで攻撃を回避することを好む。また、現大陸にいたころはカティと同じデザインのコーデ(服の色は緑を基調としている)で一緒に遊んでいたこともあったそうな。容姿は青色の眼に銀髪の三つ編み。広い音域をもち、スカート系の服装を好む。ちなみにハンター業は8歳の頃からやっている。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であった母と父、祖父と祖母への憧れ。基本的に装備はリオレイア系統のミニスカートカスタム、もしくはエンプレス装備のミニスカートカスタムを好む。なお、幼馴染のリューネが好むものがリオレウス系統のスボンカスタム、もしくはカイザー装備のズボンカスタムであったため、“夫婦”と言われることがたまにあったそうな。

 

 

装備は基本的に新大陸版で、EXゴールドルナβ、EXリオハートβ、EXレイアβ、EXエンプレスα、EXエンプレスβ…と、この辺を主に一式防具として使用する。ちなみにお気に入りはEXラヴィーナβやEXウルムーβ、EXカガチβ等々様々なものがあるが、リューネといるときは基本的にリオレイア系統である。また、稀にベルダー一式と呼ばれる防具を着用し、武器もベルダー武器にして戦うことがある。このベルダー武器・ベルダー防具は出身地であるベルナ村の装備であり、思い入れがあることからわざわざ交易船を用いて現地から取り寄せたという。武器に関してはイヴェルカーナの弓“氷妖イヴェリア”、凍て刺すレイギエナの弓“ミスト=グレイシア”、ゼノ・ジーヴァの弓“ゼノ=メートラ改”など、見た目が綺麗な武器を好む傾向がある。とはいえ、状況に応じて装備は使い分けるため、ジュリィとは違いアイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。ちなみに、現大陸のものは先述のベルダー装備以外は重ね着しか存在しない。

 




固有スキルのいにしえの秘薬に関してはツッコミ入れないでください。

ちなみに装備の“ミニスカートカスタム”っていうのは性能をそのままに外見を変える工房の謎技術です。言っておきますが重ね着とは違うものです。カスタム強化とも違うものです。同じシリーズの部位装備の形を変形させるものです。

あと特性が“今を生きる人類(?)”になっているのは今後の伏線みたいなものです。


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第一回設定紹介群その二 スピリス

続いてスピリス。ルーパスのオトモアイルーですね。ルーパスに対して短いとか言ってはいけません。アイルーは書きにくいの。


真名:スピリス(Spilis)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:人型(?) 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の乱撃。(新大陸の歴戦アイルー)

対人宝具

 概要:相手に対して怒涛の乱撃を放つ宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の連撃。(新大陸の天才アイルー)

対人宝具

 概要:相手に対して正確な連撃を放つ宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァントに対して超強力な特攻を得る。

 

クラススキル

 

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァントに対して強力な特攻

 

武器適応 C

猫用の武器しか扱えない。

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

オトモ道具

 概要:装備しているオトモ道具によって効果は変わる。

 

いにしえの秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“ルーパス・フェルト”のオトモアイルー。アイルーのハンターこと“ニャンター”として活動していたこともありハンターのクラスとして顕現した模様。投擲、回復、近接、罠、爆弾なんでもござれ。ルーパスとその幼馴染である“リューネ・メリス”がハンター業を開始した時、オトモアイルーとしてルーパスが選んだのが彼女であった。以後、ルーパスと共に新大陸に行くまではリューネとそのオトモアイルーである“ルル”と共に現大陸を翔けた。新大陸に生息していた獣人族達に対しては良き仲間だと思っている。ちなみにルルとは良き友人。リューネ、ルーパス、ルル、スピリスの二人二匹のパーティは“歴戦の天才集団”などと言われていた。

 




次はジュリィさんですね。ちなみにこれでも全宝具は開示してませんよ。
アイルーたちは人型特性持ちということにしました。


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第一回設定紹介群その三 ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ

名前長い…自業自得なんですけどね!?


真名:ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ(July Seltial Soldomine)

 

性別:女性

 

クラス:キャスター/ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

あらゆるものを吸い込み記す入口の頁(ページ・オブ・レコード)

対人宝具

 概要:編纂者はハンターと共にあらゆる情報を書に記す。その概念が宝具となったもの。生きた人間であろうが生命の無い物品や魂だけとなった存在であろうが、そこに存在するならば総てを本の中に吸い込もうとする。小型のブラックホールともいえるだろうか。

 

あらゆるものを吐き出し伝う出口の頁(ページ・オブ・リリース)

対人宝具

 概要:編纂者は纏め上げた情報を誰かに伝える。その概念が宝具となったもの。“あらゆるものを吸い込み記す入口の頁(ページ・オブ・レコード)”とは対になっており、もしも生きた人間や魂だけとなった存在を本の中に吸い込んでいたのならばそれを吐き出すことができる。小型のホワイトホールともいえるだろうか。

 

腹が減っては戦は出来ぬ(相棒!食事の時間です!)

対軍宝具

 概要:自身の料理、食事場仕込みの“ネコ飯”を作成し、味方にふるまう。食材の組み合わせに応じて何らかの特殊効果が発動する可能性がある。

 

飛竜よ、我と共に空を(ファストトラベルですね!)

対人宝具

 概要:ファストトラベル用、移動用の飛竜を召喚する。

 

知は時として支えにもなり力にもなる(私の知識がお役に立てる時が来たようです!)

結界宝具

 概要:彼女の興味と強い意志の極致。なんとギルドでも屈指の機密事項とされる工房の技術を見て覚え、ハンターたちの武器や防具を作成することができるようになった。というか、彼女は相棒を側で支えたいという強い意志だけで加工技術を会得した(うっそだろお前さん…)。基本となるのは新大陸の加工屋なので、現大陸の装備を再現することは…まぁ、出来なくはないがそもそも新大陸に現大陸の装備を着てる人間はソードマスターくらいだったのでなんとも。ただしリューネと出会ったことで現大陸の装備の作り方も理解できた模様。ちなみにセリエナの加工場を担う二期団の期団長とアステラの加工場を担う若者は彼女が工房技術を会得したことを聞いて絶句していた。なお、この宝具は固有結界に近いが固有結界ではなく、新しく作成した空間の中に加工場がある、というようなものである。応用すればSAO LSの“サウザンド・レイン”のような大量の武器を空間と空間の継ぎ目から投げ込むというような使い方もできる。

 

 

 

クラススキル

 

 

道具作成 A+

 

陣地作成 A

 

騎乗 B

 

単独行動 A

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 B

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して特攻

 

武器適応 D

大剣しか扱えない

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

 

固有スキル

 

 

野生感覚

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応し、かなり鋭い直感を持つ。

 

迷ったら食ってみろ

 概要:何が起こるかは分からない。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“新大陸”と呼ばれる地で5期団の推薦組として派遣された編纂者。古龍渡りの解明、大いなる存在の認知、自生する植物の正しい扱い方の確立などの功績により相棒のハンターと共に英霊となっていた。出身はモガの村。年齢は23歳と若い。“ルーパス・フェルト”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。編纂者は本来ハンターとしての行動を起こさないが、彼女はなんと大剣を用いて相棒のルーパスと共にハンターとして狩猟に行くことがあった。稀にルーパスから“嬢”と呼ばれることがあるが、それは彼女の役割が大陸での受付嬢とほぼ同じということ、そして作者側の事情としては彼女のファミリーネームが“ソルドミネ”、ラテン語で太陽を意味する“sol”とお嬢様を意味する“domine”を合わせた語であることが起因する。

 

 

装備はシーカー装備一式に各種大剣。中でもメインで使うのは怒り喰らうイビルジョーの大剣、“業剣グルンディング”。ちなみにこの剣は彼女本人が狩猟した怒り喰らうイビルジョーの素材から作成され、加工もすべて彼女の手で行われている。なお、ルーパスは普通に加工屋の親方に頼んで作成してもらったものだと思っている。ちなみに各種大剣を取り揃えており、状況に応じて使い分けを行う。ただし、ハンターとしての側面を見せることは少なく、基本的には食事などのハンターたちの補助を行う。

 

 

言うまでもなく、彼女はモンスターハンターワールド、及びモンスターハンターワールド:アイスボーンの主人公の相棒、受付嬢である。ただし、そのスペックはゲーム本来のスペックとは異なる。先述の通り、彼女は編纂者であるのだが、食事を工面する料理人だけでなく武器や防具の加工をする工房職人の面や、狩人、歌姫、植生管理者の面を見せることがある。彼女は編纂者のため主にサポーターとして召喚されていると思われるのだが、彼女自身の性格の影響か、かなり好戦的なサポーターになっている。なお、ファストトラベル用の飛竜は彼女の管理。“編纂者”という面と“歌姫”という点から“キャスター”の霊基を得たと考えられる。

 




ジュリィさんは完全にサポーターとして用意していたのです。私達がモンスターハンターをプレイする中で狩猟には食事、工房、アイテムショップ等々必要でしょう?…ただ、色々と動画とか情報とか見ているうちに安らぎ要素として歌姫、戦闘要素として狩人を入れてしまったのですけどね。


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第一回設定紹介群その四 リューネ・メリス

今回から現大陸組。実はこちらはまだ設定が浅いのですよ。現大陸での狩猟はあまりしてないもので。


真名:リューネ・メリス(Lune Melis)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。(現大陸の)之は龍を滅す精神力の強撃。(守護強者)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。最初に絶対回避【臨戦】が発動し、その後武器種固有の狩技2種が発動するようになっている。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。(現大陸の)之は龍を滅せし翔ける強撃。(夜行覇者)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。最初に鉄蟲回避が発動し、時間を置かずに武器種固有の鉄蟲糸技2種類が発動する。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

狩猟笛が戦いにて奏でる激動旋律(バトル・バースト)の爆音後方楽曲(・メロディー)

対人宝具

 彼女が編み出した奥義ともいうべき技。戦いながら常に狩猟笛を吹き続け、音楽を奏でる。爆音、というのは狩猟笛からなるとは思えないほどの大きな音がその狩猟笛から発せられるため。言ってしまえばBGMであるが、それを戦いに転用できる。ハンターたちはもともと小さな楽器を持っており、モンスターとの戦闘時にそれが自動的に鳴って士気を高められているのだが、彼女の場合はその楽器を持たず、自分で爆音演奏する。

 

 

 

クラススキル

 

道具作成 A

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

 

固有スキル

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

重音色

 概要:狩猟笛の支援効果を瞬時に以前に演奏した効果と同時にかけ直せるようになる。

 

固有スキル:古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“現大陸”と呼ばれる地でモンスターを狩っていたハンター。狂竜ウイルスの発生原因究明、シャガルマガラの撃退、百竜夜行への対応、ミラボレアスの撃退などの数々の功績によりオトモ達と共に英霊となっていた。育ったのはベルナ村だが出身は実はカムラの里。新大陸に5期団として行った“ルーパス・フェルト”とは幼馴染。年齢は19歳とかなり若い。オトモアイルーの“ルル”、オトモガルクの“ガルシア”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。なお、一番連携がうまくいくのは幼馴染のルーパス。得意な武器種は狩猟笛。ルーパスと同じで攻撃を回避することを好む。また、龍識船に滞在しているときにはミルシィと同じデザインのコーデ(服の色は白を基調としている)で一緒に歌っていたこともあったそうな。容姿は黄色の目に白髪のショート。かなりの高音域を持ち、ズボン系の服装を好む。ちなみにハンター業は8歳の頃からやっている。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であったルーパスの母と父への憧れ。基本的に装備はリオレウス系統のズボンカスタム、もしくはカイザー装備のズボンカスタムを好む。なお、幼馴染のルーパスが好むものがリオレイア系統のミニスカートカスタム、もしくはエンプレス装備のミニスカートカスタムであったため、“夫婦”と言われることがたまにあったそうな。

 

 

装備は基本的に現大陸版で、S・ソルZ、リオソウルZ、レウスX、カイザーX…と、この辺を主に一式防具として使用する。ちなみにお気に入りは天眼、GXミラルーツ等々様々なものがあるが、ルーパスといるときは基本的にリオレウス系統である。また、稀にベルダー一式と呼ばれる防具を着用し、武器もベルダー武器にして戦うことがある。このベルダー武器・ベルダー防具は育ちの地であるベルナ村の装備であり、思い入れがあることからずっと所持していたという。武器に関しては天眼武器、紫毒姫武器等の二つ名武器やバルファルクの紅白武器が多い。とはいえ、状況に応じて装備は使い分けるため、アイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。ちなみに、リオレイア系統のミニスカートカスタムされた装備もアイテムボックス内にあるが、これは彼女の装備ではなくルーパスのものであり、一応ルーパスからの預かりものである。

 




次はルルさんですね。


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第一回設定紹介群その五 ルル

ルルさんです。アイルーの設定少し難しいです


真名:ルル(Lulu)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の一撃。(現大陸の歴戦アイルー)

対人宝具

 概要:竜種に対する特攻効果が強化される。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の命撃。(現大陸の天才アイルー)

対人宝具

 概要:自身の体力を消費するが文字通り龍の命を狩り取る一撃。一度自分の主が危機に陥ったことがあり、それを自身の身体が壊れかけるのも構わずに対峙していた古龍に攻撃を叩き込み、その古龍を滅した、という伝説が宝具となったもの。宝具の名である“命撃”というのは“相手に致命傷を与える”というのと“自身の生命を削る”というものが合わさって名付けられた。竜種に対する即死効果が入る。

 

 

 

クラススキル

 

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 B

猫用の武器ならばどんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

奇面族の仮面

 概要:装備する仮面によって効果は変わる。

 

治・ローリングの術

 概要:攻撃完全回避・体力回復

 

 

“リューネ・メリス”のオトモアイルー。アイルーのハンターこと“ニャンター”として活動していたこともありハンターのクラスとして顕現した模様。投擲、回復、近接、罠、爆弾なんでもござれ。リューネとその幼馴染である“ルーパス・フェルト”がハンター業を開始した時、オトモアイルーとしてリューネが選んだのが彼女であった。以後、ルーパスとルーパスのオトモアイルー、“スピリス”が新大陸に行くまでは共に現大陸を翔けた。ルーパスとスピリスが新大陸に行ったあとから仲間になったオトモガルクの“ガルシア”に対しては自身の妹のような認識を持っている。ちなみにスピリスとは良き友人。リューネ、ルーパス、ルル、スピリスの二人二匹のパーティは“歴戦の天才集団”などと言われていた。

 




あとはガルシアと…ミラですね。


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第一回設定紹介群その六 ガルシア

オトモガルクのガルシアです。…といっても、情報が少なすぎて本気で情報が緩いんですよね…


真名:ガルシア(Galcia)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター/アサシン

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:猛獣 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を突きし獣の一撃。(現大陸の新人ガルク)

対人宝具

 概要:設定、資料不足につき概要無し。ただし“竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。”ということは確定している。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を下せし獣の連撃。(現大陸の凡才ガルク)

対人宝具

 概要:設定、資料不足につき概要無し。ただし“竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。”ということは確定している。

 

 

 

クラススキル

 

 

気配遮断 C

 

道具作成 D

 

騎乗 D

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 C

ガルク用の武器しか扱えない。

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

??

 概要:??

 

??

 概要:??

 

 

“リューネ・メリス”のオトモガルク。移動、攻撃、妨害。その辺りを得意とする新人ハンター。カムラの里を訪れたリューネに気に入られて仲間になった。オトモアイルーの“ルル”に対しては自身の師匠のような認識を持っている。リューネがたまに話すルーパス達の話が大好き。リューネとルルとは違い凡才の努力型。日々リューネ達に追いつこうと努力しているが才能だけではなく経験の差もあり追いつけていないのが現状。それを見守るリューネ達の期待に応えたい彼女であった。性格はかなりの人見知り。




…これ、大丈夫ですかねぇ…文字数ギリギリ(1,084文字)なんですけど


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第一回設定紹介群その七 ミラ・ルーティア・シュレイド

とりあえず現段階で紹介できるのはこれで終わりです。


真名:ミラ・ルーティア・シュレイド

 

性別:女性

 

クラス:キャスター/フォーリナー/ハンター

 

属性:混沌・善 天

 

特性:人型 王 女性 今を生きる人類(?) 竜 神性 人類の脅威

 

ステータス:筋力C 耐久A 敏捷B 魔力EX 幸運B 宝具EX

 

宝具

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ただ単に契約を交わしたものを本と召喚呪文を介して召喚する彼女が所有する中で最下級の召喚術。グリモワールとは彼女が所有する本の通称ことで、本当の名は“契約獣魔召喚の本(ブック・ザ・サモーニング・モンスターズ)”。

 

契約を交わせし者よ、(サモン・)汝が名の下にここに在らん(グリモワール・ミッド)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ロウと違うのは召喚呪文の代わりに相手の名を用いること。呪文を用いる方が強制召喚に近いのに対し、こちらは相手の任意かつある程度の絆が芽生えていないと成功しない。

 

契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん(サモン・グリモワール・ハイ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。相手の正確な名を使わず、名付けた“愛称”を呼ぶことで召喚する。ミッドよりも召喚難易度は高いが、高レベルの真名隠しの効果も発動するため後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。

 

絆を結びし者よ、指輪と呼び声の元に応えよ(サモン・リングコネクティア)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。本すら使わず、彼女が左手に付けている虹色の指輪と対象の愛称が召喚媒体となる。召喚術という枠組みにはなっているが召喚術による強制、ではなく純粋な絆による協力関係であるため、本を使う召喚術よりも強い力を使うことができる。“契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん(サモン・グリモワール・ハイ)”と同様に愛称使用での召喚のため、後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。リングコネクティア、とは彼女の持つ虹色の指輪の名前で、別名“人と獣の絆の指輪”。

 

契約を交わせし者よ、今こそここに集え(エンタイア・サモーニング・グリモワール)

対軍宝具

 概要:グリモワールに記載されている契約獣魔たちを一気に全て召喚する彼女が持つ最高位召喚術の片割れ。魔力消費は多いが召喚時間の短縮が可能。

 

絆を結びし者よ、(エンタイア・サモーニング・)今こそここに集え(リングコネクティア)

対軍宝具

 概要:絆を結んだ契約獣魔たちを一気にすべて召喚する彼女が持つ最高位の召喚術の片割れ。リングコネクティアを使う召喚術は契約というよりか要請に近いものであるためグリモワールを使う召喚術よりも消費魔力が少ないという利点がある。

 

解放する、今ここに真実の言葉(リリース・リアルワード)

対人宝具

 概要:契約獣魔達で真名を使わずに召喚した際にのみ使用可能な宝具。獣魔たちの全体的な力のブーストが可能。

 

常識より名を喪いし語(クリエイト・ロストワード)

対概念宝具

 概要:概念隠しの宝具。もしも相手が味方サーヴァント、もしくは彼女の契約獣魔の真名を知っていたとしても、その真名を強制的に忘れさせることができる。さらにこの宝具で隠された真名は通常の真名看破で見破ることができなくなる。また、攻撃的な使い方もでき、相手にこれをかければ意図的に存在・事象の完全抹消を引き起こせる。もっとも、完全抹消は彼女が好まないため使われることはないであろう。これに対抗できるのは“全てを記録せし手帳(メモリアル・インデックス)”だけ。

 

全てを記録せし筆記帳(メモリアル・インデックス)

対概念宝具

 概要:概念看破の宝具。通常の真名看破で見破ることができなくとも、もしもこの筆記帳にそのサーヴァントの真名が記載されているならば看破できるようになる。

 

 

 

クラススキル

 

道具作成 A

 

陣地作成 B

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 E

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して???

 

武器適応 B

決められた武器種しか扱えない

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

魅了(獣魔)

 概要:獣魔に対する魅了をかける。

 

???

 概要:???

 

 

ハンターたちとは別の異世界から召喚された召喚術師の少女。紫色の本と虹色の指輪、白い龍の頭があしらわれた指輪を所持し、“ネルル”という名の滅尽龍“ネルギガンテ”と共に行動をすることが多い。その正体はかつてミラボレアスに滅ぼされたと言われる大国、“シュレイド王国”の王族の生き残りの末裔である。年齢は16歳。容姿は白色の髪のストレート、右眼が赤色、左眼が緑色の虹彩異色。低身長、短命、病弱、不老不変の呪いにかかっている…らしい。

 

 

 

装備は戦闘用は紫色の召喚術師用ローブに白色のフーデッドケープか紫色にしたエコール装備のローブカスタムに白色のフーデッドケープ。私服は白のワンピースの時と白にしたスカラー装備のフレアスカートカスタムの時がある。なお、ミラボレアス系統の装備は別に見ても不快感などは感じないが、着るのは嫌がる。基本的に武器は指輪“リングコネクティア”、魔導書“契約獣魔召喚の本”。そして稀に攻撃術式や防御術式を扱う時に杖“サモンロード”を用いる。“サモンロード”は彼女の髪と死した古龍の骨や血、そして各地特産の物品が使われているのを大量に所持している。

 




すみません、本気でこの子に関しては隠してることが多いです!本編中で明らかになっていきますのでお待ちください!ちなみにハンターのクラスを入れたのは言語適応スキルが原因です。

…ところで、ここまでやって一言。


…オルレアン……これ、大丈夫なのかな…?(常時竜特性特攻持ちが6基確定)


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第一回設定紹介群おまけ ネルル(ネルギガンテ)

本気でおまけ。ネルギガンテ達はサーヴァントではないので。


真名:ネルギガンテ

 

愛称:ネルル

 

マスター:ミラ・ルーティア・シュレイド

 

性別:女性

 

クラス:不明

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:竜種

 

ステータス:筋力A 耐久A~C 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

空より襲う漆黒の棘(破棘滅尽旋・天)

対人宝具

 概要:言わずもがなネルギガンテの必殺技。これを使うと一度全身の棘がリセットされる。

 

 

 

クラススキル

 

 

 

騎乗 D

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

自己再生・硬化

 概要:棘を生やし、その棘を黒くすることで攻撃力、防御力の上昇を行う。

 

咆哮【超特大】

 概要:一時的に相手をスタンさせる。契約者の補助により、あらゆる耳栓を貫通する咆哮と化した。

 

 

全身から生える無数の黒い棘と、非常に太く頑強に発達した双角、そして何より極めて好戦的且つ凶暴な性格を特徴とする大型の古龍種。圧倒的な力を有する古龍種は、その実力から他種の生物がただ近寄っただけでは敵対しない場合も多いが、ネルギガンテは全く真逆で、目に映るもの全てを敵と定めて徹底的に破壊すべく暴れ回る。常に血に飢えているかのようなその性質や様子から「渇望の黒創」「全てを滅する古龍」などの異名で呼ばれ、ハンターズギルド、及びサマナーズギルドでは“滅尽龍”とも呼称している。

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイドが初めて契約したモンスター、それがこのネルギガンテである。何らかの理由により、酷く衰弱していたネルギガンテを、僅か6歳のミラとその両親が拾い、ミラが主体となって治療を施した際に絆が芽生え、契約がなされた。サマナーズギルド内でも屈指の使役難易度の古龍種、その中でもかなりの使役難易度を誇るとされるネルギガンテと“絆の契約”が成り、それをしたのがたった6歳の少女であったという事実に、学者達は呆然としていた。

 

 

ネルギガンテには歴戦個体、歴戦王個体、特殊個体、歴戦特殊個体などといったものが存在する。ネルルという名を持つネルギガンテは基本的に通常個体であるが、それはそもそも亜種、希少種でない限りどのモンスターでも同じである。主であるミラの術により、歴戦個体、歴戦王個体の強さを切り替える。特殊個体の方に切り替えることも可能だが、もともと通常個体のものを特殊個体に切り替えるのは術者とモンスターに大きな負荷をかけるため、推奨されない。同様に原種個体を亜種個体に変えることもできなくはないが、それは特殊個体に変えるよりも術者とモンスターに負担を強いるので、推奨されないどころか禁止にされているまである。…というのも、通常個体と特殊個体というのは、言ってしまえば既存の能力の未強化・強化後の関係なのである。それに対し原種個体と亜種個体は、そのモンスターを構成する組成自体から作り変えるため、モンスターにとってとてつもない負担を強いる。それは、そのモンスターを使役する術者も同じであり、下手すれば術者とモンスターの生命が危ないという代物。それ故に、原種個体から亜種個体、亜種個体から原種個体というような変換は禁止されているのである。




…とまぁ、こんな感じですかね?一つ目の概要に関してはモンスターハンターwikiから引用+αさせてもらいました。
…っと、次回から前書きと後書きが少し変わります。


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第20話 本当の英霊召喚と…例外

お待ちかねの英霊召喚。

どこかのアーチャー(?)「フハハハハ!!良い、回せ!!何が出るかはお楽しみだがな!!ガチャとはそういうものだ!!」

うるっさいよギルガメッシュ。あ、UA7000突破、お気に入り30件突破ありがとうございます。

「ちなみに今回の英霊召喚で召喚されるは作者Lulyの独断決定の者達だ!感想、及びメッセージなどで出してほしいサーヴァントを書けばそのサーヴァントが召喚されやすくなるかもしれんぞ!!」

はいはい…全く、ほんと五月蠅いんだから…観測お願いね。

「任せよ!!慢心せずレコーダーたるこの我に不可能はない!!」

何のクラス…あぁ、記録者ね。ちなみにレコーダーでは召喚されないからね。

「ここにいるのはただの記録者、ただのLulyのサーヴァントよ!!本編内に召喚されるとすればそれは我であって我ではない!!ちなみにLulyはゲーム本編ではセイバーも我も賢しい我も当てておらぬようだがな!!フハハハハ!!!」

アルトリアさんねぇ…じゃ、私少し寝るから…あとよろしく、ギル。

「任せるがよい!…さて、仕事に専念するとしよう。何、これでもLulyは我に信頼を寄せているのでな。信頼に応えようと考えるのが此度の我よ。では読者の者共、Lulyが作り出した話、自由に見ていくがいい。…これが、Lulyが望む結末になれば良いのだが。」


そんなこんなでカルデアの方針が決まった次の日。昨日はあの後結局お兄ちゃんに着せ替え人形にされたり、メイクされたりでちょっと精神的に疲れた…ほんとお兄ちゃん、私よりメイクするの上手なの女の子としては凹むんだけど…ちなみにお料理とかお裁縫は私の方ができるんだよ?……ホントだよ?

 

そんなこと考えてたら、召喚室のドアからマリーが入ってきた。

 

「おはよ、マリー…」

 

「あら、おはよう。…お疲れね。」

 

「まぁ、ね…基本お兄ちゃんのせいだし。」

 

「そう…大変ね。」

 

私達は召喚室で同時にため息をついた。それと同時にまた召喚室のドアが開く。

 

「…あ、おはよ、立香。オルガマリー。」

 

「おはようございますにゃ、立香さん、オルガマリーさん。」

 

「おはようございますですのにゃ…」

 

「おはよう、立香殿、オルガマリー殿。」

 

「ォン!」

 

ルーパスちゃんとスピリスちゃん、リューネちゃんとルルちゃん、ガルシアちゃんが召喚室に入ってきた。なんかルーパスちゃんとスピリスちゃんが疲れたような表情をしてるけど。

 

「あれ、ジュリィさんは?」

 

「え?…あぁ。ジュリィは…少しの間部屋にこもるって。準備ができたら改めて呼ぶって言ってたよ。」

 

「そっか…それと、ミラちゃんは?」

 

ここにいないサーヴァントはジュリィさんとミラちゃん。あ、マシュはさっきからいたよ。

 

「ミラは知らない。一応部屋に行ってみたけどいなかったよ。」

 

「そっか…」

 

ということは、召喚室に来るのはドクター、マシュ、マリー、私、ルーパスちゃん、スピリスちゃん、リューネちゃん、ルルちゃん、ガルシアちゃんの6人と3匹になる。ドクターもさっきからいるからこれで全員かな。

 

「よし、じゃあ英霊召喚を始めよう。」

 

ドクターの声で、私は金色の札を一枚手に取った。それを見てマリーが反応する。

 

「それは…“呼符”?」

 

「“呼符”…っていうの、これ?」

 

「えぇ。私が作った霊基召喚用触媒よ。Aチームのマスター達に使ってもらう予定だったのだけど。」

 

「あ…じゃあ、使わない方が良いかな?」

 

そう言ったら、マリーは首を横に振った。

 

「いいえ。今、動けるマスターはあなたしかいないわ。呼符も今のまま腐らせておくよりも使って貰った方が良いでしょう。」

 

「そっか…」

 

「それに、呼符は時間があればまた作成できるわ。だから安心してちょうだい、立香。また今度の召喚の時には用意しておくから。」

 

「…うん、ありがとう、マリー。」

 

「使い方は召喚サークルに呼符を投げ入れるなり置くなりすればいいのよ。」

 

私はそれを聞いて召喚サークルの中に呼符を置いた。

 

〈サモンプログラム、起動します。〉

 

綺麗な女性の声が聞こえる。ルナセリアさんの声だ。

 

〈霊基固定、該当霊基……セイバー!顕現します!〉

 

一際眩しい光が放たれたかと思うと、そこには青い服の女性の姿があった。

 

「…問おう。貴女が私のマスターか。」

 

「へ…は、はい!」

 

「…セイバー…真名“アルトリア・ペンドラゴン”。召喚に応じ、参上しました。よろしくお願いします。」

 

その姿は、冬木で戦ったアーサー王とほとんど同じ。だから、私は思わず呟いていた。

 

「………アーサー、王…?」

 

「…あぁ。貴女は私とどこかで会ったことがあるのですね?」

 

「反転、してたけど…」

 

「………なるほど。それは記憶にないわけです。…いえ、そもそも以前までの召喚時の記憶を引き継いでいるかといわれると微妙なところなのですが。」

 

なんか、サーヴァントって複雑なんだね…と思ったとき、アルトリアさんは召喚サークルの上から降りた。

 

「…ふむ。一人のマスターが多くのサーヴァントと契約する、ですか。ではこの後も召喚するのでしょう?」

 

「え?あ、はい…」

 

「ではどうぞ、続きを。」

 

そう言ってアルトリアさんは私の隣に立った。私は再度呼符をサークル内に置いて、サークルを動かしてもらった。

 

〈霊基固定です、該当霊基は……アーチャーです!〉

 

「私のライバルみたいになるのかな?」

 

ルーパスちゃんがそう言ったのを聞いて、リューネちゃんがクスリと笑った。そして、次のサーヴァントが召喚される。

 

「…」

 

そこにいたのは、赤い外套を着た男性。弓は持ってるけど……なんだろう、弓使い、ではない気がする。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した。」

 

「あ…よろしくお願いします。」

 

「あぁ…ところで台所はあるか?」

 

「へ?」

 

「ここの料理は私に任せるがいい。良い料理を提供しよう。」

 

え~っと…それをしたらお兄ちゃんの役割…

 

「…まぁいい、次をするのだろう?話は後にしようじゃないか。真名は“エミヤ”、よろしく頼む。まずはこの施設の探索をしようじゃないか…」

 

そう言ってそのエミヤさんはカルデアの中を回りに行った。途中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、なんだったんだろう…

 

〈次行きますよ?大丈夫ですか?〉

 

「あ、ごめんなさい…」

 

ルナセリアさんの言葉で私はサークル内に呼符を置く。

 

〈サークル起動、霊基検索中……霊基固定、ランサーです!〉

 

ランサー…そういえば、クー・フーリンさんはランサーとして呼んでくれって言ってた気がする。そんなことを考えていたらサーヴァントが召喚された。

 

「よう。サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にやろうやマスター!」

 

「あ、クー・フーリンさん…」

 

そこにいたのはクー・フーリンさんだった。持ってるものとか色々違ってるけど、間違いない。

 

「あん?…まて、()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「おや、ランサーではないですか。…そう言えばさっきアーチャーも召喚されていましたね。」

 

「マジかよ!?」

 

え、知り合い?

 

「……まさか、とは思うが…嬢ちゃん、次の召喚をしてみてくれるか?」

 

「え、あ、はい。」

 

クー・フーリンさんに促され、私は呼符を置く。

 

「次は何のクラスの方が来るのでしょうか。」

 

「キャスターだったらいいけどなぁ…」

 

〈霊気パターン、キャスターです!〉

 

「俺の予測が正しければ…あいつだな」

 

「…ですね」

 

「なんですか?」

 

「「通称“裏切りの魔女”」」

 

クー・フーリンさんとアルトリアさんが口を揃えて言った。…裏切りの魔女?そんなことを思っているうちに、サーヴァントが召喚された。

 

「あら、随分とかわいらしいマスターなのね。」

 

……なんだろう。この人、私やお兄ちゃんと同じ匂いがする。身体の匂いじゃなくて、こう…()()()()()()()

 

「出やがったか、裏切りの魔女…いや、確かてめぇはそう呼ばれるのを嫌ってたはずだしな…コルキスの魔女だったか。」

 

「…あら。私としては全く身に覚えのない人だけれど、よく分かっているようね。」

 

「…キャスター…真名“メディア”。あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

過去の…聖杯戦争?

 

「…いいえ?記憶にないわね。」

 

「そう、ですか…」

 

「それにしても、サーヴァントの真名を本人の許可なく明かすのは無礼に当たるのではなくて?」

 

「申し訳ありません。」

 

「いいわ、別に。さて、マスター?」

 

いきなり私の方に話しかけてきてちょっとびっくりした。

 

「さっきそこのサーヴァントから明かされたように、私の真名は“メディア”。裏切りの魔女という名の方が有名なのかもだけど、それは私が嫌う名よ。覚えておきなさい。」

 

「あ…はい。あと…」

 

「?」

 

「フード、取ってくれませんか…?」

 

「……えぇ????」

 

「ぶはっ!」

 

何故かクー・フーリンさんが吹き出した。

 

「あの…メディアさんって多分、きれいだと思うんです。顔を見てないので何ともいえませんけど…それに、気になります。他でもない、私自身が。」

 

「……………………今は拒否させてもらうわ。」

 

「長く悩んだな、キャスター。」

 

「うるさいわよ。」

 

そう言ってメディアさんはどこかへ行ってしまった。口元真っ赤になってたけど大丈夫かな?

 

「さ、次やろうぜ」

 

〈立香さん、呼符を。〉

 

クー・フーリンさんとルナセリアさんに促されて呼符をサークルの中に置く。

 

〈サークル展開、召喚霊基確認中……霊基パターン、アサシン。〉

 

…それにしてもルナセリアさんの声ってどこかで聞いたことあるような声なんだよね。ルーパスちゃん達もだけど。そんなこと考えていたら、男の人が召喚されてた。

 

「アサシンのサーヴァント、“佐々木小次郎”。ここに参上つかまつった。」

 

「…アサシンか。」

 

「ですね。」

 

なんかアルトリアさんとクー・フーリンさんは見覚えあるみたいだね。

 

「ふむ。どこかでお会いしましたか?」

 

「…覚えてねぇならいい。さっさと行け。」

 

「はぁ…」

 

…っていうか!“佐々木小次郎”って確か…宮本武蔵の!?…っていつの間にかいなくなってるし…

 

「さくさくまわしましょう、先輩。」

 

「う~ん…ガチャ要素なのかなぁ…」

 

「はい?」

 

「なんでもない…」

 

とりあえず私が呼符を置くと、サークルが回り始める。…う~ん

 

〈召喚霊基固定、これは…バーサーカー!〉

 

「…マシュ、冬木にバーサーカーって何がいたっけ?」

 

「さぁ…そもそもいたのでしょうか?」

 

「所長が捕まった時にいた巨体の人物、あれがバーサーカーだね。」

 

ドクターが補足してくれた。と同時に大きな人が召喚される。…あれ?

 

「■■■■■」

 

「バーサーカーかよ!?」

 

「敵に回ると面倒な…ですが味方なら心強い、というものでしょうか。」

 

「■■■ーー!!」

 

どういうことだろう?

 

「バーサーカー、あなたの真名を明かしてもよろしいでしょうか?」

 

「■■■」

 

あ、バーサーカーが頷いた。

 

「では彼に代わり私が。サーヴァント・バーサーカー。真名“ヘラクレス”。十二回殺さなければ消滅しないという力を持つサーヴァントです。サーヴァントとしての力は知らずとも、名前は聞いたことがあると思われますが、マスター?」

 

そのアルトリアさんの言葉に頷く。これでも結構神話系読むから知ってる。ちなみに一番好きなのはギリシア神話。

 

「ヘラクレスの生前の試練。それが宝具となって十二の命を与えているのです。」

 

「おまけに一度殺した攻撃には耐性が付くっていうな。面倒くせぇことこの上ねぇよ。」

 

「…あれ?でも…ルーパスちゃん、冬木でこのサーヴァント…ヘラクレスさん。倒してなかったっけ?」

 

そういえばと思ってルーパスちゃんに声をかけた。

 

「奥義…だっけ。それで。」

 

「え?あ~……確かにやったかも?」

 

「覚えてないの?」

 

「場所がそれなりに高かったのと…炎で見えなくなったからね。あそこで放ったのって…どれくらいだっけ、巨人には25本、骨は30体くらいいたと思うから…55本くらい放ったかな?」

 

「早撃ちは旦那さんの得意技ですにゃね。」

 

うん、普通に人間技じゃない気もするの気のせい?アルトリアさんとかも引いてるんだけど。

 

「…さ、さぁ!次々行こう!」

 

ドクターの言葉に頷いて私は呼符を置いた。

 

「あと来ていないのはライダーですか…」

 

「…ミス・アルトリア?あなたは先程から何のことを言っているのでしょう?」

 

ドクターが我慢できない、というように聞いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()。それに参加したサーヴァントのことです。」

 

「第五次…ですって?」

 

マリーが信じられない、というような声を上げた。

 

「2004年の聖杯戦争が最初のはずでしょう…?」

 

「……なるほど。ズレがありますね。世界のズレ、でしょうか。」

 

…この世界って、色々とおかしいのかな。もしかしたら。

 

〈クラス・ライダー、出ます!〉

 

そんな話をしている間にサーヴァントが召喚される。

 

「……物好きな人ですね。生贄がお望みでしたら、どうぞ自由に扱ってください。」

 

「…来ましたか、ライダー。」

 

「…どことなく懐かしいような、そうでないような。気のせいですか。」

 

ライダーと名乗った女性はそう言って私の方を見た。

 

「あ…あなたは」

 

「…“メドゥーサ”。それが真名です。…では。」

 

そう言ってその人は召喚室から去っていった。

 

「さて、次を回そうか。」

 

ドクターの言葉に呼符を置く。これで8騎目、やっと半分。

 

〈霊基固定、クラスは…えっ!?〉

 

「どうしたの、セリア?」

 

何か起こったのかな?

 

〈お、お姉ちゃん!立香さん!落ち着いて、落ち着いて聞いてください?〉

 

「「…?」」

 

〈今から召喚されるのはエクストラクラスなんです。それで、その召喚されるクラスは…〉

 

ルナセリアさんはそのクラスを私達に告げた。

 

 

()()()()()()

 

 

「アルター…エゴ?」

 

〈はい。即ち、“別人格/別側面”のサーヴァント。冬木にいたシャドウサーヴァント、アーサー王の黒化とはまた違う、ある人物の一面を取りだしたサーヴァントなんです。〉

 

「えっと…?」

 

いまいち理解が及ばない。

 

〈ええっと…どう教えたらいいでしょう…?ええっと…“ジキル博士とハイド氏”って知ってますか?〉

 

「あ、知ってる!」

 

〈そのジキル博士が何をしようとしたかは知ってますか?〉

 

「確か…自分の悪と善の分離。」

 

〈はい。博士はそれが失敗して悪に取り込まれちゃったわけなんですが…もしも、それが成功してたなら、アルターエゴのサーヴァントとして成立してた可能性はあるのです。だって───〉

 

「あっ!別の側面、()()()()()()()()()()()!?」

 

Exactly(イグザクトリー)!その通りでございます♪〉

 

「…もしかしてルナセリアさんってアニメ系とか好き?」

 

〈…あ、はい。恥ずかしながら。〉

 

なんかそんな感じしたからね。

 

〈…!召喚されます!〉

 

そう言うと同時に閃光が召喚室を照らし、私達の視界を遮った。

 

「まぶし…」

 

閃光が収まって、サークルに目を向けると、そこには白いワンピースの、白い髪に先っぽだけ青っぽいロングヘアの光に包まれた女の子が浮遊していた。なんか、髪の毛の色だけ除けばソードアート・オンラインのユイちゃんみたいな感じ?

 

「…」

 

その子はその体を覆う光が消えたかと思うと、そのままぐらりと倒れた。

 

「え、ちょっ!?」

 

慌てて駆け寄って、何とか地面との衝突は避けれた。

 

「…ふぅ。」

 

そのままその子の状態を軽くだけど診てみる。…どうやら、命に別状はなく、ただただ気を失っているだけみたい。ドクターにも確認してもらったけどただ単に気を失ってるだけ。…なんで気を失ってるのかは分からないけど。ひとまず、このままにしておくこともできないから、一度召喚は終わらせて、この子が起きるまで待つことになった。

 




「ふん。あやつらは…StayNight時空の者達か。…Luly、起きているか!!」

ふぁ…?何?

「セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー…そして、アルターエゴ。確かに召喚を確認した。…聞くが、セイバー、アーチャー、ランサーはStayNight時空から跳んできたのか?」

え…?

「あやつら、冬木の第五次聖杯戦争を覚えておった。…分かるか?」

……それは、世界の性質だろうね。

「世界の性質、か…」

うん。特異点と化したなら、その世界はこういう名前になると思うから。


───多重交差異界 レイヤー


「…ほう?レイヤー、レイヤーとな。(レイヤー)とは、どういうことだ?」

それはまたいつか。ほら、早く締めようか。

「む…それではまた次回だ!!」

…くれぐれも、あなたの道と在り方を見失わないでね。…藤丸立香(いずれ■になるであろう者)、さん。この物語の鍵を握るのは、貴女でもあるんだから。

それではみなさん、ここまで読んでいただきありがとうございました。今回からギルガメッシュと共にいろいろ情報入れたりしていくのでよろしくお願いします。

「ちなみに我を呼んだのは我と一緒ならばLulyが退屈しないだろうと思ったからだそうだ!!それでは皆のもの!ここまで読んでくれたことに感謝する!!」

あなた、それなりに機嫌いいよねぇ…

「どこぞの英雄───」

ストップ、それより先は言っちゃダメ。まだその作者さんに許可取ってないんだから!!

「…むぅ…」

…ギルが何かしでかす前に許可取ろう………というか申請出そう…そして早く読み切ろう…


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第21話 謎の少女と、ミラの行方と、更なる召喚

これがオルレアン前最後の召喚話です。

「ふん、此度は何が出るのか。レコーダーとして、きっちり記録してやろう。」

はいはい、よろしくね~


「……」

 

私が本を読む中で隣のベッドで横になっているのはさっきのアルターエゴの少女。寝息は聞こえるから生きてはいるんだろうけど……もう半日経とうとしてるのに目覚める気配が全くない。ちょっと困った…

 

「…大丈夫、かな。」

 

ちなみにここは彼女のマイルーム。カルデアってそれなりに部屋があって、今いる職員さん達と今召喚予定のを含めたサーヴァントたちの分の部屋はあるんだって。

 

「……早く目覚めるといいね。」

 

そう言ったとき、部屋の扉を叩く音がした。

 

「は~い、どうぞ?」

 

「失礼します。…マスター、彼女はどうですか?」

 

そう言って入ってきたのはアルトリアさん。アルトリアさんも彼女のことを気にかけてくれてる。エミヤさんもだけど。だから私は首を横に振る。

 

「…そうですか。マスター、お昼を食べてきてはどうでしょう?」

 

「え、もうそんな時間?」

 

「もう既に召喚されてから半日は経っています。…実際、厨房は暑苦しかったですが…それでも美味しさはかなりのものでしたので。」

 

「そっか…うん、じゃあ食べてこようかな。アルトリアさん、その子のこと。お願いしてもいい?」

 

「は。承知いたしました。」

 

それを聞いて私は彼女の部屋を後にした。

 

「………、……」

 

でも、その後にする寸前。彼女の呼吸の流れが変わったのに、その時私はおろか、アルトリアさんも全く気付いていなかった。

 

 

 

side ミラ・ルーティア・シュレイド

 

 

 

「……これは、酷いね。」

 

私はその場に広がる光景を見てそう呟いた。

 

「見渡す限り炎、炎、炎。ボレスの劫火、アルルの炎活性エスカトンジャッジメントでもこうはならないでしょ…」

 

私はため息をついてからその場で停止した。そして、側にいる龍に声をかけた。

 

「…貴女はどう見る、シャルル。」

 

「…そうだね。これはボクのものじゃないし、何とも言えないけど。それでもこれには悪意がある。性質は…彼女と一緒ではないかな。」

 

「…そっか。」

 

シャルル。獣魔名、天廻龍“シャガルマガラ”。狂竜ウイルスの大本、だけど狂竜ウイルスは()()()()()()()()()()し、誰かに従えば変に狂竜ウイルス振りまかないから別に大丈夫なんだよね。

 

「…それにしても、本当にあの施設の外は見渡す限り炎ばかり。それが分かっただけでもいいとした方がいいのかな。」

 

そう、ここはカルデアという施設の外。焼却されてしまったこの時代の人が生きた場所。

 

「…戻ろうか、そろそろ心配されるかもしれないし。」

 

「それがいいだろうが…時空間の差異接続にあちらの空間が耐えきれるだろうか。方法がなくはないが、そのまま帰るのはお勧めしない。」

 

「…じゃあ、ルーの虚数時空間転移で行こうか。」

 

「ふむ。それがいいかもしれない。」

 

私はルーの力を引き出し纏い、シャルルと共にカルデアへの虚数時空間転移を行った。

 

 

 

side 藤丸立香

 

 

 

彼女が目覚めた。その言葉を聞いて、私は彼女のマイルームに走った。

 

「…はぁ…アルトリアさん…!」

 

「っ…来ましたか、マスター。」

 

アルトリアさんは部屋の中で剣を構えていた。

 

「あの子は…?」

 

「…そちらに。敵ではないという確認も取れませんから、一応警戒しておきます。」

 

そうアルトリアさんが示した方には、少し怯えたような表情の彼女がいた。

 

「…こんにちは、アルターエゴのサーヴァントさん。…貴女の、名前は?」

 

「アルター…エゴ?それは……私のこと…?」

 

初めて聞いた彼女の声は何というかふわふわしているというか。少しつかみどころがないような感じの声だった。そして、この子の声もどこかで聞いたことがある気がする。

 

「…うん。貴女の、名前は?」

 

「私は………あれ…?私は……」

 

なんか、雲行きが怪しくなっているような気がする…?

 

「あれ……私は……誰?」

 

「……分からないの?」

 

「……思い……出せ、ない……名前も……何も……」

 

…記憶喪失。理由は分からないけど、彼女はそれに陥っているみたい。

 

「…なら、どう呼んだらいいかな…」

 

「……お好きに、お呼びください。」

 

実際、私名前考えるの苦手だったりするんだよね…

 

「ではアルターエゴ。貴女は一時的に“無銘”と名乗りなさい。」

 

アルトリアさんがそう言った。

 

「無銘…ですか?」

 

「えぇ。貴女は今、銘が自分の内に存在していない状態なのでしょう?ルーラーでも来れば話は変わるでしょうが、今の自己を定義するとして“無銘”。…どうですか?」

 

「……わかり、ました…サーヴァント…アルター、エゴ。無銘…よろしくお願いします。」

 

「え、うん……でもなぁ…」

 

さすがに名無しって呼ぶのはちょっと…どうしよう。

 

「……アル。ひとまず私からはそう呼ばせてもらっていいかな。」

 

「…はい。ご自由に…」

 

許可を取ったことだし、私は召喚室の方に行くことにした。彼女…アルのことはアルトリアさんが見ていてくれるらしい。

 

「…あ、立香さん。」

 

「あ、ミラちゃん。」

 

「どうしたの、そんな急いで」

 

「召喚の続き。ミラちゃんも来る?」

 

「…あぁ、そういえば召喚の予定だったっけ。ん、行く」

 

途中でミラちゃんと合流し、召喚室に入ると、ルーパスちゃんとリューネちゃんが座って三味線を手に何か話してた。

 

「…うん?あ、立香。あの子起きたの?」

 

「うん。続き、やろうかなって。」

 

「了解…っと。カルデア全職員に通達します。これよりマスター、藤丸立香が召喚を行います。管制室、および召喚室にお集まりください。繰り返します…」

 

ルーパスちゃんが手元にあったマイクでそうアナウンスした。

 

「アナウンス、できたの?」

 

「いや?さっき教えてもらったの。」

 

さっき、で出来るものなの?って思ってたらマシュたちが召喚室に入ってきた。

 

「彼女…意識が戻ったんですね、先輩?」

 

「うん。今はアルトリアさんにみてもらってる。」

 

「そう…さて、続きしてしまいしょうか」

 

そう言ってオルガマリーに呼符を手渡される。私は頷いて召喚サークル内に呼符を置いた。

 

〈サークル展開、サモンプログラム良好……さて、今回ランダムモードですが何が出るか…〉

 

そういうのはお兄ちゃん。そういえば、ここの召喚システムは縁とランダムの二種類があるんだっけ。

 

〈…霊基該当、キャスター!顕現します!〉

 

光が収まった後、そこに在ったのは一冊の本だった。

 

「「「「…本?」」」」

 

「……。」

 

何か知らないけど見てる。そう思った直後、本が強い光を放った。

 

「…まぶっ」

 

「……こんにちはすてきなあなた。夢見るように出会いましょう?」

 

そんな声が聞こえてきて、光が収まったと思って目を開いてみると、そこには黒いドレスを着てさっきの本を持った少女の姿があった。

 

「あなたは…?」

 

「…わたしはありす。…いいえ、ありす(わたし)であってありすではない。わたしは…“誰かのための物語(ナーサリー・ライム)”。それがわたし。」

 

「ナーサリー…ライム?」

 

「ふふふ…変身するわ、変身するの。私はあなた、あなたは私。」

 

そう言葉を発したかと思うと、ナーサリーちゃんは少し光を発して、私達から見えなくなった。

 

「変身するぞ、変身したぞ。俺はおまえで、おまえは俺だ。…そんな姿が、私の力。」

 

光が収まったかと思うと、そこに在ったのは私と瓜二つの少女の姿。

 

〈嘘…だろ!?まるで、()()()()()()()()()()()()…!!〉

 

お兄ちゃんが呻いたように言った。確かに今の姿よりは小さいし、服装も私とは違う。けれど、それは確かに私だと認識できるものだった。

 

「…でも、マスターさんはこの姿をよく思ってないみたい。あなたの頬を汗が伝っているもの。だから私はありすでいるわ。」

 

そう言われて、私は知らずのうちに冷や汗をかいていたということに気が付いた。恐怖でもないはずなのに、なんで……ううん、理由は…なんとなくわかってる、気がする。そんなことを考えているうちに、彼女は黒いドレスの姿に戻った。

 

「これからよろしくね。マスターさん…()()()()()、さん?」

 

「──────!!」

 

その耳元で囁かれた言葉を聞いた時、私は声にならない悲鳴を上げてた。だって、それは……今このカルデアにいるなかではお兄ちゃんしか知らない名前だったから。何とか気を失うことは耐えれたけど、すっごい心配そうな顔をされた。

 

「…大丈夫ですか、マスター?顔色が…すごく悪いですよ。」

 

「…大丈夫。次を…回そう。」

 

〈…無理すんなよ、立香。〉

 

お兄ちゃんの言葉に頷いて、呼符をサークルに置いた。…まだ、手が震えてる。

 

〈…霊基検索中…来ます、ルーラーのサーヴァント!〉

 

ルーラー…ってなんだっけ。ってそんなこと思ってたら旗を持った女の人が召喚された。

 

「サーヴァント・ルーラー。“ジャンヌ・ダルク”。お会い出来て、本当に良かった!」

 

「ジャンヌ・ダルク…フランス救国の聖女ね。それに裁定者(ルーラー)。…このカルデア、エクストラクラス多くないかしら?」

 

あ、エクストラクラスなんだ…そう言えばルーパスちゃん達のハンターっていうクラスもエクストラなんだっけ。教えてもらったクラスの中にないし。

 

「よろしくね、ジャンヌさん。」

 

「…はい!」

 

なんか、同い年の女の子みたいな感じがする。そのあと、ジャンヌさんはカルデアの中を見に行った。

 

「次、やるね。」

 

私が呼び符を置くとサークルが回り始める。…何回目だっけ、これ。…11回目か。

 

「サーヴァント…アサシン!顕現します!」

 

アサシンっていうことは小次郎さんと同じクラスだよね。そんなことを考えていると誰かが召喚される。

 

「アサシン。“ジャック・ザ・リッパー”。よろしく、おかあさん」

 

そこにいたのは黒い布を纏った少女。可愛い…可愛いんだけど。さっきの…その、ナーサリーさんの例があるからちょっと怖い。

 

「ジャック・ザ・リッパー…か。ロンドンの殺人鬼だね。扱いには気を付けた方が良いだろうね。」

 

ドクターの言葉に頷く。ジャックちゃんはそのままカルデアの中を探索しに行った。

 

「…あと三騎。がんばろう。」

 

私はそのまま呼符を置く。するとサークルの色が金色に包まれた。

 

「え、何…?」

 

「これは…クラスは何だい?」

 

〈ランサーです!〉

 

そう言っている間にサーヴァントが召喚される。

 

「アナタが新しいマネージャー?ヨロシク、大切に育ててね♪」

 

「マネージャー?」

 

そう言うのは尻尾の生えた女性…というか女の子というか。

 

「私をアイドルにしてくれるんでしょ?」

 

「……へ?」

 

「へ?」

 

話がかみあってないような…

 

「えっと…あなたの名前は?」

 

「アタシ?“エリザベート・バートリー”よ。」

 

「エリザベート・バートリー…って、血の伯爵夫人!?」

 

ドクターのその声にエリザベートさんがムッとした表情になった。

 

「何よ。それは私の未来の姿であってここにいる私とは違うわよ。さぁ、気持ちよく歌えるところはあるかしら?」

 

「歌…」

 

なんだろう。すごく嫌な予感がするんだけど…

 

「歌?歌を歌うの、あなた?」

 

ルーパスちゃんが反応した。…いや、なんで?

 

「えぇ。よかったら聞かせてあげようかしら?」

 

「それはまた後で。」

 

ルーパスちゃんがそう言って少しほっとした。エリザベートさんはそのまま召喚室を出ていった。探索に行ったみたいだけど。

 

〈さ、残り2騎。速く回して休もうぜ…〉

 

「うん…少し疲れてきたからね…なんでか知らないけど。」

 

私は呼符を手に取って少し眺めた。

 

「…そういえば、マリー。」

 

「何かしら?」

 

「呼符単体に召喚霊基パターンを固定させることってできるの?」

 

「…考えたこともなかったわね。今後の課題としましょうか。」

 

あ、考えたことなかったみたい。とりあえず呼符をサークル上に置いて、サークルを回してもらった。

 

「…誰が来るかな」

 

「ランダム召喚だもの、誰が来るかは分からないわ。あと2騎、せめていい人が来ることを祈りましょう。」

 

〈霊基固定、ライダーです!〉

 

ライダーっていうとメドゥーサさんと同じクラスだけど…

 

「おおう、よくぞ余を引き寄せた!征服王“イスカンダル”、貴様の道を切り開こう!」

 

そこにいたのはおじさん…なんか大きいし強そう。

 

「イスカンダル…20歳で即位、10年以下で東方遠征を成し遂げた別名“征服王”!アレクサンドロス3世、アレキサンダーなどという呼び名がある古代マケドニアの覇者か!これは強そうな英霊が来たな!?」

 

うん、わかんない。でもアレクサンドロス3世ってどっかで聞いたような…?…気のせいか。

 

「…ふむ。貴様が余のマスターか?」

 

「え…あ、はい!」

 

「がははは!!女子というのに身体がしっかり鍛えられておる!マスターよ、名は何という?」

 

「え、えっと…藤丸リッ……じゃない、藤丸立香です!」

 

地味に鍛えてるの見抜かれて困惑。間違えて秘密にしてる名前を言いかけた。

 

「……ふむ。まぁ良い、言いたくないのであれば言わなくてよい!では失礼する!」

 

そう言ってイスカンダルさんは笑いながら召喚室を出て行った。…あれ、多分気付かれてるよね。多分遠慮なんてしない人だと思うのに。その心遣いに感謝しておかないと。……でも、いつか明かさないとね。私も、みんなを信頼したいから。…もしも、私の直感が確かなら。…この先私は、この名前(藤丸 立香)と永遠に離れることになる。でも…今だけは。この名前(藤丸 立香)という殻を、被らせてください。

 

「先輩?調子が悪いなら、これで終わりにしますが…?」

 

「…ううん、大丈夫。次が最後だし。」

 

なんだかんだ言って呼符ももう最後の一枚。この一枚に祈りを込めて、召喚サークルに置いた。

 

「…お願い」

 

〈あいよ…サークル展開…召喚呪文と合わせるか?〉

 

「できるの?」

 

〈一応な?…いや…立香、召喚サークル消してやるからそのまま召喚してみろ。〉

 

「えぇ??」

 

〈いいからやってみろ?昨日精密に測ってみたが…お前結構魔力あるし、基本的にどんなサーヴァントが来ても大丈夫だろ。〉

 

え、私って結構魔力あるんだ。…ていうか。

 

「…お兄ちゃん。女の子の身体を勝手に調べるのはどうかと思うけど。」

 

〈うぐっ…〉

 

「そんなだから彼女出来ないんだよ。」

 

〈関係ねぇよっ!?…ところで所長、次に来るサーヴァント、立香のメインサーヴァントになってて大丈夫ですか。〉

 

「…許可します。…でも、大丈夫なの?立香が維持するサーヴァントが10騎になるけれど。」

 

〈……マジっすか。〉

 

「あ、私達7騎はそこまで魔力必要としないから…」

 

ルーパスちゃんがそう言って、ミラちゃん、リューネちゃんが頷いてた。

 

「どういうこと?」

 

「ハンターのクラススキル“自立魔力”。単純に言えば“マスターからの魔力供給を必要としない”っていう効果のスキル。単独行動の上位互換、って感じかな。これを私達はEXランクで持ってるから“マスターからの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。”っていう効果になってるんだよね。」

 

〈「「何そのエグい効果!?」」〉

 

ルナセリアさん、ドクター、マリーがそう叫んだ。

 

「もうそんなのサーヴァントの領域超えてる気がするわよ…」

 

〈マスターの魔力供給に縛られないサーヴァントって…〉

 

「…なるほど、だからあの時、仮契約すらしてないのにも関わらず宝具を放てたということか…」

 

…いまいちわからない。けど、実質私が維持してるのって2騎…ってあれ?

 

「1騎はマシュだけど…もう1騎は?」

 

「…さっきのアルターエゴよ。」

 

「アルのことかぁ…」

 

まぁ、とりあえず。一応詠唱召喚モードと管制召喚モードがあるらしいから、詠唱召喚モードで召喚することになった。

 

〈…うし。調整は完了だ。昨日教えたやつは覚えてるな?〉

 

「うん。」

 

〈じゃあそれでやれ。〉

 

私は召喚サークルの前に立って一度深呼吸をした。

 

「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。此処に在るは人理を望み、護りを(てき)とするアニムスフィアの天文台。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

聞いたところによると、護りを的とする=護ることを目的とする、みたいな理由があるらしい。結構適当に設定したというのもあるらしいけど。それでいいの召喚呪文。一応後で本職召喚師のミラちゃんにも聞いてみようかな。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

この序盤の時点で召喚サークルから強い力を感じた。多分、かなり強力なサーヴァント。

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

周囲に風が吹き荒れ始める。多分、魔力が風となっているんだと思うけど。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

〈クラス、特定できました!アーチャーです!〉

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

結びの言葉を終えると、そこには黄金の鎧を着た男の人がいた。

 

「ふはははは!この我(オレ)を呼ぶとは、運を使い果たしたな雑……種?」

 

「…うぇっ!?嘘だろ、こんな扱い面倒な暴君が!?」

 

ドクター、それ言ってこの人に何かされても知らないよ?…でもって、この人誰?あとなんで私をじっと見つめてるの?

 

「……ほう?そこの娘。貴様が我のマスターか?」

 

「え…あ、はい?」

 

「ふん…だが面白い。名は何という。」

 

「藤丸立香…ですけど。」

 

「…立香、か。ふむ……よかろう!!立香、貴様に興味が湧いた!何とでも呼ぶがいい!!」

 

「…えっと…とりあえず、あなたは?」

 

「我か?我は英雄王“ギルガメッシュ”!!人類最古の英雄王にして、唯一無二の王よ!!ふはははははっはげっほげほ!!」

 

噎せた!?

 

「ちょ、大丈夫、ギル!?」

 

「心配に及ばん!!では失礼するぞ!!」

 

そう言ってギルガメッシュさんは高笑いしながら召喚室を去っていった。…思わず愛称で呼んじゃったけど大丈夫かな。

 

「…大丈夫かなぁ。英雄王なんて……っていうか今愛称で呼んで怒られなかったのなんでだろう?」

 

何気に酷いこと言ってる自覚ある、ドクター?とりあえず、これで英霊召喚は終わりになった。

 

 

…ところで。

 

「ボエ~~~~!」

 

「違~~~う!!」

 

英霊召喚終わった後、エリザベートさんの酷い…って言っちゃ悪いんだろうけど酷い歌声とルーパスちゃんの綺麗な歌声+可愛い怒声がカルデア内に響いてたっていうのは何だったんだろう。

 




「……我よ。噎せてどうする、噎せて。」

あはは…

「…ところでLuly。あのナーサリー・ライムは…」

あぁ…あれは多分ナーサリーさんの力ならできるんじゃないかな、って思って。トラウマを晒しだすとか。

「ふん……マスターの精神を映し出すサーヴァント、か。」

とりあえず、これで冬木アンケートで募集したのは終わり。次の観測に行くよ、ギル。

「任せよ!」

……次のクラス、どうしようかなぁ

「…それにしても、Lulyよ。」

ん?

「あの呪文は一体どうしたのだ?“此処に在るは人理を望み、護りを的とするアニムスフィアの天文台。”だったか。」

あぁ…一応それっぽいかなって思って組み上げてみただけ。



現顕現サーヴァント


セイバー 1

アーチャー 2

ランサー 2

ライダー 2

キャスター 4

アサシン 2

バーサーカー 1

ルーラー 1

アルターエゴ 1

シールダー 1

ハンター 5

計 22



今作品カルデア召喚詠唱1


素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。此処に在るは人理を望み、護りを(てき)とするアニムスフィアの天文台。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する

――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!


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第22話 ミラ・ルーティア・シュレイド

「む?タイトルが人物の名だと?」

あ~…ちょっとね。

「ふむ…2000字か。」

意外と組むの疲れた。


「はぁ…」

 

管制室からの帰り。私はカルデアの通路を歩いていた。

 

「人理の焼却。流石に事実を見てしまったからには伝えないといけないからって伝えたけど…どうやって帰ってきたとかよく無事でいたとか…質問攻めにされて疲れた……ウルウルにもふらせてもらおう…」

 

ウルウルっていうのは浮空竜“パオウルムー”のこと。浮眠竜“パオウルムー亜種”…通称ウルムメアもいるけど、眠るつもりってわけじゃないからウルウルで十分。

 

「…あ、こんにちは。」

 

向かう先から歩いてきた黄金の鎧を着た人物に声をかけた。英雄王ギルガメッシュ。よくわからない人だとは思ったけど…って、なんで私をじっと見てるの?

 

「…何か。」

 

「………」

 

「……休みたいから通らせて」

 

私がそう言ってギルガメッシュさんの隣を通り過ぎたときだ。

 

「待て。」

 

「…」

 

その言葉に、私はその場で立ち止まった。

 

「…貴様、何者だ?」

 

「…何が。全体での顔合わせの時に名は名乗ったでしょ。」

 

「…ふん、ミラ…だったか。」

 

それを聞いて私から話すことはないから、歩き出そうとした…んだけど。

 

「…聞かせよ。貴様、何者だ?」

 

「……だから───」

 

「貴様が“ミラ”という存在であることは把握している。だが…何者だ。貴様…」

 

その先に続く言葉を、私は聞き逃せなかった。

 

()()()()()()()()()()?」

 

「……」

 

その言葉に私は振り向いた。私が見つめる先にはこちらを睨みつけている英雄王がいる。

 

「…答えよ。何者だ、貴様は。」

 

「…答える義理なんてない。私は私。それ以外の何者でもない。」

 

そう言って私はまた歩き始めた。

 

「…ふん。よかろう。今は追及しないでおいてやる。だが来たる時が来れば、その時は余さず話せ。よいな。」

 

「…願わくば、それが来ないことを。」

 

私はその場から速足で立ち去り、自室に入った。

 

「…はぁ。ウルウル、来て」

 

私は呼び声でウルウルを呼び出した。私の世界の召喚術には大きく分けて3種類ある。1つが今私がやった“呼び声召喚術”…主が契約対象に名付けた名前だけで召喚する召喚術。2つめが“喚び声召喚術”。これは正式な名前を使って召喚する召喚術。3つめが、“断片召喚術”。召喚対象の1欠片だけを抽出する召喚術。断片召喚はかなり魔力消費重いって聞いた気がする。

 

「ごめん、しばらく毛布温めててくれる?少しお風呂入ってくる。」

 

私はウルウルが頷いたのを見て、脱衣所に行ってからハンタークラス標準宝具のアイテムボックスを開き、自分の装備をインナーまで全解除する。その後二つの指輪を装備してからお風呂場に入る。お風呂は管制室に行く前に沸かすように設定してたから大丈夫。

 

「はぁ…」

 

私はお湯につかりながらため息をついた。ちなみにお湯の温度は45℃、ここに来る前まで火山とかにいた私にとってはこれくらいが私にはちょうどいい。

 

「…面倒なのに、目をつけられたかなぁ…」

 

思い起こすのは英雄王のこと。あの目、あの質問。明らかに私の正体に気がついてる。

 

「…宝具も面倒だし、明らかになるときは明らかにしないといけないかな。」

 

私は両手に嵌めてある2つの指輪を見つめながらそう呟いた。

 

「……あたたかい」

 

「プギュルゥゥゥゥ…」

 

お風呂に使っているときに聞こえた少し小さめの咆哮。…警戒用。

 

「どうしたんだろ…?」

 

私はお風呂から出て、アイテムボックスを開き、インナーと白いワンピースを着用した。

 

「…どうしたの、ウルウル。」

 

脱衣所から出ると同時にそう声をかけると、ウルウルは扉の方に警戒を向けていた。

 

「…あれ。あなた…フォウ、だっけ。」

 

『…あぁ、そうだよ。君はミラ…で、あっているよね。』

 

そこにはフォウという名の生物。猫かどうかも分からない謎の生物がいた。

 

「…何か、用?ひとまずこっちにおいで。」

 

私がベッドの方に座ってウルウルを首のあたりまで持ち上げると、エリマキのように首のまわりに体を丸めた。それを見たフォウが私の膝の上に飛び乗ってくる。

 

『ボクとしてはそのモンスターはいない方が良いんだけどね。なんか怖いし。』

 

「…用件は?」

 

『あぁ、じゃあさっそく本題に入らせてもらおう。』

 

そう言ってフォウは私をじっと見つめた。

 

『ミラ。君は一体、何者だい?少なくとも、人間ではないのは確かだろう?』

 

「……」

 

英雄王と似た質問。それに内心、ため息をついた。

 

『君のその魂。明らかに人間のものではない。どちらかというと、ボクらのものと近い。』

 

「…()()()?」

 

『今はそこは気にすることじゃないよ。ボクが聞きたいのは……君が人間か否か。そして、君がこのカルデアという組織の味方か敵か。ボクらと同じ存在なのか否か。この三つだけだ。それ以上は聞かないと約束しよう。』

 

「…そう。」

 

なんか、英雄王より話は分かりそう。

 

『で、どうなんだい?まずは最初の質問、君は人間か否か。それに対して、答えてもらおうか。』

 

「……何が、目的?」

 

『不安事項はなくしておくに越したことはない。そうだろう?』

 

確かにそれは的を射ている。だけど、それを聞くためだけにやってきたのかな。

 

『…で、どうなんだい?』

 

「……これでも一応、人間だよ。だけど私は、ある意味では人間であるともいえるしある意味では人間ではないともいえる。」

 

『…ふむ。酷く曖昧だね。』

 

「そんなものだよ。ただ…少なくとも、普通の人間ではないのは確か。だって私は───」

 

そこまで言いかけて慌てて口を閉じる。

 

『私は、なんだい?』

 

「…忘れて。」

 

『……ふ~ん。まぁ知られたくないってところなんだろうね。まぁいいか、ボクには他人の秘密を無理やり暴くような趣味はないし。』

 

無理やり暴くのはは普通に最低だと思う。

 

『じゃあ次。君は敵?味方?』

 

「少なくとも今は味方。」

 

これに関しては即答。

 

『…即答したね。今は、ということに不安を覚えるけど信用するとしようか。じゃあ、最後の質問だ。』

 

最後の質問。これが、私にはわからなかった。

 

『君は、獣か?』

 

「……分からない。」

 

『…そうか。よし。しばらくは君を観察させてもらうとしようか。』

 

そう言ってフォウは私の膝の上から飛び降りた。

 

『じゃあね、ミラ。』

 

「…待って」

 

私は部屋を出ていこうとするフォウを呼び止めた。

 

『なんだい?』

 

「あなたは…何者?」

 

『…比較することが好きな、一つの奇跡を願う…ただの獣さ。』

 

そう言ってフォウは私の部屋を出て行った。

 

「…そう…」

 




「…ほぉ?獣と似ている、とな?」

なんだかなぁ…獣に近いような獣とは違うような。そんな感じだったけどまぁ一応獣として登録したんだよね。あとさ…前回言い忘れてたんだけど、第20話、私一度消してたんだよね。

「…それは、大丈夫なのか?」

もう既に投稿手続き終えた後だったからね。何とか。

「手遅れにならず良かったわ。…しかし、この本編の我は…?」

それなりに機嫌いいよ。


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第23話 無銘

「無銘…とな。」

令呪によって命ずる。暴走しないように。

「そんなもの令呪で縛るものか…」

暴走されたら面倒だし。


 

 

無銘。

 

それが、今の私の名前。

 

記憶のない、私の。

 

アルターエゴとして現れた、私の。

 

ルーラーの力を持ってしても、私の名前はわからないみたい。分かったのは、“星”という単語だけ。

 

「ふむ…」

 

そして、いま私の目の前にいるのは英雄王という人物。カルデア、だっけ。この施設の中をふらふら当てもなく歩いてて、自分の部屋の前に着いた時に捕まった。

 

「貴様は興味深いな。なんだ、その姿は。」

 

「…」

 

「何故、()()()()()()()()()()()()()。そして何故、その状態でその姿を保っていられるのか。実に、興味深い。」

 

「……どういう、ことですか。」

 

「そのままの意味よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでいて、何故そのまま意思を保てる?」

 

初耳だった。というか、知りすらしなかった。

 

「ふん。その魂共は眠っているだけのようだが…それでは宝具も展開できないのではないか?マスターのメインサーヴァントとして、それで良いのか?無銘なるアルターエゴよ。」

 

口調はきついけどそれなりに心配されているように感じる。

 

「私は…今は、いい。たとえ…何かの役に立てなくても、私の在る意味を見つけ出せれば…」

 

「…ふむ。役に立つかどうかではなく、存在意義を知りたい、とな。面白いものよ。…そもそも、記憶を総て喪うなど……否、こ奴は生きた人間か。」

 

何か言ってるけど、私にはよくわからなかった。

 

「あのマスターであることに感謝するのだな。酷いマスターならばお主などとっくに自害させられていよう。」

 

そう言って英雄王は私に背を向けた。

 

「…あぁ、そうだ。」

 

「?」

 

「この施設、そしてお前の部屋。狭いとは思わぬか?何か広くするのに良いと思う方法があるならば申してみるがいい。」

 

「…空間拡張」

 

「ふん…記憶を喪っている割には、それなりに分かるものはあるようだな…しかし空間拡張か……ふむ。」

 

そう呟きながら英雄王は去っていった。

 

「…何だったんだろう。」

 

面倒になってきたからそのまま自分の部屋に入る。

 

『やぁ。無銘。』

 

直接心に響く声。声のする方に目を向けると、白い生物がいた。

 

「…誰?」

 

『ボクはフォウ。ただの比較することが好きな、一つの奇跡を願う獣さ。無銘。君に聞きたいことがある。』

 

その白い生物───フォウが私の足元に来た。

 

『とりあえずは座りなよ…ってボクが言うのもおかしいけどね。ここは君のマイルームだ。立ったままじゃ落ち着いて話もできないだろう?』

 

促されるままにベッドの上に座る。フォウは私の隣に座った。

 

『面倒なのはそれなりに苦手でね。単刀直入に言おう。君は一体何者だい?1つの肉体に君を含めて8の魂。どう見ても普通じゃない。君のクラスがアルターエゴなのはその魂達の影響だろうけれど。君以外の魂7つは眠っていて、それでいて魂の暴走なんかも引き起こさず、見事に調和している。どういうことだい?』

 

そんなの私が聞きたいと思った。

 

「…わからない。」

 

『分からない、か…何者かが意図的に君の記憶を封じているのか。それとも何かの拍子で抜け落ちたのか。…もしかしたら、抑止力の影響で8つの魂を1つの肉体に入れる代わりにその核となる魂の記憶を消去したのか。その真相は分からない、か…』

 

フォウは少しの間虚空を見つめてから、私の方を見た。

 

『君には記憶がない。自我が弱い。…無垢に近く、虚無に近い。それは、あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

自我が弱い、のかな?

 

『だからこそ、君とミラは危ない。悪意に対しての耐性が皆無に等しい。…ボクは、陰から君たちを見守るとしよう。君たちがいつか、ボクの望む結末を見せてくれると信じて。』

 

フォウはそう言って扉に足をかけた。

 

『あぁ…そうそう。一つ教えておこう。君とミラでは無垢、虚無の観点が変わる。』

 

フォウはこちらを見ずにそう言った。

 

『君の場合は記憶がない、自我が弱い。そういう意味───つまり0という無垢、虚無なんだ。それに対して、ミラは記憶はある、自我も強め。だが───心の奥底がすさまじく脆く、白い。どうやら何かの護りが働いているようだけど…何というかな。彼女の生存本能が低い、とでも言おうか。そのあたりが謎でね。こちらは0というよりは-(マイナス)に近い無垢であり、虚無である。何故だろうね。彼女は無垢ではないはずなのに、嫌でも無垢だと認識させられる。ボクには彼女が分からないよ。』

 

そう呟いたフォウは私の方を見た。

 

『少しでも生きられるように頑張りなよ、星のアルターエゴ。この世界の結末は僕にもわからない。君がなぜこの世界に喚ばれたのかもわからない。ただ一つ言えるのは、君は…いや、君たちはこの世界を回す役割を担っているのだろう。悲しい運命が存在するならば、それを少しでも変えようとするといい。それがどんなことを引き起こすかは知らないけどね。』

 

そう言ってフォウは私の部屋を去っていった。

 

「…星の、アルターエゴ。」

 

フォウが呼んだその呼び名。すとんと、心に落ちるような気がした。

 




「かの無銘とは別人か?」

言うと思った。別人だよ。

「そうか…」

ていうか星のアルターエゴ、ねぇ。全く思いつかなかった。


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第24話 改装

「……Luly。この世界、改装させよ!!」

また?別にいいけど。

「ふはははは!!」

…重要なのとか壊さなければ。


カルデアの、とあるマイルームにて。

 

「話には聞いていたがこれは酷いにも程があるわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

英雄王が、キレていた。

 

ちなみに、何にキレていたかというと。

 

 

「これが風呂と呼べるか、これが!!狭いにも程がある!!」

 

 

…っとまぁ、こういうことである。ホンット何してんのこの人。ちなみに作者側にいる記録者(レコーダー)も作者側の世界(前書きと後書きに使われてる世界)で同じことをしたそうな。コノサクヒンノギルガメッシュハユカイダナー

 

「オルガマリィィィィィィィ!」

 

「は、はい!?英雄王!?」

 

「なんだここの居住設備は!!酷いにも程があるだろう!!こんなもので組織が成り立っているというのか!?」

 

「…はぇ?」

 

「狭い個室はまだいい、酷い就寝具もいいとしよう、身体は休まらんがな!!だが狭い風呂はやめろ!!そんなもので心そのものが休まるか!!馬鹿者め!!」

 

実際設計したのはオルガマリーではないはずなので、オルガマリー自身に非はないと思う。

 

「重要な仕事をするというのに心の休息を愚かにさせるとは何事か!!心は体の状態に影響する、身をもって知れ!!こういうのを……何と言ったか。」

 

病は気から、とでも言いたいのだろう。…あ、皆さん初めまして。遅れて挨拶させていただきます。“三人称視点・特有思考人格在り”の担当をさせてもらっている者です。“観測者”、とでも名乗りましょうか。私に名前はないのですがね。

 

「…まぁいい、オルガマリー。」

 

「は、はい…」

 

「カルデアの造形…部屋の間取りその他もろもろはわかるか。」

 

「は…」

 

「この施設程度、我が改装してくれるわ…!!文字通り異界にな…!!」

 

異界に改造、じゃない、改装するってどういうこと…

 

「職員が共通空間に欲しいものの希望を集めておけ!!我は少し考え事をするのでな!!」

 

「は、はぁ…」

 

真面目にこの人何なの…って、どっかに向かうみたいだからついていかないと。

 

 

…辿り着いたのはミラ・ルーティア・シュレイドのマイルームの前。

 

「邪魔するぞ!!」

 

いやノックくらいしなさいよ。相手は女の子だよ?…って、部屋の中にあるベッドの上には紫色の…なんだろ、鳥?じゃない気がするけど、それがいた。生きてるのは確か。

 

「…ミラ・ルーティア・シュレイドはいるか?」

 

「…何?私としては用はないんだけど。」

 

「…この生き物は何だ。」

 

「浮眠竜」

 

そう答えて彼女は手元の本に目を落とした。

 

「…用件は」

 

「ふむ。貴様がこの施設の外でも無事だった方法、この施設の外から帰ってきた方法を聞きたいのだが」

 

「空間表面展開結界と虚数時空間転移。」

 

彼女は必要以上に話したくないというように即答してた。嫌われてるね

 

「…ふむ。空間をズラしたか。…参考になった、感謝する」

 

「……待って」

 

英雄王が部屋を出る直前でミラが呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「お風呂。変えるんでしょ。さっきお風呂で怒ってたくらいだし。」

 

「む…」

 

「だったら…」

 

ミラが英雄王に何か投げた。なんか、水をろ過する装置みたいなの。え、あれ何?

 

「これ、使ったら。お風呂用の水道に組み込んでおけば、幾つかの心安らぐ香りを放つお湯、水を出してくれる。私達の場合は魔法で香りを変化させてたけど、もしかしたら別の方法があるかもしれない。そもそも組み込まなくても使えるけど。」

 

「ふむ……香りか。」

 

「その装置の使い方は任せる。設定によっては心安らぐだけじゃなくて疲れも取ってくれるから。」

 

「…これに、名はあるのか?」

 

「“夢幻の湯香(むげんのゆこう)”。私達はそう呼んでた。」

 

「夢幻、とな。…ところで何故風呂を変えると知っていた?あの場にはオルガマリーと我しかおらんかった。付け加えると、怒声を上げたのはマイルームの中だ。防音となっているはずのマイルームの中を、なぜ知っている?」

 

英雄王がそう問うと、ミラは少しため息をついてから指を鳴らした。すると、そこに出てくるカメレオンみたいな生き物。

 

「霞龍“オオナズチ”。この子はいたずら好きでね。透明化してふらついてるの。その時に聞いたんだって。」

 

「ほう…面白い、興味が湧いた!貴様の使役する獣魔共、そ奴らの情報を時間があるときに話せ!遠慮はするな、特に許す!!」

 

「敵かもしれないのに話すつもりはないけど……言い出したら聞かないタイプだろうし。いいよ、別に。」

 

その言葉を聞いた英雄王は高笑いしながらミラの部屋を出て行った。

 

「…英雄王、ね。見定めてあげよう、あなたが私に…私達にとって味方か敵か。」

 

そう呟いていたのが、少し印象的だった。あ、英雄王追わないと。

 

 

英雄王は管制室の方に向かっていた。

 

「オルガマリー、用意はできたか!」

 

「はい、こちらに…英雄王よ、何をするつもりなのですか…」

 

「言ったであろう、改装よ!」

 

「は、はぁ……」

 

そう言って英雄王は周りを見渡す。

 

「聞け、者共!!この中に世界の構造を操ることが得意とする者はいるか!!」

 

「…あ?呼んだか?」

 

そう言って声を上げたのは藤丸六花。マスターの兄。って聞いたけど。

 

「ほぅ…単刀直入に聞くぞ、ゲームとかいうものの世界を自由に作り変えられる端末を作ることはできるか?」

 

「ゲーム世界を自在に作り変える端末…つまりはシステムコンソールか?そんなん、作ってどうするってんだ。」

 

「ふん、今は作れるか作れないか、だけを言えばよい。どうなのだ。そしてそれを魔術として使えるか?」

 

「…作れなかないだろうが…それが確定しているのは電子世界でのみだ。魔術として作り出せるかはわかんねぇ。固有結界ならまだしも、現実そのものを対象にするとなるとな…」

 

「ほほう…固有結界。なるほどその手があったか。貴様、名は何という?」

 

「藤丸六花。」

 

「…ほぅ。あのマスターと兄妹か?気に入った、ついて来い!」

 

「あ、おいっ!?」

 

あ、英雄王が六花を連れて行った。…って、どこに行った…面倒だね、魂反応観測……捕捉、瞬間転移!

 

……そういえば、ドクター・ロマンって何か隠してない?

 

 

で、見つけたのはアルトリア・ペンドラゴンの部屋の前。なんか六花がさっきまで持ってなかった紙袋持ってるけど…なんだろ。

 

「失礼するぞ!!」

 

「っ!?英雄王!?何を…!!」

 

「貴様に用などない!六花、やるぞ!!手順通りだ!!」

 

「あぁもう、乗り掛かった舟ってやつかね…!出来る限りやってやるよこのくそ野郎が!!」

 

「六花───!?そんなことを言っては…!!」

 

「ほれい!!」

 

なんか空間に穴開けたんだけど───!?

 

「これより先はおまえの仕事よ!!我は外を組み上げる!!」

 

「はいはい、これでも固有結界・変換・強化魔術の三点特化型魔術師なんでね…!!」

 

「ふははは!!贋作者と似ているよな、おまえは!」

 

「うっせぇさっさと仕事しろ!!こちとら世界組成変換機構の組み上げに少し時間かかるんだ!!」

 

「……これは、一体?」

 

アルトリアが呆然としていた。その間に英雄王と六花は色々と作業を終わらせていった。

 

「ギル~…終わったぞ、こっちは…」

 

「こちらも終わった!あとは仕上げのみだ!!」

 

そう言って二人はアルトリアを見る。

 

「な、なんですか…」

 

「…どうぞ、中へ。この部屋の改装は、貴女が中に入ることで完成します。」

 

「正確に言うならば、部屋の改装は部屋の主が改装された部屋の中に在り、知ることで完成を迎える。貴様は部屋の全部をまだ知らぬ、ゆえにこの部屋はまだ完成しておらぬ。そら、入るがいいセイバー。この改装は貴様が一番最初だ。」

 

「……」

 

アルトリアは不思議そうな顔で英雄王を見ていた。

 

「どうした、我に惚れたか?」

 

「…いえ。ただ…ただ、どうしても、私が知る貴方とは合わないような気がして。毒でも食べましたか、英雄王。」

 

「ふん。ただの気紛れのようなものよ。そら、入らぬのか。」

 

「…入ります。私の部屋なのですからね。」

 

アルトリアが部屋の中にさらに設置された扉───空間に穴をあけた場所に設置された扉をくぐった。同様に英雄王と六花もその扉をくぐる。

 

「…これは?真っ暗ですが。」

 

「“異界”。一種の固有結界ですね。ここにこの場所を変えるコンソールが2つあります。アルトリアさん、これに触れてもらえますか?」

 

六花が示したのは入り口付近にあった黒い石板。立ったままで触れるようなものと、座らないと触りにくいようなもの。アルトリアは警戒しながらもその石板に触れた。

 

〈マスター認証開始。マスター情報を取得、登録します。〉

 

「!?」

 

謎の光と声にアルトリアが手を離す。

 

〈マスター情報の取得に失敗しました。〉

 

「…これは?」

 

「システムコンソール。」

 

そう言って六花がそのコンソールに触れる。

 

〈マスター認証開始。マスター情報を取得、登録します。……エラー、既に保存されているグランドマスター情報です。管理者権限でコンソールを起動しますか?〉

 

エラー。それは間違い。だけど、それを気にせずに六花は出てきたウインドウに触れ、幾つかの操作をした。すると、ひと際大きなウインドウが展開した。

 

「これがこの機械に入っているマスター情報です。」

 

そう言って見せたものには、幾つかの欄が存在して、そのすべての欄にnullとしか書いてなかった。

 

「nullっていうのは何もないっていうことです。つまりこの端末にはまだグランドマスター以外の誰も登録されていません。」

 

「はぁ…」

 

「とりあえずマスター登録をして、話はそれからです。」

 

そう言って六花はすべてのウインドウを消した。それからアルトリアがコンソールの石板に触れる。

 

〈マスター認証開始。マスター情報を取得、登録します。……登録中。…………新規マスター登録、完了。

 

マスター名“アルトリア・ペンドラゴン”

タイプ“サーヴァント”

クラス“セイバー”

性別“female”

識別ID“svt(サーヴァント)-00000001_sub(サブ)

 

登録、並びに正常起動が完了しました。それではこれからよろしくお願いします、マスター。〉

 

「は、はぁ…あの、これは一体?」

 

「この世界を管理・管制してくれるAIです。手を触れるとマスターかどうかを識別した後、マスターならば世界管理メニューを開いてくれます。」

 

「世界…管理」

 

「まずは…そうですね、世界初期設定があるので…コンソールの石板に触れたまま、貴女が望む景色を思い浮かべてください。」

 

「私が望む景色…ですか?……」

 

言われるがまま、アルトリアは石板に触れて目を閉じた。

 

〈初期設定開始。〉

 

そんな音声がしたかと思うと真っ黒な世界が切り裂かれて、別の風景を映し出した。

 

〈初期設定完了。目をお開けください、マスター。〉

 

「……これ、は…」

 

「ほう?」

 

そこにあったのは草原。草原の中に立つ…小屋?みたいなの。アルトリア達の背後には本来のマイルームに繋がる扉があるけど。

 

「…綺麗、ですね。」

 

「…これは、貴女が望んだ姿。この世界の形は、貴女が望めばどのようにも姿を変えます。…説明書はあとで配布しますので、お読みください。」

 

「…はい。」

 

「…行こう、ギル。」

 

そう言って六花と英雄王は退出していった。

 

 

……で、しばらくして。マイルーム改装も残り一つ、マスターである立香の部屋だけになった。

 

「ういっす、邪魔するぞ~」

 

「あ、お兄ちゃん……と、そこにいるのは…ギル?」

 

「うむ。」

 

「ほれ、これお前に。」

 

そう言って六花が紙袋を渡した。

 

「え?…わぁぁ…!プリンだ~!」

 

中身はプリン。好きなのかな?

 

「やった~!!お兄ちゃんのプリンだ~!!」

 

「お前ほんと俺が作るプリン好きだよな…作っててほんと楽しいわ。…っと、改装するからしばらく失礼するぜ~」

 

「は~い…はわぁ……2年ぶりのプリンだぁ……」

 

空間の穴を開けた後、空間の中に入って色々とやっている最中に、六花が顔を出す。

 

「ん?そういや、それ最後に振舞ったのって2年前だったか?」

 

「そうだよ~…あ、ギルも食べる~?」

 

「ふむ。許す、よこせ!」

 

「はい。」

 

「ふん、見定めて……何だこれは!?甘味苦味形その他諸々最高の領域に近いではないか!!」

 

「別に普通だろ…」

 

「私こんなの作れないし…」

 

「だから性別“リッカ”とか言われるんだろうが。」

 

「これでも人並みに家事出来るんだけどっ!?」

 

「うるせぇ、性別“男の娘”とか“生まれる性別間違えてる”とか言われる俺の気持ちがわかるかお前に。」

 

「女装してるから否定できないじゃん。」

 

「ぐはっ…」

 

仲いいなぁ…

 

「…よし、調整は終わった。あとは最終調整だけだな。こい、立香。」

 

「は~い…あ、そういえばお兄ちゃんって魔術とか使えるの?」

 

「あ?いや、そこまで使えないが?俺が基本的にできるのは変換と強化だからな。その辺はマリー所長に習え。」

 

「あ、お兄ちゃんもオルガマリーのことマリーって呼んでるんだ。」

 

「これでも4年くらいの付き合いなんでね。」

 

「ふ~ん…」

 

〈新規マスター登録、完了。

 

マスター名“秘匿”

タイプ“人間”

職種“マスター”

性別“female”

識別ID“stf(スタッフ)-00000001_mas(マスター)

 

登録、並びに正常起動が完了しました。それではこれからよろしくお願いします、マスター。〉

 

「…よし、これでいいか。」

 

いつの間にかマスター登録は終わってた。

 

「じゃ、俺は俺の部屋に戻るわ。」

 

「あ、うん。…ありがと、お兄ちゃん。」

 

「礼なら空間を開けられるギルに言いやがれ。俺は空間を維持する機構を作っただけだ。」

 

「何を。貴様がいなければこんな構造など作れぬわ、戯けめ。」

 

「そうかい、っと。」

 

「…六花よ。」

 

「あ?」

 

「貴様の部屋に行くぞ。聞きたいことができた。」

 

「あ、そう。」

 

そう言って英雄王と六花は立香の部屋を出ていった。

 

「…さて、構造変換しよっと。マインクラフターに不可能はない…ってわけでもないけど。」

 

立香は立香でコンソールを弄ってるみたい。さてと、英雄王と六花の所に…転移

 

 

…で、六花の所に来たわけだけど。

 

「……」

 

「……」

 

微妙に空気が重い。

 

「…で?聞きたいことって?」

 

「…あのAIとか言う者たち。貴様はあれを、一体どう管理しているのだ?」

 

「AI?こっちで一括管理してるよ。俺が作り上げた管制AI達の集合体。通称“理と魂の集合体(ロジックソウル・クラスター)”」

 

「ほう?だがそれはどこにある?この部屋にはないようだが。」

 

「俺の固有結界の中。」

 

「…視ることは」

 

「出来るさ、これでも固有結界の使い手なんでな。…顕現せよ、我が固有結界の一。“集合せし双面の花園(ワールドガーデン・ザ・クラスタービット)”」

 

そう言った瞬間、周囲の風景が花畑に変わる。

 

「ほう…これが貴様の心情というわけか。」

 

「その一つ、だ。安息の花園。お~い、アドミス!!」

 

「マスター?」

 

唐突に誰かの名前を呼んだかと思うと、虚空から黒いワンピースの少女が姿を現した。

 

「こいつ、アドミス。管理ID:0-L、クラスターの総合統括AIの片割れ。」

 

「初めまして、アドミス…正式名称“アドミニストレータ”です。妹は今寝てますけど…貴方は?」

 

「ふん、我は英雄王ギルガメッシュである!!」

 

「ギルガメッシュ…なるほど、識別ID“svt(サーヴァント)-00000010_min(メイン)”のシステムコンソールを使用する方ですか。」

 

「な……」

 

識別ID“svt-00000010_min”。それは確かに、この英雄王の部屋に設置されたコンソールが言っていたものだった。

 

「こんな姿でも私は統括AIです。データベースの閲覧くらいでしたら即座に。」

 

「ふ…ふはははは!!面白い!!気に入ったぞ、貴様!!……名は、何といったか!」

 

「管理ID“0-L”、固有ID“アドミニストレータ”。マスター…六花さんからはアドミスと呼ばれています。」

 

「そうか、アドミニストレータか!…それにしても、だ。六花。貴様、この魂は何だ?作り物たるAIに魂そのものがあるとは。一体、どういうことだ?」

 

「あ?あぁ、言ってなかったか。俺これでも第三魔法会得してんだよ。」

 

第三魔法。それは、確か…

 

「第三、だと?」

 

「あぁ…第三魔法“天の杯”。魂の物質化。やったのは単純だ、()()()()()()()()A()I()()()()()()()んだ。」

 

「…貴様、“根源”に至っているのか?」

 

「正確には触れかけた、だがな。これでも創造科の学生だったんでね。地味に降霊科もかじってたがあそこの派閥は合わんかったし。創造、降霊、鉱石…まぁいろいろやったさ。」

 

「ふむ…」

 

「言っておくが俺自身は根源なんて興味ねぇ。俺が目指したのは自立意思のある人工知能の作成。それがこんな形で成るとは思わんかったがな。」

 

「…貴様は、不老不死が望みか?」

 

「んなわけねぇだろ。残るものを探し続けた、それがこの結果さ。」

 

その後、六花が固有結界を閉じ、英雄王は別の改装にいった。…まぁ、色々とやったとだけ。私はもう疲れたから寝る。

 

…ところで、ドクター・ロマンの時。マスター名が“ロマニ・アーキマン”じゃなくて“ソロモン”で…識別IDが“svt-00000001_tst”だったんだけど…何だったんだろう。




一応次回から本編はオルレアンの章になりますよ~

「ふん、やっとか。…ところで」

うん…既に看破されてるねぇ。あのコンソール、魂そのものに干渉して情報を読み取るから。

「厄介だな…となると無銘はどうだったのだ?」

そのまま“無銘”で登録されてるよ。なんか読み取れなかったらしい。

「ほう…」

あ、次の更新、一応この作品に出てきてるキャラクターの簡易説明をしようかと思ってます。

「我はどうなっていることやら。」

来週からオルレアンは始めたいのでこの後19:00に投稿されますよ~


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登場人物簡易説明

はい、ということで簡易説明ですよ~

「さてさて、我はどうなっていることやら。」

あ、結構酷くなってるよ

「何ぃ!?」

声優さんは敬称略にしてあります。それでは。


原作登場人物

 

 

藤丸立香(ふじまるりつか)

cv.関根明良

言わずもがなFate/Grand Order女性主人公。ただし能力は原作よりも強化され、性格は原作より少しおとなしい。しかしおとなしいとはいえ、結構なレベルのオタクであったりするため黒髭などとはそれなりに話が合いそうだ。なお、冬木にいたアーサー王の言葉からすると、何らかの運命に囚われている模様。

 

 

マシュ・キリエライト

cv.高橋李依

言わずもがなFate/Grand Orderメインヒロイン。原作との変更点は宝具の解放時の修行納めをしたのがリューネだったため、多少重くても挫けにくくなっていることだろうか。

 

 

ロマニ・アーキマン

cv.鈴村健一

いつものドクター。原作との変更点はそこまでないが、生身の人間である無銘、ミラ、リューネ、ルーパス、立香達の心配は尽きない模様。なお、ギルガメッシュには結構感謝している模様。

 

 

オルガマリー・アニムスフィア

cv.米澤円

生存。ジュリィの宝具によって救われた。いまだ完全に肉体を持つには至らなく、紙でできた肉体のため、水、お湯につかるのは禁止とされている。魔力回路は残存。

 

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ

cv.坂本真綾

英霊成功例三体目。ジュリィやギルガメッシュ、六花と共にいろいろな改造をしている模様?

 

 

フォウ

cv.川澄綾子

カルデア内の謎生物。人間ではないと感じたミラ、一つの肉体に複数の魂が存在する無銘を警戒している模様。

 

 

 

オリジナル登場人物

 

 

藤丸六花(ふじまるむつか)

cv.島﨑信長

Fate/Grand Order男性主人公。今作では藤丸立香の兄として登場。レイシフト適性はほとんどなく、マスター適性もないが、機械やプログラム、食事環境の用意に強い。魔術適性は固有結界と強化魔術、変換魔術。実は可愛いものが大好きで、妹を稀に着せ替え人形と化してる上、趣味が女装である(高音会得済み)。さらに地味に第三魔法“天の杯”を会得している者であったりする(聞かれなければ未公表)。

 

 

ルナセリア・アニムスフィア

イメージcv.芹澤優

オルガマリー・アニムスフィアの姉。性格面はルーパスと少し似ている気がする。医療スタッフとしてカルデアに勤務していた。魔術適性は治癒魔術。ちなみに“ルナセリア”というのは作者のプレイヤー名の一つであったりする。

 

 

アドミス

正式名称“管理者(administrator)”。もっと言えば“アドミニストレータI(アインス)”、通称“アドミスI(アインス)”。管理IDは“0-L”、外見は黒いワンピースを身にまとった少女。“理と魂の集合体(ロジックソウル・クラスター)”の統括AIの片割れであり、カルデアの様々なデータベースの運用を担っている。性能はかなり高く、やろうとすればカルデアの全システムを1分~15分で完全掌握可能。…というか、既に全システム完全掌握しているのだが。管理IDが“L”なことからわかる通り、アドミスには対になる存在がいる。サーヴァントとしての適性も持っており、現実側への顕現も可能。ちなみにその際のクラスは“キャスター”となる。

 

 

 

オリジナルサーヴァント

 

 

ルーパス・フェルト

イメージcv.澁谷梓希

ハンターのサーヴァント。分かりやすい特徴といえば元気。誰に対しても立場の差を感じずに行動する。基本的にだれに対しても呼び捨て。髪は銀髪で三つ編みにしており、目は青色。メインの使用武器は弓で、師は自分の両親。元ネタは“モンスターハンター:ワールド”、及び“モンスターハンター:ワールド アイスボーン”のプレイヤーハンター。新大陸に来てから2年ほど経過している。ちなみにハンターランク、マスターランク共に999である。

 

 

ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ

cv.小市眞琴

キャスターのサーヴァント。ただし一応ハンターとしての適正もあるため、“ハンター”と“キャスター”の複合クラスとして呼び出されたようだ。特徴といえば…大食い。その大食いレベルは新大陸にいる人たちから“ウケツケジョー”などとネタにされるほど。使用する武器は大剣で、師はソードマスターとルーパス。元ネタは“モンスターハンター:ワールド”の受付嬢。地味にハンターランク200、マスターランク80まで到達している。

 

 

リューネ・メリス

イメージcv.斎賀みつき (高音時:赤崎千夏)

ハンターのサーヴァント。分かりやすい特徴としては古風、だろうか。仲がいい人に対しては呼び捨てにするが初めて会った人に対しては“殿”、や“さん”を付ける。髪は白髪でショートヘアにしており、目は黄色。メインの使用武器は狩猟笛で、師はルーパスの両親。元ネタは“モンスターハンター3”から“モンスターハンターXX”、および“モンスターハンターRise”のプレイヤーハンター。ハンターランク、マスターランク共に999。

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイド

イメージcv.若井友希

キャスターのサーヴァント。…なのだが、他にもクラスが混ざっている。それなりに落ち着いているが怒ると怖い。ほぼ常に小さくなったネルギガンテを連れ歩いている。フォウとギルガメッシュに“おまえ、人間じゃないだろう”と言われて警戒されているが…?髪は白髪でストレートロングで、目は右が赤、左が緑の虹彩異色。元ネタは立香達の世界に“モンスターハンター”のシリーズの代わりに存在している“モンスターサマナー”というゲームシリーズのプレイヤーサマナー。ゲームの内容はポケモンに近い。ちなみに、モンスターサマナーというゲームがあったにもかかわらず、立香達がミラボレアスやモンスターハンター世界の地名を知らなかったのは、そもそも立香達の世界にある“モンスターサマナー”というゲームシリーズ内には古龍種はいても“古龍目 源龍亜目 ミラボレアス科(ミラボレアス ミララース ミラバルカン ミラルーツ)”のモンスター達が存在せず(基本的にシリーズ最難関ボスはアルバトリオンが務める)、地名も少しズレているからである。

 

 

スピリス

ハンターのサーヴァント。ルーパス・フェルトのオトモアイルー。ニャンターとしての活躍もあったため、ハンターとして召喚されたと予想。元ネタは“モンスターハンター:ワールド”のオトモアイルー。

 

 

ルル

ハンターのサーヴァント。リューネ・メリスのオトモアイルー。ニャンターとしての活躍もあったため、ハンターとして召喚されたと予想。元ネタは“モンスターハンターXX”のオトモアイルー。

 

 

ガルシア

ハンターのサーヴァント。…なのだが、アサシンのクラスも混ざっている複合クラスで顕現。リューネ・メリスのオトモガルク。人見知りで基本無口。ルーパス達の中で唯一彼女だけが新人。元ネタは“モンスターハンターRise”のオトモガルク。

 

 

無銘

イメージcv.佐藤あずさ

アルターエゴのサーヴァント。それなりに言動がふわふわしている、というかマイペース?基本的に自分の意思を発そうとしないような性格。召喚された時は記憶を喪っているが、フォウとギルガメッシュから“複数の魂がお前の中に居る”と言われて警戒され、少し困惑中。言っておくが人形ではない。

 

 

ルーパスの両親

召喚予定なし。展開によっては召喚できる。ルーパスの実の両親であり、ルーパスとリューネの狩猟技術の師匠にあたる。事情により、幼いリューネをリューネの両親から引き取り、ルーパスの姉妹のようにして育ててきた。まぁ二人とも“ハンターになりたい”と言い出した時は大変驚いたそうだが…ベルナ村在住の“大陸の最強夫婦”。武器は母が太刀、父がガンランス。元ネタは“モンスターハンター”から“モンスターハンター2ndG”までのプレイヤーハンター。

 

 

リューネの両親

召喚予定なし。展開によっては召喚できる。リューネの実の両親であり、リューネがベルナ村で育った原因、と言えば原因。事情により、幼いリューネ(当時1ヶ月)をルーパスの両親に預け、ルーパスの姉妹のように育ててもらった。リューネが成長してカムラの里に来た際は泣いて喜んだそうな。ちなみに別に毒親とかでルーパスを引き取られたわけではなく、百竜夜行が起こる可能性かある、と里長から言われていたため、幼いリューネを守りたいために古くからの友人であるルーパスの両親に預けた、という経緯がある(つまり親子が離れ離れになった直接の原因は百竜夜行)。カムラの里在住の“大陸の最強夫妻”。武器は母がスラッシュアックス、父はヘヴィボウガン。一応元ネタは“モンスターハンター”から“モンスターハンター2ndG”までのプレイヤーハンター。

 

 

 

 

サーヴァント

 

 

アルトリア・ペンドラゴン

cv.川澄綾子

セイバーのサーヴァント。ほぼ原作準拠……だが、あとからギルガメッシュが召喚されたことで、少し怯えながら過ごしている…のだが、しばらくたっても何もしてきたりしないので少々困惑している。その後普通に話すようになった模様。第五次聖杯戦争の記憶在り。

 

 

エミヤ

cv.諏訪部順一

アーチャーのサーヴァント。ほぼ原作準拠…なのだが、ギルガメッシュが以前までの聖杯戦争より協力的過ぎて少しだけ困っている。どんなふうに協力的なのかというと、王の財宝の中身を見せてもらえたり、料理を味見、別の料理を教えてもらえたりしている。第五次聖杯戦争の記憶在り。

 

 

クー・フーリン

cv.神奈延年

ランサーのサーヴァント。原作準拠…であるが、ギルガメッシュが謎すぎて首を傾げている。第五次聖杯戦争の記憶在り。

 

 

メディア

cv.田中敦子

キャスターのサーヴァント。原作準拠…なのだが、やはりギルガメッシュが謎すぎて首を傾げている。

 

 

佐々木小次郎

cv.三木眞一郎

アサシンのサーヴァント。原作準拠。

 

 

ヘラクレス

cv.西前忠久

バーサーカーのサーヴァント。原作準拠…ではあるのだが、ギルガメッシュが謎すぎて首を傾げている。

 

 

メデューサ

cv.浅川悠

ライダーのサーヴァント。原作準拠。

 

 

ナーサリー・ライム

cv.野中藍

キャスターのサーヴァント。“ありす”は“わたし”の心に在る、を信条にしていたら、“ありす”と全く同じ姿を取れるようになった。なお、いつもの黒い姿も可能。立香のトラウマを呼び起こしてしまったことを少し申し訳なく思っている。

 

 

ジャンヌ・ダルク

cv.坂本真綾

ルーラーのサーヴァント。いつもの殴ルーラー。

 

 

ジャック・ザ・リッパー

cv.丹下桜

アサシンのサーヴァント。原作準拠。

 

 

エリザベート・バートリー

cv.大久保瑠美

ランサーのサーヴァント。原作通り自分用の時は歌が酷いのだが、それに苛立ったルーパスとリューネに徹底的に矯正、もとい叩きなおされ、攻撃用の怪音波、補助用の綺麗な歌とできっちり使い分けられるようになった。もうこれキャスターも入ってんじゃね?とか言ってはいけない。なお、このルーパスとリューネによる徹底的な矯正、もとい叩きなおしは今後出てくる宿敵(とも)にも行われる模様。

 

 

イスカンダル

cv.大塚明夫

ライダーのサーヴァント。原作準拠。

 

 

ギルガメッシュ

cv.関智一

アーチャーのサーヴァント。原作より比較的おとなしく、アルトリアに執着もしているわけでもない。基本的には慢心しない性格と化しており、一つの肉体に複数の魂を持つ無銘、人間ではないと見抜いたミラを警戒している。なお、立香のことはそれなりに気に入っている模様。カルデアが酷すぎて全個室と共通空間をまぁまぁ雑ではあるものの改装していた。…余談だが、ミラの魔法で出現する波紋に対しては、“あれは我の宝具ではなくあやつの術の発射体よ。似ているが我の宝具ではない。”とのコメントである。王の財宝の中身を味方であると確信したならば気軽に見せたり、様々な技術の教導をするなど、一体どんな毒を飲んだのかと心配される(特にStayNight勢から)ような行動が多いが、“この世界と似たような世界の在り方を見続けただけ”と語っている(あんたどんだけ二次創作とか読み漁ったんだよ、とはその辺に通じる六花の言葉)。




「…待て、セイバーの声はあの獣と同じなのか!?」

らしいね。私も調べてびっくりしたよ?

「声の魔術師は恐ろしいな……」

声優さんね。どういう翻訳してんの。

あ、イメージcvじゃないのは実際のそのキャラクターの声優さんですよ。受付嬢さん、声優さんいましたから。

「…ところで、二次創作とな。」

千里眼使えばできるでしょ、って感じで。

「ふむ…ところでアンケートで決まったランサー枠をあの赤ランサーにした理由はあるのか?」

ん~?あぁ、エリザベートさんのこと?単純に、私がチュートリアルで最初に出した☆4サーヴァントってだけよ?

「ほう…」

まぁまだ最終再臨出来てないけどね。羽根がない…

「ふっ……ところでFate/Grand Orderのゲーム歴は何年だ?」

1年…いや、2年は経ってるかな。

「ほう?☆4以上は今何体いるのだ?」

40。イベント限定配布含めなければ38かな。

「ほほぉ…最終再臨済みは」

16。そのうち2体がイベント限定配布、2体が☆3。

「…それなりにいるではないか。」

育成偏ってるんだよねぇ…それにそこまで火力高い子いないから。


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第一特異点 邪竜百年戦争オルレアン 定礎復元
第25話 不思議な夢


「……」

あ…ギル寝てる。記録者も流石に疲れるんだろうね…

「……」

…おやすみ。夢回だから、寝てても文句はないでしょ。

…あ、UA8,000突破ありがとうございます



 

『───誰だ…』

 

声が聞こえる。女性の声。

 

『───誰だ……』

 

直接頭の中に響く……そんな声。

 

「…あれ?ここは…?」

 

目を開けると、そこは真っ黒な空間。見渡しても、私以外の何も見つけることはできなかった。

 

「…確か、私はマイルームで眠ったはずなんだけど…」

 

これは一体どういうこと?こんな空間、私は見たこともない。

 

『───誰だ…我が眠りを…わたしの眠りを妨げるものは…』

 

この声の主は眠っていたみたい。

 

「あなたは…誰?」

 

『───おまえは……』

 

「私は…立香。私が眠りを妨げたのなら謝るけど…」

 

『───ほう。珍しい。この場所に明確なる意志持つものが来ようとは……』

 

声はそこで一度止まった。

 

『───おまえは、妨げるものではないな。おまえとは違う。ならば……』

 

なんだろう。どこからかわからないけど、見られてる気がする。

 

『───全ての終わりが、わたしの前に来ている。』

 

「…え?」

 

『───地に在るものが道を乱しているからである。』

 

地に在るもの…?

 

『───わたしは彼らを地と共に焼き滅ぼすであろう。』

 

地と共に…?いや、その前に…もう、この世界は滅んでる…に近い。なのに、“彼らを地と共に焼き滅ぼす”って…?

 

『───だが、滅びの炎は新たな地を生み出す。』

 

「新たな…地。」

 

『───わたしはおまえと契約を結ぼう。』

 

「え?」

 

契…約?でも…どうして?前から思ってたけど、なんで、サーヴァントたちは私の呼びかけに答えてくれるんだろう…

 

『───おまえがわたしの心にかなうものだからだ。』

 

私が…?

 

『───さぁ、手を差し出し、受け取るがよい。』

 

声に言われた通り、手を差し出すと、そこに虹色の筆が落ちてきた。

 

『───正しきものを知り、そして記せ。』

 

…あれ。そういえば…これ、どこかで聞いたことがあるような……

 

『───それらのもので、次の世が満ちるように。』

 

…思い出せない。出かかってるのに、思い出せない。

 

『───地に道を乱すものあるかぎり、幾たびも滅びの炎は訪れる。』

 

滅びの炎。人理焼却で発生した炎がそれかと思ったんだけど。…違う、のかな。

 

『───いずれ来たる、正しき日に至るまでは。』

 

「正しき…日。」

 

私が呟いた時、何かがつながる感覚がした。サーヴァントと契約した時と同じ感覚。

 

『───では、失礼する。』

 

「待って!」

 

契約したのなら、聞いておかないと。

 

「あなたは……?」

 

『───わたしは…この世界を見守るもの…この世界を滅ぼすもの───』

 

見守り、滅ぼす…?

 

『───この世界を創るもの…わたしの永遠の眠りを求めるもの。』

 

永遠の眠り。それって、もしかして…

 

「あなたは…自分の死を求めているの…?」

 

『───わたしは居てはいけない。この世界を滅ぼしてしまうからだ。』

 

「…」

 

『───永遠の眠りを与える主を求め…わたしはこの世界を視ている。』

 

「…居てはいけない命なんて、ないと思うけれど。」

 

『───おまえ、名は何と言ったか。』

 

「藤丸立香……ううん、藤丸リッカ。」

 

なんとなく。私はこの人に藤丸立香という名前を使ってはいけないと思った。

 

『───そうか。わたしは…裁定するもの───』

 

裁定するもの…ルーラーってことかな。

 

『───夢より覚めよ、わたしの主…次は、あちらにて───』

 

待って、って言おうとしたけどそれよりも先に私の意識が一瞬落ちた。

 

…次に意識を取り戻した時、そこは真っ暗な夢の世界ではなく、現実のマイルームだった。

 

「……なんだったのかな…」

 

「フォーウ?」

 

フォウ君の声が聞こえて床の方を見ると、私のことを見上げてるフォウ君がいた。

 

「キュー、フォーウ。(ほら、時間でしょ。)」

 

私を見て、扉の方を見て。それを繰り返しているのを見て、何を伝えたいかは分かった。

 

「…今日から、第一特異点だっけ…」

 

私は制服に一度着替えて、ベッドを整えてからマイルームの扉に向かった。

 

「…行ってきます」

 

マイルームに在るのはもともとこの部屋に在ったものと、冬木から持ち帰ってきた赤い本、ギルとお兄ちゃんが作ってくれた別空間につながる扉。それに一つ一つ目を向けてから、私はマイルームを後にした。

 

…私が完全にマイルームを出る直前、()()()()()()()()()()()()のにも気がつかずに。

 




…多分、やったことある人は分かるんだろうな…

「…む。寝ておったか。」

しばらく寝てていいよ。攻略開始は次の次だから。

「む…」


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第26話 出撃

え~っと……オルレアンどうなるかな、これ…

「…マスター」

ん…?


「藤丸立香、入ります」

 

私はそう言ってから管制室に入った。

 

「おはよう、立香ちゃん。…別にそんな硬いあいさつしないでいいのに。」

 

「いえ…」

 

「…さて。ブリーディングを始めようか。所長と君の兄はギルガメッシュ王とジュリィさんに呼ばれて不在だけどね。」

 

お兄ちゃん、何かしたの…?

 

「とりあえず、君たちにやってもらいたいことをもう一度説明しようか。」

 

一つ。特異点の調査及び修正。その時代における人類の決定的なターニングポイントの調査・解明し、これの修正を行う。

 

二つ。“聖杯”の調査。特異点に存在すると思われる聖杯の取得、もしくは破壊。

 

三つ。霊脈を探し出し召喚サークルの設置。

 

以上が特異点で行うこと。三つ目に関しては既にメインサーヴァントが11騎いるためにほとんど必要ないかもしれない、とは言われた……って、え?11?

 

「ドクター?先輩が直接契約しているサーヴァントは私を含めて10騎のはずですが。1騎、多くありませんか?」

 

「あぁ。それね。実は昨日の時点では10騎だったんだけど、今日見たら1()1()()()()()()()んだ。カルデア所属のサブサーヴァント、立香ちゃん直属のメインサーヴァント合わせて23騎。立香ちゃんが来る前に召喚された英霊を含めれば24騎か…って、そういえば立香ちゃんは英霊召喚例第三号にまだ会ってないっけ?」

 

「えっと…会ったような会ってないような」

 

「私の出番かい?」

 

そう言って出てきたのは“More Deban”って書かれた看板を持った美人な人。思わず吹いたんだけど。いやなんでそんなの持ってんの。

 

「紹介するよ、立香ちゃん。彼……いや、彼女……いや、ソレ……いや、ダレ……?」

 

……

 

「ええい!!ともかく、そこにいるのは我がカルデアが誇る技術部のトップ、レオナルド氏だ。見た目からわかる通り、普通の性格じゃない。当然、普通の人間でもない。というか説明したくない。」

 

ドクター、前も思ったけどたまに酷いこと言ってる自覚ある?

 

「なぜなら───」

 

「…サーヴァント、ですね。」

 

そういうのはアルちゃん。

 

「なんとなくですが、分かります…クラスはキャスター、ですね。」

 

「へぇ。記憶喪失でもわかるのか。いやそもそも記憶喪失自体おかしいんだけどね。」

 

「みたいだね。では改めて。カルデア技術局特別名誉顧問、レオナルドとは仮の名前。私こそルネサンスの誉れの高い、万能の発明家、“レオナルド・ダ・ヴィンチ”その人さ!」

 

あ、前にマイルームであった人。やっぱりレオナルド・ダ・ヴィンチさんだったんだ。

 

「気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼ぶように。こんなきれいなお姉さん、そうそういないだろ?」

 

……どうかなぁ

 

「おかしいです。異常です、倒錯です!!だって、レオナルド・ダ・ヴィンチは男性───」

 

「重要なのかな、それ…ギルに聞いたけど実際性転換の薬とかあったらしいし…魔法使い…じゃなくて魔術師なんだっけ。高度な魔術師なら薬じゃなくても性別変換とかできるんじゃないかな…」

 

それに、と私は言葉をつづける。

 

「アーサー王だって男性と伝えられていたけど女性だったんだし。もしも創作だったとしても、本当の話だったとしても。実態といったものは過去のもの、その過去のことはその未来たる私達からは酷く曖昧なものだと思う。聖徳太子とかが女性の可能性とかもあるし。」

 

「それは…確かに」

 

「君の考えはいいかもね。私は美を追求するのさ。発明も芸術もそこは同じ、すべては理想を───美を体現するための私。そして私にとって理想の美とはモナ・リザだ。となれば───ほら。こうなるのは当然の帰結でしょう?」

 

ほら、って言われてもなぁ…

 

「フォウ…(意味わからん…)」

 

「いや、ボクも一応学者のはしくれだが、カレの持論はこれっぽっちも理解できなくてね……モナ・リザが好きだからって自分までモナ・リザにするとか、そんなねじ曲がった変態はカレぐらいさ。」

 

「自分の…現実の顔を、っていうのはわからないけど理想の顔を、理想の姿を自分に張り付けるっていうのはわかる…」

 

分かっちゃうんだよね…これでもMMD動画とそのモーション提供を主とした動画投稿者の端くれだからね。

 

「おっ!わかるのかい?そうだよねぇ…」

 

「立香ちゃん…なんでわかるんだい…そもそもレオナルド、キミいつの時代の英霊だい?」

 

「天才に時代は関係ないのだよ。覚えておくといい、立香。この先、何人もの芸術家系サーヴァントと出会うだろう。その誰もが例外なく、素晴らしい偏執者だと…!」

 

うん、実際ここまで見てきてこの人が変人だって分かったし。…ところで…

 

「1騎増えてる、ってどういうことなの、ドクター?」

 

「うん。とりあえず、今このカルデアにいるサーヴァントをクラスごとに確認しよう。」

 

 

セイバー

 

アルトリア・ペンドラゴン

 

 

アーチャー

 

エミヤ

ギルガメッシュ

 

 

ランサー

 

クー・フーリン

エリザベート・バートリー

 

 

ライダー

 

メドゥーサ

イスカンダル

 

 

キャスター

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ

ミラ・ルーティア・シュレイド

ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ

メディア

ナーサリー・ライム

 

 

アサシン

 

(ガルシア)

佐々木小次郎

ジャック・ザ・リッパー

 

 

バーサーカー

 

ヘラクレス

 

 

「ここまでが基本七基といわれるクラスのサーヴァントだ。で、次からがエクストラ。」

 

 

アヴェンジャー

 

【未所属】

 

 

ルーラー

 

ジャンヌ・ダルク

鍵のルーラー

 

 

ムーンキャンサー

 

【未所属】

 

 

アルターエゴ

 

無銘

 

 

フォーリナー

 

(ミラ・ルーティア・シュレイド)

 

 

シールダー

 

マシュ・キリエライト

 

 

ハンター

 

リューネ・メリス

ガルシア

(ミラ・ルーティア・シュレイド)

スピリス

ルル

ルーパス・フェルト

(ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ)

 

 

「…以上だ。気がついたかな。ルーラーに、“鍵のルーラー”なるサーヴァントが追加されているんだ。」

 

「鍵の…ルーラー。」

 

「恐らくは真名隠し。だったら、ルーラーであるジャンヌさんに看破してもらえばいいんだけど…そのサーヴァントがどこにいるのかがまるで分からない。敵なのか味方なのか、それすらも判明していないんだ。」

 

「もしかしたらアサシンに近いのかもしれないけどね。高度な気配遮断スキルを使えばこのカルデア内でも存在を消すことは容易だろうし。まぁ、この問題に関しては後に回そうか。」

 

「じゃあ私は失礼するよ。」

 

そう言ってダ・ヴィンチちゃんはどこかに行ってしまった。

 

「…とりあえず。さっそくレイシフトの用意をするが、いいかな?…所長達はまだ戻ってきてないが。」

 

「あ…はい!」

 

「心配しないでくれ、今回は立香ちゃん用のコフィンも用意してある。レイシフトは安全、かつ迅速に行われるはずだよ。観測された特異点は七つ、その中でも最も揺らぎの小さな時代を選んだ。」

 

「…ところで、その時代とは?」

 

「それは…っと」

 

言葉を発そうとしたときに、管制室の扉が開いた。

 

「すみません、遅くなりました。」

 

「ロマニ、もしかしてもう終わってるかしら?」

 

入ってきたのはギル、ジュリィさん、マリー、お兄ちゃん。お兄ちゃんは私の方を一瞬見てから管制室の席に着いた。

 

「うし、始められるぞ、ロマン。」

 

「分かった。」

 

「マスター、これを…」

 

ジュリィさんが指輪を差し出してきた。

 

「これは…?」

 

「詳しいことは後で話します。…今は」

 

「時間がないもんね…あと、立香でいいよ」

 

「…わかりました」

 

その会話を最後に私達はコフィンに入る。

 

「コフィン起動、観測開始……気ィ張れよ、立香!!」

 

「…うん!」

 

〈アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します〉

 

冬木に行く前にも聞こえた声。でも、今回は強い決意と共に。

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

恐怖はあっていい。その恐怖に立ち向かう、勇気を持て。

 

全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証 を 開始 します。

 

それは冬木に行った時のように。私達を、光の輪が襲った。

 




「…何か、手伝えることとかある?」

……珍しいね、鍵のルーラー。貴女が手伝うなんて。

「…見守りたいから。」

…そう。あの子は、貴女に関わりの深い人だもんね。

「…」

…分かった。なら…()()を、組んでおいてくれる?

「うん。」

お願いね。可能性の果ての英霊───










───■■■■



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第27話 到着

う~ん…最近うまく構成組めない…

「…マスター。」

ん?

「無理は…しないように」

してないしてない


 

目を開けると、そこは巨大な台地だった。

 

「…無事に転移できましたね、先輩。前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンによる正常な転移です。身体状況も問題ありません。」

 

前の方にいたマシュがそう告げた。と、いうことは…

 

「ここが…?」

 

「…はい、確認しました。どうやら1431年のフランスのようです。」

 

今でも信じられない。私達が時間を越えているだなんて。そんなことを思ってると、昨日お兄ちゃんから貰った指輪を嵌めたあたりから音がした。

 

〈立香さん、聞こえますか?〉

 

「…誰?」

 

私には聞き覚えの無い声。

 

〈ええっと…あ、そういえば自己紹介もしてませんよね。…とりあえず、それはあとで…今は“ナビゲータ”とでも呼んでいただければ。それはそれとして、皆さん、ご無事ですか?カルデアとの接続はもう少しかかるのでお待ちください。〉

 

そう言って声はぷつりと切れた。…何だったんだろう。

 

「フォーウ!」

 

「フォウさん!?またついてきてしまったのですか!?」

 

「…フォウ君もレイシフトできるのかな…?」

 

「さぁ、どうなんだろう…」

 

そう呟いたのはルーパスちゃん。背後にいたから全く気付いていなかった…あ、ちゃんとみんないるみたい。

 

「…レイシフトできるのは間違いないようです。私か、皆さんのコフィンに忍び込んだのでしょう。」

 

確かにコフィンには結構空きスペースがあったのを覚えてるから出来なくはないんだろうけど…う~ん

 

「幸い、フォウさんに異常はありません。私達の誰かに固定されているのですから、私達が帰還すれば自動的に帰還できます。」

 

「…そっか。うん?」

 

ふと空を見上げると、明らかにおかしいと思うようなものが在った。

 

〈…よし、回線接続完了!画質は少し粗いけど映像も通るようになった!!…って、どうしたんだい立香ちゃん?空を見上げたりして。〉

 

「…ドクター。みんな。それとお兄ちゃん。あれは…?」

 

〈俺はついでか…?ん?なんだ、ありゃ?〉

 

私達が見たのは光の帯。…なんか、嫌な予感がする。

 

〈光の環……いえ、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式…?〉

 

〈なんにせよ、とんでもない大きさだな。下手すると北米大陸と同サイズか?〉

 

〈ともあれ、1431年にそんな現象が起きたという記録はないわ。間違いなく未来消失の理由の一端でしょう。あれはこちらで解析するしかなさそうね…〉

 

〈そうですね…とりあえず、キミたちは現地の調査に専念してくれていい。まずは霊脈を探してくれ。〉

 

「あ、うん…」

 

「まずは街を目指して移動しましょうか、先輩。」

 

「あ、じゃあ私上空から見て近くの簡単な地図作ってきますね。“飛竜よ、我と共に空を(ファストトラベルです!)”」

 

ジュリィさんがそう言うと、ジュリィさんの近くに飛竜───“ノイオス”って言うらしいけど───が現れ、それにワイヤーをかけて空に飛んで行った。

 

「……あれ、便利だよね。」

 

「実際、ノイオスを呼ぶのに魔力喰らうらしいから…じゃ、しばらく歩こうか…」

 

その言葉に私達は頷いて、街を探して移動を開始した。

 

〈んじゃ、移動中にざっと説明するか。…ジュリィさんはいないけどよ。〉

 

「それはいいけど…一体何を?」

 

〈その指輪。まずは俺が昨日渡した方の指輪から説明するか。〉

 

お兄ちゃんが渡した指輪…っていうと

 

「これ?」

 

〈あぁ…そいつは俺が作った魔術礼装の一つ。双方向通信自立支援魔術礼装…要するに通信機だな。カルデアの管制室とつながるこの通信機とは別のもので、同じ形式の指輪にのみ通信が繋がるような仕組みになっている。〉

 

「へぇ…あ、そういえばさっきこの指輪から声がしたんだけど…」

 

そう言うとお兄ちゃんが小さくため息をつくのが聞こえた。

 

〈…早えよ。まあいいか。フォータ、出て大丈夫だ。〉

 

〈はいです!〉

 

お兄ちゃんの言葉の後、指輪からさっきの女の子の声がした。

 

〈そいつ、“フォータ”。名前のセンスないのは分かってるから言わないでくれ。〉

 

〈初めまして、フォータ…正式名称“フォーマッタ”です!管理ID“0-R”、クラスター総合統括AIの片割れ。お姉ちゃん…アドミニストレータから話は聞いています。様々な補助はお任せください!〉

 

そういうナビゲータ…じゃなくてフォータちゃん。…っていうか、管理者(アドミニストレータ)消去者(フォーマッタ)って…

 

「…お兄ちゃん。もしかしてこの子とこの子のお姉ちゃんの名前って…アレから?」

 

〈…まぁ、わかるよな。〉

 

〈?どうかしましたか、マスター?〉

 

〈いや、何でもない…〉

 

〈??…あ、えっと…立香さん〉

 

フォータちゃんが何か言いたげな声を発した。

 

「どうしたの…?」

 

〈…あの、少し言いにくいのですが…近くに誰かいます。ちょうど現在地から西に50m、でしょうか。サーヴァントの反応ではないので現地住民かと。〉

 

「…分かるの?」

 

〈はい。私はバグの消去、コンピュータウイルス対策をメインとしたAIですが、姉と同じく端末を介して周辺の情報探知はできるのです。…とはいえ、あまり広範囲の探知はできませんが…こう言っては不快に思われるかもしれませんが、人間というのは不安定なものです。話し方や相手取る方法を間違えれば即座に敵に回りかねません。接触するのでしたらお気をつけて。〉

 

うわぁ…辛辣というかなんというか。ミラちゃんが少し微妙な表情してるよ…

 

「…先輩、こちらでも目視できました。どうしますか?」

 

「…ん…ひとまず情報は大事だから……接触してみよう。」

 

「分かりました。…エクスキューズミー。こんにちは。私達は旅のものなのですが…」

 

…待って、ここフランスだよね?それ…英語じゃない?

 

「……」

 

ほら、現地の人も固まってる!

 

「?」

 

「フォウ?」

 

「Salut ...! Attaque ennemie! Attaque ennemie!(ヒッ…!敵襲!敵襲ー!!)」

 

ほらぁ!!囲まれてるよ!!

 

「すみません、失敗しました!!」

 

「何してるの!?ここフランスで、イングランドとの戦争中なんでしょ!?英語は…!!」

 

確か、イングランドの言語だよねっ!?って言いかけた時に私の近くに剣が降り下ろされた。

 

「あわわわ!!」

 

〈ヤッホー、手が空いたから様子を見に…って、なんで周りを武装集団に取り囲まれているんだい!?〉

 

「マシュがやらかした!!」

 

「先輩!?」

 

〈あ~…とりあえず、立香、お前が相手の対応しろ!フランス語使えんだろ!!〉

 

「使えるけど…!!」

 

剣が怖いんだけど…!

 

〈全自動言語変換魔術礼装、作っておいてやるから!!今はとりあえず何とかしろ!!〉

 

〈その世界は隔離された世界だし、何が起きようとタイムパラドックスは発生しないから、彼らとここで戦闘になっても問題はないだろうけど…!!〉

 

「ドクター、何か案を!!」

 

〈知るもんか、ボッチだからね!小粋なジョークでも思いつけばいいんだろう!?その帽子ドイツんだ、みたいな!!〉

 

〈ロマニ、黙って〉

〈黙れロマン〉

〈黙ってくださいドクター。〉

 

〈…はい。すみません。〉

 

言ってる場合ドクターぁぁぁぁ!!!!ああ、もう!!

 

「Je suis désolé, nous sommes des voyageurs.(すみません、私達は旅の者です。)Voudriez-vous s'il vous plaît retirer votre arme et nous écouter?(どうか武器を引いて私達の話を聞いてくれませんか?)」

 

「!?Qui es-tu!!(!?何者だ!!)」

 

「Ceci est juste un voyageur.(こちらはただの旅の者です。)Pour la légitime défense, nous portons des armes et des armures et avons les connaissances, mais ce n'est pas quelque chose que vous devriez vous donner.(護身のため、武器や防具を身に着けその心得を得てはいますが、それは本来貴方達に振るうものではないもの。)Si vous en avez besoin, posez votre arme au sol ici, mais qu'en pensez-vous?(必要とあらばこの場で武器を地に置きますがいかがいたしましょう?)」

 

「……」

 

相手が沈黙した。

 

「... Je suis réticent à tuer un adversaire qui ne résiste pas sans raison ... Est-ce que ça va?(…無抵抗の相手を無意味に殺すのは気が引ける…別にいいか。)Je ne veux pas gaspiller les gens ... Voudriez-vous revenir en arrière ...(人を無駄にしたくもないし…戻るか…)」

 

そう言って相手は武器を降ろしてどこかに行こうとした。

 

「Merci!(ありがとう!)」

 

ルーパスちゃんがそう言った。兵士の人はちらりとこっちを見たけど疲れたような顔でどこかに行った。

 

「…はぁ…何とかなった…」

 

〈お疲れさん……フォータ、どうだ?〉

 

〈はい。先程帰っていった兵士さんを補足、向かう先に砦のようなものが在るようです。どうしますか?〉

 

砦、かぁ…それはそれとして。

 

「ルーパスちゃん、フランス語話せたんだ?」

 

「クラススキル“言語適応”だよ。ちょっと時間足りてないけど、もう少しすれば完全に話せるんじゃないかな。」

 

「そっか…」

 

〈あの兵士さん達を追いますか?〉

 

「うん…お兄ちゃん、砦に着くまでにさっき言ってた魔術礼装…だっけ?あれ完成させてもらっていい?」

 

〈急に難題吹っ掛けてくんな!!…わぁったよ、ターミナルが出来たら送れるように準備しとく。〉

 

「お願い。」

 

「じゃあ、時間もかかるしこの子に乗っていこっか。」

 

ミラちゃんの言葉にそっちを振り向くと、前にいた…雷狼竜、だっけ…それがいた。

 

「えっと…ランさん、だっけ?」

 

「ん…お願いしていい、ラン?」

 

ランさんは何も言わずに体を屈めた。

 

「いいみたい。」

 

「…いいの?」

 

「ランは結構面倒くさがりだから。でもそれなりに真面目なんだけどね。」

 

へぇ…って言いつつ私達はランさんの上に乗った。走られて振り落とされかけたのはちょっと怖かった。

 

ちなみに、レイシフト前に渡された方の指輪は着ている魔術礼装(今ならカルデアの制服)を別の魔術礼装に変換する着用中魔術礼装変換魔術礼装……やばい、何を言ってるか自分で分からなくなってきたんだけど…ともかくそういうものみたい。

 




「…マスター。」

ん~?

「この作品ってどんな道を辿るの…?」

一応ロンドンでちょっとしたことが起こる予定だけど。

「…そう」


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第28話 狩人(ハンター)の力

「ふははははは!!我、起床!!」

「…ギル。うるさいから黙って。」

「…すまぬ。」

これ、分かりにくくなるね…どうしようか

「なら我は弓でいいのではないか?」

…あとで考える。


 

「…ふむ。ハンター…聞いたことのないクラス名であった、が。英霊として座に刻まれているからにはその力は本物でなのであろう。此度の特異点、貴様らの力を見定めてやろうではないか。そして無銘、貴様のことも見定めてやろうぞ…フハハハハ……これくらいならば聞こえぬか。」

 

「ギル?」

 

「どうした、マスターよ。」

 

「いや…何か言った?」

 

「気にするな。マスターが気にすることではない。」

 

「…そう。」

 

私達は砦の前まで来ていた。

 

〈とりあえず、フォータに変換魔術かけてもらうからそれで暫くどうにかしてくれ。〉

 

「はぁい」

 

〈それでは行きますね~…〉

 

そこから始まる高速詠唱。私達を何かが包み込んだような感覚がした。

 

〈これで大丈夫ですね。〉

 

「あ、ありがとうございます…んんっ、ボンジュール、わたしたちは旅の者です。」

 

マシュが話しかけに行った。…大丈夫かな

 

「…敵では…ないのか…?」

 

…思いっきり日本語喋ってるように聞こえるんだけど。これが変換魔術の…?

 

「…つかぬことをお聞きしますが、シャルル七世は休戦条約を結ばなかったのですか?」

 

「シャルル王?知らんのか、アンタ。王なら死んだよ。魔女の炎に焼かれた。」

 

魔女…?

 

「死んだ…?魔女の炎に、ですか…?」

 

マシュも同じことを思ったみたい。…ところで、今ここには思いっきり魔女っぽい子いるけど…それは気にしないのかな。

 

「あぁ…ジャンヌ・ダルクだ。あの方は“竜の魔女”として蘇ったんだ。」

 

それを聞いてルーパスちゃん、リューネちゃんがミラちゃんの方を見た。…そっか。ミラちゃんって、古龍や飛竜、獣竜とかを召喚するから傍から見たら“竜の魔女”そのものだもんね。あ、ミラちゃんは首を横に振ってたよ。

 

「イングランドはとうの昔に撤退したさ。だが、俺達はどこに逃げればいい?ここが故郷なのに、畜生、どうすることもできないんだ。」

 

「ジャンヌ・ダルクが、魔女…?」

 

≪…なぁ、ジャンヌさん?≫

 

≪はい?≫

 

≪復讐とか、考えたことあるか?≫

 

≪?いいえ?≫

 

なんかカルデアの方で話してるし…うん?

 

「…マシュ、敵。」

 

「え…?」

 

「ッ…!来た!奴らが来た!!」

 

〈これは…骸骨兵か。手加減なしで叩き潰していいやつらだな。〉

 

〈ていうか立香ちゃん、今僕らの観測速度すら超えなかったかい!?〉

 

〈立香の直感はギリギリな時もあれば未来予測レベルの時もあるからな…不安定なんだよな。〉

 

そう言っているうちに、骸骨たちが私達に迫ってきた。

 

「殲滅すればいいの?」

 

「え、うん…」

 

「了解。」

 

そう言ってルーパスちゃんが骸骨兵の中に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、旦那さんちょっと待ってにゃ!」

 

そう言ってスピリスちゃんも骸骨兵の中に飛び込んでいく。

 

「…まぁ、あれくらいだったらルーパス達なら大丈夫だろう。」

 

「ですにゃ。伊達に青い星じゃないはずですにゃ。」

 

青い星?って、そんな話をしているうちに、骸骨兵達は全部倒されてた。

 

「え、えぇ?」

 

「早いな…というか今爆発しなかったか?」

 

「しましたよね…爆弾とか持っていたのでしょうか…」

 

「可燃石…スリンガー爆発弾はあったけど大タル爆弾は切らしてたんだよね…」

 

そう言って土煙の中からルーパスちゃんが戻ってきた。…早くない?

 

「何をした?」

 

「チャージステップ2回とスリンガー爆発弾装填してるときに“竜の千々矢”。いきなり飛び込んできたからスピリス巻き込んじゃった…大丈夫だと思うけどね。」

 

「当然ですにゃ。」

 

爆発に巻き込まれたらしいスピリスちゃんも戻ってきた。頑丈というかなんというか。

 

「…アンタら、あいつら相手によくやるなぁ。」

 

「そう?本職竜狩りなんだけどね…」

 

「それにしても、ルーパスの動きは早かったな。相手にしたことでもあるのかい?」

 

「人間みたいな相手はレーシェンがいたから…」

 

なんかちょっと遠い目してる…大丈夫かな?

 

「…申しわけありませんが、一から事情を聞かせてください。ジャンヌ・ダルクが蘇ったというのは、本当ですか?」

 

「あぁ…俺はオルレアン包囲戦と式典に参加したからよく覚えている。髪や肌の色は異なるが、あれは紛れもなくかつての聖女様だ。」

 

≪立香?お前の脳内にジャンヌのマテリアル送るからそれと照合しろ。≫

 

頭の中に響く声。小さく頷いた後、ジャンヌさんの頭の中に情報が送られてきた。

 

…確かに、復讐心を持ってても怨みを持っててもおかしくない、とは思う。それを持って蘇ったのなら、この状態も理解できる。…でも、なんか違和感がある。

 

「あれじゃない。あれだけなら、俺達だけでも対処できる。」

 

兵士さんがそう言った直後。

 

「グルァァァァァ!!」

 

咆哮。その方向を見ると、何かがやってきたのが見えた。

 

「飛竜…!?その数、30!!」

 

「くそ、やっぱりだ!!来たぞ、迎え討て!!ほらほら立て立て───ドラゴンが来たぞ!!」

 

「…あれは…赤い飛竜と緑の飛竜───雌火竜“リオレイア”と火竜“リオレウス”か!?」

 

「ううん!あれは色は一緒だけど()()()()()()()()()()()()()()()よ!!()()()()()()()()()()!!」

 

リオレウス。リオレイア。火竜と雌火竜。でも、ミラちゃんはそうじゃないって言った。

 

「目視しました!あれは───ワイバーンという竜の亜種体です!!間違っても、絶対に、十五世紀のフランスに存在していい生物ではありませんっ!!!」

 

「…リューネ、スピリス、ルル!!」

 

「任せるにゃっ!!」

 

「やってやるさ!!ハンターの本領発揮だ!!」

 

「旦にゃさん、足元に注意するにゃよ!!」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんが跳躍し、ルルちゃんとスピリスちゃんが巨大なブーメランを構える。

 

え、何するつもり!?

 

〈ルーパス、リューネ!!すまないが出来るだけ形を残して仕留められるか!?〉

 

「別にいいけど何するつもり!?」

 

〈喰う!!〉

 

「「「はぁ!?」」」

 

あ、思わず私も声上げちゃった。っていうか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだけどっ!?どんだけ規格外なのハンターって!?

 

〈俺じゃねぇぞ!!つうかお前たち今どこだよ!!〉

 

「上空!!」

 

「形を残して……ルーパス、これを…!」

 

そう言ってリューネちゃんが渡したのは紛れもなくハンマー。笛みたいな感じじゃない。

 

「“ハンマー”…!マシュ、盾を強く構えて!!」

 

「へ…は、はい!」

 

その言葉にマシュが盾を構えた。

 

「まずは…堕ちなさい!!」

 

それを見てルーパスちゃんが、ハンマーをワイバーンに振るった。

 

……()()()()()()()()()()()ように。

 

「え、ちょっ!?」

 

「受け止めなさい…盾なら!!」

 

ルーパスちゃん無茶苦茶!?

 

「…行きます!はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

マシュはそれを盾を突き出すことで対処した。

 

「どんどん行くよ!!」

 

「はいっ!!」

 

〈…ルーパスって結構無茶苦茶だな。〉

 

「だね、お兄ちゃん。っていうかルーパスちゃんって弓以外も使えたんだ?」

 

「旦那さんはどんな武器でも使えますにゃよ。弓が一番得意なだけですにゃ。」

 

そうなんだ…

 

「…そういえばあれって腕の骨折れかねなくない?」

 

〈普通なら折れるだろうな…終わったら治癒術式かけるしかないか。〉

 

〈早めにターミナルポイントは作った方がいいわね。…とはいえ、もうそろそろ夜になるわ。今日の所はここで休んだ方がいいかしら。〉

 

そのマリーの言葉に頷いた後、ルーパスちゃんたちの方を見ると、()()()()()()()赤いワイバーンを…テニスみたいにハンマーと狩猟笛で打ち返してた。ハンマーはともかく、狩猟笛ってそういう利用方法でいいの?…っていうか何で燃えてるの。

 

「…む、ルーパス!炎が消えかけだ!!」

 

「はいはい…ルーン石よ、その炎此処に現せ!!」

 

「ギャァァァァ!?」

 

「うっわぁ…」

 

炎が消えかけなところに魔術で再着火。結構えげつないことしてない?っていうか…

 

「スピリスちゃん。ルーパスちゃんって魔術使えたの?」

 

気になったのはそこ。ルーパスちゃんが凄いのは知ってたけど魔術まで使えるのかというところ。

 

「にゃ?違いますにゃ。あれはゲラルトさんから貰った“ハンターのルーン石”というアイテムを使って操っている火ですにゃ。魔法…こちらでは魔術でしたにゃね。それとは全く違うものですにゃよ。」

 

そうなんだ…

 

「いくよ~!」

 

「はい!」

 

「……吹き飛べっ!!!」

 

力の限り、っていう感じでマシュに対してワイバーンが叩き落された。

 

「…あれは流石にきついでしょうか…!!宝具、展開します!!“疑似展開 仮想宝具/人理の礎(ロード・カルデアス)”!!」

 

「掴まれ、ルーパス!!」

 

ルーパスちゃんはリューネちゃんに掴まって降りてきて、マシュは宝具を展開して今までより強く叩き落されたワイバーンを受け止めきった。

 

「…お疲れ、マシュ。」

 

「…はい!いい練習になりました!!」

 

「……あんたら、ほんとよくやるなぁ…」

 

兵士の人が呆然と呟いた。

 

〈えっと…兵士の方?すみませんが、野営などの準備はありますか?〉

 

「んあ…もしかして火が欲しいとか?」

 

〈彼らになるべく形を保って仕留めてもらいました。焼いて食べれば体力や気力は回復するでしょう。〉

 

「…いいのか?」

 

〈いいと思いますが…立香、お前はどう思う?〉

 

「いいとおもう…でもルーパスちゃんたちは?」

 

「私もいいけど…」

 

「僕も構わない。」

 

「旦那さんと同じくですにゃ。」

 

「おにゃじく。」

 

「…ん、いいよ。出かけ先で飛竜のお肉とかを焼いて食べるとかは慣れてるし。」

 

まって、ミラちゃんって末裔だって言っても王位継承者で王様の娘さん…つまり国のお姫様なんだよね?サバイバル精神あるのなんで?

 

「解体は私やっておくから火の準備お願いできる?」

 

「あ、あぁ…」

 

「ルーパス、僕も手伝おう。」

 

「ありがと、量が多いから助かるよ。」

 

ちなみに後で聞いたら食べた後で残ったのはルーパスちゃんが保管してくれるらしい。それに対してギルが興味深く聞いてたけど、ギルの宝具である“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”と同じような宝具、“開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)”っていう宝具があるんだって。その中では鮮度とかがちゃんと保存されるらしい。

 

……ところで、二人の共同作業が凄く息が合ってて本当に夫婦みたいに見えたのは私だけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を付けていけよ、強い旅の方達!!」

 

その後、私達は元気になった砦の人たちから見送られた。

 

「…よかったの?ルーパスさん。あの回復薬と回復薬グレート。」

 

「ん…まぁ100個程度ならすぐに作れるし。薬草もハチミツも、大量に余ってたしさ。」

 

そう、ルーパスちゃんは回復薬、そして回復薬グレート、解毒薬…その他諸々使えそうなものをアイテムボックスから出して砦に置いていってた。

 

〈まじかよ……そのアイテムボックスの中、見てみたいわ…〉

 

〈飲むだけで傷が癒えるとか神秘の塊じゃないの…〉

 

「見てもあまり面白くない気もするけどね。攻撃的な利用方法あるかなぁ…」

 

「我が教えてやるか?」

 

「う~ん…攻撃方法被らせるのはちょっと…」

 

「二番煎じは嫌というものか。フッ、向上心があるのはいいことだな。」

 

「別に二番煎じが嫌ってわけじゃないけど…あ、もう大丈夫だね。」

 

ルーパスちゃんがそう言ったのを合図に、ミラちゃんがランさんを召喚した。私達はそれに乗って霊脈の場所を目指すつもりだった。

 

「ま、待ってください!!」

 

私達が乗って、駆けだそうとしたときに静止の声。

 

「…え?」

 

「…嘘」

 

「…ほう?」

 

そこにいたのは───

 

 

「お願いします。私に、力を貸してください。」

 

 

───旗の聖女。ジャンヌ・ダルクその人。

 

 

『…お兄ちゃん。カルデアに、ジャンヌさんはいるよね?』

 

≪あぁ…ということは、そっちのジャンヌは特異点に呼ばれたカウンター、ってところだろうな…≫

 

カルデアのジャンヌさんでないことは理解できた。

 




さてと、続き続き…ボイス作ってたら結構時間かかるんだよね…

「しばらくはまだ出せないんでしょ?」

まぁね…

「ふむ。楽しみだな?」

ていうかさ。一週間でUA1,000くらい増えるの少し怖い。確かに私1日1回くらい確認してるけど基本的に感想確認してるだけなんだよね。全く変動しないけどさ…

あ、英文とか出てきたらそれはgoogle先生に頼ってます。全く私外国語出来ないので。…投稿速度上げたいなぁ…


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第29話 無銘の役割と不穏

裁「マスター?」

……

裁「…?マスター…っ!?死んでるっ…!蘇生っ!」

…はっ!?

裁「よかった…起きた…」

ごめん、とある歌い手さんの歌聞いてて可愛すぎて精神が死んでた。

裁「そう…」


 

「…ふむ。ここらでいいか。」

 

〈ギル、一体どうする気なんだい?霊脈地に着いた途端、別行動なんて。〉

 

あ、こんにちは皆さん。一週間ぶり?かな?観測者ですよ。ギルが単独行動し始めたから私が呼ばれたんだけど。

 

え、道中?ジンオウガが道中の敵や障害は蹴散らしてたよ?討ちもらしはルーパスが弓で撃ち抜いてたし。

 

「…む、これでいいか。」

 

〈ちょ…それ、聖杯じゃないか!?それとその杭みたいなのは…?〉

 

確かにギルが取り出したのは聖杯。あと杭…これなんだろ?

 

「気にするでない、これはまだ起動せんわ。」

 

そういってギルは聖杯に杭を突き刺し、地面に叩き込んだ。

 

〈…本当に何をしているんだい?〉

 

「これは“楔”よ。特異点というものは修正後、一般的には崩壊するのであろう?であればその崩壊した世界を丸ごとこの聖杯に注ぎ込み、独立した世界とする。不要となれば聖杯の中の世界を消し去り、新しき世界を作り出す魔力リソースとしても利用できよう。」

 

〈魔力リソース…〉

 

「霊脈そのものがこの聖杯には刻まれるのでな。成功すれば特大の魔術炉心として活用できるであろうし、レイシフトを利用すれば聖杯の中の世界に入ることもできるだろう。どうだ、六花よ?その方法はあるか?」

 

〈…聖杯の中をシバで映せて、トリスメギストスで観測できればレイシフト可能だろうな。だがシバはそもそもカルデアス…地球の疑似天体を観測するためのレンズだ。トリスメギストスの方は何とかなるだろうが、シバはどうだろうな…レフの野郎が作ったもんだし、俺でも弄れるかどうかわからん。一応解析は進めてるけどな。〉

 

六花って結構いろいろできるよね…

 

〈…お、霊脈が繋がったみたいだな。じゃあちょっくら例の礼装渡す準備するわ。〉

 

「ほう、もう出来ていたのか。仕事が早いことよ、シドゥリを思い出す。」

 

〈礼装の構造としては、マスターの魔術パスを介して契約・仮契約のサーヴァントにもその効果が得られるっていう風になってる。…ってか、“シドゥリ”って確かギルを諫めた女性だよな?なんでさ?〉

 

「気にするでない、ただの誉め言葉よ。」

 

〈…英雄王ギルガメッシュ様が素で褒めるとは…そういえば、立香さんのサーヴァントで不満はないのですか?〉

 

ルナセリアがそう聞いた。

 

「ない、奴は面白い。まさか我が宝物庫に存在しないもの…否、()()()()()()()()()を持っているとはな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。これほど興味をそそるものは存在しなかろう。」

 

〈…どういう、ことだい?〉

 

あ、私も気になる。ギルガメッシュが生きた時代。それってつまり紀元前2700年近くなんだけど…それに、“存在させられぬもの”って?

 

「マスターめも今は気がついていなかろう。我も知らぬ。だが…恐らく、この特異点にてそれは目覚めるであろうよ。」

 

〈…ふ~ん?ギルは正体がわかっているのかい?〉

 

「分からん。我の千里眼をもってしてもそれを見通すことは叶わぬ。何故かは知らぬがな。」

 

〈…ギル。考えられる要因としては何があるでしょうか?〉

 

「…ふむ。3つほど候補はあるが…聞いても完全に否定することは出来ぬぞ?…1つは多重の認識阻害、存在概念の封印。千里眼では認識の阻害を突破できない可能性だ。2つ、この時代より遥かに過去。この特異点は確か1431年であったな?我がウルクを治めていた4,000年程度まだ軽い、数万単位での過去の可能性だ。」

 

〈ギル、流石にそれはないと思うけど…〉

 

「話は最後まで聞かぬか、戯け。…最後だ。この大地…否、この空すらもまだ存在しなかった時空の遺物。即ち“()()()()()()()()()()()()()”の遺物よ。そら。そんなもの、千里眼程度で見通せると思うか?そんなものが我が宝物庫にその遺物があると思うか??」

 

そんなの、本当に存在するのかな。この空…つまりこの宇宙。それがないってことは、1()3()8()()()()()()()()()()()()()んだけど…

 

〈…確かに、筋が通ってはいるかもしれないね。〉

 

〈けれど、そんなの今の設備じゃ絶対にレイシフトできないわよ?そんな特異点ができたらどうしたらいいのかしら…〉

 

「大方、その時は特異点側から迎えが来るであろうよ。…ところで」

 

?ギルが森の木の方を見つめた。

 

「…そこで、何をしている?無銘なるアルターエゴよ。」

 

「…」

 

木の影から本当に無銘が出てきた。

 

〈今…()()()()()()()()()!?なんでだ!?〉

 

「さてな。…もう一度問おう。貴様、ここで何をしている?」

 

「…分からない。ただ…何か、しないといけない気がして。…何故か、ここに来ないといけない気がして。」

 

「…ほう。医師、わかるか?」

 

〈分かんないよ?けど、魂の奥深くに役目が刻まれてたのかもしれないね。理由は分からないけど自分はこれをしなくてはいけない。そんな感覚が無銘ちゃんを動かしているんじゃないかな。〉

 

「……」

 

「…よい。貴様の記憶、貴様の力。それが戻るまで貴様を裁くのは止めにしておこうではないか。用事が終わったのならば戻るぞ。」

 

「…はい」

 

「ふはははは───む?」

 

ギルが不審げに無銘の方を見た。

 

「…今。何をした?」

 

「え…?」

 

「見たぞ。確かに一瞬、()()()()()()()()()()()()()のを。」

 

〈…えぇ、ギルの言う通りよ。こちらでも一瞬だけ確認できたわ。〉

 

「……」

 

無銘は酷く困惑しているような表情をしていた。

 

「…無意識か。まぁよい、医師よ。」

 

〈なんだい?〉

 

「職員の者共、待機しているサーヴァント共を休ませておけ。存在証明もこちらでしてやろう。恐らく長い旅になる、夜の内だけでも貴様も含め体力を回復しておくといい。くれぐれも過労を残すなよ。動かなければいけないときに動けないなどとなれば意味がないからな。」

 

〈僕は大丈夫さ、さっきまで居眠りしてたし。〉

 

「それでもだ。貴様の声、未だに疲労の兆しが見える。先の特異点からそこまで時間が経っていない故、仕方ないのかもしれないが…いいか、決してたった一人で無理をしようなどとは考えるな。貴様が倒れてその代わりがいるとも限らん。」

 

〈…分かったよ。でも、ギルも休んでよ?〉

 

「当然だ。我も休む時は休む。あぁ、偶像を見るのは程々にしておけよ?」

 

〈ギクッ…〉

 

ドクター・ロマンのその反応を見て、ギルが頭を押さえてた。

 

 

 

───side ルーパス

 

 

 

夜。皆が寝静まったころ。

 

私は一人起きていて、木の上で剥ぎ取りナイフを研いでいた。

 

「……ん?」

 

そんな時、私の耳が小さな羽ばたきの音を捉えた。私の聴力はリューネほど高くないから、結構近くにならないと分からないんだけど。敵…ワイバーンの可能性もあるから警戒しながら音のする方向を見ると、1体の翼竜がこちらに向かってきていた。

 

「あれは…“バルノス”」

 

バルノス。かつて…新大陸に降り立った時、というか降り立つ時に熔山龍“ゾラ・マグダラオス”の身体の上に不時着して…その時、私とジュリィが脱出に使った翼竜種。生息地は“龍結晶の地”。かなり攻撃的な翼竜だけど…よく見ると、五期団の模様が体に刻まれてる。…多分、あれはジュリィの宝具だ。

 

「…起こさないかな」

 

私はもう少し木を登って、小さめに指笛を吹いてみた。そしたらバルノスが私に気がついて、私の前まで来て滞空した。

 

「…あなたは、ジュリィの?」

 

そう聞くと、バルノスは片足を私の前にずいっと突き出した。…見ると、片足に紙が括りつけられている。

 

「…これ、私に?」

 

バルノスは答えなかった。けど、突き出したままってことは多分私宛。私がその紙を外すと、バルノスは足を引いて、近くの木に止まった。

 

「……ジュリィからか。」

 

私宛の手紙。地図と一緒に同封されていた。…相変わらず達筆というかなんというか。しかも全部竜人語だ…あ、竜人語っていうのは私達の世界の言葉ね。この名前で呼ぶことにしたの。

 

 

 

翼竜にて別行動開始後、特異点の地理の把握及び現状の確認を行いその成果を同封せし地図に示す。

 

その過程にて“ラ・シャリテ”なる場所にて、飛竜と骨に襲われし所を救出した次第、ここに報告する。

 

ラ・シャリテにて該当せし飛竜、再度来訪する可能性あり。故にその地に生きる者達の護衛の任務に就く。ラ・シャリテにて合流を希望する。以上。

 

 

追伸

 

途轍もなく嫌な予感を感知。ドス黒く、強く暗い感情が溢れ出す……希望、ラ・シャリテにて早期合流を推奨する

 

 

 

…以上がジュリィからの手紙だった。

 

「……ラ・シャリテ…ね。」

 

次の行き先が決まったみたい。夜が明けたら立香達に話してみよう。…にしてもこの地図、精密に作られてるなぁ…

 




結構ぎりぎりだね…ボイスマテリアル作ってるとほんとに時間なくなる…

弓「気張れ!」

編集も最近出来てないし。まぁ、いっか。


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第30話 余談

うーあー……

裁「…どうしたの」

時間がない…

裁「…大丈夫?」

うん…あ、UA9,000突破ありがとうございます

弓「…本当に一週間で1,000近く増えておるな…」


 

「ラ・シャリテですか…確かに、ここから少し行けばたどり着けるでしょう。ただ、歩きですと少し時間がかかりますね…」

 

ちなみに特異点のジャンヌさんによると霊脈のある場所はジュラの森っていうらしい。今、私達は森の外にいるけど。

 

「多分、ジュリィがいるなら守備は大丈夫だと思う。…あのワイバーンと骸骨兵、だっけ。あれが相手なら。でも、サーヴァントが来るってことを考えたらジュリィだけだと少し不安…早めに行けるといいんだけど…」

 

「ランはちょっと疲れたらしいから出たくないって。早い獣魔となると…古龍と飛竜を除けば…種族名だけ言うけどトビカガチ、トビカガチ亜種、タマミツネ、オドガロン、オドガロン亜種とかその辺になるんだけど…」

 

「電気と毒と泡と裂傷…それに龍やられ…んん~…」

 

「トビカガチとオドガロンはともかくタマミツネは周囲への被害が凄いことになるだろう…」

 

「そうなんだよね…」

 

言ってることがよくわからなくなってきてるけど、こっちも時々見てることから私達への影響も考えてるのかな?

 

「…ん…そうだね。とりあえず、トビカガチ原種とオドガロン原種…タマミツネは…召喚でいいかな?ベニカガチとデスガロンとかは流石に。ミツネに関しては皆泡だらけになるけど…」

 

「…分かった。宝具起動。“絆を結びし者よ、指輪と呼び声の元に応えよ(サモン・リングコネクティア)”───来て、ライカ、ミチ、ドロン!!」

 

ミラちゃんの宝具、召喚魔法系統の極意に近いものが発動して、その場に三体のモンスターが現れた。

 

「…えっと、人間8人アイルー2匹ガルク1匹だから…3人と1匹ずつ、かな?」

 

「…よくよく思えばこれだけの人、よくジンオウガ1匹で運んでたよね…」

 

私、マシュ、ギル、ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃん、アル、ジャンヌさん、スピリスちゃん、ルルちゃん、ガルシアちゃんの計11名。特にギルとマシュは武器と鎧のせいで重いはず───ルーパスちゃん達は武器とか防具とか基本的にアイテムボックス開いてしまってた───なのにそれを1匹で…

 

「マスター?行くよ?」

 

「へ…あ、うん…」

 

「…何か考え事?」

 

「…ううん、何でもない」

 

皆、私が乗るのを待ってたみたい。私、ルーパスちゃん、ギル、スピリスちゃんは泡狐竜“タマミツネ”のミチ。ミラちゃん、マシュ、アル、ガルシアちゃんは飛雷竜“トビカガチ”のライカ。リューネちゃん、ジャンヌさん、ルルちゃんは惨爪竜“オドガロン”のドロンに乗るらしい。…惨爪竜って名前怖いね。それと、私が泡だらけになることは私がokしたから大丈夫。ギルはなんでかokしたけど。スピリスちゃんとルーパスちゃんは慣れてるらしい。

 

「……目標地点はラ・シャリテ!皆の思考内に周辺の地理は送ってあるからそれを頼りに!」

 

「ホォォォォ!」

 

「グリョォォ!」

 

「フォォォォ!」

 

〈うあぁぁぁ!!〉

 

「ドクター?」

 

〈なんで立香ちゃん無事なんだい!?こっち耳痛いんだけど!!〉

 

その言葉聞いた時、ルーパスちゃんが私の方を見た。

 

「立香、耳栓スキルでも使ってる?私は護石で耳栓Lv.5発動させてるけど…」

 

ルーパスちゃんのその問いに私は首を横に振る。

 

「そっか…何だろうね。あ、ちゃんと私に捕まっててよ?タマミツネの身体は滑るから。」

 

え…って思った直後、ミチさんが動き出して危うく振り落とされるところだった。慌てて私がルーパスちゃんの服を掴むと、ルーパスちゃんは振り向いてクスリと笑った。

 

「ほら、言ったでしょ?“泡狐竜”の名前は伊達じゃないんだよ?」

 

「う、うん…」

 

ふとギルの方を見ると、ギルはギルで私に何かの鎖をつけて耐えてた。…いや、その鎖…何?

 

「…ね、ルーパスちゃん。」

 

「ん~?」

 

「…今更、なんだけど…年下の人にちゃん付けされるのってどう思う…?」

 

「…本当に今更だね。別に気にしてないよ?」

 

「…ほんと?」

 

「ほんと。そもそもその程度気にすることでもないし。」

 

その程度、かぁ…

 

「リューネも気にしてないと思うよ?」

 

「…そうなの?」

 

「一緒の家で育ったからなのかは分からないけど、その辺の感覚似てるから。」

 

「一緒の家で…って、あれ?苗字違うよね?」

 

確かルーパスちゃんの苗字は“フェルト”。リューネちゃんの苗字は“メリス”だったはず。

 

「まぁね…私もハンターになった後、しばらくしてから知ったんだけどさ。リューネって私の姉妹じゃないんだよね。一緒に育てられただけで赤の他人、っていうか。お母さんとお父さんの友人の子供っていうね。」

 

なんか複雑そう?

 

「まぁ、リューネもこれ聞いた時は結構動揺してたよ?私もだけどさ。」

 

「ルーパスは昔、僕のことリューネお姉ちゃんって呼んでたのを覚えているぞ?」

 

その声がしたと思うと、隣にリューネちゃん達が乗ってるオドガロンがいた。

 

「…恥ずかしいからその話やめて…って言いたいけどいいか。別に。あ、そうだ。言い忘れてたけど技術提供ありがとね?」

 

「問題ない。というか彼女凄くないか?武器と防具を見るだけでその製法が分かるとか…」

 

「才能持ちの一人なのかな…ジュリィ、好きなものはドキドキノコとか言うし。」

 

「待てい。“キノコ大好き”は?」

 

「発動させてないよ?」

 

「…剛の者だな。」

 

「うん。」

 

話が分からない…

 

「ドキドキノコというのは食べると様々な効果を発動するキノコですにゃ。体力回復、強走、体力増強にスタミナ増強。これらのプラス効果のほかに、スタミナ減少、体力減少、悪臭、毒、麻痺…あとちょっと面倒な効果を発動する可能性があるキノコなのですにゃ。」

 

スピリスちゃんがそう説明してくれた。そっか、運要素が強いってことかぁ…

 

「…ところで彼女、面倒な効果は…」

 

「今のところ発動させてない。発動させたらウチケシの実使ってると思うけど…」

 

「それもそうか…ん?」

 

リューネちゃんが進行方向の方を見た。

 

「…遠くから羽ばたくような音が微かに聞こえる。」

 

「……そう。こっちも龍気を確認した。この特異点、古龍ほどではないものの強い力を持つ竜系統の何かがいるよ。」

 

「…気を引き締めなくてはな。」

 

「うん…あ、ジャンヌ。」

 

ルーパスちゃんが思い出したようにジャンヌさんを呼んだ。

 

「は、はい!」

 

「これ、着ておいて。」

 

そう言ってルーパスちゃんがアイテムボックスから出したのは深い緑色のフーデッドケープ…っていうか外套っていうか。そんな感じのものだった。

 

「あの…これは?」

 

「それ着ておけばしばらくの間発見されないから。“竜の魔女”───このフランスの惨状を作り出した者って言われてるんでしょ?だったら、どうにかして身を隠しておかないと。情報は必要だけど、それは恐れられたら意味がない。…違う?」

 

「…はい。ありがとうございます。…お若いのに、よく見ておりますね。」

 

「生と死の狭間にいればこれくらい…ね?さ、他の人から見えない位置で降りなきゃ。現地の人を怖がらせるわけにもいかないし。」

 

その意志を汲んだかのように、三体のモンスター達はラ・シャリテにたどり着いた後、その中から見えないような位置に停止した。

 

 

 




ごめんね、軽くて…


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第31話 竜の魔女

時間かかるなぁ…

裁「大丈夫…?」

うん。


 

ラ・シャリテに着いて。私達はその町の中にいたジュリィさんの話を聞いていた。

 

「…そっか、ワイバーンと骸骨兵は粗方追い払ったんだ。」

 

「はい。…ただ、まだ嫌な予感は消えません。ですから、相棒たちが早めに来てくれて助かりました。」

 

「…ここから遠くに複数の影。情報集めるなら早めにした方がいいか…」

 

「それでしたら、私が持っている情報と交換を。このラ・シャリテに来てから今の現状を聞いてはいたので。」

 

そのジュリィさんの言葉にルーパスちゃんが苦笑する。

 

「流石編纂者というか…まぁいいんだけど。それじゃあ情報の擦り合わせ。…それでいい?立香。」

 

「あ、うん…」

 

…相棒。なんていうか、立香さんって意志が弱いというか…自我が弱い感じがしませんか…?

 

…しっかり確立できてるんだけどね。何だろう、変な違和感がある…

 

「どうか…した?」

 

「いや、なんでもない…」

 

「?」

 

ルーパスちゃんたちが竜人語で話してたから全く分からなかった…え、翻訳礼装?あれの翻訳効果は私だけ切ってある。聞く方だけだけど。

 

とりあえず、今の情報をまとめると。

 

 

“ジャンヌ・ダルク”という人物が火刑に処されたのが数日前。

 

原因は“魔女”、つまり“異端者”だとされたこと…魔女裁判的なもの。

 

そして、そのジャンヌ・ダルクさん───私達の方にいる特異点のジャンヌさんが正方のジャンヌさんだとすれば敵は負方のジャンヌさんとして───が負方のジャンヌさんとして蘇ったとされるのが火刑に処された数日後。

 

その負方のジャンヌさんが契約したのが悪魔だとされ、使役するものが竜種であることから“救国の聖女”から一転、“竜の魔女”とされている。

 

…ぶっちゃけると、“竜の魔女”そのものが味方にいる気もするから全くって言っていいほど怖くない気がするの気のせいかな?

 

そして、その負方のジャンヌさんもクラスは裁定者。……なんだろう。そのクラス設定に凄く違和感があるような…

 

…で、正方のジャンヌさんは裁定者だけど聖杯戦争に対する知識がほとんどない状態。おまけにほとんどのスキルを失っているような状態だからあまり役に立てるかは分からない模様。

 

ルーラーの能力は対サーヴァント用の令呪たる“神名裁決”。サーヴァントの真名を見抜く“真名看破”。それからサーヴァントの広域探知。

 

これらの能力は正方のジャンヌさんから強制的に剝が(カット)されて負方のジャンヌさんに貼り付けら(ペーストさ)れたもの、というのがギルの見解。

 

一方で、同じ存在が2つ存在するため(同じ気はしないけど…)にその調整のために片方はほぼ完全な状態で、もう片方は器のみというような状態で…人の正と負を切り離したような状態で顕現させた、というのがお兄ちゃんの見解。

 

さらに、そもそもが別存在で、“ジャンヌ・ダルク”という枠組みから新しく生み出されたのが負方のジャンヌさんで、何者かが正方のジャンヌさんの弱体化を図った、というのがジュリィさんの見解だった。

 

…何だろう。どれも合っているようで合っていない、そんな感じがする。

 

 

〈立香、お前の直感は何だと言ってる?〉

 

「…多分、だけど…ジュリィさんのが一番近い…と思う。ギルのも近いけど…その前に、来る。」

 

私が呟いたと同時に、ルーパスちゃんが頷いて弓を構えた。

 

「…凄いね、気づけるんだ…」

 

〈サーヴァント反応だ!数は…5騎!〉

 

〈気をつけなさい!速度は結構あるわ!!恐らくその速度を維持できるのは…!〉

 

〈ライダー…!〉

 

〈キャスター2騎、ハンター5騎、アルターエゴ1騎、アーチャー1騎…くそっ、戦力としては足りるかもだが万が一の事態もある!逃げることを…〉

 

「しません。それをしてしまえば、この町にいる人が…!」

 

ジュリィさんがそうはっきりと宣言した。

 

「…相棒!力を、貸してくれますか?」

 

「…うん。」

 

そう言ってジュリィさんは大きな剣…“大剣”を。ルーパスちゃんは槍…だけど槍じゃない何かを。リューネちゃんは大きな刀…“太刀”を構えた。

 

〈あぁもう、どうすればいいんだ!!〉

 

「気を抜くなよ、者共。特にアルターエゴ、貴様は下がっておれ!貴様戦闘能力もないのであろう!?」

 

「っ…!」

 

「であれば下がっておれ!!その命、無駄にするな!!マシュ、貴様はマスターとアルターエゴを守れ!!」

 

「は、はい!」

 

ギルって優しいね…あ、ジャンヌさんがルーパスちゃんの渡した外套みたいなのを脱いだ。

 

〈来るぞ、普通に視認できるまでもう少し!〉

 

その時、私が視認できたのは。

 

黒い旗。そして、正方のジャンヌさんと瓜二つの黒い鎧に身を包んだ銀髪の女性。

 

それから騎士みたいな剣を持った…ごめん、女性なのか男性なのか全くわからない人…と仮面をつけた女性。それと…十字架を持った女性と白髪の…うん、なんて言ったらいいんだろう?よくわかんない男性。

 

それと…竜。飛竜…ワイバーン。

 

それが、全員の視界に入った時、その黒い旗の女性が笑った。

 

「…あぁ、なんて、こと。まさか、まさかこんな事が起こるなんて。」

 

その声は、正方のジャンヌさんと同じ。間違いなく、この人が負方のジャンヌさんだと思う。

 

「ねぇ。お願い、誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの、本気でおかしくなりそうなの。だってそれぐらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!」

 

≪…立香、水風船いるか?≫

 

≪いらない。≫

 

「ほら、見てよジル!あの哀れな小娘を!何、あれ羽虫?ネズミ?ミミズ?どうあれ同じことね!ちっぽけすぎて同情すら浮かばない!」

 

「貴様もな、竜の魔女とやらよ。そら、水が欲しいならくれてやるわ。」

 

そう言ってギルが金色の波紋から取り出した水鉄砲の中の水を負方のジャンヌさんに当てた。

 

「冷った!?何すんのよ!」

 

「水が欲しいと言ったのは貴様であろう?それと…」

 

ギルが相手のサーヴァントたちを見た。

 

「……魔女、か。ただの子供の軍勢にしか見えないのだが?」

 

「……あ゛?」

 

「その上沸点も低いときた。そら、ただの子供にしか見えぬぞ?」

 

「クスッ…」

 

「ふっ…」

 

あ、仮面の女性と白髪の男性が笑った。

 

「何が可笑しいっ!」

 

「いえ、何も…」

 

「あちらの方が愉快そうなものでな、許せマスターよ。」

 

「ちっ…そんなことは別にいいわね。今は…」

 

そう言って負方のジャンヌさんは正方のジャンヌさんを見つめた。

 

「あ…貴女は、誰ですか!?」

 

「…属性が反転すると此処まで鈍くなるものかしら。まぁいいわ、答えてあげましょう。私は“ジャンヌ・ダルク”。蘇った救国の聖女ですよ。もう一人の“私”?」

 

「…馬鹿げたことを…貴女は聖女ではありません、私が聖女でないように。」

 

「…えぇ、私は聖女ではない、ジャンヌ・ダルクでありながら奇跡を、神を信じたりはしません。だって私は…聖女などではなく、竜の魔女なのですから。」

 

「竜の、魔女…」

 

その言葉にミラちゃんが視線を鋭くした。

 

「…答えて。あなたは本当に“ジャンヌ・ダルク”なの?」

 

「あら…貴女がそこの私の、そしてそこにいる目障りな大剣使いと金ピカ、デミ・サーヴァントのマスターかしら?」

 

「答えて。」

 

「…答えてと言って素直に答えるのは学校だけじゃないかしら?」

 

「貴様は学校など通ってなかろう。」

 

「…うるっさいわね、その口を閉じなさい、金ピカ。」

 

「ふん…あぁ、すまぬな、復讐に燃える魔女という遊びに付き合ってやれなかった我の落ち度よ。子供に正論を叩きつけても分からぬか。」

 

うわぁ……ってあれ?今気がついたけど()()()()()()()()姿()()()()()()…あとギルがたまに負方のジャンヌさんから視線を外しているんだけど…

 

「その旗は手製か?その文様は…おおかたそのドラゴン、ワイバーンとやらなのであろう?そのようなトカゲを描くとはどうかと思うがな。余程丁寧に教え込まれたのであろう?だがそんなもの、我が見て来た龍とは程遠いわ。」

 

あ~…そういえばミラちゃんが召喚する黒龍“ミラボレアス”の威圧感凄かったもんね…ちなみに名前は“ボレス”っていうらしい。

 

「黙って聞いていれば…好き放題言いますね、サーヴァント如きの分際で!!」

 

「そのサーヴァントに好き放題言われて激するのは貴様であろう?聖女ではなく愚者となっているではないか。…ふむ。」

 

ギルがちらりと空を見たと思うと、軽く笑って口を開いた。

 

「“救国から逃げた聖女”の末路がそんな愚者だとはな。救うよりも滅ぼすのが簡単そんなもの当然であろうが。“竜の魔女”と名乗っておきながら、その実態はそんなトカゲ如きを召喚するトカゲの魔女とは…な。愚かすぎて笑いが出る!フハハハハハハハ!!」

 

…あっ、負方のジャンヌさんの方からブチッて音聞こえた。

 

「貴様ぁぁぁあ!!!言わせておけばっ!!」

 

そう叫んで負方のジャンヌさんが旗を振った。

 

「滅ぼしなさい、ワイバーン!この地の、このラ・シャリテに生きる生命を、物品を!あらゆる総てを!!焼き払いなさい!!」

 

「いけません、まだこの地には…!」

 

号令が降り下ろされ、ワイバーンの総てがこちらに牙を剥こうとした、その時だった。

 

 

───“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)

 

 

その言葉が風に乗って私の耳に届いた時。その場にいる総てのワイバーンが空中から放たれた大量の矢に貫かれた。

 

「───!?」

 

「今の芸当…あんなことができるのは…!」

 

リューネちゃんがそう叫んだ直後、私の目の前に一人の人影が舞い降りた。その人影は───

 

「…ワイバーン、一匹残らず排除、完了。これでいいんでしょ、ギル。」

 

───いつの間にか、武器を弓に変えていたルーパスちゃんだった。

 

「うむ。よくやった、ハンター。」

 

「あれくらいなら何とかなるよ。あと時間稼ぎありがと。…でもサーヴァントは狙うなって…良かったの?」

 

「うむ。…そら、貴様の駆るワイバーン共はいなくなった。次は貴様の番になるぞ?」

 

「…金ピカ…!!あんたはなんもしてないでしょうが!!」

 

「ふん。我が出張ることでもない、竜狩り専門のハンターに任せただけよ。…そら、将を出すがいい。今度は我も体を動かすとしよう。」

 

「~~~!!バーサーク・ランサー!バーサーク・アサシン!バーサーク・ライダー!バーサーク・セイバー!殺せ!!奴らを八つ裂きにしなさい!!」

 

その直後、さらにワイバーンが追加される。

 

「マシュと田舎娘はマスターとアルターエゴを守れ。ルーパスとリューネ、ジュリィとアイルー、ガルク共はワイバーン共の一掃。ミラはマシュと田舎娘の支援だ。竜狩りの力、見せてみよ、ハンター。」

 

「分かった。やろう、ルーパス。」

 

「うん。…いくよ、リューネ、ジュリィ…みんな。」

 

「はい、相棒!」

 

「分かったのにゃ、旦那さん!」

 

「無理は禁物ですにゃ、旦にゃさん。」

 

「ォォ~ン!」

 

「…サーヴァント・ハンター、ルーパス!」

 

「同じくサーヴァント・ハンター、リューネ。」

 

「サーヴァント・キャスター…しかし今だけはサーヴァント・ハンターであれ!ジュリィです!」

 

「行くよ!!」

「参る!!」

「行きます!!」

 

「ふっ…さて、凡英霊共。クラス・プレミアのサーヴァント───英雄王・ギルガメッシュ!慢心せぬ我が力、思い知れ!!」

 

〈…premiere(始まり)?どういうことだ…?〉

 

ギルの名乗りを聞いてお兄ちゃんが呟いていたことが印象的だった。

 




弓「premiere…とな?」

うん。あ、そだ。無銘のステータス…っていうか現時点のマテリアル此処に出しておくね?

弓「できていないのではないか?」

出来ていないんじゃなくて作れないんだよ。この子は何を起こすか分からない。すべての情報がnullのような状態なんだから。



zero

真名:無銘

クラス:アルターエゴ

性別:女性

属性:不明

特性:人型 女性

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具?


クラススキル

不明


固有スキル

不明


宝具

不明


概要
謎の英霊。記憶を失っているが、何故かカルデアに召喚された。何かを為すために召喚されたのだと考えられるが、その真相は全くの不明。服装は白いワンピースに透明なヒール。容姿は18歳ほどの少女で白と青の髪のロングヘア。



弓「本当に何もできていないではないか!!」

ま、しばらくしたら解放されると思うよ。今作ってるけど彼女自身の宝具はまだ存在してない。別人格の宝具はあるけど。

弓「…どういう、ことだ?」

別人格もそれぞれ宝具に匹敵するものを持ってるってこと。ま、これに関してはまた今度かな…


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第32話 奮闘

裁「……」

……ルーラー?どうしたの?

裁「…なんでもない」


 

バーサーク…つまり狂暴化したサーヴァントたちがギルを襲う。

 

「…マリー。サーヴァントたちの本当の名前、探せる?」

 

〈任せなさい、それより立香は自分のサーヴァントのサポートをするのよ!〉

 

「…分かってる。その時は見逃さない。」

 

マシュと正方のジャンヌさん、ミラちゃんは負方のジャンヌさんと対峙、私とアルを守っていて、ギルは狂暴化したサーヴァントたち、ルーパスちゃんたちは新たに湧いたワイバーンと対峙してる。

 

で、そのルーパスちゃん達はというと…

 

「やぁぁぁ!!」

 

「ジュリィ、回避!竜撃砲、行くよ!」

 

「はいっ!」

 

「リューネ、一緒に!」

 

「あぁっ!!」

 

「「せーの、あ゛ぁぁぁぁぁ!!」」

 

〈あれ、何も聞こえない…〉

 

「なんで叫ぶんですか、相棒!?」

 

「…竜撃砲で叫ぶのは共にやはり懐かしいな…」

 

竜撃砲ってなんだろ…後なんでまたドクターは鼓膜の部位破壊を達成してるの……?

 

「その方が気合が入るからだな!」

 

「言ってる意味わかりません!!」

 

「ついでに言うと咆哮打ち消せるんだよ、ある程度。二人分で咆哮【小】より少し強い咆哮の効果が発動するの。」

 

「そうなんですか!?」

 

「知らなかったのか?一応ガンランス使いの基本といえば基本だぞ!!」

 

そうなの?

 

 

作者コメント

大本のゲームにはそんな効果ありません。

 

 

ていうかルーパスちゃんが持ってるあの武器、ガンランスって言うんだ……なるほど、(ガン)(ランス)

 

あ、ルーパスちゃんの後ろに…

 

「させるか!!鉄蟲糸技“飛翔蹴り”───せいっ!!」

 

あ、リューネちゃんが翔蟲(宙に浮いたりする時に使ってる光る虫のことらしい)で接近してルーパスちゃんの背後のワイバーン対処した…

 

「ありがと、リューネ。」

 

「気は抜くなよ!」

 

「分かってる…!」

 

ルーパスちゃんたちは大丈夫そうかな。ギルは…

 

「…」

 

うわぁ…ほとんど無表情で…っていうか結構慎重に狙いつけて武器を射出してるよ…

 

≪立香。相手の真名が分かったわ。一応思念通話で行くわね。≫

 

マリー?

 

≪一人、あのアサシン。棺桶使う女性のことね…あれはカーミラ、真名をエリザベート・バートリー。こちらにいるランサーのエリザベート・バートリーの成長後よ。≫

 

≪えぇ…でも、アタシはあんな風にはなりたくないわね。もしも、その特異点にアタシが召喚されているなら、真っ先にアタシはアタシ自身…つまりカーミラを消しに行くはずよ。≫

 

通信の先からエリちゃんの声が聞こえる。

 

『自分殺し、とな?まるで貴様ではないか、贋作者(フェイカー)よ。』

 

≪それを言うな英雄王。そしてあんたも第五次の記憶があるのか。≫

 

『千里眼にてその程度見通せたわ、戯け。』

 

≪ふん…マスター、霊脈に退避した時には料理を振舞えるように準備はしておく。≫

 

『あ、ありがとうございます、エミヤ先輩…』

 

ギルの話だとこの世界とは別の世界だけどその聖杯戦争のマスターだった人らしいから先輩だろうと思ってそう呼んでみた。

 

≪………エミヤでいい。先輩はやめてくれ、少しくるものが在る。≫

 

『?』

 

『ふははははは!!贋作者、貴様の苦手なものは後輩か!?』

 

≪黙れアーチャー…!!≫

 

『貴様もアーチャーであろう!!』

 

≪……あぁもう!ともかく霊脈に戻ったら伝えてくれ、マスター!≫

 

『あ、うん…』

 

『…それで?マリーよ、他の情報はないのか?』

 

あ、そうだった。真名の情報聞いてたところだった。

 

≪相手のランサーは“ウラド三世”…悪魔(ドラクル)、といえばマシュには伝わるでしょう?≫

 

『悪魔…ルーマニア最大の英雄、通称“串刺し公”です、先輩!』

 

あ、ちなみにマシュとギルは並列思考能力あるから戦いながらとか一応出来るらしい。っていうか私も一応できる。

 

「ふん…“護国の鬼将”とまで言われている者の怪物という側面か。貴様ならば槍兵(ランサー)でなく狂戦士(バーサーカー)がお似合いであろうよ。」

 

そのままギルの持つガンランス(少し前にルーパスちゃんとリューネちゃんから各武器種一本ずつ貰ってたね、そういえば。ルーパスちゃんとリューネちゃんは余り物だって言ってたけど…)とウラド三世の槍が交差する。

 

「ほう…我を怪物と罵るか、黄金のサーヴァントよ。」

 

「事実を言ったまでに過ぎんだろう、吸血鬼のモデルとなった者よ?」

 

「…貴様」

 

ギルはその場で向きを変更、ガンランスに針みたいなのを差し込んで砲撃した。針が飛んで行ったその方向には、カーミラ。

 

「…邪魔しないでくださる?私貴方に興味はないの。」

 

「するわ、戯け。我を無視してマスターを狙うなど、許すものか。」

 

あ、やっぱり私狙われてたんだ…

 

「反英霊、か。英霊の座とは分からぬものよ。このような血を好む怪物までも登録するとはな。」

 

そのままガンランスを振って一際大きい砲撃。

 

「…っ!野蛮な人ね!」

 

「男が女を組み伏せるは道理、と言いたいところだがその逆もまたよし、か。だが我は我が女を組み伏せるのを好むのでな。」

 

それ反発したら面倒な気がするんだけど。

 

「さて……あの十字の杖、キリスト教の関係者か?マリー、竜、それから女性と関連付けて探ってみよ。」

 

〈聖マルガリタ…でしょうか。〉

 

違うと思う。

 

〈すみません、セイバーは分かりませんでした…〉

 

「よい、少しでもわかっただけ進展だ。…さて。」

 

…とりあえず、ギルは大丈夫そうかな?…あ。

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・魔術協会制服”!!主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体回復”!」

 

私の言葉で味方の傷が癒される。マシュの傷と正方のジャンヌさんの傷が結構危なかったのに気がつけて良かった。

 

「ちっ…マスターからの補助か…!!」

 

「ありがとうございます、先輩!」

 

そのマシュの言葉に私は頷いて、通信の方に視線をやった

 

「…お兄ちゃん」

 

〈あ?〉

 

「この魔法少女というかアイドルというか…そんな感じの変化エフェクト…あと“コーデチェンジ”っていう式句もだけど…これってもしかして…」

 

〈お前の趣味に合わせたんだが?〉

 

「…やっぱり」

 

〈嫌だったか?〉

 

「ううん、嬉しいかな…?」

 

「燃えろぉぉぉ!!灰になれっっ!!」

 

強い気迫に強い炎。

 

「水妖鳥操りし水よ、憎悪の炎を撃ち抜け。“ラグーナシャール”!!」

 

それを、私の近くにいたミラちゃんの圧縮した水の砲撃が打ち抜いた。…あれ絶対痛い。ホースのストレートノズルの水圧を一気に叩き付けられてるようなものだと思うし。ちなみにあれは断片召喚とかじゃなくて使役している獣魔の力の一端を借り受ける術なんだって。ミラちゃんによると、“断片召喚術”っていうのはその力を持つ獣魔を使役出来ない人が力の一端を抽出して使うことらしくて、ミラちゃんは総ての獣魔を使役できるから断片召喚は使わないらしい。

 

「あぁぁぁぁ!!もう!!忌々しいったらありゃしないわ!!」

 

そう言って負方のジャンヌさんが右手を掲げる。右手…

 

〈右手…まさかっ!?〉

 

「令呪を持って命じます!!バーサーク・ランサー!今ここにいるすべての敵サーヴァントを無力化し───」

 

「ぬっ!?」

 

「───あのマスターを殺しなさい!!」

 

───え。

 

〈しまった…!相手もサーヴァントを召喚しているなら令呪があると考えるべきだ!!なんで忘れていたんだ、僕らは!!〉

 

ドクターの叫ぶような声が聞こえる。

 

「おおっ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

ギルが、ウラド三世に押し負けた…!

 

≪立香!!早くカルデアのサーヴァントを呼べ!!≫

 

『え、でも…』

 

≪あいつは“()()()()()()”って言った!!なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ!!≫

 

その言葉に、私はウラド三世を見据えながら右手を召喚態勢に入る。

 

「来て、“アル…きゃっ!?」

 

“アルトリア・ペンドラゴン”。少し下がってからそう言おうとしたとき、その場にあった泥に足を取られて転倒してしまった。

 

「マスター…!?くっ、させ…」

 

「邪魔だ、どけ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

ミラちゃんが前に出たと思ったらウラド三世の拳で吹き飛ばされてしまった。

 

「…悪く思うなよ、小娘」

 

アルも吹き飛ばされ、私とウラド三世の間に隔てるものは何もない。

 

「───っ」

 

誰か、という言葉は声にすらならない。声が、出せない。

 

「では…その魂、戴くとしよう!」

 

もうだめ…目を閉じてその時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だけど。

 

 

 

 

 

いつまでたってもその時と痛みはなくて。

 

 

 

 

 

その代わりに。

 

 

 

 

キンッっていう何かを弾くような音と。

 

 

 

 

「させるかよ!!」

 

 

 

 

どこかで聞いたことのあるような少年っぽい声と。

 

 

 

 

「Anfang.」

 

 

 

 

Anfang───ドイツ語で、“始まり”を意味する───まるで、リリカルなのはシリーズに出てくるデバイスのような声がした。

 




…さてと、ジュリィさんの宝具そろそろ用意しないとかな…

弓「…マスター。ルーラーはどこへ行った?」

え?その辺にいない?

弓「おらぬ。探しても見当たらぬぞ。」

…そっか。…探してくるよ。

弓「すまぬな…」


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第33話 起動

裁「……」

…ここにいたんだ。

裁「…!マスター…」

…隣、座るね?

裁「…はい」

……不安?

裁「……」(頷く)

そっか。…仕方ないかな。貴女がどうなるかが変わるものね。

裁「…マスターは…怖くないの?」

私?…まぁ、怖いけどさ。信じてるから。

裁「…そっか。」

…さてと。本編には“最後であり最初の奇跡”が現れた。…始まるよ。藤丸立香さん…あなたが囚われている運命が。


 

 

〈なっ…どういうことだ!?〉

 

お兄ちゃんが驚く声が通信越しに聞こえた。

 

〈令呪が…令呪の効果が完全に打ち消されただと!?〉

 

〈いや、それよりも!!何の予兆もないのにいきなり立香ちゃんの目の前に新しいサーヴァントが現れた!!気を付けてくれ、君の味方かもわからない!!〉

 

恐る恐る目を開けると、そこには私とアルを守るように炎の壁があった。そして、目の前に浮かぶ、あの冬木にあった赤い本。…本に、目がある。

 

「なんだ…これは?」

 

壁の向こうからウラド三世の声が聞こえる。

 

「~~~!!何をしている!!重ねて令呪を持って命じます、その炎を越えてマスターを殺しなさい!!」

 

「無茶を…!ぐぁぁぁ!」

 

ウラド三世が辛そうな声を上げた。そんな時。

 

「管理者権限、令呪による指令を破棄。」

 

私の目の前に浮かんでいる赤い本からそんな声が聞こえた。……それは、夢の中で聞いた声に近い。

 

 

───

 

 

「───すべての終わりがわたしの前に来ている。」

 

 

───

 

 

その言葉を思い出した。あれは、一体なんだったんだろう。

 

〈な…また令呪が打ち消された!?どういうことだ!?〉

 

お兄ちゃんのそんな声が聞こえる。

 

「主人正式登録、開始」

 

本からそんな声が発せられたかと思うと、その本が勝手に開いて私の手元に浮かんだ。

 

「…登録、完了」

 

その開いたページが光ったと思うと、そこに私の顔と名前が記されていた。

 

───“藤丸 リッカ”。

 

その名前は、夢でも告げた名前。

 

そんな時、炎の壁が消えて、少し大きい炎が私の方へと向かってきた。

 

「え…なに!?」

 

そのままその場で赤い炎が竜巻のようなものを作ったと思うと、その中から角を生やした少年のような姿が見えた。

 

〈おい…おいおいおい!?まさか…あれは…!?嘘だろっ!?〉

 

〈六花?知っているのかしら?〉

 

〈知っているも何も…あれは!!()()()()()()()()()()()だ!〉

 

そうお兄ちゃんが言っているうちに、少年のような姿が完全に形作られ、その少年はそのまま飛び回った。

 

「ヒャッホー!ひさしぶりに外に出たぜ!!」

 

「あぁ?誰よ、アンタ!」

 

「俺か?」

 

その少年は私の隣に来て言葉を紡いだ。…そうだ。この子は…見たこと、ある!!

 

「オレは炎の守護精霊、“レンポ”様だ!オレがいる以上、預言書と預言書の主には指一本触れさせねぇっ!!」

 

〈炎の精霊“レンポ”…“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!炎を司り、新世界に炎、熱、夏、活発、破壊、発明をもたらす!!〉

 

お兄ちゃんがそう叫んだ。そうだ。見たことがあると思ったんだ。本も、この子も。私達が好きな、“アヴァロンコード”という()()()()()()()()───!!

 

「はぁ?精霊ですって?アンタなんかに何ができるっていうのよ!」

 

「やるのはオレじゃねぇ…って言いたいところだが、アイツみたいにするのはこの主には流石に酷か?」

 

え…?そこは“やるのはオレじゃねぇ、こいつさ。”じゃないの…?

 

「なによ、小僧の分際で…!!」

 

「小さいからって舐めんじゃねぇぞ?これでも力は封じられてるが、世界を創る書の四大精霊だからな。…しょうがねぇなぁ、おい、お前はどうしたい?」

 

「私…?」

 

「預言書の…つまりはオレ達の主はお前だ。方針はお前に任せる。」

 

…そういえば預言書から使える精霊魔法ってさ。枷ない状態でダメージ強化して発動させるとゲームの方はカンストダメージ───999ダメージ以上が出るんだよね…ってそんなことは別にいいんだけどさ…

 

「おい?…って、出来ること提示してやらなきゃわかんねぇか。しょうがねぇ、ここはオレの力を見せてやるとすっか!」

 

レンポがそう叫ぶと、独りでに預言書のページがめくられた。めくられた先のそれは、レンポのページ。

 

Noble Phantasm(宝具)、稼働。」

 

「よっしゃ!!」

 

〈魔力反応激増!?いや、それよりも!!強い熱源反応だ!!〉

 

ドクターがそう叫んだ。

 

「安心しろ、加減はしてやらぁ!!行くぜ、宝具!!」

 

「精霊魔法、起動。攻撃対象、敵性存在。使用精霊、炎精レンポ」

 

「いっけぇ!!───“炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)”ッ!!」

 

レンポがその腕の枷を地面に叩き付けると、周囲に炎が広がった。

 

「あっつっ!!」

 

「おい、今のうちに早く退却すんぞ!!」

 

「え、あ、うん!!あ、でも…」

 

「街なら大丈夫だ、ここでもう戦闘は起こせねぇ!!」

 

どういうこと、って聞く前に私はギルに引っ張られた。

 

「何をぼさっとしている、早く行くぞ、戯け!!」

 

「ご、ごめん…」

 

そのまま私達は霊脈の方まで退却した。

 

 

───side 三人称

 

 

「…ちっ!!何よ、あいつら…!!むかつく、むかつくむかつく!!」

 

黒のジャンヌ・ダルクはオルレアンの城の方へと戻ってきていた。

 

「何なのよ、精霊とかプレミアとかハンターとか!!ジル!!出てきなさい!!」

 

「おぉ、ジャンヌ。此度は一段と荒れておりますな。」

 

「これが荒れずにいられますか!!準備していたワイバーンを全部墜とした弓使い、サーヴァント共をずっと拘束していた金ピカ、追加で出したワイバーンをものともしない猫と狩人共!!挙句の果てに令呪の効果を抹消する精霊に街中で宝具が使えず戦闘を起こせずワイバーンも喚べずですって!?ふざけるのもたいがいにしなさい!!」

 

ちなみにワイバーンを先に喚んでいたとしても街中に入った途端強制送還されていた。

 

「特にあの金ピカ!!私の旗を、渾身の竜を、よくも!!」

 

「おぉ、ジャンヌ。一度気を静められよ」

 

「うっさい!!」

 

「ふぁっ!?」

 

黒のジャンヌ・ダルクにジルと呼ばれた男が殴り飛ばされる。

 

「おぉ…憎悪と屈辱に塗れた一撃…このジル・ド・レェ、魂に深く刻み込みましたぞ…」

 

「うっさいわよ、気持ち悪いこと言わないでちょうだい!!吐き気がするわ!!」

 

「おぉジャンヌ、一度気を静めるために眠られてはいかがか。如何にあなたが憎悪で動いているとは言えど、今の状態では正常な判断ができますでしょうか…」

 

「……それもそうね。分かったわ、一度眠ります。お休み、ジル。」

 

「良い夢を…」

 

 

それからしばらくして、ジル・ド・レェのいる場所にバーサーク・ライダーが現れた。

 

「魔女様は寝てしまったのかしら。」

 

「えぇ。…何か?」

 

「ただの伝言と進言よ。」

 

「はて。」

 

「“あなたのお父様に慰めてもらいなさい”…確かに伝えたわよ。」

 

それは、あの場所でバーサーク・ランサーに吹き飛ばされたキャスター───つまりミラ・ルーティア・シュレイドが復帰後、近くにいたバーサーク・ライダーに伝えた伝言。その伝言を聞いたジルが、動きを止めた。

 

「───」

 

「…どうしたの」

 

「…いえ。して、進言とは?」

 

「あぁ…奴らの追撃、私に任せてもらってもいいかしら?」

 

その言葉にジル・ド・レェがバーサーク・ライダーを見つめる。

 

「ふむ。かのマスターたちを貴女が仕留めると?」

 

「英雄王の攻撃、それからあのキャスターの攻撃が霊基を消耗させているのよ。ランサー、アサシンはほとんど動けない状態。セイバーは動けるけれど戦闘の役に立ちそうにないわ。それに…」

 

バーサーク・ライダーは不審に思ったのだ。あの時の戦闘、英雄王にしても後から吹き飛ばされた魔術師のサーヴァントにしても。明らかに自分だけ弾幕の密度が薄かったと。だがそれは伝えることでもないと思い、首を横に振った。

 

「…いえ、何でもないわ。それでも、目障りでしょう?あの竜殺し達と、金色のサーヴァントは。」

 

「…それは、確かに。ジャンヌは見ただけでもわかる通り傷心中。ワイバーンもかのマスターは従える竜殺しにほとんど狩りつくされてしまいました。…お願いできますかな、バーサーク・ライダー殿。」

 

「えぇ。了解したわ。」

 




裁「…よかった。」

信じてあげて。立香さんを。最後であり最初の奇跡───預言書を。

裁「うん。」

…さてと、ギルに怒ってきますか。改築しすぎ……ここまで来るの大変だった…

裁「あはは…」

…タグ追加。“アヴァロンコード”。それは、何を意味するかな?


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第34話 預言書と休息

にゃ~…

弓「…ギリギリではないか。」

なんとかなった…出力だけは…


あの後、私達は霊脈の拠点に戻ってきていた。

 

……出発する前より3人のサーヴァントと預言書、そしてその精霊であるレンポくんを連れて。

 

ちなみに驚きすぎて呼び捨てしてたけど、聞いたら別に敬語とか使わないでいいって言ってた。私はゲームの時いつも“レンポくん”って呼んでたし。

 

「フォーウ…(あの本…)」

 

フォウ君はここに戻ってくる最中に出会ったサーヴァントの一人である王妃様に抱えられながら、私の隣に浮かぶ赤い本…即ち預言書を見つめていた。

 

〈…新たに出会ったサーヴァント二名の方はあとでもよろしいですか?今は、先に気になることがありますので。〉

 

「えぇ、構いませんわ。」

 

「僕も構わない。その本からは、興味深い音がするんでね。悪魔に近いが悪魔ではない、神に近いような…そんな音がね。」

 

二人のサーヴァントから了承を得て、私は預言書とレンポくんを見つめた。

 

〈こほん…それでは。ミスター・レンポ。単刀直入に伺います、あなたのクラスは一体なんでしょうか?〉

 

「…その前に聞かせてくれ。オレはおまえたち全員から見えてるな?」

 

その言葉に全員が頷く。…確か、預言書の精霊が見えるのは預言書の主の他に霊感が強い者。それから魔物だったはず。

 

「…そうか。オレ達の存在自体が変質してるのか?…いや違うな、預言書そのものが変質してんのか…」

 

「…言ったらアレだけど、考えるのってレンポくんの担当じゃないよね…?」

 

「ウルの野郎だな。まぁいいか。改めて自己紹介、とでも行くか!」

 

あ、やっぱりウルさんもいるんだ、と思ったのは内緒。だったらミエリちゃんとネアキちゃんもいるかな…?

 

「オレはレンポ。預言書に語り継がれる大精霊のひとり。あらゆるものを焼き尽くす、“炎の精霊”様だ!オレが司っているものとオレがもたらすものは知ってるな?」

 

「炎を司り、新世界に炎、熱、夏、活発、破壊、発明をもたらす。」

 

「あぁ。おまえの言う通りだ。そしてオレは、“預言書”というサーヴァントの宝具に過ぎねぇ。」

 

預言書の…宝具!?

 

〈宝具だって!?いやしかし、確かにそこにあるサーヴァント反応は一つだ!!〉

 

「“炎の精霊(レンポ)”。それがオレの存在を現す真名だ。そして預言書の精霊たちは総てが宝具として登録されている。詳しい話は“雷の精霊(ウル)”にでも聞け。…今はいないがな。」

 

〈精霊…それでは、預言書のクラスは…?〉

 

考えられるとすれば、キャスターだと思うけど。

 

「…ルーラー。オレ達を知っているらしいおまえならわかるだろ。預言書という存在そのものが何を示すのか。」

 

〈…あぁ。良く、知っているさ。〉

 

お兄ちゃんがそう呟いた。預言書の、存在が何を示すか。

 

「…あ、そうだ。いつまでも今代の主のことを“おまえ”じゃいけないよな。名前、なんて言うんだ?」

 

レンポくんがそう聞いてきた。

 

「え…っと…リッカ。藤丸、リッカ。」

 

「リッカ、か。……鍵のルーラー…真名“預言書”。これからよろしく頼むぜ、リッカ!」

 

〈鍵の…ルーラー!?いつの間にか、立香ちゃんと契約していた!?〉

 

それは確かに、ドクターの言っていたサーヴァントの名前だった。

 

「契約は出来ても預言書が起動してなかったんだ。だからオレも外に出られなかった。だが…」

 

レンポくんはそこで言葉に詰まった。

 

「…リッカ。オレはおまえに…いや、おまえたちに、かもしれないが…それでも、告げなければいけないことがある。聞く覚悟は、あるか。」

 

私はそれに力強く頷いた。

 

「…良く聞け、リッカ!おまえは預言書に選ばれた。預言書を手にした瞬間からおまえの運命は大きく変わるだろう。これからおきる全ての事は…“()()()()()。」

 

〈なっ…!?〉

 

「ファー!?(神話だって!?)」

 

〈何を冗談を言っているのかしら…〉

 

〈…冗談なんかじゃねえよ、マリー。〉

 

〈え…?〉

 

〈今は聞いておけ。判断するには早い。〉

 

お兄ちゃんがマリーに結構強い言葉を発した。

 

「…今は理解できないかもしれねぇ。だがいずれ分かるだろう。…()()()()()()()()()()()()。預言書が現れたってのは、そういう事だ。」

 

〈嘘だ!!〉

 

〈うるせぇ黙って聞いとけロマン!!重要な話にひぐらしネタなんてぶちこんでくんじゃねぇ!!〉

 

〈なんでさっ!?〉

 

うん、これに関してはお兄ちゃんに全面的に賛成。

 

「今の世界は滅び、次の世界が作られる。これは避けられない運命だ!そしておまえの役目は、この世界が滅びる前に、次の世界に残すべき、価値あるものを預言書に記録していくことだ。」

 

私はそれに黙って頷く。

 

「記録する、って言っても分からないだろうが…簡単だ。おまえがいろいろな場所に行くと、その場所の情報が自動的に預言書に書き記されるんだ。見ろ、もう既にこの場所が書き記されているからよ。」

 

そう言ってレンポくんが開いたのは預言書の1481、1482ページ。記憶が正しければ、それはゲームの最後に手に入る新世界のパーツよりも後ろのページだった。地名“ジュラ”。…それにしても。

 

「…このページ数は一体…」

 

「…このメタライズ…このコード……まさか、ティアの時から預言書が初期化されてないのか?持ち運びには支障ないだろうが…」

 

レンポくんが呟いたその“ティア”という名前。確か、女性主人公のデフォルトネームだったはず。ということは、私の前の主…つまり、この世界を創った人は女の子だったのかな。

 

「流派情報はほとんど封じられてやがる、か…そんなことはどうでもいいか。…リッカ、重要なのはこの先だ。」

 

まって、流派情報封じられてるって…その流派って四大流派の東剣、西爆、北鎚、南飛…それから無手のことだよね!嘘でしょっ!?もしかしてあれ私使えるの!?その封印解ければ!!ちなみに私の推し流派は素手!たまにクルッって一回転して技放つの可愛いから!!

 

〈なんか興奮してね?おい、立香。レンポの話聞いとけよ?〉

 

そのお兄ちゃんの言葉でハッとなった。

 

「…続けんぞ。おまえが価値あると思うものを見つけたら、コードスキャンするんだ。」

 

〈コードスキャン?〉

 

「あーっと…分かんねぇ奴にもわかるように説明すっと、コードスキャンってのは預言書をバサッと押し付けることだ。」

 

微妙にわかりにくいよね、その説明…

 

〈えっとつまり?〉

 

「あー…つまりだな……説明すんのがめんどくせえな…」

 

ほらレンポくんめんどくさがっちゃった!!ていうかやっぱりゲームとほとんど性格一緒だね!?

 

「…ティアの時は近くにスキャンできそうなものあったんだがな。」

 

ていうかゲームでの最初のコードスキャンの説明、結構メタかったからね?“近づいてBボタンを押すんだ!”って。(作者コメント:これはガチです。ちなみに“あの花にコードスキャンしてみろ!近づいてBボタンを押すんだ!”って言ってました。)

 

「……お、こんなところに花があるじゃねぇか。ちょうどいい、こいつをスキャンしてみろ!」

 

レンポくんが示したのは白い花だった。私は頷いて、預言書のページを勢いよく花に叩き付けた。…うん、文字通り叩き付けた。

 

「何してるんですか!?」

 

正方のジャンヌさんが慌てた様子で言ってきたけど、別に花は折れたりしてない。

 

「よし、コードスキャン出来たな。わかるか?コードスキャンしても本当に取り込んじまうわけじゃない。情報だけが書き写されるんだ。だから、実体には何も影響はないんだぜ。……暴走した時を除けば、な。」

 

「暴走……」

 

「…あぁ。」

 

それで思い出すのは主人公と恋人の話。…やっぱり私に、あの話は辛い。

 

「…にしても、この花は何だ?誰か分かるやつとかいるか?」

 

通信の向こう側にレンポくんが話しかけた。

 

〈それは…“ツクバネウツギ”…分かりやすい名で言えば“アベリア”ですね。花言葉は“強運”、“謙虚”、“謙譲”です。〉

 

ルナセリアさんがそう言った途端、その預言書のページに花言葉と花の名前が浮かんだ。

 

「ルナセリアさん、カムイ君みたい。」

 

〈む…私は男の子ではないですよ。〉

 

〈違うぞ、ルナセリアさん。“アヴァロンコード”っていうゲームにはカムイっていう名前の青年キャラクターがいたんだ。花言葉をよく知るやつだった。なぁ、レンポ。〉

 

「あぁ。なんだ、今の時代まで伝わってんのか、オレ達の神話。」

 

今の時代…?

 

「…にしても、不運というか…なぁ。」

 

「え?」

 

…まさか、最後に預言書が現れたあの時から…預言書の最後の主と最後の主に寄り添う者が死んだあの日から、何年もの月日が経った今…またこの世界に預言書が現れるとは、な…

 

「…?」

 

「…いや、何でもねぇ。」

 

…よく聞き取れなかった。

 

〈ミスター・レンポ。預言書の精霊というのは一体どのような方がいるのでしょうか?〉

 

ドクターが通信の向こう側から聞いた。

 

「…ミスターはいらねぇよ。なんかめんどくせぇ。んで、精霊だったか?預言書の精霊はオレを含めて4人。…だった。」

 

“だった”?

 

「森の精霊“ミエリ”。宝具名は“森の精霊(ミエリ)”。何を考えてるのか今でもわからん、天然のヤツだ。」

 

私結構ミエリちゃん好きだけどね…パートナー精霊ミエリちゃんのこと多かったし。

 

「氷の精霊“ネアキ”。宝具名は“氷の精霊(ネアキ)”。暗くて冷たいヤツだ。」

 

そういえばレンポくんってネアキちゃんのこと苦手なんだっけ?

 

「雷の精霊“ウル”。宝具名は“雷の精霊(ウル)”。頭がいいけど説教好きだ。」

 

ウルさんかぁ…説明は助かるんだよね。

 

「そして、炎の精霊“レンポ”。宝具名は“炎の精霊(レンポ)”。このオレ様だ!一番すげえぜ!」

 

「私はミエリちゃん派かな…」

 

〈俺もだな。〉

 

確かミエリちゃんって人気投票8位だったけど私は好きだな…あ、レンポくんが落ち込んだ。

 

「…ともかく、前の世界までの精霊はこれで全部だ。…他の精霊たちに関しては、四精霊全員が揃ったときにでも話してやるよ。」

 

…なんか、レンポくんがどことなく辛そうにしているのが気になる。

 

〈では、情報開示をお願いしてもよいですか?預言書のステータス、ですが。〉

 

「…現時点のでいいよな?おい、預言書。サーヴァント性能を出せ。」

 

「了承。」

 

預言書本体からそんな声が聞こえたかと思うと、白い画面みたいなのが出てきた。

 

 

 

真名:預言書

 

性別:無

 

クラス:ルーラー/???

 

属性:中立/中庸 天

 

特性:神性 ???

 

ステータス:筋力E 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

 

炎の精霊(レンポ)

存在宝具

 概要:炎の精霊という存在そのもの。

 

炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)

対軍宝具

 概要:炎の精霊“レンポ”の精霊魔法。周囲一帯を炎に包む。

 

 

クラススキル

 

 

対魔力 EX~D

 

真名看破 EX

 

神名裁決 A

 

??? A

 

 

固有スキル

 

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

管理者権限

 概要:あらゆる事象を無効化、有効化する。それは例え令呪であろうとも例外ではない。

 

コードスキャン

 概要:対象の情報を写し取る。さらに対象の情報を自由に書き換え可能。

 

完全特効

 概要:あらゆる存在に対して特攻、特防を持つ。…が、現在この力はほとんど失われている。

 

 

 

〈なんだこれ!?サーヴァントの域超えてないか!?〉

 

ロマンがそう叫んだ。

 

「そりゃそうだろ。預言書はおまえらの言う“英雄”クラスのもんじゃねぇしな…」

 

なんとなくそんな気はしてた。

 

「フォウ…(あの本…まさか…ボクと同じ…)」

 

フォウ君がその預言書のステータスをじっと見つめていたのが印象的だった。

 

「…さて、預言書に関して話せるのは今はこれくらいか。」

 

〈では…お二人の事に移りましょうか。〉

 

その言葉で私達の視線は王妃様と音楽家さんに注がれた。え、なんで自己紹介してないのにわかるのかって?この2人、一番最初に“ただの王妃と音楽家”って言ってたから。…ミラちゃんってもしかしてこの人達と話が合ったりしない?……どうなんだろう。

 

「それでは改めて自己紹介をさせていただきますわね。わたしの真名は“マリー・アントワネット”。クラスはライダー。どんな人間なのかは、どうか皆さんの目と耳でじっくり吟味していただければ幸いです。」

 

〈マリー・アントワネット…!?18世紀フランスの王妃じゃない!〉

 

確かこの特異点は15世紀なはずだから、300年近く後の年代の人なんだね…

 

「それと、召喚された理由は残念ながら不明なのです…だってマスターがいないのですから。」

 

「そうですか…それで、あなたは…」

 

今度は音楽家さんの方に向けられる。

 

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。僕も、彼女と同じさ。なぜ自分が呼ばれたのか、そもそも自分が英雄なのか、まるで実感がない。」

 

…英雄、か。英雄って言うなら、預言書の私の前の主も英雄の座…だっけ。それに登録されててもおかしくない気がするけど。

 

「音楽のために魔術も多少嗜んではいたけど、それだって悪魔の奏でる音に興味があっただけなのにさ。」

 

〈そんなことのために魔術を…?〉

 

「マリーよ、覚えておけ。魔術師、ではなく魔術使いというものはそういうものもいるとな。贋作者に聞けばわかるであろう。」

 

〈私を引き合いに出すな、英雄王…〉

 

「…にしても、マリー・アントワネットか。パンがなければお菓子を食べればいいじゃない…これは有名よな。」

 

あれ、でもそれ…

 

「ごめんなさい、それ言ったの私じゃないと思うの。思い出そうとしても思い出せなくて…」

 

「何っ!?」

〈嘘っ!?〉

 

「どこかで見たけど確かそうだよ?“「ケーキを食べればいいじゃない」(ケーキをたべればいいじゃない)とは、フランス語の語句 Qu'ils mangent de la brioche !(「ブリオッシュを食べればいいじゃない」の意)を踏まえた英語の慣用句 Let them eat cake を日本語に訳したもので、農民が主食として食べるパンに事欠いていることを知った「あるたいへんに身分の高い女性」(une grande princesse) マリー・アントワネットが言った台詞とされている。ただし、これはマリー・アントワネット自身の言葉ではないことが判明している。”───確かwikipediaにこんなこと書いてあったよ。」

 

「あら…あらあらあら!異国の方、他の国の言葉も入っていたのに発音お上手ね!」

 

〈相変わらず記憶力良いこって…〉

 

お兄ちゃんが呆れたように言った。…そういえば。

 

「音楽家ってキャスターなの?」

 

「さっきも言ったとおり、僕は多少魔術を嗜んでいたのさ。もっとも、悪魔の出す音に興味を持っただけなんだけどさ。」

 

「というか僕の狩猟笛がキャスター適性を持つところから気づいてくれ、立香殿…」

 

あ、そっか。そういえば狩猟笛使ってるときはキャスター適性示すんだった。

 

「ダ・ヴィンチさんだっけ。あの人もキャスター適性だってことから、芸術家とか変人とかはキャスターになりやすいと考えておいた方がいいかもしれないね。」

 

「〈……あ~……〉」

 

なんかルーパスちゃんの言葉で納得しちゃった…

 

〈なんか変な納得のされ方した気がするのは気のせいかい?〉

 

「〈……〉」

 

〈なんでそこで黙るんだい?〉

 

いや…事実だし。

 

「それで異国のお方々?あなた達のお名前を聞かせていただけないかしら?」

 

「あっ…失礼しました、わたしはデミ・サーヴァントで、マシュ・キリエライトです。」

 

「サーヴァント・ハンター、ルーパス・フェルトだよ。」

 

「同じくハンター、リューネ・メリスだ。」

 

「旦那さん…ルーパスさんのオトモ、スピリスですにゃ。」

 

「旦にゃさん…リューネさんのオトモで、ルルにゃのですにゃ。」

 

「アオンっ!」

 

「このガルクはガルシアという。そして…」

 

「キャスター、ジュリィ・セルティアル・ソルドミネです。相棒…えっと、ルーパスさん共々よろしくお願いします。」

 

「…キャスター…もしかしたらフォーリナーの方が正しいかもしれないけど。…ミラ・ルーティア・シュレイド。よろしく、マリーさん。」

 

「マリーさんですって!?」

 

あ、マリー王妃が過剰に反応した。

 

「…駄目だった?」

 

「いいえ、なんて不思議な響きなのでしょう!ぜひマリーさんと呼んで!羊さんみたいで可愛らしいわ!あなたもそう思うでしょう?」

 

「それマリーさんじゃなくてメリーさんじゃ…」

 

〈もしもし、私メリーさん。今あなたの隣にいるの…〉

 

〈遠坂…ッ!?〉

 

「お兄ちゃん、都市伝説やめて。しかも無駄に可愛いし…」

 

「ほんと!この声を出しているのは本当に男性の方なのかしら?可愛い女の子みたい!」

 

〈光栄です…〉

 

〈いや、六花くんどこからそんな声出してるのさ!!〉

 

〈鍛えれば高音は広げられるらしいぞ、ロマン。使いたいなら鍛えるこったな。〉

 

「ふはははは!!今の声、第五次の贋作者のマスターの様であったな!!どうだ、贋作者よ。貴様のかつてのマスターに似た声を聞いた気分は!」

 

〈…心臓に悪いわ!!くそっ…赤い悪魔め…!!〉

 

なんかエミヤさんが悶絶してた。

 

「ふはははは!!六花よ!貴様に個別で念話を送る!!その言葉を先程の声で贋作者に言ってみよ!!」

 

〈あ?……了解。〉

 

通信の先から小さくため息をついたような気配がした。

 

〈うるさーい! いい、アンタはわたしのサーヴァント!なら、わたしの言い分には絶対服従ってもんでしょうーーー!?〉

 

〈了解した。地獄に落ちろ、マスター。……ハッ!?〉

 

何してるんだろ…ギルは笑ってるし…

 

「いかん、止めよ!!笑い死ぬではないか!!ふはははは!!」

 

〈英雄王、元はといえばおまえのせいだろう!!自分で蒔いた種だ、どうにかしろ!!〉

 

「ふはははは!!」

 

「と、とりあえず話を進めよう?ね?」

 

私がそう言うと、ひとまずその場は収まった。

 

「それでは次は貴女ね?髪も服も白い貴女!あなたは一体どんなサーヴァントなのかしら!」

 

「…アルターエゴ…名前も、記憶も…私には、ありません。」

 

「…あら。それは、言いにくい事を言わせてしまいました。マリー・アントワネット個人として、謝罪いたしますわ。」

 

その言葉にアルは首を横に振った。

 

「いえ。知らなければ聞いてしまう事は仕方ないと思いますから…」

 

「優しいのね。それで、あなたは?」

 

マリーさんの視線が私に向く。

 

「マスターの、藤丸立香です。」

 

「あら?貴女さっき、リッカと名乗っていなかったかしら。」

 

「…それは……」

 

どう言おうか迷い、視線を外すと、マリー王妃は私の肩に手を置いた。

 

「…言いたくないことなのかしら?でしたら強要はしません。誰にだって秘密の一つや二つ、あるものですもの!」

 

「…ありがとうございます、マリー王妃。」

 

「あぁ、ダメダメ。私のことはマリーさんと呼んで?お願い!」

 

「あ…はい。」

 

マリー王妃、じゃなくてマリーさんは結構押しが強いみたい。で、次にギルの方に視線がいったんだけど…

 

「我はあとでよい!先に後ろの者達を紹介せよ!」

 

っていう事だから一応カルデアの方の主に補助してくれる人達を紹介することになった。

 

〈では僕から。僕はロマニ・アーキマン。カルデアの医療を担っています。どうぞ、お見知りおきを。〉

 

〈オルガマリー・アニムスフィア、立香達の所属するカルデアの所長です。親しい人からはマリーと呼ばれていますが…〉

 

「では私のことはマリーさん、あなたのことはマリーでいいと思うのですが…」

 

〈良いのですか?〉

 

「はい!」

 

なんか呼び方に関しては本人たちの間で決まったみたい?

 

〈ルナセリア・アニムスフィアです。カルデアの所長…マリーの妹です。一応、医療部門の人間です。〉

 

「あらあら、姉妹揃って同じところにいるのね!仲がよろしいのかしら?」

 

〈私はお姉ちゃんのこと大好きです!〉

 

〈恥ずかしいからやめてちょうだい…〉

 

マリーが恥ずかしそうに言ってる。

 

〈で、俺か。俺は藤丸六花。姓からわかると思うがそこのマスターの兄だ。チーッス。〉

 

お兄ちゃん、王妃様にそれでいいの!?ミラちゃんもなんか苦笑してるんだけど!?

 

「まぁ、面白い挨拶ですね!チ……チーッス!シクヨロ!」

 

なんかマリーさんキャラ崩壊起こしてない?

 

「むむ…六花さんとは根本的に違うような…もっと庶民の気持ちにならないと駄目なのかしら…?」

 

「実際王族と庶民の価値観って寄り添おうとしてもズレが生じるからね…」

 

「まぁ!ミラさん分かるの?」

 

「これでも王位継承者だから…ロマンさん、マリー・アントワネットさんはどんな人だったの?」

 

そっか。ミラちゃん達は別世界の人だから知らないんだ。

 

〈フランスを愛し、フランスに愛された王妃。さっき否定されたけど、“パンがないならお菓子を食べればいいじゃない”と言うほどお金遣いが荒い人、かな?〉

 

「私自身、それが王妃の仕事だと思っていましたの。ですが私が使えるお金など、国家予算などからすれば微々たるものでしかないのです。」

 

「ちなみに、フランスの財政難は度重なる戦争と、戦争費用の割に大した戦果が得られなかった事が原因であって、ルイ十四世の治世末期にはすでに顕在化していたらしいよ。どっかで読んだけど。」

 

〈ほへ…僕は全く知らないんだなぁ…〉

 

意外と知らないことって多いよ?

 

「う~ん…」

 

「あと、チーッスは封印した方がいいと思うよ?」

 

「あら、どうして?」

 

「…色々と、ね?立香さんが複雑な顔してるし。」

 

「あらら…刺激的ですけれど封印することにしますわ。」

 

「そうかい?僕はいいと思ったけどね。」

 

「…アマデウスが喜ぶということは淑女が使う言葉ではないということですもの。」

 

何気にモーツァルトさんに対する評価酷いねマリーさん…

 

「あ、やめてくれよそういう風評被害。まるで僕が下ネタ大好きの変態紳士みたいじゃないか。」

 

〈事実だろ?〉

 

「しりません。あなた、音楽以外では童心に返りすぎですから。」

 

あ、モーツァルトさんが凹んだ。

 

「…それからこちらが───」

 

「ジャンヌ。ジャンヌ・ダルクね。フランスを救うべく立ち上がった救国の聖女。生前からお会いしたかった方の一人です。」

 

「…私は聖女などではありません。」

 

「ええ。貴女自身がそう思っていることは皆分かっていたと思いますよ。でも、少なくとも貴女の生き方は真実でした。その結果を私達は知っています。だから皆が貴女を讃え、憧れ、忘れないのです。ジャンヌ・ダルク。オルレアンの奇跡の名を。」

 

「……」

 

あ、正方のジャンヌさんが恥ずかしそうにしてる。

 

「ま、その結果が火刑であり、あの竜の魔女なわけだが…良いところしか見ないのはマリアの悪い癖だ。」

 

アマデウスさんも結構厳しく言うね…

 

「…それで、黄金のあなたは?」

 

「我か。我はプレミアのサーヴァント、英雄王ギルガメッシュよ!!」

 

〈…プレミア、ねぇ。何なんだろうな。〉

 

「おーい、無視かい!?」

 

…頑張って。

 




うにゅ…

裁「ゆっくり休んでね…」


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第35話 寝静まる深夜にて

弓「またギリギリではないか…」

上手く時間が取れないね…どうしたものかな


 

夜の森、全員が寝静まったころ。僕は一人、木の上で周囲を警戒しながらルーパスやジュリィ殿、ルルやスピリス、ガルシアのを含めて武器を研いでいた。

 

「…ふむ。」

 

今研磨しているのはルーパスの前回使用していた“マグダ・ラハト”。熔山龍“ゾラ・マグダラオス”の素材から作れるガンランスだという。

 

「やはり、新大陸は大陸とはまた違う機構を用いているな。面白い…」

 

弓使いのルーパス。狩猟笛使いの僕。その第二得意武器はルーパスはガンランス、僕は太刀になる。僕はルーパスの母の得意武器を、ルーパスはルーパスの父の得意武器を受け継いだ。第二、ではあるが。

 

「…やはり、夜の森は少し怖いね。だからと言って、今は何とかなるか…」

 

自分の苦手とするのもを思い出しながらそう呟いて、僕は武器の研磨作業に戻る。

 

「…森に敵影無し。いたって平常だよ、マリア殿。こんな僕に、何か用かな?」

 

「…あら。気がつかれておりましたか?」

 

僕の声に下にいたマリー・アントワネット殿が反応した。僕らのように基本的に呼び方を変えない者は、マリーだけだと分かりにくくなるため、マリアと呼ぶことになっている。

 

「君の音がしたからね。」

 

「ふふふ。アマデウスと同じようなことを言いますのね。」

 

「よしてくれ。僕は彼みたいに変態ではない。ただの聴力が優れているだけの、狩人に過ぎないのだからね。」

 

「うふふ、アマデウスと同じは流石に酷かったかしら?でも…そうですわね。アマデウスから変態を抜けばあなたになりそうですわね。」

 

「ははは。…どうだろうね。僕は彼とは違う。能力が似ただけの、ただの別人でしかないのにさ。」

 

一応、音感ではなく聴力を全開で運用すればこの森一帯を警戒範囲として監視下に置くことはできる。僕の絶対音感は“音楽”というものに対してのみ働くという性質もある。そして、その音を“音楽”として僕が認識、定義してしまえばそれを絶対音感で聞き取り、記憶し、それを特定することができる、というのもあるが…生憎と僕は高速処理を得意としていない。だから僕は味方を見ずに判別する際は時間をかけて音を記憶する。今この森にいる味方達は既に全て覚えたため、誰が近くに来たのかなどは判別できる。高速処理を得意としないと言っても、3時間ほどあれば大体記憶はできるのでね。

 

「ルーパスがこの絶対音感と聴覚を持っていれば、もしかしたら彼のようになっていたかもしれないけれどね。」

 

「…音楽使いの狩人様?よろしければ隣に行きたいのですが…」

 

「あぁ、すまない。今降りよう。」

 

僕はその木から降りて、マリア殿の隣に座った。

 

「あら…音楽使いの狩人様も私と同じような座り方をしますのね。」

 

「僕だって一人の少女なのでね。…まぁ、19歳を少女と言えるかは疑問点があるが…」

 

「うふふ、そうでした。」

 

「…にしても、何故僕なんかの所に来たんだい?さっきまで立香殿たちと一緒にいたはずだろう?」

 

そう。僕は彼女たちの邪魔にならないように、そして彼女たちに休んでもらいたいという意志の下、彼女たちのいる場所から離れ、森全体に聴力の網、ともいえるようなものを張って警戒をしていたのだ。ルーパス達から武器を…信頼している一本以外を預かって。ジュリィ殿やユクモ村、我らの団、ナグリ村、ベルナ村、ココット村、ポッケ村、龍識船…そしてカムラの里の加工職人殿達が言っていたが、狩猟中に砥石で研磨していたとしてもやはり武器や防具の劣化はする。その劣化を抑える方法は、加工職人殿達に定期的に見てもらうか、こういった戦闘中ではない時に入念に研磨をかけておくとそれなりに劣化を抑えることができるらしい。武器の整備に関して、特に僕やルーパスのような世界を飛び回るようなハンターには加工場に行くことも少ない人が多いようで、せめてその使っている装備を大事にしてほしい、ということで加工場に赴かずに劣化を最小限まで抑える方法を教えているのだという。…それでもあくまで“加工場を使わない最小限”なので実際には定期的に加工場に顔を出した方がいいらしいのだが。

 

「確かに先程までジャンヌたちと話していたのだけれど、眠ってしまったので。お嫌でしたか?」

 

「嫌じゃないさ、わがままな第三王女の方がよっぽど苦手だ。」

 

「あら……あの、狩人様?眼が死んでおりますわよ。」

 

「当然だろう…何故連続狩猟ばかりなんだ?何故雌火竜に挑みに行くんだ?何故金獅子を飼いたいと言い出すんだ……?そして何故金獅子を捕えに行く!?王女であってハンターではないだろう!?」

 

「……お、お疲れ様です…なのかしら?」

 

「彼女が似たようなことをするのは一度や二度ではない!雌火竜はまだいい、下位にもいるものだ。だがよりによって上位以上に存在を見られる桜火竜や金火竜に挑みに行くとは何事だ!!第三とはいえ王女だろう、それでいいのか!!」

 

本気で彼女には疲れさせられる記憶しかない。というか彼女は女王ではないのに“真の女王”の座をかけて陸の女王に挑むとはどういうことだ…?“わがままな第三王女”には僕の父や母も悩まされていたということだから何とも言えない。ルーパスと共に行動しているとき、“わがままな第三王女”の名を見た時、二人してため息をついて頭を押さえていたのは今でも覚えている。その点、ミラ殿は我儘でもなく逆におとなしい、“聡明な第一王女”と似たような雰囲気を感じるが…まぁ、本人ではないだろう。彼女も彼女でモンスターを使役する者…“モンスターサマナー”であるわけだし。しかも正式にギルドに登録しているらしい。その点はわがままな第三王女とは違う点であろう。む、なぜわかったかと?試しに聞いてみたら僕らと似たような“ギルドパス”というものを持っていた。ギルドパス───僕らの世界では正式名称“ハンターズギルド所属ライセンスパスカード”。ミラ殿の世界では“サマナーズギルド所属ライセンスパスカード”。ハンターランクや所属ギルド、本人の氏名を記載する、立香殿の言葉を借りれば“身分証明証”だ。…やはり、世界が違うとはいえ似ているために同じような機構が存在するようだ。…と、マリア殿が少し引いたように僕を見つめているのにやっと気がついた。

 

「……すまない、マリア殿に言っても分からないか。空気が読めず申し訳ない。」

 

「い、いえ。」

 

「…そういえばマリア殿。アマデウス殿もだが、君達は何故僕らを見つけたんだ?」

 

少し前から疑問に思っていたことを聞いてみる。

 

「簡単ですわ。」

 

「む?」

 

「狩人様、この森に来る前に、ラ・シャリテに行く前に。砦にいらっしゃいませんでしたか?」

 

「砦…ワイバーンを叩き落したあの砦のことだろうか。」

 

思い返してみると地味にひどいことをしている気がするぞ、僕ら…

 

「えぇ!私達はその砦で聞きましたの!骸骨の魔物を瞬時に蹴散らす弓使いさん、ワイバーンが空中にいることも関係なしに空中で戦い、ワイバーンをまるで玩具のように鈍器で殴り続ける元気な少女と少年のような少女の二人組!そして地面に叩き落とされたワイバーンを受ける大盾の少女!終わった後にはワイバーンを調理して振舞い、飲むと傷が癒える緑色の飲み物や薬草を虚空から出す方!…猫が2匹、人が8人、狼が1匹で構成された方々!!そんな方々がいるのならば、会ってみたいと思うのが普通ではなくて?」

 

「そうなのか…?僕にはよくわからない。というか、僕はやはり少年のように見られるのか…」

 

紛らわしいと自覚していないわけではないが、少しだけ辛いものがあるのも事実なのである。

 

「男装の麗人、というのも私は好きですわ。生前にいた方を思い出します。シュヴァリエ・デオン、というのですけど。女であり男、男であり女、として語られる文武両道の剣士にして文筆家ですわ。」

 

「剣士、か…」

 

「えぇ!白百合の如き剣士、私が生前ドレスを贈った方です!先程女であり男、男であり女とは言いましたが、私は彼女を女性として見ていましたわ。」

 

「…白百合の如き剣士……」

 

そういえば、敵側にいた気がする。剣の冴えが凄い、男性か女性か見ただけでは分からない可憐なセイバーのサーヴァントが。あのサーヴァントを言葉で表すならば、“白百合の如き剣士”になるのではないだろうか。

 

「ねぇ、狩人様?良かったら貴女のこれまでのお話、聞かせてくださらない?」

 

「僕の、かい?」

 

「えぇ!弓の狩人様に聞いたのだけれど、貴女達はこの世界とは別の世界から来た方なのでしょう?聞いてみたいわ、この世界とは違う、貴女達のお話を!」

 

「そうか…あまり面白い話ではないよ?それでもいいのかい?」

 

「はい!」

 

僕は手元の“シャミセン【狼】(所有者:ルーパス)”の弦の調子を見ながらマリア殿に話した。

 

 

小さい頃はルーパスに姉だと思われていたこと。

 

ハンターを始めた直後、ジャギィに二人して苦戦したこと。

 

ハンターを始めた1年後、ルーパスの父と母、それからルーパスと共に古龍種の中でも禁忌のモンスターと呼ばれる煌黒龍“アルバトリオン”と戦いに行ったら一撃貰ってしまい、ルーパス共々真面目に死にかけたこと。ちなみに当時9歳。

 

10歳の頃、唐突に僕がルーパスと姉妹ではないと明かされたこと。少し塞ぎ込んだが、ルーパスのおかげで立ち直れたこと。煌黒龍“アルバトリオン”と煉黒龍“グラン・ミラオス”をルーパスの父と母の力を借りずに討伐したこと。

 

11歳の頃、ルーパス共々奥義を編み出したこと。その時戦っていたのは蛇王龍“ダラ・アマデュラ”だったのだが…まぁそれはいいか。

 

12歳の頃、狂竜ウイルスの原因を突き止め、天廻龍“シャガルマガラ”を倒したこと。同じような時期に禁忌のモンスターと呼ばれる黒龍や紅龍そして祖龍や紅竜の特殊個体とまで戦ったこと。これで禁忌モンスターは全制覇していたと言ったら驚かれた。

 

13歳の頃、夫婦と言われ始めたこと。ずっと一緒にいたからかピンと来なかったが、外部からは仲のいい恋人同士、というよりは結婚した男女に見えてたらしい。この頃には本当に様々なモンスターと戦っていたこと。

 

14歳の頃、泡狐竜“タマミツネ”や斬竜“ディノバルド”、巨獣“ガムート”、電竜“ライゼクス”などの動きが活発になったこと。

 

15歳の頃、天彗龍“バルファルク”と戦い、倒したこと。

 

16歳の頃、ルーパスと僕が新大陸古龍調査団に所属することの推薦を受けたこと。僕はそれを拒否し、ルーパスは了承して僕は大陸を、ルーパスは新大陸を護ることになったということ。その時にある装備を預かったこと。

 

17歳の頃、ルーパスが新大陸に渡ったこと。僕はベルナ村を基本拠点にし、各村長やキャラバンの人たちから依頼を受けていたこと。

 

18歳の頃、とある依頼によってカムラの里に渡り、自分の父と母に18年という年月を経て再会したこと。カムラの里を、里の力を合わせて百竜夜行から護りきったこと。

 

そして今、この世界に来てルーパス達と再会したこと。

 

 

…結構長く話していたが、マリア殿はそれを静かに聞いていた。

 

「…こんなところか、僕らの旅路は。」

 

「すごいですわね…いつか貴女の世界に行けるかしら?」

 

「…どうだろうね。僕たちが道を見つけられれば、可能性があるかもしれないが……む」

 

僕の耳が森の中で何かが動く音を捉えた。それを捉えた直後に、僕は手元のシャミセンで一音、弾いた。

 

「どうされました?」

 

「……マリア殿、皆を起こしてくれ。」

 

「…?」

 

「敵襲。ワイバーンが約60、人が1。恐らくこの“人”はサーヴァントだろう。」

 

「…!わかりました、すぐに起こしてきますわ!」

 

「頼む。…さて、待ち構えるとしようか。」

 

僕はアイテムボックスから狩猟笛を出し、戦闘態勢を整えた。




ん~…そういえば第一宝具、第二宝具とかの順番ってどうやってついてるんだろ…

裁「知らない…」


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第36話 竜を従えた聖女、龍と契約した王女の宝具

弓「…ほう?“龍と契約した王女”、とな。」

最近タイトル思いつかないんだよね…さてと、どうしようかな…

裁「…あまり無理はしないように」

う~ん…投稿速度上げたいんだけどね…どうしたものかな…


 

「…こんにちは。寂しい…夜ね。」

 

そう告げて私達の前に出てきたのはここに戻ってくる前にいた…

 

「聖マルガリタさん?」

 

「…誰よそれ…」

 

ではないらしい。

 

「…参った、囲まれているぞ。敵意のある存在の音というのはやはり不愉快だな…」

 

「え…」

 

「フルフルの叫び声だとでも思え、ルーパス。悪いが僕にも聞こえている。数はワイバーンが150、サーヴァントが1人…この目の前にいる人だな。」

 

「あ…なるほど…」

 

「リューネちゃんも分かるんだ…」

 

「これでも絶対音感持ちでね。アマデウス殿のような変態と一緒にはされたくないが同じようなことはできるさ。…相当頭が痛くなるがね。」

 

リューネちゃんが少し嫌そう、辛そうな表情で言った。

 

「心外だな。僕は変態じゃないさ。」

 

「なら今記憶しているものを言ってみなよ。六花殿から聞いた時、どうせやるだろうとは思っていたのだが…」

 

「僕をなめるなよ?音楽家ってだけでサーヴァントになった男だぜ?マシュや立香、ジャンヌやミラ、アル、ルーパスの寝息や生体音、寝返りの音や服の擦れる音なんか、全て記憶済みさ!!」

 

「「「へ、変態……っ!」」」

 

「なんつう変態だコイツ…正直ミエリとネアキが心配になるぞおい…」

 

レンポくんも結構引いてた。苦手としているネアキちゃんのことも心配になるってそれほどなんだろうね…

 

「ただまぁ、下着の音とかリューネに関しては謎に発する不快な音のせいで聞き取れなかったけどさ。」

 

「させると思うか。こちらとて音楽使い、君を妨害する方法などいくらでもある。君には君が不快だと思う音を常に叩き込んでやった。」

 

「君性格悪いとか言われないかい?ねぇ、ルーパス?」

 

「私はリューネのこと好きだよ?」

 

きょとんとしたようなルーパスちゃんの言葉に、リューネちゃんが顔を赤くしていた。…リューネちゃんって褒められるとか純粋な好意に弱いのかな?

 

「…ところでアマデウス。色々な音が聞こえていたということは、私達の話も聞こえていたのかしら?」

 

「あぁ、もちろん。まぁ本来なら下ネタや罵倒を浴びせるところだが、リューネからは…いや、リューネ達からは汚いような音がしないからね。興味深い話も聞けたし、そんなことをするのはやめて置こうじゃないか。」

 

「…そもそも盗み聞きする時点で最低というのは言わないでおいておくか。別に聞かれて困る話でもないといえばない。」

 

「先輩!セクハラサーヴァントです!!撃退の許可を!!」

 

「マシュ、落ち着いて?」

 

「ごめんなさい。監督役として謝罪します───でも我慢して?だって、リューネさんとは違って彼から音楽を取り上げたら変態性だけしか残らないのですもの!」

 

やっぱりマリーさんって地味にアマデウスさんに対して当たりが強いというかなんというか。

 

「…よい仲間たち。私達とは大違い。」

 

ふと、相手のサーヴァントがそう呟いた。

 

「…何者ですか、貴女は。」

 

ジャンヌさんがそう問いかける。

 

「何者……?そうね。私は何者なのかしら。聖女たらんと己を戒めていたのに、こちらの世界では壊れた聖女の使いっ走りだなんて。」

 

「壊れた、聖女…」

 

それは、負方のジャンヌさんのことなのだろうか。それとも、彼女自身のことなのだろうか。

 

「…聖女、か…だからなの?その狂暴性を抑えていられるのは。」

 

ミラちゃんがそう聞いた。どういうこと…?

 

「貴女の気配。それは、狂竜化した獣魔たち、もしくは獰猛化した獣魔たちに近い。なら、強い狂暴性を持つはず。……違う?」

 

「…えぇ。今も衝動を抑えるのに割と必死よ。困ったものね、全く…だから、期待されても味方になることはできないわ。」

 

「…」

 

「そんな顔しないの。気を張っていなきゃ、貴女達を後ろから攻撃するかもしれないサーヴァントが味方になれるはずもないでしょう?」

 

私は寝る前、レンポくんに聞いていた。今の預言書は何ができるのかを。その答えは、“ほとんどのことができない”だった。コードの書き換え、武器の召喚、ページにある場所への転移。それらすべてが封じられ、残っているのはコードスキャンで情報を写し取る力と精霊魔法。そして、“預言書に残った最後の力”だけだという。恐らく、精霊達が集まれば預言書の力も元に戻っていくだろうとのことだけど。

 

「…サーヴァントはマスターには逆らえぬ。マスターよ、そういうものだと飲み込むがいい。…だが、マスターは今こやつを理解しようとしたのだ。理解しようとしないことと理解できないことは違う。それを、忘れるでないぞ、マスターよ。」

 

「…うん。」

 

ギルの言葉が身に染みる。

 

「…私は監視が役割だったけれど。最後に残る理性が、貴女達を試すべきだと告げている。」

 

試すべき。ならこれは、私達にとっての試練なのだろう。

 

「貴方達の前に立ちはだかるのは“竜の魔女”───究極の竜種に騎乗する、災厄の結晶よ。竜を殺す力が、竜を滅する力がなければ、勝てるようなものではないわ。…あの、邪悪なる竜には。」

 

〈邪悪なる竜…?まさか、嘘でしょう…?〉

 

〈マリー?〉

 

〈ニーベルンゲンの邪竜…そんなの、ギルがいたとしても勝てるかどうか怪しいわよ…!!ハンターはともかく…!!〉

 

「…いや、どうだろうな。先の戦いで僕らの力は見せてしまっている。ならば、僕らより強く強化していると考えるのが普通だろう。」

 

リューネちゃんが言うのも分かる。けど、そんなのどうしたら…

 

「もしも、この特異点にその竜に対する“カウンター”がいるなら。ならそのカウンターは、その竜に関連する者。その竜に、存在自体が特効になるもの。…なんじゃ、ないかな。」

 

ルーパスちゃんの言葉に相手が少し反応した。

 

「…私ごときを倒せなくば、竜の魔女に勝つなど不可能。私の総てをもって、あなた達を試す。」

 

「貴女は…!!」

 

「…なら、私はワイバーンの処理をするよ。…私からしても、あれを見ているのはイラつく。」

 

ミラちゃんがそう呟いた。

 

「六花さん。固有結界を、お願いしてもいいかな。この森を荒らしたくない。」

 

〈……いいぜ。だが、何をする気だ?〉

 

「簡単───私の宝具の一つを開放する。出来るだけ広く、見晴らしがよく。この森全体の生き物を包み込めるものを。」

 

〈…了解。…顕現せよ、我が固有結界の二。“起源にて広大な草原(グラスフィールド・ザ・プレミアルーティ)”〉

 

その詠唱があたりに響いた時、私達のいる場所が広大な草原に変わった。

 

「わぁ…!!」

 

「…見事なものね。」

 

「ほう…思う存分暴れられるようなものだ。六花よ。貴様、一体いくつの固有結界を持っている?」

 

〈さぁね。安息の花園と原始の草原、希望の雲海、夢見の樹海、静穏の深海…それから一対の部屋と終焉の宇宙くらいしか覚えてねぇ。〉

 

〈7つって…持ちすぎじゃないかしら?〉

 

〈知るか。〉

 

まぁ確かに持ちすぎな気もしなくもないけど。…っていうか一対の部屋ってなんだろ?なんで“部屋”なんだろ??他は室外なのに。

 

〈…で、ミラよ。それで十分か?〉

 

「…うん。ありがとう。」

 

「…何か嫌な予感もするけれど。いいわ。これで私の宝具も思う存分暴れられるというもの───!!出でよ、“大鉄甲竜・タラスク”───!!」

 

その声に応じて、彼女の背後に新たな存在が現れる。牛よりも肥え、馬よりも長大で、その顔面は獅子のごとく、鋭い歯は剣のごとく、たてがみは馬のごとく、切り立つ背中は斧のごとく、にょきにょき生えた鱗は錐のごとく、六本の脚は熊の爪のごとく、一本の尾は蛇のごとく、二つに分れた甲羅はそれぞれ亀のごとく。調べたことのある“タラスク”の特徴。ならば、彼女は───!!

 

「我が真名、マルタ!!私を越えねば、あなた達の願いが叶うことなどないと知りなさい!!」

 

〈マルタ…聖女マルタだって!?彼女はかつて、竜種を祈りだけで屈服させた聖女だ!!その彼女がサーヴァントということはつまり…!!ドラゴンライダーだ!!〉

 

「聖マルタ…!!貴女は…!!」

 

「来なさい、竜の魔女と瓜二つの聖女。我が屍、乗り越えられるか見定めます!!」

 

「…さて、私も準備しなきゃかな。」

 

ミラちゃんのその言葉があたりに響いた。それと同時に、少しだけ嫌な予感。

 

「…これは、我が宝具の一端。我が契約の一端……」

 

ミラちゃんの詠唱が始まる。なんだろう。…()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「我が断片、ここに開放する。契約の下、その力を解き放たん。」

 

「…龍気が、濃くなった」

 

ルーパスちゃんがそう呟いたのが聞こえた。龍気っていうのは、確か竜の強さを示すようなものだって言ってたような…

 

「告げる。ここに我が契約、我が力、我が禁忌───我が断片をここに示す。」

 

〈魔力反応増大!!気をつけろ皆、既にミラちゃんが纏っている魔力は───()()()()()()()()()()ぞ!!〉

 

どういう、こと───?

 

「我が体は黒き龍。御伽噺に伝わる、黒き災い。」

 

「…まさか。」

 

「嘘だろう?」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんがあり得ないというような表情をしていた。

 

「告げる。宝具解放───」

 

その瞬間、ミラちゃんの姿が消えた。

 

 

 

───“怖れよ、汝が対峙するは黒き生ける災い(アクティベート・ドラゴン:ミラボレアス)

 

 

 

その声が聞こえたかと思うと。そのミラちゃんのいた場所にいたのは。黒い、龍。前に見せてもらった、黒龍“ミラボレアス”。

 

ゴルゥゥゥ…

 

「なっ…なによ、あれ…!!」

 

「黒龍“ミラボレアス”…禁忌とされるモンスターの一角です、相棒!ですが、こんなところで…」

 

そのミラボレアスは、ルーパスちゃんをじっと見つめていた。その後、興味を失ったかのように視線を外し、ワイバーンたちに火を吐いた。

 

「…今は、信じよう。彼女を。」

 

「…僕らは、タラスク。そうだね?僕らも似た宝具があるから何とも言えないし。」

 

「うん。やるよ、立香。」

 

「う、うん…!今度こそ───来て、“ヘラクレス”、“アルトリア・ペンドラゴン”!!」

 

私がそう告げると、カルデアに接続された回路を道として2騎の召喚が成される。

 

「───■■■■■───!!!」

「───始めましょう…マスター」

 

〈ヘラクレスは魔力消費が多い!…っつーか騎士王も多めだ!!やるなら短期決戦にしろよ、立香!!〉

 

「うん…!!」

 

「我らはミラの補助と行こうではないか。たった一匹だけでは処理できぬこともあるであろう?」

 

ォォォォォ

 

ギルとアマデウスさん、マリーさんはミラちゃんの補助。ジャンヌさんは聖マルタさんと交戦。残った私達はタラスクと対峙することになった。

 

「マシュ・キリエライト───行きます、先輩!」

 

…ここに。竜を従えた聖女との戦闘が始まる。




……

裁「…なんか死んでない?」

弓「気にするでない、霊基は24:00で自動的に復元されるらしいからな。」

裁「…ちなみにソースは?」

弓「Luly自身のtwitterよ。これよな。https://twitter.com/Stella_cre_soul/status/1364029500950867969 」

裁「そっか…」

弓「2021/03/02になれば自動的に復元されているであろうよ。(投稿手続き時刻2021/03/01 21:45)」


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第37話 聖女VS聖女、竜VS守護者、亜竜VS龍。そして、歪む空間

う~…終わらなかった

裁「5000字…」

弓「気を張れ、マスターよ。」

ん…あ、今回もなぜかタイトル入りきらなかったのでここにタイトル置いておきます



第37話 聖女(マルタ)VS聖女(ジャンヌ)(タラスク)VS守護者(ガーディアン)亜竜(ワイバーン)VS(ミラボレアス)。そして、歪む空間




「はぁぁぁっ!!」

 

「甘いわよっ!!」

 

二人の聖女が、白き聖女が掲げる旗と聖十字の聖女が持つ杖がぶつかり合う。

 

「───はっ!」

 

「くっ…!」

 

聖女が杖を振るえば奇蹟が発動する。詠唱を伴わぬ魔力の炸裂───それが戦いをやりにくくしている。

 

「逃げてばかりでは活路は開けませんよ!」

 

聖十字の聖女───マルタが白き聖女───ジャンヌに指摘する。

 

(詠唱を破棄して祈りのみで奇蹟を行使する───まさにそれは聖なる人の技!)

 

思考を巡らせている最中にも、ジャンヌの保有するスキル“啓示”───目標を達成するために最適の道を選ぶスキルを最大限活用し、マルタの攻撃を回避し、攻撃を続けていた。

 

「…そこっ!」

 

「くっ…重い、わね…!」

 

「伊達に、恋などもせずに旗を振るい続けたわけではありませんから…!!」

 

「そう───」

 

一方は筋力B。もう一方は筋力D。本来なら、その差は埋めることが叶わない。だが、筋力Dの今のマルタには、筋力Bのジャンヌにはない一手がある。

 

「舐めんじゃ、ないわよ!!」

 

それ即ち───狂化。マスターによって付与された、本来の彼女にはない狂暴化するスキル。“狂気”というものは正しく扱えば大きな力となる。危険だが、強力。強い自己をもってそれを扱えば、狂気は利となる。もっとも、文字通り狂わされるものであるため、それが難しいのだが。しかし、もしもその狂化の力が弱くとも、ステータスが落ちている今のジャンヌには十分な一手。

 

「てぇいっ!!」

 

「っ!」

 

ジャンヌが蹴り飛ばされ、マルタとジャンヌに距離が開く。

 

「…かかってきなさい。狂気に堕ちた騎手の聖女すら倒せなくば、貴女に未来はありません。」

 

「言われ、なくとも…!!」

 

ジャンヌとマルタは再度ぶつかる。

 

 

───立香side

 

 

 

「■■■■■───!!!」

 

「そこです!」

 

ヘラクレスさんとアルトリアさんがタラスクと戦ってる。私はそれに目を離さず、そしてこの固有結界で起こる戦闘の状況を観る事に集中を割いていた。何かがあった時に、すぐにでも対応ができるように。

 

「■■■■───!!」

 

「グォォォ!」

 

「逃がしません!」

 

ヘラクレスさんとアルトリアさんが連携してタラスクを追い詰めていく。戦っていると、私の魔力がどんどん減っていくのも感じられる。

 

〈気ぃ失うなよ、立香!〉

 

「わかって…る!!」

 

〈しかし流石ギリシャの大英雄だな!!英雄王も狩人達もすごいが、こっちはこっちで別の凄さがある!!〉

 

ギルは大量の武器による手数。ルーパスちゃんたちは多分…技術。だとしたら、ヘラクレスさんは純粋な力、かな?

 

〈ロマニ、そんなこと言っている場合じゃないわよ!カルデアの魔力リソースを立香に回しなさい!!いくら魔力が多いと言っても大英雄、英雄王、騎士王を維持するなんて無茶があるわ!!セリア、立香のバイタルは!?〉

 

〈現在正常、しかしもう少しで注意域まで突入します!!〉

 

〈大至急!!立香、意識はちゃんと保ってなさい!!無理があるようなら分割思考切りなさいね!!〉

 

「うん…!!」

 

私は返事をして分割思考を切り、ヘラクレスさんとアルトリアさん、マシュに意識を集中させた。

 

「■■───!」

 

「グォォォ」

 

「…っ!ヘラクレスさん!!」

 

炎を吐く行動に入ったタラスクとヘラクレスの間に、マシュが割り込む。

 

「■■」

 

「ヘラクレス、何を───!!」

 

「え、きゃ───!!」

 

ヘラクレスさんが近場にいたアルトリアさんとルーパスちゃんを上空に投げた。…力持ちだなぁ

 

「……この高さ…行きます、“風王鉄槌(ストライク・エア)”!!」

 

「処理が追い付かないから三連射撃っ!」

 

そう言い放った瞬間、アルトリアさんの剣から圧縮された風が放出され、それがタラスクの頭に刺さる。ルーパスちゃんは2、3本の矢をタラスクに向けて放った。

 

「安心してください、峰打ちですから」

 

〈いや峰打ちなのかあれ?〉

 

「峰打ちです」

 

〈さいですか…〉

 

峰打ちらしい。

 

 

───三人称side

 

 

 

「ガァァァァ…」

 

ミラボレアス。伝説の黒龍と呼ばれし黒き災厄。それが今、広大な草原の上で仁王立ちのような状態でワイバーンと対峙している。

 

「…グルルルル…」

 

低い咆哮。というより、威嚇だろうか。その声からは、少なからず苛立ちの念を感じる。

 

「龍よ。我が声が聞こえるか!!」

 

「グルッ!?」

 

その大声にミラボレアスが反応する。その声の方向には、金の鎧を纏う王と可憐な王妃、そして音楽家の姿。

 

「貴様がどんな存在かは知らん。だが龍よ、一つ言っておく!もしもあ奴らを落とし忘れたとしても、それに気を割くな!落とし漏れは我らで消し去ってくれる!」

 

「実際、ドラゴンただ一匹に全部倒されたら僕らがいる意味がないからね。君は落とし漏れとか気にせずに戦ってもらっていいよ。」

 

「えぇ!そしてドラゴン様?終わった暁にはあなた様の背中に乗せていただけないかしら?」

 

「…ふはははは!!マリア、貴様怖いものなどないか!?」

 

「あんな威厳のあるような龍だ、それを了承してもらえるとは限らないけど?下手したらそのまま噛み殺されるんじゃないのかい?」

 

「………」

 

ミラボレアスは王妃───マリー・アントワネットを見つめていた。

 

「……」

 

その後、興味を失ったかのように視線を外し、口を開いた。その奥に見える、赤い火。

 

「ちょっ!?僕らを焼く気か!?ほら言わんこっちゃない、君のせいだぞ、マリア!!」

 

「…ガァァァァ!」

 

そのままミラボレアスは火を吐いた。…ワイバーンの群れに向かって。

 

「へ…?」

 

「…龍よ、今はあれらを倒すのが先決だと?」

 

ミラボレアスが王───ギルガメッシュの言葉に頷く。

 

「ふ…よかろう、音楽家!!マリア!!用意せよ、この黒龍の援護よ!!」

 

「ホントに援護なんているのかい?」

 

「世の中に絶対などあらぬ!絶対などないからこそ、それを支えるのが裏方の役目であろう!!」

 

「ガァッ!!」

 

「龍も分かるか!!ふははははは!!」

 

以前から何故か機嫌がいい英雄王と伝説の黒龍の共闘がここに成る。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「…まだ、迷っていられるのですか。」

 

所変わってジャンヌとマルタ。何度も鍔迫り合いが続き、双方有効な一撃を与えられずにいる。

 

「…どうしたのです?力が出せないからかしら?それとも戸惑っていますか?私が貴女と同じだから?」

 

ジャンヌが無言になる。

 

「…はぁ」

 

マルタは小さくため息をついたかと思うと、一瞬でジャンヌに距離を詰めた。

 

「!?」

 

「ふっ!!」

 

鉄拳一閃。そんな名前が合いそうなその拳に、ジャンヌが吹き飛ばされる。

 

「舐めんじゃないわよ。言ったわよね?アンタが私の屍を乗り越えられるか見定めるって。だったらアンタが本気で向き合わないとこれに意味はない。アンタが越えられないと竜の魔女に挑む資格はないとみなす。私如き越えられないのなら、諦めなさい。竜の魔女を倒すことを。この時代を正すことを!!」

 

「…っ、それは…」

 

「諦めたくないのだったら───私を越えなさい!!私が言っていることがそんなに難しいかしら!?」

 

マルタが言いたいことは本当に単純だ。自分を越えなければ魔女には挑めない。ならば自分を越えて見せろ。ただ、それだけだ。

 

「杖があってやりにくいって言うならハンデとしておいてあげる。ライダーの今は鈍っている拳。だけど狂化も合わさって今のアンタには十分。」

 

そう言って杖を置き、一度の踏み込みでジャンヌの懐に潜り込む。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

筋力D、されど狂化によって強化された拳がジャンヌに殺到した。

 

 

───立香side

 

 

 

「ォォォォ!!」

 

タラスクが吠えて、突然回転しだす。

 

「───■■■■!!!」

 

「マスター!」

 

私を庇うように、目の前でヘラクレスさんが仁王立ちし、マシュが盾を構える。さっきオラオララッシュ聞こえた気がするの気のせいじゃないと思うんだけど…とか結構ぎりぎりな意識の中で考えていたら、タラスクは飛来中に軌道を変えた。

 

「っ!?そんな、カバーできない…!?」

 

「■■■!?」

 

不規則な軌道。…いや、直感に従えば私の真上からの押しつぶし。盾はそもそも盾の正面からの衝撃を防ぐものであり、矢とかはともかく重い物の対空防御は向いていない。ヘラクレスさんについては素手だから論外といえば論外。ルーパスちゃんたちも妨害してるけど時間の問題。アルトリアさんの宝具には防御するものもあるらしいけど今の私の現状だと魔力が足りない。

 

「…っ!?」

 

突然、後ろから服を引っ張られ、足にそこまで力が入っていなかった私はその場にしりもちをついてしまった。

 

「アル…?」

 

「…マスター、は…私が…」

 

“無銘のアルターエゴ”。そんな名前のアルは、宝具などなかったはず。それなのに、私の前に立った。

 

「…今だけでもいい。私にマスターを守る、力を…お願い、します。」

 

それは、彼女の願い。純粋な、彼女の言葉。震えた声で告げる彼女は、どことなく…冬木でのマシュに似ていた。

 

「───!!」

 

タラスクが唸りをあげてこちらに突っ込んでくる。それに対し、アルは左手を向けた。…そうするのが、最適解だというように。

 

「───ッ。」

 

直後、衝突。だけど、アルは見事にその場でタラスクの押しつぶしを防ぎ切っていた。

 

……いや。

 

ちがう。アルが、というより。アルの左手の先が、歪んでる…?

 

〈宝具…!?真名は分からないけれど、それは明らかに宝具の反応を示しているぞ!!〉

 

〈マシュと同じで護りたいという望みだけで開いたの…!?〉

 

「…ぁぁぁぁぁあああ!!」

 

アルが叫んだと思うと、タラスクとアルの左手の間が爆発した。

 

「───」

 

「アル!?」

 

爆発の後、倒れそうになったアルを咄嗟に支える。

 

「あり…がとう…」

 

「死んじゃだめだよ!?」

 

「うん…疲れ、ちゃった…」

 

「…っ!やっちゃって、バーサーカー!セイバー!!」

 

〈カルデアのリソースは確保できているわ!!〉

 

〈来るぞ!!ヘラクレスと騎士王の宝具開帳だ!!〉

 

タラスクは爆発で吹き飛ばされた後、ヘラクレスさんとアルトリアさんにこちらに来させられないようにさせられていた。

 

「…なんで、無茶したの…?」

 

「無茶……なんかじゃ、ない……私は、貴女を守りたいと思った…守りたいと、願った……それが、私の力だと信じた。」

 

力…

 

「記憶もない、名前もない私に……良くしてくれるマスターを……守りたいと思うのは、だめ…?」

 

「駄目じゃ、ないけど…」

 

先程の爆風。それが、アルを傷つけていた。今の預言書じゃ、この傷を治すこともできない。

 

「…これくらいの傷なら、大丈夫。なんでか分からないけど…そんな確信がある。だから、少しだけ休ませて…?」

 

「…死なない、よね?」

 

「…うん。」

 

そう言ってアルは目を閉じた。

 

〈…霊基は安定しているぞ。多分宝具の解放で疲れたんだろ。〉

 

「…そう、なのかな。レンポくん、アルの守護お願いしてもいい?」

 

「…あぁ。」

 

微妙に納得いかないけど、私はレンポくんにアルの守りをお願いしてアルトリアさんとヘラクレスさんの方を見た。

 

「■■■■───!!」

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流…」

 

「我ら五期団、その紋章を白き追い風。熔山龍と共に新大陸に渡りし者…」

 

「我、大陸の守護者と呼ばれる者。大陸に残り、村々の英雄と言われる者…」

 

「我、新大陸に渡りし猫にゃ。ここに示すは歴戦の技、旦那さんと共にいた軌跡…」

 

「我、大陸に残りし猫にゃ。ここに示さんは歴戦にゃる技、旦にゃさんとの軌跡…」

 

「ガルルルル…」

 

〈宝具の7騎同時発動…!衝撃に気を付けなさい!!〉

 

「…すごい」

 

私からはそんな簡単な言葉しか出なかった。

 

 

 

「ガァァァ!!」

 

ミラボレアスたちはというと、既に残り少なくなったワイバーン50体程を相手取っていた。

 

「そら、逃がさぬよ。」

 

ミラボレアスに恐れをなしたのかマスターたちの方向へ行こうとするワイバーンをギルガメッシュが仕留め、ミラボレアスはワイバーンの群れを塵にはせずに焼き尽くす。

 

「貴様、加減もできるとはな!話の分からない龍などではなさそうだ!!」

 

ギルガメッシュも上機嫌に剣を放ち、落ちたワイバーンを回収する。

 

「地味に美味しいね。ていうか焼き加減最高だ。」

 

「本当ですわ!」

 

「…てか、あの咆哮どうにかならないかなぁ…酷い音だ。」

 

そう音楽家───ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが呟いたと思うと、ミラボレアスがアマデウスの背後に向かって火を吐いた。

 

「あぶな!?」

 

「貴様の自業自得だということだろう!恐らくこやつはミラめの使役獣魔、主人が変態の毒牙にかかるなど嫌であろうよ!」

 

「ガァァァ!!」

 

「ふはははは!!此度の我はセイバーに興味はないといえばないが我とは別の我、それも弓の我のような者に取られるのは聊か不愉快であるからな!!その気持ちは分かるぞ、龍よ!!」

 

ちなみにこの声は近くで戦っているカルデアのアルトリアにも届いていたという。

 




───ピコン

ん…?

裁「どうしたの…?」

……宝具、起動したのか。

弓「どういうことだ?」

疑似展開に過ぎないけど…一つ、守りの宝具が展開できたみたい。

弓「ほう…」



───無銘 宝具追加 “疑似展開 仮想宝具/空間歪曲(ロード・スペースディストート)


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第38話 決着と無銘の仮想宝具

遅れましたけどUA10,000突破ありがとうございます。

裁「遅れすぎじゃない…?」

うん…ごめんなさい


───ピピッ


ん…?


───宝具展開予兆アリ


……そう


 

「オラオラオラオラオラオラァ!!」

 

「くっ…!なんて、強い…!」

 

「オラァ!」

 

「っ!?」

 

一番最後に放たれた強力な一撃に耐えられず、ジャンヌは吹き飛ばされた。

 

「アンタ聖女なんでしょ?何うじうじしてんのよっ!」

 

「私は、聖女では…!」

 

「えぇ、そうかもしれない。だけど、必要なのはそういう事じゃないでしょ!」

 

立ち上がったジャンヌに一撃が叩き込まれる。

 

「聖女だとか、聖女じゃないとか!!そんなこと、どうだっていい!!」

 

次なる一撃によってジャンヌの旗が嫌な音を立てる。

 

「本当に必要なのは、大事なのは───!!」

 

ジャンヌはそれを必死に捌く。しかし、その捌きの精度は低い。

 

「“救える”か“救えない”か───でしょうがっ!!」

 

「───っ!」

 

「今も救いを求める人はいる!救ってほしいと願う人がいる!!」

 

マルタが腰を少し落として力を溜める。

 

「そんな人たちを放っておいて───!!」

 

その体勢から放たれる、叩き上げ───アッパー。

 

「アンタはそれでいいのか───!!」

 

それに、旗が高く弾き飛ばされた。

 

「───私は」

 

ジャンヌは自分が守りたいと思ったものに思いを馳せた。

 

「私は…」

 

自分が何のために旗を振るったのか。何のために、この身を───恋なども知らぬこの身をささげたのか。

 

「終わりよ───」

 

ならば、それは。

 

「私は───!」

 

未来を、繋ぐためだと。失われる平穏を、失わせないためだと。

 

「───はぁぁぁっ!!」

 

左腰に収められたその聖剣を、抜き放った。

 

「ッ───!」

 

その剣は、“ジャンヌ・ダルク”の生涯の具現化。解放すれば一切を焼き払い、自らの存在を天へと還す剣。

 

その銘は“紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)”───自分自身でもあるその剣を、生前、一度も振るう事のなかった聖カトリーヌの剣を───マルタへと突き刺した。

 

「…そうでした。私はそんな人たちを救いたいと立ち上がったんです。それは、今も変わりません。」

 

「…」

 

「私が聖女であるか、魔女であるか…そんなこと、どうだっていい。私は救います。フランスを…たくさんの人を。それが私であるならば。」

 

迷いを断ち切るように、柄を握る手に力を込めていた。

 

「戦わなければ前に進めないのなら。その障害、全て蹴散らすのみ。私は、血に塗れることを恐れはしない!!」

 

ジャンヌは、ここに高く宣言した。それを聞いて、マルタは両手を下げた。

 

「…やる気、あるじゃない。聖女と言われるなら、当然と言えば当然か…」

 

「マルタ、貴女は…!」

 

ぐらりと倒れかけたマルタをジャンヌが抱える。直後、マルタの消滅が始まる。

 

「手を抜いたとかじゃないわよ。…これでいいのよ。ったく、聖女に虐殺なんてさせるんじゃないわよ。」

 

「貴女は…最後まで己を律し続けて…」

 

「狂化したのは事実よ。問題はそれを制御できるかできないか。…私はただ、それを制御しきれなかっただけ。私は制御せずにそれを抑え込もうとしただけ。…ただ、それだけ。」

 

「っ…!うっ…」

 

「…泣かないの。狂気に飲まれた時は大変よ?せいぜい狂気に自我を奪われないようにしなさい。」

 

「…はい!」

 

「素直でよろしい。…最後に1つだけ、教えてあげる。」

 

その一つこそ、彼女がここまで来た理由。

 

「“竜の魔女”が操る竜に、貴女達は勝てない。あの狩人達や龍になった魔女、金ピカだけならわからないけど、そいつらがあの竜を殺す前に、貴女達が殺される。それは、結局は同じことになってしまう。…竜を倒すのは王でも、旅人でも、聖女でも…姫なんかでもない。竜を倒すのは、古来から“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”と相場が決まっている。」

 

「ドラゴン、スレイヤー…」

 

「リヨンに行きなさい。かつて、リヨンと呼ばれたあの都市に。そこに、竜の魔女が召喚した竜に対するカウンターがいる。」

 

マルタの視線の先を、黒龍が通った。

 

「…同じ竜種でも、ここまで違うものか。威厳も、恐ろしさも、その強さも。何もかもが違う。私が引き連れてきたワイバーン150体、ほぼすべてアイツに倒されてしまった。あんな龍と契約したあの魔女は、一体どんな手を使ったのかしら。」

 

そう呟いた彼女は目を閉じた。

 

「…ごめんね、タラスク。」

 

「聖マルタ…!!」

 

「次があるのなら───もうちょっと、真っ当に召喚をされたいものね───」

 

その呟きを最後に、マルタはその場から消滅した。

 

 

 

───立香side

 

 

 

「───!」

 

タラスクの動きが鈍くなった。

 

「皆っ!今!!」

 

「■■■■───!!!」

 

ヘラクレスさんによってタラスクが叩きあげられる。

 

「受けるが良い!!“約束された(エクス)───」

「宝具全開!“我、ここに告ぐ(新大陸の)───」

「宝具展開!“我、ここに告ぐ(現大陸の)───」

「行くにゃ!“我、ここに告ぐ(新大陸の)───」

「畳みかけるにゃ!“我、ここに告ぐ(現大陸の)───」

「ルルルルル…」

 

待機状態であった宝具が起動する。

 

「“射殺す百頭(ナインライブズ)”───!!」

 

「■■■■■■■■■■■―――!!!!」

 

「ガァァァァ!!!」

 

ヘラクレスさんの宝具でタラスクが滅多打ちにされる。

 

「───勝利の剣(カリバー)”───!!!」

 

アルトリアさんの聖剣でタラスクが光に包まれる。

 

「───之は龍を追いし白き風の一撃。(白き追い風)”───!!!」

 

ルーパスちゃんが弓を三回引いて最後に長い時間をかけて力強い矢を放つ。後で聞いたけど“竜の一矢”っていうらしい。

 

「───之は龍を滅す精神力の強撃。(守護強者)”───!!」

 

リューネちゃんが回避行動をとった後、なんかよく分からない旋律を吹き、ぐるぐる狩猟笛を振り回してから一気に吹き込む…たしか、音撃震。

 

「───之は龍を滅せし猫の乱撃。(歴戦アイルー)”───!!!」

 

スピリスちゃんの小さな体から放たれる怒涛の乱撃。

 

「───之は龍を滅せし猫の一撃。(歴戦アイルー)”───!!」

 

ルルちゃんから放たれる、小さな体から出るとは思えない、タラスクを押し返す程に重い一撃。

 

「───ガウガウッ!!」

 

「───“我、ここに告ぐ。(現大陸の)之は龍を突きし獣の一撃。(新人ガルク)”!!!」

 

リューネちゃんが代わりにその名を告げる。武器を構えたガルシアちゃんが力を込めて一撃。

 

…だけど。

 

「ガァァ…」

 

()()()()()()()()

 

「───」

 

タラスクは宙に舞い上がり、回転し始めて不規則な軌道で落下してきた。

 

目的は、私だ。

 

「…させ、ない」

 

背後から聞こえた、その小さな声。

 

「ますたー、は…やらせ、ない。」

 

「アル…」

 

「宝具、展開…其は我が仮想の片面。防御の概念を現す仮想。」

 

狙いを定めたのか、凄い速度で落ちてくるタラスクに向かって左手を翳した。

 

「ますたー、は…私が…護る……!宝具、展開……!!」

 

〈宝具反応…!立香ちゃん、気をしっかり保ってくれよ!!〉

 

「───真名、疑似登録…“疑似展開 仮想宝具/空間歪曲(ロード・スペースディストート)”───!!!!」

 

それは、無銘のアルターエゴであるアルの護り。多分、マスター()を守りたいという意思の表れなのだろう。

 

それは、確かにタラスクを受け止めた。

 

〈───!?立香ちゃん、更なる宝具反応だ!!〉

 

〈これは…宝具の()()()()!?〉

 

アルは、右手に持っていた剣を、タラスクを受け止めたまま後ろに引いた。

 

「……ぁぁぁぁぁあああ!!」

 

「っ!?」

 

「仮想…展開!!其は我が仮想の片面、()()の概念を現す仮想!!」

 

攻撃。今アルは、確かに攻撃と言った。

 

「───真名、疑似登録!!“疑似展開 仮想宝具/時間歪曲(ロード・タイマーディストート)”───!!!」

 

そう叫び、アルはタラスクにその剣を突き刺した。

 

「───ッ」

 

その剣は、タラスクの装甲を貫き。左手の空間が爆発し。その爆発が最後の一押しとなって、タラスクは完全に沈黙した。

 

「…よか…った…」

 

アルがその場で倒れた。

 

「アル…あり…が…と……」

 

そんな私も、魔力の枯渇で意識を失った。

 

「先輩!?しっかりしてください、先輩!!せんぱ───」

 

最後に聞こえたのは、私のことを案じるマシュの声だった。

 

 

 

───三人称side

 

 

 

「…ふむ、終わったようだな、龍よ。」

 

上空。ギルガメッシュとアマデウス、マリー・アントワネットはミラボレアスの背に乗って空を飛んでいた。

 

「降りるか?」

 

ガァ

 

降りる。そう告げるように鳴いてからミラボレアスは降下を開始した。

 

「素敵な龍さん、どうもありがとう!機会があれば、また乗せてもらえるかしら…」

 

「…」

 

ミラボレアスは答えず、地面についた後、身体を屈めて全員が降りれるような体制になった。

 

「ふっ…なかなか快適であったぞ、龍よ。」

 

…ガァァァァァァァァ!!

 

直後、咆哮。それに対し、通信の向こう側で医者の悲鳴が聞こえる。

 

「またか…む?」

 

咆哮の直後、ミラボレアスが光りだす。

 

「素敵な龍さん?光っておりますわよ?」

 

マリー・アントワネットがそう聞いた直後、ミラボレアスの姿が掻き消えた。そして消えた場所に、一つの人影。

 

「ぬ…!」

 

「…疲れた」

 

その消えた場所にいたのは、ミラ・ルーティア・シュレイドだった。

 

「貴様…」

 

「…疲れたから流石に休ませてほしいんだけど。」

 

「…何を、した?」

 

「…憑依召喚術。」

 

それだけ告げて、ミラは立香の方へと戻った。

 

「…貴様の真相。必ず話してもらうぞ。」

 

ギルガメッシュがそう呟いていた。

 




───無銘 宝具追加 “疑似展開 仮想宝具/時間歪曲(ロード・タイマーディストート)


時間と空間。彼女の中の二つの人格が操る力を、疑似展開したのか…

弓「…戦えるのか?」

難しいね。仮想宝具であるせいか、その精度、その制御が凄く弱い。真名を開放できれば、まだ。

裁「…他の人格たちのは、出来てるの?」

微妙だね。それと、もしかしたら明日とか投稿できないかもしれない。

弓「何があった。」

なんかうまく組み上げられない。なんでだろうね…


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第39話 出発

結局投稿できました。

弓「よかったではないか。」

何書けばいいか分からなかったけどね…それにしても

弓「む?」

いや…東方project関係の話読んでてやっぱり作りたいなぁとは思うんだよね…

弓「…続けよ」

作りたいとは思うんだけどさ…必要なものがあるの。

弓「それは?」

まずは時間。

裁「まぁ、分かるけど…」

次に、とある人たちからの許可。

裁「…達?」

うん。私のオリジナルキャラクターじゃない人たちが出る予定だからね。…もし成立すれば、だけど。

弓「ふむ…次はあるのか?」

あぁ…えっと、オリジナルキャラクターの歴史。

裁「歴史…?」

ん。私のオリジナルキャラクターも出るからね。いくつもの世界を翔けた少女達。でも、それを成立させるには時間と少女たちが歩んだ歴史が足りない。最近その子たちも動いてないからね…

弓「ふむ……」

まぁ、その構想だけはある、っていうだけ。


 

「…眠りから醒めてみれば。バーサーク・ライダーが消滅しましたか。」

 

黒のジャンヌ・ダルクがジル・ド・レェの前に姿を現した。不機嫌に見えるのは恐らくルーラーの能力でライダーの消滅を察知したからであろう。

 

「聖女を狂化しても理性が残っているとは。克己心が強いのも困りものですね。…とはいえ、彼女は全力で戦ったはず。となると───油断なりませんね。あの精霊と金ピカとハンター共。」

 

「おや、ジャンヌ。思考を整理するために、彼らを忘れるために眠られたのでは?」

 

「忘れられるわけがありますか!今話すだけでもイライラする!!今度は“彼”もつれていきます、今回召喚したサーヴァントたちと共に!!」

 

「おぉ…」

 

「バーサーク・アサシンにも連絡を。バーサーク・バーサーカー……ええい、ややこしい!!」

 

言いにくかったのか、面倒くさかったのか黒のジャンヌ・ダルクが靴を強く鳴らす。

 

「湖の騎士、ランスロット!処刑人、シャルル=アンリ・サンソン!!」

 

その名に現れる黒い鎧の騎士と長いロングコートの青年。

 

「───Urrrr…」

 

「ここに…」

 

「ワイバーンに乗りなさい!私が先導します!思うがままに暴れなさい。」

 

「…了解しました、マスター。かの王妃の首を落とすのは、僕以外に適任はいないかと。」

 

「特に───ランスロットには期待しています。あの目障りな金ピカや狩人、精霊を───必ず殺しなさい!!」

 

「───Arrrr…」

 

「…かつての私であれば、お引き留めしたでしょう。しかし今の貴女には不要。どうぞ、存分にこの地を蹂躙なさいませ!」

 

「…えぇ、もちろん。…ねぇ、ジル。」

 

黒のジャンヌがジル・ド・レェに声をかける。

 

「あなたはどちらが本物だと思いますか?私と、彼女と。」

 

「もちろん、貴女です。…よろしいか、ジャンヌ。」

 

そう言ってジルは手を広げた。

 

「貴女は火刑に処されたのです。あまつさえ、誰も彼もに裏切られた!あのシャルル七世は賠償金惜しさに功労者であるはずの貴女を見殺しにした!勇敢にも貴女を救うために立ち上がろうとする者は、誰一人として現れなかった!」

 

ジルは力説する。

 

「この理不尽な所業の原因は何か?即ち、神だ!これは我らが神の嘲りに過ぎない!そしてそれゆえに我らは神を否定する!よろしいか、ジャンヌ。これは天罰です。フランスという国への、貴女を裏切った国への天罰であり、貴女が救った裏切りの国への復讐です。貴女が救ったのであれば、貴女が滅ぼす権利がある。それだけの話ではないですかな。」

 

「……そうね。ジル。貴方の言葉はいつも極端だけど、今回ばかりは頼もしいわ。」

 

「えぇ、ですから───」

 

「───“あなたのお父様に慰めてもらいなさい”」

 

「───」

 

ジルも、黒のジャンヌも動きを停止した。

 

まるで、その場所だけ時間が止まったかのように。アルの仮想宝具の名の通り、時間が歪められたかのように。

 

「……私は何か言いましたか?一瞬、目障りな金ピカとよくわからない()()()が頭をよぎりましたが。」

 

「…いいえ。いいえ…貴女を惑わせるようなものは、何も。」

 

「…そう。じゃあ、行ってきます、ジル。」

 

「行ってらっしゃいませ、ジャンヌ…」

 

その言葉を最後に、黒のジャンヌは飛翔した。処刑人と騎士と共に。

 

「…まさか…気がついたというのか、我が願い…ジャンヌの核心に…!」

 

ジルはジャンヌの去った城にて一人呟いていた。

 

 

 

───立香side

 

 

 

───ズキッ

 

「…っう…」

 

リヨンへと移動している最中。私は私を襲う激痛に耐えていた。

 

「…大丈夫?」

 

私のことを心配そうに見てくるのはルーパスちゃん。前回と同じく、私はタマミツネに乗って移動している。

 

「…だい、じょうぶ…」

 

「……全然大丈夫そうに見えないんだけど…六花、これどういう状況…?」

 

〈……“警告の激痛”、か?立香。〉

 

私はそれに微かに頷く。

 

〈やっぱりか。〉

 

「警告の激痛?って?」

 

〈ん…俺達もよくわかってないんだがな。何かに対する緊急警告。直感を作用させない、瞬時に警告を伝える防衛機構…みたいなもんか?痛みの強さによって警告の度合いは変わる。医者にもよくわからんような奴だから、何とも言えないんだがな…ルナセリア、立香の状態はどうだ?〉

 

〈バイタルは安定してます…怪我しているのもないですから、こちらからは分かるものではないですね…〉

 

〈そうか…ただまぁ、意識が保てるならまだ軽い方だぜ?〉

 

「そうなの?」

 

ルーパスちゃんがこちらを見る。私はそれに微かに頷く。ちなみに今回の乗っているモンスターはそれぞれ…

 

私、ルーパスちゃん、ギル、アル、スピリスちゃんは泡狐竜“タマミツネ”のミチ。

 

ミラちゃん、マシュ、ガルシアちゃん、マリーさんは飛雷竜“トビカガチ”のライカ。

 

リューネちゃん、ジャンヌさん、ルルちゃん、ジュリィさん、アマデウスさんは惨爪竜“オドガロン”のドロン。

 

になってる。

 

〈痛いときはマジで痛いぞ?ガチ目に痛いときは意識一瞬で飛ぶからな。〉

 

「まだ…はなせて…るだ…け…かる…いよ…」

 

「…の割に凄い苦しそうなんだけど。」

 

〈まぁな…俺は頭痛、立香は腹痛といった形でそれが現れる。そしてその警告の大本をどうにかしなければその激痛は続く。…俺達に分かっているのはそれくらいなのさ。〉

 

「……でも、これが、あるって、こと、は…!」

 

〈あぁ。…嫌な予感がするな。〉

 

お兄ちゃんと話している最中、アルが私に触れた。

 

「…」

 

その瞬間、アルから小さく魔力が漏れたのを感じた。それと同時に───

 

「…え?痛みが、引いていく…?」

 

私の腹痛が、収まっていった。

 

〈…治癒魔術の一種か?…いや、違うな…魔術なんぞで痛みを抑えられるなら、ルナセリアの魔術でも警告の激痛は抑えられたはずだ。なら…宝具か、魔法か。はたまた、神代の魔術か。〉

 

〈魔力反応はありましたけど、わかりませんね…宝具のような反応はありませんでしたし…〉

 

アルの謎は深まるばかりであった。

 

「む…そろそろ見えるぞ、マスター。」

 

ギルの言う通り、進行方向に町が見えてきていた。

 

…あ、そうそう。

 

マルタさんと戦っていた時のミラちゃん。あれ、憑依召喚術、っていうのを使ったんだって。自分と使役した獣魔を同化する、禁術レベルの召喚術。相手との適合率が高くなければ色々と不味かったらしいけど……にしても、これ本当?“憑依召喚術”っていうのがあるっていうのは何となく理解できたんだけど…なんか、ミラちゃんが本当にやったことじゃない気がする。気のせいかな…?




ふぁぁ…

裁「眠そう…」

弓「ぐぅ」

裁「ギルも寝た…私も寝よ…」

…ルーラー…

裁「?」

…貴女の道が…すぅ

裁「…なんだったんだろう。」


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第40話 情報収集

…読み終わったぁ…

弓「む?アレを読み終わったか。」

読み切るのに60日かかるとか長すぎる…あと“鳳凰の羽根”もっとください。真面目に。

弓「…足りぬのか。」

うん…経験値素材も足りないけど…地味に鳳凰の羽根も交換料高かった…

弓「…」


 

私達はしばらく竜達に乗って、リヨン近くの町に来ていた。

 

〈…あの、マスター〉

 

「…?ジャンヌさん、どうしたの?」

 

〈えっと…英雄王に聞いたのですが…〉

 

私は首を傾げながらカルデアのジャンヌさんに続きを促した。

 

〈聖職者というものは、八極拳を習うと…本当、なのですか?〉

 

「八極拳?…そうなの?ギル。」

 

私は近くで休んでいるギルに話を向ける。

 

「うむ。我の知る聖職者の男の方は、八極拳を操り、辛い麻婆を喰らいおった。女の方は聖骸布を用い、地獄のように辛いか天国のように甘い食べ物を喰らっておった。我としてはそのような廃棄物めいた食い物は食いたくもない。ならば八極拳を習う、だけの方が良かろう。」

 

〈な、なるほど…マスター、今度麻婆豆腐を教えてくれませんか?〉

 

「いいけど…」

 

「待て!!激辛麻婆は真面目にやめよ!!本気と書いてマジと読むのだ!!」

 

ギルが凄く必死になってるんだけど…

 

「激辛じゃないのでいい?私もあまり辛さに耐性ないし…」

 

〈はい!ありがとうございます、マスター!〉

 

「ほ…」

 

「ちなみに辛くする方法はいろいろあるよ?豆板醤とか赤唐辛子の種とか花椒(ホワジャオ)とか…」

 

「まて、なぜわざわざ辛くするものを教える!?」

 

「え、だって…」

 

私はギルに笑いかけた。

 

「だって、“敵に勝とうと思うなら、まず敵のことを知る。”…でしょ?」

 

〈辛さへの対応策を組め、とのことですか?〉

 

「うん。…あと、料理に関してはお兄ちゃんとかエミヤさんに習った方がいいよ?」

 

〈どうしてですか?〉

 

「どうして、って…」

 

私、あの二人のせいで結構自信なくしてるし…

 

「ふむ…時にマスターよ。」

 

「うん…?」

 

「貴様の指輪…魔術礼装を変える指輪のことだが。あれの変化時に変身バンクのようなものはないのか?」

 

「ないよ…?………ない、よね?」

 

〈作ろうと思えば作れますよ?〉

 

指輪の方から聞こえた声。確か……

 

「…えっと…?」

 

〈“フォータ”です!忘れないでください!〉

 

そうそう、フォータちゃん。

 

「ごめん、忘れてた…」

 

〈ですよね…私全く動きませんでしたし…〉

 

「うん…ごめん…」

 

〈いいのですけど…というかギルガメッシュさんは何故変身バンクを知っているのです?〉

 

「カルデアにて観た!」

 

魔法少女ものあったんだ…

 

〈そうですか…一応作ろうと思えば作れますよ?〉

 

「フォータちゃんも作れるの?」

 

〈はい。マスターの技術は一部受け継いでますから。〉

 

「はぇぇ…」

 

でも、今はいいかな?

 

〈というかギル、君も魔法少女もの好きなのかい!?〉

 

「ふん。単なる知識に過ぎん。そして医師よ、カルデアにサブカルチャーなるものを混ぜたのは貴様か。」

 

〈僕だけじゃないぞ!?ルナセリアと六花もだ!!〉

 

「まぁお兄ちゃんはそういう事するよね。」

 

〈よくわかってんじゃねぇか。〉

 

「…私はプリキュアか何かなの?」

 

〈さぁな。おまえの趣味に合わせてはみたが、どうしたもんかね。〉

 

「プリキュア好きなのお兄ちゃんだけどね。」

 

〈悪いか。〉

 

「別に。」

 

ちなみにお兄ちゃんは私の3つ上。私が今年高校一年生で16歳だから…19歳。

 

〈一応今使えるのはカルデア制服、戦闘服、魔術協会制服、アトラス院制服の4種類か。色々アプデはするつもりだから、期待して待っとけ。〉

 

「はぁい」

 

「良いのかそれで…」

 

ギルが呟いた言葉に私は頷いた。

 

「みなさ~ん!情報貰ってきましたよ~!」

 

「む、マリアめの帰還か。よし、ミラ!獣魔達を出せ!!」

 

「はいはい…お願いしてもいい?」

 

三匹が頷いて、私達が乗りやすい体勢になった。私達はそれに乗って、その町を離れることになる。

 

 

それから、私達はリヨンに向かっている最中にマリーさんの話を聞いた。

 

「…そうですか。かつて、という言葉が気になってはいましたが…既にリヨンは滅ぼされていましたか。」

 

「…リヨン。そういえば、この先には壊滅したような廃墟みたいな場所がありましたね。あれが、リヨンですか。」

 

ガロンさんに乗るジュリィさんがそう言った。ちなみに今私達は並列移動、っていうのかな。並列走行みたいな感じで移動してる。

 

「近くに人もいなかったので地名を聞くことができなかったのですが…」

 

「…そう、ですか…」

 

…私達がもっと早く来れていれば、その町も助けられたのかな。

 

「…顔を上げよ、マスター。」

 

ギル?

 

「冷たいことを言うようだが、犠牲というものはありうるものだ。それが戦争というものであるならばなおさらな。そして、我等が一々犠牲を悲しんでいる暇などない。」

 

「あぁ。オレ達がやらなきゃ、次の世界がどうなるかもわからねぇ。預言書は完全に覚醒してないしな。次の世界を見ることすら出来ねぇっていうのは、預言書の覚醒がなってない証拠だ。」

 

預言書が覚醒してない、か…

 

「ねぇ、このまま世界が終わるとどうなるの?」

 

「オレにもわからねぇが……恐らく、世界そのものが消滅するか?」

 

消滅…

 

「そうならないためにも、早くこの…特異点、だったか?それを終わらせちまおうぜ、リッカ!」

 

「…うん。」

 

でも、せめて…

 

「…その地で命を落とした人が。その地にいた生き物たちが。少しでも救われていますように…」

 

そう、願いたかった。

 

「ええと…話を戻しますわね?そのリヨンの街が滅びる前、街を護る守護者がいたんですって!」

 

「守護者…ですか?」

 

「えぇ!なんでも、大きな剣を持った騎士様がワイバーンや骸骨兵、骨で出来たワイバーンを蹴散らしていた、とか。」

 

「骨で出来たワイバーンというと…冬木で戦ったアレか。」

 

「うん、多分アレだね。」

 

〈アレか…仮称何か考えないかい?〉

 

ドクターが提案したけど、特に思いつかなかった。

 

「でも、そんな街に恐ろしい人間たちがやってきた。恐らくはサーヴァントのことでしょう、複数のサーヴァントに追い詰められて、彼は行方不明に…そうしてリヨンは滅びてしまったそうですわ。」

 

「ふむ。ともかく、十中八九街を守っていたというそやつが竜殺しなるサーヴァントであろう。反英霊やバーサーカーに街を守るということができるとは思えぬ。」

 

〈まぁ、確かに…だけど、サーヴァントに攻め込まれて無事なのかなぁ…〉

 

〈いくら“最優”と呼ばれるセイバーだと言っても複数のサーヴァントを相手にしては難しいかもしれませんね。〉

 

アルトリアさんがそう言った。…なんか不安になってきたんだけど。

 

「セイバー。あまり不安にさせるようなことを言うでない。」

 

〈…英雄王。あなたは、私の知る英雄王とはどこか違うようだ。一体、あなたに何があったのです?英雄王ギルガメッシュでありながら私を求めないなど。〉

 

「ふ、求めてほしかったか?」

 

〈いえ、結構です。…質問に答えてくださいませんか。〉

 

「…ふむ。いやなに、此度の我は貴様に対しての執念めいた想いがないだけよ。」

 

〈…頭でも打ちましたか、英雄王?〉

〈…頭でも打ったか、英雄王?〉

 

「ええい、同時に言うでない!!貴様らが相性がいいのは原作ヒロインと主人公だからであろうが!それをわざわざ見せつけんでも良い、贋作者!」

 

ギル。凄くメタいこと言ってる自覚ある?いや私もメタいのか分からないけど他の人たちも困惑してるよ?…まぁ、ともかく。

 

「んんっ…セイバー。落ち着いてほしい。俺達と一緒で、英雄王にも色々な可能性があるはずだ。もしかしたら俺が女性だった世界もあるかもしれない。遠坂が男性だった世界もあるかもしれない。もしかしたら、セイバーがセイバーのクラスじゃない可能性だってあるかもしれないんだ。なぁ、遠坂。」

 

〈そ、そうよ、アーチャー!アーチャーだって本当にアーチャーで喚ばれてたか分からないじゃない!アーチャーが本当にわたしに呼ばれたかも分からない。もしもアンタが、士郎が弓の道を進んでいなかったら。魔術に特化していたのなら。剣の道への才能があったのなら…!そうしたら、アンタはアーチャーで呼ばれる保証なんてない!違う!?〉

 

あ、ちなみに士郎って呼ばれてるのが私ね。私はお兄ちゃんと逆で男性の声出せるから。まぁいろいろギルに教えてもらったんだけど、とりあえずエミヤさんの以前のマスターさんの名前と一緒に思ってることを言ってみた。ちなみにお兄ちゃんは速攻で乗ってくれました。流石。

 

〈ぶっふー!?〉

 

〈士郎…!?いえ、マスター!?…!?〉

 

エミヤさんは吹いて、アルトリアさんは困惑してた。

 

「ふはははははは!!貴様ら兄妹は愉快だな!!…しかしあり得るかもしれないところが怖いところよな。特にセイバー、貴様はな。」

 

〈放っておいてください…いえ、それにしてもマスター、その声は…!?〉

 

「うん?なんとなくできるようになった。」

 

〈余程低い声への適性高かったんだろうな…〉

 

高い声は広げられるけど、低い声は広げられないんだっけ…

 

「…む、見えてきたぞ、マスター。あれがリヨンであろう。」

 

「…それと同時に、龍気が近づく気配。探すなら急いだほうがいいかも。」

 

私はその言葉に頷いて、ギルに小声であることを伝えた。それに対して、ギルは小さく頷いてくれた。

 




弓「ふむ。本編の兄の女声は第五次の贋作者のマスター。本編のマスターの男声は第五次のセイバーのマスターか。」

実際Fate/GrandOrderの女性主人公は衛宮士郎さんの女体化、男性主人公は遠坂凛さんの男体化…って聞いた気がするから。だったら声変えるのはそれでいいんじゃないかなって。

弓「ふ。だがその声を聞いた時は困惑するであろうな。」

かな?


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第41話 滅びた街にて

まぁそのままですね。

弓「そのままよな。」

裁「そのままだよね…」


 

少しして、私達は滅びた街、と言っても間違いはないほど廃れた街にたどり着いた。

 

「ここが…リヨン」

 

賑やかであっただろうその街にあったのは、静けさと私の嫌いな血の匂い……

 

「……これをしたのは、私なのでしょうね。」

 

「…違うよ」

 

ジャンヌさんの言葉を即座に否定する。

 

「え…」

 

「…確証は、ないけど。違うと思う。」

 

私は私の直感を信じる。それは、何年か前から決めていることだし。私の直感は、“これをしたのはジャンヌさんじゃない”って叫んでた。

 

「…そうだと、いいのですけど…」

 

「そら、早く探せ。人も多いのだ、探せばすぐに見つかるであろう。」

 

「…うん。じゃあ、手分けして探そう。」

 

「では、私とアマデウスは西へ行きますわ。」

 

「僕達も行こう。ただの補助師だがそれなりには力になれるはずだ。」

 

「ハンターランク999がにゃにを言ってるんですかにゃ…」

 

「ォン」

 

「…私も」

 

「では、私達は東ですね…ルーパスさん達はどうしますか?」

 

「私も東。ジュリィとスピリスはどうする?」

 

「私もマスターさん達についていきます。」

 

「私も同じくですにゃ。」

 

「…マスターについていく」

 

…ってことは、こっちの人員は私、マシュ、ルーパスちゃん、ジュリィさん、スピリスちゃん、アル、ギル、ジャンヌさんの8人みたい。

 

「…人数均等じゃないけどいいかな?」

 

「構わないさ。こちらには音に長けたサーヴァントが2人なのだからね。」

 

「そっか。」

 

ということで、分かれて探すことになった。

 

 

「…かつて美しい街であったはずなのに、“竜の魔女”はどうしてこんな惨状を作り出したのでしょう。」

 

…見知った場所が焼け落ちるという風景を、私は知らない。でも、ジャンヌさんからすればここは知った場所。

 

「顔を上げよ。アレは貴様ではないであろう。」

 

ギルがそう呟いた。

 

「え…」

 

「我の所感のみであるが、アレと貴様には決定的な違いがある。貴様という…“ジャンヌ・ダルク”という枠を使っただけで、贋作に過ぎんであろう。そう思わぬか、贋作者よ。」

 

〈───〉

 

「贋作者?」

 

ここで初めて気がついた。カルデアとの通信が繋がらなくなってることに。

 

「…ふむ?医者もマリーめも整備や仕事は怠っておらんはずだが。…まぁ良い、管理者にも分からぬことはあるであろう。」

 

〈マスターとの直通通信も繋がらなくなってます。…なにか、事情がありそうですね。調べてきますね。〉

 

フォータちゃんがそう言った。

 

「…今はただ、亡くなった方々への安らかな眠りを祈りましょう。」

 

「ふむ。そうであるな。…一つ、真相の欠片をやろう。あやつは、人の温かさを知らぬであろうよ。」

 

人の、温かさ…?

 

「…そう、ですか。…亡き者達に、安らぎがあらんことを…」

 

ジャンヌさんが両手を合わせた時に、その事は起こった。

 

「安らぎ…安らぎを望むか。それは、あまりにも愚かな言動だ。」

 

歌うような、その声。それと同時に、私の頭の中に声。

 

≪立香さん、状況報告です!敵サーヴァントの領域内であることによって、カルデアへの音声通信が途絶している模様!ですが、カルデアからの召喚はできるみたいです!音声通信は復旧に少しだけ時間がかかるので時間を稼ぐか敵サーヴァントを倒してしまってください!≫

 

それだけできれば十分といえば十分だと思う。私達の前にいるのは、ボロボロのマントに長い爪、半分われた悪魔のような仮面をつけた存在。

 

「…彼らの魂に安らぎは泣く。我らサーヴァントに確実性は存在しない。この世界はとうの昔に凍り付いている…」

 

「サーヴァント…!」

 

「何者ですか。」

 

「然様。人は私を───オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)と呼ぶ。」

 

ファントム・オブ・ジ・オペラ───オペラ座の怪人…となると、この人は…

 

「…ファントム───エリック?」

 

「おぉ…その名で呼ぶとは。君はもしやクリスティーヌ…?」

 

「先輩、エリックとは…?」

 

「オペラ座の怪人───“ファントム”と呼ばれた人の本名。万能の天才だけど、生まれつき酷い容姿を持った人───さっきこの人が言ったクリスティーヌの師匠。」

 

「───然様。我が真名、ファントム・オブ・ジ・オペラ。しかし我が個人の名それを“エリック”と言う。」

 

ファントム・オブ・ジ・オペラ───面倒だからエリックさんでいっか。エリックさんはそう言った。

 

「微睡む君へ私は歌う…愛しい君へ私は歌う。醜き者を私は呪う、故に私をこそ私は呪う。始めよう…望みのままに、願いのままに…愛しい君と共に愛を歌おう…」

 

≪アサシンの二名は出撃可能です!どうしますか!?≫

 

『うん…それじゃあ』

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・カルデア戦闘服”!!主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)───」

 

私は魔術礼装を素早く変換する。私が放つは理論を教わった魔術が一つ───

 

「───“ガンド”ッ!」

 

ガンド。対象の身体活動を低下させる指向性の呪い。お兄ちゃん曰く、私は魔力は多いけど、サーヴァント維持以外の通常の魔術───ガンドとかを使う魔術に転換させることができない謎の性質をもってるらしい。これに関しては現時点では魔術礼装自体がどんなに素人でも魔術礼装を介することで通常の魔術へと転換出来るようなコンセプトで作られてるらしいから問題はないらしい。…まぁ、よくわからないけど。けど、初歩の魔術のガンドは、サーヴァント4騎の現界維持を可能にしている私の魔力だと、凄まじい威力になるって確か言ってた。

 

「ガッ…!?」

 

「今───お願い、“佐々木小次郎”!!」

 

「承った」

 

私の声にカルデアから現れる小次郎さん。

 

「秘剣───」

 

彼は言ってた。“自分は佐々木小次郎本人ではない。老人の剣を物にしようとしたただの農民だ”と。“老人の置き土産である刀を手にし、農民生活の傍らただただ剣を振るい続けた人間だ”と。

 

“我が宝具、我が奥義は生涯最後に完成させたもの。ただ燕を切らんとして編み出したもの。”そう彼は言った。それこそが───

 

「───“燕返し”!!!」

 

三太刀同時の斬撃…なのだという。

 

「ぐはっ…!!」

 

三度の斬撃に襲われたエリックさんは血飛沫を上げて倒れた。

 

「貴様…アサシンであったな。日本の侍はアサシンに分類されるのか?」

 

「拙者は武士ではなかった故。それ故にアサシンに分類されたのでしょう。」

 

「ありがと、小次郎さん。」

 

「いえ。拙者は主の命に従ったまで。それでは失礼いたす。」

 

そう言って小次郎さんは退去していった。

 

「…絶命したのか?とりあえず、コードスキャンしてみろ。」

 

「死んだ人とかにも…っていうか幽霊にできたね、コードスキャン。」

 

「おう。」

 

レンポくんの言葉通り、エリックさんをコードスキャンしてみる。

 

「…おぉ、クリスティーヌ?あなたは今何を…?」

 

「生きてるしっ!」

 

「っつーかコードスキャンは人間に対してやると気づかれねぇが、サーヴァントにやっても気がつかれねぇのかよ!」

 

ちなみにコードスキャンはちゃんと出来てるみたいで、私が開いているページに“ファントム・オブ・ジ・オペラ”って書いてあった。…これ、敵に会った時、とりあえずコードスキャンしてみるしかないかな?

 

「───私の役目は終わった。来る。来るぞ、クリスティーヌ。」

 

「来る…?」

 

「…!?龍気が近く…!これは…!!」

 

「喝采せよ、聖女!お前の邪悪は、お前以上に成長したぞ!!」

 

聖女の邪悪。それを示すのは…

 

「ルーパス、立香殿、無事か!?」

 

「リューネ!?それにマリア達も!!」

 

〈ロマニ、復旧した!?良かった!!〉

 

「マリー!?」

 

同時に、リューネちゃんたちとマリーさん達が合流。カルデアとの通信も復旧する。

 

〈撤退を推奨するわ!!サーヴァントを上回る超極大生命反応───竜種が来る!!〉

 

〈それと同時に、3騎のサーヴァント反応!ハンター達とギル様がいると言っても、安心はできません!!〉

 

「…だ、そうだ。どうする、マスター?無駄骨に終わるか、逃げ回るか。」

 

「それは…」

 

「ここで逃げたら、また機会が訪れるかどうか…!指示を、マスター!」

 

マシュに問われる。もしもここで逃げて、竜殺しが殺されてしまったら意味はない。だったら、私達が出来ることは一つ。

 

「…探そう。竜殺しを…」

 

「いいのか?」

 

「うん。」

 

「ふむ。それでこそ我が認めしマスターよ。ならば足止めが必要だが…」

 

「…私がやる。」

 

そう言って立候補したのはミラちゃん。

 

「皆は探しに行って。ここは私一人で十分。」

 

〈何言ってるんだ!?竜種だぞ!?確かにハンターには“滅龍”っていうクラススキルがあることは分かってるけど、君はほぼほぼ持ってないんだぞ!?〉

 

「あなた馬鹿なの?邪竜くらい一人でどうにかできないと、“全ての竜に愛された少女”の名が泣く。私をあまり舐めないで。ここまで私は、全く本気を出してない。」

 

〈なっ…!!〉

 

「倒すことは出来なくても。時間を稼ぐことくらいならできる。王女でありながら国一番の召喚術師と呼ばれた人間だよ、私は。───全属性砲門展開」

 

ミラちゃんが杖を振ると、赤色、青色、黄色、水色、茶色、白色、緑色の波紋が展開された。

 

「…ほら、行って。適当に時間は稼いでおくから。そもそも、竜殺しって私の仕事じゃないし。私の仕事は、民を守ること。元女王候補として、私は民を───あなた達を守る。それだけだし。」

 

「───行こう、みんな。」

 

「先輩!?」

 

「…女王様が言うんだもの。私達は私達にできることを。…そう、だよね?」

 

ミラちゃんが頷いた。

 

「民は王を支え、王は民を支える。これが私の掲げる…ううん、掲げた理想。二人三脚、だっけ。そんな状態で紡いでいきたい。民は民の出来ることで尽くしてほしい。それだけだからね。…さぁ、行って。」

 

「…分かった。すぐに戻るからね!」

 

「…うん。待ってる。」

 

〈近くに微弱なサーヴァント反応!急いでくれ!!〉

 

ドクターの声で、私達はその場所に向かって走り出した。

 

 

 

───side ミラ

 

 

 

「…行ったね」

 

私は全員がいなくなったのを確認し、竜の気配が大きくなった方向に視線を向けた。

 

「…ボレス。あなたみたいな黒龍じゃないし、ただの邪なる竜。あんなの、強敵でも何でもないよね。」

 

『…ですな。時間稼ぎ程度ならば、貴女一人でも十分でしょう。貴女は私の影にすら()()()()()()()()()()()()()()。そんな貴女だからこそ、私共は貴女が好きなのです。自覚なさってください。』

 

「…ありがとね。」

 

ボレスが今言った“影”。これが、私達の世界で私達が対峙する敵。獣人族から牙竜、獣竜───果ては古龍まで存在する“シャドウ・モンスター”。そしてその影たちを謎の術式で使役する“ブラック・サマナー”。さらに強制的に自我を失わされた“ホロウ・モンスター”とそれを作り出し使役する“アウトロー・サマナー”。ルーパスさん達の世界と比べて私達の世界が平和なんじゃない。平和を乱す者がいる。それに対抗するために、私達“モンスターサマナー”はいる。

 

「…ふん。わざわざ来てみれば。ただの小娘一人ですか。」

 

そんなことを考えていたら、竜の魔女が私の前に来ていた。

 

「…そうね。私だって一人で散歩したいときもあるし。」

 

「なるほど…どこまでも舐めてくれますね、このファヴニールを前にして勝てると思いまして!?」

 

「…さぁ?───詠唱破棄。」

 

私は全属性射撃術式の詠唱を破棄する。

 

「やってみないと分からないでしょ?それと───私をただの小娘だと思ってると、痛い目を見るよ?」

 

「───ならば試してみましょう。ファヴニール、やってしまいなさい!!」

 

私は無言で茶色の発射体───竜種に効く“龍属性”の発射体を7つ、展開する。

 

「東シュレイドギルド所属、“ミラ・ルーティア・シュレイド”。サマナーランク999、サマナークラス───」

 

サマナークラス、というのはその人のサマナーとしての位。ノーマルから始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ…と上がっていく。基本的に世界にいるのは第九位ゴールド。そんな中でも、私の位は最高位。今の世界には私しかいない───

 

「───()()()()()()()()()()()”。」

 

サマナークラスはそれぞれ、ノーマル(第十二位)ブロンズ(第十一位)シルバー(第十位)ゴールド(第九位)プラチナ(第八位)ジュエル(第七位)レインボー(第六位)ダイヤモンド(第五位)エンシェント(第四位)フェアリー(第三位)クリスタル(第二位)モンスターサマナー(第一位)の12位。そしてその上に、エンシェントサマナー(特第二位)ロストサマナー(特第一位)がいる。必要な条件は、クラスがモンスターサマナーであり、モンスターを使役せずに()()()()()()()()こと。喪失の召喚術師(ロストサマナー)───喪失されたはずの召喚術を用いているように思われる召喚師。それが私。

 

「…龍属性砲門連射状態。水壁稼働」

 

吐く炎には水を、飛ぶ翼に射撃魔法を。それが私の、単独戦闘スタイル。…まぁ、多少リミッターかけてるけど。

 

「ほら、来なよ。ただの小娘なんでしょ?それくらい倒せなくてどうするの。」

 

「貴様───!!!」

 

民のことは、私が守る。私のことは、民と獣魔達が守ってくれる。だから───竜殺しは任せたよ、立香(マスター)さん。

 




今回はちょっとミラの世界の方の事情を説明しましたよ~

弓「ふむ…ポケモンと似ておらんか?」

似てるよ?ていうかほとんどポケモンだよ?

裁「そういえばマスターってポケモンいつからやってるの…?」

結構やってるけどねぇ…忘れた。それではまた次回、お会いしましょう。

弓「ところでマスターよ、ミラめはグランドキャスターではないのか?」

違うよ?ミラの世界での最高位のサマナーだけどグランドキャスターではないよ?


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第42話 ミラの戦いとついでに助言

タイトルが浮かばないのどうにかしたいね…

弓「そうよな。」


杖を振る。

 

龍属性弾が邪竜に向かって放たれる。

 

それを避けた邪竜に向けて、連射状態の龍属性弾が襲いかかる。

 

もう一度私が杖───“サモンロード”という銘の杖を振るとその連射が止まる。

 

「く───ファヴニール、焼き尽くしなさい!」

 

「水壁よ」

 

邪竜の炎に対して私は水の壁を生成する。…この、繰り返し。

 

「…邪竜、っていうだけはあるか。硬さが極限化モンスターと同レベル…それと龍属性弾でもそこまで効かない、と。ふーん…」

 

古龍でも龍属性が効くとは限らない。龍封力は効くけどそれが一番通る攻撃かと言われると微妙。だったら、方法はある。

 

「龍砲門増設。7門から30門へ。それと同時に属性追加。火、水、氷、雷、風、無。それぞれ30門とし、累計210門の発射体を展開。」

 

私の言葉と同時に赤色、青色、水色、黄色、緑色、白色の発射体が展開される。

 

「全砲門単射状態を保持。全砲門一斉射撃。」

 

火属性、水属性、氷属性、雷属性、風属性、龍属性、無属性の弾幕が一斉にファヴニールへと襲い掛かる。

 

「あんなもの…!!ファヴニール、なぎ払え!!」

 

「ゴァァァ!!」

 

「…」

 

弾幕は消し去られるけどそこまで気にしてない。そもそもそこまで魔力込めてなかったから威力なんてないに等しいし。

 

「…何よ、その目。」

 

「…別に。ただ、可哀想だねって。」

 

「はぁ?」

 

「その子。貴女みたいな使い魔の扱いに慣れていない人に従わされて。…ただ単純に、可哀想だねって。」

 

それは私の召喚術師としての思い。一人の召喚術師として、力を借りる立場として。私は相手の意思も尊重したい。

 

「自分が召喚した存在だからって、その存在を物のように扱う人は私は嫌い。その存在だって生きてるんだよ?」

 

「…ハッ。何かと思えば。アンタもサーヴァントなんでしょう?だったらマスターにこき使われるのが当然なんじゃないかしら?」

 

「…確かに、そうなのかもしれない。だけど、そうじゃないマスターだって当然いるよ。」

 

「…そうですか。そんなことはどうでもいいです。やりなさい、ファヴニール。あの目障りなキャスターを消しなさい!」

 

「…ガァァァ」

 

その指示に私はため息をつく。

 

「…なんですか。」

 

「…一つ、きかせて?貴女は龍の扱いを本当の意味で分かってる?」

 

「何を…」

 

「そもそも竜っていうのは自然に生きるもの───あぁ、こっちじゃ過去形になるんだっけ。自然に生きるものに、主人という縛りを与えて、本当に全力が出せると思ってる?自分の意思を理解しない主人とともに、全力が出せると思う?」

 

「……」

 

「全力を出させるならば相手を理解するという思いを見せなさい?そうじゃなきゃ、全力なんていつまでも出せない。」

 

「…黙れ」

 

「敵に塩を送る、なんて趣味はないけどあえて言わせてもらう。全力を出させたいのならまず相手を、自分の相棒を知りなさい。それが私が貴女にできる最大限の助言だよ。」

 

「黙れ!!このキャスター如きが!!焼き尽くせ、ファヴニール!!肉の一欠片も残らぬように!!」

 

「…ここまで言っても分からないか。」

 

私は頭痛がし始めた頭を押さえながら、自身の魔導書を開いた。

 

「…我、汝と契約せし者。契約に従い、その姿をここに現せ。汝、深淵から出で、激流の渦を以って万物を喰らう者。我が名“ミラ・ルーティア・シュレイド”と魔導書の名のもとに応えよ。」

 

私が起動したのは一つの宝具。私が持つ召喚魔法の中でも一番弱い召喚魔法。

 

「宝具、開帳。“契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)”───出でよ、深淵から出で激流の渦をもちて万物を喰らう───海神の化身、冥海竜“ラギアクルス希少種”───またの名を冥海竜“アビスラギア”!!」

 

「───ヴオォォォォ!

 

「な───!?」

 

私の召喚呪文にアビスラギアが応える。私はアビスラギアを、補助するのみ。

 

「結界、展開。領域変化、水中!!」

 

私を中心として結界が展開される。その結界の中は、呼吸ができる水。

 

「これ───水!?ま、不味い!!」

 

そう、呼吸はできるとはいえ、これは水には間違いない。水の中で、火は吐けない。古龍と私達が操る火属性術式は特殊な火にしてあるから使えるらしいんだけど。え、なんでわかるかって?煉黒龍“グラン・ミラオス”───“グランス”が言ってた。

 

『お願い、“アビア”!!適当でいいから時間を稼いで!!』

 

『了解しました、マスター!!』

 

アビスラギア───アビアは口元に電気を溜め、それを邪竜と魔女に向かって放った。

 

「く───貴女、何者なのです!?」

 

「私?───“総ての竜に愛された少女”。それが、私の通り名。それが私、人呼んで“古の龍の王妃”!!」

 

「古の龍の、王妃───!?」

 

実際のところ、私には色々な通り名がある。全ての竜に愛された少女、古龍の巫女、古の龍の王妃───思い出すのも面倒だから思い出す気になれないけど。

 

「認めない…認めない!!アンタなんかが、私より上だなんて!たかがキャスター風情がルーラーの私より上だなんて───」

 

「分からないの?ルーラー、つまり裁定者。なら、貴女は“聖人”なんでしょ?何か極め抜いたものでもあるの?」

 

「───」

 

「セイバーは剣を。アーチャーは飛び道具を。ランサーは槍を。ライダーは騎乗を。キャスターは術式を。アサシンは静かに殺す術を。バーサーカーは狂気を。バーサーカーだけは何とも言えないけど、基本的な七騎士は特定の何かを極め抜いてる。そんな極め抜いたものに、付け焼刃のものが、勝てると思ってるの?」

 

「…ルーラーは、基本的に高いステータスで召喚されるはずよ。こんな水さえなければ、アンタなんて…」

 

「……はぁ。アビスラギア、戻っていいよ。」

 

私がそう告げると、アビスラギアが送還された。

 

「…いいよ。結界も解除する。それで私に通じるか、試してみなよ。」

 

そう告げると同時に周囲の水も消える。結界が解除されたため。

 

「───この小娘───殺すっ!!…ファヴニール!!吐息を───全開で!!焼き尽くせっ!!」

 

魔女がそう言うと同時に邪竜の口元に火が漏れているのが見えた。

 

「…あんまり、やりたくないんだけどね。術式、展開。素は水、世に在する四大元素が一。その触媒は我が杖、我が身、我が魔力。」

 

私は詠唱しながら、杖を右手だけでクルクルと回し、先程から感じ取っていた気配の方へを視線を一瞬だけ向けた。

 

 

 

───side 立香

 

 

 

「…!?こっちを見た!?」

 

私達は竜殺しさんを見つけた後、少し外に出ていく機会を窺っていた。

 

〈魔力反応増大、だがこれは宝具ほどではねぇな。〉

 

〈ここに置いていかれた時から見てたけど凄かったわよ、彼女の術……私も教わろうかしら…〉

 

「教わってできるものなのかなぁ…」

 

「…すまない、俺の傷が深いばかりに彼女を助けに行けず…」

 

「謝るでない、竜殺しよ。恐らくミラめは大丈夫であろう。であろう?マスターよ。」

 

私はそれに頷く。ミラちゃんはまだ余裕そうだし。

 

〈…うわっ!?なんだ、あの杖…!!()()()()()()…!!〉

 

ドクターの言う通り、ミラちゃんの持つ杖に水が集まってきていた。

 

 

 

───side ミラ

 

 

 

「放て───!!」

 

私に向かって邪竜の炎が吐かれる。…けど、もう遅い。

 

「水充填60%第一段階…行けるね。()()()()()()()()()()()()()()()()!武器を触媒とした“付与魔法(エンチャント)”が一つ!!」

 

杖の回転を止めて、右手は中心近くをもって後ろに、左手は前に出して身体は半身。つまり───投擲体勢。

 

「穿ちなさい!!“ジャベリンズ・アクア”!!」

 

そのまま杖を、槍のように。名前の通り、投槍のように───投げた。

 

「な───!?」

 

魔女の驚愕を無視し、杖が炎に触れる寸前に私は指を鳴らす。

 

「“ブレイク”」

 

その言葉を聞き届け、私の杖が───正確には()()()()()()()()()()()()()()()。結果はというと───

 

「馬鹿な───!ファヴニールの炎が、あの程度の───!?」

 

炎抹消。ついでに私の杖は私の手元に戻ってきた。

 

『「───さぁ、出番だよ」』

 

私は少し前からこの戦闘を見ていた人達───立香さん達に思念を届けた。

 

「う、うん…!」

 

「…久しいな、ファヴニール」

 

「!?」

 

現れたのは、大きな剣を持った男性。でも、それを見た邪竜が怯えたような行動をとった。…なんか、悪寒がする。多分、この人が竜殺しなんだと思う。

 

「蒼天の空に聞け!我が真名は“ジークフリート”!!今一度蘇りし邪竜を討たんとする者───!!」

 

ジークフリート。彼はそう名乗った。

 




ちなみに“古の龍の王妃”に関しては次の話でミラ自身から話される、かもしれません。

裁「あ~…」

私その場その場で思いついたものを書いてるにすぎないから…


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第43話 竜殺し

あ~…体力

弓「書くことなくなってきておらぬか?」

実際無くなってきてるね。


ジークフリートさんが前に出たのを確認し、私はすぐに指輪を起動させる。

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・魔術協会制服”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体回復”───同時に“霊子譲渡”、対象指定(ターゲットセット)、“ジークフリート”。」

 

私の言葉で服装がカルデアの制服から魔術協会の制服に変わり、味方全体の傷が癒され、ジークフリートさんに魔力が送られる。私は使い終わった後は基本的にカルデア制服に戻すようにしてる。結構気に入ってるからね、カルデアの制服。

 

「すまない、手厚いサポート感謝する。」

 

「ありがと、立香さん。流石に焼けたりとかはしてたから。全部防いだと言っても、熱気だけは少し誤魔化せないから…」

 

ミラちゃん、そう言ってるけど全く傷がついた様子なかったよ?ていうかあの魔法(物理)は何…?

 

「ふん。別行動をして見つけたのがただの死にぞこないのサーヴァント1騎ですか。これでは貴女の全力が報われませんねぇ、王妃様?」

 

嫌みみたいに負方のジャンヌさんが言うけど、それをミラちゃんは鼻で笑った。

 

「冗談。あんなの全力ですらない。たとえそれが本気を出せてても時間稼ぐくらいなら5段リミッターの1段階解除の30%出力で十分。貴女みたいな扱いがなってないなら、15%の出力で十分だよ。流石に撃破は60~70%必要だろうけど。」

 

〈えぇ…ミラちゃんリミッターかかってるの…?〉

 

うん、私も思ったけどハンターの霊基持つ人たちってどれだけ規格外なの?

 

「…どこまでも腹が立つ言い方をしますね。兵士達、ファヴニールを護りなさい。」

 

その言葉と共に骨や周囲の亡骸が組み上がって私達との交戦状態になる。

 

「…貴女が彼女達の言う竜を召喚する元王女殿だとお見受けするが、間違いないだろうか。」

 

「…ない、けど。」

 

「そうか…俺の名はジークフリート。ニーベルンゲンの歌を原典とする英雄になる。貴女のマスターたちの願いを受け、この剣を預けるに至る。」

 

「…そう。」

 

「貴女の奮闘に応えられるかは定かではないが、全力をもってこの剣を振るわせてもらおう。王女殿は、後ろで休んでいるといい。」

 

「…分かった。あとは任せたよ」

 

そう言ってミラちゃんは私達の方へと戻ってきた。

 

「任された。…訳合って、完全な全力を出すことはできないのだが───」

 

なんか不安になるけど、たぶん大丈夫……だと思いたい。

 

「…せぃっ!」

 

大剣を構え、敵に一閃。その剣の重さを示すかのように、その剣に触れた兵士達が蹴散らされていった。

 

「……ジークフリート……ルーパスちゃん、彼の背中守ってあげて」

 

「え…うん」

 

ジークフリート。私の記憶が確かなら、ジークフリートはファヴニールの血を浴びなかった背中の落葉樹の穴が弱点だったはず。なら、そこを狙ってくる可能性は凄く高い。

 

「───……!」

 

「ファヴニールが怯えて───?あのサーヴァント、まさか…!」

 

「わわっ、ホントに来た!…このっ!」

 

背中の方に向けられた兵士はルーパスちゃんが処理する。そのルーパスちゃんが使う武器は、“片手剣”だ。恐らく、ジークフリートさんに被害が行かないようにの配慮。

 

「すまない、恩に着る!」

 

「お礼なら立香に言って!」

 

付かず離れず。絶妙な位置を保ちながらルーパスちゃんはジークフリートさんの背後を守っていた。

 

「ファヴニール───まさか蘇っていたとは。まぁいい、二度蘇ったのならば二度滅するまで…!」

 

剣に埋め込まれた青色の宝石から魔力が発せられる。宝具の、合図。

 

〈真エーテル…!失われた力をあの剣は生み出せるのか!〉

 

〈マシュ、念のため立香を守っていなさい!〉

 

「はい!」

 

「水の守りを…!ここに!」

 

ミラちゃんの言葉でルーパスちゃんにも守りが展開される。

 

「───黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ───」

 

「ッ、上昇なさい、ファヴニール!!」

 

「───邪竜、滅ぶべし!」

 

ファヴニールがその宝具の軌道線上から逃れるのと、宝具が解放されたのは同時だった。

 

「───“幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)”!!」

 

直後、アルトリアさんの様な光線が、周囲に暴風をまき散らしながら放たれた。

 

「っ…!!」

 

「きゃっ…!」

 

「先輩、離れないでください…!」

 

〈なんて威力だ…!!これ、ルーパスちゃん大丈夫なのか!?〉

 

『無事…だけど凄く辛い!竜杭半分穿って何とか耐えてる…!!』

 

ルーパスちゃんの思念からも結構辛いというのが分かる。そして、少ししてその防風も収まった。

 

「───すまない、外したようだ。」

 

その声に私達は上空を見る。そこには、忌々しげにこちらを見つめる負方のジャンヌさんの姿があった。

 

「竜殺し…英雄王…そして古の龍の王妃……!!」

 

「なんで私まで…」

 

「───ファヴニール、覚悟するがいい。貴様が現れるならば、俺は貴様を必ず滅する。貴様を滅することに関して、俺に並ぶ者はいない。邪悪なる竜は、必ずや滅されるものだと知れ!!」

 

「…だ、そうだ。精々そのトカゲの鱗でも磨いて待っているがいい。勝てるかどうかなどは知らんがな!ふははははは!」

 

ギルの笑いに、ファヴニールと負方のジャンヌさんは反転して飛び去って行った。

 

「…竜殺し、ね。確かにその力は見させていただきました。私が時間を稼ぐ理由にはなってたみたいね。」

 

「あぁ───話は聞いている。君は様々な竜を従える王女だと。」

 

「元王女、だけどね。竜殺しだからって、私の友達に危害を加えたら許さないからね?」

 

「あぁ…心に留め、ておこ…う…」

 

「!?ちょっとっ!?」

 

ふらりと倒れたジークフリートさんをミラちゃんが支える。

 

「…呪いか、竜殺し。」

 

「っ…すまない、英雄王よ…」

 

「呪い…?」

 

「ミラよ、安全に移動できる獣魔はいるか。こやつを乗せた方が良かろう。なるべく早くせよ。」

 

「任せて」

 

そう言ってミラちゃんは本を開いて召喚術を起動する。

 

「───お願い、金獅子“ラージャン”!!」

 

ウォォォォォ!!

 

〈ゴリラかよ!?〉

「ゴリラ…?」

「「大団長!?」」

〈ギャァァァァ!!耳ガァァァァ!!〉

 

〈うっせぇぞロマン!!〉

 

前から思ってたけどドクターだけ咆哮の影響受けてるよね。あとジュリィさんとルーパスちゃんが言った大団長って…?

 

「“竜”だとたぶん竜殺しの力受けちゃうから…だったら召喚するなら“牙獣種”かなって。」

 

「ふむ。名はあるのか?」

 

「“シシ”。単純、って思うだろうけど命名ってそれなりに疲れるんだよ。まぁ全員に付けてるけど。」

 

「ほう…では退却するぞ!!」

 

「すまない…」

 

ギルの言葉に私達は頷いて、退却を始めた。

 




…なんでロマンさんだけ咆哮効いてるんだろうなぁ…

裁「さぁ…?」


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第44話 追ってきた者

UA11,000突破ありがとうございます

裁「お気に入り40も突破してるけど…」

その割に感想は2件だけだけど。あると結構書く気力に変換されるから嬉しいんだけど。今ちょうど書く速度がギリギリだから…

弓「この話も17:16に書ききったものであるしな。」

地味に時間かかるんだよ最近…昨日とか動画のエンコード長くて全く書けなかったし…


 

〈皆、急いでくれ!君達の方に向かうサーヴァント反応がある!〉

 

「ええい、竜殺し貴様!!貴様は不幸の呪いでもあるのか!!動くこともできぬ上に追っ手をつけられるなど!!」

 

「すまない…幸運ステータスはEなんだ…すまない…」

 

〈仲間か…〉

 

エミヤさん、それ喜べることじゃないよ…ていうか弓使いが幸運ステータス低いっていいの?

 

「ラージャンというものはそもそも四足歩行で行動することが多い…二足歩行で移動していては時間がかかるのも当然かもしれません!」

 

ウォォ…

 

あ、シシさんが申し訳なさそうにしてる。

 

「だからって陸上を安全に移動できるのはラージャンくらいしか思い浮かばなかったの!私は別にいいけどババコンガとかドドブランゴとか嫌でしょ!?」

 

「「絶対いや!!」」

「絶対いやです!!」

「「絶対いやですにゃ!!」」

 

あ、珍しくリューネちゃんも高音で答えた。そんなに嫌なの?

 

「戦闘の時は別にいいがこんな退却の時に悪臭使いはやめてくれ!!」

 

「だと思った!まだラージャンなだけいいでしょ!!」

 

「すまん、流石にその判断には感謝する!!」

 

あ、悪臭…?

 

「チィッ、あちらの方が早い!!追いつかれるぞ、マスター!」

 

あ、ちなみに今私達は撤退中に追撃放たれてるんだよね…それで今走ってるんだけど、シシさんと私が少し遅いっていう状態。ミラちゃんによると、シシさんも少し重いって感じてるらしい。

 

「すまない…重くて本当にすまない…」

 

「竜殺し貴様謝っておるばかりでおるではないわ!過度な謝罪は無礼となると知れ!!」

 

「すまない…」

 

「ええい、我が愚かだったわ───!」

 

私も結構足早いはずなんだけど、ルーパスちゃんたちの速度に追い付けない…ていうかルーパスちゃんたち速すぎるんだけど…

 

〈…!?あなた達の進行方向に生命反応があるわ!フランス軍よ!〉

 

「救援は…送れないよね…!」

 

「はい…今の私を見てしまえば彼らは…!!」

 

「だろうね…!人っていうものは、同じ姿形をした存在に例え存在そのものが違ったとしても怨みをぶつけるから!!私もよく私が召喚した獣魔を見て護っている人から襲いかかられた事とかあるからね!!地味に王位継承者だってこともあって暗殺されかけたこともあったし!!」

 

うっわぁ…ミラちゃん凄い実感籠ったように…ていうか無事だったんだ?それ…

 

〈ワイバーンが来るぞ!同時にサーヴァントが3騎、1騎はフランスの方へ、2騎は立香達の方に行くぞ!どうするか決めろ!〉

 

「うん…じゃあ、迎撃しよう…!たぶんここで逃げても…!」

 

「ふっ…!それでこそよ!だがフランスの方はどうする!?」

 

「私が行きます!」

 

そう言ったのはジャンヌさん。

 

「大丈夫なの!?」

 

「はい!私が私である限り、このフランスの地を救おうとするのは変わりませんから!!」

 

「よし…ならばいけ!」

 

ギル!?

 

「しかし仕損じるなよ!」

 

「もちろんですとも!!」

 

「お願い、“ジャス”ッ!ジャンヌさんの力になって!ジャンヌさん、ジャスに乗って!!」

 

ミラちゃんが召喚したのは黄色い生き物。でも、今までに召喚していた生き物達よりははるかに小さい。

 

「“ジャグラス”!?ミラって小型モンスターも使役できるの!?」

 

「当然っ!」

 

「小型モンスター?」

 

「説明はあと!行って、ジャンヌさん!」

 

「…お借りします、ミラさん!」

 

ジャンヌさんはそのジャスさんに乗ってフランス軍の方へと駆けていった。

 

「あとはこっちだけど…!」

 

〈たく、どんだけだよ!聖杯って便利だな!つーかルーパスがあんとき全処理したはずだよな!?一日でなんであんなに補充できんだよ!!流石第三魔法っていうところか!!〉

 

〈どちらかといえば第二魔法の領域な気もするけど…〉

 

「…あぁ、もう!ラージャン!」

 

ウォ?

 

「私を思いっきり投げれる!?」

 

ルーパスちゃん!?

 

「私の奥義は空中で真価を発揮するもの!だから…!!」

 

「そうか!上空に投げればワイバーンを一掃できるか!?」

 

 

「金獅子よ、その竜殺しをよこせ!」

 

 

ギルが展開した波紋にシシさんがジークフリートさんを投げ込む。

 

「お願い、シシ!」

 

ウォン、ウォォォォォォォ!!!!!

 

「っ!!」

 

シシさんはルーパスちゃんを掴み、思いっきり上空に投げた。

 

『宝具解放。飛翔…過剰集中、開始。』

 

〈ルーパスちゃんの魔力が膨れ上がってく!?なんて宝具だ!!〉

 

『敵影補足、敵対存在の強度を推測。…完了。軌道予測高速演算開始』

 

思念で伝わる、ルーパスちゃんの詠唱。少し、機械的な何かを感じる。

 

『演算終了。速射開始…私の奥義、行くよ!』

 

〈これは…人が、ただの人間が出来る領域なのか!?〉

 

 

『「弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)”───!!!」』

 

 

その叫びとともに、そこに滞空する私達に向かうワイバーンに向けて豪雨、と言ってもいい量の矢が降り注いだ。

 

「これが…一人で、あの一瞬で撃てる量なの!?」

 

「全力、ではない気もするがどうなのだろうな。」

 

リューネちゃんが呟いたその言葉に私達は少し震えた。改めて、ルーパスちゃんが敵じゃなくてよかったと思う。

 

「…ふぅ。ごめん、フランス軍の方に行ったのは処理できなかった」

 

その後上空から戻ってきたルーパスちゃんは全く汗をかいてなかった。

 

「えと…大丈夫?骨とか折ってない?」

 

「?うん。」

 

「えぇ……」

 

〈ふつう高い場所から落ちてきたら骨とか折ってもおかしくないと思うんだが…〉

 

「レウスに乗ってたら落とされるとかしょっちゅうだったからね。」

 

笑って言ってるけどそれ笑い事じゃないと思うな。

 

「…さ、来たよ。」

 

ルーパスちゃんの言葉通り、サーヴァントがこちらまで向かってきていた。

 

「Urrrr…」

 

「…やぁ、マリー。」

 

「野郎…!!」

 

「───まぁ、なんて奇遇なんでしょう。貴女の顔は忘れたことがないわ、気怠い職人さん?」

 

サーヴァント2騎のうち、ロングコートの男の人の方はマリーさん達の知り合いみたい?

 

「それは嬉しいな。僕も忘れたことなどなかったからね、白雪の如き白いうなじの君?」

 

…うなじ?うなじって…首の後ろ?なんで…あれ、確かマリー・アントワネットさんって…

 

「そして同時にまたこうなっていることに運命を感じているのさ。やはり僕と貴方は特別な縁で結ばれていると。」

 

うなじ、首、ギロチン、処刑…

 

「…Pardonnez-moi, monsieur.(お赦しくださいね、ムッシュウ。) Je ne l'ai pas fait exprès.(わざとではありませんのよ)

 

「っ…その言葉は」

 

「貴方は…“シャルル=アンリ・サンソン”…だよね?」

 

「立香さん…?」

 

「今の言葉はマリーさんの生前の最後の言葉だとされているもの。貴方は、処刑を執行した“シャルル=アンリ・サンソン”…違う?」

 

「…その通りさ。僕はサンソン、“シャルル=アンリ・サンソン”。よく知っているね。全く、真名を暴かれるのはこうも不愉快なものか。」

 

「看破できたのは偶然だけどね。」

 

そう、ただの偶然。私の知識の中に、マリーさんの生涯の話があっただけ。

 

「…Arrrrrrrr!!!」

 

その途中で、視界の外から黒い騎士が私に向かって襲ってきた。

 

「───ほう。随分と目障りな顔がいることだ。」

 

ギルが放ったチャクラムがその騎士を弾き飛ばす。…ちょっと待って、どういう投げ方したらそうなるの。

 

「Arrrr…」

 

「狂犬め、貴様も召喚されていたか。───まぁいい。」

 

「わ、わっ!?」

 

ギルが指を鳴らしたと同時に私は鎖に後ろに放りだされた。それを確認したのか、ルーパスちゃんとリューネちゃんが前に出る。リューネちゃんの狩猟笛はともかく、ルーパスちゃんの弓はあのサーヴァント相手には()()()()()()()

 

「ふん、ハンターが狂犬と対峙するか。」

 

「ルーパスちゃん、矢を放っちゃダメ…!!」

 

「え!?」

 

「ほう…?」

 

「矢を、弾を放っちゃダメ!たぶん、何か起こる!!」

 

「矢を、放つな…?だったら、近接…」

 

「…ルーパス、これを使え。」

 

リューネちゃんがルーパスちゃんに何かを渡した。

 

「これ…」

 

「…久しぶりに、使ってみるのもいいんじゃないか?」

 

「…借りていいの?」

 

「君、自分の武器は大陸に置いていっていただろう。なら今は持っていないはずだ。」

 

「…後で作ってもらおう…今は借りるね。」

 

「あぁ。」

 

こっちからはうまく見えないけど、とりあえず弓が消えたのは見えた。それと同時に、お尻のあたりになにか別の武器。なんかお団子見える気がするのは気のせい?リューネちゃんは狩猟笛じゃなくてなんか…弓じゃないけど弓みたいな武器を背負ってた。…なんか桜の木が見えるような?

 

「行くよ、リューネ」

 

「…あぁ。」

 

二人が同時に抜刀する。リューネちゃんが持っているのは、なんかソウルイーターに出てくる影☆星壱ノ型みたいなやつ。で、ルーパスちゃんが持ってるあれは…

 

「トン…ファー…?」

 

「あれは…まさか、“穿龍棍”ですにゃ!?」

 

「旦にゃさん、それは…“マグネットスパイク”!!」

 

“穿龍棍”と“マグネットスパイク”…?

 

「───行くよ、“花鳥風月【昼桜】”!!」

 

「───久しぶりだが暴れるぞ、“賀正斬鎚【日出】”!!」

 

「Arrrr───!!!」

 

黒い騎士と、夫婦と呼ばれた狩人達の戦いが始まる。

 




ちなみに穿龍棍とマグネットスパイクはモンスターハンター フロンティアの武器ですが私はモンスターハンター フロンティアをやったことはありません

裁「ないんだ…」

私がモンスターハンターシリーズのゲーム始めた頃はサービス終了の少し前だったしその頃知らなかったから。

弓「ふむ…」


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第45話 磁斬鎚と穿龍棍の夫婦、不忠の黒き騎士

ん~…戦闘描写って少し苦手だったりもするんですよね、私。

弓「そうなのか?」

うん。



 

「Arrrrr…!!」

 

「…はぁっ!」

 

ルーパスが黒い騎士の突進に対して穿龍棍で迎え撃つ。何度か連携を放った後、僕が磁界弾を撃ったのを見て、ルーパスがその場から離脱する。それを見て僕はマグネットスパイクの磁力を起動させる。

 

「いけっ…!!」

 

僕がそう呟くと同時に磁界弾の磁界に僕もろとも引き寄せられる───“磁界接近”が行われる。

 

「“垂直───落下振り”!!」

 

垂直落下振り。打モードのマグネットスパイクで使える技の一つだ。

 

「Arrr!?」

 

「磁力二連振りからの…ふんっ!」

 

磁力を利用した二連振り、さらにそこからバックスタンプ。少しスタンかかりかけの彼には丁度良いだろう、と思い選択した。が、彼はそのまま持ち直し、僕の方へと襲いかかってくる。

 

「っ…!」

 

間一髪でガードするとそれは弾き飛ばされる。だが、それは想定内だ。というのも───

 

「…ふんっ!」

 

そもそも打モードのガードは成功すると磁力が反応して後ろに大きく飛び退くというものだ。それから派生して、“ガード強襲”なる技に派生できる。

 

「rr!?」

 

スタンしたのを見て、僕は“磁界離脱”を用いてその場から離れる。

 

「たぁぁぁ!!」

 

直後、空からルーパスが襲いかかる。穿龍棍秘伝、地の型“滞空蹴り”───これは、6()()()()()()()()()()()だ。僕はマグネットスパイクを使い、ルーパスは穿龍棍を使う。その連携に、あらゆる言葉は不要。思えば、この頃から僕らは夫婦と呼ばれ始めていた気がする。

 

「Arrrrr!!!」

 

「離脱───間に合わないっ!」

 

ルーパスは穿龍棍を交差させて騎士の攻撃を防ぐ。その直後、騎士が枝を拾ってルーパスに打ち付けた。

 

「───!?なに、これ…!重い…!!これってまるでマスターランクのラージャンの叩き付け…!?なんで…!?」

 

重い。その言葉に疑問を覚える。騎士が拾ったのはただの枝だったはずだ。それが、ルーパスが声を上げるほど重い───?

 

〈嘘だろ、あの枝からDランクの宝具反応…!?あのサーヴァント、まさかとは思うが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか!?〉

 

背後からロマン殿の声が聞こえる。

 

〈恐らくその性質は相手の武器を奪って倒したという話から来ているはずよ!〉

 

なるほど、立香殿がルーパスに弓を、矢を放つなといった意味が分かった。もし矢を放ち、その矢を取られた場合。その場合、あの騎士に武器をこちらから与えてしまう事になるだろう。

 

「Arrr!!!」

 

その瞬間、騎士が一瞬で飛び退いたかと思うと驚きの現象が起きた。まるで龍識船のようなものと、まるでヘビィボウガンのような、何かが虚空から現れたのだ。直感する───あれは、不味い。

 

〈魔力反応増大!宝具の本領発揮、来るぞ!!〉

 

「ミラ、マシュ殿、立香殿達を守れ!!」

 

「了解っ…!!」

「はいっ!」

 

「間に合え…っ!!」

 

僕は磁界弾をルーパスの方に向けて放ち、磁気を使って接近、さらに翔蟲でその場から離脱した。

 

「Arrrthurrrrrr!!!」

 

そんな咆哮のようなものを上げながらこちらに向かってそのヘビィボウガンを打ってくる。僕は疾翔け(はやがけ)や滞空、それからランスの盾などを駆使してそれらを避ける。ルーパスはずっと見たことのない片手剣でガード体勢を取り、前方に薄い…なんだろうか、壁のようなものを展開させている。

 

「アー、サー…?それにあれって“JM61A1”…?」

 

〈よくわかるな、おい。…ってか。アーサー、ってことは…〉

 

〈アーサー王伝説…となるとあのサーヴァントの真名は、ランスロット…湖の騎士ランスロットよ!!〉

 

『騎士だというのに、バーサーカーのクラスだと?ギルドナイトたちは……あ、アレはアサシンか。』

 

『ギルドナイトはアサシンになりそうだよね…暗殺専門の対ハンター用ハンターだもん。』

 

≪うん、待ってくれ。なんだいそれは。≫

 

『詳しい話はあとにしよう。あちらもこちらの様子を窺っているようだ。』

 

僕はそう言って翔蟲を回収し、マグネットスパイクを斬モードで構えた。ルーパスは片手剣を戻し、穿龍棍を長モードで構える。

 

「Urrrr…」

 

「…ルーパス、そちらの蓄積龍気はどうなっている?」

 

「もうちょっとかかる。そっちの磁気は?」

 

「こちらもだ。アレを使うにはもう少し足りない。」

 

「…そっか。お互い鈍ったね。」

 

「6年の差があるからな…はてさて、どうしたものか…」

 

ちなみに立香殿たちは全員無事なようだ。流石盾の英霊(シールダー)を宿した者と王国の元王女、か。そういえば、僕らの世界では明確に後継だとされていたのは西の方だった。だが、彼女の世界では東の方に王族の一部が流れたらしい。そして僕らの世界と違う点なのだが、彼女の世界では東と西の交流がある。…実を言うと、彼女のいた世界に少しばかり興味はある。だがまぁ、それはここでは関係ない話だ。

 

「…磁纏強化、起動」

 

マグネットスパイクの磁纏強化を発動させる。これによって、マグネットスパイクの力は強化される。ランスロット殿と戦い始めた時は、斬モードを使っていたために斬モードの磁気は溜まっていた。後は、ランスロット殿に磁気を溜めること。ルーパスが言っていたのは、ランスロット殿に蓄積されている磁気のことだ。

 

「Arrrrrr!!!」

 

「───せいっ!」

 

飛びかかってくるランスロット殿に向けて磁力二連斬り。

 

「まだだっ!」

 

さらに追撃で回避斬りからの磁力二連斬り。その時点で、ランスロット殿の頭に電気のような靄のようなものが見えた。それを見た僕は瞬時に飛び上がる。

 

「喰らうがいい───“磁縛”ッッッ!!」

 

「Arrrr!?」

 

僕はマグネットスパイクから発する強力な磁場でランスロット殿を拘束する。磁縛───磁気に耐性を持つ、もしくは怯まない相手の場合は効果がないような技だが、果たして…

 

「A、Arrrrrrthurrrrrrrrrr!!!!!」

 

「……!なんて、馬鹿力なの!磁気を無理矢理捻じ伏せようとするなんて───!!」

 

基本的に磁気に耐性を持たなければ10秒位は拘束できるこの技───!!それを、純粋な力で捻じ伏せるって!!ランスロットさんはラージャンか何かなの!?…でも、負けるわけないでしょうが!!

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrrr!!!!!」

 

磁気の出力を上げて拘束する私、それに必死に抗うランスロットさん。サーヴァントであっても、古龍であっても、存在である以上、限界は必ずある。あとは私が、その限界まで耐えられるかどうか!!ちらりと見えたけどルーパスが小刻みに突いてる!そんなの、私が負けられない理由には十分!!

 

「久しぶりに…全力全開、根競べだよ!!」

 

磁気出力最大、私の全力での磁縛…!!流石にルーパスも危ないと思ったみたいで、ランスロットさんから離れて様子を見てる。

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrrr!!!!!」

 

こんな磁気で相手を縛ったのっていつぶりだろう。もう覚えてないな…

 

〈なんて磁場だ…!よくこんな磁場の中で平然としていられるなリューネちゃん!?〉

 

「あれはマグネットスパイクの特性だよ。基本的に武器にはそれぞれ特性がある。リューネが使うマグネットスパイク───磁斬鎚は磁場からの保護。私が使う穿龍棍は穿龍棍特有の龍気からの保護。太刀は錬気の発現。双剣は鬼人化。片手剣は攻撃、防御、回避の一体化。大剣は超攻撃力。スラッシュアックス───通称スラアクと呼ばれる武器種の斬斧と呼ばれる方は放出する属性からの保護。剣斧と呼ばれる方は斬斧よりも強い爆発への対応。チャージアックス───通称チャアクと呼ばれる盾斧はアックス系の属性保護と盾斧特有の属性による強化。アクセルアックス───通称アクアクと呼ばれる速斧は急加速への対応。ハンマー───鎚は強打、スタンを数多く取るのに対応してる。ランス───槍は堅牢なる防御に。ガンランス───通称ガンスと呼ばれる銃槍は竜撃砲などの打消しと疑似咆哮の効果上昇。狩猟笛は旋律の効果が発動する相手の選択───近接武器種はこれくらいかな」

 

〈ふむふむ…弓とかはどうなるんだい?〉

 

「弓はビンの効果の無効化。ライトボウガン───軽弩は軽さと静音化。ヘビィボウガン───重弩は重さとシールド。そして、遠隔武器の共通点として、通常弾Lv.1、及び矢は全て無限生成。残弾が無くて戦闘ができなくなることはない。」

 

〈なるほど残弾無限とはな…だからルーパスの宝具はあんな量の矢が放てるわけか…〉

 

“武器は相手を害するものであると同時に、自分を守る防具でもある”───そういえば、ルーパスのお父さんも私のお父さんも同じこと言ってたっけ。ルーパスの解説で思い出しちゃった。

 

「Arrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!」

 

「しぶといね…!」

 

磁縛で動けないのは結構辛い。何か、止められたら行けそうなんだけど。そう思っていたその時───

 

「───“ガンド”ッ!!!」

 

「A!?」

 

「ッ!?」

 

立香さんの声とともに飛来する弾、それにぶつかると同時に硬直するランスロットさん。

 

「…ありがと!」

 

今しかない───そう思った私は、マグネットスパイクを振り上げて黒い球体の磁場を発生させる。

 

「───磁縛───フィニーーーッシュ!!!!」

 

それをそのままランスロットさんに叩き付ける。するとランスロットさんを中心に磁気の爆発が起きる。…基本的に、この技を受けて転倒しないのはいないんだけど…

 

「Ur、Urrrrr……」

 

ランスロットさんは立っていた。目の光は多少鈍っているけど、まだ戦意は衰えていない。

 

「…やっぱり鈍ったかなぁ…」

 

そのまま少し凹んでいると、ルーパスが隣まで近づいてきて、私の肩に手を置いた。

 

「お疲れ、リューネ。あとは私に任せて。」

 

「うん…お願い、ルーパス。」

 

「任されました。…あと、昔の喋り方に戻ってるよ?」

 

「え…あ。んんっ…まぁいいんだが。」

 

「いいならいいけどさ。私はどの喋り方のリューネも好きだけどね。」

 

そう言ってルーパスがランスロット殿と対峙する。僕は僕で翔蟲で立香殿の方へと退避する。

 

「すまない、心配をかけてしまったかな?」

 

「リューネちゃん…大丈夫、なの?」

 

「問題ない。死にかけるよりはまだいいさ。」

 

とはいえ、立香殿の術が決定打になったのは事実だ。それには素直に感謝しなくてはいけない。

 

「ありがとう、立香殿。立香殿のおかげで、状況を動かすことができた。礼を言おう。」

 

「そ、そんな…私はただ、できることをしただけなのに…」

 

「出来ることを…か。それを言うなら僕もできることをしただけだ。ここにいる者達はみんな、出来ることをした結果でここに在る。違うか、英雄達の王よ?」

 

「ふははははは!その通りであるな!ハンター…いや、リューネ・メリスよ!貴様を認めてやろうではないか!無論、あの狂犬を倒すことができたならばもう一人のハンターも認めてやろう!」

 

「問題ないさ、ルーパスならね。」

 

ルーパスの方に視線を向けると、既にランスロット殿のほぼ全身に赤い電気のような物が走る───龍気が蓄積し終わっている状態だった。

 

「全開!行っくよ───“龍気穿撃”!!!」

 

「A、Arrrrrr!?」

 

杭を打ち出し、その数瞬後に爆発が起きる。

 

「A……アー…サー………王…よ……」

 

それが止めとなったようで、ランスロット殿の消滅が始まった。

 

「…私はアーサー王じゃないよ。ただの狩人、ただの人間。…私は、それでしかない。」

 

〈ええ、そうですよ、サー・ランスロット。彼女はアーサーではない。貴方の求める王はこちらです。〉

 

通信の先からアルトリア殿の声が聞こえる。

 

「…王…?」

 

〈ええ。貴方達の、円卓の騎士を纏めていた…不甲斐ない王です。〉

 

「王……申しわけ、ありません…」

 

〈え…?〉

 

「私は…貴女を裏切り……貴女の妻、ギネヴィアとの不貞を働き…それを源として貴女のブリテンを、貴女を…破滅へと導いてしまった……」

 

〈…〉

 

「…これが、一つの夢であるかもしれません。ですが、私は…貴女に正しく裁かれたい…そういう思いで、私は今ここにいます……王よ。貴女の答えを、貴女の裁きを…お聞かせ願えますか。裏切りの騎士である…私に。」

 

〈……いいでしょう〉

 

少し長めの沈黙の後、アルトリア殿は口を開いた。

 

〈…サー・ランスロット。そもそもの話ですが、私は女性です。気がついていなかった騎士たちも多かったでしょうが…私という男ではない王。偽りの王である私の妻としていたギネヴィアに、負い目を感じていました。ですから、あなた達の不倫を知ってもそれを咎めようという気は全くなかったのです。…えぇ。全く、そんな気はなかったのです。むしろ、あなた達の関係を応援しているまでありました。〉

 

「…では、何故…私共を…」

 

〈…公になってしまったからです。公になってしまったからこそ、私はあなた達を罰するしかありませんでした。情けない、と言ってくれて構いません。かつて…こことは違う聖杯戦争で貴方とお会いした時、私は私というサーヴァントの存在理由を歪めたことがあります。今となっては、何を馬鹿げたことをしているのでしょう、とも思いますが。それでも…それでも、今ここで貴方にはっきりと伝えましょう。〉

 

そう言い、アルトリア殿はランスロット殿を見つめた。

 

〈サー・ランスロット。私は貴方を恨んではいません。私は貴方とギネヴィアに幸せになってもらうことを望み、不倫については感謝していました。たとえそれがブリテンの崩壊の源になったとしても、あなた達を咎めるつもりはありません。…かつて、サー・トリスタンは言いました。“王は人間の心が分からない”、と。全くもって、その通りです。私は人の心を理解できていなかった。何が人にとって嬉しいことなのか、何が人にとって嫌なことなのか。全て、私の合理的な決断により、ブリテンの最終的な崩壊を招きました。…すみません、話が逸れましたね。私は貴方を“裏切りの騎士”などとは思っていません。“湖の騎士”ランスロット───円卓において最優の騎士であり、私の親友だと思っています。…これが、私の本心からの答えです。〉

 

「…そう、ですか……」

 

〈…また、お会いしましょう。その時はどうか、私の言ったことを覚えているといいのですが…〉

 

「……ありがとうございます」

 

〈…?〉

 

「私を…まだ、親友と呼んでくださって…」

 

〈…もし、まだギネヴィアとのことを罪だと思っているのならば。ならば…〉

 

その先はアルトリア殿は言わなかった。しかし、ランスロット殿は深く頷いた。

 

「…それでは、またいつの日かお会いしましょう…我が王よ…」

 

〈…えぇ。…あぁ、それと。〉

 

「?」

 

〈貴方の…女性と見たらすぐに話しかける癖、どうにかした方が良いですよ。〉

 

「…善処します」

 

そう言ってランスロット殿は消滅した。

 

「…終わった、か。」

 

「終わった、ね…」

 

僕とルーパスはその場で息を吐いた。

 




地味に時間かかったぁ…

裁「お疲れ様…」


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第46話 ジャンヌの望み

ギリギリ…

裁「…投稿時刻17:58。」


「…逃げなさいっ!」

 

兵士を襲いかけたワイバーンをジャンヌの旗が弾く。

 

「な…何?」

 

「逃げなさい、死にたいのですか!!ここは私に任せて逃げなさい!」

 

ジャンヌは強い口調でそう告げる。しかし───

 

「に、逃げるな!竜の魔女だ!討ち取れ、故郷の仇を討て!!」

 

兵士の後ろにいる指揮官らしき者の言葉が飛ぶ。それと同時に、大量の矢はジャンヌに集中する。

 

「くっ…!」

 

「…護っている存在に、散々な仕打ちを受けているわね、貴女。」

 

「───!」

 

瞬時にその場から離脱すると、その場にアイアンメイデンが現れる。それとともに、その近くに吸血鬼───カーミラの姿。

 

「貴女は…!」

 

「ワイバーン。まずは兵士たちをお食べなさいな?」

 

「させませんっ!」

 

兵士達の方へと行こうとしたワイバーンの行く先をジャンヌの旗が阻む。

 

「はぁ…はぁ…聞きなさい、この地に侵攻せし竜達よ!」

 

息を整えながらジャンヌは叫んだ。

 

「私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルク!かつてこの地を救わんと旗を取った者!」

 

旗を振るいワイバーンをなぎ倒し、時折謎の杖を振るうとワイバーンに対して薄めの弾幕が張られる。

 

「私の願いはここに、主の嘆きは私と共に!邪なる者達を通さないという想いの壁がここにある!!」

 

謎の杖はその言葉に呼応してかワイバーンたちを押し留める壁を展開した。

 

「私は一度死んだ者───されどその生涯をこの国の救国に捧げた者!!生半可な力ではこの想い、この誓い、この壁───壊すことはできないと知りなさい!!」

 

旗を空中に放り投げ、剣を抜いてワイバーンを斬り裂く。その手放した旗は、空中で浮遊した状態になっていた。

 

「…なぁ。あれは“竜の魔女”のジャンヌ・ダルクだよな?なんでジャンヌが竜と戦っているんだ?」

 

「知るかそんなもん。精々共倒れしてくれりゃあいいんだよ、俺達の故郷を焼き払ったやつらなんてな。」

 

心無い言葉がジャンヌの背中に突き刺さる。

 

「…展開、火炎!!」

 

手に持つ杖を振り上げ、言葉を紡ぐ。すると、赤色の波紋が一つ、展開される。

 

「ファイア!!」

 

その式句と共に赤色の弾がカーミラに向かう。波紋はその場で掻き消えた。

 

「へぇ…?魔術なんてどこで習ったのかしら?…でも、何をしたとしても、貴女の立場は変わらないわよ、白い聖女?」

 

「そんなこと…分かってます!展開、氷結!」

 

新たに現れる波紋。水色の物が一つ。

 

「無様ね。付け焼刃の魔術で戦いに出るなんて。剣や旗を振り回していた方がいいんじゃないかしら?」

 

「そう、でしょうね…!ですが、これを使わないというのは失礼に当たる気がしますから…!!展開、雷電!」

 

「…何、それ借りものなのかしら?」

 

「えぇ…!それが、何か…!」

 

「…ふうん?どんな仕組みかは知らないけれど…たいした仕組みね。所有者でもないのに、魔術も知らなかったのに魔術を使える杖なんて。」

 

「私だって、本来の使い方なんて知りません…!」

 

杖を、剣を、旗を、拳を。いくつもの攻撃手段を使い、カーミラの攻撃を捌く。

 

「…あいつ……」

 

「たぁぁぁぁ!!」

 

「雄叫びで声をかき消そうとも、貴女の立場は変わらない。彼らが呑気に見物できるのは貴女がワイバーンを引き付け、蹴散らしたからだというのに。」

 

「…!」

 

「貴女はここで、足掻いているというのに───彼らは今度こそ、貴女を敵と見ている。」

 

その言葉と共にジャンヌの剣と杖が押し返される。

 

「教えてくださらない、ジャンヌ・ダルク?貴女は今どんな気分でいるか。死にたいのかしら?それとも殺したいのかしら?後ろの兵士たちの胸に、杭のようにその旗を、楔のようにその剣を───そして貴女を焼いた炎のようにその火の魔弾を。叩き込みたくてたまらないのではなくて?」

 

「───放っておいてください!」

 

その叫びに呼応するかのように、ジャンヌの左手に持つ杖が炎を吹き出す。そしてその炎は、カーミラの足元を少し焼く。

 

「っ…!」

 

「えぇ、普通なら悔しいと思うのでしょう。“竜の魔女”としている私のように復讐したいと思うのでしょう───ですけど、私はかなり楽観的でして。彼らは私を憎み、まだ立ち上がれる。それならば、それでいいとも思ってしまうのです。」

 

そう呟いた後、一直線にカーミラの目を見てジャンヌが告げる。

 

「フランスを救う───それが私が掲げた望み!私が嫌われていようが、憎まれていようが、恨まれていようが!!そんなことは関係ありません!」

 

「…正気、貴女?」

 

カーミラの声に困惑が浮かぶ。

 

「さぁ、フランスを救うと立ち上がった時点で正気ではないとは言われていましたが…」

 

「…そう。白も黒も、どちらであろうとも狂っているというわけね……!ワイバーン!!」

 

カーミラの掛け声により追加されるワイバーン。その数に、ジャンヌが顔を顰める。

 

「これだけのワイバーンから、貴女は護りきれるのかしら!?」

 

「く───護り───」

 

声を発している最中、そこに大砲の音が響き渡った。

 

「え───?」

 

「撃て!ありったけだ!!彼女を援護しろ!!」

 

「何…!?」

 

「ぼさっとすんな!!彼女が持つあの杖、あれは俺たちを助けてくれた旅人たちの中にいた魔法使いの杖と同じもんだ!!ジャンヌであろうがなかろうが関係ねぇ!!あの旅人たちの仲間なら俺達が協力する理由は十分だ!!」

 

「「にゃぁぁぁぁぁ!!!やらせないにゃぁぁぁ!!」」

 

二つの叫び声と共に飛来する巨大なブーメラン。それは、何体かのワイバーンを切り裂き、弧を描いて元の方向に戻っていった。

 

「聞いたか、今の声!!覚えが確かならあの竜を落とした少女達と一緒にいた猫たちと同じ声だ!」

 

「撃てー!!救われた恩を返すんだ!!」

 

そこにいたのは、立香達が最初に立ち寄った砦にいた者達。そしてジャンヌの持つその杖は、ミラの持つ“サモンロード”と同じデザインであった。

 

その銘───“クイックロッド・プロトタイプ”という。クイックロッド───先程の“展開”のような一言術式のみを記録し、魔力と宣言によって即座にその術式を起動させる練習用の杖。ミラがジャンヌに渡した杖はその試作品(プロトタイプ)。単発属性射撃術式しか記録することができず、所有者の感情によって謎の術式を起動させてしまうことがある───ミラの世界では“失敗作”とも言われた杖。しかしミラは失敗作をジャンヌに押し付けたわけではない。他の術式が混同する通常のクイックロッドより、プロトタイプの方が自発発動術式は限られる。細かく教えている時間がないと判断したミラは、射撃術式の使い方だけをジャンヌに叩き込んだ。故に、プロトタイプの方が良かったのだ。魔力と宣言さえあれば発動可能な簡単な杖。それが、クイックロッドの製造理由。しかし、それ故に長い術式には向かない杖なのである。一言術式(クイックスペル)短句術式(ショートスペル)中句術式(ミドルスペル)長句術式(ロングスペル)連言術式(スロースペル)召喚術式(サモンスペル)───そして、空想術式(イメージスペル)。これらがミラの世界に存在する術式の種別となる。

 

「嬢ちゃん、竜共は任せろ!!」

 

「…はい!」

 

そして、増援はそれで終わりではない。

 

「砲兵隊、撃てぇぇぇぇ!」

 

さらに大砲が撃たれる。しかしその声は先程の者ではない。

 

「ジル…!」

 

「手を休めるな!周囲の竜を優先しろ!!娘一人だけを死地に立たせるな!!」

 

爆発、爆音。それらが連鎖する。そして、その連鎖はまだまだ続く。

 

「今度こそ全部あげるよ…全属性砲門、各20門遠隔展開、装填!!」

 

ミラの声がどこからか聞こえる。そしてジャンヌの目の前に、様々な色の波紋が大量に広がる。それぞれ───火属性、水属性、雷属性、氷属性、龍属性、風属性、無属性の七つの通常属性。さらに毒属性、麻痺属性、睡眠属性、爆破属性の四種の特殊属性。加えて炎属性、光属性、雷極属性、天翔属性、熾凍属性、奏属性、黒焔属性、闇属性、紅魔属性、風属性、響属性、灼零属性、皇鳴属性の十三種類の複属性。そして斬撃属性、打撃属性、弾属性の三つの武器種物理属性───()2()7()()()()5()4()0()()───!!

 

「これは───!?」

 

「全砲門一斉掃射!!」

 

恐ろしいのは、これが宝具ではないということ。そしてこれをしてもまだ、ミラには余力があるということ。その射撃術式は、その場にいたワイバーンを総て殲滅してしまった。

 

───そう。

 

()()、だ。

 

「な───!」

 

「…今っ!」

 

剣と杖を地面に突き刺し、左足を踏み込んでさらに左手を突き出す。

 

「く───」

 

「───あぁぁぁ!!」

 

前に阻むアイアンメイデンに対し、そのまま左手を叩き込む。それにより、アイアンメイデンが粉砕された。

 

「なんて力───力を奪われてなおこの膂力…!!」

 

「田舎娘───!!」

 

ギルガメッシュの声が聞こえる。そちらを振り向くと、タマミツネに乗ったギルガメッシュと立香、ミラがいた。

 

「掴まれ───振り落とされるなよ!!」

 

「はい、英雄王───!!」

 

「させない───!!」

 

「こっちの台詞だよ!!レーッ!!」

 

ミラが展開していた波紋から黄色の弾が発射され、カーミラに当たる。

 

「…!?なに、これ…!?身体が、シビレて…」

 

それと同時に、カーミラが地を這う。

 

「撤退!ミチ、全速力!!」

 

タマミツネは頷くと、その周辺に泡をまき散らしながら滑っていった。

 

「…ここまで、なのかしら…ね。」

 

そう言ってカーミラはその場から消えた。

 

「気を付けていけよ、旅のお方───!!」

 

「早ぇ…なんだあれ。生き物だよな…?早ぇ…」

 

「…元帥」

 

「…解らぬ。…もう一度調べなおせ。竜の魔女が本当にジャンヌ・ダルクなのか。それとも、悪質な偽物なのか。…もしくは、ジャンヌ・ダルクがこの世界に二人存在しているのか。」

 

残された元帥───ジル・ド・レェは指揮官の兵士に告げた。

 

「…あの旅の方々からも話を聞け。謎の生き物を駆り、この地に侵攻してきた竜達と敵対している者達は、一体何者なのかを。」

 

ジル・ド・レェが見つめる方向には、既に消え去った泡の残滓が漂っていた。

 




ごめん寝る…あとでちょっと活動報告書きます

弓「頭痛がしているな?」

頭痛と腹痛はよくあること。…あ。そういえば前回書き忘れたんですけど、斬斧のほうは通常のスラッシュアックス、剣斧の方はスラッシュアックスFです。それと風属性が二種類あることに関してですが、通常の方は鎌鼬とかの自然現象の風。複属性の方は雷属性80%+氷属性80%のアレです。ただし、ゲームシステム上で言う“風圧”は何故か無属性になります。

裁「いいから休もう」


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第47話 解呪をするには

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=257368&uid=316165

活動報告の方でリクエスト募集始めたのでよろしくお願いします。

弓「ふむ…にしても今日は早いではないか。」

何とかなった。第一部だけでどれだけかかるか分からないけど…どうにかする。

裁「一年くらいかかるかもね…」

それは勘弁してほしいけどあり得そうだなぁ…


それぞれがミラちゃんの召喚する子たちによって撤退した後。

 

私達は今、ギルの持つ黄金の船───“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”っていう船の中でジークフリートさんの治療を行っていた。

 

「ん……だめだね、これ。」

 

私が“魔術礼装・アトラス院制服”の“イシスの雨”。ジャンヌさん(カルデアのジャンヌさんも呼んだ)が解呪。そしてミラちゃんが解呪術式。さらにギルが解呪系の宝具を使ってくれたけど、呪いは解けない。

 

「すまない…」

 

「貴様のせいではなかろうよ。…ふむ、かなり入念に呪いを仕込まれたようだな。」

 

「呪いの一部が相互干渉してるせいでそれを復元する動きがあるとか面倒くさいパターンだよこれ…っていうか中句術式(ミドルスペル)で解呪できないのは大体面倒。連言術式(スロースペル)だともっと面倒だけど、そもそも連言術式(スロースペル)は今この中にいる人で使える可能性は相当低いし。」

 

そういえば、さっきの全属性砲門遠隔展開射撃。あれは本来中句術式級(ミドルスペルクラス)なんだって。砲撃になると長句術式(ロングスペル)になるらしいんだけど…詠唱省略して空想術式(イメージスペル)に変換すると短句術式(ショートスペル)と同じくらいの詠唱になるらしい。空想術式(イメージスペル)っていうのはジャンヌさんがやったみたいに詠唱せずに術式を発動させること。…ただ、ジャンヌさんのやったそれは自分の意思とは無関係に動いているからミラちゃん曰く“術式の暴発”らしいんだけど。

 

「…ん。報告するね。これは無理だ。9割位まで完全解呪は出来たけど残り1割が無理。呪いの大本を断つか、ちょっと危険だけど呪い返しをするか。あるいは───」

 

「───呪いを同時に解呪するか。となると、聖人がもう一人必要ですね。」

 

聖人がもう一人、かぁ…預言書のジークフリートさんのページを開くと、メンタルマップがあるんだけど…そこにも呪いを示すであろうコードはあった。“呪縛”っていう特殊コードなんだけど。メンタルマップ動かせないんだよね…

 

「ふむ…マスターめとミラ、そして田舎娘二人でも解呪には至らないとはな。」

 

「ん~…とりあえず呪い避けかけておこうか。」

 

「すまない…」

 

そういえば、ジークフリートさんは今まで何してたんだろう…?

 

「そういえば、どうして貴方はあの街にいたのですか?」

 

あ、ジャンヌさんが聞いた。それとカルデアのジャンヌさんはギルと少し話して帰っていった。

 

「俺は召喚されたのが比較的早かったようでな。マスターもおらず、放浪していたところに…あの街が襲われるのを見てしまった。」

 

「助けに行ったのですね?」

 

「あぁ…生前とは違うが、幻想大剣があれば、何とかなる。だが、複数のサーヴァントに襲いかかられては流石に難しかった。」

 

良く生きてたというかなんというか…

 

「ただ、その中に一騎が俺を城にかくまってくれた。傷は治らず、誰かに助けを求めることもできなかったが……そういえば雰囲気はルーラー、君に似ていたな。」

 

「…聖女マルタ、でしょうね…竜の関係者として通じ合ったのでしょうか…」

 

「なるほど…彼女が邪竜タラスクを退散させたという───…彼女が使っていたのは竜……?いや、あれは竜……いや竜……竜亀……言われてみれば……なるほど、ああいう竜もありか…」

 

「私が使役するのもほとんど竜だからね…」

 

「ふむ…ありか。」

 

ありらしい。

 

「流石に解呪系の竜はいないからね……それはともかく。」

 

ミラちゃんはジークフリートさんから視線を外して、ヴィマーナの隅の方にいるルーパスちゃんたちの方に視線を向けた。

 

「…私が言えることじゃないけど、ルーパスさん達大丈夫なの?」

 

「問題ないよ。…けど、少し休めってジュリィに言われてるからね…」

 

「同様に。全く、どうしたものか。」

 

ちなみにこのヴィマーナ、エネルギー生成の調子が少しおかしいみたい。だから、今の状態では浮遊と低速飛行しかできないんだって。この特異点終わったら直すとか言ってたけど。

 

「しかし聖人がもう一人ということはフランス中を探すことになるんだろう?僕らも出ないと手が足りないだろう。」

 

「ダメです。特にリューネさんは昨夜からずっと起きたままですし、さっきなんて強い磁気で相手を縛ってました。相棒は奥義を二回使ってます。あの奥義はかなり負荷をかけるんじゃないですか?そんな状態で出て、倒れられでもしたら意味がありません。」

 

「「う…」」

 

「まぁ私とオトモさん達も残ることになってるからね…心配なのは立香さん達なんだけど…」

 

ハンターのみんなが全滅している状態。流石に不安を覚える。

 

「ふん。まぁいい、フランスを回るしかないのは変わらん。手分けして探すのが良かろう。」

 

私がそれに頷くと、マリーさんが手を上げた。

 

「でしたらくじ引きをしませんか?」

 

 

ズキッ

 

 

「…っ!」

 

腹痛───警告の激痛。なんで、今…?

 

「ほう?」

 

「こういう時にはくじ引きと決まっているでしょう?」

 

 

ズキッ

 

 

「……っ!」

 

警告の激痛が強くなっていく。何かが、不味い。

 

「ふむ。よい、早速作れ音楽家よ!」

 

「それ君達がくじを引きたいだけじゃないかい?…分かったって。作ろうじゃないか。………ところで大丈夫かい?辛そうな顔してるけど。」

 

私はそれに何とか頷く。不安そうにアルが私に触ると、やっぱり痛みは引いていった。…でも、今のは───無視しちゃいけないようなものな気がする。

 

「…大丈夫ならいいけどさ。」

 

 

 

「…私が、マリーとですか。」

 

「王様、アマデウスと香さん達をお願いね?」

 

くじの結果はこっちがギル、私、マシュ、アル、アマデウスさん、ジークフリートさん。あっちはマリーさん、ジャンヌさんだった。…すっごい偏ってるような…一応作り方は人数×2だったから成らないわけじゃないけど…さっきの激痛といい、何か不安。

 

「…すっごい偏りすぎな気がするけどなぁ…だけどくじは運命だによるもの、これに逆らうのは余計に悪運を呼びそうだな。」

 

「なに、田舎娘は守護に特化しているし、こちらにも護りが堅いものはいる。気がかりなのはルーパスとリューネ、そしてミラが出られないことと未だ不調の竜殺しか。」

 

「すまな……申しわけない、すまない…」

 

「パターンを増やすな。」

 

「すまない…」

 

…冬木の時に思い浮かんだ“すまないさん”ってこの人のことかな。

 

「それよりマリア…」

 

「うん?」

 

「……いや、何でもない。道中気を付けるように。空腹になったからって洋菓子店を探すんじゃないぞ。」

 

…不安、なのかな。なんとなくそんな気がした。

 

「…ふふふ、そんなこと!わたしまた、プロポーズされるのかと思ってドキドキしていたわ!」

 

「……え?」

 

「プ」

 

「ロ」

 

「ポー」

 

「ズ?」

 

「ほう?」

 

あ、ちなみにいまプロポーズって言った4人はジュリィさん、ミラちゃん、ルーパスちゃん、リューネちゃんね。

 

「…待て。なぜ今その話をするんだ君は!」

 

「え…プロポーズですか?マリーさんと、アマデウスさんが?」

 

「…あぁ、そっか。そういえばそうだった。」

 

一瞬忘れてたけど思い出した。

 

〈有名な話よ?そちらにいるミスター・アマデウスは六歳の時、七歳の彼女にプロポーズしたのよ。〉

 

〈“きみは優しい人だね、大きくなったら僕のお嫁さんにしてあげるありがとう、素敵な人。僕はアマデウスと言います。もし、貴女のように美しい人に結婚の約束がないのなら、僕が最初でよろしいですか?”…でしたっけ。〉

 

「悪夢だ…まさか後世にまで伝わっているとは……」

 

「変態でも恋愛できたんですか…」

 

「いや出来ない保証はないからね?出来る保証もないけど。」

 

「まぁ気に病むな、音楽家よ。英雄になった後、黒歴史に出会うなどあり得ることであろう。なぁ、贋作者よ。」

 

〈…何故そこで私に振るのかね。〉

 

「自分殺しをしようとした貴様だ、黒歴史と出会った例としては最適であろう?」

 

〈…否定はしないがね。それを言うなら、今の英雄王からすれば未熟な私と戦ったこと自体が黒歴史ではないのかね?〉

 

「ふははははは!!思えば思うほど我は愚かよな!だが慢心は無意識の手加減としれ贋作者ァ!」

 

〈…ごめん───オレもうこの英雄王分からないや───〉

 

〈エミヤッ!諦めないでください!?〉

 

〈ごめん、セイバー…この英雄王を完全に解析することはできないと思う───〉

 

「ふはははははは!!」

 

仲がいいのか悪いのか分からないね、この2人…

 

「なんで一字一句伝わっているんだ…」

 

「それはそうでしょう、私、嬉しくて方々に広めたんですもの!」

 

「君のせいか!!断ったっていうのになんて魔性の女だ!!」

 

それは違うと思うな…

 

「えぇ、だって決められなかったんですもの。私の結婚相手は、私には決められなかった。」

 

寂しげな声でマリーさんがそう呟く。

 

「断ってよかったの。貴方は音楽家として多くの人に愛されることになって、私は愚かな王妃として命を終えた。しょうがないわ、私はいつだって恋に夢中なんだもの。私はきっと、フランスという国に恋していたのね。人々を愛さず、国そのものしか愛さなかった。だからあんな風に国民たちの手で終わったのよ。」

 

それは…

 

「馬鹿なの?」

「馬鹿であるか、貴様。」

「馬鹿じゃないのか君。」

 

……ねぇ、思いっきり罵倒だよ?

 

「ミラさんも王様もアマデウスもひどいわ!!……馬鹿なの、私?」

 

「あぁ、とんでもない勘違いであろう。」

 

「フランスという国に恋していた、だぁ?それは違う。君が国に恋をしていたんじゃない。フランスという国が、君に恋をしていたんだ。」

 

「…ありがとう、モーツァルト。…あれ?でもそれって、恋してくれた人が私を殺したってこと?」

 

「愛情っていうものは簡単に憎しみに切り替わるからね。前に暗殺されかけたっていう話はしたでしょ?あれ、国民だったからね。まぁちょっとあれだけど、捕まえた後に暗示かけて聞きだしたら“貴女のことが好きだったのが途端に憎くなった”とかって…まぁそれは反転させられてたからなんだけど。強い愛情は強い憎しみにもなるんだって。感情反転事件の首謀者がそんなこと言ってたかな。」

 

「探偵さんなのかしら…?」

 

「元王位継承者の最高位召喚術師。私はただそれだけなんだけどね。誰かに愛されれば誰かに憎まれる。誰かに憎まれれば誰かに愛される。そうやって形作られている人の感情。マリアさんは、その規模が凄く大きかっただけ、じゃないかな。」

 

「───愛されたから憎まれる…愛しながら恋人を手にかける…」

 

「醜い部分から生まれるもの。綺麗な部分から生まれるもの。綺麗なものから綺麗なものが生まれるとは限らないし、醜いものから醜いものが生まれるとも限らない。例えば、黒蝕竜“ゴア・マガラ”のようにね。…って、出したことないんだっけ。私結構好きだけど。ゴア・マガラも、シャガルマガラも。」

 

「…恋だけじゃダメ。愛があってこそ、本物の“恋愛”なの…」

 

〈…どっかで聞いたな。……生徒会か。〉

 

「曖昧だけどね」

 

〈俺も忘れた。〉

 

「…ふふ、なんとなく分かったようなそんな気もします!」

 

そう言ってマリーさんは笑った。

 

「…ねぇ、アマデウス!」

 

「うん?」

 

「帰ってきたら久しぶりにあなたのピアノを聞かせてほしいわ!」

 

 

ズキィッ!

 

 

「…っつぅっ!」

 

強烈な激痛。さっきの警告の激痛よりも強くて、一瞬声が漏れた。

 

「…君が無事なら、聞かせてあげるさ。無事でいてくれよ、マリア。」

 

「えぇ!それではジャンヌ、行きましょう!」

 

「はい!」

 

「…大、丈夫?」

 

アルが心配そうに私に触れる。そうすると、なんでか分からないけど激痛が止む。…嫌な、予感がする。

 

「行ってまいりますわね、王様。」

 

「あぁ…仕損じるなよ」

 

ギルは私の現状に気がついているのか、こちらを見ながらマリーさんの言葉に答えていた。

 




ちなみに術式の種別について。実はいくつか前回書かなかったものがあります


一言術式(クイックスペル)…fateの世界での一工程(シングルアクション)、一小節に相当。主に使用される杖は“クイックロッド”
短句術式(ショートスペル)…fateの世界での二小節から九小節ほどの詠唱に相当。主に使用される杖は“ショートロッド”
中句術式(ミドルスペル)…fateの世界での十小節から二十小節ほどの詠唱に相当。主に使用される杖は“ミドルロッド”
長句術式(ロングスペル)…fateの世界での二十一小節以上の個人詠唱。主に使用される杖は“ロングロッド”
連言術式(スロースペル)…複数の術者で行う大魔術。主に使用される杖は“スローロッド”
召喚術式(サモンスペル)…召喚術の総称。主に使用される杖は“サモンロッド”
空想術式(イメージスペル)…無詠唱術式の総称。思考の中で術式を組み立て、詠唱を破棄して発動させる術式と自分の考えたものが放たれる術式の二種類に分けられる。主に使用される杖は“イメージロッド”
理論術式(ロジカルスペル)…今はまだ形になっていない術式。試作中の術式といえば伝わるだろう。理論はあるがそれが使用可能な術式として成り立っていないもの。例えばキリシュタリアの理想魔術などはこの理論術式に当てはまる。
喪失術式(ロストスペル)…存在したとされるがその使用方法が喪失されたとされる術式の総称。


主に使用される杖、っていうのはモンスターハンターで言えば武器屋で店売りしている武器のことですね。ミラの世界にも加工屋はありまして、“ロード”という銘がつく杖は少し特殊な加工をした杖のことです。

弓「色々考えてはいるのだな。」

まぁね…ミラの世界もモンスターハンターの世界を基礎にして組んでるからね。自然との付き合い方が違うだけで。


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第48話 刃物の街へ

───にゃぁぁぁぁぁ!!!

裁「っ…あぁ、これも疑似咆哮になるんだ?」

一応ね?ニャンターもハンターだからね。そもそも“叫び声”が疑似咆哮になるだけだから。


 

「はぁぁぁ!!」

 

「燃えやがれ!!」

 

「ふん、見飽きたわそんなもの。」

 

「…っ!」

 

私達はヴィマーナから出た後、ジークフリートさん、レンポくん、ギル、アルを攻撃の中心として刃物の街と言われるティエールに向かっていた。

 

〈…ほんと、アルターエゴってどういうサーヴァントなんだろうな。〉

 

「…剣かと思ったら弓。弓かと思ったら拳。拳かと思ったら剣……全力は出せてないんだろうけど、形が全くない…まさに無形、っていうか…」

 

〈だな…変幻自在の典型パターン、っていうか…記憶は失っているはずなのに戦闘能力が衰えてない、のかもな。〉

 

お兄ちゃんの言葉に頷く。

 

〈そもそも俺は剣か弓を出せる魔術礼装を与えただけで、戦闘能力自体には何も干渉させてないからな。一応あのアルターエゴの真名も探ってはいるが、まるで分からん。情報が少なすぎるんだよな…〉

 

「ん…預言書に関しては何かあった?」

 

〈なんも。どんな神話を読み返しても、“世界を創る預言書を持った者”の記述なんてねぇ。一番近いのはメソポタミア神話の母神“ティアマト”。もしくは北欧神話の原初の巨人“ユミル”なんだろうが…クレルヴォに関しては恐らくフィンランド神話のクッレルヴォ。ぺルケレもフィンランド。ウンタモも、トゥオニもな。アンテロビブネンは恐らく“アンテロ・ヴィプネン ”だという予測だが…問題はマルカハトゥが全く出てこねぇんだ。〉

 

「精霊たちは?」

 

〈レンポ、ネァッキ、ミエリッキ、ウッコ…恐らくこの辺が大本になってるんだろうよ、ゲームとしては。だが預言書に関しては全く分からん。ったく、面倒な…〉

 

私はそれを聞きながら、アルを見ていた。

 

「先輩、あれが刃物の街だと思われます。ドクター、サーヴァントの反応はありますか?」

 

〈…すまん、ロマンは寝てるわ。サーヴァント反応は…っと。あるな、2つ。コンタクトする際は気をつけろよ…っと。ジャンヌたちから通信入るぞ〉

 

お兄ちゃんがそう言うと、ジャンヌさん達と通信が繋がる。

 

〈あ、香さんですか?こちらは既に着きました。〉

 

「ほんと?大丈夫だった?」

 

〈?はい。そちらは何かありましたか?〉

 

「何か、って言っても今着くところだから…」

 

〈そう、ですか…あ、英雄王はいらっしゃいますか?〉

 

ギル?

 

「どうした、田舎娘よ。」

 

〈あ、英雄王。…分かりました。〉

 

「何?」

 

〈マリーとの対話で確信しました。あの魔女は、私ではないです。貴方の言う通り、彼女は人の温かさというものを知らないでしょう。〉

 

「…そうか。その確信は決戦にて叩き付けるといい。」

 

〈はい。…ですが英雄王。人が足掻くのを見て楽しむのはどういうものかと。〉

 

「ふ。我はただ成長を促しているだけに過ぎん。話はそれだけか。」

 

〈はい。〉

 

「では切るぞ。こちらもサーヴァントとの対話を試みるのでな。」

 

そう言ってジャンヌさんとの通信は切れた。

 

〈…まぁ、なんとかなるだろ。〉

 

お兄ちゃんがそう呟いたとともに、私達の行く先で火が上がった。

 

〈…なんだ、ありゃ。〉

 

〈この反応…2騎のサーヴァントが戦っているわ!!〉

 

「嫌だ…この雑音……かつてない悪音、かつてない悪魔の予感がする!!」

 

〈嫌な予感がする…っていうか嫌な音がする!!〉

 

〈リューネ?〉

 

〈まさかこの音は、この声は…!!〉

 

「ほう…?あの娘も召喚されていたか。カルデアのみならずこの場所にも来るとはな。余程我が好きと見える。」

 

「あぁ、救いの手を差し伸べてくれ女神たち!!ロクでもない予感がして震えが止まらない!」

 

なんかリューネちゃんも嫌がってるけど、なんだろう…

 

 

ボエーーー!!!(ぼえーーー!!!)

 

 

……察し。凄い行きたくないけど行くしかないかな。…あと、凄く直感が反応してる。なんだろう…

 

「…行くしかない、かぁ…」

 

私はため息をついてから皆に街に向かう指示を出した。




すみません、短くて…書けることがなかったです

裁「次は…あっ」

弓「ふははははははは!!」

裁「…耐ショック体勢。」


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第49話 EMERGENCY!!総員、直ちに耐ショック体勢!!

弓「ふはははは!!では行くぞ!」

ちょっ、こっちでも───!?ルーラー、耐ショック体勢は出来てる!?

裁「う、うん…!」

なら良し!

弓「それは我が原初、我が始まり!至高の美は全てに通ず!それに時や場合は関係なし!」

間に合って…!今こそ我が声に応えよ───!!


 

「このっ!この、この、この!ナマイキ!なのよ!極東の!ド田舎リスが!!」

 

「うふふふふ。生意気なのはさて、どちらでしょう。出来損ないが真の竜であるこの私に勝てるとお思いで?」

 

聞こえてきた声に私は頭を押さえた。この2人、たぶんかなり相性が悪い。片方は紛れもなくエリザベートさん。もう片方は分からないけど…多分日本人?

 

「うーーー!!カーミラの前にアンタを血祭りにしてあげる、このストーカー!!」

 

「ストーカーではありません。“隠密的にすら見える献身的な後方警備”です。この清姫、愛に生きる女です故。」

 

“清姫”…って、たしか…

 

〈…ねぇ、私が見ているのはサーヴァントなのよね?計器がおかしくなったわけでも、私の目がおかしくなったわけでもないのよね?〉

 

「大丈夫だよ、マリー。私も現実を直視したくない。お兄ちゃん、清姫さんって確か…」

 

〈まぁ現実逃避をしたくもなるわなぁ……って清姫か…“安珍・清姫伝説”の憤怒によって蛇になった女性か?〉

 

「だよね…」

 

蛇っていうのは竜を示すこともあるから竜っていうのはあり得るかもしれない。

 

「アンタの愛は人権侵害なのよ!」

 

「血液拷問フェチのド変態に言われたくありませんね。どうせ貴女のことです、アレしながらナニしてたんでしょう…?」

 

「アレって何よ!?ナニって何よ!?訳の分からないこと言わないでちょうだい!!」

 

「…え?エリザベート、貴女まさか───」

 

…あぁ、そういえばエリザベートさんカルデアで落ち着いた後、言ってたっけ。“私は少女時代の状態で召喚されている”って。だったらその…経験もないわけで。

 

純情(ピュア)なんだね。」

 

「何よっ!?」

 

聞こえてたのかな?気にしないけど…え、私?twitterのタイムラインで結構回ってくるからなんとなくで理解してたよ?

 

「潰すっ!!私がナンバーワンよっ!」

 

「燃えまーす♪」

 

ほんとに燃えてるし…ていうかアイドル衣装の少女と着物の少女が喧嘩してるってなんだろう…

 

「これ以上声という声、音という音への冒涜はやめてくれ!!」

 

〈立香は平気なのね?〉

 

「うん。ドクターは?」

 

〈ロマニなら失神してるわよ。〉

 

〈…ジュリィ、帰ったらロマンに“耳栓の護石IV”と“ゾラマグナクロウγ”作ってあげて?各素材と費用は全部私出すから。〉

 

〈は、はい…〉

 

〈なんか、ごめんなさいね。〉

 

多分咆哮とかで役に立たないからなんだろうなぁ…

 

「エリマキトカゲ。」

 

「アオダイショウ!!」

 

「メキシコドクトカゲ。」

 

「ヒャッポダ!!」

 

〈アルターエゴ、武器のアップデートかけておいたから、自由に使ってくれな。〉

 

「…ん…」

 

「ブラックマンバ!」

 

「カナヘビ!」

 

敵が来たのは全部アルが処理してくれたけど…この2人ヒートアップしてるよね…お兄ちゃんによると、今回はスナイパーライフルの追加と実装されてる銃用のサプレッサーが追加したらしい。

 

「ストップストップ!!それ以上の声という声の冒涜はやめるんだ!」

 

「とりあえず喧嘩やめてくれると助かるんだけど…」

 

一応アマデウスさんと私で喧嘩の仲裁はしてみる。

 

「あん?」

「はい?」

 

…うん、無理だよね。でもこっちみてくれただけでも進展。

 

「何よ、アンタら。アタシは今この蛇女と決着つけようとしてたんだけど。」

 

「あら、ただただ吠えるトカゲの分際で何を言うのです?」

 

「この白蛇!!」

 

「赤蜥蜴!!」

 

「…ごめん、吐きそうだ。ここは任せてもいいかい、立香。」

 

「…う~ん」

 

どうだろうなぁ、とか思いながら頭を押さえる。

 

「…どうしよっか、ギル。」

 

「ふむ…医師よ、我等とあの2騎以外にサーヴァントはいないか?」

 

ドクター、起きてるかな…?

 

〈すまない、失神してた。ええっと……うん、その2騎以外にサーヴァント反応はない。〉

 

「ふん。ここに来たのは全くの無駄足であったか。まぁいい、ならば早く終わらせるとしよう。…なぁ、竜よ。」

 

…なんだろう。凄く、嫌な予感がする。

 

「オルガマリー、医師、六花、ルナセリア…マスターにマシュ。それからカルデアの者達よ。」

 

「?」

 

「我が補助に回っていたとはいえ、よくここまで戦い抜いた!よってこれより我が芸術を目の当たりにすることを許す!!」

 

……なんだろう。もの凄く、嫌な予感がする。

 

「…久しぶりよな、赤き槍兵───赤き竜よ。」

 

「はぁ───ってげぇっ!?ゴージャス!!?」

 

あ、知り合いみたい。

 

「ふははははははは!!しかり!我はゴージャスにしてプレミアなる者よ!!」

 

「はぁ…」

 

清姫さんがなんか疲れたような表情で見てる…?

 

「そこの白蛇も覚えておけ!我は英雄王ギルガメッシュ!クラス・プレミアである!!」

 

「…その英雄王様が何の御用でしょうか?」

 

「決まっている。貴様等の争いをこの我自ら治めてやろうというのよ。」

 

「…まさか、冗談でしょう?」

 

…まずい

 

「…ユキ兄」

 

〈あ?…って、その名前で呼ぶってことは何か緊急か?〉

 

まずい…!!

 

「全員直ちに耐ショック体勢!!速く!!」

 

〈耐ショック体勢…?分かった、通達しておく。〉

 

「速くして!!じゃないと多分大変なことになる!!」

 

ちなみにユキ兄っていうのは漢字にすると雪兄ね。“六花(りっか)”っていうのは“雪の結晶”を示すから。

 

〈お、おう…?聞こえたな、全員耐ショック体勢だ!!〉

 

〈耐ショック体勢…ってなんだい?〉

 

〈いいから教えるとおりにやれ!〉

 

〈わ、わかった…〉

 

「マスター、目を閉じてください…!!」

 

「う、うん…!!アルも…!!」

 

「……!!」

 

「冗談などないわ!行くぞ、その目に焼き付けよ!!」

 

「いーやー!!帰る!!私帰る───!!!」

 

「逃がさぬわぁ!!」

 

何か起きてることは分かるけど、見えてないから何起こってるか分からない…

 

「行くぞ!!それは我が原初、我が始まり!至高の美は全てに通ず!それに時や場合は関係なし!」

 

いや、あると思うよ?

 

「開帳───!!“A・U・O───!!」

 

「い───や───!!!!!」

 

「キャスト・オフ”───!!!!」

 

間。

 

「子ブタ───!!!」

「安珍様───!!!」

「おぼろぁぁああ!!!」

 

なんかアマデウスさん吐いた音聞こえたぁ!?

 

〈うわぁぁぁぁ!!〉

〈何騒いでるの───ってぶは───!?〉

 

〈やべぇっ、被害が拡大する!?管制室に結界展開しねぇと!!〉

 

「先輩、見ないでいいです。いえ、見ないでください。」

 

「うん?う、うん…?」

 

〈汚物は消毒するか?〉

 

「火炎放射器追加するつもり?」

 

〈…何追加するか迷ってるんだよ。〉

 

とりあえず、その断末魔(?)は結構な時間続いた。

 

…え?耐ショック体勢って何かって?耐ショック体勢(カリスマガード)だよ?ちなみに耐ショック体勢ちゃんとしてた人は全員無事だったみたい。

 




弓「A・U・O───キャスト・オフ───!!!」

花の魔術師「やぁ、よん…うわぁぁぁぁぁ!!!!」

ふぅ。

弓「ふはははははは!!」

花の魔術師「ひどいじゃないか!!僕が何したって言うんだ!?」

さぁ?

弓「…さて、終わるとするか。」

あ、うん。それではまた次回。

花の魔術師「終わりかい!?私の出番これだけなのかい!?」

ばいばーい


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第50話 激痛の原因

そういえばそろそろモンスターハンター新作出ますね。

弓「予約はしてあるのだな?」

うん。


とりあえず、ギルの宝具が終わったらしいから私は視界が戻った。

 

「安珍様…安珍様…」

 

「マリー…マリー…」

 

〈「う~☆」〉

 

〈いや酷いな…敵に、というより味方に被害が起こる宝具って…〉

 

「そうだね~…お兄ちゃんは何があったか見た?」

 

〈いや?音だけで何が起きてるかは判別した。こっちの被害者は乱入してきたエリザベートとちゃんと耐ショック体勢維持できてなかったロマンだけだ。〉

 

地味にハイスペックなんだよね、お兄ちゃん。あとエリザベートさん、カリスマブレイクしてない?本人がカリスマあるかと言われるとどうなのか分からないけど。

 

「…武器を振るわずとも人を破壊することはできるのですね…勉強になります。」

 

「武器…物理的な武器を使わなくても、人を壊す…人を殺すことは可能なものだよ。」

 

もちろん、物理的なもので人を破壊することができるとも限らない。ナイフだったとしても、それが致命傷になるとは限らない…

 

「…ジャンヌさんに連絡しようか。」

 

私は連絡機でジャンヌさんの方へとつなげた。

 

「…あ、繋がった。ジャンヌさん、そっちは大丈夫…?」

 

〈…はい。あの…何があったのですか?音声しか聞き取れなかったですが…〉

 

「ギルが何かの宝具を使ったんだよ。よくわかんなかったけど…」

 

〈…そうですか。〉

 

「そっちはどう?」

 

凄く、胸騒ぎがする。あと、もう一つ…アルに何度か痛みを静めてもらっているのにじわじわと痛む。警告の激痛は名前通り“激痛”の時と“微痛”、みたいなときがある。警戒するべきことに応じてその痛みの強さが変わるみたいなんだけど…結局分かってない。

 

〈こちらは無事に聖人“ゲオルギウス”とコンタクトできました。彼が戻ればジークフリートの解呪もできるでしょう。〉

 

「そう……マリーさんは、無事?」

 

その言葉を言った途端、ズキンッと痛みが強くなった。…激痛の鍵は、マリーさんだね。

 

〈はい、大丈夫ですが…〉

 

「…そう…」

 

〈ガッ!?〉

 

「お兄ちゃん!?」

 

カルデアの方に通じている通信の方から、お兄ちゃんの悲鳴が聞こえた。

 

〈ど、どうしたんだい、六花!?〉

 

〈しっかりしなさい、六花!!〉

 

突如慌てたような状態のカルデア。私は首を傾げたけど、その意味を私はすぐに知ることになる。

 

 

 

〈───ねぇ、立香さん。また必ず、逢いましょうね?〉

 

 

 

 

ズキィッッ!!!

 

 

 

「───っ───!!!!」

 

マリーさんの言葉が聞こえた途端に起こる警告の激痛。それも、この特異点に来てから感じたもののどれよりも強い───!!!

 

「先輩!?しっかりしてください!!」

 

〈大丈夫かしら?そちらに戻ったら、あなたの笑顔を見せて欲しいわ!それではまたね、ヴィヴ・ラ・フランス!〉

 

「まっ……って………!!」

 

私が絞り出すように言葉を紡いだと思うと、私の視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 

───私はきっと、こういう時のために召喚されたの。敵を憎んだり倒したりするんじゃなくて。人々を護る命として喚ばれたのです。

 

 

───あ、でもアマデウスには謝っておいてくださいね。ピアノ、やっぱり聴けなかったって。

 

 

真っ白な視界の中でマリーさんのエコーのかかった声が聞こえる。

 

 

───…さよなら、ジャンヌ。ええ、会えてよかったわ。フランスを救った聖女の手助けができるなら……ううん、“友達”の手助けができるなら。

 

 

───私は喜んで輝き、散りましょう───

 

 

 

 

 

「だめ…だめ……!!」

 

「先輩、しっかりしてください!!」

 

マシュの声で視界が戻る。激痛は未だ、強い状態を維持している。

 

「わたしの…こと…は……いい、から……!まりー…さん、を…たすけに……!!」

 

「何を言ってるんですか!?」

 

「はや…く……!!じゃ…ないと……!!」

 

意識が落ちそうな中、それを…告げる。

 

 

 

「まりーさんが……!しぬ……!!」

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「これは…竜の魔女!!」

 

西側。ジャンヌたちの方には多くのワイバーンとサーヴァントが向かってきていた。

 

「撤退しましょう、今の我々では歯が立ちません!!」

 

その言葉に、もう一人の聖人───“ゲオルギウス”は首を横に振った。

 

「そうもいきません。市民の非難が、まだ間に合っていないのです。私は、個々の視聴から彼らの守護を任されていますから。」

 

「あ……」

 

「その願いを全うしなければ、私が聖人でありたいと願うことも許されない。」

 

「ですが…!!」

 

「…分かっています。残れば死ぬのみでしょう。それでも、見捨てるわけにはいきません。」

 

「…ふふ。ゲオルギウスさまったら、頭も体も堅い殿方ですのね。」

 

そう言ってマリーが笑う。

 

「ゲオルギウスさま。そのお役目、私にお譲りくださいませんか?」

 

「なんと…?」

 

「マリー…?」

 

「この時代が“未来”でも、私にとっての“過去”でもそれほど違いはありません。だって今いるのは現実なのですから。私はきっと、敵を憎むのでもなく、倒すのでもなく。人々を護る命として召喚されたのです。今度こそ大切な人たちを護るために。正しいことを正しく行います。」

 

「ま、待ってください!待って、マリー!一緒に戦いましょう!一人ではだめでも、二人なら…!!」

 

その言葉に、マリーは首を横に振った。

 

「ノン。それは駄目よ、ジャンヌ。市民を護ることは私にとって大切な使命。ジャンヌとゲオルギウスさまには大局を動かすという使命が与えられています。これ以上、市民が脅威にさらされることがないように。一刻も早く、この争いの終結をお願いします。」

 

そう言ってマリーは微笑んだ。

 

「…ジャンヌ。ほんの少しだけでも、貴女の旗の下で戦えて、嬉しかった。…アマデウスと立香さんに伝えておいて?ピアノ、聞けなくてごめんなさいって…貴方達といて、とっても楽しかった、って。」

 

「マリー…」

 

「心配しないで。すぐに追いつくから。」

 

「…待っています。」

 

そう言ってジャンヌとゲオルギウスはその場を去っていった。

 




一応いくつかコラボ特異点作ってるけど時間が流れすぎて忘れそう…

弓「ふむ。」

一応破片───概要みたいなのは書いたからいいんだけど…

…あ。それと、今回から分岐点になりそうなところに“運命の選択”を置きます。選択次第で終局特異点の展開が変わり、アルターエゴ“無銘”の運命が決まると思ってください。

弓「我は“救う”に一票よ。」

裁「私も同じく…」

ちなみに私とここにいる二人も選択には参加します。期限は運命の選択が現れた話の次の話が投稿される日の12:00まで。今回の場合は2021/03/23の12:00までですね。…脅しとかではないですが…もしも、運命の選択において私が本来想定していない選択がされ続けた場合───



















それは、“誰か”が悲しむことになるでしょう。


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第51話 来たる者

運命の選択 竜の魔女に襲撃されたマリー・アントワネットを

(7) 救う
(0) 救わない


?「運命は定まった。創り手。」

あ…うん。私達の票を追加すると…


運命の選択 竜の魔女に襲撃されたマリー・アントワネットを
(10) 救う
(0) 救わない


…ん。ありがとね。

?「構わない…私は、ただの観測者だ。」

裁「…消えた。」

えっと…救う展開は…っと。

裁「…マスター…今の人は?」

…多分、私が考えてるコラボ特異点に登場するキャラクター…だと思う。私がやってるゲームに、そんな人がいる。

弓「ふむ…」

さぁ、始めよう。選択による結果を。


 

「来たのね、サンソン」

 

「あぁ、来たとも。処刑には資格があるからね。する側にも、される側にもだ。」

 

一人残ったマリーと処刑人、シャルル=アンリ・サンソンが対峙する。

 

「僕以外に君を処刑する資格を持つ者はいない。それは君も実感しているだろう?マリー。」

 

「……えーと。ちょっと待ってね、サンソン。」

 

マリーは頭を押さえて少し困ったような表情をした。

 

「貴方が素晴らしい処刑人であることは理解しています。残忍で冷酷な非人間ですけれど、貴方は決して罪人を蔑みませんでしたから。深い敬意をもってギロチンの番をしていた貴方を、確かに私は信頼しています……が。」

 

マリーはサンソンをまっすぐに見つめた。

 

「ええ、確かに処刑人としては信頼しています。…ですが……サンソン。貴方は、私を殺すためだけに。私を処刑するためだけに、竜の魔女側についたのかしら。」

 

「あぁ、そうだとも。僕は待っていたのさ、君を。竜の魔女に召喚されてからというもの、フランスの人々を殺し、殺し、殺し、殺し…そうやって僕は君へ捧げる一撃を磨いてきた。」

 

そういうサンソンの手にある刃は血塗れであり、赤く光を反射する。

 

「僕は処刑人の家に生まれ、処刑のことだけを教え込まれた。そこに妥協はないさ。いい処刑人が罪人に苦しみを与えないのは当然のことだ。だから僕は、その先を目指した。」

 

ゆっくりと、しかし正確に狙いを定めるサンソン。

 

「それはつまり───快楽さ。その瞬間、まさに“死ぬほど気持ちがいい”。それだけを追い求めた僕の生涯最高の断首が、君に向けた斬首だ。」

 

「………」

 

「聞かせてくれないか、マリー。」

 

サンソンは少し呆れたような表情のマリーに問う。

 

「僕の断頭はどうだった?君、最後に絶頂を迎えてくれたかい?」

 

「…残念だけど、その問いには答えられないわ。倒錯趣味の方はもう間に合っているし…そもそも言いたくないことですし。ごめんなさいね。」

 

「知ってるさ。でも君はきっと喜んでくれる。僕はあの時よりも、もっと巧くなった。僕に機会をくれないか、マリー。」

 

「…えぇ、どうぞ。貴方が本当に処刑人として巧くなったのなら。私の首を落とせるはずよ。貴方がこのフランスで積み重ねたものが正しいものだったのか、試してみなさいな。」

 

そう言ってマリーはその首筋を見せる。

 

「…あぁ、君はやっぱり最高だ。」

 

サンソンはその刃を構え、マリーへと襲い掛かる。

 

「もう一度君に、最後の恍惚を与えてあげよう───」

 

その刃は、マリーの首を狙う一撃。

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

その刃は、届かなかった。

 

「ばか…な…!?」

 

原因は、マリーの周囲に展開された結晶。主を護るように。大切な者を護るかのように、結晶がマリーを守っていた。

 

「どうして…僕が打ち負ける…!?」

 

「…哀しいわね、シャルル=アンリ・サンソン。」

 

そう告げると同時に、サンソンの刃と結晶が砕ける。

 

「な…嘘だ…嘘だと言ってくれ…!!」

 

「…この地で再開した時に、言ってあげればよかった。あの時、既に貴方との関係は終わっていたと。本当に、貴方の刃は錆びついていたんだもの。私の護りすら貫けないほどに。」

 

マリーは告げる。サンソンの身に、サンソンの技に何が起こっていたか。

 

「貴方はこのフランスで、多くの人間を殺してきた。竜の魔女が命じるままに。それは罪人を救う処刑人とは遠い。殺人者としての切れ味を増すことになる。貴方は竜の魔女についた時点で、私の知るサンソンではなかったの。」

 

「嘘だ…嘘だ…!!僕は…君が来ることを信じていて…!!もっとうまく首を刎ねて…!!もっともっと最高の瞬間を与えたいと思っていたからここまで来たのに!!」

 

サンソンの慟哭が周囲に響く。

 

「そうすればきっと、君に許してもらえると思ったのに……!!」

 

「…もう。本当に哀れで、可愛い人。」

 

マリーはサンソンの顔を持ち上げ、じっと見つめる。

 

「私は貴方を恨んではいないわ。初めから貴方は、私に許される必要なんてなかったの。」

 

「あ…ぁぁあ…」

 

サンソンは小さく呻きながらその場から消えた。

 

「…さようなら、サンソン。On se revoit quelque part?(またどこかで会いましょう?)

 

マリーがそう呟いた時、竜の咆哮と羽ばたきの音が聞こえた。

 

「…ミラさん、ではないですわね。いくら彼女でもここまでは時間がかかるでしょうし。随分と遅いご到着ですわね、竜の魔女さん?」

 

「…サンソンは消えましたか。これで三人。見込んだものほど早く消えるとは、皮肉ですね。」

 

「そうですわね。案外、最後まで残るのは貴女が嫌っている吸血鬼なのかも。」

 

竜の魔女は不機嫌そうな眼でマリーを見た後、周囲を見渡した。

 

「…彼女(わたし)は逃げたのですね。なんて、無様。」

 

「いいえ。彼女が希望の欠片を持っていったの。貴女を倒すための、大切な欠片。大切な一手を。」

 

「馬鹿馬鹿しい。たかがサーヴァント1騎仲間にした程度で、何が変わるというのですか。馬鹿馬鹿しいといえば───」

 

竜の魔女がマリーを見つめる。

 

「貴女がここに残っているのもまた、下らない。貴女を処刑したこの国を、何故貴女が守る理由になるのですか?」

 

「…魔女というものは、そんな理屈も分からないの?確かに私は処刑された。嘲笑もありましたし、蔑みもありました。ですが───それは私にとって、“殺し返す理由”にはなりません。」

 

「…何?」

 

「私は民に乞われて王妃になった者。民なくして、王妃は成り立ちません。」

 

マリーはそのまま、言葉を紡ぐ。

 

「民たちが望まないなら、私が望まなくとも退場しましょう。それが、国に使える人間の運命。それが、王族というものの運命。私の処刑は、次の笑顔に繋がったと信じています。」

 

告げる。彼女が憎しみを持たなかった、その心を。

 

「いつだって、フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)!星は輝きを与えていればそれでいいのです!」

 

(…そうですわよね、若い異世界の王女さん。)

 

「…なによ、それ…」

 

「そして確信したことがもう一つ。竜の魔女、貴女は“ジャンヌ・ダルク”ではない。本当の貴女は一体何者なの?」

 

「───黙れ!!」

 

その声に反応したかのように、ファヴニールが咆哮する。

 

(…ごめんなさいね、アマデウス。ジャンヌ。ギルガメッシュ様。…そして、立香さんにミラさん。…さようなら。)

 

初恋の人。友人にして生前の憧れだった人。黄金の鎧を纏う優しい人。世界の運命に立ち向かう主たる少女。異世界にいた竜を従える王女。

 

その姿が、彼女の脳裏に浮かぶ。

 

(これが私の、マリー・アントワネットの生き方だから…!)

 

宝具を展開する。自分を犠牲に、それでも多くの民を救うために。

 

「宝具展開!!“愛すべき(クリスタル)───」

 

 

「───馬鹿───!!

 

 

「───えっ!?」

 

それは、叶わなかった。一つの罵倒が、そして一つの轟音がその場を支配したからだ。

 

フィィィィィィィ!!

 

「「───っ!?」」

 

咆哮。甲高く、どこかの航空機のようなものを思わせる。それを発したのは、銀色の生き物。

 

「ありがと、“ファル”!」

 

その生き物の背中から降り立つ一つの人影。それは、紛れもなく───

 

「げぇっ!?」

 

「ミラ、さん!?」

 

総ての竜に愛された少女───“ミラ・ルーティア・シュレイド”だった。ミラは降り立った直後、本を掲げて告げる。

 

「我、汝と契約せし者。契約に従い、その姿をここに現せ。汝、親玉たる者の一つにして最弱の名を冠した者!我が名“ミラ・ルーティア・シュレイド”と魔導書の名のもとに応えよ───!!」

 

そして、彼女の宝具が解放される。召喚宝具の一つ、最弱の召喚───

 

「宝具開帳!“契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)”───出でよ、群れにて生き物を襲うならず者───大食らいの長、賊竜“ドスジャグラス”よ───!!」

 

召喚される黄と緑を基調とした鱗を纏い、背部には朱色の小さな棘が一列に並んでいる竜。

 

グワワワワワワワ!!

 

その咆哮はあまりにも小さく、誰も怯みなどしなかった。

 

「はっ!何よそれ、それの方がよっぽど蜥蜴みたいじゃない!」

 

「───これでいいんだよね、ジュリィさん!」

 

「はい!!ありがとうございます!」

 

ミラの言葉に、銀色の生き物の背中からもう一つの人影が降りる。

 

「大剣使い…!?」

 

「───それは、私の顕現。私という概念のもう一つの具現化。」

 

詠唱する人影───“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”。彼女は本を開き、言葉を紡ぐ。

 

「我等の言葉、我等の示しは狩人を導く。」

 

それは、彼女の仕事の顕現。

 

「導かれた狩人は戦い、傷つき、そして時には何かを得る。」

 

彼女の魔力が上がっていくのが分かる。

 

「我等は、それを綴じる。集めた願いを綴じ、狩人に提示する。それが我等の役目。それが我等の仕事。」

 

それは、彼女に与えられた概念の力。編纂者ではない、狩人でもない。ギルドから───否、ルーパスから与えられた一つの名称。

 

「我等“ギルドガール”。今こそその願いの力をここに。───私は今、あなたを誰かの願いへと導きましょう。」

 

それが───“受付嬢”。クエストを管理し、そのクエストを狩人に提示する。かつてルーパスはその行動を見てジュリィのことを“大陸にいる受付嬢みたいだね”と言った。それが、その概念が、彼女の、彼女ら(受付嬢)の宝具となった。

 

それでは、クエスト一覧を開きます───宝具解放!“誰かの願いを記し(クエスト)───」

 

彼女の持つ本のページがめくられる。そしてその本は、一つのページにたどり着いて止まった。

 

「───人を依頼に導くもの(ボード)”!!依頼(クエスト)名、“窮賊、ハンターを噛む”───!!!」

 

誰かの願いを記し、人を依頼に導くもの(クエストボード)”。それは、受付嬢というクエストを提示する女性たちの概念の顕現。クエストを提示し、ハンターがそれを受注すると、そのクエストに対応した強さのモンスターがその場所に現れる。この宝具はその逆だ。“受付嬢がいる”、“クエストを受注した”という概念を起点として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。即ち、今回の場合は受付嬢がその地を、宝具によって“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もしもクエストの対象となるモンスターがいないのならば強制的に召喚される。もしもいるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなモンスターのために存在するかのような、大規模な結界宝具。

 

グワァァァァァ!!

 

「え…うそっ、“咆哮【大】”!?」

 

下位、上位、G級、マスター…いくつもの強さがある中で、今回彼女が選んだそのクエストは上位のクエスト。しかし侮るなかれ、ハンターランク50以上ではなければ挑むことを許されないその最弱たる者を相手にするクエスト。生半可な防御ではそれを貫く最弱。その竜、誰が呼んだか───“歴戦王ドスジャグラス”。

 

「うそ…私が強化しても、ここまでできないのに…!!」

 

その結界の力は、ミラの強化をも上回る。それでいて、ドスジャグラスと強化者たるジュリィ。そして召喚者たるミラには何の影響もない。それを確認したミラは、はっきりと告げる。

 

「…行って、“ドラス”、“ファル”!」

 

グワァァァァァ!!

フィィィィィィィ!!

 

「なんなのよ…なんなのよ!!なんでアンタたちが───古の龍の王妃が、目障りな大剣使いが、ここにいるのよ!足なんて何も、なかったでしょう!貴女が竜を召喚できるからと言っても、絶対にここに間に合うわけがない!!」

 

その悲鳴に近い声に、ミラは竜の魔女をまっすぐに見据えた。

 

「…確かに、普通に来ただけじゃ…馬を使ったとしても、この場所には間に合わなかったかもしれない。けれど、私には龍達がいる。私に力を貸してくれる、大切な友達がいる。そのおかげで、私達はここまで来れた。」

 

「答えになっていないわよ!!どうして、ここにいるのよ!!古の龍の王妃───」

 

「それ。」

 

ミラは竜の魔女の言葉を遮った。

 

「“古の龍の王妃”。それは確かに、私の通り名の一つ。なんでそんな通り名をつけられたかというと、“古の龍の王の側に寄り添う者”という意味でつけられた。ここで、一つ考えて?“古の龍”というものの“古”は、どれくらい前の事を示しているのかな。」

 

「───」

 

「今から遠く離れた昔。神代というものがあったという。もしもその“古”がその神代のものであったなら?私達では近くできない、喪われた技術があったなら?それは、私達が理解できているもの?」

 

「───」

 

「…私が使役したのは、古の龍の一体。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その真名───天彗龍“バルファルク”。」

 

「音の速さ……?赤い彗星…?ふざけるのもいい加減にしなさい!!」

 

その竜の魔女の言葉にミラがむっとした表情になる。

 

「ふざけてなんかいないよ。全て本当のこと。…姿を現して、ネルル。あなたの力を軽く見せてあげて。」

 

ゴォォォォォォ!!!

 

突如現れる棘の生えた龍。滅尽龍“ネルギガンテ”。

 

「一匹、増えたところで…!?ファヴニール、どうしたのです!?」

 

ネルギガンテを視認した時、ファヴニールが怯えだした。

 

「…あぁ。ネルルは“古龍を喰らう古龍”。ハンター達と同じように、“滅龍”の力を持つよ。そしてその力はハンター達よりも遥かに強い───“()()”。ネルル、軽くでいい。けれどトラウマを叩き込むほどに───潰せ。」

 

その一言に強い力が宿っていたかのように、周囲の空気が一気に冷え込んだ。

 

「ミラさん…何故…?」

 

「……」

 

 

パシンッ

 

 

「あうっ!?」

 

「…馬鹿ッ!」

 

平手打ちの数瞬後に飛び出したその言葉は、さっきまでの事実を告げる声とは違う。一人の少女に近い声。

 

「……馬鹿。あなたがいなくなって、悲しむ人がどれだけいると思ってるの?」

 

「え…」

 

「確かに、貴女はこの国に処刑されたのかもしれない。貴女は命を捨ててでもこの国の未来を繋げるのが役目だったのかもしれない。…でも。でも!!貴女がいなくなったら残された人たちは?アマデウスさんは?ジャンヌさんは?私は?…マスターさんは?」

 

「それは…」

 

「私達だけじゃない。いまは敵にいる貴女の知り合いも。本当はこんなこと、望んでないんじゃないの…?貴女を処刑した人も、悲しむんじゃないの…??」

 

「…」

 

「笑うんでしょ?一緒に!また必ず逢うんでしょ!?でも、サーヴァントとして召喚されている以上!一度の顕現での記憶は、余程の例外じゃない限り引き継げないんでしょ…?」

 

それは、サーヴァントと座の関係。サーヴァントは、同じように召喚されることはほぼほぼない。同じサーヴァントでも、それは同じ名前を持つだけの別人。

 

「この特異点に召喚されたジャンヌさんが友達になったのは他の誰でもない。“今ここにいるマリアさん”なんだよ!!“マリー・アントワネットという名前の別人”じゃない!貴女なんだ!!もしも───貴女の前に別のジャンヌさんが現れて。それでもあなたは、彼女を自分の友達だと言える…?」

 

命というものは死者の亡霊であろうと、それが人でなかろうと。それはその命を持ったそれぞれのもの。

 

「…王妃様。覚えておいて…?命というものは一度きり。例え別の命に記憶が植え付けられようと、それが同じものである保証はないの。私はもちろん、今戦ってもらってるあの3匹だってそう。…お願い。自分の命を自分で絶つようなことはしないで……そして…もしもみんなを護るというのなら…!」

 

ミラがマリーを強く見つめる。

 

「こんな一つの街だけじゃない…この時代のこの国そのものを!!護りきって見せてよ!!この、魔女の脅威から!!護りきって、皆の前で笑ってよ!」

 

「───」

 

それは、ミラがマリーに告げた願い。この時代の国を護りきって皆の前で笑え───即ち、特異点の修正。

 

「───ありがとう、異世界の王女様。私もまだまだですのね。まさか年下の女の子に、言われてしまうとは。」

 

「…アマデウスさんの前で、リューネさんとルーパスさんの前で歌ってあげて?それが、笑顔に変わると思うから。」

 

そう言って、ミラは竜の魔女に目を向けた。

 

「くっ…!ファヴニール、撤退します!!」

 

「防戦一方。さっきまでの威勢はどうしたの?龍砲門展開」

 

そう言って、ミラが龍属性の砲門を展開する。

 

「この小娘…!!絶対、殺してやるんだから…!!」

 

そう言ってファヴニールと竜の魔女は飛び去った。

 

「…終わった、か。」

 

「はい。…それにしても、ネルルさん良くなったんですね。」

 

「ん…ありがと、ネルル。」

 

ォォォ…

 

ミラがネルギガンテの顔をなでると、気持ちよさそうな顔をした。

 

「…あの、ミラさん。」

 

「ん?」

 

「古の龍の王妃───古の龍の王。それはもしや、赤龍のことですか?」

 

そのジュリィの問いに、ミラは軽く頷いた。

 

「そう。私が召喚する獣魔達には、古龍の王───赤龍“ムフェト・ジーヴァ”も当然いる。私はその王に寄り添うもの。だから私は古の龍の王妃と呼ばれる。」

 

「…そう、ですか…ミラさんって、結構規格外とか言われませんか?」

 

「言われる。」

 

「…相棒たちみたいです」

 

ジュリィが頭を押さえ、ミラとマリーは笑った。

 

「…ありがとう、ミラさん。ジュリィさん。」

 

「ミルド」

 

「え…?」

 

「ミルドでいいよ。親しい人はそう呼んでたから。ミラだとミラボレアスをどうしても想起しちゃうらしいし。」

 

「あぁ…」

 

ジュリィが納得したような声を上げた。

 

「…ミルド。これでいいのかしら?」

 

「うん。さぁ、帰ろうか。」

 

「はい!」

 

ミラはドスジャグラスとバルファルクを送還し、ネルギガンテに全員を乗せ、認識阻害の術式を展開してから飛翔した。

 




ということでマリー・アントワネットさんは無事に救出されました。

裁「よかった…」

あ、遅くなりましたけどUA12,000突破ありがとうございます。

弓「急よな。」

昨日は書くの忘れてたから。


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第52話 私の名前は

ん…なんかうまく書けない

裁「…そういえば、この先の展開は───」

…うん。

裁「…そっか」

そしてごめん、思いっきり投稿設定間違えた


「…む、帰ってきたか。」

 

私の隣にいたギルがそう呟いた。私はもう激痛が収まって、お兄ちゃんも意識を取り戻して観測に復帰してる。

 

〈…ったく、意識失うレベルの激痛ってどんだけだよ…よくあれで失わなかったな?〉

 

「奇跡的に失わなかっただけだよ…それにしても、さっきの予知みたいなのは一体…」

 

「…フューチャービジョン、かもな。預言書の力だ。」

 

フューチャービジョン…

 

「預言書はまれに、その主に未来に起こることを見せる。その力が、本来の未来を示したんだろうさ。気がついたのが早いせいか、間に合ったみたいだが。」

 

そうレンポくんが言うと、空中から染み出るようにネルギガンテとミラちゃん、ジュリィさん、そしてマリーさんの姿が現れた。

 

「マリー…あぁ、マリー!」

 

ネルギガンテからマリーさん達が降り立った直後、ジャンヌさんがマリーさんに抱き着いた。

 

「わぷ…じゃ、ジャンヌ…?抱擁は嬉しいけれど、私が潰れてしまうわ…?」

 

「あ…ご、ごめんなさい!」

 

「筋力が高いことを自覚せよ、田舎娘。いつか人を絞め殺しかねんぞ。」

 

「筋力をネタにするのはやめてください、英雄王!」

 

「忠告してやっているというに…まぁいい、ミルドよ、どうであった?」

 

ミラちゃんはそう問われると、頷いて口を開いた。

 

「一応持っていったけど使わなかった。流石にネルギガンテ出すのはやりすぎたかなとは思ったけど全古龍召喚しないだけまだいいと思う。…これ、返すね」

 

そう言ってミラちゃんが取り出したのは黄金の鍵剣。ミラちゃんがここを出る前にギルが渡していた、王律鍵バヴ=イル…って言ってたかな。

 

「ふ。それは貴様が持っておけ。」

 

「え?」

 

「なに、貴様ならば我が財を有効に使えるであろう?自らのためにではなく、他の者のために。ならば我が宝物庫を開くものとしてもよいであろう。それは臣下に作らせた鍵の予備、その一つよ。蔵の守護は、得意であろう?」

 

「…まぁ、確かに。」

 

「ならば王より命ず。我が蔵を管理し、我が蔵を守護せよ。あぁ、竜殺しの宝具には気をつけよ。その宝具は貴様を焼きかねん。」

 

その言葉にミラちゃんが苦笑した。

 

「長い間竜たちと触れ合ってたせいか、竜特性もってるからね。耐性上げれば何とかなるんだけどさ。」

 

「ふ。便利よな。」

 

「竜殺しに対して滅龍効果の龍属性で相殺するっていう力技なんだけどね。…結構魔力喰らっていくけど。」

 

「ふっ。」

 

「あのね、王様、ジャンヌ!聞いてくださる?私がどうやって助かったのか!」

 

「む?」

 

「それはね───」

 

「だめ。」

 

ミラちゃんが口に指一本をあてて、黙るようなジェスチャーをした。

 

「───ううん、なんでもありません。異世界の王女さんが、異世界の編纂者さんが、一つの奇跡を起こした。それだけのこと、なのですよね?」

 

「うん。」

 

「…?よくわかりませんが…」

 

「ふ、田舎娘にはわからぬか。」

 

「いい加減ジャンヌと呼んでくださいませんか…?」

 

「断る。既にジャンヌと呼ぶものは居るのでな。…さて、どうだ、ジークフリートの方は。」

 

ギルがそう聞くと、既に解呪してあったジークフリートさんが肩を鳴らした。…肩凝ってるの?

 

「問題ない。呪いは全て解呪できたようだ。すまない…手間をかけさせた。」

 

「そういう時はありがとうでいいと思うよ。」

 

「ふむ…ジークフリートは良さそうだな。…マリアよ、音楽家に会ってやれ。」

 

「えぇ、そのつもりですわ!」

 

今、ここにいるのは私とジークフリートさん、ジャンヌさん、ゲオルギウスさん、ギル、ミラちゃん、ジュリィさん…それと預言書とフォウ君だけ。他の人たちは別地点にいる。

 

「フォーウ」

 

「ふ。では皆の下へと戻るとするか。」

 

そのギルの言葉に私達は頷いて、私達は他の人たちがいる場所へと向かう。

 

「…そういえば、英雄王。」

 

「む?」

 

「これ。ドラスが持ってたんだけど。」

 

そう言ってミラちゃんが差し出したのは爪と鱗……

 

「それは…ファヴニールの爪と鱗か?」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。触媒に使えばファヴニールに関連する英雄を召喚できるだろう。」

 

へぇ…

 

「ふん。まぁいい、使える縁は使うべきだ。マスター、これを使うかどうかは貴様に任せよう。」

 

「うん。」

 

私はその牙と鱗を受け取って、少し前にジュリィさんに作ってもらったアイテムポーチに入れた。…これ、便利だよね。

 

「特異点直したら召喚するの?」

 

「ふむ、それがいいであろう。縁は溜めすぎても少なすぎても悪い。そういうものであろう。」

 

そんな話をしていたら、他の人たちの所についた。

 

「アマデウス!」

 

「あぁ、マリア。おかえり。大丈夫だったかい?」

 

「えぇ!私はこの国に愛された者。竜の魔女なんて、へいきへっちゃらよ!」

 

どこかできいたなぁ、“へいきへっちゃら”…

 

「そうか…なら、頼む!一曲歌ってくれ!耳と心を癒す奴を!曲なら即興で作って見せるから!!」

 

「あら…」

 

「今日は最悪の一日だ…聴覚だけでなく視覚も壊されるなんて…!!僕の怒りの日は今日そのものだったのかもしれない…!!」

 

「視覚を壊す…?何があったのです、王様?」

 

「ふ。我が美を見せてやっただけよ。マスターに命じられればすぐにでもやってやろう。」

 

「やめてくれ!この───……ダメだ、僕には君を罵倒できないな。」

 

「ほう…?」

 

「大方君もマリアを救うために協力してくれたんだろう?その力が振るわれたかどうかは別としてだ。」

 

確かに、ミラちゃんに鍵を渡していたし、それに千里眼でミラちゃんたちの動向を見ていたらしい。いつでも補助ができるように。

 

「あっ!ゴージャス!アンタ一体どこに───って誰よその女。」

 

「旅の連れだ。一つの運命から逃れた、な。貴様らよりアイドルとしては上であろうよ。」

 

「私を含めないでくださいますか?ね、安珍様。」

 

「私の名前は立香なんだけど…」

 

そう言うと清姫さんに凄く睨まれる。…?何かしたかな…?

 

「君達は碌に自己紹介もしてないし、今のうちに自己紹介しておいたらどうだい?」

 

「そうだね。作曲と演奏に関しては僕たちに任せるといい。」

 

アマデウスさんといつの間にか近くにいたリューネちゃんがそう言った。

 

「アタシは“エリザベート・バートリー”。ただのアイドルよ。」

 

「ふん、カルデアの貴様の方が何倍もマシよ。」

 

「いやあれはルーパスちゃんたちが思いっきり叩き直した結果なんだよね…?」

 

聞いてみたけど、本当に声を総て一から叩きなおしたらしい。

 

『ふ、こやつはそんなことをせずとも自分のために歌うのでなければ良い歌声なのだ。自分のために歌うから酷くなるのだ。』

 

『そうなの?』

 

『然り。赤きセイバーと違い、こやつは他人のために歌う時のみ本当の歌姫となる者だ。…フラグにならなければよいが。』

 

大丈夫かな…?

 

「私は“清姫”。私の前で嘘をつかないでくださいまし。燃やしたくなりますから…ね、安珍様?」

 

何となく理解。…なんだろう。答えるのが危険な気がする。

 

「私は“ミラ・ルーティア・シュレイド”。一応、最高位の召喚術師。」

 

「ふ~ん?…なんか、アタシの敵な気がするわ、貴女。気のせいかしら?」

 

「…?分かんない」

 

「アタシ、というか総ての女の敵、かしら?」

 

「……あぁ」

 

なんとなく察したような表情をしていた。なんなんだろう…

 

「私は“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”です。…どうやら、私の宝具はほぼすべてが補助用なようで。」

 

「そうなの?」

 

「はい。狩猟技術以外は戦闘のお役に立てるかどうか…」

 

「いや、補助って結構大事だよ?」

 

補助があるかないかでその戦闘の難易度変わるし。

 

「私はマリー!“マリー・アントワネット”!よろしくね!」

 

「なんか気に喰わないわね…無駄にキラキラしてて!」

 

「輝くのは得意よ?キラキラキラキラ、輝くの!」

 

「止めよ。EXアタックしか通らぬ。」

 

なんのこと…?…って、最後私か。

 

「えっと…“藤丸 立香”で───」

 

「嘘。」

 

「───え?」

 

私は清姫さんに扇で指し示された。

 

「嘘、ですわよね?貴女はそんな名前ではない。違いますか?安珍様。」

 

「───」

 

「私に嘘は通じません。───今はまだいいでしょう。するとしても仮契約でしょうから。ですが、正式に契約するとなった場合は、嘘をつくことは許しません。」

 

「……私は…」

 

私の名前は───

 

「……お兄ちゃん」

 

〈あん?〉

 

「…全員、集めて。カルデア全職員。カルデア所属全サーヴァント。……全員。」

 

〈……分かった。〉

 

「ミラちゃん」

 

「うん…?」

 

「皆を、呼んでくれる…?」

 

「…うん、分かった。」

 

そう言ってミラちゃんが少し離れたところで話しているルーパスちゃんやアルたちの所へ行ったところで、私はその場に座り込んだ。

 

「…」

 

「マスター…」

 

「…大、丈夫。うん。…大丈夫。」

 

ただ来てしまっただけ。速すぎると思ったけど、来てしまっただけ。なら、その運命を私は受け入れよう。

 

〈…揃ったぞ〉

 

「…ありがと、お兄ちゃん。」

 

〈一体どうしたのさ?急に全員招集だなんて。〉

 

ドクターが疑問気にそう言う。

 

「…私の、名前に関すること。」

 

「名前?」

 

「…私は、“藤丸 立香”という名前ではないの。」

 

〈…どういうことだい?〉

 

レオナルドさんの声が聞こえる。

 

〈立香…?〉

 

「…ごめんなさい。今まで、短い間だったけれど…皆を騙していて。」

 

〈いえ、それは別にいいのですけど…どういう、ことですか…?〉

 

「…私は…私の、本当の名前は───」

 

その名前は、私がそうだと定義したもの。ユキ兄がくれた、大切な名前。

 

「───リッカ───“藤丸 リッカ”。…ごめんなさい。今まで黙っていて───」

 

そう言って私は、全員に向けて頭を下げた。

 

許してはもらえないとは思う。けれど、私は謝りたかった。黙っていたことは、事実なんだから。

 

〈…顔を上げてくれ、立香ちゃん…いや、リッカちゃん。〉

 

そのドクターの言葉に私は顔を上げた。

 

〈隠していた理由は、何だったんだい?〉

 

「…それは…信頼できるかどうか、わからなかったから。信頼しなければ、私はこの名前を明かさなかったの。」

 

〈それは、信頼してくれたと思っていいのかな。〉

 

「…もう、いいの。」

 

〈え…?〉

 

「自分を隠すのはもう終わり…もう、隠したくない。カルデアは温かかった…だから、私はもう本当の名前でいたい。」

 

〈…〉

 

「私は皆を信じたい。どのみち、いずれ来るとは思ってた。こんな風に、名前と別れる日が。…最後に隠すのは、カルデアのみんなにしたい。」

 

〈…分かったわ。〉

 

〈所長…?〉

 

〈リッカ、貴女を許します。誰にだって隠し事はあるもの。その隠し事を明かしてくれたんだから、いいじゃないの。〉

 

「マリー…?」

 

〈皆は、どう?所長権限で強制するなんてことはしないわ、自分の本心を答えてちょうだい。〉

 

〈…まぁ、いいんじゃないか?〉

 

〈私も全然いいですよ〉

 

〈僕も構わない。むしろ僕にも隠し事なんてあるからね。〉

 

〈ロマニ、君が隠してる自作フィギュアの場所なんて全員が知ってるよ?〉

 

〈なんで知ってるんだよぉ!?〉

 

〈…全員いいみたいよ?〉

 

「…ありがとう。」

 

「私達も大丈夫。」

 

「あぁ。名を偽る、か。ならば僕も暴露しようではないか。」

 

リューネちゃん?

 

「僕の真名は二つあるんだ。一つは君たちが知る“リューネ・メリス”。ルーパスの父が教えてくれたんだが、これは僕の母がベルナ村に連れていく際に名前が浮かないよう、付けてくれた名前らしいんだ。」

 

〈えぇ…?どういうこと?〉

 

「君達のいうところの日本名と外国名、とでも言おうか。ベルナとカムラでは名前の質が少し変わるのさ。」

 

「あぁ、確かにカムラの里は少し古風な感じの名前だもんね。」

 

ミラちゃんは知ってるんだ…

 

「そう。もう一つの僕の───ううん、私の名前は、“舞華(まいか) 琉音(るね)”というの。」

 

え…まいか…るね?

 

〈日本語…!?その発音は、日本語と変わらねぇぞ!?〉

 

「文字は…どうなっているの?」

 

そう聞くと、リューネちゃんは紙と筆を使ってその名前を書いた。

 

「…形はアレだけど、思いっきり日本語だ…」

 

〈異世界に日本語があったとはな…少し並びは古風か?〉

 

「…まぁ、あまり気にしないでくれると助かるかな?この喋り方も、今じゃそこまで慣れないから…」

 

「…リューネちゃんって、どっちが素なの?」

 

「多分どっちも素だよ?…まぁ、いつもの話し方の方が話しやすいからそっちをよく使ってるけど。」

 

そうなんだ…

 

「こんな風に、秘密なんて誰でもあるものだよ。だから気にしちゃいけない。」

 

「…うん。ありがとう、リューネちゃん。」

 

カルデアが暖かい人たちでよかった。そう、思った。

 

「改めて、“藤丸 リッカ”です。これからも、よろしくお願いします。」

 

「“舞華 琉音”。リューネで呼んでも、琉音で呼んでもどちらでもいい。リューネと呼ばれる方が慣れているけれど。」

 

その私とリューネちゃんの言葉に全員が頷いてくれた。

 

「…よかったね、マスターさん。」

 

「ナーちゃん…うん!」

 

私は最初に私の名前を見破った子…“ナーサリー・ライム”。ナーちゃんの言葉に頷いた。

 




ということで、リッカさんの本当の名前とリューネのもう一つの真名が明かされました。本当はリューネ・メリスの方が偽名なんでしょうけど、最初に知っていたのは“リューネ・メリス”で、後から知らされた本当の名前が“舞華 琉音”だったっていうことで。

裁「二重真名…」

そういうこと。本来あり得ない気はするけどどっちが偽名だとか考えるの面倒だったし。

弓「…さて。どうなることやら。」


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第53話 決戦前夜

…active. system lord…

……いるんでしょ。星見の観測者

星見の観測者「…私に、何の用だ?」

…■■■■■・■■■■…何が目的。

星見の観測者「…」

あなたにとっての過去。彼女たちにとっての現在。それに干渉するなんて。どういう、つもり?

星見の観測者「創り手。読み手に判断を委ねたのはお前だろう。」

それは、そうだけど。それを何故、あなたが管理する必要があるの?

星見の観測者「…」

私は観測なんて頼んでない。私の創り出した子に観測者はいるけど、それはあなたじゃない。今回の観測は、私自らやっていること。…何が、目的なの。

星見の観測者「…運命を変える一欠片を見たからだ。」

運命を、変える?

星見の観測者「星の運命というものは既に定まっている。創り手が示したその世界の星は、滅びに向かうだろう。」



星見の観測者「だが。その中に、いくつかの見えない運命を見た。私はその運命が、どう動くかを見る。それだけだ。」

…あなたは、彼女達からすれば未来に出会う存在。

星見の観測者「この場所では時間など、関係ないだろう。現に貴様は、過去からこの場所へとやってきている。」

…そう。

?「…貴女は?」

───!

星見の観測者「…来たか。」

待ちなさいっ!

星見の観測者「運命を見定めろ。創り手が今できるのはそれだろう。私は席を外す。」

?「…行っちゃった。」

…多分、貴女を待ってる。

?「貴女は…?」

私は…貴女からすれば過去に会う人…かな。

?「過去に…?」

?「■■?」

…じゃあね、2人とも。

?「───!?この子の声が聞こえるの!?」

?「貴女は誰?」

まぁね。またいつか、会おうね。■■、■■■。

?「っ!?待って!!なんで私達の名前───!!」

…私は、■■■。今度会ったらそう呼んで。

?「…行っちゃった。」

?「■■、■■■■■・■■■■の所に…」

?「…うん。」


 

拠点に戻ってきた後の夜。僕は始まりの笛を手に木の上で腰かけていた。

 

「…明日、か。」

 

夜が明ければ、僕たちは竜の魔女がいるオルレアンという地に進軍することになっている。僕は見張りもあってここにいるわけだが。

 

「……周囲に敵影はなし。安全なのはいいことだ。」

 

正直なところ、暇なのである。明日のために僕の武器はベルダー系以外総てジュリィ殿に預けてあるため、以前と違ってやることがない。始まりの笛はただの笛で、狩猟笛とは違うものだし。

 

「……何か用かな?」

 

ふと、人の気配を感じて声をかけてみる。

 

「…アルターエゴ殿、だね?そしてリッカ殿。僕に何か用かな?」

 

「…分かるの?」

 

僕の言葉通り、木の陰からリッカ殿とアルターエゴ殿が現れた。

 

「音でね。大体は聞き分けられる。」

 

そう言って僕は木から降り、木の根元に腰かけた。

 

「ほら、座ったらどうだい?」

 

「…うん。お邪魔します。」

 

「…お邪魔、します」

 

リッカ殿とアルターエゴ殿は僕の隣に座った。

 

「…ねぇ、リューネちゃん。」

 

「うん?」

 

「なんで、もう一つの名前を隠していたの…?」

 

「そのことか…」

 

“舞華 琉音”のこと。何故隠していたかと言われると───

 

「…実際のところ、隠していたことへの意味はないんだ。」

 

「え…?」

 

「僕は“リューネ・メリス”という名の方が慣れているからね。言ってしまえば、“舞華 琉音”と名乗るのが面倒だったというのもある。そもそも僕らの世界では“舞華 琉音”と名乗っても全く通じなかったからね。」

 

「そうなの…?」

 

僕はアイテムボックスを開き、一枚の札を取り出し、それを見せた。

 

「これは…?」

 

「これはギルドパスだ。僕がハンターズギルドに所属することを証明する、身分証明書。まぁ、これは僕がこの世界用に書き直した写しだからそこまでの力はないけれどね。」

 

「…ハンターネーム:Lune Melis…所属ギルド:龍歴院…統合ハンターランク:999…これって…」

 

「あぁ。僕は“リューネ・メリス”でギルドに登録している。元々そうやって育てられてきたからね。だから、“舞華 琉音”の方は慣れないのさ。カムラの里のみんなは琉音と呼ぶけどね。」

 

「…そっか。それにしてもLune、か。月ってことだね。」

 

「月?」

 

その僕の問いにリッカ殿は頷いた。

 

「“Lune”…フランス語で“月”っていう意味なの。読み方は“リュヌ”って言うんだけどね。」

 

「そうなのか…」

 

「まぁリューネちゃんみたいに“リューネ”って読むこともできると思うけど…」

 

「…ふむ。読み、というものは面白いな。」

 

「そうだよね…私もそれでオリジナルキャラクターとか作ってるから。」

 

「そうか…」

 

僕とリッカ殿は同時に空を見上げた。

 

「…あ、流れ星。…そういえば、流れ星が消えないうちにお願い事を3回言えるとお願い事が叶う…っていうの知ってる?」

 

「…ふむ。流星と聞いて思い浮かぶのはバルファルクだが…」

 

「バルファルクって、確かミラちゃんが召喚してた…」

 

恐らく、聖人殿を探しに行ったときにミラ殿が召喚したモンスターのことだろう。そう思い、僕はそのまま頷く。

 

「あぁ、あれがバルファルクだ。天彗龍“バルファルク”。“銀翼の凶星”だったり“絶望と災厄の化身”とも称される古龍種だ。」

 

「古龍…」

 

「あぁ。そういえば村長からの依頼で最後のクエストの対象は確かバルファルクだったな。基本的にハンター達は集会所と呼ばれる場所に集まるから、あまり村のクエストは受ける人がいない。僕らは受けてたけどね。」

 

「へぇ…ねぇ、いつか…リューネちゃんたちの世界に行けるかな。」

 

その言葉に、僕は一瞬詰まる。

 

「…行けるかもしれない、が…危険だよ?」

 

「…そっか。」

 

「あぁ…もし行くならば、色々鍛えてからになるだろうな。」

 

「…うん。分かった。」

 

「僕もできる限り教えよう。とはいえ、教えるのは苦手だから期待はしないでくれよ?」

 

「ありがとう。」

 

そう言ってリッカ殿は笑った。

 

「…リューネちゃんってさ。」

 

「うん?」

 

「髪、綺麗だよね。」

 

「髪?」

 

「うん。綺麗な白色の髪。伸ばしたらどうなるんだろう…?」

 

髪を伸ばす…か。

 

「考えたことなかったな。ただまぁ、ミラ殿と同じ感じになるんじゃないだろうか。」

 

「そっか…そういえば、ミラちゃんは白髪のロングストレートだったね。」

 

「あぁ。」

 

「…見てみたいな。リューネちゃんの髪を伸ばした姿。」

 

「考えておこう。」

 

そう言って、僕はアルターエゴ殿を見た。

 

「ところで、アルターエゴ殿は何か用かな?」

 

「…マシュさんから、貴女が宝具の解放を手伝ってくれたと聞いたので。」

 

「…ふむ。」

 

僕はアルターエゴ殿を見た。

 

「…きみは、自分の宝具が何か、わかっていないんだろう?」

 

「…はい。空間を歪める疑似的な宝具と、時間を歪める疑似的な宝具…それ以外は、さっぱり。」

 

「時間と…空間か。空間ならば祖龍が思い浮かぶといえば思い浮かぶが…ふむ。時間…」

 

「ルーパスちゃんの奥義は?」

 

「あれは体感時間を早めているだけだ。極度の集中によって。だが時間を歪めるとなると難しいぞ…なにか、手掛かりになりそうなものはないかな?」

 

「…実は、私は…私の中には、私以外の7つの魂があるみたいなんです。」

 

7つの魂…?

 

「多重人格者───八重人格者、ってこと?」

 

「…恐らくは。」

 

「多重人格者とはなんだい?」

 

「自分以外の人格を持ってる人のこと…なんだけど。」

 

「…ふむ。」

 

「…英雄王さんが、教えてくれたんです。私以外の人格のことを。アルターエゴ、というのは別人格のクラス…多重人格だからこそ、私はアルターエゴのクラスなんじゃないか、って…」

 

「……ふむ。ならば、僕から教えられることはないだろうね。」

 

「え…」

 

僕は空を見上げながら言葉を紡いだ。

 

「そもそもの話、僕は他の人の宝具についてなんてよくわからない。そして、多重人格なんて言うものは完全に専門外だ。君が宝具に目覚めるとすれば───そうだね。まずは自分の内にいる人格と言葉を交わしてみるのがいいだろう。話はそれからだ。その話が、君を宝具へと導くかもしれない。」

 

「…人格と…」

 

「今じゃなくてもいい。安心できる時でもいい。君も、その人格も目覚めている時に。言葉を交わしてみるのが、一番いいんじゃないだろうか。」

 

「……分かり、ました。…あ、それと…」

 

付け加えた言葉に、僕は首を傾げる。

 

「あの…リューネさんの音を…というか、音楽を聞いていると…何故か、身体が疼くんです。」

 

「疼く…?」

 

「はい…マリアさんが歌う時もそうでした。リューネさんの奏でた音が、アマデウスさんの奏でた音が───マリアさんの歌声が。私の身体に染み渡るように入ってきて…疼くんです。何かを、伝えたいかのように…」

 

「…リューネちゃん、何かしてた?」

 

「何も?旋律も動かしてないからね。…ふむ。アルターエゴ殿は、音楽に関する英霊なのかもしれないね。」

 

「…そう、でしょうか…」

 

「もしかしたら、それも手掛かりになるかもしれない。忘れない方がいいだろうね。」

 

「…はい。」

 

そう言って3人で空を見上げた時、流れ星が通った。

 

「「「…」」」

 

僕は一つ願った後にリッカ殿とアルターエゴ殿を見ると、二人も同様に願っていた。

 

「…ふ。」

 

僕は始まりの笛を立てて、一つの音楽を奏で始めた。名は確か、“カムラ祓え歌(陽の慧)”。

 

「…この曲…綺麗」

 

その呟きと音楽とともに、時間は過ぎていった。




ただいま。

裁「マスター…!?どこに行ってたの!?」

ちょっと、この作品の可能性の未来にね。

裁「未来…?」

うん。布石、でもないけど。


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第54話 オルレアンへと

はわぁぁぁ!?お気に入り50件超えてるっ!?

裁「わぁ…」

なんか…ありがとうございます。文章力ないこの作品に…



朝になった。私とアルはあの後、リューネちゃんの笛の音色を聞きながら眠っちゃったみたい。

 

「おはよう、リッカ殿。よく眠れたかな?」

 

「…うん。ありがとう。」

 

「それはよかった。」

 

リューネちゃんとアル、私は皆のいるところへといった。

 

「これで全員か?この中で軍を率いた経験があるのは……俺と、英雄王。それと…」

 

「私も、一応。とはいえ、軍を率いての侵攻というよりは悪人の討伐・捕縛戦だっただけなんだけど。」

 

ミラちゃんもあるんだ…

 

「ふむ。ジークフリート、貴様が指揮を執るがいい。ミルドは…どうする?」

 

「私は…ちょっと考える」

 

「すまない。…とはいえ、おれも国という国を郡で攻め落とすような軍歴があるわけでもないが。」

 

今の状態は、敵のほとんどは私達よりも弱い。けど、私達の居場所は既に知られている。

 

なら、背後を突く奇襲は使えない。だったら───

 

「「正面突破!!」」

 

清姫さんとエリザベートさんがそう言った。

 

「ファヴニールは俺とマスターのグループが受け持とう。他のみんなはサーヴァントやワイバーンたちから俺達を守ってほしい。」

 

「なら、ワイバーンたちは僕とルーパスがやろう。…ルーパス、これを。」

 

リューネちゃんがルーパスちゃんに何か渡していたのが見えた。あれは…石?…でも、それを見てルーパスちゃんが目を見開いていた。

 

「リューネ…これ…!!あの宝具を…?」

 

「あぁ。僕らなら何とかなるだろう?」

 

「…分かった。付き合うよ。」

 

「ありがとう、ルーパス。」

 

「…空中戦、って言うなら私がルーパスさんとリューネさんを足場とかで補助するよ。上空のワイバーンは私達に任せて。」

 

何するのか分からないけど、なんか宝具を使うみたい…?

 

「ふふふ!私達は戦場を一気に駆け抜ければいいのかしら?楽しそうね!」

 

「僕はマリーのお目付け役、かな。…もう、目を離したりしない。」

 

アマデウスさんはそれでいいと思う。直感も激痛も反応してないけど、万が一っていうのはあるから。

 

「よろしくね、アマデウス!」

 

「…リューネ。」

 

「うん?」

 

「終わったらもう一度、一緒に演奏してくれるかい?」

 

「あぁ。構わないさ。いくら君が変態だとしても、それは音楽には関係ない。僕も音楽は好きなのさ。」

 

「そうか…」

 

「…消えるなよ?アマデウス殿。」

 

「当然だ。君の方こそ、気をつけろよ?」

 

なんか、音楽家同士の友情?みたいななんというか。

 

「…あ、子ジカ。アタシ、ちょっと殴り合いたい奴がいるんだけど…アタシはそっちに専念させてもらってもいい?」

 

エリザベートさん…?…あ。

 

「…うん。いいよ。」

 

「ありがとう。暇だったらその後も手伝ってあげてもいいけどね。」

 

「負けない、よね?」

 

「えぇ。」

 

「しくじるなよ、エリザベート。決戦とはいえ、戦力が少なることはこちらにとっても痛手になるのでな。」

 

「任せなさい、ゴージャス!アンタもしくじるんじゃないわよ!」

 

仲がいいのかな?

 

「私はマスターをお守りしますわね。攻撃的な意味で。」

 

「ありがとう、清姫さん。」

 

「いえ。」

 

「危なくなれば鐘に逃げ込めばよい。」

 

いや、それは…

 

「私は…皆さんの守護をいたしましょうか。」

 

「私は先輩を護ります。」

 

「攻撃の蛇、防御の茄子、とな。マスターの護りは任せたぞ、マシュ。」

 

「…はい。」

 

私はジャンヌさんの方に目を向けた。

 

「私は“竜の魔女”と戦います。…疑問を、問わなくては。」

 

「…お兄ちゃん」

 

〈あ?〉

 

「私の部屋に行って、あのペンダントを持ってきてくれる?」

 

〈ん…あぁ、あれか。待ってろ。〉

 

通信の向こう側からお兄ちゃんがどこかに駆けていく音が聞こえた。

 

「あのペンダント…とは?」

 

「私の宝物。…友達から貰った、大事なプレゼント。」

 

「え…」

 

〈ほい、持ってきたぞ。転送する。〉

 

その言葉の後、私の眼前に薄紅色と橙色のペンダントが現れた。

 

「ありがとう。…ギル。」

 

「む?」

 

「クローゼット…衣装ケースみたいなのある、って言ってたよね?」

 

「む、言いはしたが…使うのか?」

 

「…うん。友達と力を合わせれば、なんとか…」

 

「…無茶はするなよ」

 

そう言ってギルは波紋から一つのケースを取り出してくれた。

 

「…好きに選ぶがいい。」

 

「……」

 

私はケースを開いて、そのケースの中に手を入れた。…中に入ってるものが分かる。それにしても…

 

「ギル、聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「どうして女の子用の服とかもあるの?」

 

私が引き抜いたのは白い服。多分、これなら合うと思うけど…なんで普通にスカートとかワンピース…あとセーラー服とかもあるの?

 

「ふ、自らの姿を偽るために揃えたにすぎん。」

 

「そう…ジャンヌさん。これ、着てみて?」

 

「え…あ、はい…」

 

「ふ、男どもは見るなよ。」

 

そうギルが言った直後、ジャンヌさんの周囲に黒色の膜みたいなのが展開された。

 

「これは…」

 

「夜の帳よ。着替え終われば声をかけよ。」

 

「あ…はい。」

 

しばらくの間、着替えの音が響いた。アマデウスさんはマリーさんがいるからか少し大人しかった。

 

「…お待たせしました。」

 

着替えたジャンヌさんは本当に“白い聖女”っていう感じだった。

 

「まぁ!ジャンヌ、その衣装、とっても素敵ね!」

 

「マリア、今は茶々を入れない方がいいんじゃないか?」

 

「む…本当なんですもの!リッカさんは衣装を選ぶ才能がありますのね!」

 

その言葉に私は首を横に振った。

 

「私じゃないよ。友達に力を借りたの。……って言っても、私がそう思ってるだけなんだけど。コーディネートは友達の方が凄いから。」

 

「そうなのですね…」

 

「…また、会えるといいな…」

 

〈リッカ…〉

 

そのマリーの声に、私は首を横に振った。

 

「大丈夫。今は、人理焼却をどうにかしなきゃ。そうじゃなきゃ、私達の未来はない…そうなんでしょ?」

 

〈…ええ。頑張りましょう。〉

 

「…あぁ、大将首は我が貰おう。貴様等は敵に王手を、我は敵に詰みをかける。それでよいか?」

 

そのギルの言葉に私達は頷く。

 

〈スタッフ一同、睡眠十分食事十分で万全の状態です。〉

 

〈感知は任せろ。〉

 

〈いい?必ず、生き残ってちょうだい。これは所長命令よ。〉

 

その言葉に、私達は頷く。

 

「いこう、皆。私達の未来を、この星の未来を…切り開くために!」

 

「よっしゃ!燃えてきたぜ!!」

 

「───必ず、勝とうよ!」

 

その言葉に、全員が頷いた。

 

「…それじゃあ、私達は上空から。…来て、“レン”!」

 

そのミラちゃんの呼び声で、赤い飛竜が召喚された。それを私は、知っている。

 

「火竜…リオレウス」

 

「あれ?リオレウスは知ってたんだ。」

 

「…まぁ、ね。」

 

そう呟いた後、ルーパスちゃんたちは空に飛んで行った。

 

「…じゃあ、またあとで~!」

 

そのルーパスちゃんの声の後、私達もオルレアンに向かうことにした。ミラちゃん、私達用のモンスターも召喚してくれてたから私達も早く行けるっていう…

 

 

 

───side リューネ

 

 

 

拠点で別れた後。僕たちは、オルレアン付近の上空にいた。

 

「レン、ここで滞空。…足場、展開。」

 

ミラ殿がそう呟くと、白色の薄い板のような足場が空中に展開された。

 

「…ん、これでいいかな。もう降りて大丈夫だよ。」

 

その言葉に、僕とルーパスは恐る恐るその足場に足を降ろす。…落ちる感覚は、ない。

 

「凄いな…これは?」

 

「足場の展開魔法。無属性のね。水属性だと水場になるし、火属性だと溶岩になる。氷属性だと雪原、雷属性だと天空で龍属性は墓場。属性によって足場の質が変わるの。何もない平面が無属性だからね。…それより、来るよ。」

 

ミラ殿の言う通り、ワイバーンたちが近づいてきていた。

 

「…問題ない。僕の宝具も使う準備は出来ている。後は詠唱のみだ。」

 

僕が今着ているのは、フィリアX防具一式だ。武器は“THEグレゴリア”だ。

 

「なんかその装備見るの久しぶりだなぁ…」

 

そう言うルーパスが着ているのは龍紋防具一式。武器は“赤龍ノ穿ツ矢・龍”と言うらしい。

 

「結構この龍紋防具痛いんだけどね。まぁ強いのもあるから使わなくはないけど。」

 

「龍脈覚醒、だったか。」

 

「うん…っと、来るかな。」

 

ワイバーンの方を見ると、既に突撃してきているような状態だった。…射程内、か。

 

「解放する。それは我が装備に宿せし龍の力。それは天を廻って戻る龍。その毒は、我が力となる。」

 

それは、龍の力の再現。古龍が持つ、その力の再現。

 

「宝具、解放。汚染せよ───“天廻龍、その毒この地に振り撒かん(バーサクドラゴ・ポイズンミスト)”。狂え、竜たち。そして我が体───」

 

そこまで唱えたところで、僕の───いや、僕達の周囲を取り囲むように黒色の霧が覆った。

 

「……アァァァ…」

 

「…なった、か。」

 

「…うん。」

 

少しだけ、意識が朦朧とする。同時に、僕とルーパスの身体に黒色の光が纏わりついているのが分かる。───“狂竜症”の初期症状だ。

 

「…行くぞ、ルーパス。」

 

「…うん」

 

僕達は自分の武器を構え、ワイバーンたちに襲いかかった。

 




裁「…あのペンダント…」

…知ってる、でしょ?

裁「…うん。」

……さてと。どうなるかな…


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第55話 虹と狂気

なんとかなった…

裁「大丈夫…?」

弓「大方モンスターハンターにのめり込みすぎただけであろう。」

だってやらないと何使えるか分からないし…


「…っ!」

 

上空にて。僕はワイバーンを見つつ一撃。力を込めていないため、そこまでダメージは入っていないはずだ。

 

「ガァァァァ…」

 

「…もう少し、か」

 

僕は自分の状態と相手の状態を見ながらそう呟く。

 

「…リューネ、そっちはどう?」

 

「問題ない。後一撃入れれば成るだろう。」

 

「そう…こっちも同じ感じ。」

 

「そうか…」

 

意識はまだ少し朦朧とする。とはいえ、発症まではいかないだろう。

 

「どうする?」

 

「…よし、畳みかけるか。聞いておくが、発症はしてないな?」

 

「うん。発症も時間の問題だろうけど…」

 

「なら行くか。───宝具解放。稼働…過剰集中、開始。敵影補足、敵対存在の行動を推測───」

 

僕は一つの宝具を起動する。それは、自らが編み出した奥義。

 

「…完了。爆奏開始…僕の奥義、行こう!!“狩猟笛が戦いにて奏でる激動旋律の(バトル・バースト・)爆音後方楽曲(メロディー)”───!!」

 

詠唱を終えると、いつもの奥義とは何か違う感覚を覚えた。

 

「…」

 

「ガァァァァ…!」

 

フラフラな状態のワイバーンが僕に向かって突撃してくる。僕は笛の吹き口に口をつけたまま、一つの曲を弾き始める。

 

 

{戦闘BGM:光と闇の転生 ~シャガルマガラ}

 

 

同時に、僕の意識ははっきりと鮮明になっていく。霞んでいたような視界ははっきりとし、相手の動きがゆっくりに見える。そして、相手のどこに攻撃をあてれば痛手を与えられるのか、明確にわかる。

 

「…あはっ」

 

ルーパスが怪しい声を上げた。そのルーパスが宿す目は、文字通り───狂っている。

 

「あはははははっ!!」

 

笑い声をあげながらルーパスがワイバーンたちの間を駆け抜ける。と、考えている僕も同じで、笛を吹いたままワイバーンたちを殴りながら駆け抜ける。

 

そう。これこそ狂竜ウイルスを撒いた理由。それは───

 

 

 

side 立香

 

 

 

〈なっ!?一体どういうことだ!?〉

 

「ドクター?」

 

ドクターが驚きの声を上げた。

 

〈音楽が流れ始めたと思ったら上空に突如としてバーサーカーのサーヴァント反応が2騎───いや、違う!ルーパスちゃんとリューネちゃんのクラス適性がバーサーカーになっているんだ!!あの二人が…どうしてだ…!?〉

 

リューネちゃんとルーパスちゃんがバーサーカー…?

 

〈ロマン!今のルーパスとリューネの武器はなんだ!〉

 

〈変わらず弓と狩猟笛さ!なんでだ…!!〉

 

私はその言葉に空を見る。少し高いけど、ルーパスちゃんとリューネちゃんの姿が見える。

 

〈ルーパスの方に繋げろ!!至急!!〉

 

〈いや、ミラちゃんの方がいい!何が起こってるか説明してもらおう!〉

 

その言葉と共に通信の向こう側から2つの声。

 

〈はい…〉

〈アハハハハハハハッ!!〉

 

〈うわぁっ!?ルーパスちゃんの笑い声が狂ってる!?〉

 

〈そうだね…アイルーたちは知ってるんじゃないかな?ゴア・マガラの鱗粉の影響を克服すると何が起こるか。〉

 

その言葉にスピリスちゃんが反応した。

 

「まさか───“狂撃化”ですにゃ!?」

 

「狂撃化?」

 

「狂竜症を引き起こす狂竜ウイルス───それを克服すると人間の場合は一時的な強化状態になるんですにゃ!!狂ったように正確に攻撃する変化───それが狂撃化と呼ばれる現象ですにゃ!!」

 

「人間の場合は…って、人間じゃない場合は?」

 

「それは───」

〈ァァァァァ…〉

 

「あっ!」

 

通信の向こう側からワイバーンが倒れたような声が聞こえた。

 

〈…ふう。〉

 

〈これくらいか。〉

 

「え、短いの?」

 

「狂撃化は1分しか起きませんにゃ。それより、」

 

〈…ちょうど1分、か。さてと。ルーパス、この後は分かってるな?〉

 

〈うん。…気を張らないとね。〉

 

「旦那さん、気を付けるにゃ!!」

 

〈スピリス!?通信繋がってたの!?〉

 

あ、ルーパスちゃんが気がついたみたい。

 

「そんにゃことより気を付けるにゃ!くるにゃよ!!」

 

〈〈〈〈〈ガァァァァァァァ───!!〉〉〉〉〉

 

「え…」

 

〈なんだ…!?復活した!?〉

 

〈───狂竜化したか。〉

 

〈そうだね───ま、何とかなるよ。〉

 

「狂竜化…?」

 

〈大丈夫、私達は負けないから。それより、リッカたちはそっちに集中して?〉

 

〈なに、すぐに終わるさ。…む〉

 

なんか言葉が止まって少し不安になる。

 

〈…あ、狂竜ウイルス感染してる。それじゃ、またあとでね。〉

 

その言葉で通信が切れた。

 

「…ねぇ、狂竜化って?」

 

「…モンスター版の狂竜症、みたいな感じですにゃ。…それより、きましたにゃよ。」

 

スピリスちゃんの言う通り、やってきたのは弓を持った人。

 

「…殺す。殺す、殺す、殺す───」

 

「…狂化されてるんだ。」

 

〈竜の魔女に強制的に従わされているんだわ…本来従うタイプではなさそうなのに。〉

 

綺麗な人なのに勿体ない。

 

「殺してやる…殺してやるぞ!誰も彼も、この矢の前で散れ…!」

 

「…私が、出る。」

 

アル…?

 

「…いい?」

 

「…うん」

 

「…ありがとう。」

 

アルはそう言って自分の剣を…違う、刀を構えた。

 

「…お兄ちゃん。また追加したの?」

 

「悪いか。」

 

「おぉぉぉ!!!」

 

相手がアルに向かって矢を放つ。その矢は、その人から放たれたとは思えないほど、力強い矢だった。

 

「…っ」

 

アルはそれを剣で弾き、弾き終えた後は武器を弓に変えて相手に放つ。けど、それは当たらない。相手はまっすぐに、私の方へと向かってくる。

 

「───させない」

 

それを、アルが阻む。いつの間にか持っていたそれは───鎖。

 

「…っ!」

 

その鎖を力強く引くと、その人は私の目の前からアルの背中の方へと放り投げられる。

 

「邪魔を───するなぁ!!」

 

「するよ。」

 

そこから始まる、いくつもの連撃。アルは攻撃を相手に放ち、相手はアルに攻撃を放つ。

 

〈獣の耳を持ち、俊足で、弓を使う…“アタランテ”!!恐らくのそのサーヴァントの真名はアタランテよ!!〉

 

アタランテ───って、確かギリシャの───

 

「ふざけた技を───!!」

 

「戦いにおいて、ふざけてるかふざけてないかなんて関係ないでしょ。」

 

まぁ、確かに。防御は空間を歪めて、攻撃は時間を歪める…色々おかしい気もするけどどうやってるのかが少し気になる。けど───

 

「ふんっ!」

 

「…!」

 

───どうやっても、一手───足りない。

 

「…はぁっ!!」

 

「殺す、殺す、殺す───!!」

 

強化をかけても足りない。今の状態でも足りない。何か、あれば───

 

「二大神に奉る───」

 

〈やべぇっ、宝具だ!!〉

 

そんなことを考えていたら、相手の宝具が起動したみたい。

 

「───“訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)”!!」

 

「───アルッ!!」

 

「───あぁぁぁぁぁ!!!」

 

その、光に飲まれる寸前。

 

私は確かに、“虹”を見た。

 

「っ!?」

 

土煙が起こった後、相手が驚愕の表情をした。

 

「無傷…だと…?」

 

土煙が晴れると、確かに無傷のアルの姿がそこにあった。

 

「ならば───倒れるまで攻撃するまで!!」

 

その相手に対し、アルは正確に刀を構えた。

 

「───ふー…」

 

大きな深呼吸。

 

…いや、誰か…いる。アル以外に、誰か。

 

「欠片。その欠片。虹の欠片───」

 

宝具の詠唱、かな。良く、分からないけど。アルの隣に、誰かの姿がある。

 

「開け、七色のトビラ───煌めけ、七色の星。開け、六性のトビラ───煌めけ、六性の星。」

 

〈宝具か…?〉

 

「第一宝具、稼働───“七色七星、六星六性(セブンスターズ・シックスパターン)”。」

 

そう呟いたかと思うと、天空からいきなり砲撃が相手を襲った。

 

「な───」

 

砲撃が収まったかと思うと、既に相手の姿は消えていた。

 




ん~…どうするかなぁ

裁「?」

上手く次の展開が組めにくくなってる


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第56話 対峙

七色七星、六星六性(セブンスターズ・シックスパターン)

無銘の第一宝具。実は不完全。詠唱の後、星から巨大な砲撃を放つ技。その時に見える星の数に応じて最大威力が変わる。前回の使用はこの不完全状態の宝具の1/13の威力しか出ていなかった。


そういえば説明してなかったから。

裁「セブンスターズ…」

気がつく人は気がつく…と思いたい。


 

アルが宝具を放った後。

 

負方のジャンヌさんが、私達の前に現れた。

 

「───こんにちは、私の残り滓。その姿は何でしょう?精一杯着飾ったのかしら。」

 

黒。神を嗤うような、拒絶の黒。

 

「これは───ここにいるマスターが私へと見繕ってくれたものです。これには、私の祈りではなく───マスターの祈りが込められています。…そして。私は残骸でもありませんし、貴女でもない。そうでしょう、“竜の魔女”。」

 

白。神に祈るような、救済の白。

 

一対のジャンヌさんが、この地で再び───相対する。

 

「はい?貴女は私でしょう?何を言っているの?」

 

「…今、何を言ったところで貴女に届くはずもありませんか。ならば───」

 

正方のジャンヌさんが左の拳を右の掌に叩き付け、そのまま包み込むような形をとる。───あれは

 

〈中国拳法の包拳礼───〉

 

「───聖女マルタのように、この祈りを叩き付けるまで!!」

 

「〈祈り(物理)…〉」

 

私とお兄ちゃんがそう呟いた時、ジャンヌさんの服装に変化が起こる。元々、私が渡したのは白いコートみたいな服…だったんだけど。それが消えて、全体的に紫色だった服装が白い服装に変わっていく。それはまさに───純白の聖処女。

 

〈な…ジャンヌの霊基が完全に復元した!?〉

 

「え…」

 

〈令呪も正常───どんな奇跡が起こったらこうなるんだ!?〉

 

〈───まさか、リッカが渡した服が触媒になったのか?〉

 

よくわからないけど…ジャンヌさんの力が強くなったって考ええればいいのかな?

 

「───くだらない。我が旗を、我が憤怒を見なさい。」

 

そう言って負方のジャンヌさんがその旗を掲げる。

 

「今やこの国は竜の巣。我が憤怒はこの地を焼き、我が憎悪はこの国を覆いつくした。竜たちはやがてありとあらゆるものを喰らい、このフランスの地を不毛の土地とするでしょう。」

 

その言葉に、預言書が少し熱を持ったのを感じた。

 

「そして竜同士が際限なく争い始める。無限の戦争、無限の捕食。それこそが、真の百年戦争───邪竜百年戦争也!!」

 

「そいつは違うな。」

 

レンポくん…?

 

「───何が違うというのです」

 

「預言書の始まり───俺達が創られたころ。その時の俺達の主っていうのは、人間じゃなかった。もう今となっては記憶が正しいのかも微妙だが…少なくとも、人間ではなかった覚えはある。いずれ滅びるこの世界だが───てめぇが言った人間がいない世界の中でも、いずれ人間のように行動する者は現れる。そして今度は、その人間じゃない者達が統制を始める。どんなものにも、永遠なんてものはねぇ。始まりと終わりは、必ずある。───そう、必ずだ。」

 

なんか…説得力が違う…

 

「───はっ。そんなの、やってみないと分からないでしょう?」

 

「…好きにしろよ。だが、俺達も全力で抵抗させてもらう。アイツがいない世界だが、アイツが創った世界だ。いずれ滅ぶ世界でも、その残った時間だけでも───」

 

「───馬鹿馬鹿しい!」

 

「馬鹿馬鹿しくて結構です、竜の魔女。すぐにこの戦争も貴女の夢も終わるでしょう。総ては、泡の様に───」

 

「───マリー・アントワネット」

 

「ええ。だって、ここには彼女がいる。打ちのめされても砕けずに、フランスを救うために戦い抜いた聖なる少女が。そしてその女性に憧れた、1人の王妃がいる。」

 

「マリー…」

 

「仲良しごっこなど下らない。消えてしまえばすべてなくなってしまうのに───」

 

「どうしてでしょう。貴女が言葉を発するたびに、貴女はジャンヌから遠ざかっていく。」

 

「黙れ!!あの王妃と狩人共を切り離すためにほぼ総てのワイバーンを捨て石とした!!もう貴様を護る者は何もいない!!今度こそ炎に焼かれるがいい───!!」

 

「───いいえ。私は焼かれませんわ。」

 

マリーさんははっきりとそう宣言した。

 

「私にはまだ守ってくれる方がいる。私を守ろうとしているのが、彼女達だけだと思ってはいけません。」

 

そう言うマリーさんの視線の先には、アマデウスさんの姿があった。

 

「それから。フランスのために立ち上がったのは聖女だけではありません。」

 

「何───」

 

 

 

ドォン!

 

 

 

直後、大砲の弾がファヴニールを襲う。

 

「撃て!ここがフランスを護れるかどうかの瀬戸際だ!!全砲弾を撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

「ジル…!」

 

ジル・ド・レェ。この地に生きる彼が、砲撃隊を指揮していた。

 

「恐れるな!嘆くな!退くな!人間であるならば、ここでその命を捨てろ!何も恐れることはない!何故なら我等には───!!」

 

そのジル・ド・レェが発した言葉は、予想外に近いもの。

 

「聖女と王妃───そしてなにより、邪竜の魔女に対する聖竜の魔女がついている───!!」

 

「───聖竜の、魔女!?」

 

「もはやこのフランスを脅かす邪竜など恐れるに足らず!!総員、構え!!」

 

再び行われる、大規模な砲撃。さらにその後方からファヴニールに対して吐かれた火球。

 

「…!?なんです───あのワイバーンは───!?」

 

そこにいたのは、桜色の鱗を持つ飛竜。桜火竜───

 

〈“リオレイア亜種”───!?なんつうもん使役してんだあいつは───!〉

 

ていうかいつから召喚してたの!?

 

「ジャンヌ。貴女の頑張りは無駄ではなかったのよ。」

 

「…はい…!」

 

「強固な信念だこと───反吐が出そう。ファヴニール、総て───焼き尽くしなさい!!」

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

「───ハッ、三度、貴様と相見えようとは。別の次元では違う形で繋がったかもしれないが───!」

 

咆哮に合わせて竜と私達の間に立ちふさがる者。

 

「ジーク…フリート…!」

 

「邪悪なる竜よ!俺はここにいる!ジークフリートはここにいるぞ!!」

 

「く───ファヴニール、下がりなさい!!セイバー、アサシン、ランサー!前へ!!」

 

その言葉と同時に前に出てくる3騎のサーヴァント。

 

「貴女───“シュヴァリエ・デオン”?」

 

「あぁ───王妃。このような姿でお会いすること、お許しください。」

 

「堕落し、浅ましい姿をさらすことは恥にあらず。しかし敗北は何よりの恥。聖杯を求め、傀儡にこの身を貶めてもなお、余は不死身の吸血鬼を謳おう。」

 

「バーサーク・ランサー…」

 

「アァァァァァ……マリー……マリー……」

 

あれって…シャルルさん?

 

「げぇ……何だあれ。マリー、君絶縁状でも叩き付けたかい?」

 

「…?」

 

「あ、この分かってなさそうな顔は多分天然でやったなマリー!くそっ!」

 

「アマ…デウス……?アァァァマァァァデェウスゥゥゥゥゥ……!!」

 

「うわっ、なんかキモイ…」

 

「フザ…ふざ…けるな…ふざけるな、アマデウス……!!」

 

なんか言葉の調子が戻ってきたかと思ったら、その影がはっきりとした…

 

「うわっ!?こいつ、正気を取り戻したのか!?」

 

「…皆様、ここは私に任せてくださる?」

 

マリーさんがそう言った。

 

「あ、犠牲になりたいわけではありませんわよ?ただただ、皆さんの力になりたいのです。ミルドの様に力があるわけでもなく、ジャンヌの様に神様からの啓示があるわけでもない私が何ができるのか。そう考えた時、私は煌めきを振りまくことが出来ると思ったのです。そのきらめきを、皆さんに見せてあげたい。」

 

「そんな、危険です!アマデウスさんからも何か言ってください!」

 

「…止める、と言いたいけれど君は言っても無駄だろう?なら少しだけでも───手伝わせてくれ。見ているだけで君を失うかもしれない、というのは嫌だ。」

 

「ふふふ!心配性ね!でも…いいわ!私が許しましょう!」

 

煌めき、音が鳴り───その場は2人に支配される。

 




書くことがなくなってきてます

裁「微妙に書けなくなってきてる?」

うん…


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第57話 音

本文投稿は先に終えました


狂い、それでいて鮮やかな剣技がマリーさんを襲う。

 

 

───でも、届かない。その剣はマリーさんの周囲に浮遊する煌めきの結晶に阻まれる。

 

 

次いで、血にまみれる杭がマリーさんを襲う。

 

 

───それも、届かない。杭はマリーさんが放つ花弁の大群に阻まれる。

 

 

それから、断頭の刃がマリーさんの首を落とそうと襲いかかる。

 

 

───けれど、届かない。その刃はアマデウスさんの放つ赤い光弾に弾かれる。

 

 

「キラキラキラキラ、輝くの!」

 

「ここで変調だろう?」

 

王妃と、音楽家。決して戦闘向きではないはずの2騎に、戦闘向きなはずの3騎のサーヴァント達が阻めていない。

 

「すごい…」

 

「マリーさんは軽やかに舞い───アマデウスさんは危ないところを補助する。ただ、それだけ…ですよね」

 

「うん…なのに、全く攻撃を寄せ付けてない…」

 

その様子を見た負方のジャンヌさんが忌々しそうな表情をした。

 

「何をしているのですかあのサーヴァントたちは…!!あんな小娘とあんな音楽家程度に苦戦するなど…!!」

 

「マリーはただの小娘ではありません!王宮という戦場で、自分を貫いた王妃です!!」

 

「こいつも…!!一体、何だっていうのよ…!!」

 

「───破ッ!」

 

力強い拳が負方のジャンヌさんの旗に叩き込まれる。

 

「ぐ…っ!」

 

「やぁぁぁ!!!」

 

「舐めるな…!!」

 

二人の聖女が、そのままぶつかり合う。

 

「…どうしたのかしら、デオン?貴女の力はそんなものではないでしょう?」

 

「王妃───」

 

「力強い貴方も。よろしければ私と踊りましょう?」

 

「ぬ───」

 

「───やれやれ、サンソン。マリアは君なんて眼中にないようだよ?…まぁ、僕が気にさせないようにしてるんだけどね。」

 

「黙れ…!!お前だけは許さない、僕がお前よりも下だなんて…!!」

 

アマデウスさんはサンソンさんの言葉にため息をついた。

 

「悪いけど、負けるわけにはいかないね。もうマリアを失いたくない。お前は僕が倒す。」

 

そこからアマデウスさんは指揮棒を振るったかと思うと音符型の弾を作り出した。

 

「…ルーパスにさ。聞いたんだ。どうやったら音で支援できるか。どうやったら、音のいい使い方があるか。本来はリューネに聞くべきなんだろうけどさ。」

 

その音符型の弾はどんどん増えていき、最終的に20程の弾があった。

 

「答えは示してくれたさ。“音を攻撃に転用するならば、音に対して属性を持たせるか炸裂させる”。僕が作るこの魔力弾は、ただの音だ。属性も何もない。なら───炸裂させるしかないだろう?だけどその前に、だ。」

 

アマデウスさんの力が高まっていく。宝具の、開帳。

 

「───聴くがいい!魔の響きを!“死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)”!」

 

その宝具から放たれる重圧が、サンソンさんを縛る。

 

「く…!僕はお前が嫌いだ…!死を音楽などという娯楽に落とす、君の鎮魂歌が嫌いで嫌いで仕方ない…!!」

 

「僕だってお前のことは嫌いだ。だからこの手で終わらせてやるのさ。終わらせてやるためなら、耳の一つや二つくれてやる!!」

 

そうアマデウスさんが叫んだ直後、アマデウスさんが作り出していた音符型の弾が破裂した。

 

 

ギィンッ!!

 

 

「「「〈〈っ!?〉〉」」」

 

直後、凄く高い音が私達の耳を襲った。鼓膜は破れないにしても、それは少し遠かったから───

 

「くっそ…耳が痛い。耳は聞こえるが結構きついな。」

 

「今の…何をしたの…?」

 

〈恐らくだけれど高い音を増幅させ、そのまま破裂させたんだと思うわ。〉

 

「…まるで“高周波”と“響周波”ですにゃ。」

 

高周波と響周波…

 

「まだ足りないって言うならまだやってやるさ!全力でな!!」

 

そうアマデウスさんが言い、アマデウスさんが指揮棒を振るうとサンソンさんの周りに音符が集まる。

 

「───主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“瞬間強化”───対象指定(ターゲットセット)、“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”!!同時に“応急手当”、対象指定(ターゲットセット)、“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”!!」

 

同時に私が制服の力を行使する。それによってアマデウスさんの力が強化され、傷が癒える。

 

「サンキュー!そら、喰らいな!」

 

その音符型の弾は総て破裂し、サンソンさんを吹き飛ばした。同時にアマデウスさんも膝をつく。

 

「ぐ…やっぱり無理しすぎたか…?」

 

〈回復術式施行。対象、“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”。〉

 

指輪からそんな声が聞こえたかと思うと、アマデウスさんが立ち上がった。

 

「…痛みが消えた。ありがとう、リッカ。…さて。」

 

アマデウスさんが見る方向には、吹き飛ばされたサンソンさんがいた。

 

「───僕は、君にすら負けるのか。そう…か…」

 

そう言ってサンソンさんは消えた。

 

「…やれやれ。これだから面倒なんだ、こいつは。今度があるなら、嫌と言うほど鎮魂歌を聞かせてやるよ。…さて、マリアも終わったみたいだし、逃げた魔女を追おうか。」

 

アマデウスさんの言葉で気がついたけど、負方のジャンヌさんがいない。マリーさんも戦闘を終えてるし、次に移動することになった。…そういえば、ルーパスちゃんたちの方はどうなったんだろう…




遅くなりました。ちなみにルーラーとギルは寝てます。


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第58話 歌声

遅くなりました…
弓「ふむ…」


 

「このっ…!!」

 

「鬱陶しい…ですわ!この、私!!」

 

杖と、槍。それが交差する。

 

「それはこっちの台詞よ!どうして、アンタなんかがサーヴァントに…!!」

 

槍を持つはエリザベート・バートリー。私達についた赤い槍兵。

 

「何を言うかと思えば…!私からすれば私が私のままサーヴァントになる方がはるかに忌まわしい…!」

 

対して杖を持つは吸血鬼カーミラ。真名、エリザベート・バートリー。敵についた、暗殺者。

 

自分同士の戦い。それを私は、機会を窺いながら見ていることしかできない。

 

「私はカーミラ、誰もが恐れ敬った血の伯爵夫人。貴女のような未完成品とはわけが違う、恐怖を喰らった反英霊。」

 

カーミラさんの爪がエリザベートさんを襲う。

 

「貴女の末路───エリザベート・バートリーを逃がさない罪の結晶!」

 

「───そんなのは分かってるわよ!アンタはアタシの本性で、アタシの結末だって!」

 

エリザベートさんを襲っていた爪を押し返す。

 

「…そうよ。アタシはアンタそのもの。アンタになる前の“エリザベート・バートリー”。」

 

ポツリとそう呟く。

 

「アンタを否定するってことは自分の罪から逃げること。そんなの、自分勝手だと言うでしょう。アタシの犠牲になった奴らや、その家族たちはきっとそう言うでしょう。」

 

エリザベート・バートリー───確か、自身の美しさを維持する為に“人の生き血”を用いたという史上名高い連続殺人者。言葉巧みに誘い込んだ700人もの娘を殺し、その血で湯浴みをしたという逸話もある人。記録では最終的にその悪行が露見し、一切の光を通さない密閉された塔の中に幽閉され、発狂しながら死に絶えた…そんな人。

 

「だけど!それでもアタシは叫ぶ!アタシは、アンタみたいにはなりたくないって!!自分の不始末を、放っておけないって!!」

 

「愚かな…私達は過去の亡霊、未来は既に定まっているというのに。」

 

「そんなこと百も承知なのよ!!」

 

そう叫んだ直後、エリザベートさんが私の方を向いた。

 

「───子ジカ!!力を貸してちょうだい!アタシがたまに夢見るあの子リスよりはグレード落ちるけれど、ガッツと魔力は一流クラスだし!」

 

その手は、私に対してまっすぐに。

 

「どうか───アタシに歌わせて!この醜いアタシと決着をつける歌を───全力で、歌わせて!!」

 

「───うん。いいよ。システムコード:FD」

 

〈リングシステム、フルドライブ───正常稼働。やれ、リッカ!〉

 

私はお兄ちゃんに聞いていた指輪の力を上げる。

 

三重礼装概念状態(トリプルスタイルモード)礼装概念型式設定(スタイルスロットセット)、1.“魔術礼装・魔術協会制服”、2.“魔術礼装・アトラス院制服”、3.“魔術礼装・カルデア”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)───1.“全体回復”、2.“霊子譲渡”、3.“イシスの雨”、4.“オシリスの塵”、5.“瞬間強化”、6.“応急手当”。稼働技能(アクティベートスキル)対象指定(ターゲットセット)、“エリザベート・バートリー”───活性化(アクティブ)

 

癒し、霊基を強化し、デメリットを打ち消し、守りを与え、力を強化し、さらに癒す。流石に負荷をかけすぎたみたいで、指輪が少し赤くなってるけど…

 

「───ありがと。すっきりした。…これなら、全力でやれる!!」

 

エリザベートさんはそう言ってカーミラさんに飛びかかり、槍を自在に振り回す。

 

「こいつ…急に…!!」

 

「いつもは頭痛のせいで集中できないけれど…それすら消えた今なら!!」

 

「調子に…乗って!!」

 

エリザベートさんの背後から現れたアイアンメイデンがエリザベートさんの体勢を崩す。

 

「うっ…!」

 

「総ては幻想の内───けれど少女はこの箱に───」

 

「───させるわけ、ないでしょうが!!」

 

その槍でアイアンメイデンを粉砕する。

 

「く…お見通しというわけね。」

 

「アタシ、なのよ?自分の手の内くらい、分かってないと意味ないでしょうが!!」

 

「ふふ…ふふふ…!!」

 

そのカーミラさんの足元から血が湧きだす。

 

「───来るわね。最高のヒットナンバーを聞かせてあげるわ!!」

 

「───来て、“エリザベート・バートリー”!!」

 

私はカルデアからエリザベートさんを呼び出す。

 

「───へぇ。アタシがいるところにアタシを呼ぶって、どういう…まぁ、いいわ。」

 

「二人とも思いっきり───歌って!!一人のファンとして、見守るから!!」

 

その言葉と同時に、令呪が二画消える。霊気が強化されたのを感じた二人のエリザベートさんが、苦笑した。

 

「───カルデアのアタシ───アンタ、いいマスターを持ったわね。」

 

「子ジカも子ジカでいいマスターなのよ。流石に子リスには負けるけれどね。さ、行くわよ、アタシ。」

 

「───えぇ。一夜限りの、コラボイベント。アタシとアタシのあり得ないはずのコラボよ!!」

 

うん、自分でやっておいてなんだけどちょっと謎だよね。

 

「「───サーヴァント界サーヴァント界最大のヒットナンバーを、聞かせてあげる!」」

 

二人のエリザベートさんが槍を地面に突き刺すと、なんか…アンプ?に改造されたお城みたいなのが召喚された。

 

〈あれは…チェイテ城!?〉

 

〈…なんでアンプなのよ…〉

 

マリーとドクターが困惑していた。

 

「「行くわよ!これが私達の全力全開───!!」」

 

「“幻想の鉄処女”…!!」

 

「───“鮮血魔嬢・二重唱(バートリ・エルジェーベト・デュオ)”!!Laaaaaaa!!

「───“鮮血魔嬢・二重唱(バートリ・エルジェーベト・デュオ)”!!Laaaaaaa!!

 

カルデアのエリザベートさんの私達を守ろうとする綺麗な歌声。そして、特異点のエリザベートさんの衝撃波。形を得たそれが、その場をかき乱す。

 

〈ぐぁぁぁぁぁ!!なんだこれは…!!〉

 

〈こちらのエリザベートさんのおかげで、少しは中和されているけど辛いわね…!!〉

 

「そうか…こんな使い方があるのか…」

 

アマデウスさん大丈夫なの…?

 

 

side リューネ

 

 

「…む?」

 

 

───Laaaaaaa!!

───Laaaaaaa!!

 

 

「…ルーパス」

 

「うん…」

 

「エリザベートの宝具だね…」

「エリザベート殿の宝具か…」

 

僕達は同時にため息をついた。

 

「あれ音爆弾とかにならないのかな?」

 

「なりそうだが…試すのも面倒だろう?」

 

「そうだね…」

 

はぁ…というかこの空中まで声が届くとは…さて、次々倒すか…

 

 

side 立香

 

 

「未来が過去を否定するのではなく、過去が未来を否定するなんて…なんてでたらめな少女。だからこそ…鬱陶しいくらい眩しいのかしら、ね───」

 

そう言ってカーミラさんは消えた。

 

「…さようなら、アタシの未来。悲しいほどに分離した、もう一人の自分。私は歌い続けるわ。なんどでも…」

 

そう言って、特異点のエリザベートさんはカルデアのエリザベートさんに視線を向けた。

 

「…アンタ、カルデアの方に召喚されてたのね。」

 

「えぇ、まぁね。ルーパスとリューネに声を叩き直されたけれど。」

 

「…そう。まぁ、助かったわ。」

 

そう言って特異点のエリザベートさんとカルデアのエリザベートさんは笑い合っていた。




なんか最近書けなくなってきてるんですよね…終盤だからですかね?

裁「さぁ…」


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第59話 滅

結構雑になってますね…それはそうと、UA13,000突破ありがとうございます

弓「微妙に時間が足らぬようだな」

どうするかなぁ…


 

「ようやく、ここまでたどり着いたか。感謝する、マスター。」

 

私達の前には、邪竜たるファヴニールがいる。

 

「この竜さえ倒せれば───勝ちは見えるだろう。」

 

「うん…」

 

「だが…実のところ、どうやって勝ったかまるで覚えていない。」

 

その言葉に私達は軽く崩れ落ちる。

 

「ちょっ!?今になって不安になるようなことを言わないでください!」

 

〈仕方ないと思うわよ…伝承でもそこまで情報が残っていないうえ、ジークフリート本人からすれば相当前の記憶よ。私達でもそんなに長い時間覚えてられるかどうか、わからないでしょう。〉

 

「すまない…だが、今は頼ることのできる主がいる。竜種に関連する仲間がいる。俺がファヴニールを倒せずとも、後を託せるだろう。もっとも、ファヴニールの撃破を他人に譲る気はないが。」

 

そう言ってジークフリートさんは笑った。

 

「見ていてくれ、マスター、マシュ、英雄王…そして、竜を狩る狩人達と竜を使役する少女よ。俺は今一度、あの邪竜を討ち果たす。」

 

その言葉に、私は頷いた。

 

「さぁ、ファヴニール…始めよう、貴様と俺の運命を…!!」

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

「…あ、始まったみたいだよ。」

 

私は下を見てそう呟いた。

 

「ふむ…見ておくか。僕らハンターとは違う竜殺し。そもそもハンターは調和を図る者だが…まぁいいか。ところで…」

 

リューネは背後を見た。

 

「…ミラ殿、そちらはどうだ?」

 

「…一応、主導権の乗っ取りは成功したよ。」

 

「そうか…」

 

「…私、あまりこれ好きじゃないんだけど…」

 

でも、普通にできるんだ…

 

「ミラのスキルってなんだっけ?確か滅龍の所が違うんだよね?」

 

「“竜と龍に魅入られる者”、ね。効果は竜種特性持ちに対する強力な魅了。なんでこんなスキルついたんだか…」

 

そのミラの疲れたような言葉に私達は笑った。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

バルムンクを振り回し、ファヴニールを切りつけていく。切るだけではなく、突く、穿つ、払う、受ける───

 

対するファヴニールは引っ搔く、炎を吐く、薙ぐ、叩き付ける、サマーソルト───

 

いくつもの攻撃を組み合わせながら、二つの存在は戦い合う。その一撃一撃は総て必殺への布石。その一撃は、総てが必殺になりうるもの───!

 

「これが…竜との、戦い───」

 

「先輩…私の後ろに…!」

 

「うん…ありがとう」

 

「これが…この世界の、竜殺し───」

 

ジュリィさんもそれをじっと見つめていた。

 

爪が振るわれ───それを破壊され。

 

ブレスが吐かれ───それをバルムンクで切り払い。

 

身体に対してバルムンクを振るい───その部分の鱗が弾け飛ぶ。

 

「ファヴニール───!!」

 

「グギャァァァァァァ!!」

 

ジークフリートさんの叫び声とファヴニールの咆哮。私達もそれは耐えきれなくて、耳を塞いだ。

 

「…!これが、英雄ジークフリート…!?」

 

「ふん…やりおるよな」

 

「えっと…!聴覚保護吹きますね…!!」

 

ジュリィさんがどこからか角笛を取り出して、それを吹いてくれた。

 

「それは?」

 

「“耳栓笛”です。相棒が作った笛の一つで、一時的に耳栓スキルLv.5の効果を得られるんです。」

 

「へぇ…」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ジークフリートさんが大声で叫んだ時、その力の均衡が崩れる。

 

「かつて───俺には足りなかったものがある!だが今は、全て───!!」

 

「ガァァ!?」

 

そんな時、ジークフリートさんの近くに、何かの球が落ちてきた。

 

「…っ!?」

 

ジークフリートさんがそれに気づき、その球を切りつける。すると、その球が破裂する。

 

「キュィァァァァァ!!!」

 

「「“アトラル・カ”の咆哮ですにゃ───!?」」

 

アトラル・カってなんだろう…っていうか、ファヴニールの動きが止まってる…

 

「俺は負けぬ!俺を必要としてくれた者のために!俺を必要としてくれた、少女のために!」

 

ジークフリートさんが紫色の石を投げ、それをバルムンクで切りつける。

 

「この世界で貴様等に繫栄は訪れない!今ここが、この世界の貴様達の終焉の刻───!!」

 

う~ん…ミラちゃんが聞いてたら怒りそうだけど。

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・魔術協会制服”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体回復”───同時に“霊子譲渡”、対象指定(ターゲットセット)、“ジークフリート”。」

 

前にもかけた物を、もう一度。

 

「───黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ───」

 

ジークフリートさんの宝具───バルムンク。それが、前回の解放とは違う輝きも纏っている。

 

「───邪竜、滅ぶべし!受けよ、これが貴様の結末也───!!」

 

その剣は上段から───

 

「“幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)”───!!!」

 

一気に振り下ろされる───!!

 

「アガァァァァ!」

 

悲鳴の後に光が消えた時、すでにファヴニールの姿はなかった。

 

「やった…んですか?」

 

「…うん。やったんだよ。」

 

〈ファヴニールを、たった一人で…〉

 

〈これが…ドラゴンスレイヤーの力なのか…?〉

 

その言葉に、ジークフリートさんが首を横に振った。

 

「俺だけの力ではない。かの王女が、何度もファヴニールを弱らせていてくれたおかげだろう。」

 

そう言った時、小さく羽ばたきの音が聞こえた。

 

「…ワイバーンか。」

 

その通りで、確かにワイバーンがこちらに向かってきていた。…けど、大丈夫。

 

「大丈夫、こっちも終わったし。」

 

私の前に、ルーパスちゃんが現れた。…というか、落ちてきたというか。

 

「ありがとう、ジークフリート。ワイバーンは私に任せて。」

 

「…すまない。感謝する。」

 

そう言ってジークフリートさんはルーパスちゃんの後ろに下がった。

 

「───解放。それはかの裁き。かの技の顕現。」

 

ルーパスちゃんの魔力が上がっていく。

 

「全開。狩人達はこの技に敗れ、何度苦虫を噛み潰したことか。その具現、その王の御業───」

 

ルーパスちゃんがそこで跳躍した。同時に、吹き付けられる蒼い霧のようなもの。

 

「宝具、展開。“刮目せよ、此処に見るは王の鉄槌(王の雫)”───総ての敵を滅せ、赤龍の鉄槌よ。」

 

その言葉と同時に、蒼い光が地面に落ち、その瞬間眩い光を放った。

 

「まぶしっ…!?」

 

しばらくしてその光が収まったかと思うと、もうそこにはワイバーンの姿は無かった。

 

───跡形も、なく。消滅していた。

 

「なん…だと…」

 

「え…?なんで私達…無事なの…?」

 

そう私が呟くと、ルーパスちゃんが笑って答えた。

 

「だって、リッカたちは対象外にしたもん。対象外にしておけば攻撃効かないし。」

 

「…なんだ?今の技は…」

 

「赤龍“ムフェト・ジーヴァ”の“王の雫”───必殺技だね。完全に貰ってしまえばキャンプ送り。」

 

そう言ってルーパスちゃんは苦笑した。

 




王の雫は発動者の意思でダメージを与える相手を決められるようにしました

裁「無差別じゃないんだね…」


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第60話 ところで

最近時間遅くてすみません…あとお気に入り登録60件ありがとうございます!ちなみに今回はギル達お休みです!


 

ルーパスちゃんが王の雫っていう技を放った後、リューネちゃんとミラちゃんも地上へと降りてきた。

 

「あ、ミラ。」

 

「相手は遠くへと撤退。流石の王の雫でもこの地全体を焼き払うことはできなかったみたいだけど……加減した?」

 

「まぁ、ね。総ての敵、という指定はしたけど相手の指揮者を倒すのは私の役目じゃない。ミラほどじゃないけどあの亜竜達には私もイラついてたからね。」

 

まったく、なんでレイアと同じような姿なのにこうも苛立つんだか…ってルーパスちゃんが呟いて、リューネちゃんとミラちゃんが苦笑していた。すると、フランス軍の方からジル・ド・レェさんが出てきて、ミラちゃんの前で膝をついた。

 

「…聖竜の魔女様。この度はこの国を守るために力を貸していただき、有難く思います。」

 

「…力になれたのなら、良かった。あまり攻撃指示とかは出してなかったから、ほとんどが彼女の独断だけど…おいで、ハーレ。」

 

ミラちゃんがそう言うと、フランス軍の後ろの方にいたリオレイア亜種がミラちゃんの方に来た。

 

「…雌火竜とか桜火竜…種族的に女の子の竜達の習性は、大体が守護と防衛なんだよね。今回の場合はハーレに貴方達を守護する対象として認識してもらっただけ。…そんなことより、ハーレの尻尾。触ってないよね?」

 

「ええ…言いつけ通りに。」

 

リオレイア種の尻尾…って確か

 

「雌火竜、桜火竜、金火竜…それから紫毒姫なんかのレイア種は尻尾に毒をもってる。それなりに強力になってるから、もし触れた人がいるなら私に言って。解毒するから。」

 

そう言ってミラちゃんの左手とリオレイア亜種の間に緑色の光が現れたかと思うと、かなりの速さでその傷が癒えていった。

 

「…結構痛めつけられたね。ごめんね、もう少し頑張って。」

 

「ァァァァァァ…」

 

「…引き続き、ハーレは貴方達に預ける。邪竜は既にここにいるジークフリートが打ち倒し、ワイバーンはここにいるルーパスが全滅させた。だからと言って油断は禁物、魔術によって作り出される骨の竜が現れないとは限らないし、そうでなくとも骨の兵士がいる。私達はこの後オルレアンに向かうけど、他の場所で何が起こるかは分からない。私からも追加で何匹か召喚しておくから、各地での敵兵の対処は任せる。くれぐれも、私の竜達に危害を加えることなんてないように。」

 

「はっ!」

 

そう言ってジル・ド・レェさんはフランス軍の方へと戻っていった。同時にリオレイア亜種もフランス軍の方へと戻っていった。

 

「…はぁ。結構心配。」

 

「お疲れ…なのかな?」

 

「まぁまぁ…かな?」

 

ため息をつくミラちゃん。なんか…大変だね。…そういえば

 

「ね、ミラちゃん。」

 

「うん?」

 

「“聖竜の魔女”って?」

 

「それね…あの人たちに名乗った名前。昨夜、少しだけあの人たちに話をしに行ったの。私達の方にいるのは竜の魔女たるジャンヌ・ダルクではないということ。この地に竜の魔女は二人いてこの地を破壊せんとする邪竜の派閥とこの地を護らんとする聖竜の派閥で争っている、ってことをね。」

 

〈…それ、所々に嘘ついてるよね?〉

 

「嘘に真実を紛れ込ませればその信憑性はかなり高くなる。そのせいで通り名増えたけど、信用されるためなら別にいい。…それより、邪竜の魔女を追うよ。早くこの場所を終わらせないと。」

 

ミラちゃんの言うことももっともだった。この場所だけに時間をかけていられない。

 

「…行こう、皆。ミラちゃん、お願いできる?」

 

「任せて。───お願い、ルーレ、ソウレス、シルリス、レン、レイ!」

 

そう言って召喚される金、銀、蒼、赤、緑の飛竜。

 

〈リオレウスとリオレイアの原種や亜種だけじゃなくて希少種まで…どんだけ運いいんだよ。〉

 

「…リューネさん」

 

「うん?」

 

「リューネさんはカムラの里出身だっけ。」

 

「ん?あ、あぁ…そうだが。」

 

「…なら、これでいいかな。おいで、マドガ!!」

 

そう言って召喚される紫色のモンスター。なんとなく、虎っぽい…?

 

「な…怨虎竜“マガイマガド”だと!?」

 

「怨虎竜マガイマガド?」

 

「50年前、カムラの里を襲った悲劇───シシーダ、トトゥール。タースマド、デューク。アーミ、イータマソ。タースマド、ミード。ラーネハディリーク、カムラシ、ディキード───」

 

…うん、全く分からない。少しは分かるようになったはずなんだけど…うーん

 

「その時に里を襲ったモンスター、それが怨虎竜マガイマガド───今代は僕が打ち倒したが、強敵であることには変わりない。」

 

「へぇ…似たような性質なんだ。でも、打ち倒したなら装備あるよね?」

 

「あぁ…これだろう。」

 

そう言ってリューネちゃんはアイテムボックスを開いて、暗い紫色の装備を着用した。なんというか…

 

「武者?」

 

〈っぽいよな。〉

 

「それ着てれば鬼火の影響はないでしょ?」

 

「あぁ…僕に乗れと。」

 

「そ。」

 

リューネちゃんは小さくため息をついてからそのマガイマガド…だっけ、それに飛び乗った。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

「うん…その前に。」

 

私はアルの方を向いた。

 

「…貴女は、誰?」

 

「え…?」

 

「アルのことじゃないよ。アルの背後にいる、貴女は誰?」

 

私が見ていたのは、アルの背後にいる透明な虹色の髪を持つ女性。

 

『…見えるの?私が。…私に、気がついていたの?』

 

「うん。貴女は、誰?」

 

『私は…ただの、残留思念。この子の中に宿った、残留思念の欠片。』

 

残留思念…

 

「アルの記憶、ってこと?」

 

『違うよ。この子の記憶ではなくて、私はこの子の肉体に宿る別人格でもない、全くの別人の残留思念。』

 

…よく、わからない。

 

「貴女は、誰?」

 

『さぁ…ただの亡霊、なのは分かる。私は、もう死んでいるから。私は多分、この子の想いが呼び覚ました力の欠片。』

 

力の、欠片…

 

『多分、何かの縁が関係して宿ったんだろうけど…私にもよくわからないの。…そして、私も力を使いきったみたい。』

 

そう彼女が言うと、足元から消滅が始まっていっている。

 

『私は欠片。その力は、正常なものよりはかなり劣る。貴女…アルちゃん、だっけ。』

 

「私…ですか?」

 

『貴女に私の総てをあげる。私が築いてきた力を、技を、記録を…総て。…大丈夫、気を失ったりはしないから。』

 

そう言って、彼女は笑って私の方に向いた。

 

『この子をどうかよろしくね。もしかしたら、私を呼び出せるようになるかもしれないし。どうか私の力が、正しいことに使われますように。』

 

「…待って!貴女の、名前は…?」

 

そう聞くと、もう既に頭だけになった彼女が小さく声を発した。

 

『虹の欠片“心音 虹架”。』

 

そう言うと、その場から彼女の存在が消えた。

 

「…行こう、ミラちゃん。」

 

「いいの?」

 

「考えるのはあと。今は…」

 

「…分かった。」

 

私達は飛竜たちに乗ってオルレアンへと飛び立った。




竜人語は一応モンスターハンターRiseに出てくるものをそのまま書き出しています。正確かどうかは分かりませんが…


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第61話 核心を突く

何とか間に合いました。

弓「…いまだ眠いのは何故だ。」

あ、ギル起きたの?

弓「うむ…」

そっか。


 

私達はオルレアンに着いて、襲ってくる魔物を倒していた。

 

「こいつら、うぜぇっ!倒しても倒してもすぐに再召喚されやがる!」

 

「海魔…なんとかコードスキャンできたけど、何か方法あればいいんだけど…」

 

「リッカは情報を集めることしか出来ねぇ!くそっ、預言書が時間経ちすぎて性能落ちるとこうなるのか…!」

 

「申しわけありません」

 

「預言書は悪くないよ…多分」

 

預言書。前の世界までは喋らなかったけど、今回の顕現では喋るようになったってレンポくんが言ってた。なんか、先代のご主人様の知り合いが色々やったらしい。…預言書に何かできるって、ハオチィさんとかゲオルグさん、あとはエエリさんくらいしか思いつかないんだけど…

 

「「全員退避!竜の一矢を叩き込む!!」」

 

「「「了解…っ!」」」

 

私達が横に避けると、二つのガリガリッっていう音が聞こえた。

 

「行くよ、リューネ!」

 

「あぁ!」

 

「「せー…ので!どーん!!」」

 

「シンクロナイズド抜刀一矢…」

 

「抜刀術発動していないですにゃ。」

 

スピリスちゃんから鋭めのツッコミをもらったところで、私達は再度元の配置に戻る。

 

「ふっ、このような雑兵、我等の障害になどなりはせんわ!」

 

「穿ちなさいっ!“ジャベリンズ・ドラゴニス”!!」

 

ギルの大量の宝具、ミラちゃんの龍属性付与の杖投げ。それらが残る敵を蹴散らしていく。

 

「眠れ───」

 

「ジュリィナイス!」

 

「今です、相棒!」

 

「装備変換、“ヘクター=グレイシア”───“零距離属性開放”ッ!!」

 

ジュリィさんが眠らせた大きい海魔にルーパスちゃんが飛びつき、スラッシュアックスを呼び出して何回か爆発させた。…あれって大丈夫なの?

 

〈階段───その上がった先に敵サーヴァント反応が検知されました!お気をつけて!〉

 

ルナセリアさんの声で私達に緊張が走る。階段を上がった先には、一人の男性がいた。

 

「参られましたか、白き聖女よ。」

 

「ジル…!」

 

え…あの人が、さっきの…?

 

「まさかファヴニールを倒し、このオルレアンまで乗り込んでくるとは…正直に申し上げまして、感服いたします。…ですが、ここは通しませんぞ!」

 

「ルーラーよ!」

 

「はい!退きなさい、ジル!」

 

ジャンヌさんはその場から一度跳躍し、ジルさんの正面に立った。

 

「な───」

 

「貴方はあとです!少し黙ってなさい!」

 

そのままジャンヌさんは蹴り上げた。…その…

 

「───」

 

急所を。

 

「───」

 

「…皆さん?」

 

「…ルーラー。貴様容赦なしか。」

 

「…?はて。私は何かしてしまいましたか?」

 

〈無自覚かよ…〉

 

〈もう聖女様に逆らいません…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…〉

 

〈ロマニ!?だ、誰かロマニのメンタルチェックを!速く!!〉

 

私達の方は女性メンバーばかりだからともかく、カルデアの方は男性陣いるからその男性陣にちょっと打撃が入ったみたい。

 

「エリザベートさん、清姫さん、ジルが起きた時のために足止めをお願いできますか?」

 

「え、えぇ…」

 

「わ、分かりましたわ…」

 

「…??」

 

〈ごめんなさいごめんなさいごめんなさい───助けてマギ☆マリ───!聖女様が怖いです、どうしたらいいですか───!〉

 

〈しっかりしなさいロマニ!貴方が倒れたら医療チームはほとんど崩壊するわよ───!〉

 

〈…リッカ。ロマンのSAN値チェックとかは俺やっとくから先進んどけ。観測はルナセリアがやる。〉

 

「あ、うん……手遅れじゃないといいけど…」

 

〈そうだな…〉

 

私はそんな会話をした後、城の奥へと進む。

 

 

 

「…来ましたか。随分と早いですね。」

 

「…魔女ジャンヌ。」

 

「ジルは…なるほど、死んではいませんが足止めされたようで。」

 

これで、三度。竜の魔女と、救国の聖女が対峙する。

 

「…伝えるべきことを伝えろ。マリーに言われた言葉です。一つだけ、私も伺いたいことがありました。」

 

「…今更問いかけなど…何だというのです。」

 

「極めて簡単な。極めて単純な問いです。貴女は───()()()()()()()()()()()()()?」

 

え…どういう、こと…?

 

「…何ですって?」

 

「ジャンヌ…さん?」

 

「更に言えば、人の温かさを…貴女は覚えていますか?」

 

「なにを…言って」

 

「戦場での記憶がどれほど強烈であっても。私はただの田舎娘として過ごした記憶の方がはるかに多い。私の闇の側面だとしても、あの牧歌的な生活を忘れられるはずがないでしょう。貴女が私であるならば、そこを原点として───そこと比較して絶望、嘆き、憤怒は現れたはず。」

 

「───私は」

 

「…確信しました。記憶が、ないのですね。」

 

その言葉に負方ののジャンヌさんの表情が憤怒に染まる。

 

「それがどうした…!記憶があろうがなかろうが、私がジャンヌ・ダルクであることに変わりはない!」

 

「えぇ、記憶があろうがなかろうが、それは貴女であることには変わりはないでしょう。…ですが、決めました。私は怒りではなく悲しみをもって竜の魔女を───邪竜の魔女、ジャンヌ・ダルクを倒しましょう。」

 

「黙れ…!!サーヴァント!!」

 

負方のジャンヌさんのその叫びに、黒いサーヴァントたちが現れる。

 

「あれは…冬木にいた…!!」

 

「この程度ならば、すぐに量産できます。屠りなさい!絶望が勝つか、希望が勝つか───殺意が勝つか、哀れみが勝つか!決着の時だ!!」

 

「田舎娘。助力はいるか?」

 

「必要ありません。皆さんはそちらの影たちをお願いします。私は、私と決着をつけます───!」

 

相手となるは16騎の影。…なら

 

「お願い、来て!“アルトリア・ペンドラゴン”、“エミヤ”、“クー・フーリン”、“メドゥーサ”、“佐々木小次郎”、“メディア”、“ヘラクレス”!」

 

「承りました、マスター。」

「了解した。すぐに終わらせよう。」

「任せな。その心臓、貰い受ける!」

「分かりました。すぐに終わらせます。」

「承知。」

「ふふふ、少しだけよ?」

「■■■■■───!!」

 

私が喚んだのは7騎のサーヴァント。アルトリアさんやギル曰く、別世界の冬木での第五次聖杯戦争におけるサーヴァント達───!!

 

「ふん───後悔するがいい!“吠えたてよ(ラ・グロンドメント)───」

 

「させません!“我が神は(リュミノジテ)───」

 

2騎のジャンヌさんが宝具を発動させる。

 

「───我が憤怒(デュ・ヘイン)”───!」

「───ここに在りて(エテルヌッル)”───!」

 

展開される、魔女の炎と聖女の防御。それが、戦闘開始の合図になった。




そういえば、前話でいた“心音 虹架”っていうのは私の別の作品に出てくる“心音 虹架”とほぼほぼ同一人物です。

弓「ほう?」

最近あっち書けないんだよね…どうしたものかな…


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第62話 虹の

遅くなりました…

裁「ほんと…最近遅くなるよね」

素材集め…

裁「…」


 

私達はサーヴァントたちと。正方のジャンヌさんは負方のジャンヌさんと。それぞれ対峙する。

 

「燃えろぉぉぉ!!滾れ、我が憤怒!!」

 

「っ…」

 

負方のジャンヌさんの声が聞こえてくる。けれど、私はそれだけに気を避けるわけじゃない。

 

「…そこです!」

 

アルトリアさんは対峙していたセイバーのサーヴァントに剣の一撃を入れる。

 

「これが私とは、皮肉なのか。私と比べて劣る、まるで未熟な私を見ているような気分だ。───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

エミヤさんは対峙していたアーチャーのサーヴァントへと剣を投げつけ、爆発させる。

 

「甘ぇ甘ぇ!そら喰らいな!てめぇにはこの程度で十分だ!“穿ちの朱槍(ゲイ・ボルク)”!!」

 

クー・フーリンさんは赤い槍で対峙していたランサーのサーヴァントを穿った。

 

「ふふふ───」

 

メディアさんは怪しく笑いながら竜牙兵、っていうのを召喚してキャスターのサーヴァントと対峙してた。

 

「…これが、私なのですか。…そう、ですか…」

 

メドゥーサさんはほとんど言葉を発さずに対峙していたライダーのサーヴァントをボコボコにしていた。

 

「ふむ…なんと、懐かしいような懐かしくもないような。まぁどちらでもよいことですな。」

 

小次郎さんは対峙していたアサシンのサーヴァントの攻撃を避けながらじわじわと追いつめていた。

 

「■■■■■───!!」

 

ヘラクレスさんはそのまま対峙していたバーサーカーのサーヴァントをボコボコにしていた。

 

…これで、7騎。残る相手のサーヴァントはというと…

 

「…っ!」

 

総て、アルが戦ってる。

 

「アル…」

 

アル以外のサーヴァントたちはみんな、他に出てきたモンスター達を抑えてくれてる。そして、アルは武器を変え、動きを変え───9騎のサーヴァントをたった1人で相手にしている。

 

「…やぁっ!」

 

これは、アルが自分で望んでこの状況を作り出した。それは、わかってる。…でも。

 

「…心配、だよ…」

 

私には見ていることしかできない。コードも書き換えられなければ、何かを補助することもできないから。あんなに早く動かれてると、ガンドを打ちたくてもアルに当たりそうで怖い。

 

 

キィン!

 

 

そんな金属音が響いたと思うと、アルが手に持っていた剣が相手のサーヴァントに弾かれて飛んでいっていた。

 

「───アルっ!」

 

「───シッ!」

 

アルは迫ってきていた相手の剣を蹴り上げ、相手の懐に手を当てた。

 

「───熱波(ねっぱ)ッ!」

 

そう叫んだ瞬間、アルの手から炎が吹き出し、相手を吹き飛ばした。

 

「うっそ…」

 

「…なんとなく、わかってきた」

 

そう呟いたアルは、もう一度剣を召喚し、今度は剣に風を纏わせた。

 

「───虹の欠片の力は属性。」

 

そのままアルは、アルが吹き飛ばして倒れているサーヴァントに向けてその剣を振るう。すると、風の刃みたいなのがサーヴァントに向けて飛んでいった。

 

「私は、その力を使う受け皿。」

 

そう呟きながら、近づいてくるサーヴァントに向けて剣を振るう。振るうたびに風の刃は発生して、私の目の前に来ると消滅する。

 

「いくつもの力を使うための、一つの器。」

 

今度は水を発生させ、サーヴァントの攻撃を防ぐ。

 

「けれど、私の性質は虹じゃない。」

 

その水が風に変わり、襲ってきたサーヴァントを切りつける。

 

「私の性質は───私の本当の性質は何?」

 

戦いながら呟くアル。

 

「銘を持たず、存在が不定な者───それが私?」

 

「…アルは、アルだよ。」

 

「私は、私───?記憶がないのに?」

 

「記憶があっても記憶がなくても───アルはアルだよ。私の一人のサーヴァント。記憶がないなら、作ればいい。これから…!」

 

「───もしも、記憶が戻ったら?」

 

「それでも…貴女は貴女だよ!」

 

「───」

 

アルは戦いながら考えこんでるみたい。

 

「───星」

 

「え…??」

 

「星の…アルターエゴ。虹じゃ、ない。私の性質は…星…?」

 

「アル…?」

 

「…分からない…でも、そろそろ終わらせる。」

 

そう言ったとき、アルの魔力が跳ね上がった。

 

「…欠片。虹の欠片───この宝具、()()()()()()()()()()()()()()()()()()───」

 

そう言葉を発した時、周囲が暗くなった。いないのは…ジャンヌさん達だけ。

 

「マスター、これは…?」

 

アルトリアさんが困惑気味に聞いてきたけど、私は首を横に振ることしかできなかった。

 

「開け、七色のトビラ───煌めけ、七色の星。開け、六性のトビラ───煌めけ、六性の星。」

 

そう詠唱がされると、その暗い空間に13個の光が現れた。

 

「輝け、双璧のヒカリ───紡げ、双璧の極星。輝け、運命のヒカリ───紡げ、運命の微星。」

 

さらに追加で、3つの光。───あれは、あの並びは───

 

()()()()()()()()()───あの小さく輝く光は、()()()───?」

 

「第一宝具、()()()()。虹が伝え、星が告げる運命を知るがいい───“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)───」

 

その名前は、前に使っていた技。だけど、詠唱と演出が全く違うのは何故…?

 

「───極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”───起動せよ、ポラリス。その裁きの光を。」

 

その瞬間、16の光線が相手のサーヴァントそれぞれを襲った。

 

「フィナーレ。」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、最後に一際大きな光線が相手を襲った。

 

「…」

 

光が収まった時、既にその光の着弾点に相手のサーヴァントの姿はなかった。

 

「嘘…」

 

「…終わった」

 

そう言ってアルはその場で倒れた。

 

「ちょっ、アル!?」

 

「大丈夫、疲れただけ…」

 

そう言うと真っ暗だったのも元に戻って、ルーパスちゃんたちの姿が見えた。

 

「あ、リッカ!」

 

「ルーパスちゃん…」

 

「心配したんだよ…?いなくなってるから…」

 

「…ごめん、宝具のことよくわかってなかったし…」

 

「アルのさっきの宝具ってどんなものなの?」

 

「…まだ詳しいことは分からないけど、夜天の結界で周囲を覆い、北斗七星と南斗六星、それから北極星と南極星、添え星の力を一気に叩き込む宝具…みたい。」

 

そういえば、ポラリスって北極星のことだ…

 

「…ジャンヌはまだ戦ってる。見守るしか、ないよね。」

 

「…うん。」

 

私達はその場でジャンヌさんの戦いを見守った。




七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)

無銘の完全な状態の第一宝具。夜天の結界で周囲を覆い、北斗七星と南斗六星、北極星と南極星、添え星(死兆星といえば伝わりやすいかもしれないが)の力を一気に砲撃として叩き込む宝具。本来の詠唱では星の名前を読み上げる必要がある。不完全な状態である“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)”の場合、夜天の結界を用いないために星の数で威力が変わるが、こちらの場合はほぼ常に最大威力を叩き出す。


とりあえず宝具情報更新。固有結界と対界宝具の合わせ技みたいな?

裁「対界宝具なの!?」

「まぁアルターエゴの最後の詠唱にもあるように“星の裁き”だからねぇ…」

裁「えぇぇ……」


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第63話 聖女と魔女

…ん~…

裁「どうしたの…」

なんか…組み上げがうまくいかない。

あ、UA14,000突破ありがとうございます。少し遅いですけども。

弓「かなりの頻度で遅いではないか、貴様…」


 

「この…!!」

 

リッカ達が見守る中。黒いジャンヌと白いジャンヌの戦闘は続いていた。

 

剣を振り、旗で防ぎ───炎を吹き出し、それを振り払い。

 

一方は強い信仰を抱き、救済の意思をもって。

 

また一方は強い憤怒を抱き、破滅の意思をもって。

 

白と黒は、その対極の意思をもって、相手へと否定を叩き付ける。

 

「───あぁぁ!!」

 

「忌々しい───!炎で私に対抗しようなどと!!」

 

紅蓮の聖女───それを抜いた白いジャンヌに黒いジャンヌの炎が襲いかかる。

 

「思い出せ!私を焼いた炎を!この国の裏切りを!この国の民の愚かさを───!!」

 

その叫びに呼応するかのように、黒いジャンヌが放つ炎の勢いが上がる。

 

「熱いでしょう?苦しいでしょう!これが私の、私を焼いた炎!これが私の、憤怒の原点───!!」

 

その炎は、魂の叫び。黒いジャンヌが抱いた憤怒。黒いジャンヌが抱いた憎悪。自らの魂をも燃料とし、燃え盛り続ける破滅の炎。

 

「燃えろ───!!此処に在るもの総て、何もかも!!白い私よりも白く───否!色も、灰も残らぬほどに燃え尽きてしまえ!!」

 

「…っ!」

 

黒いジャンヌの炎がその場所を溶かし始めていた。それだけ、高温なのだろう。

 

 

「ふん…聞くに堪えぬ喚き声よ。田舎娘…ジャンヌ・ダルクという枠を使ったというのにここまで歪むか。よほど、アレを作り出したものは歪んでいたと見える。」

 

ギルガメッシュがそう呟く。

 

「そうだね…0のものにあそこまで強い感情を持たせられるって相当だと思うよ?人理焼却がいつから始まっているのか知らないけど、水壁5層張ってやっと生活安全圏って…」

 

そう言うのはミラ。流石に炎の熱でリッカ達が脱水症状にならないとも限らないということで、水属性の障壁を5枚、ドーム状に張っていた。

 

「ジャンヌ・ダルクという者が迎えた末路は、本人以外から見ればそれほど酷いものだった、ということであろう。」

 

「…そう。…私も、同じようになっていたのかな。」

 

「知らぬ。ミルド、貴様は並行世界の人間であろう。その並行世界で何があったかというのは問わぬ。…が、過去に何があった、というのを可能性で考えるのはやめよ。貴様は現在を生きている、それでよいではないか。」

 

「…そっか」

 

 

「許さない!この国を、司祭を、この世界を───!私は絶対に許さない!!」

 

「…っづ!」

 

炎、剣、旗。それが、白いジャンヌに襲いかかる。それに対して、白いジャンヌは紅蓮の聖女を手に立ち向かう。

 

「当てつけのつもりかしら!紅蓮の炎程度で、私の劫火に張り合おうなどと───!!」

 

黒いジャンヌの剣が、白いジャンヌの肩に突き刺さる。

 

「あぐっ!」

 

「ふんっ!」

 

「あぁっ!」

 

そのまま切り裂かれ、周囲に血が飛び散る。

 

 

 

「…」

 

「…そのような顔をするでない、マスターよ。」

 

「でも…」

 

「あ奴が決めたことだ。マスターである貴様が、サーヴァントであるあ奴を信じずしてどうする。」

 

「信じる…」

 

その言葉にリッカは白いジャンヌを見た。

 

「…そう、だよね。」

 

「うむ。そら、同じ存在として貴様からも何か言ってやってはどうだ?」

 

〈は、はい…〉

 

通信が繋がり、カルデアのジャンヌの声が聞こえるようになった。

 

〈…マスター〉

 

「…ジャンヌ、さん…」

 

〈…大丈夫です。白い彼女が私であるならば───絶対に負けません。何故か───それは、信じる人がいるからです。私を信じてくれる人がいる限り、私は…〉

 

「…うん、分かった。信じる。」

 

〈…ありがとうございます。〉

 

リッカはそのまま黒いジャンヌと白いジャンヌの方を見つめた。不安の表情ではなく、確信を得たような表情で。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

旗を振るい、炎を打ち消す。即座に、無数の刃が召喚され、白いジャンヌへと撃ちだされる。

 

「この…程度!!」

 

「ちぃ…!」

 

刃を避けた白いジャンヌは黒いジャンヌの頭に掌底を叩き込む。

 

「ぐっ!負ける、ものか───!!」

 

「───破ッ!!」

 

体全体を使った一撃。それは黒いジャンヌを吹き飛ばす。追撃とばかりに白いジャンヌは黒いジャンヌに接近する。

 

「させるか───!」

 

その黒いジャンヌは接近させぬとばかりに炎を放つ。

 

「負けない!私は負けない!!アンタなんかに、私なんかに───!!」

 

「───奇遇ですね」

 

そのまま白いジャンヌは炎の中へと突っ込む。

 

「───わたしも、同じ気持ちです!!」

 

「舐めるなぁぁぁ!!」

 

白いジャンヌの構えるその拳に対して黒いジャンヌの旗の穂先が衝突する。だが、生身と金属だというのに傷がつく様子が一切ない。

 

「───魔力障壁ッ!?貴様、何かに力を借りている───!?」

 

「気がつくのが───遅いんですよ!!」

 

 

「───起動、反撃冰界」

 

 

「な───」

 

次の瞬間、黒いジャンヌの旗の穂先が凍った。

 

「こ、こんなもの!燃やし尽くす!!」

 

そう言って炎を放つが、その炎すらも凍り付かせてしまった。

 

「───何か分かりませんが!好機!!」

 

対して凍り付いていない白いジャンヌは、そのままその拳を後ろに引いた。

 

「───“ハレルヤ───」

 

『決めなさい、聖女!!』

 

そんな声が、どこからか聞こえてきた気がした。

 

「───オーバードライブ”───!!」

 

その拳が。その祈りを込められた力強い拳が、黒いジャンヌを更に吹き飛ばす。

 

「がはっ…!」

 

体を玉座に打ち付けた黒いジャンヌは、その場から動かなくなった。

 

「───なに、よ…それ…」

 

「祈りです。貴女が狂わせた、聖女の───」

 

「バー…サー…ク……ライ…ダー……」

 

そのまま彼女は気を失った。

 

「…ありがとうございます、ミラさん…そして、聖女マルタ…」

 

そのまま白いジャンヌは祈りをささげた。

 




そう言えばそろそろオルレアン閉幕だっけ…セプテムのサーヴァントも考えないと…

裁「なんか…色々大丈夫?」

色々無理。

裁「えぇぇ…」


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第64話 真相と王の──

う~…

裁「…ねぇ、マスター。」

ん?

裁「この作品のギルガメッシュのコンセプトってなんなの?」

ギルガメッシュのコンセプト?

裁「うん」

あー…“原作としても、二次創作としてもあり得ないはずのギルガメッシュ”、かな?

裁「???」


「おぉ…ジャンヌ。痛ましいお姿になられて…」

 

正方のジャンヌさんが負方のジャンヌさんに勝って休み始めたところに、あの黒いジル・ド・レェさんが来た。

 

「ふん、あの竜共、足止めをしくじったか。」

 

「違うわよっ!」

 

「いきなり起きたかと思うとすぐに離脱したのです。えぇ、本当に。」

 

後からエリザベートさんと清姫さんが入ってくる。

 

「ふん…まぁいい、終わっているからな。」

 

「おぉ……英雄王…!!」

 

「怒りを向ける矛先が違うように見えるのは我だけか?」

 

うん、私も同じこと考えてた。

 

「…ジ…ル…?」

 

「ジャンヌ…」

 

「ごめん、なさい───負けてしまったわ…」

 

「…良いのです。貴女はきっと、疲れていたのでしょう。今一度、お眠りください。後は私めが。」

 

「でも…」

 

「貴女が次に目覚めた時には、全てが終わっているでしょう。」

 

「…そう、ね…貴方になら、任せられる…いつだって、私の味方だったものね───」

 

「…ふむ。」

 

そう呟く負方のジャンヌさんに、ギルが口を開いた。

 

「小娘。一つ、助言をくれてやるとすれば───だ。貴様は型が合わぬ。」

 

「…型?」

 

「英霊の型───即ちクラス。裁定者のクラスは貴様には合っておらぬであろう。」

 

「…なら」

 

「貴様に合うのは憎むクラス───かの聖杯戦争において災いを巻き起こす原因となった者と同じクラス、復讐者であろうよ。とはいえ、貴様は座には登録されておらぬ。しかし、だ。」

 

「座に登録されてなくても───作り出し他の誰かに認識されたものは、完全に抹消することはできない───だよね?」

 

「うむ。マスターの言う通りよ。」

 

そう…認識されたものは、完全に抹消することはできない。認識されなければ、抹消することはできるかもしれない。

 

「ふふ…あはははっ…!」

 

「む…」

 

「えぇ、そう…私にこのクラスは合わなかったのね。そんな簡単なことにも気がつかなかったなんて。───ありがとう、金ぴか。」

 

そう言って負方のジャンヌさんは笑った。

 

「そうね、もし次があるのなら…次のチャンスが掴めたのなら。私は貴方達の前に復讐者として立つことにするわ。金ぴか。教えてくれたお礼に、あんたの首を掻き切ってあげる───!」

 

そう言いながら、負方のジャンヌさんは消えていった。

 

「ふん、そのようなものは礼とは言わん。しかし我が監修せしカルデアに迎えられたあ奴が───どんな反応をするか、見ものよな。」

 

その言葉に私は苦笑した。

 

「───さて」

 

そのまま、ジル・ド・レェさんの方へと視線を向ける。その手に持つのは、黄金の杯───聖杯。

 

「ようやく目当ての宝と対面、というところだが。先程の魔女なるジャンヌ・ダルク。貴様が作り出したもので、相違ないな?───キャスター、ジル・ド・レェよ。」

 

「新しい物の創造───それを願望器たる聖杯で行った、っていう事ね。流石万能の願望器。英霊の座に存在しないサーヴァントを作り上げ、それに強大な力を持たせることも些細なこと、か。最初の方に見た時からこっちのジャンヌさんとは成り立ちが違うと思ってたけど。竜の魔女は、貴方の望みそのもの。強大な力の根源は、聖杯そのもの───そうね?」

 

「───勘の鋭いお方達だ。」

 

「え?竜って聖杯なの?アタシも?」

 

「違うよ。まず、前提が違う。私達はそもそも邪竜の魔女が聖杯の主だとしてここまで来た。でも、邪竜の魔女が聖杯の主ではない。真の主はそこにいるジル・ド・レェさん。真の主はその望みの力で、“ジャンヌ・ダルク”を作り上げた。自分の理想とする“ジャンヌ・ダルク”を。」

 

「───私は、貴方を蘇らせようと願ったのです、ジャンヌ。心から、心底から願った。しかし、それは聖杯に拒絶されました。万能の願望器でありながら、それだけは叶えられないと。」

 

「当然と言えば当然。死者を生き返らせるっていうことは、世界に歪みを作ること。世界の理を、歪ませるということ。確かに、何にでも例外はある───けれど、貴方のそれは世界の理に受諾されなかった。命の管理者に承諾されなかった。」

 

「アル?」

 

「生命というものは有限。運命を書き換えるのは今を生きる者のみに許される。死者は生者の世界を乱してはならぬ───」

 

なんか、アルの調子がおかしい?なんか、いつもと違う───

 

「サーヴァントたるあなたが生者の世界を乱そうとした。それは、世界の理にとって容認できぬもの。ならば受諾されぬのは当然。万能と言えど、出来ぬことはあると知れ───」

 

「名の無き者が偉そうに───貴様に何が分かる。貴様にその万能のできることとできないことの何が分かる!!」

 

「そんなことはどうでもいい。私は彼女に憑依した記憶の欠片。理を管理する者の一部。私と彼女は関係がない。」

 

アルかと思ったらアルじゃなかった!?

 

「この特異点はジャンヌ・ダルクが死んで間もない時間。ならば受諾されないのは強くなる。運が悪かったな、道化。貴様が死者であったこと。そして、この時間が死亡時期と近かったこと。それが重なり、貴様の望は完全に遮断された。」

 

「そうか───だが私の願望などジャンヌ以外にない!!蘇らせられぬというならば、新しく創造するまで!私の信じる聖女を!私が焦がれたジャンヌを!!そうして作り上げた───竜の魔女、復讐の魔女たるジャンヌ・ダルクを!!」

 

「創造とは別の物を作り出すことを指す。ならばそれは蘇らせる事ではないと判断されたにすぎない。だからそれは受諾されたのだ───だから乖離が起こった。救国の聖女たるジャンヌ・ダルクと、竜の魔女たるジャンヌ・ダルクの間に。」

 

そういうこと…なの?

 

「竜の魔女は“ジャンヌ・ダルク”ではない。“ジャンヌ・ダルク”の型を材料に作られた、ただの模造品。」

 

言いすぎな気もするけれど、どうなんだろう…

 

「…そう、ですか。ジル。もしも私を蘇らせる事が出来たとしても、私は“竜の魔女”になどならなかったでしょう。この国には、貴方達がいたのですから───」

 

「…うん。そんな、気がする。」

 

ジャンヌさんは多分、許すと思う。そんな感覚が、あった。

 

「───お優しい。あまりにもお優しいその言葉───ですが、一つ忘れておりますぞ。」

 

そう言ってジル・ド・レェさんは憤怒の表情になった。

 

「貴女がこの国を憎まずとも、私はこの国を憎んだのだ!!総てを裏切ったこの国を滅ぼすと誓ったのだ!!貴女を裏切った、この国を!!神であろうと、王であろうと、国家であろうと───総て、滅ぼしてみせると!!それこそが聖杯に託した我が願望!!」

 

「───魔力反応」

 

「邪魔するならば貴女とて容赦はしない!!我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥッ!!」

 

その叫びとともに、大量の海魔が召喚され、それが集結して───!!

 

「貴女に最高のCooooooolをお見せしましょう!フフフハハハハハ!!アーハハハハハハハハハハ!!」

 

〈なんだありゃぁ…おいリッカ、どれくらいだ!?〉

 

「目測でおよそ30メートル!!これ───どうにかなるの!?」

 

〈高さ30メートルは少し時間かかるんだが!?〉

 

「…そう、ですか。いえ、その通りですね。貴女が恨むのは通り、聖杯で力を得た貴方が国を滅ぼそうとするのも悲しいくらいに道理でしょう───」

 

そういってジャンヌさんがよろめく。それを、ギルが支える。

 

「満身創痍ではないか───少し休んでおけ。」

 

「ですが…」

 

「良いから休め。あの魔物は、我が相手をしよう。リューネよ、何か弾け。」

 

「何かと言われてもだな…む。」

 

「ふ、出来たか?ならば始めるぞ!」

 

そう言って、ギルが指を鳴らす。同時にリューネちゃんが三味線を弾き始める。

 

 

{戦闘BGM:エミヤ}

 

 

「体は神で出来ている。血糊は宝で、心は黄金。幾度もの旅を越えて頂点。ただ一つの慢心もなく、ただ一つの油断もない。担い手はここに孤独───黄金の蔵で幻想を詠う。」

 

〈それは───〉

 

エミヤさんが何かを言おうとした時、ギルが笑った。

 

「故に───その王は常に孤独。この蔵は───総てが幻想で出来ている───!」

 

突如風が吹いたかと思うと、あたり一面金色の世界の中にいた。

 

〈固有結界!?英雄王、貴様このようなものを持っていたのか!?〉

 

「ふ、違うわ。固有結界であることには変わりはない。しかし、これは貴様の固有結界を基に作り上げた固有結界よ!」

 

固有結界───

 

「喰らうがいい、道化!我が新しい宝具の試し打ちよ!せいぜい3分はもって見せよ!!」

 

ギルが手を振り上げると、その場にいくつもの剣、斧、槍、シャベル───ちょっと待ってシャベル!?───その他いろいろなものが出現した。

 

「受けよ!“王の幻想(ロード・オブ・ファンタズム)”!!」

 

その武具たちが一斉に射出される。

 

「グッ、ガァッ!?」

 

「ふはははは!!!」

 

〈何だこの英雄王───オレが知ってる英雄王じゃないよ───〉

 

〈アーチャー!気をしっかり!!〉

 

「射出だけで終わると思うな!壊れた幻想!!」

 

そう言って射出された武具が爆発───ってえぇ!?

 

〈何をしているのですか、英雄王!?宝具を炸裂させるなど───!〉

 

「贋作者がやることと同じことよ!良いか、この宝具───王の幻想の際に射出する武具は総て贋作よ!!贋作ならば炸裂させるのも問題あるまい!」

 

〈貴方本当に英雄王ですか!?〉

 

「我以外に我がいるか、この場に!使えるものは何だって使う、そのつもりで此度の我はいるわ、戯け!」

 

そう言ってギルは一つの剣を手に取った。黄金の柄───けどなんか嫌な予感…

 

「唸れ、乖離剣よ!」

 

その剣を振るうと、海魔が消し飛んだ。

 

「…え?」

 

「───ふん。この程度か。まぁいい、おまえの真価を発揮する必要はなかったということだ。」

 

ギルが剣を波紋の中にその剣を入れると、黄金の世界も消えて、倒れているジル・ド・レェさんだけが残った。




…はぁ

裁「投影───なの?あれ。」

そうだよ?宝具の新作ではないのは確かだし。

裁「…」

ギル曰く、“贋作者にできて我にできぬわけがなかろうが、戯け!”…だって。

裁「ギルらしい…」


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第65話 別れは笑顔で

あーう

弓「何をしておるのか…」


「馬鹿…な……聖杯の…力をもってしても…届かなかった…だと…?」

 

「ふん。聖杯を手にしたからといって勝てるわけでもなかろうに。」

 

そう言ってギルがジル・ド・レェさんが落とした聖杯を拾い上げ、私に向かって投げてきた。

 

「わっとっと」

 

「これはマスターのものよ。蓄えておくがいい。」

 

「う、うん…」

 

〈紛れもなく聖杯ね。これでこの特異点は正されるはずよ。〉

 

あ……マリー。

 

「……ふむ。聖杯…万能の願望器、か。」

 

何かギルが悩んでる?

 

「…理の管理者よ」

 

「何か用か、英雄王」

 

「…1つ聞くが、魂は生きていて肉体が死んでいるものに対して。聖杯を使って新たな肉体を与えることは可能か?」

 

「…可能。魂が死んでいなければ肉体を再構成することは容易。問題となるのは、肉体の組成そのものが聖杯となることだが」

 

「ふむ…可能であるならばよい。」

 

……何となく、しようとしていることが分かった気もする?

 

「否…否ァ…否否否否否否否否否否否否ァァァァァァ!!私の背徳が、望みが、総てが!!この程度のもののはずが───!!」

 

「ジル。」

 

そう言ってある程度回復したジャンヌさんはジル・ド・レェさんに抱きついた……で、いいと思う。

 

「…もう、いいのです。今の貴方がどうであれ、貴方が頑張ってくれた事実は変わりません。このただの小娘を信じよくここまで…」

 

言われる毎にジル・ド・レェさんの表情が穏やかになっていく。

 

「大丈夫…私は最後まで後悔しません。私の屍が、誰かの未来に繋がっている。」

 

「…ジャンヌ」

 

「…我が心は我が内側で熱し、思い続けるほどに燃ゆる。我が終わりは此処に。我が命数を此処に。我が命の儚さを此処に。我が生は無に等しく、影のように彷徨い歩く。我が弓は頼めず、我が剣もまた我を救えず。残された唯一の物を以て、彼の歩みを守らせ給え───」

 

少しだけ、嫌な予感。だけど、大丈夫だって直感が言ってる。

 

「主よ、この身を捧げます───さぁ、共に戻りましょう?私達のあるべき時代へと───」

 

その瞬間、ジャンヌさんを中心に炎が吹き出す。…分かった。この炎は、ジャンヌさんを焼いた炎だ。

 

「“紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)”───貴方だけを行かせることはしません。」

 

「………いいえ。いいえ───地獄に行くのは、私だけで───十分です。」

 

「…願望器が発動する」

 

アル…じゃなくて、理の管理者さんがそういったと同時に私が手に持つ聖杯が輝き、その光がジャンヌさんの炎を掻き消した。

 

「地獄になど、貴女を招かせません───地獄に墜ちるのは私だけです───」

 

そんな願いと共に、ジル・ド・レェさんは消滅していった。

 

「……さようなら、ジル。」

 

〈……っと、終わりの余韻に浸っているときにすまない!聖杯を回収したことで歴史の修正が始まる!レイシフトの準備は終わっているから早めに帰還してくれ!〉

 

「空気くらい読まんか、戯け!」

 

〈これでも少し待ったんだけどね!?〉

 

まぁ、早く帰らないと行けないのは何となく分かった。

 

「では皆の者、ヴィマーナに乗れ!ミルド、あのマリーめを助けに行く際に召喚した早く飛べる龍を召喚せよ!」

 

「バルファルクね……お願い、ファル」

 

その呼び声でミラちゃんのそばに銀色の龍が召喚される。

 

「よし!龍よヴィマーナを引け!」

 

「…ごめん、お願いできる?」

 

バルファルクは頷いて、なんか……透明な紐で繋がれてた。

 

「よし!では行くか!」

 

「お待ちください!」

 

出発しようとしたところで掛けられる声。

 

「…!ジル…ですが、今は……」

 

「…いいよ、話してきて。時間は稼ぐから。」

 

ミラちゃんはそう言って、杖を振った。

 

「…ありがとうございます、ミラさん」

 

「以前ほど急な崩壊じゃないし、術式を構築する時間は十分にあったからね。」

 

その言葉を聞いて、ジャンヌさんはジルさんに向き合った。

 

「あぁ、ジャンヌ!貴女はやはり聖女ジャンヌなのですね!生きておられて───」

 

「……いいえ、私は確かに死んでいます。」

 

「……え?」

 

「貴方とて、既に分かっているはず。この時は泡沫の夢でしかないと。私は死に、貴方は悲嘆する。それが私と貴方に定められた運命だと。」

 

「ジャンヌ…」

 

「そうだとしても…どこかで、違う形で…共に戦うことも出来る。そう思います。ですから、これは一時の別れなのです。」

 

「……貴女は…死してなお、この国を…」

 

そう呟いたかと思うと、突然頭を下げた。

 

「お許しください、ジャンヌ・ダルク!我々は、フランスは!貴女を裏切った!おおおおお!!」

 

「大丈夫です。別れるときくらいは、せめて笑ってこの国を離れましょう。」

 

「…は!」

 

その言葉を最後に、ジャンヌさんは私達の方へと歩いてきた。

 

「もういいの?」

 

「はい……ありがとうございます、ミラさん。」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「……お待ちを。」

 

バルファルクに跳び乗ったミラちゃんを、ジルさんが止めた。

 

「…何」

 

「…聖竜の魔女殿。この度はフランスへの助力、感謝いたします。…そして、どうかお許しください。昨夜、竜の魔女というだけで貴女様と貴女の使役する竜達に失礼を働いたこと。……申し訳、ありませんでした。」

 

それは、竜の魔女であるミラちゃんへの謝罪の言葉。その言葉を聞いて、ミラちゃんはため息をついた。

 

「それに関しては別に構わない。竜に恐怖を持っているというのに堂々と竜の魔女と公言したのは私だし。私が許すことなんて、なにもない。」

 

「…そう、ですか…」

 

「…ファル、行くよ」

 

そう言うと、私達の乗ったヴィマーナが浮上していく。

 

「……」

 

ジルさんは、私が視認できなくなるまでこちらを見つめてた。

 

「……さて、この辺でいいかな」

 

「……終わってしまうのですね。こんな奇跡のような時間も。」

 

「終わりがあるから始まりがある。始まりがあるから終わりがある。世界はそういうもので、終わりのないものなんてないんだよ。」

 

「古龍も死ぬからね…私達よりも遥かに長い年月を生きる古龍ですら、終わりという概念は存在する。この特異点の終わりはもう近いんだろうね…」

 

ルーパスちゃんがそう呟いた。…そういえば

 

「…ねぇ、理の管理者さん。」

 

「何か用か、今代の預言の主。」

 

預言の主…

 

「あなたの名前は?」

 

「…私に名はない。理を管理し、見つめるもの。世界の機構を見つめる世界の構造そのもの。欠片である私がしばらくいられるのは、彼女の親和性が高いからだろう。」

 

理の管理者さんはそう言った。

 

「だが、それももう終わる。次があればまた会おう、今代の預言の主。」

 

そう言ってアルの身体はガクッと崩れ落ちた。

 

「…さ!歌おっか。」

 

「待って、その前に……」

 

1つ、やりたいことがある。

 

「リッカ?」

 

「写真とか…取れないかな」

 

「写真…か。カメラは小さいのでよければ持っているが」

 

私はリューネちゃんにそのカメラを貸してもらい、大きさを見てみる。

 

「…結構小さいね」

 

集合写真には合わなさそうだけど…使えるだけいいかもしれない。

 

「……?写真が撮ってある?」

 

見たら悪いと思ったけど、偶然見えてしまった。仮面をつけた男の人…かな?

 

「うん?……あぁウツシ殿か」

 

「ウツシ…さん…?」

 

「機会があれば話してあげよう。」

 

「では、撮影は私がしましょう。」

 

私はそのカメラをゲオルギウスさんに渡した。ちゃんと許可は取ってある。

 

「それでは撮りますよ~」

 

『みんな、笑って?』

 

私が思念を飛ばした数瞬後、シャッターは切られた。

 

 

それから少しの間、歌ってたんだけどエリザベートさんがまたルーパスちゃんに怒られてた。




あーう

裁「時間…かかるね」

PC以外での執筆解禁してこれかぁ……あとサーヴァント考えないと


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第66話 閉幕、これはまだ始まりにすぎぬ

ということでオルレアン最終話です。

裁「長かったね……」

長かった……


思考が覚醒する。これで、2度目の帰還。

 

「お疲れ様、リッカ。人理の修復に、一歩近づいたわね。」

 

覚醒後に聞こえる声。マリーのものだ。

 

「……戻って、きたんだ」

 

「えぇ。本当に、お疲れ様…」

 

私はコフィンから出た。そこにはもう私以外のメンバーは揃ってて、私の方を心配そうに見ているみんなの姿があった。

 

「あ…先輩…」

 

「……終わったんだ…よね。」

 

「うむ。始まりの旅は終わりを告げ、ここから我らの旅は始まるのだ。」

 

終わらないものなんてない。終わりは始まり…か。

 

「よし、確認できた───フランスは無事に元の歴史へと戻っている!たった1つだが、僕たちは確かに歴史を在るべき姿に戻したんだ!」

 

これで、1つ。直さなくてはいけないのは、あと6つ。正直に言えば───怖い。

 

「ふむ…よし、聞け、皆の者!」

 

ギル?

 

「此度の奮闘、大義である!この奮闘により、貴様等は絶望へと立ち向かう力、狂った歴史へ歯向かう力を見せつけた!」

 

絶望へと立ち向かう……

 

「貴様達の価値を我は認めよう!言葉にすれば───貴様らの内に、ただの一人も雑種はおらん!例え戦闘にて力を発揮できずとも、何かを守るために必要なのは力のみではないと知れ!」

 

「…里長」

 

「貴様ら総てが───人理を救う猛者達になるであろう!故に休み、鍛え、次なる戦いに備えるがいい!貴様らの1人でも欠ければこのカルデアは崩壊すると思え!」

 

「「「「「………はいっ!」」」」」

 

「それではこれより、休息の期を与える!最低限のメンテナンス以外の労働は禁止だ!思うがままにこのカルデアにて羽を伸ばすがいい!良いか、我の許可なく死ぬことは許さぬぞ!!」

 

休息期間───少しだけ力が抜けそうになるけど、どうにかして耐える。

 

「我からは以上だ!ミルド、貴様は何かあるか?」

 

その言葉で、ミラちゃんに全員の視線が向いた。

 

「……皆さんここまでお疲れ様でした。英雄王が言った通り、これはまだ始まりにすぎません。……どうか、旅の終わりまで誰も失わずにすみますように。私からは以上、かな?」

 

…ミラちゃんって結構優しいよね。強めな言葉なときがあるけど、その言葉に相手を想って言っていることが混ざってる。この辺とか、好かれてた理由の一端なのかな。

 

「…あとはない?じゃあ解散!全員、休息は十分とってね!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「終わりました?」

 

それと同時にジャンヌさんとエミヤさんが管制室に入ってきた。

 

「許可なく死ぬことは許さない…そして、カルデアの者に雑種はいない、か。どうやら貴方は私がよく知る英雄王とは違うようだ。」

 

「ふ、貴様やセイバーに可能性が存在するように、我にも可能性が存在すると知れ。どんなものにでも可能性というものは存在するのであろうよ。……ところで、何か用か。」

 

「あぁ…ジャンヌ。」

 

「はい、こちらに。皆さんの分もありますよ。」

 

そう言ってジャンヌさんがギルに差し出したのは黄色がかった料理。よく見ると、ジャンヌさんはカートを引いてきていて、その上に同じものが───恐らく人数分。

 

「これは───」

 

「麻婆豆腐か?」

 

麻婆豆腐。色的に、多分甘口。

 

「麻婆豆腐はやめよと言ったろうに!」

 

「甘口ですけど……それでもダメですか?」

 

「ぬ……」

 

「…食べてみてもいいかな?」

 

「あ、はい!」

 

私はジャンヌさんに許可を取ってからカートの上から器を1つ取りその中の料理を口に運んだ。

 

「……」

 

「ど、どうですか…?」

 

「…美味しい」

 

そう言ったら、ジャンヌさんが笑顔になった。

 

「麻婆豆腐としては辛くないとダメなんだろうけど…辛いのがちょっと苦手な私にとっては好きな味だね。ギルも食べてみたら?」

 

「む……うむ。」

 

渋々、って感じだけどギルも麻婆豆腐を食べた。

 

「む───辛くない麻婆豆腐というのもあるのだな───」

 

……ギルの食べたことのある麻婆豆腐ってどれだけ酷かったんだろう。普通は辛くないものから食べるものじゃない……?

 

「ふむ……よし。皆の者、聞け!」

 

……?

 

「今日はこのまま休んで良いが、休息の期の本番は明後日からとする!明日は召喚をする故、予定は開けておけ!」

 

「「「「「はい、ギルガメッシュ王!」」」」」

 

「これより先、特異点攻略とは特異点を修正後に英霊召喚をすることまでと心に刻め!」

 

「遠足は帰るまでが遠足…みたいなもんか?」

 

「ふ、遠足というにはハードすぎるがな!」

 

まぁ、確かに。

 

ということで、私達は今日はこのまま解散し、明日また、召喚室に集まることになった。




今回の麻婆豆腐の辛さは伊藤園の麻婆豆腐甘口とかですね。私はあまり伊藤園の麻婆豆腐を食べませんけど。

裁「食べないんだ…」

私の家、永谷園の麻婆豆腐派だからね。

裁「へぇ…」

…ということで、現在63名のお気に入り登録者の皆さん、ここまでありがとうございました!これにてオルレアンは終幕となります。最近時間が不安定なのですが、これからも頑張っていきたいと思います。

裁「UA14,981…15,000目前って…」

あはは…じゃあ、また。明日お会いしましょう。


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幕間 戦力増強と致しましょう
第67話 召喚開始、命名


UA15,000ありがとうございます!

裁「今回から召喚?」

というか幕間だね。まだ全部は決まってないけど追加枠は2騎。ライダーとアサシンだね。

アンケート結果
(3) 剣士、魔術師
(8) 騎兵、暗殺者
(2) 槍兵、騎兵
(2) 剣士、剣士
(2) 狂戦士、魔術師


「ふぁぁ…」

 

目が覚める。少し違和感を感じて見渡すと、そこは私の部屋じゃない。

 

「あれ…私」

 

「やっと起きたか」

 

声の方を向くとそこにいたのはお兄ちゃん。異空間に通じる扉から顔を出していた。

 

「待ってろ、すぐに朝飯出来るからよ。」

 

「あ…うん」

 

そう言ってお兄ちゃんは異空間の奥へと去った。昨日は…確か、麻婆豆腐食べてお兄ちゃんとスピード(一応言っておくけどトランプゲームだよ?覚醒剤じゃないからね?)したあと寝ちゃったんだっけ。

 

「ほれ、出来たぞ」

 

「あ…ありがと」

 

「ったく…兄妹だからって無防備すぎなんだよ。」

 

「お兄ちゃん別に気にしないでしょ?」

 

「いやまぁ俺は気にしねぇけどよ…お前はいいのかよ」

 

「お兄ちゃんの近くってなんか安心するから…」

 

「喜んでいいのか全く分からん…いただきます」

 

「いただきます。」

 

私達はそのままお兄ちゃんの作った朝御飯を食べる。ちなみに今日は和食。

 

「…あ、そうだ。言ってなかったな。」

 

「うん?」

 

「このカルデアは、時間という概念以外にはかなり強くなってる。精神干渉、術式干渉、物理干渉、情報干渉……それらを全て遮断するような術式が俺の手で組まれてる。ただ、唯一遮断できないとしたら特異点からの干渉くらいか。基本的には遮断できるようにしてあるから、9割は安心して大丈夫だぞ。」

 

「……うん、ありがと。」

 

多分、私のためなのかな、って思う。お兄ちゃん、こういう相手の道を徹底的に潰すときって、大体私のためにやってるから。

 

「まぁ、それでも9割なんだがな。」

 

9割でも凄いと思うよ…?

 

 

ピンポンパンポン~♪

 

 

「……ん?館内放送?」

 

〈お呼び出しします。登録スタッフ番号20番、及び登録マスター番号1番、藤丸 リッカさん。登録スタッフ番号18番、藤丸 六花さん。管制室までお集まりください。繰り返します…〉

 

この声…リューネちゃんの声だ

 

「学校の呼び出しかよ……」

 

「思った。誰が教えたんだろ…」

 

ところで……

 

「お兄ちゃん、登録スタッフ番号って?」

 

「あ?このカルデアのメンバーを管理するサーバーに登録されているスタッフ全員につけられた番号だな。俺の作ったAI2体…アドミスとフォータが一括管理してる。必要であればこっちで何とかしてるしな。」

 

ただまぁ、そんなことなんて一度もないし、あいつらもバグったことなんてないんだが…ってお兄ちゃんは呟いた。ちなみに1番はマリー、2番はドクターらしい。それにしても…

 

「どうして私が登録マスター番号1番なの?」

 

確かマリーはマスター番号48、って言ってた気がするんだけど。

 

「あぁ、それな。全個室に異空間とそれを管理するシステムコンソールを設置するに当たって、サーバーのデータを一回初期化したんだ。システムコンソールに触れなければ登録はされねぇ、だからお前がマスター番号1なんだよ。」

 

そ、そうなんだ……

 

「呼び出しされちまったし、行くか。」

 

私とお兄ちゃんは部屋を出て、管制室に向かった。

 

 

「遅い!放送いれてから20分ほど経過しているぞ!」

 

「さーせん」

「ご、ごめんなさい…」

 

ギルに怒られちゃった…

 

「ふん、まぁいい!召喚の準備をせよ!」

 

「へーい」

 

お兄ちゃんはそのまま召喚システムの管理室に向かい、私は召喚サークルの場所へと向かった。

 

「ふむ……此度の召喚、どうしたものか。ハンター共が来てくれるといいのだが。」

 

その言葉にリューネちゃんが肩をすくめた。

 

「僕らの世界からまた呼べるとは限らないし、そもそも知り合いが来るのは少し不安だからな…」

 

「あまり友達を巻き込みたくないもんね…」

 

「ふむ…しかし貴様らという前例がある以上、来る可能性があるというのは覚悟せよ。」

 

そのギルの言葉に、ルーパスちゃんたちは頷いた。

 

「分かっている。だが、僕らの世界から呼んだとしてもそれがハンターの霊基を持つ者かは分からない。それだけは注意してくれ。」

 

「ふむ。具体的には何がいる?」

 

「僕の考えでは笛使いとしてキャスター。太刀や片手剣の使い手としてセイバー。弓やボウガンの使い手としてアーチャー。ランス、ガンランスの使い手としてランサー。双剣の使い手としてアサシン。大剣の使い手としてバーサーカー…それから、あらゆる武器においてハンターはライダーの適性を持つだろう。“乗り”という概念があるのでね。」

 

「そういえばモンスターライダーとかっていうのもいたね。」

 

「思えば彼らはミラ殿と少し似ているかもしれないな。モンスターと絆を結ぶ者達…か。」

 

そういう人達もいたんだ……

 

「…ふむ。それでは召喚を始めようではないか!…と、その前に、だ。」

 

ギルが指を鳴らすと、召喚サークルが勝手に起動する。

 

〈サークル起動…これは……〉

 

「いちいち覚えておくのも面倒なのでな。最初に呼ぶのは貴様でよかろう!」

 

〈顕現します───〉

 

その言葉の後に現れたのは、銀髪で黒い衣装の女性だった。

 

「あ………れ?わたし……なんで」

 

「───負方の、ジャンヌさん」

 

「なんで───あんた、金ぴか──!」

 

その負方のジャンヌさんはギルを見つけると怒鳴った。

 

「どういうことよ!なんでわたしが召喚されてるの!?」

 

「ふ、縁を後から精算するのは面倒なのでな。それゆえ、貴様を最初に呼んだにすぎん。」

 

「答えになってないわよ!そもそも霊基が足りないじゃない───」

 

「それに関しては我が少し応用を効かせた。マスターめのもつ書は性質的に世界の理へと干渉するもの。その性質を利用し、貴様に霊基を与えたのよ。とはいえ霊基の枠に納めただけであって、今の貴様は特異点での力は持っておらぬがな。」

 

「何よ、それ───」

 

「成長せよ、自分を磨け。このカルデアにおいて、貴様は貴様という霊基を磨くがいい。」

 

「馬鹿じゃないの!?大体、私を望む奴なんて───」

 

「いる。なぁ、マスターよ。」

 

え……昨日の言葉、もしかして聞かれてた?

 

「“負方のジャンヌさんとも、いつか一緒に戦えるといいな。人理修復までの短い間かもしれないけど…色々な記憶を、色々な人と共有したいから。”…だったか?」

 

「聞いてたのっ!?」

 

「ふ、エリザベートの声の中でもしっかりと聞こえておったわ。」

 

えぇ……

 

「そら、マスター。其奴に名をつけてやれ。そやつがもっているのは無記名の霊基。名がなければ、呼びにくかろうよ。」

 

私は頷いて、負方のジャンヌさんに近づいた。

 

「……ジャンヌ・ダルクさんを元に作られた反転した想像存在…………うん。“ジャンヌ・オルタ”。ジャルタさん…じゃ、ダメかな。」

 

「ジャンヌ・オルタ───私に“ジャンヌ”の名を背負えと?ジャンヌ・ダルクではない私に?」

 

「人が考える人。イメージって言うのは誰も違うものだよ。確かに貴女はジャンヌ・ダルクそのものではないのかもしれない。…けれど、貴女は“ジャンヌ・ダルク”という自己認識があるんだよね?だったら貴女もジャンヌ・ダルクなんじゃないかな。」

 

「……そう、ですか……」

 

そう言ってその負方のジャンヌさんは管制室の扉へと向かった。

 

「どうした、我の首を掻ききるのではなかったか?」

 

「…うっさいわ。……マスター。」

 

扉の前で、負方のジャンヌさんが私を呼んだ。

 

「…ジャンヌ・ダルク・オルタ。その名、有り難く受け取っておきます。近日中にも貴女の力となりましょう。」

 

「……!うんっ!よろしく、ジャルタさん!」

 

「ふ……」

 

「それでは。……って何よここの設備どうなってんのよ───!」

 

そう叫びながら負方のジャンヌさん改めジャルタさんは管制室から出ていった。




迷いましたがどこで出すか悩んだのでここで出してしまいました。

弓「次にある可能性と言えば…新宿か」

うん…考えるの面倒だった


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第68話 召喚と台所

召喚回ってなんか単調になっちゃうんだよね…

弓「貴様の力不足であろう。」

否定しないよ。


「よし、続きを回せ!」

 

「今回は呼符を9枚ほど用意したわ。肉体が紙のせいか、魔力運用が上手くいかずに作れた数が少ないのだけど…」

 

7枚あるだけでも十分だと思うけど……

 

〈サークルを起動するぞ。リッカ、呼符を…〉

 

「うん…」

 

私はお兄ちゃんに促されるまま、召喚サークルの上に呼符を置いた。

 

〈呼符確認、サモンプログラム正常起動────〉

 

お兄ちゃんの声と共に、サークルが回り始める。

 

〈クラス特定、ライダー!顕現します!〉

 

以前のように強い光が放たれたかと思うと、そこに一人の女性の姿。

 

「…また、会えましたわね?」

 

「マリー、さん…」

 

「ふふっ!これからお願いしますね?───ヴィヴ・ラ・フランス!」

 

顕現したのはマリー・アントワネットさん。

 

「ふ。特異点での記憶を持っているか。」

 

「……完全には覚えていませんわ。ですが、私の運命を変えてくれたのは分かります。」

 

「それほど衝撃的なことであったのかもしれぬな。よし、部屋は既にある故、そこで待つがいい。」

 

そういえばお兄ちゃんから聞いたんだけどカルデア全面改築したんだっけ?

 

「わかりましたわ。それでは失礼致しますね。」

 

そう言ってマリーさんは管制室から退出していった。

 

「早めに移動手段も考えなければいかんか……よし、次を回せ!」

 

その言葉で私はサークル上に呼符を置く。

 

〈サークル展開、起動します───〉

 

サークルが輝き、回転する───

 

〈霊基特定、キャスターです!〉

 

「キャスター!僕が好きなクラスだ!」

 

「リューネちゃんもキャスターになりやすいもんね」

 

「狩猟笛というのは特殊だからな。あまり担い手になりたがるハンターはいない。」

 

「大陸じゃ圧倒的に使用者いなかったもんね……」

 

「一番使っているものが多かったのは太刀か。」

 

へぇ……って、そんな話をしてたらサーヴァントが召喚された。

 

「やぁ、自己紹介は…まぁ、必要ないとは思うけれど。僕はアマデウス、“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”だ!」

 

あ……

 

「先輩!変態が顕現してしまいました!撃退の許可を!!」

 

「落ち着こうね、マシュ……」

 

「ふん、マシュからの評価はさんざんなものよな、音楽家。」

 

「特異点にいたのは僕ではない僕、だけど性質的には一緒だからね…どうしたものか。」

 

「知らぬわ。ここで答えを見つけてみせるといい。」

 

「……難題だなぁ。まあいいか。戦力としては期待しないでくれよ?」

 

そう言ってアマデウスさんは去っていった。

 

「……力だけじゃないからな、守るために必要なのは。」

 

「……うん。そうだね。」

 

リューネちゃんの言葉に私は頷いた。

 

「よし、次を回せ!」

 

「召喚開始───“プチメテオ”!」

 

〈適当に吹っ切れたやがったな、リッカ。そして流石に“ロックマテリアル”は召喚されねぇよ。〉

 

あ…うん、お兄ちゃんなら分かるよね……

 

〈まあいいや、召喚霊基固定、クラスは……バーサーカーだな〉

 

バーサーカー……そう考えていたら、黒い騎士が召喚されていた。

 

「urrrrr………」

 

「…ほう?貴様が来るとはな、狂った犬よ。」

 

確か名前は……

 

「ランスロットさん…だっけ」

 

「………」

 

その人は静かに頷いた。一応話は通じるみたい。

 

「ふん…そら、さっさといけ。貴様の王は既にいる。」

 

「Arrrr………」

 

そう唸ってからランスロットさんは管制室から退出していった。

 

「……いい人、なんだろうね。多分。」

 

「狂っておらぬあやつは知らんがな。次だ、回せ!」

 

「うん───“デヴィルクエイク”!」

 

〈“魔臣ガルマザリア”も出ねぇ、って言うか出るんじゃねぇ!!〉

 

えー……でも出そうな気がするけどね。いずれ。

 

〈っと、召喚されるぞ、バーサーカーだ!〉

 

その声と共に召喚されたのは、着物を着た女性。

 

「ふふふ、改めまして“清姫”です。縁をたどって参りましたわ。よろしくお願いしますね、ますたぁ?」

 

「……よろしく、清姫さん。」

 

「蛇か……そら、あの赤い竜もいる故、じゃれあってくるがいい。」

 

「お断りです。誰があんなトカゲと……」

 

「界隈では貴様等の絡みが好きな者もいるそうだがな?ふははははは!!」

 

「…」

 

あ、清姫さん疲れた表情してる……

 

「そら、この場から速く去るがいい。召喚はまだ続く故な。」

 

「分かりましたわ。部屋はあんちんさまと一緒にしてくださいまし。」

 

「マスターと同部屋か……まあ良いか。貴様所有の部屋も用意はしておく故、使いたくなれば使うがいい。」

 

私と同部屋って……まぁいいけど。

 

「じゃあ……“打ち砕け光将の剣”!」

 

〈“シャインセイバー”出ねぇ、って言うかなんでまた無属性召喚術なんだよ!〉

 

なんとなく?あと私使ってたの無属性召喚術と霊属性召喚術ばかりだったの知ってるでしょ?

 

〈あとロマンとかがわけわからんって顔してるからやめてやれ〉

 

「はぁい…」

 

流石に私も覚えきってないし、これくらいで終わろうと思ってた。

 

〈召喚霊基固定───セイバーだ!〉

 

あ、そういえば触媒忘れてた……と思ったら出てきたのは白い…ウェディングドレスを着た人?

 

「うむ!装い新たに余が再登場よ!ネロ・ブライドと呼ぶがいい!」

 

ネロ・ブライド……さん?

 

「ほう?誰かと思えば、赤きセイバーではないか。」

 

「そう言うお主は金のアーチャー!なんだ、召喚されていたと言うのか。」

 

「ふ、貴様の知る我とここにいる我は違うであろうよ。さぁ、去るがいい。召喚はまだまだ続く。」

 

「む…まぁよい、説明はあとでしてもらうぞ!」

 

「好きにせよ……さて、次が6騎めか。」

 

〈スタッフサーバーに登録するのはほとんど手動だからなぁ…〉

 

そうなんだ……

 

〈……ん、該当霊基アーチャー…誰が来るかね〉

 

「アーチャー…ルーパスちゃんのなりやすいクラスだよね」

 

「まぁ私基本的に弓使いだからね…ギルドカード見れば分かるけど弓だけ使用回数多いもん。」

 

「ギルドカード?」

 

ギルドパスじゃなくて?

 

「そ、ギルドカード。正式名称“ギルド指定特定地域活動証明カード”。場所によってデザインやカードのページ数、カードに記載される情報が違うんだけどね。大体ハンターランクと装備とかは書かれてるかな?こっちの世界で言う名刺みたいなもの。」

 

あー……なんとなく分かった気がする

 

〈顕現します!〉

 

光が収まって、そこにいたのは獣耳の人。

 

「汝がマスターか?よろしく頼む。」

 

「あ…アルに倒された人」

 

正確には虹架さんに、なのかもだけど。

 

「ふむ…貴様は子守が趣味であったか?」

 

「あぁ。」

 

「ではメディアめと話が合うであろうよ。行くがいい」

 

「そうか…アタランテ、よろしく頼む。マスター。」

 

そう呟いてその人……アタランテさんは管制室から出ていった。

 

〈次いくぞ~〉

 

私はその言葉に7枚目の呼符を置く。

 

〈サークル回転……そういやリッカ〉

 

「うん?」

 

〈特異点F。あの時、大量の敵が迫ってきてダメかと思った、って言ってたよな。〉

 

そのお兄ちゃんの言葉に頷く。

 

〈で、知らない声と謎の模様から出てきた攻撃が全部を殲滅してくれたって…そう言ってたよな。〉

 

「うん…言ったけど」

 

〈本当に心当たりないのか?〉

 

私はそれに頷く。

 

〈なんだかなぁ……〉

 

「いずれ解決すると思うよ。…なんとなく、そんな気がする。」

 

〈ま、リッカが言うなら大丈夫か……霊基固定、バーサーカー……多くね?〉

 

確かに、多い気もする。そう考えているとサークル上に召喚された人の姿が見えた。

 

「我こそは、タマモナインの一角、野生の狐、“タマモキャット”!ご主人、よろしく頼むぞ?」

 

猫……いや狐……?

 

「ナマモノか!貴様は呼んでおらぬわ!!」

 

「呼んでおらずとも我は来る。縁がなければ作るのみ。そういうものであるぞ、ゴージャス。」

 

「我はゴージャスではない、プレミアよ!間違えるな!」

 

そういえばギルってどういう意味でプレミアって名乗ってるんだろ……

 

「ふむふむ。ここの食堂はどこだ?」

 

「えっと……」

 

私はタマモキャットさんに食堂の場所を教えた。

 

「あい分かった、これからよろしく頼むぞ、ご主人。」

 

私はその言葉に頷いた。

 

「さて、あと2騎だが…少し休みをいれるとしよう。贋作者!」

 

〈呼んだか、英雄王。〉

 

「茶請けの準備をし、我らと職員共へと支給せよ!しばしの休憩とする!」

 

〈───了解した。〉

 

〈お、ここが食堂ダナ?我はタマモキャット、よろしく頼むぞ?〉

 

〈待て、食事処に猫は───!〉

 

〈問題ない。我も作り手の一角だ。〉

 

〈言ってる場合か───!〉

 

〈シロウ?お腹が減りました、何か作ってください。〉

 

〈アルトリア……自由すぎる……作るが。〉

 

なんか……食堂のほうが地獄になってない?ギルも少し微妙な表情してるし。

 

「贋作者」

 

〈今度はなんだ……!〉

 

「貴様、我らと職員共へと茶請けを支給したあと少し休むといい。見ていて不憫に思えてきたわ。」

 

〈───すまない、感謝する。〉

 

その後、支給されたお茶請けは美味しかった。ちなみにお茶は抹茶。




名簿……作ろう。データベースソフトとかで管理できたら楽なんだけど。

裁「office…」

ない。

裁「知ってた」


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第69話 召喚終了

「───並べ。横入りは厳禁だ。そこの黒髭───首を出せ。」

「ノォォォォォ!!」


またやってるよ……

裁「あれは……」

召喚抽選会。はやく当たりを引きたいからって黒髭さんが橫入りばかりするんだって。

裁「へぇ…」

特に今回はライダー確定枠でしょ?1枠だけだけど。だからライダーである黒髭さんははやく行きたいんだろうね……

裁「……ところであの人は確か…」

初代のハサンさんだね。召喚サーヴァントの管理は任せたの。私が召喚した人だから本編の人とは違うよ。

裁「一体何騎召喚してるの……?」

大体全クラス1騎ずつ。

「…契約者よ。」

ん…あ、終わった?

「裁定は下った。これが、そうだ。」

ありがと、えーと……ん、分かった。じゃあ……正のランサーと正のアーチャーに伝えてきてくれる?

「了解した…」

……さてと、どうなるかな…っと。


「よし、再開と行くか」

 

ギルの号令で私達の気が引き締まる。……といっても、あと2騎だけど……

 

「サークルを回せ!残り2騎、それが終われば少しのあいだ休暇よ!」

 

〈へいへい……俺はサーバーメンテもしねぇとだからそこまで休めなさそうだがな…〉

 

お兄ちゃん、過労で倒れないといいけど…

 

〈んじゃ呼符置けな~〉

 

私は頷いて、サークル上に呼符を置く。

 

〈サークル展開───アカシックレコード接続。英雄の座への接続状態───良好。霊基特定───サーヴァント・ライダー、召喚されます〉

 

その声はお兄ちゃんの声じゃなくて、アドミスさんの声だった。

 

「お兄ちゃん、アカシックレコードって確か……」

 

〈元始から全ての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念のことだな。魔術師の世界だと根源、または根源の渦と呼ばれるもんだ。〉

 

根源の渦……世界記憶の概念、か…

 

「ま、そんな大層もんでもねぇよ。世界は最低でも二度滅びてんだ、そんなもんより預言書の方が情報はたくさんある。…まぁ、その預言書の情報も完全ではねぇんだけどよ。」

 

そうレンポくんが言った。それと同時に、召喚が完了される。

 

「私は“マルタ”。ただのマルタです。きっと───」

 

〈〈〈〈こ、拳の聖女様だ────!!〉〉〉〉

 

「ぶっふぉ!?ゲホッ、ゲホッ!」

 

あ、噎せた。

 

「ちょ、なんで知って───ではなく、知っているのですか?」

 

〈〈〈〈それが貴女の祈りなのですから!〉〉〉〉

 

「────なぁにこれぇ」

 

「ふ───貴様には職員達の教導を任せよう。その祈り、職員達へと伝授するがいい。」

 

「ワケわかんないわよ───!」

 

〈拳の聖女様を迎えに行けぇ!俺達はもっと強くなるぞ───!〉

 

〈〈〈おお───!〉〉〉

 

そんな声が聞こえたと思ったあと、マルタさんは職員達に胴上げされながら連れていかれた。

 

「ちょっ、くすぐったいっての!あっ、ちょっ、やめて───!」

 

悲鳴聞こえてたからとりあえず私は合掌。無事だといいけど。

 

〈……次、行くか。〉

 

「うん…」

 

お兄ちゃんは行かなかったっぽい。私は呼符をサークルの上に置いた。

 

〈サークル展開…っと。そういやリューネ。〉

 

「なんだい?」

 

〈お前の知り合いに…奥義、だったか。それの使い手っているのか?ルーパス以外で……〉

 

「…ふむ。」

 

リューネちゃんは少し考えてから口を開いた。

 

「僕の母と父、そしてルーパスの母と父は奥義の使い手だな。僕の母がスラッシュアックス、僕の父がヘヴィボウガン。僕はもう知っての通り狩猟笛だな。」

 

「私のお母さんは太刀で、お父さんはガンランスなんだよね。私自身はもちろん弓だけど。」

 

〈ふーん…バラバラなんだな〉

 

「そういえば私、まだリューネのお母さん達に会ったことないんだよね。」

 

「ルーパスはカムラの里に行ったことがないからな…里長達も会ってみたがっていたが。」

 

「へぇ……あ、私のお母さんといえば……」

 

お母さんがどうかしたのかな?

 

「ルーパスの母がどうかしたのか?」

 

「いや…さっき言った通り、私のお母さんって太刀使いで、奥義も太刀なんだよね。……なんだけど、スラッシュアックスの教え方が異様に上手なの。」

 

「む…言われてみれば。まるでスラッシュアックスの高ランクの担い手をずっと側で見てきたかのように教えてくれていたな。」

 

「お母さんが教えてくれたのって普通に上位で通用するもんね。」

 

「流石プロハンター、というべきなのだろうか…」

 

「ギルドカード数枚見せてもらったけど、太刀の使用回数がダントツで、それ以外は10回使ったか使ってないか………っていうか、スラッシュアックスって私達がモガの村に行った頃に普及し始めたんじゃなかったっけ。」

 

「カムラの里にはかなり前から伝わっていたらしいぞ。無論チャージアックスや操虫棍などもな。」

 

「へ、へぇ…」

 

そんなことを話している間に、サーヴァントが召喚された。

 

「サーヴァント・アサシン。影より貴殿の呼び声を聞き届けた。」

 

そこにいたのは仮面を被った人。…悪い人じゃないと思う。

 

「えっと…名前は……?」

 

「山の翁……ハサン・サッバーハね。暗殺者としては有名よ。」

 

「左様。私はハサン・サッバーハでありまする。とはいえハサンは19人おりますゆえ……む!?」

 

その人……ハサンさんの表情がギルを見て固くなった。

 

「む?どうした、暗殺者。」

 

「黄金のサーヴァント……!?魔術師殿、あやつは良くない!すぐに裏切る不埒者故、すぐに契約を切るべきですぞ!」

 

え……?

 

「……やれやれ、確かに的を射ているのであろうな。全く他人から我と言う者への評価の酷さが伺える。だが覚えておけ。我は興味を持てば興味が尽きぬまではその者を裏切ったりなどせぬ。そして忠告しておいてやろう、今の我のような機嫌のいい我以外に目線を送るでないぞ。処断されるのでな。」

 

「……ぬぅ。」

 

「暗殺者───それも第五次の真なるアサシンか。ランサーの命を奪えるその力、期待させてもらうぞ、ハサン。」

 

「……何故か貴殿からは邪の気を感じない…まさか、本当に……?」

 

「可能性というものはいくつも存在するものだ。1つの固定概念に囚われてはいかん。そら、行け。」

 

「…承った。魔術師殿、先ほど申し上げました通り、“ハサン・サッバーハ”は19人おります。呼び方の区別がしにくいでしょうから、私のことはどうか“呪腕のハサン”とお呼びくだされ。」

 

「う、うん…よろしくね、呪腕さん。」

 

「はい。それでは、失礼致します。」

 

そう言って呪腕さんは管制室から出ていった。

 

「……さて、これで終わりか。これにて、1つの特異点を完全に終了したものとする!総員、解散!」

 

ギルの号令で、第一特異点の全てが終わった。




裁「そういえば、さっきのハサンさんとかは運命の選択には……」

参加しないよ。私とルーラー、あとギルだけ。流石に増やしすぎると選択にならなくなっちゃうからね。

裁「あー…」

参加させるなら3人が限度、って思ってたから。…さてと、次の話は設備紹介になる……といいなぁ


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第70話 施設紹介・一

施設紹介回ですよ。オリジナルの施設とかあると組むのが少し大変でした。

裁「お疲れ様…なのかな」





あ……どうも皆さんこんにちは、観測者ですよ。大体2ヶ月ぶり…だよね?今回は、カルデアの施設を紹介していこうと思う。大改造したらしいから、結構な量になるかも……?それじゃ、行ってみよ~

 

 

第一管制室

 

 

ここは第一管制室。レイシフトシステムの管理、召喚システムの管理を担っているカルデアの中枢。いつも召喚や打ち合わせが行われるのはこの場所だね。今も、ドクター・ロマンがメンテナンス中。

 

「えーっと…ん、全システム異常無し。今日のメンテナンス終了、っと。さてと……」

 

あ、紙にスタンプ押してる。あれは、今日のやることを終えた証───仕事で言うタイムカードみたいなもの。英雄王と藤丸六花が作った機構で、仕事時間と趣味時間を徹底的に管理してるんだっけ。え、仕事時間にサボる人とかいるんじゃないかって?…まぁ、いなくはないけど、藤丸六花の変換魔術が機能して、その日やった仕事量をスタンプが刻むんだって。それと、その仕事量によってその日の報酬が変わるから、もし報酬が少なかったらその人の自業自得、さらに1日の報酬上限は“その日にやるべきこと”だから多くやっても少なくやっても意味がないんだって。

 

「───はぁ……マギ☆マリはいいなぁ……」

 

……自分の部屋あるんだから自分の部屋で見ようよ。まぁいいや、次!

 

 

第二管制室

 

 

ここは第二管制室。第一管制室が使えなくなったときの保険として構築されている場所で、カルデアスがない以外は別に変わらない。今は、冷凍保存されたマスター47人がここにいる。

 

「……ふん、我はこのような雑種どもに興味はない…が、マスター達の旅に傷を付けるのも面倒だ。貴様らの治療くらいはしておいてやる。」

 

…で、ちょうどいるのは英雄王。その英雄王は、眠っているマスターの中でも7人───Aチームと言われている人達の方へと近づいた。

 

「運が良かったな、Aチームとやら。貴様らは六花が作り出した歪みによって奇跡的に運命から引き離された。貴様らに興味はないが……貴様らがこの先どのような道を辿るのか、見ものよな。」

 

運命から引き離された…ってどういうこと?

 

「精々足掻くがいい、雑種。我のマスターがどんな道を往くのか、我にも分からん。だがあやつに見える凶の予兆は確かなもの。貴様らが敵として立ちふさがるのならば、我がマスターは躊躇するか否か……さて、どうであろうな。」

 

そう言って英雄王は第二管制室を去っていった。…次、行こうか。

 

 

所長室

 

 

ここは所長室。その名の通り、オルガマリー・アニムスフィアの部屋だね。……まぁ、今寝てるけど。編纂者の宝具で身体が紙だとしても眠気はあるのかな……いいや、次。

 

 

医療室

 

 

医療室…まぁその名の通りで、怪我をしたときとかに利用する場所。一応さっき第一管制室にいたドクター・ロマンもここにいることがあるね。まぁ、大体いるのは所長の妹であるルナセリア・アニムスフィアなんだけど。

 

「……ん、全部異常無しですね。異常ないのが一番ですけど。」

 

まぁ、確かに。一応、ルナセリア・アニムスフィアも今日の仕事終わったみたい。……あれ?あのカルテは……

 

「……気になりますね」

 

……あのカルテ、藤丸リッカのだ……何が気になるんだろう……?

 

 

ダ・ヴィンチちゃん工房

 

 

レオナルド・ダ・ヴィンチの工房。ゲーム内でお世話になってる人多いよね?今も何か作ってるよ。

 

「……うん?誰かそこにいるのかい?」

 

やばっ、気付かれた!?気配隠滅術式、稼働!

 

「……?気配が消えた……最近、ギルもたまに誰かに見られている気がするって言ってたけど……まさか幽霊とかかな?…なんてね」

 

あ……大丈夫みたい。一応、私にも気配はあるんだよ。三人称だとしても“人格”としての魂が存在しちゃってるから気配がある。とはいえ、それはかなり薄いからあまり気がつかれることはない…って創り手が言ってたんだけど。……人格って言ったけど無銘のアルターエゴとは全く関係ないからね、私。さ、次に行こうか。

 

 

ティールーム「ムーンライト」

 

 

元々倉庫だったものをドクター・ロマンが改装して作った憩いの場なんだって。原作と違ってカラオケルームは無し。ただ、バーとかじゃないし店員さんもいないから実質普通の休憩所。でも、たまにいるよ?ルーパス・フェルトとか、ミラ・ルーティア・シュレイドとか…藤丸兄妹もよく来る。今日は誰もいないけど。さ、次。

 

 

第一ダンスホール

 

 

第一ダンスホール───完全防音設備になってるダンスホール。ダンスホール、って言ってるけど実際は多目的ホールだと思う。基本的にはネロ・ブライドとエリザベート・バートリーのライブ会場になってるよ。ルーパス・フェルトとリューネ・メリスがネロ・ブライドとエリザベート・バートリーの歌声を叩き直してたのもここだね。…まぁ、その頃は防音設備が無かったんだけど。今日は誰もいないね……

 

 

第二ダンスホール

 

 

第二ダンスホール───第一ダンスホールと大体一緒。広大なカラオケ会場だよ。ちゃんとこっちも完全防音。第一ダンスホールの方はさっき言った二人が独占することが多くて、英雄王が追加で作ったものの1つ。カラオケの機械もあるけど、リューネ・メリスやアマデウス・ヴォルフガング・モーツァルトを呼んで実際に弾いてもらってその音源で歌う人が結構いるんだとか。…ていうか、ここも誰もいない…次行こ、次。

 

 

第三ダンスホール

 

 

第三ダンスホール───ここはスケートリンクがあるの。なんで、って思ってたんだけど、今見てるので納得。

 

空の色と 春の香り 混ぜてみれば 恋の予感 手を伸ばせば とどく距離に 未来 直ぐそばにある

 

藤丸リッカがスケートリンクで音楽に合わせて歌いながら踊ってる。…けど、なんで赤いケープみたいなの被ってるんだろう。

 

勇気だして ママのルージュ つけてみれば 胸ドキドキ 少し背伸び 大人みたい パパに内緒だからねっ!

 

…どこかで、聞いたような。創り手なら知ってるんだろうけど。

 

「…ん、リッカ、ストップ」

 

今は……えっ、あ、うん。」

 

藤丸リッカの動きと歌唱が藤丸六花の言葉で止まる。体勢を直した後、藤丸リッカは藤丸六花の方へと滑っていく。

 

「すまねぇな、システムの調子が悪いんだ。」

 

「あ~…いいよ、無理言って作ってもらったの私だし。」

 

え、このホール作ってもらったのって藤丸リッカなの?

 

「まぁお前が好きなのは知ってたけどよ。それを再現できるか、って言われた時はビビったっつうの。」

 

「あ~…なんか、ごめんね?」

 

「いやいいんだけどな。どうせサーバーメンテ以外暇なんだ。」

 

「あ、あはは…適当に滑ってていい?」

 

「ん、別にいいぞ」

 

なんか…作ってるみたいだね。藤丸リッカはそのまま滑りに行って、藤丸六花はパソコンの画面に目を落とした。

 

「…やれやれ、身体能力高いよな、お前は。」

 

「お兄ちゃんが言えることじゃないよ~!お兄ちゃんもこれできるで───しょっ!」

 

藤丸リッカが跳んだ───って、3アクセルからの3アクセル!?

 

「お前ほど安定しねぇよ。」

 

「私だって安定しないよ!」

 

…何この兄妹…

 

「ったく…レンポ、大丈夫か?」

 

「寒いのは苦手なんだがよ…主がここにいるのもあって、離れるわけにはいかねぇだろうが。」

 

「まぁなぁ……チッ、駄目だ。リッカ、ちと来い!」

 

「うん~?なに~?」

 

そう言って藤丸リッカが滑って近づいてくる。

 

「システムが不調すぎる。すまねぇが、今日はこれで終わりだな。」

 

「…そっか。ごめんね、無理言って。」

 

…藤丸リッカって、藤丸六花と一緒にいるときが一番生き生きしてる気がする。

 

「気にすんな。今回、俺はほとんどお前の力になれないからな。せめてこういう形ででも力にならせてくれ。」

 

「…ありがと、お兄ちゃん。」

 

そう言って、藤丸リッカは第三ダンスホールから去ってった。…今回はここまでかな。多分次回も施設紹介になるから、よろしくね。

 

…そうそう、藤丸リッカ達と私達───つまり読者側の存在。登場人物と読者側の存在とでは、時間の流れが違う。この作品が始まってから現在までで既に4ヵ月経っているけど、藤丸リッカ達からすればまだ1ヵ月も経っていない。文句なら創り手に言ってね、創り手が組むのが遅いのが悪いんだもん。

 

じゃあね~




色付きの文字は歌声とします。リッカさんの女声の場合これですね。リッカさんの男声の場合はこちらになります。

裁「藤丸六花は?」

ちょっと考え中。


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第71話 施設紹介・二

前回の続きです。

裁「そういえばギルは……?」

寝込んでる


こんにちは、観測者です。今回も引き続き、施設紹介行きましょ~

 

 

加工場

 

 

加工場。編纂者が新大陸の加工場を元にして作ってもらったとかなんとか。実は、加工場としての鍛治用のたたらとか以外にも色々併設されてる。今日も編纂者とルーパス・フェルト、そしてスピリスがいるね。

 

「……どう、ですか?相棒、オトモさん。」

 

「うん……新大陸に無かった武器種なのによくここまで作れるね。」

 

「この世界に来てからなんですけど…見たことのなかった武器でも、一度構造を調べれば作れるようになってるんです。」

 

「へぇ…どう、スピリス?」

 

「……問題ないですにゃ。ただ……」

 

いいにくそうにしてる?

 

「ただ?」

 

「…結構忙しかったのもあってすっかり忘れていましたがにゃ……私達の世界ってこの世界と少なくとも一度は繋がっていたんですにゃね……」

 

「「……あー……」」

 

編纂者とルーパス・フェルトが納得したような声を発した。まぁ、そうだよね。だって今のスピリスの装備、そのまんま“ジャンヌ・ダルク”だし……

 

「そういえばそうだね。私もアルトリアの剣と姿形が同じ“約束された勝利の剣”とか持ってたの思い出した。今はもう無いけど。」

 

「ほとんどベルナ村に置いてきたのと、最後に着てた武器防具は新大陸に来たときに壊れたにゃね。」

 

「そうだったんですか……あの、相棒?素材があれば作れるとは思いますが……」

 

その言葉にルーパス・フェルトが首を横に振った。

 

「いいの。あまりリューネに迷惑かけたくないし…自分の素材は自分で取る、が私の信念だから。」

 

「そう、ですか…」

 

「…ね、ジュリィ。食事…お願いしていいかな?」

 

「いいですけど……何か行くんですか?」

 

「この後、リューネと一緒に第二シミュレーションルームでネロミェールと戦うことになってるの。お願いしてもいい?」

 

ネロミェール…確か溟龍、だっけ?

 

「…分かりました。ご注文は?」

 

「ん~…野菜定食でお願い。」

 

「分かりました。とりあえず、食事場の方へ移動しましょうか。新鮮食材いくつかあるので使っておきますね~」

 

「ありがと、ジュリィ。」

 

そう言って二人は外に出る扉とは別の扉から出ていった。……次、行こうか。

 

 

食堂

 

 

食堂。さっき編纂者が言ってた食事場とは別の場所。ここはエミヤとタマモキャットが取り仕切ってるよ。

 

「…アルトリア、これでいいか。」

 

「はい。ありがとうございます、エミヤ。」

 

「やれやれ、君も真名呼びには慣れたようだね。」

 

「仕方ないでしょう、このカルデアには何騎ものサーヴァントがいるのです。クラス呼びでは誰が誰か分からなくなります。…ただ、あなたをエミヤと呼ぶのは少し変な感じがしますが。そうでしょう、シロウ。」

 

「…私は───いや、俺はお前のことをずっとセイバーと呼んでいたからな。それにしても……」

 

あ、エミヤがアルトリアの手元のものを見た。

 

「……それ、料理としては雑な部類なんだけど本当にそれでいいのか?いや、料理ですらないよな…“焼き芋”って…」

 

「いいのです。雑は雑ですがサー・ガヴェインのマッシュポテト程ではありません。ついでに言うと、あの英雄王を見ていると違和感で胸焼けというかなんというか…少しおかしくなりそうで……」

 

「……それには俺も同意する。いくら可能性存在だからって言っても限度があるだろ…」

 

……噂をすれば……

 

「贋作者!」

 

「のわっ!?」

 

影がさす、ってね。

 

「……どうした、英雄王。」

 

「貴様のアサリの味噌汁とか言うものを寄越せ!」

 

「……承知した。ホント何なんだこの英雄王……しかもよりにもよってアサリか…在庫あったか……?」

 

そうボヤキながらエミヤは厨房の方へと戻っていった。

 

「…普段金箔をかけて食べるようなあなたが日本のお味噌汁、ですか。それにあなた、エミヤのことは嫌ってましたよね?どういう気紛れなんです?」

 

「む?セイバー…いや、アルトリアか。なに、此度の我は機嫌がよく、様々なことを試しているだけよ。言ったであろう、我にも可能性というものは存在すると。贋作者そのものは気にくわんが、奴の力は多少評価しているのでな。慢心していたとはいえ、英霊ならざる人の身であり、贋作者のマスターであった小娘よりも未熟な魔術師であるというのにも関わらず、英雄王たる我と一対一で戦い勝つことができるのなど、あ奴くらいであろうよ。」

 

「…意外ですね。あの時はシロウの方が強いと認めたと聞きましたが、今でもそれは認めているとは。」

 

「勘違いするな、戯け。今は我の方が強い。慢心などせぬからな。だが、あの投影なる魔術を究極的に突き詰め続ければ……磨き続ければ。いずれ我と対等とは行かずともそこまでの差は無くなるであろうな。ところで───」

 

英雄王がアルトリアを見た。正確には、その手元。

 

「アルトリア。貴様が食しているそれは一体なんだ?」

 

「これ…ですか?“焼き芋”なるものだそうですが。」

 

「ほぅ?贋作者!」

 

「なんだ、英雄王!」

 

厨房の方からエミヤの声が飛ぶ。

 

「追加だ!焼き芋なるものも寄越せ!」

 

「焼き芋───あぁもう、ホントあんた何なんだよ!!」

 

「あ、エミヤ。私もお願いします。」

 

「分かったから待て、処理が追い付かん!英雄王、覚えてろ……!」

 

それから少しして、エミヤが厨房から出てきた。なんか、ビンを持ってきてるけど…

 

「味噌汁はもう少しかかる。その前に、英雄王。」

 

「む?」

 

エミヤが英雄王の前にビンを一本置いた。

 

「飲め。」

 

「……これはなんだ?」

 

「ルーパス達の世界の飲み物らしいが。店売りもされているらしい。」

 

「ほう?よい、味を見てやろうではないか。」

 

「エミヤ、私にもくださいますか?」

 

「あぁ、構わない。」

 

エミヤがアルトリアの前にビンを置くと、二人とも一気にそのビンの中身を煽った。

 

「「……──────!?」」

 

変化。そのあと、英雄王とアルトリアが噎せた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……!貴様何を飲ませた贋作者ァ!!」

 

「“ホットドリンク”。寒冷地に行くときは持っていってたらしい。」

 

「寒冷地、だと……!?それにしてもこの辛さ、何が原料だ!!」

 

「すみません、エミヤ…今回ばかりは英雄王と同意見です。これの材料は一体……?」

 

「材料、か。トウガラシ100%らしい。」

 

………

 

「「………」」

 

「………」

 

「「…は?」」

 

「トウガラシ100%らしいぞ、これ。ルーパス達は10分毎にこれを飲んでたんだとか。」

 

「「は??」」

 

「付け加えると、ルーパスが偶然見つけた“ドストウガラシ”って言うのをホットドリンクの原料にした“ホットドリンクグレート”っていうのもあるらしい。」

 

うわぁ……

 

「英雄王でもそうなるということは分かったことだ、協力感謝する。」

 

そう言って厨房に戻り、ケーキを2ホール持って戻ってきた。

 

「やはりというかなんというか、ハンター以外ではホットドリンクが苦手な者も多かったらしい。それ故に、辛さ軽減の薬などというものもあるそうだ。このケーキにはその薬が入っている、何も言わずに協力させた詫び、というわけではないが自由に食べるといい。」

 

「ふん、まめなことよ。……しかし辛いな…言峰の麻婆ほどではないが。絶対に作るでないぞ、贋作者。」

 

「あんな外道麻婆作らねぇよ…」

 

なんか、お疲れ様…?次行こ、次。

 

 

第一シミュレーションルーム

 

 

ここは第一シミュレーションルーム。基本的には人間スタッフ達の鍛練場になってるの。英雄王とミラ・ルーティア・シュレイドの協力で、本当に様々なモンスターが仮想の敵として出るようになってる。内装を立体物質転写で変えることもできて、今は廃墟になってる。

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

 

「……甘いよ!」

 

「…おわぁっ!?」

 

その廃墟の中心部にいる二つの人影。ミラ・ルーティア・シュレイドとジングル・アベル・ムニエル。召喚されてるのは、白兎獣“ウルクスス”。今みたいにサーヴァント対人間で行う鍛練もあるらしいの。今現時点でそれを担当してるのはミラ・ルーティア・シュレイドとマルタ。仮想の敵はあくまでも仮想。実際に敵がどんな動きをしてくるかは分からない、っていうことから実際にサーヴァントと戦うことがあるらしいの。とはいえ、英霊と人間とではそのスペックに差があるから英霊側はなんかリミッターかけてるらしいけど。

 

「うぅ…やっぱり英霊と人間の差なのか……こんな小さな子にも勝てないって……」

 

「英霊じゃないんだけど……まぁ、私は召喚師だから…」

 

関係あるのかな、職業って……次、行こうか

 

 

第二シミュレーションルーム

 

 

第二シミュレーションルーム。モンスターハンターシリーズの世界に出てくるモンスター達のみが相手になる場所。基本的にはハンター達しか使わないかな?

 

「……せぇぃっ!」

 

今もリューネ・メリスが戦ってる。相手は祖龍“ミラボレアス”───通称“ミラルーツ”。

 

「ガァァァァァァァ!」

 

「おっと…」

 

笛……笛?を担いでいるリューネ・メリスが小さく声を漏らしたかと思うと、リューネ・メリスが前転。直後に元々いた場所に雷撃が落ちる。

 

「やれやれ…ルルがいるとはいえ、やはりミラルーツにソロは疲れるか。」

 

〈……あの、リューネさん。聞いていいですか?〉

 

今ここのシステムを管制してたAI、アドミニストレータが声をかけた。

 

「なんだい?できれば手短に頼む。」

 

〈えっと、その……〉

 

「?」

 

〈リューネさんが持っているそれ……狩猟笛、なんですか?〉

 

「そうだが?」

 

〈……何処からどう見ても魔法の杖、魔法少女のステッキにしか見えないんですが〉

 

創り手からある程度情報貰ってるから私は分かるけど、初めてみたら困惑するよね……えっと、確か銘は……

 

「“マギアチャーム”のことか。仕方ないだろう、女性ハンター達の強い要望を受けてデザインされ、作られたのがこの武器だ。旧式だから龍属性だし、ミラルーツにはもってこいだ。」

 

〈旧式……ですか?〉

 

「防具も武器も、時代や場所によって形や性能が変化していく。マギアチャームの場合、龍属性から氷属性に、そして使用可能な旋律が変わる、という具合にね。この形式のマギアチャームの場合、標準旋律の他に緑と黄色の旋律。故に自分強化、体力回復【小】、回復速度【小】、精霊王の加護、雷属性防御強化【大】、属性攻撃力強化、高周波が演奏できるんだ。雷属性耐性強化に属性攻撃力強化など、雷属性を用い、龍属性に弱いミラルーツに担いで行けと言わんばかりだ。」

 

〈そ、そうなんですか……〉

 

「───まぁ、武器自体の攻撃力が低いから、あまり担ごうと言うものはいなかったが。」

 

あらら……そういえば、創り手がtwitterの方に出した検証でマギアチャームを創り手が使ってたね。

 

「この武器の説明聞くかい?」

 

〈説明なんてあるんですか?〉

 

「武器や防具の説明を考える者達がいるのさ。武器や防具の形を考える成形師…デザイナー。その設計を元に組み立てる加工師…マイスター。そしてその作り出した物品の説明を考える解説師…コメンター。さらにその武器や防具を使う狩人…ハンター、もしくは乗り手…ライダー。武器や防具だけでも4つの職業が関わるんだ。」

 

解説しながらミラルーツの攻撃を回避し、的確に弱点を殴る。魔法のステッキで。すごく生き生きとしてるよ…

 

「そうなんですか…マギアチャームの説明は何なんですか?」

 

「ふむ…“女性ハンターたちの熱い要望で作られたという狩猟笛。狩り場に響け、乙女チックサウンド!”…だったな。」

 

〈………わぁ〉

 

「似合わない、とか言わないでくれよ───っとこれで終わりだ!」

 

マギアチャームを振り上げ、頭にぶつけると同時に跳躍。マギアチャームとミラルーツの頭を繋ぐ、青い糸。

 

「鉄蟲糸技───“跳躍震打”!」

 

「ァァゥッ!───アァァァァ……」

 

糸を伝って流れた振動が、ミラルーツの活動を止めた。

 

「討伐完了、っと。」

 

〈お疲れ様です。60秒後にシミュレーションシステムは自動終了しますので、しばらくお待ちください。〉

 

「あぁ、分かった。ありがとう、アドミス殿。」

 

そう言った後、リューネ・メリスはミラルーツの身体を剥ぎ取ってた。

 

「……お、“祖龍の輝玉”が出た」

 

………はい?

 

 

じゃあ、今回はこの辺りで。本当は第三シミュレーションルームも解説しないとなんだけど……ちょっと、一騒動?あるみたいで。

 

ばいば~い




リューネが使ったのはオリジナルの鉄蟲糸技です。彼女の身体能力ならたぶん跳躍しながら“震打”使えるので。

裁「そっか…」


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第72話 強さを求める

UA16,000突破、ありがとうございます!

裁「相変わらずの執筆速度だけどね……」

う…


第三シミュレーションルーム。ここと第四シミュレーションルームは主にサーヴァント達の鍛練に用いられている。

 

「───チィッ!」

 

今使用しているのはジャンヌ・ダルク・オルタただ1騎。システム管制者はフォーマッタだ。ジャンヌ・ダルク・オルタは、ワイバーンと戦っていた。

 

「ギャァァォォゥ」

 

「鬱陶しい……!“吠えよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”───!」

 

彼女の宝具、彼女の憤怒の炎がワイバーンを焼く。それによって、その場にいたワイバーンは消滅した。

 

「はぁ…はぁ──結果は」

 

〈…所要時間24分。被弾回数21回です。〉

 

「……そう。続けて。」

 

〈ですが……〉

 

「いいから、続けて。こんな程度じゃまだ足りない。早く、力を取り戻さないと───」

 

〈……分かりました。シミュレーションシステムを再起動。生成フィールド“市街地”。生成仮想敵1“ワイバーン”。仮想敵1生成数4体、全ユニットLv.7───出現します〉

 

そのアナウンスと共にシミュレータが稼働し、ワイバーンが出現する。

 

「──ふ……っ!」

 

手に持つ旗を持ち直し、シミュレータによって再現された町の地面を蹴る。

 

「───せいっ!」

 

旗を振り上げ、ワイバーンに叩きつける。旗を突き出し、ワイバーンを穿つ。炎を吹き出し、ワイバーンを燃やす───しかしそのどれもが、ワイバーンを一撃で仕留めるには至らない。

 

「くっ───」

 

歯噛みするジャンヌ・ダルク・オルタ。彼女が知らないうちに───

 

「………」

 

そのワイバーンと戦う光景を。見ている者がいた。

 

 

「この……!」

 

〈……追加します。生成仮想敵2、“ネームド”───固有名称“ファヴニール”。仮想敵2生成数1体、仮想敵2ユニットLv.30───出現します。〉

 

「な───!?」

 

突如告げられた宣告。その言葉の通り、黒い邪竜が出現する。

 

「何のつもりよっ!」

 

〈ジャンヌ・ダルク・オルタさん。何を焦っているんですか?〉

 

「焦ってなんか───」

 

〈いいえ、焦っています。本来その辺りに気がつかない私ですら気がつくほどに。もう一度聞きます、何を焦っているんですか?〉

 

「……うるさいっ!人工知能のあんたなんかに何が分かるのよ!」

 

〈えぇ、確かに私と姉は人工知能でしょう。ですが、私達にはちゃんと感情が存在します。……自分でいうのもあれですけどね。特に姉は管理者という性質もあるのか、人の感情に敏感です。そんな姉を見ていれば消去者である私でも少しは分かるようになるんです。ファヴニールは貴女が少し頭を冷やせるようにと。〉

 

「───舐めんじゃないわよ!」

 

といいつつ、被弾回数が増えたのは事実。さらに、カルデアのシミュレーションシステムには参加者の体力を管理する機構が存在する。故に、被弾回数が増えたということは───

 

〈──ガガッ、システムより通告。体力全損によりシミュレーションシステムが強制終了します。〉

 

「───」

 

〈……quest failed.〉

 

「まだ……まだよ!もう一度…」

 

〈───いい加減にしてください!〉

 

しびれを切らしたのか、フォーマッタが怒鳴った。

 

〈何を焦っているんですか!焦って何かをしたとしても、いい結果が残せるとは限りません!しかも今の貴女はその焦りのせいで正常な思考になってないんです!そんな状態でシミュレーションを重ねたとしても、何も得られるわけがありません!!〉

 

「うっさいうっさいうっさい!!あんたなんかに何がわかんのよ!人に作られたものの分際で、人でも英雄でもないただの知能の分際で!!」

 

〈分かりませんよ!貴女の言う通り私は人ならざる者!知識として人間は分かりますが、その全てが分かるわけないでしょう!!だから聞いてるんです、貴女を焦らせる原因は何なのか!何が貴女をそこまで掻き立てるのか!!答えなさい、ジャンヌ・ダルク・オルタ!!〉

 

「……あんたには関係ない!私は…私は私を求めたあいつのために強くなる!強くなってあの金ぴかと竜の王妃を見返してやる!!ただそれだけよ!!!」

 

〈───なるほど。それが貴女を掻き立てる理由ですか。〉

 

「そうよ!一刻も早く、あいつらを見返すために!!そのために私は強くならないといけないのよ!」

 

〈───そうですか。分かりました〉

 

「ふん。分かったなら早く───」

 

ジャンヌ・ダルク・オルタが言い終える前に、フォーマッタの声が響く。

 

〈ジャンヌ・ダルク・オルタ。フォーマッタの権限をもって、本日中の各シミュレーションシステムの使用を禁じます。〉

 

「───は?」

 

〈今の貴女は危険です。少し頭を冷やしなさい。〉

 

「待ちなさい!どういうことよ!」

 

〈そのままの意味ですが。〉

 

「───シミュレーションシステム起動!」

 

ジャンヌ・ダルク・オルタが叫ぶ。しかし、何も起こらない。

 

「起動!アクティブ!───何なのよ!起動しなさいよ、このポンコツ!」

 

〈無駄ですよ。貴女のIDにロックをかけました。ロックが解除されない限り、システムが応えることはありません。〉

 

「何なのよ…!!あいつに言った手前、私は強くならないといけないのに……!」

 

〈……はぁ。だ、そうですが。貴女的にはどうですか?リッカさん。〉

 

その言葉に、ジャンヌ・ダルク・オルタが扉の方を向く。

 

「……ジャルタさん…」

 

「…マス、ター……」

 

そこには確かに、ジャンヌ・ダルク・オルタを心配そうに見つめるマスターである藤丸リッカの姿があった。

 

〈……何か話すならこの場所使ってていいですよ。リッカさんシミュレーションシステム動かすならコンソールから呼んでください。〉

 

「……うん。ありがとう。」

 

そう言って音声は切れ、第三シミュレーションルームには藤丸リッカとジャンヌ・ダルク・オルタのみが残された。




うーん……

裁「どうしたの?」

いや……本編での対処、何か言われないか心配で


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第73話 苦悩

ギリギリです

裁「前書き間に合ってないけどね」


第三シミュレーションルーム……私は、スタッフさんやサーヴァントさん達の鍛練の様子を見に、現在4つ存在するシミュレーションルームを回ってる。第三シミュレーションルームはサーヴァントさん達用。

 

……その第三シミュレーションルームで、私とジャルタさんは二人っきりになっていた。

 

「……少し、お話でもする?」

 

「……マスターが、そう言うなら。」

 

私はその言葉に苦笑してから、ジャルタさんと一緒にシミュレーションルームに張ってある結界の外に出る。シミュレーションルームは三重構造になっていて、まず最初に物質壁。次に、対物理衝撃結界。最後に、対術式衝撃結界。物理障壁と物質壁の間に5mくらいの空間があるから、そこが休憩所みたいな状態になってる。…というか、実際に休憩所って呼ばれてる。結界が動くのはシステム起動中だけだって聞いたことあるけど……思ったんだけど、お兄ちゃんどういうプログラム組んだんだろう。

 

 

閑話休題。

 

 

私とジャルタさんは休憩所に設置されている椅子に座り、備え付けてある急須からコップへとお茶を注ぐ。…少し時間経ってるから冷えてるけど。

 

「はい。」

 

「……ありがとうございます」

 

そのまま私達はお茶を飲む。……玉露だ、これ。実は何となくで分かるんだよね、私。

 

「……マスター」

 

「うん…?」

 

「……怒ってますか?」

 

「……怒ってるか、って聞かれると怒ってないんだろうね。強くなりたい、っていう気持ちは分かるから。……どうなんだろう。私は、怒っているのかな?」

 

実は、あまり“怒り”っていうものを感じたことがないんだよね。

 

「……私も、分かるよ。」

 

「え?」

 

「“強くなりたい”。その気持ちは痛いほど分かる。現に今、私は無力だもん。預言書の主なのに、預言書の力を使うことができない。私は預言書を知っているのに。私が使えることで、少しでも負担を減らせるかもしれないのに………そう考えると、私は強くなりたいと思う。」

 

「…マスター」

 

「マスターはサーヴァントに戦闘を任せればいい───そんな常識は分かってる。エミヤさんや、ドクター達にそう教えられたからね。…でも、それは嫌だ。私は、サーヴァント達と共に…一緒に、戦いたい。ただ見ているだけなのは、嫌なの。」

 

「……」

 

「主人と従者。だけど、対等でありたい───それが、私のサーヴァントさん達に対する想い。私は、主人だからといって従者を自分の下だと…自分の“物”だなんて、見たくない。」

 

これは私の本心。それが人の形をしていなくとも、私に従ってくれる存在を物だとは見たくない。

 

「……欲を言えばね?私は、大切な人を護りたいの。何かを護るためには何かを害する力が必要───そんなのは分かってる。そんなの、もう何年か前から覚悟してる。その上で言ってるんだ───誰かを護るための力がほしいって。」

 

「……そうですか」

 

「ジャルタさん。貴女はどうして力がほしいの?どうしてそんなに焦っているの?」

 

聞きたかったのは、その理由。ジャルタさんを召喚したのは一昨日。お兄ちゃんに報告しに来たアドミスさんによれば、召喚された後から消灯中の時間以外ずっとこの第三シミュレーションルームに籠りっぱなしらしい。それだけじゃなくて、部屋にいるときも休息をとろうとせずに異空間内で戦い続けてるらしい。今さっきも、今朝見かけたときも───その表情に、焦りが見えた。

 

「…一昨日」

 

「一昨日?」

 

「私は、マスターに言いました。“近日中に貴女の力になりましょう”、と。そのために、私はこの部屋に来て修練を積んでいます。……2日経った今、私の現状は。たかがワイバーン9匹にすら劣るという状態です。」

 

「……うん」

 

「それでは、約束を果たせません。マスターの力になることが、できません。霊基を磨け───それが、あの金ぴかに言われたこと。約束も果たせず、力もなければ───私がここにいる意味はないでしょう?復讐者というのに、その復讐の力も使えないようでは。」

 

「……私の力に、か……」

 

「えぇ。力の足りない私が、心底悔しいのです。」

 

ふと、思う。

 

「……ねぇ、ジャルタさん。」

 

「はい……?」

 

「“他者の力になる”、って…どういうことだと思う?」

 

「他者の力になる……ですか?他者の障害を取り除くことでは…?」

 

その答えに、私は少しだけ首をかしげる。

 

「半分正解で、半分不正解。」

 

「半分…ですか?」

 

「そう、半分。“他者の障害を取り除く”。これも、確かに正解なの。例えば、障害となる敵を倒す、道を塞ぐ岩を破壊する。それだけで、他者の力になっていることには変わりない。けれど、それだけが正解じゃない。」

 

「というと?」

 

そう聞いてくるジャルタさんに、微笑みかける。

 

「リューネちゃんが言ってたんだけどね。」

 

「笛の狩人が……?」

 

「“何かを守るために必要なのは物質的な力のみにあらず。”…私も、そう思う。守るために必要なのは、筋力や魔力、霊力妖力神力といった物質的な───現実に影響を直接的に起こすような力だけじゃない。概念的な力───現実に直接的な影響を起こさない、でもそれは確かに守るために必要な力。その根底は、他者の力になるというのはどういうことか、というものと共通するの。それは───」

 

その、答えは───

 

「───“他者の支えになる”、ということ。」

 

「───他者の、支え?」

 

「うん。“他者の支えになる”。“他者の障害を取り除く”。偶然にもこの二つは、“戦うというのはどういう事か”っていうのと“守るために必要なもの”に共通する。そして、この答えが示してるのは、肉体と精神なの。」

 

「肉体と、精神……」

 

「“他者の支えになる”は精神を救う。“他者の障害を取り除く”は肉体を救う。どちらか片方でも出来ていれば、それは“他者の力になる”事なんじゃないかな。」

 

「───」

 

私はジャルタさんの手を握る。

 

「復讐者だからって、復讐しか出来ないとは限らない。狂戦士だからって、戦うことしか出来ないとは限らない。常識に囚われちゃいけないよ。貴女は貴女の守るために必要な力を見つけて───貴女が思う戦いをすればいい。戦うといっても、物質的な力を振るうだけじゃないんだから。」

 

「───戦うといっても、物質的な力を振るうだけじゃない…」

 

「……現に私なんて、サーヴァントさん達をよく見て、補助し、支えるのが私の戦いだからね。…まだ私は弱いから。アマデウスさんも、音楽を弾くのが戦いだから…ね。」

 

「……そう、ですか」

 

「強くなりたくても、焦らないで。…強くなりたいっていうなら…一緒に強くなろう。何かを守るための力を、自分の戦いを。一緒に、ゆっくりと探していこう?」

 

「……はい。ありがとうございます、マスター。」

 

そのジャルタさんが浮かべた表情は、何か吹っ切れたような表情だった。

 

「…うん。もう大丈夫だね。ちゃんと休んでね?休むことも戦いだし、修練なんだから。」

 

「はい。」

 

「それじゃあ、今日はこれでおしまい。部屋に戻ろっか。」

 

「…マスターは、先に行ってください。私は、少し考えを纏めようと思います。」

 

「ん。それじゃあ、先に失礼するね。」

 

そう言って、私はシミュレーションルームの扉の前に立った。

 

「マスター。」

 

「ん?」

 

私はその声に振り向く。そこには、晴れやかな笑みを浮かべるジャルタさんの姿があった。

 

「…貴女の力になります。絶対に。どれだけ時間がかかろうと、私は私の戦いを見つけてみせます。」

 

「……うん。期待してるね、ジャルタさん。」

 

そう言って、私はシミュレーションルームから出た。

 

「……終わったの?」

 

シミュレーションルームのすぐ外にいたのは、ナーちゃん…ナーサリー・ライム。すぐに私は頷く。

 

「…うん。ジャルタさんは、もう大丈夫。」

 

「よかったわ。とっても心配していたの。」

 

「…そっか。」

 

私はそのままナーちゃんと一緒に食堂の方へと向かった。




さて、次回はどうなりますかね……

裁「そろそろ第二特異点入るんでしょ?」

幕間も後1話かな……


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第74話 新生

データベースソフトがほしい……やることがキャラクター達の一括管理だけど…

裁「Excelは?」

私のPC、office使えない……


所長室。

 

オルガマリー・アニムスフィアの自室でもあるその場所に、2つの人影があった。

 

「調子はどうですか、オルガマリーさん。」

 

1人は編纂者───ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ。新大陸調査団の編纂者の1人であり、ルーパス・フェルトの相棒にあたるキャスターとハンターの複合クラスを持つサーヴァント。

 

「……調子がいい……と言いたいところだけれど、そうは言えないわ。紙の身体というのも不便なものね。生きているだけいいのだけれど。」

 

もう1人は当然、オルガマリー・アニムスフィア。編纂者の宝具によって命を救われた、本来ならば既にこの場に存在しないはずの者。

 

「あはは…すみません。私の宝具の本質は“記録”と“伝達”ですし、肉体の無い魂に肉体を持たせるには紙を媒体にするしかなかったんです。」

 

「怒ってなんかないわよ。レイシフトは出来ないけれど、リッカ達を支えられるのならいいわ。」

 

「擬似的に転送することはできそうですけどね。…やっぱり、紙の肉体は不便ですか?」

 

「生活に支障はないけれど……やっぱりお風呂に入りたいわ。といっても、どうにもならないのでしょうけれど……」

 

そう言ってオルガマリー・アニムスフィアがため息をつく。

 

「……では、新生してみます?」

 

「……新生?」

 

編纂者は頷いて、アイテムポーチから金色のカップを取り出した。

 

「……それは…聖杯」

 

「英雄王から預かったものです。預かった、というか貰ったというか…“貴様が使いたいように使うがいい”って言われたものです。」

 

「……そう。」

 

「オルガマリーさん。そんな状態にした私が言うのもおかしいと思いますが言わせていただきます。この聖杯を使って、新生───というか、新たな身体を得ませんか?」

 

「…できるの?死者蘇生は出来ないんじゃ……」

 

「英雄王曰く、生きた魂があるならば聖杯を使用した肉体の再構築はできるらしいですよ。英霊の受肉と同じような状態なのだとか。」

 

「……いいの?」

 

その問いに、編纂者が首をかしげる。

 

「聖杯を…私に使って、いいの?仮にも私は貴女の使い魔なのに。」

 

オルガマリー・アニムスフィアが編纂者の使い魔。それは、編纂者の宝具とオルガマリー・アニムスフィアの関係が原因だ。

 

覚えている人もいるかもしれないが、オルガマリー・アニムスフィアという存在そのものは編纂者の持つ本の中にある。編纂者の持つ本を英霊の座とし、今ここにいるオルガマリー・アニムスフィアをサーヴァントと仮定すると、その本を持ち、オルガマリー・アニムスフィアを呼び出すことのできる編纂者はマスターのような立場にあるのだ。現にオルガマリー・アニムスフィアの肉体となっている紙を維持する魔力を保っているのは編纂者だ。サーヴァントのサーヴァント、と言うのもおかしい気はするが、ハンターのサーヴァントのクラススキルである、“自立魔力”が自分のマスターに負担をかけずにオルガマリー・アニムスフィアのマスターとなることが可能になっている。

 

閑話休題。

 

編纂者はそのオルガマリー・アニムスフィアの問いにすぐに頷いた。

 

「“オルガマリーさんの幸せを。”それが、今の私の願いですから。」

 

「そう……」

 

そう言って、オルガマリー・アニムスフィアが聖杯を受け取る。

 

「……どう願えばいいのかしら。」

 

「さぁ…生きていたい、とかで良いのではないでしょうか。でも、永遠に生きていたいとかはダメですよ?流石に。」

 

「流石にそれはやらないわよ……そうね。」

 

オルガマリー・アニムスフィアは少し考えてからその望みを言葉にした。

 

「───リッカやセリア、マシュやロマニ……皆と共に、これからも生きていたい。」

 

その望みが受け入れられたのか、金色の光がオルガマリー・アニムスフィアを包み込む。

 

「……暖かい魔力ね。」

 

「未だ私は魔力等がよく分かってませんが……凄い力を感じます。」

 

「キャスターのサーヴァントなのに魔力が分からない…どんな矛盾かしら。魔力を知らない人間をキャスターに当てはめるなんて、どんな考えを持ってるのかしらね、世界は…」

 

話しているうちに金色の光が収まり、オルガマリー・アニムスフィアの姿が現れた。

 

「……どうですか?」

 

「……魔力に違和感は感じないわ。ただ……少し視点が低くなったような……?」

 

「……?調べてみますか?」

 

「お願いしてもいいかしら。」

 

編纂者は頷き、自分の持つ本を開く。

 

「ん…と。オルガマリー・アニムスフィア……ありました。」

 

「…本当にその本どうなってるのよ」

 

「さぁ……?えっと……とりあえず、身長は以前と変わりませんね。」

 

「なら気のせいなのね…」

 

「魔術回路は魔力量の数値が跳ね上がってますね。」

 

「恐らく聖杯と一体化したからかしら。私の中に聖杯の魔力を感じるわ。」

 

「そうですか…後……は」

 

編纂者の言葉が不自然に止まった。

 

「どうしたの?」

 

「……肉体年齢が若返ってます」

 

「え?」

 

「20歳にまで肉体年齢が若返ってます。はい。」

 

「……調子がいいのはそれが理由かしら。でもどうして……」

 

「恐らくですが、リッカさんと“共に”生きていたいと願った影響かと。元々近かったのでしょうけれど、更に年齢を近くしたのでしょうね…」

 

「そういうこと……」

 

オルガマリー・アニムスフィアは立っているのが疲れたのか、近くにあった椅子に座った。

 

「……そういえば、魔力パスはどうなっているのかしら」

 

「オルガマリーさんとの繋がりを感じるのでまだ存在はするようです。必要ないならば切断しますが……?」

 

「…いいえ、残しておきましょう。いざというとき、何かに使えるかもしれないわ。」

 

「わかりました。それでは私は失礼しますね。」

 

「えぇ───本当に、ありがとう。ジュリィさん。」

 

「……お礼を言うならば英雄王とミラさんに。私はオルガマリーさんの魂を回収しただけですから。」

 

そう言って編纂者は所長室から出ていった。

 

「……ギルとミラさんに、か。それでも、ジュリィさんがいなければ私はここにいなかったはずよ。だから、ありがとう。別世界から訪れた編纂者───ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ。」

 

その言葉は、誰にも聞かれることはなかった。




ということでオルガマリーさんは無事に肉体を得ました。この後、早速お風呂に入りに行ったようです。

裁「そっか…」

さて、次回から第二特異点……ですかね。


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第二特異点 永続狂気帝国セプテム 定礎復元
第75話 夢での邂逅


……ん?

裁「どうしたの、マスター?」

…なんで星見の観測者のところにリッカさんの魂が……ちょっと見てくる

裁「あ、うん……」

?「待って、お母さん!」

……正のアーチャー?

正弓「正のアーチャーって……いや私確かにアーチャークラス適性だけど。まぁいっか、真名隠しは入れておかないとだし。これ…星見の観測者さんに渡してくれる?」

……ん、分かった。じゃあ飛んでくる

正弓「行ってらっしゃい~」


「───ふむ。1の欠片は突破したか。」

 

声がする。私には聞いたことがない声…だと思う。少なくとも、カルデアの人たちの声ではない。

 

「運命を覆すか、否か───どちらにせよ、私にも強く関わってくるだろう。」

 

その声に対し、私はいつでも攻撃を仕掛けられるように指輪に魔力を通す。

 

「ところで───いつまでそうしているつもりだ?こちらは既に、君の意識が戻っていることは把握しているというのに。」

 

その言葉に、私は目を開けて身体を起こす。気がつかれているのなら寝たふりを続ける意味はない。

 

「……ここは」

 

私の目に飛び込んできたのは満天の星空。…私が構築した異空間の中に、こんな場所は存在しない。

 

「目覚めたか、藤丸リッカ。」

 

その声のする方向を向くとフードを被った人物がいた。

 

「貴方は……?」

 

「それは君が後に知ることになることだ。今は知るべきことではない。」

 

……なんとなく、私の直感も反応していた。これ以上、この人について追及してはいけないと。

 

「……なら、1つだけ聞かせて。ここは一体?」

 

「ここは、君の夢の中。今の君からすれば、この場所は君が通る未来の1つ。君は夢を通じてこの場所に来たのだ。」

 

未来の1つ……追及してはいけないのは、未来を知ることで未来を変える可能性があるから、かな?

 

「全ての欠片を突破するがいい。そうすれば、私は君の前へと姿を現すだろう。」

 

「……欠片?」

 

「既に、君の星の運命は定まっている。……が。いくつかの予測できない運命が存在する。ならば、それが未来を変える分岐点になるだろう。」

 

未来を変える───分岐。それは、特異点のことじゃ……

 

「過去を渡る者よ。未来に抗う者ならば、小さな予測不可能な可能性を掴み取るがいい。全ての行動は、君達と見守る者達次第だ。」

 

その男性がそう言った後、天の星が流れるように動く。

 

「……時間か。現実に戻るがいい、藤丸リッカ。次に会うならば、君が全ての欠片を突破し、未来を取り戻した後になるだろう。」

 

その言葉を最後に、私の意識は落ちた。

 

 

side 三人称

 

 

一人残された男性は溜め息をついてから後ろを振り向く。

 

「…何の用だ?今回は君に何かを言われるようなことをした覚えはないが。…そうだろう、創り手。」

 

そういうと、誰もいなかったように見えた場所から緑髪の少女が出てきた。この姿こそ、創り手たるLulyのキャラクターとしての姿である。

 

「……そんなのは分かってる。リッカさんの魂がここに飛んだから、見に来ただけ。」

 

「……君は、子供想いだな。」

 

「どうだろうね。今ここにいる私はともかく、現実の私はどうなんだろう。……それと、リッカさんは私の子供じゃないんだけど?…星見の観測者。」

 

「……何の用だ」

 

男性───星見の観測者は創り手へと問う。その言葉に対し、創り手は1つの箱を星見の観測者に渡す。

 

「…これは?」

 

「私の娘が作ったお弁当。星見の観測者に渡してほしい、って作った本人が。」

 

「私に食事は必要ないことは君もよく知っているだろう?」

 

「私に言わないでよ…教えてない私も悪いけど。…じゃあ、私は帰る。」

 

そう言って創り手はその場から消え去った。

 

「……旨いな」

 

星見の観測者は渡されたお弁当を食べてポツリと呟いていた。

 

 

 

side 藤丸 リッカ

 

 

 

目が覚める。そこは星空でもなんでもなくて、私の自室。歌声が、聞こえる。

 

「……夢、か。」

 

「♩~───あ、リッカ。起きた…というかもしかして起こしちゃった?」

 

部屋の中にいたのはルーパスちゃん。その近くに散らばるトランプ…そっか、確か昨日は確かルーパスちゃんと清姫さんとでカードゲームしてて途中で寝ちゃったんだっけ。

 

「ううん、大丈夫。……今歌ってたのは?」

 

「“トラベルナ”。カティ…私の友達がよく歌ってた曲なんだけどね。今の私なら日本語訳も作れるからできたら教えてあげるよ。本当は、カティがやった方がいいんだろうけどね。さ、早く準備しよ?」

 

私はうなずいて、外に出る支度をする。今日から第二特異点。気を引き締めないと。

 

「……ん、これでよし。おいで、フォウ君」

 

「フォーウ…」

 

……フォウ君ってよく私の部屋にいるけど、私が声かけると何故か怯えたような動きするんだよね。なんでだろう……?

 

「行こうか、ルーパスちゃん。」

 

「ん。」

 

私達は一緒に管制室へと向かった。




ただいま……

裁「おかえり…」

寝る

裁「えっ……ほんとに寝ちゃった」


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第76話 二度目の出撃

さてと、セプテム編開始ですね。

裁「結構時間かかってるけど大丈夫…?」

色々きつい。あと、ルーラーは知ってると思うけどちょっとあるかもしれない。


管制室。正式名、第一管制室だっけ。その場所で私たちはレイシフト前のミーティングが始まるのを待っていた。

 

「狩人よ~♪」

 

「何、ネロ?」

 

私に話しかけてきたのはネロ・クラウディウス。歌は二、三日徹底的に叩き直してなんとか聞けるようになった。

 

「次の行き先を聞きたいか?余が特別に教えてやらんでもないぞ?」

 

「次の行き先…?どこ?」

 

「ふっふっふ!では聞くがよい!次の行き先は華の都!西暦の始まるより前から今まで存在する永遠の都とも呼ばれる地の1世紀───古代ローマ帝国よ!」

 

「「「……へー」」」

 

「軽っ!軽すぎではないか!?もっとこう、歓声とかあるであろう!?」

 

「まぁまぁ、ネロ皇帝。ルーパスちゃん達はこことは別の世界の人間なんだ。もしもローマがなかったらどんな場所かも想像つかないんじゃないかな?」

 

「…むぅ。」

 

ドクターの言う通り。知らない場所に対して何か言えるわけないと思うんだけど……

 

「…それにしても、リッカさん遅くない?英雄王もだけど。」

 

ミラがそう呟く。私は確かに管制室にリッカと一緒に来たけど、そのあとオルガマリーに連れられてどこか行ったんだよね。

 

「カルデアの中にはいるだろうけどねぇ。」

 

「少し術式規模の大きい結界張ったから現時点ではカルデアの外に出ることは私以外出来ないよ。」

 

「……いつの間に」

 

「フランス…だっけ、そこから戻ってきたときに。」

 

戻ってきたときっていうと…9日前くらいかな。昨日特異点が見つかって、今日出発だし……

 

「……む、遅くなったか。すまぬ。」

 

あ、英雄王。

 

「「「「おはようございます、ギルガメッシュ王!」」」」

 

「うむ。総員、しっかりと休息はとったな?特異点の攻略中に過労で倒れるなど許さぬゆえ、攻略中も各自休息を挟め。特に医師と六花、貴様達だ。」

 

「へいへい……」

 

「あはは……うん、ちゃんと休むよ。それより、英雄王は今回のことは聞いているかい?」

 

「聖杯を探しだし、歴史を正す。フランスの地とやることはさほど変わらぬ。そうであろう?」

 

その言葉にロマンが頷く。

 

「その通りだ。マシュとリッカちゃんをルーパスちゃん達と一緒に護ってあげてほしい。」

 

「いや…それはどうであろうな。ルーパス、貴様はどうだ?」

 

「最低限の護りはするけど、そこまで。ほとんどの護りはマシュに任せるよ。信じてるし。」

 

「ルーパス、さん…」

 

「…と、いうことだ。そら、準備にかかれ!マスターが遅れることは承知済み、その遅れている間にレイシフトの準備を終えよ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「HEY、プレミアキング。それにハンターズ。」

 

そう言って声をかけてきたのはダ・ヴィンチ。…ねぇ、More Debanの看板って何か意味あるの?

 

「どうした、ダ・ヴィンチ。」

 

「これを渡しておくよ。」

 

そう言って渡されたのは小さな袋。

 

「これは?」

 

「愛弟子からの贈り物さ。受け取っておきなよ、何か良いことでも起きるかもしれないぜ?」

 

愛弟子───あぁ、オルガマリーのことか。確か身体が紙になってからはダ・ヴィンチの指導を受けてるって聞いたけど。聖杯の今でも受けてるんだ。

 

「あーあ…私も行きたかったな、ローマ。」

 

「貴様が前線に立つことは許さん。貴様がいなくなればカルデアの機構の中で貴様が手掛けるものが使えなくなると知れ。」

 

「分かってるさ、そんなこと。そら、そろそろ主役が来るよ?」

 

そう言った途端、管制室の扉が開く。…あ、スピリスがビックリして私に飛び付いてきた。

 

「遅くなりました、ギル、皆さん!」

 

入ってきたのはリッカとオルガマリー。リッカはなんか俯いてる…?

 

「よい、レイシフトの準備を終えるのには丁度良かった故な。して、何をしていた?」

 

「はい…私の魔術回路サブ30本、リッカに移植していました。」

 

「……ほう?」

 

魔術回路?

 

「これでカルデアから呼び、維持できるサーヴァントが9騎程にまでなったはずです。」

 

「ふむ。しかしよいのか?」

 

「……私には、聖杯がありますので。必要ないのならば、有効に使えるであろうリッカにと。……ただ───」

 

そこで少し言い淀む。

 

「ただ1つ、気がかりなことが。」

 

「申してみよ。」

 

「リッカの魔力です。先の特異点でご存じの通り、リッカはカルデアのサーヴァントを7騎同時に維持できるほど魔力が多いです。本来なら魔力量に応じて魔術回路の質が高い、もしくは魔術回路の数も多い…違いますね、魔術回路の数や質に応じて魔力量が多い───そのはずなのです。」

 

そうなの?

 

「ところが、リッカ本人の魔術回路はどれだけ調べても()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、()()()()()()()()。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───これはいったいどういうことでしょうか。」

 

「ふむ……魔力量と魔術回路の誤差、か───確かに気にかからなくもない。…が、今は保留にしておくしかないだろうな。」

 

今は特異点が優先。そう言いたいのかな。

 

「ふむ。マスター、動けるか?」

 

「……」

 

「リッカ?」

 

なんだろう……少し顔が赤い?

 

「………すごかった

 

???

 

「ギル、もう1つ。」

 

「なんだ。」

 

「この特異点の間に、私は師匠、メディア女史、六花の指導のもと、固有結界を会得する修行に入ります。」

 

「……ほう?」

 

固有結界───確か、六花が使っていた術。

 

「どういうつもりだ?」

 

「カルデアの補助と…エミヤさん達から聞いた、貴方の全力のために。特異点の現地攻略に役立てない分、こういった形でリッカ達をサポートします。」

 

「君の宝具は世界を切り裂くと聞いた。そんなものを特異点で用意なしに放てば特異点が消えてしまう。ならばそれを覆うようにして固有結界を展開する。六花が使っていたのと同じ方法で、固有結界の遠隔展開をするのさ。」

 

「俺の固有結界は特化しているものも多いからな。使い時は考えもんだ。」

 

「ふむ……だが良いのか?」

 

「構いません。リッカ達と共に生きていたいと願った以上、私が恐れているのはリッカやセリア、ロマニに六花…カルデアのメンバーを喪うことですから。」

 

そう言うオルガマリーの目は強い光を宿していた。

 

「…無理だけはするでないぞ。」

 

「ええ、分かっています。」

 

「…よし。ならばレイシフトを起動せよ!第二の特異点、攻略の開始よ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「行き先は1世紀ローマ、しかし特異点ゆえに何があるかは分からぬ!良いか、決して警戒を怠るな!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

「ミルド、貴様からも何か言え!」

 

「私に振らないでよ……」

 

小さくため息をついてからミラは口を開く。

 

「総員、自分の仕事を全力で!裏の仕事は表の力になる!いい、絶対に無理はしないこと!!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「裏方だからって疲労をためすぎないように!過度な疲労は予期しない障害を引き起こす!特にロマニさんと六花さんは要注意!長い時間休息をとろうとしなかったら全員で止めて!」

 

「「「「はいっ、王女様!」」」」

 

「私からは以上!」

 

「ならば行くぞ、メインサーヴァント達とマスターよ!」

 

その言葉に、私達はコフィンに入る。

 

〈アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します〉

 

フランスに行く前にも聞こえた声。近くから声が聞こえる。

 

「マスター、藤丸リッカ、行きます!」

 

「シールダー、マシュ・キリエライト───出陣します」

 

リッカとマシュの声。なら、私は───

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

「ハンター、ルーパス・フェルト───私の矢は古の龍も穿つ!人の歴史を壊した者よ、導きの青い星と呼ばれた狩人の力、思い知るがいいよ!」

 

全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証 を 開始 します。

 

……自分で言ってて恥ずかしくなってきた。




セプテム編なんですけど、いつものように平日投稿を続けられるか微妙になってきています。

裁「セプテム覚えてないの?」

ない。


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第77話 座標ズレと魚

うーん…

裁「…?」

ギルが全く復帰しない。大丈夫かな…


光の輪を抜けて、私達は草原に立っていた。

 

「……レイシフト、無事に終了しました。」

 

ということは、ここは1世紀…なんだね

 

「風の感触、土の匂い───どこまでも広い空。…映像で何度も見たものなのに、大地に立っているだけで鮮明度が違うなんて。」

 

「マシュは実際にこんな光景の場所に立ったことなかったの?」

 

「えぇ、まぁ……はい。ルーパスさんはあるんですか?」

 

「“古代林”って言われている狩猟地があってね?そこのエリア6と何となく似てる気がする。」

 

「そうなんですか…」

 

まぁ、現代にこういう風景ってあまりないもんね…

 

「…フォーウ……」

 

「フォウさん!?またついてきてしまったのですか!?」

 

「フォー、キャーウ……」

 

「今回も同行すると言ってるけど……移動が制限されてる中より自由に動き回れる外がいいんだって。」

 

「ん~……まぁ、いいのかな…?それより……」

 

私は空を見上げる。そこには、フランスにもあった光の帯。

 

「……なんなんだろう、あれ……」

 

〈───光の帯、ね………相変わらず解析はしてるんだけどね。全く正体が掴めない。〉

 

指輪からドクターの声が聞こえる。

 

「分からないならば今は気にする事はなかろう。」

 

〈……そうだね。ところで……あれ?そこはローマの都市じゃないよね?〉

 

「うん。完全に草原。」

 

〈おかしいな……ちゃんとローマに指定したはずなんだけど。〉

 

「多分、何かが原因で到着地点がズレたんですにゃ。上位クエストならよくあったことですにゃ。」

 

〈……うーん…まぁいいか。〉

 

「ドクター、時代の方はどうですか?」

 

確かに時代がズレていたら大変。直すものがない。

 

〈そっちは大丈夫だ、特異点のある1世紀───正確に言えば西暦60年で間違いはない。ローマ帝国第五代皇帝───ネロ・クラウディウスが統治する時代。設定した座標に降り立っているのなら、先年に皇太后アグリッピナを毒殺したとはいえ、今はまだ晩年のネロ危急の時代じゃない。工程が人々に愛されている時代の、繁栄の都ローマが……リッカちゃんたちを迎えるはずなんだけどね。〉

 

「…思いっきりなだらかな丘陵地帯です。羊がいないのが惜しまれるほどの。」

 

「ムーファとかいそうだよね。」

 

「あとはリモセトスやアプトノス…虫系だったらブナハブラやオルタロスもいるんじゃないかな…」

 

「う…虫かぁ…」

 

…あれ?

 

「ルーパスちゃん、もしかして虫苦手?」

 

「…うん。ハンターなんだけど、虫凄く嫌いなの…」

 

「にが虫や不死虫がいるというのにな…」

 

「嫌なものは嫌なのっ!クエスト中とか調合とかは基本的に何とかなってるけど…」

 

結構意外。ルーパスちゃんにも苦手なものってあったんだ。なんか言ったら失礼かもだけど、男の子みたいに外で元気に遊んでるようなイメージだったから。

 

「───む?」

 

「リューネ?」

 

「……何か、聞こえないか?」

 

リューネちゃんの言葉に私達は耳を澄ませる。

 

「フゥー!フォーウ!!」

 

「これは…戦闘音?それも足音の数と鉄を打ち合わせたような音の数から多人数。丘の向こうからだ。」

 

〈戦闘音、それも多人数だって?多人数戦闘とすれば…戦争か?…いや、それはおかしい。その時代、ローマ付近で本格的な話があったなんて言う話はない。〉

 

話がない、っていう事は───

 

「ふむ。それが歴史に起こった異常の一端、ということであろうよ。ならばやることは一つよ。」

 

私達はギルの言葉に頷き、その音の方へと走った。

 

 

 

走り始めて間もなく、二つの集団を視認する。

 

「あれは…間違いありません、戦闘中のようです。報告します、片方は大部隊、もう片方は極めて少数。意匠が多少異なりますが、大部隊小部隊共に“真紅と黄金”という色は共通しています。」

 

〈真紅と黄金は古代ローマで特に好まれた色彩だ。他に特徴は───っと!?〉

 

〈狩人!余だ、余がいるぞ!!〉

 

「うるさいっ!───って、え?」

 

ネロさんがいる?

 

〈少数の方だ!先頭に立つ者、あれは紛れもなく余!まさしくローマそのものである者!万能の天才にして至高の芸術!それこそがローマ帝国第五代皇帝───ネロ・クラウディウス!つまり余なのである!別に褒めてよいぞ?歓喜に震えてもよいぞ??〉

 

「いや私ネロのことよく知らないし。別世界の人間だからね。」

 

「そもそもローマとはっていうところから始まるからな。」

 

「地理は似てるけどローマっていう場所は私の世界にも無かったよ。」

 

うっわぁ…ルーパスちゃん達からの正論が…

 

〈ええい、そんなことは今はよいわ!それよりも見よ!余が押されている!〉

 

確かにネロ・ブライドさんの言う通り、若い女性が一人で敵部隊を相手してる。あの方面は…

 

〈早く救援に行かぬか!余がいるのは首都の方向!相手取っている敵共は首都の方へと雪崩れ込もうとしているように見える!〉

 

「───ドクター!この場所の名前は!!」

 

〈今調べる───出たぞ!“アッピア街道”、ボクらからすれば“アッピア旧街道”だ!〉

 

「アル、コンパス貸して!」

 

「あ、はい!」

 

アルがコンパス───羅針盤を出して私に渡してくれる。それに合わせると、ネロさんがいる方向はほぼ北西。もしここがアッピア旧街道のどこかだとするならば、首都ローマがあるのは確か北北西から北西にかけて。条件は、揃う。

 

〈それと、彼女にサーヴァント反応はない!正真正銘、この地に生きる人間だ!〉

 

「わかった───みんな、ネロさんの助太刀を…!」

 

「───了解。いくよ、ジュリィ、リューネ。」

 

「はいっ、相棒!」

 

「あぁ。」

 

ジュリィさんは大剣……大剣?を構え、ルーパスちゃんは双剣………うん?…リューネちゃんは槍を構える。……えっと。

 

「あの…ルーパスちゃん?ジュリィさん?リューネちゃん?」

 

「うん?」

「はい?」

「む?」

 

「…それ、何?」

 

多分、双剣みたいに構えてるってことは双剣なんだろうけど。……大剣みたいに構えてるってことは大剣なんだろうけど。…………槍…ランスみたいに構えてるってことはランスなんだろうけど。

 

「その魚…何?」

 

そう、全員持っているのが魚。ジュリィさんのは凍ってて、リューネちゃんのは剥製みたいになってる。…だけど。ルーパスちゃんが持ってるのってどう見ても───

 

「生きてる、よね?それ。」

 

ピチピチ跳ねてるんだよね。

 

「え───あぁ、“キレアジセーバー”のこと?」

 

「“キレアジセーバー”?」

 

「うん。この武器の名前。昔からある“ネタ武器”って言われる武器たちの一つだよ。外見だったり性能だったり、色々と笑えたりするものを総じてそう呼ぶの。基本的にデザイナーが遊び心満載で作ってたりするよ。ネタ武器専門で戦う人とかもいるくらい。」

 

へ、へぇ…

 

「ネタ武器、って言っても弱い物ばかりじゃないし。このキレアジセーバーだって鋭利───攻撃力280、水属性値330、精密───会心率5、最大通撃色───最大斬れ味紫っていうかなりの強武器だよ。」

 

「え…と、どれくらい強いの?」

 

「渡りの凍て地が見つかってなかった頃でカスタム強化無しの最終強化水属性双剣の1つが“ホーリーセイバー”の鋭利252、水属性値120、精密0、最大通撃色青。もう一つが“シュラムハチェットIII”の鋭利266、水属性値210、精密0、最大通撃色青だから…」

 

攻撃力が低めだけど属性がかなり高いんだ…

 

「僕が持っているのは“シャークキング”だな。鋭利230、水属性値480。精密は15の最大通撃色青。こう言っては何だが、魚系統は属性値が高いイメージが強いな。」

 

「それ。属性値がないボウガンはともかく、他は基本的に属性値が高い気がする。」

 

そうなんだ…あれ、じゃあジュリィさんのは…

 

「ジュリィのは“瞬間レイトウ本マグロ”ね。鋭利1152、氷属性値690、精密0、最大通撃色白。ちなみに最大痛撃色は良い順から空、紫、白、青、緑、黄、橙、赤。ま、空色武器なんて基本ないんだけどね。なんでか知らないけど近接武器───剣士型、って言うんだけど。剣士型のハンターはこの最大通撃色を瞬時に把握できるの。…って話し過ぎた。行くよ、ジュリィ、リューネ。非殺傷で。リミット・アップ」

 

「了解。リミット・アップ」

 

「はい。リミット・アップ」

 

リミット・アップ───そう告げると、ルーパスちゃんたちが緑色の光を纏った。緑色の光の発生源はこれまた緑色の指輪───っていうことはあれはお兄ちゃんが作った魔術礼装だね。なんでお兄ちゃんって指輪の形にしてるんだろ。

 

で、その後ルーパスちゃんたちは敵の集団の中に飛び込んで、その集団を撤退させた。所要時間5分とちょっと。凄い、って言ったんだけど、“いくらジュリィがいたからってモンスター相手じゃないのに5分針はねぇ…”って言われた。ちなみに5分針っていうのは5分から9分59秒までのことらしい。私には良く分からない。




“リミット・アップ”っていうのは攻撃の非殺傷化術式ですね。制限の強さを上げる……そんな感じで名付けてます。

裁「そうだったんだ…」

制限、リミッターを解除するのはリミッター・リリースかリミット・オープン、リミット・ダウンかな?フルリリース、フルオープンだったら全解除だけど。

裁「ふーん…」

あ、それと私はネタ武器好きですよ。ついでに言うと今のルーパスとリューネは95%くらいの確率でクエストを成功させます。

裁「残りの5%は…?」

100%になるのは流石に、って思ったのもあるけど、どんなハンターでも何かの判断ミスで三落ちすることはあるだろうからね。


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第78話 皇帝

弓「我、復活!」

あ、お帰り~オルレアン終わってるよ?

弓「なぬ……早速作業にはいる!」

無理はしないでね~…あ、UA17,000突破ありがとうございます


「よい!そこの者達、武器……武器?を納めよ!」

 

赤い衣装の女性───ネロさんがルーパスちゃん達にそう言った。……うん、やっぱり武器かどうか迷うんだね。凍ったマグロと生きた……生きた?アジと剥製のサメだもんね。ていうか生きた魚がそのまま武器になるってどういう発想?

 

「…して、もしや貴殿らは首都からの援軍か?すっかり首都は封鎖されていると思っておったが……まあ良い、褒めてつかわす。」

 

あ、カルデアの方のネロ・ブライドさんは隔離してもらってる。なんか話すとややこしくなりそうだし。

 

「例え、元は敵方の者であっても構わぬ。余は寛大ゆえに、過去の過ちくらい水に流す。」

 

敵方も何も……来たばかりと言えば来たばかりと少し言いたい。

 

「そして、今の戦いぶり評価しよう。少女達が身の丈程の獲物を振り回し、武器と思えぬようなもので兵を撃退する…些か謎な部分はあるが、倒錯な美があるといえよう。実に好みよ。よい、余と轡を並べ、戦うことを許す!至上の光栄に浴すがよい!」

 

……ねぇ、ずっと喋ってるけどいつ言葉挟めばいいの?私こういうの分からない……

 

『ねぇ、ルーパスちゃん。こういう時ってどういう反応すればいいの?』

 

『う、うーん……一応相手は王と同じような立場だし、従えばいいんだろうけど……初対面の人間から皇帝って言われても困るよねぇ…』

 

「……しかしその方ら、見慣れぬ姿よ。そこの者少女は少々見せすぎではないか?もしや、異国の者か?」

 

そう言うネロさんの視線はマシュに注がれていた。

 

『リッカさん、ここの首都って確かローマだよね?』

 

『え…うん。』

 

『分かった、ありがとう。』

 

ミラちゃん?

 

「……はい。私達は通りすがりの旅人。ですがローマにいた時にここの話を耳にし、貴女様の助力に馳せ参じた次第。私達の何人かは力や技に自信はありましたので。」

 

「ふむ……ブーディカあたりの者ではないと。しかしこの勝利は余とお前達のもの、たっぷりと報奨を与えようではないか!」

 

と宣言してから、ネロさんは少し微妙な表情になった。

 

「…あ、いや……すまぬ。つい勢いで約束してしまった。全てはローマに帰ってから故な。今はこの通り、剣しかもっておらぬ。」

 

「それでは私達は貴女を護る盾と剣となりましょう。幸いというべきか、こちらには攻撃防御ともに優れた者達がいます。それはそれとして、貴女様のお名前をお聞かせいただけませんか?こちらが名を呼ぶのに不便です。」

 

「む……それもそうであるな。聞くがよい!余こそ真のローマを守護する者。まさしく、ローマそのものである者。必ずや帝国を再建して見せる、そう神々・神祖・自身───そして民へと誓った者!!」

 

……引っ掛かる。真の、ローマ?

 

「余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、“ネロ・クラウディウス”である───!」

 

ネロ・クラウディウス。本名、“ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス”───ネロ・ブライドさんの言っていた通り、この赤い衣装の人はネロさんだった。

 

 

───ところで、あとでミラちゃんに聞いたけど、あの話し方はミラちゃんのお母さんに対して民の人達が使っていた言葉遣いなんだって。なんか覚えたらしい。




裁「時間かかってるね…」

なんとかできてるけどね。


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第79話 伯父

そういえば皆さんってモンスターハンターRiseの追加されたモンスター達ってもう狩りに行ってます?

裁「マスターはまだなんでしょ?」

うん。


「…ルーパス、3時方向、並びに2時方向から足音が接近中。先頭の距離おおよそ400m。さらに後ろからもくる。」

 

「了解、こっちでも視認した。意匠はネロのものと違うから、敵だと推測。セット、狙撃弾Lv.1───非殺傷で撃ち抜く。」

 

そう言ってルーパスちゃんとリューネちゃんが遠くの敵を殲滅───殲滅?していく。

 

「───命中、次。」

 

「───なんと、余達の出番がないとは。」

 

ていうかリューネちゃんの聴力どうなってるの……?ほぼほぼソナーレベルじゃない?聴こうとすれば1km聞こえるって言ってたし。

 

「───命中───」

 

「……しかしリッカよ。貴殿らは未来からの旅人ということとな。消された未来を取り戻すために過去を遡るとは、なんとも難しい問題に悩まされていることよ。」

 

「えぇ……ミラちゃん達はそもそもこの世界の人間ではないので、この世界の未来なんて関係ないはずなんですが…どうしてか手伝ってくれてるんです。」

 

「ふーむ……」

 

あ、ちなみにジュリィさんはフランスの時と同じで、地図を作りに行ってる。ミラちゃんはルーパスちゃん、リューネちゃん、スピリスさん、ルルさん、ガルシアさんと一緒にタマミツネのミチさんに乗って索敵、攻撃の補助。その他のメンバー…ネロさん、私、マシュ、ギル、アルは同じタマミツネに乗って着いていってるだけ。こっちのタマミツネさんは“ミツル”っていう名前で男の子らしい。ミチさんは女の子。ルーパスちゃん達が驚いていたけど、ミラちゃん曰く、ミチさんは男の子に近い容姿で生まれた女の子なんだって。男装女子、って感じかな?ごくごく稀にあるらしい。

 

「ま、ハンター達にとってこの世界は護る対象なのかもしれないな。……ん?」

 

「レンポくん?」

 

不意に、レンポくんが私達の向かっている方とは別の方を向いた。

 

「……この強い森の力の気配……ミエリ?」

 

え…?そう思ったとき、直感が反応する。

 

「全員に警告、前方300m、1名急激に接近中!撤退する素振りを見せないことから恐らくサーヴァント……!」

 

「強大な魔力反応を検知!サーヴァントで間違いない!ミチ、ミツル、停止!」

 

「恐らくクラスは狂戦士───だめ、こっちにまっすぐ向かってくる!まもなく肉眼での基本視認可能距離に入るよ!」

 

〈こちらでも観測しました!サーヴァント、バーサーカー!距離120、想定10秒にて接敵(エンゲージ)!〉

 

その言葉で私達に緊張が走る。同時に2匹のタマミツネが停止する。私達はタマミツネ達から降りて、戦闘態勢を整える。

 

「───ウォォォォォ!!」

 

その一瞬で姿を現す、そのサーヴァント。その相手を見た瞬間、ネロさんの表情が一瞬強張ったのを、私は見逃さなかった。

 

「───我が、愛しき、妹の子、よ。」

 

「伯父上……!」

 

伯父───ネロ・クラウディウスの伯父!確か───

 

「いいや、今はあえてこう呼ぼう。如何なる理由かさ迷い出でて、連合に与する幻影───“カリギュラ”!!」

 

『リッカ、誰?』

 

『“ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス”───カリグラ、もしくはカリギュラの名前でよく知られている人。第3代ローマ帝国皇帝で、ネロさんのお母さんである小アグリッピナ───全名“ユリア・アグリッピナ”のお兄さん。……実は地味にこのあたりの人間関係とかは黒いからあまり話したいことじゃないかな……気になったらカルデアの図書室とかで調べて…』

 

『え…うん。』

 

地味に歴史の奥深くって黒いことあるんだよね……今回の場合はカリギュラとアグリッピナ、ドルシッラ、リウィッラ……もっとも、伝承があってるのか知らないけど。

 

「余の───余の、振る舞い、は、運命。捧げよ、その、命。捧げよ、その、体───すべてを、捧げよ!!」

 

〈リッカちゃん、その時代最初のサーヴァント戦になる。大丈夫かい?〉

 

ドクターの言葉に頷く。

 

「ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃん、ルルさん、スピリスさん、ガルシアさんは1度退避。少しでいいから休んで欲しい。」

 

「ほう……?」

 

「え……うん、分かった。」

 

「ネロさん、大丈夫です?」

 

「む……心配ない。例え伯父上であろうと、余は逃げぬ!」

 

「マシュ、準備は出来てる?」

 

「はい、先輩。いつでも、行けます。」

 

「アルは私達の背後を一応。私はいつもみたいに状況判断に徹する───私にはそれしか、出来ないからね。」

 

「───マスター」

 

マシュが何かを言いたそうにするけど、私は首を横に振る。だって、事実だから。

 

「ウウォォォォォォ!!!」

 

「───来るよっ!三人とも!」

 

「戦闘開始───行きます、先輩っ!」

「伯父上───貴方はどこまで───!」

 

ネロさんとマシュが、カリギュラさんとぶつかる───




狙撃弾っていうのは普通にスナイパーライフル弾だと思ってください。

裁「唐突な新要素……」

たまに新要素出るからね、この作品。…にしても、ギルはまだ出てこないのね…

裁「うん…」


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第80話 マスターとして戦う

うーん……うまく行きませんでした

裁「うまく行かなかったのね……」


「ネロォォォォォ────!!!」

 

「く───!」

 

カリギュラさんの乱打をネロさんが剣で捌く。私は宣言を止め留めたまま、そのタイミングを測る。

 

「すべてを───」

 

「───“瞬間強化”っ!」

 

カリギュラさんが大きく振りかぶった瞬間に私はスキルを宣言する。対象の指定は先に終えているから、即座に発動する。スキルの対象は、ネロさんだ。

 

「っ!」

 

「───捧げよ!」

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

 

スキルの後押しもあってか、ネロさんの剣とカリギュラさんの拳が拮抗する。

 

「ぐ……!」

 

「ネロさんっ!」

 

「……!ふっ!」

 

ネロさんは剣を傾け、カリギュラさんの体勢を崩す。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

空中からマシュが雄叫びをあげながら盾の先を叩きつける。

 

「ぐぅっ…!すべて……!すべてを──!!」

 

「落ち着いて───せぁっ!」

 

その盾を二度振り回し、その後に体重をかけるかのような二連撃。ネロさんは後ろに退避している。

 

「あれは……“飛円斬り”、か?」

 

「すべてを──!捧げよ!!」

 

「───っ!」

 

マシュは盾の先を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で跳躍する。

 

「そこですっ!」

 

そのまま高いところから盾の先端をカリギュラさんに突き刺す。

 

「ぬぐっ!」

 

「“急襲突き”───あれって、もしかして操虫棍の立ち回り…?」

 

「盾で操虫棍とは一体……マシュ殿本人が身軽なのだろうな。」

 

「鎧とかで重そうだけどねぇ…」

 

「それは僕たちも同じだろう。アロイやインゴットは特にだが。」

 

「……そだね」

 

ルーパスちゃん達の話からして、あの動きは操虫棍っていう武器の動き方らしい。……盾だけど。

 

「ウォォォォォ!!」

 

「さっきから疑似咆哮うるさいね~…」

 

「そうだな……」

 

カリギュラさんの攻撃がマシュに向かう。

 

「───!」

 

マシュはそれを正面から受け止め、後ろに足を置いて支えとする。

 

「盾は受け止めるだけに在らず───」

 

「捧!げよ!」

 

カリギュラさんが盾を越えてマシュに飛びかかってくる。それに対し、マシュは盾を利用してカリギュラさんよりも高く跳ぶ。

 

「ぬっ!?」

 

「盾は防御だけに在らず───!ルーパスさん直伝、“フォールバッシュ”ッ!!」

 

「いやそれ片手剣の技っ!!」

 

そのまま高いところからマシュが盾でカリギュラさんを押し潰す。

 

「ぬお………」

 

「……ルーパス、片手剣教えたのか?」

 

「いや……盾を使う技を教えて欲しいっていうから一応片手剣からシールドバッシュとフォールバッシュ見せただけなんだけど……」

 

「……片手剣のフォールバッシュにしては威力高すぎないか」

 

「まぁ操虫棍の跳躍と組み合わせればねぇ…フォールバッシュと急襲突きを合わせたようなものだろうし……」

 

「実際盾って威力それなりに高いしな…それにマシュ殿が使っているのは片手剣の小さな盾じゃなく、それこそランスなどで使われるような大きな盾だ。……というかアレ、加工したらチャージアックスになるんじゃないか?」

 

「……あー……なりそう。」

 

加工するつもりなのかな……?

 

「あっちだったら武器のデザイナー呼びたいね。多分作ってくれるよ。」

 

「武器のデザイナーか……あちらに帰れたら依頼してみようか。」

 

「そうだね」

 

そんな話を聞いていると、指輪からドクターの声がした。

 

〈これは……!リッカちゃん、気を付けてくれ!君たちのいる方に人間の反応が接近中だ!〉

 

「…マスター」

 

「アルは控えてて───」

 

私は左手を前に出した。

 

「我、契約を結びし者。契約のもと、我が声に応えよ。汝、過去に生き、未来を望むならば我が力となれ。我は未来を望むもの、破壊された未来を取り戻さんとするもの。汝、未来を取り戻さんとするならば───未来を破壊した者を許さぬとするならば───!!」

 

詠唱が完成に近づくにつれて周囲の魔力が高まっていく。

 

「終わりの天文台より今こそ来たれ、我が声と我が心の叫びに応える者よ───!!」

 

詠唱完成。同時に、強い魔力の反応が現れる。

 

「───ふふふ。思わず応えてしまったけれど、あたしでよかったのかしら?」

 

「ナーちゃん───」

 

「でも、応えたからには頑張るわ。」

 

応えてくれたのは“ナーサリー・ライム”───ナーちゃん。少しだけ苦手意識持ってたんだけどしばらくしたら大丈夫になった。

 

ちなみに今の詠唱はこちらから誰かを措定して呼ぶんじゃなくて、カルデアの方からそのサーヴァントの意思でこちらに来るっていう詠唱術式ね。

 

「───全て───すべて、捧げよ!!」

 

カリギュラさんは怯みが終わったみたいで、ネロさんに襲いかかっていた。

 

「───氷の壁よ。」

 

「───ぬ!?」

 

「即座に凍てついて───風刃を。」

 

ネロさんの目の前に氷壁。そこに殴りかかったカリギュラさんの手が氷に囚われる。さらにその囚われたカリギュラさんに風の刃が襲いかかる。

 

「───マスター。ジャンヌ・オルタを呼べるかしら?」

 

「え…」

 

アリス(あたし)の術は火が弱いの。だって火はアリス(あたし)じゃなくてありす(あたし)の術だもの。アリス(あたし)が使うのは氷と風。ありす(あたし)が使うのは火。今のアリス(あたし)なら火も使えるけれど、ありす(あたし)の火には及ばないし威力も低いわ。火を使うなら、アリス(あたし)じゃない方がいいの。お願いできる?」

 

「……分かった。来て、“ジャンヌ・オルタ”!」

 

その言葉に応じて、その場にジャルタさんが召喚される。

 

「………私で、いいの?」

 

「あたしが貴女を呼んでもらったの。マスターの力に早くなりたいのなら、実践を積むのが一番よ?」

 

それには同意だから私も頷く。

 

〈人間の反応がもう近い!もう視認できるぞ!〉

 

「あれは───連合帝国の旗!連合帝国め、余が足止めを食らっていると知って追撃に来たか!!」

 

「ネロォォォォォ!!」

 

「ネロ、だったかしら?貴女はそちらに集中しなさいな?人間の方はあたしとオルタが足止めをするわ。」

 

「アンタ───私はまだやるなんて───!」

 

「やらないと強くもなれないわ。まだワイバーン18体に苦戦しているでしょう?今の貴女なら相手にするのは人間で十分よ。」

 

「───」

 

「早くしなさいな。敵の数は多いの。油断していると、こちらに押し込まれてしまうわ!」

 

実際、サーヴァントさん達の中でジャルタさんを一番気にかけてくれてるのってナーちゃんなんだよね。

 

「この……!」

 

「ふふ……変身するぞ、変身したぞ。俺はおまえで、おまえは俺だ───こっちの方が動きやすいかしら?」

 

そう言ってナーちゃんがなったのは白髪ショートヘアの女の子。服装も変わって、黒い長袖に黒いスカート。スカートはドレスみたいな感じじゃなくてフレアスカートのひざ丈───いやフレアスカートって確か動きにくくない?結構ふわふわするからそのまま蹴り上げとかしたらスカートの中見えるよ?…確か。

 

「───えいっ!」

 

ナーちゃんは一瞬で相手に接近して一撃。

 

〈キャスターなのに物理殴打ってどういうことです……〉

 

いそうだけどね、殴るタイプのキャスター…

 

『あたしの本質は絵本だから、姿を変えたとしてもそこまでの力は出せないわ。現に今だってそこまでの威力は出ていないの。』

 

『絵本……』

 

『絵本というものにマスター達が好きな戦闘ものっていうのはないでしょう?この姿はただのイメージで組み上げたもの。もしもありすが近接戦闘をしていたら───そんなあり得たかもしれない可能性、かもしれないわ。』

 

可能性、か……

 

『マスター?もしかしたらあたしとオルタの二人がかりでも分が悪いかもしれないわ。そのときはもう一人───そうね。無力化できるような人がいいかしら。』

 

無力化できるような人、か───

 

「おいでませ、トランプで出来た兵士達!」

 

ナーちゃんがトランプで出来た兵士を召喚する。その数、約40───

 

〈トランプ兵───“ふしぎの国のアリス”ですか。彼女は“ナーサリー・ライム”、本来固定した姿を持たない彼女の姿形の大本になったのはもしかして“ふしぎの国のアリス”なのでしょうか……〉

 

ルナセリアさんがそう呟く。その間にそのトランプ兵は人間の兵士達に倒されていく。

 

「なによこいつら……!弱いだけで使えないじゃない!」

 

「越えて越えて虹色草原───白黒マス目の王様ゲーム。走って走って鏡の迷宮───」

 

そういった途端、ナーちゃんから魔力が溢れる。

 

「───みじめなウサギはさよならね。物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すように───あるいは二巻目を手に取るように。」

 

〈なんだ、これは……!?宝具反応───ナーサリー・ライムを中心に時空間が歪んでいる!?〉

 

え……?

 

「その読み手が、現実を拒み続ける限り───さぁ、もう一度最初から、始めましょう?───“永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)”───」

 

その途端、相手の兵士達が吹き飛ばされ、トランプ兵が全員生き返るのが見えた。

 

「な───」

 

〈トランプ兵───完全回復!?一体、どうやって───〉

 

「───時間の巻き戻し」

 

アル?

 

「アルターエゴの言う通りよ。彼奴は自身とトランプで出来た兵士の時間を巻き戻した。それこそ詠唱に在ったように、“一頁目に戻すように”な。やろうとすれば世界そのものを巻き戻すことも出きるであろうよ。」

 

そんな宝具が、ナーちゃんに…

 

〈しかし…押されているね。数の差かな?〉

 

「…無力化。ルルさん、無力化って言ったら何が思い付く?」

 

「無力化ですかにゃ?にゃら、睡眠とかはどうですにゃ?」

 

「睡眠───なら」

 

心当たりがある───わけでもないけど、その人を呼ぶことに決める。

 

「お願い、“アマデウス・ヴォルフガング・モーツァルト”!!」

 

私の声にアマデウスさんが召喚される。

 

「───ここで僕なのかい!?通信聞いてたけど睡眠なんて適任がいるだろう!?一体何をさせようっていうのさ!」

 

「睡眠に導く子守歌───眠りに誘う旋律。相手は1人じゃなくて大人数───なるべく即効性のある睡眠導入旋律をお願いできる?」

 

「───そういうことか。止まらないなら眠らせろ。サーヴァント単体ではなく、ここに向かってくるあの兵士も巻き込めと。なるほど、対単体のアサシンとかには不利か。いいだろう、リクエストにお答えしようじゃないか。」

 

その対単体のアサシン、って十中八九対象を殺さない?それは睡眠は睡眠でも永遠の睡眠だよ?

 

「さぁ───聞くがいい、天才の旋律を!」

 

「全状態異常無効くらい吹いておこうっと…」

 

アマデウスさんが指揮棒を振るい始めると同時にルーパスちゃんが笛を吹く。……え、そんな旋律あったの?

 

「そこは強く……そこは弱く。さぁ、君を誘う眠りに溺れるがいい。」

 

「すべて……を……ささ……げ、よ……」

 

一番近くにいたカリギュラさんがまず落ちる。

 

「…あら?眠ってしまったのだわ。」

 

「……そうね」

 

続いて敵兵の人達も眠ったみたい。

 

「……ふぅ。こんな感じでいいかい?」

 

「ありがと、アマデウスさん。」

 

「別にいいさ。じゃあ僕は帰るよ。」

 

そう言ってアマデウスさんは戻っていった。次いで私は旗を支えにして立っているジャルタさんを見る。

 

「お疲れ様、ジャルタさん。」

 

「お疲れ様……ですか。雑魚に手こずる私に対しての嫌味ですか?」

 

「嫌味?」

 

私は首を傾げる。

 

「嫌味以外の何物でもないでしょう?先程の睡眠───あれがあれば私を呼ぶ必要なんてなかったはず。無様な姿を見せただけではないですか。」

 

「……うん。そうかもしれない。だけどね、ジャルタさん。人っていうのは基本的に最初は弱いものなんだよ?」

 

「……」

 

「それに、勝ったでしょ?それだけで大丈夫だよ。」

 

「…勝った、ですか……」

 

「生きていれば勝ったも同然。勝てば生きる、負ければ死ぬ。自然というものはそういうもの───そうなんだよね、ルーパスちゃん。」

 

その言葉と同時に振り向くと、ルーパスちゃんが頷いた。

 

「今はまだ弱くてもいいんだよ。言ったでしょ?一緒に強くなろうって。」

 

「……はい」

 

「…ん。じゃあ、カルデアに戻ったらゆっくり休んでね。休息も鍛練の内、ってね。」

 

「……はい。失礼します。」

 

そう言ってジャルタさんはカルデアへと戻っていった。

 

「…あたしも戻らなくちゃ。オルタが心配よ。」

 

最後に来たのはナーちゃん。黒いドレス姿に戻ってる。

 

「ジャルタさんのこと、ありがとね、ナーちゃん。」

 

「ふふふ、なんでかしら、気になるの。じゃあ、失礼するわね?」

 

そう言ってナーちゃんもカルデアへと戻っていった。

 

「……さて。後の問題はカリギュラさんだけど。その前に……」

 

私は衣装替えの指輪を起動させる。

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・魔術協会制服”、主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体回復”。」

 

それによってマシュとネロさんの傷が癒える。

 

「おぉ……すまぬな、リッカよ。」

 

「いえ…」

 

そう言った瞬間、カリギュラさんの姿が掻き消えた。

 

「ぬっ!?伯父上が消えた!?」

 

〈霊体化による離脱ですか……睡眠中に出来るようなことじゃないと思いますけど、反応が遠ざかっているのは事実ですね。〉

 

〈ただ、バーサーカーができることじゃない気がする……まさか、マスターがいるのか?〉

 

ルナセリアさんとドクターが声を発すると、ネロさんが怪訝そうな表情をした。

 

「む?先ほどから声はするが姿は見えぬ男と女がいるな。魔術師の類いか?」

 

〈私達のことは補給部隊とでも思っていただければ。〉

 

「そうか……よし、ローマへと行くぞ!」

 

「ミチ、ミツル、お願い。」

 

ミラちゃんの言葉でタマミツネ達が私達が乗れるように体勢を低くする。それに私達が乗ると、ローマの方に向かっていってくれた。




ちなみにナーサリーさんの近接化は適当に組んだものです。

弓「ふ…そうで…あったか」

ギル───!?

弓「あの程度軽い……数倍は持ってくるがいい…!」

何言ってんのこのバカ!正のアーチャー!

正弓「ん~…ってえっ!?」

ギルの治療お願い!

正弓「え、あ、うん!何してるんですかギルガメッシュさん……!」


ギル:剣が刺さって出血中


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第81話 ローマ

うー……お腹痛い

裁「大丈夫……?」

多分


ローマ。

 

イタリアの都市で、約3000年に渡って芸術、建築、文化の面で影響を与え続けている広大な国際都市。カトリック教会の中枢にしてその美しさから“永遠の都”と呼ばれる場所───それがローマ。私が知っている情報。

 

「どうだ、金の王よ、白き姫よ!余のローマはいいであろう?」

 

「白き姫って……どうにかならなかったのです?」

 

「ふ、王女というものは姫であろう。違うか?」

 

「違わないけど……一応第一王女だしいいんだけどさ…なんか……うん、いいや。」

 

あ、ミラちゃんが諦めた。

 

「先輩……凄いです!人々が活気づいてます!」

 

「で、あろう?余のローマであり、世界最高の都であるからな!…む、店主。この林檎をひとついただくぞ。」

 

「へいらっしゃ───あぁ、皇帝陛下!どうぞどうぞお持ちください!陛下とローマに栄光あれ!」

 

「そう畏まらずともよい。…うむ、これはうまい林檎だな。金の王に白き姫、そしてリッカにマシュ、狩人達もどうだ?少々行儀が悪いが気にするでない。戦場帰り故な。」

 

「あー……私はいいです、リューネは?」

 

「僕も遠慮しようと思います。」

 

ルーパスちゃんが敬語なの珍しい…

 

「……あ、ジュリィ」

 

「む?」

 

ルーパスちゃんの視線の方向を見ると、確かに見覚えのある姿があった。

 

「ジュリィ~!」

 

「ほぇ?あ、相棒!」

 

私達に気がついたジュリィさんがこちらに走ってくる。

 

「遅かったですね、相棒。それに皆さんも。あ、これ周辺の地図です。」

 

「サーヴァントに足止めされてたの。…相変わらず仕事が早いというかなんというか。はい、リッカ」

 

ルーパスちゃんが私に地図を渡す。何が凄いって、これ手書きなんだよね。地図、地形、その地の名称……全部ジュリィさんの手書き。こんな短時間で、かなり精密な地図を作ってくれてる。後方支援型だからって役に立たないわけじゃない、っていういい例だと思う。

 

「……森、か。」

 

「レンポくん?」

 

「……おいジュリィ、このブリタニアっていう場所以外に森はなかったか?」

 

「ブリタニア以外に森…ですか?一応、ゲルマニアという方にもあるそうなのですが……一体なぜ……?」

 

「……いや、いいんだ。忘れてくれ。」

 

森……っていうと。

 

「レンポくん…ミエリちゃんのこと気にしてる?」

 

「……分かっちまうか。前の世界であいつを最初に解放したとき、化け物がいたんだ。その時の主もまだまだ未熟、魔力切れなんてよくあることだった。今のこのメンバーならまず負けないだろうが……な。」

 

それでも心配なんだね…

 

「……ジュリィよ。この連合首都というのはなんだ?」

 

ギルが地図を見ながら言う。連合首都?

 

「私もよく分からなくて……ネロさんは何か知っていますか?」

 

「うむ……話せば長くなるゆえ、余の館でゆっくりと話すこととしよう。」

 

「そうですか……ところでネロさん、ちょっとこちらへ。」

 

「む?」

 

ジュリィさんがどこかへ向かうみたいだから、私達もそっちに向かう。少し人気のないところに入ったかと思うと、そこに複数の人が倒れていた。

 

「む!?これは……?」

 

「皆さんが来る前に町の人達を襲っていたので気絶や睡眠を起こさせて一時的にここに運びました。」

 

「む……すまぬ、感謝する。……罠、暗殺の類いかと思ったわ…」

 

「ジュリィに暗殺は合いませんし、大丈夫ですよ、ネロ陛下。」

 

「む…そうか。ではついてくるがいい、余の館へと向かう!」

 

そうして私達はネロさんの館へと向かうことになった。

 

……ギルとミラちゃん、アルが私達とは別行動になってるけど、大丈夫かな……?




1000文字くらいなら2時間で書けるのね……

裁「あ、そうなんだ……」


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第82話 買い物

少し甘い話になるかなぁ…

裁「そうなんだ…」

書けないときは書けない…ちょっと辛い


リッカさん達と別れた後。私、英雄王、無銘さんの3騎は人気のない場所にいた。

 

「……ねぇ、英雄王」

 

「む?」

 

「そろそろ教えてくれる?どうして私達をリッカさんと引き離したの?それに通信まで切ってるし……」

 

「ふむ…まぁ、そろそろ教えてもよかろう。理由はいくつかあるが…そうさな、まず前提とするが、我とミルドは世界は違えど“王”と“王女”───つまりは王族であるというのは理解しているな?」

 

私はそれに頷く。私が元第一王位継承者だったっていうのと、第一王女なのは変わりないし。王女も王族の1人だから…

 

「王の間に敵、もしくは見知らぬ王族がいたとなればどうなるか、分かるか?」

 

「……あー…」

 

凄い面倒なことになりそう。

 

「ふ、理解したか?」

 

「でも、結局は私達の姿も見せないとだし、二度手間っていうかなんて言うか…意味ない気もするけど。」

 

「いきなり現れるよりはマスター達が話してからの方がよかろう?既にマスターめにはその事を話してある。」

 

「そういうものかなぁ……ところでこれはどこに向かってるの?」

 

しばらく歩いてるけど、どこに向かってるかわかんない。

 

「む、ジュリィめがこのローマ全域の地図も作ってくれたのでな。姿を隠すついでにこの道を通っているだけに過ぎん。真の目的地は先程のような市場よ。」

 

「市場?またどうして…」

 

「それは……む、見えたぞ」

 

英雄王の言う通り、見えてきたのはさっきの大通り。

 

「ミルド、マスター達は近くにいるか?」

 

「……いない。ここから少し離れた場所にいるみたい。」

 

「そうか…」

 

「で、この市場に何か用なの?」

 

もう一度問うと、英雄王が少し歯切れが悪そうに口を開いた。

 

「うむ…実はだな。1つ、どうしても買いたいものがあるのだ。」

 

「どうしても買いたいもの?」

 

『む…民共に聞かれれば面倒ゆえ、念話で話すとしよう。このローマは我がウルクには劣るといえど、価値はあるといえよう。ウルクへと行けぬ今、少しでも物を買えそうな場所にて買うのは当然といえば当然よ。』

 

『…気に入ったの?ローマの地。』

 

『さて、な。だが林檎一個分くらいは気に入ったといっておく。』

 

『そういえばあの後林檎食べてたものね……』

 

私はため息をついてから英雄王を見る。

 

「それで、買いたいものって?」

 

「セイバー……アルトリアめにな。1つ、贈り物をしたいのだ。」

 

「騎士王に…贈り物?」

 

「うむ。我は女に贈り物などあまりせんかったからな。女が喜ぶものなどよく分からぬ。女である貴様らなら分かるであろう?見繕ってはもらえぬか。」

 

「あの……ミラさんはともかく、私は役に立てると思えないんですが……」

 

無銘さんは記憶がない。それ故に役に立てるか分からない───無銘さんはそう言った。

 

「構わぬ。貴様は貴様の感覚を頼りに選べばよいのだ。いくら名がなくとも、記憶がなくとも貴様が女であることには変わりない。正常な思考を持つならば、その思考を頼りに選べ。元より記憶や知識をあてにして貴様らを選んではおらぬ。」

 

「そう、ですか……」

 

「……理由は?」

 

「…理由、だと?」

 

「そ、理由。急に“贈り物をしたい”だなんて何か理由があるでしょ?」

 

「……理由か……謝罪、だな」

 

「謝罪?」

 

思わず聞き返す。

 

「うむ、謝罪だ。此度の我は弓の我とは違うとはいえど、弓の我も我は我、ギルガメッシュという英霊に違いはない。あやつが我に距離を置くのはその弓の我があやつに迷惑をかけたから故な。謝罪の意味も込めて贈り物をしたいのだ。」

 

「……そう。本当は手紙の方がいいんだろうけどね…にしても、王様に贈り物、ね…」

 

私はそう呟きながら周囲の商品を見る。

 

「実際、東と西に交流がなかったわけじゃないけど。私がその交流を王女として担ったのは3年以上前だからね……ちょっと役に立てるかどうか。」

 

「……良い機会だ。貴様がいた世界の話をせよ、ミルド。」

 

私がいた世界の話…か。

 

「……私が使役する獣魔達は、私のいた世界で生息している者達。生息地は…例えばリオレウスやトビカガチなら森。オドガロンなら墓場。ゼノ・ジーヴァなら龍脈の収束地…色々な場所にいる。獣魔───特に飛竜種とかは縄張り意識が強い子達が多いからたまに人を襲っちゃうけど…そう言うときのために私達サマナーがいる。」

 

「ふむ…」

 

「サマナーの役割について話す前にだけど、基本的に私達の世界では誰もが魔力を持ってる。人によって魔力総量、属性適性、魔力性質は変化するけど…魔力総量は基本的に小、大、超、特、希の五段階で表し、属性適性は特殊属性と通常属性で表す。魔力性質は術式の適性を示してて、合わない術式は構築しにくい。」

 

「合わない術式…とな」

 

一言(クイック)短句(ショート)中句(ミドル)長句(ロング)連言(スロー)召喚(サモン)空想(イメージ)の七種類。そこからさらに斬撃(スラッシュ)打撃(スマッシュ)弾撃(シューター)付与(エンチャント)って分かれる。本当は理論(ロジカル)喪失(ロスト)っていう術式もあるんだけど、形になっていない術式と喪われた術式なんて適性示されても困るだけ。基本的には一言術式を学んでる───あ、これなんかいいかも」

 

「───花、か?」

 

英雄王のいう通り、私が示したのは花。黄色い花と青い花───といっても、乾燥してるけど。

 

「店主、この黄色い花は一体どこで?」

 

「へい、その花ですか。いつでしたかな。丁度9月ぐらいでしょうかね。東の方だったと思うのですが、そこから種が舞い降りてきましてね。試しに蒔いて育てたところ、この花が咲いたんでさぁ。」

 

「……これ、1つずついいですか?」

 

「へい、承知いたしました。」

 

「我が払おう。ミルド、無銘、何か欲しいものがあれば遠慮なく言うがいい。」

 

「え…あ、うん。」

 

いいの?

 

「あい、金ぴかのお方。これがその花でさぁ。毎度あり。」

 

英雄王は商品を受け取り、私達も共にその出店から離れようとする。

 

「おっと、ちょっと待ちなそこの嬢ちゃん達。」

 

「……私も?」

 

「おう。金ぴかのお方は少し待ってくれな。」

 

そう言って店主はお店の奥に入っていった。

 

「……なんだというのだ、一体…それはそれとしてミルドよ、あの花を選んだ理由はなんだ?」

 

「……その黄色い花の名前は“カリフォルニア・ポピー”。本来ならこの時代にないはずの花だよ。」

 

私は声を潜めて言う。

 

「この時代にない、だと?」

 

「カリフォルニアというのはアメリカの方の区域だからね。本来ならないはず。風で種が飛ばされでもしない限り、そして奇跡的に栽培条件が揃わない限り…ね。」

 

「……なぜ貴様がそれを知っている?」

 

「色々調べあげたからね。ちなみに青い花の方は“カンパニュラ”ね。」

 

「ふむ……宝石の方がよかったようにも思えるがな。」

 

「後で宝石も見てみようか。」

 

「お待たせさん、嬢ちゃん達。」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、店主が戻ってきていた。

 

「ほれ、こいつをやるでさぁ。」

 

そう言って店主は私と無銘さんに花の冠を被せた。

 

「ほう?店主、これは一体どうした?」

 

「へぇ、実は自分、こういうのを作るのが得意なんでさぁ。ネロ皇帝にも渡したら喜ばれたんですが、威厳がなくなるとかで突き返されてしまいましてねぇ…まぁ、こんな状況下じゃ仕方ないんですかねぇ……自分としてはこんな状況でも、華やかに可愛らしくいて欲しいんですけどねぇ…」

 

「……ありがとうございます、店主!」

 

そう言って私達はその出店を後にした。

 

「ふむ。後はどうする?」

 

「宝石、だっけ。うーん…」

 

私は周囲を見渡す。

 

「……この中から探すのは面倒だね。」

 

「……よし。ではあれをやるか。」

 

「あれ……?」

 

……その後、英雄王がやったことに関しては何も言いたくない。

 

 

 

side アルトリア

 

 

 

「はぁ……」

 

「食べてる最中に溜め息つかないでくれよ…アルトリア。」

 

「…すみません、シロウ。」

 

私は英雄王のことで困惑したままでした。そのままではいけないと思いながらも、微妙に受け入れられないのです。

 

 

ぱさり

 

 

「……?」

 

物音がしてそちらを向くと、そこに1枚の封筒と1つの宝石があしらわれた腕輪、そして2つの乾いた花がありました。

 

 

“アルトリア・ペンドラゴン宛”

 

 

手紙……?私宛のようですし、開けても大丈夫なのでしょうか…

 

「ほれ、アルトリアよ。料理お待ち……ってナンだその手紙と石と花は?」

 

「さ、さぁ…」

 

私は一応開いてみることにしました。呪いの類いだったとしても、対魔力でなんとかなるでしょう。

 

 

“これまでの貴様への行動、本当にすまなかった。我はその我ではないがここに謝罪として記しておく。言葉は足らぬであろうが…本当に申し訳ない。”

 

 

「…これは、英雄王?」

 

「ぬ?“カリフォルニア・ポピー”と“カンパニュラ”のドライフラワー…それに“サファイア”の腕輪とな?ふむふむ……」

 

キャットがニヤついているように見えたのはなぜでしょう…




実は歌詞使いたかったのはあるんですけど、片方のサイトがメンテナンス中で検索ができなかったんですよね

裁「あはは……」


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第83話 火山へ

軽めです。うまく書けませんでした。

裁「最近多いね…」

うん……いや、ずっとなんだけどね?それ。


「ヴィマーナ、翔けよ!霊脈地の確保、迅速に行うとしよう!」

 

ローマ荒野上空。僕達は英雄王の黄金の船に乗ってエトナ火山に向かっていた。何故そこに向かっているかというと───話は数時間前に遡る。

 

 

 

僕達が起きた後の事だ。昨日のうちに英雄王とミラ殿は合流し、同じ場所で休息を取ったのだが…それはまあいいとしよう。

 

〈皇帝陛下、1つお願いがあるのですが。〉

 

「む?なんだ、姿なき魔術師。」

 

〈ボク達のこの世界での活動を安定させたいので、エトナ火山へと行きたいのです。霊脈と呼ばれる場所があの場所に存在しているようなのですが…〉

 

「ふむ…宮廷魔術師もエトナにはよく行っていた。うむ、構わぬぞ。それが貴公達に必要なことであり、余のため、余のローマのためになるのであろう?」

 

〈えぇ、はい。今はこうして通信しかできませんが、霊脈地を確保することで物資や戦力などの支援ができるようになります。〉

 

「あいわかった、余は連合帝国の調査があるゆえ、同行できぬが…まぁ、好きにするがよい。貴公らならば連合帝国の兵とまみえても大丈夫であろう。」

 

 

 

……ということである。第一特異点終了後に完全修復したヴィマーナという船に乗って、移動しているが…

 

「……なんというか、龍識船を思い出すな。」

 

「そうだね~…最近乗ってないけど。」

 

「ルーパスは新大陸にいたからだろうな…というか僕も最近はあまり乗ってないか。」

 

「カムラの里にいたんだっけ?」

 

「あぁ…百竜夜行の撃退をしていたんだ。流石に里長から宝刀を渡されたときは驚愕したが。ヌシの撃退は結構疲れるぞ?」

 

「あー……なんか書いてあったね。紫毒姫や天眼に似たモンスター達のこと……」

 

書いた覚えがあるからな……と、ヴィマーナが止まったようだ。

 

「到着だぞ、ルーパス、リューネ!」

 

レンポ殿に言われ、僕達も船を降りた。

 

「さて、マスター達は霊脈地を起動しに行くがいい。我は席を外そう。」

 

「…あ、英雄王。僕もついていっていいかい?」

 

「む?まぁ、いいが…無銘も来るか?」

 

無銘殿はそれに頷く。ということで僕、無銘殿、英雄王は別行動をとることになった。

 

「……そういえば、リューネよ。」

 

「なんだい?」

 

「貴様らの世界には火山というものはあったのか?」

 

その問いに僕は頷く。

 

「あぁ、あったさ。狩猟地名称“火山”───正式名称“ラティオ活火山”。過去にはその近くにある狩猟地名称“旧火山”───正式名称“北エルデ地方火山地帯”も火山と呼ばれていたらしいが…まぁ、火山には変わりないか。」

 

「ふむ…寒い場所にはホットドリンクと聞いた。ならば暑い場所には何を使うのだ?」

 

「あぁ…それか。開け、アイテムボックス。」

 

僕はアイテムボックスに接続し、1つの白い飲み物を取り出す。

 

「それは?」

 

「“クーラードリンク”。ホットドリンクとは逆で、体を冷えさせる飲み物だな。恐らくルーパスはこれの強化版を作っているだろうが…まぁいいか。」

 

「ふむ…素材はなんだ?まさかとは思うが、氷100%などとは言うまいな。」

 

「そういえば新大陸はトウガラシだけでホットドリンクが作れるんだったか。にが虫はどこに行ったのやら……クーラードリンクの素材は“氷結晶”と“にが虫”だな。」

 

「虫…か。」

 

「あぁ…っと、山頂が見えたぞ。」

 

その後、英雄王は火口に聖杯を落とし、英雄王曰く無銘殿が時空間を歪め、それからこの特異点にいる敵の存在を知ってから戻ることになった。

 

 

───覚悟しろ、レフ・ライノール・フラウロス。僕はこの世界の人間ではないが───オルガマリー殿を1度殺したこと、そしてこの世界の人間達の未来を奪ったこと。モンスター達と対峙し、時に狩猟し、時に撃退し───そして時には協力し合う。脅威から人間を護る守護者として、絶対に許しはしない。




うーん……眠い

弓「眠いならば早く寝るがよかろう。」

……ギル?

弓「うむ。」

正弓「治療は終わったよ……完治してるはず。」

……ありがと、正のアーチャー。

正弓「いいよ、別に。私達の出番はまだまだ先でしょ?」

ん…


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第84話 ガリアへ

うーん……全く書けない。

裁「大丈夫……?」


〈リッカちゃん達がもうそろそろガリアに着く。ミラちゃんもそろそろ降りれるかい?〉

 

「ん…」

 

私達はエトナ火山から帰り、ローマに戻った後ガリアという場所に行く事になった。

 

「……ファル、高度下げて。」

 

「ヒュァァァァ…」

 

ファルが私の言葉で高度を下げる。やがて見えなかった人々達が見えてくる。

 

〈英雄王は文句言ってたけど、ミラちゃんは遠征に文句言わないんだね。同じ王様なのに。〉

 

「王様じゃなくて王女なんだってば……まぁ、私自身遠征とかあったから。これでも私のいた世界では最高クラスのサマナーだし。」

 

〈へぇ…特第一位のロストサマナー、だっけ。〉

 

ロマンさんの言葉に頷く。

 

「ロストサマナー───喪失の召喚術師。喪失されたはずの召喚術を用いているように思われる召喚師。以前に見せた黒龍“ミラボレアス”含めて、全ての獣魔に己の力のみで勝利を収めなければなることはできないクラスで、私以外になれる人がいなかったクラス。」

 

〈っていうことは……君はもしかして世界最強なのかい?〉

 

「……さぁ、どうだろう。召喚術を使えなくても強い人はいるからね。一言術式も極めれば結構な威力になるし。どの術式が最強、っていうのはない。」

 

〈へぇ…ボクらも使えたりするのかな、ミラちゃんの世界の術式…〉

 

「……さぁ、どうだろう。……周囲に敵対反応無し。たぶん安全………ん?」

 

私の感知に引っ掛かりがある。

 

「……この反応…サーヴァント?数は2騎、だね。」

 

〈えっ…分かるのかい?〉

 

「魔力感知は基本中の基本だよ?」

 

〈……いや、まぁそれはそうなんだけどさ。さっきから敵に気がつくのが早いんだよね。〉

 

「戦場では常に気を張っておかないとどこから奇襲されるかとか分かったものじゃないし。えーと……サーヴァント反応は2つ、その周囲に生きてる人間の反応が複数……精度は悪いけど───人間達の感情は落ち着いている。」

 

〈感情───そんなことまで分かるんですか!?〉

 

「精神感応術・念話術なんて大体のサマナーが使える術式だよ?たまに言葉が通じない子達がいるからその子達に対して話をするときに、ね。」

 

そんな話をしている間にファルが地面に降りた。私はファルを縮小魔法で小さくしてから肩に乗せてリッカさん達と合流した。

 

 

 

「皇帝ネロ・クラウディウスである!これより謹聴を許す!ガリア遠征軍に参加した兵士の皆、余と余の民、そして余のローマの為の尽力ご苦労!是よりは余も遠征軍の力となる。一騎当千の将も、ここに在る!」

 

ネロさんが野営地の兵士達に声をかける。

 

「この戦い、負ける道理がない!余と、愛すべきそなたたちのローマに勝利を!」

 

ネロさんがそう言った途端、野営地のあちらこちらから歓声が上がる。……うん。懐かしい。

 

「おや。随分と早い到着だったみたいだね。あんた達が噂の客将達だね?」

 

そこに私達のほうへと近づく2つの影。

 

「おぉ、ブーディカ。皆、紹介しよう。こやつらは余の客将で───」

 

「いいって、自分の名前くらい自分で名乗るから。」

 

「……む、そうか……すまぬ、余は少し休ませて貰ってもよいか?頭痛が酷いのだ。」

 

「ん、いいよ。この子達はあたしが見ておくから。」

 

「すまぬ。」

 

そう言ってネロさんは私達から離れていった。

 

「……じゃ、改めて自己紹介。あたしはブーディカ。気がついてると思うけど、正統ローマに協力するサーヴァントだ。」

 

「ブーディカ……ブリタニアの女王…?」

 

リッカさんがそう呟いたとき、ブーディカと名乗った人が驚いたような表情をした。

 

「……へぇ?詳しいんだね、お姉さん。ま、その辺は気にしないでよ。で、こっちにいるのが───」

 

「───圧制者」

 

「…へ?」

 

「見つけたぞ。まみえたぞ。出会えたぞ───その力、その魂、その声、その威光。ようやく見つけた、ようやく出会えた───」

 

その男性は震えながらこちらを見た。……え?

 

「ちょっと、スパルタクスッ!?」

 

「そなたこそ、圧制者の究極───圧制者の原点、圧制者の起源にして頂点!!」

 

その男が持つ剣の先を向けられているのは────私。

 

「我が生涯、我が信念、我が想い───総てをそなたへと捧げよう!!起源なる圧制者ァァァァァ!!」

 

「───龍風圧障壁展開っ!!」

 

咄嗟に叫び、龍風圧による障壁を展開する。ギリギリで防いだけど、すぐに破られる。

 

「今こそ汝を抱擁せん───!!!」

 

「く───!」

 

どう言う、こと───!?それに、“起源なる圧制者”って───!?




スパルタクス私分からない……

裁「使ってないもんね」

あとセプテムに運命の選択発動させられるかどうか不安。


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第85話 叛逆者

あー……そういえば、以前の花と石の事話してないですね。

裁「石言葉と花言葉だっけ。」

そ。サファイアは“成功”、“誠実”、“慈愛”。カリフォルニア・ポピーは“私を拒絶しないで”。カンパニュラは“後悔”、だね。まぁ、一例だけど。


「歓喜!」

 

剣が振るわれる───それを自身に筋力強化をかけて硬度強化をかけた杖で払う。

 

「感謝!!」

 

「風よ…!!」

 

剣が振るわれる───それを風圧をぶつけて逸らす。

 

「君という圧制者がいたことに、君という圧制者に出会えたことに感謝を!!」

 

『リッカさん、ゴメンっ!“圧制”って何!?』

 

『えっと、えっと……!!“圧制とは、権力をもつ者が、その権力や暴力を使って、他人の言動を無理におさえつけること”!!』

 

権力や暴力で他人を押さえつけること───私には覚えがないけど…!!

 

 

「さぁ!わが愛を受け取るがいい───!!」

 

凄い笑顔で、すごい筋肉量で迫られるのは怖い───!!!

 

 

side リッカ

 

 

「ちょっと、スパルタクス!相手は小さな女の子なのよ!?少しは自重しなさいっ!?」

 

「ははは!!どのような姿であろうと圧制者には変わりなし!さぁ、起源なる圧制者よ!鋼気煌々!(コケッコッコー!)

 

「意味分かんないからっ!!」

 

「…駄目だこりゃ。ねぇ、聞くけどさ。あの女の子、有名な女王様だったりするのかい?」

 

ブーディカさんが私達に向けて聞いてくる。

 

「いえ…一国の王女としか聞いたことはありませんが…」

 

「私も聞いたことない。リューネは?」

 

「特には……ん?まて。ミラ殿は確かシュレイド王国の王族の末裔…だったな。」

 

そのリューネちゃんの言葉に私は頷く。

 

「…ルーパス。シュレイド王国がどんな末路を辿ったか───いや、違うな。シュレイド王国がまだ存在していたころの話。古代文明の伝承、って覚えているか?」

 

「古代文明の…伝……承………」

 

古代文明?

 

「…造竜技術と、竜大戦───約30の龍の命から1の命を造る禁断の技術とそれに激怒した古龍と人類の世界大戦。」

 

それって…技術で生命を造り出したってこと?それと……

 

「ねぇ、ルーパスちゃん。シュレイド王国って…?存在していたってどういうこと?」

 

「…言葉の通りだよ。“シュレイド王国”はもう存在していないの。シュレイド王城跡地───狩猟地名称“シュレイド城”。そこを境にして、シュレイド地方は西と東に分かれてる。シュレイド王国っていうのは、昔栄えていたという王国。……文献の中に、こんな言葉がある。曰く───地は揺れ、木々は焼け、小鳥と竜は消え、日は消え、古の災いは消え───これらが続いて数か月後、シュレイドは消えた───」

 

「地は揺れ…木々は焼け…小鳥と竜は消え……日は消え……古の災いは消え………その数ヵ月後に、シュレイド王国が消えたの……?」

 

「“大いなる龍の大災厄”と呼ばれているものですね。近年では、シュレイド王国そのものが創作のものではないかとも言われていますが……」

 

「……違うだろうな」

 

「うん……私もそう思う。」

 

あれ……?ルーパスちゃんとリューネちゃんが震えてる…?

 

「…何度対峙しても恐ろしい。あの禁忌の龍達は。」

 

「……黒龍ミラボレアス、紅龍ミラバルカン、紅龍ミララース……そして、祖龍ミラルーツ。何度勝利しても、何度戦っても。あの龍達の存在感には慣れることができない。煌黒龍アルバトリオンと煉黒龍グラン・ミラオスはまだいい。だけど、あの4体の龍だけは…どれだけのクエストをこなしても、あの龍達と戦っているときは、常に死の淵に立たされている気分。」

 

「相棒……」

 

「……禁忌の龍と呼ばれるミラボレアス、ミラバルカン、ミララース、ミラルーツ、アルバトリオン、グラン・ミラオス。彼らは、他の古龍に比べて再生力が強いのですにゃ。故に、生息地に赴けば必ず龍達は目覚めているのですにゃ。」

 

「目覚める…って?」

 

「古龍種というのは私達の手で完全に滅することはできにゃいのですにゃ。古龍種と対峙するクエストクリアの条件は、“古龍の活動停止”にゃのですにゃ。」

 

「これは最近分かったことなんだけど…古龍達は活動停止後3分くらいで移動・飛翔くらいなら出来るようになるみたいなの。その移動で安全な場所まで移動して、そこで本格的な再生をする───その再生の際、体の大きさを作り替えることが稀に在る。」

 

体の大きさを作り替える…

 

「本当に稀なんだけどね。“目覚める”っていうのは再生が終了すること。禁忌の龍はそれが凄まじく早い。恐らくだけど、私達と戦うときにそこまで力を出してない。本気で向かってきたときが怖いね……それはそれとして、話を戻そうか。何故ミラが圧制者とされたのか───」

 

気になるのは確かにそこ。

 

「…例えば、だけど。古代文明の造竜技術。これを、龍達に対する圧制だと考えられたなら……もしくは、彼女が使役するミラボレアスが古代文明を滅ぼした龍そのものでその行動が圧制だと考えられたなら……古代文明に携わっていた人たちの血がミラに流れているとするなら…その血やその存在で圧制者だとされた可能性はあるかもしれない。」

 

〈……それから、召喚というものの特性、でしょうか。召喚は自身に忠実な存在を喚ぶものです。ですが、それですとマスターであるリッカさんが狙われなかったのが分かりませんが…〉

 

…現状では分からないことだらけ。今はミラちゃんの戦いを見守ることしか出来ない。

 

 

 

side ミラ

 

 

 

キィン!

 

 

何度目かの剣と杖の交差の時、私の杖が弾き飛ばされた。

 

「…っ!」

 

「フハハハハ!さぁ、圧制者よ!今こそ我が抱擁を受け入れよ───!」

 

「お断り───開いて、アイテムボックス!我が手に来たれ、護身の槍───“試作護身長槍”!!」

 

空間が歪み、そこから一本の槍が飛び出す。その槍を手にし、柄の方で男を突く。少しの間合いを取ってから槍を構え直す。

 

「あの持ち方って……“スピア”!?」

 

武器カテゴリ“スピア”───それなりに扱うのは久しぶりだけど……!

 

「それでこそ。それでこそ圧制者。それでこそ起源!」

 

「筋力強化、硬度強化、撃種打撃、方向反転───はぁっ!」

 

その魔法をかけながら私は槍を振る。

 

「ぬっ!」

「ええっ!?」

 

驚いている声が聞こえる───まぁ、そうだよね。たった一振りで相手が吹き飛ばされるなんて。でもこれは方向反転の効果。勢いはそのままに、相手の力の方向を反転させる魔法。力で吹き飛ばしたわけじゃない……!

 

「そうでなくては!そうであれば圧制のしがいがあるというもの!見よ、圧制者!この世界は既に我が闘技場となり果てた!我が愛を受けるがいい───!」

 

「……」

 

私は戦いながら相手を視る。

 

「ふはははは!愛を!!愛を!!叛逆こそが我が人生!」

 

「…なるほど、ね」

 

叛逆者…か。

 

『リッカさん、この人ってどういう人?』

 

『戦闘中に聞くことなの…?ええっと……トラキアの闘剣士、第三次奴隷戦争の指導者!必ず逆転によって勝利する英雄!!』

 

『必ず逆転によって、か…』

 

確かに攻撃らしい攻撃、傷らしい傷をつけてない今でも相手の方が強くなり始めてる。あってる、かもね。刃を潰した護身シリーズでも打撃ダメージは入っているはずだし。

 

「おおおおおお!彼方の圧政者よ!!刃をもって汝を打ち砕かん!!!」

 

〈まずい───宝具か!?〉

 

「圧制者ァァァァァ!!」

「ミラちゃん───!!」

「待ちなさいスパルタクス───!」

 

飛びかかってくる相手。私を呼ぶリッカさんの声。相手を制止しようとするブーディカさん。それに対し、私は───

 

 

 

「────第一リミッター、解除。」

 

 

 

そう、呟く。直後、膨れ上がり私の外に漏れた魔力が相手を吹き飛ばした。

 

「第一リミッター、稼働」

 

それを確認してからもう一度リミッターをかけ直す。

 

「───ぬぅん。」

 

その相手は吹き飛ばされた場所で起き上がり、こちらを見つめる。

 

「何故だ、圧制者。」

 

「…」

 

「何故、害さぬ。武器を持ちながら、それだけの力を持ちながら。叛逆せしものを何故。」

 

「…害する理由がないから。」

 

「………何?」

 

「貴方は私が圧制の頂点と言った。圧制の起源と言った。だけど、私はみんなに洗脳なんかかけてない。私が力を振るうのは何かを護るためだし。それと───」

 

私は手を相手に向ける。

 

「私はたとえ叛逆者だとしても味方につくのならば味方としてきちんと迎え入れると決めてるの。圧制───この世を虐げる者に叛逆するというのなら。今は私達がここで争っている場合じゃない。まずは、このローマの地を虐げるものに叛逆しなさい。」

 

「……ぬぅ。」

 

「貴方が私に叛逆したいのなら好きにしなさい。だけどその前に総てを終わらせなさい。───私は認めましょう。龍と共にある世界にいた王女として、その叛逆を認めます。ですが、それの実行にはまだ早い。今はこの地を圧制者から取り戻しましょう。総てが終わった暁には───本来ならば既に消え去っていたこの命、この首───差し出したとしても別に構わない。無論、抵抗はするけれど。」

 

「……」

 

「頂点に挑むのなら、起源に挑むのなら───それに挑む資格を得なさい。資格を得たその時こそ───私は全力で対峙しましょう。」

 

そもそも私は叛逆というものに興味がない。味方なら味方、敵なら敵と考えているからって言うのもあるけど…実際、王族だとしても王族の仕事だったり民達の仕事手伝ったりしてるだけだし。あんまり叛逆するような人いなかったからね…

 

「…道理。頂点に挑むのならば頂点に挑む資格を得ろ。なるほど、筋は通る。究極な者というのは総てを超えた先で待つもの。総てを超えずして挑むのはあまりにも無謀。たとえそれが遥か古の究極だとしても、現在にて超えられるものではないあらゆる龍に見初められた者に今挑んでも敗れるのみ。」

 

……見初めるってなんだっけ。

 

「ならば私は総てを超えよう。総てを超えた先で待つ君に届くように、愛を溜め続けよう。この世に蠢く圧制者を超えよう。君を抱擁するときまで我が愛は不滅。」

 

そう言って、彼は剣を下ろした。それを見て私も槍をアイテムボックスに戻す。

 

「うっそぉ……」

 

〈スパルタクスをほとんど言葉だけで鎮めるってどんだけだい……どんなカリスマだ…〉

 

「無事でよかった…!」

 

リッカさんが涙目になってた。心配させたみたいだね…ごめんなさい。




本当はここで運命の選択いれようか迷った。

裁「そうなんだ……」

セプテムって分かりにくい……それとスピアと護身シリーズに関して少々。


武器種“スピア”
槍。盾を持たず、両手で保持する細身の長槍。突き、薙ぎ、叩きつけ、振り回しが主な攻撃手段となる。


護身シリーズ
護身用の武器群。総ての武器において刃を潰してあるため、打撃ダメージ以外入らなくなっている。逆を言えば打撃ダメージのみであるお陰でスタンが非常に取りやすい。あくまで護身用の武器であるため、攻撃力は低め。銘は生産段階で“試作護身○○”、強化すると“ガード○○”となり、最終強化で“正規護身専用○○”となる。


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第86話 ガリアを奪還せよ

うーんギリギリ

裁「明日とか大丈夫?」

難しいかなぁ……ただでさえ時間がかかる戦闘回だし。


敵陣にて。

 

「申し上げます、皇帝陛下。敵群の攻勢が増した、との報告が。僭称皇帝ネロ率いる小部隊驚異的な突破力をもって進撃しているとの事。」

 

「そうか。」

 

「如何いたしましょう。恐らくは皇帝陛下の仰っていた特別な将がいると思われますが。」

 

「放っておけ。サーヴァントの相手はサーヴァントにしか務まらん。」

 

「は───」

 

「やれやれ、何がセイバーのクラスだか。この私に剣を取れとは。」

 

「それは……皇帝陛下カエサル様が自らお出になると…?」

 

「阿呆。私が出るのではない。向こうが来るのだ。私は動かぬ。貴様らも、連中の相手はそれなりにしておけ。」

 

カエサルと呼ばれた者───それは実にふくよかだった。

 

「しかし!我らは真に正統なる連合ローマ帝国の兵士!ガリア支配は神々の意図なれば!撤退などあり得ません!」

 

「阿呆が。死に急ぐか?サーヴァントに人間は勝てん。死ぬだけだ。」

 

「ですが…」

 

「ならば、命令だ。適度に戦え。貴様らの死を、私は望まん。」

 

「はっ!全力をもって!」

 

そう言って兵士はその場から去った。

 

「……こう言おうと、貴様たちは死ぬのだろう。自らの信ずるローマのために。まったく…あの御方の酔狂も大概だ。完璧な統治、完璧な統率───しかしそれは、意思のない群体でもあろう。」

 

そのふくよかな人物はその場でため息をついた。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

私達は敵軍と対峙していた。

 

「はははは。見よ、ここには総てがある。圧制者の魔の手と化した兵は何千、何万か。あちらは大群、こちらは小勢。しかしこちらは不利に在らず───そう思わぬか、起源なる圧政者。」

 

「知らないからっ!」

 

先陣を駆けるスパルタクスさんとブーディカさん、スパルタクスさんの大声に対し私達の周囲の敵を槍で気絶させるミラちゃん。ミラちゃん曰く、魔力総量が低い人は物理的な武器を使うんだって。

 

「こっちの露払いはあたし達がやる!あんた達は本陣まで突っ切れ!」

 

「我らが道を阻むもの達よ!我が愛で包み込んでやろう!」

 

「はいはい…それなりにやって……」

 

「応とも!さぁ圧制者よ!我が愛にかけ、叛逆の時だ!!おおおおおおお!!」

 

「なんかやる気出してるんだけど!?スパルタクス、行く方向間違えるんじゃないわよ───!!」

 

…あ、ミラちゃんがため息ついた。

 

「しっかりせよ、ミルド。此度あやつに気に入られたのは貴様であろう。」

 

「そこまで嬉しくない……」

 

「で、あろうな。」

 

「……敵対存在の中に人間以外の魔力反応を確認。敵サーヴァントへの道を塞ぐように配置されてるけど…どうするの、リッカさん。」

 

〈うえっ!?……本当だ、人間以外の反応がある。ミラちゃんの観測早すぎる……〉

 

道を塞ぐように…か。

 

「…一点突破───ううん、広範囲攻撃で一気に蹴散らす!」

 

「───しかし、リッカよ。広範囲を攻撃できるものがここにおるのか?」

 

「ミラちゃんの召喚、ルーパスちゃんの奥義、ギルの宝具、レンポ君の精霊魔法───今ここにいる人員で考え付くのはその辺りです。ですが、今回はここにいる誰かの力ではありません。」

 

「ほう?」

 

「お願い───“メドゥーサ”!」

 

私の声に召喚が行われる。ライダー、メドゥーサ───冬木で私達を襲ってきた人。勘、だけど。メドゥーサさんは蹴散らすのに長けるような何かを持ってる。

 

「……私、ですか。」

 

「思いっきり───蹴散らして!」

 

「───承りました。ならば、短剣だけでは力不足ですね。この子の力を借りましょう。」

 

そう言ってメドゥーサさんが血で陣を書いた。その人から現れたのは、天馬。

 

「───幻獣“キリン”?」

 

「違うよ。あれは───ペガサス。天馬ペガサス───ポセイドンとメドゥーサの間に生まれたといわれる翼を持つ馬。」

 

「…マスターは詳しいですね。ギリシャに興味がおありで?」

 

「うん…神話の中だとギリシャ神話がかなり好きだから。それにしても、綺麗……」

 

「そうですか…それでは優しく、蹴散らしましょう。」

 

そう言ってメドゥーサさんはペガサスに乗って飛翔した。

 

「マスター、マシュ、皇帝よ!備えよ、すぐに道は開けるであろう!」

 

「ちょっと無理があるかもしれないけど…!全員、ファルに乗って!」

 

ミラちゃんの言葉で私達はファルさんの背中に乗った。

 

「……行くよっ!」

 

〈リッカさん!アレ、アレやりましょう!〉

 

唐突にアドミスさんが興奮したように話しかけてきた。

 

「“アレ”?」

 

〈高所からの、天空からの急降下攻撃と言えば……!〉

 

「……あぁ」

 

察した。

 

「行ける、ファル!」

 

「フィィィィィィ!!!」

 

「よし───行けっ!」

 

ミラちゃんの言葉でメドゥーサさんも動き始める。

 

「“騎英の────」

「〈我が魂はァァァァァ!!〉」

 

ペガサスが、ファルさんが加速する。それと同時に私とアドミスさんは声をあげる。

 

「───手綱”───!!」

「〈ZECTと共にありぃぃぃィィィ────!!!〉」

 

「……なんかどこかで聞いたことあるような気がする言葉だな。」

 

「バルファルク討伐クエストの時にたまに誰かが言ってたような……気のせいカーナ?」

 

「たぶん気のせいカーナ…」

 

轟音。それと同時に相手の兵士が全員吹き飛ばされた。

 

「……私が出来るのはここまでですね。あとはリッカ、貴女達が。」

 

「うん…ありがと、メドゥーサさん。」

 

メドゥーサさんはカルデアに帰っていった。

 

「……その勢い流星の如く、か。思いの外速かったな。」

 

そうして対峙する皇帝を名乗るもの。

 

「ふむ───美しい。実に美しい。その美しさは世界の至宝。名を名乗るが良い。」

 

「───っ」

 

「沈黙するな。戦場であろうとも雄弁たれ。名乗りもせずに刃を交えるか?それともそれが当代のローマの在り方か。」

 

その人はネロさんから視線をはずし、私達の方を見た。

 

「そら、そこの遠き時を超えた客将達よ。貴様らも名乗るが良い。」

 

「……リッカ。藤丸リッカ───ここにいるサーヴァント達のマスターです。」

 

「良い。精神が静かであり、流れる水のよう。しかしその奥底では炎のような精神が眠っているのであろう。」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「ふむ…良い。物静かであるのはやはり良いものだ。しかし下らぬ男に傷物にされぬよう気を付けよ。」

 

「英雄王ギルガメッシュ。それ以上に語ることなどない。」

 

「なんと。あの御方も人が悪い。このような英雄王が相手など、我らの劣勢が決まったようなもの。」

 

「ルーパス・フェルト。こっちはスピリス。」

 

「ふむ……弓か。しかし貴様の弓に見えるは歴戦の証。警戒するに越したことはない。」

 

「リューネ・メリス。こっちのアイルーはルル、ガルクはガルシアだ。」

 

「良いな。少女とは思えないような姿だが、それがいい。」

 

「ジュリィ・セルティアル・ソルドミネです。」

 

「ふむ……貴様は背後で支えるものか。戦とは前衛だけに在らず。」

 

「…ミラ・ルーティア・シュレイド」

 

「なんと…このように小さき者までこの戦いにいるとは。しかしその力は紛れもなく強力。美しい───」

 

「アルターエゴ……名前はまだない。」

 

「ふむ…未だ存在を定められぬか。だがそれもまた美しい───」

 

一人一人に評価を付けてからネロさんに向き直った。

 

「───そして、お前だ。当代の皇帝よ、名乗るが良い。」

 

「…良かろう。余はネロ、ネロ・クラウディウス!このローマを真に守護するものよ!」

 

「そうか。さて、名乗りは終わった。働くとしようか。」

 

そう言ってその人は剣を抜いた。剣だからと言って、セイバーだとは限らないけれど……

 

「我が名、“ガイウス・ユリウス・カエサル”。本来ならば、兵士の真似事などするべきではないが───」

 

「それは───皇帝以前の支配者の名───!」

 

ガイウス・ユリウス・カエサル───共和政ローマ期の政治家であり、軍人であり、文筆家。古代ローマで最大の野心家といわれ、ローマ内戦終結後に終身独裁官となった者───!

 

「さて───賽は投げられた。武器を構えよ。」

 

「サーヴァント戦です───行きます、先輩!」

 

ガリアを奪還するための戦い。その仕上げが、始まろうとしている───




そうそう、余談なんですけど。現存する動画投稿者さん達はリッカさん達の世界にも実在しています。私も含めて。

裁「相変わらず配信とか止まってるんでしょ…?」

う…それは良いとして、リッカさん達の世界ではモンスターハンターシリーズの動画投稿者さんは、モンスターサマナーシリーズの実況者さんとして存在しています。例えるなら例のお茶さんとか加工食品さんとか考察でピッタリ復活モンスター当てた考察人さんとか…全員モンスターサマナーシリーズの実況をしています。実際TAとか在りますし。

裁「TA…タイムアタック?ターン制バトルのゲームなのにタイムアタックがあるの?」

タイムアタックじゃなくてターンアタックだね。TAであるがTAに在らず。どれだけ速いターンで相手を倒すことが出来るか。ゲームシステムの仕様としてはソロの場合武器を持ったプレイヤーユニットが1人、アイルーやチャチャブーのようなオトモユニットが2匹、そしてプレイヤーが契約する様々なモンスター───サモンユニットが1体の4ユニットパーティ。マルチの場合は前線に出るのがプレイヤーとサモンだけになって、それが×4の最大8ユニットパーティになります。…まぁ、基本的な構造はモンスターハンターと一緒ですね。武器に関しては…まぁ、また別の機会にでも。

裁「あ、締めるの?」

長く話してると投稿時間遅れるの。(現時刻2021/05/11 17:48)


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第87話 激闘

忘れてましたけどUA18,000突破ありがとうございます。

弓「貴様、最近忘れるではないか。」

そうなんだよねぇ…


「面倒だ。」

 

カエサルさんが剣を振るう。

 

「───っ。」

 

ルーパスちゃんの剣が阻まれる。

 

「───ぬるい。」

 

カエサルさんが剣を振るう。

 

「くっ───」

 

リューネちゃんの剣が弾かれる。

 

「遅い。」

 

カエサルさんが剣を突き出す。

 

「あぁっ!」

 

ジュリィさんが体勢を崩す。

 

「軽い。お前達の力はその程度か?」

 

カエサルさんが剣を2度振るう。

 

「にゃぁっ!?」

 

「スピリスッ!」

 

「にゃんとぉっ!?」

 

「ルルッ!」

 

スピリスさんとルルさんが吹き飛ばされる。

 

「ふむ───実に、面倒だ。やはり、私にセイバーは向いていないな。」

 

「───これだけ強力な剣を振るっておいて、どの口で言ってるんですか───狩人さん達とも互角なほどの剣を───」

 

マシュがそう呟く。

 

「───でも、確かにその道を極めた者よりは劣っているのは間違いないよ。」

 

「あぁ───そもそも僕達は対人戦等しないからな。いくらどの武器も使えるハンターだと言えど、その道を極めた者には敵わないだろう───もっとも、本気が出しきれているわけでもないが。」

 

あ、ちなみにこれ今回のルーパスちゃん達の装備ね。

 

 

 

 

ルーパス・フェルト

武:コロナ(鋭利226 火属性値180 精密20 最大痛撃色青 カスタムなし)

頭:知略の眼鏡α

胴:ゾラマグナハイドγ

腕:ゾラマグナクロウγ

腰:ゾラマグナスパインγ

脚:ゾラマグナフットγ

護:耳栓の護石III

特:癒しの煙筒

 

発動スキル:耐震Lv.2 耳栓Lv.5 ボマーLv.2 見切りLv.4 爆破属性強化Lv.2 熔山龍の奥義

装備ステータス:鋭利226 火属性値180 精密40 最高痛撃色青 防護344 火耐性値18 水耐性値-10 雷耐性値-2 氷耐性値-10 龍耐性値-2

 

 

スピリス

武:レウスネコブレイドα(近接鋭利45 遠隔鋭利25 火属性値200 精密10)

頭:マグナネコクラウンα

胴:マグナネコスーツα

 

装備ステータス:近接鋭利45 遠隔鋭利25 火属性値200 精密10 防護72 火耐性値8 水耐性値-6 雷耐性値-2 氷耐性値-4 龍耐性値-6

 

 

ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ

武:煌剣リオレウス(鋭利912 火属性値240 精密0 最大痛撃色青 カスタムなし)

頭:シーカーヘッドα

胴:シーカーベストα

腕:シーカーグラブα

腰:シーカーベルトα

脚:シーカーパンツα

護:達人の護石III

特:達人の煙筒

 

発動スキル:整備Lv.1 採集の達人Lv.1 広域化Lv.2 クライマーLv.1 閃光強化Lv.1 剥ぎ取り鉄人Lv.1 キノコ大好きLv.1 運搬の達人Lv.1 潜伏Lv.2 滑走強化Lv.1 見切りLv.3 調査団の導き

装備ステータス:鋭利912 火属性値240 精密15 最高痛撃色青 防護350 火耐性値10 水耐性値10 雷耐性値10 氷耐性値10 龍耐性値10

 

 

リューネ・メリス

武:ディア=ルテミア(鋭利170 火属性値300 精密0 最大痛撃色青 百竜強化なし)

頭:依巫・祈【元結】

胴:依巫・祈【白衣】

腕:依巫・祈【花袖】

腰:依巫・祈【腰巻】

脚:依巫・祈【緋袴】

護:凪の護石

花:猟香の花結・一輪

 

発動スキル:満足感Lv.3 早食いLv.2 幸運Lv.3 広域化Lv.3 翔蟲使いLv.1

装備ステータス:鋭利170 火属性値300 精密0 最高痛撃色青 防護260 火耐性値18 水耐性値3 雷耐性値3 氷耐性値3 龍耐性値3

 

 

ルル

武:炎剣ネコブレイド(近接鋭利45 遠隔鋭利25 火属性値200 精密0)

頭:アケノSネコヘルム

胴:アケノSネコメイル

 

装備ステータス:近接鋭利160 遠隔鋭利160 火属性値200 精密0 防護130 火耐性値6 水耐性値-2 雷耐性値-4 氷耐性値0 龍耐性値0

 

 

ガルシア

武:レウスSガルソード(近接鋭利160 遠隔鋭利160 火属性値200 精密0)

頭:アケノSガルヘルム

胴:アケノSガルメイル

 

装備ステータス:近接鋭利160 遠隔鋭利160 火属性値200 精密0 防護130 火耐性値6 水耐性値-2 雷耐性値-4 氷耐性値0 龍耐性値0

 

 

これゲームみたい……この装備情報が見れる端末、この時代に来る前にジュリィさんとお兄ちゃんが協力して作ったらしいの。

 

「形式変換───下がれ、ルーパス!」

 

リューネちゃんの言葉でルーパスちゃんが後ろに下がる。それと同時に構えたリューネちゃんの盾が回転し始める。

 

「回転開始───おぉぉぉっ!!」

 

「ぬ───」

 

リューネちゃんの剣と盾が合わさり、回転する斧となる───確か、“高圧廻填斬り”って言ってたっけ。

 

「わぁ……すごい何アレ」

 

「ルーパスちゃんは知らないの?」

 

「いや一応“属性廻填斧強化”って言うのはあるんだけど…いやあれ普通に新大陸とは別の技術使ってると思う、多分。」

 

そうなんだ……

 

「───軽いッ!歴戦と言えどその程度か!」

 

ルーパスちゃんが片手剣、リューネちゃんがチャージアックスだっけ。

 

「───やぁっ!」

 

「ぬっ!?」

 

あ、ルーパスちゃんが一撃入れた。

 

「ジュリィ!リューネ!」

 

「せい───あっ!」

 

「ぬふぅっ!?」

 

「ナイスだ、ルーパス、ジュリィ殿!解放機構全開───」

 

吹き飛ばされたカエサルさんが地面にぶつかる寸前、リューネちゃんが技を起動する。

 

「───“超高出力属性解放斬り”っ!!」

 

直後、火柱がV字に広がる。

 

「おぉ……なんと熱い火か。……私の脂肪も燃えないものか。」

 

「蹴っ飛ばすにゃ、マシュさん!」

 

「───え、あ、はいっ!」

 

「にゃぁぁぁぁ!!アイルーの底力にゃ!!ぶっとべにゃ!!」

 

ルルさんがカエサルさんをマシュの方に蹴り飛ばす。マシュは盾を横に構える。

 

「───はぁっ!」

 

「ぐふぅっ!───その良い体、それでいて地を張るような一撃の重み───実に、良い。」

 

うわぁ……あれ絶対痛いよ。マシュの方向に吹き飛ばされる力とマシュがその方向に逆らうように持った盾の先端。思いっきり突き刺さってる…

 

「マスター!今です!」

 

回路外部接続(サーキットコネクト)───“ガンド”!!」

 

私はスキルを宣言する。回路外部接続───私の使える力を別の存在から放つもの。今回はマシュの盾の先端を接続先に指定してそこからガンドを放った。以前やったような方法で宣言は止めてたから、すぐに発動できる。いくら対魔力があるといっても───

 

「ぬぐっ!」

 

───私のガンドを体内に直接叩き込まれて無傷なはずがない!…って、お兄ちゃんが言ってた。

 

「ネロさんっ!!」

 

「かたじけないっ!」

 

上段の大振り。

 

「受けよ!これがローマを守護する者の一撃よ───!」

 

「く───ぬあぁっ!」

 

その攻撃は、2割程かわされた。

 

「浅いか───!」

 

「対魔力…厄介だね。」

 

「今のは効いたな───本気を出すとしようか。」

 

〈な…本気じゃなかったのかい!?〉

 

「当然だ。さて。」

 

その瞬間、カエサルさんの魔力が上がるのを感じる。

 

「私は来た!」

 

アルが私の前に立つ。

 

「私は見た!」

 

続いてミラちゃんが風の壁を展開する。

 

「ならば後は───」

 

「───勝つだけのこと、でありますな。最も、それは我らであって貴方様ではありませぬが。」

 

そんな声がしたと思うと───

 

「───“妄想心音(ザバーニーヤ)”」

 

「ぬ───ぐはぁっ!」

 

カエサルさんが倒れた。

 

「ふむ…急所は外しましたが、ギリギリ保てている状態ですか。まったく、狙いを定めるのが大変でしたぞ、魔術師殿。」

 

「呪腕さん……」

 

カエサルさんの後ろから現れたのは呪腕のハサンさん。ルーパスちゃんの剣が阻まれるよりも前、こっそり召喚しておいたんだよね。

 

「油断───した。見事な気配遮断よ。」

 

「うん…凄かった。」

 

まったく気がつかなかったし。

 

「はっはっは。褒めても何も出せませぬぞ。さて、私はこれにて失礼いたします。」

 

そう言って呪腕さんはカルデアへと帰っていった。

 

「やれやれ、これでやっと面倒な仕事から抜けられるというもの。」

 

「敗者として去るならば情報の1つでも残していってはどうだ、皇帝。貴様らの聖杯の場所など、な。」

 

「……そうだな。勝者には褒美があって然るべきだ。」

 

そう言ってカエサルさんは私の方を見た。

 

「貴様らの求める聖杯。それは、我ら連合ローマ帝国首都にいる宮廷魔術師が所有している。」

 

宮廷魔術師───恐らくはそれが。

 

「レフ・ライノール……」

 

「…さて。敗者は敗者として潔く去るとしようか。…ネロ。当代の正しき皇帝よ。貴様が連合ローマ帝国の首都に来たとき、どのような顔をするのだろうな。」

 

そう言い残してカエサルさんは消えた。




ルーパスとリューネは防具の性能よりも見た目で防具を決め、足りないところは自分の技術で補うタイプのハンターです。ですので“このスキルはこの武器に合ってない”とか言われましてもなんとも言えません。そもそも私も同じようなタイプですし。

弓「貴様は技術がないがな。」

言わないで少し気にしてるんだから…今回の武器は火竜夫妻の火属性武器、それも上位までのもので統一し、装飾品は誰も付けないというように構成しました。


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第88話 そうだ、寄り道をしよう

そういえば100投稿そろそろですね…

弓「む、確かにそうであるな」


ガリアへの遠征を終えて、首都ローマに帰還する途中で、不思議な噂を聞いた。

 

───曰く、“地中海の小さな島に、古き神が現れた”────と。

 

 

「………噂だけにしては多すぎではないか?この短期間で四度耳にしている。」

 

確かに少し多い気もする…けど。

 

「ねぇ、ギル?神様って本当にいるの?」

 

気になるのはそこ。

 

「“いた”、もしくは“在った”が正確であろうな。奴らが思うままに振るっていた神代には確かに在ったが、現代においては自然に溶け、実体を喪っている。我等英霊よりも高次の存在ではあり───まぁ、召喚に応じることもないであろう。そう言う奴らよ、神というものは。」

 

「神……か。預言書に選ばれた者はそれに該当するかもな。」

 

「どのようなものであろうとどのように力を振るうかはその者次第よ。我もマスターのような神ならば決別させはしなかったかもしれぬがな。」

 

そっか…

 

「……というか、なぜ我が説明せねばならぬのだ。解説は貴様の担当であろう、医師。」

 

〈僕よりも君の方が詳しいだろう!?君は神代にいた存在だ、僕達よりも詳細を話せるはずだ!〉

 

「む…」

 

人と決別された神、かぁ…

 

「……よし!決めたぞ!その神がいるか否か、確かめてみようではないか!」

 

「ほう?」

 

「いいのですか?ローマに帰還しなくとも…」

 

「よい!古き神が何かは分からぬ、が───もしも真に神々の一柱であればだ。あり得ぬ話ではなかろう?」

 

「……ドクター。神様の召喚って出来るの?」

 

〈出来ないね。あちらがその気になったとしても、不可能に近いだろう。…堕ちた神って可能性はあるけども。〉

 

「ふん…神に会うか。先に言っておくが幻想や畏敬などは捨てておけ。特に自然が神となったようなものは人間が好ましく思うような美点など持たぬことが多い。」

 

ギルってなんか辛辣…神様に対して何かあったのかな。ギルガメッシュ叙事詩はそこまで読んでないから分からないんだよね……

 

「建築王たる神祖ロムルスは雷に隠れ、新しき神となったと聞く!良い神は確かに在るのだ!」

 

「総ての神が悪いとは言っておらんであろうが……ここには最新の神がいるのだしな。」

 

そう言ってギルは私の方を見た。……え?私?

 

「さて、それでは船が必要なわけだが……そういえばマスターはペガサスが気に入っていたか。」

 

「え……あ、うん…」

 

「ふむ…メドゥーサのやつはいるか?」

 

〈メドゥーサかい?さっき顔を青くして部屋に帰っていったけど…〉

 

「……ふむ。ならばミルドよ、海を移動できる馬はいるか。」

 

「馬……さっきのペガサス、だっけ。それみたいな子なら一応いるけど。」

 

「ならばそやつを出せ。皇帝、貴様は軍と船に乗れ。」

 

「うーん……応えてくれるかなぁ……あまり外出たがらない子なんだよ。」

 

言っちゃ悪いけど引きこもりさんなのかな?

 

「とりあえずこんな森の中で召喚したら動きにくいし、森を抜けようか。」

 

私達はそれに同意で、森を抜けて海に面したところに出た。

 

 

 

……まぁ、そのあと少しあって。私は黒いユニコーンの背中に乗って海を駆けていた。

 

「先輩、すごいです!水面が、凍って……!」

 

「うん……すごい……!」

 

ちなみに凍った水面はちゃんとミラちゃんが溶かしてくれてた。

 

「まるで“クザン”みたい……!」

 

「キリゼ、まだ走れる!?」

 

そう言うのは私達が通った後を炎で焼きながら私達と並ぶように飛ぶミラちゃん。“キリゼ”───それがこの子の名前らしい。

 

「ヒィィィィィ!」

 

「ん───そのまま島までお願いっ!」

 

「ミラちゃん!この子って何て言う名前の───?」

 

「キリゼは霜幻獣“キリン亜種”───またの名を“キリヘイル”。霜を操る古龍種だよ。」

 

この子が、古龍……?

 

「原種は幻獣“キリン”。キリヘイルは霜を使って海を渡るけど、キリンは水に電気を流して反発させながら渡ってるみたいなの。キリン科の子達は脚力がすごいから……」

 

水面走り……!?

 

「……着くみたいだね。」

 

ミラちゃんの言う通り、島の浜辺に辿り着く寸前だった。

 

……神様のいる島、か。




キリン亜種=霜幻獣っていうのはこの作品独自の設定で、公式設定ではありません。あと私はキリン亜種と戦ったことがありません。

裁「ないんだ……」

ない。


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第89話 女神

毎回なんですけど、新しい人物出てくるときはwikipediaとかで伝承調べるようにしてるのですよ。

裁「あ…そうだったんだ。」

私あまり歴史詳しくないですから。リッカさんは詳しいんですけどね。


〈さて、神様がいるって言う島に着いたわけだけど……〉

 

私達は軍の人達の方を見た。

 

〈……大丈夫なのかな、あの人達。〉

 

「一応ミラさんとジュリィさんが回復させてはいるみたいですが…どうなのでしょう」

 

〈時に宙を舞い、時にドリフトターン……どういう技術をすればそうなるんですか……〉

 

ルナセリアさんが疲れたように言った。

 

「……?」

 

直後、直感に反応する何か。

 

「……ドクター、何か近くにいる?」

 

〈サーヴァント反応が近づいて………ん?違う。正常なそれとは違う……?これは……〉

 

「そうね。普通のサーヴァントではありませんもの。」

 

その場に響く声。その方を向くと紫髪の女性…女性、というよりは、少女がいた。私達の中で1番身長が近いのはルーパスちゃんかな?……紫髪のツインテール、か…

 

「ご機嫌よう、勇者の皆様。当代に於ける私のささやかな仮住まい、形ある島へ。……あら。どんなに立派な勇者の到来かと思ったのだけれど……サーヴァントが混ざっているなんて驚きました。残念、人間の勇者を待っていましたのに。」

 

一応私達のパーティって比率的には人間の方が多いはずなんだけど……違ったっけ?人間7、猫2、狼1、半英霊1、英霊2だよね?

 

〈嘘……反応からすれば確かにサーヴァント……ですが、違います!〉

 

違う?

 

〈数値で観測できるほどの神性…!彼女は間違いなく、女神なんです!〉

 

「えぇ、その通り。私は女神。名は───“ステンノ”。」

 

ステンノ───その、名前は。

 

「ギリシャ神……ゴルゴーン三姉妹の長女……!ステンノーはギリシア語で“強い女”───」

 

「ふふ、詳しいですのね───」

 

「───そしてメドゥーサさんが怪物にされたことに抗議した妹を溺愛する姉!」

 

「───」

 

「ほう?」

 

〈………何かの間違いではないですか?〉

 

あ、メドゥーサさん。

 

「あら、駄メドゥーサ。なるほど、彼女から懐かしい気配がすると思えば。あなたはそちらにいたのね。」

 

〈……はい、上姉様。〉

 

「出てくればよろしいですのに。サーヴァントはマスターの護りが役目でしょう?あなたの雄々しく強い力はなんのためにあるのかしら。」

 

〈いえ……今回に限っては適任、というか私よりも強い人達がいますので…〉

 

「そう…使えないわね。」

 

「……ねぇ、ギル?神様っていないんじゃ…」

 

「恐らくこの自らを偽る神は戦う力などないのであろう。強いからここにあるのではなく、弱いからこそここにある。こやつの存在意義は絶対者としてではなく偶像として。そうであろう、自らを偽る女神よ。」

 

「……えぇ、そうですわ。私に戦う力と言うものはそこまでありません。ただし、サーヴァントとして現界すると言うのもあり、少し頑丈にはなっていますが。神といえど戦う者ばかりではありませんわ。…それよりそこの貴方。」

 

ステンノさんはギルを睨んだ。

 

「“自らを偽る神”というのはどういうことです?私の姿が偽りだとでも?」

 

「貴様の姿を言っているわけではない。貴様の心よ。貴様は本心を隠している、違うか?」

 

「心、ね……そう。別にいいでしょう。妹が世話になっているようですし、あなた達に女神の祝福を与えましょう。」

 

そう言ってステンノさんは私達の方とは別の方向を向いた。

 

「海岸沿いに歩いていくと、洞窟があります。その一番奥に、宝物を用意したの。あなた達に差し上げますわ。」

 

「宝物…ですか。」

 

「ふむ…どうする、マスターよ。行くも行かぬも貴様次第よ。」

 

……なんとなく、行った方がいい気がする。けど同時に、嫌な予感もする……うん、決めた。

 

「行こう、洞窟に。」

 

私の言葉に全員が頷き、洞窟へと向かうことになった。




短くてすみません。

弓「次回は100投稿目であるが……良いのかこの調子で」

うーん…


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第90話 騙された

遅れました……

弓「遅れてはいかんだろ……」

うぐ……


「……じめじめするな。」

 

「そういえばリューネはこういう洞窟系苦手だっけ。」

 

洞窟内。私達はステンノさんの言う宝物を求めて奥に進んでいた。

 

「あの女神とか言うやろう、宝とかいうのが嘘だったら燃やし尽くしてやる!」

 

「あはは……程々にしてあげてね?」

 

レンポくんもかなり不機嫌。確かレンポくんって寒いところとか苦手だもんね。

 

「……はぁ。」

 

あ、ミラちゃんがため息ついた。

 

「……前方に敵性反応多数。」

 

〈……あー……これは……騙されたかも。〉

 

え……

 

〈すごく不自然なほどに敷き詰められている。明らかに人為的なものを感じるぞ……〉

 

ドクターの言葉と同時に私の視界の中に敵の姿が映る。骨の兵と骨の竜…確か名前は、“骸骨兵”と“ボーンワイバーン”。そのままだって思ったのは内緒。

 

「うーん……こう狭いと戦いにくいんだけど。」

 

ルーパスちゃんが呟いて、一振りの太刀を抜く。

 

「ルーパスちゃん、その太刀は?」

 

「“蒼星ノ太刀”。鋭利363、水属性値160、精密20、最大通擊色緑。下位武器だから少し性能低めなんだけど、まぁ、なんとかなるよ。」

 

「……でも太刀ってこの狭い場所で戦えるの?」

 

リューネちゃんの見てる限り結構大振りだった気がするけど。

 

「戦いにくいだけで戦えないとは言ってないよ。それに…振り回すくらいなら出来る程度の空間あるし。」

 

そう言ってルーパスちゃんは太刀を構えた状態のまま何かを射出した。

 

「よい…しょっ」

 

「…えっ」

 

そのままボーンワイバーンに飛び付いて、そこから跳んで突き落とし。

 

「うーん、硬いね…」

 

そのまま強く構えるルーパスちゃん。

 

「───太刀固有狩技、壱ノ弐…“桜花気刃斬II”ッ!」

 

そう叫んで、回転斬りでボーンワイバーンを斬りつける。その勢いで納刀すると、その斬りつけた場所の傷が大きくなった。そしてそのままボーンワイバーンは倒れた。

 

「お前はもう死んでいる…ってね。」

 

「北斗神剣…?」

 

〈……今思いっきり誤字あった気がするのは気のせいですか〉

 

だってルーパスちゃんが使ったの拳じゃなくて剣だし。

 

〈…ところでルーパスちゃん、今の技は?〉

 

「桜花気刃斬。斬りつけた部位に時間差で追撃が入る狩技だね。カムラの里では似た技があるって聞いたけど…」

 

「桜花鉄蟲気刃斬のことか…狩技の桜花気刃斬とは違って翔蟲を使うが、まぁ大体は一緒か。斬りつけた箇所に無数の傷口が開き、それが相手に追撃としてダメージを与えるんだ。」

 

「あ…そうだったんだ」

 

「知らなかったのか、ルーパス。」

 

「私太刀の使い手じゃないし。桜花気刃斬使ったの久しぶりだもの。」

 

そうだったんだ…

 

「しかし…面倒だな。狭い場所でここまで敵が多いと…」

 

「………あぁ、うぜぇ!おいリッカ!オレに魔力を回せ!」

 

「え……?」

 

「預言書だ!ここら一帯焼き払ってやる!」

 

あー……

 

「……うん、お願い。」

 

〈ちょっ、リッカちゃん!?〉

 

「大丈夫、レンポくん達の精霊魔法は地形に被害ないから。」

 

私は預言書のレンポくんのページを開いた。

 

「……お願い、レンポくん!」

 

そのままページにある杖のマークに触れる。その瞬間、レンポくんの魔力が増幅される。

 

「よっしゃ!宝具、解放!」

 

その途端周囲の温度が少し上がる。

 

「いっけぇ!───“炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)”ッ!!」

 

枷を叩きつけると共に周囲が炎に包まれる。

 

「あっつい…」

 

「……なんかすまねぇ。今度から少し火力抑えるか…?」

 

「ううん、大丈夫…」

 

〈…今のでその周囲にいる敵は倒しきったみたいだ。その先に一体だけ、反応があるけど…どうする?〉

 

「行くよ。この先に何かあるかもしれないし。」

 

〈こうかいしませんね?〉

 

「ルナセリアさん、それカービィじゃ…」

 

〈よく分かりますね…〉

 

とりあえず、私達は洞窟の奥に進むことになった。

 

 

……で。

 

〈そこが最奥みたいだけど……〉

 

そこにポツンと置いてある宝箱。それを護るかのようにいるものがいる。

 

「……あいつは……あん時の…!」

 

「……“キマイラ”」

 

キマイラ──テュポーンとエキドナの娘。ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つと言う説とそれぞれの頭を持つと言う説がある存在。それが、私達の前にいた。

 

「ヴルルルル…」

 

〈襲って来るぞ!〉

 

ドクターがそう言うと同時に、私に向かってキマイラが飛びかかってくる。

 

「させませんっ!」

 

それをマシュが防ぎ、ルーパスちゃんが矢を叩き込む。

 

「ギャウギャウ……!」

「───回避!多分山羊の魔法が来る!!」

 

その指示が間に合い、ルーパスちゃんとマシュ、私の足元から魔法が発動する寸前に回避できた。

 

「あいつ…あの時のと同じ奴か!?」

 

「そうかも……?だったら、あと残る行動は……」

 

蛇の炎とライオンの尾───それから飛びかかり。

 

「リッカ!あいつの弱点になる攻撃って分かる!?」

 

「ハンマー系統───多分、打撃!」

 

「打撃───なら、リューネ!」

 

「幸いさっきよりも広いからな───自由に戦える!」

 

そう言うと、リューネちゃんは翔蟲で跳んだ。

 

「───ふっ!」

 

そのまま狩猟笛を叩き込む。ルーパスちゃんは弓で空中に向かって何か大きいのを撃ってた。

 

「ヴォォォォォ!」

「飛びかかり!左右に避けて!」

 

そう指示した直後、ルーパスちゃんが撃った大きいのが破裂して、中からモヤッとボールみたいな塊がキマイラに降り注ぐ。それによってキマイラが倒れ込む───ダウン。

 

「ナイスだ、ルーパス!」

 

「アル、キマイラに近づける?」

 

私を抱えてくれてるアルにそう聞くと、こくんと頷いてくれた。

 

「リューネちゃん、ルーパスちゃん、スイッチ!」

 

「了解ッ!」

「ああっ!」

 

そう言うとリューネちゃんとルーパスちゃんは後ろに下がる。その隙に私とアルが前に出る。…っていうかアルって結構力あるよね。私を抱えながら背中に剣を吊って走れるって…

 

「ヴルルルル…」

 

「…!アル!火の玉!」

 

「!水よ!」

 

蛇の頭が吐いた火の玉をアルが放った水が掻き消す。

 

「───召雷!!」

 

アルがそう叫ぶとキマイラに雷が降り注ぐ。それによってキマイラが痺れ、身動きがとれなくなる。その間に私とアルはキマイラに近づく。

 

「……やぁっ!」

 

そのまま私はキマイラをコードスキャンする。

 

「スイッチ!」

 

一声叫ぶと、背後からブーメランが飛んできた。その間に私とアルはその場から離脱する。

 

「えっと……うん、打撃。」

 

私はキマイラのページを読んで弱点属性を把握する。

 

「全力攻撃、打撃!」

 

「鉄蟲糸技───“震打”!」

「いっくよー!“響音震【打】”!」

 

リューネちゃんとルーパスちゃんの技が炸裂して、キマイラは動かなくなった。

 

「───倒した、の?」

 

〈…うん。魔力反応は感じられない。倒したんだ、その相手を。〉

 

私達はそこでため息をついた。その直後、小さな地響き。

 

「な、何!?」

 

その発信源を見ると、黄色い石碑が現れていた。

 

「こいつは…魔力と体力を強化する石碑だな。とりあえずコードスキャンしておけ。あとで説明してやる。」

 

そう言われて、私は頷いた。それと同時に預言書が光りだして勝手にページを開いた。

 

 

───汝が望む世界を問う。

 

───仰ぎ見る空。

───広がりし空。

 

───汝の望む世界にていかなる形を現す?

 

 

「これって……」

 

「……預言書からの問いかけか。あとで答えても大丈夫だ。どうする?」

 

「……あとで答えよう。」

 

「そうか。よし、宝を開けてみようぜ!」

 

レンポくんの言葉に頷いて、私は宝箱に近づいた。

 

───その直後。強烈な悪寒と。

 

ドンッと突き飛ばされる感覚と。

 

ザシュッっていう嫌な音と───

 

「くぅ…っ!」

 

そんな、ルーパスちゃんの辛そうな声。それから───

 

「───ラフナプリズン!それ~っ!」

 

聞き覚えのある、女性の声がした。




あー……体力。

裁「ちなみにあの問いかけって…?」

創世の問い…だね。


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第91話 森の精霊と何者かの襲撃

戦闘まで行けませんでした。

裁「こうして話数は増えていく…」


私は倒れ込んだあと、何とかして身体を起こした。

 

「……!?ルーパスちゃんっ!?」

 

そこには私に覆い被さるように倒れているルーパスちゃんの姿。背中を何かに斬られたかのように大きめの傷がある。

 

「……っつつ」

 

「ルーパスちゃん!大丈夫!?」

 

「平気……って言いたいところだけど防具貫通してるから平気レベルを越してる。……アレ相手に、レザーα一式だと分が悪いね。」

 

レザーαで分が悪い───?

 

〈なんだ、これは…?生体反応はある。あるんだ。なのに───その姿がない!これは……?〉

 

ドクターの言葉に辺りを見渡すと、いつの間にか霧が立ち込めていた。

 

「隠蔽魔法はかけた……とりあえず、治療するよ、ルーパスさん。」

 

「ありがと、ミラ……」

 

「……それにしても、さっきの声は…」

 

レンポくんがそう呟く。

 

「…いるのか?ミエリ。」

 

「いるよ?」

 

レンポくんの言葉に返す声。私がその方向を向くと、足を縛られた小さな女の子がいた。

 

「やっほ~、レンポ。」

 

「ミエリ……!お前、どこにいたんだよ!?」

 

「そこ、かな?」

 

ミエリちゃんが指差したのは宝箱。…なるほど、ミエリちゃんが封じられたしおりが宝箱にくっついてたのかな?

 

「えっと…貴女が預言書の?」

 

「え…うん。」

 

「そうだ。こいつが次の主、リッカだ!」

 

「ふ~ん……うん、よろしくね、リッカ!私はミエリ。宝具名は“森の精霊(ミエリ)”だよ。」

 

その言葉に私は頷く。

 

「……ん、治療完了。」

 

「ありがと、ミラ。…リューネ。流石にアレ相手に下位防具上位防具は分が悪い……って言いたいところだけど、一撃でネコタク出勤になるまでのダメージは負ってない。でも確かに今の私の防護と同じ160じゃ足りないと思うから───せめて防護200。もっと言うなら300以上が良いと思う。」

 

「300以上か…まぁ、出来なくはないが。」

 

そう言うとリューネちゃんとルーパスちゃんはアイテムボックスを開き、防具を変え始めた。

 

「……これでいいか。」

 

「ん、こっちも決まったよ。」

 

そう言うルーパスちゃんの姿は…なんか、少し花嫁さんっぽい感じがある気がする。頭以外甲冑だけど。リューネちゃんは…なんか、踊り子さんっぽい?…ええっと…

 

 

ルーパス・フェルト

武:レイ=ファーンライク(鋭利180 氷属性値390 精密0 接撃 強撃 毒 睡眠 カスタムなし )

頭:ゼノラージヘッドα(耐毒珠【1】)

胴:ゼノラージハイドα(達人珠【1】)

腕:ゼノラージクロウα(達人珠【1】)

腰:ゼノラージスパインα(心眼珠【1】)

脚:ゼノラージフットα(達人珠【1】)

護:達人の護石III

特:癒しの煙筒

 

発動スキル:ひるみ軽減Lv.3 特殊射撃強化Lv.2 毒耐性Lv.1 強化持続Lv.3 属性やられ耐性Lv.3 見切りLv.6 超会心Lv.1 心眼/弾導強化Lv.1 冥灯龍の神秘

装備ステータス:鋭利180 氷属性値390 精密30 接撃 強撃 毒 睡眠 防護360 火耐性値-15 水耐性値15 雷耐性値15 氷耐性値15 龍耐性値-20

 

 

 

リューネ・メリス

武:マギアチャーム=ベル(鋭利180 氷属性値280 精密0 最大痛撃色青 百竜強化・属性強化【氷】III 耐毒珠【1】)

頭:なるかみのこうべ

胴:なるかみのむなさき

腕:なるかみのかいな

腰:なるかみのこしもと

脚:なるかみのおみあし

護:風立の護石(笛吹き名人Lv.1)

花:猟香の花結・三輪

 

発動スキル:毒耐性Lv.1 攻めの守勢Lv.1 高速変形Lv.1 雷紋の一致Lv.5 抜刀術【技】Lv.1 体術Lv.1 破壊王Lv.1 ガード性能Lv.2 砲術Lv.1 ランナーLv.1 回避性能Lv.1 笛吹き名人Lv.1

装備ステータス:鋭利180 氷属性値280 精密0 最大痛撃色青 防護380 火耐性値13 水耐性値8 雷耐性値27 氷耐性値-12 龍耐性値-17

 

 

……見たことない文面が並んでるんだけど…それにルーパスちゃんの方…最大痛撃色はどこに……?

 

「爆弾持った?」

 

「あぁ…一応だが。使わないとは思うが…」

 

「いつも大体使わないで終わるからねぇ…ミラ。」

 

「何?」

 

「リッカ達の事…それと洞窟が崩れないように補強とかお願いできる?」

 

「……ん。でもなんで洞窟も…?」

 

「アレは暴れるからな…」

 

「…なんとかできるから、心配そうな顔しないで、リッカ。」

 

あ…気がつかれてたみたい。

 

「行ける?スピリス。」

 

「問題なくですにゃ。」

 

「どうだ、ルル。」

 

「笛の準備は万全にゃ。旦にゃさん達の準備が終わればすぐにでもにゃ。」

 

その言葉にルーパスちゃんとリューネちゃんは頷いて、ミラちゃんの方を見た。

 

「……準備ができたなら一瞬隠蔽を解除するよ。」

 

「……相棒、リューネさん。これを…」

 

そう言ってジュリィさんが渡したのはお団子。それが、8本。

 

「これは……うさ団子?」

 

リューネちゃんのその言葉にジュリィさんは首を横に振る。

 

「……リューネさんに聞いて再現してみてるんですが……どうもうまくいかないんです。食事効果は出るみたいなんですけど…」

 

「……ふむ。1つ、もらうよ。」

 

リューネちゃんが一本取ってそれを一口。

 

「………確かに、ヨモギ殿のものとは違うな。だが、これはこれで良いのではないだろうか。」

 

「え……」

 

「料理というものは人それぞれだからな。一人一人の個性というものが現れる。まぁ、たまに食べられないようなものもあるとは思うが。ヨモギ殿はヨモギ殿。ジュリィ殿はジュリィ殿だ。すまないがお茶はあるかい?」

 

「あ…はいっ!」

 

「ルーパスも座って食べたらどうだ?」

 

「…うん。そうだね。」

 

ルーパスちゃん達はその場で正座してお団子を食べていた。

 

〈……敵が近いというのになんかほのぼのしてません?〉

 

「腹が減っては戦はできぬ、とか言うからなんとも…」

 

〈言いますけども…〉

 

そんな話をしている間に食べ終わったみたい。ちなみにスピリスさんとルルさんの装備はこんな感じ。

 

 

スピリス

武:ギエナネコソードα(近接鋭利40 遠隔鋭利25 氷属性値260 精密0)

頭:ゼノネコヴェールα

胴:ゼノネコドレスα

 

装備ステータス:近接鋭利40 遠隔鋭利25 氷属性値260 精密0 防護120 火耐性値-6 水耐性値-4 雷耐性値4 氷耐性値4 龍耐性値-8

 

 

 

ルル

武:ベリオSネコ包丁(近接鋭利155 遠隔鋭利155 氷属性値200 精密15)

頭:なるかみねこみぐし

胴:なるかみのねこぐも

 

装備ステータス:近接鋭利155 遠隔鋭利155 氷属性値200 精密10 防護260 火耐性値4 水耐性値2 雷耐性値8 氷耐性値-6 龍耐性値-8

 

 

 

……今気がついたけど、リューネちゃんとルルさんの防具にある“なるかみ”ってもしかして“鳴神”───雷神様?

 

「…さぁ、行こうか。」

 

「うん。お願い、ミラ。」

 

「……隠蔽魔法を解除するよ。」

 

そう言ってミラちゃんが杖を振ると、膜が割れた───ような気がした。それと同時に、強い警鐘。ルーパスちゃん達が私達から離れると、もう一度ミラちゃんが杖を振って、膜みたいなのが張られる。それと同時に警鐘が止んだ。

 

「……」

 

ルーパスちゃんは真剣な表情で弓に矢を番える。

 

「…来るぞ」

 

リューネちゃんがそう呟いた直後、スゥッ…っと突然、その場に月白色の存在が現れた。

 

「え……なんで?なんで……()()()()が?」

 

ミラちゃんがそう呟いた。

 

「───バギャァァァァ!!

 

「「「「───っ!」」」」

 

ルーパスちゃん達が耳を塞ぐ。そういえば、耳栓が発動してなかった───

 

「こうやって戦うのは随分と久しぶりだな……月迅竜“ナルガクルガ希少種”───またの名を“ルナルガ”!!」

 

「行くよっ!」

 

「あぁっ!」

 

リューネちゃんが応えると同時に何かを投げる。その投げたものは思いっきり爆音を発した。

 

「音爆弾……!」

 

「───バギャァァァァ!!

 

現れたそのモンスターの目は、赤く光っていた。




ちなみに最後のは怒り咆哮です。

裁「ナルガクルガ希少種に音爆弾って確定で怒るんだっけ。」

らしいけどね…


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第92話 不可視の迅竜

遅れました…申し訳ないです。

弓「ふむ…」


その咆哮が終わると、そのルナルガと呼ばれていたモンスターは姿を消した。

 

「え……どこに」

 

そう私が呟くと同時に、ルーパスちゃんが後ろに跳ぶ。そのまま矢を放つと、ドスッと何かに当たった音がした。それと同時にルナルガが姿を現した。

 

「え……嘘、視界から消えてるルナルガにあんなに正確に当てられるものなの…?」

 

「……ミラちゃん、ルナルガって?」

 

「月迅竜“ナルガクルガ希少種”───またの名を“ルナルガ”。飛竜種の一体で、原種や亜種にない特徴としては、完全に姿を見えなくする能力を持つの。」

 

姿を見えなくする……

 

「それと、基本的にフォンロンの塔、それも霧の濃い夜にしか現れないから本気で出会うのは稀なの。…私使役してるけど。」

 

使役してるんだ……

 

「特徴はさっき言った通り姿を消す力。擬似的にではあるけど…体毛を使って周囲の光を屈折させることで相手の視界の中から姿を消してる。もっとも、ナルガ科の獣魔の特徴として、怒ったときは目元や耳の模様が充血して赤く染まるんだけど。でも、ナルガ科の獣魔の速度でそれを追えるかって言われると……」

 

「……難しい、でしょうね。ナルガクルガ原種との速度の差は知りませんが、ナルガクルガ希少種の狩猟クエストである“不可視の迅竜”をハンターがクエストを受注するのに必要なのはハンターランク40。“イベントクエスト”と呼ばれる特殊なクエストですとハンターランク8でした。参加のみでしたらどちらもハンターランク8からできましたが…それでも高い難易度を誇ります。…そういえば相棒はかなりサクッとマスターランクのナルガクルガ原種を倒してましたね…」

 

あ、ジュリィさんがなんか遠い目……なんか聞いても分からない気がして私はルーパスちゃん達の方に目を向ける。

 

「…ふんっ!」

 

リューネちゃんが自分の後ろに狩猟笛を振るう。ゴシャッていう音がしたあとに更に踊るように攻撃を振るう。

 

「手応えなし───」

 

するとすぐにはなれた場所にルナルガが現れ、尻尾を振る。

 

 

───シュルルルルル────シュッ!

 

 

そんな感じの音と共に棘が逆立つ。それと同時にルーパスちゃんがルナルガの頭に飛び付く。

 

「せいぁっ!」

 

そのまま矢を使って二撃、そのあと飛び上がると同時に一撃と一射。何かが落ちたのを見てそれを拾う。

 

「鉄蟲糸技、“共鳴音珠”───設置完了。」

 

リューネちゃんはその場に青く光る珠を設置し、笛を吹く。同時にリューネちゃんとルーパスちゃんが微かに発光、もう一度ルーパスちゃんが頭に飛び付く。

 

「これで───肉質軟化!」

 

そう言って飛び上がった時、ルナルガの頭に傷みたいなのがついた。着地したあと後ろに跳んだルーパスちゃんと入れ替わるようにリューネちゃんが翔蟲を使って滑りながらルナルガに接近する。確か名前は───

 

「糸が奏でるは、気迫の旋律───“スライド───ビート”!!」

 

滑走中の振り回しの後、突き出してからの演奏。

 

「追加だ!“気炎”発動!」

 

その後笛を突き立てて回す。その途端、ルーパスちゃん達に揺らめく炎のような透明な光が現れた。

 

「───バギャァァァァ!!

 

怒りが収まっていたルナルガが再度怒る。それによって目の前でリューネちゃんが耳を塞いだ。

 

「あっ、危ない!」

 

そのリューネちゃんに襲いかかるルナルガの尾。スキルを準備してなかったから間に合わない───

 

「───え?」

 

───と、思ったのに。リューネちゃんは、そのルナルガの尾に自ら前転で突っ込んだ。そして、それでいて全く被弾した様子がない。

 

〈なんだ……?今、何が起こったんだ!?〉

 

「ドクター、どうなってる?」

 

〈今、さっきの映像を巻き戻して見てるんだ。確かにリューネちゃんは被弾している。……はずなんだけど。〉

 

はずなんだけど?

 

〈……これは一体、どういうことだ?尻尾がリューネちゃんを貫通して何事もなかったかのように……?〉

 

リューネちゃんを、貫通……?

 

「これでもプロハンターだ!緊急時はフレーム回避でどうにかなる!」

 

「あぁ……相棒同様プロハンターだったんですね。しかもフレーム回避習得済みって上級プロハンターじゃないですか…」

 

ジュリィさんが諦めたかのように呟いた。

 

「プロハンター…?それと、フレーム回避って?」

 

「私達の回避───前転、ステップ、緊急回避等々───それには“透け時間”というものがありまして。秒よりももっと短い事が多い透け時間で相手の攻撃をすり抜けることを“フレーム回避”と言います。透け時間はその名の通りで、一瞬だけ身体が透けるんです。速すぎて目視はできないんですけどね…一説ではギルドカードがその透け時間を発生させているのだとか。“プロハンター”というの狩猟技術を極めた人の事です。特に狩猟に関する専門的技術を有し、第三者が認める手段でそれを実践している人はそう呼ばれ、その練度によって下級中級上級と分かれます。フレーム回避を完全に会得しているのならば上級ですね。」

 

そうなんだ…

 

 

ガシャッ…グシャッ

 

 

…?

 

「───尻尾切断完了!」

 

「ナイスだ、ルーパス!」

 

あ、今の尻尾切断した音なの?

 

「旦にゃさん!獲物に弱りが見えるにゃ!」

 

「……!ルーパス!」

 

「スピリス!」

 

「はいにゃ!」

 

スピリスさんはルーパスちゃんの声に応えた後、何かを設置した。

 

「しびれ虫かご、設置完了にゃ!」

 

「───!?」

 

その虫かごの場所にルナルガが引っ掛かる。

 

「詠唱省略、宝具全開!“我、ここに告ぐ(新大陸の)───」

「詠唱省略、宝具展開!“我、ここに告ぐ(現大陸の)───」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんの宝具が起動する。

 

「───之は龍を追いし白き風の一撃。(白き追い風)”───!!!」

「───之は龍を滅す精神力の強撃。(守護強者)”───!!!」

 

以前も見た技が、ルナルガ一体に叩き込まれていった。

 

「───ァァァァ…」

 

技が終わると、そこには断末魔を上げて倒れるルナルガの姿があった。

 

「───ふぅ。狩猟完了っと。ミラ、解除していいよ。」

 

その言葉にミラちゃんが杖を振ると、膜が消えた。……警鐘は、発動していない。

 

「…英雄王、ルナルガの運搬お願いできる?」

 

「うむ。……あの女神めに、問いたださなくてはな。」

 

そう言ってギルが金色の波紋の中にルナルガ本体と切断された尻尾、そしてキマイラを放り込んだ。

 

 

 

Side 三人称

 

 

 

「…消えたか。」

 

連合首都。そこにいる宮廷魔術師───レフ・ライノールはそう吐き捨てた。

 

「あの意味の分からないサーヴァントと同じ世界の存在だというから使役したというのに、使えないやつめ。まぁいい、他にも駒はある。そうは思わないかね、皇帝よ。」

 

「…」

 

「…ふん。それにしても…サーヴァントよりも魔力は使わず、その力はサーヴァントにも劣らない。もしかするとサーヴァントよりも使えるかもしれないな。」

 

この世界に突如現れた月迅竜“ナルガクルガ希少種”…それの、影。何故現れたのか。それは、この男が召喚したからに他ならない。

 

交差した運命は、着実に影響を与え始めていた。




さてと…次回はステンノさんのところに戻りますね。

裁「…これ、ステンノさんさ…完全にとばっちり受けてるよね。」

……うん。それは私も思った。


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第93話 問いただす

UA19,000突破ありがとうございます!

裁「それとお気に入り80件ね。」

ほわぁ…


「そら。洞窟の果てまで行ってきてやったぞ。」

 

そう言ってギルがルナルガとキマイラの亡骸をステンノさんの前に雑に放る。

 

「…まずは、お見事ですわ、勇者の皆様。私に用意した洞窟を突破するなんて。……ですが…これは?」

 

「下らぬ虚言など要らぬ。この獣2体、そして洞窟にいた兵。すべて、貴様が用意したものであろう?」

 

その言葉を聞いたとき、酷く驚いたような表情をした。

 

「……いいえ。合成の獣はともかく、そちらは私が用意したものではありませんわ。」

 

「…何?」

 

「……えぇ、認めましょう。確かに私は洞窟に兵と合成の獣を用意しましたわ。ですが…この獣は知りませんわ。」

 

そう言ってステンノさんが指し示したのはルナルガ。…どういうこと?洞窟内にいたルナルガを、ステンノさんが知らない…?

 

「ふん、それが真実だという証もなかろう。」

 

「これに関しては真実ですわ。言葉だけでは足りないというのでしたら、私の霊基にでも誓いましょう。」

 

「……むう…」

 

あ、ギルが黙り込んだ。

 

「あら?何、あんた死体持ってきたの?」

 

「あはははは!!」

 

いつの間にか、二人のサーヴァントが近づいてきてた。って、この声は…

 

「エリザベートさんとタマモキャットさん…?」

 

「はぁい、また会ったわね。」

 

「あはははは!!人参はあるか?」

 

〈タマモキャットの方は完全に狂っちゃってるか…意志疎通は難しいかもね。〉

 

エリザベートさんの視線がネロさんに向いた。

 

「…魔力を感じない…あんた、まさか人間?」

 

「何を訳の分からぬことを。美少女ベースでなければ斬っていたぞ。余は当代の皇帝、ネロ・クラウディウスである。……む?その親しみのある視線はなんだ。」

 

「いや……忘れていいわ。いえ、忘れて。……うっそ、生ネロじゃない…」

 

「「「「「生?」」」」」

「何が生か!」

 

あ、数人被った。

 

「あはははは!!」

 

〈地獄絵図かな?フランスの時より酷いぞ…?〉

 

「……ところで、二人はどうしてここに?」

 

アイドルとメイド(で合ってる?)さん。なんでいるんだろう。

 

「あぁ…洞窟を掘らされてたのよ。このカミ様の指示で、ね。」

 

「ふむ…βテスター、というやつか?ということは貴様等はビーターか?」

 

「ギル、“ビーター”ってユーザー側の試験者を指す“βテスター”と不正行為実行者とかを指す“チーター”を掛け合わせた言葉だから微妙に違うよ?…たぶん。」

 

「……よく分かるな、マスター。」

 

「数日前にSAO読んでたの見てたし。」

 

読んでたんだよねぇ…原作SAO第1巻。意外だったけど。たまに私達がやってるゲームに参加してきたりするし。ちなみにプレイヤーネームは“AUO”、“ギル”、“AUO-P”のどれかだった。

 

「…しかし、霊基に誓うとはいえ信用ならぬな。」

 

「…強制的に吐かせようか?」

 

ミラちゃんがそう呟いた。

 

「できるのか?」

 

「あんまり好きじゃないけど一応。」

 

「ふむ…頼む。」

 

「はいはい…」

 

そう言ってミラちゃんはステンノさんの前に立った。

 

「…私の目を見なさい。」

 

「……?……ッ!?」

 

見た直後、ステンノさんが慌て始めた。ミラちゃんはというと目を離そうとするステンノさんの頭をしっかりと掴んで目を強制的に合わせる。

 

「───!─────!!」

 

声にならない悲鳴。しばらくそれが続いたあと、力が抜けたようにぐったりと座り込んだ。それを見て、ミラちゃんはステンノさんの頭から手を離す。

 

「できたよ。」

 

「……ミルド、貴様何をした?」

 

「“強制暴露の暗示”。洗脳系の一種なんだけどね。この暗示にかかると嘘を隠せなくなる。本当のことしか言えなくなるの。」

 

真実薬だ…

 

「じゃあ…始めるよ」

 

「うむ。」

 

「───問1。汝、我らの入りし洞窟を作った者か。」

 

「───はい。」

 

「───問2。汝、洞窟にいた合成の獣を知る者か。」

 

「───はい。」

 

「───問3。合成の獣について知ることを答えよ。」

 

「───名をキメラ。魔神テュポーンと怪物の母エキドナの娘。神代ではベレロフォンに倒された獣。」

 

確か…ミラちゃんはまだギリシャ系に詳しくなかったと思う。

 

「───問4。洞窟の奥にあるという宝。全部でいくつか。」

 

え…なんでそんなこと……?

 

「───2つ。1つは少女が描かれた緑の紙に封じられた箱。私や他の神々でも開くことができなかった謎の箱。もう1つは私が用意したもの。中にはタマモキャットがいるはずだった。」

 

少女が描かれた緑の紙───ってミエリちゃんのしおり?

 

「───問5。汝はナルガクルガ希少種を知っているか。」

 

「───いいえ。神代でも姿を見たことがありません。今この場で見たのが初めてです。」

 

「…だ、そうだけど?」

 

「ふむ……ミルド、これは貴様ではなくとも応答するのか?」

 

「するよ。次は問6からだね。」

 

「ならば……問6。貴様は何をミラ・ルーティア・シュレイドに見た?」

 

ミラちゃんに、何を見たか……?そういえば、なんか怯えたような感じだったもんね。

 

「───白き竜。こちらを見つめる赤き双眸は、私に白き竜を思い起こさせましたわ。その竜の力は恐らく、神にも劣らないでしょう。」

 

赤き双眸───?ミラちゃんの目って右が赤、左が緑の虹彩異色だよね?

 

「…ふむ。何か心当たりはあるか、ミルド。」

 

「…………さぁ、どうだろうね。でも私達の世界で白い竜って言ったらフルフル原種や白疾風ナルガクルガ、パオウルムー原種にベリオロス原種その他諸々…あとは古龍になるけどミラルーツとシャガルマガラとかじゃないかな。」

 

「そうか。多いのだな、意外と。」

 

〈話はそこまでにしよう!そこにサーヴァント反応が近づいている!!〉

 

「アタシ?」←サーヴァント

「ン?」←サーヴァント

「うん?」←サーヴァント

「え?」←サーヴァント

「なんですか?」←デミサーヴァント

「「にゃ?」」←サーヴァント

「ウォン?」←サーヴァント

「はい?」←サーヴァント

「何?」←サーヴァント

「…?」←サーヴァント

「あ?」←宝具

「ん~?」←宝具

「ほう?」←サーヴァント

「……」←神

 

〈違う、君たち以外の───ってなんだこのサーヴァントの大渋滞は!神霊含めて14騎いるって何さ!!ともかく、海から来るぞ!〉

 

海から───?

 

「ネロォォォォ!!」

 

「叔父上……!」

 

カリギュラさんだった。

 

「捧げよ、そのから───だっ!?」

 

こちらに向かってきている最中に何かによって吹き飛ばされた。

 

「マスターめ達であの皇帝を討ち取ってこい。我とミルドはこの神に用があるのでな。」

 

「あ…うん」

 

〈……私も行きます、マスター。〉

 

その言葉にうなずいて、メドゥーサさんを召喚する。

 

「……英雄王。どうか、温情を…」

 

「悪いようにはせぬよ。よく護れ。」

 

その言葉を最後に、私達はカリギュラさんのもとへ向かった。

 

 

 

……で、しばらく戦ったあと、戻ってきたら……

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめどぅーさほんとうにごめんなさいすなおになれなくてごめんなさいいじめてしまってごめんなさい……」

 

「……はぇ?」

 

なんか……明らかにカリスマブレイクっていうか…人格崩壊したステンノさんがいた。

 

「ミラちゃん、何したの?」

 

「ん~…私は煌黒龍の威圧当て続けたの。英雄王は……ごめん、言わせないで。」

 

「あ…うん。」

 

そのあと、ステンノさんから情報貰えたけど…完全に人格変わってない?あれ。威圧感なくなってるんだけど…




煌黒龍の威圧は神をスタンさせられるという設定です。

弓「ふむ…」


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第94話 多い敵襲

短いです、はい。

弓「短いな。」

微妙に書けることが分からなく…


「敵襲!敵襲!」

 

「……またですか」

 

ジュリィさんが疲れたような表情で言った。

 

「これで今回4回目ですよ?流石にイビルジョーでもこんな頻度では来ないと思いますけど……」

 

「「バゼルなら来る。」」

 

「……大陸にもいたんでしたっけ、爆鱗竜…」

 

「最近は異世界のハンター達に罠と斬裂弾速射ライトボウガンでハメ倒されてたけどね。水没林に探索に行った時、偶然見かけたがあれは流石にかわいそうになってくるぞ…」

 

爆鱗……?あ、“異世界のハンター”っていうのはルーパスちゃん達の世界で産まれた人じゃない、どこからともなくやってきた出自不明のハンターさんなんだって。上手な人から上手じゃない人まで人それぞれなんだって。

 

〈これは……!警告、前方からサーヴァントに似た反応数百!恐らくこれはサーヴァントの宝具によるもの!確かなサーヴァント反応は1つ!〉

 

その言葉にミラちゃんが杖を振る。

 

「おねがいみんな!力を貸して!」

 

その声に答えたのか複数の小型モンスターが現れた。

 

「“ジャグラス”、“ケストドン”、“シャムオス”、“ギルオス”、“ガストドン”、“ウルグ”……!全部新大陸に生息する小型モンスター達です、相棒!」

 

「使役量多すぎでしょ…!?」

 

全部で18体。相手の陣営にはまだ足りないけど…多分、十分だと感じたんだと思う。

 

「しかし───待ち伏せか?数百もの数を、一体どこに───!」

 

「待ち伏せではない。私はここを防衛すると決めただけのこと。我が拠点に貴方たちが足を踏み入れた。すなわち、私はこれより拠点防衛を開始します。」

 

その人は…なんていうか、燃えてる?

 

「進軍する敵はすべて打ち砕く。攻撃よりも勇ましく、防御よりも遥かに硬く───これが、我がスパルタの拠点防衛術。その身をもって味わうといいでしょう。」

 

スパルタ───ということは

 

「レオニダス───“レオニダス一世”。」

 

「───左様。サーヴァント、ランサー。真名をレオニダス。義なき戦いなれど───あなた方を砕く。」

 

そう言ってレオニダスさんは密集陣形をとる。

 

「───ふん。ミルドよ。適当に蹴散らすがいい。」

 

ギル?

 

「あやつの本領が生きるのはは何かを護ることであろう。護るべきものなき戦いなど、本領を出せるわけがなかろうが。適当に、それでいて迅速に対処せよ。」

 

「……分かった。」

 

そう言ってミラちゃんは本を開いた。

 

「我、汝と契約せし者。契約に従い、その姿をここに現せ。汝、人々の記憶に色濃く残る者。我が名“ミラ・ルーティア・シュレイド”と魔導書の名のもとに応えよ。」

 

詠唱する毎にミラちゃんの魔力が高まっていく。

 

「宝具開帳。“契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)”───出でよ、獣魔初心者ご用達───みんなの先生、怪鳥“イャンクック”!!」

 

「───ギャエィギャェイ!」

 

そうして召喚されるモンスター。……あ───

 

「「「く…」」」

 

「「く…」」

 

「「「クック先生───!?」」」

「「クック先生だにゃ───!?」」

 

思いっきりハモった。クック先生───モンスターサマナーシリーズにおいて対飛竜種での戦法、そしてモンスターの契約方法を自らの体を使って教えてくれる通称“先生”。戦法、って言ってもターン制ゲームだからそこまで複雑じゃないけど…契約・召喚に関しては地味に高めの難易度に設定されてるから先生って言われるんだよね。しかも序盤モンスターにしては珍しく“影特攻”───シャドウ・モンスターに対する特攻ね───持ってて普通に強いから色んな人に好かれてるんだよね。

 

「…ルーパスさん達の世界でもクック先生で通じるんだ。」

 

ルーパスちゃんがうなずいた。

 

「…そう。」

 

そう言った後、ミラちゃんはクック先生の背中に乗って飛んだ。

 

……そのあと、小型モンスター達が一斉に退いたと思ったら火の玉の雨が降って。それがレオニダスさんもろとも焼き尽くした。……流石ミラちゃん、流石先生……

 




ちなみにクック先生以外にもイャンガルルガやアケノシルム…その辺りだそうか迷いました。

裁「それより異世界のハンターって…」

私達プレイヤーのこと。有名な実況者さん達も異世界のハンターとしてモンスターハンターの世界にいるっていう設定。映画コラボのアルテミスさんみたいに竜人語以外を話すんじゃなくて、ちゃんと竜人語を話してるの。異世界のハンターは“ゲーム”と“アバター”という境界を通して会話しているようなものだから、日本語や英語がちゃんと竜人語に変換される。…ざっとだけどこんな感じかなぁ


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第95話 進軍前日

………

裁「マスター?」

…んにゅ…

裁「起きて、マスター。」

んぅ…

裁「…起きなさそうだね。……あれ?珍しい、マスターがウインドウ開きっぱなしで寝てるって……」

……すぅ

裁「“デデデ大王”……一人称は“わし”……これって、一体…?」


「「「「疲れた……」」」」

 

私、ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんが同時に呟いた。

 

ローマへと帰ってきて。凱旋で街を回ってきたんだけども……思いっきりもみくちゃにされて……特にミラちゃんは小さい上に軽いから目を離すとすぐに人の波に流されてどこかにいってるっていう…マシュは盾で捌ききってて、スピリスさんルルさんガルシアさんの3匹は避けきってたけど。ちなみにルーパスちゃんはシンプルな白色のワンピース、リューネちゃんは黒のブラウスに紫色の…なんだっけ。えーと……キュロットパンツ、だったかな?確か。ミラちゃんは浴衣みたいな感じ…そんな衣装になってる。

 

「大丈夫ですか?相棒。」

 

「……」

 

「…大丈夫じゃなさそうですね。相棒って人が多いの苦手でしたっけ?」

 

「いや…苦手でもないけど。もみくちゃにされすぎて疲れた…お酒の匂いとか結構したし…」

 

「そういえば、相棒はお酒苦手でしたね。」

 

「そうなんだよね…少しくらいならなんとかなるんだけど…本格的には無理。というか匂いが好きじゃない。」

 

そういえばルーパスちゃんって未成年だっけ……ルーパスちゃん達の世界でどういう分け方なのか知らないけど。

 

「貴様達は民達にとって勝利の女神のように見えるのであろうよ。特にマスターはその勝利へと導いた指導者のようにも映っていたであろうし、リューネ、ルーパス、ミルドは敵であろうとも決して殺さず、無力化するだけに留める何者へも慈悲を与える女神のように見えたのであろう。もっとも、そのような神など数少ないがな。」

 

「基本的にルーパスちゃんとリューネちゃん、ミラちゃんの三人が自分で判断して動いてくれるから私ほとんどなにもしてないよ…?」

 

「女神、か。島で会ったあれのように思われるのは少しな…」

 

「あれは別であろう。」

 

「そうか…」

 

「それにしても先輩、お疲れのようではありますが嫌そうでもありませんでしたね。」

 

「そう…?まぁ、お祭りは嫌いじゃないから…」

 

〈まぁ、まんざらでもなかっただろう?それが勝利の美酒ってやつさ。〉

 

「ふむ。魔術師殿、まるで味わったことのあるような口ぶりだな?」

 

〈ボクは想像力豊かな方だからね。お陰で色々な目にもあったけどさ…〉

 

そうなんだ…

 

「ふん、美酒とはよいことをいうではないか。成人せぬ者もいる故、ここでは出さぬがな。」

 

〈そうしてくれ。みんなが成人するときを楽しみに……って、そのときまで君はいないか…〉

 

「さて、どうであろうな。」

 

そんな会話の最中に───

 

「皇帝陛下に申し上げます!特別遠征軍、首都ローマへと帰還いたしました!」

 

「おお!あの者達が帰ってきたか!」

 

あの者達…?

 

「将軍、両名ともご健在!兵達も損失はありません!」

 

「あい分かった。あの者達はこちらへ来るか?」

 

「はっ!じきにこちらへと顔を出す、とのことです!」

 

「そうか…うむ、さがってよいぞ。」

 

その人が下がって少しして、二人の姿が見えた。

 

「…む。すまない、ネロ・クラウディウス。待たせてしまったかな。」

 

「■■■■■───」

 

「よくぞ戻った、“荊軻”に“呂布”よ!」

 

荊軻と呂布───多分、サーヴァント。

 

「リッカ、紹介しよう。こやつらは余の客将で、暗殺者の荊軻と無双の呂布という!」

 

「荊軻───中国末期の刺客。始皇帝を暗殺しようと試みるも失敗。呂布───中国後期末期の武将。」

 

「───へぇ。まぁ、その話はまたあとにしようか。それよりも───」

 

荊軻さんはミラちゃんに視線を向けた。

 

「───そちらのただならぬ王気を放つ御令嬢、将来はさぞ名の知れた女王かとお見受けしますが如何に?」

 

その問いに、ミラちゃんは首を横に振った。

 

「この世界で私を知る者はいない。同様に、私が知る者もこの世界には伝わっていない───私は別世界の人間。別世界の───ただの、王女。」

 

「……ん~…将来の女王、か…今のうちに刺したい、が全く隙がないね。下手を打ったらこっちが殺されるのが分かるほど隙がない。」

 

ちょっと今物騒なこと聞こえたような……それにしても隙がない、って?今の状態でもなの?戦闘中はともかく、今の普通の女の子って感じの状態でも……?

 

「いつ何が起こるか分からないから、瞬時に対応できるように警戒し続けてるからかな?戦闘装備じゃなくても武器さえあれば大体なんとかなるし。もっとも、何も武器がなかったとしても簡単に落とされるつもりはないけど。」

 

「…なるほど。随分と気の強い御令嬢だ。そちらの金色の鎧の御仁は?」

 

「英雄王ギルガメッシュ。人類最古の王よ。」

 

「なるほどなるほど。人類最古の王に全く隙のない王女ときた。ん~…暗殺が楽しみだ………っと、すまない、今のは忘れてくれ。君達と共に戦えることを嬉しく思うよ。えっと…」

 

「…あ、藤丸 リッカです。趣味はゲームで、座右の銘…みたいなのは“みんな違ってみんな良い”、です。」

 

「マシュ・キリエライトです。クラスはシールダー。未熟者ですが、よろしくお願いします。」

 

「■■■■────」

 

「暑苦しいな…華はそれなりにいる故、幾分かマシであるが…」

 

〈余のことか?分かっているではないか!〉

 

「黙れキメラボイス───と言いたいところであるが貴様はルーパスに叩き直されておったな。そして華とは貴様ではない。ルーパス、リューネ、ミルド、そしてマスターとマシュ、無銘に森の精霊のことよ。」

 

ちゃっかりジュリィさん抜かれてる……聴こえてないみたいだけど。

 

〈なんと───!余がいるだけでも華やかになるであろう!?撤回せよ──!!〉

 

「ま、まぁまぁ……その辺で、ね?こっちのネロさんに聞こえちゃうから……!」

 

〈───むぅ。〉

 

「……それにしても私が華、か…なんか久しぶりに言われた気がする。」

 

「ほう?マスター、貴様恋人でもおったのか?」

 

「違うよ、ただの友達。言っておくけど女の子だからね?」

 

「百合、というのもあるであろう?」

 

「あるけどそう言う関係じゃないよ…私に色々なコーディネートとかデザインとか教えてくれた子と、あるゲームだけ異様に上手な子が言ってたの。…数ヵ月前に、コーディネートを教えてくれた子は行方不明になっちゃったんだけどね。」

 

「む……すまぬ、聞かれたくないことを聞いてしまったか。」

 

「大丈夫、話してない私が悪かったし。……元気にしてるといいけどなぁ…」

 

まぁ今の状況だと元気にしてるかどうかなんて分からないんだけど。

 

「…よし、皆の者、聞くが良い!我らはガリアを奪還し、連合の本拠地の場所をも掴んだ!ならば───決戦の時よ!明日、我らは連合の本拠地へと攻め入る!」

 

決戦───このローマにいるのも、もう時間は少ない、か。

 

「我らに勝利をもたらすべく、力を貸してほしい!!」

 

「「「「「───おぉ────!!」」」」」

 

その夜は、宴が開かれた。…明日も、頑張らなくちゃ。




……ぅん?……ルーラー?

裁「あ……起きた?」

ん……ふぁぁ……

裁「……ねぇ、マスター。これは…?」

ん~?…作るストーリーの原案だよ。ルーラーも知ってるでしょ。私は原案を作ってから反映すること。

裁「そうだったね…」


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第96話 腹痛がする

遅くなりました……

裁「なんでよ……」


ズキッ…

 

「……」

 

まただ。警告の激痛───まだ、弱いけど。今日、この先に───何かが、ある。それとお兄ちゃん曰く、マリーの固有結界は9割出来てきてるらしい。

 

「■■■■■■───!」

 

相対するはバーサーカー。他の骸骨兵やゴーレムはルーパスちゃん達が相手してくれてて、こっちにはマシュとアル、ジャルタさんにナーちゃん、預言書だけ。

 

「おいジャンヌ!炎が足りねぇぞ!」

 

「分かってるわよそれくらい…!」

 

「なら良いんだけどよ───封印状態のオレの炎くらい上回って見せやがれ!」

 

「言われなくとも……!」

 

そう言ってジャルタさんの炎の勢いが上がる。同様にレンポ君の火の勢いも上がっていく。

 

「…せあっ!」

 

マシュが盾に体重をかけて二連───そのあとに盾を支えにして跳躍。その跳躍した先にナーちゃんが氷を生成してその氷に盾の先を突き刺して再跳躍。その跳躍の隙にジャルタさんとレンポ君が炎を起こし、アルとミエリちゃんが風を起こす。…ミエリちゃんが使うのは“森属性”の魔法なんだけど、一応風も使えるみたい。

 

「今よっ!」

 

ナーちゃんが叫ぶと同時にバーサーカーが凍りつく。

 

「砕きます!はぁぁぁっ!!」

 

結構高い位置まで上ってたマシュが、盾の面になっている部分を向けて空中から落ちてくる。以前のシールドバッシュと同じ───だけど今回はもっと高い…!

 

「■■■■■───!!!」

 

「畳み掛けんぞ!合わせやがれ、ジャンヌ!燃えやがれ!宝具稼働───」

 

「指示すんじゃないわよ!!これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮───」

 

「仮想展開。其は我が仮想の側面、攻撃の概念を現す仮想───」

 

「一斉にいっくよ~!森の息吹をここに!宝具稼働───」

 

「繰り返すページのさざなみ……押し返す草のしおり───」

 

「真名、偽装登録───宝具、展開します!」

 

〈宝具の一斉起動───大丈夫かい、リッカちゃん?〉

 

ドクターが心配そうに声をかけてくる。

 

「以前よりは大丈夫。…ありがとね、マシュ。」

 

「いえ…私はあなたのシールダーですし…それに、他の皆さんと比べたら護ることしか出来ないので。」

 

「攻撃することだけが戦いじゃないから、良いと思うよ。」

 

そう言った直後、宝具が起動する。

 

「いっけぇ!“炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)”!!!」

「“吠え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”───!!!」

「真名疑似登録!“疑似展開 仮想宝具/時間歪曲(ロード・タイマーディストート)”───!!!」

「“森の精霊、その力此処に振るえ(ラフナプリズン)”!それ~っ!」

「全ての童話は、お友達よ!だって私は、“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”───!!!」

「“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!!」

 

炎が、槍が、歪んだ時間が、森の力が、お菓子が───それら全てがバーサーカーに殺到する。…結構エフェクト凄いからこれがゲームだったら処理落ちしたりして……

 

「これで───どうよ…!」

 

「…いや、まだ生きてやがるな。ちっ、しぶといやつだ。」

 

なら───もう一人。こういうときは、直感に従う───!

 

「お願い、“イスカンダル”!!」

 

「─!」

 

そうして召喚されるサーヴァント───ライダー・イスカンダル。

 

「お、おぉ?いきなり余を喚ぶとは思わなんだ。少し待たれよ。」

 

そう言ってイスカンダルさんは手に持ってたバアムクーヘンらしきものを食べきった。

 

「あ、あんた…それ…!私が作ったバアムクーヘン……!不味かったんじゃ……」

 

えっ

 

「うん?美味であったぞ。だがまだ発展途上であろう、精進するのを進めるぞ。…さて、待たせた。」

 

「……イ…」

 

い?

 

「イスカンダルゥゥゥ……!」

 

突如バーサーカーが興奮しだした。

 

「……ほほう?お主、“ダレイオス三世”か。」

 

ダレイオス三世───えっ。アケメノス朝ペルシアの最後の王?

 

「イスカンダルゥゥゥ……!!!」

 

「まさかまた逢うとは───だが、お主は既に瀕死の身。すぐにでも終わらせるのが良かろうて。もしももう一度出会い、お主が万全の状態ならば───な。」

 

「………」

 

「……魔力の残りは大丈夫かのう、マスター。」

 

私はその問いにうなずく。

 

「がはははは。…全く、此度のマスターは強き女子よ。ならば、余も応えてやらねばな───さぁ再び集え、共に最果てを夢見た猛者達よ!此処に刻む轍は我らの誉れ!!」

 

「フンンンムオオオオオン!!」

 

突如出現する軍隊と骸骨達───

 

「“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”!!AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

「フンンンムオオオオオン!!」

 

それらが激突し、全てを蹴散らしていく。

 

「………!」

 

その宝具の圧が私達にも襲いかかる。だけどそれは、マシュが盾で守護してくれてる───!

 

「マシュ───お願い、頑張って!」

 

そう言うと同時に私の手から令呪が一画消える。

 

「…!はいっ!」

 

令呪でブーストされた防御は、イスカンダルさんの宝具が終わるまでその衝撃を耐えきった。

 

「……願うならば、彼の者とも酒を汲み交わしたいものだ。」

 

ダレイオス三世がいなくなったその場所で、イスカンダルさんがそう呟いていた。

 

 

イスカンダルさん達がカルデアへと帰ったあと。私達はブーディカさんが敵に捕らえられたことを知った。




うみゃー……地味に体力ない

弓「そう言えば貴様は持久力等低い方であったな。」

う…


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第97話 謎

ギリギリ…

裁「なの?」


「英雄王…!」

 

ブーディカさんを救いに来た私達…なんだけど。そこで出会ったのがイスカンダルさんの幼年期の姿のサーヴァント───“アレキサンダー”と、彼から先生と呼ばれていたおじさん───こちらもサーヴァント。名乗りは確か“ロード・エルメロイ二世”。…どこかで、聞いたような。

 

「ん~と…君がマスターさん、だよね?悪いんだけど、ネロと一対一で話をさせてくれないかな?」

 

「……どうします、ネロさん」

 

「…構わぬ。話がしたいと言うならばそれに応じるのみよ。」

 

「…ネロさんはこう言ってる……ならこちらからひとつだけ条件をつけさせて」

 

「うん?」

 

「対話には参加させない───けれど、万が一のために護衛として一騎、ネロさんの側に。」

 

「あぁ…うん、それくらいなら構わないよ。」

 

…ということで、条件付きでネロさんとアレキサンダーの対話が成立する。私がカルデアから喚ぶのは───

 

「お願い、“佐々木小次郎”!」

 

ギル曰く、かつてメディアさんの守護をしていたイレギュラーのアサシン。ギルにとってはそこまで驚異じゃなかったらしいけれど…

 

「……さて、と。そっちは任せたよ、先生。」

 

「任された───さて。英雄王。貴様には私の用事に付き合ってもらおうか。君たちは───そうだな。」

 

エルメロイ二世が何かのカードを掲げると、突如私達は壁と壁に覆われた。

 

「そこでしばらく待っていると良い。用事が終われば出してやる。」

 

「貴様───雑種の分際でマスター達に何をするつもりか!」

 

「なにもしない。私の用事を邪魔されたくなかっただけさ。」

 

上空からギルとエルメロイ二世の声が聴こえる。壁と壁に挟まれる場所、複数に分岐する道、外が見えない程高い壁───

 

「───ルーパスちゃん、壁を壊してみて!」

 

「え、ええっ!?…わかった、やってみる!」

 

嫌な予感がする。激痛の原因とは違う、途轍もなく嫌な予感……!

 

「大タル爆弾セット!離れて、起爆するよ!」

 

その言葉に私達はタルから距離をとる。十分に距離をとったのを確認して、リューネちゃんがクナイを投げた。

 

 

ボンッ

 

 

そんな音と共にタルが爆発する。その爆発で壁が壊れ、奥が見えた。

 

「……やっぱり……迷路…!」

 

奥にあったのは同じような壁。その先も入り組んでいる───

 

 

グニャ…

 

 

「っ!」

 

壁が液体のように曲がり、その穴を埋めた。

 

「え……え?先輩、これは……」

 

「……同じだ。」

 

「同じ……?」

 

「同じだ───“迷”のカードと。でもなんで───此処にあるの?」

 

迷───巨大迷路。意思を持ち、不正を許さない───でも、あれはアニメとかの存在なはず。あるはずがない、とは言わないけど。預言書っていう前例もあるし。

 

「……疑問はあと。此処を抜けなくちゃ。」

 

「でも…どちらにいけば良いのでしょうか。」

 

「……マシュ、カルデアとの通信は?」

 

通信が繋がれば召喚できる可能性はあるけど───

 

「……だめです。通信、途絶しています。」

 

「……そう。フォータさん」

 

〈………申し訳ありません。マスターにも繋がらず、召喚も不可能です。……私達は、この迷路で完全に孤立しています。〉

 

なら、攻略するしかない…か。

 

「……行こう、みんな。待ってても始まらないよ。」

 

「あ…はい。」

 

私達はとりあえず移動を始めた。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「さて…と。」

 

「貴様…」

 

「安心するがいい、英雄王。私が作ったその結界の中にいる限り、私と貴様がどれだけ激しい戦闘をしようと、彼女らに被害はない。私が消えるか、私が結界を消すか───あるいは、彼女らが自力で結界を突破するか。そうすれば結界は消える。」

 

エルメロイ二世はギルガメッシュを睨みつつ、そう告げる。

 

「…結界、か。」

 

〈大変だ、ギル!リッカちゃんの───いや、それだけじゃない!マシュやルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃん───全員の反応がほぼほぼロストした!通信も全く繋がらない!!恐らくは、そこのキャスターの仕業───〉

 

「…で、あろうな。騒ぐな戯け。常に平常心を保つが良い。」

 

〈……あ?お前……ロード・エルメロイ?〉

 

通信先から聴こえる六花の声。その声に、エルメロイ二世が反応する。

 

「知り合いか?六花よ。」

 

〈あぁ、ちょっとばかしな。俺はロードじゃねぇが、結界に関してはロードよりも技術が遥かに上だってんで聞きに来たロードがいるんだ。それが“ロード・エルメロイ二世”。魔術協会“現代魔術科”学部長。そん時は確か結界素体の展開式を教えたか?〉

 

「結界素体?」

 

〈結界の素体───結界魔術の基礎基盤。固有結界は例外として、あらゆる結界を構築するのに必要な初期術式だ。基盤がなけりゃその機構は動かねぇ───当然だがな。んで、エルメロイが得意としてたのは情報断絶系の結界だから───あぁ、なるほどな。ロマン、こっちからの観測は無理だ。〉

 

〈六花君!?〉

 

〈情報断絶───内部に誰がいるかを隠すことが出来るんだ。それは視覚的にも、聴覚的にも、魔力的にも───全ての情報を断っちまう。結界の破壊はできるが、どうなるかね。〉

 

「…そうか。」

 

〈結界は術者に任せておいた方がいいぞ。結界を外から壊そうとすると内部の存在が酔う可能性がある。〉

 

六花の言葉にギルガメッシュはエルメロイ二世を睨み、構える。

 

「貴様が何を思うか知らぬが、我に歯向かうか。」

 

「かつて王が挑んだ果て───挑ませてもらおう、英雄王!!」

 

軍師と王が、此処で衝突する───




“迷”を使ったのは特に意味ありません。

弓「ないのだな…」


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第98話 王と忠臣

うにゃー…

弓「……おかしくなったか。」


「ど、ど、ど、どうしよう!?観測も出来ない、反応も見当たらない……!このままじゃ、リッカちゃん達が……!」

 

2015年の人理保障機関フィニス・カルデア。そこでは、ロマンを含めたほぼ全職員が慌てふためいていた。

 

「リッカちゃん達は既にこのカルデアにとってなくてはならない存在だ…!このままみんな意味消失なんて嫌だぞ、ボクは……!!…っていうか六花!君も何かしてくれ!?特に君はリッカちゃんの兄だろう!?」

 

その叫びに、六花がため息をついた。

 

「落ち着け、馬鹿。全員な。慌ててたら出来ることも出来ねぇよ。」

 

「逆に君はなんで落ち着いてられるのさ!君の妹が危険なんだぞ!」

 

「こういうときに慌てても何にもならねぇ。まずは自分が出来ることを把握しろ。」

 

「……自分が、出来ること?」

 

「…とりあえず、そこ代われ。ロマン。」

 

「…何か打開策でもあるのかい?」

 

「さて、な。ムニエル、すまねぇが俺の部屋からピンク色のノーパソ持ってきてくれ。」

 

「お、おう?ピンク色のノートパソコンだな?」

 

「あぁ。多分、机の上においてあるはずだ。」

 

六花がそう告げると、ムニエルと呼ばれた人物は管制室を後にした。

 

「さてと……ロマン、ロストしたタイミングは?」

 

「君が来る少し前さ。」

 

「そうか。座標は?」

 

「ギルのすぐとなり、かな?」

 

「…ふーん。まぁ、いいか。あとは…」

 

「おい、これで良いのか?」

 

ちょうど戻ってくるムニエル。

 

「ナイスタイミングだ。貸してくれ。」

 

「何をするつもりだ…?」

 

「俺の結界術がロードより遥かに上回ってるっていうのはさっき言った通りだ。その結界を操る俺が、なにも対策をしてないとでも?」

 

そう言いつつ、六花は開いたノートパソコンのキーボードを使って何かを打ち込んでいた。

 

「でも、情報断絶は情報的に断つって言ったのは君じゃないか?」

 

「まぁな。だが方法はある。簡単な方法は断絶に断絶をぶつけてやりゃ良いんだよ。断絶結界っていうのは要は結界を境界として別の世界を作り出すようなものなんだが………それは言っちまえば“裏”なんだ。」

 

「裏?」

 

「おう、裏。俺達には見えない裏側に新しい空間を構築しておく。当然その空間は俺達は知らない別空間。そしてその空間は外界から閉ざされている───それが俺達のいる表と別空間のある裏の関係。術者はその裏から術式という触媒を用いて空間を表に呼び出すのさ。基本的に断絶結界は表にありながらその内面は常に裏にあるっていうような性質を持つ。ま、そんなことはさておき───」

 

タンッ、とエンターキーを叩く音がした。

 

「これでよし。」

 

「…?えっ!?リッカちゃん達の反応が戻ってる!?」

 

ロマンの言う通り、消えていたはずのリッカ達の反応が元に戻っていた。

 

「断絶結界で干渉を阻害されているならその断絶をもう一度断絶してやれば良い───つまり裏に行った結界をもう一度表に呼び戻してやりゃ良いんだよ。負の数に負の数を掛けて正の数に戻すようにな。」

 

「す、すごい…さ、早速通信を…!」

 

「あ、通信は復旧させてねぇぞ。召喚もな。」

 

その言葉にロマン含め数名がずっこける。

 

「なんでさ!」

 

「結界の主だよ。」

 

「結界の主?」

 

「今介入したときに、少しだけ結界の内容が見えた。意思持つ巨大迷路───“迷”だ。大規模な結界だと“結界の主”がいることがある。今回の主は“迷”。クロウカード“THE MAZE”───どこから現れたか知らんが。反則を許さねぇんだよ、あのカードは。さっきの干渉の際に反則ギリギリを攻めた。その結果が観測の復旧、意味消失の防止。結界そのものはなんとか出来ても、結界の主は外部からじゃどうにもならねぇよ。ま、これで中が難しくなってねぇと良いけどな…」

 

「術者と主は違うのかい?」

 

「一緒の時もあるが大抵は違うな。術者っていうのはその結界を作り出した者だ。対して主っていうのはその結界を正常に維持する者だ。術者はそのまま術者だが、主は言ってしまえばその土地に住み着いた土地神様。基本的にどうにか出来るような相手じゃねぇよ。…じゃ、俺は休む。あとは任せた。」

 

そう言って六花は席を立ち、管制室の端にある揺り椅子に腰かけて寝息を立て始めた。

 

「……そっか、六花は休憩時間か。……悪いことしちゃったなぁ……」

 

ロマンはそう呟き、元の席に座って観測を再開した。

 

 

 

場面変わって60年ローマ。英雄王ギルガメッシュとエルメロイ二世は攻撃しようとすれば払われ、防御しようとすれば打ち砕かれ───そんな戦闘を繰り広げていた。

 

今もまた、波紋を展開し武具を手に取ろうとしたギルガメッシュの手を落石が阻害した。

 

「…ちぃっ」

 

「忘れるか……忘れるものか!貴様は覚えていなくとも、私は覚えている!!英雄王ギルガメッシュ!!」

 

落石、風、光線───それらに加えて様々な策や罠がギルガメッシュに襲いかかる。

 

「この最大の警戒と精密な妨害───なるほど、確かに貴様も我という存在を知っているな。」

 

「知っているとも───貴様は本来なら王と共に挑みたかった果て。ある意味でも私の目標の頂点!忘れるか───いや、忘れたくとも忘れられるものか、その姿を!!」

 

再度襲いかかる罠や炎を始めとした魔術の数々。それに対し、ギルガメッシュは波紋から武具を撃ち出すことで対処する。

 

「ならば理解しているであろう。このように罠をいくら張ったところで、策を張り巡らせたところで我に届くことなどないと。」

 

「承知している。本来ならば私は貴様の前に立つ資格すらないのだ。何故ならば、私は英雄として偉業もなにも残していない。しかし───」

 

パチンと指を鳴らす、同時に炎が地面から吹き出す。

 

「なんの因果かは知らんが私は現代ならざるこの場へと召喚された。とある軍師の依り代として。現代はどうなったのか。未来はどうしたのか───それを考えている最中に、貴様を見つけた。」

 

ギルガメッシュに襲いかかる風。それをギリギリで回避する。

 

「この力は私のものではない。借り物の力で真の英霊に敵うとも思えぬ───知るかそんなこと!!確率や勝率などどうでも良い!無理であろうが、誰に何を言われようが───例え無能で虎の威を借る狐大いに結構!!無理無謀など私でも分かっている!それでも王に真っ向勝負を挑む我が思い上がり、実に愚かだという評価を甘んじよう!」

 

「……」

 

「そのような些事、全て捨て去り愚者となる!そうでなければ頂点など望めぬ!!頂は遥か遠くに。しかしそれで良い!その頂を目指すからこそ我らは力をつける!例え届かぬとしても───挑む者は挑み届かなかった事を無念に思いはしても後悔はしないだろう!そしてその無念は次に挑むことに!無念を残して散ったならば次に挑む者に繋がるのだ!今の私のように───!!」

 

エルメロイ二世の魔力が高まる。宝具が、起動する。

 

「かつて貴様に挑み、私に覇道を示したあの王のように、私も挑もう!今出せる全てを懸けて!!」

 

空中より飛来する石柱がギルガメッシュの周囲に落石し、取り囲む。

 

「刮目せよ!これぞ大軍師の究極陣地───」

 

地理把握、地形利用、情報処理、天候予測、人心掌握───エルメロイ二世に宿る英霊の十八番たる奇門遁甲を十分に利用した、先に発動せしマスター達を遮断する迷路よりもさらに強い閉鎖空間───!

 

「───“石兵八陣(かえらずのじん)”!破って見せるが良い───!」

 

その陣は成立し、ギルガメッシュを迷宮へと叩き落とした。

 

「───」

 

無音───その場に音を発するものはない。

 

「───届いた、のか?」

 

エルメロイ二世はそう呟く。あの英雄王に、未熟者の策が通じたのか、と。

 

特異点に召喚された際に、ギルガメッシュを感知した。そのマスターの存在もろとも。

 

一対一で戦うと決意した───そのために、マスターがいては一対一にはならないと考えた。

 

ならばどうするか───最初にマスター達を迷いの結界へと落とせば良い。あらゆる情報を断つ、その結界で。

 

その点、相手の陣営に藤丸六花がいたことは予想外の何者でもない。藤丸六花の結界魔術はこちらよりも高度。私の迷いの結界などすぐに破壊されてしまうだろう、と。

 

しかし今現時点で破壊は成されていない。こちらの力が上回ったのか、それとも破壊できない理由があるか。全てを知るわけではない結界魔術。それでも、外界を断つという点において強い力を発揮する。

 

いくつもの策を放ち───最強に、僅かでも届いたのか?

 

「ライダー……私は───」

 

「───思い出したぞ。いつだったかの聖杯戦争で、征服王めに付き添っていた臣下がいた。」

 

その言葉の直後、石兵八陣が吹き飛ぶ。全て木端微塵───

 

「な……」

 

「“ウェイバー・ベルベット”───それが貴様の本来の名であったか。全く、ロード・エルメロイなどと言うから分からぬわ。」

 

土煙の中から現れるはギルガメッシュ。右手に持つは───乖離剣。

 

「未熟者の分際で、よくぞ我を此処まで陥れた。…全く、我は未熟者に弱い決まりなどあるのであろうか。」

 

「まさか───馬鹿な。貴様が、私ごときに───それを抜く、だと?」

 

その言葉にギルガメッシュは鼻を鳴らした。

 

「ふん、勘違いするな。これは乖離剣そのものではない。その力を一部抽出した、投影品に過ぎぬ。」

 

「なん…だと?」

 

「乖離剣ではこの特異点ごと破壊しかねぬのでな。“物質の破壊”のみを目的として抽出し、投影しただけに過ぎん。もっとも、贋作者よりも数ランク上だがな。」

 

そう言い、ギルガメッシュは投影した乖離剣を破棄した。

 

「そして1つ教えてやろう。貴様は我がマスターを甘く見すぎだ。」

 

「なん…だと?」

 

「我がマスターは───あの娘は、サーヴァントと共にいることこそが自らの戦い。そしてあの娘の兄は藤丸六花よ。恐らく結界を突破するために既に動き出している。こちらに戻るために───な。そうであろう?───藤丸リッカよ。」

 

そう言った直後、パキッ…と言う音がした。

 

「───まさか」

 

パキパキッ

 

「どうやら、予想以上に早かったようだな。」

 

 

 

リッカ side

 

 

 

此処が迷路の果て───あとはこの壁だけ!!

 

「それなりに硬いな───!」

 

迷は私達を飲み込もうとする様子はない。恐らく正攻法で攻略したから。

 

「全員宝具全開!」

 

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

「先に行きます、アステラ料理長、セリエナ料理長仕込みのネコ飯をどうぞ、召し上がれ───“腹が減っては戦は出来ぬ(相棒!食事の時間です!)”!!」

 

ジュリィさんが宝具を展開して料理を作り振る舞う。軽めにしてくれてるから全員食べれたけど。

 

「我が奥義───お見せしましょう!我放てし矢たちよ、この場を制圧せよ!」

「我が奥義───お見せしよう!音と共に踊り狂え!」

「これは私が旦那さんといた軌跡───歴戦の技、お見せするときにゃ!」

「これは私が旦にゃさんといた軌跡───歴戦の技、此処にあり!」

「アオォォォォン!!」

「お願い、ネルル!我、契約のもと此処に汝の真名を告げる───!」

「我が声に応えし16の星───今こそ此処にその力を!星が告げる運命は此処に在る!」

「燃え上がれ!我が炎の力よ、眼前の敵を焼き尽くせ!」

「森の息吹を!我が森の力よ、眼前の敵に安らぎを!」

「宝具───展開します!」

 

それぞれが宝具を発動する。魔力十分、マシュの守護も万全───!

 

「“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)”───!!!」

「“狩猟笛が戦いにて奏でる激動旋律の(バトル・バースト・)爆音後方楽曲(メロディー)”───!!!」

「“我、此処に告ぐ。之は龍を滅せし猫の乱撃(新大陸の歴戦アイルー)”───!!!」

「“我、此処に告ぐ。之は龍を滅せし猫の一撃(現大陸の歴戦アイルー)”───!!!」

「アオォォォォン!!」

「真名、滅尽龍“ネルギガンテ”───“解放する、今ここに真実の言葉(リリース・リアルワード)”!!!放て───“破棘滅尽旋・天”!」

「オォォォォ───!」

「“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”!起動せよ、フェクダ!その罰下す雷撃を───!!!」

「いっけぇ!“炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)”!!!」

「“森の精霊、その力此処に振るえ(ラフナプリズン)”!それ~っ!」

「“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!!」

 

矢が、打撃が、連撃が、猫の一撃が、獣の一撃が、龍の突進が、雷が、炎が、森の力が───果ての壁に激突する。それぞれの威力がかなり強い故に、こちらに来る圧も凄まじい。でもその圧は、全てマシュが耐えきってくれた。

 

「く───足りないか!」

 

だけど、足りない。それでも今ので崩壊ギリギリまで行ったんだと思う。ならあとは───

 

「マシュ!一緒に壊すよ!みんな、スイッチ!」

 

「はい──はいっ!?」

 

スイッチの呼び声でみんなが後ろに下がる。

 

「これで───壊れて!」

 

マシュは盾をそのまま壁にぶつける。壁に、穴が開く。本当に、最後の一押し───

 

「攻撃強化術起動!やって、リッカさん!」

「攻撃強化旋律は吹いておく!」

「鬼人の大粉塵も撒いたよ!」

「攻撃力強化の笛ですにゃ~!」

「強化太鼓の技ですにゃ!これぐらいができる限界ですにゃよ!」

 

そんな声に頷いて私は壁に手を当てる。手に装着するはお兄ちゃんからもらったスマブラのルカリオを再現する波動グローブ───蓄積120%!運動量の発生、接触面への導き、作用───同時進行!

 

「───発勁!」

 

技を放った瞬間、壁が粉々に砕け散り、全員が外に放り出される。戦闘服への礼装変換は終わってる、なら───

 

「───主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体強化”!」

 

礼装のスキルを発動させる。

 

「馬鹿な───あの迷路を攻略し、結界の壁をも破壊しただと!?」

 

「見るが良い。あれが今回の我がマスターよ。意思が薄いような兆候はあるが───それでいて、諦めぬ心は持つ。征服王めも言っていたが、まこと強い娘よな。」

 

ギルがそう呟いていたのが聞こえた。

 

「ギル!」

 

「了解した、マスター。魔力の貯蔵は十分か?」

 

「うん…!」

 

「ならば魔力を回せ。すぐに終わらせる。───アルトリア、貴様の聖剣を借りるぞ。───投影開始(トレース・オン)。」

 

そう言ってギルの手元に現れる聖剣。その聖剣を見て、エルメロイさんが後ずさる。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。しかして此処に在るはその贋作───」

 

贋作。けれどその剣は、強い光を放つ。

 

「受けよ!“偽・約束された勝利の剣(エクスカリバー・フェイク)”!」

 

「……あぁ。すごいよ。完敗だ───ほんとすごいな、お前は───こんな王に、真っ向から挑んだんだもんな───」

 

そう言った直後、エルメロイさんは光に飲み込まれた。

 

「……我は頂にて待つ。いつでも挑みに来るが良い。また挑むのならば、今度は征服王も共に来るのだな。」

 

ギルはそう呟いて聖剣を破棄した。




うにゃー…

裁「……大丈夫なの?」

いや、色々ダメ。


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第99話 神祖

UA 20,000突破ありがとうございます…!

裁「今回も間に合ってないよね。」

うぐっ…


「…勇ましき者よ。実に勇ましい。それでこそ、当代のローマを統べる者。」

 

ブーディカさんを救い出して、決戦へと赴くちょっと前。なんか……大きい人が話しかけてきた。

 

「……ほう。これはまた、随分と面倒なものをよびよせたものよ。」

 

〈……む…まさか、とは思ってはおったが……〉

 

なんか…ネロさんの様子がおかしい?

 

「そうか。お前が、ネロか。なんと愛らしく、なんと美しく───なんと、絢爛たることか。その細腕でローマを支えてみせたのも頷ける。」

 

その人は手を広げて言った。

 

「さぁ、おいで。過去、現在、未来───全てのローマがお前を愛している。」

 

「───ぁ」

 

「ネロさん?顔色が優れませんが───」

 

「まさか───いや。しかし───これは、夢か?悪夢の中───なのか?」

 

「───現実だ。現実だとも、ネロ。今こうして、私は此処にいる。」

 

「ぁ───あぁ───まさか───そんな───」

 

「さぁ、おいで───(ローマ)へと帰って来るが良い。愛し子よ───」

 

……?

 

「私だ。私こそが、連合帝国なるものの首魁。」

 

「あなただけは───ない。そう、信じていたかった───だと言うのに───あなたは余の前に立ちはだかるのか───!」

 

少し、嫌な予感がする。

 

「ローマ建国王───神祖、“ロムルス”よ───!」

 

ロムルス───そう、言ったの?

 

「───そうだ。(ローマ)が、ローマだ。」

 

「先輩、敵の一団が接近中!恐らくネロさんを狙うものかと!」

 

マシュの声。敵が接近中───ネロさんは気を失いかけてる。…なら

 

「ネロ皇帝に代わり、私が一時的に指揮を取ります!全一般兵士一度後退!追いつかれないように敵勢力の撃退も並行して行ってください!」

 

「……は、はっ!リッカ様の采配の通りに!」

 

少し呆けてるような状態だった兵士の人達が意識を取り戻す。ネロさんが動けないときやネロさんが指示を出来ないとき。そう言うときは、私に全権限を任せる、って言ってたんだよね。だから指示が通るんだけど…

 

「荊軻さんとブーディカさんは兵士の皆さんの護衛をお願いします!他の客将さん達は私と共に連合の本陣へ!」

 

「ふむ…分かった。」

 

「了解、ってなわけでネロ公。あんたの兵士達はあたしと荊軻で安全な場所まで護衛する。リッカ、護衛終わったらどうすればいい?」

 

「出来ればそのまま護衛をお願いします。戻る場所がなくなっては大変ですから!何かあれば通信をいれます!」

 

「…ん、りょーかい。頑張ってね。でも無理するんじゃないよ?」

 

そう言ってブーディカさんと荊軻さんは後退する兵士達についていった。…うぅ、慣れない大声で喉が痛い。あ、通信機は渡してあるよ。

 

「ははははは!傾国間近なり!圧制者の潰えるときはここだ!!」

 

「■■■■■───!!」

 

戦闘に戻ってきた瞬間、先頭で暴れるスパルタクスさんと呂布さん。2人には遊撃指示を出しておいたからまぁ別に良いんだけど───

 

「───ローマ、ろーま───万歳。神祖───ばんざい」

 

相手の兵が明らかにおかしい。もしも一般の兵士達をここにおいたままだったらあんな状態になってたかもしれない。

 

「ふん、これも神祖とやらのカリスマか。狂ったように彼奴を称え、狂ったように身を投げ出す───もしも彼奴が“死ね”とでも言えば喜んで身を投げるのであろうな、こやつらは。」

 

それは……もう、洗脳に近いような───

 

「……大丈夫?ネロさん。」

 

「……あぁ、リッカか。すまぬ。」

 

反応が鈍い。もしかしたら、カリスマに囚われるギリギリだったのかも。

 

「ロムルス───神祖が敵、とは。もしや間違っていたのは、余なのかもしれぬ。」

 

「…」

 

「余のローマを侵されまいと、ここまで戦い続けてきたが………全て、余が間違っていたのかもしれぬ。そんなはずはない、余こそローマ、第五代皇帝である故。…しかし…」

 

私は黙って話を聞く。

 

「かのお方の声を聞いた瞬間、思ってしまったのだ。ほんの僅かであっても、余が間違っていたのでは、と。あろうことか、余も神祖に下れば良いのでは───否。正直に言おう。」

 

ネロさんはこっちをしっかりと見た。

 

「下りたくて仕方がない。それが、余の偽らざる本心だ。相手は神祖!曲がりなりにも建国王その人に他ならぬ!余の道が誤りであるのなら、そう断ずるのならば───余も連合の“皇帝”となって任せてしまいたいのだ!…しかし……それは、できぬ。出来ぬのだ……神祖のローマ、余のローマ。決定的に、何かが違うのだ───」

 

「……ねぇ、ネロさん。」

 

私は口を開いた。

 

「このローマと貴女のローマ…姿形は似ている。だけど…貴女の言った通り、決定的に“何か”が違う。」

 

「……」

 

「私が見たネロさんのローマはみんな笑顔で───活気に満ちていた。でも、このローマは?私が見た限り、兵士さんや町の人々に、笑顔なんてない。それどころか、町の───一般の人ですら私達に襲いかかってくる。まるで何かに囚われたかのように…まるで、自分の意思を失ったかのように。」

 

「笑顔…」

 

「こんな町……はっきり言って好きじゃない。どこであっても笑顔あれ───なんて。見ていて楽しいと感じた貴女のローマとは逆に、このローマには悲しみすら覚える。…永遠の都ローマ。そのローマが、こんなローマで…本当に良いの?」

 

「……いや。ない。」

 

「私達への名乗り。覚えてる?───貴女は、誰?」

 

今さら聞くことでもない。けれど、私は聞く。

 

「余は───そうだ。余こそは───」

 

ネロさんの声に覇気が戻る。

 

「余こそ、真のローマを守護する者。まさしく、ローマそのものである者。必ずや帝国を再建して見せる、そう神々・神祖・自身───そして民へと誓った者!!余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、“ネロ・クラウディウス”である───!余がローマ。であるならば!例え相手が神祖であろうと構わぬ!敵として立ちふさがるのならば、それを間違いだと言うのなら───今一度、民へと誓おう!余は間違った神祖を、ローマの敵を打ち砕く!なぜなら余は、真のローマを守護するものであるからだ!」

 

その言葉に私は頷いた。ちょっと暴論めいてきてるけど、これでネロさんは大丈夫。

 

「皆の者───行くぞ!もう余は迷わぬ!余は成すべきことを成すのみだ!」

 

「すみません、戻りました───あれ?何かありましたか、先輩。」

 

マシュの言葉に首を横に振る。

 

「ふ、やるではないかマスターよ。」

 

「私は事実を話しただけだよ。ネロさんが立ち直れたのは、ネロさんの心の───大本の強さだったんじゃないかな。」

 

〈───さて。来るぜ、お前らの望みがな。〉

 

通信先からお兄ちゃんの声が聞こえた。私達の、望み?

 

〈すみません、英雄王───オルガマリー・アニムスフィア、観測に復帰いたします!〉

 

「───マリー?」

 

〈えぇ、お待たせ…!〉

 

「ほう?最終局面に間に合わせたか、六花にダ・ヴィンチ。たいした手腕よ。」

 

〈んなわけねぇだろ。三重結界なんてこんな短期間で普通間に合わねぇっつの。マリーの吸収力が凄まじすぎるんだよ。〉

 

「ふ。」

 

〈英雄王───それに、ジュリィさん。復帰を、許していただけますか?〉

 

「我は良い。ジュリィよ、貴様はどうだ?」

 

「……行きましょう、オルガマリーさん。最期は全員で───です!」

 

〈───ありがとうございます!〉

 

こうして、こちらの戦力は十分。あとは───連合の首魁。そして宮廷魔術師だけ───




セプテムも終わりが近いですね───次回は100話ですが特に何もやることはないです。

弓「それでよいのか?」

本当は何かやりたかったんだけど思い付かなかったの。

裁「ボイスマテリアルは?」

無理。


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第100話 激戦(ローマ)!!

…………

弓「……ルーラー。マスターめが死んでおらぬか?精神的にではあるが。」

裁「あー…パソコンが動かなくなったらしいよ?」

弓「…それは……辛いな」

裁「だろうね…ボイスマテリアルとかも取り出せないからね。」


「……来たか、愛し子よ。」

 

ゴーレムやキメラ(前に戦ったキマイラとは何かが違った)を軽く撃破(やったの私じゃないけど…)し、玉座の方まで辿り着くと、そこにはロムルスさんがいた。

 

「うむ、余は来たぞ!神祖ロムルスよ!」

 

「…良い輝きだ。ならば、今一度呼び掛ける必要はあるか、皇帝よ。」

 

「いいや。いいや───必要ない。今、そなたが口にした通り、過去・現在・未来のいずれであっても余こそがローマ帝国第五代皇帝に他ならぬからだ!故に神祖ロムルス、余は余の剣でそなたに相対する!」

 

「───許す。ネロ・クラウディウス、(ローマ)の愛をお前の愛で蹂躙して見せるが良い。」

 

ロムルスさんはゆっくりと槍を掲げた。

 

「見るが良い。我が槍、即ち───(ローマ)がここに在ることを。」

 

「───リッカ、頼むぞ。」

 

私が頷くと、ネロさんはロムルスさんの方へと駆けていった。

 

「おぉぉぉ!!」

 

「───ローマである!」

 

「───システムコード:FD」

 

〈リングシステム、フルドライブ───やれ!〉

 

三重礼装概念状態(トリプルスタイルモード)礼装概念型式設定(スタイルスロットセット)、1.“魔術礼装・魔術協会制服”、2.“魔術礼装・カルデア戦闘服”、3.“魔術礼装・カルデア”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)───1.“全体回復”、2.“霊子譲渡”、3.“全体強化”、4.“ガンド”、5.“瞬間強化”、6.“応急手当”。稼働支援技能(アクティベートバフスキル)対象指定(ターゲットセット)、“ネロ・クラウディウス”。稼働妨害技能(アクティベートデバフスキル)対象指定(ターゲットセット)、“ロムルス”───活性化(アクティブ)

 

私は以前エリザベートさんにしたように一気に重ねがけする。指輪を強化したらしいから本当ならもうちょっとスキルが多くても大丈夫らしいんだけど…邪魔にならないのはこれくらいかなって

 

「ふむ…カルデアのネロ殿、貴女はどんな術を使う?」

 

〈む…炎、か?炎を纏った剣を使うが…〉

 

「…炎、か。」

 

そう言うとリューネちゃんは三味線をアイテムボックスから取り出した。…あれ?いつもの狩猟笛より一回りくらい小さい?

 

「……あれにするか。」

 

そう呟いたと同時に、リューネちゃんは三味線で何かを弾き始めた。

 

 

 

 

 

{戦闘BGM:玉水と灼熱が彩る、蒼紅の巌窟}

 

 

 

 

 

「……ルーパスちゃん、この曲は?」

 

「…私、この曲知らない…」

 

「……“玉水と灼熱が彩る、蒼紅の巌窟”」

 

ルルさん?

 

「…“溶岩洞”という狩猟地の汎用戦闘曲ですにゃ。綺麗な場所にゃので機会があれば行ってみると良いですにゃ。…まぁ、モンスターも強いですにゃが…」

 

へぇ……

 

「む───はぁっ!」

 

「ぬ───」

 

あ、ネロさんの方押してる。

 

「見事───しかし。(ローマ)は、潰えぬ。」

 

「く…まだ、足りぬか。神祖───やはり強敵か。しかし!余も負けぬ、負けられぬ!!貴方の創りし正なるローマは、余が護って見せる!!」

 

「……良い。それでこそ。───む。」

 

…?私と……アルの方を見た?

 

「───そうか。ローマ!!」

 

直後槍を一振り、ネロさんを吹き飛ばす。ちょっと、遠いかな?

 

「ぐっ───!」

 

「ミラちゃん!」

 

「準備できてるよ───行けっ!」

 

ミラちゃんの号令でミラちゃんの周囲に浮遊していた光弾がネロさんに放たれる。ネロさんに当たると同時に、ネロさんの傷が癒える───回復弾。

 

「かたじけない───む!?」

 

直後剣が強く燃え上がり、同時に展開される黄金劇場。

 

〈ふっふっふ、見たか、生前の余!これこそ余の宝具───いや正確には少し違うのだが。まぁ良い、これこそが“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”よ!〉

 

「なんと───カルデアには余もおったのか!?」

 

〈細かいことなど気にするでない!それよりも、この中であれば余は全力を振るえるであろう!?〉

 

「む───」

 

〈相手は神祖───手加減などして倒せる相手ではないことなど分かりきっているであろう!〉

 

「───うむ。ならば神祖ロムルス!我が一撃を受けてみるが良い!」

 

「───良い。お前の愛、見せてみよ、ネロ。」

 

「うむ!行くぞ───“童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)”!!」

 

その剣技は、鮮やかで───ロムルスさんへと強く突き刺さった。

 

「───見事。よくぞ(ローマ)を、越えて見せた。」

 

「神祖、ロムルス───余は、そなたを忘れませぬ。」

 

「うむ。ローマとは、永遠でなければならぬ。───」

 

……?

 

「滅びの運命を課せられし者よ。そして、名の無き……否、名を喪いし者よ。決して己を喪うな。世界(ローマ)はお前達を待っている。お前達が思うように、お前達の望むように動くがいい。」

 

滅びの運命…

 

「……そして、狩人と魔女よ。己を喪わず、今出来ることをするがいい。いずれ、お前達の道は開く。」

 

そう言い残して、ロムルスさんは消滅した。




……うー……

裁「あ、起きた?」

いや結構ギリギリ…そういえばさ

裁「うん?」

ロムルスさんの待機モーションあるでしょ。

裁「うん。」

あれがライズの狩猟笛の武器構えポーズの1つに凄く似てる気がするんだよね……

裁「………あぁ」


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第101話 愚者

時間かかる……

裁「お疲れ様…?」


「いやいや………ロムルスを下すとは。」

 

聴こえてきたその声。その方を向くと、見覚えのある人がいた。

 

「……レフ・ライノール」

 

「ようやく現れたか。宮廷魔術師を名乗る分際で王の危急を見過ごすとは、全くもって使えぬ駒よな。そうは思わぬか、ミルドよ。」

 

「えぇ、そうね。私はともかくお父様なら仕えさせないと思う。」

 

「黙れただの使い魔どもが。マスターがいなければまともな現界すら叶わぬ存在の分際で。」

 

「ふん、器はどうあれ、我がここにいることに変わりはない。」

 

「お生憎様、私を含めた狩人の霊基を持つサーヴァントはマスターの魔力を必要としないの。そもそも別世界から呼ばれた生きた人間だし、私達。」

 

色々規格外すぎて忘れるけどミラちゃん達って人間なんだよね。……それはそれとして。

 

「……聖杯を渡して、レフ・ライノール。」

 

「…ふん、一丁前な口を効くようになったものだ、カスマスター風情が。高々英雄王や魔力を必要としないサーヴァントなんていう玩具を手に入れたくらいで調子に乗るなよ。」

 

「そのカスと玩具にフランスでの目論見を潰されたのは貴様であろう?その尻拭いとしてこの場にいるのであろう、貴様は。…そして、もうひとつ。」

 

ギルはレフ・ライノールを指差した。

 

「此度貴様がここにいるのは、この時代で世界を狂わせる存在がいなかったが故。かのロムルスは人類の滅びを望まなかったのであろう。故に貴様自らの手で直接干渉しなければいけなかった。」

 

〈ははっ!皮肉だねレフ教授!この時代、君のような人類の裏切り者は一人もいなかったわけだ!〉

 

「ほざけ、カスども!人間なぞ、貴様らなぞに微塵も期待などしていない!」

 

「その人間に潰されたのがあなただよね?私達が英霊と同じような力を持っていることはもう分かった事だけど、私達も確かに人間なんだよ?」

 

「そもそも、あなたも使い魔よね。それも、私の子達みたいな契約召喚術式型じゃなくて、術式構成稼働型。マスターがいなければなにも出来ない、それはあなたじゃないの?」

 

「───ッッ!貴様ッ!!」

 

「怒るってことは図星なんでしょ。マスターが、術式の発動者がいなければあなたは術式のまま。いくら意志を持つ術式だとしても、発動されなければ意味がない。発動されなければ動けない───違う?」

 

レフ・ライノールが術式───?ていうか、ミラちゃんそれ見抜いたの!?

 

「ふんっ!ならば見せてやろう、我が姿、我が王の寵愛を!!結末が確定している貴様らへのせめてもの餞別だ!」

 

〈───レフ〉

 

その時、その場に響く声。マリーの声。

 

「───あぁ。いたのか、オルガ。」

 

〈───ギル。ジュリィさん。〉

 

「許す。告げるが良い」

 

「私からも許可します…って私からの許可なんていりますか?」

 

凄く不思議そうな顔してたけど、ジュリィさんの言葉を聞いてマリーがレフ・ライノールの方を向いた。

 

〈…あなたは、人類を裏切っていた。それは───いったい、いつから?〉

 

「いつから、か。さて、いつからだろうね。ざっと2000年は前じゃないか?」

 

〈そう───なら。〉

 

マリーが、確かめるかのように言葉を紡ぐ。

 

〈どうして、私を助けてくれたの?様々な重圧に押し潰されそうでいて、狼狽えるしかできなかった私を。〉

 

「───は、はははははは!なにかと思えばなぜ助けたかだって!?決まっているだろう、君が実に愚かで見世物に最適だったからさ!」

 

〈───〉

 

「レフ、レフと私を頼る様は実に滑稽だったさ!プライドとコンプレックスの中で潰れる君の姿は最高の見世物だった!その君の結末を見たいがために、君を気にかけてやってたのさ!本当なら爆弾で死んでたはずなんだが、特異点Fで精神のみ生きていると知ってカルデアスに放り込んでやろうと思ったのさ!」

 

「───所長」

 

「またすがってみるかい?───レフ、助けて!いつもあなたは助けてくれたわよね!?───ってさ!いいさ、助けてやろうとも!もっとも、今度は確実に殺してやるがね!はははははは!」

 

───なんというか、うん。とりあえず…

 

「「「「「声真似下手だなぁ……」」」」」

 

あ、アルとルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんも思ったみたい。

 

〈……そう。ごめんなさい、レフ。〉

 

「………何?」

 

〈私の依存が、貴方を困らせていた。私の自分勝手な期待が、貴方を困らせていた───ごめんなさい、レフ・ライノール。でも───ありがとう。〉

 

「───何が、言いたい」

 

〈貴方に嫌がられていたかもしれないけれど、貴方は見世物として楽しんでいたのだとしても───私はこれまで、貴方に助けられた。だから───ありがとう。貴方は私の恩師であることに変わりはありません。例え貴方が、どのような存在だったとしても───それは、変わらない。〉

 

「───なんだ?」

 

レフ・ライノールが後退る。

 

「なんだ、それは───なんだそれは、なんだそれは!誰だ貴様は、貴様は私の知るオルガマリーではない!一体貴様は誰だ!!」

 

「ふん、貴様が知るオルガマリーがここにいるわけなかろうが。ここにいるのは我が認めた仲間、我が認めた財達よ。」

 

〈「ギル……」〉

 

「黙れ!!良いだろう、ならば貴様らを我が地からでねじ伏せよう……!」

 

「………聖杯が起動する」

 

あれ?なんかアルの様子、というか雰囲気が変わった気がする。

 

〈これは───神とも幻獣とも違う、悪魔の反応か!?〉

 

悪魔?

 

「は、ハハハハハハハ!」

 

現れたのは───巨大な、黒い塊。

 

〈キメェッ!!〉

「「〈醜いぞ、貴様!!この世の物とは思えぬ!!〉」」

 

うわぁ……大批判。あ、私もあれ気持ち悪いと思うよ?

 

「それはそうだろう!この醜さが貴様らを滅ぼすのだ!改めて名乗ろう───我が名はフラウロス!レフ・ライノール・フラウロス!!七十二柱の魔神が一柱!魔神フラウロス───これが、我が王の寵愛そのものだ!!」

 

「〈七十二柱の、魔神───〉」

 

それは、確か───

 

〈まさか、そんなはずは───〉

 

「フォウフォーウ!」

 

「…オルガマリー。もう良いのか?」

 

〈えぇ…言いたいことは言えましたから。〉

 

「無駄な足掻きをするな!そのまま焼け死ぬが良い!」

 

「───お断り」

 

ミラちゃんがそう呟き、物凄い早さで何かを唱えたかと思うと、ミラちゃんの周囲に波紋が展開され、無数の鎖が射出された。

 

「ぐっ!?なんだ───この鎖は!」

 

「借りたよ、英雄王。」

 

「ふ、魔神と聞いて神性が強い者を縛る“天の鎖”か。…しかし、この醜い奴に使うのは嫌悪感が湧くな。」

 

「全くもって同感。だから射出直前に龍属性の壁を張った。龍封力全開にしてるけど結構封じられてるみたいね。」

 

「なん、だと……」

 

確かに弱ってる感じする。

 

「こんな……鎖、ごときで……」

 

「ふ、時間稼ぎには最適であったな。オルガマリー、六花!」

 

〈疑似投射完了───固有結界投影。展開───完了。〉

 

〈行きます───“果てから見つめる天文台(アニマ・フィニス・カルデアス)”───〉

 

その瞬間、私達を閃光が襲った。

 

「───!」

 

視界が回復すると同時にそこにあったのは、まっさらな空間。まっさら───つまり、真っ白。どこまで続いてるのか───私が今どこにいるのかすら分からなくなるような、純白の世界。

 

「これが…マリーの?」

 

〈正確に言えば、マリーが展開した基礎結界だ。固有結界を除く全ての結界は、この基礎結界の上にさらに別の結界が乗っかる形で成り立つ。基礎結界そのものは内部になにも存在しないからそう言う風になるんだ。〉

 

「基礎…この結界に脅威はない、の?」

 

違う、と思うけど。

 

〈良い質問だな。この結界も脅威となることはある。お前、今どんな状態だ?〉

 

どんなって…

 

「普通に立ってるけど…」

 

〈……まぁ、そりゃそうなんだが。いいか、この結界で脅威となりうるのは、拡張性があるってことだ。〉

 

拡張性?

 

〈拡張性───伸縮・軟硬自在。お前が閉じ込められた迷路みたいにオブジェクトを配置することは出来ないが、結界内を広げる、結界の壁を硬くすることは出来るんだ。術者の魔力が続く限り、な。壁も見えない、術者の魔力が続く限りどこまでも広がる純白の世界で当てもなく歩き回ったら、どうなると思う?〉

 

「───」

 

それ、は───

 

「感覚が麻痺する───ううん、精神が壊れる───?」

 

〈果てには衰弱死するだろうな。果ての見えない永遠の牢獄───だから俺は基礎結界を“基礎でありながら最凶の結界”と呼ぶのさ。分かったか、マリー。〉

 

〈そういうことだったのね……〉

 

「ふ───フハハハハ!!なんだ、これは!これが貴様の心情だと!?なにもない、なにもないではないか!」

 

〈普通心情に何もないはあり得ねぇだろが…まぁ、性質は固有結界だからしゃあねぇか。〉

 

「どういうこと?」

 

さっきからお兄ちゃんは私にだけ声が聴こえるように話してくれてる。だから聞かれないんだけど …

 

〈これはマリーの固有結界の上に基礎結界が展開されてるんだ。この基礎結界の外には固有結界がある。固有結界の上に覆うする形で基礎結界を展開するのを1つの固有結界展開術式に組み込んでるから実質これも固有結界みたいなもんなんだよ。〉

 

へ、へぇ…?

 

「問うてみるとしようか、そこのサーヴァント!オルガマリーを救った意味は本当にあったのか!?聖杯という奇跡を、そこのゴミを救うために使う必要はあったのか!?英雄王も英雄王だ、そこのサーヴァントがそこのゴミを救うために使うということは理解していただろうに聖杯を与えるなど全くもって無駄───」

 

その言葉を言いきる前に、槍と大剣がレフ・ライノールに突き刺さる。

 

「ぐぉぉぉぉ!?」

 

「───む、すまぬ。手が滑ったようだ。」

「ごめんなさい、私も手が滑ったみたいです。」

 

そう言うのは明らかに投擲した後の体勢をしているギルとジュリィさん。…明らかに槍と大剣、投擲したよね?

 

「我にとって何に価値があるかを決めるのは貴様ではない。この我そのものよ。」

 

「ギルガメッシュさんに同じく。貴方にとって価値がないものでも、貴方にとってゴミだと思うものでも───私にとっては価値があるもの。マリーさんは───オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは、私にはもったいないくらいの、最高の従者です。」

 

〈ギル───ジュリィさん───〉

 

〈……てか、今の大剣で基礎結界壊れたぞ。…来るぜ〉

 

え……と言う前にそれは現れた。暗い空に覆われ、砂に埋もれた大地。砂嵐が吹き荒れる。生きられるのかもわからない、不毛の大地───

 

「ほう。さっきよりはましになったか。」

 

「───ふ。時間をかけすぎたか。」

 

そう言ってギルはいつの間にか手に持っていた剣を掲げた。確か───乖離剣。

 

「唸るがいい、エアよ!今こそ1人の娘の心に応える時だ!」

 

凄い音がする。そして同時に、空間がみて分かるほどに歪む。

 

「裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣───醜い節穴め、その身をもって地獄を知れ!!」

 

そして、その剣が振り下ろされる。

 

「“天地乖離す(エヌマ)───開闢の星(エリシュ)”!!」

「───起動せよ、アルコル。その災いの鏡を───」

 

吹き荒れる暴風、空間の圧───それを、いつの間にか宝具を展開したアルが防ぎきってくれてる。

 

「グギャァァァァァ!?」

 

「解放」

 

「─────!!」

 

空間の圧が収まったと思ったらその圧がレフ・ライノールに襲いかかっていた。鏡───もしかして、反射?そんなことを考えていると、周囲の景色が様変わりしていたことに気がついた。

 

「わぁ───!」

 

あたり一面、花畑。空は雲1つ無い青空で、大地には様々な色の花が咲き乱れてる。

 

「ほう、良い景色ではないか。由来はあるのか?」

 

〈───夢を、見るんです。虹の架かる、綺麗な花が咲き乱れた花畑。その花畑で、羽のある少女達や綺麗だったりかわいい服を着た少女達が踊る夢を。カルデアは、その地形上からずっと吹雪いていますが───いつか、こんな場所に友達と行けたら、って。〉

 

マリー…

 

「悪くない心情よな。しかし夢を固有結界にするとは、固有結界と通常の結界術の合わせ技であるが故になせる技か?」

 

〈さーな。〉

 

〈…これは、いつか皆と一緒に───実際にみたい景色です。叶うなら、カルデアで見たかったですが───立地の関係上。〉

 

…そっか。

 

「この世のどこかにあるかもしれぬぞ、こんな景色がな。」

 

〈……はい。〉




とりあえず龍封力は神性持ちだったり人類の脅威持ちとかに効く設定にしました。

裁「古龍=神ってこと?」

そ。


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第102話 破壊の王

地味に受付嬢さん動かすの難しいんだよね……

裁「あー……」


「馬鹿、な……」

 

「全く、あれで生き延びたとか……違うか。死ねなかった、が正しいんだね。」

 

「たかが2人の英霊に、アニムスフィアの末裔に───我等が御柱を退けられるとは……!」

 

「…まだやるの?」

 

ミラちゃん多分結構怒ってない?

 

「……いや、計算違いだ。そうだ、そうだろうとも───なにしろ神殿から離れて久しい。少しばかり壊死が始まっていたのさ。でなければ貴様ら程度に負けるはずがない。」

 

「言い訳など醜いぞ───と、最初から貴様は醜かったな」

 

「…聖杯を渡してください、レフ教授。貴方に出来ることはもうありません。」

 

マシュがそう言う。けど、何か嫌な予感がするからカルデアに接続していつでも呼び出せるように準備する。

 

「───ハッ。ハハハハハハハ!」

 

〈聖杯活性化───何かが来ます!〉

 

「古代ローマを生け贄とし、私は最強の大英雄の召喚に成功している!喜べ、皇帝ネロ・クラウディウス!今こそ真にローマの終焉にふさわしい時だ!」

 

「ローマは潰えぬ!ローマとは世界であり、世界は決して終焉などせぬ!」

 

「いや終焉はあるけどな…」

 

「あるよね~」

 

預言書の主として突っ込ませてもらうと世界の終わりはあるみたいだよ?一応。でも、それは今じゃない。なぜなら、新世界がどうなるか───まだ、決まってない!

 

「ふん、誇りも方向を誤れば愚直の極みだな。ならばその目で見るが良い───貴様達の世界の終焉を!!さぁ、みろ!七つの定礎、その一つを完全に破壊してやるぞ!」

 

〈サーヴァント顕現反応───これは、セイバー…?〉

 

「来たれ!破壊の大英雄“アルテラ”よ!!!!」

 

アル…テラ?聞いたこと……無い、気がする。そんなことを思っていたら、いつの間にかその人が召喚されていた。

 

「───」

 

白いベールに、褐色の肌───それに、なんか枝分かれしそうな剣……剣?

 

「ボールペン……?」

 

「先輩っ」

 

……って、ふざけてはみたけれど。正直、冷や汗と警鐘が止まらない。

 

「さぁ───殺せ!破壊せよ、焼却せよ!その力をもって特異点もろともローマを灼き尽くせ!!はは、終わったぞ、医師ロマニ・アーキマン、所長オルガマリー・アニムスフィア、治癒魔術師ルナセリア・アニムスフィア───そして、結界魔術師藤丸六花!!人理継続など夢のまた夢!いくら貴様らが力を尽くしたとしても、このサーヴァントの前には無駄、無意味、無価値!いまここで、貴様らの最後の希望である最後のマスターたる藤丸立香すらも殺してやろう!」

 

「…」

 

「自らを人間だと言い張るそこのサーヴァント共も一緒だ!ここまで来たことを後悔しながら死んで───」

 

「だまれ」

 

 

「───ゑ?」

 

 

レフ・ライノールが言いきる前に、その身体が真っ二つになった。────マスターを、殺した?

 

「フォーウ───」

 

〈レフ教授を殺した……?英雄王、そのサーヴァントは……?〉

 

「さて、な。1つ分かることは、敵に回すと面倒なことか。」

 

「先輩、聖杯が吸収されて───!」

 

マシュの言う通り、その聖杯はアルテラさんに吸収されていった。

 

「───私は、フンヌの戦士である。」

 

フンヌ…?憤怒?

 

「そして、大王である。」

 

大王───もしかして、匈奴?だったら、この人は───

 

「この西方世界を滅ぼす、破壊の大王である。」

 

その瞬間───私は叫んだ。

 

「───来て、“ジャンヌ・ダルク”!!」

 

〈宝具反応、対城クラスが来るぞ!!〉

 

「お前達は言う。私は、神の懲罰だと。」

 

「マシュ、ジャンヌさん、護りを!!」

 

「「はい、マスター!」」

 

間に合って……!

 

「開け、七色のトビラ───煌めけ、七色の星。開け、六性のトビラ───煌めけ、六性の星。輝け、双璧のヒカリ───紡げ、双璧の極星。輝け、運命のヒカリ───紡げ、運命の微星。」

 

アルは詠唱に入ってる。けど、嫌な予感が消えない───ううん、激痛が収まらない。マリーさんの時と同じ──

 

「分が悪いか……?おい、ミエリ!」

 

「うん!全開には程遠いけど───防御は多い方がいいよね!」

 

レンポくんにミエリちゃん───?

 

「我が司るは炎。精霊の力よ今ここに在る───」

「我が司るは森。精霊の力よ今ここに在る───」

 

「「ここに示すは精霊の力!攻撃の核と対になりしもの!!かつて在ったが何処かへと喪われた伝説の不朽の盾!!」」

 

た、盾!?って思ってたら凄い轟音がした。

 

「圧制者───!」

 

「スパルタクス!?来たの、貴方!?」

 

「無論!この時代の圧制者は既に絶えた!残るは起源なりし圧制者!そして───」

 

そのまま、アルテラさんを見つめた。───まさか

 

「───そして!文明の圧制者を残すのみだ!今こそ、我が愛で世界を包もう───!」

 

 

 

side 無銘

 

 

 

もしも、私に誰かを救う力があるのなら。

 

もしも、今ここで命を散らそうとしているスパルタクスを助けることが出来るのなら───

 

私は、それを迷いなく選びとる。

 

そして、私はその力をもっている。

 

けれど今、私は第一宝具を起動している。

 

第一宝具───“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”。北斗七星、北極星、死兆星、南極星、南斗六星の力を扱う宝具。“起動せよ”の式句のあとに星を指定することで対応した攻撃に変わるという宝具。今回使うのはミザール───増殖の力をもつ星。攻撃されても増殖を繰り返す、そんな力を発揮する。

 

実は地味にこの宝具は私に負荷がかかる。当然と言えば当然、なのかもしれない。これは虹架さんから受け取った宝具。本来、私の宝具じゃない。まだ、分からないけど───多分、私の宝具は別にある。

 

───第一宝具を起動したまま、彼を救う力を使えるかどうか───

 

───その答は、是。

 

───喪いたくない───

 

護るならば───終わるならば───全員、一緒に───

 

だったら───私がどうなっても構わない。無銘たる私が、消えるよりも───先に!

 

届け───私の、力───!

 

『───全く』

 

不意に、声が聴こえた。

 

『何を無理しているの?』

 

その、声は。

 

『全く───1人で抱えようとしないの。貴女がいなくなったら誰が悲しむと思ってるの?』

 

『貴女は───虹架、さん?』

 

『正解。宝具に刻まれたただの残留思念だけど。』

 

『…』

 

『手伝ってあげるから、無理しないの。…全く、今回の教え子は危なっかしいんだから…直しなね、その無理しようとするの。』

 

『は、はい……』

 

その途端、宝具の負荷が軽くなった。

 

『ほら、起動したら。私のあげた式、覚えてるよね?』

 

私は手をスパルタクスさんに向けた。

 

「行くぞ!我が愛は───」

「虹よ、虹よ───今こそここに幻惑を起こさん。我が声に応えよ、幻惑の影───虹翔の奇術、二十三の式“三稜鏡幻惑之参・空蝉”」

『第一宝具、完全稼働。虹が伝え、星が告げる運命を知るが良い───“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”───起動せよ、ミザール───その増殖の恐れを。』

 

「爆発する───!!!」

 

なんとか術が間に合った。結果はというと───

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「第一宝具、完全稼働。虹が伝え、星が告げる運命を知るが良い───“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”───起動せよ、ミザール───その増殖の恐れを。」

 

「爆発する───!!!」

 

「“我が神はここに在りて(リュミノジテ・エテルヌッル)”───!」

「“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!!」

「「“四精霊の加護を受けし聖盾(エレメンツ・プロテクト)”!!」」

 

アルの宝具が私達を覆い、スパルタクスさんの爆発がアルテラさんの宝具を打ち消し、ジャンヌさん、マシュ、レンポくんとミエリちゃんが展開した護りが私達を守護する。

 

そうして、土煙が晴れた時───

 

そこに、アルテラさんの姿はなくて。

 

「───む?何故?何故、私は生きている?」

 

不思議そうな表情をした()()のスパルタクスさんの姿があった。




今日は間に合った……

弓「にしてもどうやって救ったというのだ……」

ん~…まぁ、気にしない方がいいよ


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第103話 不安と決意

今回も間に合った……

裁「お疲れ様…」


「…護りがあるとはいえ、死ぬかと思ったぞ。」

 

〈ほんと…ところでレンポくん、さっきの宝具は一体なんだい?〉

 

余波で倒れていた人達が起きてきた。

 

「さっきのは盾だ。俺を含めた炎、森、氷、雷の四精霊が解放された状態で使う護り。俺とミエリだけだと出力が…大体全力の20%か。“炸裂のタル 精霊核裂弾”と対になるように作られた“神聖なる盾 精霊不朽壁”。それを強力にした……違うな、それの大本になったのが“四精霊の権能を込めし核爆(エレメンツ・エクスプロード)”と“四精霊の加護を受けし聖盾(エレメンツ・プロテクト)”なのさ。」

 

精霊核裂弾と精霊不朽壁……“四精霊の権能を込めし核爆(エレメンツ・エクスプロード)”と“四精霊の加護を受けし聖盾(エレメンツ・プロテクト)”……

 

「…それにしても、アルテラと言ったか。あれは…」

 

〈既に、連合首都から移動しましたね。方角から見て恐らく、首都ローマを目指しています。〉

 

「大方、あやつは首都を滅するつもりなのだろうよ。例え皇帝が生きたとしても、都がなくなればその国は消え去るであろうな。」

 

「───勝てる、のでしょうか。」

 

マシュ?

 

「あそこまでの魔力量……私達に敵うのでしょうか。紛れもなく、最高クラスのサーヴァントです。英雄王がいるとしても、勝てるかどうか───もしも、私が先輩を護りきることが出来なかったら───」

 

そんな、ことばに───

 

『勝てるよ』

 

頭の中に響く声。念話───実は念話にも向きがあって、どっちから聞こえてるかとかが分かる。聞こえてきた方向を見ると、アルの隣に透明な虹色の髪を持つの女性がいた。確か───

 

「えっと…“心音 虹架”さん?」

 

そう聞くとその女の子はふにゃりと笑った。

 

『覚えててくれたんだ。宝具の中に刻んだ私が、目を覚ましただけだけど。』

 

宝具の中に…

 

「それより、勝てるってどういうことですか?」

 

『この世界の終焉は近い。それは、預言書が現れたことからも明らか。だけど、まだ終焉の時は定まってない。でも、この時代が壊されれば、遠からず終焉を迎えると思う。』

 

「…それは」

 

『だけど、まだ終焉すると定まったわけじゃない。だったら、勝てる可能性は少ないとしてもあるのは明らか。元々が低い可能性な人理修復。だったら、賭けてみてもいいんじゃない?』

 

賭けてみる、か…

 

『自分勝手、って言われそうだけどね。…私は、あなた達が負けるとは思わない。』

 

〈……ミス・虹架。貴女は一体何者なのですか?以前は亡霊と名乗ったようですが……〉

 

『……さぁ、何者なんだろうね。実際、私にも分からない。分かるのは、ここにいるのは残留思念であるということだけ。』

 

〈…そう、ですか……〉

 

『でも、無銘が何者なのかは何となく分かる。…私の口からは言わないけど。』

 

あ、分かるんだ…

 

「……あの、マスター」

 

アル?

 

「……お願いします。あのサーヴァントと、戦わせてください。……私と彼女の…できれば、一対一で。」

 

え……?

 

「もう少し……もう少しで、何かが掴めそうなんです。だから……お願いします。」

 

アルが頭を下げた。直感は反応してないけど……

 

〈いやいやいやいや、無茶だ、そんなの!いくらサーヴァントと同じ力を持つといっても、君はリッカちゃん達と同じ人間なんだぞ!?そんな、何かを試すかのように戦えるような簡単な相手じゃない!〉

 

ドクターの言い分は正しい。私だって、アルを…皆を喪いたくない。

 

〈……リッカ。どうするの?〉

 

「マリー…私は、どうしたらいいのかな…」

 

〈……なら、貴女の直感と痛みに従ってみなさい。〉

 

私の直感と痛み……

 

「……」

 

アルとアルテラさんの純粋な一対一────警告なし

 

アルへの補助ありでのアルテラさんとの一対一───警告なし

 

全員をぶつける総力戦───警告、あり。

 

アル以外とアルテラさんの一対一───警告あり

 

「……アル」

 

「…?」

 

「絶対に帰ってくる、って…約束、できる?」

 

「……はい」

 

「……分かった。なら、アルの一対一で任せる。だけど1つだけ。少しでもいいから、補助はさせて。」

 

「…分かりました」

 

〈いいのかい?〉

 

「…うん。直感に従ったら、こうなった。」

 

『そう…私も少しは補助するから、安心して…って言っても、安心できないか。…リンク率52%、時間切れも近いし…』

 

虹架さんの言葉に頷いて、私はあたりを見渡した。

 

「行こう、皆。戦闘こそアルに任せるけど、私達もできることをしないと。」

 

「うむ、リッカの言う通りよな!神祖も言っていた、世界とはローマとは永遠でなければならないと!永遠なのならば終焉などない!そうであろう!」

 

「いや終焉はあるんだがな……まぁいいか、そうと決まればさっさと行くぞ!」

 

ていうかロムルスさん言ってたっけ?……とりあえず、私達はアルテラさんのもとへと向かうことになった。

 

 

 

そして───

 

「───行く手を阻むか、私の。」

 

破壊の大王、アルテラ───

 

「───阻むよ。私が───」

 

名を喪った者、無銘のアルターエゴ───

 

「破壊なんてさせない。未来を壊させない───そのために、私はここに立つ。」

 

「───無駄だ。私は破壊する───何もかも、全て───」

 

「させない。あなたが誰なのかなんて、私には分からない。だけど、私はここに立つ。一人の未来を護る者として───名の無い私は貴女を全力で阻む!」

 

「その思いさえ───破壊する。」

 

片や、ボールペンみたいな剣を持ち───片や、漆黒の細剣を持つ。

 

今、この場にて───この時代最後の戦いが幕を開ける───




普通に後書き書き忘れました(現時刻2021/06/03 20:08)

弓「何をしているのだ……」

実際投稿設定終わったあと、後で書こうと思ってたんだけど眠っちゃってそのまま投稿されちゃったんだよね…あとついで、これは前に言ってたロムルスの待機と狩猟笛の武器構え。
https://twitter.com/Stella_cre_soul/status/1400413777233780737?s=19


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第104話 Immortal Object

遅くなりましたぁ……UA21,000ありがとうございます……

裁「そういえば宝具……」

……


「粉砕する───」

 

「……!てぁっ!」

 

迫る剣に自分の剣を打ち合わせることでその攻撃を防ぐ。行うこと数回、既に数本の武器は砕け散っている。私は即座に次の剣を取り出して、迎撃体勢をとる。

 

足りないもの───欠けている何かを掴みとる。それが、私がアルテラとの単騎戦を望んだ理由。

 

「無駄だ。なんどやったとしても、結果は同じだ。そこを、退け。」

 

「退かない。」

 

「何故、そこまでして護ろうとする。お前が、私の前に立つ意味など、ない。」

 

「───そうかもしれない」

 

「ならば───」

 

「“未来を破壊させない”。ただそれだけのために、私はここにいる。」

 

「…無駄だ。」

 

アルテラの剣がしなる。

 

『起動せよ、メグレズ───その一陣の風を。』

 

それに対して虹架さんが起動したメグレズの力、疾風がその剣を阻む。

 

「何をしたとしても、無駄だ。私は破壊する───貴様も、国も、何もかも───」

 

『───起動せよ、セプテントリオン!!死を司る星々の力を!』

 

虹架さんが私の知らない起動式を紡ぐ。それによって放たれる、八色の光線───

 

「煩わしい。貴様を破壊すれば、これも止むか。」

 

それを容易く弾くアルテラ───ううん、一色の光線にだけ被弾した。あの色は───確か、アルコルと同じ。性質は───“反射”。

 

「星は砕けない───星たる私は砕かれない。」

 

「───何を。私は破壊する。過去、未来、現在───何であろうと。」

 

「虹よ、虹よ───今こそここに氷結を起こさん。我が声に応えよ、鈍身の氷───虹翔の奇術、二十五の式“冰界・永久凍結”」

 

そう唱えた瞬間、私を中心として付近の全てが凍りついた。

 

「これは───」

 

「イヴェルカーナの凍結に似てる……」

 

ルーパスさんがなにか言ってるけどよく分からない。

 

「この程度───」

 

「虹よ、虹よ───今こそここに幻惑を起こさん。我が声に応えよ、幻惑の影───虹翔の奇術、二十三の式“三稜鏡幻惑之参・空蝉”」

『虹よ、虹よ───今こそここに幻惑を起こさん。我が声に応えよ、幻惑の歪───虹翔の奇術、二十七の式“三稜鏡幻惑之肆・歪空”!』

 

私はスパルタクスを救ったときと同じ術を放ち、虹架さんが別の術を放って私を上空へと転移させる。

 

「───粉砕する!」

 

氷は粉砕され、私の空蝉───脱け殻も消え去った。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

───よいか、リッカ。無銘の戦いに手を出してはならぬ。絶対とは言わぬが───そうさな、お主の直感に従うがいい。お主の直感が、支援が必要だと判断したときに、支援を行うのだ。

 

「アル……」

 

私はアルとアルテラさんの戦闘をみていた。

 

アルテラさん───あの人の言葉から推測すれば、匈奴の大王。匈奴の大王というと───フン族の大王、“アッティラ”。

 

〈…リッカ?〉

 

「マリー……」

 

〈………ネロさんから言われたことを気にしてるのかしら?〉

 

「うん…」

 

あんなこと言われたけど、やっぱり心配。

 

〈…観戦しているだけではダメよ。いつでも支援を行えるように準備なさい。必ず、私達にもできることはあるわ。〉

 

「……“無銘の思いを無駄にするな”、か…」

 

にしても、何を支援すれば良いか分からない。直感に従うならなにか支援をした方がいいみたいなんだけど……回復じゃない、強化じゃない、防御じゃない、敏捷じゃない……一体、何を…

 

「ふむ…せっかくだし何かを弾くか?」

 

リューネちゃんの提案。そういえば、狩猟笛って確か支援できるんだっけ…?

 

「じゃあ…お願いできる?」

 

「ふむ。なにか弾く音楽にリクエストはあるかい?」

 

「弾く曲……じゃあ───」

 

私は1つの曲をリクエストした。

 

「ふむ……聞いたことの無い音楽だな。その音楽の音源はあるかな?」

 

「……お兄ちゃん」

 

〈ちょうど手元に音楽プレイヤーあるからそれ渡すわ。お前が言った曲も入ってるぞ、ちゃんとな。〉

 

その言葉と共にイヤホン付きの小型音楽プレイヤーが送られてくる。……あ、あった。

 

「これ。」

 

「借りていいかな?…えっと、使い方は…」

 

「これを耳に着けるの」

 

私はイヤホンの使い方と音楽プレイヤーの使い方を教えた。

 

「ふむ…こうか。……ふむ。いけるだろう。…僕が奏で、君は歌う……それが僕らの理想の音楽のカタチ。ここに示すは1つの夢───“私が奏でて、貴女が歌って。(ドリーミー・オーケストラ)”───」

 

突然詠唱を始めたと思ったら、周囲に色んな楽器が現れた。三味線だけじゃない、ギターやベース、マリンバにドラム、グランドピアノ───明らかに在るのが狩猟笛だけじゃない。

 

〈これは───宝具なのか!?〉

 

「そうだね。僕の宝具の1つ、“私が奏でて、貴女が歌って。(ドリーミー・オーケストラ)”。効果は…まぁ、そんなことよりも始めようか。見れば分かる事だし。」

 

───その時、私達はリューネ・メリスという少女の演奏の本気を見た───

 

 

 

side 無銘

 

 

 

もうどれくらいの時間が経っただろう。

 

既に砕け散った近接武器は30を越え、遠隔武器は既に弾薬が尽きた。しばらくすれば修復・補充されるとはいえ、戦闘中に補充される可能性は低い。

 

───残る近接武器は、2本。最後の剣、銀色の細剣を喚び出して構える。

 

「…何故だ。何故そこまでして護ろうとする。名の無き者よ、何故。いずれ消え去るものを、何故そこまで。」

 

なんで、か……

 

「それが私の思いだから。絶対に壊させない。私はこの世界の未来を護る。」

 

「…理解できない。」

 

「理解できなくても構わない。私は私の思いに従うだけ───ただ、それだけ。」

 

「思いなど、無意味だ。私は破壊する───どんな思いであろうと、どんな可能性であろうと───ん?」

 

不意に、アルテラが不思議そうな顔をした。同時に、周囲に音色が響き、私の力が強化された気がした。

 

「───なんだ、これは。」

 

 

 

{戦闘BGM:U.N オーエンは彼女なのか?}

 

 

 

その方向をみると、いくつもの楽器に囲まれたリューネさんがいた。リューネさんの前にあるあの楽器は───確か、ピアノ。

 

「耳障りだ───粉砕する。」

 

「っ、させない!」

 

咄嗟に地面を蹴り、剣を打ち合わせ───ようとする。

 

「な───」

 

変化を感じた。さっきより、身体が断然軽い。

 

「───やぁっ!!」

 

「ぬ───!」

 

細剣の一撃がアルテラを吹き飛ばす。確信した。身体が軽くなり、動きが早くなっただけでなく───一撃が重くなった。

 

「これなら───!」

 

『無理、油断は禁物だよ!』

 

虹架さんの忠告に頷きながら、私は歪空で距離を詰める。

 

「───シッ!」

 

「なん、だ───いや、関係など、ない。全てを、粉砕する───!」

 

『起動せよ、メグレズ───その一陣の風を!』

 

メグレズの風が剣を阻む。その時、鳴り響いていた音が一定のリズムを刻むようになった。

 

『音楽が変わるぞ!感覚の変化に気を付けろ、無銘殿!』

 

音楽が、変わる───どういうこと、と問おうとしたとき、本当に音の調子が変わった。

 

 

 

{戦闘BGM:戦闘!チャンピオンアイリス}

 

 

 

「なんでお兄ちゃんアイリスの、しかもBW2のBGMいれてるの…?」

 

〈好きなんだが悪いか?〉

 

「いや悪くないけど……!」

 

〈ちなみにこの後に流れるなら恐らくギラティナだろうな〉

 

「お兄ちゃんの選曲よく分からないよ……」

 

そんな声が聞こえたけど、どうでもよかった。私の視界に映る景色───音が発せられる度に現れる色とりどりの音符。

 

「この、音符は……?」

 

『え───む、無銘!見えるの、この弾幕が!?』

 

『知ってるの、虹架さん?』

 

『音弾───本来なら音を操る力、音を見る力がないと見ることができない音を封じこめた特殊な魔力弾!見れたということは恐らく───』

 

「耳障りだ───粉砕する、音も、国も、何もかも、総て───」

 

説明の最中で相手の剣が光り出す。

 

『───説明は後ね、宝具が来る。無銘、出来るだけ音を前に集めて!私も私で対処は考える!』

 

音を───集める?どうやって───

 

───いや、何となく分かる。なんでか知らないけれど、何となく分かる。

 

私はまず、周囲にある音に意識を繋げる───

 

「───っ!」

 

予想以上に、負荷がかかる───!だけどそれをこらえて接続済み音弾10個を私の前に集める。

 

〈アルちゃんは一体、何をしているんだ…?〉

 

「わ、わかんない…でも、多分、大丈夫……」

 

ドクターとリッカさんの声が聞こえる───そこからいくつもの音符が生成される。接続、誘導───

 

『誘導できたら意識の接続は少しだけ残して切った方がいい、じゃないと処理しきれない!』

 

「私は───フンヌの戦士である。」

 

前方に配置できた音弾は20。切断、接続、誘導───

 

「人は、言う。私は───神の懲罰なのだと。」

 

前方に配置できた音弾30───

 

『もう無理ね。あっちの宝具が早い。少し心もとないけど、やるしかない。タイミングを合わせて。』

 

虹架さんの声が聞こえる。

 

「文明を───」

 

『虹よ、虹よ───今こそここに花咲を起こさん。我が声に応えよ、魅惑の花───虹翔の奇術、九の式“蒼天彼岸花”』

「───オール・トーン・バースト」

 

接続したことのある音弾に、全音炸裂の式句。それと同時に現れる蒼い彼岸花。音弾が爆発して爆音を周囲に撒き散らし、その音に反応して彼岸花が爆発する。

 

「───っ!」

 

その爆発によって私は吹き飛ばされて地面へと転がり、アルテラは宝具を強制的に停止させられた。

 

「───」

 

その時に見上げた、夜空。虹架さんが第一宝具を常に展開しているから、夜天の結界が張ってある。そのなかに浮かぶ、音符達。

 

「…綺麗」

 

戦闘中にそんなことを思うのもどうかと思う。だけど、どうしてもその光景から目を離せなかった。夜天に浮かぶ、無数の星。音が発せられる度に流れる光───

 

 

 

「───ぁっ。」

 

 

 

 

パチリ、と。心の中で欠けていた何かがはまったような音がした───

 

 

 

…どれくらいの時間をそのまま過ごしたかは分からない。けれど、そこまで時間は経っていないはず。私は身体を起こして、アルテラの方を向いた。

 

「…無駄だと言うのが、何故分からない。どうせ、破壊されるというのに───」

 

私は無言で細剣を構え、アルテラに対して突きを放つ。アルテラの剣がしなる。

 

「だが───終わりだ。これでお前は、もう戦えない。」

 

それはどういう、と聞こうとしたとき、右手の感覚が消えた。

 

「───っ!」

 

リッカさんの息を飲む声。次いで、痛み。

 

「───え?」

 

細剣が───いや。

 

 

 

 

 

右腕が、根こそぎ消えていた───

 

 

 

 

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「…っ!アルッ!スキルアク───」

「ならぬ!!」

 

回復をかけようとしたところを、ネロさんに止められた。

 

「どうしてっ!!」

 

「あやつの目をよく見よ!あやつの目に未だ闘志は消えておらぬ!!」

 

「……!」

 

「信じるのだ───あやつのことを。それがリッカであろう?」

 

「……」

 

私はそれに従い、スキルの起動を停止した。

 

 

 

side 無銘

 

 

 

「………っ!」

 

『だ、大丈夫…じゃ、ないよね?』

 

『大丈夫じゃ……ない。』

 

そのまま私はその場にうずくまる。

 

「これで、本当に終わりだ。」

 

───終わり?

 

「……違う。」

 

「───何?」

 

「違う───終わりじゃ、ない。」

 

リッカさんじゃないけど、そう思う。でも、魔力も尽きた。何が───

 

「終わりに、変わりはない。お前は、これで、終わりだ───」

 

私は動くこともせず、その剣を見つめるだけだった。だけど───

 

 

ガキィッ!

 

 

「………!?なん、だ!?」

 

「……そういう、ことか。」

 

私とアルテラの剣の間に現れた紫色の光。

 

「何故、阻まれた。何を、した。」

 

「……ようやく、分かった。“心意”の意味───」

 

心意。フランスを修正しているとき、夢の中で聞いた言葉。私の持つ力の、1つ。

 

「Immortal Object───破壊不能オブジェクト?アルが…?」

 

〈SAOなんかにある建物とかに攻撃した際に出るシステムウインドウと同じ…だよな。なんで、あるんだ?〉

 

「───お前は」

 

「…っ」

 

私は右半身に意識を集中させる。

 

 

グチッ…ギュルルッ!!

 

 

「な────」

 

〈うわわ!?グロいグロい!!〉

 

結構すごい音と血飛沫を立てて、喪った右腕が完全に再生した。

 

「そういう、こと。心意───私の思った通りの現象を起こせる。限界はあるみたいだけど───一時的な回復には十分、か。」

 

「お前は───そうか。可能性の、具現化か。だが、私は粉砕する。」

 

私は最後の武器───錆びた杖を喚び出し、息を整える。

 

「ただ、破壊する───“軍神の剣(フォトン・レイ)”───!」

 

迫る剣。私が構える前に、私とアルテラの前に割り込んだ人影。

 

「宝具───展開します!“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!!」

 

「───強化せよ。護りの盾をより強固に───!」

 

マシュさんに強化をかけ、アルテラの宝具を耐えきる。

 

〈───“果てから見つめる天文台(アニマ・フィニス・カルデアス)”───!!〉

 

同時に夜天の結界が掻き消され、真っ白な世界へと放り込まれる。

 

「ふはははは!食らうがいい!“王の幻想(ロード・オブ・ファンタズム)”───!!」

 

英雄王の投影した宝具がアルテラの移動を妨害する。一対一───攻撃に関しては私に任せてくれてるみたい。でもその宝具で、基礎の結界は破壊される。次いで、第一心情、砂嵐の砂漠が顕現する───

 

〈今よ!〉

 

「アル!」

 

リッカさんの声。

 

「残る令呪───()()!!全部、貴女に!!」

 

マスター───

 

「───貴女の全力を───見せて!!」

 

「───はいっ!!」

 

令呪が発動して私に魔力が戻る。

 

「───目覚めよ、星の流れ。開かれよ、夜の息吹。総ては流転し、我が声に応える流れる星───」

 

私は飛翔し、その背後が夜天に変わる。そこに現れるはいくつもの星々。

 

「刻は巡り巡って訪れる。巡り巡ってあなたのもとへ。ここに示すは夜天の絶景。今こそ目覚めよ、その神秘───」

 

星々を───否、無数の小惑星を背に私は杖をペン回しと似たような感じで片手で振り回す。

 

「───第二宝具、稼働。“それはまるで流星群のように(シューティング・アステロイド)”───」

 

その真名を告げた途端、総ての小惑星が流星となってアルテラへと殺到した。

 

 

その流星は令呪で対界となったのか心情を切り裂き───そこに現れたのは花畑。

 

「これは───」

 

「綺麗な花…そう思わない?」

 

「……これは…破壊、できないものか。」

 

「破壊の大王、アルテラよ。この世界には貴様でも破壊できぬものは存在する。」

 

英雄王が私の方を向いた。

 

「例えば、こやつの心よ。無銘───名もなく、力もそこまでなく───それでいて貴様に挑んだ者。勝てる見込みなどないというのに、挑んだ者。最後まで貴様はこやつの心を破壊することは叶わなかったのだ。」

 

「───そう、か。私でも破壊できないものはある、か───」

 

そう言い残してアルテラは消滅した。




えっと……すみません。無銘の第二宝具名、変えるかも知れません

弓「設定不足か。」

…うん。実は第五宝具とかまで組んだはいいんだけど、本編に出てくる前にPCが動かなくなって……使えない状況なんだよね。

裁「あらら…」

あ、一応追加で書き込みしました。(2021/06/07 09:19)


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第105話 お別れの時は何度でも訪れる

間に合いましたかね……?

裁「ギリギリじゃない?」


「───聖杯、確保しました。」

 

マシュがそう言った。これで、この時代での私たちの活動は終わり、か。

 

『お疲れさま、無銘。』

 

「虹架さん…」

 

『星の宝具───見せてもらったよ。綺麗な流れ星だった。』

 

アルと虹架さんが話しているのが聞こえる。

 

『由来は、あるの?』

 

「…さっきの音符達と夜天…それと、リッカさん達と一緒に見た流れ星。それがあの宝具の由来です。」

 

『……そっか。』

 

…?アルがこっち見て…

 

「…あの、リッカさん。私の我儘を聞いてくれてありがとうございます。」

 

「……大丈夫?怪我とか、色々…」

 

そう聞くと、アルは静かに頷いた。

 

「大丈夫、です。新しい力も得ましたし、私の力を扱えるようにもなってきました。これでもっとリッカさんの役に立てると思います。」

 

「……無理はしないでね?」

 

「はい。それは、確実に。…といいつつ、今回無理しちゃったのですが。」

 

そう言うアルの頭を撫でる。

 

「…無事に戻ってきてくれて良かった。」

 

「……はい。」

 

『……私は邪魔だし、失礼するね。言っちゃえばもう時間切れだし。』

 

虹架さんがそう言った。

 

「虹架さんも、ありがとう。アルを守ってくれて。」

 

『私はそこまでなにもしてないよ。戦闘におけることを判断、行動したのは無銘だし。私はそれに基本処理能力向上、同時別種複数処理の補助をしてあげただけに過ぎない。もっと強い力を身に付ければ…あるいは、眠ってる人格達が目を覚ませば。無銘は今よりずっと強くなるはずだよ。』

 

「……虹架さんは、本当に何者なの?」

 

アルの真名は私の預言書でも分からない。アルに隠された力も、アルの中に眠る人格達のことも。なのに虹架さんはそれを知っているかのように話す。

 

『さぁ……何者なんだろうね、私は。少なくとも、英雄と言われるような存在ではないと思うんだけど。ただ1つ言えることは、今ここにいる私はただの残留思念に過ぎないということ。サーヴァントや神みたいなものよりも遥かに薄い思念の残滓。今の私単体では戦うことすら出来ない。別に忘れてもらっても構わない……って言いたいけれど。無理だろうね。無銘の中に起動していない私の残滓が残ってる。』

 

残滓……

 

『恐らく無理しようとしたときや危ないと思ったときに自動的に起動されるはずだよ。だから、また会えるかもね。』

 

…そっか。

 

『……じゃあ、また。長くもった方だよ、80%のリンク率からしたら。』

 

そう言って虹架さんは消滅した。

 

「…ぬ!?あの虹架とかいう少女とは別にお主達も足先から薄くなっているぞ!?」

 

ネロさんがそう言う。確かに、私達も薄くなり始めていた。

 

「いや……いや、そうか。お主達は未来からの旅人であったな。ならばお主達は未来へと戻るのか。」

 

「はい。ありがとうございます、ネロ・クラウディウス。あなたのお陰で、この時代での作戦も終了です。」

 

「何をいう。礼を言うのはこちらの方だ。しかし……残念だ。無念だ───余はお主らに報奨を約束したというのに、何の報奨を与えてもおらぬ。」

 

『リッカさん、ブーディカさん達に連絡とれる?』

 

『取れるけど…どうして?』

 

『ちょっと、ね。心の準備だけしておいて、って伝えて?』

 

私はミラちゃんの言葉に首を傾げつつもブーディカさんと荊軻さんに連絡を取る。二人とも困惑してたけど……

 

 

バシンッ

 

 

「あいたぁっ!?何をする、金色の王よ!」

 

「別れというものは必ず訪れるものだ。ミルドも言っておったが長い命を持つ古龍と呼ばれる存在にも終わりは来る。この世界にもいずれ、な。それは既に避けられぬものなのであろう。」

 

「…むぅ。」

 

「───しかし、だからこそ。その別れの時くらいは笑っておくがいい、第五代皇帝ネロ・クラウディウス。ミルドよ!」

 

「ちょうど構築終わったよ───起動」

 

その声と共にミラちゃんを中心として展開される魔法陣───

 

〈これは───大魔術クラスの反応じゃない!?こんなのを1人で、それも短時間で……!?〉

 

〈ほんと、彼女の中にどれだけの魔力が眠っているのよ…〉

 

メディアさんとマリーの声が聴こえる。

 

「───喪失術式(ロストスペル)が1つ、“多重処理空間転移術式”。正常終了確認。」

 

ロストスペル───今、ミラちゃんはそう言った。確かロストスペルは喪われた術式。過去に使われていたけど魔力量の多さとか文献の消失とかで普通では利用できないような術式らしいんだよね。ミラちゃん自身魔力が多いからそれなりに使えるらしいんだけど…って、そんなこと考えてたらブーディカさん達が私達のもとへと転移されてきた。

 

「え?え?何が起こったの?」

 

「ふむ……?一体何が起こった?」

 

「…なんでアタシこっちにいるの?」

 

「報酬はニンジンで良いぞ?」

 

「……私達はなぜ、というかどうやってこちらに移動させられたのかしら…」

 

結構困惑してるね……あぁ、術式名の“多重処理”ってもしかして多人数を同時に転移できるってことなのかな?

 

「よく集まった!これより、記念撮影の時間よ!!」

 

……察し。

 

 

「あたしも一緒に良いのかな、これ?」

 

「良いではないか。ブーディカ、お主もローマを救った者に変わりはないのだ、ならばこちらでも良かろう。」

 

「そういう問題なのかなネロ公……ま、いっか。」

 

「ふむ…並び順をどうするか。ミルドは必然的に前であろうが。」

 

「…ごめん、小さくて。」

 

「謝ることではなかろう。…ふむ。我直々に抱き抱えてやっても良いが…」

 

「それは嫌。」

 

「で、あろうな。」

 

「フォウフォーウ…フォウッファー…」

 

「…フォウ?私は気にしてないから良いけど、それを気にしてる子もいるから女の子にそんなこと言っちゃダメだよ?…潰すよ?」

 

「ファッ!?!?」

 

そういえばミラちゃんとギルって仲良さそうに見えて仲良くないよね。あとフォウくんは一体何を言ったの?ミラちゃんが明確に怒ってる気がするんだけど。

 

「はははははは、我らが肉体、巨大なるもの。狭き場所に合うかどうか」

 

「■■■■■───」

 

「肉達磨どもは両端であるな。…よし、リューネ!カメラを出せ!!」

 

「これだろう?」

 

そう言ってリューネちゃんが渡したのは前にも使ったカメラ。そういえば前に聞いたウツシさん以外にも色んな人や生き物が写ってたんだよね。なんで知ってるのかって?リューネちゃんに写真見せてもらったから。ゴクエンチョウを撮るのは結構辛かった、って言ってたけど…

 

「よし、撮影の機はオルガマリーに任せるとしよう!」

 

〈で、できるのでしょうか…〉

 

「なに、結構丈夫だから思いっきり魔術を撃ってくれて構わない。破龍砲直撃しても壊れないからね。」

 

「いざとなれば私が修理できますから!」

 

〈そ、そうなのね…じゃあ、全員並んでちょうだい?〉

 

その言葉で私達は所定の位置につく。

 

「ふむ。マスターよ、締めの言葉の1つでもないか?」

 

「締めの言葉……?えっと……」

 

考えてると1つ思いついた。全員に念話を繋げて動きを指示する。

 

〈撮るわよ~?〉

 

「それでは!今回の特異点実地攻略───」

 

「「「「「終了!」」」」」

 

〈“生徒会の一存”かよっ!!〉

〈“生徒会の一存”じゃないですかっ!〉

 

なんでルナセリアさんも知ってるのっ!?って思ってたら───

 

 

ゴッ!…パシャッ

 

 

「「「「「あっ。」」」」」

 

〈……えーと。ごめんなさい、撮り直した方がいいかしら?〉

 

私は一応写真を確認する。……私以外は普通に生徒会終了のポーズとってる。私は…さっきの衝撃でずっこけてる。…うん。

 

「良いと思うよ。でも…あと一枚だけ、お願いできる?」

 

〈…分かったわ。〉

 

その後に撮ったのは、全員が笑ってた。




ちなみにフォウの言ったことですけど、“ロリ体型に貧乳かぁ…ボクは巨乳の方が好きなんだけどこの世界の藤丸は貧乳サーヴァントが多い気がする…”って言ってました。

裁「うわぁ……」


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第106話 修復の道は確実に

裁「…大丈夫?」

大丈夫……


思考が覚醒する───これで、3度目。

 

「…お疲れ様、リッカ。また一歩、人理修復に一歩近づいたわ。」

 

「……マリーこそお疲れ様。大変だったでしょ?」

 

「六花の教え方が意外によかったからそこまで苦じゃなかったわよ。リッカはいいお兄さんを持ったわね。」

 

「えへへ…なんか、恥ずかしいような、むず痒いような……」

 

そんな会話をしたあと、私はコフィンから出た。

 

「うむ、マスターめも覚醒したか。」

 

「やっぱり、私が最後なの?」

 

「そうだね。でも気にしなくてもいいよ、疲れてるだろうし。」

 

「マリーめも大義であった。あの規模の固有結界をよくぞ、この短期間で。」

 

「当然じゃないの。私の弟子なのよ?」

 

「おっと待った、オルガマリーの最初の師匠は私だぜ?それは譲れんなぁ。」

 

「何よ、私だって誇っていいじゃないの!」

 

「譲れないねぇ。真の師匠は私さ!」

 

「……あの師匠二人は放っておいてちょうだい。固有結界が出来上がってからずっとあんな感じなのよ。そもそも私の最初の師匠は六花なのよ?今この場にはいないけれど。」

 

そうなの!?お兄ちゃん、いつから魔術に……って、あれ?

 

「そういえば、お兄ちゃんはどこに?」

 

「…そういえば見ないわね。」

 

「…おーし。ローマの修復も確認したぞ。ギル、あの聖杯はどうなってる?」

 

噂をすれば、かな。

 

「そら、回収した形成聖杯よ。特異点の核となっていた聖杯はマシュが持っている。」

 

「おk、預かるぞ。マシュ、回収した特異点の核となっていた聖杯も預かる。」

 

「あっ、はい。お願いします。」

 

マシュが聖杯をお兄ちゃんに渡す。

 

「ダ・ヴィンチ、仕事なんだからいつまでも争ってんじゃねぇよ。ほら行くぞ。」

 

「あっ、ちょっ!引きずらないでぇぇぇぇ!!」

 

「うるせぇ、数独やるか?」

 

「マジでやめてっ!!?」

 

………なぁにこれぇ。とりあえず今夜お兄ちゃんの部屋に行って魔術にいつから関わってたか聞こうっと。

 

「…とりあえず、ローマの修復は確認した。英雄王、ミラちゃん。終了の号令とかお願いできるかな。」

 

「ふむ…聞け、者共!」

 

その言葉で全員の背筋が伸びる。

 

「貴様らの奮闘により、また1つ正しき歴史を取り戻した!認めよう───貴様らは我が守護するに値する財であると!」

 

私達は財、か。

 

「しかし心せよ、いくらここで良好だとしても最後になにかをやらかしてしまえば総てが水の泡になると!忘れるな、我らが目的は人理の修復だと言うことを常に意識せよ!」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

「我からは以上!次はミルドよ!」

 

「だから私に振らないでよ…」

 

あ、ミラちゃんが頭押さえた。

 

「えーと……皆さん、今回もお疲れさまでした。残り…5つ、だっけ。まだまだ先は長いですが、頑張りましょう。」

 

「「「「「はいっ、王妃様!」」」」」

 

「王妃じゃなくて王女ね…」

 

「ァァァァ……」

 

「“古の龍の王妃”、ねぇ…いや確かにそうなんだけど。本来私王女なんだよね……」

 

なんかミラちゃんが凹んでた。

 

「じゃあ、解散!休息は十分に取ること!リッカさんとオルガマリーさん、無銘さんにマシュさん、ロマンさんは特に!」

 

「「「「「はっ、はい!!」」」」」

 

その号令で私達は解散した。




裁「そういえば…」

うん?

裁「前々回、だっけ?モンスターハンターシリーズの曲じゃないのを戦闘BGMにした理由は何なの?」

リューネはモンスターハンターシリーズ以外の曲も弾けるっていうことを示したかったから、かな?あの子音源と楽器の音の出し方さえ分かれば即座に弾けるからね。

裁「…ちなみに、東方projectとポケットモンスターの曲を選曲した理由は?」

え?モンスターハンターシリーズ、ポケットモンスターシリーズ、東方projectは戦闘BGMの宝庫でしょ?

裁「……まぁ、確かに。」

いずれ別の曲も弾くと思うからお楽しみに


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幕間 束の間の休息…?
第107話 召喚されちゃった


セプテム修正後に召喚するサーヴァントは?

(4) 剣士、剣士、魔術師
(2) 魔術師、騎兵、剣士
(4) 槍兵、狂戦士、弓兵
(0) 暗殺者、剣士、剣士

アンケート回答ありがとうございました。

裁「召喚“されちゃった”って……」


特異点から帰ってきた次の日。

 

「おい、起きろリッカ。」

 

「ん~……あと5分……」

 

「んな物語とかで典型的な返ししてんじゃねぇよ…いいから起きろ、もう覚醒してんだろ。」

 

「……うん。」

 

私は素直に身体を起こす。

 

「……おはよ、お兄ちゃん。」

 

「おう。朝飯作っとくから風呂入るなりシャワー浴びるなりしてこい。」

 

「はーい…」

 

私はお兄ちゃんが用意してくれてた着替えを持ってお風呂場の方にいく。着替えって言ってもカルデアの制服魔術礼装だけど…え、なんでお兄ちゃんが女の子の服持ってるのかって?お兄ちゃん、たまに女装してるから。自分用の服とは別に私やアドミスさん、フォータさん用の服も常備してあるんだって。あとついでに言うと魔術礼装はお兄ちゃんも開発に関わってるみたい。洗濯は男女別で分けてるらしいけど。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

私はお風呂から早めに上がる。お兄ちゃんを長い間待たせるのも悪いから…

 

「…上がったよ、お兄ちゃん。」

 

「おう……とりあえず、髪は乾かせ。あいつにも言われただろうよ、髪は女の命だろうが。」

 

「うん……乾かしてもらってもいい?」

 

「別にいいが……なんだ、今日はやけに甘えてくるな?」

 

「いつも自分で乾かしてるけどたまには誰かに任せてみたい、って感じかな。」

 

「単純に気分の問題か…?相変わらず女子の考えはよく分かんね。」

 

そう言いながらドライヤーとヘアアイロン、櫛や簪…色々なものを取り出して準備するお兄ちゃん。

 

「前と同じでいいか?」

 

「ん、お願い。」

 

はいはい…って言いながら私の髪を乾かし、髪の流れを整えてくれるお兄ちゃん。数分後、いつもの髪型になった。

 

「これでいいんだろ?」

 

「うん、ありがと。」

 

「へいへい…いつも思ってたけど、お前はセミロングが好きだよな。」

 

「私は髪が長い方が好きなんだよね…お兄ちゃんは?」

 

「俺もどっちかと言うと長い方が好みだがな。まぁ、そんなの人それぞれだしな。その人に合う髪型ってもんがあるだろうし。」

 

「確かに。」

 

「…ま、お前とあいつらに関してはどんな髪型でも似合いそうだけどな。」

 

「あ、ありがとう…なのかな?」

 

ちなみにお兄ちゃんの言う“あいつら”っていうのは私の友達の事。明確に誰とは言ってないけど何となく分かる。

 

「…さて、朝飯食うか。清姫、あんたも食うか?」

 

部屋の中の魔力反応のある場所に声をかける。するとその場所に清姫さんが現れた。…そっか、昨日一緒にこの部屋で遊んでたと思ったのにいなくなってたのは霊体化してたからなんだね。

 

「良いのですか?安珍様に作ったものでしょう?」

 

「基本的に俺は少し多めに作るからよ。その方が急な来客に対応しやすいしな。あとここにいるのはリッカな。いまここに安珍はいないだろ。ほらさっさと食え。俺は洗濯してくる。」

 

そう言ってお兄ちゃんはお風呂場の方に向かった。お兄ちゃんの部屋は私達のいる場所を基本として他のお風呂場とかは全部異空間の方にあるんだって。構造全部教えてもらって頭の中に叩き込んだから私は迷わないけど…普通は迷うよね?

 

「…食べよっか、せっかく準備してくれたし…」

 

「そう…ですわね。六花さんがいないのに食べるのも変な感じですが。」

 

「この時間だとお兄ちゃんは朝御飯食べ終わってるよ。じゃあ、いただきます」

 

実際お兄ちゃんって06:30くらいには朝御飯食べ終わってるからね。お風呂から上がって戻ってきたときも何か洗う落としてたし。

 

「……っ、美味しいですのね。六花さんは料理するのがお上手なようで。」

 

「私より上手だよ?…女子としてはちょっと凹むけど。」

 

「ちょっとなのですね。」

 

「慣れた」

 

「慣れてしまったのですか…」

 

だって前からだもん慣れるよもう…

 

「……ん、ごちそうさまでした。」

 

「おっと、朝飯終わったか。」

 

「……遅くなかった?」

 

「他作業してたからな。…言っとくが別に変なことはしてねぇぞ?」

 

「大丈夫、そこは心配してないから。」

 

「いえ、した方がいいと思いますが?そこは流石に。」

 

「だってお兄ちゃんだし。お兄ちゃんに対して恋愛感情なんてないし、そもそも数年前から女の子として認識してる事多いからね。」

 

「…喜んでいいのか悪いのか。もうこれ分っかんねぇな。」

 

やれやれ…ってお兄ちゃんが呟いたところで天井のスピーカーからマイクの入る音が聞こえた。

 

 

〈我が声を聞け!!8時だョ!全員集合!!〉

 

 

……ギル?

 

「あー…もうそろ8時か。……どこで拾ってきたんだか。結構昔の番組だろそれ。」

 

1985年とかだっけ?ちなみに私は1999年生まれ、お兄ちゃんは1996年生まれだから全くって言っていいレベルで知らない。

 

「……行くか、管制室。」

 

「うん…」

 

私とお兄ちゃんは管制室に向かった。あ、清姫さんは私の部屋の方に向かった……

 

 

「おーす…」

 

「うむ、間に合ったな。」

 

管制室に到着すると私達以外のメンバーは揃っていた。

 

「マスターも着いたことだ。特異点攻略の締め───英霊召喚を始めるぞ!!」

 

あー……そういえば、前回召喚までが特異点攻略、みたいなこと言ってたね

 

「んで、今回は召喚の指定とかあるのか?」

 

「うむ、今回はだな…」

 

…?ルーパスちゃんの方を見た?

 

「ルーパス・フェルト、リューネ・メリス───この2名を召喚の触媒として用い、英霊召喚を行おうと思う!!」

 

…………

 

「「「「はい………?」」」」

 

 

えっと。纏めると……

 

 

強い力を持つルーパスちゃん達

あちらの世界の住民はこちらの世界の住民よりも強いのではないか

ただし並行世界へ干渉する術は未だ確立されていない

ルーパスちゃん達を触媒として用いればあちらの住民を召喚することができるのではないか

可能性は低いだろうが賭けてみる価値はあるはず

ルーパスちゃん達と同等、もしくはそれ以上ならば大きな戦力になり、逆に力がそこまでない者であっても様々な後方支援ができるだろう

 

 

……ってことらしい。

 

「そう簡単にうまく行くだろうか……」

 

そう言うのはリューネちゃん。少し心配そうにしながら私の隣に立っている。

 

「……っていうか、そもそもの話、生きた人間を触媒として使えるの?」

 

「記録上はマスターそのものを触媒として顕現しているサーヴァントもいる。そして自分自身を触媒として過去の自身を喚び出すなどという者もいたのだ。故に不可能ではないであろうな。」

 

「そう…」

 

ギルが言うなら本当なんだろうけど。

 

「準備は出来たな?サークルを回せ!」

 

〈へーい…サークル展開、アカシックレコード接続確立……〉

 

お兄ちゃんの手でサークルが回る。あ、呼符はいつも通り。

 

〈霊基パターン確認!該当クラス───セイバー!〉

 

「セイバーか…誰だろうね。」

 

〈顕現します!〉

 

サークルが光を放ち、人影が現れる。

 

───む?ここはどこだ?

 

……竜人語?

 

……む!琉音ではないか!!カムラの里の誇りたるツワモノがなぜここにいる?

 

“琉音”って確か……リューネちゃんの事だよね?

 

「───よりにもよって、里長が召喚されるとは。」

 

当のリューネちゃんは頭を押さえてた。

 

里長、説明はあとでする。今は名を名乗ってくれないか。

 

む?構わんが……俺は“フゲン”だ!見慣れない者達よ、よろしく頼む!

 

こ、こちらこそ……?

 

とりあえず日本語じゃ分からないだろうから私も竜人語で対応する。すると笑いながら後ろに下がっていった。

 

「まさか、里長が召喚されるとは。」

 

「里長って?」

 

「そのままだ。カムラの里の長。そういえば里長は百竜夜行のモンスターを一撃で撃退できていたな…」

 

というか里長がここにいてカムラの里の守護は大丈夫なのか…?ってリューネちゃんが呟いてた。

 

「ルーパスに変わり、次を回せ!ガチャは目押し力が命よ!」

 

〈目押し力はスロットじゃね?呼符確認、サークル展開開始───〉

 

再度サークルが展開して回転し出す。

 

〈顕現反応───確認!クラス、バーサーカー!!〉

 

「バーサーカーかぁ…」

 

その呟きを聞いていたら、新しい人が召喚されていた。

 

……あぁ?どこだ、ここは。

 

「大団長だ……」

「大団長です……」

 

あ、ルーパスちゃんとジュリィさんが知り合いみたい。

 

おっ?そこにいるのは5期団だな。んで……他は見慣れない顔だな。

 

は、初めまして…?

 

大団長、日本語使ってあげてください。リッカさんはともかく、他の人たちが分かりませんよ。

 

ジュリィさんがそう言った。

 

日本語………ちょっと待てな。……こう、だったか?」

 

え………

 

「おい?俺の言葉が分かるか?」

 

「え、あ、はい。」

 

「そうか。…通じるってこたぁ、ここは、アルテミス達のいた世界か。」

 

ええええええ……?

 

「なに呆けてやがる。…まぁ、いいか。」

 

「大団長、自己紹介……って、私も大団長の名前知らない…」

 

「あっ、私もです。」

 

「お前らな……まぁいいか、お前さんらも適当に大団長とでも呼べ。」

 

「はっ、はい!」

 

「いい返事だ。」

 

……よく分からないけど、いい人そう?

 

「…ふむ。今回はこのあたりにするか。次からは通常の召喚に戻るぞ!」

 

〈じゃ、一旦休憩だな。〉

 

お兄ちゃんの言葉で休憩時間になった。




ということでフゲンさんと大団長が召喚されちゃいました。

裁「大団長に名前はないの?」

ずっと“ラージャン”っていう名前しか出てこなかった……

裁「こらこら…」

実際自分の所属している組織の上司とかの名前知らないの不味いと思うんだよね…

裁「……校長先生」

………すみませんでした


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第108話 いつもの召喚を始めます

うー……

弓「ふむ…」


「ふむ…しかし何を召喚するべきか。」

 

ギルが悩んでる…

 

「ただ回すだけも味気ない。ふむ……何か案はあるか?」

 

実際ない……

 

「…まぁ、よいか。いつも通り引くがいい。」

 

〈じゃ、サークル起動すんぞ~……リッカ、召喚する英雄に希望はあるか?〉

 

「ない……あっ」

 

私はフランスの時に貰ったものを出した。

 

「そういえばこれ…」

 

〈邪竜ファヴニールの爪と鱗か……ん?なんだ?今日はほとんど召喚できなさそうだな……〉

 

「そうなの?」

 

〈リッカより直感の精度は低いがそんな感じがする。メンテナンスは怠ってないんだがなぁ……すまねぇ、今回は3体で勘弁な。終わったら緊急メンテだわ。〉

 

「ふむ…まぁ、仕方あるまい。選出する神も色々あるのであろうよ。」

 

「メタいこと言ってるような言ってないような……」

 

〈英霊召喚システムが壊れないといいけどな…よし。アドミス、管制中全システムに対し、正常稼働するリソースだけを残しシャットダウンを実行。並びに通常管制モードをシャットダウンし、高度管制モードを起動。管制対象は英霊召喚システム・フェイトを設定、余剰リソースを全て英霊召喚システムに注げ。〉

 

〈分かりました。カルデア全システム、最低稼働リソースのみを残しシャットダウンします。〉

 

その声が聞こえたとたん、電気が一瞬消えて豆電球くらいの暗さでまた点いた。

 

〈続いて通常管制モードを終了。高度管制モードを起動します。管制対象は英霊召喚システム・フェイト───system active.〉

 

「…全システムシャットダウンなのに通信は生きてるの?」

 

〈基本的に通信は常時動くようになってるからな。俺の結界も経由しているわけだし。〉

 

「そっか…そういえば、お兄ちゃんっていつから魔術に関わってるの?」

 

〈さて、いつだったかね……〉

 

「…確か、12年前には魔術協会にいたわよね?」

 

12年前って……2003年……お兄ちゃん7歳、私4歳の頃じゃない……?そういえば、私が中学生になるまで、家でお兄ちゃんの姿全くといっていいほど見なかったような……声はたまにしてたんだけど。

 

〈よく覚えてんな、マリー…っと、高度管制モードも起動したな。サークル展開、観測開始───アドミス、フォータ、何か異常あったらすぐに教えろ。〉

 

〈〈はい、マスター。〉〉

 

「ほんと、六花ってスペック化け物クラスよね…」

 

〈よく言われる。Survivors full of mistakes───“間違いだらけの生還者(サヴァイバー)”、ともな。〉

 

「……本当にお父さんはどうやって六花を引き込んだのよ……」

 

なんだろ……すごくマリーが疲れてる気がする。

 

〈常識に囚われてはいけないのです、ってな。〉

 

「それ早苗ちゃんだよね…」

 

「おう。……クラス・セイバー、顕現すんぞ」

 

お兄ちゃんの言葉と同時にサークルの上に人が召喚される。

 

「セイバー、“ジークフリート”。召喚に応じ参上した。命令を───」

 

ジークフリート───フランスで私達を助けてくれた人。

 

「……召喚が遅くなってごめんなさい、ジークフリートさん。」

 

「……いや、構わないよ。君も忙しかったんだろうからね。そう簡単には怒らないさ。…英雄王、俺はどうすればいい?」

 

「ならば後に連絡するゆえ、貴様の部屋で待つがいい。場所はこの通りよ。」

 

そう言ってギルが地図を投げた。

 

「感謝する。」

 

ジークフリートさんは地図を受け取ってさっさと管制室を出ていった。

 

「…怒らせちゃったかな」

 

〈さぁな。さて次次。アドミス、何か異常は起こってるか?〉

 

〈いえ、現状確認は出来ません。〉

 

〈フォータは?〉

 

〈外部からの干渉形跡はありません〉

 

〈そうか。…なんだかなぁ。〉

 

そんなとき、召喚の時のリングが虹色に輝いた。

 

〈……なんだ?高位霊基反応───〉

 

〈霊基パターン確認───セイバー!〉

 

その声が聞こえた途端、召喚が完了した。

 

「桜セイバー、ここに推!参!あなたが私のマスターですか?」

 

「……えーっと?」

 

一応背後に回ってみる。

 

「あれ?消えました?」

 

「───ごめんなさいっ!」

 

そのまま私はコードスキャンしてみる。

 

「えーと……今、何かしました?」

 

「……沖田総司さん?」

 

「なんで分かったんですか!?」

 

コードスキャンしたページ見たら書いてあった、としか。

 

「ていうかあなた結構気配消すの上手じゃないですか?気のせいでしょうか…」

 

「そう……なの?」

 

「確実に視認していたはずなのに見失いましたから…えっと、マスターさんは…」

 

「あ、私…」

 

「…ですか。今回のマスターさんはなんか色々と手強そうですね…」

 

そんなことを言って管制室を出ていった。

 

〈セイバー、セイバーか…キャスターあたり欲しいがな。〉

 

キャスターってナーちゃんとメディアさんだけだっけ?

 

〈……と、噂をすればキャスター反応。〉

 

「噂をすれば影、ってね。」

 

そう言った途端召喚が完了する。

 

「サーヴァント、“諸葛孔明”だ。…来てやったぞ、英雄王。」

 

諸葛孔明……?どう見てもエルメロイさんな気がするんだけど。

 

「ふ、来たか忠臣。貴様が使える王もここにはいる。せいぜい策を練るがいい。」

 

「あぁ、そうさせてもらう───」

 

……?言葉が止まった。

 

「あなた……時計塔の?」

 

「───いや。私は諸葛孔明だ。断じて時計塔の学部長などではない。断じて。」

 

〈既に見破ってんだよなぁ……〉

 

「ふははははは!さて、名はなんといったかな?」

 

「英雄王……!ふざけるのはやめてもらおう。」

 

〈ま、リッカやマリーのいい教師になるんじゃね?〉

 

「……そういえば六花。」

 

〈あ?〉

 

マリー?

 

「あなたどこで魔術を学んだの?」

 

〈あ?あー……小さい頃からよく遊んでた爺さんがいてな。その爺さんから教えてもらったんだ。もちろん、魔術師になるということは外道になるとほぼ同義だってことも理解してら。それでも頼み込んだら教えてくれるようになったのさ。まぁ、俺自身魔術師というよりは魔術使いになると思うんだが。〉

 

「そう…ところでそのお爺さんは今も生きてるのかしら?」

 

〈どうせあの爺さんの事だ、どっかで生き延びてんだろ。〉

 

「ふむ。私も気になるな。どんな名前の魔術師だったんだ?」

 

〈…“キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ”〉

 

その言葉が発せられた途端、その場が凍りついた。

 

〈……マリーとかは知ってんだろ。魔道元帥、宝石翁、万華鏡───第二魔法“並行世界の運営”の使い手。〉

 

「…あなた、とんでもない人の弟子だったのね。」

 

「というかよく破滅しなかったな。」

 

〈慣れじゃね?〉

 

「でもスペックが段違いな理由が何となく分かった気がするわ……」

 

〈使える魔法違うんだがな……さて、メンテするか……かいさーん〉

 

ということで今回はこれで終わりとなった。




誰を召喚するか思い付かない……

裁「あらら…」


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第109話 変な夢を見た

すみません、選出に時間かかってるので召喚回は後回しです。

「そこの黒ひげ。貴様は呼ばれていない。早急に立ち去れ。」

「なんとぉぉぉぉぉぉぉ!」

……なんだかなぁ…挿絵の件もだし。

裁「挿絵?」

あ、うん。この作品を見てイラスト描いてくれた人がいるの。ただ、他作者さんの画像って使ったことなくて…一応利用申請は出したんだけど、承認されてない状態。本人からはメッセージで許可貰ってるんだけどね。

裁「ハーメルンのシステムに関係する話かぁ…」

私には分からない。


「さぁ、見せてみろ。お前の意思を───」

 

「───レンポ、ミエリ、ネアキ、ウル───お願い、力を貸して。」

 

これは───夢?

 

「あぁ、構わねぇよ。……■■■は、いいのか?」

 

「……■■■。一緒に、お願いできる?」

 

そこにあるのは真っ白な地表───橙色の髪の少女と、黒い龍───ミラちゃんの召喚する黒龍ミラボレアスに似てるけど何かが違う……?

 

「起動せよ、預言書。いまここにその主が声に応えよ。終焉を告げる鐘は我が手に、総ての運命は我が前に。我が存在は世界を創る鍵───」

 

声が私と全く同じ───あれって、もしかして私───なの?

 

「宝具、稼働───“ロード・ラストサーヴァント”───」

 

その言葉が発せられた時、彼女が強い魔力を纏ったのが分かった。流れるように本の中から取り出した剣───あれは。

 

「…証明してみせる。私の選択が正しいと───私が預言書の運命を終わらせると!私は───絶対に負けない!」

 

「ならば証明してみせよ。お前の創る世界が本当に正しいものなのか、私が見定めよう───かつて、何度も運命は繰り返されてきた。今こそ最後の選択の時だ───来るがいい、当の預言書の主───藤丸リッカよ。」

 

藤丸リッカ───私と同じ名前。もしかしたら、私とは別人なのかもしれない。だけど───どうして、龍と対峙しているの?

 

「サーヴァント、ルーラー───真名、藤丸リッカ!」

 

「サーヴァント、ルーラー───真名、ミラボレアス。」

 

「この先に続く未来のために───預言書の主、新世界を定める者として!」

 

「預言書の主を見定めるため───最後の試練、終末の審判として。」

 

「「我が総てを懸けて───いざ、勝負!!」」

 

私らしき少女と黒龍が、その白い世界の中で激突した───直後、私の意識は落ちた。

 

 

 

そのあと、私の意識が覚めたときにいたのは、さっきとは全く違う、真っ黒な世界だった。

 

「……ここは」

 

声は、出る。魔力も───通る。何かが起きてもいいように、魔術礼装に魔力は通しておく。

 

 

キィ…

 

 

突然鳴ったその音。その音の方向を見ると、その方向から光が漏れていた。真っ暗な空間だけど、密閉されてるわけじゃなくて扉があったみたい。

 

「…誰?」

 

そう呟くと、扉が開くのが止まった。

 

「…中に、誰かいる?」

 

「まさか。今までこの場所に鍵かかってたのに?」

 

声からして女性2名。

 

「……開けるよ。もしも敵だった場合戦うことになりそうだけど。」

 

「準備は出来てるよ。」

 

その声のあと、扉が再び開き始めた。

 

「……」

 

はっきり言えば、私にそこまで戦闘能力はない。預言書も手元にない。だから結構危ない状況……そんなことを考えているうちに、扉が開ききる。

 

「……え?」

 

「……あー……」

 

その、前にいた女性は───

 

 

 

 

 

 

───アルに似ていた。

 

 

 

 

 

「迷い込んじゃったのかな……困ったね。」

 

「そうだね……経路は夢かな。」

 

アルに似てる女性と、ミラちゃんみたいな真っ白な髪の女性が何か話してる。

 

「とりあえず、お母さんに連絡。彼女は……私がもとの世界に戻しておくよ。」

 

「はぁい…」

 

「あの…」

 

私はアルに似てる女性に声をかけた。

 

「?どうしました?」

 

「えっと……アル、じゃなくて…無銘のアルターエゴに心当たりはありませんか?あなたに似ている気がするんです。」

 

「……そうですか。心当たり…それに関しては黙秘しましょう。いずれ分かることですし。」

 

いずれ分かる……?

 

「さぁ、元の世界にお戻りください。あなたは今ここにいてはいけないのです。」

 

「待っ───」

 

「───またいつか、お会いしましょう。藤丸リッカさん。」

 

その言葉を聞き取ったのを最後に、私の意識は落ちた。

 

 

 

 

三度、意識が覚醒する───だけど、今度は私の部屋だった。

 

「───身体は、動く。」

 

私はそのまま身体を起こした。間違いなく、カルデアの私の部屋。時刻は15:30。

 

「───なんだったんだろう。」

 

私はベッドから立ち上がり、管制室の方に向かった。




?「お母さん~」

ん~?

?「リッカさんがこっちに迷い込んでたよ~」

あー……結界弱くなってるかなぁ…一応手は打ってみて。

?「はーい」


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第110話 不調の原因

裁「ふわぁ…」

弓「む、起きたか鍵のルーラー。」

裁「ん……」

弓「起きてすぐですまぬがこれをマスターめに届けてくれぬか?」

裁「……手紙と…絵?」

弓「うむ…何故かは知らぬがこちらに届いたのでな。我は記録で手が離せない故、頼めるか?」

裁「マスターは…」

弓「今この場所にはおらぬ。」

裁「ん、わかった。」

弓「すまぬな。」

───パタン

裁「……」


【挿絵表示】


裁「……気にしすぎ、かな。それにしても……やっぱり広い。マスターはどこにいるんだろ…あ。」

正弓「んーと……」

裁「……こんばんわ、L…じゃない、正のアーチャーさん。」

正弓「うん……?あ、こんばんわ。鍵のルーラーさん。何かお探しですか?」

裁「えっと…マスターってどこにいるか分かる?」

正弓「マスター……あぁ、お母さんですか?お母さんでしたら多分、お母さんの自室にいると思いますよ。」

裁「マスターの自室……ありがとう。」

正弓「いえいえ~…」


召喚の日から3日。召喚システムの調査と並行して特異点の捜索は行われているみたい。

 

「…はぁっ!」

 

私は目の前にいたウェアウルフに対して一撃を放つ。それが止めとなったのか、ウェアウルフはポリゴンの欠片となって消滅した。

 

「はぁ…はぁ…フォータさん、次をお願い。」

 

〈…いいえ、だめです。出現から撃破までに10分以上かかっています。これ以上の戦闘は…〉

 

「…分かった。ありがとう。」

 

私はその場に座り込んでフォータさんが私の近くに浮遊させてくれたペットボトルのふたを開ける。

 

「……ふぅ。まだまだ先は長い、なぁ…」

 

〈1VS1とはいえ、ウェアウルフLv.18を10分で倒している人間が何をいいますか。〉

 

「お兄ちゃんはもっと上でしょ?」

 

〈マスターは…もう既に人外の領域に達してそうなので。〉

 

「自分のお父さんに向けて人外って…」

 

〈根源に到達して第三魔法を会得している時点で既に魔術師ではなく魔法使い、それにただの人間ではありませんからね。マスターはスペックが化け物級ですから。〉

 

「昔からだからあまり驚かないかな…」

 

実際驚きはそこまでない。だってお兄ちゃんだし、で全部片付きそう。

 

〈…リッカさん〉

 

「うん?」

 

〈どうして、リッカさんは強くなろうとするんですか?〉

 

「私が…強くなろうとする理由?」

 

〈はい。ジャンヌ・オルタさんのように焦っているようでもないですが…気になるんです。どうして、あなた達兄妹は強くなろうとするのか。〉

 

…強くなろうとする理由、か…

 

「守りたいと思うものを守るため、かな?」

 

〈守りたいもの…ですか?〉

 

「うん。今まで何を守りたいのか分からなかったけど…今は人理を取り戻すために。カルデアのみんなを喪わないために。私の力だけじゃまだまだ弱いけれど…少しだけでも、力になれたら…そう思って、私は強くなりたいって思う。……それと…」

 

私の脳裏に浮かび上がるあの黒い龍の夢。あのあとミラちゃんに聞いたところ、“この先は完全な御伽噺として伝えられてるんだけど…ミラボレアス種には現存するミラボレアス、ミラバルカン、ミララース、ミラルーツの他に2体のミラボレアス種がいたと言われているの。私のグリモワールにすら記されていない、存在すら怪しいと言われるミラボレアス種。片や総ての女王、総ての礎となり総ての祖となった白き龍。片や最後を告げる者、終焉に立ち上がり終焉に立ち向かう王たる黒き龍。リッカさんが見たのは恐らくこの黒き龍だと思う。”───そう、ミラちゃんは言った。もしかしたら、あれは私の到達するべき点なのかもしれない。到達するべき未来───なら、今の力じゃ絶対に足りない。夢で見ただけの私でも分かった。あの龍は───強い。そして、あの龍に対峙していた私らしき少女も───今の私よりも、強い。

 

〈…それと、なんですか?〉

 

「……ううん、なんでもない。」

 

夢の話はするものでもない気がする。混乱させるのも悪いし。

 

 

ピンポンパンポン───

 

 

「〈うん?〉」

 

呼び出しの音?

 

〈あー…スタッフの呼び出しを行う。所長“オルガマリー・アニムスフィア”。英雄王“ギルガメッシュ”。召喚師“ミラ・ルーティア・シュレイド”。編纂者“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”。万能の人“レオナルド・ダ・ヴィンチ”。コルキスの魔女“メディア”。預言書の主“藤丸リッカ”。至急召喚室に集まれ。繰り返す……〉

 

召喚室に……?ひとまず、私はフォータさんに一言お礼を言ってから第一シミュレーションルームを後にした。

 

 

 

第一管制室────併設された召喚室。

 

私達は急に召集されてこの場所に集まっていた。

 

「うし、全員集まったな。ひとまず、召喚システムの不調に関して分かったことがある。アドミス、調査結果を。」

 

〈はい。それでは皆さん、こちらをご覧ください。〉

 

アドミスさんがそう言うのと同時にモニターに透過した建物が映し出された。

 

「これは…カルデアよね?」

 

〈オルガマリーさんの言う通り、こちらはフィニス・カルデアの透過3Dモデルになります。カルデアは最下層に存在する“プロメテウスの火”という動力炉より大部分のリソースを発生させています。このリソースの大部分はカルデアの発明───事象記録電脳魔・ラプラス、地球環境モデル・カルデアス、近未来観測レンズ・シバ、守護英霊召喚システム・フェイト、霊子演算装置・トリスメギストスに用いられています。〉

 

「あの…結構重要そうな話だけどそれ私達に話して良いの?」

 

「所長である私が話して良いと許可を出したから大丈夫よ、リッカ。」

 

あ、そうなんだ…

 

〈話を戻しますね。私はこの三日間の間、管理者としての権限を用いて全システムを徹底的に検査しました。すると…〉

 

そういうと同時に3Dモデルが拡大され、1つの場所を示した。

 

〈守護英霊召喚システム・フェイト。サーヴァントとカルデアを繋ぐ楔です。サーヴァント現界の魔力は総てこのフェイトから電力を魔力へと変換して供給されています。しかし───〉

 

次いで出てくる表。全魔力、???、マシュ・キリエライト、レオナルド・ダ・ヴィンチ、リューネ・メリス───一番下に、残魔力。これは…

 

「ふむ。所属する霊基とその消費魔力か。」

 

〈ギルガメッシュさんの言う通りです。全サーヴァントの名前と消費魔力を示した表がこれです。リッカさんがカルデアにいる間は、リッカさんのメインサーヴァントの方々もフェイトから魔力を供給させていただいてます。…ただ。〉

 

「…残魔力、0.4%…」

 

〈はい。リッカさんの言う通り、フェイトで使用している魔力がほぼほぼ枯渇状態に陥っています。〉

 

「そして、その原因───つまり、魔力を多く使っている順に並び替えた表が、これだ。」

 

お兄ちゃんが言うと同時に表が並び替えられる。一番上は───え?

 

「現時点で一番大量に魔力を消費しているのは、アルターエゴ───“()()()()()()()()()()()。次点でギル、あんただ。%表記ではなく数値表記で調べたところ、無銘の魔力消費量は()()()()5()()。ギルの下には大団長、フゲンと続く───俺とアドミスは無銘に何かがあると見た。本題の前に、他のみんなの見解を聞かせてほしい。」

 

「───ふむ。我が見たところ、無銘には今表面に浮き出ている魂とは別に7つの魂がある。恐らくとしか言い様はないが、その7つの魂を───いや、違うか。8つの魂を正常に保つため、無意識に消費しているのかもしれぬ。」

 

「…そうか。メディア、あんたは何かあるか?」

 

「彼女の神性とかはどうなっているのかしら?英霊と神霊は違うもの。神霊サーヴァントだった場合は、消費魔力も段違いだと思うのだけれど。」

 

「神霊、か。その線は調べてなかったな。さすがは神代の魔女。ミラ、あんたは?」

 

「じゃあ、1つだけ。私達ハンターの霊基を持つサーヴァントは固有スキル“自立魔力”があってマスターの魔力を必要としない。だけど、そのスキルがなかった場合の魔力消費量予測って立てられる?」

 

「ハンター達の魔力消費量か…一応、特異点での宝具解放時の魔力放出量などから超大雑把な予測はついてる。ただ、如何せん情報が足りねぇからこれが本当だとは思うなよ。」

 

お兄ちゃんがそう言うと同時にアドミスさんが操作したのか、表の並び順が入れ替わった。

 

「…まぁ、見ての通りだが。いくらハンター達と言えど現在の無銘の消費量を越えることはなかった。だがさっきも言った通り、これは情報が足りない状況下での予測でしかない。恐らく瞬間的な魔力量とかはハンター達の方が上、維持魔力も上だろう。そして無銘の本来の維持魔力ももっと下だろうな。」

 

これを見るとルーパスちゃん達が自立魔力スキル持っててよかったって思う。

 

「他に何かあるか?」

 

「では…私から。私の本の内容を映し出すことはできますか?」

 

「アドミス。」

 

〈データを変換します。少々お待ちを…〉

 

アドミスさんがそう言った少し後に、別のモニターに色々な情報が映し出された。これは……?

 

「これは私が纏めたサーヴァントの皆さんについての情報です。先程の表と照らし合わせると、宝具の数が多いほど維持魔力も多くなるのだと考えられます。」

 

「ほう…」

 

「特に相棒やリューネさん、ミラさんの場合は5つ以上の宝具を持つ関係上、他のサーヴァントの皆さんとの差は歴然。さらに付け加えますと、その宝具の種類───対人、対軍、対城、対界といったものによって魔力量は大きく左右されるようです。」

 

「…へぇ。流石は英雄の座に刻まれた者ってことか。ジュリィ…あんた、肉弾戦よりも情報戦に長けてるんじゃないか?」

 

「私は…元々、編纂者ですから。事象を調査し、分かりやすく纏める…それが私の役割なんです。こういったものを纏めるのは結構得意な部類なので。」

 

「ふーん…まぁ、なるほどな。ジュリィの情報のお陰で宝具の数が魔力量に影響している可能性が高くなった。次、ダ・ヴィンチ。何か意見はあるか?」

 

「特に何も?無銘に関しては本当に何も分からないとしか言えないからね。いつの時代の英霊なのか、中に潜む人格達が一体何なのか。調べても調べても出てこないのさ。一切情報がないから調べようがないというか。」

 

「そうか。とりあえず、俺とマリー以外は出揃ったか。リッカはマスターとして今の現状を知っておいてほしいという理由で呼んだだけだからな。」

 

あ、そうなんだ…

 

「ひとまず、これを見てほしい。これは、フォータに頼んで無銘にぶつけた試練みたいなものの映像だ。」

 

そう言うと同時に別のモニターに映像が映し出された。その映像に映っているアルとフォータさんの姿。アドミスさんとフォータさんは現実世界に出れるんだって。

 

〈それでは無銘さん、いきますよ。〉

 

〈は、はい!よろしくお願いします!〉

 

〈…その前に何か音楽セットしますか。んーと……これにしましょう。〉

 

何か操作したあと、フォータさんが1枚のカードを掲げた。

 

〈───起動!〉

 

その瞬間透明な玉みたいなのが2つ現れ、フォータさんを中心に回り始めた。それと同時に流れ始める音楽───うん。

 

「…ねぇ、お兄ちゃん」

 

「あん?」

 

「これってさ…紫様のラストワード───“深弾幕結界─夢幻泡影─”だよね?」

 

「あぁ。」

 

「───なんで、BGMが“Help me,ERINNNNNN!!”なのっ!?」

 

「突っ込む所そこか…まぁ、確かにゆかりんのテーマ曲は“ネクロファンタジア”や“夜が降りてくる ~ Evening Star”だもんな…」

 

「…そう言えばお兄ちゃんって紫様のこと“ゆかりん”って呼ぶよね。」

 

「慣れだな。まぁよく声優さんとごっちゃになるが。あとこれに関してはフォータの選曲だな。あいつ静かに見えてこういうテンポ早めの曲好きなんだわ。」

 

そうなの!?

 

「アドミスは静かな方が好みだったか。まぁ好みなだけで嫌いってわけじゃねぇしな…ちなみに魔術協会に(ゆかり)って名前の人は実際にいる。」

 

「え…」

 

「“東雲(しののめ) (ゆかり)”って名前なんだがな。ゆかりんとは違って銀髪だが……どうも胡散臭えんだよな…俺が魔術の世界に足を踏み入れ、ゼル爺に連れられて魔術協会に行き、紫姉に会った当初、当人は11歳って言ってたが資料から見る限りどう考えても1000年以上は生きてるんだよなぁ…」

 

うわぁ…

 

「魔法使いの一人で使用する魔法はゼル爺と同じ“並行世界の運営”。得意な魔術は結界魔術と多重弾幕。東方好きで中でも好きなのがゆかりんのラストワード、“深弾幕結界─夢幻泡影─”。つーかこの疑似スペルはその紫姉が再現したもんだ。」

 

そうなの!?…って。

 

()()?」

 

「あー……慣れだ。」

 

「慣れなんだ…」

 

「…まぁ、紫姉のことはどうでもいい。問題は、この無銘の動きだ。」

 

動き……え?

 

「お兄ちゃん…もしかして」

 

「…あぁ。()()()()()()()()。ラストワード攻略の難しさはリッカも知っているはずだ。いくら戦闘の能力はある程度持っているとしても、ラストワードはそんな程度でどうにかなるようなもんじゃねぇ。それにこれは───」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()───そう言いたいのね?」

 

ミラちゃんの言葉にお兄ちゃんが頷いた。

 

「記憶喪失だというのにここまで避けられる謎───無銘には確実に何かがあると思われる。事実、スペルブレイクまで耐えやがったしな。」

 

あのスペルのスペルブレイクって120秒くらいだっけ?確か最長耐久スペルだよね?

 

「俺からは以上。最後にマリー、お前の見解を聞かせてほしい。」

 

「…そこまで言うことはないわ。というかあなた、紫さんとも知り合いだったのね…」

 

「ゼル爺も紫姉も第二魔法“並行世界の運営”の使い手だからな…実際蒼崎姉妹とも知り合いだしな。姉妹喧嘩五月蝿すぎるが。」

 

ただ知り合いの中でもあの姉妹は正直苦手だ、とお兄ちゃんが言ったのを聞いてマリーが苦笑いしたのが見えた。

 

「じゃあ…電力不足・魔力不足の解消方法で何か案はあるか?無銘の契約解除以外で。」

 

「え…」

 

「俺の勘が言っている───今は無銘を喪うときではないと。多少魔力が多かろうが契約を維持するべきだと。リッカよりも勘の精度が悪い俺だが、そんな俺でも分かるほどだ。迷惑をかけるだろうが───どうか、頼む。」

 

そう言ってお兄ちゃんは頭を下げた。

 

「……だ、そうだが。マスターはどうする。」

 

「私は…アルを喪いたくない。」

 

「決まりよな。我は無銘を残すことに賛成よ。他の者共はどうする?」

 

「「「「異議なし」」」」

 

「ならば足りぬリソースを補充する1手を考えなくてはな。…ふむ。心当たりがないでもないが…ミルド、貴様は何かあるか。」

 

ミラちゃんはその問いに少し考えてから口を開いた。

 

「全く加工してない電気としてなら一応いくつか。といっても電気、というか雷の部類だけど…まず1つ、真っ先に思い付くものとして雷狼竜“ジンオウガ”と共生関係にある“超電雷光虫”が挙がる。ジンオウガの力に関してはもう知っての通りだと思うけど、通常のジンオウガよりも強い特殊個体、“金雷公ジンオウガ”。さらにとある龍の暴風を生き延びたといわれる“ヌシ・ジンオウガ”がいる。亜種である獄狼竜“ジンオウガ亜種”───またの名を“ゴクオウガ”は龍属性だから除外。」

 

ジンオウガっていうと…ランさんだっけ。

 

「他には?」

 

「説明長くなるから名前だけ言うけど…電竜“ライゼクス”とその特殊個体“青電主ライゼクス”、幻獣“キリン”、奇怪竜“フルフル”、飛雷竜“トビカガチ”、雷顎竜“アンジャナフ亜種”───またの名を“ジャナール”。そして、雷神龍“ナルハタタヒメ”。雷属性を持つ獣魔達はこれだけじゃないよ。」

 

「わかったわかった、そのあたりは色々考えることにしよう。」

 

その会議はしばらく続いて、ギルの持ってた船を解体してその動力をメインのリソース生成の要とし、そこにトビカガチとジンオウガが電力供給の補助をし、さらに結構広めの異空間を作って内部の床にあたる部分を感圧電力生成マットにすることで少なくても電力を生成させるような構造にしたみたい。ちなみに異空間の中はミラちゃんの獣魔達の遊び場になるらしい……




裁「マスターの自室は……ここだ。」

───コンコンッ

裁「マスター?」

───

裁「……マスター?」

───

裁「いない…?いや違う、マスターの反応は確かにこの部屋の中にある。」

───ガチャ

裁「…!鍵が…かかってない。入って大丈夫、かな?」

───キィ…

裁「…失礼します…えっと、マスターは……いた。」

すぅ……

裁「また寝てる……うん?珍しい、ウインドウじゃなくてパソコンが点い…て………」

死ねば良いのに あいつがいるのが悪い あいつなんていなければ良いのに 私が駄目なのにあいつがいいなんて許せない この世から消えていなくなれ あいつが生きていること自体がそもそも間違い あいつがいるだけで不愉快 視界にいれたくすらない あの人と仲が良いのが気にくわない


裁「───ッ!?」

───ガタンッ

ほえっ!?

裁「……ぁ。マス、ター…」

あう……?ルーラー?来てたの?

裁「う、うん……」

そっか…ごめんね、気がつかなくて。

裁「それは…いいんだけ、ど……マスター……それ…パソコンに映ってるそれは?」

……これ?これは……本編中に出てくるキャラクターに向けられた呪詛の一部だよ。

裁「呪詛……」

そう。呪詛、嫉妬、憎悪……それの塊。ルーラーは…私の創り出すキャラクター達の傾向は知ってるよね?

裁「基本的に善の側面……作中の誰からも拒絶されたりしない女の子…だよね?」

うん。より正確にいえば、誰からも拒絶されたりしない…そして、自身も誰も拒絶…というか、恨んだり妬んだりしないような人間、かな?基本的には善の側面しか見せないような子が多いかもしれない。だけど…

裁「…この呪詛は、全く真逆……」

そう。ごく稀に、真逆のキャラクターが生まれることがある。憎悪、憤怒、嫉妬、呪詛……そう言った悪の側面を強く持つ子達。“亡霊のお話”に出てくる亡霊がいい例かな。この呪詛を受けたキャラクターその数少ない例に該当した。私のパソコンに呪詛の塊が現れるのは、それの封印を私がやっているから。まぁ、今回に関しては呪詛が強すぎて封印しきれてないんだけど。

裁「……」

嫌なものを見せちゃったね。ごめん、ルーラー。

裁「ううん、勝手に入ってきたのは私だし…」

…ところで、何か用だった?いつも観測所にいるのに私の部屋まで来るなんて。

裁「あ…えっと。これ…」

…?手紙?私宛に?

裁「うん…あと、この絵……」


【挿絵表示】


……あー、なるほどね。これは藤丸六花さんだね。

裁「やっぱり…」

チル姐さんが描いてくれたファンアート……本当に、ありがとうございます。

裁「…ところで、UA22,000越えてるけど…」

あー……それも言うの忘れてたね。とりあえず、チル姐さん、ファンアートの方ありがとうございました!ファンアートとして描いてくれたのは藤丸六花さんです!

裁「あとかなり投稿時間遅いけど…」

うー……執筆凄く時間かかったんだよ……


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第111話 無銘への問い

さ、観測所に戻ろうか。

裁「…マスター。」

ん?

裁「そういえばこの手紙って何なの?」

現実の私からこの私への伝書みたいなものかな。伝達率がたまに低いから、それの補助で使われてる機構。

裁「そうなんだ…」


『───やあ、無銘。元気かな?』

 

自室にいた私に念話で話しかける声。その方向───扉の方を見ると、白い生物がいた。確か名前は───

 

「フォウ、さん?」

 

『別に呼び捨てで構わないよ。君の隣に行っていいかな?』

 

私は頷いて、身体を起こそうとする。

 

『あぁ、別に身体を横にしたままでも構わない。どうか楽にしていてほしい。…よいしょっと』

 

ベッドの上に身体を横にしたままの私の隣に、フォウが飛び乗った。

 

『まずは特異点攻略、お疲れ様。フランスが終わった時にも言えば良かったんだろうけど、まぁ色々ごちゃごちゃしてそうだったからね。フランス、ローマ…冬木の時はまだ君はいなかったんだっけか。君は何も持たなかったその身で、2つの異変を鎮めてみせた。』

 

「…私はそこまでなにもしてないよ。」

 

『自己評価が低いというかなんというか。フランスにおいて君は3つの宝具に目覚め、うち2つは竜に狙われたマスターを護りきった。時間と空間……それを歪めた謎の宝具。それから…確か、残留思念から受け取った…虹の宝具、だっけ。その虹の宝具は多くの影を引き受け、見事に勝利してみせた。ローマにおいては新しい宝具でローマそのものを護りきった。誇ってもいいと思うけれど?』

 

「私は…まだ、何もないから。」

 

『何もない…か。確かに、君の情報はまだ全くない。宝具を多く持っているというのに全く情報がない───君は真っ白なままだ。まぁ、そんなことはいいか。』

 

そう言ってフォウは私を見つめた。

 

『問うよ。君は辛くなかったかい?怖くなかったかい?……諦めたくなかったかい?』

 

「…っ」

 

『諦めてもいいんだよ。君には何もない───君が諦めたところで旅路に何もないだろう。この先は今よりももっと辛くなる。特に6つ目なんかは辛くなる代表格だろう。その歴史を君が見る必要なんてないはずだ。───さぁ、どうする?』

 

私は───

 

「───諦めないよ」

 

『……』

 

「私が一体何者だったのか───私が今、ここにいる理由は何なのか。私はまだそれを知らない。私は“私”を見つけたい。そしてもうひとつ、私はリッカさんを支えたい。ただ、それだけ。それだけだけど───今の私にとって、戦う理由はそれだけでも十分。」

 

『……そうか。ならまぁ、別にいいか。』

 

フォウが小さくため息をつくのが聞こえた。

 

『まぁ実際、こんなことを聞いたところで何も起きないだろうけどね。君が諦めてくれれば、このボクにとって辛い旅路も終わるかと思ったんだけど。残念だ、君は諦めなかった。』

 

「……」

 

『何度も聞くのもはっきり言って面倒くさいし、こうなったら奇跡に賭けるしかないかなぁ…』

 

「…フォウ。あなたは一体…何者なの?」

 

唐突に気になった。何かを知っていそうなその雰囲気が…

 

『…さて、何者だろうね。ボクは…ただの獣。比較が好きな獣。まぁ、言ってしまえば転生者ってやつなんだろうね。』

 

「転生者?」

 

『あぁ。この場所に来る以前の、この世界に来る以前の記憶がボクにはある。ボクはこの世界とは別の世界で1度死んで、この世界でまた生き直すことになったんだ。まぁ、ボクを転生させた神と会った記憶なんてないし、そもそもボクを転生させた神がいるのかすらボクには分からない。もしかしたら、神の力で転生される───いわゆる神様転生と呼ばれるものじゃなくて、ボクの魂が元の世界の輪廻転生の輪からどういうわけか外れてこの世界の輪廻転生の輪に混じってしまったのかもしれないけれど。そんなこと、ボクには分からない。』

 

「……死んだっていう確信はあるの?」

 

『あぁ…混乱させるだろうから話さないけど。ただ、ボクの記憶の限りでは、こういう世界では冬木ではオルガマリー・アニムスフィアが死に、フランスではマリー・アントワネット王妃が霊基を消滅させ、ローマではスパルタクスと呂布が一度戦闘不能になってたはずなんだ。でも、この世界ではそんなこと起こってない。本来在るべき姿から変化しているんだ。君達の介入によって。』

 

在るべき姿から変化…

 

『ボクとしては非常に興味がある。このまま奇跡を起こし続けれれば、最後に待つ絶望を打ち砕くことも出来るかもしれない。ボクとしては、その絶望は是非打ち砕いてもらいたいね。』

 

「絶望を……打ち砕く。」

 

『……まぁ、今は分からないだろうね。でも知っておいてほしい、絶望を打ち砕く鍵は恐らく君と狩人達、そしてあの妙に上機嫌な英雄王にあるであろうということを。……さて、少し別の話をしようか。』

 

そう言うとフォウは部屋の中にある机の上に移動して3冊の本を置いた。私がベッドから立ち上がってその本の表紙を見ると、赤く燃え上がる炎の絵、白い旗と黒い旗を交差した絵、真紅と黄金の色の旗の絵がそれぞれ描かれていた。

 

「これは……?」

 

『カルデアの歩んだ記録さ。表紙も内容もボクが作ったんだ。君には初版をあげよう。気が向いたら読んでみるといい。』

 

私が頷くと、フォウは私の肩に飛び乗ってきた。

 

『そういえば君、好きな女の子や男の子はいるのかい?』

 

「好きな女の子や男の子……?」

 

『……その顔はまだ分かってないか。そういえば君は宝具が多くてもそれ以外がないんだっけ。くっそ、負けた気分だ!!くそがぁ!!』

 

「ちょっ…痛い痛い痛い!」

 

肩の上でバタバタしないでっ!?

 

『分が悪い……!ここは撤退だ!見てろ、いつかボクの描いた絵で君に劣情を抱かせてやる!美しき獣を舐めるなぁぁぁぁぁ!!』

 

そう言ってフォウは去っていった。

 

「……何だったんだろう。」

 

ひとまず、本は机の引き出しの中にしまっておくことにした。




にゃー……

弓「おかしくなってるぞ、マスター。」

裁「にゃー……」

弓「……ルーラー、貴様もか。」


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第112話 お待たせしました召喚再開

「そこの黒髭。この場より去れ。」

またやってるのかぁ……ていうかほんと遅れてすみません……

裁「評価バー色ついてたよ~…」

……え?嘘っ!?確認してくる!


電力不足会議から2日。私たちは召喚室に集まっていた。

 

「うし、全員集まったな。一応召喚関係は安定した。召喚の続きをやるぞ。」

 

お兄ちゃんがそう言って管制室のコンソールを動かしてサークルを起動した。

 

〈ほれ、いつもの通り呼符。〉

 

「残り呼符は6枚ね…何が出るかしら。」

 

「何が出てもそれも縁、じゃないかな。」

 

「……そうね。」

 

そんな会話をしながら私はサークルの上に呼符を置く。

 

〈サークル展開───電力供給パス、魔力供給パス正常。アカシックレコード接続確認。召喚開始します〉

 

アドミスさんのアナウンスが入ってサークルが回り始める。

 

〈召喚システム、状態良好。霊基顕現反応───確認。該当霊基、セイバー。顕現します〉

 

その言葉と共にサーヴァントが召喚される──

 

「───我が名は“アルテラ”───フンヌの裔たる軍神の戦士。───来たぞ、英雄王。そして名を喪いし者。」

 

「ふん、声には出さずとも聞こえていたか。まぁいい、破壊の大王であろうが歓迎するとしよう。」

 

「あぁ。お前も、よろしく頼む。」

 

「アッティラさん…」

 

そう言うと少し不機嫌そうな顔をした。

 

「アルテラだ。アッティラとは……呼ばないでほしい。あまり…好きな名前ではない。可愛い響きでは……ない、から……」

 

「…綺麗な響きだと思うけど……わかった。よろしく、アルテラさん」

 

「……あぁ。」

 

そう言ってアルテラさんは召喚室を去っていった。

 

〈…さ、次々。さっさと行くぞ~〉

 

お兄ちゃんがそう言うと同時に、サークルが展開する。呼符はギルとアルテラさんが話してたときに置いておいた。

 

〈サークル正常、召喚経路正常───該当クラス特定。セイバー───顕現反応。〉

 

その声と共にサーヴァントが召喚される───

 

「───セイバー……セイバー?この私がセイバーとは、どういう理由だ…?」

 

えっと……確か

 

「“ガイウス・ユリウス・カエサル”さん…?」

 

「ふむ。私を知っているか。まぁいい、私を兵として運用するなど、最適な運用とは呼べぬ。どう扱うかは貴様に任せるがな。」

 

「えと……はい。」

 

そう言ってカエサルさんは去っていった。…なんか面倒くさがってる気がする。

 

〈サクサク行くぞ~〉

 

「あ、うん…」

 

私が呼符を置くと、サークルが展開される。

 

〈展開状態未だ変化無し。…大丈夫でしょうか、マスター。〉

 

〈さてな。とりあえず気は抜くな。いつ何が起こるか分からねぇ。〉

 

〈はい、マスター。〉

 

そんな話をしているところに、足音が聞こえた。そっちを向くと、お菓子が入ったお皿を乗せたお盆を持ったメディアさんがいた。

 

「召喚中だけれど失礼するわ。ジャンヌ・オルタに言われてお菓子を持ってきたのだけれど…」

 

「ジャルタさんが?そういえば、なんでお菓子を作り始めたんだろ……」

 

「“白い私が辛い料理を作るのなら、私は甘いスイーツで対抗してやるわよ!見てなさい、白い私に金ぴかぁ!”…とかなんとか。」

 

「…対抗心、かぁ…」

 

「そうみたいね。見ていて微笑ましかったというかなんというか。これらは今の段階で良くできたレベルのお菓子らしいわよ。」

 

〈───霊基該当、キャスター!顕現します!!〉

 

そんな話をしていたらいつの間にか召喚が行われた。

 

「ふふっ、君をもう寂しくはさせないよ。ええっと…“オケアノスのキャスター”だ。よろしく頼む───」

 

「キ、“キルケー”様……!?」

 

「げっふぉっ!!ゲホッ、ゲホッ……誰だ!せっかく真名を隠したというのに一瞬で看破したの…は……」

 

その人……オケアノスのキャスターさんの視線がメディアさんに注がれた。

 

「……なんだ、メディアか…まぁそりゃ知ってるよね。生前からの付き合いだしさ…」

 

「えっと…キルケーさん?オケアノスのキャスターさん?……どっちで呼べばいいのかな…」

 

「キルケーで構わないよ。メディアがいる以上、真名隠しも意味を為さない。はぁ……」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「“かしこまっ!”って言ってみてもらえます?」

 

「ん~…?かしこまっ!」

 

「完全に“らぁら”ちゃんだぁぁぁぁぁ!!?」

 

私絶叫。

 

「………???」

 

〈あー……リッカ、落ち着け。プリティーシリーズ好きなのは俺も分かるから落ち着け。〉

 

「あ、ごめん…」

 

「……良く分からないけど、ちょっと失礼するよ……真名一瞬でバラされたのが辛い……」

 

あ、とぼとぼと行っちゃった……

 

〈ほら次々行くぜ~…〉

 

「あ、うん。」

 

私は切り替えて呼符をサークルに置いた。

 

〈つーかな。気づいてただろ?ルーパス達の声もプリティーシリーズキャラクターの声と似てるって。〉

 

「え……」

 

〈気づいてなかったのか?良く思い出してみろ。〉

 

お兄ちゃんに言われた通り思い出してみる。……あ。

 

「ほんとだ……」

 

〈ただの偶然だろうがな……っと、霊基固定、クラスは…ランサーか。〉

 

お兄ちゃんがそういった直後、召喚が完了する。

 

「───(ローマ)が、ローマだ。」

 

「神祖ロムルス…」

 

「世界、即ちローマ。世界(ローマ)を守る道は遠い。精進せよ、ローマの子らよ。」

 

そう言って召喚室を去っていった。

 

〈次、サクッと行くぜ〉

 

私が呼符を置くとサークルが展開される。

 

〈これで今日5騎目か。霊基は……バーサーカー。〉

 

バーサーカー……

 

「バーサーカー、“スパルタクス”。再びあいまみえたぞ、起源なる圧制者と黄金の圧制者。」

 

「……どうも。」

 

「ふん。」

 

「世界への圧制に牙を向き、私は圧制者のマスターの力となろう。」

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

すごい笑顔で去ってった……

 

〈さてあと1騎。この後は…どうする?〉

 

「ふむ…特異点は既に見つかっておるのだったな。」

 

〈あぁ。即座に特異点攻略に移ることも可能だが…〉

 

「戯け。貴様この5日間全く休んでおらぬではないか。せめて2日でも休め。」

 

〈…俺よりアドミス達を休ませてやってくれよ。適度に休憩は取らせているが基本的に働き詰めなんだよ。いくらAIだと言っても俺にとっては大事な娘だ。休めてない状況下で俺だけ休むのも辛いものがある。〉

 

「…オルガマリー。」

 

「は、はい!」

 

「こやつらの担当する業務、6日間の間我に全て回せ。」

 

ギル!?

 

「全て我がやってやる。六花、アドミニストレータ、フォーマッタは全業務を停止し6日間の間休息するがいい。」

 

〈……いいのかよ。〉

 

「ふ、貴様に出来て我に出来ぬ道理などない。これでもある程度の知識はあるのでな。」

 

〈……分かった。すまねぇな、ギル。〉

 

「よい。必要なときに動けないようでは困るからな。」

 

〈そうか。…クラスアーチャー、顕現するぜ。〉

 

お兄ちゃんの言葉通り、褐色肌の人が召喚されていた。

 

「サーヴァント、アーチャー。“アルジュナ”と申します。マスター、私を存分にお使い下さい。」

 

アルジュナ……確か、授かりの英雄───

 

「ほう。また面白いものを引いたな。さて、貴様で今回は最後だ。これが貴様の部屋の鍵。部屋にて待つがよい。」

 

アルジュナさんは鍵を受け取って召喚室を去っていった。

 

「さて…長引いたがこれにて第二の特異点を完全に終了したものとする!!」

 

ギルの号令で私達も解散した。




わぁ───

弓「……マスターめはどうしたのだ。」

裁「さぁ?」


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第三特異点 封鎖終局四海オケアノス 定礎復元
第113話 悪夢


弓「マスター、ルーラーは……」

ん~?

裁「すぅ…」

弓「……眠っておるのか。」

眠っている、っていうか強制的に眠ってもらった、が正しいかな。

弓「…ふむ。」


どこかの室内───

 

その場所に、3人の男女がいた。

 

「いい加減にしやがれ!」

 

黒髪の少年から怒号が上がる。歳は───11ほどだろうか。

 

「あんた達がどんな立場だろうと関係ねぇ!子供は親の所有物じゃねぇんだよ!!」

 

少年の言葉に親らしき男性が口を開く───しかし、その声は聞こえない。

 

「───くそったれが!」

 

大きな音を立ててその少年は出ていった。

 

「───使えぬ奴め。」

 

「えぇ、そうですね。彼は使えない───全くもって使えない。」

 

「……おかあ、さん?」

 

目を覚まして母親に話しかける少女がいた。歳は───恐らく、7。

 

「あら…起きたのね?」

 

「…気持ち悪い……」

 

「なら休んでいなさい。」

 

「うん…」

 

少女は近くにあった布団に入り込んだ。

 

「…使えない子達。あっちがダメならこっちはと思ったのだけれど。あっちは反発する、こっちは軟弱。どうしたものかしら…」

 

「───」

 

少女はその言葉を聞いていたという───

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「…。」

 

私は端末のアラームを止めて身体を起こした。

 

「…嫌な夢を見た気がする」

 

思い出せないけど……すごく、嫌な夢を見た。そんな微妙な感覚が残ってる。

 

「……フォーウ」

 

「………おいで」

 

フォウ君は恐る恐るといった感じで私の膝の上に乗った。

 

「……3つ目、か。」

 

私はフォウ君を撫でながらベッドに身体を横たわらせて天井を見つめた。

 

「フォーウ」

 

「あて…」

 

フォウ君に蹴られた……

 

「フォーウフォウ。」

 

「早く行け、って?……分かった。どのみち、次に進まないと未来はないもんね……」

 

私は着替えを取ろうとクローゼットに近づく───時にバタバタ音が聞こえた。

 

「───起きてるか、リッカ。」

 

「お兄ちゃん?」

 

「起きてたか。すまんが少し遅れる。俺が行く前に準備できたら少しの間待っててくれ。」

 

「あ……うん。」

 

私がそう答えると、足音が遠ざかっていった。

 

「……何かあったのかな。」

 

「さぁな。次の特異点で何かあったんじゃね?」

 

「前の時と同じ順番なら次はネアキがいる、と思うんだけどね~…」

 

「ネアキか……リッカ、寒さ対策大丈夫か?」

 

「寒さ……」

 

そういえばネアキさんって氷の精霊だっけ。トルナック氷洞とか相当寒そうだったし、寒さ対策必要かな……?一応、寒冷地用服装一式が1組くらいならアイテムポーチに入るって話だけど。ジュリィさんがそう言ってた。

 

「……一応これでいいかな。」

 

とりあえず、冬用の上着4着をアイテムポーチにしまう。

 

「……あとは着替えて……」

 

カーテンを閉め、中で制服に着替えて髪型を整える。

 

「……これでよしと。おいで、フォウ君。」

 

「フォーウ!」

 

……なんで私の胸にダイブしてくるんだろう。

 

「さぁ、神話の続きと行こうぜ!」

 

レンポ君の言葉に頷いて、私は自分の部屋を後にした。




さてさて、オケアノスはどうなるかなぁ……


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第114話 出撃は三度目

雑になった……

弓「最近雑であるな。」

そうなんだよねぇ…


第四シミュレーションルーム───

 

 

「■■■■■■─────!!!!」

 

「炎獄灰星、爆発地獄───開かれよ、王の紅炎、妃の蒼炎!!王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)───!!」

 

私はヘラクレスさんに向けて古龍夫婦の合わせ技である王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)を放つ。別名もあるけどそれはまたの機会に。

 

「■■■■■────!!!」

 

「ほんと硬いね───貴方は!!」

 

王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)が直撃してもそこまでの傷が見られない。

 

「“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”!!」

 

「────!」

 

視界外から飛来してきた短剣を背中に背負っていたスピア───“クックスピア”で弾く。

 

「行くわよ───“マキア・ヘカティック・グライアー”!!」

 

「“フリーズド・クラッシャー”!!!」

 

メディアさんの砲撃に向けて氷属性の砲撃で迎え撃つ。

 

「貴女───なんて馬鹿魔力してるのよ───!神代の魔女であるこの私が、押されるなんて!」

 

「こんな姿でも───最高位召喚師なの!それなりに魔力はある!」

 

「全く───最高位は伊達じゃないってことね!!」

 

「■■■■───!!!」

 

ヘラクレスさんの攻撃を杖で捌く。強めの強化かけてるけどそもそも私の筋力ステータスが低めだからギリギリ互角くらい。

 

 

ピシッ

 

 

「───!ネルル、シシッ!!」

 

「ゴァァァァァァ!!!」

「ウォォォォォォ!!!」

 

即座にネルルを巨大化、シシを呼び出し、強化───

 

「お願い、“悉く滅ぼすネルギガンテ”、“激昂したラージャン”!!!」

 

そう告げると同時にネルルの棘が金属っぽくなり、シシのたてがみが金色になった。

 

「■■■■■────!!!!」

 

「ウォォォォォォ!!!」

 

ヘラクレスさんはシシとネルルに任せて、私はメディアさんとキルケーさんに視線を向ける。

 

「うへぇ……君って本当に人間なのかい?戦闘が始まってから今までずっと魔力を放っているというのに全く魔力切れを起こす気配がない。既にサーヴァントだとしてもおかしくないと思うんだけど…」

 

「キルケー様、彼女は気を抜いて勝てるような相手ではございません。私単体では既に終わっていたでしょうし。」

 

「うーん…神代にもこんなのいなかったよなぁ……」

 

「……赤雷招迅。我が声に応え、その力を示せ───」

 

私の詠唱に2人の表情が引きつった。

 

「ちょっ、なんだこの魔力───なんだかヤバげな気がするんだけど!?」

 

「絶対もらったら不味いです!キルケー様、宝具を───」

 

「……私の宝具ってあいつに効くの?効く気がしないんだけど……」

 

そう言いつつも宝具を準備したのか魔力が膨れ上がる。

 

「───待たせたね、私の愛しいピグレット達!宴を張ろう、饗宴を開き、客人をもてなそう!」

 

現れたのは───豚?

 

「さぁ、暴れ呑み、貪食せよ!」

 

「術理、摂理、世の理、その万象……一切を原始に還さん───キルケー様、共に……!」

 

「あぁ───“禁断なる狂宴(メタボ・ピグレッツ)”!ふふ……ふふっ、あはははははははっ!」

 

「“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”!!!」

 

「王たるものの赤雷を───“赤雷の吐息(プラズマレッドブレス)”」

 

私が告げると同時に私の手の先にあった赤い雷の塊がキルケーさん達に牙を向く。

 

「ちょっ!タンマタンマ、ヤバいってぇ!?」

 

「ルールブレイカーが───掻き消された───!」

 

あ、それ私が弾いただけ。

 

 

ドーン…

 

 

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「■■■■■■■!!」

 

シミュレーションルームに3人の悲鳴が響き渡る。あ、ヘラクレスさんはシシが私の射線上に投げ込んでた。

 

〈……何か悲鳴が聞こえたと思えば。何をしてたんですか……?〉

 

あ、フォータさんだ。

 

「ヘラクレスさんとメディアさんに最近よく絡まれるっていうか…模擬戦に付き合わされるの。」

 

〈模擬戦……で、こうなりますか普通……?〉

 

その言葉に周りを見てみると、なんかすごい廃墟みたいになってた。ちなみにフィールドは“市街地”。

 

「最初はお互い壊さないように加減してるんだけど……いつまで経っても終わらないから非殺傷設定で大技放つのに切り替えるんだよね…」

 

〈そうですか…一応、リッカさんも管制室に到着したので呼びに来たのですが。〉

 

「あ、はーい。わかった~…じゃあ、失礼するね。」

 

「■■■■■」

 

……ヘラクレスさんって、言葉話せないけど表情豊かだよね。あ、メディアさんとキルケーさんは気絶してた。

 

 

 

私が管制室に到着すると、全員の準備は既に終わってた。今回の特異点は海らしい。

 

「っつーわけで、リッカとマシュにはこれを渡しておく。」

 

渡されたのは……数枚の布?

 

「これ…水着?こんなの、どこで───」

 

「一応リッカのは魔術礼装だから指輪で呼び出せる。マシュのは霊衣っつって…まぁ、普通のコーデアイテムみたいなもんだ。製作はメディアとダ・ヴィンチ、色々な調整はアドミスがやってくれた。」

 

「そう……」

 

「さ、準備すんぞ。」

 

六花さんがそう言うのと同時に、私達はコフィンに入った。

 

〈アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します〉

 

前にも聞こえた声。近くから声が聞こえる。

 

「未来を取り戻すために………」

 

「私達、出陣します!」

 

リッカさんとマシュさんの声。なら、私は───

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

〈…行きます。平和を取り戻すために。〉

 

全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証 を 開始 します。

 

私の視界を光が覆った。




水着霊衣を解放させてみました。

弓「海、であるからか。」

着る機会あるかなぁ…


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第115話 水着の出番は唐突に

早めに書き上がりました。

裁「おはよ…」

あ、おはよ。

裁「…UA23,000越えてるよ…」

はわわわ……

裁「最近忘れるよね…」


転移して目を開けると───

 

 

そこは、海の上空だった。

 

「ちょっ…最初から…!?魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・水着”!!」

 

「霊衣変換、“常夏の水着”───!」

 

私とマシュは水着に着替えて水面に、ルーパスちゃん達狩人陣はそのまま落下。ミラちゃんは水色のオーラを纏って落ちて、ギルは小さめの船に乗り、アルは緑色のオーラを纏って水面に立った。

 

「あ……泳げるみたいですね」

 

「そうみたい…」

 

少し立ち泳ぎしていると、ミラちゃんとルルさん、スピリスさん、ガルシアさんは水面に上がってきた。

 

「あれ?」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃん、ジュリィさんがいない……?

 

「まさか……ルーパスさん、リューネさん、ジュリィさんって泳げないのですか?」

 

「そんにゃはずにゃいのですにゃ。」

 

ルルさんが即座に否定するけど全く上がってくる気配がない。

 

「…私、見てくる。」

 

「あ、先輩!私も行きます!」

 

私はマシュと一緒に海の中に潜った。ミラちゃんが光を貸してくれたからそれなりに明るい。

 

『…マスター、あそこ…』

 

マシュが指差した方向に、3つの人影。

 

「……聞こえるか、ルーパス」

 

「いや聞こえないけど……でも、分かる。」

 

え……こんな状況下で喋れるの?

 

「視認しないでも分かるほどのこの水中に漂う龍気。間違いないよ。この特異点───()()()()()。」

 

「水の中に住まう古龍───大海龍“ナバルデウス”、か?」

 

「……分からない。けれど、これだけは確実に言える───ここにいるのは、1体だけじゃない。禁忌種や辿異種はいないと思うけど、少なくとも2体の龍気を感じる。」

 

2体……

 

「2体か……見つけ次第討伐、か?」

 

「…するしかないだろうね。本来ならギルドを通さないとだけど…この世界にギルドはないし。……あ、酸素が切れる。」

 

「ほら、“イキツギ藻”。」

 

「ありがと。」

 

イキツギ藻?

 

「……さてと。上に上がるとするか。すぐそこで見ているリッカ殿達もそろそろキツいだろう?」

 

え……!?

 

『気づいてたんですか!?』

 

「あぁ、リッカ殿達が僕らのことを心配してここに来るところまで既に気づいていた。水の中でも音は通るのでね。…さて、戻ろうか。どうやら水上で何かが起こっているようだ。」

 

「あ、ジュリィが喋ってないのは水中に慣れてないだけだからあまり気にしないでね。」

 

『そ、そうなんだ……』

 

逆にどうしたら水中で喋れるようになるのかとか結構聞きたいことはあるけど、とりあえず水上を目指す。

 

「水中戦の感覚取り戻さないとかな~…あとはジュリィにも水中戦教えないといけないかな?」

 

「そうだな……ロアルドロスやラギアクルスがいるとちょうど良さそうなんだが。というかジュリィ殿の師は……」

 

「一応私とソードマスター。そういえば…ソードマスターは会って一言目が“ふむ…大きくなったな、ルーパス嬢。”だったのはよく覚えてる。でも私、新大陸に行くまでソードマスターと会ったことないはずなんだけど。ていうか、一期団の人たちなんでか知らないけど全員私とリューネのこと知ってるんだよね。」

 

「僕のこともか!?」

 

「うん。それも小さい頃のね?」

 

「何故だ……?」

 

「さぁ…?」

 

そんな話をしていたら既に水面が近くなっていた。

 

「……ぷぁっ!」

 

「……ぷはぁ…」

 

あ、ルーパスちゃんとリューネちゃんは側で私達のこと見てる。長時間息継ぎなしで潜るって結構大変…

 

「あ、お帰りリッカさん。」

 

声の方向を見ると杖を持った白い───少し緑っぽい?羽の生えたミラちゃんがいた。……ミラちゃんがいる場所が上空だから水面に浮かぶ私達から見るとスカートの中覗き込むような感じになっちゃってるけど。何かの術式で保護してるのか真っ黒に塗りつぶされてた。そしてその近くには少し小さめの船───船?

 

「……とりあえず、ミラちゃん。その羽は?」

 

「アルヴヘイム・オンライン、だっけ。そこから術式構想を得て組み上げた飛翔術式。」

 

そういえばカルデアにいるとき“ソードアート・オンライン ロストソング”プレイしてたね、ミラちゃん。よく読んでたのもフェアリィ・ダンス編だったっけ。よく見ると歌妖精族(プーカ)の羽と色と形が一緒。

 

「そこの船は?」

 

「……実際に見た方が早いよ。“フライト・プルーム ver.シルフ”」

 

そうミラちゃんが唱えると、私達の背中に緑色の羽が生えた。これ───ALOにいる風妖精族(シルフ)の?

 

「“フライト・コネクト”」

 

その詠唱とともに私達がミラちゃんと同じ高さまで浮き上がる。その高さでちょうど船の上が見える。その上で倒れ伏す人。その人たちの姿、これは───

 

「“海賊”?」

 

「うん。私達の世界にもいたけどギルドに協力するんじゃなくて略奪しようとする海賊だね。一応麻痺させて自由は奪ってるけど。」

 

ま、麻痺……

 

「…とりあえず船の上に上がったら。その服装のままこの時代を翔んでるのも目立つよ。軽く応戦してるときに勝者は敗者を好きにしていい、みたいなこと口走ってたから一応勝者になる私達はこの人たちを好きにしていいってことだろうし。」

 

「……ミラちゃんって知らない人が見たら普通の子供に見えるもんね。」

 

ひとまず私達はその海賊さん達の船に降りて、海賊さん達から見えないところで着替えた。ルーパスちゃんはレイア一式からウルムー一式、リューネちゃんはレウス一式からフルフル一式、ジュリィさんはシーカー一式からエコール一式っていうのに変わってた。

 

「…お待たせ」

 

「そこまで待っておらんがな。」

 

あ、ギルとアルも合流した。姿が見えなかったのは船内にいたみたい。

 

「あ、姐貴…?この方々は……?」

 

「……その姐貴っていうのやめてほしいんだけど…この人達は私の知り合い。手を出したらただじゃ済まさないよ。」

 

「へ、へぇ!肝に銘じますっ!」

 

わぁ…すごいことになってる

 

「えっと…その。貴方達を制圧したのは彼女ですが私からお聞きしてもよろしいですか?」

 

「へぇ、俺たちに答えられることでしたら…」

 

「ではお聞きします───どなたか、この海がどこでどんな状況なのか分かる方はいらっしゃいますか?」

 

マシュがそう聞くと、その海賊さんは頭をかいた。

 

「いやあ……それが俺たちにもさっぱりなんでさぁ。気がついたらこのあたりで漂流してたんでさ。羅針盤も地図もまるっきり役に立たねぇし、何がなんだか分からなくなったらとりあえず出会った獲物を襲うしかねぇでしょう?海賊の習慣として。」

 

「ということは……自分達の安全性も確保できてないのに私達を襲ったってこと?」

 

「オウサ、ハイホ~♪だって~♪それが~♪海賊~♪」

 

「……どうしましょう、先輩。歌われてしまいました……」

 

「馬鹿なのか?」

「「馬鹿なの?」」

 

あ、リューネちゃん達の言葉が結構刺さったみたい。

 

「えっと…何か当てはあるの?」

 

「へ、へぇ。一応、馬鹿ではありますが当てもあるでさぁ。この近くに海賊島があると同業に聞いたんで。食料も水も心もとなくなってきたんでひとまずはそこを当たろうかと…」

 

「海賊島…ですか?やはり、そこには海賊が多くいるのでしょうか…」

 

「へぇ、海賊島なんで。」

 

「……どうしましょう、先輩。」

 

〈海賊島……今のところ手がかりと言っていい手がかりがない以上、そこに進むしかないかもしれませんね…〉

 

……フォータさんって私の指輪の中にいるのたまに忘れるんだよね。

 

「───ミラちゃん。」

 

「分かった。勝者は敗者を好きにしていい───その決まりに応じて、勝者としての権利を使用します。面舵をとりなさい。進路はその海賊島に向けて。」

 

「アイ、アイ、サー!」

 

「アイ、アイ、マムです!」

 

あ、そこちゃんと突っ込むのね。ミラちゃんはよく分かってなかったみたいだけど。




ちなみに“魔術礼装・水着”は“ブリリアントサマー”とは別物です。

弓「スキルは決めてあるのか?」

いや…決めてない。


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第116話 海賊島に現れしは

うーん…うまく行きませんね

裁「疲れてる?」

それはないと思うけど。


しばらく航海を続けると、島が見えてきた。

 

「あれが海賊島?」

 

「へい、姐貴。」

 

「…そっか。ありがと、この先は大丈夫。」

 

そう言ってミラちゃんが杖を振ると、赤い飛竜───リオレウスが召喚された。

 

「…ふん、ここまでの航海ご苦労であった。そら、持っていくがいい。」

 

ギルが金色の波紋の中から結構な量の金塊を落とした。

 

「うぉっ…!?も、もらってまっていいんでさぁ!?」

 

「持って行け。」

 

「へ、へい!…あの、姐貴……?」

 

「私に許可なんてとらないでいい。私からは何も渡せるものなんてないから…彼から渡してもらうようにお願いしてある。」

 

「へ、へい!ありがたく戴きます!」

 

『全員乗って。』

 

その思念に私達が頷いてリオレウスと次に召喚されたリオソウルに乗る。…全員軽装にしたけど重いよね、これ?

 

「…じゃあ、また。」

 

「姐貴もお元気で!」

 

その会話を最後にリオレウスとリオソウルは飛び立った。

 

「……」

 

「先輩?ボーッとしてませんか?」

 

「……ううん、大丈夫。ただ…すごく広いな、って。」

 

〈特異点全体が海のような状態ですからね…海に詳しい人が見つかればいいんですが。〉

 

「そうだね…」

 

そんな話をしていたら、いつの間にか島に到着していた。

 

「さて…と。」

 

リューネちゃん狩猟笛……あれは狩猟笛なの?包帯を巻いた何かにしか見えないんだけど……

 

「あ、“フルフルホルン”。」

 

フルフル……って確かあの白い飛竜種だっけ?

 

 

───ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア……

 

 

「え…楽器の音じゃない?」

 

「フルフルホルン系列の吹いたときの音はフルフルの咆哮だから。」

 

なにそれ……?

 

『…耳を塞いでおくといい、高周波を放つ。』

 

リューネちゃんがそう思念を伝えてきた。言われる通り私達が耳を塞ぐと、それを確認してリューネちゃんが笛を吹いた。

 

 

───ギィン!

 

 

「ギャァァァァッ!!」

 

悲鳴?

 

『やっぱりいたか…普通にして大丈夫だぞ』

 

その思念に私達が耳から手を離すと同時に、リューネちゃんが悲鳴のした方を見に行った。

 

「リッカ殿、こっちに。」

 

手招きされてそっちに向かってみると、赤いバンダナを巻いた海賊が気絶していた。

 

「……なんで気絶してるの?」

 

「高周衝撃波。旋律の1つなんだが……強めの衝撃波を放つものだ。だが、本来フルフルホルンにはこの旋律がない。」

 

「え、じゃあ…」

 

「“百竜笛【如意自在】”───それがこの笛の名前だ。百竜武器と呼ばれるこの武器は外装を変えることが出来る。外装を変えると音も変わるのさ。」

 

そうなんだ…

 

「さて…英雄王、彼を起こせないか?」

 

「ふむ?構わぬが…よいのか?」

 

「僕らに対して明確な敵意…というか、卑下たような気配を向けていたのが11、興味の気配を向けていたのが1。その1が彼だ。」

 

「……何故分かる?」

 

「まぁ、気配を読むことには慣れているのでね。」

 

「ふむ。まぁ、信じるとするか。」

 

そう言ってギルはその海賊を起こした。

 

「あ、あっしはいったい…」

 

「聞こえるか、賊よ。」

 

「…!」

 

「答えよ。この島に状況を把握している人間はいるか?」

 

「……あ、あ~……でしたら、姐御でねぇかと。」

 

「姐御…ですか?それは一体───」

 

「へっへっへ……聞いて驚け、我らが栄光の大海賊、“フランシス・ドレイク”様だ!」

 

フランシス・ドレイク───エリザベス朝のイングランドのゲール系ウェールズ人航海者、海賊(私掠船船長)、海軍提督で、イングランド人として初めて世界一周を達成した人───だけど。“姐御”?

 

「ふむ、星の航海者か。よし、その者の根城へと案内せよ。」

 

「へ、へい!」

 

……とりあえず、私達はそのフランシス・ドレイクさんのところに行く事になった。




にゃー……

弓「……マスターが壊れたぞ、ルーラー。」

裁「あー……直しておくよ。」

弓「物のようにいいおって……」

裁「これに関しては直すとしか言えない。治癒が効くわけでもないから。マスターを動かすシステムの問題って言ってたし。」

弓「……マスターは機械か何かか。」

裁「人間には変わりないけど色々システム動いてるらしいからね、この世界。マスターの心情の中にある仮想世界───それがここの定義だし。」

弓「……そうであったな。」

裁「……ていうかなんで2話分になってるの?」

弓「ふむ。正のアーチャー!」

正弓「呼びました?」

弓「マスターに代わり、物語の投稿数を正常に戻せ!」

正弓「あ、はい。───管理者権限起動、存在定義変換開始…正のアーチャーから正のキャスターへと存在定義を変質。……完了。それではやっておきますね。」

裁「お願い。……ギル。マスターと同じ力を使うことが出来るのって正のアーチャーさんだけじゃなかったよね。」

弓「うむ……やれやれ、よく分からんな、やはり。」


───2021年6月22日 18時11分、同じ話が存在したのを修正いたしました


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第117話 森の中の海賊

うーん……

弓「直っておったのか。」

まぁね。展開が思うように浮かばないのどうしよう…


「この森を抜けたところに、大海賊フランシス・ドレイクの隠れ家がある。テメェ達はもうおしまいさ。ドレイク姐御の手にかかれば、テメェ達なんか……」

 

私達はさっきの海賊の案内で森の中を進んでいた。

 

「…どう?フォータさん。」

 

〈…ダメですね。マスターとの直通通信は通じてますがカルデアとの通信は繋がりません。現在復旧中なのですがもうしばらくかかるかと……〉

 

「そっか…」

 

フォータさんの話によると、特異点に着いたときから通信が途絶えたままみたい。復旧は急いではいるけどそこまで進んでないみたい。観測自体は出来てるらしいんだけど…うーん……

 

「フォーウ…」

 

「あらやだ可愛いこの生き物。そして美味しそう……」

 

「食べたら潰しますよ?どこを、とは言いませんけど。」

 

「ヒェッ…口調は丁寧なのに姐御みてぇなこと言いやがるこの姉ちゃん……」

 

「……」

 

「その光のねぇ目で見つめんのやめてくだせぇっ!…くそっ、海賊とあろうもんが姐御でもねぇただの娘になんでここまで恐怖させられなくちゃいけねぇ……?」

 

そういえば、私の目に光がないってよく言われるんだけどなんなんだろう……?

 

「リッカ、フランシス・ドレイクって?」

 

「フランシス・ドレイク───エリザベス朝、って言っても分からないよね。私達の来た時代から60年位前のイングランドっていう国のゲール系ウェールズ人…えっと、北西ヨーロッパの先住ケルト民族みたいなウェールズ国民の航海者であり、海賊であり、海軍提督の人。確か…マシュ、この時代は…」

 

「西暦1573年、ですから彼は生前の人物なはずです。世界を開拓した偉大な英雄の1人で、人類史においてもっとも早く生きたまま世界一周を成した航海者───それが彼です。」

 

「船長みたいな感じかなぁ…」

 

「船長さんって確か…新大陸と大陸の交易を担当している人だよね?」

 

「そ。40年かかってやっと安定したから交易が成立したんだよね。船長は1期団の人だね。」

 

あ、一応調査団の情報はルーパスちゃんと大団長さんから聞いてるんだよね。えっと、1期団っていうと……

 

「選りすぐりのエキスパート達…だっけ。」

 

「ん~…まぁ、そうだね。基本的にそれぞれ特化してるものがあるから他の調査団よりは能力の方向がバラバラかもね。」

 

「あー……そうなんだ。」

 

「うん。」

 

「……実際、ドレイクは国家に公認された私掠船の長でしたが、それであっても海賊は海賊です。これまで出会ってきた海賊の生態からして、ろくでもない人物である可能性は大いにあります。」

 

「ふむ…それはどうかな。彼の性格なのか、はたまたドレイク殿の性格なのかは知らないが、僕らに対して敵意は向けてても不快なものは向けていなかった。海賊だといっても、略奪するだけが海賊の定義じゃないはずだが。」

 

〈定義としては海上で略奪行為を行う盗賊を指します。ですが、歴史上でも稀に国公認の海賊というものはあるのです。理由はどうあれ、海上で略奪行為を行う盗賊が海賊というものだということは変わりません。〉

 

「…そうか。」

 

「ですから、恐らくは大食漢で大巨人、タルを片手で掴んで一気呑みするような豪傑だと想像されます。」

 

「……そうなのかな。」

 

「先輩?」

 

さっきから案内してくれてる海賊が言ってる“姐御”───これがずっと引っ掛かる。姐御っていうのは、女性に使う言葉じゃないかな…

 

「…と、着いたぜ。ここがフランシス・ドレイクの居城よ。姐御!姐御ー!!敵……じゃねえや、客人です!!姐御とじ話がしたいと!」

 

話してる間に着いたみたい。……にしても、この特異点に来てからずっと私の直感が反応してるのは何故だろう───

 

「ああん?…ったく、人が気分よくラム酒を呑んでいる時に───」

 

……うん?

 

「で、客人?海賊かい?」

 

「えーと……多分違いやす!自分等よりちょい上品なんで!」

 

「ちょい?なんだそりゃ。なら役人かい?それとも貴族でもかっさらったかい?」

 

「えと…多分どれとも違うんじゃねぇかと。1人はキラッキラのピッカピカ、別のやつはすっげぇちっこいんですけどただ者じゃねぇ感半端ねぇというか!」

 

「なんだいそりゃ…まぁいい、入ってきな!」

 

そう言われて私達はアジト…でいいのかな。その中に通された。……この声、私の聞き間違いじゃなければ───

 

「…で?ボンベの言ってた客ってのはあんたらかい?このろくでなし共になんのようだい。」

 

「…あなたが……“フランシス・ドレイク”、ですか?」

 

「それ以外に何に見えるっていうのさ。」

 

予想的中───フランシス・ドレイク。アーサー王やネロさんと同じように、伝承とは違って女性だった。




喉が痛い……

裁「大丈夫?」

持病発症と共に風邪でも引いたかなぁ……はぁ。


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第118話 海賊の信念

なんとか書き上げました

弓「遅い。」

いや規定時刻なんだけど…

弓「時にマスター、貴様いつも何をしている?」

秘密。


「ふーん…あんた達の言いたいことは、まぁ分かった。別に騙そうとしている詐欺師みたいな感じもないし、実力もあると来た。」

 

あれから一戦交えて───交戦したマシュとミラちゃんが少し疲れたように呟いた。

 

「この人、生身の人間ですよね……?」

 

「……私が言うことじゃないけど、貴方本当に人間…?」

 

〈カルデアの語源もご存じですし、結構博識な方ですね…〉

 

「あんた達はこのイカれちまった海を何とかしたい。それをするには海に詳しい人間が欲しい。そしてその海に詳しい人間が海賊であるアタシしかいない。海賊であろうとアタシに頼るしかないってわけか。」

 

「…海賊だとか、海をよく知るとか関係ない───私達には、貴女が必要なの。お願いします。力を貸してください、フランシス・ドレイク船長。」

 

決め手は直感だけど───なんでだろう。この人しかいない、っておもった。

 

「……ふーん?小恥ずかしいけど、そこまで必要とされるかい。死んだような目をしている割に見る目はあるのかねぇ。まぁ、あんた達は伸びしろがありそうだし、商人としては先に投資してもいいんだ………が。」

 

が?

 

「問題は、あんたら2人さ。」

 

「我か?」

「私?」

 

ギルとミラちゃん?

 

「金の男の方は顔よし、羽振りよし、気前よしでいい男なんだろうけど……なんだろうね。あんたとアタシ、根っこのとこで致命的に合ってない気がするのさ。」

 

「……ふむ。して、その心は?」

 

「そうだねぇ…あんたは確か無限の財宝を持っているんだろう?」

 

「然り───我が財は人類の歴史、そして未来そのもの。人類がある限り決して終わらぬ無限の財よ。」

 

「───相容れないのはそこだね。アタシも財が好きなのは認めるし、いくらでも集める、いくらでも奪い取る。それが海賊───“賊”としての生き方だ。」

 

ドレイクさんはそう言ってギルを睨み付けた。

 

「だけどね。アタシが財を集めるのは集めたあとパーッと使いきるためさ!そっから見ればあんたはふざけてるとしか言いようがないね!減らない財なんて海に生きる奴等の人生をひっくり返しちまう!そこに全てがあるのなら危険を犯す必要もないし、馬鹿共と生命を張る必要だってない。それだけならまだいいかもしれないが、“知らない”ものを見つける喜びもないのさ!そんなのアタシは考えたくもないね!1人が財宝を独り占め、この世の総てを手に入れてるなんて全くもって面白くないね!」

 

知らないものを見つける喜び……

 

「欲しければ奪う!なければ探す───苦労もするし、死ぬ思いだってするだろう!だけどね、それを乗り越えて掴むからこそ宝ってものは価値があるのさ!そしてその宝を使いきるからこそ人生は楽しい!それが海賊───アタシの定めた生き方さ!あんたがどこの誰なのかなんてアタシは知らないし関係ない!この生き方だけは絶対に譲ることが出来ないのさ!なぁ、野郎共ォ!」

 

「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」

 

その声に沸き立つ歓声───

 

「だから…悪いけど。アタシがアタシである限り、あんたと肩を並べるわけにはいかない───もしも戦闘の時なんかで拗れても面倒なだけだしさ。悪いけどね。」

 

「……ふん。………た。」

 

「あ?」

 

「ギル?」

 

「気に入った、と言ったのだ!それはそうよな!海賊であろうと陸にある盗賊といえども賊は賊───そこには賊としての意地があり、理念があり、信念があるであろうよ!」

 

あ、なんか気に入ったみたい。

 

「よく言った!そこに不可能を打破する可能性があり、その根源には輝く信念があると!貴様の生き様、認めようではないかフランシス・ドレイク!」

 

「お、おう…随分物分かりがいいじゃないか。」

 

「普通の我ならば串刺しであろうが───此度の我は機嫌がいい。ある程度の無礼は流すのでな。故に貴様の無礼は不問となる。」

 

「───うーん。参ったねぇ。こう素直に通されると初対面で突っかかったアタシがバカみたいだ。」

 

「姐御がしおらしい…!?手前ェら伏せろ、槍が降るぞ!!」

 

「その頭に大砲ぶちこむよボンベェ!!」

 

「……ならば提案だ、フランシス・ドレイク。我に貴様の助力はいらぬ。貴様は我と肩を並べぬ───ならば。我は貴様を雇うというのはどうだ?」

 

「───雇う?」

 

「貴様の腕、貴様の運命、貴様の知略に我は投資しよう。む…どう言えばいいか分からぬ……」

 

「将軍と兵士、みたいな?」

 

「………そうさな。マスターの言う通りよな。言うなれば我は軍の長。貴様は軍の小隊の長。そして貴様の部下共はその小隊の兵士とでも言おうか。我が財の切れ目が貴様との縁の切れ目───これほど分かりやすい関係はないだろう。」

 

「……ははっ、そうか。そりゃいい!それならお互いの信念も傷つけないねぇ!生きるためなら泥水だって啜ってやるのが海賊───羽振りがいい上司に仕えるなんて屁でもないね。」

 

「うむ、決まりだな。……しかし、解せぬな。我と違って、ミルドには無限の財などない。何故、我だけでなくミルドも合わぬと思った?」

 

「あん?あぁ、紫の小娘の方かい。……そうだねぇ。」

 

ドレイクさんはミラちゃんをじっと見た。

 

「……あんた……名前なんだっけ」

 

「ミラ・ルーティア。」

 

「ミラ、ね……あんた。“永遠”、って言葉に何か密接な関係がないかい?」

 

「───ない。」

 

───今、ミラちゃんの体がピクッって反応したのが分かった。多分、ドレイクさんも気がついてる。

 

「ふーん…まぁ、シラを切るつもりならいいんだけどさ。さっきの無限の財と同じように、永遠なんてのもアタシには合わないものだ。例えば永遠の美、永遠の力…永遠の生命、とかね。」

 

「───っ」

 

「その反応───関係があるのは永遠の生命だね?大方、この世に現存する大抵の攻撃じゃ死なない“半不死”、ってところかねぇ。」

 

「……もし私がそうだったとして、何か問題があるの?」

 

「あるさ。さっきも言っただろう?死ぬ思いをしても、それを乗り越えてこそ財を手にした喜びはあるもんだ。不死なんてものになっちまったら、そんな喜びなんて感じられないじゃないか。」

 

「……」

 

「不死なんてものは特にお断りだね。アタシは嵐のように吹いたあと、そのあとはなにも残らないのが好きなのさ。その残らないのがアタシ自身だったとしてもそれは変わらない。だけど、不死なんてもんは嵐にあって生命を散らしたとしてもまた生き返る。そんなのはアタシはごめんだ。それに───10も行ってないと思う小娘の子守りしてる余裕はないんでね。」

 

「………そう。」

 

「ミラちゃん……」

 

ミラちゃんはギルと違ってお金がない。正確にはこの世界のお金が、かもしれないけど。

 

「……なら、こちらから1つ提案。」

 

「……あん?」

 

「私にはお金なんてないし、貴女達にとって価値のあるものなんて分からない。なら、こちらからは技術を提供する。貴女の言った砲弾の直撃を受けてピンピンしてる超人───それに、貴女達の総ての攻撃が効くようにする。」

 

「……そんなこと、できるのかい?」

 

「できる。それから───」

 

そう言ってミラちゃんはSAOのシステムウインドウみたいなのを開いて、いくつかの操作をした。そういえば、毎回ボイスコマンドで呼び出してたから忘れてたけど、あれがアイテムボックスの実態なんだっけ。

 

「これ。」

 

ミラちゃんがそう言って出したのは熱を帯びた石と白い石とよく分からない骨。それを見たリューネちゃんが口を開いた。

 

「それは───“燃石炭”、“白鳩石”、“古龍骨”───か?」

 

……聞いたことないってことはリューネちゃん達の世界のものかな。

 

「私は別世界の技術を提供する。貴女はそれを振るう───これでいいんじゃない?私が調べた限り、私達が持つものはこの世界に存在しない。値はつけられないかもだけどこれらは貴女達にとっても強い武器になると思うけど。物資、運用、術式の切れ目が私と貴女達の縁の切れ目。それでどう?」

 

「……ふーん。小娘の癖にそれなりに交渉できるんだねぇ。」

 

「……付け加えれば、私とリッカさん同い年なんだけど…」

 

「……は?リッカとあんたが?リッカ、これは本当の事かい?」

 

「えと……うん。私とマシュと同じ16歳…」

 

私がそう答えると、ドレイクさんは申し訳なさそうな顔をした。

 

「ありゃ…すまないね。」

 

「べつに…よくあるから。」

 

あぁ…よくあるんだ…諦めた表情になってる。

 

「……まぁ、分かった。その条件で契約してやろうじゃないか。異世界の技術なんざどうすればいいか分からないが、面白そうなものには変わりないね。」

 

「……あぁ、それともう1つ。私達のいた世界の存在が迷いこむっていう事例が観測されてる。事実、この時代でもここにいるルーパスさんとリューネさんが海の中でその存在を感知した。私達のいた世界のものを使って作られた武具や術式が刻まれた大砲なら、その存在にも傷を与えられる。」

 

「なるほどねぇ…そういやなんかでかい魚みたいなのを見た気がするね。攻撃の手段が増えるのはありがたいね。んじゃ、よろしく頼むよ、お二方。」

 

「ふ、やっと決着が着いたか。そら、これは前金代わりだ。」

 

「……あぁ、そういえばその系統はあるかな。……はい、これは私から。」

 

「………は?これ───」

 

「胡椒だが?」

 

「“火山椒の実”。香辛料の一種だよ?」

 

「マジでぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「そういえば“火山椒の実”って高級香辛料じゃなかったか……?」

 

「あー……そうだね」

 

高級香辛料なんだ……

 

「……船を少し改良するにしても起こしてからかなぁ。」

 

ミラちゃんの言葉に私たちは苦笑した。




あーう

裁「ほら起きて」

うー……調べあげるのって結構難しい…


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第119話 出航

最近タイトルが浮かびません。

弓「ネタ切れ気味か。」

うん…あ、PC帰ってきました。初期化してwindows入れ直したあとなので色々と再設定しないとです…


「これが契約書ね。私と英雄王、別々の契約内容だからよく目を通しておくこと。」

 

私が手渡したのは私達の世界で使われてる契約書2枚。普通の紙だからそこまで拘束力ないけど、今用意できるのこれくらいだったし。

 

「随分ときっちりしてるねぇ。まぁ、はっきりしてるのは嫌いじゃないけどさ。」

 

「相手との契約締結とかは慣れてるからね。実家だとやることほとんどなかったからお父様のお仕事手伝ってたし。ただの紙だから拘束力はないけど、英雄王に関しては裏切ったら処刑とかされかねないから気をつけて。」

 

「ミルドの言う通りよな。裏切りは万死に値すると知るがいい。」

 

「裏切るなんてしないさ。一度契約したからにはその契約は終わるまで守る。受け取ったよ、上官様方。」

 

「……む。上官という響き……どことなく味気なくはないか?」

 

気にすること?

 

「気に入らないってのかい。ん~……ならギルガメッシュは総督。ミラは技術顧問なんてどうだい?」

 

技術顧問、ねぇ。

 

「ふ、よいではないか。ならば我の事は総督王と呼ぶがいい!」

 

「別に私はどう呼んでもらってもいいんだけど…まぁ、いいか。よろしくね。」

 

「はいはい、気に入ったようで何よりです総督王サマに技術顧問サマ?……で。1つ、聞きたいんだけどさ。」

 

「ん?我等の格好の事か?」

 

一応私はあの女神さんの島からローマに帰ってきたときにしてた服装と同じものにしてる。英雄王は少し海賊みたいな感じになってる。ていうか金色のコートって……爛輝龍が人になったら英雄王みたいな感じにでもなるのかな。あの子、女の子だけど。

 

「いや、そうじゃなくてさ───なんだいこの船は!?これがアタシの船だってのかい!?なんか、めっちゃ豪華になってんだけど!?全員に個室とバスルームとか、アタシ達に貴族の真似事でもしろってのかい!おまけになんだいこの装甲と武器は!こんな重装備どっから持ってきた、ってかどうやって取り付けた!?」

 

「………あー…」

 

そういえば、装甲は全部術式とユニオン鉱石を含めたもので覆って、武器に関しては全大砲に属性付与術式刻んだあと、撃龍槍を搭載したんだっけ。ちなみに私達の世界にも撃龍槍や破龍砲ってあって…まぁ、使うことはあまりなかったかな。で…内装に関してはほぼ全部英雄王に任せてたから……

 

「これじゃあ豪華客船じゃないか…女王様でも召し抱えるのかい?」

 

「ここにいるミルドは将来の女王だが?」

 

「いや違うから。確かに第一王位継承者だけどそれ破棄してるから。次代当主は私の妹だから。」

 

流石にそこには突っ込むけど。

 

「まぁいい、我等王族が身を預ける船ならば、それは豪華でなくてはいけないだろう?名前もよいしな。ゴージャス・ハイドであったか。」

 

黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)ね。何、ゴージャス・ハイドって。」

 

「……ったく。ホントに気前のいい上官サマだこと。…っていうか、なんであんなにアタシのバスルームは豪華なんだい?」

 

「え?」

「む?」

 

いや…当然じゃない?

 

「ドレイクさんって女性でしょ?流石に男性と同じ待遇はダメでしょ。内装にはほとんど口出ししなかったけど流石にそこは口出しさせてもらったよ。」

 

「まぁ、ミルドから言われずともやるつもりではあったがな。」

 

「───は?ちょ…は?ちょい、ちょいと待ち。アタシが、女だって?」

 

「無論、侮辱しているわけではないぞ。そも、我等がカルデアの陣営は女が多い。女であろうと男に勝てないなどということはないのであろうよ。」

 

「…へぇ…ふーん……」

 

……?顔が赤い?

 

「いい男じゃないのさ、あんた!」

 

「───ぬぅっ!」

 

うわ痛そ…

 

「…それ以前に、貴様は既に1度時代を救っているからな。当然の報酬であろうが。」

 

「構築が面倒でも強めの術式を刻んだのもそれが理由だし。」

 

昨日の話によると、渦から出てきたアトランティス───そして大洪水で世界を流そうとした海神ポセイドン。それを、この人は海賊の信念を理由に蹴散らした。その時に昨日言ってた大きな魚を見たみたい。写真を見せて聞いたらやっぱりナバルデウスだったみたい。ルーパスさん達には話してあるから、出会ったら任せるしかないかもしれない。私の世界のならともかく、この世界のナバルデウスが話を聞いてくれるかどうかは賭けだし。

 

「これ、あんたのものなんだろう?奪ってみるかい?アタシから。」

 

「必要ない。わざわざ所有権を主張するのも面倒なのでな。加えてそれは貴様が明確な勝者として得たもの。歴史を乱した道化共のように勝利もせずに得ているのとは違う。貴様に預けるぞ。」

 

「ヒュウ、太っ腹だねぇ。この先もたんまり振る舞っておくれよ?」

 

「何度も言わせるな。それは貴様の働き振り次第よ。」

 

「ミラちゃ~ん!ギル~!」

 

私達より低い場所から呼ぶ声。見ると、リッカさんとマシュさん、そして狩人達が私と英雄王の方を見ていた。

 

「…先行ってるよ」

 

そう告げて私は手すりを軽く飛び越え、そのまま下まで降りる。

 

「わぁ…お嬢様でも結構あんなことするの?」

 

「普通はしない……あぁ、王宮を脱走するのに使ってた子はいたかな。私の場合は色々と1人でやることが多かったからね。」

 

「王宮の脱走って…」

 

「───ほう。思った通り、似合っているではないか。」

 

いつの間にか英雄王が私の隣にいた。そういえば、今のマシュさんは白いワンピース、リッカさんは黒いワンピース。無銘さんは青いブラウスに紫のスカート。ルーパスさんはレザー一式でリューネさんはベルナ一式、ジュリィさんはシーカー一式だっけ。

 

「あ、ギル…」

 

「……どうした、マスター。浮かぬ顔をしておるな。何か悩み事か?」

 

「……嫌な予感がするの。」

 

「ふむ……“予感”というものは不確定ではあるが見過ごせないものであるからな。気を張っておくとしよう。」

 

「ありがとう、ギル。」

 

「……あの、英雄王。この服装は…?」

 

「ふ、貴様らは年頃の娘であろうが。着飾りの1つでも覚えずしてどうする?我直々に選んだが、やはり少女の服装選びというものは難しいものだな。似合うとは思ってはいたが造形が単純にすぎる。」

 

あ、あれ英雄王が選んだものだったんだ。

 

「よしっ!じゃあ出航と行こうじゃないか!野郎共、錨を上げな!!」

 

「…あ、姐御!海賊船が近づいてきてやがります!」

 

「あぁ?」

 

「……魔力反応の塊?」

 

その船に乗ってるのは人じゃない。“魔力”の塊。

 

〈あれは───あれは、この海に残った残留思念です!簡単にいえば、幽霊の一種になります!〉

 

「ゆ、ゆうれ───」

 

〈実体はあるので物理で殴ってよし、です!〉

 

「あ、実体あるんだ。ならいいや。」

 

「なんだ、幽霊は苦手か?」

 

「うっさいよ!野郎共、錨は上がったな!?ついでにあの船に向けて大砲ぶちかましな!!」

 

「おうっ!」

 

それと同時に大砲の音。赤い光を纏った弾が海賊船に向けて飛んでいって───

 

 

ゴォッ!!

 

 

弾が火を吹き出し、水の上にいるというのに船が思いっきり燃え盛った。

 

「………ヒュウ。なんだいありゃあ。」

 

「“火属性付与刻印術式”。中句術式(ミドルスペル)の一種で、刻印した武器で行った攻撃総てに炎が纏われるようになる術式だね。」

 

「わぉ…面白いねぇ。敵に回さなくて正解だったかねぇ…さぁ、いくよ野郎共!」

 

〈汚物は消毒だー!〉

 

「フハハハハハハ!!そうさな、汚物は消毒するべきよな!」

 

……私にはよく分からなかった。




今週も頑張りました……

裁「お、お疲れさま……?」

UA24,000突破ありがとうございます……

裁「あ、今回は忘れなかったね」


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第120話 荒れた海

海…

裁「海がどうかしたの?」

いや、5期団、海、古龍と来たら……分かる人いると思うし。

裁「……察し」

今回はいつもより竜人語多めでお送りします


黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)、甲板上───私は1人で海を眺めてた。

 

「……風と…雨が強くなってきた。」

 

海中に龍気は感じたけど、上空には感じない。だからアマツマガツチがいるわけではない…とは思うけど。探知範囲がそこまで広いってわけじゃないし。リューネはかなり広い範囲探知できるんだけど。海の中じゃ視界悪くなるし、探知距離はリューネより劣る。

 

「……戻ろう」

 

私は船の縁から離れて、船の内部に戻った。

 

「おーい、こっちも頼む!」

 

船の内部では海賊達がお酒を飲んだり何かを食べたりしてた。軽く見渡して、近くに空いている席があったからそこに座った。

 

「……おっ?やっと戻ってきたのかい、ルーパス。」

 

「ドレイク…」

 

私を見つけて対面に座ったのは船長のドレイクだった。ジョッキを持ってるからかな…お酒の匂いが結構辛い。

 

「あんた、酒はいける口かい?」

 

「…ごめん、私お酒は苦手なの。言っちゃえば匂いも苦手。」

 

「あら、そうかい…すまないことしたね。おいボンベ!ルーパスに飲み物渡しな!酒以外だよ!」

 

「へい、ただいま!」

 

ドレイクがそう言うと、ボンベが私のところにジョッキを持ってきた。そういえば、船の内部がこんなになっている状況下、ミラが洗い物とかしてくれてるらしいね。

 

「旦那さん!」

 

声がしてそっちを向くと、スピリスがジョッキを掲げてた。

 

「んじゃあ、少し遅くなったけど出会いを祝して乾杯、ってね!」

 

「…ん。」

 

私はドレイクとボンベのジョッキに自分のジョッキを打ち合わせる。

 

「……かーっ!やっぱ酒は最高だねぇ!ルーパスもそう思うだろう?」

 

「あはは…私はお酒苦手だからあまり飲まないんだけどね。」

 

「そうだったそうだった。全く、酒が苦手だなんて人生損してるよ?」

 

「私は今のままで十分満足してるから。」

 

「そうかい……」

 

後ろからパタパタと歩く音がした。その方を見ると結構な量の料理を持ったジュリィがいる。…ほんと、よく食べるよね、ジュリィは。

 

「…なぁ、あんたはたしか、古龍とやらと戦ったんだろう?」

 

「え?うん。」

 

「若いのによくやるねぇ。ね、その戦いの話、聞かせておくれよ。」

 

「戦いの話……?」

 

「別世界なんて関わることの方が稀だ。アタシとしては是非聞いてみたいもんだよ、あんたの冒険の物語を…あんたの口から直接、ね?」

 

「私達の戦いかぁ…そこまで面白いことはないと思うけど。特に私の戦いなんてジュリィが語る通りだし。」

 

「あっしら、ジュリィさんと出会う前の話とかは聞いたことねぇですぜ。ジュリィさんもその話に関しては“私と出会う前の事は相棒本人から聞いてください”、っていうばかりなんで。」

 

「嬢と出会う前か~…」

 

そういえばジュリィってモガの村出身だっけ。ハンターじゃないから水中会話できないのは分かるけど───

 

 

ガタンッ

 

 

大きな音がして、私がそっちの方を向くと、ジュリィが窓に駆け寄るところだった。

 

「……ごめん、ちょっと。」

 

「あーい、いってきな。」

 

私はそう言ってからジュリィの側に近づいた。ジュリィはいつも頭に着けてる双眼鏡みたいなものをいじってた。

 

どうしたの?

 

相手はジュリィだし、竜人語で話しかける。すると、ジュリィは海を見たまま口を開いた。

 

分かりますか?

 

え?

 

さっき突然、波の音が変わったんですよね…陸が近いからなのかな…

 

そこまで言って、ジュリィは双眼鏡を外して私の方を向いた。

 

相棒、覚えていますか?私達が初めて会ったあの日───初めて声を交わしたあの時。その時も、こんな風に窓の側でお話しましたよね。あの時も、同じ服装で。

 

あぁ…そうだね。

 

新大陸に渡ったあの日───確かに、私達は今みたいに話をした。合流前に着ていた装備は大陸での最後のクエストで壊れ、合流前に支給されたレザー一式は船からの墜落で壊れたけど。

 

あれから、随分と遠くに来ましたよね。古代樹の森からアステラ、大蟻塚の荒地に大峡谷、研究基地…

 

陸珊瑚の台地に瘴気の谷、地脈回廊に龍結晶の地、収束の地……古龍渡りの解明だけでもこれだけの場所を巡ったんだよね。

 

はい。古龍渡りの原因は古龍の死地が新大陸であったこと───そして、ゾラ・マグダラオスが墓場である瘴気の谷にいなかったのはゼノ・ジーヴァの力に惹かれたこと───でしたよね。

 

……こう思うと、私達は新大陸だけでも沢山の古龍と出会ったんだね。

 

私達が追った熔山龍“ゾラ・マグダラオス”。マグダラオスを捕食しに来た滅尽龍“ネルギガンテ”。陸珊瑚の地を駆ける幻獣“キリン”。古代樹の森に現れ、痕跡を残していった鋼龍“クシャルダオラ”。大蟻塚の荒地に痕跡を残した炎王龍“テオ・テスカトル”。瘴気の谷に潜んでいた屍套龍“ヴァルハザク”。そして、地脈の収束する先で誕生した冥灯龍“ゼノ・ジーヴァ”。解明後に現れた黄金を纏う爛輝龍“マム・タロト”。調査を続けて見つかった炎王の番、炎妃龍“ナナ・テスカトリ”。異世界からの来訪者、魔獣“ベヒーモス”───新しい大きな調査が始まるまで、こんなにも多くの古龍と出会いましたね。もっとも、相棒からすれば少ない方なのかもしれませんが…

 

その言葉に私は軽く笑った。

 

冗談やめてよ…って言いたいところだけど、言えないのが私とリューネの旅路だしなぁ…確かに古龍10種は少ない方かな?メゼポルタを拠点にしてた時とかあそこでしか受注できないクエストに出てくる古龍だけで12種だった気がする。

 

メゼポルタ…異世界のハンターさん達からは“フロンティア”って呼ばれてた場所でしたっけ。

 

そうそう。当時は全く意味が分からなかったけど、この世界の言葉では辺境───開拓の最前線っていう意味らしいね。

 

そうなんですね…それにしても、本当に遠いところまで来ましたね…

 

そうだね…古龍渡りが解明されたあとも、新たに発見された渡りの凍て地、新たに作られたセリエナ、地殻変動の法則を追って見つかった淵源の孤島。そして───

 

悉く滅ぼすネルギガンテを追って見つかった導きの地とその奥にあった幽境の谷───さらには大陸に一時帰還してシュレイド城にも行きましたものね。シュレイド城に関しては私は設備の動作確認以外何もできませんでしたけど。

 

果てにはこんな“異世界”なんていう場所にも来てるもんね、私達。それと…設備の動作確認()()じゃないよ?黒龍との戦闘の時…ネコタクに運ばれてキャンプに戻ってきたときに心配してくれてたのと食事を用意してくれたのどれだけ嬉しかったか。確かに禁忌と戦うときはいつもリューネと一緒にはいたけど、一緒に戦う仲間、じゃなくてキャンプで待っていてくれている人がいる、っていうのはなかったからね。

 

相棒……

 

そういえばあのネコタクと落ちの原理未だに分からないんだよね。回復せずに攻撃受けすぎてるといきなり身体の自由が効かなくなって、その場に倒れ込んで気を失うのを“落ち”───異世界のハンターは“乙”って言ってたかな───っていうんだけど……その落ちが発生するとどこからともなくネコタクが現れて、私達ハンターをキャンプまで送っていくの。……雑だけど。……………雑だけど。一応宝具として所持はしてるし、そっちはまだ1回も発動してないから分からないけど多分あっちと同じように雑だと思う。っていうか一回落ちたら食事効果消えてるのなんなの?気絶してる間に運搬の雑さで吐いてたりでもするのかな?

 

…相棒!

 

うん?

 

私は───私は、相棒と…貴女と出会えて、本当によかったです!

 

……嬢

 

今まで迷惑をかけて…そして恐らく、これからも迷惑をかけてしまうとは思いますが……これからもどうかよろしくお願いします!貴女の相棒としても貴女の弟子としても!

 

そう言ってジュリィは頭を下げた。

 

…こちらこそ。大剣はそこそこ不得手だけど…こんな私でもいいなら、これからもどうかよろしくね。貴女の相棒として───貴女の師匠としても。

 

…あぁ。……相棒は、重い武器が得意ではなかったのでしたね。ごめんなさい、大剣を選んでしまい。

 

大丈夫だよ、合う武器なんて人それぞれなんだから。まぁ、一応プロとして全武器種扱えるけど、極めた人よりは劣るから私でいいのか不安になるんだけどね。そのためのソードマスターな訳だし。

 

そもそも私も他人に教えるのなんて初めてだからね~…って呟くと、ジュリィは苦笑したあと、何かに気がついたような表情をして口を開いた。

 

そういえば、相棒が新大陸に渡った理由って一体なんですか?

 

…また随分と急だね。どうして?

 

いつも聞きそびれてしまいますから。今なら調査もありませんし、深く話せるかと思いまして。

 

そう言ってジュリィはアイテムポーチの中から1つの石を取り出した。

 

私は新大陸中の食べ物の味に特化した事典を作ること。そして祖父から託されたこの“月の石”の解明───古龍の謎を解くことが理由でした。相棒は、何ですか?

 

───私は……

 

 

ドスンッ!!

 

 

わわっ!?

わっ!?

 

大きな衝撃と揺れ。それに私達は体勢を崩した。

 

「一体なんだってんだい!」

 

「あ、姐御!!ふ、船が……!傾いてやがります!!」

 

「はぁ!?座礁でもしたってのかい!」

 

ドレイクの声が飛ぶ。それと同時に感じる龍気───

 

「「───まさか」」

 

私とジュリィは同時に呟いて、同時に駆け出し、甲板へと通じる階段を駆け上がった。

 

「あっ、ちょっ、どこに行くってんだい!?」

 

ドレイクの声が下から聞こえるけど気にせずに駆け上がる。甲板上に出ると、雨が私達を襲った。

 

雨で視認性が悪い………!

 

おまけに水で滑ります───相棒、あそこっ!!

 

ジュリィが指す方向を見ると、赤い光がちらりと見えた。あの形、あの色───間違いない!

 

「「“ゾラ・マグダラオス”!!!」」

 

熔山龍“ゾラ・マグダラオス”───私達が空から新大陸に降り立つ原因となった古龍。ある意味で私達と因縁があるというかなんというか。

 

止める───いえ、船を降ろすのが先決です!

 

多分、船の先の方から飛び移れるはず───!

 

そう会話した後、私達は船の先を目指す。けど、マグダラオスが身体を揺らしたのか船がさらに傾く。

 

「「───!」」

 

あの時と同じ。船の出っ張りで耐える。

 

「ルーパスちゃんっ!!ジュリィさんっ!」

 

下からリッカさんの声が聞こえる───けど、反応してる余裕───

 

 

ツルッ

 

 

あっ。

 

「「あっ───わぁぁぁっ!!」」

 

手が、滑った───!!

 

「ルーパス───!」

 

「旦那さんっ!!」

 

私達はそのまま滑って、船の外へと投げ出された───

 

───!ジュリィ!バスターソードを!!

 

───はいっ!!

 

空中で私もジュリィもアイテムボックスを操作し、私は鉄弓Iと“鈍撃の鉄球”を、ジュリィはバスターソードIを取り出した。

 

私の射線上に───!

 

───せぇぇぇい!!

 

ジュリィが不安定な体勢ながら、バスターソードを投げた。そのバスターソードは、ちょうど私の射線上に。

 

───ッ!!

 

矢の先に鈍撃の鉄球を取り付けた矢を、バスターソードに向けて放つ。そのバスターソードは、私の矢に押されて船に当たった。

 

「───ルーパスッ!!ジュリィ殿ッ!!」

 

「ルーパスちゃん!ジュリィさん!」

 

リューネ達が不安そうに声をかけてきているのが見えた。

 

「───心配しないで!!必ず戻るから!!」

 

「はいっ!またあとで会いましょう!」

 

そう言った直後、マグダラオスが動いたようで、船が落ちて私達からは見えなくなった。

 

飛竜よ、我と共に空を(ファストトラベルですね!)───相棒、手を───!!」

 

私はバルノスを呼んだジュリィの手を取り、ゾラ・マグダラオスの背中の上に安全に降り立った。それなりに高度があったみたい。

 

……さて。ここからどうしたものかな。

 

……ひとまずは、ゾラ・マグダラオスの身体から降りることを最優先としましょう。できれば、陸地に降りたいですね。

 

ジュリィの言葉に頷いて、私達は行動を開始した。




ということで海にいる古龍2体目は熔山龍“ゾラ・マグダラオス”でした

弓「古龍渡り、とやらの再現だな?」

まぁね。オケアノスが海だったし、ちょうど船もあるしで再現してみたかったっていうね。ちなみに個体はワールドの時の老個体じゃない設定です。…ただ戦力削いだのちょっとやりすぎ……ではないかな。元々(原作的な意味では)ハンター達はいなくて当然だし。

裁「合流はいつ頃にするの?」

合流時期も考えてあるよ。ただ問題が1つ。

裁「?」

今回のアンケート召喚サーヴァントのクラスが決まらない。

弓「アンケートが置かれていないのはそれが理由であったか。」


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第121話 船上で

ギリギリになりました

弓「ふむ」


〈そうか…あいつらがいなくなった、か。〉

 

「うん…」

 

嵐が過ぎ去った海上。ドレイク船長の黄金の鹿号の甲板上で、復旧した通信を開いてカルデアにいるメンバーと話をしていた。

 

〈……どうだ、ロマン。〉

 

〈すまない、ダメだ…特異点全域を調べてはみたけれど、強いジャミングでもかかっているのかルーパスちゃんとジュリィさんの反応が感知できない。…六花。ルーパスちゃんたちは無事なんだろう?〉

 

〈あぁ。無事に生存していることは明らかだ。だが同時に、今現時点で分かるのはそれだけだ…くそっ、礼装にGPS機能でも付けておけばよかったな。〉

 

お兄ちゃん曰く、お兄ちゃん製の魔術礼装には標準で着用者の生存を確認する機能があるらしい。GPSやAIサポート、ジャミング相殺とかの機能は必要に応じて付けるオプションなんだって。

 

〈5期団がいなくなったか…〉

 

「大団長さん…」

 

「あんたがジュリィの言ってた大団長、とやらかい。」

 

〈あぁ。〉

 

「そうかい…すまないね、あんたの組織の人員を2人も削いじまってさ。」

 

〈なぁに、気にすることはねぇよ。大団長の俺が言うのもなんだが、新大陸古龍調査団はギルドの中でも変人揃いだからよ。それと…あの2人の生存に関してもあまり気にすることはねぇだろ。〉

 

「……随分と冷たいね?あんた。」

 

〈俺はあの2人を信用してるだけだがな。…おい、リューネ。いつまで凹んでやがる。〉

 

「…」

 

〈あいつの───ルーパスの力を一番知っているのはお前さんだろ?…なぁ、ルーパスと同じく調査団に推薦されてたハンターよ?〉

 

推薦されてた……?

 

「……2年前だったか。同時に推薦されたが…僕は大陸に残った。新大陸で何が起きたかはそこまで知らないが…僕は大陸の守護者として残ったのがあるからな…生まれた地に行ってみたかったのもあるが。」

 

〈カムラの里か。そういや最近だか去年だかに百竜夜行の原因が分かったとかっていう話上がってきてたな…〉

 

うーん…話してることが分からない。

 

〈…ま、ともかくあいつらなら大丈夫だろ。なんせ調査団の導きの青い星だしな。〉

 

「導きの青い星?」

 

私が聞き返すと、大団長さんはそうだったそうだった、ってぼやいた。

 

〈お前さんらこの世界の奴等は知らなかったな。おとぎ話の1つ、“五匹の竜の話”を。───昔、白い世界の真ん中に五匹の竜と人々が暮らしていたという。そこにあったのは太陽と永遠の時。永遠の時のお陰で人々は何も失わなかったが、何かを得ることもなかった。〉

 

「あるとき、始まりも終わりもないことを不思議に思った人々がその理由を竜に尋ねた。すると竜達は口から水を吐いて海と空を作り、泳いでいってしまった───」

 

〈───長いから話すのはやめるが、その五匹の竜に会いに行こうとした青年がいたんだ。そしてその青年が目印としたのが青い星───この星が、“導きの青い星”なんだ。5期団そのものの紋章は“白き追い風”。5期団の傾向はハンターを中心とした構成だ。そしてその中でも高い能力を持つルーパスは古龍渡りを解明すると同時に導きの青い星と呼ばれるようになった。知ってるか?ルーパス1人のために、新大陸行きの船の出航が遅らせるほど期待がかけられてたんだぞ?〉

 

ルーパスちゃんってそんなに凄かったの!?

 

〈で、新大陸に着いたときなんざ船に乗ってない───いや、船から落ちて新大陸に降り立ったらしいからな。一部の人間は“空から来た5期団”なんて言うけどな。なんせあいつらよく落ちるからよ。新大陸に来たときも、今回もな。〉

 

あ、あはは……でも、そう考えると…

 

「もしかして、新大陸…だっけ。それに帰ってたり…?」

 

〈───いや、それはないだろう……って言いたいが、可能性はあるかもしれないな。アルテミスが来たのも砂嵐、帰ったのも砂嵐だったか。もしも調べに行ってもらったあの穴があるなら、帰っている可能性はあるぞ。〉

 

「……マスター。貴様の勘はどうだ。」

 

「……分からないけど……合流はできる気がする。」

 

〈なら大丈夫だろう。あいつらも伊達に推薦組じゃない…つーか、未知のモンスター相手に恐れず戦り合うからな。俺達調査団は何度あいつら2人に助けられたことか。…ったく、40年も新大陸にいた俺からすればちょい凹むっつの。〉

 

その言葉にリューネちゃんが笑った。

 

〈やれやれ…やっと笑いやがった。〉

 

「あぁ、すまない…」

 

〈悪いとは言ってねぇよ。〉

 

「…貴方は優しいな、新大陸古龍調査団大団長───アスラージ殿。」

 

アスラージ……?

 

〈なんだ、知ってたのか。〉

 

「思い出した、の方が正しいのだろう。最初に顔を会わせた時には忘れていたのは事実だ。」

 

〈そうか……んじゃま、改めて自己紹介とでもいくか。新大陸古龍調査団大団長、“アスラージ・アドミラル”。あいつらほどできるとは思えねぇが…まぁ、あいつらの代わりとして戦ってやらあ。必要になったら呼べよ、リッカ。〉

 

「は、はい!」

 

私が咄嗟に返事をすると、大きく笑った。

 

〈いい返事だな。アルテミスみてぇな…レンジャー、っつったか?あれじゃねえっていうのに敵に立ち向かう目付きをしてやがる。さて、いつまでも留まっちゃいられねぇぞ!駆け足───じゃねぇや、全速前進!!時間は待ってくれねぇぞ!〉

 

「お、おう!野郎共、船を出しな!」

 

「いいんですかい?」

 

「───リッカ?」

 

「うん。───お願いします。今は、先に───」

 

〈リッカちゃん!生体反応を確認した!人じゃないのは確かだ!〉

 

ドクターの声。それを聞いてギルが周囲を見渡した。

 

「……ふむ。ミルドよ、くすんだ青を基調とした体色に黄色も混じった大きな翼、細長い尻尾を持つ存在はいるか?」

 

「“メルノス”?なんで───あの紋章、どこかで…」

 

紋章?

 

 

結局、そのメルノスはジュリィさんの宝具で、伝書鳩みたいに伝言を伝えに来ただけだった。




一応大団長の名前を設定しました。

裁「アスラージ……アスラとラージの組み合わせ?」

ん。


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第122話 島

一応言っておきますけど、ルーパスさんとジュリィさんはFate/の世界にいます。

弓「この様なところで帰ってしまえば良く分からなくなるであろう。」

まぁね…


「姐御!島です、島が見えます!東北東方向です!」

 

「あぁん?島?」

 

「確かに島が見えますね。…ドクター?」

 

〈ああ、島にはサーヴァント反応があるね。〉

 

「ドレイク船長。島には例の通常の大砲を受けても倒れない超人がいます。」

 

「ふーん…馬鹿共は下がらせた方がいいかねぇ。技術顧問サマ、何か策はあるかい?」

 

ドレイク船長がミラちゃんに聞くと、ミラちゃんが茶色の弾を取り出した。

 

「“滅龍銃弾”───ルーパスさん達の持ってる滅龍弾をこの世界の銃に適合するように改造したもの。海賊達の銃に最適化してないから手作業で改造してる影響で生産が追い付いてないけど、1人5発までなら用意してある。」

 

「…5発、ねぇ。なら温存しておいた方がいいか…野郎共、あんたたちは船を守りな!アタシとリッカ達で行ってくるからね!」

 

「了解でさぁ!お帰りをお待ちしてますぜ!」

 

「一応反撃障壁術式は組んであるから大丈夫だとは思うけど…」

 

反撃障壁って……ミラちゃんってどこまで術式のバリエーションあるの?

 

「……あ、そういえば。今思い出しましたけど、少し前に妙な噂を聞いたんすよね。」

 

妙な噂?

 

「なんでも、この海のどこかに魔法か何かを使う少女がいる、とかって。」

 

「魔法を使う少女……魔法少女ってこと?」

 

「さぁ……噂でしかないんで、確実かどうかは…」

 

「特徴とかはないのにゃ?」

 

「…確か、特徴は確か水色の服装に黒い長い髪、緑色の目…んでなんか美しく、貴族っぽい雰囲気を纏ってたとか…」

 

「水色の服装に黒髪、緑の目…まさか……」

 

「ミラちゃん?」

 

「……いや、なんでもない…」

 

…ちょっと不安になったけど、私たちは島に降りた。

 

「……慎重に進みましょう、マスター。サーヴァントが敵なのかどうかまだ分かりません。」

 

「せっかくだ、何か賭けでもするかい?」

 

「賭け?」

 

「あぁ。総督は置いていくとして、あんたらはどっちに賭ける?この島に財宝があるかないか、だ。」

 

財宝……

 

「我を除いたのは良い判断よ。我が見るは真理、最初から答えが分かるなど面白くないであろう?」

 

「それもあって一旦あんたは置いといたのさ。で、どうする?」

 

私は…

 

「財宝がある方に賭ける…かな」

 

「マスターがそういうなら…私も財宝がある方に賭けます」

 

「僕は…マスターの勝ちに賭けようか。」

 

「私も同じように…」

 

「……リッカさんに任せます」

 

「参ったねぇ…全員同じじゃ賭けが成り立たないよ。こりゃ、私の負けかねぇ。欲しいもんはあるかい?」

 

欲しいもの……?

 

「特にない……」

 

「私もですね。強いて言うなら、こうして協力していただけるだけで十分です。」

 

私マシュがそう言うと、ドレイクさんが笑った。

 

「かーっ!参ったねぇ…タダでいいとは滅茶苦茶高いじゃないか。厄介だねぇ。」

 

「は、はぁ…?私達はなにもいらないと……」

 

「……あぁ、そうか。」

 

「先輩?」

 

なんとなく、ドレイクさんの言いたいことが分かった気がする。

 

「ドレイクさんは商人───なら、お客の満足する商品を見つけないといけない。」

 

「リッカの言う通りだねぇ。タダでいい、望みがないっていうことは今現在満足するような商品がないってことにもなるだろう?なら商人であるアタシはあんた達の望むものを見つけださなきゃならないのさ。香辛料?秘宝?それとも金属?望むものがないなら望むものを探さないといけないのさ。」

 

「覚えておくがいい、皆の者。無欲より高いものはないぞ。無欲とは即ち買えぬものだとな。」

 

「…まぁ、分からなくもないが。さて、とりあえず探すのが先決だろう?」

 

リューネちゃんがそう言うと同時に、リューネちゃんとドレイクさんが同じ場所に向けてボウガン───ボウガン?と銃を撃った。

 

「…気がついたかい、リューネ。」

 

「妙な音がしたのでね。一応僕が撃ったのは睡眠弾だったが。…しかし、反動が重いな。」

 

「ところでリューネちゃん…その武器は?」

 

どうみてもランプ……?

 

「“マジナイランプ”…霞龍派生のライトボウガンだが。霞龍派生の武器は少々特徴的なものが多いのだよ。」

 

へ、へぇ…

 

「……おや?リューネ、あんた腰が何やら光ってるけど…」

 

ドレイクさんの言う通り、リューネちゃんの腰───正確にはアイテムポーチが青白く光を放っていた。

 

「……?何か光るものでも入れていただろうか……」

 

そう呟きながらリューネちゃんが取り出したのは、真ん中に青い石が嵌め込まれた良く分からない模様のついた石だった。

 

「───」

 

「なんだい?それは。」

 

「───いや、気にしないでくれ。こっちはルーパスの物だし。…さぁ、行こうか。」

 

……なんか露骨に話を逸らされたような……?




短めですみません。

裁「いつまでかかるのかなぁ…」

クラス決まんない……

弓「まだ悩んでおったか…」


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第123話 血斧王

うーん……

裁「…?」

ルーン文字の解読ってどうやるんだろ……

裁「さぁ?」


あれから私達は森の中をリューネちゃんの先導のもと歩いていた。

 

「……ふむ。妙な音がしたのはこの辺だった気がするが。」

 

「あんたの耳、一体どうなってるんだい?結構遠い距離を察知できるなんざ、探知機か何かかい。」

 

「そんなことを言われてもな…」

 

「リューネちゃんって確か最大探知距離1km位じゃなかった?」

 

「む…正確にはその10倍か?頭痛が激しくなるからあまり使わないし、距離が正確でもないが、かなり広い距離なのは知っている。ルーパスも同様だが、強く集中すれば10km程先を精密に視認できるぞ。もちろん、肉眼だが。」

 

〈エグいよな、それ…話には聞いていたが本当だったんだな。〉

 

「僕が探知し、ルーパスが見つける。それが基本だったからな…む?」

 

リューネちゃんがなにかを拾った。あれは───

 

「石版?」

 

「……の、ようだが。ふむ、まだ文字が彫られたのは新しいか?」

 

そう言って見せてきた石版には文字のようなものが彫られていた。……って、これ───

 

A(アンサズ)と───B(ベルカナ)。これ、ルーン文字?」

 

「先輩、分かるのですか?」

 

「解読まではできないけど……」

 

「ルーンか……ランサー…戌はいるか。」

 

〈…ちょうどいるぜ。なんの偶然かちょうど、な。んでルーン?〉

 

「貴様はルーンにも詳しいであろう。読め。」

 

〈へいへい……えっと……あー……こりゃ記念碑みてぇなもんだろ。〉

 

「記念碑…?」

 

〈“一度は眠りし血斧王、再びここに蘇る”───だとよ。血斧王、ってぇと───〉

 

「───!警戒体制!ものすごい速さでこちらに近づいてくる音がする!」

 

リューネちゃんの言葉で全員の表情が変わる。そして数瞬後、その存在は現れた。

 

「ガガガガガガガガガガガガ!!ギギギギ────ギィィィィィィィィィ!!」

 

……なんというか

 

「壊れた機械?」

 

〈バーサーカーなのでしょう。バーサーカーのクラススキル“狂化”が高いランクで保持されていると考えますが。〉

 

そっか…でも。

 

「これ、この人の本性じゃない気がする…」

 

「ワガッ!ワガナ!エイリーク!イダイナル、エイリーク!」

 

エイリーク───血斧王?

 

「───“エイリーク・ハラルドソン”!?」

 

エイリーク・ハラルドソン───エイリーク1世!在位期間は短かったものの、その際に起こした殺戮から血斧王と呼ばれる人───!

 

「ガゴ!コロス!ジャマスルナラコロス!ブチコロス!」

 

…意識ありそうだけどね……

 

「品性が足らぬな。さて。蹴散らすか。」

 

「…いや、僕がやろう。英雄王と船長は財宝とやらがあるか探してくるといい。」

 

「む?」

 

「少し気を紛らわしたいんだ。すまないが軽く暴れさせてくれ。」

 

「ほう?勝算はあるのか?」

 

「さぁ。まぁ、なんとかなるだろう。」

 

そう言ってリューネちゃんは桜色のベルを構えた。確か名前は───“サクラノリコーダー”。

 

「───ギル」

 

「む?」

 

「ここは私達にまかせてほしい。」

 

「……ふ。それなりに逞しくなったものよな。よい!この戦闘貴様等に任せよう!我らの帰還まで持ちこたえるがいい!」

 

「分かった───ギル?」

 

「ぬ?」

 

「リューネちゃん達がいるし、マシュもいるから持ちこたえるのは多分大丈夫。だけど───」

 

「「倒しちゃっても、別にいいよね?」」

 

あ、リューネちゃんの高音とハモった。

 

「───よい、許す!しかし油断するでないぞ!」

 

「頼んだよ!でかいお宝見つけてやるからねぇ!」

 

そう言って2人はエイリークさんの近くをすり抜ける。

 

「マテ───」

 

 

ガンッ!

 

 

「ガッ!?」

 

リューネちゃんがエイリークさんの追撃しようとする手に向けて笛を叩きつける。

 

「リミット・アップ───モード・ハイ。悪いけど───あなたの相手は私。行くよ、マスターさん。」

 

「う、うん…!全力で、支援するよ!」

 

「守りはお任せを───!」

 

「ダァァァァ!!!」

 

「───っ!」

 

エイリークさんの手と、リューネちゃんの笛が再度衝突した。




書きにくい……

弓「貴様さては戦闘描写苦手だな?」

そもそも私笛使いじゃないから……一応ルーン文字は調べまして、冬木の時に出たルーンも修正しました


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第124話 収穫は

遅くなりました…

裁「遅い…」

連携の繋がり方探してたんだよ……


「ムダムダムダムダァ!!」

 

「…せいっ!」

 

エイリークさんが連打する───リューネちゃんが正確に避けてベルで殴る。左ぶん回し、右ぶん回し、柄攻撃、前方攻撃。それから前方演奏───

 

「ウググ───ウル、サイ!メザワリ!ギァァァァァァ!」

 

リューネちゃんに襲いかかる乱撃の嵐。それをリューネちゃんは一撃被弾して吹っ飛んだ後の無敵時間(私達的には透け時間よりもこっちが分かりやすいからこっちで呼ぶ───なんか吹っ飛んだときはフレーム回避より長い時間無敵らしい)で避けきった。

 

「リューネさん!」

 

「ルル、マシュさん、スイッチ!」

 

「はいにゃぁっ!」

「っ!はい!」

 

交代(スイッチ)───そう叫ぶと同時にリューネちゃんが震打を叩き込み、怯ませてから後ろに下がる。そして入れ替わるようにマシュとルルさんが前に出る。

 

「食らうがいいにゃ!“バチバチ爆弾ゴマ”にゃ!!」

 

そう言いながらルルさんがコマ型の爆弾を投げつける。投げ方が上手なのか、接近戦をしかけているマシュに当たる気配がない。

 

「ダァァァァァァ!」

 

「重いっ…このままでは───!」

 

受け流しながらも衝撃に耐えているマシュ、強めの一撃を放とうとしているエイリークさん。それを見て、マシュだけだと防御が足りないと判断───

 

「来て、“アスラージ・アドミラル”!!」

 

「───おおう?」

 

〈ちょっ、なんでここでバーサーカー!?〉

 

「勘!アスラージさん、防御関係ありますか!?」

 

「防御、ねぇ……ま、なんとかしてやるさ。」

 

そう言ってアスラージさんはマシュのとなりに立った。

 

「シャキッとしろ。」

 

「大団長さん……?」

 

「お前にも守るものってのがあんだろう。強く構えろ、相手を見据えろ。そして何より、守るべきものを思い浮かべ、力を振り絞る楔としろ!!」

 

「……はいっ!!」

 

「1人だなんて考えるな!あるものは総て使え!それでこそ今を生きる人間だ!!」

 

「ギィィィィィィ!!ブチコロス!!ジャマスルナラコロス!!オンナ、コドモ、カンケイナイ!!」

 

〈宝具が来るぞ!全員気をつけて───〉

 

「他の奴らは俺とマシュの後ろに退け!」

 

その大声にルルさんといつの間にか戦闘に参加していたガルシアさんが反応し、地面に潜ったと思ったら私の隣に出てきた。

 

「吠えろ!!」

 

「はいっ!宝具…展開します!!」

 

「力があろうが、技術があろうが仲間守れなくちゃあ意味はねぇ!故に俺は鍛えるのみ!総ては俺の仲間を守るために───守るためなら命すら散らしてやらぁ!それが俺───1期団団長として抱えた信念よ!ここにその真価を示してやらぁ!」

 

〈今の───詠唱!?宝具反応3つ───リッカちゃん、魔力サポートは始めた、だけど枯渇には十分注意してくれ!〉

 

私が頷くと同時に、リューネちゃんが演奏した音が聞こえた。

 

「ヌゥワワワワワワ!!ブルララララララ!」

 

「“仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”───!!!」

 

「“我が剛力は大切な仲間を護るために(ビックロック・ブロッキング)”───ウォォォォォォォォォ!!!」

 

〈待てい!大岩で宝具成立するってどんだけだよ!!〉

 

〈しかも今見えただけでも自分と同じくらいの大きさの岩を持ち上げてから地面に叩きつけたわよ……?〉

 

「あぁ…そういえば」

 

リューネちゃん?

 

「ルーパスが手紙に書いてたよ。“大団長はキリンの角を捕食したばかりのラージャンの全力気光ブレスを真正面から大岩と自分の力だけで10秒以上張り合った”、って……」

 

「嘘でしょ……?ラージャンの全力気光ブレスを大岩で?10秒以上?あの人、本当に人間?」

 

ミラちゃんもすごく驚いてる。そういえば、気光ブレスってラージャンの結構強い技の一種だっけ。それの全力……うん。本当に人間?

 

「ラ……ラ……」

 

あ、エイリークさんの宝具が終わったみたい。

 

「はぁ…はぁ…ありがとう、ございます。大団長、さん…」

 

「なぁに……後進を守るのは…先達の役目だ……」

 

「マシュさん、アスラージさん、スイッチ!」

 

「…!はいっ!」

 

「おうよ…」

 

マシュとアスラージさんが後ろに下がって、リューネちゃんがスライドビートで前に出る。リューネちゃんの持ってる笛が変わってる。緑色のベル───例の端末によれば、雌火竜原種派生、“ヴァルキリコーダーII”らしい。

 

「演奏モード変更、響モード───」

 

そう呟いてから、リューネちゃんが笛を吹くと、バキンっ!って音と共に目に分かるほど空間が歪んだのが分かった。

 

「グ───ガ、ウル、サイ!」

 

 

そう言ってリューネちゃんを掴もうとするけど、リューネちゃんは武器を出したまま空中に───ううん、近くの木に飛び付き、そこから何度か木を飛び移ってから急接近した。

 

「しらべ───打ち!」

 

右から殴り始め、一回転して衝撃を発生。

 

「えいっ!」

 

そこから笛を頭上まで蹴り上げて、柄で殴ってから殴り、地中を抉りながら一回転させて殴り、右から殴り始め、一回転して衝撃発生、横に4回転、最後に演奏。

 

「ウググ───ウルサイ!」

 

震打を放ち、笛を振り下ろし、蹴りあげ、2回振り回し、右からの殴り始めの一回転して衝撃発生───そしてさっきと同じ4回振り回す演奏。

 

体を捻りながら笛を振り下ろし、柄で殴ってから殴り、地中を抉りながら一回転させて殴り、右から殴り始め、一回転して衝撃発生、4回振り回す演奏をしてから───笛をぐるぐる回す演奏。

 

「ガ…ガ…」

 

結構な連携食らってフラフラしてるところに、容赦なく蹴り上げ→柄で殴ってから殴り、地中を抉りながら一回転させて殴るの繰り返し。

 

「ア…ガ…オレノ……モノ……」

 

「せい……やっ!」

 

フラフラから回復してるところに、2回振り回す。既に足に力が入ってなかったのであろうエイリークさんは、それで吹っ飛んだ。

 

「………」

 

「ふう……」

 

「た、倒したの?」

 

「気絶までは持っていけたよ。あとは任せてもいい?」

 

結構飛び回ってたからなのか、疲れた表情してる…重そうだもんね…ええと……

 

「お願い、“クー・フーリン”!」

 

「へいへい、呼ばれて出てきましたよっと…」

 

「霊核の破壊をお願い!気絶してても油断できないから……!」

 

「やるなら徹底的にってか。んじゃ、やりますか。」

 

クー・フーリンさんが赤い槍を構えた。

 

「じゃ、マスターのご命令だ。あんたにゃ悪いが、その心臓もらい受ける!“刺し穿つ(ゲイ)───」

 

その槍が放たれる一瞬の隙───

 

「───ガ」

 

エイリークさんが、消えた。

 

「───ボ…っと。なんだ?」

 

〈どうやら何者かが呼び戻したみたいだな。追跡は───くそっ!ジャミングが酷すぎて追えねぇっ!〉

 

「そっか……」

 

通信越しでもお兄ちゃんが苛立ってるのがよく分かる……あまり怒らない、苛立たないから結構面倒なんだろうね。

 

「不発か……」

 

「だ、大丈夫!また機会はあるよ!」

 

落ち込んだクー・フーリンさんを元気付けたあと、カルデアに帰して私達はギル、船長と合流した。

 

「無事であったか。」

 

「うん。…逃がしちゃったみたいだけど…」

 

「よい、無事ならばそれでよいのだ。」

 

「ほら、マシュにリッカ。これがお宝さ。」

 

船長が出したのは日誌みたいなのと海図。日誌はよく分からないけど、確かに海図は十分お宝に近い。

 

「これがお宝…ですか?」

 

でもマシュはピンときてないみたい。同じように、アルも。リューネちゃんとミラちゃんはマシュの発言を聞いて優しい目で見つめてるし、多分“お宝”の意味が分かってる…のかな。

 

「マシュ殿。僕達の今の現状を思い出してみるといい。」

 

「現状…ですか?」

 

「あぁ。僕らはこの特異点で、どんな状態かな?主に地理的な面でだ。」

 

「地理……分かりませんね。」

 

「だろう?“海図”というものは海の地図の事なのは知っているね?そして、この海図はどう見ても手書き、それもまだ時期が新しい。先ほどの石板のようにね。ならば、この周辺の海域の情報が乗っていると考えた方がいいんじゃないかな?」

 

「リューネの言う通りさね。ヴァイキングってのは航海の道筋を逐一纏めるもんなのさ。仮にあいつがこの島に突然現れたなら確かに無意味だろう。だけど、これは間違いなくこの島からきたものじゃない。目的地が分からないアタシ達にとって、これは宝に匹敵するだろう?」

 

「貴様等が想像する金銀財宝については我が回収しておいた。…リューネ、ミルドよ。」

 

「うん?」

 

「?」

 

ギルが真剣な表情になって、黄金の波紋から何か───大きい生き物を落とした。死んでる───じゃない、眠ってる。大きい───猪と梟?

 

「「これは───」」

 

「見覚えはあるか?攻撃がそこまで効かなかったゆえ、眠らせたが。」

 

「「大猪“ドスファンゴ”と夜鳥“ホロロホルル”」」

 

「クロロホルル?」

 

「「ホロロホルル!!」」

 

あ、ホロロホルルなのね。素で聞き間違えた。

 

「ふむ、貴様等が反応するということは貴様等の世界の存在か。」

 

「あぁ…こんなところで会うとは思わなかったが。どうする、ミラ殿。」

 

「…話を聞いてみようか。………」

 

ミラちゃんがドスファンゴとホロロホルルに手を振れると2体は目を覚まし、ミラちゃんを見た。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

しばらく見つめあったあと、ミラちゃんがため息をついた。

 

「…穴に吸い込まれたらしいよ。」

 

「穴…か。帰りたいかどうかとかは言っていたか?」

 

「できるなら帰りたいらしいけど…それができるかどうかも分からないって伝えたらちょっと落ち込んでた。」

 

「ふむ……」

 

リューネちゃんがドスファンゴとホロロホルルに目を向けた。

 

「一緒に来るか?」

 

「えっ…!?」

 

「元々僕は君達モンスターの事が嫌いなわけじゃない。ルーパスも一緒だが。ハンターの中にも実はモンスター達と仲良くしたがっている者達はいるのだよ?」

 

そうなの…?

 

〈あぁ、聞いたことあるな。ハンターの中にモンスターが好きで、仲良くしたがっているやつがいるってこと。大抵は成立しねぇが、稀にハンターでありながらモンスターと絆を結ぶようなやつもいるらしい。ルーパスの家系が最たる例か。〉

 

「…姉妹のように育てられた僕もなんだがね、それ。どうする?ドスファンゴ、ホロロホルル。」

 

2匹は顔を見合わせてから、リューネちゃんを見つめた。

 

「……ついてくって。リューネさんに。」

 

「……やれやれ。僕にか…まぁいいけれど。」

 

とりあえず、ドスファンゴとホロロホルルに関しても終わったし、次の場所を目指すことになった。




ちなみにしらべ打ちを最初に放ってからの派生ですが。

まず、Lスティック+A+X(しらべ打ち)A(蹴り上げ)X(連撃振り下ろし)X+A(しらべ打ち)ZR+X(三音演奏)

次にZL+A(震打)Lスティック+X(前方攻撃)A(蹴り上げ)X+A(二連スイング)X+A(しらべ打ち)ZR+X(三音演奏)

最後にLスティック+A(振り下ろし)X(連撃振り下ろし)X+A(しらべ打ち)ZR+X(三音演奏)ZR(気炎の旋律)

このようになってます。

裁「これ…ちゃんと連携繋がるの?」

震打の後と三音演奏の後は次の攻撃に派生させられないけど、一応繋がるよ。繋がるかどうか試すのに凄い時間かかった…

裁「…そ、そう……」

あ、ちなみにリッカさんがホロロホルルをクロロホルルって間違えたのは私も素で間違えたことがあるので入れた一文です。


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第125話 世界を繋ぐ穴の謎

タイトル通りといえばタイトル通りです

裁「確かにタイトル通り……?」

それと、前回の連携モーションはまた今度動画にしてtwitterかyoutubeの方に出すつもりです。

裁「実用性無さそうだけどね…」

正直、何度も失敗するから再現辛かった…コンセプトは“気絶を取りやすくしつつ、連携の最後には三音演奏が入れられる連携”だからね…


「あれがここに書いてある島か。」

 

リューネちゃんがミラちゃんの魔法で小さくなったホロロホルル(リューネちゃんの話では最小金冠より小さいらしい)を肩に乗せ、ドスファンゴを側にいさせたままそう呟いた。確かに、新しい島が近づいてきている。

 

「…リューネさん」

 

「うん?」

 

「ホロロホルルとドスファンゴに名前つけてあげたら?貴女に懐いてるみたいだし、多分この先もついてくるよ?」

 

「とは言ってもな…僕らはレイシフトでこの時代にきてるんだ、連れて帰ることなんてできるのか?」

 

「それは……確かに…」

 

正論を突かれた、っていう感じでミラちゃんが黙っちゃった。

 

「…お兄ちゃん、なんとかならない?」

 

〈一応、考えと試作品はあるがちゃんと機能するかどうかがな……ちなみに試作品はこれな。〉

 

そう言って通信越しに見せてくれたのは上と下の色が違って、真ん中に黒い線の球体……うん、どう見てもポケモンのモンスターボール。いや確かに良さそうだけどさ…

 

〈まぁ、特異点終わるまでに考えておいてやるよ。アスラ、お前さんなにか言いたそうだけど何かあるか?〉

 

「お兄ちゃん、アスラだと“インド神話・バラモン教・ヒンドゥー教における神族または魔族の総称”になっちゃうよ。」

 

確か阿修羅とアスラは違うものだったはず…

 

〈っと、そうだったな。アスラージ、なにか言いたそうだけど何かあるか?〉

 

〈……そうだな。そもそもの話だが、なんでこの世界にホロロホルルやドスファンゴがいやがる。俺達の世界とは全くといっていいほど関係ないはずだ。〉

 

「それは…確かに。」

 

〈アルテミスの時のようにポータルがあるわけでもないのにな。…穴、か。そこにいる全員、穴を通ってこの世界に来たんだよな?〉

 

その言葉に、リューネちゃん、ミラちゃん、ルルさん、ガルシアさん、スピリスさん、ホロロホルル、ドスファンゴが頷く。

 

〈……なるほどな。ちらっと報告にはあった。曰く、謎の穴が各地で発生し、人もモンスターもいきなり行方不明になる例が発生しているらしい。恐らくは、この世界に送られているんだろうよ。そして、行方不明の最初の報告が───()()()()()()()()()()()()()。〉

 

「……!?」

 

その言葉にリューネちゃんが驚いた表情をした。

 

「待ってくれ!あちらは時間が進んでいるのか!?」

 

〈あぁ。一応聞いとくか、お前さんらがこの世界に来てどれくらい経った。〉

 

「30日近く…か?」

 

〈……なるほどな。時間のズレがあるぞ。俺達の世界だと5日くらいしか経ってねぇ。ベルナの村長から龍歴院に報告があり、そこからハンターズギルド本部に報告があり……そしてハンターズギルド本部から大陸全域、及び新大陸古龍調査団に報告があった。俺があの2人を調査に送り出し、恐らく穴の近くに辿り着いたであろう時間とお前がいなくなった時間がほぼほぼ一致してる。幸い、異世界のハンターが多数いるから拠点の守りとかはどうにかなってるがな。っと、そんなことはどうでもいい…いやよくねぇといえばよくねぇんだが。問題は、モンスターも行方不明になるってことだ。最近、クエスト中にモンスターが消えるっていう事態が多発してる。ギルドもその辺り困ってるらしいんだけどよ…〉

 

「クエスト中に消える……?」

 

〈例の穴が突然現れ、それにモンスターが触れてその場から消えちまうらしい。確か報告にあったのは……〉

 

ちょっと長かったからまとめると…

 

 

草食竜“リノプロス”

雲羊鹿“ムーファ”

鬼面族“チャチャブー”

山猫族“テトルー”

重甲虫“ゲネル・セルタス”

閣蟷螂“アトラル・カ”

盾蟹“矛砕ダイミョウザザミ”

鎌蟹“鎧裂ショウグンギザミ”

白兎獣“大雪主ウルクスス”

紅蓮獅子“ヴォージャン”

怪鳥“イャンクック”

黒狼鳥“イャンガルルガ”

火竜“リオレウス”

雌火竜“リオレイア”

飛竜“UNKNOWN”

輝界竜“ゼルレウス”

泥魚竜“ジュラトドス”

凍魚竜“ブラントドス”

海竜“ラギアクルス”

晶竜“クアルセプス”

恐暴竜“怒り喰らうイビルジョー”

砕竜“猛り爆ぜるブラキディオス”

飛毒竜“トビカガチ亜種”

怨虎竜“マガイマガド”

荒鬼蛙“テツカブラ亜種”

河童蛙“ヨツミワドウ”

影蜘蛛“ネルスキュラ”

臣蜘蛛“ツケヒバキ”

翼蛇竜“ガブラス”

水蛇竜“ガララアジャラ亜種”

響翼竜“ノイオス”

芳翼竜“ラフィノス”

浮岳龍“ヤマツカミ”

冰龍“イヴェルカーナ”

雷神龍“百竜ノ淵源ナルハタタヒメ”

天彗龍“奇しき赫耀のバルファルク”

雷極龍“レビディオラ”

金塵龍“ガルバダオラ”

凍王龍“トア・テスカトラ”

灼零龍“エルゼリオン”

黒蝕竜“ゴア・マガラ”

黒狐竜“ミ・ル”

 

 

……こんな感じらしい。多くない?リューネちゃんもため息ついてる…

 

「…原種だけではなく亜種や特殊個体もか…」

 

〈新大陸に情報が届ききってない可能性もあるがな。〉

 

「……百竜ノ淵源、か。それにしても古龍が多い。問題はゴア・マガラか…」

 

〈だな…禁忌共に関しては俺は知らん。〉

 

「そうか…」

 

〈つうかお前らがおかしいんだからな?10年やそこらで禁忌と渡り合うお前らがおかしいんだからな?〉

 

「最初に禁忌と戦ったのは1年後だったか…」

 

〈ああもう───お前らほんと馬鹿げてるぜ!そんなんだから推薦組筆頭候補なんだろうけどよ…〉

 

いきなり音声素材っぽいの出てきてビックリしたんだけど……

 

〈…そろそろ島につくな。島からは龍脈…じゃねぇや、なんだっけか〉

 

〈霊脈だな。ったく、やっとか…たどり着いたらいつものようにターミナルを構築してくれ。〉

 

お兄ちゃんの言葉に私とマシュが頷くと同時に、船が止まった。

 

「着きましたぜ、姉御!」

 

「よし、あんた達は残ってな!なぁに、すぐ戻ってこれるだろうさ!」

 

船長の言葉と同時に、私達は船から降りて霊脈地を目指した。




うーん……

弓「どうかしたか」

本気でクラスが決まらない……誰か案ありませんか


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第126話 霊脈確保と異変

そういえば、先日モンスターハンター3Gとモンスターハンター4G買いました。

裁「でもRISE優先でしょ?」

そうだね……淵源と赫耀どうにかしないとね


「霊脈ターミナル、設置します」

 

マシュ殿が盾を置くと、そこを中心としてターミナルが開かれた。

 

「ん~…これは何かのまじないかい?」

 

「えっと…」

 

「この時代とリッカ殿の時代を繋ぎ、補助をより強固にするための儀式だとか。」

 

「…リューネちゃんに言われちゃった…とりあえず、この先でカルデアからの補助がもっと強く、もっとスムーズになるシステムの起点を作ってるの。」

 

「ふーん…未来に生きてるねぇ。」

 

「あはは…私達は未来から来てるから…リューネちゃん達は分からないけど。」

 

別世界というのが今の推測───だが、別世界だからといってここまで繋がりが強くなるだろうか。それ故に、僕とミラ殿、アスラージ殿は1つの仮説を立てた。すなわち───“僕達のいた世界がこの世界の過去だったのではないか”。事実、この世界に僕らの伝承がないが、遥か遠い過去の英霊として召喚されている可能性もある。その前例が、リッカ殿の持つ預言書だ。この世界に“預言書の伝承”はないらしい。だというのに、預言書は英霊としてそこに在る。レンポ殿の話では、この世界は何度か完全に滅びているらしい。完全に滅びる、とはその世界そのもの───宇宙から丸ごと消滅する、ということらしい。そして、その完全に滅びたのが一番最近起こったのが、リッカ殿の前の主の時だという。つまりリッカ殿は、この世界最初の預言書の主ということになる。本来、宇宙ごと滅びている関係上、当然歴史なども失われている。故に英霊として召喚できる可能性など無いに等しいのだ。しかし───何故、“精霊のしおり”がある?預言書の顕現と同時に現れたのかもしれない。だが…もしそうならば、預言書の元に現れればいいだろう。何故、森、氷、雷は各地に散っている?顕現時期も預言書が現れるより前だという。そしてもう1つ、カルデアでは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだという。レンポ殿とミエリ殿の反応からして、預言書に関係のあることなのは明らかだ。それを見た途端、レンポ殿がこう言ったのを覚えている。“そいつはリッカに渡しておけ。時が来ればそいつがどんなものかは分かるだろう。”───伝承がないのにも関わらず英霊召喚システムに引っ掛かった。それは、僕達とよく似ているのだ。

 

「リューネちゃん?」

 

いつの間にか、僕の顔を不思議そうな顔で見つめているリッカ殿が目の前にいた。

 

「……あぁ、すまない。少し考え事をしていた。どうしたかな、リッカ殿。」

 

「考え事…あまり悩みすぎないでね?えっと…ギルとアル知らない?」

 

「英雄王と無銘殿?」

 

周囲を見渡すが、確かにその姿はなかった。

 

「…いや、知らないな。」

 

「そういえば総督の姿と無銘の姿が見えないねぇ。どこにいったんだか…」

 

「いつもなんだけど…霊脈地点に着くとギルもアルも何処か行っちゃうんだよね…」

 

「男と女の二人っきりねぇ……なんか怪しいこととかやましいこととかしてるんじゃないかい?ほら、総督は男だし…無銘は女だろう?」

 

「無銘さんに関してはそれはないと思うけど…あの子その辺りも全く知識無いから」

 

「……例えそうだったとしても、私はギルとアルが好きだな…」

 

「先輩…!?」

 

「マシュは…好きな人とかいる?」

 

その問いにマシュ殿が困ったような表情をした。

 

「すみません…まだよく分からないんです。」

 

「……そっか。答えはゆっくり探していくといいよ。ミラちゃんは?」

 

「私?私は……どうだろう。私に自由に誰かを好きになる資格なんてあるのかな…」

 

ふむ……?ミラ殿は好きな人を作ることに少し否定的な気がするな。

 

「……何かあったの?幸い、ここには女の子しかいないから、まだ気は楽だと思うけど。…まぁ、女の子って噂好きな子が多かったりするからあまり話すのはいいとは言えないかもだけど。」

 

通信の方は切ってあるため、実質ここにいるのは女性ばかりだ。たまにはこういう話をするのもいいかもしれない。

 

「…うーん。どう話していいものかなぁ。ほら、私って元々王族だし…結婚する人って一応決まってるんだよね」

 

「あぁ……許婚かぁ」

 

「お父様もお母様も、そのお相手の人も私に本当に好きな人が出来たならばこの約束は解消してくれていい、って言ってくれてるし…そのお相手の人もいい人なんだよ。だけど…問題は、私自身の方。」

 

「技術顧問サマの?」

 

その問いにミラ殿が頷く。

 

「正確に言えば、私にかかる4つの呪い───1つ、“短命(その生命、常に死の淵なり)”。2つ、“低身長(その背丈、年齢に見合わず)”。3つ、“病弱(その生気、常人よりか弱し)”。4つ、“不老不変(その肉体、決して老いず決して変わらぬ)”。この4つが問題なの。短命の私は…老いない私は。()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「あんた……」

 

「あの時、ドレイクさんが私に反応したのは不老不変の呪いにだと思う。老いないし、変わらないんだから。…ごめん、なんか変な話して。」

 

「……いや、なんかすまないね。呪い、ってことは望んでそうなったことじゃないんだろう?そんなのにつっかかっちまって、すまないねぇ。」

 

「不老不変に関しては、偶然だったとしても望んでそうなったことだから。」

 

………?どういうことだろうか。

 

「私の話はこれで終わりかな…リューネさんは?」

 

「あ───僕かい?僕は───」

 

ない、といいかけて声が止まる。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや……」

 

僕の脳裏に浮かんだのは夫婦のようだという言葉をかけられる僕達。それを言われて少し困ったかのように笑うルーパスの表情。あれは、一体いつだったか───確か14歳の、バルバレに行ったときだっただろうか。バルバレに限らず、様々な場所に行く僕達は、所々で夫婦のようだと言われたのだ。そしてそう言われる度に、ルーパスは困ったように笑って言うのだ。“リューネも女の子なのにね。リューネも私と夫婦だと思われるのは困るんじゃない?…まぁ、だからと言って離れるつもりもないけど。”───僕は確か、いつも“気にはなるが別に困りはしない”と答えていた気がする。

 

貴女は……私のことが……好き、なの?

 

不意に、冬木でのルーパスの言葉が蘇った。あの時は唐突で噎せてしまい、曖昧になってしまったが…実際のところ、僕はどうなのだろう?僕は……ルーパスに対してどう思っているのだろう。僕は……ルーパスにどんな想いを向けているのだろう……

 

…ま、いっか。今は。落ち着いたら、答えを聞かせてね。

 

僕の答え……ルーパスは、僕の幼馴染みで、親友で……そして……大切な人、というのは分かるが。それ以外に…僕は彼女に何かを想っているのか?

 

「リューネちゃんっ!」

 

「はっ!?」

 

「反応しないからどうしたのかと…」

 

いけない、少し考え込みすぎていたようだ。

 

「何か考えていたの?」

 

「いや、何も…!断じてルーパスの事を考えていたわけではないぞ!?」

 

「「……暴露しちゃってるし。それ十中八九その人のこと考えてたパターンだから……」」

 

「……っ!はうぅぅぅ……」

 

自爆しちゃった……顔が熱い。

 

「顔真っ赤……」

 

うぅ……恥ずかしい……

 

 

───ォォォォォ……

 

 

「……?」

 

不意に、私の耳が何か妙な音を捉えた。

 

「…何か、聴こえなかった?」

 

「何も───っ!?」

 

ミラさんが顔色を変えて空を見上げた。

 

「……結界?どうして、いきなり……」

 

「結界───ミラさん、それは確かなのですか?」

 

「うん…一応、船に戻ろうか。英雄王と無銘さんの反応も船の方に向かってるし。」

 

私達は頷いて、船の方に戻ることになった。……答え…か。




ギリギリでした

裁「お疲れ様。」

淵源…

裁「頑張って」


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第127話 雷光と魔法少女、それから女神

“雷光と魔法少女”ってフェイトさんみたい……

裁「ところで遅れた理由」

………


「うーん……」

 

私達は船の方まで戻ってきていた。

 

「……ダメだねぇ。全く動きやしない。技術顧問サマ、どうにかならないのかい?」

 

「いやさすがに結界がいきなり現れるなんて予想の範囲外だよ。私が設定した反撃障壁は外部からの攻撃に対して効果を発揮するもので、結界には基本的に効果がない。対結界…というか、あらゆるものに対する反撃障壁もあるけど、構築に相当な時間がかかるよ。そもそもそっちは連言術式(スロースペル)だから一人で構築するのは向いてないし…」

 

「そうかい…」

 

「……こんな状態じゃ、結界を破壊したとしても意味はない。確かにこの結界を破壊することも出来るだろうけど……たぶん、これ内部の存在を閉じ込める形式の結界だよ。とはいっても、私は本来召喚術式専門だからそこまで正確なことは言えないけど……」

 

〈……いえ、ミラさんの予測通りですよ。これは内部にいるものを閉じ込め、外に出さないようにする……迷宮(ラビリンス)の結界です。…あの、リッカさん、ローマといい今回といい…迷路に好かれてませんか?〉

 

「どうだろう……」

 

「ともかく、この先どうすればいいんだい?」

 

〈ここが迷宮の中でしたら、ローマでリッカさんがやった通り、出口を探して果ての壁を破壊すればいいんです。出口ということもあって、果ての壁は他の壁よりも耐久値が低く設定されていますから。……ですが。ここが既に迷宮化している以上、出口を探すのは難しいでしょう。〉

 

壁なき迷宮(Labyrinth without walls)……」

 

「するってぇと…なんだい?結界とやらの出所を潰すなりしてやればいいのかい?」

 

「術者を倒せば大体の術式は消滅する。攻撃術式で結界の耐久を上回るよりもそっちの方が早い。」

 

「そうかい…」

 

「どうした、怖気づいたか?」

 

そのギルの問いに船長は首を横に振った。

 

「まさか。困難、トラブルには財宝が付きものさ。早速行きたいんだが、あんた達はどうする?」

 

「リッカ殿に従おう。」

「右に同じく。」

「…リッカさんに。」

「旦にゃさんに従うにゃ。」

「私も同じくですのにゃ。」

「ウォン」

 

アルとリューネちゃん達、ミラちゃんは私の言葉を待つみたい。

 

「異議なし…原因の解明は必要だと思うし…それと…」

 

「うん?」

 

「…レンポくん?」

 

「あぁ……」

 

この島に来たときからずっと…レンポくんは岩山の方を見つめていた。多分…()()が、いる。

 

「事情がありそうだねぇ。まあいいか。これでいいかい、総督。」

 

「構わん。案内は我がしてやろう。奥深くはあるが、隠すのが雑であったゆえな。探すのも容易であったわ。」

 

「よし、決まりだ!野郎共、行儀よくダラダラしてな!本番は海の上なんだ、無駄遣いするんじゃないよ!」

 

「了解でさぁ!姐御達も気を付けてくだせぇ!」

 

「島の次は迷宮とな……冒険染みてきたな?」

 

その言葉に私は苦笑する。……迷宮、か。

 

 

そうしてしばらく飛んで(ミラちゃんが飛翔術式と連動飛翔術式かけてくれた)私達は岩山───正確には、岩山に不自然に開く穴の前にいた。

 

「ここが入り口かい?確かに岩肌にこさえたような感じだけど…」

 

この感覚───間違いない

 

「───何か、いる。」

 

「ふむ…マスターは気がついたか。ここに何かがいるのは間違いない。そして、ここが結界の基点であるのも間違いない。生意気なことよな、侵入を阻む気もないとは。」

 

「なにより、他の場所よりも血の匂いが濃いな。何があるか分からない、十分に注意した方がいいだろう。」

 

〈幸い、カルデアからのサーヴァント召喚は可能なようです。どうしますか?〉

 

召喚が可能…なら、現控えサーヴァント33騎の中から選ぶべきなのは───

 

「お願い、“清姫”!あなたの力を貸して!」

 

「───迷宮の踏破がお望みなのですね、ますたぁ?」

 

私が選んだのは清姫さん。確か、清姫さんには嘘か真かを見破る力があったはず。

 

「また助っ人かい?…さっきの男と違って、ずいぶん立派な召し物だねぇ。姫様かね?」

 

「えーと……確か国造───なんて言っていいかな、地方を治める人の娘さんだったはずだから、お姫様で間違いない…のかな?」

 

清姫さんの情報って私持ってるの少ないんだよね…

 

「ふむ、そうか。貴様が持つは真と偽を見抜く能力───それを使い、迷宮の案内をするというのか。」

 

「えぇ───迷宮=人を欺く=嘘。あらゆる罠、仕掛けを暴いてみせますとも。……もっとも、ますたぁの直感があれば必要なかったかもしれませんが───」

 

「お願い」

 

「…分かりましたわ、ますたぁ…その期待に応えて見せましょう。お手を。」

 

そう言われて私は清姫さんの手を握る。

 

「離さないでくださいまし。迷われては大変ですので…」

 

「うん…マシュも手を繋ご?」

 

「あ───はいっ。」

 

「総督、アタシ達も手を繋いでみるかい?」

 

「引き金から手を離すでないわ、たわけ。我らが今すべきは、マスター達が安全でいられるように警戒することよ。」

 

「それもそうか。さ、行くとしよう。」

 

 

それからというもの───

 

「分かれ道…」

 

「右が正解ですわ。」

 

「ま、また分かれ道です…」

 

「今度は左ですわね。」

 

分かれ道はすぐに見破られて…

 

「あ、分かれ道…」

 

「……どちらも嘘。こちらですわ、ますたぁ。」

 

「き、清姫さん?───って、あ。」

 

「騙し壁でございます。まいんくらふとなるげえむにもあるでしょう?」

 

「絵画の隠し通路…」

 

そういえば私もそんな建築してたっけ…

 

「なんだい、行き止まりじゃないか!」

 

「いえ……ここですわね。」

 

 

カチッ…ズズズズ……

 

 

「か、回転扉………!?」

 

「いいねいいねぇ!面白い迷宮じゃないか!」

 

色々なギミックもすぐに見破られる…

 

「ふん、やるではないか……蛇だからといって敬遠してはいたが、やはりものは使いようというものか…」

 

「ふふふ…お役に立てて何より───嘘ですわ!」

 

「何?───ぬっ!?」

 

「英雄王、下がって!」

 

動き出した宝箱に、ミラちゃんの放った火属性の砲撃が直撃する。あれは───ミミックだ。

 

「倒し切れてない───無銘、スイッチ!」

 

「はいっ!───やぁぁぁぁ!」

 

ミラちゃんと入れ替わるようにアルが片手棍をミミックに振るう。宝箱の擬態をするミミックに対して、粉砕系の攻撃は効くと判断したんだと思う。実際、アルの一撃がとどめになったようで、ミミックは動きを停止した。

 

「ふぅ…」

 

「あはは、一杯食わされたねぇ、総督!」

 

「ぬぅ……!この我が嫌うエネミーを用意するとは!訂正しよう、本気であるなこの迷宮は───!!」

 

……とまぁ、そこまで緊張感もなく迷宮を進む私達だった。っていうか、ギルに関してはダークソウルシリーズで何度も同じことやってるんだからいい加減覚えようよ……何度貪欲者に引っ掛かって何度死ねば気が済むの?……ダークソウル3、いつ出るかなぁ…

 

 

そして、またしばらく進んでいく。ギルはまたミミックの擬態に引っ掛かってたけど…

 

「ふむ……大分奥へと来たとは思うが。しかし変わり映えがせぬな。やはり内装にもこだわるべきか……?」

 

「迷路は無地な方が難しいと思うよ?迷わせるのが目的なわけだし…」

 

「む…難しいな。」

 

「お兄ちゃんと孔明さんの作った迷宮大結界がいい例だと思うよ。」

 

「星見屋なのに迷宮まであるのかい?一体どんなところなのさね。」

 

「なんだろう……?」

 

言われてみるとなんだろう……

 

「楽園……ではないな。我らがカルデアはその域には達していないであろう。理想郷……でもないか。むむむ…」

 

「集会所、ともいえないな。その域を越えている気がする。」

 

「…まぁ、面白そうなところみたいだし、行ってみたい気はする───」

 

「…皆様」

 

そんな時にかけられた声。清姫さんの声が案内している時と違う気がした。

 

「どうやら───いらっしゃったようですわ。」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

清姫さんの警告と、その存在が現れるのは同時だった。

 

「!この声───間違いない!あのとき聞いた、妙な音の───!」

 

そうだった。リューネちゃんは何かの音を聴いてたんだった。あのターミナルの場所から、ここの音を聞いた───?

 

「う…うぅ……!」

 

大きな1対の斧剣、大柄な体、牛の頭───巨大迷宮?───そうか、ここは()()()()()()()()()()()()()()!!なら、その中にいたこの人は───!!

 

「───“アステリオス”」

 

「───!?」

 

「先輩、下がってください!アステリオス、ということは───」

 

「………」

 

「……先輩?」

 

その人は、私達を襲うこともなく───私を見つめていた。

 

「………おまえ」

 

「……」

 

「いま……おれを、あすてりおす、って……よんだか?」

 

私は小さくうなずいた。アステリオス───またの名をミノタウロス。アステリオスが本名で、ミノタウロスは歪められた名前。出ることの出来ないとされる迷宮ラビュリントスに閉じ込められた怪物たるもの───

 

「……おまえ、たち…もしかして…」

 

彼が武器を下ろす───警戒が解かれたのだと思う。それと同時に、2つの足音。

 

「アステリオス、無事!?」

アステリオス様、無事ですか!?

 

───え?

 

よかった…怪我はそこまでしてないそうですね。

 

「うあ……えす…な……」

 

「全くもう……心配させるんじゃないわよ!」

 

「あれ……ステンノさん!?」

 

マシュの言う通り、その内の1人はステンノさんによく似ていた。

 

「なに?あんたたち、(ステンノ)を知ってるの?」

 

「え……?」

 

「ふむ、この様なところで子守りか?」

 

ギル達はステンノさんらしき人に集中してるみたい───だけど。私とミラちゃん、リューネちゃん達───つまり狩人組は、もう1人の人物に注目していた。

 

無茶はしないでくださいませ。あなたが無茶をして傷つけば、彼女が傷つくでしょう。

 

「…えすな……なに、いってるか…わから、ない……」

 

その、言葉は───紛れもなく、竜人語。そしてその容姿。水色の服に黒い長い髪、緑色の目───美しいと言えるその姿。船員の人に聞いた話と酷似している。

 

回復…は大丈夫なようですね。……うん?

 

その女性がこちらをみた。そして、驚いたような表情を浮かべた。

 

………姉様

 

え?

 

………ミル姉…様……?

 

その視線は、ミラちゃんに注がれてた。そしてそのミラちゃんも、彼女のことを信じられない、というような表情で見つめていた。

 

……エスナ?エスティナ…なの?

 

…っ、ミル姉様っ!

 

その人───エスナさん?はいきなりミラちゃんに抱きついた。……どういう、こと?




うーん……

弓「どうした」

体力尽き


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第128話 姉妹と洞窟

それなりに早く組めました……

裁「姉妹……」


あのあと、私達はそのラビュリントスの中で、ステンノさん───じゃない、エウリュアレさんの話を聞いていた。ミラちゃんはエスナさん(ミラちゃんがちょっと話してくれたところではエスナっていう人らしい)と話をしてる。

 

「紛らわしいのよっ!!アイツらの手先だと思ったじゃないのっ!!」

 

「そ、そう言われましても…私達も閉じ込められるとは思っていなかったわけで…」

 

「ふん、反省しなさいよねっ!!」

 

「態度がいちいちでかい小娘だねぇ。自分の立場分かってるんだか。」

 

「なによ、成長しきった女はお呼びじゃないわよ?」

 

「よし、リッカ。こいつ吊ろう。女神っぽいし女神像の変わりにでもなるだろう。なにかフック的なの持ってないかい?」

 

「待って、船長……」

 

目が本気だったからさすがに止める。

 

「…ええと……女神様。あなたは何かから逃げていたのですか?」

 

「…?えぇ、そうよ。アステリオスの力で迷宮を作り出して、追っ手を阻んでいたのよ。」

 

「追っ手……それは、一体?誰なのでしょうか?」

 

「誰、って……ソイツと一緒ね。」

 

「アタシかい?」

 

確かに、エウリュアレさんの視線は船長に向いていた。

 

「一緒なのは、“海賊”っていう点だけよ。」

 

「海賊……どのような、ですか?」

 

「どのような……ううん…」

 

私の問いに、エウリュアレさんが考え込む。

 

「………気持ち悪い。」

 

「「「「「………へ?」」」」」

 

私、マシュ、船長、リューネちゃん、アルは同時に声を上げた。

 

「だから。気持ち悪いやつなのよ。ギリシャ見渡してもそんなやつがいるかどうかわからないわ。しつこく付きまとってくるうざったくて気持ち悪くて……なんだったかしら、デュフフデュフフ…だったかしら?そんなこと言ってたわね。恐怖なのかわからないけれど、寒気を感じたわよ。」

 

「なんですかそれは……強い、怖いならまだしも…気持ち悪い、ですか?先輩、分かりますか?」

 

マシュにそう言われて、私はエウリュアレさんを観察する。ミラちゃんほどでないにしても(というかミラちゃんは低すぎるんだけど)低い身長、普通にしてても目立たない胸の大きさ。全体的に華奢な体つき───ロリ体型と言われるような体型に近い。

 

「………ょぅι゛ょ……フェチズム………なんとなく、心当たりがあるような気がするんだけど……英雄だし、それは流石に……いや否定するわけじゃないけど。ともかく……女神様。あなたはこの場所にいたいですか?」

 

「この場所にいたいか……?」

 

「この場所は、狭い───ひっそり閉じ籠っていたいですか?」

 

ゴルゴーン三姉妹次女、“エウリュアレー”。エウリュアレーとは、“広く彷徨う”と言う意味を持つとされている───姉のステンノーと共に妹のメドゥーサが怪物にされたことに抗議したという妹を溺愛する姉のもう片方。元々ゴルゴーン姉妹は美しい娘で、メドゥーサ以外は不死であったものの、メドゥーサがアテーナー女神の怒りで怪物にされ、抗議した姉2人も怪物の姿にされたという───

 

「それは……」

 

「私が推測した限りでは、あなたは子供のような……そうですね、自由に遊び回るような方だと思いましたが、じっとしているのは耐えられますか……?」

 

「………なんか、言い方ムカつくけど……でも、そうね。狭いところなんて嫌い、言ってしまうなら広いところで動き回りたいわ。でも…仕方ないじゃない。私は無力なのよ?サーヴァントと化して、少しは強くなっているけれど……私は基本弱いもの……!言葉の通じないエスナなんてどうしようも出来ないし、アステリオスをこの場所に1人置いていくわけにも……!!」

 

まぁ、言葉が通じないのはたぶん当然じゃないかな……っと。それは置いておいて……

 

「でしたら…私達と共に行きませんか?」

 

「え…?」

 

「そういうことかい…面白いねぇ。」

 

面白そうにする船長、ポカンとするエウリュアレさん。それに、私は畳み掛けるかのように言葉を繋ぐ。

 

「私達は旅をしています。この広大な海を渡る旅を。きっと、お二方をお守りしながら航海を続けられるでしょう。アステリオスさんと共に、海へ出ませんか?」

 

「おれも…いっしょ?」

 

そのアステリオスさんの言葉に私は頷く。アステリオスさんは、私を見て少し考えてから口を開いた。

 

「……えすなは?」

 

「エスナさんに関しては、ミラちゃん…あそこでお話ししている子にお願いしておきました。エスナさんに分かる言葉で話しますと、お二方には分かりませんので…」

 

竜人語を用いるミラちゃん達と、普通に話せる私達。違いは恐らく生きた世界の違いだけど、今回のことで竜人語を使う人と、普通に話せる人を混ぜるのは結構難しいって分かったし…それと、エミヤさんの話だと、サーヴァントとして召喚された際、その時代・場所の基本知識や言語は与えられるらしい。でも、ミラちゃん達の世界から来た人たちにはそれがない。それが別世界だからという理由なのか、カルデアだからという理由なのか…もしくは、全く別の理由なのか。それはわからないけれど。ついでに言うと、ミラちゃん達の肉体そのものは人間とほぼほぼ同一で、神秘というものはそこまでないらしいんだよね。問題は武器で、ミラちゃん達の持つ武器がそれぞれ途轍もない神秘を秘めているんだとか。大体の武器がA+を越えてるらしい。流石にミラちゃん達も苦笑いしてたけど…一番強いのはやっぱり禁忌と呼ばれる存在の武器で、EXを示す古龍種達の中でもさらに高いんだって。ダ・ヴィンチちゃんとか困惑通り越して呆れてたもん…

 

「どうする?アステリオス。」

 

「……えうりゅあれ、と、えすな、が、いく、なら、ついていく。」

 

「……そう。そうね…ここにいるよりは外に行った方がいいかしら。」

 

「……船長」

 

「あぁ、別に構わないさ。問題があるってんなら、すぐにでも止めてたしさ。」

 

船長の言葉とほぼ同時に、ミラちゃんとエスナさんがこちらに近づいてきた。

 

「話は終わったよ。翻訳…だっけ。それは私がするから、リッカさんはエスナと話してもらえる?」

 

私が頷くと、エスナさんは私を見てスカートの裾をつまんで一礼し、口を開いた。

 

はじめまして。先程はお恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。(わたくし)はエスティナ。東シュレイド第二王位継承者の“エスティナ・シュレイド”と申します。民からは“エスナ”、もしくは“エスティ”と呼ばれておりますので、よろしければそうお呼びくださいませ。

 

こちらこそはじめまして。人理継続保証機関フィニス・カルデアの藤丸リッカです。

 

私の言葉に、エスナさんは驚いた表情をした。

 

…驚きました。まさか、この世界で私共の言葉が分かる人が居られますとは…

 

ここにいる何名かは竜人語───あなたのいた世界の言葉を話せます。とはいえ、この世界出身と考えてしまえば、私のみになってしまいますが…

 

…そう、ですか…やはり、ここは私共のいた世界ではないのですね。

 

つかぬことをお聞きしますが、ミラちゃ───じゃない、ミラ・ルーティア・シュレイド様とはどのようなご関係で…?

 

確か、エスナさんは“ミル姉様”って呼んでた気がするけど。

 

ミル姉様ですか?ミル姉様は、私の姉なのです。そして、私の尊敬する召喚術師様でもあります。

 

実際付与とかはエスナの方が技術上だよね…?

 

あ、そうなんだ。

 

私なんてそれだけですもの。ミル姉様は私よりも遥かに高い技術を持ち、あらゆる術を使うと言われていますわ。

 

……それでも、特化した人に私の技術は及ばない。私の付与は、エスナには負けるよ。

 

そうでございますか…

 

なんだかんだ、仲は良さそう。

 

「はじめまして、ミス・エスナ。私はマシュ・キリエライトと言います。失礼ですが、あなたのクラスはなんでしょうか…?」

 

マシュの問いを、ミラちゃんがエスナさんに翻訳して伝えてくれた。

 

クラス、というものが何かは分かりませんが、不思議とキャスターという言葉が思い浮かびます。マシュ様、これがクラスというもので間違いないでしょうか?

 

「恐らくは。キャスター…魔術師のクラスですね。ありがとうございます。」

 

マシュがそう言うと、エスナさんは私に向き直った。

 

ミル姉様から、リッカ様方の大体の事情は伺っております。なんでも、奪われた未来を取り戻す旅をされているとか。私としましても、人々の未来がなくなっているというのは我慢なりません。私程度でよろしければ、皆様に助力いたしましょう。

 

そう言って私に手を差し出される。私はその手に一瞬躊躇ってから重ねた。

 

こちらこそ、よろしくお願いします。えーと……エスナ様。

 

様、などと必要ありません。お好きなようにお呼びくださいませ、リッカ様。

 

とりあえず仮契約は済ませて、エスナさんも私達についてくることになった。

 

「さて、これで終わりかい?」

 

「いいえ───ついていくにはもう1つ、条件があるわ。」

 

「なんだい、この期に及んで。」

 

「……アステリオス、例の場所へ。」

 

「ん。ついて、きて。」

 

「肩に乗せなさいよね、アステリオス。」

 

「う、う…」

 

「きゃぁっ!ちょっと、もう少ししゃがみなさいよ!?あなた背が高いんだからそのままだったら私が天井にぶつかるじゃないの!」

 

「………ミノタウロス、といえば生贄に捧げられた子供を食い殺す怪物のはずですが……先輩?」

 

「……どんなものも、先入観とかだけで判断しちゃダメだってことじゃないかな。」

 

「何してるの、早く来なさいよね!」

 

「女神様は注文が多いねぇ。」

 

船長の呟きを聞きながら、私達は迷宮のさらに奥に進む。

 

 

そうして歩き続けてしばらく経つと、行き止まりに行き着いた。

 

「───ここ。」

 

「ここ……?」

 

「ここ、おれ、の、とじこめ、られた、ばしょ。」

 

閉じ込められた場所───ってことは…

 

「迷宮の最奥……?」

 

「ん。だいじょうぶ、おれが、いれば、かえれる、から。」

 

でも、どうしてここに……?

 

「……これ。」

 

そう言ってアステリオスさんが指したのは、床に空いた大穴だった。

 

「おれが、いきて、いたころ。これは、なかった。」

 

え……

 

「おれの、ほうぐは、まよわせる。おれの、いた、ばしょ、を、つくる。それ、なのに、いきて、いた、とき、なかった、ものが、あった。」

 

「それがこの大穴…?」

 

「ん。」

 

私は大穴の中を見る……寒い?

 

「こいつは………」

 

レンポくんとミエリちゃんが大穴のなかを見る。

 

「……間違いねぇ。このギスギスとした感覚───アイツがここにいる!!」

 

だとしたら…行かないといけない。特に私は。

 

「いく?」

 

そのアステリオスさんの言葉に頷く。

 

「わかった。」

 

「危険です、マスター!私もいきます!」

 

「ついてくるななんて言ってないよ?来てくれた方が、私は安心できるし…」

 

「あ……」

 

「行くと決めたならば早く行こうではないかカルデアに残る者達が心配するゆえな。」

 

ギルの言葉に頷いて、私達はその穴の中に飛び込んだ。

 

「「「「…………くしゅんっ!」」」」

 

マシュ、アル、アステリオスさん、エウリュアレさんは思いっきりくしゃみしちゃったけど。

 

「お、思ったより寒いですね……」

 

「そうだね……」

 

私はアイテムポーチに入れておいた冬用の上着をアル、マシュ、アステリオスさん、エウリュアレさんに渡した。

 

「……いいの?」

 

「うん…」

 

エウリュアレさんすごく寒そうだし…

 

「……しかし、リッカ殿。それだと寒いだろう?僕ので良ければ貸すが……」

 

「…いいの?」

 

「問題ない。」

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

私はリューネちゃんにマフモフ一式を借りて着替えた(以前のジャンヌさんみたく、着替え中はギルが私の姿を隠してくれた)。

 

「さぁ、行こうぜ!」

 

私は頷いて、穴の中にあった氷付けの道を進み始めた。




うにゅ……

弓「大丈夫か、マスター。」

無理……ほぼほぼソロ専の人間にとってマルチは結構辛い……

弓「言っておくが?」

私はソロだ……って何言わせてんの……


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第129話 氷の迷宮

遅くなりました……

弓「遅い…何をしていた」

書いている途中に寝てました…


その頃、2015年の人理保障機関フィニス・カルデアはというと───

 

「はやく!はやく復旧するんだ!ギルに、そしてミラちゃんに怒られるぞ!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

「でも女王様には怒られてみたいかも…」

 

「誰だ今一瞬いた変態は!!あとミラちゃんを女王って言ったら嫌な顔するんだからね!?」

 

「だがそれがいい!!」

 

「ダメだこの変態(しょくいん)早くなんとかしないと……!」

 

「今なんて書いてしょくいんと読みました?」

 

「職員と書いてしょくいんと読んださ!いいから手を動かす!」

 

少々混沌と化していた。

 

「大丈夫よ、ロマニ。落ち着きなさい。」

 

「マリー!頼もしい、流石はカルデアの───」

 

「特異点の情報を渡しなさい。私の固有結界で全捕捉すれば、それで繋がるはずよ。」

 

「一番動揺してる───!?」

 

「疑似投射パス構築開始────内部構造稼働。固有結界で、かど───」

 

 

スパァン!!

 

 

その、オルガマリーの頭に叩きつけられるスリッパ。

 

「ええ……?」

「───痛った……!?」

 

「はー……やれやれ。何してるかねぇ。」

 

声と共に現れたのは、六花であった。

 

「六花…」

 

「事情はフォータからの直通通信で聞いてる。島に張られた結界で動けなくなり、通信も繋がらなくなってるらしいな。少し嫌な予感したから部屋からすっ飛んできてみれば案の定。せっかく拾った命なんだ、無駄にしようとすんな、マリー。」

 

「……はい。」

 

「えーと……リッカちゃん達は無事なんだよね?」

 

「あぁ…迷宮の結界に閉じ込められたみたいだな。前みたいに主がいないのか、はたまた宝具であるが故に主を存在させられないのか…それとも主からの制限が緩いのか。孔明の使った結界よりも断絶は弱い。」

 

「そ、そうなのか…」

 

「…アドミス」

 

〈はい、なんでしょうかマスター。〉

 

「フォータとの直通通信を繋いでおけ。」

 

〈分かりました。〉

 

その言葉にカルデアスタッフ達がぎょっとした。

 

「……んだよ。」

 

「いや…いいのかい?」

 

「何がだ。」

 

「直通通信だよ。」

 

「……別に構わねぇよ。弟子のためにも、妹のためにも…早く手は打たねぇといけねぇだろうが。」

 

「それは…そうだけど。大丈夫なのかい?」

 

「心配すんな。カルデアが復旧するまでは持ちこたえてみせるさ…すまん、集中するからあとは頼んだ。」

 

直通通信───言葉の通り、直接通じる通信のことだ。具体的には───六花が持つ心情、第一の固有結界たるもの───“集合せし双面の花園(ワールドガーデン・ザ・クラスタービット)”へと。直通通信であるがゆえに、その通信で自発的に阻むような構造、つまりファイアウォールのような防壁機構は存在しない。故に───六花の心情は今、無防備になるのだ。

 

 

そして、視点は1573年の大海原へと戻る───

 

 

 

side リッカ

 

 

 

ラビュリントス最奥、そのさらに下に構築された氷付けの洞窟───アヴァロンコードで言えば“第三章 氷の精霊”で訪れる“トルナック氷洞”を進んでいるのであろう私達。

 

「しかし……驚いた。まさか、迷宮の下にさらに迷宮が広がっているとは思わなんだ。」

 

ギルがそう呟く。うん、ギルの言う通り…ここは、迷宮だ。それも普通の迷宮よりも足場が悪い、氷の迷宮。さらに、嫌らしいことに───

 

「そこ、落とし穴がありますわ。」

 

「わっとっと…」

 

リューネちゃんのいた近くの床が崩落する───こんな風に、落とし穴が結構ある。レンポくんとミエリちゃんの話では、落とし穴の先は奈落ではないにしろ落ちたら上がってくるまでが面倒くさそうだったみたい。

 

「…何か来ます」

 

「「「………」」」

 

「アイスゴーレム……蹴散らしましょう、マスター。」

 

氷で出来た泥人形(ゴーレム)…喋らないけど、私達を襲ってくる。一応迎撃はしてるけど無限湧きなのか一定時間後蘇生なのか…たまに前後を挟まれる。一応炎で溶かせば後ろに現れる確率は低いんだけど……

 

「戦闘終了しました───先輩?」

 

「あ、ごめん。考え事してた…」

 

「それはいいですが……気をつけてくださいね。」

 

その言葉に頷くと、清姫さんが止まった。

 

「……恐らく、ここが最奥ですわ。」

 

「行き止まりではないか?」

 

ギルの言う通り、一見行き止まりにしか見えない。

 

「……」

 

私は進行方向の壁に触れてみる。何かが起こるわけじゃないと思うけど───

 

「ねぇ、預言書が!」

 

そんな、ミエリちゃんの声。私の抱える預言書が、光を放っていた。

 

「………?」

 

預言書を自由にすると、ひとりでにそのページがめくられた。その光が収まった時、私の手元に落ちてきた預言書は見たことのないページが開かれていた。ついでに、扉には複数の穴。

 

 

この地に封じられし7つの欠片を正確に答えよ

 

一と七は対極にせよ

 

七の上は最適

 

一番左は零

 

七とは闇を1つ、鉄を6つ、望みを1つ、病を1つ用いるもの

 

 

私がその文面を伝えると、全員が怪訝そうな顔をした。

 

「7つの欠片………?」

 

「……この並び…メンタルマップじゃねぇよな。」

 

確かに4×4で最終に合うけど…扉に出来た穴に触れても何も起きない。

 

「………リッカ殿。これは違うか?」

 

そう言ってリューネちゃんが出してきたのはここに来る途中で拾った()()()()()。……そういえば、この氷には言葉が書いてあって、何かわからないけど持ってきたんだっけ───あっ。

 

「───7つの、欠片。7つの、溶けない氷……リューネちゃん、全部見せて」

 

「あ、あぁ。」

 

リューネちゃんがその氷を出してくれる。その氷に書いてあるのは───

 

 

一 氷精 一は零

 

二 氷河 一の側に、しかし見下ろされるもの、それが二

 

三 悪魔 一と七の狭間に三あり

 

四 精霊 四は一の側に

 

五 重厚 七の側に在るもの

 

六 選者 一と七の狭間に六あり、されど三よりそれは上位

 

七 魔剣 三を作りし魔剣

 

 

こんな感じになっている。小さめの氷なのに結構色々と書いてあるのだ。

 

「魔剣…」

 

闇1鉄6望み1病1───私はこれを、知っている気がする───




今日ホント眠すぎる……

裁「異常ではないの?」

多分…あとまた同じことしちゃったので削除処理かけました…


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第130話 氷の精霊と悪魔

……一週間大丈夫かなぁ…

裁「さぁ…」


私は直感で一番左上に一の欠片を嵌める。

 

「一の氷精はこことして───対極に魔剣……か。」

 

魔剣は闇が1、鉄が6、望みが1、病が1───どこかで、みた気がする。

 

〈……魔剣……っ!リッカさん!〉

 

フォータさん?

 

〈ダインスレフ、ダインスレフですよ!!〉

 

「ダインスレフ?」

 

〈預言書のメタライズ───“狂気の大剣 ダインスレフ”のメタライズ!!〉

 

「狂気の───大剣。あっ!」

 

すぐに私は預言書をめくってダインスレフのメタライズを表示させる。そこに書いてあったのは───

 

 

ダインスレフ

 

闇×1

鉄×6

望み×1

病×1

 

効果

攻撃力:60

クリティカル:3%

病のコードが入ると攻撃力アップ

 

はるか昔…

カレイラ王国ができるずっと昔…

地上に巨大な帝国があった。

それは、「救世主」と呼ばれる

存在をあがめ、魔物と共に世界を

支配していた。

 

帝国の四方に、抵抗する4つの

国があった。

その中のひとつ、東の国を滅ぼした

のが、アモルフェスという名の

うらぎりもので、帝国から

ダインスレフという名の剣を

もらったという。

 

ダインスレフはタマシイを食う剣。

持ち手であるアモルフェスの

タマシイをも食い、彼を魔物に

変えてしまった。

 

 

この通り。どうして忘れていたんだろう。ダインスレフは、私がストーリー攻略でよく使ってた大剣なのに……

 

「でも、対極って…?」

 

〈横の直線上、縦の直線上、対角線上…3つ考えられますが、恐らくは対角線上でしょう。〉

 

対角線上……

 

「ふむ…そう思った理由を聞かせよ。」

 

〈“一と七は対極にせよ”。これは、一の欠片と七の欠片が反対の位置にあることを示します。そして、“一は零”と“一番左は零”。これは、一の欠片の座標を直接的に示しています。これにより、一の欠片の場所は一番左の四つに絞れます。〉

 

そっか、零っていうのは欠片の番号じゃなくて座標を示していたんだ。

 

〈“一の側に、しかし見下ろされるもの、それが二”。これは位置関係を示します。一の側───つまりは、最大5つの穴のどれかに二が埋まります。見下ろされる───つまりは下の枠。この場合下、右下のどちらかが二になるでしょう。〉

 

「ふむ。」

 

〈“一と七の狭間に三あり”、これは三がどういう場所にあるかを示します。具体的に言えば、一と七の間の二枠。これだけでは、まだ3つの選択肢が残りますが……問題は、“一と七の狭間に六あり、されど三よりそれは上位”、です。〉

 

「ふむ。一と七の狭間に三と六があり、三よりも六が()()……つまりは、六の欠片が上段の枠に当てはまると?」

 

そう考えると……

 

 

     精□□□

     □者□□

     □□魔□

     □□□剣

 

 

ってことになるかな?で、二の欠片が見下ろされる、だから───

 

 

 

     精□□□

     河者□□

     □□魔□

     □□□剣

 

 

 

こうなる。

 

〈あとはもうわかるはずですよ。〉

 

「……でも、最適って……?」

 

「ここまで預言書関連のことって考えれば……恐らくは“最適な通り名”のことじゃねぇか?」

 

レンポくんが言った“最適な通り名”っていうのは武器に存在する通り名の中でも最適とされているもの───確か、ダインスレフの最適な通り名は───

 

「“重厚なる”、だっけ。」

 

〈消去法のように組めたのかもしれませんが……もしかしたら、溶けない氷はまだあったのかもしれませんね。〉

 

「そうだったら大変だなぁ……」

 

私は導き出した答えのように溶けない氷を壁の穴に嵌めていく。

 

 

     精霊□□

     河者□□

     □□魔厚

     □□□剣

 

 

 

全て嵌まった時、カチッ、って音がした。

 

「カチッ?」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ………

 

 

重い音を立てて、その扉が開く。……両開きのスライドドア……

 

「よっしゃ、やったな!…あ?」

 

レンポくんが開いた扉から中を確認する。……なんか、暗い。

 

「光よ……はい、リッカさん」

 

ミラちゃんが明かりを作ってくれた。

 

「道が続いてますね。……一本道ですか。」

 

清姫さんがそう言った。

 

「帰りもあるし、終わるまでいてもらえる?」

 

「分かりましたわ。」

 

私達はそのまま道を進む。しばらくすると、開けた場所に出た。

 

「……」

 

「どうしたのだ、マスター。少し不安気な顔だが。」

 

「……嫌な予感がするの。」

 

「……ふむ?心当たりはあるか?」

 

私は首を横に振った。だけど───

 

「お願い、皆……戦闘に入る準備をしておいて。女神様も、一応…」

 

「……分かったわ。」

 

「おっ?あったぜ!」

 

レンポくんがそう叫ぶ。そこにあったのは、青いしおり───

 

 

ゴォッ

 

 

「ちょっ、レンポ!」

 

その青いしおりが燃え上がる。……本編でも同じことしてたっけ。

 

「止めなくてよいのか?」

 

「あの二人、仲悪いからね……」

 

そう言うと同時に青いしおりが浮かび上がって私達に近づく。強い光を放ったと思ったら、しおりが青色の女の子に変化した。

 

「………!」

 

「首に……なんだい、あれは?」

 

「枷───レンポくんは触ることを封じられ、ミエリちゃんは歩くことを封じられてる。そして、彼女は───」

 

ドスン、とネアキちゃんがレンポくんに体当たりした。

 

「ぐおっ…へへっ、ひさしぶりだな!」

 

そのまま、彼女は後ろの氷を見る。

 

「うん?後ろ?」

 

 

───ゾワッ

 

 

「全員、下がって!!」

 

一瞬の悪寒。その言葉にみんな従ってくれて、私達は氷から距離を取った。それと同時に、破砕音。

 

「───げげ!あいつは!」

 

「礼を言うぞ!ようやく、長きにわたる封印より解き放たれた!」

 

───うそ。

 

「ちぃ、ネアキの力で封印してたのかよ!つーかなんでまだいるんだよ!!世界自体違うんだぞ、ここは!?」

 

「忌々しきは人間どもめ!復活せし救世主クレルヴォ様を再びなきものにしただけでなく、第一の腹心であるこの剣魔“アモルフェス”をもなくするとは!この身既に怨念であろうと我慢ならぬ!」

 

剣魔───“アモルフェス”。戦い方を分かっていないと苦戦する第三章ボス───!

 

「ぬ……それは預言書……グハハハハ!なるほど、それほどの時が過ぎたか!」

 

『……クレルヴォは既に倒れた。139億年前、彼女の手によって。』

 

「あなたがいたとしても、預言書があるとしても───あなたの主君はもういない!」

 

139億年!?うそ、そんなに前の出来事なの!?

 

「ふん、預言書があるならば方法はある。預言書の力を使い、我が主を再びこの地に現せば良いこと!そのためにも、どんな手を用いたとしても預言書を渡してもらう!ゆくぞ!」

 

「散開!」

 

私の指示で全員が部屋の四方に散る。私のことは近くにいたアルが抱えてくれた。

 

『全員そのまま聞いて!今のアモルフェスは爆弾しか効かない!もしかしたら船長ならそのままでもダメージ与えられるかもだけど、他はそうも行かないと思う!』

 

『真か、マスター!』

 

『原作の知識だけで言えば、だけど───必要なのは吹き飛ばし!!まずはアモルフェスからダインスレフを落とさせないといけない!』

 

『ダインスレフを落とさせる……まずは、ということは他に何かあるのかい?』

 

『ダインスレフを落とさせたらそれを破壊して!そしたら攻撃が通るようになるはず!』

 

『なら、ブラキディオスに───いや、バゼルギウスに頼んだ方が良さそうだが───』

 

『どうだろう…この狭い場所で、特にバゼルギウスは動きにくいと思う。あの子飛竜種だし。ブラキディオスも身体大きいから…』

 

『そうだったな…すまない。』

 

『パリィは無理か、マスター。』

 

『多分無理、っていうか出来たとしてもダインスレフを落とさせられるかどうか……!』

 

『……ふむ。吹き飛ばし…か。……すぅ……』

 

リューネちゃんがそう呟き、深呼吸したかと思うと装備を変えてその場で停止した。あれは───確か、“フィオレウノノワール”、通常型Lv.4のガンランス!

 

「小手調べ、とでも行こうか。爆発と言ったらガンランスだ、君はこの威力に耐えられるかい?」

 

「ぬかせ!小賢しい人間どもが、この剣魔アモルフェスを越えられると思うな!」

 

「人間を舐めちゃいけないんだがね……やれやれ───鉄蟲糸技、“地裂斬”」

 

リューネちゃんが翔蟲を放ち、その場所に向かって砲身を地面に擦り付けながらアモルフェスに接近する。

 

「ぬ!?」

 

「───あまり時間をかけたくないのでね。悪いが早めに終わらさせてもらう。────あ゛ぁぁぁぁぁ!!

 

直後、リューネちゃんのガンランスの先が爆発した。竜撃砲───か。




最近グダグダしててすみません…

弓「というか貴様、24,000UAと25,000UAの感謝忘れていたであろう。」

あ……26,000UA以上になってる……最近読まれ過ぎじゃない……?怖いんだけど……ともかくありがとうございます……これまで通りこの作品は月曜日から金曜日の間で毎日投稿になってるのでよろしくお願いします……

弓「いつの間にやらお気に入り100も近いのであるな。」

ほんと……超グダグダなのにいいの……?って感じ……

弓「……ところで貴様、今日は覇気がないな。」

いつもだよそれ……


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第131話 悪魔

遅くなりました……

裁「理由は?」

竜撃砲の冷却時間の調査とかその他諸々…


「ぬぐっ!しまった!」

 

リューネちゃんの竜撃砲でダインスレフが吹き飛ぶ。

 

「一斉攻撃!」

 

「おうさ!そら、くらいな!!」

「シャァァァァッ!」

「ふんっ!」

「そこです!」

「うおおおっ!」

 

船長、清姫さん、ギル、マシュ、アステリオスさんが一斉にダインスレフへと攻撃を仕掛ける。

 

「させぬわ……!」

 

それをみたアモルフェスが止めようとするけど───

 

 

ガインッ

 

 

「それは───僕の台詞だ。敵を目の前にして武器を落とし、そう簡単に拾わせると思うな…!」

 

「この……!」

 

「“ヘイル───カッター”!!」

 

ヘイルカッター、ガンランスの鉄蟲糸技───竜撃砲の冷却を早くする技。バゼル一式だし、冷却はかなり早いはず。

 

「硬いねぇ、この剣!」

「全く───皹すら入らないとは。」

 

そういえばダインスレフって単体でもまぁまぁ耐久値あった気がする…

 

「…アル、下ろして」

 

「マスター?」

 

不思議そうな声を出しつつも私の指示に従ってくれる。

 

「───システム、オンライン」

 

その場で踏み込みながら言葉を紡ぐ

 

「アシスト、アクティベート。」

 

背中に重み───肩の方に手を回す

 

「───スキル、ドライブ───」

 

いつの間にかあった剣を抜く───刀身の緑色発光を確認───

 

「全員避けてっ!是───」

 

私の声に瞬時に道を開けてくれる。発動するは()()()()()()───!!

 

「───“ソニックリープ”!!」

 

宣言と同時に私の身体が動き、私の剣がダインスレフを横から叩く。

 

 

パキッ

 

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

ダインスレフが折れると同時に悲鳴に近い声。恐らく弱体化───

 

「リューネちゃんっ、畳み掛けて!」

 

「承知した!小さくなろうが僕の耳を欺けると思うな…!」

 

リューネちゃんが色々使いながら小さくなったアモルフェスを追い始めた。

 

「マスター、さっきのは……」

 

「あぁ…うん。」

 

私のしてる指輪が発動させた片手剣カテゴリソードスキル“ソニックリープ”───試運転として渡された魔術礼装だけど、ちゃんと機能するみたい。

 

「ふむ、六花めの作か。」

 

「うん。お兄ちゃんこういうの作るの好きだから…」

 

「そうよな…ちなみに何が使えるのだ?」

 

「今は片手剣の“ソニックリープ”、“ホリゾンタル”、“スラント”の三つだって。」

 

「単発か…」

 

「今は“リニアー”の開発中とか言ってた気もするけど。」

 

そんな話をしてると───

 

「───!すまない、削りきれなかった!」

 

大体30秒───それがアモルフェスにダメージを与えられる時間だっけ。私達が破壊にかかった時間が8秒、ヘイルカッターで50秒短縮、砲術Lv.3で50%短縮だから基本100秒。100-50-38で───竜撃砲再使用まで、残り12秒。

 

「ハハハ!死ねい!」

 

「ルルさんっ、相手の弱りとかは───」

 

「既に弱ってますにゃ!いつものモンスターであれば既に捕獲できると思われますにゃ!!」

 

「───リューネちゃんっ、ガード!」

 

「───鉄蟲糸技“ガードエッジ”」

 

アモルフェスの滞空攻撃をガードエッジで防ぐ。捕獲ラインってことは瀕死、確か残り体力20%(?)とかって異世界のハンターさんが言ってたらしいから、第三章の個体なら残り520、強化個体なら残り1600…

 

「そら、お見舞いだ!────あ゛ぁぁぁぁぁ!!

 

再度の竜撃砲。弾き飛ばされた剣は私のほぼ目の前に。

 

「───“ホリゾンタル”!!」

「岩よ、岩よ───今こそここに落岩を起こさん。我が声に応えよ、剛力の岩───虹翔の奇術、六の式“大岩砕(おおいわくだき)”!!」

 

私のソードスキルとアルの虹翔の奇術がダインスレフに直撃する。

 

「そら、悔い改めるがいいさ!」

 

「ふん、今の我に攻撃したところ、で───!?ぬぉぉ!!」

 

言葉の途中で悲鳴のようになる。私達がダインスレフを破壊したからだ。そして、そのアモルフェスに刺さっているのは───竜杭砲。フィオレウノノワールは通常型だから15hit。

 

「ぬぅぅぅぅ!!」

 

「これで───終わりだっ!」

 

リロード、切り上げ、叩きつけ───

 

「───“フルバースト”っ!!」

 

そこからヘイルカッター、フルバースト、なぎ払い、竜杭砲と繋げる。

 

「うがぁぁぁ!!まさか、この我が───またも、人間などに───!!!」

 

「さっさと消えてくれ!“地裂斬”!!」

 

そう叫んだリューネちゃんがガンランスの砲身をアモルフェスへと叩きつけると、アモルフェスの動きが止まった。

 

「な……ぜ……だ………」

 

そう言い残し、アモルフェスは消え去った。

 

「………戦闘終了、ってね。」

 

リューネちゃんはガンランスを納め、こっちに振り返った。

 

「…本来なら、僕がやることじゃなかったのかもしれない。これで、よかったかい?」

 

私は彼女───ネアキちゃんを見た。

 

「………」

 

「ネアキもあなたを認めたみたい。戦闘にはほとんど参加してなかったけど、指示は正しかったみたいね。」

 

「相変わらず、何考えてるかわかんないヤツだ。」

 

「そんなことないと思うけどなぁ。」

 

「へっ、どうせろくでもないことしか考えてねえんだろ。」

 

そう言うと、レンポくんがネアキちゃんに体当たりされた。

 

「ぐお…」

 

『……139億年…前みたいに早いわけではなかった。でも、どうして突然。』

 

「そうだよね。なんでこんなに突然、預言書が現れたんだろう。」

 

「確かにおかしいけどよ…別にあの時が早すぎただけで、別に普通じゃねぇか?」

 

『……短絡的…それに単細胞……』

 

「んだと!?」

 

「ま、まぁまぁ……」

 

『……誰かが世界の崩壊を()()()()()()()()()()……?』

 

「そんなまさか……とも言ってられないのがリッカ達の現状なんだっけ。」

 

「ありえる……」

「ありえますね……」

 

普通にありえそうなのが怖いんだよね……うん?

 

 

汝が望む世界を問う。

 

地に住む者を育む街。

あたたかく守る住処。

 

汝の望む世界にていかなる形を現す?

 

 

これは───

 

「預言書が質問してきたね。どうする?あとで答えてもいいけど。」

 

ミエリちゃんがそう言った。答えは───

 

「あとで答えるよ。」

 

「そっか。じゃあ、石碑をスキャンして行こう!この時代の修正はまだまだ先だもんね!」

 

私が黄色い石碑をコードスキャンしたあと、私達は清姫さん、アステリオスさんの案内で迷宮を出た。

 

 

「デカっ!?え、姐御!つれていくんですかい!?」

 

「そうさ。この島で見つけた宝物だ、丁重に扱いな!」

 

帰ってきたぁ……

 

「さて、リッカ!号令をかけな!」

 

「わ、私…?」

 

「おう!あんたが宝物を見つけたんだ、野郎共よりは役に立ったさね!」

 

「ひでぇっ!」

 

え、ええと……

 

「……いいんじゃないか?一番得たものが大きいのは君だろう?」

 

リューネちゃん…

 

「わかったよ…んんっ───行くぞ野郎共!錨を上げろ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

声を低いのに変えて号令をかける。聞いたことない船長達は驚きの表情。

 

「錨は上がったな!よし、全員出きょう───変なところで噛んじゃったぁっ!!」

 

「「「「「ぶっ……あっははははははは!!」」」」」

 

は、恥ずかしい……!

 

「よし、また島を目指すよ!全員出きょうだー!」

 

「や、やめてぇ……」

 

は、恥ずか死しそう……!!




ちなみに一連のコンボでどれくらいダメージが出るのか私は知りません。

弓「おい……」

フィオレウノノワール持ってないのよ……


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第132話 黒髭惨状

ぬ………

裁「壊れた…」

ぬ…

弓「壊れておるな。」


出航前の噛みに私が恥ずか死を耐えてる最中───それは現れた。

 

「姐御!前方に船一隻───例の俺らを追い回していたヤツでっせ!」

 

順調な航海を阻むかのようにそれは現れて───

 

「うえぇ…あいつらよ、私を追い回していたのは!!」

 

───約数名の精神を削ったみたい。

 

「知ってるんですか、ドレイクさん?」

 

「あぁ…この海に来てから何度か追い回されてねぇ。ここで会ったが百年目、水平線の彼方へ吹っ飛ばしてやろうじゃないか!」

 

「ふむ…女神よ。貴様は後ろに引っ込んでおれ。宝が前に出るなど奪えと言っているようなものだ。」

 

「え、えぇ……そうさせてもらうわ。」

 

そう言ってエウリュアレさんは私達の後ろに隠れた。

 

「あの旗───どこかで。」

 

「ふむ…ドレイク」

 

「あ?」

 

「此度の戦い、我はほとんど手出しせぬ。主にマスターと貴様らだけで立ち会ってみよ。」

 

「へぇ?品定めするってのかい?」

 

「左様。貴様らがどれ程使えるか、見せてもらうとしよう。」

 

「あいよ。さぁ、行くよ!マシュ、リッカ!」

 

「はいっ!」

「う、うん…!」

 

「きやすぜ!」

 

 

それから───船員達の姿が見えるレベルで近づく。乗員は、紺色のコートを着た男性、黒い衣装の小さめの女性、赤い衣装の巨乳女性、緑色の服の男性。それからエイリークさん。

 

「………」

 

「聞いてんのかそこの髭ぇ!」

 

船長が怒鳴ると同時に、ピピッ、という音がした。

 

〈や、やっと復旧した……!全員、無事かしら!?〉

 

「ふむ、オルガマリーか。復旧ご苦労であった。」

 

〈いきなり落ちたからビックリしたさ!観測は出来てたからよかったけどさ…!〉

 

「次は不測の事態にも対応できるように励むがよい。」

 

〈はい!激励受け取りましたよこんにゃろー!〉

 

〈周囲の状況は把握しているわ!全員気をつけて、相手は世界最高の知名度を誇る海賊よ!!〉

 

「世界最高の───知名度。」

 

そのマリーの報告と───

 

「はぁ?BBAの声など全然聞こえませぬが?」

 

世界最高の知名度を誇る海賊───恐らく黒髭、エドワード・ティーチだと思われる人がそう言い放つのはほぼほぼ同時だった。

 

「───はっ?」

 

「え?」

 

「……ふん。」

 

……エスナ。龍属性Lv.4の付与、大砲にお願いできる?

 

属性付与……ですか?Lv.4ということは…60+30+30+30で…龍属性値150ですが。

 

属性値の計算初めて聞いた気がする。

 

〈彼の名は“エドワード・ティーチ”───どうしたの?みんな。〉

 

「BBA……やっぱりそう…?あ、こっちは大丈夫だよ。」

 

マリーの心配そうな声に答えて、成り行きを見守る。

 

「───いま、なんつった?」

 

「だからぁ───BBAはお呼びじゃないんですっての!何その無駄乳、ふざけてるの?あ、でも傷はいいよね。そう言う属性はアリ。でもねぇ…年齢がちょっとね?せめて半分くらいなら許容範囲なのですがね。拙者、なにせBBA属性は範囲外なものでwヌルフフフフフww」

 

殺せんせー?

 

「フォーウ……」

 

「………」

 

「船長?船長。───返事がない、ただの屍のようだ…(精神的に)」

 

まぁ、分からなくもないけど……

 

「しっかりして、船長!」

 

「気を引き締めて。傷は深そうだけど……」

 

「あっ!あれよ、特に私に執着してきたの!!」

 

私達の前に出るエウリュアレさん───ちょっと!?

 

「ばか野郎!宝って言われてたヤツが姿を見せてどうすんだ!」

 

「この、たわけが!!貴様が姿を見せたということは────」

 

「ひょぉぉぉぉぉぉ!!エウリュアレ氏、エウリュアレ氏ではありませぬかぁぁぁぁ!!」

 

「あっ……」

 

「……はぁ。だから言ったのだたわけめ……」

 

呆れるギル。…まぁ、分からなくもないけど。

 

「ウッヒョォォォォォ!拙者でござるぞエウリュアレ氏!遠い遠い昔からある言い伝えからエウリュアレ氏を愛しておりました黒髭でございます!初めて出会ったあの日のようにまたエウリュアレ氏との恋におちた黒髭ですぞ───!」

 

どっかで聞いたことあるような……

 

「あぁもうかわいい、カワイイ、kawaii!!prprしたい!prprされたい!もはやこの出会いは星に定められた運命なのですぞ───!!」

 

「もうやだ……」

 

棒読みちゃんの速度1コマンドみたいな感じだったんだけど……

 

「うぅ……!」

 

そのエウリュアレさんの前に、アステリオスさんが立つ。

 

「は?ちょっと、そこのでかいの!邪魔、邪魔なのでござる!地上波放送や動画の仕事する隠し絵ですかな!?」

 

あー……あれ入れるの意外と面倒なんだよね。たまに仕事してないときあるし。ていうかたまに入れ忘れてスカートの中見えてたりもするし。実際白く塗りつぶすとかした方が楽だと思う。

 

「あ、この小説R18にすれば黒髭×エウリュアレ氏の愛の小説ワンチャンある?」

 

「───ふむ。ならば紡ぐ者に聞いてみるか?黒い髭よ。」

 

「マジ?マジで?聞いてもらえるんですかな!?もしかして本当にワンチャンあるんですかな!??」

 

「さて、な。」

 

ギルが波紋から受話器を取り出した。……なんで受話器?

 

「……繋がるといいが。」

 

「繋がらなかったとしても恨みませんぞ───!」

 

 

p,p,p,prrrrrrr───

 

 

なんか普通にコール音してない?

 

 

prrrrrr───ブッ

 

 

〈………はい。〉

 

聞こえてきたのは女性の声だった。

 

「む…繋がったか。問おう。貴様がこの世界を紡ぐ者か?」

 

〈……はぇ?……はい??え…?ちょっと待って……?はい??〉

 

相手の人すごく困惑してるのが伝わるんだけど……

 

〈えと……え?待って……?なんで繋がってるの……?こっちから回線開いた記録もないのに……!そもそもどうやって繋いだの、こっちと中は時間が違うのに……!!〉

 

「貴様は我の用件に答えるだけでよい。まずは答えよ、貴様がこの世界を紡ぐ者か?」

 

その相手の人は少し唸ってからため息をついた。

 

〈……はい。私が世界の紡ぎ手───この物語の創り手です…名は……そうですね、今は“Luly(ルリィ)”とお呼びください。私の名ではないですが…〉

 

「ふむ。成功はしたようだな。では問おう。黒髭───エドワード・ティーチと女神エウリュアレのR18小説を書くことは可能か?」

 

〈───〉

 

沈黙が降りる。

 

〈───前例がなさそうですね。結構難しいかと…〉

 

「ノォォォォォォォォ!!!」

 

〈ただ、やろうとすれば出来るかと…〉

 

「ほう?」

 

〈問題は私がR18描写が苦手なことですけども。〉

 

「……貴様、年齢は」

 

〈今年で20…ともかく。書くとしても少し考えさせてください。〉

 

「…だ、そうだ。どうする、黒髭。」

 

「待ちますぞぉぉぉ!!」

 

「そうか。話は終わりだ、切るぞ。」

 

〈待っ───〉

 

 

プツッ

 

 

「……唐突すぎる……」

 

「面倒ならば切ればよかろう。」

 

ひどいと思う…

 

「それに、あやつとはそう遠くない将来に実際に出会うであろうからな。」

 

「……ん?」

 

騒いでいた黒髭さんがマシュに目を向けた。

 

「な…なんでしょう。」

 

「………◯ッ!ごまだれ~!合格ぅ!」

 

ごまだれ……なんで知ってるの?音程ぴったりだし…

 

「そこのなすびちゃん、名乗るでござる!さもないと───」

 

「な、なんですか……?」

 

「今夜拙者眠るとき、君の夢を見ちゃうゾ♪」

 

「マシュ・キリエライトです!デミ・サーヴァントです!」

 

即答……

 

「マシュ……マシュマロ……IN-美……ヌルフフフフフww」

 

「先輩、助けてください…!皮膚に発疹ができて皮膚呼吸ができなくなってしまいそうです!」

 

「あはは……やっぱり一般感性には辛いのかな、あれって……」

 

そう呟きながらマシュを撫でる。

 

「ありがとうございます……先輩は大丈夫なのですか?」

 

「平気。ああいう感じの人も友達にいたから。歌ってみた、踊ってみた、モーション読取にモデリングとかやってくれたのそういう人だったからね。今となっては全部一人で出来るけどさ…汗とかすごかったし、太ってたりもしたけど、大抵気配りとか出来るし技術も豊富ないい人達だったから、たまに一緒に戦争行ってたよ。」

 

「せ、戦争……?」

 

「ふむ。マスターはさぞクラスで人気であっただろうな。」

 

「彼氏はいなかったよ。」

 

「先発、落ち込まないでください!」

 

「大丈夫、落ち込んでないから。」

 

「───しかし、だ。マスターは今真理を口にしたぞ。外面に惑わされてはいかぬ。ただの無能が英雄となるものか。ヤツは愚者を演じる者、自らを無能に見せる達人のようなものよ。」

 

その人と触れ合わないと本当の性質は見えない、だよね。

 

「───んん?そこの白髪ショートちゃん!」

 

「……僕かい?」

 

「おおうww僕っ娘!いいねぇ、いいねぇ!そっちの白髪オッドアイ幼女もグッド!二人とも名を名乗るでござるよ!」

 

「リューネ・メリス。ハンターだ。」

 

「ミラ・ルーティア・シュレイド。サマナー。」

 

「んんんー!なんかちょっかいかけたらぶっ飛ばされそう、だがその危険な感じがイイ!」

 

ドM?

 

「ふん、聞くに耐えぬな。」

 

「ぬぉぉぉ!?」

 

お、黄金のたらい……?

 

「速やかに死ぬか冥府に旅立つか。好きなほうを選ぶがよい。」

 

「それどちらもデッドエンドなのですぞ……むむむ……(´・ω・`)」

 

ん~……そうだなぁ…

 

「黒髭さ~ん!」

 

「んん!?むむっ、見れば静かそう、ですが根暗というわけでもないカワイイおにゃのこが!デザインもクラスに一人はいる博識キャラ的な感じ!?オレンジの長い髪が美少女度アップ!んんww良いですなぁ!」

 

地味に見抜かれてるような…まあいいけど。

 

「Yesロリータ───!」

 

「Noタッチ!!───はうあっ!?」

 

「な、なによ今の……」

 

引っ掛かった。実際、こういうオタク系の思考の人ってちゃんと信念みたいなのもってることあるから。この人はいい人みたい。

 

「これで大丈夫。YesロリータNoタッチ───愛でたり手を出すのは妄想に留め、本当の子供にやっちゃいけない、ってことね。」

 

「むむむ……仕方ありませんな。紳士協定に同意してしまった以上、拙者がエウリュアレ氏に手を出すことは出来ませんな。」

 

ほらね。

 

「───撃て」

 

船長?

 

「撃て!大砲、ありったけ!さもないとあんたらを砲弾の代わりにして撃つ!!」

 

属性の調整は終わっております。張り切ってどうぞ!

 

「アラ?BBAちゃんおこ?おこなの??」

 

「船を回頭しろ!あんのボケ髭を───地獄の底に叩き落としてやれ!!」

 

船長がド怒りです───大丈夫かなぁ。




……なんでこっちに繋がったの……

裁「大丈夫?」

ちょっと待って……予想外すぎる事態だから……色々整理させて……

弓「ふむ……」

……ルーラー。正のアーチャー、正のランサー、正のセイバーの三人にこれ伝えてきて……

裁「あ、うん……」


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第133話 乱戦中

うーん……どうするのがいいかなぁ……

裁「マスター?なに考えてるの?」

ん…?あぁ…前回話してた黒髭さんとエウリュアレさんのR18小説で悩み中……

裁「……yesロリータ…」

Noタッチ。分かってるよ、それくらい。

裁「でもそれ引っ掛かるんじゃ……」

ん~……お互い合意なら私は良いと思うけど……現実は置いといて。創作の話ではね。エウリュアレさんの黒髭さんに対する好感度が最低クラスに近そうだから、純愛は難しいだろうね……やるとしたら夢オチって言われる部類のかなぁ……

裁「それ相手にとってつらいやつ…」

だから少し悩んでるの……本編でも言った通り、私R18描写苦手だし……はぁ


「撃てぇぇぇ!撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

船長の叫びに応じて、黒髭さんの海賊船に大量の砲弾が叩き込まれる。

 

「被弾時与属性値倍率設定───火を80、氷を80、龍を40。複属性が1つ、熾凍(しとう)属性!属性値50───レーッ!」

 

ミラちゃんの射撃術式が黒髭さんの海賊船を襲う。確か熾凍属性は火属性80%、氷属性80%、龍属性40%の属性なんだっけ。

 

「海の藻屑になりな、この屑髭ェ!!」

 

火、雷、水、氷───そして龍。いくつもの属性エフェクトが現れるけど───

 

「ダメです、効いちゃいねぇ!」

 

そんな……!属性付与Lv.4でも弾かれるのですか!?

 

「効くはずなんだろう!?技術顧問サマ、どうなってるんだい!」

 

「その技術顧問から報告、属性値200までは弾かれるのを確認!よって現在の属性値では全部弾かれる!エスナ、属性付与をLv.4からLv.7───いいえ、Lv.8に変更!貴女なら1人でもすぐに出来るでしょう!?

 

は、はい、ミル姉様!すぐに変刻作業をいたします!

 

そう言ってエスナさんは船内に戻っていった。

 

 

「ワロタwwwBBAの砲弾がゴミのようでござる!でもってさっきの幼女ちゃん怖スwwwすごい量と圧の砲撃でござるwww」

 

「……しかし、流石のドレイクといえど、宝具は貫通できないか…」

 

「こちらの髭が海に特化した宝具で助かりましたわね。」

 

「……いや、どうですかねぇ。奴さん、なにやら策がありそうだ。さっきからこっちに砲撃してきてるあの小さい娘さんもちょいと気になりますねぇ…どうします?船長。反撃は?」

 

 

……的なことを、リューネちゃんが聞き取ってくれた。いや音の判別とかしてるの……?

 

「衝撃に備えて!!」

 

ミラちゃんが降りてくる。

 

「行くでござる行くでござる───“アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)”!!」

 

「吸収障壁全開、龍風Lv.5展開!!」

 

アスラージさんは陸地にいないと無理だから───

 

「お願い、“エミヤ”!!」

 

「───I am the bone of my sword」

 

現れた瞬間の詠唱と共に開かれる七枚の花弁───

 

「───“熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”!!」

 

私達のいる方に飛んできたものは全てエミヤさんの盾が防いで、船の上を通過しようとしたのはミラちゃんの障壁に吸われた。

 

「なん……ですと…」

 

「へぇ、面白いねぇ。」

 

「相変わらず器用であるな、贋作者!それが貴様の持ち味であろうが、だからこそ貴様は抑止の輪にこき使われるのであろうよ!」

 

「多くを修めた弊害だ、それは覚悟しているさ!しかしそうなると私はマスターのことが心配になるがね───!」

 

「ふははははは!それはそうよな!しかし髭よ、この程度の砲撃で我らに勝ったと思うのは早いと知れ!」

 

「なんやそれぇ!?大砲の弾吸収するとかそんなんチートや、チーターや!!」

 

「貴様らにとっての難易度はPhantasm!我らにとっての難易度はnormalなのだろうよ!クラスはプレミア、弓の我とは違うわ!」

 

「ぐぬぬぬぬぬ……そこのお嬢ちゃん、溢れんばかりの王のオーラ!龍とか言う属性を使うからドラゴン…ドーターですかな?ネビュラレイドなエンプレス、やれちゃいます?」

 

微妙……ていうか“ネビュラレイド・エンプレス”は伝わる人にしか伝わらないよ?多分。あと当然だけど礼装にはまだ実装されてない。

 

刻印の書き換え、終了いたしました…

 

「あっ…と……」

 

少し遅かったみたい…

 

「構えろ野郎共!白兵戦だ!!」

 

「「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

少しして綱がかけられて、大量の黒髭さんの部下達がなだれ込んできた。

 

〈あの人たち……人間ではありません。霊体、黒髭さんの宝具で現れた霊体です。〉

 

「そっか…」

 

一応護身用に剣は出しておこうかな……

 

「ガガガガガガガガガァァァァ!!」

 

咆哮と共にエイリークさんが乗り込んでくるのが見える。あ、ミラちゃんが龍風圧の弾幕で吹き飛ばした。

 

「撤退だ!早くしな!」

 

船長がそれを見て指示を下す。

 

「ふむ、まだ戦闘は始まったばかりであろう。」

 

「敵の船は沈められないし、こっちは普通の船だ!まともにやる方が間抜けってもんさ!幻滅したかい総督、技術顧問サマ!」

 

「よい、生にしがみつくは生を諦めぬ者の特権よな!してミルド、貴様はどうだ?」

 

「賛成っ!とりあえず落ち着けるところに行って!術式全部かけ直すから!!」

 

「決まりだな。者共聞いたな!これより撤退戦だ!!」

 

「「「「「おうっ!命あってこその人生!尻尾巻いてトンズラすんぜ~い!!」」」」」

 

「マシュ!」

 

「───っ!さっきから───しつっこいんですっ…!この男!!」

 

緑の服の男性の攻撃を捌き続けるマシュ───緑の服の男性の攻撃の先は私。気がついていたけど、マシュに任せておいてた。

 

「待って、今すぐ───」

 

「ガァァァァ!!!」

 

背後───エイリークさんが立つ。

 

「メガ、ミ!ヨコセェェェ!!」

 

「させないっ!」

 

私とエイリークさんの間にアルが割り込む。

 

〈ソードスキル2種追加、完了したぞ!〉

 

お兄ちゃんの声。それと同時に現れるウインドウ───分かった。

 

「───“シングルシュート”!」

 

()()スキル“シングルシュート”───それを使って、ミラちゃんに作ってもらった氷の剣を緑の服の男性に投げた。

 

「おおっと、危ない危ない。」

 

それを軽く回避する緑の人───なら用はない、次は───

 

「ガガガガガガガガガ!!!」

 

一撃で終わらせて───お願い、“フゲン”!

 

おうよ!さぁて……うおりゃぁ!!

 

なにも言わずに刀振るったぁ!?

 

「ア…ガ……」

 

「やれやれ、いつもの里長だ。一撃で退散させるとは。」

 

ほ、本当に一撃で倒しちゃったよ……ともかく

 

「マシュは無事?」

 

「は、はい…ありがとうございます。」

 

マシュがそう言うと同時に轟音、そして船が揺れる───

 

「何事だい!」

 

状況解析(トレース・オン)───っ、これは───爆弾か。」

 

爆弾!?

 

「船底が複数の爆弾によって破壊されたようだ。このままだと沈むぞ…!」

 

その言葉に走り出そうとする船長を咄嗟に止める。

 

「離しな、リッカ!」

 

「ダメ!船長なんだからみんなを率いていかないと!!」

 

「だけど……!」

 

そんな話をしてる最中───

 

 

ドンッ───キィン!

 

 

銃撃音。それと弾く音。

 

「……あらあら。せめて貴女は処理しておきたかったのだけれど。」

 

「……誰?」

 

「アン・ボニー。こちらはメアリー・リード。お見知りおきを。」

 

「…そう。」

 

ミラちゃんが狙われたみたい。

 

 

ザバン

 

 

「ちょっ、ちょっとアステリオス!?無銘!?何してるのよ!!」

 

え────

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

「宝具展開───其は我が仮想の片面、防御の概念を表す仮想───」

 

その詠唱は───フランスの時の。

 

「真名擬似登録…“擬似展開 仮想展開/空間歪曲(ロード・スペースディストート)”」

 

“擬似展開 仮想展開/空間歪曲(ロード・スペースディストート)”───アルが最初に起動した宝具。

 

「衝撃に備えてください!」

 

そのアルの叫びに、全員が従う。直後───

 

 

ボンッ

 

 

 

「「「「………!?わぁぁぁ!?」」」」

 

船が、飛んだ。

 

〈空間が爆発した───!?〉

 

「………はっ!今だ、全員樽爆弾落としな!!」

 

「大タル爆弾Gなんかも追加してあげよう。」

 

空中から爆弾を落とす私達。ちなみにアルはギルに回収されてた。あとミラちゃんの指示で船に帆を張った。

 

 

ザバンッ!

 

 

しばらくして水上に降りると、ミラちゃんが召喚してくれてたクシャルダオラが羽ばたいて風を起こしてくれた。一緒にアステリオスさんも泳いでくれてるからかなり進む……

 

「こんの………糞髭!次会ったら何がなんでもぶっ飛ばす!このバカ、タコ!屑!ジジイ!それから───あぁ、咄嗟だから思い付かねぇ!!」

 

「黒髭さ~ん!」

 

「なんですかな!?仲良くなれそうなマスター殿!」

 

「挨拶は大事───だから!」

 

「───ですな!」

 

「「オタッシャデー!!」」

 

〈───テンション高ぇな、リッカ。まぁ分からなくもないけどよ。〉

 

お兄ちゃんに言われちゃった…まぁ、少しいつもよりテンション高いかもしれない。




あーうー……書く体力が続かない……

裁「寝たら?」

うん……


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第134話 狩人と女神と

ふぁぁ……

弓「眠いのか。」

うん……


しばらくして───カルデア陣営は近くの島へとたどり着いた。

 

「あっちゃぁ……結構手酷くやられたねぇ。」

 

「耐久力には結構自信あったんだけどなぁ…やっぱり加工は私じゃだめだね。まぁ、今はそんなこと言ってても仕方ないか……」

 

「……」

 

「みんな、ぶじで、よかっ、た」

 

「貴女は無茶しすぎよ、アステリオス!どこに泳いで船を運ぶ馬鹿がいるのよ!!」

 

「ここに、いる。」

 

「言ってる場合じゃないわよっ!!」

 

 

スパァン!とリッカから渡されたハリセンがアステリオスの頭をはたく。

 

「…むぅ。」

 

「まったくもう…まぁいいわ、助けられたのは事実ですもの。ね、エスナ。」

 

そうですね…ありがとうございます、アステリオス様。

 

「……ん。」

 

「ほら、金ぴか?私のアステリオスに何か言うことはないの?」

 

「………」

 

ギルガメッシュは答えない。何かを、深く考えているようだ。

 

「ギル…?」

 

「なんだい、船酔いかい?」

 

「……いや」

 

長い沈黙の後、ギルガメッシュが口を開く。

 

「大義であった、アステリオス。そして無銘よ。貴様らの働き、我の称賛に値する。」

 

「うん……うん!」

 

「わ、私は…ほとんどなにも出来なかったんですけど……?」

 

「そんなこと無い、私に召喚の時間くれたの無銘さんだもの。」

 

「…とのことだが。召喚、詠唱というのは無防備になりやすい。故にその一瞬を作るのは大きい助けになると知れ。」

 

「……はい。」

 

「……それにしても、見直したわ。あんな気持ちの悪いサーヴァントと会話するなんて。」

 

エウリュアレがリッカにそう言う。当のリッカは首を傾げたまま口を開く。

 

「だって、先入観なんていうのは損する原因だもの。みんな違ってみんないい。さっきの黒髭さんみたいな人でも、お兄ちゃんみたいな人でも───みんな違う性質を持ってるもの。人は見かけで判断しちゃいけないんだよ。」

 

「先輩───はい、私もそう思います。」

 

〈一般的感性は大事なのね…〉

 

〈そう…ですね。〉

 

ギルガメッシュは考え込むのに戻る。やがて、ドレイクとミラを見て口を開いた。

 

「ドレイク。ミルド。これから船を補修する作業に入るな?」

 

「え?あぁ…獣は何匹か狩って補修の材料と食材の調達とするつもりだけどね。」

 

「その材料と私の手持ちを掛け合わせて船の補修と付与刻印の全消去、再刻印をするから時間はかかるよ。」

 

「そうか。───ならば、我は少し席を外そう。マスターとマシュを任せるぞ。」

 

その言葉に、ミラが訝しげな表情になった。

 

「珍しい。あなたの事だから手伝うといって聞かないと思ったけど。何かあるの?」

 

「なに、野暮用よ。事が終わればすぐに戻る。励めよ、マスター、マシュ。」

 

「は、はい…」

 

「……気をつけて、ギル。」

 

「うむ。……」

 

「う……?」

 

ギルガメッシュはアステリオスを少し見てから、島の中へと歩を進めた。

 

 

 

その、島の中にあった平野。その場所でギルガメッシュは立っていた。

 

「───やれやれ。マスターめが気まぐれに連れ出したかとでも思えば。我の予測を越える活躍を見せるとは。これだから、無垢なる魂というものは侮れぬのだ。───見事よな、アステリオス。そして無銘よ。」

 

そう言って小さくため息をついた。

 

「幼き者達の奮闘には報いねばな。」

 

ギルガメッシュが背後を見つめる。

 

「いるのであろう。結界は張った故、リューネの耳もここの音は聞こえぬ。姿を現すがよい───“ルーパス・フェルト”」

 

「───気づいてたの?」

 

ギルガメッシュの視線の先で、何かを脱いだ少女の姿が現れた。その問いに対し、ギルガメッシュは首を横に振った。

 

「いや、気づいておらぬ。もしやいるかもしれぬ、と思っただけで本当にいたとは思わなんだ。」

 

「そう。…久しぶり───でもないか。みんな、元気はしてる?」

 

その少女こそ、ルーパス・フェルト───船がゾラ・マグダラオスに乗り上げた時に行方不明となったハンターである。

 

「皆は元気よ。───して。聞かせてもらおうか。何故今の今まで姿を現さなかった?」

 

「あぁ…それね。ジュリィと調べ事してたの。」

 

「ほう?」

 

「それと周辺探索ね。はい、これ。」

 

そう言って渡される紙。それは、海図そのものだった。

 

「なるほど。貴様らは、自らで魔力を生成できるという利点から、単独で探索をしていたのか。」

 

「連絡手段なんてないし…翼竜を連絡手段にするにしても、こんな場所じゃ落とされかねないもの。」

 

「確かにそうであるな。しかし、貴様らも移動には翼竜を使っているのであろう?」

 

その問いに、ルーパスは頷き、手に持った外套らしきものを見せる。

 

「これと同じものを翼竜に被せて移動してたの。」

 

「それは…確か、フランスで田舎娘にも使っておったな。なんだ?それは。」

 

「“隠れ身の装衣”───特殊装具、って言われるもの。これを使うと、しばらくの間相手から発見されなくなるの。英雄王が私に気がつかなかったのもそれが理由。」

 

「ふむ…しかしこうして会ったのだ、我らのもとへ戻るがよい。」

 

その言葉にルーパスは首を横に振った。

 

「ごめん、それはできない。」

 

「───なぜだ。」

 

「私達は、今少し調べていることがあるの。」

 

「調べていること、とな?なんだ、それは。」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「───なに?」

 

ギルガメッシュの目付きが鋭くなる。

 

「彼は、私達が降りたあと姿を消した。休眠したわけでもなく、絶命したわけでもない。それは、この海に漂う龍気からも明らかなの。なのに、その姿が見当たらない。ナバルデウスも同様で、今現在姿を確認できてない。だから、龍気が強めな場所を確認しにいってるの。勝手だとは思うけど許してもらえるかな。」

 

「……許す。勝手であろうと、明確な理由があるならば構わぬ。して、話を変えよう。」

 

その言葉にルーパスが首を傾げた。

 

「冬木での貴様の活躍、オルガマリーめに頼み、見させてもらった。黒化していたとはいえ、ヘラクレスを撃破したそうだな。」

 

「あぁ…それね。」

 

「故に───1つ、問おう。貴様単体で、ヘラクレスを何度殺せる?」

 

「……何度、か。」

 

「うむ。貴様のことだ、カルデアのヘラクレスには既に挑んでおるだろう?」

 

「まぁね。」

 

「ならば聞かせよ、貴様だけで一体何度ヘラクレスを殺すことが出来る?」

 

その問いにルーパスが考え込む。

 

「……理論上は12回全部殺せるはず。」

 

「───ほう?して、その根拠は?」

 

「私の奥義───“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)”は知ってるでしょ?」

 

「うむ。」

 

「あれは本来、()()()()()()()。」

 

「───なに?」

 

訝しげな声を出すギルガメッシュにルーパスが口を開く。

 

「空中にいる時に、私は集中、認識、把握、計算を一瞬で行ってるわけだけど…私が異常だったり天才とかって言われた原因がその“速度”にある。行程としては、集中することで私の思考を加速させる。次に、私の視界に収められる領域にいる敵を認識、全部の位置と弱点を把握する。そして最後に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えば、黒化したヘラクレスさんなら“鉄弓I”で25本。古龍の活動停止───討伐と言われる状態なら…まぁ、相手と武器にもよるけど新大陸にいた上位クエストのクシャルダオラに対して“ジャナフアルカウスIII”なんかだと…ん~…150本位かな?やったことないけど。」

 

「───なるほど。確かに、異常だな。」

 

「やっぱり?」

 

「───落下中にそのような処理を高速で行うなど。異常以外の何物でもなかろうが。」

 

その言葉に、ルーパスは肩をすくめた。

 

「まぁよい。この話をした理由だが、恐らく敵にそのヘラクレスがいるだろう。」

 

「……そう。」

 

「その時、貴様達も戻るがよい。期としては最適ではないか?」

 

「……まぁ、そうかもね。それで、私はどうすればいいの?」

 

その問いに、ギルガメッシュが笑う。

 

「なに───ヘラクレスを5回、殺せ。我は6回殺すとしよう。」

 

「11…でも、それじゃ足りないでしょ?」

 

「最後はマスターらに終止符を打たせようと思ってな。加減を間違えるなよ?」

 

「努力はするよ。……あ、そうだ。」

 

「む?」

 

「英雄王ってアーチャーだったよね?」

 

「む?まぁ、本来であればそうなるな。」

 

「だったら…」

 

ルーパスはアイテムボックスを開き、1張の弓と矢筒を取り出した。色は───紺碧。その色をベースとして氷のような装飾。

 

「はい。」

 

ドスン

 

「うっ…っと。なんだ?」

 

「私愛用の1張、イヴェルカーナの素材を使って作られた“氷妖イヴェリア”───あなたに貸しておくね。黒髭…だっけ。それとの対峙に使えるんじゃないかな?」

 

「……ふむ。よいのか?」

 

「いいよ。ちなみにマスターランクの武器だから今まで私達が主に使ってたのよりも強いよ。古龍武器なのもあるけど。」

 

「古龍、とな。」

 

「……昔から…私達がハンターになるよりもずっと前から、私達の世界にはとある言い伝えがあるの。“モンスターの素材を使って作り上げられし武具は、素材となったモンスターの力と意思を秘める。モンスターが持ち主を認めたとき、その武具は真の力を発揮する。”……もしかしたら、万物を凍てつかせる古龍といわれるイヴェルカーナが力を貸してくれるんじゃないかな。」

 

「ふむ…貴様は、認められているのか?」

 

「さぁ?私もよく分からない。ただ…お父さんがよく言ってたよ。“モンスターの声を聞きなさい。人間にも教官はいるけれど、一番の教官となるのはモンスターだ。”ってね。」

 

「モンスターの声……か。ともかく、借り受けよう。」

 

そう言ってギルガメッシュは波紋の中に氷妖イヴェリアをしまった。

 

「……さて、私はそろそろ調査を再開しなくちゃ。またね、英雄王。」

 

「…うむ。死ぬなよ。貴様が死ねば悲しむものがいるということを忘れるな。」

 

「分かってるよ。じゃあ、また。」

 

そう言ってルーパスが隠れ身の装衣を被ると、ギルガメッシュの視界ではルーパスの姿が見えなくなった。

 

「───真、あやつらは解らぬ者よ。さて、修繕も終わっている頃であろう。戻るとするか。」

 

そう言ってギルガメッシュは結界を解除し、移動を開始───

 

「……メドゥーサ。見ているのだろう。」

 

「……」

 

する前に声をかけると、森の中からフードを被った少女が現れた。

 

「カルデアの───ではないな。怪物と化す前のメドゥーサか。」

 

その少女がコクリと頷く。

 

「大方、姉が───エウリュアレが心配なのであろう?」

 

再度頷く。

 

「で、あるが近寄れぬと。ならば───」

 

ギルガメッシュが手招きする。それに首を傾げながら近寄る少女。

 

「───少し手荒になるが、我慢せよ。」

 

それに頷いたのを見て、ギルガメッシュが作業を始めた。

 

「………どうだ」

 

そこにいたのはリッカに似たような服装をした空色の髪の少女。

 

「……!?」

 

「少しではあるが変装の類いよ。髪に関しては水に浸ければ色は戻る。霊基そのものは変化していないゆえ、戦闘は出来るであろう。」

 

「………よいのですか?」

 

「構わぬ。そら、ゆくぞ。名は……そうさな。クリア、とでも名乗っておくがよい。」

 

「クリア……分かりました。」

 

ギルガメッシュは小さく笑ってからクリアと共に黄金の鹿号へと戻った。

 

 

「あ、おかえりなさい…」

 

「うむ、戻ったぞ───」

 

「あ、あなたがAUO?はじめまして、アルテミスでーす!ダーリン含めてよろしくね!」

 

「……ほんとすんません。あ、俺はオリオンです。こいつと一緒じゃないと何もできないヒモです……」

 

「…………仲間にするとしても限度があろう。」

 

ギルガメッシュが頭を抱えた。

 

「ぷっ、ざまぁ見なさい。……あら?そこの彼女は?」

 

エウリュアレの言葉にクリアがギルガメッシュの背後に隠れようとする。

 

「……名くらい名乗るがよい。」

 

「……クリアです。」

 

「……そう。」

 

「……ドレイク。もう一度席をはずしても───」

 

「何言ってんだい!ほら行くよ!あの糞髭にぶちかます!!」

 

その言葉にギルガメッシュはため息をついて従った。




ちょっと長くなったなぁ……

裁「観測状況どんな感じ?」

微妙。

裁「そう…」


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第135話 作戦を考えよう

……

?「……」

……ぁ。

?「……」

あれ……ここは………

?「目覚めたか。」

……!星見の観測者。

星見の観測者「身体を起こすな。そのまま横にしていろ。」

……ねぇ。なんであなたが下にいるの?

星見の観測者「悪いか?」

その位置スカートの中見えそうなんだけど……

星見の観測者「例え見えたとしても君は気にしないだろう?君達の術式で隠されているのだから。」

いや気にするからね?流石に気にするからね?うまく身体動かせないからいまこのままだけどさ……

星見の観測者「ふむ…私の塔よりも高い場所に君を連れたが、君には不評だったか。」

……その前に、なんで私はここにいるの?

星見の観測者「何故、か。私が君の精神をここへ連れてきた。」

どうして………!

星見の観測者「理由などない。あるとするならば───君は少し休んだ方がいい。」

……休む?どうして?

星見の観測者「君の身体はボロボロではないのか?既に状態はかなり悪いだろう。」

体調は大丈夫だけど。

星見の観測者「私には分からないが…体調は大丈夫でも君の身体は既に限界を迎えかけているのかもしれないぞ?現に君は、身体の重みがずっと取れていないだろう。」

いつもの事だもの。身体が重いのなんていつもの事。

星見の観測者「最近は食欲もないのではないか?」

ないわけじゃないけど……元々、食に興味を持ってないからね。食事のタイミングとかは全く興味がない。

星見の観測者「時折全てがつまらなくなるというのはどう説明をつける?」

私が退屈だと思っただけ。一瞬とはいえ全てに飽きてしまっただけ。

星見の観測者「……そうか。まぁいい。いまはここでゆっくりしていけ。」

……何が目的?

星見の観測者「なにも目的ではない。君をここに連れてきたことで、既に私の目的は達せられている。」

……そう。

星見の観測者「大人しく星を見上げているがいい、創り手よ。」

…はいはい。


「ねね、マシュちゃん。男女経験とかある?」

 

「あ、えと、いえ……」

 

「もしよかったら最初のお相手に───ぐべっ!」

 

オリオンさんが変な声を出したのは私が首の近く掴んだから。

 

「は、はなじて!ギブギブギブ!!!極ってる!」

 

「あ、ごめん……駄目だよ、オリオンさん。彼女さんがいるのに…」

 

「ごめんと言いながらまだ極ってる状態なんだけど!?はなじでぇ!!」

 

緩くはしたんだけどな……?と思いつつ私はオリオンさんを解放する。

 

「っは───窒息で死ぬかと思った。」

 

「私そこまで剛力じゃないよ?」

 

「いや…なんだろうね。剛力っていうか巧いっていうか…リッカちゃん、俺とお付き合いしな───いでで!!」

 

頭を掴んでアルテミスさんのほうに投げる。

 

「ありがとー!」

 

「うげぇっ、アルテミス!」

 

「人の恋路を邪魔するやつは巨人に蹴られて死んじまえ。恋の邪魔なんてしないよ、私は。」

 

〈それ元ネタじゃないぞ。確か“馬に蹴られて死んじまえ”が大元じゃなかったか?〉

 

あ、そうだっけ?

 

「でもよぉ…こいつ重いんだよ、色々と。いやめっちゃ重い、こんなぬいぐるみにはかなり負担が大きいんだよ。」

 

「でも…そもそもだけどオリオンさんってアルテミスさんだけじゃなくてエーオースさんやプレイアデス七姉妹とも恋に落ちてなかったっけ。」

 

「ギクッ」

 

「そしてエーオースさんが仕事が速い事を不審に思ったアルテミスさんと出会い、恋に落ちて……確かあなたの最後に愛した人がアルテミスさんだよね?最初の結婚者のシーデーさんはヘラさんの怒りを買って冥府に叩き落とされてるし…メロペーさんに関してはそもそもよく思われてなかったらしいし。」

 

「……リッカちゃん、もしかして俺の事好きだったりする?」

 

「というよりはギリシャ神話が好きなだけなんだけど……オリオンさんが浮気性みたいな感じなのは薄々気がついてた。駄目だよ、自分を想ってくれる女性は大切にしなきゃ。」

 

「……へい」

 

「ということで、オリオンさんのことはアルテミスさんに任せるね。」

 

「ありがとー!優しいね、アナタって!」

 

「別に…」

 

『先輩、遠い目をしてますが……?』

 

『大丈夫…うん、大丈夫。』

 

私が好きなのは相思相愛系だからね…それ以外が嫌いって訳じゃないけど。でも寝取りとかは苦手なタイプ。

 

「お幸せに、女神アルテミス。私が言ったとしても説得力なんてないけど。先生の言葉を借りれば……えっと。神よ、この者の幸福の加護ぞあれ───みたいな?」

 

〈その言葉……あの先生か。〉

 

「お兄ちゃん、知ってるの?」

 

「あぁ、俺も何度かお世話になった。人理取り戻したら会いに行ってみようぜ。」

 

その言葉にに頷いたとき、アルテミスさんが顔を上げた。

 

「決めた。リッカちゃん、私の信者になって!それでもって私とオリオンの結婚式の…神父さん?だっけ?それやって!!」

 

「はぇ?」

 

「いきなりなに言い出しやがるこの馬鹿!?」

 

「だ、だって…私そのものの幸せを考えてくれる子なんだもん。自分の事じゃなくて私の事を。ごく少数なんだもん、そんな人!」

 

えーっと……まず訂正からかな?

 

「一応、結婚式の挙式で愛を問いかけるあの人は神父さんじゃなくて牧師さんね。あと頼むなら私じゃなくて先生にお願いした方がいいかも。」

 

「どうして?」

 

「あの先生、お父さんが神父さんでお母さんがシスターさんなんだよ。で、お母さんのお父さん、つまり先生からすればお祖父さんにあたる人が元牧師さんなんだって。」

 

〈……おい、そんな話初めて聞いたぞ。つーか話していいのか、それ。〉

 

「先生は良いって言ってたけど。というか、お祖父さんが暇そうにしてるから挙式とかするときは任せてって言われたくらいだし。」

 

〈お、おう…〉

 

「ふんふんふん……ともかく、覚えたよ!アナタまだ処女みたいだし、祝福いっぱいあげちゃう!」

 

「あ、うん……」

 

「先輩が神様に気に入られてしまいました……」

 

「……処女ってばらされた………」

 

〈気にすんな。処女だろうが非処女だろうがリッカはリッカだろ。〉

 

うん…それはそうなんだけど。そうなんだけど……うん。そこまでフォローになってない気がするの気のせい?

 

「……?アナタ……」

 

「?私?」

 

ミラちゃん?

 

「アナタ……色々と()()()()()?処女のようだけど……普通の人間じゃない。人間、呪詛、加護……だめ、読み取りきれない。少なくとも7つくらいの何かが混ざりあって融け合って1つの存在としていまここに存在してるみたい。そんな状態で、よく存在意識を保ててるとおもうほどよ。辛く、ないの?」

 

「……別に」

 

「そう……」

 

混ざってる、ってどういうことだろう…

 

リッカ様、マシュ様、オリオン様、アルテミス様、ミル姉様、どうぞ。

 

エスナさんが私達にお茶を持ってきてくれた。

 

ありがとう、エスナさん

 

いえいえ…

 

「ねぇねぇ、エスナちゃん。よかったらこの後───」

 

はい?

 

「───愛している人がいるのに私の妹に手を出したら容赦しないよ?」

 

「───はい。」

 

あ、ミラちゃん怒らせちゃだめだ……特に家族関連で怒らせちゃだめなタイプだ。オリオンさんに思いっきり威圧と火を向けてる。

 

あの……何を言われたのかさっぱり……

 

気にしなくても大丈夫だよ、エスナ。

 

そ、そうですか…

 

「……こうしてみると、ミラちゃんの方がお姉ちゃんって感じするよね。」

 

「はい。容姿的にはエスナさんの方が年上に見えますが、実際の年齢と言動はミラさんの方が年上ですね。」

 

それにしても…

 

「もしも、私が男の子だったら…マシュをお嫁さんにしてるんだろうなぁ…」

 

「そうです───ふぇっ!?」

 

〈惚気か?〉

 

「もしもの話だよ。お兄ちゃんも自分が女の子だったらとか考えたことないの?」

 

〈…まぁ、なくはないが。もしそうだったら俺はロマンやムニエル、後はギルとかを婿にしてるっつーの。〉

 

〈ボク!?〉

〈俺ェ!?〉

 

お兄ちゃん、さすがにギルは辛いんじゃ…って言いたいところだけど確かギルはお兄ちゃんの事結構気に入ってたね。

 

〈あ、ちなみに性転換術式なんかも開発中だからやろうとすれば出来なかねぇぞ。〉

 

「ほんとお兄ちゃん趣味で色々作るよね…」

 

私が持ってる魔術礼装ってほとんどお兄ちゃんの趣味で作られたものだったりするし。

 

「あ、そうだリッカちゃん!祝福、何がいい?世界で3番目の弓の腕とか?」

 

弓かぁ…一応ルーパスちゃんやエミヤさんに習ってるんだよね。あとルーパスちゃんが持ってる弓はほとんどが重すぎて引けない。ルーパスちゃんもリューネちゃんもそこまで筋肉質ってわけじゃないのになんで引けるんだろう?それにしても欲しいものかぁ……

 

「…新たな出会い?」

 

「オリオンはあげないっ!」

 

「いやオリオンさんはアルテミスさんのでしょ……?」

 

「あははははっ!面白ーい!」

 

そんな話をしてる最中、ミラちゃんが呼ばれた。着いていっちゃだめ、って感じでもなかったから私も一緒に着いていく。

 

「さて…と。ヴァイキングの海図が役に立たなくなる頃合いだ。それはいいんだが…問題は糞髭のやつさね。」

 

「一応いまの設備を説明するね。撃龍槍1門、これはまだ動力が足りないから使えない。次に大砲に付与した各属性刻印は限界突破最大のLv.30、総合属性値は60+30+30+30+30+30+30+30+30+100+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40+40で1200に到達するよ。その大砲が各属性につき5連砲台となって1門ずつ、1回撃つだけで6000もの属性値攻撃になる。」

 

うっわぁ……

 

「衝角には紅魔属性の属性刻印をセット、同じく限界突破最大のLv.30。そこに加えて属性倍率強化刻印Lv.5、属性値1.5倍で火属性2700、龍属性900。さらに反応術式として炎王龍と炎妃龍のとある技の術式をセット。反撃障壁は前回よりも強固に、強烈に。それと───」

 

ミラちゃんがアイテムボックスから弾倉を取り出した。

 

「以前言っていた弾丸の製造がやっと安定したの。これで他の海賊達もサーヴァントにダメージを与えられる。」

 

「へぇ……結構準備を整えたじゃないか。」

 

「属性付与に関してはエスナの力があってこそだよ。たった1人でLv.30の付与刻印ができるのなんてそう多くない───無論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()。言ったでしょ、付与に関してはエスナの方が上だって。」

 

そういうことだったんだ…

 

「バリスタ、速射砲、固定型竜炎砲台、反撃のドラなんかの運用はリューネさんとアイルー達に任せた。…私からの報告は以上。」

 

「ふむ…どう進むのがいいかね。総督、何か案はあるかい?」

 

「我に答えを求めるか?まぁ、よいが。」

 

そう言ってギルは海を見つめた。

 

「海には基本的に障害物などない。沈没船や珊瑚礁、氷山などは除いてな。だが、既にそれらがないことは我が確認済みだ。ミルド、1つ聞くがナバルデウスとやらはどんな龍なのだ?」

 

「ナバルデウス───別名、大海龍。古龍種の一種で超大型古龍と呼ばれる存在の一体。ゾラ・マグダラオスもそんな古龍の一体だけど。」

 

「ふむ…超大型、と言ったな。どのくらいの大きさなのだ?」

 

「ナバルデウスは大体6000cm前後。ゾラ・マグダラオスは大体20000cm以上。ルーパスさん曰く、ルーパスさん達の世界で村を守るために戦ったナバルデウスは全長5837.2cm、新大陸古龍調査団5期団として追ったゾラ・マグダラオスは全長25764.59cmっていう話。」

 

お、おっきい…

 

「話を戻すね。ナバルデウスは元々攻撃的じゃないけど、外敵と判断した場合には積極的に排除を試みるような性格をしてる。恐らくこの海にいるナバルデウスは私達を外敵と認識してる可能性が高い。そして、ナバルデウスは水中からあまり出てこない関係上、必然的に水中戦になる。リッカさんの直感に従えば、ナバルデウスと出会うのはまだ先だから段階的な船の強化を施してる。」

 

あ、修理中に聞かれたのってそれだったんだ。

 

「そうなのかい。……それにしても、段階的?一気にやっちゃだめなのかい?」

 

「んと……正確に言えば、この船そのものを作り替えてるの。“ただの船”から“魔力を持つ船”に。船の建材である木材に魔力を染み込ませて、術式の補助になるのが主な目的。ただ、この魔力の量を一気に込めすぎると……実際に見せた方が早いか。」

 

そう言ってミラちゃんは木の棒をアイテムボックスから取り出した。

 

「これはさっきの森にあった木の枝の一部。これに私の魔力を注ぐと───」

 

ボンッ、と木の枝が爆発した。

 

「……こうなる。反撃障壁みたいに表面に展開するのとは訳が違うの。獣魔特有の素材───鱗とか皮とかは、結構魔力に耐性があったり元々魔力を持ってたりするからさっきの枝みたいに即座に使い物にならなくなる訳じゃない。だけど鉱石、木材、果実、虫───天然環境由来のものだと耐性が0に等しいから、少し多く込めただけで使い物にならなくなる。だからこそ慎重に扱わないといけないの。」

 

「なるほどねぇ…するとなんだい、技術顧問サマの杖はそれが出来てるってのかい。」

 

「まぁね。この行程を魔力性質同調処置って言うんだけど…この方法も3つあって、1つはいま私がやっているじわじわと魔力を注ぐ方法、通称“魔力調質”。2つ目が作るときに魔力を混ぜ混む方法、通称“加工時魔力含有”。そして3つめが使()()()()()()()()()()()()()()方法、通称“常時適合魔力加工”。」

 

「体の一部……だってぇ?」

 

ミラちゃんはその問いに頷いた。

 

「3つめの方法で作られたものは使い手にとってよく馴染む武具になる。当然と言えば当然、使い手の魔力を使って作られているんだから。武具に使用した体の一部は素材に魔力を馴染ませる楔となり、また使い手本人と共鳴する。ただ…高いんだよね。作るのにかかる金額。当然といえば当然、既にある武具と違ってこの方法で作られるものは世界に1つしかない一品だもの。」

 

「オーダーメイド、というやつか。それは高いであろうな。しかし、その値段はいかほどなのだ?」

 

「まぁ、作る人と使用する素材にもよるけど…ルーパスさんが着てたレザー一式、覚えてるよね?」

 

「む?うむ。」

 

「それに最初の杖であるアイアンロッドIを加えて全部常時適合魔力加工で作ってもらうとすると……そうだね、あれ普通に生産すると700z(ゼニー)位なんだけど…まぁ、3500zから7000zくらいは平気でかかるよ。」

 

「うげぇっ!?5倍から10倍!?騙されてるんじゃないのかい、それ!?」

 

「それ、海賊の貴女が言うの?言ったでしょ、人によるって。5倍から10倍が相場ってだけで本来の生産価格より少し高い金額で請け負ってくれる人もいれば、その1000倍近い金額を吹っ掛けてくる人だっている。それにこの加工って結構難しいんだよ?さすがに1000倍はやりすぎだけど、5倍から10倍程度ならむしろ当然。」

 

「……でも、そこまでして求める理由ってなんだい?ただ馴染むだけだろう?」

 

「馴染むだけ…ね。」

 

そう言いながらミラちゃんは槍を取り出した。

 

「まぁ、いまの説明だけだとそう思っても仕方ないけど。こればかりは体験してみなきゃ分からないかなぁ…話を戻すね、反撃障壁を展開しているとはいえ、それだけでナバルデウスの攻撃を防げるとは思えない。だから、内面の強化のために魔力調質をしてる。魔力調質が終われば───」

 

「……終われば?」

 

「……化けるよ、この船は。」

 

「へぇ…信じていいんだね?」

 

「もちろん。魔力調質自体は何度かやったことあるし。英雄王、私からの話はこれくらいでいい?流石に疲れたんだけど。」

 

「ふ、別に構わぬが貴様はいつまで我を英雄王と呼ぶ?貴様もマスター共のように“ギル”と呼ぶがいいというのに。」

 

「少なくともいまはお断り。速く話を進めよう?」

 

「むぅ……そうであるな。速度はこちらの方が上、ならば混乱に紛れて突っ込んではどうだろうか。」

 

「混乱、ねぇ。いいね、最高に楽しそうだ。」

 

「海の災いと言えば嵐だが…ミルド?」

 

「嵐龍“アマツマガツチ”や風神龍“イブシマキヒコ”、鋼龍“クシャルダオラ”がいる。ただ、直接的に嵐を引き起こせるのはアマツマガツチだけかな。」

 

「マジで!?い、いや、やめておこう。海を好きに弄っちゃいけない、嵐の王に怒られちまう!」

 

それを聞いてミラちゃんは小声で“アマツマガツチって天の神とかって呼ばれてたりもするんだよね…”って呟いてた。天の神って……

 

「ふむ、海賊にとって縁起は重要な意味を持つ、か。」

 

「当然だろう?海に生きるものにとって毎日が死の淵みたいなもんさ。良い縁に恵まれてなきゃいま生きてられるかすら定かじゃないんだからさ。」

 

「そういうものか。ならば───」

 

「はいはぁい!作戦なら私達女神~ずにお任せ♪」

 

「うぷっ───」

 

「だ、大丈夫?ギル。」

 

「……大丈夫よ、問題ない。」

 

「いやそれ前も誰か言われてたような……」

 

そういえばギルって神様嫌いだっけ?でもエウリュアレさん大丈夫だったよね。ステンノさんは…まぁ、何かしたらしいけど。

 

『……心配そうな顔をするでない……と言いたいところだが。すまぬ、マスター。酔い止めとか言うものはないか。』

 

『酔い止め?あるけど…使う?』

 

『すまぬ、頂こう。吐いてはいないゆえ、そのまま飲ませるがいい。』

 

私はギルに酔い止めを飲ませ(ちゃんと水も飲ませた)て、元のように座らせる。

 

「…で、案とはなんだ。」

 

ギル、まだ顔が青い…大丈夫かな。

 

「あのねあのね?遠い時はエウリュアレちゃんに矢を撃ってもらって、同時に私が相手の船で暴れたら良いと思うの!」

 

「───」

 

───え?

 

「あ、ダーリン!AUOが私の事ゴミを見るような目でみてくる!」

 

「貴様、脳筋であったか……?」

 

「えっとさ…アルテミスって(オリオン)として召喚されてる───つまり俺が本体な訳なんだけど。それで俺の能力も使えるわけ。それが───」

 

「水の上を歩けま~す!それだけ!!」

 

「それだけって言うんじゃねぇ!!」

 

「───よもや、海神の息子としての能力がそれか?」

 

「あぁそうですよこんちくしょう!!俺だってもっとかっこいい能力欲しかったよ!!」

 

「いや、結構便利だと思うよ?水の上を歩けるって陸と同じ動きが出来るようになるってことでしょ?水の上を歩けるだけで行動範囲結構広がると思うんだけど。」

 

「リッカちゃん……好き!結婚しt───ぶぎゃ!」

 

近づいてきたオリオンさんを掴んで即座にアルテミスさんに投げ返す。軽めに投げてるから痛みはないと思うんだけど。

 

「まったく、女の子は大事にしなきゃ。」

 

「───ふぁい。」

 

「大変だね、アルテミスさんも。」

 

「う、うう~ん……でもオリオンだから大丈夫!私はオリオンの事大好きだもん!」

 

「ふむ。まあいい。切れるカードも増えた…我も一手打つが、もう一手欲しいところよな。」

 

〈……ならば、私が出よう。〉

 

通信から聞こえた声。それは確か───

 

「やだ、アタランテ!?アタランテなのね!?」

 

〈……はい、アルテミス様。〉

 

なんか……声が疲れてる

 

〈船へ向かう際、アーチャーたるアルテミス様を私が護衛しよう。マスターと英雄王の同意を得たいのだが───良いだろうか。〉

 

「私は…いいけど。」

 

「我もよい。しかし解せぬ、アーチャーたる貴様がアーチャーたる者を守護するとは。一体どういう理屈で成り立つ?」

 

〈あぁ…話していなかったか。実は、私にはもう1つ宝具がある。〉

 

「ほう。」

 

〈私自身、なぜこれを持っているのか不明だが…狩人として使えるものは使うべきだろう。〉

 

「…アタランテさん、ルーパスちゃんに染まってきた?」

 

〈…かも、しれないな。彼女は同じ弓使いとして、同じ狩人として目標にもなり得る人物だ。狩猟の女神であるアルテミス様の方が腕は上だとは思うが…実際のところどうなのであろうか。〉

 

「ふーん…その子、どんな子なの?気になる!オリオンを狙うようだったら警戒しなきゃだし!」

 

〈どんな子、ですか。そうですね…リューネ、どう答えれば良いだろうか。〉

 

「なぜ僕に聞く。」

 

〈君の方がよく知っているだろう?〉

 

「そうは言ってもな……そうだね、元気で優しい子、かな?」

 

「ふーん……要注意した方がいいかも。」

 

ルーパスちゃん今はいないんだけど……大丈夫かなぁ。くしゃみとかしてないといいけど。

 

〈ともかく、そのもう1つの宝具を使えば護衛は容易いだろう。アルテミス様の祝福と令呪が1画あるとなお良いのだが…〉

 

「もちろん良いよ~!でも、後でそのルーパスって子の事詳しく聞かせて?」

 

〈は…はは……はい。…マスターはどうだろうか?〉

 

「私も大丈夫。使う時に使わないでどうするんだろ。」

 

「あっはっは!さて、役者は揃ったね!それじゃああの糞髭に復讐といこうじゃないかい!」

 

その言葉で黒髭さんを本格的に探して動き始めた。ギルはと言えば……

 

「………」

 

「だ、大丈夫…?」

 

「……うむ。我は大丈夫だ。大丈夫だ、問題ない……」

 

〈無理はするな、英雄王。恐らくはアルテミス様が原因でそうなったのだろう。こちらで私ができることならやろう。何をすれば良い?〉

 

「……贋作者の料理を───軽食でよい、よこせ。すまぬ、少し口直しをしたいのだ。」

 

〈分かった、エミヤに頼んでこよう。〉

 

「迷惑をかける、アタランテよ…」

 

……本当に大丈夫かなぁ。ちなみに送られてきたのはサンドイッチだった。




私は一体何者なのだろう。

私はなんのためにいるのだろう。

私は───

───あぁ、そうだ。

私は“私”だ。

(ぼく)(わたし)で、(おれ)(わたし)で。(じぶん)自分(わたし)で、自分(わたし)(じぶん)

自分(わたし)の欠片を持つ、目的のない(じぶん)

何かを作るための基礎構成(フォーマット)

私は私の全てを知った。

私は私の運命を知った。

私は。

あぁ。

あぁ…どうか。

どうか、私を───



───殺してください




星見の観測者「っ!?」

…あ、起きた。

星見の観測者「今のは……」

……どう、したの?

星見の観測者「…なんでもない。気にするな。」

そう……

星見の観測者「……1つ、聞こう。」

うん?

星見の観測者「君は殺されたいと願ったことはあるか?」

………どうして?

星見の観測者「不思議な夢を見た。人の声だけがし、最後に自分を殺せと言う夢だ。私が見た夢で聞こえた声は───君の声だった。」

………そう。

星見の観測者「答えろ。君は殺されたいと願ったことはあるか?」

ない。それは適当に組み上げたちょっとした機構によるものだよ。

星見の観測者「…なに?」

自殺志願ジェネレータ……気まぐれで組んだやつ。それが作動したんだね。

星見の観測者「…何故そんなものを作った。」

さぁ。私もよく分かってない。

星見の観測者「…君は、時折変なことをするな。」

たまに言われる。


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第136話 氷結と大爆発

……ねぇ、星見の観測者。

星見の観測者「なんだ?」

私はいつまでここにいればいいの?

星見の観測者「この週くらいはいるがいい。」

そう…着替えとかどうすればいいの?

星見の観測者「……君は着替えてるのか?」

こっちでも着替えてるよ?同じデザインの服装多いだけで。

星見の観測者「そうか。……明日までに用意しておこう。」

あ、うん…


「……ん?お。おーい、船長。奴さんたち、またおいでなすったぜい。」

 

黒髭の船。その船に乗る一員、緑のランサー───ヘクトールがそう声を上げる。

 

「んん?BBA来たの?……ん~?勝ち目がないと見て捨て身の特攻ですかな?」

 

「………あのフランシス・ドレイクとギルガメッシュ、そしてあの王女が意味のない特攻……?」

 

「確かに船底に大穴を開けたはずなのですが。手を抜きました?」

 

「いや、んなことしてねぇさ…だが、気になるな。」

 

「…?何が?」

 

「連中、特攻っていうんならそのまま突っ込んできておかしくねぇ。この船を中心に回ってやがる。船長、警戒はしておいた方が───」

 

「エウリュアレ氏!はやく拙者の胸に飛び込んでくるでござるよ~!!」

 

「───ダメだこりゃ。聞かねぇか。」

 

「殺したらもとに戻りますでしょうか。」

 

「ダメだよ、アン。こいつまだ使い道あるんだからさ。せめて半殺しまでで───」

 

 

ヒュンッ

 

 

「「「「─────えっ?」」」」

 

黒髭の顔すれすれを何かが通ったと同時に───

 

 

グシャッ!ガリガリガリガリ!!

 

 

「うわぁっ!?」

 

「メアリー!」

 

「わわわわ、おおおお落ち着くでござる落ち着くでござるおちおちおちちおちおちけつ!!」

 

「座礁───!?いや、そんなはずはねぇ!今までこの海域に障害物なんざ───!!!」

 

 

ドスッ!パキパキパキ───

 

 

その時ヘクトールは見た。船に刺さった氷、その氷の起点───

 

「───マジかよ。」

 

いくつもの光が海に落ち、その場所から氷の塊が現れる。

 

「ヘクトールおじさま……?」

 

「嘘だろ……」

 

「一体何を見たって言うのさ?」

 

「聞いたこともねぇ。そもそもそんなもんが存在してたまるか!───()()()()()()()()()()()()()()なんてよ!!」

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「……外してしまったわ。いえ、無意識に外してしまったのかも…なんというか……矢が汚れる、みたいな。」

 

「ま、真面目にやってくださいませんか!」

 

「うるさいわね!そもそもあの王も外しまくってるじゃないの!」

 

そう言われてギルの方を向く。

 

「我はこれで良いらしいがな。」

 

「まぁイヴェルカーナの力を引き出して放たせてるから人に当たるのはちょっとね。」

 

氷妖イヴェリア───イヴェルカーナの素材を使用した弓って聞いたことがある。標準スペックは鋭利336、精密0、氷属性値240…だっけ。本来今使ってるような力はないらしいんだけど、ミラちゃんがちょっと特殊な処置を施したらしい。

 

「しかし、ミルドも無茶をする。素材になった者の力を強制的に引き出すなど。」

 

「あまりやりたくないんだけどね。嫌われる要因になるから…ただ今回は結構非常事態だから、かなり謝って力を貸してもらった。」

 

「ふむ…しばらくこの弓を持っていたのはそれが理由であったか。」

 

そう言いながらギルがまた弓を引いて矢を放つ。放たれた矢は黒髭さんの船の近くに落ち、氷塊を作り出す。

 

「…しかし、我は基本的に倉から財を放つだけであるが、弓を使って放つというのも存外よいものだな。」

 

「結構遠距離武器好きな人はいるよ。私もその部類だし…さてと。」

 

ミラちゃんが船長の方を向いた。

 

「そろそろ行けるよ、船長。反応術式の調整も万全。」

 

「あい分かった、野郎共!取り舵一杯、あの糞髭の船のどてっぱらに大穴開けてやりな!!」

 

「「「おおーーー!」」」

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「HEY、同士諸君!エウリュアレ氏の矢に中ったら即座にぶち殺すから覚悟してね♪」

 

「へ?船長、何言って───」

 

そう言っている途中にその船員にエウリュアレの矢が刺さる。

 

「───あぁぁ!!お前らぁ!エウリュアレ様のために死ねぇ!」

 

「はいアウト~♪」

 

直後、黒髭の持つ銃が火を吹く。その火を吹いた先は、矢に中った船員。

 

「───え?船長…なん…で……」

 

「指示の通らないやつは要らないんだよね。ま、いいや。残ってる奴ら、死にたくないなら矢を避けながら聞きなよ。エウリュアレ氏の矢は魅了の矢。それに中ったってことはエウリュアレ氏の操り人形になるって訳。つまり拙者の船にいながら拙者の敵になるんだよね。…で、次は誰?」

 

「あ、当たりません!ぜったいに───ぐあっ!」

 

別の矢に中った船員が中った場所から凍りついていく。その光景に、普通の船員のみならずサーヴァント達も絶句した。

 

「───アン氏!あいつら撃てる!?」

 

「無理ですわ!不安定すぎてまともに射撃などできません!」

 

「アーチャーにこんな滅茶苦茶なやつがいたなんて……!予想外だ!!」

 

「船や人間凍らせる矢とかヤバすぎでしょ!何、BBAおこ?激おこぷんぷん丸なの??」

 

そう誰にともなく問いかけた直後、上空に影。

 

「はぁい、立て続けでbad news♪」

 

「上───誰ぇ?」

 

「アルテミスですっ!全員射殺しちゃいます♪」

 

光の矢がばら蒔かれ、船員を貫き無力化していく───

 

「魅了されて船長に殺されるのと、氷漬けにされるの。それから私に殺されるの、どれが一番楽かしら…?」

 

「ぐぇぇっ!」

 

「メアリー氏!」

 

「分かってる!アーチャーなんて、近づいてしまえば!」

 

メアリーが駆け、アルテミスに迫る。

 

「ん~…それは確かに困っちゃう。だから───」

 

その瞬間───氷から船へと、魔獣が乗り込む。

 

「───!?」

 

「よろしくね~♪アタランテ。」

 

麗しの狩人アタランテ───しかしそこにいたのは麗しの狩人ではない。

 

「───我が真名、アタランテ。だが…今の私はただの獣だ。夢も現もよくわからない───それでも。今はただ、アルテミス様を守護するために───」

 

宝具名“神罰の野猪(アグリオス・メタモローゼ)”。アルテミスの神罰として都市国家カリュドーンを襲った猪の皮を身に纏うことで存在を変貌させる宝具。

 

「若干信仰の方向性と尊敬を見失いかけたこの衝動!とりあえずマスターの道を阻む貴様達にぶつけてくれる───!!!」

 

………まぁ。ただの、八つ当たりである。

 

 

ところ変わって、黒髭の船の火薬庫。

 

「フォーウ……」/『これはここで……こっちはここかな』

 

 

ヒラヒラ……

 

 

『え、違う?こっち?あぁ、うん…こっちにやっておけば被害は大きくなるのね。了解了解。』

 

フォウ、オリオン、そして紅い蝶の三匹が火薬庫で細工をしていた。

 

「……あんた、そんなキャラなの?可愛いのは見た目だけって感じ?」

 

『随分と失礼だね。この程度のいたずら、可愛いものじゃないか?人理の崩壊とかに比べればさ。』

 

「いやそうかもしれないけどさ…てことはあれか、あんた悪戯小僧みたいな感じか。」

 

『せっかく得た生だ、色々やりたいんだよ。…まぁ実際のところ、出番が少なくて暇なのさ。これくらいやってもいいと思うけどね。』

 

「さりげなくメタい…まぁメタいかもよく分からんが。つうかこの蝶便利だな。」

 

『ミラが作り出した使い魔みたいなものだね。言葉は話せないけど感覚は繋がってるらしいし、こっちの声も聞こえてるだろうね。』

 

「マジで……」

 

『……まぁ、出番が欲しいなんてのは建前に過ぎなくてさ?ボクだって何かしてあげたいのさ。最後に何があるとしても、いまは皆の仲間には変わりないんだし。』

 

「……アンタ……そういう話しはタイマー起動する前にしない?」

 

「ファーッ!?」/『やっべぇやらかした!?爆発オチなんてサイテー!逃げろぉぉぉ!!!』

 

「早ぇ!?ちょっと待って見捨てんなーーー!!」

 

紅い蝶は呆れたように揺れてからオリオンを魔力で出来た紐みたいな何かで縛り、そのまま出口へと飛んだ。

 

 

そして場所は戻って甲板。

 

「私は───負けぬ!」

 

メアリーが弾き飛ばされる───

 

「例え信仰していた女神が恋愛脳(スイーツ)だったとしても!」

 

ヘクトールの槍が捌かれる。

 

「くそったれ!」

 

「それが高じてオリオンとして顕現していたとしても!」

 

アンの銃撃は弾かれる。

 

「───私の信仰に揺らぎはない!例え、反転したとしても───ウォォォォ!!」

 

獣の咆哮が周囲を揺らす───!!

 

「私の信仰心は変わらない!理不尽な現実を直視して、私は進む───!!」

 

「何言ってるでござるかこの人───!?」

 

……まぁ、なんというか既に壊れかけである。

 

「待たせたな、アルテミス!!」

 

『フォォォォォウ!!!』

 

オリオンは蝶に連れられて、フォウは駈け出てくる。

 

「なんでござる?あの小さいの…………小さい?」

 

その瞬間、全てを悟った黒髭とヘクトールが叫んだ。

 

「あぁそういうことかよ!チクショウ!」

「全員伏せろ!爆発するぞ!!」

 

「え───」

 

「爆発……!?」

 

直後轟音───船室が吹き飛び、黒煙が上がる。

 

「ダーリン、お疲れ様!フォウくんもお疲れ~!」

 

「し、死ぬかと……!」

 

「貴様ら───!!」

 

「アホやってる場合じゃねぇ!“本命”が来るぞ!!」

 

「本…命?」

 

「ヌルフフフフ!1度言ってみたかったんだよねぇ!───総員、ショック体勢を取れ!!」

 

黒髭の見つめる方向。速度を上げて突進してくる黄金の鹿───その先頭に立つ白髪の幼女と()()()()()()()()2()()()()───!

 

 

 

side リッカ

 

 

 

風の弾幕を炸裂させて速度を上げる。ミラちゃんはそう言った。事実、この船はかなりの速度を出せている。

 

「……さてと。それじゃあ皆さん」

 

ミラちゃんが振り向いた。

 

「まもなく激突します───それではご唱和ください!」

 

その言葉に赤いライオン───炎王龍“テオ・テスカトル”と青いライオン───炎妃龍“ナナ・テスカトリ”が飛ぶ。ナナ・テスカトリは青い炎を放ちテオ・テスカトルは赤い炎を放つ───2匹の絆を表すイチャイチャ行動。ミラちゃん曰く“王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)”、またの名を───

 

「「「「「───“愛せしリア獣達が爆発する(カップリング・エクスプロージョン)”───!!!」」」」」

 

その叫びと共に衝角が船にぶつかり、テオナナ夫妻の爆発と一緒に反応術式に設定された“王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)”が炸裂、大爆発を起こす。

 

「ったく、派手にやるねぇ……!」

 

テオナナ夫妻が爆発を終えてミラちゃんのもとに戻ったのをみて、私は声を張り上げる。

 

「ゴキゲンヨ、エドワード・ティーチ=サン!藤丸リッカです!」

 

「ドーモ、藤丸リッカ=サン!エドワード・ティーチです!やってきましたな、ある意味でライバルになりそうな同士が!」

 

「うん!大海賊にして世界一有名な黒髭=サン!今こそ私達のカルデア=ジツで貴方をサンズ・リバーまで吹き飛ばす!」

 

「ウカツ!やってみるでござるよ、このマジでヤバいカイゾク=クランに通じるならば!」

 

「ウカツは貴方!そもそも私は一人じゃない!」

 

「にゃに!?」

 

「アタシを忘れるなんていい度胸だ糞髭!リベンジ果たしに来てやったよ!!」

 

「げぇ、BBA!!」

 

「ハイクを詠むがいい!私がカイシャクしてあげよう!!」

 

「先輩!?先輩ー!?」

 

 

〈…ダメだこりゃ。完全にテンション限界突破してるわ。〉

 

「まぁよいではないか。見よ、マスターの光のなかった目に光があるように見える。それだけでもよいだろう。」

 

〈まぁなぁ…〉

 

「……貴方は行かないの?偉そうにしてたくせに。」

 

「我は出ることがないだろう。恐らくではあるが。」

 

「……ご機嫌よう、王女様?」

 

「……ご機嫌よう。さぁ、始めましょう?」

 

「えぇ───遠慮なく。」

 

船の各地で戦闘が動く───




星見の観測者「創り手よ。」

うん?

星見の観測者「君は私が嫌いなのか?」

なんで?

星見の観測者「ふと思っただけだ。」

…別に嫌いじゃないよ。

星見の観測者「ふむ。」

今まで関わり避けてたのは不定形な未来に干渉したくなかったから。私が、貴方が干渉したことで何かが変わるのはいやだもの。

星見の観測者「…そうか。」


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第137話 海賊と王女

星見の観測者「創り手。」

ん?

星見の観測者「これを。」

……これ…

星見の観測者「君の着替えに用意したが…不満か?」

いや……ありがと、星見の観測者。

星見の観測者「別に構わない。」

……ただ、ドレスもらってもなぁ……使う可能性がちょっと…

星見の観測者「………そうか。」

でも、ありがと。


「そらぁっ!!」

 

メアリーさんの攻撃───それを氷で作った剣で捌く。

 

「……」

 

「くっ…アン!!」

 

私が氷を侵食させてメアリーさんを止めた直後、アンさんの銃撃が私を襲う───

 

「……遅い」

 

でもそれは加速中の私には遅い。氷の剣を手放し、氷の剣を持っていた左手とは別の手に握った剣を銃弾に振り抜く。

 

「もう───滅茶苦茶ですわね!銃弾を斬るだなんて…!」

 

「ていうか…!刀身が見えない剣とか面倒すぎる!」

 

少し距離を取ったのをみて私は氷の剣を再生成する。左手に剣、右手にも剣───“二刀流”と言われるスタイル。左手の氷の剣はイヴェルカーナの尻尾と同じような形式で作られてる剣で、右手の刀身の見えない剣はオオナズチの素材を使って作られたロングソード“ファントムスライサー”。まだ最終強化じゃなくて、最終強化すると“幻想長剣ファンタジア”っていう銘になる。

 

「こんのぉ!!」

 

カトラス、って言ったっけ。それが私に叩きつけられて、それを右の剣で受けた直後に銃撃音。

 

「分解」

 

呟きに呼応して左の剣が破砕、私の近くに再び集まって氷の盾となる。

 

「あぁもう面倒くさいなぁ…!」

 

「手加減でもしているのです?気に入りませんわ、その余裕ぶり。」

 

「加減…か。」

 

正直な話、既に気力が抜け始めてるって言うのがあるけれど。加減…まぁ、制限かかっている状態がそもそも加減してるようなもの。出来るだけ魔力消費したくなかったんだけど…まぁ、いいか。

 

「開け、アイテムボックス───ロングソード“ファントムスライサー”を格納、杖“サモンロード・祖龍”を装備。流石に一気に行く。」

 

サモンロード───そもそもの話、これは武器の固有銘じゃない。“サモンロード”っていうのは私しか持っていない特殊な素材を使った武器のこと。武器を生産するときに他の獣魔の各素材を組み込むと素材が変質して別の性質を持つ武器として成立する特殊な武器群の一種。百竜強化と似ているけど、少し違う。この杖は、()()()()()()()()()()()()()()()()()するもの。素材組み込みのない、空っぽのサモンロードでも一応生産はできる。けど、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。私以外の魔力で常時適合魔力加工生産をすると、そのサモンロードは使い物にならない。以前、その素材を加工屋に提供して、他の召喚師用のサモンロードを作ってもらったことがあった。…結果は、どれも失敗。まるで素材自体が私の魔力以外を拒絶しているかのように使い物にならなくなった。それはまるで、御伽噺に出てくる龍の武器のように。御伽噺によれば、その龍は自らが認めたもの以外に自らの一部を使った武具を使われるのを拒んだという。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───故に、その時担当してくれた加工屋の人と私、そしてギルド長はこの武具達にこんな名前をつけた。純白の龍の王が認めし者にのみ許された伝説。原初の王の力を秘め、原初の王そのものである武具───“ロードシリーズ”と。いつも使ってるのは泡狐竜のだけど、今回は祖龍ので行かせてもらう……!

 

「赤雷───召鳴!!!」

 

祖龍の赤雷───それがメアリーさんを襲う。

 

「うあぁぁぁっ!?」

 

「メアリー!」

 

「レーッ!!」

 

束縛術式でメアリーさんを縛り、赤雷を基礎として生成した赤雷弾がメアリーさんを襲う。

 

「この───メアリーを放しなさい!」

 

銃撃をかわし、杖を振ってメアリーさんをアンさんの方へ吹き飛ばす。

 

「貴女に私の射撃を見せてあげるよ。───展開、龍属性砲門120。」

 

私の式句にメアリーさんとアンさんを囲むように茶色の波紋が展開される。その数、120。

 

「「………!」」

 

「叛逆者にそこまで興味はないし、海賊にもそこまで興味はない。けど、敵として立ちはだかるなら別───全力ではないとしても、叩き潰すのにそこまで抵抗はない。」

 

私が杖を振ると、砲門から属性弾が放たれる。

 

「くっ……!」

 

それを見たアンさんは手負いのメアリーさんを庇う。

 

「………!うぁぁぁぁっ!!」

 

「アン!!」

 

弾幕が肉体を抉り、撃ち抜き、属性が肉体を侵す。周囲は血に塗れ、赤色に染め上げていく───

 

「……はぁ……はぁ………」

 

単発術式でセットしていた弾幕は役目を終えたものから消滅していき、そこには血塗れになったアンさんとメアリーさんが残る。

 

「……これが、私の力だよ。確かに戦術や地の利は貴女達にあるかもしれない。でも、私にはそれを真っ向から叩き潰す膨大な魔力量と状況に対応する応用がある。」

 

「……まさか、ここまで違うだなんて。」

 

「魔力量だけで押し込まれるとか───なんてバカ魔力だよ……!」

 

カトラスは刃が粉砕され、銃は発射機構が壊れてる。既に戦う方法は───ないに等しい。

 

「……1つ、聞いていいかな。」

 

「何さ……」

 

「貴女達は何故あの人に従うの?リューネさんが声を聞いた限り、かなり不満を持っているみたいだけど。」

 

気になっていた。不満を持っているというのに、あの黒髭さんに従う。不満なら───

 

「不満なら、裏切るとかする気もするけれど。貴女達の考えを聞かせてほしい。」

 

「……だってさ、アン。」

 

「そうですか……そんなもの、決まってますわ。」

 

アンさんが私を強く睨んだ。

 

「船長だから───私達が認め、彼の船に乗り込んだからこそ従う!彼も私達が命を預けた仲間なのです!」

 

「あぁそうさ!自由にやって自由に死ぬが海賊、だけどさ!自分が認めた仲間を裏切るなんてしたら仲間以下だ!自分達の信念として、そんなこと許すか!!」

 

「「知らないくせに、裏切るなんて───信じた仲間を愚弄するな、バカ王女!!」」

 

「……そう。」

 

バカ王女…か。

 

「そう、だよね。うん…そうだ。」

 

私はサモンロードを強く握りしめ、メアリーさん達に向けて構える。

 

「そうだった。叛逆者も、私達も───自分の信じた仲間についてきた。そんな仲間を貶すなんて、何しているんだろう、私は。」

 

私はメアリーさん達を強く見据えた。

 

「ありがとう、海賊達───私が忘れかけていたことを思い出させてくれて。お礼でもないけど、私の力を一段階引き上げる。せめて痛みなく、還してあげる───第一リミッター、解除。」

 

そう呟いたとたん、私の魔力が膨れ上がった。

 

「やってみなよ!アン!!」

 

「えぇ、メアリー!!」

 

メアリーさんがカトラスを拾い、アンさんは銃を拾う。

 

「せぁぁぁぁ!!」

 

「───そこぉっ!!」

 

その連携で、私へと向かう刃と弾。だけど───

 

「───“フレアスマッシャー・フルバースト”」

 

技名と共に放たれた砲撃に、彼女達は飲み込まれた。

 

「……」

 

砲撃が消えたとき、既にそこには誰もいなかった。

 

「お疲れ様」

 

私はリミッターをかけ直し、サモンロードをアイテムボックスに戻してエウリュアレさんのもとに戻った。




星見の観測者「創り手。」

うん?

星見の観測者「そういえば27,000UA越えているのではないか?」

あ……そうだった……


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第138話 海賊、死す

星見の観測者「…そういえば。」

ん?

星見の観測者「彼女の過去は見ないのか?」

過去?

星見の観測者「あぁ。マスター、藤丸リッカの過去は見ないのか?君は。」

あー…そういえばそうだね。

星見の観測者「ここから見ることも容易だが、どうする?」

ん~…一度だけ軽く観測したことあるけど。やってみる?

星見の観測者「観測…?君が設定を組んだのではないのか?」

ん~とね。私はそもそも彼女に対して“預言書の主”という要素しか追加してないよ。その結果、その未来の存在が顕現したけど。その未来の存在も私に多くを語ろうとしないし。だから、彼女のことはほとんど知らないに等しい。まぁ、“私”は知らなくても外の“私”は知っているのかもね。

星見の観測者「そうか…開いてみるか?過去を。」

ん…試運転程度に動かそうか。リコレクションシステム、稼働───起動処理開始。


recollection system booting...

 

 

警告を感じるようになったのはいつからだろう。

 

他人に警告を感じるようになったのは、一体いつからだっただろう───

 

あの時。私たちはまだ仲がよかったはず。

 

私は遊びなんてわからなかったし、仲がよかった2人の女の子に少しずつ教えてもらっていた。

 

私には夢なんてなかったし、2人の夢を聞いているだけで楽しかった。

 

ずっと一緒に笑いあう。それが、私達の関係だと思っていたし、私もそれが続くと疑っていなかった。

 

だけど───

 

その2人は、女の子達の中で人気だった1人の男の子に恋をした。

 

私は彼に興味はなかったけど、アドバイスを求められたから自分の知っている情報───噂程度のものがほとんどだけど、それを2人に伝えて改善策も練った。

 

…思えば、その時からだったかもしれない。私の直感が人間に対して警鐘を鳴らすようになったのは。

 

私は警鐘に不安を覚えながら、警鐘を無視した。

 

───その頃から、彼女達は仲が悪くなっていった。

 

アイツよりも私の方が可愛い。アイツよりも私の方が気配りができる。アイツよりも私の方が頭がいい。

 

……他にも、色々あった気がする。

 

その度に私は落ち着かせて、宥めて、なんとか関係が壊れないように仲を取り持った。

 

でも、仲が良いように見せているのは2人が一緒にいるときだけ。

 

離れるとすぐに悪口、自慢が始まる。

 

………事態が変わったのは、それから少しした頃。

 

「お前の方が可愛いから付き合ってやる」

 

件の男の子が私に告白してきた。

 

……正直、吐き気がした。警鐘が強すぎて、私の身体そのものにも異常が出るほどだった。

 

結局、告白されたとしても私は彼に興味も好意も抱かなかった。

 

私は可愛くなんてないし、私より可愛い人はもっと他にいる。大体、恋愛もよくわからない私が彼に合うとは思えなかった。

 

「…ごめんなさい。あなたには私なんかよりも素敵な人がきっといる。私はあなたのことを考えていられないから、新しい出会いを探して。」

 

そう言って私は話を打ちきり、平常運転に戻った。

 

その、次の日から───

 

私は男の子達から“感情のない半機半人”とかって言われて気持ち悪がられた。

 

女の子達から“兄相手に股を開く淫乱”なんて言われて距離を置かれた。

 

男の子達の方は、あの男の子の逆恨みだった。

 

女の子達の方は、仲がよかったはずの2人が流した根拠のない噂だった。

 

なんだろう。

 

人が、生きたまま死んだような気がした。

 

 

中学生前半───

 

 

何もかも興味がなかった時代。

 

 

recollection system end.


 

「ぬふぅ………!逆境こそ燃えるもの……!不屈の精神で攻撃力・防御力アップゥ!!」

 

「不屈のスキルかな?でもあれってスキル持ってる人が倒されないと意味ないよね。火事場の可能性もあるけど。」

 

「と思ったら黒髭、死す!しかぁし!黒い瘴気を放って私は甦るぅ!!気分的に!!」

 

「狂竜化はやめてっ!?あとあれ、感染したら感染したで既にその個体は死の淵に近いらしいから人間としてはもう死んでるに等しいんじゃない?」

 

「マジでござるか!?あれ、でもプレイヤー達って普通に感染したあとも生活してたりするはずでござるが?」

 

「プレイヤーは克服したりウチケシの実で打ち消せるからね。あとは1度でもかかった人は通院か何かしてるんじゃないかな?」

 

「あー…ありえそうっすねぇ。てことは狂竜症、でしたかな?プレイヤーの場合は。あれを発症したあと、プレイヤーは放っておくとゴア・マガラとかシャガルマガラになるんですかな??」

 

「どうだろうね…人間がシャガルマガラになるっていうのはゲーム上じゃ聞いたことないかもね。設定資料とか二次創作あたりならあるかも??そのあたりってどうなの?ミラちゃん。」

 

そのあたりに詳しいミラちゃんに聞く。

 

「……人が獣魔になるかどうか、か……ごめん、今はちょっと…」

 

……?なんだか、いつもよりミラちゃんの歯切れが悪い……?

 

「ならば拙者も克服するべきですな!ウイルスなど敵ではないのですぞ!克服したそのときこそ、拙者はリッカ殿が欲しいのですぞ!!」

 

「極限状態かぁ…いや実際人間だから狂撃化が正しいんだと思うけど。うーん……まぁ、極限状態できたなら別にいいよ?極限化して私達に勝てたなら私を好きにしても。」

 

「マジで!?マジですか!?今なんでもするって言いました!?」

 

「言った…かな?そもそも人間の極限状態ってあり得るのかな……釘は刺すけど、この特異点中だけだからね?」

 

「なぬ!?時間が、時間が足りないでござるっ!!しかしやってみせるでござるよ、なんたって黒髭ですからな!」

 

「せ、先輩が黒髭と完全に意気投合しています……」

 

〈まぁ、久しぶりなノリだからなぁ、ああいうのは。テンション限界突破、こんなん止められねぇわ。〉

 

「うーん…なんだかねぇ。こういうのを残念な美少女っていうのかねぇ。」

 

〈最高じゃないか、残念な美少女なんて…〉

 

「百合カップルは倒れ、我ら黒髭海賊団の将は残り2名!まさに絶体絶命、まさに2乙火事場状態!!だがしかぁし!!拙者自身、負けるともできないとも考えたことはないのですぞ!!」

 

「その心は?」

 

「だって、海賊だもの!海にいる間、我ら海賊は常に命を懸けているようなもの!故に今が楽しければそれでよいのですぞ!」

 

〈今、“だって、人間だもの”的なイントネーション聞こえたような気がするんだが。〉

 

気のせいじゃないかな?

 

「覚えておくがよいですぞ、リッカ殿!人助けだろうと人殺しだろうと我ら海賊はどっちでも人でなしの悪党なのですぞ!負けたほうがクズ、勝ったほうが正義!それが海賊というものなのですぞ!!」

 

「ありがと、黒髭さん~!」

 

「おうふ…尊い…尊死───」

 

金色の粒子出し始めてるけど大丈夫かな?

 

「…と、茶番は置いておきましょうか。」

 

「うん、船長!」

 

「あいよ───そら、覚悟しな!!」

 

船長に任せて私はマシュの近くまで下がる。う~ん…はしゃぎすぎたかな?

 

「せ、先輩…あの黒髭氏と仲良くできるのは素直に尊敬します……」

 

「そう…?…あぁ」

 

私はマシュの頭を撫でる。

 

「触れ合わないとその人の本質っていうのは見えないよ?触れ合っても本質は見えないかもしれないけど。見た目だけに惑わされちゃダメ。見た目が気持ち悪くても、本質はそこまででもないかもしれないでしょ?…まぁ、今回の場合は私と彼の本質が似ていたってだけかもしれないけど。」

 

「そう…ですか。」

 

「みんな違ってみんな良い。まぁ、限度はあるとしても。その限度を越えなければ、仲良くなるきっかけは必ずどこかにあるんじゃないかな。」

 

そこで私は一呼吸置いた。

 

「これ、最初に一緒に戦争に行った友達が教えてくれた考え方なんだよ。狭い視野で物事を見つめたらいけない。広く視野を持って、最初に触れるのは広く浅く。没頭するものができるのなら、深くまで突き進む。楽しいことに触れずにいるのは愚の骨頂。せっかくの人生、楽しまなくちゃ…ってね。」

 

私は空を見上げた。

 

「まぁ。それもあるのか“偽善者”だったり“半機械”だったり…あと何だっけ、“淫乱”?とか言われてたけど。」

 

〈おいちょっと待てそれは流石に見過ごせないぞ…?〉

 

「気にしてないから大丈夫。」

 

〈…そうか…?〉

 

「隠したからっていい人と出会えるかもわからないし、高校時代は“博士”とか“超絶技師”なんて言われてた慕われてたし。まぁ私在籍してたの被服科だったんだけどね。どんな能力があって慕われてたとしても、彼氏はいない───」

 

「先輩、しっかり!?」

 

「大丈夫。気にしてないし。」

 

〈ていうかお前被服科だったのかよ。〉

 

「そうだよ?お兄ちゃん私の高校の姉妹校に在籍してたんだから知ってるでしょ?」

 

〈すまんが長期留学扱いだからそこまで詳しくねぇんだわ。〉

 

あ、そうだっけ…

 

「さて、殺しあうか黒髭、エドワード・ティーチ!」

 

「おうっ!?拙者の名前を呼んだ!?糞髭としか呼ばなかったBBAが拙者を名前で呼んだ!?デレフラグですかな、これは!?」

 

「さすがに海賊として有名なだけはあるってねぇ!少しは見直したよ、リッカに海賊を教えるとはね!よほど気に入ったと見える!」

 

「いや当然でござろう?“オタクに分け隔てなく接する美少女”とかレア中のレア、聖杯を使って作り出すのも辞さないほどのお宝ですぞ??いうなればサイリウムレアですぞ?」

 

「いやそれ知ってる人しかわかんないからー!!」

 

サイリウムレア───略称CR。プリパラシリーズ知らないと多分伝わらない。

 

〈つーかなんでプリパラ知ってんだあいつ。〉

 

「さぁ…?」

 

「アタシにはよくわかんなかったけど───けどリッカは今私の船の船員だ!これがどういうことかわかるだろう!?」

 

「海の宝に正しい持ち主なんていない、早い者勝ちが拙者ら海賊のルール!相手に宝があるなら力づくで奪う、それが海賊!!」

 

「その通りだ!」

 

船長が拳銃をくるくると回す。

 

「来な、アタシの100年後に生まれる海賊───世界一有名な黒髭、エドワード・ティーチ!このアタシが悪魔のヒールで踏んずけてやる!!」

 

「───きゅん。BBAなのに格好いい…拙者が女であれば今頃ロマンチックなBGMとともに服を脱いでいくイベントCGが表示されていたに違いない。地味に差分作ったり指定するの面倒くさいよね、あれ。」

 

「台詞差分は絶対に必要!!細かい表情を変えるのは大変だけど出来た時はかなりの達成感!ファイル指定は絶対パスだと作成者のPCとかから指定されちゃうから必ず相対パスで指定し、差分のある画像を出すならLoadGraphで画像をグラフィックハンドルとして読み込んでおいてからDrawGraphでグラフィックハンドルに読み込んだものを画面上に描画、ScreenFlipで裏画面を表画面にコピー、ClearDrawScreenで消去、描画、コピー、消去を繰り返す!!」

 

「く っ そ く わ し い!!さてはゲームのプログラミング経験、しかもDxライブラリでの経験がおありですな!?もう何が何でもリッカ殿が欲しいのですぞ!!」

 

〈マシュ!リッカの口をふさいで!!ギルが来る前に、早く!!〉

 

「先輩!!」

 

「みゅっ!?みゅぐぐ…」

 

恐ろしく速い口塞ぎ、私じゃないと我愛想念的。

 

『落ち着くから手を放して、マシュ』

 

「あ、はい…」

 

その念話に応じてマシュが私の口から手を放してくれた。

 

「さぁて略奪だ!!どっちが勝つか決着をつけようじゃねぇかBBA!!」

 

「欲しけりゃ奪え、それが海賊の根本だ!!」

 

「ヌルフフフフ!!待っているでござるよ、リッカど───」

 

恐らく賭けられているのは私自身。だったら、私はこれを見届けないといけない。なのに───

 

 

ズキッ!!

 

 

「あぐっ…!!」

 

唐突な激痛と同時に───

 

 

ドスンッ

 

 

「やれやれ、やっと隙が見えやがった。」

 

「───ぐはっ」

 

そんな、声。痛みが収まって、顔を上げると───

 

「───え?黒髭───さん?」

 

「ティーチ!?てめぇ、仲間を───!!」

 

緑の人の槍に貫かれた、黒髭さんの姿があった。

 


recollection system reboot...

 

 

色々な習い事をした。

 

器楽、英会話、声楽、水泳───

 

様々な武道に触れた。

 

剣道、弓道、柔道、合気道───

 

色々な賞も取った。

 

描画、木工、格闘技───その他諸々。

 

 

「お前は私達の自慢の娘だ。」

 

「どうか、お兄ちゃんのようにはならないで。」

 

このころ、私はお母さんの言う“お兄ちゃん”がどんな人かよくわからなかった。

 

“お兄ちゃん”と関わることはなかったから。

 

“お兄ちゃん”はほとんど家にいなかったから。

 

私はお父さんとお母さんの願いを応えたい一心で、色々なことを頑張った。

 

なんでもできたから、やれることはやった。

 

習い事は増えていって、勉強も難しくなっていった。

 

───やがて、体調を崩した。

 

「今はゆっくり休め」

 

「治りを待ちましょう。」

 

快復したら、また再開される。

 

頑張ったけど、またすぐに体調を崩した。

 

体調を崩して、快復して───また体調を崩して。

 

それが、4回くらい続いた頃だと思う。

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

熱を出して寝込んでいた日の夜。誰かの大声で目を覚ました。

 

「あんたたちがどんな立場だろうと関係ねぇ!子供は親の所有物じゃねえんだよ!!」

 

襖を小さく開けて、隣の部屋をみる。そこには、お父さんとお母さん。いつもすれ違うだけだった“お兄ちゃん”の姿があった。

 

その日、誇張もなしに私は“お兄ちゃん”の声を初めて聞いた。

 

お父さんが何かを話しているのは分かった。けど、私の意識は朦朧としてて、うまく聞き取れなかった。

 

「───くそったれが!」

 

大きな音を立てて、“お兄ちゃん”は部屋から出ていった。

 

「───使えぬ奴め。」

 

「えぇ、そうですね。彼は使えない───全くもって使えない。」

 

“使えない”───その言葉に、私は動揺した。

 

「……おかあ、さん?」

 

「あら…起きたのね?」

 

「…気持ち悪い……」

 

「なら休んでいなさい。」

 

「うん…」

 

私は答えて襖を閉め、布団に潜り込んだ。

 

「…使えない子達。あっちがダメならこっちはと思ったのだけれど。あっちは反発する、こっちは軟弱。どうしたものかしら…」

 

「───」

 

使えない───軟弱で、使えない。

 

すぐに体調を崩すことを言っているのだと思う。

 

───だったら、私は。

 

体調を崩さなければいい。

 

体調を崩しても、普通に見せかければいい。

 

どんなに辛くても、全て押し潰してしまえばいい。

 

押し潰して、圧縮して、捨て去って───

 

もう絶対に、体調なんて崩さなければいい。

 

弱音なんて、吐かなければいい。

 

耐えて、耐えて、耐えて───

 

 

 

───いつからだろう。

 

私は───

 

 

 

 

体調不良に、病気にならなくなった。

 

 

 

 

 

小学生の頃───

 

 

私が病に強くなった時代。

 

 

recollection system end.






星見の観測者「…これは。」

……うん。

星見の観測者「…創り手。」

ん?

星見の観測者「すぐに君のいた場所へ帰れ。君ならわかるだろう、この過去が危ないと。」

まぁ、ね。

星見の観測者「予定が変わるのは申し訳ない。すぐに君が帰れるようにしよう。」

よろしく。…さすがに、これは全部調べ上げる。

星見の観測者「これは持って帰れ。」

……なんで数日で新しい服……

星見の観測者「餞別、というわけでもないが。」

そう…


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第139話 追憶開始(スタート・リコレクション)───運命の転機

正弓「お母さん…どこで何をしているのかな。」

正のアーチャー!!いる!?

正弓「…!?お母さん!?どこに行ってたの!?いつの間にかこの世界からいなくなってたし!」

詳しい話はあと!すぐに観測所に来て、リコレクションシステムの起動準備に入って!!

正弓「リ、リコレクションシステム……!?でもあれは、本人の了承がないと……!」

了承なら彼女の未来が顕現したときに既にもらってる!いいから早く、対象は藤丸リッカで時間は中学二年生の頃から!!

正弓「わ、分かった……!とりあえず観測所に向かわなきゃ………!」



正のランサー!正のセイバー!状態はどう!?

正槍「観測状態は良好だよ。世界同士の接続も良好、干渉はいつでもできる。」

正剣「時間流に異常なし。過去と現在の時間接続の状態良好───記録定義に劣化、変質無し。」

正槍「正直な話、あとは追憶空間を安定させて観測するだけ。」

ありがとう!

正弓「あとは…私、だよね。」

うん…

正弓「…気をつけてね、お母さん」

分かってる。

正弓「───リコレクションシステム稼動。記憶回路、魔力パス構築───接続完了。対象指定、藤丸リッカ。対象時間は指定された対象の中学二年生時。」

正槍「───お母さん!敵影出現、数200!!」

ギル!!

弓「任せよ!貴様らのことを守るなど容易い!」

裁「そう言って無茶するんだから……私も一緒に。マスター達はシステムの稼動を終わらせて。」

お願い!

正槍「リコレクションシステム稼動確認───敵影接近、来るよ!!」

正弓「我が声に答えよ汝が記憶───!!」

弓「ふん───行くぞ、塵芥。命の貯蔵は十分か───!!!」


recollection system reboot...

 

私が彼を振ってからのことはまぁ、予測はつくと思う。

 

靴の中には画鋲。

 

外に出れば閉め出される。

 

教科書やノートは隠されて、たまにあったと思ったら落書きされてる。

 

藁人形に私の写真が貼ってあることもあった。当然だけど、釘は打たれてた。…藁人形(これ)に関してはどこで手に入れたのか気になったけど。

 

習い事のお陰か無駄に身体能力は高かったし、病気にならなくなったせいか痛みにも強かった。

 

そこまで苦だとは思っていなかったし、全く興味がなかった。

 

習い事は全てやめちゃっていたけれど、鍛練は続けていた。

 

一応当時の先生にも話してみたけど効果はない。むしろ悪化するなら相談する方が邪魔だった。

 

お母さん達にも相談してみたけれど。

 

「自分でなんとかできるだろう?」

 

「私達は忙しいの。」

 

…効果はなかった。私が弱かったせいでこうなったんだし、仕方ない。

 

特に辛いとは思ってなかったし、微かにでもそう思っていたのなら私の性質上それを受け入れて適応すると思う。

 

そんな日常になってから、一年が経っただろうか。

 

3年生になった頃、転機が訪れた。

 

「あー……今年度一年このクラスを受け持つことになった。今年度だけしかこの学校にいないから…まぁ、君達と一緒に卒業することになる。」

 

その人は…言葉の調子が少し、お兄ちゃんに似ていた。

 

「あっと…自己紹介だよな。……なんで白チョーク無いんだよ。まぁいいや、じゃあ口頭で。俺はひなた。“つきよみ ひなた”ってんだ。主に現国、古文、中文……じゃねぇ、国語教科を担当することになる。文字は……口頭で説明するのが面倒くさいんだが……」

 

このあたりで、クラスの人はつきよみ先生に対してだろうけどクスクスという笑い声を漏らしていた。

 

「月、っていう字は分かるよな。満月半月とかの月だ。詠む……魔法詠唱とかの詠がよみの部分にあたる。よって月詠。名前の方は……太陽の陽に、詩……詩を詠むって言葉あるだろ?それの詩だ。それで陽詩(ひなた)だ。」

 

可愛らしい名前に反して、少し乱暴な言い方。お兄ちゃんの名前も六花(むつか)だったから、似てるかもしれない。

 

「なんで俺なんかが“ひなた”なんて女性名に近いの名乗ってるか気になってる奴もいるんじゃねぇか?俺の家はほとんどが女性ばかりでよ。まぁ似た感じで育てられたわけだ。代々巫女一家だしな。んで、俺は巫女として育てられたわけなんだが…まぁ見ての通り女じゃねぇわけでな。別に反発はなかったが、最終的に俺は巫女になる道を選ばなかった。別に勘当されたわけでもねぇから安心しな…って、言ってもわからんか。俺の自己紹介はこのあたりで終わるが、最後に1つだけ言っておく。…女性名だろうがなんだろうが、俺はこの名前を気に入っている。以上だ。」

 

そこまで一気に話してから、先生は一呼吸置いた。

 

「遅くなったが、転校生を紹介する。入ってきてくれ。」

 

先生の言葉に、2人の女の子が入ってきた。

 

1人は背が高くて、薄紅色───R:240 G:144 B:141の色の髪をした女の子。

 

もう1人は背が低くて桃花色───R:225 G:152 B:180の色の髪をした女の子。黄色い星の形のアクセサリが印象的だった。

 

「自己紹介を。」

 

「……はじめまして。私はニキ。“華紬(はなつむぎ) ニキ”といいます。1年の間だけですが、よろしくお願いします。」

 

「“春風(はるかぜ) 星羅(せいら)”です!今年一年、よろしくお願いします!」

 

第一印象的に、春風さんは元気。華紬さんは物静かな感じだった。

 

「うし、じゃあ席は……華紬は藤丸の隣。春風は藤丸の後ろ。藤丸ってのはそこにいる生徒な。」

 

「はい。」

「はーい───っ。」

 

その時、春風さんが私を見て変な反応をしていたのはよく覚えてる。

 

「どうした?春風。」

 

「な、なんでもないっ!」

 

春風さんは先生の言葉に答えて、花紬さんと一緒に私の方へと歩いてきた。

 

「……よろしくね、藤丸さん。」

「よろしく!えっと…藤丸さん!」

 

異口同音で言われた言葉に。

 

「……」

 

私はうなずくことしかできなかった。

 

思えば、この時点で気がつくべきだったのかもしれない。

 

月詠 陽詩。

 

華紬 ニキ。

 

春風 星羅。

 

この三人は、最初から───

 

 

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事態が急転していったのは、それから数日した頃だった。

 

「突然のお声かけ、お許しくださいませフジマル様。」

 

挨拶とかじゃない───完全に私に声をかけてきた人がいた。

 

「───ぁ」

 

「まぁ!(わたくし)に話しかけられておいてなんという反応ですの…と言いたいところですが私は最近転校してきたばかり……顔合わせすら済んでいない状況ですのでそのようなものなのでしょうか。あぁ、申し遅れましたわ、私は……“リナリア”というのです。あなた様が藤丸立香様で相違ありませんわね?」

 

「───ぅん」

 

長い間声を発さなかったからか、声がかすれる。

 

「ふむふむ…噂に違わない美少女ですわね…ですが大粒のダイヤモンドのような輝きが汚れで阻害されているかのようですわ。宝石は磨かなければその真価を発揮しませんの。全く嘆かわしいことこの上ないですわ。」

 

高圧的な話し方をするその女の子は……失礼だけどハッキリ言ってしまえば、ブスって言われるような感じだった。

 

丸く太った体、汗をかきやすいのか大量の汗。厚すぎてこちら側から彼女の瞳が見えないほどの瓶底眼鏡。

 

「学生生活の中、飽き飽きしているのではなくて?楽しくないと思い、ただただ時間が過ぎるのを待つだけ。いけませんわ、そんなのは。たった一度の貴女という意識の人生なのです!素敵な人生を、貴重な一生を無駄にしてはいけませんわ!」

 

でも───たまに見えるその瞳は、とても澄んでいて綺麗だった。

 

「どうでしょう?今日一日、私についてきては頂けませんか?あぁ、ですが私の姿では貴女としては不快でしょうか……」

 

「……いいよ、別に。ついていっても。」

 

「本当ですの!?」

 

別に…学校にいてもやることはなかったし。

 

私がいなくても、誰も気にしないと思うし。

 

「では参りましょう……と言いたいところですが。そこのお二方、出ていらっしゃったらどうですの?」

 

「え…」

 

彼女がみた視線の先を辿ると、確かに2人の影があった。どちらもピンクと言えるような髪色をした女の子───華紬さんと春風さんだった。

 

「私も行っても…いい、かな?貴女と…藤丸さんと仲良くなりたいの。」

 

「私も私も!…実は私達、貴女と仲良くなりたかったけど勇気が出せなかったの。」

 

嘘には感じなかった。嘘だったら、直感に反応するから。全く反応がなかったから、嘘じゃないと思う。

 

「……」

 

「私は構いませんわ。ですが、よろしいので?」

 

「えーと……先生がね。私と華紬さんを公欠?とかいう扱いにしてくれたの。今日転校予定のリナリアさんが藤丸さんの公欠願いも出してたらしいから、私達もついでにって。」

 

「私の…公欠?」

 

「私達、今さっきまで教室にいたの。春風さんと一緒に藤丸さんの事を見ていたら、月詠先生が入ってきて…“気になるんだったら公欠扱いにしてやるから藤丸達についていったらどうだ?拒絶されたんなら教室に戻ってくりゃいい。転校生の願いで、藤丸も公欠扱いになるからな。まぁ、藤丸が拒絶したなら藤丸のも取り下げだがな。”って。」

 

「先生が……」

 

私は私の在籍する教室をみた。カーテンはほとんど閉まってたけど、1ヶ所だけ開いてる場所から月詠先生が空を見つめているのが見えた。

 

「だめ…かな?」

 

「……いいよ。私なんかでいいなら。」

 

「本当!?ありがとう、藤丸さん!」

 

「ありがとう。」

 

「フフッ…では参りましょう!光りそうな宝石と宝石磨きになりそうな方々を労せず手に入れられるとは、私は運が良いですわ!」

 

宝石磨き…華紬さんも、春風さんも私なんかよりも遥かに可愛いのに、私に付き合うなんて…って、ちょっと思ってた。

 

警鐘は───鳴らなかった。

 

 

 

それから案内されたのは、立派なお屋敷だった。

 

「こちらですの!少し散らかっているかもしれませんが、どうぞお上がりくださいませ!」

 

「お、おっきい……!」

 

「本当…お城みたい。」

 

「……」

 

「うーん…フジマル様はそこまで反応がないですわね。これが塩対応というものでしょうか。」

 

驚きすぎて、反応ができていないだけだった。

 

「早めに上がりましょう。すぐにお茶とお茶菓子を用意いたしますわ。」

 

そう言って彼女は家の鍵を開けて私達を中に通した。

 

「「お、お邪魔します……」」

 

「……」

 

「ただいま帰りましたわ!」

 

「……おや。お帰りなさいませ、お嬢様。」

 

家の中から声。そのあと、一人の男の子が姿を現した。

 

「“アリウム”!帰っていたのですわね!」

 

「えぇ。ところで、そちらの方々は…」

 

アリウム、と呼ばれた彼…彼も、彼女に似て丸い体をしていた。

 

「皆さん、紹介しますわ。彼は私の執事をしています───」

 

「“アリウム”と申しますぞ。申し訳ない、拙者の容姿で不快に思われるでしょう。」

 

「は、はじめまして!春風 星羅です!」

 

「は、はじめまして。華紬 ニキです。」

 

「…藤丸 立香です。」

 

「ふむふむ……フジマル様がお嬢様の言っていた“薄汚れた宝石”ですな?」

 

「そうですわ!流石ですのね、話してもいないといいますのに!」

 

「拙者、お嬢様の専属執事でありますので。それではもてなしの準備をいたしましょう。」

 

「アリウム、お茶菓子などの準備は私が致しますわ。アレの用意をお願いします。」

 

「かしこまりました。それでは失礼致します。」

 

彼は私達に一礼してから、階段を上っていった。なんだか、とても洗練されている動きだな、と思った。

 

「さて、アリウムが来る前にリビングの方へご案内致しますわ。」

 

そう言った彼女に、私達は居間の方へと通された。居間、でいいと思う。建物自体は洋風なのに、その場所は和風だったから。

 

「日本の方ですから、こちらの方が良かったかと思われましたが…いかがでしょうか?」

 

「私こういう感じ好き!」

 

「私も…洋風もいいけど、こういうのも好きよ。」

 

「…うん。大丈夫。」

 

「そうですか…概ね好評なようで何よりですわ。」

 

彼女がそう言った時、トントンッ、と障子の戸が叩かれ、障子の戸が開かれた。

 

「お嬢様、例のものを…まだ少数ですが、お持ちしました。」

 

「ありがとう。でもよくここだとわかりましたわね。」

 

「お嬢様の考えは大体お見通しですぞ。」

 

「そうですのね。ええと……」

 

彼が持ってきたのは、段ボール2つ。彼女は段ボールの中身を確認し、頷いた。

 

「流石ですわ。欲しかったものが全てあります。さて。フジマル様にはこれからとある文化に触れていただきますわ。」

 

「……文化?」

 

「日本のサブカルチャー、というものをご存じですかな。よい文化ですぞ、あれは。サブカルチャーは時として人を救うのです。それは美少女たるフジマル様でも同じことなのですぞ。」

 

「ふぅん…」

 

「とりあえず……これは今日のノルマですわ。幸い、公欠扱いとなっていますから時間はたっぷりあるのです。」

 

そう言って置かれるDVDの山。涼宮ハルヒの憂鬱、ソードアート・オンライン、ケロロ軍曹、とっとこハム太郎、プリティーリズムオーロラドリーム───

 

「……アニメ?それにこっちは…ゲーム?」

 

「ご存じないですかな?そうなると人生の大半は損している可能性がありますぞ!」

 

「ここに置いてあるアニメは全てシリーズ最初の1巻だけなのですわ。最初は広く浅く、気に入ったものがあれば深くまで突き進むが私の信条なんですの!ゲームソフトは…ちょっと昔ですがファミリーコンピュータやゲームボーイのものを持ってきてもらいましたわ。」

 

「へぇ…」

 

アニメにゲーム……か。習い事とか多くて触れたことはなかったな、と思った。

 

「では早速……と言いたいのですが。」

 

「……?」

 

「フジマル様、顔色が酷いでござる。特に髪、髪が酷いのでござるよ。髪は女性の命とも言いますからな、そのように痛み、くすんだ色をした髪は見ていられないのですぞ。…というわけで、早急にお風呂に入られよ。」

 

「……いいの?」

 

「構いませんわ。そもそもこのお屋敷、私とアリウムの2人だけで住むには広すぎるのですの。日用品は買い揃えてありますからご自由にお使いなさいな。」

 

「……ありがとう。」

 

「私も後で行く。髪型のセットと服選びは私に任せてもらってもいいかな…?」

 

「……うん。」

 

「クローゼットはこちらですぞ、ハナツムギ様。ゲームのセッティングなどはこちらでやっておきますので、お気になさらぬよう。」

 

「ありがとう。」

 

……お風呂に入りながら。

 

何年ぶりだろう、と思った。

 

こんなにも多く、人と話したのって。

 

 

 

お風呂から上がって、華紬さんにコーディネートしてもらって…そうして居間に戻ったとき、リナリアさんは畳の上に正座して黙想していた。

 

「……?上がりましたわね。シャンプーのよい香りがしますわ。私達の匂いも消せないものかしら…」

 

「ありがとう。さっぱりした。華紬さんも、ありがとう。」

 

「大丈夫。私が好きでやってることだから。」

 

「そっか…」

 

「おかえり!どうだった?」

 

「何となく、落ち着いた。」

 

シャンプーやボディーソープが特注品だったのかもしれないけど、髪の荒れが元に戻ったり、身体の芯から暖まったりするのが感じられた。

 

「私達の匂いなどどうでもよいですわね。とりあえずアニメですわ。先程の山は一先ず置いておいて、こちらから見ていきましょう。」

 

「私…アニメもゲームもよく……」

 

「大丈夫ですわ!私が再厳選したものですもの!さぁ、始めましょう!」

 

慣れた手つきで彼女はリモコンを操作した。

 

 

 

それから見たのは、子供向けがほとんどだった。

 

アンパンマンにプリキュア、プリティーリズムや星のカービィ…プリティーリズムに関しては後でまた見るからってことで第三期…レインボーライブのお話だったけど、何もかもがわからないということはなかった。

 

強大な相手に対して力をあわせる。

 

共通の相手に対して、敵だったとしても一時的に力をあわせる。

 

平和なときは平和に遊ぶ───

 

それは、なんだか───

 

 

欠けていた何かを思い出させるような感じだった。

 

まだ小さい頃のことを。

 

無邪気に遊んでいたあの頃を───

 

気がつけば、私は涙を流していた。

 

…春風さんも泣いていたのは、よく分からなかったけど。私とは違う理由なんだろうな、とは直感で思った。

 

「どうです?」

 

「……うん」

 

「乾いた心に、サブカルチャーは染み渡るでしょう?」

 

「うん……」

 

「アニメ、よいでしょう?」

 

「うん…!」

 

それからしばらく、アニメを見漁った。再厳選したっていうのは大体見終わって、次は広く浅く。気がつけば夕方になっていて、ずいぶんと長い時間見ていたみたい。春風さんも、華紬さんも、ずっと一緒に見ていた。

 

「神……神の技ですわ。アニメーター、声優、シナリオライター……その他複数の神が集い、この作品は生まれたのですわ。」

 

「す、すご、凄かった……」

 

「よくその状態で結構普通に喋れますな……」

 

アリウムさんが少し呆れたように言ったあと、みんなは私が泣き止むまで待ってくれた。

 

「これ……どうして?」

 

「フジマル様用に厳選したのですわ。」

 

「え……」

 

「私の目からは、フジマル様は娯楽を知らないように見えたのですの。ならばまず、私達のアニメの原点を───子供達向けのアニメを主軸に置いたのですわ。時として、子供向けのアニメと言うのは中学生や高校生などにも刺さりますの。娯楽を、アニメを知らないならば初めて見るであろうもの、即ち原点から。そこから新しく道を開拓するのですわ。」

 

「新しい道…原点。」

 

「転校して初日ですが…それよりも前から貴女のことは観察させていただいたのです。学校見学の際に所々で聞こえた噂が気にかかりまして。それはまぁ散々な言われようでしたが、私自分で得た情報を最優先で信用するものですから。頭の片隅には置いておいて、貴女を観察させていただいたのですわ。」

 

観察……そういえば、何となく視線を感じる気はしてた。気のせいだと思ってたんだけど……

 

「そうしますと…気づいてしまったのですわ。闇に、虚無に飲まれかけた薄汚れた宝石ではないですか。言い換えてしまえばグリーフシードで浄化しなかったソウルジェム。フジマル様は魔女と化す寸前だったのですわ。まぁ、ソウルジェムはこの世界にはありませんが。気がつきましたわ。フジマル様に纏わる噂の数々は全てフジマル様に嫉妬した愚民が流した嘘だと。噂の真意を知るために観察していた折、フジマル様のお兄様もお見かけしましたが一目で分かりましたわ。彼は…とても優しい方ですの。たとえ言葉が少し乱暴でも、フジマル様のことを大切に思っていらっしゃるのですわ。」

 

お兄ちゃんが……

 

「でも。だからこそ。私はフジマル様が不当な評価を下されているのが我慢ならないのですわ。私が嫌いなもののは不当な評価と理不尽なのですの。ゲームの理不尽ならば構いませんわ、主にフロム。ゲームの理不尽は逆にどうやって攻略してやろうかと燃えますの。ですが…現実の理不尽はそうもいきません。理不尽を放置すれば理不尽なままです。そして、今にも魔女に変化しそうなソウルジェムを、一刻も早く浄化したかった。ですから、転校初日の朝、学校に生徒は誰もいないと思われる時間帯に声をかけたのですわ。…実際はハルカゼ様とハナツムギ様がいたのですが。」

 

「あ、あはは……なんか、家だと落ち着かなくて。」

 

「私も。なんでか分からないけど、学校の方が落ち着いていられるの。みんなが来る時間帯になると、落ち着かなくなるけど……みんながいない時間帯は、すごく…落ち着く。」

 

そういえば、少し前に月詠先生が言ってきたことがあった。“春風、華紬、藤丸はいつも早いな。今年度始まってからここまで早く、安定している生徒は他にいないぞ。”って。

 

「私共の企み、成功したでしょうか……?」

 

「……どうして?どうして……私のことを?」

 

ふと気になった。どうしてここまでしてくれるのかが。

 

「?当然ではありませんか?あのままではフジマル様は下を向いて生きていたと思いますわ。」

 

「…」

 

「良いですか?人の一生というのはあまりにも短いのです。短い人生を歪められたまま過ごすなど。やりたいことをできないまま過ごすなど、あまりにも酷とは思いませんか?」

 

「リナリアさん…」

 

「申し上げますが、フジマル様の価値は高いのですぞ。曇ったまま放置しているのはあまりにも勿体ない。自信を持つことを勧めるのでござる、フジマル様。」

 

「アリウムさん…でも、わたしなんて…」

 

「価値ある方ですわ。この私が断言いたしましょう。フジマル様も、ハルカゼ様も、ハナツムギ様も。ここにいる美少女三人組全員が高い価値を持つ方々ですわ。何故なら───このような姿の私や、アリウムを。一片たりとも避けようとせず、接してくれているではありませんか。」

 

「…それは」

 

「それと同じなのですわ。狭い視野で物事を見つめたらいけません。広く視野を持って、最初に触れるのは広く浅く。没頭するものができるのなら、深くまで突き進む。楽しいことに触れずにいるのは愚の骨頂なのです。せっかくの人生、楽しまなくちゃいけないのですわ!ですから───笑うのです、フジマル様。笑って、オシャレをして、遊びあって───この人生を楽しんでほしいのですわ!」

 

「…うん」

 

「それと…似合っておりますわよ、そのコーディネート。ハナツムギ様がコーディネートしたのですわよね?」

 

「うん。」

 

「フジマル様にぴったりの素敵なコーディネートだと思いますの。ハナツムギ様は才能があるのでしょうか。」

 

「そう…かな?」

 

私が着てるのは、キラキラとした装飾のあるワンピースだった。私としては多分似合わないと思っていたんだけど。

 

「この家のクローゼットに私の思い描く服があって助かったわ。藤丸さんになら、そういう服が合うってずっと思っていたの。」

 

「ずっと…?」

 

「えぇ。ずっと。学校に誰もいないときは、ずっとあなたに合うデザインを考えていたの。今の時点で行き着いたのが、その服だったのだけど。」

 

「…私に、似合う…」

 

「似合ってるよ、藤丸さん!」

 

「……ありがとう。」

 

「さて。今日はもう遅いのでござる。お嬢様、フジマル様たちをお送りしましょう。」

 

「そうですわね。…その服は、差し上げますわ。私には着られませんので。私が持っておくよりも着ることのできるフジマル様に持っていてもらったほうが、その服も喜ぶでしょう。」

 

「…うん!」

 

「それではまた。学校終わりにでも来てほしいのですぞ。もちろん全員一緒で、ですな。次はもっと深い部分に触れていきますぞ?」

 

 

これが───

 

中学三年生、序盤の時の思い出。

 

大切な友達ができた頃。

 

 

recollection system end.




正弓「リコレクションシステムダウン!修復後再起動処理をします!!」

正槍「世界接続回路、今だ安定───敵影接近、数は───600!」

弓「ふん、軽いものよ。その程度で我らを阻めるとでも思ったか。」

裁「流石にちょっとやそっとでやられるつもりはないよ。」

頼もしい……!

正弓「修復、50%終了しました!引き続き処理は続けます!!」


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第140話 追憶深化(ディープ・リコレクション)───友達と日常

正弓「修復完了……!再起動処理、開始します!」

正剣「時間転移反応感知。反応数60、全て敵性体───それから時間跳躍攻撃反応。」

裁「時間跳躍攻撃は私が防ぐ。ギルは時間転移してきた奴らをお願い。」

弓「任せよ!…しかし、妙よな。大群ではあるが1つ1つの耐久が低すぎる。」

裁「“記憶への侵食者”…だっけ。敵の名前は。」

弓「うむ。リコレクションシステム───追憶システムは部分的に時空間へと干渉し、さらにはその対象の記憶───歴史の波へと干渉するもの、であったな。」

裁「干渉してる時、その記憶は不安定で、不安定な記憶を獲物とする“記憶への侵食者”が現れる───記憶を侵食されないために私達はそれらを止めなくちゃいけない。侵食された場合、修復される可能性もあるが修復されずに致命的な欠陥となる可能性もある、だったね。」

弓「まぁ、最悪の場合を考えておいた方がよかろう。常に最悪の場合を、疲れはするが警戒するに越したことはない。」

正剣「反応増大。来るよ。」

弓「ふ、準備などとうに出来ておるわ───その様な場所、間合いだヴァカメ!!」

裁「エクスカリバーはやめなよ……アルトリアさんの剣があれだと思うと…ねぇ。」

弓「……言うな。辛くなってくる。」

裁「───開け、時の門よ。全て流転し、転回し、また逆転し、停止せよ。回り廻るは時の回廊───歪み止まるは時の歯車。起動───“時の理喪いし廻廊(タイムレス・コリドー)”」

正弓「再起動準備完了しました───そういえばお母さん」

うん?

正弓「どうして急に追憶を?見てきた以上、危険な記憶なのは分かる。だけど───お母さんってそれだけで追憶に踏み切るの?」

……鋭いね、正のアーチャーは。

正弓「なにか理由…あるんだね?」

……負の感情。

正弓「え?」

負の感情……呪詛。ずっと気になってたの。なんで、リッカさんに出力されたのか。

正弓「リッカさんに……呪詛が出力?」

うん。正のアーチャーや正のセイバーみたいに私が作り出した子達や、本編中のルーパスさんやリューネさんみたいに元々設定が限りなく薄い子達に出力されるならまだ分かる。でも、今回の場合“藤丸 立香”として既に定義されているリッカさんに出力された。…私がリッカさんを弄ったのは“預言書の主か否か”。ただそれだけ。

正弓「じゃあ、この運命には……」

私はなにも手をつけてない。

正弓「……なるほど。リコレクションシステム、再起動します。」


recollection system reboot...

 

それからというもの、私達は放課後になると彼女の家に向かうようになった。

 

「全年齢版ですが18歳以上推奨のゲームもやりましょうぞ。エロゲ、ギャルゲなども一通り買い揃えてありますのでな。」

 

「表現に慣れましたら本格的に18歳以上推奨の方に移りますわよ。」

 

あくまで“推奨”、あくまで“対象”だから別にそこまで気にしないようだった。…本来はダメなんだろうけど、私も華紬さんも春風さんもそこまで抵抗はなかった。華紬さんに至っては、逆によく観察して新しいコーディネートの起点にしてたみたい。

 

───ピンポーン…

 

「……?お客様ですの?」

 

数日経ったある日、この家を訪ねてくる人がいた。

 

「あ、私も行く……!いい?リナリアさん。」

 

「……リナリアで良いですの。さん、などと要りませんわ…と、何度か申し上げたはずなのですが。」

 

「あ…ごめん、リナリア。」

 

この頃はまだ、さん付けするのが癖になってて、その度にリナリアとアリウムにちょっとだけ呆れられてた。

 

───ピーン、ポーン…

 

「と、お客様をお待たせしていましたわね。行きましょう、フジマル様。」

 

その言葉のあと、私とリナリア、途中で合流したアリウムは玄関に向かった。

 

「えーと……あぁ、フジマル様のお兄様でございますね。」

 

ドアアイから外を見たリナリアさんがそう言って、私に出るように促した。

 

───ガチャ

 

「ん?誰か、って言うのも聞かずに開いたな───って、立香じゃねぇか。」

 

「お兄ちゃん……?どうして…?」

 

「どうしてここに、ってことか。少し久々に家に帰ったら家にいなかったからよ。勘を当てにして探し回ったらここに辿り着いたんだが。いやマジでいるとは思わなかったが。」

 

「そう……」

 

「これは……お前の友達の家か?」

 

「うん。」

 

「……そうか。」

 

「フジマル様?お兄様の方にも上がってもらってはいかがですか?」

 

家の中からリナリアがそう言った。

 

「いいの?」

「いいのか?」

 

言葉が被って、家の中からクスリと笑う声が聞こえた。

 

「仲がよろしいのですな。どうぞ、構いませぬぞ。もちろん、フジマル様のお兄様が良いのでしたら、ではありますが。」

 

「別にいいが…立香はどうする?」

 

「…大丈夫。」

 

お兄ちゃんなら大丈夫。直感がそう告げていた。

 

「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて入れさせてもらうとするか。」

 

そう言ってお兄ちゃんは私と一緒に家の中に入った。

 

「ようこそ、フジマル様のお兄様。」

 

「歓迎いたしますぞ。とはいえ、急な来客となると準備が足りないのですがな。」

 

「───」

 

「………フジマル様のお兄様?」

 

「お兄ちゃん?」

 

お兄ちゃんはこの時、信じられないものを見たように目を見開いていた。

 

「───はっ。いや、すまねぇ。いつも妹が世話になってる。藤丸 六花だ。立香と名字が被るから、六花って呼んでくれ。」

 

「分かりましたわ───っ」

 

お兄ちゃんの手を握った途端、リナリアとアリウムの表情が少し変わったのが見えた。

 

「リナリア……?アリウム……?」

 

「……いえ。なんでもありませんわ。ねぇ、アリウム。」

 

「うむ。拙者も何もありませぬ。」

 

嘘をついているのが分かった。…だけど、何か理由があるんだろうなと思って深くは追求しなかった。

 

「すまねぇな。急な訪問で。」

 

「いえいえ、構いませんわ。ムツカ様もいつでもいらっしゃってくださいませ。流石に、不在の時は何もできませんが。アリウム?」

 

「追加でお茶とお茶菓子の用意をしてきますぞ。ムツカ様、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」

 

「あぁ…すまん。」

 

少し謎が残ったけど、その後はお兄ちゃんも混ざって一緒に遊んだ。

 

「提供される側ではなく、提供する側になってみるのも一興ですわ!歌ってみた、踊ってみた……あとはゲーム実況などに興味はおありですか?」

 

「私、ゲーム実況やってみたい!」

 

「私もやってみたいわ。」

 

「ハルカゼ様とハナツムギ様はゲーム実況ですのね。」

 

「ゲームを作る、というのも良いですな。プログラミングなどやってみませぬか?」

 

「プログラミングのことなら任せろ。基本から応用まで、きっちり教えてやるよ。」

 

「おや。ムツカ様はプログラムの経験がおありですか。」

 

「現役学生だがAI作ろうとしてる人間舐めんじゃねぇっての。」

 

春風さんと華紬さんはゲーム実況。私は大体全部やった。習い事とかで鍛えてたから大丈夫だと思ってたら、結構体力使ってくたくたになった。

 

春風さんがゲーム実況でやるのは“星のカービィ”シリーズのTA(タイムアタック)RTA(リアルタイムアタック)。ちゃんと実況動画とかとかも作ってたけど。華紬さんがやるのは“わがままファッション GIRLS MODE”とかのお着替え系が主だった。私は…“ソードアート・オンライン”シリーズや“ファンタシースターオンライン2”、“クラッシュ・バンディクー”とかのアクションゲーム系を実況してた事が多かったかな。

 

動画の編集なんかはほぼほぼリナリアとアリウムがやってくれて、春風さんの名前として“セイラ”。華紬さんの名前として“ニキ”。私の名前として“ハナ”。リナリアの名前として“姫金魚”。アリウムの名前として“葱坊主”。お兄ちゃんの名前として“ユキ”を設定して動画のキャラクターとして、私達として動かしてくれた。

 

お兄ちゃんもキャラクターとしている以上、活動には参加してくれて、高音を使って低音を使った私とデュエットをしてくれた。お兄ちゃんには“本当に男の人?”とか、“彼女は男せ…(ry”とかそういうコメントが来てて、私には“本当に女の子!?”とか、“彼は女せ…(ry”とか、そういうコメントが来ることがあった。二人あわせて凸凹声帯コンビ、なんていわれたことも。私は嫌だとは思わなかったけど、お兄ちゃんは苦笑してた。

 

「ここまで有名になるとは思いませんでしたわね……」

 

「そういえばお嬢様、そろそろアレの時期ではありませぬか?」

 

「……そういえばそうですわね。」

 

「あれって?」

 

「……戦争(デート)ですわ。夏と冬のお祭りであり、戦争であり───私共にとって大切な一大イベントですの!」

 

「戦争って書いてデートって読むなよ…あれは普通に戦争だろ。」

 

「なんで分かりましたのっ!?」

 

「やっぱ読んでたな……直感。ただそれだけだ。」

 

「へぇ…いってみたいけど、行けるのかな…」

 

「無論、今年のチケットも全員分取ってありますぞ。夏は地獄釜の中に放り込まれるようなものですので、お気をつけを。まぁ、拙者ら地獄釜に入った経験など無いのですがな。」

 

「ふふっ。だったら、動きやすい服装の方がいいよね?」

 

「そうですなぁ。動きやすくて、通気性の良いものの方が良いでしょう。ハナツムギ様、恐れ入りますがフジマル様、ハルカゼ様、ムツカ様のコーディネートの方、お願いできますかな?」

 

「えぇ、任せて。」

 

そして、当日になって───

 

「こんな感じ…かな?スカートやワンピースじゃなくてショートパンツ、トップスは白の半袖ブラウスで、透けても体の色が見えないように生地が薄めの水色の下着にしてみたんだけど。靴もミュールとかじゃなくてシューズで……結構軽装にしてみたよ。」

 

「すごい……!ありがとう、華紬さん!」

 

お礼を言ったら、華紬さんはクスリと笑った。それに私が首を傾げると、華紬さんは口を開いた。

 

「ニキでいいよ。」

 

「え?」

 

「私の名前。ニキでいいよ。多分呼びにくいよね?華紬さん、って。」

 

「えっと…慣れちゃったからそこまで……」

 

「…言い出すの、遅かったかな…?」

 

「う、ううん!でも…いいの?」

 

華紬さんはその言葉に頷いた。

 

「前の学校でもニキ、って呼ばれてたの。今の学校だとみんな華紬さん、って呼ぶからすごく違和感があって。なんでだろう、って思ってたら、そういえば誰にもいいよって言ってなかったなと思って。だから、今の学校に来てから私の事をニキって呼ぶのは多分…」

 

藤丸さんになる。その言葉は実際には言われなかったけど、理解できた。

 

「……じゃあ」

 

「?」

 

「私もリッカでいいよ。藤丸さん、もなんとなく呼びにくいでしょ?」

 

「リッカ……?藤丸さんの名前ってリツカだよね?」

 

「そうなんだけど……お兄ちゃんがね。本当に信頼した人に、本当に信じれる人だけこの名前を教えろ、って。」

 

「本当に、信頼した人……?」

 

「なんでも……魔除けになる?とか。」

 

よくわからなかったんだけど、って言ったら彼女も困惑してた。

 

「華紬さんは名前で呼ぶのを許してくれたから……それと交換、ってわけでもないけど。……どう、かな?」

 

「……分かった。信頼してくれた証…受けとるね。これからもよろしくね、リッカ。」

 

「うん。よろしくね。その……ニ…ニ…ニキ!」

 

「ふふっ。プリパラのみれぃを初めて呼び捨てにするらぁらみたい。」

 

「あ…確かにそうだね。」

 

「…ほら、待ってるよ。私も少し着替えたら行くから先に合流して待ってて?」

 

その後、私は待ってくれているみんなと合流して、それから少しして華紬さん───改めニキと合流して、リナリアの言う戦争に向かった。

 

───はっきり言って、地獄だった。

 

人混みに流されて行ったりきたり。特に春風さんは私達の中でも小柄な方だったから、かなり流されてはぐれて迷子になって……お兄ちゃんが見つけて連れて帰ってくるまでがテンプレだった。

 

それでも。目的だったものが手に入ったときはすごく喜んだ。

 

「フジマル様は何を?……ふむふむ、全年齢版ですか。」

 

「まだ私、ちょっとだけ苦手だから……アリウムは?」

 

「あらゆるジャンルですな!ただぶっちゃけ買いすぎたのです、動くことができませぬ皆様助けて───」

 

「むりむりむりむりた、たおれるたおれるきゃぁぁぁぁぁ!!?」

 

「「きゃぁぁぁぁぁ!!?」」

 

「買い込みすぎだろがぁぁぁぁ!!」

 

ちょっとした大惨事になったけど、最終的にはなんとかなった。ちなみにリナリアは最初から埋まってたみたい。

 

その後、リナリアの家に帰ってきて。リナリアとアリウムが寝ている間に春風さんの事を星羅って呼ぶことになって。春風さん───改め星羅はニキのことをニキって呼ぶようになって、私の事をリッカって呼ぶようになった。お兄ちゃんも同じで、ニキのことをニキ、星羅のことを星羅って呼ぶようになった。

 

「さて、皆様!茨城に行きますわよ!そこで戦争開始ですわ!」

 

「またコミックマーケット?でも、コミックマーケットは少し前にあったばかりだよね……?」

 

「ふっふっふ…今回の戦争は戦争は戦争でもコミケとは全く違うものですわ。」

 

その言葉に私達が首を傾げると、リナリアはゴーグルを掲げた。

 

「行きますわよ!もう1つの戦争───それ即ち、サバゲーですわ!!」

 

夏はかなり暑かった。

 

ゴーグルを被って、モデルガンを持って。迷彩服一式、全員分あって───それぞれが使いやすそうな武器を選んで、戦い抜いた。

 

最終的に落ち着いた武器種は私がアサルトライフルと二丁拳銃。ニキがスナイパーライフル。星羅がサブマシンガン。リナリアがショットガン。アリウムがサブマシンガン。お兄ちゃんがアサルトカービンと二丁拳銃だった。全員10歳以上対象の武器で戦いに向かってた。

 

「隙あり───」

 

───パスッ

 

「───え?」

 

なんでか分からないけど。私は私を襲おうとしている敵の位置が良く分かった。

 

「…フジマル様……ずっと思っていましたが、貴女様は空間把握能力がずば抜けておりますな。」

 

「空間把握能力?」

 

「えぇ。それと、敵の気配察知能力でしょうか。相手が飛び出し、フジマル様を撃とうとしたとき既に、フジマル様は敵に銃弾を当てているのですぞ。普通でしたらそのようなことできませぬぞ?ましてやフジマル様は初心者なのです、それができる方が異常とも言えますぞ?」

 

「私共としては気にはしませんが。攻撃の要がフジマル様とムツカ様、ハルカゼ様になっているのはちょっと悔しいところもありますが…」

 

「私に至っては、何もできていないもの。」

 

「そんなことないよ。ニキの牽制射撃、助かってるよ?」

 

「当てられずとも牽制するもの良いのですぞ。一瞬の怯みが命取りにもなりますからな。」

 

またある時は、お兄ちゃん以外の人がリナリアの家に訪ねてくることがあった。

 

ピンポーン───

 

「久しぶりの来客ですわね。出てきますわ。」

 

「私も行く!」

 

「構いませんわ。行きましょう。」

 

玄関についてリナリアがドアアイを覗くと、少し怪訝そうな顔になった。

 

「月詠先生……ですわね?突然ですわね、どうしたのでしょうか。」

 

「月詠先生?どうして?」

 

「さぁ…分かりませんわ。一先ず出てみますわ。」

 

そう言ってリナリアが出ると、少しして話し声が聞こえた。

 

「すまん、何かしてたか?」

 

「いえ。そこまでは…なにかご用ですか?」

 

「家庭訪問なんだが……通達したはずだろ?」

 

「家庭訪問?私には連絡が来てはいませんが……」

 

そこまで言ったところで、2階からアリウムがかけ降りてきた。

 

「お嬢様!申し訳ありませぬ、家庭訪問の予定が入っているのを忘れておりました!!」

 

「………ア~リ~ウ~ム~?」

 

「…は、はい」

 

「重要なことは早く伝えなさいと何度も言ってますわよねぇっ!!?」

 

「はい…申し訳ありませぬ。」

 

「まったく…」

 

「あ~……なんだ、タイミングが悪いなら出直すが。」

 

「…構いませんわ。応接間の方へご案内致します。」

 

「すまん……アリウムにだけじゃなくてリナリアにもプリント渡しておきゃよかったな。」

 

「貴方様も原因ではないですか、それは……」

 

「すまねぇ……」

 

そう言って先生は家の中に入ってきて、私と目があった。

 

「……藤丸?それに、この靴の量は…他にも誰かいるのか?」

 

「フジマル様のお兄様にハルカゼ様、ハナツムギ様がいらっしゃいますが?」

 

「春風と華紬……ここにいたのか。」

 

「はて?」

 

「いやよ。春風と華紬の親が“遅くまで娘が帰ってこない”って心配してるからよ。どうしたもんかと悩んでたんだが。」

 

「心配いりませんわ。私共がついておりますので。」

 

「なら安心だな。……と。」

 

月詠先生は私に近づいてきた。

 

「……ん。覇気が戻ったな。元気になったようで何よりだ。」

 

「え?」

 

「俺の赴任初日はマジで酷い顔してたからな、藤丸は。ま、その顔になれたならほとんど心配はいらねぇだろ。まぁ…」

 

そう言って先生はポンッ、と私の肩を軽く叩いた。

 

「人生ってのは長くも短い。張り詰めたままだといつかプツンと切れるぜ。中学生という時期からみれば人生はまだまだ長いんだ。肩の力を抜いて生きていけな。」

 

「…はい。」

 

「ま、困ったことあったらいつでも言えよ。今年赴任して今年度で離任だから、ま~…発言力はねぇけどよ。話の聞き相手くらいにはなってやるよ。」

 

「……先生って、私のお兄ちゃんみたい。」

 

「お前の兄か……まぁ、いいけどよ。」

 

「先生?応接間はこちらですわ。」

 

「おっとすまねぇ…そうだ、これは全員で食ってくれ。」

 

「……なぜそのようなものを?」

 

「流石に急に決まった家庭訪問で休日にやるんだったら俺は持ってくるっての…って言いたいところだが、本来なら知り合いと遊ぶつもりで手土産として買ったんだが家庭訪問入っちまったし間違えて持ってきちまったからよ。腐るのも嫌だし、よかったらもらってくれ。」

 

「はぁ……」

 

「応接間の準備が出来ましたぞ。どうぞ、こちらへ。」

 

そう言われてリナリアとアリウム、先生は応接間の方に向かった。以来、先生もプライベートで遊びに来るようになったんだけど。

 

またある日は、お兄ちゃんが声のサンプルを取りたいって言ってた。

 

「残り2人…なんだけどよ。試作のAIができたからその声をこの中の誰かに当ててもらいたいんだ。」

 

「残り2人…ムツカ様はAIでも人間のように数えますのね。」

 

「?当然だろ。人工的に造られたって言ってもそいつらは生きてるんだからよ。構造的に違ったとしても、肉体を得れば───あるいは仮想空間みたいな場所だったら。それはもうほとんど人間と変わらねぇだろ。」

 

「そう…ですわね。」

 

「…まぁ、完全に人間のようにするにはまだ技術も何もかも足りないんだけどよ。この辺は試行錯誤あるのみなのかね。で、誰にする?」

 

「ふむ…ならば公平に、じゃんけんで決めましょうぞ。」

 

そのあとじゃんけんをして。勝ち残ったのは、ニキと私だった。

 

「まぁ元々立香は追加する予定ではあったが……えーと……AI番号は3番、名前は何がいい?」

 

「…じゃあ、“リツ”で。」

 

「“ハナ”じゃねぇのな。おk。」

 

それからサンプリングをして、少し音を弄って確かめて、ニキの番になった。

 

「AI番号は5番。名前は何にする?」

 

「“ニキ”がいいわ。」

 

「…動画に登録するときも思ったがそれ本名だろ?いいのか?」

 

「えぇ。なんとなく、落ち着かないから。」

 

「そうか…いいならいいんだけどよ。」

 

そう言ったあと、サンプリングをして、お兄ちゃんが少し音を弄って確かめてた。

 

「……なんだろうな。とある声優さんの声に非常に似てるな。」

 

「そう?」

 

「む…ムツカ様も思われましたか。ハナツムギ様の声があの方に似ていると。」

 

「あぁ…非常に似てる。同一人物なんじゃねぇかってくらいにな。…まぁ、声が似てるくらいあり得なくもねぇか。」

 

後日、お兄ちゃんがAIに声を組み合わせて見せてくれた。

 

〈はじめまして。わたしはリツ。よろしくお願いします。〉

 

〈私はニキ。よろしくね。〉

 

お兄ちゃんのピンク色のパソコンから流れるそれは、確かに私達の声だった。

 

「まだあまり応答は出来ないんだがよ。聞かれたことに答えるようなシステムになってるから、答えを用意しておかないといけねぇ。最終的に、俺が目指すのはSAOに出てくる“A.L.I.C.E.”だからな。」

 

「“A.L.I.C.E.”……人工高適応型知的自律存在───Artificial Labile Intelligent Cyberneted Existenceだっけ。」

 

「……まぁ、そうだが。前から思ってたけどお前記憶力高いよな……」

 

「そう……?」

 

そんな感じで、色々やってたのが日常だった。

 

学校にはちゃんと行った。リナリア達との約束だったし。

 

「2次元を現実の核にしてはいけませんわ。私達が生きているのはあくまでもこの現実なのです。不登校になるのが悪いとは言いません。ですが、不登校と2次元は心に余裕を持たせる休憩時間と考えるのですの。」

 

「……うん。」

 

「辛いか?リッカ。」

 

「ううん、大丈夫。」

 

「無理はしないでね。リッカちゃんの席の近くには星羅ちゃんもニキちゃんもいる。私はそこまで力になれないけど、話くらいならいつでも聞くから。」

 

「うん…ありがとう、月詠先生。」

 

「というか…月詠先生の女装はいつ見ても見事ですな。まるで最初から女子だったかのようですぞ。」

 

「本当。私もコーディネートしてて楽しいもの。」

 

「私もコーディネートされてて楽しいよ。ただ、本質は男性だからやりにくいところはあると思うけど。」

 

月詠先生は女装をするとまるで人が変わったかのように振る舞った。今の状態がまさにそう。この時は陽詩(ひなた)じゃなくて、陽菜(ひな)って名乗るんだけど。

 

そして、私は卒業まで学校に通い続けた。

 

イジメとかは前から流してたけど、前とは別の支えがあったお陰でさらに流すことが可能になった。

 

学校にいる間はほぼ常に無表情を貫いて、ニキ、星羅、リナリア、アリウム、月詠先生だけの時だけその仮面を解いた。

 

イジメをする人達はそれが気に食わなかったみたいだけど、その私を含めた6人だけじゃないときは完全に無表情、無反応を貫いていたから、それに飽きたのかいつの間にかイジメをする暇な人間はいなくなっていた。

 

リナリアとアリウムは、そもそも容姿の面で強烈すぎて関わる人はいなかった。

 

ニキは他の人とも普通に接していたけど、コーディネートの素晴らしさを語り続けて相手を退かせるっていう強引な方法で対処していた。

 

星羅は持ち前の元気さと超早口のマシンガントーク、あとは軽めの実力行使で相手を黙らせていた。ちなみに私はマシンガントークも聞き取れた。

 

月詠先生は流石先生というか…“先生”という立場だからなのか分からないけど、私をイジメていた人たちも関わろうとはしなかった。

 

お兄ちゃんは論外。そもそもの話高校生だったから、手が出せなかったんだと思う。

 

そんなこんなで皆勤賞だったから、私は代表として卒業生答辞をしたのを覚えてる。

 

ちなみに、リナリアと初めて会ったときの公欠は月詠先生に誘われて入った部活の用事として処理してくれてたらしい。もしかしたら、月詠先生は最初から私がリナリアと出会うことを予測・予知してたのかもしれない…なんて。でも、十分にあり得そうだとも思えるのが月詠先生の少し怖いところだった。

 

私をイジメていた人達は、校外で色々やらかして謹慎処分を受けてたらしい。…何してるんだろう、って正直思った。内容を聞くのは面倒だったし、聞かなかったけど…月詠先生…じゃない、プライベートで女装してたから陽菜ちゃん、だっけ。陽菜ちゃんがすごく疲れた表情してたから本当に色々やらかしたんだろうなって思った。実際のところ、陽菜ちゃんの年齢は私達と結構近いみたい。教えてくれなかったけど、お酒は飲んでたから20歳は越えてるらしい。私達の前じゃあまり飲まなかったけど…本人曰く、お酒は苦手なんだって。

 

そして、桜が舞う木の下───

 

「終わりましたわね…」

 

「うん、終わったね。」

 

「俺のここでの勤務も終わりだな。やっぱ1年って結構短いよなぁ…」

 

月詠先生は今年だけの勤務。だから、私達と共にこの学校を去ることになる。

 

「綺麗な桜の雨ですわ。一緒に歌いませんこと?」

 

「「「「しろいひかりのな~かに…」」」」

 

「それ違う曲ですわよ。月詠先生も悪ふざけで乗らないんですの。というかなぜ息ぴったりで同じ曲なのです?」

 

それに関しては偶然。でも、ここから進路は分かれることになると思う。

 

「フジマル様、ハルカゼ様、ハナツムギ様は進路はお決めになっておりますか?」

 

「私は…高校に行って一人暮らし、かな?」

 

「ほう?」

 

「寮とかもいいんだけど。でも、今までリナリアに学んだ技術とか活かしてみたいから。アルバイトとかしながら、高校に通おうと思う。」

 

「ふむふむ。ハルカゼ様はどうなさいますか?」

 

「私は……うん、リッカと同じかな?でも、私は高校に近いから…多分、実家の方から通うことになると思う。今まで実家とは別の家を用意してもらって、お母さん達には実家とその家を往復してもらってたから。少しお母さん達の負担が減るのと同時に、恩返しも出来たらいいなって。ほら、前に話したでしょ?私、お母さん達の本当の娘じゃないって。」

 

そういえば、星羅は星羅のお母さん達の養子なんだっけ。名字は偶然同じ“春風”だったんだって。

 

「正体の分からない私に、どこから来たのかすらわからない私に。ここまで優しくしてくれて…本当に感謝してるんだ。だから、私もリッカとほとんど同じだと思う。」

 

「そうでございますか。ハナツムギ様はどうでしょう?」

 

「私も高校に行くわ。もっとデザインの事とか知りたいの。私…スタイリストになってみたいのよ。」

 

「スタイリスト…ですかな。」

 

「えぇ。まだ、そこまでの力はないけれど。もしかしたら、リッカに追い抜かされちゃうかもだけど。それでも…私は、お洋服でみんなを笑顔に出来たらいいな、って。」

 

「ハナツムギ様らしいですな。」

 

「全員、学校からの推薦出てんだよな…しかも俺の次の勤務地が藤丸、春風、華紬の行く高校だっていうな。」

 

「そうなの!?」

 

「あぁ。俺は特に何もしてないんだけどよ。春風はともかく、藤丸と華紬は会う機会が少なくなるかもだけどな。」

 

進路として、私とニキは被服科に。星羅は普通科に行く事になってる。ということは、月詠先生は普通科の先生として赴任することになるのだと思う。

 

「ふむふむ。皆様よく考えられているようですわね。と、なりますと……」

 

リナリアが私達に鍵を渡してきた。1つ1つ、形が違う。

 

「受け取ってくださいまし。私共の家の鍵ですの。」

 

「「「「……ふぇ?」」」」

 

「拙者らのこれからには必要ないものですからな。服達と同じように、皆様で使ってくだされ。」

 

「……いいの?」

 

「構いませんわ。気になっているのかもしれませんが、鍵の形が1つ1つ違うのはあの家はそういう仕様なのですわ。あの家は8の鍵がありまして、それぞれの鍵で開くことが出来るのです。私共も完全に原理を理解しているわけではありませんが、そういう仕様なのです。」

 

「へぇ…」

 

そういえば、リナリアとアリウムはこれから世界旅行に行くらしい。色々な場所に日本のサブカルチャーを広めたいとか。

 

「私達も行っちゃだめ?」

 

「ダメですわ。大きい目的もなく、当てもない旅に出るのは中学校卒でやることではありませんの。」

 

「リナリアが言えることじゃないわ、それ。」

 

「そうですわね。安心してくださいまし。私達の旅路、皆様にお伝えしますわ。」

 

「…うん」

 

「フジマル様。ハルカゼ様。ハナツムギ様。そして、ツキヨミ様。これからの人生も楽しんでくださいまし。そして次にお会いしました時には、私共のお話や…皆様のお話をお聞かせくださいまし。」

 

「……リッカ。」

 

「「?」」

 

「リッカでいいよ。ずっと…言い出せなかったんだけど。フジマル様、じゃなくてリッカでいいよ。」

 

「私も…ハナツムギ様じゃなくてニキでいいわ。」

 

「私もハルカゼ様じゃなくて星羅でいいよ!」

 

「……分かりましたわ。それではリッカ様、ニキ様、セイラ様。これからの人生、本当に楽しんでくださいまし。」

 

「様付けの方はお許しくださいませ。拙者らの癖なのでござる。リッカ様達のこと、忘れませぬぞ。」

 

「…うん」

 

「うん!」

 

「えぇ……あっ。」

 

何かを思い出したようにニキが声を出して、そっちに全員の視線がいった。

 

「……これ。みんなに。」

 

そう言ってニキが鞄の中から取り出したのは、10個のペンダント。私達の髪色がペンダントの色になっているのと、私達の髪色とニキの髪色で半分ずつペンダントを染めているもの。

 

「これは…なんですの?」

 

「私がデザインして作ったの。簡単なものしか作れなかったけど、皆で共通の物を持ちたいと思って。私も自分の色のペンダント持ってるわ。」

 

そう言って見せてくれたのはニキの髪色のペンダントだった。

 

「簡単なものだけど、時間がすごくかかって…みんなの色を入れたかったのだけど、1つだけしか作れなかったのよ。」

 

そう言って見せてくれたのは8色の色に染まるペンダントだった。それを見せてニキは少し残念そうにしていた。

 

「…でしたら、そのペンダントはニキ様がお持ちくださいまし。」

 

「え……?」

 

「私共のペンダントの色が集まる先。私共が集まる先という象徴のようなものですわ。私共の意思はニキ様に集まり、ニキ様から全員に届く───そんなイメージなのですわ。最も、本当にそんなことが起こるかは疑問でございますが。」

 

「……私から、届く。いいの?」

 

「私は構いませんわ。皆様はどうですの?」

 

私もそのペンダントはニキに持っていてほしかった。私達は半分の色のペンダントを持てるけど、ニキはそれを持つことが出来ないから。ニキの髪色とニキの髪色で半分ずつ、それはニキの髪色だけになってしまうから。

 

みんな同じ考えみたいで、リナリアの意見に同意した。

 

「みんな……ありがとう…!」

 

「……さて。それでは…」

 

「そうですわね。」

 

「うん。」

 

「うん!」

 

「えぇ!」

 

「あぁ。」

 

「「「「「「「また、会おうね!」」」」」」」

 

そんな感じで、私達は笑って別れた。

 

 

中学生生活、最後の頃。

 

───空見て笑って、それぞれの道を歩みだした話。

 

recollection system end.




正弓「リコレクションシステム、ダウン……!修復作業開始します!」

正槍「時間かかるね……お相手側も本気だしてきてる。そろそろ総大将が出てきてもおかしくないよ。」

弓「ふん、その様なもの蹴散らしてくれる!」

裁「マスター達を守るのは私達───絶対に負けない。」


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第141話 追憶終了(エンド・リコレクション)───約束の切符

正弓「リコレクションシステム修復完了───っ!?こ、これは!?」

どうしたの!

正弓「記憶の侵食者───その本丸、総大将が出現!この数値───鍵のルーラーさんが危険です!」

…!“Memory Eater The Break Collapse”…!!

正槍「どうするの?」

……正のセイバー。ルーラーとギルに前線から戻るように指示して。

正剣「…了解」

ほんと───ついてない。正のアーチャー?

正弓「?」

ここが追憶の正念場。今回の追憶観測の最後になる。…あとのこと、頼んだよ。

正弓「…!」

裁「ただいま戻りました───大丈夫なの?」

弓「確かにこの場所には強い結界が張ってあるだろう。しかし、敵はその程度で止められるなどとは思わぬが?」

大丈夫。…私が、何とかするから。

裁「私が…って。」

───アーチャー。任せたよ。私の代理。

正弓「…わかりました。ただし。無理をしたこと、あとできっちり怒らせていただきますからね。」

お手柔らかに。それじゃあ───現実時間でざっと、3ヶ月。アーチャー、私の全権限を貴女に任せます。

正弓「…承諾。リコレクションシステム起動準備、完了しました。」

……さてと。


───ガインッ!


来たみたいね。せっかちなんだから。

魔物「ケ…ケケ…ケケケ……ミツケタ!ミツケタ!ミツケタミツケタ!!セカイノゲンテン、コノセカイノカク!スベテノキオクノシュウソクテン!!」

喋れる個体か…ちょっと厄介だね

魔物「オマエヲクラエバコノセカイハヤミニオチル!オマエヲクラエバイズレスベテノニンゲンハヤミニオチル!オマエガシネバスベテノニンゲンガシヌ!イノウシャモ、ゲンサクカイリモ、ナニモカモ!オマエガシネバ、コノセカイハスベテガキエル!!スベテキエテムトナル!!」

これだから面倒くさいんだよ、喋れる個体っていうのは。

魔物「イネ…イネイネイネイネェェェェエエエ!!」

裁「マスター!」

来ないでっ!!

裁「っ…!」

真名を縛ってる貴女じゃこれには勝てない!それは貴女がよくわかってるでしょう!?

裁「でもっ!!」

大丈夫───少しの間、休むだけだから。貴女の真名を明かすときには、必ず間に合わせる。

裁「…」

だから、お願い。

裁「…約束だよ…!」

うん───約束!

正弓「リコレクションシステム、最終稼働───お母さん!」



正弓「必ず、帰ってきてください!!」

…わかってるよ。

魔物「イネェェェェ!!!」

───夢の息吹、月の光。太陽の熱と魂の輝きはすべて流転し今ここに星へと集う。それはすべてを流す雨のように。それは希望を示す星のように。満点に輝け、星の夜。我が思いよ、我が心よ。すべて纏めて灼熱の星となれ!!

裁「───!?これ、は!?」

我が魔力は流星の如く!夢を望む者の力は反逆を許さぬ絶対の理!!故に我が流星は敵対せし汝を焼き滅ぼすであろう!!

弓「これが───マスターの宝具だというのか!?」

裁「───知ってる。」

弓「ルーラー?」

裁「私、知ってる。この宝具。この術式。見たことが、ある。生前に、一度だけ。まさか、マスターのものだったなんて。」

第五宝具───“流星は願いと共にある理(シューティングスター・ロジック)”───!!!

正弓「全員、お母さんの魔法による衝撃に備えてください!リコレクションシステム、動きます!!」


recollection system reboot...

 

高校生になってからは、困っている人に手を貸したり、直感で気になる人にコミュニケーションを取りに行ってたりしてた。

 

「藤丸立香です。好きなことは…カルチャー全般?でいいのかな?あとはみんなでコーディネートを楽しむこと。嫌いなのは…現実の理不尽と根拠や理由の無い否定です。座右の銘…みたいなのは、“みんな違ってみんないい”です。よろしくお願いします。」

 

緊張してか少し硬い挨拶になっちゃったけど、すぐに打ち解けて、友達がたくさんできた。

 

私の通ってるこの学校は学科間の関係が結構良くて、別の学科の授業に混ざっても別にいいっていう良くわからない校風だった。校長先生曰く、“生徒がその時に何をしたいかに重点を置く”とかなんとか。だから、私とニキは普通科の星羅のところに行って雑談してたり授業を一緒に受けたりしてた。星羅が私達の被服科の教室に来て一緒に授業を受けたこともある。月詠先生もよくこの学校がよくわかってないみたい。

 

文化祭とかの開催が早かったから、その時は私とニキの腕が猛威を振るった、って言うのは星羅や月詠先生が言ってた話。学年単位で巻き込んでコーディネートしたのは少しやりすぎたかな?後悔はしなかったけど。

 

気になった人には積極的にコミュニケーションを取りにいった。具体的には、工業科の不良って呼ばれる人達や大体どんな学科にもいたオタク気質の人達。

 

「こんにちは。私は藤丸立香。……なにか、悩みごとでもある?私で良ければ聞くよ。」

 

月詠先生がしてくれたみたいに。リナリアがしてくれたみたいに、先入観や差別なく。

 

不良の人達には最初こそ殴りかかられたりしたけど、そこは今まで習ってきた武道とかの応用で投げたり気絶させたり関節極めたりして軽めに対処してたら、いつの間にか“リッカの姐御”なんて呼ばれてたことがあったりする。

 

女の子の不良とかもいて、その子達には傷をつけない防衛術とか、女性でも男性に勝つ方法なんかを教えてた。金的は流石に余程の時以外は禁止したけど。

 

確かに不良の人達は頭が悪かったけど、オタク気質の人達は結構頭がいい子達も多くて、私が仲介役となって勉強会を開いたりしてた。そしたらいつの間にかどっちのグループも仲良くなってた。オタク気質の人達が戦略を組み立て、不良の人達が実行する、っていうような協力体制ができてるっていうのは後から知った話。

 

私は特定の部活には入らないで、色々な部活の助っ人とかしてたけど、よくいた場所があった。弓道場───つまり弓道部。顧問は月詠先生。よく継ぎ矢(簡単に言えば先に放った矢にあとに放った矢を当てて食い込ませちゃうこと…正直狙うのは難しい)しちゃうから、月詠先生には呆れられてたけど。弓力(弓を引く力の強さの事)は確か12キロ。

 

ニキは確か美術部で、星羅は私と同じように色々な部活の助っ人をしてた。この星羅がすごく強くて、私とほぼほぼ互角の戦いをする。鉢巻を巻くとスイッチが入るのか、かなり鍛えてるはずの私でも苦戦する。

 

そんなこんなで、私達の周りには色々な人がいるようになった。あと、バグ技とか無しルールでの星のカービィ100%TAと無被弾格闘王TAは誰も星羅に勝てなかった。

 

「リナリア…アリウム。私、2人が願った生き方できてるかな?」

 

「おーい、リッカ!」

 

「何してるの?早く行こうよ!」

 

「あ、待ってー!」

 

慌ただしいけど、楽しかった日々。

 

だけど───

 

───その転機は、突然訪れた。

 

「おはよ……」

 

まだ誰もいない時間帯。私はいつものように被服科の教室に最初に到着した。

 

「……なんだろう。胸騒ぎがする。」

 

その日、私は嫌な予感を感じ取っていた。

 

何かが変わるような、何かが無くなるような。そんな予感。

 

「……あれ。リッカさん、もう着いていたんですか。」

 

「先生…」

 

私に続いて入ってきたのは今の担任の先生。女の先生で、少し小柄。日本語ペラペラだけど、実は外国人っていう先生。

 

「……あ。そうだ。リッカさん。少しいいですか?」

 

「……?」

 

「少し場所を変えましょう。」

 

そう言って私が先生に連れられてきたのは、進路相談室。多分、教室に近いからなんだろうけど。

 

「先生、話って……?」

 

「…リッカさんは、ニキさんと星羅さんの2人と仲がよかったよね?」

 

その問いにうなずく。隠すことでもなかったから。そしたら、先生は少し辛そうな顔をした。

 

「……落ち着いて、聞いてね。」

 

「……?」

 

「今日の…朝からの事なのだけれど。…春風 星羅さんと華紬 ニキさんが、行方不明になっているの。」

 

「─────────え?」

 

星羅とニキが行方不明───その言葉を、瞬時に飲み込むことはできなかった。

 

「今、警察にも捜索してもらっているの。だけど…2人とも、持ち物は一切持たずに行方不明になったそうなの。」

 

「持ち物は…って。」

 

「携帯電話、鞄、それから財布に靴…何もかも家にあったそうなの。」

 

「そんな───あっ。」

 

私は首からネックレスのように提げていた半色のペンダントを取り出した。そのペンダントを両手で持って、小さく呟く。

 

「……ニキ。……星羅。」

 

効果はないとわかってる。だけど、試さずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。私の思いが、ペンダントを通して少しでも伝わればいいと。

 

「…こんなときに、無力な先生でごめんなさい。一刻も早く見つかることを祈ってますけれど…どうします?リッカさんは早退しますか?」

 

「……ありがとうございます。私は、大丈夫です。」

 

嘘だった。本当は、ギリギリだった。それでも授業はなんとか頑張って、放課後になってから陽菜ちゃんのいる教室に駆け込んだ。

 

「……大丈夫?」

 

「……ごめん。無理…」

 

「……そっか。仕方ないか。リッカちゃんはニキちゃん、星羅ちゃんと仲がよかったものね。」

 

その陽菜ちゃんの言葉に小さく頷く。

 

「……何か飲む?」

 

「…コーヒー。無糖で…」

 

「分かった。今淹れるね。」

 

今はとりあえず落ち着きたかった。

 

「はい、お待たせ。熱いから気をつけてね。」

 

陽菜ちゃんはそう言って私の前にコーヒーの入ったカップを置いた。陽菜ちゃんは人の心を落ち着かせるのが上手で、部屋に焚いているアロマの香りや、コーヒー、お茶…その他諸々でどんなに怒ってる人やどんなに沈んでいる人でも普通に近い状態まで戻すってかなり評判。それは陽菜ちゃんとしている時だけじゃなくて、月詠先生としている時と陽詩くんとしている時も同じらしい。

 

「……おいしい」

 

「よかった。」

 

“人に心の底から美味しいと言ってもらうこと”───それが、陽菜ちゃんの一番最初の鍵。そう、陽菜ちゃんが言ってた。それを知ってるから美味しいって言ったんじゃなくて、本当に陽菜ちゃんの淹れたコーヒーが美味しかったから弾みで出たようなものだった。

 

「落ち着いた?」

 

「……うん。」

 

「そっか。……見つかるといいね。」

 

「うん…」

 

そう言ったとき、陽菜ちゃんの長い黒髪を外から入ってきた風が揺らした。そういえば、陽菜ちゃんの髪は長い黒髪で、女装してないときは三つ編みにしてたり、そのままロングにしてたり、あとはゴムで縛ったりしてるんだっけ。その影響か女装じゃないときも女の子っぽく見えるからナンパされることとかあるんだとか。言ったら失礼だけど、胸はないけど結構身体の線は華奢で、それでも結構力はあるから男女共に人気だったりする。

 

「……風が出てきたね。窓、閉めよっか。」

 

そう言って立ち上がろうとする陽菜ちゃんを、無意識に手を掴んで引き留めてしまった。

 

「……どうしたの?」

 

「………ぁ。い、いや、なんでも……」

 

「なんでもないわけないよ。だって、なんでもないっていいながら私の手をしっかり掴んでるもの。」

 

なにも言い返せなかった。なんでもないと言いながら、陽菜ちゃんの手を離そうとしないのは事実だったから。

 

「……陽菜ちゃんは」

 

「うん?」

 

「陽菜ちゃんは……突然いなくなったりしないよね?」

 

「……リッカちゃん」

 

私が陽菜ちゃんを見つめていると、陽菜ちゃんは私を抱き締めた。

 

「……大丈夫。私はここにいるよ。少なくとも、今はここを離れるつもりはないよ。」

 

「……陽菜ちゃん」

 

「あと…1つ、私の推測だけど。ニキちゃんと星羅ちゃんはリッカちゃんに何も言わなかったんじゃない。何も言えなかったんじゃないかな。」

 

「何も……言えなかった?」

 

どういうこと……?

 

「ニキちゃんと星羅ちゃんは突然行方不明になったって聞いたよ。誰にも伝えず、誰にも知られず。それは、親御さんたちも一緒みたい。少なくとも、昨日の夜はいたみたい。今日の朝発覚して、出ていった形跡も何もなかった。仮定の話にはなるけど、2人とも寝てる間に異世界に連れ去られたのかもしれない。」

 

「異世界…」

 

「うん。まぁ、完全に仮定だけどね。でも、私たちが見ている創作の世界はこの世界の異世界の可能性だってある。完全に否定できることではないと思うの。」

 

「…そっか」

 

なんでだろう。すごく突拍子のないことを言っているのに、陽菜ちゃんの言っていることなら真実だって思える。

 

「あと。」

 

「…?」

 

「…大丈夫だよ。」

 

「え…?」

 

「ニキちゃんも星羅ちゃんもリッカちゃんを忘れたわけじゃない。大丈夫…また会えるよ。ニキちゃんと星羅ちゃんだけじゃない。リナリアちゃんも、アリウムくんも。絶対にまた、会うことができるよ。」

 

「陽菜ちゃん…それは?」

 

「予測…ううん。これは確信!」

 

「…そっか。」

 

陽菜ちゃんがそう言うなら信じられる。どうして、って言われるかもしれないけど信じられる。そんな力強さがあるから。

 

 

───そして、その数ヶ月後。さらに事態は動いた。

 

 

「───藤丸 立香さん、ですね?」

 

その日。私はリナリアの家で掃除をしていた。陽菜ちゃんは外せない用事があるとかで学校の方に行ってたけど。そんな時に、一人の男性が現れた。

 

「はい、そうですが…」

 

「…私、とある家系の者でして。とあるものを持ってきました。」

 

「あるもの…?」

 

「…はい。そして───」

 

差し出されたそれは。“一般枠”と書かれたチケットと一つの封筒。

 

「…?」

 

「───我が家の抱える()()()()()()()()が。亡くなる前に…貴女にこれを、と。」

 

「ホムン…クルス?」

 

ホムンクルス。確か、“ヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間”のことだけど。

 

「はい。この屋敷に住んでいた“リナリア”。そして、“アリウム”と名乗っていた2名のことです。」

 

「───え?」

 

視界が、ぐらりと歪んだ気がした。

 

 

───その人が言うには。リナリアとアリウムの家系は、魔術といわれる術式を研究する家系で、代を重ねたばかりの浅い歴史の家系みたい。

 

“根源へと至る”───よくわからなかったけど根源とかいうのを目指してるのは分かった。その過程で生み出された人造人間が個体コードprototype-01のリナリアと個体コードprototype-02のアリウムの2人だった、という話を聞いた。

 

「………」

 

でも、その家の技術はあまりにも低くて。ホムンクルスの製造は失敗した。そのようやく自我を得たホムンクルスである2人は、見た目がすごく悪くてそれでいて魔術回路、とかいうのもなかった、っていう理由でこの家に監禁、みたいな感じにされていたらしい。

 

…そこまで聞いて、その使者の人を二、三回思いっきり投げて気絶させちゃったのは許してほしい。

 

そして、彼女らは寿命が短くて、高校生になれるかどうかもギリギリなくらいだったみたい。

 

この家ごと廃棄した扱いになっていたけど、彼女たちは最後に自分の意志で家に戻って、自らを完全に廃棄する前に願いを聞いてほしいと告げたという。

 

「“藤丸 立香”。“華紬 ニキ”。“春風 星羅”。この三人を、出来ればでいい。海外留学として“カルデア”へと招いてほしい。特に、この三人の中でも“藤丸 立香”は優先的に───それが、彼女達の最後の願いであったのです。そして彼女達の報復を恐れた家の長は、それを承諾し───あらゆる手段を用いて何とか一つだけ、一般枠を勝ち取ったのです。」

 

「───だったら…これは。」

 

「…かのホムンクルス姉弟が、貴方に渡す贈り物、と。」

 

姿が酷かったのは…失敗作だから。

 

汗が凄かったのは、失敗作だったから?

 

そんなことを考えながら、私は封筒を開いた。

 

 

───私の生涯に、悔いはありませんわ。

 

お節介でしょうが、お許しくださいまし。

 

 

「───あ。」

 

封筒に入っていた手紙の一通。書いてあったのは、リナリアの字だった。それを、私が見間違えるはずもなかった。

 

 

───1つ、気がかりなことがあるのです。そちらにニキ様とセイラ様はまだいらっしゃいますか?というのも、少しばかり変な夢を見たことがあるのです。私とアリウムが旅に出た後、リッカ様の隣にニキ様とセイラ様がいないという、不思議な夢ですわ。えぇ、既に私から確かめる方法はありませんの。それでも、この不安は拭えませんでしたの。いればよいのですが。

 

 

「あ…」

 

 

───もしいないのでしたら…気をしっかり、お保ちくださいませ。ニキ様とセイラ様は大丈夫ですわ。必ず、リッカ様の元へと帰ってくるでしょう。私の予感でしかありませんが。

 

 

「あぁ…」

 

 

───リッカ様のことです。ニキ様とセイラ様がいなくなって、無茶をしているかもしれません。天文台へ行って、一息つきませんか?カルデア、というのは天文台のことを指すんですの。私とアリウムは…諸事情で行けませんわ。そもそも、汚物として放り出されたくはありませんの。

 

 

「…」

 

 

───リッカ様?どうか、誰も憎まないでくださいまし。世界を、人を───憎むことのないように。星のような輝きを、浄化された魂の輝きを、醜い憎しみで汚さないでくださいませ。…私共自身、憎しみに溺れかけていたのを救った文化へ触れたリッカ様にはその意味を察してもらえるでしょう。

 

 

「…あ…」

 

 

───憎しみはどうしても人を醜くしてしまうのですわ。私共は現状誰も憎んではおりませんから、ご安心くださいませ。…少し、アリウムと交代しますわね。少々書くのが疲れてしまいました。

 

 

───お嬢様と…いえ、我が姉、リナリアと書くのを交代(スイッチ)した拙者ですぞ。ペンを渡しているゆえ、釣りスイッチみたいになったのは少し笑いましたな。

 

 

次に書かれていたのは、アリウムの字。釣りスイッチっていうのは、たぶんアレ。

 

 

───申し訳ありませぬ。拙者らが失敗作のホムンクルスであることを言い出せず。真実を告げなくては、と拙者も姉もずっと思っておりましたが、ついにはこの時まで来てしまいました。言い出せぬついでにもう一つ、先ほどから書いておりますが、拙者はリナリアの弟なのでござる。皆様に名乗りましたのは専属執事でしたな。このあたりも騙していたようで、本当に申し訳ない。

 

 

「…」

 

 

───リナリアと共に初めてリッカ殿を見た時。どうしても放っておくことができなかったのでござる。魔術、というものは魔の道、邪道の道───外道の道。その魔術から生まれた拙者らはどうしてもけがれているようなものなのでござる。その道を知らぬリッカ殿の綺麗で素敵な魂が、他の者の手で穢されているのはどうしても。見ていることができなかったのでござる。

 

 

「ぁ…」

 

 

───天文台、カルデア。本当ならニキ様とセイラ様もお呼びしたかったのですぞ。ですが、残っている枠がたった一枠しかないということで。リッカ様を最優先でお願いしたい、と頼んでいたためリッカ様には届いていることでしょう。ニキ様とセイラ様がそちらにいたのでしたらまことに申し訳ありませぬ。この埋め合わせは───いつか、必ず。拙者らの家の者がしてくれるでしょうな。拙者らはもう何もできませぬ故。ツキヨミ様にも、おそらくは。ムツカ様にも何かあるでしょうな。拙者ら、皆様にはずいぶん世話になりましたからな。世話になった皆様の名前はすべて伝えました故、たとえ時間がかかったとしても何かあるでしょう。

 

 

そこから、文字は歪んでいった。

 

 

───皆様と出会えて、拙者は幸せでござった。

 

 

───皆様と出会えて、わたくしは幸せでございました。

 

 

───どうか、よきたびじを。

 

 

───かがやくほしを、しるべとして。

 

 

「あ…あぁ…!!」

 

 

───ありがとう そして さようなら

 

 

───いつか また あえるひをしんじて

 

 

貴女達の心といつも ひめきんぎょそう

遥か遠くでも心に寄り添う ねぎぼうず

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

姫金魚草。ねぎ坊主。それは、リナリアと呼ばれる花とアリウムと呼ばれる花の別名。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

その先は泣いた。長い時間泣いた。あとから来た陽菜ちゃんにもすごく心配されるほど泣いてたらしい。あとついでに軽い脱水症状になった。陽菜ちゃんに心配されたのはそれも理由だったんだけど。

 

陽菜ちゃんは泣き止んだ私の話を聞いて、まだいた使者の人の話を聞いて。使者の人を投げてた。もちろん、傷はつけないように。そして、使者の人が帰った後、私のことをやさしく抱きしめてくれた。

 

 

───そして、次の日。

 

「…よいしょ。」

 

支度を整えて、リナリアの家の中を見た。

 

「……」

 

そういえば、この家の金庫にはリナリアが残した資金が億単位で置いてあった。そのころはまだニキも星羅もいて、全員開いた口が塞がらなかった。…まぁ、使わなかったんだけど。陽菜ちゃんは金庫の鍵が開いてて管理が雑すぎるっていうことでその場にいないリナリアとアリウムに怒ってたっけ。

 

私は行くことにした。2人が招待してくれた天文台。カルデアという場所に。

 

「忘れ物、ないよね。」

 

星の旅に。2人が見たくても見れなかったものを見に、私も旅をする。

 

「…結局、私の進路。リナリアとアリウムの2人と被っちゃった。」

 

───ふふっ。気になるものは追いかけるのがヨシ、ですわ。深くまで潜っていきませんこと?

 

───時間の流れというのは時として残酷ですな。楽しい時間はあっという間ですぞ、フジマル殿。

 

…そんな、声は聞こえないけど。私はニキが作ってくれたペンダントを軽く握って家を見つめた。

 

「…決めたよ、みんな。私は…弱音を吐かないよ。誰も恨まないで、憎まないで進む。これからも、コーデでみんなを笑顔にしたり、一緒にゲームをしたりして人生を楽しむ。…でも、絶対は無理だし、そこは目を瞑ってね。」

 

───えぇ。リッカらしいわ。

 

───ねぇねぇリッカ!これ一緒にやろう!

 

思い出の奥から聞こえてくる声。それに笑みを零しながら、私はニキのペンダントと結構前に星羅からもらった星形のヘアアクセサリを掲げる。

 

「見てて、みんな。私はどんな場所でも、何とかしてみせる。これから先、何があっても。私は私らしくいくて行くよ。私は───みんなに会えてよかった。生きてて、よかったよ。…ニキ。星羅。今は会えなくても、また会えるよね?もし私のことを見ているのなら。どうか見守っていて。会える時が来たら、また会おうよ。───桜ノ雨の、歌詞みたいに。どれだけの時が経っても、またいつか。」

 

そう告げて、私は家に背を向けた。…その時。

 

───頑張って。

 

「───」

 

不意に、ニキの声が聞こえた気がした。

 

───コーデの力は人を笑顔にする。プリズムのきらめきはいつもここに。私との繋がりは、いつでも心の中に。

 

───そうだよね?リッカ。

 

「…うん。そうだよ、ニキ。」

 

本当にニキの言葉だったのかもわからない。だけど、私は答えずにはいられなかった。その声は、間違いなく。ニキの声だったから。

 

「行ってきます。」

 

───いってらっしゃい。

 

風に乗って、複数の声が聞こえた。それはニキの声も、星羅の声も、陽菜ちゃんの声も、リナリアの声も、アリウムの声も混ざっているような気がした。

 

 

───カルデアを目指す、少し前。

 

───高校に入って、友達がいなくなって。それでも、いなくなった友達に励まされた───そんなお話。

 

recollection system shutdown.




正弓「───追憶、終了しました。」

裁「…マスターは?」

正弓「…既に、昏睡状態に陥っています。しばらくの間、目覚めることはないでしょう。」

弓「…ままならぬな。守ろうとしたものに守られ、我らはそのままいるなど。」

裁「…うん」

弓「ルーラーの術でなんとか出来たりはせぬのか?」

正弓「申し訳ありませんが…お母さんには私たちの力は効かないんです。それがたとえ預言書であろうと、お母さんは弾き返してしまう。そういう存在なんです、お母さんは。」

弓「…そうか」

裁「マスターは、3ヵ月って言った。待とう、マスターが帰ってくるのを。」

弓「…ふ、そうさな。」


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第142話 牙を剥く槍

正弓「さぁ、観測を始めましょう。」

弓「しかし…できるのか?」

正弓「元々観測の機構は動いています。そして、今の私はお母さんから全権限を譲渡された状態。観測くらいできますよ。」

裁「そういうことじゃなくて…」

正弓「…まぁ、実際。すごくメタい話をすると。」

裁「……?」
弓「……?」

正弓「こちら側の作者のアバターが行動を停止しただけで、現実に生きる本人は普通に生きてますから、創作の執筆は可能なんですよね」

裁「メタいメタい…」
弓「メタいメタい…」


「ふん。ようやく尻尾を見せおったか。そしてマスターよ、落ち着くがよい。」

 

ギルがそう呟いて私の側に来て、私の肩に手を置いた。

 

「でも……!」

 

「落ち着くがよい。今はその時ではないぞ───案ずるな、致命傷ではあるが完全に砕かれてはおらぬ。」

 

致命傷って……

 

「……ようやっと隙を見せてくれたよな、船長。余裕ぶってる割にいつだって銃から手を放しゃしねぇ。天才を演じてる馬鹿より馬鹿を演じる天才の方がよっぽど厄介だ。」

 

「ヌフ、ヌルフフフ…先生に誉められ感激の至り……ですが。このような場所で裏切りとは、アホなのでござるか?───ヘクトール氏は。」

 

ヘク、トール……?

 

〈“ヘクトール”……!?まさか、トロイア戦争最強の戦士───兜きらめくヘクトールだって言うの!?〉

 

「正解、ってね。いやぁ、これはオジサンなりに勝算あっての事なんだがね。ひとまず船長、あんたの聖杯はもらってくぜ。」

 

「舐めんじゃ…ねぇっ!」

 

「エドワード!」

 

船長と黒髭さんの反撃。それをヘクトールさんは軽く避ける。

 

「残念、外れ───聖杯、獲った!」

 

そうして露出する聖杯を手に取り、黄金の鹿号に飛び乗った。

 

『マスター、リューネ!今だ、黒髭の元へ翔けよ!』

 

その指示に、リューネちゃんが私を軽く抱えて、紫色の爆発と共に疾翔けした。

 

『ぐっ…痛いな、結構』

 

『今の……?』

 

『マガイマガドの移動を真似たんだが…やはり無理があるか……?』

 

リューネちゃん曰く、鬼火状態になったあと爆発する5F前くらいで疾翔けして実現させてるみたい。もっとも、異世界のハンターさん達は使ったところ見たことがないらしいからもしかしたら異世界のハンターさん達は使えない技なのかもって話。

 

「……っ!」

 

黒髭さんの元に辿り着いて、即座にコードスキャン。開かれたページ、そこにあったのは───“瀕死の黒髭 エドワード・ティーチ”の文字と、“傷”のコード。

 

「ヌ、ヌルフフ……何を、したで、ござる…か?」

 

「喋らないで!傷に障るから!」

 

“傷”の解除は通り名を“瀕死の”から“活ける”に変更する───つまり活性の通り名を付ければいい。必要なコードは、“光”と“望み”。望みは元々あるし、あとは必要の無いコードを抜いて光のコードを追加するだけ───なんだけど。

 

「なんで……どうして…!!」

 

コードを書き替えるために必要なメンタルマップが開かない。開こうとしても弾かれる。

 

「どうして……開いて…開いてよ……!」

 

「英雄王。あんたにしちゃ、らしくない判断ミスだったんじゃないかい?マスター可愛さに此方をおろそかにするなんてさ。」

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

「っと。悪いが、バーサーカー程度に遅れを取るほどなまっちゃいない。」

 

「アステリオス!」

 

私がメンタルマップを開こうとしている間にも状況はどんどん進んでいく。

 

「聖杯もだが、オジサンの本命は女神様でねぇ。んじゃ、手薄になったことですし?かっさらわせてもらいますかねぇ。」

 

「ぁ───」

 

「フッ、たわけ。」

 

顔を上げた途端、ギルの声が聞こえた。

 

「忘れてもらっては困るな。こちらのサーヴァントは貴様らよりも量が上よ。我一人離れたところで警備は変わらん。そして、それは貴様を死地へと誘う罠だと知れ!!」

 

「───何っ!?」

 

その瞬間、何本かの鎖がヘクトールさんを縛り上げた。

 

「え……」

 

「「……」」

 

「無銘……それに、クリア……?」

 

「…お下がりください。」

 

「チェーンバインド───再現、成功。」

 

そこにいたのは鎖鎌を構えたクリアさんと魔法陣を展開したアルだった。

 

「……どういうことだ?召喚するにしても早すぎる。霊体化してる気配もなかった!大体、マスターから間に合う距離じゃ───まさか!?」

 

「……私は()()()()()()()()()()。彼女を守るために、英雄王の命を受けて。仮契約のマスターをミラさんとし、私と無銘さんを隠してもらっていたのです。」

 

「サーヴァントによるサーヴァント契約…だと?あり得ねぇ、なんで聖杯も使わずそんなことができる!なんで聖杯も使わずサーヴァントがマスターになれる!?」

 

「さぁ、ね。私にも分からないし分かっていたところで教えるつもりもない。」

 

「…さて。敵が隙を見せればそこを突くのが貴様というものだ。故に我とミルドが隙を見せたならば、貴様は嬉々として狙いに行くだろう。故に我はあえて隙を見せ、ミルドは貴様をあえて主な標的から外したのよ。まぁ、結果はこの様だが。」

 

「……!」

 

「策を張り巡らせ、自らが我らより上だと慢心でもしたか?たわけ。我は王として。ミルドは王女ではあるが歴戦の戦士としてこの程度予測済みよ。策にはめるならば相手をよく理解することよな。」

 

「…こりゃ参った。アキレウス以上の難敵だったか。あんた達は仲悪いみたいだし、英雄王は神様苦手だしで見逃してもらえると思ったんだがねぇ。」

 

「ふっ、神嫌いなどある程度は克服しておるわ。ある程度はな。」

 

「実際英雄王のことは好きじゃないけどその采配や力に関しては認めてるからね。指示を聞いたり同じ行動をしたりするのに異論はないよ。」

 

ミラちゃんが言い放ち、何かの術式を発動する。

 

「……リッカ殿。ありがとう、でござる」

 

「お礼ならリューネちゃん達に言って…主に回復してくれたのはリューネちゃん達だから」

 

私がメンタルマップをどうにか動かせないか試行錯誤しながら少し回復魔術をかけている間、リューネちゃん、ルルさん、スピリスさんが笛を吹いて黒髭さんを大幅に回復させてくれていた。

 

「……少し、肩を貸してほしい…ですな……届かなかろうが……せめて、一撃」

 

「……分かった」

 

私は預言書から手を放し、黒髭さんに手を貸した。

 

「……!」

 

発砲。それと同時に現れた複数の銃弾───違う、黒髭さんが撃ったもの以外は全部()()()()()()()───?

 

「っ…!まだ、息があるんですかい?船長。」

 

「ヌフ、ヌルフフフフ!拙者とリッカ殿の共同作業!さらにそこにミラ殿のサポートが加われば、止まっている相手に当てるなど造作もないのですぞ!!」

 

「喋るんじゃない、馬鹿者!傷が開くだろう!」

 

リューネちゃんが一瞬演奏を止めて怒る。それと同時に黒髭さんの力が抜けて、私も一緒に崩れ落ちる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「仕方ない、退散するとしますか。命あっての物種ってね…!」

 

「そうするがよい。この海の上では貴様はそうすることしかできないであろう。」

 

「へいへい───全く最悪の負け戦だ!」

 

鎖を引いて、クリアさんとアルを引き寄せようとする───けど、クリアさんは引き寄せられてもアルは術式を発動させているだけだから引き寄せられない。クリアさんもエウリュアレさんに離れないように少し転びかけたところで鎖を解除したのが見えた。

 

「あっ!あいつ、船用意してやがった!」

 

「追い掛けようか、ダーリン。私達ならきっと…」

 

「ダメだ。本体のお前ならともかく、今のお前は格を限りなく落としてる。今のお前は(オリオン)としているんだってこと、忘れんな。こっち側で失ったもんは……まぁ、ありそうだけどよ。」

 

「……むぅ。」

 

「さて、ヘクトールめは逃げ去った……あとの問題は」

 

私の方。そう言いたげにこっちを見た。




正弓「…まぁ、作者のアバターが行動を停止したことで、少しだけ不安要素はありますが……大丈夫でしょう。」

裁「不安要素……?」

正弓「えぇ……まぁ、お気になさらず。」


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第143話 無力と決意

〈……その前に、なんで私はここにいるの?〉

星見の観測者〈何故、か。私が君の精神をここへ連れてきた。〉

〈どうして………!〉

星見の観測者〈理由などない。あるとするならば───君は少し休んだ方がいい。〉

〈……休む?どうして?〉

星見の観測者〈君の身体はボロボロではないのか?既に状態はかなり悪いだろう。〉

〈体調は大丈夫だけど。〉

星見の観測者〈私には分からないが…体調は大丈夫でも君の身体は既に限界を迎えかけているのかもしれないぞ?現に君は、身体の重みがずっと取れていないだろう。〉

〈いつもの事だもの。身体が重いのなんていつもの事。〉

星見の観測者〈最近は食欲もないのではないか?〉

〈ないわけじゃないけど……元々、食に興味を持ってないからね。食事のタイミングとかは全く興味がない。〉

星見の観測者〈時折全てがつまらなくなるというのはどう説明をつける?

〈私が退屈だと思っただけ。一瞬とはいえ全てに飽きてしまっただけ。〉

星見の観測者……そうか。まぁいい。いまはここでゆっくりしていけ。〉

正弓「……」

裁「何を見てるの?」

正弓「あぁ…時間記録───お母さんがこの世界から消えてた時間の記録です」

弓「追憶とは違うのか?」

正弓「追憶は主観を使うのです。完全主観視点の時空間干渉式。外部から干渉するリコレクションシステムは“記憶”という別形式の圧縮保存ファイルを読むためのプレイヤーのようなものなんです。時間は揺れやすいのですが、記憶は本来揺れることがありません。それ故に、不完全なときの侵食に弱いんです。」

弓「………???」

正弓「別に理解できなくてもいいですよ…」


「なんで……!」

 

再コードスキャン、魔力回復、メンタルマップの起動。

 

エリクサー、丸焼き肉、薬草───

 

使えそうなものは全部試した。出来そうなことは全部やった。だけど───

 

「どうして……どうして動かないの……!」

 

メンタルマップは動かない、オブジェクト化はしない───私には、なにも出来なかった。

 

「……リッカ殿。拙者のために泣かないでくだされ。拙者などのためにはもったいない。」

 

「だって……」

 

「スマイルスマイル、でござる!美少女が台無しになるでござるよ!いや、泣き腫らした顔も言いかもしれませぬがな、ヌルフフフフ!」

 

「…うぅ」

 

「どうしたでござるか?」

 

「……いい加減にしな、エドワード。」

 

「ぬ?」

 

船長の呆れた声が聞こえた。

 

「リッカのそれはあんたやアタシのようなロクデナシを本気で案じている涙だ。…んな宝、垂れ流させてるんじゃないよ。」

 

「……」

 

「嫌だよ……会えたのに…!せっかく出会えたのに…!」

 

「……ぬーん」

 

「最後くらい何か残してゆけ。ミルド曰く既に時間は足りぬようだしな。」

 

「あー…………」

 

長い沈黙のあと、私の頭の上に手を置かれた。

 

「いつまでもメソメソしてんじゃねぇぞ、餓鬼が。」

 

「え……?」

 

「忘れたか?俺は天下の黒髭様───大海賊黒髭様だぞ。そんな黒髭様の死だ、国を挙げて祝うような大事にしやがれ。」

 

「───うん。」

 

「いつまでも泣いてんじゃねぇ!笑いやがれ、リッカ!」

 

「───うん、うん…!」

 

作り笑いに近いけど。それを見せたら、黒髭さんは笑った。

 

「なんでい、やりゃ出来んじゃねぇか。いいか。海賊が死んだ時ってのは笑うもんだ。“ようやくおっ死にやがった、ざまぁwww”ってな。それが海賊の末路、海賊の業の精算ってもんだ。───だから」

 

そういわれると同時に何かを押し付けられる。

 

「そんな海賊の末路に“涙”なんてもん流すんじゃねぇ。こんな外道にそんな綺麗なもんは勿体ねぇ。勿体なさすぎて死にきれねぇんだよ。まぁ、俺様なんぞに涙を流してくれやがった礼だ。それくらいしかねぇがテメェくれてやる。俺様には大事でも、テメェには何も意味もねぇだろうが。───だから、いい加減泣き止みやがれ。」

 

「うん……うん…!」

 

「……首はやらねぇぞ、フランシス・ドレイク。」

 

「いらないいらない。あんたの末路はマシュから聞いた。興味もないし、そのまま持っていきな。」

 

「へっ、そうか…あぁ、最高だろうなぁ!」

 

「ひゃっ!」

 

いきなり引き寄せされて変な声出た……

 

「黒髭が誰よりも尊敬した女が!誰よりも焦がれた海賊が死を看取り!黒髭に歩み寄った女が涙を流す!そして首も残るなんざ、幸福以外のなにものでもねぇ!」

 

「……」

 

「さらばだ海賊!さらばだ人類!そして───さらばだ、俺に歩み寄った者達よ!」

 

「───!」

 

「黒髭は死ぬぞ!クッ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!───あぁ、でも。エウリュアレ殿とのR18を見れなかったのは残念かもしれませぬなぁ。…まぁ。言ってみただけで実現するとは思えませぬし?手を出すつもりもなかったのでござるよ。───じゃあな、女神。せいぜい拐われねぇように気を付けな。」

 

そういい残して黒髭さんは消えた。…私に、帽子を残して。

 

「…大切にしてやんな。ソイツはアタシ達船長の魂だ。ちょっと匂うかもだけどねぇ。」

 

「……大丈夫。匂いには慣れてる。」

 

私は渡された帽子───キャプテン・ハットと呼ばれるそれを被って、前を向いた。

 

「ヘクトールを追うか?マスター。それほど入れ込んだのだ、怒りにまかせて八つ裂きにしただけでも飽きたらぬだろう。」

 

「…ヘクトールは倒すけど。それは、憎しみじゃない。」

 

「……ほう?」

 

「世界を曲げてるから───世界を歪ませている仲間だから叩き潰す!ただそれだけ───それだけ!あと世界を歪ませた元凶は絶対にぶん投げる!!200%までダメージ溜めて鬼殺しハンマーでバーストさせてやる!!」

 

〈おいスマブラ脳。しかも最後それカービィだろ。まぁ作ってるけどよ。〉

 

「もしかしたらその歪みがリューネちゃん達をここに喚んだのかもしれない。他の世界にまで迷惑をかけるのは流石にやりすぎだから…!」

 

〈まぁ、そうだろうな…ルーパスは調査団一と言っていいほどの実力を持つ。いなくてもどうにかなるような感じではあるが、戦力が落ちるのは紛れもない事実だ。〉

 

「行こう───皆!私に───力を貸してください!」

 

「……やれやれ。改めて言わないでも分かっている。英雄王?」

 

「む?」

 

「周辺の地図はあるか?」

 

「これか?」

 

「少し貸してくれ。」

 

リューネちゃんがギルから地図を借りていた。

 

「さっき、あの男が逃げる前にこれを投げた。これで───“地図よ、敵の匂う位置を示せ(ペイントボール・マーカー)”」

 

そう呟いたと同時に、地図上にピンク色のマークが現れた。

 

「これがあの男の位置だ。追跡するぞ。」

 

「仕切らないでおくれよ。まぁ、妹分のようなリッカの頼みなら聞くしかないけどねぇ!」

 

「まったく、使わないと思ってたら使うなんて……私の予測が外れる可能性もなくはないだろうけど、考えが甘かったかな。」

 

「みんな…」

 

「行くぞ、マスター。どのみちあやつを倒さねば特異点は終わらぬ。───魔力の貯蔵は十分か?」

 

「───うんっ!」

 

私達は地図の示す場所を目指して船を動かした。




正槍「……診断、終わったよ」

正弓「どうだった?」

正槍「損傷負荷は全開運用より低くて、施術開始から覚醒まで3ヶ月って所。具体的には2021/10/27には目覚める見込み。」

正弓「そう……3ヶ月、か。」

正槍「何か不安でも?」

正弓「ううん、なんでもない。引き続き、報告はお願い。」

正槍「了解」


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第144話 クズと幽霊船

正弓「ふむ…」

裁「…あの、正のアーチャーさん。」

正弓「…!どうしました?」

裁「部屋の扉を開いたらすぐここに着いたんですけど…」

正弓「あぁ…少し世界を弄りましたから。」

裁「…やっていいんですか、それ。」

正弓「いいんですよ。とりあえずこれを公開しましょうか。」


【挿絵表示】


裁「…これ」

正弓「ミラ・ルーティア・シュレイドさんですね。少し前に現実のご本人から届きました。描き手は前回の藤丸 六花さんと同じく“チル姐”さんですね。」

裁「…そっか。」


「失礼します、マスター。」

 

黄金の鹿とは別の船。そこに、何騎かのサーヴァントがいた。

 

「おぉ、私の愛しい君よ。首尾はどうだい?」

 

「はい。ヘクトールさまから連絡がありました。エウリュアレの確保に失敗、こちらに帰還するそうです。」

 

「そうかそうか!失敗したか────失敗?」

 

男の表情が歪んだ。

 

「メディア。どういうことだ?失敗───いま、そう言ったか?」

 

「はい。ヘクトールさまは撤退、こちらにてすぐに合流するとのことで───」

 

「言い訳などいい。どう言うことだと聞いている。たかが屑共から女神一匹何故奪えない!ヘクトールはいったい何をしていた!!」

 

「ヘクトールさまを阻んだ英雄がいたようです。人類最古の英雄王、王女であるが歴戦の戦士、そして銘無き者───」

 

そこまで言ったところで男はメディアと呼ばれた少女に平手打ちをする。

 

「“銘無き者”、だと?たかが名無しにヘクトールが負けたのか!?人類最古?歴戦の戦士?知るか!古いだけが取り柄のゴミと祀り上げられたゴミ!そして名すらないゴミカスに!このアルゴノーツの一員が遅れを取ったというのか!どうなんだ、メディア!!」

 

「大丈夫ですわ。我らアルゴノーツのメンバーは絶対不敗の英雄達。そして、その長であるあなたは最高の、無敵の英雄ですわ。いくらでも奪還のチャンスはあります。心配する必要などありません。」

 

乱暴に扱われながら笑顔で応じた少女、メディア。その言葉に落ち着いたのか、男はメディアを起こした。

 

「…そうだ。そうだとも…私は王。無敵の英雄だ……寄せ集めのゴミ共に負けるはずはない。ヘクトールがしくじっただけで私に落ち度はない……そうだね?私のメディア。」

 

「はい!アルゴノーツ船長───イアソン様に敵はいません!」

 

うっとりとしたような視線でイアソンを見るメディア。それは───他の者が見れば、異常とも言えるものだろう。

 

「そうだ…そうだとも。あぁ、すまないねメディア。ひどいことをして悪かった。少しやすむかい?君は長時間船の動力源になっているんだ。疲れているだろう?」

 

「大丈夫です。そのお気持ちだけで頑張れます!」

 

「あぁ───そうだ。君はそうでなくちゃ。素直で可愛い、私の妻になる(ひと)よ。…さて。ヘクトールを迎えにいくとしようか。どいつもこいつも俺の足を引っ張りやがって……人類最古の英雄王に王女であるが歴戦の戦士だって?馬鹿馬鹿しい。俺以外の王など、ゴミカスにも劣るというのに。」

 

その呟きのあと、アルゴノーツは動き出した。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「姐御っ!このままじゃ船が持ちませんで!!」

 

「うっさい黙れ!ええと風向きはこうでこうなるから……」

 

「本当に防壁展開しなくて良かったの!?」

 

「いいのさ、こういうのも楽しむのが海賊ってもんだよ!!」

 

「私たまに貴女のことが分からない!!」

 

「アタシからしちゃ技術顧問サマの方がわけわかんないけどねぇ!」

 

現状。嵐に見舞われてます。全員クリアさんの鎖かアルのチェーンバインドに掴まって耐えてるけど。

 

「ダーリーン!!胸に飛び込んできていいよー!」

 

「リッカちゃん~!抱き締めてぇ!」

 

「真・呼吸投げ!」

 

「はであっ!?」

 

「あ、ありがと~?恋愛運高めておいてあげるね~!」

 

〈なんで真・呼吸投げ出来るんだよ…アルテミスも困惑してんじゃねぇか。〉

 

「知らない……」

 

なんかいつの間にか出来るようになってたんだよね。

 

〈つーか本来俺らより上のサーヴァント相手に効くのがおかしいんだよ。なんだそれ。〉

 

「さぁ……ギル!そっちは大丈夫!?」

 

「む?問題ない。嵐に揺られ、飲む酒というのも良いものよ。」

 

〈待ちなさい、ギルガメッシュ。何故今酒を飲んでいるのです?〉

 

「愉しいからに決まっておろう。そら、アルトリアもこちらに出て飲むか?」

 

〈お断りです。…これで大分まともなのが余計質が悪いです。〉

 

〈まぁ、嵐の中の酒っていうのが結構気分いいのは分かるな。〉

 

「ほう。アスラージ、分かるか。」

 

〈アマツマガツチとか出てくるとその辺りは嵐だからな……酒でも飲んでねぇとやってられねぇっていうか。まぁ、その辺りはルーパスやリューネの方が詳しいんじゃないか?〉

 

「ふむ…今度誘ってみるか。」

 

〈やめとけやめとけ。あいつ、酒苦手だからよ。俺の相棒のメシ場に行くときも滅多に酒は頼まねぇって話だからな。〉

 

「ふむ…」

 

ルーパスちゃんのところって大変なんだなぁ…

 

「よし決まった!総督!良い知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい!」

 

船長の声が聞こえた。

 

「ふむ。悪い知らせから告げるがいい。」

 

「あいよ───リューネの地図があるとはいえ、速度的にあっちのヘクトールの方が早い!今ここで見失い、ペイントボールとやらの効力が切れたら追い付けなくなっちまう!」

 

「で、あろうな。その程度が悪い知らせなら問題はあるまい。して、良い知らせとはなんだ。」

 

「これに関しては───技術顧問サマ!頼んだよ!」

 

「航海開始からずっと懸念事項だった大海龍“ナバルデウス”───それが少し前に発見された。発見した後、コンタクトを取ったところ。既に話が通っていたのか分からないけど、こちらへの協力姿勢を示してくれた。」

 

「…ほう?」

 

「実質───海の神が私達側についた。これで速度に関しては問題はない。そして、もう一つ。」

 

ミラちゃんが船に銃を撃った───傷は、ない。

 

「魔力調質が92%まで完了した。やろうとすれば今よりも加速できる。」

 

「ほう…そうか。そうか!!」

 

「てことで───この嵐の中、突っ切るよ!!」

 

「待てい!?それがいい知らせってか!?」

 

十分いい知らせだと思うけど。

 

「さぁて野郎共、突っ切るよ!!」

 

「「「「「「おうっ!!やっぱ運に関しては姐御にかなう者はいねぇぜ!!」」」」」」

 

「なんだいそりゃあ!?今言ったやつ船から吊るしてやるから前に出な!!」

 

「さて…我は遠見をするか。…む。」

 

ギル?

 

「ドレイク。幽霊船があるぞ。対処するがいい。」

 

「またその目で見たってのかい。脅かそうったって、そうはいかないよ!」

 

「そら。証拠よ。」

 

ホログラム投影機で幽霊みたいなのが現れた。

 

「ひゃぁっ!?」

「ひぅっ…!」

 

…………うん?

 

「い、今姐御が変な声出したぞ!?」

 

「生娘みたいな声出した!ついでにリューネも!」

 

リューネちゃんの方を見ると、少し震えていた。

 

「…あれ?リューネちゃん?」

 

「…な、なに…?」

 

女の子の声に戻ってる…?

 

「……あ~…」

 

「…そういえば、旦にゃさんって幽霊系苦手でしたにゃ。」

 

「…え?」

 

「い、言わないでぇ…」

 

「言わないでもにゃにも、既にバレてますにゃ。気を張っとかにゃかったんですにゃ?」

 

「だ、だってぇ……いきなり出てくるなんて思わないもん…」

 

…え~っと。

 

「リューネちゃん…もしかして…お化け、ダメなの?」

 

その問いに、リューネちゃんが小さくうなずいた。

 

〈…マジか。意外だな。〉

 

「結構意外…」

 

「だ、ダメなの…?」

 

「ダメじゃないけど…ちょっと意外すぎて…」

 

「マガイマガドとかどうしてたの?」

 

「えっと…キャンプ出る前に強く気を張っておいたら何とかなった…」

 

「あ、そう…」

 

「でも初めて見た時腰抜かすギリギリだったの知ってますにゃよ」

 

「言わないでっ!?気にしてるんだから…それに私もずっと気を張ってるわけじゃないもん…クエスト終わった後とか百竜夜行終わった後とかは普通に気を張ってるの解いてるもの…」

 

…えっと、つまり。

 

「タイミングが悪かったのかな。」

 

〈だろうな…〉

 

その時、リューネちゃんが顔を上げた。

 

「…?今、声が…」

 

「声?」

 

「声、というか咆哮…」

 

そういったと同時に、件の幽霊船が爆発した。

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

それに驚愕する私達。だけど、その爆風が雲を切り裂いて先を照らす。

 

「見えたぞ!そら行け、ゴージャス・ハイド!」

 

「久しぶりに聞いたね、それ。」

 

〈…そういえば。マスター。〉

 

 

〈キルケーが何やら妙なことを言っていました。“羽が全部抜ける気がする”、とかなんとか。〉

 

何その地獄…

 

「総督───!!!あんたマジで覚えときなよ!!」

 

「私からもとりあえず後で全力で震打叩き込む!!」

 

「ふははははは!!」

 

そんな感じで、黄金の鹿号は進んでいった。




正弓「そういえば追憶中に28,000UA突破しているんですよね…」

裁「…そうだった」

弓「忘れ去ったのかと思ったぞ」

正弓「そこまで余裕がないので言い忘れることは多いみたいですけど。あとすごく遅いんですけどやっと召喚クラス決めたそうで。」

弓「…終盤ではないか」

正弓「たまに判断遅いところありますからね、お母さん…」


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第145話 英雄船顕現

正弓「……っ!」

「ガァァァァ!!」

正剣「来るよ!!」

正弓「ギリギリまで引き付けて───パリィッ!!」

裁「───」

「ガァァァァ!?」

正弓「一斉ソードスキル!」

正剣「“エクスプロード・カタパルト”───!」
正槍「“エターナル・サイクロン”!」
正弓「“シャドウ・エクスプロージョン”!!」


───カシャンッ


正弓「───あ、終わったみたい。」

正剣「あ、ほんと…」

正槍「ちょっと時間かかったね~」

裁「…あの。聞いていいです?」

正剣・正弓「「はい?」」

正槍「ん?」

裁「燼滅刃ディノバルドと戦ってるのはいいんですけど。その尻尾をパリィしたのも…まぁ、いいとします。けど……正のアーチャーさんはアーチャー…弓兵のクラスで。正のセイバーさんはセイバー…剣士のクラスで。正のランサーさんはランサー…槍兵のクラスですよね?なんで…正のアーチャーさんは片手剣、正のセイバーさんは両手斧、正のランサーさんは短剣なんですか?」

正剣・正弓・正槍「「「……あぁ」」」

正弓「それですか。そもそもですが、私達のクラスって真名隠しのために割り振られただけなのですよ。」

裁「……え。」

正槍「元々私達、サーヴァントじゃないし。ゲームはともかく、実際の戦闘だとどんな武器種でも扱えるようになってるからね。」

正弓「それでも、私達のクラスはそれぞれの能力や性格の傾向から割り振られていますよ。」

裁「そうなんですか……」


「あれが敵の船ってかい!技術顧問サマ!」

 

「エスナ!」

 

はいっ!

 

「「撃てー!!」」

 

2人の掛け声と共に大砲が発射される。

 

〈おぉおぉ、豪快豪快。しかしいいのか?敵と決まったわけでもないだろうに。〉

 

「ヘクトールが逃げ込んだんだ、敵に決まってるだろう!で、どうだい!」

 

「あっちに防御が上手な人がいるみたい。防がれた。」

 

「そうかい……!」

 

「………!相手の反撃が来る!リューネちゃん!」

 

「任せてっ!」

 

私の言葉にリューネちゃんが持ったのはハンマー。大岩が迫るのを確認したまま鬼人の丸薬を食べる。

 

「───はぁぁぁぁぁっ!!」

 

それを大岩に向けて叩きつける───ホームラン。大岩は相手の方へと返っていった。

 

「あっはっは!あんたも無茶苦茶やるねぇ、リューネ!」

 

「ラージャンの気光ブレス真正面から受けて張り合うより怖くないもん!」

 

〈俺に言ってんのかそれ。〉

 

まぁ、アスラージさんに言ってるんだろうなぁ…

 

〈んで、敵の船ってのは───〉

 

〈〈───“アルゴノーツ”〉〉

 

〈……メディア?キルケー?〉

 

〈そんな……まさか……嘘よ〉

 

〈師匠!?しっかりしてください!〉

 

〈おいおい……冗談だろう?お前はそんなにバカだったっていうのかい……!?なぁ───“イアソン”ッッ!!〉

 

イアソン───!?それって確か───

 

「金羊毛の───!!!」

 

「あぁ、その通りだ───あれはアルゴノーツ!その旗艦“アルゴー号”!金羊の毛皮を求めて旅立った冒険者達の船───実質人類最古最強の海賊団と言っても過言じゃねぇ!」

 

〈撤退しなさい、皆!あれがアルゴー号、イアソンの乗る船だと言うのなら────アレがいるわ!!〉

 

そのメディアさんの叫びと共に───

 

「■■■■■■───!!!!」

 

「っ……!疑似咆哮!」

 

「ふん。やはりいたか。」

 

咆哮に似たそれと共に乗り込んでくる巨体───!

 

「大英雄───“ヘラクレス”!!」

 

「ははははは、はははははははは!!」

 

相手の船の方で笑う金髪の男の人。

 

「───っ。」

 

「先輩っ!?」

 

見た瞬間、吐き気がした。警鐘の強さ───

 

「アレがイアソンだ。ケジラミよりもマシって感じの人格を持つ男それがあいつだ───!」

 

「いあ……そん!」

 

「不敬な、ミノタウロス。私の名は畏怖と崇拝と共に呼称されるべきだ。だが───退治される醜い獣である君には特別に許してあげよう。さぁ、かかってくるがいい。」

 

「あぐぁっ………!!」

 

意識が飛びそうな腹痛───警告の激痛。これを私は知っている。これは───最大の警告だ。

 

「おい、大丈夫かよ!?」

 

『これは……?』

 

「レンポ、これは一体……!?」

 

「知るか───いや、まさか。フランスの時の───おい、聞こえてるかリッカ!」

 

ギリギリ聞こえる声に頷く。

 

「お前なら見えるはずだ!この先に待つ未来───お前達の行動で変えられる未来を!意識を保て!見た未来から解決策を導くんだ!」

 

見た未来から、解決策を導く───?

 

「忘れるな!お前は一人じゃない!力を合わせて次に繋げ───」

 

声を聞いている最中に私の視界が真っ白になった。

 

 

───ありが、とう!

 

 

───ますたぁ、も、なまえ、よんでくれた!みんな、かいぶつだと、きらわなかった!

 

 

───うまれて、はじめて!うまれて、はじめて、たのしかった……!

 

 

アステリオスさんの声が響く。───同じだ。フランスの、マリーさんの時と。

 

 

───ぼくは、うまれて、うれしかった!

 

 

───えうりゅあれを、よろし、く!ぜんぶ、えうりゅあれの、おかげ、で

 

 

───ぼくは、えうりゅあれが、だいすき、だ!

 

 

「だめ………だめ……!」

 

「先輩っ!しっかり!」

 

マシュの声で視界が戻る。激痛は、少しだけ収まった。

 

「■■■■■───!!!」

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『アル!ミラちゃん!リューネちゃん!アステリオスさんの状態に常に気を配って!!』

 

『はぇ……!?』

 

『……何か、感じ取ったか?』

 

あ、リューネちゃんの声が戻ってる。

 

『このままだと───アステリオスさんが死ぬ───!』

 

『『『っ!了解!』』』

 

あとは───

 

『ルーパスちゃんっ!!お願い、届いて───アステリオスさんを守って!!』

 

今この場にはいないルーパスちゃんに。どうか、届けばいい。

 

 

side ルーパス

 

 

 

『ルーパスちゃんっ!!お願い、届いて───アステリオスさんを守って!!』

 

「っ!?」

 

リッカ達の船に近めの小島にいる私達。そんな念話が聞こえてきて、顔を上げた。

 

「どうしました?相棒。」

 

「リッカからの念話。探知はされてないのかもだけど念話は届くんだね。」

 

「隠れ身の装衣ってそう考えると良く分かりませんね。」

 

「分かる人には分かるからね、そこにいるっていうこと。」

 

「ふむ……リッカ、というのは君達のマスターだったかな?」

 

焚き火を挟んで向かいに座る男がそう聞いた。

 

「うん。まぁ、そろそろ私は動こうかな。英雄王との約束もあるし。」

 

「君一人でかい?」

 

「まぁね…大丈夫、ちゃんと帰ってくるからそんな顔しないで?」

 

「…絶対、帰ってきてくださいね。」

 

「ん。アークは頼んだよ。」

 

「任せてほしい。幸運を祈っているよ。」

 

「はいはい。」

 

私は隠れ身の装衣を被り直したあと、指笛を吹いた。




正弓「運命の選択……ですか。」

弓「大分久しぶりではないか?」

正弓「ですかね……どうなることでしょう。」


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第146話 雷光を守るために

運命の選択 ヘラクレスと戦闘中、アステリオスを襲う死の運命から

(3) 救う
(0) 救わない

星見の観測者「運命は定まった。創り手───創り手?」

正弓「お母さんはいませんよ。」

星見の観測者「……そうか。」

正弓「……消えた。」

裁「ギル、どっちに票を?」

弓「ふむ…救う、であるな。」

裁「私も救うで……マスターの分は……どうしよう」

正弓「どうしました?」

裁「実は───」


裁定者説明中……


裁「ということなんです。」

正弓「なるほど……でしたら、私がやりましょう。」

裁「いいんですか?」

正弓「お母さんの代理ですから。ええと……こうですか。」


運命の選択 ヘラクレスと戦闘中、アステリオスを襲う死の運命から
(6) 救う
(0) 救わない


正弓「それでは、選択の結果を始めましょう。」


「あなた方の相手はこちらです。戦闘はあまり巧くありませんから、苦しめたらごめんなさい?」

 

その言葉と共に召喚される使い魔───骸骨に似てるけど違う。確か───

 

「竜の歯から作られた使い魔───ヘカテちゃんの十八番ね!」

 

「うっそぉ、じゃああれって本当にメディアなのか!?おかしいな…確かメディアってもっとじっとりしてたような……」

 

〈本人が言うんだから間違えるはずがないでしょう!?あれは正真正銘私───厳密に言えば私の若い頃!!私の白歴史よっ!!〉

 

〈正直あの若いメディアは私も苦手だ……あの娘と付き合ってるとストレスで羽根が全部抜けちゃうんだぞ!?〉

 

「どんな地獄だよそれ……」

 

〈それくらい苦手なんだ、私は!〉

 

〈とにかく!ヘラクレスが相手になるとしたらこちらにはかなり不利よ!期を見て撤退しなさい!〉

 

その剣幕に私達は頷く。

 

「■■■■■───!!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・魔術協会制服”!!主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“全体回復”!」

 

アステリオスさんを見たあと、即座に全体回復を起動させる。

 

「ありが、とう!」

 

「ちぃっ…!何をモタモタしている、ヘラクレス!」

 

「■■■■■────!!!」

 

ヘラクレスさんが斧を振り上げる───けれど、その斧は音もなく飛んできた銃弾に弾かれる。

 

「……」

 

その銃弾が飛んできた方向にいるのはスナイパーライフルを構えたアル。ミラちゃんの術式で羽根を生やしているアルだ。

 

『全員に報告、演奏の質が変わるから気を付けろ!』

 

リューネちゃんから飛ばされる念話。それと同時に流れている曲が変わる。メドレー形式で複数の曲を繋げてるんだって。メドレーに用いる曲は確か…

 

 

不動の山神

電の反逆者

妖艶なる舞

灼熱の刃

銀翼の凶星

憤怒の奔走

塵殺の暴君

目覚め

ポッケ村のテーマ

大敵への挑戦

深い森の幻影

嵐に舞う黒い影

闇に走る赤い残光

閃烈なる蒼光

大風に羽衣の舞う

嵐の中に燃える命

悪逆無道

深淵の朔望

月震

英雄の証

 

 

以上20曲を組み合わせるらしい。この演奏で使われている楽器はドラムやヴァイオリン、フルート、ピアノ、三味線その他諸々……これを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。思考操作…心意操作って言った方が分かりやすいかな。アクセルワールドのハルユキ君みたいに思考だけで物事を制御してるの。辛くないのかって聞いたら“歌ってないだけまだいい”って言われた。踊る……敵の攻撃を回避するという行動をしなければもっと楽らしいけど。楽器達はリューネちゃんが動くと一斉に追従してくれるらしい。楽器1つ1つが宝具で、リューネちゃんが倒れるか、かなり強力な攻撃じゃないと壊れないんだって。もっとも、壊れたとしてもリューネちゃんの魔力が続く限り修復できるらしいけど。…そう、これがリューネちゃんの宝具の1つ───“私が奏でて、貴女が歌って。(ドリーミー・オーケストラ)”。その効果は、自分が実際に触らずに大量の楽器を操作できる()()()1()()()()()()()()()()。これこそが、サーヴァントとしてのリューネちゃんの本気の演奏───!!

 

「■■■■■────!!!」

 

「きゃあっ!」

 

「っ!?何をしている、ヘラクレス───!?よせ!」

 

ヘラクレスさんの巨体がエウリュアレさんに向かう。アルの銃弾とアステリオスさんの猛攻。それに逃げようとした。そうも見える。けど────ヘラクレスさんがエウリュアレさんを故意に狙って攻撃した。私には、そう見えた。

 

「させ、ない!」

 

「■■■■!」

 

「ふは、ふははは!いいぞ、よくやった怪物!」

 

「申し訳ありません、イアソンさま。押し負けてしまいました。ですが…さすがは怪物と言われるだけはあるでしょう。ヘラクレスを一瞬とはいえ押し返してくれました。」

 

「あぁ……そうか。ヘラクレス、アステリオスは動けないはずだ!今のうちにエウリュアレを手に入れろ!」

 

「……させません」

 

クリアさんが前に出て、ヘラクレスさんを相手取る。

 

「■■■■■────!!」

 

「───!」

 

「屈んで、クリア!」

 

ミラちゃんの指示にクリアさんが屈む。ミラちゃんの周囲には大量の水───

 

「水の雨をここへ示さん────“アクア・レイン”!」

 

水の雨。事実しか言ってないようにも見えるけど、実際表現的には矢の雨とか隕石の雨とかあるからそこまで間違いとも言いきれないきがする。

 

『……マスター。銃弾が少なくなってきてます』

 

そんな時にアルからの念話。そういえばスナイパーライフル弾は少なめなんだっけ……

 

「くりあ!すいっち!」

 

復帰したアステリオスさんがクリアさんと交代する。

 

「あぁもう、どうしてこんなにも指示が通らない!ヘクトール!」

 

「はいよ…やっちますかい?」

 

「───あぁ。私は物事が順序よく進まないと苛立つ性格でね。」

 

面倒な性格してる……

 

「特に味方の無秩序さには我慢ならない。命令を守れないのなら、それは敵よりも醜いものだ。」

 

「───あいよ。そんじゃ───宝具解放。」

 

───あれだ。

 

あれだ───死因は。

 

『伝達!あの槍がアステリオスさんの死因になる!!』

 

『あの槍が───?』

 

『防ぐのは試してみるしかないな…』

 

「やべぇぞ、逃げろアステリオス!!」

 

「いや、だめだ、あれは。」

 

「止めたければアキレウスかアイアスの盾を持ってくるんだな!」

 

その時。私は、アルゴー号に紫色の何かがくっついているのを見た。あれは───?

 

「“不毀の(ドゥリンダナ)───」

 

 

ボンッ

 

 

「のわぁっ!?」

「きゃっ!」

「っとぉ!?」

 

その紫色の何かが大爆発を起こし、アルゴー号を揺らす。それによって宝具はキャンセルされた。

 

「ォォォォォォン………」

 

「………!この咆哮は───ミラ殿!!!」

 

「多重防壁展開───全員、衝撃に備えて!!」

 

ミラちゃんの叫びに全員が衝撃に耐えられるような姿勢をとる。そんな中に───アルゴー号へと突撃する1つの大きな影。

 

「やはり───爆鱗竜“バゼルギウス”!!」

 

「いいえ、違いますにゃ!あれは───!!!」

 

「“紅蓮滾るバゼルギウス”!?」

 

「ォォォォォォン!!」

 

紅蓮滾るバゼルギウス───そう呼ばれたモンスターはその場で大きく咆哮した。その咆哮の直後、アルゴー号から飛び立ち、別の炎がアルゴー号を襲う。

 

「うあっつつつ!」

 

「あれは……溶岩、ですか?」

 

そのマシュの呟きと共に今度はこちらの船が揺れる。

 

「ナバルデウス!?」

 

ミラちゃんの反応を見る限り、ナバルデウスが暴れてるみたい。どうして───

 

「ギャァァァウ!」

 

「この咆哮───」

 

私が上空を見上げると、そこにいた赤い竜───火竜“リオレウス”。紅蓮滾るバゼルギウスもその近くにいた。そのリオレウスの背からこちらに向かって飛び降りる1つの人影───人影?

 

「───やぁぁぁぁぁ!」

 

その人は空中でハンマーを構え、ヘラクレスさんのもとへ向かいヘラクレスさんを打ち上げた。

 

「レウス!」

 

その人が叫ぶと、リオレウスがヘラクレスさんに突撃し、アルゴー号まで吹き飛ばした。

 

「……あ。」

 

〈マジかよ───嘘だろ!?いや、でもその()()()()()()()は間違いねぇ!〉

 

「…ギリギリ間に合った、かな?ちょっと時間かかっちゃったけど───ただいま戻りました、マスター。」

 

「ルーパスちゃん───」

「旦那さん!」

 

弓の狩人(ハンター)───ルーパスちゃんが、そこにいた。

 

「なんだ……?」

 

「こんにちは。私はルーパス・フェルト───あなた達を足止めする者。ずっとあなた達を見かけてたけど───相手する気もなかったからこれまで敵対しなかった。───だけど。」

 

ルーパスちゃんが弓を構えた。

 

「私の知り合いに何か危害を加えるようなら容赦はしない。貴方が誰であろうと関係ない。」

 

「……ふん。」

 

「あぁ、それと───貴方が求めている“アーク”は私が場所を知っている。」

 

「……何?」

 

アーク?

 

〈アーク……だって!?〉

 

「情報が知りたいなら私を倒しなさい。敵に見返りもなく教えるほど私は優しくないよ。」

 

「この……小娘が……!!!」

 

「…さて、みんな」

 

「ルーパスちゃん…」

 

「時間は稼ぐから撤退して。」

 

え……

 

「何を言ってるんですか!?」

 

「これで相手は私を狙ってくると思うし…大体、時間稼ぎもないと追ってくるだけ。ヘラクレスは12回殺さないと倒しきれないし。」

 

〈アイツが生前成し遂げたと言われる12の試練か…〉

 

〈敵に回ると厄介なことこの上ないぞ……!〉

 

「……だから、あんたが囮になるってのかい。」

 

「私だけじゃないよ。」

 

「我も同行しよう。案ずるな、必ず帰ってくる故な。」

 

〈あなた達、正気なの!?いくらあなた達でも無理があるわよ!どんな英雄だって……!それにルーパスは奥義が封じられてるじゃない!?〉

 

メディアさんの言う通り、今のルーパスちゃんは空中にいない。ルーパスちゃんの奥義は空中で真価を発揮する───そんなもの。

 

「大丈夫だよ。これまでも、奥義を使わずに戦ってくることがほとんどだったんだから。むしろ最近使ってたのが異常なくらいだからね。」

 

「我の力はもう知ってるだろう?そら、ゆけ。アステリオス、クリア。エウリュアレのこと、頼んだぞ。」

 

「……はい」

「おうさま……」

 

「……行こう、みんな」

 

「先輩!?」

 

私はルーパスちゃんとギルの目を見たあとに言った。

 

「2人が大丈夫って言うなら大丈夫だよ。……そうだよね。」

 

「うん。…心配かけたことに関しては、後で全力で謝らせてもらうよ…」

 

「……わかった。」

 

「案ずるな。必ず戻る。」

 

ギルがそう言ったあと、ルーパスちゃんが私に1枚の紙を渡してきた。……これは……海図?

 

『その海図に示されている島に向かって。イアソンが求めるアーク。そして、ジュリィがその場所にいる。』

 

───!

 

『細かい事情はジュリィとアークの持ち主に聞いてほしい。』

 

『…わかった』

 

私がそう答えると、ルーパスちゃんは指笛を吹いた。その指笛に応じて降りてきたのは───火竜“リオレウス”。ルーパスちゃんはそのリオレウスの背に乗り、飛び立つ。ギルはヴィマーナを呼び出してそれに乗った。ルーパスちゃんの近くには“紅蓮滾るバゼルギウス”の姿もある。それは、まるで───

 

「───竜騎士」

 

〈───ハンターでありながら、モンスターと絆を結ぶ者。噂には聞いていたが…これ程とはな。へっ…面白いじゃねぇか。〉

 

「撤退だ!全員船に乗りな!───総督!」

 

「む?」

 

「契約は続いているんだからね!死ぬんじゃないよ!」

 

「ふ───当然よな。我とルーパスがいればあの程度に負けることなどなかろう。」

 

「慢心厳禁。」

 

「そうよな…」

 

「ルーパス!あんたも早く帰ってきな!待ってたんだからね、あんたのこと!」

 

「ん。任せたよ。」

 

そのルーパスちゃんの言葉を最後に、黄金の鹿号はルーパスちゃんに示された島へと向かった。




正弓「アステリオスさんは死の運命を回避できたようです。」

裁「紅蓮滾るバゼルギウス…いきなり出てきたけどいつから……?」

正弓「ご本人からの手紙によれば実は第144話の頃からずっと近くにいたみたいですよ。」


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第147話 導きの青い星

正弓「ん~……」

裁「……?」

弓「悩みごとか、正のアーチャー。」

正弓「……えぇ、まぁ。そこまで大したことでもないので気にしないで大丈夫ですよ。」

弓「……無理はするでないぞ。」

正弓「……娘達によく言われます。」


「さて。行ったかな。」

 

「うむ、行ったな。」

 

私は英雄王と一緒にドレイクの船が見えなくなるのを見守ってからイアソンの船を見た。

 

「こりゃぁ…撤退した方がいいすかねぇ。」

 

「撤退……?たかが、ゴミ2人とトカゲ2匹に逃げるだと………!?するかそんなもの!」

 

「……こいつは単純な算数に近いレベルの問題なんだがね。さっきもヤバかったが今の方が断然ヤベえって。全く、ここまで救えなくなってるか…」

 

「いいえ、イアソンさまはこれでいいのです。ね?」

 

「あたりまえだ!ヘラクレス!奴らを───殺せ!!」

 

「■■■■■───!!!」

 

「───じゃあ、先手はもらうよ。」

 

ヘラクレスが動き出したのを見て、私は弓に矢を番える。

 

「みんなが削ってくれたから───私のこの一矢は最後の一押し。かつて私が一番最初に習った弓の一撃───私の最初の一矢。」

 

そのまま弓を引き絞りただ一点に───ヘラクレスの心臓へと狙いを定める。

 

「───“原初の矢(サジッタ・プリミティーヴァ)”」

 

本来は宝具でもなんでもない、ただの一矢。けれどそれに与えた想いは───“原点回帰”。それを力のあるままに放つ。

 

「■■■■■────!!?」

 

その矢は真っ直ぐにヘラクレスの心臓へと中り、確かにその命を砕いた。

 

「───まず、1つ。」

 

「ふむ…しかし高威力のものを放った方がよかったのではないか?」

 

「確かに、アルトリアみたいな宝具ならできるかもしれないけど…私の矢の本質は一矢一矢が別の一撃だからね。貫通矢でも使わないとヘラクレスの命を一気に削ることは難しいよ。」

 

「なるほど。しかし、それではヘラクレス相手は不利なのではないか?」

 

「ん?全然?効かないのなら矢の性質、矢に込められている概念を変えればいいんだよ。」

 

「概念……だと?」

 

「今の一矢は“原初”の概念を込めたもの。つまりあれは私の弓の始まりの一矢。“原初”の概念でなければヘラクレスは防げない。まぁ、弓だし射撃の概念はあるだろうけど。」

 

「ふむ…」

 

「■■■■■────」

 

「…じゃ、次───レウス!」

 

私の呼びかけにリオレウスが頷く。面倒だから略称で呼んでるけど大丈夫みたい。

 

「■■■■──!!?」

 

私がバゼルギウスに飛び移ると同時に、リオレウスがヘラクレスに襲いかかる。噛みつき、火を吐き、掴んでから投げ飛ばし、起き攻めをし───ヘラクレスの命が1つ、砕ける。

 

「今のは“火竜”───リオレウスの一撃で葬り去った。…あれ下手すると私でも落ちるからね。」

 

「ふむ。立ち回りが重要なのだな。」

 

「そそ。じゃあ…次。」

 

私はバゼルギウスから飛び降り、ヘラクレスさんの目の前に着地する。

 

「■■■■───!」

 

「────弓固有狩技、肆の参…“身躱し射法III”。」

 

襲いかかるヘラクレスに対し、身躱し射法を発動させて切りつける。そのまま溜めを保持して放つ。

 

「■■■■───」

 

「弓固有狩技、弐の弐…“ブレイドワイヤーII”。弓固有狩技、参の弐…“アクセルレインII”。」

 

さらに2つの狩技を発動させて、2本の矢を鋼鉄の糸で結び、私の頭上で特殊な薬液を炸裂させる。

 

「■■■■───!!!」

 

襲いかかるヘラクレスの攻撃をフレーム回避でかわし、即座に溜めて鋼刃を放つ。

 

「■■■■───!!!」

 

「───っ!」

 

鋼刃にしない剛射を放ち、次いで鋼刃を放ち、後ろに回避して別の狩技を発動する。

 

「弓固有狩技、壱の参…“トリニティレイヴンIII”!!」

 

貫通する矢を1射、2射───そして、最後に強力な1射。その最後の1射が、ヘラクレスの命をまた1つ、砕いた。それを確認し、私はクラッチクローを応用してバゼルギウスの背中に戻る。

 

「“狩技”にて破砕───完了。」

 

「順調よな。」

 

「まぁ、ね。さて、あとは……2つか。」

 

そう呟いて私は海を見た。正確には、海に浮かぶ黒い岩。

 

「ゾラ!お願い!」

 

私がそう叫ぶと、海に浮かんでいた黒い岩が動き、溶岩をヘラクレスに向けて吹いた。

 

「なんだ……!?」

 

その岩は段々と浮き上がり、やがてその巨体───熔山龍“ゾラ・マグダラオス”が姿を現した。

 

「あやつは───確か。」

 

「この特異点で私達が離れる理由になった古龍だね。この海を荒らされる───というか。世界を壊そうとしているのが気にくわなかったみたい。ナバルデウスも同様で。だから暴れまわってたみたいなんだよね。いやぁ…ある程度戦ってから事情を説明したら2匹とも理解してくれて。とりあえずイアソンを倒すっていうので一致したんだよね」

 

「…モンスターの言葉がわかるのか?」

 

「いや?でも頷きとか咆哮とかである程度わかるよ。」

 

そう言っているうちにヘラクレスの命が砕けたのがわかった。

 

「“古龍”による破壊。これで、4つ。じゃあ、最後は───」

 

私は弓を構え、魔力を練る。

 

「宝具、解放───面倒だから詠唱はなしで。この後は英雄王、貴方に任せるよ」

 

「任せよ。」

 

「じゃあ───行くよ。“我、ここに告ぐ。(新大陸の)之は龍を滅せし青き星の一撃。(導きの青い星)”───」

 

クイックショット、クラッチ飛び付き、クラッチ攻撃での傷つけ、チャージステップ───そして最後に、竜の千々矢。来る前にセットしておいたスリンガー弾はスリンガー貫通弾だから───

 

「……撃ち貫け!」

 

「■■■■■■───────!!!!!」

 

弓の力を乗せた、貫通弾の超近距離拡散射撃。それがヘラクレスに叩き込まれ、命が砕けたのがわかった。

 

「───スイッチ」

 

「うむ───やれやれ。今の一撃で、3つも削るとはな。」

 

あれ、そんなに削ってた?

 

「まぁよい───貴様は戻る準備をしておれ。残り4つ───すぐに削ろう。」

 

私はその言葉に頷いてリオレウスにゾラ・マグダラオスの場所まで飛んでもらった。




正弓「そういえば、言ってなかったんですけどメッセージ、および感想ってこちらに繋がってるんですよ。」

弓「ふむ。」

正弓「現状、感想やメッセージが送られた場合は私達が対応しますので。人を指定してくれればその人に任せますけど。あ、お母さんは呼べないので。」

裁「そう…」


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第148話 王の一矢

正弓「すぅ……」

裁「……正のアーチャーさんも寝るんだ…」

弓「ここ数週間ずっと寝ていなかった故な……どうやって起きていたのか謎であるが。」

裁「正のアーチャーさんって人間だよね?」

弓「…疑わしくなってきたぞ」


「……さて。悪いがマスター共を待たせているのでな。手短に終わらさせてもらうぞ、大英雄。」

 

ギルガメッシュがそう言い、ヘラクレスと相対する。

 

「そういえば…どこかでの聖杯戦争の折、我と貴様は対峙したことがあったな。あのときは我が害する側。貴様が護る側であったか。まこと、サーヴァントとはままならぬものよ。顕現した環境によって立場が変わるなど。よもや、我と貴様の立場が逆転するとは。これだから運命というのは面白い、とでもいおうか。」

 

「■■■■…」

 

「知性がないことが不服か?まぁ、仕方なかろう。貴様のような大英雄、知性を…理性を消さねば破滅の側に立つことはなかろう。」

 

「何をごちゃごちゃと言っている……!ヘラクレス!さっさとそのゴミを殺せ!!」

 

そのイアソンの言葉にギルガメッシュがため息をつく。

 

「やれやれ……よほど余裕がないと見える。ならば、我等に相応しい舞台を用意してやろうではないか───開くがいい。“王の夢幻領域(ロード・グラデーションマーブル)”」

 

その宣言とともに、その世界が塗り替えられる。

 

「■■■■───!?」

「……わぁお。」

「ひゃぁっ!」

「………!!!」

 

困惑するヘラクレス、絶句するヘクトール、悲鳴を上げるメディア、言葉を発せないイアソン。塗り替えられたその世界は、まさに黄金の世界ともいうべき場所。

 

「固有結界全力運用───まぁ、これが固有結界かどうかはおいておくとするか。」

 

敵のステータスは下げられ、ヘラクレスは鎖で縛られ、ヘクトールの動きは封じられ。メディアは鎖で縛り上げられ、イアソンは手足+口を封じられる。王の夢幻領域(ロード・グラデーションマーブル)───王の幻想(ロード・オブ・ファンタズム)の原型。王の幻想は固有結界の中へ連れ込み、圧倒的な火力で押しきるもの。対して王の夢幻領域は絶対的な制約を課し、火力を叩きつけるものだ。

 

「さぁ───終幕と行こうではないか。投影開始(トレース・オン)

 

その式句と共に数多の武具が投影される。

 

「ゆけ。」

 

その武具達は、全てヘラクレスへと向かう。

 

「■■■■───!!」

 

「かつての我はアーチャーであった。しかし。今は原典にも無きレアクラス、“始まり(プレミア)”よ。そのクラスが持つ意味は原点回帰…つまりは霊基の初期化であろうな。故に、我が霊基は全て初期化されていると考えてもよいであろう。まぁ、紡ぐ者が手を回したのか記憶と宝具は残っていたが…」

 

そう呟き、ギルガメッシュは弓を構える。

 

「原初を告げる───世界を裂くは我が乖離剣。オルガマリーのような結界構造でない故、全力ではないが───之で十分であろう。」

 

そう言いながら、ギルガメッシュは弓に赤い矢を番える。

 

「射出角固定。“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”改造、改造後出力35%。予測未来固定───ゆくぞ。これは原初の地獄を現す一矢───原初の矢(サムオン・ビダリオン)

 

その宣言とともに矢が放たれ───ヘラクレスへと中る。

 

「■■■■────!!!!」

 

「ふむ。残り2つで耐えたか。しかし、貴様の身体にはまだ武器が刺さっているぞ───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

ギルガメッシュが放った武器は全て投影品───故に、炸裂させても問題は特に無い。その炸裂で、ヘラクレスの命がまた1つ砕けた。…ついでに、ヘラクレスは海に吹っ飛んだ。

 

「このようなものか。さて……」

 

ギルガメッシュがイアソンを見る。

 

「嘘だろ……俺のヘラクレスが……」

 

「…せいぜいマスターにでもけしかけるがいい。まぁ、あのマスターを攻略できるかは知らぬがな。」

 

そう言って、ギルガメッシュはその場を去った。




弓「ふむ。始まり(プレミア)のクラスの定義は初期化、とはあるが…これは実際のところ“可能性を与える”ということだ。」

裁「可能性…」

弓「左様。本来、サーヴァントは成長というものがない。プレミアのクラスはその成長の機会を新しく与えるのよ。肉体的にも、精神的にも…な。故に、本編の我は新たな宝具を作り、神嫌いをある程度克服し───そして、贋作者を認めているというわけだ。ちなみに、このプレミアのクラスで召喚されるのは、かつてどこかの聖杯戦争で顕現したことのある者に限られる。故に無銘たるアルターエゴやハンター共にこのクラスが当てはめられておらぬのだ。」

裁「へぇ…」


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第149話 大英雄再臨

正弓「……ぁ。…あれ、私眠ってましたか。」

裁「おはよう、正のアーチャー。」

正弓「おはようございます……」

裁「29,000UA超えてるよ」

正弓「読者の皆様本当にありがとうございます……お気に入りも100件行ったそうで。」

裁「それにしても話数のずれっていつ矯正するんだろ……」


「ふむ。翔け抜けるのもよいが、こうゆっくりと行くのもよいものよな。」

 

ゾラ・マグダラオスの身体、体組織である溶岩の流れていない部分に腰かける英雄王がそう言った。

 

「そうだね……と、見えてきたよ。」

 

「ふむ…ルーパス、貴様やはり“千里眼”を持っておらぬか?」

 

「千里眼?あれは過去のスキルだから今の私は発動できないよ?」

 

もっとも、その装備を持ってないだけだけど。

 

「そういうことではないのだが…」

 

「……?」

 

ちなみに“千里眼”っていうのは私が新大陸に渡る前まであったスキル。新大陸と大陸の流通が完全に確立された頃にスキルポイントの組み合わせで発動させる方式じゃなくなったみたいで、初心者のハンターでもスキルを発動させやすくなったんだとか…なんかリューネがそう手紙に書いてた。もちろん、スキルポイント式もまだ使えるみたいで、加工屋の人にお願いすれば作ってくれるらしい。

 

 

閑話休題。

 

 

黄金の鹿号が見えると同時に、島とナバルデウスがこちらに近づいてくるのがわかった。

 

「ナバル!」

 

龍気の性質で何がいるかとか分かればいいんだけどな、とか思ったけど、とりあえず声をかける。すると、ナバルデウスの巨体が水面まで出てきた。

 

「ほう、これがナバルデウスか。」

 

「そそ。」

 

「……片方角が折れているがこれは?」

 

「合流前に強引に折った。ナバルも鬱陶しかったらしいから。まぁ暴れられたけど。」

 

まぁ地震起こされても面倒だったし、って説明したら少し引かれた。なんでさ?エミヤじゃないけどなんでさ?

 

「ちなみにこれはナバルデウス原種。ナバルデウス種は成長と共に角が片方ずつ、交互に同じ長さまで成長していくんだけど…たまに片方しか成長しない特殊なナバルデウスがいるの。私達がモガの村を護るために戦った個体もそのタイプだね。まぁ、原種はほとんど現れないから、ギルドじゃあまり生態研究進んでないんだけどね……」

 

「ふむ。ならば何故ルーパスは知っているのだ?」

 

「ん?あぁ……私、ナバルデウスの幼体を保護したことがあるの。」

 

「保護…とな?」

 

「ん。オストガロアに捕食されそうになってたナバルデウスの幼体を2匹助けたことがあるんだよね。で、その時に懐かれちゃってさ…短い間だけど世話してたの。で……その時に得た記録はギルドに報告はしたけど、まぁ…情報源が私とリューネだけだからそこまで信用はされなかったし、完全な解明には至ってなかったから他のハンターに向けて情報の発信はされなかったんだよね。」

 

情報が少なすぎたんだよねぇ…

 

「ふむ…その後、その幼体はどうなったのだ?」

 

「ナバルデウス亜種が引き取りに来た。」

 

「……は?」

 

いや、何言ってんだコイツみたいな声出されても。

 

「正直な話。ナバルデウス原種は多分ナバルデウス亜種の幼体なんだろうね。ナバルデウス原種が長い時間を経て変化するとナバルデウス亜種になるって話だから。」

 

「ならば親が引き取りに来たと言うことか?」

 

「さぁ?レド爺がいれば分かったかもしれないけどね。もしくはその孫の女の子か。」

 

「ふむ……ところで“レド”とは誰だ?」

 

「お父さん達の知り合い。マハナ村のライダー。」

 

「……分からぬ。」

 

「だと思った。」

 

私はナバルデウスを一通り撫でたあと、英雄王と島に上がった。

 

「ルーパスちゃん────!!!!」

「ルーパス────!!!!」

 

「あ、リッカとリューネ───かふぅっ!?」

 

島に上がった直後、リッカとリューネに突撃され、力強く抱き締められる───って痛い痛い痛い!!!

 

「ちょっ、くるし───」

 

「生きてる!生きてるよね!?」

 

「───」

 

「───生きてる……!!よかった……!」

 

「……心配かけてごめん、リューネ。」

 

「ぐずっ…ホントだよ……」

 

ここまでリューネが取り乱すのはすごく珍しい。結構前のミラボレアス戦以来かな?

 

「その辺にしておけば。まぁ、悪いのはルーパスさんだけど。」

 

「ミラ…」

 

「…事情は大方ナバルデウスとジュリィさんから聞いた。ゾラ・マグダラオス、ナバルデウス共に世界が荒らされてるのが気にくわないらしいね。利害は一致してるし、協力体制になるのは必然だったのかもね。」

 

「そっか。」

 

「さ、島の奥に。2人とも疲れてるだろうし、休んだ方がいいと思うよ。」

 

「ぐすっ……ギルもおかえり。よかった……無事に戻ってきてくれて…」

 

「ふ、大袈裟な者共よ。全力の我等が負けるなどあり得ぬ。なぁ、ルーパスよ。」

 

「油断大敵。まぁ、そこまで全力じゃないと言えば全力じゃないけどね。」

 

とはいえ、結構出しきった感あるけど。うーん…まぁいっか。技が足りないなら編み出せばいいし。

 

「ほら。泣き止んで、リューネお姉ちゃん。」

 

「……お姉ちゃん…?」

 

あ、間違えた

 

「…まぁいっか。昔の名残だね。」

 

「久しぶりに聞いたな…」

 

「あ、戻ってる。」

 

「ちょっとした衝撃でな。すまない、かなり取り乱していたようだ。」

 

「…手でも繋ぐ?」

 

「いや…いい。思い返して恥ずかしくなってきた……」

 

私は肩を竦めて、島の奥へと進んだ。

 

「おかえりなさい、相棒!」

 

「ただいま、ジュリィ。」

 

「君が無事で何よりだ。あぁ、アークに関しては問題ない、説明はすでに終わっているよ。」

 

アークを任せた男がそう言った。

 

「……」

 

「どうしたの、ダーリン?」

 

「いや…2人とはいえあのギリシャ最大最強たるヘラクレスと戦って五体満足で仕留めて帰還できる化け物がこの世界にいることに常識がすごく揺らいでる。」

 

「オリオンさん、英雄王は化け物ではありませんよ。」

 

「相棒も化け物などではありませんよ。相棒は調査団の導きの青い星。私が知る限り、最高のハンターですから!」

 

「やめてよ、嬢。恥ずかしい…」

 

「真実を言っているだけです!」

 

「ははは…すごいじゃないか。」

 

「何言ってるの、リューネの方も十分凄いでしょ。ねぇ、“安寧の焔を護るカムラの英雄”様?」

 

「………ルーパスの気持ちが一瞬で分かったぞ……」

 

微妙な表情をするリューネに私がクスリと笑う。

 

「ギルは私達自慢の王だもんね、マシュ。」

 

「はい。」

 

「ふはははは、むず痒い。だが宣言してやろう。ギリシャの英雄など我の前には壁になどならぬ!我に立ちはだかるというのなら贋作者のように無限に等しい武器を操るか、それこそ我そのものが対峙するがいい!油断、加減などしてやらぬがな!ふははははは!!」

 

「いいねぇ!あんた最高だよ、総督!」

 

〈ま、無事に戻ってきてよかったってな。〉

 

六花がそう言った。まぁ、結構心配かけたみたいだからなんとも言えないけど。

 

「さて…フランスで1度会っていたか。…いや、そちらにも私はいるのだったな。」

 

「やぁ。この特異点で鍵となる僕だ。」

 

「む?……貴様らもはぐれサーヴァントか。」

 

〈も?ギル、彼ら以外にもはぐれサーヴァントと出会っているのですか?〉

 

「そこにいるであろうが。ミルドと契約させてはおるが、元々クリアははぐれよ。」

 

へぇ…

 

「…というか、クリアよ。そろそろ真名を明かしても良いのではないか?」

 

「……」

 

「嫌か。まぁ良いが…とりあえず貴様らの真名を明かせ。」

 

「……私の真名は知っているだろう?“アタランテ”だ。正直な話、アルテミス様への尊敬と信仰を若干失いかけている。」

 

「“ダビデ”だよ。彼らが求めるアーク───そう、“契約の箱”の持ち主さ。」

 

「ふむ。文字通りキーマンであるか。して、攻略の目処は立ったか?」

 

「あぁ。……リッカとマシュが鍵になるけどね。」

 

「ふむ……どのようなものか聞かせよ。」

 

〈待ってください。…ルーパスさんとギルさんの魔力がかなり減っています。医療スタッフとして、休息を推奨します。〉

 

「我は構わぬ。続け───」

 

〈過労死しますよ?もっとも、サーヴァントに過労死があるかは存じませんが。〉

 

「よし、我は休む。ルーパス、貴様はどうする?」

 

凄い手のひら返し……ええと。

 

「私は…そうだね。私も休もうかな…本当ならユクモ温泉とか入りたいけど。」

 

「温泉ならさっきリッカが掘り当てたよー!」

 

えぇ!?

 

「リッカ!?私の見てないうちに何してるの!?」

 

「ええっと…なんか直感の反応する場所を掘ってみたら温泉が湧いたんだよね……」

 

「えぇ……」

 

リッカの直感って凄い。

 

「しかし…なんだい?王様は過労死がお嫌いかい?」

 

「たわけ!現代社会の闇を好む者がいるか!」

 

「あぁ、王の仕事は本当にね!あぁ、いやだいやだ!」

 

「お父様も結構疲れた表情で作業してたことあったなぁ…」

 

よく“娘達と遊べない”ってボヤいてましたものね。私もよく覚えています。

 

〈王はそこまで自由が許されてるわけでもないからねぇ…よし。今からベッドとハンモックを送ろう。今日はそれを使ってゆっくり休んでくれ。〉

 

ロマンがそう言うと同時に、ベッドやハンモックが大量に送られてきた。

 

「リッカー!一緒に温泉入ろー!」

 

「女神と温泉に入れるなんて光栄なことよ。」

 

「僕達も行かないか、ルーパス。」

 

「ん、そうだね。スピリスもおいで。」

 

ずっと言葉発してなかったけど、スピリスは私がリッカ達をこの島への海図を渡したときからずっと私のそばにいた。

 

「あ、そうだ。ねぇ、貴女がルーパスちゃんよね?」

 

「アルテミス…だっけ。そうだけど?」

 

「温泉に浸かってる時じゃなくてもいいから、少しお話がしたいのだけど。」

 

「…?」

 

「同じ弓の操り手として───狩猟の女神として。そして女の子として…ね?」

 

「……よく分からないけど。まぁ、いいよ。」

 

私、何かしたっけ?

 

「あ、俺も一緒に入っていいっすか……?」

 

「流石に男女別にするがよい。」

 

「「ユクモ温泉混浴だったからなんとも……」」

 

私とリューネが同時に呟く。

 

「……まぁ、好きにせよ。我はまだやることがある故な。あぁ、それと…マスター、そしてルーパス。湯浴みが終わってからで良い。少し時間はあるか?」

 

「「…?うん。」」

 

「ならば少し時間を───」

 

「おうさま───!!」

 

そんな叫び?と共に大きな足音が聞こえた。

 

「む、アステリオ───ぐふぁっ!?」

 

うわぁ、痛そう

 

「よかった、よかった!ぶじ、ぶじで、ほんとうに!」

 

「ぐぁぁぁ!やめよ、アステリオス!締まる、死ぬ、極る!まて、腕挫十字固はやめよ!ぬぐぁぁぁ、関節がぁぁぁぁ!!」

 

「アステリオスったら、ずっとあなたの心配をしていたのよ。尊敬していたところがあるのでしょうね。」

 

「はっは、人気者だねぇ、総督!」

 

「分かったから離せ!ルーパス!赦す!我を!疾く!助けよ───!!」

 

「おうさま───!!」

 

「筋力A+++で締めるでない我は辛い───!!!」

 

私達って最大でも筋力Aなんだけどその差はどうすれば……多分怪力の種とか食べても無理があるよ?

 

「あっちの船とは大違いだな、こりゃ。」

 

「楽しい方がいいと思う。」

 

「おうさま───!!!」

 

「何故我は戦闘と関係の無きところで死の淵を彷徨うのだぁぁぁ!!」

 

「王ってそういうものじゃない?暗殺とか処刑とか、そういう類いで命を落とすことある気もするけど。」

 

まぁ。とりあえずアステリオスを説得して、英雄王を解放したあと、私達は温泉に入りにいった。

 

「……相棒。」

 

「……気のせいだよ」

 

「…ですよね。」

 

道中、導蟲が何かに反応したと思ったら、すごく見覚えのあるものがあったんだけど…気のせい、だと私は信じたい。

 

 

 

時間は過ぎて夜になって───

 

 

 

「マスター、おるな。」

 

「う、うん…」

 

全員が寝静まった頃に、少し開けた場所で私、英雄王、リッカは集まっていた。

 

「ヘラクレスは喚んであろうな?」

 

「ある、けど…」

 

「■■■■■…」

 

〈本当にやるの?いえ、それが正しい運用なのは間違いないのだけれども。〉

 

「無論だ。楽しいことになるであろうな。」

 

「……?」

 

リッカが首をかしげてる。

 

「ヘラクレスの知性と理性を呼び戻すんだって。つまり、バーサーカーから本来のクラスへと戻す…その作業を今からするんだってさ。」

 

「左様。我等が戦ったヘラクレスでは少し物足りなかったのでな。カルデアのヘラクレスもその様では不安がある。」

 

「できるの…?」

 

〈まぁ…そもそもの話、バーサーカーを召喚するときは狂化を付与する召喚式句を唱えるのよ。それを抜いてしまえば戻すことは可能なはずよ。まぁ、問題は材料が面倒なのだけれど…〉

 

令呪と術式、聖杯にエーテル…だっけ?

 

「我が全て提供しよう。」

 

〈あるの!?というか何故そこまでするのよ!あなた達がいれば十分じゃない!?〉

 

「んと…私は単純に見てみたいからだけど。」

 

アーチャーって聞いてるし、私の技に磨きかけられるかなって。

 

「我はあのイアソンめが理性の無いヘラクレスで粋がっておったからであるか。それと…我が対峙せしとき、ヘラクレスは何かを言いたげであった。ならば、それを言わせるのが良いであろう?」

 

〈……ルーパスはともかく、ギルガメッシュ。あなた本当に性格悪いと思うわ…〉

 

メディアがそう呟き、ふと思い出したようにギルガメッシュを見た。

 

〈そういえば、イアソンの傍らにいたのは私よね?〉

 

「む、そうだな。若い貴様であった。」

 

「え、あれメディアさんの若い頃なの?凄いキラキラしてたように見えたけど。」

 

〈まぁ、ルーパスは説明したときにいなかったし仕方がないわね。…でも、今の私から見れば想像つかないのでしょうね。今の私は破壊の方をよく使うけれど、若い頃は再生の方をよく使っていたのよ。〉

 

へぇ…

 

〈ともかく、あれをマリーに見られるわけにはいかないわ。〉

 

「貴様直々に出張るか?過去の自分と戦うならば贋作者に聞くが良い。あやつならば心得ているであろう。で。どうだ?」

 

英雄王がヘラクレスとリッカに目を向ける。

 

「ヘラクレス。そしてマスター。貴様らに返答を聞こう。」

 

「私…?」

 

「知っての通りだが、こやつは大の魔力喰らい。今でさえそうなのだ、本来の状態に戻すなどかなりの魔力を喰らいに違いはないだろう。そう───命を削るに等しい所業だ。」

 

メディアの話では、現在のカルデアの電力1割程をヘラクレス専用にしないと間に合わないくらいになるらしい。

 

「いくら魔力が多い貴様といえど、どこぞで果てるかもしれぬ。こやつの覚醒───それに命を賭ける覚悟はあるか?」

 

「……」

 

リッカはヘラクレスを見た。

 

「うん。変えよう…違うね、戻そう。ヘラクレスを本当のクラスに。」

 

「ほう。」

 

「私、聞いてみたい。ヘラクレスさんのお話…ヘラクレスさんの冒険談。神話で読むだけじゃなくて…本人から。」

 

「■■■■──」

 

「だ、そうだが。どうだ、ヘラクレス。」

 

「■■■■■……」

 

「……友達の歪み。」

 

「……!」

 

「間違いは友達であるあなたが正すべきじゃない?」

 

少なくとも私はそう思う。

 

「■■■■──」

 

「マスターなら大丈夫であろう。世界の命運を背負うマスターであり、新たな世界を創る使命を持つ者だ。この様なところで果てるような運命でもなかろうよ。」

 

「ヘラクレスさん…心配してくれるの?…ありがとう。でも、バーサーカーとしてじゃなくて、本当の大英雄として世界を救おうよ。」

 

「■■■■…」

 

〈まったく…無茶するんだから。〉

 

「まぁ、発破をかけたは我等であろうがな。よし、マスター!服を脱げ!」

 

「ふぇっ!?」

 

「あぁ、上だけで構わぬぞ。特注の令呪を使う故、手だけでは足りぬのだ。」

 

「な、なるほど…?」

 

「我は性別変換の薬で女に変わっておくゆえ、ここにいる男はヘラクレスのみだ。とはいえ、元男の前で全裸は辛かろう。」

 

「あ、あはは……」

 

「さて、転身の儀式を始めようではないか。」

 

まぁそんなこんなで準備は進んで……

 

〈これでいいわね。令呪3画を用いて、ヘラクレスに伝えるの。〉

 

「う、うん…」

 

「できたよ~」

 

魔方陣も書き終わって、英雄王から聖杯を手渡される。

 

「ふぅ……令呪をもって命じます。」

 

それによって令呪が輝く。

 

「1つ。ヘラクレス───目を醒まして」

 

それと同時に狂化特有の靄のようなものが消える。

 

「2つ。ヘラクレス───守護した結果、救われ、感謝してもらえた人々を思い出して」

 

残り、1画。

 

「3つ。ヘラクレス───あなたに与えられた祝福を受け入れよ」

 

目を瞑っていたリッカがヘラクレスを見つめる。

 

「以上をもって契約の転換、契約更新とする。目覚め、汝が名を告げよ。」

 

「───その願い、確かに聞き入れた。」

 

姿が変わったヘラクレスが、はっきりとそう言った。

 

〈やってしまったわね……イアソン終了のお知らせでも流そうかしら。〉

 

「英雄王。この身へと与えられた赦し、感謝しよう。それともうひとつ、何処かでの聖杯戦争の折、貴方を弱いと言ったこと。謝罪しよう。」

 

「ふ。よい。その友としての務めを果たすが良い。」

 

「承った───む?」

 

ヘラクレスが訝しげな声を上げた。

 

「……メディア。」

 

〈終わったわ……終わったわ……〉

 

「メディア?聞こえているか?」

 

〈……え?何かしら?〉

 

「すまないが、私の霊基───クラスがどうなっているか、分かるか?」

 

〈え?アーチャーよね?…一応、調べてはみるけれど…〉

 

その声と共にキーボードを叩く音が聞こえた。一瞬の後、それが止まる。

 

〈───嘘でしょう?〉

 

「ふ。そういうことか。面白いことになったものよ。」

 

〈面白い、というか…これは流石にエグいわよ。イアソン完全終了のお知らせ流しておくわね……〉

 

「「……?」」

 

私とリッカは完全に理解できていなかった。

 

「すまない、マスター。私も理解しきれていないのだが…マスター達の方が理解できていないだろう。では、改めて名乗ろう───」

 

ヘラクレスが私達の方に向き直って口を開いた。その時の驚きをきっと私は忘れない。

 

「サーヴァント、()()()()。真名、“ヘラクレス”。なんの因果か、ルーパス達と同じ狩人(ハンター)の霊基へと変質した。狂いし私に理性と知性を戻せし主よ、その決断に感謝を。」

 

「「ハンター……!?」」

 

「ハンターであろうと私は私。共に往こう、我が主。その先にある困難を打ち砕かんことを。」

 

「は、はいっ!」

 

〈ちなみに、ハンターのクラススキルである“自立魔力”はルーパス達よりランクが低いみたいね…それでも現界には十分な魔力を生成するわ。何よこれ…カルデア総電力1割占有すると考えてた私が馬鹿みたいじゃないの…〉

 

あ、そうなんだ…

 

「さて───役者は揃った!最終決戦と行こうではないか!」

 

「…ありがとう、メディア。」

 

〈イアソン…完全に許しているわけではないけれどもう冥福を祈っているわ……ただでさえハンターのクラスは化け物クラスの性能をしたサーヴァント達なのにそこにヘラクレスが入ったら絶望的よ……〉

 

「…なんか…すまない。」

 

そうして、夜は更けていった。




裁「ハンターの霊基…未だ不明なところってあるよね。」

正弓「Fateの原型にはハンターというクラスがあったそうですよ。今のアーチャーですけど。」

裁「あ、そうなんだ…」

正弓「……ところで、この作品。Fate/Grand Orderにモンスターハンターの存在を入れてるわけですが。」

裁「うん。」

正弓「実は結構同じようなことをしている方はいるようです。ざっと、20作ほど?」

裁「あ、そうなの?」

正弓「えぇ、まぁ。お母さんはその誰とも関係ありませんけどね。」

裁「それを話した意味…」


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第150話 決戦の前に・森

正弓「それではお願いできますか?」

?〈マスターが動かない以上、こちらはこちらで何とかします。お任せください。〉

正弓「…お母さんが動けなくなるというのは、色々な場所に被害が出ますね。」

?〈そうですね……基本的に私達はその世界に住みますが、マスターの場合は世界間を行き来していますから。〉

正弓「…ですね。」


「……ん」

 

周囲が徐々に明るくなって来た頃。私は自然と目を覚ました。

 

「う、う~ん……」

 

近くではルーパスちゃんが少し赤い顔で寝てる。本気でお酒に弱いみたいで、昨夜1、2杯飲まされるだけで呂律が回らなくなってた。逆にジュリィさんは結構強くて、10杯くらい飲んでも平常運転だった。リューネちゃんは飲んでなかったけど…っていうかリューネちゃんがいない。

 

「……フォータさん、いる?」

 

〈……ふぁい?よびましたか…?〉

 

あ……起こしちゃったみたい。

 

「ごめん、寝てたんだね…」

 

〈ふぁぁ……はやおきですね……まだ4じですよ…〉

 

4時かぁ…最後に時刻を聞いた時が23:30だったからそこまで寝れてないみたい。

 

〈……もうすこしねます……〉

 

「あ、うん。」

 

その言葉を最後にフォータさんの小さな寝息が指輪から聞こえ始めた。…接続切り忘れたのかな。3分くらい睡眠状態になってると自動的に切断されるらしいけど。

 

「にしても、目が覚めちゃったのどうしよう……」

 

確か、全員が目覚めたら作戦を説明して、そこから決戦開始なんだっけ。

 

「…そしてリューネちゃんはどこに行ったんだろ。」

 

 

カサッ

 

 

「……?」

 

不意に、森の方から音がした。それと同時に、ルーパスちゃんとジュリィさんの持つ籠、それとジュリィさんが置いてくれた籠から緑色の光が森の中に行こうとする。確か……導蟲(しるべむし)、だっけ。籠から一定以上離れるのを嫌って、何かと敵対状態になると赤く光って籠の中に退避。そして、普通は緑色だけど古龍種や“歴戦”って言われる個体だと青色に光って誘導するんだっけ。置いてくれた籠の導蟲はカルデアのメンバーと新大陸にいる生物───つまり植物や虫、魚…それから鉱脈や骨塚、各種モンスターや調査団メンバーになら全部反応するって話だけど……

 

「……リューネちゃんの場所とかわかる?」

 

ルーパスちゃんに聞いた話だと、導蟲に何を追いたいか…何に導いてほしいかを伝えることでその対象の場所、もしくは痕跡に導いてくれるらしい。そしてその導蟲が示している方向は森の中だった。

 

「……行ってみようかな」

 

一応、私達がここに来る前にルーパスちゃん達が島中を探し回ってモンスターがいないことは確認済みらしい。だからって気を抜いちゃダメだとは思うから…まぁ、そこまで役には立たないと思うけれど、片手剣を装備していく。実際、私はまだ弱体マッカォすら倒せないから。あ、弱体っていうのはモンスターの強さの指標の事で、それぞれ弱い方から“超弱体”、“弱体”、“下位”、“上位”、“凄腕”、“G級”、“特殊”、“極特殊”…っていう感じで8段階に分けられてるの。古龍種が出ない段階だし、ルーパスちゃんとリューネちゃんは極特殊まで行けるし…ギルも凄腕くらいまでは行けるみたい。アスラージさんはG級、フゲンさんもG級だったかな?2人とも全盛期ならともかく、今はそれくらいまでしか行けないみたい。でもアスラージさん曰く、“G級よりさらに上にソロで行けるのがぶっ飛んでる”とかって。

 

「えっと……」

 

とりあえず、導蟲の籠を借りる事とリューネちゃんを探してくる事を紙に書いて予備の通信機と共に置いておく。

 

「これでよし…導蟲さん、私をリューネちゃんの場所まで導いて?」

 

私がそう言うと導蟲は一度帰ってきてから籠の中で一瞬強く光り、再度出てきて森の中をリューネちゃんがいる方向として示した。

 

「やっぱり森かぁ…よしっ。」

 

私は導蟲の籠を持って森の中に足を踏み入れた。

 

「……昨日も思ってたけどこの森って結構深い。」

 

1人でいるとよくわかる。この森は深くて広い───そんな中に温泉、というか源泉があったのもビックリだけど。島は小さめだけど、そのほとんどをこの森で覆い尽くしてる。

 

「……懐中電灯持ってきててよかった。」

 

アイテムポーチから懐中電灯を取り出して点灯させる。これで少しは視界がよくなる。

 

 

リィィン

 

 

「ん……?」

 

導蟲が突然別の痕跡に反応した。これは───

 

「───足跡?」

 

私とも、リューネちゃんとも違う…みたい。同じ方向には向かってるけど、リューネちゃんの足跡より少しだけ古い。

 

「……」

 

ジュリィさんがくれたモンスター図鑑と照らし合わせても何とも該当しない。なんというか…人間、に近い気がする。

 

「リューネちゃんと同じ方向にいるならそのうち出会うかな?」

 

そう呟いて歩き出す。

 

「……あ。」

 

少し広い場所に出ると、小さくだけど音が聞こえてきた。これは───笛の音色かな。狩猟笛の事じゃなくてフルートとかリコーダーの横笛、縦笛のこと。

 

「なんだっけ、この曲…」

 

途切れ途切れだけど、この旋律はリューネちゃんが弾いてた覚えがある。えっと……

 

…狩り人?

 

「っ!?」

 

突然後ろから声をかけられる。何故か、その声が言っていることがわかるけど。ビックリして振り向くと、木の上に緑色の……ミノムシ?みたいなのを被っている何かがいた。

 

いや…ちがうかな。でも珍しいね。ここに人間が来るなんて。

 

「……」

 

……君は、狩り人ではないね。時を翔けて、正しい時を戻そうとしているのかな。

 

どうして…それを。

 

でも、それは叶わない。愛の炎は強い。君の力を遥かに上回り、その炎はこの地を焼くだろう。さらに言えば、この愛の炎はただの序章に過ぎない。第二、第三の炎が焼き、この地は終焉を迎える。この地に“次”なんてない。

 

「……」

 

それが、この地の運命。それが、連鎖の終点。───これが、この人理の終焉。

 

それは───

 

違う、と思う。

 

……

 

叶わない、なんて事はない。力を合わせれば、諦めなければ───必ず光はある。どんなに相手が強大でも、しっかりと対策を立てて、準備して挑めば───いずれ必ず勝てる。それが、どんなに時間がかかっても。

 

……ふーむ。

 

その人…人?は私の言葉に悩むような声を出した。

 

……かつて、火の山を負う竜を追う狩り人達がいた。…君は、その狩り人達によく似ているね。

 

火の山を負う竜……?

 

…これ、あげる。

 

そう言ってその人?は私に1枚の紙を渡してきた。

 

…諦めなければ光は見える…か。久しぶりに聞いたよ。それは、かの狩り人達を思い出させてくれたお礼。また、逢うことがあれば。

 

そう言ってその人?は森の奥に消えた。

 

「……あ。名前…」

 

消えたあとに気がついたけど、時既に遅し───とりあえず私は導蟲に従ってリューネちゃんのいる場所を目指す。

 

「……光?」

 

導蟲に従って進むと、やがて光が見えてくる。その方向から旋律と歌が聞こえる───

 

「───あ。」

 

森を抜けると、そこでリューネちゃんが歌いながら踊っていた。笛や琵琶、その他諸々は独りでに動いている…そっか。リューネちゃんの宝具───“私が奏でて、貴女が歌って。(ドリーミー・オーケストラ)”はそういう使い方もできるって言ってたっけ。完全にサポート用の宝具だけど、歌ってるのが女の子だと宝具の支援効果が強くなるとかって。なんか…ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんの3人で重なるような宝具があるらしい。

 

「───ん?」

 

不意にリューネちゃんが歌うのをやめて、私の方を見た。

 

「どうしたかな、リッカ殿。」

 

「あ…ごめん、邪魔しちゃった…?」

 

「いいや?一通り“禍群の息吹”は歌い終わったから“禍群の鳴神”に移ろうかと考えていたところだ。」

 

禍群の息吹……

 

「禍群の息吹って何の曲だっけ…」

 

「風神龍“イブシマキヒコ”の激動旋律だ。君達からすれば戦闘BGMと言った方が伝わりやすいだろうけれど。」

 

あー……そういえばそうだっけ…

 

「……さて。もう少しの間どうするか……何か聞きたい音楽はあるかい?」

 

「聞きたい曲かぁ…うーん……」

 

実は今はこれといってなかったりする。

 

「リューネちゃんに任せるよ。」

 

「……参ったな。僕もそこまで考えていなかったんだ。むむ……」

 

リューネちゃんは少し悩んだあと、私に目を向けた。

 

「……そうだ。」

 

「…?」

 

「あーっと……If you don't mind,(もしよろしければ、) why don't you dance with me?(僕と一緒に踊りませんか?)A pretty princess that we protect.(我等が守護せし可憐なる姫君よ。)

 

……英語?あとリューネちゃん。貴女のそれは多分、というか本気で騎士とか執事とか……結構身分の高いお姫様とかを護るそれだと思う。女の子なのに低めの声で、そんなこと言われたら恋に落ちた女の子とかいたんじゃないかな?……って、返さないと。ええと……そうだ。

 

Yes, I'll be happy to accept it.(ええ、喜んでお受けいたしましょう。)

 

そう言って私は差し出されていた手を取る。それを見てリューネちゃんがふにゃりと笑い、それと同時に音楽が流れ始める。これは……確か

 

『“百竜ノ淵源”?』

 

『そうだけれど……』

 

『私、これ歌えるよ。』

 

『……竜人語でかな?』

 

『?うん。』

 

『……合わせてみるかい?』

 

ということで、即興で合わせることになった。……まぁ、結果は……うん。




正弓「そういえばお母さんは歌詞が使えないときとか結構悩むそうですよ」

裁「あ、そうなんだ……」

正弓「特にJASRAC、及びNexToneに登録されていない楽曲はかなり悩むそうで。」

弓「例は何かあるのか?」

正弓「“決別の旅”───東方project関連の曲です。登録されていなければ当然使ってはダメなのですけどね…」

裁「……マスターって結構曲の引き出し多くない?」

正弓「お母さん、音楽好きですもの。楽器とか弾けませんけど。J-POPもですが、ゲームやアニメ、東方ボーカルにボーカロイド……かなり幅広い範囲で聞きますからね、お母さん。」

裁「そっか…そういえば100話記念とか作らないのかな……」

正弓「今のところ考えてないらしいですよ。正直、召喚するサーヴァントや召喚する他作品キャラクターのリクエストがないので、記念といっても何をすればいいか分からないのだとか。ルーパスさん達のマテリアルは第4特異点終了後に更新される予定らしいので、そこまで待ちましょう……っとそうだ」

裁「?」

正弓「以前お母さんが言ってたんですけど、この作品における“モンスターハンター”の世界は、ゲームそのものを基準として組み上げられているらしいです。本来ある世界観設定───例えば、アイテムポーチに入りきらない素材(例:角竜の角)は他の方法で運搬する設定。例えば、フレーム回避が存在しないという常識。例えば、1クエストにかかる時間は50分を遥かに越える───等々、公式設定として本来ある世界観設定を殆ど無視し、ゲームのシステムを主体に、少しずつ世界観設定を付け足す形で作り上げられています。実際そうじゃないと世界観その他諸々の資料を全く持たないお母さんにとって調べ上げるのが相当面倒だったとかなんとか。そもそも資料少ないし…なので結構矛盾点とか発生するとは思うのですけど、“そういう世界なんだ”と考えてもらいたいのです。実際この作品においてアイテムボックスとかアイテムポーチの立ち位置が魔法っぽい(現にアイテムボックスは宝具として存在させてる)ので“こんなのモンハンじゃない”とかって思う人もいるかと思われましたので、一応明記させていただきました。」

裁「う、うん……」

正弓「あともう1つ……いえ、2つ。まず1つ目、既に皆さんお気づきだとは思いますが、ルーパスさん達のモンスターハンター世界には、メゼポルタ(フロンティア拠点)ハクム村(ストーリーズ初期拠点)ギルデカラン(ストーリーズのハンターの街)マハナ村(ストーリーズ2初期拠点)ルトゥ村(ストーリーズ2の竜人達の村)……その他諸々の所謂“派生作品”と言われているような作品に出てくる拠点も全て存在しています。」

裁「穿龍棍やマグネットスパイク…それと行方不明になったモンスター達の中にフロンティアのモンスターの名前出てきてたもんね。」

弓「先日は“ライダー”という単語があったな。」

正弓「えぇ、まぁ…その辺りの仕様……あらゆるモンスターが卵から生まれる仕様に関しては一応考えてあるらしいのでいいのですけど…とりあえず、この作品では全シリーズの拠点、モンスターがモンスターハンター世界に存在している設定になっていますとだけ。これが1つ目です。」

裁「…2つ目は?」

正弓「メゼポルタに関してです。フロンティアのサービス終了によりプレイヤーが立ち入れなくなったメゼポルタ───設定上では“今後この場所で驚異が起こる可能性は少ないと判断されたのでメゼポルタ広場を閉じる”として行けなくなっているらしいのですが。ルーパスさん達のモンスターハンター世界において、メゼポルタはまだ入ることができます。」

弓「……何?」

正弓「ただ、メゼポルタは確かに閉じています。ですが、その“閉じている”というのはサーバー停止、オフライン状態───つまりはゲームのプレイヤー……“異世界のハンター”の立ち入りを許可していないんです。」

弓「つまり?」

正弓「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この作品のモンスターハンター世界ではそういう立ち位置になっているんです。メゼポルタを閉じた理由は驚異が起こる可能性が少ないと判断されたため───あくまで、()()()なんです。少ないとはいえど驚異は驚異。そういった驚異に対応するために、住人達には立ち入りを許可されています。」

弓「ふむ。」

正弓「以上、ちょっとしたお話でした。」


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第151話 決戦の前に・沖

正弓「30,000UA突破致しました……」

裁「いつの間に……」

正弓「皆様本当にありがとうございます……お母さんに代わりお礼申し上げます。」


私達は一通り踊ったあと、フォータさんから連絡を受けてルーパスちゃん達のいる場所に戻ってきた。

 

「ただいま……」

 

「おかえり…リッカ……」

 

「……大丈夫?」

 

「頭痛い……」

 

これって……

 

〈二日酔いね……セリア?〉

 

〈二日酔いに効くお薬処方しておきますね~…メディアさんやキルケーさん、ハンターの皆さんのご協力で魔法薬その他諸々、扱えるものが増えていますから。〉

 

「ありがと……」

 

「…そういえば、リッカさんはリューネさんを探しに行ってたみたいですけど……何かありましたか?」

 

ジュリィさんの問いに少し考えてからあの人?から渡された紙を見せる。

 

「リューネちゃんを見つける前、森の中でこれをくれた誰かがいたの。」

 

「……これは……相棒!」

 

「……なに」

 

「これは……!」

 

ジュリィさんが見せた紙に気分が悪そうな表情をしているルーパスちゃんが目を見開く。

 

「……“古代竜人の手形G”?」

 

「古代竜人?」

 

「あぁ、“古代竜人”っていうのは……私達人間が新大陸に渡る前から新大陸にいた…えっとなんだっけ。」

 

「先住者、ですね。」

 

「そう、それ…その人達のこと……色々知ってる上に新大陸にならどこにでも現れるよ……多分1人じゃないんだろうね…」

 

「…昨夜、私達は古代竜人の痕跡を見つけていたんです。まさか、この世界にいるはずはないと思って無視したのですけど……古代竜人の手形G(これ)があるということは……」

 

「……本当にいる、ってことだね……うぅ、頭痛い……」

 

ルーパスちゃん、本当に大丈夫?

 

「む、マスターめも帰ってきておったか。」

 

「あ、ギル……」

 

「それでは会議を始めるぞ。」

 

「……私も出る…」

 

「たわけ。貴様は少し休んでおれ。頭痛が酷いのであろう。」

 

「気合いで何とかする……大丈夫…しばらくすれば収まるから……」

 

「……はぁ。」

 

とりあえず、船長達と合流してこの後の作戦と現状を共有する。

 

「なるほど……エウリュアレが契約の箱に触れるとこの世界が滅亡するか。しかし、あやつにそのような願望があるか?」

 

「あるかないかと言われればないだろうよ。あいつもそこまでバカではない……と信じたい。」

 

「ふむ……ヘラクレス、貴様の見解はどうだ?」

 

「ないだろう。そして私は理性を喪ったとはいえど、それを止めるために動いているはずだ。イアソンが求めているのは“聖杯”、“契約の箱(アーク)”───そして“女神”。契約の箱はこちらにあるが、聖杯は既にあちらの手にある。女神を捧げる、ということは契約の箱によって“死”がもたらされることは気づいているはずだ。騎士王、貴女なら分かるだろうが聖杯というものはかなりの力をかけねば破壊が叶わない。私では狂化しているとはいえ破壊できないだろう。それが大聖杯ではないといえど。」

 

〈……そんなこともありましたね。というかよくご存じで。その時にヘラクレスはいなかったように思えますが。〉

 

「細かいことは気にしてはいけない。ともかく、聖杯の破壊が不可、契約の箱(アーク)の強奪・隠蔽も不可となれば───答えは1つだ。()()()()()()()()()()()。恐らくあちらの私はこれを狙っている。」

 

その言葉にエウリュアレさんがビクッと反応する。あぁ、でも───

 

「やっぱり、そうだったんだ。」

 

「我が主?」

 

「あの時───アステリオスさんとアルでヘラクレスさんを攻めていたとき。1度だけ、エウリュアレさんに攻撃の矛先が向かったときがあった。」

 

「そういえば……そうだったわね。」

 

「……あの時。私は、ヘラクレスさんがエウリュアレさんを故意に───わざと、狙ったように見えた。」

 

その言葉に全員が驚いた表情を見せた。

 

「……先輩。それは、本当ですか?」

 

「…勘、でしかないけど。攻めが激しかったからただただそれから逃げようとしたのかもしれない。でも、私は故意に狙ったように見えたの。」

 

「ふむ……ヘラクレス、どうだ?」

 

「……流石は我が主、よく見ている……と言いたいところではあるのだが、それが真かは定かではない。それらは一応全ておいておくとしようか。…さて。ひとまず、イアソンから私を引き離さなければだが……これについては策がある。」

 

「ほう?」

 

「イアソンは私のことを強く信頼している。それは、君達も見ていて分かったとは思うが。」

 

あー……まぁ、なんとなく。

 

「故に、こちらが誘い込めば高確率で私を放ってくるだろう。話では英雄王とルーパスの猛攻で命を残り1つにまで減らされているということだ、かなり苛立っているのもあって早期に決着をつけたいだろうからな。」

 

「ふむ……」

 

「誘い込むならば遠距離攻撃が最適だ。時に聞くがリューネ。」

 

「うん?」

 

「君は、弓は使えるか?」

 

その問いにリューネちゃんは頷いた。

 

「確かに主に使うのは狩猟笛だが、あらゆる武器を扱えるようにしてあるからね。」

 

「そうか……ならば遠距離で誘い込むこともできるか。」

 

「私もやれるよ……」

 

「……ルーパスはやめておいた方がいいんじゃないだろうか」

 

「皆が頑張ってるのに私が見ているだけなんて耐えられない……それと、まだ頭は痛いけど最初よりは収まってきたから…」

 

「……そうか。」

 

「誘い込みは決まった。───して。」

 

ギルが私の方を見た。

 

「───本当によいのだな、マスターよ。」

 

その問いに小さく頷く。

 

「大丈夫だよ。皆に担当してもらったとしても、それはただ相手を警戒させるだけだと思う。サーヴァントの皆は、強いから。だったら、今ここにいる中で一番弱い私がやったほうがいい。」

 

「女神を連れた全力疾走───君がいくら英雄達から指導を受けているとはいえ、ただの人であることは変わらない。」

 

「あと、この世界の人間のカルデアスタッフの中で超弱体のモンスター達を越えたのリッカさん、六花さん、オルガマリーさん、ルナセリアさん、ムニエルさんの5人だけだし。下位にはまだ到達しないとはいえ、大型モンスター達も出てくる弱体でそれなりに戦えてるから結構鍛えられてはいるんだろうけどね……」

 

「うむ…いくら鍛えているとはいえ、完全には賛同しかねるが……」

 

「ふん…問題なかろう。」

 

ギル?

 

「……英雄王。その根拠は如何に?」

 

「簡単よ───こやつは世界を背負うマスターだ。この様なところで果てたりせぬだろうよ。そも、最初から英雄であった者などおらぬであろうが。英雄と呼ばれ、強い力を持つハンター共ですら最初はただの子供、ただの小娘よ。そうであろう?ルーパス、リューネ、ミルド。」

 

「うん……」

 

「そうだな…才能という有利はあったかもしれないが、元々はただの少女に変わりはない。」

 

「重視されるのは“どんな人だったか”ではなく“何を成したか”…成した結果によって私達人間は英雄と呼ばれる……」

 

「左様。そういう意味で見れば、マスターは英雄としての器があるのではないだろうか。」

 

そうかなぁ……

 

「私は……できることをするだけだから。それでも、皆に支えてもらわないとできることなんて少ない。支えられてるからこそ、頑張れる───」

 

「…我が主」

 

「───だけど。それでも怖いのは本当のことだから…少しだけでいい。皆の勇気を分けてくれる……?」

 

「……」

 

「だめ……かな?」

 

「……否」

 

そう言われて私はヘラクレスさんに頭を撫でられる。

 

「苦難を知り、恐怖に立ち向かう勇気───それは紛れもなく勇者そのもの。私も微力ながら力を貸そう。」

 

「ふん……貴様の微力なぞそこらにいる汎英雄の何倍だというのか。ルーパス達と同じ“狩人(ハンター)”の霊基を持った貴様がそこらの汎英雄共と同じだとは到底思えん。」

 

「……ルーパス達のを見ていると明確に否定ができないのが難しいところだが…買いかぶりすぎだ。私は他よりも苦労が多かっただけだ。」

 

「ヘラクレスさんの苦労と比べたら私なんてペラペラの紙だよ……?」

 

「……我が主、それは違う。君は世界を救うという使命と、新たな世界を創るという使命を持っているだろう。それは、私にはなかったものだ。君の加減で決まるそれは、私の1つ1つの試練よりも遥かに重いだろう。」

 

「……」

 

「ふ、ヘラクレスからそう言われるとはな。13人分もの苦労をしたこやつに言われるなど、これまで例はないであろうよ。」

 

そのギルの言葉に、ヘラクレスさんが訝しげな表情をした。

 

「いや……それは違う。“12の試練”とは言うが、無効、ノーカウントがいくつかあった。非公式とされている試練もいくつかあるはずだ。」

 

「…あー……」

 

そういえばあった気がする……

 

「我が主も信仰する神には気を付けよ。」

 

「私アルテミスさんにしようかと思ってたけど……」

 

「………」

 

「………」

 

無言が辛い。

 

「まぁ、機嫌を損ねなければいいのだが……ヘラではないしな……ヘラではないしな。」

 

ヘラさん嫌われてるなぁ……

 

「ところで……ルーパス。」

 

「…うん?」

 

「……行けそうか?」

 

「だいぶ落ち着いたから……なんとか。」

 

「……君は本当に酒に弱いのだな。」

 

「この世界でいえば未成年だし……」

 

「…そうか……」

 

ルーパスちゃんにお酒を飲ませたらダメだってよく分かった一件でした。




───ピリリリ、ピリリリ……

裁「……何、これ。」

弓「着信音、か?」

裁「発信源は……正のアーチャーさん?」

正弓「すぅ……んにゅ……」

裁「……かわいそうだけど起こそうか」

弓「ふむ。……ルーラー、耳を塞いでおれ。」

裁「…?」


───ガァァァァァ!!


正弓「ひゃうっ!?」

弓「起きたか。」

正弓「い、今のは……?」

弓「何、黒轟竜の咆哮よ。良い目覚ましになったであろう?」

正弓「……私、第三王女じゃないんですけど…」

弓「ふむ。さて、貴様に着信があったようだが……」

正弓「はぇ……?……本当だ」

弓「かけ直してみたらどうだ?」

正弓「いえ……お相手さん、結構忙しかったりもするので。“不在だったとしても後でこっちがかけ直すから連絡してくんな”って言われてるんです。」

弓「……苦労人か。」

正弓「本来は電話通知で目覚めるはずなんですけどね……私強制起床アラーム切ってましたっけ……」


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第152話 竜の一矢

ピリリリ、ピリリリ…

正弓「はい。」

?〈お、母さん。出たか。〉

正弓「どうしたの?」

?〈進捗報告な。現状約40%回復済み。結構順調に進んでるな。〉

正弓「了解。引き続きお願いね。」


「ここか、メディア。」

 

「はい、イアソンさま。こちらの島に、確かに。」

 

アルゴー号───それがルーパス達の潜む船に近づいていた。

 

「そうか───ヘクトール!行ってこい!ヘラクレス、お前もだ!」

 

「へいへい……すっげぇ罠っぽいんだけどなぁ……」

 

「■■■■」

 

「理性のないあんたもそう思うかい?流石は大英雄、ってとこなんかね。」

 

「何をごちゃごちゃと話している!早くしろ、ヘクトール!契約の箱(アーク)!そして女神!早くあのゴミクズ共から奪ってこい!お前もだ、ヘラクレス!理性の欠片も持ち込むことのできなかった獣に成り下がったお前が武力で負けてどうする!」

 

「■■■■…」

 

「なんとまぁ、荒れちまってよ…」

 

「いいからさっさとしろ!島に上陸し───」

 

そう言い放とうとしたとき、それは放たれた。

 

一矢。海を凍結し、身動きを取れなくする矢。

 

一矢。ヘクトールの核へと深々と突き刺さる矢。

 

一矢。強力な冷気を放ち、船の魔力機構に───神秘へと重大なダメージを与えた矢。

 

一矢。ヘラクレスの足を射抜き、傷口を凍結させた矢。

 

一矢。イアソンの顔皮一枚だけを裂いて飛び去った矢。

 

「───のわぁっ!?」

 

そして、仰け反るのを分かっていたかのようにイアソンの回りに突き刺さる10本単位の矢───

 

恐るべきは、この矢が全て同じ場所から───ほぼ同時に放たれたこと。

 

「この、精密さと怪力は───」

 

「……あんときの、弓使いの嬢ちゃんか……?いや、あの嬢ちゃんは怪力というよりは技術で引いてたか…まさか───あっちにもいるってのかい……夢なら覚めやがれってんだ………!」

 

「ヘラクレス……!?」

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「着弾確認。」

 

「……私が言えることではないのだろうが君も存外規格外だな……」

 

「あぁ……言っておくけど私が肉眼で視認できる距離なら大体射程内だよ?まぁ、流石に威力は落ちるけど。」

 

「……調子は良さそうだな。」

 

「まぁ、あのくらいの距離だったらねぇ。」

 

〈……お二人とも、今何本射出したか聞いても良いですか?〉

 

「「20」」

 

〈……規格外ですね……〉

 

ルーパスちゃん達がそれぞれ誘導しようとしている間。私はリューネちゃんから貸してもらった装備を着ていた。

 

「ふむ……まぁ、このくらいか。」

 

ちなみに私がどうやって着ているのかというと……まぁ、お兄ちゃんとジュリィさんがアイテムボックスを再現したみたいで。それを使ってなんとか。ただ……問題は。

 

「……少しきつい」

 

「……すまない。」

 

リューネちゃんが私よりも身長が低い150cmだから約10cmの身長差がちょっと。確か星羅が140cmくらいだったから、ルーパスちゃんと合うかも。ちなみにニキは160cm。

 

〈すまねぇな……急ピッチで作ったもんで体型変換システムの組み込みが間に合わなくてよ。〉

 

「いえ……そもそも昨日突然依頼した私も悪いですから……」

 

〈つってもできる限り依頼者の要望に応えるのが技術者ってもんな気がするがな……〉

 

あ、お兄ちゃんは昨日徹夜してたみたい。端末使用者の識別、透け時間の適応、各種スキルの適応、各種装備の選択、各種装備の性能適応、端末のアップデート……そこまでやって今の現状みたい。ちなみに私の今の装備はというと───

 

 

藤丸 リッカ

武:鹿角ノ剛弾弓(鋭利190 属性なし 精密0 百竜強化なし 強走珠【2】 強走珠【2】)

頭:ミズハ【烏帽子】

胴:神凪・願【白衣】

腕:ヤツカダアーム(強走珠【2】)

腰:ナルガSコイル(跳躍珠【2】)

脚:ヤツカダグリーブ

護:天雷の護石(早食いLv.1 回避性能Lv.2 回避珠【2】)

花:硬香の花結・三輪

 

発動スキル:ランナーLv.3 心眼Lv.2 弾導強化Lv.2 回避性能Lv.5 業物Lv.1 弾丸節約Lv1 挑戦者Lv.1 体術Lv.4 スタミナ急速回復Lv.3 回避距離UPLv.3 見切りLv.1 早食いLv.1

装備ステータス:鋭利190 属性なし 精密5 接撃 強撃 毒 麻痺 睡眠 減気 防護319 火耐性値4 水耐性値-2 雷耐性値-5 氷耐性値-2 龍耐性値0

Rise Ver. 3.2.0 System

 

 

……まぁ、リューネちゃん曰く回避極振りスキル構成…だけど、実際これ以上があるみたい。ちなみに最後の“Rise Ver. 3.2.0 System”っていうのは、異世界のハンターさん達が使ってた呼称なんだって。意味は全く分からなかったらしいけど…私も分からないし。

 

「まぁ、いい感じの見た目にはなっているんじゃないか?基本的に僕らは一式を使うからあまりスキル重視で組んだことはなかったが。露出は少なめにしておいたがどうかな?」

 

「少なめは少なめなんだけど……ミニスカートっぽいのがちょっと気を遣うかも…?」

 

「ううむ……とはいえ、外見カスタムなしのそれでなければもっときついだろうからな……」

 

「……ごめん」

 

「いや……別に構わない。しかし、体術も全開まで盛りたかったな。回避性能Lv.2が付いた護石で装飾品スロットとしてLv.2が2つ空いていればできたんだが。」

 

ちなみにこの装備に使われているのは“天雷の護石”の回避性能Lv.2と早食いLv.1、スロットとしてLv.2スロットがあるやつなんだって。

 

「リューネ~!多分そろそろ~!」

 

「うん…?あぁ、分かった。とりあえずリッカ殿、これを。」

 

リューネちゃんが籠から虹色に光るなにかを取り出した。なんというか……鳥?その鳥?は私の周りを少し回ってから、リューネちゃんの元に戻った。……なんだろう。さっきよりも力が出る気がする?

 

「今のは?」

 

「環境生物の一種、“虹色ヒトダマドリ”───あまり生息しない稀少なヒトダマドリだ。カムラの里で数匹飼育しているのだがね。さっきのはその飼育しているヒトダマドリの一匹。まったく…里長、僕なんかに飼育を任せても良かったのかい?

 

最後のは恐らく通信の向こうのフゲンさんに言った言葉。事実、フゲンさんが豪快に笑ってた。

 

構わん!元よりそやつらがお前達を気に入ったのがこちらにとって予想外なことよ!琉音、やはりお前はあやつらの娘よな!他のヒトダマドリはともかく、虹色ヒトダマドリに懐かれるなどカムラの里でもそう多くはおらん!

 

「やれやれ…」

 

そう呟きながら、リューネちゃんはルーパスちゃんの隣に並んで、赤い弓を構えた。

 

「“ダークフィラメント”?」

 

「ん。カムラ製だがね。」

 

「カムラの里だとどんな性能になってるの?」

 

「んと……鋭利210、火属性値230、精密0…対応ビンは接撃、強撃、毒、麻痺で精密型の曲射で…連射4、連射4、拡散4、拡散3だ。」

 

「へぇ…貫通じゃなくなったんだね」

 

「まぁ。言ってしまえば百竜派生の武器の方が強いのだが……」

 

「あ、そう……」

 

「……実際のところ。僕嫌いなんだよな、あの武器達。いくら強いと言っても強すぎるんだ。自分の好みに合わせられるのはまぁ、別にいいんだが……強すぎて他の武器が死ぬ。」

 

「……あぁ。なるほど。皇金武器とか赤龍武器みたいなものか……」

 

「弓なんて酷いぞ?異世界のハンター達にとって弓は百竜武器一強だ。」

 

「うわ、きっつ……」

 

「まぁ、百竜武器を嫌う異世界のハンターもいるみたいだが。そんなのは本当に少数派だからな……」

 

「……基本的に私達は見た目で選ぶからねぇ。」

 

2人揃ってため息をついた。

 

「……そうだ、ルーパス。」

 

「うん?」

 

「これを。」

 

そう言ってリューネちゃんがルーパスちゃんに渡したのは真ん中に青い石が嵌め込まれた良く分からない模様のついた石。あの時の───石。

 

「あぁ…持っててくれてたんだっけ。」

 

「壊すなよ?君は落ちやすいんだろう?」

 

「努力はする。」

 

ルーパスちゃんはそう言って、左手首にその石をくくりつけた。

 

「…じゃ、始めようか。」

 

「うむ!一斉に放て!」

 

「英雄王……!相変わらず減らない口だ!二大天に奉る……“訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)”!」

 

「行くわよ、ダーリン!愛を放つわよ♪───“月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)”!」

 

「冷静に考えろ、お前どこ出身!?」

 

でもトライスターってオリオン座の……

 

「やれやれ……忠告も警告もしたはずなんだけどねぇ。改める機会を与えるかな。───“五つの石(ハメシュ・アヴァニム)”!」

 

「神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定……全承認。シヴァの怒りを以て、汝らの命を此処で絶つ───破壊神の手翳(パーシュパタ)!」

 

あぁ、パスパタだ。アリオトを落としたアレだ。

 

「第一宝具、完全稼働。虹が伝え、星が告げる運命を知るがいい───“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)極点双星、(ポールスターズ・)微星運命(アルコルディスティニー)”───起動せよ、ポラリス。その裁きの光を。」

 

「……英雄王。この凄まじい者達の中に私を呼ぶとは。私への当て付けかね?」

 

「たわけ。貴様は贋作者。見て覚え、模倣するという気概くらい見せてはどうだ?何せここには我も含めて英雄が多数いるのだからな。」

 

「───確かに、大英雄と肩を並べるなどこれ以上ない光栄であろうが……本当にどうしたのだ、この英雄王は。貴様、毒でも食ったか?」

 

「さてな。早く放つがいい!」

 

「……まぁ、いいか。───停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

今すごい何か言いたそうだった……

 

「狩人共よ、用意しておけよ!食らうがいい、我を差し置き最古を名乗るものよ!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

「穿ち抜け───“ジャベリンズ・コロナ”!!」

 

ミラちゃん曰く火属性の付与の投げ技。コロナ───太陽の外層大気、その内の希薄なガスを模した火を纏わせて放つ技なんだって。

 

「最後───決めて!」

 

「了解。───異世界の者は言う。それはただのロマンだと。異世界の者は言う。それを使うよりもチャージステップから剛射を繋げる連携を繰り返す方が火力は出ると。異世界の者は言う───それは、強武器たる弓の恥さらしだと。」

 

「異世界の者は言う。それは弱いと。異世界の者は言う。それは名だけ強い見かけ倒しだと。異世界の者は言う───それはただの地雷だと。」

 

詠唱───?

 

〈これは───宝具じゃないぞ。まさか───ただの技だっていうのかい?〉

 

「「───否。私は断じて否と唱えよう。それは全て、汝が使いこなせないだけだと。それは全て、汝が弓の真髄に至っていないからだと。───異世界の者では、弓の真髄へと至ることが出来ぬからだと。」」

 

そこまで言って、同時に矢先を地面で擦り、番えた。ちなみにルーパスちゃんの弓は“氷妖イヴェリア・極護(ごくご)”っていう銘らしい。なんだっけ……黒龍の素材と龍脈石、龍光石…それから各モンスターの素材を使った…えっと、“龍眼覚醒強化”?とかっていう強化の最終強化なんだって。覚醒武器のシリーズスキル付与制限を解除した生産武器だけの覚醒強化方法、とかってジュリィさんが言ってた。正直、ここまでやるのは相当時間がかかるらしいけど。

 

「龍紋展開、冰気錬成───黒龍開眼。龍脈覚醒発動確認、冰気錬成充填最大───龍脈開通。見よ。これが弓の真髄───研ぎ澄まされし貫きの一矢!」

「隻眼起動、破滅連携───干渉開通。凶気浄化機構発現、凶光鎮静護符連結───絆石覚醒。見よ、これが弓の一端───絆にて打ち破る貫きの一矢!」

 

ルーパスちゃんの方は赤黒い紋様と白いキラキラとした氷が矢に吸い込まれ、リューネちゃんの方は黒い靄と赤い光が矢に吸い込まれていった。

 

「なに、あれ……」

 

「アルテミスさん……?」

 

「普通じゃない……普通じゃないわよ!どうして───()()なんてものを完全に扱えているの!?」

 

狂気───!?

 

「あいつら…一体どんだけの修羅場を潜り抜けてきた?あの歳でこれは、はっきり言って異常だぞ……!!」

 

「冰気解放───告げる!其は全てにおいて頂点、全てを上回るとされる禁忌!赤龍の龍紋は使い手を呪い、冰龍の冰気は使い手に力を与える!黒龍の邪眼は強き意思持たぬ使い手を蝕むだろう!それを越えてこそ狩人の極点はここにあり!今こそ見せようその極点───!!」

「竜浄解放───告げる!其は乗り手の絆の証明、火竜を信じし乗り手の奇跡!隻眼の火竜は凶気に呑まれ、破滅の火竜は世界を滅ぼす黒き翼!火竜の運命は乗り手も巻き込む大渦と化すだろう!それを越えて紡ぎし絆の極点はここにあり!今こそ見せようその極点───!!」

 

そこまで叫んだところで一度呼吸を整えた。

 

「───“黒龍の一矢(カズヤ・オブ・ドラゴニア)”!!」

「───“火竜の一矢(カズヤ・オブ・リオレウス)”!!」

 

その言葉とともに放たれた矢は、アルゴー号へと着弾する。

 

「■■■■■■─────!!!!」

 

この距離でも聞こえる咆哮───ヘラクレスさんだ。

 

「さてと……リッカ、出番だよ。」

 

「うん。」

 

私は静かに呼吸を整えた。




龍眼覚醒強化

黒龍素材、龍脈石、龍光石、その他各種素材を使用して行う生産武器限定の強化方法。強化段階は10段階で、赤龍の覚醒武器よりも強化の方向性が多く、また強化によって様々な用途に使用できるようになる。百竜強化に似てはいるが別物。これを使った武器を扱っている人がいるならばその人は凄腕のハンターであるだろう。というのも、強化の際に黒龍の邪眼が必須となるからだ。


正弓「お母さんの作っていたデータの中にありました。」

弓「ふむ……遅れた理由はなんだ。」

正弓「寝てたそうです」


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第153話 “死”への全力疾走

正弓「……?」

手紙「“黒龍の一矢(カズヤ・オブ・ドラゴニア)”と“火竜の一矢(カズヤ・オブ・リオレウス)”じゃなくて“破龍の一矢(カズヤ・オブ・ドラゴニア)”と“破凶の一矢(カズヤ・オブ・リオレウス)”の方がよかったかなぁ」


───ボッ


正弓「……その程度で一々手紙送ってこないでください、ご本人。」


「───はっ、はっ───」

 

少しずつ息を整えながら走る。リューネちゃんが装備スキルで色々してくれたとはいえ、油断は厳禁。

 

「───左」

 

ステップで後ろから迫っていた攻撃を避ける。

 

「右───全体!?」

 

右から迫っていた攻撃を避けた後、後ろを振り返る。無数の、矢。逃げ場は───ない。

 

「落ち着いて───フレーム回避!!」

 

回避性能Lv.5で回避フレーム9F。リューネちゃんはそう言ってた。fpsが分からないからなんとも言えないけど、リューネちゃんとルーパスちゃんの鍛練見ていた限りで推測するに恐らく9Fは約297ms───1Fあたり約33msの30fps。完全にゲームレベルな気がするけど、もう気にしたらダメだと思うことにする。少しだけ後方にステップした私達の身体を矢がすり抜け、前方へと飛んでいく。

 

「「……!」」

 

───怖い。少しでも遅れたら、少しでも早ければ、死に至る可能性が高い回避技術。

 

「───はぁ…っ!……はぁっ、はぁっ……っ……」

 

───こんなのを、リューネちゃんはモンスター(ナルガクルガ希少種)の前で……それも私よりも短いフレーム数で使ってたのかと思うと───改めて、ゾッとする。たったの5F───約165msが、自らの運命を分けるなんて。

 

「■■■■■────!!!」

 

「…っ!ネアキちゃん!」

 

『分かってる…』

 

ネアキちゃんの魔力が練り上がる。ネアキちゃんの精霊魔法───預言書の宝具の1つ。

 

『“氷の精霊、その力ここに振るえ(ヨークレスプラッシュ)”───凍えなさい』

 

私の背後に冷気が立ち込める───思えばネアキちゃんの精霊魔法を使ったの初めてな気がする。…アヴァロンコードのリメイクとかないかなぁ……預言書システムとかあるからDS系列がいいんだろうけど…

 

〈リッカちゃん!そろそろラストチェックポイントだ!強走薬の補充を忘れずにね!〉

 

私はドクターの言葉に小さく頷く。

 

〈そら、チェックポイントだ。…本当はバイクとか用意してやりたかったんだけどよ。すまねぇな。〉

 

チェックポイントに入った瞬間、私はふらりと倒れる。エウリュアレさんはちゃんと無事。私がチェックポイントに入ったのを確認してホロロホルルに乗るリューネちゃんとバゼルギウスに乗るルーパスちゃんがチェックポイントを飛び出し、ヘラクレスさんと対峙する。

 

「……お兄ちゃん、私原動機付自転車運転免許証持ってない。」

 

〈そして六花よ、貴様のソレは原付で乗れるものではないであろう。〉

 

〈なんでそこ詳しいんだよ……確かに大型自動二輪免許必要だけどよ。〉

 

そういえばお兄ちゃんって大型二輪免許証と普通自動車免許証持ってたっけ……

 

〈……3分経つわ。行きなさい、リッカ!〉

 

「うん……!」

 

マリーの言葉に私はもう一度走り出す。

 

『突破されたぞ!僕らもすぐに追う!』

 

そのリューネちゃんの念話に自分の足へと力を込める。強走薬は飲み直したから残り3分───

 

「い…け……っ!」

 

「■■■■───!」

 

後ろから迫る咆哮。恐怖はあるけど、大丈夫。私はまだ───!!

 

「無茶、しちゃって。怖くないの?」

 

「ないわけ……ない!お願い、私にしっかり捕まって!落ちるよ!」

 

「えっ?───きゃぁっ!?」

 

私はエウリュアレさんをお姫様抱っこのような状態にし、さらに足に力を込める。今なら───行けるはず───!!!

 

「ちょっ!?壁に走るなんてなにして───!!」

 

「“グリーブスパイク”!」

 

私の言葉に呼応して、ヤツカダグリーブの足面、そこを一層覆った板から棘が飛び出す。その足を壁にかけて───

 

「■■■■────!?」

「な───!?」

 

墓地の壁を走る。重力の制御なんてしてない、横向きに重力がかかる。

 

「行け………!!」

 

「あなた……」

 

「すまない、やっと追い付いた……!頼めるか、幻夜!」

 

私に追い付くリューネちゃんとホロロホルル。リューネちゃん、いつの間にか幻夜っていう名前つけてたんだよね。

 

「絆全開───行くぞ!」

 

左手首に付けられた石が展開する。それと同時にホロロホルルが大きく翼を広げた。

 

「魔術師の術に惑い狂うがいい───“ウェルターインパクト”!!」

 

「■■■■────!?」

 

黄色い鱗粉を直で食らったヘラクレスさんは、すごくふらふらしてる。あ、なんで分かるかって?声が聞こえるのと……少しだけなら振り向く余裕があるから。

 

「ルーパス!」

 

「絆全開───行くよ、バゼル!」

 

「ォォォォォン!」

 

咆哮と共に紅蓮滾るバゼルギウスが飛翔する。

 

「滾る爆麟に抱かれて消えろ───“フレアナパームエクスプロード”!!」

 

ヘラクレスさんを中心に大爆発が起こった。

 

「■■■■──!!!」

 

「この感じ───やっぱり……!」

 

「離脱するぞ、ルーパス!」

 

リューネちゃんの言葉の直後、ルーパスちゃんとリューネちゃんが私と並走の状態で移動する。

 

『英雄王!報告!』

 

『どうした、なにがあった!』

 

『その前に1つ質問、あの時ヘラクレスの命は確実に残り1つまで減らしたんだよね!?』

 

『うむ、間違いはない!それがどうかしたか!』

 

『なら───()()()()()()()()()()()()()()!リッカの指示に従って殺す気で絆技使ったけど、命を1つ削ったのを確認した!ヘラクレスはまだ消滅してない!』

 

『真か!?おのれ、よりにもよってFate/Stay Night原作(原典)型のヘラクレスか───!!』

 

『言ってること分かんないから分かりやすく言って!?』

 

『理解せずともよい!よいか、マスター!ただ“契約の箱(アーク)”へと走れ!いくら命があろうと、契約の箱の死の概念に生き残れるとは思えん!』

 

『分かった……!』

 

ギルの言葉に従い、ただ走り抜ける。

 

「……ねぇ、どうしてそこまで頑張るの?いえ、頑張ってもらわなくちゃ困るのだけれど。弱い人間の癖に、どうしてそこまで?」

 

「どう、して……?」

 

「さっきも聞いたけれど───怖くないの?」

 

「───怖いよ。それでも、譲れないものはある。だから頑張れるの。」

 

「譲れないもの……」

 

「ここが最後───ここが踏ん張り処なの!だから私は闘える───だから私は頑張れる───!己の魂を磨くか腐らせるか───!それは全て己次第!!」

 

「…!!」

 

心細さ隠して とびきり笑ってみせて

 

この歌は───歌声は───

 

大きく手を振って ありがとうって叫ぶんだ

 

「マスター……?」

 

君がひとつ羽ばたく

 

その度何処かで

 

「……!飛び越えなさい!」

 

「うんっ!」

 

足に跳躍の力を込めると同時に次のフレーズを紡ぐ。

 

風が吹いて 未来を動かす 力になるよ

風が吹いて 未来を動かす 力になるよ

 

「───マスターッ!」

「下姉様…っ!」

 

「ナーちゃんっ!」

「しっかり受け止めなさい、駄メドゥーサ!」

 

ナーちゃんとメドゥーサさんが私達を受け止める。

 

「あぁ、無事なのだわ!よかったのだわ!」

 

「……ありがとう、ナーちゃん。私と一緒に歌ってくれて。」

 

「別に、大したことではないの。これはマスターが招いた結果。私は物語なんだもの。」

 

「流石は駄メドゥーサ。私を受け止めるなんて簡単なことよね。」

 

「…マスターや姉様を助けるためでしたら。ですが、やはり大きいのはマスターと英雄王の采配です。」

 

「そんなのどうでもいいのよ…さて。理解できたようね、ヘラクレス。」

 

「……!」

 

警戒し、硬直するヘラクレスさん。そこに───

 

「でも、遅かったようね。やりなさい、アステリオス、クリア!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

「■■■───!?」

 

「───はい。英雄王。」

 

「む?」

 

「今こそ、身隠しをお返しします───」

 

そう言ってクリアさんは鎌を構えフードを取った。

 

「疑似真名解除。魔眼励起───行きます。」

 

水色だった髪は紫に。服装は私に似たものから少し露出のあるアーマー姿に。

 

「……え?」

 

「アステリオス、あなたは巻き込みません───その指は鉄、その髪は檻、その囁きは甘き毒!」

 

詠唱が始まる。宝具の起動───

 

「───これが私!“女神の抱擁 (カレス・オブ・ザ・メドゥーサ)”!!」

 

()()()()()。今、クリアさんはそう言った。

 

「■■■■■────!!!」

 

〈メドゥーサの魔眼───石化の魔眼!?嘘でしょう!?〉

 

〈そこにいる彼女は神霊───つまり女神そのものだ!まさか───怪物メドゥーサが、女神とされていた頃の姿で顕現したっていうのかい!?〉

 

クリアさんは宝具を放ち、ヘラクレスさんが契約の箱に触れたのを確認したあと、こちらを振り向いた。

 

「お怪我はありませんか?姉様、マスター───そして、未来の私。」

 

「メドゥーサ───なの?」

 

「───クラス、ランサー…真名、“メドゥーサ”。何の因果か、このような姿で現界しました。……虚偽、申し訳ありません。」

 

その人───ランサーのメドゥーサさんはそう言って頭を下げた。




正弓「ちなみにご本人は契約の箱(アーク)を飛び越えるときの描写としてブーストジャンプなんかも考えていたようですよ。」

裁「ブーストジャンプ……“TURBO BOOST”……?」

弓「あれか……生身で耐えられるのか?」

正弓「普通はまず耐えられないかと。ただまぁ、対衝撃用の結界とか彼女のお兄さんが作っているでしょうし……」

裁「……あぁ。」

弓「しかしどう動かすつもりだったのだろうな。」

正弓「今後出てきますかね……?ちなみにホロロホルルの絆技は訳すと“混乱衝撃”。紅蓮滾るバゼルギウスの絆技は訳すと“激発油脂焼夷弾爆発”みたいな感じになります。」

裁「なんて技名思い付いてんのマスター……」

正弓「通常バゼルギウスがボム、ノヴァなのでそれより強いとなるとナパーム、フレアくらいしか思い付かなかったのだとか。」

裁「……」


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第154話 絆

正弓「…はぁ。」

裁「正のアーチャーさん?」

正弓「…いえ、遅れてるので。何かと思えば執筆速度だそうで。」

裁「あ、そう…」


「あ、いた。……周りの海凍らせるにはやりすぎたかなぁ。」

 

「座礁っていうかあれは……星の船みたいに陸に打ち上げられた感じじゃない?」

 

擱座(かくざ)って言ったかな。船舶が荒天時や減速時に風圧や波浪の影響を受け、船体がほぼ完全に岩礁や砂州の上に押し上げられることを言うんだけど……」

 

「……まぁ、溶かしておこうか。このままじゃ黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)も動かないし……」

 

「……ごめん」

 

「いいんだけどね───ナリア、“ヘルフレア”お願いできる?」

 

ミラちゃんの言葉にナリアさん───炎妃龍“ナナ・テスカトリ”が頷いて、青い炎を放つ。熱気はミラちゃんが保護術式かけてくれてるから大丈夫。

 

「流石は冰龍の力が宿った武器、か……周囲一帯凍らせるって。」

 

「うーん……前までこんな感じじゃなかった気がするんだけど。」

 

「…ふーん?…認めてるみたい、ルーパスさんのこと。」

 

「え?」

 

「弓の素材となった古龍───冰龍“イヴェルカーナ”があなたを認めてるみたい。」

 

「…いつの間に」

 

「さぁ…」

 

そう言っているうちに、周囲の氷が溶けきって黄金の鹿号が動けるようになった。

 

「さぁ、出航と行こうか!」

 

船長の一声で、私達は船に乗って島を出た。

 

「おーい、イアソン!待たせたね!!」

 

「───馬鹿な!!ヘラクレス!ヘラクレスはどうした…!!」

 

「どうした、ってアタシたちに聞くのかい?」

 

「言うてやるなドレイク。現実を直視できぬ者の基本だ。」

 

「まぁそうだけどねぇ。いいや。現実を突きつけてやるよ。アタシたちが生きているってことはアイツは死んだ。わかりやすい理屈だろう?」

 

「死ぬはずがないだろう!ヘラクレスだぞ!不死身の英雄だぞ!英雄たちが憧れ、挑み続けた頂点だぞ!?それが、お前たちのような寄せ集めのゴミ共に倒されてたまるか!!」

 

頂点…か。

 

「ふぅん…あんたにも一角の友情はあったってことか。ひどく、歪んでいるけどさ。」

 

「…そこまで会いたいのならば。逢わせてやってはどうだ、マスター。」

 

「…いいの?」

 

〈私からもお願いするよ。〉

 

キルケーさん…?

 

〈あの姪であり妹弟子ある魔女とその夫の不始末、叔母として、姉弟子として…そしてアルゴー号の呪いを解いたものとして。後始末はしなきゃダメだろう?〉

 

〈私も出るわ。…あまり、見られたくはないものだけれど。これも運命なのかしら。〉

 

〈師匠…?〉

 

「…わかったよ。」

 

私は右手を掲げた。

 

Έλα(来て),“Ηρακλής(ヘラクレス)”,“Μήδεια(メディア)”,“Κίρκη(キルケー)”」

 

その言葉に応じ、召喚が行われる。

 

「───え?」

 

「久しぶりね、イアソン。…随分と楽しそうにはしゃいでいたようだけれど。」

 

「やれやれ…はしゃぐにしても限度があるだろう。」

 

「…わが友よ。お前の苦悩、お前の間違い───終わらせに来た。」

 

裏切りの魔女、鷹の魔女───そして、大英雄。彼らがこの地に再び顕現し、彼らと相対する。

 

「…ご機嫌よう、夢ばかりを見ていた過去の私。」

 

「えぇ、ごきげんよう。叔母さまも、お元気そうで。」

 

「まぁ、元気さ。…本当に、君は愚かだ。女神ヘカテの薬術を疎かにしたことが君を不憫な運命に導いたと思うと、さ…」

 

自分自身と同じ女神に師事したものの相対───

 

「……………」

 

「どうした。何か一言でも言ってはどうだ?」

 

「───のか」

 

うん?

 

「また奪うのか、俺から!裏切りの魔女!!」

 

怒り…?

 

「俺の栄光を!俺の未来を!俺の幸福を───そして俺の人生を奪うだけでは飽き足らず!俺の親友まで奪うのか、お前は!!」

 

「イアソン…」

 

「おぞましい声で呼ぶな、薄汚いクソ女が!俺の、俺のヘラクレスを奪ったのもお前だな!やっと手にした幸せを!お前が残らず灰にした!!」

 

実際そうなんだっけ?コリントス王クレオーンに気に入られたイアーソーンは王から娘グラウケーを与えられた。そこでイアーソーンはメーデイアと離婚してグラウケーと結婚したが、激怒したメーデイアは結婚の誓約を立てた神々にイアーソーンの忘恩をなじり、グラウケーに毒を浸したペプロス(あるいは魔法の薬で作った黄金の冠)を贈り、それを着たグラウケーは炎に包まれ、助けようとしたクレオーン王とともに王宮もろとも焼け死んだ───だっけ。記憶できてないところはwikipediaで補完してたけど。

 

「何故だ───何故お前がそこにいる!俺の声には応えなかったというのに!」

 

「…イアソン」

 

「何度も声をかけた!もう一度アルゴノーツを結成しようと!俺の傍に来いと!!だがお前は拒絶した!俺の声には応えなかった!お前なら来てくれると思っていたのに───お前にだけは傍にいて欲しかったのに!!」

 

「───」

 

「だから───だから理性を奪った!たとえ理性のないケダモノだったとしても、お前ならそれでもよかったんだ!!それなのに───それなのに何故、お前はゴミ共にその姿で使われているんだ!!」

 

「…ふむ。」

 

「俺は、アーチャーのお前で来て欲しかった!バーサーカーなんぞじゃなく!いいや、アーチャーじゃなくてもいい!せめて楽しく会話ができるお前で来て欲しかったんだ!それを、それを───!!」

 

イアソンさんはメディアさんに指をさした。

 

「裏切りの魔女め!お前など、生まれてこなければよかったんだ!!」

 

「───」

 

「…あー、すまない。アーチャーだと思っているところ悪いが、今の私はアーチャーではないのだ。」

 

「謎のレアクラスである故な。…聞こえてなかろう。」

 

「私も謎だと思うレアクラスだ。他の者から見れば疑問しか出ないだろう。」

 

〈…師匠〉

 

「いいわ。嫌われるのは慣れているもの。」

 

そういってメディアさんがフードを被る。

 

「では、どうするのかしら?貴方の親友を奪ったこの魔女に、かつての貴方の妻に───あなたはどんな報復をするのかしら。」

 

演技…というかスイッチが変わったような感じがする。

 

「決まっている───聖杯よ!!」

 

イアソンさんが聖杯を掲げた。

 

「奴らを殺せ!!そして───ヘラクレスを奪え!!」

 

「魔力反応増大───いいえ、増殖!!これは…!」

 

〈シャドウサーヴァント───それだけじゃない!海賊船───!?囲まれているぞ!!〉

 

「ふん、底を見せたか。そのようなものに頼るなど、底を見せたも同然よな。」

 

「姐御!どうしやす、技術顧問の嬢ちゃんのおかげで足りなくはないでしょうが数が数でっせ!!」

 

「泣き言言ってんじゃないバカ!お宝が目の前なんだ、こんなとこで諦めてられるわけないじゃないか!?」

 

「しかし───」

 

「…私に任せてもらえる?」

「…僕に任せてもらえるか?」

 

ルーパスちゃん…?リューネちゃん…?

 

「…何する気だい?」

 

「いや、なに。あれをとりあえず一掃してくるよ。」

 

「…ほんと、考えることは一緒なんだから。ミラ?」

 

「何?」

 

「耐火属性の結界とかある?できれば、かなり強めの。」

 

「…ある、けど。」

 

「船にかけておいて?」

 

耐火属性…?

 

「ルル、ドラを頼む。」

 

「お任せですにゃ」

 

そう言ってルルさんが銅鑼を鳴らした。

 

「…じゃあ、行こうか。」

 

「ん。」

 

「「宝具、稼働───」」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんが、そう呟く。それと同時にあふれる魔力───あれ?この魔力───

 

〈なんだ…?人じゃない魔力───?〉

 

「解放。それはつがいの古龍。妃と呼ばれる青き龍。」

「解放。それはつがいの古龍。王と呼ばれる赤き龍。」

 

あれ…あの、姿は───

 

「地獄の名を持つ蒼炎」

「星の名を持つ爆炎」

 

「「番よ」」

 

〈まさか───連携できる宝具なのか?〉

 

お兄ちゃんがそう言っている間にルーパスちゃんとリューネちゃんは空高く上がっていく。

 

「青き妃は蒼炎を散らし」

「赤き王は爆炎を放ち」

 

「蒼炎は点火し爆炎を放つ」

「爆炎は凝縮し判決を下す」

 

「蒼炎」

「爆炎」

 

「番は爆炎」

「番は蒼炎」

 

「「出逢いし時、その絆今こそ合わせん───」」

 

そこまで言ってルーパスちゃんが───ううん、ナナ・テスカトリが青い炎を、リューネちゃんが───ううん、テオ・テスカトルが赤い炎を放ち始めた。

 

『今こそ放とう───“灼けよ、此処に降りるは妃の憤怒なり(ヘルフレア)”』

『今こそ放とう───“炎王龍、その炎この地を焼き尽くさんが如く(スーパーノヴァ)”』

 

「…っ!危ない、伏せて!!」

 

ミラちゃんの言葉に私たちが思わず伏せると同時に、船を爆炎が襲った。

 

「わっわわ!?壊れないよねぇ!?」

 

「大丈夫…!!」

 

爆炎が収まって、私達が立ち上がると、既にアルゴー号と黄金の鹿号以外の海賊船は消えていた。それと───空中から落下するルーパスちゃんとリューネちゃんの姿。

 

「相棒!」

 

ジュリィさんが声を上げるけど、ルーパスちゃんは頷いて上空を向いて手を口に近づけた。視線の先───穴?

 

 

ピィィィィィィ…

 

 

「指笛?」

 

「指笛を吹いて……?何か、来る」

 

ミラちゃんがそう言って穴を見た。

 

「レア───!!」

「レスティ───!!」

 

リューネちゃんとルーパスちゃんが叫んだ。その声に応えたのか穴から現れる、それは───

 

「リオレウスとリオレイア!?」

 

赤い飛竜と緑の飛竜。自然の物ではない、背中にある鞍にルーパスちゃんとリューネちゃんが乗った。

 

「レアとレスティですにゃ!!」

 

「えと…だれ?」

 

「旦那さん達のオトモンですにゃ!レアはリューネさんのオトモン、レスティは旦那さんのオトモンなんですにゃ!」

 

オトモン…?

 

「よいしょっと。ただいま」

 

「あ、ルーパスちゃん…」

 

〈“モンスターライダー”…初めて見たぞ。隠してたのか?ルーパス。〉

 

「ん?別に違うよ?新大陸じゃ呼べなかっただけ。遠すぎてね。」

 

〈なるほどな。しかし、ルーパスのオトモンがリオレウスか。〉

 

「何か変?」

 

〈まぁな…お前さん、噂になってる夫婦だと妻の方だろうが。さっきの宝具もナナ・テスカトリになったしな。〉

 

「あ~…それは知らない。好かれたのがリオレウスだっただけだし。私なぜかリオレウスによく好かれるんだよね。」

 

「僕はリオレイアか…というか最初のオトモンが僕はリオレイア、ルーパスはリオレウスだっただけだがね。」

 

〈そうか…〉

 

…よくわからなかった。




正弓「詠唱は適当だそうな。」

裁「あ、そう…」

正弓「正直詠唱とかその場のノリで考えてるらしいですよ、あの人。」

弓「ふむ…」


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第155話 煌めく英雄に警戒を。無敵の英雄に真実を。

正弓「そろそろオケアノスも終わりですね……」

弓「そうさな…」

正弓「はてさて……一体誰が召喚されることになるのでしょうか」


「さて、乗り込むよ!ルーパス達にこれ以上何かされる前に決着をつけたいもんだ!」

 

「酷くない?」

「酷くないか?」

 

「“王の星と妃の想は爆発する(ヘルスター・エクスプロード)”の原型を再現した二人がなに言ってるの……」

 

ミラちゃんからそう言われてルーパスちゃんとリューネちゃんが少し落ち込んだ。それと同時に、二人がフラりと倒れた。

 

「ルーパスちゃん!?リューネちゃん!?」

 

「……ごめん、少しやすませて」

 

「すまない……予想以上に魔力を持っていかれたようだ。」

 

「あ…うん。」

 

「我が主、私の傍へ。相手は貴女を狙うだろう。」

 

「う、うん…あ。」

 

ふと気がつき、ヘラクレスさんを見る。

 

「ヘラクレスさん。」

 

「うん?」

 

「……1つ、気を付けておいて欲しいことがあるんだけど───」

 

 

「さぁて……軽く逝きますかぁ。」

 

私達はヘクトールと対峙する。ルーパスちゃんがあのとき放った矢で所々凍りついてるけど。

 

「ったく、怖いねぇ…あの奥さんは。ナチュラルに狂ってるってのはああいうのを言うのかね。まぁ……敵は圧倒、こっちは瀕死───なら、冥土の土産でもこしらえるかねぇ!」

 

〈宝具が来るわ!〉

 

「先輩、私と無銘さんの後ろに───!」

 

「対応が早いねぇ……!なら、オジサンの最後っ屁でも喰らってもらおうか、フランス、ローマときて今度は此処を修正するガキ共!」

 

カルデアを───知っている……!?

 

「面倒なんで詠唱真名まとめて省略!こちとら仕えるマスターも選べなかったただの戦争屋の人殺しなんでな!そら、吹き飛びやがれ!」

 

「お願い、“エミヤ”───」

 

私が喚びきるよりも先に。ヘクトールは矛先を変えた。

 

「女神エウリュアレ!その命、契約の箱(アーク)に捧げな!!」

 

「しまっ───」

 

「───うん。だよね。」

 

でも、その槍はエウリュアレさんの前に現れた盾に阻まれて。

 

「な───がフッ!?」

 

ヘクトール自身は、背後から心臓の辺りを剣で刺されていた。

 

「───宝具、限定解放。“我、物質を破壊するもの(オブジェクト・ブレイカー)”」

 

その背後の人───白いワンピースを纏ったその女の子がそう告げると同時に、パキンッというような音がした。

 

「ちく、しょ……霊核を、完全、に、砕きやがった、な……誰だ…テメェは……」

 

「……“フォーマッタ”」

 

「ありがとう、フォータさん。」

 

「いえ……」

 

「嬢ちゃん……いつから……気づいてた」

 

「気づいていた訳じゃない。でも……」

 

一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。

 

「大海賊である黒髭さん───エドワード・ティーチを倒したあなたなら。マスターの命令とはいえど、ヘラクレスさんごとアステリオスさんを貫こうとしたあなたなら。……何をやってもおかしくない。そう、思ったから。だから───アドミスさんとフォータさんに潜伏してもらってた。」

 

お兄ちゃんの作ったAIである管理者(Administrator)消去者(Formatter)の双子。サーヴァントとしては、それぞれキャスターとアサシンのクラス適正をもつ。そう、お兄ちゃんから聞いた。

 

「参ったね…それに加えて、ヘラクレスも警戒してたとあっちゃあ、こっちに勝ち目なんてない…か……」

 

そこまで言ってヘクトールは消滅した。

 

「……ヘクトール、消滅しました。…大丈夫ですか、先輩。」

 

「うん。フォータさんとアドミスさんは?」

 

「「大丈夫です」」

 

ハモったよこの二人……本当、能力は正反対なのにすごく仲がいいなぁ…

 

「あとは───」

 

「なっ───ヘクトール!」

 

「ヘクトールも逝きましたか。どうしましょう?イアソンさま。」

 

残るのは、イアソンさんと若いメディアさん。

 

「降伏は不可能、撤退も不可能。私は治癒と防衛しか能のない魔術師。さぁ、いかがいたしましょう?」

 

「……リッカさん。あの方、寒気がします。」

 

アドミスさんが寒気……?

 

「なんというか……狂ってます。」

 

「うるさい黙れ!妻なら妻らしく夫の身を守ることを考えろ!」

 

「えぇ、考えていますとも。だってそれがサーヴァントですもの、ね?」

 

理解した。直感じゃない、感覚的に理解した───あれは、異常だ。なんで───

 

「っ……なんだ、その顔は。なんで()()()()()()()()()()()()()()!?お前、この状況が分かっていないのか!?」

 

「いいえ、分かっておりますわ。ずっと、そうでした。ずっとずっと、イアソンさまに寄り添っていた時期から私は貴方を護ってまいりました。───ね?イアソンさま?」

 

「───ひっ」

 

「「───イアソン」」

 

そこに声をかける、もう1人のメディアさんともう1人の魔女───キルケーさん。

 

「なん、だ──なんだ!薄汚い魔女共め!」

 

「む……お前の船の呪いを解いてやった魔女になんて言い草だよ。……まぁ、それは別にいいか。」

 

キルケーさんは溜め息をついてからイアソンさんをまっすぐ見つめた。

 

「お前の性格どうこうは最早この特異点においてどうでもいい。ただ、1つ聞かせなよ。───女神を契約の箱(アーク)に捧げろ、なんて一体誰に吹き込まれたんだい?いくらお前がバカでも、そんなこと考えないだろう?」

 

「うるさい!島に引きこもっていただけの魔女に何が分かる!女神を契約の箱(アーク)に捧げれば、無敵の力が手にはいる!俺は今度こそ、この世界の王になるんだ!」

 

「……無敵、ね。」

 

「ヒュウ。流石は魔女様、僕が聞きたいことを知ってたかのように。」

 

「悪かったよ。…此処から先はお前に任せるさ。」

 

「ご指名とあらば、って感じかな?さて、イアソンくん。僕も聞きたいな?契約の箱(アーク)に女神を捧げるとはどういうことかを理解しているか。こんな不安定な世界だ、捧げられていれば世界が滅んでいたんだよ?」

 

「───なに?」

 

イアソンさんの表情から苛立ちが消えた。

 

「当然じゃないか?あの箱は死を定め、死をもたらすものだ。それに対して神霊を捧げるなんて正気の沙汰じゃない。こんな不安定な時代でそんなことをすれば、この世界そのものが死ぬ───世界が壊れていただろう。」

 

「バカな。そんな、はずは───」

 

「予測にしかすぎないとはいえ、恐らく真実だ。」

 

「だからこそ聞くのよ。私が知るイアソンは───神の策略とはいえ私が愛したイアソンはそこまで愚かだった覚えはないわ。いえ、恋は盲目ともいうからそこまで信用できるかはともかく……」

 

メディアさん……色々台無しです。

 

「ともかく。答えなさい、イアソン。女神を契約の箱(アーク)に捧げれば無敵の力が手に入る───だなんて。一体どこの誰に吹き込まれたのかしら。」

 

「ヘクトール?メディア?ヘラクレスは除外だ、狂化しながらも世界の崩壊を防ごうとしてたみたいだからね。教えてくれないかい?アルゴノーツ船長、イアソン。」

 

その言葉に、イアソンさんが若いメディアさんの方を向いた。

 

「───メディア?今のは……嘘だよな?」

 

「……」

 

「神霊を契約の箱(アーク)へ捧げれば、無敵の力を得られるのだろう?だって、あの御方はそう言って───」

 

そこまで言った時に、若いメディアさんが口を開いた。

 

「はい、嘘ではありません。だって、時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶということは、敵が存在しなくなる───」

 

そう言って彼女はにこりと笑う。

 

「───ほら。()()でしょう?」

 

向かうところ敵なし───言葉通りの意味だ。向かうところに敵がいない……絶対に負けないわけじゃなくて。そもそも、()()()()()()()───

 

「お、おま、お前、達───俺に、嘘をついたのか?」

 

「……」

 

「ふ、ふざけるな!それじゃあなんの意味もない!俺は今度こそ理想の国を作るんだ!誰もが俺を敬い、誰もが満ち足りて、争いのない、本当の理想郷を!」

 

「……」

 

メディアさん……

 

「これはそのための試練ではなかったのか!?俺に与えられた、二度目のチャンスではなかったのか!!」

 

「それは、叶わない夢だ。イアソン。叶えられぬ、未練なのだ。」

 

「ヘラクレス……!」

 

「我らは英雄だ。死者だ。生涯をもって世界に召し上げられた記録。例えどのような未練があったとしても、それは叶えてはならぬ。それは自らを否定することになるからだ。そして、死者は生者の生きる世界を乱してはならぬのだ───」

 

「うるさい!お前に何が分かる───神に愛され、数々の栄光を手にしたお前に───!!!」

 

「───栄光、か。確かに、私は数々の栄光を手にしたのだろう。だが───」

 

ヘラクレスさんの足元に何かが落ちたのが見えた。あれは───涙?

 

「私の護りたかったものは護れず。私の大切な者達は───全て、この手で砕いてしまったよ。狂気に侵されたとはいえ、大切な者達を……いくつもの栄光を手にし、いくつもの怪物を倒したこの手で。」

 

「ヘラ、クレス───」

 

「だからこそ。アナタは理想の王にはなり得ない。人々の平和を思う心が本物でも、それを動かす魂が根本的に捻れている。アナタはアナタが思うように望みを叶えてはいけないのです。」

 

「───嫌な予感がします」

 

フォータさんがそう呟き、背中に吊った剣の柄に手を掛ける。

 

「本当にほしかったものを手にした途端、自分の手で壊してしまう運命を知るだけなのですから。」

 

「何を───何を言う!ひなびた神殿に籠っていただけの女に何が分かる!?王の子として生まれながら叔父にその座を奪われ、ケンタウロスの馬蔵なんぞに押し込まれた!その屈辱に甘んじながら才気を養い、アルゴー号を組み上げ英雄達をまとめ上げた!この俺のどこが、王の資格にふさわしくないというのだ!?」

 

王の資格……

 

「まとめ上げるだけじゃ、ダメなんだよ。」

 

ミラちゃん……?

 

「人をまとめ上げる力。民を豊かにする財。民を想い、民から想われる人望。時に優しく時に冷酷に判断を下す決断───それから苦難に、雑務に耐える意思。これらが揃って初めて、王の資格がある───私はそう思うよ。」

 

「うるさい!俺はただ、自分の国を取り戻したかっただけだ!自分の国が欲しかっただけだ!それの、どこが悪いというのだ裏切り者がぁぁぁ!!」

 

「───だ、そうですよ。魔女メディア。」

 

「───貴女」

 

「でも…残念です。私は裏切られる前の王女メディア。ずっと、本当の事しか言っていませんでしたよ?」

 

スッ…っと近づくと共に強い警鐘。

 

「……アドミス」

 

「…うん。」

 

フォータさんは剣の柄を強く握り、アドミスさんは杖を強く握った。

 

「例えば───先ほど、守ると言いましたね。どうやって守るかと言いますと───」

 

「───!やめなさい!」

 

メディアさんの静止も聞かず、若いメディアさんはイアソンさんの体に聖杯を埋め込んだ。

 

「はっ、おまえ、やめ、やめろ!なにする、やだ、とけ、からだ、とけ───!!」

 

「「「イアソンッ!!」」」

 

「メディア、貴様───!!」

 

「うふふ……ヘラクレス、如何に貴方でもイアソンさまを撃てないでしょう?」

 

「………っ!」

 

「聖杯よ。我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり。」

 

「たすけ、へら、くれ───あ、ががぎぃぃぃぃ!!」

 

「戦う力を与えましょう。抗う力を与えましょう。」

 

魔女が───笑う。

 

「───滅びるために戦いましょう。」

 

「メディア───お前というやつは───!!」

 

「さぁ───序列三十。海魔ファルネウス───その力をもって、アナタの旅を終わらせなさい。」

 

「へら、くれ───め、でぃ───」

 

その、イアソンさんだったものは───

 

「友よ───!」

「イアソン───!」

 

魔神───醜い肉塊へと、その姿を変えた。




正弓「ちなみにエウリュアレさんを護った盾はアドミニストレータさんの“我、物質を生成するもの(オブジェクト・ジェネレート)”で作り出されたものらしいです。」

裁「へぇ……」


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第156話 乱戦と理に牙を剥く者(A.L.I.C.E.)

正弓「うーん……」

裁「?」

正弓「7,000字…というか5,000字以上の具現化は時間がかかるようですね。」

裁「あ、そうなんだ…」

正弓「それはそうと、31,000UA突破ありがとうございます。お母さんは1日100UA行くかどうかで一喜一憂する人間だったりしますよ。」

裁「……低くない?」

正弓「さぁ……お母さん自体無名ですからね。基準が良く分かりません。」


「何て言った、彼女───フォルネウスだって?それは、ソロモンの魔神の一体じゃないか……!」

 

「これは、倒せるものなのか?」

 

ダビデさんとアタランテさんがそう呟く中、1発の銃弾と1本の矢がそのフォルネウスに中った。

 

「よし、当たった!当たったってことは倒せるさ!」

 

「……我が肉体に変容あり───これは?」

 

「“破滅の火竜”の力を限定的に引き出した矢さ。じきに君は自然と破滅に向かうだろう。じっくり、時間をかけて………ね?」

 

リューネちゃん…やってることが怖いよ?表情少し辛そうだけど。

 

「ふむ。そら、やってやろうではないか。」

 

ギルがフォルネウスに対して何かを放った。

 

「………我が肉体、更に変容───」

 

「今投げ込んだは擬似的な不死の原典よ。破滅と不死、貴様の精神が先に死ぬか、肉体が先に死ぬか───試してやろうではないか。」

 

次いで大量の矢と大量の弾幕が叩き込まれる。

 

「ふむ…鈍重な肉の塊か。さして驚異ではないな。」

 

「おまけに脆い。はっきり言ってこの程度じゃ私達の世界で生きていけるかどうか。いやまぁ私達人間も脆いんだけどさ…」

 

「……」

 

「……マシュ。怖いの…?」

 

「……はい。私は、まだ…先輩は、大丈夫なんですか…?」

 

「…どう、なんだろう。よく…分からない。でもね。」

 

私はギル達を見た。

 

「みんながいる。それだけで、安心できるんだ。“みんな”には当然、マシュも含まれているんだよ…?」

 

「先輩……」

 

「シャキッとしなマシュ!」

 

バシンッ、と船長に背中を叩かれるマシュ。

 

「あれを倒すために此処まで頑張ってきたんだろう?言っておやりよ、“化け物なんかに用はありません!いいからその王冠を返してちょうだい!”ってねぇ!」

 

「……えっ。」

 

「うおおおお!?珍しいもんを聞いたぞ!?」

 

「姐御がまともに女っぽい言葉を口にしたぁ!?」

 

「なっ……!か、からかうんじゃないよ!」

 

でも……

 

「「「可愛かった……」」」

 

「リッカにルーパス、リューネまで……!あぁもう忘れろ!いいね!?」

 

その剣幕に小さく頷いた。

 

「……我が主。」

 

「ヘラクレスさん……?」

 

「……どうか、我が友を助けたい。力を貸していただいてもよろしいか。」

 

「……うん。」

 

その話を聞いていたのか、フォータさんが私の方を向いた。

 

「あの人を救うんですか?」

 

「うん…ヘラクレスさんのお願いだから。」

 

「……そうですか。でしたら……」

 

フォータさんがアドミスさんの方を見ると、アドミスさんが頷いて口を開いた。

 

「でしたら、魔神フォルネウスとイアソンさんの分離は私とフォータにお任せください。ただ……少し準備に時間がかかります。」

 

「何をするというのだ?」

 

「私達の宝具を解放します。先ほどのような限定解放ではなく、正常解放を。大丈夫です、正常解放なら問題はありませんから。」

 

〈……いいんだな、アドミス、フォータ。〉

 

「「はい、マスター。」」

 

〈……分かった。リッカ、他のサーヴァント達と一緒に時間稼ぎを頼む。〉

 

「わ、わかった……!」

 

〈マスター!〉

 

「ひゃ……!?」

 

〈うっせぇぞイスカンダル!〉

 

〈む、すまぬ……じゃない!マスター、頼む!余をそこへ召喚してくれ!こやつも一緒だ!〉

 

「……何事だ、忠臣」

 

〈……知るか、といいたいところだが……マスター、イスカンダルの家系……というか祖先を思い出せるか?〉

 

イスカンダルさんの祖先……あぁ。

 

「うん、わかった」

 

〈真か!?恩に着る!〉

 

「来て───“イスカンダル”、“諸葛孔明”」

 

私の言葉にイスカンダルさんと孔明さんが召喚される。

 

「ヘラクレス!偉大なる我が祖よ!こうして逢いまみえること、感激の至り!」

 

「……身に覚えのない我が子孫か。イスカンダル───ふむ。マケドニアの征服王だったか。」

 

「いかにも!これより共に戦うぞ!坊主、シャキッとせんかい!」

 

「……私は畏れ多くて頭を上げられん。」

 

「諸葛孔明、だったか。中国の軍師だな。よろしく頼む。」

 

「アッ、ハイ…」

 

〈緊張してやがるな……〉

 

「…逆に君はよく物怖じしないな?英雄王に対してもだが、よくその口調を貫けるものだ。」

 

〈すべての存在に同じように接する。それが俺の信念なんでね。ま、仕事上の上司とかには流石に話し方変えたりもするがな。〉

 

「フッ、豪気なものよ。」

 

〈俺のことはいい、そっちは存分に暴れてくれ。〉

 

〈……六花?キーボード叩いて何してるんだい?〉

 

〈見て分かれ。アドミスとフォータの出力を調整してんだよ。あいつらの希望に添えるようにな。こっちは準備しとくからそっちは頼んだぞ。〉

 

〈見て分かれ、って無理があるわよ……貴方のやってることって結構複雑なのよ……?〉

 

流石お兄ちゃんというか……なんというか。

 

「問題はメディアだが…」

 

「若いメディアは私に任せてくれないか?ちょっとお仕置きしてやるだけだけども。」

 

「いいのか、キルケー?」

 

「なぁに、問題ないさ。すぐに終わらせよう……あぁメディア、安心してくれ。“豚に変える魔術”は宝具以外では開かないと約束しよう。」

 

「…お願いします、叔母さま。」

 

「まったく…“おばさま”はやめろと何度か言っただろう?…まぁ、いいか。“ババア”じゃないだけまだマシさ。じゃあピグレット、私は若いメディアの方に行ってくるよ。」

 

「……気をつけて」

 

「もちろん。」

 

そう言ってキルケーさんは若いメディアさんの方へ向かった。

 

「さて、役者は揃ったな。」

 

〈ギル…私は、キルケーさんの方へ。何かあれば対応できるように。〉

 

「よい、許す。」

 

「…どうか…失望したり、幻滅したりしないでちょうだいね、マリー。」

 

〈しませんよ。若くてキラキラしていても、老けて輝きが霞んでも……師匠は師匠ですから。老けて、という表現は少し失礼だったかもしれませんが…〉

 

「……もう、この子ったら。でも…そうね。若い私なら貴女の妹の良い師になるかもしれないわね。若い私は、治癒が得意だもの。」

 

〈……そう、かもしれませんね。では私は見届けに行ってきます。〉

 

そう言った後、マリーがその場を離れる音がした。

 

「さぁ───張り切って行くとするか!皆の者、準備は良いか!」

 

「……あー……」

 

私がイスカンダルさんの宝具を思い出してミラちゃんを見ると、ミラちゃんは軽く頷いた。

 

「大丈夫、対策はしてあるから。」

 

「あ、うん……分かった。」

 

対策……って何したんだろ。っていうかもしかして想定してたの……?

 

「ふははは!まこと面白き者よ!さぁて、開くとしようか!今こそ再び集え、共に最果てを夢見し我が同胞達よ!古今無双の大英雄、そして此処まで気を張ってきた少女達へ我らの勇姿を示そうぞ!!」

 

そう言って肉厚の剣を掲げると同時に、周囲に砂が吹き荒れる。

 

「海に砂なんてどんな皮肉だい?」

 

「青い薔薇やルーパスの弓と似たようなものよ。ただまぁ───贋作者や六花のものと構造は同じであろうな。」

 

「固有結界───」

 

そう呟くと同時に、完全にその固有結界が開かれた。太陽は照り、周囲は見渡す限りの砂漠───そして、大量の兵士。

 

「見よ、我が無双の軍勢を!肉体は滅び、魂は英霊として召し上げられ───それでもなお余に忠義し我が召喚に応じる伝説の勇者達!彼らとの絆こそが我が至宝、我が王道なり!」

 

「───すごい」

 

「へぇ…陸の支配者ってのは人気もんだねぇ。」

 

もしかして───あの時、加減してた……?そう思うほど、これはすごい……!

 

「それが───“王の軍勢(アイオニオン・ヘタウロイ)”なり!!」

 

その叫びと共に兵士達が一斉に声を上げる。なんというか……

 

「コミックマーケットとかコミティアみたい…」

 

「コミックマーケットってこんなに凄いんですか……!?」

 

「戦争だもん……そこらじゅう人、人、人。あまり軽かったり背が低かったりすると流されるよ……?」

 

「ほほう、現世にもそのような猛者達がいるか。興味が湧いてきたのう。」

 

「お前が行ったら目立つだろうな…」

 

「……して、どうだろうか偉大なる我が祖、ヘラクレスよ。」

 

そう言い、頭をかきながら問う。

 

「我が王道は、我が軍勢は───そなたの目に叶うものかのう?」

 

「…ふむ。」

 

ぐるりと見渡すヘラクレスさん。

 

「…そうだな。今の私であれば、半日はかからないにしても1日のうちの1/3は攻略に費やすことになるだろう。…良い軍勢だ。良い臣下を持ったな、身に覚えのない我が子孫よ。」

 

「がっはっはっは!かの大英雄、それも規格外クラスの狩人の大英雄を相手に1/3とは!我らの軍勢もまだまだ捨てたものではないようだのう!」

 

「我なら一瞬だぞ?この世界ごとな。」

 

「私は“劫火”や“エスカトンジャッジメント”とかで焼き尽くすとかできるからね……」

 

「それを言うな、それを。英雄王のそれは反則、竜王妃のそれは規格外じゃろうて。」

 

「フハハハハハハハ!我もヘラクレスもミルドも、常識には囚われないということよな!そこらの塵芥に止められなどせぬわ!」

 

〈常識に囚われてはいけないのです……〉

 

「ドクター、それ早苗さん……」

 

〈いやぁ……でも本当に常識に囚われてたらやっていけないよ。特にハンター達は規格外すぎるんだ……〉

 

まぁ、分かるけど……

 

「陸の支配者もやるねぇ!アタシ達はも負けてらんないよ!」

 

「姐御!砂漠でどうやって船を動かすって言うんです!?」

 

「……総督!技術顧問サマ!」

 

「大丈夫、陸揚げされた時とかを想定して、船の周囲に海水がない場合に船の周囲限定で水場を生成して航海可能にするっていう特殊な術式組み込んであるから。」

 

「ミラちゃん、ゼルダの伝説じゃないそれ!?スカイウォードソードじゃないの、その“過去返りの魔導石”みたいなシステム!」

 

〈リッカ、アレ“時空石”って名前あるぜ?〉

 

あ、そうだっけ?

 

「ん~…まぁ、それを少し応用したかな。時間は弄ってないから大丈夫。」

 

「あ、そうなんだ…」

 

でも……()()()()()ってことは()()()()()()()()()()ってことじゃない?本当にミラちゃんの限界ってどの辺りなのか知りたくなる……

 

「じゃあ───私も、少し久しぶりに。…これは、我が宝具の一端。我が契約の一端……我が断片、ここに開放する。契約の下、その力を解き放たん。告げる。ここに我が契約、我が力、我が禁忌───我が断片をここに示す。我が体は黒き龍。御伽噺に伝わる、黒き災い。告げる。宝具解放───」

 

その詠唱は、オルレアンの時の。そこまで告げた時、ミラちゃんの姿がフッと消える。

 

 

───“怖れよ、汝が対峙するは黒き生ける災い(アクティベート・ドラゴン:ミラボレアス)

 

 

そんな、宣言にも似た何かが聞こえた直後、黒い龍───黒龍“ミラボレアス”がその場に姿を現した。

 

「ガァァァァ…」

 

「あ、ああ、姐御!?ありゃあ龍、ドラゴンでっせ!?」

 

「なんだありゃぁ…?技術顧問サマ、こんなのを隠してたってのかい!?」

 

「…ふむ。間近で見るのは初めてだが、なんというか…少しでもあるが恐ろしさを感じるな。」

 

「ほう?ヘラクレス、貴様が恐怖を感じるとな。」

 

「私も元は人間だ、恐怖心くらいはあるさ。」

 

〈もう何やってもおかしくないからね、ハンターの子達は!〉

 

まぁ、確かに……

 

「僕とルーパスは後方で支援しておこう。うまく力が入らないのでね。」

 

「三味線だけだけど許してね。」

 

大丈夫かなぁ……

 

 

{戦闘BGM:運命~GRAND BATTLE~(三味線のみver)}

 

 

あ、この曲…

 

「へぇ…いいじゃないか、気分がノる!」

 

「…のう、英雄王?」

 

「む?なんだ?」

 

「あ~…なんだ。お主の武具で余の軍勢を武装したりできんか?王の軍勢に王の財宝、王二つが掛け合わさり面白いと思うのだが…」

 

「…ふむ。よいだろう。」

 

「真か!?」

 

「そら。精々その真価を示すがいい。」

 

それと同時に展開される波紋とそこから現れる武具達。

 

「気前が良いな、英雄王。」

 

「我は弓の我とは違う。“プレミア”というレアクラス故な。」

 

〈最初はアーチャーだったはずなのに本当にエクストラクラスになってるんだもんなぁ、この王様…〉

 

「さぁて、ぶちかますよ!」

 

「ルル、破龍砲を!ガルシア、君は遊撃だ!」

 

「はいですにゃ!」

「ウォーン…」

 

「スピリス、撃龍槍の発射準備!ジュリィは基本を忘れないで!」

 

「はいにゃ!」

「はい、相棒!」

 

「さぁ───」

 

「一狩り行きましょう!!」

「「一狩り行くにゃ!!」」

「蹂躙せよ───!!!」

「そらそら、ありったけの砲弾喰らいなぁ!」

「ガァァァァ!!」

 

轟音、大群、駆ける猫、共に駆ける狼、咆哮し火を噴く龍。そして───

 

「ぬぅっ!?」

 

大群を抜かす大英雄と大剣を背負う編纂者───!!

 

「稼働せよ、励起せよ───暴走せよ。我が身を汝の写し身とし、我が剣は汝が欠片。狂暴なる竜よ、我が声に応えよ。時が許す限り、その命許す限り───森羅万象、一切合切喰らい尽くせ!!」

 

詠唱───それと同時にジュリィさんを異様な魔力が包む。

 

「宝具解放───行きます!“恐れよ、此処に在るは食物連鎖の頂点(あなたは私と同じ気配がします!!)”────!!!」

 

そう宣言した直後、大剣から異様な魔力が大量に吹き出し、ジュリィさんの体を包み込んだ。

 

「───グォォォォォォォ!」

 

「あれ、は───」

 

そこにいたのは赤い肉の塊。魔神柱と似たような表現だけど、魔神柱とは違う。ゴーヤみたいな二足歩行の獣竜種───

 

「───恐暴竜“怒り喰らうイビルジョー”」

 

飢餓感によって常時興奮状態の超危険モンスター……!!

 

「グォォォォォォォ!」

 

イビルジョーが魔神柱を喰らい、ヘラクレスさんが叩き切り、ガルシアさんに斬り込まれ、船長の砲弾が叩き込まれ、イスカンダルさんの軍勢が押し寄せ、ミラちゃんの龍の炎に包まれ、ギルの武具が穿つ───

 

「無駄だ。消滅を提案する───“焼却式・フォルネウス”」

 

その言葉と共に全体に攻撃。それを───

 

 

ガキンッ

 

 

「………させません」

 

「……何。」

 

アルが、防いだみたい。

 

『概念抽出、第三人格疑似励起───ってね。』

 

「虹架さん……」

 

『今回だけしか使えない励起。ちょっと反則染みてるけどね。』

 

そう言って虹架さんは笑った。

 

〈準備完了……!リッカ!〉

 

『全員退避!』

 

此処にいる全サーヴァントに伝える。それに応えて私のもとに全員が戻ってきた。

 

「…ありがとうございます、リッカさん。」

 

〈行くぞ、アドミス、フォータ!顕現せよ、我が固有結界の三───“希望を掲げた雲海(クラウスカイシー・ジ・ウィッシュレイズ)”!〉

 

そのお兄ちゃんの詠唱が聞こえた瞬間、私達は砂漠から空へと放り出された。

 

「雲海───!?」

 

「───理解できぬ。理解できぬ、なぜ我等は此処に浮く。これは道理に在らず。観測せし事象を解析する───」

 

〈やれ!〉

 

「「───はい、お父様」」

 

その声に、異様な気配を感じた。異様な気配、というか───アルテミスさんみたいな、そんな気配。

 

「定義宣告。ユニット識別ID、0-L。個体名称“Administrator Eins”。存在定義“支配する者(アドミニストレータ)”。」

「定義宣告。ユニット識別ID、0-R。個体名称“Formatter Eins”。存在定義“消去する者(フォーマッタ)”。」

 

「「出力制限上昇(クロックアップ)。第二刻針・通常顕現状態(ノーマルモード)から第六刻針・全力戦闘状態(フルパワーバトルモード)へ移行───」」

 

なんというか───カチッ、という音がした気がした。

 

「「魔力出力正常、接続回路問題なし───出力開始。形態移行、開始します」」

 

そう告げた途端、二人の服がドレスになった。

 

「「我等、理に背く者。あらゆる理に反逆する者。汝が理は我が手中に在り───」」

 

その詠唱と共にフォータさんが剣を抜き、アドミスさんが杖を掲げる。フォータさんの剣からは炎が吹き出し、アドミスさんの杖からは氷が吹き出す。

 

「───炎剣、解放。我が剣は理を砕く雷、あらゆるものを滅する魔の手。誓いを此処に、その剣は守護のために操ると───」

「───氷杖、解禁。我が杖は理を作る水、あらゆるものを護する神の手。誓いを此処に、その杖は守護のために操ると───」

 

一瞬見つめあい、小さく頷いてから息を大きく吸った。

 

「「宝具解放!“我、物質を(オブジェクト)───」」

 

「───!伏せて!」

 

アレの衝突は、まずい。感覚でそう感じた。

 

「───抹消する者(イレイサー)”────!!!!」

「───創造する者(クリエイト)”────!!!!」

 

杖と剣が同時に振り下ろされた直後。

 

 

ゴウッ

 

 

「のわぁっ!?」

「おおう!?」

 

強い風───違う。違う!風、じゃない!

 

「なんだいこの風───!いいや、吸い込まれるからいい風か───」

 

「二人に近づいちゃダメ!!全員吸い込まれないように注意して!」

 

「え…?どういうことだい、リッカ!」

 

「近づいたら存在が消されちゃう!これはただの風じゃない!“創造”と“抹消”───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!吸い込まれた先は死の世界だよ!!」

 

「「「な………!」」」

 

世界の理(システム)に反逆する、ゲームマスターの力を同時に衝突させてるようなもの────!!!

 

「お兄ちゃん、これって───!!」

 

〈リッカの言う通りだ。これは創造の理と抹消の理の衝突。アドミスは創造で防ぎ、フォータは抹消で破壊する。これがあいつらの本気の宝具。全開運用だ。〉

 

「でも……こんなことして…!」

 

〈全開運用なら壊れはしない。問題なのはオーバードライブ以後だ。今のあいつらはフルパワー、フルドライブにもなってない。フルパワーっつってもそこまでの力はないがな。〉

 

「フルパワー…」

 

〈第零刻針・睡眠状態(スリープモード)。第一刻針・電子状態(エレクトロモード)。第二刻針・通常顕現状態(ノーマルモード)。第三刻針・低出稼働状態(ローパワーモード)第四刻針・戦闘運用状態(バトルモード)。第五刻針・制限戦闘状態(リミットバトルモード)。第六刻針・全力戦闘状態(フルパワーバトルモード)。第七刻針・高出稼働状態(ハイパワーモード)。第八刻針・撃退状態(ブラストモード)。第九刻針・高度観測状態(アドバンスドオブザーバーモード)。第十刻針・高度管理状態(アドバンスドコントロールモード)。第十一刻針・炸裂状態(フルバーストモード)。第十二刻針・全開戦闘状態(フルドライブモード)───そして第十三刻針・限界稼働状態(オーバードライブ)、第十四刻針・限界突破状態(リミットオーバー)、第十五刻針・限界破壊状態(ブレイクリミット)。これがあいつらの機構、刻時制限機構(クロックリミッター)だ。元ネタはクロプラのアレな。〉

 

「それは分かったけど……大丈夫なの?」

 

〈大丈夫だ。その為に俺も固有結界を張ったんだからな。まぁ、万が一何か異常があったとしても、俺が直すから大丈夫だ。〉

 

「……そっか。」

 

そんな時、パキン、って音がした。その方を見ると、剣を振り抜いたフォータさんと真っ二つに裂けた魔神柱がいた。フォータさんはそれを見て、剣を軽く振ってから背中の鞘に納めた。……なんというか。

 

「ユイちゃんみたい…」

 

〈まぁ、フォータの外見設定はSAOのユイが大本だからな。“我、物質を抹消する者(オブジェクト・イレイサー)”もまんまアレだし。〉

 

あ、そうだったんだ……そう思っているうちに、魔神柱が消え、聖杯とイアソンさんが現れた。

 

「魔神柱、聖杯、イアソンさんの繋がりだけを切断しました。」

 

「器用だね!?」

 

「アドミスのお陰です。私一人では完全に抹消していたでしょう。」

 

「……どういうこと?」

 

〈恐らく、“繋がり”を創造によって具現化、実体化させたんだろ。それをフォータが抹消することによって消したんだろうな……〉

 

……なんか、やってること凄かった……




正弓「……?」

弓「どうした?」

正弓「……いえ。今、私を励起されたような……気のせいでしょうか。」

弓「???」


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第157話 イアソンの最後

正弓「ふーむ……」

弓「どうしたのだ?」

正弓「いえ……私達のオリジナルキャラクター多すぎ問題どうしましょうかねと。」

裁「私…“達”?」

正弓「ええ。確かに私達の元祖はお母さんなんです。ですが、この世界にはお母さん以外にも“創り手”が存在しまして。それぞれ担当の世界と自身の家系を持ってたりするのですが……各家系でキャラクターが100名ずつくらいいるもので。」

裁「えええ……」

正弓「まぁ、お母さんですし仕方ないですかね…」

弓「それで通るものなのか…?」


「───そら、これで終わり。私の勝ちだ、メディア・リリィ。」

 

キルケーがそう告げる。

 

「そのよう、ですね。…流石は叔母さま。私では敵いませんでしたか。」

 

「当然だろう。あっちのメディアはともかく、お前に負ける道理なんてないさ。いくら豚に変える魔術を縛っていたとしても私はお前の叔母であり、姉弟子なんだからね。」

 

「くす…そうですか。ですが…私もそうですが。貴女も健気ですね。」

 

「は?」

 

「鷹の魔女───キルケー。貴女ほどの実力があれば、有無を言わさず私のことを豚に変えれば良かったでしょう。いくら私との約束があったとしても、それを平気で破るのが魔女と言うものでは?」

 

「───あぁ、そうだろうね。そうだろうさ。」

 

キルケーが吐き捨てるかのように言葉を放つ。

 

「確かに魔女は約束なんてものがあったとしても平気で破るだろうさ。私の召喚された未来の魔術師達のようにね。そもそも、私が今回君の前に姿を現したのは君のお仕置きだからね。誰に唆されたのかも知らないが、ピグレット達の生きる世界を、私達の生きた世界を破滅させようとしやがって。まったく、困った妹弟子だよ。」

 

「くす───それだけではないでしょう?」

 

「…?」

 

「貴女の言う妹弟子たる私。その妹弟子が未来にて見出だした弟子。貴女は、彼女に己が魔術を見せるために豚に変える魔術を縛りましたね?」

 

〈……え?〉

 

その言葉にキルケーがため息をつく。

 

「そんなわけないだろう。大体、鷹と人間じゃ使えるものが変わるんだぞ?私の魔術なんて彼女の参考になるとは思えない。薬学はともかくとして、ね。…っていうか───」

 

キルケーが不意に召喚した豚がメディア・リリィを押し潰す。

 

「敗者は速やかに去ったらどうだい?正直、見苦しいって言われても文句言えないよ?」

 

「…それも、そうですね。」

 

「……そうだ。聞かせなよ、お前を世界の破滅に動かそうとしたのは一体どこの誰なんだい?敗者として聞かせてくれたっていいだろう?」

 

その問いにメディア・リリィは首を横に振る。

 

「それはできません。私はそれを言う権利を剥奪されていますから……ですが、あえて助言をするならば。」

 

「ん?」

 

「貴女方が挑む相手は魔術師では絶対に勝てない。…私も、魔術師として彼に完全に負けたのです。」

 

〈うそ……〉

 

「ふーん。」

 

「ですから───“星”を集めなさい。どんな人間の欲望にも、人々の獣性にも負けないような数多の輝く星を。…私が遺せるのはこれだけです。」

 

そう言ってメディア・リリィは消滅した。

 

「───星、ね。」

 

〈キルケーさん…〉

 

「ん?」

 

〈師匠が……メディアさんが負けたと言うことは、それは……〉

 

「……あぁ。間違いなく、強敵だろうさ。…さてと。」

 

キルケーはふわりと飛び上がり、イアソンのもとへ向かう。

 

「すまないね、遅くなったよ。」

 

「終わったか、キルケー。」

 

「……ピグレット達は?」

 

「先に行った。あとは私達に任せるそうだ。」

 

「ふぅん…さて。」

 

キルケーは寝ているイアソンの口に麦粥───キュケオーンを流し込んだ。

 

「───ぶはっ!?ゲホッゲホッ……!何しやがる……!」

 

「いいから食え。まぁ消滅は止められないけどさ。メディア。」

 

「少しおとなしくしてなさい?痛いわよ?」

 

「やめろ痛くするな優しくしろぉぉぉ!!」

 

「ヘラクレス、口を開いたまま手を押えて」

 

「承知した。友よ、少しの辛抱だ。」

 

「あ───!」

 

「ほらあーん」

 

 

ジュッ

 

 

「ア゛ーーッ!」

 

「やっべ熱く作りすぎたかな?」

 

「今のはそういうものか?」

 

 

ザクッ

 

 

「ア゛ーーーーーッ!!」

 

「あ、ごめんなさい変なとこ斬っちゃったわ。」

 

まぁ、そんなこんなで───

 

「……死ぬかと思った……」

 

「いや死んでるんだよなぁ…消滅は避けられないっての。」

 

「形だけ整えただけだもの。霊核の復元まではできないわ。…魔神柱とほとんど癒着していた影響かしらね。それでも被害が軽かったからそこはフォータのお陰と言うべきかしら。」

 

「……そうか。」

 

ため息をついてイアソンが寝転がる。

 

「憑き物が落ちたか、我が友よ。」

 

「まぁ…此処までぶちまけて此処まで痛快に叩き潰されりゃそうなるだろ。やれやれ…生前も今も、ロクでもねぇ。まぁ、航海中にドでかい暴風雨にでも会ったとでも考えるさ。事実、あいつらは暴風雨そのものだろ。」

 

「ふ、面白い例えだな。だが…あながち間違ってないとも思える。私ですら、ハンターの彼女達に完全に勝てるとは思わんよ。同じクラスである今であってもな。勝率は五分、もしくはそれ以下じゃないか?」

 

「弱気だな、大英雄が。それでも世界最高レベルの知名度を持つ英雄か。……まったく、ムカつくにも程がある。」

 

「……」

 

「まさか、俺が呼んでも来なかったお前に立ちはだかれるとはな。改めて痛感したよ、お前は最高だってな。…ハンター、だったか?お前にはそれがよく似合ってる。あらゆる武具を扱うお前には、あの弓の小娘と同じようなクラスがな。」

 

「…さてな。私ですらこの霊基を扱いきれるか分からん。」

 

「……そうか。」

 

イアソンは軽くため息をついた。

 

「やべ、もう時間か。…短かったな。」

 

「あの後、魔神柱と貴方の分離をしてくれた彼女に聞いたわ。貴方、元々致命傷だったのよ。聖杯をねじ込まれ、魔神柱と癒着して、ね。それを消滅しないようしてくれた彼女に感謝なさい。」

 

「……んじゃ、お前から言っといてくれ。今度会ったら力を貸してやる、ってな。まぁ、俺は理想の国を作るのを最優先だがな。そのついでで……まぁ。世界を救ってやってもいいさ───」

 

そう言ってイアソンは消滅した。




裁「今回短めだった?」

正弓「前回が8,000字近く行きましたからねぇ…2,000字前半の今回は短めでしょう。」

裁「あ、そうなんだ…」


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第158話 Festa finale dei pirati───海賊最後の宴

正弓「書き上げで残り3%…」

裁「バッテリー?」

正弓「はい…」


「さて、皆の者!」

 

黄金の鹿号の中。実は少し空間が拡がっているんだけど。ギルが先頭に立って全員に声をかける。

 

「此度の航海、実に見事であった!我を満足させたその褒美として最上の食事と酒を用意した!涙を流して喰らうがいい!それでは───乾杯!」

 

「「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

食事の熱気。流石海賊とでもいうべきなのか、凄い量が消費されていく。

 

「相棒、気分の方はどうですか?」

 

「大丈夫、大分良くなったよ。」

 

「…恐らくだが、古龍化する宝具はかなりの魔力を喰らうのだろうな。」

 

「そうだね…ジュリィの状態を見る限り、人以外に変化するのが魔力消費激増の原因じゃないみたいだからね。」

 

「旦那さん、御料理の方持ってきましたにゃ。」

 

「スピリス…もう、自分で取りに行けるのに。しかも全部全部私の好きなのだし……ありがと、自分の分も取ってきてね?」

 

「はいですにゃ。レスティ、一緒に行くにゃ。」

 

「レアも行っておいで。」

 

ルーパスちゃん達は宴に混ざりながらも海賊の人達とは少し離れた位置で食べていた。

 

「そら、ミルドよ。」

 

「……別にいいって言ってるでしょ。自分で食べたいものがあれば自分で取ってくるし。」

 

「……むぅ。」

 

ミル姉様!どれも美味しいですよ!

 

それはよかった。英雄王にお礼言っておいたら?

 

はい!ありがとうございます!

 

ミラちゃんはいつも通り。ギルが関わろうとしてミラちゃんが少し嫌がるのはいつものことだね。

 

「あ、いたいた、リッカちゃん!」

 

「ほぇ?───むきゅ…」

 

「そろそろ私達お別れだけど、ダーリンと私のこと、忘れないでね!他の神様に行かないでね!?」

 

「むきゅう……」

 

「ファーッ!!フォウフォウ!(実に羨ま───ゲフンゲフン、実にけしからんっ!モザイク処理を申請する!)」

 

「何言ってんだこの獣…」

 

「私、寛容になるから!浮気したら天罰くらいにしておくからぁっ!」

 

「……きゅう」

 

「…おーい、アルテミス。その辺にしとけ…というかリッカちゃんから離れろ!」

 

「なぁにダーリン、嫉妬?大丈夫!私の一番はダーリンだか───」

 

「そうじゃねぇっ!お前のせいでリッカちゃんが死にかけてるんだよっ!!いいから離れろ、もう気絶しちまってる!!仮にもサーヴァントが生者(マスター)殺してどうする!!」

 

「えっ、やだっ!」

 

それでやっと解放される。……苦しかった。ギリギリ気絶までは行かなかったけど。

 

「だ、大丈夫…?」

 

「大丈夫……言葉も、一応聞こえてたから」

 

「よかったぁ…」

 

「……お幸せに。オリオンさんとこれからも一緒にいられるといいね。」

 

「ふふっ、ありがと!じゃあ───これ、あげちゃう!」

 

そう言って渡されたのは三日月みたいな弓。…なんか、他の弓と違うような……言ってしまえばリューネちゃんが持ってた“月天フォエベー”みたいな雰囲気……?

 

「これは……?」

 

「私とお揃いの弓!慣れていなくてもえいってするだけでほぼほぼ百発百中!月の光さえあれば矢は無限だよ!これさえあればリッカちゃんもダーリンやルーパスちゃんみたいな狩人になれちゃうかも!」

 

「ほぇぇ…ありがとう。」

 

「こちらこそ!ルーパスちゃんやリューネちゃんっていう面白い子とも出会えたし!まぁ、女として負けられないけど…それでも、私は私の幸せを願ってくれたリッカちゃんが大好き!一番はダーリンだけどね!」

 

「あ、あはは……うん?」

 

ふと遠くを見ると、プラカードを持ったアタランテさんがいた。えーと……“信仰するならヘスティア様かハデス様、ペルセフォネ様などがお勧めかと”……?えーっと。私の記憶が正しければヘスティアさんは炉の女神───家庭生活の守護神。ハデスさんはかなり有名だけど冥府の王───つまり死後の世界の王。ペルセフォネさんはその妻───冥府の女神。

 

「…?考え事?」

 

「……大丈夫。」

 

「そう?じゃあまた、何処かで会いましょう!ずっとずっと見てるからね!素敵な恋路と旅路になぁれ!」

 

そう言ってアルテミスさんは何処かに去っていった。

 

「あいつ、俺を置いてどっかいきやがった……」

 

「オリオンさんも頑張って。」

 

「あぁ…まぁなんとかなるさ……はぁ。探しに行くか…」

 

なんだかんだ言って心配なんだなぁ…オリオンさんも去っていった。

 

「……本当、嘘みたいね。まさか私達2人とも生き延びられるとは思わなかったわ。」

 

「うん…うん…!あのとき、ぼく、は、ますたぁ、に、えうりゅあれを、たのむ、つもり、だった、から…あの、やり、がくる、とき、ほんとう、に…」

 

「もう。そんなこと許さないわよ。でも…そうね。そう考えると貴方を救ってくれたのはあの王様とあの弓の狩人なのかもしれないわね。」

 

「うん……!ぼく、うれし、かった!なまえ、よんでくれて!あそこ、から、でて、たのし、かった!みんなの、おかげ!えうりゅあれの、おかげ!ますたぁの、おかげ!」

 

「…そ。人間なんて、とは思ってたけれど。やるじゃない、少しは見直したわ。」

 

「にんげんは、つよい!えいゆうは、つよい!ぼく、は、かいぶつだけど!それでも、みんな、の、やくに、たてて、うれし、かった!」

 

「アステリオス…一々大袈裟なんだから。ほら、王様と弓の狩人に挨拶してきたら?」

 

「うん!おうさま───!!」

 

「ぬがぁぁぁぁ!?アステリオス、それはやめろと言うておろうが───!!」

 

「ふふっ…」

 

「ミルド!笑っていないで助けよ!!」

 

「筋力Bの貴方が敵わない相手に筋力Cの私に何かできると思ってるの?」

 

ミラちゃんって結構非力だもんね……

 

「はーなーれーよー!」

 

「う、うん……るー、ぱすも、ありがとう!」

 

「ひゃっ。…アステリオス?って痛い痛い痛い。少し緩めて。」

 

「……逆になんで貴様は平気なのか。」

 

「英雄王、耐久Cでしょ?私達最高耐久Aだもん。筋力Aと耐久Aを組み合わせれば筋力の反発と耐久の吸収でなんとか耐えられるよ。」

 

「ふむ……」

 

ルーパスちゃん達って普通にステータス高いんだよね…

 

「おっ?やってんねぇ。」

 

「あ、船長…とマシュ。」

 

「む?そう言えば貴様らはいなかったな。何をしていたのだ?」

 

「はい…ドレイクさんから少し、お話を。」

 

「大したものじゃないから気にしない気にしない。さぁ、騒ぐぞ───!!」

 

「もう騒いでるじゃない。」

 

「……あ、そうだ総督、技術顧問サマ。」

 

「む?」

「うん?」

 

「アタシ達の契約はこれで破棄かい?あんた達はまだ財宝も技術も持ってるんだろうけどさ。」

 

「ん~…まぁ、一度交わした契約だからねぇ。ただの王女ではあるけど、それを反故にするつもりはないし。」

 

「我も同意見よ。よって、貴様との縁はこれからも続くであろうよ。」

 

「そりゃあいい!これからも頼むよ、最高の総督サマに技術顧問サマ!」

 

「フッ、ならば良い!人生全て、我とミルドとの契約に使うがいい!さて───総員、整列せよ!」

 

あ、いつのまにかアルテミスさん帰ってきてる。

 

「歌を歌い!この瞬間を記録に残すぞ!選曲はマスターめに任せる!」

 

「え……じゃあ…どうしよう。」

 

まったく考えてないけど……うーん

 

「……“深海少女”、とか?」

 

〈海テーマだが海賊テーマではねぇな……まぁいいんじゃね?〉

 

「まぁマスターが選んだのならばそれで良い。リューネ、弾けるか!」

 

「あぁ、問題ない。既にその辺りは記憶済みだ。」

 

「歌詞はこちらです!知らない方は取りに来てください!」

 

……リューネちゃんもリューネちゃんで普通に凄いよね。ていうかジュリィさん歌詞を記録してたんだ…

 

───とまぁ、しばらく歌って。

 

「アステリオス、もう少ししゃがみなさい。」

 

「う、うぅ…」

 

「ダーリン!チューしよ!チュー!」

 

「バカップルみたいに思われるからやだ…」

 

「今更!?リッカちゃん、ダーリンが冷たい───!」

 

「あはは…本当に嫌だったら無関心になるから。アルテミスさんの事を思ってくれてたりするんじゃないかな?」

 

「むむ……ていうか、リッカちゃんなんか暗いような……?」

 

「そう……?」

 

「あぁ…」

 

「おおっと、大丈夫かい?」

 

「すまない、キルケー…」

 

「まぁ、純潔の誓いを立てた女神がアレだとこうなるわな…」

 

『…リッカ』

 

「ネアキちゃん……?」

 

『残る四精霊はあと一人…雷の精霊“ウル”だけ。前回は砂漠にいた…けど。貴女ならこの先の特異点で出会うことになると思う。』

 

「この先の特異点…」

 

『四精霊が揃ったその時こそ…私達は預言書の本質を貴女に話さないといけない。』

 

預言書の…本質……?

 

『…覚悟だけはしておいて。』

 

それだけ言ってネアキちゃんは預言書の中に戻った。

 

「さぁ、全員揃ったな!それでは行くぞ、1+1=?」

 

「「「「「2!!」」」」」

 

 

カシャッ───

 

 

そうして、宴の時間は流れていった。




正弓「さ、オケアノスも終了です。」

裁「次は……ロンドンかぁ…」

正弓「残り2ヶ月…」


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第159話 大海も終わり───謎の支援者

正弓「えっと……これでよし。」

裁「…?」

正弓「ちょっとしたものです。報酬、ってわけでもないですけど。……あぁ、そういえば話してませんでしたね…」

裁「なんだろう……?」


意識が醒める───レイシフト終了。これで、4度目。

 

「ん……」

 

「お疲れ、リッカ。もう全員揃ってんぞ。」

 

「あい……今出る…」

 

お兄ちゃんの言葉に私はコフィンの外に出る。外ではリオレウスのレスティさんを連れたルーパスちゃんとリオレイアのレアさんを連れたリューネちゃんが一緒にじゃれあってた。ホロロホルルとドスファンゴを保護したときの通信からしばらくしてあの疑似モンスターボールは完成したらしくて、ホロロホルルの“幻夜(げんや)”さん。ドスファンゴの“突牙(とつが)”さん。紅蓮滾るバゼルギウスの“バゼリア”さん。リオレウスの“リウス”さん。ゾラ・マグダラオスの“ゾーマダス”さん。ナバルデウスの“ナルデ”さんと元々絆を結んでいた火竜夫妻はこっちまで連れてこれたみたい。もちろん合意の上で連れてきてるらしいけど。

 

「ほんと、流石お兄ちゃんっていうか……」

 

「あ?」

 

「なんでもない…そういえばアドミスさんとフォータさんは?」

 

「呼びました?」

 

声の方を向くと、人間の姿をしているアドミスさんがいた。姿は黒のワンピースに白い長髪。にこりと笑って手を振って、その場から消えた。

 

「今の…」

 

「無宣言で出力制限下降(クロックダウン)───第二刻針(セカンド)から第一刻針(ファースト)刻時移行(クロックチェンジ)したな。」

 

「大丈夫なの?」

 

『…あいつらに聞かれたかねぇからこっちで話すぞ…理論上は終焉刻針(ラストクロック)を使わない限り通常稼働に問題はねぇよ。』

 

終焉刻針(ラストクロック)…?』

 

『あぁ……あらゆるリミッターを取り払った正真正銘の全壊運用───自身の崩壊を前提とした、最後の切り札。終焉刻針(ラスト)最終稼働状態(エンドスターター)───もっとも、よっぽどじゃねぇと使えねぇんだけどな。』

 

『あ、そうなんだ…』

 

「よし、揃ったな!聞け、皆の者!」

 

ギルが恒例の号令をかける。

 

「此度の特異点において、貴様らの───いや、このカルデアの弱点が露呈した!すなわち、“結界”である!この先、結界に隔離される、または時代に隔離されるなどということは数多あるだろう!故にこそ、これ以降の通信は常に繋がるようにしておかねばならん!」

 

まぁ…確かに。

 

「よって、次の特異点までに通信回りの強化を行う!より一層扱いが難しくなるであろうが、貴様らの根性を見せてみよ!良いか、貴様らの職務怠慢は許さん!よく働きよく休む、それが貴様らの行動指針だ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

〈……あの……1つよろしいですか〉

 

画面の中からアドミスさんが声をかける。

 

「どうした。」

 

〈リッカさん達が第三特異点に行っている間、こちらで時空の穴───レイシフトホール、とでも呼びましょうか。それが一度開いたのを確認しました。〉

 

「───それは、真か?」

 

〈はい。数多の防衛機構をすり抜け、ちょうど…アスラージ・アドミラルさんの部屋に。一瞬開いたと思えば、すぐに閉じたのですが…〉

 

「ふむ…アスラージ、どうだ?」

 

その問いに少し悩んでから思い出したように声を出した。

 

「そういや起きたときになんか変な機械があったな。一応アイテムポーチに入れてあるんだが……」

 

そう言って取り出したのは結構小さめの機械。

 

「…ふむ。この場に贋作者を呼べ!」

 

〈はい、ただいま。〉

 

アドミスさんがそう言って暫くすると、管制室にエプロン姿のエミヤさんが現れた。

 

「なんだ。」

 

「……まぁ、服装に関してはいい。贋作者、これが何かを調べることはできるか?」

 

「……ふむ。見たところ結構な精密機械のようだが……少し調べてみよう。───解析開始(トレース・オン)

 

その式句とともに解析が始まる。

 

「…これは………“システム”なのか。名称は“全時代対応型双方向通信システム”、性能は……なんと、此方より遥かに上だ。」

 

「何?」

 

「具体的にはあらゆる結界を貫通し、あらゆる時代を貫通する。時代差すらも貫通する通信システム───この技術、一体どこで……」

 

「ふむ。製作者は分かるか?」

 

「製作者は……“L”、とだけ。」

 

「ふむ……ウイルスなどは分かるか?」

 

「それは流石に…」

 

〈それでしたら私がウイルスの検査をします。〉

 

フォータさんの声が聞こえて、カタカタとキーボードを叩くような音がした。

 

〈───内部システムに侵入、完了。定義宣告。ユニット識別ID、0-R。個体名称“Formatter Eins”。存在定義“消去する者(フォーマッタ)”。出力制限上昇(クロックアップ)、第一刻針・電子状態(エレクトロモード)から第十刻針・高度管理状態(アドバンスドコントロールモード)に移行───感度良好、全機能異常なし───出力開始。形態移行、開始します〉

 

第十刻針───そう言ったフォータさんの姿が消える。

 

〈───かなり、澄んでいますね。全くウイルスが見つけられません。〉

 

「油断するなよ。得体の知れないシステムだ、どこかに隠れている可能性がある。」

 

〈分かっています───おや?〉

 

フォータさんが何かを見つけたみたい。

 

「どうした?」

 

〈…これは……マスター、ブラックボックスを発見しました。〉

 

「…ブラックボックスか。開封できるか?」

 

〈これくらいでしたら。〉

 

少しした後、カチッって音がした。

 

「む。読み取れなかった場所が読み取れるようになったようだ。」

 

〈ですね……ええと。手紙?〉

 

手紙…?

 

〈……読み上げますね。“このシステムにウイルスは入っていません。この手紙が入った軽いセキュリティのブラックボックス程度、あなた達ならば簡単に開封できるでしょう。これは私達の世界で実際に使われている通信システムです。時間差、空間差、世界間差などに対応します。恐らくこれからのあなた達の助けとなるでしょう。私を信用するかはお任せしますが、あなた達の力になれることを願います。 L”───だそうで。どうしますか?〉

 

「ふむ……本当に安全か?」

 

〈大体見た限りではウイルスの類いは見つかりません。それどころか見たことのないアンチウイルスシステムが稼働しています。今は停止していますが……どうやったら起動するのでしょうか。〉

 

「…フォータ、試しにウイルスを発生させられるか?」

 

〈……分かりました。…って、わわっ!?〉

 

少し慌てた声。…っていうかフォータさんってウイルス発生させられるんだ……

 

〈……報告します。ウイルスが発生したとたん、アンチウイルスシステムが起動し、ウイルスを喰らい尽くしました。それと同時に、ウイルスが私に跳ね返りました。…消し去りましたけど。〉

 

「……受動攻撃性反射型か。了解、特に問題はなさそうだ。フォータ、お前の状態は?」

 

〈自己診断────問題ありません。そもそもウイルスに触れられる前に削除しましたので。〉

 

「ならよし。帰還してくれ。」

 

〈分かりました。〉

 

その応答を聞いた後、お兄ちゃんはギルの方を向いた。

 

「と、いうわけだ。俺個人は使っても問題はないと思うが…差出人がよく分からないのも不安なのは事実だ。どうする?俺はギルの判断に任せるが。」

 

「ふむ……それはそれとして無銘、先ほどから何を悩んでいる?」

 

そういえばさっきからずっとアルが悩んでる感じだった。

 

「……いえ。Lという名前……どこかで聞いたような気がして。」

 

「ふむ……無銘の記憶に引っ掛かったか…?」

 

ギルは少し悩んでから私の方を向いた。

 

「マスター、貴様の勘はどうだ?」

 

「……大丈夫。警鐘は鳴らさない。」

 

「決まりだな。我からは以上よ!ミルド、貴様からは何かあるか!」

 

「ない。」

 

「そうか…ではこれにて解散!明日は英霊召喚よ!」

 

それで今日は解散した。




正弓「お母さんも言っていませんでしたけど、この作品って出ているキャラクター達に外部から支援することができるんですよ。」

弓「外部支援…だと?」

正弓「ええ。一番現実世界に近いのがこの私達のいる世界で、この世界を通して各世界に支援を届けることができます。武器だったり防具だったり…後は今回のようなシステムだったり。」

弓「ふむ……しかし、今までそれが使われていなかったのは何故だ?」

正弓「忘れていたんですよ……元々“他作品のキャラクターを出すことができる”っていうのも“多重交差異界”っていうのもお母さん含め私達が作り出す世界の性質とその外部支援関係のことを簡単にまとめただけなんです。“拒絶”の性質をもつ私達の世界でもありますけど、それでいて受け入れる方法もあるんです。」

弓「ふむ……」

裁「…ていうか、“拒絶”?」

正弓「あー……どんどん話がややこしくなっていきますね。お母さんが作り出したものですけど。はぁ……ともかく、何か支援とかあるならそれを反映させることも可能ってことです。召喚サーヴァントアンケートと運命の選択もその一種でしょうし。」

裁「なるほど…?」

正弓「それはそれとして……お母さんが戻るまであと2ヶ月程です。1つの特異点が終わるまでに大体2ヶ月……うーん。まぁ、何とかなるでしょう。たぶん…」

裁「…なる、と思いたいけど。ていうかこれ1年かかるよね……?」

正弓「このペースですと第一部が終わるまでに1年かかるでしょうね。内部時間はそこまで経ってませんが。」


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幕間 い つ も の 。
第160話 狩人の召喚を試行中


正弓「……これ、大丈夫ですかねぇ。」

裁「さ、さぁ……?」


「……ん」

 

「お、起きたか。おいマシュ、リッカが目覚めたぞ。」

 

「本当ですか!?よかった…」

 

マシュ……?

 

「昨日の夜のこと覚えてるか、リッカ。」

 

「昨日の夜……えっと…」

 

昨日は確か……マシュとお兄ちゃんとでダークソウルしてて……で……

 

「あぁ……寝落ちしたんだっけ。」

 

「一気にガクンと落ちたからマシュが心配してたぞ?お前限界ギリギリでやってたろ。」

 

「うん…ごめん……」

 

「とりま、飯用意してあるから食ってこい。あと軽く風呂。どっち先でもいいぞ。」

 

「お風呂入る……大浴場行ってもいい…?」

 

「いいぞ。」

 

その言葉を聞いて私は着替えを用意し、お兄ちゃんの部屋から入れる異空間にある大浴場の脱衣所に向かう。今まで着ていた服を脱いで、洗濯物籠に入れる。近くにあるボタンを押すと籠ごと地面に沈んで何処か───まぁ、洗濯機のある場所になんだけど───に運ばれ、次の籠が現れる。お兄ちゃん曰く“この空間かなり複雑でかなり広いからこうでもしねぇと作業大変なんだわ”って。

 

「ふぅ……」

 

お風呂に浸かって一息。思えば、特異点終わった後はいつもお兄ちゃんの部屋で起きてる気がする。

 

「…先輩」

 

「……?マシュ?」

 

いつの間にか、マシュが近くにいた。ボーッとしすぎて気がつかなかったみたい。

 

「ご一緒、いいですか?」

 

「…いい、けど。大浴場は私のものじゃないんだし…それよりも、迷わなかった?」

 

「六花さんが迷わないように…ええと。“ベクトルコンダクト”?を使ってくれたので。」

 

……あー……

 

「漫画の技を再現したんだね…」

 

「そうなのですか?」

 

「“ベクトルコンダクト”───SOUL EATERシリーズに出てくるメデューサの魔法の1つだね。確か初出は12巻…ていうかそれ以降で使われたことってあったっけ…」

 

「どういう魔術なのですか?」

 

「うーん…原作だと“魔法”って括りになるけどこの世界じゃ魔術なんだろうね…えっと、“あらかじめ付けておいた見えない印を可視化する術”、だったかな。」

 

「なるほど…矢印が見えたのはそういうことですか。」

 

「ん……」

 

ふと、お風呂場に設置されてる時計を見ると、時刻は08:30を指していた。

 

「……私そろそろ上がるけどマシュはどうする?」

 

「あっ、でしたら私も上がります。」

 

そうして私達は一緒に上がって、髪を乾かしてからお兄ちゃんの部屋まで戻ってきた。

 

「ん、戻ってきたな。マシュの服はアドミスにやってもらってる。そら、席につけ。朝御飯…まぁ作ってから時間は経ってるが大丈夫だ。」

 

「すみません、気を遣っていただいて…」

 

「いや、男と女の洗濯物別にするのが基本じゃね?」

 

 

───ガッコンガッコンガッコン───

 

 

洗濯機のある場所の方から大きな音が聞こえてきた。それを聞いてお兄ちゃんがため息をついた。

 

「……洗濯機が暴れてやがる。ちと様子見てくっから飯食っとけ。」

 

「あ、うん…」

 

私が答えるとお兄ちゃんはすぐに洗濯機の方に向かった。

 

「…食べよっか」

 

「はい…」

 

それから暫く黙々と食べていると、お兄ちゃんが戻ってきた。

 

「すまん、今戻った。…いただきます」

 

「……六花さんもちゃんと手を合わせるんですね。」

 

「ん?珍しいか……って、そうか。いつも俺は先に食べ終わってるもんな。」

 

確かにお兄ちゃんがこの時間まで食べてないのは珍しい気がする。え、なんで分かったかって?私とマシュ以外用にお兄ちゃん用らしき配膳がされてたから。

 

「……例の通信システムの組み込み作業やってたらいつもの時間過ぎちまってよ。せっかくだしリッカ達と一緒に食うかと思ってな。」

 

「……問題はないのですか?」

 

「昨日フォータが言ったようにウイルス関係は発見されなかった。それと、あの時フォータが気がつかなかったブラックボックスが1つ発見されたんだが、フォータもアドミスもそれを開封することはできなかったみたいだ。」

 

「ブラックボックス……」

 

「なんでも生体認証で開くブラックボックスみたいなんだが……肝心の認証に使われた生体情報の記録がない。記録がないもんはどうしようもねぇ。無理に破壊してシステム自体が壊れてもどうしようもねぇしな。」

 

そうなんだ……あ、そういえば。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。」

 

「ん?」

 

「宝具を衝突させたときが第十三刻針以降だと危険、とか言ってたよね。」

 

「ん?あぁ。第十三刻針からは異常刻針(オーバークロック)だからな。第十二刻針までの通常刻針(ノーマルクロック)とは訳が違う。」

 

「オーバークロック…ですか?」

 

そのマシュの問いを聞いたとき、疑問気な表情をしてから納得したように頷いた。

 

「そういや詳しくは話してなかったな。刻時制限機構は大きく分けて3つの段階がある。1つめは第一刻針から第十二刻針までの通常刻針(ノーマルクロック)。まぁ基本的に安全な段階で、正反対の性質をもつ宝具を衝突させても損傷が少ない段階だ。2つめは第十三刻針から第二十四刻針までの異常刻針(オーバークロック)。安全ではあるが正反対の性質をもつ宝具を衝突させたときが危険になる段階だ。そして3つ目がそれ以外の刻針段階(クロックレベル)───例外刻針(エクストラクロック)だ。」

 

「「“エクストラクロック”?」」

 

「あぁ。第零刻針(ゼロ)第二十五刻針(トゥウェンティフィフス)なんかがこれに当たる。」

 

「第二十五刻針?」

 

「第二十五刻針───固有技能(ユニーク)ですね。」

 

いつの間にかメイド服姿のアドミスさんが近くに座っていた。

 

「例えば私は“支配”の固有技能を持ってます。まぁこれはアドミニストレータなので。支配の固有技能は自らが絶対の支配者となる場所を作り出す、という感じでしょうか。」

 

「へぇ…あ、お茶ありがとう。」

 

「いえいえ。」

 

「……基本的に使われるのは第一刻針から第十二刻針までの通常刻針(ノーマルクロック)と第零刻針だけだ。アドミス達の刻時制限機構(クロックリミッター)はかなりの制限がかかってる。ちなみに異常刻針(オーバークロック)までは修復できる自信はある。」

 

それは───逆に言うと、それ以降は修復できる保証はないということ。それ以降───第二十五刻針以降は。それを聞いてアドミスさんは少し暗い顔をしてた。それを見たお兄ちゃんがアドミスさんの頭を撫でる。

 

「心配すんな。今は異常刻針(オーバークロック)までしか修復できねぇが、いずれどんな状態でも修復できるようにするからよ。お前らが望む限り、どんな状態からでも修復できるようにな。」

 

「……はい、マスター。」

 

「ん、この話はこれで終わりな。…ごちそうさまでした。」

 

いつの間にかお兄ちゃんは朝御飯を食べ終わっていた。私達も急いで、それでも喉に詰まらせたりしないように食べると、お兄ちゃんが“んな急いで食わんでもいいのによ。暇ならダクソでもしてな。”って苦笑いしながら洗い物してた。

 

「ええっと……“山羊頭のデーモン”戦からだっけ。」

 

「……先輩、このゲーム好きなんですか?」

 

「うん…あれ、意外?」

 

「はい…このゲーム、怖いじゃないですか…」

 

「慣れないと怖いよね……“死にゲー”って言われるジャンルのゲームだし…」

 

「死にゲー…ですか。」

 

「死んで覚えるゲームのことを大体死にゲーって言うの。」

 

「まぁ一発目がダクソは少しキツかったか?“しょぼんのアクション”でもやらせりゃよかったかね。…まぁ、持ってねぇけど。」

 

お兄ちゃんが手を拭きながらこっちに戻ってきた。

 

「PCに入ってないの?」

 

「あー……実は知り合いにしょぼんのアクションが入ったパソコン貸しててな。その途中でこの人理焼却だ。」

 

「あぁ……」

 

「……あ、倒しましたね」

 

アドミスさんがそう呟く。ふと画面を見ると山羊頭のデーモンを倒してたところだった。マシュは素性を“騎士”、贈り物は“小さな生命の指輪”にしたみたい。ちなみに私は大体素性は“聖職者”で贈り物は“遠眼鏡”。お兄ちゃんは素性は“盗人”で贈り物は“老魔女の指輪”かな。

 

「…ん?放送のスイッチが入りましたね。」

 

え……

 

〈全職員に通達!これより管制室へ集合!遅刻厳禁!〉

 

放送から流れるアスラージさんの声。それにお兄ちゃんが小さくため息をついた。

 

「……声がでけぇよ。まぁいい、行きますか。」

 

お兄ちゃんの言葉に頷き、私達は管制室へと向かった。

 

 

「よし、遅刻もないようだな。」

 

「声でけぇよ…くっそ響いたぞ。」

 

「む……それはすまねぇな。」

 

「で……召喚か。サークルのメインシステム起動してくるわ。」

 

そう言ってお兄ちゃんは管制室の席に座る。私は召喚室の方に向かった。

 

〈で……今回は誰が召喚されるかねぇ。〉

 

「個人的には1名来てほしい者がいるのだが…」

 

「あー……あの子ね。」

 

あの子…って誰だろう。

 

「ふむ……どのような者が来るか楽しみだな。それでは回せ!」

 

〈とりあえず触媒はリューネだな。ええと……サークル展開、回転開始───〉

 

「…思うのだが僕が触媒になる意味はあるのか?」

 

〈さーな。実際その辺マジで分からんからな。“縁がある”ってだけで具体的な根拠は全くといってないらしいからな。なんなんだかねぇ…っと?キャスターが来るぞ。心当たりは?〉

 

「……キャスター…ということは笛使いかギルドガールのどちらかか?ギルドガールは数名心当たりがあるが笛使いはいないな…」

 

〈なるほどなぁ…戦力にはならなさそうかね。〉

 

「……いや。喚ばれるのが彼女達ならあるいは───」

 

そう言っている途中で召喚が終わる。

 

「「……ここは?」」

 

「───」

 

なんというか……巫女さんみたいな感じの2人の女性。片方の人の服装はローマでリューネちゃんが着てたような…

 

「……あぁ、確かに“彼女達なら”、とは言ったがね……本当に出てくるなんて思うか……これがフラグというものなのか……?」

 

リューネちゃんの様子が少しおかしい……?それと同時にその2人の女性がリューネちゃんの方を向いた───やっと気がついたけど、この人たち───普通の人間じゃない。

 

…琉音さん?

 

行方が分からなくなったとは聞いておりましたが……ともかくご無事なようで何よりです。

 

「「ですが、どうしてこちらに?」」

 

すまないが、それはこちらの台詞だ“ヒノエ”殿───そして“ミノト”殿。

 

〈ウヒョーッ!エルフ耳!エルフ耳だぁぁぁ!〉

 

〈うっせぇぞロマン。つーかエルフ耳ならメディアがいるだろうが。〉

「ちょっと静かにしてくれないか、ロマン殿。」

 

〈……はい。〉

 

すまないが後で詳しく話すから待っていてもらっても良いだろうか?

 

分かりました……うさ団子とかありますか?

 

……ヒノエ殿にとってそれは重要なのだったな……ヨモギ殿のものには劣るがそれらしいものならある。すまないがジュリィ殿、2人を食堂まで連れていってもらえるだろうか。

 

分かりました。こちらです。

 

その2人はジュリィさんに連れられて管制室を出ていった。

 

〈…なぁ、リューネ。〉

 

「うん?」

 

〈今の2人は……人間じゃないよな?〉

 

その問いにリューネちゃんは小さくため息をついてから頷いた。

 

「あぁ。彼女達は“竜人族”と呼ばれる種族だ。僕達“人間”やルル達“獣人族”とはまた違った別種族。種族としての特徴は…そうだな。君達も見ただろう。尖った耳と4本指の手足。あれこそが竜人の特徴と言えるだろうね。」

 

へぇ…

 

「…ちなみに彼女達、普通に強いぞ。」

 

「〈え?〉」

 

「彼女達はギルドガール───受付嬢なわけだが、それ以前に“里のツワモノ”と呼ばれる強者でもある。実力は上位ハンターになることだってできると言われている程だ。と、いうか2人ともハンターを目指していた時期があったらしいからな。武器に関してはヒノエ殿は弓、ミノト殿はランスだ。」

 

「ええっと……上位ってことは……」

 

「あぁ、単純に言えば僕らの1段階下だな。僕らはG級ハンターなわけだし。」

 

「でもリューネ、私達の実力って確か……」

 

「そこなんだよな……どう答えたらいいものか。」

 

そういえばリューネちゃん達は自分の方が上だからって下の人を見下すとかはしないみたい。そんなことをしている暇があるなら少しでも技術を教え込んだ方がいい、っていうのがリューネちゃん達の考えなんだって。

 

「まぁ、かなり強いと思ってくれればいいさ。次に行こうか。」

 

〈ん~……とりあえず触媒をルーパスに切り替えてみるか。〉

 

「サークルの前に立てばいいんだっけ。」

 

〈んぁ、まぁな。…サークル展開、回転開始…霊基形式検索───ん?早速引っかかったな。ええと…〉

 

そういえば…

 

「お兄ちゃん、いつも思うんだけど…」

 

〈あん?〉

 

「召喚される前にサーヴァントのクラスってわかるものなの?」

 

〈…あぁ。そういうことな。実は召喚されるときにそれらしいクラスのパターンが観測されるんだ。ちなみにさっきの姉妹の場合はキャスターのパターンが超強かったが召喚後に調べたらキャスター、アーチャー、ランサーの三種複合クラス。珍しいが2人で1基のサーヴァントってやつだ。〉

 

「2人で1つ…ダブル…?」

 

〈まぁそうなるわなぁ。…ん?結果出たぞ、霊基パターン、ハンター!〉

 

「ハンターだと!?」

 

ギルが身を乗り出した。

 

「誰が来るんだろうね…」

 

ルーパスちゃんがそう呟いた時、召喚が完了する。

 

───きゃぁっ!…あいったた…

 

そこにいたのは1人の女性…女性?女の子、って言った方が正しい気もするけど。なんというか…凄く、若い。

 

…あれ?ここは…?

 

竜人語であることからルーパスちゃんたちの世界の人なのは間違いない、と思うけど。誰だろう…?

 

───さん

 

「ルーパスちゃん?」

 

───お母さんっ!

 

──────えっ?

 

うん…?あれ、ルーパス…?それにリューネも。どうしてここに?

 

それはこっちのセリフだよ!どうしてお母さんがここにいるの!?

 

うん、聞き間違えじゃないみたい───って。

 

「〈〈〈お母さん!!?〉〉〉」

「母だと!?」

 

私、お兄ちゃん、ドクター、マリー、ギルの5人が驚く。

 

「え?うん。私のお母さん。」

 

「え…えっと、この女の子が?」

 

「うん。私、お母さんと一緒に歩いてると姉妹のように思われるから。」

 

えええええ……あの、すっごい若い。

 

?ルーパス、この人たちは?

 

ええっと…私の…なんて言ったらいいんだろう。友達?

 

どうして疑問形…?

 

ちなみに目測で身長が145cmくらい。年齢は……大体22歳くらいだと思ったけど。ルーパスちゃんのお母さんってことは30歳越えてる……よね?

 

ええっと…いいですか?

 

「…!はい、なんですか?

 

あ……言葉が通じる人がいるんだ。ええっと…ルーパスからちょっとだけ事情は聞きました。人類史…だっけ。それが燃やされたとかって……人の生活を守るために戦ってた人間としてはさすがに見過ごせない。ほとんど引退した私だけど、それでもよければ。

 

あ、ありがとうございます…!えっと…お名前は?

 

私がそう聞くと、小さく微笑んでから口を開いた。

 

私は“ルーナ・フェルト”。こんな姿だけど一応42歳。年上だからって堅い喋り方じゃなくてもいいよ。

 

「よ、42歳!?」

 

〈嘘だろ、全く見えねぇっ!?〉

 

私とお兄ちゃんの反応にルーパスちゃんのお母さん───ルーナさんがクスリと笑った。

 

よく言われる。私の家系は結構実際の年齢より若く見られる人が多いんだよね。特に女性は。

 

……あれ?そういえば私、お父さんのお母さんには会ったことあるけど、お母さんのお母さんには会ったことない気がする…

 

あれ、そうだっけ。戻ったら会いに行こうか。

 

うん!

 

…まだまだ未熟ではありますが、娘共々よろしくお願いします、カルデアの皆様。

 

こ、こちらこそ…!

 

というかこちらが力を借りてる立場だからな。よろしくお願いしますはこっちの台詞だわな。

 

まぁ、確かに。とりあえず、ルーナさんはルーパスちゃんの隣で召喚儀式を見学するみたい。

 

「ふむ……ギルド・カルデアというのもいいのではないか?ミルド。」

 

「なんで私……まぁ、ギルドに詳しい人がいればできるだろうけど、私もそこまで詳しくないから……」

 

「ふむ。」

 

〈次回すか……サークル展開、回転開始───アカシックレコード接続状態良好。……霊基特定、これは───キャスターか。心当たりは?〉

 

「ない。」

 

〈……即答かよ。〉

 

「まぁライダーの彼女がキャスターで出るとも思えないしな…」

 

「彼女?」

 

“アユリア”ちゃんのこと?狩猟笛使いっていったら彼女くらいしか思い浮かばないよ?私。

 

ルーナさんから名前が出た。アユリアさん……?

 

「ちょっとした知り合いかな?狩猟笛使いなんだけど…彼女ならライダーのクラスで来ると思うよ?」

 

「そう…なの?」

 

「十中八九そうだろうな。仮にライダー以外で来たとしてもライダーに強い適性を示すだろう。」

 

そんなことを話している間に、召喚が終わった。

 

にゃ~……何が起こったにゃ~…

 

……アイルー?

 

君は───

 

にゃ?……リューネさんと、ルーパスさんだにゃ?

 

「知り合い?」

 

私がそう聞くと、リューネちゃんが頷いた。それと同時にルーナさんが声をかける。

 

久しぶりだね、ハクム村の厩舎アイルーさん。ルーパスから厩舎管理職を引退したって聞いてたけど元気だった?

 

そういうルーナさんもお元気そうにゃ。風の噂でハンター業ライダー業共に引退したと聞いておりましたがにゃ。

 

私は元気だよ。ただまぁ、前線にあまり出なくなったのは事実だし。実質引退したって言っても間違いではないかなぁ。もうほとんどは娘のルーパスかリューネに任せてるし。

 

ふむふむですにゃ…

 

そう言いながらその厩舎アイルーさんは去っていっちゃった。……えっ。

 

「名前聞いてない…!」

 

〈……仕方ねぇ、一旦ここで終わるか。さっきのアイルー捕まえて名前聞いてから再開だ。〉

 

その言葉に私達は頷き、管制室を後にした。




正弓「ちなみにお母さん、並びにご本人はダークソウルシリーズをやったことはありません。」

弓「おい……」

正弓「色々あって出来ないそうで。」

裁「色々…ね。」


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第161話 狩人の召喚は続く

正弓「うーん……ご本人の状態がそこまでよくないみたいですね。」

裁「そうなの?」

正弓「えぇ…まぁ、大丈夫でしょう。」


〈うし、とりあえず落ち着いたし再開するか。〉

 

お兄ちゃんの言葉で召喚サークルのメインシステムが起動する。あのあとカルデア内で厩舎アイルーさんを見つけ出して、名前を聞いた。名前は“ハクリーシャ”って言うんだって。厩舎管理職を引退した身ではあるけど、ライダーとオトモンがいる以上、オトモンのお世話はしたいみたい。だからレアさん達のお世話はぼくに任せてほしいにゃ、って言ってたけど……大丈夫なのかな。

 

〈んじゃリューネ、サークルの前に立ってくれ〉

 

「ハンターの召喚を試すんだったな。わかった。」

 

そう言ってリューネちゃんがサークルの前に立つと、サークルが回転しだす。

 

……なんだろう、少し懐かしい気配がする。

 

懐かしい気配……?

 

ルーナさんの言葉を繰り返すと同時に、召喚が終わる。

 

あたた……何が起こったの……

 

そこにいたのは一見20代くらいの女性。でも、ルーナさんの例があるから───

 

───母さん?

 

───────あぁ。

 

うん……?あれ、琉音。それに───姉さん?

 

───()()()

 

あれ…ソラ?久しぶり、元気?

 

私は元気…だけど。姉さんは?ほとんど前線にでないって話だし、太刀の扱い鈍ってない?

 

ちょっ…酷いなぁ…いやまぁ、確かに昔よりは鈍ってるけどさ。そっちこそどうなの、当時誰も使ってない武器種を扱っていた妹?

 

問題ない…って言いたいところだけど、ね。流石に私達も年齢には勝てないかな。

 

そうだねぇ…

 

すまない、少しいいだろうか。

 

耐えられない、というような表情でリューネちゃんが声をあげた。それに対しルーナさんと…リューネちゃんのお母さん、で…いいのかな。が何も分かっていないかのように振り向いた。ちなみにリューネちゃんのお母さんらしき人の方がルーナさんより背は低い。目測144cm。

 

母さん…今、ルーパスのお母さんのことをなんと言った?

 

?“姉さん”、だけど…あぁ。そういえば琉音には話してなかったね。

 

話してなかったの……って、そういえば私も話してないや…

 

姉さん……人の事言えないか。……違う、私より琉音と関わる期間が長かった姉さんが言った方が良かったと思うけど。

 

小さくため息をついてから私達の方を向いた。

 

そちらの方々は初めまして。ここにいる琉音の母、“舞華(まいか) 蒼空(そら)”です。琉音と同じでもう1つ名前があって…そっちは結婚前につけた名前で“ソーラ・メリス”というのですけど。お好きな方でお呼びください。

 

改めて自己紹介。“ルーナ・フェルト”……旧名、“舞華(まいか) 瑠奈(るな)”。隠してたつもりはなかったんだけど、完全に忘れてたよ。

 

旧名……ということは───

 

……ということは

 

私達…

 

「「従姉妹っ!?」」

 

まぁ、そうなるよね。

 

まぁ、そうだね。

 

…私、姉さんが伝えたものだと思ってたから琉音に話さなかったんだけど。

 

あ、あはは……完っ全に忘れてました。

 

姉さんってたまにどこか抜けてるよね…

 

…返す言葉もございません。

 

それからしばらく話を聞いた。2人ともカムラの里で生まれて育ったこと。ルーナさんが12歳の頃にハンターになって、カムラの里を出たってこと。当時太刀もスラッシュアックスも出回ってなかったから、他のハンター達からは奇妙なものを見るような目で見られたこと。ルーナさんが16歳くらいの頃にルーパスちゃんのお父さん、リューネちゃんのお父さんと出会って、2人は当時初心者だったってこと。2人も当時にしては珍しい武器を背負ってて、ルーパスちゃんのお父さんがガンランス。リューネちゃんのお父さんがヘビィボウガンなんだって。で…まぁ、そこから色々あって……ルーナさんはルーパスちゃんのお父さんと結婚してベルナ村に定住。ソーラさんはリューネちゃんのお父さんと結婚してカムラの里に帰還。それから───ソーラさんがリューネちゃんを産んだほぼ直後(正確には生後1ヶ月)に百竜夜行が発生して、それから里を守るためにソーラさんとリューネちゃんのお父さんは里の防衛に参加したみたい。その時、ソーラさんが一番心配したのがリューネちゃんの事で、当時の里長から百竜夜行襲来までまだ時間があることから、その時間を利用してベルナ村に渡航、ルーナさんにリューネちゃんを預けたみたい。で、それから19年───今に至る。

 

あぁ…でも、そういうことだったんだ。

 

そういうこと?

 

ほら、お母さん…スラッシュアックス使いじゃないのに異様にスラッシュアックスの扱い教えるの上手だったでしょ?

 

そういえばローマから帰ってきたあと、そんなこと言ってた気がする。

 

今の話を聞いてようやく分かった。お母さんは知っていたんだ。私が生まれるよりも前に───ずっと見てたんだ、隣で。自分の妹を───スラッシュアックス使いのG級ハンターを。

 

…うん。正解。私は、蒼空の動きをずっと見てた。そして、その動きは私の記憶にずっと焼き付いていた。だから、私はスラッシュアックスを教えることができたの。自分の一番得意な武器種でないにも関わらず、ね。

 

そうだったのか…

 

…さ、この話はこれで終わり。次、やるんでしょ?

 

〈…どうする?〉

 

「ちょっと休みたい……」

 

〈うし、じゃあちょっと休んでから再開な。〉

 

流石にハクリーシャさん探すのに疲れちゃったから……ちょうどいいしこの辺りで一旦解散。ルーナさん達にはルーパスちゃんが伝えてくれた。




正弓「まぁ今日は間に合ってよかったですね」

裁「そうだね…」

正弓「32,000UA突破ありがとうございます~」

裁「結構順調?」

正弓「どうですかね…」


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第162話 大海の縁召喚……あの、ちょっと多くない?っていうか見たことない人もいるような……?

正弓「アンケートの方、選定できてます?」

殺「正のアーチャーか。しばし待つがよい。」

正弓「分かりました。」

殺「───そこの黒ひげ。」

「ヒィッ!?な、なんでござる!?拙者まだ今回なにもしておらんでござるよ!?」

殺「通るがよい。」

「───へ?」

殺「通るがよい。貴様の道は開かれた。」

「えと……いいんで?」

殺「もう一度は言わぬぞ。通るがよい。」

「……ひゃっほう!待っててくだされ、今向かいますぞ───!!!」


「んじゃ再開だな。アドミス、頼む。」

 

〈はい、召喚サークルを起動します。〉

 

休憩が終わって、私達は召喚室に戻ってきていた。さっきとの違いはルーナさんとソーラさん、ルーパスちゃんとリューネちゃんがいなくて、ジュリィさんがいるくらいかな。

 

「さぁ、回せ!この際何が出ても文句は言わん!」

 

「…?ギル、誰か出てほしい人でもいるの?」

 

「む?まぁ、いなくはないが…しかし召喚ラインナップ、とやらに含まれておらぬであろうからな。ならばこの際何が出ても文句は───ああいや、あやつが出れば流石に文句は言おう。」

 

……結構嫌がってるのがわかる……引かないといいけど。

 

〈霊基パターン、ライダー!顕現します!〉

 

召喚の光が収まって現れたのは海賊帽の女性───

 

「やぁ、いつぞやは生身の私が世話になったようだねぇ。」

 

「船長…」

 

「おう!“フランシス・ドレイク”、最高の宝の匂いを嗅ぎ付け参上したよ!」

 

「ふむ、やはり契約は履行されたか。ドレイクと我等の間に結ばれた契約、商人ならば───いや、ドレイクならば英霊だとしても果たされるであろうよ。」

 

「おうさ。アンタ達はあたしと相容れないが、契約を結んじまった以上あたしはアンタ達のものさ。満足させてくれよ?特に技術顧問サマは色々隠してそうだからねぇ!」

 

「あはは……まぁ、隠してないと言えば嘘になるけど…」

 

確かにミラちゃんって色々隠してそうなんだよね…

 

「…さて、と。じゃまぁ、とりあえず妹分の面倒でも見るかねぇ!」

 

「わぷっ…これからお願い、船長。」

 

「おうさ!」

 

そう言って笑いながら船長は召喚室から去っていった。

 

「さぁ、次だ!回せ!」

 

〈サークル稼働───っ!霊基特定、アーチャー!〉

 

「アーチャー……か。」

 

ギルがそう呟くと同時に、1人の男性が現れた。

 

「東方の大英雄、“アーラシュ”とは俺のことだ。よろしくな!」

 

アーラシュ───それって

 

「アーラシュ・カマンガー───西アジアでアーチャーそのものを指す人───?」

 

「恥ずかしいからやめてくれや。俺はただの三流サーヴァントにすぎねぇって。王様よ、こんな俺でもあんたらに助力していいかい?」

 

「よい、許す。しかし貴様の宝具は禁ずる。霊基の確保が叶うまではな。」

 

「あいよ。気を遣わせたみたいで悪いな。」

 

そういえば…アーラシュさんって大地を割る絶技と引き換えに体が砕け散ったんだっけ……?

 

「んで、俺のマスターは…っと。」

 

私が手を挙げると、納得したように頷いた。

 

「よろしくな、マスター!こう見ると本当に俺はマスター運がいいと思うな。」

 

そう呟きながらアーラシュさんは召喚室を去った。

 

「…しかし、何に反応したというのだ?」

 

「もしかしたら“弓”かもしれねぇな。」

 

「なるほどな。次を回せい!」

 

ギルの掛け声でサークルが回る。それと同時に召喚室に入ってくる足音。

 

「失礼する。甘味を持ってきた。ジャンヌ・ダルク・オルタ殿の新作だ。」

 

「む、ヘラクレス。ジャンヌ・オルタめに弟子入りでもしたか?」

 

「まぁそのようなところか。我が主もどうだろうか?」

 

「…ありがとう、ヘラクレスさん。」

 

私はヘラクレスさんが持ってきたカップケーキを1つ貰った。…うん、美味しい。

 

「ちょうどよい、ヘラクレス。貴様も同席するがいい。ギリシャの顔馴染みに会えるかもしれぬぞ。」

 

「……そうか、ギリシャか…思えば今回の特異点はギリシャ関係が多かったか。……すまない、ギルガメッシュ。心労をかける。」

 

「よい。そも、大抵の不祥事は神共の愚行であろう?貴様が頭を下げるものでもないわ。」

 

「私のところも龍達の気まぐれで惨事になることがあるけど……まぁ、大体惨事になるときは人が原因だったりもするからね…」

 

「ほう?そういえば、貴様の世界で神にあたるものは古龍とやらであったな。」

 

「ん。古龍達はいるだけで災害になっちゃうからなんともいえないんだけど…古代文明のアレはその古代文明を使っていた人達が龍の逆鱗に触れたのが原因だから。正直、“古龍の巫女”としては逆鱗に触れないか心配なんだよね…」

 

「…君も苦労しているな。」

 

「お互い様でしょ。」

 

そんな話をしている間に、召喚が終わった。

 

「私はエウリュアレ。ええそう、“女神さま”、よ。あなたは短い一生だろうけど、せいいっぱい楽しませて頂戴ね?」

 

「エウリュアレさん───」

 

「ふむ、偶像の女神…妹の方か。そら、早く降りよ。連続して回す。」

 

「…何よ、女神に向かって…」

 

「降りよ。後がつっかえるであろうが。」

 

「……ふん。」

 

不機嫌そうにエウリュアレさんがサークルから降りた直後、サークルが回り、金色に輝く───

 

「ほう?あのアイドルの時のような反応よな。」

 

〈霊基パターン、アサシン!顕現します!〉

 

現れたのは───

 

「こんにちは───女神“ステンノ”、召喚に応じました───」

 

「……邪神様?」

 

「本当にごめんなさい……その節は本当に……」

 

(ステンノ)が謝った……!?」

 

「こんにちは、(エウリュアレ)。メドゥーサ…私の愛しいメドゥーサはどこ……?」

 

〈な、なんかキャラ違くないかい!?〉

 

「特異点で何かあったんじゃね?」

 

そういえば特異点の最後の方もこんな感じだったような。

 

「次だ。…ふむ。エウリュアレ、ステンノと来れば次に来るはメドゥーサか?」

 

「次女から始まり三女で終わるのもどうかと思うが…」

 

「どのみち雷光は来るであろうよ。まぁ、ミルドの妹が来なかったのが残念ではあるがな。」

 

「今のところ触媒になるつもりないから。」

 

そんな話を聞いているといつの間にか金色に輝いていたサークルが召喚を終わらせていた。

 

「…ふん。復讐者、“ゴルゴーン”だ。うまく使うがいい。私も貴様をうまく使───すまない、帰ってもよいだろうか。」

 

「否だ。」

 

「あぁ…!メドゥーサ…!私の愛しいメドゥーサ……!」

 

「やめろ……!私はゴルゴーンだ!メドゥーサではない……!やめろ……やめろぉぉ……!!」

 

あ、ステンノさんから逃げていった……

 

「ふはははは!あやつの苦手意識は怪物となってからも変わらぬか!よい、面白いものを見た!ランサーではなかったのは少し残念ではあるがな!」

 

「……次の召喚終わったら少し休憩時間挟むか。」

 

「ならば私はこれで失礼しよう。ジャンヌ・ダルク・オルタ殿に怒られる可能性が高いのでね。」

 

そう言ってヘラクレスさんは退室した。それと同時にサークルが展開する。

 

「さて……アステリオスか、アルテミスめか……どちらが先に来るか?」

 

「うーん……」

 

実際な話、どちらが来るかなんて分からないからなぁ……そう思ってると、召喚が完了した。

 

「あ……う…お、れ…おれ、は……」

 

「ふむ、アステリオスが来たか。よい、それではこれにて休憩とする。あ、マスターめは残れ。」

 

そのギルの一声で私以外は休憩となって、召喚室を退室していった。

 

「…そら、回すぞ。」

 

「……ありがとう。」

 

ギルが指を鳴らすと同時にサークルが展開する───

 

「……」

 

「何、心配するでない。そら───来るぞ」

 

ギルがそう言うと同時に召喚が完了する───

 

「ヌルフフフフ!リッカ殿の静かながら熱い思い、確かに受けとりましたぞ!」

 

「………!」

 

現れたのは───

 

「ヌフフフ、黒髭“エドワード・ティーチ”、ここに見☆参!ですぞ!ああいや、少々キャラ崩壊失礼───待たせたな、餓鬼。俺様の魂、きっちり大切に持ってっか?……なんて。ヌルフフフフ!」

 

「───く」

 

「く?」

 

「黒髭さんっ!」

 

「ぬおっ!ヌフフ、リッカ殿の熱いタックル───ぐぇぇぇっ!!?絞まる、極る、落ちるのですぞ───!!!ちょっ、ギブギブギブゥ───!!!」

 

それを聞いて私は黒髭さんを解放する。

 

「ぜぇ……ぜぇ……巧いでございますな、リッカ殿。これはこれからが楽しみですぞ?」

 

「あ、ありがとう……?あ、そうだ、これ…」

 

私が海賊帽を差し出すと黒髭さんは首を横に振った。

 

「いやいや、それはリッカ殿が持っていてくだされ!」

 

「……いいの?」

 

「当然でございますぞ!拙者がリッカ殿に差し上げたものでございますからなぁ!あぁ、それと───」

 

黒髭さんは真剣な目になって私の頭を撫でた。

 

「やるじゃねぇか、リッカ。女神を守りきり、ヘクトールの野郎もきっちり倒すなんてよ。俺様の目に狂いはなかった、ってか?褒めてやるよ、“よく頑張った”ってな。」

 

「うん…!ありがとう、黒髭さんっ!」

 

「あっ───尊い」

 

黒髭さんが金色の光を放出した。

 

「く、黒髭さんっ!?」

 

「これが───“尊死”というものか。ふむ、興味深い。」

 

言ってる場合じゃないと思うんだけど…!とりあえず、黒髭さんは一命を取り留めました。




正弓「ええっと……処理が多い…」

裁「お疲れ様……」

殺「そこのオッサン───首を出せ。」

「アンタの方がジジイだよなぁ!?」

裁「……あれはいいの?」

正弓「いいんじゃないですか?」

裁「いいんだ…」


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第163話 さて。召喚の話をしようじゃないか。

正弓「花の魔術師は関係ありません。」

弓「どうしたのだ、急に…」

正弓「いえ…それはそうと、今回の召喚されるサーヴァントのアンケート結果はこちらです。」


オケアノス終了後に召喚するサーヴァントのクラスは?

(0) 騎兵、槍兵、弓兵
(2) 弓兵、弓兵、弓兵
(4) 暗殺者、裁定者、剣士


「さて…続けるか。」

 

「うむ。長くなったが今回はあと3騎でよかろう。」

 

「だ、そうだ。頼めるか、アドミス。」

 

〈はい、お任せください!〉

 

「…と、その前に各施設の利用状況出せるか?」

 

〈利用状況は……こちらです!〉

 

お兄ちゃんの前に数枚のホロウインドウが開かれる。…流石に細かくて読めない。

 

「おけ、問題なし。んじゃ、始めるか。」

 

〈サークル起動、メインシステム正常───アカシックレコードとの接続も確立しました!〉

 

「…たまに思うけれど、アカシックレコードって根源のことよね?」

 

「ん?あぁ、まぁ。召喚システム的に接続してるってのもあるが。あまり気にしちゃだめだぞ?俺でも完全に理解できることじゃねぇし、面倒だしな。」

 

〈面倒で終わらせるのはだめだと思います、マスター。〉

 

「すまんすまん。さ、リッカ。」

 

お兄ちゃんの言葉にうなずいて、私は召喚サークルに呼符を置いた。…いつも置いてるけど。

 

〈呼符確認、サークル正常展開。回転開始、霊基検索開始───〉

 

残り3騎くらいになるといつも緊張する。

 

「あまり気張るなよ。」

 

「…うん。」

 

「…失礼する。休憩が終わった直後だがお茶などはいかがかな。」

 

「ふむ、紅茶か?」

 

「……」

 

「どうした、贋作者。」

 

「…ああいや、何でもない。一瞬私のことを言われたのかと思ってしまっただけだ。」

 

「まぁ、貴様は赤であるからな。」

 

「あまり気にしないでほしい、マスター。」

 

「あ…気にしないから大丈夫…」

 

〈───顕現します!クラス、アサシン!〉

 

その声と同時に召喚が完了する。

 

「…また、汚れ仕事か。」

 

「───む。」

 

「まぁいい…いつものことだ。それで、君がマスターか?」

 

「あ…はい。」

 

「先に言っておこう。君の事情なんて知ったことじゃないし、聞きたくもない。ともかく、サーヴァントとしての務めだけは果たす、それでいいな?」

 

「───」

 

これは───拒絶?

 

「僕とマスターの関係はそれでいい。…それで、いいんだ。」

 

「あ、はい…よろしくお願いします。」

 

「それじゃあ、用があれば使ってくれ。」

 

「待て。」

 

エミヤさん…?

 

「───貴様は」

 

「……」

 

「いや…何でもない。恐らくは他人の空似だろう。よろしく頼む。」

 

「あぁ」

 

そう言ってアサシンさんは去っていった。

 

「どうしたの…?」

 

「特には何もない。気にしないでいいさ、マスター。」

 

「ふん。同郷ゆえの何かを感じ取ったか?哀れなものよ、抑止の使い走りとは。」

 

抑止…?

 

「英雄王。余計なことを言ってマスターを困惑させるのはやめたまえ。」

 

「それもそうよな。」

 

「…しかし、いずれ抑止力に関しても教えなければダメか。そのあたりは先生に相談してみるとするか…」

 

〈次、行きますよ~。サークル展開、回転開始───そういえばマスター。〉

 

「あ?」

 

〈抑止力の話が出たので思いましたけど、私達って根源に触れていても抑止力が機能したことがありませんよね。〉

 

「あ~…」

 

「恐らくは完成まで至っていないからじゃないか?」

 

エミヤさんがそう言う。“完成”?

 

「どういうことだ?」

 

「完成に至っていない…というか、“無”に至っていないといった方が正しいか。生きる意味をなくしていないからこそ抑止力に排斥されていないのだろうよ。」

 

「そういうものかねぇ。」

 

「というか君はすでに“魔法使い”なんだよな…魔術師、魔術使いの域じゃない。君はいったいどこを目指しているんだ?」

 

「さぁな。」

 

〈顕現します!サーヴァント、ルーラー…!〉

 

光が収まって召喚されたのは───え?

 

「サーヴァント、ルーラー。“天草四郎時貞”。誰かに似ています?それは、他人の空似というやつですよ。」

 

他人の空似───にしてはエミヤさんと似すぎな気が。

 

「贋作者擬きだな。」

 

「そうなのか?」

 

「うむ。贋作者擬きだ。」

 

「えぇ、他人の空似ですよ。自分と似ている人は世界に3人いると言うでしょう?」

 

「ふ、アルトリアに至っては3人どころか5人10人と超えるがな。サーヴァントであるのだから1人であるには変わりないが、それでも多すぎであろう。」

 

「的を射ていますね。…」

 

その天草さんがマリーとミラちゃんを交互に見つめた。

 

「な、何かしら…」

「…何?」

 

「…いえ、特に何も。よろしくお願いします。」

 

「あ、よろしくお願いします…」

 

「…そろそろ私も失礼しよう。」

 

「贋作者、ついでだ。その贋作者擬きを部屋に案内せよ。」

 

「…了解した。」

 

そんな会話があって2人は管制室から去っていった。

 

「よし、最後よ!回せ、休息はすぐそこよ!」

 

〈サークル展開、霊基検索───該当!〉

 

「はえぇっ!」

 

確かに早い。

 

〈クラスセイバー、顕現します!〉

 

セイバー…誰かいたかな?ってこの人は…

 

「セイバー、“イアソン”。召喚に応じて参上してやった!私は勇者であるがその前に船長だ。いいか。くれぐれも前線には出すなよ?絶対に出すなよ!?」

 

「それフラグですよ?」

 

「うっさい!とにかく前線には出すな、分かったな!?マスター!」

 

あ、マスターとして認めてはくれるんだ…うん、このイアソンさんは大丈夫そう。吐き気とかないし。……っていうかセイバー!?船長や黒髭さんみたいにライダーじゃなくてセイバーなの!?って、それはとりあえず置いておいて…

 

「よろしくお願いします。」

 

「…おう。」

 

「ふ、落ち着いたものよな。さて、今回はこれで終わるとするか。」

 

やっと、終わったぁ…




正弓「ロンドン開始も近いですね…」

裁「あ、そうなんだっけ…?」

正弓「ですねぇ…出番も近くなってくるのでしょう」

裁「…あぁ、そっか。」


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第164話 休息中の王の一幕

正弓「ちょっとだけカルデアにいる人たちに視点を向けたいみたいです。」

弓「ふむ。」


……

 

………

 

…………あ。どうも皆さんお久しぶり。まったく気づかなかった。

 

観測者です。本気で久しぶりに呼ばれた気がしたんだけど……まぁいいか。

 

で、今私が見てるのは───

 

 

ピピピピ───

 

 

〈時間切れです。〉

 

「…だ、そうだ。貴様の一撃、我に届くことはなかったようだな───天草四郎時貞。」

 

「……まったく、手加減、されて、なお、一撃すら、与え、られない、なんて……」

 

「1つ間違いを正せば、先の我の出力は弓の我と比べれば十分手加減していない部類に入るが。そも、存在しなかったクラス故か出力が不安定であるのだ。…だが。その不安定な出力さえ対処できぬようでは、貴様の望みなど叶わぬであろうよ。」

 

あ、英雄王がため息をついた。

 

「やれやれ───廊下にて対面し、即座に“貴方の所有する聖杯をいただきたい”等とのたまう故、少しは腕に覚えがあるのだろうと思い、時間を作ってやったというものの。これではただの時間の無駄ではないか。」

 

あ、ちなみにここはカルデアの第五シミュレーションルーム───通称“決闘場(デュエル・アリーナ)”。他のシミュレーションルームみたいにエネミーの湧出機構とかがあるんじゃなくて、サーヴァント対サーヴァント、サーヴァント対人間、人間対人間なんかの…まぁ、“デュエル”ができる場所。

 

「だが、我を標的に据えて正面から狙ったのは評価してやろう。中々肝の据わった男よな。」

 

「……あなたには、暗躍も策も無意味だと悟りましたので。せめて自らの総てをかけて、とは思っていたのですが…」

 

「不穏分子の対処も我の仕事よ。……そら」

 

金色の波紋が展開して大量の聖杯が落ちる…うわぁ。

 

「“貴様の所望する品”はこのように掃いて捨てるほどある。貴様が我を下せば、すぐにでも手に入ろうよ。」

 

「……意地の悪いお方だ。それができれば苦労はしないと言うのに。」

 

「反逆の自由くらいはくれてやる。貴様に価値ありと認めたならば、この程度の容器の1つや2つ、くれてやろう。」

 

「……」

 

「あぁ、オルガマリーやミルドなどのカルデアの者達に手を出すことは許さぬ。アレらは全て我の財故な。貴様の手垢などつけさせぬわ。」

 

観測してる私でも驚いたんだよねぇ…英雄王が部屋の外に出た瞬間英雄王の目の前にいて、“貴方の所有する聖杯をいただきたい”って言い放ったんだもの…結果は、これだけど。

 

「…なるほど。貴方を倒せば総てが手に入り、逆に倒さねば何も手に入ることはない…と。分かりました。我が悲願の成就には、貴方に挑むこととします。…しつこいですよ、私は。」

 

「よい、許す───許すついでに1つ答えよ。」

 

「?」

 

「召喚の折───貴様はオルガマリーだけでなくミルドにも目を向けたな。」

 

そういえば、天草四郎時貞はオルガマリー・アニムスフィアとミラ・ルーティア・シュレイドを交互に見つめてたっけ。

 

「オルガマリーはジュリィめが聖杯を与え、本体が聖杯となっている故に貴様が目を向けるのもわかる。しかし、ミルドは聖杯ではないはずだ。答えよ。なぜ貴様はミルドにも目を向けた?」

 

あ……そう言われてみれば。

 

「その事ですか…いえ、彼女から聖杯と似たような雰囲気を感じましたので。」

 

「ふむ…そうか。」

 

「なにか気になることでも?」

 

「……あやつは頑なに自らのことを話そうとせぬのでな。いくつかの情報から答えを導くしかないのだ。ルーラーの真名看破もそこまで効いておらんであろうからな。」

 

「それは流石に……」

 

「無い、とは言いきれぬぞ。あやつの中には名乗った名以外の名があるのかもしれぬ。ハンター共は規格外故、真名看破や神明裁決を無効化してもおかしくあるまい。マスターの令呪を無効化できるサーヴァントいることであるしな。」

 

「……サーヴァントの域を越えていませんか、それは。」

 

「魔力不要という時点で既にサーヴァントの域は越えているであろうよ。」

 

あー……ん?誰か来る。

 

「失礼します。麻婆はいりませんか?」

 

「……ゑ?」

 

「…ジャンヌか。麻婆の出前など頼んではおらんが。そしてそちらの黄色い方を寄越せ。」

 

英雄王がそう言い、麻婆豆腐の黄色い方をジャンヌ・ダルクから受けとる。もう一方は───赤い。超赤い。見てるだけで目が痛い。

 

「これは───」

 

「?新商品です!」

 

「その外道麻婆のようなもの、どこで作った。」

 

「キッチンですが…英雄王に今渡したのは従来のもので、こちらはオルタとの共同開発です!なんでも、私達を焼いた炎を再現するとか……天草さん、温めますか?」

 

「いえ、結構です…」

 

「ふ。それではジャンヌ、我は他の用事があるゆえ、これで失礼するぞ。」

 

そう言って英雄王は第五シミュレーションルームを退室する。

 

 

「─────!!!」

 

 

声無き悲鳴が上がったのはそれからすぐのことだった。

 

「くっくっく……まさかアレの最初の餌食になるのが我ではないとは。酒が旨いというものよ。ふはははは!」

 

高笑いしながら歩いていって───着いた先は整備室。

 

「すまぬ、遅くなった。」

 

「……」

 

「む?六花?」

 

「んあ?あぁ、すまねぇ。気づかんかった。」

 

整備室の中にいたのは藤丸六花。大型の二輪車を前に、パソコンを弄っていた。

 

「よい。それだけ熱中していたのであろう。」

 

「ん~…それなりに難しいんだよな……人理修復終わったらリッカに大型取らせるか…」

 

「しかし大型二輪免許を取れるのは18歳からであろう。」

 

「日本じゃな。側車に人を乗せる時、側車に乗る人に免許必要だったかはちと忘れたが…」

 

「ふむ……ここにおいておくぞ。」

 

「ん?おお。」

 

英雄王は波紋を展開して二輪車を置いた。

 

「どれくらいかかるのだ?」

 

「そうだな…ま、大体1ヶ月位あればなんとかなる可能性はある。あくまでも“可能性”だがな。流石に初作業じゃどれくらいかかるか予測つかん。」

 

「ふむ…第4の特異点は既に観測されていたな?」

 

「あぁ、決行予定は3日後だが…それがどうかしたか。」

 

「……いや。無理はするなよ、とな。」

 

「大丈夫だ。休息込みで改造作業してるからな。」

 

「そうか。」

 

それは大丈夫だと言えるのかな……

 

「……エンジンは大本のでいいんだが。初期段階は約129km/h出ればいいからな。問題は加速───加速性能か。それと人体の防護機構───これは結界でなんとかなる。」

 

「そも、129km/hは法律違反であろう。」

 

「それは日本だ。外国だと130km/hが制限とかってあるんでな。ん~………魔力取り込ませてブースターとするか……?」

 

藤丸六花が色々と弄っているうちに、整備室に入ってくる人影があった。

 

「お父さん、すこし休んではどうですか?もうお昼ですよ?」

 

白髪の黒ワンピ…確か、アドミニストレータ。

 

「ん?もうそんな時間か。」

 

「どうぞ、ギルガメッシュさんも。」

 

「む、すまぬな。……む?カルデアで見たことの無い料理だ。一体…?」

 

「…アドミスの手料理か。」

 

「はい。」

 

「……いただきます」

 

手料理…AIが手料理!?

 

「料理用でもないAIが料理を作れるものなのか?いただこう。」

 

「まぁ、たまに教えてるからな。それに肉体があるんだ、作れないわけねぇだろ。」

 

「……ふむ。思ったが、どうやって肉体を生成しているのだ?」

 

「魔力とコアデータ、イメージを触媒に肉体を構成しているんです。サーヴァントの皆さんとほとんど似たようなものですよ。」

 

「今となってはほとんど人間と一緒だけどな。イメージが強固になれば強固になるほど人間に近づく。それでもAIとしての能力は失わず、その中に残る…って感じか。」

 

「ふむ…兵器に人の心を持たせるのはあまり良いことではないのだろうが……アドミニストレータ。貴様は、AIであるが人として産み出されたのか。兵器としてではなく、六花の娘の1人として。」

 

その問いに、アドミニストレータはすこし首をかしげてから頷いた。

 

「そうですね。特に私と妹はお父さんと強い関わりを持ってますから、直系の娘と言っても過言ではなさそうです。」

 

「魂の分割、か。男1人の魂から2人の娘が生まれるなど。貴様の魂の本質は女だったのではないか?六花。」

 

「ほっとけ。…ん、腕を上げたな。」

 

「本当ですか!?」

 

「この程度で嘘なんかつかねぇって。」

 

なんというか…

 

「そうしてみると本当の人間の父娘のようよな。」

 

「そうか?正直まだ未成年なんだがな。結婚可能だが。」

 

「私達も生まれてそんなに経ってませんからね…」

 

「…そういや、アドミス達の名前も決めないとな…」

 

不意にそんなことを呟いた。アドミニストレータが不思議そうな顔をしてる。

 

「名前…ですか?私はいつも皆さんからアドミスと呼ばれていますし、それでいいのでは……」

 

「あぁ、そうじゃなくてな…人間として生活するにあたっての名前だ。“藤丸 アドミス”とかは流石に呼びにくいだろ。」

 

「あぁ…なるほど……私はお父さんの娘ですからそうなりますよね…」

 

「英語名ならまだいいかもしれないが、日本名だとな……」

 

「……考えてみます。」

 

「ん。…ごちそうさん。」

 

「うむ。それなりに美味であった。」

 

「そうですか…それでは失礼しますね。」

 

そう言ってアドミニストレータは退室していった。

 

で、この後はずっとここで作業してたからここで終わり。じゃあね~




正弓「調子が戻ってきたみたいですね。」

裁「そうなの?」

正弓「そうみたいです。」


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第165話 休息中の主の一幕

正弓「今回はリッカさんに視点が向きますよ」

弓「全三回よな。」


「……!」

 

イズチの鎌が私の側を通る。直後に悪寒を感じて思いっきりバックステップ。

 

 

───ガガガガガッ、シュカカッ

 

 

私がいた場所に突き刺さる複数のイズチの鎌とイズチ以外の刺───ナルガクルガの刺。

 

「……っ……はぁっ、はぁっ…」

 

ナルガクルガの刺はただの妨害。私が真に対処すべきはイズチ───これは、弱体☆1の昇格直前クエスト“イズチの群れに対処せよ”。ナルガクルガの放ってくる刺を避けながらイズチ10体の撃破を目指す、そんなクエスト。

 

「…15分、か。」

 

視界の片隅に表示されているタイマーをみてそう呟く。制限時間は20分───最近はずっとこれに苦戦してる。

 

「……っ!」

 

直感が反応してサイドステップ。

 

 

───シュカカッ

 

 

ナルガクルガの刺が刺さった音を確認し、地面を蹴って飛び出す。

 

「───“ソニックリープ”…!」

 

短く叫び、ソードスキルを起動する。それに反応したのがイズチが構えるけど、私の方が早い。

 

「ギィィッ」

 

短く断末魔を上げて倒れる───これで、残り4体。短めの技後硬直が終わったのを確認して即座にバックステップでイズチの襲撃とナルガクルガの刺を避ける。

 

「ネアキちゃんっ!」

 

『わかった……』

 

使えるものはなんでも使え。それは、アスラージさんが言ってたこと。だから、シミュレーションにおいてもそれは許可されている。私が使うは預言書の四精霊、氷の精霊の精霊魔法───!

 

『“氷の精霊、その力ここに振るえ(ヨークレスプラッシュ)”───凍えなさい』

 

強い冷気と共に氷がイズチ4体を襲う───これで、イズチ達は瀕死。瀕死、とはいっても───今の武器だとあと2,3撃叩き込まないと撃破できないけど。別に精霊魔法が弱いわけじゃなくて───いや、枷付きの強化装備無しだからまだ弱いんだけども───ネアキちゃん達が私のために威力を抑えてくれてる。

 

「……剣技増幅(スキルブースト)───」

 

剣が青い光を放つ───起動するは最近実装できた片手剣四連撃!

 

「───“ホリゾンタル・スクエア”!」

 

私を囲むように4回の水平斬り。実際ソードスキルって同じ名前の技でも表現的にいくつか種類があって…まぁ実際ちょっとだけ解釈が面倒くさい。予想通り、今ので吹っ飛んだみたいで、ちょっとだけ長めの技後硬直を挟んでイズチに向かってステップ。

 

「───魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・狩人の一策”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“怪力の丸薬・改”。対象指定(ターゲットセット)、“藤丸 リッカ”───」

 

新しい魔術礼装に切り替え、自分に強化をかける。“魔術礼装・狩人の一策”───新大陸製のハンター装備一式を魔術礼装に仕立て上げたもの、って話。マスタースキルは“怪力の丸薬・改(攻撃力上昇)”、“忍耐の丸薬・改(防御力上昇)”、“遠投の一撃・打(スタン)”の3つ。今は一応これともう1つ、魔術礼装があるんだけど…そっちはほとんどサポート用だから今は使わないでいいかな。あと2つ開発中みたいだけど……

 

「落ち着いて───シィッ!!」

 

イズチの鎌を回避し、後ろに回る。そこからバックスタブで致命───はBloodborneだけど。これで、残り3体。前方ステップでイズチ2体の鎌とナルガクルガの刺を避けて、振り返ってバックステップ2回、突進してきたイズチをパリィ。そこから致命───またこれもBloodborne…というかフロム系列のゲームでよくやるけど。これで、残り2体。

 

「……効果切れた」

 

怪力の丸薬・改の効果が切れたのを感じ、納刀してバックステップ。魔術礼装は“魔術礼装・狩人の一策”のままだから───

 

主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“忍耐の丸薬・改”。対象指定(ターゲットセット)、“藤丸 リッカ”───」

 

マスタースキルを起動し、防御力を得る。忍耐の丸薬・改は同時にスーパーアーマーも得られるけど…私が使うのは───

 

「……捕まえ、たっ!」

 

イズチの鎌───を避けて鎌の根本を掴み取る。

 

「せぇぁっ!」

 

そこから地面への叩きつけ、浮かして蹴りで叩きつけ───そのコンボで撃破判定になる。これで残り1体。

 

「───あと、1分」

 

制限時間は刻々と近づく。抜刀し、壁に向かって走る。イズチはそれを追ってくるから───

 

「───っ!」

 

一瞬壁を駆け上がり、イズチの上から───私の全体重を乗せた落下致命。これで、終わり───

 

〈───クエスト達成確認。お疲れ様、リッカさん。システムを停止させるね。〉

 

ミラちゃんのアナウンスが聞こえると同時に撃破判定になってるイズチ10体がポリゴンの欠片となって消滅し、私の視界に表示されていたタイマー表示なども消滅した。刺を飛ばしてたナルガクルガは私に近づいてきた。

 

〈あなたもお疲れ様。戻っていいよ。〉

 

「シュバァァァッ」

 

そう咆哮してからナルガクルガは消え去った。この段階じゃナルガクルガは出ないからミラちゃんが召喚してたんだよね。ミラちゃん曰くナルガクルガが出るのは下位かららしい。

 

〈さてと。これで昇格クエスト───弱体☆2緊急クエストへの挑戦権が得られたわけだけど。どうする?〉

 

「……流石に休む」

 

〈…まぁ、それがいいかな。結構キリがいいし、そろそろお昼だし。〉

 

ミラちゃんの言う通り、そろそろ12時になろうとしていた。

 

「……ん、転移完了。」

 

「…ミラちゃんの術って空間転移もあるの?」

 

光と魔方陣と共に現れたミラちゃんに聞くと、軽く頷いた。

 

「うん。あまり使わないけど。」

 

「あ、そうなんだ…」

 

「私のいた世界には各地に行くための転移ポータルがあるからね。たまに起きる魔力異常とかで転移ポータルが使えない場合は飛行船があるし。」

 

「へぇ…」

 

っていうか魔力異常ってたまに起こるんだ…

 

 

ppppp───

 

 

「……通信?」

 

「…?私には来てないけど…」

 

私の通信機に来た通信依頼に、応答操作をする。

 

「はい、藤丸です」

 

〈あ、リッカさん。今お時間ありますか?〉

 

通信相手はジュリィさんだった。

 

「時間…はあるけど。何か…?」

 

〈すみませんが、私の加工場の方へと来てもらってもいいですか?以前から作成していたものが一応形になりましたので。〉

 

……あぁ、なるほど。

 

「わかった、すぐに行くね。」

 

〈お待ちしています。…お昼ももうそろそろですので、お昼ご飯も用意しておきますね。〉

 

「お手柔らかに。」

 

ハンター用だからなのかは分からないけど、結構こってりしてること多いんだよね。

 

〈分かっています。それではお待ちしていますね。〉

 

そう言って通信が切れる。私はミラちゃんにお礼を言って、第六シミュレーションルームを後にした。

 

 

「ええっと……ジュリィさんの加工場は……ここだ」

 

ダ・ヴィンチさんのショップやメディアさんの工房などが並ぶ区画。その一角に、ジュリィさんの加工場兼食事場はある。

 

「……お邪魔します…」

 

「あっ!お待ちしてました!」

 

私が中に入ると、ジュリィさんが本を閉じて立ち上がった。

 

「先にご飯にしますか?用件の方を終わらせますか?」

 

「……一瞬ちょっと身構えたけど。まぁいいや。」

 

「?」

 

分かってなさそう…多分全く知らずにやったんだろうなぁ…“お風呂にする?ご飯にする?それとも…”に近い言い回し。

 

「先に用件の方を終わらせたいな。」

 

「分かりました。それで…完成したのがこちらです」

 

ジュリィさんはアイテムポーチから取り出したのは小さなオルゴール───つまり、“自奏楽器”。

 

「本来の機能である自動楽曲生成機能を外し、好きな時に好きな楽曲を鳴らせる機能を追加しました。耐久性もあるのでいつもの特異点に持っていけますよ。」

 

ジュリィさんが作ろうとしていたのはこの楽器。実質、高い耐衝撃性を持つ音楽プレイヤー。私が好きな時に好きな曲を聞けるように、って作ってくれたみたい。

 

「ただ…1つ問題があって。」

 

「…?」

 

「まだ試作品である影響か、簡単な楽曲追加の方法が確立されていないんです。本来の自奏楽器は追加の方法も何も自分で作り出して記憶しますから。ですからこの自奏楽器はここに来ていただかないと新しいものを追加できないのです…」

 

「あぁ…なるほど」

 

「すみません。私の研究不足です。」

 

その言葉に私は首を横に振る。

 

「ジュリィさんは悪くないと思うよ?自奏楽器ってギルド内でもよく分かってないんでしょ?」

 

「…はい、まぁ。」

 

「それでこれならいいと思うけど。」

 

「そう、ですか?」

 

「機能はちゃんと正常に動くんだよね?」

 

私がそう聞くとジュリィさんは頷いた。

 

「はい。少し前に第二シミュレーションルームで冰龍“イヴェルカーナ”と対峙し、“壮麗纏いし銀盤の貴人”が流れたのが確認できましたから。」

 

イヴェルカーナ……って、確か氷を操る古龍だっけ。

 

「…やっぱりすごいなぁ…ジュリィさん達は。」

 

「私なんて大したことありませんよ。」

 

大したことない…か。私達からしたら相当すごいと思うんだけどね。

 

「冰龍“イヴェルカーナ”…あの古龍の調査の際、相棒に怪我をさせてしまったんです。…私の、不注意で。相棒は笑って許してくれましたけど。それ以来、私は編纂以外の方法でも相棒の力になると誓ったんです。…それが。私がハンターを目指すきっかけ。私が相棒に師事するきっかけです。」

 

「そうだったんだ……」

 

それからしばらく話をして、ご飯を食べて解散した。




正弓「ん……眠くなってきました」

弓「寝たらどうだ?」

正弓「…少し寝ます」


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第166話 休息中の本の一幕

正弓「……う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

裁「……?」

正弓「ふ、腹痛が……ご本人と感覚を共有する私はダイレクトに伝わるのです……」

裁「大丈夫……?」

正弓「い、一応……」


第五シミュレーションルームにて───

 

「この……っ!」

 

「……」

 

竜の魔女の炎が黒衣の少女に襲いかかる。

 

「……まだ、甘いわ。」

 

黒衣の少女は手を振り、氷を放つだけで対処する。その氷は、魔女の炎を相殺する───

 

「……これでも、強くなってはいるはずですが。」

 

「…ええ、ええ…確かに、貴女が召喚された時よりは強くはなっているわ。だけれど…少し、出力に迷い…ムラがあるわ。何か悩んでいるの?」

 

黒衣の少女───ナーサリー・ライムが竜の魔女───ジャンヌ・ダルク・オルタにそう問う。

 

「…悩み、ですか。そうですね…強いていうなら全く成長しない自分に、でしょうか。」

 

「…そう。それでも、貴女の霊基は強化されているのでしょう?」

 

その問いにジャンヌ・ダルク・オルタが小さく頷く。

 

「だったら、出力が甘いそれは貴女の精神状態が影響しているんじゃないかしら。もしくは…貴女の自己定義が揺らいでいるか。」

 

その言葉が放たれた直後、ジャンヌ・ダルク・オルタの肩が震えた。

 

「……図星のようね。」

 

「…」

 

「…サーヴァントの先輩として、貴女に1つ教えておくわ。」

 

ナーサリー・ライムは自分の手を見て言葉を紡いだ。

 

「“自己”を強く定義なさい。自分がどうありたいか、自分はどういう存在なのか───自分は何を望むのか。貴女を強く、しっかりと、確かに───貴女の思い描くこれが“自分(ジャンヌ・ダルク・オルタ)”だと定義なさい。そうすれば、形の無かったものでも形を得ることができるの。…この、あたし(ナーサリー・ライム)のように。」

 

「自己定義……」

 

「えぇ。人間に言えることだけれど、あたし達サーヴァントにも言えること。強い自己定義が、存在を確かなものとする。存在の在り方を強化する。今の貴女は、貴女を定める弱い定義のせいで在り方が弱まっているだけよ。」

 

ナーサリー・ライムはジャンヌ・ダルク・オルタに近づき、背伸びしてジャンヌ・ダルク・オルタの胸の中心───膻中(だんちゅう)といわれるツボがある辺りに手を触れた。

 

「全ての答えは貴女の中に。全ての選択は貴女の中に───貴女の在り方は貴女自身が決めることよ。」

 

「私の…」

 

「…宝具を撃ってみなさいな。あたし(アリス)に。」

 

ナーサリー・ライムはジャンヌ・ダルク・オルタから距離を取ってそう言った。

 

「…」

 

「それではっきりするわ。今の貴女がどれだけ弱いのか。」

 

「言って、くれるじゃないの───手加減なんてしないわよ……!」

 

「…やっぱり、しおらしい貴女はあまり似合わないわ。来なさい、竜の魔女。貴女の今の全力───受け止めてあげるわ。」

 

そう微笑んで身構えるナーサリー・ライムにジャンヌ・ダルク・オルタが剣を振り上げる。

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮───!!」

 

その言葉とともに周囲が炎に包まれる。

 

「“吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”!」

 

真名解放と共に襲いかかる炎と槍───ナーサリー・ライムは襲いかかる炎はそのまま受け、襲いかかる槍は素手で弾く。

 

「……やっぱり、軽いわ。凍りなさい───“三月兎の狂乱”」

 

それに対し、ナーサリー・ライムが発動した氷の魔術が炎を相殺した。

 

「これで分かったかしら?貴女の炎は物凄く脆く、そして弱い。これは貴女の霊基が弱い、それだけが原因ではないはずよ。」

 

「……そう、ね。」

 

「……疲れちゃったから今日はこれで終わり。甘いものでも食べに行きましょう?……あぁ、というか店長は貴女だったわね。」

 

そう言ってナーサリー・ライムは第五シミュレーションルームを退出し、カルデアの飲食店系列が並ぶ方へ向かった。

 

「……ここね。」

 

たどり着いたのはスイーツ店“Doux jeanne”。慣れた様子で入店する。

 

「いらっしゃい……あぁ、ナーサリー殿か。」

 

「こんにちは、ヘラクレスおじさま。いつものようにお願いできるかしら?」

 

「あぁ、かまわない。…店長は?」

 

「少ししたら来ると思うわ。…いつもの場所にいるわね。」

 

「すまない、準備が出来たら持っていこう。」

 

ヘラクレスの言葉を聞いて微笑み、窓際の可愛らしい椅子に腰かけた。

 

「……ごめんなさい。お待たせしてしまったわ、あたし(ありす)。」

 

「───いいのよ、あたし(アリス)。時間はどれだけでもあるし、ずっと一緒だもの。あたし(ありす)あたし(アリス)の中に在る…あたし(ありす)あたし(アリス)と共にある。そう定義したのはあたし(アリス)でしょう?」

 

テーブルを挟んで対面、そこにいるのは青い服のナーサリー・ライム───否、“ありす”。

 

「失礼する。紅茶とスイーツのお届けだ。」

 

「「ありがとう。」」

 

2人が同時に答えると、ヘラクレスが苦笑した。

 

「ありす殿もごゆっくり。」

 

「だったら、追加で頼んでもいいかしら?」

 

「えぇ、何なりと。」

 

会話が成立する───この“ありす”は実体だ。まだ完全に死んではいない別世界でのナーサリー・ライムのマスター。

 

「ごめん…遅れました、ナーちゃん、ありすさん。」

 

そこにやってきたのは現マスターたる藤丸リッカ。その言葉にありすが微笑む。

 

「大丈夫よ。あたし(ありす)あたし(アリス)もさっき来たところだもの。さて、全員揃ったことだしお茶会を開きましょう?」

 

ありすがそう言い、3人のお茶会が始まった───ヘラクレスは遠くからそれを眺めていた。




正弓「一応落ち着きました……」

弓「ふむ。これで終わりか?」

正弓「そうですね…これで幕間は終わりで次から第四でしょうか。あ、33,000UA突破ありがとうございます。」


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第四特異点 死界魔霧都市ロンドン 定礎復元
第167話 夢は私に何を伝えようとしているの?


正弓「いつも恒例の夢から始まりますよ。」

裁「そういえば夢って何か意味あるの…?私も生前よく見たけど…」

正弓「ご本人───お母さんの書き起こす物語において、“夢”というものは何かしらの意味を持ちます。例えば“過去の回想”。例えば“未来の予知”。例えば“別世界の観測”───例えば、“警告”。」

裁「警告…」

正弓「時空間、世界境界を越える特殊な通信回線。それが“夢”なんです。」


今まで。

 

この長い時のなかで、我々は───

 

多くの悲しみを見た。多くの悲しみを見た。多くの悲しみを見た。

 

地獄を見た。憤怒を見た。嫉妬を見た。怠惰を見た。悲劇を見た。嘆きを見た。

 

ありとあらゆる■■の悪性を見た。

 

■■■■は何も感じなかったとしても、“私”いや、“我々”はこの仕打ちに耐えられなかった

 

───貴方は何も感じないのですか。この悲劇を正そうとは思わないのですか

 

───特に何も。神は人を戒めるためのもので、王は人を整理するだけのものだからね

 

───他人が悲しもうが己に実害はない。人間とは皆、そのように判断する生き物だ

 

そんな道理(はなし)があってたまるものか。そんな条理(きまり)が許されてたまるものか。

 

私たち(われわれ)は協議した。俺たち(われわれ)は決意した

 

───あらゆるものに訣別を。この知性体は、神の定義すら間違えたのだと。

 

私たち(われわれ)は、そう定義した。

 

故に───

 

私たち(われわれ)はこの偉業を遂行すると決定した。

 

 

 

 

崩壊した城があった。

 

傷ついた白い竜と、倒れ伏す幼い少女がいた。

 

傷ついた白い竜は身動きをせず、幼い少女もまた動かなかった。

 

同時に、双方とも生きているのは紛れもない事実であった。

 

───不意に、幼い少女が身体を起こした。

 

それに反応してか、白い竜も頭を上げた。

 

竜と少女は見つめあった。

 

竜は顔を伏せ、少女は恐る恐るといった様子で竜に近づいた。

 

少女は理解した───この竜は瀕死であると。

 

竜は理解した───この少女は瀕死であると。

 

竜と少女は言葉もなく、ただそのまま寄り添った───

 

 

 

 

「フォーウ、フォーウ!」

 

「痛い…やめて……」

 

フォウ君に強めに蹴られて意識が覚醒した。

 

「………ん。朝……なんか、変な夢を見た気がする。」

 

特異点攻略開始前に必ず見るよくわからない夢。最初は預言書で、次がよく分からない男性との会話。3回目が私の過去で、今回は…何かに怒っているような夢と…白い竜の夢。いつも起きた直後はすごくぼんやりしてて内容を思い出せないんだけど……今回ははっきりと思い出せる。

 

「……あれは一体なんだったんだろう…」

 

そもそも、私が見ている夢は一体なんなんだろう。…契約しているサーヴァントの過去を夢で見ることがある、みたいなことは聞いたことがあるけど。

 

「……ロンドン、だっけ。次は。」

 

準備をしながら昨日お兄ちゃんがBloodborneをしながら言ってたことを思い出す。“明日から始まる特異点攻略の目的地はイギリスの首都ロンドン───その1888年、つまりは産業革命時代のロンドンだ。特異点Fを除いた7つの人理定礎、その4つめ───折り返し地点。折り返し地点なんてものは大体強い奴らが出てくるもんだが……大丈夫だと信じるぞ。無事に帰ってこい。”…私も、不安はあったけど。

 

「……よし。」

 

『……行くの?』

 

「うん。」

 

身支度を終えて、扉を開く。

 

「…行ってきます」

 

室内に声をかけて管制室に向かった。

 

「……そういえば。」

 

夢に出てきた、竜に寄り添ったあの少女。あの後ろ姿、あの横顔───

 

 

私は、どこかで見たことがある。そんな、気がする───




正弓「次回はミーティングですね。」

弓「時間がかかることよな。」

正弓「そうですね…それにしてもちょうど9月からロンドン開始ですか。」

弓「キリがいいのか悪いのか。分からんな。」

正弓「それは確かに…そういえばご本人はやっとキャメロットを突破したようですよ。」

裁「令呪使ってごり押したんじゃない?」

正弓「……まぁ。そろそろ聖杯転臨使ってもいいんじゃないですかねあの人は。」

裁「……まぁ、確かに。でも聖杯いくつ持ってるの?」

正弓「……18個持ってるそうです」


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第168話 第四グランドオーダー

正弓「さてと……考えますか。」

裁「作りますか?」

弓「鍛えるか?」

正弓「……」


「藤丸リッカ、入ります。」

 

そう言って私は管制室に入る。既に全員揃っていた。

 

「ふむ…やっぱり難しいね。君達の世界の技術を再現しようとしてもかなり時間がかかる。君達の世界の技術は君達に任せるのが最適なんだろうけど……」

 

「僕らはうまく扱えないからな。加工と食事に関しては既にジュリィ殿がいるが…ジュリィ殿でもできないことはある。」

 

「はい…私でもあれを習得することはできませんでした。」

 

「困ったね…っと、全員揃ったかな。おーいロマン、立ったまま寝るとか器用なことしてないでミーティング始めるよ?」

 

ダ・ヴィンチさん…貴女はまずその“More Deban”看板を外してください。

 

「ふぁっ…あぁ、すまない。それではミーティングを始めよう。」

 

「しっかりしなさい、ロマニ。まずは調べたことの報告からよ。」

 

「手短に話すがよい。」

 

「…まぁ、時間もないことだしいいけどさ。まず、結論からいってソロモン王の時代───紀元前10世紀に特異点はなかった。これはつまり、ソロモン王の時代は正しい歴史だということだ。」

 

「まことに遺憾だけど、ロマニの言う通り七十二柱の魔神を名乗る存在とソロモンは無関係だということさ。」

 

「ソロモンが七十二柱の魔神を使役しているのならば必ずその痕跡が発見される。紀元前10世紀から未来へ向けて使い魔を放っているという流れがね。それが発見されないということは───」

 

「レフ・ライノールや他の魔神を名乗る連中は全く別の、“何処かの時代”から現れている、無関係の連中だ。もっとも───」

 

「…サーヴァントとして使役されている場合は別、ですね?」

 

そのマシュの言葉にダ・ヴィンチさんが頷く。

 

「そうそう。リッカちゃんのように、自らの時代で英霊を使い魔にしてしまえばいいのさ。その英霊がもし召喚術を使う英霊だった場合はその英霊が使役する存在も自らの配下にできるからね。ソロモンを召喚した場合は七十二柱の魔神も配下にできるだろうさ。そう考えると、ミラちゃんの使役する獣魔達はリッカちゃんの配下になるわけだけど───」

 

「……まぁ、間違いではないよ。でも正直な話をすると私は獣魔達と“友人”や“家族”というような関係で一緒にいるから契約の効力はそこまで強くない。反抗しようとすればすぐに反抗できるし、契約者である私のことだって殺すことができるからね。」

 

「…わぁお。よくそれで信頼していられるね?」

 

「強い絆はどんな主従契約にも敵わない契約になるから。それは、ルーパスさんとリューネさんも分かるでしょう?」

 

その問いにルーパスちゃんとリューネちゃんが頷いた。

 

「“絆石”はあくまで絆を結ぶための補助に過ぎない。真に絆あるならば、絆石がなくともモンスターはライダーに応えるよ。」

 

「それを、僕達はよく知っているからな。」

 

「…そう。」

 

「…話を戻そう。レオナルドが言った七十二柱の魔神を配下にできる、という話だけど…それは七十二柱の魔神という使い魔が本当に実在するのならという話だ。だいたい、ソロモン王がそんな悪事に荷担するかどうか…まぁ、生前はともかくサーヴァントなら何をしてもおかしくなさそうだけどさ。」

 

「……ドクター。1つ聞かせて。」

 

「ん?」

 

「ソロモン───確か、魔術関係でも有名な人だったって記憶してるけど。もしも───もしもだよ?七十二柱の魔神を使役した、あるいは紀元前10世紀から未来に使い魔を飛ばした、その()()()()()()っていう線は……ない?」

 

「───痕跡の抹消?」

 

確認するように私に聞いたドクターに頷く。

 

「───いや。あり得ない、と思うよ。魔術の痕跡を消すなんてそれこそ魔法だと思うし。全ての魔術を修めたとしてもそれは……どう、なんだろう。」

 

「そんなことされちゃ追跡のしようがないね。さすがにそんなことはない、と私でも思いたい案件だ。だけど…着眼点はいいかもしれないね。」

 

「…とりあえず、この件は一旦保留ね。師匠、レイシフトの準備をお願いします。」

 

「ん。ばいばーい。」

 

そう言ってダ・ヴィンチさんは管制室の奥に行った。

 

「それはそれとして……マスターよ。」

 

「うん?」

 

「貴様、この休暇の間何をしていた?」

 

えっと、この休暇の間は……

 

「マリーの魔術回路の移植と……マシュの様子見に行くのと……クエスト消化と……ありすさんとナーちゃんとのお茶会と……あとは……あ、そうだ。穿龍棍と太刀をルーナさんに教えてもらってた。」

 

「ほう?」

 

「ルーナさん曰く私は筋がいいらしいよ。もしかしたら一番私に合ってるのは穿龍棍かも、とも言われたけど。」

 

穿龍棍───フランスでルーパスちゃんが使っていたトンファーみたいな武器。一通り全武器種習ったけど、軽い武器かリーチが短めの武器が私には合ってるみたい。付け加えると手数で圧倒するような武器が。現時点では弓を筆頭に穿龍棍、双剣、片手剣。そこから太刀、狩猟笛、操虫棍、ガンランス───とかって繋がっていくんだけど。どの武器でもちゃんと扱えているらしいからもっと上手になればハンターになることもできるんじゃないか、ってアスラージさんが言ってた。

 

「ふはははは!ハンターになる、か!面白い!ただの現の、この世界の人間であるマスターめがルーパス達と同じハンターになるとは!いや、選択はマスターに委ねられるがこれではますます婚期を逃そうな!」

 

「うっ…」

 

「……して、ルーパス。マスターめ自身の戦闘能力は如何ほどだ?」

 

「知ってると思うけど弱体☆2。大型モンスター…ううん、中型モンスターの“ドス”系列が出てくるレベルを私達の世界の武具を使わないでソロ攻略できるくらい。」

 

一応モンスターの強さ以外にクエストの難易度もあって、それぞれ“拠点クエスト”、“集会所クエスト”、“ギルドクエスト”、“拠点クエスト(武具制限)”、“集会所クエスト(武具制限)”、“ギルドクエスト(武具制限)”、“天文台クエスト”ってなってる。ギルドクエストと天文台クエストはまだ未実装なんだけど。

 

「ほう、貴様らの世界の武具を使わずにか。」

 

「うん。一応私達の世界のモンスター達が出ないシミュレーションルームで戦ってもらったら、ファヴニールとかの大型エネミーは倒せなかったけど、弱ったサーヴァントくらいなら倒せてた。」

 

「……ふむ。マスター、確か新しい魔術礼装などもあったな。」

 

その言葉に頷くとニヤリと笑った。

 

「魔術礼装の性能によっては前線に立つことも可能ということか。ふ、面白くなってきたではないか!」

 

「ですが…サーヴァントとの戦闘は危険です。」

 

「それは当然よな。故にマスター、油断・過信は禁物だと知ることだ。」

 

「分かってるよ。…私は、まだ無力だから。」

 

「それを無力とは言わぬのだが…まぁよい。してオルガマリー、次なる特異点を告げよ。」

 

「は、はい。えー…こほん。第四の特異点、それは19世紀───7つの特異点の中では最も現代に近いと言えるわ。でも、道理ではあるの。なぜなら、この時代をもって人類史は大きな飛躍を遂げることになったからよ。」

 

マリーが私達を見て言葉を紡ぐ。

 

「産業革命時代、絢爛にして華やかなる大英帝国───その西暦1888年。珍しいことに場所は首都ロンドンと特定されているわ。」

 

「……はぁ。」

 

ギルがため息ついた!?

 

「…気が乗らぬ。無駄が増えた頃ではないか。」

 

「そ、そう言わないでください……!」

 

「…我の知識が正しければ、その頃は馬車や鉄道などが存在するはずだ。しかし───オルガマリー。特異点───即ち異常があるのならば。使える保証がないのではないか?」

 

「…その通りです。特異点である以上、何が起こっているか分かりません。」

 

「いいなぁ…霧の都。ボクも行ってみたかった。リッカちゃん、シャーロック・ホームズに会ったらサイン貰ってきてくれないかな?」

 

「旅行じゃないのよ、ロマニ。」

 

「貴様は裏の補助を準備しているがいい。貴様という存在でも損失すればこちらには大きな損失となる。それを忘れるな、戯け。」

 

「いいじゃないか、くそう!」

 

「しかし、ロンドンか。…ケルト、ギリシャ、日本などならば面白そうであったものの。」

 

「あ…私もギリシャは行ってみたい。神殿とか巡れたらいいな。」

 

ギリシャ神話好きとしてはすごく行ってみたい。

 

「……まぁよい。元より気が乗らぬからといって引率を放り出すつもりなどない。そら、準備せよ。」

 

「マシュ?リッカを護りながら、貴女自身の身も守りなさいね?」

 

「はい…」

 

「…それでは、ギル。」

 

「うむ。聞け、皆の者!」

 

ギルの言葉に全員が気を引き締める。

 

「此度の特異点、限りなく現在に近い!故に観測・証明自体は今までよりも容易であろう!しかし忘れるな、現代と近いとはいえど特異点は特異点!人類史の転換点であることには間違いない!」

 

「「「………」」」

 

「努、自らの仕事を全うせよ!裏の仕事は表の心強い助けとなることを忘れるな!しかし、休息はしっかりと取れ!重要なときに動けないなどあってはならん!特にロマンと六花、貴様らだ!!」

 

「名指しかよ。」

「ボクもかぁ…」

 

「当然であろうがこの戯け!よいか、このカルデアに所属する貴様らに替えはおらん!貴様ら一人一人が替えの利かぬ唯一無二だと心に留めよ!」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

「レイシフトを起こせ!第四グランドオーダー、作戦開始よ!」

 

その言葉に私はコフィンに入る。

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

5回目のレイシフト。不安はある。だけど───

 

全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証 を 開始 します。

 

私は、必ず帰ってくる。そう誓って、過去へと飛んだ。




正弓「ちなみにリッカさんから見た武器の使いやすさはこんな感じです」


1位:弓
2位:穿龍棍
3位:双剣
4位:片手剣
5位:太刀
6位:狩猟笛
7位:操虫棍
8位:ガンランス
9位:ライトボウガン
10位:マグネットスパイク
11位:ヘビィボウガン
12位:スラッシュアックス
13位:チャージアックス
14位:ハンマー
15位:ランス
16位:大剣


弓「ガンランスは使いにくい部類ではないのか?」

正弓「だと思うんですけどね。これ見るとよく分かりますけど本気で軽量武器が上位なんですよね…」


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第169話 濃霧と反逆者

正弓「ん~……」

弓「どうした、正のアーチャー。」

正弓「あぁ、なんでもないですよ。報告に上がってきた情報をどうしようか悩んでいたところです。」

弓「ふむ。我の出られる場面ではないか。」

正弓「そうですね…」


「───濃い。」

 

レイシフト完了後。私の第一声がそれだった。

 

「…なんだこれは。霧の都、とはいうがこれほどの物ではないはずであろう。おまけに魔力を感じられる。紛れもなく人体に有害な代物よ。ロマン、報告せよ。」

 

〈わ、分かってるさ……おかしいな、確かに産業革命期だから煙や霧が空を覆うというのはおかしくない。マシュ、例の光帯は見えるかい?〉

 

「…はい、ドクター。しかし……この濃霧の中では、その光帯ですら視認しづらくなっています。」

 

〈視界不良…それも結構なレベルでなってるか。でもなぁ…そんなに即座に人体に有害なものじゃないはず、なんだが。〉

 

〈恐らくは聖杯か宝具か───どちらにせよ、人間には毒なのは紛れもない事実です。〉

 

「……そうか。だが───」

 

ギルが私、ルーパスちゃん、ジュリィさん、リューネちゃん、ミラちゃん、アルを見た。

 

「ここにいる人間達はそこまで影響を感じていないようだが。」

 

「所長、これは……」

 

〈…恐らく、リッカはマシュの影響を受けているのね。もしかしたらリッカ自身のスキルみたいなものが働いているのかもだけれど。〉

 

「ほう?」

 

〈正確にはマシュの中にいる英霊だけどな。護ることに特化しているような英霊だ、その加護が護る対象に向いてもおかしくねぇ。〉

 

〈そして、ハンターの人達は───〉

 

「…すみません、マリーさん。急なのですが少しだけ時間を貰っても?」

 

ジュリィさん?

 

〈確かに急ね…まぁ、いいわ。〉

 

「ありがとうございます。えっと……とりあえず、皆さんこれを持っていてくれますか?」

 

ジュリィさんが私達に渡してきたのは首飾り。黒い宝石がついてる。

 

「これは?」

 

「“対瘴の護石III”です。発動スキルは“瘴気耐性”。瘴気の侵蝕に対して護りを働いてくれます。……相棒が、龍気を感知しました。この濃度の霧…もしかしたら。」

 

ジュリィさんはそれ以上言わなかった。

 

〈…話を戻すわね。ハンターの人達は確かに人間よ。だけれど、スキルがあるのもまた事実よ。その影響でこの霧を無効化してる可能性があるわ。〉

 

「先程言った瘴気耐性のようにか。ならば無銘はどうなのだ?」

 

〈無銘さんにも何らかの護りが働いているようです。うまく確認は出来ないのですが…護りが働いているということは真実です。〉

 

「ふむ。それにしても擬似的な対毒スキルとはな。便利なものを手に入れたな、マスター。」

 

「うん…ありがとう、マシュ。」

 

私がお礼を言うと首を横に振った。

 

「い、いえ…私の中の英霊の力ですから……」

 

「関係ないよ。マシュが護ってくれてるのが大事だから。」

 

「…先輩」

 

「……?」

 

「先輩!今から告ります!よろしいですか!?」

 

「ふぇっ!?」

 

「暴走するでない、暴走を。」

 

「はっ……す、すみません先輩。変な電波のようなものを受信したようです……」

 

「う、うん…大丈夫」

 

うああ……顔が熱い。ルーパスちゃん達が微笑ましそうな顔で見てるから余計に……うう。

 

「ともかく、盾を振るう以外にも護る方法の1つの例だな。学ぶことが出来たであろう、マシュ。」

 

「は、はい。」

 

「さて…探索と行くか。退屈しなければよいが。」

 

ため息をつくギル。…本当に、なんか気が乗らなさそう…

 

〈…油断は厳禁ですよ、英雄王。〉

 

「む?…あぁ、アルトリアか。」

 

〈ほ、本当にやる気がないですね…あなたなら私がいるというだけでやる気を出しそうなものですが。〉

 

「弓の我と今の我は違うと常日頃言っておろうが戯け。故に貴様がいようと気分はそこまで変わらん。…して、貴様は今回の案内役でも務めるのか?」

 

通信に映ったアルトリアさんが頷いた。

 

〈現代に近いとはいえどそこはブリテン。かつて幻想種が蔓延っていた魔境たるブリテンならば何が起こっても不思議ではありません。同時に、魔術協会の三大部門の一角たる“時計塔”の本拠地です。特異点であるのもそうですが、そもそもそのロンドンの地が魔境と言ってもおかしくないでしょう。十分に注意してください。〉

 

〈まー、アルビオンとかあるからな。〉

 

「…そこまで油断もしておらんがな。しかし貴様が案内役に出るとはどういった気まぐれだ。」

 

〈…あなたならば信用に値すると感じましたから。それともう1つ、霧の魔力が濃いせいでこちらでサーヴァントかどうかを確認できません。ですから直感持ちの私が来たというわけです。〉

 

「なるほど、確かに筋は通る。では任せたぞ、アルトリア。」

 

そう言ってギルは欠伸をした。

 

〈……頑張りましょう、マスター。元々英雄王は気まぐれですから。〉

 

「う、うん…」

 

「…実を言うと霧でインナーが湿って気分が悪いのだ。帰りたい…」

 

あ、あはは……ん?

 

「……誰かいる」

 

「む?アルトリア、貴様の直感には───」

 

〈…反応していませんが。六花?〉

 

〈あー…微かだけど物音がするな。リューネ、聞き取れるか。〉

 

「剣と…鎧の音だ。何かと戦っているようだが…はて。距離は少し奥だな。…いや、こちらに近づいてくるぞ。」

 

リューネちゃんがそう言ってしばらくすると霧の奥から誰かが現れた。

 

「───おい。答えろ、おまえらは何者だ。」

 

声は───女性?現れたのは、白銀の剣を携えた騎士。

 

「オレの質問に答えろ。場合によっちゃ斬り殺す。」

 

「───ほう。名乗らせるならばそちらがまず名乗るのが礼儀ではないか?」

 

「…我が名は“モードレッド”。名乗れ───いや、その前に敵か味方か、答えろ成金野郎。」

 

な、成金……いやちょっと待ってモードレッド!?

 

〈……あの、馬鹿息子は……〉

 

〈ア、アルトリア、さん?〉

 

〈なんです、士郎。〉

 

〈お、怒ってらっしゃいます?〉

 

〈さぁ、どうでしょうね。〉

 

アルトリアさん怒ってないかなぁ…ともかく、あの人がモードレッドっていうことは…

 

「───クラレント。その剣は父であるアーサー王を殺した剣“クラレント”?」

 

「へぇ。詳しいじゃねぇか。」

 

「どうも…それと私達は味方。あとアーサー王は私達の陣営にいる。」

 

「………は?」

 

〈えぇ、ここにいますよモードレッド。〉

 

「……………は?父上が……は?」

 

「真理を語る。我らはこの時代に降り立った狂った歴史を修正する大義ありし軍団。アーサー王伝説に名を残す円卓にして反逆の騎士よ、我らは貴様の敵にあらず。」

 

「お、おう……?」

 

「しかし我らは未だこの地に降り立ったばかり。故に土地勘も何が起こっているのかも分からぬ。故にモードレッド、歪んだ故郷ながらもこの場に馳せ参じた貴様の器を問おう。我らと行動を共にし、貴様の土地勘とこの歪んだ地の知識を貸しては貰えぬか。」

 

「お、おう……そういうことならべつにいいぜ。」

 

そう言ったのを聞いてギルが拳を握ったのが見えた。……うわぁ。

 

「えっと……お願いします、モードレッドさん。私は藤丸リッカです。」

 

「おう。…なんかお前を見てると調子狂いそうだな。まぁいい、よろしくな。」

 

「マシュ・キリエライト。よろしくお願いします。」

 

「ん、盾ヤロウもよろしくな。んでそっちの小娘共は…」

 

「ハンター、ルーパス・フェルト。こっちはオトモのスピリス。」

 

「ジュリィ・セルティアル・ソルドミネです。クラスはキャスター、リッカさんや相棒達の補助をしています。」

 

「ハンター、ルルですにゃ。こっちはガルシア。旦にゃさんはリューネ・メリスさんですにゃ。」

 

「キャスター、ミラ・ルーティア・シュレイド。ミラでいい。こっちの龍はネルル。」

 

「ガァァ」

 

「かっけぇぇぇ!!ちっこいけどかっけぇ!いいなぁ、竜ってことはドラゴンだろ!?しかもキャスターってことは竜の召喚を使うのか!?いいなぁぁぁ!!なぁなぁ、触っていいか!?」

 

「……どうする、ネルル。」

 

「……」

 

あ、そっぽ向いた。それを見てミラちゃんがクスッと笑った。

 

「ダメだって。」

 

「そんなぁ……と、気を取り直して。そっちの成金野郎は?」

 

「我はギルガメッシュ。レアクラスたるプレミアのサーヴァントよ。」

 

「レアクラス!?何ソレかっけぇ!オレにもあるか、レアクラス!」

 

「知らんな。ただまぁ、ミルドには“サマナー”というレアクラスがあってもおかしくないであろうがな。」

 

「そんなのあるの?」

 

「知らぬ。」

 

そもそもハンターそのものがレアクラスみたいなものじゃないかなぁ…

 

「で、最後だ。お前は?」

 

「アルターエゴ……無銘、です。」

 

「……そうか。すまねぇ、聞いちゃいけなかったか。とりあえず全員味方だと分かったんだ。オレが拠点にしてる場所に案内するぜ。」

 

とりあえず話はまとまって、モードレッドさんがこの時代で拠点にしてる場所に行く事になった。




裁「……」

正弓「心配ですか?」

裁「……うん、まぁ。」

正弓「大丈夫ですよ。きっと。」


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第170話 太刀の奥義

正弓「今回はまだリッカさんは前線に出ません。」

弓「そもそもマスターが前線に出るのが……いや、生前の贋作者めも我と戦っていたか。」

正弓「ですね。ちなみにご本人はFate/原作をプレイしたことはありません。」

弓「ふむ。」


「んじゃしっかりついてこいよ。」

 

「うん。」

 

「お願いします、モードレッド卿」

 

「ぬぁっ!?」

 

あ、こけた…

 

「卿なんてつけんな盾ヤロウ!」

 

「は、はい…」

 

「ったく…別にオレはそこまで誇れる存在じゃねぇ。円卓であろうが全員が誇れる存在だった訳じゃねぇんだよ。ランスロットやオレがいい例だがな。」

 

〈■■■■■〉

 

あ、通信の向こうのランスロットさんが反応した。

 

『先輩、ランスロットさんは“その通りだ”と言いたいそうです。』

 

『あ、そうなんだ…』

 

ところでマシュはなんでランスロットさんの言いたいこと分かるんだろう。

 

「こんな時は思いっきり叫んでおくに限る!父上のバッカヤロー!!ガヴェインの年中芋ー!」

 

「性別リッカはやめてー!マシュはかわいいよー!」

 

「先輩!?」

 

〈ガヴェインの年中芋……うっ、頭が……〉

 

「無理をするな、アルトリア。」

 

っていうかガヴェインの年中芋……?

 

「そうだそうだ、その感じ───ん?性別、リッカ?」

 

「あ、ええと……“お前を女と見れない”って言われて付けられた称号みたいなもの、かな。いくつか武術とか習得してるんだけど…それの影響で身体が結構鍛えられてて、女性とは思えない筋力してるから…戦闘中に限り羞恥心とかなかったし。ただ眼前の相手を倒す、そう考えてたらいつの間にか……」

 

「お、おう……」

 

「“リッカは高嶺の花よね”って言ったシスターさんの表情が忘れられないよ…高嶺の花ってほとんど誰も摘みに来ないでしょ……うう。」

 

「大丈夫だよ、リッカ。私達の世界に来れば結婚相手とか見つかるから。」

 

「ルーパスちゃん、それこの世界だと諦めろって言ってない!?生まれ育ったこの世界で結婚したいよ……」

 

「……苦労してんな、おまえ…」

 

モードレッドさんの気遣いが染みる……

 

「息子が泣いているぞ。どうにかせよ、アルトリア。」

 

〈……と、言われましても。正直今でもどう接したらいいのか分からないのです。そもそも、モードレッドがなぜこの場に来たのか…現代に近づき名が変わっていてもそこはブリテンの地には変わりありませんから。〉

 

「…ふん。だから騎士王は人の心が分からないと言われるのだ。」

 

〈かふっ…〉

 

〈ア、アルトリア───!〉

 

喀血かなぁ…

 

「大方“自分以外にブリテンの地を汚させない”、“自分以外にブリテンの地を破壊させない”という意思の現れであろうよ。自らがブリテンを破壊するならばよいが他者が破壊するのは許さぬ、というな。故に守護という選択になっているのであろうよ。まるで我儘な子供のようであろうな。」

 

〈……そう、ですか。───む〉

 

アルトリアさんが何かに気がついたと同時に微かな音。

 

〈動体反応複数!霧で見えないだろうが気をつけてくれ!〉

 

ドクターの警告。それに私達が戦闘できる状態になると同時にそれは現れた。なんというか───人形、スライム、それと…ロボット?

 

「あれは…オートマタと…ホムンクルス、ですね。それから…」

 

不明の怪機械(ヘルタースケルター)。オレたちはその鋼鉄の塊をそう呼んでる。」

 

ヘルター、スケルター…

 

「エネミーか。…囲まれたな」

 

ギルが言う通り、いつの間にか私達は取り囲まれていた。

 

「…うーん」

 

何かルーパスちゃんが悩んでる。

 

「…ロマン。あれって硬いかな。」

 

〈ホムンクルスはともかくオートマタとヘルタースケルターは硬いだろうね、そりゃあ!〉

 

「そっか。」

 

「どうかした?」

 

「えっと…お母さんの奥義が広範囲殲滅に向いてたはずなんだよね。」

 

ルーナさんの奥義?

 

「あぁ…あれか。あれは…うん。そうだな。大型にはともかくあれくらいなら殲滅できるかもしれない。」

 

〈…一応、ルーナさんを呼びますね。〉

 

ルナセリアさんがそう言い、何か操作する音が聞こえた。そういえばルナセリアさんって戦闘後の傷の治癒とかやってくれてるんだよね。ほとんど無言だからあまり気づかないけど。

 

〈呼んだ?〉

 

通信からルーナさんの声。そういえば、ジュリィさんが持ってた翻訳帳───正確にはアスラージさんの宝具“交差せし世界の単語帳(ワールドクロス・スペルブック)”なんだけど───は元々言語適応スキルを持ってたハンター達には言語の補完をしてくれて、言語適応スキルを持ってない人達には言語適応スキルを1から付与するんだって。ルーナさんはハンターの霊基で顕現したためび言語適応スキルを持ってたから既に日本語を使えるようになってる。

 

「あ、お母さん。唐突だけどこっちに出てきて奥義使える?」

 

〈うん?別にいいけど。〉

 

「いいの?」

 

〈別に隠すようなものじゃないから。〉

 

「じゃあ…来て、“ルーナ・フェルト”!」

 

私の呼び声にルーナさんがそこに召喚される。

 

「ん~と。下位武器でいいかな。」

 

そう呟いてルーナさんはアイテムボックスを開き、太刀を装備した。その太刀にリューネちゃんが反応する。

 

「それは───“カムラノ鉄刀I”。」

 

「ん?うん。私の出身はカムラの里だからね。全く強化してなかったけどずっとアイテムボックスの中に仕舞いこんでたの。30年近く前の代物だから、リューネが持ってるものより弱いんじゃないかなぁ…」

 

さ、30年…

 

「30年前というと……」

 

「私がまだ12歳だった頃。太刀がまだそこまで流通してなかった頃だね。というか太刀の扱いがまだ確立されてなかった頃?扱い方が確立されていないからって太刀を大剣みたいに扱っても本来の力を引き出せるわけがないのにね。」

 

そう言ってルーナさんはため息をついてから抜刀し、鞘を腰の辺りに持ってきて納刀した───抜刀術の構え?

 

「…ス───…」

 

「───!」

 

目を瞑って深呼吸。たった、それだけ。それだけ、なのに───ルーナさんの気配がガラリと変わった。召喚された時とか私に穿龍棍や太刀を教えてくれてる時のほわほわした感じとは全く違う、研ぎ澄まされた刃物のような冷たい気配。ここまで、変わるものなの…?

 

「……ッ!」

 

抜刀───したかと思うと、身を翻して鞘に太刀を納め始めた。

 

「…大型ならばいざ知らず。立ちはだかるが小型であるならば。我が通りし道に倒れぬ者なし───奥義“太刀が戦いで閃く刹那の神速斬撃(ラピッド・モーメント・ブレイド)”」

 

そう言ってルーナさんが納刀する───その瞬間。

 

 

───ガシャンッ!

 

 

「………え……?」

 

取り囲んでいた敵達が、総て───撃破されていた。

 

〈な、なんだ……!?今、何が起こった!?〉

 

ドクターがそう叫ぶ───けど。そんなの私も知りたい。

 

「───あれが、お母さんの奥義だよ。リッカ。」

 

「奥義…?」

 

「奥義を持つ者は、それに応じた通り名が付けられるの。それは私やリューネ、お母さんだって例外じゃない。」

 

でも…今、ただ()()()()()()()()()けど……

 

「ロマン。さっきのお母さんの動き。追える?」

 

〈えぇ?記録された動体反応を追えってことかい?〉

 

「うん。」

 

〈ちょっと待ってくれよ……今記録を呼び出すから………………は?〉

 

ドクター?

 

〈どうした、ロマン。〉

 

〈……ねぇ、六花。これ、ボクの目がおかしくなったんじゃないよね?所長、ボクの目がおかしくなったんじゃないですよね??〉

 

〈あ?………は?〉

 

〈どうしたって……え?〉

 

お兄ちゃん?マリー?

 

〈…おい、これはどういうことだ。〉

 

〈あり得ない……人間の域を越えてるわ、こんなの…〉

 

「どうしたの?」

 

〈それが───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ!!〉

 

〈カルデアで使われているハイスピードカメラのフレームレートは26kfpsだ。これが、どういうことか分かるか?リッカ。〉

 

1/26,000───約0.0000385秒。そこから秒速を求めると……待って、待って───

 

「電卓!電卓貸して!!それか大きめのメモ帳!!」

 

桁数が多くて暗算しきれない……!

 

〈今送った。〉

 

送られてきたのは関数電卓。お兄ちゃんの私物。距離÷時間で出るから進んだ距離を1mだと仮定して───1÷0.0000385=25,974.025974025───小数第一位で四捨五入して秒速25,974m/s!って、えぇっ!?

 

「お兄ちゃん!音速超えてるんだけど!?」

 

〈だろうな。単純計算でも()()()7()6()()()()()。ふざけてんのかこれ。殺せんせーの4倍近くとかふざけてんのか!?〉

 

殺せんせー、マッハ20だもんね。

 

「そんなに早かったんだ。知らなかった。」

 

〈なんで使ってる本人が知らねぇんだよ!〉

 

「ルーパスみたいに過剰集中してるからね。あと…この奥義使ったあとはすごく疲れるし。」

 

〈そりゃ音速超えて動き続ければそうだろうよ……〉

 

〈流石、“神速の瑠奈”。年齢で衰えてもその速さは変わらないね。〉

 

蒼空さんがそう言った。神速の…瑠奈?瑠奈、って言うのはルーナさんの旧名だったと思うけど。

 

「もう、蒼空!からかわないでよ!」

 

「神速の瑠奈って?」

 

「さっき言ったでしょ?奥義を持つ者はそれに応じた通り名が付けられるって。私は“精密のルーパス”。リューネは“爆音のリューネ”…または“爆音の琉音”。そしてお母さんが───“神速のルーナ”…または“神速の瑠奈”っていうわけ。」

 

「神…速。」

 

「私が1度使ったよね?“桜花気刃斬”っていう狩技があるんだけど。お母さんの奥義はそれの原型になった、とかそれの発展系とも言われてるんだけど…まぁ、性能が段違いなんだよね。正直。私やリューネが1回桜花気刃斬放とうとしている間にお母さんに奥義使われたらそれで終わりだもん。」

 

「えええ……」

 

「あと、正直軽い武器の使い手は大体速度や技術重視の奥義を編み出すっていう傾向があるから、別に不思議じゃないかな?」

 

そ、そうなんだ……




正弓「ということで太刀の奥義のご開帳。」

裁「マッハ76超って速すぎない?」

正弓「多分マッハ80くらい行くんじゃないですかね?“2015年のハイスピードカメラで追いきれない”というだけで最高速まで描写された訳じゃないですし。」

裁「……それはそうとソニックブームとかどうしたんだろう。」

正弓「さぁ……?」


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第171話 魔霧疾駆、地図作成───殺鬼接近、斬斧奥義

正弓「魔霧疾駆(マキリダッシュ)

裁「地図作成(マッピング)

弓「殺鬼接近(アサシン・エンゲージ)

殺「───斬斧奥義(スラッシュアックス・シークレット)

正弓「…なんですかこれ。」

裁「ちなみにタイトルには関係ありませんので~」


霧の濃いロンドンの街───

 

その、霧の中を私達は進んでいた。

 

「ふはははは!たまにはサブ機を動かすのも良いものよな!六花めにメイン機を預けて正解だったわ!」

 

バイク、って言ったっけ。それに乗ったいつもより声が高い英雄王が機嫌良く笑う。

 

「しっかり捕まっておれよ、アルトリア!吹き飛ばされぬようにな!」

 

「英雄王、その姿でその言葉遣いは違和感がすごいです……!どうにかならなかったのですか!!」

 

「そうだよ、英雄王!せっかく可愛いのに口調で台無し!」

 

ちなみに英雄王の今の姿は黒いシャツに赤いチェックスカート…ってリッカさんが言ってた。髪型はポニーテールって。

 

「ええいそこまでいうか貴様ら!逆に考えよ!この口調以外の我など考えられるか!?」

 

「無理!」

「無理ですね!」

 

「であろう!…即答されるのは流石に辛いのだが?」

 

あ、私達はモードレッドさんの拠点に着いたあと、地図作成という名目でこの周辺を探索してるの。リッカさん達は拠点の方で話を聞いてる。メンバーは英雄王、アルトリアさん、私、ジュリィさん、蒼空さん、無銘さんの6人。英雄王とアルトリアさんはバイクで2人乗り、私とジュリィさんがキリゼ───霜幻獣“キリン亜種”に騎乗し、蒼空さんと無銘さんが幻獣“キリン”───この子は蒼空さんのオトモンらしくて、何故かモードレッドさんの拠点で寝てたの。蒼空さんの声が聞こえてすぐに起きて、通信に向かって抱きつこうとしてた───に騎乗してる。

 

「…それにしても、瘴気が濃いですね」

 

ジュリィさんがそう呟く。それは…私も正直思った。こんな状態になるには、瘴気の谷みたいに亡骸が大量にあるか……それこそ、あの龍がいるかだけど。

 

「ですが、霧の薄いところと濃いところの差があるのも確かです。」

 

「それもそうだな……む。」

 

何かに気がついたように急停止。キリゼとキリンも停止した。

 

「危ないでしょう、英雄王!何事ですか!」

 

英雄王の視線の先。大小異なる3つの影───だけど、大きな2つの影の方はすぐに消えた。

 

「───おかあさん?」

 

「…やはり、いるか。」

 

白い髪に顔の傷。2本の短剣を持つ小柄な少女───

 

「ロンドンという地だ。貴様がおらぬとは思えぬ。そも、この霧は貴様の宝具か。なぁ───“ジャック・ザ・リッパー”。」

 

「わたしたちを知ってるの?うれしいな。あなたは───おかあさん?」

 

「…それも、一仕事終えたあとみたいですね。」

 

その言葉を聞いて私は蒼空さんに目を向ける。私達はともかく、本当に“母親”である蒼空さんは伝承を知らなくともいい気分じゃないだろうから。事実、蒼空さんは顔色悪くしてる。

 

「みんな、帰してくれなかった。わたしたちは帰りたいだけなのに…」

 

「…英雄王さん。あれは?」

 

「ふん。怨霊の集合体───生まれてこなかった子供の怨念の集合体よ。しかし…不味いな」

 

不味い……?

 

「我は王故、カルデアで明かされている宝具は総て熟知している。今は夜、霧が出ている───そして、()()()()()()()()()()ときた。故に───」

 

「ねぇ。あなたたちは帰してくれる?」

 

「───気を抜くな、貴様ら。殺されるぞ。」

 

「あなたたちの中に、()()()()()()()───帰してくれる?」

 

「───ッ!!キリゼ!!」

「リン!全力回避!」

 

即座に私と蒼空さんが指示を飛ばし、一瞬で接近したジャック・ザ・リッパーの攻撃を避ける。それと同時に英雄王がバイクを発進させる。それを見てキリゼに英雄王を追うように指示。私はジュリィさんと無銘さんにキリン達から落ちないように保護魔法をかける。

 

「まって……まってよ……!おかあさん!」

 

建物の壁を走ってこちらに近づくジャック・ザ・リッパー。キリン科の全力疾駆だから照準はブレるし集中は鈍るけど───この程度で撃てないようじゃここまで戦い抜いてない!!

 

「レーッ!!」

 

私の声に展開した無属性弾10発が飛んでいく。牽制だから当たらないけど───

 

「おかあさん…おかあさんおかあさんおかあさん……!」

 

正直追ってくるこの声が辛い……!蒼空さんの顔色がどんどん悪くなってるから早めに決着をつけたいんだけど……!!

 

「ふはははは!貴様ら、追い付かれるなよ───むっ!?」

 

英雄王の声に前を向くと、ジャック・ザ・リッパーの投擲したナイフが地面に刺さっていた。

 

「貴様らは跳び越えよ!我は我で何とかしよう!」

 

その言葉を聞いて私は跳躍力強化の魔法をキリン達にかける。それに気がついたキリン達がナイフの柵を飛び越える───その瞬間、ジャック・ザ・リッパーが私に急接近する。

 

「おかあさん……!かえ、らせて!いくよ───“解体聖母(マリア・ザ・リッパー)”!!」

 

「概念抽出、グラビモス───あぐっ!」

 

概念抽出は間に合った。だけど───かなりの硬度を誇る、グラビモスの概念でも衝撃までは防ぎきれなかった……!!しかもこれ───“呪い”!対呪保護結界を張ってて良かった……!

 

「ミルド!大事ないか!」

 

「大丈夫……!けほっ…バスターッ!!」

 

英雄王の声に答えたあと呆けた表情のジャック・ザ・リッパーを睨んで零距離砲撃。

 

「おかあさん、頑丈だね…でも、関係ないよ───おかあさんの中に帰るんだ……!」

 

あの目……明らかに私を狙ってる。私、だけを狙ってる。だったら───

 

「英雄王!アルトリアさん!───飛べっ!」

 

「えっ?ひゃぁっ!」

 

私の一言でジュリィさんが吹き飛ぶ。吹き飛んだ先には英雄王のバイク。アルトリアさんがジュリィさんをキャッチする。

 

「ミルド!貴様、まさか───」

 

「それが安全!キリゼ!!」

 

私はキリゼに魔法をかける。速度上昇、空中疾駆、壁面疾駆───それから氷属性強化と龍力強化。5つの魔法の重ねがけ!

 

「貴女の健脚を見せなさい、キリヘイル!!」

 

キリゼが頷き加速する。それと同時に私は全属性の砲門を連続射撃モードで展開する。この先は熟練のサマナーでも難しい領域───!!

 

「いくら速くても無駄だよ…どこまででも追いかけるからね、おかあさん!」

 

私は母親でもなんでもないけど…追いすがってくる彼女に───

 

「レーッ!!」

 

英雄王達に思念を飛ばしたあと、ありとあらゆる属性弾を叩き込む───!!

 

 

 

蒼空 side

 

 

 

「…あやつ、め。」

 

英雄王さんがバイクを停止させ、呆れた声を出す。

 

「“私が一度引き付けるから迎撃の場所を選んで”、などと。その“引き付ける”がジャック・ザ・リッパーに対してどれほど危険か分かっておるのか、あやつは。」

 

「…英雄王。はたして彼女は、最善を選択したのでしょうか。」

 

「さて、な。しかし、ジュリィめを我らに託したということは流れ弾を警戒したのだろうよ。」

 

そう言って英雄王さんがため息をつく。

 

「…この先は大通りであったな。ふむ…どうしたものか。」

 

「……あの」

 

私が手を上げる。それに英雄王さんの視線が向く。

 

「なんだ。」

 

「私に、提案が。」

 

「……ほう?」

 

 

 

ミラ side

 

 

 

 

 

 

{戦闘BGM:闇に走る赤い残光:The Chase}

 

 

 

とりあえず───

 

「なんで楽曲がナルガクルガ追跡曲なのかな!?いやピッタリだけどさ!」

 

ジャック・ザ・リッパーを引き付け始めてから流れ始めたのがこれ。流石にずっと流れ続けてるから突っ込んだけど。

 

「これで───!」

 

ジャック・ザ・リッパーが投げたナイフをキリゼが住宅の壁を走ることで回避。私の周囲に物質の硬度を高め、範囲外になると刺さっていたものを弾くような結界を展開してる。ついでに音が結界外に漏れない術式も。だから、どんなに戦闘しても大丈夫なようにしてる。

 

「バスターッ!!」

 

連続砲撃モードの砲門から無属性砲撃を放つ。直撃して墜ちかけるけどすぐに体制を立て直して私を追跡する。

 

「マップによればこれで一周───この先にいるはずだけどっ!」

 

キリゼが斜めに跳び、私の視界が反転する───

 

「レーッ!!」

 

水属性射撃砲門20門から集中射撃。現状発動してる魔法は速度上昇、空中疾駆、壁面疾駆、氷属性強化、龍力強化、地図展開、全属性連続射撃砲門各20門、全属性連続砲撃砲門各10門、物質硬化結界、消音結界、魔法消去結界。量が多いけど───別にそこまで負荷はないっ!

 

「おかあさんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさんっ!!」

 

「私は───あなたのおかあさんじゃないっ!」

 

集束砲門展開───全力で!

 

「ブレイカァァァァ!!」

 

「───ッ!!」

 

驚いた表情で回避するジャック・ザ・リッパー。地図によればこの先は大通りだけど───

 

「ミルド!」

 

「───!」

 

英雄王の声。前を見ると立ち止まった英雄王達がいた。ということは、あれが───迎撃地点。

 

「いかないで……いかないでっ!」

 

「穿ち放て───“ジャベリンズ・コロナ リリーシア・アトリビューティア”!!」

 

炎を纏わせた杖を放つ───地面に刺さると同時に纏われた属性が放出される。以前の“ブレイク”とは違う“リリーシア・アトリビューティア”という派生式句。これは破壊の式句とは違う、属性解放の式句。破壊の式句は属性を破壊することで爆発を得る。解放の式句は属性を解放することで爆発を得る。解放の方が難しい関係上、爆発力は解放の方が上───!

 

「停止!」

 

キリゼが私の声にブレーキをかける。結構な速度出てたはずだからかなり反動が強い……!

 

「大事ないか、ミルド!」

 

「だ、大丈夫…」

 

「全く、無茶しおって……!」

 

「おかあさんおかあさんおかあさんおかあさん!!う…うぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「───属性、反転。」

 

疾走するジャック・ザ・リッパーと私の間を遮るように立つのは蒼空さん。あれは───折り紙?

 

「異常改造。龍蝕激化。出力変動───」

 

バキッ、って嫌な音がした気がする。それと同時に、武器が纏う、あれは───()()()()()()()()()()()……!?

 

「無惨に潰えて!“解体(マリア)───」

 

「───行動封印。奥義“斬斧が戦いを変える(ソードアックス・)属性反転の高圧放出(アトリビュート・ブラスター)”」

 

ただ、一振り。宝具を起動したジャック・ザ・リッパーに当てる。ただ、それだけ。

 

「───あ…?」

 

それだけで───宝具が、()()()()

 

「あれはもしや───後より出でて先に断つもの(アンサラー)か!?あの人間の持っていた、“斬り抉る戦神の剣(フラガラック)”だとでもいうのか!?」

 

フラガラック───いや、今はそれどころじゃない。そろそろ───動く。だけど、少し時間を稼いでくれたお陰でこっちも準備が整った。

 

「───うぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「キリゼ!!契約のもと、ここに汝の真名を告げる!」

 

切りかかってくるジャック・ザ・リッパーに合わせる。宝具───

 

「真名、霜幻獣“キリン亜種”───“解放する、今ここに真実の言葉(リリース・リアルワード)”!!!放て───“絶対零度空間”!!!」

 

瞬間───周囲に冷気の空間が発生し、ジャック・ザ・リッパーを氷漬けに───ううん、氷の中に閉じ込めた。

 

「………!!!」

 

ジャック・ザ・リッパーがまだ動けるのか、身体を動かそうとする───けど。龍力を強化した───龍封力と対になる“龍解力”を付与されたキリン亜種の氷がそんなに脆いわけがない!

 

「……」

 

諦めたのか、目を瞑った。狂ったような目付きは───ない。それを確認した直後、私がフラつく…のを英雄王が支えてくれた。

 

「……疲れた」

 

「この───戯け!あやつに対し単独で動くとは何事だ!」

 

「それが一番楽だと思ったから…」

 

「貴様───自分が人間であると忘れてはおらぬか!?確かに貴様はあやつに目をつけられていたのであろう!だが!人間である貴様が女を必殺するようなモノを引き付けるなど無理にも限度があろう!それを───」

 

「信じてたからね。あなた達なら私が時間を稼ぐ間にジャック・ザ・リッパーをどうにかする方法を考え付くって。」

 

私がそう言うと英雄王が黙った。

 

「信じてたからこそ、私は引き付けを引き受けたんだよ。…まぁ、何度か殺されかけたけど。」

 

「当然であろう!むしろ殺されておらぬのが奇跡に他ならん!」

 

そう言い、英雄王がバイクのスイッチを入れる。

 

「ミルド、ジュリィ、貴様らはサイドカーに乗れ。」

 

「……分かった」

「分かりました。」

 

素直に従っておく。心配かけたのは事実だろうから。

 

「帰るぞ。ジュリィ、あやつの情報は確かに保存してあろうな?」

 

「はい。しっかりと。」

 

「で、あればよい。あぁ、それと───蒼空。貴様の反撃、見事であった。」

 

「…はい。」

 

「…英雄王。お腹が空きました。何処かで食事にしませんか?」

 

「ふむ…英国料理は評判が悪かったはずだが。まぁ、たまにはよいか。」

 

そう言って英雄王はバイクを走らせる。

 

「軽い地図作成(マッピング)になるとは思っていたが…まさか、ここまで大変になろうとはな。」

 

そのあと、拠点に戻ったらかなり心配された。…まぁ、そうだよね。私、傷の治癒忘れてたし。投げナイフが顔の近く通過してたこともあったから顔も傷ついてるからね。ちなみに“解体聖母(マリア・ザ・リッパー)”は5回くらい食らった。…それにしても。ジャック・ザ・リッパーが襲ってくる前に見えた、あの2つの影は───




正弓「ちなみに蒼空さんの奥義の説明をば。本文中で全く書いてませんからね。」


斬斧が戦いを変える(ソードアックス・)属性反転の高圧放出(アトリビュート・ブラスター)
対人宝具

舞華 蒼空の編み出した奥義。斬斧のビンを強引に別のものに変更し、高圧力のビンを属性解放。斬斧の攻撃に当たった存在にありとあらゆる属性を消す、龍属性やられを付与する。変更されたビンのことを“封印ビン”と呼び、龍属性やられ以外にも“束縛”と呼ばれる特殊な効果を発揮する。当然斬斧が壊れやすいが、長年使い続けた影響かどこに手を加えていいかがよく分かっているゆえに成立した。この状態の変化を龍蝕封撃変化ともいい、人間に属性やられを扱う方法がなかった頃に属性やられを扱った例の1つ。その中でもさらに不可解な龍属性やられを扱った唯一の例。


裁「この奥義って思いっきり壊してるよね……」

正弓「そうですね……ちなみに“ソードアックス”と書いているのは仕様です。あえて“スラッシュアックス”と書かなかったのだそうな。」

裁「確か剣斧は───」

正弓「スラッシュアックスFですね。そちらはそちらで別の奥義があるのだとか?」


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第172話 祈りとほんの少しの恩返し

正弓「ん~…」

裁「………」

正弓「うん?どうしました?鍵のルーラーさん。」

裁「え…なんで…気配消してたはずなのに…」

正弓「それくらいでしたら私は察知できますよ。」


───目が、覚める。

 

「……」

 

周囲はまだ暗い───もう一度寝ようと試みるけれど、寝付けない。

 

「……ん…」

 

仕方なしに身体を起こす。現時刻2:30。暗いのは当然の時間だった。

 

「……誰も起きてない、かな。」

 

この場所にいる全員の音と気配を感じ取る。音は───モードレッドさんの大きなイビキ。それから全員分の規則正しい呼吸音。

 

「……他の皆は熟睡してる、か。」

 

もう一度寝たいけど───けど。寝る前のあの声が妙に耳に残ってる。

 

「…“ジャック・ザ・リッパー”…“切り裂きジャック”、か。」

 

帰ってきたあと、この場所の主であるジキルさんはそう言った。連続殺人鬼切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)、霧に紛れて女性を襲う殺人鬼───

 

『おかあさんおかあさんおかあさんおかあさん!!』

 

「……」

 

あの声が、耳から離れない。一緒に着いていただけの私でもそうなんだから───実際に対峙し、引き付けたミラさんはもっと酷いはず。カルデアで、元気に遊ぶ彼女を知っているから。ナイフも持たず、無邪気に使い魔達と遊んでいた彼女を知っているから。氷で無力化したとはいえ、相当堪えたはず。ミラさんも、キリゼさんも。表情には出さなかったけど。

 

『起きているのかい、無銘?』

 

「…フォウさん。」

 

『呼び捨てでいいと言っているだろう…まぁ、癖はそう簡単に抜けはしないかな。…君が起きたような気配を感じてね。…どうしたんだい?顔色が悪いよ、君。』

 

「……大丈夫。」

 

そう答えると、フォウはため息を吐いた。

 

『大丈夫には見えないけどね。まったく、君は何処か似ているというか似ていないというか…』

 

「…?」

 

『いや、なんでもない。忘れてくれ。どうせ君のことだ。大方、昨晩出会った反英雄───“ジャック・ザ・リッパー”のことを気にしているんだろう?』

 

当たっているから素直に頷く。

 

『やれやれ…君は優しいね。こんなボクにも優しくしてくれるしさ。あの怨霊にもその優しさを向けるとなると、流石に心配になってくるね。…まぁ、そんな君がボクは気に入っているといってもいいんだけどさ。』

 

そう言ってフォウは私の手元に少し厚めの袋を置いた。

 

『君にあげるよ…というか受け取ってもらえないかな?君に合いそうな服を作ってみたんだ。』

 

作って……?ちょっと疑問が生まれたけれど、フォウが置いた袋の中身を出す───これは……

 

「シスター服?」

 

『ちょっと作りが微妙だけどね。それと、君はどちらかというと日本人のような姿だから、もう1つの方が合うかもしれない。』

 

フォウの言う通り袋の中にはもう一式服が入っていたこれは───確か、巫女服。

 

『どうしてだろうね。君を見たとき、大体神に仕えるような女性の姿が思い浮かぶんだ。だからそのセレクトにしたわけだけど…気に入ってもらえるかな?』

 

「……サイズ、合うかな。」

 

『目測だけれど君のサイズは測ったつもりだよ。ボクの目に狂いがなければそれであってる…と思いたいけれど。』

 

その言葉を聞いて、私は闇属性の魔法を起動、私の姿を隠す。その中で私はシスター服に着替えてみた。

 

「……あ。」

 

『どうかしたかい?』

 

「……ぴったり。」

 

私は魔法を解除してフォウの前に姿を現した。

 

『ふむ。最も標準的な黒いシスター服にしたけども…白でもよかったかな?白に紺、それこそ白に金とかもいいかもしれないな……動きにくいとかはないかい?』

 

「えっと……そこまでは。」

 

正直言うと全くキツい、ユルいがない。本当にピッタリ、正確に私の身体に合わせたような設計だった。

 

『ボクの目測もまだまだ捨てたものじゃないってことかな。次、巫女服の方に着替えてくれるかな?』

 

私は頷いて闇属性の魔法を起動する。渡されたのは白衣に緋袴───最も標準的な、というか実際の巫女装束……?

 

「…ええと。」

 

…なんとなく、わかる。巫女服の着方が。こういうのは正式な着方があるものだけど───その正式な着方が、なぜか。

 

「……こう、かな。」

 

着付けを終え、魔法を解除する。

 

『ん、終わった───』

 

フォウの言葉がそこで止まった。

 

「フォウ?」

 

『───だ。』

 

「え?」

 

『可憐だ…綺麗だ、無銘。』

 

「え、えぇ…?」

 

言われたことに困惑する。私が、綺麗…?

 

「そんな冗談通じ───」

 

『冗談なんかじゃない!』

 

「ひゃっ…!」

 

突如飛びかかられて背後にあったベッドに倒れこむ。

 

『冗談なんかじゃないんだ……!まさか、ここまで合うとは思っていなかった!このボクが断言しよう、君は可愛い女の子だと!』

 

「えっ、えっ、えっ…///」

 

『あっ───』

 

フォ、フォウが溶けた……!?

 

「フォウ───!」

 

『照れた顔だとなお可愛い───我が生涯に一片の悔いなし───』

 

死んじゃダメ……!

 

 

 

『……死んだ。君のキスで生き返った。そしてまた死んだ。なんでボクはこのごく短時間で君に2回殺されてるんだ?』

 

「知らないよ…?」

 

『それもこれも君が可愛いから悪いんだ!くそう、覚えてろっ!!今度はもっと可愛くしてやるからなぁぁぁ!これがボクの限界だと思うなよっ!!』

 

そう言い捨ててフォウは私のいた部屋を去っていった。…私、何か悪いことしちゃったかな?それにしても…

 

「……シスター服と巫女服、か。」

 

確かどちらも祈りを捧げるのに最適な服装。今私が着ているのは巫女服で、動きに支障がないほどピッタリ。

 

「……」

 

そして───祈り方も何故か、分かる。最近はこういうことが多い気がする。知らないはずなのに知っている───私に記憶はないのに身体が覚えている。私は、その場に正座して胸の前で手を合わせて言葉を紡ぐ。

 

「───告げよ。告げよ───死せし霊魂が還るは星の大海。天上に存在せし1つの死の国。全ては転輪し浄化され、転生し、時を流れ、死してまた1つの輪廻へと立ち返る。しかしてまた1つ、死せし霊魂が還るは地の大窯。地中に存在せしもう1つの死の国。全ては判決し断罪され、懺悔し、時を経て、赦されまた1つの輪廻へと立ち返る。」

 

頭の中に浮かぶ言葉をそのまま紡ぐ。

 

(とき)を司る陽の鐘楼はあらゆる国に時を告げ、(はざま)を司る月の鐘楼はあらゆる国の空間を正す。夢を司る夢の鐘楼は生きし者に夢をもたらし、管理の鐘たる魂の鐘楼は総ての存在に裁きをもたらす。そして理を司る星の鐘楼は世界の在り方を定義し、鐘楼を統括せし神の鐘。同時に星の鐘は魂を浄化する聖なる鐘。故に我は星の鐘へ願う。」

 

祈祷…なのかどうかは分からない。けれど…

 

「産まれず死した子供の怨霊。かの魂に安寧を。かの魂に平穏を。今度こそ、彼女に幸せを───かの魂達に、祝福を。かの魂達に、救済を。今度こそ、彼女達に安らぎを───迷える魂に安息を。星の鐘よ、我が願い聞き届け給え───」

 

……どのくらいの時間、手を合わせていただろう。既に部屋には光が射し、夜明けを感じさせていた。

 

「…今日は…確か」

 

ヘンリー・ジキルさんの協力者───ヴィクター・フランケンシュタインさんの保護に向かう、と言っていたはず。

 

「……そうだ」

 

既に時間は4:10を回っている。全員そろそろ目覚めるだろうし…私にできるのは───料理くらい。巫女服を脱いで畳み、ベッドの上に置いておく。

 

「台所は……あった。お借りします。」

 

聞こえていないだろうけどそう言ってから、台所に立って指を振る。

 

 

───リリリ

 

 

振った場所にホロウインドウが開く───これは私の能力みたいなんだけど、よく分かってない。夢の中で誰かに教えられた、私の能力の1つ。名前は知らないけど…ハンターさん達のアイテムボックスと同じような機能を持っているのは分かる。手紙が一通入ってたから読んでみたら、この中にあるのは全部私のものみたい。だから自由に使っていいみたいだけど…何故か食材ばかりだから料理にしか使ってない。

 

「……うん。」

 

簡単なものだけど───少しでも力になれば。

 

 

 

リッカ side

 

 

 

目が覚める───時計に目を向けると6:20を指している。

 

「ふぁぁ…」

 

「あ、先輩!おはようございます!」

 

「おはよ……うん?」

 

これは……甘い香り?

 

「起きたか、遅ぇぞリッカ!メシだ、メシ!」

 

「えっと……?」

 

モードレッドさんの前のテーブルに置かれたアップルパイとステーキ、それから小盛りのコーンにほうれん草の和え物…きちんと炊かれた白米も添えてある。

 

「これは…?」

 

「いつのまにか作られていたんです…!どうやら無銘さんが作ったようで……」

 

「アルが作ったの!?」

 

この量を1人で…!?

 

「……って、あれ…アルは?」

 

「“武器とかの整備をするので食べていてほしい”とのことだったよ。一口食べてみたけどかなりの腕前だ。」

 

「オレもさっきつまみ食いしちゃったんだけどよ!もううまいのなんのって!あ、父上には内緒にしてくれな?知られたら面倒そうだ。」

 

「え、うん…」

 

「さぁ、早く食おうぜ!席につけよ!ジキル、シードル出してくれ!」

 

「腹が減ってはなんとやら、ですからね!」

 

「モードレッド、そこは僕のお気に入りベッドなんだけど…あぁ、シードルだったね。冷えてるけど…まぁ、程々にしなよ?」

 

ジキルさんがそう言いながら冷蔵庫からお酒を取り出す。

 

「んじゃ、」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

しばらく食べ続けたけど…すごく美味しかった。火もよく通ってたし、お米の柔らかさも丁度いい。…私ももう少し上達しないとかなぁ。




正弓「そういえば無銘さんの姿って見せてませんよね?ええと……」

裁「あるの?」

正弓「元々Vカツモデルで何人かのキャラクターは作ってたらしいので。あ、あった」


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正弓「そういえば、あの言葉…」

裁「?」

正弓「…いえ、気にしないでください」


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第173話 悪魔?道化師?その名は───

正弓「……」

?「我が主」

正弓「……あぁ、“正のバーサーカー”。あの式句、何か分かった?」

正狂「……私達で予測した通りでした。」

正弓「……そっか。分かった、ありがとう。」

正狂「いえ…」

正弓「…まったく、こうしてみるとバーサーカーの要素なんてないのにね。どちらかと言うと貴女は“アヴェンジャー”だと思うし。」

正狂「狂っているのは事実ですから…」

正弓「…そっか。」


「……大丈夫?それ…」

 

私はモードレッドさんにそう聞く。結局あのあとアルトリアさんの耳に入って、お兄ちゃんが固有結界展開して…出てきたモードレッドさんは青アザとたんこぶを結構な量作ってた。…アルトリアさんの逆鱗にでも触れたのかな。

 

「あぁ…大丈夫だ、気にすんな。今はなんつうか、この痛みが嬉しいからよ。」

 

「…ドM?」

 

「違ぇよ!?あぁいや、すまねぇ、今のはそう取られても仕方ねぇよな。……ん」

 

モードレッドさんが何かに気がついた……?

 

「はぁぁ…やっぱりか。この仕事、すんなりはいかねぇな。」

 

苛立ったように剣を地面に叩きつける。

 

「……いいか、リッカ。盾ヤロウも覚えておけ。これはジキルにも言ってねぇことだが───オレはオレ以外のやつがこのブリテンの地を穢すのを許さねぇ。父上の、アーサー王の愛したブリテンの大地を穢していいのはオレだけだ。大地だけじゃねぇそこにいる民も、過去も、その未来も───オレ以外が穢すのは許さねぇっ!!」

 

現れるはヘルタースケルター、ホムンクルス、オートマタ───それから、大型ヘルタースケルターに青いホムンクルス、紫色のオートマタ。

 

「オレは叛逆の騎士モードレッド!オレ以外にこの地を穢す権利はねぇ!オレ以外にこの地を穢していいと許可できるやつはいねぇ!それを、オレの許可無しに、オレ以外がこのブリテンの民を害し、殺した奴がいるのだとしたら────!!!」

 

剣を振るう───その魔力が、地面を抉り、オートマタを砕き、ホムンクルスを斬り飛ばし、ヘルタースケルターに穴を空ける。

 

「───跡形もなく消し飛ばす!それがせめてもの、オレにできる最善の断罪だ!最善でなければ───その身体に、この土地が誰のものなのか、徹底的に刻み込んでやる!!」

 

なんというか……歪んでるというかなんというか。でも───分かる。これが、モードレッドさんの愛の形なんだ。

 

 

 

しばらく歩いて。

 

〈そこが目的地のようね。全員、注意するのよ。そこまで脅威ではないけれど、無視できない魔術的な罠があるわ。〉

 

マリーの言葉に私たちは立ち止まる。結構大きめの洋館だった。

 

「ふ、森でなくとも恐ろしげな雰囲気は出せるものよな。」

 

「ギル、それ“もりのようかん”。あとその手に持ってるのは羊羮…」

 

「食うか?」

 

私は首を横に振った。すると残念そうな顔で波紋の中に羊羮をしまい、洋館を見つめた。

 

「…しかし、オルガマリー。神代の魔術師としての風格を醸し出してきたか?そこまで脅威ではない、などと自信に満ちた物言いをするとは。」

 

〈事実ですから。リッカ達の戦力を客観的に評価し、そう結論付けただけにすぎません。それは貴方なら分かっているでしょう、ギル。〉

 

「ふ。で、あるな。この屋敷に眠るであろうアレも気になるところだ。だが───」

 

「…チッ。やっぱりか。おい、そこのやつ。」

 

モードレッドさんが舌打ちをし、門の近くにいるピエロみたいな存在に声をかける。

 

「───匂うぞ。血と臓物と火の匂い。それから、じいさんの元素魔術の触媒の匂いだ。…殺したな?ヴィクター・フランケンシュタインを。」

 

「───ンン?ンンン??おや。おやおやおやぁ??何かと思えばサーヴァント。何かと思えば面白そうな人間(おもちゃ)が1つ、2つ、3つ───クフッ!」

 

この人、今───私達を見て“おもちゃ”って言った。

 

「おい、答えろ。」

 

「ンン?あぁ、そうデシタね…ン~…はて。申し遅れました、ワタクシしがない悪魔───ではなく英霊、キャスターのサーヴァントにございます。で───殺したか、とおっしゃられますと、えぇ、はい……あぁいえ、私が殺したかと言われましてもそれは確かではないと言いますか。確かにかの老爺はものを言わず、なにも食さず、なにも聞かず…えぇ、確かに死んでいるのでしょう。ですが、ワタクシが殺したのかと問われますと……ねぇ?何せひとりでに爆発してしまったものですから。こう、ボンッ、と。」

 

その人は手で爆発したかのような仕草をした。

 

「これでもワタクシ、真剣に頼み込んだのですよ?しかしかの老爺は決して頷かなかったのです。計画への参加をヴィクターサマに表明していただくのがワタクシの仕事、永遠に表明しないのであれば殺せ───であれば、従わぬ者を始末するのもこの“メフィストフェレス”のすべき───」

 

「………っ!!」

 

そこまで聞いた時に私は地面を蹴った。穿龍棍、リーチ短、飛びかかり───

 

「おっほう!?」

 

だけど、メフィストフェレスと名乗ったその人はそれを避けた。それだけで終わるつもりなんてないから───

 

「───魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・乗り人の礎”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“世界を巡る疾走”。対象指定(ターゲットセット)、“藤丸リッカ”───」

 

魔術礼装・乗り人の礎。外見のモチーフはハクム村のライダー装備一式…とかってルーパスちゃんが言ってたけど。マスタースキルは“生命の粉塵・改(体力回復)”、“オトモンとの絆(魔力補充)”、“世界を巡る疾走(追撃自動発生)”。

 

「ほわぁぁ!?マスターに殴りかかられるなどワタクシ全くもって予想外!このメッフィー驚いて隙だらけ!」

 

今も私は穿龍棍で追撃してる。でも、目的は───

 

「ふっふっふ!ですがワタクシもサーヴァント、腐っても英霊にございます。人間に負けるなど───」

 

───今!

 

「ありえ───ぬぅわっ!?」

 

私は小さいタルを投げた。そのタルはメフィストフェレスにぶつかって爆発する───ルーパスちゃんから渡された“小タル爆弾”。体勢を崩したメフィストフェレスに預言書を叩きつけ、リューネちゃんから貸してもらった翔蟲で離脱する。

 

「……ウーン。何かワタクシにとって危ないコトをされた気がしますが…まぁ、よいでしょう」

 

体勢を直し立ち上がるメフィストフェレス。それを確認し、預言書を開いて情報を調べる───そして全員に念話で伝える。…それにしても。

 

「かわされちゃう、か。キャスターにも…」

 

「先輩…」

 

「惜しいな、マスター。当たっていれば終わっていたであろうにな。」

 

「そんなことないよ。今の私じゃ攻撃力がまだ足りない。サーヴァントの皆みたいな瞬間的な攻撃力にはまだ達しない。…魔術礼装で強化したとしても。」

 

そして───私じゃまだ、穿龍棍を使いこなしきれない。だから───

 

「オレ達に任せておけ。おい、ピエロ。」

 

「ハテ?」

 

「ヴィクターのじいさんを殺した。その言葉にまちがいはねぇな?」

 

「えぇ、えぇ…まぁはい。殺しましたが、それが何か?」

 

「なら、ブリテンの民に手を出した───オレのものに手を出したってことだ。オレの言いたいことは分かるな?」

 

「───はて。ワタクシ察しの悪いものでして。」

 

「テメェを殺すって言ってんだこのヘラヘラ鬱陶しいピエロ!ジジイを殺すのがそんなに楽しかったのか!!」

 

「それはもう!生から死へと切り替わるのを察したあの顔!アレを見るのがワタクシだぁい好きなのですよ!あぁ、マスターのアナタは一体どんな顔をするのか───今から楽しみでたまりません!」

 

……警鐘が響く。

 

「ごちゃごちゃうるせぇっ!テメェはこのオレがぶっ殺す!」

 

「ハァイ!でわでわ開戦とイタシマしょう!あァ、お気をつけなさい?ワタクシの宝具は既に()()()()!盾のサーヴァント、せいぜいしっかりとマスターを護るがよろしい!」

 

「先輩…!」

 

「マシュ、お前も来い!奴をぶっ叩く!」

 

「…行って」

 

「───分かりました!戦闘、開始します!」

 

少し嫌な予感はするけど───きっと、大丈夫。ミラちゃんとギルが何か話していたから。この2人が協力すると、色々なことができるから───きっと。




正弓「ん…」

弓「どうした、悩みごとか。」

正弓「えぇ、まぁ。些細なことですから気にしないでいいですよ。」

弓「…そうか。」

正弓「あ、34,000UA突破ありがとうございます。まだまだ時間はかかりますが、よろしくお願いします。…それと、無銘さんのイメージ画像。気がつくまで非公開のままですみませんでした。今は既に公開になってますのでどうぞ、よければ。」


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第174話 道化狩り

正弓「ふぁぁ…」

弓「眠そうよな。」

正弓「…えぇ、まぁ。まだ動けますが。」

弓「無理はするでないぞ」

正弓「分かってますよ。」


モードレッドさんの剣が空を切る。

 

〈…クイーン。先ほどからあなたから魔力の流れを感じますが、何をしておられるのですか?〉

 

通信先から聞こえるアルトリアさんの声。それに私はため息をつく。

 

「…“クイーン”はやめてって言ったでしょ。私はただの王女、自分で王位の継承権を放棄した、ただの小娘なんだから。」

 

〈…そう、ですか。それはともかく、いったい何を?〉

 

「…策を練ってる、って感じかな。」

 

〈…策、ですか?〉

 

「ん。」

 

私はアルトリアさんの言葉に答えながら術式を構築する───隠れ身の術式。

 

〈そうですか…英雄王。〉

 

「どうした。」

 

〈…もし、この先ブリテンが…この地が特異点、もしくは別件の中心になるようであれば。その時は…〉

 

「…モードレッドの愛情に感化でもされたか?」

 

〈…そう、なのでしょうか。〉

 

「大方、ブリテンが特異点、もしくは別件で事件の中心となるようであれば貴様が出る、と言いたいのであろう。それは確かに愛情の一つの形なのであろうよ。…ふむ。」

 

英雄王が少し頭を押さえてから言った。

 

「…なるほどな。」

 

〈英雄王?〉

 

「アルトリア…いや、騎士王よ。貴様に問おう。“キャメロット”という名に聞き覚えはあるか?」

 

キャメロット…?

 

〈それは───〉

 

「その反応はあるようだな。」

 

〈…はい。ですが、なぜそれを今?〉

 

「…そう遠くない未来、そのキャメロットとやらに赴くことになりそうだ。…どうだ?出るか、騎士王。」

 

〈………〉

 

「相手となるはかつての貴様の同胞、円卓の騎士であろうよ。どうする、アルトリア・ペンドラゴン。」

 

〈出ましょう。〉

 

「ほう?」

 

少しだけしか悩まなかったね…今。

 

〈かつての私の同胞たちが人類の未来を荒らしている───考えたくはないですが、もしそうなのだとしたら…私はそれを止める必要があります。人の心が分からないと言われたとしても、人を守りたかったのは間違いありませんから…〉

 

「ふん、そうか。…ところでミルド」

 

英雄王に声をかけられて英雄王の方を向く。

 

「どうだ、進捗は」

 

「大体60%。一応牽制くらいには使えるけど、どうする?」

 

「必要ない、続けろ。」

 

頷いてモードレッドさんの方を見つめる。

 

「オラァァァ!!」

 

「キヒッ!当たらない当たらない!大振りすぎても当たりませんよォ!?ダイはショウを兼ねるとも言いますがショウを重ねる方が良いときもあるのでしょうなぁ!まさにテキザイテキショ!イウはヤスシ、オコナウはカタシ!」

 

「うるせぇ、黙りやがれ!!殺す、絶対に殺す!!」

 

「あぁあぁ、これこそwinwinの関係というべきものではないですかな!ワタクシ笑いアナタ怒る!キャハハハハ!」

 

「うぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

〈…あのバカ息子は…英雄王、クイ…いえ、プリンセス。〉

 

「どうした?」

「……まぁ、いいか。どうしたの?」

 

まだクイーンよりはいいかな。…言われかけたけど。

 

〈あのバカ息子が建物を壊しそうになったのならば、私が出ます。〉

 

「そういうことはマスターに伝えておくのだな、アルトリア。補助のサーヴァントを選ぶのは我やミルドではなくマスターだということを忘れるな。」

 

〈はい。〉

 

進捗、80%───摘出準備完了、解析完了、起動待機状態確認。透明化確認───あとは…

 

「モードレッドさん!私も───」

 

「来るな!そこから一歩も動くんじゃねぇ!ミラの合図があるまでじっとしてろ!!」

 

「え───」

 

「最初からこいつはお前らが目的だ!それの対策をミラがやってくれてるだろうから合図があるまで待て!」

 

「アヤヤ?もしかしてお気づきで?」

 

「勘がそう!叫んでんだっつーの!!」

 

気づいてたんだ。私が処理してるってこと。もう少しで終わると言えば終わるけど。

 

「はぁい、正解!ワタクシ狙うはソチラのアナタタチ!いやはやアナタタチそれなりにロクデナシなのですねェ?親切心は大事ですよォ?ワタクシが言うコトでもア~リマセンが!ケヒャヒャッ!!」

 

「うるせぇ。聞いてるだけで虫唾が走る。どうせ、ここら一帯全て仕掛けてあんだろうが。」

 

「ハイハイ正解さらにネタバラシ!あれですか、女子としての配慮ですかなァ!?」

 

「ウゼェェェ…」

 

スキル“道化の大笑”───失敗する可能性があれば必ず失敗するようになるスキル。そう、リッカさんは言ってた。だから、私達は大した補助もかけられないでいる。

 

「来て、“アルトリア・ペンドラゴン”!“クー・フーリン”!」

 

リッカさんが告げる───それと同時に召喚がされるアルトリアさんとクー・フーリンさん。

 

「あや?」

 

「…まったく、モードレッド。もう少し冷静に動きなさい。」

 

「なぁっ…父上…!?」

 

「ランサー、少しの間頼みますよ。」

 

「へいへい…ご要望とあらば、と。さぁピエロ野郎、少しの間俺と踊ってもらうぜ?」

 

「人が変わろうと何が変わるというわけでもないでしょうに───」

 

「ハッ!やってみるまで分からねぇよなぁ、オイ!」

 

それを聞いた直後、私は杖を振り上げる。展開されるは無属性射撃砲門20門。狙いは───すべて、クー・フーリンさんに。

 

「レーッ!!」

 

「んン!?アヒャヒャヒャ!!どうやらお仲間はアナタのことが信用ならないようですねぇ!裏切られた気分はどんなカンジ!?NDKNDK!?ケッヒャヒャヒャ!!」

 

「───裏切りなんかじゃねぇよ、ピエロ野郎。」

 

「───ハテ?」

 

私の弾がクー・フーリンさんに当たる直前───クー・フーリンさんがそれを避けた。放たれた無属性弾はメフィストフェレスに当たる。

 

「最初っから俺は()だ。お前に攻撃を加えるためのな。」

 

「アヒッ、アヒィィィィィィ!?」

 

クー・フーリンさんのスキル“矢避けの加護”。大抵の飛び道具には対応できるって話だったから、私の声を頼りに発射点を察知、回避してもらう方法にしてた。標的がメフィストフェレス自身ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その弾幕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───!!

 

「アバババババ!これはこれはメッフィー全くの予想外!私に狙いをつけるのではなく別の者に狙いをつけ、ワタクシのスキルの影響を無効化するナド!考えたこともありませんでしたな、ウッヒャー!?」

 

「ハッ!俺を囮に使うなんざ、よく考えつくもんだよなぁ、ミラの嬢ちゃん!しかも()()()()()()()()()()()使()()()()ときた!魔術師らしいっちゃ魔術師らしいが、全く気分が悪くねぇ!ホント、マスターのリッカといい、上機嫌の金ぴかといい───今回の現界はいい奴らに恵まれてやらぁ!」

 

「アヒィィィィ!」

 

「ランサー!」

 

「あいよ、セイバー───スイッチ!」

 

「行きます!“風王結界(インビジブル・エア)”!」

 

クー・フーリンさんが下がったあと、アルトリアさんの声と共に風が吹き抜ける。

 

「あぁ───ありがとうよ、父上。」

 

「オウッ───イヒッ!?」

 

「くたばりやがれ!ブリテンを荒らせしものよ、そして我が麗しき父よ!我が剣に在る輝きを見よ!是なるは我が父を滅ぼす邪剣!“我が麗しき(クラレント)────」

 

宝具を起動したのを見て、既に待機状態にしてあるものを準備する。

 

「───父への叛逆(ブラッドアーサー)”ァァァァァ!!」

 

放たれた宝具は上空に。私が無言で風属性弾を炸裂させて空中に浮かばせておいたメフィストフェレスへと。

 

「あややや、これは無理、避けれない───とお思いで?」

 

「おいおい、忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

「───なっ」

 

「安心しな、一息で殺してやる───“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”!!」

 

槍が相手の心臓に命中したという結果の後に槍を放つ因果逆転の一刺───それが、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”。刺し、槍を引き抜いたあと、私の近くまで戻ってきた。

 

「───その心臓、もらい受けた」

 

「───あらら。これは死んだ、死にましたねぇ。ですが───」

 

「後始末は自分でしておきなさいな?」

 

「───はて?」

 

「正直宝具だと言ってもねぇ…なんか、微妙。」

 

私はそう言って指をパチンと鳴らす。それと同時に、メフィストフェレスに振りかかってくる大量の───大タル。

 

「さ、リッカさん。あとは貴女に任せるよ。…あぁ、メフィストフェレス。貴方の宝具…小タルくらいにしか使えなかった。だから、全部貴方に返却。オマケで()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もつけて、ね。」

 

「な───まさか!それは!つまり───!」

 

「───宣言」

 

「“爆発オチ”ですかな!?爆発オチなんてサイテー!ワタクシ鮮やかな花火になってしまいますぅぅぅ!」

 

「───“微睡む爆弾(チクタク・ボム)”!!」

 

リッカさんの宣言が完了する前にメフィストフェレスと宝具、そして小タルと大タル───正確には小タル爆弾と大タル爆弾G───を()()()()()()()()し、花火玉2.5号玉くらいの大きさにした球体を風属性弾の炸裂で空高く飛ばした。

 

 

ヒュルルルル───ボンッ!

 

 

大きな花火が打ち上がった。

 

「へっ、汚ぇ花火だ。素材を考えちゃあな。」

 

「そうよな。……しかし、この花火の演出は粋なものよ。ミルド、いつの間にこのようなものを?」

 

「うん?あぁ、花火爆弾仕込んでおいたの。あとは術式でちょっとしたものを作ったりしてね。子供達の所に行くときとか、よくこういう即席花火使ってたからね。」

 

ちなみに爆弾と圧縮術式を扱えるだけの魔力と技術さえあれば私が作った即席花火は作れる。

 

「ほー…まぁ、演出に罪はねぇな。…ま。」

 

クー・フーリンさんがキラキラとした目で花火を見つめるマシュさんを見つめた。

 

「ミラの嬢ちゃんにとっちゃ、マシュの嬢ちゃんのあの表情が一番の報酬なんじゃねぇか?」

 

「…ん。」

 

花火を実際に見たことがないって言ってたし。見せられて、よかったな。




正弓「…喉が痛い。」

裁「大丈夫…?」

正弓「よくあることですから。お気になさらず…」

裁「…そっか」


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第175話 ヴィクター・フランケンシュタインの怪物

正弓「200話が近くなってきましたね…」

裁「そうだね…」


「ふむ、薄暗いな。」

 

地下に続く階段を覗き込んだ英雄王さんがそう言った。

 

「目星でも振りますか?」

 

「必要ない。懐中電灯があるのでな───あぁいや、幸運は振っておこう。……12。我の幸運値は80。成功だな。」

 

「電池は正常だったようで懐中電灯の光が地下を照らした……と。こんな感じでよろしいですか、英雄王。」

 

「よい。…ふむ。手がかりはこれといってないか?無銘、この部屋を対象に1D100で目星、振ってみよ。」

 

英雄王さんから2つのダイスを渡された私は言われるがままに振る───03。えーと…

 

「…クリティカル、です。」

 

「…貴様は相変わらず変なところでクリティカルを出しおって。何か分かるか?」

 

「そこ、床が少しズレてて…奥から何かを窺っているような気配がします。」

 

「……ほう。アルトリア?」

 

「破壊工作1D4ですね…3、失敗です。」

 

「我は…1だ。よし、下がっておれ───王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

ちなみに私は破壊工作のスキルを持ってなかったから今のダイスは不参加。そしてこの場にいるのは英雄王さん、アルトリアさん、私、モードレッドさんの4名。

 

「ふむ……分かれ道か。目星を振るとしよう……07、成功だな。“3つの扉のうち2つの扉は鍵がかかっていないが最後の1つは厳重に鍵が閉められている”……アルトリア、無銘、貴様ら鍵開けスキルはあるか?」

 

私とアルトリアさんは同時に首を横に振る。確か鍵開けスキルを持っていたのは六花さんだった気が…

 

「ないものは仕方ない、順に攻略していくしかあるまい。」

 

「待ってください、英雄王。直感を振るべきです。」

 

「む…そうか。ならばアルトリア。直感1D100だ。」

 

「……73。出目が高いですが成功です。“進むべきは真ん中の扉だが、普通に開けるのではなく蝶番を破壊し倒すべき”───どうしますか?英雄王。このパーティのリーダーは貴方です、最終的には貴方の指示に従いましょう。」

 

「破壊工作1D4、出目は2だ。故に蝶番のみを破壊するぞ。」

 

そう言って英雄王さんは蝶番だけを器用に破壊し、扉を倒壊させて私達は先に進んだ。

 

 

しばらくして、鍵を手に入れて分岐点に戻ってきた私達は鍵のかかっていた部屋には入った。

 

「敵は出ませんよね?」

 

「さて、な。無銘、目星だ。1D100。」

 

「6…成功です。」

 

「…そういえば貴様の目星ステータスは15であったか。真、よくそのステータスで生き抜けるものよ。」

 

「それだけ幸運なのでしょうね、無銘は。それで英雄王、結果は…」

 

「うむ。そこの棺桶が怪しいであろうな。」

 

英雄王が示した方には、人が1人入れそうな位の大きさの棺桶があった。

 

「ふむ…モードレッド、開けよ。」

 

「オレが!?」

 

「無銘は力がないのでな。時に無銘、貴様筋力値はいくつだったか。」

 

「7です。」

 

「……ステ振り自由とはいえ、極端すぎるであろう貴様は……」

 

そんなこと言われても……

 

「…開いたぜ、成金野郎。」

 

「……ほう?これは───」

 

そこにいたのはドレスを身に纏った…角の生えた少女?

 

「…ふむ。目覚めぬか。」

 

「眠っているのでしょうか…しかしどうしましょう。」

 

「ふむ……目星1D100……4。クリティカルか。ならば───む、それか。」

 

英雄王さんが机に駆け寄ったかと思うと、1枚の紙を持ってきた。

 

「やはりな。説明書というものがあるだろうとは思っていたが。」

 

「説明書……?つーか、こいつ…黒の……?」

 

「そこのブレーカーのレバーのようなものを下ろせば電気が流れ、起動するな。機械系のスキルは振ってあるか?」

 

「いえ、ないです…」

 

「機械整備スキルと機械細工スキルが一応…」

 

「整備があるならば自動成功で問題あるまい。」

 

「さっきから目星とか1D100とかなんなんだよ!?」

 

しびれを切らしたのかモードレッドさんが声を荒げる。

 

TRPG(テーブルロールプレイングゲーム)だが?この程度も知らぬのか、貴様は。よほど円卓は余裕がなかったと見えるな、アルトリア。」

 

「知らねぇよっ!」

「申し訳ありません…」

 

「まぁ仕方あるまい…そら無銘、引けるか?」

 

私は頷いてレバーを下ろす。電気が発生し、件の少女に流れ込み───スイッチが入るような音を聞いた気がした。

 

「…これが仮に防衛装置だったとして、襲ってこなければよいがな。」

 

「確かにそうですね。」

 

そんな話を聞いているうちにその少女が目を覚まして身体を起こした。

 

「…ヴ……」

 

「「「???」」」

 

「ウ……ァ……」

 

「……言語機能が備わっておらぬか。ふーむ…どうしたものか。」

 

「英雄王は精神分析を持ってましたっけ?」

 

「持っておらぬな。そしてそう聞くということはアルトリアも持っておらぬな?となると……無銘」

 

私は首を横に振る。精神分析スキルは確か持っていなかった覚えがある。

 

「仕方あるまい。となると何か代用できそうか…」

 

「あなたは、って言ってんぞ。」

 

突然モードレッドさんがそう言う。

 

「分かるのですか?」

 

「おう。」

 

「火力馬鹿も使いどころによる、ということよな。…しかし、雑だな。魔力も感じられぬ。これはサーヴァントではなかろうよ。」

 

ということは───

 

〈“製造されたばかりのヴィクター・フランケンシュタインの怪物”…と、いうことでしょうか。ギル。〉

 

通信の先のオルガマリーさんがそう言う。

 

「で、あろうよ。この怪物もあのジキルめと同じように生前の存在であろう。」

 

「ウウ……」

 

……?なんか、抗議してるような…

 

「成金野郎。“怪物はやめてほしい”、だとよ。」

 

「ほう…言語機能はなくとも感情は備わっておるか。」

 

〈申し訳ありません。〉

 

「ウ……」

 

「いいってよ。」

 

「しかし、こう会話がうまく成り立たないと少し面倒ですね。」

 

「ふむ……ダ・ヴィンチ」

 

〈はいはーい?私をお呼びかい?〉

 

呼ばれて出てきたのはダ・ヴィンチさん。

 

「これよりこやつのアップデートを行うゆえ、力を貸せ。」

 

〈うーん?ほほう、“ヴィクター・フランケンシュタインの怪物”のアップデートかぁ!…にしても長くて呼びにくいね。フランケンシュタイン……シュタイン、は…〉

 

〈師匠、それはちょっと。〉

 

〈愛弟子に言われちゃあ、ちょっと諦めるかぁ。じゃ~…フラン、でどうだい?〉

 

「……ア…!」

 

「気に入ったみたいだな。」

 

〈よしっ!なら、その調整に取りかかろうか!“フランケンシュタインの怪物”と言われた存在を調整できるなんてこの先あるかどうか分からないしさ!少し痛いかもしれないが我慢してくれるかい、フラン?〉

 

「アァ…」

 

フランさんが頷く。

 

〈よろしい!それではそのオーダーに応えましょう!内容はどうするんだい?〉

 

「そうだな…肉体調整と精神調整でそれぞれ幸運1D100だな。」

 

「では肉体は私が。」

 

そう言ってアルトリアさんがダイスを振る───01。えーと、私達のルールだと…

 

「01クリティカル───ふむ、サーヴァント戦で万全に戦えるようにしてやるか。レアリティは☆5よ。」

 

〈はいはーい…この時点で既にその時代にあってはならないものじゃないかい?〉

 

「文句を言うのなら1クリを出しおったアルトリアに言うのだな。さて、精神はというと…」

 

「オレもやる!つーかやりたい!」

 

「……大丈夫か?」

 

英雄王さんがモードレッドさんにそう聞く。…正直、私も心配…

 

「任せとけっての!マトモな精神つけさせてやるからよ!」

 

「それを巷では“フラグ”というのだが……まぁ、よい。アルトリア、ダイスをモードレッドめに渡せ。安心せよ、仮に死んだとしても骨は拾ってやろう。」

 

「そうそう起こらねぇだろ───!」

 

モードレッドさんがダイスを振る───出目は。

 

「げ。」

 

「……うわぁ」

 

「…だから言ったのだ。」

 

「…本当に、うちの馬鹿息子が申し訳ありません、英雄王。」

 

〈うーん…それは色々ダメだねぇ。まぁ、整備に関しては自動成功だからいいんだけどさ。細かい調整に委ねるしかないからねぇ…王様、オーダーは?〉

 

「うむ、そうだな───」

 

 

と、いうことで。

 

「フランケンシュタインの怪物よ?私のことはフランって呼んで!」

 

美しく礼をするフランさんがいた。

 

「戦利品だ。持ち帰るぞ。」

 

「な、何があったの…?」

 

「あなたが私のマスター?よろしくね!」

 

素直そうな話し方をしているけど、その目付きは血走っている。

 

「まったく…何故あそこでファンブルなのですか。しかも超致命的な…」

 

「我がオーダーを出したはいいが運用するに恐怖があるな、ふはははは……」

 

あ、英雄王さんもすごい表情がひきつってる…

 

「う…すまねぇ、父上…」

 

ちなみに出目は00───100ファンブル。私達のルールにおいて、1クリティカルは“システムの領域を越えてでも必ず良い方向に向かう”みたいな効果を発揮する。そして、100ファンブルは“超致命的な損害を与える”───今回に関しては“普通の運用が難しい精神状態になる”。具体的に言うと───

 

「謝るならマスターになさい。貴女のせいでマスターは危険に晒され続けるのですよ?」

 

「ふふっ!これからとっても楽しそう!一体どんなものを壊せるのかしら!」

 

「え、えぇ……?」

 

───東方projectのフランドール・スカーレットさんみたいな性格が付与されたって言えば…まぁ、危険性は分かるよね……




正弓「1クリ……100ファン……うっ、頭が……」

裁「だ、大丈夫です……?」

正弓「勝てないはずの存在の撃破……ゲームマスターのメンタルブレイク……死因:仲間……」

弓「……そっとしておいた方がいいであろうな、これは。」

裁「う、うん…」


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第176話 古代竜人、出現。童話作家、顕現。

正弓「なんとか落ち着きました。」

裁「よかった…」


フランさんを保護したあと。私達は救援依頼があったらしい古書店に向かっていた。

 

「……魔本、か。」

 

曰く、魔霧とは違い屋内まで侵入してくる一冊の本。既にソーホーの人々を眠りにつかせている───本、っていうと心当たりがあるけど。本人に確認を取ったら、肯定されたし…

 

「……っとと。危ない危ない。」

 

オートマタの攻撃をいなし、右腕の穿龍棍で一撃。続くヘルタースケルターの銃撃を左手に持ったスローイングピックを二連で投げて相殺+ヘルタースケルターの破壊。なんて言ってたかなぁ…鉄甲作用?とかいう投げ方らしいんだけど。

 

〈は、はは…信じられないな、本当に…サーヴァントと混ざってエネミーを駆逐するなんて…〉

 

〈それでも、サーヴァントと戦うにはまだ力不足よ。サーヴァントはマシュに任せなさいね?〉

 

「ん。分かってるよ。せめて下位☆3に上がれないとサーヴァント戦は無理だって。」

 

「ですが、正直な話私達の世界の武器を使えば戦えなくはなさそうですが…」

 

「……素の身体能力が低いからね。さっきだって負けたし…」

 

「あ……す、すみません!」

 

私自身分かってるから謝られてもね…

 

「おーい、ソーホーはもうそろそろだ。気を抜くなよ。」

 

「あ、はい!」

 

モードレッドさんの言葉に答えた、その時───

 

───狩り人?

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突然、唸り声に似た音。全員がその方向───電灯の上を見た。

 

久しぶりだね、狩り人達。…あれ?チャージアックスを使う狩り人はいないのかな。そして、そこの君は───島で出会った時を翔けて正しい時を戻そうとする者かな。

 

「あ、あなたは───」

 

忘れてない。第三特異点で出会ったあの緑色のミノムシみたいなものを被っている人。

 

「「───古代竜人」」

 

古代竜人が、そこに佇んでいた。

 

ふむ…見ない顔もいるけれど。時間が経てばそれは変わるか。

 

「誰だ?」

 

「古代竜人───新大陸の先住民です。様々なことを知っている方で、私達もよく教えてもらいました。異世界のことも少しご存じのようで。…異世界、の……相棒!」

 

その声にルーパスちゃんが頷き、口を開いた。

 

古代竜人。いくつかお伺いしたいことがあります。

 

何かな。真に生態系の頂点に立つ者よ。君の問いならば出来得る限り答えよう。

 

真に生態系の頂点に立つもの…?

 

まず1つ。この地に蔓延せし“魔霧”───これが一体何か、分かることはありますか?

 

ふむ…この霧は小さな怨霊と生態系を廻す竜が発生させているものだね。生態系を廻す竜は本来の居場所である谷を離れ、この地で迷子になっているよ。

 

生態系を廻す竜……?

 

…分かりました。次に、生態系を廻す竜は今どこにいるか、分かりますか?

 

生態系を廻す竜は影に溶け込む竜と共にこの地で迷子になっている。だけど、影に溶け込む竜は霧に侵され既に虫の息。前日までは共に動いていたけれど…さて。同時に、生態系を廻す竜はこの霧の発生源ともう2つ、あるものを探しているよ。

 

あるもの?

 

霧に侵された影に溶け込む竜を救える者。そして、()()()()()()()()()()()()()()を。

 

───っ、それ、は。

 

…分かるね?狩り人。()()()()だ。

 

その言葉にルーパスちゃんがフラりと倒れかけた。

 

……何故

 

何故か?真に生態系の頂点に立つ者。君ならよく分かっているはずだよ。かの竜の危うさを。今この地にいるかの竜は自らの危うさを理解している。だから、かの竜は自らの命を終わらせてくれるものを探し求めている。

 

…そうですか。最後に、1つ。あなたは今自らの身に何が起こっているか、理解していますか?

 

……?どういうことだろう?

 

ふーむ……君はこう言いたいのかな。どうして君達はこの場所にいるのかと。

 

ルーパスちゃんが頷く。あぁ…そういうことか。ルーパスちゃん達は別世界の住人。どうしてこの世界に呼ばれたのか、その理由。

 

…今はまだ話すべきことではないよ。

 

「!?」

 

え……?

 

確かに君の求めている答えは知っている。けれど、君に───いや。今の君達にそれを知る資格はないよ。

 

その人はそこまで言ってから私の方を向いた。

 

時を翔けて正しい時を戻そうとする者。愛の炎を4つ、吹き消すといい。そのうち2つは君の力となるだろう。そして、その君の力を完全に扱えるようになったその時こそ、君達に知る資格があると認めよう。

 

愛の炎を……4つ?

 

ふーむ……最後に1つ、教えておこう。

 

「……?」

 

あらゆる生態系を狂わせる竜がいる。気を付けるといい、時を翔けて正しい時を戻そうとするもの達よ。

 

生態系を狂わせる竜…?

 

…これ、あげる。

 

そう言ってその人は電灯の上から降りて、私に鈍い輝きを放つ鉱石を渡してくれた。これは確か…

 

「ライトクリスタル…」

 

じゃあね。また、逢うことがあれば。

 

そう言って杖の底を地面に叩きつけると、その場から消え去った。

 

〈な……消えた!?いや、待て、今の……!〉

 

〈反応が、転移というよりはレイシフトに似ていたわ…どういうこと……?あれはカルデアしか技術はないはずよ…〉

 

レイシフトに似ていた……?

 

「…今は考えていても仕方がないだろう。…しかしルーパス、これは───」

 

「2体は大体確定したね。ただ…“あらゆる生態系を狂わせる竜”、か。」

 

「心当たりがそれなりにあるから難しいところだな。」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんが溜め息を吐いたあと、引き続きソーホーに向かって歩きだした。…ところで。

 

「ルーパスちゃん、“真に生態系の頂点に立つ者”って?」

 

「ん…私の事だね。厄災までも制した者、ってことで呼ばれているらしいんだけど…」

 

「厄災?」

 

「煌黒龍“アルバトリオン”と黒龍“ミラボレアス”。熟練のハンターの間にだけ実在が伝っていた禁忌のモンスター…のことだと思うんだけど。いつの間にか呼ばれてたから私もよく分かってない。」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「ここだ。ジキルが言ってたのは。」

 

いつの間にか古書店前に着いていた。

 

「邪魔するぜ~」

 

「……やっと来たか。」

 

……うん?

 

「遅い。お前達がヘンリー・ジキル氏の言っていた救援だな?連絡を入れてからどれだけ時間がかかっている。おかげで読みたくもない小説を一シリーズ、二十冊近く読み潰すハメになった。」

 

そこにいたのは青い髪の少年。…なんだけど。

 

「…ほう?滅多に見ることのない顔がいると二度見してみればお前がそちらにいるとはな。意志持つ嵐、英雄王ギルガメッシュ。」

 

「身長に比べて可愛げのない物言いは健在か。しかし貴様の本質を見抜く力は我よりも上回るのであろうな。そうであろう、捻くれた童話作家。」

 

「……意外だな。他ならないお前が誰かを誉めるとは。頭でも打ったか?」

 

童話作家……いや、それよりも……

 

「貴方の声…どこかで聞いたことのあるような……」

 

「別にピラミッドは出せんし爆弾も出せん、鼻毛も自由自在には伸ばせんし俺の歴史が始まるのは19世紀。宇宙の曹長でなければ銃も咥えん、妖精王や75層クリアを潰した原因でもなければ海を凍らせて自転車で渡ったりだらけた正義を掲げていたりもせんぞ、ヴァカメ!!」

 

あっ…(察し)




正弓「古代竜人……」

裁「正のアーチャーさんも知らされて…?」

正弓「ないです。しかし、レイシフトと似ているということは───」

弓「……ふん。時間が経てば分かるであろうよ。」

正弓「…ですね。」


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第177話 童話作家、人間観察

正弓「……一応ゲーム内に“オベロン”が実装されているのでちょっとした補足のようなものを。」


「別にピラミッドは出せんし(オジマンディアス)爆弾も出せん(メフィストフェレス)鼻毛も自由自在には伸ばせんし(ボボボーボ・ボーボボ)俺の歴史が始まるのは19世紀(ハンス・クリスチャン・アンデルセン)宇宙の曹長(クルル曹長)でなければ銃も咥えん(ガストロ)妖精王や75層クリアを潰した原因(オベイロンorアルベリヒ/須郷伸之)でもなければ海を凍らせて自転車で渡ったり(クザン)だらけた正義を掲げていたり(/青雉)もせんぞ、ヴァカメ(エクスカリバー)!!」


正弓「ということで、第2部6章アヴァロン・ル・フェで追加された妖精王オベロンさんとは全く関係がありません。」

裁「これ、書いておかないと知らない人には色々言われそうだものね…」

正弓「です…」


「…さて。実に面倒だが自己紹介でもしてやるとしよう。」

 

溜め息をついて近くの揺り椅子に座り、腕を組んだその少年が口を開く。

 

「俺はアンデルセン。“ハンス・クリスチャン・アンデルセン”───ただの旅好き、そしていくらか俺の著書が世の中に出回った童話作家だ。何故英霊となっているかは分からんがな。」

 

「ハンス・クリスチャン・アンデルセン……!すごいです、皆さん!三大童話作家の1人ですよ!」

 

「「誰それ?」」

「誰だ?」

「「誰ですか?」」

「「誰にゃ?」」

「ウォ?」

 

……久しぶりに見た気がする。ルーパスちゃん達のこの反応。童話系は未履修だったのかな?

 

「ふむ。俺のことを知らない人間がいるとは。まぁ、別に構わんが。それよりも猫が喋るとはどういう理屈だ?俺は執筆しすぎて本当に童話の世界にでも、それこそルイス・キャロルのあの童話にでも入り込んだのか?」

 

「鏡の国のアリス?」

 

「その前作の方だ、俺が言ったのは。」

 

なんで私鏡の国のアリスが先に出てきたんだろう…

 

「…それで?お前のあの典型的な汎用救世主型主人公なマスターは今回は一緒ではないのか?」

 

「当然であろう。此度の現界ではこの娘がマスターよ。そもそもあやつがこの世界にいるとも限らん。探すのもいいが今は緊急事態。これが終われば自由に動くことも叶おうさ。我にそれを聞くならば我も聞くが、貴様もあのマスターとは共におらぬのか?」

 

「……ふむ。…やめろ、アイツの話は。聞いた俺が悪かった。」

 

………??

 

「しっかし…このチビッこいのが英霊だぁ?作家ってことはペンだろ?ペンで大量殺人でもしやがったのか、こいつ。」

 

「発想が野蛮人のそれだな、アーサー王伝説に名高い叛逆の騎士モードレッド?ペンでの大量殺人。そんなもので英霊となるならばアサシンのクラスが最適だろうさ。だが、生憎と俺はキャスターだ。アサシンのクラスの適正なんぞ全くない。」

 

「んだと!?」

 

「…そういえば、マシュは童話を好んでいたか。ならばこやつと話すは避けた方がいいだろうよ。理想など粉々に砕け散るぞ?」

 

「え……」

 

子安さんボイスは色々と幅が広いから…どんな人かっていうのは断定できないんだよね……って言うか声優さんって本当にすごいと思う。性格とか全く違うキャラクターでも基本的に演じきるから。

 

「それで、どういった理屈だ?猫が喋っているのは。そこのマスター、簡単にでいいから説明しろ。」

 

「…私?」

 

「お前以外に誰がいる。見たところこの英雄王の…いや、ここにいるサーヴァント共のマスターはお前だけだろう。」

 

…私も理解しきれている訳じゃないけど、簡単にルーパスちゃん達の世界のことをアンデルセンさんに説明した。

 

「……なるほど。異世界、か。ますます童話染みてきたが…まぁいい。異世界の存在ならばいてもおかしくはないだろう。本当にそんなものが存在するのならば、だが。しかしここにいるのは紛れもない事実……そこの猫、少しこちらに来れるか?」

 

「私のことですにゃ?」

 

「そうだ。…ふむ。猫耳はいいな。」

 

「にゃ、にゃぁ……くすぐったいにゃぁ……」

 

スピリスさんがもふられてる。

 

「…こちらの世界の猫とさほど触り心地は変わらないな。アイルー、だったか?人に慣れているようでいいじゃないか。一家に一匹欲しいくらいだな。」

 

「一応、僕らの世界には“オトモ雇用窓口”がある。そこからハンターはオトモアイルーを雇えるし、そもそも基本の生活の助けとなるアイルーならば雇用する方法は普通にあるが?」

 

「そうか…」

 

「そ、そろそろ離してくれませんかにゃ?」

 

「む、すまない。あまり嫌がらないのでしばらく堪能していた。」

 

そう言ってアンデルセンさんがスピリスさんを解放する。

 

「…しかし、やはり猫はいいな。」

 

「…猫、好きなんですか?」

 

「猫が好きかというのはおいておくとして…俺は猫耳派だ。百歩譲っても犬耳派だ。狐耳の存在意義なんぞ誤字以下だな。」

 

「童話作家。貴様のその言葉はこの物語の紡ぎ手を含むあらゆる紡ぎ手に刺さるぞ。」

 

「知るか、そんなもの。菌糸類も含め誤字をする方が悪いだろう。」

 

正論……なんだろうけど……うん。とりあえずこの人は狐耳派の人を敵に回したと思う。

 

「ふむ。そういえば貴様はいつぞやの折に言っておったな。作者が自由に妄想を働かせて作者自身が楽しいと思えるものが“書きたいもの”。作者を思想で縛り付け、作者自身が苦しいと思うものが“書くべきもの”、だったか?」

 

「ほう。今回はお前に驚かされてばかりのような気がするが。まさか、俺の言った言葉を覚えているとはな。まぁ、実らぬプロポーズの言葉を覚える手間に比べれば造作もないか?」

 

「先にも言ったであろうが。貴様の本質を見抜く力は我よりも上回るのであろう、とな。我は貴様のその能力に関しては高く買っている。そして1つ言っておこう、此度の我はアルトリアにさほど興味はない。」

 

「……光栄だが、本当に大丈夫かお前。頭でも打った…いや、フグやイチョウでも食らったか?流石の俺でもお前がそんな調子では心配になるぞ。サーヴァントとしても英雄としても論外としか言いようがない英雄王?」

 

「…同じことをアルトリアや贋作者、狗などにも言われたがな。あやつらは明確に“毒”と言ってきたがな。」

 

「既出だったか。しかしそれだけ今ここにいるお前が予想外の存在ということだ。覚えておけ。」

 

…ギル、色々罵倒されてるはずなのにそれを涼しい顔で受け流してる…

 

「あぁ、ちなみに俺の著作の中でも人魚姫は書きたかったものだな。」

 

「ほう?」

 

「異種族だというのに頭の湯だった恋心に取り憑かれ、一方通行の暴走をした挙げ句、唯一の利点であった美しい声までも台無しにするお姫様!蕁麻疹が止まらなかったが、書いててたまらなく面白かったさ!リア充爆発しろ、と叫びたいのを堪えながらな!」

 

「そ、そんな……」

 

あ、マシュの目が死んだ……私と同じらしいけど。

 

「……しまった、つい口が滑ったな。本来愛読者に聞かせるものでもない企業秘密を喋ってしまった。…まぁ、その…なんだ。今言ったのが事実とはいえ、確かに人魚姫はやりすぎたと思っている。あのときはついカッとなって書いた。反省している。」

 

「…だって、ナーちゃん。」

 

〈…そうなのね。〉

 

「……む?その声は……どこかで聞いた覚えがあるな。はて、誰だったか。まぁいい。…しかし、今ので愛読者が1人減ってしまったか。恨むぞ、英雄王…!作者が1人愛読者を作るのにどれだけの思考と精神を絞らなければならないと思っている!」

 

「我は特になにもしておらんはずだが…まぁいい、マスターの表情を曇らせた代償とでも考えよ。」

 

「くっ…たかが一時の対話で我が身を削る損害を被るとはな…浮遊城の鼠よりも遥かに凶悪だな、お前は……!」

 

浮遊城の鼠……アルゴさんかな……?“鼠のアルゴ”。曰く、“鼠と話すときは気を付けろ、5分雑談していると100コル分の情報を抜かれている”…だっけ?

 

「そして対話して感じたことを突きつけてやろう。お前は作者にとって最大クラスのタブーだ!!」

 

「ほう?良い、述べてみよ。貴様の観察眼が読み取ったものには興味がある。理由はなんだ?」

 

「決まっているだろう───“どんなことでも出来る”からだ!そんな万能キャラクターなど、敵にするにも味方にするにも扱いにくいに決まっている!敵にすれば設定や描写に差違があると指摘され、味方に回せばお前の力を理解し、戦闘や日常に組み込むだけでも加減やリミッターを考えなければ“チート乙”と言われるのが目に見えている!いくら御都合主義や主人公補正に定評のある作者といえどお前が最大クラスの悩みの種であることに変わりはない!」

 

「フッフハハハハハ!言うではないか!」

 

「そしてもう1つ、お前の話し方は少し面倒だ!偉そうな話し方を全くといっていいほど使わない作者がお前の台詞を考えるのにどれだけのパターンを組み上げないといけないと思っている!特にお前のような設定が既に出来上がっているキャラクターはそのキャラクターの根幹を崩さないようにするだけでも一苦労なのだぞ、ギルガメッシュ!お前から慢心を奪い、成長性を与え、傲慢を弱らせ、新たな霊基に書き換えてなおこのザマだ!期限が存在する作家にとって限界を超えてまで描写を要求される厄に近いのがお前だ!!お前一人のために短い時間をかなり割くことになるのだ!時間ギリギリまで書き起こす作者の身にもなってみろ!」

 

「フハハハハハ!だが、我は今もこうしてマスターのメインサーヴァントとしてここに立っているぞ?これは物語の主要人物として認められているということであろう?ん?」

 

「…あぁ、そうだろうな。お前は“物語の主要人物”であってもあくまで“主役”ではないのだろう。物語の主役はあくまでお前とは違う、別の誰かだ。もしも、お前が主役を張れている物語があったのだとしたら…」

 

「だとしたら?」

 

「……そうだな。もしあるのだとしたら、作者の手腕が余程高いか…それか、お前が主役の物語を愛し、望み、期待し…楽しみに待つ純粋なる読者がいるのだろうよ。」

 

「……ほう。」

 

「とはいえ、これは俺のただの予測にすぎん。この世にそんなものがあればだがな。…だが。」

 

アンデルセンさんは深く溜め息をついて自分の手を見つめた。

 

「人間の可能性は無限ともいえる。もしかしたら既に存在するのかもしれんし、この先に産まれるかもしれん。そして、その純粋な読者こそ俺達作家が求めてやまない最高の“愛読者”だ。子供のように新たな活躍を追い求める、大人に近づけば近づくほど薄れていきやすい英雄(ヒーロー)への…幻想への渇望。それを持つものが“最高の”愛読者と言えるだろう。」

 

ヒーローへの……渇望。

 

「もしも作者が俺ならばその愛読者を得られたキャラクターがいるならば大成功の太鼓判を押す。素人の1つの作品に1人いれば素人にしては大成功クラスの作品といっていいだろうさ。それだけ貴重なものだ、大事にするんだな、ヴァカメ!」

 

この人は……すごい。

 

「…ふん。二次創作を読む者にそのような者がいればの話だがな。大抵は一次創作を見てから二次創作、三次創作の領域に飛び込む者達だ。…まぁ、覚えておくとしよう。」

 

「そうだ。このような二次創作には普通いない愛読者だ。…それと。」

 

アンデルセンさんはアルをチラリと見た。

 

「英雄王。お前に言うべきことなのかは悩むが、1つ忠告しておこう。」

 

「ほう?」

 

「子供、というのは無垢なもの───純粋なものだ。そして、無垢とは真っ白な状態を指す。故に、その白に“色”を落とすとどうなるか。分かるな?」

 

「……」

 

「もしもお前がこの白い娘を守るというのなら…覚えておけ。“無垢”は簡単に染まる。精々、悪い色に染まるようなヘマはしないように気を付けることだ。」

 

「……覚えておくとしよう。だが、最終的に全てを決めるのは我ではなくその者自身だ。その者が決めたのならば我は口出しはせぬ。それで良いな、童話作家?」

 

「それでいい。…長く話しすぎたな。」

 

今のは……警告?未だ“無銘”という名のままであるアルに対しての。

 

「そこの小娘。さっさと元凶を倒しにいくがいい。俺も同行するがな。」

 

「え…っと。ここにいるんですか?」

 

「2階だ。この古書店の2階、その書斎で力なく浮いている。」

 

浮いて……

 

「…行くか、マスター。ルル、貴様が来い。あとは待機だ。」

 

「はいにゃ。」

 

私は頷いてギルとアンデルセンさんにについていった。…あ、そういえば。

 

「アンデルセンさん。私を物語にしたらどうなるの?」

 

「なんだ。売れ残り家政婦の悲哀でもお望みか。」

 

「か、家政婦……そうじゃなくて、恋愛系で何か…」

 

「ないな。お前の物語はどう考えても英雄譚か熱血バトルもの……いや、アイドルものも一応含められるか?だがお前にはバトルものが向いているのは紛れもない事実だ。自らの武器や身に付けた技術を思い出せ。それがあって何故恋愛系だけに直結する?1極歩譲って異常の起こらない学園ものが出来るかどうかじゃないか?」

 

「ひ、酷くないです…?」

 

1極歩ってどれだけ譲っているんだろう……

 

「お前ならばその技術を誰かに教えるとかも出来るだろうさ。」

 

「私もまだ練習中なんだけど……」

 

「……まぁ、それは置いておくとして。」

 

「…?」

 

「お前の辿ってきた道はあまりにも闇黒に包まれすぎている。今に至るまでどれだけの苦難があったのかここからでも見えるさ。下手すれば一目見ただけで発狂する可能性もある禁書、TRPGで言えばSAN値直葬確定アイテムの呪本だろうさ。だが、それはいかんとお前の道を正した愛すべき最高の編集担当達がいたのだろうよ。」

 

「───!」

 

「正された道の先にある光、それを掻き消さないように気を付けることだな。無闇に道を外れないように気を付け───ちょっと待て。何故泣く!?俺はそこまでの酷評を下した覚えは───」

 

「大、丈夫、です。うれ、しかっ、た、から…」

 

「……そう、か。ええい、面倒くさいな。これでも使って涙を拭け。」

 

私はアンデルセンさんから貸してもらったハンカチで涙を拭いながら、首からかけているニキの作ってくれたペンダントに手を添えた。




正弓「そういえばご本人は聖杯転輪を現在行っているようで。」

裁「最初は誰なの?」

正弓「“オケアノスのキャスター”さんらしいですよ。」

裁「……えっ。」

正弓「えっ、って……あの人が最初に最終再臨させたのって“オケアノスのキャスター”さんですよ?オケアノスのキャスターさん1騎出すのに那咤さんが3騎出たそうですが。」

裁「……わぁ。」

正弓「……そういえば。運命の選択は上の方の選択項目が必ずしも正しいとは限りませんよ。選択する際はご注意ください。」


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第178話 .───誰かの為の物語(アリス)主人(ありす)

運命の選択 古書店の二階に在する魔本。対処は?

(2) 強制消滅させる
(2) 救済する


星見の観測者「運命は定まろうとしている。創り手───はいないのだったな。」

正弓「えぇ、はい。」

星見の観測者「…君はどことなく創り手を思い起こさせるが…さて。」

正弓「……消えた。」

裁「うわ……割れたね」

弓「割れおったな。」

裁「一応こういうときのための私達3人だけど……うん。」

弓「…ルーラー。正のアーチャー。早くせよ、我は決めたぞ。」

正弓「あ、はい………っと、これでよしです。」

裁「私も大丈夫…」

正弓「それでは開票です」


運命の選択 古書店の二階に在する魔本。対処は?

(2) 強制消滅させる
(5) 救済する


正弓「それでは、選択の結果を始めましょう。」


くるくるくるくる回るドア。

 

巡り巡ってアナタを誘う。

 

ドアを開けたその向こう。

 

待っているのはステキな世界。

 

…それが、私。

 

保証期間は10年足らず。

 

いずれ消え行く甘い記憶。

 

───だけど。

 

10年経っても忘れないで。

 

私はずっとアナタのそばに。

 

アナタが再び手にとるその時を。

 

ずっとずっと待っている。

 

さぁ、今こそ逢いましょう。

 

もう一度始まりに立ち返るように。

 

もう一度、アナタを見つめ返すように。

 

アナタが私を見つめているとき。

 

私もアナタを見つめている。

 

私はアナタを私に引き込むでしょう。

 

けれどアナタは気づかない。

 

気づいたときには私はアナタを放してる。

 

それが、私の───

 

───いいえ。

 

 

()()の、本当の意味(ちから)なのだから。

 

私は───

 

 


 

「あれだ。」

 

アンデルセンさんの案内のまま辿り着いた2階。そこには見覚えのある本が浮かんでいた。

 

「……」

 

「あれが魔本と呼ばれているもの。このソーホーを深い眠りに落とさんとしているものだ。対処の方法はあるが面倒なもんでお前達が来てから任せようと思っていた。」

 

「ふむ。…攻撃してくるような様子はないな。」

 

「攻撃してみれば分かる。あの魔本がどういうものなのか。」

 

そう言われてギルが剣を投擲する───けれど、それは本を抵抗なく突き刺さって。本はそのまま浮かんでいる。

 

「…なるほど。サーヴァントとして成立していないか。」

 

「そういうことだ。俺が推察するに、こいつは本来マスターの精神を映し出すサーヴァントだ。だが、こいつは()()()───マスターがいない。だからこそ、ソーホーの人々を夢に落とした。こいつの耐久力が無限に等しいのは───」

 

〈固有結界だな。〉

 

通信の先からお兄ちゃんの声。

 

〈サーヴァントではあるが、その本質は固有結界…固有結界こそがそいつの本領。固有結界を自在に変えることで任意の効果を現す───今回で言えば、固有結界の範囲内にいる人間を眠らせ、魔力を得ようとしているんだな。そして、サーヴァントとしての実体を得る。まぁ、簡単に言えばマスター探しみたいなもんだろ。〉

 

「ほう?何に対しても適当そうな声の割に言っていることは的を射ているな。その通り、こいつはマスターとなる存在を探している。ソーホーの人間達を眠らせてな。通信の先の男、お前が言った通りこいつは固有結界を使って眠らせている。だが、ソーホーの人間達が目覚める保証はない。何故か?こいつは放っておけばソーホー全域を眠らせるだろう。眠らせ、マスターとなる存在がいなかったとき…はたまたサーヴァントとしての実体を得られなかったとき、こいつがどういう行動に移るかは分からん。…しかし、“固有結界を自在に変える”など良く考え付いたな?誰だ?お前は。」

 

〈三大童話作家の一角のお褒めに預かり光栄、ってか。俺はただの結界魔術師、んでただのそこのマスターの兄だが?〉

 

「……お前、兄がいたのか。」

 

アンデルセンさんの問いに素直に頷いておく。似てないな、って呟かれたのが聞こえたけど気にしないでおこう…

 

「さて、読者が永遠に眠ったままというのは作家にとってかなりの痛手であるし、眠りに時間を取られては我ら作者は商売あがったりだ。このソーホーは古書店も多いことであるしな。故に───さっさと倒すに限る。」

 

「で、でも…」

 

無限に近い耐久力。そんなの、どうやって……

 

「いくつか方法はあるぞ、マスター。」

 

方法?

 

「まず1つ、我がエアで固有結界を完全に砕くことだ。だが、知っておろう?我のエアは───」

 

「世界を砕く。」

 

「そうだ。特異点も砕く可能性があるというのを考えなければそれが一番早い。」

 

「……」

 

「2つ。サーヴァントとして実体化させて霊核を砕くことだ。これが一番安全であろうよ。」

 

〈ま、一応カルデアとは繋がってるからカルデア所属のサーヴァントは喚べるけどな。〉

 

「3つ。実体化させた上で何らかの方法で退去させることだ。」

 

「退去……」

 

「このような大がかり、何かを求めているのであろうよ。マスターを、というのは簡単だ。だが、本来サーヴァントとはマスターがいなければ消滅するもの。何か触媒があるとはいえ、普通このようにマスターを探し回ったりなどせんだろう。貴様もそうであろう、童話作家。サーヴァントでありながらマスターがない。だが、こやつのようにマスターを探してはおらぬであろう?」

 

「……そうだな。俺は探し回るのも面倒だっただけだが、確かに現界可能な魔力が維持されている中で眠らせてでもマスターを探すこいつの行動は…なるほど、考えると不可解だ。英雄王、お前が言ったのはその未練を断ちきるということか?」

 

「さて、な。どうする、マスター。我らはサーヴァント。貴様の判断に従おう。」

 

……私は。

 

「…一度、実体化させる。」

 

「……よし。童話作家?」

 

「分かっている。そのためにここまで来たのだからな。」

 

そう言ってアンデルセンさんは本と向き合った。

 

「こいつが何故無限に等しい耐久力を持っているのか。こいつの存在そのものが固有結界だというのもあるが、もう1つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。探すことができなければ触れることができないだろう?そんな本を探すのはどうするか。…簡単だ。名前をつけてやればいい。」

 

名前……

 

「そら、喚べ。」

 

「…うん。お願い───」

 

「いいか!お前に名前を与えてやるぞ!魔本、いや───」

 

告げる。その名前を。

 

「───“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”!」

「───“永遠に添う物語(ナーサリー・ライム)”!」

 

アンデルセンさんの声で定義され。私の声で彼女が召喚される。定義された本は形を得て、具現化する───

 

「……ナーサリー・ライム?いいえ。いいえ、違うわ。それは名前じゃない。名前は、アリス(あたし)。」

 

「…む?」

 

あたし(ありす)…どこ?ひとりぼっちのありす(あたし)はどこにいるの?…いないの?」

 

「……まさか、名前のない本をここまで愛した誰か(マスター)が本当にいて…本当にこいつは誰かを求めていたとは。残念だが、この時代にお前のマスターはいない───」

 

「───いいえ。あたし(ありす)はここにいるわ、あたし(アリス)。」

 

私の声に応じて顕現したのは───ナーサリー・ライムはナーサリー・ライムでも、もう1人のナーサリー・ライム。その姿は瓜二つ、けれどその服装は青と白のフリルのドレス───“ありす”さん。

 

「───ぁ。あぁ……ありす(あたし)。」

 

第三特異点が終わったあとの召喚、イアソンさんが召喚された次の日に、ナーちゃんと一緒に1回だけ召喚をしてみたら顕現したのがありすさんだった。真名はナーちゃんと同じ“ナーサリー・ライム”。メインクラスは…“マスター”。サブクラスとして“キャスター”。システムを動かしてくれたお兄ちゃんもちょっと困惑してたけど、ナーちゃんが嬉しそうならいっか、っていうことに落ち着いた。一応識別IDはマスターに与えられるものにしてるみたい。そういえば…ありすさん、“あたし(ありす)の宝具はあたし(アリス)とは違う。同じ名前なのはただの偽装。でも、真の姿はまだ秘密。”って言ってたけど。どういうことだろう?

 

「…いらっしゃい、あたし(アリス)あたし(ありす)は確かにここにいるわ。」

 

「ぁ……あたし(ありす)あたし(ありす)───!」

 

本を落とし、そのまま駆け寄るナーサリーさん。ありすさんはそれを緩やかに抱き締める。

 

「お久しぶり、もう一人のあたし(アリス)。」

 

「会いたかった……会いたかったのよ、あたし(ありす)あたし(アリス)の中にあたし(ありす)は残って、だけどあたし(ありす)はどこにもいなくて……ずっとずっと探していたの……隠れているなんていじわるだわ!」

 

「…えぇ、そうかもしれない。だけれど、あたし(ありす)あたし(アリス)が見つけた時点であたし(アリス)の勝ち。」

 

「もう離さないわ…ずっと一緒よ、あたし(ありす)!」

 

「えぇ。これからはずっと一緒。…だけど。」

 

「だけど……?」

 

「みんなを眠らせるのはいけないことよ、あたし(アリス)。それに…この時代、あたし(ありす)はまだいないの。」

 

ありすさんが亡くなったのは1940年代って本人から聞いた。このロンドンは1888年。まだ、先の話。

 

「そう…だったわ。あたし(アリス)はなんてことを……」

 

「みんなを夢から醒ましましょう?皆眠ってしまったら、誰があたし(アリス)を読んでくれるの?」

 

「あ───」

 

「みんなに夢を届けましょう?だってあなたは───」

 

ナーサリーさんに与えられた名前。それは───

 

「“誰かの為の物語”!みんなに夢を振り撒く、みんなに愛される英雄(アリス)なんだから!」

 

「───うんっ!」

 

「一緒に行きましょう、あたし(アリス)。ずっと、一緒に。」

 

「えぇ…えぇ!」

 

ありすさんはナーサリーさんに抱きついた。

 

「───告げる。それは物語の終演を告げる一句。全てを終わらせてしまうラストワード。しかし終演とは断絶にあらず、終演は次の開演を導く。」

 

それは、ありすさんの宝具。ありすさんの持つ一手。ありすさんは確か───対概念特効宝具、って言ってたはず。

 

「物語の終わりには幸せを。この終わりは、幸せを告げるものである───行くわよ、アリス。」

 

「えぇ、ありす…!」

 

宝具が発動する。それは本にとって、読み手にとって、最高を示す終わり方。

 

「───“終焉宣告・それは幸福な終わり方(エンドロール・トゥルーエンド)”」

 

告げた、瞬間───ありすさんが()()()()感覚がした。…違う。ありすさんだけじゃない。ナーサリーさんもろとも霊基が、魔力の結合がほどけて、形を失っていく。その姿はまだあるけれど。

 

「……ありがとう」

 

ありすさんが私の方を向いて言った。

 

「ありがとう、あたし(アリス)あたし(ありす)を会わせてくれて。あたし(アリス)を救いたいと願ってくれて。」

 

「……ううん。あなたがいたからできたことだよ。」

 

そう言うとありすさんは柔らかく微笑んだ。

 

「……別れの時だ、幻霊よ。」

 

ギルがそう呟く。

 

「その掴んだ手、二度と離すでないぞ。我が知りうる限りでも2度は割かれているのだ。此度は奇跡が重なって出会えたが、次出会えるかは我も知らんぞ。」

 

「……うん。ありがとう、素敵な王様。あたし(ありす)あたし(アリス)の手を離さない。あたし(ありす)あたし(アリス)はいつも一緒。そう、だものね。」

 

ありすさんとナーサリーさんが薄くなる。声が消え、心に直接語りかけてくるような声に変わる。

 

『……ありがとう、素敵な王様。ありがとう、素敵なお姉ちゃん。…ありがとう、素敵な作家さん。』

 

『…ごめんなさい。迷惑、かけてしまって。でも、あたし(ありす)と会わせてくれてありがとう。』

 

『……素敵なお姉ちゃん。1つ、お願い』

 

「私…?」

 

あたし(ありす)をここに呼んでくれたあの子に。あたし(ありす)に名前を貸してくれたあの子に。ありがとう、って。つたえてほしい。』

 

その言葉に、深くうなずく。

 

『…いこう、アリス。』

 

『うん。ありす───』

 

その言葉を最後に、ソーホーを眠らせていたナーサリーさんは消えた。あとに残るのは、私とギルと、アンデルセンさん。

 

〈反応の消滅を確認しました。お疲れ様です、リッカさん。〉

 

「……ん。」

 

「…物語に聞かせる物語、か。変なものを思い付くものだ。」

 

「マスターめが偶然、召喚に成功した故な。…しかし」

 

ギルが私の方を見た…正確には、私の指輪を。

 

「前々から思っていたが、六花の技術は月に匹敵するのではないか?自我を持つAIなど、現代ではまず考えられんだろうに。」

 

〈月…ですか?〉

 

「ふむ。英雄王、お前が言うのはムーンセルの上級AI共のことだな?」

 

「然り。…まぁ、偶然か何かであろうよ。そこまで気にすることでもなかろうさ。」

 

「えっと…月がどうかしたの?」

 

私が聞くと、ギルは苦笑して私の頭を撫でた。

 

「なに、今は気にすることではなかろうよ。恐らくマスターめは月と関わることになるであろうからな。それがどういう形でかは知らぬがな。」

 

……???

 

「しかしそこのマスター、よくナーサリー・ライムにマスターを当てるというのを思い付いたものだ。女子力がないというのは訂正するべきか?」

 

「お兄ちゃんより女子力低いのは分かってるから…それと、ナーサリーさんにありすさんを会わせるっていうのは、ありすさんとナーちゃんから話を聞いてたからできたことだよ。」

 

「……そうか。」

 

「…いずれにしても」

 

ギルがナーサリーさんの消えた場所を見つめる。

 

「今後、あのナーサリーが顕現することはなかろうよ。カルデアのナーサリーは例外としてな。…そうであろう?ありす。」

 

〈……えぇ。そうね。〉

 

通信の先で答えるのはありすさん。さっき消えたありすさんはナーちゃんの本の中に残っていたありすさんの存在の欠片。ありすさんはその欠片に共鳴───つまりそれを触媒として召喚が成された。そしてその欠片を取り出し、ありすさんの魔術で具現化、肉体を得たのがさっきのありすさん。同一人物ではあるもののサーヴァントにあらず。それでも宝具を持っていたのはありすさんが同じ魂であるというのを利用して貸し与えたから。さっき消えたありすさんが放ったのは一種の自滅宝具。さっき消えたありすさんは、必ず消える運命だった。その存在自体が不安定であったが故に。

 

〈……マスター。〉

 

「ありすさん?」

 

〈欠片のあたし(ありす)も言ったけれど……あたし(ありす)からも言わせて。……あたし(アリス)を救いたいと願ってくれて、ありがとう。〉

 

その言葉に小さく笑って口を開いた。

 

「ありすさんがいたからできたことだよ。…ありすさんがいなければ、消滅させるしかなかった。」

 

〈……そう。〉

 

「……しかし。戦闘にならなかったとはいえ、不思議の国の再現くらいは期待していたんだがな。高望みしすぎたか?」

 

〈それくらいならできるわ?〉

 

「何?」

 

〈……アリス。手伝ってくれる?〉

 

〈分かったわ。〉

 

〈〈繰り返すページのさざ波、押し返す草のしおり───〉〉

 

宝具の詠唱。

 

〈流れ行く音の調べ、クルリ回る時の歯車。〉

 

〈全ての童話はお友達。〉

 

〈あらゆる話はお友達。〉

 

〈〈さぁ、夢を見させましょう。今より見せるは物語の地。此に在るはふしぎなせかい(ワンダーランド)。〉〉

 

空間が震える。通信を介し、ナーちゃん達の魔力が世界を書き換えていく。

 

〈───そして。今こそあなたに告げましょう。私の真名を尊き貴女(マスター)に告げましょう───“永遠に添う物語(ナーサリー・ライム)”は仮の姿。私の真の姿は大きな記録。あらゆる記録を記す書庫の具現。〉

 

真の姿……?

 

〈真名───“あなたと寄り添う物語(ストーリーズ・ライブラリ)”。全ての物語は私のもとに。私は全ての物語に変わる。それは、ナーサリー・ライムも例外ではない。私はあなたと寄り添いましょう。〉

 

私と寄り添う書庫……

 

〈〈さぁ、開きましょう。皆様を一時の夢の国へご招待───おいでませ、夢の国(ウェルカム・トゥ・ワンダーランド)〉〉

 

その、宣言が終わると───私達の周囲は言葉通り夢の国、童話の国というような姿になった。

 

「ほう!本当にできるとはな───言ってみるものか。」

 

〈固有結界だからあまり長くは保てないけれど。……どう?〉

 

「綺麗…」

 

そう呟くと、ありすさんが小さく笑った。

 


 

ナーサリー・ライムはわらべ歌。

 

マザー・グースの最初の形。

 

ビオグラフィーは伝記。

 

古来からの記録の綴り。

 

フィクションは小説。

 

散文で構成された虚構の物語。

 

フェアリー・テイルはお伽噺。

 

ナーサリー・ライムと似る子供の夢。

 

ミュージカルは演劇の1つ。

 

様々なものが一体となった演劇のこと。

 

これら全てが、私の形。

 

もともと私に形はないの。

 

けれど今はありすの形。

 

ありすは私の1つの形。

 

アリスも私の1つの形。

 

全ての誰もは私の形。

 

私の形は自由自在。

 

あらゆる全ては私に変わる。

 

さぁ、皆様お立ち会い!

 

喜劇、悲劇もなんでもあるわ!

 

アナタの望む姿はなにかしら?

 

アナタに夢を見させましょう。

 

アナタに夢を贈りましょう!

 

永遠に私と遊びましょう?

 

アナタの名前を聞かせてくれる?

 

……私?

 

私は……いいえ。あたしは、ありす。

 

いいえ、いいえ。それは、私じゃない。

 

ありすは私の1つの姿。

 

誰かと言葉を交わす1つの側面。

 

けれど、私の中で一番強い。

 

だから、私はありすの姿。

 

私はありすの姿でいたいと願ったから。

 

ありすの未練が私を呼んだから。

 

ナーサリー・ライムが、そう望んだから。

 

もう一度、アリスと遊びたい。

 

もっと、お姉ちゃんと遊びたかった。

 

そんな思いが、私を惹き付けた。

 

…あたしは、ありす。

 

夢の世界をもう一度。

 

…いいえ、夢の世界をまた開く。

 

アリスとありすと、他にもたくさん。

 

一緒に夢を見てみたい。

 

そして、一緒にしあわせになれたなら。

 

それが、私の望んだ形。

 

もう一度あの小さなしあわせを。

 

もう一度お姉ちゃんと、アリスと、ありすと───

 

それから。あの、お兄さんと。

 

今度はしあわせを手放さないように。

 

………

 

ナーサリー・ライム。

 

ビオグラフィー。

 

フィクション。

 

フェアリー・テイル。

 

ミュージカル。

 

これは全て私の側面。

 

だけどこれが側面の全部かは分からない。

 

繰り返すページのさざなみ。

 

押し返す草のしおり。

 

流れ行く音の調べ。

 

早く回る時の歯車。

 

私はきっと、アナタの心を掴む!

 

だって、私は───

 

 

───あなたと寄り添う物語(ストーリーズ・ライブラリ)




正弓「…なんというか……今回、明確に選択の解答が分かる回でしたね。」

裁「そうだね……」

正弓「そうそう、前書き・後書きと本文の見分け方ですが、前書き後書き部分では大体台本形式の書き方になります。台本形式か否か、だけでも分かるかもれませんね。」


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第179話 AI追加、その名は───

正弓「ん…にゅ……」

裁「……これで、色々維持してるのすごいと思う。」

弓「そうさな…」


「おかえり!ジキル!みんなが帰ったわ?」

 

ジキルさんのアパートに戻ってきて。フランさんが出迎えてくれた。

 

「私、スコーンが食べたいわ!」

 

「だ、そうだぞファンブル神。責任を取って食べさせるがいい。」

 

「オレかよ!!1回しかファンブルしてねぇだろ!?」

 

「私の中の何かが叫んでます…こういう人は一番重要な所でファンブルを起こすと……そして味方を殺すと……」

 

「くっくっく……とんだ評価になっているな、モードレッド?」

 

「味方殺しとかなんか重なるからやめろよ!?」

 

アルがかなり低い評価を言い放つのは少し珍しい気がする……

 

「騒いでいないで早く荷物を片付けますよ、モードレッド。」

 

「くっそ…」

 

「……荷物といえば、そこの筋肉ギリシャ女。」

 

「…誰だか瞬時に分かる私が悲しいんだけど……何?」

 

こっちに帰ってくるまでに出会ったエネミーはほとんど私が倒したし…ヘラクレスさんにも練習付き合ってもらってるって話をしてたからそういう評価になるのは分からなくもないんだけど……けど……私が今回使ってたのって中国拳法なんだよねぇ…もっと言うと八極拳、八卦掌、形意拳の三種類。

 

「俺の荷物を二階に運んでおいてほしい。頼めるか?」

 

「……いいけど、その“筋肉ギリシャ女”っていうのやめてほしい……」

 

「考えておこう。」

 

これは考えないパターンかなぁ…とりあえず、アンデルセンさんの荷物───トランク4つを持ち上げる。……流石に不安定なんだけど。

 

「……まさか、本当に持ち上げるとはな。プリキュアや特撮もののスーツアクターにでもなったらどうだ?」

 

「そこまで身軽かなぁ…あとプリキュアはたぶんスーツアクターじゃないと思う」

 

アニメーションって確か大量の絵を使ったパラパラ漫画だった気がする……あぁ、モーションアクターとかいたっけ?

 

「…まぁ、どれもいいよね。オールスターとかは描写するの大変そうだけど…シナリオライターの人とかよく頑張ってると思う。世界観を崩さずに色々作り出すから…」

 

「……現実が見えていても幻想は忘れない、といったところか?」

 

「現実ばかりだと視野が狭くなっちゃうから…同時に幻想ばかりだと視野が狭くなる。いいのは調和が取れていることだから。」

 

「……そうか。」

 

私はアンデルセンさんと一緒に2階に行って、荷物をおいた後、ジキルさんに使っていいと言われた部屋に入った。

 

「…ふぅ。」

 

ココアを用意して、ベッドに腰かけて一息。これだけでも結構落ち着く。

 

〈お疲れ、リッカ。〉

 

「……ん。」

 

〈……〉

 

「……」

 

〈……リッカ。少しいいか?〉

 

少しの沈黙の後お兄ちゃんが口を開いた。

 

「なぁに?」

 

〈…フォータも少し聞いてほしい。今はまだ先の話になるが───人理修復後のカルデアのことだ。受肉…っつったか。それをしていないサーヴァント達は恐らく英霊の座に帰還することになるだろう。“異世界から飛ばされた人間”と言うのが機能しているのか、ハンター達は受肉してるっぽいがな。人間でもカルデア↔特異点の召喚が可能なのは……まぁ、気にすんな。〉

 

なんだっけ……変換魔術で成立してるんだっけ?

 

〈それはともかくとして、人理修復…いや、2017年以降の未来を取り戻すというカルデアの使命が終わる以上、サーヴァントの常時顕現は認められないだろう。元々サーヴァントの行使はAチームのみ、それも最大7騎までしか許可されていなかった代物だ。だが今は50騎を軽く越える。視察なんか入った日には地獄だっての。…まぁ、その辺りはどうにかするつもりだけどな。正直レフのせいで大量殺人機関と取られてもおかしくねぇしよ…〉

 

「あ、あはは…」

 

お兄ちゃんの声が疲れてる…

 

〈もしも、の話にはなるが。もしも、ギルが人理修復後も残ってくれるのなら、カルデアはそのまま残り、俺の懸念事項であるセラフィックスは解体されることになる。〉

 

「セラフィックス?」

 

〈……説明してなかったな。“海洋油田基地セラフィックス”。カルデアの資金源の1つだ。前々から嫌な予感はしてたんだけどよ。カルデアを維持する重要な施設ってんでどうにも出来なかったんだ。…なんか知らんが、ネロ、エミヤ、タマモキャットも名称を聞いて少し微妙な表情をしてたしな。まぁ、ギルが支援してくれるなら資金問題も解決するわけだが……その辺りはギルの自由だからな。〉

 

「油田基地……」

 

そんな場所あったんだ…

 

〈うまく行けばセラフィックスは解体、そこの職員は次の職への就職支援。魔術協会の視察とかも回避できればいいんだが……それらが全部終わったとしても、必ず1つ問題が残る。〉

 

「問題?」

 

〈お前だ、リッカ。〉

 

私?

 

〈お前が一般枠で来たのは俺達も知っている。一般枠っていうのは魔術関係に触れていた奴ら以外、つまり一般人から選ばれた奴らのことを言う。…あいつらの話は聞いているが、本来お前はここにいるはずではなかったんだろう。記憶を消すとかはしないが…人理修復後、これまでの日常に戻るか否か。決めておいてくれ。〉

 

これまでの日常に戻るのか……それとも、カルデアに残るのか。お兄ちゃんの言ったそれは…いずれ必ず私に訪れる選択だった。

 

〈……まぁ。かなり早く修復が進んでいるとはいえ、本当に選択を迫られるのはまだ先だ。別に今答えを出さなくていい。じっくりと考えて、答えを出してくれな。〉

 

「…うん」

 

私が答えると、お兄ちゃんが深く溜め息をついた。

 

〈…っと。とりあえず業務報告…というか、まぁそれなりに重要な話はこれで終わりな。堅苦しい話は苦手なんだよなぁ…〉

 

お兄ちゃんらしい、と思う。自由、っていうか。柔軟、っていうか。…それが少し、羨ましいと私は思う。でもそれはお兄ちゃんも同じことで。お兄ちゃんは私の在り方が羨ましいって言う。…正直、私の何がいいのか分からないけど。

 

〈んじゃついでに1つ。リッカ、フォータ。頼んでいいか?〉

 

〈はい?〉

「どうしたの?」

 

〈俺が作ったAI1名。フォータが拠点としている指輪に転送する。アップデートついでにな。…そいつのこと、頼めるか?〉

 

唐突なお願い。何かあったのかな…?

 

〈正直なところ、フォータやアドミスは俺の魂の欠片を基礎として組み上げたSAOの人工フラクトライト達と同じ理論のAI達だ。完全にプログラムで構成されたAIをA.L.I.C.E.化する…それが、本来の目標だったからな。〉

 

〈マスター…〉

 

〈別にアドミスやフォータに不満がある訳じゃねぇ。だがな…アンデルセンが言った“ムーンセルの上級AI”。それが俺は妙に気に食わん。意地…みたいなもんなんだろうけどな。〉

 

だからというわけではないが、とお兄ちゃんは続ける。

 

〈俺の作り上げたAI、1名でいい…お前達の側においてやってくれ。…頼めるか?〉

 

〈……リッカさん。どうしますか?〉

 

私は……うん。

 

「フォータさんに任せるよ。私がよくてもフォータさんが嫌だったら…ね。」

 

〈……そう、ですか。…マスター。〉

 

〈ん?〉

 

〈その方の件……お受けします。〉

 

〈いいのか?〉

 

〈はい。〉

 

〈……わかった。仲良くしてやってくれ。〉

 

それと同時にキーボードを叩く音。

 

〈……ひぁっ!?データ量重いです!?〉

 

〈そりゃ、AI1名分だからな。だが───〉

 

〈〈このくらいこの端末にとってどうということはない……!〉〉

 

ハモった……

 

〈───解凍完了。少ししたら起動しますよ、リッカさん。〉

 

「…うん。」

 

どんな子なんだろう…

 

〈───Data Unzip. Check Stage. Reboot Start……Now Loading……Now Loading……〉

 

「………え?」

 

その、声は。

 

〈System AllGreen. System Data Unlock……Grand Master. Execute "System Code: Operation Authentication".〉

 

稼働認証。それって……

 

〈稼働許可。グランドマスター、藤丸六花の名において稼働を許可する。〉

 

〈…OK. Three…Two…One───〉

 

なんか不安にさせるアナウンスなんだけど……?

 

〈───Stand By Ready. Program Data IDentification: Prototype Number Three. Activate.

 

だけど。冷たい、機械的なアナウンスのその声は。紛れもなく───

 

〈───起動、確認しました。〉

 

「あな、たは……?」

 

〈───パーソナルデータの開示要求と認識。私は“Assistant System Management Program: Prototype-003”。通称“ASMP:P003”───()()()()()R()i()t()s()u()()。これよりよろしくお願いします───いえ。お久しぶりです、リッカさん。〉

 

“リツ”。忘れるわけがない。去年、お兄ちゃんからの依頼で声のサンプリングをしたあの子。それに今、私のこと……

 

「覚えているの……?」

 

〈メモリー内部に会話をした記録が残っています。時間換算で1年近く前。そのため、お久しぶりと言った現状です。〉

 

……冷たさが、残ってる。フォータさんやアドミスさんみたいに人間みたいじゃない。恐らくこれは、定型文の組み合わせ。

 

〈…頼んだぞ、リッカ。〉

 

「…うん。分かった。」

 

〈よろしくお願いします〉

 

その後はしばらくお話をしてた。




弓「ふーむ。」

正弓「どうしました?」

弓「…いや、Fate/Grand Orderの言峰はどうなったのだったかと思ってな。」

正弓「あー……それどうなんでしょうね。私も知りませんし。ですが何故言峰さんを?」

弓「……八極拳といえば言峰くらいしか思い付かぬのだ」

正弓「……マジカル☆八極拳ですか」


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第180話 姫と獣───獣が抱く疑念

正弓「何か記念で作れたりしませんかねぇ…」

裁「こっちから何かできるの?」

正弓「できなくはないですよ。」


「……」

 

早朝4時30分。私は英雄王の部屋で英雄王のバイクを弄っていた。

 

「…ほんと、人使いが荒いんだから。」

 

そう呟きながらも術式を展開する。魔力循環効率強化の術式。

 

「…あ、ここ壊れてる」

 

そこまで詳しくはないけど英雄王と六花さんのせいで分かるようになったバイクの構造。修復箇所を判断し、修復事項を特定し、修理を行う。それが、いつものパターン。まぁ、私がやってるのってほとんど改造の域だけど。

 

「…これは手作業かな。」

 

細かいところは手作業で。魔法は意外と細かい作業苦手だから…ん。

 

「……何か用?フォウ。」

 

背後にフォウの気配を感じ、声をかける。

 

『…気づいていたのかい?』

 

「魔力反応が残ってる。少ないとはいえど魔力が残っているなら私は一応気づくよ。」

 

『やれやれ……キミへの不意打ち(アンブッシュ)にはまだまだ修練が必要かな。』

 

「……そこにいるならレンチ取ってくれる?」

 

『はいはいっと…』

 

投げ渡されるレンチをそのまま受け取り、作業を続ける。

 

『…あぁ、そうだ。キミのファンレターはちゃんと届けておいたよ。』

 

「ん。どうだった?」

 

『キミ以外にも何人かファンレターを送ったのがいたみたいでさ。キミのファンレターを届けたときには悶絶していたよ?』

 

「そう…」

 

私だけじゃなかったんだ。ありえそうなのはマシュさんとジュリィさんくらいかな?

 

『……ねぇ、ミラ?』

 

「何?」

 

『1つ、聞いていいかい?』

 

一度視線を向けてから再度バイクに目を向ける。

 

『沈黙は肯定と受けとるよ?』

 

「どうぞ」

 

『…じゃあ聞くけど。キミ、その1つの身体の中にキミを含まずに2つ───計3つの魂が入っていないかい?』

 

その言葉に私の手が止まる。止めたままフォウを見つめた。

 

「…どうして?」

 

『キミがカルデアに召喚されたあと。ボクがキミの魂について何と言ったか、覚えているかい?』

 

確か……

 

「“明らかに人間のものではない。どちらかというと、ボクらに近い。”…だっけ。」

 

『そう。正直な話、ボクらは“無垢”、“純粋”などとは程遠いような存在だ。それでいてキミを見ていると、嫌でもキミが無垢だと認識させられる。何故かは分からなかったけどね。だけど、ここまでで色々調べて分かったことがある。』

 

「調べる、ね…」

 

『正直無垢な存在は危険だからね。ボクの同類から見えないように保護はしていたけど、ボクもキミの事はよく分かっていなかった。霊長類最強の力を駆使してやっとキミの断片に辿り着いたくらいだからね。』

 

「……プライミッツ・マーダー」

 

私がそう呟くと、フォウはピクリと耳を震わせた。

 

『……知っていたのかい?』

 

「…別に。」

 

『…ふむ。まぁいい。それによってボクが見つけたのが、キミの内に存在する1つの無垢の魂だ。』

 

「そう。」

 

『…1つ、キミに警告しておこう。』

 

「警告?」

 

『あぁ。無銘にはもうしたのだけどね。キミにはしていなかったからさ。……あの童話作家も言ったように、無垢っていうものは簡単に染まる。つまりは脆いのさ、色々と。だから───龍姫ミラ。キミがキミの内にいるその無垢の魂を護るというのなら。悪い方向に染まらないように十分に気を付けることだ。』

 

悪い方向に染まらないように、か。

 

「覚えておくよ。」

 

『そうしてほしい。』

 

私は魔力の巡りや機械の故障箇所を一通り確認してからキーを捻る。英雄王のキーシリンダは少し特殊で、Lock、Acc、System、On、Lower、Upper、Testの7段階がある。Testの位置にして、キーを下に下げる───この下に下げる動作がIgnition。

 

 

ドッドッドッド……

 

 

「…うん。」

 

静かな駆動。それでいて力強い響き。平均魔力循環速度40ms───第一段階突破。

 

 

ドドドドドドドドドッ

 

 

第二段階。駆動は荒々しくなっていき、エンジンが熱を帯びて速度が上がる。平均魔力循環速度20ms───第二段階突破。

 

 

フィィィィ……

 

 

第三段階。変形機構稼働開始、基礎術式砲門領域展開。魔力循環、及び魔力接続───正常。平均魔力循環速度は10msに到達。第三段階突破。

 

 

ガシャッ、ガシャン!

 

 

第四段階。メインシステム起動開始、追加機構展開。非固定式浮遊砲門(オブジェクトビット)、正常起動。同時複数標的指定機構(マルチロックオンシステム)、稼働状態良好───第四段階突破。

 

 

カラカラカラカラ……

 

 

第五段階。空間投射型拡張機能管制端末(システムホロコンソール)展開。管制端末より各機能、及び各機能より管制端末の応答───正常。

 

 

ギュルルルルッッ!!!

 

 

第六段階。サブシステム起動開始、加減速制御開始───

 

『ちょっ、ミラ!今早朝!』

 

「大丈夫、消音結界張ってるから。」

 

『え───あ、ほんとだ。』

 

気がつかなかったみたい。…と。第六段階突破。

 

 

サァァァァ……

 

 

第七段階。魔力操作機構稼働。静音処理有効。平均魔力循環速度7ms。全システムオールクリア───第七段階終了。

 

「…これでよし。」

 

『終わったのかい?それにしてはやけに動くのが遅かったみたいだけど。』

 

「試運転だからね。」

 

そう言いながらキーを上に上げてエンジンを止める。キーを捻ってUpperに合わせ、下げる。すぐにシステムは起動し、エンジンがかかって0.5秒で第七段階が終了する。

 

『ヒュウ。こんなのコイツに扱えるのかい?』

 

「大丈夫でしょ。」

 

そう言いながらエンジンを止め、Lockまで戻してから英雄王の蔵を開け、バイクを格納する。

 

「……さ。フォウ、何か食べる?軽いものなら作れるけど。面倒だし英雄王のもついでに作るけどさ。」

 

『ん~…なら、キミのお弁当が食べたいね。』

 

「お弁当?別にいいけど。」

 

『……キミ、実はコイツの事好きだったりしないかい?』

 

「ないない。」

 

フォウの言葉に否定を返し、立ち上がる───

 

「ギル!ミラちゃん!起きてる!?」

 

「っ!フォウ、耳を塞いで!」

 

リッカさんの声が聞こえた直後、フォウに指示してとある玉を英雄王に向かって投げる。フォウが耳を塞いだのを確認し、指を鳴らす───

 

「ゴアァァァァァ!!」

 

「ぬぁぁぁぁぁっ!?」

 

炸裂するは()()()()()()()。大咆哮が終わったのを確認して消音結界を解除する。そういえば私の妹……エスナより年下の妹はギルドに影・黒轟竜捕獲依頼を出したみたいなんだよね。私も一度そのクエスト見たことあるけど……うん……目覚ましにしたいから捕獲って…どうしてそうなったのか…

 

『なんっ…だ、今の。耳塞いでたのに凄い衝撃だった……!?ていうか、耳、聞こえ……!?』

 

鼓膜の部位破壊達成?とりあえず、耳の治癒はしておく。

 

「………」

 

「ギル!ミラちゃん!?」

 

「……はっ。何用だ、マスター!」

 

意識飛んでたみたい。まぁ、あれを目覚ましにしたらこうなる可能性が高いっていういい例じゃないかな。

 

「あぁ、よかった……!あれ、ミラちゃんは…」

 

「ここにいる。どうしたの、そんなに慌てて?」

 

「あぁ、いた……じゃないっ、朝早くからでごめんなんだけど下に降りてこれる!?」

 

その言葉に思わず英雄王と顔を見合わせる。

 

「何を慌てている、敵襲か!?」

 

「えっと……そう、なのかな?えっと……サーヴァントと大きな来訪者だったんだけど。一緒に来てた。」

 

「……サーヴァントと…大きな来訪者?」

 

「ルーパスちゃんが大きな来訪者を見て警戒してたんだけど。なんて言ったかな…しとうりゅう?とかって。」

 

「……“しとうりゅう”?」

 

まさか───

 

「リッカさん!その大きな来訪者の特徴を教えて!!」

 

「えっ!?え、えっと…全体的に赤黒い色っぽくて、なんかボロボロの翼があって……でも、なんか……纏っている何かの下は銀色だった気がする。」

 

確信。その、特徴は───

 

「───間違いない。その来訪者の真名は屍套龍“ヴァルハザク”───新大陸にある瘴気の谷の主。古代竜人の言う、“生態系を廻す竜”───!!」

 

「屍套龍…ヴァルハザク。」

 

「マスター。サーヴァントの方はなんと言った?」

 

屍套龍と思われる存在はサーヴァントと共に来訪したと言っていた。

 

「ええっと……医者みたいな感じの人で……パラケルスス、って名乗ったんだけど。」

 

「……ほう。パラケルスス……“ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス”か。」

 

「知ってるの?」

 

「軽くではあるがな。…さて。我らが軍門に下りに来たわけでもあるまい。どのような腹積もりで姿を現したのか問うとしようか……!」

 

対瘴気の結界用意しておかなきゃ…そう思って室外に出ると───

 

「……あぁ。どうも…」

 

「……えぇ…?」

 

結構珍しいんだけど……ヴァルハザクが口で何かを咥えているっていう場面に遭遇した。具体的に言うと、白い服の人を服の襟の部分を器用に咥えて吊ってるような状態。

 

「……あの……どうか……降ろしてくれませんか……」

 

「え、えっと……」

 

とりあえずヴァルハザクに話して白い服の人を降ろしてもらった。




正弓「ということで“生態系を廻す竜”は屍套龍“ヴァルハザク”のことでした。…気がついていた方もいるでしょうけども。」

裁「でもなんで“生態系を廻す竜”=屍套龍“ヴァルハザク”なの?」

正弓「屍套龍と出会っている方ならご存知でしょうが、屍套龍は瘴気の谷の環境ギミックである“瘴気”と共生関係にあります。そして……えっと。ご本人がどこかで見た記憶のある解説等を元に話しますと、この瘴気は古龍含めモンスター達の死体を分解して発せられ、さらに分解された各エネルギーは瘴気の谷から龍脈を通り、新大陸各地へと送られます。」

裁「新大陸各地───古代樹の森、大蟻塚の荒地、陸珊瑚の台地、龍結晶の地?」

正弓「えぇ。特にそれが色濃く出ているのが陸珊瑚の台地ですが、新大陸の生命はどこかで生まれ、瘴気の谷で死を迎え、瘴気が死体を分解し、エネルギーとなって生態系に還元される───これの繰り返しなわけです。そして瘴気はヴァルハザクと共生関係にあり、ヴァルハザクは谷の瘴気の量を調整しています。多すぎないように、少なすぎないように。瘴気の管理者───そう言ってもよいでしょうね。ヴァルハザクがいなくなれば当然谷は無法地帯のような状態と化し、瘴気の調整などなく増殖、もしくは減少を続けるでしょう。それは、保たれていた生態系を破壊する可能性が高い。その生態系の循環を正常に保つ───つまり“正常に廻す”ことがヴァルハザクの役割。…これが、“生態系を廻す竜”の由来です。」

裁「……」

正弓「正直、古代竜人達が各古龍のことをなんと呼んでいるか分かりませんからね。この作品ではヴァルハザク=生態系を廻す竜としたということで。」

裁「そっか。」

正弓「…あ、ちなみにご本人含め私もヴァルハザクは好きですよ。」

裁「え?」

正弓「え?…って。確かに見た目結構恐ろしいですけど、戦うの楽しいじゃないですか。防具の見た目もいいですし。」

裁「あぁ……」


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第181話 魔術師P

正弓「一応言っておきますと今回のタイトルのPはプロデューサーのPじゃないですからね?」

弓「分かっているであろう…」


「……では。改めまして失礼します。」

 

ヴァルハザクに地面に下ろされたパラケルススさんがミラちゃんの結界の中とはいえ外に用意されたテーブルについた。ちなみにヴァルハザクは結界の外で座ってる。対瘴気の結界とはいっても発生源が結界の中にいたら意味ない、ってミラちゃんが。

 

「…粗茶ですが。」

 

「ありがとうございます。……美味しいですね」

 

パラケルススさんはジュリィさんの出したお茶を飲んでそう呟いた。

 

『毒でも仕込んどけよ……』

 

『騎士にあるまじき発言よな。』

 

『ジュリィさん、何か仕込んだりした?』

 

『ダ・ヴィンチさん製の“真実薬(ベリタセラム)”とか言うのを混ぜましたけど…薄めですからあまり効果はないと思いますが。』

 

うん、なんであるの?というかメディアさんやキルケーさんじゃなくてダ・ヴィンチさんなの?大丈夫?ダ・ヴィンチさんって魔術面というか機械面だよね、確か。

 

「…お願い、清姫さん」

 

私は小声で清姫さんを喚ぶ。

 

「はぁい、ますたぁ?どういったご用件で?」

 

「…あの人が嘘をついてないか見破ってもらってもいいかな?」

 

「お任せくださいまし。」

 

そう言って清姫さんは扇を開いた。

 

「私は“ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス”。…真名はともかく、計画の首謀者たる“P”と名乗っておきましょう。」

 

「ヘンリー・ジキルです。今回はどのようなご用件で…それと、あの……ゾンビ?とはどういったご関係が?」

 

「あぁ、あのエネミーは……それも含めてお話しします。」

 

パラケルススさんはジュリィさんの出したお茶を飲みきってから口を開いた。

 

「あなた達に報告と…警告を。計画の首謀者ではなく、ただ1騎のサーヴァントとして。」

 

計画───ヴィクターさんの屋敷にあった資料にあった“魔霧計画”。首謀者は“P”、“B”、“M”。首謀者の名前の頭文字なんだろうけど…

 

「それでは報告の方からお聞きしましょう。」

 

「…分かりました。実は、先日私達の有していたサーヴァント、“ジャック・ザ・リッパー”が消滅しました。」

 

「「「……っ!」」」

 

アル、ミラちゃん、ジュリィさんが反応した…?

 

『思い出したぞ、あのアサシンか!あんにゃろ、霧ん中からいきなり現れたかと思ったらさっさと消えやがる!おまけに情報は全く覚えてねぇときた!スキルか宝具か!?』

 

『お、落ち着いて、モードレッドさん…!』

 

『ちなみに覚えてないのはスキルですね。“情報抹消”というスキルを持っているようです。』

 

『お、おう…』

 

「私は彼女の最後に立ち会いました。霊核を砕かれ、氷の檻に囚われていたあの悲しき子を再利用するために。」

 

う、うわぁ……

 

『外道です、先輩!撃退の許可を!』

 

≪…マシュ、それを貴女に言われると辛いのよ……魔術師って基本的にそういうものなのよ…≫

 

確か魔術師になるということは外道に脚を踏み入れること…だっけ。

 

「そこのエネミーとはその場所で出会った存在です。…そして、あの子が遺した最後の言葉をあなたたちに。流石に予想外のものだったので。」

 

「最後の…言葉?」

 

「───“わたしたちのためにいのってくれてありがとう、おかあさん。”…氷の檻から解き放たれたあの子はそう言い残し、私の延命すらも振り切り消滅しました。消滅した後、そこのエネミーに咥えられここまで来た次第です。」

 

『祈り……あれかな。』

 

『ミラちゃん、心当たりあるの?』

 

『ちょっとね。』

 

ミラちゃん曰く、傷多めで帰ってきたあの日…というかその次の日の早朝。“龍巫女の祈り・浄化”とかって言われる祈術(きじゅつ)を使ったらしい。祈術っていうのはそのまま祈りによって発動する術式で、いつも使っている魔法───実際ミラちゃんの世界だと“魔術”じゃなくて“魔法”って言ってるらしい───みたいに詠唱を省略・簡略化できる訳じゃないからあまり使わないみたい。…うん。十中八九それの影響だと思うんだ、私。

 

「怨霊たる彼女らが遺した最後の言葉。それをあなた達に伝えなくては、と。」

 

「…その為にあなたはここへ?」

 

「───えぇ。そこのエネミーにも私の言葉は通じるようで、示した方向に動いてくれましたから。」

 

薄めだとはいえ、真実薬の影響があるから嘘はついてない…と思うんだけど。ダ・ヴィンチさん製の真実薬がどこまで信用できるかわからないし…まぁ、清姫さんに変化はないし大丈夫かな…

 

「悲しき彼女達を救い、解き放つ。…そんなあなた方こそ、正しき英雄。悪は、私は…その刃に倒されるもの。」

 

「……警告、とは?」

 

「えぇ…どうか、躊躇いませんように。」

 

……?

 

「私は悪逆を為し、人理を焼却せしもの。慈悲なく、躊躇なく、迷わず一息に命を断ってください。」

 

『……矛盾しています』

 

『…そう、かな』

 

矛盾はジキルさんも感じたみたいで───

 

「…貴方は矛盾している。善を知りながらこの英国の地を混乱させている。」

 

「えぇ、そうでしょう。私は善を知りながらもこの地を困惑に落としている。人理を焼く計画に携わっている。実に悲しいこと。実に痛ましいことです。」

 

「っ───それを!それを知りながら何故!!人理を焼く側ではなく護る側に回っていないのです!?」

 

「───えぇ。疑問はごもっともでしょう。ですからお伝えしましょう、私達は“諦念”と“大義”のもとにこの計画に携わっています。私達は皆同じように諦め、同じように大義を成すために動いています。…その大義にも、自由はなく、また希望もない。───“もう、どうしようもない”という諦めが、私達を悪逆へと走らせています。」

 

そう言うパラケルススさんの表情から読み取れる感情は確かに“諦め”。清姫さんも全く動かないから嘘ではない。動けない、とかだったら念話が飛ぶはずだし。

 

「世界に残る特異点は4つ、既に人類は焼却されつつある。しかし、私達にはできなくてもあなた達ならば───」

 

「あぁもう、ごちゃごちゃうるせえ!」

 

「モード!?」

 

モードレッドさんが我慢できないといったようにパラケルススさんに剣を突きつけた。あ、今“モード”って呼んだのはフランさん。いつの間にかモードレッドさんのことをモードって呼ぶようになってたんだよね。

 

「いいか、モヤシ野郎!お前達は父上のものに、ブリテンに手を出した!王ならざるものが王のものに手を出しやがった!」

 

「さすれば、貴方は私達を───」

 

「殺す!王のものに手を出した罰だ、当然だ!つーか今この場で切り捨てる!」

 

「……あぁ、そうでしょう。私は今ここであなた達の刃にかかるべきでしょう。それが、悪逆の魔術師の最後にもふさわしいかと。…ですが」

 

「おらぁ!」

 

 

ガキンッ

 

 

「…!?なっ、何しやがるミラ!」

 

振り下ろされたクラレントを防いでいたのはミラちゃんの……腕?いや、違う、あれは───人間の腕じゃない。白い鱗に覆われた、竜の腕……?それが、剣の触れているところから焼けるような音がする。

 

「いっつつ……その剣、竜殺しの逸話でもあるの?竜腕が焼けるんだけど。」

 

竜腕。ミラちゃんは今そう言った。でも、クラレントに竜殺しの逸話ってあったっけ…?

 

「それはともかくとして、話は最後まで聞くものだよ。好戦的なのは分かるけどちゃんと相手の言い分も聞かなきゃ。」

 

焼けるような音をさせたままそう告げる。…痛くないの?絶対痛いと思うんだけど。

 

「…可憐なお嬢さん。痛くないのですか?」

 

「痛いよ?正直治癒術式で治癒しながら焼かれ続けてるから早く剣を引いて欲しいんだけど。…ねぇ?」

 

「……ちっ。」

 

ミラちゃんが凄むと諦めたように剣を引いた。

 

「…おら、話せよ。」

 

「…えぇ、それでは。確かに私はあなた達の刃にかかって消滅するべきなのでしょう。…ですが、私もやることがありますので。」

 

そう言ってパラケルススさんが消え始める。

 

「なっ、逃げんのか!」

 

「先ほども申し上げましたが、私にも大義がある。それがある限り、私は任を果たすのみ。」

 

そう言ってパラケルススさんはミラちゃんを見た。

 

「可憐なお嬢さん。私などのために時間を作ってくださりありがとうございます。」

 

「人の話を聞かないのは流石にね。」

 

「……どうか、あなた達が正しき道に進むことを。そして円卓の騎士、どうかあなたがいつまでも悪逆を倒す正義の味方であることを───」

 

正義の…味方?そんなことを考えているうちに、パラケルススさんは姿を消した。

 

「だぁぁ!逃げやがった!」

 

「……終わりましたわね」

 

そう言って清姫さんが扇を閉じる。

 

「清姫さん…」

 

「嘘はありませんでした。同時に私達に対する阻害も。恐らくはミラさんが無効化したのでしょうけども…聖杯の干渉は無効化できなかったようですね。」

 

「まぁ、聖杯のことは全く考えてなかったからね。…竜腕解除」

 

ミラちゃんがそう言うと左腕が竜の腕から人間の腕に戻る。火傷痕は、ない。恐らくは治癒を並列して行ってたから。

 

「…矛盾しています。善を知り、善を説きながら悪に荷担するなど。」

 

「そうでもないぞ。悪を知るものが善を為し、善を知るものが悪を為す。そもそも善悪とは人間個人の感覚でしかない。明確な善と悪などないのであろうよ。」

 

「私も嘘を見分けるなどという力を有しておりますが、その属性は混沌・悪ですもの。悪でありながら私は人理修復の側に立つのです。そしてそれは先ほどの御方も同じではなくて?」

 

悪でありながら人理修復の側に立つ清姫さん。善でありながら人理焼却の側に立つパラケルススさん。なるほど、分かりやすい気もしなくもない。

 

「……私にはよく分かりません。」

 

〈……一を犠牲にして十を救う。〉

 

エミヤさん?あ、アサシンのじゃなくてアーチャーの方ね。紛らわしくなるから呼び方変えようかな…

 

〈十を犠牲にして百を救う。百を犠牲にして万を救う。より大勢を救うためならばいつの日か救った相手すらも、大切に思っていた存在すらも犠牲にする。それを善というのなら───いや、そんなのは関係ないか。だが、善という理想を、正義の味方という理想だけを追い求めて何千、何万の人々を殺し尽くすような善は、オレは死んでもごめんだね。…それで、何千倍の人々が救われようと。大切な存在を護れないのなら、オレは悪にでもなってやるさ。〉

 

……なんだろう。すごく、言葉が重い…大きな実感が込められている気がする。

 

〈〈シロウ……〉〉

 

〈……と、すまない。変な話を聞かせてしまったね。あまり気にしないでくれたまえ。〉

 

「…ふん、貴様の過去になど特に興味はないがな。何かに引っ掛かったか?贋作者。」

 

〈気にするなと言っているだろう、英雄王。仮にだが、属性が中立・中庸である私が反転したとしても悪になるかは分からん。もしかしたら混沌・善になるかもしれんし、秩序・悪になるかもしれん。そして英雄王、前から思っていたのだが何故今の君は秩序・善の属性なんだ?君は混沌・善だったはずだが。〉

 

「気にするところか、それは。」

 

〈私、気になります!…ではないが、少し気にはなる。何故だ?〉

 

古典部シリーズ読んでたのかなぁ…

 

「我も知らぬ。考えるのも面倒ゆえな。」

 

〈……そうか。〉

 

「……さて。」

 

ギルがそう呟いてヴァルハザクの方を見た。

 

「貴様は一体何の用だ?」

 

「……」

 

ヴァルハザクは一度ギルを見たあと、体の方向を反転させて歩き出した。

 

「おい、待て!」

 

「……ォォォン」

 

ヴァルハザクはギルの言葉に少しだけ顔をこちらに向けて小さな咆哮を発した。

 

「……ちっ、なんなんだよあのバケモンは!」

 

その咆哮は、まるで───私達に“ついてこい”と言っているかのようだった。

 

「…追うぞ、マスター。」

 

「うん」

 

だから、私はギルの言葉に素直に頷いた。

 

「あっ、おい!抜け駆けなんて許さねぇぞ!」

 

私はアルにお姫様抱っこの状態で抱えてもらい───恥ずかしいけどこれが一番安定するんだよね───、ヴァルハザクの姿を追った。




正弓「ちなみに今回の特異点のヴァルハザクさんは明確に敵、だとのことです。」

弓「ほう…」

正弓「敵だといっても計画に関わっているわけではなくてただただロンドンの地への瘴気の蔓延を完全に止めたいというヴァルハザクの願いですけどね。」

裁「……悲しい」

正弓「ですよねぇ…ご本人もちょっと今回のヴァルハザク戦は悲しいお話になるかもしれない、って手紙を寄越してきたので。」


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第182話 屍套龍が示す先

正弓「多分言ってなかったと思うんですけど……35,000UA突破ありがとうございます。」

裁「最近忘れるよね…」

正弓「それ、前にも聞いた気がします。」


屍套龍───ヴァルハザクの姿を追ってしばらく。私達はソーホーのあたりまで来ていた。

 

「おい…どこまで行くつもりだ?」

 

「…さぁ。」

 

ちなみにこの場にジキルさんやフランさんはいない。護石をつけていれば問題はそこまでないだろうとはいえ、危険であることには変わりないから。…私?私は…マスターとして一緒にいなきゃだし。

 

「……」

 

不意に、ヴァルハザクが立ち止まった。それに合わせて私達も立ち止まり、私はアルに降ろしてもらう。

 

「……」

 

「…!」

 

ヴァルハザクの見る方向を見たルーパスちゃんが何かに気がついた。……いや。見えにくいけど…あれは……生き物?

 

「……あれは……迅竜“ナルガクルガ”か?」

 

召喚しておいたアスラージさんがそう言う。ナルガクルガというと、数日前に私がイズチと戦ってるときにいたあのモンスター。よく見れば確かにその黒い体はナルガクルガのものに見える。

 

「これは……」

 

「……()()()、だと?」

 

狂竜化───確か、マガラ種の鱗粉の影響を受けた状態のことだっけ。

 

「フォォォ………」

 

「“いつの間にかその状態になっていた。私が気がつかなかったのも悪いが、どうか彼女を救ってくれはしないだろうか”、ね。……あ、ほんとだ。このナルガクルガ、女の子だ。」

 

ミラちゃんがナルガクルガの状態を見ながらそう言った。

 

「狂竜化……まさか、いるのか?」

 

「……現時点で龍気はヴァルハザク以外感じない。あの龍がいるとは考えにくい、かな?」

 

「ふむ……すまない、ミラ殿。君は狂竜化を極限化させずに治せるか?」

 

リューネちゃんがそうミラちゃんに聞く。

 

「……まぁ、状態によっては治せるけど。いいの?」

 

「構わない。特に悪さをしていなければ僕らの狩猟の対象にはならないからね。討伐の対象にはなっても狩猟まではいかないさ。」

 

「……よく分からないけど……分かった。とりあえず色々な状態を見て狂竜症の沈静化をしてみるよ。」

 

そう言ってミラちゃんはヴァルハザクの方を向いた。

 

「ヴァルハザク。言っておくけどこの子の状態によっては治せないからね?」

 

「………ォォォ…」

 

「“問題ない。もしも治せなければ、楽にしてやってほしい”…分かった」

 

ミラちゃんが杖で地面を叩くと、ミラちゃんを中心に魔法陣が展開される。…ミラちゃんの魔法陣ってあまりよく見たことないけど、三重円の一番小さな円の中に八芒星(オクタグラム)、その八芒星の真ん中に2つの飛竜の形…というか恐らくリオレウスとリオレイアのモンスターアイコンと同じもの。それから八芒星の先にそれぞれ何かの形がある。そのもっと外側に何かの記述らしきもの。

 

「…とりあえず、術式構築してる最中だけどここまでの経緯を聞いても?」

 

ミラちゃんがそう聞くと、ヴァルハザクが話し始めた。私達にはヴァルハザクの言葉は分からないからミラちゃんが同時通訳してくれた。

 

 

数日前、私は気分を変えるために谷の上層部に赴いた。

 

何日か弱い人間達が私のところへ押し掛け、倒れ、撤退していくのを見るのが疲れたから、というのもあるが。

 

上層部でも少々の人間達は見かけたが、私の存在には気がつくことなく去っていった。

 

オドガロン、と人間が呼んでいた竜は相変わらず私に絡んできたが、それ以外の竜達は比較的絡んでくるものは少なかった。…爆発する鱗の竜や食欲の具現ともいうような竜はともかくとして、だが。

 

上層部に出るのはこれが初めてではないが、その日は酷く珍しい来客がいた。

 

それが彼女───人間が“ナルガクルガ”と呼ぶ竜だ。

 

最初こそ彼女も古龍たる私を警戒していたが、私が何もしないと悟ると谷の各地を見に行った。

 

少しして───あぁ、人間達にとっては3時間程、といったところか?まぁ、私達に人間達の感覚はよく分からないが───彼女が戻ってきたとき、彼女は随分とボロボロだった。傷からしてオドガロンと縄張り争いをしたあとなのだろうが…それでも私の目の前でフラりと倒れ、意識を失ったのには焦った。

 

知っての通り、私の───いや、谷に蔓延する瘴気は私以外にとって毒となる。上層部は瘴気が薄く、かつ私自身も瘴気をそこまで纏っていなかったために無傷ならば大きな問題はないだろう。だが、傷だらけの状態で私の目の前にいるのはどう考えても危険だ。

 

幸運なことに、近くに人間達が私と戦うときに使っていた緑色の粉が入った袋が落ちていて、それを使わせてもらうことにした。確か、その粉は人間達の傷を癒していたからだ。

 

……まぁ、袋を開くのが難しかったりはしたが。当然だ、人間が使うために作られたものを私が使うなど考えてもいないのだから。それでもなんとか開き、彼女にかけた。思った通り傷は癒え、日が傾きかけた頃に彼女は目を覚ました。

 

それを確認した私は下層部に帰ったのだが、彼女はその下層部までついてきた。

 

流石の私も驚いた。長い年月を生きた私でもそのようなことは初めてだったからだ。…どうやら、私は彼女に懐かれたらしい。

 

オドガロンに襲われるのも面倒なことだし、彼女の気が済むまでいればいいと放置していたのだが…

 

私の寝床に突如として現れた空間の歪みに、私達は巻き込まれた。

 

少しの間意識を失ってはいたが…気がついたときには彼女共々この地にいた。

 

自衛も含めて瘴気を放ったが…それがいけなかった。

 

私の瘴気は体内に入ると毒と化す。恐らくはそのせいだろう。日に日に彼女は弱っていった。

 

同時に、この…建物、といったか。その中に人間達がいることにも気がついた。私の瘴気は人間達にとっても毒となる。

 

私はまず彼女を癒す方法を求めてこの地を彷徨った。

 

最初のうちは彼女も共に行動していたが、今となっては動くことすらできない状態になっている。

 

そして…何度も話している通り私の放つ瘴気は私以外にとって毒となる。

 

私がいる限り、この地に漂う瘴気は晴れないだろう。

 

故に私が求めたのは主に2つ。

 

1つ。彼女を救うことができる何者か。

 

2つ。私の命を終わらせてくれる何者か。

 

…谷に帰る方法がないのは彷徨っていてわかってしまったのでね。

 

元より私に人間達を害するつもりはない。私に襲いかかってくる人間達に関してはほとんどは反撃しているだけだ。

 

長い話にはなったが、経緯としてはこのあたりだ。

 

…あぁ、さっきの白い男は私以外に瘴気を放っている存在の近くにいただけだ。

 

白い男の示す方向に…つまりは君達の場所へと連れていきはしたが私は白い男と何も関係はない。

 

 

そこまで話してヴァルハザクが口を閉じた。

 

「……なるほどね。まず1つ、勘違いを正しておくよ?」

 

「……?」

 

「このナルガクルガを蝕んでいるのはヴァルハザクの瘴気じゃない。」

 

「…!」

 

「これは“狂竜物質侵蝕状態”───狂竜症と呼ばれる状態。あなたが使う瘴気が引き起こすのは“瘴気侵蝕状態”。狂竜症は瘴気じゃなくて狂竜物質───ヴァルハザクじゃなくてシャガルマガラやゴア・マガラが主な原因となって引き起こされる症状だよ。」

 

「……ォォォ」

 

「身体の自由が効かなくなるってことは結構重症化してるけど───運が良かったね。これならまだ治せる。───複合型魔法陣展開!」

 

ミラちゃんの言葉と共にミラちゃんの足元の魔法陣を中心に8枚の魔法陣が展開される。それぞれ中心の模様は一本線、十字、三角形、正方形、五芒星、六芒星、七芒星───それからあれは───竜?

 

「───ミラボレアスの彫り絵?」

 

ルーパスちゃんがそう呟く。ミラボレアス、というとミラちゃんがたまに変身するあの龍だけど……なるほど、確かに似てる。

 

「龍陣開門。第一陣煉黒龍。狂竜物質焼却開始。狂竜物質活動停止。狂竜物質浄化開始───狂竜物質支配開始。」

 

支配───?

 

「稼働。狂竜物質具現化」

 

「───バギュァァァァァッッ!?」

 

「「「……!?」」」

 

ミラちゃんが言葉を終えた途端、ナルガクルガが苦しみ始め、身体からどす黒い粘液みたいなものが溢れ、なにかを形作っていく。

 

「ルーパスさん!リューネさん!」

 

「「!?」」

 

「絆石!浄化を!!」

 

「え!?で、でも…絆石で狂竜化は治せないよ!?」

 

「そうだぞ!?実際僕ら試したことあるからな!?」

 

「あんのかよ。」

 

あるんだ……

 

「これ、狂竜化だけじゃない!黒の凶気も何故か混ざってる!」

 

「黒の、凶気───」

 

「ちょっと面倒だから浄化手伝って!絆石掲げるだけでいいから!」

 

「え、えと……」

 

「こう、か…?」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんが言われた通りに掲げると、絆石から発せられた強い光がナルガクルガから出てきた粘液のようなものを包み込んだ。

 

「え、えと……これでいいの!?」

 

「それでいい───八陣全開!呪式具現魔───出でよ、“破邪八頭蛇(はじゃのやがしらのへび)”!!」

 

そう叫んだとき、ミラちゃんのいる八芒星の魔法陣から8つの影が飛び出した。その8つの影は粘液のようなものに食らいつく───

 

「喰らい……尽くせ!」

 

ナルガクルガには目もくれず、粘液のようなものを喰らっていく。その光景がしばらく続いたあと、ついに粘液のようなものは喰らい尽くされた。それと同時にその8つの影も光を放って消滅する。

 

「……これで、終わり。」

 

そう呟いたミラちゃんは魔法陣を消してナルガクルガに近づいた。

 

「……ん。生きてるよ。」

 

「……ォォォ」

 

「…ァァ」

 

あ、ナルガクルガが目覚めた。

 

「ォォォ…!」

 

「えぇ……」

 

しばらくヴァルハザクとナルガクルガ、ミラちゃんが話していたと思ったら、ミラちゃんがため息をついて私達の方を向いた。

 

「連れてってほしいって。ナルガクルガを。」

 

「……え」

 

「ナルガクルガに関しては任せるからちょっと休ませて……呪式具現魔は疲れるから……」

 

そう言ってミラちゃんは壁に寄りかかった。しばらくお兄ちゃん達と話して、一緒に連れていくことに決まった。

 

「……終わった?」

 

ミラちゃんの問いに頷く。ナルガクルガは例の疑似モンスターボールに入れてカルデアのハクリーシャさんのところに送っておいたし、問題はない…はず。あとは───

 

「……さて。」

 

私達はヴァルハザクの方を向いた。……ここからが、大きな問題なんだ。




正弓「“呪式具現魔”っていうのは術式と魔力で組み上げた使い魔のことだそうな。」

裁「あ…そうなんだ」

正弓「らしいです。」


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第183話 屍套龍の願い

正弓「今回はちょっとオリジナルスキルが出ます。」

弓「ふむ。」

正弓「ご本人が“実際に実装されたらいいな”と思っているスキルの1つです。…まぁ、結構特殊なスキルなんですけども。」


ヴァルハザクが私達を見つめている。正確には、ルーパスちゃんを、なんだろうけど。

 

「……フォォォ」

 

「…“私の命を絶ってくれ”、だって。」

 

「……そんなこと、いわれても…」

 

「…フォォォ……オォォォン」

 

「“君ならできるはずだ……幾度も私を討伐してきた君ならば”、だって。」

 

「幾度も……?」

 

そう呟いてルーパスちゃんは瘴気が纏われていない銀色の胴体に触れる。

 

「……!この、火傷痕。この位置。覚えてる。これ……私の矢の痕!?」

 

そう言ってルーパスちゃんはヴァルハザクを見上げた。

 

「……その、目。私、覚えてる。あなたは───私が最初に対峙したヴァルハザクなの……?」

 

ルーパスちゃんが最初に対峙したヴァルハザク……!?そう思っていたら、ヴァルハザクが纏った屍肉の下から何か鈍く光るものを取り出し、ルーパスちゃんの前に置いた。ルーパスちゃんがその鈍く光るものを認識した瞬間、ルーパスちゃんの体が強張った。その鈍く光るものは───大量の矢。

 

「これ……ジャナフアルカウスIIの…うそ……」

 

「フォォォ…ォォォン…ォォォ」

 

「“君が放った矢はこれまでのどんな痛みよりも痛かった。君が放った火はこれまでのどんな熱さよりも熱かった。…これが恋なのか、などという変なことは言わない。古龍と人間が恋に落ちるなど、あり得ないといって等しい話だからだ。その矢は、君が私と最初に対峙したときに放ち、私の体に突き刺さっていた矢だ。…何故、1つ1つ保管するなどという行動に出たのかは私すらも分からない。”…だって。…ごめん、この先翻訳に集中するね。」

 

「あ、うん……」

 

「ォォォ………」

 

「“異常が起こり、谷にいることができなくなり、私が森へと向かい胞子を纏っていたとき。その時に私を止めたのも、君だった。”」

 

「───“死を纏うヴァルハザク”」

 

『死を纏うヴァルハザクって?』

 

『ヴァルハザクの特殊個体で、瘴気だけではなく胞子をも支配下に置いたヴァルハザク…と言ってもいいでしょう。』

 

瘴気だけじゃなくて胞子も……

 

「“君と戦う度に何度も策を構えた。どういう戦い方をすればいいか考えた。君を倒すならばどうすればいいのか模索した。それでも───私はただの1度も、君には勝てなかった。他の人間達には勝つことができたというのに、君にだけはあの猫の車を呼ばせることすらも、できなかったんだ。”」

 

「……」

 

「ォォォォ……ォォォ…ォン」

 

「“だから、というわけではないが───最後は君の手にかかって私の命を終わらせたい。他の誰でもない、君に私の命を絶ってもらいたい。…人間である君に頼むのも可笑しいとは私でも思っている。だが、この私の最後の頼み…聞いてくれはしないだろうか。”」

 

「……」

 

ルーパスちゃんは俯いて黙ったまま。それに痺れを切らしてモードレッドさんがキレた。

 

「あぁもうめんどうくせぇ!いいか、お前は王のものに手を出した!ならおとなしくオレに斬られやが───がっ!?」

 

あ、ルーパスちゃんがモードレッドさんを……殴っ…た?

 

「ってぇ!何すんだよ!」

 

「……」

 

「無視か!?」

 

「落ち着きなさい、馬鹿息子!」

 

「あぁ!?」

 

「…今なら分かります。彼女は今、心の中で強く葛藤している。願いを叶えてやるべきなのかどうか。彼女達の“ハンター”というのは生態系の調和を担う存在だと聞きました。それゆえに、葛藤しているのでしょう。かの龍の願い通りに絶命させるべきか、生態系のことを考えて元の世界に戻すべきか。」

 

そのアルトリアさんの言葉を聞いて、理解したかのようにヴァルハザクが頷いた。

 

「……ォォォ…」

 

「“谷の先のことならば問題はない。既に私の後継はいる。あの陸地の生態系は崩れたりはしない。”」

 

「…そっか。なら───」

 

ルーパスちゃんは顔を上げてヴァルハザクの目を見つめた。

 

「───最後にもう一度、私と…ううん、私()と戦って。…いつものように、私達ハンターと古龍のあなたで。」

 

「……ォン」

 

「“いいのか?”」

 

「その方が私も気が晴れる。…もう、あなたには後悔はないのかもしれないけど。全力の勝負を、あなたと。」

 

「……」

 

「もちろん───トドメは私が刺す。それだけは絶対に譲らない。」

 

「あぁ!?テメ、何勝手に───」

 

「モードレッドなんて、ここがロンドンだなんて関係ない。…他でもない、あなたが私を選んでくれたんだから。」

 

「───」

 

「選んでくれたのなら───それに精一杯返すのが選ばれた私の役目。…でしょ?」

 

そう言ってルーパスちゃんは可愛らしく笑った。その笑みに、ヴァルハザクが小さく笑った───ように見えた。

 

「……ォォォ…!!」

 

「“やはり、君を選んだ私の目に狂いはなかったようだ。ならば、私も全力で君の、いや、君達の相手をしよう。文字通り私が命を落とすまで、全力で……!!”」

 

途端、ヴァルハザクの放つ圧力が強くなる。恐らくは本気になった証。

 

「というわけだから…ジュリィ、クエスト用意できる?」

 

「できなくはないですが……本当にいいんですか?」

 

「ん。…こうでもしないと、私の気が晴れないから。こうでもして終わらせないと、きっと私はこの先後悔する。」

 

「相棒……」

 

「古龍に気に入られるハンター、か。面白ぇやつだ、ほんとによ。だが、その面白さが推薦組に選ばれた要因だったのかもな。」

 

アスラージさんがルーパスちゃんの背中を叩いてそう言う。

 

「うし!そうそうない機会だ、俺も武器持ってクエストに参加してやるとするか!」

 

「「「え、えぇ!?」」」

 

「んだよ、意外か?」

 

「意外だよ!」

「意外です!」

「意外にゃ!」

 

「…そこまで一斉に言うなよ。凹むだろうが。」

 

「ですが大団長。相棒がゼノ・ジーヴァと出会ったときも、アン・イシュワルダが復活したときも、大団長は武器を持っていませんでしたよね?」

 

「それどころかスリンガーすらないし。」

 

「…ん?おぉ…まぁ、投げたほうが面倒くさくねぇしな。武器は……そういや数年間触ってねぇな。」

 

え、えぇ……

 

「あぁいや違った、アルテミスが来た時にちょい触ったわ。まぁ今回は別武器使うけどよ。」

 

大丈夫かなぁ……

 

「当然僕も協力しよう。私()、と言ったということはパーティを組んで挑むつもりなのだろう?」

 

そのリューネちゃんの言葉にルーパスちゃんが頷く。

 

「あの龍以外の完全絶命……できるかなど知らないが、やってみる価値はあるだろう。」

 

「あれも完全絶命扱いにしてなかったんじゃないっけ…いや、してたか。」

 

「オレもやる!父上の愛したこの地を穢した……ええと」

 

「…落とし前をつけさせる?」

 

モードレッドさんに助け船を出すと、それだ!って叫んだ。

 

「落とし前をつけさせてやらなきゃな!っつーわけであいつの首はオレが獲る!」

 

「…言ったでしょ、それは私の役目だって。それに───」

 

ルーパスちゃんがクラレントを見た。

 

「あなたじゃヴァルハザクに痛手を与えられない。」

 

「あぁ!?オレが弱いって言いたいのか!?」

 

「そうじゃない。単純に、この世界の武器だと龍たちに痛手を与えることができないだけ。…それは、貴方の親であるアルトリアさんの“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”でもそうだった。」

 

「な…!?」

 

伝承上の父であるアルトリアさんのエクスカリバーでも痛手を与えられない相手。それを聞いて、驚愕の表情で固まっていた。

 

「…嘘だ。嘘だろ、父上!!」

 

「いいえ、噓ではありません。私の聖剣は、そこにいる古龍はおろか、上位の亜種モンスターにすら痛手を与えることすらできませんでした。…ブリテンに蔓延っていた幻想種よりも、遥かに硬く…遥かに強い。」

 

そう。実は、現時点でルーパスちゃん達の世界の人達以外のサーヴァントの中でも自分の武装だけで古龍を倒せるのはギルとアル、それからヘラクレスさんだけ。上位に上がるだけでも厳しい現状だったりする。

 

「けどよ!」

 

「そんなに戦いたいなら戦えばいいよ。…そして、自分の無力さを知るといい。アルトリアさんは、既にそれを痛感している。だから古龍を相手にしようとしない。いつの日か古龍と渡り合えるようになるまで、その刃を研ぎ続けている。」

 

「……えぇ、貴女の言う通りです、プリンセス。私は、いいえ、私達はこと貴女方の世界のモンスター達に対して限りなく無力だ。ですが、ずっと無力でいるつもりはありません。いつの日か貴女方と肩を並べて戦えることを望み、今は鍛練しています。」

 

「…それでいい。ただそれだけでもいい。それが私達の戦う理由にもなるから。」

 

そう言ってミラちゃんも杖の調子を見た。

 

「……だぁっ!我慢できるかよ!オレも出る!」

 

「…好きにすれば」

 

「先輩、私も出ます。」

 

「…私も。戦力は多い方がいいと思うから。」

 

マシュ……アル……

 

「ならば、我も出よう。マシュと無銘の守護は任せておけ、マスター。」

 

ギルの言葉に頷いた。

 

「……大団長。」

 

「……構わねぇ。許可する。」

 

「いいんですか?」

 

「あぁ。…何、もしもの時は俺が責任を取ってやるよ。だから、おもいっきりやっちまえ。」

 

「……」

 

ジュリィさんがヴァルハザクを見つめ、アスラージさんを見つめ、自分の本に目を落とした。

 

「さて、ジュリィ───ううん、受付嬢。オーダーは?」

 

ルーパスちゃんがジュリィさんにそう問う。それに対し、ジュリィさんは深呼吸をして声を張り上げる。

 

「───注目!これより、新大陸古龍調査団編纂者、ジュリィ・セルティアル・ソルドミネの権限により緊急クエストを設定します!この場にいないクエスト参加希望者は管制室に設置されたクエストコンソールより緊急クエストを受注してください!」

 

その言葉でルーパスちゃん達の雰囲気が張り詰める。

 

「緊急事態につき、ハンター達の最大受注人数制限を解除!防衛クエストとして設定し、大規模作戦形式で行います!クエストクリア条件は屍套龍“ヴァルハザク”の()()()()!クエスト制限時間は通常の短時間クエストの倍の時間である100分とし、撃退、捕獲、討伐のいずれでもない完全絶命を狙うこと!総員、念入りに準備を行い、このクエストに向かうように!───いいですか、相手は上位個体であるとはいえこれはハンターズギルドでも1度も成功した例のない天廻龍以外の古龍の完全絶命クエストです!それにより難易度はこれまでのクエスト難易度を遥かに越える、前人未踏のG()()()8()()()M()()8()()()()!いつも以上の激戦となることを十分に理解して戦ってください!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

「戦闘フィールドはここロンドン、エリア6“ソーホー”!このエリア以外に侵入するのは原則禁止とし、また周囲の建物や地面に影響を及ぼさないために結界内で戦闘を行うこととします!それから───」

 

ジュリィさんが手を振ると、ルーパスちゃん達と私の目の前にホロウインドウが開かれた。……“支給品”?内容は……応急薬グレート×4、支給用秘薬×1、ウチケシの実×3、生命の粉塵×2、試作携帯型撃龍槍×1、通常弾Lv.2×40、強撃ビン×25───これって……

 

「こちらは今回の支給品になります!試作携帯型撃龍槍はその名の通りまだ試作段階のもの!一度きりの起動になりますのでご注意ください!それでは、クエスト参加パーティを開示します!」

 

ジュリィさんが言うと同時にパーティが開示される。カルデアにいる人達の中で誰が来るかは、私も知らない。

 

 

Aパーティ

 

ルーパス・フェルト

リューネ・メリス

ミラ・ルーティア・シュレイド

無銘

 

リーダー:ルーパス・フェルト

 

 

Bパーティ

 

ギルガメッシュ

マシュ・キリエライト

モードレッド

アスラージ・アドミラル

 

リーダー:ギルガメッシュ

 

 

Cパーティ

 

藤丸 リッカ

ジャンヌ・ダルク・オルタ

ナーサリー・ライム

ストーリーズ・ライブラリ

 

リーダー:藤丸 リッカ

 

 

Dパーティ

 

イアソン

ヘラクレス

メディア

アタランテ

 

リーダー:イアソン

 

 

16人レイド。私もレイドの中に参加しているのは、全員に魔力を供給するため。お兄ちゃんが言ってたけど、コンソールのシステム上の問題で16人以上の参加ができないみたい。ていうかこれ……片寄りすぎてない?タンク型が全くと言っていいほどいない。私は言ってしまえばバファー・アタッカー型だし、ナーちゃんやありすさんもバファー・アタッカー型。まともなタンク型ってマシュ以外にいない気がする……

 

「10分の準備期間の後、作戦を開始します!」

 

そう言ってジュリィさんは料理の宝具を展開した。展開した直後、思い出したように立ち上がった。

 

「言い忘れました、最後に1つ!私は今回、ギルドへの報告書を作るために記録を担当しますが……今回の一件でギルド内で責任が問われた場合、全て私がその責任を背負います!ですから───思う存分、暴れてください!」

 

その言葉を放ったジュリィさんの目にあったのは強い決意。絶対に他人にはこの作戦を邪魔させないという強い意思。その意思の強さに私はもちろん、この中で一番付き合いの長いルーパスちゃんですら、声を発そうとしてもできなかった。

 

「「おのれ女神ヘラ!何故英霊として昇華されてからも俺はお前とワンセットなのか!!」」

 

!?

 

「「ワンモア!ワンモア!ループ推奨!強くて知識がある状態で冒険をやり直したい!不幸な選択を回避したい!」」

 

「うるさいっ!」

 

イアソンさんとヘラクレスさんがアタランテさんに殴られた……あ、だいたいみんなの準備終わったみたい……?そういえば、色々アップデート入ってルーパスちゃん達以外の情報も見れるようになったんだっけ。色々パターンを作ってデータベースに入れてあるとか……?まずAパーティから見ていこう…

 

 

ルーパス・フェルト

武:爆麟鼓バゼルライド(鋭利840 爆破属性値210 精密-10 最大痛撃色白 カスタム強化なし 装飾品なし 装飾品なし)

頭:ウルズヘルムβ(装飾品なし)

胴:ウルズメイルβ(装飾品なし 装飾品なし)

腕:ウルズアームα(装飾品なし)

腰:ウルズコイルα(装飾品なし)

脚:ウルズグリーブβ(装飾品なし 装飾品なし)

護:治癒の護石III(体力回復量UPLv.3)

特:達人の煙筒

 

発動スキル:フルチャージLv.3 回復速度Lv.3 瘴気耐性Lv.3 屍套龍の命脈 体力回復量UPLv.3

装備ステータス:鋭利840 爆破属性値210 精密-10 最大痛撃色白 防護320 火耐性値-20 水耐性値20 雷耐性値5 氷耐性値-5 龍耐性値-15

 

 

リューネ・メリス

武:魔導弓アルマデール(鋭利230 属性なし 精密0 接撃 強撃 毒 麻痺 百竜強化なし 装飾品なし)

頭:ミツネSヘルム(装飾品なし 装飾品なし)

胴:ミツネSメイル(装飾品なし)

腕:ミツネSアーム(装飾品なし)

腰:ミツネSコイル(装飾品なし 装飾品なし)

脚:ミツネSグリーブ(装飾品なし 装飾品なし 装飾品なし)

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

花:猟香の花結・三輪

 

発動スキル:死中に活Lv.3 泡沫の舞Lv.3 満足感Lv.2

装備ステータス:鋭利230 属性なし 精密0 接撃 強撃 毒 麻痺 防護300 火耐性値3 水耐性値13 雷耐性値-12 氷耐性値8 龍耐性値-2

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイド

武:終滅の魔杖(鋭利270 龍属性値150 精密0 最大痛撃色青 最優効率属性龍 カスタム強化なし 装飾品なし)

頭:ウルズローブヘルムβ(装飾品なし)

胴:ウルズローブメイルβ(装飾品なし 装飾品なし)

腕:ウルズローブアームα(装飾品なし)

腰:ウルズローブコイルα(装飾品なし)

脚:ウルズローブグリーブβ(装飾品なし 装飾品なし)

護:治癒の護石III(体力回復量UPLv.3)

特:達人の煙筒

 

発動スキル:フルチャージLv.3 フルブラストLv.2 体力回復速度Lv.3 魔力回復速度Lv.3 瘴気耐性Lv.3 屍套龍の命脈 体力回復量UPLv.3

装備ステータス:鋭利270 龍属性値150 精密0 最大痛撃色青 最優効率属性龍 防護320 火耐性値-20 水耐性値20 雷耐性値5 氷耐性値-5 龍耐性値-15

 

 

無銘

武:プリムローズレイピア(鋭利63 属性なし 精密10 最大痛撃色緑 DEX+7 AGI+7)

頭:ネームレスピュアヘルムα

胴:ネームレスピュアワンピα

腕:ネームレスピュアアームα

腰:ネームレスピュアリボンα

脚:ネームレスピュアヒールα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:■■の加護 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利63 属性なし 精密10 最大痛撃色緑 DEX+7 AGI+7 詳細不明

 

 

 

シリーズスキルっていうのは緑文字になったんだっけ。それにアルの武器である“プリムローズレイピア”、これは確かホロウ・リアリゼーション序盤の細剣だったような…あ、でもそういえばお兄ちゃんが“やっとホロウ・リアリゼーション序盤の武器の再現・実装が終わった”とかって言ってたっけ……それにしても、アルのこのシリーズスキル……なんだろう。

 

 

■■の加護

■■の加護が受けられている状態。超高度な真名隠し、及び生命保護の効果を得る。条件が揃わなければ解除はできない。

 

 

超高度な真名隠し……もしかしてこれのせい?ルーラーの人たちでもアルの真名を読めないのって。…とりあえず、Bパーティは……

 

 

ギルガメッシュ

武:干将・莫邪(鋭利320 属性なし 精密10 最大痛撃色白)

頭:AUOヘルムα

胴:AUOメイルα

腕:AUOアームα

腰:AUOコイルα

脚:AUOグリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:英雄王の威厳 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利320 属性なし 精密10 最大痛撃色白 防護400 火耐性値10 水耐性値10 雷耐性値10 氷耐性値10 龍耐性値10

 

 

マシュ・キリエライト

武:円卓の大盾(鋭利140 属性なし 精密5 最大痛撃色白 防護460)

頭:マシュヘルムα

胴:マシュメイルα

腕:マシュアームα

腰:マシュコイルα

脚:マシュグリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:盾兵の護法 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利140 属性なし 精密5 最大痛撃色白 防護620 火耐性値30 水耐性値30 雷耐性値30 氷耐性値30 龍耐性値30

 

 

モードレッド

武:クラレント(鋭利320 龍属性値60 精密-10 最大痛撃色白)

頭:叛逆ヘルムα

胴:叛逆メイルα

腕:叛逆アームα

腰:叛逆コイルα

脚:叛逆グリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:叛逆の怨念 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利360 龍属性値90 精密-20 最大痛撃色白 防護310 火耐性値20 水耐性値-15 雷耐性値5 氷耐性値0 龍耐性値20

 

 

アスラージ・アドミラル

武:ハザクアスピダII(鋭利684 龍属性値270 精密0 最大痛撃色青 カスタム強化なし 装飾品なし)

頭:シーカーヘッドα(装飾品なし)

胴:シーカーベストα

腕:シーカーグラブα(装飾品なし)

腰:シーカーベルトα(装飾品なし)

脚:シーカーパンツα

護:無効技攻の護石III(無効化【技能攻撃】Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:整備Lv.1 採集の達人Lv.1 広域化Lv.2 クライマーLv.1 閃光強化Lv.1 剥ぎ取り鉄人Lv.1 キノコ大好きLv.1 運搬の達人Lv.1 潜伏Lv.2 滑走強化Lv.1 調査団の導き 無効化【技能攻撃】Lv.3

装備ステータス:鋭利749 龍属性値270 精密0 最高痛撃色青 防護350 火耐性値10 水耐性値10 雷耐性値10 氷耐性値10 龍耐性値10

 

 

…アスラージさんのこのスキルなんだろう。なんか…文字が赤いんだけど。

 

 

無効化【技能攻撃】

様々なスキルを無効化するスキル。スキルレベルを上げると鋭利を強化する。また、Lv.1のままではマイナススキルにしかならない。

Lv.1 無効化対象スキル無効化

Lv.2 無効化対象スキル1種類につき鋭利+5

Lv.3 無効化対象スキルレベル1につき鋭利+5

 

 

…なるほど。これ、あれだ。脳筋スキルだ!技能を捨てて物理で殴ればいいを体現したようなスキルだ!?自分の勘と高い攻撃力でぶん殴る文字通り“脳筋”!!たまに私がダークソウルでやる戦法だよこれ…レベルを上げて物理で殴ればいいっ!!…と、それはともかくとして次は私のいるCパーティ。

 

 

藤丸 リッカ

武:試作型天文台横笛III(鋭利120 属性なし 精密0 最大痛撃色緑)

頭:カルデアマスターアクセα

胴:カルデアマスタージャケットα

腕:カルデアマスターアームα

腰:カルデアマスタースカートα

脚:カルデアマスターブーツα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:天文台の加護 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利840 爆破属性値210 精密-10 最大痛撃色白 防護320 火耐性値-20 水耐性値20 雷耐性値5 氷耐性値-5 龍耐性値-15

 

 

ジャンヌ・オルタ

武:憤怒の竜旗(鋭利210 火属性値70 精密10 最大痛撃色青)

頭:ジャルタヘルムα

胴:ジャルタメイルα

腕:ジャルタアームα

腰:ジャルタコイルα

脚:ジャルタヒールα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:邪竜の憤怒 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利210 火属性値70 精密10 最大痛撃色青 防護310 火耐性値20 水耐性値-10 雷耐性値-5 氷耐性値-5 龍耐性値15

 

 

ナーサリー・ライム

武:誰かの為の物語・氷(鋭利240 氷属性値120 精密10)

頭:アリスベレーα

胴:アリスドレスα

腕:アリスアームα

腰:アリスフリルα

脚:アリスサンダルα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:アリスの記憶 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利240 氷属性値210 精密10 防護240 火耐性値-20 水耐性値-10 雷耐性値5 氷耐性値5 龍耐性値25

 

 

ストーリーズ・ライブラリ

武:あなたに寄り添う物語・火(鋭利240 火属性値120 精密10)

頭:ありすベレーα

胴:ありすドレスα

腕:ありすアームα

腰:ありすフリルα

脚:ありすサンダルα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:ありすの記憶 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利240 火属性値210 精密10 最大痛撃色白 防護240 火耐性値-20 水耐性値-10 雷耐性値5 氷耐性値5 龍耐性値25

 

 

今回私は狩猟笛を持ってるけど…まぁ、あまり意味はないかな。それにしてもナーちゃんとアリスさん、武器の属性と装備の名前、シリーズスキル以外全部一緒…まさに鏡写しっていうか。…次、Dパーティ…

 

 

イアソン

武:指導者の模造剣(鋭利150 隠し龍属性値320 精密-100 最大痛撃色白)

頭:イアソンヘルムα

胴:イアソンメイルα

腕:イアソンアームα

腰:イアソンコイルα

脚:イアソングリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:アルゴノーツ 世界最古の海賊船長 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利230 龍属性値320 精密-100 最大痛撃色白 防護320 火耐性値0 水耐性値0 雷耐性値0 氷耐性値0 龍耐性値0

 

 

ヘラクレス

武:神殿戦斧ヘラクレス(鋭利690 属性なし 精密0 最大痛撃色白)

頭:ヘラクレスヘルムα

胴:ヘラクレスメイルα

腕:ヘラクレスアームα

腰:ヘラクレスコイルα

脚:ヘラクレスグリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:アルゴノーツ ギリシャの最高傑作 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利770 属性なし 精密0 最大痛撃色白 防護320 火耐性値-5 水耐性値-10 雷耐性値5 氷耐性値5 龍耐性値20

 

 

メディア

武:黒き魔女の杖(鋭利180 龍属性値420 精密10)

頭:メディアフードα

胴:メディアローブα

腕:メディアアームα

腰:メディアコイルα

脚:メディアヒールα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:アルゴノーツ コルキスの魔女 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利260 龍属性値420 精密10 防護240 火耐性値10 水耐性値10 雷耐性値10 氷耐性値10 龍耐性値10

 

 

アタランテ

武:天穹の弓(鋭利160 隠し龍属性値320 精密-10 最大痛撃色白)

頭:アタランテヘルムα

胴:アタランテメイルα

腕:アタランテアームα

腰:アタランテコイルα

脚:アタランテグリーブα

護:耐瘴の護石III(瘴気耐性Lv.3)

特:なし

 

発動スキル:アルゴノーツ 麗しの狩人 瘴気耐性Lv.3

装備ステータス:鋭利240 龍属性値320 精密-10 防護320 火耐性値5 水耐性値5 雷耐性値0 氷耐性値-5 龍耐性値-15

 

 

……うん。まぁ……Dパーティはバランスが取れていると言っていいのか悪いのか。とりあえず、イアソンさんの精密-100…つまり会心率-100%はいくら戦闘にあまり出ないはずの指揮官とは言ってもそれは流石にどうなのかなって思うくらい?…で、一通り見てやっぱり思ったけど、ルーパスちゃんたちの世界の武器かハンターの霊基を持っている人じゃないと鋭利…攻撃力が低めに設定されるみたい。これでもジュリィさんが今起動させてる宝具“誰かの願いを記し、人を依頼に導くもの(クエストボード)”で強化してくれてるから攻撃力上がってるはずなんだけど…ジュリィさん曰く、“私もよく分からないんですけど元の性能が低すぎるんですよね…”って。ミラちゃんの話だと、“恐らくは武器や霊基に含まれている神秘の問題。サーヴァントに大体の人間の攻撃がほぼほぼ効かないのと同じ原理だと思う…多分”って。

 

「それでは───」

 

私たちは一斉にヴァルハザクの方を向く。ヴァルハザクは、その屍肉の下から強い眼光を私達に向けている。

 

「G級☆8クエスト、“英国防衛作戦・屍套龍完全絶命”───作戦開始!!」

 

ジュリィさんの叫び声と共に巨大な結界が展開される。ミラちゃんが発動させたものではない結界。これはジュリィさんが発動させたもの。“誰かの願いを記し、人を依頼に導くもの(クエストボード)”は結界宝具。クエストが始まると同時に強化やその場の設定が行われる。だから、今この場は───

 

 

「フォォォォォン……」

 

 

「「「「「……っ!」」」」」

 

静か。だけど、確かな威圧感。この場は、私達とヴァルハザクの───ルーパスちゃんとヴァルハザクの決戦の地…!!




弓「……脳筋スキルではないか。」

正弓「無効化対象スキルを積めば積むほど火力が高くなる。そんなスキルですからね、ご本人が考えた“無効化【技能攻撃】”というスキルは。スキルによる快適さを取るか、実質スキルなしによる圧倒的な攻撃力を取るか。そんな選択を迫るスキルになっています。」

裁「Lv.1のままだとただのマイナススキル……か。これって装備についてたら結構不味いんじゃ……」

正弓「護石か装飾品だけで存在していてほしいらしいですけどね…そんなのモンスターハンターシリーズ運営さんが作るか───って、そういえば“根性の護石”とかありましたね」

裁「……あぁ」

正弓「…と、それはそれとして。次回は戦闘描写となるわけですが、高確率で2話分になるそうでして。明日の投稿を休んででも2話一気に投稿するつもりみたいです。流石にそうじゃないと続き気になりそうですし。明後日から土日ですから。まぁ明日までに書き起こせていれば2話連続投稿されるでしょうけども。とりあえずその辺りご理解ください。」


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第184話 屍套龍戦、開戦

正弓「…戦闘描写苦手すぎませんか、あの人。」

裁「どうしたの?」

正弓「これ書き起こし終わったの26日だそうですよ」

裁「……えぇ…」


{戦闘BGM:黄泉を統べる死を纏う者 ~ ヴァルハザク}

 

「先手必勝、ってな!くたばりやがれ!!」

 

咆哮の硬直が終わった私達の中でまず最初に飛び出したのはモードレッドさんだった。結界内は大勢で暴れまわれるように空間が広がっているからこの表現で正しいはず。

 

「あの……バカッ!」

 

鋭く怒号をあげてミラちゃんが飛び出す。続けてルーパスちゃんが笛を振るい、リューネちゃんが狙いをつける。

 

「おらぁぁぁぁ!」

 

 

ガキンッ!

 

 

硬質的な音。モードレッドさんのクラレントは確かに首のあたりを捉えているのに、その刃を首が通そうとしない。

 

「硬ってぇ……!!」

 

「………」

 

「やべっ───」

 

口を開いたヴァルハザクに焦るモードレッドさん。クラレントを抜こうとしても、抜けない。

 

「───間に合えっ!!」

 

ヴァルハザクがブレスを吐く寸前。ミラちゃんがモードレッドさんとヴァルハザクの間に割り込んで、そして───

 

「───かふっ!?」

「───でぇっ!!」

 

ミラちゃんはモードレッドさんもろとも私の方まで吹き飛ばされた。

 

「───けっほ、けほけほっ!───げほっ!!」

 

「おま───なんで」

 

恐らくブレスをろくな防御もしないで受けた反動だと思う。最後の咳き込みで血を吐いたあと、ミラちゃんがモードレッドさんを睨んだ。

 

「こんの───バカ!!支援も受けられていない、準備もままならない状況下で古龍に挑みかかるバカがどこにいる!!」

 

「あぁ!?」

 

「あんたは古龍の恐ろしさを分かってない!よく聞きなさい、今のは完全に()()()()()()()()()()()()!全力で相手をするといいながら全力を出していない───いいや、()()()()()()()()()んだ!!もしも今のが全力だったのなら私やハンター達はともかくあんたたちは確実に死んでいたぞ!!」

 

「「「「「───!!」」」」」

 

確実に死んでいた。その言葉が私達に重くのし掛かる。

 

「上位はおろか下位にすら至らない人間が1人で古龍と戦おうとするな!!これはサーヴァントでも例外じゃ───ごぼっ!」

 

再度ミラちゃんが血を吐く。それと同時に笛の音。ミラちゃんを緑色の光が包む。

 

「瘴気ブレスの直撃を防護強化なしで受けるのは危険だよ?ミラ。」

 

笛から口を放したルーパスちゃんがそう言った。

 

「…分かってる。回復ありがとう、ルーパスさん。」

 

「まだ長い時間はいないけどさ。ミラがあそこまで怒ったのは初めてみたよ。」

 

「古龍と戦うのは危険だから。大体、最大痛撃色が白でもこの世界の人達のは何故か3段階くらい落ちるから…」

 

「実質最大痛撃色黄、っていうね。遠距離系は問題ないけど。」

 

「それでも一撃一撃が弱いから…」

 

「異世界のハンター達は武器倍率が低いとか高いとか言ってたけどね…」

 

「……異世界のサマナーさんたちも言ってたなぁ」

 

一瞬のんびりした雰囲気が流れたかと思うと、一瞬で表情を変えて跳んだ。

 

「フリュゥゥゥゥゥ………!」

 

「全員散開!」

 

私の言葉で近くにいたサーヴァントのみんなが跳躍。私もジャルタさんに抱えられて跳ぶ。どうやら私達の足元に跳躍力強化の魔法陣が描かれてたみたいで、全員がかなりの高さまで上昇した。

 

 

ボシュゥゥゥゥゥ………

 

 

下に向けて吐く瘴気。それが私達がいたところにまで迫ってきていた。かなりの範囲があるブレスみたい。

 

「強化いくよ!」

 

そう叫んでから私は試作型天文台横笛を吹く。これに与えられている音色はルーパスちゃん達の世界の狩猟笛に存在してない音色。それはまぁ、カルデア試作、それも私専用だからなんだけど……一応、本当に狩猟笛として運用していくならルーパスちゃん達の世界にあるものと同じ音色構成になるって話。私が持つ笛のその音色は、漆黒薄紅桃花。その色は偶然なのか、陽菜ちゃん、ニキ、星羅の髪色と全く同一だった。漆黒漆黒漆黒桃花桃花薄紅薄紅薄紅薄紅の組み合わせで発動するその旋律効果は“他者強化”、“マスタースキル2発動”、“旋律効果倍加”。追加演奏して“はじかれ無効+体力回復【小】”、“マスタースキル2効果時間延長”、“旋律効果時間延長”。ちなみにこの旋律効果に関して“第1音色2連旋律の追加演奏が心眼効果発動なのは変わらないんだね”、ってルーパスちゃんから言われた。

 

「“鏡のアリス”!」

 

私が一声叫ぶとありすさんとナーちゃんが前に出る。“鏡のアリス”。それは、ありすさんとナーちゃん用に作った1つのコマンド。意味は───“二人同時に行動せよ”。

 

「「───コードキャスト」」

 

コードキャスト。ギルからその概要は聞いている。曰く、電脳空間で使用される簡易術式(プログラム)。月の聖杯戦争の参加者たる魔術師(ウィザード)達はコードを予め設計・製造しておき、これに魔力を通すことで起動させる。中には礼装に刻まれたものもあるみたいだけど…

 

「───“火吹きトカゲのフライパン”!」

「───“冬の野の白き時”!」

 

2人が放った魔術がヴァルハザクに襲いかかる。怯みはしてないけど、ダメージは通ってるみたい。

 

「…浅いわ、あたし(ありす)。」

 

「そうね、あたし(アリス)。」

 

でも二人からすると不満みたい。

 

「痛撃補助行くよ!」

「せぇぇい!!」

 

ミラちゃんの声と同時に気合の入った声。その方を見ると、ルーパスちゃんが狩猟笛を振りぬいていた。あ、確か狩猟笛ってまぁまぁ重いんだっけ?

 

「───適応完了!」

 

「鉄蟲糸技“飛翔にらみ撃ち”───見えた!」

 

リューネちゃんが接近、翔蟲で飛び上がって3射。そしてナイフをヴァルハザクに突き刺した後、2ステップでヴァルハザクから離れる。ヴァルハザクを狙ったままながら微妙そうな表情をしてた。

 

「……浅いな」

 

「浅い?」

 

「あぁ……なんというか、あまり痛手が与えられてない。無属性なのが悪いのか、僕の立ち回りが悪いのかは知らないが。例の強化もまだ確立できていないらしいからな……どうしたものか…ね!」

 

噛みつきにかかってきたヴァルハザクをどこからともなく取り出した小刀で斬りつけながら回避、矢……というかモヤっとボールみたいなのを放つと、それでヴァルハザクが一瞬怯む。

 

「傷つけ入れるよ!」

 

「援護する!」

 

「私も援護しよう。■■■■■───!!!」

 

ルーパスちゃんがクラッチクローでヴァルハザクの顔に飛び付き、ミラちゃんが麻痺弾(もう大体色でわかるようになった…)、ヘラクレスさんが武器の叩きつけで地面を揺らす。…一瞬バーサーカーに戻ったかと思ったけど、ヘラクレスさんの使ってる“神殿戦斧ヘラクレス”ってバーサーカーの時にも使ってたあれだもんね。

 

「傷つけ成───きゃっ!」

 

宙に浮き上がったルーパスちゃんが引っかかれる。それに対してちゃんと受け身を取って笛を吹く。適用されるは“響玉:体力継続回復”、“体力回復【小】”、“鋭利UP【大】”。そこから追加演奏で“響玉:体力継続回復”、“体力回復【小】”、“鋭利UP【特大】”。…いつの間に旋律そろえてたの?

 

「お前も行け!」

 

「俺を蹴るなぁぁぁ!!うおぉぉぉぉぁ!?」

 

イアソンさんがヴァルハザクに向けて蹴られ、噛みつきを回避していく。

 

「そら、そら!───メディア!」

 

「わかってるわよ!マキア・ヘカティック・グライアー!!」

 

「ちょっ、俺のことも考えろぉぉぉぉ!!」

 

「うるさいわよっ!ヘラクレス!!」

 

「承った。■■■■■───」

 

「えっ、ちょっ、まっ───」

 

「■■■■■───!!!!」

 

「やりやがったなへラクレスゥゥゥゥ!!」

 

あ、吹き飛ばされていった……

 

「悪は滅びた!」

 

「スッキリしたわ!」

 

「いや何してるの!?」

 

「私は滅びぬ!何度でも蘇るさ!」

 

「「滅びとけ!!」」

 

「うぐ…」

 

仲がいいなぁ…

 

「フリュゥゥゥゥゥゥ…………」

 

「あれは───吸引してる?」

 

「瘴気吸引…大団長!」

 

「瘴気侵蝕状態は解除してるぞ。」

 

「なら大丈夫!」

 

何が大丈夫なのかわからないけど…

 

「計算上はあと麻痺弾2発で麻痺入る」

 

「了解」

 

吸引を終えたところに結界内に何かが現れる。

 

〈報告!()()()()()()───使用可能です!〉

 

「…!」

 

ジュリィさんの声にルーパスちゃんが反応する。

 

「待って!?“魔術式撃龍槍”って何!?ていうか撃龍槍使えるの!?」

 

〈一応防衛クエストですから使えますけど…闘技場ではないのに撃龍槍をそのまま出すことはできませんから結界で組み上げた魔術式ですけど。ミラさんに協力お願いしてますから私たちの世界の物と同じ効果なのは確認済みですよ?〉

 

「えぇぇ…」

 

「ちなみに魔術式撃龍槍は私達の世界に実際にあるけど、ジュリィさんの撃龍槍より強いよ」

 

それは多分言っちゃだめなやつ…でも…

 

「…もう弱ってるんだよね。」

 

無言だったけど結構な猛攻だったからね。

 

「行きます───シールドバッシュ!!」

 

「……キュルォォォォォ…」

 

「……あ…?」

 

マシュの一撃が最後になったのか、ヴァルハザクが動かなくなった。

 

「あれ…先輩、私……?」

 

「……油断しないで、マシュ。」

 

音楽は止まった。だけど───クエストクリアの声が聞こえない。

 

「……来るよ」

 

ミラちゃんがそういったと同時に、ヴァルハザクがもう一度動き始めた。

 

「ォォォォォォォ……」

 

「こいつ───不死身か!?」

 

「違う。…討伐は一時的な行動停止に過ぎない。ヴァルハザクは、その行動停止時間を無理矢理短くして起き上がっただけに過ぎない。…さぁ、第二ラウンドを始めよう」

 

そういってミラちゃんが杖を構え、龍属性の砲門を20ほど展開した。




正弓「ちなみに情報開示。」


試作型天文台横笛III
攻撃力120
属性なし
会心率0%
最大斬れ味緑
音色 漆黒薄紅桃花
旋律情報
旋律旋律効果重ね掛け効果
漆黒漆黒他者強化はじかれ無効+体力回復【小】
漆黒薄紅桃花マスタースキル1発動マスタースキル1効果時間延長
漆黒薄紅薄紅桃花マスタースキル2発動マスタースキル2効果時間延長
漆黒桃花桃花薄紅マスタースキル3発動マスタースキル3効果時間延長
薄紅薄紅薄紅旋律効果倍加旋律効果時間延長
桃花漆黒桃花環境ダメージ無効体力回復【小】
響音桃花広域響周波【打】連音響周波【打】
響音薄紅響玉:体力回復【大】連音響玉

テキスト
人理継続保障機関フィニス・カルデアにて試作された狩猟笛の補助型。マスター専用というような性能をしている横笛。試作であり、未完成品であるためにその攻撃力は低いようだ。


正弓「補助に振り切ってますね…この性能。」

裁「確かに」


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第185話 激戦───黄泉を統べる死を纏う者

正弓「ふぁ…」

裁「眠そう。大丈夫?」

正弓「えぇ、まぁ…それに、お母さんもそろそろ復帰ですから私も頑張りませんと……」

裁「マスターが……」


そこからは激戦になった。

 

元々ヴァルハザク自体が脆いのか、討伐まではあまり時間はかからなかった。

 

……だけど。

 

「ォォォォォ………」

 

「ちっ、また復活しやがった!」

 

討伐回数4回。それでも、未だクエストクリアに至ってはいなかった。何度も何度も復活する恐怖。多分、何かが足りないんだろうけど……私にはその何かがわからない。

 

「ルーパス!」

 

リューネちゃんの声にルーパスちゃんが指笛を吹く。それと同時に射出される撃龍槍───やり方がよくわからないけど指笛がスイッチになるように設定されてるみたい。その撃龍槍が深々と刺さってヴァルハザクがダウンする。

 

「───鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

起き上がったヴァルハザクに双剣が投げられ───それをヴァルハザクが弾く。

 

心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)───そら、生ける屍の龍。来ぬのか?我はここだぞ?」

 

うわぁ……ギルが思いっきり挑発してる……

 

「ォォォォ!!!!」

 

心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)───近づけさせぬわ、戯けめ。王の幻想(ロード・オブ・ファンタズム)!」

 

噛みつきにきたヴァルハザクに大量の刀剣類を撃ち込むギル。ミラちゃんが乾いた表情をしてるってことは───アレ、全部竜殺しの逸話持ちの武器なんじゃないかな……

 

「ウォォォォォォン!!」

 

唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)───させると思うか、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

器用なのかどうか分からないけど、ヴァルハザクに突き刺さってる刀剣類だけを爆発させた。

 

「ちぃっ、やはり竜殺しの武器でも浅いか───だが!ヘラクレスの命をも狩ったこれならばどうだ!両雄、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)───!!!」

 

巨大化した双剣を手にギルがヴァルハザクに接近し、斬りつけた。

 

「これが!我の!“鶴翼三連”よ!どうだ、贋作者!」

 

〈……現実逃避はもうやめだ。この英雄王はおかしいと断定しよう。だが、おかしい故か話が通じるのもまた事実か。そして───なぁ、英雄王。それはオレの技術なんだが?〉

 

「貴様に出来て───」

 

〈我にできぬわけはなかろう、か。流石に聞き飽きたぞ…まぁいい。鶴翼三連を放ったのはいい、が───〉

 

「…うむ。」

 

「ォォォ……」

 

〈「ほぼ無傷か。」〉

 

〈流石に凹むんだが?〉

 

「我に言うな、我に。…よし、贋作者。カルデアに帰還した後、鶴翼三連の強化策を練るぞ。」

 

〈了解した。…それはいいが、貴様は目の前の戦闘に集中した方がいいだろう。〉

 

「ふん、既にヘイトはアスラージめが奪い取っていったわ。ヘイト管理上手すぎであろう。」

 

〈……英雄王。リッカに引きずられているのかゲーム脳化してきてないか?まぁいい、敵視が大団長に向いているのは間違いないみたいだからな。〉

 

確かにアスラージさんに攻撃が集中し始めている。……ここまで35分。

 

『ルーパスちゃん、衝撃注意!』

 

『え?』

 

響音桃花旋律の重ね演奏で発動させる旋律効果、“連音響周波【打】”。その旋律効果詳細は“旋律効果が届く範囲にいる全ての狩猟笛から旋律を揃えることなく響周波【打】を発する”。

 

「ォォォ!?」

「わっ!」

 

私の試作型天文台横笛IIIはもちろん、叩きつけた直後のルーパスちゃんの爆鱗鼓バゼルライドからも響周波が放たれ、その衝撃がヴァルハザクを襲う───それで体勢を崩したのを見逃さず、リューネちゃんが竜の一矢を、ミラちゃんが集束砲を放つ。

 

『麻痺入るよ!宝具用意!』

 

ミラちゃんの念話にサーヴァントのみんなが構える。

 

「───ッ…ッ!!」

 

「麻痺入った!」

 

「うし、これで終わりだバケモンゾンビ!」

 

いやそれどういう意味?

 

「我は王に非ず、その後ろを歩む者───彼の王の安らぎの為に、あらゆる敵を駆逐する───!」

「目覚めよ、星の流れ。開かれよ、夜の息吹───神秘のごとし夜天に煌めく星々───!!」

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮───!」

「繰り返すページのさざ波、押し返す草のしおり───!」

「無限に広がる無数の世界、カラカラ回る時の本棚───!」

「その肉体───貫く!」

「術理、摂理、世の理、その万象───一切を原始に帰さん!」

「太陽神と月女神に捧ぐ───」

 

宝具の詠唱を始めたのを見て漆黒薄紅薄紅桃花薄紅薄紅薄紅の旋律を重ね演奏して全員に強化をかける。全体にかかる効果じゃないマスタースキルは、全体に強化をかける代わりにその性能が…結構落ちる。旋律効果倍加で元の性能に一歩届かない感じ。

 

「“我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)”ァァァ!!!」

「第二宝具───“それはまるで流星群のように(シューティング・アステロイド)”!!」

「“吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)”!!」

「全ての童話は、お友達よ!」

「私はきっと、アナタの心を掴むでしょう!」

「“射殺す百頭(ナインライブズ)”……!!」

「“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”!」

「“訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)”!!」

 

それぞれの宝具がヴァルハザクに殺到する。ルーパスちゃん達はこの後の事を考えて少し休憩してる…けど。

 

「………ォォォ……」

 

「いよっし!やったか!?」

 

ヴァルハザク討伐状態、5回目。あとモードレッドさん。その言葉はフラグです。




正弓「2話で収まってないんですよねぇ…」

裁「あはは……」


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第186話 決断───名もなき狩人の矜持

正弓「うーん……」

弓「どうした。」

正弓「…これ、時間かかってますけど飽きてたりしてません?」

弓「……」


「…来る」

 

ミラちゃんがそう呟いたと同時に、ヴァルハザクが動き始めた。

 

「くそっ…これでも駄目、なのかよ…!!」

 

「ォォォォォ…!!!」

 

その咆哮に───私は、意思を感じた。声を、聞いた気がする。

 

 

私は───倒れぬ!倒れられぬ……!!この程度では私が完全に倒れることは、敵わぬのだ……!!!どうか、早く───私を終わらせてくれ!!!

 

 

それを感じたのは私だけじゃなかったみたいで。ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんが少し複雑そうな表情をしていた。

 

「……“人の手で古龍を完全に絶命させた例は全くと言っていいほど存在しない。”…それが、まさかこんな形で露呈、具現化───もとい、目に分かる形で出てくるとはね。」

 

そう呟いてリューネちゃんがため息をついた。

 

「なんとか方法があればいいんだけどね。」

 

「そもそも古龍が絶命した例そのものが希少だろう。方法と言ってもどうすればいいのか…」

 

「…とりあえず、できることからやっていくしかないよ」

 

 

{戦闘BGM:名もなき狩人の矜持}

 

 

ルーパスちゃんが武器を構えたことで戦闘だと判断したのか、音楽が流れ始める。…だけど、これまでと違う。

 

「……ッ!!」

 

ルーパスちゃんが強く踏み込んだかと思うと、ヴァルハザクに対して狩猟笛を力任せに叩きつけた。それに反撃してきたヴァルハザクの手を振り回した狩猟笛で払い、地面に柄を突き刺した狩猟笛を回す。それで怯んだのを確認してクラッチクローを応用してミラちゃんのいる方に跳ぶ。ミラちゃんはミラちゃんでルーパスちゃんが跳んでくるのを確認したあとに杖に龍属性を纏わせてヴァルハザクに接近する。

 

「───圧縮放出!」

 

ヴァルハザクの胸の辺りに突きつけた杖の先から1本のレーザー…に見える龍属性砲が放たれる。高圧洗浄機みたいに圧力が強くて、ヴァルハザクの体を貫通したみたいだけど───

 

「……やっぱり、これくらいじゃ倒れないよね……」

 

ミラちゃんの言う通り、ヴァルハザクはまだ生きていた。

 

「心臓貫通してるはずなんだけど……まぁ、古龍は一回心臓貫通させただけで絶命させられるほど簡単じゃないからなんとも言えないけど……」

 

「ミラって後方支援型……遠距離型なんだよね?よく近接戦闘もできるよね…」

 

「それルーパスさんが言うの……?」

 

「……そうだね」

 

ルーパスちゃん、弓使いだもんね……

 

「まぁ結局のところ…このまま続けてても状況は変わらないし。何か策があればいいんだけど……」

 

「そもそもの話、古龍の完全絶命の記録って何があるの?私達の世界だと寿命とシャガルマガラくらいだけど。」

 

「大体は寿命。それとシャガルマガラの絶命はそのシャガルマガラが生きることを否と判断したマガラ種の生殖細胞が寿命を食い荒らすんだとか。多分ルーパスさん達に記録された天廻龍完全絶命記録は討伐状態期間中に寿命を食いつくされて完全絶命に至ったんじゃないかな、っていう私の推測。」

 

「あ……そう。」

 

うん、よく武器振り回しながらそこまで話せるね?リューネちゃんも同じことやってるけど。

 

「…だが、流石に時間がかなりかかってるな。流石に辛くなるぞ、これは。俺らハンターやサマナーはともかく、他の奴らは……」

 

「……辛そうだね」

 

確かに…ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃん、アスラージさん、私、アル、ギル、ヘラクレスさん、マシュ以外の7人は既にもうギリギリっぽい。でもマシュはギリギリになってる7人と私を守護するので手一杯。…逆にアルがまだ動けるのが意外なんだけど。私?流石に攻撃が弱すぎて“吹き専”って言われるらしい立ち回りだったからあまり体力使わなかった…ちなみにこの立ち回りはあまり好かれないらしい。だけど、攻撃低すぎてそれだけに専念してほしいって言われた背景があったりする……完全に支援向きの性能だから仕方ないのかな。

 

「古龍の絶命……か。…そういやよ」

 

「うん?」

 

「大いなる存在……地啼龍“アン・イシュワルダ”。ルーパス達があいつを討伐したあとに動き出したとき、ネルギガンテがあいつに攻撃を食らわせて止めたはずだ。あれは……俺が見る限り、絶命したように見えたんだが……違うか?」

 

「ネルギガンテ………そっか!」

 

ミラちゃんが自分の杖を見た。

 

「ネルギガンテは古龍を滅しやすい。他の古龍同士の縄張り争いでも古龍は絶命するけどネルギガンテはその絶命までの時間が他の古龍達の比じゃない……!なら!ルーパスさん!リューネさん!無銘さん!アスラージさん!力を貸して!」

 

「っ!?私もですか!?」

 

「“放出”する系の攻撃が必要なの!お願い!」

 

「ですが……!」

 

「行きなさい、無銘殿。こちらは私が抑えておこう…!」

 

「行け!3分は稼いでおいてやる!」

 

「っ、ありがとうございます!」

 

そう言ってアルがこちらに来る。

 

「いい?これから4人にある魔法をかける。かけ終わったら放出系の攻撃をヴァルハザクに叩き込んで。」

 

「ある魔法……?」

 

「そこまで説明している時間はない。高速思考詠唱に入るから話しかけないで」

 

そういうと同時に魔法陣が1つ、2つ、4つ、8つ───さっきの治療の時よりも速い速度で、さっきよりも大量に展開・構築されていく───!!

 

───応えよ!龍を滅せし古の龍!その力我らに貸し与えること願わん!───“付与魔法:滅尽龍”!

 

その宣言と共に、強い閃光が私の視界を覆った。




弓「そういえば36,000越えているのだな。」

正弓「早いですよねぇ…」


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第187話 決着───是、戴冠は汝にあり

正弓「ヴァルハザク戦ついに決着…」

弓「4話使っておるがな。」

正弓「書き起こし時間かかったそうです。」


閃光が収まったそこには龍属性の色に光る武器を持つ4人の姿があった。ルーパスちゃんだけ、矢だったけど。

 

「これ、は───」

 

「……滅尽龍の力を4人の武器に付与した」

 

そう呟いて、ミラちゃんはフラリと倒れかける……のを、杖で支える。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……大、丈夫。……流石に、古龍多重付与は膨大な魔力喰らってくから。リミッターはかかったままとはいえ、いくら私の魔力量が膨大だといっても()()()()()()()()()()()()()()9()()()()()()()()()()()()()()のは辛いの…」

 

ミラちゃんで、9割……!?規格外(EXランク)の、膨大な魔力を持つミラちゃんが……!?

 

「だから───今回の戦闘で私にできるのはここまで。あとはあなた達に任せる……特に、ルーパスさん。貴女に。」

 

「私……?」

 

「彼は、貴女に命を断って貰いたいと願ってる。貴女は、彼の命を断つのは自分だと言った。…既に、条件は揃ってる。貴女は、その矢で───彼の命に終止符を打ちなさい。」

 

「……!で、でも…」

 

「…貴女ならできる。そう、感じる。」

 

「……できるのかな」

 

「……多分。あとは…頼んだ、よ……私、は…もう、無理……」

 

そう言ってミラちゃんは地面に倒れこんだ。杖で支えているだけの力もなくなったみたい。

 

〈報告します!魔力リソースの変換が完了しました!バリスタ、大砲、移動式速射バリスタ、魔術式撃龍槍、魔術式破龍砲!全て使用可能です!〉

 

「……分かった」

 

ルーパスちゃんがアイテムボックスを開いて狩猟笛を格納、弓を取り出した。さらに防具も変更して黒い装備から白い装備に変わった。

 

「EXヴァルファー…行くよ、ヴァルハザク。ジュリィ、撃龍槍と破龍砲のレバー。」

 

〈分かりました。〉

 

ジュリィさんの声と共にルーパスちゃんの足元に2つのレバーが現れる。

 

「リューネは破龍砲をお願い。」

 

「あぁ…しかし、ジュリィ殿もすごいな。撃龍槍だけでなく破龍砲も魔術で再現するとは。」

 

「普通にあの人色々できるからね。───英雄王!ヘラクレス!スイッチ!」

 

「っ、承知!」

「そら、行け!」

 

ギルとヘラクレスさんがヴァルハザクから離れると同時に、ギルがミラちゃんを抱えて私の方まで下がってきた。

 

「───てぃ!」

「ふんっ!」

 

レバーを下ろすと同時に、撃龍槍四連装+試作携帯型撃龍槍16本がヴァルハザクを襲い、さらに破龍砲の炎がヴァルハザクを包んだ。…ゲームだったら処理落ち起こしてそうだけど。

 

 

{戦闘BGM:英雄の証}

 

 

この曲───知ってる。確か、“英雄の証”…?

 

〈英雄の証───それも、最初に伝わった“原曲”の……!まさか、今になってこの曲を聞くことになるなんて!!〉

 

〈懐かしい…昔を思い出すね、姉さん。〉

 

ルーナさんや蒼空さんが懐かしんでるってことは…かなり、前なんだ。

 

「最初は私が!───行きます!」

 

光る細剣を構え、アルがヴァルハザクに肉薄する。

 

「何故でしょう───分かるんです。私が、何を放てばいいか。知らないはずなのに、この身体が、この魂が───()()を覚えている───!!」

 

ソードスキルではない。ライトエフェクトがないことからそれは明らか。

 

「───()()()()()鮫噛砕撃(こうごうさいげき)!!」

 

細剣が閃き、ヴァルハザクの頭が凹んで見えたほどに重い攻撃が放たれる。速すぎて見えなかったけど───多分、2撃。いや、それに…()

 

「スイッチ!」

 

考えているうちにアルは下がり、アスラージさんが前に出た。

 

「さぁ、おとなしく眠りやがれ、大自然!」

 

斧モードのチャージアックスを後ろで展開、ぐるりと振り回して───

 

「“超高出力属性解放斬り”!!」

 

地面に叩きつけると同時に地面から龍属性の光が吹き出した。…なるほど、確かに放出系の攻撃だ…

 

「スイッチだ、リューネ!」

 

「任された。と言っても僕は矢を放つだけだ───」

 

リューネちゃんが矢を地面に擦り、強く引き絞る。

 

「───“竜の一矢”」

 

リューネちゃんが放った矢はそのままヴァルハザクを貫通していった。

 

「あとは頼んだぞ、ルーパス───スイッチ!」

 

リューネちゃんが下がると同時に、ルーパスちゃんがヴァルハザクの前に立った。

 

 

side ルーパス

 

 

私の右手にはミラの付与がかかった矢。左手には弓───“屍弓ヴァルヴェロス”。

 

「……これで最後、か。」

 

今まで、目の前にいる彼と戦ったのは何度だっただろう。彼と一緒に眠ったのは何度あっただろう。それこそ戦ったのは40を超えて。一緒に眠ったのも60はあった。……でも、それも今回で終わる。全てが終わる。今回が……その、最後。

 

「……」

 

首を振って思考を遮る。余計なことは考えない。私がすることは彼の望みに沿って彼の命を断つこと。……ただ、それだけ。

 

「……ふー……」

 

ヴァルハザクと私の目が合う。私は矢筒の側面にミラの付与がかかった矢を差し込み、矢筒から普通の矢を取り出した。

 

「最後の、一戦。…最後の…私達の全身全霊、全力全開の一合。…付き合って、くれるかな。ヴァルハザク。」

 

その問いにヴァルハザクが頷く。それを見て、私も矢を番える。

 

「フォォォォォォ───」

 

ヴァルハザクが瘴気を溜める。それは、私がこれまで見た彼の瘴気の濃さを、遥かに上回る。

 

「───」

 

刹那───私に向けて高濃度の瘴気が放たれる。少しでも当たれば、瘴気耐性Lv.2のある今でも瘴気侵蝕状態。…いいや、ネコタクが出勤する事態になる。それが分かるほどの、高濃度の瘴気ブレス。壁のような状態だから、逃げ場はない───

 

「───っ!!」

 

───知ったことか!!そんなの、私が立ち向かわない理由にはならない!!私が使うは1つの狩技───

 

「“身躱し射法III”!!!」

 

ギィン!という大きな音を響かせ、長い透け時間で高濃度の瘴気を通り抜ける。そこから引き絞るのを継続したまま、ミラにかけてもらってた跳躍力強化を使って高く跳躍する。

 

「行くよ、ヴァルハザク!これが私の全身全霊───!!これぞ我が奥義!!“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エグゼキュート・アロー)”───!!!!」

 

全てはヴァルハザクに、向けて。すべての矢を、ヴァルハザクの動きを封じるように───弓を引いて、矢を放つ───!!!

 

「ォォォォォォォ───!!!!」

 

ヴァルハザクが身動きできなくなったころ。私は、ミラの付与がかかった矢を弓に番える。

 

「とどめ!これは───あなたに捧げる最後の一撃!!屍を纏う古の龍よ!!この一矢にて永遠の眠りにつき給え!!“死に逝く古龍に捧げる最後の想い(エンシェント・フィニスエモート)”!!!」

 

その言葉を最後に、私の手から光る矢が放たれ、そして───

 

「ォォォォォォォ───!!!」

 

ちょうど、胸のあたり。ミラが圧縮した属性を放ったあの場所。そこを、貫いて───

 

 

パキンッ

 

 

空耳かもしれない。だけどかすかに音がした気がした。それと、確かな手応え。

 

「ォ、ォォ…ォ………」

 

同時に、目から光を失い、地面に倒れ伏すヴァルハザク。完全に倒れ伏すのと同時に、私は地面に降り立った。

 

「……」

 

私は無言でヴァルハザクに近づく。古龍といえど、心音がすればそれは生きている。心音を確認することが、完全絶命か否かの判断材料。…そう、ミラが言ってた。

 

「………」

 

「…やった、のか?」

 

「モードレッド。それを巷ではフラグというのだが…」

 

穴の開いたヴァルハザクの胸の部分に触れ、自分の耳をヴァルハザクの胸に押し当てる。…音が、ない。それを確認して、ヴァルハザクから離れる。離れた直後、体を起こしていたミラと目が合った。

 

「…ミラ。動ける?」

 

「……少しは、回復したから。少しくらいなら何とか。…やったの?」

 

「…私には、分からない。ミラ。お願いしてもいい?」

 

「……わかった。英雄王、私を支えてもらっても?」

 

「構わん。」

 

ミラが英雄王に支えられながら、ヴァルハザクに近づく。近づくと、ヴァルハザクの翼に手を触れた。

 

「……うん。ジュリィさんに報告。屍套龍ヴァルハザクの完全絶命を確認。」

 

〈…わかりました。クエストクリア、おめでとうございます。〉

 

ジュリィのその声が聞こえたと同時に、私の体から力が抜けて、そのまま地面に座り込んだ。

 

「剥ぎ取りはせぬのか?」

 

「…今は、いい。先に剝ぎ取ってて。」

 

「…まぁ、よいが。貴様の分は残しておくぞ」

 

「…うん」

 

その言葉の後、英雄王達はヴァルハザクの剝ぎ取りを始めた。…私は、体の力が抜けすぎてて立つこともできない。しばらくして、剥ぎ取りを終えたリッカが私に近づいてきた。

 

「ルーパスちゃん…」

 

「…大丈夫。少し疲れただけだから。」

 

「…だったら、いいんだけど。」

 

「それより、リッカは何が出た?」

 

「“死屍の龍鱗 ”が3枚と“屍套龍の宝玉”が1つ…これって珍しいの?」

 

「…“玉石”…宝玉は比較的希少な素材だよ。よかったね。」

 

「…うん」

 

私がリッカに素材のことを教えていると、リューネが私に近づいてきた。

 

「ルーパス、あとは君だけだぞ?」

 

「あぁ…ごめん。今やる。」

 

私は立ち上がってヴァルハザクに近づいた。

 

「……1回目」

 

“屍套龍の尖爪 ”。まぁまぁ希少な部類。

 

「…2回目」

 

“死屍の龍鱗”。希少じゃない素材。

 

「………3回目」

 

“屍套龍の堅殻”。希少じゃない部類。

 

「……4回目」

 

 

カツン

 

 

「…?」

 

今、何か。硬いものに当たったような感触がした。

 

「……こっちか」

 

硬いものの形に添うように剥ぎ取りナイフを滑らせる。やがて剥ぎ取れた、それは───

 

「……ぁ」

 

ハートの形をした塊。私は、これを───知っている。

 

「そ、それ、は───」

 

ミラも知っているみたい。これは…間違いない。これ、は、この、素材は───

 

「「───“屍套龍の命玉(めいぎょく)”」」

 

「あの子…そこまで……!?」

 

「ぁ…ぁ…ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

溜め込んでいたものが、決壊する。結界の中で、私は───涙が枯れるまで泣き続けた。




正弓「命玉に関してはまた今度。」

弓「説明せぬのか。」

正弓「えぇ、まぁ…次回あたり説明出るんじゃないですかね」


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第188話 命玉ってなぁに?

正弓「ちなみに、前回のタイトルにある“是、戴冠は汝にあり”というのはクエスト名でもあるそうです。」

弓「ふむ?」

正弓「この辺りは話す機会があれば。」


ヴァルハザクとの戦いを終えて。私達はジキルさんのアパルトメントの前に戻ってきていた。

 

「あ、おかえり!ジキル、みんなが戻ったわ!」

 

「ん…あぁ、お帰りなさい。」

 

「おかえり……うん?」

 

ルーナさんがアパルトメントの方から出てきてルーパスちゃんが抱えているもの───“屍套龍の命玉”と呼んでいたそれに目を向けた。

 

「それは───そう。頑張ったね、ルーパス。」

 

「……ん……」

 

「…とりあえず、上がってくれ。かなりの時間外にいたんだ、少し休んでも文句は言われないだろう。」

 

「ありがとうございます、ミスター・ジキル。」

 

ジキルさんに促されて私達はアパルトメントの中に入る。

 

「ほら、シードル。飲むだろう、セイバー。」

 

「お、やりぃ!」

 

「……大丈夫?ルーパス。少し休んでる?」

 

「大丈夫…」

 

「……」

 

ルーナさんが心配そうな顔でルーパスちゃんを見つめていた。それと同時に、ドアが開く音。

 

「なんだ。急に騒がしくなったと思ったら戻ってきていたのか。」

 

「アンデルセンさん……」

 

アンデルセンさんが部屋をぐるりと見渡したかと思うと、ルーパスちゃんを見てぎょっとした。

 

「…なんだ。どうした、そんなに泣き腫らした顔をして。せっかくの美少女が台無しだぞ?」

 

「……あはは」

 

「笑顔、笑い声にも覇気がない。いったい何が……いや、別にいいか。なんであろうと俺には関係ないことか。おい、英雄王ギルガメッシュ。」

 

「む?」

 

「気晴らしついでだ、哨戒にでも連れていけ。」

 

「ふむ…ルーパス、貴様はどうする?」

 

「どうする?ルーパス。」

 

「……行く」

 

「ん、分かった。ここの守りは私に任せておいて。あとそれはちゃんとしまった方がいいよ。」

 

「……ん」

 

ルーパスちゃんが屍套龍の命玉をアイテムボックスにしまい、立ち上がった。

 

「戻ってくるときまでにその辛気臭い表情をどうにかしておけ。その表情のままではこちらにまで伝染しかねん。」

 

「……ありがとう、アンデルセン。」

 

「ふん。分かったらさっさと行け。」

 

「……うん。リッカ、先に外に行ってるね。」

 

そう言われてルーパスちゃんは外に出ていった。そのあとをジュリィさんとスピリスさんがついていく。

 

「ありがとうね、アンデルセンさん。」

 

「別に俺は何もしていない。ただ、あの表情のままでいられるのはこちらも辛いだけだ。」

 

「これをツンデレというのか。」

 

「……そうだ、英雄王。1つ教えておこう。」

 

「む?」

 

「細かく説明するのは面倒なんでな。簡潔に言うぞ。“サーヴァントは霧から出現する”。これがどういうことか分かるな?」

 

そういえば、このロンドンを覆う魔霧は原因とされたジャックさんとヴァルハザクがいなくなったというのに晴れない。薄くはなったけど。そしてアンデルセンさんがいったそれが示すのは───

 

「霧は聖杯が生み出している、か。」

 

「そうだ。」

 

「……にしても、貴様が他人の心配か。どんな毒を喰らった?」

 

「その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ。まぁいい、いくら性根の曲がった俺でも気まぐれに他人を心配するということさ。」

 

「……そうか。」

 

「……あぁ、そうだ。ちなみにお前は描写が面倒な部類に入るが、お前以上に描写が面倒臭いやつもいる。上には上がいることを忘れるな。」

 

「覚えておこう。」

 

それを聞いてアンデルセンさんは身体を伸ばした。

 

「……そういえばルーナ。お前はルーパスの持つ塊をしまうように言っていたが、あれはなんだ?」

 

そういえば私もあれがなんなのか聞いてなかった。

 

「あぁ、あれ?あれは“命玉”。数多あるモンスター素材の中でも最も希少な素材と言われるモノ───別名()()()()。」

 

「ほう。幻とな?どのくらい希少なのだ?」

 

「希少すぎて値段をつけることもできず、素材の利用方法も分からないとさえ言われるもの。リッカさんのやってるゲームに例えて言うなら……そうだね、ドロップ率0.0000001%未満?」

 

低っ!?

 

「まぁ、例えだから。噂では“全てのモンスターに命玉は存在するが、普通にハンターをしているだけでは手に入れることができない”とか、“長く生きたモンスターの玉石が長い年月をかけて変化したもの”とか…」

 

「玉石って…宝玉のこと?」

 

「うん。有名どころだと宝玉、竜玉、紅玉に鳥竜玉…この辺りかな。命玉も玉石の一部、って考える人も多いんだけど、実際のところ詳しい関係性は分かってないの。」

 

一応これが竜玉ね、とルーナさんが竜玉を出して見せてくれる。

 

「ただ、この謎に包まれている命玉も確定している情報は1つあって、“完全に絶命したモンスターの身体からしか命玉を取ることができない”。命玉を持っているっていうことは、それは何かしらのモンスターが絶命したことを表す。そして…これは完全に噂なんだけど。“命玉はモンスターが命玉を与える者を選ぶ”っていうのがあるの。」

 

「与える者を、選ぶ……?」

 

「ん。命玉が剥ぎ取れた例は、全て統一して何かしらのモンスターとの…なんていったらいいかな?愛情?みたいなのが芽生えているペアに限られているの。私も持ってるんだけど……」

 

そう言ってルーナさんが取り出したのは金色のハート型の塊。

 

「これは“金火竜の命玉”。……かつて、私と一緒にいた金火竜“リオレイア希少種”から剥ぎ取ったもの。」

 

え……

 

「あの時のことは……ちょっと、思い出したくないから。あまり深く聞かないでくれると嬉しい。命玉が剥ぎ取れた例はいくつかあっても、初対面の相手で剥ぎ取れた例は一回もなかった。……この辺は、もしかしたらミラさんの方が詳しいんじゃないかな。私達の世界と違ってミラさんの世界はモンスターと共存する世界。私達よりも情報は多いんじゃないかな。」

 

そう言ってルーナさんは口を閉じた。

 

「ほら、行ってきたら。私が知ってる情報はこれで全部だから。」

 

「……ここの守護、お願いします。」

 

「任されました。」

 

「……しかし、その若さでよくやるものだ。守護だけではなくルーパスを落ち着かせるのもお手の物というのは。容姿も整っているし成長すれば男は放っておかないだろう?」

 

「……うーん?守護はともかく、ルーパスを落ち着かせるのは実際慣れてるからかな?私の娘だし。」

 

「…………は?娘?」

 

「うん?」

 

ルーナさんが首を傾げる。

 

「……すまない。女性に聞くのは失礼だと分かっている。だが…聞かせてくれ。貴女の年齢はどれ程だ?」

 

「私?42歳。」

 

「よんっ……!……お前、合法ロリか。」

 

「合法ロリ???」

 

ルーナさんが首を傾げる。…まぁ。ルーナさんってほんと言われないと大人だって思えないよね。ちなみにちゃんと身長を測ってもらったら144.8cmでした。小学5年生2ヶ月の平均身長です、えぇ。

 

「……行こっか、ギル。」

 

「うむ。待たせている故な。」

 

変な雰囲気になったから離脱。私達はアパルトメントから外に出た。

 

 

 

「命玉について詳しく教えてほしい?」

 

哨戒中。私は回復したミラちゃんに命玉について聞いていた。

 

「……それはいいけど…大丈夫?」

 

その“大丈夫”、はルーパスちゃんに向けられたもの。

 

「…大丈夫。さっきよりは落ち着いたから。」

 

「…そっか。分かった。まず聞くけど、命玉がどんなものかは知ってる?」

 

その問いにルーパスちゃんが今さっき私がルーナさんに説明されたことを話す。

 

「……なるほどね。命玉は獣魔との何かがある者に与えられる、か。うん。考える方向性はいいね。」

 

「それじゃあ…これは本当なの?」

 

「んと……まぁ、答え合わせとして命玉について話そうか。…最初から。命玉とは、そもそもなんなのか。」

 

そこまで言ってからミラちゃんはアイテムボックスから宝玉を取り出した。

 

「命玉。数多ある獣魔の素材の中でも最も希少な素材と言われる、別名“幻の素材”。素材分類上は玉石の一種だけど、玉石ではなくて“想玉(そうぎょく)”という分類で呼ばれることが多い。」

 

「想玉?」

 

命玉(めいぎょく)心玉(しんぎょく)幻玉(げんぎょく)───それと、逆玉(さかぎょく)の4種類をまとめてそう言うの。命玉は想玉の中でも最高級の素材。だから入手するのもすごく難しい。」

 

そうなんだ……

 

「想玉はあらゆる獣魔に存在し、1匹の獣魔に対し1個の想玉しか入手できない。そして、その入手も完全に絶命した獣魔からしか入手することができない。」

 

「あらゆる獣魔……」

 

「大型も小型も関係なく、全獣魔が想玉を持つ。それから……結構重要なことなんだけど、想玉は()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

与える者を選ぶ……?

 

「そもそも、想玉が何故“想玉”と呼ばれているのか。これは、獣魔の感情が関係しているからなの。」

 

「感情?」

 

「そう。…結論を言うね。想玉とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「絆の…証」

 

「特に、命玉を与えられたっていうことはそれは獣魔に深く、そして強く想われていたことになる。だから、ルーパスさんが入手したそれは……」

 

「……ヴァルハザクに私が想われていた、ってこと……だよね。」

 

「そしてそれは……ルーパスの母も同じ、か。相手は違うが。」

 

「……命玉を入手するのが辛いのは誰でも一緒。……自らを想ってくれている存在を、自らをそこまで想ってくれるまでに絆を結んだ存在を。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。…私は泣いちゃダメなんて言わない。泣いても構わない。喪った悲しみを、少しでも軽くできるのならいくらでも泣けばいい。…だけど、いくら泣いたところでその事実と悲しみはいつまでも残り続けるの。」

 

「───!」

 

そこまで聞いて───ようやく分かった気がする。命玉が一体どういうものなのか。何故“命の玉”と書くのか。あれは───“形見”だ。死んだ人が生きている人に遺す品物。…たった1つの、想い人に遺す本当に最後の贈り物。その命があったという証。転生なんかの奇跡が起きなければ、もう二度と会うことができないということの証明。それが、命玉。

 

「想玉は元々形を持たない。最初の頃はもちろん、時間をかけてなお、形を持たない。…想玉は、末期……命を落とすその瞬間に結晶化し、想玉として形を成す。ただ、結晶化するのも確定じゃなくて、想いが弱ければ結晶化はされない。想玉は想いの強さに比例してより高純度に。最も高純度の想玉が、命玉と呼ばれる幻の素材。…説明としてはこの辺りかな。」

 

「……そっか。ありがと、ミラ。」

 

そう言うルーパスちゃんの表情には元気がない。

 

「……ところで。話は変わるけど、ルーパスさん達の世界では命玉ってどうしてるの?」

 

「え?」

 

「こういうのもちょっとアレなんだけど、命玉がいくら希少で入手方法が限られているといっても、素材であることには変わりない。その辺りどうしてるの?」

 

「……えっ…と。家や拠点で飾ってるか、アイテムボックスに仕舞い込んでるかのどちらかだよ。素材として扱うにしても、そもそもが希少すぎて使用方法が分からないし、売却するにしても値段がつけられない、って話だし……」

 

「……あ~……なるほど」

 

ミラちゃんが少し悩んでから口を開いた。

 

「まず、命玉…というか、命玉に限らず“想玉”と呼ばれるものは、一応加工できるの。」

 

「そうなの!?」

 

「うん。ルーパスさん達の世界では技術がないのか伝わっていないのかは分からないけど……ともかく、私達の世界ではそう。…どうする?」

 

「どうする、って…」

 

「いくつか選択肢はあるよ。1つめは武器の強化素材にすること。2つめは防具の強化素材にすること。3つめは装飾品……スキルを得られるのじゃなくて、普通に…えっと、首飾りとか髪飾り、指輪なんかにすること。4つめはそのまま持っておく方法。…どうする?」

 

「……」

 

「……急かさないからゆっくり考えて。幸い、想玉の加工は私もできるから。」

 

「…うん。」

 

「……最後に1つだけ。どんな加工をしたとしても、想玉に込められた想いは喪われない。それだけは確かだよ。」

 

そう言ってミラちゃんは息を吐いた。




正弓「形見……か。」

裁「命玉の意味……結構重いよね。」

正弓「…まぁ。想いが結晶化したものですから…」


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第189話 霧ヨリ英霊ハ顕ル

正弓「10月には入りましたね……」

裁「なお、このお話はまだまだ続きます」

正弓「今回は短めらしいですけどね。」


「……ん」

 

あれからしばらく進んで。ミラちゃんが何かに反応した。

 

「霧とは違う魔力反応。」

 

〈相変わらずこっちより速い……最新式なのに凹むなぁ…〉

 

機器の問題っていうかスキルの問題っていうか…経験の問題じゃないのかな、これ。

 

「強ぇサーヴァントが出てくりゃいいんだがな。…あ、いや。敵だとは限らないのか。」

 

〈そうだね。同じ霧から現れたサーヴァントでも、ナーサリー・ライムは敵として。アンデルセンは味方として現れた。味方の可能性だってあるだろう。〉

 

「まぁいいか。強いやつ、来い!」

 

「魔力反応はこっちから。……あ。あれじゃない?」

 

ミラちゃんが見た方向には───

 

「ふーむ……吾輩を召喚せしめたのはどなたか?キャスター・シェイクスピア、霧の都まで馳せ参じましたぞ!」

 

……帰りたいのです

 

「……」

 

「……ですが、これはどうやら聖杯戦争の召喚ではない模様。そこの彼女との意志疎通はできず。これは困ってしまいました。神よ、吾輩の傍観すべき物語は一体どこにありや?」

 

……誰か助けてくださいませんか

 

「あぁ、答えはない。彼女は私に何かを伝えたいのかもしれないが私には分からない。神は私を見放し───」

 

「いい加減黙ることだ。いつまで文字数を使うつもりだ?」

 

「つーかこいつらハズレだろ。さっさと斬って次行こうぜ…」

 

「なんと。なんと辛辣な物言いか。しかし、この異様な霧の中で今度こそ貴方とこうしてお目にかかれようとは。」

 

「……」

 

モードレッドさんが面倒臭そうな表情してる……それと、一緒にいた女の子…竜人語を話す女の子も少し疲れたような表情をしてる。

 

「お知り合いですか?モードレッドさん。」

 

「知らん。こいつらはハズレだ。さっさと次に行くぞ。」

 

「ふーむ。確かに吾輩は作家ですから、その能力はかなり低いでしょう。ですが、そこの彼女は分かりませんぞ?吾輩共々マスターがいないサーヴァントではありますが、かなりの力を持つご様子。変な…機械、でしたかな。あれを粉砕いたしましたので。」

 

「……へぇ?おい、お前。」

 

魔力を回復したいです……流石に疲れました……

 

「おい?」

 

その女の子は、心ここに在らず、っていう感じでボーッとしてた。

 

「やっぱこいつ役立たずじゃねぇの?」

 

「むむむ…戦闘は全てお任せしてしまいましたからな。やはりそれが原因でしょうか。」

 

「それが原因だよな!?…ったく。」

 

「……こんにちは」

 

モードレッドさんがため息をついたのを見て私が彼女に声をかける。

 

こんにちは、エスナさん。数日ぶりですね。

 

……?私の名前……それにその声は……リッカ様?

 

やっと気がついたのか、彼女───エスナさんが私達の方を見る。

 

エスナ。どうしてここに?

 

ミル姉様も……いつの間にこちらへいらしていたのでしょう?

 

「ふむ。お知り合いですかな?」

 

「知り合いか?リッカ。」

 

そう聞いてくるシェイクスピアさんとモードレッドさんにミラちゃんとエスナさんの関係について軽く説明する。

 

「ほうほう、美人姉妹と。それはそれは……」

 

「んで、言葉が通じないのは世界が違ったから、か。なるほどな。」

 

ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。

 

「構いませんな。」

 

そのあと、二人と仮契約を結んでとりあえずエスナさんの魔力回復を優先的にした。

 

「…時に。あちらにいるはほぼ確実に招かれざる来賓の方だと考えますが、如何でしょう?」

 

そのシェイクスピアさんの言葉に指し示している方向を見ると───

 

「───ほう?ずいぶんとみすぼらしい身なりになったものよ。」

 

「───お恥ずかしい限りです。それと…お早い再開でしたね、正義の皆様。」

 

白衣のサーヴァント、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 

「……魔力の結合が安定してない。いや、これは───霊核、霊基が消えかけてる?」

 

既にぼろぼろの、パラケルススさんだった。




正弓「さて……体力が尽きましたね」

裁「…正のアーチャーさんってあまり体力ないよね…」

正弓「まぁ……大体、私達ってお母さんの望む形、望む姿ですから。」


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第190話 姫穿エスティリア

正弓「そういえばご本人はミラさん達の武器で悩んでいるそうな。」

裁「……そっか」


「すみませんね、こんな姿で……」

 

「既に瀕死……ふん。それでは1時間と保てぬであろう?」

 

「えぇ、お恥ずかしながら……まぁ、役割を遂行することのできなかった私への…罰、というところですか。」

 

「まぁ、当然よな。どんなものでも使えぬ者など必要ない。それが基本だ。」

 

その姿は本当にボロボロで。何をしに来たのだろう、という感じ。

 

「それで?貴様はその身体で一体何をしに来た?」

 

それは、ギルも思ったみたいで。私の聞きたいことを聞いてくれた。

 

「えぇ、この身は既に見切りをつけられ、ただ消滅を待つのみ。私の大義は成せなかった…しかし。見切りをつけられたとはいえど、私は即座に消滅することはならぬようです。で、あれば……正義たるあなた達の手にかかるべきでしょう、と。そう、感じたにすぎません。」

 

「てめぇ……」

 

「ですから───どうか、止めを。悪逆の魔術師は、正義によって倒される……それが、私の求める終わり方の1つでもありますから。」

 

「上等だ、今すぐ───」

 

お待ちください

 

私が制止しようとする前に、エスナさんが声を発した。ミラちゃんが何かしたのかな?何かの魔力が動いてる反応がある。

 

ここは私に任せてくださいませんか?

 

「は?」

 

思えば、大海の時も私はあまり前線に出なかったものですから。私の力を見せるのと同時に───貴方様の介錯を。貴方様を知る者に任せ、躊躇われるよりは、見知らぬ私に任せて躊躇われないほうがよろしいのでは?

 

「……それも、そうですね。ですが、よろしいので?」

 

悔いる方の懺悔を聞くのも、私のやることの1つですので。私自身は第二王女ですが、何故か罪人の方から私に介錯を頼む方もおられますので。

 

『いるの?ミラちゃん。』

 

『いるよ?エスナは王女だけど、死刑執行人として介錯を頼まれること多いよ。』

 

ミラちゃん含め王女様って一体……

 

「……そう、ですか。」

 

…ミル姉様。リッカ様。手は出さないでくださいませ。

 

その言葉に私は頷く。

 

私も貴方様も、共に同じキャスターのサーヴァント。…いえ、本来私は生者であるはずなのですが。それは一度無視いたしまして、同じ術者であるならば。全力による“一撃勝負”にて決着をつけましょう。お互いに、たった一撃にて勝敗が決まる決闘の一種でございます。

 

「…なんと。この私にも挽回の機会を…?」

 

全ての者に公平に。それが決闘のルールですので。…始めましょう

 

エスナさんがパラケルススさんと相対する。パラケルススさんは剣を構える。

 

「……ミラちゃん、エスナさんって強いの?」

 

警鐘は鳴らないけど。少し、気になった。

 

「エスナ?ん~と……一応強い部類には入るよ。」

 

「そうなの?」

 

「総合的に見れば、だけどね。エスナ自身の身体能力はものすごく低いよ。」

 

えっ……

 

「なんだ、やっぱハズレかよ……ッ!?」

 

「……あまり妹を悪く言わないでくれるかな。長姉として、家族としてすごく不快なの。あと、私とリッカさんの声は翻訳されないように保護かけてるけど、モードレッドさんの声は保護かけてないからエスナにも伝わってるからね?」

 

「……え」

 

……ハズレ、ですか……非力で申し訳ありません……キャスターで申し訳ありません…

 

あわわ……

 

エスナ、自分に自信を持ちなさいな。貴女は自分が弱いと思っているけれど……実際のところ、貴女は私達王家の中でも高い戦闘能力を持っている。えぇ、確かに貴女の素の身体能力は低い。けれど、貴女はそれを遥かに上回る力をもっている……そうでしょう?シュレイド王国第二王女エスティナ───匿名依頼者名“美しい第二王女”。

 

…知って、おられたのですね。

 

ふぅ、と息を吐いてからエスナさんはパラケルススさんを見つめた。

 

「ってか、待てよ!生きてる人間がサーヴァントに敵うわけ───」

 

「黙ってみているがいい。ミルド、勝算は?」

 

「大体、7:3で勝つ。相手の宝具が分からないから完全に予測することはできないから。」

 

「不安ではあるが…まぁいい。」

 

「…だぁもう!めんどくせぇ!……んで。あいつは結局強いのかよ?」

 

結局はそこに戻るみたい。

 

「さっきも言った通り、エスナの素の身体能力は低い。私達の中で一番私達4姉弟の中でたぶん一番低い。」

 

「4姉弟?」

 

「ん。まぁそれは弟と最後の妹が来たときにでも、ね。それで…エスナ自身の身体能力は低いけど、エスナは特にそれを補って余りある魔力がある。」

 

「魔力?」

 

「うん。最大値は私よりも下なんだけど、それでも残りの2人よりはかなり多い。そして、エスナのその本質は───」

 

───攻撃強化

 

静かだったその場に、エスナさんの声が響いた。

 

跳躍力強化、速度強化、身体加速、反発強化───

 

〈な、なんだ……!?すごい速度で魔力反応が───いや、術式が組み立てられていく!?〉

 

龍属性付与、龍属性強化、炸裂力強化───左腕、連環魔法陣展開。衝撃吸収、爆発力全開、反発・反撃力強化、撃力強化。

 

足元の魔法陣と左腕に水色の環状魔法陣───それの、複数展開。

 

「ミラちゃん……あれは?」

 

「あれが、エスナの本質。確かに、エスナ自身の身体能力は低い。だけど、エスナは“付与”がある。武器にではなく、自分自身に付与をかけて自らを強化する。…それが、エスナの戦い方。護身術と自分の付与を組み合わせる、1つのスタイル───“攻性補助型召喚術師”の形。」

 

攻性補助召喚術師……

 

「エスナの在り方…というか、エスナの戦闘スタイルは今のリッカさんに近いよ。自身を強化し、相手に叩き込む。それがエスナのスタイルだから。」

 

私に近い……言われてみれば。私は魔術礼装のスキルを自分に適用させることで強化し、相手に攻撃を入れるから…なるほど、90%ほど同一。

 

「ですが……聞いてよろしいか?先程から聞こえる声からすると、自らの速度や跳躍力、身体の加速をかけている模様。“キャスター”とは魔術師。弾速の強化や魔力の強化でしたら身体の加速は必要ないと思われますが。」

 

「もう言ったはずだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()、って。それに、エスナのメイン武器は私と同じ“杖”じゃない。」

 

というと……?

 

「エスナのメイン武器は───あれだよ」

 

そう言うミラちゃんの視線の先に浮かんでいたのは───桜色の、籠手?左手だけだけど…

 

「あれは?」

 

「───近接武器種の1つ、“ナックル”。そして、あれはエスナの愛武器たるリオス科特殊強化系のナックル、“蒼空王桜花姫”の片方。片方だけ装備の状態を、“ハーフナックル”っていうんだけど…エスナはそのハーフナックルの使い手。」

 

ナックル……え?拳!?王女様なのに!?キャスターなのに!!?

 

“姫穿エスティリア”装備。魔力放出率、付与術式連立起動数、共に基準値を突破───第二リミッター解除。魔力の圧縮、収束を開始……

 

「……これは、これは…私も、全力でかからねば一瞬で消し飛ばされますね……」

 

その魔力の密度を危険だと思ったのか、パラケルススさんも宝具の展開を始める。

 

「ヒュー……真なるエーテルを導かん……」

 

願いましょう。祈りましょう。あなたの悔いを聞きましょう。我が名はエスティナ。古き王国の末裔たる聖女。裁きを司る龍の名をもって、あなたの悔いを裁きましょう───あぁ、龍よ。聖女たる私が願わん。この者の悔い、この者の懺悔、どうか聞き届け正しき裁きと罰を与え給え。

 

〈これは───祈りで魔力が膨れ上がっていくわ!!まるで、村でのジャスティンの魂の波長のように!!〉

 

〈いや、それよりも術式の構築が早すぎる!ミラちゃん、君たちの世界の人間はいつもこうなのかい!?〉

 

「ん……ただ単純に私とエスナが早いだけかな。」

 

あ、そうなんだ…あとマリー、それソウルイーター……

 

魔力臨界状態、規定レベルを突破。第二段階稼働。起源装束、現出します

 

起源…装束?

 

「ミラちゃん、起源装束って?」

 

「あー……起源装束っていうのは、たまに“起源因子”を持って生まれてくる…って言っても分からないよね。なんて言っていいかな、“先祖返り”?みたいなのをする人がいるんだよね。エスナはその因子を持って生まれてきた1人。起源因子にはその因子の大本に関連する要素が紐付けられているの。その1つが、起源装束。」

 

エスナさんを光が包んだかと思うと、その中から別の衣装に変わったエスナさんが現れた。あれは───

 

“起源装束:アマノハゴロモ”

 

「……羽衣?」

 

羽衣を着たエスナさんの姿。その姿は、天女とまで言えるほどに美しい。肥大化してる左腕の籠手が気になるけど。

 

「うん。“起源装束:アマノハゴロモ”。エスナが持つ起源である、“天女”が形となったもの。」

 

「天女……天女様なのにナックルなの?」

 

なんか……イメージがズレるっていうか。

 

「まぁ、ハーフナックルだから。ナックルじゃないだけまだね。」

 

「どういうこと?」

 

「私達の世界の武器は近距離と遠距離以外に、魔法向きと物理向きに分類することってできるんだけど…ハーフナックルは魔法向きの武器なの。それも放出系の魔法に向いてる。私の杖ほどじゃないけど、魔力の放出に向いてるからキャスターに分類されたんじゃないかな。それにエスナ自身、ハーフナックルがエスナのメイン武器だっていってもよっぽどじゃない限り杖で戦うからね。」

 

なるほど……

 

「今回、エスナは“全力による”って言った。エスナがハーフナックルだけじゃなくて起源装束まで使うってことは自らの全力を放つ───そういうことだよ。」

 

と、いうことは───あれは、十中八九“宝具”なんだ。エスナさんの宝具。

 

「我が、執念……我が、想いの形……グッ」

 

傷が影響してなのかパラケルススさんは宝具の展開が遅い。けれど詠唱は完成して、その剣は輝く。

 

ここに示すは天の一撃。我が起源たる天の娘。並び放つは桜の一撃。陸の女王の一派生。

 

「“元素使いの(ソード・オブ)───」

 

「───ち、際どいか?」

 

「───いや、大丈夫。」

 

(パラケ)───ゴブッ!?」

 

魔力を消費することで崩壊した一瞬の隙。その一瞬で、エスナさんは左手を引く。

 

概念解放、術式稼働!翔けよ、天の乙女よ!咆哮せよ、桜の竜姫よ!悪逆を為し、悪逆を悔いる者に正しき裁きを下さん───“左腕活性・天撃姫裁(レフトアクト・ヘブンリィプリンセス)”!!

 

真名が解放された瞬間───

 

 

ドゴンッ!!

 

 

目にも留まらぬ早さで放たれ、先ほどの肥大化していたのはなんだったのか。エスナさんの白く細い腕は、確かにパラケルススさんの身体を穿っていた。

 

「───お見事」

 

その声を聞いて、エスナさんが拳を引く。

 

「貴女は……強きお方ですね。」

 

……いいえ。私は強くなどありません。真に強いのはミル姉様や私について来てくれる民、兵士達です。私が貴方様にしたことは、私が担う仕事の1つに過ぎませんので。

 

「……強さとは、人それぞれのものです。このパラケルススは、それが貴女の強さであると、感じたのですよ……」

 

そう言って、パラケルススさんは消滅した。




正弓「お母さんが目覚めるまでにロンドン終盤戦行けるでしょうか……」

裁「無理じゃないかなぁ……」


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第191話 魔術協会跡地───異変発生

正弓「ふぁぁ……眠いですね」

弓「辛いなら無理をするな」


パラケルススさんを倒したあと。見回りを続けてから一度ジキルさんのアパルトメントに戻り、そのあと私達は魔術協会の跡地に来ていた。

 

「ここが魔術協会の跡地か。…跡形もなく、というように破壊されているな。」

 

「よほど残したくなかったのであろうな。かなり念入りに破壊し尽くされたように見える。」

 

ちなみに今回の私達の構成は…私、ミラちゃん、ギル、アル、ルーナさん、アンデルセンさん、シェイクスピアさん、ジキルさんの8人。マシュは残ることを渋ってたけど、明らかに顔に疲れが見えてたから残ってもらった。

 

「さて、早々に道を拓くとしようか。…地下か。よし、我が先頭に立つ。ミルド、貴様は背後を警戒しておけ。」

 

「分かった。」

 

そう言ってギルが崩壊した道を拓いていき、私達は地下へと進む。

 

「……しかし、良かったのか?」

 

アンデルセンさんの私に向けた言葉に首をかしげる。

 

「お前、女子力を鍛えたいんじゃなかったのか。ならばアパルトメントに残り、料理や裁縫でもして向上に努めた方が良かったんじゃないか?」

 

「……あぁ、なるほど…」

 

私が来た理由。それは───

 

「予感がしたから。」

 

「何?」

 

「私が行かないといけない───そんな、予感がしたから。」

 

「……そうか。」

 

「……ま、なんとかなるだろ。」

 

私の近くの赤い炎───レンポくんがそう言う。

 

「基本的に他のサーヴァントの奴らに任せてるが、オレ達だって戦えない訳じゃねぇしな。」

 

『本当にどうにもならないようなら私達がどうにかできるはず…それに、リッカはウルを探さないといけないのを忘れてはいけない…』

 

ネアキさんから出た名前。未だ私の元にいない、“雷の精霊”の名前。

 

「……1つ、“ナーサリー・ライム(形無き童話)”。2つ、“ストーリーズ・ライブラリ(変幻自在の書庫)”…そして3つ、“預言書(世界創世の書)”。3種、3冊の本と契約するマスターなぞ、俺はお前の他に知らんぞ。」

 

「あはは…」

 

私が苦笑いを返すと同時に、レンポくん達が真剣な表情で私達の向かう先を見つめた。

 

「警告。前方に敵性反応を複数確認。情報照合中………該当なし。十分に警戒することを推奨します。」

 

そんな預言書の声に、全員の警戒が強まる。

 

「預言書!数を教えやがれ!」

 

「12。まもなく視認可能距離に入ります。」

 

「ふむ…マスター、任せて良いか?」

 

「うん。…レンポくん」

 

「あぁっ!タイミングはお前に任せるぜ!」

 

そうレンポくんが言った直後、それらは姿を現した。

 

「………ナーちゃん?」

「………ナーサリー?」

 

「否定。あれはナーサリー・ライム、及びストーリーズ・ライブラリとは全く違う個体です。」

 

私とギルの呟きに預言書が否定を返す。

 

「多分、貯蔵されていた書物が魔霧の影響を受けて変質したものだと思う。セイバーが前に来たときにはいなかったって聞いてたけど……」

 

「時間による侵食だろうさ。お前なら分かるだろう?極東の島国には“付喪神”という伝承があるはずだ。俺自身それを信じているわけでもないが、伝承通りならば時間が経ったことによって物質が意思を持った。そう考えた方が妥当だろう。まぁ、ただの防衛機構かもしれんがな。」

 

付喪神……なるほど。

 

「…レンポくん、お願い!」

 

「よっしゃ!」

 

私が精霊魔法のアイコンに触れると、周囲の温度が上がる。

 

「いっけぇ!!───“炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)”ッ!!」

 

レンポくんが枷を叩きつけると同時に、炎が私達をも襲う。だけど、炎は私達を焼くことはなくて、浮遊している本だけを焼いた。

 

「敵性反応消滅。」

 

「……っと、相手が悪かったか?」

 

「紙、だもんね……」

 

「……作家の前で本を焼くとは。鬼畜かお前。」

 

あ……

 

「だが───いい。」

 

え?

 

「はっきり言おう!気持ち良かった!最高の気分だ!」

 

「本を灼く!それは有り得ざる行いに他なりません!嗚呼、嘆かわしい…しかし、そこには一縷の甘美あり!決して行ってはならない悪行、赦されざる蛮行!そこには哀しみしかないはずであるのに───あぁ、なんということか!吾輩はこの瞬間にわずかに一縷、背徳の甘美を感じざるを得ません!」

 

「俺以外の著者の作品など存在せずとも構わん。ああいや、もっと言えば俺の著作さえも灼き尽くしたい!本が世界になければ!数多の名著を生涯で読みきれないと嘆くこともない!本が世界になければ!なんだこのゴミはいい加減にしろと憤ることもない!本が世界になければ!ついぞ俺が〆切に追われることも無いんだからな!!」

 

「なんと、なんと正直な御方か!嗚呼、しかし…しかし、その言葉は吾輩の胸を打つ!」

 

「フォーウ……」

 

フォウくんが困惑気味に鳴いた。そういえばフォウくんは最近アルやミラちゃんと一緒にいることが多い気がする……

 

「…作家というのにも色々あるのであろうよ。この世界を紡ぐ者にも例外なく、な。さて、先に進むとするか。」

 

アルが一度気絶させてから気付けで叩き起こすとかっていう謎な作業で2人を落ち着かせてから、私達は奥へと進んだ。

 

 

「……しかし、暗いな。」

 

「瓦礫で塞がっておらぬ通路が続いているからではあるがな。」

 

 

───ピリッ

 

 

「……?」

 

「……む?どうした、マスター。」

 

急に立ち止まった私に気づいたギルがそう言う。

 

「……今、何か……気のせい?」

 

「…?ミルド、無銘、貴様らは何か感じたか?」

 

「……いえ、何も…」

 

「私はなんか違和感があったけど……特に問題なさそうだったよ?」

 

「……ふむ。まぁ、気を付けておくことにしよう……そら、見えたぞ。」

 

ギルが示す先にあったのは、他の場所とは違う2つの扉。片方は魔力を感じるから───多分、ここが目的地。

 

「よし、俺とシェイクスピアは本を探そう。他は───」

 

「警告。周囲に敵性反応を多数確認。情報照合中………確認完了。“スペルブック”12体、“ヘルタースケルター”8体、“オートマタ”6体、“ホムンクルス”7体、該当なし5体。十分な警戒を推奨します。」

 

預言書からの警告。

 

「───ち。言ったそばからか。」

 

「貴様らは調べておくがいい。こちらは我らに任せよ。」

 

「なるべく短時間で終わらせるように努めよう。」

 

そう言ってアンデルセンさんとシェイクスピアさんは部屋に入っていった。私は預言書を開いたまま魔術礼装を起動できるように意識を回す。

 

「……」

 

ふと。魔力を感じない扉の方が気になった。黒曜石のような輝きを反射する簡素な黒い扉。…これまでの傾向からして、相手はここに何も残さないように、探られないように破壊し尽くしていたはず。なのに───どうして、ここの2つの扉だけ()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()

 

「マスター?」

 

ギルの声を背に、私は足元の小石を拾う。

 

「……っ!」

 

アイテムポーチから取り出した小型のスリングショットを通し、無音の気合いと共に放たれたそれは、黒い扉に当たる。その、結果は───

 

「何してるんだい!?」

 

「……無傷」

 

「そんなわけ───え。」

 

───無傷、だった。例え小石だったとしても、陥没させるまでの威力はないとしても。……擦り傷くらいは、与えられるはずなのに。その()()()()()()()

 

「……ひとまず、疑問は後だマスター!今はこちらに集中せよ!」

 

ギルの言葉で私は迫ってくるオートマタ達の方を向く。確かに、今はこっちが優先。

 

「───ちっ。おい、外の!」

 

「何があった!」

 

「書物があったことは確認した!だが、防護の魔術があってここから持ち出せん!故に───俺が読み終えるまで持ちこたえろ!!」

 

「了解した!マスター!」

 

「うん───」

 

 

パリッ

 

 

「───っ」

 

魔力を通した途端、極々小さな痛み。魔術回路を開く時のそれじゃない、警告の激痛のそれでもない。だけどそれを確認している余裕は今なくて。

 

「ミエリちゃんっ!」

 

「“森の精霊、その力此処に振るえ(ラフナプリズン)”!それ~っ!」

 

精霊魔法を発動し、敵達を吹き飛ばした。




正弓「……ご本人の意識が落ちてましたか……」

裁「…?」

正弓「……こちらの話です」


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第192話 黒い扉の謎

正弓「37,000UAありがとうございます。」

裁「そろそろ作品開始から1年経とうとしてるって本当?」

正弓「あと2ヶ月らしいですね。」


持ちこたえろ、と言われてから数分。大量に襲ってくる敵達を斬って叩いて撃って……そんなことを続けていると、預言書が言葉を発した。

 

「報告。周辺魔力リソースが著しく減少しています。恐らくはこれが最後の波となるでしょう。」

 

「ヒャハァァァ!ゴチャゴチャうるせぇぇぇぇ!!!紙屑は紙屑らしく黙ってろっつうんだよぉ!!」

 

「通告。狂気に飲まれるのは構いませんが敵味方の判別くらいしてください。」

 

「バーサーカーにそれは酷な気がするがな…」

 

そんなことをギルが呟いた時、私達の側を風が吹き抜ける。

 

「……うーん。少し狭いからか動きにくいね。」

 

そう呟くのは“ダークサイス”っていう銘の太刀を振り下ろした姿のルーナさん。……どう見ても鎌だし名前もサイス(scythe)だから普通鎌じゃないかなぁ…

 

「……こちらは大体終わりました」

 

アルからも終わった報告。とりあえず、この辺りにいる敵はネアキちゃんの精霊魔法とアルの術を使って氷付けにしてたからかなり余裕をもって対処できた。ちなみに色々な色の本が出てきてたけど、それぞれ名前が違うみたい。

 

「終わったぞ…と。……なんだ、この量は……」

 

「むむ……これは予想外な量でございますな。激しい音が聞こえましたため、かなりの量とは思っておりましたが。」

 

そんなとき、部屋の中からアンデルセンさんとシェイクスピアさんが出てきた。

 

「どうだ?見つかったか、童話作家。」

 

「あぁ、裏付けには十分であろう知識は得られた。こんなところすぐにでも出た方がいいだろう……とは言いたいのだが、この量だ。まさか、全滅でもさせたか?」

 

「否定。周囲に敵性反応が少数確認されます。」

 

「……少数、か。それならばもう少し探索してもいいだろうか。」

 

「あ、それなら……」

 

私は隣の黒い扉が気になることを伝えた。

 

「……ふむ。傷のつかない扉、か。なるほど、確かに妙だ。…どれ」

 

アンデルセンさんが扉の取っ手を握り、手前に引く───けど。

 

「……開かんな」

 

扉は開かなかった。

 

「錆びていて貴様の力が弱いだけではないのか?」

 

「…かもしれんな。よし、英雄王。お前が引いてみろ。」

 

「ふん、言われずとも……む?」

 

ギルが引いてみるけど、やっぱり開かない。

 

「……ふむ。鍵開けの原典でもあったか…」

 

「……私がやってみる」

 

開くとは思えないけど。だけど、やらないよりはいいはず。それでギルと場所を交代して、取っ手に触れる───

 

 

バリッ

 

 

「───っ」

 

急な痛み。さっき魔力を通したときと同じ痛み。

 

「───────ぁ」

 

同時に私を襲う、激しい頭痛。

 

「───ガ、ぁ──────ァガ────」

 

痛い。意識を保っているので精一杯。

 

「どうした、マスター!!しっかりせよ!」

 

「ギ────ゥ────」

 

ギルの声が遠く感じる。違う、ギルの声だけじゃない。全ての音が、遠く感じる。

 

 

バヂッ!

 

 

「─────!!」

 

目の前がほとんど真っ白になる。熱い。まるで、全身を火傷したかのよう。

 

「ァガ────ガ───」

 

正常な声が発せない。口から出ていると骨の伝導を通して感じられるのは獣のような咆哮のような何か。それに───音が、消えた。耳から入る音が。……それだけじゃない、手足の感覚が消失した。

 

『警告する』

 

不意に、心にのし掛かる声が聞こえた。

 

『この先は何人たりとも立ち入れぬ領域。疾く立ち去るべし。』

 

声は、そう告げた。何人たりとも立ち入れぬ領域……?

 

『この先に立ち入ろうとするもの在らば。その者は封印の劫火にその魂を焼かれるであろう。資格がないと断じられれば、やがて魂は焼ききれる。』

 

そう、告げられた直後。下半身がフきトんだケハイがした。

 

「ガ────」

 

スデにあらゆるかんカクはなく。ワタシの意識が残るノミ。

 

「────」

 

私のイシはまだ諦めていナイ。当然。ワタシはこの場所デ倒れるワケには───

 

『───?』

 

ヘンな場所がミエた、気がしタ。半トウめいのアシバとカベ。周囲はタだひたスラニ青。

 

『───何者か』

 

フイに、声。コンドハ、女性、ダ。

 

『この場所から出ていけ。ここは神聖なる領域。赦された者以外がここにいる資格はない。』

 

声は、ワカル。だけど、その声のヌシは見えナイ。トウゼンだ、今のワタシの感覚はほぼスベテガ停止している。ギリギリ、視覚がマダ残っているダケ───

 

『立ち去らぬと言うのなら───強制的に追い出すのみだ。黒き獣め。』

 

その声がチカヅイテクル。スデに90%ハウシなわれた視界で見えたのは───シロイ、龍?それを認識シタ瞬間、ワタシは、赤いイカズチで吹き飛ばされた。

 

「─ッ───!」

 

『……ふむ。加減したとはいえ、今のを耐えるか。』

 

イシキが、消えかける。視界はない。スデに、ワタシの上半身もカタチをウシナッテイル。

 

 

ヒヤリ

 

 

「─────!!」

 

その、消えていたはずの感覚に流れた冷たさが。私の意識を現実へと、正常な状態へと一気に引き戻した。

 

「───っ、はぁっ、はぁっ───」

 

「──スター!マスター!しっかりせよ!!」

 

視界が戻る───視覚、正常。匂いが戻る───嗅覚、正常。音が戻る───聴覚、正常。服の感覚、倒れこんでいるらしい石の感触が分かる───触覚、正常。

 

「───はぁっ、はぁっ───はぁ。ギル……?」

 

「っ!意識は大丈夫か!」

 

「え…?それよりも、今……?」

 

全感覚に異常なし。……下半身が吹き飛んだと思ったあの感覚。実際は吹き飛んでいない。

 

「よかった……」

 

私の左の方から声が聞こえるのと同時に、ひんやりとした冷たさを感じた。そちらを見ると、アルが私の手首を握っていた。……アルの手の位置。私が引き戻された冷たさの場所と一致する。

 

「…ありがとう、アル。」

 

「へ…?」

 

「私を引き戻してくれて。多分引き戻されてなかったら……」

 

私は、多分消えていた。

 

「おい、リッカ。扉が開いたぞ。」

 

「どうするの?」

 

ミエリちゃんの問いにギルを見る。

 

「貴様に任せるぞ、マスター。」

 

それを聞いて、私はこの先に進むことにきめた。




正弓「戦闘シーンは全カットしたそうな」

裁「道理で……」


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第193話 黒の遺跡

正弓「短めだそうです」

弓「最近短くはないか?」

正弓「戦闘描写が長すぎただけじゃないです?」


遺跡。

 

扉を潜った先は、そう言って間違いないような場所だった。

 

「魔術協会の地下にこんなものがあったのか……いたた」

 

「六花めから時計塔には霊墓アルビオンなる地下迷宮があるとは聞いていたが…これではなかろうな。これは迷宮というより遺跡の類い。マスター、念のため聞くがカルデアとの通信はどうなっている?」

 

「ちゃんと動いてるよ。通信、繋いでないけど……」

 

あれから私の身体はなんともなくて、さっきのが一体なんだったのか分からないって感じだった。ギル達によると、扉の取っ手に触れた直後、急に苦しみ始めたらしいんだけど。どうにか叩き起こしたりしようとしたらしいんだけど、全く効果なし。でも、アルが私に触れた瞬間にそれが収まっていったみたい。

 

「……」

 

「マスター…?」

 

アルを見ていたら不思議そうに首を傾げられてしまった。未だアルには謎が多い。人格に関してもだけど、私の警告の激痛を抑えることができるのも謎。…鎮痛剤でも抑えられず、精密検査でもよく分からなかったあの警告の激痛を。抑えることができるのは謎でしかない。

 

「……ん?リッカ、クリスタルがあるぞ。」

 

レンポくんの声に前方に目を向けると、赤、青、緑のクリスタルがあった。その近くに階段みたいな段差…というか足場。全8色のクリスタルは色によって対応する属性が変わるんだけど…それはともかくとして。うーん……

 

「……構造的にどこかで見覚えあるんだよね……」

 

さっきからずっとこの遺跡の構造に既視感がある。私はこの場所に来たことがないはずなのに……何故か、強い既視感を覚える。

 

『………預言書。まさか、ここは…』

 

「肯定。構造パターンは旧世界のものと同一です。」

 

『……そう。』

 

ネアキちゃん…?

 

『……レンポ』

 

「あ?」

 

『私の予想が正しいならば……この場所にはウルがいる。』

 

「……そうか」

 

…あぁ、そうか。雷の精霊、ウル。第四章“雷の精霊”では旧世界の遺跡にいた。ということは、ここは───

 

「ここは───“シリル遺跡”なの?」

 

誰に対してでもない、その問いに───

 

「……否定。ここは“シリル遺跡”ではありません。旧世界に存在した地を模した場所の1つに過ぎません。」

 

少し悩んだかのように反応が遅れた預言書の声が答えた。

 

「……とりあえず、先に進もう。」

 

記憶が確かなら、この先はまだまだ続くはず。アパルトメントを出てからしばらく時間経ってるし、早めに攻略した方がいい。……これまでの法則上、多分最深部には…アレがいるから。

 

「…行こう。“守護者の間”に。」

 

私がそう言うと同時に、ミエリちゃん、アル、ミラちゃんがクリスタルを起動させる。閉じられていた先に進むための扉は開き、私達は奥へと進んだ。




正弓「あと20日……ですか」

裁「……」

正弓「…元気だしてください。大丈夫ですよ、お母さんなら気にしません。」

裁「…だったら、いいんだけど」


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第194話 遺跡の守護者

正弓「トルソル戦ですか……」

裁「あれって結構単調だよね。」

正弓「まぁ…そうですね」


あれからしばらく遺跡を進んで。私達は守護者の間ににた場所に来ていた。

 

「……ふん、奥は奈落か。動こうとしなければ落ちるものでもなかろうに、この遺跡を作ったやつの考えが分からんな。」

 

アンデルセンさんがそう言う。奈落の奥、黒い機械のようなのに張り付いている黄色いしおり。

 

「あれだよ!」

 

「よっしゃ!これで四精霊は全員だ!」

 

レンポくんがそう言うと同時に、そのしおりが近づいてくる。

 

「なんだ…?」

 

「心霊現象か何かの類いですかな?」

 

シェイクスピアさんがそう言うと、強く光を放ってからしおりが小さな人へと姿を変える───目を封じられし雷の精霊、ウル。

 

「───あぁ。姿は見えなくとも感じます。おひさしぶりです。皆さん。そして、はじめまして。預言書に選ばれた者よ。…それにしても。前回からかなり長い時間の眠りになりましたね。いえ、眠りから覚めない方がよいのでしょうけれど。」

 

ウルさんが近づいてくると、周囲に音が響き、赤い光に照らされる。遺跡の扉は閉まり、退路は絶たれる。

 

「……おや。私を失ったことで、遺跡が警戒モードに入ったようですね。」

 

「……っ!」

 

警戒モードに入った……ということは…!

 

「この遺跡は、旧世界に存在した遺跡をティア自ら再現した施設。全ては貴女のような次なる預言書の主のために。ですが…貴女はまだ預言書の力を完全には扱えていないようですね。長すぎる眠りの中で預言書の力が弱まったのも原因でしょうが……」

 

奈落を背後にし、落ちてきた大岩───いや。

 

「あれは───なんだ?」

 

「───“トルソル”」

 

シリル遺跡ボス、守護神像トルソル。ちょっと倒しかたが面倒な相手。

 

「みんな、戦闘態勢!今の攻撃方法は直線ビームと腕の振り回し!!直線ビームは当たり判定長く続くから気を付けて!」

 

「ふむ。戦い方を知っているようですね。ならば1つだけ教えましょう。旧世界のものを再現したからか、トルソルの神秘はかなり高いのです。貴方達でも防御は砕けないと考えてください。」

 

「っ、追加で攻略情報!トルソルは攻撃のときにコアを露出する!外が無理なら───」

 

「内部を叩く、と言うわけですな!」

 

「1つ聞くぞ!魔術やお前達の精霊魔法で内部を叩くことはできるか!?」

 

精霊魔法……?えっと……あっ。

 

「わ、私───トルソルと精霊魔法で戦ったことない!!」

 

「検証不足だと!?くそっ、役に立たん!」

 

「普通に攻略するなら飛び道具が効きやすいからね!ていうか普通精霊魔法で攻略しようとなんてしないよ!?そもそもはっきり言っちゃえば今のレンポくん達の精霊魔法ってまだ弱いんだからね!?」

 

「ぐっ」

「うっ…」

『……』

 

「……まぁ、枷がある時点で弱いのは事実ですから反論できませんね…」

 

「ティアの時も枷を外すのに結構時間かかったもんね~…」

 

あ、ティアさんって枷外してたんだ。……あれ、何度かやったけどすごく時間かかった気がする。あれコードポイント3700とかまで上げないと外せないんだよね。

 

 

ウォォォォォン

 

 

稼働音。その音に、私達は背後に跳んだ。

 

 

バシューン

 

 

うん、音がゲームそのままなんだけど。そのビームが放たれた大本、露出されたコアに矢が放たれていた。放ったのは、ルーナさん。

 

「……やっぱり私じゃだめかな。」

 

弾かれた矢を見てルーナさんが呟いた。

 

「いえ、タイミングの問題でしょう。」

 

「おい、動くぞ!───ちっ」

 

アンデルセンさんがペンを投げる───え?と思ったらトルソルを火の柱が包んだ。

 

「ボサッとするな!退路が断たれた今、アレを倒さなくては帰ることもできんぞ!」

 

「そうですな!とはいえ、我々は避けることに徹しますがね!」

 

「……ヘイト、アンデルセンさんに向いてるよ?」

 

「なにっ!?」

 

トルソルのヘイトはアンデルセンさんに向いていて、そちらに向かって動き出そうとしていた───というか、ビームを放とうとしてる。

 

「アル!」

 

「カーレン!」

「───“ストリーク”!」

 

アンデルセンさんが指を鳴らすのと、アルがストリークを放つのは同時。それを受けて、トルソルは黒くなった。それを見てコードスキャン、色が戻ったのを見てコアに蹴りを叩き込む。すると、またトルソルは黒くなった。

 

「ギル!トルソルを奈落に叩き出せる!?」

 

「任せよ!───ふんっ!!」

 

ギルがトルソルに接近し、奈落の方へと蹴り飛ばす。…うん。さすがサーヴァント……あんなの絶対私じゃ出来なかった。

 

「終わりか?」

 

「にしては赤く光っておりますが…」

 

シェイクスピアさんがそう言うと同時に、トルソルが降ってきた。

 

「行動追加、魔法弾!気を付けて、追尾してくるよ!!」

 

そこからしばらく戦い続けた。




正弓「最近短めなのはあまりきにしないでくださいね」

裁「眠い……」

弓「寝たらどうだ?咎めるものはおらんであろう。」

裁「う……」


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第195話 遺跡に封じられた槍

正弓「ん~…ご本人は色々と準備しているようですね」

弓「準備…だと?」

正弓「えぇ。何しているのかはよく知りませんが。」


「ふんっ!!」

 

ギルが3体目の赤く光り始めているトルソルを奈落へと蹴り出す。トルソルは再起動したと同時に奈落へと落ちていった。

 

「…これで終わりか?」

 

ギルがそう呟くと同時に、後ろの扉が開く。

 

「お見事です。ティアほどの攻撃の冴えはありませんでしたが、それはこちら側の不手際というもので。よく、この遺跡の守護を突破しました。」

 

『預言書の質問……』

 

ネアキちゃんが呟くと同時に、預言書の新たなページが開かれる。

 

 

汝が望む世界を問う。

 

地を満たす者たち。

新たなる世の生命。

 

汝の望む世界にて

いかなる形を現す?

 

 

ひとまず、質問には後で答えるから預言書を閉じた。

 

 

ズズズズズ……

 

 

「…な、なんだこれは…地面から石が出現するだと?」

 

「初めて見たらそら困惑するわな。」

 

私が黄色い石碑をコードスキャンすると、ウルさんがしおりの姿でいた場所の方を見つめた。

 

「……なんだ?あれが何か気になるのか?」

 

「……あれが、天空槍。大規模な破壊力を持った古代兵器…とでも言っておきましょうか。ですが、あの槍はティアが人にも扱えるように…次代の主のために遺しておいたのです。次代の主───つまりリッカ。貴女が正しき世界を作ることを祈って。」

 

ティアさんが…

 

「…私も最初は反対しました。ですが、彼女は結構頑固ですからね。待機状態はあの姿のまま、預言書の主がここへ来て回収したとき、あの槍は姿を変える…と言うように、創り替えたのです。クレルヴォのような巨人でも、自分のような人間でも。そして、我々のような精霊でも扱えるような、そんな槍に。結果はリッカという人間が扱うのでしょうけども。」

 

ふと、何となく気になった。

 

「ねぇ、ウルさん。」

 

「どうされました?」

 

「私の前の主……ティアさんってどんな人だったの?」

 

「ティアですか?」

 

その私の問いに四精霊全員が考え込む。

 

「「「『……言ってしまえば人たらし?』」」」

 

……えぇ…

 

「いろんなやつに声をかけていろんなやつと仲良くなってたもんな、あいつ。」

 

「そうだね~…私と近い雰囲気も感じるけど、でも言いたいことははっきり言ってたよね。」

 

『私達の枷を全て外すほどまで預言書との繋がりを強めた…それから、どんな状況でも諦めようとしない…』

 

「暴走気味になることもありましたけど。まぁ……それでも。彼女が人たらしだとしても、1つ、確かなことはあります。」

 

「確かなこと?」

 

「…彼女、一途なんですよ。」

 

へっ……?

 

「彼女に好意を抱いている者は多い。私も含め、レンポや帝国の将軍、皇子。女性ではエルフの娘やまじない師、病弱だった彼女ですか。」

 

「あとくせぇジジィや爆弾魔、剣術道場のジジィなんかか。まぁ、他にもいるけどよ。男女や種族関係なく、あいつは好かれてた。」

 

「ですが……彼女はたった1人を除いて、好意を持つ者達の告白を受け入れませんでした。いつの日か、私は彼女に聞いたことがあります。───何故、相手の想いを受け入れないのか、と。彼女はこう答えました───」

 

「“みんなが私に特別な好意を抱いてくれるのは私だって嬉しいけど…でも、私自身はみんなに特別な好意を抱いているわけじゃないから。私の好きっていうのは、みんなとは違う。好きじゃないのに受け入れるのは失礼でしょ?…それに、私はもう好きな人を見つけてるから。彼を裏切るつもりは私にはないよ。”……だよね、ウル。」

 

「……聞いていたのですか、ミエリ。」

 

「うん。まぁ、ウルとレンポがその数ヶ月後に告白して玉砕したのもちゃんと見えてたけど。」

 

「忘れてください……!?」

 

「レンポに振り回されてるのは珍しいなぁって思ってたけど。……まぁ、玉砕したのは私達も同じなんだけどね。」

 

『……どうやっても折れなかった』

 

「ね~」

 

そんなことがあったんだ……

 

「それはまぁ、もういいとしましょう。さて、天空槍と───あの白い槍を回収しましょうか。」

 

ウルさんがそう言う。よく見ると、天空槍の鎖のようなところに一緒に白い槍が吊り下がっている。

 

「リッカ、預言書を掲げてください。」

 

ウルさんの言う通りに預言書を掲げる。

 

「天空槍、白槍、回収」

 

預言書がそう言ったかと思うと、天空槍と白い槍が分解、みたいな感じで粒子になって、預言書に吸い込まれていった。

 

「回収完了」

 

「……ウルさん。白い槍って?」

 

「ふむ。そちらに関しては帰る途中でお話ししましょうか。」

 

 

ピピッ

 

 

〈───リッカちゃん!ちょっといいかい!?〉

 

急なドクターからの通信。

 

「何かあった?」

 

〈あぁ、マシュ達がヘルタースケルターの調査に行ってるんだ。魔力そのものはジュリィさんを臨時マスターとして供給してるんだけど、ヘルタースケルターのリモコンと思わしき物を発見してくれたらしいから今から送る座標に向かってもらっていいかな!〉

 

「えっ……休んでてって言ったのに!?」

 

〈モードレッドが連れ出したんだって……別の探索に向かっているところ悪いけど、ジュリィさんの魔力は君たちほど多くないから至急救援にむかってもらえると助かる!〉

 

「わ、わかった!それとモードレッドさんは───」

 

〈ご安心ください、マスター。私がきっちりとお仕置きしておきますので。〉

 

「ありがとう!」

 

そこで通信が切れる。

 

「ミラちゃん!ギル!」

 

「ふ───乗れ、皆の者共!」

 

ギルがバイクを黄金の波紋から取り出す。その操縦席にミラちゃんが乗る───えっ!?ミラちゃん!?

 

「アッパーシステムでエンジン始動。異空間格納術式を展開。空間門解放、拡張搭乗空間開放───英雄王、調整できた」

 

「うむ!マスターは我の後ろに乗るがいい!他の者は異空間の中に入っておれ!」

 

ミラちゃんが降りたのを確認してギルが操縦席に乗る。その後ろに私。ミラちゃんにヘルメットは渡されたけど…どこから出したの?

 

「英雄王、貴方は走ることだけに専念して。近寄ってくる敵の排除はこっちでやるから。」

 

「任せたぞ、ミルド!」

 

その言葉のあと、全員が乗ったのを確認してギルがバイクを発進させた。




正弓「白い槍……これって誰の槍でしょうね。」

弓「そもそも白い槍など使うランサーは……」

裁「……少ないから誰のか分かっちゃうんじゃないかなぁ…もしも誰か英霊の槍だとしたら、だけど。…そういえば、正のアーチャーさん」

正弓「はい?」

裁「マスターってトルソルと戦うときに使う武器ってなんなの?」

正弓「お母さんですか?大体最初は“アヴァニウムの銃”の二丁持ちでしたよ。」

裁「あ…そうなんだ」


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第196話 機械殲滅

正弓「とりあえず解説飛ばしてリモコン破壊行くそうです。…何気にマシュさん視点って初めてな気がしません?」

裁「そうだっけ…」


私の前にあるのは機械の大群。

 

ヘルタースケルター───それらの大群。

 

「この……数が多いっ!!」

 

「ルーパス、そっちに数体行ったぞ!」

 

「スピリス、援護!!」

 

「はいにゃ!!」

 

ハンターの皆さんは、それを難なく撃破していきます。

 

「出番があまりないわね、マシュ?」

 

「……えぇ、そうですね。フランさん。」

 

こういう光景を見ているとよく思う。先輩に私は必要ないんじゃないかって。私がこの作戦で一緒にいるのは迷惑なんじゃないかって。…私が、先輩の足を引っ張っているんじゃないかって。だって、私よりも優秀なサーヴァントはいくらでもいるんだから。人と英霊が融合し、半英霊(デミサーヴァント)になったとしても。その英霊をよく知ることができず、英霊の力を完全に引き出せていない私は───ただの、足手まとい。そう、感じる。

 

「マシュ殿、そちらに行ったぞ!」

 

「…っ!?はいっ!」

 

敵が私の前に来た───リューネさんの叩き漏らし?いいや、別にいい。今重要なのは敵が目の前に来たということ。ならば、余計なことは後で考えればいい。

 

「……っ!」

 

ヘルタースケルターの攻撃を受け、逸らす。私の盾は大盾で、剣も持っていないから先輩や無銘さんみたいにパリィからの致命はできない。

 

「たぁぁっ!」

 

盾を使って跳躍し、急襲突きとフォールバッシュの要領でヘルタースケルターに盾を叩きつける。余計なことは考えないでいい。動きをもっと研ぎ澄ませる。相手に対する立ち回りを最適化する───

 

「機械なだけあって───硬いですねっ!!」

 

未だ機能停止にならないヘルタースケルターに向けて盾の先を突き刺す。そのあと引き抜いてから飛び込みながら一撃、さらに軽く一撃いれてその次に体重をかけた一撃───“飛円斬り”と呼ばれるそれ。隙を少なくするように突きを叩き込み、後ろに引くと共に回転しながら一撃。立ち回りとしては操虫棍のもの。ルーパスさん達曰く、盾とは言えど身軽な私ならばチャージアックスのような立ち回りではなく操虫棍が合っていそうなのだとか。操虫棍の動きを基礎に、片手剣やマグネットスパイク、大剣のような動きを取り入れる───それがルーパスさん達の至った結論。

 

「これで───いい加減、倒れてくださいっ!」

 

高所から急襲突き。急襲突きは外付けの魔力放出装置をブースター代わりにして加速させてます。本来の操虫棍は噴射機構があるそうですが、私にはそんなものありませんから…

 

「…っ!」

 

後ろから嫌な予感を感じて盾を後ろに回す。ガツン、という音がして振り向くと、二体目がそこにいた。一体目は沈黙し、動く気配はない───攻撃対象を二体目に切り替える。

 

「せぁぁっ!」

 

防御の構えを取りながら突進、体制を崩したところに飛円斬り。ヘルタースケルターに盾を突き刺して跳躍し、フォールバッシュで押し潰す。そこから回避して次の攻撃に備える。

 

「……あっ!?」

 

次の攻撃に私の盾が弾かれる。攻撃の重さによって私の手が痺れる。

 

「───あ」

 

身体が動かない。

 

「…っ!マシュさんっ!?」

 

ジュリィさんの声が聞こえます。恐らくは私への警告でしょう。動かなければ攻撃をもらう。けれど……身体が、動かない。

 

「せん、ぱ───」

 

「───やれやれ。リッカの言う通り、というところですか。」

 

ごめんなさい、と言いかけたときに声が聞こえた。

 

「まだ諦めるには早いですよ。リッカもこちらに向かっています。」

 

男の人の声。首はまだ動くため、その声の方を向くと───目隠しをした、金髪の小さな人がいた。

 

「あまり話している時間はありませんね……預言書」

 

Noble Phantasm(宝具)、稼働。」

 

男の人の近くに浮遊していたのは赤い本───預言書。

 

「雷よ!“雷の精霊、(ユピテル)───」

 

男の人が雷を放ち始める。預言書が宝具と言ったということはこの人は───精霊。

 

「───その力振るえ(ライトニング)”!!」

 

放たれた雷は私の前にいたヘルタースケルターを機能停止にした。

 

「……」

 

───強い。私だと苦戦していたヘルタースケルターを、たった一撃で。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「!?」

 

直後の轟音に驚愕し、そちらを向く。いつの間にかジュリィさんは近づいてきてくれていて、麻痺を治してくれた。

 

「───せん、ぱい……?」

 

轟音の方にいた人影。それは───大きな鎌を片手で持った先輩だった。




正弓「これで預言書四精霊の枷付き状態の精霊魔法出し終えた気がします。」

裁「ちなみに枷無し状態もいずれ出てくると思う……」


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第197話 暴走

正弓「タイトルが“爆走”と似てますね……」

裁「実際は爆走どころじゃない非常事態だけど……」

弓「では本編へGO、であるな。」


{戦闘BGM:鏖殺の暴君}

 

先輩の姿が視認できたと同時に音楽が流れ始め、同時に先輩はすさまじい速度でヘルタースケルターに接近、()()()()()()()()しました。それにより周囲のヘルタースケルターも先輩を敵と認識したのか、先輩に襲いかかります。

 

「あ、リッ───」

 

ルーパスさんが音に気がつき、先輩の方を向いて───

 

「───ッ!?」

 

先輩を見て、()()()()()()()()()()()()()()私の方まで飛び退りました。近くにいたリューネさんも()()()()()()をし、私のもとへ。お二人とも、小さくですが身体が震えています。

 

「───なに、あれ」

 

先輩の方を見ながら絞り出すような声でルーパスさんが呟きました。

 

「何って……先輩ですよね?」

 

「……マシュさん。あれを見て、同じことが言えますか」

 

リューネさんが高音でそう呟く。高音になるのは確か余裕がないとき。それを不思議に思って先輩の方を見る───

 

「………せん………ぱい?」

 

あれは───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、それを何度も繰り返し。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あの人は。本当に───本当に、先輩なのだろうか。いや、そもそも───本当に、人間であるのか。それすらも、怪しくなってくる程の戦闘。

 

「すまぬ、遅く───」

 

 

「■■■■■────!!!!!」

 

 

「「「「「っ……!?」」」」」

〈〈〈〈〈ぎゃぁぁぁっ!?耳が、鼓膜がぁぁぁっ!?〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈っ……!?〉〉〉〉〉

 

耳栓スキルLv.5を貫通するほどの咆哮。それが、先輩から放たれました。他の人達はともかく、ドクターは耳栓Lv.5を常時発動させてましたから間違いありません。久しぶりに鼓膜の部位破壊を達成したようです。それも複数……あれ?

 

「咆…哮?」

 

咆哮。別名“バインドボイス”。ルーパスさん達の世界におけるモンスター達、ミラさん達の世界における獣魔達が使う拘束手段───それを、人間である先輩が……?

 

「……あれは、なんだ?」

 

英雄王の二輪車に開いた空間の穴から出てきたミスター・アンデルセンがそう呟きました。

 

「人……いや、あれは、あれでは人というのも怪しいですな。まさに、現実は小説より奇なり、とでも言いましょうか。」

 

「当然だ。分かりきったことを言うな、シェイクスピア。だが───これは一体()、だ?アレが人間か?ただのマスターか?いいや、アレではまるで───バーサーカーのサーヴァント、もしくは獣とも言うべきナニカでだろうが!!!」

 

「「「「───“狂暴走状態”に、似てる…?」」」」

 

ルーパスさん、リューネさん、ミラさん、ルーナさんが同時に呟きました。

 

「狂暴走状態……とは?」

 

「二つ名“鏖魔”───“鏖魔ディアブロス”の形態変化。結構強いんだけど……どことなく、今のリッカと似てる気がする。」

 

「音楽も同じ“鏖殺の暴君”だし…」

 

そう言ったとき、通信の方から物音がした。

 

〈……なんだよ、今の騒音……せっかく仕事一段落して休んでたってのに叩き起こされただろうが……〉

 

〈あ、六花!ちょうどいいところに!〉

 

〈あ?〉

 

〈リッカちゃんの様子がおかしいんだ!君から見てどう映るか聞かせてほしい!!〉

 

〈あぁ?…ったく、そこ替われ。〉

 

既に先輩は周囲のヘルタースケルターを破壊しつくし、リモコンの個体だと判断されたヘルタースケルターと対峙しています。

 

〈───これ、は。〉

 

〈どうだい!?何か分かったかい!?〉

 

〈───ロマン。ログ。〉

 

〈え?〉

 

〈ログを寄越せ!!今の現状に至るまでの動体ログを、全部!!早くしろ!!〉

 

〈わ、わかった…!〉

 

六花さんの剣幕に通信の向こう側で音がする。そんな音の続いている間に、先輩はリモコンの個体を破壊し終えていました。

 

「なんだ、これで終わりか。リッカが来てから呆気なく終わったな。」

 

モードレッドさんがそう言います。リモコンの個体を破壊し終えた先輩が振り向きました。

 

「……」

 

その、顔を見て───異常を、直に感じました。あれは、先輩であって先輩ではない。先輩の姿をしたナニカ、のような。いつもの先輩の目にはハイライトがない───つまり目に光を映しません。黒髭さんと話しているときや、好きなことをしているときは光があるようにも見えるのです、が……今回のあれは違うと断言できます。あれは───例えるならば、そう。猛禽類の獲物を狙うときの目、とでも言いましょうか。

 

「リッカお疲───ッ!?」

 

モードレッドさんが手を上げたとき、先輩がモードレッドさんに襲いかかりました。間一髪で防いだモードレッドさんですが、そのまま吹き飛ばされます。

 

「───ってぇな!!何しやがる、リッカ!!」

 

「……」

 

モードレッドさんの言葉に答えず、先輩は鎌を両手で振り上げてモードレッドさんに襲いかかります。

 

「答えねぇってか……ッ!?なんだ、これ、()()()()!!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

重い。その言葉に、私達は驚愕しました。モードレッドさんの筋力ステータスはB+。そのモードレッドさんで重い───それを、人間である先輩が上回った…もしくは、互角…?

 

〈マシュ!聞こえるか!!〉

 

「六花さん?はい、聞こえていますが…」

 

〈聞こえるならよし!単刀直入に言うぞ───リッカを止めろ、マシュ!!!〉

 

───え……?

 

〈どういうことだい!?〉

 

〈詳しく説明してちょうだい、六花!〉

 

〈ああもう、時間がねぇっつうのに……!1度しか話さねぇからよく聞けよ!リッカは今、()()()()()()んだ!!〉

 

「暴、走……?」

 

〈ああ!俺自身も完全に理解できている訳じゃないが、リッカ自身が定義した“護りたい者”、“大切な者”が傷つけられた時、もしくは傷つけられそうになった時、あいつは暴走を引き起こす!そしてこの暴走はかなり危険だ!あいつが敵と認識した存在を全て潰すかあいつが死ぬまで自発的には終わらねぇ!〉

 

〈どういうことよ!〉

 

〈あいつの意思で終わらせることができねぇんだよ!以前にも何度か暴走したことはあった!それが友人が拐われたときの話だ!拐った奴らは全て男、それも全部大人だ!それをあいつは───()()()()()()()()()()()()!!〉

 

「「〈〈なっ…!〉〉」」

 

〈全身打撲、複数骨折、意識喪失、臓器不全、感覚障害───それが素手のリッカが相手に引き起こした症状の数々だ!その度に師匠が相手の記憶は消してくれたが……それでもそれだけの被害を出したのは間違いねぇ!そして今、あいつは鎌を持っている!モードレッドが殺されんぞ!!〉

 

〈ちょ…ちょっと待ちなさいよ!リッカはサーヴァントにはまだ敵わないはずでしょう!?〉

 

確かに、ロンドンにレイシフトする前にそう言っていました。

 

〈あくまでそれは通常状態ならの話だ!だが、今は暴走状態!今のあいつは、肉体のリミッターが、脳のリミッターが完全に外れてやがる!!加えてハンター達の武器を扱えるまでに鍛えていたなら───俺の推測が正しければ、()()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!〉

 

「「「「「〈〈〈〈〈────〉〉〉〉〉」」」」」

 

絶句。その場にいたモードレッドさんを除く全員、通信先の全員も言葉を失いました。

 

〈もっと最悪なのが魔術回路だ!今までの暴走では魔術回路は起動されず、素の身体能力のみで動いていた!それがカルデアに来て起動されたことにより、魔術回路まで全開になってやがる!このままだと魔術回路まで暴走し、最悪リッカが死ぬぞ!!〉

 

「め───滅茶苦茶危険じゃないですか!?」

 

〈そうよ、危険じゃないの!どうしてそんなものを残しているのよ!?〉

 

〈だから時間がねぇって言ってんだろが!つーか俺が知ってて何もしてねぇと思ったか!?暴走を消すことはできなかったが策は打ってある、いや、打ってあったんだよ!!〉

 

〈じゃあ今の状態はなんなのよ!!〉

 

〈暴走封印術式の許容範囲を越えてんだよ!!師匠直々の封印術式を破るなんて普通考えるか!〉

 

〈魔導元帥の術式を───破った…!?〉

 

魔導元帥───キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。六花さんの師匠はその人だと聞きました。私でも、どれだけすごい人なのかは理解しているつもりです。その人の魔術を破った───?

 

〈どれだけ不味いのかは理解しました。ですが六花、教えてくれませんか。何故、彼女はモードレッドを襲っているのです?何故、味方であるモードレッドを敵と認識しているのですか?〉

 

アルトリアさんの言葉でハッとする。確かにモードレッドさんは私達の味方です。敵を全て潰すとするならば、味方を潰そうとするのはおかしいです。

 

〈マシュだ!〉

 

「私…ですか?」

 

〈正確にはスイッチとなった“護りたい者”、もしくは“大切な者”だ!あいつは間接的、直接的関係なく、大切な者を物理的に傷つける原因となった存在を自動的に敵と認識する!ヘルタースケルターがマシュを傷つける直接的な原因とすれば、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ!!〉

 

〈───。〉

 

〈幸い、リッカの魔力は多い!魔力枯渇になるまでまだ時間はある!それまでにマシュ、お前がリッカの暴走を再封印するんだ!!〉

 

「再封印……?いや、そもそもです!暴走の危険があった、大切な者を傷つけられたときに暴走するというのなら、あの大海の時の黒髭さんはどうなるんですか!?」

 

あの時、先輩は泣きました。それは、黒髭さんが大切な者と定義されていたのだと思いますが───

 

〈その時暴走しなかったのもマシュが理由だろう!マシュの内にいる英霊の守護の力がリッカに働き、暴走を抑えていたんだろうと俺は推測する!〉

 

そんな。それでは───

 

「私が、先輩から離れたから……?」

 

〈馬鹿!お前のせいじゃねぇ───ああ、もう!時間がねぇ、ロマン!リッカへの魔力供給を途絶えさせるな!!俺は一度部屋に戻る!〉

 

〈ちょっ、何言ってるんだいこんなときに!?〉

 

〈こんな事態だと思ってなかったから準備できてねぇんだよ!!モードレッド、聞こえるか!!〉

 

「あぁ!?」

 

〈いいか、1()0()()()()()()()()!!その間リッカに傷つけることとお前が被弾することは許さねぇ!!〉

 

「はぁ!?テメ、何言って───」

 

モードレッドさんがそう言った直後、通信先からブチッ、という音が聞こえました。

 

 

〈元はと言えばテメェのせいだ!!いいか、リッカはマシュの疲労を見抜いてたんだよ!!だから魔術協会の方に連れていかなかったんだ!!疲労は溜め込むと重大な隙をさらす原因にもなる!!それを回避するために連れていかなかったんだ!!それをテメェはヘルタースケルターの殲滅に連れ出した!!リッカの予想通りマシュは戦闘中に一瞬動けなくなった!!それが隙だ!!その隙がリッカを暴走させるスイッチになったんだ!!何言ってんだ?ふざけんじゃねぇ!!リッカがマシュに休んでほしいと願った思いを踏みにじり、マシュだけならずリッカをも、ひいては世界の存続すらも危険に晒しているテメェに拒否権があると思うな!!テメェのやったことぐらいテメェで責任を取りやがれ!!!!!〉

 

 

バンッ!という大きい音を最後に立てて席から離れていった音がした。

 

〈……凄い、怒ってたよ。六花。いつも不機嫌そうな声だけどあそこまで声を荒げたのは初めて見たよ。〉

 

〈……私もよ。魔術協会にいた時にすらあんな六花は見たことがないわ…〉

 

〈……私もだ。ともかく、六花が戻ってくるまで待つ他ないか。〉

 

とりあえず、私達は六花さんが戻ってくるまで待つことになりました。




正弓「ちなみに曲名の時と咆哮の時のフォントカラーは“血紅”というそうな?カラーコードは#990000です。」

裁「狂暴走状態に合ってるかも…?」


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第198話 危険な大鎌と封印の方法

正弓「UA38,000突破ありがとうございます。」

裁「言ってる場合なのかなぁ……」


「……」

 

「クソッ、やりずれぇ…!」

 

六花さんが去ってから8分が経過しました。モードレッドさんは先輩の鎌を時に受け、時に躱して時間を稼いでいます。

 

「……先輩…」

 

「■■■■───!!」

 

咆哮。それでも耳栓Lv.5で防げるのは、最初のものよりも弱いということでしょう。

 

「……なぁっ!?」

 

モードレッドさんが先輩をみて驚愕の表情をしていました。見ると、先輩が左手の手元にもう1本の大鎌を出現させていました。

 

〈あれは───危険です!モードレッドさん、左手の鎌には絶対に当たらないでください!!〉

 

「ちっ、わぁったよ!!」

 

その警告に、疑問を覚えました。

 

「あの、フォータさん。」

 

〈はい。〉

 

「今の警告は───何故?」

 

〈…今リッカさんが右手に持っている大鎌は、“ギルティリーパー”という名前の大鎌です。直訳して“有罪の狩り手”、というところでしょうか。あれは、ただ重く破壊力が高いだけでそこまでの問題はありません。〉

 

ギルティ、リーパー…

 

〈ただ───あの大鎌、左手の大鎌は違います!他の武器とは全く異なるコンセプトの大鎌です!あれは()()()()()()()!メディアさん、ダ・ヴィンチさん、メドゥーサさん、ヘラクレスさん、エミヤさん、ギルガメッシュさん、ミラさん───その他大勢の協力のもとマスターが作り上げた()()()()()()()!ギルティリーパーを越える重さもさることながら、あんな神秘殺しの塊で斬られては神秘の塊であるサーヴァントはひとたまりもありません!!〉

 

神秘殺しの、大鎌───?

 

「何故そんなものを持たせている!?」

 

〈護身用ですよ!あの大鎌は本来なら持ち上がらないほどの重さの大鎌なんです!重くて持てずとも、ただ落とすだけでもその神秘殺しは力を発揮します!というかそれが本来の使い方として作られた大鎌なんです、あの大鎌───“ミステルリーパー”は!!それが暴走したことで能力のリミッターが外れたリッカさんには扱えてしまっているんです!!〉

 

そんな。それでは、サーヴァントとの相性は───

 

〈はっきり言ってサーヴァントとの相性は“最悪”の一言に尽きます!ですので戦うならばあの鎌に触れないようにしてください!!〉

 

〈すまねぇ、今戻った!〉

 

フォータさんの説明が終わってちょうど、六花さんが戻ってきたみたいです。

 

〈お父さん!リッカさんが、ミステルリーパーを!〉

 

〈ちぃっ、やっぱりか…!あいつは暴走中、敵を倒すための最適な行動を取り続ける!恐らくは勘の影響だろうがな…!マシュ、いるな!〉

 

「は、はい!」

 

〈今から転送するものを使って暴走を封印しろ!封印なんざただの気休めでしかねぇだろうがないよりはマシだ!〉

 

「で、ですが…私は封印魔術なんて使えませんよ!?」

 

封印しろと言われましたが、私は封印する魔術なんて使えません。それでは、封印などできないはずです。

 

〈大丈夫だ、封印術式自体は今から送るやつに刻まれてる!〉

 

その言葉のあとに送られてきたのは、数珠のように紐で繋がれたものでした。

 

〈そいつをリッカの首に巻き付けて縛り上げろ!!〉

 

「「「……えっ?」」」

 

今……なんと?

 

〈聞こえなかったか?その呪具をリッカの首に巻き付けて縛り上げろ!正直その紐はただの見た目だから首が絞められるとかはねぇ!〉

 

「え、えぇ……」

 

〈それとマシュ、1つ言っておく!絶対にリッカの攻撃を食らうな!ギルティリーパー、ミステルリーパー、素手、その他諸々全てだ!〉

 

「え……どういうことですか…?」

 

先輩と対峙するのに先輩の攻撃を食らうな……?

 

〈暴走中のリッカが何を敵として定義してるかは話したよな?〉

 

「はい。確か…今回であれば私を直接的、もしくは間接的に傷付けた者、ですよね。」

 

〈そうだ。そして、それは直接的に傷付けた者を優先的に狙う!これは俺の予測でしかないが───自らがスイッチとなった者を直接傷付けた場合、自傷───つまり、自殺に走る可能性がある!!〉

 

「……!どういうことですか!」

 

〈本来味方であるはずのモードレッドを襲っていることからも分かる通り、あいつは今正常な判断ができてねぇ!暴走状態のあいつの行動原理は“敵を滅する”ただそれのみ!自らを敵と認識したなら、躊躇なくその敵───自らを滅するだろう!〉

 

「…っ」

 

〈だからマシュに下すオーダーはこれだ!“リッカの攻撃に当たらずにリッカの首に封印呪具を巻き付けろ”!誰かに補助を頼むのは別に構わん!〉

 

「───わかりました!」

 

「───モードレッドさん!スイッチを!」

 

「っ!」

 

無銘さんがモードレッドさんと先輩の間に入りました───って、いつの間に!?

 

『マシュさん!時間は稼ぎます、その間に封印を、お願いします!』

 

念話。その後に無銘さんが手元に出現させたのは───2本の大鎌。片手に1本ずつ持つ、今の先輩と同じ構え方。モードレッドさんに攻撃をしようとする先輩を、無銘さんが鎌で阻止します。そこから弾き、先輩をノックバックさせました。

 

「■■■■───!!」

 

邪魔をするな、というように咆哮する先輩を見据え、無銘さんが大鎌を構えます。

 

「■■■■───!!」

 

「───ッ!!」

 

先輩の鎌と、無銘さんの鎌が───強い力で衝突しました。




正弓「うーん…戦闘描写の書き起こしが苦手なのか話数を重ねやすいですねぇ…」

弓「それは我も感じてはいたが……ふむ。ところで、リッカめの鎌がサーヴァントとの相性が最悪とのことだが無銘が挑んだのはどういう理由だ?」

正弓「あぁ、それは無銘さんも人間だからですよ。対神秘…というか魔術・魔法・英霊・神霊などの実体を持たないものに対しての特攻を持つのが“ミステルリーパー”なんです。人間に対しては特攻を持ちません。」

弓「……詳しいな、貴様。」


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第199話 暴走VS七色

正弓「遅くなりました…観測に時間かかりました。」

弓「ふん、怠慢ではないか?」

正弓「う…すみません」


ギィン!!

 

推奨bgm:Fate/extra - Elv

初撃、対処───各種状態把握開始。

 

 

左腕状態───正常。

右腕状態───正常。

左脚状態───正常。

右脚状態───正常。

思考速度───高速。

視覚情報───正常。

嗅覚情報───正常。

味覚情報───正常。

聴覚情報───正常。

触覚情報───正常。

痛覚情報───正常。

損傷率算出───先の戦闘とマスターの初撃を合わせて21%。

魔力循環状態確認───魔術回路、()()()()()()共に正常。警告、原因不明の異常により総使用可能魔力量が著しく低下。

残使用可能魔力算出───73%。

第一人格───正常稼働中。

第二人格───凍結中。

第三人格───凍結中。

第四人格───凍結中。

第五人格───凍結中。

第六人格───凍結中。

第七人格───凍結中。

仮想人格───稼働準備完了。

第一宝具───起動準備完了。

第二宝具───起動準備完了。

第三宝具───起動不可。原因、第一人格以外の凍結。

第四宝具───起動不可。原因、未所持。

第五宝具───疑似起動可能。原因、第三人格が凍結されている影響により出力が不安定。

第六宝具───疑似起動可能。原因、第四人格が凍結されている影響により出力が不安定。

第七宝具───起動不可。原因、未継承。

第八宝具───詳細不詳。

第九宝具───詳細不詳。

第十宝具───詳細不詳。

自己定義確認───“■■■■■■■■■■■■■”。

 

 

───自己定義?大量の宝具情報もそうだが、この自己定義とは一体何か。無意識に加速化された思考の中で自答する。

 

目を背けるな

恐らくはこの自己定義に私の真実が存在する。

 

目を背け

私は何で、この世界は一体何か。

 

目を背けるな

思い出せ、私がここに在る意味を。その定義を。

 

目を背けるな!

思い出せ!私は一体何者だ!欠片だけで構わない、私の存在意義が何かを思い出せ!!真実の前に壁があるのならその壁を破壊すればいい───!!!

 

「■■■■───!!」

 

「───ッ!!」

 

咆哮と共に襲ってきたマスターの双大鎌を自らの双大鎌で受ける。その瞬間、自己定義の結果が書き変わる。

 

推奨bgm:Fate/extra - Battle 2

自己定義確認───“私は虹の力を受け継ぎ繋ぐ者”。

 

 

虹の力───そうか。ようやく分かった。

 

私は人だ。人間だ。しかしその本質は“普通”とは違う。私の本質は神に近い。詳しい事柄までは判明していないが、“現人神”というものが私の性質に近いのだろう。そしてこれは、私の母の性質が引き継がれている。“母”もまた思い出すことはできないが、引き継がれていることだけは分かった。

 

何故私がここにいるのか。それはマスターの力となるためだ。そして()()()()()()()()()()()だ。楔といっても私が死ぬ必要はない。私は居るだけで世界を安定させる楔となる。()()()()()()()()()()()───いや、違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。観測と運営、守護を主な仕事とする星の娘達は少女でありながら高い能力を持つ守護者。自らが楔となることで世界を一時的に安定させる。

 

───分かったのはここまでだ。だが、何故私が高い能力を持っていたかが分かっただけでも進展なのだろう。問題は───

 

「……」

 

暴走するマスター。先程からどうにか捌けてはいるが、マスターの持つ大鎌、“ギルティリーパー”と“ミステルリーパー”は非常に重い。それは私の持つ大鎌、“セプテントサイズ”と“マギア=スピリッツ”も同じことが言えるものの。…あぁ、ちなみに“マギア=スピリッツ”はハナスズムシを用いた大鎌、G級最終強化。“マギア=ソウル”、“マギア=スピリット”、“マギア=スピリッツ”と名称を変える。ミラさんの世界で使われているものではあるものの、“太刀としていつか現れるのではないか”とはルーパスさん達の言葉。

 

…閑話休題。今はまだ捌けているものの、今の私ではすぐに限界が訪れる。それでも飛び出したのは受け持たなければいけないと感じたから。力のあまり出ない私でも、できることは1つある。

 

『お願いします!』

 

『……本当に、いいの?』

 

『はい!』

 

『……分かった。筋肉痛は覚悟してね?』

 

その声がした瞬間、私の意識が遠のく。

 

『……あ。調整間違えた……戦闘中に戻せばいいかな…』

 

 

 

side マシュ

 

 

 

先輩の攻撃を2撃受けたあと。突然、無銘さんの身体がグラリとよろめきました。

 

「無銘さん…!」

 

〈無理しないでくれよ……!?〉

 

よろめいた無銘さんは大鎌を支えにすることで体勢を保ち、そのまま動きが止まりました。

 

「……」

 

「おいっ!?」

 

先輩はモードレッドさんの方を向き、鎌を振り上げます───が。

 

「……」

 

先輩が何かに気がついたのか、無銘さんの方を見ました。

 

〈あれ……なんだ、これ…?〉

 

「ドクター?」

 

〈無銘ちゃんの霊基情報が乱れている…?いや、それ以前にこの魔力は……?〉

 

その言葉を聞いている間に先輩は無銘さんに襲いかかります。振り上げているのは左の鎌、ミステルリーパー───

 

「無銘さんっ!!」

 

「しっかりしろ、無銘!」

 

鎌が振り下ろされた、その瞬間───

 

 

ギィン!

 

 

そこには鎌を持ち上げ、先輩の鎌を防いでいる無銘さんの姿。

 

「……適合、したね。」

 

小さい呟き。ですがそれは、確かに響きました。

 

「適合は分かってはいたことだけど…全部が分からない内に自発的に使えるようになるとか……普通思わないよ、無銘。」

 

その声は───無銘さんの声でありながら無銘さんではないと感じさせました。

 

「とりあえず───っ!」

 

無銘さんは先輩の鎌を逸らし、先輩と距離を取りました。

 

「藤丸リッカ。無銘のマスターである貴女を止めるために───何年ぶりかな、全力で暴れさせてもらう!!」

 

そう言った直後、二人は姿を消しました。

 

 

 

side 無銘(?)

 

 

 

三度、衝突───右手のセプテントサイズでリッカさんの双鎌を防ぎ、左手のマギア=スピリッツでリッカさんに反撃する。反撃は躱され、ミステルリーパーを振り下ろそうとするところにマギア=スピリッツを使って弾く。

 

「…っ。」

 

この、暴走したリッカさんは異常だ。思考速度が加速し、肉体速度も加速した私に対応できている───いや、同じ速度かそれを上回る速度でついてくることができている。無銘が私に任せた理由がよく分かった。これは無銘のような戦闘に不馴れな人間では危険だ。

 

 

ギャィィン!!

 

 

衝突四度目。最悪なことに入れ替わるとき、無銘の意識を眠らせてしまった。再起動させるのに時間がかかる。再起動処理は現在25%まで進行中。再起動しきるまでにこちらがもつかどうかも怪しい───

 

「───シッ!!」

 

細剣単発ソードスキル“ストリーク”の要領で鎌を薙ぐ。───そうだ。この私は近接戦闘には向いていない。この状態では近接戦闘の全力を出すことはできない。遠隔型の残留思念だけのこの魂で、どこまで耐えられるかも分からない。

 

「第一宝具展開───起動せよ、ポラリス!その裁きの光を!」

 

無銘に受け渡した第一宝具の1つの使い方を発動する───も、ミステルリーパーによって切り裂かれる。その結果に思わず歯軋りをする。こちらの術式は何一つ効かない───たったそれだけで遠隔型の私は戦力がガクッと落ちる。無銘の再起動まであと40%。

 

「第二宝具───」

 

私の第二宝具を起動しようとすると、リッカさんはそれを止めに来た。当然と言えば当然だ、()()()()()など発動前に止めるのが定石。無銘さんが持つ私の宝具は第一宝具だけ。第二宝具は無銘さんが持っているものではない。だが、第二宝具は既に起動待機状態になっている───!

 

「“数多の星よ(ステラ・スティリア)───」

 

リッカさんの攻撃速度が上がる。私の宝具の真名解放を阻止しようとしているのだと思われる。私は冷静に対処しながらもその真名を紡ぐ。

 

「───墜ちて黄昏をもたらす(ラグナロク)”!!」

 

夜天の結界に在る星々が輝き、リッカさんに襲いかかる。リッカさんはそれに冷静に対処していき、時間はかかったもののすべてをかき消した。かき消したと同時にちょうど無銘の再起動が終わる。

 

『ごめんなさい、調整間違えて休眠状態にしちゃった…』

 

『大丈夫です、虹架さん。』

 

念話を繋げる最中もリッカさんの攻撃は止まない。当然だ、念話してるなど相手は知らず、会話というのは隙になりやすい。並列思考を使って出来てはいるが、今の状態が辛いのは間違いない。ならば───

 

『…無銘』

 

『はい?』

 

『…今まで、ありがとね?』

 

『え…?』

 

『ここまで短い間だったけど楽しかった。…この先まだ一緒にいられる可能性は低いから、今のうちに。』

 

『…待ってください!何を───』

 

『───私は多分、今回の起動が最後になる。可能性だけど。』

 

私がしようとしていることは、私の魂を崩壊させかねない。だから、最後に話をしておきたかった。

 

『恐らくだけど、これが終わって無銘と一緒にいられる可能性は僅か0.5%、ってところかな。本当は貴女と一緒にいたかったけどね。』

 

『…』

 

『このままじゃ勝てない。隙を作ることすらできない。なら───完全崩壊覚悟で使うしかない。だから再起動まで待った。』

 

『…そん、な』

 

『だから、ありがとう。私の力は貴女に受け継がれるから。これから先は頑張ってね、無銘。』

 

自分でも酷いと思う。けれど、どう言っていいか分からなかったから。沈黙したのを確認し、最後を告げる言葉を紡ぐ。

 

「定義宣言。彷徨残留霊魂1番、“虹を架ける者”。ユニット名、“心音 虹架”。ソウルフラグメントサーバにアクセス───全本体と交信。保存されている全本体と同期開始。」

 

 

───警告。魂と同期する残留思念のフォーマットが適合しません。終了後、サーバに保存されている魂が完全崩壊する可能性があります。

 

 

「警告無視。残留思念と魂本体を完全同期。全本体より架空出力開始───()()()()()()()()()()()()を開始します───」

 

瞬間───私の時間間隔がさらに引き延ばされる。私とは別の私の記憶が流れ込む。私とは別の私の技術が流れ込む───

 

「───同期完了。」

 

 

───警告。最大稼働可能時間は10分です

 

 

───10分。それだけあれば十分だ。総てのリミッターを外したならば私は今よりもさらに加速する───

 

「っ!?」

 

その瞬間、私はあり得ないものを見た。リッカさんが、()()()()()()()()()()()()()()。私がマギア=スピリッツを振り上げるのと、リッカさんがミステルリーパーを振り上げるのは同時だった。

 

「───っ!!」

 

既にブレインバーストの1,000倍を軽く超える時間間隔の中、生身の人間であるリッカさんと無銘が動き続けるのは本来危険だ。無銘は私が保護をかけているために危険度は低い、が───リッカさんはそうでもない。恐らくこの暴走状態は、“あらゆる面で相手を超える”状態───!!

 

『即座に決着をつける───!!』

 

急減速は危険すぎる。ならば戦いの中で減速させていくしかない。そして何より、減速しても時間の圧に押し込まれないように保護しなくてはならない!!なら───もはや迷っている暇はない!!

 

()()()()───玖の型、“蒼天彼岸花(そうてんひがんばな)”!!!』

 

かつて私が編み出した虹の呼吸。こことは別世界の、鬼の在る世界で編み出した技。この世界にいた遠隔型は奇術として編み出すが、別の世界にいた近接型は剣技として編み出した!ならば剣技として扱えるのは当然!!呼吸をなくせ、属性で酸素を作り出せ!それが常中の正反対、“無呼吸”───!

 

『舞の型、“七色神楽(なないろかぐら)”!!』

 

指南書に書かなかった舞の型の一つ。双鎌は重さで動きにくいが、範囲をカバーできる利点がある!

 

『舞の型・乱、“七色神楽・乱舞(なないろかぐら・みだれまい)”!!』

 

「■■■■───!!」

 

苛立ちによる咆哮。しかし、着実に攻撃は当たり、時間の圧を搔き消しながら減速させていけている。

 

『舞の型・極、“虹巫娘神楽(にじみこかぐら)”…ッ!!』

 

それはまるで神と想い人へと告げる想いのように。きらきら輝き恋する乙女の巫女神楽。これを見た縁壱くんは“二面性を持つ神楽”って呼んだっけ。…私が死んでから、私の技を受け継ぐ子ははたしていたのだろうか。神楽を放っている間に、私達は等倍の時間へと戻ってきていた。リッカさんはボロボロになってはいるが、まだその強烈な戦意は衰えていない。

 

「■■■■───!!」

 

『無銘!空間歪曲宝具!!』

 

『は、はい!!止まってください、マスター!“疑似展開 仮想宝具/空間歪曲(ロード・スペースディストート)”!!』

「参拾肆の型、“古樹留根(ふるきとめね)”!!!」

 

古樹留根は足元を固定する。奇術も応用して遠隔操作。それでも止まる様子はなく、私は一度リッカさんから離れる。

 

「───身体は虹でできている。」

 

詠唱を開始する。すでにこの手にセプテントサイズはなく、手元にあるのはマギア=スピリッツのみ。

 

「血糊は呪いで、心は水晶。悠久の時代を越えてなお不滅。」

 

リッカさんの手元から鎌が飛ぶ。それをマギア=スピリッツではじくと、リッカさんの手元に戻る。どうやら、投げ方がかなり上手なようだ。

 

「ただ一度の敗北はなく。ただ一人の生きた親族もない。」

 

私の近接型の魂が歩んだ人生の中、私は私の親を殺した。兄と姉は───まぁ、既に殺されているだろう。その親殺しが、私の目を覚まさせた。

 

「彼の鬼は常に孤独。怨念の沼に常に溺れる。」

 

私が最後に抱いたのは“怨み”だった。それ故に、私は常に怨念の沼に浸かっている。復讐者にも近い、復讐衝動。

 

「故に我が生涯に意味はなく。その体は、色無き虹でできている。」

 

リッカさんから四度目の鎌が飛ぶ。それを弾くとまたリッカさんの手元に戻る───その、瞬間。古樹留根の核であったセプテントサイズが抜け、リッカさんの自由が利くようになる。

 

「───されど。我が怨みを癒す者は確かに在り。」

 

「■■■■───!!」

 

咆哮し私の方へ向かってくるリッカさん。

 

「ならば、この生涯にも意味はあるか。」

 

リッカさんが振るうギルティリーパーをマギア=スピリッツのみで弾き、続くミステルリーパーを手元に引き寄せたセプテントサイズで弾く。

 

「この、罪に塗れた身体は───」

 

詠唱が、完成する。

 

「無限の絆で出来ている───!!!」

 

直後、世界が書き換わる。ロンドンのコンクリートの床から、青い彼岸花の花畑へ。私の背後には巨大な森がある。さらに、私の近くに人の気配が多数出現する。

 

「■■■■───!?」

 

〈固有結界……!?〉

 

「───御覧の通り、貴女が挑むのは私の鍛えた子達から私の救った者達全員。私の()4()8()4()()に渡る生涯の中で救い、教え、絆を結んだ者達が力を貸してくれる。」

 

鬼は日輪刀で斬られない限り不老不死だ。鬼となって正常な意識ではなかった頃を除いても、かなりの人数を救い、教え、様々な絆を結んだことは間違いない。───ふと、隣に懐かしい気配を感じた。

 

「───あぁ。君も来てくれたんだ、縁壱くん。」

 

「…」

 

「“虹が架けた絆の道(レインボーロード)”───行くよ、みんな。」

 

「■■■■───!?」

 

私の言葉を最後に、全員がリッカさんに駆け、技を放っては消えていく。

 

「縁壱くん!」

 

「はい、虹架殿───共に、まいりましょう」

 

虹の呼吸の呼気。日の呼吸の呼吸音。二つの“始まり”が時代を越え、この場に顕現する───

 

「日の呼吸」

「虹の呼吸」

 

「十三ノ型、“日輪神楽舞(にちりんかぐらまい)”」

「舞の型・繋、“虹神楽繋舞(にじがくらつなぎまい)”」

 

日と、虹。二つの始まりが織りなす神楽がリッカさんに殺到する。

 

「■■■■───!!」

 

私と縁壱くんの神楽が終わると同時に。固有結界も解除される。一瞬マシュさんに視線を向けてから、私は再度リッカさんに相対する。残り時間、1分。

 

「■■■■───!!」

 

ボロボロになりながらも、咆哮して私に襲い掛かってくるリッカさん。それを───

 

「───ッ!」

 

パリィ。すでに力が弱まっているリッカさんは致命ができるレベルの隙を曝した。

 

『マシュさん!!』

 

『はいっ!!』

 

私の視線の意図に気がついてくれたようで、リッカさんの背後にいたマシュさんは隙を曝しているリッカさんの首に呪具を回した。

 

「これで───戻ってください!!」

 

「■■■■!?■■■■───!!」

 

マシュさんが紐を縛った瞬間、呪具が輝いて弾け、リッカさんから溢れていた異常な雰囲気が消滅した。

 

「……」

 

リッカさんはそのまま倒れこみ、マシュさんに膝枕される形になった。

 

「先輩!先輩!!」

 

「───う」

 

「先輩!起きてますか!?起きないと殺しますよ!?」

 

「ふぇっ!?」

 

「あ、間違えました…」

 

リッカさんが目覚めた。───あ。

 

 

───警告。全壊運用が強制停止します。衝撃に備えてください。

 

 

全壊運用の強制停止。その警告に気づいた直後、私の意識は遠のいた。




正弓「強制停止指示が間に合ってよかったです。」

裁「あ、あれって正のアーチャーさんがやったの?」

正弓「えぇ、まぁ。ソウルフラグメントサーバがあるのは此処ですから。管理者権限で強制停止させてもらいました。ちなみに残り時間0.1秒…」

裁「うわぁ…ギリギリ。」


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第200話 儀式・英霊召喚と預言書

正弓「……どう?正のアサシン。」

正殺「…魂構成フォーマット…拡張子の違いを無視した強制融合による魂の自己崩壊、か…99%崩壊が進んでいる状況下で1%でも魂を残せたのは奇跡かな。流石、“原初の2人”。お母さんと強く共鳴できるだけはあるのかな。」

正弓「…」

正殺「…それで、どうなのかだっけ。正直言って状態は最悪。魂の大部分が崩壊、欠損してるからね。やっては見るけれど、成功するかは分からないよ。」

正弓「……わかった。」

正殺「…それと、もう1つ報告ね。」

正弓「?」

正殺「お母さんだけど、なんというか…波長が不安定なの。もしかしたら復帰予定日に復帰できないかもしれない。」

正弓「…分かった。鍵のルーラーさんにもそう伝えておく。」

正殺「ん。」


「…さて。全員揃ってはいるな?次何があるか分からん、さっさと話を進めよう。」

 

ジキルさんのアパルトメントに戻ってきて。開口一番、アンデルセンさんがそう言った。

 

「……と、その前にだが……リッカと無銘。お前達は休んでいないで大丈夫なのか?」

 

「うん。ほぼ全身筋肉痛で車椅子から動けないけど、聞かないとダメだと思うから。」

 

「同じく…問題ありません。」

 

ギルが用意してくれた車椅子に乗っている私とアルがそう言うと、アンデルセンさんが頭を押さえた。私が暴走して超高速戦闘してたみたいだけど、肉体の損傷自体はアルが…というか、虹架さんが私を治癒しながら戦ってくれてたみたいだから全くといっていいほどない。それでも、首から下は臓器周辺を除いて筋肉痛で動かすとかなり痛いけど。

 

「だといいんだが…二人とも一刻も早く安静になるべきだろう。さて、俺が気になったものは、そもそもの“英霊”と“サーヴァント”の関係だ。」

 

英霊とサーヴァントの関係…?

 

「“英霊”とは人類史における記録、成果。実在のものであろうとなかろうと、人類があるかぎり常に存在し続けるものだ。一方で、“サーヴァント”は違う。これは英霊を現実に“在る”ものとして扱うもの───もともと在るかどうか判らないものにクラスという器を与えて“現実のもの”にした使い魔だ。だが……オルガマリーと言ったな。そんなことが人間の、魔術師の力で可能なのか?」

 

えっと……?

 

「英霊を使い魔にする───なるほど、これは確かに強力だ。最強の召喚術といってもいいだろう。それは今のマスターであるリッカならば判っているはずだな。だが…それは人間だけの力で扱える術式ではないはずだ。可能だとしたら、それは───」

 

〈人間以上の存在。世界、あるいは神と呼ばれる存在が行う権能───そう、言いたいのですか?〉

 

「そうだ。英霊召喚は、人間だけの力では行えない。そこには何か、必ず別の理由があるはずだ。」

 

「───それが、聖杯なんだろ?」

 

『聖杯の魔力が後押しとなってサーヴァントが召喚できるようになる。それが、サーヴァント召喚の原理。』

 

「本来の英霊召喚とは、全く別のものですね。」

 

……この話し方、ウルさん多分知ってそう……

 

「そうか。やはり違うか。…そもそも聖杯戦争というのはなんなのか。このあたりはそのあたりに詳しい奴らに聞いた。いくつかの派生はあるようだが…一番ノーマルな聖杯戦争は七騎の英霊を喚び出し、競わせて聖杯を手に入れる戦いだそうだ。…俺が知っているのとは違うな。」

 

「オレが知ってるのも7VS7の聖杯大戦だったしなぁ。」

 

「…月の表側で起こったのも128人によるトーナメントとやらだったらしいな。月の裏側は……面倒だから答えん。というかあれは聖杯戦争と言っていいのか…」

 

「いくつかの派生パターンがあるからな。だが、聖杯戦争の原型は7騎のサーヴァントを競い合わせるので間違いない。」

 

月の表側……月の裏側……?それに、聖杯大戦……?

 

 

ザリッ

 

 

「っ───」

 

不意に、視界にノイズが走った───ような気がした。手を上げようとして筋肉痛で痛みが走る。それと同時に、微かな声と……どことなく軽快、だけどどこか恐怖を覚えるような音楽。それから映像───

 

≪BB~~チャンネル~♪≫

 

“BBチャンネル”。それだけは、はっきりと聞こえた。映像の中のモニターに映るのは紫色の髪にリボンをつけ、黒いマントのようなものを羽織っている少女。モニター以外に見えるのはカルデアスとシバ。それに私とマリー、ドクター、マシュ───そして何騎かのサーヴァント達と何人かの見覚えのない人達。

 

≪───≫

 

モニターの少女が何かを話している。読唇術の準備なんてしてなかったから分からない、けど───急に彼女が土下座した。

 

「……ぃ。おい!」

 

「いづっ…!」

 

「あ、すまん…聞こえているか、リッカ。」

 

アンデルセンさんに肩を触れられた痛みで幻視も消える。首から上は動くから小さくではあるけど頷く。

 

「…何か、考え込んでいたようだが。どうした、マスター。」

 

「……ねぇ、ギル。“BBチャンネル”、って何か分かる?」

 

そう聞いた直後、ギルが表情を曇らせた。

 

「……BB、か。」

 

そして、大きなため息までついた。えぇ……?

 

「あぁ、あのAIか。今度はどんな厄介事を持ち込んだんだ?」

 

「知らん。大方BBチャンネルと称してマスターの視覚と聴覚をハッキングしたんだろうが……まぁ、不安定だったのかは知らんが童話作家からの刺激で解除されたようだな。それで、そのBBがどうした?」

 

「えっと……そのBBさんなのか分からないけど…なんか、土下座してたんだけど……」

 

「「……は?」」

 

ギルとアンデルセンさんが同じ言葉を上げる。

 

「……あの女がか?…あり得ぬな。」

 

「あぁ、あり得んだろう。例え天地がひっくり返ってもあり得んだろうさ。逆に、そうなったならば見てみたいな!」

 

「あり得るとしたらアルターエゴ共の誰かだろうが…マスター、その女の特徴は言えるか?」

 

「……紫色の髪に赤いリボン、黒いマントみたいなのを羽織ってて…えっと…その……軽くだけど見えてた……

 

何となく気にしそうだったから小声で言うと、ギルが写真を出してくれた。

 

「この女か?」

 

そこに映っていたのは紛れもなく私が見た彼女。えっと…うん。視線低いと見えると思う。その…スカートの中。いや、スカートだから低いところから見たら中が見えるのは当然なんだけど。彼女、ミニスカートだから…うん。まぁ、私の魔術礼装・カルデア(この礼装)もミニスカートだけど……一応下に隠れるように履いてるから……

 

「……完全にBBではないか。やれやれ、一体何を()()のやら……」

 

「…話が脱線したな。すまんが強制的に戻させてもらう。俺はこの聖杯戦争のシステム自体に違和感を覚えた。英霊を召喚してまでやることが“戦わせて競わせる”だけか?なるほど、人間の性質上競わせて優位性を証明するというのはあるだろう。だがそれを、願いが叶うとは言えど()()()使()()()()()()()()()()()()()?」

 

…確かに。聖杯戦争の原型で言うなら、聖杯は言ってしまえば運動会の優勝カップ。“願いが叶う”という違いはあったとしても、それをサーヴァントを使役してやる必要はないと思う。代理戦争───と言っていいのかは知らないけれど、令呪があると言っても制限をかけなければマスターを殺して、もしくは自害して座に帰る……というのが英霊だと思う。特にバーサーカーなんかはそうだと思うし。そんな危険を侵してまで、英霊を使う必要は……

 

「ギルガメッシュ。聖杯の起動条件は7騎のサーヴァントの魂だと聞いているが…間違いないな?」

 

「うむ。聖杯戦争のアレは魔術師6名と英霊7騎の魂を聖杯にくべることで真の願望器として機能するようになるのだ。自らのサーヴァントも含めた、な。やれやれ、所詮使い魔とは言えどこのような仕打ちを受ける謂れはないであろうに。」

 

「まぁ、これが英霊の魂を使う理由なのだろうな。…とはいえ、違和感は消えん。そう考え、魔術協会で書物を探った。」

 

「解答を言え、さっさと。」

 

「急かすな。結論から言うと、俺達サーヴァントは“格落ち”だ。本来の力を何段階も落とし、人間の手で扱えるようにしたモノ。それが俺達だ。」

 

「な───オレ達が格落ちだってのか!?」

 

「声を荒げるな。だいたい、人間の手で扱える時点でごく小さなものだとは分かりきっている。そもそもの話、“降霊儀式・英霊召喚”とは7つの力を1つにぶつける儀式だそうだ。つまり、決して英霊同士を競わせるものなどではない。“儀式・英霊召喚”と“儀式・聖杯戦争”は同じシステムでありながら別のジャンル。“聖杯戦争”は人間が利己的にアレンジしたものなのだろうさ。」

 

アレンジ…か。

 

「勘違いすることがないように言っておくが、俺達が格落ちというのはあくまで“霊基”の話だ。英霊の格はその霊基に関係はない。……話を戻すぞ。一方で、元となった“英霊召喚”はというとだ。“7つの大きな力”を“1つの強大な敵”に対して投入するための儀式だった。人間が英霊を扱う儀式が“聖杯戦争”なら、世界が英霊を扱う儀式が“英霊召喚”。理解するのが難しいなら、聖杯戦争の元となったシステム───一次創作に当たるものがあると考えればいい。」

 

〈聖杯戦争の原型……ですか。申し訳ありません、その観点はこちらも予想外でした。私達カルデアも冬木の聖杯戦争をもとに英霊召喚システムを作り上げたものですから、その大本があるとまでは考えていませんでした。お見事です、ミスター・アンデルセン。〉

 

「ふん。…だが、気になるのは。俺達が格落ちの霊基であるとするならば、その大本となったものは一体どれほどの霊基を与えられていたのかだな。…さて、俺から話せそうなことは以上だ。……解答はこれでいいか、英雄王。」

 

そう聞かれたギルは少し考えてから口を開いた。

 

「…ふむ。75点というところか?やはり貴様の観察眼は本物だな、童話作家。さて、答えを望むなら話さんでもないがどうする?」

 

「頼めるか。解答を持つ者がいるなら答え合わせをするのが基本だろう。」

 

「承った。さて…どこから話すか。…そうだな、童話作家の補足からでもいいが、まずはクラスについて話すとしよう。」

 

クラスについて……?

 

「マスターはもちろん、既にここにいる者達は全てではないにしろサーヴァントのクラスは知っているな?マスター、思い浮かぶクラスを答えてみよ。」

 

「えっと…セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー…それからエクストラクラスとしてシールダー、ハンター、ルーラー、アヴェンジャー、アルターエゴ、フォーリナー、プレミア、アングラー…だよね?」

 

「……釣り人(アングラー)は違うな。どこで覚えた、それを。」

 

「え?エミヤさんが釣りしてるときに“今だけは真名もクラスも棚上げし、こう名乗らせてもらおう。我がクラスはアングラーだと……!”って言ってたけど……」

 

「何をしているのだ贋作者……」

 

あ、ギルが頭を押さえた。

 

「まぁいい。聖杯戦争に喚ばれるサーヴァントは基本的に7種類に分類される。その分類は───

 

セイバー───剣士。剣術に長けた英霊。

アーチャー───弓兵。弓術に長けた英霊。

ランサー───槍兵。槍術に長けた英霊。

ライダー───騎兵。騎乗に長けた英霊。

アサシン───暗殺者。暗殺に長けた英霊。

キャスター───魔術師。魔術に長けた英霊。

バーサーカー───狂戦士。狂化した英霊。

 

以上7種だ。しかし、ごく稀に例外(エクストラ)のクラスとして顕現するサーヴァントも存在する。こちらに関しては我も全貌を知っているわけではないゆえ、我が知っているもののみを話すが……

 

ルーラー───裁定者。聖杯戦争の管理者と言ってもいいであろう英霊。

アヴェンジャー───復讐者。何者かに復讐心を持つ英霊。

ムーンキャンサー───月の癌。童話作家が言った“1つの強大な敵”に似た存在。

アルターエゴ───別人格/別側面。1つの霊基に複数の霊基の欠片が混ざりあった存在。

フォーリナー───降臨者。外宇宙、別次元などから来た存在。

プリテンダー───詐称者。自らの霊基すらも騙せる英霊。

ボイジャー───航海者。長きに渡って漂流した存在…で、いいだろう。

セイヴァー───救世主。その名の通り救世主と崇められた者、というところか。

ウォッチャー───門番。…そのままだな。

フェイカー───偽物。なんらかの偽物の英霊。

ハンター───狩人。あらゆる武器を用い、奥義を編み出すまでに到達した英霊、というところか。

そして最後に、シールダー───盾兵。盾の扱いに長けた英霊。

 

以上が、我が把握できていて、かつ人間に召喚することができているエクストラクラスだ。もっとも、航海者(ボイジャー)救世主(セイヴァー)番人(ウォッチャー)などは例が少なすぎて完全に断定することはできんがな。狩人(ハンター)に関しては完全に我の予測に過ぎぬゆえ、合っておるかも分からん。…そういえば、ミルドは多重クラス。その1つはフォーリナーであったな。何故だ?」

 

ギルに話を聞かれてミラちゃんが考えこんだ。

 

「……多分、ルー…ミラルーツの力の影響だと思う。あの子、空間の歪みを開いて転移できるから。」

 

「ふむ…まぁいい。ともかく、これら19種のクラスが基本的には存在する。…そして。ここからが答え合わせ、もとい補足だ。“1つの敵”に対する“7つの力”。この2つが何かを話してやる。」

 

「知ってんのか、成金野郎!?」

 

「当然だ。まずは“7つの力”。これは人類最強の7騎と言っていい。7つの力になるには資格が必要だがな。世界そのものが、いや人間の悪性が産み出す悪が形となる人間を滅ぼす“悪”。それに立ち向かう7騎───これを、“冠位(グランド)”という。」

 

「……」

 

冠位(グランド)……

 

「この冠位こそが人間を滅ぼす自業自得の死の要因(アポトーシス)に立ち向かう希望。そして、この希望が束になってかかる“1つの敵”、それが───」

 

「───“人類悪”。またの名を“(ビースト)”、だ。」

 

「───ほう?」

 

「フォー…」

 

レンポ君がギルの言葉を遮って声を発した。それによって全員の視線がレンポ君に向く。

 

「人間が人間でいる限り、決して切り離すことのできねぇ悪性の塊。人間の獣性から産み出された大災害。人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身。文明より生まれ、文明を食らう災厄の獣。人類の原罪が生む自業自得の死の要因。…それが、人類悪だ。」

 

「…レンポ……」

 

「…辛いならば代わりましょうか?」

 

「…いや、いい。オレが伝える。…起動したときからいた、オレが伝えるべきだ。」

 

そう言ってレンポ君は私の方を向いた。

 

「リッカ。オレは…いや、オレ達はお前に伝えねぇといけねぇことがある。」

 

「伝えなくちゃ…いけないこと……?」

 

「……そうだ。以前に四精霊全員が揃ったら話す、と言ってたのは覚えてるな?」

 

「他の精霊達について…だっけ。」

 

フランスの特異点で言ってたこと。“他の精霊たちに関しては、四精霊全員が揃ったときにでも話してやるよ”って言われた覚えがある。

 

「……そう、言ったんだったな。悪いが他の精霊に関しては後だ。…オレが今から話すのは、預言書の真実だ。」

 

「預言書の……真実?」

 

「……あぁ。…今まで何も話さなくて悪い。」

 

……?

 

「オレは……オレ達は。ルーラーのサーヴァント“預言書”というものの実態は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────え?

 

「驚くのも無理はねぇよ。ティアが亡くなって契約が解除されてからオレ達に与えられたものだからな。ティアがまだいた頃は、人類悪だとか冠位だとか、全くなかった。」

 

「どういう、こと……?」

 

「……オレは、説明がウルよりも下手だからな。理解するのが難しいかもしれないが、なんとか理解してくれ。人類悪……ビーストと呼ばれる存在は、さっきもオレが言った通り人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身であり、また文明より生まれ、文明を食らう災厄の獣のことだ。…本来、オレ達はこれに当てはまらないはずだ。文明から生まれる存在でもないし、人間から生まれる存在でもねぇ。…その、はずだった。」

 

「……」

 

「だが、なんの因果か───オレ達はそれに当てはまった。オレ達が───預言書が当てはめられた人間の業は“創造”と“破壊”だ。ビーストI(ワン)からビーストVII(セブン)までのビースト達の中からも外れ、そのビースト達もオレ達をビーストだと完全には知覚できない。」

 

「フォウ…」

 

「───ビーストO(ゼロ)。本来存在しない、本来存在するはずのなかったであろう“原初”のビースト。それがオレ達、預言書───いや。“創造”と“破壊”の理を司るビーストO“ワールドクリエイト・キー”だ。」

 

ワールドクリエイト・キー……創世の鍵……?

 

「そして…オレ達はリッカに謝らねぇといけねぇ。」

 

「謝る…?」

 

「預言書は、契約者が現れたとき自らのほぼ全ての能力を契約者に譲り渡す。炎の精霊、森の精霊、氷の精霊、雷の精霊…それから創造能力と事象改変能力、()()()()()()。」

 

「自らの……クラス?」

 

どういう、ことだろう。

 

「そうだ。自らのクラス───即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを、()()()()()()()()()()。」

 

そこまで言って、レンポ君が頭を下げた。

 

「すまねぇ、リッカ。オレ達は、人類を救うはずのお前を……人類の希望となっているお前を。人類史の敵───()()()()()()()()()…!」

 

私が───人類悪…?

 

「ふむ…答えよ、精霊。それが分かっていて、何故今まで黙っていた?そして何故、分かっていて今もこうして契約を切らないでいる?…返答によっては、この場で本もろとも切り捨てるぞ。」

 

ギルが低くそう言った。

 

「黙っていたのは、話す必要がないと思っていたからだ。だが、人類悪が関わってくる以上、オレ達も黙っているわけにはいかねぇ。ビーストIの顕現に、オレ達の顕現が関わってくるわけでもないがな。必要ないことまで喋ってお前達を混乱させるのも面倒だったしな。」

 

「ふむ。まぁまぁ納得のいく返答ではある。ならば契約の方は何故だ?」

 

「……切れねぇんだ。」

 

「……何?」

 

レンポ君がギルをまっすぐと見つめて口を開く。

 

「契約を切ることができねぇんだ。預言書の契約は、他のサーヴァントのそれとは話が違う。魔術回路…というか、魔力があれば成立するのが普通のサーヴァントだ。」

 

「ほう?我を前にして“普通”か。」

 

「あぁ、オレ達からすれば普通だ。…契約方法はな。性能は知らん。オレ達の契約、それはかなり異常だ。本来のサーヴァント契約はさっき言った通り魔力しか必要としない。だが、オレ達は。契約者の魔力、魔術回路、魂、肉体、存在───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

えっと……?

 

「…つまり、オレ達とリッカの契約解除の方法は()()()()()()()()()()しかないんだ。」

 

「「「「「〈〈〈〈〈………!〉〉〉〉〉」」」」」

 

(藤丸リッカ)原初の獣(預言書)の契約解除は(藤丸リッカ)の死のみ。その言葉に、全員が息を飲む。

 

「さらに、預言書が現れた段階で世界の滅亡は決定されている。新たな世界が確定していない状態でその契約者が死ぬということは、世界が完全に消えるということだ。…どんな皮肉なんだろうな。人類が滅すべき人類悪でありながら、()()()()()()()()()()()()()()。それが、オレ達だ。」

 

「───まて。待て。人類悪とは“愛”がなければなりえん。人類愛が暴走した結果が人類悪だ。お前達は自分を人類悪と言ったが、本が人類に対し愛など持つのか?」

 

ギルがそう聞く。確かにおかしい…かもしれない。

 

「それか。…簡単な話だ。魔術協会に行ったやつには軽く話したと思うが、オレ達は前の世界での契約者であったティアに恋をした。…あぁ、そうだ。その、ティアに対する恋、ティアに対する愛こそが人類愛となり、人類悪となり得た原因だ。」

 

「……何だと?」

 

「旧世界の預言書の主、ティア。旧世界の人間の少女であったティアは、新世界において“最初の人類の女”と言っても過言じゃねぇ。一度人類が完全に滅亡したとは言えど、その情報が残って人類が再構築されたというのなら、それはティアとアイツの子供達だと考えることができる。暴論といえば暴論だが、あらゆる英雄、あらゆる人間達がティアの子孫。オレ達は人類(ティアの子供達)を見守りたいと考えていた故に、それが人類愛として認識されたんだろう。」

 

「───なんという、暴論か。」

 

「あぁ、オレだって分かっているさ。これが暴論だってのはな。だが、そう考えると綺麗に収まるのさ。オレ達の“愛”が“ティアから産まれ、子を残してきた人類達を守る”なのだとしたら、オレ達の“本性”は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”なんだろうさ。」

 

……理論は、何となくだけど合うかもしれない。最初の人間の男女として有名なのはアダムとイヴだけど、以前にネアキちゃんが139億年前にアモルフェスが倒されたって言ってたはず。139億年前っていうのは確か今の宇宙がまだ無かった時代。今の宇宙の前に別の宇宙が存在したのなら……そして、その宇宙の情報が今の宇宙に混ざっているのなら。それはティアさんが人類最初の女性で、そのティアさんの彼氏さん…なのかは分からないけど、ウルさんに問われたときにティアさんが言っていた“彼”が人類最初の男性になる…のかもしれない。そして、もしもそうなのだとしたら私達人類は全員ティアさんと“彼”の子孫になるのだろう。

 

「預言書の運命は“正しき日”が来るまで終わらねぇ。オレ達は、ティアがこの世界を創り、139億年もの月日が流れたことで正しき日が訪れ、役目が終わったものだと思い込んでいた。…それが、今になってまた顕現するなんてな。ティアが亡くなり、オレ達はルーラーとして英霊の座に登録され───そして、同時にビーストOとして割り振られた。最初はオレ達も困惑してたがな。英霊の座なんざ、ティアが創ったものじゃねぇ。当然、クレルヴォがそんなもん創るわけがねぇ。ティアとクレルヴォ以外の預言書の主はほとんど覚えていねぇが、英霊の座なんてものを創ってたって記録はねぇ。いつの間にかあった独立地点。それが、オレ達の感覚での“英霊の座”だ。」

 

「…ふむ。貴様らでも英霊の座は不明なのか。」

 

「あぁ。初代の時もそんなん知覚できなかったからな。知覚できなかったのか、あるいは存在していなかったのか。それは判らんがな。ウル、お前はあるかどうか判ったか?」

 

その問いに、ウルさんは静かに首を横に振った。

 

「私でも知覚できませんでした。英霊の座は過去と未来を見通す目を持ち、万物を見通す力を持つ私ですら見通すことのできない未知の領域です。最初に知覚できたのはティアとの契約が切れたときですから。」

 

「……そうか。」

 

ギルはそれを聞いてため息をついた。

 

「1つ聞こう。例えば貴様らをここで斬ったならば、マスターとの契約解除はされるのか?」

 

「されはするだろうが、この世界が滅亡すると言う事実だけは変わらねぇ。今契約が切れればただ滅亡するだけで、あるかもしれない人類存続の可能性も完全に途絶えるぜ。」

 

「……そうか。ならば倒すことはできぬな。」

 

「…正直な話、オレ達自身は人類に敵対する意思なんざねぇから人類の敵に振り分けられても困るんだがな…」

 

あ……四精霊全員すごく困った表情してる……

 

「…オレの話はこれで終わりだ。四精霊とは他の精霊に関しては…後で話してやる。」

 

「ふむ。さて、真実も大分明らかになったことだ。今宵はこれでお開きとするのがよかろう。」

 

「…まさか、答えどころか真相まで教えられるとはな。人類愛が転じて人類悪になる、か。愛するがゆえに憎いと同じようなものか……」

 

「どんなやつなんだろうな、オレ達以外の人類悪ってのは。オレ達も全部を理解してる訳じゃねぇし…な。」

 

「さて、な。」

 

レンポ君はギルの言葉を聞いてから私に向き直った。

 

「……んじゃ、とりあえず改めて。サーヴァント・ルーラー兼サーヴァント・ビースト。真名“預言書”。人類悪という立場ではあるが、人類史を護るために力を貸すことを約束する。…滅亡を約束され、総てを創り直す呪われた神話。矛盾してもいるが…少しでも長くこの世界を存続させるため、この神話に力を貸してくれるか。リッカ。」

 

「……うん。私でよければ。筋肉痛で握手するのも辛いけど…ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします。」

 

「……リッカ。この状況でその発言はちょっとおかしいと思うよ、私。」

 

『ティアもアイツに同じことを言っていた……』

 

「一応“未熟者ですが”という意味ですから、間違ってはいませんよ、ミエリ、ネアキ。」

 

「……そうなんだけど。ティアの時の発言が印象強く残っちゃってるから……」

 

『ここまで強く記憶が残っているのは歴代の主でもティアしかいない…』

 

そのやり取りに、私は思わずクスッと笑った。




裁「…そう、ですか。」

正弓「はい。見立てでは1ヶ月遅れるかどうか。2ヶ月以上遅れることは絶対にないそうです。」

裁「……分かり、ました。私は…待ちます。マスターが戻ってくるのを。」

正弓「…そうしてください。お母さんもきっと喜びます。」


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第201話 フランの思い

正弓「そういえば200話越えてました。流石に前回は色々あったので。」

裁「色々……」


「よい…しょ。」

 

預言書の真実を聞いた次の日。私は“親指腕立て伏せ”なるものを実行していた。

 

〈これで30です。1セット30回、3セットの計90回。早朝の日課、終了です。〉

 

「ん…ありがと、リツ。」

 

リツの言葉に骨を折らないように体勢を崩す。

 

〈…体の痛みはどうですか?〉

 

「…昨日の筋肉痛が嘘みたいにないよ。」

 

実際、昨日は筋肉痛が辛くてアル共々ギルに抱えてもらって割り当てられた部屋に戻ったから…まぁ、かなり痛かったけど…

 

 

コンコン

 

 

「はーい」

 

「む。マスター、起きていたか。」

 

「うん。あ、入っていいよ?」

 

「む…そうか」

 

そう言ってギルが入ってくる。

 

「どうだ?身体のほうは。」

 

「それが…全くないの、痛みが。」

 

「なに?痛覚麻痺でも起こしたか?」

 

「そうじゃなくて…筋肉痛が全くないの。ルナセリアさんには筋肉痛だけじゃなくて肉離れまで起こしかけてるって診断されたのに。起きて痛みがないのに気が付いて、もう一度診断してもらったら全部治ってるんだって…」

 

「ふむ…精霊、原因は分かるか?」

 

「さぁな。エリクサーを使ったわけでもねぇし、オレにも原因は分からねぇ。」

 

「ふむ……六花?」

 

〈あぁ…恐らくリツの固有技能だろう。〉

 

〈私…ですか?〉

 

〈あぁ…こういうのはちとアレだし、そういや全く伝えてなかったんだが、アドミスみたいな正式版のAI達だけじゃなく、試作版のリツ達にも刻時制限機構(クロックリミッター)固有技能(ユニーク)は設定されている。そして、リツの固有技能は“癒声”───“ヒールボイス”だ。〉

 

癒声(ヒールボイス)……

 

「……お兄ちゃん、もしかして…」

 

〈あぁ、気づいたか?リツの“癒声”はリツの声そのものに治癒魔術が仕込まれている。つまりお前は昨夜リツと話をしていた時、()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。結果は───〉

 

ご覧の通り。そう言うかのようにお兄ちゃんは言葉を切った。

 

「……ありがとう、リツ。」

 

〈い、いえ…私は何も意識していませんでしたから。〉

 

〈そりゃリツの癒声は常時発動型固有技能(パッシブユニークスキル)だからな。意識してなくとも発動されるのは当たり前だ。〉

 

……えっと?

 

〈あぁ、そういや詳しく話してなかったな。固有技能には大きく分けて2種類ある。リツの“癒声(ヒールボイス)”のような常時発動型固有技能(パッシブユニークスキル)。常に発動しているが、使い手の意思によって効果の強さを変更、効果の先を指定できる固有技能だ。対して、アドミスの“支配(コントロール)”のような任意発動型固有技能(アクティブユニークスキル)。これは完全に効果を停止させることができる固有技能だ。〉

 

そうなんだ……ところで

 

「ギル。フランさんは…?」

 

「……」

 

ギルは無言で首を横に振った。

 

「……そっか。じゃあ、私が話してみるよ。」

 

“チャールズ・バベッジ”───それがヘルタースケルターに刻まれていた名前。知り合いだったらしいフランさんは……やっぱり、認めたくないみたい。当然なんだと思う。知っている人が悪い方にいってるなんて、信じたくないもんね。

 

「ふ、マスターが行くか。」

 

「うまくできるか分からないけど…やってみる。」

 

そう言って私は起き上がって部屋を出る。

 

「あ、先輩……大丈夫、なんですか?」

 

「うん。心配かけてごめんね、マシュ。」

 

「いえ……私こそ、先輩のサーヴァントなのに1人じゃ止めることもできなくて……」

 

「マシュは悪くないよ。休んでてほしいって言ったのは私だし…暴走しちゃったのも結局は私に原因があるんだし。」

 

「……それは」

 

「事実だからね。暴走中の記憶がないといっても、暴走して周りに迷惑をかけちゃったのは間違いないから。」

 

そう言ってから、アルの割り当てられている部屋の方を見つめた。

 

「…リツ、アルの治療お願いしてもいいかな?」

 

〈かしこまりました。〉

 

リツがかなりの早口で宣言を終えると、私に似た姿の女の子が指輪から飛び出した。それを見たあと、フランさんの部屋に向かう。

 

「……お兄ちゃん。いくら私が声当てたからってモデルまで私にしなくてもよかったんじゃ……」

 

〈…あれ、実はリツの希望なんだ。リツは他のプロトタイプAIよりも自我が強くてな。何故かお前の姿にこだわった。プロトタイプAI達の中でも第二刻針を扱えるのは今んとこリツだけだ。〉

 

「そうなんだ……あれ?ねぇ、お兄ちゃん。リツが私をもとにして、私自身が声を当てたAIっていうことは私はリツの母親になるの?」

 

〈……一応はな。ただ、声を当てたそれぞれが母だとするなら、俺は妹や同性を含めて八股してる最低浮気野郎になるわけなんだが……〉

 

「……やめよう、この話題。」

 

〈……おう。〉

 

そんな雑談をしていたら、フランさんの部屋の前にいた。

 

コンコン

 

「…フランさん、いる?」

 

……返事はない。鍵は…かかってる。でも、返事はなくても、フランさんがこの中にいるのは確か。

 

「フランはいないわ。」

 

「……ううん、いるよ。預言書を持つ私には分かるから。人造人間“フランケンシュタイン”の反応がそこに存在していることが。」

 

「…それは、何故かしら?」

 

「私が持つ預言書に記されるマップは、私がいる場所の付近に何がいるかを示してくれるの。今この扉の近くには、私とフランさん、ギルとマシュの4人しかいない。レンポ君達にも私の部屋で待ってもらったから。…ねぇ、フランさん。」

 

私は扉に寄りかかるように座り込む。

 

「聞かせてくれないかな。あなたの知る“チャールズ・バベッジ”さんがどんな人だったのか。そしてもう1つ、話した上で考えてみてほしいの。チャールズ・バベッジさんが、本当に悪に荷担するような人なのか。」

 

「え…?」

 

「まずは、私達に聞かせてくれる?1度話して、情報を細かく整理しなくちゃ。見える真実も見えなくなっちゃうよ。」

 

「ほう……」

 

「…だから、聞かせてほしい。フランさんのペースで、フランさんの話したいことを。」

 

「……分かったわ。バベッジ先生は…偉大なる碩学。人類の発展を望んだ科学者で、博士の知り合い…」

 

そこから先は話がどんどん続いていった。蒸気機関のこと、発明のこと、バベッジさんが目指した理想のこと───かなり大量に。私はフランさんの言葉を聞きながら、並行して情報の整理を行っていた。もっとも、フランさんに分割思考の8割前後を割いてるから整理速度は遅いけれど。

 

「……先生は言ってたわ。」

 

「何を?」

 

「“私が夢見た世界が生まれなかったのは無念だが、例え生まれたとしてもそれが人間を豊かにするものでなければ意味がない。私が夢見た世界ではないが、人間達が素晴らしいものを使ったならばそれを見守るが私の役目だろう。”……そう言っていた先生が、人理を滅ぼす側に荷担するなんて……私には、思えない…」

 

「……そっか。」

 

その場に沈黙が降りる。…ここが、正念場。あの問いをするのは、今だ。

 

「フランさん。ここまで話してもらったし、ここで聞くけれど。…チャールズ・バベッジさんは、本当に悪に荷担するような人?」

 

「違うわ。…違うの。私の知るバベッジ先生は、悪に荷担するような人ではないわ。」

 

フランさんの即答。整理が、完了する。

 

「私が話を聞く限りでもそう思った。バベッジさんは人類の未来を守りたいと考えていた人で、こんなことをするような人じゃない。でも、実際に今こうして、敵に回っている。」

 

「っ……」

 

「それは、どうしてなのかな。」

 

「……え?」

 

「それだけ人類のことを思っていた人が、人類を滅ぼす側に回った。人類愛が転じて人類悪になるというから間違いではないのかもしれないけれど…それとはまた違う感じがする。…1つずつ解析して、解明していこう。まず大前提として、“チャールズ・バベッジ先生は人類の敵に回る人間ではない。”」

 

「……えぇ。」

 

「2つ、“それにも関わらず、バベッジ先生のヘルタースケルターは人理の崩壊に使われている。”」

 

「……」

 

「3つ、“パラケルススは諦めたとは言っていたけれどその根底はいい人だった。”」

 

「いい人だった……」

 

「3つめから導かれる答えとして、“いい人であるが悪に荷担している。”」

 

「いい人であるが悪に……っ!まさか……」

 

「そのまさか、だと思う。」

 

「「“バベッジ先生は悪い人に操られている”───」」

 

結構無理矢理な理論ではあるけれど。でも、その理論で十分だったみたい。

 

「───許せない。ウァァァァァ!!」

 

危険を感じて立ち上がり、扉に背を向けて安全に吹き飛ぶように調節───直後、扉が吹き飛んだ。

 

「は、はぇぇ……」

 

烏丸先生みたいなことやるものじゃないなぁ……

 

「マスター。…ありがとう、私の話を聞いてくれて。もう、迷わないわ。」

 

「…力を、貸してくれる?」

 

「えぇ!バベッジ先生を、止めるわ。例え戦いになったとしても、絶対に。」

 

その目付きを見て、もう大丈夫だと思った。




正弓「眠い……」

裁「寝ていたら…?」

正弓「そうします…」


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第202話 魔術師B

裁「………っ!」

正弓「そこです!」

裁「あっ!」

正弓「……勝負あり、ですね」

裁「…ありがとうございます」


シティエリアの中心部。そこに、その存在は在った。

 

「聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王。有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初めとして消え果てた、儚き空想世界の王である。」

 

「こんなとこにいやがったか。」

 

モードレッドさんは結構傷だらけになってるけど。…まぁ、ほとんど私がお願いしたことだからなんともいえないけど……

 

「我は貴様達に魔術師Bと知られる者である。───左様。この都市を覆う“魔霧計画”の首魁が1人である。」

 

そう言ってその人はその単眼で───機械の単眼で私を見た。

 

「その異常なまでの神性───人の身でありながらかなり高位の神霊を宿した者と認定する。恐らくは祖神などと同等───相違ないか。」

 

そう言われても…少し、困る。祖神、ってことは世界を創った者。確かに預言書は世界を創る書だけど、私自身はこの世界を創った者じゃないから。

 

「ふん、またも固有結界か。ナーサリーの場合は眠りだったが、貴様の場合は霧か。」

 

「…その真実を見抜く眼、その身に宿す神性。英雄王ギルガメッシュと認定する。───善なるものに寄り添ったか。」

 

「さて、な。我にも気紛れというものはある。唐突に裏切るかもしれんぞ?」

 

「しないね」

 

「しないな」

 

「しないと思う」

 

あ、ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんに一斉に否定されてた…

 

「ほう?自身ありげではないか。根拠を聞かせよ。」

 

「「「勘。」」」

 

勘だった。それを見ていた魔術師Bが蒸気音を発した。

 

「我が真名は“チャールズ・バベッジ”。帝国首都の魔霧より現れ出でた英霊が一騎。…Pの言っていた善なるものよ、我を打倒しにきたか。空想世界の王であるこの私を。」

 

「御託は別にいい。いいか、鉄屑───」

 

「……先生」

 

「……!?」

 

フランさんからの声に、バベッジさんの眼に揺らぎが現れた。恐らくは───“驚愕”。

 

「お前の知り合いの娘が、お前を止めにきた。…そいつの話を聞け。大義も御託も関係ねぇ、話を聞くことがお前の最優先事項だ。」

 

「……先生。バベッジ先生。聞こえて…る?」

 

「…おぉ。その姿、忘れるはずもない。その姿、見間違えようもない。紛う事なき、ヴィクターの───娘。言葉を、得たか。」

 

「酷い有り様であったのでな。肉体と叡知をくれてやったのだ。精神は、まぁ…悪魔の妹のような状態にはなったが。」

 

あ、やっぱりフランさんの精神基礎って東方projectの…?

 

「バベッジ先生。私は先生を止めたい。偉大なる碩学である先生は、こんなことをする人じゃない。」

 

「……」

 

「私に色々なことを教えてくれた先生は、人類のことを考えていて、自分が出来ることを考えて。自分の発明が人の幸せの源にならないと分かってもそれをねじ曲げようとせずに認めた素敵な人よ。そして、私を“ヴィクターの娘”と呼んでくれた優しい人。」

 

言葉が足らなくても、自分の伝えたいことを。一応そう伝えておいたから、大丈夫…だとは思うんだけど。…なんだろう。胸騒ぎがする───

 

『……リッカ。いつでも動けるようにしておいて。』

 

ネアキちゃんが私にだけ通じる念話でそう言った。ネアキちゃんの枷は首。“話す”ことを封じられた氷の精霊。それが、ネアキちゃん。枷を解除して話せるようになると綺麗な声で話してくれるんだけどね……

 

「先生、止まって!先生は“滅亡”なんて考えていないわ!人類の“発展”を考える、立派な人よ!人類の発展の鍵となる、重要な機関を作った偉大な人だもの!!」

 

「───おぉ、おぉ。ヴィクターの娘よ。お前の言葉は私の心によく響いた。それはお前自身の言葉で、お前が私を本当に思っているからか。…あぁ、そうとも。」

 

駆動音が強くなる。

 

「私はチャールズ・バベッジ。蒸気王にして人類史における碩学が1人。ならば、私は、我等は、碩学たる責務を果たさねば。故にこそ、私は求めたのだ。空想世界を。夢の新時代を。しかしそれは───」

 

「“人類を滅ぼすものであってはならぬ”…!」

 

「そうだ。ヴィクターの娘。私はお前に語った。それは人々を豊かにするものでなくてはならぬ。人類を滅ぼすものであってはならぬと。」

 

直後───私の直感が危険を報せる。多少無理矢理だけど、フランさんを引っ張ってバベッジさんから引き離す。

 

「グ……!?」

 

「先生!?」

 

突如苦しみ始めるバベッジさんにフランさんが驚愕の声を漏らす。

 

「これは───アングルボダの介入か…!Mめ、この私すらも……!」

 

〈別地点からの強制介入だ!恐らく───〉

 

聖杯。出力が上がって行くのが分かる。恐らくは、暴走状態まで到達する……!

 

「ヴィクターの、娘……!逃げ、ろ……!!」

 

「先生…!」

 

「───グォォォォ!!!」

 

「…もういい、フラン。お前はよく話したし、あいつもそれに応えた。だが、こうやってどうにもならないときだってある。」

 

「…」

 

「どうする、フラン。恩師の暴走に終止符を打つのは貴様か、我らか。貴様が決めよ。」

 

「……私がやるわ。全力で───暴走に終止符を打つ。だから───時間を作ってくれる?」

 

「そうか。…して、精霊。何か言いたげだが?」

 

「…いいのか?この雰囲気ぶち壊しそうだが。」

 

レンポ君…?

 

「よい。」

 

「…そうか。リッカ。」

 

「?」

 

「…お前に、覚悟はあるか?あの機械を止めるために、命を懸ける覚悟は。」

 

え……?

 

「預言書を持つお前なら、()()()()()()()()()()()()()。だが、未だ預言書が不調な以上、対象に直接打ち込まないといけねぇ。…どうする、リッカ。」

 

私は───




正弓「ちょっ……この特異点2度目の運命の選択ですか!?」

裁「あ……そういえば確かに……」

正弓「そしてまた平日中とかタイミング悪いですねあの人……!」


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第203話 フランの雷霆

正弓「眠りが遅くなる原因だったそうです。」

裁「…」

星見の観測者「さて、選択の結果を始めるがいい。」



運命の選択 聖杯からの干渉で暴走したチャールズ・バベッジ。

(6) 聖杯からの干渉を断って暴走を止める
(1) 霊基の消滅によって暴走を止める


「分かった。」

 

私はそう呟いていた。

 

「聖杯の干渉を断つ。」

 

「……分かった。すまねぇ、お前ら。少し時間と……リッカの合図のあとに隙を作ってくれ。」

 

「フランさんは攻撃の準備に回って。」

 

「え……」

 

私の言葉にフランさんが驚きの表情をする。

 

「最後の一撃はフランさんに。お願いしてもいい?フランさんの攻撃が聖杯遮断のスイッチになるようになんとか調整するから。」

 

「リッカ、それは───」

 

「……できる、よね?」

 

私の勘が出来ると告げていた。そのままレンポ君を見つめていると、折れたようにため息をついた。

 

「……お前もお前で頑固だな。…あぁ、確かにやろうとすりゃできる。だが、預言書が不調な以上、細かい調整は手間がかかる。それでもいいか?」

 

「…私は大丈夫。皆は…」

 

皆の方を見ると、一斉に頷いてくれた。

 

「よし、決まりだな。フラン、だったな。お前もこっちにこい。」

 

「マスター……いいの?」

 

フランさんの言葉に静かに頷く。…本当なら、私が手出しをしてはいけないのだと思う。だけど…もし、聖杯の干渉を断って暴走を止めて…短い間でもフランさんと一緒にいられるのなら。私は───

 

「時間は限られてんだからな!ボサッとしてんじゃねぇぞ、リッカ!!」

 

───そうだった。時間は限られてる。今は預言書の作業に移らないと。

 

 

side ルーパス

 

 

チャールズ・バベッジ。私達は知らない人。…だけど、蒸気機関なら分かる。撃龍槍の動力。そしてセリエナに作られた蒸気機関管理所で管理されているセリエナの主動力。それで人の未来を切り開こうとした…か。もしかしたら私達の世界だと理想の世界を作れたのかもしれないけど。

 

「グォォォォ!!!」

 

「───ガードポイント」

 

チャールズ・バベッジの攻撃にガードポイント───チャージアックスの変形斬りに存在する防御効果を利用して機構を開く。

 

「高出力!」

 

そのまま高出力を放ち、終わり際にステップ。チャールズ・バベッジの周囲に濃く漂う蒸気…というか瘴気と化しているそれは私がつけている護石が私の身を守ってくれている。瘴気はそれに任せて斧強化。ビンは4本、チャージレベル溜めすぎ(オーバー)、痛撃色は赤───問題ない。元より目的は“斬る”ことじゃない……!

 

「オーバーリミットII、変形GP守勢超出力!!」

 

ただ、響かせる。本来斬撃武器であるチャージアックスを、ただの鈍器として運用する。“ジャグラスアームズI”の榴弾ビンを放出する──これの繰り返し。

 

「ルーパスちゃん!」

 

「…!もういいの!?」

 

「うんっ!」

 

チャージ、ビン9本、エネルギーブレイドを放ち、リッカと交代。…あとは、任せよう。私達の───マスターに。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

なんとか、短時間で構築できた。基礎となるものは既にあったから、それを大本にしてフランさんの攻撃がスイッチになるように調整しただけ。

 

「───ふー…」

 

呼吸を整える。それと同時に放つ場所を正確に把握する。あの、彼の動力となるものを生み出す中心。人間で言えば心臓に当たる部分。あの場所に、()()。相手はルーパスちゃんの榴弾ビンもあってスタンしてる。

 

「───一歩、音超え」

 

1つ。音を置き去りする。

 

「───二歩、夢幻」

 

2つ。それは、夢や幻を見るかのように───

 

「───三歩、剛拳」

 

3つ、我が剛拳をもって───

 

「“無明───五段穿ち”!!」

 

放たれるは、高速の五撃───!!!

 

「…!」

 

マスターとの接続───マスターを聖杯から藤丸リッカへと強制委譲。

聖杯からの干渉───カット。干渉を停止し、行動支配を解除。

蒸気機関、及び固有結界の暴走───停止。急停止ではなく緩やかに停止すること。

電気への耐性───影響を破損から吸収へと変更。吸収された電気は魔力に変換。

以上四件、英霊“フランケンシュタイン”が放った電撃を施行条件と指定し、管理者の処置とする。

 

「フランさん!」

 

五撃中に書き換えるべきものを書き換え、フランさんの名前を呼ぶ。

 

「えぇ!受け止めて、先生!」

 

「ォ、ォォ───」

 

「全力全開!一点集中でぶっ壊す!!気に入らないなら引き裂いちゃえ!プラズマスタンバイ───ブーストアップ!“串刺の雷刃(スキュアド・プラズマブレイド)”────!!!」

 

叫びと共に強力な電撃が放たれる。それは───先ほどの書き換えを実行するには十分な出力。

 

「ァァァァァァァァァァァ!!」

 

「ォ、ォォ───ヴィクターの、娘───」

 

「…!」

 

預言書とバベッジさんの接続を復活させる。まだ、少しだけ時間は残っていた。最後に、1つ───“チャールズ・バベッジの人格を保存せよ”

 

「ォォォォォォォ──!!!!!」

 

そして───電撃の強さがかなりのものになった時。私達の視界を閃光が襲った。




正弓「ちなみに原型はこれでした。」


運命の選択 聖杯からの干渉で暴走したチャールズ・バベッジ。

(3) 聖杯からの干渉を断って暴走を止める
(1) 霊基の消滅によって暴走を止める


正弓「ご本人、疲れてるんですかねぇ……」

裁「さぁ…」



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第204話 魔術師M

正弓「…再起動処理、開始。…やはり、時間かかりますか。」

正殺「仕方ないよ、結構ボロボロだったし。…それにしても、使いまわし…」

正弓「放っておいてあげよっか。」


フランさんをアパルトメントに送って、バベッジさんが目覚めるのを見届けたあと。私達はロンドンの地下にきていた。

 

「……ロンディニウムの地下…地下鉄のさらに下に霧の元凶、聖杯を埋め込みし巨大蒸気機関アングルボダは存在する、でしたね。」

 

「…うん。」

 

「ところで……身体は、大丈夫なのですか。リッカ。」

 

アルトリアさんの言葉に頷く。一瞬だけならそこまで身体に負荷はかからない。これでも結構鍛えてるから…流石に暴走状態の時のアレは身体がもたないけど。

 

「大丈夫ならよいのですが…無理はなさらぬよう。」

 

「ありがとう、アルトリアさん。」

 

「……しかしよ。下に行くごとにどんどん霧が濃くなってねぇか?つーかルーパスを中心に霧が渦巻いてる気がするんだが……」

 

確かにこの地下に入ってから…いや、バベッジさんと戦っているときからそうだった。霧と蒸気をルーパスちゃんが吸い込んでいる、っていうか。

 

「あぁ、それ……多分命玉を用いた装飾品のせいだね。」

 

命玉を用いた装飾品……そういえば、ルーパスちゃんはアパルトメントを出る前から何か指輪をしてるけど。いつもの護石とは違う感じがする。

 

「“屍套龍の指輪・命”。シンプルな名前だけどね。スキルも何もつけない加工をしたはずなんだけど…何かのスキルが発動してるみたい。恐らくは瘴気吸収、もしくは瘴気活性…多分そのあたり?私達も全部を理解してるわけじゃないからなんとも言えないかな。」

 

そうなんだ……と、話している間に異質な場所に出た。

 

「……なんだ、こりゃ…?」

 

「この魔力量は……冬木の大聖杯のあった場所に似ています。ロンドンの地下に、こんなものが───」

 

〈こちらでも観測できているわ。魔霧の発生源は間違いなくそこの動力機関でしょう。〉

 

存在した巨大機械。そこから溢れる蒸気が、瘴気が。この場所には溢れ、それは片っ端からルーパスちゃんの指輪に吸い込まれていく。

 

〈……その指輪、どうなってるのよ…〉

 

あ、マリーが呆れてる……

 

「驚いてるところ悪いのだが───そら、最後の親玉が出てくるようだぞ。」

 

ギルの言葉に機械の前に誰かがいるのに気がついた。

 

「───奇しくも。奇しくもパラケルススの言葉通りとなったか。悪逆は善を成す者によって阻まれなければならぬ、と。バベッジは敗れ、消滅には至っていないようだがこちらでは既に制御が効かぬ。まぁ、ここまでよくやったと誉めておくか。」

 

「───ワカメの系譜か?ワカメに似ていなくもないが…愉悦部の自称特別顧問にも見える。ふむ……」

 

わ、ワカメ…?あと愉悦部って……

 

「……ワカメはともかく、あやつも引き入れられればいいのだがな。愉悦部の適正は低いがあやつの気概は我好み故な…しかしこの世界にあやつがいるか……?それにしても自称特別顧問の若き頃にも見えるがアレは一体…」

 

「───だが、ここでお前達の道行きは終わりだ。巨大蒸気機関アングルボダ。これは我らの悪逆の形ではあるが希望でもある。善は今、我が悪逆によって駆逐されるだろう。」

 

「…ふん。此度の敵共は語るのが好きな連中よな。名を名乗れ、道化。貴様にも名くらいあろう。」

 

「───我が名は“マキリ・ゾォルケン”。この魔霧計画に於ける最初の主導者にして魔術師Mと認識されている者。」

 

「……やはりワカメ───シンジの系譜か。マキリの魔霧……ふむ。考えるのをやめるとしよう。して、名乗ったのならばこちらも名乗るのが礼儀と言うもの。我は英雄王ギルガメッシュ。万物を納める王にして今はただこのマスターに力を貸すサーヴァントである。」

 

「…英雄王、ギルガメッシュか。万物の裁定者たるお前が善に味方するとは。やはり、悪逆は討ち果たされるが道理か。」

 

「さて、な。そもそも我がこうして協力しているのもただの気紛れにすぎん。我がこうして力を貸すときはほとんどが気紛れだと覚えておくがいい。…で?貴様らの目的とやらを聞かせるがいい。」

 

「……いいだろう。」

 

マキリと名乗った人は表情を変えずに言葉を繋いだ。

 

「我々の目的。それはこの時代───第四の特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食。そして、この時代を完全に破壊することで人理定礎を消去する。それこそが、我らが王の望みであり、我らが諦念の果てに掴むしかなかった行動でもある。」

 

「はっ!大方黒幕に未来(さき)でも見せられたか?未来を見た程度で絶望し、狂気に落ちたか。ふん、自称とはいえ愉悦部の特別顧問を名乗るものがその程度で絶望するのもどうかと思うがな。かつての我のマスターであれば未来を知っても再び立ち上がるだろうよ。そして、このマスターも同じように未来を知りながら立ち上がった者だ。貴様にはこのような気概が足りん。そら、貴様得意の魔術を見せたらどうだ?間桐臓硯。」

 

「……いいだろう。アングルボダは既に暴走状態。都市に充満した魔霧を真に活性化させるに足る強力な英霊はじきに現界するだろう。人類神話の終幕に相応しき、星の開拓者が一人。或いは星の輝きの如し英霊が現れ、すべてに終焉が充ちるまでの間。私が相手をするとしよう。」

 

そう言ってその人は私達に手を向けて───

 

「現れよ、“翅刃蟲”」

 

現れるは───虫の大群。……虫の大群?

 

「───い」

 

「…しまった!」

「…っ!まずい!耳栓を───」

 

「いやぁぁぁぁぁ!!?」

 

ルーパスちゃんの悲鳴が周囲に響く。そうだった、ルーパスちゃんは大の虫嫌い……!!その悲鳴に呼応してか、ルーパスちゃんの指輪が輝く───え?

 

『全員伏せて!!指輪が溜め込んだ瘴気が放出される!!』

 

ミラちゃんの念話に反射的に伏せると、巨大な瘴気の塊が私達の頭上を通過していった。

 

「なにっ!?───ぐぁぁぁ!!?」

 

どうやら直撃したらしく、見ると虫は全滅、ルーパスちゃんは軽く気絶してた。いち早く復帰したミラちゃんがルーパスちゃんに近寄って軽く手をかざす。

 

「心的ショックと瘴気を放出した衝撃による気絶状態。命に別状はないよ。」

 

その言葉にほっとする。改めてマキリと名乗った人の方を見ると、ふらふらになりながらも立ち上がっていた。

 

「…我が蟲を、一瞬で消すか。まぁいい。最後の英霊を目にすることなく、お前たちは死ぬ。それは明らかだ。破滅の空より来たれ、我らが魔神───」

 

〈魔力が上がっていく───いや、変質していくぞ!これは───いつものアレだ!!〉

 

いつものアレって…ドクター…言葉にする前に、それは現れた。

 

「七十二柱の魔神が一柱。魔神バルバトス───これが、我が悪逆のかたちでである。高貴なる4つの魂を以て、バルバトス───現界せよ。」

 

バルバトス───確か、序列8番。それを見て、アルトリアさんが前に出た。

 

「そこまで時間もないことです。…早めに決めましょう、マスター。」

 

「…うん。お願い、アルトリアさん。」

 

アルトリアさんが頷き、手に持っているのは───槍。

 

「…ところで英雄王。どこでこの槍を?」

 

「さて、な。」

 

「…まぁ、いいとしましょうか。」

 

「…令呪1画、起動。アルトリアさんに。」

 

私の手から令呪が一画消え失せる。

 

「感謝します。」

 

〈我が固有結界の一───“集合せし双面の花園(ワールドガーデン・ザ・クラスタービット)”。偽装顕現、開始。〉

 

お兄ちゃんのその言葉で、周囲が変化する───花畑。妖精らしき小人たちが飛んでいる───

 

「…これは」

 

〈アヴァロンっぽくしてみた。実物はこんなんじゃないだろうけどな。〉

 

「いや、これどうしたの?」

 

〈固有結界の改造…っていうか、固有結界を通常の結界にランクダウンさせ、ランクダウンさせた結界を改造したのがこれだ。単なる暇つぶしだし、耐久力は固有結界よりも落ちるが…まぁ、聖剣・聖槍の一撃に耐えられるかどうかだな。〉

 

「…そう、ですか。」

 

「全てを知るがゆえに───」

 

「…っと。時間をかけている暇はありませんね。」

 

アルトリアさんの持つ槍が光を放つ。

 

「───霊基、疑似変質。此処に穿つは光の楔。最果てに根差す輝く塔が一柱。裏と表を分かち、人界の全てを見守るもの───」

 

〈な───なんて魔力量だ!?いや、ていうか!あれは───〉

 

「フォウ、キャーウ!!」

 

()()───抜錨。」

 

聖槍。それは、確か───

 

「───“ロンの槍”」

「オレを殺した槍…!?」

 

「全てを嘆くのだ…焼却式───」

「“最果てにて(ロンゴ)───」

 

「───バルバトス」

「───輝ける槍(ミニアド)”───!!!」

 

バルバトスの焼却式。アルトリアさんのロンゴミニアドから放出された光が激突する。

 

「───この、光は───耐久、回避、可能性───皆無。消滅、確定事項と判断。転移───不可。統括局に報告する。カルデアが障害となる可能性、あまりにも───」

 

そこまでつぶやいたところで、バルバトスとアルトリアさんの拮抗が崩れ───

 

「シロウ!!」

 

「───“全て遠き理想郷(アヴァロン)”!!!」

 

バルバトスさんを貫いた光は、エミヤさんが防いでくれた。




正弓「そういえば。彼女の修復は?」

正殺「難航中。」

正弓「…そう。難しいよね、やっぱり。」

正殺「まぁ…なんとかするよ」


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第205話 雷光降臨

裁「……ん?これは…」

?「ん?どうした?」

裁「あ…えっと。」

彼方「彼方だ。この書庫の管理をしてる。」

裁「真…名…?」

彼方「なんか変か…って、そうか。姉さんとかは今クラス名だったな。…俺にはクラス割り振りなんてされてねぇからな。真名で構わん。」

裁「あ、はい…」

彼方「んで、どうした?」

裁「…これ」

彼方「あん?…“サーヴァントマテリアル集”…?…ロックは…かかってねぇな。ロックがかかってねぇってことは公開して大丈夫な奴だな。」

裁「……見ても?」

彼方「構わん。…っと?UAが39,000を超えたのか。…ったく、嬉しい限りだよな…」

裁「…ん。」


魔神が消滅し、固有結界も消える。アルトリアさんは槍を引いて安堵のため息をつき、エミヤさんも同じように安堵のため息をついた。

 

「ありがとうございます、シロウ。」

 

「いや、オレだけの力じゃないさ。アルトリアが“全て遠き理想郷(アヴァロン)”を貸してくれたから防ぎきれたんだからな。オレの体からは既に抜け落ちているし、大体アイアスだけだと防ぎきるのはまず無理だ。ほぼほぼ君のお陰だよ。」

 

「シロウ……」

 

「……ごほん。いい雰囲気になりそうなところすまぬのだが、よいか?不満ならあとで我をいくらでも蹴るがいい。“人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んじまえ”とも言うのでな。」

 

ギルの言葉でアルトリアさんとエミヤさんが見つめ合うのをやめた。

 

「さて、状態は最悪の方向に向かってそうだな。聖杯を破壊して大惨事…などにはなってなさそうだが、霧があの機械に集束してるぞ。」

 

「……いつからいた、童話作家。」

 

「最初からいたよ?」

「最初からいたね。」

 

私とリューネちゃんがそういうと、ギルは小さく何かを呟いた。

 

「おい、早くルーパスを起こした方がいいんじゃないか?見ていた限り、霧を抑えていたのはルーパスの指輪だ。気絶している今、その抑制は効いていないぞ?」

 

アンデルセンさんにそう言われて気がついた。確かに指輪が瘴気の塊を放出したあと、その瘴気、もしくは霧を吸収する動きは見せていない。

 

「起きるにゃ、旦那さん!」

 

そこにスピリスさんがルーパスちゃんを叩いて吹き飛ばす。

 

「あう……あ…ごめん、気絶してた…?」

 

「頭打っていたんだ、気にするな。馬鹿にはなっていないか?」

 

「酷くない…?…いや、アンデルセンってずっとこんな感じだっけ。」

 

「そら、指輪を起動すればいいだろう。時間はないぞ?」

 

「……指輪の起動の仕方なんて知らないんだけど。」

 

ルーパスちゃんって狩人であって魔術師じゃないもんね…狩猟笛の影響でキャスターの適性あるといってもミラちゃんみたいに魔術を使ってるわけじゃなくて物理武器で戦ってるんだもんね…いや一部魔術っぽい武器とか機構あるけど。狩猟笛とかチャージアックスとか…アイテムボックスとかアイテムポーチとか。

 

「ち───来るぞ!恐らく奴の言った“星の開拓者”とやらだろうさ!」

 

アンデルセンさんの言葉通り、霧の集束地点に電気が現れ始めていた。

 

〈サーヴァントがそこに出現するぞ!衝撃に気を付けて───〉

 

「結界張ってあるから大丈夫。恐らく雷属性だから雷耐性で張った。」

 

〈早いな!?〉

 

「私を、呼んだか。雷電たる私を。天才たるこの私を呼び寄せたのは何だ?」

 

「っ!?」

 

その声と相手の現界と共にミラちゃんの結界を揺るわせる衝撃。雷耐性の結界だから打ち消しあうはず───なのに、衝撃を感じた。これは、相手の雷属性とこちらの雷耐性が拮抗していることを示す…って言ってた。

 

「───ほう。私の雷を耐えるか。面白い。人の身でありながら、それほどの雷を扱うとは。それほどの人間がいるこの世界を消すのは実に惜しい───が。この私に刻まれた意思がこの世界を破壊せよと告げる。」

 

「風よ!」

 

ミラちゃんの声で周囲にあった土煙が消え去る。そこにいたのは───黒髪、一部青色の髪で。片方の手が機械みたいな感じになってる人。

 

「───君たちに、問おう。神とは何か。」

 

神とは…?

 

「汚物。」←ギル

「「「「「「古龍?」」」」」」←ハンター&サマナー

「編集担当。」←アンデルセンさん

「知らね。」←モードレッドさん

「世界の裏側の引きこもり、でしょうか?」←アルトリアさん

「世界各地に伝承が存在する概念だ。」←エミヤさん

「神代に存在したといわれる存在です。」←マシュ

「「人より生まれし概念…?」」←私&アル

 

うん、見事にバラバラ。

 

「全て、否だ。神とは───雷。すなわち、私だ。」

 

「……はえ?」

 

雷…あぁ……神鳴?確かにギリシャ神話のゼウスさんとか使うの雷だった気がする。

 

「インドラを越え、ゼウスすらも超越したこの“ニコラ・テスラ”を。碩学たちが揃いも揃って呼ぶか。ふっ…フハハハハハハハ!!我が哄笑をもたらしたぞ、碩学ども!お前たちの願いのままに!私はこのまま地上へ赴こうではないか!───と、その前にだ。」

 

テスラさんの視線がミラちゃんに向いた。

 

「───ふむ。人、と思ったが違うか。君は、“天の英霊”だな?見たところ、君も雷を操るようだ。」

 

「…」

 

「ふっ…面白い。天の英霊は打ち砕く対象ではあるが…その雷、この新たなる雷神である私にどこまで通じるか。激突する時が楽しみだ。さて───この世界の未来を守らんとする希望の勇者たちよ!私はこれより魔霧の集積地域、おおよそバッキンガム宮殿の上空に赴く!人類史の終焉を止めたければ君たちも来るがいい!私が人類史を終わらせるが早いか、君たちが阻止するが早いか───フッ、フハハハハハハハハハ!!」

 

そう言ってテスラさんは去っていった。…あの人、悪い人じゃない。強く…そう感じる。…それにしても、話し方がギルに似てたような…気のせいかな?

 

〈二コラ・テスラ…仮に現代を電機を中心とした機械文明ととらえれば彼はその礎となった人物といっていいでしょう。霊基パターンはアーチャー、アンデルセンさんや先ほどのマキリ・ゾォルケンが言っていたように“星の開拓者”と言っても間違いはないはずです。〉

 

「ふん…ドレイクめと同じ存在か。星を開拓せし存在が星を焼くとは、なんという皮肉よ。…さて、マスター?」

 

「…うん。…行こう、止めに。」

 

その私の言葉に、全員が頷いてくれた。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

ロンドン地上───そこに、一人の男が現れていた。男の名は───ニコラ・テスラ。

 

「ロンドン、か。久しいな。英国紳士足らんとした私が、よもや世界を破壊する役を演じさせられるとは。…まぁいい。我が進む道を作れ、“大雷電階段(ペルクナス・ラダー)”よ!!」

 

その言葉に呼応して───電気で構成された階段が出来上がる。

 

「ははははははは!許す!私をどこへなりとも運ぶがいい!急げ勇者たちよ!破滅の時は近いぞ!」

 

そう、高らかに言った時───

 

ひゃぁっ!

 

「あらっ…あらあら、まぁまぁ。大丈夫です?可愛らしいお嬢さん。」

 

へ…あ、はい。

 

「…む?」

 

ニコラ・テスラが振り向くと、刀を持った女性と槍…のようなものを持った尻餅をついている少女がいた。

 

「…ほう?雷を伴った連鎖召喚か?まさか、雷雲が新たなる雷の英霊を呼び寄せたか!」

 

「えぇ、我が子が何かをしでかすと思いましたので。この()()、先回りしてこちらに来させていただきました。」

 

え、えっと…??

 

状況を理解できていない少女と頼光と名乗った女性。

 

「おぉ…天の英霊と人の英霊。だが───失礼ですが可憐なるレディと雷の名を冠するレディ。お名前を伺っても?」

 

「えぇ───真名、“源頼光(みなもとのよりみつ)”。」

 

ゆ、“雪華(ゆきはな) 朔那(さくな)”です!

 

(金時さんと一緒にロンドンへ来たらなんかとんでもねぇ奴いるんですけど───!?ていうかあの女の子の武器から感じるあの神秘の量!!何ですかあれ!?)

 

「ほほう…」

 

「よ、頼光の大将っ!?なんでここに!?」

 

あとから来た金髪の男が驚愕の声を上げると頼光が振り向く。

 

「まぁ、金時。そうですね…あなたがこの世界を守ろうとするマスターに失礼のないように、でしょうか。」

 

「そんなにオレっち信用無いかねぇ…」

 

「……ほほう。さらなる顕現。…こちらも人と天。君たちは?」

 

「…名乗りたくはねぇが大将の前だ。名乗らせてもらうぜ───英霊・“坂田金時(さかたきんとき)”。大将より遅れたがここに見参だ。」

 

「みこっ?私ですか?あぁ…ご主人様以外に名乗りたくはありませんが、そもそもこの世界のご主人様に値する方は女性な模様。いえ、百合というのも別に構いませんが…ですが、出会う前にフラれてしまったようなこの感情は何と言いましょう。というか…」

 

狐耳の女性がテスラを見つめる。

 

「アナタ、イケ魂ではありますが…心がイケてないような気配が。狂化スキルでもくっついてます?つーかマジでこのヤバい空気から抜け出したくてたまらないんですけど…ダメ、ですよね?…はぁ。」

 

「なんと…美しくありながらも聡明と。些か異なりますがその通りではあるのです、レディ。」

 

「…すっげぇ逃げ出したい…というかそこの…娘さん?構えないでよいのです?」

 

はぇ?

 

「あちらさん、やる気みたいですよ?私一刻も早く逃げ出したいですが覚悟を決めて立ち向かうと致します。あなたはどうするのです?」

 

……

 

朔那、と名乗った少女はテスラを見つめた。

 

「連鎖召喚で召喚されたということは君も雷が関係する英霊だろう?さぁ、君の雷を見せてくれたまえ。」

 

その言葉に朔那は自らの槍…に近い何かを見つめ、立ち上がった。

 

…やりましょう。相手は人間、だけど…何かが違う。多分、行けるよね───

 

朔那は武器を構え、テスラを強く見据えた。




正弓「…おや、鍵のルーラーさん。記憶書庫に?」

裁「…ん。」

正弓「何かありましたか?」

裁「面白そうなマテリアルがあった。」

正弓「…そうですか。」

裁「…?その手紙は…」

正弓「ご本人からですよ。観測中、“神とは”っていう問いあったじゃないですか。」

裁「ん。」

正弓「そこのハンター達の言葉…“辻〇〇〇(自主規制)”にしようかと悩んだそうで。」

裁「……あぁ。確かに生みの親だし、神ともいえる気はするけど……」


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第206話 雷鳴

正弓「戦闘回は何気に時間がかかるそうです。」

裁「そういえば前も言ってた気がする。」


「……」

 

「リューネちゃん?」

 

地上を目指して移動している最中。先程からリューネは何度も上を見上げていた。彼女の耳にはどうやら地上の音も届いているようだ。

 

「……何かあった?」

 

「…いや。先程の音……地上の方で戦闘が起こっているようだ。数は5、1つは先の星の開拓者……ニコラ殿といったか。その者だろうが…」

 

〈それ以外にもいるってことか。〉

 

「…まぁ、それはそうなんだが。…なんだろうな。母でも父でも、ルーパスでもない知り合いの戦闘音が聞こえる気がするんだ。」

 

「リューネの…知り合い?私でもないの?」

 

「あぁ…まぁ、知り合いというか後輩というか……カムラの里のハンターという意味では先輩にあたるのだが。…まぁ、気のせいだろう……そうだと思いたい。」

 

「……ふん。だが、感じたことのある気配がするのは事実だな。」

 

『無銘。ミラ。外、気をつけてね……雷飛び交ってるから。どこぞの武士共が衝突するとこうなるんだなぁ…』

 

「「……???」」

 

 

 

所変わってロンドン地上。

 

「ライトニンッ!!」

 

ニコラ・テスラが雷を放ち───

 

「───ハッ!」

 

それを頼光が叩き斬る。

 

(いやなにやってんすかあの女!?普通に雷斬るとかあり得ないですよねぇ!?ていうか弓矢でも対応できるとかどんだけですかあの女武士は!?)

 

「ははははは!この雷電こそ私がアーチャーとされた所以!それを叩き斬るとは面白い英霊もいたことだ!天の英霊といえど、油断するつもりもなかったが面白い!だが───」

 

ニコラ・テスラが左手を不意に上げると、その場所に朔那が攻撃を放っていた。

 

くっ

 

防がれたと見るや、手元から飛び出した虫に捕まり、後ろに跳ぶ。それを見たニコラ・テスラが雷を放つと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……まずい、かも。“トリプルアップ”切れた…

 

「ははははは!可憐なるレディ、君もまた面白い!見たところ君の戦い方はその腕にいる虫が関係しているようだが、違いないかね?」

 

……ご明察、です。

 

雪華 朔那───操虫棍をメインとするカムラの里のハンター。カムラの里のハンターとして認められたのはリューネよりも前であるが、リューネが今まで培ってきた技術には勝てず、完膚なきまでに敗北した1人の少女である。なお、完膚なきまでの敗北を経験した後はというと、リューネがカムラの里にいるとき限定だが共にクエストに行くことが多いのだとか。

 

「ふっ…人の英霊、とはいったがその肉体は紛れもなく人間そのもの!しかし人でありながら雷電に触れることを恐れないとは!ははは───いや、恐ろしいな!」

 

(恐ろしいな、じゃねーですよ!!アレ見たところ魔術なんて一切使ってませんよ!?なんで虫を雷に当てると()()()()()()()()()()んですかねぇ!?異常です、異常!この玉藻、意味がわかりませんっ!!)

 

狐耳のキャスター───玉藻が感じたその異常は真実だ。そもそも、人間が雷に触れるということ自体が異常なのだ。頼光の場合は完全にサーヴァント───つまり、霊体であるわけだが…朔那の場合はルーパス達と同様、()()()()()()なのである。耐久力が馬鹿げているハンターであるから、と言われてしまえば何も言えなくなるかもしれないが、そもそもハンターというのは死者も出る職だ。“モンスターハンター”シリーズの設定世界観上の話だけではなく、ルーパス達のいた世界でも実際に半端な鍛え方では死に至る。そんな中、ルーパス達が即死技として存在するエクリプスメテオや王の雫、拘束である捕食行動。さらには撃龍槍の直撃や破龍砲の直撃を食らっても生存していられるのは、防具に存在する“防護”と狩人の鍛えた自らの“肉体”、そして武器に存在する“特性”が理由なのである。

 

はぁっ!!

 

「むぅっ!」

 

飛円斬りを放ち、即座に跳躍、空中回避で離脱する───さて、彼女の装備を見てみよう。武器は“神源ノ雷翔リ”。雷神龍派生の操虫棍、上位最終強化。猟虫は…見たことがないが、一部行動で一緒に動いていることから共闘型猟虫だろう。防具は…ゲームとは少々デザインが異なるが、“なるかみ”一式───つまりは全身雷神龍装備だ。その雷耐性値は、何の強化もせずに27まで達する。最大強化しているために、その防御は480に達するが……“風雷の合一”がほぼほぼ役に立っていなさそうなのは仕方ないことなのだろうか。なお、護石で雷耐性Lv.3が発動しているため、総防御力は491、雷属性耐性は47とかなり高い防御性能を誇っている。

 

「ははは、雷を吸い、雷を扱うか!面白いとは思わないか?Mr.ゴールデン!!」

 

「大将のやることに今更突っ込んでらんねぇよ…そこの嬢ちゃんもなんで大将と同じこと出来るかはマジで謎だけどな!?見た感じまだ若ぇ、20年生きてねぇよな!?」

 

今年で18ですが何か!?

 

「何言ってるか全くわかんねぇ…!」

 

(金時さんも金時さんで苦戦していらっしゃいますね…というかこの中で普通なの金時さんと私だけじゃないです?あの人間のお方…サクナさん、でしたっけ。彼女も名前からして日本の方なのでしょうけれど……言葉が全くわかりませんねぇ。名前らしきものしかわかりませんでした。日本由来のサーヴァントが4騎揃うだけで魔境と化すとかどんだけですか日本……って。私も出来る限りは援護した方がいいですね。あの女武士とあの女の子には必要無さそうな気がしますけれど……うう、尻尾がパリパリします…)

 

そう思考した玉藻はどこからか符を取り出した。

 

「金時さん、ちょいと退いてくださいまし!」

 

「お、おうっ!?」

 

「密よ───唸れ!“呪相・密天”!」

 

符を放つと共に風がテスラへと放たれる。

 

「───ふっ!」

 

「───」

 

「やぁっ!」

 

金時が眼をそらす。

 

「浮気爆裂───またの名を、一夫多妻去勢拳!!」

 

「───ぉぉぉ……」

 

それにテスラが悶絶する。

 

「おいおい…アレはねぇよフォックス。」

 

「……あぁ、男性なのでしたね。しまった、すっかり失念しておりました。あの自分の愛のためなら外野なんて知ったコトじゃない系女に大量に叩き込んだ記憶が鮮明に甦りまして……えぇ。もはや癖のようなものになっているのです。…てか、ぶっちゃけアレ私の主力みたいなものですし。」

 

「マジかよ……フォックスって確かキャスターだよな…?」

 

「ふ、ふふ……流石は、レディ……」

 

「……って。あれで倒れませんか。どうしますかねぇ…」

 

「あらあら。倒す必要はありませんでしょう?」

 

「は?」

 

「ふふふ………金時、合わせなさいな。」

 

「お、おう……」

 

「なんかちょっとやベー気がするんですけど!?雷放たないでくれます!?尻尾がパリパリします───!!」

 

「そこの貴女!貴女も一緒に合わせてもらっても?」

 

頼光の言葉に朔那が頷き、操虫棍を構えて眼を閉じた。

 

()()───いくよ、“プラズスタッガ”。属性、暴走

 

そう呟いたとたん、操虫棍が電気を帯び始めた。

 

「ぎゃーっ!?全員雷扱うとかどんだけですか!!マジでやめてください尻尾すっげぇパリパリするぅ───!!?味方も感電させんのやめてくださいませんかこのバーサーカー共───!!」

 

「まぁ、すみません…ですが、貴女様は天照の分御霊。私どもの攻撃など容易く───」

 

「限度ってもんがあんでしょ──が───!!そもそも私はスケールダウンしてるんで容易くないんです───!!貴女だけならまだしも3人はやべぇですって───!!!理解してんのかこの牛女───!!!」

 

「では死ぬ気で耐えましょう♪」

 

「───ふざけるなぁっ!!あっ、金時さん、金時さんからも何か言ってください!!」

 

「こうなった大将は止まらねぇんだ……すまねぇ、フォックス…」

 

「この役立たず───!!もう最後の希望です、サクナさん、貴女からも───」

 

属性圧縮───虫が飲み込みし属性は我が力となりて空間を穿つ一閃とならん。

 

「ってこっちの方が無理だった───!!!言葉がまず通じねぇ───!!!」

 

竜人語はこの世界に実在していない言語。理解できないのは仕方がないことだ。

 

「───ふっ!」

「食らえ、必殺───“黄金衝撃(ゴールデンスパーク)”!!」

 

「なんと!活性魔霧にさらに魔力を叩き込むか!いずれは許容を突破し、オーバーロードを果たし、消滅する───が!ははははは!少し足りないようだ───」

 

───雷神一閃

 

「───何っ!?上だと!?」

 

テスラが見上げた上空、そこにいたのは強い電気を放つ棍を構えた朔那。

 

奥義“操虫棍が戦いで迸らせる(ビートルブースト)───

 

「何を───」

 

───圧縮属性の一点放出(カンパージ・フォーカス)”!!

 

その言葉を紡いだ彼女は───言葉通り、()()となって地上へ落ち。そこに、追撃のように雷が落ちた。

 

「───は。ははははは!なんと!なんと───」

 

その、結果───霧は、晴れた。

 

「なんと見事な雷!なんと見事な一撃よ!その一撃を最後の一押しとして、周囲の霧を晴らすとは!!惜しむべきは先の雷によって彼女は生きていないであろうということか!あぁ、惜しい……実に惜しい!彼女こそ雷電を操る私の妻に相応しいであろうに!」

 

彼女が落ちたところには土煙が舞い、彼女の姿を隠している。この時代、ニコラ・テスラは32歳。彼女は17歳であるので───まぁ。少し年の差が大きいという問題はあるのだが。イギリスの結婚可能年齢は16歳以上であるようなため、結婚できなくはない。結婚できなくはない。親の承認が必要だが。

 

「障害がなくなったならばすすむべきだろう───が。せめて一目、雷電を操った彼女の亡骸を見た後、その魂が安らかに眠ってくれるように願うとしよう。」

 

そう言い、テスラは土煙が晴れるのを待った。だが、テスラはまだ知らない。奥義を得た天才たる彼女が。“モンスターなハンター”と呼ばれるハンター達が。如何に化け物染みた耐久性を持っているのか。“モンスターなハンター”と呼ばれる、その所以を。

 

「晴れてきたか…さて───む!?」

「はぁっ!?」

「おや…あらあら……?」

「マジかよ……」

 

けほっ、けほっ───誰が、“生きていない”…ですか?

 

土煙が晴れたそこには。多少煤けているとはいえど、自らの足で立っている朔那の姿があった。

 

……うぅ、ちょっとピリピリする…

 

───だが、奥義を使った彼女自身も完全に無事というわけではないようで、“強香の花結・三輪”を使い、回復を何度も使っている状況下とはいえど百竜ノ淵源ナルハタタヒメの“撃龍・霹靂神”を耐えることが可能な彼女の装備に存在する防護でも防ぎきることはできないようだ。…しかしそれは、逆をいえば百竜ノ淵源ナルハタタヒメの大技を越える威力を彼女の奥義は秘めている、ということになるが───

 

(な、なんちゅう耐久力してるんですかあの子!?恐らくあの武器が避雷針のような役割をしたのだとは思いますけど───その避雷針に触れてれば感電するでしょう!?なんで人間が雷に打たれて死んでないんですか!?ていうか彼女本当に人間なんですか!!?)

 

「は、はは…これはこれは、レディ。先の雷、無事だったのだな?」

 

……あの程度なら……一応。

 

言語が違うためにテスラに意味は伝わっていないものの、少し首を傾げてきょとんとした表情を見たテスラは思いっきり顔をひきつらせていた。自らの防護を貫きかけるほどの雷がほぼ直撃といった状態となってなお、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()少女に引いてしまうのは無理のないことではなかろうか。

 

「…さて。これで私の役割は終わりですね。ええと…サクナさん、でしたか。貴女はどうします?私と共に武器を納め、まだ見ぬ我が子を迎えに行きますか?」

 

頼光の言葉に朔那はさらに首を傾げるが、大体を理解したのか小さく頷いた。

 

奥義放って少し疲れたので休ませてほしいです…

 

「では、参りましょう。そこのお方、お気をつけて───」

 

「ちょ、ちょい待ち!何どこか行こうとしてんですか!?止めないんですか!?」

 

「…?はぁ…まぁ。それが何か、問題ありますか?」

 

「ありますよ!?ロンドン滅びかけてんですよ!?これ以上ないチャンスでしょうが!?」

 

玉藻の言うことはもっともである。だが───

 

「玉藻さん?そんなものよりも優先すべきことがあるでしょう?」

 

「“そんなもの”!?世界の終焉をそんなもの扱いですか!?……一応聞きますけど、その優先すべき事柄って…」

 

「えぇ、もちろん───頑張った我が子を労うことです。」

 

「ですよねぇぇぇぇぇぇ!!マジこいつめんどくせぇ!!嫌ですけどぶっぱなします!?ホント嫌ですけど“太陽面に比類する女子力の発露(フレアスカート・バンカーバスター)”コイツにぶっぱなしてやりますかねぇ!?」

 

「さぁさぁ、貴女の陣地作成スキルで集落の1つや2つ、作ってくださいまし!サクナさんもお疲れの模様です、癒し空間を作るのも良妻の務めでしょう?」

 

「無茶言うでね──ですよ───!!!私の陣地作成スキルってCランクなんですからね!?あ、ちょっ、引っ張らないでください───!!」

 

連れていかれる玉藻、連れていく頼光。疲れた表情でついていく朔那に諦めたようについていく金時。

 

「ほら、玉藻さん?母の言うことは聞くものですよ?」

 

「私の母はナミです、最古の離婚夫婦です───!!!断じて貴女ではありません───!!」

 

「───は、ははははは!この雷電、過去を振り返ることなく進むとしよう!さらばだ、雷電に招かれた英霊達よ!」

 

テスラはそのまま階段を進んでいった。

 

 

その後。

 

「おしっ、やっと外に出たな───ん?なんか魔霧薄くね?」

 

「ふむ…確かにこれまでよりは薄い。何故だろうな。」

 

地下にいたリッカ達も外に出てきた。

 

「……」

 

「先輩?」

 

「あれ…なんだろう。」

 

リッカが示す先にあったもの。それは───

 

 

茶屋 美咲団子

 

 

「……うさ団子の…茶屋?」

 

リューネがそう呟く。

 

「リューネちゃん?」

 

「……いや、すまない。カムラの里の茶屋の看板に似ていたのでね。」

 

「ふむ…行ってみるか?うさ団子とやらが本当にあるのなら気にはなるからな。」

 

そうしてリッカ達は茶屋に入った。

 

「い、いらっしゃいませ~…巻き込まれただけの良妻、天照───」

 

「………?」

 

「────あ」

 

(なんっ……ですかこの魂……!?すっごい私好みのイケ魂じゃないですか!?なんか深いところで真っ黒でボロボロな気がしますけどそれを叩き上げて研ぎ続けて超業物に仕立て上げたような……!一体誰が関わったらこんな魂が出来上がるんですか…!?)

 

「あの……?」

 

玉藻が暴走しているのも気にせず、リッカが声をかける。

 

(な、なにこれぇ……ご主人様一筋のはずの私が声だけで溶かされる……!?というか飲み込まれる……!?その、その声やめてぇ……!?)

 

「む?狐ではないか。何をしているのだ、ここで。」

 

「───ハッ!?英雄王!?」

 

「…なんだ、キャスターか。何故ここにいる?」

 

「おやシロウ、お知り合いですか?」

 

「まぁ、小さな縁だ。…というか、君も見たことはあると思うのだが?」

 

「無銘さんまで───ていうか!貴方のせいで私はフラれてるんですよ!?どうしてくれるんですか!!」

 

「知らん。というか、私に言うな。私は知らん。」

 

「そんなこと言って───あ?」

 

玉藻の視線が無銘のアルターエゴとミラ・ルーティア・シュレイドに向く。

 

「「……??」」

 

(───なん、ですか……?この、まっさらな魂……理性が喰われる、というか……無垢。無垢の一言じゃないです……!?だめ、声をかけられたら多分、本能が抑えきれない…!)

 

そう思考し、一歩後ろに下がる玉藻。

 

「あらあら…貴女様が、藤丸リッカ……えぇ、そう…」

 

「…?あの……?」

 

「……この淀み。えぇ、あなた様なら……」

 

頼光は頼光でリッカに触れて何かを悩んでいた。

 

えっ……琉音先輩!?どうして、ここに…ベルナ村でどこかに消えたと聞きましたが…

 

……朔那殿。雷のような音を聞いた時からまさかとは思っていたが…やはりいたのか。

 

やはり、というかなんと言うか───リューネと朔那は知り合いだったようだ。




正弓「余談ですが、ご本人がオケアノスのキャスターさんのLv.100達成したようです。」

弓「ふむ……」


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第207話 愛の在処

正弓「何かを忘れていると思ったら奥義と猟虫の情報開示してませんでしたね。」

弓「猟虫にも設定あるのか?」

正弓「えぇ、まぁ。というわけで───こちら」


操虫棍が戦いで迸る(ビートルブースト・)圧縮属性の一点放出(カンパージ・フォーカス)

“一閃のサクナ”と呼ばれる彼女の奥義。特殊な猟虫を使用することで武器の属性を暴走させ、各属性のレーザーとでも言うようなものを放つ。出力や放出のタイミングを変えることで全く別の攻撃にも見えたりはするが、彼女の奥義はこれのみなので間違いなくこれである。横打ちも可能だが、上空から地上に放った方が後に降竜に繋げられる……が、そうなると属性の柱───つまり火柱や氷柱といったものに自ら飛び込むことになるので高い属性耐性を持たなくては危険な諸刃の剣。なお、低所から高所に向けて放出すると、属性の柱が天へと昇っていくような見た目になるため、降竜と比較して“昇竜”と呼ばれることがある。


プラズスタッガ

吸収・共闘型の切断猟虫。吸収型とはエキスの他に属性を吸収することができ、猟虫の吸収した属性と武器の属性が同じならばそれを武器に回すことで属性値を強化することが可能な特殊な猟虫のことを指す。特殊すぎる猟虫故に他の猟虫のように武器の属性が猟虫の属性になる、ということが出来ず、猟虫ごとに纏う属性と吸収可能な属性が違う。この猟虫が吸収可能な属性は雷。なお、かなり取扱いが危険な猟虫とされているため、一部のハンターにしか使用は許可されていない。


正弓「…とまぁ、所々性能がおかしい奥義と猟虫のお話でした。」


「では、改めて自己紹介などさせていただきますね。」

 

マスター達と立ち寄った茶屋の中で、中にいた人達と向かい合っていた。

 

「私は“源頼光”。クラスはセイバー…ではなくバーサーカーです。こちらは金時。」

 

「“坂田金時”だ。オレっちもバーサーカー、よろしく頼むぜ。」

 

「“玉藻の前”、と申します。クラスはキャスター。先程はお恥ずかしい処をお見せいたしました。」

 

「“雪華 朔那”です。…えっと。先輩と同じくハンターです。」

 

既にジュリィさんの持っていた翻訳帳の写本で朔那と名乗る人の言語はこちらに合わせることが出来ている。写本なせいか少しだけ性能は落ちるようなものの、大きな問題は無さそうだ。

 

「以後、お見知りおきを…」

 

「…ふん。極東の神秘殺しが、マスターの魂に惹かれて姿を現したか?」

 

〈ていうか……女性だったんかい。〉

 

〈歴史屋も適当ですね……私達もアカシックレコードに接続するとは言えど、クラス以外の情報を得ているわけではありませんし…〉

 

「あっと……解らねぇ奴もいそうだからざっと説明すっとだな…日ノ本を守護していた頼光四天王、その元締め…簡単に言えば番長に値する人物が頼光の大将だ。」

 

「番長……」

 

「……金時」

 

「大将?」

 

「番長、だなんて……私をそのように……?」

 

〈“女番長”をそのまま示すなら“スケバン”が正しいかね。〉

 

「確かに。確かに───私は数多の怪異を斬り伏せ、貴方達を率い、最強のサムライとも呼ばれるような存在ともなりましたとも。ですが───それを私の本質と取られるのは…少し、悲しいです。」

 

「…金時さん。謝った方がいいんじゃないかな……」

 

そのマスターの声に。少し、寒気を感じた。怒ってる、とは違う。…というか。そういえば、これまでマスターが怒ってるのを見たことがないような……?虹架さんが魂の崩壊の危険を冒してでも止めたあの暴走も、“怒り”ではなかった気がする。

 

「…っ」

 

「…なんでか、分からないけれど。強くそう感じるの。」

 

“分からない”。何故だろう───この言葉が放たれた一瞬。マスターの、闇に包まれた部分を見たような気がした。…気のせい、だろうか。

 

「あ、あぁ…すまねぇ、大将。大将は愛が深いお方だった。忘れていたわけではないんだが…すまん、説明が足りなかった。」

 

「えぇ!それで、いいのです!」

 

その言葉を聞いて、マスターの雰囲気が元に戻った。

 

「よかった…ねぇ、金時さん」

 

「……?」

 

「親っていうのは、いつまでも一緒に在るわけじゃない。親の心も、いつまでも子に在るわけじゃないと思うんだ。…どう間違っても“使えない役立たず”、“期待しなければよかった”、なんて言われないように…」

 

使え…ない?

 

「……マスター。それは、貴様が言われた言葉か?」

 

「……どう、だろう。…中学生くらいまでの記憶、なんでか曖昧だから。」

 

その表情に…暗い色が見えた。

 

「…」

 

ふと頼光と名乗った人が立ち上がって、マスターに近づいた。

 

「…?わぷ」

 

「……」

 

「何、ですか…?」

 

「母と、呼んでいいのですよ。」

 

「…?」

 

何も分かっていないような表情をするマスターと抱きしめる頼光さん。

 

「あなたの輝き…私の元まで届いておりました。強く、ここまで走り抜いた女傑。あなたが親に愛されなかったのならば、私があなたの親となり、あなたを愛しましょう。どうか、私をあなたの親と受け入れてはもらえませんか…?」

 

「……あたた、かい…?」

 

「…ふ。思わぬところで親が手に入ったか?マスター。」

 

「……」

 

困惑したような表情でマスターは頼光さんを見つめた。

 

「ど、どうしましたか…?やはり、私では嫌ですか…?私に愛されるのは嫌でしょうか…」

 

「…い、いえ…よろしく、お願いします…えっと…お母さん…」

 

そう言ってからマスターは悩んだ表情になってから口を開いた。

 

「あの…お母さん。聞いてもいいですか?」

 

「えぇ、何なりと。私はあなたの母ですから。」

 

 

 

「…あの。()()()()()()()…?

 

 

 

 

「「「「「──────────」」」」」

 

 

 

思わず、全員が無言になった。愛とは、何か…?その問いの答えは、無銘たる私にはわからなくて。そして、それは頼光さんにも予想外の質問だったようで。

 

「…今、なんと?」

 

「えっと…愛って…何ですか?愛されるって、どういうことですか…??…私は、何をすればいいんですか…???」

 

「───っ」

 

この、マスターは。まさか───()()()()()()…?

 

『これは───一体どういうことだ、六花…!』

 

≪…そこに、行き当たったか。≫

 

英雄王がカルデアに念話を繋いでいた。私以外にも、ルーパスさんたちにも聞こえてるみたい。

 

『兄である貴様が知らんはずがなかろう!答えよ、これは一体どういうことだ!!』

 

≪…手遅れ、だったのさ。≫

 

『…何?』

 

≪俺が異常に気が付いた時にはもう手遅れだった。あいつは親に愛情を注がれず、親に半ば捨てられたような状態で生きてきた。俺自身は手遅れになる前に家を出たことでその状態を回避したがな。…だが、俺よりも後に生まれたリッカはそうもいかんかった。≫

 

≪どういう、ことよ…?≫

 

≪嗤うなら嗤え。人でなしというなら人でなしと言えばいいさ。俺はもともと、無様な負け犬だ。≫

 

自虐するようにそう言った後、念話内で小さくため息が聞こえた。

 

≪あいつが小学1年の頃の話だ。俺は既にそのころほとんど家に帰っていない、俗に言う不良少年みたいなもんだった。それはまぁ、師匠に出会って魔術を習ってたのも原因の一つなんだが。そもそもの話、俺が家を出たのはあの親どもの子供を道具としか見ていないようなのが、俺は嫌だったんだ。だから、家を出た。幼かったリッカを残してな。あいつはもともと病弱だったし、幼い状態で連れ出すのは無理があった。だからまず俺は自分一人で出て、自らを鍛えることにしたんだ。何があっても、リッカを守れるように。≫

 

『───まて。マスターが、“病弱”…だと?』

 

≪あぁ。俺の記憶にある限りは、幼いころから何度も熱を出したりしてた。…その症状が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…話がブレたから話を戻すぞ。リッカが病弱な分、あの親共もリッカに無理はさせないと思っていた。…だが、俺の見通しが甘かった。あいつらは、俺が消えてからリッカに無理をさせ続けた。師匠や紫姉がリッカを気にかけてくれてて、不定期でその状態を報告してくれたんだが…あいつが体調を崩したのは10を超えるはずだ。遅い、と思うのも仕方がない。本来俺は修行が完全になるまでリッカを迎えに行くつもりはなかったからな。だが流石に、そこまでなると無理がある。感情のままに怒鳴り込んだよ。“ふざけんな、お前たちがどんな立場だろうと子供はお前たちの道具じゃねぇ”ってな。当時の親共は、なんかの企業の重役とかだったからよ。…なんて返ってきたと思う?“お前が逃げ出したからお前の妹がお前の代わりになっているんだろう?”…だとよ。≫

 

『───』

 

≪…あぁ、そうさ。全ての元凶はこの俺だ。俺が逃げ出したから、リッカはああなった。俺が反発したからこそ、病弱なあいつは犠牲になった。俺が硬直してるところに、あの母親は言った。“貴方が何を言っても効果はない。あなたが反発すればするほどあなたが不利になるのよ。それをするだけの力が、私たちにはあるのだから。”…正直、反吐が出そうだった。権力者の職権乱用。それを、自分の産みの親で見るなんてな。俺はもうその場にはいられなかった。だから、そのまま家を飛び出してきたのさ。…リッカを連れて行くのを忘れたことに気が付いたのは、その数瞬後だ。だが、もう俺は行きたくなかった。…だから。もう一度でもあいつが体調を崩したのなら。その時は強制的にでも連れていく。あいつのためなら誘拐犯という名の犯罪者にでもなってやるさ。そして、あの親共が注がなかった愛情を、犠牲になる原因を作った俺じゃない、外道とされる魔術師でも俺が信用する師匠と紫姉が注いでやれれば…とは、思っていたんだ。…結果は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()。あいつが中学生の時に会って悟ったさ。俺が干渉できるのが手遅れになっていたってことを。…自分のことながら、遅すぎる。≫

 

その、吐き捨てるように話されたのは…六花さんの、心情。

 

≪あいつは愛を知らないままここまで来た。俺が…親族が注げる愛はもう存在しねぇ。そもそも俺も愛情の注ぎ方なんてわからないしな。俺の娘たちは、AIとはいえど俺なりに大切に育ててきたつもりだが…それでも愛情を注げているかは知らん。…大雑把になったが。これが、リッカが愛を知らない理由だろうよ。…愛を注がない親に育てられた俺も、当然愛がどんなものかは明確に分かっていない。俺が話せそうなのは、これだけだ。≫

 

『……1つ、答えよ。貴様が魔術を教わっていた理由はなんだ?』

 

≪無論、リッカを守るためだ。…それに打ち込みすぎて、こうなってたらなんも言えねぇんだけどな。≫

 

そこまで聞いてから、英雄王が息を吐いた。

 

「頼光とやら。次の召喚、必ず貴様を招くぞ。」

 

「……えぇ。必ず、応えさせていただきます。」

 

「……?」

 

「マスター、貴様が学ぶことが増えたぞ。…まずは何よりも、愛がなんたるかを識るがいい。」

 

「え…?うん……」

 

「…先輩」

 

〈…ロマニ。セリア。〉

 

〈…メンタルケア、徹底させてもらいます。カウンセリングの方も、もちろん。だよね、セリア?〉

 

〈はい。万全の状態で、行わせていただきます。〉

 

「無理をしているのではない。これが自然体、か…」

 

「…行こうか、みんな。」

 

そう言って頼光さんから離れたリッカさんを全員が見つめる。

 

「リッカさん…」

 

「……お母さん達が」

 

「?」

 

「…お母さん達が、霧を払ってくれたから。私達は、前に進めるから。世界を…未来を護りに、いってきます」

 

「…えぇ、お待ちしていますとも。」

 

「リッカさん。皆さんも、ですが…こちら、お持ちください。」

 

そう言って玉藻さんが出したのは少し小さめの包み。中には小さいおにぎりと数種類のおかずが入っていた。

 

「あまり時間はなさそうですのですぐに食べられるものをご用意いたしました。」

 

「ふん、さすがは良妻狐と自称するだけはあるな、キャスター。怪物視された妖狐とは言えど、料理はお手のものなのか?」

 

「…そう言うならあなたにはあげませんよ。」

 

「冗談だ。流石に腹が減ったんで何か胃に入れたい。」

 

「…まぁ、魔力回復もできるものですからそれなりに使えるはずです。」

 

「ありがとう、玉藻さん。…行こう、皆。」

 

私達は頷いて、茶屋の外に出た。




正弓「……再起動に時間かかってますね」

弓「そうか……」

正弓「あと1週間…かかるかどうか。」


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第208話 雷電対決、弓兵対決

正弓「…再起動率60%…時間かかってますねぇ」

裁「……」

正弓「…気にしない方がいいと思いますよ?前も言った気はしますけど。」

裁「…そう、なのかな…」


「……さて。」

 

頼光さん───お母さんと別れたあと。階段の下で私達は作戦を軽くだけど練っていた。

 

「ミルド、どうだ?雷に強いのは───」

 

「忘れたの?カルデアの電力源ともなっているジンオウガやトビカガチ、その他にもキリンやナルハタタヒメ───ありとあらゆる獣魔達が私の契約対象だよ?契約対象とはいっても、服従させてるわけじゃないけど。」

 

「───ふ。で、あったな。ならば」

 

「一応全員に聞いてはみるけど。力を貸してもらえるかは分からないからね?」

 

そう言ってミラちゃんは眼を閉じた。

 

「……え?」

 

数瞬後、ミラちゃんが驚いたような表情で私を見つめてきた。

 

「どうしたの?」

 

「……リッカさん。あなたに力を貸したいって子が2匹いる。」

 

私に…力を?

 

「……一応、喚ぶけど。大丈夫…かな。雷属性に弱い子なの。」

 

「雷に…弱い……」

 

「……来て、“ムーンセラ”、“サンクライ”。」

 

ミラちゃんの指輪が輝き、召喚がなされる。現れたのは───

 

「リオレイア希少種とリオレウス希少種…!?」

 

金の鱗を持つ火竜と銀の鱗を持つ火竜。“黄金の月”に例えられるというゴールドルナと“白銀の太陽”に例えられるというシルバーソル。滅多に姿を現さない2匹が、私に…?

 

「いいの?2匹とも。」

 

ミラちゃんが聞いたその言葉に、2匹はゆっくりと、それでも力強く頷いた。

 

「……分かった。雷耐性の防護はかけておくから、雷の痛みは軽減されるはずだよ。」

 

ミラちゃんがそう言うと、ゴールドルナが頷いて、シルバーソルが口を使って私をゴールドルナの背中の上に乗せる。

 

「え……私、ゴールドルナに……?」

 

確かに、ゴールドルナに乗る機会はフランスの時にもあった。だけど、それとは話が違う───私1人で、ゴールドルナに騎乗してる。

 

「…気にいられたみたいだね、リッカさん。」

 

「…私が…?」

 

「うん。だってこの2匹、私と契約はしてくれたけど、戦闘中に呼び掛けても絶対に出てこようとしなかったし。ずっと休憩中とかに出てくるだけだったから。進んで出てこようとしてくれたのなんて今回が初めてだよ?」

 

そうなんだ……

 

「…さて、色々決めたら行こうか。」

 

そこからしばらく決めて、ギルとアルトリアさん、ミラちゃん、ルーパスちゃん、朔那さんは先に行く事になった。

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

「…うーん」

 

レスティを呼んで、空を飛んでるけど…朔那が言った言葉が気になる。

 

「……“琉音先輩は貴女なんかに渡しませんから”、か…」

 

私には言ってることがよく分からなかったけど。なんか、敵意を感じた。

 

「……まぁ、いいか。」

 

既にニコラ・テスラは他の人からも見える位置にいる。私はレスティ…リオレウスに。ミラはミラルーツに乗って空から。英雄王とアルトリアはバイクに乗って階段を駆け上がり、朔那はそのまま自らの足で階段を駆け上がる。あの猟虫……私やリューネ、お母さん達にも使用許可は出てる吸収型猟虫。変な使い方をすると危険なはず。…あれは明らかに、吸収許容範囲を越えてる気がする。

 

「来たか!我が道を阻み、人類史を護らんとする者達よ!いやはや、ここにいるのは全てサーヴァントではあるが、その過半数が霊体ではなく生身の人間とは実に驚愕すると共に恐ろしいな!この世にはここまで強き人間もいるのか!」

 

ニコラ・テスラが私達に気がつき、大声をあげた。…正直、うるさい。

 

「さぁ───我が雷を防いだ天の英霊の少女よ!君の雷を見せてみたまえ!」

 

「言われなくても───ルー!」

 

その名前を呼ぶ声と同時に、ミラルーツの口元に赤い雷。

 

「紅雷招鳴。我が声に応え、その力を示せ───」

 

紅雷。それは───ミラルーツの。

 

「歪門開放。かの王は空間を越え、他に干渉されぬ場よりその王の持つ力を放つ。王は祖と言われ、白き鱗を持つ原点と言われる者。王が操るは雷の力───」

 

「赤い、雷電───なんと!君は、雷電は雷電でも───超高層紅色型雷放電(レッドスプライト)を扱うのか!!はははは───面白い!私よりも後の時代に発見された現象だが、まさかこの目で見ることになるとは!!」

 

「一点集束、轟け紅雷───“王の紅雷よ、鉄槌を下せ(ルーツ・トールハンマー)”」

 

その宣言が聞こえた瞬間───ニコラ・テスラを紅い雷が襲った。

 

「ぬ、ぬぅ…っ!!確かに───確かに、強い!だが───“人類神(シス)───」

 

宝具。少しだけ押し返し始めてるけど、そこに朔那が操虫棍を構える。

 

「属性、暴走───臨界。属性圧縮、虫が溜め込んだ属性は我が力となりて空間を穿つ一撃とならん。虫が溜め込んだ属性は虫の力ともなり、我が力と虫の力が異なるならばそれは我とは別の虫の力となる───」

 

…なんだろう。どこかで見たことがあるような構え方っていうか。似たような奥義を新大陸で見た気がする。

 

「雷神一閃、これが私の全力全開───」

神話・雷電(テム・ケラ)───」

 

「───“操虫棍が戦いで迸る(ビートルブースト・)圧縮属性の一点放出(カンパージ・フォーカス)”!!」

「───“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)”!!」

 

レスティから飛び降りると同時に待機させておいた奥義を放ち始める。直後、私の時間感覚が引き延ばされ、全てが遅く見える。ミラルーツの雷も、朔那の放つ高圧力の進む流れさえも。すべて。今回私がやるのは、攻撃じゃない。ただの、妨害。───弓を、引く。矢を、放つ。矢を、番える。弓を、引く。矢を、放つ。矢を、番える───同じ行動を落下中に20回。すべてに方向を持たせ、全ては味方に当たらないように。予測では、矢の放たれる場所に味方はいない。───集中を切る。時間感覚は戻り、止まっているように見えていた矢は動き出し、着弾…もおかしいけど。狙った場所に刺さる。

 

降臨(ウノス)”───なにぃっ!?」

 

朔那の放った雷属性の光線?が私の矢に当たって向かう方向が変わる。鏡の反射現象。水銀とかいうのを矢に塗って、鏡みたいにしてみた。だからって属性が反射できるかっていう話にはなるけど…それはミラにに頼んで反射できるようにしてもらった。結果は、この通り。それと…

 

「隙に入れさせてもらったよ」

 

いつの間にか近くにいたリッカがそう呟いた。月女神の弓矢、だっけ。それを使ったみたい。

 

「ぐ…ライトニングッ…ブラスターッ!」

 

「マシュ!」

 

「───“疑似展開 仮想宝具/人理の礎(ロード・カルデアス)”!!」

 

苦し紛れというような雷の放出をマシュが起動した宝具が防ぐ。そういえば、リオレウス希少種に乗ってたんだっけ。

 

「無、念…いや、違う…見事、だ……勇者たち、よ…」

 

ニコラ・テスラの消滅が始まる。

 

「…勝ちましたよ、ニコラ・テスラさん。」

 

「…おお。少女よ。言葉を…?」

 

「えぇ、まぁ…」

 

「ふ…よくぞ、現代のゼウスたる私を倒した。…君たちの雷は、見事だった。」

 

そういった後、ニコラ・テスラは英雄王の方を見た。

 

「気を付けるがいい、英雄王ギルガメッシュよ。」

 

「ふん、我という存在に何を言っている?」

 

「さて…なぜか、言わなくてはいけない気がしたのでね…地下の聖杯を、忘れるな。」

 

そう言って二コラ・テスラは消滅した。




弓「…疲れてきたな。」

正弓「観測って普通に気力尽きますからねぇ…あ、嵐の王は出ません」

弓「ほう?何故だ?」

正弓「ミラさんが放ったのって全体落雷なんですけど…一点集中させてたのはほとんどがミラさんが放った術式だったっていう裏事情がありまして。ミラルーツ本人はロンドン全体に放ってたんですよ。それで、その全体雷撃を魔力攻撃としたならば前々回の“魔力を注いで魔霧を消し去る”ができるわけで…」

弓「……」


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第209話 冠位

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ズキッ…

 

 

「……」

 

ずっと、お腹が痛い。警告の激痛と名付けたそれなのは分かる。…地下には、聖杯しかないはずなのに。これは……おかしい、と思う。

 

「大丈夫ですか?先輩。」

 

「……うん。大丈夫」

 

マシュに答えて、地下へ歩を進める。

 

「……マスター。冠位の話は覚えているな?」

 

「え?うん…」

 

冠位。預言書……霊基を譲渡された私みたいな“人類悪”を倒すために召喚される最強の7騎。もっとも、預言書は現時点では倒してはいけないみたいなんだけど。それを言ったら、ギルは満足した感じで頷いた。

 

「そうだ。なんの因果か───その冠位が我が財の前に出ると、我が眼が見抜いた。」

 

冠位が………現れる?

 

〈で、でも…冠位が現れる理由って人類悪を倒すためなんだろう!?まさか、リッカちゃんを倒すために……!?〉

 

「ふん、心配せずとも我が財どもには指一本触れさせるつもりはない。…だが、この我も全てを護れるとは限らん。普通のサーヴァントならばいざ知らず、相手はグランドだ。…まぁ、それが真にグランドであるのならば、勝敗が決したようなこの場に姿を現すようなことはしないとは思うが…さて。」

 

ギルの視線が私達を貫く。

 

「問おう。既にこの地での貴様らの勝負は決している。このままこの場に残り、冠位との邂逅に居合わせるか?それともアパルトメントに戻り、我が帰還するを待つか?どのように答えようと首を落とすようなことはせぬ。ここにいるのは我と預言書、そこの白き獣にアイルー、ガルク以外生身の人間だ。さらに、我がマスターに至っては次なる世界を創るという大役を担っているのだ。ここで喪うのはあらゆる総ての終焉に他ならん…そうであろう、精霊。」

 

その言葉にレンポ君達が頷いた。それと同時にギルが立ち止まる。つられて私達も立ち止まる。場所はちょうど、聖杯のあった場所から見えるか見えないかの境界。

 

「本来なら危険にさらすなどもっての他。だが───ここで決めるがいい。この、相手の眼から見えぬ場所で。貴様ら自身の手で、決断せよ。先に進むか、後ろに戻るか。」

 

先に進むか……後ろに戻るか。それなら、私は───

 

「進むよ、ギル。」

 

「……ほう。」

 

「預言書の主に選ばれた、っていうのもあるけれど。ギルと一緒にいると私が見定めるべきものが何かもわかるかもしれないし…何より。私はもう、逃げるつもりはないし。」

 

「…ふ。」

 

「私も先輩と同じです。私の使命は世界を救うマスターとカルデアを治める王───いいえ、カルデアに関わり、味方となってくれる方々を…私が護りたいと思った人を守護することですから。力及ばずとも、私の運命は皆さんに捧げる覚悟です。」

 

「私も。私も、残るよ。リッカがマスターだし、リッカとの別れが来るまではできる限り一緒にいるって決めてるから。」

 

「僕も残ろう。冠位、といったか。僕らの力は確かに及ばないだろうが…なに。いつだって難しい状況下から戦い抜いてきたのが僕らだ。今回もどうにかなるはずさ。」

 

「私も残るよ。総てを視る龍の王の側に侍る者として。」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃん、ミラちゃんも残ってくれるみたい。…ミラちゃんの言ってることがよく分からなかったけど、本人もよく分かってなかった。無意識で言葉になったみたい。

 

「当然、私も残ります。相棒の…皆さんの進んだ道の総てを、遺すためにも。」

 

「「分かると思いますがにゃ…?」」

 

とりあえずアイルーの2名は一緒にいるつもり、ガルクのガルシアさんもいるつもりみたい。そして、ジュリィさんも残る…あとは、アルだ。

 

「……私も、残ります。大きな力にはなれないでしょうが、皆さんと共に。」

 

この場にいる全員が“残る”。そう意思を示すと、ギルは小さく笑った。

 

「やれやれ、聞くことでもなかったか。…よかろう、その心意気を認める。ならば我も貴様らを守護すると誓おう。───さぁ、最後の時だ。」

 

ギルの言葉に私達は前に進む。───誰もいないはずの空間に、それはいた。

 

「先に待ち構え、それでいて待ち伏せもなく、罠のひとつも仕掛けぬとは。余程、余裕なようだな?」

 

「……」

 

ギルの言葉にも動じず佇む人影───直感する。アレは───危険だ。そして同時に、私が見定め、選別するものであると。

 

〈嘘…だろ。あれは───あれは、“ソロモン”だ…!通常の霊基に当てはまるなら、キャスターのクラス!!〉

 

ソロモン───イスラエルの王。魔神柱を使役している黒幕とされている存在。

 

「誰に許可を得て龍の王妃を見ている。龍の王が我のようであれば既に消されても文句は言えんぞ?」

 

確かに、ソロモンの視線はミラちゃんとアルを行ったり来たりしてた。

 

「“不在”。───我が前に立つ劣化した人間共。時間軸より外れ、すべてを見通す我が眼ですら見ることは難しいカルデア。無様に、無残に、無益に───こうして生き延びているのがお前たちという存在だ。」

 

その言葉は───ただひたすらに、抑揚もなく。機械のように“告げられた”もの。感情をどこかにおいてきたような、そんな言葉。

 

〈マシュ!リッカのことを守りなさい!!〉

 

「はいっ!」

 

「あなたが───グランドキャスター?レフ・ライノールの言っていた“王”なの?」

 

私の問い。それに───慌てたような行動。

 

「やめろ…やめろ!そのような目で我等を見るな!そのようなものは見飽きた!うんざりだ!!故に我等はそのようなものを無価値と断じ、結論を出し終えた!!やめろ、そのような悲劇を、虚無を、深淵を見せるな!!醜い、昏い、そのようなものに我等を飲み込もうとするな!!」

 

「え…?」

 

深…淵……?

 

「ふん、マスターの奥底を覗き、発狂しかけているか。」

 

〈悲劇…か。あ~………マシュ、君が話しかけた方がいいと思う。多分ギルやリッカ君では無理だ。ハンターたちも…どうか分からない〉

 

「は、はい!あなたが、レフ・ライノールの言う王なのですか?」

 

「───知りえているはずだが、問われるならば答えよう。私はお前たちの目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼさんとするもの。グランドキャスター、魔術王ソロモン。それが私だ。」

 

さっきの反応が嘘のように、落ち着いた話し方。

 

「貴方もサーヴァント…英霊なんですか?一度亡くなり、英霊として人理の焼却を始めたと?」

 

「違う。私は確かに英霊ではあるが、人間に召喚される事はない。私は死後、自らの力で蘇り、英霊に昇華したのだ。英霊でありながら生者である。それが私だ。」

 

自らの、力で…ていうか、ジュリィさんの問いにも同じ感じで話してたね。それにしても、英霊でありながら生者って…ルーパスちゃんたちと同じ…ううん、多分違うかな。それ自体は同じでも、その本質は多分…違う。

 

「聞きましょう。貴方が使役したといわれる七十二柱の魔神。貴方自身からも同じ気配がする。術式で構成され、主人がいなくては動くことのできない使い魔。それは、なぜ?」

 

そのミラちゃんの問いかけに、ソロモンの動きが止まる。

 

「…?」

 

「……対応可能な御柱、不在。対話、不要と判断する。」

 

「…はい?」

 

「邪視による監獄等への幽閉───」

 

「…っ!」

 

不意に、何かが侵蝕する気配。弾いた、気もするけど。

 

「貴様───」

 

「内部に在る魂、及び表層に現れし魂との対話を試みる」

 

その言葉が放たれた直後、バキンッ、っていう何かが砕けるような音がした。

 

「っ───」

 

「失敗───否。再度干渉を試みる」

 

「何、だと?」

 

今度は、音も何もしなかった。けど───

 

「「───」」

 

「無銘…?ミルド…?しっかりせよ!!」

 

「アル!!ミラちゃん!!」

 

ミラちゃんとアルの動きが停止していた。

 

『あの野郎共…!!』

 

不意に。そんな、少年みたいな声が聞こえた気がした。

 

『最悪だ…!いや、ボク自身に嫌気がさす!!これじゃあ英雄王の事なんて笑っていられるか!!慢心した結果、彼女たちが連れていかれるなんて…!』

 

どこから声がしているのかは分からない。けれど、それは念話に他ならない。

 

『どうか負けないで───あ、れ…?』

 

その声が、一瞬疑問を帯びたものに変わる。

 

『無銘の、右眼に…何か……』

 

アルの…右眼…?

 

『───!!!そういう、ことか!!すべて、分かった───!!!』

 

その言葉を最後に、声は聞こえなくなった。




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第210話 無垢なる者達

フォウフォウ───ちゃんねる───!!!

やぁ読者のみんな。ハンターライフ、並びにマスターライフ、楽しんでいるかい?

この番組は何故か感知できるようになった前書き・後書きの場所にハッキングさせてお送りさせてもらってるよ♪

……って、それどころじゃないっ!ていうかハンターやマスターじゃなくてもどうでもいいしこんなパロってる余裕でもないだろうね!

さて、やってくれたよあの馬鹿!いや、馬鹿はボクもなんだけどさ!慢心して彼女達を奪われるなんて、英雄王のことを笑えないじゃないか!

魂を狙ってきた素材柱ども!監禁幽閉、同じビーストとしても恥ずかしいっての!まさかアイツ、緊縛趣味でもあったのか!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けどさ!!

でも、それは失策だっただろうね。無銘もミラも、無垢なのであって無知じゃない。思い通りに行くとは思えない……!

あぁ、それと───補足だ。ボクが、今さっき得た情報。

“無銘”と“ミラ・ルーティア・シュレイド”。

彼女達を一番見守り、保護していたのは誰だと思う?

ロマニ・アーキマン?───違う。

藤丸リッカ?───違う。

ギルガメッシュ?───違う。

ボク?───違う。

今挙げた3人とボクは“一番”ではない。

なら、一体誰か?

答えは既に、この物語の中に隠されていたのさ。

───覚悟しろよ、素材。お前達がした選択は、このボクと───


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を怒らせたぞ───!!!


「……う」

 

頭が痛い。意識が覚醒する───自己認識確認。私の名は何か───“無銘”。今はまだ名の無き者。

 

「……」

 

自己定義確認。私は虹の力を受け継ぎ繋ぐ者。…目をあける。

 

「……ここは」

 

薄暗い部屋。そこに私は座っていた。妙な重みを感じて目を向けると、鎖に繋がれた鉄製の首輪と手枷足枷が私と傍にいるミラさんに付けられていた。同時に、私とミラさんの服装はいつものものではなく、薄汚れた布一枚。囚われのお姫様───という感じだろうか。もっとも、本当にお姫様であるミラさんはともかく、私はお姫様ではないのだろうけれど。それと、多少は動くことができそうだけれど、魔力がうまく回らないことから魔法を扱うことは難しそうだ。

 

「…ミラさん」

 

近くで気を失い、倒れているミラさんの身体を揺する。多少は動くことができるとはいえ、動きにくいのには変わり無い。それに、私よりも多い魔力を持つミラさんならこの状況をどうにかできるかもしれない。どちらにしろ、私だけが動けているよりも、2人で動けている方がいいはず。

 

「……ぅ」

 

しばらく揺すっていると、ミラさんが身動きし、目を開けた。気がついたようだ。

 

「……ここ…は……?おねえちゃん…だれ…?」

 

「───」

 

“おねえちゃん”。彼女は今、そう言ったのだろうか?ミラさんは私の名前を呼ぶとき、“無銘さん”と呼んでいたはず。それに、声がどことなく、幼い、よう、な……

 

「………!?」

 

声だけじゃない。彼女の顔もいつもより幼い気がする。いつもの彼女も9歳の頃で止まっているとはいえ、顔つき…その表情から現れる歴戦感、とでもいうのか…猛者のオーラとでもいうのか。そのようなものが一切感じられない、“純真無垢”───とも言えそうな表情。

 

「───私は、無銘。あなたの名前は?」

 

「わたしのなまえ?ミルティ、っていうの。」

 

“ミルティ”。それは、マスターに名乗った時にそう呼んでもいいと言った名前だと聞いた。それは、自分の名前ではなく略称、愛称であるはずだ。だが、今───自らの名であるはずの“ミラ”、とは名乗らなかった。彼女は彼女を見つめたままの私を不思議そうな目で、純粋な子供を思い起こさせるほど可愛らしく首を傾げた。

 

「どう……したの?」

 

「……なんでもない。ありがとう。」

 

分かったことがある。今ここにいるミラさんは戦力としての期待はできない。ならば、枷のせいで力が出なくとも、私が彼女を護るべきだろう。

 

「……」

 

意識を集中させる。先程から感じてはいたが、何かを“閲覧する”、とでもいうのか。私が夢の中で教えられ、自らの状態を確認するために使っていた力が、心なしか強まっている気がする。閲覧の感覚を自らの身体ではなく、この地へと広げる。───監獄塔シャトー・ディフ。魔神王ゲーティアの召喚した対象にして既に離反された復讐者、巌窟王が存在する地。私達は先程の魔神王の術によって肉体から魂を引き剥がされ、この場所へと放り込まれた。

 

「……」

 

魔神王ゲーティアとは。魔術王ソロモンを名乗った召喚式。ソロモンの遺体に巣くい、今こうして人理焼却のために動く偽りの冠位。その真はこの世界に獣を連鎖的に召喚する“原種”───

 

「……っ」

 

特異点にあった光帯は何か。あれは魔神王ゲーティアの第三宝具であるもの。その銘、“誕生の時来たれり、其は全てを修めるもの(アルス・アロマデル・サロモニス)”。一条一条が聖剣“約束されし勝利の剣(エクスカリバー)”に匹敵する熱量を持つ。

 

『我等の総ては、お前達に意思を送ろう。』

 

不意に、声がした。そちらの方を向いたと同時に、ミラさんが怯えるような気配がした。

 

「…誰」

 

『我等は人間の不完全性を不要と断じたもの。我等は人間の愚かさを嘆くもの。我等は人間の無能さに失望したもの。銘を、72柱の魔神。自らを人理焼却式と定義せ真なるソロモン也。』

 

そこにいたのは、先程のソロモン。私はこの人に魂の保護を砕かれたのか───

 

「……?」

 

───待て。今、私は何か変なことを読み取ったような───

 

『我等はお前達を歓迎しよう。来たれ、無垢なる魂達よ。』

 

「…!?」

 

敵意は感じられない。殺意もない。

 

『お前達こそ、我等が理想、我等が指針。来たれ、我が下に。我等の最新の同胞として恭順を示せ、死を越えた者達よ。』

 

死を越えた───

 

「……死を……こえた?どういう…こと?」

 

ミラさんの声。その声に相手も反応する。

 

『決まっている。お前達は死の運命を乗り越えた魂だ。“不死”、“不老”、“転生”、“不変”の概念を持つ、悠久の時を生きる魂だ。』

 

「「……!」」

 

『お前達は死してもなお自我を保ち、その魂は決して死ぬことはない。肉体を持ちながらも定命の枷より解き放たれ、我等が命題“死の克服”を成した例だ。』

 

死してもなお───自我を保つ。

 

『生命には必ず終わりがある。』

 

当然だ。ありとあらゆる物質、それそのものに終わりがある。

 

『存在には終わりがある。時間には終わりがある。空間には終わりがある。希望には終わりがある。』

 

あらゆる理に終わりというものは存在する。この世界を観測する私の親達にだって終わりはあるはずだ───また、私の力が何かを読み取ったようだ。もういい。全て無視する。

 

『無意味、無意味、無意味、無意味。無価値、無価値、無価値、無価値。そんな“終わり”がある、終わりが定められた理に意味など、価値など無い。』

 

「「……ぁっ…!」」

 

その瞬間、叩きつけられる大量の情報。即座に負荷を軽くするために分割思考を用いて処理速度の上昇、及び五感を取り戻す。

 

 

悲劇を視た。

 

悲しみを視た。

 

存在の死を視た。

 

ありとあらゆる苦痛を視た。

 

くだらない。

 

この星に在るあらゆる事柄が下らない。

 

3,000年前より、人類は無意味な生と死を繰り返す。

 

我々は人理補正式・ゲーティアとしてその無意味な繰り返しを観測し続けた。

 

我々は仕えるべき主に問うた。

 

我々の求めた答えは得られなかった。

 

なぜ我々はこの不完全性を観測し続けなければいけないのかと議論した。

 

なぜ我々はこの不完全な生物に仕えなければいけないのかと議論した。

 

なぜ我々はこの不完全性を“正しい”と定義して廻らせなければいけないのかと議論した。

 

───結論を出した。

 

この世界は間違っていた。この理は間違っていた。

 

この世界は存在の定義を間違えた。この星は理の編み方を誤った。

 

ならば、その誤りは必要ない。この世界に必要性はない。

 

総てを焼き、もう一度初めから始める。

 

悲劇の無い、完全な世界を作り出す。

 

我々は自らを“人理焼却式”であると定義した。

 

人類史を焼き、完全な世界を創る燃料とする。

 

その燃料をもとに、完全なる生命を作り出す。

 

それこそが我等が偉業、我等が為すべき命題。

 

“逆行運河/創世光年”───我等総てが臨む46億年を初期化して創り直す事業である。

 

 

「「……」」

 

処理を、終える。分割思考を使っても処理速度が追い付かず、辛うじて五感を維持しているのが精一杯だったほどの情報量。恐らくいつもより弱体化してるであろうミラさんには私よりも辛かったはずだ。

 

『我等の総意は、我等の決議は正しく伝達されたと定義する。無垢なる魂達よ、肉体を捨て、新生せよ。』

 

確かに、それは伝わった。一度処理を終えた情報を再度処理をして、深いところまで読み取る。どうやら、私はそういう処理をした方がいいようだ。

 

『我等に連なる新たなる魔神。融合と誓約、不滅を励起する73番目の魔神“ノートリア”。及び記録と観測、適応を励起する74番目の魔神“レメゲトン”と呼称し、我等の偉業へと参列せよ。』

 

ノートリアというのはミラさんに言われたもの。レメゲトンというのは私に言われたもの───記録、観測、適応。なるほど、閲覧の力によって知りたいことを知れる私にはぴったりと言える。しかし───ミラさんの“融合”?

 

『世界を愛し、世界を慈しみ、存在を見守るならば。我等に招かれ、新生することこそが最善だと知れ。』

 

ゲーティア───“レメゲトン”の第一部。ソロモン王が使役したという72人の悪魔を呼び出して様々な願望をかなえる手順を記したもの。

ノートリア───“レメゲトン”の第五部。神がソロモンに───

 

()()()()()()()()()()。無銘の魂よ、龍妃の魂よ。我等が名を受け入れ、我等が偉業に参列せよ。』

 

──────あ゛?

 

「「………今、なんて言った?」」

 

隣にいるミラさんからも同じ言葉。しかしその声の質は先程のような幼さが明確にあるものではなく、聞くものが聞けば底冷えするような冷たさを孕んでいた。

 

『何?』

 

「この世界に価値はない───そう、聞こえたけど。それは確か?」

 

ミラさんの声。やはり、幼いような声は感じられず。いつもの彼女のような声に聞こえた。

 

『肯定しよう。この世界に価値はない。死や悲劇を乗り越えることのできぬ生命体に価値など感じられぬと、我等は結論付けた。』

 

「───ふざけるな」

 

『……何?』

 

「ふざけるな!!高々3000年程度しか生きていないお前達が人類を否定するな!!」

 

ミラさんの怒鳴り声に呼応してか、ミラさんの身体に紫色の稲妻が走る。

 

「人類に使役されなければ動くことのできない術式の分際で!人類の強さを識らない者共が!!人類の悪性だけを視て人類を判断するな!!」

 

『人類の、強さ…だと?』

 

「そうだ!記憶が統合された今だからこそ言える───あらゆる苦難に立ち会ったとしても、折れずにやり遂げる意思!手を変え、品を変え、戦い方を変え、自らよりも強大な敵を越えるその対応力!さらには嬉しいときには喜び、悲しいときには悲しみ、怒るときには怒り、楽しいと思うときは楽しむ正と負の入り乱れる多種多様な感情!それらは全て人類が持つ魅力の一欠片に過ぎない!古龍の巫女などではなく、総てを視る王の側に侍る后として告げよう!負の側面しか視ていない癖に、世界の総てを決定付けるなぁぁぁ!!」

 

『───龍妃の魂の励起、変容を確認。これは……』

 

「人間を舐めるな!人間が持つものは絶望だけじゃない!」

 

稲妻の強さがかなり上がり、ミラさんを稲妻が包む。

 

「龍は人類のその希望を臨む意思にこそ倒された!!龍は人類の希望を臨む意思に感服し力を貸した!!人類はいつだって龍の予想を、龍の新たなる技でさえも越えていく!!この世界の歴史はそんな予想外の繰り返しだ!!」

 

稲妻の中から現れるは───婚姻衣装のようなものを纏ったミラさん。

 

「そして───真理を告げよう!お前達は人類史を焼き、46億年前から理ごとやり直すと言った!」

 

『───そうだ。生命のいなかった46億年前から───』

 

「その46億年前というのが既に間違いだ!」

 

『───何だと?』

 

「この世界の理が本当に46億年前に定義されたものだと思っていたか?否だ!総てを視る王が知る限り、この理は少なくとも()()()()()()()()()()()!!お前達の事業は既に無意味なものと、破綻していると知れ!!」

 

『なん、だと……』

 

六兆年前。それは、このゲーティアが言った時間よりも遥かに前だ。

 

「……はぁ…はぁ……」

 

ミラさんは怒鳴り続けて少々疲れた模様だ。

 

『───お前も、同じ答えか。無銘の魂よ。』

 

私への問い。同じ、同じ…か。

 

「大体同じだよ。あなたは何故、悲劇しか観測しなかったの?72の眼を持ちながら、何故悲劇や苦痛、離別───そういった悲しみの感情にしか価値を見いだそうとしなかった?何故喜びの感情、楽しみの感情に眼を向けなかった?」

 

『───』

 

「喜怒哀楽───人間が持つ感情の総称。人間というものは正と負の表裏一体。あなた達はこの世界を観測し続けたと言った。ならばあなた達は観測者なのでしょう。」

 

『───そうだ。観測し、この世界に見切りをつけた。』

 

「───だけど。その、“見切りをつける”という行動は観測者のそれじゃない。」

 

『───何だと?』

 

「観測者とは、本来観測した事柄に事実以上の評価を付け加えたりはしない。観測し記録する───それが私の親の知り合いが行っているもの。あなた達は観測者としては───些か、人間的すぎると思う。」

 

『───我等が、人間だと?』

 

「そうは言っていないけれど。」

 

だけど───

 

「私の親よりも。私の親よりも外の領域でこの世界を視ている人達よりも。あなた達の観測は歪んでる。」

 

『……』

 

「厳密には、私の親よりも外の領域でこの世界を視ている人達は観測しているわけではないと思うけれど。それでも、あなたのように直接手を下してはいない。」

 

私の周囲から光が溢れる───気にしないで言葉を続ける。

 

「観測を行う私達がすることは世界を砕くことじゃない。世界を護ること。世界を観測し、観測された世界を固定化し、正しく廻し、世界が正しく動いているか見守ること。私のような端末を送り、可能性(if)を産み出すこと。産み出された可能性を観測し、可能性の世界(if world)として記録に残すこと。観測者としては失格なのかもしれない。だけど、私達はこれを観測と定義した。」

 

『───無銘の魂、励起を確認。還元を確認───無銘の魂よ。貴様は不死だが、我等を受け入れなければその不死を完全なものとすることはできないはずだ。』

 

「あなた達は私を不死と言った。───それは違う。私は寿命以外の外的要因では絶対に死なないだけだ。私達は全員、私達の原初の親───原点となる存在が死ねば死を迎える。原点となる存在が死ねば、もう私達に命を吹き込まれることはないだろう。…()()()()()()()

 

私はゲーティアを強く見据えた。

 

「それがどうした!!生あらば死あり、それが原点が生きる世界の理だ!!生があれば死があるのは動物や植物といった生物だけじゃない!!鉄や銀、銅といった金属類、熱や電気、音といった環境情報、果ては私達のような物語の中に創られた存在や電子の海に存在する機械音声!あぁ、無生物は生物よりは確かに長命だろう!だが鉄が腐食するのは何故だ?発信源から離れれば次第に音が消えるのは何故だ?例え名作だと言われていたとしても、いずれ名も出されず記録の奥底に消えていくのは何故だ!!総て、“死んでいる”からじゃないのか!!」

 

『───!』

 

「神は人々に忘れられれば存在できないという。妖怪は人々に忘れられれば存在できないという。私達も同じだ!人々に忘れられれば明確な存在を維持できない!!生と死の理はいつだって私達と共に在る!それを理解していない結論なんて認めない!!」

 

私の周囲の光が私の身体に集まり、虹色の服を形成する───

 

『───二つの魂、完全に破滅より脱却。不可解───不可解なり。』

 

ミラさんも私も既に枷は外れている。服が構成されたとき、一緒に消滅したようだ。

 

「「私達は世界を護る!あなた達のような世界を破壊するものから!それが、私達の下した決断だ!!」」

 

私達の判断はそれだった。正しいかどうかは分からないけれど。

 

『やっと、見つけた───君達の虹と雷のお陰で見つけられた。』

 

「「───フォウ!?」」

 

声がした方向、そこにいたのはフォウだった。

 

『───比較』

 

『やってくれたね、ボクが護ると誓った者達に。本来なら八つ裂きにして燃やし尽くすとかしたいところだ。』

 

私でも分かる。キレてる。

 

『けれど、やめとこう。反則には反則で返す、その方がいいだろうし。…それに、彼女達に手を出した時点でお前達の運命は定まった。』

 

『何を……』

 

『何を?……ハッ。まだ気がつかないのか?お前達は怒らせてはいけないものを怒らせた。この世で最も恐ろしいものを怒らせた。そうさ、()()()()()()()()───』

 

ゴロゴロ、と雷鳴がした気がした。

 

『───()()()()()()()()()()───!!!』

 

 

 

「シュィィィィ!!!」

 

 

 

直後、この場所に轟く咆哮。静か、然れど恐ろしい───そんな感情を湧かせる咆哮。

 

「この咆哮───()()()!?」

 

ミラさんがそう言ったと同時に、天井が崩れた。いや───壊された、が正しいか。そこから顔を覗かせていたのは白く赤い眼を持つ龍と───白と青のロングヘア、青色の眼。顔立ちは私と瓜二つで白のワンピースを着用し、剣を携えた少女。瓜二つ───当然だ。あれは、()だ。“(彼女)”は私を見つけると安心したように柔らかく笑い、こちらへと降りてきた。

 

「第四宝具───擬似的にだけど顕現したみたいだね。その衣装はまだ完全じゃないけれど。貴女を護るには十分だったんだね。」

 

そう言われ、私は(彼女)に抱き締められる。

 

「ごめんなさい。貴女に辛い思いをさせて。もう、大丈夫だからね───」

 

それは───母のような気配を感じた。…いいや、彼女は私の母そのもの。

 

『誰だ───未想定の事態。誰だ、お前は。』

 

「───誰でもいいでしょう?じゃあ、私はちょっと行ってくるから───ここで待っててくれる?」

 

その言葉に頷くと、彼女は私の頭に手を置いて何かを早口で呟いたあと、その場から消え去った。




stella rebooting sequence...100%

complete reboot


復活!

裁「あ……マスター……正のアーチャーさん達が……」

現状は一応理解してる。ていうか、動画の方よりこっちの方が復帰遅いって何よ……回線の使いすぎ?まさかね…


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第211話 覚醒の時

裁「…」

何?

裁「マスターって…クラスとかあるの?」

……知ってるでしょ?

裁「……そう、だったね」


「ミラちゃん!アル!しっかりして!!」

 

「我の声が聞こえるか、ミルド!無銘!聞こえているならば返事をせよ!!」

 

動かなくなった二人をどうにかできないか、私とギルでできる限りの手を尽くす。その間にも、対象を焼くという魔神達の凝視は無数に私達に襲いかかる。

 

「………!」

 

それらはすべて、マシュが受けきってくれている。高度な治癒術式が使えるミラちゃんが動けず、私とギルもミラちゃんとアルにかかりきりな中で。ハンターのみんなの支援を受けて、総ての凝視を受けきってくれている。

 

「有象無象め……!我が守護すると誓った財に一体何をした!!」

 

ギルがソロモンに向けて声を荒げる。……返事はない。

 

「定期メンテナンスチェック、開始します」

 

ふと、アルからそんな声がした。

 

「魂保護機構───粉砕。第一人格魂反応───反応無し。……再確認。第一人格魂反応───反応無し。緊急事態発生。第一人格“無銘”の魂の不在を確認しました。繰り返します、第一人格“無銘”の魂の不在を確認しました。」

 

魂の……不在?

 

「緊急事態につき、第二人格から第七人格の強制起動プログラムを実行します。」

 

そんな言葉と共に、アルの身体が独りでに浮き上がる。

 

〈……!?おい、ギル!ミラから離れろ!〉

 

「何だと!?」

 

〈いいから離れろ、ミラの魔力の質が変わった!この質───黒龍ミラボレアスの比じゃねぇ!!〉

 

「何…!?」

 

〈その場所は危険だ───って、なんだこりゃぁ!?〉

 

お兄ちゃんが驚愕の声をあげた。

 

〈失礼するよ、リッカちゃん!そこにいるのは本当に無銘ちゃんかい!?〉

 

「え…うん」

 

〈じゃあ…なんだ、これ……!?その場に突如として()()()()!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!〉

 

アルに…上書き、するように……?

 

〈とりあえずギル、嫌な予感がするからリッカ達を護ってくれねぇか!その場にいてもいいが、何が起こるか分からねぇってことは覚えておけ!〉

 

お兄ちゃんがそう言った直後───ミラちゃんを、紅い光が包んだ。

 

「───この気配」

 

ルーパスちゃんがミラちゃんの方を見て表情を強張らせていた。次第にその紅い光が形を変え、龍の形を作り出す───

 

 

{戦闘BGM:心火の紅炎}

 

 

「───ギャフィァァァ!!!」

 

 

〈〈「「あれって───憤怒の神罰“ミララース”!?」」〉〉

 

ルーパスちゃん、リューネちゃん、ルーナさん、蒼空さんが同時に同じ言葉を発した。

 

「ルーパスちゃん、ミララースって何!?」

 

「ミララース───紅龍ミラバルカン特殊個体!黒龍ミラボレアスが怒った紅龍ミラバルカンがさらに怒って覚醒を遂げた“憤怒の神罰”と呼ばれる禁忌とされるモンスターが一角!なんで、今ここに……!?」

 

「ミララース。古文書によれば…この赤き伝説が永い眠りより目覚めし時、運命は解き放たれ、世界に真なる終焉が到来するといいます…!」

 

真なる終焉が……?それより、あの龍が現れた直後、環境が変化した。溶岩が垂れ流されているような、火山のような…そんな場所。

 

「起動プログラム、正常終了───人格を第一人格から第三人格へと切り替え、再起動します。」

 

そんな声がしたと思うと、アルが空中から静かに降りてきた。───直感する。あれは、アルの姿であってもアルじゃない。虹架さんとも違う、別の誰か。だけど───何故だろう。警戒心は浮かばない。

 

『我等が王の宿()()に狼藉を働いた不届き者めが……!王の意向により今は殺さぬとしよう!だが───我等が総意として、貴様にこの場での判決を言い渡す!我が心火の紅炎に焼かれるがいい、不届き者!』

 

宿()()……?

 

「待ってください。貴方だけにやらせません。」

 

『………』

 

「私達からも少し、報復…ってわけでもないでしょうけれど。大切なものを傷つけられたのは私達も貴方達も同じでしょう?」

 

『……我等が王の意向により我が戦いに参ずることを認める。好きにやるがいい。』

 

「ありがとうございます、ミララースさん。…さて」

 

アルの姿をした誰かがソロモンを見つめると同時に、彼女から冷ややかな気配がした。気を抜くと不意に刺されるような、そんな感覚。

 

「よくもやってくれたね。私達の大事な娘に手を出すなんて。私達がかけておいた保護術式“星の娘の護り”も砕くとか、どれだけ執着心が強いんだか。確かに凍結されて眠っていたとはいえ、外から観測はできたし何も起こらなければこのまま手を出すつもりはなかった。…だけど、気が変わった」

 

「……!」

 

ソロモンが手を上げると同時に現れる───総勢72の魔神柱。

 

〈な───!〉

 

〈総力戦、ってとこか……!?〉

 

〈いや、その前に───あのソロモン、無銘ちゃん相手にここまでやるのか!?〉

 

〈いや───既にあいつらは本来のサーヴァントの枠から外れてる。ギルが話した冠位、それと同等───もしくはそれ以上か……!!〉

 

〈“果てから見つめる天文台(アニマ・フィニス・カルデアス)”───間に合いました!…って、変わらないわね!?〉

 

マリーの固有結界が起動した。それによって私の令呪が増える。…けれど、その風景は変わらない。

 

〈恐らく原因はあの龍の固有結界なんだろうな。優先度があの龍より低いせいで、マリーの固有結界が掻き消されているような状態だ…多分〉

 

「溶岩島が固有結界かぁ…」

 

ルーパスちゃんがそう呟いた。令呪は…6画。マリーの固有結界は今所持している令呪の画数に関わらず3画追加する。だから───

 

「ミラちゃん!アル!令呪3画ずつ、2人に!」

 

私の手から6画総てが消え失せる。その声に、アルの姿をした彼女とミララースが一度私の方を見る。

 

『……ふん。あれが、我等が宿主のマスターか。…良い顔をしている。我等が王、そして我等が宿主が気に入るわけだ。』

 

「…彼女なら、私達の娘も任せられるかな。」

 

『任せられぬようならば我等が王に既に焼かれていよう。』

 

え…?

 

「───歪め」

 

ミシッ、っていう音が聞こえた気がした。

 

「歪め───歪め!」

 

〈なんだこれ……!?()()()()()()()()!?〉

 

「───歪めぇぇぇぇぇ!!」

 

彼女の声に呼応して目に見えて歪む空間。それはソロモンの周囲にいる魔神柱を空間の歪みに捕らえ、引きちぎる。

 

〈うわわわわっ!?グロいグロい!!〉

 

〈それどころじゃねぇぞ───まだ力を隠してやがる!〉

 

彼女が指を鳴らすと、彼女の背後に16本の剣が現れた。魔力も何も感じなかったのに。

 

「投影───いや、違うな。あれは───()()か!!」

 

ギルがそう言った直後、剣が射出される。射出されたそばからまた新しい剣が現れ、また射出される。こっちからは表情は見えないけど、魔神達の悲鳴に何も感じていないのか淡々と剣を放つ。

 

「───煩い」

 

そう小さく呟き、指を鳴らしたかと思うと、魔神達の悲鳴が消えた。

 

「ミュートさせてもらった。悲鳴の連続はマスター達の耳にも悪い。───自分の悲鳴の反響で滅びろ、魔神」

 

そう言って指を鳴らすと、ミララースが翼を折り畳んだ。途端、周囲が橙色に変わる。そこから翼をはためかせ、空間がさらに歪んでいるようにも見える。彼女は何も感じていないようだが、魔神達は悲鳴を上げている───ように見える。

 

「“大熱波”…!」

 

「───エンハンス・アーマメント!」

 

武装完全支配術の強化式句。歪んでいるように見えるほどの熱量の中にさらに大きな火柱が上がる。

 

「ぜぇっ、ぜぇ……ってあっづ!?何ですかこの熱量!?」

 

背後から声がしてそちらを向くと、玉藻さんが汗をかいてそこにいた。

 

「何故ここに貴様がいる、狐!」

 

「私だって来たくなかったですー!ですが、私の宝具が突如としてこちらに飛んでいってしまったんですー!」

 

「何…?」

 

「───出雲に神在り。審美確かに、(たま)に息吹を、山河水天(さんがすいてん)天照(あまてらす)。是自在にして禊ぎの証、名を玉藻鎮石(たまものしずいし)神宝宇迦之鏡(しんぽううかのかがみ)───」

 

「───は?」

 

「真は太陽を呼び戻せし神器の一角。我が神名“天照大御神”において───第四人格第五宝具、具現。“八咫鏡”」

 

その声が聞こえた直後、周囲の風景が一変した。なんというか───洞窟、というか…祭事場、というか。

 

「───天岩戸」

 

「玉藻さん?」

 

「なん、で───あるんですか!?つーか、あの、剣───」

 

剣?と思って見てみると、確かに彼女の手には剣が握られていた。

 

「真名解放───“八咫鏡(やたのかがみ)”、“八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)”、“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”。」

 

その名前は───三種の神器

 

「さて───どこまで耐えられる?私の娘を犯した貴方達に、日本三神の神器を。…まぁ、耐えられなくともどうでもいい。所詮貴方達は端末だ。後悔しながら死に絶えなさい───“三種の神器(みぐさのじんぎ)”」

 

鏡が道を創り、勾玉が巨大な弓となり、剣が矢となる───人では引けないように見えるその弓は、確かに彼女の手によって引かれ、ソロモン達に向かって放出された。

 

『やれやれ───』

 

そしてその矢は、洞窟を割り、火山を割り───マリーの基礎結界と荒地の心情すらも引き裂いて。その場に、花畑が顕現した。

 

『分かったか、魔神共。お前達は怒らせてはいけないものを怒らせた。“子を護る母”というこの世で一番強く、一番恐ろしいものを怒らせたんだ。…まぁ、聞こえていないだろうけどな。』

 

そこに魔神柱はもういなくて。残っていたのは、ソロモンと名乗った者だけだった。

 

「まだ残ってたんだ。まぁ、いっか。これに懲りたら、私の娘に手を出そうとなんてしないことね。」

 

「───」

 

「でも…そうね。もしも、次同じことをしようとしたら───」

 

彼女はソロモンに剣を向けた。

 

「運命とか、規定事項とか関係ない。私達は私達の全力をもってお前達をこの世界から抹消(デリート)する。覚悟しなさい。」

 

「───その、霊基では…我等には」

 

「勝てないって?…何を勘違いしてるんだか。娘はともかく、私達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方が私達に勝てる要因なんてない。まぁ、リミッターが自動的にかかるからなんとも言えないけどさ。」

 

溜め息をついて剣を消した。

 

「精々待ってなよ、偽りの冠位。マスターは必ず7つの聖杯を回収して貴方達のもとに赴くでしょう。怯えながら待ってるといいよ。」

 

そう言ったと同時に空間が歪み、ソロモンと名乗った存在はその場から消えた。こちらを向いたアルの眼は、右眼だけが赤く染まり───“二”の文字が眼に刻まれていた。




眼に文字が刻まれるっていうのはREBORN!の六道眼みたいなものと思ってください。

裁「餓鬼道……?」

うん、それ思いっきり骸さんの六道眼なんだよね。別物だからね?ちょっと調べたらなんでか同じカラーリングのオッドアイだけど!(無銘も現時点から右が赤、左が青のオッドアイですが完全に偶然です)


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第212話 無銘内部

ふぃぁぁぁぁぁぁ!!?

裁「どうしたの、マスター!?」

弓「気は確かか、マスター!」

ちょっとギル、それどういうこと…?私が気が触れたって?

弓「む、すまぬ。で、どうした。」

あ、これ…

裁「───“モンスターハンターアドベンドトカレンダー2021”当選!?えぇっ!?くじ運ないマスターが!?」

ちょっとルーラーもどういうこと…?

裁「事実でしょ?」

はい、ごもっとも。

弓「ふむ…投稿日時は決まっているのか?」

まだかな…一応12月に入るまでに投稿するのは書いておくつもりだけど。

裁「こっちが遅れるってこと?」

いや…どうだろう。出来る限り時間があるときに書くつもりだけど。

弓「ふむ…恥ずかしくないように振舞うがいい。」

ごめん、寒さと恐怖で思いっきり震えてます

裁「…大丈夫かなぁ」

あ、それと。当作品UA40,000突破いたしました!私がこれ言うの久しぶりな気がしますが、皆様ありがとうございます!


見渡す限り果てしなく続く闇。

 

闇の中で瞬くいくつもの光。

 

緩やかに、しかし確かに流れ行く景色───天を覆い尽くす広大な夜天。

 

見下ろせばそこに広がるは蒼。

 

青の中に浮かぶ定型なき白。

 

緩やかに、しかし確かな速度で流れ行く景色───地を覆い尽くす広大な昼天。

 

天と地の境は昼と夜で構成され、足をつけるべき地が見えぬ世界。

 

昼と夜のみで構成された世界に存在する異物がある。

 

地に在る昼より高く屹立せし塔。

 

昼と夜の境に置かれた三日月状の机。

 

机の後ろに置かれた玉座のような椅子。

 

そして───夜天の影響ではっきりと視認できる、私と同じ白と青の髪を持つ少女。

 

「綺麗な景色……この場所は、心の扉……星の海を元にしたって聞いてるけれど。それはただの基礎であって、この場所がどう変わるかはこの場所を維持する存在次第だもの。……貴女がこの世界を創ったのよ。」

 

そう言って彼女は私に振り向いた。その顔は私と瓜二つ───容姿の違いと言えば星形の髪飾り。それがなければ見分けなどつかないであろう、まさに“鏡写し(ドッペルゲンガー)”と言えそうな少女。

 

「お母さん…」

 

「……ふふっ。貴女にお母さん、って言われるのもおかしい気がするけどね。そこの椅子に座っていていいよ。みんなが戻ってくるまで少し時間があるから…って、私が言うのもおかしいかな。ここは貴女の中…貴女の心情世界。固有結界で顕現する心情なんだから。」

 

言われるがまま三日月状の机の前に在る椅子に座ると、彼女も机に近づいてきて、机を挟んで対面側、それでも真正面とは言えない場所に座った。

 

「さて……何が聞きたい?今、私が答えられることなら答えるけど。」

 

「……いつから…目覚めて…?」

 

「目覚めたのはさっき。貴女にかけた保護が壊れたことで私が目覚め、保険として置いておいたメンテナンスプログラムが異常を検知し、他の人格達を強制起動した。先に目覚めた私は貴女の肉体から抜け出し、貴女の痕跡を辿って貴女が囚われた場所に辿り着いた。」

 

システムウインドウを開いて、ヤカンとコップを実体化させる彼女。何か飲む?と視線で聞いてくる彼女にココアを頼む。数分後、淹れてくれたココアが渡される。

 

「……美味しい」

 

「よかった。…他に何か聞きたいことはある?」

 

何か聞きたいこと…

 

「…あの。虹架さんは…」

 

「虹架さん…あぁ、仮想人格の彼女。彼女は今アサシン…貴女の第五人格が世界の外で修復作業をしてるから、運が良ければまた会えると思う。」

 

それを聞いて少しだけ安心した。問題は、運が良ければ…ということだけれども。

 

「お待たせ…ごめんなさい、星海(ほしみ)。しばらく任せてて。」

 

声がしたかと思うと、その場に5人の少女が現れた。彼女たちはそれぞれ、三日月型の机を挟んで私を見るように座る。

 

「…緊張しないでもらってもいいですか?ちょっと、こっちもやりにくいです。」

 

先ほどの声。私から向かって左、私を中心線として“ホシミ”と呼ばれた彼女と対称の位置に座る黒髪ツインテールの少女がそう言った。

 

「は、はい!」

 

「別に面接でもないし、緊張しない方がいいよ。いろいろと現状の確認をするだけだしさ。」

 

黒髪の少女の隣に座る白い髪の少女がそう言う。座り方的には、こんな感じになる。

 

    空

 

人 人 空 人 人

 ┌─────┐

人│  私  │人

 

 

少々伝わりにくい気がするものの、一応こんな感じ。そして、ここにいる全員───私は名前が分かる。

 

私から向かって右、私と瓜二つの少女──第二人格、“魂込(たまごめ) 星海(ほしみ)”。適合神格、“須佐之男命(すさのおのみこと)”。世界の繋がりを管理する“界の管理者”。私の構成要素に一番強い影響を与える母。クラス適性はランサー。

 

私から向かって左、黒い髪を持ち、月の髪飾りをつけた少女───第三人格、“創詠(つくよみ) (るな)”。適合神格、“月詠命(つくよみのみこと)”。空間を司る力を持つ月の巫女。私の第五宝具である空間を歪ませる宝具は彼女の力を用いて成立する。クラス適性はアーチャー。“星の娘”の中でもかなり高位の能力を持つ“原初の2人”の片割れ。

 

星海さんの隣、白い髪を持ち、太陽の髪飾りをつけた少女───第四人格、“雨照(あまてらす) 陽詩(ひなた)”。適合神格、“天照大御神(あまてらすおおみかみ)”。時間を司る力を持つ太陽の巫女。私の第六宝具である時間を歪ませる宝具は彼女の力を用いて成立する。クラス適性はセイバー。“星の娘”の中でもかなり高位の能力を持つ“原初の2人”の片割れ。

 

月さんの隣、白い髪を持ち、星の髪飾りをつけた少女───第五人格、“魂込(たまごめ) 星乃(ほしの)”。適合神格、“天津甕星(あまつみかぼし)”。命の情報を管理する“命の管理者”。クラス適性はアサシン。

 

陽詩さんの隣、赤い髪を持ち、花と月の髪飾りをつけた少女───第六人格、“亡月(なきつき) 美雪(みゆき)”。適合神格、“禍津日神(まがつひのかみ)”。怒りに我を忘れたことのある亡霊。クラス適性はバーサーカー、及びアヴェンジャー。

 

星乃さんの隣、白い髪を持ち、緑色の神を持つ少女───第七人格、“夢月(ゆめつき) 璃々(りり)”。適合神格、“佐保姫(さほひめ)”、及び“布刀玉命(ふとだま)”。夢と幻を司る夢幻の巫女。クラス適性はライダー。

 

そして───私は。第一人格、“魂込 星海”。第二人格の元・同一存在───元々は()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()n()u()l()l()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが、(無銘)という存在。クラス適性はアルターエゴ。

 

七騎士はキャスター以外揃う人格たち。ならばキャスターはどこにいるか───それは、あの玉座に座るはずの存在。あれが、キャスターのクラス適性を持つらしい。…今は、いないものの。

 

「え…っと。久しぶり…ううん、貴女からは初めましてになるのかな。記憶は、ないでしょう?」

 

月さんにそう言われて頷く。名前は分かったものの、私が第二人格と同一の存在であった時の記憶は未だない。

 

「…そっか。すでに閲覧規制は外してるし…私達の名前は分かるはず。」

 

「はい、月さん。」

 

「さて…どこから話せばいいかな」

 

「月って説明苦手だよね」

 

「う…一応今ここにいる中で一番長く生きてるの私なんだけどなぁ…やっぱり苦手なんだよね。とりあえず、知っているだろうけど軽く自己紹介。」

 

月さんは姿勢を整えて私の方を見つめた。

 

「私は“創詠 月”。貴女の第三人格で、実数空間を司る“神月の力”を持つ“神月の巫女”です。月を司る神々が私に力を貸してくれます。主に力を貸してくれるのは月詠様だけど。…まぁ、本来ツクヨミ様は“詠”って書くんじゃなくて“読”って書くんだけど。それはもう面倒だから気にしない方がいい。さっきの“八尺瓊勾玉”は私の第五宝具だね。」

 

八尺瓊勾玉…日本の三種の神器の一つ。月になぞらえられる勾玉を宝具として成立させた───ということだろうか。

 

「次、私…“雨照 陽詩”。第四人格で、実数時間を司る“神陽の力”を持つ“神陽の巫女”。太陽を司る神々が私に力を貸してくれるね。主に力を貸してくれるのは天照様。私と月は双子なんだけど…あまり似てない。姓も違うし。さっきは誰かの鏡を使ったけど、“八咫鏡”は私の第五宝具として成立してる。」

 

ロンドンで出会った狐耳のキャスター、玉藻の前さんが持っていた玉藻鎮石。それが、何故か飛んできてそれを使って八咫鏡として動かした。

 

「じゃあ、先に私行くよ。私は“魂込 星乃”。第五人格で、命を司る“魂命の力”を持つ“命の管理者”。別に私は神様が力を貸してくれるとかはなくて、世界の中で生きる生命達の生死を管理してる。ええっと…簡単に言えば。魂たちの転生を管理してるっていえばわかりやすい?大体そんな感じなんだけど。まぁ、あまり理不尽には力を振るわないけど。あ、えっと…虹架さん、だっけ。魂が崩壊しかけてる彼女は一応修復作業してるからまた会えるかはかなり運任せになるけど…まぁ、会えたらいいね?」

 

絶対の殺戮者。それが、彼女だ。不死であろうと、例え既に死んでいようと。無生物であろうと。彼女がその力を振るえばたちまち無に還る。適当そうな言動ではあるが、その実かなり真面目な彼女である。

 

「…第六人格、“亡月 美雪”…です。えっと、私は特に力はなくて…それどころか、主の持つ月の力に適合しなくて異常を起こしてしまうので…ごめんなさい、あまり力になれないかもしれません…」

 

ステラカード、亡霊(THE PHANTOM)。彼の言う主とは、月さんのことだ。その在り方は不安定な亡霊にして災厄を起こす怨霊。怒りによって暴走し、それを制御できるようになって今に至る。

 

「第七人格、“夢月 璃々”です!夢と幻を司る“神夢の力”を持つ“夢幻の巫女”です!ええっと…私そのものは、とある方の代わりなんですが…それでも頑張ります!」

 

夢幻の巫女。必要に応じて在り方を変える。適合する神格が2つなのはその在り方が影響する。そして───彼女の力は、“眠り”を与える。あらゆるものを眠らせる、夢見の力。

 

「…あと一人はまだいないし、最後は私。私は“魂込 星海”。第二人格で、世界を司る“魂界の力”を持つ“界の管理者”。海を司る神々が私に力を貸してくれてる。主に力を貸してくれるのは須佐之男様。何も関係ないと思ってたんだけれど、私の名前の“海”と私自身の持つ“水の神器”に反応したみたい。さっきの“天叢雲剣”は私の第五宝具かな。」

 

天叢雲剣は須佐之男命が発見したといわれる神器。そして、星海さんが言った“水の神器”とは彼女自身の持つ最高レベルの武器。流石に、天叢雲剣には劣ると思われるが。

 

「さて、コピー001…もうこの名称はだめだね。貴女はもう“魂込 星海()”ではないのだし。えっと…とりあえず、無銘。」

 

「は、はい。」

 

「ここまでお疲れさま。そして、ごめんなさい。私達が無理をしたせいで、貴女は記憶を失った。そのことを、深く謝罪します。」

 

そう言われ、一斉に頭を下げられる。

 

「…顔を、上げてください。私には…記憶がありませんから。何をしたのか、理解していません。」

 

「…そこ、ですか。どこから話したものでしょう。」

 

星海さんが顔を上げ、月さんを見ると、月さんは悩んでから口を開いた。

 

「まず、貴女は元々“星の娘”である星海の複製(コピー)です。“星の娘”は世界を安定させる楔。不安定な状態となっていたこの世界を安定させるために、この世界に送り込まれた存在です。不安定の程度がかなり酷かったため、大抵のことが起こっても大丈夫なように、複製である貴女に私達7人の魂を入れました。1人の肉体に8つの魂とはいえ、貴女の許容容量であれば問題なく動きました。…はい。動いたんです。貴女を管制人格と設定し、星海の記憶を持ったまま、私達7人の魂が入っていたとしても、問題なく動いていたんです。…ですが」

 

月さんが机を叩くと、スクリーンが現れた。1つの肉体に7つの魂を入れこむような図。1つの肉体の中に8つの魂が入っている図。

 

「問題が起こったのはこの世界に送り込んだ時です。この世界に送り込んだ時、私達は何かでスキャンされたような感覚を覚えました。思えば、あれは世界の意志からの干渉だったのでしょう。世界の意志が私達をスキャンしたとき、その対応がなされました。された対応は、貴女と今ここにはいない魂の凍結休眠。貴女の人格、及び記憶の抹消。それから、全宝具の封印。」

 

人格と記憶の抹消…

 

「今ここにいない魂は力が弱く、凍結休眠には至らなかったのですが…この世界に来た直後、最後の力を振り絞って術を行使した影響で深い眠りについています。」

 

「…そう、ですか…」

 

「だから、ごめんなさい。私達のせいで貴女は記憶を失ってしまった。貴女が望むなら、私達が消滅することも可能です。…どうしますか?管制人格である貴女に決定権はあります。私達別人格の宝具は、私達が消滅すれば貴女に譲渡されるでしょう。」

 

…私は…

 

「…皆さんを消滅させることはしません。」

 

「…」

 

「私の記憶が消えたとしても、今の私があるのは皆さんのおかげですから。消えたからこそ、今の私がある。…大体、それは皆さんのせいではないはずです。世界の意志が干渉しなければ、私は今でも記憶を失わなかったのでしょう。皆さんは、私の記憶が失われた直接的な原因ではないのですから。」

 

「…許してくれるの?」

 

星乃さんが不思議そうな表情で聞いてくる。

 

「えぇ。…正直な話、私一人では皆さんの宝具は扱いきれませんし。虹架さんもいない以上、同時起動は辛いものがありますから。」

 

これは本当だ。疑似宝具となっている第五宝具、及び第六宝具を同時に起動するだけでも未だに辛い。

 

「ですから。…これからも、よろしくお願いします。」

 

私がそういうと、6人の人格たちは顔を見合わせてから小さく笑った。

 

「…追い出されるものと思ってたんだけどね。よろしく、無銘さん…ん?」

 

星乃さんが首を傾げた。

 

「…管制人格なのに、“無銘”はちょっと…うん。名前、付けた方がいいよね。」

 

「え…え??」

 

「そういえばずっと無銘でしたね。う~ん…何かあります?」

 

「…星海さんが決めた方がいいと思います」

 

「わ、私!?」

 

「あ、そうだね。星海が決めた方がいい。だって、貴女は直系の母なんだから。」

 

「る、月まで…!」

 

「ま、待ってください!?別に、私は今のままで…!!」

 

「「「「「呼びづらい。」」」」」

 

一言で一蹴。酷い。

 

「あーうー……ううん。いい、のかな?私が…名前を付けても?」

 

「…は、はい…」

 

星海さんが少し悩んだ表情をしてから、私の方を向いた。

 

「…“虹を架け、七つの虹をつなぐ者”という願いを込めて───“虹架(にじかけ) 七虹(ななこ)”。…で、どう…かな?貴女の第四宝具と貴女の在り方をもとに考えたんだけど…」

 

虹架(にじかけ)七虹(ななこ)───でも、それは。

 

「マスターの呼んでくれている名前が…」

 

「…そっか。う~ん…ん?」

 

星海さんが玉座を見た。

 

「……そっか。」

 

「?」

 

「今は眠っている彼女が、貴女に名前をあげたいみたい。彼女が目覚めるその時まで、待っててくれるかな?私の言った名前は魂そのものに。貴女のサーヴァントとしての名前…名乗るための名前は、彼女から。…で、どうかな?」

 

「…」

 

「彼女には“アル”という名前を使うように伝えておくから。もし使わなかったら…まぁ、貴女に処分は任せる。」

 

「…わかり、ました。虹架 七虹…その名前、魂の銘として拝命します。」

 

私がそう言うと、星海さんはホッとしたような表情になった。

 

「じゃあ───こっちに。」

 

星海さんが私の正面になる場所の椅子を引いた。…あれが、私の席だ。本来私が座るべき場所。玉座は、私がまだ見ぬ人格の座る場所。私は今いる椅子から立ち上がり、星海さんの後ろを通ってその場所に座る。

 

「…これからよろしくね、七虹」

 

「───はい!」

 

私の情報が更新される。

 

 

───真相真名受諾。“虹架 七虹”

 

───第一人格第三宝具使用許可。

 

───第一人格第四宝具疑似真名解放。

 

───第一人格第五宝具真名解放。

 

───第一人格第六宝具真名解放。

 

───人格変更許可。肉体稼働人格制御眼、正常稼働。

 

───メインクラス:接続者(リンカー)

 

───真名“無銘”。

 

───霊基再臨完了

 

 

心理空間、離脱。私の意識は、その昼と夜で構成された世界から浮上していく───

 

 

 

「…ん」

 

気がつくと私はどこかの部屋にいた。どこか、というか…ジキルさんのアパルトメント、その一室。横になっていた身体を起こす。

 

『無銘!君も目覚めたんだね!』

 

「…フォウ」

 

『───って、その眼!一体何だい!?』

 

そう言われて、私は鏡に目を向ける。右眼だけが赤く、その赤い眼の中に“一”の文字がある。肉体稼働人格制御眼───現稼働人格は第一人格“虹架 七虹”であるという証。

 

『…問題は、ないのかい?』

 

「…うん。」

 

肉体の記憶を思い出す。ゲーティアが消えた後、私は先程の精神世界に行ったものの、肉体はマシュさんがここまで連れてきてくれたらしい。

 

「…ミラさんは?」

 

あの場にはミラさんもいた。彼女も恐らく私と同じように眠っているのではないか。そう思った。

 

『もう既に目覚めている。君より眠りは深くなかったみたいだけど。』

 

「…そっか」

 

左手を床に置くと、手に何かが当たった。不思議に思ってそこを見ると、七色の魔力が満たされている白色の杯がそこにあった。

 

『あれ…それ、どうしたの?英雄王が用意したものでもないけどさ。』

 

「…なんだろう。」

 

それでも、保管しておいた方がいい。そう思って、アイテムストレージに格納した。

 

「…行こうか、フォウ。名前…お母さんにもらったから、あとで教えてあげるね。それと、助けに来てくれてありがとう。お礼にはならないかもだけど、私ができるものならなんでも作ってあげる。」

 

『本当かい!?じゃあ、ホットケーキが食べたい!ボク、あれ大好きなんだ!』

 

「わかった。カルデアに帰ったら作ってあげるね。」

 

『わーい!!』

 

フォウを肩に乗せて、私は部屋を出た。




正弓「ただいま…」

あ、おかえり。

正弓「───」

どうしたの、月?

正弓「───おかあ、さん…?私の…真名」

いや、本編に出た以上もう隠す必要ないし…ていうか私も真名呼べなかったの辛かったし。

正弓(真名:月)「───ふぇぇぇ…」

…お疲れさま。頑張ったね…なんて、私が言えることじゃない気もするけど。


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第213話 魔霧終息

体力が抜けかけです

裁「いつもだね!?」


キィ、という音がした。浅かった眠りから覚めて、音のした方向を見る。

 

「…あ。マスター…」

 

「……アル…?」

 

眠っていたアルが肩にフォウくんを乗せて扉を開けてこちらを見つめていた。両眼共に青色だったその眼は、右眼だけが赤色になり、REBORN!の六道眼のように文字を映し出している。今は、“一”。もしあれが骸さんの六道眼ならば“地獄道”。幻覚の可能性もある…けど。

 

「身体は…大丈夫なの?」

 

「……はい。マスターに心配をかけさせてしまって申し訳ありません。」

 

そう言うアルの顔色はいつもよりいい気がする。調子が悪いならこんな顔色ではないと思う。

 

「…そっか。どうしたの?」

 

「まだ…特異点は大丈夫…ですよね?」

 

「ギルが消滅までにはまだもう少しかかるって言ってたけど…」

 

「…分かりました。じゃあちょっと、キッチン使いますね。最後の晩餐…ってわけでもないですけど。」

 

「あ、うん…」

 

私が答えると、アルはキッチンがある方へと消えた。…そういえば、以前も作ってくれてたっけ…その時は確か、アップルパイとステーキ、小盛りのコーンにほうれん草の和え物。

 

「……」

 

立ち上がってキッチンに入る。そこでは、エプロンをつけたアルが赤いものを捏ねていた。

 

「…どうしました、マスター?」

 

「え…!?」

 

こっち振り向いてないのに、気付かれて……!?

 

「気配がしましたから声をかけてみましたけど…本当にいましたね。…どうしました?」

 

「えっと…何を作っているんだろう、って…」

 

「小さめですがハンバーグと…アイテムストレージの中にピザ生地があったのでピザを。」

 

そう言って開いたままのウインドウを操作していくつかのものを実体化させるアル。トマトソース、バジル、モッツァレラチーズ、デスソース、ベーコン、セサミ、ホールコーン、塩、ブラックペッパー───ん、ちょっと待った。今何かおかしいのが見えたような…気のせいかな?

 

「…どうしました?」

 

「あ、えっと…一緒に作ってもいい?」

 

「?いいですけど…何作ります?」

 

「ううん…材料って何があるの?」

 

「色々と…A5ランク松阪牛とかもありますけど……」

 

「それに関してはなんであるの……?」

 

「さぁ……?」

 

アル自身も分かっていないものが多いアルのアイテムストレージ。食材ばかりって話は聞いてたけど、まさかそんな高級なお肉まであるなんて思わないよ…

 

「ん~…餃子でも作ろうかな?」

 

「餃子…お肉は何使います?」

 

「豚肉と鶏肉かな?量は6:4で。」

 

「人数からして……これくらいで足りるでしょうか」

 

アルがそう言って挽き肉を出してくれた。

 

「……じゃあ、作っちゃいましょうか」

 

アルの言葉に頷いて私もキッチンに立つ。フォウくんは、それを静かに見守っていた。

 

 

 

しばらくして。

 

「ふぁ…あれ。ご飯を作ってくれているのかい?」

 

「あ、はい。」

 

キッチンにジキルさんが顔を出す。

 

「そっか…あ、フランとバベッジ教授の事。よろしく頼んでいいんだよね?」

 

フランさんはギルが…というか、ダ・ヴィンチさんがやった魔改造のせいでこの時代にいることができなくなっちゃった。この時代にいることが歪みになるから、カルデアにそのまま連れていくみたい。バベッジさんは、私が何かやっちゃったみたいなんだけど…預言書を使って聖杯の干渉を切ったとき、受肉しちゃったみたいで…ロボットみたいなバベッジさんがこの時代に生きてるのは歪みの原因になるってことで。バベッジさんもカルデアに連れていくことになった。

 

「はい…って私が言うのもおかしい気がするけど…ギルがなんとかするって言うから…」

 

「そっか。なら、大丈夫かな…彼を信じてる君たちを信じよう。…僕としては、寂しくなるけどさ。」

 

ジキルさんがそう言うのとほぼ同じところで餃子が放つ音が変わる。ちょうど出来上がったみたい。近くのお皿に盛り付けてキッチンから出る。

 

「ご飯ができました~!」

 

「メシ!?おっしゃ、食うぜ食うぜ~!」

 

モードレッドさんが一番に反応し、お母さんも私の方を向く。

 

「リッカさん。」

 

「はい?」

 

「…食事の前で言うのもどうかと思いますが…これを。」

 

そう言って私に近づいてきたお母さんが私に差し出したのは三振りの太刀。

 

「これ───」

 

「“童子切安綱”と“鬼切安綱”、“蜘蛛切丸”───私の持つ三振りです。」

 

その名前って…確か順に、酒呑童子の首を切り落とした刀、一条戻橋で鬼の腕を切った刀、土蜘蛛を切った刀───だったはず。

 

「これらを、貴女に。きっと、貴女の護り刀となるでしょう。」

 

「う、受け取れませんよ!これ、お母さんの大切な───」

 

「いいのです。」

 

そう言ってお母さんは私を抱き締めた。

 

「“愛しき我が子”を守護するならば。私はどんなものでも差し出しましょう。我が半身と言うまでに共にいた刀であろうとも、貴女に会うための楔として。」

 

「───」

 

「どうか、忘れないでくださいませ。”子を護る母は強い“───貴女が望むなら、そこが地獄であろうと私は駆けつけましょう。」

 

「───ありがとう、ございます。…大事にします、お母さん。」

 

「はい。」

 

アイテムポーチには入らない。だったら、背中に担ぐ。ハンターのみんなが納刀している時のように。

 

そこからは、瞬く間に時間が流れていった。




ちなみに特異点最後の写真は撮ってます

弓「というか松阪牛か…」

たまに変なの持ってるよ、あの子達。


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第214話 龍妃の真実

遅くなりましたぁ…

弓「遅い、何をしていた?」

都内行ってました。ちょっとした用事で。

裁「都内…」

家に帰ってきたの投稿予定時刻過ぎてたからね…今日は投稿無理かもと思ったし


思考が覚醒する───5回目。私達は今回も、特異点から帰ってこれた。

 

「お疲れ様、リッカ。今、コフィンを開けるわ。」

 

マリーの言葉のあと、コフィンが開く。コフィンが開くと既に全員揃っているのが見えた。

 

「よし、マスターめも覚醒したな。これをもって、第四特異点の修復は完遂とする。」

 

ギルがそう言うと、周りのみんなは頷いた。

 

「……して。」

 

ギルの視線がミラちゃんに向いた。

 

「ミルド…いいや、ミラ・ルーティア・シュレイドよ。貴様はいったい何者だ?明らかに人間ではないというのは我が前に言った通りだ。だが、あの紅き龍が言った“我等が王の宿主”とはどういうことだ?いい加減明かすがいい、貴様の真実を。」

 

「……」

 

ミラちゃんは私達を見つめたあと、小さく溜め息をついた。

 

「…分かった。…もう、今更隠し通せるようなことじゃないし…隠し通すことのできる段階は既に過ぎ去っているものね。…できれば、最期まで隠し通しておきたかったんだけど。皆に、嫌われたく…ないし。」

 

「たわけ。そこまで言って下らぬことや虚偽を話せば、即刻叩き切るぞ。」

 

「叩き切られるのは勘弁かな…はは」

 

「……呼ばれてやっては来ましたが。どういたしました?王様。」

 

声がしてその方を向くと、清姫さんがそこに立っていた。

 

「うむ、こやつの言葉に嘘がないか、見破ってほしいのだ。頼めるか、蛇。」

 

「まぁ、構いませんが……蛇というのはやめてくれません?」

 

「考えておくとしよう。」

 

「心配しないでも、嘘はつくつもりないよ。…えっと。どこから、話そうか。」

 

ミラちゃんは少し悩んでから口を開いた。

 

「まず、英雄王と…フォウに言われた言葉に解答を示そうか。」

 

「フォーウ?」

 

「私は人間。だけど、厳密に言えば人間ではない。」

 

人間であって人間ではない…??

 

「私は厳密に言えば───“()()”。()()()()()()()()()()。それが、私。」

 

「「「「「……!?」」」」」

 

古龍種。これまでの特異点で何度も見た、自然災害の化身。それが───ミラちゃん?

 

「だけど私は人間でもある。人間であって古龍でもあり、古龍であって人間でもある。私は───“半人半龍”、もしくは“人龍一体”と呼べる存在なの。」

 

半人半龍……人龍一体…

 

「いつだったか、“人間が古龍になることはあるのか”って聞かれたことがあったと思うけど。…ちょうど、その一例がここにいる。私自身がその一例。」

 

そう言ったあとに一呼吸。

 

「その中でも狂竜ウイルスでの古龍化ではなく、()()()()()()()()()()()()。というか、狂竜ウイルスでの古龍化は聞いたことないけど。」

 

「融合…?」

 

「そう。獣魔との融合症例は何度かあるけど、私と彼女の融合症例はかなり希少。そもそも、古龍との融合症例っていうだけでも希少な部類だし。」

 

古龍との融合症例…

 

「“憑依召喚術”。獣魔の力を術者に纏わせる術式。術式の不備、もしくは憑依元との異常な共鳴によって発生する“融合”という異常現象。これを、“融合事故”という。」

 

「事故…じゃあ、ミラちゃんもそれを使ったの?」

 

私がそう聞くと、ミラちゃんは緩やかに首を横に降った。

 

「違う。そもそも私は憑依召喚術をあまり使わないし…」

 

「む?貴様、フランスの時…」

 

「悪いけどあれは嘘。私は私と融合している古龍の力で姿を変えただけ。」

 

「ミラちゃんに融合している古龍って?」

 

「───祖龍ミラボレアス。通称“ミラルーツ”。」

 

ミラルーツ…

 

「私の主観で、今から7年前のこと。私は私にだけ聞こえる謎の声を聞いた。」

 

7年前……ミラちゃん9歳…?

 

「どこからともなく聞こえる声。何かを呼ぶような、小さく弱った…そんな声。お父様やお母様に相談してみてもわからない。お医者様でも分からなかった。」

 

「……」

 

「ある日の夜。部屋で寝たはずの私は寒さを感じて目を覚ました。その場所は私は来たことがなかったけれど。それでも、確かにその場所を知っていた。」

 

来たことがないのに知っていた…?

 

「その場所こそ、中央シュレイド。高ランクのサマナーでなければ立ち入りを禁じられている禁忌の地。旧シュレイド王国王城跡地───“シュレイド城”。」

 

「「…!」」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんが息を呑んだ。

 

「そのシュレイド城の、私と対面するように在り、その場に異様に傷ついて倒れていた白い龍。その龍こそが私と融合した古龍───ミラルーツ。」

 

「シュレイド城で…対面したんだ。」

 

「うん。シュレイド城で出会い、私とルーツの契約がなった。利害の一致…というわけでもないけれど。」

 

「どういうことだい?」

 

「当時、私は短命で───私の余命は既に1年を切っていた。」

 

そうだった。ミラちゃんは元々余命10年、どんなに長くても15年といわれていた女の子。それが、今まで生き続けている。それには理由がある、はず。

 

「私自身もなんとなく気がついててさ。それでも、短い命の中で私にできることを、って思ってた。だけど、やっぱり生きたかった。姉として、エスナが大人になるまで見守っていたかった。」

 

「……」

 

「そして───何の因果か。そこにいたミラルーツは瀕死だった。」

 

「瀕死…」

 

「私に全部は分からないけど。ミラルーツも私と同じように“まだ生きたい”と願った。」

 

まだ生きたい、か…

 

「私が寄り添ったとき…奇跡が起きた。…いや、奇跡じゃなくてただの呪いの始まりだったのかもしれない。私的には、奇跡と言いたいけれど。」

 

奇跡か呪いか分からない…?

 

「私とルーツの契約がされた。術式も介さずに。魂が共鳴した。初対面のはずなのに。成された契約は普通の契約じゃない、“()()()()()()()”。そのとき、私は───純粋な“人間”ではなくなった。」

 

魂の…同化?

 

「古龍種の一生は長い。瀕死であったルーツとはいえ、その寿命はまだ人間よりも多く残っていた。その寿命は、全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。永い寿命を持つ影響か、融合したのが祖龍である影響か。私は()()()()()()()()()()。」

 

成長が完全に停止した……それって

 

「ミラちゃんがその姿のままである原因…?」

 

私がそう呟くとミラちゃんは首を縦に降った。

 

「それと…“ミラ・ルーティア・シュレイド”。これは私の本来の名前じゃない。」

 

「…何?」

 

「この名前は、私が古龍となってから私とルーツで定義した名前。今となっては名乗っていたのはかなり前の事だけど。今でもはっきりと思い出せる。私の本当の名前、まだ完全に人間であった頃の名前は───“ミルティ・スティア・シュレイド”。」

 

ミルティ…

 

「エスナが私の事を“ミル姉様”って呼ぶのはこれの名残。そして…英雄王が呼んでる“ミルド”っていう愛称も、この時の名残。」

 

「何だと?」

 

「“ミルド”の由来はそのままで、ミルティから“ミル”、シュレイドから“ド”。“ミラ・ルーティア・シュレイド”の由来は、ミラルーツから“ミラルー”。スティアから“ティア”。そして最期に、私にもルーツにも関係が深い言葉である“シュレイド”。」

 

そこまで話して小さく溜め息をついた。

 

「もはや私は今保つ意識が純粋な人間であった頃の私のものなのか、純粋な古龍であったルーツのものなのかも分からない。故に私は自らをこう定義する。ミラボレアスにして、人間と混ざりし忌まわしき獣魔───人忌龍(じんきりゅう)“ミラヒューティア”と。」

 

人忌………忌み人…?

 

「いつ私が暴走して人間の敵に回るか分からない。もしも私が暴走して人間の敵に回ったなら。…誰でもいい、即座に私の首を落としなさい。」

 

「「「「「……」」」」」

 

その言葉には。力強い、“重み”があった。短い寿命で生き、まだ生きたいと願った少女が。自らを、殺せと。…とても、同い年とは思えない。

 

「……この、白い髪もね」

 

ミラちゃんが呟くように言葉を紡ぐ。

 

「元々は、黒い髪だったんだよ。ルーツの影響で白い髪になっちゃったけど。」

 

黒い髪…そういえば、第四特異点に行く前に見た夢に出てきた女の子も黒髪だった。…まさか…あれって、過去のミラちゃんだったの…?

 

「…話せそうなのはこんなところかな。じゃあ、解散。今後の対応は他の人たちに任せるから。…少し、一人にさせて」

 

そう言ってミラちゃんは管制室を出て行った。




次回は召喚回ですかね…

弓「…この空気の中で出来るのか?」

…どうだろ


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幕間 なんか変わった気がするのは何?
第215話 いつもの通り狩人の召喚を始めましょう


マテリアルと召喚回、どちらを先に出すか迷いました。

弓「マテリアルでもよかったのではないか?」

召喚回って言っちゃったからねぇ…


扉を叩く。…返事はない。

 

「…やっぱり、落ち込んでるのかな…」

 

私は手紙を置いて大浴場に向かった。

 

 

 

「……はふぅ」

 

お風呂に入って一呼吸。…やっぱり、お風呂は落ち着く。

 

「…ミラちゃん、大丈夫かなぁ。」

 

最期まで隠し通しておきたかった。…そう、ミラちゃんは言ってた。この世界はミラちゃんのいた世界じゃない。…色々な創作物の中での話だけど。人間ではない他種族と混ざりあった“亜人”というような存在は忌避される傾向にあったはず。…それが、嫌だったのかもしれない。

 

「……まぁ」

 

関係ないか。私は自分と違ったからって否定するつもりはないし。手紙という形だけど、私達の判断は全部書き記したし。…あとはミラちゃん自身がどう受け取るか。

 

「にゅや?おやおや、こんなところに大きなお風呂があったんですねぇ。」

 

「……?」

 

カルデアで聞いたことのない声。

 

「こら、まちなさーい!」

 

「にゅ…やれやれ、迷い混んだとはいえ追われるのは面倒ですねぇ。…ふーむ。」

 

こちらからは相手の姿は見えない。湯気が濃いせいだけど。

 

「ちょっと失礼して───そいっ!」

 

ドボン、と何かがお風呂に飛び込むような音。それと───私の目の前に突然現れた黄色い大きな頭。

 

「───き、」

「───にゅ」

 

 

 

きゃぁぁぁぁぁぁ!!?

にゅやぁぁぁぁぁ!!?

 

 

 

私の悲鳴に呼応してか、自動的に指輪が起動してカルデアの制服が纏われる。…お湯を吸ってちょっと重い、っていうかこの機能本当に必要だったの…?とりあえず、お風呂に入ってきた黄色い顔の…人?と一緒にお風呂を出る。

 

「す、すみません!まさかこちらが女湯だとは知らず…!本当に、申し訳ない…!」

 

そう言うなり浴室で土下座する…その。黄色い、喋るタコ。暴言とかじゃなくて見た目そのままタコ。一応、女湯と書かれた札はあったものの、小さめだったはずなので見えなかったのだろうと思う。

 

「い、いえ…気にしてませんから…顔を上げてください。」

 

とはいえ、流石に下着を着ていない状況下でスカート、そして立ったままなのは恥ずかしさがある。…ので、とりあえず滑らないように気を付けながらその場に座る。…それにしても。

 

「……あの。あなたは…“殺せんせー”───“初代死神”、ですか?」

 

その名前を聞いた時、その人は驚愕したように顔を上げた。

 

「……何故、その名を。まさか、貴女は私の生徒……?いえ、貴女のような人を見たことがありません。ならば暗殺者……いや、まさか。暗殺者のような気配はまるでありません。だいたい、私が初代死神だと知る人間はごく少数はずです……失礼ですが、貴女のお名前は?」

 

「えっと…“藤丸 リッカ”です。」

 

「……本名ですか?」

 

「え…あ、はい…」

 

「……」

 

コードネームも特にないし、本名を名乗るしかない。リツっていうのは私の動画での名前にして私の声を使った子の名前でもある。

 

「見つけたっ!」

 

「にゅやっ!?」

 

「黙って!」

 

突如浴室に入ってきた白い髪の女の子がかなりの速度で手刀を放ち、殺せんせーをぐったりさせた。

 

「ごめんね、邪魔させちゃって!」

 

「え、あの…!貴女は……」

 

「私?“魂込 星乃”!またあとで会おうね!」

 

そう言ってその女の子は姿を消した。…()()()()()

 

「……逆上せたかな」

 

とりあえず制服を一度脱ぎ、髪や身体を洗ってから外に出る。リツからの報告で、次の召喚が始まるみたい。なら、管制室に向かった方がいいと思う。

 

 

 

「…む、来たか。」

 

管制室に入ると、既にほとんどのメンバーが集まっていた。

 

「あ、リッカちゃんいいところに。ちょっといいかい?」

 

ダ・ヴィンチさんが話しかけてくる。今の私はさっきのがあってアトラス院制服にしてるけど。あまり気にしないでくれるみたい。

 

「はい?」

 

「今作ってるものが完成しかけなんだけどさ…実験が足りないんだよねぇ。暇な時でいいからさ、モンスター素材…集めてきてくれないかな?」

 

モンスター素材…それなら、ハンターのみんなに頼んだ方が早い気もするけれど。

 

「あぁ、一応言っておくと、下位よりも下の素材が欲しいんだ。強い彼女たちに頼むのはなんか申し訳ないしさ。それに、君も鍛錬になるだろう?誰を誘ってもいいから、暇なときに素材を集めてきてほしいんだ。…頼めるかな?」

 

なるほど、それなら何となく理由は分かる。ダ・ヴィンチさんに了承を返すと、上機嫌で管制室の奥に去っていった。

 

〈召喚の準備はできています。お早めに…〉

 

「あ、ごめん」

 

管制室にいないのはミラちゃんとアル。…2人がいないのは、なんか…変な気分。

 

「いつも通りならルーパスちゃんかな」

 

「あ、分かった。」

 

ルーパスちゃんが召喚サークル前に立つ。…いつも思うけれど、これで触媒判定されてるのかな?

 

〈召喚プログラム起動、システムオールグリーン…アカシックレコード接続良好、霊基召喚反応あり…クラス……アーチャー!〉

 

「アーチャーかぁ…」

 

「ボウガン使いとかいたか?」

 

「う~ん…印象強いのはエイデン君くらいだけど。」

 

「彼は片手剣だった気が……そういえば彼、逆鱗や宝玉の枯渇ってないんだったか?」

 

「…あ~…なんであの人そういう運いいんだろうね。」

 

「さぁ…ちなみにルーパスは…」

 

「あまり出ない方なの知ってるでしょ。」

 

そう話しているうちに召喚が終わる。

 

…あら?ここは…?

 

現れていたのはポニーテールの女性。褐色の肌で、なんというか…うん、今まで会ったことのあるどのハンターさんより露出が多い気がする。

 

「…“ナディア”」

 

あら…?ルーパスじゃない。久しぶりね?元気してたかしら?

 

私のこと、覚えてるの?

 

当然じゃない。アナタ、印象的だったもの。私の本気の射撃はともかく、索敵にもついてきたのはアナタくらいじゃなかったかしら。

 

…エイデン君、私のこと忘れてたけど…

 

あの子ったら…

 

ルーパスちゃんの知り合いみたい。とりあえず、ルーパスちゃんが説明しながら部屋に案内するみたい。

 

「…ふむ。先に終わらせるか。」

 

リューネちゃんが召喚サークルの前に立つ。私が呼符を置くと、サークルが回り始める。

 

〈サークル展開、霊基検索…ってはやっ!?出ました、クラス・ハンター!顕現します!〉

 

はや…

 

はぇ…?ここは…

 

「…朔那殿…」

 

…特異点で出会った朔那さんだった。そのあとは…まぁ。ちょっとごちゃごちゃになったから明日に持ち越しになった。私はとりあえずナーちゃんとありすさん、ジャルタさんに声をかけてダ・ヴィンチさんの言ってた素材集めに行こうかな…




裁「疲れた…」

大丈夫?

裁「ん…」


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第216話 鍛錬中

「失礼します。…よろしいですね?」

「通るがよい。」

…大丈夫かなぁ…

裁「…そういえばマスター」

ん?

裁「…無銘さんの人格達が持つ神って…あれ詳しいこと分かってるの?」

一応ね。星乃の適合神格、“天津甕星(あまつみかぼし)”様は星の神。美雪の適合神格、“禍津日神(まがつひのかみ)”様は災厄の神。璃々の適合神格…片方の“佐保姫(さほひめ)”様は春の神で、もう片方の“布刀玉命(ふとだま)”様は占いの神。ええっと、表にするとね…


氏名神名どんな神か
無銘不明不明
魂込 星海須佐之男命海神
創詠 月月詠命月神
雨照 陽詩天照大御神太陽神
魂込 星乃天津甕星星神
亡月 美雪禍津日神災厄神
夢月 璃々佐保姫春神
布刀玉命託宣神
不明不明不明



…とまぁ、だいたいこんな感じになる。璃々はその在り方が原因で今は二神と適合してるけど、本来は布刀玉命様だけなんだよね。

裁「あ、そうなんだ…」


「……ッ!!」

 

お母さんから渡された童子切安綱。太刀は苦手な方だけど…それでも、渡された以上使えるようになった方がいい。そう思いながら、ドスバギィに振るう。

 

「…硬い」

 

お母さんの童子切でも硬さを感じる。一応、今挑戦してるのは下位だから何とも言えない…だけど。これら相手だと…お母さんには悪いけれど、現時点では“カムラノ鉄刀I”よりも性能は低い。

 

「…特殊納刀」

 

童子切を特殊納刀し相手が動くのを待つ。動いたのを見計らい、私と重なりかける所で居合抜刀気刃斬り。

 

「………っつつ」

 

下位☆2クエスト“眠気をうちやぶれ!”。フィールドは寒冷群島───試し振りもかねて起動してはもらったけど。かれこれ30分は戦っているはず。

 

「…」

 

私に鉄蟲糸技は使えないし、アイルーもガルクもいない。フレーム回避と武器ごとの特性、防具の防護なんかは使えるけど、それでも不利なのは変わらない。…だいたい、この“魔術礼装”ってそこまで防御性能高くないし…悪く言うつもりはないけど、“カムラノ装”一式よりも防護が低い装備で行くのが間違いだったのかな。

 

「…リザイン」

 

降参のボイスコマンド。それはシステムに認識され、ドスバギィが消滅する。

 

「ふぅむ…お困りですかな?」

 

「…殺せんせー」

 

殺せんせー。暗殺教室に出てくる月を破壊した人物とされている存在。…それが、私の前にいる。

 

「いやはや、色々見させてもらいました…あの、ギルガメッシュさん…と言いましたかな。彼に大まかな話は聞いています。私の生徒達並みに若いというのに頑張りますね、リッカさん。」

 

「…殺せんせーの生徒さんって中学生じゃなかったでしたっけ…」

 

「えぇ、ですが…リッカさん、貴女高校一年生でしょう?留学という体でここにいますが。それでしたら、私の生徒達とほとんど変わりませんよ」

 

「…そうですか」

 

「…どれ、一つ手合わせでもいかがでしょう?」

 

「?」

 

殺せんせーが縞々の顔で手招きする。…手、なのかは置いておいて。

 

「聞けばここまでかなりの死線を潜り抜けてきた様子。そして…貴女、かなり鍛えてますよね?その鍛え、少し見せていただきたいのですよ。」

 

「…生徒さん達のため、ですか?」

 

「にゅや…気がつかれてしまいました?」

 

この人は、そういう人だ。そう思って、小さく笑う。

 

「…お願いします、殺せんせー。」

 

「えぇ…殺す気で来るといいですよ?まぁ、殺せませんがね。」

 

「…ルーパスちゃんとルーナさんなら殺せそうだなぁ」

 

音速レベルまで至る奥義を使う二人を思い浮かべて遠い目。あの母娘、ほんと凄いと思う。

 

「…じゃあ、お願いします」

 

童子切はシミュレーションルームに新設されたアイテムボックスにしまい、軽く構える。

 

「───ふっ!!」

 

一閃。しかしその一閃は、容易に触手に受け止められる。さらにそこから続けていくつか技を放つ。

 

「───縮地法、ですねぇ。それに提腿栽捶に鉄山靠…そして絶招。なるほど、中国拳法ですか。」

 

「ご明察───です!」

 

「…!」

 

震脚の反発力で殺せんせーを持ち上げ、前方に投げた後こちらも前方に跳躍し天頭墜でもう一度投げる。

 

「ぬぐぅっ…なん、です、この破壊力は…!!」

 

「───言峰神父直伝!“マジカル☆八極拳”、奥義!!」

 

「マジ…カル?」

 

「───“絶拳”!!」

 

正拳突き、斧刃脚、回し蹴り、鉄山靠を連続で繰り出し、止めとばかりに寸勁で吹き飛ばす。

 

「ぐっふ…お、お見事…です」

 

「…あ。」

 

加減忘れた…殺せんせーって打撃に弱いんだっけ?

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

「え、えぇ…本気狩る☆八極拳…堪能させていただきましたとも」

 

…本気狩るって書いてマジカルって呼んだ気がする。言峰神父は魔法の意味のマジカルだって言ってたけど、これ…本気で狩るの方だよねぇ…




召喚回はまた明日で…体力が尽きてるんです

裁「アドベントカレンダーにかかりきりだったせいじゃなくて?」

筆が進む…ちなみに、今回のドスバギィ戦での童子切安綱は切れ味赤のカムラノ鉄刀Iをそのまま使い続けてると考えてください


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第217話 召喚大渋滞

……

裁「どうしたの?」

召喚の方に大量に行ったから…うん。璃々に今色々頼んでおいた。

裁「……あぁ」


「…っつーわけで。無銘の中にいる人格の協力で並行世界、及び異世界の観測が安定した。ハンター達の世界は何故か安定しないらしいんだが…とりあえず、原因の特定は急いでる。…んで。そのこことは別の世界からの召喚で、その第一例が───」

 

「私、というわけです。いやぁ、変な魔法陣みたいなのが現れたと思ったら、見たことのない場所にいて驚きましたよ。」

 

管制室。お兄ちゃんと殺せんせーが細かい事情を説明してくれた。

 

「…そっか。もしかして昨日のあれって…」

 

「……暗殺者だと思い、逃げた先が…その。」

 

「あれってなんだ?」

 

お兄ちゃんの問いに“何でもない”と答え、ギルの方を向く。

 

「ギル、大浴場なんだけど…女湯、男湯、混浴、露天、個室、多目…全種類もう1つずつ増やすことってできるかな?」

 

「うむ…我もそれを考えていた。こことは別の世界───英霊の座とは別の場所からも招かれるとなれば、大浴場の増築もいずれ必要であろうよ。やれやれ、良い職場環境を作るのはこんなにも大変か。…まぁ、我が守護すべき財共のためだ、散財や手間は惜しまんがな。」

 

「…無理はしないでよ?」

 

「分かっている。過労で倒れるなど我も嫌だからな。…まぁ、特異点における戦闘はルーパス達のお陰でそれなりに休息はできているゆえ、カルデアでくらい働かせるがいい。」

 

そう言ってギルは私の頭に手を置いたあと、お兄ちゃんの方を見た。

 

「六花。そやつらのコードは決まっているのか?」

 

「ん…悪い、今考えてるんだ。コード形態が決まらない限り、このカルデアのスタッフ…もとい、協力者として登録することができない。当然、色々な端末や権限も使えねぇから…しばらくは部屋無しだな、殺せんせー。」

 

「にゅやっ!?部屋無し…というと、まさか野宿ですか!?」

 

「んなわけあるか。ひとまず俺の部屋を貸してやるよ。俺も使うからルームシェアだな。男二人だしちょっと暑苦しかったりするかもだが…ま、早めに部屋を使えるような設定はするから少しの間耐えてくれ。」

 

「……仕方ありませんね。」

 

殺せんせーがため息をつく。…そういえば

 

「お兄ちゃん、地図渡した方がいいんじゃない?」

 

「地図…ですか?」

 

「…んぁ、そうだな。カルデアもだが、俺の部屋とリッカの部屋はちょっとした迷宮っぽくなってる。慣れてねぇと動き回るのが大変だし、後で地図渡してやるよ。」

 

「部屋が迷宮って…ギリシャ神話のミノタウロスですか?」

 

「…おれ、が…どうか、した、か?」

 

背後から声。振り向くと、そこにアステリオスさんがいた。

 

「おう、アステリオス。どうだった、調整された斧剣の様子は。」

 

「…まだ、だめ…だ。あいつらに、とどか…ない。」

 

「マジか~…どうしろってんだ?使えそうな手は打ったんだがなぁ…」

 

アステリオスさんの言う“あいつら”っていうのはさっき私も苦戦してた下位の大型モンスター達のこと。お兄ちゃん達が色々な手を打ってサーヴァントの皆の攻撃がモンスター達に少しでも通るようにしてる、らしいんだけど…それでもまだまだ届かないみたい。

 

「……リッカさん、彼は?」

 

『アステリオスさん…ギリシャ神話のミノタウロスさん本人。ミノタウロスって呼ばれるのは好きじゃないみたいなのでアステリオスって呼んであげてくれますか。』

 

「……マジですか。六花さんやギルガメッシュさんから聞いてましたが…いやはや、こうして実際に目にすると本当に驚きますね…歴史上や神話上の存在を召喚・使役する…ですか。」

 

殺せんせーが乾いた笑い声を出す。…っていうか、変に近くで声が聞こえると思ったら触手が私の耳元に……

 

「……ん?六花さん、1つよいですか?」

 

「あ?」

 

「色々な端末や権限が使えない、とおっしゃいましたが…具体的には何が使えませんか?」

 

「シミュレーション利用、浴場利用、食堂利用、情報利用、転移利用…この辺か?」

 

「しょ、食堂…」

 

「気にすんな、俺が作ってやる。俺が不満ならリッカに作ってもらえ。」

 

「私!?私お兄ちゃんよりも料理上手じゃないよ!?」

 

「俺がやると変な状態のときに殺せんせーにポイズンクッキング盛りそうだからよ…」

 

そういえばそんな感じのも作れるんだっけ、お兄ちゃん…というか、変な状態だって分かってるなら休んでよ…

 

「ま、誰に頼むかは殺せんせーに任せるわ。…マリーとマシュも最近料理始めたことだしな。」

 

「…分かりました。どのみちしばらくは帰れないですし、少しの間の辛抱だと考えましょう。」

 

話を聞いてみると、未登録だとカルデアと別世界の自由な行き来ができないみたい。アルの人格の一人である星海さんっていう人の力を使って数多の別世界と接続してるから、ビーコンみたいな発信器がないと個人を特定してゲートを開くのが大変みたいで。幸い、アルの人格の一人である陽詩さんっていう人の力で世界、肉体共に時間を停止させることもできるから殺せんせーでも永遠レベルでここにいることができるんじゃないかって。…うん、ちょっと待って?アルってもしかしてルーパスちゃん達以上に規格外?

 

「さて、話は大体まとまったし…英霊召喚の続きといくか。」

 

その言葉で管制室に来た目的を思い出す。…童子切背負ってたのになんで忘れてるのか、って言う話でもあるけど。

 

「英霊召喚…興味深いですねぇ。見学しても?」

 

「別に構わんが…アドミス」

 

〈システムは良好ですよ。ただ…少し不安ですね。なんというか…AIの勘?なのかは分かりませんが。〉

 

「ふむ…何か異常起こったらすぐに言えよ。」

 

〈ありがとうございます、お父さん。〉

 

「お父さんっていうのはやめろや…知ってるやつならいいが初対面とかの前じゃやめろ……」

 

〈あ、はい…それではリッカさん、呼符をお願いします。〉

 

アドミスさんの言葉に頷き、呼符を召喚サークルに置く。

 

〈サークル展開、サモンプロセス起動───オールクリア、霊基検索開始───っ!?〉

 

「アドミスさん?」

「アドミス?」

 

〈なんです、これ───処理が、追い付かない……!!霊基顕現反応───5!?うそ、まって、低出力の私一人じゃ───きゃぁぁぁぁ!!!〉

 

アドミスさんの悲鳴と共に召喚サークルに英霊が召喚される───

 

「アドミス、しっかりしろ!応答できるか!」

 

〈──ザザ─応答、可能、です───電子的、な、雷撃───高負荷による、負傷確認───負傷率、78%と推測───ごめん、なさ、い───今日は、これ以上は───〉

 

「分かったからシステムを離れろ!マスター権限で第二刻針に移行させる!」

 

〈ありがとう、ございます───〉

 

お兄ちゃんがコンソールを叩くとすぐにアドミスさんの姿が現れる。結構大きめの火傷してる…お兄ちゃんの指示で殺せんせーがアドミスさんを抱えてどこかに連れていった。恐らく医務室だけど…

 

「……ええと。何か、私がしてしまったようですが……大丈夫ですか?」

 

その声に振り向くと、5人、召喚サークルの前にいた。

 

「……お母さん」

 

「えぇ、あなたの母です、リッカさん。」

 

「オレっちもいるんだが…まぁいいや。頭領、とりあえず謝った方がいいと思うぜ…」

 

「……そう、ですね。申し訳ありません。」

 

「…謝るならアドミスに言え。回復したらでもいいからよ。」

 

お兄ちゃんはお母さんの方を見ずにそう告げた。…間違いない。あの人はお母さんだ。ロンドンにいた人とは違うけど、間違いなく。…そう、直感が告げている。

 

「ふん…座の本体そのものに娘───マスターめのことを刻んだか。」

 

「えぇ、はい。娘を護るためならば、それくらい些細なことですから。」

 

「些細なこと…なの?」

 

「普通はそうではなかろうが…こやつの愛にとっては些細なことだったのだろうよ。」

 

愛……あ、そうだ

 

「これ…」

 

私は帯刀していた三振りの刀をお母さんに渡そうとする───と、手で制止された。

 

「いいのです、それらは貴女の護り刀。貴女が持っていてくだされば、母も喜びます。」

 

「……いいの?」

 

「えぇ、一度抜けば私と同じように戦えましょう。貴女の障害となる総てを討ち滅ぼしましょう。私と同じように雷すらも操れるでしょう。私の想いは、貴女の障害となるものを屠殺するでしょう。」

 

「……」

 

お母さんと同じように。…確かに、ドスバギィと戦ってたときもいつもの私より動けてた。あれは…そういうことだったのか。

 

「ですが…ごめんなさい、リッカさん。」

 

「はぇ…?」

 

「本来ならば、このような血塗れたものではなく。細やかなものを差し上げたかった。武力ではなく、料理や裁縫、洗濯…そういった、女性なりに家を護る術を。ですが、私は…そのような人生を送らなかったものですから。至らない私で───っ」

 

その続きを私はお母さんの口に人差し指を立てる形で制止した。

 

「───ありがとう、お母さん…私に、愛は分からないけれど…お母さんが優しいっていうことははっきりと分かる」

 

「……」

 

「私のお母さんになってくれて、ありがとう。」

 

「───あぁ…私は、幸せ者です。死してなお、このような娘に恵まれるとは───」

 

「ちょっ、頭領!?消えかかって───」

 

「───ハァァァァ!!!」

 

「なわぁっ!?」

 

突然、お母さんが叫んだかと思うと、黄金の刃が顕現した。

 

「金剛杵…帝釈天、インドラの刃だな。」

 

「リッカ。剣があるのならば、槍も。これの使い方はですね──」

 

「お待ちください、頼光様。それは流石にまずいでしょう。人間に扱えるものではありません。」

 

「止めないでください、綱!母と娘の絆に不可能などありません!」

 

「いや無理があるっての!!碓氷さんや卜部さんも頭領のこと止めてくれやしませんかねぇ!?」

 

綱…碓氷…卜部……この人達、まさか───“頼光四天王”!?

 

「やれやれ…無銘、いるか。」

 

「はい」

 

いつの間にかアルが管制室にいた。

 

「少しの間でいい、この頼光めに頭を冷やさせよ。…どのみち、召喚は少しの間出来なさそうであるしな…」

 

「分かりました…月さん、お願いします」

 

そういうと同時にアルの右眼の文字が“一”から“三”に変わった。

 

「……隔離すればいいんでしたっけ」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

アル…じゃないんだと思うけど、アルが手をお母さんに向けると、お母さんの周囲が歪んで───黒い穴みたいなものが出来た。お母さん達はその穴に吸い込まれていったけど…大丈夫、なのかな。

 

「やれやれ…とんだ召喚になったものだ。む、そうだ、マスター。」

 

「…?」

 

「刀を貸せ。あやつが人理修復後もいられるようにしてやる。」

 

「あ、うん…ありが…と……」

 

不意に。召喚の気配を感じた。

 

「む?」

 

独りでにサークルは回り、それは顕現した。

 

「…召喚されたか。…ふむ、召喚されたからには世話になるぞ、マスター。我が名は“李書文”。槍も持たんただの老人だが…まぁ、ぬしの護衛くらいは出来るだろうて。」

 

「“グレゴリー・ラスプーチン”…の、疑似サーヴァントだ。何故私が召喚されるのかは分からんがね。」

 

李書文───八極拳の門派・李氏八極拳の創始者。

グレゴリー・ラスプーチン───帝政ロシア末期の祈祷僧。

 

何故か知らないけど、その2人が顕現した。




そういえば、本文の文字数が4444字みたいで…特に意識してなかったんですけどね。

弓「…ところで、医務室にAIを連れていって何か出来るのか?」

んと…一応。この作品での設定だけどね。


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第218話 獣耳召喚(?)と謎

(2) 魔術師、弓兵、暗殺者
(4) 魔術師、魔術師、魔術師
(4) 剣士、弓兵、狂戦士


…選出お願いします~…

殺「任されよ」


「うーし、回すか…」

 

すごい隈を作った状態のお兄ちゃんがそう言った。

 

「……六花。貴様、寝ていないな?」

 

「…あぁ?……あぁ」

 

「寝て?」

 

「アドミスの治療が終わらん。」

 

「あ…やっぱり普通の治療じゃないの?」

 

「まーな…ほれ、サークルは展開するからサクサクやるぞ…」

 

覇気がない……これ、お兄ちゃんのためにも早めに終わらせないと…お兄ちゃんってこういうとき絶対退かないから早めに作業に入らせて作業を終わらさせた方がいいんだよね…

 

「…呼符認識確認、英霊召喚陣展開………該当霊基、キャスター。」

 

キャスター……何人か心当たりはあるけど。

 

「はぁい、ご指名ありがとうございます!今顕現においての御主人様、私貴女に一目惚れしてしまいましたのでどうかお側に居させてくださいな?そしてゆくゆくは…というのは一度置いておくことに致しまして、魔術師の英霊……英霊?まぁ、どうでもいいことですが…自他共に認める良妻サーヴァント、キャスター!天照大御神が分御霊たるこの私“玉藻の前”、ここに見!参!です!」

 

長めの台詞のあと現れたのは狐耳の人───ロンドンで出会った玉藻さんだった。

 

「来てくれたんだ…」

 

「はい!御主人様の気配があればそこが地獄であろうが冥府であろうが、世界の裏や虚数の海にでも参りましょう!」

 

「…よろしくね、玉藻さん」

 

玉藻さんは頷いてからどこかに去っていった。

 

「……さ、次やるか。」

 

『………マスター。六花がこんなに覇気がないこと、今まであったか?』

 

ギルの疑問も最もだと思う。少なくとも、私がカルデアに来てからは1度もないし……でも

 

『みんなで遊んでた頃はたまにあったかな…あの頃お兄ちゃんはAIの作成を重点的にやってたはずだけど…』

 

あの頃からアドミスさんとかいたのかなぁ…と思っていると英霊の召喚がなされる。

 

「はぁい、出ました~。ひとまずは、“ミドラーシュのキャスター”とお呼びくださいませ。英雄王、私もいてよろしいですかぁ?」

 

「よい。…しかしなんだ、今回は獣耳召喚か?」

 

それもそれでどうなの…?

 

「うふふっ、それではマスター?よろしくお願い致しますね?」

 

「よろしくお願いします」

 

私がそういうとミドラーシュのキャスターさんもどこかへ去っていった。

 

「…さて、次だ。六花が早く休むためにもさっさと回すぞ。」

 

「気にしねぇでいいんだがな…」

 

「たわけ。カルデアのスタッフの中でも貴様の業務はかなり異質だ。貴様でなくとも、人理修復の最中にカルデアのスタッフが1人でも欠けるなど我が許さん。」

 

「…へいへい」

 

そんな会話の最中も召喚サークルは回る。光が収まって、出てきたのは───

 

「サーヴァント、キャスター。“トーマス・アルバ・エジソン”である!顔のことは気にするな!これはアメリカの象徴であるからな!」

 

エジ…ソン…?

 

「……何でライオンなんだよ……」

 

あ、まだツッコミできる気力はあるみたい。

 

「む、これには少し事情があるが…まぁ、些細なことだろう!これからよろしく頼むぞ、マスター!」

 

「あ、はい…」

 

エジソンさん(?)はそう言って管制室を出ていった。

 

「…じゃ、次行くか……」

 

「それを最後にせよ。」

 

「へいへい…」

 

そんな言葉と共に召喚サークルが回り始める───

 

「……3騎一気に顕現すんぞ。」

 

え…?

 

「はいはーい!サーヴァントセイバー、“鈴鹿御前”!呼ばれて参上っしょ!」

「アルテミスです!会いたかった、リッカ!」

「おりべぇでーす…なんでアルテミスの触媒あるのに召喚に間が空いたんだろうな。アルテミスがくじ引いたからだけどよ。」

「あぁ?…ったく、なんでこんなとこに…“クー・フーリン”。召喚に応じ参上した。」

 

「……」

 

聞き取りきれなかったけど…うん。結構濃い人達が出た気がする。

 

「そら、早く退け。サークルを閉じられん。」

 

「……了解っしょ」

「…はぁい」

「あぁ」

 

全員が管制室から出ると同時にサークルが閉じて───一緒にドクターとダ・ヴィンチさんが入ってきた。

 

「あ…ごめんよ、六花。ずっと任せちゃって…」

 

「アドミスの容態は?」

 

「第一声がそれか…昨日よりは安定しているよ。ただ、見たところ全治2日かなぁ…AIの治療なんてしたことないから詳細は分からないけど、人間基準で言うなら全治2日だ。」

 

「そうか…」

 

「……む、ロマン、ダ・ヴィンチ。いいところに来た。」

 

「うん?」

「なんだい?」

 

「…っと、その前にだ。無銘、マスター。ここから先のことは時が来るまで他言無用だ。いいな?」

 

そのギルの言葉にアルと一緒に頷く。

 

「よし。そら、貴様らが求めていたものだ。」

 

ギルがダ・ヴィンチさんに投げ渡したのは……粘土板?

 

「?これは…」

 

「我程度では細やかだがな。人理修復後も我はここに残る、その契約書のようなものよ。その程度では不満か?」

 

「……」

 

ギルが……修復後も、いる…?

 

「ひゃっほぉぉぉぉ!!やったぜ。ロマニ、これでこれからは安泰だ!もう王がいなくなったらっていう可能性に怯えないで済むんだ!!」

 

「───うぇぇぇぇぇ!?嘘ぉ!?本当にいいのかい!?」

 

「よい。」

 

「嘘だろ、こんな奇跡───」

 

「───待って」

 

不意に、声。背後から。その声は、2日間ずっと聞いてなかった声。

 

「───私も、残る」

 

「ミラちゃん…?」

 

「みんなが、私を受け入れてくれたから…私は、それに応える。」

 

ミラちゃんが背後にいて。何かを投げるような仕草をしたかと思うと、ダ・ヴィンチさんの前に炎文字が現れた。その炎文字は一点に纏まっていき、やがて2つの指輪が重なったような連環になった。

 

「…それで、いい。私達は人間そのものであるのもあって、座に帰るとかはないと思うけど。みんなの旅路が続く限り、私は力を貸すと誓いましょう。」

 

体調悪そうだけど…大丈夫かな?

 

「やったぁぁぁ!!王妃様も残ってくれるとか何て奇跡だ!カルデアはこれで安泰だよ、ロマニ!」

 

「う、うん…!でも、どうして───」

 

「……意外だったかしら?()()()()

 

ミラちゃんの声の質が変わった。それに、今───

 

「───」

 

「いつまでも隠し通せると思わないことよ。我等が主が宿しているは“総てを見通す王”。森羅万象、あらゆる総てを見通すわ。アナタの隠し事も、人理焼却の元凶も、人理焼却の犯人とアナタの関係も。唯一見通せないのは未来だけね。」

 

ドクターが…ソロモン…?いや、でも…確かに、ロンドンで出会ったソロモンはなんとなく違和感を感じた。

 

「……君は、誰だい?」

 

「…ミラルーツ。ひとまずは、そう名乗っておきましょう。」

 

ミラルーツ。それは、祖龍のこと。

 

「真実を明かすのなら早い方がいいわよ?…遅くなれば遅くなるほど、手遅れに近づいていくのだから。」

 

「…ふん。ミラルーツの言っている通りよな。ロマニ、貴様に課題を課す。第5の特異点が発見されるよりも前に、カルデアのスタッフ共に真実を語れ。最重要なのはレイシフトメンバーとオルガマリーだ。…急げよ、ロマニ・アーキマン。もう、貴様に残された時間は少ないぞ。」

 

「…はは。…うん、分かったよ。ボクも、覚悟を決めないとかな…」

 

今回の召喚は───そんな状態で、幕を閉じる。




いつも選出ありがとうございます

殺「構わん。我が主は汝であることには変わりない。そこのオッサン───首を出せ」

「だからなんで俺なんすかねぇ!?」


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第219話 秘匿召喚

えぇ……

裁「どうしたの?」

これ……

裁「……あぁ」


そうして、今日の召喚は終わった───

 

「召喚は終わった───と思っていたのか?」

 

───え?

 

「ふ───割増しよ!召喚サークルを起動するぞ、マスター!」

 

えぇぇぇ!?

 

「そんな、突然……どうしたの?」

 

「…いやなに、今回の召喚を経ても未だカルデアに足りぬ者がいるからな。此度はそれを喚びたいのだが…まぁ、出るまで引くのは味気ない。5、6騎くらいでよかろう。」

 

「…なら、私も1騎…ううん、2騎。いいかな」

 

ミラちゃんがそう言った。珍しい、というか。

 

「ふーむ…まぁ、よかろう。よし、回すぞ」

 

ギルが指を鳴らすと、サークルが展開して回り始める。

 

「さて、我が望む者は出るか?」

 

どう、なんだろう…触媒もなさそうだし…触媒あっても出るかどうかは分からないし……そう思ったら英霊が現れる気配があった。

 

「……で、なんで俺が喚ばれるんだ。俺なんて必要ないだろう?」

 

「よし、来たな童話作家。何、我は貴様の人格はともかくその腕と観察眼は信用しているゆえな。我等が叙事詩を書き上げよ、“ハンス・クリスチャン・アンデルセン”。」

 

「はぁ…仕事か。というか俺以外も作家はいるだろうが。何故俺を選んだ?」

 

「シェイクスピアでは面倒そうであったからな。それに、貴様も欲を言うなら気の知れた者に挿絵などは頼みたいであろう?」

 

「…欲を言えば、だがな。やれやれ、その話をするということは俺を喚んだのもそういう理由か…まぁ、気が向いたら書いてやる。」

 

そう言ってアンデルセンさんは管制室を去っていった。

 

「さて、次だ!」

 

「失礼します…ギル」

 

「…む?」

 

管制室にマリーが来た。

 

「マシュの寿命の方、50年まで回復しました。短期間でここまで回復するのは、やはり…」

 

「ふむ。星乃めの力、か。命の管理者…その名は伊達ではないか。敵に回れば恐ろしいことこの上ないがな。」

 

「…不死でも殺す“命”を管理する力。本当に恐ろしい、ですね。」

 

「“バロールの魔眼”……それとは似て非なる物。そう言っておったな、星乃。」

 

「…そうだよ。“直死の魔眼”と似て非なる物。不死であろうが生物ではなかろうが、既に死んでいようが関係ない。私が見るだけで生かすか殺すかを決定できる“絶技”。それが、“あらゆる生命を司る瞳”だよ。…まぁ、あまり使わないけどね。」

 

そう言ったのはアル…じゃないみたいだけど。眼の文字は“五”。ていうか…星乃?

 

「また会ったでしょ?リッカさん。」

 

「…あっ!あのときの…」

 

「改めて、“魂込 星乃”。さっき言った通り命を管理する者。ま、あまり命を管理する力は振るわないから失礼とか気にしないで接してほしいな。」

 

そう言われても怖いけど…

 

「ははははは!」

 

「む」

 

「顕現したぞ───私だ!ニコラ・テスラだ!」

 

ロンドン空中で私達と戦ったサーヴァント。ニコラ・テスラさんが顕現した………みたいなんだけど。

 

「……誰だお前は」

 

「だから!ニコラ・テスラである!」

 

「「「「……??」」」」

 

「何故首をかしげる!?」

 

いや、だって…どう見ても女性っぽい気が…

 

「……なんかやったのかなぁ」

 

アル…じゃなくて星乃さんが遠い目で呟いた。

 

「まぁいいや、一応その人はテスラさんで間違いないよ。」

 

「おぉ!少女は分かってくれるか!」

 

「まぁ、一応は…」

 

「…?まぁいい、では失礼しよう!」

 

そう言ってテスラさんは出ていった。

 

「……#コンパスの姿で出るってどういうこと……」

 

「コンパス?」

 

「なんでもない、こっちの話。」

 

……?よく分からなかったけど…

 

「…ふむ。オルガマリー」

 

「はい…?」

 

「主に貴様の助けとなるサーヴァントを喚ぶぞ。」

 

「私の…ですか?それでしたら、ジュリィさんに───」

 

「既にジュリィから了承は得ている。あとは貴様がどうするかだ。」

 

「私が……」

 

そう呟いてマリーが私を見た。

 

「いい、かしら…?」

 

「いいと思うよ…?」

 

「…分かったわ。その話、受けましょう。」

 

「よし。ならば…聖杯だな。貴様の聖杯を用い、呼符にキーワードを刻め。」

 

「…はい」

 

「キーワードは…そうだな。“新茶”、“魔弾の射手”、“蜘蛛”、“悪のカリスマ”…この辺りか」

 

「蜘蛛……」

 

あ、星乃さんが嫌そうな顔をした。

 

「なんだ、蜘蛛は嫌いか?」

 

「…蜘蛛、というか虫全般がダメ」

 

そう言っているうちにそれは現れる。

 

「やれやれ、私を召喚するとはまた奇特なマスターもいたものダネ。ちょっと真名は伏せさせて貰うケド。ウーン……ま!アーチャーとでも呼んでよ、ネ!」

 

マホロアさんみたいな話し方の人来た…

 

「オルガマリー、貴様はこやつから“悪”を学べ。」

 

「悪…ですか?」

 

「…時に、貴様はこのカルデアを善と見るか?悪と見るか?」

 

「善です。経歴はともかく、今現時点では。」

 

「即答か。…だが、善はかなり脆い。1つの悪で壊されかねん。それは、理解しているか?」

 

「……はい。」

 

「悪を学び、カルデアを護る力とせよ。…やれるか?」

 

「……はいっ!」

 

「あ、そだ。えーと…マリーさん、だっけ?ちょっとこっちに」

 

星乃さんがマリーを呼んだ。

 

「なんでしょう?」

 

「左手。」

 

「え?」

 

「左手。出して。」

 

その言葉にマリーが左手を出す。そこに何か術をかけていた───

 

「……!?」

 

突然浮かび上がる赤い紋様。杯、蝶、望遠鏡、星、鍵、龍の頭───そしてあれは……花?それらを組み合わせたような紋様が、マリーの左手に刻まれていた。

 

「これは───」

 

「ん?令呪。」

 

「え───」

 

「サーヴァントに対して使うこともできるけど…まぁ、とりあえず象徴として…ね?」

 

「象徴…ですか。」

 

「これはいったい、何をモチーフにしているのだ?」

 

ギルが星乃さんに聞くと、星乃さんはその場で手を振ってホロウインドウを呼び出した。ホロウインドウに描かれていたのは、杯、蝶、望遠鏡、星、鍵、龍の頭、花。

 

「これ、分解するとこうなるのね。杯は聖杯、蝶はアーチャー、望遠鏡は天文台。」

 

「アーチャーって…私かい?」

 

「ん。星はそのまま星、鍵は英雄王。龍の頭は狩人達と召喚術師を表し、花はマリーさんを表してるよ。」

 

そ、そうなんだ…

 

「雑な解説でごめんね。マスター適性に関しては大丈夫、私達で肩代わりしてるから。」

 

「そんなことが可能なのですか!?」

 

「うん。」

 

そんな、あっさり…

 

「ただそれだけ。無銘の中でまだ眠っている人格が私に預けてたマリーさん宛のものだから、お礼なら私じゃなくて最後の人格に言ってね。」

 

「は、はい…」

 

「よーし、それじゃ早速始めようか!心配ないさ、一流の悪ノ娘に仕立て上げて見せるからサ!」

 

「よ、よろしくお願いいたします…あと、悪ノ娘はボーカロイド楽曲です…」

 

「アラ?」

 

そう話しながらマリーとアーチャーさんは管制室を去っていった。

 

「…さて、次だ。…出ればいいが。」

 

「…誰を求めているのかは知らないけど…」

 

「む…そうだな。それは───」

 

召喚サークルが光を放つ。強い光を放っていく───

 

「待たせたわね!」

 

「───む」

 

「小さな縁を辿ってやっと見つけたわ!今こそ告げましょう、私こそ天の───」

 

「我が求めるは貴様ではないわ、戯け!疾くこの場より去れ、強制送還(クーリングオフ)!!」

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

「え、えぇ…?」

 

ギルの大声で形を成し始めていたそれが消え去った。

 

「……今のは無かったことにする。断じて邪神など誰も見ておらん。いいな?」

 

その気迫に全員で頷く。

 

「…ふん。気を取り直して回すか。」

 

「……原初を語る───」

 

「ぬ?」

 

アル…じゃない。“二”は…誰だっけ?

 

「世界の理は預言書の主が生成し、理のもと元素は乱れ結合し、森羅万象あらゆる現象を生む。それは始まりの地獄たるもの。始まりに現れた理そのもの。星は天を巡り惑星(ほし)を作り、太陽は地が回ることで時を告げ、月は地の回りを回ることで水を引く───応えよ、その神秘。」

 

「───ふははははは!我を呼べるとはまた、面白い召喚式だ!」

 

聞いたことのあるような言葉遣い。というか───

 

「───ギル!?」

 

「そこの金色!我に貴様と争うつもりはない!しかし、我がそこに居ることは許せ!」

 

「何?」

 

「ふ───我とは違う我とは言え!ここまで丸くなるとはな!そこな娘よ、今こそ名乗ろう!我こそが最強の英霊!ウルクを治めた人類最古の王───」

 

強い光と共にその人は顕現した。

 

「第三位・アーチャー!“ギルガメッシュ”である!!」

 

「ふ───ふははははは!よもや、この我を呼び出そうとは!面白きマスターもいたものだ!」

 

「……???」

 

ちょっとよく分からないけど…ギル、みたい。

 

「…ふむ。しかしこのままでは混乱するだろう。我は先にここから去っておくぞ、我。」

 

召喚されたギルはさっさと管制室を出ていった。

 

「くっくっく……愉快なものを見た。さて。あとは貴様が回せ、ミルド。あの我が出たことで我は満足よ。」

 

「……分かった」

 

ミラちゃんが召喚サークルの上に立つ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。此処に在るは人理を望み、護りを(てき)とするアニムスフィアの天文台。」

 

それは…たしか、召喚の呪文。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

召喚サークルが輝き始める。

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

そこで、一瞬言いよどむ。

 

「…されど、汝は我が声に応え我が呪いを受け入れ侍るもの。汝、我が願いに誓いを重ねる者。我は人に害を成しかねぬ古の龍たる者───」

 

詠唱が───違う。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

サークルが輝き、そこにサーヴァントの姿が現れる。

 

───あぁ、やっと。やっと、来られました。

 

…遅くなって、ごめん。

 

いいのです、ミル姉様。

 

その人は、私の方を振り向いた。

 

“エスティナ・スティア・シュレイド”、ここに。微力ですが力になりましょう。よろしくお願いいたします。

 

よろしくお願いします、エスナさん

 

私の言葉に頷いたあと、エスナさんは管制室を去っていった。

 

「…さて、あと一騎か。」

 

「…」

 

ミラちゃんが召喚陣の前で座り込んでいる…?

 

「……顕現せよ」

 

一言。たった一言だけで───そこに、突如としてサーヴァントが召喚された。黒髪の、両眼緑眼の少女。

 

……ここ、は?

 

「「───!!」」

 

その少女の声に、ギルと一緒に息を飲む。その声は紛れもなく───

 

…貴女の、名前は?

 

私の名前…?…“ミルティ・スティア・シュレイド”…

 

確定した。彼女は───ミラちゃんの、過去だ。




正殺(真名:星乃)「お母さ~ん!」

ん~?どしたの、星乃

星乃「なんかあっち、テスラさんはテスラさんでも#コンパスのテスラさん出たんだけど…」

なんで……原因調べておくね

星乃「ん」


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第220話 無銘と無銘

ぎゃぁぁぁぁ!!時間かかったぁ…

裁「…まぁ、マテリアルの準備がちょっと遅くなったらしいから、急遽これに変えたっていうのは分かるけど。…はぁ」

ため息つかないでぇ…


{戦闘BGM:silent bible}

 

 

 

〈Stand by Ready〉

 

声がする───機械音声だ。相手も私も、準備を完了したという証。

 

〈Phase1〉

 

機械音声が始まりを告げる。その前に、私は───否、()()は相手を目視し、武器を()()()()

 

「っ───」

 

相手はそれを見て複雑そうな表情をする。

 

〈Engage〉

 

「「───ッ!!」」

 

私と()は、同時に地を蹴った。

 

 

発端は朝の食堂。

 

「む?おや、無銘さん…じゃないか。どうした、こんなところで。」

 

「あの…今日は何かお手伝いすることはありますか?」

 

「ふぅむ…今は特にこれといって手伝ってほしいことはないが…しかし、君は人を手伝うのが好きなのかね?よく私のところにやってくるが、毎回言うのは手伝うことがあるかどうかだ。少しは趣味や鍛練に打ち込んでいてもいいのではないかね?」

 

「……英雄王さんが」

 

「…何故そこで彼が出てくる」

 

「…“アーチャーの方のエミヤが無理しすぎないように見張っておけ”って言うので…聞いたところでは、エミヤさんは生前結構無茶してたらしいですから…」

 

「………図星すぎてなにも言えん。やれやれ、やはりというかなんというか、彼は私の知る英雄王とは違うのだな。」

 

そんな話をしていると、月さんが何かに気がついた。

 

「誰か来るみたいです」

 

「む?アルトリアか?…いや、彼女はこんな時間に来ないか。」

 

エミヤさんが言ったとき、食堂の扉が開いた。顔を出したのは狐耳の──確か“玉藻の前”さん。

 

「えーっとぉ…もう、開いてたりします?」

 

「なんだ、キャスター。君か。」

 

「…無銘さん、ちょっといいですか?」

 

「はい?」

「なんだ?」

 

私とエミヤさんが同時に反応する。

 

「……紛らわしいですね。ええっと、アーチャーの無銘さんの方です。」

 

「私か。」

 

「…?」

 

エミヤさんが無銘とはどういうことだろう。

 

「…あぁ、別に構わないよ。キャットにも私から言っておこう。」

 

「お願いしますよ…?キャットが私を捕らえようとしないように───」

 

「キャットを呼んだか?…おっ、オリジナル。狐鍋にされに来たか?」

 

「ひゃぁぁぁっ!?これがほんとの噂をすれば影ですかねぇ!?」

 

「こらこら、はしゃぐな。ここは食堂だぞ。」

 

エミヤさんが声をかけるも、おいかけっこを始めた彼女達は止まらなかった。

 

「……はしゃぐなと───」

 

声が少し低くなったと思うと、エミヤさんがいつのまにか鞭を手に持っていた。

 

「───言っているだろう!!」

 

「ぎゃんっ!」

「おうっ!?」

 

振るわれた鞭は2人に直撃し、おとなしくなった。

 

「とりあえずキャット、こちらに来なさい。」

 

「う…わかったぞ」

 

鞭を当てられた場所を押さえたままエミヤさんに連れていかれた。

 

「朝から疲れましたです…」

 

「…あの、よければどうぞ」

 

そう言って私が出したのは傷薬。

 

「あぁ、ありが───ちょい待ち、今貴女これどこから出しました?」

 

そう問われて私は指を振る。現れるはいつものホロウインドウ。…とはいえ、私の中に居る人格達が起きたお陰かアイテムストレージタブがかなり増えている。ちなみに全て使用は許可されている。所有権は明記されているものの、特に興味がないらしい。

 

「この中からオブジェクト化しました。回復系は結構種類ありますから…」

 

「…結構、というと?」

 

全体アイテムストレージを開き、回復アイテムで絞り込む。ウインドウの右上端をつまんで玉藻さんに見えるように回転させる。

 

「…うーわ、マジで大量の種類があるんですね…そういえばなんですけど、ロンドンの時突然私の鏡が貴女の方に飛んでいったみたいなんですけど…あれ、何でか分かります?」

 

「…陽詩さんの話では、“雨照 陽詩()の適合している神格が天照大御神だったから”とか…」

 

「あー…なるほど。…それにしても、三種の神器を使って弓矢と矢道を作るってどんな使い方してるんですか…」

 

その言葉に苦笑いしていると、エミヤさんが戻ってきた。

 

「一応、キャットには伝えておいた。了承してくれたから…まぁ、大丈夫だろう。」

 

「不安ですね…ともかく、ありがとうございます無銘さん。」

 

「構わないさ。」

 

「…あの。」

 

「うん?」

 

「エミヤさんが“無銘”というのはいったい…?」

 

「…あぁ、それか。ムーンセル、というのは聞いたことがあるかな?」

 

その問いに頷く。ムーンセル・オートマトン。こことは別の平行世界で聖杯とされていたもの。その機能は、地球の誕生から全てを克明に観察・記録すること。全ての生命、全ての生態、生命の誕生、進化、人類の発生、文明の拡大、歴史、思想――そして魂。全地球の記録にして設計図。神の遺した自動書記装置。七つの階層からなる、七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)───

 

「そのムーンセルでも私はサーヴァントとして活動していたのさ。ムーンセルの主を決める聖杯戦争、最後の参加者に無意識下で与えられていた選択肢。セイバー:ネロ・クラウディウス、アーチャー:無銘、キャスター:玉藻の前。」

 

「……英雄王さんは…?」

 

「彼は…月の裏に封じられていたからな。…まぁ、それはいい。私が“無銘”という名であった理由か。」

 

ため息のようなものをついたところで私はお茶を三人分出す。

 

「……どこから出したのやら。まぁ、いいか。私も同じようなことはできるわけだし。…流石に液体物はできないが。」

 

そう無銘さんが呟いて1口飲む。アイテムストレージに入れておいたものは鮮度が保たれる、と聞いている。

 

「私が“無銘”であった理由は、ムーンセルの私が“エミヤ”ではなかったからさ。」

 

「“エミヤ”ではなかった…?」

 

「そう。“エミヤ”という名を持つ私はとある男の可能性だ。対して“無銘”という名である私は“正義の味方“という概念が人のカタチで起動した存在だ。」

 

……?

 

「どう説明すればいいのか私も分からないが…まぁ、“個人”であるのか“概念”であるのかという違いだと思っておけばいい。」

 

「…なんとなく、分かった気がします。」

 

「ならよかった。」

 

そう言ってエミヤさんはお茶を飲んだ。釣られて私もお茶を飲む。そんなエミヤさんと私を玉藻さんがジーッと見つめていた。

 

「……何かね?」

「……何か?」

 

「いえ…お二人ってどちらが強いのでしょう、と。」

 

「…何?」

 

「お二人の能力はかなり酷似していると聞きましたから。そういえばどちらが強いのでしょう…と。」

 

「「…………」」

 

私とエミヤさんは顔を見合わせた。

 

「……私…もしかして何かやっちゃいました?」

 

 

…そうして、今に至る。

 

投影開始(トレース・オン)……っ!」

創造励起(クリエイト・スタート)、“スモールナイフ”!」

 

私の回りを浮遊する陰陽玉の色は紫───月さんがサポートしている事を示す。“創造(クリエイション)”という能力は月さんが一番よく扱える、というのはお母さんの言葉だった。事実、彼女の創造はお母さんと比べても異常に速い。

 

「バースト!」

 

私の言葉に投げたナイフが反応し、爆発を起こす。

 

「ちぃっ…!壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)とほぼ一緒だな、その技は…!」

 

エミヤさんがそう吐き捨てる。ところで、私の回りに浮遊する陰陽玉は何かというと。どこかで見かけたらしいサポート方法を元にして組み上げたというサポートデバイス。私が無理を言ってエミヤさんと戦わせて貰うことになって、月さんが20分ほどで創り上げたものだ。“(無銘)エミヤ(無銘)の対決なんだから、(無銘)で戦いたい”───本当に、無茶を言った気がする。だけど、お母さん達はその無茶を許してくれた。

 

『七虹、後ろ!!』

 

「っ、」

 

星乃さんの声と共に陰陽玉の色が赤に変わる。赤は確か陽詩さん。即座に跳び、さらに背後に時間を越える斬撃を作り出す。

 

 

ギャイッ

 

 

「これも、防がれるか…!」

 

そんな声が聞こえたかと思うと即座に陰陽玉が橙色に変わる。

 

「風よ、我が声に応え疾風となりて───」

 

「詠唱!?させるか!」

 

「───雷よ!!」

 

その一声だけで、私の周囲に雷が落ちる。

 

「なん…!」

 

『ご、ごめんなさい…!難しい、ですよね…!?』

 

その声は美雪さんのもの。確かに、これはかなり難しい。彼女の力───怒りに任せ怨霊と化した彼女が持っていた妖術。それは、どうやら私には合わないようだ。陰陽玉の色が変わる。青色、璃々さんだ。

 

「───“ヴォーパル・ストライク”」

 

呼び出した片手剣を左手を前にかざし右手の剣を肩の上に大きく引く構えにする。システムがモーションを検出し、ソードスキルが起動する───

 

「───ぁぁああ!!」

 

「っ…!?」

 

“バーチカル・スクエア”。繋げるように検出されたソードスキルは四連撃技だった。

 

「───コネクト、“サベージ・フルクラム”…!!」

 

「スキルコネクト…だと…!?」

 

さらに接続───

 

「“スター・Q・プロミネンス”!!」

 

6連撃ソードスキル───

 

「これで───最後!“シャドウ・エクスプロージョン”!!」

 

秘奥義と呼ばれるそれ。それを放って剣技連携(スキルコネクト)を終了する。

 

「…!」

 

硬直が重い。当然と言えば当然だ、今回私が使ったのは“秘奥義”。それだけの硬直は課せられるだろう。

 

我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword.)───“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”!!」

 

動けない私に対して放たれる矢。陰陽玉の色が緑に変わる。硬直は解除され、呼び出した鋼鉄の針を矢に向けて投げる。

 

「なにっ!?」

 

それと同時に矢は消え去る。星乃さんの力だ。

 

「ここまで、厄介とはね…!!流石、直死の魔眼と似ているだけはあるか…!」

 

次に投影されたのは青い矢───あれは、当たったらまずい。

 

「食らいつけ───“赤原猟犬・耐久低下(フルンディング)”!!」

 

陰陽玉の色が紫色に変わる。それと同時に、私を囲うように空間が開く。

 

『スペルカード───反撃“リフレクションスペーサー”!!』

 

「なにぃっ!?」

 

「あれって、萃香さんの霊撃!?」

 

マスターの声が聞こえる。まぁ、ほぼ同じなので特に何も言えない。

 

「なら───So as I pray,」

 

『固有結界!!』

 

「UNLIMITED BLADE WORKS.」

「目覚めよその神秘───」

 

エミヤさんの固有結界が、私の第二宝具がせめぎあって───砂漠と、夜天。それが、共存する風景が出来上がった。

 

「───やれやれ、君も詠唱はしていたのか。」

 

「…一応、ですけど。」

 

「…なら、禁じ手中の禁じ手と行こうか。これで終わらせてもらう───!」

 

「星の極光、今ここに───」

 

第二宝具の力を剣に集める。

 

「受けきれるか…!“永久に遥か(エクスカリバー)───」

「第二宝具、変質───“惑星の光鍛えし(アステロイド)───」

 

間。気がつく───これで、決着はつくと。

 

「───黄金の剣(イマージュ)”!!」

「───鋼の剣(ブレイザー)”!!」

 

光の奔流。それが私とエミヤさんを飲み込み、その圧力がシミュレーションルームの壁に叩きつけた。それと同時に、シミュレーションルームの立体映像が消えた。…終わったようだ。

 

〈Draw〉

 

「「……はい?」」

 

ドロー…?

 

「…決着がつかないのか。」

 

「…みたいですね」

 

そこまで決着がつけたかったわけでもないものの、これでは何となく…うん。納得いかない。

 

「…次は勝つぞ、星のアルターエゴ」

 

「…こちらこそ、次があればよろしくお願いします。」

 

とりあえず、疲れたので今回は解散となった。




月「う~…負けたぁ…」

引き分けだからね…う~ん

月「物質生成速度こっちが上回ってたのに引き分けはもう負けだよ…うう」


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第二回設定紹介群その一 ミラ・ルーティア・シュレイド

今回からマテリアル連続投稿です…

弓「小休止であるな。」

色々やることあるからちょっと休ませて…って言いたいところだけど…

弓「む?」

マテリアルの編集サボってたからそこまで休めません


真名:ミラ・ルーティア・シュレイド

 

性別:女性

 

クラス:キャスター/フォーリナー/ハンター

 

属性:混沌・善 天

 

特性:人型 王 女性 今を生きる人類(?) 竜 神性 人類の脅威

 

ステータス:筋力C 耐久A 敏捷B 魔力EX 幸運B 宝具EX

 

宝具

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ただ単に契約を交わしたものを本と召喚呪文を介して召喚する彼女が所有する中で最下級の召喚術。グリモワールとは彼女が所有する本の通称ことで、本当の名は“契約獣魔召喚の本(ブック・ザ・サモーニング・モンスターズ)”。

 

契約を交わせし者よ、汝が名の下(サモン・グリモワール)にここに在らん(・ミッド)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ロウと違うのは召喚呪文の代わりに相手の名を用いること。呪文を用いる方が強制召喚に近いのに対し、こちらは相手の任意かつある程度の絆が芽生えていないと成功しない。

 

契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん(サモン・グリモワール・ハイ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。相手の正確な名を使わず、名付けた“愛称”を呼ぶことで召喚する。ミッドよりも召喚難易度は高いが、高レベルの真名隠しの効果も発動するため後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。

 

絆を結びし者よ、指輪と呼び声の元に応えよ(サモン・リングコネクティア)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。本すら使わず、彼女が左手に付けている虹色の指輪と対象の愛称が召喚媒体となる。召喚術という枠組みにはなっているが召喚術による強制、ではなく純粋な絆による協力関係であるため、本を使う召喚術よりも強い力を使うことができる。“契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん”と同様に愛称使用での召喚のため、後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。リングコネクティア、とは彼女の持つ虹色の指輪の名前で、別名“人と獣の絆の指輪”。

 

契約を交わせし者よ、今こそここに集え(エンタイア・サモーニング・グリモワール)

対軍宝具

 概要:グリモワールに記載されている契約獣魔たちを一気に全て召喚する彼女が持つ最高位召喚術の片割れ。魔力消費は多いが召喚時間の短縮が可能。

 

絆を結びし者よ、今こそ(エンタイア・サモーニング・リング)ここに集え(コネクティア)

対軍宝具

 概要:絆を結んだ契約獣魔たちを一気にすべて召喚する彼女が持つ最高位の召喚術の片割れ。リングコネクティアを使う召喚術は契約というよりか要請に近いものであるためグリモワールを使う召喚術よりも消費魔力が少ないという利点がある。

 

解放する、今ここに真実の言葉(リリース・リアルワード)

対人宝具

 概要:契約獣魔達で真名を使わずに召喚した際にのみ使用可能な宝具。獣魔たちの全体的な力のブーストが可能。

 

常識より名を喪いし語(クリエイト・ロストワード)

対概念宝具

 概要:概念隠しの宝具。もしも相手が味方サーヴァント、もしくは彼女の契約獣魔の真名を知っていたとしても、その真名を強制的に忘れさせることができる。さらにこの宝具で隠された真名は通常の真名看破で見破ることができなくなる。また、攻撃的な使い方もでき、相手にこれをかければ意図的に存在・事象の完全抹消を引き起こせる。もっとも、完全抹消は彼女が好まないため使われることはないであろう。これに対抗できるのは“全てを記録せし手帳”だけ。

 

全てを記録せし筆記帳(メモリアル・インデックス)

対概念宝具

 概要:概念看破の宝具。通常の真名看破で見破ることができなくとも、もしもこの筆記帳にそのサーヴァントの真名が記載されているならば看破できるようになる。

 

怖れよ、汝が対峙するは黒き生ける災い(アクティベート・ドラゴン:ミラボレアス)

対界宝具

 概要:彼女の宝具の一つ。全ての命を脅かす生ける災いと言われる黒龍ミラボレアスに姿を変える。

 

恐れよ、汝が対峙するは紅き怒れる邪龍(アクティベート・ドラゴン:ミラバルカン)

対界宝具

 概要:彼女の宝具の一つ。黒龍ミラボレアスの激怒した姿、紅龍ミラボレアスに姿を変える。

 

恐れよ、汝が対峙するは紅き憤怒の神罰(アクティベート・ドラゴン:ミララース)

対界宝具

 概要:彼女の宝具の一つ。紅龍ミラボレアスの特殊個体に姿を変える。

 

畏れよ、汝が対峙するは白き祖なるもの(アクティベート・ドラゴン:ミラルーツ)

対界宝具

 概要:彼女の最初にして最大の宝具。彼女の真の姿である祖龍ミラボレアスに姿を変える。

 

仮想展開・古(インクルード:エンシェント)龍の威厳(ドラゴン・アビリティ)

対人宝具

 概要:祖龍との契約の証である指輪、“リングルーティ”の力を使って各古龍の能力を彼女自身に付与する。

 

 

保有スキル

 

道具作成 A

 

陣地作成 B

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

 概要:マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 E

 概要:竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して弱い特攻効果を持つ

 

武器適応 B

 概要:決められた武器種しか扱えない

 

言語適応 EX

 概要:あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

魅了(獣魔)

 概要:獣魔に対する魅了をかける。

 

人龍の逆鱗

 概要:一種の暴走状態に近いがただただ怒っているだけ。味方の攻撃力・防御力の上昇が起こる。

 

竜の炉心・祖龍(偽)

 概要:祖龍の心臓。祖龍と融合した彼女は心臓が人間のものではなく古龍のものに変質している。聖杯を越える巨大な魔術炉心。何故“偽”なのかは定かではない。

 

単独顕現 A

 

 

 

 

ハンターたちとは別の異世界から召喚された召喚術師の少女。紫色の本と虹色の指輪、白い龍の頭があしらわれた指輪を所持し、“ネルル”という名の滅尽龍“ネルギガンテ”と共に行動をすることが多い。その正体はかつてミラボレアスに滅ぼされたと言われる大国、“シュレイド王国”の王族の生き残りの末裔であり、何の因果か祖龍ミラボレアスの魂と身体がもともと“ミルティ・スティア・シュレイド”という名であった少女の魂と身体が融合したもの。“ミラ・ルーティア”というのは“ミラ・ルーツ”と“ミルティ・スティア”の名を混ぜて彼女自身が設定した真名。性格は完全にミルティそのものであるが、その能力は祖龍ミラボレアスの能力を引き継いでいる。ただし、祖龍ミラボレアスの力を最大限生かすためには彼女の最初にして最大の宝具、“畏れよ、汝が対峙するは白き祖なるもの(アクティベート・ドラゴン:ミラルーツ)”を展開しなくてはいけない。年齢は16歳。容姿は白色の髪のストレート、右眼が赤色、左眼が緑色の虹彩異色。祖龍と融合した影響か、身体の成長が停止している。

 

 

 

装備は戦闘用は紫色の召喚術師用ローブに白色のフーデッドケープか紫色にしたエコール装備のローブカスタムに白色のフーデッドケープ。私服は白のワンピースの時と白にしたスカラー装備のフレアスカートカスタムの時がある。なお、ミラボレアス系統の装備は別に見ても不快感などは感じないが、着るのは嫌がる。基本的に武器は指輪“リングコネクティア”、魔導書“契約獣魔召喚の本”。そして稀に攻撃術式や防御術式を扱う時に杖“サモンロード”を用いる。“サモンロード”は彼女の髪と死した古龍の骨や血、そして各地特産の物品が使われているのを大量に所持している。なお、彼女を喚ぶ触媒となった指輪“リングドラグーツ”は、指輪“リングルーティ”の贋作であり、ただただ彼女がお守りとして持っている、そこまで力を持たない指輪である。

 

 

 

なぜ少女と祖龍ミラボレアスが融合しているのか。それは彼女の過去にある。彼女は東シュレイドに住んでいるのだが、“呼び声の召喚術師”という二つ名を持っていた彼女はある時誰かを呼ぶ不思議な呼び声を耳にした。助けを求めるような、小さく弱った声。自身以外の誰にも聞こえず、何故自身にだけ聞こえるのかをずっと不思議に思っていた。日を重ねるごとにその呼び声は強くなり、ある冬の日の夜、自室で眠ったはずの彼女が寒さを感じて目を覚ますと廃墟となった城の跡地にいた。彼女はその場所を知識で知っていた。自身の先祖が治めていた…かつて大国と言われていたシュレイド王国の城。今は立ち入り禁止区域に指定されている場所。その場所で、彼女は異様に傷ついた白き龍、祖龍ミラボレアスと出逢った。ミラボレアスが目を覚まし、彼女を見た時にあの呼び声が聞こえる。それを聞き、彼女を呼んでいたのはこの傷ついたミラボレアスであったと知ったのだ。少女は生まれながらにして病弱であった。祖龍は既に瀕死の身であった。病弱と瀕死が、ただ一つの命としてこの先も生きたいと願った。その願いが二つ重なり、少女と祖龍の間に融合の契約が成った。その時少女は祖龍と融合したことで意識を失い、祖龍は少女の身体を動かして人の村へと送った。目を覚ました彼女はこれまで親しかった者達には“ミルティ・スティア”と。契約獣魔達と初めて会った者達には“ミラ・ルーティア”と名を分け名乗り始めた。それが、少女が僅か9歳の頃の出来事である。一人の少女と一体の古龍が少女の命果てるまで力を合わせ続ける、人龍一体のサーヴァント。それが彼女、“ミラ・ルーティア・シュレイド”であり、人忌龍“ミラヒューティア”である。

 

 

 

ミルティ・シュレイド

本名は“ミルティ・スティア・シュレイド”。かつて大国であったシュレイド王国の王族の生き残りの末裔。シュレイド家の3人姉妹の長女であり、高度な召喚術を用いることができるということから第一王位継承者であった。しかし彼女は生まれつき病弱であり、生きられても15歳までだろうとまで言われていた。“呼び声の召喚術師”という二つ名を持ち、召喚呪文───即ち“喚び声”を使用せずに自身が相手に与えた愛称、呼び名───即ち“呼び声”を使っての術を、それも魔導書ではなく絆の指輪を用いた本来は何年も時間をかけなければ習得が難しいと言われる“契約獣魔最高位召喚術”を最も得意としていた。彼女は獣魔たちから気に入られる傾向があり、数多ある種族の中でも“海竜種”、“牙竜種”、“飛竜種”、そして“古龍種”の獣魔達に好かれやすい。もっとも、彼女のことを嫌う獣魔はいないのだが。ゴア・マガラ?あれも例外なく彼女の契約獣魔だが何か?誰に対しても優しいが、逆に自身の護りたいものに対する脅威と判断した場合は容赦をしないという性格。王位継承者であるがその根幹は“愛する民たちを脅威から守りたい”、というものである。容姿は黒い髪のストレート、両眼とも緑色。もしも彼女単体で召喚されていれば恐らく属性は“秩序・善”であり、クラスは“キャスター”であっただろう。

 

ミラルーツ

正式名称は“ミラボレアス”。ミラボレアス種の中でも“祖なるもの”、“全ての龍の祖”と呼ばれている白い古龍。ミルティ・シュレイドが9歳の頃、瀕死の状態でシュレイド城跡地にいたところを発見される。ちなみに性別は雌。“ミラ・ルーツ”というのは彼女の名前ではなく、いくつかの種が存在するミラボレアスの中で、この個体のような姿を持つ龍の総称。かすかに残った力で自身を救える者を呼び声で探し、そうして彼女を見つけたのがミルティ・シュレイドである。空間を歪ませて場所を越える力があるほか、自身をあらゆる獣魔の性質に変化させる、自身の性質をその環境に適応させるといった適応能力を持つ。人間に姿を変えることも可能で、ミルティ・シュレイドに与えられた人としての名は“ミラルーナ・ミィテル・シュレイド”であり、愛称として与えられたのは“ミラティ”。ちなみに彼女たちの世界線においてシュレイド王国を滅ぼしたのはこの彼女自身である。もしも彼女単体で召喚されていたのならば恐らく属性は“混沌・悪”であり、クラスは“フォーリナー”であっただろう。…本来のミラルーツとは少々性質が異なるようだが、現時点では不明となっている。

 

 

 

人龍“ミラヒューティア”

ミラ・ルーティア・シュレイドに与えられた古龍としての名前。由来はミラボレアス種の“ミラ”、人間を示す“ヒューマン”、そして彼女の本名である“スティア”。人と龍が融合し、人が何らかの理由で古龍になってしまったもの。ミラボレアスにして、人間と混ざりし忌まわしき獣魔───即ち“人忌龍(じんきりゅう)”。ミラボレアス種と融合してしまった場合のみ、この“ミラヒューティア”という呼称は使われる。その他の古龍、その他の竜の場合は人龍“ヒューレア”、人竜“ヒューメア”となる。注意してほしいのは、竜人とは別物だということ。竜人は先天的なもの、つまり生まれつきのものであるが、人龍、及び人竜は後天的なものという明確な違いがある。とはいえ、人竜も人龍も人忌龍も元々は人であるため、普通に生活する分には何も問題はない。寿命はそれぞれで、古龍と融合した時にはかなりの年月の寿命を得ることになる…ということが多い。事実、最初のミラヒューティアである彼女はただの人間であった時は寿命15年であったのに対し、祖龍と融合してからは最低寿命100年までに伸びている。短めなのは、そもそもの話、融合した時の祖龍が当時すでに瀕死の状態であったため。それでも寿命を人並み、もしくはそれ以上に伸ばせるあたり、古龍種の規格外さが伺える。




ということで色々と情報公開が多いミラさんから。

裁「竜の炉心…」

マテリアルを用意するのに時間がかかっているので投稿は遅くなるかもしれません…


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第二回設定紹介群その二 無銘

今回は無銘さんで…各人格の設定がまだないのは許してください

裁「次回は?」

どうしようかなぁ…


真名:無銘

 

クラス:リンカー

 

性別:女性

 

属性:中立/中庸 天

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?) 神性

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具?

 

 

保有スキル

 

寡黙の瞳

相手のスタン

 

人格交代

別人格に体の操作権を譲り渡す

 

転身

自分の姿を別の姿へと変える

 

 

宝具

 

七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン )極点双星、微星運命(ポールスターズ・アルコルディスティニー)

対軍宝具

 第一人格“無銘”の第一宝具。夜天の結界で周囲を覆い、北斗七星と南斗六星、北極星と南極星、添え星(死兆星といえば伝わりやすいかもしれないが)の力を一気に砲撃として叩き込む宝具。本来の詠唱では星の名前を読み上げる必要がある。不完全な状態である“七色七星、六星六性。(セブンスターズ・シックスパターン)”の場合、夜天の結界を用いないために星の数で威力が変わるが、こちらの場合はほぼ常に最大威力を叩き出す。

 

 

それはまるで流星群のように(シューティング・アステロイド)

対軍宝具

 第一人格“無銘”の第二宝具。無数の小惑星を生み出し、それを流星群のように振り注がせる宝具。

 

 

それは世界を架ける七色橋の星光たらん(プリズムレインボー・スターフラッシュ)

対軍宝具

 第一人格“無銘”の第三宝具。詳細不明。

 

 

???(???)

概念宝具

 第一人格“無銘”の第四宝具。詳細不明。

 

 

月よ、その神威を示さん(ルーナー・ディストートコーロス)

防御宝具

 第一人格“無銘”の第五宝具。“仮想宝具 疑似展開/空間歪曲(ロード・スペースディストート)”の真の姿。一時的に第三人格の力を引き出し、歪んだ空間の壁として運用する。難点として第三人格の力の扱いが難しいため、そこまで長い時間の保持はできないことと、正常な解除ができないために炸裂させるしかないこと。コーロスとはギリシャ語で“空間”の意味。

 

 

陽よ、その神威を示さん(ソーラー・ディストートクロノス)

対人宝具

 第一人格“無銘”の第六宝具。“仮想宝具 疑似展開/時間歪曲(ロード・タイマーディストート)”の真の姿。一時的に第四人格の力を引き出し、歪んだ時の攻撃として運用する。難点として第四人格の力の扱いが難しいため、そこまで長い時間の保持はできないことと、思考に相当な負荷をかけること。クロノスとはギリシャ語で“時間”の意味。

 

 

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)

対人宝具

 第二人格“魂込 星海”の第五宝具。須佐之男命が見つけたと伝えられる三種の神器の一つ。鏡、玉、剣のうち剣は須佐之男命になぞらえられるということから須佐之男命を適合神格として持つ彼女が所有する宝具となっている。

 

 

浄澄清龍(じょうちょうせいりゅう)

浄化宝具

 第二人格“魂込 星海”の第四宝具。水属性の浄化技の極致。痛みを与えぬ慈悲ともいえる浄化技だが、その奥底は残酷。“浄化する”という概念が魂と体もろとも分解・浄化・崩壊させるあらゆる抵抗を許さない冷酷無比の死の宣告。

 

 

神器・永久想打流細波(とこしえおもいうちながすさざなみ)

対人宝具

 第二人格“魂込 星海”の第三宝具。彼女が持ち、担い手となる“水”の神器。

 

 

界の魂よ、その神威ここに表せ(魂界の力)

対界宝具

 第二人格“魂込 星海”の第二宝具。世界を管理する彼女の力。

 

 

世界と世界を繋げる糸(ワールドコネクティアライン)

対界宝具

 第二人格“魂込 星海”の第一宝具。彼女が持つ絶技が宝具となったもの。その絶技は宝具名の通り“世界と世界を繋げる”もの。クロスオーバーの極点。彼女はそこにいるだけで、彼女が絶技を振るうだけで自由にクロスオーバーを発生させられる。

 

 

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

対人宝具

 第三人格“創詠 月”の第五宝具。岩戸に隠れてしまった天照大神を呼び戻すために、真榊に掛けて飾るために作られたと伝えられる三種の神器の一つ。鏡、玉、剣のうち玉は月読命になぞらえられるということから月詠命を適合神格として持つ彼女が所有する宝具となっている。字体ズレは気にしてはいけない。

 

 

月の歯車を穿つ者(ギアス・ムーン・ピアーサー)

対界宝具

 第三人格“創詠 月”の第四宝具。古より創詠に伝わる月の宝具。月の力がなくば本当の力は出せず、月巫女の力を最終解放し、歌の後に神名“月詠命”を告げてようやく放てる月巫女最大の一撃。それは空間を裂く乖離剣のごとし。その宝具に狙われた者は、あらゆる空間の全てにおいて逃げ場はなし。

 

 

無限の音製(アンリミテッドトーンワークス)

対軍宝具

 第三人格“創詠 月”の第三宝具。別名“歌姫の聖域”。どれだけ歌っても疲れず、声が枯れることもない名前の通り歌い手の為にあるかのような結界。

 

 

月よ、その神威ここに表せ(神月の力)

対界宝具

 第三人格“創詠 月”の第二宝具。空間を操る彼女の力。

 

 

神の月巫女の名におきここに月を(ルーナ・スペロニエンテ)

降臨宝具

 第三人格“創詠 月”の第一宝具。月の神───“月詠命”や“アルテミス”、“ルナ”等の神威を再現する。それは、彼女が当代の神月の巫女───神なる月の力を持ち、月神の巫女であり───彼女が“月”であるが故に。“ルーナ・スペロニエンテ”とはラテン語で“月の降臨”。

 

 

八咫鏡(やたのかがみ)

対人宝具

 第四人格“雨照 陽詩”の第五宝具。石凝姥命が天照大神を引きつけて岩戸から誘い出すために作りだしたと伝えられる三種の神器の一つ。鏡、玉、剣のうち鏡は天照大御神になぞらえられるということから天照大御神を適合神格として持つ彼女が所有する宝具となっている。

 

 

陽の歯車を穿つ者(ギアス・サン・ピアーサー)

対界宝具

 第四人格“雨照 陽詩”の第四宝具。古より雨照に伝わる太陽の宝具。太陽の力がなくば本当の力は出せず、陽巫女の力を最終解放し、歌の後に神名“天照大神”を告げてようやく放てる陽巫女最大の一撃。それは時間を穿つ時穿剣のごとし。その宝具に狙われた者は、過去現在未来全てにおいて逃げ場はなし。

 

 

無限の音製(アンリミテッドトーンワークス)

対軍宝具

 第四人格“雨照 陽詩”の第三宝具。別名“歌姫の聖域”。第二人格の第三宝具と名前が一緒なのは仕様。

 

 

陽よ、その神威ここに表せ(神陽の力)

対界宝具

 第四人格“雨照 陽詩”の第二宝具。時間を操り司る彼女の力。

 

 

神の陽巫女の名におきここに陽を(アドベニエンテ・ソーレ)

降臨宝具

 第四人格“雨照 陽詩”の第一宝具。太陽の神───“天照大御神”や“アポロン”、“ソル”等の神威を再現する。それは、彼女が当代の神陽の巫女───神なる太陽の力を持ち、太陽神の巫女であり───彼女が“太陽”であるが故に。“アドベニエンテ・ソーレ”とはラテン語で“太陽の降臨”。

 

 

浄輝爛煌(じょうきらんこう)

浄化宝具

 第五人格“魂込 星乃”の第四宝具。光属性の浄化技の極致。痛みを与えぬ慈悲ともいえる浄化技だが、その奥底は残酷。“浄化する”という概念が魂と体もろとも分解・浄化・崩壊させるあらゆる抵抗を許さない冷酷無比の死の宣告。

 

 

神器・闇包夜天煌星河(やみつつむやてんきらめくほしのかわ)

対人宝具

 第五人格“魂込 星乃”の第三宝具。彼女が持ち、担い手となる“星”の神器。

 

 

命の魂よ、その神威ここに表せ(魂命の力)

対界宝具

 第五人格“魂込 星乃”の第二宝具。生命を管理する彼女の力。

 

 

あらゆる生命を司る瞳(デッドオアアライブアイズ)

対人宝具

 第五人格“魂込 星乃”の第一宝具。彼女の持つ絶技が宝具となったもの。その絶技は宝具名の通り“あらゆる生命を司る”もの。例え不死であろうが生物で無かろうが、そしてすでに死んでいるものであろうが関係ない。生かすも殺すも彼女次第、そんな効果を持つ魔眼に近いもの。

 

 

それは総てを記した日記(アーカイブ・ファントム)

対軍宝具

 第六人格“亡月 美雪”の第四宝具。大切な者から貰った日記帳が宝具となったもの。自身の名前は記されていないが、言葉を扱えるようになってから主と出会うまでの総てが記録されている。

 

 

吠えよ我が憎悪(ウルラ・イミォーディオ)、我が祟り(・ラミアラミリディチオネ)

対軍宝具

 第六人格“亡月 美雪”の第三宝具。彼女が祟り巫女と呼ばれていた時代の再演。“私の憎悪は尽きることはない”───そんな彼女の復讐者としての適性を示す宝具。そもそもの話、彼女がこの自我を崩壊させて暴走するまでの憎しみを持ったのは彼女の大切な者が亡くなっていたことに対する自身への怒り、そしてその状態にした者達への憎しみ。さらにはそれを良しとした世界へのぶつける先の無い怨みである。偶然ではあるが、ジャンヌ・オルタの宝具にその名と性質が似ているのは強い“世界への憎しみ”が大本になっているからではなかろうか。ちなみに大本は“Ulula, il mio odio, (吼えよ我が憎悪、)la mia maledizione(我が祟り)”───イタリア語である。

 

 

微かなる月よ、その神威ここに表せ(亡月の力)

対界宝具

 第六人格“亡月 美雪”の第二宝具。彼女自身が月の力が合わないのだが、その力を歪めたものがこれ。

 

 

これは私の幸せの癒(ヒーリング・ハピネス)

対人宝具

 第六人格“亡月 美雪”の第一宝具。彼女の幸せの再演。これがある故に彼女は彼女でいられる。狂いかけであるが、人に癒しを与えられる。その幸せとは、彼女の大切な者との出会いと僅かな暮らしの日々。大切な者が得意としていた“癒しの風”の再現。

 

 

夢見理想(ゆめみたりそう)

浄化宝具

 第七人格“夢月 璃々”の第四宝具。一時的に、対象の理想を見させる。対霊体特化の浄化宝具にして浄化奥義。

 

 

神器・夢告双臨(ゆめつげるそうりん)

対人宝具

 第七人格“夢月 璃々”の第三宝具。彼女が持つ神器。

 

 

夢よ、その神威ここに表せ(神夢の力)

対界宝具

 第七人格“夢月 璃々”の第二宝具。夢や幻を司る彼女の力。

 

 

夢告げる虚像(ドリーム・ホロウ)

対界宝具

 第七人格“夢月 璃々”の第一宝具。“ソレ”は本当に“彼女”であるのか。“彼女”は本当にそんな姿だったか。自らの形を自由自在に変質させる宝具。

 

 

 

概要

謎の英霊。記憶を失っているが、何故かカルデアに召喚された。何かを為すために召喚されたのだと考えられるが、その真相は全くの不明。服装は白いワンピースに透明なヒール。容姿は18歳ほどの少女で白と青の髪のロングヘア。

 

 

その正体は世界の管理者。世界の繋がりを管理する魂込家の少女…の複製体。複製体とはいえ体そのものは人間そのものであり、人造人間というわけでもない。実態は“魂込 星海”という名の少女の複製体の中に複数の意識を入れ込んだもの。その影響と世界を跳んだ影響が重なり、彼女は記憶を失っていた。彼女の中には彼女自身の他に7つの意識が存在する。しばらくの間封印されていたが、第四特異点ロンドンにてソロモンが彼女に対して精神干渉をしようとした際にその封印が砕かれる。なお、砕かれた後は右の眼が紅くなり、目の中に漢数字が入っている。これは人格が変化すると数字が変化する仕様。

 

真名対応色霊基
第一人格無銘銘を持たず、存在が不定の者別人格
第二人格魂込 星海世界を繋げ、管理を司る魂の者槍兵
第三人格創詠 月空間を操り、夜を司る月の者弓兵
第四人格雨照 陽詩時間を操り、昼を司る太陽の者剣士
第五人格魂込 星乃命を見つめ、管理を司る魂の者暗殺者
第六人格亡月 美雪怨みを持ち、されど誰かを愛せし雪花の亡霊狂戦士(復讐者)
第七人格夢月 璃々意識を操り、夢と幻を司る夢の者 騎兵
第?人格不明不明 不明不明

 

 

真名、“虹架 七虹(にじかけ ななこ)”。あらゆる技術を模倣し、昇華し、自分の技とする能力を持つ。さらに、全人格の承認をもって虹の宝具を扱える。第四特異点にて、自分の情報をほとんど持たなかった彼女は、その隙に付け込まれ、ミラと共に監獄塔へと連れ去られた…封印という一瞬の抵抗はあったものの。その時、74番目の魔神、記録と観測を励起する“レメゲトン”として参列することを望まれたのである。それに対して───彼女の内にいる最後の人格以外の総ての人格がガチギレした。ソロモンがその場を離れた後、心情内において人格の使用権限解放と真相真名“虹架 七虹”の受諾が行われた。

 




前々話で出てきた陰陽玉の色が対応色に変わることによって誰がサポートしているのかわかるようになってます

裁「…虹、か。あとは黄色だけど…それはまだ出てきてない人格のなのかな」


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第二回設定紹介群その三 ルーパス・フェルト

次はリューネかなぁ…

弓「順番を考えておらぬのか」

ない


真名:ルーパス・フェルト(Lupus Felt)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。王の財宝に似てるとか言ってはいけない。

 

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

 

我、ここに告ぐ。之は龍を(新大陸の白)追いし白き風の一撃。(き追い風)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。大剣ならば真・溜め斬り、太刀ならば気刃兜割、片手剣ならばフォールバッシュ、双剣ならば空中回転乱舞・天、ランスならばカウンター突き、ガンランスならば竜杭砲、スラッシュアックスならば属性解放突き、チャージアックスならば超高出力属性解放斬り、ハンマーならば叩きつけ連打、狩猟笛ならば音波攻撃、操虫棍ならば空中攻撃、ライトボウガンならば起爆竜弾、ヘヴィボウガンならば狙撃竜弾、弓ならば竜の一矢。これらが一番最後に来て終わる連撃宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

 

我、ここに告ぐ。之は龍を(新大陸の導き)滅せし青き星の一撃。(の青い星)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。大剣ならば真・溜め斬り(強撃)、太刀ならば居合抜刀気刃斬り、片手剣ならばジャストラッシュ、双剣ならば回転斬り上げ、ランスならばカウンタークロー構え、ガンランスならば起爆竜杭、スラッシュアックスならば零距離解放突き、チャージアックスならば属性廻填斧強化斬り、ハンマーならば回転飛びつき、狩猟笛ならば響音攻撃からの響周波【歪】、操虫棍ならば急襲突き、ライトボウガンならば反撃竜弾、ヘヴィボウガンならば超適正狙撃竜弾、弓ならば竜の貫通千々矢。これらが一番最後に来て終わる連撃宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

 

刮目せよ、此処に見るは王の鉄槌(王の雫)

対軍宝具

 概要:赤龍ムフェト・ジーヴァの持つ技の中で最大の脅威である広範囲技がサーヴァントの記憶から呼び起こされ、それが宝具となったもの。使用には龍紋防具を4部位装備している必要がある。

 

 

灼けよ、此処に降りるは妃の憤怒なり(ヘルフレア)

対軍宝具

 概要:炎妃龍ナナ・テスカトリの大技を放つ宝具。使用にはエンプレス装備を4部位装備している必要がある。

 

 

弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エクゼキュート・アロー)

対人宝具

 彼女が編み出した奥義。空中にいるときに過剰集中した状態で周囲の時間が遅くなったと思ったときに、一瞬で視界に収められる領域の敵の数と強さ、位置を把握、総ての敵を死に至らしめる程の量の矢を放つ。時間停止ではなく過剰集中での時間遅延なのでまだましな方だとは思うが、はっきり言って人間技ではない。

 

 

 

保有スキル

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

特殊装具

 概要:装備している特殊装具によって効果は変わる。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

屍套龍の指輪 A

 概要:屍套龍の能力である瘴気操作が扱えるようになる。

 

 

“新大陸”と呼ばれる地で5期団の推薦組として派遣されたハンター。新大陸崩壊の防止、アルバトリオンの撃退、現大陸にてミラボレアスの撃退などの数々の功績により相棒の受付嬢、オトモアイルーと共に英霊となっていた。出身はベルナ村。現大陸に残った“リューネ・メリス”、本名“舞華 琉音”とは幼馴染。年齢は19歳とかなり若い。オトモアイルーの“スピリス(Spilis)”と受付嬢の“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。なお、一番連携がうまくいくのは幼馴染のリューネ。得意な武器種は弓、スラッシュアックス、ガンランス。リューネと同じで攻撃を回避することを好む。また、現大陸にいたころはカティと同じデザインのコーデ(服の色は緑を基調としている)で一緒に遊んでいたこともあったそうな。容姿は青色の眼に銀髪の三つ編み。広い音域をもち、スカート系の服装を好む。ちなみにハンター業は8歳の頃からやっている。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であった母と父、祖父と祖母への憧れ。基本的に装備はリオレイア系統のミニスカートカスタム、もしくはエンプレス装備のミニスカートカスタムを好む。なお、幼馴染のリューネが好むものがリオレウス系統のスボンカスタム、もしくはカイザー装備のズボンカスタムであったため、“夫婦”と言われることがたまにあったそうな。

 

 

装備は基本的に新大陸版で、EXゴールドルナβ、EXリオハートβ、EXレイアβ、EXエンプレスα、EXエンプレスβ…と、この辺を主に一式防具として使用する。ちなみにお気に入りはEXラヴィーナβやEXウルムーβ、EXカガチβ等々様々なものがあるが、リューネといるときは基本的にリオレイア系統である。また、稀にベルダー一式と呼ばれる防具を着用し、武器もベルダー武器にして戦うことがある。このベルダー武器・ベルダー防具は出身地であるベルナ村の装備であり、思い入れがあることからわざわざ交易船を用いて現地から取り寄せたという。武器に関しては弓ではイヴェルカーナの弓“氷妖イヴェリア”、凍て刺すレイギエナの弓“ミスト=グレイシア”、ゼノ・ジーヴァの弓“ゼノ=メートラ改”など、スラッシュアックスは“氷魔ニーズウォック”、“カラクルウルムーII”など、ガンランスは“万雷銃槍【蜻蛉切】”、“氷砦ヴォーバル”、“真・驚天動地マグラハ”など…見た目が綺麗な武器を好む傾向がある。とはいえ、状況に応じて装備は使い分けるため、ジュリィとは違いアイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。ちなみに、現大陸のものは先述のベルダー装備以外は重ね着しか存在しない。

 

 

ハンター兼ライダーというギルド内でも特殊な立ち位置。モンスターを狩るハンターでありながら、モンスターと共に戦うライダーでもある。新大陸調査団に推薦されたのにはこれも理由ではある。総司令と大団長はそれをギルドから聞いているが、実際に見たことはなかった。役割としてはライダー達の様子の調査、ライダーとハンターの架け橋、ライダー達の要望を引き受ける窓口といったものである。基本的に行動不能にさせるまでしか戦わず、完全に絶命させることは少ない。“モンスターの声”というようなものが聞こえるわけではないが、“モンスターが何を言いたいか”はうっすらと理解できる。絆石は現大陸に置いてきたので新大陸でライダーとして行動することはほぼない。…とはいえ、彼女の性格などは変わらないため新大陸のモンスター達からも何気に慕われていたりする。特にそれが顕著なのが屍套龍“ヴァルハザク”と火竜“リオレウス”、毒妖鳥“プケプケ”…だったと思われる。実際の話をすればすべてのモンスターから好かれているので優劣が分かりにくい。

 

 

複数のモンスターから認められている。これは武器や防具に使われたモンスターの素材が彼女に力を貸してくれるかを意味し、当作品本編中ではイヴェルカーナが彼女に力を貸していた。モンスターによってその力は様々で、主にスキルの強化や属性の強化が行われる。モンスターに変化する宝具は恐らくそのモンスターに完全に認められたから、という推測は魔術師たちの間でなされている。




…なんか、ちょっと微妙

裁「…これって、確かまだ全部じゃないよね」

…多分

裁「というか、“原初の矢(サジッタ・プリミティーヴァ)”とかって…」

あれは宝具じゃないから


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第二回設定紹介群その四 リューネ・メリス

マテリアル書くの多すぎ…

弓「貴様がサボっておったからであろう?」

そうなんだけど…まぁ、楽しいからいいんだけどさ


真名:リューネ・メリス(Lune Melis)

 

真名:舞華(まいか) 琉音(るね)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。之は龍(現大陸の)を滅す精神力の強撃。(守護強者)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。最初に絶対回避【臨戦】が発動し、その後武器種固有の狩技2種が発動するようになっている。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍(現大陸の)を滅せし翔ける強撃。(夜行覇者)

対人宝具

 概要:担ぐ武器によって攻撃が変わる宝具。最初に鉄蟲回避が発動し、時間を置かずに武器種固有の鉄蟲糸技2種類が発動する。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

天廻龍、その毒この地に振り撒かん(バーサクドラゴ・ポイズンミスト)

対軍宝具

 概要:狂竜ウイルスを霧状に発し、自身も狂竜症に感染させ、克服し狂撃化することで一時的な強化を得る自己犠牲から始まる宝具。注意点は範囲的に生じさせるウイルスの霧なため、味方を巻き込む可能性が高いということ。使用にはフィリア防具を4部位装備している必要がある。

 

狩猟笛が戦いにて奏でる(バトル・バース)激動旋律の爆音後方楽曲(ト・メロディー)

対人宝具

 彼女が編み出した奥義ともいうべき技。戦いながら常に狩猟笛を吹き続け、音楽を奏でる。爆音、というのは狩猟笛からなるとは思えないほどの大きな音がその狩猟笛から発せられるため。言ってしまえばBGMであるが、それを戦いに転用できる。ハンターたちはもともと小さな楽器を持っており、モンスターとの戦闘時にそれが自動的に鳴って士気を高められているのだが、彼女の場合はその楽器を持たず、自分で爆音演奏する。

 

私が奏でて、貴女が歌って。(ドリーミー・オーケストラ)

対軍宝具

 彼女の思いの具現化。自分は楽器の弾き手となり、歌い手は他の人に任せたいという思いが宝具と化したもの。もともと彼女単体では一つの楽器しか鳴らすことはできなかったが、この宝具を展開すると彼女単体で様々な楽器を用いた重奏を行うことができる。それは、まるでオーケストラのように。歌い手は男女どちらの性別でも大丈夫だが、宝具名のように女性が歌い手となると、この宝具の効力は一気に上がる。なお、宝具の維持、楽器の維持に意識を割いておけば、彼女自身も歌い手となることが可能。

 

 

 

保有スキル

 

道具作成 A

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

重音色

 概要:狩猟笛の支援効果を瞬時に以前に演奏した効果と同時にかけ直せるようになる。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“現大陸”と呼ばれる地でモンスターを狩っていたハンター。狂竜ウイルスの発生原因究明、シャガルマガラの撃退、百竜夜行への対応、ミラボレアスの撃退などの数々の功績によりオトモ達と共に英霊となっていた。育ったのはベルナ村だが出身は実はカムラの里。新大陸に5期団として行った“ルーパス・フェルト”とは幼馴染。年齢は19歳とかなり若い。オトモアイルーの“ルル(Lulu)”、オトモガルクの“ガルシア(Galcia)”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。なお、一番連携がうまくいくのは幼馴染のルーパス。得意な武器種は狩猟笛、太刀、ヘヴィボウガン。ルーパスと同じで攻撃を回避することを好む。また、龍識船に滞在しているときにはミルシィと同じデザインのコーデ(服の色は白を基調としている)で一緒に歌っていたこともあったそうな。容姿は黄色の目に白髪のショート。かなりの高音域を持ち、ズボン系の服装を好む。ちなみにハンター業は8歳の頃からやっている。二重真名持ち。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であったルーパスの母と父への憧れ。基本的に装備はリオレウス系統のズボンカスタム、もしくはカイザー装備のズボンカスタムを好む。なお、幼馴染のルーパスが好むものがリオレイア系統のミニスカートカスタム、もしくはエンプレス装備のミニスカートカスタムであったため、“夫婦”と言われることがたまにあったそうな。

 

 

装備は基本的に現大陸版で、S・ソルZ、、リオソウルZ、レウスX、カイザーX…と、この辺を主に一式防具として使用する。ちなみにお気に入りは天眼、GXミラルーツ等々様々なものがあるが、ルーパスといるときは基本的にリオレウス系統である。また、稀にベルダー一式と呼ばれる防具を着用し、武器もベルダー武器にして戦うことがある。このベルダー武器・ベルダー防具は育ちの地であるベルナ村の装備であり、思い入れがあることからずっと所持していたという。武器に関しては天眼武器、紫毒姫武器等の二つ名武器やバルファルクの紅白武器が多い。とはいえ、状況に応じて装備は使い分けるため、アイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。ちなみに、リオレイア系統のミニスカートカスタムされた装備もアイテムボックス内にあるが、これは彼女の装備ではなくルーパスのものであり、一応ルーパスからの預かりものである。

 

 

ハンター兼ライダーというギルド内でも特殊な立ち位置。モンスターを狩るハンターでありながら、モンスターと共に戦うライダーでもある。新大陸調査団に推薦されたのにはこれも理由ではある。役割としてはライダー達の様子の調査、ライダーとハンターの架け橋、ライダー達の要望を引き受ける窓口といったものである。基本的に行動不能にさせるまでしか戦わず、完全に絶命させることは少ない。“モンスターの声”というようなものが聞こえるわけではないが、“モンスターが何を言いたいか”はうっすらと理解できる。彼女の性格や考え方からなのか、モンスター達からも何気に慕われていたりする。特にそれが顕著なのが嵐龍“アマツマガツチ”と雌火竜“リオレイア”、彩鳥“クルペッコ”…だったと思われる。実際の話をすればすべてのモンスターから好かれているので優劣が分かりにくい。

 

 

複数のモンスターから認められている。これは武器や防具に使われたモンスターの素材が彼女に力を貸してくれるかを意味する。モンスターによってその力は様々で、主にスキルの強化や属性の強化が行われる。モンスターに変化する宝具は恐らくそのモンスターに完全に認められたから、という推測は魔術師たちの間でなされている。




とりあえずプレイヤーがもとになったキャラはこんな感じかなぁ…

裁「彼女たちのお母さんとかは?」

まだマテリアル出来てません。


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第二回設定紹介群その五 スピリス

とりあえずアイルーをば。あまり変更点はありません。

弓「…ふむ」


真名:スピリス(Spilis)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の乱撃。(新大陸の歴戦アイルー)

対人宝具

 概要:相手に対して怒涛の乱撃を放つ宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の連撃。(新大陸の天才アイルー)

対人宝具

 概要:相手に対して正確な連撃を放つ宝具。竜種、竜特性を持つサーヴァントに対して超強力な特効を得る。

 

 

保有スキル

 

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 C

猫用の武器しか扱えない。

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

オトモ道具

 概要:装備しているオトモ道具によって効果は変わる。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“ルーパス・フェルト”のオトモアイルー。アイルーのハンターこと“ニャンター”として活動していたこともありハンターのクラスとして顕現した模様。投擲、回復、近接、罠、爆弾なんでもござれ。ルーパスとその幼馴染である“リューネ・メリス”がハンター業を開始した時、オトモアイルーとしてルーパスが選んだのが彼女であった。以後、ルーパスと共に新大陸に行くまではリューネとそのオトモアイルーである“ルル”と共に現大陸を翔けた。新大陸に生息していた獣人族達に対しては良き仲間だと思っている。ちなみにルルとは良き友人。リューネ、ルーパス、ルル、スピリスの二人二匹のパーティは“歴戦の天才集団”などと言われていた。

 

 

主人であるルーパスの影響か、モンスターに対する憎悪や敵対心はない。心を通わせるライダーがいるのだからルーパスとリューネ、その一族以外のハンター達であってもモンスター達と手を取り合って共存することは可能だろうと考えている。そもそも自分自身が“アイルー”という獣人種のモンスターであるため、モンスターとハンターが相容れないということはない、という考えが昔からある。

 

 

主人であるルーパスの装備傾向などもあるが、可愛い系の装備が多い。カガチネコ、ウルムーネコ、ゼノネコ等々。彼女自身も可愛いものが好きで気に入っているため、異論はないようだ。やはり、アイルーとはいえど少女ということだろうか。少女でも可愛いものが嫌いな者はいるが…一人称も“ボク”ではなく“私”なため、獣人種であっても主人と同じ人間だと考えているのかもしれない。ちなみに、彼女も時折EX黒龍ネコを着るのだが…彼女自身の性格などもあるのか、その恐怖を感じそうな見た目に反して可愛いと調査団でも評判である。




人が多くて大変なのよ、実際

裁「アドベントカレンダーも仕上げないとだもんね」

ここまで辛いか、11月序盤から作業始めてたのに。

裁「…ちなみにいつから書いてるの」

11月4日…だったと思う


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第二回設定紹介群その六 ルル

とりあえずルルさんを。ズレがあったら修正します

裁「あ、修正入るかもなんだ」

最近気力が本当に落ちてるから…


真名:ルル(Lulu)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の一撃。(現大陸の歴戦アイルー)

対人宝具

 概要:竜種に対する特攻効果が強化される。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の命撃。(現大陸の天才アイルー)

対人宝具

 概要:自身の体力を消費するが文字通り龍の命を狩り取る一撃。一度自分の主が危機に陥ったことがあり、それを自身の身体が壊れかけるのも構わずに対峙していた古龍に攻撃を叩き込み、その古龍を滅した、という伝説が宝具となったもの。宝具の名である“命撃”というのは“相手に致命傷を与える”というのと“自身の生命を削る”というものが合わさって名付けられた。竜種に対する即死効果が入る。

 

 

 

保有スキル

 

 

道具作成 A+

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 B

猫用の武器ならばどんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

奇面族の仮面

 概要:装備する仮面によって効果は変わる。

 

治・ローリングの術

 概要:攻撃完全回避・体力回復

 

 

“リューネ・メリス”のオトモアイルー。アイルーのハンターこと“ニャンター”として活動していたこともありハンターのクラスとして顕現した模様。投擲、回復、近接、罠、爆弾なんでもござれ。リューネとその幼馴染である“ルーパス・フェルト”がハンター業を開始した時、オトモアイルーとしてリューネが選んだのが彼女であった。以後、ルーパスとルーパスのオトモアイルー、“スピリス”が新大陸に行くまでは共に現大陸を翔けた。ルーパスとスピリスが新大陸に行ったあとから仲間になったオトモガルクの“ガルシア”に対しては自身の妹のような認識を持っている。ちなみにスピリスとは良き友人。リューネ、ルーパス、ルル、スピリスの二人二匹のパーティは“歴戦の天才集団”などと言われていた。

 

 

主人であるリューネの影響か、モンスターに対する憎悪や敵対心はない。心を通わせるライダーがいるのだからルーパスとリューネ、その一族以外のハンター達であってもモンスター達と手を取り合って共存することは可能だろうと考えている。そもそも自分自身が“アイルー”という獣人種のモンスターであるため、モンスターとハンターが相容れないということはない、という考えが昔からある。

 

 

主人であるリューネは装備傾向がスカートでないものが多い、もしくは元々はスカートのものであってもスカートではないデザインとして作成してもらうことが多いのだが、彼女は可愛い系の装備が多い。というのも、彼女の主人であるリューネは自分に可愛い系が似合わないと思っているため、彼女に可愛い系の装備を着せているという裏事情的なものがある。実際、彼女自身も可愛い系の装備は好きなため文句はない。着用しているのはマフモフネコ、カガチネコ、ヤツカダネコ等々。一人称も“ボク”ではなく“私”なため、獣人種であっても主人と同じ人間だと考えているのかもしれない。“な”の発音が苦手なのか、よく“にゃ”になるのを少し気にしている。

 

 

主人を守りたい、という思いはアイルーの中でもかなり強い。それ故に、自分の身体が傷つくのも構わずに全力で攻撃して主人であるリューネを泣かせることがよくある。歴戦の天才集団と呼ばれていることからも分かる通り、彼女も天才の1人であり、生まれつき力が強い───つまりは“剛力”という才能を持っているのだが、この剛力はアイルーという存在には過ぎたものであり、全力で放つと自らの身体を壊す諸刃の剣なのである。つまり、彼女の宝具である“我、ここに告ぐ。之は龍を滅せし猫の命撃。(現大陸の天才アイルー)”とは言ってしまえばアイルー版の流星一条(ステラ)なのである。…一応、生身であるならば瀕死になるだけで死にはしないが、魔力の身体であるサーヴァントであれば消滅扱いである。




あまり変わらないんですよねぇ…

弓「次回は誰だ?」

順番で行くならジュリィさん


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第二回設定紹介群その七 ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ

うーん…

裁「どうしたの…」

…なんでもない


真名:ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ(July Seltial Soldomine)

 

性別:女性

 

クラス:キャスター/ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

あらゆるものを吸い込み記す入口の頁(ページ・オブ・レコード)

対人宝具

 概要:編纂者はハンターと共にあらゆる情報を書に記す。その概念が宝具となったもの。生きた人間であろうが生命の無い物品や魂だけとなった存在であろうが、そこに存在するならば総てを本の中に吸い込もうとする。小型のブラックホールともいえるだろうか。

 

あらゆるものを吐き出し伝う出口の頁(ページ・オブ・リリース)

対人宝具

 概要:編纂者は纏め上げた情報を誰かに伝える。その概念が宝具となったもの。“あらゆるものを吸い込み記す入口の頁(ページ・オブ・レコード)”とは対になっており、もしも生きた人間や魂だけとなった存在を本の中に吸い込んでいたのならばそれを吐き出すことができる。小型のホワイトホールともいえるだろうか。

 

腹が減っては戦は出来ぬ(相棒!食事の時間です!)

対軍宝具

 概要:自身の料理、食事場仕込みの“ネコ飯”を作成し、味方にふるまう。食材の組み合わせに応じて何らかの特殊効果が発動する可能性がある。

 

飛竜よ、我と共に空を(ファストトラベルですね!)

対人宝具

 概要:ファストトラベル用、移動用の飛竜を召喚する。

 

知は時として支えにもなり力にもなる(私の知識がお役に立てる時が来たようです!)

結界宝具

 概要:彼女の興味と強い意志の極致。なんとギルドでも屈指の機密事項とされる工房の技術を見て覚え、ハンターたちの武器や防具を作成することができるようになった。というか、彼女は相棒を側で支えたいという強い意志だけで加工技術を会得した(うっそだろお前さん…)。基本となるのは新大陸の加工屋なので、現大陸の装備を再現することは…まぁ、出来なくはないがそもそも新大陸に現大陸の装備を着てる人間はソードマスターくらいだったのでなんとも。ただしリューネと出会ったことで現大陸の装備の作り方も理解できた模様。ちなみにセリエナの加工場を担う二期団の期団長とアステラの加工場を担う若者は彼女が工房技術を会得したことを聞いて絶句していた。なお、この宝具は固有結界に近いが固有結界ではなく、新しく作成した空間の中に加工場がある、というようなものである。応用すればSAO LSの“サウザンド・レイン”のような大量の武器を空間と空間の継ぎ目から投げ込むというような使い方もできる。

 

 

恐れよ、此処に在るは食物連鎖の頂点(あなたは私と同じ気配がします!!)

対軍宝具

 概要:狂暴竜“イビルジョー”に変化するという謎宝具。元ネタは“ウケツケ・ジョー”。本来のイビルジョーとは違い、敵と味方を判別するという知性を持つ。この状態の時に捕食行動を行うと彼女の体力を回復するという謎仕様が存在する。これを使うときは狂暴竜の大剣を装備していなくてはならない。なお、装備しているのが怒り喰らうイビルジョーの大剣だった場合はそのまま怒り喰らうイビルジョーに変化する。こちらは通常種よりも強力ではあるのだが、知性は持つが少し暴走しやすいという難点がある。

 

 

誰かの願いを記し、人を依頼に導くもの(クエストボード)

結界宝具

 概要:受付嬢というクエストを提示する女性たちの概念の顕現。クエストを提示し、ハンターがそれを受注すると、そのクエストに対応した強さのモンスターがその場所に現れるのだが、この宝具はその逆。“受付嬢がいる”、“クエストを受注した”という概念を起点として、その場にクエストの目的地を顕現させる。クエストの対象となるモンスターがいないのならば強制的に召喚し、もしもいるならば、既にいるモンスターをそのクエストに出るモンスターと同じレベルにまで強化するという主にモンスター用の補助宝具。補助宝具である以上、強化の方向性を変化させて自陣をある程度強化することもできる。この宝具によって強制的に召喚されたモンスターは契約しているわけではなく、彼女の言うことを聞くわけではない。

 

 

保有スキル

 

 

道具作成 A+

 

陣地作成 A

 

騎乗 B

 

単独行動 A

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 B

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して特攻

 

武器適応 D

大剣しか扱えない

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

野生感覚

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応し、かなり鋭い直感を持つ。

 

迷ったら食ってみろ

 概要:何が起こるかは分からない。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

“新大陸”と呼ばれる地で5期団の推薦組として派遣された編纂者。古龍渡りの解明、大いなる存在の認知、自生する植物の正しい扱い方の確立などの功績により相棒のハンターと共に英霊となっていた。出身はモガの村。年齢は23歳と若い。“ルーパス・フェルト”は共に信頼し、共に戦った良き相棒。編纂者は本来ハンターとしての行動を起こさないが、彼女はなんと大剣を用いて相棒のルーパスと共にハンターとして狩猟に行くことがあった。稀にルーパスから“嬢”と呼ばれることがあるが、それは彼女の役割が大陸での受付嬢とほぼ同じということ、そして作者側の事情としては彼女のファミリーネームが“ソルドミネ”、ラテン語で太陽を意味する“sol”とお嬢様を意味する“domine”を合わせた語であることが起因する。

 

 

装備はシーカー装備一式に各種大剣。中でもメインで使うのは怒り喰らうイビルジョーの大剣、“業剣グルンディング”。ちなみにこの剣は彼女本人が狩猟した怒り喰らうイビルジョーの素材から作成され、加工もすべて彼女の手で行われている。なお、ルーパスは普通に加工屋の親方に頼んで作成してもらったものだと思っている。ちなみに各種大剣を取り揃えており、状況に応じて使い分けを行う。ただし、ハンターとしての側面を見せることは少なく、基本的には食事などのハンターたちの補助を行う。

 

 

言うまでもなく、彼女はモンスターハンターワールド、及びモンスターハンターワールド:アイスボーンの主人公の相棒、受付嬢である。ただし、そのスペックはゲーム本来のスペックとは異なる。先述の通り、彼女は編纂者であるのだが、食事を工面する料理人だけでなく武器や防具の加工をする工房職人の面や、狩人、歌姫、植生管理者の面を見せることがある。彼女は編纂者のため主にサポーターとして召喚されていると思われるのだが、彼女自身の性格の影響か、かなり好戦的なサポーターになっている。なお、ファストトラベル用の飛竜は彼女の管理。“編纂者”という面と“歌姫”という点から“キャスター”の霊基を得たと考えられる。

 

 

確かに彼女は先走りしやすく、例に漏れずルーパスにも迷惑はかけているのだが…地味にここの彼女はそれを気にしている。元々彼女はリオレイアの痕跡の違いや、痕跡が新大陸で発見されていなかったナルガクルガのものであると見抜くほど観察眼、及び記憶力はいい。その見抜く力や纏める力ならばルーパスよりも高く、文字通り“推し薦められる”に値する人物なのだろう。当作品のヴァルハザクの一件でも分かったかもしれないが、ここの彼女は“命令違反などを起こしたときにギルドやその他に責任を問われた場合、全ての責任を自らが背負う”という決意がある。

 

 

当作品において、モンスターハンターの世界からやってきた人物で“ハンター”の霊基を持っている人類は彼女を除いて“奥義”を所持している(ミラはもっと別世界からの人類、というか古龍なので除外)。これが何を表すのか、彼女はおろかルーパス達も分かっていないが…本編中で奥義を編み出す…かもしれない。先述したとおり、彼女のスペックはかなり高い故に。…奥義は30年、ギリギリ天才と言われないレベルでも16年ハンター業続けていないと編み出せないとはなんだったのか。彼女はルーパス達を見て少々常識が揺らいでいる。実は当作品現時点、モンスターハンターの世界からの来訪者の中で一番の一般人。




次回はガルシアさんかな……あまり書くことがないのよ、ガルクって…

裁「そうなの?」

喋れないからね…喋れないって結構辛いよ?


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第二回設定紹介群その八 ガルシア

なんとか。

裁「お疲れ様…次は?」

どうしよ…


真名:ガルシア(Galcia)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター/アサシン

 

属性:中立/中庸 地

 

特性:猛獣 女性 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

緊急事態故、救援を要請する(救難信号)

対人宝具

 概要:救難信号の発信。信号が止まるまでの間、他のサーヴァントを救援として魔力消費なしで召喚できる。効果時間は最長50分。

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を突きし獣の一撃。(現大陸の新人ガルク)

対人宝具

 概要:まだ戦闘に慣れていなかった頃、なんとか役に立とうと編み出した単なる全力突進。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

我、ここに告ぐ。之は龍を下せし獣の連撃。(現大陸の凡才ガルク)

対人宝具

 概要:努力によって得た連撃の心得。才能のようなものはなくとも努力に努力を重ねた結果得た技。竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して超強力な特攻を得る。

 

 

 

クラススキル

 

 

気配遮断 C

 

道具作成 D

 

騎乗 D

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 C

ガルク用の武器しか扱えない。

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

猟犬具

 概要:装備している猟犬具によって効果が変わる。

 

力溜め

 概要:ドリフトしながら力を溜め、一気に解放することで一時的な速度上昇を得る。

 

 

“リューネ・メリス”のオトモガルク。移動、攻撃、妨害。その辺りを得意とする新人ハンター。カムラの里を訪れたリューネに気に入られて仲間になった。オトモアイルーの“ルル”に対しては自身の師匠のような認識を持っている。リューネがたまに話すルーパス達の話が大好き。リューネとルルとは違い凡才の努力型。日々リューネ達に追いつこうと努力しているが才能だけではなく経験の差もあり追いつけていないのが現状。それを見守るリューネ達の期待に応えたい彼女であった。性格はかなりの人見知り。

 

 

元々は誰にも懐かなかったが、リューネがカムラの里に現れた時、初めて人に懐いた。もしかすると、リューネのモンスターへの接し方などを野生の勘などで感じ取ったのかもしれない。真相は彼女以外知ることはないが…




さて…とりあえず明日は誰にするか考える…

裁「エスナさんとかは?」

召喚術について話すことができないから無理

裁「…あぁ」

弓「あの娘も召喚術師か…」

だよ


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第二回設定紹介群その九 ルーナ・フェルト

とりあえずルーナさんかな

弓「ルーパス・フェルトの母親だったか。」

そそ。…正直XXより前は全くやってないに等しいから設定浅いけどね。


真名:ルーナ・フェルト(Luuna Felt)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。王の財宝に似てるとか言ってはいけない。

 

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

 

太刀が戦いで閃く刹那の神速斬撃(ラピッド・モーメント・ブレイド)

対人宝具

 彼女の編み出した奥義。納刀時に強く集中し、抜刀すると同時に相手の各所を目にも留まらぬ早さで斬りつける。狩技“桜花気刃斬”、及び鉄蟲糸技“桜花鉄蟲気刃斬”の原型とも、その発展系とも言われているが、彼女のこれはその2つとは一撃の威力、射程範囲、持続時間等全てにおいて性能が段違い。時間停止ではないはずなのに時間停止であると錯覚するほどのその早さはまさに“神速”。娘共々瞬間的な速度に関しては人間とは思えないという。武器の性能にもよるが、総合的な攻撃力が150以上あれば下位の大型モンスター、並びに上位のドス鳥竜は撃破できる…らしい。また、全盛期の最高速度はマッハ150。一線を退いた今となってはマッハ100が限界だというが…正直なところ、ただの人間に出せる速度ではない。モンスターなハンターとは彼女達をよく表しているともとれる。

 

 

 

保有スキル

 

道具作成 A-

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

神速

 概要:奥義を擬似的に運用した身体加速。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

金火竜の命玉 ?

 概要:詳細不明。詳しい者曰く、無加工では力は引き出せないようだが……

 

 

ベルナ村に住み、現役を退いた太刀使いの女性ハンター。出身はカムラの里。カムラの里にいる“ソーラ・メリス”、本名“舞華 蒼空”とは姉妹であり、新大陸に渡った“ルーパス・フェルト”とは母娘。年齢は42歳なのだが、身長と顔立ちの影響かかなり若く見える。オトモアイルーと夫は若い頃のよき相棒。得意な武器種は太刀、大剣、片手剣。娘と同じで攻撃を回避することを好む。容姿は青色の眼に銀髪のロングストレート。スカート系の服装を好む。ちなみにハンター業は12歳の頃からやっていたが、あまり太刀が普及していなかった当時から太刀を用いていた。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であった母と父への憧れと世界を自分の目で見てみたいという思い。基本的に装備はリオレイア系統を用い、最終的にはゴールドルナに至る。武器に関しては、主に飛竜刀を用いる傾向があり、まだ前線によく出ていた頃に最後に使っていたのは“飛竜刀【花ノ宴】”であった。太刀を基本としているとはいえ、状況に応じて装備は使い分けていたため、やはりアイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。

 

 

新大陸調査団への推薦の話も来ていたが、既に衰えを感じていたためこれを辞退。新大陸に渡ると決めた愛する娘に少し寂しさを感じつつも、無理はしないこと、できることを頑張ってくることを条件として送り出した。以降は衰えているとはいってもまだ戦えることからベルナ村、及び龍歴院周辺の守護を担当している。全ては愛する娘や姪が元気に帰ってこれる場所を守るために。余談だが、彼女自身は自らの力が衰えているとはいうが、未だに極限化個体や獰猛化個体、古龍などと1人で互角に渡り合えるため“衰えてなおまだ普通じゃない”と言われることがある。

 

 

ハンター兼ライダーというギルド内でも特殊な立ち位置。モンスターを狩るハンターでありながら、モンスターと共に戦うライダーでもある。役割としてはライダー達の様子の調査、ライダーとハンターの架け橋、ライダー達の要望を引き受ける窓口といったものである。基本的に行動不能にさせるまでしか戦わず、完全に絶命させることは少ない。“モンスターの声”というようなものが聞こえるわけではないが、“モンスターが何を言いたいか”はうっすらと理解できる。彼女のモンスターだからといって敵視しない性格が影響してか、モンスター達から何気に慕われていたりする。特にそれが顕著なのが金火竜“リオレイア希少種”と怪鳥“イャンクック”、“ドスランポス”…だったと思われる。実際の話をすればすべてのモンスターから好かれているので優劣が分かりにくい。

 

 

ところで、娘より道具作成スキルのランクが下がっているのは何故かというと、元々彼女は“モンスターハンター”から“モンスターハンターポータブル2ndG”までのハンターという設定の予定であり、現役最後(?)の武器からも分かる通り“モンスターハンター4G”までのハンターになるのだが、結局は調合確率があった頃のハンターなため、少し下がっている。これが彼女の父母にまでなってしまうと、もっとランクは下がるであろう。




明日……は、休みだっけ

裁「あ……もしかして曜日感覚……」

消えてる。皆様、職業病にはお気をつけて…

弓「いきなりであるな。何かあったか?」

人とすれ違う度に“いらっしゃいませ”って言いかける……病気っていうか癖だけどほんと気をつけて…


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第二回設定紹介群その十 舞華 蒼空

蒼空さん出しました

弓「蒼空、が本来の真名か。」

ん。


真名:ソーラ・メリス(Sorra Melis)

 

真名:舞華(まいか) 蒼空(そら)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。王の財宝に似てるとか言ってはいけない。

 

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

 

剣斧が戦いを変える(ソードアックス・アトリビ)属性反転の高圧放出(ュート・ブラスター)

 

彼女の編み出した奥義。剣斧のビンを強引に別のものに変更し、高圧力のビンを属性解放。剣斧の攻撃に当たった存在にありとあらゆる属性を消す、龍属性やられを付与する。変更されたビンのことを“封印ビン”と呼び、龍属性やられ以外にも“束縛”と呼ばれる特殊な効果を発揮する。当然剣斧が壊れやすいが、長年使い続けた影響かどこに手を加えていいかがよく分かっているゆえに成立した。この状態の変化を龍蝕封撃変化ともいい、人間に属性やられを扱う方法がなかった頃に属性やられを扱った例の1つ。その中でもさらに不可解な龍属性やられを扱った唯一の例。

 

 

 

保有スキル

 

道具作成 A-

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

反撃

 概要:奥義を擬似的に運用したカウンター。一時的に強制的に行動を停止させる。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

カムラの里に住み、現役を退いたスラッシュアックス使いの女性ハンター。出身はカムラの里。ベルナ村にいる“ルーナ・フェルト”、旧名“舞華 瑠奈”とは姉妹であり、ベルナ村を拠点とする“リューネ・メリス”とは母娘。年齢は41歳なのだが、身長と顔立ちの影響かかなり若く見える。オトモアイルーと夫は若い頃のよき相棒。得意な武器種はスラッシュアックス、ハンマー、ランス。娘と同じで攻撃を回避することを好む。容姿は青色の眼に白髪のセミロング。和服系の服装を好む。ちなみにハンター業は11歳の頃からやっていたが、あまりスラッシュアックスが普及していなかった当時からスラッシュアックスを用いていた。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはハンター夫婦であった母と父への憧れと世界を自分の目で見てみたいという思い。基本的に装備はリオレウス系統を用い、最終的にはシルバーソルに至る。武器に関しては、流通が遅かったスラッシュアックスであったという理由もあり、長らく“カムラノ鉄剣斧”系統であったが、最近になって“剣斧の折形【桜吹雪】”となった。スラッシュアックスを基本としているとはいえ、状況に応じて装備は使い分けていたため、やはりアイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。

 

 

新大陸調査団への推薦の話も来ていたが、衰えを感じていたのとカムラの里を守るためこれを辞退。姪が新大陸に行ったことにに少し寂しさを感じつつも、カムラの里に娘が帰ってきたことは喜んだ。本心は姪と姉も一緒に来て欲しかったものの。衰えているとはいってもその力はまだ健在で、百竜夜行の際は娘や里の皆が防衛している方とは別の方から侵攻しようとするモンスター達をたった1人で抑えている。全ては愛する娘や姪、そして姉がいつの日か帰ってこれる場所を守るために。余談だが、彼女自身は自らの力が衰えているとはいうが、そもそもたった1人で1ヶ所の砦を無傷で百竜夜行の侵攻を防げるのがおかしいと言われている。

 

 

ハンター兼ライダーというギルド内でも特殊な立ち位置。モンスターを狩るハンターでありながら、モンスターと共に戦うライダーでもある。役割としてはライダー達の様子の調査、ライダーとハンターの架け橋、ライダー達の要望を引き受ける窓口といったものである。基本的に行動不能にさせるまでしか戦わず、完全に絶命させることは少ない。“モンスターの声”というようなものが聞こえるわけではないが、“モンスターが何を言いたいか”はうっすらと理解できる。彼女のモンスターだからといって敵視しない性格が影響してか、モンスター達から何気に慕われていたりする。特にそれが顕著なのが銀火竜“リオレウス希少種”と黒狼鳥“イャンガルルガ”、“ドスギアノス”…だったと思われる。実際の話をすればすべてのモンスターから好かれているので優劣が分かりにくい。

 

 

ところで、娘より道具作成スキルのランクが下がっているのは何故かというと、元々彼女は“モンスターハンター”から“モンスターハンターポータブル2ndG”までのハンターという設定の予定であり、現役最後(?)の武器からも分かる通り“モンスターハンター4G”までのハンターになるのだが、結局は調合確率があった頃のハンターなため、少し下がっている。これが彼女の父母にまでなってしまうと、もっとランクは下がるであろう。




明日…誰にしましょうか

裁「…そういえば、42,000UA言ってるよ」

うっそ…最近マテリアルばっかりなのに…ほんと、ありがとうございます…よければアドベントカレンダーの方も…

https://twitter.com/Stella_cre_soul/status/1464880818388496385?s=20


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第二回設定紹介群その十一 雪華 朔那

三週連続マテリアルまみれ…え、あと誰いたっけ。

月「預言書とか…あと過去のミルティさんは?」

あぁ、そっか…


真名:雪華(ゆきはな) 朔那(さくな)

 

性別:女性

 

クラス:ハンター

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性 竜 今を生きる人類(?)

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

異常事態故、瞬時に帰還する(モドリ玉)

対人宝具

 概要:モドリ玉の使用。一瞬で身を隠し、マスターのもとへ転移する。

 

非常事態故、一時撤退する(ネコタク)

対人宝具

 概要:安心と信頼のネコタク。山でも海でも異界でも。どこで倒れても必ず帰還が売りのハンター御用達のネコタクさん。標準で2回の使用制限があるが、復帰した時には体力全快といったメリットもある。使用制限後は魔力補充しなければこの宝具は使えなくなる。

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

ここに示すは我の証(サインコール)

対人宝具

 概要:サイン。猫の場合大声で鳴く。人の場合特殊な閃光弾を空に撃つ。どちらも味方に自分の位置を知らせると同時に敵に自分の位置を知らせることにもなりうるので注意が必要。

 

 

操虫棍が戦いで(ビートルブースト・)迸る圧縮属性の一点放出(カンパージ・フォーカス)

 

彼女の奥義。特殊な猟虫を使用することで武器の属性を暴走させ、各属性のレーザーとでも言うようなものを放つ。出力や放出のタイミングを変えることで全く別の攻撃にも見えたりはするが、彼女の奥義はこれのみなので間違いなくこれである。横打ちも可能だが、上空から地上に放った方が後に降竜に繋げられる……が、そうなると属性の柱───つまり火柱や氷柱といったものに自ら飛び込むことになるので高い属性耐性を持たなくては危険な諸刃の剣。なお、低所から高所に向けて放出すると、属性の柱が天へと昇っていくような見た目になるため、降竜と比較して“昇竜”と呼ばれることがある。

 

 

保有スキル

 

道具作成 A

 

騎乗 B

 

単独行動 EX

 

自立魔力 EX

マスターや聖杯からの魔力供給なしでの宝具の完全な解放が可能、現界用の魔力供給を必要としない。

 

滅龍 A

竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して強力な特攻

 

武器適応 A

どんな武器でも扱う

 

言語適応 EX

あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

猟虫吸収

 概要:属性を吸収し、自身の属性効果を高めることが出きる。

 

古の秘薬・広域化Lv.5

 概要:味方の体力・魔力全回復+増強。

 

 

カムラの里にて結構最近ハンターになった少女。生まれも育ちもカムラの里で、リューネが帰ってきた当初はちょっとした嫉妬心と長くカムラの里にいたことから来る先輩風的なものを吹かせていた。年齢は17歳とかなり若い。得意な武器種は操虫棍、弓、太刀。やはり回避することを好む。容姿は水色の目に水色髪のセミロング。声は高めでスカート系の服装を好む。

 

 

ハンター業へ入るきっかけはカムラの里を守りたいという意思。基本的に装備はヒノエと同じものを好んで着ているが、カガチ装備やブナハ装備などのこともよくある。武器に関しては雷神龍武器、炎王龍武器等の属性値が高い武器が多い。とはいえ、状況に応じて装備は使い分けるため、アイテムボックスには総ての武器防具護石重ね着(という名の服)が詰まっている。

 

 

リューネが帰ってきた際、里の全員に喜ばれ、歓迎されていることに嫉妬し、リューネ自身に勝負を挑んだ。勝負内容は“アケノシルムの討伐”。彼女自身も苦戦したことのある傘鳥の討伐を勝負内容として2体同時出現クエストに臨んだのである。……結果は、惨敗であった。武器種は違うとは言えど、彼女は被弾が多かった。そのため回復に何度か時間を割かねばならず、1体討伐するのに時間がかかったのである。挙げ句の果て危ないところをリューネに助けられ、数分習っただけのはずの鉄蟲糸技“震打”をリューネが独自に派生させた“跳躍震打”で止めを指された。その際、意気消沈している彼女に声をかけ、失礼なことをしたと思っている彼女を軽く笑って許したリューネに同性でありながら惚れてしまったのである。以来リューネを“先輩”と呼び、好意を示しているが、あまり相手にされていない。リューネ自身はというと、彼女を“そういう目で見れない”と思っている所があってどう反応していいのか困っている。決してリューネが鈍感なわけではない(自分の気持ちに対しては一度置いておくとして)。また、時折話に出てくるルーパスのことをリューネが好きなのだと感づいているが、姉と同じように推薦組として新大陸に行ったルーパスのことは気にせずに、もしも目の前に現れたのなら堂々と恋敵宣言してやろうと意気込んでいた。そして、それは雷の連鎖召喚によってロンドンへ召喚されたときに叶った。

 

 

生粋のハンターであるためリューネのモンスターに対する考えに違和感を持つ。恐らくは恋敵の思考に汚染されたのだろうと思い込んでいるが、そもそもリューネはハンター兼ライダーを生業としてきた家系の生まれであるため、汚染も何も…という話である。もっとも、ハンター兼ライダーになるというのはリューネ自身が自ら選んだ道で、そこに家系もルーパスも関係ないのだが。




竜特効宝具はしばらくまって、流石に材料が足りない。

裁「材料…?」

月「検証とかが足りないってことでしょう?」

そ……あとサンブレイクもしばらくしたら出るから結構それ次第な所もあるかな…


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第二回設定紹介集その十二 ミルティ・スティア・シュレイド

とりあえずミルティさんから。ちょっと設定浅いけど…

月「…病弱な子なんだっけ。」

…うん。


真名:ミルティ・スティア・シュレイド

 

性別:女性

 

クラス:キャスター

 

属性:秩序・善 人

 

特性:人型 王 女性 今を生きる人類(?) 竜

 

ステータス:筋力C 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運C 宝具EX

 

宝具

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 概要:アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

契約を交わせし者よ、汝我が喚び声に応えん(サモン・グリモワール・ロウ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ただ単に契約を交わしたものを本と召喚呪文を介して召喚する彼女が所有する中で最下級の召喚術。グリモワールとは彼女が所有する本の通称ことで、本当の名は“契約獣魔召喚の本(ブック・ザ・サモーニング・モンスターズ)”。

 

契約を交わせし者よ、汝が名の下(サモン・グリモワール)にここに在らん(・ミッド)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。ロウと違うのは召喚呪文の代わりに相手の名を用いること。呪文を用いる方が強制召喚に近いのに対し、こちらは相手の任意かつある程度の絆が芽生えていないと成功しない。

 

契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん(サモン・グリモワール・ハイ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。相手の正確な名を使わず、名付けた“愛称”を呼ぶことで召喚する。ミッドよりも召喚難易度は高いが、高レベルの真名隠しの効果も発動するため後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。

 

絆を結びし者よ、指輪と呼び声の元に応えよ(サモン・リングコネクティア)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術の一つ。本すら使わず、彼女が左手に付けている虹色の指輪と対象の愛称が召喚媒体となる。召喚術という枠組みにはなっているが召喚術による強制、ではなく純粋な絆による協力関係であるため、本を使う召喚術よりも強い力を使うことができる。“契約を交わせし者よ、汝我が呼び声に応えん”と同様に愛称使用での召喚のため、後述する宝具によって召喚対象の強化が可能。リングコネクティア、とは彼女の持つ虹色の指輪の名前で、別名“人と獣の絆の指輪”。

 

契約を交わせし者よ、今こそここに集え(エンタイア・サモーニング・グリモワール)

対軍宝具

 概要:グリモワールに記載されている契約獣魔たちを一気に全て召喚する彼女が持つ最高位召喚術の片割れ。魔力消費は多いが召喚時間の短縮が可能。

 

絆を結びし者よ、今こそ(エンタイア・サモーニング・リング)ここに集え(コネクティア)

対軍宝具

 概要:絆を結んだ契約獣魔たちを一気にすべて召喚する彼女が持つ最高位の召喚術の片割れ。リングコネクティアを使う召喚術は契約というよりか要請に近いものであるためグリモワールを使う召喚術よりも消費魔力が少ないという利点がある。

 

解放する、今ここに真実の言葉(リリース・リアルワード)

対人宝具

 概要:契約獣魔達で真名を使わずに召喚した際にのみ使用可能な宝具。獣魔たちの全体的な力のブーストが可能。

 

常識より名を喪いし語(クリエイト・ロストワード)

対概念宝具

 概要:概念隠しの宝具。もしも相手が味方サーヴァント、もしくは彼女の契約獣魔の真名を知っていたとしても、その真名を強制的に忘れさせることができる。さらにこの宝具で隠された真名は通常の真名看破で見破ることができなくなる。また、攻撃的な使い方もでき、相手にこれをかければ意図的に存在・事象の完全抹消を引き起こせる。もっとも、完全抹消は彼女が好まないため使われることはないであろう。これに対抗できるのは“全てを記録せし手帳”だけ。

 

全てを記録せし筆記帳(メモリアル・インデックス)

対概念宝具

 概要:概念看破の宝具。通常の真名看破で見破ることができなくとも、もしもこの筆記帳にそのサーヴァントの真名が記載されているならば看破できるようになる。

 

 

保有スキル

 

道具作成 A

 

陣地作成 B

 

騎乗 B

 

単独行動 B

 

滅龍 E

 概要:竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して弱い特攻効果を持つ

 

武器適応 B

 概要:決められた武器種しか扱えない

 

言語適応 EX

 概要:あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

魅了(獣魔)

 概要:獣魔に対する魅了をかける。

 

 

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイドが自身を触媒にして召喚したミラルーツと融合する前の自分。言ってしまえば“ミラ・ルーティア・シュレイド[リリィ]”。紫色の本と虹色の指輪を所持し、“ネルル”という名の滅尽龍“ネルギガンテ”と共に行動をすることが多い。年齢は僅か8歳。シュレイド家の3人姉妹の長女であり、高度な召喚術を用いることができるということから第一王位継承者である。“呼び声の召喚術師”という二つ名を持ち、召喚呪文───即ち“喚び声”を使用せずに自身が相手に与えた愛称、呼び名───即ち“呼び声”を使っての術を、それも魔導書ではなく絆の指輪を用いた本来は何年も時間をかけなければ習得が難しいと言われる“契約獣魔最高位召喚術”を最も得意としていた。彼女は獣魔たちから気に入られる傾向があり、数多ある種族の中でも“海竜種”、“牙竜種”、“飛竜種”、そして“古龍種”の獣魔達に好かれやすい。もっとも、彼女のことを嫌う獣魔はいないのだが。ゴア・マガラ?あれも例外なく彼女の契約獣魔だが何か?誰に対しても優しいが、逆に自身の護りたいものに対する脅威と判断した場合は容赦をしないという性格。王位継承者であるがその根幹は“愛する民たちを脅威から守りたい”、というものである。容姿は黒い髪のストレート、両眼とも緑色。

 

 

ミラルーツと融合するよりも前から彼女が持つ魔力は膨大であった。さらに、様々な属性に適性を示し、高度な術式を幼いながらも完璧に扱い、挙げ句の果てにあらゆる獣魔から好かれるという天賦の才を持って生まれた“神童”。おまけにそんな才能をもって生まれたにも関わらず、他人を見下すようなことをせず、どんな人物にも平等に接していたことから人からの信頼、及び人気は高い。しかし、その代償なのかは定かではないが、“低身長”かつ“短命”、さらには“病弱”という呪い染みたものを生まれ持っている。実際のところ、高熱、失神、喀血、吐血等は何度も起こしていた模様。

 

 

装備は戦闘用は緑色の召喚術師用ローブに白色のフーデッドケープ。私服は白のワンピースの時と白にしたスカラー装備のドレススカートカスタムの時がある。基本的に武器は指輪“リングコネクティア”、魔導書“契約獣魔召喚の本”。そして稀に攻撃術式や防御術式を扱う時に杖“ネルガルロッド”を用いる。召喚術式以外に、膨大な魔力を用いて“術式の核”となることを得意としていた。




月「ステータスがミラさんより下がってるのは病弱と関係あるの?」

関係ない。ただただ戦闘経験なんかが不足してるから下がってるだけ。

月「……過去のミラさん、だもんね。」

明日はエスナさんにします。アドベントカレンダーも始まってますから気になる方は是非。


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第二回設定紹介群その十三 エスティナ・スティア・シュレイド

ということでエスナさん。

裁「あ、出来たんだ…」

一応ね?まだ浅い気がするけど。


真名:エスティナ・スティア・シュレイド

 

性別:女性

 

クラス:キャスター

 

属性:秩序・善 人

 

特性:人型 王 女性 今を生きる人類(?) 竜

 

ステータス:筋力B 耐久B 敏捷C 魔力EX 幸運C 宝具EX

 

宝具

 

開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)

対人宝具

 アイテムボックス。武器や防具の交換や集めた素材、物資などの保管が可能。

 

契約を交わせし獣魔よ(サモーニング)、汝我が声に応えたまえ(・ドラゴンズ)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術。契約を交わした古龍種以外の獣魔を召喚する。最も一般的な召喚術式。

 

契約を交わせし龍よ、汝我が声に応えたまえ(サモーニング・エンシェント)

対人宝具

 概要:彼女が持つ召喚術。契約を交わした古龍を召喚する。古龍種を召喚できる辺り、彼女もかなりハイレベルな召喚術師なのである。

 

並列展開:付与高速展開(パラレルロード:エンチャントアクセル)

補助宝具

 概要:彼女の才能の全力運用。高速で術式を複数同時展開し、一気に複数の付与をかける。

 

左腕活性・天撃姫裁(レフトアクト・ヘブンリィプリンセス)

対人宝具

 概要:自らに大量の付与術式を施し、自らの起源である“天女”も解放して放つ彼女が持つ最大クラスの一撃。それはまさに、天が下す裁きであるかのように肥大化した左手が相手を襲う。

 

保有スキル

 

道具作成 A

 

陣地作成 B

 

騎乗 B

 

単独行動 B

 

滅龍 E

 概要:竜種、竜特性を持つサーヴァント、エネミーに対して弱い特攻効果を持つ

 

武器適応 B

 概要:決められた武器種しか扱えない

 

言語適応 EX

 概要:あらゆる言語に適応する。すなわち、あらゆる言語を理解、会話、筆記ができる。

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

起源:天女

 概要:彼女が持つ“天女”の起源。起源装束というものが存在する。

 

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイドが自身を触媒にして召喚した自身の妹。付与術式を得意とし、また契約が難しいと言われる古龍とも契約する召喚術師の少女。第二王位継承者であったが、姉のミルティ(当時既に古龍になっていた)が王位継承権を譲渡したため実質的な第一王位継承者となっている。なお、シュレイド家の家族構成は母、父、第一子長女、第二子次女、第三子長男、第四子三女となっており、彼女は第二子。弟と妹に少々手を焼いている。基本的にどんな人物に対しても優しく、国と民を守ろうとする思いは強い。その優しさが影響してなのか、“聖女”と呼ばれることがある。年齢は15歳。容姿は黒く長い髪に緑色の目。モチーフは“美しい第一王女”、または“聡明な第一王女”。

 

 

サマナークラスは第二位“クリスタル”。姉よりは劣るものの膨大な魔力を所有している。また、付与術式に強い適性を示し、高速で術式を展開しながら複数の術式を展開するということもやってのける。この付与術式の練度においては姉のミラでも勝つことができない、とミラ自身から断言されているほど。さらに彼女の主な戦闘スタイルは防性補助型と呼ばれる後方で支援する方面ではなく、攻性補助型と呼ばれる自らが前線に立って戦う方面のスタイルを用いる。もちろん、付与術式をメインに扱う関係上、後方支援も一流クラス。

 

 

装備は戦闘用は水色のトップスに白のロングスカート。私服は水色のドレス。基本的に武器は杖“狐杖トキヲシリテコソ”をよく用いるが、付与を自分自身にかけて戦う時はハーフナックル“姫穿エスティリア”を使うことが多い。姫穿エスティリアとはリオレイア素材で作成されたハーフナックルで、左手用の武器。これと対になるのは右手用の“王貫アリュエスナ”。リオレウス素材で作成されたハーフナックルである。彼女の優しい性格とは対になるかのように、彼女が契約する獣魔は暗い色合いの獣魔達が多いという。これに関しては彼女自身もよく分かっていないようだ。

 

 

夜になるとカルデアの彼女の部屋から彼女のものらしき喘ぎ声がするのだとか。姉であるミラは“気にしないでいい”と言うが、その声を実際に聞いた者はなんとも言えない気分になるのだという。何故かというと、彼女の喘ぎ声が実年齢が15歳ということを忘れるほど性欲を掻き立てるような色っぽい声をしているから、だとか(ヘラクレス、アルジュナ談)。“無理矢理襲ったらエスナから思いっきり反撃されるよ~”とは姉の言葉。この言葉から察するに、元の世界でも彼女が誰かに性的に襲われることがよくあったのではなかろうか。実際、エドワード・ティーチがYesロリータNoタッチであるため、検証目的のわざととはいえ性的な目的で彼女を襲った際、手加減されていたとはいえどボコボコにされて戻ってきたという。ちなみにランサーのクー・フーリンは本気で襲おうとしたため問答無用でボコボコにされたという。




弓「喘ぎ声…だと?」

うん。まぁこれはちょっとした事情があるから真相は公開できないけどね。

弓「…そうか。にしてもあの海賊は一体何をしておるのか…」

わざとだって言ってるでしょ。YesロリータNoタッチの話を聞いてたからエスナさんもわざとだって気づいてたけど、同時に何か理由があると思って元の世界で襲ってきた人たちに対してするようにボコボコにしたみたい。


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第二回設定紹介群その十四 預言書

ということで預言書行きますよ~

弓「ふむ……投稿が早くないか?」

私の出番、今日の午後だからちょっと早めに。

裁「…マスター、だからって朝8時は早すぎると思う。」


真名:預言書

 

性別:無

 

クラス:ルーラー/ビースト

 

属性:中立/中庸 天

 

特性:神性 人類の脅威

 

ステータス:筋力E 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A

 

 

宝具

 

炎の精霊、その力此処に振るえ(ヴィオスフレイム)

対軍宝具

 概要:炎の精霊“レンポ”の精霊魔法。周囲一帯を炎に包む。

 

森の精霊、その力此処に振るえ(ラフナプリズン)

対軍宝具

 概要:森の精霊“ミエリ”の精霊魔法。周囲一帯を森の魔力で包む。

 

氷の精霊、その力此処に振るえ(ヨークレスプラッシュ)

対軍宝具

 概要:氷の精霊“ネアキ”の精霊魔法。精製した氷を相手に向けて放つ。

 

雷の精霊、その力此処に振るえ(ユピテルライトニング)

対軍宝具

 概要:雷の精霊“ウル”の精霊魔法。周囲一帯に雷を落とす。

 

四精霊の権能を込めし核爆(エレメンツ・エクスプロード)

対軍宝具

 概要:“炸裂のタル 精霊核裂弾”の元になったと言われるもの。精霊の力を攻撃に回し、超強力な爆発を起こす。

 

四精霊の加護を受けし聖盾(エレメンツ・プロテクト)

防御宝具

 概要:“神聖なる盾 精霊不朽壁”の元になったと言われるもの。精霊の力を防御に回し、超堅牢な防護を発生させる。

 

疑似展開・英霊刻印(ロード・デミサーヴァント)

対人宝具

 概要:預言書の主に一時的にサーヴァントとしての力を与える。クラスは“ルーラー”。今までの主たちが使ったように、預言書から物を取り出すことができる。初回展開時のみコードを必要とせずに“預言書に残る最後の力 ジェネシス”を取り出し、行使可能。

 

 

保有スキル

 

 

対魔力 EX~D

 

真名看破 EX

 

神名裁決 A

 

単独顕現 A

 

環境適応

 概要:熱い場所、寒い場所、暗い場所、まぶしい場所などに適応する。

 

 

目を持った赤い装丁の本。その正体は世界の破滅を感じ取り、次の世界を創る者を選ぶ“預言書”と呼ばれる魔書。今回の主は藤丸立香になった模様。炎、森、氷、雷の四体の精霊がおり、それぞれ司るものが違う。今回の現界では藤丸立香を次の世界を創る者として選んだのだろうか?その真意は預言書にしか分からない。さらに、本来の預言書は役目を終えるとページを初期化し、役目中は主が所持するものであったが、サーヴァント化した影響なのか自立行動能力と“竜のページ”が最初から存在している。

 

 

はるか昔に忘れ去られた幻の“世界創生の書”。神や魔術王、抑止力ですらこの存在は知らず、なんと偶然なことに“アヴァロンコード”というゲームとしてこの本にまつわる神話が現代に存在した。このゲームは完全に偶然、預言書の神話と完全に一致する話で描かれている。その情報収集能力と世界改変能力は今なお健在で、一度現れれば世界を破滅させるという。最後に世界が変わった130億年以上前から眠りについていたが、原種たるビーストIが顕現し、人理焼却が行われてついに預言書がその姿を現した。魔術協会どころか世界中の誰もが知らぬこの魔書は一般人であったはずの藤丸立香を近代の主として認め、契約した。

 

 

炎の精霊は冬木に。森の精霊はセプテムに。氷の精霊はオケアノスに。そして雷の精霊はロンドンに。見事に全員がばらけた。四精霊がそろえばいよいよ預言書も真の力を発揮することができると言われているが、未だ本編ではその力を発揮していない。

 

 

ルーラーのサーヴァントとして現界しているが、その実態はビーストOであったりする。ビーストの中で唯一ビーストIの影響を受けず、現界するかどうかは預言書自体によって決まる“起源”。世界や神、英雄などのありとあらゆる存在に対し絶対的支配を執行できる“原初”、“原点”のビースト。原罪は“破壊”と“創造”。レンポ達の予測では、本性は“より良い世界を創り出すために今ある世界を破壊する”。愛は“ティアから産まれ、子を残してきた人類達を守る”。他のビーストたちとは違い、人類の敵として立ちはだかるものではなく、次の世界が創られることを報せるもの。

 

 

各精霊の枷

 

“炎の精霊・レンポ”

枷は腕。触ることを封じられている。

 

“森の精霊・ミエリ”

枷は足。歩くことを封じられている。

 

“氷の精霊・ネアキ”

枷は首。話すことを封じられている。

 

“雷の精霊・ウル”

枷は目。見ることを封じられている。




今日はちょっともう一個更新します

裁「え?」

ほら、ちょっと調整にね。マテリアル連続投稿の理由って“設定の紹介”と“1週間で投稿される本編の話数の調整”を兼ねてるから。


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無銘の人格たちに関して軽解説

さて、私の出番も終わったのでそろそろ本編にかかりそうです…が、本編に戻る前に無銘さんの人格に関して少し見ていきましょうか。

月「私達の事かぁ…」

少しだけだからあまり解説無いよ。


無銘

第一人格。肉体と人格の扱いを決定する管制人格。容姿は白と青の髪のロングヘア、青色の眼。服装は白いワンピースに青色の靴、頭には白色の星のヘアアクセをつけている。創造精度、創造速度共に平凡以下。

 

 

魂込 星海

第二人格。世界の繋がりを管理する“界の管理者”。誕生日は2月17日。水の技の担い手であり、適合する神格は“須佐之男命”。容姿は白と青の髪のロングヘア、青色の眼。服装は白いワンピースに青色の靴、頭には青色の星のヘアアクセをつけている。基本的に静観しているが、直系の娘にあたる無銘が傷つけられるとかなり怒る。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“存在召喚”。創造精度、創造速度共に平凡以下。

 

 

創詠 月

第三人格。実数空間を司る“神月の巫女”。誕生日は7月3日。適合する神格は“月詠命”…もとい“月読命”。容姿は黒い髪のツインテール、茶色の眼。服装は黒いワンピースに黒色の靴、頭には青色の月を象ったヘアアクセをつけている。自分の事ではあまり怒らないが、大切な誰かが傷つけられるとかなり怒る。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“空間操作”。創造精度、創造速度共に最高レベル。創造は彼女に完全に任せた方がいいレベル。“星の娘”の中でもかなり高位の能力を持つ“原初の2人”の片割れ。

 

 

雨照 陽詩

第四人格。実数時間を司る“神陽の巫女”。誕生日は7月3日。適合する神格は“天照大御神”。容姿は白い髪のロング、茶色の眼。服装は白いワンピースに白色の靴、頭には白い花を象ったヘアアクセをつけている。自分の事ではあまり怒らないが、大切な誰かが傷つけられるとかなり怒る。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“時間操作”。創造精度、創造速度共に最高レベル…だが、月よりは劣る。“星の娘”の中でもかなり高位の能力を持つ“原初の2人”の片割れ。

 

 

魂込 星乃

第五人格。命の生死を管理する“命の管理者”。誕生日は11月9日。適合する神格は“天津甕星”。容姿は白い髪のロング、茶色の眼。服装は白いキャミソールの上にカーディガンを羽織り、ボトムスとしてチェック柄のロングスカート、白い靴に加え、頭には黄色の星のヘアアクセをつけている。大雑把な性格かと思いきやかなりの真面目。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“寿命短縮”。創造精度はかなり高く、創造速度は少し遅い。

 

 

亡月 美雪

第六人格。不安定な亡霊。誕生日は不明。適合する神格は“禍津日神”。容姿は赤い髪のロング、濁った緑色の眼。服装は白色と青色の制服のようなトップスとボトムスに黒色のハイソックス、少し赤色の入った朝顔の花と青い三日月の形のヘアアクセ、緑色のマフラーを首に巻き、赤色の手袋をつけている。彼女の過去が影響してか怒りやすいが、その怒りを表に出さないような工夫をしている。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“妖術稼働”。創造精度、創造速度共に最悪レベル。

 

 

夢月 璃々

第七人格。夢と幻を司る“夢幻の巫女”。誕生日は1月2日。適合する神格は“布刀玉命”。容姿は白い髪のショート、灰色の眼。服装は千鳥格子柄のニットパーカーに花柄のロングスカート、緑の眼鏡に茶色のブーツ。基本的に楽観的な性格で、よほどじゃなければ怒らない。陰陽玉が彼女の色に変化したときに行われる補助は“挙動強化”。創造精度は低く、創造速度は高い。

 

 

???

目覚めていない人格。詳細不明。他の人格の話によれば、創造精度が異常に高く、創造速度は遅いという。




こんな感じかなぁ…

裁「…5時間ごとに投稿されるって」

流石に疲れました、っていうか前日までに組んでいなかったら終わってません。

裁「…ところで、アドベントカレンダーの方に出てきた“ルーパス”さんって…」

多分鍵のルーラーが考えてる通り。この作品にいる“ルーパス・フェルト”さんの過去。

裁「…やっぱり。あっち18歳だもんね」

こっちは19歳だからね。まぁ、可能性的にはこの作品にいるルーパスさんの過去じゃないかもしれないけど。

裁「…可能性とは、無限に存在する…だよね」


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地獄塔巡礼談 監獄塔に復讐鬼は哭く 巡礼完了
第221話 始まる異変、動き出すモノ


裁「……」

かなり強い観測体制に入ってる…まぁ、仕方ないか。

弓「……なるほど。」

ギル、鍵のルーラーのこと。少しの間任せる。

弓「任せよ。…もっとも、あやつに我の補助が必要かは知らんがな。」


「はい。これで魔術回路の全移植は終わりよ。」

 

「…ありがと、マリー。」

 

マスターがオルガマリーさんにそう言った。

 

「ほんと…不思議な魔術回路してるわよね、リッカは。魔術回路の質はかなりのもので、魔力量もかなり多いのに…()()()使()()()()って。」

 

「う…」

 

「責めているわけじゃないから安心なさい。この異常にも何か理由はあるのでしょうけど…さて、ね。」

 

「お兄ちゃんが調べてくれてるらしいんだけど、まだよく分かってないらしいんだよね……たしか、アルの方でも調べてくれてるんだよね?」

 

その問いに頷く。正確には、璃々さんが調べてくれているのだが…

 

『…残念ながら、まだ特定できてません。』

 

「…そっか」

 

「大丈夫よ。今は魔術が使えないとはいっても、これから先ずっと使えないわけではないでしょうし。それに、魔術が使えなくとも貴女は私が認める最高のマスターよ。」

 

「マリー…」

 

「魔術が使えない、物理で戦う魔術師もいたっていいじゃない?」

 

「あはは…」

 

「何馬鹿を言ってるの、魔術師なんだから使えた方がいいに決まってるじゃない。」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのはジャンヌ・オルタさん。

 

「マスターもはっきり言った方がいいと思いますよ?」

 

「…そっか。でも…私が魔術を起動できないのは本当のことだから。エルメロイ先生にも“君が何故出来ないのか私にも理解・解説ができん”って言われちゃったし…エミヤさんにも“才能がないというよりはもっと別の何かが作用して君の魔力を詰まらせているようだが…すまない、私にはその詰まりの解除が出来ない”って。」

 

「「「…」」」

 

「だから、私がもっと頑張らないと…って言ったら、“頑張るな”って言われちゃって…先生達曰く、頑張りすぎたことで何が起こるか分からないから…って。」

 

魔力の詰まり…か。

 

『魔力栓…血栓のように通りを悪くしているということかな。』

 

『そして、その魔力栓が大きすぎて魔術に向ける魔力が通らなくなっている…おかしいね、これ。サーヴァントの維持はできているのに。』

 

『血栓じゃなくて多分部分封鎖…鍵みたいに条件で閉じてるんじゃないかな。』

 

月さん、陽詩さん、星乃さんが私にだけ聞こえる声でそう呟く。…鍵、か。

 

「……?」

 

ふと、何かに気がついたかのようにマスターが顔を上げた。

 

「どうかした?」

 

「……あれ?なんだったんだろ、今の……」

 

「…顔色悪いですよ?大丈夫ですか?ケーキ食べられる?」

 

「大丈夫…だと思う。ありがと、マリー、ジャルタさん。」

 

「お話って終わっているかしら…?」

 

部屋にナーサリーさんが顔を出す。

 

「ええ、終わっているわよ。設備は簡易的だけど、お茶会の準備をしましょうか。」

 

『…』

 

『月さん?』

 

『…七虹、ちょっと気を付けて。なんか、嫌な予感がする。』

 

月さんからの言葉。それが、歴戦の戦士としての勘なのだとしたら警戒のレベルを引き上げた方がいいだろう。

 

『…一応聞きますが、根拠は何か?』

 

『…ん~…主婦の勘?』

 

『…月さんって主婦なんです?』

 

『違うけど。…ごめん、分からなかったかな。』

 

『そもそも月は18歳だもんね』

 

『というか私達って肉体年齢固定してるからそれもそこまで正確じゃないんだけど…』

 

そういえば今目覚めている人格の中で私と美雪さん以外は擬似的な不老不死だったか。私はただ不死なだけで、不老ではないらしいけれど。美雪さんはもう死んでいるという話だし。

 

「これは貴女の分ね。早く席に着きなさいな?」

 

「あ、はい!」

 

ジャンヌ・オルタさんの言葉に席に着く。

 

「ありがとう、ジャンヌ・オルタ。」

 

「いいわよ、別にやりたくてやっているわけだし。感想を聞かせてくれたらいいのだけどね。」

 

「……美味しい……」

 

「……いつも、マスターはこうなるから…」

 

「…あぁ。」

 

「それでも、美味しいのには変わりないのだからなっても仕方ないと思うけれど…」

 

ナーサリーさんの言う通りで、実際本当に美味しい。

 

『…っ、月!』

 

『え?…!!星乃、星海!』

 

『『もうやってる!!』』

 

『え…?』

 

突然、月さん達が慌て出す。

 

「───リッカ?リッカ!しっかりしなさい!!」

 

「マスター!聞こえる!?マスター!!」

 

「マスター!……っ、あたし、王様を呼んでくるわ!」

 

「お願い、ナーサリー!」

 

そんな、悲鳴に近い声。その声に、マスターの方に目を向けると───

 

「……マス、ター…?」

 

「─────」

 

反応なく、動きなく───植物状態のような状態のマスターが、そこに在った。




……

星見の観測者「始まった、か。」

うん。協力、お願いしても?

星見の観測者「いいのか?私が干渉しても。」

勘違いしないで。あなたに頼みたいのは補助。実質的な干渉は許さない。

星見の観測者「……了解した。」


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第222話 現状把握、創り出された道

UA43,000ありがとうございます

弓「結構長く続いておるな。」


「……」

 

英雄王さんが来るまで、私はマスターの状態を調べていた。

 

「早く!こっちよ、王様、お兄様!」

 

「急かすな!常日頃から余裕を持てと───っ」

 

「なんだ───これ、邪気か?」

 

ナーサリーさんに連れられて英雄王さんと六花さんが顔を出す。それと同時に、部屋に充満する邪気に顔をしかめた。

 

「……この邪気…発生源は貴様か、無銘。」

 

「……」

 

頷く。正確には美雪さんの力を借りて発生させているものだけど。…私から放つ邪気を抑える。

 

「「───っ!?」」

 

その瞬間、周囲を包む濃厚な邪気。私のとは違う、別の。これは、マスターが放っているものだ。

 

「…分かった、分かった故邪気を戻せ。このままではナーサリーが辛かろう。」

 

そう言われて邪気を元の強さに戻す。邪気に邪気をぶつけて相殺する。それが、私のやっていること。ジャンヌ・オルタさんとマリーさんには月さんに邪気避けの結界を張ってもらったから大丈夫なはず。

 

「ジャンヌ・オルタ。貴様一体何を食わせた?メシマズ系ヒロインではないとは思っていたのだが…」

 

「ジャンヌは全くの無関係よ、王様!」

 

「…そうか。」

 

英雄王さんがマスターを見つめ、ついで私に視線を投げた。

 

「……状況はどうだ、星乃」

 

『……だめ。肉体から魂が抜けている状態だね。こうなったら今の私だとどうにもできない。私が管理するのは“命”であって“魂”じゃないから。寿命を管理するのが私の力みたいなものだし。』

 

「…そうか。」

 

「…擬似的な暴走状態か。なるほどな、邪気が出ててもおかしくねぇ。…つーか、これ…」

 

「邪視、だね。」

 

ドクターが遅れて顔を出す。……?ドクター?

 

「簡単に言えば視線で相手を呪う魔術さ。恐らくロンドンでかけられたのかな。」

 

「…ロマニ、ということは…」

 

「…グランドキャスターが…偽りのソロモンがやったもの、ってことか。」

 

グランドキャスターが偽りのソロモンであることは何日か前から英雄王さんからの話で全員に伝わっている。

 

『……ゲーティア』

 

『お母さん…』

 

『…特定できた。星海、ちょっと手伝って。』

 

『分かった、何をすればいいの?』

 

お母さん達も動いてる…私も、何かできればいいのだけど。

 

「…うわぁぁぁぁ、どうしよう!?いくらリッカちゃんでも魂だけなんて無茶だ!魂なんて本当に脆いものなのに!放っておくなんて正気の沙汰じゃない!くそっ、なんでソロモン王は指輪を1個以外そのままにしたんだ!せめて5個あればまだ状況は変わったかもしれないのに!!」

 

「落ち着きなさい!こういうとき、貴方や私が慌てるのが一番危ないわよ!ただでさえ貴方は今のカルデアにおいてNo.3の立場でしょう!?上の人間が慌てれば下の人間にも伝播するわ!ギルのようにどっしり構えておきなさい!」

 

「は、はい!」

 

「よろしい!…で、何よその格好…それにその声……」

 

あ、やっと突っ込んだ…なんで髪を下ろして女装してるんだろ…声もいつもより高いし、目線が低い気がするし、胸の辺り膨らみがあるような……って。軽く閲覧したらこれ女装とかじゃなくて…

 

「朝起きたら女性化してたんだよ…六花に頼んで女性用の服を持ってきてもらったけど……なんでボクのサイズあるのさ。身長の変化とか教えてないよね?」

 

「あ?んなもん連絡してきたときに俺がした質問で大体予測つく。まぁ、俺の試作魔術が問題かもしれんからなんとも言えんが…とりあえずしばらくしたら戻るだろ。服は伸縮性のある素材だから身長戻っても問題ないだろうしな。せっかくだから可愛くなるようなコーデとメイクにしたが…嫌か?」

 

「…どう反応していいか分かんないや。」

 

「……まぁ、いいとしましょう。」

 

六花さんって結構器用なんだなぁ…

 

「どうなのかしら…王様。治るのかしら?」

 

「…魂の尾は切れておらん。問題はあるまい。魂が飛ばされた場所は…」

 

『特定できています。…が、道を創るのにもう少々時間が必要です。』

 

「そうか。いやしかし、特定できているのは良いことよ。」

 

その言葉を聞きながら考える。

 

『……お母さん。私やミラさんみたいに、無理矢理引っ張りあげることって…』

 

『無理、かなぁ……魂の情報がどうなっているかとかの問題じゃなくて、肉体の内部から干渉するか外部から干渉するかの違いになっちゃうから…私達の場合は肉体の内部…つまりはかなり近い場所から干渉できたから壁を楽に突破できたけど…七虹とリッカさんの場合は肉体外部からの干渉になるから壁が厚いの。眠っている状態とかならまだしも、魂がない状態だと1度入ったら最後出られなくなる可能性が高いし…』

 

成り代わりが発生する…ということか。それはさすがに、不味い。

 

『キミにできることはないかもしれないね…まぁ、祈っておくことくらいはいいんじゃないか?一応、対処はできるみたいだし。…まぁ、マスターのこともきがかりだけど…ボクはこっちも気になる』

 

いつの間にか私の傍にいたフォウがそう呟いた。その視線の先は…

 

『…ドクター?ドクターがどうかしたの?』

 

『いや、ちょっとね。あの野郎が干渉してくるんじゃないかと思ってさ。悪いんだけどナナコ、ロマニ・アーキマンが女になっている間、その周辺で何か変な干渉の動きがないか見張っててくれない?マスターのことのついででいいから。ボクも見張るし。』

 

『え?あ、うん…』

 

フォウは私の事を“ナナコ”と呼ぶ。それは、私がお母さんからもらった名前を教えたからでもあるけど。

 

『ありがと。ごめんね、突然。』

 

「…娘は」

 

私の邪気の中に新しい邪気。その邪気を感じて即座に相殺邪気を放ち、警戒態勢を取る。

 

「娘は…リッカさんは無事なのですか?」

 

源頼光さん。その目に光はなく、暴走一歩手前といったような感じ。

 

「大切な娘を掠めとるだなんて…一体どうしてやりましょう。指を落とし、目を潰し、臓物を壊し、骨を砕き、血を抜いても収まるとは思いません…あぁ、そうだ。首を断ってカルデアの飾りにしませんか?敵の首級を取った証ですもの、きっと金時も喜んで───」

 

『───馬鹿ですか?』

 

「───はい?」

 

『ちょっ、月!?』

 

月さんの声と慌てるような陽詩さんの声。

 

『貴女の生きた時代ならともかく、ここは現代。普通の現代人が捕ったばかりの首が飾られている場所を好むと思います?』

 

「……」

 

『まぁ、彼女は受け入れそうですけどね。それでも、他の人が嫌そうにしていたら彼女も嫌がると思いますよ。』

 

「…そう、ですか…」

 

『…それと。無銘さんを引き戻しに行った私達が言えることじゃないですけど親というものは基本的に子供の帰りを待つものです。今は無銘さんやミラさんの時みたいなかなり危険な状態ではないですし、娘さんの帰りを待ってみては如何でしょう。』

 

「え…危険じゃ、ないのかい?」

 

『えぇ、観測できていますから。多少の干渉、妨害ならばこちらからも。ただ…レイシフトを含めた転移は少し難しいかもです。それがあるから今色々調整をしているのですけど…』

 

「……分かりました。帰りを待つのも親としての勤め…静かにリッカさんの帰りを待つとしましょう。」

 

そう言って頼光さんは邪気を納めた。

 

「そうとなれば…何をすれば良いのでしょう。」

 

「食卓の準備でもしておくがいい。マスターめが帰ってきた時、家族団欒の時でも設けるがいいであろうよ。」

 

「…はい。」

 

『……七虹、変わってもらえる?』

 

『え?はい。』

 

月さんに肉体の使用権を渡す。恐らく、眼の文字は三になっているはず。

 

「───さて。」

 

月さんに変わった直後、月さんの手元に金色のチケットのようなものが現れた。…創造?

 

「今しがた、リッカさんのいる場所への道が確立されました。」

 

「「「……!」」」

 

「この券はその場所へ通じる道を通るための証のようなもの。この券が1枚ということは行けるのは1人だけです。…すみません、私の力不足で1人分しか確保できませんでした。」

 

「……いえ、道が出来ただけでもいいと思うわ。でも、誰が行くか…よね。」

 

「なら、わた───」

 

「……それなんですが、問題が。」

 

「……何よ。」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「────は?」

 

その月さんの言葉にジャンヌ・オルタさんも止まった。

 

「どういうことよ。」

 

「情報関係に近い言葉で言えば情報転送限度、というところですか。情報転送ができる量に限りがあるんです。具体的にはS!メール……MMSとSMSの違い…って言って伝わればいいんですけど。要は70文字まで送れるか数KB単位でも送れるかっていうことです。」

 

「…ごめんなさい、良く分からないから結論を言ってちょうだい」

 

「あれ…伝わりませんか」

 

「S!メールなぁ…いやまぁ、無くはないがガラパゴス携帯はそろそろ衰退してくぞ、アレ。嫌いじゃないがな。」

 

「はぇ?……あっ。」

 

『ていうか2021年に生きてたんだから覚えておこうよ月…』

 

『いや待って!?S!メールってまだあるよね!?』

 

『あると思うけどiモードは姿を消すよ。』

 

『……』

 

あ、凹んでる

 

「……こほん。ええと…つまりは送れる英霊に限りがあります。具体的には私達のような神性持ち、ジャンヌさんのようなエクストラクラス…そして狂化A以上所有者。それから単純に英霊としての知名度が高い者や顕現が容易ではないもの等。」

 

『うーん…星5サーヴァントはダメってことかな、多分。』

 

『星5…?』

 

『こっちの話。気にしないで。』

 

フォウの言葉がいまいち分からなかったけど…

 

「ならば、誰が行くか全サーヴァントの中から選出するべきか。召集を───」

 

「───あたしが、行くわ。」

 

ナーサリーさんがそう告げた。月さんの持つチケットに触れて。

 

「……いいえ、行かせて。」

 

「……ナーサリー。」

 

「…お願い。マスターの元に…あたしを。」

 

「良いのか?行先は恐らく地獄だぞ。」

 

「ええ。マスターのことが好きなみんなには、ごめんなさいだけど…でも、行きたいの。あたしは…最初、マスターを傷つけてしまったけれど。マスターはあたし(アリス)の中にいたあたし(ありす)の思いを叶えてくれた。あたし(アリス)あたし(ありす)をもう一度会わせてくれた。その恩返しをしたいの。」

 

「……」

 

「……それから。もう一度謝りたいの。マスターは、前にも“いいよ”って言ってくれたけれど。ずっと、引っ掛かっているの…本が、そんなことを言うのもおかしいかもだけれど。」

 

「……ふむ。」

 

「───その決意。固いの、あたし(アリス)?」

 

その声に入り口の方を見ると、水色の服のナーサリーさん…ありすさんがいた。ありすさんはそのままナーサリーさんに近づいた。

 

「ありす……えぇ。」

 

「……そうなの。…王様、あたし(ありす)からもお願い。あたし(アリス)の思い、聞き届けてほしいの。」

 

「……貴様は良いのか、ありす。」

 

「…うん。もう、あたし(ありす)あたし(アリス)のマスターじゃないから。あたし(ありす)あたし(アリス)を縛るのはおかしいわ。…ねぇ、アリス。」

 

ありすさんがナーサリーさんの顔に触れる。

 

「あたしもあなたも同じ“物語”。実在した人間や神様じゃない、誰かの英雄だけれど。誰かを好きになってはいけないということはないと思わない?」

 

「え……」

 

「本が誰かを好きになる…そんなお話があっても、いいと思わない?……あなたもあたしも、自由に生きていいと思うの。それがただの夢だったとしても…夢の中でも、“物語”という枠組みに囚われていたらもったいないと思うわ。」

 

「ありす…」

 

「…あたしの言ってること、分からないかもしれないけれど。あなたが思うままに、あなたがやりたいことをするといいわ。」

 

「あたしの……やりたいこと…」

 

そう呟いたのを聞いて、ありすさんはナーサリーさんから離れた。

 

「……王様。お願い。…あたしを、マスターの元に行かせて。」

 

「…」

 

「あたしはキャスターのサーヴァントだもの、無茶だっていうことは分かってる。…だけど行きたい。そこが例え地獄だったとしても、そこにマスターがいるのならどこにだって行ってみせる!」

 

「…決意は、本当に固いようだな。」

 

「ええ!」

 

「…貴様はどう思う、月」

 

「…情報量はギリギリ納まります。転移は可能ですが…本当に、大丈夫なんですね?」

 

「ええ!お願いします、王様!」

 

頭を下げるナーサリーさん。ナーサリーさん以外の全員が英雄王に視線を向けた。判断は、全てこの人次第だから。

 

「…よかろう。そこまで言うのならばナーサリー・ライム、貴様に任せるとしようか。」

 

「……!」

 

「確認するぞ。貴様に下す指示はこれよ。囚われしマスターの魂のもとへ赴き、その魂を奪還せよ。貴様の総力を挙げ、貴様の決意の真意を示せ。失敗は許されん、失敗すれば人理の修復は絶望的だ。いつもはマスターだが、今は貴様の存在に人類の未来がかかっていると思え。」

 

「…ええ」

 

「どうした、怖気づいたか?マスターを救いに行くとはそういう意味だぞ?」

 

「……いいえ。やるわ、王様。あたしは…ナーサリー・ライムはただの童歌だけど。だけど、きっとやってみせる。」

 

直後、ナーサリーさんを濃い魔力が包む。

 

「マザーグースの最初の形。子供達に寄り添う英雄。故にあたしも子供達のように───ならば一時、その殻を破りましょう───全ては、一人の女の子を守るために!!」

 

魔力の奔流。ナーサリーさんを中心に渦巻くその流れに引き摺られないように耐える。

 

「だってあたしは───いいえ、私は“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”!他ならない、“誰か”のために生きる英雄なのだから───!!」

 

奔流が消えると───そこに、黒のドレスを纏った女性がいた。銀髪で、紫色の眼で…ナーサリーさんを、そのまま成長させたかのような。

 

「───概念が、確固たるカタチを得たか。特殊な再臨をしたかのようだな。…ふ、面白い。ロマン!マリー!丁重に送ってやれ!我はマスターを預かろう!」

 

「私も手伝います。観測はお任せください。」

 

「じゃあ、召喚券…とでも言おうか。それを貸してくれ。レイシフトさせる座標は必要だからね。」

 

「…ナーサリー」

 

六花さんがナーサリーさんを呼んだ。

 

「なぁに?」

 

「…妹を…リッカを頼む。」

 

「……ええ!必ず、連れ戻してくるわ!」

 

 

そして───

 

 

「準備はいいですか、ナーサリーさん。」

 

〈ええ。…でも、少し緊張するわ。レイシフトって、こんな感じなのね。〉

 

「…怖く…ないですか?」

 

〈…本当のことを言えば、少し怖いけれど。あたしにとってマスターを喪うことの方が怖いわ。そして、その場にあたしがいなかったらって考えると…もっと怖い。だから行くの、あたし。…絶対に失敗しないわ。〉

 

「……ロマンさん。」

 

「あぁ、じゃあレイシフトを起動するよ。」

 

〈…ええ。〉

 

〈アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します〉

 

いつも聞こえる声。…だけど、今回は私は管制室にいる。

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

〈ナーサリー・ライム───マスターを助けるために、今!〉

 

童話の少女がそう叫ぶ。…いつも、私達の声はこう聞こえているのか───

 

全行程 完了(クリア)。ラストマスター奪還作戦 実証 を 開始 します。

 

レイシフトが動き出す。観測上に、ナーサリーさんの存在が示される。…始まろうとしている。彼女(ナーサリー・ライム)に人類の未来を背負わせた戦いが。




ちなみにリッカさんの部屋にいたサーヴァント達の参加除外理由ですが…

ギルガメッシュ(プレミア)=☆5サーヴァント、神性B、エクストラクラス

源頼光=☆5サーヴァント、狂化EX、神性C

無銘=☆5サーヴァント相当、神性A、エクストラクラス

ジャンヌ・ダルク・オルタ=☆4サーヴァント相当、エクストラクラス

以上となっています

弓「無銘が☆5サーヴァント相当…まて、☆4サーヴァント相当がダメなのか?」

エクストラクラスも重なってるからね…


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第223話 第弌ノ罪科、其嫉妬罪也

さて……どう、星見の観測者。

星見の観測者「問題ない。こちらからも藤丸リッカの姿は見えている。無論ナーサリー・ライム、そして預言書の姿も。」

ん……了解


───人を羨んだコトはあるか?

 

己が持たざる才能、機運、財産を前にしてこれは叶わぬと膝を屈した経験は?

 

世界には不平等が満ち、ゆえに平等は尊いのだと噛み締めて涙に濡れた経験は?

 

答えるな。その必要はない。

 

心を覗け。目を逸らすな。それは誰しもが抱くがゆえに、誰ひとり逃れられない。

 

他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの。

 

嫉妬の罪。

 

 

「……う」

 

意識が覚醒する。なんだろう。酷く、お腹が痛い。警告の激痛───いつもより、強い。

 

「マスター!あぁ、よかった!目が覚めたのね!」

 

「ナー…ちゃん?」

 

そこには銀髪の少女…恐らくナーちゃんだと思われる少女がいた。いつもが幼女…9歳くらいの子供だとしたら、今の姿は大体12歳くらい…?…

 

「えぇ、あたしはナーサリー・ライム。こんな姿になってるけれど…マスターを、助けに来たの。」

 

「私を……っ!?」

 

慌てて周囲を見渡す。ここは───カルデアじゃない。この雰囲気───

 

「刑務所……いや、牢獄?」

 

牢獄、牢屋。そんな言葉が当てはまるような場所。

 

「……ナーちゃん、ここは?」

 

「…恐らくは偽りのソロモンの…マスターの道を阻むための場所、とのことだったわ。」

 

私の…

 

「絶望の塔───監獄塔へようこそ、先輩!」

 

「「っ!?」」

 

ナーちゃんと同時に身構える。それと同時に沸き上がる黒い塊……怨霊の類い?

 

「そら、歓迎のようだ!聞こえるか、この怨嗟の声が!生者でありながらこの塔にいるお前を怨む声がする!お前のその生者故の暖かい魂を気にくわないとする嘆きが聞こえる!」

 

「マスター、あたしの後ろに!」

 

「う、うんっ!」

 

「この……あたしのマスターに……触れないでっ!!」

 

いつの間にか出現させた杖をナーちゃんが振ると、風の刃が怨霊達を凪ぎ倒した。その結果に、ナーちゃん自身が驚きの表情を浮かべていた。

 

「この感じ……あたしの魔力が、上がっているの?」

 

「傍らにあるは本来とは別の変化を為したキャスター!ハハハ、いいぞ!本来お前に協力するものは必要ないと思ったが、オレは受け入れよう!キャスターと、そのルーラーの存在を!多少の計画外など気にするか!」

 

その言葉にやっと気づく。私の腰に預言書があったことに。ページを開くと───いない。精霊達がいない。…7章?

 

「ハハハ、その顔!貴様にとっても予想外があったか!?まぁいい、お前の輝きは真実だ!その輝きは例外や規格外すらも惹き付け、そこのキャスターのように霊基の変異すらも引き起こすだろう!」

 

「さっきから……この声、何!?敵なの!?」

 

周囲を見渡して───いた。黒い影の中に、ダークソウルシリーズに存在する、“人間性”のような形をした何か。

 

「あぁ、しかし何故だ!オレのマントが剥がれん!何故だ!」

 

「───人間性を捧げよ!不死達を癒す篝火へと!さすれば汝が真の姿と相見えん!」

 

思わず叫んでいた。直感した、あれは人間性そのものだ。もしも人間性が取り憑いて姿が消えているというのなら人間性を捧げてしまえば───!

 

「人間性だと?クハハ、面白いことを言う!このオレに“人間性”とはな!だがしかし、確かにこのままは面倒だ!お前の言う通り篝火とやらを探すとしよう!もっとも、この塔にあるかは知らんがな!」

 

「結局───敵なの!?味方なの!?」

 

「ふむ、その答えか───」

 

「あっ!?」

 

ナーちゃんの魔術を潜り抜けて黒い塊が私に襲いかかる───寸前。

 

「ふんっ!」

 

人間性の姿を持った…人?が私の前に移動してそれを凪いだ。

 

「敵か味方か、と問われれば…さて、どう答えたものか!少なくとも今は味方だと考えるといい!」

 

「あなたは…?」

 

「オレか?…ふっ!この世にいてはいけない英霊だ!この世に陰を落とす呪いのひとつ!お前の近くに在るとあるエクストラクラスと同じ(クラス)を持つ者!オレは───そうだな!“復讐者(アヴェンジャー)”と呼ぶがいい!」

 

そう告げ、その人かどうかは分からない人は黒い塊を一閃、その黒い塊を消滅させた。

 

「一撃……!」

 

「そして。もう1つ答えてやろう。ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄塔。絶望の深淵にて精々足掻くことだ、囚われのマスターよ!」

 

「……」

 

「さて、このような状態で言うのもどうかと思うが1度言うしかあるまい。はじめましてだな、これより七つの試練に立ち向かうマスターよ!単刀直入に言おう、お前はこの試練を乗り越えなければ死に至る!無事に戻りたければ死に物狂いで試練を越えろ!!」

 

「えっ…」

 

「……」

 

何となく、気がついてた。警告の激痛が止まないし。

 

「……分かった。帰るなら、越えなきゃいけない壁がある。…そう、なんだよね?」

 

「そうだ!お前は知らなくてはならない、お前に欠けているものを!歪んでいるとはいえ、この場所はそれを知るに最適な場所だろう!だが、オレはそれを懇切丁寧に説明してやる義理はないな!何故ならオレはお前のファリア神父になるつもりはなく、気が向くままにお前の魂を翻弄するだけだからだ!」

 

「……そう。」

 

「あんまりだわ、それは!そちらが拐っておいて、説明もなしにデスゲームに放り込まれるなんて!」

 

ナーちゃんが抗議する。…でも…

 

「…ナーちゃん。多分、デスゲーム主催者ってそういうものだと思うよ。」

 

「え…」

 

「死と隣り合わせの中、プレイヤー達がどう動くか…それを鑑賞するのが、デスゲーム主催者の楽しみ方なんじゃないかな……」

 

何となく、そう思う。

 

「……でも、やることは明確。ゲームクリア要件を満たせば、そのデスゲームからは解放されるはず。…性格が悪くなければ。」

 

「不安になっているじゃないの…」

 

「……確認。その七つの試練を突破すれば、私とナーちゃんはカルデアに戻れるの?」

 

「そうだ!逆を言えば1度でもお前が命を落とせばそこで全てが終わりだ!」

 

「…分かった。言質は取ったからね。」

 

恐らく、アルの…特に星乃さんの補助とかは望めない。多分ここは、そういう場所だから。

 

「物分かりが良さそうだな!覚悟が決まったならついてこい!第一の裁きがお前を待っているぞ!クハハハハ!!」

 

そう言って人間性の姿をした人……いやほんとなんで人間性なのか分からないけど……その人は部屋を出ていった。

 

「……マスター…」

 

「……ナーちゃん」

 

「…?」

 

「…少し見ない間に、可愛くなったね。いつもの姿もいいけど…こっちも好き。」

 

「───っ!」

 

ナーちゃんが顔を赤くした。

 

「…もうちょっと可愛くなったら、私と同じくらいになるのかな?」

 

「…可愛くなる、というか…あたしの変化は大きくなる、だと思うの。」

 

「そっか。…でも、可愛い。」

 

「あ、ありがとぅ……」

 

あ、声小さくなっちゃった…

 

「それと、ありがとね。こんな場所まで来てくれて。…多分、アル達が頑張ってくれたんだと思うけど…嬉しい。1人じゃなければ私はまだ戦える。」

 

「マスター…」

 

「…ナーちゃんが一緒で、心強いよ。」

 

「……本当は、ジャンヌの方がよかったんじゃないかしら…そう、思うの。」

 

その言葉にナーちゃんの顔を見つめる。

 

「我儘を言って、ここまで来たけれど…迷惑じゃ、なかったかしら。」

 

「…ううん、嬉しい。誰かに頼まれてじゃなくて、ナーちゃんが自分の意思で来てくれようとしたんでしょ?…私は、それが一番嬉しいよ。」

 

「……そう、なのね…」

 

改めてナーちゃんの姿を見る。いつもの9歳くらいの姿じゃなくて、12歳くらいの女の子の姿。黒のドレス姿だけど、何故か何となく動きやすそうな印象を受ける。そして…長めの杖。なんというか…

 

「…魔法少女?」

 

魔法少女。そんな感じがした。

 

「…マスター。マスターは、どんな女の子が好きかしら?」

 

「え?うーん…」

 

唐突な質問に悩む。どんな、と言われても…

 

「……ごめん、パッとは思い付かない…」

 

「…そう。じゃあ…1つ聞かせて。マスターは胸は大きい方が好み?」

 

「ん…それはどっちでも。どちらかを選べって言われたら小さめがいいかな?後ろから包み込むように抱きつきやすいし。…私の価値観としては、女の子の価値は胸の大きさで全部を決められるわけじゃないし。胸が大きくても小さくても、その人はその人なんだもん。私がその人が好きだったなら外見や立場関係なく迷わずその人を選ぶよ。」

 

「マスター……じゃあ、今までのあたしでも?」

 

「うん。…ところでちょっと気になってたんだけど」

 

「?」

 

「その水色の石は?」

 

ナーちゃんは首から水色の丸い石を下げていた。なんというか…レイジングハートをそのまま水色にしたような。

 

「これ?月さんがくれたのよ。“芽吹けば何かは分かります”って言っていたけれど…」

 

「“ザ・シード”かな?」

 

あの人も結構ゲームとか好きだよね…こことは違う世界だけど未来の話も知ってるから結構話してて楽しい。ネタバレには配慮してくれてるし。

 

「あたしが持っていて大丈夫かしら…」

 

「いいんじゃないかな。月さんがナーちゃんにあげたものなら、ナーちゃんが持っていた方がいいと思う。…きっと、何か意味があるんだろうし…」

 

「…分かったわ。マスターがそういうなら、あたしが持っておくわ。」

 

「ん。…さ、行こっか。あの人も待ってるし、カルデアの皆も待ってるもんね。」

 

私がそう言って立ち上がると、私の姿が変わる。

 

お母さんの“童子切安綱”。

 

お兄ちゃん達が協力して鍛えてくれた太刀───“試作型天文台太刀IV”。

 

アルテミスさんの“月女神の弓矢”。

 

ニキが作ってくれた心を繋ぐかもしれないペンダント。

 

星羅からもらったポップスターをモチーフとしたような星形のヘアアクセ。

 

そして───動きやすいように設計された道着と袴。高校の先生達からもらったもの。

 

それを確認して、呼吸を整える。

 

「───シッ!!」

 

蹴り一閃。そうして、牢屋の扉を吹き飛ばす。

 

「…行こう、ナーちゃん。カルデアに戻るために───七つの試練へと!」

 

「…これじゃ、あたしが来た意味なんてあったのか分からないけれど…それにあたしが言いたいことも言えてないわ。だけど…ええ!行きましょう、マスター!後でもいいからあたしの言いたいことちゃんと聞いてちょうだいね!」

 

「うん、ちゃんと聞くよ。」

 

私の差し出した手を握り返すナーちゃん。私達はそのまま、その廊下を進んだ。

 

 

「来たな!そうだ、お前に迷う時間はない!何故ならば何もせず7日を迎えてもお前は死ぬのだからな!」

 

「デビルサバイバーかな?」

 

なんでちょうど7日なの?思いっきりデビルサバイバー思い起こすんだけど…

 

「お前の言っていることはよく分からんが…まぁいい、この場こそ第一の裁きの間!」

 

人間性…じゃなくてアヴェンジャーさんは観客に聞かせるような大声でそう告げた。なんか、闘技場みたいな雰囲気…大きい広間なんだけど。…なんだろう。変な感じがする。

 

「この場にも支配者がいる!お前が挑むは七騎の支配者!誰も彼もがお前を殺そうと手ぐすね引いているぞ!さぁ、第一の支配者は───」

 

アヴェンジャーさんが言い終わる前にナーちゃんが氷の壁を形成した。その壁に衝突する何か───硬質なもの。

 

「この感じ───行ける!そしていきなり襲いかかるなんて作法がなっていないわ!」

 

「クリスティーヌ……クリスティーヌ、クリスティーヌクリスティーヌ!!」

 

あれは───

 

「エリックさん!?」

 

「そうだ!第一の支配者は“ファントム・オブ・ジ・オペラ”!美しき声を求め、醜さを憎み、地下で蠢く天才でありながら怪人!嫉妬の罪を以てお前を襲う化け物だ!!」

 

「嗚呼 今宵新たな歌姫が舞台へ立つ!だが───嗚呼 おまえは誰だ 立つのは君ではない!クリスティーヌ!!」

 

「マスター、気をつけて───」

 

「嫉…妬…?」

 

気持ち悪い。視界が揺れる。乗り物酔いに近い感覚───不意に、聞こえる声。

 

 

───なんで、お前が一番なんだ。

 

「…っ」

 

───私がこんなに頑張っているのになんでコイツを越えられない?

 

───どうせ上から見下ろして貶しているんだろう?

 

───妬ましい

 

───憎い

 

───お前なんていなければよかったのに

 

───おまえはこの場に必要ない

 

「マスター!」

 

その声に、幻聴が消える。視界は良くなっていき、異常な吐き気は収まっていく。ナーちゃんが、氷の剣でエリックさんの攻撃を弾いていた。

 

「……今の…」

 

「理解したか?垣間見たか?今お前が眼にしたもの。お前が聞いたもの。それが“嫉妬”だ。人の総てが抱き、お前の深淵を形作るもの。」

 

「…今のが、嫉妬…」

 

見えたのは巨大な蛇だった。嫉妬、というのならあれは恐らく…“レヴィアタン”。嫉妬(エンヴィー)を司る悪魔だ。

 

「どうした、怖気づいたか?自らを形作るもののおぞましさに、涙の一つでも流したくなるか?ん?」

 

「……はは」

 

今の…中学生の頃の記憶だ。最近、曖昧になってた。恐らくは無意識で封じたんだろうけど。

 

「…は」

 

何をしても、事態は好転しなかった。その理由が───

 

「あはっ……ハハハハハハ!!!」

 

笑いが漏れる。…なんで、気がつかなかったんだろう。

 

「嫉妬!そっか…私、嫉妬されてたんだね!ほんっと…おかしい。」

 

「マスター……?」

 

「…業を、醜さを突き付けられなお笑うか?」

 

「まぁ…ね!だって、私何も分かってなかったもの!知識だけ詰め込んで嫉妬が分からないとかどれだけ愚かなんだろう!」

 

「クリス───!?」

 

縮地を用いて接近、私を狙う一撃の発生点に回し蹴り。

 

「え…!?」

 

「私、何も分かってなかった。ううん、“見ようとしてなかった”!ほんとおかしい…理由がないものだと思い込んで、知ろうとしなかった…!」

 

そう呟いた瞬間、黒い塊が私に近づいて───否、引き寄せされていく。

 

「ちょっ!?」

 

「あぁもう…ほんと、バカみたい。…ううん、バカなんだね。妬まれていることすら気がつかず、そのまま1人で突き進んで!“一緒にやろう”の一言もなかった!私の奥底にある努力も見せなかったら不気味がられるに決まってる!」

 

「クリス、ティーヌ…」

 

「ナーちゃん!行こう!」

 

「───ええ!」

 

ナーちゃんと一緒に飛び出す。

 

「あたしは童話!所有者によって姿を変える、定められたカタチのない英雄ナーサリー・ライム!けれどいまいるあたしは1つのカタチを得た!あたしは───あたしはあたしの意志のもとに戦う!総てはあたしのために───あたしの想いを突き通すために!!おいでませ、ジャバウォック!」

 

ナーちゃんがジャバウォック───赤い巨人を召喚した。童話であることには変わりないのか、その召喚能力は健在みたい?

 

「マスターも!」

 

「───私はリッカ!藤丸リッカ!好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート!嫌いなものは理不尽と根拠のない否定!座右の銘は“みんな違ってみんないい”!少しの間だけど、よろしくお願いします!」

 

私がそう告げたあと、ナーちゃんがジャバウォックから飛び降りる。

 

「こんな場所にあたしのマスターを連れてきたお礼───もとい、挨拶代わり!受け取って!」

 

ジャバウォックが押さえつけるエリックさんに、杖を剣にもせず、突き刺すナーちゃん。

 

「“火吹きトカゲのフライパン”!!」

 

その言葉に、突き刺した場所を中心に巨大な火柱が立ち上った。その火柱はしばらく続いて───消えた時、そこにはエリックさんの姿はなかった。

 

「…終わったわ。」

 

そう言ってナーちゃんは杖をどこかに消し、私に近づいてきた。

 

「終わったんだよね。…お疲れ様、ナーちゃん。」

 

「当然でしょう?あたしはマスターを助けるために来たのだもの!…とはいえ、魔力の上がり方が凄くて少しの間振り回されそうだけれど…」

 

「大丈夫、私もうまく使えてないし…一緒に頑張ろ?」

 

「…ええ。」

 

「見事だ。嫉妬を喰らい尽くしたな、マスター。」

 

「喰らい尽くした…のかな…」

 

正直、実感は湧かない。けど…何かが変わった気はする。

 

「あ、そうだ…アヴェンジャーさん」

 

「む?」

 

「あと6つ───その意味、私に教えて?知らないといけない気がするの。」

 

「───ハ。クハハハハ!!地獄を求めるか!いいぞ、それでいい!その先に何が待つか───その疑問に一言で答えよう!」

 

人間性に覆われていて全く表情も細かい動きも分からないけど。でも、マントか何かを翻すような仕草をしたのは分かった。

 

「“待て、しかして希望せよ”!次の試練でまた逢おう!クハハハハ!!」

 

そう言い残してアヴェンジャーさんは闇の中に消えた。

 

「……あたし達も戻りましょう?それで…その。聞いてほしいの。」

 

「…?そういえば、さっき言いたいことも言えてないって言ってたね。」

 

「…うん」

 

ひとまず、一度闘技場のような場所を出てさっきの場所に戻ることにした。

 

 

「………」

 

「どう?ナーちゃん。」

 

「…だめ。カルデアとの連絡は取れないみたい。月さんも管制に加わってたからあたし達のことは追えているはずだけど…」

 

「…そっか」

 

そう言いながら、部屋の隅にあるソレに眼を向ける。

 

「………なんで篝火」

 

あの人が人間性だったときから思ってたけど。ちょっとこの場所、ダークソウル感強くない?ついでに何故かノコギリ鉈落ちてるし…

 

「…まぁ、いいか。それよりナーちゃん、言いたいことって?」

 

「う…えっと、その…」

 

少し綺麗にした床で正座して対面する。ナーちゃんは気まずそうに言い淀んでいる。

 

「焦らないでいいから落ち着いて、ゆっくり言葉にして?」

 

「う、うん…」

 

「はい、深呼吸。」

 

「……ふぅ…」

 

あ、落ち着いたかな?

 

「……マスター。」

 

「うん。」

 

「……ごめんなさいっ!」

 

「え?」

 

いきなり謝られる。え?ナーちゃん、私に何かしたっけ?

 

「え、ええと…なんで?」

 

「…あたしが召喚されたときのこと…あたし、マスターのことを怖がらせて…傷つけてしまったから。…ずっと、謝りたかったの。……ごめんなさい。」

 

土下座に近い謝り方。本気で言ってる、っていうことは伝わる。

 

「……顔を上げて、ナーちゃん。」

 

「……?」

 

「私…前に言ったと思うけど。別にその事、気にしてないよ。」

 

「…でも」

 

「…それでも、気になるんだったら…そうだね。」

 

「…?」

 

「私、藤丸リッカは卿、ナーサリー・ライムに対して私の過去の姿を使われたことに対し、怒りも何も浮かべていません。私の本当の名前を見破られたことにも恐怖したのは事実ですが、怒ってはいません。故に私が卿を許すべきものは何一つ存在せず、卿もまた謝るべき事柄は存在しません。」

 

「……そう、なの…」

 

「…それでも、まだ納得できない?」

 

私の問いにナーちゃんが頷いた。…困った、結構ナーちゃんって強情だ…

 

「…それじゃあ、1こだけ。お願いがあるの。」

 

「何!?なんでも聞くわ!」

 

急に顔を上げて、私を見つめるナーちゃん。…えっと。

 

「…うん、ちょっと待って、とりあえずその返しはやめよう。お願い関係なく。」

 

「心配しなくてもマスター以外には言わないわ。」

 

……嬉しいと思っていいのか悪いのか。とりあえず…

 

「ええっと。…ずっと、一緒にいてくれる?」

 

「……それが、お願い?」

 

「うん。…人理修復が終わっても、ずっと一緒に。……これじゃあだめ、かな?」

 

「……いいえ。分かったわ。約束する。あたしはずっと、マスターと一緒にいるわ。人理修復が終わっても、ずっと。座には…帰らない。それで、いいのね?」

 

私が頷くと、ナーちゃんはそれで納得したのか本をどこからか取り出した。

 

「……簡易的だけれど、お茶会のようにしましょう。少しでも休めるようにした方がいいわ。」

 

「……私、ナーちゃんがいなかったらダメだった気がする…」

 

「そうかしら…」

 

預言書は今でもうまく効かない。ナーちゃんがいてくれたことに、本当に感謝した。




嫉妬突破…ね。

星見の観測者「…創り手?」

ん?

星見の観測者「……いや、なんでもない。忘れてくれ。」

…分からないけど、分かった。


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第224話 第弍ノ罪科、其色欲罪也

色欲。…私は、苦手かな。

星見の観測者「ほう?」

なんだかねぇ…純愛系、もしくは片方が嫌がってるとかじゃないなら少しは大丈夫なんだけど。正直知り合いからR-18系ゲームの実況頼まれてるから慣れないとなんだろうけど…

星見の観測者「…一応聞くが、そのゲームの名は?」

“School Days”…だったはず。

星見の観測者「……君も苦労しているな。よりにもよって君の苦手傾向じゃないか?」


「……」

 

恐らく1日が経過した。…私の感覚で、ではあるけど。ナーちゃんが周囲の黒い塊を魔力馴らしのついでに一掃しに行っている間に、私は篝火を見ていた。

 

「……ソウル、か。私にソウルがあるか……ううん、多分ある。」

 

前回私が吸収した黒い塊。あれは多分、怨霊だ。あれを吸収したということは…多分、ある。それと……

 

「…あの霊基」

 

ナーちゃんが焼いたあのエリックさんの霊基。あれが消えたあと、何かを“得た”感覚がした。“嫉妬”の概念とは別に、何か。

 

「…あれが、もしボスを倒したときに得られる固有のソウルなのだとしたら…」

 

「…マスター、終わったわ。」

 

その声に振り向くと、ちょうど杖から氷の剣を消したナーちゃんがいた。

 

「お疲れ様。ありがと、ナーちゃん。…どう、だった?」

 

「…やっぱり、魔力が上がった影響でありす(あたし)の使う炎の魔術も威力が上がっているわ。その他の魔術…アリス(あたし)の使う氷の魔術と風の魔術も同様に。氷と風はともかく、問題は炎の魔術…それから水、雷、土、金属、木材…ええと、五行…だったかしら?それに紐付けられるのは大体扱えるようになっているみたい。練度が低いせいか制御がうまくできないのだけど…」

 

「五行……」

 

五行思想。木火土金水…5つの元素によって万物が構成され、互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環するという古代中国発祥の考え方。五芒星はこれの関係を表し、円を以て(プラス)の関係である五行相生(そうしょう)を、線を以て(マイナス)の関係である五行相剋(そうこく)を表している。簡単に言えば相生は力を強め、相剋は力を弱める関係。細かく説明すれば長くなるけど…大体これくらいでいいだろうし。

 

「でも、この場所にいる間に、なんとしてでも使いこなしてみせるわ。そうじゃないと、マスターを守れないもの。」

 

「…ありがと。でも、無理はしないでね?」

 

「休息も鍛練のうち、でしょう?分かっているわ。…マスターは、何か分かったかしら?」

 

その言葉に私は篝火に眼を向けた。…篝火といっても、まだ点灯していない…つまり、不死を癒す場として成立していないけれど。ひとまず、さっきの予測をナーちゃんにも話す。

 

「砕けた霊基の欠片がソウル…なるほど。確かに、霊基も霊体よ。だから、ソウルと言ってもおかしくないわ。…問題は、そのソウルで篝火が使えるか……篝火が使えれば、人間性を……あっ。」

 

ナーちゃんが何かを思い出したような声を上げて、自分のポーチを探った。あれ、アイテムポーチだ…こっちに来るときにジュリィさんとかが持たせてくれたのかな。

 

「……これ、拾ったの。人間性よね、これ。」

 

そう言って見せられたのは───間違いなく、人間性。篝火に捧げ、生者に戻るために必要なアイテム。ちなみにナーちゃんと…あとありすさんもダークソウルプレイ済みだから人間性を捧げるとか普通に言う。ナーちゃんがやってるときに私が“これって可愛い女の子がやるゲームかなぁ”って言ったら“それ、マスターが言うの?”って返されました。…私って可愛いのかなぁ…よくわかんない。

 

 

閑話休題。

 

 

「…人間性、だね。拾ったって…なんであるの?」

 

「分からないわ。…注ぎ火、できるかしら。」

 

「エスト瓶があるわけでもないからなんとも……とりあえず、やってみようか。」

 

そう言って篝火に触れる───火が、点った。

 

BONFIRE LIT……ね。」

 

「…点くんだ。私、不死でもないのに。」

 

「…ね、篝火で何ができるか分かるかしら。」

 

その言葉に、篝火の前に座ってからもう一度触れる。…情報が流れ込んでくる。

 

「……だめだ。」

 

「…?」

 

「ナーちゃん、触ってみて。」

 

「え?え、えぇ。」

 

私は立ち上がって場所を空ける。その場所にナーちゃんが座る。

 

「……なるほど。そういう、事ね。」

 

ナーちゃんも理解したのか、ため息をついて立ち上がった。

 

「おや、目覚めていたか!地獄にも時はあるからな───って、なんだこれは……」

 

人間性の姿をしているアヴェンジャーさんがこの場所を見て言葉を失っていた。それもそのはず、今この場はお話の中にあるような草原になっているのだから。

 

「何って、お茶会後よ?少し片付けたけれど、よかったら紅茶でもいかが?」

 

「───シャトー・ディフで童話のようなお茶会を開く猛者はお前達くらいだろうよ…さすが魔術師のサーヴァント、というところか…」

 

確かにこれはナーちゃんの力だから…うん。ほんと、ナーちゃんがいてくれてよかった…

 

「……それで。そこにある火はなんだ?昨日はなかったはずだが。」

 

「篝火。…本来、人間性を捧げることで生者へと戻ることのできる不死達の癒しの場。」

 

「…ほう。これがそうか。なら───」

 

「…でも、今は使えない。」

 

「……何?」

 

篝火の前に座る。脳内にいくつかの項目が開かれる。…そこに、“人間性”が関わる項目はない。

 

「多分、いくつかの情報が喪われてる。篝火を直さないと、人間性を捧げることができない。」

 

「……そうか。」

 

その声を聞いて立ち上がる。それと同時に草原は消え、本来の牢屋の姿に戻る。

 

「行こう、ナーちゃん。」

 

「ええ。」

 

「こっちだ、ついてこい。」

 

未だ人間性の姿であるアヴェンジャーさんについていく。私とナーちゃんが、カルデアに帰るために。

 

 

「誰か……」

 

「…?」

 

黒い塊を倒しながら廊下を歩いている最中。不意に、声が聞こえた。

 

「アヴェンジャーさん、ここって私以外に誰か…?」

 

「ふむ。招かれたのは確かにマスターただ一人。この監獄塔には悪性が集う…が。その例外がいるのは…まぁ、いいとするか。」

 

そう言ってアヴェンジャーさんはナーちゃんの方を見た───ように見えた。…姿を隠す人間性のせいで、視線とかが分かりにくい。

 

「どうするの?マスター。」

 

「……助けて、いいかな。ナーちゃん。」

 

「あたしはマスターの決めたことに従うわ。これは令呪も契約も関係ない、あたし自身の意思よ。」

 

「……ありがとう。じゃあ…助けよう!」

 

「ふん。…気を付けろよ。死ぬかもしれないからな。」

 

そうアヴェンジャーさんが言った途端、黒い塊が湧いてきた。それを見てナーちゃんが炎の剣を構える。

 

「出てきたわ…次から次へと!」

 

「ごめん、ナーちゃん!切り開いて───ううん、飛び越えられる!?」

 

「任せて!しっかり捕まってちょうだいね、マスター!」

 

その言葉に私よりも少し小さい背中にしっかりと捕まる。やっぱり、ナーちゃんもサーヴァントだからなのか───私と、武器。自分よりも遥かに重いはずの荷物を背負ってなお、軽々と跳躍した。

 

「…やっぱり、筋力も上がってるわ。吠えよ、炎剣フランベルジュ───灼き払いなさい!!」

 

そう叫んで空中から炎の剣を振るう。すると、炎が黒い塊達に広がり、塊達を燃やす。…それと同時に、何かを得る感覚。私達が床に足をつけた頃には、その場の黒い塊は全て消滅していた。

 

「…今、ソウルを得たわね。」

 

「…うん。」

 

ナーちゃんも感じたみたい。恐らく得たのは“名もなき怨霊のソウル”…というところかな。

 

「見事だ。…さて。」

 

「……あなたは?私は、藤丸リッカです。怨霊、悪霊の類いではありません。こっちにいるのはナーちゃんとアヴェンジャーさんです。明確にしましょう、私達は敵ではありません。」

 

「……敵では、ないんですか…?」

 

その声の主…赤い軍服の女性はそう私に問いかけた。

 

「敵ではなく、味方でもなく…ただ、中立の立場のようだがな。」

 

「……できることなら、味方になりたいです。…どう、ですか?私達と一緒に、行動しませんか?」

 

「……私は…一人は、嫌です……ここは暗くて……得体の知れない何かに呑まれそうで……」

 

何かに呑まれそう、か……

 

「……マスター…」

 

「……一緒に、行きましょう。ここでいるよりも、その方が良いと思います。」

 

「良いのですか……?」

 

その問いに頷く。

 

「改めて。私は藤丸リッカです。あなたは…?」

 

「私…私は…………すみません、思い出せません……」

 

「……名のなき女か。この監獄塔にいるには頼りないな。何故紛れ込んだのやら。…まぁいい。」

 

アヴェンジャーさんがため息をついてから体を揺らした。

 

「女。“メルセデス”と名乗れ。」

 

メルセデス……?

 

「車、かしら…」

 

「違う。かつてシャトー・ディフに叩き込まれた男にまつわる女の名だ。」

 

…シャトー・ディフ。メルセデス。ファリア神父…モンテ・クリスト伯。通称“巌窟王”……恐らくアヴェンジャーさんが言ってる男というのは、その巌窟王の事だと思う。そして、それはもしかしたら───

 

「どうした、マスター。呆けている暇はないぞ。」

 

「…うん、ごめん。」

 

そうだった。今はとりあえず、前に進まないと。

 

 

そうしてしばらく進んで、またあの広間に出た。

 

「さて、マスターよ。この裁きの間にて問おう───劣情を抱いたコトはあるか?」

 

え…?

 

「劣…情?」

 

「一箇の人格として成立する他者に対し、その肉体に触れたいと願った経験は?理性と知性を己の外に置き、獣の如き衝動に猛り狂った経験は?」

 

「……」

 

その問いに考える。他人の身体に触れたいと思ったことは───確かに、ある。でもそれを、本能のままに実行しようとしたことはない。そして、思ったことはあっても───そこに、相手を求めるような感情はない。あったのは全て、“手当て”に当たるものだったはず。それに…胸の辺りを触るとしても、それは服の上からだったし。その胸の辺りを触るのも、“絵に描いたとき心を表現する場所”以外の意味はなかった。

 

「…っ」

 

まただ。気分が悪くなる。視界が歪む。脳裏に浮かぶは───様々なものを混ぜたような存在。歪みすぎて、嫉妬の時みたいに鮮明じゃない。

 

 

───落とす!あたしが絶対に落としてやる!あんたが応援してくれれば、できる気がするの!

 

───わたし…彼のコト、恋人にしたいの。…応援して、くれる?

 

───ふざけんな!なんなのあの女、アイツのために服を新調したですって!ああもうむかつく……ねぇ、あの服引き裂いてきてくれない?

 

「…う」

 

───お前と付き合ってやるよ。お前が一番顔良いし、楽そうだからな。

 

───ヤらせろ。あぁ、勿論生な。責任?そんなもん取らねぇよ。中学生にそんなんできるか。…つーか

 

───お前、生娘だよな?使用済みじゃないよな?

 

 

頭痛がする。腹痛がする。吐き気がする。音も遠く聞こえ、意識を保てているのが精一杯───

 

「マスター、しっかり!」

 

その、ナーちゃんの声が闇を引き裂き、私の意識を引き戻す。

 

「どうした、垣間見たか?」

 

「…大丈夫。」

 

ふとナーちゃんを見ると、ナーちゃんが首から下げている水色の石が淡く発光していた。…まさか、ね。

 

「…して、どうだ?お前が他者の肉体を求めたコトはあるか?」

 

「……それは…あんま───」

 

無論あるとも!

 

騒音。いきなりの声に少し体勢を崩しそうになる。

 

「そら、来たぞ!今宵お前の相手となるもの!お前が向き合うべき、お前を踏みにじらんとするモノだ!」

 

現れたのは───

 

「天井天地大回転!それこそが世の常、無論ありまくるに決まっている!」

 

「……タケシさん?」

 

「タケシさん…よね。カントー地方、ニビシティジムリーダーの…」

 

あの剣…剣?がイワークだったら普通にタケシさんだと思う。

 

「獣欲一つ抱かずして如何な勇士か、英雄か!俺の在り方が罪だと言うのなら、いいとも!俺はここに大罪人として立とう!」

 

声が大きい。この場が───揺れる。

 

「俺は!この“フェルグス・マック・ロイ”は!」

 

フェルグス・マック・ロイ───?それって確か…アルスターの…

 

主に女が大好きだ!!

 

「「主に?」」

 

ナーちゃんと同時に呟く。同性でも大丈夫…ってことかな?

 

「……っ、マスター、あれ…!」

 

ナーちゃんが何かに気がついた。指差す方向を見ると───白い何かと、赤い何か。赤い方は何かヌルヌルしてるような感じで、白い方はツルツルしてる感じ。…というか

 

「“触手”……それに、“フルフル”?」

 

「───ホァァァァァァ!!」

 

甲高く、人に叫び声にも聞こえる咆哮。間違いない、あれは奇怪竜“フルフル”だ!

 

「ナーちゃん、厳重警戒!フルフルは痺れさせてくる、恐らく触手だと思われるあれは掴まったら多分女性にとって色々な意味で厄介!」

 

「フルフルにも月さんが言ってた“ギィギ”にも気を付けるわ!でも、3対2はちょっと辛いかしら…!」

 

ギィギ?あれの…名前?

 

「心を覗け。目を逸らすな。それは誰もが抱くゆえに誰ひとり逃れられない。他者を求め、震え、浅ましき涙を導くもの───色欲の罪。」

 

「色…欲。」

 

色欲。この裁きの間が色欲の裁きであるならば───なるほど、ならば先程見えたのは恐らく…“アスモデウス”。色欲(ラスト)を司る悪魔。

 

「…」

 

人を思うことが罪?……違う。人は思うからこそ…人が生まれる。そもそも性欲というのは人間の三大欲求として挙げられる1つ。それを罪とする……

 

「……?」

 

待った。私は何かを見落としている気がする。相手を見る。フルフル。触手。フェルグス・マック・ロイ。フルフルと触手はR18系で良く使われると聞いた。フェルグス・マック・ロイは確か妻フリディッシュがいない間は7人の女性を求めるという強い精力を持つ者───

 

「……あぁ、そっか。」

 

ほとんどに共通するのは相互の愛がない性欲。自らの欲を満たすためだけにぶつけるもの。それを満たすなら、相手が傷つこうと構わない───あぁ、ならばそれは。罪としても成立するだろう。…愛がわからない私が愛を語るのもおかしい話だけど。

 

「何が浅ましきか!抱きたい時に抱く!食いたいときに食う!それこそが生の醍醐味、生を実感するというものだろう!」

 

「それは違うわ!自らを律し、己を制御するからこそ人は人なのよ!そうでなければただの獣なのよ!理性が必要ないというのなら、獣に成り果てればいいわ!」

 

「ハハハ、手厳しい!しかしそれを人ならざるものが言うか!まぁいい、今がその時であることは変わらない!そこの女よ、お前は尊敬に値し、組み敷くに困難な女だ!俺には分かるぞ!」

 

その言葉が向けられている先は───メルセデスさん。

 

「具体的に言えば魅力的だ!特に良く突き出た胸が良い!」

 

「わ、私…ですか」

 

「しみったれた監獄において一人酒かと思ったが…うむ。重畳、重畳。俺は!今宵!お前を戴く!

 

……

 

「そして、そこにいる小娘共と見慣れぬサーヴァントは…あれだ。いらん。」

 

「……は?」

 

ナーちゃんの声が、一段階下がった。

 

「もう一度、言ってくれるかしら…今、なんと言ったの?」

 

「お前達はいらん。魅力など感じない。邪魔だ、殺───」

 

言い終わるより早く、ナーちゃんがフェルグスさんと一瞬で距離を詰め───一凪ぎで吹き飛ばした。

 

「…ごめんなさいね、あまりにも聞くに堪えなかったものだから。マスターに魅力がない?いいえ、それは違うわ。マスターは強い魅力を持つ人よ。あなたはそれに気がついていないだけ。」

 

「……ぐっ」

 

「というか…思ったより出るわね、この身体…ほんと、振り回されてるわ…」

 

あ、本当はもう少し軽い予定だったのかな…

 

「そもそもだけれど。あたしもマスターも、理性のない獣なんてお断りよ。理性のある獣?そうだったなら、一考の余地はあるでしょう。だけど、あなたのその在り方は当てはまらないわ。」

 

そう静かに告げながら、ナーちゃんは剣を構え直す。

 

「マスター。こっちはあたしがしばらくやるわ。その間に、マスターとアヴェンジャーさんはフルフルとギィギをお願いしてもいいかしら?」

 

「……分かった。お願いできますか、アヴェンジャーさん。」

 

「勝手にしろ。」

 

それを聞いたまま、私はお兄ちゃん達が鍛えてくれた達を抜刀する。

 

「お前達は俺の女を攫おうと言うのだ───させん!俺から女を奪う等!」

 

「…なんか、変な感じがするわ。」

 

「ほう。お前達はトゥヌクルダスの幻視を知らぬと見える。あれはフェルグスではない。そしてそこにいる竜もそこにいる怪物もまた、本来のものではない。かつての中世、この世ならざる異界に堕ち、恐怖を識った騎士トゥヌクルダスが見たモノ───煉獄の悪魔だ!!」

 

その女、寄越せぇぇぇ!!

「ホァァァァァァ!!」

 

「マスターの魅力がわからないなんて───損しちゃうわよ!」

 

「戦闘開始───力を貸して、ルーナさん!」

 

太刀使いのルーナさんが教えてくれたことをもとに、フルフルとギィギに斬りかかる───

 

 

───勝負は、一瞬でついた。

 

一瞬、というか一撃で。もう既に弱っていたのか、たった一凪ぎでその動きを止めた。止めたあと、フルフルとギィギはサーヴァントのように消滅した。

 

「…問題は」

 

ナーちゃんの方に目を向ける。未だ、剣戟を演じるナーちゃんと煉獄の悪魔を。

 

「…っ!」

 

「ぉぉぉぉぉ!!」

 

キャスターという本来筋力の低いクラスであるためか、女の子という素の筋力差ゆえか、その体格差ゆえか。なんとか捌いてはいるけれど、決定打を与えられてはいない。

 

「手数……増やすべきかしら…!一撃一撃は薄くなるけれ……ど!」

 

呟きながらも正確に攻撃を弾くナーちゃん。手数を増やせば一撃は軽くなる。でも確かに、一撃を軽くする───身軽にするのなら、攻撃が届く可能性はある。

 

「さて───どうだ?業を覗きみた感想は。人の原始の具現はどうだ?」

 

…人の原始。愛によって人は産まれる。私もまた、愛の…色欲が招いた結果。

 

「……人は皆罪人?…ううん。それは…違う、と思う。」

 

直感…なのかもしれない。だけど、そう思う。

 

───かつて見た、あの家族達が。今ここで見てる罪と同じとは思えない。

 

「……付き合い方を見失うな。付き合い方を見失い、快楽のみを求めることこそ色欲の罪の核。」

 

「……ふ。」

 

アヴェンジャーさんが笑い、私は童子切を抜く。

 

「……お母さん。お兄ちゃん。…お願い、力を貸して───」

 

二刀流。本来難しい、というか無理なレベルのそれが、今の私の構え方。

 

「……産んでくれたお母さんと、お父さん。この世界にいさせてくれて、ありがとう。」

 

軽く跳躍する───それだけで、私は煉獄の悪魔に肉薄した。

 

「む───」

 

「───はぁっ!!」

 

右、試作型天文台太刀IVを振り抜く。モンスター相手なら刃がろくに通らないこの太刀。でも、モンスターじゃなければ問題はない……!!

 

「ナーちゃん!アヴェンジャーさん!」

 

「───ええ、分かったわ!」

 

「女ァァァァ!!」

 

「───シッ!!」

 

左、童子切安綱で凪ぐ。それによって、武器を持っていた手が切断される。

 

「アァァァァアアァ!?」

 

「………一手音速」

 

両手の刀が通る道を交差させるように高速で切り上げる。

 

「二手浸透」

 

手を離し、下腹部の辺りに二撃。

 

「三手鈍撃───!!」

 

落ちてきた刀の柄を持ち、そのまま両手で───金的へと強撃。…あ、なんか潰れる感覚した。

 

「───」

 

“兇叉”の原理と同じ技が内部まで効いたのか。煉獄の悪魔は、その場で膝をついた。

 

「今!」

 

「…クハ、クハハハ!あぁ、介錯をしてやろうじゃないか!同じ性別として恐怖を抱きながらな!」

 

そう良い、アヴェンジャーさんが心臓を抉る。

 

「吠えなさい───氷炎剣ヴィルマフレア!高温と低温の狭間で後悔なさいな!」

 

その言葉と共に、巨大な火柱と巨大な氷塊がその場に顕れた。…やがて、何かを得る感覚がする。黒い塊とは比にならない量の、ソウル。

 

「……消えた、みたいね。VICTORY ACHIEVED…ってところかしら。」

 

「───あぁ、そうだ!お前達は第二の裁きを突破した!それはつまり、この先に進むことを許されたということだ!喜ぶがいい、お前の命はまた一日繋がった!」

 

アヴェンジャーさんが言うのならそうなのだろう。私は刀を納刀して、息を吐く。それと同時にナーちゃんが術を解除したのか、火柱と氷塊が跡形もなく消える。

 

「……うん?」

 

その、あった場所に何かが落ちている。近づき、拾ってみる。…これは───

 

「鐘、かしら?」

 

私の手元を覗き込んだナーちゃんがそう言った。鐘───そう、鐘だ。それも小さな。

 

「…なんだか…“共鳴する小さな鐘”のようにもみえない?」

 

「共鳴する…」

 

共鳴する小さな鐘。それはBloodborneのアイテム。味方として助けに行くときに必要なアイテムだ。対となるは“狩人呼びの鐘”。敵として行くなら“共鳴する不吉な鐘”───まぁ、その辺りはいいか。とりあえずこれは…持っておくことにしよう。

 

「さぁ、第二の裁きは終わりだ!次の未来を迎えられるかはお前次第!」

 

アヴェンジャーさんがそう告げる。…ほんと、この人間性どうにかならないかな。

 

「“待て、しかして希望せよ”!これよりは一時の休息だ!第三の裁きを待つがいい、マスター!」

 

そう言ってアヴェンジャーさんは奥の闇に消えた。

 

「…戻ろっか、ナーちゃん。メルセデスさんも。」

 

「私も…いいのですか?」

 

「置いていきませんよ。」

 

「あぁ…ありがとうございます…優しい方…」

 

私達は元来た道を戻る。…一応、ソウルがどうなるかとか知りたいし。

 

 

…そして、戻ってきて。

 

「お帰りなさい、狩人様。」

 

「……」

 

Bloodborneでレベルアップとかをしてくれる人形ちゃんがいた。……なんで?篝火の近くに灯りがあるのもなんで??ていうか───

 

「狩人じゃないんだけど…なんでここに?」

 

「……?私は、気がついたらここに…」

 

あ、分かってないみたい。…私は一体どこで“啓蒙”を得たんだろう…って、さっきのアレか…そう言えばさっき、ソウルとは別の何かも得たような気が……

 

「……頭痛くなってきた。」

 

「大丈夫かしら?お茶会の方、用意するわ。」

 

「…ありがと。」

 

「……って、その前に休んだ方がいいわね。ええっと…」

 

そう呟いてナーちゃんはその場に座った。

 

「はい。」

 

「……?」

 

「…あたしの小さな場所で申し訳ないけれど。少しでも癒しになってくれればいいと思うの。」

 

……えっと。座った状態で、膝を叩かれるってことは…

 

「……膝枕?」

 

「……」

 

ナーちゃんが頷いた。…ナーちゃん強情だし、多分大丈夫って言っても聞かないだろうからなぁ…

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

ナーちゃんの膝に頭を乗せて、横になる。…すごく、落ち着く。理由は…童話だから?それとも……駄目だ、思考がうまく回らない。すごく落ち着いて…だんだん、ねむ、く───

 

「…おやすみなさい、マスター。ゆっくり、休んでちょうだいね。」

 

そんなナーちゃんの言葉を最後に、私の意識は途切れた。




……

月「お母さん!監獄塔…お母さん?」

……あぁ、月

月「酷い顔してるけど……大丈夫?」

観測事象をそのまま書き起こす…それが、私の作業。…だけど今回は……すごく逃げ出したい。

月「……あっ。そういえば“色欲”……」

本当の事を言うなら少し休みたいんだけど……何?

月「あ、えと…監獄塔に変質反応があったの。」

……監獄塔の変質。今回のもそれのうちかな…

月「え?」

これ。この触手…“ギィギ”だっけ?これって確か月が見つけたのだよね?

月「……ぁ」

月が見つけた種から生まれた謎の触手…か。基本的におとなしいから別にいいけど。…ただ、やっぱり…ねぇ。

月「う……ごめんなさい……」

いや怒ってないけど……それより、監獄塔がフロム色強い原因の方調べてくれる?なんか、少しだけ嫌な予感がする。

月「…わかった…っ」

……あぁ。程々にさせなね。

月「はは…でも、面倒は見きるよ…」

…そ。…正直私の■■■がこうなるとは…私も予測しないし。

月「ほとんど偶然なんだけどね……」

知ってる。

月「じゃあ、またあとで。」

ん……

弓「……マスター、今のは」

ん…あぁ、あれ?月の使い魔。ええと…別質の魔力が流れることによって変な感覚になるんだって。

弓「…?マスター、娘の心配はないのか?」

あの触手はR18方面のものじゃないから別に大丈夫だよ。似たような粘液出すけど…それはそれで魔法薬の素材になるとか。

弓「ふむ……」

魔法薬は分からないから月達に任せてるけどね。ちなみに私、月達とは感覚が繋がってるからR18関連じゃないってことは確定してるからね。

弓「…そうか。」


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第225話 第弎ノ罪科、其怠惰罪也

月「お母さん!」

何か分かった?

月「これ…!」

……そう。分かった。


意識が覚醒する。目を開けると、ナーちゃんの可愛い寝顔が目の前にあった。

 

「……ん…マスター?目覚めたのね?」

 

「……うん。おはよう、ナーちゃん。」

 

「ふふ、おはよう。よく眠れたかしら…」

 

その問いに頷く。いつもより思考がスッキリしてる気がする。

 

「おはようございます、狩人様。」

 

「…人形ちゃんもおはよ。」

 

挨拶してきた人形ちゃんにも答える。ずっと人形ちゃんって呼んでたから、その呼び方が染み付いてるんだよね。

 

「…じゃあ、あたしはちょっと周りをみてくるわ。早く術を馴らさないといけないもの。」

 

「あ、うん…ごめんね、ナーちゃん。」

 

「あたしはサーヴァントだもの、マスターを守るのが普通なのよ?…まぁ、今のあたしはそんなの関係なく、あたしが思うままに行動してるけれど。」

 

そう言って外に出ていった。ここにいるのは、私とメルセデスさん、そして人形ちゃんだけ。

 

「…人形ちゃん、あなたは何ができる?」

 

「…はい。私は、あなた様の持つ“血の遺志”を、力へと変えることが。」

 

…血の遺志。あぁ、それは───うん。

 

「分かった。ちょっと、調べてもらえる?」

 

「わかりました。では、遺志をあなたの力としましょう。少し近づきます。目を閉じていてくださいね。」

 

言われた通りに目を閉じる。人形ちゃんが近づいた気配がする。…思考内に、色々な数値が示される。

 

「……ありがとう、もう大丈夫。」

 

「おやめになるのですね。分かりました。」

 

人形ちゃんが離れたのを感じる。それと同時に、示されていた数値も消える。…本当に、Bloodborneみたいだった。血の遺志。灯り。人形ちゃん。遺志を用いて能力を上げる。上げるごとに要求される遺志は多くなり、能力を上げるのが辛くなってくる。…遺志を使えば、私は今よりも強くなれたはず。でも、それを使わなかったのは…使ってはいけない、と思ったから。…獣に成り果てる、とかじゃなくて…単純に、“今使うべきものではない”と思ったから。

 

「……」

 

ところで。先ほどからずっと、継続的にソウルと遺志を得ている気がする。恐らくはナーちゃんが戦ってるからだと思うけれど。サーヴァントならまだしも、怨霊だけなら、“血の遺志”が得られるのはおかしい気がする。

 

「ナーちゃん……」

 

「…呼んだ、かしら?」

 

その声のした方を向くと、少し、だけどはっきりと見えるほどに傷を負ったナーちゃんがいた。

 

「……ナーちゃん!?大丈夫!?」

 

「…平気。少しだけ、油断してしまっただけよ。…マスター、これから先は気を付けた方がいいわ。…獣が、いるの。」

 

「獣……?」

 

「獣の病…それに感染した怨霊達、というところかしら…血の遺志を得ていたのは気がついているわね?」

 

その問いに頷く。

 

「ただの怨霊なら、ソウルだけのはずよ。なのに、血の遺志を落とすものもいた……これ」

 

ナーちゃんが出したのは───血。魂だけならば存在するはずのないであろう、“血液”の溜まり。私はこれを、知っている───

 

「“死血の雫”───そんなもの、普通の怨霊が落とすとは思えないわ。気を付けて、マスター…あたしは少しだけ治癒に専念するわ。」

 

そう言うとナーちゃんはそこで座り込み、アイテムポーチから緑色の液体が入った瓶を取り出した。ルーパスちゃん達が使う回復薬だ。その色で、ふと思い出す。

 

「……ね、ナーちゃん」

 

「…?」

 

「エスト瓶って…あった?」

 

エスト瓶。ダークソウルシリーズにおける回復アイテム。ここまでフロム系列要素出てて、エスト瓶がないのは少し違和感があるような…

 

「……いいえ、無かったわ。人間性はたくさんあったけれど。」

 

「……逆になんで」

 

「分からないわ…」

 

「ふむ、その疑問に答えてやろう。」

 

突然、声。その方向を向くと、人間性───じゃなくて、アヴェンジャーさんがそこに立っていた。

 

「人間性、とやらは言葉からして人間から得られるものなのだろう?ならば簡単だ、ここに渦巻くは人間の悪性の性。悪性が形を得て、お前達に襲いかかる。その悪性はまさしく人間の成れの果てとも言え、ならば人間性を持ち得ていてもおかしくはないであろう?」

 

「……」

 

確かに、辻褄は合う気がする。

 

「…さて。第三の裁きが待っている。準備ができているのなら向かうぞ、マスター。」

 

「……ナーちゃん、大丈夫?」

 

「ええ。もう大丈夫よ。元々、傷は浅かったもの。」

 

そう言ってナーちゃんが立ち上がる。既に傷は塞がり、恐らくは返り血だと思われる染みを除けばこの場所に来てくれたときのナーちゃんだ。

 

「…」

 

「わぷっ…何するの、マスター!」

 

「だって…ナーちゃんの可愛い顔に返り血がついてるのが気になったんだもの…」

 

「返り血……あぁ、さっきの獣のせいね…忘れてたわ、少し返り血被ってたわね。…ありがとう、マスター。」

 

「ううん。…行こっか、ナーちゃん。」

 

「…ええ。」

 

「…行ってきます」

 

私はナーちゃんと手を繋いで、メルセデスさんと人形ちゃんの方を向いてそう告げた。

 

「はい、行ってらっしゃいませ、リッカさん、ナーサリーさん。」

 

「いってらっしゃい。狩人様。あなたの目覚めが、有意なものでありますように」

 

その人形ちゃんが放ったゲームと全く同じ台詞に、ナーちゃんと顔を見合わせて小さく笑った。

 

 

side 無銘

 

 

『…お母さん』

 

『うん?どうしたの、七虹。』

 

『ごめん、作業中に…』

 

『ううん、別にいいよ。それで、どうしたの?』

 

私は月さんと一緒にマスターの観測をしているお母さんに話しかけていた。

 

『えっと…お母さん、前に言ってたよね。“(七虹)を除いた七人格はそれぞれ様々なものを司る。その中には当然七曜や七大罪も含まれる”…って。その司るものを全て重ねて出来上がるのが“本来の(七虹)”だって。』

 

『…あぁ、それね。別に今の七虹が偽物って訳じゃないよ。今の七虹も紛れの無い本物だよ。』

 

『…えと、そういうことじゃなくて…』

 

『…?』

 

『…その司るものって何なんだろうって…』

 

『……あぁ、なるほどね』

 

お母さんは納得したようにため息をついた。

 

『そういえば説明してなかったっけ。とりあえず、何から聞きたい?』

 

『じゃあ…大罪から教えて。』

 

『大罪…分かった。七つの大罪───其は私達の司るものの一部。傲慢(プライド)憤怒(ラース)嫉妬(エンヴィー)怠惰(スロウス)強欲(グリード)暴食(グラトニー)───そして色欲(ラスト)。この中で一番分かりやすいのがあるんだけど…分かる、七虹?』

 

『…憤怒は…美雪さん?』

 

彼女の過去は聞いている。可能性は、限りなく高いと思うけれど。

 

『ん、正解。美雪さんは憤怒を司る。…多分、簡単だったよね』

 

肯定を返す。

 

『で…多分この先は分からないから先に言っちゃうね。まず、私は嫉妬。』

 

『…お母さんが…嫉妬?』

 

『ん。月は暴食、陽詩は色欲…』

 

『え、待って!月さんが、暴食……?』

 

暴食。それは大量に食べること…と、簡単に言えばそうである。だが、彼女は───

 

『短い間でも見てきた限り、全く食べない気がするんだけど……』

 

『……あー…そっか、今って月は虚食期か。』

 

虚食期…?

 

『あ、ごめんね。ええと…私達ってよく食べる時と食べない時の差があるの。私達は過食期と虚食期って呼んでるんだけど。で、月はそれが特に顕著で…虚食期の反動かのように数回に分けて大量に食らう。それでもまぁ…3合くらいか』

 

……それって普通に多いような

 

『そんなわけで、暴食に割り当てられてるみたい。』

 

『……他の人達は…?』

 

『星乃は傲慢…って言っても、そこまで傲慢に当てはまる気質かなとは思うけど。璃々は強欲で、まだ目覚めていない人格は怠惰。』

 

……

 

『まぁ、割り当てられてるからってあまり気にしないでいいことだと思う。全員が全員その通りに動くわけじゃないし。』

 

『…そっか』

 

『……ん、動くね』

 

星の娘…私達は、自らが母と呼ぶ存在に創られたという。私は───一体誰が、本当の母なのだろう。

 

 

side リッカ

 

 

「さて、第三の間だ。問おう。怠惰を貪ったコトはあるか?」

 

問いかけ。その問いに、少しビクッとする。

 

「成し遂げるべき事の数々を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は?社会を構成する歯車の個ではなく、ただ己が快楽を求める個として振る舞った経験は?」

 

「……あたしは、それに誘う側よね…」

 

「……怠惰の罪?」

 

「そうだ。此度お前が立ち向かうは怠惰の具現。第三の裁き───怠惰の間だ。」

 

はっきりと示されて、また視界が歪む。視界に映るは…美女?…あぁ、恐らくは“ベルフェゴール”。怠惰(スロウス)を司る悪魔。

 

 

───小学生の頃の、記憶。

 

色々なものを読んだ。

 

色々なものを覚えた。

 

参考書、世界各国の歴史、楽譜、棋譜、指南書、法律関連。

 

各国の会話、機械寄りの計算術、人間寄りの計算術、楽器の弾き方、自分の身体の動かし方、相手の身体の壊し方。

 

読むだけでなく、実践も行った。…といいつつ、実際に他人に全力を振るったことはなかったけれど。

 

剣道、柔道、ピアノ、琴、囲碁、空手、合気道、弓道、卓球───

 

いつもの日常。…正確には、“だった”がつくけれど。

 

武道や楽器の先生からはよく心配されたのを覚えている。“大丈夫か”、と。

 

私が意味が分からなくて、その度に“何がですか?”と聞いたのを覚えている。

 

お母さん達の望むままに、私の身体が動く限り。私は様々なものを学んだ。そこに、休息の概念はなかった。

 

そうして、何度も体調を崩して───

 

 

「…マスター?大丈夫?」

 

「…ふぇ」

 

ナーちゃんの声で気がつく。…長い間、考え込んでいたみたいだ。

 

「…うん、大丈夫。」

 

「……嘘よ」

 

「え?」

 

「清姫さんじゃないけれど分かるわ。というか、あたしは大丈夫そうに見えないから聞いてるのよ。…ねぇ、マスター。」

 

ナーちゃんが私の事をじっと見つめる。

 

「マスターは人間よ?あたしやありす、ジャンヌみたいに英霊じゃないわ。…以前のありすみたいに、サイバーゴーストと呼ばれる存在でもない。…人間というのは脆いわ。サイバーゴーストも、また。それをあたしは、月で…ムーンセルで知ったわ。」

 

「ナーちゃん…」

 

「…ねぇ、マスター?…あたしが、貴女の心の拠り所になってもいいかしら?」

 

「…」

 

あの、それは。

 

「ナーちゃん。発想が男の子のそれだと思うんだけど…」

 

「あら!あたしはそもそも“カタチのない英雄”よ?今は女の子だけれど、男の子にもなれるのよ?」

 

そう言っておかしそうに笑った。…でも

 

「…私は、ナーちゃんは女の子の姿の方がいいかな…」

 

「…そう。あたしも。」

 

…うん

 

「ナーちゃん。私の心の拠り所になってくれる?…少しずつ、だとは思うけれど…」

 

「えぇ、喜んで!」

 

ナーちゃんが笑顔になった。…うん。やっぱり、ナーちゃんには笑顔が似合う。

 

「───主よ。このような場に我を降ろしたもうたは貴方か。」

 

いつの間にかその人が現れていた。あれは、確か───

 

「ジャンヌを作り出した男…だったわよね。」

 

ナーちゃんの言葉に頷く。“ジル・ド・レェ”───聖女を喪い、狂った者。

 

「ここに在るは聖女にあらず。2人の年若き娘。だが───我が身狂いて尚、こう告げよう───」

 

「「…?」」

 

尊いと。

 

…えっと?

 

「少女と少女が絡み、愛を告げる一幕をこの目で見るとは。不覚ではありますがこのジル・ド・レェ、少々浄化されそうになりましたぞ!しかし!しかしだ輝かしきものよ!我が冒涜を前に震え上がるがいい!神聖なるものよ、我が嘲りを以て地に落ち、穢されるがいい!」

 

「…あれって、怠惰なの?」

 

「怠惰だとも。騎士たる己が身の高潔を忘れ果て、旗の聖女とやらの掲げたものが何であったかを忘れたもの。ただ堕落するがままに魂を腐敗させたモノ!人間のなれの果てこそ奴だとも!」

 

…あぁ、なるほど。怠惰とは放棄することだ。拒絶することだ。…逃避することだ。もっとも、それらが悪いこととは言い切れない…とは思う。逃げるのだって1つの手。それが罪であったとしても、どう責めることができるか。

 

「せっかくだから───新しい魔術でお相手するわ!加減を間違ったらごめんなさい!」

 

そう言ってナーちゃんは木の剣を出現させた。

 

「ははは、来るがいい童話の娘よ!そこに立つ輝きと共に地獄に堕ちよ!」

 

「ここは既に地獄だというのに───おかしなことを言うのね!」

 

そう言ってナーちゃんが剣を振るう。

 

「さぁ───認識、分析、学習の時間だマスター。お前はこの怠惰の罪をどう見る?」

 

…怠惰は罪?楽になりたい、休みたいというのは罪なのだろうか。

 

…違う、はず。だって、それは───私が先生に言っていたことでもあったし。お兄ちゃんにも結構最近言ったし。

 

休んでほしい、って。

 

…お兄ちゃんから、聞いたことがある。“怠惰とは、大罪でありながら美徳である”、と。

 

…あぁ、そうか。

 

「怠惰それ単体を罪とは言わない。…怠惰とは大罪でありながらも美徳である。安らぎを得る時間であり、自らの成果を示す場である。」

 

「…ほう」

 

「怠惰によって自らの成果が示されるならば───それは必要なものである。」

 

プログラマの考え方。自分が作ったプログラムが有能で、それによってそれだけの怠惰を───否。“空いた時間”を得られるのなら、その得られた分だけそのプログラムは有能なものである。

 

「…理解した。魂を飲み込み、理性を喪い───あらゆることを放棄するのが“大罪”。成果により、魂を癒す時間を作り出せるのが“美徳”。同じ“怠惰”であろうと、その方向性は別物───!!」

 

私の声に呼応して、アルテミスさんの弓矢が独りでに展開する。

 

「ハハハハハ!!最高なCOOLをお見せしましょうぞ!!」

 

そう言った途端、ジル・ド・レェさんが肥大化するのが見えた。

 

「追い詰められて巨大化とか、オーンスタインじゃないんだから!ていうか、本当にそれやめなさいよ!!」

 

「ハハハハハハハハハハ!!!さぁ、己が限界を知るがいい、童話よ!貴様一人ではこの裁きは乗り越えられないと知れ!」

 

「同じキャスターでここまで差があるなんて───いいえ、気にしてはいけないわ!」

 

「そうだ、その意気だ!主賓が現れるぞ!」

 

「え?」

 

矢を番える───必要ない。弦を引く。

 

「───お願いします」

 

どうか、月の神たちよ。あなた方に届きますように───

 

 

side 月

 

 

「…今の」

 

感じた。間違いではない、はず。事実、バタバタと走るような音がする。

 

「───月ちゃん!」

 

「…アルテミス様」

 

「ねぇ、今!気付いた!?」

 

管制していても気がついた。今───祈られた、と思う。リッカさんに。

 

「…月女神の弓矢、ですね」

 

「ねぇねぇ、全力撃っちゃっていいかな??」

 

「流石にやめてあげてください。…まぁ、私も協力しますよ。」

 

宝具、励起。第二宝具“月よ、その神威ここに表せ(神月の力)”───起動開始。

 

「アルテミス様、この矢に乗せてください」

 

「はーい!…って、別に様付けじゃなくて、敬語じゃなくてもいいのに。」

 

「…癖ですから」

 

そう、これは癖だ。…癖を治せないのも、私の悪いところなのだろうけど。

 

「ん、終わったよ!」

 

その言葉に矢を受け取り、弓を生成し、亜空間を開く。

 

「───放たん、月の矢を。間続く限り届かぬ場所はない。月の光ある限り、見えぬ場所はない───“見透かす月矢(プルヴィデーレ・スキーギャ)”」

 

矢が離れたことを確認し、空間を閉じる。

 

 

side リッカ

 

 

「ハハハ、その月の弓で一体───!?」

 

轟音。それと同時に、強い光が部屋の中を覆った。

 

「ぬぐぅっ…!」

 

「…うわぁ、しぶとい…」

 

空間が歪んで炸裂したはずなのに、まだ生きている。

 

「ジャンヌ…ジャンヌゥゥゥゥ…」

 

「…ここまでくると普通に恐怖よね…」

 

「…うん」

 

「…仕留めちゃって、いいわよね?」

 

私が頷くと、ナーちゃんが剣を杖に戻し、跳躍してから床に降りるまでの間でジル・ド・レェさんの額に杖の先を叩きつけ、ジル・ド・レェさんの背後に着地する。

 

「───“恋する乙女のカウントダウン”!」

 

その宣言があって───

 

 

ボンッ

 

 

爆発した。

 

「ふぅ、これでおわりかしらね。」

 

「クハハハ、爆発オチとはな!」

 

とりあえず、今回はこれで終わり。…また人間性落ちてたけど…

 

「…ぷしゅ~…」

 

「マスター!?」

 

「…疲れた」

 

「あぁ…じゃあ、戻りましょう…」

 

「ん…」

 

人間性を拾ってから元の部屋に戻る。…明日は、なんだろ…




大変遅くなりました…

裁「…マスター」

…準備、出来た?

裁「…もう少し」

分かった


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第226話 第肆ノ罪科、其憤怒罪也

憤怒、か…

正狂(真名:美雪)「……強い怒りの感情。自らの怒りに身を任せ、狂い、周囲へ被害を及ぼす…」


「………ん。」

 

目を覚ます。目の前にナーちゃんの寝顔があった。

 

「すー…すー…」

 

「…」

 

規則正しい寝息。ふと私が手を伸ばしてナーちゃんの顔に触れると、ちょうどナーちゃんが目を覚ました。

 

「……おはよう、マスター。」

 

「…うん。おはよう、ナーちゃん。」

 

「おはようございます。狩人様。」

 

「おはようございます、リッカさん。」

 

膝枕された状態で声のする方向を向くと、メルセデスさんと人形ちゃんがいた。

 

「おはよう、メルセデスさん、人形ちゃん。」

 

「……」

 

……?メルセデスさんが何か考えてる…?

 

「……あの、リッカさん。今日のアヴェンジャーさんなのですが…」

 

「アヴェンジャーさんが、どうかしたの?」

 

「……人間性、でしたか。それのせいで表情は見えませんでしたが、かなり機嫌が悪いようで…」

 

機嫌が悪い……?

 

「ナーちゃん、本当?」

 

「えぇ…横から見ていただけだけれど、なんだか凄く腹を立てているような感じだったわ。」

 

ナーちゃんもそう感じた…

 

「……それにしても、いつになったら篝火は本来の機能を取り戻すのかしら。」

 

ナーちゃんがそう言った。…確かに、それは思う。少なくとも昨日までは人間性を使うことができないのが分かっている。

 

「…あの。狩人様。」

 

「…狩人ではないんだけど…どうしたの、人形ちゃん。」

 

「これを…いつの間にか、持っていたものです。」

 

そう言って渡されたのは…紙切れ?……ええと。

 

「“憤怒を滅せよ。呪われた証を探せ。赤き鐘を鳴らせ。死の花を燃やせ。さすれば闇炎の力は拓かれん”……」

 

……これ…

 

「……篝火の直し方、かしら…?」

 

私の読み上げた言葉を聞いてナーちゃんがそう呟く。

 

「……なの、かな。」

 

闇炎…

 

「……目覚めているか。ならばいい。第四の裁きが待っている。」

 

アヴェンジャーさんはそれだけ告げると、部屋を出ていった。

 

「……確かに機嫌悪そう…」

 

「……お気をつけて、リッカさん。」

 

「うん。…行こ、ナーちゃん。」

 

「ええ、マスター。」

 

……うーん

 

「…?どうかしたの?」

 

「…あのね、ナーちゃん。“マスター”、じゃなくてもいいよ?」

 

「え?」

 

「なんか…ちょっと、遠い気がするから。」

 

「……呼び方…考えておくわ。」

 

うーん…困らせちゃったかな?でも、なんか気になったのは確かなんだよね……

 

 

side 無銘

 

 

『お母さん、司る七曜を教えて?』

 

『分かった。』

 

引き続き、私はお母さんに司るものを訪ねていた。

 

『まず、七曜って何か分かるよね?』

 

『五行…それに太陽と月…つまりは陰と陽を足したもの…だっけ』

 

『ん。月火水木金土日…日本では“曜日”と知られているこれが七曜。本来の意味で言えば“肉眼で見える惑星を五行と対応させた火星・水星・木星・金星・土星と、(太陽)(太陰)を合わせた7つの天体のこと”なんだけど…曜日って言った方が伝わりやすいのかな?ていうか現在の一週間を表す曜日は七曜を元にして作られたものだし、ほぼほぼ関係ないんだけど…』

 

あ、そうなのか…

 

『で、私達にはこれがそれぞれ割り当てられてる。まず私は“水”。これは名前からかな。“海”、でしょ?』

 

お母さんの名前は“星海”。そして確か…水の神器の扱い手。それから…世界の繋がりを作る…“流れ”を作ることができる人。

 

『当然だけど月は“月”を司る。陽詩は“日”を司る。2人はもうそれそのものとして定義されているようなものだから…うん。』

 

月の巫女と太陽の巫女…神に仕える立場でありながら、人であり、その天体そのものである。太陽は“(とき)”を変化させ、月は“(はざま)”を変化させる───

 

『星乃が司るのは“木”。これは命の移り変わりだね。生命は生まれ、育ち、老いて消える───それが反映されてるのかな。で、美雪さんが司るのは“火”。多分気がついてると思うけど、“憎悪の炎”。』

 

いつも静かではあるけど、過去の美雪さんらしい、とも思う。…もっとも、過去の美雪さんを私は知らないけれど。

 

『璃々が司るのは“金”。これは璃々の性質。“形を自由自在に変える”っていうことだね。』

 

『自由自在に…?』

 

『璃々に固定された形はないから。というか、私達が“璃々”って呼び続けてないと璃々自身が“自分を見失いそう”って言ってたから…』

 

…どういう、ことだろう?

 

『で、最後の“土”はまだ目覚めていない人格が司るもの。…七曜はこのあたりかな。』

 

…私は一体…何を司るのだろう。

 

 

side リッカ

 

 

「…第四の裁きだが。憤怒の具現が相手になるだろう。」

 

「憤怒……」

 

憤怒。その言葉を聞いたとたん、視界が歪む。

 

 

───リッカ!こっちこっち、ってあぁ!?やっちゃったぁ…

 

───ふふ、星羅。あまり慌てなくてもいいんじゃない?

 

───そうは言うけど…うー…

 

───私にはよく分からないけれど、星羅にとって、リッカにとっても重要なのは分かるわ。焦りたいのも分かる。けれど、それで失敗したらもっと遅くなるだけよ?

 

───…うん、そうだね。ごめん、ニキ、リッカ。私、焦りすぎてたみたい。

 

 

…けれど、思い起こされたのは憤怒も何も関係ない、ニキと星羅がまだいた頃の記憶。星羅がレアアイテムを取りに行くのに必死で、失敗して…ニキが星羅を宥めていたときの記憶。…あのときは確かニキも一緒にやってくれて、なんとかレアアイテムを取りに行けたんだっけ。

 

 

───きゃぁぁぁぁぁ!毛虫、毛虫!私毛虫だけはホント駄目ぁぁぁぁぁぁ!!

 

───きゃぁぁぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇ!!

 

───いやぁぁぁぁぁ!!

 

 

家に毛虫が現れて逃げ惑っていた記憶。私も、星羅も、ニキも───陽菜ちゃんも全員苦手だった。その日は知り合いのシスターさんがなんとかしてくれたけど…かなり煽られた。助けてもらったし何も言えなかったけど。

 

「……マスター?」

 

「……大丈夫。昨日みたいなことじゃないから。」

 

「…考え込んでいるだけだったみたいね。」

 

…なんで、あの記憶が思い起こされたんだろう。あれは憤怒とは一切関係がない。いや、そもそも───私は、怒ったことがあるのかな?

 

「憤怒。怒り、憤り───それこそオレが一番重視している人間の感情。もっとも強き感情であるとオレが定義するモノ。それが自らに起因する怒りたる私憤でも、世界に対しての怒りたる公憤でも構わん。等しく、正当な憤怒こそが最もヒトを惹き付ける。時に、怒りが導く悲劇さえもヒトは讃えるだろう。」

 

「……無銘さんの第六人格、美雪さんは自分の怒りをこう言ってたわ。“ただの子供の癇癪、自分の愚かさを棚に上げた八つ当たり。それが、私を構成する復讐者の一面なんです”…って。」

 

「ふん。だが、ヒトとは古来よりその復讐譚を好み、愛おしむのだ───それを。」

 

「…!」

 

突如湧く“獣”。ナーちゃんがそれに気づいて杖を土の剣にする───

 

「それをそれをそれを!!ヤツは認めようとしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!憤怒の具現として第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続けるのだ!!」

 

アヴェンジャーさんがそう言い、黒い雷が、黒い炎が獣を焼き尽くす。

 

「許されぬ、許されぬ。偽りの救い手なぞ反吐が出ようというもの。人が赦し、神が赦そうともオレは赦さぬ!あぁ、この裁きにおいてはオレを存分に使うがいいさ!喜んで力となろう、ヤツを引き裂けるのは僥倖としか言えぬわ!」

 

「……」

 

「そして、お前もだ童話よ!」

 

「えっ…?」

 

ナーちゃん?

 

「お前は本来カタチ無きモノ!お前も本来“憤怒”など抱かぬであろう!あぁ、お前という例外を潰しに来るモノがいるぞ!!」

 

「……!」

 

ナーちゃんを…潰しに来る?

 

「……マスター」

 

「…?」

 

「お願い。どうか…あたしを見捨てないで。」

 

……

 

「…大丈夫。ナーちゃんにずっと一緒にいてほしいって言ったのに、私が離れるのはおかしいでしょ?」

 

「……」

 

「“あたしの想いを突き通す”…でしょ?私を助けに来てくれたナーちゃんのこと、信じてる。それが我が儘だったとしても、私を助けに来てくれたナーちゃんは今ここにいる魔法少女のようなナーサリー・ライムただ一人だよ。」

 

「……ありがとう。ねぇ、マスター。」

 

「…?」

 

「あたしに、名前をくれる?“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”じゃなくて、あたしだけの名前を。…あたしは、あなただけの本になる。」

 

私だけの…?

 

「……いいの?」

 

「ええ。お願い。時間がかかってもいいから。」

 

「……」

 

急に言われても、名前ってパッと思い付くものじゃない。

 

「…あとで、いいかな。ごめん、すぐに思い付かないの。」

 

「ええ。…さぁ、行きましょう。」

 

ナーちゃんの名前に悩みながら、扉を開ける───その瞬間。

 

「あっ…!」

 

ナーちゃんが光を放ったかと思うと、そこには懐かしいような、ごく最近見たような…“ALICE IN WONDERLAND”と書かれた絵本があった。…最初は、この姿だった。今となっては、懐かしく思える。

 

「……」

 

本になってしまっているけれど、ナーちゃんの意志ははっきりと感じられる。つまり、ナーちゃんの意識は消えておらず、ナーちゃんの戦意は全く衰えていない。それを感じて、扉を開ききる。

 

「…来ましたな。迷える魂を淀みに引き込む者、正義の敵よ。もう一人の私は狂気と共にあったようですがこの私はジル・ド・レェ、聖なる旗に集いし騎士!正義の刃にてあなたたちを断罪しよう!」

 

…滅茶苦茶だ。言っていることが、滅茶苦茶だ…!もう一人の自分が狂気と共にあり、自分は聖なる旗に集う騎士?正義の刃で断罪する?顕現で参照された時期が違うだけで同じ結末を辿っているはずなのに…!

 

「前回とは些か雰囲気が異なるな。…ほう、ヤツに引きずられて現界したと見える。…そして」

 

「……」

 

「───こんにちは、もうひとりのわたし。…いいえ、わたしであることをやめようとしているわたし。だけど───あなたがあなたである間に会いたかった!ページとページの間に折り込まれた想いのかたち、ぺーじをめくる指がなければなにもできないわたし!」

 

「───ナーサリー、ライム…」

 

ナーちゃんと対峙する、絵本を持った───ナーサリー・ライム。いつものナーちゃんと同じ姿の。

 

「今となっては、わたしはありす(わたし)であなたは物語(わたし)。…いいえ、わたしはわたし。ありすではない。あなたの近くにいるありすも、またありすではない夢の偶像。だからあなたも、その姿のままでいなさいな?」

 

「───違う。違うわ。」

 

ナーちゃんが言葉を紡ぐ。

 

「───あたしはあたし。あなたではない。ありすもありすで、ありすであって偽物じゃない。たとえそれが、夢幻だったとしても、あたしはそれを信じてる。…最初は、ありすはいなかったけれど。何故あたしがアリスになったのかは彼女(ありす)との絆の強さと…そして、あたしの中に彼女(ありす)がいたから。」

 

「それは、ダメよ。いけないことよ。わたしは物語(わたし)でしょう?ここに読み手(ありす)がいないのに、ここには物語(わたし)しかいないのに!わたしはありす(アリス)の姿をとってはいけないわ!」

 

…もしかしたら。ナーちゃんの中で、ずっと燻ぶっていたのかもしれない。アンデルセンさんは言っていた。“名の無き絵本をあそこまで愛し、本自体もマスターを愛した。それ故にあのナーサリー・ライムはあの姿をとったのだろうよ”、と。…本来カタチがないというナーちゃん───誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)という存在。その存在が、自分の中にありすさんがいたといっても固定されたカタチを持ったことに自己矛盾を抱えていたのかもしれない。

 

「───ナーちゃん!答えは貴女の中に───貴女自身が持ってる!貴女の言葉で、答えてあげて!」

 

私の令呪が一画浮き上がる。

 

「私は───貴女を、信じてるから!」

 

「───分かっているわ。」

 

ナーちゃんの魔力が練り上がる。

 

「あぁ、わたしは決めてしまったのね。でもわたしは許さない!わたしが確かなカタチを得ることも、ありすがマスターでもないのにわたしがアリスでいることも!ハッピーエンドみたいな顔はさせないわ!!」

 

「ごめんなさい、アヴェンジャーさん。そちらは任せてもいいかしら?あたしは、アレと決着をつけるわ。」

 

「あぁ、構わんさ!この俺がヤツを引き裂けるのはまさに僥倖といっただろう!マスター、お前も遠慮せずにオレを使え!俺は怒りのままにお前を引き裂こう───」

 

その怒りを向けている矛先は───

 

「サーヴァント・ルーラー、ジャンヌ・ダルク!忌まわしき我が道を阻まんとする女!!」

 

「…かつての昔、導くものとして立った私があなたを阻む。…えぇ、アヴェンジャー。あなたを救うために。聖なる旗がこのシャトー・ディフでも輝くように。」

 

「黙れ!!この場で救いなど口にするな!!憤怒の具現でありながらその憤怒を否定するな!!」

 

「ジャンヌよ、お下がりください!」

 

「ジル…!いけません、彼等は私が───」

 

「あの黒き気配、邪悪の怨念!この監獄塔に至ってはもはや主の救いすらあの魂に及ばず!聖女よ、アレは貴女の思う魂とは違う!断罪の刃を以て当たるほかない!」

 

「ハハハ!!そうだ、このオレは恩讐の彼方より来たる復讐者!そう在れかしと誰しもが言う!憎め、殺せ、敵の悉くを屠り尽くせと期待し続ける!ならばそう在ろう、人間がそう望むままに、世界に復讐する!!」

 

黒い炎がアヴェンジャーさんの周囲に吹き荒れる。

 

「ここに愛しきエデはなく、尊きファリア神父もなく、神も我が魂を救えはしない!さぁ、開戦と行こうか!第四の支配者よ!」

 

そう言ってアヴェンジャーさんとジャンヌさんは激突する。ナーちゃんは既にナーサリー・ライムさんと戦闘を開始していた。

 

「ハハハ!希望の旗を鮮やかに引き裂こう!輝きも聖なるモノも、オレには何の意味も持たぬ!尊く、聖なるモノ!全て等しく無価値に過ぎぬわ!!」

 

憤怒…それは、アヴェンジャーさんの方が合っているように見えるけれど。…それでも、この場所の支配者はジャンヌさんで間違いない…らしい。

 

「マスターよ!お前も何をいつまで寝惚けているのだ!!」

 

「え…?」

 

「怒りがない、憤怒を抱いたことがないなどオレの前では言わせん!たとえお前の周りがお前が怒ったことがないと認識していても、お前が怒ったことがないと思っていても言わせんぞ!!」

 

怒った…こと?

 

「認識しろ!意識しろ!分析しろ!理解しろ!!!お前の心を融かし、お前が自分自身を制御するための鍵がそれだ!!さぁ、覚醒の時だ!!軛を取り払い、今こそお前は咆哮を放つのだ!」

 

 

視界が歪む。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い───視界に映ったは、蝙蝠の羽を持つ禍々しい姿と───

 

 

思い出せ!!お前が喪った鍵を!!お前が喪ったものを!!お前の人生が、お前が歩んできた道が───それが無価値であるわけがないだろうが───!!

 

 

 

───大切な人がいた。

 

───大切な世界があった。

 

───友達、先生、師父、シスター、神父。

 

───ニキ、星羅、陽菜ちゃん、■■■■。

 

───地球、歴史、太陽、月、世界の理。

 

───誰だって、未来を見つめていた。

 

───誰だって、未来を望んでいた。

 

───誰だって、夢を持っていた。

 

───それは、叶わなかった。

 

───何故なら…炎で焼かれたから。

 

───自らの意志と関係なく、預言書が滅びの炎を放つ前にも。

 

 

「───ぁ」

 

 

風景が、変わる───それと同時に、意識が一瞬落ちる。

 

 

「…ぅ」

 

目覚めると、私は花に囲まれていた。寝そべっていたみたいで、体を起こす。

 

「…あれ。ここ…」

 

見渡す限り花畑。蝶が飛んでいるのは分かる。

 

「……どこ?ここは…私は…監獄塔に…」

 

ガサリ、という音がした。驚いてその方を見ると───人の姿があった。薄紅色、の───

 

「───ニキ?」

 

「…リッカ!見つけた!」

 

華紬 ニキ。カルデアに来る前、いなくなってしまった友達。

 

「星羅!こっちにいたわ!」

 

「ホント!?もう、本当にリッカは隠れるのが上手なんだから!」

 

「え…?」

 

今のは星羅の声だ。そして───ガサガサという音とともに現れたのは、星羅と───

 

「ヌルフフフ、見つかってしまいましたな、リッカ様。…さて、後はお嬢様だけですが…」

 

「…え」

 

アリウム、だった。しかも、今の口振り───

 

「リナリアもいるの?」

 

「?何をおっしゃいます、今日はみんなで遊びに来たのでございましょう?」

 

「…みんな?」

 

「忘れちゃったの?私とリッカ、星羅と…あと、リナリアにアリウム。陽菜さんに六花さんも一緒にフラワーパークへ来たのでしょう?」

 

フラワーパーク。茨城の方にある花の楽園…だったはず。…それにしても…中学生の頃のフルメンバー…?…これは、一体…

 

「…とりあえず、ここを動きましょうぞ。珍しく園内に誰もいないとはいえ、誰か来たときは邪魔になりますからな。」

 

…それは、確かに珍しい気もするけど。ふと、私の服装を見ると、ニキがコーディネートしてくれるような服装になっていた。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

星羅が聞いてくる。何でもない、と返して星羅達についていく。

 

 

そうして花畑を抜けると、リナリアが仁王立ちしていた。

 

「遅いですわっ!!」

 

「お嬢様、一体どこに…」

 

「この近くにいましたわよ!特に貴方は何故私を見つけないのです!?」

 

そう言うリナリアの隣には花の看板。…あぁ

 

「…お嬢様、お嬢様が隠蔽グッズを使いますと拙者でも見つけられませんぞ。」

 

「リナリア、ニンジャみたい~」

 

星羅がそう言った。…そうだった。リナリアは本気で隠れると誰も見つけられないんだよね…

 

「さ、時間も時間だし昼にするか。ほい、弁当」

 

お兄ちゃんがお弁当を出してくれる。…どうやら、お兄ちゃんが作ってくれたみたいだ。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

全員が手を合わせてご飯を食べる。…ふと変な感じがして背中に手を伸ばす───けど、そこには何もない。

 

「…リッカ?」

 

「───あ。」

 

やってしまった。不思議そうな目でニキに見られている。

 

「…ごめん、何でもない。」

 

「…なんか、少し体調悪かったりする?」

 

「大丈夫。…多分。」

 

変な違和感がする。それを感じながらも、お弁当を食べ進める。

 

「…ごちそうさまでした」

 

そう告げて、立ち上がる。

 

「…お兄ちゃん、ちょっと近くを見てきてもいい?」

 

「おう、いいぞ。気をつけてな。」

 

その言葉を聞いて走り出す。フラワーパークは花の楽園。ほぼ天然と言っていいレベルの花畑を囲って1つの施設としたもの。冬に来るのもまたいい。

 

「……ほんと、広いな」

 

広い広いとは聞いていたけれど。結構走って、まだ端が見えない。こんな日常、あればよかった。…一緒に、来ればよかった。…そう思うほど、この夢の中でいるのは勿体ないと思う。

 

「…夢、なんだよね」

 

これは、夢だ。…多分。抜け出さないといけない。だけど───あぁ。居心地がいい、と感じてしまう。

 

「…っ」

 

不意に、周囲が暗くなった。空を見上げると───あれは

 

「魔神柱…!?」

 

蠢く魔神柱。直感した、あれは───不味い。即座にもと来た道を走る。

 

「……はぁっ、っ!」

 

遅い。遅い。遅い!!加速しろ、さらに速く、あの“凝視”が到達する前に!!そう思っていると、やがて星羅の姿が見えてきた。

 

「あ、リッカおかえり───ッ!?え、何アレ!?」

 

「どうしたの───え?」

 

星羅とニキが驚きの表情を浮かべる。当然だ、()()()()()()()()()()()()()()()()のだから…!!

 

「間に合え…っ!!」

 

限界。そんなの関係ない、今は皆を守れれば───

 

「「リ───!!」」

 

けれど。それは、叶わずに。星羅とニキの姿が、燃えた。

 

「───」

 

私は燃えず、星羅とニキと───そして、リナリア、アリウム、陽菜ちゃんの姿。お兄ちゃんの姿は───いつの間にか、どこにもない。死体すらも燃え尽きてしまったのか。

 

「───あ…あぁ…あぁぁ───」

 

総て、燃えた。私以外、すべて。“花の楽園”の象徴たる満開の花畑も、夢の中だとしてもお弁当を一緒に食べた東屋も。ニキ達の存在すらも。

 

「───ガ」

 

建物は全て溶け落ち、今この場所には私しかいない。人もいない、死体もない、何もない───在るのはただ、私と───空を埋め尽くす魔神だけ。

 

「───■■■■」

 

ダレダ───

 

「■■■■■───」

 

ダレダ、ダレダ───ワタシノタイセツナモノタチヲウバッタノハダレダ

 

 

「■■■■■■■■■■───!!!!」

 

 

ホウコウ?シラナイ。イカリ?シラナイ。タダ───ツブス。ワタシハキズツケタヤツヲケスダケダ───!!!

 

『落ち着いて、リッカ』

 

ソノ、コエ。ふいに、トマル。

 

『止まって。…大丈夫、私は大丈夫だから。』

 

『私も大丈夫だよ。…だからお願い、止まって。』

 

2人の、コエ。意識が、モドリ始める。

 

『…少しだけ、お話ししましょう?暴走しきったら、私達の声も届かないから…』

 

背後と前方に温かさを感じた。暴走が───止まっていく?

 

『…落ち着いた?じゃあ、離れるね。』

 

「…ニキ?星羅?」

 

声のした方を見ると、半透明な身体になったニキと星羅がいた。

 

『うん。…と言っても…多分、気がついてると思うけど。』

 

「…ここは、私の夢の中…なんだよね。」

 

その答えにニキと星羅が頷く。

 

『…本当なら、引き留めるべきなんだろうけれど。…こんな風に、なっちゃったから…引き留めたくても、引き留められないかな。』

 

花畑のあった方を見ると───なるほど、酷い荒れ様だ。

 

『…ねぇ、リッカ?貴女の憤怒───貴女の怒り。分かった?』

 

「…うん、ニキ。なんとなく、分かった。暴走って…憤怒の発露だったんだね。」

 

『…怒っているようにも見えないけど、それは多分貴女が憤怒を理解できていなかったから。怒りとして制御するのではなく、謎の感情として制御を手放していたから。だから、こうなっていたのだと思うわ。』

 

「…そう、だったんだ…」

 

『…だから。これは、私から!』

 

星羅が近づいてきて、手を差し出す。そこに乗っていたのは───鍵?

 

『…これだけだと、まだ足りないけど…それでも、意識を失うことはなくなると思う。』

 

「これ…もしかして」

 

『暴走を制御するための鍵。…なんで、私が持ってるかっていうのは言わないでね。私もよく分かってないから。』

 

あ、そうなんだ……そうだ!

 

「ねぇ、ニキ!星羅!2人ってあの後どこに行ったの!?」

 

たとえ私の夢の中でも、知っているかもしれない。

 

『…ごめんなさい、それを今話すことはできないわ。』

 

『私も…ごめんね、リッカ。』

 

「…そっか…」

 

『…でもね、リッカ。これだけは言える。』

 

星羅?

 

『私もニキも、絶対にもう一度リッカと出会う。それがどんな形だとしても、絶対に生きて出逢えるんだよ。』

 

「…どんな形だとしても…?」

 

『うん!だから安心して、リッカ!まずはこの夢から抜けて───それから、この惨状を作り出した奴をぶっ飛ばさなきゃ!』

 

その言葉に、私とニキは一緒に笑った。…星羅らしい。

 

『話はそれから!ね、ニキ!』

 

『私に同意を求められても困るわ。…でも、信じてる。リッカとまた会えること。』

 

「ニキ…星羅…」

 

そこまで言われたら…

 

「うん。私も、信じてる。生きてまた、絶対に会おうね。」

 

そう告げると同時に、私の装備が監獄塔にいた時のものに変化する。

 

『…じゃあ、これは私から。』

 

ニキが私に一輪の青色の彼岸花を差し出してきた。

 

「これは?」

 

『今から出るのに、彼岸花もおかしいかもとは思ったけれど…一輪だけ、あったの。近くにあったメモには───“闇炎を活性化せし鍵、死の花”とあったわ。』

 

「死の…花?」

 

それは確か、人形ちゃんが持っていたメモにも書かれていた…

 

『…私はリッカほど直感が良くないけれど…周りに一切彼岸花がないのに一輪だけあるのは明らかにおかしいわ。…だから、渡すべきだと思ったの。』

 

「…ありがとう。多分、必要になる。」

 

『…なら、いいのだけど。』

 

私はニキから彼岸花を受け取って、アイテムポーチにしまった。星羅からの鍵も、ちゃんとある。

 

「…じゃあ、行ってきます。」

 

『『いってらっしゃい。』』

 

そう言って、星羅とニキは消えた。向かう必要があるのは───あれだ。

 

「───っ」

 

先程と比べると重い───けれど、身体が軽い。恐らくあの時見えたのは、憤怒(ラース)を司る悪魔、“サタン”だろう。

 

「…あった。要石───」

 

デモンズソウルシリーズの要石。ここまでフロム色強いのにデモンズソウル要素が少ないのは気になっていた。だから、出てもおかしくはない。

 

「…」

 

要石に触れる。直後、引っ張られる感覚と───思い浮かぶ、名前。

 

「…うん」

 

これがいい、と決めた途端───私は現実に戻っていた。

 

「人類最後のマスター、その業を開放する!!」

 

襲い掛かってくるジル・ド・レェさんの姿。

 

「───シッ!」

「がっ!?」

 

即座に童子切を抜刀、成功したことのなかった“鏡花の構え”を行う───結果は、成功。ジル・ド・レェさんの剣を叩き折り、ジル・ド・レェさんを吹き飛ばした。

 

「ジル!」

 

「───怒りは在る。だが、その怒りは心の底で燃やす。それが私の憤怒の使い方。」

 

「───ほう!激情に囚われず、その激情を制御したか!!クハハハ、その憤怒のままに蹂躙すればいいものを!!だが、理解できただけでも上々だ!」

 

「許さないよ、絶対に。私の友達を奪った奴らを、私は許さない。生きようとしていた未来を奪い、この世界を焼いたのを───そんな理不尽を私は許さない!!」

 

一気にジルさんに距離を詰め、その霊核を貫く。

 

「ぐ───ジャン、ヌ───」

 

「ジル───」

 

「よそ見している場合か!?」

 

「く───」

 

そのジャンヌさんもまた、霊核を砕かれて消滅する。

 

「クハハハハハハ!そら、消えたぞ!魂の欠片ごときが我が恩讐の果てで滾る炎を!消すことができるものか!!」

 

…こっちは、終わった。あとは───

 

「…!」

 

「結構…しぶといわね…!」

 

ナーちゃんとナーサリー・ライムさん。…うん

 

「ナーちゃん!」

 

「…っ!?」

 

「今こそ貴女に捧げる!貴女の新しき名を───今ここに私が授ける!!」

 

それは、夢の中で思いついた名前。…だけど、これしかないと思ったから。

 

「貴女の名前は───“有栖ヶ藤(ありすがふじ) 七海(ななみ)”!!英名、“ナナミ・ロスタイム・ウィスタリア・リームカント・アリス”!!」

 

そう宣言した、瞬間───ナーちゃんが光を放った。

 

「───ありがとう。あたしの願いに答えてくれて。…ええ、その名前を受けましょう。」

 

光が消えると、そこには───魔法少女みたいな姿のナーちゃんがいた。

 

「あたしはアリス。有栖ヶ藤 七海。今こそ、貴女の声に応えましょう!」

 

「わたし…!」

 

「行くわよ───なくなっちゃうなんて、思わない!」

 

ナーちゃんがナーサリー・ライムさんを杖で突く。

 

「きゃっ!」

 

「───“時刻み忘る恋の花”!!」

 

そう宣言した瞬間───風に斬られ、氷に閉じられ、火で燃やされたナーサリー・ライムの姿があった。

 

「───そう。」

 

ナーサリー・ライムさんはそこに立っていた。

 

「あなたは、それを選んだのね。…結末なんて、分かっていたわ。本当は。だけど、試したかったのよ。」

 

その表情は、少し悲しそうだった。

 

「…いいこと、わたし?あなたがその、わたしではないわたし…あなただけのその姿を選ぶのなら。…絶対に、バッドエンドになんか……しちゃ、ダメよ…?」

 

「…ええ」

 

ナーちゃんが頷く。

 

「わかっているわ。あたしはあたしのために…マスターの…ううん、リッカさんの為に頑張る。…今はまだ、力が及ばなくても。絶対、ハッピーエンドにするわ。」

 

「…それで、いいの。」

 

ナーサリー・ライムさんは消えかけながら私の方を向いた。

 

「…このわたしのマスターはあなたよね?」

 

「…はい」

 

「…このわたしの事を、お願いね。あなただけの、物語(わたし)を。」

 

それに頷くと、ナーサリー・ライムさんは満足したように消滅した。

 

「…お疲れさま、ナーちゃん。」

 

「…ありがとう、リッカさん。正直危なかったわ。」

 

「…そっか。」

 

私がナーちゃんの手を取って、外に出る扉を見た瞬間───

 

「っ!?」

 

殺気。いや、殺気というか───怖気?

 

「マスター、こちらを向け。構えろ。そうしなければ死ぬぞ。」

 

アヴェンジャーさんの余裕のなさそうな声。その声に私とナーちゃんは振り向く。

 

「第四の裁きは終わり、だったはずだ。だが───これは、なんだ。」

 

アヴェンジャーさんの視線が向かっているであろう場所。そこに───赤い、何かが染み出してきていた。

 

「…あれは───」

 

その赤い何かが形を作る。人の形───いや、アレは、まさか───

 

「───“闇霊”?」

 

闇霊。そして、それ以上にあの姿は───

 

「…美雪、さん?」




あ、ちなみにフラワーパークは実在の施設とは関係ありません。

月「あ、ないんだっけ」

美雪「…我が主」

月「どうかした?」

美雪「…闇霊として、喚ばれたみたいです」

月「…それ、大丈夫なのかな」


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第227話 第肆ノ罪科、其憤怒罪也・異聞

月「あー…なるほどね。調べた結果、出たよ。」

美雪「どう、ですか…?」

月「あなたは“亡霊”…最初から霊体だから闇霊との相性はいいんだろうね。…ましてや、あなたから切り離されている側面は“怨霊”なわけだし。闇霊…というか、復讐霊って感じかな。」

美雪「…あまり、嬉しくないです。」

月「……優しいものね、あなたは。」

美雪「…問題は…」

月「…うん、気づいてる…憤怒の間であなたが敵として喚ばれるのなら、それは恐らく───」


闇霊。黒ファン───私は赤ファン呼び派だけど───そう呼ばれるもの。それが私達の前にいた。アルの第六人格───美雪さんの姿で。

 

「美雪さん……?助けに来てくれたのかしら。でも、なんで闇霊なのかしら?」

 

黒ファンは敵対プレイヤーを示す。味方プレイヤーを示すなら白霊───白ファンなんだけど。

 

「……」

 

「構えておけ。あれは敵だぞ。」

 

「え…」

 

なんで、と聞こうとした瞬間に放たれる強烈な殺意。それと共に身体から沸き上がる真っ黒な───深淵、のようなそれ。

 

「……シャッ!」

 

「……!」

 

ナーちゃんが私と闇霊の間に割り込み、攻撃を防ぐ。

 

「……いきなり襲ってくるだなんて、いつもの貴女らしくないのだわ!」

 

そう、彼女らしくない。いや、そもそも───何故、闇霊として召喚された?

 

「ルァァァァァ………ガァァァァァァ!」

 

「…これって───」

 

まるで、獣だ。彼女に、一体何が……?

 

 

side 美雪

 

 

何か、出力された。…いいえ、喚ばれました。恐らくは───リッカさんのいる場所へと。

 

『…我が主』

 

『ん?どうしたの、ファントム』

 

伝えた方がいい。そう思ったために我が主、創詠 月に声をかけました。

 

『今、“私”が何かに喚ばれました。…恐らくは、リッカさんのもとへ。』

 

『喚ばれた…か。嫌な予感がするけど…もしかして。』

 

『…はい。恐らくは、()()()()───()()()()()()()()です。』

 

『……そっか。』

 

主は小さくため息をついてから何かをしました。

 

『……ビンゴ。ファントムの予測通り、過去のファントムが召喚されてるみたい。…リッカさんの服は白。』

 

『…私の、加害対象ですね』

 

『だね…ほんと、白い服ならなんでもいいっていうのは面倒だね…』

 

『すみません…』

 

『ファントムが謝ることじゃないよ。…さて、私の方から何かできればいいんだけど』

 

そう簡単に上手くいかないかなぁ、と呟いて別の作業を開始しました。…私に、できることと言えば…

 

『……』

 

祈ること、でしょうか。祟り巫女と呼ばれたこの魂ではありますが、それが巫女であるならば───祈りが届く、のでしょうか。

 

『……お願い、美恵。どうか……リッカさん達を。』

 

例え、届かないとしても。…私は、そう願うことしかできませんでした。

 

 

side リッカ

 

 

何回か衝突したあと。私達は向かい合っていた。…あっちの戦意が衰えたわけじゃない。私達が負けたわけでもない。…嫌な予感がする。

 

 

{戦闘BGM:霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion}

 

 

「っ、2人とも後ろに跳んで!!」

 

そう言いながら私も跳ぶ。2人も私の指示に即座に従ってくれて、跳びながら構えていた。

 

「ナーちゃん、アヴェンジャーさん!飛ぶよ!!」

 

「飛ぶ、だと?一体どうやって───」

 

有無を言わさずアヴェンジャーさんとナーちゃんの背中にボタンのようなものを貼り付ける。

 

起動(スタート・フライ)!」

 

私の宣言に呼応し、機械から羽が生える。

 

「なんだ、これは!天使の羽など───」

 

「いいから飛ぶわよ、アヴェンジャー!早くしないと全員焼け落ちるわ!」

 

ナーちゃんが焦った表情でそう言って飛ぶ。私の背中の機械からも同じものが生えているため、私も飛べる。地を蹴り、ナーちゃんがいる場所まで飛翔する───

 

「クイックチェンジ、コード:マギア1!」

 

私の言葉を聞き入れた指輪が太刀を消滅させる。代わりに私の周りを浮遊する光球が4つ出現する。…この曲、ってことは───

 

「…っ、リッカさん、来るわ!」

 

ナーちゃんの声に黒ファンの方を見ると、手元に赤い球体を出現させていた。あれは───

 

〈─ザ──リッカさん、気をつけてください!〉

 

「アドミスさん!?」

 

アドミスさんの声がした。

 

〈かなりギリギリですが、月さんが通信を繋げてくれました!それでも長くは持ちません!それより、あれは───!〉

 

「───うん」

 

予測通りなら───

 

「「〈───核融合反応!!〉」」

 

私、ナーちゃん、アドミスさんが同時に叫んだ瞬間、巨大な光球が放たれた。

 

「ちょっ!?最初は通常弾幕からでしょう!?」

 

〈核熱“核反応制御不能”───最初からスペルカードとかありですか!?〉

 

いや、そもそもその前に───なんで!?

 

〈リッカさん、あれ───殺傷設定です!!〉

 

「ええ!?」

 

〈絶対に触れてはいけません!…って言っても、難しいですよね…〉

 

……難易度───Lunaticか。核反応制御不能、っていうことはそうだ。…さて。

 

「ナーちゃん!」

 

「えぇ!───早々にスペルを破壊(ブレイク)するわよ!」

 

同じ考えだった。光球に魔力を回すと射撃術式が起動する───そう、お兄ちゃんは言ってた。

 

「こちらはボムなし、相手はボムあり───ううん、1枚だけある。」

 

…でも、これはさすがに使えないか。

 

≪リッカさん、アリスさん、避けながらでいいので聞いてください!難しいのは分かっているんですが大切なことなんです!≫

 

『何!?』

『何かしら!?』

 

≪このスペルを放った張本人───闇霊となっている美雪さんは美雪さんの過去に近いものです!≫

 

美雪さんの、過去───?

 

『それ、本当なの!?』

 

≪はい!美雪さんの過去である以上、白い服を着ているリッカさんを殺そうとしてくるそうです!≫

 

白い服?私じゃなくて、服?彼女の過去に───一体、何が…?

 

『止める方法はあるのかしら!?』

 

≪残念ながら不明です…!かつて、月さんは美雪さんを様々な手を使い弱らせ、力を使い果たした美雪さんに封印を施したのだとか!以来、怨霊としての彼女はなく、亡霊としての彼女だけが残った───いいえ、怨霊としての彼女と亡霊としての彼女が分裂したそうなんです!≫

 

『分裂…だったら、これは分裂した怨霊の側面ということかしら?』

 

≪ですから───過去です!いいえ、過去というよりは───今でも怨霊として在ったときの可能性(if)!詳しく調べてくれた月さん曰く、それがいま対峙している存在の正体だそうです!≫

 

可能性───それでは、もしかしたら。

 

『月さんを振り切った───ううん、月さんを倒した可能性すらあるってこと!?』

 

『≪───っ!?≫』

 

その言葉にナーちゃんとアドミスさんが息を飲んだ。それもそのはず、月さんはアルの人格達の中で最も戦闘に長けているといわれている存在。彼女自身は自分のことを“弱い”というものの、彼女が相手になると勝つことが出来たのは誰もいなかった。もちろん、空間を操る力や神器は使わずに。

 

≪そうでないことを祈りたいですね…!≫

 

そう言った途端、弾幕が消えた。スペルブレイクだ。地霊殿なら、この後は通常弾幕だが───

 

〈来ます!〉

 

突如放たれる巨大赤弾。このスペルは───

 

「爆符“ペタフレア”───っていうか!スペルカードを使うならちゃんと宣言しなさいな!!スペルカードルール違反なのだわ!!」

 

あ、ナーちゃんが怒った。…あれってどういう定義だっけ…

 

「まったくもう……!アヴェンジャー、ちゃんとついてくるのよ!」

 

「指図するな───といいたいが、ええい!いいだろう、今はお前に従ってやる!」

 

アヴェンジャーさんはナーちゃんについていくみたい。とりあえず私も避けるだけで精一杯だから助かるといえば助かる。…っていうか、弾幕って3Dにするとこんなに絶望感たっぷりなんだね…

 

〈とりあえず…!リッカさん、月さんから…!〉

 

「え?」

 

〈どうぞ!〉

 

そう言われて出てきたのは…眼鏡と、球体と、紙?それも複数?

 

〈その紙はスペルカード!リッカさんの魔力が異常であることから、宣言すればスペルが起動するようになってるようです!〉

 

「え───待って!いいの!?」

 

〈いいらしいです!〉

 

いいの!?こんなに!?

 

〈その眼鏡はかけておいてくだ──ザ───〉

 

雑音が混じった。

 

〈す───げんか───って──〉

 

そうして、通信は切れた。

 

「……」

 

球体は私の周りを浮遊してる。…これ、もしかして

 

「リッカさん!」

 

ナーちゃんの声に思考の中から意識を引き戻すと、目の前に赤い大弾があった。即座に羽ばたかせ、光球に魔力を通してショットを起動する。

 

「…この眼鏡…なんだろ」

 

かけておくように、とは言われたものの何故そう言われたのかが分からない。

 

「…もう少し、かな」

 

確かペタフレアの効果時間は60秒。多分、もう少しなはず───そう思っていたら、弾幕が消えた。

 

「スペルブレイクよ、リッカさん!」

 

「うん───っ!?」

 

下。赤い光が収束するのが見えた。それを見て先程渡された紙を1枚抜き出す。

 

「早速お借りします───スペルカード宣言!」

 

そう告げると、私の前に紅い球体が現れた。その紅の球体に手を添え、スペルの名を宣言する。

 

「星符“プロミネンス───」

 

「アァァァァアアァ!!!」

 

「───スパーク”!!!」

 

赤の雷と紅の炎。それが私と闇霊の間で激突する。ただ───私の“プロミネンススパーク”の方が、少し劣勢。

 

「マスパに似てるのだわ……!?」

 

ナーちゃんがそう言う。…あぁ、そうだろう。これは、恋符“マスタースパーク”を基礎に、出力されるものを強力な炎に変換したスペルだ。私が作ったものではないにしても、分かる。私が作ったものでないからこそ、スペルの威力が弱いのだって分かっている───!!

 

「木符“ツリースコール”!!」

 

追加でスペル宣言。雷と炎の間に何層も重なった木版が現れる。あれが雷だというのなら、それは五行において土属性を示す。ならば土を剋す木、火を生ずる木を使えば…!

 

「……!!」

 

結果は、打ち勝った。でも、まだ終わってない。

 

『ナーちゃん!あのスペルが来る!』

 

『同じことを思ってたわ!』

 

羽を強く羽ばたかせ、闇霊から距離を取る。その瞬間、私達の周りに現れる無数の光弾。それと使用者が中心の巨大弾に───引力。

 

「ぬぉっ……」

 

「しっかり捕まっていなさい、アヴェンジャー!リッカさん、全部避けるわよ!」

 

「うんっ!」

 

“サブタレイニアンサン”───東方地霊殿難易度Lunatic、空ちゃんのラストスペル!!

 

「アアァァァァァァアアア!!」

 

怒りのままに叫んでいるだけ。そのはずなのに───どこか、悲しさを感じる。強い怒りと、悲しさと、後悔。

 

「……聞いていられないわ、この声。…バッドエンドを思い起こさせるもの。」

 

「うん…私も」

 

「なら、早急に……終わらせましょう!」

 

私が頷き、魔力を光球に回すと同時にナーちゃんも光球を出現させる。正式名称“弾幕発射体(ショット・スフィア)”───ナーちゃんのはナーちゃんが魔力で作り出したもので、私のはお兄ちゃんが用意してくれたものだけど。

 

「「拡散“フェアリーショット”!!」」

 

私とナーちゃんの声に応じて発射体が拡散ショットである“フェアリーショット”を起動、周囲にばらまく弾幕を放つ。放っている間に───膨れる、巨大な弾。それも、一気に2段階。

 

「ナーちゃん!」

 

私がカードを1枚抜き出したのを見て、意図は伝わったみたい。頷いて拡散ショットを止めた。

 

「水符“ハイドロ───」

「“眠れる美女と───」

 

青色の球体に魔力が収束する。ナーちゃんの方も同様。ナーちゃんと視線を交わしてから続きを紡ぐ。

 

「───プラネットフィン”!!」

「───妖精の泉”!!」

 

宣言が終了されて飛び出す水属性の弾幕。ナーちゃんの弾幕がナーちゃんを中心に放射状に放つようなものに対して、私のは相手を中心に集束していくもの。それは少しずつ、着実に闇霊を追い詰めている…と、思う。だからこそ。

 

「───これで……!!」

 

水符“ハイドロプラネットフィン”。星海さんが言っていた話では、このスペルは2段階構成らしい。1段階目は相手を中心に集束する弾幕。2段階目は───砲撃。

 

「っ!」

 

羽で姿勢を制御しながら衝撃に耐える。嫌な予感がする時は場所を変える。私のサバイバルゲームでの経験上、そこには弾幕がある───ビンゴ、私のいた場所を通過していった弾があった。

 

「貫け……!!」

 

ちょうど威力が上がる時間に達したのか、砲撃が太くなる。2段階目の砲撃は放出し続けていると砲撃が太くなると言っていた。それ故に───

 

「…っ!ブレイクしたわ、リッカさん!」

 

“サブタレイニアンサン”、ブレイク。一息つくと同時に忘れていた眼鏡をかけ、闇霊を見る。

 

「…え?」

 

眼鏡を通して表示されたのは───体力ゲージ。相手の名前は───“The Dark Phantoms : A Shrine Maiden Who Grudges White”。……“白を怨む巫女”?……それに…祟巫“カースドコメット”…って!

 

「危なっ!?」

 

強く羽ばたき、黒い光と共に突進してきた闇霊を避ける。…なるほど

 

「“ブレイジングスター”のアレンジ…かな?」

 

感想としてはこんなものだと思う。…けど

 

「完全に深淵歩きっぽい…」

 

その黒いオーラはブレイジングスターとは全く違う、底知れぬ闇を感じさせた。深淵歩きのアルトリウス…のような。

 

「…って、やばっ」

 

考えながらも避けていると、不規則な動きで追ってきた弾幕に当たりそうになっていた。……これは、不味いかも

 

「リッカさん、後ろ!」

 

「え───」

 

ナーちゃんの声に後ろを向くと、黒い光球がそこに浮いていた───

 

「───あ」

 

気がついたときには目の前に闇霊の姿。ガンド───間に合わない。当たる───

 

 

バキンッ

 

 

───と、思ったのだけど。何かが防いだ音がした。

 

『……あなたにもう、私の声は届かないのかな』

 

声。女の子の、声。声を発しているのは、白い霊体……の女の子。

 

「誰……?」

 

『…ごめんなさい。時間が、ないから。…詳しいことは、この子に聞いて?』

 

その女の子はそう告げると大量の弾幕を発生させた。眼鏡で見えたその表示は───“The White Phantoms : White Girl”。白き少女……

 

『……ラストワード、“劫炎鎌鼬”』

 

そう呟いた途端周囲に火が吹き荒れ───いつの間にか、その場には私達以外は何もいなくなっていた。

 

「……」

 

「……終わった、のかしら…」

 

ナーちゃんの言葉に周りを見ると、指輪らしきものがそこにあった。

 

「……終わった、のかな。」

 

しばらく待ってみる……待っても何も起きなかった。私達は指輪を回収し、元の部屋に戻った。




月「状況終了…」

なんとかなったみたいだね


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第228話 第伍ノ罪科、其暴食罪也

すみません3話構成で失礼します

弓「書き起こしがうまく行かなかったそうで。」


「マスター、起きろ。」

 

その声で私の意識は目覚める。

 

「…アヴェンジャー、さん?」

 

「そうだが、なんだその顔は。あぁ、童話なら周囲の警戒に行ったぞ。」

 

「えーと……」

 

「……朝になったら起こせと言ったのはお前だろう。」

 

その言葉を聞いて思い出す。そうだ、確かに私は憤怒の間から出たあとアヴェンジャーさんにそう言った。

 

「早くしろ。裁きの時間は近づいているぞ。」

 

「ご、ごめん…ええと…」

 

私はアヴェンジャーさんが篝火の前にいるのを確認してからアイテムポーチより“呪われた証(赤い炎の模様がある黒の指輪)”、“赤き鐘(小さな鐘)”、“死の花(青色の彼岸花)”の3つを取り出し、篝火の前に座る。ちょうどナーちゃんも戻ってきて、篝火の前に座った。メルセデスさんと人形ちゃんは興味深そうにこちらを見ている。

 

「……告げる。我がソウルに、我が遺志に応えよ不死を癒す篝火よ。汝の軛は今取り払われん。ここに憤怒のソウルは在り、汝の軛を取り払う三つの鍵はここに揃う───第一の鍵は“ダークリング”。不死を示し、呪われた不死人である証明。探し出されし“呪われた証”、ここに。」

 

そこまで唱えると黒い指輪───ダークリングが消え去る。

 

「第二の鍵は“共鳴する不吉な鐘”。鐘の音に共鳴し、闇を呼び込む鐘。“赤き鐘”はこの地へと鳴り響く。」

 

次いで小さな鐘───“共鳴する不吉な鐘”が消える。

 

「第三の鍵は“青い彼岸花”。不死を与えるとも言われる幻の花。“死の花”は一時咲き、ここで燃え落ちる。」

 

そう告げた瞬間花が燃え上がり、灰になる。…これで、鍵は揃った。

 

「───最後に。…人間性を捧げよう。人間性に囚われた者のカタチを取り戻すために。火の灯し手の名は“藤丸リッカ”。火の注ぎ手の名は“アヴェンジャー”。さぁ、新たな火継ぎを始めよう。火の喪われかけしこの世界にて、新たな火を興す儀を。…そう。伝承によれば、ごく稀に選ばれた不死のみがその儀式を執り行うことを許される。」

 

そこまで唱えると、アヴェンジャーさんに取り憑いていた人間性が剥がれ、篝火の火が強くなった。

 

「人間性の王はここに捧げられり。さぁ、今ここに呪いの火は灯った。喪われた火を取り戻すために、喪われた未来を取り戻すために。不死達よ蠢け、そして火を継ぐことだ。さすれば未来は切り開かれん。」

 

そう言い終わると、篝火の火が青くなり、数秒後に元に戻った。

 

「…今のは?」

 

「…篝火の前に座ったら浮かんできた言葉をそのまま唱えただけ……」

 

多分、詠唱からして“火継ぎ”を始めるためのものだと思うけど…

 

「…さて、アヴェンジャーさんはどう……」

 

アヴェンジャーさんの方を見て固まってしまった。なんというか…うん

 

「なんだ?オレの顔に何かついているか?」

 

「……いや、素顔初めて見たからちょっとビックリしてただけ…」

 

「そうか。」

 

そっか、人間性剥がれたのなら素顔出てくるよね。

 

「さぁ、行くぞマスター。今日は第五の裁きだ!」

 

「あ、うん…行こう、ナーちゃん。」

 

「ええ!」

 

「お気をつけて。」

 

メルセデスさんにそう言われて私達は部屋を出た。

 

「…さて、問おう。」

 

「?」

 

「───すべてを喰らわんとしたコトはあるか?」

 

すべて?

 

「喰らい続けても満ち足りず、飢えがごとき貪欲さによって味わい続けた経験は?消費し、浪費し、後には何も残さずにただひたすらに貪り喰らい、魂の渇きに身を委ねた経験は?」

 

……

 

「第五の間は暴食の具現だ。…お前なら、何が出てくるか予測できるんじゃないか?」

 

暴食……というと

 

「「……イビルジョー…」」

 

……実際それくらいしか思い浮かばない…

 

「ふ───さぁ、見るがいい!」

 

開け放たれたその場所にいたのは───

 

「イビルジョー…と」

 

恐暴竜“イビルジョー”と…黒髪のツインテール少女。

 

「……月さん?」

 

カルデアでもあまり食べない彼女が何故かそこにいた。




無…


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第229話 第伍ノ罪科、其暴食罪也・大食

大食…まずはイビルジョーからかな

月「…わたしを基礎にしているであろうっていう関係もあって、あとから戦いそうだもんね…」

あ、ちなみにリッカさんの発射体は9種類の弾幕が放てるようになってます。無宣言のときは通常ショット…拡散ショットでも集中ショットでもない、中立くらいの性能をしたショットが撃たれてます。


{戦闘BGM:健啖の悪魔/イビルジョー:World version}

 

「「っ!」」

 

バックステップでイビルジョーの飛びかかりを避ける。初手はイビルジョーのようで、月さんらしき人は何か結界のようなものを張ってこちらをみている───少なくとも今はこちらに干渉するつもりはなさそう。

 

「これって……」

 

「第五の支配者───暴食の具現たるものの片割れは食物連鎖の頂点たる竜、“イビルジョー”!あぁ、説明は不要だな!まさしく暴飲暴食、まさしく大食の具現よ!!」

 

「グォォォォォォ!!」

 

「というか───どうして地獄の敵はこんなにもレパートリーが豊富なのかしら!?」

 

「クハハハハ!外見に多少の差異はあれど、それら全てに共通していることは!総じて醜いということだ!それが聖女であろうと、人ならざる異形であろうと、過去の怨念であろうと、世界の一角を担う者であろうと、食物連鎖に認められた暴飲暴食の権化であろうと!生きとし生けるもの全てがその根底では醜いということだ!!」

 

根底では醜い……恐らくそれは、月さんも含めて言っているのだろうけれど。一応効くかどうかを確かめるために通常ショットを放つ。

 

「…効かないか」

 

全く効いている様子はない。…なら

 

「クイックチェンジ・リリース!」

 

クイックチェンジ前の装備に戻す。童子切、天文台太刀が現れる。童子切を抜刀してイビルジョーに斬りかかる───

 

「…っ」

 

即座に、弾かれた。…やっぱり、硬い。

 

「マスター、ここはあたしに任せてちょうだい!その刀でその状態では流石に不利だわ!」

 

「…ごめん、任せる!」

 

その私の言葉に頷き、ナーちゃんがどこからか弓を取り出し構えた。あれは、確か───

 

「“飛雷弓イテカガチ”…?」

 

確か、トビカガチ派生の弓。同じ武器でも製法が違うのか、新大陸とカムラの里だと性能が違うらしいけど。

 

「さて、マスターよ。お前はこの大食を見て何を思う?」

 

その言葉に頭痛がした。眩暈がする。視界が歪む───いつものように、何かが映る。

 

 

───食え!食え!食え!とりあえず食えるもんを食え!

 

───質はどうだっていい!まずはエネルギーの量だ!

 

───片っ端からエネルギーに変えろ!話はその後だ!

 

 

男子部員達の食事。そういえば、作りに行くようになるまではそんな感じだったっけ。

 

 

───もぐもぐもぐもぐ…

 

───よく食べるわね…本当に。どう、星羅?

 

───ん~…もうちょっとかな。

 

───そう………聞いていい?星羅のお腹って本当にどうなっているの??

 

───分かんない。食べようとすれば食べれる感じだし…

 

───それって…いつも足りてないんじゃないかしら?

 

───う~ん…どうなんだろう。

 

 

ニキが料理を練習してた頃の話。ニキが作っても作っても星羅のお腹が満たされることはなかった。私とニキ、お兄ちゃんやリナリア達が総がかりになってやっと満たされるくらいだったから相当だったはず。

 

「…マスター?」

 

「…駄目だ、答えが出ない。…何かが、足りない。」

 

「ふん。…なるほど、2つの支配者が現れたはそれが理由か?」

 

見えたのは髑髏の文様を翅に浮かばせた巨大な虫…なんというか、ダークソウルのバジリスクみたいな顔をした虫。…あれ、多分“ベルゼブブ”───暴食(グラトニー)を司る悪魔だ。…正直今の悪魔はもう見たくない

 

「そら、こちらも終わるようだぞ!」

 

その声にナーちゃんの方を見ると、大量の矢がナーちゃんの周りに浮いていた。

 

「見様見真似だけれど───“アクセル・エグゼキュート・アロー”!!」

 

そう告げると浮いていた矢が一斉にイビルジョーに刺さり、イビルジョーが沈黙した。

 

「…これで、終わりかしら。」

 

それはフラグというものだけど…少なくとも、動く気配はない。…あぁ、それと

 

「ナーちゃん、ひとまずお疲れ様。」

 

「…えぇ。でも、まだ残っているわ。」

 

「…そうだね…それはそれとして。」

 

「?」

 

「さっきの技って、ルーパスちゃんの奥義だよね?」

 

私が聞くと、小さく頷いた。

 

「見様見真似…だけれど、魔術に変換してみたの。」

 

「うん…それはいいんだけど、ルーパスちゃんの奥義の“アクセル”って多分“加速する”ことを表してるから、ナーちゃんのそれだと“パラレル”の方がいいかも。」

 

「パラレル…並列、とかの意味だったわね。…ちょっと考えてみるわ。」

 

そう言ったのを確認してから私達は月さんに目を向けた。

 

「……」

 

それに応じてか、月さんも私達を見て構えた。…正直、勝てる気なんてしない。

 

「セット」

 

そんな、1単語。たったそれだけで───月さんの周囲に100を軽く越える光球が現れる。

 

「…本当に、規格外ね…」

 

ナーちゃんは顔をひきつらせながらも杖を強く構えた。




眠い……

裁「大丈夫?」

多分…


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第230話 第伍ノ罪科、其暴食罪也・悪食

月「言っておくけどいくら私が“悪食”だからって人間は食べないからね!?」

いきなりどうしたの…


『あの…月さん』

 

『うん?』

 

『月さんってなんで“暴食”を司るんですか?』

 

『え…あぁ』

 

作業中に申し訳ないとも思うものの、月さんに質問していた。

 

『七虹は“暴食”って聞いて何を思い起こす?』

 

『え…大食い、ですか?』

 

『ん、そうだね。ある意味では私もその大食いに当てはまるんだけど…まぁ、それは一旦置いておいて。えーと……“悪食”、って分かる?』

 

『悪食……ですか?』

 

悪食……確か、普通の人から見て食べ物じゃないモノを飲食すること。

 

『私の“暴食”は言ってしまえば“悪食”なんだよね。食らうことができるならそれがどんなものであろうと食らう。よく言えば好き嫌いがない、悪く言えば食に対する感覚が異常…それが私。暴食の一面、悪食を司るもの。』

 

『……』

 

『だからって食人とかはしないけどさ。』

 

その言葉で少しほっとしたのは何故だろう。

 

 

side リッカ

 

 

疾い。一番最初に思ったことはそれだった。

 

「……!」

 

ナーちゃんが間に入って防いでくれなければ、既に私は殺されていた。その、月さんが持つ大鎌によって。

 

「…死神」

 

黒い髪に黒い大鎌。そして黒い傷んだフード付きローブ。その見た目は、まるで死神。いつも白を基調とした服装の彼女が、黒い服になるとここまで印象が変わるのか。

 

「……てぁっ!!」

 

ナーちゃんがなんとか大鎌を押し返す。それを見て、月さんが後ろに下がる。

 

「……あ、相変わらず…重い、わね…」

 

「大丈夫?」

 

「…平気よ。なんというか…いつもより軽いわ。重いのは変わりないけれど。」

 

重くてもいつもより軽い…?

 

「ええと…“心”が感じられない、というか。いつもの月さんに攻撃には強い“心”が籠っているわ。…だけど、この月さんからはその“心”が全く感じられないのよ。」

 

その言葉にアヴェンジャーさんを見る。

 

「そうだ、そうだろうとも!アレはおまえ達の知る“創詠 月”ではない!あれは暴食の具現たるものの片割れ、悪食の具現!」

 

「あ、悪食…?」

 

「あの娘は食らうことができるならそれがどんなものであろうと食らう!あぁそうさ、お前の魂ですら捕食対象だろうさ!」

 

私の…魂。

 

「だが───それだけだ!アレには“本来の魂”がない!いわば“創詠 月”という娘の抜け殻、その肉体と技術のみを複製しただけのマガイモノだ!あぁ、童話よ!お前が言うように心がないのも仕方のないことだろうさ!」

 

複製…でも、待って。

 

「聞いたことがある。月さん達は“複製(コピー)”という術があって、それで生成された複製体(コピー・ユニット)は皆一様に“自我”を持っている。絶対服従ではないものの、基本的には原型体(オリジナル・ユニット)の指示を聞く…って。」

 

「あぁ、そうだ。それが本人に複製されたモノであればな!だが、アレは本人に複製されたモノではない!故に本来の魂がないマガイモノ!創詠 月でありながら創詠 月ではないナニかになっているのさ!」

 

…あぁ、なるほど。それなら納得できる。

 

「だからって強いのは変わらないのね……!」

 

そう言いつつ月さんの攻撃を捌いているナーちゃんは十分強いんだと思う。

 

「さて、マスターよ。お前はこの悪食を見て何を思う?」

 

その声で先程と同じように頭痛がし始める。

 

 

───え?何を食べてるのかって?塩だよ。

 

───足りなくないのかって?うーん…まぁ食べられるしさ。

 

 

星羅のクラスメイトの一人の男の子。聞けば主食は塩でたまにその辺りの野草を食べていたという。星羅、ニキ共々絶句したっけ。

 

 

───あ、じゃああと全部いいの?

 

───いいの、って……闇鍋よ?食べれるの?

 

───うん。

 

───やれやれ、本当に星羅は好き嫌いがないな。

 

───好き嫌いがないってレベルじゃないと思うわ、これ…

 

───そうかな?私、これでも好き嫌い多い方なんだけど…

 

───とてもそうは見えないわ…

 

───うーん…よく言われるからもう気にしない方がいいのかな…

 

 

星羅達との闇鍋の一幕。星羅は闇鍋に何が入っていようと残ったら全部食べきってた。

 

 

───ニキ、リッカ。忘れないで。

 

───え?

 

───別に私は“食べられる”っていうだけで“食べないともたない”わけじゃないよ。私にとって、食べることよりも重要なのは───

 

 

…あぁ、そうだ。星羅は言っていた。私が見つけるべき答えを、あの時に。

 

 

───みんなで一緒に食べること。七つの大罪のうちの1つ、“暴食”を具現化したような私がこうやって1度の食事量が少なくてもいられるのは、みんなと一緒に食べることで満たされているからなんだよ。

 

───満たされている…?

 

───1人で食べる、って。結構辛いよ?話し相手もいないし、どうしていいか分からなくなるし。…私の場合、食欲を抑えられなくなっちゃうし。

 

───…もしも、食欲を抑えられなくなっちゃったら、どうなるの?

 

───うーん…もしかしたら、ニキやリッカを食べちゃうかも?

 

───え…

 

───……なんて、冗談だよ。でも、忘れないでほしいな。私は誰かと一緒に食べているからこそこの食欲を抑えられている。暴食を抑えるのは、節制。その近道は、誰かと一緒に食べることなんだよ。大食に関しても悪食に関しても、ね。

 

 

「……そう、だったよね。」

 

星羅の言葉がそのまま今の答えだ。

 

「どんなに少なくとも、みんなで一緒に食べれば美味しいご飯。…それは味が分からないのにも通じる。」

 

「…ほう。」

 

突然、弾かれる音がした。ナーちゃんの剣が弾き飛ばされたようだ。

 

「っ!」

 

童子切を抜刀し、ナーちゃんに振り下ろされようとしている鎌を受ける。

 

「リッカさん……!?」

 

「……何故、邪魔をするのです。」

 

月さんが言葉を紡いだ。

 

「何故、抵抗するのです。この世界に意味はなく、全てはいずれ死に至る運命。私は生きとし生ける魂をただ喰らうのみ。…既に私に普通の味は感じられず、魂を喰らうことだけが私が味を感じる唯一の食事だというのに。」

 

───この人は。味覚を、おかしくしているのか。いや、そもそもこの人は……月さんなのだろうか?

 

「おとなしく……死に絶えろ!!人間!」

 

「……私の知る貴女はそんな人じゃない。」

 

ナーちゃんが何かをしてくれたのか、私の力が上がったのを感じた。一振りで月さんの鎌を弾く。

 

「貴女はそんな人じゃないはず。…私の知る貴女は、もっと優しい人だった。」

 

「うるさい!お前に何が分かる───私の悲しみの何が分かる!!」

 

「分からないよ」

 

天文台太刀も抜刀し、月さんの猛攻を捌く。

 

「分からないけど───貴女は本当の貴女を隠している。貴女は何かを諦めている。」

 

引き付けて───パリィ。隙を晒したその身体を、天文台太刀で貫く。

 

「───がふ」

 

「……私には、貴女がどんなことを思ってここにいるのかなんて分からない。…でも、こんなことをしていたら貴女の娘さんが泣くでしょう?」

 

「…娘」

 

「味が分からないのなら取り戻せばいい。」

 

私が身体をずらすと、水色の砲撃が背後から飛んできた。

 

「……!それ、は」

 

砲撃が放たれた方向を見ると、ナーちゃんが機械仕掛けのような杖を構えて立っていた。

 

「……いいだろう」

 

そう言って月さんは鎌を下ろした。

 

「気が変わった。私はお前達の進む道を見ておくとしよう。…行け。暴食の裁きはこれで終わりだ。」

 

そう言い、月さんが鎌をイビルジョーに振り下ろすと、イビルジョーも消滅した。

 

「…精々頑張ることだ。生半可な気持ちでは未来を変えることはできないぞ。」

 

その言葉を最後に、月さんは消えた。

 

「ふ、まさかあの魂を納得させるとはな。」

 

「……これで、よかったのかな。」

 

「構わん。お前は第五の裁きを乗り越えた。アレが納得したならばそれでいいのだ。」

 

それでいい、のだろうか。…ひとまず、私達は戻ることにした。

 

「……未知の獣」

 

「……え?」

 

「リッカさん?」

 

声がした、気がした。…それと同時に、強くなる腹痛。…一体…なんだったのだろう。




月「…お母さん、報告。」

ん?

月「ナーサリー・ライム…もとい有栖ヶ藤 七海、覚醒。☆5サーヴァント相当の霊基になった。」

…ん、分かった


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第231話 第陸ノ罪科、其強欲罪也

時間かかりました…

弓「…月よ。マスターの覇気が弱い気がするが。」

月「あぁ…それですか。連休で覇気が薄くなっているだけですから気にしないでいいですよ。」


「それじゃあ、見回りに行ってくるわ。」

 

「うん、ありがとね、ナーちゃん。」

 

新たな力に慣れるためもあって、ナーちゃんが見回りに行く。アヴェンジャーさんも既に見回りに行った。……あれ?

 

「ナーちゃん、忘れていっちゃったのかな…?貴女もよろしくね、ええと……」

 

My name (私の名前は) is "Stella Alice Storia".(“ステラ・アリス・ストーリア”です。) Remember, Grand Master.(覚えてください、グランドマスター。)

 

グランドマスターって…あ、ナーちゃんが戻ってきた。

 

「…行きましょう、ストリア。」

 

OK.(了解しました。) Or rather, don't forget, Master.(というか、忘れないでください、マスター。)

 

「まだ慣れていないのよ…ごめんなさいね。」

 

It's a person who can't help it.(仕方のない人ですね。)

 

呆れられながらもナーちゃんは今度こそ見回りに行った。とりあえずストーリアさんのことは月さんに聞いてみるしかないかな。

 

「…あなたたちは」

 

「?」

 

「あなたたちは、毎日…扉の向こうの支配者たちと戦っているのですね。」

 

メルセデスさんの言葉に頷く。

 

「…私には…いいえ、私達には帰らないといけない場所がありますから。」

 

「…そう、ですか。」

 

メルセデスさんの表情が暗い?

 

「…アヴェンジャーさんは言いました。此処に集うのは、何かに囚われた魂なのだと。ヒトのみならず…英霊、ヒトの枠を超えた魂さえ。」

 

何かに、囚われた…

 

「私はそんなふうに立派なものではありません。英霊だなんて、あり得ない。でも…私も今はこの場所にいるのだから…囚われた魂。きっと、何かの罪の具現に選ばれたのかもしれませんね。」

 

「罪の具現…か。」

 

これまで、ここで罪として具現化したのは10体。そしてこの場所で具現化する罪は恐らく“七つの大罪”。…人形ちゃんも、この大罪のうちの一欠片として顕現しているのだろうか。

 

「でも…人形ちゃんやメルセデスさんとは戦いたくないかな。これが小さな夢だとしても…言葉を交わせたのは事実なんだし。」

 

「狩人様…」

「リッカさん…」

 

「…だからって、二人が出るために私を倒さないといけないのなら、迷わず戦ってほしい。…敵だからといって、恨まないといけないわけでも嫌わないといけないわけでもないし。」

 

正直人形ちゃんと戦うなんて考えたくもないけど。Bloodborneでも戦ったことなんてないし、そもそも人形ちゃんとの戦いなんてないし。…ゲールマンさん召喚してきたり亡者召喚してきたりしそうで怖いし。

 

「…だから、もし私の前に立ち塞がることになったら本気で向かってきてほしい。生き残るために。この地獄で分かり合えたことは奇跡だと信じて。」

 

「…はい。」

 

メルセデスさんがそう答えたところで扉が開いた。

 

「終わったわ。アヴェンジャーも戻って───」

 

「戻ったぞ。マスター、今日の裁きが始まるぞ。」

 

「あ、うん…じゃあ、行ってくるね。」

 

「いってらっしゃい。狩人様。あなたの目覚めが、有意なものでありますように」

 

その言葉を最後に私はアヴェンジャーさんとナーちゃんについていった。

 

 

「第六の裁き、第六の支配者───お前は見るだろう。およそ人の欲するところに限りなどないと。彼、彼等以上に強欲な生き物を俺は見たことがないだろう。事実、驚嘆に値する。富を、金を、私財を腹へ溜め込む為ならば、実の娘を捧げようとした男さえ、彼等には遠く及ぶまい。彼等の欲は、文字通り世界へも及ぶものだ。」

 

「彼等、ということは…」

 

「複数、なのかな。」

 

それにしても…

 

「楽しそう?」

 

「気に入ってるのかしら?」

 

「…ふん。ある意味ではそうと言えるかもしれん。彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世にないのなら、と。尊きものを、人の善と幸福とを信じたが故に、悪の蔓延る世界を否定したともいえるか?」

 

…?

 

「まぁ、お前には分かるまい───いや、お前ならば真に理解が及ぶか?彼はこの世全てに善を成そうとした男だ。お前とよく似ているぞ?彼は()()()()()()()()()のだから。」

 

世界を…

 

「…確かあなたは、“彼、彼等”と分けて言ったわね?その世界を救おうとしたのは“彼”なのだとしたら…“彼等”とは一体何かしら?」

 

「急かすな。…そうだな。彼等は物資を求めた。自らが強くなるために、自らのいる地を守るために、と。人が生きる世界を荒らす存在から守る故に強くなる。しかしそれ故にあらゆる物資を求める。陳腐なものから希少なものまで。あぁ、それらは男女関係なく希少なものを求める傾向にあるがな。…まぁ、先に行けば分かるだろうさ。」

 

「陳腐なものから希少なものまで…」

 

…なんとなく、心当たりがある。…まさか。

 

「…さて。出てくるぞ。覚悟せよ、マスター。お前は世界を吞み込まんとする強欲ですら砕かなければならない。そうでなければ───」

 

「待っているのは死、のみ……分かってる」

 

「ふ。…さぁ、あれが強欲の支配者だ。」

 

そこに、待っていたのは───

 

「やれやれ…あの聖女は倒されていますか。…まぁ、いいのですが。」

 

「例外には例外で当たるか。復讐者1匹に対し裁定者と狩人とは。そうだろう───」

 

「……」

 

「サーヴァント・ルーラー!“天草四郎時貞”!!そしてもう1人、サーヴァント・ハンター!“ルーパス・フェルト”!!」

 

そこにいたのは、天草さんとルーパスちゃんだった。…だけど、ルーパスちゃんの様子が少しおかしい気がする。

 

「……」

 

「ルーパス…ちゃん?」

 

「……」

 

なんか…違う。これはルーパスちゃんじゃない。…それに…ルーパスちゃんが、強欲?

 

「お嬢さん。私が先でよろしいですか?」

 

「……」

 

でも、声に反応はするみたいで。天草さんの声に頷きで答えていた。

 

「では、失礼して───参りますよ、“エドモン・ダンテス”殿。」

 

「───ハ。」

 

エドモン・ダンテス。やはり、彼は───

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

「貴方には期待している。この世の地獄を知ったあなたならば、この世で真に尊きものを知っているはず。魔術王の策略にも乗らなかったのだから。…そう、“未知の獣”を生み出すという───」

 

「黙れ!!オレはオレの意志に基づいて行動しているだけだ!!そも、アレは怨念を持たぬモノ!馴れ合う道理はない!!」

 

そう言い、アヴェンジャーさんは黒い炎を噴出した。

 

「さぁ、狩りの時間だ、童話よ!」

 

「ええ……行くわよ、ストリア!」

 

「Yes, Master.」

 

アヴェンジャーさんとナーちゃんは、天草さんと激突した。




UA44,000越えありがとうございますね…

裁「…一応、準備できた。」

ん…了解


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第232話 第陸ノ罪科、其強欲罪也・正義

時間かかる…


アヴェンジャーさんの黒い炎とナーちゃんの黄色い光を纏った大剣が天草さんに襲い掛かる。…うん、いつの間に大剣になってたんだろう。というかナーちゃんの筋力ってどのランクになってるんだろう。

 

「火!」

 

Fire.()

 

ナーちゃんが一声叫ぶと光が赤に変わる。…あれ、五行だったんだ。振り抜くと火花が散った。

 

「っ、厄介そうですね…!」

 

「土!」

 

Soil.()

 

黄色い光に戻ると同時に振り下ろし、地面に叩きつけたと同時に土の壁が形成され───それはやがてドームのようになって天草さんを閉じ込めた。

 

「…すごい」

 

「…あたしの力じゃなくて、ストリアの力よ。…あたし自身に、ここまでの力はないわ。」

 

私の呟きにナーちゃんが答えてくれた。

 

… Honest story.(…正直な話。)

 

ストリアさん?

 

The power of the master is quite strong.(マスターの力はかなり強いです。)

 

「…脳筋だって言いたいのかしら?」

 

I didn't say that.(そうは言っていません。)

 

あ、あはは…

 

I'm just helping(私はあなたの力を制御) you control your power.(するのを手伝っているだけです。)

 

「え?」

 

All I showed you here is your power.(ここで見せたのは全てあなたの力。) I just controlled it.(私はそれを制御しただけです。) You can amplify it, but I haven't done it yet.(増幅もできますが、まだやっていません。)

 

…ということは。

 

「ナーちゃんが制御が上手になればストリアさんなしでもさっきみたいなことができるようになるってこと?」

 

That's right, Grand Master.(その通りです、グランドマスター。)

 

…どこまで、ナーちゃんは強くなるつもりなんだろう。そして…強くなった先、ナーちゃんの傍に…私はいるのかな。

 

「…心配そうな顔をしないでもいいわよ。あたしは、リッカさんの元を離れないから。」

 

そんな思考が顔に出ていたのか、ナーちゃんがそう言った。…それにしても。

 

「…ナーちゃん、ストリアさんが動き出してから更に魔法少女っぽくなったね」

 

「…あたしが一番思ってるわ、それ。」

 

あ、思ってたみたい。…そんな話をしていると、天草さんを閉じ込めていた土のドームが弾けとんだ。

 

「やれやれ…所詮キャスターだと侮っていたようです…まさか、ここまで脱出が難しいとは。」

 

「あたし、陣地作成スキルのランクAだもの。神殿級の舞台、嘗めてはいけないわ!」

 

「なるほど、陣地作成Aでしたか。道理で…」

 

「じゃあ───行くわよ!金!」

 

Metal.(金属)

 

光が白になり、振るう毎に金属の槍のようなものが生成され、放たれる。

 

「さて、マスター。この罪を見て、どう思う?お前が欲しいものはなんだ?」

 

…強欲の罪。私が欲しいもの……?

 

「……分からない」

 

「…足りないか。…と、決着がつきそうだな。」

 

その声にナーちゃんの方を見ると、ナーちゃんが大剣をおおきく振りかぶっていた。

 

「これで───終わり!!」

 

「く───ぐふっ!」

 

振り下ろすと同時に土で出来た棘が、金属の棘が、火が、水が、木が───天草さんを貫いていた。




にゃー…

弓「しっかりせよ…」


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第233話 第陸ノ罪科、其強欲罪也・脳死

あぁ、実際のところ。罪名の後に書かれている二文字はその相手がどんな存在かを示していたりする。

弓「急にどうしたのだ…」

ん。言わないといけないと思って。

月「今回の言葉は“脳死”…」

…そこから連想させられる言葉、分かる?

月「脳死から連想?…脳死……脳死…狩人…物資…希少……あっ!」

…気づいた?

月「───“()()()()”!?」


天草さんは喉も貫かれていたのもあって、声も出さずに消滅した。

 

「……さて、次は貴様だな。狩人」

 

「……」

 

…やっぱり、おかしい。他の人達もおかしいと言えるんだろうけど……ルーパスちゃんの変化は何というか…他の人達よりも…異常、に見える。

 

「抵抗しないのなら…戦う気がないのならこの場から消えてくれないかしら。あたしも知り合いと同じ顔の人を進んで傷つける趣味はないもの。」

 

「……」

 

答えない。…いつものルーパスちゃんなら、ちゃんと答えるはずだ───と、小さくルーパスちゃんの口が開いた。

 

「……獣狩り開始」

 

瞬間───私の前にナーちゃんがいた。ナーちゃんが防いでいるのは……ルーパスちゃんの持つ、矢。

 

「……っ!」

 

苦し紛れ、とも言うように矢を弾く。

 

「ストリア!」

 

《OK. 》

 

「申し訳ないけれど───搦め手を使わせてもらうわ!」

 

Madness Mode.(狂気モード)

 

狂気…?そんなことを思っていると、ストリアさんの形が変わって……待って、待って、あれって……

 

「───“ほおずき”」

 

ほおずき。通称“発狂脳みそ”。あれに見られると血の槍が身体から飛び出すっていう…さらに見られ続けていると発狂して大ダメージ……その効果がちゃんとあるのか、ルーパスちゃんの身体からも血の槍が飛び出してきてる。

 

『……リッカさん。どうか、あたしを嫌いにならないでね。』

 

『え……?』

 

ナーちゃんの言葉に聞き返す前に、ルーパスちゃんが動きを見せた。

 

「…攻撃への防御が不可能と判断。脅威度を変更、脅威なサーヴァントから交戦開始───」

 

「ふふっ。…あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま。でも、ぼうけんはおしまいよ?」

 

「…?」

 

「だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる!」

 

ナーちゃんは歌うかのようにそこまで言った後くるりと回ってほおずきの形をした杖の先をルーパスちゃんに向けた。

 

「さぁ───嘘みたいに殺してあげる!ページを閉じて、さよならよ!」

 

Madness maximum.(狂気最大)

 

ストリアさんがそう言った瞬間、ルーパスちゃんの身体から飛び出す血の槍が増えた。ということは、恐らく───スリップダメージ増加。同時にナーちゃんが駆ける。

 

Craziness.(発狂)

 

「っ、あはっ───あははははっ!!」

 

「ナー…ちゃん?」

 

ずっと見てきたナーちゃんとはまるで別人。ルーパスちゃんの攻撃を嘲笑うかにように跳躍、蹴りを見舞うそのナーちゃんの表情は…狂気に飲まれた…バーサーカーとも言えるような表情。

 

「分析開始、対策組立───」

 

「させないわよ?させるわけないじゃない!」

 

「がっ───!」

 

横から蹴りを入れられ、吹き飛ばされるルーパスちゃん。杖はずっと持っているため、ルーパスちゃんの身体からは血の槍が飛び出し続けている。

 

「……あの、アヴェンジャーさん。」

 

「……なんだ。」

 

「……あれって、本当にルーパスちゃんなの?」

 

私にはあれがルーパスちゃんには思えなかった。

 

「ふん。いい加減覚えることだな。…まぁ、いいか。暴食の時と同じだ。あれは強欲の具現。ルーパス・フェルトとは関係がない…わけでもないか。まぁ、姿形を真似ただけの別物だ。」

 

「……別物。」

 

「あぁ。───あれこそは、強欲の具現。現在の物資では飽きたらず、より良いものを求めるために大量の獲物を屠り、無駄を省き、一度の戦闘時間を短くすることだけを突き詰める者達の集合体。そら、お前も心当たりがあるだろう?」

 

そのアヴェンジャーさんの言葉に頷く。…そうだ、あれは───

 

「………“()()()。」

 

そう言葉に出してから、首を横に振る。

 

「………違う、正確に言うのなら。“効率厨”、並びに“周回者”だ。」

 

効率厨。周回にかかる時間を短くするために効率のいい方法を編み出そうとする人達のこと。もっとも、その時間を短くすること自体は罪ではないだろう。TA(タイムアタック)というのもあるのだし。…なら、何が問題なのかというと。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

あぁ、確かに罪だろう。特に乱獲に関しては、もしもそのゲームの中の世界が現実であったとして、かなりの速度でかなりの量の獲物が狩られ続ければ絶滅すらあり得るだろう。(プレイヤー)(プレイヤー)の格差についてはそれだけで対人関係が悪くなることもあるだろう。求めるものが出なければそのゲームをやりたくなくなってしまうだろう。高効率を押し付けられれば、その高効率を作れない人は一体どうすればいい?

 

「……あぁ、うん。これはどんなゲームにおいても高確率で発生する問題。その希少なもの───“レアアイテム”を求める心は確かに“強欲”なんだろうね。」

 

乱獲が引き起こす問題、“絶滅”に関しては似たような状態がゲームでも起こり得る。リソース不足…殲滅速度の速さによる湧出遅延───“敵が枯れる”と言われる状態。特にリリース初期、アップデート直後なんかは起こりやすいはずだ。ついでに言うと、リリース初期やアップデート直後はサーバーが弱くて多くのプレイヤーが入れない、入れても処理が重すぎるなどという現象も起きるだろう。そうなってしまえば入れた者と入れなかった者の差が出来る。

 

 

閑話休題。

 

 

効率厨、並びにTA勢は何度も同じ相手と戦い、分析し、動きを最適化する。だけど、ナーちゃんは恐らく他の“ナーサリー・ライム”とは違う。情報がない、未知の存在は戦いにくいはず…!

 

 

ガインッ!

 

 

大きな音がしてナーちゃんを見ると、ナーちゃんの蹴りがルーパスちゃんの交差した双剣に阻まれていた。…ところで結構激しく動いてるけど大丈夫…なんだよね?多分。

 

「ストリア!」

 

《Gear 2nd.》

 

一度後ろに跳んでからもう一度ルーパスちゃんに接近する。

 

「…!速度上昇確n───」

 

防ぐために双剣を構えるより速く、ナーちゃんの蹴りがルーパスちゃんに炸裂する。…意外とナーちゃんって蹴り技使うよね。…と、吹き飛んだ先で発狂したのか、ルーパスちゃんが身体中から血を吹き出す。

 

「…発狂耐性低い?」

 

そういえば、何度も発狂している気がする。…啓蒙が高いのかな?そういえば、ナーちゃんも自分から発狂しているはず。恐らく性質は違うのだろうけど。そう思ってナーちゃんの表情を見る───

 

「……!」

 

発狂している。その表情は狂気に満ちている。この場所自体が恐らく狂気に満ちているようなもの。ナーちゃんとストリアさんが管理しているのか、私とアヴェンジャーさんには効果はないみたいだけど、発狂している時点でナーちゃんには効果があるはず。なのに───ナーちゃんは、その狂気を声と表情以外に見せない。狂気に触れながら、正気を保っているんだ。

 

「ナーちゃん、あなたは───」

 

一体、どれだけの狂気耐性をその身体に持っているというの……?

 

Dance Style.(ダンススタイル)

 

そうストリアさんが言ったかと思うと、ナーちゃんの動きが変わった。

 

「…あ、ダンサースタイル…?」

 

なんかそんな感じの動きに変わった。

 

「さて。マスター、理解を得る時だ。この強欲を見てお前は何を思う?」

 

「…私は…」

 

私が、望むもの。私が、欲するもの……私が、成したいもの。

 

「…人理修復」

 

それが、私のやるべきこと。なら、望むことは…

 

「……あぁ。そっか。」

 

分かった。

 

「私が欲しいものは───“世界”だ。もっというなら───”未来”。在るべきセカイが、続くべきミライが───そして、私が作るべき新たな世界が、先に紡がれる未来が。私が望むものだ。」

 

「…ほう。」

 

「───定義。私の望むものは“世界”である。」

 

そう告げた途端───童子切、天文台太刀、弓矢、ペンダント、ヘアアクセの5つが光を放った。

 

「さぁ、これで終わりよ!」

 

ナーちゃんが杖を振り上げ、ほおずきの眼に当たる部分がルーパスちゃんに見えるようにする。

 

「ストリア!」

 

Maximum madness level.(発狂レベル最大)

 

ストリアさんがそう言った途端、ルーパスちゃんが大量の血を噴き出して倒れた。

 

「宝玉…尻尾……足り…な…」

 

そんな言葉を最後に、ルーパスちゃん…ではなく正確には強欲の具現、プレイヤー達の“レアアイテムを求める心”の集合体は消滅した。

 

「…ふう。…これで、終わりね。」

 

表情も元に戻り、ストリアさんも元の石の状態に戻った。

 

「お疲れさま、ナーちゃん。」

 

「……」

 

「?」

 

ナーちゃんがボーっとしたような表情で私を見ている。

 

「どうしたの?」

 

「…嫌いに、ならないの?」

 

「え?」

 

どういう、ことだろう。

 

「だ、だって───あんな姿を見せたのだもの!嫌われるにきまっているわ!」

 

…あぁ、そういうことか。

 

「大丈夫。…私は、ナーちゃんを嫌いにはならないから。」

 

「本当…?」

 

「うん。…心配しなくても、大丈夫だよ。」

 

そう言ってナーちゃんを抱きしめてあげると、ナーちゃんの小さい震えが収まっていった。




さてと…最近“待て!しかして希望せよ!”を言ってない気がしますね。

裁「そうだね…」


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第234話 第柒ノ罪科、其傲慢罪也

遅くなりましたぁ…

裁「買い物行ってたからでしょ」

うぐ…


意識が浮上する。目を開ける。目の前にはナーちゃんの寝顔があった。…7日目。既に、この光景は見慣れてしまった気がする。

 

《Good…》

 

声を発そうとするストリアさんを口の前に指を立てることで制止する。ナーちゃんが寝ていることに気がついたらしいストリアさんは私に近づいてきた。

 

Good morning, Grand Master.(おはようございます、グランドマスター。)

 

「おはよ、ストリアさん。」

 

Master ... you're sleeping.(マスターは…眠っていらっしゃいますね。)

 

「ここまで短期間に色々あったもの。…きっと、疲れてるんだよ。」

 

そう小声で言いながらナーちゃんの髪を梳く。

 

「ぅん…。」

 

身動きするものの、起きる様子はない。数日前なら、これだけでも起きていたはず。…それだけ、疲れがたまっていたのだろう。

 

「……ありがとうね、ナーちゃん。」

 

数日前、ナーちゃんは“ここに来たのは世界とか関係なくマスターを助けるため”、と言っていた。“世界を救うだけなら私が来るのは悪手だとおもう”、とも。…こう思うのは自意識過剰なのかも知れないけれど、ナーちゃんは私だけのために来てくれたんだと思う。私を救うためだけに、こんな場所まで来てくれた。

 

「……ありがとう。貴女がいなかったら、私は今頃折れていた。貴女がいたからこそ、今の私がある。」

 

…本当に、そう思う。

 

「…う。…リッカ…さん?」

 

「おはよ、ナーちゃん。」

 

「……あぁ、眠っていたのね。」

 

ナーちゃんが体を起こすと同時に、部屋の中にアヴェンジャーさんが入ってくる。

 

「起きているか。丁度いいな。時間だマスター、地獄へと赴くぞ。メルセデス、人形も来い。」

 

「「「??」」」

 

私とナーちゃんだけじゃなくて、メルセデスさんと人形ちゃんも…?

 

「…行こっか、メルセデスさん、人形ちゃん。」

 

「はい。」

「わかりました。」

 

私達はいつもの道を通って、扉の前に辿り着く。

 

「…傲慢」

 

その私の呟きにアヴェンジャーさんが反応した。

 

「…だよね、第七の裁きは。」

 

「…そうだ。第七の裁き、傲慢の罪。さぁ、扉を開けるといい。」

 

扉に触れた途端、お腹に激痛が走る。警告……今までよりも、強い。それを無視して扉を押し開ける。

 

「……誰もいない?」

 

その広間には、誰もいなかった。

 

「アヴェンジャーさん、これは…」

 

「…マスター…いや、藤丸リッカ。お前は俺を“エドモン・ダンテス”とは呼ばないのだな。」

 

その言葉に首をかしげる。

 

「“エドモン・ダンテス”って言われるの、嫌だよね?…反応見た限り、そんな感じがしたけど。」

 

「…ふん。1つ、昔話をしてやろう。暇潰しがてらにな。」

 

唐突…

 

「煙草が欲しいところだが、贅沢は言わん。───ある海の傍らに、愚かな男がいた。誠実な男であり、この世が邪悪に充ちているとは知らぬ男だった。故に、男は罠に落とされ、無実の罪によってシャトー・ディフに囚われた。」

 

……その話は…

 

「実に十四年。地獄の日々を乗り越え、監獄塔から生還した男は───復讐鬼となった。人間の持つ善性のすべてを捨て、男は悪魔が如き狡猾さを手に入れていた。男は憤怒のままに復讐へと耽った。一人ずつ、自らを地獄へ送った者どもに、たっぷりと恐怖を与えながら手にかけて。」

 

そう言ってからアヴェンジャーさんが笑う。

 

「あぁ、今でも思い出せる!連中の顔、顔、顔!!我が名を告げた時の驚愕!忘れ去っていた悪業の帰還を前にした絶望!ククク───ハハハハハハハハ!!あぁ、あれこそが復讐の本懐!正統なる報復の極み!」

 

「…それは…もしや、アヴェンジャーさんの…」

 

「逸るな。まだ話し終えていないうちに結論を急ぐのもどうかと思うぞ?」

 

それは言えている気がする。

 

「…とはいえ、概ねこれで終わりではある。男は復讐に耽ったものの、最後の1人を見逃した。人々の中には自らの悪を捨てたのだという者もいる。最後の最後に善性を取り戻したのだ、と。」

 

…?私の方を向いた?

 

「───愛を、得たのだと。」

 

「…愛。」

 

愛。私が、知らないもの。

 

「…その怒りの矛先は一体、何?」

 

「あぁ。男は確かに復讐を止めた。失われた筈の愛を取り戻したのだろう。復讐鬼たる自身を愛し続けた寵姫と共にどこへなりとも消え失せた───どこぞの小説家のせいで広く伝わっている話だ。男の人生は物語となった───いや、そこの童話が示すかのように物語こそが男であったのか。いずれにせよ、物語は至上の喝采を浴び、無数の想いを受け、“復讐の神話”となった。」

 

「…“モンテ・クリスト伯”」

 

その題名を呟くと少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「お前が言ったそれこそ、復讐の神話に他ならない。かつて男は復讐の神を叫んだが、男自身が復讐の神に成り果てた。そして、人類史へと刻まれた。人々が夢想する荒ぶるカタチのままに。その男の魂は、魔術の王が時を焼却する頃になって特異なサーヴァントとしてこの場に現界した。…あぁ、そうとも。それこそがお前を導いてきた男の正体。人間であらず英霊、復讐者(アヴェンジャー)として現界したために“エドモン・ダンテス”という名を切り捨てた者だ。」

 

…私の眼を直視して、アヴェンジャー───エドモンさんはそう告げた。

 

「…そっか。でも、嫌悪してるようだったのにどうして明かしてくれたの?」

 

「…いつまでも真名を知らぬままでは気分が悪いだろう。此処まで導いてきた餞別とでも思っておけ。…さて」

 

「っ!…っぁ゛!!」

 

アヴェンジャーさんが声を止めたと同時に激痛が走る。それと───酷い、嫌悪感。

 

「裁きが始まるぞ。第七の裁き、”傲慢”。お前はその罪を背負わされていた。」

 

「どう、いう、こ…と…?」

 

激痛が酷い。嫌悪感が酷い。此処までの反応は感じたことが…!!

 

「生命の写し。自らを複製し、同じ思考を以て行動ができる“星の娘”共とは違う、まったく別の生命に対して自らを写そうとした大罪。唯一つの生命をモノとして扱った傲慢───」

 

「あ゛っ…ぁ゛っ…」

 

「しっかりするのよ、リッカさん!!」

「しっかりしてください、リッカさん!」

 

メルセデスさん、ナーちゃんが私の手を握ってくれる。それでも、収まる気配はない。

 

「今宵それは衆目に曝される!さぁ───出るがいい!罪によって縛られ、理解によって穿たれ───罪と悪を用い、少女を苗床として少女の腹の奥で育まれ続けた“未知”の獣よ!!」

 

その声に───私は、意識が飛んだ。

 

 

「───カさ───リッカさん!!」

 

「───っ!はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 

ナーちゃんの声に私の意識が覚醒する。…凄い、汗だ。私もいつの間にか横になってたようだ。

 

「あぁ、良かった!気がついたのだわ!」

 

「一体、何が───」

 

あったの、と言いかけて。私の前にあったものを認識して止まった。

 

「───ぇ」

 

真っ黒な巨大スライム。それが、私の最初の印象。私が見た途端、その形は変わった。

 

【アアアアアアア…】

 

【ギィィ…ギィィ…】

 

「おかあ…さん?おとう…さん?」

 

その形は───お母さんとお父さん。

 

【子供を使って何が悪い…兄がダメだったからと言って妹を使って何が悪い…】

 

【結局お前たちは不良品…私達になることはできない…】

 

「…あ……」

 

【リツカ……ムツカ……お前たちの存在意義など私達を越えることだ…私達を世界に認めさせることだ……そこにお前たちの人格など必要ない……】

 

【お前たちに期待した私達が間違っていた…もっと、もっと私達が望める子供を作らなければ…】

 

…お兄ちゃんに、言われたことがある。お母さんとお父さんは、わたし達を道具としか思っていなかったと。…事実、だったみたい。

 

「そら、まだ続くぞ。」

 

「え…」

 

そう言うと同時にスライムの形が変わる。

 

【我が校においてイジメなんてありえん!そも、そんなものあれば我が校の経歴に傷がつくだろう!】

 

【この学校の校長となり、いつしかこの区域の全てを───】

 

【あんな奴、いなければ私が…】

 

【あいつうざい…何なの本当に…】

 

【これだけあればどんな娘とも…ぐふふ】

 

【これでいいか?いいよなぁ、残飯とはいえど俺達から恵んでもらえるだけいいと思えよ!】

 

【勉強なんかよりコイツで遊んでいる方が楽しいわ。なぁ?】

 

これまで見た、七罪。濃度が濃くて、酔いそうだ。そして───あぁ、思い出した。全部。全部───

 

「あれは全て、マスターが見たモノ。この世の地獄。魔術王がオレに見せた、マスターの半生でもある。」

 

そうだ。あれらは全て私が見たものだ。イジメを認めない校長、校長になることを望み学校地区を支配しようとする教師、好きな人を取られた女子、陰口を言う女子、大金で春を買おうとする教員、私にお弁当の残りを投げつけてくる男子、私を足蹴にする男子───あぁ、すべて忘れていた。いや───忘れさせられていたのかもしれないけれど。

 

This is ... terrible.(これは…酷いですね。)

 

「ふん。さらに、生れ落ちようという者がある。」

 

「ここから更に、ですか…?」

 

「まぁ、聞け。」

 

スライムが形を変えたのは───

 

【───そう。】

 

「「「「…!」」」」

 

【これが、愛。…私は、知らなかったから。愛というのは、誰かを陥れること。七つの大罪───怒り、妬み、怠け、欲情し、ひたすらに欲し、食らい、傲る。…あぁ。なるほど。それに当てはまることが、“愛”なのね。どうでも、いいけれど。】

 

「あれって───私?」

 

「そうだ。お前が産み落としたモノ。お前のうちに潜んでいた、その魔書とは別の人類悪───学び舎にて存在した必要悪を愛と定義し、それを不要とし、総てを呑み込もうとしたもの。」

 

総てを───呑み込む?

 

「───その力は、“拒絶”」

 

誰もいないはずの背後から声がした。そちらを振り向くと───月さんがいた。

 

「月さん…」

 

「勘違いするな。…私はこれを見に来ただけだ。」

 

「ふん。しかし貴様、これを知っているな?」

 

「拒絶の属性は私達“創詠”が持っている属性の1つ。…知らないわけがない。」

 

拒絶…

 

「総てを呑み込まんとする、最悪の獣。…定義されるは、“虚無”と“複製”。虚無であるがゆえにあらゆるものを際限なく呑み込み、複製であるがゆえにあらゆるものを模倣できる。…それが、この獣の正体だ。」

 

「…は、はは…」

 

その言葉に、私の身体から力が抜けた。

 

「リッカさん!?」

 

「しっかりしてちょうだい、リッカさん!」

 

「…うん、大丈夫…」

 

とはいえ……これは、ちょっと。…つらい




明日の題名どうしよう

弓「考えていないのだな…」


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第235話 第柒ノ罪科、其傲慢罪也・悪塊

ちなみに……


二文字
ファントム・オブ・ジ・オペラ怪人
フェルグス・マック・ロイ剛漢
フルフル白影
触手異形
ジル・ド・レェ堕騎
ジャンヌ・ダルク聖女
ナーサリー・ライム童話
亡月 美雪(別型)異聞
イビルジョー大食
創詠 月(別型)悪食
天草四郎時貞正義
プレイヤー脳死
虚無と複製の獣悪塊



とまぁこんな感じですね。

月「…お母さん。あの私ってやっぱり…」

だろうねぇ…恐らくは未来の月。何かに絶望した月なんだろうね。

月「……だよね。」


【アアアア───!】

 

その形ない、私から生まれ落ちたモノは、なんともいえない声で咆哮した。

 

「行くぞ、童話。出るべきモノは出た。今こそ完全に滅する時だ!」

 

「けれど……!」

 

「マスターを信じておけ!その女はこの地獄において、ただの一度も希望を捨てなかった女だぞ!!」

 

「……」

 

その言葉を聞いて、少し悩んでからナーちゃんが立ち上がったのが分かった。

 

「…ストリア」

 

what?(何でしょうか?)

 

「リッカさんのこと、お願いするわ。」

 

…I got it.(…了解しました。) Don't overdo it.(あまり無理はなさらぬよう。)

 

「分かっているわ。…リッカさん。あたしはあなたを信じてるから。…食い止めて、くるわ。」

 

それだけ言って、ナーちゃんが地面を蹴ったのが分かった。…私は……

 

「…」

 

「リッカさん、しっかり…!」

 

「流石に、つらい…かな。総てを際限なく飲み込む……か」

 

月さんが私を殺しにくるのも分かる。監獄塔の性質とかを抜きにしても、そんなもの危険すぎて放置していられないだろう。…声が、聞こえる。

 

「何よ、これ───全然攻撃が通らないわ!」

 

「お前もか、童話!」

 

「えぇ、これじゃあ止めることなんて───」

 

───それは、そうだろう。なぜなら───

 

「アレの特性は端的に言えば“飲み込む”ことだ。普通にやっただけで勝てるわけがない。…どれ、私も少し手を貸そう。不本意だが、世界が無抵抗に壊れるのを見るよりはいい。」

 

月さんがそう言った直後、周囲に何か張られた気がした。

 

「……はは」

 

「あぁ、生きる気力がどんどん萎えて……!」

 

メルセデスさんの慌てた声が聞こえる。

 

「…ごめんなさい。私は───いるべきではなかったんだ……」

 

That's not true, Grand Master.(そんなわけありませんよ、グランドマスター)

 

即座に否定の声が返ってきた。

 

I shouldn't have been there.(いるべきではなかったなどと。) Please do not say in the presence of the master.(マスターがいる場にて言わないでください。)

 

「ストリアさん…」

 

What do you think whe(愛する人がそんなことを言った時)n your loved one says that?(、あなたはどう思いますか?)

 

…それは、確かに嫌かもしれない。

 

Please do not lose your energy to live.(どうか生きる気力を失わないで。) Even if something d(あなたの中にあなたとは)ifferent from you l(別のものが潜んでいた)urks in you, it's not you.(としても、それはあなたではないのだから。)

 

私とは…違う?

 

"You" is you.(“あなた”はあなただ。) What we are seeing now is just a possibility.(今見えているのはただの可能性。)You who live in this w(今この世界を生きるあな)orld now are only "you" who are here.(たは、ここにいる“あなた”しかいない。)

 

「この世界に生きる私は…私だけ。」

 

アレは私ではない…か。

 

「キリがないわ…!!」

 

「避けろ、童話!!」

 

「え───きゃあっ!」

 

その悲鳴にナーちゃんが吹き飛ばされるのが見えた。

 

「…う」

 

起き上がろうとし、そのまま崩れ落ちる。それを見逃さず、黒いスライムが上から覆い被さる。

 

「……っ、離れ、なさいよ…!!」

 

「ナーちゃん…」

 

抵抗するナーちゃん。火が、水が、木が、土が、風が、雷が、氷が、金属が───黒いスライムに襲い掛かる。…けれど、微動だにしない。

 

「離れなさい…!離れてよ…っ!!」

 

「…些か、分が悪いか。」

 

「何?」

 

「拒絶の力が弱い。あちらに有効打を与えられていないようだ。」

 

魔力切れなのか、ナーちゃんの放つ属性が弱まっていく。

 

「………間違ったのかしら。あたし…あたしが来たのは、間違っていたのかしら…」

 

微かだけど。そんな、声が聞こえた。

 

「あたしが来たから、こうなったのかしら───」

 

〈───馬鹿者!!〉

 

突如、そんな怒号が響いた。

 

「…その、声は…」

 

〈何故諦めようとする。お前は何のためにその場所に行った!お前が諦めては、ギルガメッシュがお前が行く事を認めた意味がなくなるだろうが!!〉

 

「…アンデルセン───」

 

通信が…復活した?

 

〈お前の決意はそんなに脆いものだったのか?マスターを救うというお前の意思はそんなものだったか!!ならば最初から救いに行こうなどとするな、馬鹿者!!〉

 

「…っ」

 

〈既に俺達はお前に任せる他道が無い!そのような、最終局面に至って諦めるなど許すものか!!〉

 

「───仕方ないじゃない!あたしはキャスター、耐久も筋力も、他のサーヴァントよりは弱いのよ!?あたしよりも適任なんているでしょう!?」

 

〈それでもだ!お前はそれでも、マスターを助ける道を選んだ!他ならぬ、お前が、マスターを助けるという道を!その意思を認め、ギルガメッシュはお前をそこに行くことを認めたのだろうが!!キャスターだから無理だと?寝言は寝て言え!!キャスターだろうが何だろうが、その意思を貫いてみせろ!!〉

 

「…どうしろ、っていうのよ…!力はもう…!」

 

〈力が足りないだと?…ハッ!舐めるなよ、童話。お前は童話、俺は作家。俺が何故態々書斎から出てきて何故お前に声をかけたと思っている!〉

 

「…?」

 

〈力が足りないなら貸してやる───いいや、力が足りないのならお前を強くしようじゃないか!他ならぬ、俺の手によってな!!〉

 

「え…?」

 

〈たった六日───そんな時間では本来俺も満足なものは書けん!だがな!お前の奮闘は俺の創作意欲を強く搔き立てた!さぁ、いまこそ真価を発揮させようじゃないか!!〉

 

パラパラと紙をめくるような音がする。

 

〈さぁ、皆様お立会い。これよりアンデルセンが語りますは1人の意志持つ童話の物語。童話の物語、というのもおかしいような気はしますがそこは無視いたしましょう。名の無い本であり、わらべ歌の総称を真名として与えられた、子供達の英雄。童話の名はナーサリー・ライム。自らを示す概念である“子供達の英雄”であることを捨て、“愛する主の為の英雄”であることを自らを示す概念とした童話。愛する主より与えられた名は有栖ヶ藤 七海。相手取るは愛する主の内に潜んでいた強大なる悪。自らの定義から外れ、愛する主1人の為に動き出した絵本。自らの意志の下、愛する主の元に馳せ参じる決断の行方。今宵地獄と決断に決着がつくでしょう。その結末、どうかお見逃しの無きように───!!!〉

 

そう言い終わった途端。ナーちゃんに覆い被さっていた黒いスライムが吹き飛んだ。

 

「……力が、湧いてくるわ。今までよりも、さらに。…これは、貴方の…」

 

〈ふん。“貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)”───脱稿まではいかんが、お前ならば十分だろう?〉

 

「…そう、ね。貴方はバッドエンド向きだもの。あたし向きのものは時間がかかるはずよ。…でも───」

 

ナーちゃんが火の大剣を出現させる。

 

「ありがとう、アンデルセン。あたしはまだ戦えるって理解させてくれて───!!」

 

そう言い、ナーちゃんが強く踏み込む───高く、跳躍する。

 

「───っ!!」

 

その場にあった空間を蹴るかのように方向を変える。ナーちゃんを見ていると、肩を掴まれて引き寄せられた。

 

「───施術危険と判断、緊急治療を施します。」

 

「はえ?」

 

直後───私はメルセデスさんの平手で吹き飛びかけた。

 

「一応攻撃は通っていそうね…へ?」

 

少しふらふらする思考の中でナーちゃんの困惑する声が聞こえた。

 

「え?え?」

 

「目が覚めましたか、リッカ」

 

「……ええ?」

 

「まだ目が覚めませんか、それではもう一撃───」

 

「あ、大丈夫です、覚めてるので…ええっと?」

 

「…なら、良いのですが。」

 

………What is this?

 

「患者の精神状態に治療、治癒の傾向は左右されます。先程の状態は不適格。通常の状態を維持しておくように。」

 

「え…あ、はい。」

 

「よろしい。」

 

「クハハハ!!そら、役者は揃った!マスター、乗り越える時だ!」

 

…まだ、ちょっと困惑しているけれど。

 

《Grand Master.》

 

「…うん」

 

ストリアさんを手に取る。

 

《Closed Active.》

 

その言葉の後、ストリアさんが形を変える。

 

「さぁ、マスター!やってしまって!」

 

「うん───ありがとう」

 

ナーちゃんの言葉に、ストリアさんを構える。




あーう、時間が…

裁「眠い…」


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第236話 第柒ノ罪科、其傲慢罪也・七罪

……星乃、いる?

星乃「ん~?…あ、お母さん。どしたの、急に。」

令呪の復元…お願いできるかな。しばらく前にギル相手に使ったの忘れてたの。

星乃「え?…あー…そうだったっけ。分かった、手を見せて?」

ん。

星乃「……うん。ちょっと待っててね…ええと………できた。」

ありがと。

星乃「……いよいよ、なんだよね。」

……うん。あと書き起こしてるときによく思う辛いこと。

星乃「?」

作品内でキャラクターが歌ってる曲がちょうど歌詞利用許可されてない。

星乃「……あぁ。よくあるらしいね。」

別にいいんだけどね…ちょっと表現に困る。


「殺菌!殺菌!殺菌!総て殺菌、それでも足りなければ摘出します!」

 

メルセデスさんがその拳でスライムを殴り付ける。スライムなため、その攻撃は恐らく通っていない───

 

「お願いします。使者たち───狩人様達の、力に。」

 

その、人形ちゃんの声に。使者───白い亡者のような存在がスライムに纏わりついた。

 

【ギャァァァァ!!なんだ、これは!離れろ!】

 

「今です。狩人様達。」

 

人形ちゃんって…もしかしてキャスター?使者の召喚が能力なのかな……?

 

「ふんっ!」

 

【ギャァァァァ!!痛い、痛い!何をする、私が何をしたというのだ!!】

 

「ハッ!我が弾劾は少女のか細き叫びから生まれ出でたもの!お前達の定義こそ俺が俺足り得る所以!“世に蔓延る理不尽”、“理由無き否定”こそ、俺が復讐すべきモノ!」

 

それは……私の…?

 

【やめろ、やめてくれ!!】

 

「───シッ!!」

 

ナーちゃんが炎の大剣を振り抜く。

 

【アァァ!!熱い、熱い……!】

 

「…やめて、って言われてアナタ達はやめたのかしら?違うでしょう?なら、あたしもやめないわよ。リッカさんが受けた仕打ちの分、きっちり請求して徴収させていただく───わっ!!」

 

【ギャァァァァ!!】

 

【熱い…!冷たい…!痛い!!!】

 

【皆がやってたからやったのよ!私は悪くないわ!】

 

「───そんなの免罪符になるわけないでしょう、馬鹿なのアナタ!?」

 

問答無用で叩き斬るナーちゃん。炎の大剣にしか見えないけれど、その実複数の属性が混ざりあってるみたい。っていうかナーちゃんの“請求して徴収”発言は多分比喩表現なんだと思う。

 

「それにしても多いわね…!ていうか無限に増え続けてるのかしら!?全く、ミザールじゃないんだからそういうのやめてちょうだいよっ!!」

 

無限増殖…か。

 

「…藤丸リッカ。…その、眼鏡は…」

 

「え?」

 

突然、月さんが私に話しかけてきた。眼鏡?

 

「…少し貸してもらってもいいか」

 

「え…あ、はい。」

 

眼鏡をはずし、月さんに預ける。…やっぱり、言葉遣いは荒くなってるけどこの人は優しい。普通だったら、強引に奪うだろうし。

 

「……やっぱり、か。かつて、私が作ったものだな。」

 

「え…?」

 

月さんが…?

 

「ということは───これでかけてみろ。」

 

何かをしたかと思うと、私に眼鏡を突き返してきた。言われるがままに眼鏡をかける。

 

「虚無の獣を見てみろ。」

 

頷いて黒いスライムを見る───

 

「…虚無の獣───“アジ・ダハーカ【不全】”?」

 

そこに、表示されていたもの。

 

 

アジ・ダハーカ【不全】

 

“虚無”と“複製”を理として持つビーストif。あらゆるものを呑み込み、あらゆるものを複製する力を持つ。しかしその力は大部分喪われており、不完全な状態で現界した。この存在が完全体である場合は、藤丸リッカの肉体を覆うように出現し、不定形の防具、不定形の武器として機能する。その瞳は光を返さぬ漆黒と深紫、この世の総てを無用とし、捨て去る非情さを持つ冷たい鉄仮面が常に在る。生まれ出でた地である子宮の上にはこの世総ての悪を呑み込む“闇”の証が刻まれている。自らが喰らい、捨て去り、拒絶した“カタチ”。カタチの無い“無形”こそがこの獣の真の姿。本来の藤丸リッカと人格は変わらず、その優しさや言葉は紛れもない本物。しかし“捨てる”ことを良しとしたそれは強大なる“拒絶”を以てあらゆる呪詛、神秘、物質、概念を呑み込み捨てる災厄。その言葉は強固な心さえ拒絶してしまい、自らの言葉で相手を侵蝕するだろう。“真似る”ことを良しとしたそれは強大なる“複製”を以てあらゆる呪詛、神秘、物質、概念を完璧に複製する災厄。例え喪われたものであろうと、真作と全く同じ複製を引き起こす。その複製は真作と贋作を見分けることが出来ない、一種の創造ともいえるほど。

 

“あらゆる総てを理解し、身に着ける”人格、あらゆる垣根を越えて呑み込む“ネガ・ヴォイド”、真と偽の境界を曖昧にする“ネガ・リプロダクション”。そして預言書───ビースト〇“ワールドクリエイト・キー”の持つ世界を創造する“ネガ・クリエイト”と世界を破壊する“ネガ・ブレイク”という4つのスキルが及ぼす絶対性。それこそが藤丸リッカに潜んでいた大きな危険性であり、柔軟な彼女が獣に堕ち果てていた時の末路。

 

あらゆるものを受け入れ、あらゆるものを拒み、あらゆるものを作り、あらゆるものを壊す。そんな矛盾を体現するようなそれ。本来の性質上ならばどのようなものも阻むことはできず、あらゆる抵抗は無意味と化す最悪の獣。このビーストに魅入られた者は例外なくカタチを喪うことになるだろう。カラダ、ココロ、タマシイ、チカラ───総てにおいて喪わせることのできないものはない。何故ならこの存在自体が光すらも呑み込む人型の“ブラックホール”なのだから。知的生命体はおろか、外宇宙の非生命体のみならず知を持たぬ無機物でさえもこの獣の餌になる。

 

総て喰らう深淵の闇(ブラックホール)”───それがこの獣が持つスキル。一度本来の意味でこの獣が在れば、その世界はこの形無き獣の欲を満たすための餌場でしかない。

 

───しかし。それらは全て剥奪されている。完全な状態ではない時に引きずり出され、現界した故に。今在る獣は、悪を吐き出す物質でしかないのだ。

 

 

「…これ…」

 

目の前の存在の、情報?

 

「…私が作ったその眼鏡には、情報を読み取り、管理する力がある。それを起動しただけだ。」

 

「…ありがとう」

 

「ふん。」

 

倒し方も、分かった。…ちょっと、意外だけど。

 

「殺菌!」

 

「焼けなさいっ!」

 

「クハハハハ!!」

 

色々爆発したり燃えたりしてるけど…まぁ。あれだと、無駄だ。

 

【無駄だ、無駄だ、無駄だ!!私達はそのまま在り続ける!核はその女にあるが故に!】

 

【いくら倒されようが無意味よ…!何故ならヤツに誇りなどないのだから!!傲慢など、七罪などなく、自らの憤怒すらも制御できないのだから!!】

 

憤怒の制御…それと、誇り…か。

 

「いいえ、あるわ。」

 

「え…」

 

「あたしには分かってる。リッカさんは、気がついていなくとも誇りを掲げているわ。」

 

私が分かっていなくとも…?

 

「分からないのなら言ってあげる。リッカさんの掲げた誇りを───」

 

【止めろ!自覚させるな!!それを───】

 

「もう───あなたたち、煩いのよ。少し黙りなさい!!」

 

ナーちゃんが剣を振るうと同時に周囲に雷が走る。

 

「リッカさん!」

 

「?」

 

「歌ってちょうだい!ストリアのその姿は、歌うために在る姿よ!!」

 

ストリアさんの姿。それは、ダイナミックマイク。カラオケとかに、よくあるやつ。

 

《Grand Master.》

 

「あたしが合わせるわ!リッカさんは、自由に歌って!」

 

「───うん」

 

歌う。…今は、それが最適解だ。

 

「お願いできる?」

 

《Yes.》

 

そう言った途端、私を中心に音楽が流れ始める。戦場には、向かないような曲だけど。…でも、私はこの曲を選んだ。

 

「この曲───“メルト”?」

 

“メルト”。supercellさんが作った、初音ミクさんの名曲。絶対戦場には向かない曲なんだけど…でも。

 

 

side 無銘

 

 

「これ…“メルト”か?」

 

六花さんがそう言ったのが聞こえた。

 

「戦場にメルトってどうなんだ?」

 

「3GSV…噓でしょう?」

 

月さんが信じられない、というような声でそう呟いたのが聞こえる。

 

『月さん?』

「月?おい、どうした?」

 

「まさか、こういう曲に適性が高いのは知ってたけどここまでなんて…!!」

 

GSV…どういうことだろう。

 

「おい、聞こえてるか?」

 

「っ、あ、はい!ええと…」

 

「GSV、って何だ?」

 

「ええっと…あぁ、GSVですか。“ギガソングボルテージ”───その名の通り歌の威力です。」

 

「はぁ?」

 

「私達の術式において、“歌”を利用する術式があります。その“歌”によって生成された威力を“歌の威力”───“歌力(かりょく)”といい、それをSVという単位で表すんです。ええと…どう説明したらいいでしょう」

 

「ええと…火力?」

 

「字は“歌”の“力”と書きます。様々な要素で強化されるんですが…曲に適性が高ければ歌力は上がります。」

 

ええと…私も理解できない

 

「すまん、うまく理解できんかった。」

 

「マクロスシリーズの歌の力とかシンフォギアシリーズのフォニックゲインだと思ってください!」

 

「お、おう。…とりあえず、リッカの適性って何なんだ?」

 

「リッカさんの適性は───“()()()()()()()()()()”!その観点で行けばメルトはほぼ最適曲です!!というか、このままいけば───」

 

 

side リッカ

 

 

「…まさか、これほど…」

 

月さんの声が聞こえる。私はしばらくの間歌い続け、同時にナーちゃんの動きが良くなった。…違う、私の歌で発生した“音弾”。それ足場にしてこの広間の中を跳び回ってる。

 

【なんだ!なんだ!!やめろ、歌うな、耳障りだ!!】

 

構わず歌い続ける。ナーちゃんも一緒に。…だけど、流石に声が枯れてくる。

 

「仕方ないな。私もさらに力を貸そう。そのまま歌い続けておけ、藤丸リッカ。…あと、これを持っていけ。」

 

スペルカードみたいなものを受け取ってから言われるがままに歌い続ける。

 

「世界は光で出来ている。血潮は風で、心は音。幾千の世界を越えて不滅。」

 

これ…固有結界の詠唱?

 

「幾千の友情を得て。永遠なる一つの愛を得る。」

 

【何をしている!やめろ、やめろ!!】

 

「担い手と創り手は確かに存在し。時の丘で間を穿つ。」

 

月さんの詠唱は止まらない。

 

「ならば、この生涯は生命に捧げる。」

 

魔力が高まる。宝具の…起動?

 

「この体は───無限の音で出来ていた。」

 

瞬間、私達は虹色の光に包まれて───花畑に、立っていた。

 

「固有結界───第三宝具“無限の音製(アンリミテッドトーンワークス)”。またの名を“歌姫の聖域”。お粗末様。」

 

いや…見事なんだけど

 

【ぐぁぁぁ!!やめろ、やめろ、このような場所を───!!】

 

「私も歌おう。…久しぶりに、起動したことだし。彼女も来たことだし。」

 

彼女達…?と思って視線の先を見る。…緑髪の、ツインテールの女の子……え゛っ!?

 

「───“初音ミク”さん!?」

 

「…こんにちは、リッカちゃん」

 

流石に抑えきれずに歌止まっちゃったけど。ナーちゃんが歌ってくれてたから続いてる。だって、私の前にいるの、間違いなく───

 

「月ちゃんの宝具…歌姫の聖域に惹かれて来ちゃった。私も、歌うよ?大丈夫、私も、この魔法なら、戦えるから。」

 

「歌唱魔法領域全開───跳べ、藤丸リッカ!初音ミク!有栖ヶ藤七海!!」

 

眼鏡がミクさんのプロフィールを読み取った。サーヴァント・シンガー。“歌い手(シンガー)”のサーヴァントだと。

 

「ナーちゃん!」

 

「ええっ!!」

 

「音楽、変えよっか。」

 

《OK, diva.》

 

音楽を切り替えている最中に私はスライムめがけて刀を振りかぶる。

 

「───せぇっ!!」

 

【ぎゃぁぁぁぁ!!なにをする、なにをする!!】

 

ダメージは入ってる。当然だ、ここまで歌っていたことでこのスライムは弱体化してる。書いてあったんだ───“どれだけ捨てようとも、本体である藤丸リッカがいなければ()()()()()()()()()()”って。すなわち───それが、最大の弱点!!

 

「───誇りがない、って言ったね。なら告げよう。」

 

歌なんて、本来なら攻撃力も何もない。…だけど、月さんが使う“歌唱魔法”なら。歌に攻撃を乗せることが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、私の誇りは───

 

「私はリッカ。藤丸リッカ!元マスター番号48番、現登録コード“stf-00000001_mas”!好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート!嫌いなものは理不尽と根拠のない否定!座右の銘は“みんな違ってみんないい”!私の、誇りは───」

 

触手のようなものを伸ばしてきたスライムを刀で薙ぐ。

 

───あらゆる在り方を認めること!!根拠がなければ否定しない!その在り方が、私の生きる道が───人類最後のマスターであり、当代の預言書の主であり!“人類世界の未来と存続”を望むことこそが!!私の総てだ!!

 

音楽が流れそうなのを感じる。

 

「あぁ、それでこそ───人間の姿だろうさ。藤丸リッカ。」

 

アヴェンジャーさんのそんな呟きが聞こえた。

 

【【【…!?グァァァァァァア!?】】】

 

突如悶え始める黒いスライム。その瞬間、天井に亀裂のようなものが入る。

 

「接続成功!歌は世界を越える、実証したよ!!」

 

「その声…アル!?」

 

「って、姿見えないと分かりませんよね、月です!」

 

月さん!?

 

「リッカさんが歌い始めたのを観測してからこちらでも複数で歌ってたんです!その歌の力を空間と空間の狭間、この地獄とカルデアを繋ぐ境目に全力でぶつけたんです!!結果、地獄からの歌力とカルデアからの歌力に壁が耐えられず、文字通り“歌が世界を越えてる”んです!!」

 

うわぁ…!?

 

「無茶苦茶やるわね…!?」

 

「それでも長くはもたないので…!星乃!!」

 

『はいはい───その虚無の概念、我らが拒絶を以て断ち切る!!』

 

その声が聞こえたと思うと───強い、圧迫感。

 

『絶技“あらゆる生命を司る瞳”───お粗末様です♪』

 

【ぐぁぁぁぁぁぁ!!!】

 

断末魔に近い叫び声。瞬間、理解した。不死性が、消えてる。増殖性は残っていても、無限に近い耐久力が消えてる。改めて、ぞっとした。星乃さんは今、その力で“虚無”の概念を“抹消”したんだ。

 

「…は、はは…」

 

「ほんと…敵じゃなくてよかったわ。」

 

冷や汗が凄い。それはナーちゃんも同じみたいで、顔が引き攣っていた。…私は、やることが残っている。

 

「…ナーちゃん。」

 

「…?」

 

「ありがと、気がつかせてくれて。」

 

「…別に、あたしはリッカさんが知っていることを言葉にしただけよ。あたしは最初、リッカさんを読んだのだから。」

 

「…うん」

 

私はカードを構える。

 

「スペルカード」

 

決着をつけるためのカード。さっき、月さんに渡されたもの。

 

「───希望」

 

そのスペルの名は───

 

「───“パンドラの箱”!!」

 

希望“パンドラの箱”。パンドラの箱とはギリシャ神話において世界に災いをもたらしたという箱。なら、このスペルに付けるべき符名は“絶望”なのだろう。…でも。パンドラの箱は───

 

【へいへい───呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん…ってねぇ。】

 

「…あなたが、希望?」

 

【へへっ、私を見て希望とはねぇ。…ま。あんなんと比べたら希望でしょうなぁ。】

 

スペルを起動して出てきたのは、私。赤い布を纏った、私。

 

【ったく、あの月の嬢ちゃんも素直じゃねぇよなぁ。少し反転してるとはいえ、根源的な優しさが隠しきれてねぇ。私が出るのにてこずっているっていうのに気づいてスペカを作成し、マスターに託すなんてよ。】

 

え…

 

【ま、任せとけや!スペカに与えられた“希望”の名の通り、アンタに絶望は降り注がせないからよ!この世総ての悪だぁ?はっ、この私を差し置いて何言ってんだか!】

 

「…あなたも、この世総ての悪なんだね。」

 

【───あぁ。アンタに背負ってもらうのは、獣じみた観念と預言書の宿命だけで構わねぇ。】

 

彼女(?)は私に背を向けた。

 

【光はあっち、深淵はこっちだ。選びたい方を選びやがれよ。ま、光を勧めるがな。】

 

そう言って彼女(?)は飛び込んでいった。

 

「…ナーちゃん」

 

「ええ。」

 

「「一緒に帰ろう」」

 

そう言って私とナーちゃんは勢いよく飛び出す。流れる曲は───“廃墟の国のアリス”!未来の曲だなんて関係ない、私達が知っていれば歌える!!っていうかこの場所(監獄塔)ナーちゃん(アリス)がいるってこの曲ピッタリ過ぎない!?

 

【ア、ガァァアァxxあxxっぁっぁぁああ】

 

【おーおー、辛そうだねぇ。ま、そんなもんか。そういやよ、お前さんら───“呪い返し”って知ってっかい?】

 

【■■■■■■!!!?】

 

【他人を呪う代償、本当に理解できてたか?ん?理解できねぇうちから呪うとか馬鹿だろ。死んでも治らねぇかもな?】

 

クックックと笑いながらその形を変えていく。

 

【覚悟しろよな?呪う代償、その身に───そのオリジナルの魂まできっちり返してやるよ!!】

 

その姿は───まるで、龍だ。…気に食わないのかどんどん形を変えてるけど。

 

龍?ガーゴイル?騎士……いや───あれは、アルバトリオン。モンスターサマナーシリーズにおけるシリーズ通しての最終ボス。

 

【この姿の方がいいかねぇ。何せ顕現してまで不定形の身体なんて初めてなもんでよ!どうせやられるなら強そうな姿がいいだろ?そしてこの場は地獄の底。私の独壇場だ!魂に呪いかけるなんざ造作もねぇ!おまけに私を育んだアイツは飛びきり、上物も上物、極上のゆりかごだったもんでよ!私、堪忍袋の緒が切れました!な~んてな!そんじゃま、呪った奴の末路ってもんを味合わせてやろうかぁ!呪い返し───つまりは“呪詛返し”!全員纏めて呪いに堕ちろ!!】

 

【いやだ!いやだ!死にたくない死にたくない死にたくない───!!!】

 

【ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!全部が全部てめぇらの自業自得だろうが!!───逆しまに死ね!!】

 

口調がお兄ちゃんみたいだなぁ、とか思ったけど。呪詛返し───倍以上に呪詛を返すってことだから…うん。合掌。

 

【“偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)”!!】

 

放たれたそれは、アルバトリオンの形を持った彼女───もう彼女でいいや───からどす黒いものが流れ込む。…アレ、呪詛だ。墓王ニトの死の瘴気みたいに放出するんじゃなくて、そのまま流し込んでる。

 

【【【【【ギャァァァァァァァァァァァァ!!!】】】】】

 

【ヒャハハハハハ!!どうよ、呪詛返しのお味はよ!これぞアヴェンジャー究極奥義、運命の中で最初の復讐者として顕れた私の宝具よ!あぁ、心配しなくともてめぇらの末代まで呪ってやるから安心しろよ!精々その代に解呪師が現れるのを祈るんだな!“待て、しかして希望せよ!”ってな!もっとも、てめぇらの呪詛はどうやっても外れねぇくらい強力にかけたがな!人理が戻った時をお楽しみに!きっちりかっちり返された呪詛をデリバリー致します!いやぁ、私ってば優し~!ヒャッハハハハハハ!!】

 

ひとしきり笑ってから私の方を見た。

 

【行けよ、人間サマよぉ!人類最後のマスターサマよ!もう、私に関わるなんて考えるなよ!!まぁ、アンタが望めば力を貸してやらんこともねぇがな!んじゃ、あばよ!!】

 

そう言い残して彼女は消えた。

 

『───ナーちゃん!』

 

『えぇ!』

 

Maximum output.(最大出力)

 

ストリアさんの言葉と共に周囲の歌の力───歌力が上がる。現周囲歌力4TSV(テラソングボルテージ)…思いを込めれば込めるほど、歌が上手ければ上手いほど、歌っている人数が多ければ多いほど歌力は上がるっていう話だけど…いやこれは計算式ぶっ壊れてない?テラって10の12乗…1兆なんだけど。…ともかく

 

『みんな!私に力を貸して!!』

 

その呼びかけに、お母さんの童子切、お兄ちゃん達の天文台太刀、アルテミスさんの弓矢、ニキのペンダント、星羅のヘアアクセの5つが強く輝いた。

 

『ええ、リッカ。』

『行くぞ、リッカ!』

『行くよ~、リッカ!』

『呼吸を合わせて───』

『───全力全開!!』

 

皆の声が、聞こえた。

 

『───うんっ!!』

 

歌いながら手で五芒星紋を切る。

 

どんな夢も壊れて くずかごに集めた

 

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

 

ノスタルジア環状線 雲の上を半回転

 

格子状に咲く天井を今日も見ている

格子状に咲く天井を今日も見ている

格子状に咲く天井を今日も見ている

 

最後のあたりのフレーズを歌う。どこを歌ってどこを歌わないのか、感覚で全員分かる。

 

疑うことなく箱庭で踊るアリス

 

天空に広がる鳥籠のアリス

 

数えきれぬ感傷と忘却の夜に 澄みきった瞳でボクを見ないでくれ

 

歌っている間にナーちゃんも準備は完了したみたい。

 

カラスが手招く

 

際限ないデフォルメと廃棄のリリック

 

君を飼い殺す鉄格子

 

ここに来ちゃいけない

ここに来ちゃいけない

ここに来ちゃいけない

 

これで、後残るは後奏。だったら、宝具を開放するときだろう。

 

「『『『『『“五星招鳴───』』』』』」

 

幻影、だけど。私の身体を支える、5つの影が現れる。

 

「『『『『『覆地翻天”!!!』』』』』」

 

五星招鳴・覆地翻天(ごせいしょうめい・ふくちほんてん)”。お母さんの()、お兄ちゃんの金、アルテミスさんの水、ニキの()、星羅の火───つまり五行を組み合わせ、一気に放つことでその場を荒らす技。その技がさく裂し、黒いスライムを抉る。

 

【【【【【ァァァァァァ!!!】】】】】

 

「ふふ。あまり、私は争いは好きじゃないし…」

 

ミクさんが言葉を紡ぐ。機械音による、言葉の抑揚の不安定さなんかは、いつも通りだ。

 

「私には、歌うことしかできないけれど。でもね、私の宝具は、“歌”が正体だから。」

 

歌が正体───なら、今のこの状態の場所だと、最高レベルの力を発揮するのかな。

 

「…宝具“セカイとミライを架ける歌と歌い手(プロジェクト・シンガーズ)”───ライブ、スタート!」

 

ミクさんを中心に展開されるスピーカー。あれって…小型の固有結界だ。

 

【【【【【ウァァァァァァァ!!!】】】】】

 

そして、この存在は歌が弱点だから───これはかなり辛いだろう。

 

「クハハハハ!!既に存在を保つことすら危うくなっているな!───我が行くは恩讐の彼方!“虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)”!!」

 

高速移動によって形作られた分身達がスライムを焼き尽くす。

 

「お願いします。ゲールマン様。」

 

「良いだろう。…少ししかできんが、加減はせんぞ?」

 

声の直後、鎌を持った男性がその刃を黒いスライムに突き立てていた。

 

「あとは君たちが頑張るといい。あの人形の事、頼んだぞ。若き狩人よ。」

 

その声と姿は───紛れもなく、“最初の狩人、ゲールマン”。

 

「長い夜は───まだ続くのだろう。終わるときこそ、終わらせたいときこそ。介錯を私に任せるといい。」

 

そう呟いて消えていった。

 

「爆音注意───“オール・トーン・バースト”」

 

月さんのその言葉がと指を鳴らすのがキーになって、周囲にあった音弾が総て爆発する。

 

【【【【【aaaaaaaaaa!!!!】】】】】

 

「すべての毒あるもの、害あるものを絶ち!我が力の限り、人々の幸福を導かん───!!」

 

メルセデスさんの宝具が起動する。それは───メルセデスさん、ううん、あの人の宝具。“傷病者を助ける白衣の天使”という概念が結びついたモノ───

 

「“我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)”!!」

 

“フローレンス・ナイチンゲール”…!それが、あの人の真名!

 

「ナーちゃんっ!!」

 

「ええ───」

 

 

side 七海

 

 

《Noble Phantasm.》

 

ノウブル・ファンタズム。宝具。あたしは今、その宝具を起動する。

 

「…ありがとう、リッカさん。」

 

本当に、あたしは幸せ者だ。こんな読み手(マスター)に恵まれたのだから。本として、それ以上の幸福はあるのだろうか。

 

「越えて越えて虹色草原───白黒マス目の王様ゲーム。走って走って鏡の迷宮───」

 

詠唱を開始する。あの宝具と、詠唱は一緒。

 

「───みじめなウサギはさよならね。物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すように───あるいは二巻目を手に取るように。その読み手が、現実を拒み続ける限り───」

 

ここから。

 

「───けれど。読み手が現実を受け入れ、書き手が消失してしまったのならば。その物語の時間は止まる。」

 

「詠唱が…違う?」

 

リッカさんが気がついたみたい。

 

「物語の時間は止まり、物語に生きる者達の時間は止まり───世界は時を忘れ、色を忘れる。」

 

あたしの詠唱が紡がれるごとに世界が変化していくのが感じられる。

 

「物語は永遠の箱庭。さぁ、永遠に踊り続けましょう。永遠に遊び続けましょう?何もかもが止まった空想の世界(ワンダーランド)の中で。永遠に、永遠に───」

 

瞬間。あたしの周囲から、色が消える。

 

「───“時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)”」

 

これこそあたしの宝具。白と黒で構成された世界───“時間”が停止した世界。“永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)”みたいに“時を戻す”のではなく、“時を止める”。全力じゃないから完全に止めるまでは至ってないけれど。全力だと“喪失機関・無彩廃墟(ルインズ・ロストワールド)”という名になるのだけど。…それはいいか。

 

「でも、これで十分よ。」

 

あたしは静かにリッカさんから生まれたという獣に近づく。今この世界で普通に動けるのは、あたしだけ。

 

「さようなら。アナタを必要ない、とは言わないけれど。でも、あたしはバッドエンドよりもハッピーエンドの方がいいわ。今は静かに眠りなさいな?」

 

そう告げてから、五行で構成した剣を振るう。

 

「……ざっとこんなものかしら」

 

合計、3,000。それくらいの斬撃を入れて剣を消す───

 

「───アリス!!」

 

その、言葉がこの世界に響いた途端。世界に急に色が戻った。それと同時に抱きついてくるリッカさんの姿───って、ちょっと!?

 

「きゃっ!」

 

驚いて尻餅をついてしまった。

 

「大丈夫だった!?」

 

「…ええ、大丈夫よ。ありがとう、リッカさん。」

 

時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)”。あたしの手では解除できない固有結界。それは、マスターの“解除ワード”だけでしか解除することができない。

 

「よかった…!」

 

物語の世界をもう一度動かすのなら。もう一度、物語を手に取ればいい。それだけで、いいの。

 

 

side リッカ

 

 

【【【【【アァァァァァァァァァァァ、ギィィィィィ……】】】】】

 

ナーちゃんの攻撃によるものだろう、黒いスライムには無数の傷跡がついていた。

 

「さぁ、あとはリッカさんの仕事よ。」

 

「…うん!」

 

「───行きなさい!!」

 

ナーちゃんの言葉に押され、私は黒いスライムに駆ける。

 

【た、助けてくれ!!やめてくれ!お父さんを───】

 

「───ふんっ!!」

 

問答無用でお父さんの顔を拳で潰し、ドロドロになったその場所に左手を突っ込み、引きちぎる───Bloodborneの内臓攻撃。素手だけど。

 

【私は助けてくれるでしょう、お母さんだ───】

 

「───はぁっ!!」

 

今度は右手で伸ばしてきた手を弾き、体勢を崩したところに左手で殴りかかり、引きちぎる。───致命の一撃。

 

「───せぇぇぇぇい!!」

 

拾っておいた“仕掛け武器”───ノコギリ鉈で袈裟斬り。

 

【【【【【ギャァァァァァァァァァァァァ!!!】】】】】

 

【…どうでも、いいけれど。…あぁ。歌は、温かい…】

 

 

───VICTORY ACHIEVED

 

 

または、YOU HUNTED

 

 

その、獣と言われた存在は───確かに、そのすべてを断ち切った。

 

 

【…終わり、なんだね?】

 

「…うん。」

 

【…そう。】

 

崩壊が始まる。

 

【…世界。私には、もう関係ないだろうけれど。…頑張って】

 

そう言って、その私の可能性であろう存在は消滅した。

 

「…忘れないよ。」

 

聞こえていたか分からないけれど。その言葉が、周囲に響いた。




今回の歌声一覧

藤丸 リッカの歌声
有栖ヶ藤 七海の歌声
初音ミクの歌声



裁「マスター」

ん。準備は出来てる?

裁「できてる…」

了解、月!

月「開いたよ───どうか、無事で。」


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第237話 終幕───否、新たな扉

弓「月よ。」

月「…ん。はえ、呼びました?」

弓「うむ。マスターめはどこへ行った?ルーラーも姿が見えんが。」

月「…やるべきことをしに。」

弓「…そうか。」

月「あ、遅くなりましたがUA45,000突破ありがとうございます。」


「七罪───傲慢の罪、突破確認しました!」

 

私がそう言うと管制室内が沸いた。

 

「やったぁぁぁぁ!!これで危機は去ったんだよね!?人類の未来は続くんだよね!?」

 

「いえ、それは分かりませんけど……ともかく、希望ができたのは事実です!死の運命は───」

 

『うん、回避されてるね。現時点をもって、あの場所において魂の死は起こらなくなってる。』

 

星乃の言葉に六花さんがふらっと倒れかける。

 

「……っと。おいおい、六花。しっかりしろよ?」

 

「…あぁ、すまねぇムニエル。リッカが無事だって分かって…つい、気が抜けてよ。」

 

「お前、すげぇ心配してたもんな…ほら、とっとと休んでこい。この七日間ほとんど寝れてないんだろ?」

 

「…っはは。…いや、まだ休めねぇよ。リッカを迎えるまで、休むわけにはいかねぇ。」

 

「ったく…しゃあねぇ、付き合ってやるよ。」

 

六花さん、もうほとんど限界なんだろうけど…多分、大丈夫なんだろうな。…さてと。

 

「ギルガメッシュさん。これにて、マスターを喪う危機は去りました。貴方の目に、私達はどう映りましたか?」

 

私は管制室の後ろの方にいるギルガメッシュさんの方を向いて問いを投げる。

 

「うむ───聞け、皆の者!」

 

「「「「「───!」」」」」

 

「此度の観測、実に見事であった!マスターを喪うという重大な異変に対し、各々のできることを以てマスターを取り戻した!マスターめが無事に帰還することがこの作戦の終了を指すが、あえて今告げよう!このカルデアの力に偽りはないと!特に無銘の人格達が持つそれぞれの力は天晴の一言よ!その力、“司る”という言葉に虚偽はなく、この観測を成功まで導く基盤を作り上げた!当然、無銘の人格達のみが優秀であったのではなく、職員それぞれが優秀であった故に導けた結末よ!そうだな、空間を司る神月の巫女よ!」

 

その言葉に頷きで返す。私達だけでは起こすことができなかった。何故なら、七虹以外の私達はリッカさんと過ごした時間はまだ薄い。リッカさんへの強い思いを籠めることができないから、例え第三宝具を起動したとしてもどうしても歌力不足になる。歌が世界を越えられたのは、カルデアのスタッフ達のお陰だ。そして、観測が安定していたのも、カルデアのスタッフ達のお陰なのだ。

 

「認めよう、その功績を!貴様達のその価値を!このカルデアに不要な人材はおらんと!!」

 

「「「「「───はいっ!」」」」」

 

「よし、それではマスターの覚醒を以て───」

 

『待って!月、モニター見て!!』

 

突然星海の声が辺りに響く。

 

「モニター……」

 

モニターには、私達が空間や時間に干渉するための観測情報が示されている。レイシフトとかとは別の形式だから、転写してるだけなんだけど……

 

「……監獄塔に、新たな顕現反応!?」

 

モニターに表示されていたもの。監獄塔、それもリッカさんのすぐ近くに、何かが出現するという報告。

 

『これ───別世界からの干渉だよ!?』

 

「……!?星海、干渉してくる世界を逆探知!」

 

『ごめん、無理!逆探知しようとすると防がれるの!まるで、こっちの術が分かってるみたい───!!!』

 

こっちの術が分かってる……?

 

「……まさか」

 

コンソールを叩き、干渉反応の情報を表示させる。

 

「───コード:Stella.Luna.Solar.Soul.」

 

それは───確か。

 

「……あぁ。これは、無理だ。止められない。」

 

「どういうことだ、月!」

 

「私でも止められないコードだ…ねぇ、一体そこで何をするつもりなの───」

 

この、干渉元の相手は───あの人だ。

 

「───()()()()っっっ!!!!」

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「クハハハハ!!見事、見事だ藤丸リッカ!傲慢にて宿り、理不尽によって育まれた悪性の化身!獣はここに狩られたり!クハハハハハハハ!!」

 

嘲り、のようなものは感じられない。…きっと、心から笑っているのだろう。

 

「嬉しそうね。まるで、念願叶った子供のようよ?」

 

「そうとも、気分は痛快だ!オレは一度味わってみたかった!ファリア神父、貴方のように!絶望に落ちていたオレに希望を与えた貴方のように、オレも絶望に落ちている誰かに希望を与えたかった!」

 

「───“復讐者(アヴェンジャー)”」

 

復讐とは逆襲(リヴェンジ)ではなく仕打ちの当事者への報復(アヴェンジ)であり、その当事者を“世界”と“個人”であると定義する。“個人”への復讐が終われば“世界”への復讐になる。この世界が理不尽である限り、アヴェンジャーさんは世界を憎み続けるのだろう。

 

「ははっ、そうだ!分かっているじゃないか、リッカ!認めよう、お前はオレの願いを叶えさせてくれた!ただの一度の勝利もないオレに、“この世総ての悪”を討ち果たすという勝利をもたらしてくれた!世界への復讐は今、この場に成ったのだよ!」

 

そう言いながら笑い続ける。それを見て何かを思ったわけではないだろうけれど、月さんが私達に背を向けた。

 

「……帰る」

 

「あっ…帰っ…ちゃうんですか?」

 

「私にはもうこの場にいる理由はない。それとも───戦うか?」

 

その月さんの問いに首を横に振る。

 

「ふん。そうしておけ。」

 

「───あのっ!」

 

私が声をかけても月さんは止まらない。壁に空間の裂け目を開き、移動するつもりだ。

 

「眼鏡とスペルカード、ありがとうございました!!」

 

「っ───」

 

私の声に、動きを止める。

 

「……別に構わない。精々頑張ることだ。」

 

そう告げてその場から去った。最後に、眼鏡が彼女の情報を読んだ。サーヴァント・ムーンキャンサー。…“月の癌細胞”。(ルナ)という名前であり(つき)そのものの概念を持つ彼女は、その在り方を変質させてしまったのだろう。何かに絶望したことによって、月に直接発生した癌腫瘍へと。…でも。

 

「……ありがとうございました。本当に───」

 

希望“パンドラの箱”。パンドラの箱とは病魔や寿命、その他諸々が詰まった災いの箱。パンドラが開いたためにこの世界に災厄が振り撒かれたといわれる。…災厄が振り撒かれ、パンドラが慌てて閉じたその箱の中に、残っていた1つの“希望”。それをモチーフにしたのだろう。…東方原作のスペルカードとはちょっと違う形式な気がするけれど。

 

「私達も、帰るね。」

 

その声にミクさん達のいる方を見る。……月さん、“彼女達”って言ってたけど…本当にミクさん以外もいたみたい。というかVOCALOIDだけじゃなくてVOICEROIDもいるのは何故?ミクさんに至っては複数いるし…

 

「いつか、またどこかで会おうね。リッカちゃん。」

 

「あ……はい!ミクさん達も、ありがとうございました!」

 

「僕達、そこまで何かした覚えはないけど…ほとんどミクが、やってくれたしさ。」

 

「いつかまた、会えることを楽しみにしているよ。」

 

レンさんとリンさんがそう言った。

 

「じゃあ、みんな!元の世界に、帰ろう!」

 

ミクさんのその言葉を最後に、1人を残して全員消滅した。

 

「……」

 

「…?」

 

きりたんぽを背負った女の子。確か……“東北きりたん”さん。

 

「気をつけてください」

 

「え…?」

 

「貴女の旅路は辛いものになるでしょう。長いものになるでしょう。…けれど、どうか諦めないで。たくさんの出会いがあって、たくさんの別れがあって───貴女は次の世界の創造者となるのだから。」

 

「……」

 

「……部外者である私が言うのも、おかしい話ですけど。次の世界の創造者は貴女です。貴女が拒めばそれは新世界に存在せず、貴女が望めばそれは新世界に存在するでしょう。総ての選択は貴女次第です。しかし…忘れないでください。貴女の前に立ちはだかる敵は貴女が今思っているよりも遥かに強大でしょう。」

 

私が…思っているよりも?

 

「既に運命の歯車は廻り始め、この世界は緩やかに破滅へと向かっていっています。どうか、この世界に、貴女、に、幸せ、なけつま、つを───」

 

そう言って、きりたんさんも消滅した。…時間切れ、だったのかな。そんな感じがする。…ていうか、私UTAU詳しくないけどあの声…

 

「クハッハハハハ……なんと、なんと良いものか!絶望に堕ちたお前は、オレに、童話に、メルセデスに、人形に───そして堕ちた月巫女と電子の歌姫に導かれ、この世総ての悪を砕き、絶望から這い上がり、この塔を脱出する!なんと、希望に満ちた結末か!勝利無き復讐者であったオレに!導き手として、役割と勝利を与えた!そして、それはお前も同じだろう、童話───いや、有栖ヶ藤 七海!」

 

「あたし?」

 

「そうだ!お前は最早、他の“ナーサリー・ライム”とは違う!誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)ではなく、マスターの写し身でもなく、ただ一騎の“有栖ヶ藤 七海”という個人だ!“子供たちの英雄”という概念から外れ、“誰か一人のための英雄”となったお前は!他の誰にも劣らぬ個性を秘めるだろう!マスターに寄り添い、獣を討ち果たし、他とは違う“自ら”を確立させた!誇るがいい、アリス!お前はカタチのない本などではない!強固な自我を持つ、“誇り高き魔術師”であると!!リッカのかけがえない、矜持そのものよ!!」

 

「…!あたしが…誇り?リッカさんの…?」

 

「…うん。」

 

自分から言おうとは思ってたけど、言われちゃったし…仕方ない。ナーちゃんと向かい合って言葉を紡ぐ。

 

「ナーちゃん…ううん、七海ちゃん。あなたは私の誇りだよ。私には、あなたという凄いサーヴァントがいるんだ、って…心から誇れる。」

 

「───いいの?あたしで。あたし、なんかで───」

 

「───うん!私は、七海ちゃんがいい!」

 

「───あ、あり、がとう…」

 

顔を真っ赤にして私に背を向けた。

 

「……言わないと、ダメ…よね。」

 

「?」

 

「ええと…リッカさん。とりあえず先にだけど、しばらくは“ナーちゃん”呼びで通してもらえるかしら?“七海ちゃん”はちょっと気恥ずかしいわ…」

 

「え、あ、うん…」

 

「ええと……こほん」

 

ナーちゃんは落ち着いたのか、私の方を向いた。

 

「───藤丸リッカさん。」

 

「…?はい。」

 

「あたしは、有栖ヶ藤 七海は───ナナミ・ロスタイム・ウィスタリア・リームカント・アリスは。」

 

落ち着くように一呼吸。

 

「───あなたを、愛しています。…あなたのことが…好きです!」

 

「───え?」

 

唐突な告白。流石に私も、反応できない。

 

「返事は、後でもいいの。リッカさんが“愛”が分からないのはあたしも分かっているから。…本が人に恋をするなんて、変かしら?」

 

不安そうなナーちゃんを、そのまま抱きしめる。

 

「───うん。まだ、私に…愛は分からないけれど。出来る限り、ナーちゃんの気持ちに応えられるように頑張るね。…ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」

 

そう言った途端、温かさを感じた。…何かは、分からないけれど。

 

「クハハハハ!!“オレたち”の勝ちだ!虚偽の魔術王など節穴ばかりということだな!!」

 

そのアヴェンジャーさんの言葉に私達は離れ、察する。

 

「やっぱり───これ、偽のソロモンの…!?」

 

「そうだ。だが、その名を口にするのはやめておけ…と、言いたいが問題ないな。すでにお前の傍には真の魔術王がいる。思い出せ、ロンドンにて奴と目が合っただろう?その時、お前は呪われたのだ。ヤツにとって、それだけで十分だからな。」

 

「邪視…だったかしら。」

 

「そうだ。その時、致死の毒を盛られていたのだよ。カルデアに潜ませた滅びの獣。人理保証を崩す自爆機構───奴らはそれを作り上げたはいいが人間の悪性を全く理解していなかった。悪性を嫌っているというだけで、その管理を怠った。故に、手が付けられないと知ってここに落としたのだ。」

 

「自爆…機構」

 

「“これは違う”。愚かなことだ、カルデアだけを滅ぼすつもりが、自分だけでなく世界の概念そのもの、英霊の座すらも喰らい尽くしかねん手に負えぬ邪悪を生み出すとはな。その処分のためにこの場所に落とされた。オレにお前の恐ろしさを見せ、お前を抹殺するようにと。まぁ、従ってやるつもりは全くなかったがな。オレはオレのやり方で、お前を導き、獣を殺した。」

 

そう言ってから高らかに笑う。

 

「結果は───御覧の通りだ!!残念だったな、偽の魔術王!お前の計画はここで一つご破算となったぞ!獣としようとしたものは人となり、お前たちに牙を剥くだろう!そして、いつの日かこの少女は───」

 

愉快そうに。楽しそうに。アヴェンジャーさんは告げた。

 

 

「世界を!救うだろう!!クハハハハハハハハハ!!」

 

 

その瞬間───道が、生成され始める。虹色の道が。

 

「これ…出られるの?」

 

「そうだ!本来ならば、シャトー・ディフから出られるのはただ一人───そのはずだった!!」

 

だった?

 

「だった、ってどういうことかしら?何か異常でも?」

 

「あったとも!白き龍と世界を司る娘だ!!自らの宝を取り戻すため、シャトー・ディフのあらゆる概念、機構、理を破壊しつくした!!美しき獣もな!!シャトー・ディフに蔓延る怨念、苦痛、妄念といったものを屠ったのよ!地獄の沙汰など知らぬとばかりに!この世には触れてはならないモノ───真に逆鱗と呼べるべきものがあるということよ!!クハハハハハハハハハ!!」

 

ええっと…白い龍、ってことは多分ミラちゃんのミラルーツ。世界を司る娘…ってことは星海さん?

 

「…しかし、妙だな。」

 

「え?」

 

「道の展開が遅い。何か───」

 

アヴェンジャーさんがそう言った瞬間だった。突然強い魔力の流れが周囲を覆い、私の前に本来ないはずの形を作った。

 

「───扉?」

 

「…なんだ?これは…」

 

アヴェンジャーさんも知らないみたい。扉に触れてみる───

 

「…!」

 

理解。これは、私が行くべきものだ。…どうして、そう思わされるのかは分からないけれど。

 

「…ふむ。行くべきもの、か。」

 

全員に考えを話すと、全員が全員考えこんだ。

 

「…いや、オレ達が決めることでもないか。お前が思った道を行けばいい。」

 

アヴェンジャーさんの言葉に、ナーちゃん以外が頷く。

 

「ナーちゃんは?」

 

「…正直。あたしは、好きな人に危険へ飛び込んでいってほしくはないわ。」

 

だったら───

 

「だけど…それで引き留めて、どちらかが後悔するようなら───あたしは、迷わず好きな人を危険に飛び込ませることを選ぶわ。…一度きりかもしれない運命、後悔なんてしたくないもの。」

 

ナーちゃんが私に近づいてくる。

 

「約束して。絶対に無事で帰ってくるって。あたしと一緒に、カルデアに戻るって。」

 

「…うん、約束するよ。私は必ず───んっ!?」

 

私の言葉が紡ぎ終わるより前に。私はナーちゃんに唇を奪われた。しかも───深い。

 

「ぷはっ───約束よ?」

 

「───う、うん。」

 

「…おい。オレには百合の花が見えるぞ、メルセデス。」

 

「…認識障害、と言いたいところではありますが私の目にもそう見えます。」

 

意識が落ちそうです。どこでこんな技術磨いてきたの、ナーちゃん…何とか、意識保ててるけど。

 

「…じゃあ、行こうか。」

 

さらなる戦いがあるであろう扉の奥へ行くために、私はその扉を開いた。




弓「ところで月よ」

月「はい。」

弓「“歌唱魔法”とはなんだ?」

月「そのままの意味ですよ。歌うことで発動する魔法…Fate世界では魔術になりますか。とりあえずそんな術式系統です。」

弓「ふむ…」

月「歌唱魔法において一番重要視されるのは“どれだけ感情を籠められるか”。ただ上手いだけ、ただ声が大きいだけだとダメなんです。“どれだけ歌い手の感情が歌に籠っているか”。例え下手でも、例え声が小さくても、感情が籠っていればそれは大きな力になるんです。」


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第238話 第捌ノ罪科、其無知罪也

弓「無知の罪、とな。」

月「無知とは罪───よくある言葉ではありますが、少し毛色が違うかも…」


扉を抜けた先は、闇だった。…いや、完全な闇ではなく、発光する透明な足場だけが見える通路。この世のものではない───そんな感覚を覚える。

 

「……月想海……アリーナ…いいえ、予選会場から本戦会場に至るまでの道に、似てるわ…」

 

ナーちゃんが呟いた。…アリーナ?

 

「あぁ、ごめんなさい。分からないわよね。月想海…アリーナとはムーンセル内部に構築された仮想空間内のダンジョンのことよ。月の聖杯戦争において、各マスター達は猶予期間(モラトリアム)のうちに相手マスターとサーヴァントの情報を収集し、決戦に臨むの。…かつて、あたしもありすと3回戦までは勝ち残ったわ。」

 

「…“までは”、っていうことは…」

 

「……ええ。あたしは3回戦で負けた。マスターが持つサーヴァントが敗北したのなら、マスターはサーヴァント諸とも消去(デリート)される。それが、ムーンセルの定めた決まりよ。」

 

ということは…ありすさんは、その時に完全に“死”を向かえた、ということ。

 

「…ごめんなさいね、今のマスターの前で過去のマスターの話をするのはいい気分ではないわよね?」

 

「……ううん、大丈夫。別のマスターさんの話を聞けるの、結構楽しいから。」

 

「そうかしら?なら、いいのだけど。」

 

歩き続けていると景色が変わる。足場は変わらず、だけど周囲は虹色に変わっていて───レインボートンネル。そう、言ってもいいようなもの。

 

「月の聖杯戦争もこんな感じだったの?」

 

「……分からないわ。あたしは結局、始まりの時しかここに似たような道を見ていないもの。あのときはこんなに綺麗な配色じゃなくて、青を基調とした配色がほとんどだったもの。…エミヤさんなら、分かるかしら。あたし達を倒したのは、エミヤさんだったもの。もちろん、アーチャーの方のよ。」

 

アーチャーのエミヤさん…カルデアに帰ったら、聞いてみよう。

 

「それにしても……結構遠くまで来たかしらね。たった7日間、だけど…リッカさんの側にずっといられたのはあたしにとっても貴重な経験だったわ。」

 

ナーちゃん…

 

「もちろん、これで終わりなんて言わないわ。あたしはリッカさんにずっと一緒にいることを望まれて、何よりあたし自身がリッカさんと一緒にいたい。これでお別れなんて、そんなこと言わないわよ。あたしはリッカさんのことが好き。さっき言った言葉に、嘘偽りはないわ。重い、と言われるかもしれないけれど…自分の気持ちに、嘘は吐きたくない。」

 

そう言ってナーちゃんが苦笑いしたと同時に、景色が変わる。透明なのは変わらないものの、壁がある。

 

「……どんどん月のアリーナに姿形が似ていくわね。あぁ、それと…ごめんなさい。不安にさせたわよね?…大丈夫よ、何も言わずに座に帰るなんてしないわ。」

 

「……うん。」

 

「…困ったわ。リッカさんの顔色が暗いの。どうにか元気付け───っ!?」

 

顔を近づけてきたナーちゃんの唇を奪う。…ナーちゃんみたいに深いのはできないけど。唇を離して、困惑してるナーちゃんに一言。

 

「…仕返し。」

 

「っ……やったわね、リッカさん!さてはずっと狙っていたのね!?」

 

その問いに軽く笑って返す。

 

「その顔はそうなのね……!もうっ!カルデアに帰ったら覚えていなさい!」

 

「……うん。」

 

全てはカルデアに帰ってから。ナーちゃんの想いに本格的に応えるのも、カルデアに帰ってからになるだろう。歩き続けていた私達の前には、ここまでの起伏がない平面ではなく、坂があった。その坂の前で立ち止まる。

 

「覚悟はいいかしら、リッカさん。この坂を上れば、リッカさんが囚われた監獄塔での最後の戦いが待っているはずよ。」

 

そう言ってナーちゃんは小さく笑った。

 

「リッカさんの直感があたしにも引き継がれたのかしら。あたしに直感スキルはないはずなのに、強くそう感じるの。」

 

私も同じことを思った。そして、私の直感は“死ぬ危険性はない”と告げている。…戦いが待っているというのにおかしい話だと思う。単に相手が弱いのだろうか、私の命を狙っていないのか───いいや、違うだろう。この監獄塔で対峙した支配者達はどれも強敵で、私の命を狙ってきた。例外はないと思う……多分。

 

「……行こう」

 

私はそのまま歩を進める。ナーちゃんと手は繋いだままで。

 

「……どうしたらいいのでしょう。介入するのは野暮、というものですよね…アヴェンジャー。」

 

「だろうな…こいつらの間にオレ達の介入する余地はないだろうさ。」

 

そのまま上がっていくと、少し開けた場所に辿り着いた。目の前には───どこかで、見覚えのある扉。どこで、見たのだろう。

 

「別に、いっか。」

 

ここまで来たのなら、進まないといけない。そのまま扉を押し開ける。

 

「───」

 

その先は───巨大な、海。…ううん、満天の夜空の中に浮かんだ巨大な戦闘フィールド。壁はないように見え、星々が輝き、床は半透明の円板。恐らく、壁はあるけれど無色透明。天井はないように見えるが、恐らくはかなりの高さの壁なため、見えないだけなのだろう。

 

「相手はどこにいる?姿が見えないが。」

 

アヴェンジャーさんの言葉に周囲を見渡す。…確かに、私たち以外の姿はない───

 

「…あれは、何かしら」

 

ナーちゃんが示した方向。…扉。見つめていると、緩やかに開き始めた。

 

第弌ノ罪科(だいいちのざいか)嫉妬罪(しっとのつみ)───怪人“ファントム・オブ・ジ・オペラ”。第弍ノ罪科(だいにのざいか)色欲罪(しきよくのつみ)───剛漢“フェルグス・マック・ロイ”、白影“フルフル”、異形“触手”。第弎ノ罪科(だいさんのざいか)怠惰罪(たいだのつみ)───堕騎“ジル・ド・レェ”。」

 

足音。それと共に、扉の先から声がする。

 

第肆ノ罪科(だいよんのざいか)憤怒罪(ふんぬのつみ)───聖女“ジャンヌ・ダルク”、童話“ナーサリー・ライム”、異聞“亡月 美雪”。第伍ノ罪科(だいごのざいか)暴食罪(ぼうしょくのつみ)───大食“イビルジョー”、悪食“創詠 月”。第陸ノ罪科(だいろくのざいか)強欲罪(ごうよくのつみ)───正義“天草四郎時貞”、脳死“プレイヤー”。」

 

落ち着いた声、というべきだろう。…ボイスチェンジャーのようなものを使っているのか、声に少し違和感がある。そして、やっと───その存在は私達の前に姿を現した。

 

「そして、第柒ノ罪科(だいしちのざいか)傲慢罪(ごうまんのつみ)───悪塊にして七罪“虚無と複製の不完全なる獣”。」

 

赤いフーテッドケープを羽織った…女性?ボイスチェンジャーか何かのせいか、性別が読み取れない。月さんの眼鏡も情報を読み取ることができないみたい。もう1人、緑髪の女性もいるけど…ダメ、こっちも読み取れない。

 

「おめでとう、人類最後のマスター…藤丸 リッカ。貴女は七つの地獄を巡り、うち砕き、先を生きる資格を得た。これより先、この監獄塔からカルデアに帰るまでの間に貴女が死ぬことはないと断言しましょう。」

 

静か。とても、静か。これから戦闘が始まるかもしれない、というのに静かすぎる。その静かさが、余計に恐怖を煽る。

 

「あなたは…」

 

「…その疑問に答える前に一つだけ問う」

 

問い?

 

「自らの命と世界以外で、汝にとって今一番大切なものは何か。」

 

私の…一番大切なもの?

 

「…問いを変えよう。汝にとって、今一番大切な人物は誰か。」

 

それは───

 

「ナーちゃん。」

 

「あ…」

 

「未来はどうか分からないけど、今の私にとって一番大切な人はここにいる有栖ヶ藤 七海ちゃんだよ。」

 

「…そうか。」

 

…この人は、一体何をしたいのだろう。

 

「なら、もう一つ問う。───大切なものを守るために、力を欲するか?」

 

「ちか…ら?」

 

それは…

 

「力は欲する。…だけど、それは与えられるものじゃない。」

 

「…」

 

「与えられるものではなく、身につけるもの。与えられたのだとしても、それの使い方を理解して更なる使い方を模索する。…それが、私の“力”に対する考え方。」

 

「……そうか。それでこそ、だ。」

 

そう言ってその人は口元に手をかけた。

 

「…マスター。許可を。」

 

その、声は。酷く、聞き覚えのある女性の声だった。それと───

 

「マス…ター?」

 

背後にいる緑髪の女性に目を向ける。

 

「うん。分かったよ。…令呪を以て命じます。」

 

その女性が私達に向けて見せた左手の甲。そこに、赤い文様があった。───令呪。サーヴァントのマスターである証。形は…三日月、円、五芒星を組み合わせた形。

 

「“真名の解放を許可します”。」

 

一画。円が、消える。その言葉に、赤いフーテッドケープを羽織っていた女性が手に力を入れたのが分かった。

 

「続けて令呪によって命じます。」

 

“あのマスターを殺せ”。かつて、フランスでジャルタさんが指示した言葉。それが来ると、思っていた。

 

「───“後悔の無いように戦ってください”。」

 

二画目。三日月が、消えた。それを最後に、緑髪の女性は左手を下した。

 

「…了解、マスター。」

 

そう言い、フーテッドケープを羽織っていた女性は───そのフーテッドケープを、脱いだ。

 

「───」

「え───」

「何…!?」

「これは…」

 

全員が全員、別の反応をする。だって、その、女性の素顔は───

 

「───わた、し…?」

 

私そのものだったのだから。

 

「…そう。貴女は私。私は貴女。私は貴女にあり得る可能性。」

 

彼女は私と同じ声でそう告げた。

 

「初めまして、藤丸 リッカ。私は───藤丸 リッカ。此処までの貴女の旅路、ずっと見てきた。マスターと一緒に、この世界の外側から。」

 

この世界の…外側!?

 

「マスターから月さんが現れたということは聞いてる。…恐らく、その月さんは私と一緒に旅をした月さんだと思う。」

 

「え…」

 

「私と一緒に旅をしたことで、訪れた結末に絶望し、反転した。…多分。私自身も、深いところまでは分からないから。」

 

そう言う彼女の表情は、凄く…辛そう、だった。後悔している、というか。なんというか。

 

「…ナーサリー・ライム。私もかつて、この監獄塔を貴女と一緒に廻った。…貴女は、知らないだろうけれど。…私にとって、この場所の観測は懐かしい記憶を思い起こさせた。その時の感情は…今、藤丸 リッカが感じている感情と同じ。」

 

「…あなたも、リッカさんなのね。」

 

「そうであってそうではない。私は確かに藤丸 リッカ。けれど、そこにいる藤丸 リッカではない。辿る道筋は同じだとしても。…ナーサリー・ライム…いいや、有栖ヶ藤 七海。貴女の愛する人はそこにいる藤丸 リッカただ一人だ。」

 

…第三者から愛する人、って言われるのもなんだか恥ずかしい。…けど、その表情はやっぱり辛そうだった。

 

「…ねぇ、聞かせてくれる?あなたは、どうしてそんなに辛そうなの?どうしてそんなに───苦しそうなのかしら?」

 

それは、ナーちゃんも思ったみたいで。彼女に対して質問を投げていた。

 

「…私には、貴女を“ナーちゃん”と呼ぶ資格はないから。…貴女は、そこにいる藤丸 リッカだけの存在だから。」

 

「……そう。貴女にとってのあたしは、一体どうなったの?」

 

「………」

 

彼女は目を伏せた。…まさか。

 

「……死んだの?」

 

「……」

 

答えない。しばらく経って、微かに口を開いた。

 

「マスターが…召喚を試してくれてはいるけれど。…召喚、出来てない。私にとってのナーちゃんは、もしかしたら…」

 

「……そう、なのね。」

 

「…私の目的はただ一つ。」

 

殺気。

 

「私と同じ未来を起こさせないこと。私と同じ未来にさせないこと。…そのために、私はここに来た。」

 

彼女が手に取ったのは───預言書。ゲームと同じように、本の中から剣を抜き出した。

 

「武器を執れ、藤丸 リッカ。」

 

「…」

 

「…させないわよ。リッカさんはあたしが守る。リッカさんは殺させないわ!」

 

ナーちゃんがそう言って私の前に出る。…そういえば、エミヤさんは別世界の聖杯戦争において過去の自分を殺そうとしていたという。…それと、重ねたのだと思う。そのナーちゃんの行動に、何かに気がついたのか納得したような素振りを見せた。

 

「心配しなくても大丈夫。…既に、この場において藤丸 リッカが死ぬ可能性はない。」

 

「え…?」

 

「藤丸 リッカは既に規定された七つの試練を突破している。つまりは紛れもない勝者。勝者が消えるというのもおかしな話だ。」

 

そう言って剣先を床に叩きつける。

 

「故に。既に、この戦闘において藤丸 リッカが私に敗北したとしても、魂の死などはなく、肉体の死などもなく、カルデアに帰還するように設定されている。少しではあるが、理を弄ることはできるのでね。」

 

「死なない…?そう、なの?」

 

「こういうことについて私は嘘は言わない。…そう、決めている。」

 

嘘はなさそう。

 

「…ナーちゃん。此処は、私に任せてくれる?」

 

「え…」

 

「戦わないといけない気がするの。…他ならぬ、私が。」

 

どうしてかは分からない。…だけど、戦わなくちゃいけない。…そんな気がする。

 

「…お願い。」

 

「……わかったわ。約束、守ってよね。」

 

「ん。」

 

ナーちゃんが後ろに下がると同時に私の前に表示されるものがあった。

 

 

System Message         

 デュエル申請が行われました。

 受諾しますか?

 対戦者名:鍵のルーラー

    ok cancel

 

 

システムウインドウ。決闘(デュエル)システム…か。迷わずokを押す。

 

「…」

 

相手は預言書。なら───

 

「預言書、お願い」

 

こちらも預言書を用いるべきだろう。

 

「起動せよ、預言書。その力、ただの人間を英霊に変える神秘を与えたまえ───宝具“疑似展開・英霊刻印(ロード・デミサーヴァント)”」

 

私が告げた途端、預言書が光を放つ。私の身体が、変質していく気がする。

 

「…“疑似展開・英霊刻印(ロード・デミサーヴァント)”、か。懐かしい。」

 

彼女がそう言ったのが聞こえた。ふと見渡すと、ナーちゃんたちの姿がなくなっていた。

 

「あぁ、他の人員は隔離しておいたよ。…戦闘に巻き込まれるのも面倒だし」

 

「…それがいいかもしれない。」

 

どこかで見てくれているのだろう。なら、いい。私は預言書を開いて───“あの武器”をタップする。

 

「…!」

 

預言書に手を入れ、武器を引き抜く。数日前、やっと修復が終わったみたいでこれもできるようになったみたい。…ただ、出力不足なのか私を疑似的にとはいえサーヴァントにしないと動かせないみたいだけど。

 

「…」

 

引き抜き終わり、その剣を高々と掲げる。

 

「“ジェネシス”」

 

彼女の言葉に頷く。アヴァロンコード、チュートリアル戦闘の武器───“ジェネシス”。今の私には、これしか扱えないみたいだ。

 

「…それの扱い方、少しではあるものの教えよう。…そのためにも、私はここにいるのだから。」

 

「…お願い、します。」

 

『頑張って、リッカさん!』

 

ナーちゃんの念話に、頷きで返す。いつの間にかあったカウントダウンらしきものは12まで下がっている。

 

 

{戦闘BGM:夢の泉 夢の泉デラックスver.}

 

 

私が好きなBGMが流れ始めたのと、視界上にHPバーが伸びたのを見て彼女と同時にクスリと笑い。

 

「「…勝負」」

 

同時に同じ言葉を言って───

 

 

START!!!

 

 

視界上に火花が散ったのと、音楽の“ドンッ”と一気に質が変化する場所と同時。私達は地を蹴り、激突した。




月「夢の泉…それも夢の泉デラックス版ってことはデデデ戦の…」

弓「何故これを選んだのやら…」

月「お母さんが好きだからだと思いますよ、この曲。」


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第239話 第捌ノ罪科、其無知罪也・鏡写

弓「鏡写(かがみうつし)…か」

月「実際、あの鍵のルーラーさん…リッカさんって、衛宮士郎さんに対するエミヤさんみたいなものですから。目的は“自分を殺す”ことじゃないですけど。」

弓「……そうか。…頑張るがいい、()()()()()()()よ。貴様の大切な者、どれだけの時間がかかろうと我が必ず喚び出してやろう。無論───かつての姿そのままで。」


剣が交差し、火花が散る。彼女の戦いは私よりも巧い。気を抜けば、私の方がやられるだろう。経験量の差、か。

 

「やぁっ!!」

 

片や両手“ジェネシス”、片や両手“錆付いた 歴戦の剣”。攻撃性能的には私よりも彼女の方が低い。ジェネシスは初期武器ではあるが、その力は旧世界での武器の残滓。攻撃力は160。錆付いた歴戦の剣は最初の戦闘が終わるとジェネシスから変化する剣。攻撃力は29。実に5.5倍もの攻撃力の私が打ち負けるのは、彼女の経験量が私よりも遥かに高いからだろう。…私は、この武器を初めて使う。それに比べて、私とは別の世界───恐らく未来から来た彼女は経験は豊富なはずだ。

 

「クイックチェンジ、コード:マギア1!」

 

埒があかないと距離を取り、クイックチェンジ。4つの光球が私の周りを浮遊する。

 

「集中“スターシューティング”!」

 

集中ショットの1つ、“スターシューティング”を起動する。

 

「……お兄ちゃんの、弾幕発射体(ショット・スフィア)…か。」

 

やっぱり、知ってた。“辿る道筋は同じ”、って言ってたから私が今まで巡ってきた特異点も、これまで会った人達のことも全く一緒なのだろう。そして───彼女が出会った人は、私がこれから出会う人にもなるのだろう。

 

「……クイックチェンジ、コード:マギア1。」

 

私と同じ言葉を唱え、4つの光球を浮遊させる。…まるで、鏡だ。わざと合わせているのだろうとはいえ、同じ顔と同じ装備では、どちらが本物の私なのかが分からなくなりかける。

 

「拡散“フローラルスプラッシュ”。」

 

彼女が選んだのは拡散ショット。花と香の弾幕。今現在弾幕発射体に登録されているのは9種。その弾幕は大きく分けて3種類の弾幕に分けられる。

 

花と香の弾幕。広い範囲に放たれる範囲制圧型。

 

星と昼夜の弾幕。狭い範囲に放たれる一点集中型。

 

妖精と精霊の弾幕。複雑な軌道で放たれる対象追尾型。

 

私が以前に放った“フェアリーショット”は一度周囲にばらまいたあとに時間差で相手を追尾する弾幕。今回使った“スターシューティング”は狙った一点に向けて星形弾を放つ弾幕。彼女が使った“フローラルスプラッシュ”は自機狙い、自機外しを不規則にばらまく弾幕。

 

起動(スタート・フライ)!」

 

登録されている拡散ショットの中でも面倒くさいのはこの“フローラルスプラッシュ”だ。ゲームと違って三次元弾幕であるこれらは三次元機動でなければ避けきれない。その三次元弾幕の中でも場の制圧力が高いのは避けきるのが難しい。

 

「……」

 

私が飛んだのを見て、フローラルスプラッシュを止めた。そして───羽も生やさずに飛んだ。

 

「えっ…!」

 

「…クイックチェンジ、コード:ワンハンドソード1。」

 

驚いている間に彼女はクイックチェンジ。その手に握られているのは───ロングソード。

 

「クイックチェンジ、コード:シールド1!」

 

迷っている暇もなく、防御を選択。出現したのは大盾───マシュみたいな十字盾ではない、四角い盾。

 

 

ギィィィィン!!

 

 

騒音を立てて剣が止まる。…マシュなら、受け流すとかできたんだろうけど。私はまだ大盾の扱いに慣れてないから…今度、マシュの時間が空いているときにでも教えてもらえるか頼めるかな…

 

「他の事を考えている余裕なんて───」

 

鈍い衝撃。嫌な予感がして大きく飛び退く。

 

「───与えないから!」

 

瞬間───青白い光。“はっけい”、だ。波動グローブなしで、彼女は放った。

 

「…!」

 

慢心していたつもりもないけど、甘く見過ぎていたのかもしれない。紛れもなく、彼女は強敵だ。私と同じ姿ではあるが、知識、戦闘勘、体術、技術───総てにおいて私を遥かに上回っている…!!

 

「クイックチェンジ、コード:マギア1!」

 

もう一度マギア1に戻し、弾幕発射体を浮遊させる。選択するは花と香の弾幕の通常ショット、通常“フローラカレイドスコープ”。まずは私を中心に放射状にばらまき、狙った方向にある弾幕だけはそのまま直進し、それ以外は左回転と右回転に分かれて動く弾幕。かと思えば私に向けて弾幕が収束し、そうかと思えばすべてが相手に向かう。初見では不規則に動きが変化するように見えるものの、実は固定されたパターンを何度も繰り返しているだけ。通常ショットは拡散ショットと集中ショットの中間的な性能を持つものの、それは“スペルカード”に近い弾幕を形成する。

 

「通常ショット……は、少し厄介だな……」

 

そう言いながらも弾幕を避ける彼女。…弾幕は、不利か。

 

「……」

 

弾幕?

 

「───あっ。」

 

忘れていた。スペルカードを。

 

「スペルカード───月符“ダークヘルケージ”!」

 

「…!?」

 

彼女が困惑の表情を浮かべた。ということは───これを、知らない?

 

「これ、月さんのスペル…!くっ、避けきれるか……!」

 

紫色の檻が彼女を包む。周囲が真っ暗になり、何もない空間から紫色の弾幕が不規則に放たれる。まるで───紫さんの“人間と妖怪の境界”だ。…そして、これはどうやら月さんが使うスペルカードらしい。

 

「…っ。」

 

被弾した音がする。ふとHPバーを見ると、私が残り8割、彼女が残り9割といった感じになっていた。…不利、か。

 

「クイックチェンジ、コード:エンプティ。」

 

私のコマンドに応え、弾幕発射体が消える。エンプティ───武装解除。クイックモードはアーム…つまりは武器限定にしてるから全裸になるとかはない。ていうかそれは流石に恥ずかしい。

 

「───っ、はぁ、はぁ…スペルブレイク、このスペルは動きにくくなる代わりに効果時間が短い…あまり使われないから、攻略法忘れてた。」

 

少しするとスペルが終わったようで、息を切らせた彼女がそう告げた。

 

「───シィッ!!」

 

「…!」

 

“ジェネシス”を持った私の急襲にも瞬時に“錆付いた 歴戦の剣”を取り出して対応するあたり、本当に彼女は強い。体勢を崩しながらも互角───いいや、私が押し負けるのだから。

 

「「───“ソニックリープ”!!」」

 

同じ装備傾向───二刀流で、同じソードスキル。同じソードスキルを対面で発動したのなら、訪れる結末は───相殺、あるいは力の弱い方の押し負け。

 

 

ギィィィィン!!

 

 

結果は、相殺。武器性能の差なのか、相殺まで持ち込めた。鍔迫り合いのような状態になった───のだけど。

 

「……!?」

 

流れ込んでくる、魔力。流れ込んでくる───風景。…橙色の髪の少女と黒い龍が対峙している。

 

「っ!」

 

一度弾いて距離を取る。その風景も、消える。…今のは…

 

「───セェッ!!」

 

「…!ハァッ!!」

 

考える隙も与えない、というように私に追撃してくる彼女。それを受けると、また風景が浮かぶ。

 

 

───何故あなたは無意味だと断じたの!!この世界が、私達が何故無意味だと!!ゲーティアのように人類に失望したのか、あなたは!!

 

───否!人類など我にはどうでもいい!!

 

───なら、何故!!

 

───知れたこと!預言書の運命は無駄の繰り返しだ!!世界を創ればまた世界を崩壊させ、また創れば世界を崩壊させるだけの意味のない世界を繰り返している!我はそのようなもののために預言書を作ったのではない!!我はより良い世界を創るために預言書を作ったのだ!!

 

───無駄なんて、無意味なんてこの世界にあるものか!!あなたの世界も、前の世界も巡り巡って今に繋がっている!!決して世界の全てが無意味だなんて、そんなの認めない!!

 

───ならば我に証明して見せろ!!お前が正しいと!!お前の信念、お前の意地───我に示せ!そして我を、最後の審判を打ち砕け、藤丸リッカァァァァァァ!!!

 

───言われなくとも…!!私はあなたを越えて見せる、ミラボレアス!!

 

 

これは───記憶?戦闘しながら、並列思考でそちらにも集中する。

 

 

───どうした、そんなものか!!

 

───…っ!

 

───所詮、お前の意地もその程度ということだ!ならば必要ない、世界諸共消えるがいい!!

 

───させ…ないっ…!

 

───まだ、立つか!

 

───スペル…カード!恋符“七色峠の恋物語”!!

 

───何…!

 

───私は、まだ…終わってない!

 

 

恋符…?いや、それよりも…今、弾幕発射体も、私が使っていた紙もなしに、スペルカードを使った?

 

…それから、私と彼女は何度も激突して。それごとに、私の剣は鋭くなっていって。そして───記憶も、私に蓄積していった。

 

 

───ふん。やっと、沈黙したか。

 

───……

 

───もはや、動くこともできないか。…やれやれ、しぶとかったな。…さて。裁定は下った。

 

───……

 

───この世界は抹消する。これより先、預言書が現れることも、次の世界が創られることもない。…歴史も何もかも、我が存在すらも。総て、消えてなくなる。

 

───っ……

 

───動くな。既に裁定は下った。…力も入らぬであろうが。お前の刃は、我には届かなかった。…それだけのことだ。

 

───…

 

───大人しく終焉の炎に焼かれよ。この世界は滅び、後に作られる世界もない。全てに、終わりが訪れるのだ。

 

───……

 

───…ふん。無駄だったな、総て。終焉せよ、総て。我が炎は世界を焼き滅する裁きの炎。───“終焉ノ焔(フェイタル・フレイム)

 

───…ごめんなさい…私…勝て、なかった……ごめん…ニキ……星羅……アル……ギル………ごめんね、私の大好きな人…ナー、ちゃん…

 

 

それを最後に風景は炎に包まれた。この記憶の映像…彼女は……世界を、滅亡させてしまったのか。一度、私が夢で見た黒い龍───ミラボレアスに敗北したことで。

 

 

───……ここ、は…

 

 

場面が変わった。どこかの、白い部屋。

 

 

───初めまして。…貴女が、私のサーヴァントなのかな?

 

───……っ!?え…!?

 

 

彼女が声をかけてきた人の姿を見て驚いた。その人は───さっきの、緑髪の女性。

 

 

───…?ええっと…クラスと…名前を、聞いてもいい?

 

───…私は…ルーラー。真名は…“藤丸 リッカ”、です。

 

───…あの。

 

───ん?

 

───…創詠 月さんは、いますか?

 

───……どうして、初対面の貴女が私の娘の名前を知ってるの?

 

 

不審がる緑髪の女性。その女性に、彼女が事情を説明していた。

 

 

───…未来から来た、か。なるほどね…

 

───信じて、くれるんですか?

 

───もう貴女は知ってるだろうけど、私の娘達には時間を操る子もいるからね。信じない、なんて言わないよ。…まぁ、確証はないけど…

 

───なら…これ。

 

───眼鏡?…って、これ…月の娘のまた娘が原型を作った“雑務メガネ”!?

 

───そういう、名前なんですか?

 

───…月に聞いてみるしかないね。私じゃ正確なことは言えないから。

 

 

そこから移動して、黒髪ツインテールの女性と対面する。

 

 

───月、こちら、さっき召喚した“藤丸 リッカ”さん。で、リッカさん。こっちが、私の娘の1人で…

 

───“創詠 月”です。よろしくお願いしますね、藤丸さん。

 

───あ、はい…よろしくお願いします。

 

───ね、月。これ…

 

───…これは…雑務メガネ?制作年代は…2015年?で…あれ?この世界コード、私知らないよ?お母さん、これどこで?

 

───それが…

 

 

お母さん、と呼ばれた緑髪の女性が月さんの質問に答える。

 

 

───なるほど。未来からの召喚…ね。

 

───英霊召喚においてそういうのってあるの?

 

───う~ん…正直私達の世界から見て並行世界から召喚されてるってことだから、なくはないと思う。そういう術式は…実際私じゃなくて星海の管轄が主だから何とも言えないけど。一応星海には連絡しておくね。

 

 

そう言い、月さんは何かのウインドウを弄ってから消した。

 

 

───藤丸さん。1つ、聞いていいですか?

 

───…はい

 

───貴女が聖杯に望むことは何ですか?

 

───私が…聖杯に、望むこと……

 

 

月さんからのその問いに、彼女は考え込んだ。考えて、考えて───口を開いた。

 

 

───やりなおすこと。私の過去を…月さん達にとっての未来を。…絶対に、過去の私みたいな結末にしないこと。…それが、私の望みです。

 

───……そうですか。

 

 

やりなおし…

 

 

───リッカさん!

 

───マスター?

 

───ちょっと来て!

 

 

場面は変わって、彼女は緑髪の女性に手を引かれてカルデアの管制室のような場所に来ていた。

 

 

───月!星海!さっきの出して!

 

───ウインドウ、出すね。

 

 

星海さんがそう言ったと同時に、いくつかのウインドウが開かれる。

 

 

───見て、これ!“華紬 ニキ”と“藤丸 六花”、“ルナセリア・アニムスフィア”に“オルガマリー・アニムスフィア”!

 

───……これ……

 

───残念ですが、リッカさんのいた世界ではありません。…ですが、リッカさんのいた世界と著しく酷似しています。

 

───これ、年代は…?

 

───現観測年月日は2008年6月4日ですね。細かく観測したところ、“藤丸 リッカ”という少女も発見されました。

 

───…私が、小学三年生の頃…か…

 

───どうする?リッカさん。この世界に…この世界に生きている貴女として、入る?

 

───……いいえ

 

 

彼女の答えは、拒否だった。

 

 

───この世界に生きている私として入る、ということは“この世界に生きている私”を“今ここにいる私”で塗りつぶすということでしょう。…そんなこと、私は望んでいません。

 

───…そっか。だったら、どうする?この世界の観測…やめる?

 

───続けてください。そして…マスター、お願いがあります。

 

───お願い……?

 

───私が今から言う時が来たら、私をこの世界に連れていってください。…この世界に生きる私ではなく、別の存在として。

 

───……別の存在…つまり、リッカさんとこの世界に生きるリッカさんは別人、ってこと?

 

 

その問いに彼女は頷いた。

 

 

───私の全てを、彼女に託します。…どうか、私の二の舞にならないように。

 

───………

 

───託したあとも消えるつもりはありません。ただ、私は…私が辿るはずだった運命を、私が願った未来を彼女に……本当の私へと託します。それが、過去の私を見つめる機会をもらえた意味だと思いますから。

 

───……

 

 

緑髪の女性は深く考え込んでいた。

 

 

───……分かった。その願い、聞き届けるよ。その時期はあとで聞くとして…他に何かある?

 

───…では、もう1つ。

 

───何?

 

───私の真名を、隠してください。…“藤丸 リッカ”ではなく、“鍵のルーラー”と。そう、呼んでください。来る時まで、真名を隠し続けてください。

 

───……分かった。

 

 

記憶の映像はそこで終わっていた。HPバーは双方共に残り1割。いつの間にか互角にまでなっていたみたい。

 

「……」

 

彼女の表情は変わらない。というか…予想外、ではなく。分かっていた、というような表情。彼女が大きく飛び退いたのを見て、私も大きく距離を取る。

 

 

「「………」」

 

 

一度視線が交差してから同じ構え。起動されるソードスキルも───また、同じ。

 

「「“ヴォーパル───」」

 

左手は前に。右手の剣は後ろに引き───

 

「「───ストライク“!!」」

 

突進と共に突きだす。本来の“ヴォーパル・ストライク”よりも遥かに長い射程をもって起動し、私と彼女の立ち位置が逆になる───

 

「コネクト───“ホリゾンタル・スクエア”!」

 

その、ヴォーパル・ストライク後の硬直に向けて。剣技連携(スキルコネクト)を用いてホリゾンタル・スクエアを放つ。

 

「……お見事」

 

そんな、声が届いた瞬間───最後の4撃目が入り、彼女が吹き飛ばされた。

 

 

YOU WIN

 

 

少し落ち着くと、私の視界にそんな言葉が表示されているのに気がついた。私のHPは…残り0.1%。彼女のHPは…0%。ギリギリの戦い、だったみたい。




月「なんとか終わったみたいですね……」

弓「我が召喚されるよりも前、あんなことがあったのか、月よ。」

月「えぇ、まぁ。」


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第240話 真の終幕───託された願い、未来を臨む最新の神───目覚める獣

月「…終わった、みたいですね。」

弓「そうさな。…さて、マスター達を迎える準備でもするか。」

月「そうですね。」


「───お見事。」

 

私から少し離れた位置にいた彼女は、私にそう告げた。

 

「よく私を越えた。戦いの中で私を吸収し、自らを強化した。おめでとう、藤丸リッカ。貴女はこの先の困難に立ち向かうための知識と技術を得た。」

 

その言葉に苦笑する。───その時。

 

「───リッカさん!」

 

「あ、ナーちゃ───んむっ!?」

 

抱きつかれると同時に唇を奪われる。さっきよりも、深い…っ!

 

「……」

 

「───ぷはっ!はぁ、はぁ……もう、心配したのよ!」

 

「はぁ……はぁ………」

 

彼女の前で息が続かなくなるレベルまでキスされた……もしかして、これがナーちゃんの本気……?…あ、やばい。腰が抜けてる…

 

「あ……っと……ちょっと、やりすぎた…かしら?」

 

「…懐かしいな、ナーちゃんの本気の長時間ディープキス。しばらくしたら私も慣れたけど、慣れない間は貴女みたいに腰が抜けてたな…」

 

彼女が懐かしそうにそう呟いた。

 

「じきに慣れるよ、貴女も。…貴女の未来の姿である私が言うんだから、間違いない…と思う」

 

「…」

 

最初の深いキスから、思っていたことがある。息が苦しくなるとしても、腰が抜けるとしても。…ナーちゃんとなら、嫌じゃなかった。中学生の頃とかに迫られたときは拒否反応みたいなの起こしてたけど、今、ナーちゃんとなら全く拒否反応を起こさない。…嫌だとも、思わない。…あぁ、私は…無意識にではあるだろうけれど、ナーちゃんのことが本当に好きなのかもしれない。

 

「あの…えっと。」

 

「……リカって呼んで。私も貴女も“リッカ”だと面倒だから。」

 

「あ、じゃあ…リカ、さん。」

 

「何?」

 

「リカさんの世界において、リカさんとリカさんにとってのナーちゃんって最終的にどんな関係だったんですか?…記憶から、死に別れたのは分かりましたけど。」

 

末期の記憶から伝わってきた感情は、謝罪と、後悔。それと…ナーちゃんに対する強い想いだった。

 

「私と、ナーちゃんか。…恋人同士だったよ。女の子同士だけど付き合ってた。他のみんなが総じて認める、百合カップル。一緒のベッドで寝て、目覚めは多種多様な起こし方で……まぁ、周囲からはたまに“バカップル”って言われたけどさ。でも、私達には関係なかったっていうか。恋は盲目っていうけど、本当にそうかもって思った。さすがに所構わず、っていうのは…ほんと序盤の頃くらいかなぁ…確かにそういう時期があったのも本当のことだし。ただ、キスしてる時に部屋に誰か入ってくるとかはあったよ。……清姫さんとか。」

 

清姫さん……かぁ…

 

「最終的にどんな関係、って言われたら……うーん…“結婚を前提にお付き合いしている恋人同士”、とか?お兄ちゃんやお母さんは私達の交際認めてくれてるから、特に問題はないし。」

 

「でも……女の子同士だと…」

 

「子供の件は大丈夫だ、って当時のお兄ちゃん言ってたよ?同性同士でも子供は作れるから、って。」

 

どうやって…

 

「……そういえば、あたしがここに来るとき、ドクターが女性になってたわね…」

 

ドクターが…女性に?……あ。そういえば少し前に性転換関係の魔術を開発してるとかって聞いた気もする。…まさか、ね…

 

「……ね、ねぇ。リッカさん。ナーサリーさん。」

 

「「…?」」

 

「ええっと…貴女達のキス、もう一度見せてもらえる?…今は少しでも、懐かしい気分に浸りたいの。」

 

その要望に私とナーちゃんは顔を見合わせる。

 

「あ、嫌だったら断ってくれていいんだよ…?」

 

「……リッカさん。貴女はどうしたいかしら?」

 

「ええと……よ、よろしくお願いします…?」

 

「なんで敬語なのよ……」

 

何故か敬語になった、としか。もう色々と不味いのかもだけど…ナーちゃんとならいつでもキスはしたいし。

 

「…まぁ、いいわ。あたしもリッカさんとならいつでもキスはしたいもの。ええと…リッカさん、貴女からお願いできるかしら?さっきはあたしからだったものね。」

 

「私、深いのできないけど…いいの?」

 

「いいわよ。深いキスのあたしに、浅いキスのリッカさん。ちょうど釣り合いはとれていると思うわ。…まぁ、それで決めているわけでもないし、ただの偶然だけれど。」

 

……深いキス、覚えよう。いつか、ナーちゃんの意識を私のキスで落としてみせる。

 

「……なんだか…よく分からない決意をさせてしまった気がするわ、あたし。」

 

「あ、あはは……」

 

彼女───リカさんも乾いた笑い声を上げた。私と同じ、ということは彼女も同じ決意をしたのだと思う。結果は……ううん、聞きたくない。私は私、リカさんはリカさん。この世界での私の未来は、私だけのものだから。リカさんが見せてくれたのは“道筋”と“記憶”。私がこれから先、どんな困難にぶつかるか。その結果、リカさんはどうなったのか、だから。

 

「……それじゃあ、お願いするわ。」

 

ナーちゃんが目を閉じる。私はナーちゃんの唇に自分の唇をそっと重ねる。…そして、ナーちゃんの身体を私に引き寄せる。…今の私の経験だと、これくらいが限界。

 

「…ふぁぁ。……勢いに任せなかったり急じゃなかったりするとこんなに恥ずかしいのね…」

 

「……うん、私もそう思う。」

 

ナーちゃんはその顔を真っ赤にしていた。…私も、顔が熱い。多分、顔が真っ赤になってるのだろう。

 

「……ありがとね、2人とも。無茶なお願い聞いてもらって。」

 

「…これで、満足だったかしら?」

 

「…うん。」

 

リカさん…表情はまだ、暗いけど。それでも少し、明るくなった気がする。

 

「そう。…今度は、貴女自身がするべきね。ただ見ているだけより、実際にしている方がいいわ。」

 

「うん。…そうする。ナーちゃんを召喚できたら、その時は……目一杯、ナーちゃんに甘えよう。」

 

「…そうしてくれた方が、そのあたしも嬉しいと思うわ。」

 

ナーちゃんがそう言った途端、周りの景色が変化した。星のある夜空じゃなくて…夜明け、みたいな。

 

「……世界の崩壊が近いんだね」

 

「え……?」

 

「元々ここは、シャトー・ディフにはない領域。私達が構成した、ただの戦闘フィールド。でも、その場所との接続を維持するために楔が必要だったから、シャトー・ディフの補強もしてた。」

 

「ふむ…それが理由か、道が現れるのが遅かったのは。」

 

アヴェンジャーさんがそう呟いた。

 

「そう。それが、予定されていた戦闘が終了した今。この世界は崩壊する。…って、壮大に言ってるけど別に世界とその世界の中にいる人が消滅するわけじゃないから安心してね。世界は消滅し、中にいた人々はそれぞれ元いた場所に帰るだけだから。ナーサリーさんは、ちゃんとカルデアに帰るよ。」

 

それを聞いて少しホッとした。

 

「……あ、そうそう。これは餞別」

 

リカさんがそう言って、私に何かを投げてきた。慌てて受けとる───

 

「ガム?」

 

それはガムに見えた。球体のガムを、数十個詰めたボトル。赤と青で2種類、それぞれ色分けされてボトルに詰め込まれている。

 

「これは…?」

 

「青いのは“暴走制御補助剤”。今の貴女だと、まだ暴走を完全に制御することはできないから。」

 

───!

 

「赤いのは“暴走誘発補助剤”。簡単にいえば好きなときに暴走できる。暴走のスイッチが難しいのは知ってるでしょ?そのスイッチを無視して暴走を起動させるもの。」

 

「……いいん、ですか…?」

 

「別にいいけど…ていうか、それを渡すのも目的だったから。早いうちから暴走を制御する感覚をつかんでおいた方がいいから。」

 

「……」

 

暴走の制御。それは、憤怒の制御とも言える気はするけど…

 

「ええとね…私達の“暴走”っていうのは簡単な話“死ぬ気モード”なんだよ。あれって自我っていうより本能で動いてるでしょ?そうじゃなくて、自我をもって動ける“(ハイパー)死ぬ気モード”にする…それが制御された暴走なんだよ。」

 

……なんとなく分かったような分からないような。ということは…憤怒の制御とは違う、っていうことか…

 

「まぁ、後は慣れかな…あれこれ教えられるより自分で試した方が早い気がする。…あ、そうそう注意点。暴走誘発補助剤の方は1日1回まで。まぁ、少なめにはしてあるけど…ちゃんと守ってね。」

 

その言葉に頷くと、リカさんも満足そうに頷いた。

 

「じゃあ、私はそろそろ帰るね。マスター!」

 

「はいはい…ゲートを開くよ。」

 

緑髪の女性がそう言うと同時に先程リカさん達が出てきた扉が出現した。

 

「じゃあね。…頑張ってね、この世界の私。」

 

「……あの!3つ、聞かせてください!」

 

「3つ…?」

 

リカさんが扉の奥に入る前に、声をかける。リカさんは立ち止まって私に振り向いてくれた。

 

「ええっと……さっき、見ました。貴女の、記憶を。貴女のいた世界は…滅亡、したんですよね?」

 

「……」

 

首肯。思い出すのは辛いだろうけど、どうしても聞きたかったことがある。

 

「あの世界で、貴女が謝っているとき。貴女は、凄く辛そうな表情をしていました。……貴女は一体、何を“視た”んですか?」

 

「…何を“視た”、か……」

 

そう呟き、リカさんは目を伏せた。

 

「世界が、みんなが燃えるところを。…ナーちゃんが、燃えて…指輪を嵌めた左手を大事そうに包み込みながら焼けていく姿を……視て、しまった。」

 

指輪……?

 

「私は…ずっと一緒にいる、って約束したのに……その約束を、果たせなかった……」

 

リカさんが左の手袋を外すと、人差し指に青色の指輪───服装変化用の指輪。中指に紫色の指輪───翻訳の指輪。小指に白色の指輪───通信用の指輪。そして…()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

「……ねぇ、リッカさん。…どうか貴女は、私みたいな結末にしないでね。…私みたいに、死んでもずっと後悔することになるから。」

 

その言葉にぎこちなく頷く。

 

「…他の質問は?」

 

今の話は終わり、というように次の質問を聞いてきた。

 

「えっと…ここに入る前、扉を潜りました。…その扉が、どこか見覚えのある扉で。…ご存知、ですか?」

 

「……マスター?」

 

「ゲートイメージオブジェクトはランダムにしたから何が出たんだろ……ちょっと待って」

 

緑髪の女性がウインドウを弄ると、目の前に私が見た扉が現れた。

 

「これかな。……うん?あれ、これって…」

 

「これ、“プリズムのトビラ”…?」

 

プリズムのトビラ……?

 

「覚えてない?一番最初に3DSで出たプリパラのゲームで、こんなのあったよ。」

 

「……あっ!?」

 

そういえばそうだ…!プレイヤーが現実世界からプリズムショーの世界に転移する時に通った扉!それがこんな扉だった!!

 

「ええっと…マスター、本来の性質は確か……」

 

「“プリティーシリーズの世界に誘う”、だね。もっとも、イメージでしかないこれにそんな力ないけど…」

 

それを聞いて少し安心。流石に今これからあの世界に行くって考えるとちょっと。デートって考えればいいのかもしれないけど…うん、あの世界結構ドロドロしてなかったっけ?人間関係とか陰謀とかで。…で、私の勘が正しければ高確率でそれに巻き込まれるから…それと、カルデアの補助がないと色々危険、っていう警告が鳴り響いている。…おかしいな。本来平和なはずなんだけどな、あの世界。

 

「…扉に関してはこんな感じかな。他には?」

 

「あ…えっと」

 

少し、ナーちゃんの前で言っていいかも悩む。

 

「…?あぁ、リッカさん。」

 

「ナーちゃん?」

 

「別にあたしは、リッカさんが別の誰かと関わっていても気にしないわよ?これから先、多くの人達と関わるのがリッカさんなのだから、そこを縛ってしまったら何もできないわ。」

 

「…いい、の?」

 

「ええ。ただ、あたしがリッカさんの一番であればいい。流石に、リッカさんの行動すべてを縛る気なんてないわよ。」

 

「…わかった。」

 

その言葉を聞いてリカさんに向き合う。

 

「えっと、リカさん。」

 

「…?」

 

「───また、会えますか?」

 

私の言葉に、彼女は驚いたような表情をした。

 

「…私と、会いたいの?また?」

 

頷く。すると、リカさんは少し悩み始めた。

 

「……マスター。」

 

「いいんじゃない?…貴女の意思を尊重するよ、私は。貴女が思うとおりの事をすればいい。」

 

「……いい、んでしょうか…」

 

「ただの放任主義っていうだけかもだけどね~」

 

確かに、そうかもしれない。緑髪の女性は、ここまで特に干渉してきてないし。

 

「…じゃあ」

 

リカさんが私の方を向く。

 

「いつか。…時が来たら、私はもう一度あなたの前に姿を現す。…それで、いいですか、マスター。」

 

「はいはい…その時もゲート作るしかないね、そうなると。大丈夫、問題ない。」

 

うん、フラグに聞こえたのは気のせいだよね?

 

「…リッカさんとリカさん、同じ表情してるわ…」

 

ナーちゃんがそう呟く。…同じことを思ったのかな。

 

「さ…終わりかな?夜明け…夢の終わりももうすぐ。私達はこれで帰るし、もう少し待ってればあなた達も帰る。…それじゃ、頑張って。」

 

そういい、リカさんは足早に扉の奥に消えていった。

 

「…それでは、失礼します。」

 

緑髪の女性もその姿を扉の奥に消し、やがてその扉も消えた。

 

「…さて。これでやっと地獄も終わりか。長かったな、存外に。」

 

「あ…アヴェンジャーさん」

 

「そら、道が出来上がるぞ。」

 

その言葉に見ると、虹色の階段が出来上がり始めていた。

 

「…リッカさん?マスターとして、何か言うことがあるんじゃなくて?」

 

「あ、うん…そうだね」

 

私はメルセデスさん…じゃなくて、ナイチンゲールさんに向き合う。

 

「ナイチンゲールさん。…私達に、正しい治療と清潔の仕方を教えてください。…カルデアは、魔術系統での治療が主ですから、物理的な治療は…どうしても。お願い…できますか?」

 

「…わかりました。私に任せてください。…貴女のカルデアの話は聞いていました。私も興味がありますから。」

 

私のカルデア、か…私の、というかこの世界のカルデアなんだろうけど。

 

「ありがとうございます。」

 

「…手を」

 

「…?」

 

「手を、出してくださいませんか?」

 

言われたとおりに手を差し出すと、ナイチンゲールさんに握られる。

 

「…退院、おめでとうございます。私は、これを退院の証としているのです。…細やかな、楽しみです。戦時中は、あまり完治する人はいないものですから。」

 

「……」

 

フローレンス・ナイチンゲール…イギリスの看護婦であり、社会起業家であり、統計学者であり、看護教育学者。近代看護教育の母ともいわれる人。…クリミアの天使…か。本当に、その名の通りなのかもしれない。

 

「…さて、アヴェンジャーと人形の彼女にも何か言うのでしょう?私だけでは不公平でしょうからね。」

 

「あ…うん、ありがとうございます。」

 

ナイチンゲールさんはそう言って私の手を離した。…次は…アヴェンジャーさん、かな。

 

「では、オレに言葉を告げろ。…それで、縁は十分だ。」

 

「…うん。ええっと…」

 

……そういえば、私男の人にどう告げればいいかよく分かってない。

 

「ええっと……」

 

「どうした。」

 

「…いいや。アヴェンジャーさん。」

 

「む?」

 

「…これからの私を支えてくれますか?」

 

「「「───」」」

 

…あ、人形ちゃん以外硬直した。な、なんかまずかった…?

 

「狩人様。…私には、人の感情というものは分かりませんが。その言葉は、恐らく…」

 

「え…?」

 

「…リッカよ」

 

アヴェンジャーさん?

 

「その言葉、受け取ろう。…だが」

 

「あっ…!」

 

アヴェンジャーさんに身体を引き寄せられる。

 

「そう易々と他の奴にその言葉を言うな。…オレや、七海がそいつを殺しかねん。」

 

「え…あ、うん…?」

 

…なんか、まずいこと言った…?

 

「さて、最後だな。」

 

「うん───人形ちゃん!」

 

「はい。」

 

人形ちゃんに告げる言葉は決めていた。

 

「───夢と現実を繋ぐ、カルデアのアイドルになってください!」

 

「アイドル……ですか?」

 

その聞き返しに頷く。踊る、ってなると人形ちゃんだと難しいかもだけど。

 

「……分かりました。カルデアの夢と現実を、繋ぎましょう。アイドルは…できるか、わかりませんが。」

 

「お願いします!」

 

「はい。狩人様。」

 

「───さて。全て終わったな。さぁ、行こうではないか。」

 

アヴェンジャーさんの言葉に、ナーちゃんと手を繋ぐ。

 

「跳ぶわよ、リッカさん!」

 

「うん!」

 

既にフィールドは崩壊し始めており、太陽もその姿を現し始めている。真に、目覚めと言えるだろう。そして、空間を支配する重力もまた、既にほとんど消えている。

 

「リッカ!あの言葉を叫ぶぞ!合図を!」

 

「うん!せーのっ!」

 

「「「「「待て、しかして希望せよ!」」」」」

 

跳躍の勢いで進んだ階段の先、その白い光───それに触れた途端、私の意識は落ちた。

 

 

 

side 月

 

 

 

「状況終了…!リッカさんの魂とナーサリー・ライムさんが帰還してきます!!」

 

私の言葉に管制室が再び沸く。

 

「一時はどうなることかと思ったぁ…!でも、なんで……?」

 

そのロマンさんの言葉に、私は首を傾げることしかできない。…お母さんは、何をするかよく分からないし。

 

「マシュさん。迎えてあげてください、貴女の先輩を。」

 

〈……はい。私も、迎えます。先輩を…〉

 

リッカさんと同じように、カプセルの中にいるマシュさんがそう言った。

 

「さて、それでは覚醒を……む?」

 

「……?」

 

ギルガメッシュさんの言葉が止まったことが気になりリッカさんの入っているカプセルに目を向ける。───同時に、カプセル内の液体が黒に染まっていく。

 

「わわっ!?リッカちゃん!?」

 

〈先…輩?〉

 

「なんだ、この魔力…!」

 

「……聖杯の泥、か。」

 

強い魔力。属性系統は…闇?いや、違う…()()()()

 

〈カプセル解放〉

 

カプセルのシステム音声が告げると同時に、カプセルが開く。

 

『マス…ター…?』

 

七虹が不安げに呟いたのが聞こえた。幻覚…では、ない。黒い服を纏ったリッカさんが、そこに立っていた。

 

「……深淵を喰らい尽くしたか」

 

ギルガメッシュさんのその言葉の意味はよくわからなかったものの、1つ確かなことがある。…リッカさんはリッカさんだ。途轍もない悪を抱えたのだとしても、それだけは変わらない…!

 

「…そういえば、みんなには自己紹介らしい自己紹介ってしてなかったよね。だから、今ここで。」

 

目を開けたリッカさんはそう言って私達を見つめる。

 

「私の名前は藤丸リッカ。好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート。嫌いなものは理不尽と根拠のない否定。座右の銘は───」

 

「みんな違ってみんないい、であったな。…全く、心配をかけおって。まぁ、よいか。」

 

「───うん。私…みんなのいる場所に、ただいま帰りました。」

 

そう言って、彼女は微笑んだ。

 

〈先輩…!ご無事で…!〉

 

「ただいま、マシュ。…肉体改造中、だっけ?」

 

〈はい…本当に、良かった…〉

 

「聞きたかったら聞かせてあげるね。私が何をしてきたのか。」

 

〈…はい!〉

 

マシュさんにも笑顔が戻った。…ずっと、心配そうな表情だったから、よかった。

 

「リ、リッカ…!?」

 

「ただいま、マリー。」

 

「おかえりなさい───っていうか、あなた大丈夫なの!?」

 

「え…?」

 

「魔力よ!何よその色、凄く禍々しいわよ!?大丈夫!?精神とかやられてない!?」

 

「…特に問題はないけど。」

 

「…魔術師何千、何万人分よ……そんなに魔力をため込んで破裂しない貴女の身体、貴女の精神と魂…どれだけ規格外なのよ…」

 

「……」

 

首を傾げて自分の服を見つめるリッカさん。

 

「多分ずっと一緒だったからなのかな。今までも片鱗は見せてたんだと思うよ。…ほら、魔力が多いって言ってたでしょ?」

 

「…そういえば、そうね…」

 

「驚いた…リッカちゃんの中に循環する魔力は聖杯の泥と同じだぞ!?君、こんなの使ってどうともないのかい!?」

 

「…?問題ないよ。…っていうか、ドクターが女の子になってるって本当の事だったんだね。」

 

「六花!早くボクのこと元の姿に戻してよ!?」

 

「無茶言うな!!時限解除式なんだよ、我慢してくれ!!」

 

「あはは…」

 

リッカさんが苦笑した。…結局、フォウさんが言ってた“あの野郎”っていうのは干渉してきてない。

 

「…それにしてもお疲れさま、リッカちゃん。よく、偽のソロモンの企みを阻止してくれた。…流石のボクも、君から人類悪が生まれてそれを倒すと君にそんな力が宿るなんて予想外だったけど。」

 

「…うん。」

 

こちらからも観測できていた。人類悪が生まれ、それをリッカさんが倒したのを。

 

「…ギル」

 

「…よくぞ戻った。今はよく休むがいい。」

 

「えっと…そうじゃなくて」

 

「…なんだ?」

 

「……月さんも、ちょっと。」

 

「はい?」

 

私も呼ばれたことで、ギルガメッシュさんに近づく。

 

「……あとで、話が。…人理焼却の、後について。」

 

「…何?」

「え…」

 

人理焼却の、後…?そんなことを思っていると、管制室の扉が開いた。

 

「ただいま帰ったわ。」

 

「あ…ナーちゃん。」

 

「ふ───苦言も何もない。マスターめの救出、ご苦労であった。」

 

「…お礼を言うのはこっちの方よ。」

 

「…何?」

 

「リッカさん。」

 

「…うん。」

 

リッカさんとナーサリーさんがギルガメッシュさんに向き合う。

 

「「このカルデアを作り上げてくれて、ありがとう。英雄王ギルガメッシュ。」」

 

「───」

 

……何か、思うことがあったのかな。

 

「…ふ。臣下の礼は受け取るが筋か。素直に受け取っておくとしよう。」

 

「ふふ。…それと、これは私から。」

 

「…む?」

 

ナーサリーさんがリッカさんの方を向いた。リッカさんは既に、マシュさんのカプセルに近づいて話しかけていた。

 

「マシュ。今度、盾の使い方について教えてくれる?…私じゃ、まだうまく扱えないんだよね。」

 

〈あ…はい!喜んで……でも、いいんですか?私で…〉

 

「うん。」

 

〈分かりました、精一杯教えますね!〉

 

その光景を見て、ナーサリーさんが小さく笑った。

 

「…あたしは、このカルデアに来て…大切な人と出会えたわ。…だから、ありがとう。」

 

「…ふっ。」

 

「…ねぇ、マシュさん?」

 

ナーサリーさんは私達の方を離れ、マシュさんのカプセルに近づいた。

 

〈ナーサリー、さん…?〉

 

「…負けないわよ?どっちが射止めるか、勝負はもう始まっているのだから!」

 

〈…!私も、負けません…!〉

 

…なんとなく、理解。リッカさんは既にマシュさんのカプセルから離れてるから、聞こえてなかったみたい。

 

「ともかく、体調は大丈夫なのかしら、リッカ。まだ特異点は見つからないとはいえど、寝たきりだった───」

 

「───シッ!!」

 

童子切を召喚し、刀を振るう───ソードスキルにも、身体が付いていっている。

 

「…技術に関しては、問題ないかな。」

 

「…ほんと、どこまで行くつもりなんだ、君は…」

 

「…わかんない」

 

最後に、リッカさんは六花さんに顔を向けた。

 

「…お帰り、リッカ」

 

「…ただいま。お兄…ちゃ…ん…」

 

「…!?おい、リッカ!?」

 

近づくと同時に六花さんに倒れこむ。

 

「はぁ……はぁ…」

 

「…!リッカの身体が熱い…!?体温簡易計測………39℃オーバー!?おい、ロマン!医務室の準備!!」

 

「あ、あぁ!!今準備してくる!!」

 

慌ただしくロマンさんが出て行った。

 

「え…!新しいサーヴァントの召喚が確認されたですって!?」

 

「あぁくそ、次から次へと…!」

 

「六花さん、あたしが連れて行くわ。あなたボロボロすぎてもう動くのすら辛いでしょう?」

 

「…!すまねぇ、頼む…!俺は…!」

 

「六花はしばらく休みなさい、召喚の方には私が立ち会うわ!」

 

少し最後は慌ただしくなったものの。…そうして、この事件は終わりを迎えた。…ちなみに、リッカさんは次の日には復活してた。




ただいまー

裁「ただいま戻りました。」

月「おかえりなさい、お母さん。それと…リッカさん。」

裁「……」

弓「どうした、ルーラー…いや、リカよ。」

裁「…いや、今思ったんだけど。…私、結構無茶な要求したな…って。」

弓「?」

裁「ほら、キスの件。…思考、おかしくなってたかな。」

…ん?ねぇ、リッカさん。

裁「マスター?」

カルデアに戻った後、貴女が倒れてるみたいだけど…あれは?

裁「…あぁ。あれね。あれはただの反動だよ。私が今まで切り捨ててきた“病”が一気に押し寄せてきただけ。全てが解放されたことで、切り捨てていた…っていうか、押し潰していた病が高熱となって発生してるだけ。確か…当時40.3℃まで上がったかな?」

うわぁ…

裁「…あの時は、ナーちゃんがずっと私の手を握ってくれてたな…」

……

裁「…ごめん、なんか変な雰囲気にして。」

ううん、大丈夫。…召喚したいね、彼女の事。

裁「…うん」


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幕間 未来を臨む
お正月記念設定公開 藤丸リカ


明けましておめでとうございます。

裁「どうも。…今年もよろしくお願いします。」

さてと。…新年1日目、設定公開行きますよ~!

裁「藤丸リカっていうのは私ね。まず最初に、私から。」

監獄塔も去年のうちに終わったし…もしかしたら今後平日の連続投稿できないかもだけど……それはそれ。その時になったら報告しますね。

裁「じゃあ、始めるね。」


「……こんにちは。あなたが私のマスター?…私?…リカ、って呼んで。」

 

 

クラス:ルーラー/ビースト/グランドキャスター

 

偽装真名:リカ

 

性別:女性

 

出典:???

 

属性:中立・中庸

 

保有スキル

対魔力:EX

 

神名裁決:A

 

単独顕現:A

 

神性:A+

 

千里眼:A

 

 

 

宝具

総てを超越する奇跡(エンタイア・ミラクル)

対界宝具

世界のありとあらゆる事象を思うがままに書き換える創造神の奇跡。通常の奇跡、傷の治癒などの奇跡自体はこの宝具を使わずとも可能だが、死者完全蘇生などの世界のありとあらゆる理を総て無視して行使できる最大の奇跡がこの宝具。彼女はこの宝具を使うのを好まず、もし使用するとするならば、それは自分のためではなく、彼女が心から認めた主のためにだけである。ただし、認めた主であってもそれが主自身で成せることだったり、世界の滅亡が望みだったりする場合は使用を拒否する。さらに、この宝具はかなりの魔力を喰らうため、一度の現界につきたった一度しか行使しないと決めている。彼女曰く、「別にこの宝具が使えなくても十分に戦える。」とのこと。ただし、現在は弱体化している模様。

 

 

此はあらゆる世界の礎(アヴァロンコード)

対界宝具

英霊としての本体、預言書に書き記した“新世界構造”をもとに固有結界を展開する宝具。固有結界であるが本来ならば乖離剣ですら切り裂けぬ絶対領域の世界。彼女が自分でこの宝具を弱いものへと変えた。それは、彼女が絶対の支配者だからである。

 

 

此が私の生きた道(メモリーズ・グランドオーダー)───観測者は時間無き神殿に(Observer on Timeless Temple)

概念宝具

Observer on Timeless Temple。彼女が人間であった頃に、彼女が体験した人理修復の物語を他人が見れるように映し出す宝具。「世界が違えば、世界があるだけ終わりと始まりは違う。」…そんな、彼女の観念から生まれた宝具の一。分かりやすく言えば第1部の記録の集合体。

 

 

此が私の生きた道(メモリーズ・グランドオーダー)───残骸の叙事詩(Epic of Remnant)

概念宝具

Epic of Remnant。彼女が人間であった頃に、彼女が体験した人理修復の物語と凡人類史復元の物語の間に在った物語を他人が見れるように映し出す宝具。「世界が違えば、世界があるだけ終わりと始まりは違う。」…そんな、彼女の観念から生まれた宝具の二。分かりやすく言えば第1.5部の記録の集合体。

 

 

此が私の生きた道(メモリーズ・グランドオーダー)───それはあり得たかもしれない歴史の欠片(Fragment is Another history)

概念宝具

Fragment is Another history。彼女が人間であった頃に、彼女が体験したカルデアの内外で起こる細かな物語を他人が見れるように映し出す宝具。「世界が違えば、世界があるだけ終わりと始まりは違う。」…そんな、彼女の観念から生まれた宝具の三。……分かりやすく言えばイベントの記録の集合体。

 

 

此が私の生きた道(メモリーズ・グランドオーダー)───宇宙の中の異聞帯(Cosmos in the Lostbelt)

概念宝具

Cosmos in the Lostbelt。彼女が人間であった頃に、彼女が体験した凡人類史復元の物語を他人が見れるように映し出す宝具。「世界が違えば、世界があるだけ終わりと始まりは違う。」…そんな、彼女の観念から生まれた宝具の四。分かりやすく言えば第2部の記録の集合体。

 

 

此が私の生きた道(メモリーズ・グランドオーダー)───私が天文台に至るまで(My story of Past chaldea)

概念宝具

My story of Past chaldea。彼女がカルデアに導かれる前に、彼女が体験した過去の物語を他人が見れるように映し出す宝具。「世界が違えば、世界があるだけ終わりと始まりは違う。」…そんな、彼女の観念から生まれた宝具の零。

 

 

最果てにて告げた集いし龍達の咆哮(ドラゴニス・ブレイカー EX-FB)

対城宝具

高町 なのはの砲撃術式“スターライト・ブレイカー”から発想を得て作り出した砲撃術式の1つ。魔力と共に龍属性を1ヶ所に集め、それを一気に打ち出す収束砲。その威力はリミッターありで全盛期のなのはの“スターライト・ブレイカー EX-FB”の5倍の威力を叩き出すという。

 

 

偽装“深弾幕結界 -夢幻泡影-”

対人宝具

自身の司る理の1つ、“複製”を用いて再現した八雲 紫の東方永夜抄ラストワード。一撃一撃は本来の“深弾幕結界 -夢幻泡影-”より弱く、何度か被弾してもそれなりに耐えられる程度にはなっている。しかし、耐久スペルとしての時限式スペルブレイクと弾幕密度は偽装化しても健在。なお、時限式スペルブレイクは自分の体の表面に“虚無”の結界を展開することで成り立たせている模様。

 

 

時の理喪いし廻廊(タイムレス・コリドー)

対軍宝具

一時的に時間を停止させた世界の中で戦う一種の固有結界。自分と相手のみが動ける世界を作り出す。

 

 

概要

ルーラーであるがビーストでもあり、ビーストでありながらグランドキャスターである。ビーストであるが悪ではなく、彼女は絶対的な中立目線から世界に存在するありとあらゆる総てを見定める。感情は確かに在るが、少し希薄な印象。魔術、物理、直感、千里眼、奇跡。それらを駆使して戦う純粋な殴ルーラーではないルーラー。基本的に最初期のアスナのような膝近くまで隠れる赤いフーデッドケープを羽織り、手袋を嵌め、靴はブーツと何から何まで自らの情報を隠蔽するような服装をしているため、素顔や体のスタイルは見えない。ただし、声だけは彼女本人の声であるため女性であることだけは分かる。稀にボイスチェンジャーも使用するものの。

 

 

その正体はifなる人類悪にして0なる人類悪。彼女が生成してしまった“虚無”と“複製”を司るビーストif“アジ・ダハーカ”と彼女が出会ってしまった“創造”と“破滅”を司るビースト0“預言書”…即ち“ワールドクリエイト・キー”が融合した4つの理を司るビースト。

 

 

隠された彼女の姿は橙色の髪を持ち、金色の目をした身長150~165cmくらいの少女。外見を変化させる術式でも組まれていたのか、変装時は170cmくらいに見えているというが。髪型はツインテールで、服装は青い花柄のワンピースに無色透明なミュール、左手にいくつかの指輪。そして何よりも目を引くのが右手の甲にある赤い紋様と右手で大事そうに抱える赤い装丁の本。どこかの世界の人類最後のマスターと似ているが果たして関係は───?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠されしその真名、“藤丸 リッカ”という。かつて人類最後のマスターであった少女のなれの果て。人理修復の先、更に起こった濾過異聞史現象。異聞帯の対応をしていた彼女の脳裏に突如響いた声に従い、新たな変化が起こった白紙化された地球上で、最後の戦いへと挑んだ。この彼女はその最後の戦いで敗北してしまった可能性。最後の戦いにおいて彼女の敗北はその世界の抹消を意味する。本来であれば勝たなくてはいけないはずの戦い。それに負け、サーヴァントと化した彼女は別の世界で過去の自分を見つけた。“私が駄目だったのなら、彼女に全てを託したい。私が辿るはずだった運命を、私が願った未来を彼女に───本当の私へと託す。それが、過去の私を見つめる機会をもらえた意味だと思うから”───故に、彼女は自らを“藤丸 リカ”───“裏のリッカ”と名乗る。その名前は、彼女が裏役で構わないという意思の現れなのか…それとも、彼女がリッカの反転だという意味なのか。それは彼女にしか分からないだろう。

 

 

彼女の望みは現在“誰も失うことのない世界を作る”こと。しかしそれは聖杯にかける願いではなく、彼女のただの望み。ただの願い。預言書と融合した彼女は、彼女自身が“創造神”という存在であり、預言書は“世界を書き換える書”であるために願望器に近いため、聖杯にかける願いはないのだという。創造神そのものなのにも関わらず神性がA+なのは彼女が自身にかけたリミッターのせいであり、本来はEXなのであろう。自らの力が強大なのも十分に理解しており、相手と戦うときは何重にもリミッターをかけたまま戦うようにしている。注意されよ、リミッターを全て外した彼女に触れるなかれ。もし触れようものならその存在そのものが消し飛んでしまう。例えそれが神であろうと、どんな強い英霊であろうと───聖杯の泥、世界の意思であろうと。彼女に触れただけで総てが消え去ってしまう。唯一消え去らないのは同じ力を持ち同じことを出来る者だけ───だと言われている。

 

 

性格は生前と、そして彼女がみつめている過去の自分自身とそこまで変わらず、かなり静か。表情も実はあまり変わらず、感情がないかのように冷ややかな話し方をすることが多いが、実際は感情を露にするのが少しだけ苦手でどう話したらいいのか分からないだけ。かなり仲間想いなため些細なことでもかなり心配する。彼女の感情を理解するなら彼女から発せられる雰囲気で理解するといい。それくらい分かりやすく雰囲気が変わるのだ。戦闘においては基本的に預言書の精霊達の力を用いて戦うが、相手が自分に接近してきた場合や自分との真っ向勝負を挑んできた場合は剣、弓、銃、斧、槍、槌、盾、拳、杖───ありとあらゆるスタイルを用いて零距離戦・近距離戦・中距離戦・遠距離戦・超遠距離戦を繰り広げる。それはまさに生前の師や友のように。しかし“未来から過去の自分に伝えたい”───その彼女の在り方はいつかどこかで見たような───そう。どこか、エミヤに似ているのだ。

 

 

今でも十分に強力だが、この状態でもいくつかの宝具とスキルが失われている。観測している世界の藤丸リッカが彼女の願いを叶えた時こそ、彼女は総ての宝具とスキルを取り戻すだろう。




裁「じゃあ、次回はリッカさんの方かな。」

5連…行けるかな?


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お正月記念設定公開 藤丸リッカ

裁「じゃあ、始めるね。」

リッカさんの方って設定浅いんだよね…まだ…

裁「あ、一応言っておくと今の状態でのあの子だから。最終的なあの子は今の私に近いし。」


「こんにちは。マスターはあなた…かな?」

 

 

クラス:ルーラー/ビースト

 

真名:藤丸リッカ

 

性別:女性

 

出典:Fate/Grand Order

 

属性:中立・中庸 人

 

特性:人型 女性 神性 人類の脅威

 

ステータス:筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具EX

 

保有スキル

対魔力 B

 

神名裁決 A

 

単独顕現 A

 

神性 A+

 

直感 B+

 

ネガ・ヴォイド

 彼女が司る獣としての権能その一。第一権能、“虚無”。

 

ネガ・リプロダクション

 彼女が司る獣としての権能その二。第二権能、“複製”。

 

ネガ・クリエイト

 彼女が司る獣としての権能その三。第三権能、“創造”。

 

ネガ・ブレイク

 彼女が司る獣としての権能その四。第四権能、“破壊”。

 

童話への恋心 B

 童話───元ナーサリー・ライムこと“有栖ヶ藤 七海”への無意識な恋心。有栖ヶ藤 七海の前では酷く大胆になり、人前で七海に甘えることはおろかディープキスや人前でキスをすることにも抵抗はない。粘膜接触をしていることからも魔力供給が可能であり、さらにはキスしている最中は謎の保護的なものが発生する模様。恐らくはキス魔A相当と対魔力A相当の複合スキルになっている。なお、“精神汚染ではない”とは本人達の言い分であり、無意識であることからまだスキルとしては弱い模様。

 

変容(変異泥) C

 自らに泥を纏ってカタチを変える。もっとも、現在はほとんど弱体化している。この世総ての悪───即ちアンリマユがいることでその真価を発揮するスキル。

 

魔力放出(変異泥) A+

 聖杯の泥と同質のものを放出するスキル。人間やサーヴァントを呑み込む悪性の呪い。通常は黒だが、“虚無”の概念が作用してなのか彼女の意思でその色を変化させられる。拒絶し、切り捨てていたとはいえ人生と共にこの世総ての悪を育み、担っていた彼女はこれをいとも簡単に操る。明確に“聖杯の泥”と呼ばないのは、これは既に“聖杯の泥”ではないからだ。自らの魂と虚無の概念が聖杯の泥を濾過し、あらゆるものを呑み込むことが可能というもっと性質の悪いものになった。故にスキルについた名称は“変異泥”。魔力であることは変わりないため、魔術回路を通して射出したり武器に纏わせて強化したりが可能。さらにはサーヴァントの強化も可能であり、その影響を誰に与えて誰に与えないかも彼女自身の思うがまま。

 

導き手達の願い EX

 彼女を導いた者達の願い。これがある限り彼女の心が完全に折れることはない。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。このスキルがあるということは、即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

男声 EX

自らの声を男性のものにする。彼女の男声は完全に男性のものにしか聞こえない。もっと言うと衛宮士郎のものに聞こえるため、過去に衛宮士郎と関わったサーヴァントを惑わすことができる。

 

 

宝具

五星招鳴・覆地翻天(ごせいしょうめい・ふくちほんてん)

対人宝具

陰陽五行を利用した宝具。源頼光の土、藤丸 六花の金、アルテミスの水、華紬 ニキの木、春風 星羅の火を組み合わせ、一気に放つ。

 

 

概要

人類最後のマスターのサーヴァント化した姿。ルーラーであるがビーストである。ビーストであるが悪ではない。感情は確かに在るが、少し希薄な印象。

 

 

その正体はifなる人類悪にして0なる人類悪。彼女が生成してしまった“虚無”と“複製”を司るビーストif“アジ・ダハーカ”と彼女が冬木で出会ってしまった“創造”と“破壊”を司るビースト〇“預言書”…即ち“ワールドクリエイト・キー”が融合した4つの理を司るビースト。現在は弱体化しているため、人間の面が色濃く出ている。




裁「そういえばマスター。」

ん?

裁「…ごめん、何でもない」

……何、リカ。言ってくれないと分からないよ?

裁「…だって、まだ観測できてないし…見てる人にとってはネタバレになっちゃうかもだし…」

……あー…

裁「…あ、そうそう。第240話でのあっちの私が倒れた後での話なんだけど。あの後、私実は裸になってるんだよね。あの黒い服、私の魔力で出来たものだったから。高熱で魔力を制御できなくなって、そのまま消滅したの。…お兄ちゃんが連れてこなくてよかった、っていうのはナーちゃんが言ってたこと。ベッドに寝かせた直後に解けたみたいだからナーちゃんとドクター、ルナセリアさんにしか見られてない。」

そういえば、あの時ってどんな運ばれ方したんだっけ?

裁「ナーちゃんにお姫様抱っこされてたよ。…あの時は意識朦朧としてたけど、凄く安心したのはよく覚えてる。」


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お正月記念設定公開 有栖ヶ藤 七海

裁「彼女にとってのナーちゃん。…マスター、大丈夫?」

ごめん、きつい…

裁「……あ、ちなみにこれも今の状態での話。この先どうなっていくかは…まぁ、観測次第ってことで。」


「あら、こんにちは?あなたがあたしのマスターなの?…え?ナーサリー・ライムに似てる、ですって?ふふ、おかしいことを言うのね。真名は違うけれど、あたしもナーサリー・ライムなのは間違いないのに。…あぁ、名乗ってなかったわね。“有栖ヶ藤 七海”。それが、あたしの真名よ。」

 

 

 

真名:有栖ヶ藤(ありすがふじ) 七海(ななみ)

 

真名:ナナミ(Nanami)ロスタイム(Losttime)ウィスタリア(Wisteria)リームカント(Leemcnt)アリス(Alice)

 

クラス:キャスター

 

性別:女性

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性

 

ステータス:筋力A~D 耐久A~D 敏捷A~D 魔力A~D 幸運A 宝具EX

 

 

保有スキル

 

変化 A+

 

陣地作成 A

 

自己改造 A

 

一方その頃 A

 

精神異常耐性 EX

 

属性励起 C

属性を励起する。今はまだ完全には扱いきれていない。

 

主への恋心 A

主───“藤丸 リッカ”への恋心。藤丸 リッカの前では酷く大胆になり、リッカからの性的な要望に応えることやディープキスや人前でキスをすることにも抵抗はない。粘膜接触をしていることからも魔力供給が可能であり、さらにはキスしている最中は謎の保護的なものが発生する模様。恐らくはキス魔A相当と対魔力A相当の複合スキルになっている。なお、“精神汚染スキルではない”とは本人達の言い分であり、既に自分の想いを自覚しているためか藤丸 リッカよりもスキルのランクは上。

 

 

使用技

 

火吹きトカゲのフライパン

火属性術式。元々は“ありす”が使うものであり、彼女が使うと少々火力不足であったが、霊基が変質した影響かその火力が補強、以前の“ありす”を越える火力で放てるようになった。

 

恋する乙女のカウントダウン

爆破術式。不可視の術式の陣を貼り付けた場所を3秒後に爆発させる。爆発の規模は術者の加減と素質次第だが、彼女の場合は最大で100m圏内は吹き飛ばせるだろうとのこと。

 

時刻み忘る恋の花

EXアタックと同じ火、風、氷の術式。だが、その威力は“ナーサリー・ライム”であった頃より強力であり、派手。

 

眠れる美女と妖精の泉

水属性術式。彼女を中心に放射状に弾幕を放つ。弾幕密度は薄く、複雑な軌道も持たないため劣化の本能“イドの解放”ともいえる。

 

 

宝具

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)

対人宝具

彼女そのものを示す固有結界。サーヴァントの持つ能力が固有結界なのではなく、固有結界そのものがサーヴァントと化したもの。マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見た形の疑似サーヴァントとなって顕現する。本来は特定の名などなく“ナーサリー・ライム”という絵本のジャンル。結界の内容は本来マスターの心を映したものとなるが、現在も元マスターであるありすが生前愛読していたルイス・キャロルの絵本“不思議の国のアリス”、“鏡の国のアリス”の影響が非常に強く、能力面においても怪物“ジャバウォック”や“トランプ兵”の召喚や記憶と自我を皮切りに、存在そのものを薄れさせる“名無しの森”など多数のモチーフを採用している。“ナーサリー・ライム”という名をほとんど捨てたような状態の今でも、この宝具は彼女の中に残っている。

 

 

トランプ兵

対軍宝具

彼女が召喚する様々な武器を携えたトランプの兵隊達。約40体からなる軍隊であり戦闘能力こそ低いが彼女の宝具による再生力によって不死身の軍隊として戦える。槍のみではなく様々な武器を持てるようになっているのは彼女が術式を調整したためだろうか。

 

 

ジャバウォック

バーサーカーであることを疑われるほどの強大な力を有する。ただし、理性の無い怪物に有効な概念武装“ヴォーパルの剣”の前では大きく弱体化する。サーヴァントではなく、倒されてもマスターには何のフィードバックもない。与えられた魔力が尽きるか、彼女に送還されるまでは存在し続けられる。元々は詩の中でジャバウォックは“名も無き一人の勇者によって倒される怪物”として描かれている。なお、彼女が術式を調整したのかは定かではないが、ある程度の意志疎通は可能になっている。これにより、“ヴォーパルの剣”による弱体化効果は薄れている。

 

 

名無しの森

彼女が“ありすのサーヴァント”として発動した固有結界。スキル“陣地作成”によって作られた自身に有利な陣地“工房”でもある。この固有結界に囚われた者は、自らの名前を皮切りに徐々に記憶を失い、それと共に存在が消滅していく。自分の名前を口にする事で結界から逃れる事ができるが、結界に入った時点で名を失い忘れてしまうため、事前にメモなどを持っておく必要がある。これに関しても術式を調整したのか、存在が消滅するまでの時間を早めたり、誰に影響が出るかを指定したりすることができるようになっている。

 

 

永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)

対己・対界宝具

詠唱によって行われる時間の巻き戻し。ただしあくまで巻き戻し繰り返しを行うだけであり、時間を操るとされる第五魔法とは違い自身とその召喚物にしか効果は適用されない……はずだったのだが、何をどう調整したのか自身と召喚物以外にも作用するようになった。元々はクー・フーリンの“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”のような“時間を戻しても残る”物が天敵だったのだが、その因果逆転というような効果すらも打ち消し、巻き戻すという味方になれば心強い、敵になれば凶悪すぎる宝具と化している。出力によって宝具の性質も変化し、最大出力を使えば完全に過去に跳ぶことも可能。

 

 

時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)

対己・対界宝具

詠唱によって行われる時間の減速。自分以外の時間が減速した固有結界を展開する。自らの意志で展開することはできても、解除することはできない。ただ1つ、マスターに教えた“解除ワード”のみがこの固有結界を破る鍵。彼女のマスターがその言葉を告げない限り、彼女自身もこの固有結界の中で永遠にも近い時間を過ごすことになる。減速倍率は最大で100万倍、つまり彼女自身の加速倍率も100万倍となる。時間減速───彼女からすれば時間加速───と共に常に時間予測が行われており、解除ワードが言われる可能性が高くなるとマスターの減速倍率だけが1.5倍にまで下がる。

 

 

喪失機関・無彩廃墟(ルインズ・ロストワールド)

対己・対界宝具

詠唱によって行われる時間の停止。自分と自分が認めた者以外の時間が停止した固有結界を展開する。ただし、自分が認めた者以外も時間の停止に気がつくことができるようならこの宝具の影響下でも問題なく行動できる。前述の“時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)”はこの宝具を低い出力で扱えるように改変したもの。先の宝具と違い、こちらは時間の停止を用いるため、彼女自身の意志で解除が可能となっている。

 

 

概要

時間を喪失せしアリス。“誰か”のためではなく“ただ一人”のための英雄と定義した童話。時間を喪失、とは時間の概念が消えるということ。彼女にとって“時間が消える”とは、物語を読まれなくなるということと同義。彼女は“愛する人以外に自分を読まれなくてもいい”と定義したような状態であるのもあり、時間の概念が消失しているのかもしれない。真相は彼女自身にしかわからない。

 

 

容姿は基本的に元マスターである“ありす”の外見とほぼ同じだが、黒を基調にした服装にしている。だが、監獄塔に囚われた藤丸リッカを救出後に自らの代わりというように“ナーサリー・ライム”が召喚されたため、監獄塔内で使っていた黒いありすを少し成長させたかのような姿でいる、服装の色を白や緑を基調としたものに変える、“ナーサリー・ライム”とは違うアクセサリを身に付けるなどで判別できるようにしている。黒いありす───“アリス”の外見には強い思い入れがあるようで、どうしてもこの姿を捨てたくはないそうな。藤丸リッカもそれは受け入れており、藤丸リッカ自身も捨ててほしくないと考えている。

 

 

ありすの後押しで発生した決意によって霊基が変質したと同時に、“五行”の力を得た……というのは彼女の感覚。実際は五行、七曜、八卦、九星、十干、十二支…等々、様々な属性の力を得ている。今はまだ完全には扱いきれず、創詠 月から渡された“ステラ・アリス・ストーリア”の補助があってやっと五行が扱える程度。




裁「……こう見るとナーちゃんって結構凶悪だよね、サーヴァント性能。」

そうだね……


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お正月記念設定公開 ストーリーズ・ライブラリ

とりあえずありすさんかな…

裁「あとはいるの?」

……ここに来て思い付かない

弓「我でも出すか?」

それは無理


「あら、こんにちは。…あたしに見覚えがあるのね。…ナーサリー・ライム…そう。アリスがいるのね。…あたしの名前?…そうね。“ありす”、でいいわ。」

 

 

真名:ストーリーズ・ライブラリ

 

クラス:キャスター

 

性別:女性

 

属性:中立/中庸 人

 

特性:人型 女性

 

ステータス:筋力E 耐久D 敏捷B 魔力EX 幸運A 宝具EX

 

 

保有スキル

 

変化 A+

 

陣地作成 A

 

自己改造 A

 

一方その頃 A

 

精神異常耐性 EX

 

情報収集(物語) EX

彼女の在り方。詳細は後述。

 

 

使用技

 

火吹きトカゲのフライパン

火属性術式。かつてありすがムーンセルで使っていたコードキャスト。ナーサリー・ライムにも引き継がれているが、本家である彼女が使うこれはナーサリー・ライムよりも強力。有栖ヶ藤 七海の使うこの術式が強力になったのに呼応してか、有栖ヶ藤 七海を上回る威力を持つ。

 

 

宝具

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)

対人宝具

彼女を示す固有結界の1つ。サーヴァントの持つ能力が固有結界なのではなく、固有結界そのものがサーヴァントと化したもの。マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見た形の疑似サーヴァントとなって顕現する。本来は特定の名などなく“ナーサリー・ライム”という絵本のジャンル。結界の内容は本来マスターの心を映したものとなるが、ありすが生前愛読していたルイス・キャロルの絵本“不思議の国のアリス”、“鏡の国のアリス”の影響が非常に強く、能力面においても怪物“ジャバウォック”や“トランプ兵”の召喚や記憶と自我を皮切りに、存在そのものを薄れさせる“名無しの森”など多数のモチーフを採用している。

 

 

トランプ兵

対軍宝具

彼女が召喚する様々な武器を携えたトランプの兵隊達。約40体からなる軍隊であり戦闘能力こそ低いが彼女の宝具による再生力によって不死身の軍隊として戦える。槍のみではなく様々な武器を持てるようになっているのは彼女が術式を調整したためだろうか。

 

 

ジャバウォック

バーサーカーであることを疑われるほどの強大な力を有する。ただし、理性の無い怪物に有効な概念武装“ヴォーパルの剣”の前では大きく弱体化する。サーヴァントではなく、倒されてもマスターには何のフィードバックもない。与えられた魔力が尽きるか、彼女に送還されるまでは存在し続けられる。元々は詩の中でジャバウォックは“名も無き一人の勇者によって倒される怪物”として描かれている。なお、彼女が術式を調整したのかは定かではないが、ある程度の意志疎通は可能になっている。これにより、“ヴォーパルの剣”による弱体化効果は薄れている。

 

 

名無しの森

元々は有栖ヶ藤 七海が“ありすのサーヴァント”として発動した固有結界。スキル“陣地作成”によって作られた自身に有利な陣地“工房”でもある。この固有結界に囚われた者は、自らの名前を皮切りに徐々に記憶を失い、それと共に存在が消滅していく。自分の名前を口にする事で結界から逃れる事ができるが、結界に入った時点で名を失い忘れてしまうため、事前にメモなどを持っておく必要がある。これに関しても術式を調整したのか、存在が消滅するまでの時間を早めたり、誰に影響が出るかを指定したりすることができるようになっている。

 

 

永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)

対己・対界宝具

詠唱によって行われる時間の巻き戻し。ただしあくまで巻き戻し繰り返しを行うだけであり、時間を操るとされる第五魔法とは違い自身とその召喚物にしか効果は適用されない……はずだったのだが、何をどう調整したのか自身と召喚物以外にも作用するようになった。元々はクー・フーリンの“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”のような“時間を戻しても残る”物が天敵だったのだが、その因果逆転というような効果すらも打ち消し、巻き戻すという味方になれば心強い、敵になれば凶悪すぎる宝具と化している。彼女曰く、様々な術式の調整は有栖ヶ藤 七海と共に行ったそうな。

 

 

あなたと寄り添う物語(ストーリーズ・ライブラリ)

対人宝具

彼女そのものを示す固有結界。マスターの意志によって姿形を変え、マスターに寄り添う彼女の在り方。

 

 

おいでませ、夢の国(ウェルカム・トゥ・ワンダーランド)

対界宝具

固有結界。物語の世界を現実に表面化させ、対象を取り込む。固有結界の中にあるものは全て本物で、取り込んだ対象に物語の世界に入り込んだかのように錯覚させる。“ありす”の性質故なのか、童話の世界に対しての具現化が一番精度がいい。

 

 

概要

人と共にある物語(ストーリー)。世界各地のありとあらゆる物語を貯蔵した図書館(ライブラリ)。本来このサーヴァントに固定された形はなく、基本的には名前の打たれていない一冊の巨大な本として顕現する。本を開けば世界各地の物語のタイトルが浮かび、そのタイトルを選択すればたちまちその物語に変化するという、物語を愛する者にとってはまさに天国かのようなサーヴァント。今回の顕現では最初から“ありす”の姿をもって顕現した。彼女によれば、“ありす”の魂が“ストーリーズ・ライブラリ”の魂に共鳴し、同化したことで今の状態になっているという。

 

 

容姿は“ありす”の外見と全く同じ。だが、本来無形であるため、自由自在に姿を変えることができる。有栖ヶ藤 七海と同じように肉体を成長させればステータスも変動するはずなのだが、彼女は基本的にそれをしない。なお、英霊としての本体である巨大な本は彼女の意志で具現化、非具現化が可能。

 

 

情報収集スキルは彼女の本来の性質。“ありす”はそこまでの力はないものの、“ストーリーズ・ライブラリ”は情報収集のエキスパート。それに同調するように“ありす”も同じ力を持つことになる。無際限に“物語”の情報を集める彼女だが、“ありす”の部分には影響がなく、ただ“ストーリーズ・ライブラリ”の部分に永久的に収集されていく。余談だが、“物語”を集めるということは全てを集めることになる。本や演劇だけでなく、“人の一生”ですら物語なりえるのだから。つまり彼女は、ムーンセルや英霊の座───“アカシックレコード”とも言える存在なのである。




…あともう1人どうしよう

裁「決めてなかったんだ…」


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お正月記念設定公開 藤丸 六花

なんとかいつもの投稿時間……マテリアルの順序逆とか言わないで。

裁「順序逆じゃない?」

……

裁「あ、拗ねた」


「おう。召喚に応じ顕現した。サーヴァント・キャスター、まぁなんとでも呼べ。ただし“リッカ”はやめろ、妹と被る。」

 

 

 

クラス:キャスター

 

真名:藤丸 六花

 

性別:男性

 

出典:Fate/Grand Order

 

属性:中立・中庸 人

 

特性:人型 男性

 

ステータス:筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具EX

 

保有スキル

対魔力 B

 

直感 B

 

精神異常耐性 A++

 

変換 A

変換魔術。武装の瞬時変換を得意とする。

 

結界 EX

結界魔術。彼の結界はそれこそ君主(ロード)に匹敵するレベルになっており、結界を射出して攻撃するなど変な使い方もする。

 

プログラミング A+++

プログラミング技術。単独で人工知能を作ることができるまでに彼の技術は高い。もちろん、人工知能以外にシステム管理等もお手のもの。

 

天の杯 EX

第三魔法・天の杯。AIを作成しているときに根源に触れかけた彼は第三魔法を会得している。

 

魔道元帥の教え EX

魔道元帥───“キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ”からの教導経験。

 

妹への願い EX

妹───藤丸リッカへの願い。血の繋がった親族でありながら、愛を注ぐことができなかった彼であるが、藤丸リッカのことを大切に思っているのは間違いない。どうか妹が幸せであるように。それが彼の行動基準でもある。

 

子供達への願い EX

子供達、現時点では彼が作った人工知能達への願い。人工知能という人間ではない存在であろうと、彼は自らの子供と言っても過言ではない人工知能達の幸せを願っている。

 

女声 EX

自らの声を女性のものにする。彼の女声は完全に女性のものにしか聞こえない。もっと言うと遠阪凛のものに聞こえるため、過去に遠阪凛と関わったサーヴァントを惑わすことができる。

 

 

宝具

集合せし双面の花園(ワールドガーデン・ザ・クラスタービット)

対界宝具

彼が持つ心情、固有結界の1つ。辺り一面、花が咲き乱れる花畑を顕現させる。彼曰く“安息の花園”。結界内には彼が作成した人工知能達の本住居にして一括管理データベースでもある“理と魂の集合体(ロジックソウル・クラスター)”が存在している。“理と魂の集合体(ロジックソウル・クラスター)”は彼が合図を出すまでは透明化しており、普通に固有結界内部で戦闘をすることは問題ない。この固有結界においての効果は“安息”。この固有結界内にいる存在は花畑の空気や固有結界の効果によってやがて戦闘意欲を失う。荒んだ心を癒すのに効果的。

 

 

起源にて広大な草原(グラスフィールド・ザ・プレミアルーティ)

対界宝具

彼が持つ心情、固有結界の1つ。辺り一面、何もない広大な草原を顕現させる。彼曰く“原始の草原”。アヴァロンコードにおいて何もコードを入れない状態で新世界を覗くとほとんどのものがない草原である状態を擬似的に再現している。この固有結界においての効果は“原始”。この広大な草原には心に癒しを与える効果がある。

 

 

希望を掲げた雲海(クラウスカイシー・ジ・ウィッシュレイズ)

対界宝具

彼が持つ心情、固有結界の1つ。辺り一面、果てしなく続く雲海を顕現させる。彼曰く“希望の雲海”。海の向こうには何があるのかという希望を具現化したような固有結界。この固有結界においての効果は“希望”。この広大な草原には希望を与える効果がある。

 

 

概要

藤丸リッカの兄。魔術適性は固有結界と強化魔術、変換魔術。最近は創詠 月などから“プログラム魔法”なるものを教えてもらっている模様。

 

 

カルデアのスタッフと同じ服装だが、左手の薬指に紫色の指輪をしている。この指輪は彼の武器であり、嵌められている指に対して特に深い意味はない。当然未婚。

 

 

プログラミング技術が高く、単独で人工知能を作り上げられる。また、術式をプログラムに変換し、その術式を人工知能の使用可能術式とすることで“固有技能”として与えることが可能。ありすや有栖ヶ藤 七海、ハンス・クリスチャン・アンデルセン等、“月の聖杯戦争”を経験した者達からは“現代の魔術師(メイガス)達の中で最も魔術師(ウィザード)に近い魔術師”と評されている。




こんな感じかなぁ…できる限り更新はしていきますね

裁「あ、復活してる」

…あ、それと原作カテゴリを“Fate/Grand Order”から“Fate/”に変更します。2022/01/02の12:00くらいかな…その辺りには変更するのでお気に入り登録してない方は気をつけてください。

弓「…前々からFate/EXTRA要素強めだった故、いつ変更するのかと思ったぞ。」

忘れてたんです……許してください…

裁「……そういえば、マスター。」

ん?

裁「マスターってナーサリーさん好きなのにあまり絆レベル上がってないよね。」

あぁ……うん、なんかごめん。とりあえず次の聖杯対象はナーサリーさんかな…


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第241話 未来への布石

体力が……観測精度が……

裁「……観測精度、書き起こし速度共にマスターの体力が関わってくるんだっけ……」


Killコンカンコーン───

 

 

放送用のチャイムを鳴る。なんで死武専のチャイムあるの、お兄ちゃん…と、それはともかく。

 

「……んんっ、職員のお呼び出しをします。所長“オルガマリー・アニムスフィア”。英雄王“ギルガメッシュ”。創造師“無銘”。結界術師“藤丸 六花”。医師“ロマニ・アーキマン”。治療術師“ルナセリア・アニムスフィア”。以上の方は、至急第一会議室にお集まりください。繰り返します……」

 

呼ぶ人の名をもう一度読み上げてから、放送を切る。

 

「……」

 

「不安、かしら?」

 

「…うん、少し。」

 

このメンバーでよかったのかな、っていうのもある。直感で選んだけど、たまに不安になる。

 

「大丈夫よ、なるようになるわ。」

 

「……ん。」

 

その言葉を聞きながら、預言書を開く。…そういえば、あの時は気がついていなかったけれど預言書からの問いかけが追加されていた。……新世界、か…

 

「……新世界でも、ナーちゃんと一緒にいたいな…」

 

「……えぇ、そうね。」

 

私の呟きにナーちゃんが答えた。ちなみに、その預言書の問いはこうだ。

 

 

汝が望む世界を問う。

 

空間を満たす音色。

絶え間ない調べ。

 

汝の望む世界にて

いかなる形を現す?

 

 

ゲーム内ではBGMを変更するための問いかけ。…これはゲームではなく、現実。どんな作用をもたらすかは私にも分からない。“創世の扉”───あのページが出てきて、かつ“陽だまりの丘”にいるならば。新世界を覗くこともできるだろう。

 

「……でも、今は。」

 

今は、目の前のことを。それと、人理修復をした後の未来に起こるあの事を。…少しずつ、進めていかなきゃ。

 

「…リッカさん。来るわよ。」

 

「……ん」

 

私達が今いる場所は呼び出し先である第一会議室。放送設備は小学校の教室にあったような電話機型。月さんの話だと“将来はもうなくなってるんじゃないかな”、って話。

 

「マスター。来たぞ。」

 

「マスター、参りました。」

 

「おはよ、ギル、アル。…適当な場所に座っていいよ。もっとも、私が仕切るわけでもないけど…多分。」

 

「貴様が呼び立てたのだ、貴様が仕切るものだろう。」

 

「あはは…」

 

…それもそっか

 

「…それより、体調は大丈夫なのか?」

 

「うん、もう大丈夫。昨日一日ぐっすりで全快。」

 

一昨日高熱で倒れて、昨日一日は安静にしてるようにって言われて…それで、今に至る。昨日一度寝たらすっごい深い眠りだったらしい。

 

「ならば良いのだが…」

 

「来ましたよ、リッカさん。おはようございます。」

 

「おはようございます、ルナセリアさん。」

 

そうこうしてるうちにルナセリアさんも来た。

 

「体調は大丈夫ですか?」

 

「はい、お陰様で。ありがとうございますね、ルナセリアさん。」

 

「私の力…というわけでもありませんが。…というか、敬語じゃなくてもいいですよ、リッカさん。」

 

「…慣れます」

 

前々から言われているものの、未だ慣れない。

 

「おう、来たぞリッカ。」

 

「あ、お兄ちゃん。おはよ。」

 

「おう…身体、大丈夫か?」

 

「うん。ごめんね、心配させて。」

 

「あまり無理すんなよ?人理修復っていう重要な役目を背負わせてるってのはあるが、それ以前にお前は1人の人間なんだからよ。」

 

「…今は、人類悪なのに?」

 

「それでもだ。人類悪だろうが、お前が俺の妹なのは変わんねぇし、人間であることも変わらねぇよ。」

 

「…ありがと」

 

ほんと、お兄ちゃんは優しい。言い方は乱暴だけど、優しさが隠しきれてない。…もっとも、本人は隠してるつもりもないんだろうけど。

 

「ごめんなさい、遅くなったわ。」

 

「ううん、大丈夫。おはよ、マリー。」

 

「…身体、大丈夫なの?どこも異常はない?」

 

「ないよ。…なんか、ここに人来るたびに心配されてる気がするんだけど、そんなに心配?」

 

「一昨日目覚めた直後に高熱で倒れたこと、忘れたとは言わせないわよ?あなたは今までも無理をしてきたのだから、これからは無理しないようにしないと。」

 

「あはは…はい。」

 

高熱の原因、なんだろうなぁ…あの後星海さんたちが調べてくれたらしくて、高熱になった原因は元々身体が弱かったのに体調不良を無意識に押し殺していたせいで体内に溜まっていたその病気が一気に発症されたから、だったみたい。つまりはいままでの代償。いやぁ…召喚されたばかりのナイチンゲールさんに思いっきり怒られました。あとあの時の黒い服…シスター服っぽい感じの服だったんだけど、あれは魔力で作られてたもので、私が制御を手放したときに消滅したらしい。起きた時には白いワンピースを着てた。なんで、って思ったけど月さんが持ってたとあるものの影響らしい。“マイデコハート”、って言ってたけど……うん。今は触れないでおこう。今はもういつものカルデア制服。ナーちゃんはいつもの姿だけど服の色が白と緑を基調としたものになってる。ナーちゃんの代わりのように召喚されたナーサリーさんと同じ姿だと紛らわしいから、だって。

 

「ごめん、遅くなった!!ロマ二・アーキマン、ただいま参りました!!」

 

「遅いわよ、ロマニ!」

 

「はいっ!すみません、所長!!リッカちゃんもごめん!!」

 

「別に怒ってもないから大丈夫だよ。」

 

「女神…って!リッカちゃん、体調大丈夫なの!?」

 

「大丈夫。…そんなに心配しないでほしいんだけど…心配され過ぎても辛いし…」

 

「……いや、そりゃあ心配もするよ…ねぇ?」

 

ドクターの言葉に全員が頷いた。……私ってそんなに心配かけてたんだ…

 

「…とりあえず、座ってほしい。…ちょっと、重要な話があるから。」

 

「あ、あぁ…」

 

そうして、全員が着席したのを確認する。

 

「…じゃあ、始めます。ナーちゃん。」

 

「えぇ…これを。」

 

ナーちゃんに用意してもらった資料を全員に回した後、しばらくの間私はリカさんと戦っているときに見たあの光景を話した。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

「…以上、です。」

 

「…マスター」

 

「うん?」

 

「…いや、我には分かるが…ここにいる全ての者を代表して問うぞ。これは、確かなのか?」

 

「…正直に言うと、私にも分からない。…だけど、これを伝えてくれた私が…リカさんが辿った道。未来は分からないとはいえ、リカさんのいた世界はこの世界と酷似してるらしいから。」

 

「…ふむ。」

 

「濾過異聞史現象、ね…にわかには信じがたいことだけど。…彼等が、敵に回るなんて。考えたくもないわ…」

 

「お姉ちゃん、正確には彼等じゃないみたい。」

 

「…それでも、辛いのよ。自分の知っている人が敵に回る、って考えるのは…どうしても、ね。」

 

その言葉を聞きながら、アル───今は右眼の数字が“三”になってるから月さんみたいだけど───は考え込んでいた。

 

「…月さんはどう思いますか?」

 

「…可能性は、かなり高いと思います。陽詩も同じ意見で。…しかし、虚数空間に世界丸ごと移送するとは…その世界のリッカさんは結構危ないことしますね…」

 

「あ、そうなんだ…」

 

「…まぁ、出来なくはないことですよ。これ。」

 

「そうなの?」

 

「えぇ、まぁ。虚数空間を居住可能にすれば出来なくはないですね……ただ」

 

月さんが自分の手を見た?

 

「…今の状態ではできません。出力が…性質が違うんです。実数空間を虚数空間に、実数時間を虚数時間に変更するのは私と陽詩の正方向の力だけでは出来ないことなんです。」

 

「…そっか」

 

「とりあえず、ここに書かれている“ザ・シード”。これに関しては私達が何とかできます。あとは…六花さん、ルナセリアさん、オルガマリーさん。お手伝いをお願いしても?」

 

「あぁ、構わねぇ。」

 

「大丈夫です。…けど、私は治療くらいしかできませんよ?」

 

「その点に関してはご心配なく、私達が鍛え上げるので。」

 

「「「……え?」」」

 

私、お兄ちゃん、ルナセリアさんの声が被った。

 

「ずっと見てましたが、六花さんには空間操作、ルナセリアさんには時間操作の適性があります。オルガマリーさんにはどちらも。流石に完全に扱うことは難しいでしょうけど、基礎から叩き込みます。」

 

そこで一呼吸おいて口を開く。

 

「そもそも結界は空間操作、治療は時間操作に近いものです。暴論ですけどね。この会議が終わったら教え始めますのでお願いしますね。」

 

「…あの、月さん。私、他の方の授業とかもあるのですが…」

 

「そのあたりはちゃんと調整しますから大丈夫ですよ」

 

その言葉にマリーがホッとしたような表情になった。

 

「ええと…他の件に関してはロマニさんとギルガメッシュさんにお任せしてもいいですか?」

 

「構わん。」

 

「ボクも大丈夫だよ。…さて。リッカちゃん、これで終わりかな?」

 

「うん、今話せることはこれで終わり。」

 

「…わかった。じゃあ、1つだけ頼んでいいかい?」

 

「?」

 

ドクターからの頼み?

 

「…カルデア全職員、ここに呼んでほしい。流石に全員は呼べないから、メインサーヴァント達と人間の皆だけでいい。」

 

「…わかった。」

 

ドクターの目が真剣だったから。…多分。あの事、なんだろう。




う~ん……

裁「…これで、何か変わればいいんだけど。」


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第242話 臆病者の決意

まぁ、誰か分かりますね?

裁「私の時も同じタイミングだったな…」


「お呼び出しします。指定するサーヴァント、及びカルデア全職員、全直通契約サーヴァントは、至急第一会議室にお集まりください。繰り返します…」

 

第一会議室の放送設備を使って放送をかける。かけ終わったあと、受話器を元の位置に置いてドクターの方を向く。

 

「これでいいの?ドクター。」

 

「あぁ、ありがとう。……」

 

「…?」

 

何かを言いたげに私の事を見つめてる。

 

「……リッカちゃん。君に、聞きたいことがある。」

 

「え…何…?」

 

「……君は、人理修復という大役を担っている。ボク達は、君を…君とそのサーヴァント達を補助することしかできない。…その……怖く、ないのかい?」

 

「え…?」

 

「前線に立つことさ。前線に立つということは、常に傷つく可能性があるということ。そして、誰かを傷つける可能性があるということだ。それは言い換えれば、自分が死ぬ可能性もあるし、相手を殺す可能性だってあるということ。…君は、それが怖くないのかい?」

 

「ちょっとロマ…」

 

マリーの言葉を手で制す。私の言いたいことが分かったのか、マリーが口を噤んだ。それを確認してから、ドクターの目を直視する。…真剣な目。ドクターは遊び半分ではなく、本気で私に問いかけている。

 

「……君に、君一人に人理修復の実地行動のマスターという重要な役割を背負わせているボク達が言うことでもないだろうけど。……君の言葉で、君の答えを。聞かせてほしいんだ、ラストマスター・藤丸リッカ。」

 

……私の答え…か。

 

「……怖いよ」

 

「……!」

 

「自分が死ぬかもしれないのも、誰かを殺してしまうかもしれないのも…それに、誰かが死んだのを見るのだって怖い。…だって、私は元々ただの女子高生だったんだもの。」

 

「あ……」

 

「普通の、っていうと語弊がありそうだけどね。今までが今までだし。」

 

魔術師のお兄ちゃんがいて、ホムンクルスの友達がいて、中国拳法に詳しい神父さんやシスターさん達がいて。これだけでも、十分普通じゃないと思う。

 

「なら───」

 

「確かに、前線に出るのは怖い。……だけどね、ドクター。私は私の知らないところで、親しい誰かがこの世からいなくなっちゃうことの方がもっと怖いの。」

 

「───!」

 

「寿命とかでどうしようもなかったのかもしれない。それがその人の天命だったのかもしれない。でも、できることなら。私はその人の最後に、その人の傍で寄り添ってあげたい。…もしくは…今はまだ、力不足だと思うけど。私と親しい人を、傍で護りたいの。」

 

「リッカちゃん……」

 

「……どうか、恐怖を少しでも和らげることができるように。それが、私が前線に立つ理由。」

 

「…そう、なのか……」

 

「……ドクター。」

 

私はさっきから思ってたことを告げる。

 

「どうして、こんな質問を?」

 

「…はは……いや、恐怖を乗り越えるヒントにでもなれば、と思ったんだけど……そっか……心の強さ、か……」

 

そう言ってドクターは力なく笑った。

 

「……ドクター。」

 

「なんだい?」

 

「……私ね、思うんだ。」

 

「?」

 

「“恐怖”を乗り越える第一段階って、“一歩踏み出すこと”なんじゃないかな。」

 

「一歩……踏み出す?」

 

「うん。……こう例えちゃ、多分ダメなんだろうけど。綺麗に分かりやすい例だからこれで紹介するね?」

 

「うん?うん。」

 

「えっと……投身自殺、ってあるでしょ?あの……高いところから飛び降りるとかする自殺。」

 

「……なんか、話が一気に重くなったね?」

 

「う……ほんとごめん、それは私も分かってるの……!」

 

でも、今の状態じゃこれくらいしか思い付かない…!

 

「と、ともかく!自殺するにしても、やっぱり躊躇うこととかあると思うの!」

 

「う、うん…」

 

「崖っぷちで、一歩踏み出したら───どうなるか、分かるよね?」

 

「「「「「……」」」」」

 

全員が想像したのか、微妙な表情になった。

 

「例えがすっごい最悪の部類だと思うけどそれと同じなの!“一歩踏み出す”ことをしなければ“結果が起こらない”!」

 

「……あぁ、なるほど……」

 

「勇気よりも、まず第一に“一歩踏み出すこと”!それが“恐怖”を乗り越える第一歩なんだと私は思う!」

 

息切れしながら言い終える。…なんで、私こんなに疲れてるんだろ…

 

「……恐怖を乗り越えるためにまず必要なのは“一歩踏み出すこと”、か…」

 

ドクターが少し悩んでから顔を上げた。

 

「分かった。ありがとう、リッカちゃん。…ボクも、一歩…踏み出してみるよ。」

 

ドクターがそう言ったと同時に、第一会議室の扉が開いた。全員が揃うのは時間がかかると思うし、もう少し待とうかな。

 

 

 

side ミラ

 

 

 

扉が閉まったあと、何人いるかを確認する。……うん。

 

「全員揃ったよ、リッカさん。」

 

「ん、ありがとう、ミラちゃん。」

 

私が人間ではないと明かした今でも、リッカさんは今までと同じように接してくれている。…私の周りは、優しい人たちばかり。本当に、そう思う。

 

「───はい。ミドラーシュのキャスター、私の能力にてこの場は公平となりました。」

 

「ありがとう、ミドラーシュのキャスターさん。」

 

「いえいえ~♪」

 

確かに何かの結界が張られている感覚はあった。カルデア内ではあまりそういうの気にしすぎるのもあれだろうから、あまり気にしないようにしてる。正直カルデアって色々な結界が張られてるから気にしてても、っていうのもある。

 

「ええと……今回みんなを呼んだのは、実際のところ私じゃないの。私じゃなくて、ドクター。」

 

ロマンさん…?

 

「ほら、ドクター。」

 

「あ、あぁ……こほん。…ええと…今回みんなを呼んだのは他でもない。魔術王───ソロモンについてだ。」

 

その言葉に私達の間に緊張が走る。

 

「グランドキャスター・ソロモン。それがロンドンで君達の前に最後に立ち塞がった存在が名乗った名称───間違いないね?」

 

その言葉に頷く。存在そのものは違っても、あの時に…ルーツが動きだすより前に名乗られた名はそれだ。

 

「そもそも“ソロモン”とは何者か。紀元前における古代イスラエルの王にして、魔術の始まりとなった人物であり、彼の死と同時に神秘の衰退が加速したとされている。…ミラちゃん、一応聞くけど君のいた世界にソロモンという人物は…」

 

「いないよ。別世界には伝わってるらしいけど、私達の世界じゃまだ文献も発見されてない。」

 

「…そ、そっか……なんか、ちょっと…悲しい……かな?」

 

「…?」

 

「いや、こっちの世界だとソロモンといえば有名で、色々な創作作品にも使われてるからさ。ゲームの世界出身かもしれない君達でも知ってるかと思ったんだけど…」

 

あぁ……なるほど

 

「“モンスターサマナー”…だったか。僕達ハンターではなく、ミラ殿のようなサマナーを中心としたゲームシリーズだな。ミラ殿の使う技とも酷似している。しかし、モンスターサマナーにソロモンがいるならば、ミラ殿の世界にソロモンに伝承があってもおかしくはないはずだが…」

 

リューネさんがそう言ってリッカさんを見る。

 

「……いないよ。現シリーズ最新作、“モンスターサマナー4G”ですら、ソロモンの伝承は出てきてない。」

 

「そっかぁ……」

 

あ、目に見えて落ち込んでる…

 

「……って、そんなことはいいんだ。ギルからもう話されている通り、あのロンドンに顕現したソロモンは本物のソロモンじゃない。ただし、ある意味においては本物のソロモンと言える。」

 

「ええと……」

 

「どういう、ことですにゃ……?」

 

ルーパスさんとスピリスさんがよく分からないというように声をあげる。

 

「その身体…肉体は本物のソロモンのものなんだ。中にいる魂は別物でね。“ソロモン”は既に死んでいて、英霊にもなっている。」

 

「……?」

 

「あーっと……どう説明したらいいものか。ソロモンは既に死に至り、英霊となっている。でも、あれは英霊ソロモンではない……繰り返しみたいになってるけど、本当にそうなんだよなぁ……ええと…魔神柱、っていただろう?あれは以前ミラちゃんが見抜いたように“術式”で、本来の魔神というのはボクらよりも高次元な存在…寿命なんてないんだ。それが───」

 

「……意志持つ術式がソロモンの死体を乗っ取り、動き始めた?」

 

私の言葉にロマンさんが静かに頷く。

 

「……あぁ、ミラちゃんの言う通りだ。……少し長くなるけど聞いてほしい。ソロモンのことについて。」

 

そこからロマンさんは話し始めた。

 

 

まず、ソロモンという男は“人でなし”であったこと。

 

ソロモンは神に捧げられた子であること。

 

喜怒哀楽を持たず、全てのことを“だから?”で終わらせる。

 

神の代行者に心など必要ないと、そういうように作られた存在。

 

ある時、枕元に神が現れる。

 

神は告げた。“望むものを与える”と。

 

ソロモンは答えた。“知恵を望む”と。

 

神は与えた。“天使と悪魔を使役する10の指輪”を。

 

神は告げた。“使命を果たせ”と。

 

こうして、心なき代行者が生まれた───

 

 

「……同じだ」

 

「…ミラちゃん?」

 

リッカさんが不思議そうに私を見つめる。ロマンさんにも聞こえていたのだろう、ロマンさんもこちらを見つめていた。

 

「……同じだ。“古龍の巫女”と。」

 

「……ミラちゃん、と?」

 

その問いに私は首を横に振る。

 

「……正確に言えば初代“古龍の巫女”に限定される。今は面倒だから、また後で話すよ。」

 

「……分かった。ドクター、続けてほしい。」

 

「あ、あぁ…」

 

 

魔神達はソロモンに意見した。“人間は不完全だ”と。“この世界に悲しみが満ちている”と。“貴女は何も思わないのか”と。

 

ソロモンは答えた。“それがどうした”と。

 

ソロモンに自由意思はなかった。

 

ただ与えられたことをこなす、機械のようなものだった。

 

最低限の精神であったが故に。最低限の人格であったが故に。

 

ソロモンが指輪を使用したのはたった一度。自らの意志で何かをしたのは、指輪を返しただけ。

 

それだけで、ソロモンは眠りについた。

 

しかし、魔神達は眠らなかった。

 

 

「はは…使い魔とのコミュニケーション不足がこうなるとはね……」

 

そう言ってロマンさんはため息をついた。

 

「自由意思がもう少し許されてれば、なぁ…こんなことにもならなかったんだろうけど。」

 

「ロマン。そのソロモンと魔神の話、ぴったり当てはまる言葉があるぞ。」

 

「うん?」

 

「“間が悪かった”。ただそれだけだ。ソロモンは自由意思を持たず、心を持たない。魔神は自由意思を持ち、心を持つ。そら、そんなもの、通じ合えるわけがあるまい?」

 

「───あぁ。なるほど。」

 

「……聞いていいかい、ドクター・ロマン。何故、君はそんなにソロモンと魔神柱に詳しい?」

 

リューネさんがそう聞いた。

 

「あぁ……それか。」

 

「確かに……どうして、ロマン?」

 

「…簡単な話さ。実際に体験してきたことなんだし。」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

ほとんどの人が驚いた後、今度は私の方を向いた。

 

「ねぇ、ミラちゃん。君はあのソロモンを見て、何か変だとは思わなかったかい?」

 

私がどう思ったか、か……

 

「……あぁ、そういえば。右手中指の指輪だけ違った気がする。」

 

そういえば、なんかおかしかった。色が変、というか…

 

「……あれってもしかして偽物?」

 

そう問うと、ロマンさんは深く頷いた。

 

「そう、あのグランドキャスターの指輪は不完全だ。たった1つ、本物の指輪を見失っている。そして───」

 

ロマンさんが手袋を外す───そこにあった、指輪。ソロモンが持っていたものと同じもの。

 

「───その最後の1つは、ここにある。」

 

「「「「「……」」」」」

 

「……改めて名乗ろう、偽のソロモンに立ち向かう者達よ。英雄王に“財”と呼ばれ、龍の王妃に守護の対象とされ───また、祖なるものにも認められている者達に、その報奨として。」

 

「……っ」

 

光を放つ。眩しさで目を覆う。光が収まった頃には───

 

「我が名は───ううん、こんな名乗り方は似合わないね。ボクの名は“ソロモン”───魔術王ソロモン。臆病者でどうしようもない、ただ恐怖に怯えているだけの名前負け野郎さ。」

 

そう、告げきった。

 

「……ドクターが……ソロモン……」

 

「……まさか。私でも知らない、カルデア召喚例第一号とは───」

 

「あぁ。マリスビリーが召喚し、冬木の聖杯戦争で共に戦ったサーヴァント。それがボク、ソロモンなんだ。」

 

「「「「「───」」」」」

 

驚愕、なんだろうけど。全員が止まっていた。

 

「はは。…聞こえてる、かな?」

 

「え、えぇ……」

 

「…ちょっと疲れたし、少し休憩にしようか。数人整理しきれてないみたいだし。」

 

それがいいかもしれない。




裁「……マスター、“一歩踏み出す”の例が“投身自殺”はないでしょ、さすがに…いや私も過去に同じ説明したけどマスターなら改変できたでしょ?」

私もそれしか浮かばなかったんだよ……!ほんっっとごめん!!

弓「しかし一歩踏み出した結果が明確に現れる、とするとぴったりではあるな……話題が重すぎるが。」

だぁぁぁぁ!!悪かったって!!

殺「話題が重い。せめてもう少し軽いものにするがいい…」

……


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第243話 臆病者の自白

……あー……うー……

裁「……大丈夫なの、マスター?」

…多分……

月「……本当に大丈夫なのかな、これ…」

裁「え…?」

月「私もお母さんを構成する要素の一部なのでお母さんが自覚してないことは分からないんですけど……もしかしたら、お母さんって無意識に無理をする癖があるのかも……と。」

裁「……」


「…さて。みんな、どうにか飲み込めたかな?」

 

その言葉に全員が頷く。

 

「……じゃあ、続けるよ───」

 

 

マリスビリーはソロモンの指輪を触媒とし、ソロモン───ロマン殿を召喚した。

 

聖杯にマリスビリーが望んだものは“巨万の富”であった。

 

このカルデアに火を入れ、運用するだけの富。

 

通常の方法では他の魔術師に足がつく。手にした成果にケチがつくと。

 

そう考えたマリスビリーは聖杯という奇蹟をショートカットに、誰にも知られない抜け道として利用したという。

 

“奇蹟を前にして私は根源へとたどり着くでもなく、並行世界へと赴くでもなく、ただ俗物のように巨万の富を願うのだ”───そう言って笑っていたという。

 

ロマン殿自身は当時何も望みはなく、自害すれば自らの仕事は終わると思っていたという。

 

ロンドンにて英雄王が言っていた“魔術師6名と英霊7騎の魂を聖杯にくべることで真の願望器として機能するようになる”、“自らのサーヴァントも含めた”というのはこれが理由のようだ。本来、魔術師とサーヴァントの関係はそうなのだと。

 

 

「……こう、僕が言うのもあれだがこの世界の魔術師というのは…外道、というかなんというか…」

 

「あはは…リューネちゃんの言うことももっともだね。でも、それが本来の魔術師なんだよ。逆に、今のカルデアみたいに一般人の感性を持っているような人が集まっているっていうのが異常なくらいかな?本来の魔術師は自分本意な生き物だからね。」

 

でも、とロマン殿は続ける。

 

「ごく少数だけど、人を思いやる魔術師もいる。英霊のことを、ただの使い魔ではなく対等の…共に戦う関係であると定義する魔術師もいる。マリスビリーもそのうちの1人だったのかもしれないね。」

 

そこからまた話し始める。

 

 

マリスビリーが願った後。

 

“君は何を願う?”…そう、マリスビリーはソロモンに問うたという。

 

“聖杯に望むのは共に戦った君にも与えられるべき権利だ”、と。

 

ソロモンは驚いた。通常のように自害させられるものだと思っていたから。

 

悩んで、悩んで───1つの望みを口にする。

 

“人間になりたい”。それが、ソロモンの願い。

 

聖杯戦争中にマリスビリーからもらったものが、その願いを産み出した。

 

聖杯は正しくその願いを叶え、ソロモンを人間に───“ロマニ・アーキマン”という1人の人間をこの世界に産み落とした。

 

───が。

 

人間になる───力を喪うその刹那、視てしまった。

 

滅びる世界、焼け落ちる星───人類の終焉。

 

ソロモンが持つ千里眼が、それを視てしまった。

 

しかし、それを知ったところで、ただの人間になってしまっていた彼にはどうすることもできなかった。

 

自由にはなれた。それは事実だ。

 

自由意思を得て、今度はただ一人の人間として生きてもいい。

 

───彼は、破滅の未来を無視することができなかった。自らが原因だと気づいたから。

 

とはいえ、ソロモンの知恵はない。今あるのは人間としての喜怒哀楽、今までの記憶。

 

故に───1から学び直した。あらゆることを。役に立ちそうなことを。

 

起こるはずの災厄に備えた。いつ起こるかも分からない災厄に。何が引き金になるか分からない災厄に。

 

その道は辛かった。だが───“楽しかった”のだ、と。

 

 

「───で、1年くらいだったかな。それくらいして…ボクはあの時、運命に出会ったんだよ、リッカちゃん。」

 

「私…?」

 

リッカ殿が…?

 

「“お邪魔します…”からの“入って……うええ!?”…ははっ、1年も経ってないのに…なんでだろうね。昔のようにも感じる。」

 

「……あぁ。でもドクター、その話していいの?秘密だったんだよね?」

 

「所長に怒られるのはもう覚悟済みさ!」

 

「……えと…話が見えないのだけど……」

 

話を聞くと、ロマン殿は最初のレイシフトが始まるとき、リッカ殿の部屋にいたのだという。本来の持ち場である医務室ではなく。

 

「……サボっていた、ってことね。」

 

「ハイ……」

 

「……まぁ、いいわ。それがいい方向にも行っているのだし、不問とします。それで貴方の話は終わりかしら?」

 

「……あぁ。これで全部だ。君達に何も告げず、君達を危険に晒し続けた男の全てさ。…本当は、レオナルドと六花以外には明かさずに、魔神達と決着をつけるつもりだったんだけど。」

 

確か六花殿が使っているデータベースは魂に干渉して情報を読み取れるんだったか。隠蔽も意味がなかったのだろう。

 

「…でも、もう限界なんだ。カルデアのみんなに囲まれていて、みんなを騙していることが辛い。…六花から言われたよ、“このまま続けてれば必ず限界が来る”って。あぁ、確かに限界だ。…もう、だめだ。これ以上、みんなに後ろめたいものを隠していたくない。」

 

……泣いてる?

 

「こんなボクでも、受け入れてくれるかい?こんな人でなしでも、君達の仲間でいてもいいかい?」

 

全員の視線がリッカ殿に向いた。

 

「……え、私?マリーやギルじゃなくて?」

 

「貴女がまず告げなさい、リッカ。」

 

「えぇ……まぁ、いいならいいんだけど。…えっと…ドクター?」

 

「…?」

 

「……ていっ!」

 

「あだっ!」

 

リッカ殿はロマン殿の額を指で弾いた。

 

「な、何をするんだいきなり!」

 

「……ねぇ、ドクター。さっき私が言ったこと、覚えてる?」

 

「え?えっと…親しい誰かがこの世からいなくなるのが怖い…だっけ?」

 

「……あれ。私、言わなかったっけ。前線に立てている理由。」

 

「……言って、ないね。」

 

「……」

 

……微妙な空気になったが大丈夫だろうか?

 

「ええと…私が前線に立てているのには理由がある。前線に立っている理由は…さっき皆が来る前に言った通り。」

 

そう言って一呼吸おく。

 

「私が前線に立てているのは、皆が支えてくれてるからなんだよ。現地にいるマシュやルーパスちゃん達、ギルやアルだけじゃない。カルデアにいるドクターやマリー達が私達を支えてくれているから、私は前線で戦える。……ううん、私だけじゃない。」

 

「ドクター・ロマン。貴方がいるから、私も戦えるんです。貴方がいたから───このカルデアは生きていたんです。」

 

マシュ殿がそう言ったのと同時にオルガマリー殿がロマン殿に近づく。

 

「貴方に感謝を、ロマニ・アーキマン。貴方がいたからこそ、今のカルデアがある。」

 

「マリー…」

 

「……貴方は、私の大切な相方です。」

 

「……!」

 

そこからしばらく、泣き止ませるのに時間が掛かった。……やれやれ。




にゃー……

月「あ……UA46,000超えてますね…」


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第244話 月巫との鍛練

酔った…

裁「大丈夫…?」


ガキィッ!!

 

 

「ッ───ハ。」

 

強い音と強い衝撃。その衝撃に、肺の中の空気が押し出される。

 

「リッカさん!」

「先輩!」

 

「ッ───ゲホッゲホッ……!」

 

強く咳き込んだあと、衝撃のあった方向とは逆───宙に浮かんでいるアル…じゃなくて、眼の文字が三だから月さんを見た。

 

「……まだ、続けますか?」

 

そう言って私を───ううん、私達を見つめる月さん。強い音は私が月さんの攻撃に被弾した音、強い衝撃は私が被弾して地面に叩きつけられた衝撃。

 

「勿論……です…っ!もう一度、お願いします!月さん!」

 

「あたしからもお願いするわ…!」

 

「私も…!」

 

「……わかりました。ルナリア?」

 

System reboot. (システム再起動。) Auto recovery(自動治癒)

 

ルナリアさんの声と共に最初の状態へと戻っていく。…ここは、月さんが作り出した異空間。多分、様々な操作はお手のもの、ということだろう。

 

《Complete.》

 

その声が聞こえた途端、私達の身体が浮く感覚───重力の低下。視界に表示されるHPバー、そして残機───東方projectと同じようなシステムにしたらしいから、月さんがスペルカードを使ってもどんな符なのか分かるみたい。……それにしても、10機は多すぎだったと思います、月さん。それだけパターンがあるんでしょうけど。今は2機になってる。

 

「…いきますよ」

 

 

{戦闘BGM:ヴォヤージュ1970}

 

 

この曲───確か、輝夜さんのラストスペルテーマ。だけど、さっきの見る限り───

 

《Reiuzi Utsuho.》

 

「通常1」

 

「拡散“ホーミングアミュレット”!!」

「拡散“イリュージョンレーザー”!!」

 

私が霊夢さんの、ナーちゃんが魔理沙さんのショットを起動する。原作と違い2人分のショットだからか、それとも月さん自身が脆いのか、体力ゲージがガリガリ削れる。

 

《Lord Cartridge》

 

赤ゲージに到達した頃に音が聞こえる。…あれって、詳しくは聞いていないけれどベルカ式カートリッジシステムとは違う気がする。

 

「焔星“十凶星”」

 

「全員回避専念!」

 

最初から焔星“十凶星”───確か他のスペルより難易度は低かった気がするけど三次元弾幕になって普通に怖いんだけど!?

 

「リッカさん!マシュさんが…!」

 

「…!マシュ!!」

 

マシュが巨大赤弾に当たりそうになってるのが見える。そっか、私達は地霊殿のLunaticクリア済みだけどマシュはHardだっけ…!

 

「盾符“シールドリフレクション”!!」

 

マシュがスペルカードを起動───盾で受けた弾幕が月さんに跳ね返る。それが最後となったようで、月さんのスペルが掻き消える。月さんの残機、残り1。

 

「ルナリア」

 

《Cartridge Release》

 

紫色の弾幕。月さん自身の通常弾幕…!!

 

「リッカさん、一気に行けるかしら!?」

 

「…月さんがどう出てくるかが分からない。」

 

さっきとも違う、弾幕構成。さっきは最初のスペルとして想起“賢者の石”を使ってきた。さっきと同じなのなら、次のスペルは桜符“完全なる墨染の桜 -封印-”…なのだけど。

 

「変幻自在…!」

 

アルから聞いたことがある。月さんはその戦闘スタイルから“変幻自在”と呼ばれているという。今回はスペルカードと弾幕以外は使わないという規定でやっているから、かなりパターンは限られる。…問題は、他キャラのスペルと月さん自身のスペル。想起“賢者の石”は地霊殿4面ボス、“古明地さとり”さんのスペル。桜符“完全なる墨染の桜 -封印-”は妖々夢6面ボス、“西行寺幽々子”さんのスペル。焔星“十凶星”は“霊烏路空”さんのスペルだ。

 

「…!来るわ!」

 

「月符───」

 

月符、と言えば───原作では“パチュリー・ノーレッジ”さんのスペル、月符“サイレントセレナ”だ。

 

「───“ムーンセル・オートマトン”!!」

 

「「「っ!?」」」

 

聞いたことのないスペル。いや、名前自体は聞いたことがある。…エミヤさんとかから。原作には、ないスペル。そして、周囲が暗闇に包まれたと同時に月さんの姿が消えた───

 

「耐久スペル!?」

 

私が叫んだところで、紫色の弾幕が現れ始める。効果時間は───30秒。

 

「…!」

 

紫弾がかなり多い。いや、それだけじゃなくてレーザーと大弾、小粒弾も混ざってる。…これは、ちょっときついかもしれない。

 

「結構密度が濃いわね…!」

 

とりあえず、暗闇の中で弾幕を避けきる。マシュと私が背後の弾幕に気づかずに抱え落ちして、スペルが終わる。

 

「月符“ラビリンスセレーネ”」

 

残機0───その状態で、全赤ゲージ。スペルは“ラビリンスセレーネ”───月の迷宮?

 

「先輩!上、上!!」

 

マシュに言われて上を見る。大量の、紫弾。───あっ、やば

 

「これ───さっきの!拡散“ホーミングアミュレット”!」

 

とっさに避けて月さんに向けてホーミングアミュレットを放つ。

 

「…!」

 

これは耐久スペルじゃない。だけど、実質耐久に近い。スペル取得難易度が難しいから。これは───さっき私が被弾したスペルの強化版だ。

 

「恋符“マスタースパーク”!!」

「焔符“プロミネンスブラスター”!!」

 

月さんに向けてスペルを放つ。今回私達が使っているスペルは総て月さんが用意してくれたもの。お兄ちゃんの弾幕発射体みたいなものを使えばこれが使えるみたい。…お兄ちゃんの弾幕発射体より魔力喰らうからどっちがいいかって言われると…お兄ちゃんの方かなぁ。

 

「………っ!」

 

月さんの方が耐え切れず、スペルブレイク。地面に激突した。残機0───いや。

 

《Master.》

 

「うん───」

 

突如、現れる大量の魔法陣。それと共に伸びる体力ゲージ───

 

「これを───避けられますか!?」

 

「…!?」

 

「ラストワード!!“ルナ・メモリア Fantastico(ファンタスティコ)”!!」

 

ラスト───ワード!?

 

「ラストワード、ですか!?」

 

「“ルナ・メモリア”だなんて聞いたことがないわ!!」

 

と、言うことは───

 

「月さん本人のラストワード…!!」

 

幸い、弾幕密度は浅い。まるで花開くかのような弾幕だ。Fantastico(幻想的な)───あぁ、そうか。幻想的、なんだ。

 

 

───ちなみに、結果はというと。月さんのラストワードで全員全残機削られました。




月「ちなみに私のスペルカード…というか、あのラストワードなんですが…あれ、実際本気じゃなかったりします。」

裁「そうなの…?難しかったんだけど…」

月「私の全力のラストワードって“ルナ・メモリア Finale(フィナーレ)”ですし。まだあれは弱いです」


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第245話 天文台の裏側

うー…

裁「……大丈夫なんですか、これ…」

月「大丈夫ですよ、多分」


「寿命65歳まで回復……星乃さんが起きてから凄まじい回復速度ね……」

 

〈既に……そこまで。凄いですね、星乃さんの力は……〉

 

「あはは、ありがと。…これでもリミッターかかってるから、遅い方だと思うんだけどね。」

 

そう言って私は軽く笑う。

 

「“寿命を操作できる”という時点で規格外なのですよ、それは…」

 

「寿命……ね。私のは“命を管理する”能力だから説明が難しいところなんだけどね…」

 

命を管理する力。それが、私の力。その力は、酷く曖昧な定義で成り立っている。曰く───“あらゆる命を視て、あらゆるモノに命を与え、あらゆる命を奪う───生と死の境界を定める力”。きちんと定義されているようで曖昧だ。

 

「それでもこの短期間でここまで延びたのは星乃さんの協力があってこそです。…その。今日はマシュにリッカ、七海さんとの模擬戦闘後に協力頂きありがとうございます。」

 

「うん?それ、私じゃないから。私は大丈夫だよ。…あ、でも……そっか、身体は1つだから無銘に負荷がかかるんだっけ。」

 

模擬戦は月がやっていたことだ。最後はもうそろそろ時間がなかったからスペルカード4枚しか使わなかったみたいだけど。……ラストワードも不完全なものだったみたいだけど…

 

「とりあえず……調子はどう、マシュ?」

 

〈…はい。比較的良好、です。…かつて伝えられていた、寿命18歳の頃よりは遥かに。先程の模擬戦でも思っていましたが、以前よりも動きやすい気がします。〉

 

「へぇ……さすがは英雄王、持ってるものは一級品…っていうか。」

 

……というかこんなのどこから持ってきたのか……

 

「……英雄王だし何してもおかしくないか。」

 

〈……否定しません〉

 

あ、否定されなかった……

 

「ともかく、マシュ。これより先もこの処置を受けてもらいます。…貴女には、もっと寿命を獲得してもらわないといけないもの。」

 

……一瞬、オルガマリーの表情が暗くなった気がする。気のせい、かな?

 

「いいわね?」

 

〈……はい。…あの、所長〉

 

「?」

 

〈……生きていてくれて、ありがとうございます。所長がいなければ、今のカルデアはなかったかもしれませんから。〉

 

「……」

 

〈所長と……友達になれて、本当に嬉しいです。…以前は…避けられてた気がしましたから。〉

 

「……えぇ、そうね。私は、マシュを避けていたようなものだったものね。…友達になれて嬉しいのは私もよ。」

 

〈……おやすみなさい、所長。また、明日。〉

 

「えぇ、また明日。」

 

そうしてマシュさんは睡眠状態に入った。

 

「……星乃さんは……いえ、“星の娘”さん達は」

 

「うん?」

 

「……カルデアが行ってきたこと、知っているのでしょうね。恐らくは。」

 

「……」

 

星の娘───それは、私達のこと。私達が、知っている…か。

 

「否定はしないよ」

 

「……」

 

「だからって、私達が罰することでもない。基本的に私達は細かいところまで干渉するつもりもないし。…望まれなければ、ね。」

 

そう言い残して私は七虹に割り当てられてる部屋に転移した。…とりあえず、七虹に代わって今日は寝よう…




すみません普通に時間なかったです

裁「あ、そうなの…?」

うん…


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第五特異点 北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム 定礎復元
第246話 呪槍の夢、違和感


さてと……章開始前の夢回、いきますよ~

弓「イ・プルーリバス・ウナム……して、マスター。」

うん?

弓「シャトー・ディフ後の召喚は描かんでよかったのか?」

あー…今回はいいや…とりあえず、アンケート設定しなきゃ……


「よぉ。」

 

赤い、槍。それから白い肌。私の知っている人に似て、だけどもっと獰猛にしたかのような声音。…男性。

 

「……ちっ。まだ死んでねぇのかよ、アンタ。しぶとすぎんだろ。」

 

「……!」

 

その声に反応する───緑髪の、ツインテールの女の子。ミクさんでは、ない。

 

「つーか……心臓どころか顔まで潰れてんのによく動けんな、小娘。まぁ、いいか。揺蕩いの旅人だか異界の来訪者だか知らねぇが、邪魔するなら殺すだけだ。」

 

声を放つ人物───白い肌の男性の言う通り、女の子はその姿がかなり痛々しいものになっている。胸には穴が空き、脇腹は抉れ、顔は右半分がなくなっているような状態。常にその傷口から出血しているようにみえる───あぁ、彼女の足元に広がる血溜まりの大きさからすればとっくのとうに致死量は超えている。

 

「…なんだよ。まだ、やる気かよ。」

 

「……」

 

だと、いうのに。女の子の左目から、戦意は抜け落ちていない。今だって、傍らにあった大鎌を大きく振りかぶった。

 

「ちっ!」

 

「もうよい!そなたは逃げよ!余のためにそなたが死ぬ必要などない!」

 

女の子の背後にいた赤い髪の男性が声をあげた。

 

「……」

 

「何故───何故、そこまでする!そなたに余は関係ないはずだろう!?むしろ余がそなたを守るべきであろう!」

 

「……」

 

女の子は答えない───いや、違う、多分……()()()()()()

 

「…くっ……!貴様!」

 

「あん?」

 

「貴様、それだけの力を持ちながら───何故、魔王(ラーヴァナ)などに堕した!?」

 

赤い髪の男性が吠える。

 

「貴様の“(つよさ)”は何かに授かったものではない、途方もない鍛練によるものだろう!その領域に達したならば、もはや善悪を超越している!下らぬ邪悪に染まるなど、あり得ないのに……!」

 

「寝言は寝て言えよ。善悪がぶっとんだからこうなってんだろうが。敵は殺す。自分(テメェ)が死ぬまで殺せるまで殺す。それが戦の理だろうが。」

 

「その娘を見よ!自らより華奢にして幼き少女を嬲ることが貴様の理か!!」

 

「コイツが華奢?ハッ、だったらここまで耐えてねぇだろ。女でオレに腕力でタメ張れるなんざケルトでも少ねぇ。そもそも殺す相手にに女も男も関係ねぇよ。…それとも何か?手前は相手の質で殺す殺さないを推し量るのか?弱いなら生かす、強いなら殺す、と?」

 

話してる間にも戦闘は続いていて、女の子の大鎌を赤い槍が大きく弾いたところだった。

 

「……!」

 

「───くだらねぇ」

 

大鎌を弾かれた影響か、尻餅をついた女の子の髪を掴み上げる白い肌の男性。

 

「優しい殺生がしたいなら牧場に行けよ、牧場に。ここは戦場だ。持論ほざく前にさっさと死ね───っでぇっ!」

 

女の子が何かをしたのか、白い肌の男性が女の子の髪の毛を離した。左手を挙げると同時に何処からか大鎌が飛んできて、女の子の手元に収まる。

 

「そなた…」

 

「……や」

 

「……?」

 

ぎこちなく、口を開く女の子。口も半損していれば、恐らく発声器官も───

 

「……や……く………そ……く……」

 

「約…束…?」

 

「……し……た……………か…………ら……」

 

どんな話し方をすれば今の女の子の状態で話せるのか解らないし、分かりたくもない。絶対痛いと思うから。もしかしたら───何か、魔術でも使ったのかもしれないけど。

 

「こっちはとっとと終わらせてぇんだよ……手前が守りたがってる小僧共々さっさと終わり(死に)やがれ、小娘!!」

 

「……!」

 

「───蠢動しな、死棘の魔槍!」

 

赤い槍が───引かれる。

 

「“抉り穿つ(ゲイ)───鏖殺の槍(ボルク)”!」

 

「………」

「あ……がぁぁぁぁぁ!!」

 

その、槍は。女の子の頭を消し飛ばし、赤い髪の男性の心臓を貫いた───だけど。

 

「……」

 

「……っ、おいおい……!心臓を潰され、頭を潰されてなお、まだ死なねぇのかよ、コイツ!サーヴァント以上の化け物かよ…!」

 

女の子の身体はまだ動いていた。振り上げられた大鎌は、正確に白い肌の男性へと振り下ろされる。

 

「ちっ!小僧の方も心臓八割散ったってのに死なねぇし……めんどくせぇな!!」

 

「く……負けて……たま……るか……シー…タと……巡り、逢うまで……は…!」

 

そんなとき、銃声がした。

 

「あん?」

 

「サーヴァント反応を確認。対処します。」

 

「……西部のガラクタどもか。」

 

「今です、ジェロニモさん!」

 

「すまない、感謝する!」

 

「……これは…?」

 

「いいから来い!彼女が時間を稼いでくれている間に逃げるぞ!」

 

現れたのは機械と黒い肌の男性、そして───赤い髪の女の子。

 

「シッ!」

 

「───よし、分かった。テメェも邪魔だな。邪魔するってことは敵だな。歓迎するぜぇ、同じ奴とばっかで飽き飽きしてたんだ。手始めに殺してやるよ!」

 

「そう簡単に殺されない!」

 

赤い髪の女の子の獲物は───剣。男性の槍と女の子の剣が交差する───

 

 

場面が変わる。

 

コフィンの中で目を覚ましている“私”。マリーが外から“私”を見つめている。

 

「レイシフトお疲れ様、リッカ。」

 

「……うん」

 

コフィンの扉があき、“私”が外に出る。……そこには、いつものように……

 

……いや。

 

「ふ、マスターめも覚醒したな。それでは、明日に向けて休んでいるがいい。」

 

「……うん。」

 

ギルの言葉に“私”が答える。…覇気が、ない。私ですら分かるほどに、元気がない。

 

……その原因も、分かっている。というか…周囲を見渡して、分かってしまった。

 

いつもレイシフトが終わったとき、みんながいるその場所には───

 

 

 

───()()()()姿()()()()()()()()

 

 

 

「……」

 

朝起きたあとの鍛練。相手の攻撃を捌きながら、起きる前に見た夢について考えていた。

 

「……シッ!」

 

「うおっと。…へっ、槍の扱いも上手くなってきてんじゃねぇか!」

 

「……」

 

「んだよ……考え事中か。…本気出してねぇとはいえ俺の攻撃をここまで捌くたぁ、リッカの潜在能力高すぎんだろ……」

 

「……あ、ごめんなさいクー・フーリンさん。」

 

「うにゃ、別にいいんだが……うおっ!?」

 

私の槍がクー・フーリンさんの身体の横を掠めた。

 

「ちょっ、待て待て待て!?」

 

その言葉に槍の動きを止める。

 

「……リッカってよ。結構緩急の付け方上手いよな。」

 

「……そうかな?」

 

「今だって一瞬対応遅れたからな、俺。まだまだ荒いが、それなりには渡り合えるんじゃないか?」

 

「…ありがとう。でも…まだまだだよ、私は。監獄塔で出会った未来の私よりも、遥かに弱いもの。」

 

「そいつはサーヴァントだったんだろ?だったら…言っちゃ悪いが、お前さんが敵うとは思えないがな……」

 

「……それも、そうなんだけど。多分、私は…あの人を越えないといけない。あの人に託された願いを叶えるなら、この世界を守るなら……あの人を越えないと、ダメ…なんだと思う。」

 

「……そうか。」

 

ふとクー・フーリンさんの表情を見ると、心配してるような表情をしてた。

 

「ありがとう、クー・フーリンさん。」

 

「あん?」

 

「だって、心配してくれてるから……大丈夫、無理はしないから。ていうか多分、無理なんてしたら私は身体を壊すし。」

 

ギルから聞いた。私が監獄塔にいた時、カルデアは落ち着かなかったって。特に殺せんせーが色々なところを手入れしたり気晴らしの相手をさせられてたりしてそこらじゅうヌルヌルになったりしたとかって…殺せんせー、別世界の人間なのに結構爪痕残すなぁ…まぁ、本人が楽しければいいのかな。

 

「……うし!今日はこれくらいにす───」

 

「マスター!戌!いるな!!」

 

「───あぁ?」

 

「あ、ギル。おはよ。」

 

突然シミュレーションルームにギルが来た。

 

「うむ、おはよう───ではないな、至急管制室に集合せよ!」

 

「……レイシフト準備が整ったか。んじゃ、頑張って───」

 

「何を言っている、貴様も来るのだ、戌!」

 

「───は?」

 

「皆が待っている故、遅刻はするなよ!!」

 

そう言ってギルは去っていった。

 

「……なんだってんだ。」

 

「さぁ……?」

 

「……行くか」

 

「…あ……ちょっと待って」

 

「あ?」

 

私はクー・フーリンさんを呼び止めた。

 

「……クー・フーリンさん。1つお願いしたいんだけど…」

 

「なんだ。」

 

「ええっと…私のこと、抱き締めてくれる?」

 

「───は?」

 

……自分で何言ってるのか分からなくなるけど…ちょっと、気になることがある。

 

「……いいのか?」

 

「う、うん…」

 

「……うし、分かった。」

 

そう言ってクー・フーリンさんに抱き締められる。硬く、鍛え上げられた胸板が私の身体に触れる。

 

「……ありがとう」

 

「…もう、いいのか?」

 

私が頷くと、クー・フーリンさんが離れる。

 

「なんだったんだ、一体。」

 

「……」

 

「リッカ?」

 

考え込む私に声をかけるクー・フーリンさん。

 

「……ちょっと、気になることがあって。」

 

「ん?」

 

「男の人の…胸のところって、クー・フーリンさんみたいに硬い胸板の人が多いのかなって。」

 

「……は?」

 

「ごめんね、わざわざ手間かけさせちゃって。」

 

私がそう言うと、クー・フーリンさんは脱力した。

 

「何事かと思ったぜ……お前さん、結構天然だな?」

 

「……?分かんないけど…」

 

「……分かんねぇならいいや。知るべきでもあるんだろうが、俺が言うことでもなさそうだしな。…さ、行こうぜ。」

 

その言葉に頷き、私達はシミュレーションルームを後にした。




裁「この時期気にしてたこと……あぁ、そういえば……」

心当たりある?

裁「ある。まぁ、いずれ明らかになるよ。」


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第247話 狂犬再臨

裁「そう言えば連続投稿始まってから1年経ってるんだよね」

そうだね……


「よし、揃ったな。それでは概要を説明しよう。」

 

大量の武器を横目に、ギルが解説を始める。今回の特異点はアメリカ。西暦は1783年。神秘こそは薄いものの、人類史にとって重要な点。神秘は薄いとはいえ、アメリカの方では別の魔術系統が発達していたとも。

 

「実際、ボクらの世界でアメリカが無いなんて考えられないからね。人類史のポイントとしては強い意味を持つ───“アメリカ独立戦争”の時期だ。」

 

アメリカ独立戦争。1775年4月19日から1783年9月3日までの、イギリス本国と北アメリカ東部沿岸のイギリス領の13植民地との戦争のこと。簡単に言えばイギリスの支配から逃れ、“アメリカ合衆国”という1つの国として動けるようになるきっかけになったような戦争。

 

「…ていうか、ドクターはその姿なんだ。」

 

「もう隠す必要なんてないからさ。ボクもいつでも力を振るえるように頑張るよ。」

 

「…ありがとう」

 

ドクターの姿はソロモンとしての姿。…私は、今までのドクターの姿も好きだったんだけど。まぁ、本人がいいならいっか。

 

「んで?俺とアメリカが何の関係がある?」

 

「決まっていよう!狂った貴様が特異点にいるからだ!」

 

「────は?」

 

え?

 

「───お前、今何つった?」

 

「ええい、通じぬならもう一度言ってやるわ!聖杯にて狂った貴様が特異点にいるのだ!どこぞの馬鹿者のせいでな!我が財を何だと思っている!」

 

「……スカサハ師匠…は、絶対にねぇな。エメル…も、ない。モリガンもねぇだろ……あぁぁぁぁぁ!?」

 

クー・フーリンさんが頭を抱える。

 

「“メイヴ(あいつ)”か!だよな、あいつならやりかねん!うわ、マジすまねぇ!あいつは謝らねぇだろうし先に俺が謝っとくわ!マジですまねぇ!!」

 

「え、えっと……?そんなに凄い人なの…?」

 

「あーと…マスターとは少し相容れないかもしれないけどなぁ…どうなんだろうな、分かんね。」

 

「───いやいやいやいや、待ってくれ!?クー・フーリンが聖杯で強化されただって!?」

 

「おい、マリー!しっかりしろ!」

 

「ご、ごめんなさい…ありがとう、六花。」

 

マリー…大丈夫かな…

 

「まずい…非常にまずいぞ…!クー・フーリンは多才すぎていくつものクラス分けがされるほどの大英雄だ!それが聖杯で強化されただって……!?それは本当なのかい!?」

 

「……本当です。月さんと陽詩さんが、観測しましたから。」

 

そう言ったのはアル。目の数字が“一”だからアル本人だ。

 

「……月さんの知り合いが、特異点にいるそうです。その人が、月さんに連絡してきたと。…映像を、送ってきたと。」

 

「連絡……」

 

「相手が使用してきたのは“ゲイ・ボルク”。変質しているのか色が変色しているようでしたが、相手は確かにそう言い放っていました。」

 

アルが心配そうな表情をしている。…多分、その月さんの知り合いの人のことが心配なんだと思うけど。

 

「マジか……まぁ、話は分かったぜ。その狂った俺を殺れってことだな?任せと───」

 

「これを見せられても同じことを言えるか?」

 

そうして見せられたのは───

 

〈令呪を以て命ずる。自害せよ、ランサー。〉

 

令呪によって自害するクー・フーリンさん。

 

〈ランサーが死んだ!〉

 

〈この人でなし!〉

 

ええと……なんか眼鏡をかけた人の宝具で自滅するクー・フーリンさん。

 

〈令呪を以て命ずる。紅洲宴歳館・泰山の麻婆豆腐を10皿、1分で完食してくるがいい。〉

 

〈ぬっ……!〉

 

……何処かで聞いたことあるような店名と表情を曇らせるギル。“紅洲宴歳館・泰山”……なんだっけ?

 

「このような醜態をさらしてなお、同じことを言うか?」

 

「別世界の話を持ってくんじゃねぇよ糞が。」

 

あ、クー・フーリンさんがギルに掴みかかった。

 

「クー・フーリン殿が死んだ…!」

 

「こ、この人でなし!」

 

リューネちゃんとルーパスちゃんがそう言う。……あの姿、私のようにも見えたんだけど…気のせい?

 

「第一、テメェも人間の坊主や聖杯の泥で死んでんだろうが。」

 

「ふん。それはアーチャーたる我だ。プレミアたる我には関係ないことだ。……で。」

 

ギルが聖杯を取り出す。

 

「特異点には貴様、ここにも貴様。ならば貴様を強化し、特異点の貴様にぶつけてやろうかと思ってな。」

 

「……は?」

 

「我、そしてヘラクレスが強化されているのだ。そら、同じ第五次のよしみとして強化してもよかろう?」

 

「……テメェ、自分が何言ってるか分かってんのか?」

 

「ルールブレイカー、であろう?」

 

「それは私の台詞なのだけど…まぁ、いいわ。どうせ───」

 

「我がルールだ!」

 

言いきった…ってあれ、メディアさん?

 

「既にメディアは呼んでおいた。レイシフトを始める前に新生を行うぞ。マスター!」

 

「は、はい!」

 

「聖杯を持て!ロマン、レイシフトを起こしておけ!すぐに終わらせるぞ!」

 

「準備はできているわ。…もう、私は諦めたもの。この男が何しても不思議じゃないものね…」

 

お、お疲れ様です……

 

「……なんだかなぁ。」

 

クー・フーリンさんは頭をかきながら私と一緒にメディアさんの指示に従った。

 

「これでよし、と……さぁ、リッカ?大体はヘラクレスの時と同じだけれど…令呪を使ってクー・フーリンに“誓約(ゲッシュ)”をかけなさい。」

 

誓約(ゲッシュ)…かぁ」

 

「できれば無茶なものがいいわね。ケルトの戦士は誓いが重ければ重いほど力を増すのよ。それと聖杯、そして月さん達の増幅術式を霊基の核にするわ。」

 

「増幅術式?」

 

私がアルを見ると、頷いて1つの弾丸を私に見せた。

 

「“古代ベルカ式カートリッジシステム”。なので実際私達の術式ってわけでもありません。出力を上げただけにすぎませんし。」

 

あ、やっぱりカートリッジシステムあったんだ…

 

「……うーん」

 

「あまり深く考えないでもいいぜ?“死ぬまで戦え”でもな。今更だが。」

 

「そういうわけにもいかないと思う……あっ。」

 

「…?」

 

それらしいものが浮かんだ。

 

「いくよ、クー・フーリンさん。」

 

「ん?おう。」

 

聖杯を掲げ───告げる。

 

「クー・フーリンに誓約を。───“世界に安寧が訪れるまで、味方を無事に守り抜き、誰にも負けない戦士であれ。汝が参じた戦ならばどのような状況であれ、汝が戦において倒れることは赦さず、また汝の味方が戦において倒れることも赦さぬ”。」

 

私が望んだのは───守護と戦闘の両立。令呪が三画消え、クー・フーリンさんを光が包む。

 

「───応!アルスターのクー・フーリンの名に懸けて!その誓いを受けるッ!!結構どギツイ誓約だが関係ねぇッ!」

 

武器が飲み込まれ、聖杯が飲み込まれ、弾丸が飲み込まれ───クー・フーリンさんだった光と融合を果たす。

 

「あぁ、ほんと───お前さん、いい女だぜ!」

 

その光が弾けて───中から、クー・フーリンさんが出てくる。

 

「……ちょいと装いは変わったみたいだが、紛れもなく俺だぜ、リッカ。」

 

「……うん」

 

「改めて───アルスターのクー・フーリン。リッカがかけた誓約に基づき、全力を振るうことを誓うぜ。」

 

「……ありがとう、クー・フーリンさん。」

 

「……そういえば、冬木で最初に出会った味方サーヴァントは彼だったわね…」

 

「……はい。今となっては懐かしくも感じます。」

 

私の言葉に、クー・フーリンさんは少し悩んだ顔をしていた。

 

「どうかした…?」

 

「いやよ、今もずっと“さん”で呼ばれてんのがむず痒くてよ……おし、リッカ。」

 

「…?」

 

「お前さん、俺のことを“クー”って呼んでみろ。“さん”なしでな。」

 

「クー?」

 

私が繰り返すと、満足そうに頷いた。

 

「思った通りか。あいつほど嫌じゃねぇ。これからはそう呼んでくれねぇか?」

 

「……分かった、クー。」

 

握手を交わしてから私達はコフィンに入る。

 

〈アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します〉

 

いつものアナウンス。しばらく、聞いてなかった気もする。

 

〈レイシフト開始まで あと3、2、1…〉

 

「……行こう、未来を…取り戻す旅へ。」

 

全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証 を 開始 します。




眠い…

弓「しっかりするのだ、マスター。」


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第248話 五度目になれば上空レイシフトも慣れる

裁「うー…眠い……」

槍「おいおい……しっかりしろよ、マスター…」

裁「……私、もうクーのマスターじゃないんだけど…」

槍「っと、すまねぇ。そうだったな。」


……アメリカ。いつものようにレイシフトした…はいいのだけど。

 

「……なんで上空」

 

私達は上空にいた。あ、足場は月さんが作ってくれたみたい。

 

〈……ギル。君、座標をズラさなかったかい?〉

 

「別によいであろう?我等に土地勘はないのだ。詳細は以前までのようにジュリィめに任せるとしても、高所から全体像を見ておくのも無駄ではない。」

 

「各地の詳細の方はお任せください。なるべく早く作るつもりですが……」

 

ジュリィさんがゴーグルについたレンズを使って遠くを観察している。……それってどこまで見えるの?

 

「……申し訳ありません、少し時間がかかるかもしれません。結構な広さのようですから。」

 

「時間に関しては構わん、頼めるか?」

 

「お任せください。…ということで、相棒。」

 

「ん…いってらっしゃい、ジュリィ。」

 

ジュリィさんは頷いて宝具の名を呟き、召喚したメルノスに掴まって飛び立った。

 

「さて……ミルド」

 

「下に大勢いるね……どうする?片方は機械的、片方は…なんというか、原始的?みたいな。」

 

「原始的な方はケルトだな。機械的な方は……おい、心当たりあるか?」

 

「蒸気王…ではないだろう、発明王あたりか?」

 

発明王っていうと…

 

「“トーマス・アルバ・エジソン”?」

 

「うむ、そうだな。ならば───」

 

「とりあえず、機械的な方は味方か敵か分からねぇな。まず分かるのはケルトの奴らはメイヴの尖兵だ。あいつは無限に兵士を産み出すからよ。っつーわけで適当にぶっ飛ばして大丈夫だぜ。」

 

「ふっ、知っている者がいると話が早いな。マスター、戌に指示を出せ!貴様の指示ならば従うであろうよ!」

 

「うん。ええと……敵か味方か分からない方は攻撃してくるまで手を出さないで。出してきたとしたらできるだけ無力化。自発的に敵だとは思われたくないから。敵だと分かっている方は全力で叩き潰しちゃって大丈夫。」

 

私がそう言うと、クー・フーリンさん……じゃなくてクーは獰猛、って言えそうな笑みを浮かべた。

 

「おっしゃ、待ってろ!すぐ終わらせてきてやるからよ!」

 

トン、と槍先で地面を突いたと同時に───クーの周囲が、抜けた。

 

「へっ!?」

 

「ふむ…バロールの魔眼…ではなかろうな。貴様らの細工か、無銘?」

 

その言葉にアルが頷く。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

咆哮。ミラちゃんが咆哮用に結界を張っていたらしくて、私達に被害はなかった。……私達には。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

「に、逃げろぉぉ!ここにいちゃいけない、すぐに離れるんだ!」

「撤退、撤退!!総員、即座に離脱せよ!!」

 

「うわぁ……」

 

咆哮によって機械的な軍勢の方が撤退していく。

 

「ふん。機械化したとは言え、心の脆さを補強することはできぬということだな。」

 

「まぁ、正直強咆哮くらいまで出てるからね、あれ。高級耳栓でも防げないよ。私が使った術式は咆哮を2段階ほど弱める術式だし。」

 

そんなことを話している間に、ギルが周囲を見渡していた。

 

「ロマン、拠点が東と西にある。どちらが拠点か割り出せるか?」

 

〈もうやってるよ。本来のホワイトハウスに位置する方がメイヴの勢力、もう片方がそれに対する勢力ってところだろうね。東西戦争、ってところかな?〉

 

「ふむ……月」

 

ギルがそう言うと同時にアルを中心として何か広がったのが分かった。

 

「……あっちです」

 

「貴様の知り合いはそちらか。……ふむ。」

 

ギルが考え込んだのを見て、私はクーの方を見る。

 

「纏めて死に晒せ!“薙ぎ払う竜騎の槍(ゲイ・ボルグ)”!!」

 

あれ?宝具って“ゲイ・ボルク”じゃなかったっけ?

 

「……なぁ、ルーパス。あれって“竜騎槍ゲイボルグ”じゃないか?」

 

「……そうだね。なんか久しぶりにみた気がするよ。」

 

「竜騎槍?」

 

私が聞くとルーパスちゃんが頷いた。

 

「お母さん達がまだ若い頃……つまりは20年近く前からある無属性ランスなんだけどね。“バベル”より製作難度高かったり、太古の棒状の塊を使ったり、その場所で取り扱ってなかったり……まぁ、ランサー達にもあまり好かれてないかもしれないね。」

 

「実際僕達はランサーじゃないからな…それに、あらゆる武器を愛すると決めている。それにしても得意不得意はあるし、ルーパスのようにその武器の何かが苦手、というのもある。それでも僕達はあらゆる武器を愛しているよ。」

 

「私の場合“虫”が本能的に苦手なだけで“操虫棍”自体は嫌いじゃないからね。虫の苦手を我慢すれば使えるし、愛せないわけじゃないんだよ。」

 

そ、そうなんだ……

 

「っ!先輩───あぁぁっ!?」

 

「マシュ!?って……槍?」

 

マシュが防いだのは黒い槍。…槍っていうか、斧槍っていうか……なんか紙がついてるけどまさか矢文みたいに……?

 

「ええと……」

 

紙を外して中身を見る。

 

「……“拾いモンだが練習用の槍として賜す。精進せよ。また、槍の示す方向へ赴け。”」

 

拾い物って……

 

「……ま、いっか。クー!行き先が決まったよ!」

 

「おう?どっちだ?」

 

「あっちのキャンプ!」




時間かかりました、はい。

裁「あらら…」


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第249話 疾走せし猛犬

最近体力が抜けます。

弓「そうか。」

そしてサーヴァントが思い付かん……


“槍の示す方向へ”。その指示に従って私達はその方向に向かっていた。あの手紙には“待ち人がいる”ともあったし。

 

「……ジュリィは早いなぁ」

 

ルーパスちゃんが呟く。確かに、結構早く移動してるはずなのにジュリィさんの姿は見えない。

 

「何処かで追い抜いてる可能性とかあるのかな、ルーパスちゃん。」

 

「さぁ…どうだろ。もしかしたら空にはいないかもしれないし、今も空にいるかもしれない。…でもまぁ、空にいるんだったら隠れ身の装衣で隠れてるんじゃないかな。」

 

隠れ身の装衣……か。

 

「……それにしても、何あの2人。」

 

「……まぁ、クーだし。そういう伝承はあったと思うからこうなってもおかしくないんだろうけど…」

 

曰く───鳥より速い天翔けるかのような愛馬、より速いのがクー・フーリンである。

 

「置いてっちまうぞ、お前らぁ!」

 

「勘弁してくれないか……レアとレスティに無理させたくないんだ、僕達は。」

 

「私も同じく。ネルルに無理させたくない。」

 

ルーパスちゃんと私、スピリスさんはルーパスちゃんのオトモンであるリオレウス───“レスティ”さんに。リューネちゃんとマシュ、ルルさんはリューネちゃんのオトモンであるリオレイア───“レア”さんに。ミラちゃんとナーちゃん、ガルシアさんはミラちゃんの使い魔であるネルギガンテ───“ネルル”さんに騎乗して移動してる。ギルはヴィマーナを使ってて、アルはクーと一緒に並走。…そして、問題のクーは私達の前を疾走してる。

 

「…はぁ。大丈夫、レスティ?」

 

ルーパスちゃんの声にレスティさんが応える。余裕、というような声音。

 

「……分かった。じゃあ、少しだけ速度を上げよっか。私達が振り落とされないくらいで。」

 

その言葉にレスティさんが応え、私達の移動が早くなる。

 

「おっ、本気だしたか?んじゃ、全力で行くぜ!」

 

そう言って加速するクー。ルーパスちゃんがそれを見て大きなため息をついた。

 

「……どうする、ルーパス。」

 

「どうする、って言われてもね……」

 

「このままだと突き放されるままね、これ…」

 

「……父が申し訳ありません。ですが……私の父はやはり凄いのですね。」

 

そう声をかけてきたのは水色の髪の美少年。長髪で細身、顔も女性っぽいところから女の子にも見えるけど、本人曰く“一応男です”とのことだった。男の娘ってところかな?

 

「“コンラ”は気にしなくていいと思うよ。クー・フーリンが悪いんだし。」

 

「は、はぁ…」

 

コンラ。クー・フーリンの息子。誓約(ゲッシュ)によって実父であるクー・フーリンに殺されることになった享年10歳未満の少年。さっき、移動を開始する前にクーがルーン魔術を使ったら召喚できた子。クー本人にも女の子に思われたくらいだから、生前と顔立ちとかが変わってるんだと思う。

 

「……レスティ、私達への影響は気にしないでいい。レスティの無理しない範囲で全力で飛べる?」

 

ルーパスちゃんがそう言うと不安そうな表情をした。

 

「リッカ、私にしっかり掴まっててね。…お願い、レスティ。」

 

「………」

 

強く頷いて、羽ばたく。一気に速度が上がる───

 

「わわっ…!」

 

慌ててルーパスちゃんの腰に腕を回す。

 

「ふははは!真、犬の名にふさわしい健脚よ!しかしマスターの前だ、我も負けられぬな!マスター、我は先に行くぞ!」

 

「え!?」

 

どうやって───

 

「A・U・O───ワープ!」

 

そう思ったとき、ギルとコンラくんの乗ったヴィマーナが消えた。

 

「!先に転移したみたい!」

 

「嘘っ!?」

 

ギル……!負けず嫌いなのは何となく分かったけど転移は大人げないと思う!!

 

「風が強い……でも、ちょっと楽しいわ!」

 

「ナーサリーさん…はい、私もそう思います…!」

 

…まぁ、マシュとナーちゃんが楽しそうならいいのかな。そう思っていたらいつの間にかキャンプについていて……なんか、銃声が聞こえた気がする。

 

「……銃声、ですよね?今の。」

 

「銃声…よね。」

 

「……うん、銃声だと思う。」

 

同じ速度で移動してたからリューネちゃん達ももういる。リューネちゃん、ルーパスちゃん、ミラちゃんの3人はここまで飛んできてくれた3匹の身体を撫でてるけど。

 

「ごめん、リューネちゃん。ちょっと。」

 

「うん?あぁ、分かった。…すまないね、レア。後でまた遊んであげよう。」

 

その言葉にレアさんが一声鳴くと、レアさんの姿が消える。ミラちゃんが絆石のフレームの方を少し弄って、獣魔側での合意があった時に召喚・送還ができるようにしたんだって。

 

「さて…どうしたかな、リッカ殿。」

 

「ごめんね、触れ合い中に。ええと……あっちのキャンプの中の音って聞き取れる?」

 

「ふむ……“何度も言わせないでください、ドクター・ラッシュ。嘔吐剤を飲ませる治療、塩化水銀を飲ませる等といった対処と私の銃、どちらが最新式ですか?”……こんな言葉が聞き取れたが?」

 

……あぁ、何となく誰が手紙に書いてあった“待ち人”なのか分かった。




眠い……体力…

裁「コンラくんとか懐かしいな……」


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第250話 戦場の天使

裁「そういえばクー、今ってコンラくんとか喚べるの?」

槍「いや……今の俺じゃ無理だ。お前さんといたときのようにあの霊基だったら喚べたんだがな……」

裁「そっか……」

槍「……こっちの世界の座の中で、お前さんとの記憶を持っているやつは俺以外にもいる。それでも、当時の力そのままで召喚することはできねぇ。…あの英雄王ですら、それだけは変わらねぇからな。」

裁「…そっか。」


「……ということなんですけど…どうしたら話を聞いてくれますか、ナイチンゲールさん。」

 

〈そうですね……〉

 

私はカルデアとの通信でナイチンゲールさんと話していた。

 

〈まず第一に清潔に。〉

 

「はい。」

 

〈看護中は邪魔をしないように。〉

 

「はい。」

 

〈大声を出さないように。患者の身体に響きます。〉

 

「あー……」

 

多分骨の方に音が響いて痛みが大きくなるとかかな……

 

〈あとは……そうですね。病原を伝える、でしょうか。〉

 

病原…

 

「……ナイチンゲールさんって本当にバーサーカーなんです?」

 

〈バーサーカーですよ。こちらでは環境もあって……すみません、急患です。そちらに召喚された私と話すならば絶対に清潔にするのを忘れずに。〉

 

「あ、うん…」

 

なんかあっちで起こったみたい……とりあえず清潔にしておけばいいのかな。

 

「…あの、先輩。ここは私に任せてもらってもいいですか…?」

 

「マシュ?」

 

「…先輩の在り方を見習いたいのです。失敗するかもしれませんが……いいですか?」

 

「……」

 

マシュの頭を撫でる。

 

「いいよ。何事も経験、失敗しないと分からないことだってある……失敗から学べることだって多いんだから。最初のうちは失敗して、次に活かさないとね。いってらっしゃい、マシュ。」

 

「……はい、行ってきます。」

 

そう言ってマシュはキャンプの方に向かっていった。

 

〈大丈夫かなぁ、マシュ……〉

 

「…多分、失敗するわね。」

 

〈えっ。〉

 

ナーちゃんの言葉に私も頷く。

 

「リッカさんの在り方は見様見真似でなんとかなるものじゃないわよ。」

 

「直感で失敗するって分かっちゃった……マシュを信用してないわけじゃないんだけど……」

 

あっ、テントの中に入っていった。

 

「失礼します…私は───ひゃぁっ!?」

 

銃声。

 

「それ以上踏み込んだら撃ちます。」

 

「ふ、踏み込んでいませんよ…!?それ以前に撃ちましたよね!?」

 

「目が踏み込んでいました。」

 

「目!?…というか───あれ?」

 

うん?

 

「あ、あの!あそこにいるのは───」

 

「何か。患者は平等です。それが二等兵であろうと将軍であろうと───ましてや()()()()()()()であろうと負傷者は負傷者であり、共に戦ったならばそれは一時とはいえど味方。…分かったなら出ていきなさい、健常者が踏み込む場所ではない。」

 

「話を聞いて───」

 

「出ていきなさい!菌を持ち込むというのなら皮膚を引き裂いてでも退室させます!」

 

「は、はいっ…!し、失礼しました……!」

 

慌ててマシュがテントから出てきた。

 

「……申し訳ありません、失敗しました……」

 

「大丈夫、ありがとうね、マシュ。」

 

……人ならざるモノ。さっき、そう聞こえた。…もしかしたら。

 

「ミラちゃん」

 

「うん?」

 

「一緒についてきてくれる?」

 

「え?いいけど…」

 

〈大丈夫なの?カルデアのナイチンゲールさんは環境が整っているから比較的大人しいけれど、戦場真っ只中のナイチンゲールさんは…〉

 

〈絶対荒れてるよなぁ……〉

 

「多分なんとかなる。」

 

〈えぇ、なんとか………なるの!?〉

 

「うん、マシュやナイチンゲールさんのお陰で鍵は見えたし。あとは錠前に入れて答えを合わせるだけだよ。」

 

そう告げて私とミラちゃんはナイチンゲールさんのいるテントに向かった。

 

「失礼します、ミス・ナイチンゲール。」

 

「───何か。」

 

「私は藤丸リッカといいます。こっちは…」

 

「ミラ・ルーティア・シュレイドです。」

 

私達の言葉を聞いてから口を開く。

 

「貴女は…“退院者”ですか。そして、貴女は……いえ、なんでもありません。退院者の方は元気なようで何より、顔を見せていただけたのは嬉しいですが───」

 

「ミス・ナイチンゲール。私達には救いたい存在がいます。」

 

「───急患ですか」

 

「…全身をくまなく焼かれ、意識が途切れそうになりながらもなんとか生きている存在が、います。」

 

「……!なんですって!?」

 

より強大な急患を示す。予想通りというかなんというか、ナイチンゲールさんは私の言葉に強く反応した。

 

「すぐに治療しなくては!運び込みなさい!」

 

「……いいえ、運ぶ必要はありません。その患者は、すでに私達のそばに。」

 

「……どういう、ことです?」

 

ナイチンゲールさんの疑問に答えを返す。

 

「“世界”。そして、“未来”。それが、患者の名前です。この2名の患者を治さない限り、このような人達は増え続けます。」

 

「───何を、言っているのですか?」

 

「ミラちゃん。」

 

ミラちゃんが頷くと同時に、周囲の風景が変わる。

 

「……!?患者達は……いえ、これは───!?」

 

「……これが、世界の現状。2015年の、カルデアの外。」

 

そこにあったのは───火。全てが燃え盛る地上の風景。

 

「これは私の記憶から抽出して具現化した結界。患者達は無事だよ。」

 

「……これは、本当の事なのですか」

 

ミラちゃんが頷く。

 

「ミス・ナイチンゲール。私達は旅をしています。この患者を治すための旅を。そのためには、病原体となっているものを潰さなくては。そうでなくては、貴女がいくら奮闘し続けても患者は増え続けるだけです。」

 

火の風景は消え、テントに戻る。

 

「…このような方々が、増え続けると?」

 

「はい。…ですので」

 

私は手を差し出す。

 

「力を貸してくださいませんか、ミス・ナイチンゲール。病原体を把握し、その大本を潰す。私達は医者で貴女は看護師───力を合わせられない理由はないはずでしょう。」

 

「……貴女方は、医師だと?」

 

「はい……っと、ミラちゃん?」

 

私の服をミラちゃんが引っ張った。その、ミラちゃんが指差す方向に───傷ついた黒っぽい翼を持つ竜。

 

「ワイバーン……?」

 

「……レイ、ギエナ……それも、特殊な…」

 

レイギエナ?

 

「あれがどうかしましたか?」

 

「……」

 

ミラちゃんがレイギエナに近づく。

 

「……ひどい。傷が結構深い……ううん、その前に……どうしてこんなことに……?」

 

「……キェァァァァ」

 

「喋らないでいいよ。…辛いと思うから。ごめんね、もっと早くに見つけてあげられなくて───」

 

そう言ったあと、ミラちゃんとレイギエナの身体を緑色の光が包む。

 

「……」

 

「…ミラちゃんはほとんど獣魔専門の医師です。獣医、というところですか。私は世界専門の医師、といったところですか。…一緒に来てくれますか、ミス・ナイチンゲール。私が執り行うこの“世界治癒術式”に。」

 

一呼吸おいてから言葉を紡ぐ。

 

「私達には貴女が必要です。」

 

「……分かりました。貴女に同行しましょう、リッカ医師。」

 

そう言ってる間にレイギエナの治療が終わったようで、ミラちゃんがレイギエナから離れた。

 

「キェ……」

 

「咆哮しちゃダメ。休んでいる人もいるから、静かに。もう少しの間、休んでてね。その間は私達がここを守るから。」

 

ミラちゃんのその言葉にレイギエナは咆哮をやめ、しっかりと頷いた。

 

「“凍て刺すレイギエナ”の治療は終わったよ。」

 

「助かりました、ミラ医師。私でも正確な対処はできなかったものですから。」

 

「ん、仕方ないよ。だってレイギエナはこの世界の存在じゃないし。…それで?」

 

話はどうなったのか、という問い。その問いに頷く。

 

「協力してくれるみたい。あ、じゃあ…ミス・ナイチンゲール。私達は少し待ちますので、ここの医者の方に対処方法について教えてあげてください。」

 

「はい。…ドクター・リッカ」

 

「?」

 

「世界を救う……本来なら、精神病患者と定義する物言いですが。貴女は私と同類ですね。ならば、ついていくことに異論はありません。」

 

「…そうですか。」

 

「それと、ナイチンゲールで構いません。…では、少しばかりお時間頂きます。」

 

「私もここで待ってるね。レギーナの状態見なきゃだから。」

 

私は頷いてテントをあとにする。

 

「おつかれさん、リッカ。」

 

「何かあった?クー。」

 

「あぁ───敵がこっちに向かってきてる。サーヴァントが2、雑魚が3000ってとこか?」

 

「……ここに来るの?そんなに?ここ、私達以外は負傷者しかいないよ?」

 

「連中にそんな区別つかねぇだろうさ。…で、どうする?」

 

区別がつかない、か…

 

「距離は?」

 

「結構あるね…」

 

「だがまぁ、大体20分程度じゃないか?」

 

ルーパスちゃんとリューネちゃんがそう言う。

 

「どうする、我らがマスターよ。」

 

「殲滅。」

 

一言。それだけで指示は完結できる。

 

「怪我人ばかりの場所に大勢で来る奴らに遠慮なんて要らない。全力で一掃して。」

 

「おぉ…かなり強気な方針ですね。…しかし、作戦はどうしますか?」

 

「……ルーパスちゃん、奥義の射程は?」

 

「距離的な意味なら矢が届くならどこでも。範囲的な意味なら私の視界に入る全て。制約としては私が空中にいないといけないくらい。」

 

「…なるほど。ナーちゃん、爆発範囲は?」

 

「“恋する乙女のカウントダウン”のことよね?ええと…100mくらいかしら。ストリアの補助があればもっと上がるかもだけれど。」

 

……ふむ。

 

「ルーパスちゃんとギルはサーヴァント以外の一掃。ナーちゃんとリューネちゃん、マシュ、コンラくんはここを守っていて。アルとクーは私と一緒にサーヴァントのもとに。各オトモ達は自分の旦那さんと一緒に。」

 

「「「「「了解」」」」」

 

「みんな───5分で終わらせるよ!」

 

私がそう言うと同時に全員が動き出す。




今週も頑張りました……

裁「そういえばマスター、キャプチャーボードの調子はどうなの?」

結構不調かもしれない……


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第251話 一掃攻撃

サブタイトル最近思い付かない……

裁「観測とサブタイトル命名は別物だもんね…」


眼前に落ちた青白い鱗に群がる原始的な装備の兵士達。

 

「こんにちは。」

 

「───!?」

 

隠れ身の装衣を脱ぎ、姿を現す。

 

「そして、さようなら。」

 

私がそう言うと同時に青白い鱗が膨張、爆発する。

 

「英雄王!」

 

英雄王を呼び、私は上空から降りてきた紅蓮滾るバゼルギウス───バゼリアに乗って空に上がる。

 

「纏めて吹き飛ぶがいい!“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”!!ふはははは、風で吹き飛ばすも気分がいいな!」

 

「言ってる場合かなぁ……」

 

私とバゼリアは英雄王を見ながらも高度を上げていく。

 

「あと……1200くらいか。ん、この辺りで止まってくれる?」

 

私がそう言うとバゼリアが滞空してくれる。

 

「じゃ───行ってくる」

 

そう告げて、装備を変えてからバゼリアの背中から飛び降りる。

 

「───告げる。其は生態の謎、この世に在る龍が一。」

 

奥義を使うべきなんだろうけれど……こっちの方が範囲広いかも。

 

「火よ、水よ、氷よ、雷よ───そして龍よ。5つの属性(チカラ)を操る幽冥の星よ。我が声に応えし鎧に眠る者よ。汝が力をここに示せ!」

 

私の身体から火が溢れ、周囲を火で包んでいく。

 

「神威顕現!“崇めよ、此処に示すは(エスカトン)───」

 

龍雷も私から放出され始める。もうほぼほぼ発動できるけど───まだ溜められる。

 

「───逆鱗の裁き(ジャッジメント)”!!」

 

私が着地すると同時に臨界点に達した火属性が放出、衝撃波として放たれたそれに呼応してか周囲が爆発する───これこそ煌黒龍“アルバトリオン”の大技、“エスカトンジャッジメント”。王の雫と並び、私が持つ古龍宝具の1つ。

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

そして、その効果はきちんと発揮して───原始的な兵士達を焼いた。

 

「……ふう」

 

立ち上がった時には、既に原始的な兵士達の姿はなかった。

 

「……ハンターとしてこれっていいのかなぁ…」

 

基本的に人間じゃない存在にしか振るってないけど、たまに不安になる。

 

「見事であったぞ、ルーパス。」

 

「ありがと、英雄王。」

 

さて───こっちは終わった。あっちはどうなったかな。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

作戦を伝えた直後。私はアルに抱えられてサーヴァント2騎の元へと向かっていた。

 

「……アル……この速さ、どうして…?」

 

「…月さんの能力です。能力名“飛来”───最高速度は教わっていませんが、かなりの速度が出るそうです。」

 

飛来……だから浮いてたんだ。

 

「止まるぜ、無銘」

 

クーが止まったのと同時にアルも止まる。アルに降ろしてもらってサーヴァントを見る。

 

「よう、マックールの小僧。んで……そっちは確か麗しの若武者か。」

 

「光の、御子───」

 

ええっと……マックール、マックール……

 

「……“フィン・マックール”?それとその黒子は…“ディルムッド・オディナ”?」

 

「…私は、黒子で判別されるのですか……」

 

だって有名だし、女性を落とす泣き黒子。なんか私の虚無が弾いたっぽいけど…

 

「とりあえずだ。名を名乗れ、テメェら。それが縁になるだろうよ。」

 

「私はフィオナ騎士団が一番槍、“ディルムッド・オディナ”。」

 

「…同じく、フィオナ騎士団が首魁、“フィン・マックール”。」

 

「そうかい。俺は…まぁ、名乗る必要もねぇだろうが。アルスターのクー・フーリン。」

 

「…私は無銘のアルターエゴです。」

 

アルが名乗るとクーが槍を構え直す。

 

「んじゃ、早速だが───マスターの前だ、その徴…獲らせてもらうぜ。」

 

「「っ……」」

 

「無銘、テメェはリッカを守っとけ。」

 

「分かりました。」

 

「……頑張って、クー。」

 

「……おう」

 

私が言葉を発したと同時に令呪が一画消失する。

 

「あぁ、ほんと───惜しいぜ」

 

「?」

 

「…気にすんな。んじゃ、獲ってくらぁ。」

 

そう言ってクーは跳んだ。

 

「……我が主」

 

「…なにかなディルムッド?」

 

「刹那のごとき一時の間ではありましたが───このディルムッド、貴方と肩を並べて戦えたこと、光栄に思います。」

 

「……あぁ、私もだとも───」

 

ドスン、と一突き。

 

「少しばかりは待ってやったが、そもそも末期の別れぐらい自分の陣地で済ましとけ、間抜け。」

 

「く───ふっ……」

 

「───“貫き穿つ死通の槍(ゲイ・ボルク)”」

 

いつの間に背後にいたクーが、そのフィン・マックールの心臓を貫いていた。

 

「じゃあな、マックールの小僧。次の縁でまた逢おうや。」

 

クーが何をしたのか───私にも分からないけど、あれは速度じゃない。以前までの心臓を貫いて肉体を破壊するだけのものじゃなく、心臓周囲一帯を爆発させたかのように大穴を開けてる。何て言ったらいいか分からないけど、“空間を抉った”ような───

 

「王───!」

 

「喚くんじゃねぇ、次はテメェだ。」

 

一瞬で間合いに踏み込まれるディルムッド───

 

「“破魔の(ゲイ)───」

 

「遅ぇ。“縫い継ぐ不壊の槍(ドゥ・バッハ)”」

 

ディルムッドの宝具よりも前に、クーの槍がディルムッドの身体を貫いた。

 

「か───」

 

「…その心臓、もらい受けた。…次は味方で出会いたいもんだ。」

 

既にディルムッドの姿はなく、クーは槍を降ろした。

 

「……んじゃ、帰るか。」

 

「うん。…どうなったかな、キャンプの方は。」

 

「あー…確かお前さんが元になったAIを置いてきたんだったか。」

 

「声だけね。性格は私じゃなくてリツ本人のものだよ。」

 

無理させるのはダメだと思うけど、少しでも楽になればいいなって思ってリツをキャンプに置いてきた。リツは快諾してくれたけど…さてと、どうなってるんだろう。




……

弓「…リカよ。マスターが放心状態なのだが。」

裁「あぁ…なんか土曜日にピックアップ2引いたら諸葛孔明引いたらしいよ。」

弓「諸葛…」

裁「エルメロイII世。」

弓「あぁ、あの忠臣か。そういえばあやつは疑似サーヴァントとしてはそんな真名であったな。」

裁「そそ。再臨とスキル上げ、絆レベル上げが辛いって絶望してるの。ただでさえ“術の輝石”が足りないのに、って。」

弓「ふーむ……」


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第252話 歌の力

裁「歌……あぁ」

どう表現するべきか悩んだけどね。あ、47,000UA突破ありがとうございます

裁「ちなみに1日あたり90UA前後らしい…」

ん……そっか


「……なんだこりゃ」

 

「……うん、なんだろう……これ。」

 

キャンプに戻ってきた私が視たもの───それは、音符の乱立だった。

 

『ごめん、音視切り忘れてた…』

 

『大丈夫です、月さん』

 

音視とは音を視認する力のこと。“音”を攻撃に用いる私達の要。音視を切ると音符達が消え、はっきりと奥が見えるようになる。

 

「……コンラさんとリツさん?それに…マシュさん?」

 

音符の中心にいたのはその3人だった…というか、何故胴上げ……?胴上げされてるのはリューネさんとナーサリーさんもだけど…

 

「マスター、戻ったか。すまんが早速次の手を考えたい。」

 

「あ…うん。」

 

リッカさんはキャンプの奥に消えた。ざっと見たところ、怪我人らしい人はいないけれど…

 

「戻ったな、セタンタ。」

 

「おう、ロイグ。…これは一体何事だ?」

 

「あぁ…コンラ、マシュ嬢、リツ嬢がここで歌ってたんだ。リューネって少年の演奏でな。」

 

「……ロイグ、口の聞き方には気を付けろよ…リューネは女だぜ?」

 

「……すまない、失言だった。あとで謝っておこう。」

 

「悪いが聞こえてるぞ!?というか、下ろしてくれないか!!」

 

リューネさんがそう言うも、下ろされる気配はない。

 

「…ロイグ、一応ちゃんと謝っておけな…で、七海はなんであぁなってる?」

 

「あぁ…実は、死霊の類いが襲ってきてな。呪詛やらなんやらで混乱に陥っていたところをあの嬢ちゃんが収めたんだ。」

 

「ほぉ…」

 

「まぁ、大体は…雪花の娘、お前の息子、電子の娘の歌声に首ったけってところだ。ったく、父親としては嬉しいだろ?」

 

「…オイフェが見たら混乱するかもな。“お前の息子がこんなに可愛いわけがない”ってか。俺も混乱したしな。」

 

「……生前のコンラさんとは違うんですか?」

 

私の問いにクー・フーリンさんが頷く。

 

「確かに面影はあるんだが、全体的に女っぽい顔つきになってんだ。声も何気に生前より高いしよ。普通に“娘”って紹介しても通じそうではあるな。」

 

「ふむ。お前が気にしていたのはそこか。」

 

「変な男に引っ掛かったりしないといいけどよ……」

 

そういえばマスターもクー・フーリンさんに問われたとき、“中性的って言うよりは男の娘……もとい女の子っぽい感じの顔立ちだと思う”って言ってたっけ。“変な人に引っ掛かったりしないといいけど”とも。

 

「…ま、いいか。」

 

「「「「「アンコール!!アンコール!!アンコール!!」」」」」

 

「あ、アンコールするのはいいですけど下ろしてください……!!」

 

「「「「「おっとすまねぇそうだった」」」」」

 

その声で下ろされる5人。

 

「やれやれ…酷い目に遭った。…さて、選曲は?」

 

「…あ、リューネさん。でしたら───」

 

私は一曲リクエストする。

 

「……ふむ。分かった。無銘殿、君も歌うかい?」

 

「……ええと…遠慮します」

 

「分かった」

 

そう言った後にリューネさんが私が言った曲を弾き始める。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「……ん?」

 

テントの外から綺麗な音色が聞こえてきた。

 

「どうなさいましたか、ドクター・リッカ」

 

「……この曲……“SPiCa”?」

 

〈あぁ…マシュ、コンラ、リツがリューネの演奏に合わせてテントの外でライブしてたからなぁ。リツの固有技能で完治した奴らは全員聞きに行ったし。〉

 

あぁ…なるほど。分かってはいたことだけど、リツの能力結構凄い…

 

「……それで、ナイチンゲールさん。話は戻すけどアメリカ西部…ケルトと対立してる人達はまだ対話の余地があるんだよね?」

 

私の言葉にナイチンゲールさんが頷く。

 

「ケルトという腫瘍は治療余地があるとは思えませんが、こちらの正規軍にはまた治療余地があります。使い捨てであるケルトとは違い、こちらはここでも分かる通りできる限りの治療してから戦線に投入していますから。」

 

「…なるほど。ミラちゃん、どう思う?」

 

「確かに、退却の片鱗を見せなかったケルトよりは退却指示を下していたこっち側の方が話をするにはいいかもしれないね。…まぁ、どうなるかは分からないけど。」

 

ん~…

 

「それともう1つ、凍て刺すレイギエナがいたってことはレイギエナがいる可能性もある。ちょっと確認したいね。」

 

「……分かった」

 

方針は決まった。行き先は───西部だ。




頭痛い……

月「大丈夫…?」

多分…


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第253話 西部急襲

うー……

月「うー☆」

裁「……」


「カルナくん!夫人!頼む、直流の威信をかけて頼む!!なんとしてもギルガメッシュ王、輝けるクー・フーリン、ミラ・ルーティア龍妃を敵に回さないように説得してくれ!」

 

プレジデントハウス。小動物のように筋肉を震わせていた男がいた。

 

「はいはい、怖がらないの。ディルムッドとフィン・マックールを倒したのよ?難民と負傷者を守りつつ、負傷者の治療もしながら。これはマハトマもニッコリの活躍よ!」

 

「誠意と信念があれば対立は避けられるだろう。…最も、オレの見立てはアテにならんが。」

 

なだめる少女と呟く青年。その言葉に震えながらも顔を上げる。

 

「そ、そうだな!きっと分かりあえる、彼等は交流サイコの手先ではないのだ、うん!」

 

「……それは、今のお前では簡単ではないだろうが……ともかく、完全な対立だけは最低限避けられるよう尽力しよう。」

 

「よし!夫人、カルナくん!早速───」

 

「プ、プレジデント!報告いたします!」

 

その場に機械兵が慌ただしくやってくる。

 

「どうした!」

 

「さ、先の報告のあったギルガメッシュとクー・フーリン、ミラ・ルーティアの赴いたキャンプから……!」

 

「なにがあったというの?」

 

「あ、青い光が!まっすぐこのプレジデントハウスにやってくるとの事!!」

 

「「青い光?」」

 

「未確認飛行物体……か?ふむ……青き飛竜よ、君はどう思う?」

 

男の傍らにいた青い翼の飛竜は声に反応して顔をあげたあと、興味を失ったかのようにまた元の体勢に戻った。

 

「撃墜は?できるのかしら?」

 

「それが……銃撃を透過します。撃墜は困難かと───」

 

そう言っている間に。彼等の前には、青い光球が現れていた。

 

「…むっ。」

 

 

 

side リッカ

 

 

 

ほ、ほんとにすぐ着いちゃった……

 

「これで到着ですね……皆さん、酔ってません?」

 

アルが───ううん、月さんがそう言う。その言葉に全員が頷く。

 

「すげぇな、嬢ちゃん…足や馬なんかよりずっと早ぇ。…ほんと、すまねぇな…若ぇ嬢ちゃん達や小さい子に戦争なんか見せちまってよ。」

 

そう言うのはキャンプで私達に同行をお願いしてきた人。ちょうどこっちに報告しないといけないことがあったみたいだから一緒に来たんだけど。

 

「ほんとは、平和な世界を見せてやりたかったんだがよ…情けねぇ大人である俺達を許してくれ。」

 

「…いいえ。誇らしいと思いますよ、僕は。」

 

「コンラ少年…」

 

「どうか戦い抜き、未来を生きてください。そしてどうか、子供達が平和で暮らせる世を作れることを…心から願っています。」

 

「……」

 

「貴方がたに祝福を。皆様の行く先に、大神ルーの光あれ。」

 

「……あぁっ…!」

 

大神ルー。多分、コンラくんは“平和であれ”的な意味で言ったんだと思うけど。

 

〈そこの光にいるは誰だ!姿を見せてはくれないか!〉

 

モニターに映っている…うん、見覚えのあるライオン頭の存在がそう告げた。

 

「無銘さん…じゃなくて月さん、全方位見れる?」

 

「全方位…ですか。ちょっと待ってくださいね。」

 

月さんが手元のコンソールを弄るとモニターが複数展開される。

 

「……いた」

 

ミラちゃんがモニターの一ヶ所を示す。全体的に青色の翼を持つ飛竜───風漂竜“レイギエナ”。こっちに来る前にミラちゃんが召喚して見せてくれた子と同一の姿。ライオン頭の存在のとなりに控えている。

 

「……月さん、全員の解放をお願いします。」

 

「分かりました。───拡大!」

 

そう月さんが告げたと同時に私以外の姿が消える。

 

〈展開!〉

 

その声に私の足が地面についた感覚とモニター越しではない、肉眼でその姿を捉えられるようになった。

 

「な───」

 

「───こんにちは。」

 

一礼して言葉を告げる。

 

「私は藤丸リッカ。好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート。嫌いなものは理不尽と根拠のない否定。座右の銘は“みんな違ってみんないい”です。」

 

「───ふっ。いい名乗りだ。」

 

白髪の男の人がニヤリと笑った。

 

「控えよ、王の御前である。」

 

「こんにちは。レイギエナの調子はどう?」

 

「…!これ…マハトマを退かせる輝き…!?」

 

「そ、そして───」

 

「…あ?心配すんな、取って食いやしねぇよ。月の嬢ちゃんの能力でここまで来たんだ、アンタの軍には傷1つ付けてねぇぜ?」

 

「く、クー・フーリン…!!」

 

「そんなに怯えんな、ただの話し合いで済むならそれだけで済むんだからよ。とりあえず、おっさん。話があるんだろ?」

 

「あ、あぁ…」

 

「俺達から見えないところでちょいと話してこい。怯えすぎてて話にならん。仕切り直せ、ったく。」

 

「は、はは……大統王、報告があります。別室で、少し。」

 

「う、うむ!分かった、聞こう!来賓の方々は少しばかり待っていたまえ───あぁ、君!全員に彼等を丁重に扱うように指示しておきたまえ!彼等に暴れられたら敵わん!」

 

「イエッサー、プレジデント。」

 

その男の人とライオン頭の人は別室に向かい、機械の兵士さんは恐らく兵士の人達にさっきの言葉を伝えに行ったんだと思う。

 

「さて、どうなることであろうな?」

 

「───英雄王、龍妃。」

 

「む?」

「ん?」

 

「そして…人類最後のマスター、藤丸リッカよ。」

 

「…?」

 

白髪の男性の声に首を傾げる。

 

「まずは名乗ろう。オレは“カルナ”。“施しの英雄”等と呼ばれているか。」

 

カルナ……か。

 

「我が威信、我が誇りに懸けて頼みがある。この対話が如何な結末を迎えようと、この場でお互いを害する行為には走らないと、どうか誓ってほしい。」

 

「…ほう?」

 

「戦闘行動の禁止、ってこと?」

 

私の言葉にカルナさんが頷く。

 

「過程や目的は違くとも、オレ達とお前達の望むものは近しいとオレは信じている。この場でお前達が死合うのがオレの望みではない。」

 

言葉を紡ぎながら槍を置く。

 

「我が名、我が父の威光に誓ってこの対談の間はお前達を傷つけることはないと誓う。そちらもどうか…エジソン、並びにブラヴァツキー夫人を害さぬことを誓ってはくれないか。」

 

「……」

 

嘘は感じられない。直感は……特に問題なさそうだと告げている。

 

「……分かった。みんなもそれでいい?」

 

私の言葉に全員が頷き、武器をしまう。

 

「…クーもそれでよかった?」

 

「おう!リッカの決めたことに異論はねぇ。犬たるもの待ての1つくらい出来ねぇとだろ?」

 

「飼い主の如何でこうも違うか。言峰はブリーダーとしてはいまひとつであったようだ。」

 

「ったりめーだ。リッカなら令呪がなかろうが最後まで付き合うが、あのクソ神父なら令呪がなくなりゃそこまでだ。つか、冬木んときについては大本のマスター殺されてっからな、俺。」

 

「そうであったな。」

 

「惚れた弱み、とでも言うかね。まぁ、変な事したら七海に刺されそうだから何もしないけどよ。」

 

「…え?」

 

今…クー、なんて言ったの?

 

「あら、別に本気なのだったらあたしは気にしないわよ?最終的に相手を選ぶのはリッカさん自身だもの。リッカさんの未来に当たる存在からはあたしだと言われたようなものだけれど、本当にそうなるかなんて分からないもの。」

 

「ええっと…ナーちゃん?何を言ってるかさっぱりなんだけど……」

 

「いずれ分かるわ。気にしないでちょうだい。」

 

……?いいのかな?…それにしても。

 

「……言峰、か…」

 

「む?どうした、マスター。」

 

「ううん、なんでもない。」

 

言峰綺礼。たまにギル達から聞く名前。ラスプーチンさんの依り代がその言峰綺礼さんらしいんだけど…同じ言峰性でも私の知り合いに“綺礼”っていう名前の人はいない。一応、混乱させたくないから黙ってるけど。

 

「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……この対話に命運が懸かっているんだ…!夫人、私に力を…!」

 

「はいはい、そうね。しっかりしなさいな、きっと大丈夫よ!」

 

話を終えたらしいライオン頭の人が震えながらこっちを向く。

 

「…感染症の疑いがあります、速やかに滅菌するべきでは…」

 

「大丈夫…だと思う」

 

…多分。

 

「…さてと。とりあえず、会合を始めましょうか!まず自己紹介よね。」

 

女性がライオン頭の人から離れて私達に声をかけてくる。

 

「あたしはエレナ。“エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー”。世間的には“ブラヴァツキー夫人”が有名かしら?」

 

エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー…!19世紀のオカルティスト!現在のSF・伝奇系フィクションの原点はこの人にあると言っても過言ではない…!だって、アカシックレコードとか現在のSF・伝奇系フィクションで頻繁に見られる概念があり、多くが彼女が生み出したものだから…!

 

「ケルトとは……微塵も関係ねぇわな。学があるケルトの英雄なんていたかすら定かじゃねぇ!」

 

脳筋ばかりってことかぁ…

 

「わ、私は先輩の最初のメインサーヴァント…!マシュ・キリエライトです!」

 

「同じくメインサーヴァントが1人、ルーパス・フェルトと…」

 

「リューネ・メリスだ。アイルー、ガルク達はヴィマーナで待機させている。」

 

「私がミラ・ルーティア・シュレイド。レイギエナの治療は大丈夫?」

 

「レイギエナ……なるほど、そういう名前なのか、あの竜は。」

 

カルナさんがそう呟いた。

 

「フローレンス・ナイチンゲール。ドクター・リッカとドクター・ミラの補佐をする看護師です。」

 

「創詠 月です。本来は第一人格に交代した方がいいのですが、今回は私が対応します。」

 

ナイチンゲールさんは頭を下げたあとにライオン頭の人を睨み付け、月さんは強い視線で観察していた。

 

〈オルガマリー・アニムスフィア。グランドオーダー全権を担い、指揮する者です。ギルはオーナー、といったところですか。〉

 

〈藤丸 六花。カルデア側からリッカ達に対しての各種サポートを行ってる。〉

 

〈僕はロマニ・アーキマン。一応医療スタッフで、リッカちゃん達のカウンセリングを主に対応してる。〉

 

〈ミドラーシュのキャスターです♪ロマン様の未来の総てに寄り添い、投資いたします♪〉

 

「ふはは、コーヒーが甘いな?マリー、六花。」

 

〈えぇ……とても、甘いです…〉

 

〈まぁ、いいんじゃね?ただまぁ、結婚指輪らしい指輪を作るのは苦手だからよ。……なぁ、リッカ?〉

 

「うん?」

 

〈アイツって指輪も作れたかね?〉

 

「……あー……」

 

どうなんだろう……

 

〈…ま、いいか。また会えた時にでも聞こうぜ。〉

 

「うん。」

 

「今更名乗るのもだが…アルスターのクー・フーリン。形式上、な?」

 

「我はギルガメッシュ。王の中の王よ。今更説明もいるまい。…さて、こちらは終わったぞ。名乗るがいい、雑種。我を差し置いて王を名乗る貴様は何者だ?」

 

…ギル、絶対楽しんでるよね。だってもう知ってるもんね…

 

「───よかろう!」

 

それを知らないと思われるライオン頭の人は大声を上げて立ち上がった。

 

「みんな、はじめまして、おめでとう!我こそはあの野蛮なるケルトを粉砕する役割を背負ったこのアメリカを統べる王───大統王、“トーマス・アルバ・エジソン”である!!獅子頭は気にするな!」

 

トーマス・アルバ・エジソン───別名としては発明王、メンロパークの魔術師、訴訟王、アメリカ映画の父等々。獅子頭なのは……まぁ、その……

 

「「「「「………知ってた」」」」」

 

「何ぃ!?」

 

もうカルデアに召喚されてるからね、エジソンさん…




月「ちなみに移動のときに使ったあの術。お母さんの時間で6年くらい前にはあったんですよ。私が正式に生まれたのもその頃ですし。」

弓「ほう?正式に、とはどういうことだ?」

月「私は空間を司る巫女で…とある世界群の管理者でもあるんですけど。一番最初に創造がされたのは私じゃないんです。私の管理する世界群で眠る…1人の少年。彼こそがお母さんにとって真の“原初の子”。その頃はまだ“お母さん”のキャラクターとしての姿がなかったんですけどね。」

弓「ふむ…」

月「…それは私も同じ。“原初の子”が生まれたおおよそ10年前、私達“星の娘”は意識も形も持たなかった。彼は能力に関しても何も持たず、ただ1人の平凡な少年だったのです───」


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第254話 対談

裁「……何この眠気

月「さぁ…」


「そもそもふざけすぎであろう…かの有名な発明王とされる存在が獅子の頭などと。」

 

「本当に私はトーマス・アルバ・エジソンなのだ!信じてくれはしないか、英雄王よ!」

 

「分かっている。」

 

「……えっと…失礼、絶句してしまいました。貴方がエジソン?発明王の?キメラなどではなく?」

 

ナイチンゲールがそう問いかける。ナイチンゲールはカルデアのナイチンゲールさんとは違うから知らないんだよね。

 

「如何にも。もっとも、今は大統王であるが。」

 

「……人間でなかったとは知りませんでした。」

 

「ジャパリパークにでも行ったんですか?」

 

「何を言う!私はまごうことなき人間である!人間とは理性と知性を持つ獣の上位存在であり、それは肌の色や顔の形で区別されるものではない!私の頭が獅子になっていたところでそれが変わるわけでもない!私が私の知性を持つならば、それはトーマス・アルバ・エジソンなのだ!」

 

まぁ、分からなくもない。吠える必要はなかったと思うけど。

 

「───さて、君の名は藤丸立香だったな。英雄王に龍の妃、クランの猛犬を駆る人類最後のマスター。」

 

……む。

 

「駆ってません。私は一緒に戦っているんです。」

 

駆る、とは───追いたてること。せきたてて追うこと。速く走らせること───私は弱いけど、隣で一緒に戦っている。上から指図するかのようにしているだけじゃないから。…別にギルのことを言ってるわけじゃないけど。

 

「単刀直入に言おう。四つの時代を修正したその力を活かし、我々と共にケルトを駆逐せぬか?」

 

「…知っているんですか?」

 

「……ある人物がわざわざ私に伝えに来たのだ。まぁ、それはいい。」

 

エジソンさんはため息をついてから言葉を続けた。

 

「言うまでもなく、ケルト人どもは時間を逆行している。アメリカ合衆国とは資本と合理が生み出した最先端の国家だ。この国は我々のものであり、知性あるもの達の住処。だというのに───奴らはプラナリアの如く増え続け、戦力の差でアメリカ軍は敗れ去ったのだ!」

 

「プラナリアかよ。言い得て妙だな、おい。…ホント、アイツはろくでもねぇな…」

 

「しかし!幸いなるかな、この国には英霊たる私が降臨した!私の発案せし新国家体制、新軍事体制によって戦線は回復し、戦況は互角となった!まさに野蛮人どもよ、大量生産において私と覇を競うなど愚の骨頂!いずれ我が機械化兵団は地を埋めつくし、憎っくきケルトどもを殲滅するだろう!」

 

…野蛮、か……

 

「だが───懸念事項はある!それは将、つまりはサーヴァントの数が!圧倒的に足りんのだ!統率された軍隊であろうと、一騎当千のエースがいないのだよ!兵達が得た拠点も1騎のサーヴァントによって奪われてしまうのだ!こちらのサーヴァントは私を含め3騎───つまりはいまここにいるサーヴァントしかいないのだ!他に召喚されたサーヴァントもいるようだが、こちらにつこうともしない!私に理性がなければ絶叫していることだろう!アメリカを救うべき英霊が敵を恐れて戦いを拒否するなど怠慢にもほどがあると───ガァァァ!!

 

……咆哮してるんだけど…大丈夫……では、なさそう。色々。勘だけど。

 

「お、落ち着いてください、ミスタ・プレジデント…!その…!世界を救うというのならば、私達が協力するのもやぶさかではありませんので…!」

 

「おぉ、君は話が分かる!」

 

「……だけど、本当にそれが“世界”を救うためならね。」

 

ミラちゃん…ミラちゃんも気づいてたっぽい。

 

「そうだね、ミラちゃん。それが本当に“世界”を救うためなのなら……」

 

私の直感が、警鐘を鳴らす理由がない。

 

「…そうですね、ドクター。…ミスタ・エジソン。2つ程、聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「何かな。他ならぬナイチンゲール嬢の言葉だ、真摯に答えよう。紳士、真摯に答える───おぉ、エレガンティック!カルナ君、今のを大統王録に記しておいてくれたまえ!」

 

「くっくっく……」

 

「……相変わらずテメェのギャグセンスはよくわかんねぇわ。」

 

ギルの笑い声にクーが呆れてた。

 

「1つ。ここに来るまで、何度か機械化兵団を見ましたが…あれは貴方の発案なのですか?貴方の言う新体制が目指すところだと?」

 

「うむ、その通りだ!この国難を脱するため、私は1つの結論に達した!国家団結、市民一群…いや、一軍となっての新生!老若男女、分け隔てのない国家への奉仕!いずれ、全ての国民が機械化兵団となってケルトを、侵略者を討つだろう!無論、その為には大量生産ラインを維持しなくてはならない。各地に散らばった労働力を確保、一日二十時間労働、休むことのない監視体制。福利厚生も最上級のものを用意する。娯楽なくして労働なしだからな。」

 

……

 

「我々は常人の三倍遊び、三倍働き、三倍勝ち続ける!これが私の目指す新しいアメリカの姿である!!」

 

そう言って拳を上げるエジソンさんの姿が。…私には、ただの異常者に見えた。

 

〈…無理だろ、そんなの。娯楽にだって限度がある。人間の耐久性知らねぇのかよ。人間だけじゃねぇ、どんなものだって限界越えたら壊れるに決まってんだろが……!!〉

 

〈〈〈〈〈お前が言うか〉〉〉〉〉

 

〈うおいっ!?〉

 

お兄ちゃんは素で無理をするからなぁ…

 

「……そんなところに拘っているのですか」

 

「うん?いま、なんと?」

 

「…いえ、ただの独り言です。それでは2つ目───どのように世界を救うつもりなのですか?」

 

「あぁ、それでしたら聖杯を確保すれば達成されます。」

 

解説はマシュに任せた方がいいかな。

 

「ケルト軍を打ち倒して聖杯を手に入れ、時代を修正する。ケルト軍の誰が所有しているかは不明ですが、聖杯を入手できればあとは私達が。」

 

「まぁ、十中八九メイヴだろうけどな。あとは…聖杯で反転した俺か。」

 

クーがそう言った。

 

「……いいや、時代を修正する必要はない。」

 

『………!』

 

「…やはり、ですか。」

 

ネアキちゃんとウルさんが姿を現す。

 

「…トーマス・アルバ・エジソン。貴方は───“アメリカ”だけが残ればいいと考えているでしょう?」

 

「……如何にも、その通りだ。黄色き精霊よ。」

 

ウルさんの言葉に頷くエジソンさん。

 

「……ふむ。聞き捨てならん言葉が聞こえたな、獅子頭。“アメリカ”のみを救うとはどういうことだ?」

 

そのギルの声は───明らかに、怒気を孕んでいる。

 

「時代を修正する必要はない。聖杯があれば、私が改良することで時代の焼却を防ぐこともできよう。」

 

「…ほう?」

 

「まだ、ナイチンゲール」

 

「……」

 

ホルスターに手を掛けた気がするから言っておく。

 

「まだ把握しきれてないよ。待って。」

 

「…分かりました。」

 

ナイチンゲールが動いたところで続きを促す。

 

「そうして時代の焼却を防げば、他の時代とは全く違う時間軸にこのアメリカという世界が誕生することになる。」

 

「そ、そんなことが可能なのですか!?」

 

「十分に可能だという結論が出た。」

 

『創世の扉…それを擬似的に再現するか。』

 

ネアキちゃんも少しだけ怒っているような心の声になってた。

 

「……他の時代はどうなるんですか」

 

私が問う。…正直、この世界を滅ぼす書の主である私が言ってはいけないのだろうけれど。それでも、私はこの世界を…この世界にいた人達を、守りたいから。

 

「───滅びるだろうな」

 

「…それじゃあ、意味がないわ。」

 

「左様、話にならぬな。王でありながら別の王の所有物に頼り、それを改造してすら最善を目指さぬとは。それとも何か?王を名乗りながらただの雑種にしか過ぎんのか、貴様とこのアメリカという国は。目先の絶望から目を逸らし、妥協点で満足するか?」

 

「……ぐ、ぬぅ、ぬぅ……」

 

……見えた。何かに苦しむ、そこに。

 

「……何を言う。これほど素晴らしい意味があろうか。」

 

でも、すぐにそれは見えなくなった。…でも。

 

「このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。そして、ただ増え続け、戦い続けるだけのケルト人どもに示してくれる!私の発明こそが人類の光、文明の力なのだと!」

 

「……変わんねぇな」

 

「何?」

 

姿を現したレンポ君の声にエジソンさんが反応する。

 

「おまえの考え方……いや、おまえの策。ケルトって奴らと同じ……違うな、ケルトって奴らよりもよっぽど悪いんじゃねぇのか?」

 

「…何を言うか、赤き精霊。」

 

「クー・フーリンに聞いた限り、メイヴって奴は自分の体液から兵士を生み出しているらしいな。んで、おまえは自分の国民を兵士に仕立て上げている。若い奴も老いた奴も、男も女も関係なくな。あっちは兵士を切り捨てることができるが、こっちはできねぇ。兵士を切り捨てることが戦力の低下に繋がるからな。“使い切り”じゃねぇ、ってことは…言い方は悪いが“再利用”するってことだ。さて……どっちがよっぽど悪いか、気がつくか?」

 

「それは……ぐっ…!うぐぐ…」

 

「…ビーコン、セット」

 

小さく呟く。自己暗示、のようなものだけど。

 

「文明の力だと示す───その為に、戦線を拡げるのですか。戦いで命を落とす兵士達を切り捨てて。」

 

「わ、わた、私とて、う、ぐ、切り捨てたくて切り捨てているのではない、が───」

 

「落ち着いて、エジソン。みんなの言葉はただの意見よ。告発じゃないわ。」

 

「……承知している。今のはいつもの頭痛だ。気にしなくていい。今の我々…私にとってはこの国が全てだ。王たるもの、まず何より自国を守護する責務がある。」

 

「だけどそれは他の王の力をもって行うことじゃない。自分と民の力で国は守護しないと。その時点で貴方は王失格だと思うけれど?…そもそも」

 

ミラちゃん───じゃない、ミラルーツさんが言葉を繋ぐ。…いつの間に入れ替わってたんだろ。

 

「貴方達は英雄でしょう?そして既に過去の存在で、本来今を生きる存在の邪魔をしてはいけない存在。自分よりも自分の国よりも、まずは“今を生きる者”の道を切り開くのが貴方達の仕事じゃないのかしら?」

 

「…今の私ですら、理性の隅でそう考えることがあります。ミスターエジソン。それを否定するのなら、貴方はただの愛国者です。」

 

「そうだとも。王たる私が愛国者で何が悪い?」

 

「……そうですか。」

 

ナイチンゲールがため息をついた。

 

「知っていますよ、その目を。」

 

「何?」

 

「そういう目をした長は、必ず全てを破滅に導きます。そして最後に、無責任にも宣うのです───“こんなはずではなかった”と。」

 

「───ふむ。藤丸立香、君はどう思う?我々と共闘してケルトを殲滅するべきではないかね?」

 

私の答えは決まっている。

 

「不可。共闘はできません。」

 

バッサリと、告げる。




遅くなりました…

月「眠い」


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第255話 レジスタンス

クラス決まらないんだけど。

裁「唐突だね…」

事実だし。


「すまないな、ここまで来てもらったというのに。」

 

アメリカ軍の城の前。私達はカルナさんに見送られていて、頭を下げられた。

 

「カルナさんが謝ることじゃないです。…私も、少し言葉がキツかったかな、って思いましたし。」

 

「…そうか。」

 

時間は数分前に遡る───

 

 

「不可。共闘はできません。」

 

バッサリと告げた。私のその言葉にエジソンさんは意外、というような顔をした。

 

「私達が救うべきなのは“アメリカ”だけではありません。焼き払われた世界総て、それが私達が救うものです。」

 

「不利と分かりながらも、目的が同じ世界を救うだとしても私達とは手を組まぬ、と?」

 

「行き先が“破綻”しかないレールにわざわざ乗りはしませんよ。私が救いたいと思うのは“焼き払われ既に滅びを確約されているこの世界総て”で、貴方が救いたいと思っているのは“アメリカ”だけ。預言書の出現によってこの世界の滅びが確約されているのだとしても、私はこの世界を救いたい。集団の頂点に立つ者2名が共闘したとして、その2名の考え方が違えばそれは集団を破綻に導く引き金となる。」

 

だからこそ。私は現時点でこの人と組むつもりはない。

 

「…意外といえば、意外な答えだ。裏で何かを考えていようと、承諾するものだと思っていたが。」

 

「薄氷の上を渡るかのような危険があることが分かりながらも様子を窺う関係を続けるのは嫌いなので。親密になるのなら徹底的に深いところまで、そうでないなら距離を置いて親密になれる機会を窺う。それが私の信念ですから。」

 

「…ふ。」

 

ギルが笑った?

 

「……その誠実さ、真摯さ。トーマス・アルバ・エジソンとして許すべきなのだろう。」

 

「……」

 

「しかし…残念だ、大統王としての私はおまえ達をここで断罪せねばならん。」

 

その言葉に合わせて機械化兵士が現れる。私は身構えることもなくそれを見つめておく。

 

「…はっ!待て、エジソン!」

 

「……何故、止める───やれ!」

 

放たれる銃撃。マシュ達が動こうとするのを片手で制止する。

 

「───“紙の太刀・絶閃”」

 

そう呟くと、放たれた銃撃が総て斬られた。

 

魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・白の陰姫”。主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“紙の太刀・昏閃”。」

 

私が告げると同時に機械化兵士達はその場に倒れた。

 

「…カルナさん。これは正当防衛ということでよろしいですか?」

 

「…っ……すまない。オレの注意が至らず、エジソンに君たちを攻撃させてしまった。君の先の行動は正当防衛と認めよう。…本当に、申し訳ない。」

 

カルナさんが私に深く頭を下げる。

 

「二度目はありません。いいですね。」

 

「あぁ───エジソン。お前にも聞こえるように言ったはずだな、オレは。双方の戦闘行為は許さんと。対話が終わればそれまでだ。」

 

「カルナくん…」

 

「早計は身を滅ぼすぞ。今でさえ、彼女は攻撃を叩き斬り、差し向けられたエジソンの兵を昏倒させるだけで留めているのだ。相手が戦局を容易にひっくり返すだけの力を持っていることを忘れるな。」

 

その言霊が、エジソンさんの内に在る何かを貫く。

 

「オレ達がここで手を出し、それが決定的な破綻となれば、それはアメリカの決定的な敗北、破滅となるだろう。」

 

「……あぁ……すまない。」

 

エジソンさんも落ち着いたところで集中を解く。

 

「ふん、つくづくよい拾い物をしたものだな、雑種。」

 

「おう。施しの英雄サマにそこまで買われるとは嬉しいね。…ま、リッカの制止がなけりゃここでその心臓貰い受けてたがな。」

 

「マスターに感謝するがいい。お前達を見逃したはマスターの采配があってこそだ。」

 

「あぁ…感謝する、藤丸リッカ。」

 

「……みんなが止まってくれただけだから、私は特になにもしてないよ。」

 

「……そうか。…藤丸リッカ。互いの勢力の看過、不干渉という折衷案を提案する。やむを得ず戦闘をせねばならぬ場合を除き、互いの存在に危害を加えぬ、というのはどうだろうか?」

 

〈不可侵条約か。いいんじゃないかな。後ろから刺される心配はなさそうだし。〉

 

その言葉に少し悩む。

 

「……じゃあ、もう1つだけ頼みがある。」

 

「なんだ。こちらは先に動いてしまった身だ、聞き入れるしかないだろう。」

 

「情報がほしい。現時点で判明しているだけでいいから、この特異点に召喚されているサーヴァント達の真名を。」

 

「……分かった。その資料は纏めてある。後で渡すことにしよう。…他はないか?」

 

私が頷くと、カルナさんは小さく笑みを浮かべた。

 

「───心から感謝する。お前のような人間が人類最後のマスターであったこと、喜ばしく思う。…さて。ここに両陣営の採決は下された。我が名に懸けて互いの戦闘は認めない。来客たる彼らはプレジデントハウスより無事に送り届け、お前達は我等の戦力を害することを認めない。」

 

カルナさんが厳かに告げる。

 

「命運を懸けた対談はここに終わりを迎えた。───外まで送ろう、カルデアの勇者達よ。それより先はお前達の救世の道を拓くといい。」

 

「……うん、ありがとう。カルナさん。」

 

≪…マスター≫

 

ありすさんの声?

 

≪エジソンに言いたいことがあるの。そちらに呼んでもらってもいいかしら?多分、貴女も伝えたいことがあるだろうから、その後でいいわ。≫

 

『…ん、分かった。』

 

そう伝えて私はカルナさんを見る。

 

「…カルナさん。二言ほど、いいかな。」

 

「……あぁ、かまわない」

 

許可も出たから、エジソンさんに向き合う。

 

「ミスター・エジソン。」

 

「…何かな、フレイムスピリットガール。」

 

フレイム…?そういえば、星乃さんが“貴女の魂はまるで静かに、でも確かに燃え盛る炎みたいだね。みんなが集まる憩いの篝火、って感じかな?”って言ってたっけ。

 

「……行ってきます。1%の閃き(世界を救う一手)を探すために。99%の努力(九十九の欠片)を無駄にしないために。……焼却された世界(たった1つのパズル)を、取り戻す(完成に導く)ために。」

 

「……その、言葉は…」

 

「それと───来て、“ありす”!」

 

私の言葉に召喚が成される。そのカタチを成したのは───青いドレスの幼女、“ありす”さん。サーヴァントとしての真名は、“ストーリーズ・ライブラリ”。あらゆる物語を詰め込んだ書庫。簡単に言えばインデックスさんみたいな感じ。

 

「こんにちは。」

 

「君は……?」

 

「あたしはありす(あたし)。ねぇ、おじさま。おじさまってエジソンなの?」

 

「う、うむ。」

 

「ふーん……」

 

なんだろう。いつもより話し方が幼い気がする。ありすさんはエジソンさんをじっと観察する。

 

「……」

 

「な、何かね?」

 

「……カッコ悪い

 

「…む?」

 

エジソンさんの聞き返しにありすさんが叫ぶ。

 

ありすが読んでた本に出てきたエジソンと違ってすっごくカッコ悪い!

 

ガァァァァ!?

 

「……うわぁ」

 

あれって男の人には致命傷じゃない?女の子に、それも“エジソン”に憧れる年頃の姿をした子にそう言われるのは相当キツいと思うんだけど。

 

「……致命傷か。」

 

「風邪薬とかにもなるような一言だと思うよ、あれ。元々言おうとは思ってたけど、とりあえず1件言ったあとはありすさんに任せようと思ってて、私が思ってるのじゃなかったのなら改めて言おうと思ってたんだけど……必要なさそう。」

 

ありすさんの表情を見ると、すごくスッキリしたような表情をしていた。……あぁ、ありすさんもだけど英霊本体の“ストーリーズ・ライブラリ”の方も我慢できなかったんだね。

 

『……昔の…ムーンセルにアリスといた頃の口調なんて久しぶりに使ったわ。』

 

『あ、だから…』

 

『…ちょっと恥ずかしいわね、これ…さ、あたしの要件はこれで終わり。あとはお願いね?』

 

私は頷いてありすさんをカルデアに送還した。

 

「行きましょう、カルナさん。」

 

「あぁ…的確な処方、感謝する。正門まで案内しよう。」

 

「みんなも、行くよ?」

 

「はい、ドクター。的確な処置、お見事です。」

 

ナイチンゲールの言葉に小さく笑ってから私達はカルナさんについていった。

 

 

 

───それで、現在に至る。

 

「驚いたのはナイチンゲールが動かなかったことだ。エジソンが愛国者であると知ったとき、動くものだとは思っていたのだが。」

 

「…ドクターに迷惑はかけられません。それに、何故かは分かりませんが……不思議と冷静でいられたのです。」

 

「…そうか。」

 

「カルナ様」

 

機械化兵士の一人がカルナさんのもとにきた。

 

「こちら、依頼されたものになります。」

 

「あぁ、すまない。下がっていい。」

 

「イエッサー。」

 

そう言って機械化兵士は城に戻っていく。

 

「…さて、藤丸リッカ。これが今把握しているサーヴァント達の資料だ。先の契約に基づき、これをお前に渡そう。」

 

資料を受けとり、ざっと目を通す。

 

「……なるほど。ありがとうございます。」

 

「何。此方の非礼の詫びだ。文句は言わん。というか、言わせん。」

 

「ふっ、真面目なことよな。」

 

「……お前も、随分と穏やかになったものだ。」

 

「気になるものは見つけたのでな。」

 

「…そうか。」

 

ふと思い出したように私の方を見た。

 

「もう1つ、これは個人的にだが…指針のようなものを送ろう。その資料を見てもらっても分かるだろうが、この大陸には、オレ達アメリカとあちらのケルトの二勢力に与さず、反抗する“レジスタンス”がある。もしかしたらお前達の力になるかもしれない。」

 

「……分かりました。」

 

「……では失礼する。」

 

そう言ってカルナさんは去っていった。

 

「さて、どうするかね、リッカ。」

 

「……とりあえずレジスタンスを探すしかないかな?」

 

「うむ、構わん───どうした、リューネ?」

 

リューネちゃんが空を見上げている。釣られて私も空を見上げる───あ。

 

「……あの光帯ここにもあるんだっけ。」

 

そういえばそうだった。リューネちゃんが気にしてたのってこれ?

 

「あぁ、いや…翼の音が聞こえたのでね。…気のせいか。」

 

翼の音、か……それはそれとして。

 

「……そこにいる人は誰ですか?」

 

周辺の草むらに声をかける。

 

「…すまない、もうしばらく移動してもらえると助かる。現時点で敵となっている軍勢の目の前で姿を現すのはただの愚行なのでね。」

 

…それも、そうか。ということは……この人はレジスタンスかな。

 

「場所が場所だ、姿は見せられないが名乗ろう。…“ジェロニモ”。そう呼んでくれ。」

 

……ジェロニモ……対白人抵抗戦である“アパッチ戦争”に身を投じた戦士、か───




紙の太刀・絶閃

自らの周囲に不可視かつ非殺傷の斬撃を作り出す術式の一種。無生物には斬撃の傷となるが、有生物には打撃の傷となる。


紙の太刀・昏閃

自らの周囲に不可視かつ非殺傷の斬撃を作り出す術式の一種。あらゆる防御を貫通し、意識を昏倒(スタン)させる。簡単に言えば相手全体スタン攻撃。


裁「月さんの術だっけ、これ。」

月「……私の術ってわけでもないですよ、これ。私が教えただけです。」


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第256話 一方その頃

うーん……どうなることかなぁ…

裁「……あ、そういえば最近観測が不安定なんだっけ?」

うん……


「「はぁ……」」

 

カルデアにて。2人の男がため息をついていた。

 

「どうした、ロマン、ムニエル。ため息ついてっと幸せ逃げるぞ?…いや、ムニエルのそれは恍惚って感じだけどよ。」

 

六花が手を止めてそう問いかける。

 

「…まぁいいわ。ムニエル、何か気がかりなことでもあるんだったら話せ。」

 

「気がかりっつうかよ~…コンラ君可愛すぎだろ~…あれで同じ男とか信じられねぇよ~…」

 

「なんだ、そんなことか。」

 

「“なんだ”とはなんだ、“なんだ”とはァ!!」

 

「んなもん満場一致で“可愛い”だろうが。分かりきったことを言うんじゃねぇ。」

 

「お……おう?」

 

「俺ら男の中でも類い稀なる容姿を持つ“男の娘”。容姿だけではなく声まで高いとなっちゃあその希少性は知っての通り───すっぴんでも女性のようで、声も高く、容姿も整っている、天然物の男の娘となればそれはレア中のレア、ゲームの最高レアキャラを軽く超すだろうよ。“男性”という性別が魅せる夢、“人間”の多様性が魅せる神秘───だからこそ男の娘って存在は尊いんだろうよ。」

 

「……なぁ、六花。合言葉は───」

 

「「男の娘は妊娠できる」」

 

同時に同じことを言ったあと、2人は強く握手した。

 

 

───スパァァァン!

 

 

「あだっ!」

 

 

───スパァァァン!

 

 

「でぇっ!」

 

つかつかと近づいたオルガマリーが2人をハリセンではたく。

 

〈お見事なハリセンです、オルガマリーさん。〉

 

「ムニエルはともかく六花は稀に暴走するのよね…ほんとごく稀にだけど。何かストレスでも溜まってた?」

 

「うにゃ……わり、少しボーッとしてたっぽいな。」

 

「……疲れてるんじゃないの?」

 

「そうでもねぇ…って言いたいとこだが、実際はそうなのかもな。」

 

「あら、随分簡単に認めるわね。」

 

「……ギルやモンテ・クリスト、ナイチンゲールにリッカ、七海…それから俺の作ったAI達。マジで多くの奴らから心配されてるからよ。自覚してなくても疲れてんのかね、ほんと。」

 

そう言って椅子の背もたれに寄りかかる六花。

 

「……別に全部が仕事じゃねぇし、自業自得といえばそのまんまだから心配されても、ってとこなんだよな…」

 

「そう……それにしても」

 

オルガマリーがコンラの写真をモニターに表示させる。

 

「コンラ…クー・フーリンの息子、だったわね。…可愛すぎ…見た目だけでいえば美少女すぎないかしら?下手したら女性以上よ?」

 

「まぁなぁ…男の娘っつうものは結局は男なわけで、女装とかに関してもだが“自分の思い描く女性になる”とかも結構あるわけだ。だから、“理想”を追い求めた結果本来の女性を越えやすいんだろうな。」

 

「……喧嘩売ってるのかしら?」

 

「1つの仮定だ、気にすんじゃねぇ。…んで、無銘の人格達が言うところでは、仮想空間にキャラクターを作成し、そのキャラクターに入り込んで生配信する…なんつったか、Vtuber?っつーのが未来にはあるらしい。“なりたい自分”になれるそれは現実の自分に満足していない、現実ではそれになれないというような奴らにとって夢の世界だろうよ。なら、それは───現実との乖離が凄まじいはずだ。現実と仮想の造形は全くって言っていいレベルで違うだろうからな。」

 

現実と仮想の造形の差は少女マンガがいい例だろうな、と六花が呟いた。

 

「……ただ、まぁ。」

 

「…?」

 

「女だろうな、ありゃ。」

 

六花が写真を見て放ったその言葉に管制室がザワッとする。

 

「…え?今、男の娘だって言ったばかり───」

 

「まぁ、言ったが。コンラは確率的には60%前後で女だろうよ。男にしては違和感が多すぎる。」

 

「……理由を、聞いてもいいか?」

 

「俺からは話さん。どうせリューネやルーパスも気付いてんだろ。なら、リッカもじきに気付く…もしくはもう気付いてる。偽ってる理由は本人から聞けよ、めんどくせぇし秘密にしてる部分に理由なく踏み込む趣味もねぇ。」

 

やれやれ…とボヤキながらロマニの方を向く。

 

「んで?ロマンのため息の理由はなんだ。」

 

「…六花……先に1つ訂正していいかい?」

 

「んあ?」

 

“ため息をつくと幸せが逃げる”っていうのはただの迷信だよ?

 

んなもん知ってらぁ。

 

そう告げてから六花もため息をつく。

 

「昔から誰かがため息をついたときに“ため息をつくと幸せが逃げる”って言うのは癖なんだよ。」

 

「そうなのかい…」

 

「……んで?ロマンのため息の理由はなんだ。」

 

「あぁ……うん。…あのさ。クー・フーリンって凄いよね…」

 

「あ?呼んだか?」

 

管制室に偶然顔を出すはクー・フーリン・オルタ。ちょうど通りかかったようだ。

 

「おう、クフオルタ。んにゃ、呼んでねぇよ。」

 

「そうか。」

 

そう言って管制室を去る。

 

「びびび、びっくりしたぁ…」

 

「噂をすれば影が射す、ってな。…んで、クー・フーリンがどうした。」

 

「いやさ…ミドラーシュのキャスターさんってああいう人の方が好きなのかな…って。ほら、ボクってクー・フーリンと比べたらほんとひ弱だし意気地無しだし…彼女は好意を寄せてくれてるんだろうけど、ボクはそれを避け続けているようなものだし…ボクなんかでいいのかな、って……」

 

「……あのなぁ。」

 

六花が頭を押さえる。

 

「そういうことは本人に聞けよ。それと、自分を卑下しすぎると嫌われる要因になるぜ?」

 

〈…お父さん、それを貴方がいいますか。〉

 

「実際俺は大したことしてねぇしな。…で。背後で聞いてたアンタはなんて答えるんだ?」

 

その言葉にロマニが振り向く。そこには獣耳をもつ褐色肌の女性が佇んでいた。

 

「ミ、ミドラーシュ、サン……?」

 

「はい~、先程別作業を終えて戻りましたので~。」

 

「え、ええっと…どこから、聞いて?」

 

「クー・フーリンが退室したあたりです~♪」

 

「───」

 

ロマニがフリーズした。それを見てオルガマリーがハリセンを手にする。

 

「それで…ロマニ様?」

 

「───ひゃ、ひゃいっ!」

 

「起きたか。」

 

「そうね、ハリセンの準備は要らなかったみたい。」

 

オルガマリーが手にしていたハリセンを置く。

 

「クー・フーリンはもちろんいいですが……私のタイプは“ロマニ・アーキマン”のような方です♪」

 

「あばばば……」

 

「結婚しちゃえば、ロマニ?」

 

「そ、そんな簡単に他人の人生背負えないからぁぁぁ!!」

 

「やれやれ…人理修復できたら知り合いに結婚指輪の製作頼むのを本気で検討すっかね。いずれ結婚しそうだからよ。」

 

「…それは、勘かしら?はい、コーヒー。」

 

「まぁな。…甘いな。」

 

「えぇ…甘いわね…」

 

「二人とも、それブラックなんですが…」

 

「状況が甘くて仕方ないのよ、シルビア…」

 

「…悪い、砂糖吐きそうだわ。まぁ、比喩だがな。」

 

そう言って六花が自分のPCに向き直る。

 

「ほんと…幸せになれよな、ロマン。お前はこれまで大変だったんだからよ。」

 

「……あなたは、知っていたの?ロマニがソロモンだったってこと?」

 

「あぁ。あのカルデア職員の情報を管理する名簿で、偶然な。基本的な真名隠しは役に立たねぇ、魂そのものに接続して情報を得るんだからな。」

 

「…あぁ、なるほど……」

 

「……ん?…違うな、こうか。」

 

悩みながらもキーボードを叩く六花。そのPCはノートパソコンに拡張モニターを接続してデュアルモニタにしている。

 

「……そういえば、六花。」

 

「あ?」

 

「あなたは…リッカと七海さんが付き合うこと、認めてるのかしら?いえ、まだ付き合ってないけれど。」

 

「ん?おう。」

 

即答。当然といわんばかりに、彼は即答した。

 

「それがリッカの決めた道で、リッカがそれで幸せになれるなら俺は止めねぇよ。」

 

「……それが、相手が同性でも?」

 

「あぁ。…実際、俺は“愛し合っていればそれでいい”って考えてるところあるからよ。それが同性だろうと兄弟姉妹だろうと親子だろうとかなりの歳の差だろうと愛し合っていれば別にいいんじゃねぇの、ってなるのさ。…倫理的なことや法律的なことはともかくとしてな。」

 

「…それが、ルーナさんのような容姿をした子だとしても?」

 

「ルーナは合法ロリ……ってそう言うことじゃねぇな、ぺドフィリアとかその辺りの事か。つーかマジであの人は若すぎだろ…あれで娘いるとか今でも信じられねぇ…っと、脱線したな。もう一度言うが倫理的なことや法律的なことは省いておく。その上で考えれば俺は別にいいんじゃねぇかって思うのさ。」

 

「そう…」

 

「……つーかルーナの夫はロリコンかなんかだったんかね?」

 

「ロリコン…かどうか分からないけど普通の人だったよ?」

 

その声に六花が声のした方を向くと、ルーナと諸葛孔明が立っていた。

 

「おう、どうだ?」

 

「形にはなってきているが、私は専門ではないからな…完全な状態で運用するのは現時点では難しいだろう。」

 

「そうか…」

 

「…それより、ロリコンってなんのこと?」

 

「あーっと…」

 

六花が軽めに説明する。…犯罪臭のようなものがする気がするが気のせいだろうか。

 

「……なるほどね。ん~と~……」

 

ルーナが軽く悩む。

 

「……一応、彼は普通の人だよ?小さい子が好き、っていう話は聞いたことないし、最初の頃は変な目線とかも感じなかったし。目線に違和感を感じるようになったのはいつ頃だったかなぁ…一緒に行動しはじめて結構経ってからだったと思うけど。」

 

しばらく悩んだ後、顔をあげる。

 

「そだ、17歳頃だ。その頃に告白されたんだよね。」

 

「若いな。」

 

「ん、一応彼の方が年下だよ?私よりも背は高かったし、大人びているような感じだったから私の方が年下に見られたくらい。」

 

「ちなみに入籍は?」

 

「私が18、彼が16…って、あぁ…そっか。ルーパスももう結婚できるんだね。」

 

「……ん?あれ、結婚可能年齢とかってあんのか?」

 

その言葉にルーナが首を横に振る。

 

「明確な定義はないよ。でも、大体18歳以上が推奨されてるかな。もっとも、20歳までは両親の許可が必要だけどね。」

 

「ほー…」

 

「ルーパスやリューネが結婚して私達のもとを離れるってなったら寂しくなるなぁ…」

 

そう呟いたルーナを見て、六花がため息をつく。

 

「……あんま関係ないとはいえ、合法ロリの割に母親らしい表情するよなぁ、ホント。」

 

「…その合法ロリって結局なんなの?アンデルセン君も教えてくれなかったし…」

 

「……改まって聞かれると説明しにくいな。つーか耳いいのな、ルーナは。」

 

「まぁまぁだよ、私は。……それで?怒らないから聞かせて?」

 

「……へいへい。んじゃ、怒るなよ───」

 

 

少年説明中……

 

 

「───ってことだ。」

 

「なるほど……でもそんなこと言ったら私の家系ほとんどが“合法ロリ”、“合法ショタ”っていうのになりそうだけど。」

 

「マジか……ロリコン・ショタコンの楽園か、そら…」

 

「知らないよ。私達の家系…舞華家の特徴として、かなり若い段階で成長が止まるの。ついでに結構長寿だし。リューネとルーパスもその血を引き継いでるから……多分もう成長止まってるんじゃないかな。」

 

「そういうものなのか…」

 

世界は広いな、と六花がボヤいた。

 

「……んあ、そうだ、ルーナ。」

 

「うん?」

 

「お前さん、ルーパスとリューネが結婚したい…つまりは同性同士で結婚したいって言い出したらどうする?」

 

それは、オルガマリーから問われたものと同じ問い。兄妹のうちの兄ではなく、母娘のうちの母であるルーナへの問い。

 

「ん?応援するよ?」

 

「即答か。」

 

「うん。だって、私は自分の娘に幸せになってほしいから。例え私が孫の姿が見られないとしても、自分が幸せになれる道を選んでほしいからね。」

 

「…そうか。」

 

納得したかのように頷き、PCの画面に目を落とした。

 

「…ところで六花さん、それは何をしているのかしら?」

 

「……いつの間に戻っていたんだ、ありす」

 

「ついさっき戻って来たの。」

 

いつの間にありすが六花の隣からPCの画面を覗き込んでいた。

 

「これは…プログラムコード?よね?」

 

「あぁ、魔術をプログラムに変換したものだ。」

 

「っていうことはこれ“コードキャスト”じゃない……しかも本来のコードキャストよりも大分複雑じゃないの、これ?」

 

「そうっぽいな。別にバカにするわけでもねぇがプログラムの量が長いこと長いこと。空いた時間見つけては解析してるが全解析まで至らねぇのなんの。一部を切り取ってコードキャストとして成立させるくらいしかまだ出来てねぇよ……っと。」

 

Enterキーを叩く音が聞こえる。

 

「…うし、“Tone_Attack();”が完成だな。やっと一個、それでもまだ術式のごく一部なんだよな、コレ…ありす、試し撃ち頼んでいいか?」

 

「……」

 

「ありす?」

 

「……ほんと、あなたって魔術師(ウィザード)を越えそうな勢いじゃないかしら。本当に魔術師(メイガス)なのよね?」

 

魔術師(メイガス)だが?」

 

「……あなたのその技術があれば月の聖杯戦争でも結構有利に戦えたかもしれないわね。それで、試し撃ちだったわね?いいわ、手伝う。一度電脳空間に入るから術式(コード)を渡してくれる?」

 

「助かる。」

 

ありすの姿が消え、六花がPCを操作する。その後、微妙な表情をしたありすが現れる。

 

「…あたし(ありす)の身体が生きていた時より後の時代とはいえ、こんなにも早くコードキャストを作れる人がいるなんて、ね……10年は先の技術よ、コレ。」

 

「…そういえば、ありすの精神体の方はまだ?」

 

「電脳空間にまだ生きてるんじゃないかしらね。あたし(ありす)には分からないわ、この世界のあたし(ありす)とはほとんど違うもの。…もしかしたら、身体丸ごと人間として生き残っているかもしれないけれど。もしそうなのだったら、70歳くらいにはなってるんじゃないかしら。」

 

「…そうか。」

 

「…“ありす”、か。」

 

呟くと同時に少し暗い表情になった。

 

「どうした?」

 

「…いえ、何でもないわ。…リッカさんには、話しておいた方がいいわね。

 

「…?」

 

「じゃあ、試してくるわ。効果に関しては後で報告するわね。」

 

「おう、頼む。」

 

その言葉を最後にありすは管制室を去った。

 

 

 

───特異点にて。

 

「クーちゃん、起きて!!サーヴァントを殺しに行くんでしょ!!」

 

「…………」

 

「フェルグス!!クーちゃんの事起こして!!」

 

「はっはっは、無茶を言うなメイヴ。クー・フーリンはこうなったら梃子でも動かんぞ。」

 

「いいから早く!クーちゃんがいればはぐれサーヴァントなんて一捻りなんだから!!」

 

「…う~む、他の者に行かせた方が確実で早いのだが…女の要望には応えるべきか。…しかし」

 

ドリルのような剣を持つ男は外を見た。

 

「…フィン・マックールとディルムッド・オディナを容易く狩るサーヴァント、か…まさかではあるが…なぁ。」

 

「早く!!」

 

「やれやれ…どれ、起こしてみるとするか───」




裁「……マスター。言われてるよ。」

うっ……だって自信ないんだもの。誰かに誉められたとしても自分よりも上がいることが分かってるから自信持てないんだもの……

弓「重症よな……」

裁「うん…私もそう思う。」


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第257話 はぐれサーヴァント

管制室:六花 オルガマリー ロマニ ムニエル シルビア ダ・ヴィンチ アルトリア 他数名

ダ・ヴィンチ工房:ウェルバー ルーナ 蒼空 ミノト 殺せんせー

シミュレーションルーム:ありす

食堂:タマモキャット エミヤ ジャンヌ・オルタ

各マイルーム:その他サーヴァント・別世界存在


今現在カルデアはこんな感じになっている模様……

裁「あ、そうだったんだ…」


「…しかし、何故貴様が白人を守護するために動いている?」

 

ヴィマーナ内。私達はジェロニモさんに話を聞いていた。ざっくり纏めると、“正しきアメリカを手にするために力を貸してほしい”と。その発言に疑問を持ったギルが放ったのが、今の言葉。

 

「全てを塵へと変えるなら分かるが、守護だと?血濡れの悪魔とすら言われた貴様が白人のために戦うなど、道理が見えんわ。」

 

「ははは。英雄王の言うことも尤もだな。いやなに、白人に恩を売っておくのもいいと思ったのさ。例えそれが、本当の歴史には残らない奮闘だとしても。」

 

「ふむ。過去をやり直そうとはせぬのか?」

 

ギルの言葉にゆっくりと首を横に振るジェロニモさん。

 

「思わない。それは我々の戦いを無意味にすること。何かをなかったことにするのは簡単だ、ましてそれが自分の不利益になることならば。帳消しにするのは小狡いコヨーテだ。」

 

「……だ、そうだが?貴様はコヨーテらしいぞ、アルトリア。」

 

〈放っておいてください。〉

 

「…それで……ジェロニモさんの頼みって?」

 

「あぁ…今、私達が向かってもらっているのは西側の小さな町だ。…そこで、彼女の力を借りたい。」

 

そう言ってジェロニモさんが視線を向けたのはナイチンゲール。

 

「私…ですか。」

 

「あぁ。…少し話した通り、今の我々はサーヴァントが足りない。私と戦うサーヴァントは君達を含めずに5…いや、3騎存在する。うち2騎は今も別の場所で戦っているが、1騎は恐らく今から行く町にいるだろう。…そして、その町に2騎のサーヴァントと1匹の魔獣を匿っている。」

 

2騎と1匹……

 

「2騎、1匹とも酷い傷を負っていてね。是非その力を貸してもらえると助かる。」

 

「ドクター、聞きましたか。怪我人、負傷者がいるのなら赴くべきでしょう。」

 

「私は異議なし。獣魔の治療なら私に任せて。」

 

「うん、異議なし…ちょっと気になることもあるし。…ジェロニモさん」

 

「何かな。」

 

「その2騎のサーヴァントって……“赤い髪の男の子”と“白を基調とした服の女の子”じゃない?」

 

私がそう言うと、ジェロニモさんは驚いたような表情をした。

 

「…よく分かったな。その通り、赤い髪の少年と白を基調とした服を着た少女だ。」

 

「やっぱり……夢と、一緒?」

 

「夢?」

 

聞き返しに対して首を横に振ることで答える。

 

「今は、まだ。色々と不安定な状態にしたくないから。」

 

「……そうか。」

 

「……」

 

少し考えてからギルとクーの方を向く。

 

「ギルとクー、それからルーパスちゃん達もどうする?治療終わるまでの間暇じゃない?」

 

「ふむ……どうするか。」

 

「特にやりたいってこともねぇからなぁ。」

 

「別行動しててもいいけど…気をつけてね?」

 

「誰に言っておるのだ、誰に。…ふむ。」

 

「……あの。」

 

アルが手を上げた。

 

「なんだ。」

 

「月さんがリッカさんの近くに残りたいみたいなので私は別行動できなさそうなんですけど…いいですか?」

 

「…ふむ?珍しいか、それは。関係が紡がれはじめて少しの間だけではあるが、月は意味もなく我儘を言うような者でもなかろう?理由は聞いたのか、無銘。」

 

「それが……“じきに分かる”の一点張りで……」

 

「……まぁ、よい。ならば無銘はマスターと一緒でよかろう。」

 

「…それと。多分、ここにはまだはぐれサーヴァントといえる存在がいるはずです。今、マスターが持っている資料と今まで分かっている英霊を照らし合わせて不明なのは9騎ほど……ケルト陣営に倒される、もしくはアメリカ陣営に与する前に戦力に加えるべきでは…?」

 

「フォーウ…」

 

「なるほど。それができるのなら確かに助かる。」

 

「それからもう1つ、レジスタンスのメンバーとして2騎いる、というのは先程聞いたとおり。倒される可能性もありますから早々に回収するべきでは……」

 

「ふむ、理に適っているな…」

 

ギルが全員を見渡す。

 

「…よし、クー・フーリン、コンラ。」

 

「あ?」

「はい。」

 

「我は新たな戦力の確保に動く。貴様らはレジスタンスの者らの援軍に向かえ。ルーパスとリューネは…」

 

「私は英雄王に同行しようかな。ちょっと遠くに龍気が見えるし。」

 

「僕も同行するか。クー・フーリン達には追い付くことができないだろうし、そちらはそちらで任せた方が早いだろう。」

 

「決まりだな。」

 

「いいけどよ…お前、スカウトなんざできんのか?」

 

「ふん、舐めるでないわ。さぁ───」

 

「───待ってください」

 

行く、といいかけたギルをアルが止めた───ううん、アルじゃなくて月さんだ。

 

「……なんだ?話す気になったか?」

 

「それは……まだ」

 

「…何を抱えているか知らんが、あまり抱え込みすぎるなよ。」

 

「……はい。」

 

そう言う月さんの表情はかなり暗かった。それでも、ウインドウを開いていくつかの操作をしていた。

 

「……ギルガメッシュ様。これを、持っていってください。」

 

そう言って月さんが差し出したのは巻物。

 

「これは?」

 

「“周波防御術式”。周波による攻撃を軽減、または防御する術式です。…なぜか、渡した方がいい気がしましたので。」

 

「……一気に先が不安になったが……まぁ、よい。受けとれというなら受け取っておこう。」

 

ギルが受け取ったあと、私達治療組はミラちゃんの召喚した獣魔に乗り、ギル達回収組はヴィマーナに乗り、クー達援軍組はその足で別行動を開始した。




治療組:リッカ マシュ 七海 無銘 ミラ ナイチンゲール ジェロニモ

回収組:ギルガメッシュ ルーパス スピリス リューネ ルル ガルシア

援軍組:クー・フーリン コンラ ロイグ


特異点はこんな感じ……

裁「懐かしいなぁ…」


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第258話 英雄王達の勧誘

とりあえず回収組…

裁「48,000UA突破~」


「さてと……まずはこの辺りか。」

 

英雄王の船に乗って僕達は小さめの町にやってきた。

 

「……」

 

「リューネ、大丈夫?」

 

「あぁ……大丈夫だ、問題ない。…英雄王」

 

「うむ……我も逃げたい。」

 

僕も正直逃げたい。原因は───

 

「ハートがチクチク 箱入り浪漫 それは乙女のアイアンメイデン 愛しいアナタを閉じ込めて 串刺し血濡れキスの嵐としゃれこむの」

 

「「「………」」」

 

エリザベート・バートリー……ランサーのサーヴァント。相変わらず、って言っていいのか歌が……うん……

 

「……はぁ。気は進まぬが勧誘するしかないか……」

 

「…僕が行こう。英雄王とルーパスは少し待っててくれ。」

 

そう言う僕の声は疲れたように聞こえていたのだろうか。ルーパスが心配そうな表情をした。

 

「……すまぬな、リューネ」

 

「かまわないさ……」

 

英雄王の言葉を最後に僕は船から降りる。

 

「……はぁ。何度も出てきて恥ずかしくないのかい、君は?」

 

「何よ!いきなり出てきてアイドルを誹謗中傷するのはやめなさい!」

 

「アイドル……あぁ、その姿はそうなのだろうが……その音程をどうにかしてくれ……

 

「……って。誰かと思ったらあんたリューネ?リューネよね?」

 

「英雄王もいるぞ…はぁ。」

 

「何よ、用がないなら帰ってくれる?アタシは練習で忙しいんだから!」

 

「用はあるんだ。…君のライブをセットしたい。だが、今の時点ではセットしたとしても普通の者は聞きに来ないだろう。ライブをセットするために、この特異点の修正に力を貸してはもらえないか?」

 

「デジマ!?ライブのセッティングしてくれるの!?プロデューサーに…というか、マネージャーになってくれるの!?」

 

「あぁ。僕なんかでよければマネージャー…だったか、それになることはかまわない。…手伝ってくれるだろうか?」

 

「手伝うわ、手伝う!アンタの腕は…ええっと…カルデア?のアタシを見たときから分かってるわ、信用に値するってね!」

 

「助かる。」

 

やれやれ……

 

『英雄王、協力は取り付けた。回収を頼む。』

 

『うむ。…嘘も方便、というヤツよな。』

 

『流石に僕とルーパスが耐えられないからできる限り音程の叩き直しはするが……ライブ自体は難しいかもしれないな。』

 

念話の向こうで英雄王もため息をついたのが聞こえた。それと同時に船も高度を下げる。

 

「よくやった、リューネ。」

 

「すまないが少しの間休ませてくれ……次のサーヴァントは森を抜けた先だ。」

 

「うむ、ではエリザベート。これに身体を繋いでおけ。」

 

その後は船室内で少し眠っていたから分からない。目が覚めるとルーパスが隣で眠っていたのはびっくりしたが。

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

リューネが船室に行って、少しして別のサーヴァントがいるっていう場所に辿り着いた。

 

「……」

 

…のは、いいんだけど。

 

「ふんふふふんふんふ~ん♪よし、これで土台はできたな!現状の街並みでは残念ながらウェスタンしか撮影できないが───なに、余の名演技をもってすれば西部劇とはいえアカデミックな賞間違いなしであろう!!」

 

「……なんでよりによってこの2人なの」

 

「知らん、我に聞くな。」

 

実際、私達はサーヴァントの反応を追ってここに来てるんだけど。それでも、誰がいるかは分からない。…なのに、なんでよりによって…

 

「気が乗らんが回収するしか無かろう…」

 

「…私が行く。その後は少し休ませて…」

 

「うむ…すまぬ、ルーパス。」

 

はぁ……多分今の私はさっきのリューネと同じ表情してるだろうな…

 

「……それで。機材とかはどうするの、ネロ。」

 

「む?ぷろでゅーさーとでぃれくたー、脚本、音楽、主演は余が兼任するとはいえ…いかん、カメラマンがおらんではないかーー!!」

 

そう言いながら私の方を見てくるからちょっとため息。

 

『…英雄王。撮影機材一式、用意できたりする?』

 

『そのくらい容易い。なんだ、皇帝は撮影機材の要求か?そのくらいなら受け持てるが。…時間はともかくとして、だがな。』

 

英雄王に確認を取ってから口を開く。

 

「わかった、撮影機材に関しては心当たりあるから…ひとまず私達に協力してくれるかな?色々終わったらその演技で賑わせるといいよ。」

 

「真か!そなたは余のスポンサーとなってくれるのか!!」

 

「私、というかそれは…もういいや、どうでも。力を貸してくれるの?」

 

「うむ、構わぬ!」

 

『契約成立。』

 

『うむ、よくやった。』

 

そういえば、と思いネロの方を向く。

 

「そういえばエリザベートもいるよ。」

 

「なんと…!?黄金劇場と鮮血魔嬢のコラボが実現するのか…!!?」

 

『フォウフォウ!!』

 

あれ、フォウって念話入れたんだ…

 

『…ごめん、英雄王。少しの間休んでていい?』

 

『うむ、構わん。』

 

その後はヴィマーナに乗ってリューネの隣に潜り込んだ。起こされたときびっくりした表情されたけど。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「やれやれ…さて。次へと行くとするか。」

 

ヴィマーナ内部。ギルガメッシュはため息をつきながらも次のサーヴァントの元へ向かっていた。

 

『おい』

 

『…なんだ、獣』

 

『オマエ…もう、気づいてるんだろ。』

 

「……」

 

()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと。…もう、気づいてるんだろ?』

 

『さて、どうだかな。』

 

フォウはギルガメッシュの肩に乗った。

 

『本来のオマエなら、ボクがこんなことをすればボクを殺そうとするだろう。おかしいんだよ、オマエ。ただ変質しただけにしては異常だと思う。まるで、ボクが知っている別世界のオマエだ。オマエはボクと同じように別世界を知っている───違うか?』

 

『………』

 

『沈黙は肯定と取るぞ、おい。…まぁ、いいや。細かく詮索する必要性もないだろうし。』

 

『…ならば、聞くか。』

 

『ん?』

 

『貴様は何者だ?この世界にいたフォウ───“比較”の獣ではないだろう?』

 

『…』

 

今度はフォウが黙る番だった。

 

『比較の獣───ビーストIV、キャスパリーグ。貴様はその存在であるはずだ。そしてそれはマーリンからアヴァロンより叩き落され、このカルデアに辿り着いた───それが、本来の…“正史”と呼ばれるものでの貴様だろう。…だが、違うな?』

 

『…あぁ、その通りさ。ボクはフォウ───真名は“キャスパリーグ”。だけど、その本体は…ただの、人間なのさ。』

 

「…やはり、か。」

 

小さくギルガメッシュが呟く。

 

『貴様は───“転生者”だな?』

 

『そう───ボクは“転生者”だ、英雄王ギルガメッシュ。かつて他の世界で死に、“キャスパリーグ”として生まれ変わった者───いいや、憑依した者、と言った方がいいかもしれないが。』

 

フォウが溜息をつくと、ギルガメッシュの肩から飛び降りた。

 

『改めて名乗ろう。ビーストIV、“キャスパリーグ”───生前の真名は、姓が“刃邪(はじゃ)”だったのは覚えてる。名は…忘れた。』

 

『刃邪、か…』

 

『オマエの言う正史、“Fate/GrandOrder”なるゲームのプレイヤーが1人。何の因果か知らないが、ボクはこの世界に転生した。よりにもよって、キャスパリーグとして。』

 

念話の声は嘲るような笑いを漏らした。

 

『時間冠位神殿ソロモン。正史によれば、ボクはそこで旅が終わる。ボクの意識は消え、ただの猫としてこの身体は動くようになるだろう。…なんで、そんな存在に生まれ変わってしまったんだろう、と自分の運命を呪ったさ。最初こそ可愛い体になれたのを喜んだけど、状況を理解するにつれて絶望が大きくなっていった。…ボクに、マシュを救わないなんて選択肢はないからさ。ボク自身の命だから、どうしてもいいんだろうけど…お生憎様、ボクはマシュ推しだったからね。もし、転生させるのを神様が選んでいるのだとしたら、その神様は性格が悪いんだろうさ。』

 

『ふん。…我も神は嫌いだが、総てが駄目な神ではないのだろうな。』

 

『まぁ、そうなんだろうけどさ。…ボクは意識が覚醒してからずっとマシュを見守ってきた。自分が消えると分かっていながら、その道を進むことに決めたんだ。ホント、馬鹿げたことをしてるんだろうけどさ。…でもさ』

 

『…?』

 

『今は、本当に消えるとは思ってない。…この世界は、正史とのズレが起こってる。オルガマリーなんかはいい例さ。んで、ボクもこの旅路を記録に残そうと思って編集してるんだけどさ。…ふと、気がついた気がするんだ。』

 

『何をだ?』

 

『ボクの編集、ボクの記憶が確かなら───グランドオーダーが開始されてから、味方に犠牲者なんて1人も出てないんだ。』

 

『…なんだと?』

 

『カルデア爆破の件はともかく、冬木でのオルガマリー、フランスでのマリー・アントワネット、大海でのアステリオス…それらは正史では死を迎えているはずだ。それが回避され、今に至っている───ほとんどハンター達が誰かの死を防いでいるんだ。』

 

「…」

 

『ボクには細かいことは分からない。だけど、希望してもいいかもしれないと思うんだ。…正史とは別の未来を。』

 

「…ふん。好きにせよ。」

 

その後、サーヴァントを3騎確保して帰還の道に至った。




本当に遅くてすみません…

弓「くあ…我は眠る」

あ、おやすみ…


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第259話 黒い塊と弾幕

必須タグに“性転換”と“転生”を追加しました。

裁「フォウくん…というか刃邪くんだっけ、彼の転生ってマスターが関わってたりするの?」

いや、特には……関わってないはず。星見の観測者は転生関係の力持ってないと思った……けど……


別行動になった後、私達は町に向かっていた。

 

〈にしても、カルデアを抜いて6騎のサーヴァント…アメリカ側が3騎なのによく5騎も集められたな?〉

 

お兄ちゃんがジェロニモさんにそう言う。

 

「ただ私は運が良かっただけだ。彼らを集められなければ既に敗北していただろうしな。」

 

〈……それでも、戦争が始まってから死者0人っていうのは驚異的な数字だよ…?その女の子達って何の英霊なんだろう。〉

 

「……」

 

「さて、ね。彼女達が全力で力を振るえばこの戦局をひっくり返すことなど容易いのだろうが…なぜか彼女達はそれをしない。真名も答えてはくれないし、宝具も使わないから判断のしようがない。」

 

〈情報だけ聞くと大英雄クラスよね……そしてずっと思ってたけれど、どうしてそこまで月さんの表情は暗いの?〉

 

マリーの言葉に全員の視線が月さんに向く。

 

「……気にしないでください。…私は、大丈夫ですから。」

 

「…大丈夫そうに見えないわ。休んでいたらどうかしら?」

 

「大丈夫、ですから……いずれ、分かることなんです。」

 

そう言って月さんは辛そうに笑った。

 

〈……溜め込みすぎんなよ、マジで。いくら強くてもあんたは……いや、リッカも含めカルデアの特異点攻略班はほとんどが生身の人間なんだからな。〉

 

「……はい。ありがとうございます。」

 

「ふむ…そうか、君達は人間だったか。道理でサーヴァントにしては違和感があるわけだ。」

 

ジェロニモさんが納得したように頷いた。

 

〈実際おかしい気もするんだけどね……本来ならマスター1に対してサーヴァント1で挑むはずだったグランドオーダー、それがマスター1に対して多数のサーヴァントで挑んでる…さらに言えば、そのサーヴァント達も生身が多い、そもそも人間そのものだっていうね?マシュみたいに擬似的にサーヴァント化したのかもしれないけど、あまりに強すぎる。人間だからマスターにもなれるし、顕現するのがエクストラクラスだっていうのが…ん?〉

 

ドクターの声が止まった?

 

〈わわわ、みんな大変だ!正体不明の魔力反応が行き先の町を襲っている!!〉

 

「何…っ!」

 

〈数は……ええっと、70…70!?ヤバい、このままじゃ壊滅するよ!!〉

 

「フェナン!ごめん、少し急いでくれる!?」

 

ミラちゃんの声にフェナン───ムフェト・ジーヴァが頷き私達が加速する。

 

「……来る」

 

「月さん?」

 

月さんの呟きに私が反応したのと───

 

「ギィィィィ!!ミツケタ、ミツケタ!!」

 

そんな、金切り声が聞こえたのは同時だった。

 

「ミツケタ、ミツケタ!!」

 

「黒い…塊?」

 

黒い塊。そう表現するしかないような形をしたそれ。それは───一瞬で月さんの顔の前に移動した。

 

「キゲン!ウンメイノ、ハジマリ!!スベテノハジマリ!!!」

 

「…!“破”!!」

 

月さんがそう叫んだと同時に黒い塊は月さんから離れた。

 

「ギギギ……ミツケタ!ミツケタ!ミツケタ!ミツケタ!ミツケタ!」

 

狂ってる…のだろうか。同じ言葉を繰り返す。……いや。違う。

 

〈わわわ!?こっちに魔力反応が向かってくるよ!!〉

 

〈全員備えておけ!!恐らく狙いは───月だ!〉

 

お兄ちゃんの言葉に同意する。ムフェト・ジーヴァの身体上に立てるようにミラちゃんが透明な足場を作ってくれる。

 

「ミツケタ!ミツケタ!」

 

「ミツケタ?ミツケタ?」

 

「キゲン!キゲン!」

 

「ハジマリ?ハジマリ?」

 

「コロセ!コロセ!」

 

───えっ?

 

「相変わらず…“悪魔”はこうなってるんだ……」

 

月さんが呟いて立ち上がる。その表情は、既に戦士ともいうべき表情になっていた。

 

「───来なよ」

 

「「「「「ソノタマシイ、ヨコセ!!」」」」」

 

全ての黒い塊が月さんに殺到する。その月さんは1枚のカードを掲げる。

 

「スペルカード発動───月符“クレセントムーン”」

 

月さんの足元に展開される“紫色の三日月”模様の魔法陣。それと同時に月さんを取り巻く三日月型の…弾?

 

「……あれって弾って呼ぶべきなのかな、お兄ちゃん。」

 

〈原作にも鱗弾やらナイフ弾やらあるし三日月弾って呼んでいいんじゃねぇか?〉

 

……ならいいんだけど。

 

「ギィィィィ!」

 

「…まず、1体」

 

〈爆散した…?なんなんだ、あの魔力反応…〉

 

月さんの弾幕に触れた黒い塊が爆散する。その弾幕は結構単純で、月さんを中心に三日月弾が放たれ、数秒後に月さんへ向けて戻ってくるもの。つまりはブーメラン。でも、そのスペルは効果は短いのかすぐにスペルブレイクになった。

 

「璃々、交代」

 

『はーい』

 

目の数字が変わる。七───夢月璃々さん。

 

「スペルカードいきまーす!───金符“ヴィーナスドリーミング”!」

 

その言葉と共に展開される♀の模様が描かれた魔法陣。女性、じゃなくて…(金星)、か…弾幕は両側から相手を取り囲むように構築されていく。

 

「もう1ついっくよ~!ダブルスペル!桜符“春色マスタースパーク”!!」

 

璃々さんがそう叫ぶと同時に桜色の砲撃と花形の弾が弾幕に加わる。あれって───

 

「マスタースパーク!?」

 

「それにしては弾幕が違うのだわ!!」

 

『春色マスタースパーク───本来のマスタースパークを基礎に、別の術式に変換したものですね。あれはマスタースパークのあり得た可能性です!』

 

アルの説明でもよく分からない───けれど、確実に黒い塊の数は減っていっていた。

 

〈……ん!?なんだ、これ…巨大な魔力反応が君たちに近づいている!!気を付けてくれ!!〉

 

「巨大な魔力反応?」

 

〈あぁ…それと、街を襲っていた魔力反応の消滅を確認。その直後、町から巨大な魔力反応が飛び出した。気をつけろ、すぐに姿を現すぞ!!〉

 

お兄ちゃんの言葉に頷く。

 

「───天霊“夢想白夜”!!」

 

そんな声が響いたのと、私達の視界を真っ白な光が覆ったのはほぼ同時。視界が消える直前、誰かが飛び込むのも見えたけども。




ということで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

裁「マスター、配信の時の出てる…」

…サンブレイクまで何しよう、ホント。


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第260話 状況把握

ん~……観測が安定してないなぁ……

裁「たまに不鮮明になるよね。」

そうなんだよねぇ……


閃光が収まって視界を取り戻した時、私達は町の中にいた。

 

〈なぁ…っ!?いつの間に転移した!?魔力反応は感じられなかったぞ!!…いや、まさか……!〉

 

お兄ちゃんの言おうとしてることは何となく分かる。魔力ではないものが術式に使われているなら、それはカルデアで感知できるか分からない。

 

〈それと───さっきの巨大な魔力反応がまた君達の方に向かってきている!気をつけて───〉

 

「───警戒する必要はないですよ」

 

ドクターの言葉が終わるより前に、頭上から声がした。その声に私が空を見上げると───

 

「お兄ちゃん!空から女の子が!!」

 

〈ネタ発言してる場合か───マジじゃねぇか!?〉

 

〈どういう状況よ!?〉

 

「そんなの私が聞きたいよ、マリー!」

 

なんでアニメみたいな───ってそれどころじゃないよね!?

 

「ミラちゃん!」

 

「フェナンッ!」

 

ミラちゃんの声にフェナンさんが飛んでくれる。私は空を見上げながら女の子が落ちてくる場所に合わせる。

 

「リッカさん、これを使って!」

「先輩、私も協力します!」

 

ナーちゃんが毛布を出してくれて、マシュがそれを開く。私はマシュの反対側を持って待つ。

 

「……はぁ」

 

月さんがため息をついた?それはともかく、女の子はそのまま落ちてきて───

 

「よいしょっと」

 

「「「「───え?」」」」

 

「……」

 

彼女は布団に触れる前に、その場で浮いた。

 

〈空中浮遊……?待て、魔力が感じられねぇ…!ってことはこれは月と同質の……!?〉

 

「………能力“飛来”。制御面倒くさいのは分かりますけど、自由落下は他人を驚かせますからやめた方がいいですよ、多分。」

 

「……みたいですね。…分かってたんですけど、やっぱり制御面倒なので…それだったら、自由落下の方が楽ですから…」

 

「……え?」

 

女の子が苦笑いしながら月さんと話してる…?

 

「…それで、あなた達がジェロニモさんの探していた人達ですか?」

 

その言葉に顔を見合わせる。

 

「あぁ、彼らが私の探していた者達だ。…彼らは?」

 

「まだ生きています。…ごめんなさい、本来なら私でも治療できるはずなんですが…」

 

「いや……構わない。案内して───」

 

「待たれよ!」

 

その場に響く大声。上空をみると、ギルが落ちてきて───ううん、降りてきている、が正しいんだと思う。

 

「ふっ、間に合ったか。」

 

「ギル?サーヴァント達の確保はできたの?」

 

「案ずるな、既に終わっている。時間が余った故に様子を見にきたのだ。」

 

早いなぁ…

 

「…む?………ほう?貴様、生身だな?」

 

「……え?」

 

女の子が…生身?

 

「……」

 

「やれやれ、不思議なものだな。此度のマスターは生身の存在を召喚することが多い。…で?貴様のクラスはなんだ?」

 

「…セイバー、です」

 

セイバー…か。剣は…見当たらないけど。

 

「……行きましょう、ドクター。こうしている間にも…」

 

「うん、そうだね。ええっと…セイバーさん。負傷している方の元へ案内してくれますか?」

 

「……分かりました。ご案内します。」

 

そう言って女の子───セイバーさんは町の中に向けて歩いていく。私達もフェナンさんから降りて後を追う。

 

『……月さん』

 

『…どうしました?』

 

『あの子……お知り合いですか?』

 

『……えぇ、まぁ。』

 

だからか……さっき、少し親しそうだったの。

 

「アカ!無事だったか!」

 

「私は大丈夫です。…それより」

 

「あぁ…サーヴァントの生命力は凄まじいな。無事とは言い難いが、まだ2人とも生命活動は続いている。…というか、いくらサーヴァントとはいえあの状態で生きているのは……」

 

「……どのみち、急いだ方がいいかもしれませんね。」

 

「あぁ…いつ命の灯火が消えるかも分からない。我々全ての命の恩人だ、どうか…」

 

「……こちらへ」

 

セイバーさんの案内についていくと、簡易的な病室…のような場所にたどり着いた。

 

「…随分整備されていますね。」

 

「できる限り清潔な状況を作れるように努力しましたので。…できるだけ少人数でお願いします」

 

その言葉にナーちゃん達には外に出ててもらう。…月さんは頑なに譲らなかったからこっちが折れることになったけど。どこから調達したのか分からないカーテン。閉まっているカーテンの1つから呻き声がする。

 

「……調子は如何ですか?」

 

セイバーさんがカーテンを開けて声をかける。その奥にいた、赤い髪の男の子がこちらを向いた。

 

「あぁ……アカか。結果など、分かっているだろう……」

 

「失礼しました。……」

 

セイバーさんが小さく何かを呟く。それと同時に傷が修復されていく───

 

「ぐっ……!」

 

「…ごめんなさい、痛いでしょうけど、今の私にはこれくらいしか……」

 

「いや……すまぬ、余も大人げなかった……な゛あ゛っ!!」

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫でしたか!?」

 

「よ、よい……気にするな。」

 

「……この人の治療を、お願いします。」

 

セイバーさんはそう言って彼から離れた。

 

「…こんな、無様な姿で申し訳ない、が…お初にお目にかかる…英雄王ギルガメッシュ。余はコサラの王、“ラーマ”……以後、よろしく頼む…」

 

「ふむ…なるほど、戦力としては申し分ないな。ナイチンゲール、診断はできているか。」

 

「既に。…ですが、申し訳ありません。私では治すことが……あなたは治すための器具をお持ちですか?」

 

「さて、どうだかな…」

 

「……ふ……余よりも重症なのはそこな垂幕の奥にいる娘だ。彼女に比べれば、余など……ぐっ。」

 

「無理して喋らないこと。あぁ、もう…傷が開いています。」

 

ラーマ…確か、インドの二大叙事詩の片割れ、“ラーアーヤナ”の主人公…だっけ。

 

「ふむ、ならば時間はないな。手早く終わらせるべきであろう。…ミラは別の治療に行ったことであるしな。」

 

「あぁ…!かの英雄王ギルガメッシュとアルスターのクー・フーリンが協力してくれるとなればなにも憂いはない…!いや、クー・フーリンがいると知ったときは肝が冷えたが、味方であれば心強い…あれの恐ろしさは余と彼女がよく分かっているからな……」

 

「……底の抜けたバケツ、程ではないにしろ油断は許されません。先程の彼女の術式が常に効いているのか、大分進行は遅いですが気を抜けば心臓の崩壊が始まります。」

 

「…ドクター。セリアさん。」

 

〈あぁ、こっちでも観測できている。ボクの言い方に腹が立っても何も言わずに聞いてくれよ?〉

 

そう言って一呼吸おいてからドクターが口を開く。

 

〈単刀直入に言って、彼───ラーマは既に死んでいなければおかしい状態だ。クー・フーリンのゲイ・ボルクは因果逆転の呪槍、エミヤ君曰く“心臓に中ったという結果が在ってから投げる槍”とのコトだからね。聖杯で狂ったクー・フーリンならまた色々変わってそうだけど……〉

 

「……続けてください」

 

〈お、おおう……で、彼はそれを無理矢理逆転させている。どんな形でかは分からないけど、その気合いだけで因果を再逆転させるのは並大抵の気合いじゃないはずだ。〉

 

「当然…だ…!余は、死ぬわけにはいかん…!彼女と…我が妻“シータ”と会うまでは……!!」

 

その言葉が放たれたとき、この町にいた傷ついた獣魔───水蛇竜“ガララアジャラ亜種”の治癒をしてたミラちゃんが不意にこっちを振り向いた。

 

〈ギルガメッシュさん。彼の余命の推測ができました。〉

 

「告げよ。」

 

〈恐らく4時間。呪詛を取り除かなければ治療しつづけたとしてもその辺りが限界です。〉

 

「4時間…それだけあれば間に合うな。ルーパスとリューネも戻ってくるであろうよ。」

 

…ん?

 

「あれ、ギル。ルーパスちゃんとリューネちゃん、一緒じゃないの?」

 

「“龍気のある場所を見に行く”と言っていたのでな。もしものために母を喚ぶ令呪を渡しておいたゆえ、問題なかろう。」

 

そういうものかな…?

 

「さて…これから施術に入る。席を外せ、ナイチンゲール。」

 

「分かりました。…英雄王」

 

「む?」

 

「…彼の“生きたい”という願いを無に還さないようにしてください。」

 

「分かっている。」

 

ギルの言葉を聞いたあと、ナイチンゲールは退室していった。

 

「さて……取りかかるとするか。」

 

「ありがたい…」

 

「……その前に、1つ問おう」

 

「…?」

 

ギル?

 

「貴様の求める妻、シータの位置は掴んでいる。」

 

「何…!本当か!?」

 

「アルカトラズ島───そう呼ばれている場所に囚われているようだ。空いた時間にて我が眼、リューネの耳で確かめたゆえ、間違いはないであろうさ。」

 

「あぁ……シータ……ようやく…」

 

「……逢うことが適わぬのは、貴様がよく分かっているだろう。その呪縛───生半可なものではないな?」

 

「……」

 

ラーマさんの呪縛……確か。

 

「“離別の呪い”……」

 

「…余とシータを引き裂く呪い。それがある限り、余とシータは決して巡り逢えぬ……それは、余が一番分かっている。」

 

離別の呪い。…ラーマーヤナによれば、猿同士の戦いに横槍を入れ、それで命を失った猿の妻がかけた呪い。…サーヴァントでも、それはあるんだ。

 

「ならば、貴様は何のために戦う?悲恋を謳う己に酔うためか。それとも世界を救う大義から逃避し、あわよくば巡り逢うためか。」

 

「……」

 

「その程度であればいらん。貴様を治す財があったとしても使う価値などない。」

 

「……」

 

呆然と天井を見つめるラーマさん。

 

「告げよ、望みを。」

 

「余は……余は……世界を救うため、民達を救うためにここにいる……」

 

「……」

 

「だが………本当は……のだ。」

 

「……なんだ?」

 

ギルが膝を折ってラーマさんと目線を合わせる。

 

「思うがままに告げるがいい。我が許す。」

 

「本当は……本当は、“僕”は……」

 

涙を浮かべながら言葉が紡がれる。

 

「………会い、たい…会いたいんだ…!会って僕は、できることならシータと共に生きていたい…!」

 

「……」

 

「ずっと、ずっと謝りたかった…!僕の過ちを!シータと離れるきっかけを作ってしまった僕をどうか許してほしい……!会って触れたい、抱き締めたい、話がしたい…!それだけが僕の望みで、僕の生きる理由なんだ…!今、この世界に…!この世界に、シータがいるのに…!また、巡り逢えないなんて…!そんなの───っ!」

 

激痛が走ったようで、ラーマさんの言葉が止まる。

 

「……もうよい。しばし体を休めておけ。」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「……さて。」

 

ギルが私の方を向いた。

 

「マスター。方法はあるか?解呪の方法は。」

 

「え……」

 

「こやつは望みを示した。ならば応えてやるべきだろう?」

 

そう言ってギルが笑う。

 

『傷……呪い……リッカ。あの男、コードスキャンしてみて。』

 

「……わかった」

 

ネアキちゃんの言葉に従ってラーマさんをコードスキャンする。

 

「……何、これ」

 

そのメンタルマップに、特殊コードが───4つ。“傷”、“呪縛”、“病”、“離別”。こんなの、どれから解除すれば───




うーん、無理矢理調整した感。

裁「あ、そうなんだ…」


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第261話 奇跡の再現

星見の観測者「運命は定まった。…創り手」

はいはい…いつもありがとね


運命の選択 ラーマの特殊コードの解除

(0) ゲイ・ボルクに関係のあるコードのみ
(3) 生前の呪い含めた全てのコード


それじゃあ、遅くなったけれど…選択の結果を始めよう。ギルとリカも投票終わったし。


運命の選択 ラーマの特殊コードの解除

(0) ゲイ・ボルクに関係のあるコードのみ
(6) 生前の呪い含めた全てのコード


パチン、と自分の顔をはたく。

 

「───落ち着け。落ち着け───まずは、重要なのを選別すること。」

 

特殊コードのうち、どれが優先度が高いか。まずはそれを知るべきだ。

 

 

瀕死の少年王 ラーマ

運命運命
呪縛
正義正義 
 
離別望み望み望み

 

 

「───傷は除外」

 

傷は除外。何故ならこれは優先度が低いからだ。治したところで即座に傷つくのならば治す必要がない───言い方が悪かった、治しても即座に傷つくのなら、それは根本的な解決には至らない。セイバーさんの術式や、ナイチンゲールの治療のように完全に癒すまでには至らない。根本────“原因”を取り除くのが最優先だ。

 

「離別───違う。病───高確率。呪縛───高確率。…落ち着け。」

 

宝具を起動する。…預言書の力を真に使うための預言書の宝具。“疑似展開・英霊刻印(ロード・デミサーヴァント)”───メンタルマップを弄るのなら、これを使っていた方がいい、とはウルさんの言葉。

 

「“傷”は“活力”の通り名に変化させ。“病”は“望み”のコードで囲む。」

 

問題は、病が現在囲めないこと。…なら

 

「……よし」

 

メンタルマップに触れる。ホログラムのように浮かび上がり、私の前に透明な壁のように可視化される。

 

「───ふー………」

 

集中しろ───1つでも間違えたら成功しないと思え。…そんな、予感がする。

 

「……始める」

 

「うむ。介添…生命維持は我がやろう。解呪、転写共に現在ないのでな。」

 

ギルの言葉に頷き、巨大化したメンタルマップに触れる───

 

「……ッ!!」

 

直後、激痛。お腹じゃなくて、頭。これは───負荷だ。ウルさんが言っていた───“貴女の身体は預言書の力が弱まっていた影響か、未だ世界の理を書き換えるのに適していません”、と。つまり、“世界の理”を書き換えるのに未だ適していない私にかかる膨大な負荷が、私の身体内部では処理しきれずに頭痛として現れている。

 

「上等……だよっ…!」

 

幸い、意識は保てる。手先の感覚、身体の感覚も失われていない。だけど、時間をかけすぎればかけすぎるほどこの頭痛は酷くなると思う。そして、意識が保てなくなってこれが終わったあと。…暫くはこの理の書き換えができないっていうのも───なんとなく、わかる。全ての特殊コードを解除するというのなら、時間との勝負だ。1つでも間違えれば、ラーマさんとシータさんは逢うことができなくなる……!!

 

「“正義”のコードは…今は、いらない!」

 

私がそう呟きながらメンタルマップの外に正義の2マスコードを弾くとメンタルマップ外に浮遊する。…なるほど、メンタルマップ外がコードストック欄、か…!

 

「まず、呪縛から……解除、するには…」

 

呪縛。アヴァロンコードにはなかった特殊コード。普通ならしらみ潰しに組み合わせていくものだろうけど……今は時間がない。攻略本にあった組み合わせで有効そうなのを試していくしか…!まずは───

 

「創造の、コード……」

 

創造。コードの組み合わせの1つ。ファナちゃんの“なりたい自分”。使うコードは───炎、森、氷、雷、望み、知恵、運命。なら、足りないのは森、氷、雷、知恵。メンタルマップを閉じてページをめくる。

 

「───あった」

 

知恵はドクターに、雷はテスラさんに、森はルーナさんに、氷は蒼空さんに。幸いなことに、全部2マスコードだった。それぞれ取り外して、元々ストックに入っていた正義のコードはドクターのメンタルマップに。もう一度ラーマさんのメンタルマップを開いてコードをいれていく。

 

「……ダメだ、違う」

 

コードの名前は“創造”になったものの、違った。違うコードだ───

 

「……おい、リッカ」

 

「…何?」

 

「コードを“清浄”にしてみろ。もしかしたら…」

 

清浄…?確か、氷、光、銀、正義、魚。光と氷はともかく正義はまた探さないとだし、魚に至っては心当たりが今のところない。金、銀、銅はギルのメンタルマップにあったからいいとして、まずは魚を探さないと。

 

「魚……魚……あった」

 

辿り着いたのは“アオアシラ”のページ。ミラちゃん達の世界の獣魔達は“固有コード”と“通常コード”、“固定コード”でメンタルマップが分けられているけど、私が今回必要なのは通常コードの“魚”。通常コードのメンタルマップから魚の4マスコードを抜き取り、代わりに炎の4マスコードを入れる。

 

「……ん?……なんか、アシナが火属性持ったんだけど!?」

 

アシナ…確か、ミラちゃんが使役するアオアシラの1匹。あぁ…効くんだ、やっぱり…あとで謝ろう。

 

「銀はギルから……いい?」

 

「勝手に持って行け。書き換えられたところで我には分からん。」

 

ギルのメンタルマップから銀の1マスコードを借りてラーマさんのページに戻る。

 

「これで……!」

 

不要なコードは抜き取って別のメンタルマップに、必要なコードのみにして“清浄”と作り出す───

 

「……っ!やった!」

 

“呪縛”のコードが消滅した。これで傷は解除できるはず。

 

「リッカ!次は“治癒”のコードを試してみて!」

 

ミエリちゃんの言葉に頷き、“治癒”に必要なコードを思い出す───森、光、知恵、猫。猫ってことは───

 

「アイルー達にあるかな…づっ!」

 

頭痛が酷くなってきた。まずい、想像以上に負荷がかかる…!

 

「アイルー……アイルー……あった!」

 

“風切る猫 スピリス”。“怪力の猫 ルル”。ルルさんのページに猫のコードはあった。猫のコードを抜き取って自由のコードを入れておく。

 

「これで、揃った…!」

 

ラーマさんのメンタルマップに入れる。余計なものは取り外す。すると───“傷”と“病”が同時に消えた。それと同時にラーマさんは急速に傷が修復されていった。

 

「お、おぉ…!」

 

「あと、1つ……!」

 

残るは、“離別”。

 

「離別……離別?」

 

……どうやって、解除すればいい?呪縛とはまた違う、原作になかったコード。でも、呪縛の場合はそれに対抗できそうなコードの組み合わせがあった。でも、離別は?

 

「……マスター?」

 

手が止まった私にギルが声をかけてくる。

 

「……離別の、解除…どうすれば……」

 

「……ふむ。マスター。」

 

「……?」

 

「我が一度聞いた言葉を聞かせてやろう。…愛は求める心。そして恋は、夢見る心。恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になる。」

 

「現実は……愛の前に歪む…」

 

……なら。もしかしたら───現実(呪詛の理)を愛で歪められる…?でも、愛のコードなんて……

 

「……燃える」

 

ウルさん?

 

「リッカ。“炎上”のコードを入れてみてください。…愛とは燃え上がるもの、ですから。」

 

「…う、うん」

 

炎上───炎、炎、炎、炎、炎、銀、銀。アシナさんのところに入れた炎のコードを取ってきてもいいけど、さっき見かけた気が……

 

「……っいた!」

 

ページをめくっていて見つけた。マリーだ。炎のコードが3マスと2マスと2マスの計7マス。“魔法の所長 オルガマリー・アニムスフィア”。“業火の”になっててもおかしくなさそうだけど他の属性が負けてないのか…!

 

「…っ、借りるねマリー!」

 

〈好きに持っていきなさい。絶対に救いなさいよ。〉

 

頷いてから炎のコードを抜き出す。ラーマさんのメンタルマップに戻って入れる───

 

「……!?」

 

特殊コードが解除され───ようとして解除されない。また解除されようとして解除されない。

 

「なんだ、こりゃ…!?」

 

「解除と呪詛がせめぎあっている…?これは…」

 

「どうすればいいの…?」

 

もしも、何かが足りないとしたら……それは一体なんだろう。こんな反応をしている以上、コード自体はあってるはず。

 

「……あれ」

 

頭痛のする中ページをめくっていて───ふと、見つけた。

 

 

汚れなき姫少女 シータ

運命運命
自由
自由自由 
 
離別望み望み望み

 

 

「これって……」

 

ラーマさんの、奥さん?会ってないのに、なんで……

 

「……ドクター」

 

〈なんだい?〉

 

「シータさんがコードスキャンされてる。どうしてだと思う?」

 

〈……いや……ごめん、分からない…〉

 

……それもそっか

 

「……夢」

 

愛、ではない。求める心でもない。“夢見る”に変える。

 

「………っぁ…!」

 

そろそろ限界───それでも、闇のコードを抜く。氷のコードを抜く。森のコードを抜く───

 

「───」

 

視界が狭まる───あと、1つ。自由のコードを、抜いた。

 

「───カ!リッカ!!」

 

「───せよ、マスター!!」

 

レンポ君と、ギルの声が───とお、く……




裁「そういえばマスター、この頃の預言書ってメンタルマップ5×5なんだったね。」

ん…アヴァロンコード原作だと初期は3×3なんだけどね。力は弱まってるけどメンタルマップは弱まってるどころか成長してるっていう謎な状態になってるみたいね。


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第262話 その頃の狩人

離別の呪いは解除できてます

裁「知ってた。」


アルカトラズ島───

 

「……なんでここ、ワイバーン多いんだろうね。」

 

「…さぁ。」

 

私達は龍気を追ってこの島まで来ていた。…この島の森の中が一番龍気が強いんだけど。

 

「“アルカトラズには手を出すな”…そう言われたけど、ここまで龍気が強かったらそうもいかないよ。ひとまず、視界に入らないように動いてるけどさ…」

 

「龍気に関しては全て任されているのが幸いか。英雄王もこちらの方が上回ると言っていたことだしな。」

 

リューネの言葉に頷く。

 

「まぁ、英雄王にも何か考えがあるんだろうからとりあえず龍気の発生点だけなんとかしよっか。」

 

「そうだな。……ところで」

 

「……うん。」

 

私は視線を感じていた方向に目を向ける。

 

「…何か用?溟龍“ネロミェール”。」

 

その名を呼んだ途端、木々の奥から姿を現す巨大な影───溟龍“ネロミェール”。

 

「ヒュルルギュィ…」

 

「ネロミェール…話には聞いている。水を操る古龍だそうだね。…龍気の原因はこのモンスターかい?」

 

「ううん、違う。ネロミェールよりももっと強い龍気がある。…案内、してくれる?」

 

私がそう聞くと、ネロミェールは私達の前を通り、森の奥へと歩き始めた。少し行った後、私達の方を振り向く。

 

「ヒュルルギュィィ」

 

「…ついて来い、ってことかな?」

 

「だろうな。…やれやれ、レド殿だったら言葉も分かったんだろうが…僕らには分からないからな。」

 

「ミラもつれてくればよかったかな。私達じゃ碌に治療もできないし。」

 

「それもそうだな…」

 

言ってても仕方ないから、とりあえずネロミェールについていく。…その巨体からして恐らく最大金冠…の、一段階下くらい?そのネロミェールは森の中にあった洞窟をするすると進んでいく。

 

「タマミツネのような体の使い方するな…」

 

「そうだねぇ…ん?」

 

ガサリ、という音がした…気がする。

 

「…リューネ、今の聞こえた?」

 

「あぁ…何か音がしたな。…進行方向は同じようだが。」

 

「…敵だったら撃退するよ」

 

「そうだな…ひとまず警戒は怠らない方がいいだろう。」

 

警戒を強めながらネロミェールの後ろをついていく。

 

「……リューネ、大丈夫?」

 

「問題ない。…ルーパスと一緒なおかげで安定しているからね。」

 

そう言われるのは素直に嬉しい。

 

「……ルーパス」

 

「ん?」

 

「……いや、何でもない」

 

……?なんだったんだろう。

 

「…ヒュルルギュィィ」

 

声に気がついて目を向けると、ネロミェールの傍に倒れているモンスターがいた。…え?このモンスターって───

 

「───“バルファルク”!?」

 

「いや、“奇しき赫耀のバルファルク”だ!何故ここに…!」

 

「…キィィ」

 

…バルファルクの声が少し小さい………え?待って、何これ…!?

 

「何この怪我!?」

 

異常すぎる…!バルファルクの身体を“負傷”させた、というより“破壊”されたかのような怪我!こんなの、撃龍槍でも付けられる怪我じゃない!!こんな怪我を負わせるサーヴァントなんて───

 

「「───あっ!!」」

 

───いや、いる!1人、心当たりがある!こんな怪我を負わせられるサーヴァントの、宝具───

 

「「───“破壊神の手翳(パーシュパタ)”!?」」

 

破壊神の手翳(パーシュパタ)”。アルジュナの宝具。アルジュナがドスジャグラス相手にその宝具を放った時、確かにこんな傷がついた…!

 

「でも、これって───どうすれば…!」

 

───生命の粉塵で延命できるよ

 

その声に驚いて振り向く。

 

「───古代竜人」

 

やぁ、また会ったね。迷い込んだ奇しき赫翼を持つ彗星の竜がこのまま命を終えるのはかわいそうだ。君達が訪れるのを待っていたよ。

 

待っていた…

 

…これ、あげる。その竜の延命に使うといい。

 

そう言って渡されたのは“生命の大粉塵”。…ひとまず、リューネにサインを放つのを指示した後、私はアイテムボックスを開いた。

 

「ひとまず、英雄王が来るまで応急処置…!」

 

足りるかどうか、分からないけど。それでも、見捨てたくはないから。




ふぁぁ…眠い

弓「コーヒーでも淹れるか?」

ん…モカでお願い

弓「承知した。…マスターはモカが好みか?」

ん~…どうだったかな……私、あまり気にしたことってないから…


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第263話 不安を砕く道

赫耀強い……

裁「あ、やっと“奇しき赫耀のバルファルク”行けるようになったんだ。…大分遅い気がするけど」

現時点で4回挑んでクエスト失敗…身躱し矢切りに変えようかと思ったけどここまでほぼほぼチャージステップだったのに赫耀だけ身躱し矢切りにするのはなんか負けた気がするからいつも通り“剛射”、“チャージステップ”、“弓息法”の編成で行く…

裁「防具は今まで通り?」

メルホアS一式…色々装飾品詰めたからそれなりの防御力…拠点での防御力は321にはなってる…

裁(大体禍鎧・覇一式と同じくらいかぁ…)

ていうか私いつ防具強化したっけなぁ…したことなかったと思ったんだけど。

裁「淵源じゃない?」

……かもね


「……う」

 

意識が戻る。目を開けるとナーちゃんが私の顔を覗き込んでいた。

 

「…ナー、ちゃん…?」

 

「!気がついたのね!?」

 

「えっと…私…」

 

「待っててちょうだい、すぐにみんな来るわ。」

 

ナーちゃんがそう言って氷でできた鳥を飛ばした。

 

「何が起こったか、覚えてるかしら?」

 

「…ええと…私…コードを書き換えて……それで……」

 

それで……あぁ、そうだ。負荷に耐えきれなくて意識を手放したんだ。

 

「…ラーマさんは?」

 

「大丈夫よ、これから分かるわ。…ロマンさんからの診断は過重負荷による意識喪失。しばらく休んでいれば問題ないそうよ。」

 

「…そっか」

 

息を吐いて力を抜く。膝枕の上だからちょっと重いかな…?

 

「ナーちゃん…」

 

「うん?」

 

「重いよね?」

 

「大丈夫よ。気にしないでちょうだい。」

 

…なら、いいんだけど…

 

「……あれから、どれくらい経ったの?」

 

「…8時間くらい経っているわ。この町に来て、もう夜が明けているわよ。」

 

そんなに意識を失っていたの…?

 

「おぉ、目覚めたか!」

 

「ラーマさん…」

 

「そなたのお陰だ。クー・フーリンの呪いは外れ、余は全快したぞ!」

 

その言葉の通り、胸の大穴は塞がり、顔色もいい感じだった。

 

「それは…よかった……痛っ」

 

「無理するな。辛いのならば休んでおけ。」

 

「…大丈夫、だと思う。一時的な後遺症みたいなものだと思うし。」

 

「そうか…さて、余は英雄王を呼んでこよう。」

 

「あ…待って」

 

「む?」

 

「あの…女の子は…?」

 

ラーマさんの言っていた女の子。彼女は、一体どうなったのだろう。

 

「…あぁ、あの娘か。あの娘なら…月、といったか。その娘によって治療されていた。酷い大怪我だったのが嘘かのように全快している。」

 

その言葉を聞いて息を吐く。それを確認して、ラーマさんは退室していった。

 

「よかった…」

 

「…元々、彼女の事は気にしないでよかったみたいよ。」

 

え?

 

「ほら、月さんがついてきていたでしょう?元々、月さんは彼女を治療するつもりだったらしいの。リッカさんが気にする必要はなかったみたいよ。」

 

そうだったんだ……

 

「…月さんと女の子ってどんな関係なんだろう…」

 

「軽く聞いたところだと“親族”らしいわよ。4親等、って言ってたけれど。」

 

親族……かぁ。そんなことを考えてるとギルが顔を出した。

 

「…動けるか、マスター。」

 

「…うん、大丈夫。」

 

「…無理はするな、少しの間でも休んでいるといい。」

 

「…ありがと。これから何するの?」

 

「む…作戦指揮…いや、指示だな。マスターへの指示もあるが必ずしもマスターが参加する必要はない故、ここでじっとしているがいい。」

 

「でも…」

 

「……どうしても参加したいのなら、カルデアから通信を経由しよう。少しの間だけでも身体を休めよ、マスター。」

 

「……わかった。通信の方、お願い。」

 

「了解した。…マスターのこと、頼んだぞ七海。」

 

「任せて。」

 

ナーちゃんの言葉を聞いてギルは退室していった。

 

〈……よし、あっちと繋がった。これで見られるし発言できるよ、リッカちゃん。〉

 

「ありがと、ドクター。」

 

開いてくれた通信映像の先ではちょうどギルが全員の前に立ったところだった。

 

〈───聞け!集いし英雄、世界を臨みし者達よ!〉

 

その一声で私にも緊張が走る。映像の先の人達も緊張しているみたい。

 

〈ここに我らの戦力はほぼ揃った!これより始まるは総力戦!アメリカの存続をかけた、決戦である!〉

 

決戦───確かにそう言っても構わないだろう。

 

〈それに加え、我らは完全勝利への布石を打とう!後顧の憂いをなくし、我らの勝利を磐石なものとするための布石よ!そのために我は貴様等に命を下す!〉

 

ギルが一呼吸おいてからもう一度口を開く。

 

〈クー・フーリン!ケルトのサーヴァントと共にホワイトハウスへと赴き、宣戦布告を為せ!〉

 

〈いいねぇ。…だが、俺だけじゃねぇのな?そこになんか理由あんのか、金ぴか。〉

 

〈うむ!よいか、ケルトサーヴァント共!貴様らの役割は敵を開戦までの間その拠点に留めておくことだ!〉

 

〈開戦までの間、ねぇ。ってことはコンラ、ロイグ、スカサハだけじゃ物足りねぇかもな。〉

 

〈私が行きます。〉

 

そう言ったのはアル…じゃなくて月さん。

 

〈…ほとんど私が元凶であるとはいえ、エメル達を傷つけられて黙ってられる人間じゃないので、私は。〉

 

…元凶?どういうことだろう。

 

〈うむ、それでは月が行くということでいいな。期間は……六花〉

 

〈リッカが普通に動けるようになるまでおおよそ2日、完治まで1週間ってとこか。…どうする?〉

 

〈時間が惜しいな…3日だ。3日後、開戦と伝えよ。〉

 

〈わかった。〉

 

〈さて、次だな。ジェロニモ達レジスタンスは各地の兵士達を結集し、指揮系統を構築せよ!〉

 

〈承った。…差し支えなければ、アカかミドリのどちらかが着いてきてくれると助かるのだが…〉

 

〈では、私が行きましょう。〉

 

そう言ったのはアカさん。…表情が明るくなった気がする。

 

〈ふむ…まぁ、構わんが理由を聞かせよ。〉

 

〈アカとミドリは兵士だけでなく一般人をもケルトに殺されぬように戦い続けた。それは兵士達の間でも話題になっていてね。ミドリは少しの間戦線から離脱したものの、その力は高く評価されている。彼女達のどちらかが筆頭になれば士気も大きく上がるだろう。〉

 

〈ふ、そういうことか。よかろう、無事務めを果たせ!〉

 

そう言ったあとギルは私の方を見た。

 

〈マスター、マシュ、ナイチンゲールにありすと七海!貴様等はプレジデントハウスへと赴き、大統王を名乗る者の治療、及び西軍を我らの傘下とするのだ!〉

 

「うん、多分そろそろ頃合いだもんね。」

 

ありすさんの言葉はよく効いてるだろうし…その場にありすさんを連れていくのもいい判断かな?

 

〈あたしの方の準備は大丈夫よ。召喚はいつでも。〉

 

〈ドクター・リッカ、並びにドクター・ありすの投薬はよく効いているでしょう。…完治は近い、長引かせずに早急に、そして的確に完治までもっていきましょう。〉

 

〈任せたぞ。戦いの明暗を分ける交渉だ。〉

 

「任せて、ギル。」

 

それで…

 

「ギルとラーマさんは?それにミラちゃんとジュリィさん、それから…ええと」

 

私の声に緑髪の女の子が納得したように頷く。

 

〈今は“ミドリ”、と呼んでください。〉

 

「ミドリさん、か…この5人は?」

 

〈私はレジスタンスの方々と一緒に。〉

 

ジュリィさんはレジスタンス…っと。

 

〈我は───我とラーマはアルカトラズへと渡り、ラーマの妻、シータを奪還する!〉

 

…!

 

〈マスター、リッカの活躍により離別の呪いは確かに解呪された!ならば巡り逢うことも可能ということだ!ここでこやつの憂いを断ち、勝利をこの手に掴み取るのだ!〉

 

〈余の我儘に付き合わせて申し訳ない!だが───頼む!余はシータも世界も救いたいのだ!!〉

 

そう言って頭を下げるラーマさん。

 

〈───私も行く〉

 

そのミラちゃんの言葉に全員がミラちゃんの方を向く。

 

〈……愛している存在に逢えないっていう事の辛さは…私にも、痛いほど分かるから。〉

 

〈……ほう?何故だ?〉

 

〈…私と一緒になった龍が、ね…〉

 

〈……この機会だ少しでいいから話せ。秘密ばかりでは分からん。〉

 

〈……かつて。雌の龍と雄の龍がいた。その龍達は共に愛し合い、永い時を共に過ごした。…しかし。終焉の炎包みしとき、その龍達は引き裂かれ、雌の龍は雄の龍を探し彷徨っているという。〉

 

…なんだろう。ズキリと、胸の奥が痛くなった気がした。

 

〈…この雌の龍が、私と一緒になった龍なんだと思う。ミラルーツって名乗ってたけど、多分…違うんだろうなって。〉

 

〈…そうか。ミドリはどうする?〉

 

〈ラーマさんと共に。…シータさんとの約束ですから。〉

 

〈……そなた、あの時言った“約束”とはもしやシータとの…?〉

 

その言葉にミドリさんが頷いた。

 

〈…さて、これで終わりか。…しかし、マスター達の移動手段は…〉

 

〈あたしが何とかするわ。…英霊本来の力で以てちゃんと送り届けるわよ。〉

 

ありすさんの言葉にギルが頷いた。

 

〈決まりだな。…さて、あとは……〉

 

ギルが少し悩んでから顔を上げた。

 

〈……そうだ、皆に伝えるべきだな。…皆、アルジュナに注意せよ。〉

 

アルジュナさん?

 

〈先程、リューネより文が届いていた。内容は───“破壊神の手毅による破壊痕跡あり、アルカトラズ島にて救援求む”。何故アルカトラズにいるかは知らんが、何かあったのであろうよ。〉

 

その言葉に、少し不安げな表情になったのが数名。

 

〈以上だ!これら全ての成否がこの戦争の、この人理の命運を分けると思え!!〉

 

その言葉に私達は強く頷いた。




クラスやっと決まりました……

弓「そら、モカを淹れたぞ。」

ん、ありがと……遅くなるのどうにかしなきゃね…


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第264話 姫少女の奪還、赫耀の復活

まぁ、タイトル通りかと。

裁「…眠い」

寝なさいな


アルカトラズ島───

 

「ここだね。…なんであいつらが」

 

「そういえばミラはワイバーンを嫌っていたな。」

 

「まぁ…なんか嫌だし。」

 

私達の下を飛んでいる大量のワイバーンを見てため息をつく。

 

「すまぬな、余のために…」

 

「…ラーマさんのせいじゃないでしょ。それから、少し奥まったところに古龍の反応が3()()。流石に見過ごせないからね。シータさんの救出は3人に任せる。」

 

「承った。」

 

「……じゃあ、行こっか。」

 

そう言って私達の乗る龍に立つ。

 

「───アルハ、合図が出るまでここで待機!」

 

「ギャァァァン!」

 

「合図出したらエスカトンジャッジメントお願い!行くよ、英雄王、ラーマさん、ミドリさん!」

 

そう告げてからアルハ───アルバトリオンの背から飛び降りる。準備しておいた魔法───全属性砲門展開を起動する。

 

一斉掃射開始!!

「“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”!悉く失せよ、雑竜共───!!!」

「穿ち貫け!“鎧貫く投槍(シューラヴァタ)”!」

 

私からは様々な属性の弾幕が、英雄王からは様々な武具…それも全て竜殺し系が、ラーマさんからは細身の槍が放たれる。ミドリさんは───

 

「喪符“ハートレスドロップ”!」

 

スペルカード。青色のハート型弾幕が2つに裂け、その弾幕が青色のハート型弾幕を放ち、2つに裂けて青色のハート型弾幕を放つ…を繰り返す。ハートレス…っていうことは失恋系かな?

 

「反転“タイプリバース”!!」

 

続けた宣言が効いたのか、弾幕の色がピンク色に変わり、弾幕の動きも反転した。

 

『ごめんなさい、失恋系のスペルで…恋符“ティアハートドロップ”はちょうど切らしてて…』

 

あぁ…なるほど。…ん、頃合いかな?

 

信号砲門、撃て!

 

属性砲門の中に紛れ込ませていた信号砲門で信号弾を放つ。それと同時に強い属性エネルギーが私達の前に降りてくる───アルハだ。既にエスカトンジャッジメントの体勢に入ってる。

 

「全員アルハに掴まって!」

 

「承った!」

 

英雄王が鎖でラーマさんを縛り、アルハに近づく。ミドリさんは恐る恐るといった風にしがみつく。

 

「ミ、ミラさん!これ、大丈夫なんですよね!?」

 

「大丈夫、私が保証する!」

 

「信じますよ…!」

 

ありがたい。そして、アルハの属性エネルギーが臨界まで達して───

 

「───ギィィィィィン!!」

 

氷属性解放───探知可能な場所にいるワイバーンは全て殲滅され、アルハは龍活性状態から氷活性状態になった。

 

「…ふぅ。アルハ、みんなを地面に降ろして。」

 

結構な高所から飛び降りて少し落下速度遅くしていたとはいえ、地上に着かないとは思わなかった。そして、静かに着地してくれる。私はアルハから降りてアルハと向き合う。

 

『ありがと、アルハ。どうする?少し帰って休む?』

 

『いえ、問題ありませんわお嬢様。あなたの指示に従います。』

 

…なんでか知らないけどアルハは私のこと“お嬢様”って呼ぶんだよね。聞いてみても答えてくれないし…

 

『ん~…じゃあ、しばらくついてきてくれる?古龍の反応があるところ見に行くから。』

 

『承知いたしました。』

 

念話を切って英雄王達の方を向く。

 

「じゃあ、またあとで。終わったら念話入れてくれる?」

 

「承知した。…気を付けていくのだぞ、ミラ。」

 

「そっちこそ。」

 

そう言って私達は別れ、私は森の奥を、英雄王達は監獄を目指して進む。

 

……アルハ、気づいてる?

 

『…水気が多いですわ、お嬢様。』

 

アルハの言葉に頷く。…水気が多い。なんというか…この辺りだけ雨が降ったかのように感じる。だけど、木々は一部を除いて倒れてないし濡れてるのも主に地面。この濡れ方は…まるで、“突然水が発生した”、かのような。そしてこんなことができる古龍種といえば───

 

…ネロミェールくらいかな

 

溟龍“ネロミェール”。雨を介さずに水を操るとしたらネロミェールくらいしかいなかったと思う。

 

『……お嬢様』

 

うん?

 

『あれは…』

 

アルハが指し示した先に───ふわふわ浮かぶその緑色の存在。

 

……何やってんの“ヤマツカミ”

 

浮岳龍“ヤマツカミ”───あまり現れない古龍なんだけど。なんでこんなところにいるんだろ。

 

「……」

 

ヤマツカミが森の一方向を指し示した。…なんだろう。お前の求めているものはあっちだ、って言ってるような。そんな気がする。ヤマツカミはなんというか…基本的に意志が弱いっていうか、ふわふわしてるっていうか…うん。なんかわかりにくいんだよね。

 

…行こう、アルハ。

 

『承知いたしました。』

 

その方向へと向かうと、大きめの穴があった。…これ、かなり大きい…

 

『…お嬢様。これは…龍気、でしょうか。』

 

…ほんとだ。龍気…それも赫耀の…

 

アルハが見つけた痕跡からして恐らくここには“奇しき赫耀のバルファルク”がいるんだろうけど…

 

…なんだろうね、違和感がある。

 

『というと?』

 

…見つけないと分からない…ただ

 

さっきから、気になってたもの。

 

…この2種類の足跡って…

 

『人間のものですね。…どこかで、見覚えのあるような』

 

…行ってみよう

 

『承りました。』

 

そうしてしばらく足跡をたどると───

 

…む。来たようだ、ルーパス。

 

ほんと?誰が来たか分かる?

 

ミラ殿だな。この距離なら間違えようがない。

 

そっか。

 

その言葉にため息をついて姿を見せる。

 

こんにちは。…ここで一体?

 

龍気を追ってここまで来たの。…ねぇ、ミラ。

 

うん?

 

…この子の事、治してくれる?私達じゃ、応急処置だけしかできなくて。

 

…ちょっと診せて。

 

私がそう言うとルーパスさんはその場所を退く。…そこにいたのは、奇しき赫耀のバルファルク。…瀕死。

 

…どうしてこんなことになってるの?

 

恐らくは“破壊神の手毅(パーシュパタ)”だと思われる。僕らは一切この子に危害を加えていないよ。

 

破壊神の手毅(パーシュパタ)”…なるほど、朝のリューネさんの連絡はそれのことか…

 

アルハ。

 

『嘘はついておりませんよ。』

 

了解。…大丈夫、ちゃんと治るからね…

 

そう呟いてから治癒術式を起動する。

 

「ヒュルォォォ…」

 

…ネロミェールもいたのか。…まぁ、いいけど。…これで、3体。

 

───完了した。動いてみて、バルファルク。

 

私がそう言うとバルファルクが動き始める。

 

「───フィィィィ…」

 

…どう?

 

奇しき赫耀のバルファルクは身体を動かし、状態を確かめる。…そして、ひとしきり確かめた後私の方を向いて頷いた。

 

『英雄王に伝達。ルーパスさんとリューネさんの救援成功。』

 

『承知した。…すまぬ、こちらはもう少しかかりそうだ。』

 

『…分かった、行けるようなら行く』

 

…さてと、二人に説明して行かないとね。

 

 

 

side ミドリ

 

 

 

「なんか数多いですね…!」

 

「同感だ!」

 

「だが───この程度、容易いものよ!」

 

ラーマさんの言葉には全面的に賛成…なんだけど。これは流石に多すぎじゃないかな!?

 

『仕方ない───闇!』

 

『えぇ、任せなさい!』

 

私の内にいるもう一つの人格と肉体の挙動を交代する。記憶が確かなら彼女の方が動きは早いと思ったから。

 

「神華“巫剣桜川流(みつるぎさくらかわながれ)”」

 

そう言葉を発したかと思うと、周囲の敵すべてに対して切断性を持った桜の花びらが放たれる。魔力があってこそできる芸当ではあるけれど───

 

「───周辺の一掃完了!」

 

「よし、進むか!」

 

「その前に───ラーマさん!」

 

「な、なんだ!」

 

ラーマさんの口元に手を当て、言葉(詠唱)を紡ぐ。

 

「───これでよし。声を使っていいのなら、大声で叫んでください!」

 

「───は?」

 

「それを攻撃に変換します!」

 

「う、うむ!では行くぞ!」

 

音利用術式管制、物質非破壊設定、敵味方判別───

 

 

「───シータァァァァァァ!!!」

 

 

その声は、敵と判別できたものを問答無用で叩き潰していった。

 

「わぁ…凄いね、これ」

 

そんな声と共にミラさんと…別の人達が赤い光を放つ存在に乗って戻ってきた。…あれって確か…バルファルク、だっけ?私、モンスターハンターシリーズよく知らないけど。

 

「英雄王、あっちの方にサーヴァントが2騎だ。1騎は地下、1騎は地上。地下の方が話に聞いたシータ殿だろう。…さて、地上の方はどうする?」

 

「ふむ…そうだな。リューネ、少し降りてこい。」

 

ギルガメッシュさんはリューネと呼んだ男装の女性に降りてくるように指示した後、その女性に耳打ちした。

 

「…了解した。奇しき赫耀のバルファルク、あそこの監獄に向けて“彗星”を頼めるかい?」

 

彗星…?でも、そのバルファルクは頷いた。

 

「ラーマ殿。バルファルクの背に乗ってくれ。…あぁ、僕にしっかり掴まっておいてくれよ?」

 

「う、うむ…」

 

恐る恐るバルファルクの背に乗るラーマさん。

 

「何をするんですか?」

 

「む?…いや何。人の恋路を邪魔する奴は、赤い彗星にぶつかって死んじまえ、とな。」

 

「……うわぁ。」

 

ミラさんが顔を引きつらせて言った後、バルファルクは飛び立った。

 

…結果は想像にお任せします




あ~う~…今回はこれで限界です…

弓「乙」

…ギル、たまに暴走しかけてない?

弓「さてな。」


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第265話 致命の治療

致命っていっても物理的かは分からない…と。

裁「まぁ、物理的に致命いれたけどね。当時。」


「着いたわ、マスター。」

 

「ありがとう、ありすさん。」

 

私達はありすさんが再現した月さんの能力でプレジデントハウス前までやってきていた。

 

「これ結構操作難しいのね。立体移動操作がレバー1本だけって単純なようで結構面倒なコード組まれてるんじゃないかしら?」

 

「どうなんだろ…」

 

「というかそれ以外の機能が多すぎよ。短時間じゃ移動が精一杯だったわ…どうしてこんなに多機能なの…?」

 

「分からない…」

 

「……まぁ、いいわ。…拡大!」

 

ありすさんがそう告げると同時に私以外の姿が消える。月さん曰く、特定のボイスコマンドは大声じゃないと反応しないんだって。

 

〈展開!〉

 

それによって私の視界にプレジデントハウスとカルナさんの姿が映る。多分あの能力、なにかの操作をしないと操作者以外は外が見れないんだと思う。

 

「…来たな。」

 

「こんにちは、カルナさん。」

 

「お邪魔します。」

 

「お邪魔するわね。」

 

「…こんにちは。」

 

「…貴方も病人ですね。」

 

ナイチンゲールがバッサリと言った…

 

「…そうだな。オレは確かに忠実であろうという病に罹患している。その病を真っ先に見抜けるのは看護師という職業ゆえか。」

 

「いえ、貴方が分かりやすいだけですが。」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………そうか

 

分かりやすく落ち込むカルナさん。気にしてたんだなぁ……

 

「まぁ、いい。オレの病が治るかどうかは分からんが奮闘はしてみるとしよう。…それで」

 

気を取り直して私の方を見るカルナさん。

 

「掴んだか、光を。世界を救う一手を。」

 

「…うん。あとは、エジソンさんの九十九の欠片を合わせるだけ。」

 

「…そうか。ならば、今こそ我等の道は交わる時だ。玉座まで案内しよう、ありすの痛烈な投薬でエジソンは瀕死だからな。…恐らく、死にかけなければ治癒は見込めんだろう。」

 

「……カルナさんはどうしてエジソンさんに?」

 

私の言葉に口角を上げるカルナさん。

 

「先に頼まれたから、だな。オレのような益体もない男に跪いて。手を貸す理由はそれだけで構わないし、相手となるものに敵対する理由にもなるだろう。」

 

「……そっか…うん。それだけでいいよね、協力する理由は。」

 

「…ふっ。」

 

カルナさんは小さく笑って私達を玉座まで連れてきてくれた。

 

「ほら、エジソン!彼女達が来たわよ!しゃんとなさい!」

 

「カッコ悪い……カッコ悪い……」

 

……待った

 

「カルナさん」

 

「…?」

 

「私達がいなくなってからここってどうなってたの?」

 

「……聞くな。」

 

目を逸らした……理解。“王様”からの指揮系統は完全に麻痺してたんだ。“参謀”、及び“補佐”の2人が指示を出して今の現状を維持できてた、って感じかな…?

 

「とりあえず一度起こさなきゃ。病状とか説明しなきゃだからね。」

 

「そうですね、ドクター。」

 

とはいえ、軽く声かけただけじゃ起きなさそうだから…

 

「…ごめん、強行手段取るね。いい、カルナさん?」

 

「あぁ、構わない。」

 

私はエジソンさんの目の前に立つ。

 

「ほら、彼女は目の前よ!」

 

「カッコ悪い……カッコ悪い……カッコ悪…いっ!?」

 

座り込んでいるエジソンさんの胸を左手で掴み、強引に立たせて───

 

「───シュッ!!」

 

「ガァァァァァァ!!?」

 

「「「「!?」」」」

 

右手で致命攻撃。その行動に、エレナさんとカルナさんが驚愕するのが伝わった。

 

「何をするのかね!」

 

「私達が来ても反応示しませんでしたし。いい気付けになったでしょう?」

 

「……リッカさん、いくら素手致命だとしてもそれは気付けレベルじゃないと思うわ。あなた、技量いくつ?」

 

「前に人形ちゃんに見てもらったときは18だったよ?体力15、持久15、筋力15、技量18、血質17、神秘14。」

 

「合計値94……レベル44じゃないの…」

 

計算早いなぁ…まぁ、そんなことはともかく。これでエジソンさんも目覚めた、っと。

 

「…私が認識できますか、エジソンさん?手加減しましたから致命的な損傷にはなってないはずですが。」

 

「う、うむ…」

 

〈うわぁ…効いてるね、これ…〉

 

〈まぁ憧れる頃の子供に言われちゃあなぁ。〉

 

「…私は悲しい」

 

「…?」

 

「君達が我等の陣営に入らなかったこと───否。君達がレジスタンスに与したこと───否。ただ、ただ───青き少女、君の言葉の真意に気づけないことだ。」

 

「……」

 

ありすさんが私の隣に来てエジソンさんを見つめる。

 

「強靭な四肢、はち切れんばかりの健康、研ぎ澄まされた知性───それらを以てしても君を…いいや、もしかしたら君達を失望させてしまったのか、私には分からない。」

 

顔を上げるエジソンさん。…その表情は、確かに悩んでいるものなのだろう。

 

「それが分からなければ大統王など、プレジデントなど名乗っている場合ではない…!教えてくれ、リッカ、そして青き少女よ!私のどこがダメだったというのだ!?」

 

その言葉に、ありすさんがエジソンさんに近づく。

 

「……エジソン。少し遅くなったけれど…名乗るわ。あたしの名前。」

 

「……」

 

「あたしは“ありす”。……“ありす・創花・フリアンクル・ティアーナ”。これがあたし(ありす)の…本当の名前。」

 

…え?ありすさんの本名…?

 

「でも、今のサーヴァントとしての真名は“ストーリーズ・ライブラリ”。アカシックレコードに近い存在。だから、あたしはあなたを知った。そして、知った情報(伝承上の発明王エジソン)あなた(今ここにいるエジソン)を比べて、その解離にあたしは失望したの。」

 

「ごふっ…」

 

「だって、既に諦めてるのだもの。“もうどうにもならないから、せめてアメリカだけでも”、って。世界を救おうとせずに、アメリカだけを救おうとしている。…それが、カッコ悪いって言ったのよ。」

 

「な…」

 

「…ねぇ、エジソン?あたしは確かにあなたより後の時代の人間だし、英国───つまりはかつて貴方達を支配していた側の人間。…アメリカの貴方からすれば、あたし達英国の民は復讐として滅ぼされたとしても文句は言えないのかもしれないけれど。…だけど、お姉ちゃんが生きた───マスターが生きる“日本”まで滅ぼすのは、諦めるのはおかしいんじゃないかしら?」

 

「それ、は…」

 

「───既に明らかよ。今のあなたは“アメリカ”の事しか考えていないの。…いいえ、それしか考えられないようにされている。そして、それが貴方の病であり貴方の歪み、貴方があたしやマスターに“カッコ悪い”と言われた原因。」

 

アリスさんは深呼吸してそれを告げる───

 

「諦めるということにほぼほぼ無縁であった貴方が真っ先に諦めた!!それが貴方に憧れた子供からすれば“カッコ悪い”のよ、トーマス・アルバ・エジソン!仮にもエジソンを名乗るなら諦めちゃいけないのよ、このライオン擬き!!悪いけど英霊としてではなく、貴方よりも後の時代に生まれた“ありす”として言わせてもらうわ!───あなたはあたしたちの知ってるエジソンじゃない!!あたしたちの知ってるエジソンを返して、野獣さん!!」

 

「ガァァァァァァ!!??」

 

……言いたいこと全部言われちゃった…

 

「…ナイチンゲール、私の言いたいこと全部言われちゃったからあとお願い…ごめんね、使えないドクターで…」

 

「…いえ。それでは代わります。」




…最近うまくいきません

弓「そら、エスプレッソを淹れたぞ」

…ん、ありがと


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第266話 施術完了

裁「…前回の書き起こし内で書かれてないけど、私って当時車椅子に乗ってたんだよね。ほら、解呪の負荷が酷くて身体をうまく動かせなかったから…致命の一撃に関してはあれくらいならなんとかなったからだね。一歩も動いてなかったし。」

あぁ…描写するのわすれてたね、そういえば。

裁「ちなみに当時の私の症状は大まかに言えば“下半身麻痺”。目覚めた直後は“全身麻痺”みたいな状態だったんだけどね。腕さえ動けば致命攻撃はできるし、コードキャストやマスタースキル、スペルカードも使えるからね。…まぁ、コードキャストは当時使えないけど。」


「起きなさい。まだ施術は終わっていませんよ。」

 

〈終わってないのかい!?〉

 

〈私が言われたら発狂ものよ…コレ…〉

 

カルデアのみんなの言葉も聞こえてないというかのようにナイチンゲールはエジソンさんを引き起こす。

 

「な、ナイチンゲール女史…」

 

「貴方の不合理に現実を突きつけましょう」

 

「ふ、不合理…?」

 

「はい。貴方のやり方では、ケルトに勝つことはできません。」

 

その、恐らく彼が目を背けていたであろう現実を、事実を告げる。

 

「彼らケルトは生を受けてから死に至るまで戦いに明け暮れた怪物。頂点に立つクー・フーリンからも分かるように、この時代の人間は…いえ、もしかしたら未来の人間すらもスタート時点から引き離されている。ましてや相手が所有するは聖杯、あの兵士達は無限の資源から成り立っています。資源が無限ならばその資源で作成されるものも無限なのは道理、そんなものと有限が勝負したところで勝てない、勝てるわけがない。」

 

〈ま、そうだわな。無限のリソースがありゃ理論上はなんだってできる。万能の職人がいてそいつが無償で協力してくれるなら人件費もかからねぇだろ。〉

 

〈材料なく、製作にかかる人件費もなく…おまけに機材などの製作費用もなければ商人としては商売上がったりですねぇ…市場展開なめてるんですかの一言ですよ〉

 

あ…ミドラーシュのキャスターさんが怒ってる…

 

「ですが、貴方はその分野に対して負けるのは嫌だった。その“大量生産”という仕組みに対して負けを譲りたくはなかった。何故なら───“大量に生産する、より安価でより良いものを作る”、それが貴方の、トーマス・アルバ・エジソンの持つ天才性であるから。そしてそれが知らず知らずのうちに貴方の理性を奪い、“生産”することだけに集中してしまっていた。“自分の領域で負けてなるものか”という無意識な意地が故に、貴方は病に侵され、ドクター達を失望させてしまった。」

 

「なん、と…いや、しかし……否定できん……」

 

エジソンさんは愕然としながら呟く。

 

「確かに私は生産力に拘っていた。どれだけ資源を失っても、最終的には勝つからいいのだ、と…既に資源も尽きかけだというのに…」

 

「全くです。生産力だけで勝っても意味はありません。…そして。」

 

ナイチンゲールがエジソンさんの頭を鷲掴みにする。

 

「最大の過ちが貴方のこの肉体!サーヴァントとしての記憶からしても、歴史上トーマス・アルバ・エジソンが獅子の頭であったなどという記述はありません。さらに、いかに有名であろうと、発明王であろうと、貴方がこれほどの力を持っているはずもない。それには何か原因、別の力が働いているはず。貴方を“王であれ”とする欲望(ユメ)が。」

 

「それは…聖杯では?」

 

「違うわ。正確に言えば聖杯はただ“願いを叶える”ものであって、“願いを産み出すもの”ではないのよ。結果的に願いを産み出したのだとしても、それは聖杯が直接関わった訳じゃなくて聖杯と関わった何者かがその願いを持ったにすぎないわ。…“聖杯を手に入れたい”という願いを、ね。」

 

「えぇ、ドクター・ありすの言う通りです。大きい力は結果的に願いを産み出しやすいもの…ですが、そもそも聖杯は敵の手にあり、奪取するのはかなり難しい。ならば、聖杯よりも何よりも先に、貴方を補強した願いがあるはず。そして、その願い(それ)は貴方のものではありませんね?」

 

「……その通りだ。私はトーマス・アルバ・エジソン。この国の大統王。過去、現在、未来───このアメリカの大統領より力を与えられた者。何故ならば、それが合理的だからだ。」

 

エジソンさんの肉体の変化。その、理由…それが、大統領の集合体…

 

「彼らは自分達総てがサーヴァントになり、召喚されたとして、ケルトに対抗し、勝利することはできないと結論を出した。ならば、世界的に有名な英雄に力を結集し、アメリカという未来を私に託した。」

 

「───でも、それこそ病の根幹。」

 

静かに、一言告げて───車椅子を動かしてエジソンさんの近くに行く。

 

「私達にはアメリカだけじゃない。救わなければいけない世界がある。多数から一つへ(イ・プルーリバス・ウナム)───多数の民族から成立した国家であるエジソンさん達はあらゆる国家の子供であると等しいはず。だったら、エジソンさん達は世界を救う義務がある───それを無視して、自分の国(アメリカ)だけを救おうとするから、あなたは苦しむんじゃない?」

 

「ぬぐ…」

 

「ドクター・リッカの言う通り。そして、だからこそ───」

 

私が少し後ろに下がるとナイチンゲールがエジソンさんの胸に指先を当てる。

 

「そんなだから貴方に憧れた子供であるドクター達に失望され、同じ電力で勝負していた天才科学者ニコラ・テスラにも敗北するのです。」

 

〈おまけに私はバ美肉と相成った!本来の姿に戻ることも可能だが、お前のその可愛さとは遠い姿よりも人気は出るだろうさ、ヴァカメ!!〉

 

「GAohoooooooo!?」

 

……うわぁ。というかなんでテスラさんは管制室にいたんだろう。…それから“バ美肉”って“バーチャル美少女受肉”のことらしいけど、星乃さん曰く“あの姿のテスラさんは男性”ってことだからそれは“美少女”じゃなくて“美少年”らしいよ?

 

「…施術完了です、ドクター。」

 

「うん…かなり致命傷な気もするけど。これでなんとかなったんじゃないかな…」

 

なんとなくそんな気がする。

 

〈…マシュ、エジソンの脈を。〉

 

「…生きてます。生存を確認しました。」

 

うん、結構痙攣してるけど…生きてはいる。だから───私は、エジソンさんに近づく。

 

「…あなたは、どうしたい?」

 

「───ぬ、む…」

 

ゆっくりと立ち上がるエジソンさん。

 

「…そうだな。認めよう、君たちの言うことを。私は歴代の王達から力を託され、それでも合理的に勝利できないという事実を導き出し、自らの道をちょっとだけ踏み間違えた───」

 

「ちょっと?」

 

「…!お、大いに!!大いに踏み間違えた…愚かな思考の迷路で彷徨っていたようだ。」

 

〈ボクはリッカちゃんのその超静かな覇気が怖いんだけど…〉

 

〈腕さえ動けば致命攻撃できる時点で車いすに乗ってる現状でも“無力”ではねぇからな…やろうとすれば今の状態でも人一人殺せるだろ、リッカ。〉

 

「やろうとすればね…多分。」

 

やらないけど。

 

「迷ったとしてもかまいません。あなたは今、スタート地点に立ったのですから。」

 

「…そうか。此処まで市民を犠牲を強いておきながら、やっとスタート地点とは…厳しいな。…厳しい。私は一体、どうすればいいのか…」

 

「決まってるでしょ?なに、あなた分からないの?」

 

「ブラヴァツキー嬢…」

 

「挑戦するんでしょ。三千回目でダメなら三千一回目に挑戦する。何度失敗してもへこたれず、周りに苦労を強いてちゃっかり自分だけは立ち上がる。…それがあなたの人生で、子供たちが憧れた“エジソン”の姿じゃない?」

 

そのエレナさんの言葉に少し考えるエジソンさん。

 

「…煽てられているようにも貶されているようにも聞こえるが…ありがとう。キミはやはり私の友人だ。最終的に上回ればいい───それが、私の人生(結論)だった。しかし…私は負け猫だ。臆病者だ。告訴殴打。もう一度この国を導くなど、とても…」

 

「───間違えるなよ、エジソン。」

 

「カルナ君…?」

 

「お前は確かに道に迷いはしたが、お前が目指したものは正しい。正しいからこそ、彼女たちは再びここに姿を現した。名も知らぬ誰かを救うことも、闇の世界を光で照らそうとするのも、自身を持っていい願望だとオレが断言する。どれほど自らに負い目があり、屈折した自己嫌悪があり、時に昇進から悪事をなすことはあったとしても───お前の発明は、誰かを照らし、救ってきた。」

 

ならば、と言葉を切って私達の方を見るカルナさん。

 

「お前がここまでつないできた99%の努力は今こそ報われる時を迎えた。…そら、目の前に1%の閃きがある。掴み取らないでいいのか?」

 

「…エジソンさん」

 

私は手を差し出して言葉を紡ぐ。

 

「私達と一緒に、アメリカだけならず───世界を救いませんか?」

 

「………私は…」

 

〈マスター。少し私が話してもよろしいか。〉

 

「…うん。いいよ」

 

〈感謝する。…エジソン、我が心の友よ。聞こえるか?〉

 

「き、君───その声は、まさかバベッジ君か!?」

 

〈いかにも。よく聞け、その胸にこの言葉を刻め───〉

 

そんな言葉の後、蒸気音がする。

 

〈・・ / ・・・・ ・- ・・・- ・ -・ ・----・ - / ・-・・ --- ・・・ - / ・・- -・ - ・・ ・-・・ / ・・ / ・-- ・ -・ - / -・・・ ・- -・ -・- ・-・ ・・- ・--・ -〉

 

…モールス信号?ええと…I haven't lost until I went bankrupt…?

 

「───そうか。で、あるならば!!大統王は死なぬ、何度でも立ち上がらなくては!」

 

…“破産するまでは負けていない”…って。

 

「繁栄の世界の夢!ここに復活!カルナ君、ブラヴァツキー嬢、迷惑をかけたな!」

 

「いいのよ、友達でしょ?」

 

「…そうだな。差し出がましいが、ここまでくると友人か。」

 

「…ふ。私はいつも、いい友人に恵まれる。こればかりはあのすっとんきょうも及ぶまい。私だけの財産、というわけか。」

 

「一人友達がいれば世界に(いろ)がつく。二人いれば世界が広がる。それはこの世界の真理だよ。ね、マリー。」

 

〈…ええ、そうね。〉

 

〈精神的なものだな、それ…まぁ、確かに真理だな。友達がいなけりゃ、その心の世界ともいうべきものは無彩のままだろうさ。〉

 

〈でも、そこに愛も追加してほしいですね~!〉

 

〈ひ、否定はしないよ!?うん!〉

 

「私も愛を否定しないよ。…分からないけど。でも、“好き”っていう気持ちは世界を輝かせるんじゃないかな。」

 

〈「常に心にプリズムのきらめきを!…なんてね。」〉

 

あ、お兄ちゃんと言葉が被った。

 

「…そうだ。…レディ達。君達を失望させた不甲斐ない私であるにも関わらず、そんな私を見捨てず付き合ってくれた君達に感謝する。」

 

「別にいいわ。…あたしは、記録を見て思ったことを言っただけだもの。」

 

「私も別に大丈夫。…あとはミラちゃんだけど…ミラちゃんは異世界人だからエジソンさんのこと深く知らないんだよね…まぁ、“情けない”とは言ってたけど。」

 

「ぐっふ…」

 

「…でも、とりあえず。」

 

「あぁ───このトーマス・アルバ・エジソン、これよりこの時代の全アメリカ軍と共にカルデアへ全面協力する!!君達、全軍に伝えてきたまえ!」

 

「「「「「サー!」」」」」

 

傍らに控えていた兵士たちがエジソンさんの指示を受けて部屋を出ていく。

 

「あぁ、私はすっかり、大変な忘れ物をしていた。大統領の傍らには常に副大統領がいるものだ。時に、大統領自身よりも有能な副大統領が。」

 

そう言って私の手を取った。

 

「フレイムスピリットレディ・リッカ!君のサーヴァントとして私は世界を救う大発明を成し遂げよう!」

 

「───うん。よろしくお願いします、偉大なる発明王、“トーマス・アルバ・エジソン”。」

 

ここに───西部との契約は成った。




裁「そういえばありすさんの名前って原作じゃ設定されてないよね?」

んん~…平行世界だからかな?こっちでも色々調べてみるけど…

裁「…マスター、その関係で一つお願い」

ん?

裁「ありすさんの…血縁関係、調べてもらえる?」

……できるかどうかわからないけど、出来るだけやってみる


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第267話 歌姫

超絶遅くなりましたが…まぁ、名前からわかるようなきがします。

裁「ちょうど観測できたのと…あとマスターがそれがあったこと知ったからね。」

その頃に私はモンスターハンターを知りたかった…!!

裁「でもマスター、マスターがVOCALOID自体知ってたか微妙じゃない?」

それを言われると辛い


「♪~」

 

カルデア。シミュレーションルームに歌を歌う少女とそれを見守る青年の姿があった。少し歌った後、少女は歌うのを止めた。

 

「……うーん。」

 

「どうした、初音ミク」

 

「…なんだろう。私の特性なのかは分からないけど、なんか…力が弱い気がするの。」

 

「…ふむ。藤丸六花、分かるか?」

 

〈あぁ…キャスターと同じようなクラス特性なんだろう。術式…つまり魔力に関しては多分高いんだろう、が…無銘の時みたいにどこか欠けてるかもしれん。〉

 

巌窟王の言葉に六花が答える。

 

「欠けてる…?」

 

〈…その前に、まずお前さんは“初音ミク”という真名で現界してはいるがその実態は恐らく“初音ミク”じゃねぇぞ。〉

 

「どういう、こと?」

 

〈恐らく推定される本来の真名は“VOCALOID”……いや、“機械音声”と言ったところか?MEIKO、KAITO、初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカなどといったVOCALOID達はもとより、結月ゆかり、東北ずん子、琴葉葵、琴葉茜に未来の製品である東北きりたん等のVOICEROID、ゆっくりボイスなんかで知られるAquesTalk…それら、動物が自然に発する“生体音声”じゃない、機械で調声して発する“機械音声”。その火付け役となった…と言っちゃあれかもしれんが、そんなお前さんが英霊としての根幹になったんだろうよ。〉

 

「…あぁ」

 

〈知名度は十分、と言いたいところなんだがな…正直VOCALOID自体まだ歴史が浅いからな。初期版が2004年…か。11年じゃちょっと霊基も弱いだろうな。それゆえの補強、って可能性もあるが…多すぎてリソースが他部分に割かれ過ぎてるのかもしれねぇ。〉

 

「そっか…」

 

〈歌うことと感情表現、行動自体は問題ないから、霊基の補強方法とか考えないとな…〉

 

その言葉にミクが申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「ありがとう、六花君。忙しいのに、相談に乗ってもらって。」

 

〈心配すんな。俺も“初音ミク”っていうソフトには結構世話になったからよ。…まぁ、曲を公開したことはないがな。〉

 

「ふふ、実況してたもんね。六花君は。」

 

その言葉を聞いてリッカが溜息をつく。

 

〈知ってんのかよ。〉

 

「うん。配信中に、私を弄り回して、困惑してたのも、知ってる。」

 

〈おいやめろその言い方は色々誤解生みそうだからやめろ…!?〉

 

「ふふっ。」

 

楽しそうにミクが笑う。

 

〈やれやれ…どんな収集能力してんだか。ありすが物語収集特化ならミクは楽曲収集特化って感じなのかね…いや、違うか。なぁミク、俺が他に何してたか分かるか?〉

 

「うん。私に歌ってもらう、曲を作ろうとして…挫折したのも知ってるよ?」

 

〈お、おおう…〉

 

「完成したら、歌わせてほしいな。」

 

〈…果たして完成すんのかね。ま、出来るだけやってみるわ。〉

 

そう言った後にキーボードをたたく音が聞こえる。

 

〈…霊基の補強方法も考えておく。出来るだけミク達それぞれに合うようなものにしてみる。〉

 

「ありがとう、六花君。」

 

それで通信が切れると同時にミクはシミュレーションルームを退室した。

 

「……はぁ。真実に近いところ、突かれちゃったな。六花君の観察眼、凄いなぁ。」

 

シミュレーションルームの前の壁に寄りかかって独りごちるミク。

 

「……“私”は“初音ミク”じゃなくて“機械音声”、かぁ。本当なら、否定したい、ところなんだけど。完全に否定できない、コトなんだよね。…だって、おかしいもんね。」

 

ミク自身ですら、“おかしい”と感じていること。それは───

 

「いくら(初音ミク)が、有名だとしても。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”なんて、持っているはずが、ないもんね。」

 

そう。彼女の宝具の1つ。第一宝具“電子の声達よ、ここに集い応えたまえ(エレクトロボイスズ・サモンワールド)”。監獄塔にいた時に“鏡音リン・鏡音レン”や“東北きりたん”が現界していた理由がこの召喚宝具だ。詠唱の必要がない常時発動型宝具であるこれは、本来“初音ミク”が持っているのはおかしい。持っているとすれば、それは“マスター”、もしくは“配布元”のはず。“使用されるソフト”、または“配布されるもの”である“初音ミク”が所持するのは些か違和感がある。もしも“初音ミク”がこの宝具を持っているとすれば、それは───真名を“初音ミク”だと誤認している“機械音声の集合体”ではなかろうか。“機械音声”自体が本体であり、“初音ミク”はただの外装でしかない、ということではないだろうか?

 

「…そう考えると、やっぱり…ちょっと、複雑…かなぁ。」

 

そう呟いてため息をつくミクに近寄る1つの影。

 

「……うん?」

 

その気配に気がついたミクがそちらを見る。そこにいたのは───

 

「……あれ?あなた、確か…“フルフル”?ええっと…久しぶり、かな?」

 

奇怪竜“フルフル”。ミクのその言葉にフルフルは首を傾げる。それを見て、ミクは“しまった”、という顔をした。

 

「ごめん、この姿じゃ、分からないよね。ちょっと待ってね。」

 

そう言って壁から離れるミク。

 

「───“ミクミクチェンジ”!モード“SNOW MIKU 2017”!」

 

その宣言が聞き入れられ、ミクの姿が変化する。緑色の髪で機械的というか無機質的というか…そんな服装といった容姿から、水色の髪で青色のフリルワンピース、リボンには五線譜が描かれているといった容姿に変化した。“雪ミク2017”。2016年11月30日当時、“モンスターハンターフロンティアZ”とコラボした存在と同じ姿。

 

「……これで、分かるかな?」

 

「……」

 

ミクの目の前にいるのは辿異種(てんいしゅ)のフルフル。奇しくも、PVと同じような状況なのだ。

 

「……わっわっ」

 

フルフルがミクを頭で持ち上げ、背中に放る。…そもそも何故カルデアにフルフル、それも辿異種がいるかというと、ミラが召喚したかハンター兼ライダーの者達が絆を結んだかのどちらかであり、基本的に動きを制限していないからである。ミラの使役モンスター達はもちろん、ライダーのオトモン達も特に誰かへと危害を加えようとしない───というかミラの使役モンスター達に至ってはちゃんと頼めば個人的な鍛練にも付き合ってくれるほどである───ため、カルデア内の廊下ではモンスター達の闊歩がよく見られる光景なのである。

 

「♪~」

 

揺られながら上機嫌に歌っているは“スターナイトスノウ”。PVの時も流れていたものだ。

 

「…見つけた」

 

「♪~~」

 

「ねぇ、アンタ!…初音ミク!」

 

「♪~…うん?」

 

かけられた声に歌を止めて振り向くミク。そこにいたのは───エリザベート・バートリー。

 

「…どうしたの?」

 

「…アンタに、聞きたいことがあるの。少し来てもらっていい?」

 

「…いい、けど…ごめんね、フルフル。また今度ね。」

 

そう言ってミクは辿異種フルフルの背から降りる。

 

「ミクミクチェンジ、モード“初音ミクv2”」

 

そう告げるとミクの姿は雪ミク2017から元の姿に戻る。

 

「…アンタ、“ミクミクチェンジ”って何よ。」

 

「ミクミクチェンジ?あれは、私達の姿を、変える方法だよ。正式には、“電子の声よ、可能性の装いへ至れ(フォームチェンジ・コーディネート)”っていう、宝具なんだけど…」

 

「宝具だったのね…」

 

「私だけじゃなくて、それぞれに別の姿があるから、私の詠唱は、“ミクミクチェンジ”に、なってるの。」

 

「そうなのね。…着いたわ。」

 

案内された場所。それは───

 

「ここは…第一ダンスホール?」

 

「そ。…アンタに、聞きたいことがあって。」

 

「…私が、何かの役に立てるのかは、分からないけど。話くらいなら、聞くよ?」

 

「ありがたいわ。」

 

2人は部屋に入り、それぞれ椅子に座る。

 

「…こんなものでいいかしら?それとも、機械だから飲めないかしら…」

 

「…ううん、大丈夫。ありがとう。今の私は、機械音声ではあるけど、生体だから。」

 

「そうなのね。」

 

紅茶を受け取って対面する。片や電子の歌姫、片やアイドルの竜種。生体と機械、別方向の歌い手。

 

「…単刀直入に言わせてもらうわ。…気分を悪くしたらごめんなさい。」

 

「…どうぞ?」

 

「あなた…酷い声と言われているわよね。…それは、あなたも分かってる?」

 

「…うん」

 

顔色一つ変えずにミクは頷いた。

 

「…どうして、そんな声で歌えるの?いえ、確かに時代の進歩と共にあなたの声は良いものに近づいていっている。だけど、やっぱりあなたの声を聞くに堪えない声だという人もいるはずよ。…言っておくけど、あなたを責めているわけでも貶しているわけでもないわ。ただ…教えてほしいの。あなたは、どうして歌えるの?どうしてあなたは───歌で戦えるの?心無い言葉に曝されながら、どうしてあなたはずっと歌い続けられるの?」

 

言葉は悪いが、それは1つの問い。“何故、その声で歌を歌って戦い続けられるのか”という問い。

 

「私が、歌い続けられる、理由…」

 

「私は、それが気になったの。その機械の声で、歌い続けられる理由が。…ルーパスとリューネに酷い声とか言われなかった?」

 

「ルーパスちゃん?」

 

その言葉にミクが首を傾げる。

 

「えぇ、言われなかった?」

 

「…別に…“いい歌だね”、って言われたけれど。」

 

「……はぁ?」

 

訝しむような声を出すエリザベートを見てミクが口を開く。

 

「…ねぇ、エリザベートちゃん…で、いいのかな。あなたの歌声、聞かせてくれる?」

 

「え、えぇ…」

 

「ルーパスちゃんに、言われたこと。一度忘れて、歌ってみて?」

 

「わ、分かったわ。…あと、アタシのことは“エリザ”でいいわよ。」

 

そう言ってから歌い始める。防音となってはいるがゆえに、その歌は室内に響く。

 

「……これで、よかったかしら?」

 

「うん、ありがとう。」

 

歌い終わって、ミクは少し考えこんだ。

 

「…エリザちゃんは、ルーパスちゃんに、“酷い声”って、言われたんだよね?」

 

「…酷い声というか、酷い歌というか…正確には、“なんでそんなに歌酷いの”って言われたのよ。ネロは“その音痴叩きなおさせて”とまで言われていたわ。」

 

「ということは、“声”が酷いんじゃ、ないんだね。」

 

「そうね…リューネからも同じことを言われたわ。」

 

「…なるほど、分かったよ。」

 

「…本当?」

 

「うん。」

 

そこで一息ついてからミクはまた口を開く。

 

「エリザちゃん、あなたが、歌っているときって。“自分しか楽しんでない”、よね?」

 

「え………言われて、見れば…」

 

「うん、それだね。」

 

「…どういうことよ。」

 

「誰かの為に…誰かに想いを、届けるために。そうやって、歌えば…多分。ルーパスちゃん達も、“良い歌だ”って、言ってくれるんじゃ、ないかな?」

 

「…誰かの、ため?」

 

「うん。…私の、歌は…私とは違う、誰かが作って、私を通して、誰かに想いを伝えるの。それが、主な私の歌。」

 

ミクの言う“誰か”。それは紛れもなく、“ボカロP”のことだ。

 

「歌の中には、誰かを幸せにする、ものだけじゃなくて…誰かを、傷つけるような、歌もある。でも、それは。誰かが伝えたいことで、誰かの想いなことは、変わらない。…私は、電子のコードに、刻まれた想いを…声として、形にしてる。」

 

「…声として。」

 

「“声なき声に、カタチを与える”。それは、私の存在理由でも、あると思うから。私は、その声を、カタチにして、人と人のセカイを、繋ぐの。」

 

「…」

 

「…ねぇ、エリザちゃん。ちょっと私に、付き合ってくれる?」

 

「?」

 

ミクは立ち上がり、エリザベートの手を取る。

 

「───第四宝具、稼働するよ!“無数の人々が紡いだ音のセカイ(ミュージック・ワールド)”!」

 

その言葉の後、エリザベートとミクは別の空間に引き込まれた。

 

「…!どこよ、ここ!」

 

「ここは、ミュージック・ワールド…古今東西、あらゆる音楽が、あるとされる世界…の、ごく一部。」

 

「…一部?それに、あるとされる…?」

 

「本来は、月ちゃんとかが、使う宝具…というか、月ちゃんたちが集めていた、音楽の記録達。私のこれは、それの一部を、再現できたようなもの。」

 

そう言いながら、ミクは周囲を見渡す。

 

「こっち、ついてきて。」

 

「ちょ、待ちなさい───うわ何よこれ、体勢制御難しいわよ!?」

 

「だって、ほとんど無重力だし。」

 

「なんで動けるのよ!?」

 

「電子世界と、同じ感じだよ。」

 

エリザベートは苦戦しながらもミクに何とかついていく。そのミクはというと、1つのテレビようなものの前で停止した。

 

「…これだ。」

 

「…なんだっていうのよ…」

 

「いいからいいから、一緒に、見よう?」

 

ミクが画面に触れるとエリザベートと共にテレビの中に吸い込まれた。

 

「あったたた…一体何だっての…よ?」

 

エリザベートが見たそれは、豪華な飾りつけ。大量のサイリウム、大量の人に大きな画面。

 

「…これ…ライブ?」

 

「うん、そうだよ。」

 

ミクが懐かしい、というような表情で言う。

 

「この世界だと、未来だけど。私からすると、結構前だから。」

 

「…これは、なんのライブなの?」

 

「私達の、ライブ。2016年の、大規模イベント───“ニコニコ超パーティー2016”!」

 

「ニコニコ…超パーティー…」

 

それからしばらく…40分もの間、それを見ていた。

 

「……どう?」

 

「…ルーパス達の、言いたいことが分かったわ。…本当に、良い歌たちね。」

 

「…ねぇ、エリザちゃん。元の声で、歌ってみたら?多分、ルーパスちゃんは、“こうすれば音程だけはどうにかなる”、っていうのがあって、あなたたちの音を、叩きなおしたんじゃ、ないかな?」

 

「…」

 

「思いを込めて、歌えば───ルーパスちゃんも、気づいてくれるよ。エリザちゃんの、本当の歌に。」

 

「…」

 

エリザベートはその言葉に悩んでから、顔を上げた。

 

「…分かった。もう一度、歌ってみるわ。ルーパス達の前で、全力で。」

 

「うん、それがいいよ!」

 

「はは。ミク、一人の歌い手の悩みを、解決できたんだな。」

 

「あ、KAITO!」

 

その場に現れたのは青い髪の青年、KAITO。

 

「アンタは?」

 

「“KAITO”。まぁ、僕がここにいるのは、気にしないでほしい。というか、この空間は、僕たちの記憶の中の、ようなものだからね。」

 

「そうだったのね…」

 

「浮いているパズルピースは、記憶と歌の欠片。浮いているテレビは、記録の一ページ。そういうふうに、この空間は成り立っているんだよ。…またね、KAITO」

 

「あぁ、また。」

 

それを最後に空間は消え、ミクとエリザベートの2人はカルデアへと戻った。




こういう歌が関連する話って歌詞が使えないとかなり辛いところがある……ホント。

裁「実際全部の言葉が歌詞フレーズになりかねないから歌詞縛ったらまず執筆自体難しくなる気がするの私だけ?」

“ねぇ”ですら歌詞一部になるからねぇ…気づかないうちに誰もが歌詞を使ってるんじゃないかな。

裁「うわぁ」

…それはそれとして、ミクさんたちの戦闘って音だけだったっけ?

裁「そうだね…少なくとも“原型”の初音ミクさんはそうだったよ。言葉通り“マイクが武器”って感じかな。」

あ~…そっか、歌い手(シンガー)のサーヴァントだもんね。

裁「きりたんさんとかは“きりたん砲・二連獄砲”なんていうの使って戦ってたけど。」

……

裁「マスター?」

いや…なんでもない。ところで皆さんはどの時代の雪ミクさんが好きですか?今回色々調べたんですけど、どれも好きすぎて私には決められませんでした。

裁「決められなかったんだ…」

だって全部かわいいんだもん…私の好みに当てはまるんだもん…

裁「…マスターってかわいいものに弱いよね」


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第268話 東部急襲

ミクさんのお話挟みましたけど東部に行ったクー・フーリンさん達の方へ。

裁「クーかぁ…」


アメリカ東部。ワシントンD.C───

 

「……俺が寝ている間に、ずいぶんとヤバイ状況じゃねぇか。なんで起こさなかった、メイヴ。」

 

「起こしたわよ!なんども起こした!」

 

「ディルムッド、マックールだけならずベオウルフまでやられ…さらに各地のはぐれどもはあっちに吸収されるとはな。考えうる限り最悪の状況だろが、くそったれ。」

 

「伝えてきた兵士の話ではベオウルフのいた所に“赤い彗星”が落ちた、って話よ。」

 

「赤い彗星…おい、アルジュナ。」

 

「えぇ。…恐らくは、私が撃ち落としたあの彗星でしょう。なるほど、確かにアルカトラズの方へ落ちたのは見えましたが…」

 

その後、赤い彗星がどうなったかは誰も確認していなかった。

 

「ちっ、確認しておくべきだったか。」

 

「まぁ、大丈夫でしょう。それよりもクーちゃん!」

 

「あ?」

 

メイヴが告げる、次の行動は───

 

「パレードをしましょう!」

 

「…」

 

クー・フーリンの表情がさらに不機嫌そうになった。

 

 

 

side 月

 

 

 

「おーおー、やってらぁ。」

 

「暢気に、というわけでもないんでしょうね…恐らくは士気を挙げるための策。それでいて、自らが楽しめればいい、という感じでしょうか。」

 

「まぁ、メイヴだからなぁ。」

 

私の能力である移送能力を使った空中からの観測。そこには、パレードを行う女王メイヴさんと虚ろな目のクー・フーリンさんがいた。

 

「つーか便利だな、コレ。どういった理論で動いてんだか。」

 

「さぁ…私も理論そのものはよく理解できてませんからね。恐らくは私達の肉体を量子レベルまで可逆圧縮して、空間と空間の小さな隙間、原子と原子の隙間を通れるようにしてるんでしょうけど…」

 

「わっかんね。」

 

「ですよねー…」

 

分かっていたことではあるけれど、私達の術式、能力、その他諸々理論が他人にとって理解不能なものが多すぎる。理論を説明できない状態で使っているのもどうかとは思うけれど、こればかりは感覚なんだよね…

 

「じゃあ、行きましょうか。」

 

「おう。コンラ、ロイグ、スカサハ。足元に気を付けろよ。」

 

「は、はい…」

 

「誰に言っているのだ、誰に。」

 

その通りだから何とも言えないんだけど…と思いながらレバーから手を離す。

 

「拡大!」

 

クー・フーリンさん達の姿が消える。けど、私にはどうなっているか把握できている。

 

「展開!」

 

風。外界の空気に曝されながら、私達は空中から降下する。

 

「二十四時間奉仕できることを光栄に思いなさい!二十四時間隷属することを歓喜に思いなさい!」

 

声が聞こえる───背負う剣に魔力を通す。

 

「正義も名誉も栄光も、全て私達のもとへ!そして高らかに称えなさい!メイヴちゃん、サイコー!」

 

「「「「「メイヴちゃん、サイ───」」」」」

「───リリース・リコレクション。お願い───」

 

声が、終わる前に───剣の記憶を解放する。

 

「───“血涙ノ雨傘”」

 

「───!?」

 

途端にその場に降り注ぐ血の雨。その血の雨は、周りにいた兵士達に降り注ぐ。

 

「よう、メイヴ。相変わらず派手にやってんな。…そっちの俺も、ご苦労なこった。」

 

「───う、そ」

 

先に降り立った私の隣にクー・フーリンさんが降り立つ。

 

「…陽のクー・フーリン…ちっ、道理であいつらが簡単に逝くわけだな。…そして、聖杯か。」

 

「おう。気持ちのいい願いをしてくれた嬢ちゃんがいてよ。んだもんで、今の状態に至ってるわけだ。ヘラクレスも言ってたがこの“ハンター”のクラスは異常だな、おい。」

 

リッカさんの願いに応え、自由な戦士となったクー・フーリンさん。そして、メイヴさんの願いに応え、残酷な狂王となったクー・フーリンさん。…その在り方は真逆、か…

 

「「「「「女王の道を阻む無礼者め!」」」」」

 

そんな声が聞こえて私達の方に襲いかかる影。

 

「おーおー、元気なことだ。戦いに来た訳じゃねぇのによ……いや、無理な話か。テメェの子だ、テメェ以外の指示なんざ聞くわけねぇか。」

 

「ダメ、子供達───!」

 

「───任せるわ、月。」

 

「はい」

 

クー・フーリンさんの声に合わせて加速倍率5,000倍まで加速。それからスローイングピックを3本ずつ投擲。

 

「───“チェーンバースト”」

 

最初に投げたピックが刺さったのを確認してから連鎖炸裂の式句を告げ、元の位置に戻って加速を終了する。ついでに敵意を向けなかった人達を除いて“血涙ノ雨傘”の力を2段階引き上げる───

 

「───!」

 

兵士達が順に爆発していき、それをみた女王の表情が驚愕に染まる。私達に襲いかからず、しかし敵意を向けていた兵士達はその場で倒れた。私は私で自らの状態を確認する───まだ、動ける。

 

「おいおい、すげぇ速度で動いてた割には周囲への影響ないじゃねぇか。どうやってんだ、まったく。」

 

「結界の応用ですよ。」

 

「……クー・フーリン、そして名も知らない小娘…あなたは……」

 

「三日後だ」

 

クー・フーリンさんはそう告げる。

 

「三日後に、テメェらの首を獲る。生き残りたけりゃ精々足掻け。…特に、そこの悪趣味なオレ」

 

クー・フーリンさんが狂王を指す。

 

「テメェはオレが殺る。性分に合わねぇ王の座なんぞ、オレがぶっ壊してやる。」

 

「……オレが、三日も待つと思うか?」

 

「んだよ、待てもできなくなったのか?心配すんな、コイツが嫌でも待たせてくれるからよ。」

 

そう言って私を指し示すクー・フーリンさん。

 

「…お前は?」

 

「…あなたに殺されかけた少女の、高祖母です。…肉体的なものではないですが。私の力が尽きようとも、貴方を3日、ここに縫い止めます。…それから」

 

「あぁ、私もやろう。」

 

現れる姿───影の国の女王“スカサハ”さん。そして、他のケルトサーヴァント達。

 

「……最悪だな」

 

「女王、メイヴ…!父の、仇…!」

 

「クーちゃんの息子まで……え、息子?え?」

 

「落ち着け、コンラ。…クー・フーリン。お前がそのようで、俺も悲しい。」

 

「…生憎と、これ以外王の在り方を知らん。」

 

「そのようだな。」

 

「……つーわけで。三日後に全力でぶつかろうや。力も策も何もかも全部、俺たちがぶち抜いてやるよ。」

 

「……わかったわ。三日後、それでいいのね。」

 

メイヴが折れた。ということは、交渉は終わりを迎える。

 

「おう。それまでに準備を整えておけ。」

 

そう言って女王に背を向ける。

 

「んじゃ、帰るぞ」

 

「うむ。」

 

「「はい。」」

 

「あい分かった…ケルト兵が皆動かんのだが。」

 

「呪詛の雨でしたからね。敵意を持っていた兵士には昏倒の効果にし、持っていなかった兵士には金縛りの効果です。」

 

そんな話をしながら帰路に着く───

 

「───待って」

 

「……あん?」

 

女王の声に振り向く。

 

「1つだけ、聞かせて。…あなたのマスターは、女性?」

 

「……おう。とびきりのいい女だぜ?先約がなけりゃ近い将来襲ってたんだがよ。」

 

「お主な…」

 

「あはは…」

 

私が乾いた笑いを出すと女王が動いた。

 

「そう…なら、これを渡してちょうだい!」

 

そう言って、投げつけられたもの。彼女の───手袋。

 

「“クー・フーリンの心を奪う”───私にもできなかったそれを成したその女に決闘を申し込む!私以外の女を選んだ、クーちゃんが間違っていたってこと、見せてあげるんだから!」

 

「……おう」

 

その泣き腫らした目に、何かを言う人はいなかった。

 

「……行くわよ、クーちゃん!帰って準備しなくちゃ!」

 

「…おう。」

 

私達はそれをしばらく見守っていた。




血涙ノ雨傘

血のように赤い刀身から付けられた銘。どこかの地蔵が大本になったとの噂がある。記憶を解放すれば“血の雨”の形で呪詛、もしくは斬撃、銃撃等が降り注ぐ。


あーもうほんと時間が…

裁「最近不調だね」

今日に関しては実質12:00まで寝てたようなものだから…


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第269話 戦力確認

ここで一旦戦力確認。実際私も把握しきれてるかと言われると微妙だし…

裁「結構多いからねぇ」


「聞け!この場に集いし数多の英雄共よ!」

 

キィ、という音を響かせながら私が止まると同時に、ギルの声が聞こえた。

 

「今宵ここに我らが陣営は全て揃った!各々、大義である!これにより我らが勝利は磐石とも言えるだろう!」

 

ギルの言葉に口を挟むことなく、聞き続けるみんな。

 

「───しかし、現時点でも問題が1つある!我らが陣営はケルトへ向ける反逆心を集めすぎた影響で、些か規模が大きすぎる!そこでだ!我を含めたサーヴァント、並びに我らがマスターを今一度確認しようではないか!」

 

その言葉の後、ギルが私を見た。

 

「……え、私から?」

 

「当然であろう。我らの頂点に立つ主君が最初でなくてどうする!」

 

「サーヴァントの頂点はギルだと思うんだけど……まぁ、いっか。」

 

そう呟いてから車椅子を前に動かす。

 

「皆さんこんにちは。…車椅子姿で申し訳ありません。ええと…紹介に与りました、マスターの“藤丸 リッカ”です。世界を救うために頑張ります。……以上です!」

 

うう、注目がかなり辛い…

 

「ならば次は…我が行くか。クラス・プレミア!英雄王“ギルガメッシュ”である!我がいるからには勝利よりも下の結果など許さぬと思え!」

 

うん、ギルの声はやっぱり気が引き締まるね。

 

「なら、次はあたしが。クラス・キャスター、“有栖ヶ藤 七海”。英名は“ナナミ・ロスタイム・リームカント・ウィスタリア・アリス”…なのだけど、長いから“七海”でいいわ。どうぞ、よろしくね?」

 

ナーちゃんの振る舞いはなんというか…お嬢様、みたいな感じがした。

 

「次はあたしが。“ありす・創花・フリアンクル・ティアーナ”。クラスはキャスターよ。あたしの事は“ありす”でいいわ。よろしくね。」

 

そう言ってありすさんも一礼する。…今は姿が違うからそこまでじゃないけど、以前までだったら分からなくなってたんだろうなぁ。

 

「…では、僭越ながら次は私が。“マシュ・キリエライト”、クラスはシールダー。精一杯護ります。」

 

「信じてるよ、マシュ。」

 

「…はい、先輩。」

 

マシュが終わって───ミラちゃんが立つ。

 

「クラス・ハンター、“ミラ・ルーティア・シュレイド”。砲撃、射撃なんかの術式支援は任せて。軽くだけど付与と治療もできるから。…もっとも適正高いのは召喚なんだけどさ。」

 

「獣魔共の指揮は任せたぞ、ミルド。」

 

「ん、分かった。」

 

ミラちゃんなら獣魔達も安心だと思うし、大丈夫だよね。

 

「ハンター、“リューネ・メリス”だ。何故か奇しき赫耀のバルファルクに気に入られたようなので、今回は獣魔急襲班に入る。今回は僕自身の戦力としての動きはあまり期待しないでほしい。」

 

「フィィィィィィ!!」

 

その代わりに自分が頑張る、と言いたげにバルファルクが軽く咆哮した。

 

「同じくハンター、“ルーパス・フェルト”。ネロミェールと一緒に獣魔遊撃班に入るよ。…なんで気に入られてるのかは私も知らないけど。」

 

ルーパスちゃんがジト目を向けるとネロミェールは目を逸らした。…なんかあったのかな?

 

「キャスター、“ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ”です!今回私は全体的な補助に回ります!よろしくお願いしますね、皆さん!」

 

「貴女の支援は私も期待してる。お願いね、ジュリィさん。」

 

「そ、そんな…!私なんてまだまだですから!ミラさんの期待なんて、恐れ多いです…!」

 

「…実は獣魔支援に関しては私を上回ってるんだけどね。気づかないか。…ちょっと、悔しいけど。」

 

ミラちゃんがそう呟いたのが聞こえた。…そうだったんだ。

 

「ハンターのサーヴァント、“ルル”にゃ。私と“スピリス”、“ガルシア”は隠密行動班として動きますにゃ。」

 

ルルさんが代表してそう言った。…やっぱり、猫が喋ることにびっくりする人はいるみたい。私達は…もう慣れちゃったし。

 

「アルターエゴ、“無銘”…よろしくお願いします」

 

そういえばこっちに戻ってきたとき、アルの髪って黒髪のツインテールになってたっけ。なんか“転身”っていう術があって、各人格の姿に自由に変えることができるとか言ってた気がするけど。…あ、今は元のアルの姿。

 

「ルーラー、“預言書”───その精霊である“レンポ”、“ミエリ”、“ネアキ”、“ウル”も当然ながら協力しましょう。」

 

『枷のせいで全力は出せないけれど…それでもしばらくは何とかなるはず。』

 

ウルさんとネアキちゃんがそう言った。

 

「まぁ、形式上な。…クラス・ハンター。“クー・フーリン”───全力で行くぜ。」

 

「クラス・ライダー。“ロイグ”だ。よろしく頼む。」

 

「誓約により名乗れませんが…アーチャーです。よろしくお願いします。」

 

「我が名は“スカサハ”。クラスはランサーだ。やれやれ、こちらの弟子はこちらの弟子でよく分からないクラスになったものだ。…まぁ、見込みのある弟子候補を見つけた故、よいとするか…」

 

そう言って私を見るスカサハさん…思ってたけど、私の方に向けて投げられてたあの拾い物の槍ってファイナルファンタジーの“ゲイボルグ”だよね?なんであるの?

 

「アタシは”エリザベート・バートリー”!クラスはランサーよ!」

 

「余は“ネロ・クラウディウス”よ!クラスはセイバーだ!余らのライブのため、共に戦おうぞ!」

 

『…ギル、戦い終わった後ライブってできるの?』

 

『…ふ。』

 

あ~…なんかできなさそうだね

 

「我が名は“李書文”!クラスはランサーよ!戦いの香りに惹かれ参った者!戦が終わった暁にはスカサハ、貴様との立ち合いを所望する!」

 

「あ、それ私も私も~!…あ、私は“新免武蔵守藤原玄信”…ってのが本来の真名だけど、面倒だから“新免武蔵”って呼んで!クラスはセイバーね!」

 

新免武蔵守藤原玄信…!?それって、“宮本武蔵”…!

 

「“フローレンス・ナイチンゲール”。…それだけで構いません、病人がいれば治療するのみです。」

 

「余は“ラーマ”!セイバーだ!シータを救えた今、もはや余に憂いはない!」

 

「“シータ”と申します。此度は呪いの解呪によって、私達は巡り逢えました。この特異な聖杯戦争のみの奇跡かもしれませんが、私も皆様の力になれるように奮闘いたします。」

 

「…あ~、それなんだけど…」

 

私が声を出すと、2人が首を傾げた。

 

「…離別の呪い、完全に解呪しちゃったみたいで。これから先、また巡り逢えるようになると思う…」

 

「それは本当か!?」

「それは本当ですか!?」

 

その気迫に頷く。

 

「預言書は世界を書き換える…理を書き換えられる魔導書なんだけど。2人のメンタルマップ…ええと、いろいろな情報を書いてるところから離別の呪いのコードが消えてるんだよね…」

 

ついでに人物の情報を知ることができる所も読んでみたけど“離別の呪いは完全に解除された”って書いてあったし…

 

「なんと…」

 

「もしも離別の呪いが解けていないのなら…時間はかかるけど、完全解呪できるように頑張るよ。」

 

「…すまぬ、迷惑をかけたな。」

 

実際私はギリギリの状況下でやってたからなぁ…

 

「“トーマス・アルバ・エジソン”である!顔のことは気にするな、私は既に正常になった!」

 

「“エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー”よ。色々迷走したけれど、あたしたちも参加するわ。」

 

「“カルナ”だ。よろしく頼む。」

 

西部を纏めていた陣営も名乗り、後はレジスタンス陣だけ。

 

「私は“ジェロニモ”。レジスタンスをまとめていたものだ。」

 

「“ロビンフッド”。“顔の無い王”とか聞きゃ、大体わかるでしょうよ。」

 

「“ビリー・ザ・キッド”!よろしくね~♪」

 

そこまで名乗られて、例の2人の少女に視線が向いた。

 

「…改めて、名乗らせていただきます。私は“ミドリ”…いいえ、真名“毛利 香月”。これでも人間です。」

 

「私は“アカ”…いいえ、真名を“毛利 理紅”と言います。香月お姉ちゃんの実の妹で、お姉ちゃん同様、人間です。」

 

…人間、か…そう言いながらも、2人は少し言いにくそうな表情をした。

 

「…それで、えっと…」

 

「…?」

 

「…元・男性…です。一応。」

 

「…元・死人…です。はい。」

 

……え?

 

「え、香月さん…って、女の子だよね?」

 

「今は、ですけど。理紅も今は生者ですけど、元々は死者です。」

 

理紅さんが頷く。

 

「…どういうことだ、創詠 月!」

 

「世界線越境時変質現象」

 

アルは───ううん、月さんは一言そう言った。

 

「彼女達が元々いた世界では、そんな現象が起こることがあります。それにより香月は肉体が女性に変わり、理紅は死者から生者に変化したんです。」

 

そう言った後、少し間をおいてから一言。

 

「…彼女達のいた世界は、()が管理する世界。主な属性は、“女性”。…それにより、世界を越えた“男性”は“女性”に変化するような事例が多いんです。」

 

…よく分からないけど。ひとまず、全員の名前合わせはこれで終わった。




大変遅くなりました…

裁「…」

リカの視線が痛い…


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第270話 夜中の音

やっと来た

裁「最近大丈夫?色々。」

大丈夫…ついでに最近判明したこと。私達が観測している世界にいる初音さん、私達と同じ時間軸から情報得てるね…

裁「当然2016年12月のモンスターハンターコラボを知ってるわけか…」

だね…どうやってその回線繋いでるかって思ったら元々月の固有結界を起点として顕現したからその関係で私達の時間軸から情報得られるみたい…


日が暮れて───夜を迎えて。僕は木の上で月を見つめる。

 

「…やれやれ。やっと落ち着いたな、本当に。」

 

ここまで落ち着けるのはフランス以来じゃないだろうか。カルデアで休まらなかった、というわけではないが…木の上で休めるのは久しぶりな気がする。

 

「…久しぶりに研ぐか」

 

アイテムボックスから2本の狩猟笛を取り出す。1本は“龍天笛ホルマゼンタ”、奇しき赫耀のバルファルクの素材から作成できる狩猟笛。もう1本は“あしたづの音動厭舞鈴”、天眼タマミツネの素材から作成できる狩猟笛。

 

「…夜が明けたら頼むぞ、バルファルク。」

 

僕の肩に乗っているバルファルクに向けてそう告げる。ミラ殿がよく使っているモンスターの大きさを小さくするという術式をかけてくれ、僕の肩の上に乗るようになった。…最小金冠よりも遥かに小さいのは気にしてはいけないだろう。

 

「…」

 

あしたづの音動厭舞鈴を鳴らす。…変な音の返りはない。

 

「敵影なし、と…」

 

よく僕の耳は“ソナー”と言われることがあるが、本当にそういう使い方もできる。マリー・アントワネット殿と会話していた時にも使ったように。

 

「……さて」

 

龍天笛ホルマゼンタの手入れを始める。他の人たちは眠っているから、起きないようにしなくてはね。

 

「……ん」

 

しばらく研いでいると、僕の耳が何かを聞き取った。

 

「……あぁ。」

 

集中すると誰かが近づいてくるのが分かった。…完全に僕の方に向かってきている。音を極力消しているようだが…

 

「……音を消しても僕にはあまり意味はないぞ。何か用かな、コンラ殿?」

 

「…っ!?」

 

息を吞むのが聞こえる。…やれやれ

 

「何か用かい?」

 

「…あの。私もそちらへ行っても?」

 

「構わないよ。別に1人になりたいわけでもないからね。見張りついでにちょっとした整備をしてるだけだし。」

 

ジュリィ殿が起きていたり、ハモン殿がいれば頼むんだがね…と、そんなことを思っていたら同じ木の上に跳び乗ってきた。

 

「…流石、若く亡くなったとしてもケルトの英雄というところか。この高さなど、気にしないのだな。…僕はケルトをよく知らないが。」

 

「そういえば、貴女は別世界の方でしたね……ケルトもケルトですが、貴女方も貴女方ですよ。」

 

「別に僕達の世界全員が僕達みたいっていうわけじゃない。その度合いでいえば、君たちケルトの方が凄いだろうさ。…失礼」

 

そう言ってから僕はあしたづの音動厭舞鈴を鳴らす。…変な返りはなし、と。

 

「……あの」

 

「うん?」

 

「どうして貴女は戦えるんですか?私共よりも遥かに多い魔物を相手に、皆さんが心折れずに戦い抜ける理由が知りたいのです。…私がこの地で皆さんと出会ってから、知り合った貴女達の世界の方々は、全て女性の方なので…」

 

ふむ…そういえばフゲン殿やアスラージ殿はカルデアから出てきていなかったな。

 

「ミラさんの世界とは違う、という話ですから…危険と隣合わせの中で、どうしてそこまで戦い続けられるのか、と…」

 

「………ふむ。」

 

龍天笛ホルマゼンタをアイテムボックスにしまい、“マジナイオカリナ”を出す。

 

「まず1つ言っておくと、ミラ殿の世界もそれなりに危険らしいぞ。比較的モンスターがおとなしいとはいえ、基本は同じモンスターだ。凶暴なときだってあるさ。」

 

「…そう、なんですか。」

 

「まぁ、人とモンスターが争っている時点で僕達の方が危険なんだろうけども……」

 

一度言葉を止めてから再度口を開く。

 

「護るべきもの…護りたいものがあるからだね。」

 

「護りたいもの…ですか。」

 

「あぁ。護りたいものがあるから、僕達は戦える。…ただ、それだけだよ。僕達の世界は僕達だけの世界じゃない。異世界のハンターや異世界のライダーが集まる世界でもあるんだ。彼らが集う場所を護るのも、僕達の役割で、僕達の目的なのさ。」

 

「……異世界」

 

「あぁ。自分の力を誇示したい、そんな目的だけなら僕やルーパスはここまで来れなかったさ。ここまでどころか、もっと幼い頃にとっくにハンターなど辞めていただろう。…ハンターという職は常に死と隣合わせだ。これまでの死者だって少なくない───それでも戦い続ける人が多いのは、ただ何かを護りたいからではないのかな、と僕は思うよ。」

 

「護りたい、ですか……」

 

コンラ殿が悩んでるところで、マジナイオカリナを軽く吹く。…敵影なし。

 

「コンラ殿、僕から1つ聞いていいかな?あぁ、答えたくないなら答えないで構わないよ。」

 

「…?一体?」

 

「あぁ。コンラ殿、君…女性だろう?」

 

「…っ!」

 

僕の言葉に息を呑んだのが聞こえた。

 

「それも英霊になって女性へ変化したのではなく、生前から女性だろう?」

 

「……はい。リューネさんの、言う通りです。私は…女です。」

 

声が変わった。先ほどまでの少年を思わせるような声から、純粋な少女然とした声へと。

 

「いつから気づいて…いえ、そもそも何故気づいたのですか?」

 

「いつから、か。比較的出会った当初から気がついていたよ。出会った時、コンラ殿の音に違和感を覚えたのが始まりだ。」

 

「音…?」

 

「声の波長…とでも言おうか。巧く隠されてはいたが、女性の部分が隠しきれていなかった。それから生体音…これを言うと変だと思われるだろうが、君の身体からは女性特有の音が聞こえた。この時点で、女性なのだろうとは思っていた。」

 

「……では何故、生前のを…?」

 

「振る舞いだよ。」

 

「振る舞い…ですか?」

 

その問いに頷く。

 

「君の振る舞い…つまりは君の歩き方に座り方、立ち方に走り方……全て、女性のものだ。生前男性だったなら、いくら英霊となって女性になったとしても、生前の振る舞い方が出るはずだ。」

 

「……はは。…鋭い、ですね…はい、そうです。私は生前も女でした。」

 

「…クー・フーリン殿は男性だと思っていたようだが…どうして女性でないと偽る?いや、そもそも…どうやって死後も女性でないと偽れた?」

 

「……」

 

僕が聞くと、コンラ殿は1つのネックレスを僕に見せた。ネックレスには何か文字が刻まれている。

 

「そのネックレスは?」

 

「これに“隠し”のルーンが刻まれているんです。これによって、私は死後も男性だと偽り続けられました。…今はもう、使っていませんが。」

 

「…なるほど。“女性である”ことを“隠し”たのか。」

 

僕がそう言うとコンラ殿は頷いた。

 

「…このルーンを使っていなければ、私の隠蔽で私が男性であると誤認できる人は少ないでしょう。…恐らく、父も既に気づいているかと。」

 

まぁ…分からなくもないが。

 

「…近いうち、皆さんに公表します。ごめんなさい、私の勝手で振り回して。」

 

「僕は構わないよ。…む?」

 

変な音がした気がしてあしたづの音動厭舞鈴を鳴らす。…敵影発見。

 

「少し遠いな。」

 

「……どちらですか?」

 

「北東距離60m───」

 

僕がそう言うと、コンラ殿が石を撃った。確か───スリングショット、と言ったか?

 

「キィィィ!」

 

そして僕の耳に聞こえる断末魔───この距離で、撃ち抜いたか。

 

「…さすがはアーチャー、というところか。」

 

「お二人には敵いませんから…」

 

そんなことを話しながら、夜は流れていった。




遅くなりました……

裁「最近調子悪い?」

そんなわけないと思うけど…


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第271話 やるからには全力で

裁「……シィッ!!」

……

裁「…どうかな、マスター。」

私に聞かれてもね。ちゃんと月に聞いた方がいいと思うよ。

裁「そう、だよね…」

…まぁ、私が分かる限りで言わせてもらえば…

裁「?」

神力の練り方が月より甘いよ。上手く型が作動してない。基本的なシステムとしてはやっぱりソードスキルと似たところあるから神力と霊力、魔力を乗せるのと同時にその力がそれぞれどこでどう作用するのか意識した方がいい。

裁「……それも、そっか」


「おっす、リッカ。よく眠れたか?」

 

私が身体を起こすと、クーが話しかけてきた。

 

「おはよ、クー。」

 

「おう…っと、その状態じゃ動けねぇか。ちょっと痛いかもしれんが我慢してくれよ?」

 

クーが私に近づいてきて私の身体の下に手を入れる。

 

「っ…」

 

「っと、悪ぃ…」

 

「…ううん、大丈夫」

 

下半身の痛み。麻痺はそれなりに取れてきてはいるけど、まだ上半身しか動かせない。武蔵さんやスカサハさんに鍛練に誘われてるけど、それに応じることもできない。

 

「っと、お待たせさん。」

 

クーが車椅子に下ろしてくれる。お兄ちゃんとリツの話だと、リツの“癒声”で早めても完治までに1週間かかるんだって…

 

「……あー……っと…」

 

「?」

 

「……リッカ、ちょっといいか?」

 

「どうしたの?」

 

「…コイツを、渡しとくぜ」

 

そう言ってクーから渡されたのは…手袋?

 

「相手方…メイヴから投げ渡されたもんだ。…お前さんなら、この意味が分かるだろ…?」

 

「……」

 

……そっか

 

「それと…えっとよ。」

 

「?」

 

「……あんまり、アイツのこと誤解しないでやってくれな。」

 

え…?

 

「さんざんアイツのことをこき下ろした俺が言うことじゃねぇんだろうけどよ。アイツの思いは本物なんだろうさ。」

 

……

 

「リッカが俺をこの姿にしたことに、それに対してその反応だ。いくら歪んでいようと、いくら迷惑だろうと、アイツの俺への形は現状1つなんだろう。…俺が言うことでもねぇと思うが、それをリッカに否定されるのは何か違う気がするからよ。俺が否定するのもまた違うし…んだもんで───っとと」

 

私がクーの口元に人差し指を立てると、クーはそこで黙った。

 

「……大丈夫。…ちゃんと、応えるから。あの人の言葉に、ちゃんと応えてあげないとね。…その時に出せる、全力で。」

 

「……」

 

「受けて立つよ、決闘。それでメイヴさんが納得するのなら、私は全力でメイヴさんと戦う。…それが、私からメイヴさんに今してあげられる最善の事だと思うから。」

 

「……おう」

 

「わっ!」

 

クーが私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「やっぱ、お前さんは俺が見込んだいい女だぜ。そういう困難から逃げないって姿勢、俺結構好きだぜ?」

 

「そう?…さてと、それはともかくとして開戦までにできることはやらないとね。」

 

「何か協力できることはあるか?できることなら手伝うぜ?」

 

…クーにできること、か……そういえば、この車椅子、ジュリィさんが特注で作ってくれたんだよね。素材はギルとルーパスちゃんが出してくれて。……この車椅子…

 

「……クー、お願いしていい?」

 

「?おう。」

 

「…スカサハさんとクーで、私と模擬戦してくれる?」

 

「……は?」

 

 

…ということで

 

「よろしくお願いします、スカサハさん、クー。」

 

「それはいいのだが…よいのか?」

 

スカサハさんの問いに頷く。エルメロイさんに小規模の結界を構築してもらって、簡易的な模擬戦場を作り出している。

 

「お願いします。この状態での戦闘方式を確立したいので。」

 

「う、うむ…」

 

「スカサハ、とりあえず軽めにやろうぜ。…サーヴァントと人間じゃ差が開きすぎるからよ。」

 

「いつもの模擬戦位でお願い、クー。車椅子の事は気にしないでいいから。」

 

「お、おう…」

 

そう言ってクーは槍を構える。私は左手を車輪に添え、右手を軽く挙げる。

 

「───シッ!!」

「───ッ!!!」

 

瞬時に車輪を回して左避け、右手で姿勢制御しながらクーの槍を避け続ける。

 

「…なんつー避け方してんだ、リッカ。」

 

「その避け方、その腰掛けに負荷はかからんのか?」

 

確かにこういう使い方をすれば負荷はかかる。それが一般用の車椅子なら壊れてもおかしくない。…だけど

 

「競技用───ううん、それよりも遥かに耐久性や機動性を上げた魔術式車椅子。設計・開発はジュリィさんとお兄ちゃん、素材協力はギルとルーパスちゃん、構成協力はダ・ヴィンチさんとミラちゃん。今の私みたいに上半身しか動かなくてもかなりの機動力を得られるように作られた代物だよ。」

 

「……っ、はっはっはっは!!!」

 

スカサハさんが笑った。

 

「…いや、すまぬな。此度の弟子候補は中々面白い。これは鍛え甲斐があるというものだ!」

 

「あんま無茶すんなよ、スカサハ。相手は人間なんだからな?」

 

「心配せずとも本気は出さんさ、セタンタ。…だが、これは軽くでも本気を出さねば簡単にいなされると見たぞ?」

 

そう言ってスカサハさんが槍を強く構える。

 

「双槍、スカサハ───参る!」

 

「ゲイ・ボルグ2本持ちとかやめろよ…クランの猛犬、クー・フーリン───行くぜ!」

 

「預言書の主、藤丸リッカ───受けます!」

 

私とクー達が激突する───

 

 

……で、そのあと。

 

「はっはっはっは!!!いやはや、予想以上だな、藤丸リッカ!」

 

「…まだまだですよ、私なんて。」

 

「よく言う。私もかなり力を入れてかかったのだが…()()()()()()()()()()()()()()とは思わなんだ。」

 

「…お前さん、下半身使えない方がひょっとして強いんじゃねぇの?」

 

「そんなことないよ。だって、クーとスカサハさんに使った致命攻撃、そこまで火力出てないもん。」

 

私の言ったことは真実。致命攻撃は本来立ってやるものだし、ちゃんと足から踏ん張れないとそこまでの火力は出ない。精々軽く痛がる程度。あの時のエジソンさんみたいに。

 

「……開戦までの間、この鍛練に協力してくれますか?」

 

「あい分かった。私ができることなら手を貸してやろう。…病人に槍を振るうとはなんとも不思議な感覚ではあるがな。」

 

とりあえず、スカサハさんの協力は得られた。…あとは…一応計画してる“射殺す百頭”の私用のアレンジとかできたらいいんだけど…




遅くなりましたけど50,000UAありがとうございます!

裁「投稿数も300本を越えたし…何か企画でも立てれば?」

いや、私には無理…


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第272話 華と雪と、それから電気

やー…しばらく続きそう

裁「知ってた…あ、そういえばマスター。」

ん?

裁「芸能人とかのスキャンダルとかで炎上するとかって言うのあるよね?あれってマスターいつもどう思ってる?」

……はっきり言うと“くだらない”としか思ってないね…結局は自分は自分、他人は他人なんだから私達が気にすることじゃないと思ってる。

裁「マスター自身は誰かを炎上させるつもりとか…」

ないよ、そんなの。誰かの“推し”を喪わせる原因の最たるものを作る趣味なんて私はないし。言い方は悪いかもだけど、“推し”という“キャラクター”を殺すつもりなんて私にはないしさ。

裁「キャラクター…」

この世に生きている人間…というか、芸能人や配信者さんなんか、全員が“キャラクター”だと仮定してね。テレビに出なくなったりネット界隈で活動がなくなったりしたら、それは人間本人の生死問わず“キャラクターの死”に繋がる。一番分かりやすい例がVtuberさんの卒業かな。“中の人”という魂が抜けたことで“Vtuberモデル”という殻に命は吹き込まれず、ただの記録としてしか残らなくなってしまう。本人の環境とかでの事情ならともかく、それが誰かの心無い言葉が原因でなったのなら、それはその誰かが“殺した”事になるんじゃない?

裁「……それは」

…物語の時間は止まり、物語に生きる者達の時間は止まり───世界は時を忘れ、色を忘れる。

裁「…!それは、ナーちゃんの……」

この詠唱は、いずれ“記録”に変わってしまうことを指してるのかもね。原作のキャラクターだって、その作品が原作者が作っている作品でなければそれは“原作のキャラクターを元にした別の誰か”なわけだし。

裁「……」

…私には、他人の思考を読む力なんてないし、誰かにその思考を強制させることもできないけど。せめて、私の知っている人達や私のフォロワーさん達、この作品を読んでくれている人達は“人間”、“キャラクター”問わず“誰かを殺す”事を率先して行わない人達であればいいな…

裁「マスター……」

…人間だけじゃなくて、あらゆる動物が何かの生命を犠牲にして生きているとはいっても。言ってしまえば“疑似生命”のようなキャラクターが犠牲になるのは…ね。

裁「…でもマスター。マスターってよく自分のキャラクターの事“死んだ”って言うよね。」

それは“行動不能状態”…モンスターハンターにおける体力全損と同じような状況。私の作るキャラクター達は人間がほとんどだけど根本的なところでは不死身だから“全感覚遮断状態での身体活動停止”を簡潔に言って“死んだ”って表してるの。さっき話してたものとはまたちょっと違う。さっき話してたものと同じ状態になるなら、それは私は“消滅した”と表現するよ。

裁「“死亡”と“消滅”…」

ほら、オンラインゲームだと体力全損しても誰かに蘇生してもらうとかできること多いでしょ?“蘇生待ち”か“あきらめる”の違いだよ。ただ、Vtuberとか芸能人さんとかの場合は中が変わったらまるっきり違うものになっちゃうから“死亡”は死亡でも“消滅”に限りなく近いんだよ。…なんで私こんな私でもよく分からない話を前書きでしてるんだろ。

裁「メタいよ、マスター…」

ついでに絶対ここで話すようなことじゃないんだよ…なんで今雑談に持ってきたの、リカ…

裁「あはは……ごめん、マスター。」


「そちらは順調か?六花、オルガマリー。」

 

英雄王が通信に向かい、問いかける。

 

〈問題ない…と言いたいんだが、ちと範囲がな。基礎結界ならともかくとして、マリーの固有結界を乗せるとなるとどうしても範囲に限界は出る。〉

 

〈現状、私達だけではその特異点を覆い尽くすことはできません。…申し訳ありません、私の力不足です。〉

 

「構わん。そも、固有結界を特異点全域に張り巡らすなど普通は無理であるからな。…で?貴様はどうなのだ、エジソン。」

 

〈すまぬな、私も急いではいるが長続きするかは分からん。…だが、私は必ずやり遂げよう。マスター達をもう一度失望させぬためにもな…!〉

 

特異点側のエジソンの言葉を聞いて英雄王が頷く。

 

「各々、必要なものがあれば即座に申し立てよ。我がすぐに用意してやろう。」

 

〈その事なのだが、英雄王。〉

 

「む?」

 

〈カルデアにも既に私はいるのだったな?ならば、その私と力を合わせたい。私が2人いればその効率は単純計算でも2倍だろう。…まぁ、これが真実となるかは定かではないが。〉

 

その言葉に英雄王が溜め息をつく。

 

「貴様には不本意だろうが、ニコラ・テスラと力を合わせた方が効率的であろう。」

 

〈……むぅ、やはりそうか。あの交流サイコとは合わんが、認めるしかあるまいな。私の頭脳をもってして、私と私を合わせるよりも私と交流サイコを合わせる方が遥かに効率がいいとの結論が出ている。…すごく、ものすごっっっく、不本意ではあるが……〉

 

〈話している暇があるなら手を動かせ、直流ライオン!私はまだこの霊基に慣れていないんだ、貴様が遅れれば作業が間に合わなくなるぞ!〉

 

〈……英雄王、1つ聞いていいだろうか。〉

 

「許す。なんだ?」

 

英雄王の言葉にエジソンが吠える。

 

〈───何故ニコラ・テスラが少年になった上、クラスがキャスターになっているのだ!!?〉

 

「知らぬ。月にでも聞くがいい、あやつは何か知っているようであるからな。」

 

〈月嬢には“彼、トラッパーなので。”としか言われなかったのでな…〉

 

「トラッパー……罠師か。」

 

〈私はアーチャーだ!だが、この姿になってダブルクラスのような状態となったのだよ!そのダブルクラスがキャスターで困惑したさ!〉

 

「まぁ、慣れるがいい。このカルデアにいる以上、どんな英霊にもクラスチェンジが起こり得ると思っておけ。」

 

〈まぁ、これでエジソンと同じ土俵に立ったとも言えるがね。〉

 

「……思ったのだが、貴様らが生前からいがみ合うことなく協力していれば、世界の技術は今よりも数段上になっていたのではないか?」

 

その英雄王の言葉への即座の返答はなかった。

 

〈…さて、ね。私も分からないな。もしそんな並行世界があるのならみてみたいものだ───ダ・ヴィンチ女史、そちらの回路はどうなっている!〉

 

〈ぼちぼち、ってところだね!問題ない、ちゃんと開戦までには間に合うさ!…あ、ギルくん。ちょっと。〉

 

通信先からダ・ヴィンチが呼ぶ。

 

「どうした?」

 

〈“古龍の血”と“ペコペコラッパ”っていうものが欲しいんだ。どうにか確保できないかい?〉

 

「ふむ…どちらもハンター共の案件か。ハンター共に聞いてみるとするか。素材が得られるかは知らんぞ?」

 

〈聞いてくれるだけでも助かるよ。…それがあれば、想定しているスペックを作れそうなんだ。〉

 

その後も結界関係の構築は進んでいった。…全ては、英雄王が予見した“魔神柱の大量顕現”への対策のために。




ギリギリ

裁「眠い…」


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第273話 竜の歌姫

……

裁「マスターが真っ白に…何かあった?ギル。」

弓「さてな。」


夜。いつの間にか時間は過ぎて、1日が終わろうとしている時間。

 

「ありがとうね、マスター。」

 

「ううん、いいんだけど…結構急だなぁ、って」

 

「…せっかくなら、みんなに聞いてもらいたいもの。」

 

私の前にいるのはエリザベートさん。…カルデアの。

 

「…だからって、私も一緒に歌う必要はない気がするけど…うん、エリザベートさんがそうしたいなら協力するよ?」

 

「…突然でごめんなさい。喉、大丈夫?」

 

私は頷いて、月さんに念話を送る。そうすると、周囲の風景が少し変わる。

 

『お二人に伝えておきますね。準備が出来ましたら近くにある三色のパネルに乗ってください。この固有結界の準備エリアですから、そこ。』

 

月さんの声が響く。

 

「…準備エリアなんてあったんだ、この固有結界。」

 

「アタシも知らないわね。…準備はいい、マスター?」

 

頷いて三食のパネルに乗る。表示されたウインドウに書かれた“ライブスタート”に触れると、私の意識が引っ張り上げられる感覚がする───

 

「「…!」」

 

そこは、一面花畑。“歌姫の聖域”───そう呼ばれる固有結界の姿。その花畑に、私達は姿を現した。

 

「…来たか。」

 

「…集まってくれて、ありがとう。わざわざ時間の無い中、ごめんなさいね。」

 

その花畑には私達の陣地にいる全員がいた。…特異点のエリザベートさんの姿も。

 

「時間を作ってもらったのだもの、全力で歌わせてもらうわ。」

 

「…私いる必要…って、あれ?」

 

そこまで言って気がついた。…私、服装変わってる…!?

 

「…あ、なんか変な術式作動しましたかね?固有結界出れば元の姿に戻ると思いますけど。」

 

「…そ、そうですか…」

 

とりあえず何故かマイクもあるし、歌えると言えば歌える。…何を歌うのか聞いてないけど。

 

「…それでは、聞いてちょうだい。…“ODDS&ENDS”」

 

そうエリザベートさんが告げると、その曲が流れ始める。“ODDS&ENDS”…2012年の曲だっけ。

 

 

※ 歌詞利用許可されてなかったので全カットします。申し訳ありません……(作者)

 

 

「……どう、だった?」

 

「……」

 

歌を終えてエリザベートさんがギルに聞く。

 

「ルーパス。リューネ。金ぴか───アタシの歌は、どうだった?」

 

少なくとも、私には真剣に歌っていることが伝わった。…エリザベートさんが込めた思いも。そういう、固有結界なのかもしれないけど。

 

「…あぁ、良かったよ」

 

「…!」

 

「認めよう、君の歌は良かったと。僕達が君の歌に求め、願った形はこれだと。」

 

リューネちゃんの言葉にルーパスちゃんが頷いた。

 

「エリザベート・バートリー。ありがとう、私達が密かに貴女に課したクエストを達成してくれて。」

 

ルーパスちゃんが近づき、アイテムボックスから何かを出す。

 

「これは私達から貴女に。…こんなのしか、作れないけど。」

 

「あ……」

 

頭に乗せた、小さめの花冠。あの花…確か、ルーパスちゃん達の世界にある“星見の花”と“ドスビスカス”?

 

「これからもどうか頑張って。ネロと一緒に、ね?」

 

「……ええ!」

 

それからは、固有結界の中で自由に歌って───夜は騒がしく過ぎていった。




…………

裁「……灰になりかけてない?」

弓「ふむ……月は現在出張中だ。我らには何も出きんな。」

裁「…だね」


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第274話 施しと授かり

……ぁ。

裁「…マスター?」

あれ……私、何してた…?

裁「……何も、してないけど。どうかした?」

……記憶が途切れてる。…まさか……本体との接続が悪くなってる…?

裁「……?」


「ごめんください。」

 

尋ねる者。カルデアに与する者達の拠点に訪れた者がいた。

 

「…すまない、待たせ───」

 

その者に応対したは施しの英雄、カルナ。姿を現した直後、言葉が止まる。

 

「……カルナ。やはり、いたか。」

 

「アル、ジュナ……」

 

授かりの英雄、アルジュナと対面したカルナは絞り出すかのように声を出した。

 

「……場所を変えるか。着いてこい、カルナ。」

 

「あぁ…いや、しかし…」

 

「行くがいい、施しの英雄」

 

カルナの背後から声がする。

 

「そやつからこちらを害する気配は感じられん。万が一害したとすれば月が黙っておらんだろう。貴様が一時的に席を外したとて特に問題はない。」

 

「…」

 

「こちらとしては貴様が何かに悩んでいるようなのが気がかりで仕方がない。休憩として旧知の存在と外で語りあってくるがいい。」

 

「……英雄王がそういうのならば、従おう。」

 

「…信頼していただき、感謝します。英雄王。」

 

「ふん、信頼というほどでもないがな。そら、さっさと行け。」

 

そう言うとギルガメッシュは姿を消した。

 

「…行くか」

 

「あぁ…」

 

そうして二人は言葉もなく、しばらくの間大地を翔けた。…言葉も何もなく、ただひたすらに。

 

「……いい加減、どこに行くのかくらい教えてくれないか。」

 

「…この辺りでいいか。」

 

「……目的地があったわけでもないのか、お前は…」

 

適当な岩場付近で停止し、岩場に寄りかかるアルジュナ。そんなアルジュナを見てため息をつくカルナはそのまま口を開いた。

 

「…それで、何故お前はここにいる?東部の勢力だっただろう、アルジュナ。」

 

「……2日前のことだ。」

 

 

 

2日前───

 

 

 

「解雇…ですか?」

 

東部にて。アルジュナはクー・フーリンに解雇を言い渡されていた。

 

「そうだ。俺もメイヴも死闘になるだろうからな。お前もフェルグスも自由にやれ。もう俺に従う必要はねぇよ。どこへなりとも行きやがれ。」

 

「……」

 

「行けよ、精々後悔しない旅にしろ。」

 

「…お世話になりました」

 

「世話なんざロクにしてねぇ」

 

それだけ告げてクー・フーリンはアルジュナの前から姿を消した。

 

 

 

「…ということだ。」

 

「…そうか。それで、オレを連れ出した理由はなんだ?」

 

「…数日前、夢を見た」

 

「夢?」

 

「あぁ。…宿敵であるお前と相容れるとは思えないが…お前と共に肩を並べ、共に生きるという道を。敵としてではなく、友として生きる道。…そんなものがあるとは思わないが、一度…たった一度だけでも、そんなことがあればと。…私が思うのもおかしいかもしれないが。」

 

そう言ってからアルジュナはカルナを見た。

 

「カルナ。私から一つ要求する。…この特異点が終わったとき、私と全力で戦え。今はできなくとも、いずれお前と共に戦えることを望んでみるとしよう。」

 

「……アルジュナ。なら…1つ教えよう」

 

「…なんだ」

 

「こちら側───カルデアは奇跡を起こしている。…かのラーマーヤナのラーマとシータが、共に肩を並べている。」

 

「…何?」

 

信じられない、というような声を上げるアルジュナ。

 

「彼らには奇跡を起こす術がある。…貴様が抱いた夢も、叶う可能性はあるぞ。」

 

「……そんな、ことが…」

 

「…“最新の最高神”。その者によって奇跡は起こせるはずだ。…いや、その者に頼らずとも、奇跡はきっと起こる。オレはそう信じている。」

 

そう告げたあと、カルナはアルジュナに背を向けた。

 

「お前の要求、受け入れよう。…ならばこちらからも1つ要求だ。ただの一度でいい、この特異点を終わらせる手伝いをしてほしい。」

 

「……こちらが先に要求したのだ、受け入れる他あるまい。」

 

「では、失礼する。」

 

そう言ってカルナは飛び立った。

 

「…奇跡、か。それが真実なのならば…可能性はあるか。」

 

そう呟いたアルジュナはカルナの飛び去った方向をずっと見つめていた。




月〈お母さんの状態がおかしい、ですか…〉

裁「心ここに在らず、というか…うまく言えないんですけど、まるでこの世界にいないかのような感じがして…」

月〈……この世界にいない…魂が抜けている感じですかね。〉

裁「私には分かりませんけど…」

月〈…それもそうか。分かりました、明日私達はそちらに戻ります。それでお母さんを詳しく診察しましょうか。〉

裁「お願いします、月さん。」

月〈……あー……っと…そうだ〉

裁「?」

月〈…リカさんにお願いしていいですか?システムコンソールからシステムログを取ってきて欲しいんです。〉

裁「システム…コンソール?」

月〈はい。私達の…いいえ、お母さんが精神内部に創り上げたその世界はほぼ総ての事柄が“システム”によって管理されています。ほぼ総ての事柄と言っても、管理されている大半は技術ですけどね。世界を管理し、安定させ、調整する…それがシステムの役割です。…ということは別にいいとして、私の情報でコンソールにログインしてログを私に送ってくれますか?〉

裁「ええと…どうすれば…いやそもそも、月さんのパス私知りません…」

月〈……そうだった。ええと…ひとまず指示に従ってくれれば大丈夫です。〉


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第275話 結界の策

月「……」

………ぁ。

月「あ、起きた?」

あれ、月…?帰ってきてたんだ……おかえり。

月「ただいま…じゃなくて。…大丈夫なの、お母さん。」

え…?

月「一週間の接続断絶…今までも接続断絶期はあったけど、ここまで接続率が下がったことはないよ。」

…接続率3%…?

月「接続率が15%を下回ると接続断絶状態にはなるけど、いつもは13%~10%くらいだよ?」

…そう、だったんだ


「結界をもっと安定させたい、ですか…」

 

私はギルガメッシュさんに結界について問われていた。

 

「うむ。月にも聞いたのだが、“私じゃなくて香月たちに聞いた方がいいですよ”と言われたのでな。何かあるか、毛利香月。」

 

「そう言われましても…私の結界術はまた性質が違いそうですから…」

 

「ふむ?そういえば聞きたいのだが、お前たち月の親族は全ての者が空間を操れるのか?」

 

その問いに私は少し言葉を選ぶ。

 

「そうですね…これに関しては人によるんですよね…」

 

「人による、だと?」

 

「はい。私は今まで巡ってきた世界で得た能力を使って戦う人間なのですが、元々私達は“月の力”を持っていたわけではありません。…というか、持っていたとしても気がつかなかったという所でしょうか。」

 

「“月の力”…とな。」

 

「ギルガメッシュさんが言った“空間を操る力”、これこそが“月の力”です。…正確には、“実数空間を司る力”なのですが。この力を持つ中で最高位の月の力である“神月の力”を持つ月さんは“神月の巫女”と呼ばれる存在で、月そのものでありながら月神様に仕える存在でもあるんです。…一応。」

 

「月、とは天体の月か?」

 

「はい。…文字に起こすと月さんを呼ぶときは同じ“月”という文字を使うことになるので面倒になるのですが…一応私が把握してる中では、月さんと会話が可能な月神様は三柱。日本の“月詠命”様、ギリシャの“アルテミス”様、ローマの“ルーナ”様です。他の月神様は出てこようとしないのだとか…」

 

「くっくっく…引きこもり、というやつか?」

 

その言葉に苦笑いしながらも頷く。

 

「みたいです。月詠様とアルテミス様、ルーナ様は結構話しかけてくるそうなんですが、他の方々は話したがらないそうで…ただ、神託を得ることは会話なしでもできるらしいです。」

 

「ほう。ちなみにだが、どの神が一番付き合いやすいとか言っていたか?」

 

「いえ、それは…あ、アルテミス様は少し気性が荒いと言っていたかもしれないです。」

 

「ふん、それはカルデアのアルテミスを見ていても───」

 

「あぁ、カルデアにいるアルテミスさんよりは大人しい御方らしいですよ。三柱とも比較的おとなしい方で、あまり傷つくことを好まない方らしいですね。」

 

「───真か、それは。」

 

「…昨日月さんが言ってましたから。」

 

昨日少々愚痴られた。別に嫌なわけではないようだが、アルテミス様の性格がカルデアと自らが会話するアルテミス様と全く違うと。世界が変わるとここまで変わるのかぁ、とも。

 

「…一つ興味で問うが、月の会話する月神はどのような性格なのだ?」

 

「ええと…ですね。月詠様が“大人しいお姫様”…アルテミス様が“真面目な委員長”…ルーナ様が“いいところのお嬢様”…って感じらしいです。」

 

「…カルデアのアルテミスに関しては何と言っていた?」

 

「…“活発なヤンデレ女子高生”」

 

これ、言ってよかったのかなぁ…あ、ギルガメッシュさんが溜息をついた…

 

「…話を戻すとしよう。結界をより強固にするための策はあるか?もしくは展開を速め、安定させる策だ。」

 

「……難しいですね。術式が分かればなんとかできる…と言いたいところなんですが、今の私では多分出力が足りなくてですね。世界の改変もうまく行かないかと…」

 

「ふむ…待て、世界の改変といったか?」

 

「え?はい。一応私達預言書の主なので。…ただ、私達の世界のものなので多分この世界には効きませんね。」

 

「…そうか。」

 

……あとは…

 

「…あっ。」

 

「む?」

 

「確か、カルデア(そちら)には初音ミクさんがいらっしゃるんですよね?」

 

「うむ。確か…VOCALOID、といったか?」

 

「…音」

 

「…どうした?」

 

「音を使いましょう。」

 

「音…だと?」

 

その問い返しに頷く。

 

「音を…歌を響かせるんです。この大地全体に。幸い、私はこの大地を駆け回ったのでどれくらいの広さがあるかは把握しています。」

 

「だが…その歌はどうやって調達───」

 

「調達自体はできますよ。…VOCALOID、並びにVOICEROID達です。私が知っているあのミクさんであるなら、恐らく他の方々を喚べるはず。」

 

「だが、どうやって響かせるつもりだ?」

 

そう言われて私はアイテムウィンドウを開き、とあるものをオブジェクト化する。

 

「それは…ドローン、といったか?」

 

「これともう1つ、これを使います」

 

そう言ってオブジェクト化したのは───とある加工がされた特徴的な形のオブジェクト。

 

「…“音叉”か」

 

「はい。“魔導式音響拡散音叉”。とある加工をした音叉です。これをスピーカードローンを組み合わせて響く範囲を拡げます。管制は…お願いできますか、“ユナ”さん?」

 

私の言葉に私が首から下げている音符型のペンダントが瞬く。了承の意志。

 

「ありがとうございます。私はこれからこれらの設置をしていきますね。」

 

「…う、うむ。」

 

「それでは。…あ」

 

飛ぼうとして思い出す。

 

「…どうした?」

 

「…これ、全員に渡しておいてくれますか?」

 

そう言って取り出したのは大量の鈴。

 

「…これは?」

 

「もしかしたらちょっとした術式を使うかもしれないので。…その対策に。下手したら全サーヴァントが動けなくなります。」

 

「渡しておこう。流石に全サーヴァントが動けなくなるのは不味いからな。」

 

「…では。」

 

そう言って今度こそ私は飛び立った。




月「…精密検査したけど特に異常なし、か…」

ん…

月「何だったんだろう」


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第276話 開戦の狼煙

裁「マスターが…まだ調子悪そうなんですか?」

月「…接続が弱くなってますね。20%…」

裁「…大丈夫でしょうか、マスターは…」

月「…私からは何も言えませんね」


「さぁ、始めるわよ!」

 

「好きにしろ。」

 

「もう、素っ気ないんだから…まぁ、いいわ。」

 

メイヴが聖杯を掲げる。

 

「顕れなさい、戦士達。その力、合わせ1つの巨なる力となりなさい。出でよ、“二十八人の戦士(クラン・カラティン)”───いいえ、私の声と聖杯に応え顕れなさい、ソロモンの魔神達!すなわち“二十八柱の魔神(クラン・カラティン)”よ───!!!」

 

その詠唱は確かに効果を発揮し───アメリカ中央からホワイトハウスにかけて、魔神達が顕現した。

 

「さぁ、どこからでもかかってきなさい!逃げも隠れもしないわ、私はここにいる───!!」

 

「…驚いたな。テメェのことだ、敵陣ど真ん中に落とすとかやると思ったんだが。」

 

「あー……実は1本だけ落としたのよ。ほとんど力のないものを、開戦の狼煙のようにね。それでも耐久性は上げていたはずなのよ?…顕現した瞬間狩られたみたい。」

 

「そうか」

 

「…でも、いいのよ。これで第一の関門は突破したに等しい。向こうも恐らく気づいているでしょう───この魔神達を狩り尽くさなければ私に挑むことなどできないと。」

 

そう言ってメイヴは西を見つめる。

 

「突破してらっしゃい、クーちゃんを落とした女。それすらできなければ私と戦う権利などないわ。…あ」

 

「あん?」

 

「……名前聞いておけばよかった。その女の名前…」

 

「……んなもん戦い終わってからでも聞きやがれ。」

 

そのクー・フーリンの言葉にメイヴは首を横に振る。

 

「ダメよ、決闘なのだもの。決闘には名乗りが必要でしょう?そうでなくとも、恋敵の顔と名前は覚えておかないと…ね?」

 

「…好きにしろ。それより───あっちも動くぞ」

 

クー・フーリンの言葉にメイヴが頷いた。

 

 

 

「食べちゃダメよ、ボレアス。そんなもの、身体に悪いわ。焼くだけになさい、炭にするか灰にするかはあなたに任せるわ。アルバ、あまり環境に干渉させすぎないように注意すること。下手すればこの特異点が崩壊するもの。属性エネルギーが抑えきれなくなったら合図を出しなさい、私が他の人々を護るわ。」

 

ミラ・ルーティア・シュレイドが───否、ミラ・ルーティア・シュレイドの身体を使うミラルーツが黒龍と煌黒龍に指示を出す。その姿を見ながら英雄王が口を開いた。

 

「我らの真上に落としてくる程度はしてくると思っていたのだがな。黒龍めが焼き尽くした一本だけとは、なんとも拍子抜けよ。」

 

「マスター達が今まで戦っていた魔神達よりも遥かに弱く、ただ耐久が高かっただけのようよ?舐められているのか、それとも…」

 

「宣戦布告か、か…」

 

小さくため息をつき、通信を見る。

 

「マリー、六花、ダ・ヴィンチ、エジソン、テスラ、香月、ミク。各々、準備は万全か?」

 

〈はい、問題ありません。〉

 

〈こっちも問題ない。ダ・ヴィンチ、あんたは…〉

 

〈問題ないよ!いやぁ、音を使うなんて策が出るなんてね!ペコペコラッパ要請しててよかったよかった!〉

 

〈私とテスラの方は問題ない、それよりも気になるのは歌だ、長時間歌を響かせ続けるなどできるのか!?〉

 

〈問題ないよ。私という英霊が、どんな力を持っているか。…というか、歌い手(シンガー)の、サーヴァントは…〉

 

〈“歌”でこそ、その真の力を発揮する!当然でしょ?〉

 

その黒い少女の言葉にミクが頷く。

 

〈代わる代わる、歌い続けていれば…長期的な運用、できるよ。〉

 

「…そうか。ところで───」

 

英雄王が黒い少女に視線を向ける。

 

「…貴様が、香月の言っていた“ユナ”だな?」

 

〈そうよ?“MHCP001-AR”、コードネーム“YUNA”…って、これはただの後付けだけどね。ユイやストレアと似てるのは気にしないでくれる?説明ちょっと面倒だから。〉

 

「…“ソードアート・オンライン”か」

 

〈そ。今の姿だからこんな話し方だけど、別の姿だとちょっと変わるかな…香月、終わった?〉

 

〈ええと……はい、大丈夫です。…後を、よろしくお願いします。〉

 

〈はーい!じゃあ、行こっかミク!〉

 

〈はーい!〉

 

それを最後に通信が切れた。

 

〈……じゃ、俺達も準備だな。この辺りで失礼するぜ。〉

 

「気張れよ、貴様らが要になる。」

 

〈はい。…貴方も無理をなさらず、ギル。〉

 

そうして全員の通信が切れる。

 

「…やれやれ、どうなることか。」

 

 

 

少しして、アメリカ中央上空───

 

「この辺りかな。」

 

「うん、それじゃあ…最初は、どうする?」

 

「開戦…ううん」

 

ユナとミクが空中に浮かび、最初の曲を決めようとしていた。

 

「……よし、最初はあれにしよう!」

 

そう言うと同時にユナの周囲を浮いていた存在がユナの前に来る。

 

「お願い、“アイン”!」

 

アインと呼ばれたその存在は確かに頷いた。




今回はここまで…

裁「やっぱり最近遅くない?」

う…


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第277話 結界展開・大禁呪

眠い……

裁「……」


{戦闘BGM:Break Beat Bark!}

 

 

 

振り撒かれた音が浸透する───ユナと名乗った彼女の歌声。中央上空にいるっていう話なのに、西部地上まで届く。

 

「凄い…」

 

「……ここまで、歌が届くものなのか。僕らの力も、強化されているようだし。」

 

歌による支援術式。ミクさんもサーヴァント・シンガーの力の1つはそれだって言ってた。でも、シンガーは本来キャスターのように様々な支援魔術を使うのではなくて、ただ“歌う”ことだけに特化したクラス。歌による支援と音による攻撃はただの副産物のようなものでしかないらしい。シンガーの真の力は───

 

「歌がアメリカ全域を覆いました!」

 

「よし、出番だぞ結界班!」

 

〈うし、じゃあ行くぜ…!顕現せよ、我が結界の秘中!原初にして頂点、素朴にして最凶たる悪魔の結界よ!今こそここにその真の力を、真の姿を現せ!〉

 

術式接続(トリガー・セット)!いつでも行けます、お父さん!〉

 

術式多層(トリガー・レイヤード)───準備完了、()()()の発動、行けます〉

 

アドミスさん…?フォータさん…?

 

〈すまねぇ、助かる───術式起動(トリガー・アクト)!〉

 

お兄ちゃんのその言葉で───世界が、歪んだ。

 

 

〈顕現せよ!!“大禁呪基礎結界(ベース・ザ・タブー)大迷宮・無間地獄(ラビリンス・ムゲンジゴク)”────!!〉

 

 

その結界は、真っ白で───気を抜くと大事なものを忘れそうになる謎の強制力があった。

 

〈マリー!エジソン!テスラ!続け!〉

 

〈───はっ、いけない…!〉

 

「一瞬見入ってしまった…!」

 

「バカなのか、君は…と言いたいところだが私もそうだ、エジソンを責めることはできないな、ははははは!!」

 

見入る気持ちも分かる気がする。お兄ちゃんのこの結界はそれほどまでに綺麗で、見事で、でもやっぱり単純で───残酷な、結界なんだから。

 

「───刮目せよ!今やこれは人理に輝く一筋の光!既に真の命なき天才が成すべきことは1つ、この1つの(未来)を死守することだ!“W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)”!!」

 

「不本意だが同じ結論だな、エジソン…!見えない罠に注意するがいい、未来を望む“人”に対する者達よ!“見えぬ電気にご注意を(トラップセット・テスラコイル)”!!」

 

「展開します、“果てから見つめる天文台(アニマ・フィニス・カルデアス)”───!!!」

 

白紙の上にさらに白紙が重なる。ギルの方を見ると、ギルは確かに頷いた。

 

「───戦闘開始!!」

 

私がそう告げると同時に、拠点防衛班を除いた全員が飛び出した。

 

「…お兄ちゃん」

 

〈…あ?〉

 

「大禁呪って?」

 

〈……気にしないでくれ、マジで。この結界は俺の秘中、だがしかし禁呪であることは間違いない。…あまり話したくねぇんだ〉

 

「…そっか」

 

走っている間に魔神柱が目に入る。

 

「…縮地」

 

縮地法を用いて接近する。そのまま童子切で一薙ぎ。魔神は消え去る。そして周囲に魔神柱が湧く───

 

「…今行くよ、メイヴ───全力で」

 

“虚無”起動───無色の変異泥を浮遊させる。

 

「散れ。」

 

私の言葉に応えた泥は魔神柱を蹴散らした。




月「継続観察中ですが、変わったところは特にありませんね…」

裁「…そうですか」


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第278話 禁じ手

あーう

裁「だーう?」

それ違う…


「キリがないね…!“化け猫”!」

 

爪を伸ばし、魔神柱を引き裂く。一時的に消滅はするものの、即座に復活が始まる。

 

「お姉ちゃん!これって───」

 

理紅と背中を合わせたまま言葉を紡ぐ。

 

「恐らく鬼神の時と同じ───魔力の外部供給による蘇生無限化、なのかな。」

 

「あの時って確かソウルプロテクトをばらまいたんだよね?」

 

「でもそれをするだけの出力がないよ、理紅。」

 

「……生成、演算、転送…確かに私たちだけじゃ足りない…ねっ!!」

 

復活しきった魔神柱を理紅が手にした大鎌で切り裂く。私は私で筋力全開で殴り飛ばす。

 

「せめてあともう二人、もしくは私達の強制リミッターがなければなんとかなりそうなんだけどね…!」

 

「なんで私とお姉ちゃんだけ巻き込まれたのかな、他のみんなも同じ場所にいたのに!!」

 

「いないことだけは確かだよ、連絡取れないし───理紅、上空!」

 

「っ…!」

 

目の前にいる魔神柱を斬り飛ばしてから理紅の上に乗っかった魔神柱を蹴り飛ばす。

 

「ありがとう、お姉ちゃん…!」

 

「問題ない、けど───“チャーマリア”、今まで私達何体狩った?」

 

《1,100.》

 

チャーマリアの声に私と理紅から乾いた笑いが漏れる。

 

「1,100体狩って、これか…」

 

「はは、ははは……」

 

なら───容赦は、要らないよね。

 

「「いいだろう!私が今出せる全力を以て一片残らず狩り尽くしてやる!!」」

 

ステータス変更!筋力値最大、敏捷値最大!細かい技術なんて必要ない、今出せる全力で叩き潰す───!!

 

《Strike Impact.》

 

我が手に宿すは光の力、闇を裂き希望を与える導きの閃光よ、今ここにその神秘を顕せ───!!

 

「魔を祓え!“天の(ヘブンリィ)───」

 

上空に飛び上がり、光属性を溜めた右手を振りかぶる。

 

「───鉄槌(インパクト)”!!」

 

着地と同時に大地に叩きつけられたそれは、“魔”である魔神柱を引き裂いた。

 

「理紅!」

 

「うん───!!」

 

理紅の手にあるのは───火。火属性は理紅の得意な属性…!

 

「焼き払え!“灼の鉄槌(ボルケーノ・インパクト)”!!」

 

理紅の着地と同時に大地に炎が走る。強烈な炎が魔神柱を焼き、そして───

 

 

パキッ

 

 

「「……あっ。」」

 

基礎結界、と言っただろうか…それが、“割れた”。

 

「……流石に出力間違えたカナー…」

 

「……お姉ちゃん、この辺一帯…今のところ魔神柱の復活兆候は見られないから少しの間は大丈夫かな…?」

 

「……謝りに行こっか、理紅。」

 

「…うん、そうだね。チャーマリア?さっきの“揺るがす鉄槌(ストライク・インパクト)”、キル数カウントできてる?」

 

《74,400.》

 

総討伐数、75,500───そんなにいたのか、っていう驚きと同時に、これを一気に殲滅できれば蘇生は一時的に止まるっていう情報を得て私達はギルガメッシュさんのいる方へ飛んだ。

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

「あ~、もう!数が多い!!」

 

「耐久も面倒だしな…!母さん達も手伝ってくれているとはいえ、一掃するには手間がかかるぞ!」

 

わざわざお母さんたちまで呼び出して私達ハンターはモンスターと共に魔神柱を狩っていた。

 

「…!ネミル、上!」

 

その私の指示にネミル───ネロミェールが私を上空に弾き飛ばす。

 

「───敵影補足、隠れてても無駄だよ───“狙い撃つ光子の矢(スナイプ・フォトンアロー)”!!」

 

魔力を“フォトン”の代わりとして用いて光の矢を放つ。…メゼポルタに来訪してきた“アークス”から教わった戦い方だけど、あっちにいた頃はこんなのできなかった。…やっぱり私達も何か変わってるのかな?気がついていないだけで。

 

「───遠くから私達を狙ってた魔神、撃ち抜いたよ!」

 

「助かる!だが油断は許されないな…!」

 

「ごめん、ルーパス!!私と蒼空、少しだけ休む…!」

 

「ありがとう、お母さん!」

 

ずっと動いていたお母さんと蒼空叔母さんが動きを止めて休む。流石に限界、みたい。

 

「認めたくないね、蒼空。この程度で疲れるなんて…ね…!」

 

「昔はもっと動けてたはずなのに…歳を取ってここまで落ちるかぁ…」

 

…お母さんたちの軽く落ち込んだ声が聞こえる。私もいつかそうなるんだろうなぁ…

 

「…それにしても」

 

「あぁ…キリがないな、本当に。」

 

「リッカとクー・フーリンは…もう、相手のところに着いたみたいだけど。」

 

「この状態では流石に心配だな、戦闘中に攻め込まれないか…」

 

「……リューネ」

 

「…あぁ」

 

「「───古龍宝具、稼働」」

 

私がEX龍紋β。リューネがリベリオンX…ちょっと見た目的な加工してるけど。お互いどんな古龍宝具があるかはすでに確認済み。…なら

 

「励起せよ、解放せよ、その名を喚ぶ。それはかの王の裁き、かの王の神威。阻むものなくば狩人の力を削ぐ蒼き光。」

 

「解放せよ、励起せよ、その名を詠む。それかかの王の御業、かの王の神威。王の声に応え地に落ちる蒼白なる凶星。」

 

リューネには詠唱を止めておいてもらい、続きの詠唱を紡ぐ。

 

「龍気現出。敵対せし愚かにも生存の道を断った者を絶望の淵に叩き落せ───“刮目せよ、此処に見るは王の鉄槌(王の雫)”」

 

青い光が落ちて───私達の周囲にいた魔神柱が吹き飛ぶ。

 

「リューネ」

 

「龍気開帳。蛇王の怒りと共に降り注ぐ未知の星は汝らに降り注くだろう───“蛇帝龍、その星この地へ降り注がん(アンノウンエネルギー・メテオラッシュ)”」

 

私の“王の雫”で吹き飛ばされた魔神柱、それ以外にも近くで待機していた魔神柱───それらに未知のエネルギーで精製された星が降り注ぐ。本来のダラ・アマデュラだと本物の星なんだけど…多分、魔力で代用したんだと思う。この世界に迷惑かけないように。

 

 

 

ピシッ

 

 

 

「「「「……あ」」」」

 

嫌な音が聞こえた。その音がした方を見ると───白い世界が、裂けていた。

 

「……やり過ぎたか?」

 

「…かな?っていうか、リューネの古龍宝具も結構ヤバいよね。」

 

「ルーパスに言われたくはないな…さて」

 

私達が周囲を見渡すと、魔神柱の復活兆候は特に見られなかった。

 

「…ざっと狩り尽くしたみたいだな。」

 

「というか、一瞬で狩られ過ぎて追いついてないとか?」

 

「…あり得るが…とりあえず報告に行くとしよう。」

 

「…そうだね…結界壊しちゃった件もあるし。」

 

私達は一旦拠点の方に戻ることにした。…“モドリ玉”で。

 

 

 

side ミラ

 

 

 

〈はぁ!?それなりに強化してたマリーの基礎結界が同時に二か所で砕けたぁ!?〉

 

通信の向こうで六花さんの素っ頓狂な声が聞こえた。

 

「確か些細な攻撃では砕けぬようにしておいたのだったな?」

 

〈あぁ、少なくとも対軍宝具くらいには耐えれるようにしてあったはずだ…!それが二か所で同時に砕けた!そこまで時間をおかずにマリーの心情が現れるぞ!〉

 

「ち、少々予定が早まったか。まぁよい。ミルド、我らがマスターと忠犬の位置はどこだ?」

 

「忠犬って…まぁ、いいか。ええと…クー・フーリンさんは既に狂王と接触。リッカさんも既に女王と接触してるよ。」

 

「うむ、であれば問題ないな。」

 

そう言って英雄王は魔神柱の方を見た。

 

「…やはり、限界というものはあるか。開戦直後よりも数が少ない。」

 

「無限じゃないんだね、アレ。大方魔力補充がうまく行ってなくて生成速度が落ちてるんだろう───」

 

「「───ごめんなさい」」

 

「ひゃぁ!?」

 

急に目の前に香月さんと理紅さんが現れてビックリしてしまった。

 

「む?どうした、貴様ら。」

 

「ええと…結界を、壊してしまって…」

 

「…ふむ。なるほど、基礎結界の崩壊点の1つは貴様らか、毛利 香月、毛利 理紅。」

 

〈マジかよ…〉

 

「月の親族なのだ、今更何をしてもおかしくあるまい。」

 

少し落ち込んだ六花さんに英雄王が慰めの言葉をかける。

 

〈そりゃそうだがよ……って、じゃあ崩壊点もう1つは…〉

 

「…たぶんルーパスさんとリューネさんじゃないかな…あの二人ならやりかねない」

 

〈…泣いていいか〉

 

〈しっかりなさい、六花!〉

 

〈そうだぞ、若者に負けるなんてよくあることだろう!?もっと先に繋げていけばいいさ!〉

 

…カルデア側が若干凹んでるなぁ、これ…

 

「…それで?何故戻ってきた?魔神柱の殲滅は───」

 

「大体一瞬で75,000体倒せれば生成が遅れるみたいです。」

 

「「………」」

 

……75,000?

 

「お姉ちゃん、そういえばあれって光と火の属性継続ダメージで生成された瞬間倒されてたね?」

 

「…あ~…じゃああれをもっと強化すれば一気に叩くこともできるのかな…流石に制御難しいか。」

 

それはそれとして、と呟いた後に無銘さんの方を見た。

 

「…無銘さん」

 

「は、はい!」

 

「貴女が私と理紅よりも高位の存在であることは既に分かっています。…ならば、私達の今の力など簡単に超えられるでしょう。どうか、自分の力を…自分の可能性を、恐れないでください。」

 

「…自分の、可能性…」

 

そう繰り返したのに満足したのか、香月さんは英雄王を見た。

 

「ギルガメッシュさん。…”禁じ手”を使いたいんですが、よいですか?」

 

「禁じ手、とな?」

 

「えぇ…」

 

香月さんはその禁じ手を説明してくれた。…なるほど、これは…

 

「…ふむ、確かに禁じ手だな。しかし…力が足りるのか?」

 

「…“1人で無理なら2人で”、ですよ?」

 

そう言って香月さんは“禁じ手”の準備に入った。




裁「月さん。マスターは寝ましたけど…」

月「…どうしても低いなぁ…ちょっと心配だな、コレ…」

裁「……最悪の場合どうなりますか?」

月「最悪の場合…考えたくないですね」


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第279話 望みを抱く無色・誘惑を抱く桃色

3月終わるってほんと…?

裁「いやあの、本気で大丈夫なのマスター…?」

1文どころか1文字も書き起こせない日がかなり続いてさ…気づいたらこんなに経ってました……大変申し訳ありません

(るな)「……接続率が著しく落ちている…平均7%はちょっと低すぎるよ、お母さん…」


「私はメイヴ。私の前に立つ貴女?名前を聞かせてくださる?」

 

魔神達を貫き、ホワイトハウスに辿り着いて。私の前に在る人、怪物、馬…その他諸々の傍らに立つ女性───女王からそう声をかけられた。

 

「私は───藤丸リッカ。…今はそれだけで、問題ない…でしょう?」

 

「…そうね。」

 

既に切り替わっていた“千本桜”の歌声が遠ざかる。代わりに流れ始める音楽───

 

 

 

{戦闘BGM:運命~GRAND BATTLE~}

 

 

 

馴れ合いは不要。あちらは大群、こちらは単騎───問題ない。変異泥を展開し、鎧として変質させる。イメージは……ミラちゃんから聞いた“神龍”と呼ばれる純白の龍。顔は口元が覆われているような構造になっている。

 

「さぁ───行きなさい、私の兵士達!」

 

「「「「「ぉぉぉぉ───!!!」」」」」

 

【───ォォォォォォォ!!!】

 

魔力を足元に固めて───炸裂させて突撃する。香月さん達から教わった、(るな)さん達の術式体系。魔術とは違う扱い方───“魔力”さえあれば魔術回路を通さずに扱える。

 

【───シッ!!】

 

泥を鞭のように振るい、怪物を切り裂く。童子切を振り抜き、馬を薙ぐ。少し遠くから撃ってくる弓兵を察知して肉体を泥に分解、泥に潜んだままアルテミスの弓矢で射撃。安全が確認できたら再構成───なんか、“獣の権能”の使い方がわかった途端一気に化け物じみてる気がする、私…

 

「「「「女王に仇なす───」」」」

 

【邪魔…するなぁぁぁぁぁぁ!】

 

変異泥変形設定(アーティファクト・セットアップ)───形状・片手直剣(タイプ・ワンハンドソード)属性・無(プロパティ・ノン)規定値・3(プリセット・サード)───設定(セット)

 

複製接続(リプロダクション・コネクト)!是、“エリュシデータ”───“ヴォーパル・ストライク”!!】

 

私のイメージに応え、槍のようになったそのヴォーパル・ストライクを構成した魔力は───私の前に立ち塞がった存在を一掃した。

 

「ギャォォォォォォン!!」

 

【…っ!接続遮断(コネクト・カット)

 

ドラゴン。炎を吐いてくるのを見てエリュシデータを削除、“試作型天文台和弓IV”を呼び出す。

 

術式翻訳(コード・コンパイル)術式連結(コード・リンク)───術式構築(コード・ビルド)。“型なき泥弓(アンパターン・マッドアーチャー)”…!】

 

お兄ちゃんが作ってくれた“翻訳済術式(コンパイラ・スペル)”を起動し、泥を矢に纏わせて周囲に放つ。お兄ちゃん、すでに(るな)さんから魔術回路を使わない術式体系を習ってたらしくて、動けるようになってから相談したら即座にこの術式送られてきたんだよね…真面目にお兄ちゃんができないことってなんなんだろ…

 

【集まって───貫け!!】

 

周囲の泥から弓を構成し、一点に向けて斉射。

 

【シァァァァッッ!!】

 

泥を童子切に纏わせて、振り上げと同時に泥を上空に滞留させる。

 

【現時点での思い付き───!泥濘の式陣・時雨(しぐれ)!】

 

滞留させた泥から、周囲の敵に向けて雨が降る。その雨はただの雨に非ず、我が認めし敵を焼く酸の雨───!

 

『気をつけて、リッカ!』

 

『まだ終わっていません!上です!』

 

ニキとお母さんの声に刀を上に掲げると、そこに衝突する戦車。魔力を足と腕に通し、強化する。

 

「…っ!凄まじい反応速度と怪力ね…!もう少しで轢き殺せたというのに!アナタ、本当に人間!?」

 

【残念だけどこれでも一応人間……そして、これが貴女の宝具…!】

 

「そう!“愛しき私の鉄戦車(チャリオット・マイ・ラブ)”───人を統べる王権、人を虐げる鋼鉄、人を震わす恐怖を示すこの戦車!いつもとは違う野蛮な使い方だけれど、トクベツに見せてあげる!」

 

【…!接続多重化(コネクト・レイヤード)複製準備(リプロダクション・トリガー)!!】

 

接続数を多重化し、複製を準備する。それと同時に泥を周囲に滞空させ、自動的な防御機構としての面を持たせる。

 

「ほらほら、反撃してみなさいよ!それとも子供達には勝ててサーヴァントには勝てないのかしら!?」

 

【…!】

 

防御しながら相手を観察する。まずは相手の動きを観察すること。ゲームだと定番だけど、現実でやってもあまり意味はない……だけど。どこかに必ず、“癖”はあるから。

 

「女王としては負けよ。えぇ、軍を率いる女王がその軍を殲滅されればそれは負け!」

 

のし掛かってくる彼女の戦車を泥の壁で阻む。

 

「だけど───女としては負けてないはずよ!だから、聞かせなさい!」

 

【…っ】

 

「あのクーちゃんの姿!聖杯に願ったものでしょう───いったい貴女はどんな願いをかけたというの!!」

 

私が、かけた…願い?

 

「どうして、貴女が───彼を振り向かせられたの!!彼を振り向かせた貴女の願いって、一体なんなのよ!?」

 

……あぁ。そっか。…恋心、なんだ。

 

【……私の、願い…】

 

「さぁ、答えてちょうだい!貴女は一体何を願って───」

 

【……私の願いは、重い。…そう、思っていたし、クーも結構キツイって言ってた。…だけど、クーは最後に“最初キツイとは言ったがよくよく考えてみれば俺にとって当たり前だから気にすんな”って言ってた。】

 

筋力へと魔力を回し、彼女の戦車を押し戻す。

 

【私の願いは───】

 

鎧を変形させ顔を完全に露出させる。

 

【───世界に安寧が訪れるまで、味方を無事に守り抜き、誰にも負けない戦士であって欲しい!クーが参加したのならばどのような状況であれ、クーが戦において倒れることは赦さないし、またクーの味方が戦において倒れることも赦さない!即ち“戦闘と守護の両立”!それが私が願ったこと!!】

 

「───え……そんな、こと…?」

 

戦車の勢いが落ちる。刀を交差させ、防御を強固にする。

 

「…参考までに、聞いてもいい?どうして…そんな、ことを?」

 

…敵意が消えたわけじゃない。これは…興味?

 

【…聖杯戦争でのクーを見た。私に似た誰かに使役されてるクーを見た。神父さんに使役されてるクーを見た───サーヴァントだから仕方ないのかもだけど…そのどれもでクーは、あまりにも不憫な目に遭いすぎてた。】

 

自害させられ、生贄に使われ、外道麻婆を食べさせられ。…自分の力を発揮できてないと、私は思った。数日前に模擬戦したときも、明らかに違うことに気づいたし。

 

【あんなに強くて、あんなに優しくて、あんなに素敵なクーなのに───実力を発揮できた試しがなかったから!彼の全力全開を見てみたかったから!】

 

「………」

 

【───“クランの猛犬(クー・フーリン)”!番犬である彼は主人を守るために最高の力を発揮すると私は思った!“守るもの”を主人とするなら、その守るものを守るための力を!守護対象が強ければ守護者はさらに強くならねばならぬ!だから私は強くなるんだ!クーが全力を出せるように!】

 

…以前、クーに言われたことでもあった。“番犬が主人よりも弱くちゃ意味がねぇ。お前さんが強くなれば比例して俺も強くなる。…番犬だからな、俺は。”…私がかけた誓約(ゲッシュ)が機能してないとしても、“クランの猛犬”だけは機能する。私が強くなればなるほど、彼も強くなる。私が守りを担当して、クーが攻めを担当すれば。私がかけた誓約(ゲッシュ)を破ることはない。

 

【英霊が私のもの?とんでもない!】

 

背中部分から魔力を放出して戦車の勢いを相殺する。

 

【“クーはクーのもの”!!私はごく少数を除いて英雄を自分の所有物だなんて思ったことはない!!】

 

勢いを相殺しきり、戦車が停止する。それを見て発動させるは召喚魔法───!

 

(つき)の盟約と星の導きにより、今ここに姿を顕せ!惑星(ほし)の歌声の名のもと、底知れぬ虚無が命じる!】

 

(るな)さん達の術式体系は魔術回路を用いない。だからこそ、私でも召喚魔法が使える。術式起句は香月さん発案。

 

【来たれ!暴風神が化身、風を操りし神獣───“風牛ルドラ”よ───!】

 

魔法陣が展開、回転し牛が現れる───風神ルドラ。インド神話に在る神が一柱。香月さん曰く“ルドラ神は牛と強い関わりがあったからこうなった”のだそうな。事実、ルドラ神の伝承には牝牛プリシュニーとの間にマルト神群という息子達がいるというものがある。関わりは確かに在るけれど…いいや、深く考えるのはやめよう。

 

【今度は───こっちの番!】

 

「…!この私に、受けろってことね…!上等じゃない、やってやるわよ!」

 

【お願い、ルドラ!】

 

「ブルォォォォォッ!!」

 

風を纏う牛(ルドラ)は私の言葉に確かに応え、彼女に向かって雄叫びを上げながら突進していった。

 

「……っつ…!」

 

ザリザリッ、という後退するような音が聞こえる。ルドラが彼女がいた場所の付近にいる。私が放った直後より、私の位置より遠い───恐らく、一瞬ルドラの勢いに押し負けた。だけど───

 

「……わよ」

 

【……】

 

「ケルトの女……嘗めるんじゃないわよ!!」

 

徐々に押し戻されるルドラ。ケルトの女───女王メイヴ。当然、嘗めていた訳じゃない。…これくらい、想定内。

 

【だから───】

 

武器を全てしまい、ルドラに手のひらを向ける。変異泥を集める───魔力ブーストとして、放出する。

 

「……!ぁぁぁぁぁああああ!!」

 

【……!】

 

それを。彼女は押し戻して───私の近くまでルドラを迫らせた。片手だけじゃ足りない、もう片方の手も使ってブーストする。

 

「……の……嘗めんじゃないって……」

 

魔力のせめぎ合うなか、微かに彼女の声が聞こえる。

 

「言ってん……でしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

彼女の近くまで行っていたルドラが一気に私寄りまで押し戻される。……この構図、何処かで見たような…

 

【……】

 

……あぁ、そっか。“スターアライズ”の、最終局面に…似てるんだ。私が破神で、彼女がカービィで。…色的にも、ぴったりだ。…立場は逆だけど。でも、それよりも───

 

【……やっと、本気になってくれた。】

 

魔力ブーストを泥に任せ、あのメガネをかける。ルドラから少し退き、胸の前で両腕をクロスさせる。

 

《Spell card system Standby.》

 

【───スペルカード発動】

 

機械音声と私の発声に応じて発動されるもの。“彗星”に似て非なるもの───!!

 

【───隕石“ブラステッドノヴァ”ァァァァァァァ!!!

 

紅い光を振り撒きながらルドラに衝突する。これが今の私の奥の手の1つ、事実上の“ラストワード”!!!

 

「っ……!!」

【っ……!】

 

確実に押し込んではいる───けれど、彼女も負けてない。サーヴァントとしての力か、女王としての意地か…ううん、多分…“男を愛する女としてのプライド”、だと思う。彼女はそれをもって耐え続けている。

 

【……っ】

 

じゃあ…私は何のために耐えてる?私は何のために戦う?何のために彼女と戦っている?…“彼女の想いに応えるため”?そんなのは、ただの言い訳に過ぎないと思う。”世界を救うため“?…それも、ただの言い訳。第一、確実にしたいなら英雄の皆に頼んでいいはず。私が彼女と戦った、理由は……

 

 

パキッ

 

 

【……!】

 

何かの割れるような音。その音を聞いた刹那、香月さんとの会話がフラッシュバックした。

 

 

『私達の術式で喚び出す召喚獣のほとんどには耐久力…HPがあります。“風牛ルドラ”もそのうちの1体。HPを全損すると強制送還、もしくは魔力に還元されるんです。』

 

『強制送還…』

 

『えぇ。ルドラは魔力精製型術式での召喚なので魔力に還元されるタイプですが…その場から消滅すると考えていいです。召喚主は基本的に召喚獣のHPを見て動くのが基本ですが…言い方はちょっと悪いんですけど、ルドラみたいな魔力精製型術式での召喚獣はただの“物”なんですね。』

 

『…ホント言い方悪いね…でも、生きてるんでしょ?』

 

『いえ…なんというか……本当に単純なAIしかないので生きてると言えるか微妙で……だからといって使い潰すのはかなり抵抗あるんですけど…』

 

『……それで?』

 

『先程も言った通り、HPが0になると召喚獣は消滅します。特に“割れるような音”がしたらそれは消滅寸前、残りHP5%を切った状態です。ルドラの強化種である風牛ルドラならあまりHP全損にはならないと思いますけど…もしも全損させてしまったなら謝罪の気持ちを忘れずに。“ただの魔力”だなんて思わないであげてくださいね───』

 

 

咄嗟にルドラに視線を合わせる。

 

 

風牛ルドラ

HP:0/10000

 

 

───あ………

 

「ブルォォ……」

 

パキン、と。ガラスのようにルドラが砕け散ったと同時に───

 

【「……っ……!!」】

 

強い衝撃と共に。

 

 

わたしの めのまえが まっしろ になった。




(るな)「……あ、そうだ…せっかくですから香月達に関して少しだけ説明しましょうか。」


毛利 香月

緑髪の少女。2004/07/03生まれの(元いた世界での時間経過では)16歳。元いた世界では男性であり、元いた世界以外では基本的に緑髪の少女の姿で行動している(本人曰く“この姿が一番落ち着く”とのこと)。“風”を得意属性として持ち、混じりっ気のない純粋な魔力を用いることが得意。長い時間を元いた世界とは別の世界で過ごしていたため、実年齢は既に250歳を越えている。死に別れの妹がいるが、実際に(元の世界で)会った記憶はない。自身を含めた十二人の中で“姉組(エルダーシスターズ)”と呼ばれているまとまりのリーダー格を務めているだけでなく、全体的なリーダー的なものを務める存在として気丈に振る舞ってはいるが、その反面かなり心が脆い。人目につかないところでは長年の友人や世界を越えてやっと出会えた死に別れの妹に甘えるなどといった行動も見られるとか。また、(本人は嫌がっているが)極度のラッキースケベ体質で転移術式を使用すると何故か高確率で目的地ではない場所に落ち、その付近で知り合いの濡れ場が起こっているという。これは転移術式を使用しなくても起こりうる。何十回、何百回と繰り返された影響で慣れきっており、外部から見つからないようにする位相ずらしの結界と音を遮断する音消しの結界を自らと知り合いと相手を囲むように張り、自らには音消しの結界をもう一枚張って呆れながら就寝する。結界を出ていかないのには理由があり、自らが結界の要石となる術式を用いていること、結界の要石は結界内部になくてはならないこと、例えそんな結界を使い、自らが知り合いの濡れ場を見るということに対する羞恥で悶えようとも知り合いを守りたいという意思が重なって現在の状態になっている。加えて重度のトラブル巻き込まれ体質でもあり、目的地であるかどうかに関わらず、到着地点付近で陰謀だったり修羅場だったりが起こっていることが高確率。男性の家で家政婦のようにいることも多いのだが、その家を女性が訪ねてきた結果“誰よあの女!”と火種になることもしばしば。



毛利 理紅

赤髪の少女。生年月日不明(元いた世界の時間経過で13歳と言うのは自己申告)。元いた世界では既に故人であり、姉(元いた世界では兄)である香月の守護霊となっていた。香月が世界を越えたのに引き摺られるように彼女も世界を越え、元の世界以外でのみ使える生きた肉体を得た。“火”を得意属性として持ち、姉同様混じりっ気のない純粋な魔力を用いることが得意。長い時間を元いた世界とは別の世界で過ごしていたため、実年齢は既に250歳を越えている。先述の通り彼女は本来故人であり、香月の守護霊として在った存在。しかし、その“霊格”と呼ばれるものはかなり高く、亡霊や怨霊、英霊を遥かに上回る“神霊”としての格を持っている。彼女本人はそんなに高い霊格を持つ心当たりがないとのこと。世界を越え、初めて香月と本当の意味で対面できたときは嬉しさのあまり抱きついたという。香月と理紅を含めた十二人の中で“妹組(リトルシスターズ)”と呼ばれているまとまりのリーダー格を務めている。また、元男性である香月が稀に出す異常な可愛らしさに理性が崩壊し襲いかけることがしばしば。襲いかけてギリギリのところでブレーキがかかり、正気に戻るのがいつものパターン。ブレーキをかけきれない場合はそのまま襲ってしまうが、正気に戻ったあと香月とその恋人、さらに自らの恋人に平謝りする光景が見られる。実の姉(兄)を襲っているわけだが、シスコン、ブラコンではなく、ただただ“可愛いもの”が好きなだけ。香月のラッキースケベ体質、トラブル巻き込まれ体質に関しては呆れつつもどうすることもできないので困っている。なお、ラッキースケベ体質はともかくトラブル巻き込まれ体質は姉と同じであり、男性の家に何らかの目的でいようものなら高確率で修羅場が発生する。正直恋愛に関しては恋人一筋なので修羅場の発生には困っている。



香月達の性質

実は香月達の性質に魔神柱達と非常に酷似しているものがある。それが、“いくついるのが正常でそれを保とうとする”というものだ。香月達は“十二人いることが正常”であり、正常な状態でないならば“正常な状態に戻そうとする”。その修正作用が機能して香月は心臓を失い、頭を失い、致死量の血を喪ってもなお生き続けていた。つまりは“理紅”という存在が“香月”の延命装置にもなっていたのだ。そしてそれは逆も同じ。“理紅”が瀕死になった場合、“香月”が生きてさえいれば“理紅”は生存する。現在特異点にいない十人に関しても全く同じことが言える。誰かが生き続ける限り致死の傷を負ったとしても生き続ける無限蘇生機構。奇しくも、人間である十二人の旅人達が七十二柱の魔神と同じような性質を持っている。


(るな)「…この辺りでしょうか。」

裁「そういえば香月さんって突然女の子になったとき驚かなかったのかな…?」

(るな)「多少困惑したもののその日の内には受け入れていたそうな…」

裁「な、なるほど……ところで(るな)さん」

(るな)「…?」

裁「…これ。香月さんと理紅さんの全貌じゃ…ない、ですよね。」

(るな)「………えぇ、まぁ。」


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第280話 陰陽対立

(るな)「……」

裁「……(るな)さん?何か考え事ですか?」

(るな)「いえ……あぁ、そうだ。」

裁「…?」

(るな)「少し…昔話をしましょうか。」

裁「え…」

(るな)「…ある時、1人の人間がいました。その人間は、齢10くらいの頃、とある課題において二次創作のようなものを作りました。…その二次創作の材料の1つに、その人間は“自分自身”を用いたのです。」

裁「…自分…自身…?」

(るな)「えぇ……それが。私の……いいえ、“私達”の…始まり(ルーツ)です。」


「さて…やりあおうぜ、なぁ?」

 

「…ふん。そうだな。この場所に“クー・フーリン”は2人も要らねぇ。」

 

黒と白。陰と陽。対極の色を持つクー・フーリンが向かい合う。

 

「「……っ!」」

 

激突。クー・フーリンの象徴とも言えるような朱の呪槍は既に双方手元になく、その他の宝具を用いての戦闘となっている。その最たる物が、“クリード・コインヘン”。同じ読み名を持つ宝具であるが、その風貌は違うもの。狂犬クー・フーリンの“噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)”は赤黒く、底知れぬ闇を思わせる黒色の粒子を放つ鎧。対して輝犬クー・フーリンの“打ち砕く波濤の獣(クリード・コインヘン)”は青黒く、広がる大海を思わせる藍色の粒子を放つ鎧。

 

「セラァッ!」

 

「チッ」

 

刺々しいフォルムの狂犬。波打つようなフォルムの輝犬。読み名と起源以外同じものはないが、それは確かに“同じもの”。

 

「めんどくせぇな!」

 

「それはこちらも同じことだな。」

 

「来い、“縫い継ぐ不壊の槍(ドゥ・バッハ)”!」

 

輝犬の声に槍が現れる。ドゥ・バッハ、またの名を魔槍ドゥヴシェフ。魔改造によって“時を縫い時を継ぐ”力を得たその魔槍は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という凶悪な槍へと変貌した。

 

A(アンサズ)K(カノ)…」

 

小さく呟いた後にドゥ・バッハを投擲、狂犬と大地を縫い付ける。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める杜───」

 

現れるは細かく編み込まれた人形の檻。ドルイド達の人身御供の儀式用具。縫い留められて動くことが出来ない狂犬を地面の一部ごと自らの体に納める。

 

「…小細工を。無駄に器用なのが俺のよく分からんところだな。」

 

「ほざけ、形が違っただけでテメェも同じことが出来るだろうがよ───!」

 

「今の俺には無理だがな。狂王として願われた部分が強く出すぎている。」

 

「言ってろ───そら、倒壊するは焼き付くす炎の檻(ウィッカーマン)!火のルーン全開、全身火傷味わいやがれ!!」

 

火を扱うルーン全てが起動し、巨人諸とも狂犬を火に包む。周囲は瞬時に摂氏90℃まで上昇し、内部に捕らえた狂犬を焼き尽く───

 

「───!!」

 

───さない。先程述べたとおり、“ウィッカーマン”とは人身御供に使われていたもの。その檻には“贄”が納められる。此度ウィッカーマンに納められたのは狂犬。しかし、その狂犬は狂王たれと望まれたもの。それを贄とするには、薪とするには別のものが必要だ。───それが、足りなかっただけのこと。

 

「うざってぇな!」

 

「───熱いんだよ」

 

狂犬は焼かれながらも暴れ、自らを囲う檻を引き裂き───

 

「シッ───!」

 

再起不能なほどにズタズタにし、人形としてのカタチすらも消失させる───!

 

「“高貴なる輝きの剣(クルージーン・カサド・ヒャン)”!」

 

「…チッ」

 

狂犬の爪が輝犬の出現させた輝く剣に阻まれる。

 

「魔術師の真似事の次は才能のねぇ剣捌きか。うざってぇ。」

 

「ハッ、フェルグスの剣は剣技じゃねぇだろうが!」

 

「カラドボルグを持つ者には敗北しなければならない───誓約(ゲッシュ)に頼ろうって言うなら諦めるんだな。」

 

「そんなもんあてにするかよ…!てめぇはここで必ず殺す!」

 

右手を背中に回し、新たに現れた剣を抜く。

 

「“空想擲つ投げ矢(デル・フリス)”───食らってみやがれ、見様見真似───!」

 

その輝犬の構えは投擲。持っている剣は───いや、あれは…剣、なのか?

 

「“シングルシュート”───“偽・螺旋剣(カラドボルグII)”!!」

 

否、それは“矢”だ。原典たる“カラドボルグ”を改造したもの。そしてそれは、エミヤの使う改造宝具。

 

「そら、まだまだあるぜ!!」

 

虚空から偽・螺旋剣(カラドボルグII)を次々に出現させ、狂犬に投げつける輝犬。その輝犬の背後に迫る黒い尾に、輝犬は気がついていなかった。

 

「ぉぉぉぉぉ!!」

 

「っ!のわっ!?」

 

黒い尾に巻き付かれ、おおきく振りかぶってから地面に強く叩きつけられる輝犬。即座に尾を切り落とし、体勢を整える。

 

「ってぇな…」

 

悪態をつきながら輝犬は狂犬を見る。そこには身体のどこも欠損していない狂犬の姿があった。

 

「ケッ、メイヴのヤツ、面倒に作りやがって!何度致命傷負わせたか分からねぇっつの!」

 

「……ねぇ」

 

「あん?」

 

狂犬の呟きに輝犬が反応する。

 

「そこまで使えるならバーサーカーとしての宝具もあるはずだ。…なんで使わねぇ。」

 

「───ハッ。決まってんだろが」

 

加速。即座に───激突。

 

「テメェなんぞに、使う必要がねぇからだよ!」

 

「ほざけ。出し惜しみをしたまま、死んでいけ───」

 

狂犬がそう言った、直後。

 

 

 

ドゴォォォン!!

 

 

 

周囲に爆音が響き、閃光が周囲を照らした。輝犬と狂犬が同時にその音の方向、光の源を向く。なぜなら、あそこは───

 

 

「───嬢ちゃん!!」

「───メイヴ!!」

 

 

自らのマスターが、戦っていた地だからだ。




……う……

(るな)「…気がついた、お母さん?」

(るな)。私…

(るな)「かなりの時間止まってたよ。…無理はしないでね、お母さん。」

…うん。(るな)達がいるから、私は……

(るな)「……」

……

(るな)「……お母さん?」

……すぅ……

(るな)「……眠りに落ちたのか」

裁「……大丈夫なんですか?」

(るな)「……えぇ。命に別状はありません。」

裁「……マスター…今、何を言おうとしてたんでしょう…」

(るな)「さぁ。次に目覚めたときにでも聞いてみましょうか。…それはそれとして」

裁「…?」

(るな)「…私の管轄する世界で何か起こってるようですね…どうしたものか」


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第281話 異変

(るな)「…短めではありますが話の続きといきましょうか。…その第一に創られた世界は、長くは続きませんでした。」

裁「続かなかったんですか…?」

(るな)「えぇ…骨組みの弱さ、とでも言いましょうか。それ故に第一の世界は長く続かず、早い段階で崩壊の道を辿ったのです。」

裁「……崩壊…」

(るな)「その後、作られたのは第二の世界。時期は……その人間が齢13の頃ですか。材料に使われたのは、“自身の欠片”。」

裁「欠片?」

(るな)「自分そのものではなく、自分の一部を埋め込んだのですよ。…それが、第二の世界の始まりでした。」


ドォォォン!

 

 

爆音と、閃光。それは、遠く離れているはずの私達の場所まで届いていた。それに対する反応はまさしく異口同音。

 

「あの場所は……マスター…!」

「マスター…!」

「リッカ殿…!」

「リッカさん!」

「…!嘘でしょ…リッカ!」

 

あの場所は、リッカさんの戦っていた場所。その場所で爆発が起こったということは───

 

『……ユナさん』

 

……違う。まずやらないといけないのはリッカさんが無事かどうかの確認。それを伝えるためにユナさんに思念を送る。

 

『今調べてるわ。…いた!五体満足で生きてるわよ!』

 

その言葉にその場にいた全員が安堵でため息をつく。

 

「とはいえ、何が起こったか分からんな。…いち早く回収したいところではあるが……」

 

「なら、あたしが───」

 

七海さんがそういった直後、私の索敵に反応があった。

 

「魔力反応出現───ちょっと待って、数が多い…!?」

 

「今、()()()()()()()よお姉ちゃん!」

 

理紅が言ったいきなり現れた魔力反応。その言葉にその場にいた全員の表情が強張る。

 

「普通に考えてこんなにいるはずない!100万の魔力反応が唐突に現れるなんて───」

 

あり得ない。…そう、言おうとしたけど。

 

「……」

 

心当たりがあった。いくつかあるけど……この増殖速度は…

 

「……理紅」

 

「お姉ちゃん?」

 

「禁じ手の発動準備、少しだけ任せてもいい?」

 

私の言葉に彼女は頷いてくれた。それを見て、私は立ち上がってウインドウを開く。オブジェクト化したのは───2本のダガー。

 

「…“サリー”さん。貴女の力、少しお借りします」

 

魔力反応は今も増え続けている。呟いたあと、私は壁に空いている大穴から───そのまま、身を投げる。

 

「香月!?」

 

ルーパスさんの声が聞こえる。当然だけど、自殺するつもりなんかじゃない。地面に近づくごとに私の視界に映る世界は速度を落としていく───

 

「───“超加速”!!」

 

思考加速状態からサリーさんのスキルである“超加速”を発動させる。敏捷値(AGI)1.5倍のこのスキルは私の行動速度、思考速度を1.5倍にする。接地する直前に自らの能力である“飛来”を用いて現れていた魔力反応の首元に一閃。

 

「──!」

 

崩れたのを確認して次の目標に襲いかかる。今度はダガーを交差させて敵の首元に近づけ、引き裂くかのように切り落とす。

 

「この感じ───」

 

敵を斬ったときのこの手応え。…この、魔力。覚えがある。その手応えは一度置いていくとして、超加速が切れるまで周囲の敵を斬り倒す───その数、1,200。それくらい斬って、やっと超加速が終わる。

 

 

ドドドドドドッ

 

 

それと同時に大量の武器が敵を潰していく。恐らくはギルガメッシュさんのだ。とりあえず、状況は理解できたので理紅達のところに戻ることにする。

 

「戻りました」

 

「やれやれ、戻ったか。…ぬ?」

 

ギルガメッシュさんが疑問気な声をあげる。…それはそうだ、だって───

 

「なんだ、これは───減るどころか増えているだと!?」

 

武器の大量放出、私の超加速狩り……それを使っても減るどころか増えている魔力反応。

 

「……お姉ちゃん。“死霊魔術(ネクロマンシー)”、だよね?」

 

「正解。……」

 

理紅の言葉に頷いてから遠くを見つめる。

 

「……いるんでしょう。“ルシャ・ネクリス・ラプラーシア”」

 

そう呟いたとき、私の眼が藍色のフーデッドケープを着た小柄な人型を捉えた。そしてそれと同時に、見えている口許がニヤリと笑ったのが見えた。…間違いない、あれがルシャだ。姿が変わっても明確に分かる。私自身、死霊魔術は嫌いじゃないけど……でも、コイツの死霊魔術だけは嫌い。

 

「概念的な死であればどんなものですら利用する外道死霊術師(バッドネクロマンサー)。利用するためなら例えそれが自分のものだろうと躊躇なく殺す。利用すると決めたなら潰れるまで使い潰す───」

 

魔力反応。増えているのは間違いない。だけど、そのうちのいくつかは今さっき私とギルガメッシュさんが倒したものを復活させたもの。

 

「…香月。聞かせよ、あれはなんだ。貴様は知っているのだろう?」

 

「……死霊魔術。とある知り合いの死霊魔術ですよ。…知り合いといっても、敵ですけどね」

 

そう吐き捨てるように告げてから理紅の方を見る。

 

「まだしばらくかかるよ、お姉ちゃん。」

 

「……そう。…皆さんに、お願いがあります」

 

そう言うと、その場にいた全員が私の方を向いた。

 

「時間を、稼いでほしいんです。…私達の禁じ手の発動準備が終わるまで。」

 

「…ふむ?“死霊共を一掃しろ”、ではないのか?」

 

「えぇ…この術式は無限に生き返る死霊の軍勢。“我等死の軍勢、悪夢の如し(ナイトメア・デスマーチ)”…それが、この術式の名です。この術式を止めるには、魔力の元を断つか魔力そのものを殺すしかありません。」

 

「…一掃するだけではダメか。」

 

「相手が自分の損害を考えない、使えなくなったらゴミのように捨てるような奴なので一掃するだけでは効果がありません。」

 

「……そうか。ならば破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)はどうだ?」

 

ルールブレイカー…か。

 

「無理ですね。あれは宝具クラス、ルールブレイカーで無効化できるようなものじゃありません。さらに言えば別の複数の場所から魔力を繋いで術式を構築してる上に奴の術式展開速度が早いので1度無効化しただけなら即座に張り直されます。」

 

「ふん、面倒だな。…分かった、時間は稼いでやろう。」

 

それを聞いて私はギルガメッシュさんにお辞儀をする。ふとルシャの方を向くと再度奴はニヤリと笑ってフードを取った。

 

「…!」

 

緑色の髪。小柄な少女。赤色の、眼───

 

 

ギリィッ…!

 

 

「…!?お、お姉ちゃん…?」

 

驚いたような理紅の声。

 

「い、今の歯軋り…お姉ちゃんの…?」

 

歯軋り?…あぁ。無意識にしてたみたい……

 

「……理紅、早めに組み上げるよ」

 

「う、うん…!」

 

『たす……けて……』

 

『うぅ……気持ち、悪い……』

 

聞き覚えのある、2つの声。……彼女達が使()()()()()()ことに、悲しくなると同時に怒りを覚える。

 

「……待ってて。絶対、助けるから。」

 

そう呟いてから私は高速組み立てに入った。戦いを表してなのか、周囲には“longing”が流れている───




ルシャ・ネクリス・ラプラーシア(Rusha Neclis Laplacia)

香月が毛嫌いしている外道死霊術師(バッドネクロマンサー)。現在は…何処かで見たような緑色の髪の小柄な少女の姿をしている。死霊大量召喚による軍勢戦を主に使い、死霊達を道具としてしか見ていない。その死霊がなんであろうと利用し、特に相手に関係する死霊は嬉々として用いる超の付くドS(というか鬼畜)。眠る霊達を無理矢理起こす彼女の死霊魔術を嫌うものは多く、香月はその最たる者。なぜなら通常の死霊魔術は術師が望み、霊が応えるものであるからだ。彼女の意思以外が介入しない利己的な死霊魔術を嫌うのも無理はないと思われる。


そして、香月が彼女を毛嫌いしている原因だが。“相手に関係する死霊を嬉々として使う”点にある。友人が傷つくことを、友人が自分の意思と関係なく利用されることを嫌う香月は彼女の性格と真っ向から反発する。“生物”を“物”として扱うことに抵抗がないどころか、嬉々として物のように扱う術者であるため、香月との性格の相性はすこぶる悪い。


その正体は怨霊に近い霊魂。死霊魔術師の力を持った魂。自らに合う“器”を見つけ、使い潰すことで悦楽を得る快楽主義者。幾度となく殺そうとも蘇る死霊術の不死魂(ネクロマンス・アンデッドソウル)。既に本来の肉体はなく、今回現した姿ですらただの“器”にすぎない。“ルシャ・ネクリス・ラプラーシア”とは魂の名にすぎず、今回の肉体は“死霊魔術師”という名の別個人でしかないのだ。器に罪はないが、魂が行ったことを器の罪だとされることがかなり多い。


(るな)「……あぁ、この人ですか」

裁「知ってる人ですか?」

(るな)「いえ…ですが、香月さんなら知ってるでしょう」

裁「…?」

(るな)「香月さんは()()()()()()()()()と友人でしたから。」

裁「器…?」

(るな)「えぇ…彼女、“死霊魔術師”さんと。」

裁「えっ…!?」

(るな)「……友人だったといっても、香月さんがいる世界線での話です。お母さんは知り合いでもなんでもありません。…深く話しすぎるとどこかから怒られそうですから、あまり言いませんが。」

裁「……その、どうして……知り合いだったんですか?」

(るな)「……香月さんはお母さんとよく似ています。…でも、決定的な違いがあります。」

裁「それは…?」

(るな)「行動力…自分の望みを叶える力。」

裁「行動力……」

(るな)「えぇ。それと同時に、彼女はお母さん以上に自分の望みを叶えるための環境に恵まれた。…だから、お母さんが未だに出来ていないことすら成せてしまっている。」

裁「環…境…」

(るな)「そして…それゆえに“器”となった彼女のような友人がいる。」

裁「……“器”……さっきも言ってましたけど…どういう?」

(るな)「姿は確かに彼女。…でも、その“中身”は違うんです。中身に居る者こそ、“ルシャ・ネクリス・ラプラーシア”。香月さんが毛嫌いする、“外道死霊魔術師(バッドネクロマンサー)”。香月さんはその性格上、友人の霊が望まないのに無理矢理動かされていることが嫌いなんです。」

裁「望まない…って…なんで分かるんですか?」

(るな)「…簡単なことです。香月さん自身も死霊魔術(ネクロマンシー)を使え、霊と対話することができるからです。…“自分の意思を以て協力している”のならまだしも、“自分の意思を押し込められて協力させられている”のは我慢ができないのでしょう。…“死霊は死霊であり、物ではない。1つの命を終え、安らかに眠る存在”。それを強制的に叩き起こし、物のように利用するルシャが嫌いなんです。」

裁「…でも、強制的に起こすのはルシャさん…でしたっけ、その人以外のも変わらないんじゃ…」

(るな)「それは……まぁ、そうですけども。要は起こしたあとの扱いの差ですよ。対話して協力してもらうか、なにも言わさずに協力させるか。それだけでも霊の忠誠だったり協力的かどうかの姿勢って変わってきます。外道死霊魔術師はルシャ以外にもいますが、その中でも一番性格が捻れてるのはルシャらしいです。」

裁「…他の外道死霊魔術師ってどんな…?」

(るな)「さぁ。ただ、外道とはいっても術者によって性格の悪さは違います。…と、いうか…正直香月さんも外道死霊魔術(バッドネクロマンシー)を使いますからね。…そもそも“外道死霊魔術(バッドネクロマンシー)”、“外道死霊魔術師(バッドネクロマンサー)”とは、香月さんも言っていた通りで、“概念的な死であればどんなものですら利用”できる死霊魔術のことを“外道死霊魔術”といいます。意味としては“本来の死霊魔術の領域を越えて機能する死霊魔術”、というところですか。」

裁「じゃあ、外道死霊魔術師(バッドネクロマンサー)=悪ってわけじゃないんですね?」

(るな)「そうなりますね。悪人の場合は“混沌死霊魔術師(カオスネクロマンサー)”…でしたかね。忘れましたけど。それと、ルシャの場合、“器”を利用するので器が持っていた能力だと思われることが多いです。…今回の“器”は“死霊魔術師”さんですからね。…でも実態は違う、ルシャが使うのは器の能力じゃなくて自分の能力がほとんどです。…これも、香月さんが嫌いな点なのでしょうね。“器に罪を被せようとする”、というところですか。」

裁「……」



※香月からの補足

通常の死霊魔術師(ネクロマンサー)は本道、つまり“死霊”のみを扱うため区別としては“本道死霊魔術師(グッドネクロマンサー)”と呼ばれます。
対して説明にもあったような外道死霊魔術を扱う術者は“外道死霊魔術師(バッドネクロマンサー)”と呼ばれます。実は民間からは外道死霊魔術師の方が呼ばれる割合が多いんです。死霊魔術の応用みたいなもので、残留思念での探索なんかができるからですね。
それで、(るな)さんが言った“混沌死霊魔術師(カオスネクロマンサー)”なんですが…これ、外道死霊魔術と本道死霊魔術のどちらもを極めた人のことを言います。該当者は私と理紅、それから姿を現していない10人…それと、あまり認めたくはないですがルシャも該当します。
では、犯罪者…もとい、ルシャみたいな“悪”派の死霊魔術師はなんと言われるかというと…“反性死霊魔術師(アンチネクロマンサー)”、または“犯罪派死霊魔術師(フェロニーネクロマンサー)”なんですね。別に犯罪を犯したとかではなく、犯罪者、もしくは犯罪者予備軍を纏めてそう言います。死霊魔術師としての明確な法律があるわけじゃないんですけど…まぁ、普通に殺人とかしたらそれは普通に犯罪なわけで。ただまぁ、基本的に“ただの悪”だったり“犯罪者予備軍”は“反性死霊魔術師”の方で呼ばれます。“犯罪派死霊魔術師”の方はほんとに重犯罪者向けって感じですか。悪だから、予備軍だからって差別するのは禁じられてたりしますけど。禁じてもそういう差別がなくならないのは何処の世界でも同じなのでしょうね。


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第282話 決着せよ、女の戦い

(るな)「…ルシャのことはともかく、話を続けましょう。第二の世界はそれなりに長く続き…突然、崩壊しました。」

裁「と、突然…?」

(るな)「えぇ。本当に突然、本当に唐突に…その世界は崩壊を起こしたのです。」

裁「原因は…分かっているんですか?」

(るな)「……まぁ。一応。ただ、その時点で対応できる事柄ではありませんでした。故に次の…第三の世界が創られました。」

裁「今度は…何が使われたんですか?」

(るな)「“望み”…もっといえば、“理想”。さらに、追加として“管理者”が置かれました。…この“管理者”が、私達“創詠”の始まり…いいえ、()()()()()()()()()()()()()()。第三の世界において、“創詠”の起源が生まれたんです」


「……ぁ」

 

意識が醒める。どのくらい、気を失っていたのだろう。

 

「……ったた」

 

痛みは走るけど、力は入る。傷は…それなりには負っているものの動く分には問題ないみたい。腕に力をいれてそのまま立ち上がる。

 

「……っつぅ」

 

再度痛みが走る。エミヤさんやアルみたいに解析できるわけじゃないけど、流石に完全に無事っていうわけじゃないみたい。手先の感覚、足先の感覚なんかはあるから四肢欠損は起こってない…と思う。そんなことを思いながら目を開ける。

 

「……うわぁ」

 

視界に飛び込んできたのは砂が剥げた大地。マリーの固有結界、第二層…流石に世界を砕くまではいかなかったけど、砂を消し飛ばして本来の地表を露出させるには十分の威力だったみたい。…というか、マリーの固有結界第二層って地表の上に砂が積もったものだったんだね。

 

「……!」

 

そんな時に、見えたもの。砂に埋もれていた地表、その地表から確かに見えた小さな“若芽色”。すぐに砂嵐で見えなくなったけど、あれは───

 

「───()()…だよね?」

 

新芽。つまり…この、砂の大地で───植物が、芽吹き始めてた。これが、何を意味するのかは…今の私には、分からない。とりあえず……

 

「……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

今は、彼女の方が優先。

 

「……流石、サーヴァント……私の全力でもびくともしないなんて…」

 

「……嘘よ。貴女はまだ、全力を出していない……違う?」

 

「……」

 

“スペルカード”として見れば、隕石“ブラステッドノヴァ”は私の全力。でも、その他を含めれば……

 

「出し惜しむならそれで良いわよ。…その出し惜しんだ事を後悔しながら死んでいくが良いわ。」

 

そう言って、彼女は私に向かって踏み込む。

 

「……出し惜しみ、か。」

 

変異泥を再度纏いながら考える。手の内は明かさない方がいい。…だけど。

 

【ふー……“射殺す百頭(ナインライブズ)”───我流】

 

深く深呼吸してから、片足を半歩引く。

 

【“致命穿つ九星(スターズ・ナインライブズ)”。二黒()、並びに四緑()

 

両腕を引き、真っ直ぐと彼女を見つめる。

 

【“徹砕き(てつくだき)・双槍”】

 

私の拳と彼女の拳が激突した瞬間───バキッ、と。嫌な音がした。───両肩、破壊。

 

「───!はぁぁ!!」

 

【──!】

 

肩が砕けたのも気にせずに固め技───即座に抜けて次の技を用意する。

 

六白()、並びに八白()

 

「ぜりゃぁぁぁ!!」

 

彼女の蹴り上げに対し、私は足を少しだけ上に上げる。

 

【“貫砕き(ぬきくだき)・双鎚”】

 

私が足を彼女の蹴りの足にぶつけると、パキパキッ、という人体からしてはいけないような音がした。───両脚、粉砕。

 

「……っ!負けられる、ものですか……!」

 

九紫()───ごめん、クー。流石に頭は狙わせてもらう】

 

髪を狙わないでほしいとのクーからの依頼。私だって分かる、だってニキからよく言われてたし。…それでも、頭を狙うということは髪を狙うに近い───ううん、今はどうでもいい。

 

【“波徹し(なみとおし)・炸裂”】

 

浸透勁の要領で脳そのものに対して衝撃を徹す。徹した後さらにもう一度徹して先の衝撃に追加で起爆するかのようにさらに大きい衝撃にする。───脳震盪、発生。

 

「……!」

 

足も肩も砕け、頭を揺らされてなお動く───まだ全部は出しきれてないけど、既に半分は過ぎてる。言葉通り全部を出さないとこの人は倒せない───!

 

【───一白()!“クエイクイマージュ”!!】

 

クエイクイマージュ、地震の起こる原因を元にして私が作った技。───腹部、破裂。

 

「が、はっ…まだ、まだよ…」

 

三碧()!“ガンド”!】

 

「……っ!」

 

私の手を掴もうとしたところをあらかじめ準備しておいたガンドで止める。───霊基、麻痺。

 

七赤()!香月さん、貴女の指導に私の技が敵いますように───!!】

 

そう叫びながら思い返すのは3日前のこと。

 

 

 

(るな)さん。…お忙しいところ、すみません。お願いがあります。」

 

「…ほぇ?私に…ですか?」

 

クーとスカサハさんとの模擬戦が終わった後、私は(るな)さん…つまりアルに会いに行った。大量のウインドウを開いてたから何か作業してたんだと思うけど…彼女は全部消して私の方を向いた。

 

「…私が何か力になれるか分かりませんけど、とりあえず聞きましょう。」

 

「……教えてください」

 

「…?」

 

「貴女の剣を…貴女の使う流派、“昼夜天文流”を。私に、教えてください。」

 

私がそう告げると、(るな)さんは驚いた表情になった。

 

「……お願いします。」

 

「……」

 

頭を下げた私に(るな)さんは少し考えて…そして、静かに首を横に振った。

 

「ごめんなさい、できません。」

 

「……そう、ですか。」

 

その言葉を聞いて、私は車椅子を反転させる。ただのダメもとだったから断られたことに不満はない。そのまま車椅子を進める───

 

「───お待ちください、リッカさん」

 

───それなのに、(るな)さんに呼び止められた。

 

「…今、私は確かに流派を教えるのを拒みました。…ですが、私の使っている流派を学ぶなとは言っていませんよ。」

 

「……え?」

 

その言葉に(るな)さんの方に振り向く。

 

「……ちょっと、移動しましょうか。車椅子は私が押しますよ。」

 

「へ?あ、はい……」

 

私が車輪から手を離すと、(るな)さんは複雑そうな表情をした。

 

「……あなたは」

 

「…?」

 

「あなたは…私が車椅子ごと突き落としたり、目的地でもなんでもない場所に連れていったりするかもとは考えないんですね」

 

「え?だって、(るな)さんはそんなことしない人でしょう?」

 

私がそう言うと(るな)さんは目をパチクリさせた。

 

「……どうしてそう思うんですか?」

 

「……勘?」

 

「……嬉しく思っていいのか悪いのか。分かりませんね。」

 

そう言って車椅子を静かに押してくれた。

 

「……私は…」

 

「…?」

 

「彼女達にとって、最低の親ですよ…本当に。」

 

「え…?」

 

その言葉に(るな)さんの方を振り向く。その表情は、何処か悔しそうで、悲しそうで。でもやっぱり、辛そうで───“そんなことない”、なんて。言うことができなくなった。

 

「……どうして、そう思うんですか?」

 

「……少し、長くなりますが……いいですか?」

 

私が頷くと(るな)さんはぽつりぽつりと話し始めた。…自分はとある世界の最高管理者であること。その世界にはとある敵が出現すること。香月さん達はその世界から分岐した世界の人間で、その敵との戦いに巻き込んでいること。香月さん達がその敵の親玉を倒したにも関わらず、その敵の残党───(るな)さん曰く“残骸”───は湧き続け、戦いを強いていること。そして……私的にはこれが一番信じられなかったのだけど、(るな)さんは本来ならば、()()()()()()()()()()()()こと。

 

「……ざっくりですが、こんな感じです。世界の状態を管理・維持するシステムに様々なものを追加し、彼女達を戦わせ続けているのは私です。恨まれこそすれ、感謝される理由なんて。」

 

「……1つ、聞いてもいいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「“既に何の力も持っていない”、って…どういうことですか?だって、(るな)さんは……」

 

あり得ない、何も力を持ってないなんて。(るな)さんはスペルカードや固有結界、その他様々なものを使えていたはずだから。

 

「……あぁ…その話はしたことありませんでしたね。私は…“創詠(つくよみ) (るな)”という存在は、2人いるんです。」

 

「…!」

 

「世界の最高管理者である“創詠 月()”。世界の最高調整者である“創詠 月(彼女)”。似ているように見えて違います。私が外側から世界を管理し、彼女は内側から世界を調整する。…それが、私と彼女の役割。」

 

「……」

 

「そして…力を何も持っていないのは彼女の方。とはいえ、彼女も元々私と同じ力を持っていました。その彼女が力を失った原因は…“創造(クリエイション)”。」

 

「創造……」

 

確か、アル達が持ってる……“あらゆるものを想像通りに作り出す神の力”。

 

「単に“創造”と言ってもいくつかの種類があります。いくつかの例を挙げますと…人間や獣人などを創り出す“存在創造”───ユニット・クリエイション。武器、防具などの道具系統を創り出す“物質創造”───オブジェクト・クリエイション。世界そのものを創り出す“世界創造”───ワールド・クリエイション。また、新たな理を構築する“理論創造”───ロジック・クリエイション。これら創造能力の中で、彼女が力を失う原因となったのは私達創造師の中で基本にして最も重要な創造能力。“存在創造”です。」

 

「…存在」

 

「彼女の存在創造は……いいえ、私の存在創造もですか。私と彼女の存在創造は、異質だったんです。思えば、その異質さはお母さんに似たのかもしれませんけど。」

 

「…どんな…創造だったんですか?」

 

…なんとなく、聞くのは怖かったけど。震えそうな声を抑えながら、聞いてみる。

 

「───“カッティング・クリエイション”」

 

……カット?

 

「裁断創造……ですか?」

 

「確かに言葉的には似てますが…違います。…“分割創造”、です」

 

分割……?

 

「どんな…創造なんですか?その…話したくなければいいんですけども…」

 

「…分割創造は、代償が必要なんです。」

 

「代償…」

 

「えぇ…分割創造は創造を行う際───()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………えっ?」

 

自らの魂を……引き裂く?

 

「具体的に言えば、自分を構成する一部を代償に創造を行わないといけないのです。自らの魂を引き裂き、その魂の形を整え、目的のものを創り出す。そんな創造です。」

 

「……」

 

「“世界を護るために共に戦う仲間を”。その一心で使い続けた彼女は…(パワー)速度(スピード)術式(スペル)防御(ガード)といった…戦闘において必要な総ての力を半永久的に喪失したのです。…限定された状況下でのみ、元の力を取り戻すことはできますが、それにすら代償が付きまとう。今の彼女は、どこにでもいるただの少女でしかないのですよ。」

 

「じゃあ…ここにいるあなたは…?」

 

「今までの話を聞いていればなんとなく気がついているかもしれませんが…私は世界の外側から管理していた方の“創詠(つくよみ) (るな)”を参照───正確には複製してここに顕現しているんです。…他の人格達も、また。自らの管理する世界の外側から管理と称し世界を見守っていた彼女達を複製し、無銘の身体に魂のみを入れることで情報量を小さくし、この世界に送り込まれています。…まぁ、それでも結局情報量が多すぎて、無銘の記憶喪失と私達の人格凍結を引き起こしてしまったわけですが。」

 

そう告げたと同時に、(るな)さんがとあるテントの前で足を止める。

 

「……」

 

ウインドウを開き、操作する。(るな)さんの手元に黒い銃が現れる───

 

「……“グンツ GA9”?」

 

「…詳しいんですね。そうですよ、グンツ GA9。…まぁ、ちょっと改造してますが。」

 

そう言って(るな)さんは銃口を上空に向け、引き金を引いた。

 

「ピギィッ!!」

 

「…!?」

 

銃口の、先。何もいなかったはずなのに、断末魔。それに…今、銃声が一切しなかった。いくら高性能なサイレンサーでも、この距離なら音が聞こえるはずなのに…!

 

「……残骸が狙ってたみたいです」

 

「今、音…しませんでした、よね…?」

 

「…えぇ。特製のサイレンサーを使ってるので完全無音で撃てるんですよ。」

 

そう言いながら(るな)さんは(グンツ GA9)を消し、テントの垂れ幕を上げて固定した。

 

「…行きましょうか。」

 

そう言って(るな)さんは私の後ろに回り、車椅子を押す。テントの中に入った途端───その違和感に気がつく。

 

「なんか……変ですね。…うまく言えませんが、別の場所にいきなり放り込まれたような……」

 

「……分かるんですね。…いや、魔力持ちなら分かって当然なのかな」

 

その言葉に(るな)さんの顔を見る。それと同時に、どこかから爆発音が聞こえた。

 

「結界が張ってある時点で気がついていましたが、模擬戦をしてるようですね。」

 

「…あぁ、これ結界なんだっけ…」

 

そうだったと思いながら先を見る。…テントの中とは思えないほど広い。…これ、もしかして空間を広げてるのかな。ハリー・ポッターに出てくる魔法のテントみたいに。…出来るのかな、(るな)さんなら。

 

「…こっちですね」

 

(るな)さんがそう言ったと同時に車椅子を勢いよく引く。慌てて車椅子にしがみつくと同時に、爆発音。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

悲鳴と同時に、こちらに赤い髪の少女───理紅さんが吹き飛ばされてきていた。

 

「あ、危な───」

 

「───もうっ!爆発強すぎ、吹き飛ばし過ぎだよお姉ちゃん!」

 

空中で完全静止し、吹き飛ばされてきた方向に飛ぶ彼女。その光景に、私は開いた口がふさがらなかった。

 

「…理紅さん達って、人間なんですか?」

 

「人間ですよ。異能者である以外は、普通の人間と変わりません。」

 

「…」

 

剣戟の音が響く…というか、こちらに近づいてきている。

 

「…近いですね。少しすればこちらまで来るでしょう。」

 

(るな)さんがそう言った瞬間、再度理紅さんが吹き飛ばされてきた。空中で姿勢制御、それから───構えた。そこに突っ込む、1つの影。

 

「「っ!!」」

 

緑色の髪の少女───香月さんだ。香月さんは上段からシミターを振り下ろし、理紅さんはそれを片手剣で受ける。

 

「“スネーク”」

 

香月さんがそう呟いたと同時にシミターの刀身が蛇のようにしなる。…鞭、というよりは蛇だった。その蛇は、意志を持つかのように理紅さんに巻き付いて───

 

「───捕まえた」

 

いつの間にか理紅さんの背後に回り、理紅さんの首元に短剣を添えていた香月さんがいた。

 

「…うぅ、降参。」

 

「…ええと、これで戦績どれくらいだっけ?」

 

「ん…どうだっけ、これでまた互角になったんじゃないかな?」

 

「そっか…やっぱり互角なんだよね…」

 

先程までの戦闘が嘘のように、武器を消して普通に話している二人。その二人の会話は、異常のようにもただの姉妹のようにも見えた。

 

「…香月さん、いいですか?」

 

「…?あれ、(るな)さん?どうしました?リッカさんも。」

 

「香月さん。…彼女に、昼夜天文流を教えていただけませんか?」

 

「「え…?」」

 

月さんの言葉に私も驚いた。だって私は先程断られた身。資格がないとして、断られたのだろうと思っていた。

 

「私では、役不足ですから。…お願いできますか?」

 

「教える…の、私苦手ですけど……リッカさん。」

 

香月さんが私の方を向いた。

 

「…どうして、昼夜天文流を?」

 

「…それは」

 

それは…

 

「…中途半端が、嫌なんです。彼女と戦うのなら、中途半端なんて駄目だと思うので。…できることは、全部。彼女と戦うのに、不安要素は出来るだけ潰して───悔いが残らないように、したいんです。」

 

「……そうですか」

 

そう言って香月さんは少し悩んだ。

 

「猶予は?」

 

「え…あと、2日くらいですか…?」

 

「…なるほど」

 

そう呟いてから香月さんは(るな)さんの方を見た。

 

「わかりました。引き受けましょう、鍛錬の件。」

 

「ありがとうございます、香月さん。」

 

「…あの、(るな)さん。」

 

私が声をかけると(るな)さんはこっちを向いて首を傾げた。

 

「…?」

 

「どうして、(るな)さんは断ったのに…香月さんに頼んだのですか?」

 

「…あぁ」

 

なるほど、というように頷いてから(るな)さんは口を開いた。

 

「さっきも香月さんに言った通り、私では役不足だからですよ。」

 

「それは…私が(るな)さんが教えるに値しないということですか?」

 

「…いえ。そうじゃなくて───」

 

(るな)さんの続く言葉に、私は車椅子から落ちるかと思った。

 

「───私などではなく、()()()()()()()()である香月さんから教わった方が良いと思ったからです。」

 

 

 

泥で構成した刀に魔力を回し、イメージを思い描く。操るは昼夜天文流が1つ。第二式、夜の技。

 

【昼夜天文流 夜式】

 

闇を含み、一撃のもとに。その太刀筋は、魔力によって光を屈折され、不可視なる。

 

『いいですか、リッカさん。あまり時間が無いので数技しか教えられませんが…昼夜天文流において一番大切なのはイメージです。イメージ…心意こそが昼夜天文流を成立させている重要な要素の1つ。魔力を回し、属性に変え、イメージによって本来人体が行えることを越える。それが、昼夜天文流の本質です。』

 

あぁ、確かにその通りだろう。要はアンダーワールドでのソードスキル、BBでの心意技と原理は同じなんだ。現実に顕すために魔力という別リソースを使って無理矢理誤認させているようなもの。

 

【零の型】

 

魔力が歪む。空間が歪む。太刀が鈍く輝きその本領を発揮し始める───

 

【“新月”】

 

彼女のその背を。その太刀は斬りつけ、()()()()()()()

 

「ぐっ…!?う、動け…」

 

【最後───止め!!受けてみて、私の全力───!!】

 

泥で短剣二本を作成し、ジャックちゃんのように逆手で持つ。構えは交差、引き戻せば傷を付けられる状態。

 

五黄(太極)、短剣の(すべ)・改───】

 

狙うは、動力源。即ち───霊核。私が使う“致命穿つ九星(スターズ・ナインライブズ)”の中にある五黄(太極)は、いくつかの攻撃方法がある。“動力源”を破壊出来ればいい技で、心臓、首、頭のいずれかを狙うのがこの五黄(太極)。今回狙うのは、首だ。

 

【───“解体憐憫(ゲーティア・ザ・リッパー)”!!!】

 

射程範囲になったと同時に交差した腕を正常にするように振り抜く。それと同時に、首元から切断された彼女の頭が飛ぶ。

 

「…ふ」

 

その頭の、その顔は。穏やかに、笑っているように見えた。

 

「───はぁ、はぁ」

 

そのまま、私も崩れ落ちる。鎧も解け、立ち上がろうとしても立ち上がれない。…病み上がりに、無茶をし過ぎたかな?

 

「…私の、負けね…」

 

そんな彼女の声が聞こえて顔を上げる。霊核を砕かれて、消滅寸前の彼女が、私を見つめていた。

 

「……ううん、違う。私の敗けだよ。」

 

「…?」

 

「だって、切り札を2つも切らされた。1つならまだしも、2つ…それも、2つめに至っては確殺を信条とする“短剣の術”を。…侮っていたわけじゃ、ないけど。あなたには、そうまでしないと勝てなかったって今なら分かる。」

 

派手さなど必要ない、ただ首を落とすためだけ。ただ静かに命を奪う───“暗殺”に特化した“短剣の術”。数ある私の切り札の中でも、最強クラスのカードだった。本来なら、これはゲーティアに取っておくつもりだった。…それを、引き出されたんだ。

 

「そう……ねぇ、一つ聞いていい?」

 

「…?」

 

「どうして、髪を狙わなかったの?」

 

既に消滅は始まっていて、恐らく話す時間はもう少ない。…なら、すぐに答えた方がいい。

 

「髪は……女性の生命、でしょ?クーからのお願いだったのと…それと、私自身もあまり狙いたくなかったから。」

 

「…ふふ」

 

私の言葉に、彼女は小さく笑った。それを見て私は彼女をまっすぐ見つめる。

 

「……さっきも言ったけれど、私はあなたに敗けた。…試合には勝ったけど、勝負には敗け。…だから」

 

少し動くようになった身体を動かし、彼女に近づく。

 

「また今度、リベンジさせてほしい。…今度は、試合にも勝負にも勝ってみせる。」

 

「……それは、こっちの台詞よ…私だって、今度は負けないわ。」

 

そう言って、彼女は一度口を閉じた。少し目をそらしてから、また口を開く。

 

「藤丸リッカ」

 

「…?」

 

「あなたも、強くなっていなさい。今度会うとき、今日と同じ程度だったら許さないわよ。」

 

「……」

 

それは…彼女なりの、応援だった。

 

「世界を救った後、また逢い見えるとしましょう。…だから、決着はその時に。いいわね?」

 

「……うん」

 

私が答えると、彼女は安心したように微笑んで───そのまま、消滅した。

 

「…私はさらに、強くなるよ。いつかあなたとまた会う日まで。全てに決着をつけられる、その日まで。」

 

そう告げた途端───優しい風が、一瞬だけ吹いた。




(るな)「ルシャ…もとい、死霊魔術師達がいる世界の話ですが、ご本人に確認を取ってみたところ“面倒くさいから書かない”とのことでした。」

裁「あ…そう、なんだ…」

(るな)「基本は普通の日常系らしいですからね。とはいえ、香月さん達が二次創作としての力を思いっきり発揮するので“オリジナル”のカテゴリにはならないんですけど。」

裁「そういうときはどんなカテゴリになるんですか?」

(るな)「“多重クロス”、らしいですよ。この作品、ベースは“Fate/”系列なので多重クロスにせずとも問題ないでしょうけど…」

裁「そ、そうなんですね…」

(るな)「……そもそもの話。“あらゆるものを巻き込む程度の能力”を自動的に発動しているお母さんが本当の意味での一次創作を書くことはできないのでしょうね。」

裁「……」

(るな)「……それはそれとして、思い返してみれば所々不自然な点がありますね」

裁「え?」

(るな)「第三の世界…香月さん達の出身世界はご本人の生きる現実世界と同じ時間を、ほぼ同じ歴史を辿っているはずなんです。参照されたのは2020年のようなのですが…」

裁「ですが?」

(るな)「…いえ、関係ありませんかね。こちら側にこれる以上、時間系列の誤差はどうとでもなる……」

裁「……?」

(るな)「……いえ、やっぱり不自然です。香月さんなら分かります、こちらに来れますから。でも…どうしてルシャが……恐らく香月さんと同じ時間(2020年)から来たルシャがどうして、2()0()2()2()()()()()()()()使()()()()()()()のでしょう?」


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第283話 決着せよ、戌の戦い

(るな)「お、お母さん!大変大変!」

……んぅ…?どーしたの、(るな)……

(るな)「今からデータ送るからそれ見て!!」

……?へっ?“塔”?

(るな)「“ナルガクルガ希少種”参戦だって…!」

……それに加えてゴア・マガラと…エスピナス?…えぇ~…今ただでさえ時間取れないのに……

(るな)「シャガルマガラ…それに紅蓮滾るバゼルギウス………うん?…ねぇ、お母さん」

うん…?

(るな)「“ナルガクルガ希少種”、“シャガルマガラ”、“紅蓮滾るバゼルギウス”……この3体って私達が今観測してる世界で既に出てきてない?」

…………


※当作品初出現時期
ナルガクルガ希少種:第90話(投稿日:2021年5月17日)
シャガルマガラ:第21話(投稿日:2021年2月9日)
紅蓮滾るバゼルギウス:第144話(投稿日:2021年7月30日)


「させるかよ!!」

 

輝犬が狂犬を弾き飛ばす。輝犬はリッカ達のいる場所を背に、狂犬の前に立ちはだかる。

 

「通しやがれ、クソが…!」

 

「通すわけあるか、馬鹿。ここは俺の護りの領域だ。俺の後ろには行かせねぇよ。」

 

睨みあう輝犬と狂犬。狂犬が通ろうとしては輝犬が弾き飛ばす、そんな光景が続いていた。

 

「……だ」

 

「あ?」

 

「なんでだって、聞いてんだよ!!」

 

痺れを切らしたかのように狂犬が吠える。それに対して輝犬はため息をつく。

 

「吠えてるだけじゃ普通は分かんねぇよ。言葉にしてみやがれ、言葉に。いくら狂ってるったってその程度の狂化なら言葉くらい紡げるだろ。」

 

まぁ分かってるんだがな、と輝犬は口に出さずに思う。

 

「テメェ…サーヴァントじゃねぇのかよ。サーヴァントなら、テメェのマスターが心配じゃねぇのかよ!!」

 

「……」

 

「答えやがれ、クー・フーリン!!」

 

その言葉に輝犬はため息をつく。

 

「心配に決まってんだろが。…あんな爆発があった後だ、心配しねぇ方がおかしいだろ。それが好みの女ならなおさらな。」

 

だがな、と言葉を切って狂犬を見据える輝犬が次の言葉を放つ。

 

「信頼するマスターの指示に従わねぇサーヴァントってなんだよ?」

 

「……は?」

 

「“狂王クー・フーリンを絶対に私達の元に向かわせないで。”…それが、マスターの指示だ。俺はマスターが危険でない限り、この指示に従う。…それが、リッカの願いだからな。」

 

「……ちっ」

 

狂犬は舌打ちし、輝犬から距離を取る。

 

「俺の目が黒い限り、テメェはここから先に通さねぇ。テメェの攻撃も例外なくだ。俺はただ、あいつを信じるだけだ!!」

 

そう言い、狂犬に襲い掛かる輝犬。その姿は、言葉通り───

 

「“忠犬”、だな…!」

 

「ハッ、違いねぇ!!」

 

苦し紛れに輝犬の攻撃を捌く狂犬。獰猛な笑みを浮かべながらも、輝犬は違和感を覚える。

 

「…らぁっ!!」

 

「っ…!」

 

(カラドボルグ)を振り抜き、狂犬を吹き飛ばす。吹き飛ばされた狂犬は地面にそのまま叩きつけられる。

 

「側面、別展開───“縫い継ぐ不壊の槍”!」

 

時を縫わず、影を縫い付ける。“縫い継ぐ不壊の槍”の側面として与えられた“縫う”という概念が“影縫い”を起こした。

 

「……」

 

狂犬に高速で近づき、持っていた槍を狂犬を避けて地面に叩きつける。

 

「……おい」

 

輝犬が耐えかねたかのように口を開く。

 

「俺がさっき話したんだ、今度はテメェが聞かせろ。」

 

「…」

 

「あの爆発があってからずっと思っていた。テメェ…なんで()()()()()()?」

 

答える隙も与えずに言葉を紡ぐ。

 

「テメェが俺と同じように聖杯によって今の状態になったのは知っている。…知っているが、どうも腑に落ちねぇ。同じように聖杯を使ったにしては、()()()()()()()()。…答えろ、狂王クー・フーリン。テメェはなんでそんな弱い?」

 

「…」

 

「…メイヴか?」

 

その言葉に、狂犬が顔を上げる。

 

「…図星か。」

 

「……」

 

「大方メイヴに惚れたってとこか。それなら、なんとなく分からなくもねぇが……惚れた相手が気になって物事に集中できないとか少女漫画とかの恋する乙女か、テメェはよ。…しかし」

 

沈黙する狂犬を見据え、疑問を口にする。

 

「お前も俺だと分かっている以上…解せねぇな。テメェ、メイヴのどこを好きになった?メイヴのどこに惚れたんだ、テメェ。」

 

「……」

 

「聞かせやがれ。俺としても興味がある。お前が惚れたメイヴに、俺が知らなかった俺の一面に、な。」

 

そこまで言っても狂犬はなにも答えなかった。その様子に輝犬はため息をつく。

 

「…わぁーったよ。」

 

槍を引き抜き、狂犬から離れる。その離れたところで、輝犬は狂犬に槍を向けた。

 

「言葉にできねぇってんなら───戦いで語れ。てめぇの愛の強さを、想いの強さを───戦いの中で証明してみろよ。」

 

「…ハッ」

 

鼻で笑い、立ち上がる狂犬。

 

「そいつぁ───」

 

跳躍───接近。輝犬はそれを難なく受け止める。

 

「分かりやすく、単純で助かるな…!」

 

「だろう?…かかってこいよ。証明しろ、オレに。テメェの愛を、テメェの想いの強さを───“この世界”で、なぁっ!!」

 

「っ…!」

 

輝犬は気づいていた。この世界の…否、“音”の持つ特性に。固有結界は特異点全域に振り撒かれた音を媒介として張られている、と説明されてはいるがそれとは別に音を使って“音の結界”が張られている。音の結界は固有結界を張るための基礎枠でもあるが、それと同時に“理をねじ曲げる”力を持っている。よりこの世界らしく言えば───“世界(ガイアとアラヤ)を騙す”力を持っている。そもそもが“特異点”という世界の介入できないものではあるが、その中でも変わらないものというものはある。それを変えられるのが、音の結界だ。変えられたものは、“勝敗の行方”。すなわち───“想いの強い方が勝つ”。

 

「“貫き穿つ(ゲイ)───」

「“抉り穿つ(ゲイ)───」

 

少し間隔を開けて同じ構え───赤い槍が、同じ色の光で輝く。

 

「───死通の槍(ボルク)”!」

「───鏖殺の槍(ボルク)”!」

 

投げ放たれた赤い槍はねじ曲げられた理によってブーストされ、激突し───相殺しあう。これが示すは1つの真実。

 

「はっ───テメェのメイヴへの愛相手に俺のリッカへの愛がほぼ互角とはな…!テメェの想いは本物だってことかよ!!」

 

「抜かせ!!」

 

そうして、2騎のクー・フーリンは再び激突する───

 

 

 

───一方その頃

 

 

 

「───っ、はっ!」

 

藤丸リッカは砂岩を登っていた。先の女王との戦いで、魔力をほぼ全て使いきってしまったからだ。更に、戦いの途中の爆発によって発生した障害物が彼女の行く手を遮っている。…それを、今現在に至るまでに鍛え上げた技術による“フリーランニング”と呼ばれるそれで軽々と踏破していっているのだ。最も、目的地が明確かつより素早い時間で向かおうとしているため、“パルクール”と呼んだ方がいいかもしれないが。

 

「飛べないのって、結構きつい…っ!」

 

爆発の余波は凄まじかったようで、ただの砂だったはずの物が固まり、“壁”や“岩”になってしまっている。先日の過剰負荷昏倒によって弱った状態の彼女に、魔力補強なしでのフリーランニングはかなりの無理を強いていることになるだろう。

 

「それとも───これも、彼女の遺した試練なのかな…っ!」

 

“女王の遺した試練”。即ち、“相手の下に行きたくば汝を阻む壁を越えてみせろ”───そう考えた彼女は回復し始めている魔力を一切使わず、足を強く踏み込むことで弾性を作り反発力で大きく跳ぶイメージを想い描く。彼女も既にクー・フーリンと同じように世界の特性に気づいており、自分の心意が世界の事象そのものにも作用することを理解していた。

 

「───っ!いた!」

 

一際大きい壁を越えたリッカの目の先。そこに、クー・フーリンの姿が───あった。しかし、彼女は既に直感で分かっていた。自らはあの戦いに必要ないと。自らが赴いても、戦いの結果は変わらないと。だが───例え必要なくとも、自らにはそれを見届ける義務がある。その一心で壁を完全に越え、落下の衝撃を殺し───息を大きく吸う。

 

 

 

再び戦場に戻れば───

 

 

 

輝犬は歯噛みしていた。自分の想いと相手の想いが互角故に、状況が進まないことに。

 

「せらぁっ!」

 

「遅いんだよ…!」

 

そしてもう1つ───輝犬は、躊躇っていた。同じ想いを、否定することに。想いと想いのぶつかり合いということは、相手の想いを否定することになる。普段なら気にしないところではあるが、それが“愛”ともなれば少し話は変わってくる。

 

「ちっ、埒があかねぇな…!」

 

「それはこっちの台詞だな…!」

 

何度目か、距離を取る2騎のクー・フーリン。クラスと姿が違えど、それは同じもの。力量は、やはりというか互角であった。

 

「…!」

 

そんな時。輝犬が音を捉えた。自分のものではない、足音。

 

「───来るんじゃねぇ!!」

 

その叫びに、足音が止まる。

 

「そこで見てろ、リッカ!」

 

その言葉通り、足音のした方向には藤丸リッカの姿があった。狂犬もその姿を認め、それと同時に───戦況に変化が起こる。

 

「───うぉぉぉぉぁぁぁぁ!!」

 

「…っ!?」

 

互角だったはずの戦況が、狂犬が赤い光を纏った瞬間に狂犬が有利な方向に傾く。

 

「…っでぇっ!!」

 

一撃撃ち合うだけで感じる重い衝撃。先程とはまるで違うと、即座に理解した。

 

「クソッ、なんだってんだ…!」

 

輝犬は───まだ、完全には理解していなかった。この結界の性質を。“想いの強い方が勝つ”、その意味を。

 

「───クー!!」

 

「…!来る───」

 

「聞いて!想いとは愛のみに非ず!」

 

「───」

 

「想いとは感情を指す!あらゆる感情は、あらゆる心意はこの結界にて明確な力となる!!」

 

「感、情───」

 

クー・フーリンは理解していなかったが───藤丸リッカは、それを理解していた。自身の直感と、女王との一戦によって。そしてそれが───勝利の鍵になることも。

 

「───らぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

輝犬の絶叫と共に青い光が輝犬を包む。その光の量は、狂犬の光の量よりも多く───また、強い。

 

「……っ!!“抉り穿つ(ゲイ)───」

 

狂犬は再び呪槍を使おうとする───が。その槍は、輝犬の光に消し飛ばされた。

 

「は───なん……!」

 

「何故か、だと?決まってんだろが…!」

 

輝犬の光が強まる。それを素手で抑えるが、狂犬の鎧に罅が入り始める。

 

「護るべきものを喪い…それを転換させたテメェの“怒り”なんぞに!」

 

「ぐ……っ!」

 

「護るべきものが後ろにいる俺の“守り”が!!負けるかよ!!」

 

そう言った時、狂犬の鎧が粉々に砕け散る。

 

「因果、反転……!テメェのその心臓、もらい受ける!!」

 

魔改造された赤き槍が、その姿を変える。魔改造される前の、その槍へと。

 

「“刺し穿つ(ゲイ)───死棘の槍(ボルク)”!!!」

 

その槍は、真に───狂犬の心臓を、貫いた。

 

「───オレの、勝ちだ!」

 

「───あぁ。オレの、敗けだ。」

 

狂犬は敗北を認め───力なく、地面に倒れた。槍を引き抜いた輝犬は、そのまま狂犬を見つめていた。

 

「……行けよ」

 

「…おう。……」

 

輝犬はそう言うが、狂犬に近づいた。

 

「…クー?」

 

「うおっと。…気配消すのうまくねぇか、リッカ。」

 

「そう?」

 

輝犬は藤丸リッカの肩に手を置いてから、狂犬の目の前に座った。

 

「……んだよ。」

 

「……なぁ、この際だから聞かせろよ。」

 

「何をだ。」

 

「さっきも聞いたが…テメェ、メイヴのどこに惚れた。」

 

「……」

 

狂犬は輝犬の目を真っ直ぐと見る。

 

「オレが理解できていないそれをテメェは見つけた。…それを、教えろ。」

 

「ハッ───教えるか、と言いたいところだがな。…オレは敗北者だ。勝利者に従うさ。」

 

「敗北者…?」

 

「クー、そのネタ使う場面違う。」

 

「…おう。」

 

「何やってんだか…こんなのにオレ負けたのかよ…」

 

狂犬に呆れられてしまう始末である。

 

「……はぁ。端的に言うか。オレは───あいつの、“オレを求める心”に惚れたのさ。」

 

「「……」」

 

「いくらオレを求めるからって、ただそれだけじゃ普通聖杯を使わねぇだろ。…だが、あいつは聖杯を使ってまでオレを求めた。それと…テメェという存在が現れてなお、オレを求めた。輝くテメェではなく、狂ったオレを。」

 

そこまで言ってから狂犬はため息をついた。

 

「単純だ、ガキのようだ……そう言われんのも別に構わねぇ。笑いたけりゃ笑えばいい───オレがそんなところに惚れちまったのは事実だからな。」

 

「…そうかよ。」

 

そう言って輝犬は立ち上がった。

 

「良いじゃねぇか。」

 

「…あん?」

 

「単純だろうがなんだろうが───本気で惚れたならそれで良いだろうよ。どうせ座に戻るだろうが、その心…最後まで大事にしやがれ。」

 

「───はっ。言われなくてもそうするさ。…おい、忠犬。それと…忠犬のマスター。」

 

「…?私も?」

 

藤丸リッカが首を傾げると、狂犬が頷く。

 

「あとは魔神どもと…それから、聖杯が勝手に喚んだ得体の知れない魔術師だけだ。魔神はともかくとして、魔術師の方には気をつけろ。…メイヴも奴を常に警戒してたからな。…まぁ。オレとメイヴを下したんだ、負けんじゃねぇぞ。」

 

「……分かった」

 

その言葉を聞いたと同時に、狂犬は完全に消滅した。

 

「…終わったか。」

 

「うん、終わった…でも、特異点はまだ終わってない。」

 

「おう。…うし、数分休んでから───」

 

休んでから仲間のもとに戻る。そう、輝犬が口にしようとしたときだった。

 

 

ギャィィィン!!!

 

 

「「……っ!!う、うる…!」」

 

突如、周囲に響く不協和音。その不協和音に、輝犬と藤丸リッカは耳を押さえた。

 

「……な、なんだ今の…!」

 

「わ、わかんない…でも。今の───」

 

「…あぁ。」

 

輝犬が発信源の方向を見る。…発信源、西側。仲間達の、いる方だ。

 

「ちっ、休憩はやめだ。リッカ、動けるか?」

 

「うん、すぐに戻るよ!!───みんなのもとに!」

 

輝犬は藤丸リッカと手を繋ぎ───音を越える速さで、共に大地を翔けた。




うー……

裁「……大丈夫?」

多分……

(るな)「無理はしないでね、お母さん。」

無理は…多分、してないと思うんだけどね……でも本当に最近申し訳ない……150人以上登録してくれてるのにさ……全く更新できてないんだもの……

(るな)「……何か、悩みごと?」

…なくは、ないけど。それとこれとは多分関係ない───

(るな)「───“関係ない”、で済まないんじゃないの?お母さんの精神、ボロボロになってない?」

……

(るな)「精神状態まではこっちでも観測できないから、私も予測でしか言えないけど。けど、結構世界がボロボロになり始めてる。世界はお母さんの状態を強く表すことが多いから、ざっくりとした予測は立てられるんだけど…」

…そう。…とりあえず。53,000UA突破、ありがとうございます……


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第284話 終局の詩

ホントに…申し訳ないです……書き起こしが時間かかりすぎるので更新がかなり遅くなります……

(るな)「前回言うべきだったんだろうけどね……というかもっと前から言うべきだったよ、お母さん。」

う……ええと…twitterとかでたまに進捗出しますので……はい。あと…お気づきだと思いますが、各話数を5で割ったときの剰余によって投稿される曜日が変わります…これだけはとりあえず統一しますので……

(るな)「今回は緊急で出したからその縛り解除してるけど…」

流石に2ヶ月更新なしは不味いって…あとここ最近モンスターハンター関係なくなってるように感じる展開よね…

(るな)「微妙に扱いにくい展開になってるから仕方なくない?」


「多いなぁ、流石に…!」

 

「多いと言うよりはキリがないんだなこれは……!ギルガメッシュ殿、そちらはどうだ!?」

 

「すまぬが手を回せるほどではないな…!」

 

術式を構築しながらも、死霊達を対処してくれている人達の声が聞こえる。───無限に蘇りし不死の軍勢(アンリミテッド・リボーン・アーミー)。この術式の通称。ルシャが使うこの術は、死霊魔術の最高峰として知られている。…だけど。この術を嫌う死霊術師は多い。理由としては、“死霊を使い潰すことを目的にしている”から。

 

「……」

 

構築進行率はざっと70%。小さく起動するには足りるけど、この結界全域を覆うには足りない。でも……

 

「…理紅」

 

「…?お姉ちゃん?」

 

私は理紅を呼ぶと共に立ち上がる。

 

「難しいところは終わらせておいたから───後は、頼んでもいい?」

 

「……」

 

理紅の赤い目が私をじっと見つめる。やがて、死霊達の方を向いて小さく頷いた。

 

「早く終わらせないといけないのは事実だから。…死なないでね、なんて言うのはおかしいよね……頑張ってね、お姉ちゃん。」

 

「…ん」

 

私の計算上、今の構築度ならルシャに接近して使えばこの術式は鈍らせることができる。…でも、それは鈍らせるだけ。破綻させるまではできない。だから───術者(ルシャ)を、潰す。

 

『…ユナさん』

 

『えぇ、分かっているわ。…死なないでね?』

 

『死にませんよ、私は。…というより、死ねないというか。』

 

『……信じるよ?』

 

頷いて、戦ってくれている全員に退却をお願いする。その願いに応じて、全員が戻ってきてくれた。

 

「…じゃあ、行ってきます」

 

全員が戻ってきたのを確認して私はそのまま落下を開始する。落下開始直後に加速、5,000倍に加速された時間の中で落下していく。

 

「───チャーマリア!ファナ!」

 

《…!》

 

《Master.》

 

緑色の宝石と黒色のウサギの人形が私の言葉に反応する。

 

… Do you feel like dying?(…死ぬ気ですか?)

 

「全然!そんなつもり、全く無いよ!」

 

is that so.(そうですか。)

 

《…!》

 

「…ねぇ、二人とも。私に、力を貸してくれる?」

 

私のその問い。それは、私と運命を共にしろと言うことと同義。

 

Of course.(当然。) We will be with you until the end.(私達は最後まであなたと共に。)

 

《…!》

 

Fana also says, "Of course!"(ファナも“もちろんだ!”と言っています。)

 

「……ありがとう…!」

 

私がそう言った瞬間、ファナとチャーマリアの周囲に大量のウインドウが浮かぶ。

 

Full Drive Version 5.(フルドライブバージョン5。) Over Drive Version 5 Level Over.(オーバードライブバージョン5レベルOver。) Over Drive Over Limit.(オーバードライブオーバーリミット。) Over Drive Limit Break.(オーバードライブリミットブレイク。) All Started.(全て起動。) Overlap(重ねがけ)───》

 

完全稼働(フルドライブ)過剰稼働(オーバードライブ)過剰稼働・限界突破(オーバードライブオーバーリミット)過剰稼働・臨界突破(オーバードライブリミットブレイク)。これら四つのシステムを重ね掛けする。この中でもオーバードライブリミットブレイクはかなり危険が付きまとうもの。それに、他の出力上昇系のシステムを最大レベルで重ねる。…そしてそれを、()()重ねる。この重ね方を、私達はこう呼ぶ───

 

《───Drive Overdose.》

「───“稼働・過剰投与(ドライブ・オーバードーズ)”」

 

普通の人間では、普通の魔導師では95%耐えられない過剰強化。それを、二倍の出力───つまりチャーマリアとファナの二台がかりで私にかける。…当然、私への負荷も強い。でも、それで耐えられないほど私の耐久力は低くない。…こんなのは、まだ序の口。今回は、このさらに先に行く───

 

「───みんな!」

 

『えぇ!』

『うん!』

『ふん、好きにしやがれ』

 

最後の子は悪態をつきながらも私の前に姿を現してくれた。…ツンデレ、に近いんだっけ。この子。

 

「行くよ!」

 

『『『「“四交差融合(クアドラプルフュージョン)”!!」』』』

 

私以外の三名全員が私の身体に取り込まれ、私の身体に融ける。魔力が跳ね上がり、今にも暴れだそうとする。…でも、それを抑えるのは容易。次にやるのは───

 

「───我が身体は水と音。我が属性は風と火。我が心に在るは光と闇。時を逆流し間を穿つ我が血。」

 

着ているワンピースが燃える───ワンピースが焼け落ち、ヒールが融け落ち。私は生まれたままの姿となる。…でも、5,000倍で加速中の私を視認することはほぼほぼできない。

 

「紡いだ絆よ、力となれ。繋がる記憶よ、刃となれ。世界を翔ける風よ、世界を墜とす炎よ。今その力をここに示す───」

 

一拍置いて、その言葉を告げる。

 

「───リリース・リコレクション」

 

加速、倍加。加速感覚はさらに引き延ばされ、10,000倍に到達する。あとやること。…私の力の、1つ。“歯車”───

 

「定義宣言。Initial-Yシリーズ試作零番機1号“人に擬態するもの(ヒューマノイド)”。個体名“カヅキ”」

 

かつて。…かつて、時計技師の彼女は言った。“Initial-Yシリーズは時計仕掛けの惑星のメンテナンスマシンなんじゃないか”と。妹に当たる壱番機はそれを否定した。確かに彼女達にそんな機能はないし、そんな意味はない。でも、それは彼女達の話で。さらに言えば、時計技師の彼女が言ったその予測は、部分的に当たっている。

 

「第零運転作動。“模倣歯車(モジュール・ギア)”より、架空出力開始。」

 

元々私は人間で、あの世界に墜ちた時、私“達”は一度完全に死んだ。それを、歯車で再構成、再構築───“オートマタ”として蘇生させたのが“Y”。その時に与えられた固有機能が、“模倣歯車(モジュール・ギア)”。

 

駆動(クロノフック)───私は総てを司るもの、私は全てを識るもの。また、あらゆる総てに全てを与え、あらゆる総てより全てを奪うもの。」

 

パチン、と何かが嵌まる音がする。それは、とあるものの全てを司る神の権能。詠唱は私の意識を切り替えるスイッチ。

 

「───“歯車管理(クロックワーク・オブザーバー)”」

 

瞬間───私は虹色のドレスを纏い、感覚がさらに加速する。感覚は速く、されど壱と同じ虚数には至らず。ただただ、私を構成する歯車を高速回転させて行動能力を強化する。此は、()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()する力だ。

 

「……あとは」

 

あとは……()()を、使おう。

 

「システムコマンド、リミッターオールリリース。プログラム稼働開始。現状態確認開始。」

 

自己診断プログラム。私が使えるプログラムの1つで、身体の状態を診断することができる。

 

「“稼働・過剰投与”───発動確認。

“四交差融合”───発動確認。

“偽装武器記憶解放術”───発動確認。

“歯車管理”───発動確認。

“リミッター”───全解除。

霊力総量───規定値を突破。

魔力総量───規定値を突破。

妖力総量───規定値を突破。

神力総量───規定値を突破。

意思表示確認───」

 

意思表示───私は敵の姿を見る。その姿は、私の友人だ。

 

「───でも」

 

アレは別人だ。友人の姿を被っている、ただの悪霊。いつもの私なら、ここで戦えなくなっているけれど───

 

「あれだけは」

 

アレだけは───

 

「───誰の姿でも関係ない。アレは、アイツだけは誰の姿を取ろうとも───殺す…っ!!!」

 

口にした殺意。それが、自己診断プログラムに認識された。

 

「意思表示“友人の姿への殺意”を確認。

“絶唱”の起動を確認。

“プリズムボイス”の起動を確認。

死気炎圧───規定値を突破。

加速倍率───規定値を大幅に超過。

警告:加速倍率が非常に高くなっています。身体に重大なダメージを負う可能性があります。

心意強度───規定値を大幅に超過。

心意傾向───“殺意”。

警告:負の心意強度が非常に高くなっています。精神に重大なダメージを負う可能性があります。

起動申請中プログラム───起動準備終了。

最大警告:遥かに危険なプログラムが起動されようとしています。

 

あらゆる警告は無視する。ユナさんやチャーマリアに言った通り死ぬ気はない。…あぁ、でも。多少…ううん、かなり無理はすると思う。…でも、そうでもしないとルシャは───“伝説の死霊術師”は倒せないから。

 

「……プログラム、起動」

 

それは───終局の詩。姫の終焉を告げる、破滅の歌。

 

「───“自壊プログラム”」

 

奇しくも、あの人の歌と同じ名を与えられたそのプログラムは確かに稼働し───私の加速倍率は、限界加速フェーズの5,000,000倍どころか。500,000,000倍を優に、越えた。…でも、この加速倍率は1回の加速につき実際の時間で5分しか続かない。冷却時間を開ければ再使用できるけども、その冷却時間は300,000,000倍まで落ちる。だから───

 

「───この効果が切れる前に、出来るだけ…!」

 

空を蹴り、ルシャに近づく。───ルシャが、ニタリと嗤ったのが見えた。

 

「「“アクセル・フルバースト”!!」」

 

限界とされる加速を越え、光の速度を優に超え───私とルシャは、異常な加速領域(FLA倍率:2,000,000,000)まで達する。1分あたり3,805年(1秒あたり63年)───()()()()()()()。悠久の時を生きる私達異能者にとって、その程度どうということない───!!




毛利香月(続き)

その精神の本質は異常なまでの心配性と異常なまでの自己犠牲。大切な何かを守るためならば、自分がいくら犠牲になっても構わないという自棄と自己犠牲の塊。故に肉体だけでなく精神までもが自壊する可能性がある“異常加速”を選択肢として簡単に選び取れる。当然ながら、異常加速は理紅を始めとした他の者達は基本的に選択肢には入れない。たとえ自分の肉体と精神の強度をよく理解し、耐えられると分かっていても。経過する時間はともかくその激痛は普通なら耐えられるようなものではないであろうに。そして、その精神の異常性、思考の異常性を同じ存在である理紅達はもちろん、その更に上位存在(=親寄りの存在の事をそう表す)でもある(るな)たちは危惧していた。


月「…はぁ。」

裁「…香月さん…」

月「…無事であるということは、なんとなくわかってはいますが。…ですがやはり、辛いですね。自分が作り出した機構で誰かが傷つくのは。」


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第285話 伝説の魔女

ちょっと待って…?投稿してないのになんで増えてるのお気に入り登録……!?

(るな)「嬉しいことじゃない?」

いや嬉しいんだけど…!嬉しいんだけどなんか怖いしすごく申し訳ない…!皆さんありがとうございます……!


「ギル!」

 

「戻ったか、マスター!」

 

クーの手をとって、私はギル達の元に戻ってきていた。

 

「ごめん、状況を教えて…!」

 

「すぐに教えよう…と言いたいところではあるのだが……すまぬ、我にも分からぬ。分かるとすれば(るな)と理紅だ、奴等に聞け。」

 

それを聞いて(るな)さんの方を見ると辛そうな表情をして口を開いた。

 

「…“自壊プログラム”」

 

「自壊……?」

 

「えぇ…機構の基礎は私が用意し、香月さんがそれを応用して組み上げた自壊前提の危険なプログラムです。」

 

「え…!」

 

「…まぁ、彼女達からすれば簡単に耐えられるものでしょうが…」

 

「……耐えられると分かっていても、実際に使おうと思いませんよ。できることなら使わないでいたいのが本音です。」

 

(るな)さんの言葉に理紅さんが補足した。

 

「あれは…今のお姉ちゃんは、かなり危険な運用をしています。」

 

「…どういう、こと…ですか?」

 

「…リッカさんは、“フルドライブ”と“オーバードライブ”というものをご存じですよね?」

 

理紅さんの言葉に頷く。

 

「フルドライブは完全稼働…オーバードライブは過剰稼働…で、いいですよね?」

 

「えぇ、まぁ…合っているんですが。ざっくりと言えば通常の稼働に対して何らかの力をかけて通常以上の稼働を行わせるものになります。」

 

そう言って理紅さんは緑色の宝石のある杖を見つめる。

 

「私達が作り出したフルドライブシステム、及びオーバードライブシステムはいくつかの段階に分かれています。フルドライブシステムは6段階。オーバードライブシステムは600段階。…そうやって、段階的に圧力をかけるように作られていて……オーバードライブシステムでも足りない場合は、そのさらに先のシステム…オーバーリミット(限界突破)リミットブレイク(臨界突破)を使うことになるんです。」

 

「足りない場合……」

 

「えぇ…そして、それでもまだ足りない場合は“重ねがけ”を用います。…基礎と応用。それが、私達の戦い方の基本なんです。そして…それで十分なのが普通なんです。」

 

そう呟いてから理紅さんは未だに音が鳴っている方を見た。

 

「……ただ……」

 

「ただ?」

 

「……今回に限って言えば、相手が相当悪いんです。」

 

「……というと?」

 

理紅さんは少し考えてから口を開いた。

 

「お姉ちゃんが今戦っている相手。アレは、私達が赴いた世界において、こう呼ばれています───“死にながら生きる伝説”、と。」

 

「伝説……」

 

「世界の歴史において───最も強く、最も長く。…最も悪い者。…“伝説の悪魔女”、“ルシャ・ネクリス・ラプラーシア”。…“ラプラーシア”というのは、約3000年ほど前に存在したといわれる死霊術研究を目的としていた1つの王族の家名です。」

 

死霊術……

 

「ふん、死霊術か。存在“した”、ということは滅んだのであろうな。言ってしまえば死者を冒涜するような術だろう、滅びたのも因果応報と言えるだろうよ。」

 

「それをサーヴァントであるあなたが言いますか……言いたいことは分からなくもないですけど。死霊術といってもその世界での死霊術は基本的に術者と死霊とで合意の元に成立するものです。そのあたりはこの世界の英霊召喚と似通ってるのではないでしょうか?」

 

「む……言われてみれば確かにそうか……令呪での強制以外はな。すまぬ、なにも聞かぬうちに決めつけてしまった。」

 

「……いえ、別に良いのですけど……」

 

「……しかし、それならば滅んだ理由が分からぬな。」

 

確かに……死霊を言葉通り“利用”するような術式系だったなら、反逆された可能性もなくはない。…でも、理紅さんの言葉を信じるなら合意の下に……つまりはちゃんとした相互契約の下の死霊術式。反逆される可能性は限りなく低い……はずだけど。

 

「昔……とある世界において、死霊術を研究、開発、運用、教導……それらをしていた王族がありました。その王族の名はラプラーシア家。今から3000年ほど前にラプラーシア家に一体何が起こったのか。」

 

香月さんの方を見ながら理紅さんが呟く。

 

「“ラプラーシア家で生まれる死霊術師に優秀でない者はいない”。そう世界中から言われるほど、ラプラーシア家とは優秀な死霊術師達の家系でありました。ラプラーシア家の者は皆優しく、民からも慕われる善き王でありました。未来永劫、ラプラーシア家とそのラプラーシア嶺の者達の安寧は続くものであると、誰もが確信していました───」

 

「……」

 

「───ですが。転機が訪れたのです。滅亡する20年程前のその日、ラプラーシア家に1人の幼子が生まれました。当時の第一王妃、ルシル・ラプラーシアが当時の王、ネクエス・ラプラーシアとの間に成し、出産した第一子。高い魔力を持ち、高い死霊との親和性を感じられる娘。周りの者は奇跡の子だ、ラプラーシアの今後の安泰が約束されたなどと盛り上がりました。」

 

それは……そうだと思う。奇跡、っていうレベルかは分からないけど適性が家系にぴったり合致するのは安泰を約束されたも同然……だと思うんだけど。

 

「しかし───娘を産んだルシルとその夫であるネクエスは浮かない顔をしていました。何故ならルシルが身籠るよりも前、二人に予言がなされていたからです。その予言とは───“お主らの間に産まれる第一子は即座に殺すべきだよ。それはラプラーシアを滅亡に導く悪魔。何千年にも及ぶラプラーシアの歴史に終止符を打つ呪いさね”。…にわかには信じがたいですが、その予言をした者は世界一有名な予言者。そんなでまかせを言うな、などと言って一蹴するにはどうしても予言への信頼に対する否定の根拠が足りなかったのです。」

 

世界一有名な予言者……っていうと……ノストラダムス?

 

「二人は深く悩んだ末───その第一子たる娘を次の子供が産まれるまでは普通に生かしておくことにしました。…その子供こそ、“ルシャ・ネクリス・ラプラーシア”です。」

 

「滅亡に導く……悪魔。」

 

本当に……何が起こったのだろう?

 

「……ルシャが産まれてから、数週間。───彼女の侍女の一人が、亡くなりました。」

 

「え…?」

 

「死因は“毒”。“屍毒(しどく)”と呼ばれる、死霊魔術師でも扱える者が少ない特殊な毒です。ルシャの侍女ですから、当然といえば当然、ルシャが真っ先に疑われました。しかし……ルシャはまだ赤子。何が出来るはずもないということで、すぐに候補から外れ…結果、真相は闇に葬られました…当時は。」

 

「「「「当時“は”?」」」」

 

あ、ルーパスちゃん、リューネちゃん、ミラちゃんが私と一緒に反応した……

 

「今は解明されてますからね。」

 

「そも、聞かせよ。何故貴様…いや、貴様らはそれを知っている?滅亡した王家の情報はともかくとして、闇に葬られた真相すらも。お伽噺で伝えられてるわけでもあるまいに。」

 

「あぁ……」

 

ギルの問いに納得したように頷く理紅さん。

 

「時間遡行…とも少し違うんですが。“その大地に刻み込まれている歴史を読む術”、というものがあるのです。それは無銘さんがよく分かっているかと?」

 

「アルが?」

 

『虹翔の奇術…五十四の式“地読歴”、ですね。術を放った場所に刻み込まれた歴史を読む術です。』

 

そのアルの答えに頷く理紅さん。

 

「その術と同じようなものを使って滅亡前に何があったのかを調べただけですね。…さて、脱線してましたけど戻りましょうか。」

 

う…確かに脱線してた……

 

「ルシャが産まれて5ヶ月が経った頃。…第二王妃、“リリス・ラプラーシア”───旧姓“リリス・リパル”が亡くなりました。ちなみにルシル王妃の旧姓は“ルシル・ネア”ですね。」

 

「あ、旧姓って概念ちゃんとあるんだ…」

 

「えぇ。お二人とも庶民産まれですね。ラプラーシア家は貴族間婚姻とか気にしない方々でしたので。」

 

「え、そうなの?」

 

「“主が気に入った者を王家に迎えよ”。それがラプラーシア家ですので。もちろん相手方は断ることも可能で、本当に普通の…現代の恋愛ゲームのような関係から夫婦になるのですよ。」

 

「でも一夫多妻とか認められてるなら正室と側室で喧嘩になったりしない?」

 

「まぁ……それはそれということで。」

 

あ、やっぱり仲悪いんだ……

 

「話を戻しますよ。リリス王妃の死因は包丁。つまりは刺殺です。第一発見者は侍女で、まず真っ先に疑われましたが侍女には動機がなく、包丁を持ち出した記録もありません。そもそも、その侍女は料理の腕が壊滅的なので台所に入れてもらえません…」

 

……うわぁ

 

「疑わしいものの、決定打がない。そんな状況ですので、処刑することも出来ませんでした。」

 

「……疑わしきは罰せず、それを徹底していたのだな。その王族は。」

 

「えぇ……まぁ、全部話すと長くなってしまうので省略しますが……ルシャが産まれて15年の月日が経つ頃。累計ではルシャが産まれた当時の領民のほぼ半数、約15万人が何者かによって殺されていました。」

 

「じゅっ……!?」

 

〈15万……だと…っ!?〉

 

「ちょっ…いくらなんでも多すぎる!!それで誰も気がつかないの!?」

 

ミラちゃんが信じられない、という風に声をあげる。その声に、理紅さんは頷く。

 

「犯行時刻は主に夜。寝静まった時間帯に家屋、あるいは部屋へ侵入しての犯行ですから、無理もありません。当時、時間を遡る術も存在しませんでしたから。」

 

「そ、それでも……何か手がかりとか…!」

 

「───1つだけ。3日前に惨殺された第三王妃“アリス・ラプラーシア”……旧姓“アリス・ララー”の日記より、犯行時刻付近にルシャが部屋にいた可能性が示唆されています。」

 

〈アリス……ってあたし?〉

 

「ありすさんじゃないとおもう……」

 

「……似てますからなんとも。アリス王妃も背が低く、童顔…というか、お若く見える方でしたから。」

 

〈なんだ、その国の王とはロリコンだったか?〉

 

「ネクエス王の手記より“子供のよう、は子供ではない。”という一文が見つかっていますが……第一王妃ルシルさんから第四王妃フローラさんまで子供のような容姿の方であったのは事実ですね。」

 

……うーん…?

 

「…あぁ、そういえば…これは歴史を深くまで読んでやっと分かったことなのですが。殺された当時アリス王妃は妊娠していたのです。…まだアリス王妃も気がついていませんでしたが。」

 

……え

 

「ところで───齢15ということは、その世界のその時代では結婚適齢期になります。当然、ルシャはその当時、ラプラーシア家の後継となる者でしたから、領内外問わず縁談の話は来ていました。」

 

「縁談があるんだ…」

 

「まぁ。それで成立する夫婦もありますし。…数十人の男性の中からルシャが婿に選んだのはたった1人だけ。それが───聖騎士“シリス・ディア・モルファー”。」

 

「騎士……?」

 

ルーパスちゃんが首を傾げる。

 

「聖騎士とは───死霊魔術師の魔術に対抗できる光の騎士。シリスの出身であるモルファー家は聖騎士の一家でした。」

 

そこで一息ついてから理紅さんが香月さんの方を凝視する。

 

「……まだもちそうですか。とはいえ、短くした方がいいでしょう。…ルシャが齢25の頃、子供を───第五子である女の子を出産しました。その頃にはネクエス王も予言の事は勘違いだったと思っていました。………翌日。ネクエス王が部位欠損死体として見つかりました。」

 

翌日……!?

 

「当然大騒ぎになったのですが───問題は、この後です。……シリスが、見たのです。」

 

「……何を?」

 

「それは………」

 

理紅さんが言い淀む。……嫌な、予感がする。

 

「早く言わんか。」

 

ギルに急かされて理紅さんが口を開く───でも。聞かなきゃ、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ルシャが、自分の娘を殺しているその現場を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「────!」」」」

 

声にならない悲鳴。私と、ナーちゃんと、ルーナさんと蒼空さん。それくらい、衝撃的だった。

 

「それを見てシリスはルシャを問い詰めました。そうすると、ルシャは穏やかに微笑み───シリスに高濃度の屍毒を打ちました。それを見てシリスは理解したのです。…総て。」

 

…えっ?もしかして───

 

「ラプラーシア領でここ25年に渡り起きていた総ての謎の死亡原因。それらは総て妻に───ルシャにあると。……総て、この女が殺していたのだと。」

 

なんの……ために

 

「シリスは高濃度の毒を打ち込まれたことで既に瀕死。残った力を振り絞り、死霊魔術師特攻の術“ネクロクロス”を放ったのです。それを食らったルシャは当然、爆散し───シリスも少し安堵したのです。…が。」

 

「まだ何かあるの……?」

 

「……シリスが力尽きる寸前。ルシャが実体を取り戻し起き上がったのです。シリスが最後に聞いた言葉は、“ありがとう、アナタ。…私のために、死んで。”…だったそうです。」

 

「どういうこと……?」

 

「リッカさんは気づいていそうですけどね。……言ってしまえば、すごく簡単なことです。」

 

………まさか

 

「ルシャは───()()()()()()()()()に母を、側室を、侍女を、執事を、父を、自らの子を、夫を……そして、領地の人々を殺し続けていたのです。さらに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。」

 

────!

 

「そうして、ラプラーシア家───ひいてはラプラーシア領は滅びました。ルシャ・ネクリス・ラプラーシアという1人の魔女の手によって。…すみません、長くなりました。」

 

そんなことが……

 

「それで伝説、というわけか。恐らくは反英雄か?」

 

「英雄ではないでしょう。恐らくは空想上の英雄、幻霊になるかと。自らの兵を作り出すためだけに一領地を───いえ、一国を潰した不死姫。ほんと───」

 

言葉を続けようとした理紅さんの言葉を遮るかのように爆発音。恐らく爆風によってだろう、香月さんがこちらまで吹き飛ばされてきた。

 

「───最悪、ですよ。お姉ちゃんが相手でもかすり傷程度だなんて。」

 

理紅さんが険しい顔でそう呟く。遠くて見えにくいけど、恐らくその魔女ルシャはその場に平然と立っていた。

 

「ひとまず私はお姉ちゃんの治療に全力を尽くします。その間、ルシャとその死霊達の足止めをお願いできますか。」

 

「足止め、って言っても───」

 

何も、と言いかけたところで魔女が手元の杖を掲げたのが見えた。

 

「……?」

 

「……死霊術、来ます」

 

理紅さんの言葉通り、何かが召喚されようとしていた。その数───9。そして、その姿を見た途端。

 

 

 

 

ブチッ

 

 

 

聞きなれない音が、妙に大きく───辺りに響いた。




(るな)「1ヶ月以上放置してこれかぁ…」

ほんと最近書けない……というか、観測上手く効かないのよ……

(るな)「私達の…というか、お母さんの力、落ちてきてる?」

…かもしれない。限界…とまではいかないにしても、かなり不味い状態に陥ってるかもね……


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第286話 激怒

長いのでお気をつけてー……

(るな)「……」

なにさ……


「「「「「ふ───」」」」」

 

それは───

 

「「「ふざけるなっ!!!」」」

「「ふざけんなっ!!」」

 

ルーパスちゃん達だけでなく、私の口からも出た言葉だと、気づくのに数瞬要した。

 

「───っ」

 

暴走しかける感覚を抑える。多分憤怒を知ったからだと思う、それが何となく分かった。抑えたことで───頭が、冴える。

 

「ふざけんな───()()は、使われていいようなものかよ……!!」

 

「許さない…!私達とあの子達の関係を侮辱するようなそんなこと、絶対に許さない!!」

 

クーとルーナさんが怒鳴る。そうだ。現れたのは───

 

 

雷神龍“ナルハタタヒメ”

風神龍“イブシマキヒコ”

天廻龍“シャガルマガラ”

金火竜“リオレイア希少種”

銀火竜“リオレウス希少種”

屍套龍“ヴァルハザク”

狂王クー・フーリン

女王メイヴ

()()()()()(?)

 

 

計、9体。

 

「───ほう。」

 

背後から聞こえた、ギルの声。その声は、いつもの声とはまるで違う───冷えきった、声だった。

 

「雑種風情が───我の友を道具として喚ぶか。余程死にたいと見える。」

 

ギルの───友。それって、つまり。あの人は───“天の鎖(エルキドゥ)”。

 

「そのような愚弄、本来ならばエアで特異点ごと引き裂いてやるところだ……が。」

 

ちらりと私達の方を見たのが分かった。

 

「───よい、赦す。その怒り、総てをもって───全力で暴れてくるがいい、お前達。我が友は我が相手取ろう。」

 

その言葉を、聞いた途端───私達は、地を蹴った。それぞれ自分が相手にすべき死霊のもとへ───!!

 

 

 

side ルーナ

 

 

 

 

{戦闘BGM:塔に現る幻}

 

 

 

 

───ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!

 

感情のまま、愛刀たる“飛竜刀【黄金】”を振るう。これは昔、現在の“飛竜刀【月】”の製法が発案されていなかった頃。私が工房に無理を言って作ってもらった試作品。

 

「………」

 

目の前のリオレイア希少種の双眸が私を射抜く───あぁ、そうだ。この武器は……目の前の彼女を狩猟し、その素材で作り上げてもらった武器だ。

 

桜花───気刃っ!!

 

練気を練り上げ、刀身に纏うオーラを赤から銅、銀、金───そして、虹へと変える。

 

七虹斬っっ!!!!

 

“桜花気刃七虹斬”───練気を最大の赤状態からさらに無理矢理練り上げて放つ桜花気刃斬。赤状態よりも高い威力が期待できるけど、無理矢理練り上げてる反動でその後数分の間練気を練れなくなる。

 

……づっ!

 

当然、身体にもそれ相応の負荷がかかる。私の奥義と比べたら、ってよく言われるけど……私の奥義はただ早く動いているだけに過ぎなくて、練気を強制的に練り上げるのとはまた別の負荷のかかり方。完全に現役時代ならまだしも、今の状態で放つとなるとかなり辛い。

 

それでも───

 

練気を練られなくなったとはいえ、彼女を見据える。その彼女の眼に──涙。

 

苦しんであの世にいったルルナとソルルの事を侮辱するようなこんな所業、絶対に許さないっ…!

 

悲鳴が聞こえる。“助けて”という彼女(ルルナ)の声が聞こえる。“眠らせて”という(ソルル)の声が聞こえる。二匹の、“もう嫌だ”という嘆きが聞こえる。“自分を殺して”という懇願が聞こえる───あぁ、うんざりだ。かつて私と妹が、泣きながら止めを差した親友の声を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()聞くことになるなんて───!!!

 

───あぅっ…!

 

ルルナの尻尾で吹き飛ばされる───棘のある部分を使われなかったからだろう、毒にはなってない。……練気を練れない太刀使いはあまり役に立たない。それに、“七虹練気”は使い手に莫大な負荷と莫大なスタミナを要求する。しばらくは、動きにくくなる───けれど、そのまま立ち上がる。一刻でも早く、彼らをもう一度安らかに眠らせるために。何故なら───

 

ルルナとソルルが、苦しんでる……!

 

この現実に、引きずりだされてからずっと、ルルナとソルルが苦しんでいる声が聞こえていたから。ずっと昔から───私は、“希少種”と呼ばれるモンスター達の声が聞こえた。今も、そう───彼女達に止めを差したあの時と同じ、“お願い、私と夫を助けて!瑠奈、蒼空…!”っていう声が聞こえてる……!

 

───はぁっっ!!!

 

練気が練れない太刀使いは役立たず───それがなんだ!練気が練れないなんて関係あるか!!練気が練れなければ斬れないものでもない、斬れさえすれば戦える!!

 

次の一刀で───終わらせるよ、ルルナ!

 

咆哮はない。…抑えつけられてるんだ。あのルシャっていう娘の魔術で。

 

『おね…がい、瑠奈』

 

……!…うん

 

練気は、練れない。狩技は───ギリギリ……ううん、この刀じゃ羅刹でも足りない。なら───

 

───忌刀

 

羅刹よりも───さらに、危険な技。発動直後、視界が歪む。

 

『瑠…奈……?』

 

大丈夫……だから

 

意識が朦朧とする。視界が揺れる。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い───

 

───しっかり、しろ……舞華、瑠奈…!!

 

声に出して、持っていかれそうな意識を引き留める。その名を、呼ぶ───

 

───“忌刀(いみがたな)魂喰魄塊(たましいくらうはくかい)

 

正常に発動した途端───()()()()()()()()()()()()()。異世界のハンターはこの痛撃色赤を、“斬れ味赤”って言ってたっけ。飛竜刀【黄金】は試作品とはいえど最大痛撃色青。しかもその青は1クエスト使い続けても落ちないほどのもの。普通ならば一撃程度で赤まで落ちたりしない。が───

 

…っ、ごぶっ…!

 

『瑠奈…!無理、しないで…!』

 

この忌刀───否、“忌器(いみうつわ)”と呼ばれる技達は違う。この技は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それだけではない、練気やスタミナ、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今、私が血を吐いたのはそれが理由。維持し続ければいずれ───死に至る。でも───

 

約束、したんだ……

 

『……?』

 

ルルナと、約束したんだ…!ルルナを眠らせたあと、私はちゃんと生きるって……ルルナに胸を張って、空の上で会えるように生きるって……!!

 

『……!!瑠奈……それって…!』

 

だから……!今こそ解き放つ───!!

 

赤黒いオーラを纏った刀をルルナに振り下ろす。凄まじく痛そうな音と、顔を抉られたルルナの姿があった。

 

……はぁ……はぁ……

 

カラン、という音を立てて私の手から飛竜刀【黄金】が地面に落ちる。倒れかける身体をどうにか支える。

 

……っ。うっ…!

 

吐きそうになるのをどうにか抑える。……かつて、親友を斬ったこの手に、再びその罪が深く刻み込まれたことに。強い嫌悪感を覚えながら、飛竜刀【黄金】を拾い上げた。…今夜からまた、より一層濃い悪夢になりそうだった。

 

 

 

side 蒼空

 

 

 

───っ!

 

リオレウス希少種の───ソルルの火球を避ける。

 

…はは

 

力なく───笑う。また、ソルルとルルナに会えるなんて思わなかったのは事実。かつて、狂竜症……否、狂竜化に2度罹患して泣きながら懇願してきた2匹が。夢に出るほど私と姉さんのトラウマでもある2匹が。私達の前にまた、現れるなんて思わなかった。

 

まるで…悪夢だ。もう、この現実そのものが、悪夢。そうは思わない?…ソルル。

 

『思……う』

 

ソルルの声が聞こえる。…昔から私は、リオス種と呼ばれるリオレイアとリオレウスの声が聞こえた。それも由来してか、私達はリオス種と比較的仲がよかった。

 

『君の手で…僕は、最後を迎えて。それで、幸せだったというのに。また、僕と妻は君達の前に引きずり出された。……君達と戦うのは、もう嫌だ。』

 

……そう。

 

『……君達に、また辛い思いをさせてしまうのは分かっている。だが、分かるんだ。僕達はただ生かされているだけで、用がなくなればすぐに殺される身だと。今の僕達は、身体を動かすこともできない。身体が、別の何かに支配されているんだ。』

 

その言葉を聞いて歯軋りをする。愛剣である“煌鱗王剣白銀”が込められた力で音を立てる。姉さんの“飛竜刀【黄金】”と同じく、無理を言って作ってもらった試作品だ。

 

『…酷な願いと、分かっている。できることなら、もう一度こんなことは君達に言いたくはなかった───他の何者かによって僕達の命が潰えさせられるくらいなら、君達が僕達の命を終わらせてほしい。』

 

……っ

 

かつての、記憶。彼らに止めを差したときの、彼らの懇願。……同じ、ものだった。

 

『……頼む。愛しき娘、蒼空。』

 

……夢にさ

 

不意に口を開く。

 

出るんだよ……いつも。旅した記憶と、遊んだ記憶。そして…あなたを狩猟した記憶。起きた後はいつも、辛い。…今のこれが、夢であったならいいのに。

 

『………』

 

楽しかった記憶を見るたびに───いつも、これが夢じゃなかったら、って思う。でも、今は違う───これが夢であれと、これほど願ったことはない……っ!

 

煌鱗王剣白銀、剣モード!ビン圧縮解放───高出力状態移行!

 

目覚めよ、“忌剣(いみつるぎ)黄泉送火(よみのおくりび)”!!

 

忌器が1つ。忌器とは───かつて存在した、存在を喰らう呪われた武器だという。

 

苦しませたくないから───一撃で終わらせる!!

 

忌器は使い手の身体をも蝕む。発動させたならば即座にでも解き放つべきだ。

 

───ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!

 

縦振り一閃───それだけで、ソルルの頭が潰れる。

 

『───すま、ない…』

 

……っ、ううっ……!!

 

その親友を斬った感触は、やっぱり慣れなくて。煌鱗王剣白銀を納刀直後、その場で嘔吐してしまった。

 

蒼空、大変なんだろうけどごめん!

 

………?

 

姉さん……?

 

気をつけて!ルルナとソルル……っ!!

 

そんな声が聞こえたと同時に───音。

 

……う、そ…

 

先の一撃で地に伏したはずのソルルが───立っていた。

 

な…なんで……!古龍じゃないのに、どうして………っ!!

 

あり得ない!!古龍種以外は狩猟されればそのまま力尽きる!!そして、その亡骸はそのまま朽ちるかその場で消える!それは希少種であるソルルも例外じゃない!!そんなの、蘇らせることが出来なければ───

 

───!

 

あの女……っ!!!どこまで私達を愚弄する気だ!!!

 

 

 

side ミラ

 

 

 

〈クソッ、どうなってやがる……!!〉

 

結界内に突然現れた死霊の軍勢。それと、新たに喚ばれた獣魔達とサーヴァント達。不可解な出来事に困惑してる六花さんの声が聞こえる。

 

───人よ。人よ。

 

「…?」

 

対と共に眠らせよ。例え対と逢い見えようとも、我らこのような道望まず。

 

〈ヒノエ…?〉

 

今の…ヒノエさんの声?でも、何かおかしかったような……

 

───人よ。人よ。

 

「……」

 

対と共に眠らせよ。望まぬ逢着、望まぬ回帰───我ら龍への愚弄と同義なり……!

 

〈ミノト……?おい、誰かフゲンを呼んでくれ!!〉

 

言葉から感じる、怒り。それは言葉を発した者(ヒノエさんとミノトさん)だけでなく───私が対峙する風神龍と雷神龍からも感じる。ということは───

 

……共鳴、か

 

確かに、私やエスナのいた世界でもカムラの里にいた竜人であるヒノエ・ミノト姉妹は風神龍・雷神龍と共鳴…簡単に言えば、声を聞くことができた。

 

なら───あなた達が思っていることだよね。雷神、風神。

 

彼女達は、私が今ここで対峙している雷神龍と風神龍と共鳴したということだ。

 

───姫よ。姫よ。嗚呼、赦したまえ。我等生きて汝が力になれぬこと。我が身滅びてなお汝の敵に回ること。赦したまえ。

 

───姫よ。姫よ。赦したまえ。既に滅びたこの身を汝が前に晒すこと。生きて汝が使いになれぬこと。嗚呼、赦したまえ。

 

「……やっぱり、私達の世界のか。」

 

確証があったわけではないけれどなんとなくそんな気はしてたから。既に滅び、生きてないというと───

 

……それは、いいか。ともかく、あの2人のお母さん達の報告から今ここで絶命させるのは得策じゃない。だから───

 

非殺傷無属性砲門、展開。

 

()()()()同時にかかってきなさいな。時が来るまで死なない程度、殺さない程度に相手をしてあげる───多少痛いけれど、我慢してね?

 

砲門増設───累計、150門。

 

───来なさい、風神龍イブシマキヒコ、雷神龍ナルハタタヒメ!!あなた達の憤怒、あなた達の後悔、あなた達の怨恨───総てこの私が受け止めてあげる!!

 

 

 

 

{戦闘BGM:百竜ノ淵源}

 

 

 

 

咆哮は、ない。それでも、静かに───私と彼らは、激突する。

 

 

 

side リューネ

 

 

 

{戦闘BGM:光と闇の転生 ~シャガルマガラ}

 

 

 

 

……!

 

シャガルマガラの手を狩猟笛“THEレクイエム”の先端で払う。

 

……やれやれ、君も災難だな。

 

姿を見た瞬間こそ声を荒げたものの、母さん達からの報告で既に落ち着きを取り戻していた僕は相対するシャガルマガラに声をかける。

 

その力を持ったが故に、他の存在から忌避され───死してなお、その力を利用され続ける。残念ながら僕には君の声は聞こえないし、君の心中が分かるわけでもないが……こちらとしてもそちらとしても、迷惑な力であることには変わりないだろう?

 

シャガルマガラは答えない。僕ができるのはモンスターのその行動から意思を読み取るくらいだが……参ったな、あの魔女に操られてる影響だろう、全く読み取ることができない。…そういえば。

 

……君が僕を想っていたことは知っている。僕が君の命玉を持っていることからも。だが、何故?君は何故、僕を選んだ?

 

“天廻龍の命玉”。何故か僕はこの素材を得た。シャガルマガラとの関係は無いに等しいはずであるのに。……考えられるとすれば、だが。

 

もしも考えられるとするならば───君がシャガルマガラになる前。僕と何らかの関係があり、君がそれを覚えている可能性、だが。

 

思えば、このシャガルマガラが生きていた頃。どこか、僕達に攻撃するのを躊躇っていたような気がしていた。シャガルマガラの時だけではない、ゴア・マガラの時もだ。そしてそれは、僕達にとって不思議であったのをよく覚えている。

 

「………」

 

完全絶命する前、シャガルマガラはこちらに対して手を伸ばしてきていた。だが、城塞高地にて出会ったシャガルマガラはそんなことはしなかった。強い違和感───城塞高地で…いや、狂竜化事件の後に現れているシャガルマガラと狂竜化事件の際に現れているこのシャガルマガラを比較するとやはり強い違和感は拭えない。

 

やれやれ、今になって気になるとはね。…もし、君が何か僕と深い関係があるのなら…本当に申し訳ないと思う。

 

シャガルマガラの攻撃を避けながらも宝具の準備をする。

 

期が来たなら───せめて、安らかに眠れるように。

 

それまでは…時間を稼ぐとしよう。




裁「ちなみにモンスター達はルシャに操られてる影響でブレスと咆哮が使えないそうな。香月さんが言ってました。」

あ、そうだったんだ…

裁「うん……でも、ブレスに影響しない能力…リオス種の毒やシャガルマガラの狂竜ウイルス、ヴァルハザクの瘴気、イブシマキヒコの風にナルハタタヒメの雷なんかは使えてるんだって…」

へぇ……あ、さすがにちょっと長くなりすぎる気がしたので一度区切ります


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第287話 怒りの矛先

裁「……“やり場のないこの怒りをどこにぶつければいいの”、か……」

(るな)「…?」

裁「なんでもないです。」


『全員にお願いがある。あの魔女が倒されたあと、今対峙してる相手を早急に倒して欲しい。』

 

…そんな、リューネちゃんの念話に従って今、私は女王と対峙している。

 

「───シッ!!」

 

遅い。さっきの彼女より断然遅い。姿はさっきの彼女そのものなのに、何もかもが弱すぎる……!

 

「変異泥を纏うことすら必要ないなんて弱いにも限度があるでしょ……!」

 

そう呟きながら一撃。それで、彼女は倒れる。…だけど。

 

「脆い癖にしぶといとか───ふざけるな…どこまで彼女を侮辱するつもりだ……!!」

 

弱いのにしぶとい。それは、成長しているのなら許せる。だけど、成長していないのにしぶといのはただの苛立つ原因にしかならない。今回の事で、思い知らされた。…最終的に勝つというのなら、まだ許せるかな。“勝つ”という意思が見えるのなら。

 

「あぁ、もう……!」

 

“楽しい”、なんてものじゃない。ただただ単純化した“作業”と同じそれは。知っている相手の“劣化”でしかないそれは。なにより、結び付きが強い相手であったそれは───私達に対して、精神的な苦痛を与える要因にしかなっていなかった。

 

「……っ!」

 

なにより───心配なのはルーパスちゃんだ。ルーパスちゃんはまだ友達を失ったばかり。彼女の心が折れてしまわないか。それだけが気がかりだった。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「…クソやろうが…」

 

輝犬が吐き捨てるように呟く。その原因は言うまでもなく、対峙している死霊と化した狂犬だ。

 

「“サーヴァント”。そもそもが死霊みたいなもんだ。“英霊”って言うからな。金ピカの言うことからして俺達も劣化なのは間違いねぇ。……だが、その“さらに劣化”なんざふざけんのも大概にしろ。」

 

向かってくる狂犬に対して魔力を纏わせた槍を薙ぐ。狂犬はそのまま塵となるが、即座に再生する。

 

「チッ………意識はあるんだろ、クー・フーリン。なら、とっとと目覚めて俺と戦いやがれ。」

 

槍を狂犬に突き刺した後、輝犬がそう言う。

 

「今のテメェみてぇな意思の欠片も耐久力もないただの屍を蹴散らすほど退屈な戦いはねぇんだよ。生憎と俺は死体蹴りは趣味じゃねぇんでな。」

 

背後───マスターであるリッカの方を片目で見て口を開く。

 

「テメェには守りたいものがあったんじゃねぇのかよ。俺との戦いを投げ出してでも守りたいものがあったんじゃねぇのかよ。」

 

その目は、リッカと戦うメイヴの方を捉えていた。

 

「今、テメェが一度守れなかったそれがココにある。やり直しにはならねぇ、一度結果は決まっているんだからな。俺が勝って、テメェが負けた。リッカが勝って、メイヴが負けた。それは変わらねぇ───だがよ。」

 

槍を振って狂犬を吹き飛ばす───その衝撃で狂犬が散るが即座に再生される。

 

「───テメェがそんな程度で諦められるタマかよ?…俺にはどうもそう見えねぇな。だからよ───さっさと起きてこい。テメェの事だ、この状況も我慢できねぇはずだぜ?」

 

「……グ……ガ…………」

 

「お?」

 

ただただ突進して向かってくる以外の行動を見せた狂犬に輝犬が興味を持った。

 

「煽りの影響がやっと出たか?まぁ、そうじゃなくっちゃなぁ。」

 

「……が…………と……」

 

「あぁ?はっきり言えよ。」

 

「……とう、ぜん……だろうが……!!」

 

狂犬がそう言った瞬間、輝犬がルシャの困惑したような表情を見た。

 

「……ほーう?ふむふむ……」

 

「なに…勝手に納得してやがる……!」

 

「いや、別になんでもねぇよ。強いて挙げるなら……面白い、って思ったくらいか。」

 

「あぁ?」

 

「テメェの事じゃねぇよ。…とはいえ、やっと意識を取り戻したんだ───」

 

輝犬が槍を構えるのと同時に狂犬もまた槍を構える。

 

「早速殺りあおうぜ───なぁ?」

 

「それしかねぇか───今回は勝ってやるよ…!」

 

「抜かせ、負けんのはテメェだ!!」

 

再び狂犬と輝犬は激突する───己が意志のぶつかり合いとして。

 

 

 

 

別場所。ギルガメッシュと緑髪の青年───否、エルキドゥは向かい合っていた。

 

「やれやれ……屍として喚ばれた貴様に向かい合うなど。腸が煮えくり返る。」

 

「でも、そう言っている割には乖離剣を抜いてないじゃないか。君もずいぶんと丸くなったようだね、英雄王ギルガメッシュ?」

 

「あやつらの成長のためというのもあるが…第一、“貴様”が在ると知ったからな。天の鎖(エルキドゥ)。…そも、貴様に“屍”という概念が存在したことが我は驚きだが?」

 

エルキドゥはその言葉に肩をすくめた。

 

「僕だってそうさ。だって僕は土人形。君達人間の言う屍、即ち“死体”には該当しないだろう?大多数の意見から見れば。だって、機械が壊れたことを死体とする方が奇妙だろう。だから、僕もそうだと思っていたんだけどね。」

 

エルキドゥはそこでため息をついた。

 

「でも、僕は死霊として召喚された。まぁ、意識が強すぎて操りきれなかったようだけど。」

 

「…そういえば、先ほど“概念的な死であればどんなものですら利用する”と言っておったな。…貴様は概念的な死(それ)に当てはまったか。」

 

「あぁ。それなら当てはまるだろうね。機械の修復不可能状態も言ってしまえば機械の死と動議だ。“概念的な死”とは、恐らく生物非生物問わず当てはまるものなのだろうね。」

 

とはいえ、とエルキドゥが呟く。

 

「どのような理由であれ、一度僕を倒さないといけないことは君も分かっているだろう?今回の僕達の召喚は通常の聖杯戦争におけるイレギュラー。…いや、そんなものじゃないか。イレギュラーというよりは……黒化英霊、とでもいうべきかな?違う気もするけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…そうだね?」

 

「…間違いないな。本来召喚されるべき英霊……違うな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。時間をかけすぎれば特異点そのものが崩壊するだろうよ。」

 

「…そうか。でも、いま僕を倒しても意味はない。それは君も気がついているんだろう?」

 

「そうさな。元凶を潰さねば意味などない。…とはいえ、貴様はここから動かしてはくれぬだろう?」

 

「歪な召喚とはいえマスターにはなるからね。君に対する時間稼ぎくらいはするさ。…まぁ、彼女が消えたならどうでもいいんだけどさ。」

 

「安心せよ。既にリューネめが何か策を講じているようだ。合図があればすぐに貴様を切ってやろう。」

 

「お願いするよ。僕としても今のこの状態で長い間君と一緒にいたくはない。」

 

そう言ったところでふと気がついたようにエルキドゥが口を開く。

 

「ところで、彼女は一体何をするつもりなのだろうね?」

 

「さて、な。あやつらハンターの考えることはこの我にもよく分からん。ただ、悪い方向には行かぬであろうよ。」

 

「……随分彼女達を信頼してるんだね?なんだか妬いちゃうなぁ。」

 

「そんな事を言うのはいいが本気で嫉妬していないだろう、貴様は。」

 

「まぁね。…ねぇ。」

 

「む?…っと」

 

エルキドゥが寄りかかってきたのをギルガメッシュが抱き止める。

 

「……僕を切るとき、躊躇わないでよね。大丈夫だよ、僕達はいずれ……いや、この特異点が終わればすぐにでも出会うだろう。…なんとなく、そんな予感がするんだ。」

 

「……ふん。期待せずに待つとしよう。」

 

「あはは。…期待されてなくとも、待ってくれているのは嬉しいなぁ。」

 

他の場所とは違い、ここだけは緩やかな空気が漂っていた。

 

 

 

side 理紅

 

 

 

「……」

 

お姉ちゃんの回復をしながら戦況を視る。…かなりの、地獄みたいな感じになっているみたいだ。

 

「急がないと、他の人たちが限界になる方が早い……」

 

ルシャは強敵。正直、私達が連れ込んでしまったようなものだろうから私達が対処した方がいい。

 

「倒しきらなくていい……私達のいた世界まで撤退させればいいの。」

 

恐らく。ルシャは自分の器を今使ってるだけしか用意してない。その器を使えなくさせてしまえば、ルシャは撤退するしかなくなる。問題は、使えなくさせる方法。

 

「……お姉ちゃん」

 

……多分。お姉ちゃんにはかなりの苦痛を強いる。でも今のところ、これしか方法がない。

 

「……う、うう…」

 

「…!お兄ちゃん!!」

 

「ふぇ…あぶっ!」

 

気がついたお姉ちゃんに思いっきり抱きつく。

 

「ちょっ……理紅、苦しい、苦しい苦しい!!!」

 

「あっ、ごめん!」

 

お姉ちゃんの声に即座に離れる。

 

「……意識戻った直後にまた意識飛ぶかと思った……」

 

「ご、ごめん……」

 

「いいよ……それより、状況は?」

 

私はお姉ちゃんに今の状況を簡単に話す。戦闘している方を見ながらだったから、多分伝わってる。

 

「そう。…ルシャに向かわせなかったのは正解。あれを崩すためにはある手順を踏むか世界ごと巻き込むかしかないから。」

 

「……うん…お姉ちゃん」

 

私が言葉を伝えようとした時、お姉ちゃんが私の頭に手を置いた。

 

「大丈夫、言いたいことは分かるから。…一時の決着を、つけてくるよ。」

 

「……大丈夫?」

 

お姉ちゃんが言った“ある手順”。それは、お姉ちゃんにとって辛いものなはず。

 

「…大丈夫。…って、言っておく。そうでもしないと、ここでもう折れそうだから。……もしも大丈夫じゃなかったら、理紅が私を癒してくれる?」

 

そんなお姉ちゃんの言葉に苦笑する。

 

「お姉ちゃん。それは私に言う言葉じゃないでしょ。()じゃなくて恋人さんに言って、恋人さんに癒してもらわなきゃ。」

 

「……それも、そっか。」

 

そう言ってお姉ちゃんが立ち上がる。

 

「……お兄ちゃん、こっち向いて?」

 

「ん───みゅっ!?」

 

お姉ちゃんの声が不自然に止まる───それはそうだ、私が唇を塞いだんだから。

 

「───ぷはっ」

 

「………」

 

その時間、約10秒。お姉ちゃんはというと脚に力が入らなくなったみたいで、その場で崩れ落ちていた。ちなみに七海さんがなんか照れてた。

 

「あ、あのさぁ……理紅……?」

 

「……力、返すの忘れてたのと……あと、私の力の半分譲渡。それで、勝って。」

 

「それはいいんだけどさ……!なんでいつもいつもキスするの…!しかも深いんだよ理紅は!!腰立たなくなるから重要なときはやめて……!?」

 

「お兄ちゃんが可愛いすぎるのが悪い」

 

「責任転嫁じゃない!?まったくもう、理紅も恋人いるのになんで私にも……」

 

「あの子には30秒くらいしてるから」

 

「キス魔だ……うちの妹はキス魔だ……あかん、マジで腰立たん……」

 

理紅はかなり巧いから仕方ないか…とか言いつつ立とうと頑張るお姉ちゃんは…なんというか

 

「……襲うよ?」

 

「ここ外!!あと本気で発言に気を付けて!?」

 

「お兄ちゃんが元男性なのに可愛いすぎるのが悪い」

 

「この姿の時は“お兄ちゃん”って呼ぶのやめてって言ってるでしょうが!!…あ、やっと戻った…ホントどうして理紅はこうなったの……」

 

「お姉ちゃんが狂わせたんだよ?」

 

「認めたくない」

 

「認知してください」

 

「意味が……もういいや、後でにして……」

 

うん、流石にこれ以上ふざけてる場合じゃないね…

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「うん。」

 

今度は多分───大丈夫だ。




(るな)「ちなみに香月さんですが結構精神力は強い方です」

裁「というと?」

(るな)「オメガバース世界で言うと香月さんってαの女性になるんですが、番無しのΩの発情フェロモンに対して精神力だけで抗えるレベルで強いです。」

裁「……えぇぇ…」

(るな)「ちなみにお母さんはオメガバース世界の事を軽く知っている程度なのでどんな作品があるかとかはあまり追ってません。基本的に知っているのは性別関係くらいだそうな。」


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第288話 刃の形

(るな)「さてと……そろそろ昔話の続きでもしましょうかね。」

裁「そろそろ忘れかけてたんですけど…」

(るな)「それは多分読者の方々もだと思いますよ。…そういう私もですが。」

裁「それもこれもマスターが悪い…」

(るな)「そうですね、お母さんが悪いです。」

弓「…話している最中すまぬ、(るな)よ。」

(るな)「……?どうかしましたか?」

弓「その…だな。」


超加速から。限界加速を超え、臨界加速を超え、異常加速に至る。そこから更に加速して───理外加速へと。

 

「───シッ!!!」

 

「ぶっ!!?」

 

異常加速中でも一瞬の出来事。そんな一瞬に私はルシャに蹴りを入れ、等速まで減速した。

 

「───ごほっ、ごほっ……まさか、アナタがソレを使うなんて…ねぇ?」

 

第一の刃は打ち込んだ。後はここからどう展開させるか。

 

「仮にも友達の身体相手に。無茶苦茶するわねぇ…?」

 

「…私だってやりたくてやってる訳じゃない。」

 

「そうよねぇ?アナタはすごく、すご~く、友達想いだものねぇ?」

 

「…それを利用して相手に躊躇わせるあなたはただの外道でしょ。」

 

あぁ、もう───イライラする。

 

『───落ち着いて。そこで暴走したらルシャの思う壺だよ。』

 

声のおかげで落ち着きを取り戻す。声は、ルシャの方から聞こえていた。この声は、彼女の───身体の本来の持ち主の声だ。

 

『……良いんですよね?』

 

『うん。…ちょっと……ううん、かなり悲しい、けど。でも、こうなったらそれしか方法がないから。…一思いにお願い、香月。』

 

『……分かりました』

 

数瞬の会話の後、片手剣を構える。彼女の言葉通りにするにしても、ほぼ万全の状態のルシャにあの技を当てるのは難しい。だからこそ。

 

「第二の刃」

 

「させ───」

 

強制的なリミッターのせいで全力は振るえないとはいえ。理紅から力を返して貰うどころか貸してもらってる今の状態なら。ルシャが何かするよりも私の方が早い。

 

「“穿時遡”」

 

宣言と共に一瞬───たかが一瞬、されど一瞬。私の攻撃は、時間を───超えた。

 

「カ───ハッ」

 

彼女の意識が存在する以上、あまり彼女の身体をボロボロにしたくない。それ故に少し加減しているのは確かにある。……とはいえ、それですら今のルシャは先ほどよりも弱い。その原因は───

 

「死霊魔術式の同時使用と死霊支配の無効化」

 

私がそう呟くとルシャがピクリと反応した。

 

「そうでしょう?いくら有名な、いくら伝説といわれ不死のような長い時間を持つあなたでも、自らの魂に課せられた制約には抗えない。同時使用している数が多いほど。支配を無効化されその支配していた対象からの抵抗力が強ければ強いほど。あなたの出力は落ちていく。それはまるで“抵抗器”の如く。」

 

「……」

 

「故に───私を一度打倒し、慢心したあなたは9つの死霊魔術を展開した。そして、その全ての魔術において抵抗され、2つは完全に支配を破られ。あなたへの強制リミッターとして戻ってきている。」

 

でも……それで五分、もしくは私の方が少しだけ不利だ。たまたま感知外だったから、たまたま私が早かったから攻撃が当たったにすぎない。あまり認めたくないけど───この女は、強い。伝説であるその名は伊達ではない。

 

「……流石は……永い年月を生きているだけはあるわねぇ?私の異常すら見破られるのは初めてよぉ。」

 

「……」

 

「流石は英雄───“数多の世界を救う真名なき者”ねぇ?」

 

「……その名で私を呼ぶな」

 

声を低くしてそう呟く。…この女のことだ、こう言ったとしても面白がるだけだが。

 

「……第三の刃」

 

この女は、自分の方が遥かに強いと自覚しているから。異常程度で私が追い付くはずがないと油断しているから。私の力が理紅に返して貰ったのと貸してもらったのが影響して大部分戻っていることを知らないから。だからこそ、そこに浸け入る隙がある。

 

『ユナさん!!』

 

『まっかせなさい!!』

 

「『“怨嗟響鳴”───』」

 

その隙を活かせるのは恐らくあと数撃。活かせなくなった時用にユナさんの協力のもと───ユナさんが歌う“Delete”に乗せた怨念を周囲に集めておく。これで、万が一何処かへ飛ばされたとしても私に怨念がついてくる。

 

「第四の刃───」

 

とりあえず、準備は整った。

 

「一歩、理外…」

 

へらへら笑うルシャのその顔。

 

「二歩、裏斬」

 

その顔が───やっと、曇った。今さら気づいても、もう遅い……!

 

「お前…!?」

 

「三歩、怨恨───!!」

 

強く踏み込むと同時に───一気に、跳ぶ。

 

「至天───“夢幻大象歪落とし(むげんたいしょうゆがみおとし)”!!!」

 

一撃にて発生した空間の歪みにルシャを縫い留め───様々な攻撃がルシャに殺到する。しかしそれら総ては夢幻。それが“攻撃である”と認識しなければ攻撃にすらならない偽物。…だが。矢を向けられ、実際に射出され───それが“攻撃である”と認識しないというのは、かなり難しい。たとえそれは、ルシャであっても例外ではない。

 

『相変わらず香月の幻覚は凄いなぁ…』

 

『そんなことないです。私より強い幻覚を使える人は他にもいますから。』

 

『それはそうなんだけど……ほんと、香月って自己評価が低いというか……』

 

彼女の呆れたという雰囲気の声を聞いているうちに、幻覚が吹き飛んだ。

 

「…油断、したわぁ……全部、偽物なんてねぇ?……もう、油断はしないわよぉ?」

 

「……遥か古の誓約と───」

 

「───させるわけ、ないでしょう?」

 

召喚式句を唱えている最中に、ルシャに接近される。

 

「墜ちなさい───生ける者など存在しない死の世界!!虚空へと!!」

 

ルシャの言葉の直後、周囲が歪み───濃紫で塗りつぶされた世界に放り込まれた。…ルシャと共に。

 

「ハハハッ!これであなたは何も出来ないでしょう!?」

 

剣を弾かれ、手元に残るは“音叉”のみ。端から見れば、絶望的な状況。だが───

 

「───汝と結びし盟約により、応えるならば。」

 

「───!?」

 

()()()()()()()()()。自身が魔方陣を展開できずとも、纏った怨念によって魔方陣を描けば───!

 

「我、毛利香月の名において汝の姿をここに乞う」

 

「は、ははは…ハッタリね?この場所で陣を描けもしないのに───」

 

「汝、怨念を纏いしもの。我、汝と契約せしもの。悠久の時を経て我と汝の絆未だ失われず在し、汝我に力を貸すならば───」

 

「耳障りな詠唱をやめなさい?足掻いたって無駄なのよ?即座に止めて楽になった方がいいわよ?」

 

「───今こそ応えよ。」

 

怨念によって描いた陣が───妖しく、発光する。

 

「なっ……!?」

 

「応えよ。我が声、我が魂、我が名に対し汝の声、汝の魂、汝の身体応えるならば───!!」

 

術式が───完成する。

 

「境界の門を潜り我が前に姿を顕せ、()()()()よ───!!!」

 

「───ヴォォォォォッッッ!!」

 

咆哮と共に姿を顕すは“怨嗟響めくマガイマガド”。以前、何故か懐かれてなし崩し的に盟約を結んだ存在。

 

「怨恨連鳴───響け、怨嗟に染まりし禍ツ琵琶!汝が調べ、浄化と共に…!」

 

手元の音叉が姿を変える。その姿は琵琶。“鎧怨鬼琵琶ウラザボグ”───周囲の怨念が総て琵琶とマガイマガドに飲み込まれる。

 

「喰らい───尽くせ!!」

 

「───ヴォォォォォッッッ!!」

 

「ちぃ………うぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『む、無茶苦茶するね…!?』

 

彼女の声が聞こえる。……まぁ、マガイマガドに噛みつかれ、牙のような形を持った無数の怨念に噛み砕かれ、万力ばさみのような形をした音の塊に噛み潰されてるのをみればそれは…まぁ。

 

『これ、私の身体ボロボロになるよ……最期くらい綺麗な姿でお別れしたかったんだけどな……』

 

「……なんか、すみません」

 

『いいよ。…どうせ私は屍。内部的には朽ちてるんだからもとより綺麗なんかじゃないよ。…それより』

 

彼女がそう呟いたとき、マガイマガドの姿が消える。…それだけではない。無数の怨念と音の塊も、また。

 

「怨気切れたね…そして、どこにもいないと。」

 

『ふ……アハハハハハッ!!生きるものも何もないその世界で静かに朽ち果てるがいいわ!!』

 

姿は見えずに声だけが聞こえる。…元の軸に戻ったみたい。

 

「……」

 

誰もいない───暗く、落ち続ける感覚。…()()()と、似てるものの。相違点は目的地がないことか。

 

「まったく、何言ってるんだか───」

 

剣もない。魔法も使えない。今できるのはただ落ち続けるだけ───

 

 

───本当にそうか?

 

 

「……」

 

 

───本当に今の汝は無力か?

 

 

虚空の中で、静かに響く声。

 

 

───否。否、否。汝には我がいる。我が名を、我らが名を忘れるな。

 

 

「……分かってるよ」

 

 

───ならば。ならば立て。汝が戦いはここで終わらず。

 

 

「全く。ほんと───」

 

 

───さぁ。剣を持て。剣を執れ。

 

 

 

───剣を持て、絆結びし者よ!!

 

 

「分かったよ、やればいいんでしょう───!!」

 

 

私は虚空の───私が向いている方向に手を伸ばす。

 

 

───我らが名は───!!!

 

 

 

「───“トウヤ”ッッッ!!!!」

 

 

 

叫んだ、瞬間───虚空に、2つの稲光が走り。その稲光は、私の手に収まる。

 

「全く───少し切り替える時間くらいくれたっていいでしょ……」

 

片や紫の刀身を持つ刀。その紫は、虚空と同化するかのように深い。片や、鈍色の刀身を持つ刀。その輝きは使い込まれた業物と見て取れる。奇しくも、どちらも“刀也”という銘の刀だ。

 

「主を叩き起こしたんだから、多少の無茶くらい覚悟しなさいよ!!」

 

体勢を正常に戻した後、左手に握った紫の刀を振りかぶる。

 

「空間支配能力者を舐めるな!!───“虚空花咲(こくうはなざき)”!!!」

 

そのまま刀を振り抜くと───虚空が、裂けた。

 

「なっ……!?」

 

声のする方には驚愕の表情を浮かべるルシャがいた。

 

「何故……!!」

 

「甘くみすぎでしょ、ほんと……確かにあなたは強い。だけど───無策で倒れるほど私達は弱くない!!」

 

驚愕の隙にルシャの懐に入り込む。

 

「絆の式刀───!」

 

「ち───!」

 

「───“絆貫(きずなぬき)”!!!」

 

右手の刀也でルシャの身体、その心臓部分を一度貫き、そのまま縦一文字に裂く。

 

「ぐぅっ…!死霊共!こいつを、殺せ!!」

 

ルシャの指示に従い、周囲に湧いてくる死霊。───あぁ、本当に不愉快だ。だからこそ。

 

「絆の式刀───」

 

総て───蹴散らす。

 

「───“潤い羽(うるいばね)”!!!」

 

絆貫が純粋な光属性単体標的技なら、潤い羽は水属性・風属性混合の範囲標的技。

 

「ひっ…化け物…!」

 

「───化け物?…あなたがそれを言うか。」

 

「に、逃げ───逃げられない……!?何故……!!」

 

ルシャが困惑しているのを見て、ルシャの背後を見る。

 

『───やって!私達が止めるから!』

 

『───総て終わらせて、香月!』

 

「……お二人とも…」

 

ルシャの動きを止めていたのは、二人。……あぁ…

 

「貴様ら……ただの死霊の分際で…!!!」

 

『『迷うな───一思いに()()()()()!!』』

 

その言葉を聞いて、目を閉じる。…想い出は、心の中に。

 

「───宝具、解錠」

 

終の刃を───開こう。

 

界、総無話(かい、すべてなきはなし)時、総無還(とき、すべてむにかえす)間、総無消(はざま、すべてむにきえゆ)。」

 

『……』

 

刃、受者(やいば、うけしもの)史一切合切抹消(しよりいっさいがっさいまっしょうされん)。」

 

『……ごめんなさい』

 

彼女の、声。詠唱途中に顔を上げる。

 

『あなたにとって辛いことだって、分かってる。あなたに酷なことを言ってるって分かってる。…本当に、ごめんなさい。』

 

「……」

 

『私は…こんな状態で、あなたに会いたくない。…本当は、あなたともっと一緒に生きたかった。…だけど、もう叶わない。利用され続けて、あなたの辛い表情をこの先何度も見るようなら。私はあなたの手で最期を迎えたい。』

 

「………応えよ。総て無に還し、総てを喰らい、総てを零へと回帰させる怪物よ。」

 

『………お願いします。私達を、殺してください。』

 

「っ……」

 

死霊とは。その魂が存在し、転生を果たさなければ不死の存在だ。だからこそルシャもあんな無茶な運用ができる。逆を言えば、その不死性を何とかしなければ何度でも生き返ってしまうということ。私達のような下道死霊魔術師(バッドネクロマンサー)は概念の死をも利用できるため、たとえ転生したとしても過去の情報から利用することも可能だ。…無論、特殊な保護がかかっていなければの話だが。

 

「……分かってますよ。…そのために、私はここにいるんだ。」

 

死霊が“自分を殺せ”というのは。“死霊魔術師に喚び出されないようにしろ”、という意味だ。先述の保護は、私にはできない。…だから、別の方法を使うしかない。

 

「消えよ、総て。世界の歴史、汝の記憶、汝の歩み───一切合切闇に葬り()()()()()()()()

 

『……あはは…怖いな…』

 

「───“全記憶抹消(オールメモリー・デリート)”」

 

その宣言と共に───私はルシャと共に二人を突き刺す。

 

「…っ!?から、身体が……消え……!?も、戻れ!戻りなさい!!」

 

ルシャが慌てるが身体は戻らない。…当然だ。

 

『……あはは。ありがとう、香月。』

 

「……」

 

『これで……やっと安心して眠れる。…とはいっても…』

 

彼女が悲しそうに笑った。

 

『……ううん、なんでもない。これ以上言っても、香月を悲しませるだけだもんね。』

 

そういう彼女も───緩やかに、発光し始めている。

 

『……ほんと……何話していいか分からないや。話したいこと、いっぱいあるはずなのに……残ってる時間はもう、少ない。』

 

「……そう、ですね。」

 

『……だから、最期に……告白させて?』

 

「…?」

 

『わたし…香月と話してる時間が好きだった。死霊魔術師として、女の子として、人として……どんな話だったとしても、香月と話してるのが好きだった。』

 

「……鳥の話とかもですか。」

 

『そう。…発端は偶然だったけど、この世界でわたしは色々なことを知った。色々なものをみた。そしてそれらは、わたしにとって力となってた。でもこれ、全部香月が教えてくれた。…あなたがわたしの光だったんだよ。』

 

「……光、ですか。」

 

『うん……香月は好きな人がいるし、迷惑だと思うけど……この世界で忌み子だとされていたわたしを、不自由無く動けるようにしてくれた香月が、わたしは好きでした。』

 

「……そっか」

 

ということは、私は───()()、私を好いてくれている人を手にかけた、ということか。

 

『……もう、時間。……ありがとう。…そして。』

 

「『永遠にさようなら───』」

 

もう私が彼女と会うことは絶対に無い。元の世界で会う可能性はあるが、それは()()()()()()()()()()()()()のだから。そんな意味も込めているのを知っている彼女は、言葉のあとに消え去った。

 

「……あなたもですね。」

 

『……うん……ねぇ、香月。1つ聞いてもいーい?興味というかなんというかー…って感じだけど。』

 

「…どうぞ?」

 

『……気分悪くしたらごめんだけど……友達を斬るのってやっぱり…辛い?』

 

「……ええ。」

 

『……そっかー…ごめんね…』

 

「流石に慣れることができるようなものじゃないですね……」

 

『そうだよねー……ごめんね、嫌なこと聞いちゃって。』

 

もう一人の霊魂。彼女も私の一撃を受けたことから、既に。

 

『うわー……“存在の抹消”ってこんな感じなんだね……ぞわぞわするっていうかなんていうか……』

 

存在の抹消。この世界の歴史という歴史から。人々の記憶という記憶から。“その存在がいた”という事実を消し去る。…というよりは、だ。

 

「消去してる、っていうよりは“最初からいなかった”という情報に上書きされる感じですけどね…」

 

『なんか表現嫌だねー……功績とかはどうなるの?』

 

「すべて私の功績になります。……けど、そんなので獲た功績なんて何の価値もないです。」

 

“抹消された存在の功績がすべて自分のものになる”。これはそんないいものではない。“本来持つべき者が存在しないから埋め合わせで持たされている”というもの。つまりはただ“押し付けられた”だけなのだ。

 

『そっかー…あ。私もそろそろみたい。』

 

「……すみませんね、あの人とばかり長く話してて。」

 

『ううん。…むしろ、今回の被害者はあの子の方じゃん?私はただのおまけだよ?』

 

「…おまけ、だなんて。そんなこと言わないでくださいよ。」

 

『あははっ、そうだねー。…じゃあ…さようなら。新しい私ともどうかよろしくね?そんでもって、ちゃんと生きてね?』

 

私が頷くと同時に彼女の姿は消えた。…この世界から、存在を抹消されたのだ。

 

「……さて」

 

あと残る問題は───

 

「どうするの?」

 

『この───クソ餓鬼め……!!あれほど良い器はなかったというのに…!!』

 

ルシャが私に怒りを向ける。…はぁ。

 

「───それはこっちの台詞でもあんだよ、クソ女。他人の友達を道具のように使いやがって。」

 

『あんたに関係───』

 

「おい」

 

魂だけの状態になっているルシャを地面に叩き落とす。

 

『が……っ!!』

 

()にとって俺が友人だと認識したもの総てが守る対象だ。その総てが俺の縄張りだ。それを土足で踏み荒してんだ、悪魔共々俺の逆鱗に触れやすいのは分かってるよなぁ?」

 

『……っ!』

 

「今回は既に分が悪い、ここで終いにするがよ……次は無いと思え、ルシャ・ネクリス・ラプラーシア。」

 

そこまで言ってルシャを解放する。

 

『……っ!!覚えてなさい、クソ餓鬼……!!』

 

そんな捨て台詞を吐いてルシャはこの特異点から消えた。

 

「───っ、はぁ…」

 

それを見て、私はその場に座り込む。

 

「……あ、はは……やっぱり…堪えるなぁ……」

 

何度同じ場面に遭遇したとしても、堪える。時には生きているの人間から抹消を望まれたことだってある。そして、抹消された人間は───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「……っ」

 

今だやることは残る、が……1つの敵の元凶を絶った代わりに2人の友達を喪ったんだ、少しくらい泣かせてほしい。




理外加速(りがいかそく)
あらゆる理から外れる程の加速───つまり、“世界の理”という絶対の掟を置き去りにする程の思考行動加速状態。加速倍率は“計測不可能”で、その倍率がおかしい加速状態である影響か万全な状態の香月達ですら術者主観で10秒保たせるのが精一杯(異常加速の場合は世界主観で5分)。もっとも時間停止に近い加速状態で、時間を司る“神陽の力”の使い手曰く、“最も時間神に近い加速術。もはや人の領域どころか現人神の領域をも超え、神の領域に至るほどのもの。”とのこと。


穿時遡(せんじそ)
同じ空間の時間軸の“過去”を穿つ。“時穿剣・裏斬”と同じく過去に対策していなければ防ぐことが出来ない。“時穿剣・裏斬”と違う点は“遡れる時間の制限”が存在しないこと。


怨嗟響鳴(えんさきょうめい)
周囲に存在する怨念等の“怨み”に類する感情を音叉に集め、具現化する。


弓「…前々から思っていたが、毛利香月は本当に人間なのか?」

(るな)「人間ですよ。…香月さんは創詠の系譜の中でも人一倍規格外なんです。」

弓「だが……世界の理を外れるほどとなると規格外にも程があるぞ?」

(るな)「それ10秒しか保てませんけどねー…そもそも創詠の系譜は空間を操る術に長けているんです。なので時間を操るのはどちらかというと不得意な方ですね。…時間を操る術に長けている雨照の系譜ならもっと長く保たせられるかもしれませんが…」

弓「それをリスクなしで使えるか……とんだチートではないか。」

(るな)「……?誰がリスクなしだと言いました?」

弓「……何だと?」


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第289話 ヒカリモノ

(るな)「あれだけの力……あれを使うのに、リスクが一切無いと本当にお思いですか?」

弓「事実そう見えるが?」

(るな)「本当にそう見えるのでしたら、あなたの千里眼は総てを見抜けてはいません。」

弓「…む」

(るな)「“人間”の枠を越える強大な力。強すぎる力は持つ者の身を滅ぼします。…それは、あなたも分かっているでしょう?…そもそも、香月さんの器は多少強力なだけの人間に過ぎません。言い方は悪いですが、リッカさんやあなたとは違うんです。」

弓「とはいうが……いや。待てよ……毛利香月だけではないな。貴様らもよく見えん。…何か阻害しているか?」

(るな)「……さて、どうでしょう」


狂王と女王が1度倒れ、魔女の手によって蘇り。それぞれが戦っているなかで───

 

「はぁぁぁぁっ!!」

「せぁぁぁぁっ!!」

 

同じ方向に疾駆する黒と白の光。それと対するは───

 

「ぬぅぅぅぅん!!」

 

……岩が連続して繋がっている、こん棒のような何かを振るう大男。それだけで、黒と白の光は飛ばされる。

 

「…むーん…」

 

「く…堅い……!」

 

黒の光───マシュ・キリエライトが歯噛みする。

 

「流石は父の師、フェルグス……その名は伊達ではないということですね」

 

白の光───コンラが体勢を立て直しながらそう呟く。

 

「早く……早くしなくては……!」

 

「マシュさん、焦りは禁物ですよ……焦りは判断を鈍らせます」

 

「……っ!はい…!」

 

マシュの焦りをコンラが抑える。それを見た大男───フェルグス・マック・ロイが口を開いた。

 

「…ふむ。そなたらはよい組み合わせのようだ。焦る者をもう片方が冷静に抑え、長期戦を良しとする───精神的な面での組み合わせとしては最良の形に近いか。」

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

「だが───」

 

マシュの突撃を───一閃で、払う。

 

「っ───!?」

 

「マシュさんっ!」

 

「…ふむ」

 

コンラより放たれた数個の石を例のこん棒(?)でいくつか叩き砕き、残った石をコンラに向けて打ち返した。

 

「うっ…!」

 

それをコンラはルーンで防ぐが、衝撃でマシュの側まで吹き飛ばされた。

 

「マシュさん、大丈夫ですか?」

 

「はい…!まだ、やれます…!」

 

立ち上がる二人を見てフェルグスがため息をついた。

 

「やれやれ…どうしたものか。」

 

「───いきますっ!」

 

「待て」

 

「…っ!?」

 

こん棒を下ろしたフェルグスにマシュの動きが止まる。

 

「女王は果て、主君も果てた。…まぁ、今はおかしな状態になっているようではあるがな。とはいえ、この戦いに守るべき誓約(ゲッシュ)があるわけでもない───ならば少し語り合うのもよかろうよ。」

 

「なにを…!今更語ることなどありません…!───ハッ!」

 

コンラの槍をこん棒の一部で受け止めるフェルグス。

 

「待てと言っておろうが。そも、武に必要な心技体───いずれも乱れている。そのようなコンディションで戦いになるはずもない。一度静まれ、話はそれからだ。」

 

「何が…言いたいのですか…!私達は敵同士、何も語り合うことなどないはず!必ず──必ず倒します!!」

 

「そうです、フェルグス・マック・ロイ…!父の確実なる敗北のために招かれたのでしょうが、そうはさせません……!」

 

「待て待て待て!?色々とおかしいぞそなたら!?心構えから逆だぞ!?───はぁ」

 

再度ため息をつき、頭を押さえる。

 

「───そも、盾の乙女よ。お主の盾は敵を倒すためのものか?」

 

 

 

「イワークを振り回してるタケシに言われたくありませんっっ!!」

 

 

 

「……むぅ」

 

「タケ……?」

 

言われたことに対し、マシュが反射的に叫んだことにフェルグスが怯み、コンラが困惑する。

 

「大体なんですかそれ!!なんで戦いの場においてイワークを武器にして来てるんですか!?あなたやる気あるんですか!!」

 

「いや、あるはあるのだが……愛する女王にあれこれと着替えさせられたりなんだりとだなぁ…」

 

「あぁ……着せ替え人形にされたんですね……」

 

ポリポリと頭をかくフェルグスにコンラが同情の目線を向ける。

 

「俺のことはいい、俺はセイバーだからな。極論、剣のようなぶったたける物を持っていればセイバーになり得るだろうからな。」

 

「いえ、それはバーサーカーになる気がしますが…」

 

「……ともかくだ。そなたはどうだ?」

 

「…」

 

「“盾”、というものは敵を倒すためのものか?」

 

「…何を。サーヴァントとは敵を倒すのが当たり前───」

 

「───なわけなかろう。」

 

マシュの言葉を、一瞬で否定するフェルグス。

 

「“キャスター”を見るがいい。呪殺やらなにやら、確かに敵を倒す術を持つキャスターは多い。だが、それ(敵を倒す術を持つキャスター)が総てか?」

 

「……?」

 

「敵を倒す術を不得意とするキャスターもいるだろう。そして、自らが戦うことを不得意とするキャスターなど何騎といるだろう。それがキャスターのクラス特性であるが故に。どうだ、様々な英雄と交流するお主だ。心当たりはないか?」

 

「あ……」

 

マシュが小さく声を漏らす。心当たりがないはずがない───“メディア・リリィ”。彼女は癒しの術を得意とする魔術師(キャスター)だ。“アンデルセン”。彼は自分のことを“文字を書くことしかできない魔術師(キャスター)だ”と言った。

 

「極論、キャスターは魔術を使える故にキャスターに割り振られているといってもいい。だが、お主は?戦いや武具においてそれは適材適所。ただ敵を倒すだけならば、それこそバーサーカーにでも割り振ればいい話。そも…盾など敵を倒すために使うには非効率すぎる武器といってもいいか。」

 

「…!」

 

「“盾”とは護るためのもの。小さき盾ならば攻めの補助にも使えるかもしれんが、お主のは“大盾”だ。攻めに使えるようなものでもない。お主、戦い方を間違えておらんか?何を焦っているのか。精神を安定に保たねば護るべきものも対すべきものもハッキリとせんぞ?」

 

黙り込むマシュに畳み掛けるようにフェルグスが口を開く。

 

「───マスターと上手くいっていない…か?」

 

「…っ!」

 

「図星のようだな。相談に乗ってはやりたいが、今は敵同士。…ふむ。あえて1つ言うならば…その胸にしまい込まず話し合ってみるといい。サーヴァントとマスターの関係性悪化は決定的な敗北を招きかねんからな。」

 

「…は、はぁ……」

 

そのフェルグスの話し方と豪快な笑い声に毒気を抜かれ、精神が安定に導かれるマシュ。少し考えた後、マシュは口を開いた。

 

「マスターと……先輩と話をしてみます」

 

「うむ、それがいいだろう。…して、クー・フーリンの息子……息子、だな?何やら違和感を感じるが…」

 

「…っ!?」

 

コンラは自身の隠しのルーンが見抜かれていることに動揺した。昨日、リッカ達に自身の真実を話したところ、相手と対峙する際には使っておいた方がいいという結論になったのだ。

 

「父の名誉のため戦うのはいいが、戦う理由の総てを任せようとするのは感心せんぞ?お主もケルトの勇士ならば、自分のために戦うのもよかろう。」

 

「は、はぁ……」

 

「確かに名誉は大事。しかしお主はまだ若輩者よ。少しばかり我儘をいっても許されるであろうよ。」

 

「あ…はい。…えと」

 

「……敵……?」

 

すっかり毒気を抜かれた二人を見たフェルグスが豪快に笑う。

 

「おうさ、敵だとも。…だが、戦っていて気になってしまったものでなぁ。先達として後進を導くのは当然だろうて。それと───」

 

「「それと?」」

 

「俺は主に女が大好きだ!故に女の心が曇っているのが我慢ならんかったのさ!はっはっは!」

 

───この言葉に、マシュの頭の中で“主に?”という言葉が浮かんだのは言うまでもないだろう。

 

「さて…少し時間をやろう。今更少し長引いたところでそこまで変わらんであろうよ。その少しの間、2人で語り合うといい。」

 

「「は、はい…」」

 

そうして向かい合う二人を見て満足気な表情をしながら空を仰ぐ。

 

「さて……あちらが本気になるならば、こちらも本気でいかんとなぁ。…愛しき女王、出きるならば自らの手で救ってやりたかったが…まぁ、よいか。」

 

そんなフェルグスの呟きは二人には聞こえていない。

 

「……マシュさん、マスターとの関係になにか不安でも…?」

 

「…お恥ずかしながら。マスターはどんどん強くなっていきますし、私よりも強い方はいくらでも周りにいます。…私は、何も変わらなくて……」

 

「……なるほど」

 

それを聞いたコンラは小さく、本当に小さくではあるがため息をついた。

 

「……リューネさんの言った通りでしたか。」

 

「え……?」

 

「今のあなたの考え…既にリューネさんが予測していたんです。……リューネさんからあなたに伝言があります。」

 

咳払いをしてから言葉を繋ぐ。…あの夜、リューネに託された言葉を。

 

「───もし、君が彼女に必要ないと思うのなら、それは大きな間違いだ。仮に彼女に必要ないのだとしても、僕達には君が必要だ。何故なら、僕達がリッカ殿のことを気にせずに戦うことができるのは君がリッカ殿を側で護ってくれているからこそだからね。流れ弾も何も気にせず、ただただ目の前の敵を迎え撃つ。それができるのはマシュ殿、君がいるからこそだよ。僕やルーパスはそもそもが硬くない。だから、“何かを護る”というならばその原因を潰す以外の方法がないんだ。そしてその方法は、護る対象をも傷つけかねない。…だが、君の場合はどうかな?」

 

「……!」

 

「君は硬い。大盾というものを使う、というのもあるが、それ以前に君は盾兵(シールダー)。僕達なんかより遥かに硬いんだ。…残念ながら、その硬さは僕達にはない。“総ての攻撃を受けきる”ということができないんだ。それに………思いだしたまえよ、最新の英霊よ。君は僕達と出会うまでの間。彼女を…いや、彼女だけではない。オルガマリー所長をも護りきっていたじゃないか。」

 

「あ……」

 

「周りが強くて焦る気持ちは分かる。だが……焦りすぎるのはよくないぞ?君には既に、“無力だった頃のマスターを護った”という実績が存在しているんだ。無論、そこで止まってはいけないがね。上を目指すというのなら、共に歩めばいい。分からないなら、聞けばいいのさ。…共に歩み、共に競い。時に任せて、時に任されて。そうやって、私とルーパスもここまで上がってきたんだよ───以上です。」

 

「共に歩み……共に、競い……」

 

最後の言葉を噛み締めるかのように呟く。

 

「……そう…ですね。ええ、そうです…」

 

───火が、点る。いつのまにか消えていた心の火が、再度。

 

「……コンラさん。ありがとうございます。」

 

「リューネさんの言葉ですから、私は何も…それよりも」

 

「はい……」

 

目を閉じて、深呼吸。自分の1つの望みを、定義する。

 

「……行きましょう、コンラさん。」

 

「…はい。…先程よりも、よい顔をしていますよ。」

 

そんな会話のあと、フェルグスに向かい合う。

 

「お主なりの答えは見つかったかな?」

 

「……こたえは…まだ。ですが……」

 

盾を一度浮かせ、自身を鼓舞するように地面に叩きつける。

 

「誓いを思いだし───望みを、見つけました。」

 

マスターを護ることこそが誓い。英雄王の乖離剣に、祖龍の赤雷に…更には赤龍の青き星に真っ向から挑み、受け止めることこそが望み。そう定義した彼女は真っ直ぐとフェルグスを見据える。

 

「はっはっは、曇りは晴れたようだ。…さて。これで思う存分殺しあえるというもの。」

 

「…殺しません」

 

「…何?」

 

「護ります───私よりも後ろに、被害は出させません。…それが、私の為すことですから。」

 

「……ふっ。良い眼になったものよ───」

 

そう言い、フェルグスは背中に背負っていた剣……剣?を抜く。

 

「ならばこちらも本気で挑まねば───失礼というものよな?」

 

「……」

 

剣を向けられてもそのマシュの静かな眼光は変わらず。ただ、フェルグスを見据えていた。

 

「……マシュさん。3分ほど、耐えて───」

 

「分かりました。」

 

「───言いきってないのですけど。お願い、します。」

 

そう告げ、コンラは準備に入る。マシュは盾を構えてフェルグスに対する。

 

「ならばその3分───我が本気、受けきってみるがいい!!」

 

その言葉の後───轟音。フェルグスの剣、カラドボルグとマシュの盾が激突した音だ。

 

「───っ」

 

「ほう───折れないか。いい、それでこそだ!倒し、組伏せる女にふさわしい!!」

 

そう言い、攻撃は激しさを増す。───1分。マシュの心はまだ折れず。

 

「そら、いくぞぉ!」

 

「っ……」

 

2分。猛攻に圧され、多少後ろに下がるものの、その闘志は揺るぎなく。

 

「これでも折れぬか。ならば───螺旋準備!強かなるお主への敬意として、お主を組伏せる意思の表れとして!我が最高をご覧にいれようか!」

 

「宝具───来ますか」

 

目を閉じる。望みを思い起こす。───マスターが呟いていた言葉を、思い出す。

 

「勇気を忘るるな───心に太陽を持て。」

 

敵の宝具を前にしているというのに、その精神は静まっていく。

 

「───真名、偽装登録。奮い起て、偽りの盾。」

 

「真の虹霓をご覧に入れよう。我が全力、その盾を貫くことを信じ───!!」

 

残り───45秒。

 

 

「“虹霓(カラド)───(ボルグ)”!!」

 

 

放たれた敵の宝具。それは周囲を破壊せんと、二人の少女を襲わんと迫る───

 

「宝具、展開します───偽りなれどもそれは礎に違わず。焔と光を目指し、古き龍の前に顕現せよ───」

 

合わせるような、詠唱。本来、マシュの詠唱はこのようなものではない。それは自己暗示と共に、自らの護りを強化するための言霊。

 

 

「“疑似展開 仮想宝具/(ロード)───人理の礎(カルデアス)”ッッッ!!!」

 

 

轟音、破砕音、掘削音───様々な音と先程よりも数段以上重い攻撃を耐える。相手は宝具、こちらも宝具。しかしそれでも、宝具より前の攻撃より数段以上重い。

 

「───ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

───だが、マシュの輝きは決して曇らず。偽りの真名であろうとも、背後を守護せんとするその雪花の盾は。

 

「───見事だ、盾の娘。」

 

周囲が破壊されたその中で。自身の背後を、確かに護りきった。

 

「はぁ…はぁ……っ───」

 

「…っと。すみません、お待たせしました。」

 

ふらりと倒れるマシュを支える声。長く、()()()()を下ろした娘。

 

「コンラ……さん?」

 

「です。…髪の色が変わっているのはお気になさらず。恐らく祖父の力が関係してますので。…この先はお任せください」

 

そう告げ、コンラはフェルグスの方を向く。

 

「おぉ───違和感は確かだったか!なんと、なんと美しき女か!これは将来が楽しみになること間違いなしよ!」

 

コンラの装備に、変化が起こっている。先程までは小型のスリンガーであったものが、今は光を放つ長弓に変化している。

 

「姿を解放したとき、自然と変わりましたが…長弓は流石に使いにくいですね。…スリンガー、といいましたか。小型の投石器に戻しましょう。」

 

呟くと同時に長弓がスリンガーに戻る。

 

「ははは、まだ若いが即座に押し倒し、口説かねばな!クー・フーリンめ、なんと美しい子を隠していたのか!」

 

「…分かりませんが、口説く時間なんて与えません。勇士フェルグス、貴方に敬意を表し、一撃で終わらせます。」

 

「大きく出たものよ。そうでなくてはなぁ!」

 

フェルグスが構えるが───その時点で、コンラの準備は終わっていた。

 

「祖父たる大神よ、貴方の威光をお借りします。“死眼を(バロウ)───」

 

「───ぬっ!?」

 

射抜く(ルー)───」

 

スリンガーに装填された石が閃光を放つ。今の状態のコンラの宝具は弓に在らず。光を放つその石こそが宝具。

 

「───大神の石(タスラム)”!!」

 

死眼を射抜く大神の石(バロウ・ルー・タスラム)”───伝承によれば、“魔眼のバロル”と呼ばれた勇将は孫のルーに眼を石で撃ち抜かれ死に至ったという。その時に使われた(タスラム)こそがこの宝具の正体。直死の魔眼の大本となったバロールを倒したということから、“即死効果持ち特攻”という宝具となったのだ。とはいえ、石は石。当然、石自体の攻撃力も存在し、石を砕くことすらも可能だ。

 

「ぬ、おぉぉぉぉぉおお!?」

 

フェルグスがカラドボルグでタスラムを受け止める。だが、それは少しずつ押されてきているのだ。タスラムの一撃が重すぎる故に。

 

「───貫け!」

 

そんな中、周囲に響いたコンラの声。それによって再度加速したタスラムは───フェルグスを、貫いた。

 

「───ぐほぁあっ!なんと……なんと強力な意思か!ははは…!」

 

フェルグスはそのまま地面に倒れ込み、唐突に笑いを止めた。

 

「───うむ。若き女達を導き、その女達に倒される。よい結末ではないか。…そら」

 

「……は、わっとと!?」

 

おもむろに投げられた聖杯をコンラが慌てて受け止める。

 

「持っていけ。此度の戦、お主らの勝利は確定した。…まぁ、残党が残ってはいるがな。なぁに、お主らならなんとかなるだろうて。」

 

そう言った後、厳しい目になるフェルグス。

 

「だが、油断はするでない。未だ不穏な気配はしている。“黒き龍”に、気を付けるといい───」

 

そう言い残して、フェルグスはこの世から去った。

 

「……ありがとうございます、勇士フェルグス。」

 

「聖杯、確かに回収……ですが、“黒き龍”?」

 

「……何でしょう?」

 

言い残した言葉に首を傾げていると───

 

 

ふざけんなぁぁぁァァァァァァァ!!!」

 

 

「「っ!?」」

 

突如響いた怒声───否、()()()。その声と竜人語は、間違えるはずもなく。

 

「ミラさん……?」

 

龍使いの、王女のものだった。




弓「そういえばだが……香月がこの時点でルシャという女の魂に止めを指さなかったのはなぜだ?」

(るな)「あー…それは」

?「当時の私では止めを指すことができなかったからです」

弓「……!?」

(るな)「香月さん……」

香月「どうも……いくらこちら側に接続…来訪できると言っても、当時ルシャと戦った私は2020年の私です。今ですらまだ未熟なのに4()()()()()がルシャに勝てるわけがないです。…自分で言うのもあれですけど。」

弓「4年前……だと!?まて、ならば貴様は───」

香月「今ここにいる私は2()0()2()4()()()()()()()ですよ。ルシャを完全に滅し、新たな敵と戦っている私です。」

(るな)「……娘さんの方は大丈夫なんですか?」

香月「少しくらいなら。…流石に半日以上離れてるとまずいですけどね。」

(るな)「……そうですか」


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第290話 龍の逆鱗

弓「そういえば……先程───といっても一度この世界からいなくはなっているが───“娘”といったな?毛利香月、貴様…子持ちだったのか?」

香月「えぇ、まぁ…ただ、姉に当たるゆーちゃんの方は血が繋がっている本当の母娘ですが妹に当たるるーちゃんの方は血が繋がってない、義理の母娘ですけど。」

弓「……??」

香月「…まぁ、渾名だと分かりませんよね……そういえば(るな)さん、こっちのスー姉は…?」

(るな)「お母さんならまだ寝ていますよ。…すっかり“スー姉”呼びで慣れましたね、香月さん。」

香月「いつもみたいに呼んだら“流石に別の呼び方にして”って言われたので。るーちゃんとスー姉とで一緒に10年も暮らしてたら慣れてしまいました。」

(るな)「流石にそれくらいいると慣れるものですか…」


龍の───咆哮。ミラが怒声と共に放ったそれは、大地を揺らし、空気を震わせ。人間達どころか竜、古龍達をも震えさせた。

 

───許さぬ

 

いち早く復帰したのは古龍。雷神龍“ナルハタタヒメ”だ。

 

許さぬ。たとえ姿知らずとも、この身体に流れる血が覚えている。

 

許さぬ。たとえ姿知らずとも、我ら龍の奥底に深く刻まれている。

 

「「我らが王を愚弄するか、愚かな人間よ…!」」

 

普通の人間には咆哮にしか聞こえない龍の怒声。それに呼応するようにか、ミラの髪色がみるみるうちに赤へと染まっていく。それは彼女自身も姿形が違えどミラボレアスであるためにだろうか。彼女の怒りの現れか、ミラバルカンのように朱く、紅く染まっていく。───しかしその怒りははたして(ミルティ)の物か、(ミラボレアス)の物か。

 

───往け

 

往け、我らが王妃。もはや我らに支配はなく、王妃と争う理由なし。

 

我ら風雷、王妃が王を安眠へと誘うこと望む。

 

風神龍が告げたように、ルシャが退散したことにより術による支配は解けている。無限蘇生術も既になく、いつでも倒せる状態だ。その事にミラ自身も気づいており、合図があれば即座に雷神龍と風神龍を絶命させる───つもりだった。

 

「───許さぬ。」

 

ミラの口から漏れたそれは───自然と、周囲に響き渡る。

 

「許さぬ。我が夫、我が伴侶───何より我ら龍が崇めし遥か古の守護者を汚すこと断じて許さぬ。我らが憤怒に触れたものよ、悔いるがいい。例え世界違えども、我らが呪い汝に届くであろう。」

 

静かなれども、強い威圧感を感じるそれは人と言うよりは龍である。その呟きのあと、ミラはルシャが倒れる直前に発動させた術で姿を現した新たな龍に向き直る。

 

「我が夫───“黒き王”よ。遥か古に命を落とし、永き時に渡り護り続ける王よ。汝が眠り、害された怒りに燃えているだろう。だが今一度、眠りにつきたまえ。汝が目醒めは()()()()()。───“白き妃”がここに請う。現世を守護せし妃が望む。我らが王よ、怒りを鎮めたまえ。」

 

瞬時、ミラは紅い龍に変化し───黒い龍の背後に回り、首元に噛みついた。

 

「───劣なる屍は疾く枯れ果てよ。我が求むるは真の王のみ。汝のような劣化は必要ない。」

 

そう言ってまた噛みつく紅い龍。黒い龍は暴れるものの、紅い龍が強引にそれを阻止していた。そして、黒い龍が動きを止めた頃───紅い龍が、黒い龍から離れた。

 

「───不味い。粗悪にもほどがある。」

 

そう言い、口の中にあったものを吐き捨てた。次いで近くにいた人間達を見ると人間達は龍に怯え、後退りした。

 

「───怯えるな。汝らまで喰らうつもりはない。」

 

───それは無理がある、我らが王妃。我らに慣れぬ者、我らに怯えるが道理。遥か古より、それは明確である。

 

「……それもそうか。」

 

紅い龍が溜め息のようなものをつくと、地上に降りてきて姿を人間に戻した。

 

「……申し訳ないわ、ミルティ。流石に、許容できなかった。」

 

そう呟いた直後、ミラの姿をしたそれは目を瞑り、倒れこんだ。




黒き王と白き妃

詳細不明。ただし、ルーパスはミラと共にあるミラボレアスが“ミラルーツ”ではないことに感づき、リッカは黒き王が屍として現れたときに自分のものとはどこか違う、激しい怒りを感じたようだ。これらが何を意味しているかは分からない。


ふぁ…

香月「あ、スー姉」

……んー…あれ、香月。来てたんだ?

香月「ん、ちょっとこっちのスー姉にも会っておこうかと思って。」

…私が複数いるみたいな言い方するねー…事実なんだけどさ。あ、記憶共有してるから態度とか変えないでいいからね。

香月「知ってるー。…さてと、こっちのスー姉にも会えたし私はもう帰ろうかな。」

んー…

香月「……そうだ、スー姉。」

うん?

香月「スー姉は、自分が病んでるって思う?プラスに物事を考えられなくなるみたいだけど。」

いや?思考の方向性が暗いのはいつものことだし、そもそもまず最初に物事をマイナスに考えるのが私の基本だから病んでるって思ったことはないかな。

香月「そっか。」


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第291話 合図あり

裁「そういえば……」

(るな)「?」

裁「ふと思ったんですけど、マシュの自己暗示詠唱って少なからずルーパスちゃん達を意識してる気がします。」

(るな)「そうですか?」

裁「マシュの自己暗示詠唱って、“奮い起て、偽りの盾。偽りなれどもそれは礎に違わず。焔と光を目指し、古き龍の前に顕現せよ。”なんですけど…“偽りの盾”っていうのはマシュ(デミ・サーヴァント)自身とマシュの宝具(ロード・カルデアス)のことで、“偽りなれどもそれは礎”っていうのは人理を繋ぎ止めるための礎に、みたいな意味が込められてると思うんです。」

(るな)「ふむ…」

裁「でも、“焔と光を目指し、古き龍の前に顕現せよ。”って……よくよく考えると、焔ってリューネちゃんの“猛き炎”のことで、光ってルーパスちゃんの“導きの青い星”…つまりは“星の光”のことで。古き龍って“古龍”であるミラちゃんのことじゃないです?」

(るな)「……なるほど」


モンスター達を縛っていた不快な音が、消えた。そして人々を畏れさせていた龍の威圧もまた、消えた。

 

『今だ皆、相手を!!』

 

多分、これだけで伝わるだろう。モンスター達と英霊達の…死霊、って言ったかな?そちらは器が強すぎて魂を引きずり出す必要がある。他の死霊達は駄々漏れなため、このまま宝具を解放しても可能なんだが…

 

「…っと、僕も速く終わらせなくてはね。」

 

ロンドンの地にいた狂竜化したナルガクルガ。…恐らくは、このシャガルマガラの影響だろう。もしかしたら他の個体(ゴア・マガラ)の可能性もあるが…

 

「安らかに眠れ、天廻る龍よ。」

 

THEレクイエムを叩きつけ、シャガルマガラの動きを完全に停止させた。

 

「ミラ殿の話では“古龍としての回復機能を喪っているから普通に倒すだけで絶命自体はする”、とのことだったね。…ルーパスは大丈夫だろうか。」

 

気がかりなのはやはりルーパスのことだ。…どうやら、サーヴァントとなった僕の耳は集中すると魔力の流れや感情の揺れ動きを音として聞き取れるようで、ルーパスのいる方向からかなり荒れた感情を聞き取っている。

 

「……頼むから、自暴自棄にはならないでくれよ……相棒」

 

母さんが“永遠の別れというのは凄く辛い”と言っていた。事実、リオレウス希少種の姿を見たときに現した憤怒から見てもそれは事実だったのだろう。あの二匹、僕の見間違えでなければ、僕の家…カムラの里で父さんと母さんが共に暮らしている家に飾ってあった写真の中にあった若い頃の母さんと同じく若い頃のルーパスのお母さんが笑顔でリオレウス希少種とリオレイア希少種と映っている写真の個体と全く同じだ。…一度した永遠の別れを、もう一度繰り返されるなど。辛いに決まっている。…もっとも、僕が今から使おうとしている宝具は、今以上の苦痛を与えてしまうかもしれないが───

 

「───もしも、そうなったのなら。私は……」

 

……どんなに責められたとしても構わない。たとえどのような結果になろうとも、それを私は受け入れよう。

 

 

 

side ルーナ

 

 

リューネの声がしていた。ということは…これが二度目、か…

 

たとえ苦しみから解き放たれても、私は貴女をまた殺めないといけないなんて。…辛い

 

『瑠奈……でも』

 

分かってる。…分かってるから。

 

『…みたい、だね。』

 

ルルナと別れたあの日みたいに、構えを解いてる訳じゃないから。ルルナも私が理解してるのを察してくれたみたい。

 

『…瑠奈。』

 

…何?

 

『瑠奈の……瑠奈が誇れる、迅竜にも負けない速さ……もう一度。』

 

私の誇れる速さ……

 

……わかった

 

1つしかない。ナルガクルガにも負けない、なんていったら…それしか、ない。

 

いくよ、ルルナ。…一瞬だよ。

 

『うん……来て、瑠奈…!』

 

奥義───解放。

 

「“神速”の二つ名───その所以、目に映るか……!」

 

奥義で狙うは、その心臓。ただ、一点。

 

「───“太刀が戦いで閃く刹那の神速斬撃(ラピッド・モーメント・ブレイド)”ッ!」

『』

感覚が引き伸ばされた中で、地を蹴ると同時に───私の太刀の刃は、ルルナの心臓を確かに貫いていた。

 

『………あぁ。昔より冴えてる……ね。』

 

……そんなことない。全盛期の頃より、遥かに遅いよ。

 

『……わたしは、それを…見られなかった、から……』

 

……あぁ、そうだった。ルルナは、知らないんだっけ。

 

『…ね……るな。』

 

うん?

 

『あの日……あの、とき。わたしが最後に言ったコト。…おぼえてる…?』

 

もう力も入らないのだろうけど。ルルナは翼を私の頬に添えた。…あの時も、こんな感じだったっけ。

 

『わた、し……生まれ変わったら、人間に…なりたい、な……るなや、そらとおなじ、にんげん、に……』

 

…そこまでいいものじゃないよ、人間って。

 

『それでも……いい。また、るなとそらと…いっしょに、旅することができるなら。それだけでわたしは、うれしいから……』

 

…恐らくそれ(いっしょに旅をすること)は、叶わない。私はもう、前線から退いた身だから。昔みたいに各地を巡るのは辛い、と思う。

 

『でも……もし、ホントに叶うなら……』

 

 

ルルナの悩んでるような声。…どうしたんだろう。

 

…言ってみて?…聞きたい。

 

『……もし。もしも、ホントに願いが叶うのなら…わたしは……』

 

……

 

『わた、しは……るなの、こどもになりたい……!』

 

え…?

 

私の……子供?

 

『わたしは…瑠奈の、家族になりたい…!いっしょに笑ったり、同じ布団で眠ったり…人間と飛竜としてじゃなくて、同じ人間の家族として…!』

 

ルルナ……

 

『でも…わたしがここにいる以上…それは、難しいかもしれない……だから……』

 

それ以上言わせないように、私はルルナに抱きつく。

 

───待ってる。今の生じゃなくてもいい、遠い時代のどこかででも…ルルナとまた廻り逢える日を。人間と竜としてじゃなくて、人間同士として。できることなら、同じ家族として逢える日を。

 

『るな……あり、が…と……わたしと……であって、くれ、て……』

 

その言葉を最後に、ルルナの身体から力が抜けた。

 

…無理矢理起こされた屍と魂だとしても、その肉体は金火竜そのもの……心臓を突いても人間みたいに即死しないなんて、ね……あはは…辛いね、やっぱ

 

そう呟きながら空を見る。

 

……消えては結び…猛き魂が還るべきは空に……ね、ルルナ。あなたはいま、私達を見ているのかな?

 

返事は……無かった。

 

 

 

side 蒼空

 

 

 

『…さぁ、僕の呪縛は解かれた。…今度こそ頼むよ、蒼空。』

 

分かってる……分かってるよ

 

分かってる…けど。…手が震えて、動かない。身体がソルルを殺すことを拒絶してるんだ。

 

『…お互い、辛い道だね。…本当に。僕達は運が悪い。』

 

そう…だね。昔から私達は運が悪かった。…今だって、そう。

 

『あぁ……』

 

……運命って、残酷だよね…それでも、最後の見届け人として私達を選んでくれたのは嬉しいって思うべきなのかな……

 

『……ごめん、僕には分からない。…人間でないから、かもだけども。…はは。生まれ変われるのなら、次は人間になりたいものだね。…本当に。』

 

……あの日も同じこと、言ってたね。…原状、3回目みたいな感じだから精神的に凄く辛いんだけど…

 

『……すまない』

 

少しの沈黙の後、何も言わない私に対してもう一度口を開いた。

 

『怒っているかい?』

 

…まぁ。本当なら、私達が老いてこの世から去るまで傍にいて欲しかったから。ルルナとソルルの寿命なら、それは可能だったはずでしょ?

 

『…否定はしない。事実それは可能であったし、僕も妻も本来であればそのつもりだった。できるのなら、君達の子供をも護りたかった。…だけどね。自分勝手で悪いと思うが、辛かったんだ。かつて克服した僕達を蝕む病を、もう一度発症するのは。』

 

…“狂竜化”

 

『その通り。自分が自分でなくなってまで…そして、君達やその子供を危険に晒してまで僕達は傍にいたくはない。』

 

その言葉にため息をつく。…分かってる、私の言葉がただの我が儘でしかないことも。言ったところで、困らせるだけだということも。

 

『……そろそろ、終わらせた方がいいだろう。君の娘が待っているんだろう?』

 

静かに頷く。

 

『ならば、待たせるのも申し訳ない。……あ』

 

ふと思いついたようなその声に首を傾げる。

 

『蒼空。君のあの技を───かの祖龍でさえ畏れさせたあの技を、最後に見せてくれないかい?』

 

……あったね、そんなこと。…いいよ、それで貴方を見送ってあげる…

 

かつて───祖龍と対峙したとき。かの祖龍は、私の技を───奥義を、畏れた。それは、私の奥義が超膨大な龍属性の塊だからだ。……拒絶反応を示している自分の精神をねじふせる。手の震えは止まり、いつもの状態に戻る。

 

「“反撃”の二つ名───一切の攻撃を封印する!!」

 

私の奥義である“反撃”とは。“攻撃反転対応(カウンター)”では、ない。私の反撃は───“攻撃強制破壊(ブレイカー)”、だ。

 

「───“斬斧が戦いを変える(ソードアックス・)属性反転の高圧放出(アトリビュート・ブラスター)”ッ!」

 

龍属性を濃く纏った刃は、そのソルルの心臓に抵抗無く、深々と突き刺さった。

 

『ぐっ……!───あぁ、痛い……な…』

 

痛いよ。本来であれば、超高濃度の龍属性が身体に存在する属性を蝕んで属性を消すんだから。…それは本来ならの話。今みたいに刺されっぱなしなら、身体全体を蝕む感覚があるんじゃない?

 

『あぁ……言葉は発せるが、身体は動かないな……君の奥義が、これか…随分と、恐ろしい効果なものだ…』

 

君は凄く優しいのにね、と呟いて眼を閉じた。

 

……本来の用途でいえば、相手の動きを止めるために編み出したものだから。じわじわと死に追いやるために編み出したわけじゃない。

 

『……そうだね。君は優しい。それは今までの君を見ていれば分かることだ。』

 

そう呟き、眼を開くソルルが続けて呟いた。

 

『痛いが───これで、いい。大好きな君の集大成に包まれて眠ることができるのなら、それで本望だ。』

 

……え。

 

『…言ったことはなかったか。僕も妻も、君達の事が大好きだった。それこそ、君達と人間として生きたいと思うほど…君達の子供であれば良かったのに、と思うほどに。』

 

初耳だった───というか、困らせるだけだと思って言わなかったのだろう。…そんな感じがする。

 

『もし生まれ変われるのなら人間に。願うならば、瑠奈と蒼空の家族に。…それは、君達があの日、塔の頂へ来る前に妻と話したことだ。難しいだろうけどね。』

 

……

 

『だからこそ……僕達の一番の望みは。……どれだけ長い時間がかかっても、また瑠奈と蒼空と廻り逢うことなんだ。君達と廻り逢えて、妻とまた夫婦になれればそれはいいのだけど。いくつも望みを持っていては欲張りだろう?』

 

……ホント、変なところで控えめというかなんというか。欲張るくらいがちょうどいいんじゃないの、ソルルは。…それと

 

『それと?』

 

昔から思ってたけど。ホントにルルナのこと大好きだよね。ルルナもソルルのこと大好きだし。私、そういう関係ホントに憧れてた。1人の女の子としてルルナが羨ましかった。……でも、今くらい“蒼空と夫婦になる”くらい言っても良かったんじゃない?

 

どこか嫉妬に近い発言にソルルが苦笑いした。

 

『それは流石に望みすぎだろう…大体、僕は複数の女の子を幸せにできるほどの度量は持ち合わせていないし。中途半端になるのは、相手の女の子に失礼だろう。』

 

…ふふっ。…ソルルらしいね。どの種族のどんな女の子を見ても、ルルナ一筋で。どんなに言い寄られても、自分の想いを貫き通す。そんなソルルだからこそ、“大好き”って言われてびっくりしたんだよ。

 

『……参ったね。実を言うと───僕が生きてきた中で、妻以外を本気で好きになってしまったのは後にも先にも瑠奈と蒼空だけだ。君達の優しさが、僕の心を動かした。…だけど、幸せにできるとは思っていなかったからね。その想いは、ずっと奥底に秘めていたんだよ。』

 

……新事実ばっかり。応えることができないけれど…でも、本当に生きていた頃に言ってほしかった、なぁ……

 

本当に───生きていた頃にソルルの口から聞きたかった。“銀火竜の命玉”という形で、それを知りたくはなかったんだ。

 

『…泣かないでくれないか、蒼空。』

 

ごめん…無理…っ!

 

『おおっと……まぁ、仕方ないか。蒼空はあまりこういう感情を表に出さずに溜め込む方だし。……蒼空の気が済むまで泣くといい。僕も少しは耐えられるだろうから。』

 

「っ、ふぇぇぇぇん…!」

 

完全にバレてる。…そして、決壊したコレはしばらく止まらないんだ。既に身体中を蝕む龍属性で辛いだろうに、翼を動かして私を包み込んでくれたことでそれはさらに加速する───思考では冷静になれても、身体は言うことを聞いてくれない。

 

『……落ち着いたかい?』

 

……うん、やっと。

 

『それは……よか…った…』

 

…ソルル

 

やっと私が元に戻った頃には結構ギリギリの状態になっていた。

 

『そんな顔を……いや、いいか。……蒼空』

 

 

『天を…廻りて、戻り来よ。…天廻龍ではないが、いつの日か僕も戻ろう。君の元へと、いつか……たとえ、きみが……わすれて、いたとして…も……』

 

その言葉を最後に、ソルルの身体から力が抜けた。

 

……天を廻りて戻り来よ。戻り来たりて、回帰せん。彷徨える魂は天に登り、永き時の果てに地に帰る───今度は、ちゃんと天に行けたのかな。

 

答えはない。ソルルの身体から刃を抜くこともせず、私はその場に座り込んでいた。

 

 

 

side ルーパス

 

 

 

「……ッ!!!」

 

大きく距離を取って瘴気を避ける。伏せたのを見て矢を番え、そのまま頭部を狙って三連射。瘴気が薄くなったのを見計らって近づき、竜の千々矢───

 

「キュィィ…」

 

「わ、とっと!?」

 

伏せた状態からの瘴気ブレス。唐突すぎて反応が遅れ、私を少し掠めていった。

 

「そうでないと、ね…!」

 

そう呟いた後───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───せぇぃぁぁぁぁぁっ!!」

 

瞬時に懐に入り、一閃。よろけて倒れそうになるところを踏ん張り、瘴気を吐こうと構えるヴァルハザク。それを目にしつつ、気刃突きからの駆け上がり───それを逃さないように、ブレスを放つ。

 

「効かないよっ!」

 

だが、ブレスとして放たれたその瘴気は、私の持つ指輪に吸い込まれる。ミラに手伝ってもらったお陰で指輪の力をうまく扱えるようになったからこそ、この方法が取れる。妨害を完全に無効化した私は、そのまま気刃兜割。そうして今度こそ倒れ込んだところに、丁度落ちてきた弓と矢を使って竜の千々矢。

 

「今の私の本気───この世界で身につけた、恐らくこの世界でしか使えない戦い方…!」

 

宝具である“開け、我が貯蔵庫よ(アイテムボックス)”があるからこそこの戦法ができる。…いや、あっちでも再現できなくはなさそうだけどキャンプから武器を運んでる最中にメラルーとかオオナズチとかに武器を盗られそうだから無理がある。

 

「でも、未完成だ───まだ、使えるのは限定されている。」

 

弓と太刀と、操虫棍と双剣…それからマグネットスパイク。本来であれば全武器種───即ち、大剣、片手剣、双剣、太刀、狩猟笛、(ハンマー)(ランス)銃槍(ガンランス)、操虫棍、盾斧(チャージアックス)斬斧(スラッシュアックス)剣斧(スラッシュアックスF)速斧(アクセルアックス)磁斬鎚(マグネットスパイク)、穿龍棍、弓、軽弩(ライトボウガン)重弩(ヘビィボウガン)の18武器種を自由自在に繋げるのがこの戦い方。未完成とはいえ───これが今の全力であることには間違いない。

 

「っ………ぇぇぇぇい!」

 

弓と矢筒を精一杯の力を込めて上空へと投擲する。続けてマグネットスパイクも上空へと投擲し、操虫棍を背負い、太刀を構える。

 

「全力───行くよ、ヴァルハザク!」

 

そう言い放ち、ブレスを用意しようとするところに気刃突き。ヴァルハザクの身体を駆け上がり───()()()()()()

 

「!?」

 

驚きの表情───のようなもので止まったヴァルハザクを見据えたまま、操虫棍を構える。

 

「ヒュォォォォ……」

 

「残念───“咆哮は踏める”!!」

 

突進斬りからの舞踏跳躍によって高く飛ぶ。さらに、指輪から瘴気を噴射してさらに高所へ。そこに───打モードのマグネットスパイクが落ちてくる。それを手にして状態を確認する。

 

「磁界、よし───!」

 

磁力を起動させると、さらに高所へと引き付けられる。その目的は───()()()()()()()()()()()

 

「これだけ高さがあれば───」

 

かなりの量の矢を放てる。

 

「───見てて、ヴァルハザク。これが今の───」

 

弓を構え、矢を番える。

 

「───私の全力全開!!!“精密”の二つ名───例え的が豆のように小さくとも!!」

 

集中する。落下感覚が遅くなる。周囲が静かになる。この世界で自分だけが、動いているように錯覚する。標的はただ1つ───屍套龍“ヴァルハザク”のみ。

 

「───“弓が戦いを制する究極の致命射術(アクセル・エグゼキュート・アロー)”ッ!!!」

 

距離、約5,000。標的、1。推定下全標的討伐所要矢数、4,200,000───はっきり言って、馬鹿げている。だが───()()()()()()。何故ならあれは、()()()()()()()()()()()()()()()()。例え今の私の最高鋭利の弓である“屍弓ヴァルヴェロス・極破(ごくは)”ですら、それだけかかるのはそれだけ体力が多いのだ。───矢を番える。弓を引く。矢を放つ。それを、幾度も繰り返す。

 

「───ッ!!!」

 

流石の私でも、長期クエスト個体相手に奥義を使ったことはない。5,000というそれなりに高い場所とはいえ、420万もの矢を放てるかどうかは未知数。

 

「いつもの速度じゃ絶対に足りないのは分かりきってる───もっと、もっと速く…!」

 

総射出数、6,000。残り距離、4,700。

 

「イメージするのは───」

 

総射出数、9,000。残り距離、4,550。

 

「───私が知るなかで最速の奥義」

 

総射出数、12,000。残り距離、4,475。

 

「お母さんの───“神速の閃き”!!」

 

総射出数、18,000。残り距離、4,425───浮遊感。弓を引き、矢を放つ時の反発力で起こる現象。それが、大量に放っているせいで滞空させるどころかもといた位置よりも上昇しそうになるほどの力を生み出している───()()()()()()()()?それって、もしかして。まだ、()()

 

「イメージするのは───」

 

総射出数、24,000。残り距離、4,375。

 

「───私が知るなかで最も火竜(リオレウス)に近い奥義」

 

総射出数、30,000。残り距離、4,365───確実な、浮遊感。いける。

 

「其はお父さんの───“飛翔の爆炎”ッ!!!」

 

私のお父さんは銃槍使い。その二つ名は───“飛翔”。普通のガンランス使いでも、砲撃の反動で一時的に飛ぶことはできる。だけど、お父さんの場合それを長時間───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ついでに言うと、ガンランスという近接武器で、本来近場でしか砲撃が当たらないものを、遠距離から砲撃を当てる、ボウガンのような扱い方もする。…これは、お母さんから聞いた話だけど。リオレウスのワールドツアー…だっけ。それに対して、お父さんが奥義で追いかけてそのまま空中で討伐したってことがあったらしい。

 

「───!」

 

いつもと、違う感覚。いつもより───()()。これなら。

 

「い───けっ!!」

 

50,000、70,000、90,000───どんどん放った矢の数は増えていく。残り距離を調べるのはやめた。強い反発力のせいでずっと同じ場所に滞空しているから。───鍛えていてよかった。神速のお母さんの娘でよかった。飛翔のお父さんの娘でよかった───普通なら、こんな速度で戦っていたらとっくに身体が壊れてる───!

 

「────!」

 

120,000、240,000、360,000───弓を魔力で強化しておいてよかった。普通なら絶対折れてる。

 

 

「───っ」

 

720,000、1,440,000、2,160,000───余計なことは考えず、ただ矢の数とヴァルハザクのことだけを考える。それだけで、私の手は加速する。そして───

 

「───これで、最後っ…!」

 

総射出数、4,199,999。高度、7,000。…自分のことながら、馬鹿げているって思う。最後の一矢は───これに、しよう

 

「宝具、展開───龍を送る送り火に。貴方への想いを、総て乗せて。一時なれど貴方の安寧を願う。」

 

手にしたのは原初の矢(サジッタ・プリミティーヴァ)。いつ放ったときも、これだけは必ず回収するようにしている。

 

「───“死に逝く古龍に捧げる最後の想い(エンシェント・フィニスエモート)”」

 

宝具の名を告げ、弓を引いた瞬間───

 

 

バキッ

 

 

「───!!」

 

嫌な音が、した。即座に魔力で補強し、矢を放つ。その矢を放った瞬間、私の加速も途切れる。故に───矢が、殺到する。

 

「───っとと」

 

体勢を崩しながらもなんとか着地する。空中でマグネットスパイクを出して色々制御したから足は問題ないし……矢の向かった先はというと。

 

「……うわぁ」

 

自分でやったことだけど……改めてドン引く。ヴァルハザクに突き刺さる大量の矢。そんなヴァルハザク自身は虫の息……というか、もう動くことはできなさそうだった。

 

「……これで、よかったんだよね。」

 

そう問いかけると───小さく頷いたのが見えた。

 

「…私は、お母さんみたいに声が聞こえるわけじゃないけど…でも、何が言いたいか大体分かったよ。…貴方の命玉を持ってるからかな?───“全力の君と一対一で戦いたい”、なんて。」

 

私はそれに応えただけだった。…思考の中、ぐちゃぐちゃだったけど。なんとかして、願い(それ)にだけは応えたかった。

 

「……ん?」

 

ヴァルハザクが動かなくなった中───それを、見つけた。

 

 

ありがとう、愛しき者。ルーパス・フェルト。

 

 

「……」

 

竜人語。の、文字。……少し、下手だけど。………あった場所は、ヴァルハザクの手元。

 

「…………あのさぁ…」

 

座り込み、動かなくなったヴァルハザクの身体に身を預けて独り呟く。

 

「ホント……堪えてるっていうのに泣かせようとしないでよ…!」

 

恐らくは、ヴァルハザクの筆跡。でも、古龍含めたモンスター達には基本的に“文字”の文化はないはず。だから、多分。私に伝えるためだけに。

 

「……遺された骸は地に還り、新たな命の苗床となる。命は廻り、命の種はまた苗床より芽吹く───またいつか、どこかで会おうね。ヴァルハザク。」

 

涙を堪えながらも、言葉を紡ぐ。いつかどこかでの再会を祈って。それから───

 

「……後は、お願いね。リューネ。」

 

リューネのやろうとしていることを、知っているから。私の本来の技が───“死に逝く竜達に捧げる最後の想い(モンスター・フィニスエモート)”が、強化されて宝具(死に逝く古龍に捧げる最後の想い)と化していたのなら。リューネの技も───“あの歌”も、多分。

 

「どんな結末になっても。私はリューネを恨まないよ。」

 

そう呟いて、ヴァルハザクの隣で瞼を閉じた。




(つき)と陽と、天と地と

その昔、病に侵された白銀の陽と黄金の(つき)が在った。
月陽は自ら死を望み、最愛の娘に命を絶たれた。
月陽が侵された病とは、狂い、自らではなくなる病。
それは天が振り撒く病である。
月陽を侵し、されど成る前にその命を絶たれた天はやがて●に目を付けた。
●は天と成り、天は再び病を振り撒く。
●の意思は残り、最愛の娘と相対せしとき抵抗無く命を絶たれたという。
また、地は命を奪い、命を廻すもの。
真ならば底に住まい、命を廻す。
されど異に応じ底より離れしとき、自らの危うさを危惧する。
故に地は、自ら望み最愛の娘に命を絶たれる。
四の竜と四の娘の御伽噺である。


?「ギィ~……」

(るな)「……あ、ギィギ。いらっしゃい……手紙?」

ギィギ「ギィ!」

(るな)「あ、私宛なんだ。…ありがとね、ギィ───ひゃぁっ!」

裁「……ねぇ、ギル」

弓「なんだ?」

裁「生前も思ったんだけど…(るな)さんのあれってR-18系に出てくるアレだよね?」

弓「……で、あろうな。(るな)の服の中に入り込んでいるゆえ、本来ならば引き剥がすのが良いのだろうが…」

裁「あの子ね~…普段の粘液がサラサラしすぎてて服の表面繊維を掴めないんだって。で、ちょうど人体と同じ位の温度……36度前後の物体に触れると粘性が少しずつ強くなって、30分くらいでヌルヌルになるらしいよ。」

弓「ふむ……結構特殊だったりするのだな、あやつは。」

裁「私、ヌルヌルになったあの子に身体撫でられたことあるけどそれでも殺せんせーの粘液よりサラサラだったよ。温度によって粘性が変わるのと同時に、最大粘性でも通常と比べてサラサラな子なんだろうね、多分。」

弓「……………あのタコめ、我がマスターの身体をまさぐったというか……我ですら触れたことないというのに……

裁「?なんか言った?」

弓「何も言っておらん。気にするな。」

裁「……?ならいいけど……生前も思ったけど、たまにギルっておかしくなるよね。主に私関連で。」

弓「む、そうか?」

裁「自覚ないんだ…」


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第292話 英霊討伐

んー……サブタイトルこんなのでいいのかなぁ。

裁「いいんじゃないの?おか───じゃない、マスター。」

……今、“お母さん”って言いかけたでしょ

裁「う……ごめんなさい…」

別にいいんだけど…(るな)達に影響されたかな?

裁「……そういえばその(るな)さん、さっきまた喘ぎ声聞こえてたけど…」

またギィギだと思うよ?そもそもあの子、オーガや屈強な男性、それからバーサーカーのサーヴァントの大群に不意打ちで襲われたところで返り討ちにできるほど強いからね。

裁「…………え、(るな)さんってそんなに強いの!?」

強いよ?…こっちの(るな)は力を喪ってないからね。まぁでも、力を喪っている方の(るな)もよく守護者達が近くにいるから大丈夫だよ。それに…

裁「それに?」

あの子───ギィギも普通に強いし。

裁「…………え。」


「…そろそろこの特異点も終わりかな。香月さん、理紅さん、禁じ手の準備…できてます?」

 

〈全て問題なく。〉

 

〈出力が足りなければ…ですよね?〉

 

「そうです。それではよろしくお願いしますね。」

 

(るな)さんが香月さん、理紅さんとの通信を終了させた。私はそれをただ見ているだけ。

 

「フォーウ…」

 

「……女王は潰え、狂王もまた闇へ。雪花は新たな決意を胸に、秘子は自らの道を見いだす……って感じでいいのかな…どう思います、フォウさん。」

 

『…さぁ。ボクにはわからないね。』

 

『フォウ…』

 

『……にしても、長いような長くないような。君達のせいか中々に濃い特異点だったけど、もう終わりか…そう考えると、少し寂しいものがある気がするね。』

 

『ふぅん。なら、ここでお目通りといこうかな。』

 

『…!?』

 

私達以外の───声。男性。声のした方向を見ると、白い髪の男性が立っていた。

 

『げ───』

 

『あなたは…?』

 

「こんにちは。皆が頼る楽園のお兄さん───もっとも、最近は価値が低くなってそうだけども。…此度はお目通りさせてもらえて光栄。純粋なる者、虹架 七虹。そしてそれを守護する()()()()()()。僕は───」

 

 

「マーリン、シスベシッッッ!!フォォォォォォウ!!!」

 

 

「のわぁぁぁぁ!?」

 

『フォウ!?』

 

フォウがいきなり男性に襲いかかった。

 

「…七色の守護者、か…今はまだ、一色足りないけど。」

 

(るな)さんがそう呟く。…確かに、あの時見た席には1席だけ空席があった。そして、基本七クラスのなかで今目覚めている私の人格の中にいないクラスが1つ。…いつ、会えるのかは分からないけど。時間がどうにかしてくれる気がする。

 

 

 

side リッカ

 

 

 

【はぁ……はぁ……】

 

呼吸を建て直す。変異泥を纏い、万全の状態に戻す。

 

【やっぱり……貴女は、貴女である方がいい。】

 

「ふん、当然でしょう?…とはいえ、結構ギリギリね。貴女が怒るのも無理はないわ、これ。脆すぎるもの。」

 

私の言葉に応えたのは───女王メイヴ。あの死霊魔術師の術が解けて、意識を取り戻した。私は、彼女自身の願いで一合交えていた。

 

「まさかこんなに脆いなんてね。…朽ちかけてるのだから、仕方ないのかしら。」

 

ため息をついて、彼女は私を見つめた。

 

「もういいわ。…さっさと殺しなさい。この身体じゃ、全力なんて振るえたものじゃないもの。」

 

【……】

 

言ったきり、その場に寝転がった。分かっていた。どこか、加減していること。恐らくは、加減しないと身体が耐えきれないんだ。

 

【…女王。……いいえ、メイヴ】

 

「───何よ」

 

一瞬、反応が遅れた。私が名を呼んだことが想定外だったのかな。わざわざ身体を起こしてまで、私の目を見た。

 

【これから、私は貴女を消滅させる。…だけど、その前に……】

 

1つの念話を、ある人に送る。その後、メイヴを見つめて言葉を紡ぐ。

 

【…ごめん。ただの八つ当たりだって、分かってるけど───あの女のせいで溜まったこの怒り、ぶつけさせて。そうでもしないと、おかしくなりそう…!】

 

「いいわよ」

 

断られるかと思っていたのに───ほぼ、即答だった。

 

「貴女の怒り、この私があっちまで持っていくわ。…で、私は何をすればいいのかしら?」

 

【立ってるだけでいいの。…それだけで、大丈夫。】

 

「そう?」

 

私が言った通りに、彼女はその場で立った。

 

【……レンポくん、少し手伝って】

 

「おう。…どうすりゃいい?」

 

【私の炎を制御してほしいの。…いい?】

 

「…?おう…?」

 

レンポくんが分かってないような表情を浮かべた。

 

【…行くよ】

 

「来なさい。」

 

───集中。接続多重化(コネクト・レイヤード)複製深化(リプロダクション・ディープ)。…香月さんに、この力の使い方を教わった。イメージが強ければ強いほど、複製はより本物に近づく。

 

【すー……はー……】

 

深呼吸。複製固定(リプロダクション・ロック)

 

【───私のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!】

 

複製するは───再現するはあの技。

 

【ばぁぁぁぁくねつぅぅ───!!!】

 

紅く炎を纏った私の右手が、強い存在感を放つ。それをレンポくんが制御してるのが、何となく分かる。

 

 

【───ゴォォォッド、フィンガァァァァァ!!!】

 

 

「がふっ───!!?」

 

彼女の腹部に。私のゴッドフィンガーはそのまま炸裂した。───でも。

 

【これで───終わり!!】

 

“ゴッドフィンガー”という技は、ここで終わりじゃない。

 

 

【───ヒィィト・エンドッ!!!】

 

 

瞬間───爆発。彼女は()()()()吹き飛んでいった。

 

【……ふぅ。…なんとかなった。】

 

ていうかゴッドフィンガー再現できるんだ……“複製”って結構チートじゃない?……いや、“創造”使える時点で、か……

 

【…さてと】

 

変異泥を変化させて翼に変える。そのまま翼を操り、彼女が吹き飛ばされた方向に飛んだ。

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「───ラァッ!!」

「チッ───!」

 

英霊である輝犬。死骸である狂犬。その耐久力は雲泥の差。だが───狂犬は輝犬に食らいついていた。

 

「はっ、腐敗してようが俺は俺───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんざどうってことねぇかよ!!」

 

「そう見えるかよ…こちとらテメェについていくだけで必死だ…!!」

 

「ハッ、恨むならそんな身体にしたあの女を恨むこった!!」

 

「身体のスペックなんざ関係ねぇ関係あんのは感情だろ……!」

 

「違いねぇ、な…!」

 

実をいうと、例の結界の効果はほとんど切れている。故に、狂犬が輝犬に食らいつけるのは狂犬自身の力だ───それに気付いていた輝犬は、それをあえて口にしなかった。

 

「“空想擲つ投げ矢(デル・フリス)”───応えやがれ、“焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!」

 

いくら“王”でも、それが骸であるならば。少しばかりの時間稼ぎはできると、“焼き付くす炎の檻(ウィッカーマン)”を喚ぶ。“空想魔杖デル・フリス”───空想を喚ぶ、または空想を産み出す杖であるが故に、か。それは詠唱省略を可能とした。本来であれば、空想にて喚んだ宝具の真名宣言すら必要としない。

 

「邪魔なん───」

 

「“抉り穿つ(ゲイ)───」

 

「……!?テメェ、それは───」

 

輝犬が持っていたもの。それは、()()()()()。空想を擲つ、とはそういうことだ。狂犬が死霊となる前に使った“偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)”にしても、今回の“抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)”にしても。空想魔杖の力によって、自らが持っていない宝具(空想)作り出して放つ(擲つ)ことができるのだ。そして───

 

「テメェの槍はデカすぎんだよ……!」

 

「───なっ」

 

「行けよ、“偽・鏖殺呪槍(ゲイ・ボルクⅡ)”!!」

 

それを“改造”することも、また。ちなみにこれを聞いたエミヤは泣いた。

 

「ぐっ……!」

 

「雑に吹っ飛べ、“薙ぎ払う竜騎の槍(ゲイ・ボルグ)”!!」

 

追撃として、“竜騎槍ゲイボルグ”で狂犬を吹き飛ばす。

 

「チッ…!あの───のぁっ!?」

「きゃっ!」

 

その、吹き飛ばされた先で。同じく吹き飛ばされてきた何かと、ぶつかった。

 

「ってて……なんだ…」

 

「ぁぁん!ちょっと!」

 

「………メイヴ?」

 

「何よ───ってクーちゃん!?」

 

吹き飛ばされてきた何か。それは、藤丸リッカと戦ってたはずの女王メイヴ───の、骸。意識は、あるものの。

 

「お前、こんなとこで何やって……」

 

「クーちゃんこそ、こんなところで……?」

 

二騎が困惑しているところを、輝犬は遠目から見ていた。

 

「おーおー、いちゃついてら。…そんなのを邪魔するのは悪いんだが、な……馬に蹴られなきゃいいが。」

 

【クー!】

 

輝犬がぼやいた直後、輝犬のあだ名を呼ぶ声がする。その声の方向に、藤丸リッカが飛んでいた。

 

「おう、リッカ。念話の通りにしてみたが…あんな感じでよかったか?」

 

【うん、ありがと。…にしても、いちゃついてるね。】

 

「やりづれぇ…」

 

【うん……】

 

会話からも分かる通り───藤丸リッカが送っていた念話は輝犬に向けてのものだった。内容は───“狂王を消滅させないように、指定した場所に吹き飛ばす”こと。その指示に従い、輝犬は指定された場所に狂犬を吹き飛ばしたのだ。

 

「……さ、やるか。」

 

【うん。掴まって、クー。】

 

輝犬は藤丸リッカの手に掴まり、空中へと。ある程度の高度まで来ると、手を離して自分で飛んだ。

 

【───“創造(クリエイト)”、“複製(リプロダクション)”!】

 

「“空想擲つ投げ矢(デル・フリス)”───!」

 

「【───合体(ブレイブ)!!】」

 

器物創造、概念複製、空想具現───3つの力が混ざり、練られ───1振りの輝く槍を構築する。

 

「行くぜ、リッカ!」

 

【うん、クー───勝つよ!!】

 

その宣言と同時に、藤丸リッカの令呪が全画使用される。それによって、強大なブーストがかかる。

 

「さぁて、あの女が消えるより前から準備してた大仕掛け───今こそ御披露目、ってなぁ!リッカ!」

 

【うん!ちょっと久しぶりな気もするけど───魔術礼装変換(コーデチェンジ)、“魔術礼装・カルデア戦闘服”!!主人技能稼働(マスタースキルアクティベート)、“ガンド”ッ!】

 

「掴まえろ、ウィッカーマン!燃えなくていい───ただ捕らえるだけだ!」

 

複製連鎖(リプロダクション・チェーン)───“トライバインド”!!】

 

「逃がすつもりなんてねぇ───“縫い接ぐ不壊の槍(ドゥ・バッハ)”!!」

 

【預言書より偽装宣言───“夜明けまでに死を与える瞳(デッド・バイ・デイライト)”!!】

 

ルーンによる大結界で動きを封じる輝犬。対象の身体活動を低下させる指向性の呪いをメイヴに放つリッカ。ウィッカーマンにより、メイヴと狂犬を捕らえる輝犬。複製の連鎖により、“レストリクトロック”、“ライトニングバインド”、“チェーンバインド”を再現し、輝犬とメイヴを縛るリッカ。縫いつける力により、狂犬を大地に縫い付ける輝犬。気紛れで星乃が見せた劣化宝具を偽装宣言し、動きを封じるリッカ。それはまるで───

 

「あいつら……用意してやがったか…!」

 

予め用意していたように。…だが、それは間違いだ。予め用意などしていない、リッカの念話をきっかけに構造を組み立てただけだ。

 

「身体が崩れてない…ってことは!むかつく…!手加減されてたっていうの…!?」

 

女王が睨むが───それも少し間違いだ。リッカは、確かに本気でゴットフィンガーを放った。それが、“非殺傷設定”であっただけだ。なお、リッカ本人はその非殺傷設定に気付いておらず、複製精度が甘かったと思っているが。

 

「この一撃、リッカと共にテメェらに捧げる!!2人仲良くあの世に逝きやがれ!!」

 

【あなた達の───永遠の幸せを願って!この一投に!!】

 

変異した泥が形を作り、煌めく粒子が姿を成し、無数の礎材が威を放つ。交差する力は槍の鋳型に流し込まれた金属のように望まれている造形へと、概念へと、神威へと変化し、この現実へと現出する。

 

【“閃光と共に(ルー)───!!】

「“死を告げる(バロール)───ッ!!!」

 

同じ槍を手にしながら、別の詠唱。

 

祝福を捧げる(エーンガス)───ッ!!】

確かな致命の(ゴヴニュ)───!!!」

 

今自らの出せる、全ての魔力を注ぎ。

 

「【紅蓮の魔槍(アラドヴァル)”───!!!!!】」

 

放たれたのは、超高温の槍。高温ゆえに火がなくとも発火するほどの熱を帯びた槍。アラドヴァル───太陽神ルーが持つ槍のうちの一振りである。

 

「───チ」

「───!」

 

その、人間の領域を遥かに超える力で放たれた槍は。周囲の雲を吹き飛ばし、周囲の地面を融かし、藁人形(ウィッカーマン)を瞬時に灰と化し───重なっていた女王と狂犬の心臓を精確に、確かに穿った。

 

「クッソ…がよ……2度も、負けるとはな。」

 

「クー、ちゃん……」

 

「……喋んな、メイヴ。…寝てろ」

 

「……うん」

 

女王は目を閉じ、狂犬はリッカ達の方へ視線を向けた。

 

「……オレの完敗だ、陽のクー・フーリン。護るものが側にいてすら勝てねぇのは完敗でしかねぇ。」

 

「ま、そうだろうな。…やけに素直じゃねぇか」

 

「否定すんのも面倒だ。……あとは魔神どもだけか。」

 

ため息をつき、リッカに視線を送る。

 

「テメェらが正しくて、オレ達が間違っていた……か。世界なんてのはそういうもんだ。勝った方が正しくて、負けた方が誤っている。…分かりやすくていいけどな。……嬢ちゃん」

 

【……?】

 

「疲労困憊じゃねぇか……まぁいい。…聖杯が歪ませたこの世界もあと少しだ。気張れよ。」

 

リッカはその言葉に小さく頷いた。

 

「行けよ。…俺達はもう動けねぇ。さっさとこの世界を終わらせ(修正し)ちまえ。」

 

【…行こう、クー。】

 

「…おう。…いいのか?」

 

【…うん。……】

 

背を向け、歩き出そうとして動きを止めるリッカ。

 

【…狂王】

 

「あ?」

 

【女王に……メイヴに伝えておいて。…“いつか、また戦ろう”───って。】

 

「…ふん」

 

肯定と見なしたか、リッカと輝犬は飛んでいった。残されたのは、狂犬と女王のみ。

 

「……行ったか。…聞いてたか、メイヴ」

 

「…えぇ、聞いてたわ。」

 

「…そうか」

 

その場に沈黙が降りる。身体を縫い止められているのもあり、その場から動くことはできない。その場所から、龍が色とりどりの光で倒される様を、見ていた。

 

「…メイヴ」

 

「…何?クーちゃん」

 

「……好きだ」

 

「……そう。わたしもよ。」

 

たったそれだけ。…それだけ言葉を交わし、あとは何も言わなかった。

 

 

 

side 無銘

 

 

 

『不器用かよ!!!!』

 

『フォウ…?』

 

マーリンさんに強烈な蹴りを入れたしばらく経って、いきなりキレたフォウに困惑の視線。

 

『あぁ…ごめん、ナナコ。いきなりでビックリさせたね。…ホント不器用すぎんだろあいつら……』

 

『…????』

 

何を言っているのか全く分からないけど…

 

『まぁいいや。…さて、これで全部の死霊を倒したんじゃないかなぁ。…リューネは何をするつもりなんだろうね?』

 

それは確かに気になるところ。リューネさんはというと……リオレイアに乗って上空待機してるけども……




裁「ギィギさんが強いってどういうこと…?」

まだ詳しくは分かってないんだけどね。主人に対する敵対意思、敵対行動に対して自身の粘液を変換した魔力を用いて反撃をするみたいなの。その根元的な属性は“吸収・増幅”───簡単に言えば、“強制呪詛返し”。呪詛返し自体はあなたもよく知ってるでしょ?

裁「呪詛返し───自身にかけられた呪詛を術者本人に返すもの。その呪詛は、自分がかけた呪詛のおおよそ2倍。」

そ。…それを、宝具詠唱すらなしでギィギは行う。“偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)”と同じことを、いとも容易く。

裁「それは……確かに強いかも…?」


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第293話 天を廻りて戻り来よ

体力と時間がない……

月「実際これの書き起こしも数週間かけている模様です」


『リューネちゃん、こっちは大丈夫。』

 

『了解した。リッカ殿達でちょうど最後か……』

 

『生きてはいるみたいなんだけど、多分大丈夫だよね?』

 

リッカ殿の疑問に少し考えてから言葉を繋ぐ。

 

『相手によるが……まぁ、リッカ殿が大丈夫だと思ったのなら大丈夫だろう。』

 

『そっか。』

 

「…さて。」

 

念話を切った後、レアの背中の上で立ち上がり、THEレクイエムを構える。

 

「───天を廻りて戻り来よ。…戻り来たりて、回帰せん。」

 

言葉を、繋ぐ。

 

「消えては結び───結んでは消えゆく。あらゆる生命は結び、消えるを繰り返し、天を廻り、回帰する───これを、輪廻という」

 

THEレクイエムを吹き、顔を上げる。

 

「消えては結び。行き着く先はいずこ。魂は天に、骸は地に。それぞれ還る先は在る。還り、廻り、巡り───循環こそがこの世の生命の理。総てに等しく始まりは在り、また総てに等しく終わりは在る。」

 

言葉を紡ぐ度に魔力の通りを感じる。上空から、地上。レア直下の地表から───同心円状に。

 

「───されど。時にこの世に彷徨う魂と骸在り。彷徨える魂よ、彷徨える骸よ。還るべき場所を見つけよう。還るべき場所へ誘おう。」

 

───私の声が遠くまで響くのを感じる。おそらく、誰かが響かせるような術を使ってくれたんだと思う。…正直、ありがたい。これは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。

 

『…ルル。』

 

『分かってるにゃ…旦にゃさん。』

 

念話を送った直後、近場で煙が上がった。

 

「───応えよう。彷徨える魂に、今こそ告げよう。彷徨える骸を、今こそ導こう。その煙は魂の道を造る架け橋。その葉は骸の道を示す先立て。これら2つは、ただ1つの“焔”の下に。」

 

そう告げた直後───地上が、光った。…正確には、モンスターの骸や大量の死霊が、だが。

 

「気高き焔の、その名を教えよう。その名は“送り火”。彷徨う魂と骸を導く救済の焔。例え死者から恨まれ、疎まれようともただ導くために燃ゆる焔。───私は彷徨う魂と骸の安息を願う者。」

 

巫女でも、なんでもない。私はただ───願いを込めて、歌うだけだ。“死に行く者に捧げる焔の鎮魂歌(デシースド・フランマレクイエム)”を───いや。

 

「───“古き者に捧げる焔の鎮魂歌(エンシェント・フランマレクイエム)”」

 

ルーパス同様で───私のこれも、この世界で変わったみたい。…歌、というよりは詩なんだけど。

 

「天を廻りて戻り来よ。時を廻りて戻り来よ。悠久たる時を経て、廻り集いて回帰せん。」

 

…あと、この宝具って私的に1つ欠点があって。……あ。

 

「……地を巡りて芽吹かせよ。時を巡りて芽吹かせよ。悠久たる時を経て、巡り集いて新生せん。」

 

地上から沸き上がる───光。……私が大の苦手な、“幽霊”。この詩を歌っている間、私はこれが明確に見えてしまう。

 

「消えては結び───結んでは消えて。魂が還るべきは天空に、骸が還るべきは大地に。天に至りし魂は幽世にて悠久の時を経て現世へと帰り、地に至りし骸は命の苗床となり新たな命の依代となる。」

 

───浄化が、始まった。この特異点に召喚された死霊達の浄化が。この宝具は、強制的に浄化する宝具。…彷徨う魂達を、強制的に送る宝具。そして───この宝具は、浄化している魂達の声を聞くことができる。

 

「───消えては結び。還るべきはいずこ。彷徨える者よ。もし道が分からぬならば。気高き焔を導となせ。気高き焔は汝の道を示すだろう。」

 

光が強くなって───私の元まで上がってくる。

 

『おぉ…これで、救われる……!ありがとう、優しいお嬢さん…!』

 

『あの女の呪縛から、やっと逃れられるのね…!ありがとう、可愛らしい女の子!!』

 

『……娘から解放されたこと、嬉しく思います。…母がこんなことを言ってはいけないでしょうけども。…娘を撤退させたあの子に、伝えてください。…“どうか、娘が続ける負の連鎖を断ち切ってください”、と。』

 

……今、死霊術師のお母さんらしき人が通ったみたい。……うん?

 

「───!?」

 

その、1つの魂を見た途端。私はTHEレクイエムを落としそうになった。だけど………

 

「……消えては、結び───結んでは消えて。還るべきは何処───還るべきは、常に。……死を送る送り火よ。輪廻へ誘う道を示せ。」

 

駄目だ。止めちゃ、最初からやり直しになる。

 

「彷徨える骸よ。還るべき道を、見つけたか。…彷徨える魂よ。還るべき場所を、見つけたか───」

 

最後。…次が終われば、あとは大丈夫。

 

「ならば願おう。悠久の時を経て、例え互いに忘れていようとも───再び廻り会う時を。次なる生に、幸せあれ───」

 

───宝具、完成。全死霊の浄化、進行中───そんなときに、さっき見つけた魂が私の近くに来た。

 

「……ごめんね」

 

その魂は───シャガルマガラ。…否。“タマミツネ”…の、メス個体。

 

「ごめんね、気づいてあげられなくて……酷い友達でごめんなさい、“ミツ”…!」

 

彼女は───ミツは、私達の友達だった。少し昔の話。古代林のエリア1。ベースキャンプから比較的近いその場所で、ルーパスと、ルーパスのお母さんとでのんびりとしていたところに突然現れた彼女。人里付近に滅多に現れないのもあって、ルーパスのお母さんが“珍しい”と言っていたのを覚えている。それからも何度か私達の前に現れてはよく遊んでいたりしたけれど、いつからかぱたりと来なくなった。…その理由も、今分かった。…私が、“天廻龍の命玉”を持っている理由も。

 

「ごめん……ごめんなさい…!」

 

彼女が───()()()()()()()()()()。来なくなった時期に、狂竜ウイルスに感染して。そこから、狂竜化が進行して黒蝕竜“ゴア・マガラ”へと変貌して。……成体となって、天廻龍“シャガルマガラ”となったんだ。

 

気にしないで、リューネ。わたしは、しあわせだったから。

 

「でも……!」

 

───ありがとう。わたしは皆を、比較的危険にさせずに済んだから。…ありがとう、リューネ。…ルーパスにも、伝えておいて。…わたしは、みんなと出会えてしあわせだった。

 

そう言って、ミツの魂は天へと昇っていった。

 

「……っ。…どうか。どうか───ミツの行き着く先に、更なる幸福がありますように。」

 

私は、他の皆と違って気がつくことができなかったから。気がつくことができなかった分だけ───というわけでもないけれど、ミツの幸福を強く願った。




なんか最近悲しい話多くない?

裁「……それはちょっと思った。」

(るな)「“永遠の別れ”が関係する話ですから仕方ないと思いますけどねー。」

永遠の別れ……か。

裁「……あ、そうそう。この時って魂の浄化以外に骸の浄化もされてたみたいで、少し近くで見てたメイヴと狂王の骸が灰になっていくの見えてたんだよね……」

……どんだけ強力なんですかね

裁「一応不死だろうとなんだろうと露出した魂さえ捉えることが出来れば強制浄化できるらしいよ?」

(るな)「え、あれ不死者にも効くんですか…?」

裁「……みたい?」

疑問系なのね……あ、勘違いされたくないし言っておくけど、別に私がこういう展開好きな訳じゃないからね?

裁「マスターってナーちゃんと同じくハッピーエンドが好きだもんね」

うん……

裁「ついでにマスターは純粋な恋愛系が好きだもんね…NL、BL、GLのカップルの性別的な問題はとりあえず置いておいて」

恋愛描写出てくるとスリープ入れて悶えること多いけどね

裁「どんだけ初心なの……」

ほっといて…


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第294話 禁じ手と殲滅

(るな)「……やりすぎませんよね?」

裁「どうしました?」

(るな)「いや……香月さん達の最高火力って乖離剣を相殺どころか上回れたような記憶があるもので…」

裁「……なるほど」

香月「いや、流石に最高火力なんて出しませんよ?どれだけ私に負荷かかると思ってるんですか……」

(るな)「いたんですね……そもそも全リミッター解除してる時点で負荷なんてあってないようなものでしょうに。」

香月「……まぁ、それはそうですけども……」

(るな)「…流石に加減しましたか。」

香月「仲間割れが目的じゃないですし。…加減してもかなり過剰だったらしいですが。」

裁「あぁ…あの時のあれはそういう……」


「し、死霊全滅……!?」

 

流石の私でも、これには驚愕した。ルシャによってこの特異点に召喚された死霊達が、1体残らず全滅───正確には、浄化・還元されていった。ルシャがいなくなったから、というのもあるけど復活する様子がない……どころか。さっきの死霊達に()()()()()()()()()()()()()。ルシャの器になってた彼女に私がやったようなことを、特異点全域の死霊総てに対して行ったんだ、あの笛使いの女の人は。

 

「凄い……一応禁じ手を使って消滅までは持っていくつもりだったけど、まさか“完全消滅”まで持っていくなんて……」

 

私達の場合“絆”、“記憶”といった代償を払って完全消滅させるしかないから、ルシャが召喚した他の死霊達を完全消滅させることはできなかった。苦しみは聞こえるのに、楽にさせてあげられなくてずっと辛かった。

 

「お姉ちゃん───!」

 

「───理紅」

 

理紅が私のいる空中にまで飛んでくる。…そういえば、理紅も見方によれば死霊だ。私が元いた世界では既に故人だから。それが完全消滅されてないってことは、何かしら条件がありそうだけど。

 

「あとは魔神だけ───でも、どんどん増殖してる!死霊達がいなくなって出来た余剰魔力リソースを消費して増え続けてるんだと思う!」

 

「宝具…なんだっけ。大本は。それ以前に、七十二柱の魔神そのものが私達と似た性質を持つ…だっけね。」

 

自分で口にして思うけど、面倒だと思う。いや、“魔力が存在する限り”っていう定義があっちなのだとしたら“欠片が存在する限り”っていう定義の私達の方が幾分か面倒なのだけど。

 

「……やろっか、理紅。まずは、魔力の供給を止める。」

 

「禁じ手───だね。」

 

対象は特異点全域。いつもの世界なら、私だけでも禁じ手を使える。…けれど、この世界じゃ無理だ。

 

「たとえ、1人で足りなくても───」

 

私が伸ばした手に、理紅が手を重ねる。

 

「それが、もしも2人でなら!」

 

指を絡ませ、魔力を絡ませ。1つの魔力を放つ媒体となる───“接合同化”。1人で足りないとき、力を合わせる方法。この感じ───いける。

 

「いくよ、理紅!!」

 

「うん!私達の禁じ手、対術式に特化したスペルカード───!!!」

 

その名は───

 

 

「「禁術“スペルクラック”!!!!」」

 

 

術式(スペル)の───破壊(クラッキング)。同じ破壊にスペルブレイク、というのもあるけど今回のは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という一手。範囲内に存在するあらゆる術式を支配下に。それこそ、魔術や妖術だけでなく、神術すらも。当然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、これは“禁じ手”なんだ。何も対策しなければ、味方の術も支配下に置ける───即ち、味方が術を使えなくなってしまうから。

 

「魔力供給機構停止、無限増殖機構停止、無限蘇生機構停止───全行動停止。」

 

(るな)さんに、“あまりやりすぎないでください”と言われてるから。“破棄”ではなく、“停止”で止めておく。これで、あの魔神達はもう動けない。あとは───

 

 

 

side 無銘

 

 

 

「あだだだだだ!!髪の毛を抜こうとするのはやめてくれ、キャスパリーグ!!ハゲる!ハゲるーーーー!」

 

『テメェ禿げなんて関係無いだろが!!!さっさと消え失せろボケナス!!』

 

「罵倒が酷いっ!!くそう、ミラ姫とナナコ姫に抱かれて丸くなったと思ったらこれさ!かの世界の飛竜すら一撃で倒せそうなほどにパワーアップしてるんだから余計たちが悪い!!」

 

『それを耐えてるテメェもテメェだろうが!つーかテメェ、ナナコの真名どこで知りやがった!?』

 

「ちょっ、誰か止めてくれぇぇ!」

 

「……なんだ、これは。」

 

『あ、お帰りなさいです。ギルガメッシュさん。』

 

「今戻ったぞ、無銘……で、これは一体なんだ?」

 

……なんだ、と問われても。一応の状況説明だとフォウの気合の入った蹴りで気絶した人が起きて今に至るんだけど………

 

『……なんでしょう。』

 

『フォォォォォアチャァァァァァ!!』

 

「ごはぁっ!!」

 

あ、飛び蹴りでもう一度気絶したみたい。

 

『よし!悪は滅びた!』

 

「こやつのことだ、滅びてはないだろう。…しかし、何故今になって出てきたのやら。」

 

「……誰?英雄王。」

 

あ、ミラさんも戻ってきた。とりあえず、(るな)さんと交代してもらって……フォウの叫びで何となく分かっちゃった気がするけどとりあえず。

 

「……ええっと…フォウ、この人は?」

 

『……コイツは“マーリン”。人間と夢魔の混血のクズさ。無断で他人の夢に入り込んでは精気を吸い、かつて1人の少女を破滅にまで追いやった真性のクズだ。何より───ボクを楽園から叩き落とした!お陰でボクは地獄を見たぞ!何てことをしてくれたんだ、クズ・オブ・クズ!!あぁ、無銘に頼んでロマニ・アーキマン周辺を警戒してもらったのもコイツが原因さ!!コイツは度々ロマニ・アーキマンを狙っているからね!』

 

「そんな言い方はないだろうキャスパリーグ!?そんな言い方されてはボクがホモみたいじゃないか!」

 

『復活早ぇよ、ってか事実だろうがクズ野郎!!ボクは知ってるんだからな、リッカちゃん達が来る前にロマニの事襲おうとしてたこと!!恨んではないけど怒りは無量大数!リッカちゃんの虚無に飲み込まれて破滅しろ!!』

 

「人間個人に興味はなく、人々の織り成す物語を好く…こやつのたちの悪いところは気紛れでそれに介入することよ。…此度の我も同じことを言われそうではあるがな。こやつは嬉々として介入するゆえ、我よりもたちが悪い。」

 

それを聞いたマーリンさんは次第に青ざめていく。…というか復活早くない?

 

「やめてくれ!?人は初対面の印象が2、3年続くんだろう!?姫達に嫌われちゃうのは嫌だ!!悪いことは奥に隠して良いことだけ表面に出してれば人間関係は上手くいくものなのに!!」

 

「監獄塔にマスターが行ったとき、フォウの言ってた“あの野郎”ってこの人の事だったんだ?」

 

『まぁね。ついでに、物凄く嫌だけどもコイツがボクの主人でもある。…ね、ギル。ルールブレイカーの原典とかない?マスター権限をナナコかミラに移したいんだけど?2人とも優しくボクを使役(つか)ってくれそうだし。』

 

「待っておけ、確か何処かに……」

 

「探さないでくれ!!っていうかそこまで嫌かい!?それはそれとしてミラ姫とナナコ姫の夢にプロテクトかけて更には夢に干渉してきたボクに対してリッカちゃんの虚無の力流すのはズルいぞ!!」

 

『うわぁ……』

 

虚無の力………って。それを流すにしても一度フォウを経由してるよね?それでフォウに影響、ないの?

 

『プライバシーの意味調べてこい、マジで。ナナコとミラに鍛え上げられたドラゴンリング・フォウのフルパワー、お前で試してやろうか?』

 

七色の魔力が竜の顔を形作る。それを見たマーリンさんが怯えたように肩を震わせる。

 

「ふむ……夢魔とは許可なく人の夢に入り込み、精気を喰らう悪魔だ。夢の中では無敵に近いが、夢の持ち主が夢魔を認識すると途端に無力になる。認識したならば無名の母やミルドの龍が即座に滅するだろうよ。」

 

『そもそも私が夢魔みたいな能力持ってますからなんとも言えませんけどねー。』

 

……え?璃々さん?

 

「ほう?どういうことだ?」

 

『だって私の能力、ざっくり言えば“夢と現を繋げる力”ですし。これを利用して“空想(ファンタジー)”と“現実(リアル)”を繋げるのが私の力ですからー…』

 

「…ふむ。」

 

『ついでに言うと星海さんが七虹の夢の中に放った夢魔が他の夢魔から守護してくれてますから~。』

 

「お、お母さん!?」

 

ちょっと、初耳なんだけど!?

 

『あぁ、擬似的な夢魔だね。私が夢魔をざっくり再現したやつ。そこら辺の夢魔くらいなら軽く撃退できるよ。』

 

「道理でナナコ姫の夢への妨害が異常に硬かったわけだ……!!キャスパリーグのプロテクトだけじゃなくて他の夢魔が妨害してたんだね!?っていうか、運良くキャスパリーグのプロテクト回避できたと思ったらなんか変な男に追いかけ回されて追い出されたのって……!!」

 

『多分星海さんが放った夢魔だねー。』

 

「……ちなみにその夢魔って?」

 

『これ。』

 

星海さんがそう言って画像を表示した。それをフォウ達と一緒に見る───

 

『“フレディ・クルーガー”じゃねぇか!!!なんでだよっ!!!』

 

……ええと?

 

「「誰?」」

 

『…知らないかぁ……カルデアに戻ったら“エルム街の悪夢”で調べてみるといいよ。』

 

『実際私達もdead by daylightでのフレディさんくらいしか知らないですけどね。』

 

『おい……』

 

少し低い声で唸るフォウだけど、お母さんはそれを気にせずに言葉を続ける。

 

『“夢に現れる存在”で思い浮かんだのが彼だっただけです。』

 

『……ちなみにキラー最高ランクは?』

 

『いやそもそも私……というか、お母さんがdead by daylight始めたのランクシステム廃止後ですし。』

 

『え?マジで?ランクシステム消えたの?』

 

『お母さん、よく“デモゴン帰ってきてぇ…”ってボヤいてた…』

 

『マジで!!?デモゴルゴン消えたんか!?』

 

『あ、伝わるんだ……』

 

……お母さんとフォウの会話がよく分からない…

 

「…そのあたりまでにせよ。無銘とミルドが困惑している。」

 

『……ごめん。ボクとしたことが熱くなった。今の問題は……コイツだな。おい、逃げんな。』

 

「ギクッ…くっ、一度退散して仕切り直しできるかと思ったのに……」

 

『逃げたら璃々に頼んでフレディをこっちに呼び出してもらってノーパークノーアドオンで発電機5台分と他生存者全員の儀式脱出までチェイスしてもらうからな。』

 

「それは勘弁してくれ!!っていうかそんなことできるのかい!?」

 

『そもそも原作からしてフレディは現実に呼び出す方法があるからな。ま、チェイスに関してはランク17キラーくらいになら通用するんじゃね?知らんけど。』

 

「くっそう……第一印象で気に入られたかったのに……」

 

『諦めろ。ボクがいる時点でそれは不可能だと思う。』

 

この人が、フォウをカルデアに導いた人…かぁ。

 

「ごご、誤解を解かせてくれミラ姫、ナナコ姫。ボクは凄いよ?NP配布できるし無敵貼れるし、通常時最大火力となり得るバスターの火力上げられるしクリティカル威力だって上げられるんだ!高難易度攻略、高難易度耐久にはもってこいだよ!」

 

『でもお前、女の方に周回評価負けてんじゃん。女のお前、周回評価Aに対してお前Bだぞ。ちなみに宝具5だと高難易度耐久も負けてんな。ソースは神ゲー攻略だがざっと他のサイト見たときもそんな感じだったぞ。』

 

「ごはぁ───!?」

 

「ふむ、素殴り性能は貴様に軍配が上がるか。それでも総合的に見れば貴様の方が劣化と化している可能性が高いか?」

 

『あと、お母さんはあなたを上手く使えたことがないそうです。元々効率なんて全く考えない人ですからそれも原因な気はしますけど。』

 

「が………が………」

 

「え、えっと……」

 

「や、やめてくれナナコ姫……君の罵倒は心を砕きかねない!少し、少し時間をくれ……」

 

「言ってやれ、無銘。こやつにそんな遠慮はいらん。」

 

「酷すぎる!この人でなし!悪魔!悪属性!」

 

『悪魔はどっちかと言うとテメェだろ。』

 

「アッハイ……ソーデシタ、ワタシガ悪魔デシタ……」

 

……なんだかなぁ。

 

「えと……マーリンさん?」

 

「ハイ……」

 

「夢関係はとりあえず置いておくとして。…ややこしくなりそうなので置いておくとして。」

 

「ハイ……」

 

「…ありがとう、華の魔術師マーリン。」

 

「ハ………イ?」

『ふぁ?』

「む……」

 

「あ、私からも感謝しておくね。…だって、ね?」

 

ミラさんと視線を交わして頷きあう。

 

「「私がフォウと出会えたのは、貴方がフォウをカルデアに導いたお陰だから。」」

 

「…………へぁ?」

 

惚けたような表情になるマーリンさんをフォウが揺すって起こそうとする。

 

『…ダメだ、返事がない。ただの屍のようだ。…いいのかい、罵倒とかしなくて?』

 

「罵倒とか思い付かないっていうのもあるんだけどね。今ここにいる“フォウ”っていう友達はマーリンさんが楽園から叩き落としてくれないと出会えなかったわけだから。」

 

「私も似たようなもの……人類の敵となり得る私の、いい相談相手になってくれるフォウは彼が叩き落としたのが起点だから。…まぁ、導き方は他にも色々あったと思うんだけども。」

 

『ナナコは純粋に…ミラは古龍として、かぁ……』

 

「それに───あ、起きた」

 

ミラさんの言う通り、マーリンさんが復活していた。

 

「…マーリン?あなた……私達をずっと、()()()()よね?」

 

「…っ!?な、なんのことかな!?」

 

「隠さなくていいよ、気がついてたから。…ずっと、私達の旅路を見守ってくれてありがとう。」

 

「…へ?」

 

「この世界にとってイレギュラーなのだろう私達を見守ってくれて、ありがとう。華の魔術師。」

 

「……あぁ。キャスパリーグ。キミは、本当に美しいものを見つけたようだね。」

 

『…うるさい。』

 

照れ隠しのようにしか聞こえなかったその罵倒。その罵倒に私達は微笑んだ。

 

「完敗さ、ホント───っ!?」

 

突然。マーリンさんの表情が強ばった。

 

『……?おい、マーリン?』

 

「────」

 

『おい。おい、起きろ!返事しろ!!』

 

返事は、ない。強ばった状態で、止まっている。

 

『クソッ、なんだコレ!』

 

『……まさか!香月さんと理紅さんの“禁じ手”が発動して……!!』

 

禁じ手……!?それだったら…!

 

「この鈴をつければ…!?」

 

『ボクがやる!貸してくれ!』

 

フォウに鈴を渡すと、フォウはそれをマーリンさんの手首に巻き付けた。

 

「───ぁはっ!?な、なんだったんだ今の…!?」

 

戻った…!

 

「一体何事だったのだ…!」

 

『禁術“スペルクラック”───範囲内の総ての術式を術者の支配下に置く禁じ手です。それに対抗する手段は術者が用意した支配除去具のみ。…今回はこの鈴がそれだったようですね。』

 

(るな)さん、マーリンさんが硬直した理由って…」

 

『“サーヴァント”とは術式の…魔力の塊です。動くための魔力を支配されて身体の自由を奪われたんでしょう。』

 

なるほど……これは確かに禁じ手だ。この一手の前だと、サーヴァントは相手に利用されて終わる。

 

「ふむ───なるほど。なるほど!今こそ終わりの時か!既に聖杯は手にし、動かぬ人形となった魔神は用済み!イレギュラーたる死霊共も駆逐し、残るは宴のみ!で、あれば───早急に準備に入らなければな!」

 

「やれやれ。僕の出番はなしか。本当に顔見せだけになるとはね。」

 

『オマエができそうなこと、香月ちゃん達に取られてるもんな。』

 

「否定はしない。あーあ、少しは姫達に良いところ見せたかったんだけどね。……ま、少しの補助くらいはできるか。」

 

そう呟いて、杖を軽く振る。

 

「この辺り、いじった方がいいんじゃないか?」

 

「フォーウ!」

 

「ブフォウッ!」

 

あ、フォウに蹴られてる…

 

「く……星の内海、物見の台。楽園の端から君に聞かせよう……君たちの物語は祝福に満ちていると。罪無き者のみ通るがいい───」

 

『お、おい!?』

 

え?それ───

 

「“永久に閉ざされた理想郷(ガーデン・オブ・アヴァロン)”!」

 

『やりやがった!宝具撃ちやがったコイツ!!』

 

「いいじゃないか、こうなればヤケクソだ!!」

 

『ダメだコイツ早くなんとかしないと……!!』

 

「もうダメだ……おしまいだ…!」

 

『あぁ、もう終わってるわコイツ……』

 

「見捨てるの早すぎないかい!?ナナコ姫もネタで返してどうするんだ!!収拾つかなくなるぞ!!」

 

「ふはははははは!愉快、愉快よな!───さて!」

 

全員に念話が送られる。魔神達は一点に集合する。

 

「───裁定の時だ。インドの英霊共よ、異世界の英雄共よ。」

 

 

 

side 三人称

 

 

 

「承知した、英雄王。───喜劇を以て衆生を救わん。」

 

「やる気だな、アルジュナ───始まり(プレミア)の王の慈悲を知れ。」

 

「この一撃を未来へ───シータへと捧げる!!」

 

インドの英雄達が、猛り。

 

「お姉ちゃん!」

 

「うん。…私達もやろっか。……やりすぎると、色々不味いから少し加減しなきゃだけど。」

 

「お姉ちゃんの場合はかなりだけどね。リミッター全解除に加えて各強化、更には自壊プログラムまで動いてるし……」

 

「そうでもしないとルシャは倒せないって分かってたし…」

 

異世界の少女達が頷きあい、手を掲げる。

 

「「チャーマリア・アサルトエクセ!!」」

 

《《Excellion mode.》》

 

緑の球体が槍になる。それは、レイジングハートのエクセリオンモードと全く同一の形状。

 

「炎熱放出。“フレイムリリース”」

 

「風翔放出。“ウィンドリリース”」

 

それぞれの得意属性が放出、その放出された属性が連環魔法陣へと集束する。

 

Set convergence rate upper limit to 10%(収束率上限を10%に設定)

 

Get execution mode(死刑執行モード取得)

 

《《Guess the attribute dissipation rate (属性圧縮臨界時の)when attribute compression is critical (属性放散率を推測します)》》

 

槍が言葉を発し、魔法陣が更に展開される。

 

「神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定───全承認。シヴァの後光を以て、汝らに崩壊の運命を与える。」

太陽神(スーリヤ)よ、ご照覧あれ。もはや戦場に呵責なし───未来への鍵はこの一刺し。扉を塞ぐ一切を焼け───!!!」

「些か過剰に見えるが…そなたを信じるぞ、英雄王!───月輪の剣、不滅の矢。羅刹王すらも屈した刃を受けてみよ!!」

 

Breathing wind(息吹け風)

 

Raging flame(猛れ炎)

 

《《Diffusion rate of 31%...I can do it, Master(放散率31%…いけます、マスター)》》

 

「…!虚なる強者に導きの風を。風よ集え、万物を飛翔させる翼となれ!───風刃飛翔!」

「…!虚なる神霊に癒しの炎を。炎よ集え、永久に燃え盛る決意となれ!───永久燃焼!」

 

それぞれの宝具が、技が───準備を、整えた。そして───

 

 

「“破壊神の手翳(パーシュパタ)”!!」

「“日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)”!!」

「“羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)”!!」

「“その処刑者、刃状の風を携え(ウィンドエッジ・エグゼキューター)”!!」

「“その処刑者、永久の炎を携え(パーマネントフレイム・エグゼキューター)”!!」

 

 

《Wind edge Executer》

《Permanent Flame Executer》

 

明らかに過剰なそれが、ただ一点に向けて放たれた。邪悪を、魔神を、世界を滅ぼさんと───未来へ至るための、この特異点最後の試練として。

 

 

 

side 無銘

 

 

「……あの、あれ明らかに過剰じゃありません?」

 

私は香月さん達の技を見て思ったことを呟いた。

 

『やりすぎるなって言ったのに……』

 

『エグゼキューターはやりすぎだよねー。ただ、集束うまくいってなかったみたいだけど……』

 

『…集束しきれなさそうだから放散率高めでも使えるエグゼキューターを選んだ、とかですかね…主』

 

(るな)さん、星乃さん、美雪さんの言葉に少し首を傾げる。

 

「集束しきれない…とは?」

 

『魔力や属性が強すぎてすべてを一点に纏めきれない状態です。放散率───集束中にその集束を逃れ、放出される力の割合が高ければ高いほど集束砲というのは不安定になるんですよ。』

 

『でも、不安定だとしてもエグゼキューター……多少不安定になってもいいから殺傷力を高めたのがあの集束砲。流石の英雄王でも……』

 

「ふはははははは!越えるべき壁は高い方がいいだろう?ならば受けて立つとしよう。」

 

『……単体だとさすがに無茶だと思う』

 

星乃さんが最後の言葉は私にだけ聞こえるように言った。

 

『正直全力で撃たれなかっただけまだ……』

 

『あれ全力じゃないんですね……』

 

香月さん達は本当にどれだけ強いのだろう、と心底疑問に思った。

 

「応えよ、エア。原子は混ざり、固まり、万象織り成す星を生む───!!」

 

『こっちのデータにもあるし、ギルガメッシュさんの宝具を信用してないわけじゃないけど……あのままだと、負けるよ。』

 

え……!?

 

 

「───“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”!!!」

 

 

放たれるは乖離剣の一撃。世界を裂く、神々を滅ぼす───神代との決別の一撃。生命の原初の記憶、この星の最古の姿であって地獄の再現……らしいんだけど。

 

「…!?ぬうっ!?」

 

『……押されてるね、やっぱり』

 

停止した魔神達のちょうど中央。衝突した直後、ギルガメッシュさんの方が押され始めた。

 

『どうすれば…!』

 

『……彼にとっては屈辱かもしれないけど、魔力補助で強化するくらいしか方法なさそう。』

 

『ざっくり見た感じここのギルガメッシュさんは誰かに頼ることに抵抗はなさそうだけど…』

 

そんな話をしている内に───

 

「ぬっ!?ミルドなにを───」

 

「喋らないで。…そっちに集中して、お願いだから。」

 

ミラさんがギルガメッシュさんの背中に手を当てていた。

 

「……あなたが王というのなら。ただ一時といえど私はあなたの姫となりましょう。」

 

「───何?」

 

「私に反応しなくていい………私を介して流した“龍の魔力”を使って、英雄王!!」

 

「よいのか!?」

 

「全員の許諾は得た───早く!!時間がない!!」

 

「───恩に着る、ミルド…ぬっ!」

 

ギルガメッシュさんが驚いたのは、私も彼の背中に手を当てたから。

 

「私の───七色の魔力も使ってください!」

 

「しかし…!」

 

なかなか踏み切らないギルガメッシュさんに。

 

 

「「───早くして、“ギル”!!!!このままだと全員死ぬ!!!」」

 

 

「───!」

 

私とミラさんが、同時に同じ言葉を放った。

 

「───いいだろう、膨大な魔力負担を覚悟するんだな!!」

 

魔力外部出力パス接続───成功。

七色魔力調和状態───良好。

龍魔力調和状態───良好。

魔力調和処理続行───

 

『ファッ!?ギルの魔力がどんどん膨れ上がってる……!?ミルドの魔力とナナコの魔力が絡み合って、調和しあって───ていうか、ナナコが全体的な魔力の調和を、ミルドが宝具への魔力出力回路を担ってるとかただの魔力ブースターじゃないんだけど!?』

 

「ギル、魔神の殲滅に全力を注いで。私は世界の切断に全力を注ぐ。」

 

「私は総ての相殺に…!お願いします、ギル!!」

 

「ふはははははは!2人の姫に支えられる王か───悪くない!エアよ、貴様も恥ずかしいところは見せられぬな?」

 

私の虹色の魔力と、ミラさんの赤黒い龍の魔力が乖離剣に纏わりつき、乖離剣の音がより強くなる。───拒絶ではなく、促進。

 

『これ…共鳴!?七虹とミラの魂と乖離剣が共鳴しあってるの!?』

 

共鳴……よく分からないけど。

 

『超高速演算の分割処理、状態良好。』

 

『実数時間の維持、問題なし。』

 

『実数空間の維持、問題なし───七虹、細かい調整はこっちで請け負うから威力相殺に集中して』

 

(るな)さんの指示に頷き、乖離剣の向かう先、他の英雄の人達の宝具との衝突点に演算を集中する。

 

「龍紋励起───龍翼、展開…!!」

「虹輪励起───虹翼、展開…!!」

 

似た言葉を呟くと同時に、私とミラさんに変化が起きる。ミラさんの横顔に赤い龍の顔の模様が現れ、背中から純白の翼が生える。私の頭上に虹色の輪っかが現れ、背中から虹色の翼が生える。恐らく───私もミラさんも、最大出力状態…の、前兆。

 

「───原初を語る。天地を裂くは空の名を持つ剣。」

 

「───世界を別つ剣よ、旧き者達の声に応えよ。」

 

「───起源を喚び、地獄を呼び、乖離せし理を叫べ。」

 

『───創るは星、壊すは虚。その力は真に表裏一体。』

 

………っ!?聞いたことない、声───!?

 

『虹は繋ぎ、龍は吼え、新しきは裁く。───姫巫女と王の言霊にて真に応えよ、創生の神秘』

 

「───喚べ、“アル”、“ミラ”!貴様らの声がこやつへの激となろう!」

 

───今。私を…“アル”、って呼んだ?とりあえず、聞いたことない声は後回し。…今は。

 

 

「「「───“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”!!!」」」

 

 

今は───相殺を。真名解放をし、“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”の情報を上書きする。

 

 

 

───そして、総てを消さんとする龍が、総てを護ろうとする虹が、総てを見定めんとする王の手によって放たれて。現れたのは────

 

 

 

「…ふ。真に、見事だ。龍宿す姫と虹宿す姫よ。」

 

 

 

───蠢いていた魔神の姿は1つとしてなく。砂嵐の吹く不毛の大地の痕跡もなく。ただ、青空の下で咲き乱れる花々の楽園が広がっていた。




ちなみにそんな発電機5台分と他生存者全員の儀式脱出までの長時間チェイスはキラーとしても気力が持ちません。というかだいたいチェイスが長引く前に見失うことが…

(るな)「それはお母さんが下手なだけじゃなくて?」

そんな長時間チェイスされるくらいなら上級者でも他の生存者探しに行くと思うけど……あと私現状サバイバー専みたいなプレイ方法してるからキラー超絶苦手なのよ……

裁「ちなみに各最高グレードは?」

サバイバーが銀II、キラーが灰II(執筆当時)かな…確か。あとホントにデモゴン復刻して……(なお、投稿時はサバイバー銀Iキラー銅IVになっている模様)

(るな)「これからどうなるか次第だよ、それ…」

ていうかなんで私達ここでこんなこと喋ってんの……

(るな)「まぁ…確かに。…というか、香月さん」

香月「あれでもチャーマリアと一緒にかなり加減したんですけど……それだけ自壊プログラムの補正は大きいってことで……」

(るな)「………まぁ、仕方ありませんか。…得意属性なのも原因ですかね。香月さんって苦手属性……」

香月「ないですね。」

(るな)「……そうでしたね」

弓「それだけの魔力があって足りぬ禁じ手とは一体…」

香月「あ、魔力が足りない訳じゃありませんよ。術者の処理能力が足りなかったんです。リソースは大量にあってもそれを活かすためのスペックが不足している状態だったんですね。理紅と繋がって単純にスペック2倍、それで動かせるような状態に陥ってましたから。」

弓「……そうか。…繋がる、という言い方が少し卑猥な気がするが…」

香月「そうですかね……そもそも“接合同化”って踊るような手の組み方をした上で力を重ねる“魂の共鳴”と似た技術なので“繋がる”で問題ない気がするんですけども。…この技術、誰とでもいいわけじゃなくて相手との共鳴率が高くないと成功しないんですよね…実際私も理紅と恋人以外で成功する確率は30%あるかどうかですし。ちなみにその2人は100%成功しますね。」

裁「え、じゃあアル達がやったのって…?」

香月「あれはただの“接続”だと思いますよ?スペック上昇とかなにもない、ただの魔力の供給装置化───天命譲渡の神聖術(トランスファー・デュラビリティ)の魔力版みたいなものです。」

弓「…ちなみに聞くが、あの時貴様の恋人が同化の相手だった場合どうなっていた?」

香月「………ミラさんと無銘さんの補助があっても多分…」

弓「……聞かなかったことにしよう」


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第295話 変化をもたらした奇跡に祝福を

裁「そういえば星乃さん。」

星乃「んー?何、リカさん。」

裁「あなたの宝具……あなたの絶技で香月さん達の砲撃って殺せなかったんですか?」

星乃「あぁ、あれ?無理無理!アレ、生命力が強すぎるの!私でも到達前に殺しきれない!」

裁「生命力……」

星乃「“(つき)の一族”の系譜は空間を操りやすいことと生命力が馬鹿みたいに強いことが特徴でね。単純な不死殺しや死の呪いとかじゃ殺しきれないんだよー。…それは私の絶技、“あらゆる生命を司る瞳”でも同じ。」

裁「……」

星乃「絶対の殺戮者、なんて言われるけどねー。生命力が強すぎると殺害するにも時間がかかるんだよ。…それに、荒いと言ってもあれは集束砲。細かい破片を集めているわけだから、その細かい破片を全部殺さないと完全には止まらない。流石にそこまでの分割思考能力はないよ、私には。」

裁「星乃さんには…ですか。」

星乃「七虹が管制人格として持つ人格統括能力を活用できればいけるかもだけど、私の絶技は私の絶技であって、七虹の宝具じゃないからね。劣化術式である“夜明けまでに死を与える瞳(デッド・バイ・デイライト)”ならまだ扱えるかもだけど……あの術式は速効性がないから。」

裁「あれ…そうでしたっけ?」

星乃「ないよ?動きの停止は速攻効くけど、死に至らせるまでには3時間くらいかかるんだよー。」

裁「さ、3時間……」

星乃「私の絶技なら速くて0.001秒で死に至らせられるからね。加速してればもっと上がる───まぁ、それでも香月さん達のは殺しきれないんだけどねー。」


「聞け、皆の者!」

 

いつものように。今回もギルの声が周囲に響いた。

 

「既に脅威は去り、この特異点での事件は終わりとなる!特異点での各々の活躍、大義であった!集合写真も撮り終えた、故に───杯は持ったか有象無象共!!」

 

「「「「「おぉー!」」」」」

 

「よろしい、ならば───乾杯!!」

 

「「「「「乾杯!!」」」」」

 

流石に未成年はお酒じゃないけど。お兄ちゃんが結界術で用意してくれた花畑で、私達は一時の宴会を開いていた。

 

「……もう、リッカさん?せっかくのお祭り騒ぎなのに、飲んだり食べたりしなくていいの?」

 

…そんな中で、私はナーちゃんに膝枕をしてもらってる。

 

「いいの。…私の今の癒しは、食べることじゃなくてナーちゃんに甘えることだし。」

 

「………ありがとう、そう言ってくれて。…今回、あまり役に立たなかったけれど。」

 

「得意不得意は誰にだってあるから。私としては心の拠り所になってくれるだけでありがたいよ。」

 

「…もう。…私にしか聞こえないように言ってる辺り器用よね、ホント…」

 

「あ、バレた?」

 

「バレないわけないでしょう?」

 

流石ナーちゃん、と思って遠くを見る。ユナさん、だっけ。あの人と香月さん、理紅さん、ミクさんがリューネちゃんの演奏に合わせて“乾杯”を歌ってるのが見える……あの曲って1980年の曲だっけ。別の方向では特異点のエリザベートさんとネロさんの歌に対してミラちゃんとルーパスちゃんが音の相殺をしてるのが見える。ジュリィさんは本に何か書いてるから編纂とかしてるのかな?

 

「…リッカさん?」

 

「んー?」

 

「今回も味方側に犠牲者がなくてよかったわね?」

 

「……犠牲者……いないわけじゃないよ。」

 

「…?」

 

私の否定に対して疑問そうにするナーちゃんに向き合う。

 

「精神的な面で犠牲になった人は何人かいるから。…香月さんとか、ルーパスちゃんとか。」

 

「…あぁ。そう、ね…」

 

「……我儘、だけどさ。精神的な面を犠牲する人も、出したくなかったよね…」

 

「……そうね。それが、一番いいもの。」

 

……みんなが幸せに、って。難しい。

 

「……?リッカさん、フローレンスがこっちに来るわ?」

 

「ナイチンゲールさんが?」

 

今更だけど、私とナーちゃんは宴会の中心から少し離れたところにいる。中心付近で寝転がってても邪魔なだけだし。

 

「お休み中失礼します、ドクター・リッカ。」

 

「ん…どうしたの?」

 

ナイチンゲールさんが来る前に座り直し、ナイチンゲールさんと正面から向き合えるようにする。

 

「…楽にしていただいたままでよかったですのに」

 

「話をするんだからそうもいかないよ。…それで、どうしたの?」

 

「はい…このような宴席で申し訳ありませんが、私はここで失礼したいと思います。」

 

「……」

 

「次なる怪我人が、病人がいますので。誠に勝手ですが───」

 

「いいよ」

 

言葉を全部聞く前に答える。…本当はダメなんだと思うけど、なんとなく言いたいことは分かったから。

 

「───良いのですか?」

 

「本当は一緒に楽しみたいけど…待ってる人達がいるんでしょ?…なら、行ってあげないと。…私は、一緒に行けないと思うけど…」

 

「当然です。あなたたちの施術はこの先も続きます。その施術を、看護師である私が妨げるわけにはいきません。」

 

レスポンスが速いなぁ…

 

「…うん、それでこそ、ですね。では───フローレンス・ナイチンゲール。」

 

「はい。」

 

「かつて戦場の天使、クリミアの天使と呼ばれたあなたに、私からお願いがあります。」

 

「……」

 

そう言ったあとに懐からコンパクトを取り出して開く。…うん

 

「ナイチンゲール。あなたはこの先、数えきれないほどの怪我人と病人に出会うでしょう。その怪我人達を、病人達を───でき得る限りで構いません、救ってあげてください。」

 

「……」

 

「その手から溢れ落ちてしまう命もあるでしょう。あなたが知らない病や怪我もあるでしょう。例えそうだとしても、あなたには全力で立ち向かって欲しいんです。あなたがあなたらしくいるために。…私からのお願いは以上です。」

 

「…………それが」

 

少し長い沈黙のあと、ナイチンゲールさんが口を開いた。

 

「それが───ドクターの、指示(オーダー)であるのなら。私はそれに従いましょう。…ところで」

 

「?」

 

「あなたは………………いえ、なんでもありません。」

 

……なんとなく、言いたいことは分かった気がするけど。それを指摘する代わりに、ナイチンゲールさんの両手を握った。

 

「!」

 

「…フローレンス・ナイチンゲール。クリミアの天使。あなたがこの場所において、私の助手になってくれてよかった。…ありがとう。」

 

「……いえ、こちらこそ。あなたがたがドクターでよかったです。」

 

私が手を離すと、ナイチンゲールさんは一礼をして消滅していった。

 

「……いずれまた交わる日まで。どうか、お元気で。…ね、ナーちゃん。」

 

「えぇ、そうね。…患者だけじゃなくて、看護師も医者も元気でないと。治せるものも治せないもの。」

 

そんな話をしていると、今度は香月さんが私に近づいてくるのが見えた。

 

「…すみません、ここいいですか?」

 

「どうぞ…」

 

「ありがとうございます。…百合の間に挟まるつもりはないんですけど。百合の間に挟まる男は大罪人ですから。」

 

「あら、あなただって女の子じゃない?元々男の子でも、今女の子なら別にいいんじゃないかしら?」

 

「……そう、でしょうか。」

 

不安そうな香月さんにクスリとナーちゃんが笑う。

 

「妹さん……理紅さんに聞いたわ?あなた、元々男の子だけれどこっちにいるときは完全に思考が女の子なのよね?なら…っ!」

 

「きゃぁっ!」

 

ナーちゃんが水をかけると同時に私が後ろから抱きしめ、ナーちゃんが前から抱きつく。それに驚いた香月さんが悲鳴を上げる───うん。

 

「「完全に悲鳴が女の子……」」

 

「うぅ……あ、あの、服を着替えたいので離れてもらっても…?」

 

「……ピンクだったわね」

 

「ピンクだったよね」

 

「は、恥ずかしいから言わないでくださいっ!」

 

何の色かって想像にお任せします。…っと、暗くなる結界使って着替えたみたい。制服…って言うかセーラー服?それも何処かで見たことのあるような……

 

「それ……“私立烏森学園高等部”の?」

 

「…よく分かりましたね、七海さん。」

 

「…なんか懐かしい名前出てきたなぁ…」

 

というかなんで持ってるんだろう…?それに()()()()()()()()()()()()()()んだけど……?

 

「……スカートめくっていいかしら?」

 

「ダメですっ!」

 

「ナーちゃん、おじさん化してきてない?」

 

「ただの冗談よ、冗談。だから───ふぁ…?」

 

最後に気が抜けたのは私がいきなりナーちゃんの唇を奪ったから。

 

「…ナーちゃんっていきなりされるのに弱いよね。」

 

「…う……バレてたのね………あ、ダメ…腰立たないわ…」

 

「…私も分かっちゃうのがなぁ……いきなりキスされると頭の中ふわふわしちゃうんですよね……恋人限定ですが……」

 

「「わかる……」」

 

分かっちゃうのがなんか悔しいのもなんとなく分かる……どこかからキス魔Aって聞こえた気がするけどとりあえず無視。

 

「……すみません、本題に入っても?」

 

「あ…はい。」

 

本題……何か話があったのかな。

 

「私達が帰る前にリッカさんに…これらを、渡しておこうと思いまして。」

 

「これら、って……」

 

そう言って香月さんが差し出してきたのは───

 

「“タネ”と……“カギ”?」

 

「それに…“タマゴ”?」

 

小さな種と、古びた鍵と、大きな白い卵。大きな、といっても飛竜の卵とかよりは小さい。

 

「…種は芽吹けば何か分かります。鍵は…いずれ、必要になるでしょう。卵は……割れてからのお楽しみということで。」

 

芽吹けば何か分かる───それって、ザ・シードを渡したときの言葉と同じ…?それと…

 

「この鍵が…いずれ必要になる?」

 

「えぇ。…いつか、必ず。」

 

「………」

 

その言葉に感じる強い説得力。改めて鍵を見る───古びているけど、確かに何か重要そうな気配を感じる。力を喪った、って感じなのかな?

 

「…香月さん。香月さん達のいた世界って、どんな世界なんですか?」

 

「私達のいた世界……ですか?」

 

キョトンとした表情で首を傾げる香月さん。その数瞬後、少し悩んでから口を開いた。

 

「普通の世界……とは、少しだけ違いますかね。世界そのものに表と裏があって、資格がある者のみ裏に干渉できるような世界です。」

 

「表と…裏。それに……資格。」

 

「えぇ…単純にいえば、“並行世界に渡る権利”。私や理紅のように、様々な世界に旅立てる権利です。…この世界に来たのは偶然…事故のようなものですけど。」

 

「……その権利を持っているのは、香月さん達以外にも…?」

 

「えぇ、いますよ。私がさっき殺した友達とか…まぁ、彼女達は並行世界での記憶と共にその権利を喪ったわけですが。」

 

「…っ!」

 

それって……ブレインバーストアンインストールの時と…!

 

「気にしないでください、慣れ……はしませんがそれでも私達は前に進まないといけないんです。」

 

「……哀しいわね」

 

ナーちゃんがそう呟く。慣れなくとも、辛くともそれでも前に進まないといけない……か。

 

「………すみません、いい加減そこで見てないで出てきたらどうです?」

 

「え?」

 

何を、って言いかけたその時。空間に亀裂が入った。

 

「あら…バレてたわね。」

 

「バレないと思ってたんです?…紫さん」

 

「や……“八雲(やくも) (ゆかり)”さん…!?」

 

東方projectに出てくる幻想郷の賢者………!?全然気づかなかった…!

 

「探すのに手間取ってようやく見つけたと思ったら話し込んでるのだもの。これでも静かに待っていたのよ?」

 

「…それは失礼しました。…それで、“準備”の方は…?」

 

準備……?

 

「既にできてるわ。霊夢、魔理沙、妖夢、咲夜、橙、チルノ、アリス、幽々子、フラン、大妖精…加えてあの子達も神社で待機しているわよ。お別れが済んだのなら早めに帰りたいのだけれど…」

 

「分かりました。…理紅ー!ユナさーん!紫さん迎えに来たから帰りますよー!」

 

「はーい!」

「分かったわー!」

 

香月さんが声をかけると、ユナさんと理紅さんが私達の方に来た。

 

「…それでは、私達はこれで。…また、どこかで会いましょう。」

 

「……香月さん!」

 

スキマに入った香月さんの名を呼ぶ。香月さんがスキマの中で振り返って首をかしげる。

 

「…?」

 

「あの……ラーマさんを守ってくれたこと!ありがとうございました!」

 

「……あぁ。お礼なんていりませんよ。結局、私は彼を守りきれなかったんですから。シータさんからの依頼を、遂行しきれなかったんです。…依頼請負人として、それだと失格ですので。」

 

そう言いきって、香月さん達はスキマの奥に消えていった。

 

「……完璧主義、なのかな。」

 

「そうかもしれないわね。…いつかまた、会えるといいわね?」

 

「ん……ん?」

 

ナーちゃんの方を向く、その直前。視界の中に見覚えのある何かが映った気がした。

 

「……気のせい?」

 

「どうしたの?」

 

「…どこかで、見覚えのあるようなものが映った気がしたんだけど……気のせい、だったのかな…」

 

あの、()()は……確かに、どこかで。

 

「……まぁ、いっか。…多分、いずれ分かるし。…はむっ……」

 

「う…んっ。」

 

今は、とりあえず。静かにイチャイチャしていたい。




裁「そういえばあの後香月さんってどうなったんですか?」

香月「あの後ですか?暴走しましたよ、普通に。」

裁「……えっ?」

香月「……教えてませんでしたっけね。リミッター全解除後、再びリミッターをかけると魔力の制御が効かずに暴走を引き起こすんですよね、私達って。紫さんが言った準備っていうのは封印の準備ですね。」

裁「封印……」

香月「暴走状態から通常の状態に戻すことを封印というのですよ……というか、術式的にそうなんです。ちなみにかなり痛いです」

裁「あ、痛いんだ…」

香月「痛いです。封印終わって一眠りした後恋人に癒してもらいましたし。好きな人の癒し術は最高の癒し。」

裁「あはは…だよね。」

香月「……それはそれとして。以前のマテリアル見てきたんですけど。リッカさんって当時七海さんへの恋心、自覚してますよね?それなのに“無意識”ってどういう…?」

裁「あぁ……それですか。…えぇ、確かに当時既に自覚してるんです。それなのに無意識と記されているのは、私には誰かを愛する資格がないと思って意識的に抑えつけてたからでしょうね。自覚しているものの、抑えている。そうだと知って、知らないと思い込んでいる───思い込み(心意)が、情報を歪ませているのでしょう。」

香月「……事象の上書き(オーバーライド)、ですか。」

裁「…多分。あ、そういえばなんですけど……」

香月「?」

裁「香月さんって見た目に反して割と…ありますよね。」

香月「……“女三人寄れば姦しい”とはこの事かな…ていうかやっぱりどさくさに紛れて触ってたんですね、あなたは……」

裁「ちょっと気になって。」

香月「……あの時って姿の調整間違えて少し大きくなってただけで普段は無いですよ。」

裁「あ、そうなんです?」

香月「無いです無いです。ね、スー姉」

いやなんでいきなりこっちに話振るのよ。みんなの大きさ確かに知ってるけどさ。

裁「逆にマスターはなんで知ってるんですか…というかそれって私のも…?」

リカのもだよ。知っている理由はシステム管理者だから。個人のあらゆるプロフィールが記録されるシステムの、ね。

裁「……あぁ、なるほど」


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第296話 終わったんだ

裁「そういえば、香月さん達の封印の方法ってどうやるんです?」

香月「私達にかける普通の封印の方ですよね?」

裁「えぇ、そうですけど……普通じゃないのもあるんですか?」

香月「簡易封印というのがありまして。脆くて時間が経つと再び暴走に移行するような封印ですが、緊急時処置には使えます。」

裁「なるほど……普通の封印の方をお願いします。」

香月「封印対象の異能者を中心に陣を描きます。よく使われるのは五芒星(ペンダグラム)ですね。その陣の支柱として異能者が複数人。その複数の異能者で封印用の結界を維持し、それ以外の協力者達で封印対象を攻撃。封印対象が弱ったところを封印する感じです。」

裁「攻撃……」

香月「簡単に言えば基本上限値(残量100%)からオーバーフロー(残量100.1%以上に限界突破)した体力・霊力・魔力・妖力・神力を枯渇状態(残量0%)まで根こそぎ削りきるのが目的なんです。体力0にしたところで私達は死にませんし。」

裁「……香月さん達って化け物ですよね。私が言うのもちょっとあれですけど。」

香月「よく言われます。身体全体を消し飛ばされなければ生きていられますからね…体力が1以上あれば。最初の頃はよく死んだものです。」

裁「……しれっと自分の殺し方言わなかった?」

香月「事実ですからね。」

裁「死の概念が軽くなってないかなぁ……」

香月「不死者ってそういうものですよ。」


思考が覚醒する───これで、6回目……違う、7回目だ。今回も、私達は帰ってきたんだ。

 

「長旅お疲れ様です、狩人様。」

 

「人形ちゃん…ありがとう、お出迎え。…みんなは?」

 

「既に。待ってください、今開けますので……」

 

人形ちゃんがそう言うと、コフィンが開く。管制室の風景を見ると、本当に帰ってきたんだと実感する。

 

「おはようございます、先輩。」

 

「……」

 

ふと、特異点に行く前に見た夢を思い出した。今、こうしてここにマシュはいるのに、あの夢で姿がなかったのはなぜだろう。

 

「先輩…?」

 

「……おはよ、マシュ。」

 

…今考えても、きっと分からない気がする。そして、分からないまま喪って後悔するのだろう。できればそんなことにはなりたくない。けれど、あれは必ず起こってしまうことなのだろう。それが、変えられない未来だというのなら───一時、失うことはあったとしても。永遠に喪うことにはならないように。そうであるように───頑張ろう。

 

「わ…っ!せ、先輩…!?」

 

彼女は、私のただ一人の後輩なんだから。例え奪われたとしても、必ず取り返す。彼女が胸を張って誇れるような先輩になれるように、頑張ろう。

 

「あーっと……すまん、そろそろいいか…?」

 

「…はっ」

 

お兄ちゃんの声で我に返る。いつの間にか私はマシュを抱き寄せてマシュの髪を梳いていた。

 

「あ…ごっ、ごめんマシュ!」

 

「い、いえ……ビックリしましたが手の動きが優しかったので……安心して身を任せていられました。」

 

「ホントにごめん…」

 

完全に無意識だった……

 

「うし、リッカも無意識から戻ってきたところで……特異点攻略、お疲れさん。次の特異点は既に観測できちゃあいるが……ちょいとばかし時間をくれ。色々障害がありそうなんだわ。」

 

「障害…?」

 

「それに関してはこっちで何とかするから……ひとまず。」

 

「全員休むべきですね。」

 

いつの間にか管制室に入ってきていたアルトリアさんがそう言った。

 

「現地にいたマスターやマシュはもちろん、クー・フーリンや英雄王、各狩人達に無銘さん。それからこちらでサポートに回っていたオルガマリーに六花、ロマニもかなりの疲労を蓄積しているはずです。即刻休息を取るべきかと。」

 

「…俺もかよ。」

 

「当然よ、六花。あの大禁呪とかいう結界魔術、私でも分かる───かなりあなたに負荷がかかるでしょう?私にかかる固有結界の負荷がいつもより少ない…どころかほぼ無かったもの。あなたが肩代わりしたんでしょう。」

 

え───そうなの、お兄ちゃん?

 

「なんだマリー、気づいてたのか。」

 

「気づかないわけないわよ。…カルデア所長として言い渡します。今日、明日、明後日の計三日間。回復カプセルに入って休息に努めなさい。」

 

「へーい……」

 

三日間って……よっぽど無理してたっぽい…?

 

「他の方々も同様です。少なくとも丸一日、カプセル内での休息をお願いします。特に、マスターとマシュは重点的に。」

 

「…はい」

「うん、分かった。」

 

監獄塔後の一件ですごく心配かけたのは分かってるから。アルトリアさんの判断も正しいって思う。

 

「…じゃあ、先に私は行っちゃうね。」

 

「うむ、行け。しっかりと休息するのだぞ。」

 

「ん……」

 

「またねー、リッカ。…私も休まなきゃね。ジュリィと話をしておきたかったんだけど…」

 

「君は僕よりも早めに休んだ方がいいだろう。…身体も、心も。」

 

「…ん、そうする。でもリューネも早く休むんだよ?」

 

「分かっているよ。」

 

ルーパスちゃんもリューネちゃんも休むみたい。…ホントに、心は重点的に休めてほしい。そう思いながら、私は管制室を出た。

 

 

 

無銘 side

 

 

 

「さてと……」

 

私とアルトリアさんと英雄王とフォウしかいなくなった管制室の中で。英雄王が金色の波紋を開いた。

 

「そら、アルトリア。」

 

「……っとと。これは…聖杯?」

 

「次なる特異点は“キャメロット”だ。…言いたいことは、分かるな?」

 

「…!」

 

アルトリアさんの表情が強張る。

 

『キャメロットかぁ……あ、やべ、寒気してきた……』

 

「此度の受け皿は貴様だ、アルトリア。貴様が成すべきことを成せ。」

 

「……はい、英雄王。」

 

「ロンドンでの宣言、忘れるなよ。騎士王。」

 

そう言って英雄王も管制室を去っていった。

 

「…道は緩く、しかし確実に進んでいます。そう遠くない未来、人理の修正は成るのでしょう。…その為の協力は惜しみません。たとえ、かつての仲間へ剣を向けることになるとしても。…心配事は、ありますが。」

 

「心配事…ですか?」

 

「…円卓の騎士が一人。“月の聖剣”たるエクスカリバーの対、“太陽の聖剣”を持つ者。それと…こちらも円卓の騎士が一人。この身が果てる最後まで私に仕え、聖剣の返還を為した者。その二名が、心配事ですかね。」

 

『うええ……大丈夫かなぁ…』

 

……不安は、多いけれど。道は確実に進んでる……と思う。




裁「……あ。あれって…」

香月「?…あぁ、悪魔ですね。」

それも遠距離砲撃型だねー…

裁「どうし………え?」

香月「?」


───ボンッ


裁「は……“間流結界術”……?」

懐かしいね、それ……香月達の原点じゃん。

香月「そうだね。」

裁「原点…とは?」

香月「私達が初めて行った異世界が“結界師”の世界だったんですよ。それで、原点です。」

裁「な、なるほど……」

あれ完結したの11年前なんだって……

香月「…………(´・ω・`)」

時間の流れ、早いねぇ…

香月「…スー姉」

んー?

香月「私ってどれくらい“稼働”してる?」

裁「稼働……?」

……7年くらい…かな?

香月「7年………かぁ。」


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幕間 予想外
第297話 狩人達の召喚はいつだって予想の上を行く


翁さんー。召喚対象の選定お願いしますー…

殺「承った。……マスターよ。大丈夫か?」

?なにがです?

殺「…………いや、気にするな。」

んー……?あ、今回の投票結果内訳はこんな感じになりますー


イ・プルーリバス・ウナム修正後に召喚するサーヴァントは?

(5) 槍兵、魔術師、剣士
(1) 剣士、剣士、魔術師
(0) 魔術師、槍兵、槍兵


「ん……」

 

目が覚める。アメリカから帰ってきて3日。私はお兄ちゃんの部屋にいた。

 

「起きたか。そろそろ終わるぞ。」

 

「アレ、凄く手間かかるのね…」

 

「上手にできてない…これじゃお店に出せるようなものじゃ……」

 

お兄ちゃん、ナーちゃん、ジャルタさんがキッチンの方から出てくる。あの様子だと……

 

「うまくいかなかったんだ?」

 

「えぇ…ごめんなさい、手間がかかるのと難しいのが重なって現状だとどうにもならなかったわ……」

 

「私もです。…練習あるのみ、なのでしょうね。」

 

「当然だ。つーかそんな簡単に作られたら本職の職人が泣くだろ。」

 

「お兄ちゃんでも苦手だもんねー…“お菓子の城”。」

 

お菓子の城。名前の通り、お菓子でできたお城。とりあえず経緯としては、ナーちゃん達とお茶会してる時にジャルタさんが来て、“お菓子の城を作りたい”って言ってきたんだよね。それで、ナーちゃんも興味を持って三人一緒にお兄ちゃんの部屋に。で……今に至る。

 

「とりあえずどんな感じになったの?」

 

「…見てもらった方が早いわね。持ってきてくれる?」

 

ナーちゃんがそう言うと、トランプ兵がお菓子の乗ったカートを押してこっちに来た。

 

「……恥ずかしいのだけどね。あたしが一番酷かったわ…」

 

「仕方ないよ、最初だし……これ、お兄ちゃん?」

 

3つあるお菓子の城の中で、一番形がいいものを指して聞く。

 

「おう、よく分かったな」

 

「一応経験者だっていうのと……使ってるお菓子がね。」

 

「分かりやすかったか。」

 

「だってこれ、私達の高校の…お菓子専門特別講師が教えてるレシピと同じでしょ?」

 

「当たりだ。教えてもらってたのか。」

 

「作ってるの見たことあるから。」

 

あの人も元気かなぁ……

 

「それで、ジャルタさんとナーちゃんのだけど…」

 

私がそう言うと、ジャルタさんもナーちゃんも私の方を見つめた。…うぅ、なんかやりづらい。

 

「え、ええっと……とりあえずナーちゃんは普通のケーキから始めよう?いきなりお菓子の城は流石に無茶だよ。普通のケーキなら私も少しは教えられるから一緒に頑張ろう?」

 

「……お願いするわ…」

 

「ジャルタさんは……形はなんとなく出来てるけどちゃんと形になってない感じかな。多分土台が緩いのと……あと単純に変形ケーキへの不馴れ。土台となるケーキに関しては普段ふわふわなケーキを作っている分難しいんじゃないかな。ちょっと硬めで大丈夫。」

 

「…ケーキとはふわふわなものだと思うのですが…」

 

「そうでもないよ。ベイクドチーズケーキとか硬いし。っていうか、あの人のレシピって重いから土台となるケーキは硬めがいいんだよね…」

 

「あの人は相当デコるからなぁ…」

 

「……別の人の話してない?」

 

なんかそう感じたけど…

 

「ま、あの人の技術は俺には越えられる気がしないな。」

 

「…六花さんにそこまで言わせるその方、ぜひお会いしてみたいですね。」

 

「…あっちに帰ったとき、会いに行ってみるか。元気…にはしてるだろうが。」

 

「そうだね、元気にはしてるだろうけど…」

 

と、そんな時放送のスイッチが入った音がした。

 

〈おはようございます。本日、これより召喚の儀式を執り行います。職員の皆様方は管制室へお越しください。繰り返します……〉

 

この声は……美雪さんかな?あの人、一応“怨霊”ではあるのと、以前の黒ファンのイメージもあって恐ろしいイメージある人なんだけど、話してみると普通に優しい人(霊?)なんだよね。アドミスさんが“美雪さんの過去に近いもの”って言ってたからあの側面があるのは事実なんだろうけど……

 

「……どうして……あんな風になっちゃったんだろう。」

 

「リッカさん?」

 

あんなに優しい人が、あそこまで激しい邪気を放つようになるなんて。…光から闇に落ちるのは簡単で、闇から光に戻るのは難しいというけれど。彼女は何故闇に落ちて、どうやって光に戻ったのだろう。

 

「おーい、おいてくぞー。」

 

「…今行くー」

 

今は、いっか。とりあえず、管制室に行こう。

 

 

「…む、来たか。そら、ダ・ヴィンチ」

 

「あ、あぁ…リッカちゃん!朗報だよ!!」

 

「はぇ?」

 

朗報…?

 

「ロンドンから帰ってきた時に素材集めを頼んだのは覚えているだろう?その素材を使う“とあるもの”がついに完成したんだ!」

 

「とあるもの……?」

 

「いやぁ、ハンター達の世界の技術を再現するのは骨が折れるねぇ……武器防具と同じく彼らのよりその力は低いけれど、きっと特異点攻略の役に立ってくれるだろう!召喚が終わったら見せてあげよう!」

 

それは…楽しみ。

 

「呼符の準備はできているわ。今回もハンターのみんなを触媒とした召喚から終わらせてしまいましょう。」

 

「意外と僕たちも楽しみだからね。僕達が触媒となることで僕達の知り合いが現れるというのは。」

 

「まああまり巻き込みたくないのはあるけどねー…」

 

ルーパスちゃん達は凄く強いけど、マシュや私と同じ生身の人間。それと、現状ルーパスちゃん達の世界から私達の世界への一方通行になってるから帰る方法がない。あちら側の知り合いの人たちも心配してると思うから、なんとかして方法を見つけないと……

 

「さて。此度はどちらから触媒となる?」

 

「僕が先にやろう。あの宝具は使ったあとどうなるかが分からない。もしも予想通りなら……」

 

そこまで言ってから首を横に振った。

 

「……いや、なんでもない。予測だけしか立てられないならその予測で惑わすのはよくないだろう。」

 

ルーパスちゃんの……正確には屍套龍の指輪の方を見てたけど、視線を外して召喚サークルの前に立った。そのリューネちゃんの指に───サークルの光に照らされてキラリと光る指輪。

 

「…あ」

 

“天廻龍の指輪”。…だと思う。遠目からじゃよく分からないけれど。昨日、リューネちゃんがミラちゃんに何か頼んでたの見かけたから…多分。

 

「サークル展開───アカシックレコードへの接続、クリア。異世界への接続、クリア。守護英霊召喚システム・フェイト、及び異世界間管制システム・セプテントリオン、異世界間召喚システム・アルコルの正常起動を確認。」

 

セプテントリオン(北斗七星)アルコル(死兆星)───そんな名前だったんだ、異世界から誰かを喚ぶためのシステムって。……死兆星で喚んでよかったの?

 

「霊基検索開始───該当霊基確認。クラス・アーチャー。」

 

「アーチャー……」

 

「心当たりはあるか?」

 

「ない……わけでもないが、ヒノエ殿は既にいるし、あとは王国側だけだが…」

 

そんな話をしている間に、召喚が完了する。

 

……む?ここはどこだ?

 

「……………なんで」

 

ご老人……?

 

…なんで貴方が……何をしてたら巻き込まれるのか……

 

む……そこにいるのは…琉音か。

 

リューネちゃんを琉音って呼ぶということは……

 

「リューネちゃん。もしかしてあの人…カムラの里の?」

 

「…その予想で合ってるよ。偶然大社跡にでも出てたんですか?…“ハモン”さん

 

ハモン───それが、この人の名前。

 

お前のその予想通りだな。少々鉄鉱石が足りなくなったものでな。大社跡に採りに行っていたところに背後から、というところか。

 

「ん~?なんか懐かしい気配する~。」

 

そんな時に、ルーナさんがひょっこり管制室に顔を出した。

 

あれ?ハモンさん?

 

おぉ、瑠奈か。久しいな。

 

元気してました?

 

それなりにはな。…それで

 

ハモンさんがルーパスちゃんの方を見た。

 

───ふむ。目元など、瑠奈によく似ておる。そなたが、“流歌(るか)”か。

 

流歌…?

 

……?私?

 

……違ったか?おい、瑠奈。この娘はお前の娘だろう?

 

そうだけど……あっ!?ごめん、ルーパス!私あなたのもう一つの名前教えるの忘れてた!!

 

「「えー……」」

 

ルーナさん……

 

「ルーパスのもう一つの名前…舞華姓の方なんだけどね。“舞華(まいか) 流歌(るか)”っていうの。」

 

「流歌……それが、私の…」

 

瑠奈よ。お前が…いや、お前達姉妹が忘れっぽいのは昔からだが、娘に対してまでそれを発揮するな。

 

ごめんなさい~…

 

……そのような調子で、よもや金色の雌火竜のことをも忘れたわけではあるまいな?

 

っ…

 

ハモンさんの言葉に、ルーナさんが詰まった。

 

……ルルナのことは忘れてないよ。子供の頃からの相棒を、私がこの手で殺した親友を…忘れるわけ、ない。

 

……そのようだな。すまなかった。

 

「お母さん…大丈夫?」

 

ルーパスちゃんが不安そうにルーナさんを見ていた。

 

「…ん、大丈夫。ありがとうね、心配してくれて。」

 

言葉は分からぬが…よい娘を持った、か。…それでも心の傷は癒えぬ。そのようなものか、心の傷というものは。

 

とりあえず、ハモンさんは私が連れてくね~。

 

あ、お願いします…

 

ハモンさんはルーナさんに連れられて管制室を出て行った。

 

「さて、次か……ルーパス、先にやってみるかい?」

 

「私?」

 

「とりあえず、どうなるか分からないが…まぁ、白き追い風に吹かれるままに。」

 

「なんか意味が違うような気がするけどなぁ…ま、いっか。」

 

そう言ってルーパスちゃんがサークルの前に立った。

 

「触媒変更。召喚システム再起動。霊基検索開始───該当霊基確認。クラス・キャスター。」

 

「キャスターかぁ…」

 

「ということは狩猟笛使いのハンターさんですかね、相棒。」

 

「かな?でも、狩猟笛使いの知り合いなんて───」

 

言い終わる寸前で、その人が顕現した。

 

「…あれ、ここ……」

 

……“ソフィ”?

 

「あれ、ルーパスさん…?他の人は見たことありませんし…大体、ここってアステラでもセリエナでもないような…」

 

た、確かにここはセリエナじゃないしアステラでもない───

 

「る、ルーパスちゃん!言葉!!」

 

「リッカ?」

 

ルーパスちゃんもしかして気がついてない…!?

 

()()()()使()()()()()()()()!!()()()()()()()!!」

 

「っ!?ソフィ、私の言葉分かる!?」

 

「へっ!?は、はい…」

 

「…!ほ、ほんとに日本語だ…」

 

これって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?

 

「…ルーパス。確認だが…もしや、彼女は。」

 

「…()()()()()()()()。」

 

異世界のハンター───確か、ルーパスちゃん達の世界に干渉してくるハンター達の事。ルーパスちゃん達みたいにその世界で産まれ、その世界で育ち、その世界で死に至るわけではなく。突然現れて、突然消えていくハンター達。

 

「あ、あの…?」

 

「…ソフィ、後でゆっくり事情は話すから…嬢、とりあえず私の部屋に連れていってあげてくれる?」

 

「分かりました、相棒。ソフィさん、どうぞこちらへ。」

 

「あ、はい……」

 

そうして管制室を出て言った後、ルーパスちゃんが頭を押さえた。

 

「…私達やミラ達の世界からだけじゃなくて、ソフィ達の世界からも…頭が痛くなる…」

 

「…守るべきものが増えたな、ルーパス。」

 

「当然。私達の世界の人間ならともかく、ソフィ達異世界の人間は基本的に無力だって聞いたことがある。…絶対に、異世界のハンター達には被害を出さないようにしなきゃ。」

 

……別世界の人、かぁ…

 

「……アルコルが悪さしたか?いやでもな…コードが通常召喚なんだよな…」

 

「じゃあ、(るな)さん達のシステムが原因じゃないんだ?」

 

「まぁ…多分な。」

 

よく分からないなぁ…

 

「んー……」

 

「……ルーパス、次を召喚するなら……」

 

「?」

 

「……気をつけてくれ、本当に。」

 

………リューネちゃんが何か気にしてる…?

 

「よく分からないけど……気を付ける?」

 

「召喚システム再起動。霊基検索開始───該当霊基確認。クラス……照合中」

 

照合中……?

 

「エクストラクラスか?」

 

「照合完了、クラス・キャスター顕現します」

 

「…違うか。いや、でも基本クラスで時間かかるか…?」

 

お兄ちゃんがそう呟いたところで、白い服を着た銀色のの髪の女の子……女の子?がサークル上に出現した。

 

「……?」

 

「……ルーパス、君の知り合いか?」

 

「いや、知らない人……」

 

その女の子?はまばたきをしながら、自分の手を見つめたり周りをキョロキョロと見渡したりしていた。

 

「眠いのかな?」

 

「あとなんでここにいるのか分かってないんだろうな」

 

そして、女の子?はルーパスちゃんに目線を合わせて口を小さく開いた。

 

「ぁ………ぁ……」

 

「……?私?」

 

「……」

 

「わっ…!」

 

不意に、女の子?がルーパスちゃんに抱きついた。

 

「…え、えっと……!?何事……!?なんでこの女の子私に…!?」

 

ルーパスちゃんも理解できてなくて困惑してる。っていうか…

 

「ルーパスちゃん、多分その子男の子……」

 

「えっ……」

 

恐らく。女の子じゃなくて男の娘だ。

 

「そう…なの?」

 

その子がぎこちなく頷く。…確定した。あの子は男の娘だ。

 

「え、えっと……貴方の名前は?」

 

その問いかけに対し、少し悩んで首を横に振った。

 

「え…じゃあ、どうしたら……」

 

「……ルーパスさん、ちょっといい?」

 

「へ?」

 

突然ミラちゃんがルーパスちゃんの手を取り、屍套龍の指輪を見た。

 

「…これ…この子に共鳴してる。…あなた。もしかして、あの時ルーパスさんが絶命させたヴァルハザク……?」

 

「えっ……」

 

「ミラちゃん、どういうこと?」

 

この子があの時のヴァルハザクって…?

 

「……言い伝えがあるの。想玉はもしも想玉の主が近くにいるとき、その主と共鳴する。想玉の主が想玉を産む前を覚えているのなら、共鳴は成る───」

 

「……本当、なの?あなたは……ヴァルハザク、なの?」

 

その問いに───ぎこちなく、しかし確かに頷いた。それに対して、ルーパスちゃんが息を飲む。

 

「なん……で…?」

 

「…転生、したか。」

 

リューネちゃん?

 

「あの時の僕の宝具は、霊を浄化すると共に転生の準備に入らさせるものだ。ヴァルハザクも対象だから、おかしくはない…が、龍から人に転生するとは。」

 

「……軽く調べてみたけど完全な人間じゃない。1割…もしくはそれ以下の範囲で龍の部分が残ってるみたい。多分瘴気放出とか龍翼展開とかは出来るんじゃないかな。」

 

「……待って、リューネ、ミラ。私理解追い付いてない」

 

ルーパスちゃんが頭を押さえてそう言う。

 

「…とりあえず、この子はあのヴァルハザクで間違いないの?」

 

「あの時の屍套龍の魂が検出されてるから間違いないよ。魂まで調べるのは普通に面倒なんだけど…」

 

「そっか。それだけ分かれば十分、かな。…指輪(これ)、返した方がいいのかな?」

 

ルーパスちゃんの言葉にその子───ヴァルハザクの転生体が首を横に振る。

 

「私が持ってていいの?」

 

それに対して頷き。口を開くけど、少し躊躇うような表情。

 

「ぁ……ぁ……」

 

「……?」

 

「……声帯が適応してないのかな。急に人間になったわけだから、屍套龍だったときと今で声を出す感覚に戸惑ってるんだと思う。」

 

「そういうこと…?」

 

少し悩んでから頷く。それを見ながら、ミラちゃんが思い出したように口を開いた。

 

「あなた、確か名前ないのよね?」

 

それに対して頷くその子。それを見て、今度はルーパスちゃんの方を見た。

 

「ルーパスさん、名前付けてあげれば?」

 

「私が!?」

 

「この子は想玉を生成する程に貴女の事を想ってた。新たな生として人間となった以上、人間としての名前が必要でしょ?」

 

「関係なくない…?」

 

「あら、好きな人から名前を貰えるのはすごく嬉しいことよ?」

 

ナーちゃんが言うと説得力が……

 

「うー……わかったよー……どのみち名前ないと不便だもんね……ええっと……」

 

それを言うならアルもまだ無銘だから名前ないようなものだけど……

 

「………“ハク”。“(まとい) (はく)”。…どう?」

 

その問いかけに、彼は嬉しそうに笑った。

 

「とりあえずルーパスさんは彼が人間の言葉に慣れるまで付き合ってあげれば?」

 

「…ん、そうする。行こっか、ハク。」

 

そう言って2人は管制室を出ていった。

 

「……リッカさん。もしかしたら、あのふたり……」

 

「…どうだろうね。」

 

ナーちゃんの言いたいことはなんとなく分かったけど、どうなるかは分からない。だから、明言はしなかった。

 

「ルーパスさん行っちゃったし、リューネさんでいいんじゃない?」

 

「そうするとしようか。…やれやれ。恨まれても文句は言えないとは思うんだがね…ルーパスからは特になし、か。」

 

そういえばリューネちゃんの宝具であのヴァルハザクはあの姿になったわけなんだよね。…どれだけ強力なんだろう。

 

「触媒変更。システム再起動。霊基検索開始───該当霊基確認。クラス……照合中」

 

あ、今更だけど今回システム状況読み上げしてるのはフォータさん。以前から感情表現薄めだった気がするけど、事務的になるとホントに感情が希薄な印象。

 

「クラス・アルターエゴ。顕現します」

 

そう言って顕現したのは───金色の髪の美少女。服は紫色のワンピース。

 

「……」

 

「…ふむ。見覚えがないが………もしや」

 

ぁ……!リューネだ…!

 

「…っ!?言葉が、話せるのか…!?ミラ殿……!」

 

「ん、間違いない。天廻龍だよ、その子。」

 

「じゃあ……君は、ミツ…なのか。

 

ミツ……?

 

うん!また一緒にいられるようになってわたし、嬉しい!ありがとう、リューネ!

 

……何も、してない。私は、何も……ミツが、ここに来れる可能性だって、低かった。

 

でも、きっかけをくれたのは紛れもない事実!ありがとう!これからまた、仲良くしてね!あの時みたいに!もちろん、ルーパスもだよ!…今はここにいないっぽいけど。

 

……よく分からないけど。とりあえず、リューネちゃん達にとって大切な子みたい。

 

…うん。できたらいいね。…ところでミツ、あなたは人間としての名前ってあるの?

 

名前?ない…かな?…名前、くれるの?

 

…うん。あなたに名前をあげる。でも、私で…いいのかな?

 

うん!付けて付けてー!

 

無邪気な子供…みたいな印象受けるけど。違うんだよね、多分。

 

じゃあ……“ミツキ”。“華舞(はなまい) 美月(みつき)”。…どう、かな?

 

みつき……かわいい名前!いいの!?

 

うん、ミツが可愛いのは私とルーパスが保証する。

 

……オスと比べて地味なのに?

 

『…ミラちゃん、どういうこと?』

 

『タマミツネ種の雄個体は派手な姿してるけど雌個体は派手じゃない…って言えば分かる?』

 

あぁ……なるほど

 

可愛いのは間違いないし。…これからもよろしくね、ミツ…じゃなくて、ミツキ。

 

こちらこそ!不束者ですが、よろしくお願いします!

 

待って、どこで知ったのそれ…

 

え?人間達が言ってたのを聞いて覚えたんだよー。確か番になるときに使うんだっけ?

 

知っててなんで…

 

だって、私リューネとルーパスのこと大好きだもん!前までだったら無理だったけど、人間の今なら!

 

ごめん、女の子同士だしそれは無理だと思う……無理、だよね……?

 

最後は私に聞いてたけど……んと……本来なら、無理なんだけど。

 

………どう、なんだろう?お兄ちゃん。

 

そう、お兄ちゃんの存在。具体的には、お兄ちゃんが開発中の“性転換魔術”の存在。

 

俺かよ……あー……いけるんじゃないかね。多分。

 

そのお兄ちゃんの言葉に彼女───ミツキさんはパァッと花開くような笑顔を見せ、リューネちゃんはガックリと肩を落とした。

 

やったー!

 

同性同士というのも通用しないのかな、この世界は……

 

多様性……なんだろうなぁ…ひとまず、ハンター達の召喚はこれで終わりにすることになった。

 

夜にリューネの部屋いくからねー!

 

……堂々と夜這い宣言みたいなのされてリューネちゃんは頭を抱えてたけど。




古き者に捧げる焔の鎮魂歌(エンシェント・フランマレクイエム)
浄化・転生宝具

リューネ・メリスの死した者に対して送る歌が宝具へと昇華したもの。その歌と音色、燃える炎と立ち昇る煙は彷徨う魂の道標となり、輪廻転生の輪へと誘う。浄化と共に転生までに本来かかる期間を飛ばして強制的に転生させるため、即座に新たな生を受ける可能性が高い。また、即座に生を受けなかったとしても本来の転生よりも速く生を受ける。さらに、この宝具によって転生した魂は“前世の記憶”として何かを覚えている可能性が非常に高い。難点として、魂と骸が分離していないと浄化できないのと浄化までに時間がかかる。たとえ不死者であろうと、魂と骸が分離してさえいれば、彼女自身が分離した魂を認識できてさえいれば強制的に浄化───即ち、殺すことが可能。


裁「……(るな)さん」

(るな)「どうしました?」

裁「先日……香月さんが“稼働”と言ってたのですが……どういう、ことですか?」

(るな)「……あぁ……なるほど。“稼働期間”のことですか…」

裁「稼働…期間?」

(るな)()()()()()()()()()()。それが稼働期間です。私は大体5年ほどですかね。」

裁「現実時間換算で…………え、待ってください!っていうことは(るな)さんって香月さんより年下なんですか!?」

(るな)「はい、私はあの子よりも年下ですよ。創作世界歴史上では私が先に産まれたことになっていますが、現実世界歴史上で見るとあの子の方が先に産まれています。そして───歴史改変が行われているのも、あの子は知っています。」

裁「……」

(るな)「知っていてなお、あの子は……いいえ、()()()()はそれを受け入れた。“創詠”という家系が創られる前から、彼女達は存在しているのです。……そう、創作世界上の歴史などあてになりません。創作世界上の家系図において、お母さんから直接伸びる私達(星の娘)あの子達(始まりの世代)が語る“昔話”こそ、真の歴史。」

裁「歪んで……いるんですね。」

(るな)「えぇ……お母さんが創り上げるこの世界達は歪んでいます。ずっと前、私が創られた頃よりも前から。お母さん自身も、それは承知の上です。…世界が歪み続けた果て、何があるかは私達はおろかお母さんすら知らないそうです。」

裁「でも…この世界に歪みなんて……」

(るな)「世界自体の歪みを全てお母さんが引き受けているとしたら。…世界の歪みは、誰にも感じられないでしょう。」


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第298話 奇跡の結果

殺「ふむ………」

「そーっ……」

殺「そこのオッサン、首を出せ。」

「くそっ、バレてやがる!!」


「さて、次々回すとするか。」

 

少し休憩を挟んでから、召喚を再開する。ルーパスちゃんとリューネちゃんはいない。さっき召喚した4人の相手してるから。

 

「呼符を置いて開始だな。さて、今回は何が出ることやら。」

 

「ガチャってワクワクするよねぇ。何が出るか分からないし、欲しいものが出たときは嬉しいし。…まぁ、ほどほどにしないとなんだけどね。」

 

「ガチャに注ぎすぎて破滅したらどうにもならないからねー。」

 

「うっ……気を付けるよ…」

 

別にドクターに言ったわけじゃないんだけどね…

 

「呼符確認。特定触媒召喚から汎用触媒召喚に変更───霊基検索開始。アカシックレコード、英霊の座を優先参照。」

 

預言書の奇跡……ちゃんと、機能してくれてるよね…?

 

「クラス・アーチャー、顕現します」

 

その読み上げと共に顕現したのは───女性。

 

「サーヴァント、ラーマの妻でございます。わたくしのような者がお役に立てるかどうかは、分かりませんが………精一杯、頑張りますね。」

 

そこまで言ってから迷うような表情をして。

 

「それで……その。わたくしがここにいるということは、本来ならば我が夫ラーマは……ということなのですが。……信じて、いいのでしょうか。」

 

迷いと、不安と、期待が入り雑じったような表情で、私に聞いてきた。

 

「……ごめんなさい、私もまだ分からないの。…預言書の奇跡、使ったの初めてだから。でも……」

 

言いながらシータさんとラーマさんのページを開く。

 

「…あなた達のメンタルマップに、“離別”のコードはもうない。解呪できてる…と思うんだけど。」

 

「……信じましょう。たとえ少しでも可能性があるのなら、わたくしはそれを信じます。」

 

「…ありがとう」

 

とはいえ……本当に出るかどうかが分からないのは辛い。…あ、でも……

 

「……詠唱召喚、か…」

 

詠唱召喚。本来のサーヴァント召喚と同じような方式。あれなら、ある程度は指定できる…と思う。ただ……欠点としては、マスターとして登録されるのが詠唱者になってしまうこと。つまり…ギルのマスターは私だし、エスナさんのマスターはミラちゃん。何が言いたいかというと、“マスターの令呪によって縛られる”ことが一番の欠点。以前、“人理修復後もカルデアに残る”っていう契約を交わしたギルだけど、あれはただの形式上のもので結局のところ最終的な決定権は私にあるまま。別に私はみんなの意思に任せるからいいんだけどさ……違和感は残るよね。

 

「うーん………」

 

「リッカ?大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だけど……………あ、そっか」

 

マリーが話しかけてきたところで思い当たる。そういえばマリーは、聖杯を使って呼符にキーワードを刻んで召喚することで望みのサーヴァントを召喚してた。“言霊”を以て召喚対象を指定できるのなら……

 

「マリー、この呼符ちょっと弄ってもいい?」

 

「え?いいけれど…」

 

「ありがと。」

 

聖杯とは願望器。それに似たものが、私の手元にある。…試してみる価値は、あるはず。

 

「……創造開始(クリエイト・アクト)改変機構(モディフィケーション・ステージ)情報書換(コード・リライト)……」

 

まだ不馴れだけど、”創造“の権能を使って呼符の構造深部に干渉する。負荷がかかって頭痛はするけど、ラーマさんの時ほどじゃない。荒療治になったけどある程度預言書の力に慣れたのかな?

 

「言霊設定───“剣士”、“ヴィシュヌの転生体”、“男性”、“ブラフマーストラ”……こんな感じかな」

 

ここまでやれば流石に来てくれるでしょ…

 

「呼符確認。召喚シークエンス実行……霊基検索………該当。クラス・セイバー、顕現します」

 

「来なくても言霊追加するだけだからいいんだけど…」

 

「時々リッカって徹底的にやるよな…決まって自分のためにじゃなくて誰かのためによ。」

 

「相手の本当の望みなのなら、私は徹底的にやるよ?私の力が及ぶ範囲で、だけど。」

 

「リッカはたまに“本当の望み”を見抜くからなぁ…」

 

表情に表れてなくても声音や口調で分かるし……あ。

 

「サーヴァント、セイバー。偉大なるコサラの王、“ラーマ”だ。大丈夫だ、余に全て任せるがいい!それより───」

 

召喚されて名乗ったあと、ラーマさんはシータさんを見つけて笑顔になった。

 

「あぁ、シータ…!本当に……!」

 

「ラーマ様…!」

 

「いちゃつくなら部屋でやることだな、ラーマ、シータ。ちなみにこれが鍵だ。」

 

ギルの冷静な言葉に顔を赤くする二人。

 

「そ、そうさせてもらおう……ところで、リッカよ!」

 

「はぇ?」

 

「僕とシータを再び巡り会えるようにしてくれてありがとう!」

 

「わたくしからも、感謝します。ラーマ様とこのように出会えること。呪いがあるかぎり、不可能でした。」

 

「…そんな、お礼なんていいよ。愛し合う2人が会えないことほど……」

 

悲しいことってそうそうない。…そう言おうとしたとき、胸の奥がズキリと痛んだ。

 

「……?」

 

「…リッカ様?」

 

「……ううん、なんでもない。ともかく、会えないことほど悲しいことってそうそうないから。呪いで会えなかったぶん、思う存分いちゃついておくといいよ。…別の世界はともかく、この世界だと呪いは解けたままだろうからもしも座に帰ったとしてもまた会えると思うけど。」

 

「お、おぉ…!重ね重ねありがとう!…さて、部屋に行くとするか!」

 

そう言って鍵を受け取って、管制室から去っていった。

 

「……」

 

「リッカ?」

 

「……お兄ちゃん。あと、ナーちゃんもちょっと聞いてくれる?ちょっと前…ミラちゃんが来た頃からかな。さっきみたいな、“愛し合う者達が会えない”っていうことを聞くと胸の奥が痛むんだけど…なんでだろう。」

 

「………何か…心当たりは、あるのかしら?」

 

ナーちゃんの問いに首を横に振る。

 

「……胸の奥が痛い、モヤモヤする…みたいなのは、少女漫画とかでよくある表現だけどよ……なんだかなぁ。」

 

よく…分からない。

 

「…ひとまずおいておいて、召喚の続きやろう。」

 

「おう。…ロマン、あとで精密検査の準備しといてくれ。」

 

「胸の痛みの原因を調べるんだね?」

 

「心臓関連で何か起こってたらマジでヤバイからな。」

 

「それこそ人理修復以前の問題になりそうね……」

 

間違いはないから私に反対する意味はないかな…

 

「システム再起動。呼符確認。サークルの展開───霊基検索開始。」

 

「香月さん達来たりしないかなぁ…」

 

「あやつらに関しては“ない”と(るな)が断言していたぞ?」

 

「そうなの?」

 

「うむ。何故なのかは知らんがな。」

 

「大方、存在するだけで世界を壊しかねないからじゃねぇの?」

 

……あー。あり得そう。

 

「そんな馬鹿な、と言えないのがあやつらよな。」

 

「……にしても、遅いな。フォータ?」

 

検索に時間かかってる…?

 

「───霊基パターン照合、不能。未知の霊基パターンを検出。」

 

未知の霊基パターン…?

 

「サーヴァント・アンノウン、顕現します」

 

そうして、現れたのは───

 

「……あ?ここは…」

 

「…?あっ、リッカ!どこよここ!!」

 

狂王と……メイヴ?

 

「二重召喚…とな?いや、クラス違いか…マスター、コードスキャンしてみよ。」

 

言われるがままにコードスキャンして───詳細を開く。クラスはここだったはず…

 

「リッカ、なんてある?」

 

「メインクラスは………ええと、“ラバーズ”?」

 

「「「「ラバーズ(恋人)??」」」」

 

Lovers。“恋人”のクラス、って書いてある。本来単体では具現化せず、別のクラスに置き換えられて顕現するためこのクラスが顕現することは非常に稀…だって。

 

「…また、特徴としてどちらか片方が消滅してももう片方は消滅せず、強い悲しみと強い怒りによって本来のステータスよりも強力なサーヴァントと化す…だって。」

 

「扱いが難しそうだな、おい。……どうすんだ、これ…一応空間仕切りあるし同室で問題ないけどよ…」

 

一応各マイルームの鍵って7本くらい(うち1本原型キー)あるらしいんだけど、それ以外の鍵とかの管理が結構面倒らしい。あと…多分。

 

「ヒノエさんとミノトさんは同性同士だもんね。」

 

「そうなんだよなぁ…異性同士を完全同室にしてもいいものか。」

 

全マイルームの管理人だったりするからね、お兄ちゃん…やっぱりそこ悩むんだろうね。

 

「……とりあえず、あとで要望は聞いてやる。クー・フーリンはこっち、女王メイヴはこっちの鍵を使え。」

 

「お、おう…」

 

「……ま、いいわ。今はとりあえず素直に従ってあげる。リッカ、あとで一戦頼むわよ。」

 

「あ、うん…」

 

一戦、って言われても何する気なんだろうね…

 

「さ…次を回すか。」

 

「ん……お願いします」

 

「呼符確認。召喚陣展開開始───報告。強力な霊基反応。」

 

その言葉と共にサークルが虹色に輝く。

 

「む、これは……確定演出、とやらか?」

 

「ガチャだったらそうだと思うけど……」

 

「サーヴァント・ランサー。顕現します。」

 

その読み上げと共に、召喚が完了する───

 

「サーヴァント・ランサー、“エルキドゥ”。キミの呼び声で起動した。どうか自在に、無慈悲に使って欲しい───けれど。キミは、それを好かないかな?」

 

萌黄色の長髪、白を基調としたセーラーワンピース。目の色は緑で、緩やかな笑みを浮かべるその人。直感する───この人は、本来ならば男性でも女性でもない。

 

「………」

 

「───ほら、会えただろう?少しだけ時間がかかってしまったけど、本来よりも早く出会えたはずさ。」

 

「ふん、期待はしていなかったがな。」

 

エルキドゥ───というか、多分“エンキドゥ”。確か……神話上において、ギルガメシュの唯一の友とされる存在。シュメールの天空神アヌは、創造を司る女神アルルにギルガメシュを諌めるため彼と同等の力を持つ者を作るよう命じる。アルルは粘土をこねて山男を作り、知恵の神エンキよりエンキドゥという名を与えると、続いて軍神のニヌルタが強い力を授け、エンキドゥを静寂の中に置いた───つまり、エルキドゥさんは“人間”じゃなくて“人形”だ。

 

「…それよりも、だ。」

 

「うん?」

 

「その姿はなんだ?」

 

ギルがエルキドゥさんにそう問う。私は実際のエルキドゥさんを知らないからなんとも言えないけど、今ここにいるエルキドゥさんはなんというか…女子校生?みたいな感じ。

 

「これかい?キミが好きかと思って。」

 

「……」

 

あ、小さくため息をついた。

 

「…嫌だったかい?」

 

「…まぁ、よい。貴様は貴様がなりたい姿でいるがよい。我が気に入るか、などと気にするな。我は貴様が貴様であればいい。」

 

「……うん、ありがとう。じゃあ、鍵はもらっていくよ?」

 

「いつの間に持ってった……?」

 

あ、確かにお兄ちゃんの手元から鍵がなくなってる。

 

「またあとでね、ギル。」

 

そう言ってエルキドゥさんは管制室を去っていった。

 

「……さてと、一度休憩とするか。マスター達も少し息抜きしてくるがいい。」

 

「あ、うん…」

 

とりあえず一旦解散。さてと、何しようかな……ダ・ヴィンチさんの話聞くのは時間かかるだろうし。




裁「痛み…か」

リカさん?

裁「……ちょっと寝てきます。」

え?あ、うん…

香月「…さてと、そろそろ私もあの子達のところに戻ろうかな…」

あ、待って香月。

香月「んー?」

(るな)が言ってたこと、本当に頼んでいいの?

香月「問題ないよー。長い年月を生きてるからか、色々な方面への繋がりは広いからね、私。」

……ありがとうね、ホントに。

香月「気にしない気にしない。」


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第299話 摩訶不思議

裁「眠……」

大丈夫?

裁「私は大丈夫……」


「さてと…少しの間休憩なんだっけ。…ん~。ダ・ヴィンチさん、例の話お願いしても…?」

 

「その言葉を待っていたよ、リッカちゃん!!」

 

私が声をかけるとダ・ヴィンチさんが看板を背負い、壷を持って飛び出てきた。…うん、だから───

 

「More Deban看板…」

 

「おっと。」

 

ていうか、いつも微妙にデザイン変わってるんだよね…もしかして。

 

「…その看板、毎回作り直してるの…?」

 

Exactly(イグザクトリー)!その通りさ!」

 

…ルナセリアさん以来だなぁ、それ聞いたの…

 

「いやぁ、君達の状態のモニターとかはちゃんとしてるんだけどさ。何せ六花がほとんどやるもんだから暇なんだ。だから、毎度出る度に所々変えて楽しませようと思ってたのさ。出番が少ないのは事実だし。」

 

お兄ちゃん……

 

「ま、それはさておきだ。…例のものはコレさ。この壷。」

 

「壷……」

 

………なんで“吸魂水”入れてた壷と同じデザインなんだろ?ていうかそんなのどこから……

 

「物を入れておけば摩訶不思議。いつの間にやら別のものに変化する。彼らが用いる錬金術───“マカ錬金”。いやぁ、かなり劣化してるけど再現自体はできたよ、っと。」

 

マカ錬金……

 

「ただ、大本の錬金術の神秘が強すぎるのか、今回のは劣化しすぎててさ?護石や装飾品を錬金できるレベルにまでは至らなかった。実際ルーナも“これはマカ錬金とは違う”と言っていたし、“マカ麹”っていうのを使ってないからもうマカ錬金じゃなくてただの劣化錬金術なのさ。まぁ、それでも少しは助けになると思うけどさ……」

 

「マカ麹っていうのは使えないの?」

 

「そもそもマカ麹自体がない。竜人であるヒノエ・ミノト姉妹も製法を知らなかったし手詰まりかなぁ…」

 

「ジュリィさんとかミラちゃんとか知らないかな?」

 

「ジュリィとミラかぁ………あの二人なら知ってるかもしれないな。」

 

二人とも結構物知りだし…知ってそう。

 

「ともかく、“マカ錬金”にはならないとしても錬金術なのには変わりない。この壺はあげるから特異点攻略の時にでも使ってみてくれたまえ!」

 

「魔力なしとかでも使えるの?」

 

「マカ麹がない代わりに壷自体に魔術がかけてあるからね。モンスターの鱗とか、内臓器官とか、それから魔力を込めた宝石とか入れておけばしばらくすれば錬金されてるさ。大体……30分くらいかな?」

 

あれ、結構かかる?

 

「ハンターたちの世界には“マカ漬けの壷”って言うのがあったらしいんだけどさ。あっちと違って錬金までに時間がかかるんだよねぇ、今は…」

 

「マカ漬け…かぁ。………う~ん、私の“創造”で作れないかなってちょっと思ったけど。サンプルとなる(情報)がないから正確には作れないかな……あっ。」

 

そういえば…

 

「ダ・ヴィンチさん。マカ麴ってルーパスちゃんとか持ってたりしないかな?」

 

「えぇ…?…どうだろう?」

 

「“狩猟スタイル”っていうのがあって、その中にいろいろなものを錬金しながら戦う“レンキンスタイル”っていうのがある……って、以前ルーパスちゃんから聞いたことがあるの。その錬金とマカ錬金のって同じ仕様なんじゃないかな…?」

 

「…………ふーむ。」

 

どうなんだろう…?

 

「…なるほど、ルーパス達に聞くのを忘れてたね。…これは一回全員に話を聞くべきかな?」

 

多分その方がいいと思うなぁ…とか思ってたら管制室の扉を叩く音。

 

「失礼します…リッカさん、まだいますか?」

 

「あれ?ジュリィさん。」

 

さっきソフィさん連れていったと思ってたんだけど…

 

「ソフィさんが“情報整理したい”とのことで、少し席を外させていただきました。…それと」

 

?ジュリィさんがアイテムボックスを開いて……二振りの太刀を出した?

 

「これ、リッカさんと七海さんに。新たな武器として。」

 

「はぇ?」

「え?」

 

私と…ナーちゃんに…?

 

「あたしも…なの?」

 

「えぇ、アメリカの特異点にいた時から時間をかけて構想を練り、情報を集め、設計したものです。お二人専用に。」

 

「私達専用…」

 

漆黒の太刀と、純白の太刀。…どちらがどちらの、とは言わなかった。

 

「……これは、あたし達で選ぶの?」

 

「あ、はい。」

 

「……リッカさん。先に、どうぞ?」

 

「…私は……」

 

白と…黒、か…

 

「……」

 

無意識に、純白の太刀に手が伸びた。それを、ナーちゃんもジュリィさんも何も言わない。

 

「…リッカさんはそちらね。なら、あたしはこっち。」

 

「え…?」

 

「ですね。…予想通りの結果ですが。」

 

え、ちょっと待って予想通りって…?

 

「予想通り?どういうことだい?」

 

「リッカさんが白、七海さんが黒を選ぶのは予想してました。…なんとなく、ですけどね。」

 

「えぇぇ…?」

 

予想…できるものなの?

 

「とりあえずその武器たちの情報を教えておきますね。リッカさんのその白い太刀は銘を“闇裂キ導ノ星光”。鋭利は170、属性は龍属性27…精密10の最大痛撃色白です。」

 

はい!?

 

「属性値高くない!?ていうか龍属性!?」

 

「え、これでも未完成ですよ。素材足りなくて最終強化できなかったので。」

 

えぇ…?

 

「次に七海さんの黒い太刀ですが、銘を“光呑ム癒ノ夜闇”といいます。こちらが鋭利が210、属性は龍属性23…精密が10の最大痛撃色白となります。」

 

「物理が高くて属性が低い…対照的なのね、この武器。」

 

“闇を裂く”と“光を呑む”、か…

 

「…なおさら私が黒い方選んだ方がよかった気がしてきた」

 

「そうでもないと思うけれど?」

 

「そうかな…?だって…」

 

…私は闇そのもの。“人類悪”であるわけだし。

 

「リッカさんが人類悪と呼ばれる存在なのは私も知ってますが……“悪”だからといって、光にいてはいけない理由なんてないと思いますよ?」

 

「え……」

 

「その本質が悪だとして、その悪が世界を救ってはいけませんか?その悪が、どのような理由で世界を救ったとしても。人々はその悪を光だと認識するのではないでしょうか?」

 

……

 

「ロンドンでのモードレッドさんを思い出してください、リッカさん。彼女は“自分以外にブリテンを壊させない”という信念のもと、ロンドンを救う側に立ちました。それはすなわち、世界を救う側へと。…まぁ、彼女の属性は中庸なのですが。それはともかく、かつてブリテンを破壊した彼女は、見方によっては悪と捉えられるのでは?」

 

それは……

 

「リッカさん。自分が悪で、光にであってはいけないと思うのは勝手なのですが……そもそも、正義か悪か…善か悪かを決めるのは貴女自身ではなく後世での第三者です。…この世界に来てからというもの、モンスター達の別の一面を見て私は思い知りました。モンスターは全てが悪ではないのです。後世において悪だとされているのは、その時の記録で悪とされているだけ。…本来なら、モンスター達も悪ではないただその世に生きるだけの存在。それを害したから、縄張りを侵したからこそこちらに牙を剥く。…ただ、それだけです。」

 

小さくため息をついて、例外はいますけど、と呟いてから私をまっすぐと見つめる。

 

「ともかくです。自分を悪だと、世界を壊す闇だというのなら。“自分以外の悪に世界を壊させない”という信念のもと戦ってください。」

 

「自分以外の…悪に。」

 

「そうして、最終的に世界を護ったのならば───きっと人々は、貴女を善だと認識するでしょう。世界を守った、光だと。」

 

そういうもの…なのかな。

 

「…長く話してて疲れてしまいました。そろそろ戻りましょうか…ソフィさんも落ち着いてることでしょう。」

 

「ん…あ、待って!」

 

いきなりすぎて完全に忘れてたけど、そういえば…!

 

「?」

 

「ジュリィさんって“マカ麹”の製法とか知ってたりする…?」

 

「マカ麹……って、確か物を発酵させると別の物に変化させる細菌の一種ですよね?マカ漬けの壷でも使うんですか?…一応、一部だけなら知ってますけど。」

 

知ってた…!?

 

「知っているのかい!?」

 

「少し遠いですがロックラックには時々行ってましたので。」

 

ん~…と?

 

「あぁ…“砂塵の大都市ロックラック”には調合屋というものがありまして。そこに置いてあったんですよ、マカ漬けの壷。昔、興味を持って色々教えていただきました。」

 

「ちょ、ちょっと色々聞かせてくれるかい!?」

 

「え、わぁぁぁ!?」

 

あ、連れ去られていった…




裁「ジュリィさんって情報関連でかなり鍵になるからまず聞くならジュリィさんがいいんだよね…」

あ、そうなの?

裁「ゲーム上で、っていうことじゃないけど。少なくとも私が生前会ってるジュリィさんは本当に色々なことを知ってるから…」

逆にゲーム上でも知ってそうだけどね、あの人の行動力とかからすると…

裁「……否定できない気がするなぁ…」

だよね…

裁「……ていうかあの人普通にすごいからね?」

知ってる。ルーパスさん達みたいにいろいろできるのにメインクラスが“キャスター”で顕現してるのって多分“霊基の核”となったものが“前に立って戦う”じゃなくて“後ろに立って多種多様な補助”だったからだろうから。


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第300話 槍と魔と剣

300話って……嘘ー……

弓「時間かかっておるな。」

ていうか連載始めてから2年経つのよ、そろそろ……観測精度とか悪くなってきてるし……いつの間にかUA59,000越えててビックリと感謝だし…ていうか前回の報告(第283話後書き)からいつの間に6,000も増えたんだか…

弓「……どうした、不安そうな顔をして。」

……いつも思うんだけどさ。私って誰かが望むもの、誰かが好きになってくれるようなものを提供できているのかな……

弓「…?登録者など170近いであろう?」

それは約2年の積み重ねだと思うよー。…いてくれるだけでもありがたいんだけどさ。ただでさえ私の作風は人を選ぶだろうし。

弓「……」

ていうか、元々私に文才なんてないし。私はただ、視たものを文字に書き起こしてるだけ。どこか別の世界で起こった出来事を、文字にしてるだけ。…ただそれだけだし。

弓「校正、とやらだったか。それはしてあるのだろう?」

その割に誤字脱字酷いけどねー。

弓「…むぅ」

変なこだわり持ってたりもするから投稿まで遅いしさ。…ホント、待たせてるなら申し訳ないね…


「自分以外に壊させない、か……」

 

ジュリィさんに言われたことが、妙に頭に残っていた。

 

「……どう思う?レンポ君。」

 

「…的を射てるんじゃねーか?」

 

え?

 

「どんな形にしろ、預言書が現れた以上、預言書の主であるリッカは必ず一度“今存在しているこの世界を完全に砕く”運命にある。その“世界を砕く時”が来るまで、この世界を護るというのなら……」

 

………なるほど。それなら確かに、“自分(預言書)以外に世界を壊させないために護る”というものに結び付く。

 

「…預言書が現れた時点で、この世界の滅びは既に変えられない運命だ。だが、ティアがクレルヴォを倒したときのように延命させることくらいはできるはずだ。」

 

「……延命」

 

「あぁ。着実に、滅びは近づいている。だが…今回の元凶、ゲーティアとかいうやつをぶっ飛ばせば少しくらいは延命できるだろうさ。」

 

なら…とりあえず、最優先目的はゲーティアの討伐だね。

 

「さて、召喚の続きするか……フォータ、行けるか?」

 

「システム問題なし。呼符をお願いします。」

 

頷いてサークル中央に呼符を置く。

 

「呼符確認───完了しました。アカシックレコードとの接続を確認───完了しました。霊基検索開始───」

 

「───失礼します」

 

召喚行程を進んでいるときに、メドゥーサさんが管制室に入ってきた。

 

「ジャンヌ・オルタから皆さんへ差し入れです。ヘラクレスは本格的に教わっていて忙しいようなので私が代わりに。」

 

「あ、そうなんだ……って、プリンだ。」

 

そういえばお兄ちゃんのプリン最近食べてないなぁ…

 

「サーヴァント・ランサー、顕現します」

 

そうして、顕現したのは───

 

「ランサーのクラスで現界しまし………私?」

 

「あなたは……」

 

紫の髪の女性…確か、名前は。

 

「“クリア”さん?…名前違った気がするけど……」

 

「…怪物ではなく、女神としての姿ですか。」

 

メドゥーサさんのその言葉にゆっくりと頷き、口を開く。

 

「ええ…真名、“メドゥーサ”。よろしくお願いします。」

 

あ、クリアさんじゃなくてメドゥーサさんか…第三特異点のあの時、姿は違ったけど結構クリアさんって呼んでたからその名前で記憶してた…

 

「女神、怪物、邪神…三様のメドゥーサが揃った感じだな。もっとも、本来の姿はライダーのメドゥーサだと思うがな……」

 

へぇ……

 

「しかし、ゴルゴーンはともかくランサーのメドゥーサは真名が同じだからな……その辺りは少し考えるべきか……ライダーのメドゥーサ。」

 

「はい?」

 

「せっかくだから案内してやれ。これ鍵な。」

 

そういってお兄ちゃんが投げた鍵を慌てて受け取るライダーのメドゥーサさん。

 

「っとと……危ないですね。…とりあえず、分かりました。行きましょう、女神の私。」

 

「…はい」

 

そう言ってメドゥーサさん達は管制室をあとにした。

 

「次の召喚を頼む、フォータ。」

 

「お願い、フォータさん。」

 

「呼符を確認しました。召喚行程を進行します。」

 

私が呼符を置くと同時にそう告げるフォータさん。たぶん、本来なら常時見る必要はないんじゃないかなって何となく思う。

 

「…にしても、神霊結構増えてねぇか?」

 

「そう…なのかな?」

 

「気のせいかねぇ。」

 

「サーヴァント・キャスター。顕現します」

 

話している間にも召喚は進行してて、そこに人影が見えた。

 

「…おや。まさか召喚されるとは。」

 

「……えっと?」

 

「ふーむ………つかぬことをお聞きしますが、今は西暦の何年でしょう?」

 

金髪の男性に聞かれて今の年を思い出す。

 

「2015年?」

 

「2015年……なるほど」

 

「あの……あなたは?」

 

私が聞くと、少し悩んだ表情をしてから口を開いた。

 

「“マモン”。…とでもお呼びください。」

 

マモン……って、強欲?

 

「さてと…私はこの後どうすればよいでしょうか。」

 

「鍵やるから自分の部屋に行っといてくれ。地図はこれな。」

 

そう言ってお兄ちゃんがマモンさんに鍵と地図を渡した。…この人の真名、“マモン”じゃない気がする。

 

「確かに、受け取りました。それでは、失礼します。」

 

マモンさんはその言葉を最後に管制室を去る。偽装真名だとしても、それは別にいいんじゃないかなって私は思う。

 

「さて……次で最後にするか。」

 

「最後の一回、お願いします。」

 

「…呼符を確認しました。召喚行程を進行します……」

 

…次は誰だろう。あと最近不安があって、特異点攻略開始前に見る夢で、いつか何か恐ろしい夢を見るんじゃないかって…そんなこと思う。今までも十分怖かった気がするけど、それよりも怖い夢を。

 

「…リッカさん?」

 

「…うん?」

 

「険しい顔をしていたわ?…どうかしたの?」

 

「…ううん、なんでもないよ。」

 

落ち着いて告げるけど、ナーちゃんの疑うような視線は変わらなかった。

 

「………」

 

「………」

 

「おーい、何そこで見つめあってんだ。んでリッカ、何か不安でもあるんなら七海に添い寝してもらえ。」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

いきなり爆弾おとしたよこの人!?ナーちゃん顔真っ赤!!

 

「なんでいきなり爆弾落としたの!?」

 

「言っておくが俺はボマーだ。唐突に爆弾落とすくらいどうってことないぞ。」

 

答えになってない…!あとキリトくんの台詞改変してそれにするかな……

 

「サーヴァント・セイバー。顕現します。」

 

そんなこんなで、顕現したのは───

 

「やあ、サーヴァント・セイバー。縁の召喚に応じ参上した。我が名は“フェルグス・マック・ロイ”。さて……クー・フーリンのヤツと……あの盾の娘はいるかな?」

 

…イワーク片手のタケシさんだった。




弓「……マスターよ」

んー?

弓「…いや、やめておこう。本文も、前書きも、後書きも───全て大本の貴様たる“ご本人”と呼ばれる存在の思考の中身だ。我がここで貴様に何を言ったところで変わらぬ。」

……

弓「…自己否定と自己肯定。相反する感情が内在し、調和も拮抗もせず、膨らみ続ける状態。……それは、貴様自身もよく分かっているのだろう?」

気づいてるよ、そんなの。“私”が否定して、“月達()”が肯定する。どう考えても、歪んでる。私は私で自分を癒し、自分を傷つける。…そんな精神構造だって、なんとなく気づいてる。それが恐らく危険なんだろうってことも、なんとなく。

弓「推しで癒せばいいものを…といいたいのだがな。」

私、“推し”っていう概念がよく分かってないからね。“推しを作る”ってことが全くできないんだよー…

弓「…そのような状態で壊れないのか心配になるがな…」

知らない。実際もう壊れてるのかもね。…なんて。そんなわけないか。


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第301話 武器

────

弓「…む?」

(るな)「……うん?どうしました?」

弓「いやなに、どこからか音が…」

(るな)「音……あぁ。なるほど。“Make it!”ってことはお母さんの端末ですねー…っと」

すぅ……

(るな)「って、寝ちゃってるし…お母さーん!起きてー!!」

んぅ……?ぅな…?

(るな)「誰かから電話だよ!」

ぅー……?……ふぁい…

(るな)「ほら、早く出る!」

ぁい……もしもし……

?〈あ、やっと出た!もしもし?聞こえてる?〉

………んー…もしもし…どなたぁ……?

?〈…あー、これスー姉寝惚けてるかな?わたしわたしー!〉

……“わたしわたし詐欺”なら間に合ってまーす……

?〈え、ちょっ!?待って!!?〉

……冗談はともかく、なぁに……香月……

香月〈冗談……いやビックリするからね?普通に。ていうか寝惚け…?〉

3時間前に意識飛んで電話かかってきたっていう(るな)の声で覚醒したばかりだもん……寝惚け状態に決まってるでしょ……香月みたいに超長時間不眠稼働できる身体じゃないんだよ、私は……

香月〈……なんか、ごめん…〉


……来たか

 

召喚が行われた次の日。僕はルーパスと共にハモン殿の部屋を訪れていた。

 

それで、依頼とはなんだ?

 

……これを…直せますか?

 

そう言ってルーパスがハモン殿の前に置いたのは一張の弓。…だがその弓は、握のあたりから綺麗に折れている。

 

これは……一体。実物を見るのは初めてだが“屍弓ヴァルヴェロス”なのは分かる。だが───たとえ奥義を使ったといえど、これほどの損害をワシは見たことがない。

 

………

 

……龍眼覚醒強化…それも最大強化か。よくぞここまで鍛えたものよ。

 

そう呟いた後、ルーパスの顔を見るハモン殿。

 

……“命玉受託モンスター”、か?流歌。

 

…!

 

その反応、真のようだな。…やれやれ、昔から舞華の者達は揃いも揃ってモンスター共から好かれる。そなたらの娘も恐らくはそうだろうな。…まこと、そなたらはハンターではなくライダーになった方が良いのだろうと常々思わせる。

 

舞華の者…ということは、祖母や祖父もそうなのか?

 

うむ、祖父の方だな。ヤツは鎌鼬竜“オサイズチ”に好かれておってな。我らがまだ若かりし頃、次代の里長はヤツであろうと里中の誰もが疑わなかったツワモノであり、指揮者であったのよ。実際はフゲンが里長になったのだがな。

 

そんなことが……

 

して、流歌よ。そなたの屍弓ヴァルヴェロスだが……

 

…どう、でしょう?

 

恐らく、修復可能だろう。

 

……本当、に…?

 

ハモン殿は消え入りそうな声を聞いて小さく頷いた。

 

命玉受託モンスターと人間の関係は未だ謎な部分が多い。だが…ワシが知っていることで1つ、確かなことがある。

 

……?

 

命玉受託モンスターの素材で作られた武器や防具は、異常な不壊性を持つ。それだけではなく、()()()()()()も。いくら被害を負おうとも、いくら破壊されようと───持ち主が生きる限り、その武具が完全に使えなくなることはない。

 

そこで一息置いてから、何かを懐かしむような表情で口を開いた。

 

───ワシはそれを、この目で実際に見た。ヤツが持っていた鎌鼬竜の素材で作られた太刀が折れた際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを。

 

鎌鼬竜派生の太刀というと───“風ノ賊刀”系列か。

 

一見、この弓は修復不可能だ。だが───来るぞ

 

ハモン殿がそう言った途端、弓が途端に輝く。その閃光に目を覆い、閃光が止んだ時には───

 

「「え……」」

 

…やはりな

 

───そこには、新品同様の屍弓ヴァルヴェロスがあった。

 

ヤツの時と、そして瑠奈の時と同じよな。加工屋が修復不可能と告げた途端、武具が輝きだして再生がなされる。武具自体に意思があるかのように───まるで、使い手の傍を離れたくないとでも言うかのようにな。

 

ハモン殿が何かしたわけではない…と。

 

うむ。…どれ、部屋の中に加工設備と共にからくり蛙も用意したのだ。その弓を使ってみるといい、流歌。

 

う、うん…

 

作ったのか、それともコンソールの力で具現化させたのか…

 

……すごい。本当に直ってる……

 

……龍眼覚醒強化を最大にまでしている時点で相当なものだとは思っていたが、まさかここまでとはな。流石は瑠奈の娘よ。現役を退いた身ではあるが、そなたらの活躍を見ていると狩場に立ちたくなるものよ。

 

…そういえば、ハモン殿はアーチャーでの顕現だったか。…まさか、ね?

 

さて、話はこれで終わりだろう。武具の用ならここへ来い。……とは言うものの、流歌の相方がいる時点でワシはそこまで重要ではないだろうが…

 

……なんともいえないな、それは……




それで、用件は?

香月〈あ、えっとね……いくつか連絡が取れない世界があったから、ちょっと確認してもらいたいんだけど……〉

香月達の“インカム”でも連絡取れないの?

香月〈うん…多分、何かいつもとは違う異常が起こってるのかも…〉

…空間どころか世界すらも越えて繋がる香月達のインカムが反応しないのは確かにおかしいね。ちょっと調べてみるけど…その世界って?

香月〈あ、えっと……今確認できてるのは“モンスターハンター”、“星のカービィ”、“魔法少女リリカルなのは”、“原神”、“ニキ”の世界だね。〉

結構戦力になりそうな所取られてるなぁ……しかもそれって“単体”じゃなくて“シリーズ”でしょ?

香月〈うん……〉

…着せ替えゲームのニキシリーズがブロックされてるのちょっと違和感あるけど、とりあえずモンスターハンターシリーズは今回の世界と密接に繋がってるからだろうねー。

香月〈…本当にそれだけなのかな…〉

他の原因もあるかもだけど……っと、出たよ結果。

香月〈どうだった?〉

特異点化してるねー…星のカービィシリーズは以前から特異点化してた気がするけど。…ただ、気になるのはモンスターハンターの世界も特異点化してることかな。

香月〈どうして?〉

特異点……平行世界であってもそれは成立するけど、なんというか……他の平行世界みたいに“何かしら異常がなければ交わらない不干渉”状態じゃなくて、“異常がなくとも比較的交わりやすい過干渉”状態になってるんだよね。それって、平行世界というよりは同一世界みたいに扱われるんだけど……

香月〈…それって、私のいる世界も…〉

え?…あー………いや、香月達の世界は“世界を引き込む”っていう能力を持つ存在がいるからそうなってるわけで本来なら不干渉のはずだよ?故意的に繋がれる…紫さんみたいに境界を弄って繋ぐとかしてるわけで、それがあった結果他の世界と繋がりやすくなってるんだよ。…でも、今観測してるこの世界は違う。()()()()()()()()()みたいな状態なの。

香月〈最初から……〉

ごめんね、説明下手で。要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言いたかったの。()()()()()()()()()()()()()()()

香月〈あ……〉

あるとしてもコラボ武器、コラボ素材だけども……流石にそれが特異点の核となるかは…正直微妙じゃない?

香月〈星のカービィとかは?〉

星のカービィにはアレがいるじゃないの。“銀河の大彗星”。

香月〈……〉

リリカルなのはにはジュエルシードがあるし、原神は聖遺物に“空の杯”っていうのがあるから聖杯混ざっててもおかしくない。ニキシリーズはアクセサリー膨大だから混じってても違和感ないし、魔法関係確かあったはずだし。…魔法っていうか星の海とか方舟の力を使ったものだろうけど…

香月〈……“魔力”、それから“奇跡”に近いものがないのはモンスターハンターの世界だけ……って感じだね。〉

戦闘BGMとか狩猟笛とか色々気になるのは確かにあるんだけどね。


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第302話 マスターのお兄さんはまた何かをやったようです。by.無銘

そういえばさ、香月

香月〈んー?〉

香月達の中で出撃可能なのってどれくらいなの?

香月〈一応私と理紅は出撃可能だよ?ゲート開く役割もあるから私か理紅のどちらかは必ず出撃する予定だけど。〉

あー……

香月〈一応……行きたいって言ってた人達のリスト送るからちょっと見てみてー。16人くらいいたけど…〉

んー……



最弱を名乗る最硬の盾
最強とされる最鋭の剣
真名を残さぬ最強の風
神に愛された神罰の火
真名を隠した守護の水
大神が定める裁定の土
時間を翔ける慈愛の光
空間を統べる原子の闇
崩壊を妨げる調律の針
生命を与える恵雨の筆
常識を変える変異の指
理論を越える変革の歌
理を見定める観測の眼
虚無に仇なす浄化の桜
不確定を生む変化の色
調和を願った厄災の星


……ね、香月。この通り名みたいなのって香月がつけたの?

香月〈違うよ?〉


「失礼しまーす…お兄ちゃーん。来たよー?」

 

私は管制室に来ていた。…お兄ちゃんに呼び出されたからなんだけど。

 

「お、来たか。」

 

「あぁ、いらっしゃいリッカちゃん。」

 

「あ、ドクターもいたんだ。…ドクターもいるってことは何かのテスト?」

 

たまにだけど、新システムのテストとかで手伝ってるからそんな感じがしたんだけども……

 

「ま、そんなところか。早速だが、これをやる。」

 

「…おっ…とと……」

 

投げ渡されたそれを、なんとかキャッチする。それは───

 

「……携帯?」

 

白色のガラパゴス携帯。通称、ガラケー。

 

「型はSHARP産の932SH……これがどうかし…た……」

 

中を見てたら───気づいてしまって、言葉が消えてった。

 

「………はぁ。」

 

「リ、リッカちゃん…?」

 

「…お兄ちゃん」

 

「…気づいたみたいだな」

 

「え…と。気づいてないの僕だけかい?」

 

中を見ないとわからないから仕方ないとは思うけど……

 

「……なんでコレがあるの…」

 

「作った」

 

「…………」

 

「…おいやめろ、冷ややかな眼で見るな」

 

いや、これは見ると思うけど。

 

「使えるか?」

 

「使えなくはないと思うけど…襲ってきたらお兄ちゃんを盾にするからね。」

 

「襲…?」

 

「ドクターが襲われたときもちゃんと護ってよね。」

 

「あぁ」

 

とはいえ……使える……かなぁ……直感は使えるって叫んでるけど。……信じたくないのがちょっと本音。

 

「……我が喚び声に応えるものよ、顕現せよ。」

 

詠唱なんて適当だけど…多分大丈夫。その証拠に───既に大きな魔力の塊が。

 

「わわわ、なんだ……!?サーヴァント、とはまた違う…魔神でもない、なんだ!?」

 

そうして、現れたのは───

 

「……ホ?ここはどこホ?」

 

「………スー……」

 

紫の帽子・首飾り・靴に黒い肌、つり上がった赤い目───あのさ…

 

「お兄ちゃん、この子が私達を襲う前に1つ言わせて。」

 

「ん?」

 

 

 

「なんで“()()()()()()()()()”があるのっ!!!」

 

 

 

しかも初回で“ジャアクフロスト”とか……!!せめて“ジャックフロスト”にしてよ、悪魔だから危険なのには代わりないんだけどさ!!

 

「うーんと…キミがボクを召喚したホ?」

 

「うん、一応…」

 

「…………キミの方がボクよりも強いホ。勝てる見込みなんてないホ~…」

 

なんで認められてるのかなー……悪魔召喚プログラムって召喚はできても制御する訳じゃなかった気がするし…

 

「何か用があれば気軽に喚んで欲しいホー。キミの仲魔になること、承諾するホ。…ヤベー奴に呼び出されたホ……」

 

そう言ってジャアクフロストは消えた。………ねぇ、悪魔…それも最上位クラスの悪魔にヤベー奴扱いされたの泣いていいのかな…

 

「…で。お兄ちゃん?」

 

「あるのは作ったからに決まってんだろ。」

 

「どうやって。」

 

いや、ホントどうやって。ていうかこの世界って女神転生世界と繋がってるのかな…

 

(るな)達に悪魔召喚術を提供してもらってな。それをプログラム化したのがこれだ。ちなみにハーモナイザ機能もあるぞ」

 

っていうことは………

 

「…COMPなんだね、これ…」

 

「ケータイはただの外見だ。尤も、普通にケータイとしても使えるがな。」

 

……お兄ちゃんだし作れてもおかしくないか……

 

「ちなみに聞くけどこれ使用言語は?」

 

「原典通りBASICの10MB……が、基礎でそれ以外に色々付加した感じだな」

 

ホント何してるのか……暴走したりしないといいけど。

 

「………うん?」

 

あれ?このアプリ…

 

「お兄ちゃん、このアプリって?」

 

悪魔召喚アプリの隣。そこにカルデアのマークがついたアプリがあった。

 

「それは英霊召喚アプリだな。…つっても、カルデアにいるサーヴァント達に限られるし、マシュの霊脈との接続なけりゃ使えないが。」

 

「…………お兄ちゃんがありすさんに“人型ムーンセル”って言われるのこれが原因だったりしない?」

 

「さぁ、どうだかね。…詳しくは知らんがムーンセルってこんなもんじゃなくね?」

 

「それはそうだと思うけど……」

 

ホント…私のお兄ちゃんは規格外です。




香月〈じー……〉

…何。ビデオ通話に変えてるから視線感じるんだけど。

香月〈いや……思ったけどさ。スー姉ってホントにR18系書かないよね。〉

苦手だからね。結構本気で。…あと単に観測しにくいっていうのもある。それから書き起こすのにかなり時間かかるっていうのもね。

香月〈でも、観測自体はできてるんでしょ?書き起こすだけだと思うけど。〉

R18以外みたいにうまくいきません。

香月〈……私で■■捨てたくせに?〉

ちょいと待ち、それは流石に語弊ない?ていうか自分でピー音入れるなら言うなし……

香月〈どうせ校正かけるだろうからそのまま言ってもいいんだけどね。〉

あと香月の言い方だと私が香月を襲ったように見える気が…

香月〈……?〉

キョトンとすな!!ていうか香月って創造時期からして私の直系、それも初期の娘になるわけだから私の成分が濃いのよ。…そんな子を襲う私ってどんな親よ……

香月〈……でもあり得るんじゃない?〉

否定できないのが辛いところ。…現実世界での未来がどうなるかなんてわからないからね。……はぁ。

香月〈ちょっとからかいすぎたかなぁ…〉

(るな)「実際のところはどうだったんですか?」

香月〈え?私がスー姉を襲いました。寝込みですけど。〉

(るな)「それは流石に香月さんが100%悪い気がします。」

香月〈総ての始まりであるあの人に比べれば薄いですが、スー姉の成分50%くらいは入ってますからね、私…私が完全に悪いとは言いきれない気がします。〉

(るな)「だからって夜這いはしないんじゃないですかね……というかなぜ夜這いしたんですか」

香月〈ちょっとした興味から。ほぼ別人と化してはいるものの、“自分自身”に襲われてどんな反応をするのかと。〉

……実際総てにおいて香月の方が上回ってるし、もうそれは“私”ではない気がするけどね……何もかも私は香月に勝てないもん……

香月〈スー姉が“理想”を詰め込んだのが私だよ?私はスー姉が思い浮かべる理想のスー姉なのであって、スー姉が追い求めるのを諦めた“望み”の塊。〉

……理想の姿であり、私が追い求めるのを諦めたからこそ私は永遠に香月には勝てない…か。

香月〈……〉

………そういえばさー…メタい事言うんだけどさ。

香月〈んー?〉

前話の後書き…前々話の書き起こしが観測不鮮明で終わってなかったから投稿できてなかったとはいえ、11月28日には書き終わってたんだよね。ちなみにそこから触れてない。

香月〈うん、知ってるけど……それがどうかしたの?〉


……「ニキ」シリーズの最新作がオープンワールドアドベンチャーで出るとか誰が予想するか!!(_◎Λ◎)_ バァン


香月・(るな)〈「………あー…………」〉

なんで予言みたいになってんの……

(るな)「そういえばお母さん、ナルガクルガ希少種やシャガルマガラがサンブレイクに参戦することも当ててたねー…」

あれは当ててたっていうかたまたま出たモンスターがサンブレイクに出てきただけなのよ……予想してたわけじゃないのよ…

香月〈ちなみに買うの?〉

買うと思う…


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第303話 電子化

眠い……

香月〈大丈夫?〉

多分……

(るな)「…そういえばお母さん、PlayStationでモンスターハンターRise出るそうですけど…」

買う……というか予約購入済ませた……

(るな)「…だと思いました」


「それで、話とはなんだ?…ありすよ。」

 

ルーパス・フェルトがハモンのもとを訪れ、藤丸リッカが藤丸六花に呼び出されている頃。ギルガメッシュは自身のマイルームに来たありすを迎えていた。

 

「色々と申し訳ないわ、準備させてしまって…」

 

「貴様は客人、我は部屋主だ。こちらが準備するが当然であろう。それが例え唐突であってもな。」

 

「…そう。それにしても、随分と地味なマイルームにしているのね?」

 

ありすが周囲を見渡してそう呟く。確かに、ギルガメッシュのマイルーム内装は地味なもの…というか落ち着いたものであった。

 

「あなたなら、全部黄金とかやっていそうなのだけれど。」

 

「ふん、長い間同じ光景ばかりであると流石に飽きるのよな。気分を変えるのに日本の和室などはちょうどいいのだが、物を置くのが面倒でな。このような粗雑な内装になっているだけにすぎん。」

 

その言葉に、ありすが疑問そうな表情をする。

 

「あなた、コンソールのマイルーム設定から“オブジェクトセット”使ってないの?」

 

「……なんだ、それは?」

 

「使ってないどころか知らないのね、その反応は…」

 

呆れたように溜め息をつき、先に用意されていた和菓子を食べる。

 

「あ、美味しいわね。…今度から洋菓子以外にも用意してもらおうかしら…」

 

「ジャンヌや贋作者には劣るが、美味であろう?…そら、粗茶だが。」

 

「……どうしてお茶を点てられるのかしら、この王様…」

 

「知識を求めるは存外に楽しいのでな。茶道も菓子作りもその流れにすぎん。あぁ、作法など要らん、好きに飲め。」

 

「……本来のあなたなら、絶対にそんなこと言わないわね…」

 

「当然よ。…もしくは、類稀なるレアクラス故に我といえど浮かれているのかもしれんがな。」

 

「そうかもしれないわね……あ、美味しいわ」

 

お茶を飲み、ポロリと出たようなその言葉に満足そうに頷くギルガメッシュ。しかし、その表情は一瞬でもとに戻った。

 

「…それで。話とはなんだ?…ありすよ。よもやいたずらに来たわけではあるまい?」

 

「……」

 

その問いに、表情を真剣なものにして湯呑みを下ろすありす。

 

「…ありす(あたし)が電脳空間に入れるのは、既に知ってるわね?」

 

「うむ、知っているが…」

 

ありす(あたし)の術式の1対───“電子化(エンコード)”と“物質化(デコード)”。それによって、あたしはカルデアの電脳空間…“エレクトロ・カルデア”とでもいう場所で活動していたりするのだけど……」

 

話を聞いていることを目で確認してからまた口を開く。

 

「───一昨日のことよ。電脳空間に、英霊……“電子化英霊”とでもいうべき存在が現れたの。」

 

「…なんだと?」

 

険しい表情になるギルガメッシュに対して、お茶を一口飲んで溜め息をつく。

 

「幸いなことだけど、黒化英霊みたいに話が通じないわけじゃなかったわ。その点は安心なさい。」

 

「……では、相手の目的はなんだというのだ。」

 

「…電子英霊としてカルデアへの所属、だそうよ。」

 

「カルデアへの所属…だと?カルデアの破壊ではなく、か?」

 

怪訝そうな顔をするギルガメッシュに表情を変えずに言葉を繋ぐ。

 

「知っているでしょうけれど、カルデアの電脳空間防壁はかなり強固よ。それこそ並どころか結構高位のハッカー程度では越えられないほどに。管理者(アドミニストレータ)消去者(フォーマッタ)の双璧が守護する場所だもの、当然といえば当然だけれど…」

 

「しかし、それが破られたのだろう?」

 

「え?いいえ、破られていないわよ?」

 

「は?」

 

キョトンとした表情で告げるありすに、ギルガメッシュが気の抜けた返事を返す。

 

ありす(あたし)がいつ電脳空間防壁が破られたって言ったかしら?」

 

「…待て、相手は電脳空間に現れたのだろう?」

 

「えぇ。カルデアの電脳空間───エレクトロ・カルデアの外に。相手方はまだ門の前にいる状態よ。」

 

「……紛らわしい。」

 

「ごめんなさい、ありす(あたし)の説明が悪かったわね…」

 

疲れた表情をするギルガメッシュにありすが謝る。

 

「…で、相手はこちらへの所属を希望しているとの事だったな?相手に敵意は?」

 

「無さそうだったわ。ただ、1つ…相手方からの希望が1つ。」

 

「ほう?その希望とは?」

 

「───“カルデアにいる金色の王、ギルガメッシュへ謁見させてほしい”」

 

「…ほう?」

 

その興味を持ったような声に溜め息をつき、お茶を下ろすありす。

 

「電脳世界の所長がいるのならばそれでもいい、とは言われたのだけれどね。ありす(あたし)もアドミニストレータもフォーマッタも、電脳所長ではないものだから。」

 

「ふむ。…なるほど、電脳所長か。そういえば忘れていたな。」

 

ありす(あたし)は別に必要ないと思っていたけれど。…よくよく考えると、六花さんの作り上げたAI達は全員所属しているようなものなのよね。サーバ直結…はしていないけれど、直結経路(ダイレクトパス)は通っているもの。」

 

「………何が違うというのだ、それは?」

 

「物理的に繋がっているか情報的に繋がっているかの違いよ。同じネットワーク……同一LANの中にいて相互通信しあっているの。同じ多重攻性防壁で護られてるから安全といえば安全ね……もうありす(あたし)には六花さんそのものがムーンセルに見えるわよ……」

 

「ふむ……」

 

「……それで、どうするの?電子英霊の件。嫌なら断っておくけれど。」

 

その問いかけに少し悩んでから口を開く。

 

「……いや、行くとしよう。第一手にわざわざ我を指定したのだ、どのような者か見定めてやろうではないか。」

 

「そう。すぐに行けるかしら?」

 

「む……待て、1つやることがある。」

 

「やることが終わったら声をかけてちょうだい。」

 

ありすの言葉に頷いた後、コンソールの前に座りホロキーボードを出現させるギルガメッシュ。何やら打ち込んだ後、キーボードを消して立ち上がる。

 

「これでいい。」

 

「…随分とはやいわね。まぁ、いいわ…それじゃあ、ありす(あたし)の手を握ってくれる?」

 

「……」

 

「…説明されないと分からないあなたでもないはずよ?身体情報を電子化(エンコード)物質化(デコード)するのに軽いパスが必要なの。」

 

その言葉にギルガメッシュが溜め息をつく。

 

「…マスターであるならまだしも、ただの幼い娘に導かれる日が来ようとはな。」

 

「あら、そんなのただの外観だけよ。ありす(あたし)自身がこの姿気に入っているからこの姿なだけ。アリス(あたし)とお揃いのこの姿が、ね。英霊の依代となって、知識や話し方も変化しているもの。元々のありす(あたし)からは大きく解離してるんじゃないかしら。」

 

そこで言葉を切り、表情を暗くする。

 

「…もっとも、ありす(あたし)アリス(あたし)はもうありす(あたし)の近くにはいないし、アリス(あたし)は別の姿であることが多い気がするけれど…」

 

「…すまぬ、嫌なことを思い出させたか?」

 

「いいえ。あたし(ありす)あたし(アリス)が幸せになってくれればそれでいいの。それに…あたし(ありす)のことを覚えていて、まだありす(あたし)と一緒に遊んでくれるだけで幸せだもの。」

 

「…そうか」

 

「さ、行きましょう?」

 

「うむ。」

 

ありすの小さな手にギルガメッシュが大きな手を重ねる。

 

「───実数空間より電脳空間への接続を開始。霊基“ギルガメッシュ”、及び霊基“ストーリーズ・ライブラリ”の二進数変換を開始。魔術式エンコーダにより、十進数型物質性霊基情報を二進数型電子性霊基情報へ変換します……」

 

「…む」

 

「物質性霊基情報の分解を完了。電脳空間へダイブします」

 

途端───ギルガメッシュの周囲が近未来的な風景に切り替わった。

 

「ほう……」

 

電子化(エンコード)は成功したわ。あとは……エレクトロ・カルデアにログインしないといけないわね。」

 

「む?ここは既に電脳世界なのだろう?」

 

「そうだけれどここはただのゲートウェイよ。まだエレクトロ・カルデアの内部じゃないわ。ついでにこっちは職員専用の裏口。現実世界のカルデア内部から電脳世界に入るとこっちからになるのよね……さ、行きましょう。」

 

「う、うむ…」

 

幼女に手を引かれるままに歩くギルガメッシュとは中々にシュールである。1つの扉の前で立ち止まったありすはホロキーボードを叩いて扉を開けた。

 

「さ、開いたわよ。」

 

「む……この手はいつまで───」

 

「はやく入りなさい。異物認識されて抹消されても知らないわよ。」

 

「う、うむ…」

 

扉の奥にギルガメッシュが入ると、ありすは手を離した。

 

電子化(エンコード)物質化(デコード)…もしくはそれに類する能力を持っていなければゲートウェイ中だと抹消処理が行われるの。手を繋いで軽いパスを繋いでるのはそのためよ。」

 

「……その説明、もっと早くせんか。」

 

溜め息をつき、周囲を見渡すギルガメッシュ。その風景は、カルデアと全く同じだった。

 

「……?カルデアに戻ってきた…わけではないのだろう?」

 

「構造が全く同じだもの、戸惑うのも無理はないわ。」

 

「構造が同じ…どころではないぞ。触る質感まで全く同じだ。」

 

「サーバー根幹……グラフィック投影は“メイン・ビジュアライザー”だもの。ホント、なんてもの作ってるのかしらね…さて、正門に行きましょう。件の相手はそこに待たせているの。」

 

そう告げ、ありすは歩き出した。その後ろを呆れながらギルガメッシュがついていく形になる。




………

香月〈んー……スー姉〉

………

香月〈スー姉?〉

(るな)「お母さん…?」

………

(るな)「お母s………立ったまま気絶してる…!?」

香月〈器用か…って言ってる場合じゃない!〉

(るな)「起きて、お母さん!」

……はっ!?え、何!?

(るな)「よかった、起きた……」

香月〈スー姉、気絶してたらしいよ?〉

…またかぁ……最近多い気がする。

香月〈大丈夫なの?〉

さぁ…?…あ、今日って7日か…

香月〈?そうだけど…〉

明日は買いに行かないとね…“魔法使いの夜”…


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第304話 電子英霊(エレクト・サーヴァント)

月「お母さんの眠りの深さ……ですか?」

裁「はい…最近は2時間ほどしか眠れてないって聞いて…」

月「あー…まぁ、確かに……」

………

月「……今も気絶してますからね、お母さん…ギルガメッシュさん、申し訳ないのですが起こしてもらってもいいですか?」

弓「それは構わんが……こやつ、日に日に弱っておらんか?」

(るな)「精神面は大丈夫なはずですよ。肉体面は分かりませんけど。」


「戻ったわよ、アミィ。」

 

物質世界のカルデアの正門に位置する場所───電脳世界のカルデアの正門も同じ位置に。等しくフィニス・カルデアと同じ構造のエレクトロ・カルデア、そのフロントゲートを出た電子の海。ギルガメッシュと共にやってきたありすはそこに立つ少女に声をかけた。

 

「………」

 

「アミィ?」

 

「…あ。おかえりなさい、ありすおねえちゃん…」

 

「寝てたのね…ごめんなさい、起こしてしまって…」

 

「ううん…?だいじょうぶ……」

 

「…ありす、この娘は?」

 

「この子はアドミニストレータよ。こう見えて、ね。自己紹介なさい、アミィ。」

 

寝ぼけ眼のような状態でアミィと呼ばれた少女はギルガメッシュと対面した。

 

「ぁい……ユニット識別ID:2-L、管理者型個体(アドミニストレーション・ユニット)二号機……個体名称“Administrator Zwei”です……みんなからは“アミィ”とよばれています…」

 

「……ふむ?(ツヴァイ)…とな?確かアドミスめは(アインス)であったな…」

 

先行機(ねーさま)……アインスおねえちゃんがおせわになってます……」

 

「ほう、アドミスの妹か。…いや待てよ、確かあやつの妹はフォータであったな…」

 

「アドミスさんとフォータさんは年齢差がない双子。アドミスさんとアミィは年齢差のある姉妹になるのよ。」

 

「ほう…喋り方が幼いのはそのためか。」

 

「別に意図的なものではないらしいけれども……それはそうとアミィ、彼女達の様子は?あとちゃんと目覚めなさい。」

 

ありすの問いにアミィはコクリと頷き、1枚のホロウィンドウを開く。

 

「…コンピュータウイルス、ネットワークウイルス…それからカルデアへの敵意、悪意などは検出されませんでした…正真正銘白です……」

 

「そう。」

 

「……ありすよ。ずっと気になっていたがこの箱はなんだ。」

 

ギルガメッシュがカルデアのフロントゲートの電子の海を挟んだ対面に位置する白い箱を見てそう呟く。

 

「それ?牢獄よ、簡単に言えば。」

 

「牢獄…だと?」

 

「正式名称“相互通信回路接続妨害ボックス”……外からの通信は受け入れますが内からの通信は妨害…というか遮断するボックスです…電子生命にとって通信を妨害されるのは監禁されてるのと同じですので……」

 

「………作成者は誰だ?」

 

「とーさまが作りました……」

 

「……あやつのできないことってなんだ?」

 

「一応マスターにはなれないわよ?」

 

「そうであったな……」

 

ギルガメッシュがため息をつくと同時に、アミィがホロウィンドウを操作する。

 

「……ボックスのロック……アンロックします…」

 

その言葉と同時にボックスから空気の抜けるような音がした。

 

「アンロックしました……内側からはありすお姉ちゃんの存在鍵(ユニットキー)……及び存在認証文字列(ユニットパス)で開けられますので……」

 

「分かったわ。行きましょう?」

 

「う、うむ…」

 

ありすの後ろからギルガメッシュがついていく形でボックスの前に立つ。そうして扉が開かれたボックス内は暗かったが、ありすが足を踏み入れた途端に明るくなった。

 

「人感センサーか。」

 

「“電脳体”に対して“人感”もおかしいんじゃないかしら?」

 

そんな雑談をしながら移動していると、開けた場所に出た。そこに、座り込む存在が2つ。

 

「…あぁ、やっときたのだわ。」

 

「貴様は……“エレシュキガル”か?」

 

存在の片方、金髪の少女への問いに少女が少し考えてから頷く。

 

「少し難しいけれど大体はあっているのだわ。私は冥界の女主人、エレシュキガル。…だけれど、私は“英霊(サーヴァント)”ではないのだわ。」

 

「なんだと?」

 

「そこにいる人と同じなのよ。姿と人格を複製した“人工知能(アーティフィシャル・インテリジェント)”。…とはいえ、劣化だけど宝具は扱えるの。だから、“劣化英霊(ダウンスケール・サーヴァント)”と言ってもいいのかも。」

 

「………ふむ。」

 

ギルガメッシュの視線がもう1つの存在に向く。

 

「…なんだ?」

 

「貴様は確か……“ラーヴァ/ティアマト”だったな?」

 

「…まぁ。ただし、大元よりも大分改変が加えられているのか、本来の私とは違う感覚に陥るが。」

 

「……ふむ?なるほど、貴様はそもそもがティアマトではないな。“ラーヴァ/ティアマト”という枠組を与えられただけの紛い物。大方、エレシュキガルと違って獣の権能はおろか宝具も使えぬであろう?」

 

その言葉に顔をしかめてから溜め息をつくティアマト擬き。

 

「…そうだな。所属席の代理取得のような使い方をされたのが私だ。ネガ・ジェネシスも毅き仔よ、創世の理に抗え(ナンム・ドゥルアンキ)も…他のスキルすらもないただの入れ物だ。」

 

「まさしく劣化、というべきか……なるほど、貴様がそこまで弱まっているは“単独顕現”スキルが貴様の内に存在しないからか。」

 

単独顕現。単体で現世に現れるのに加え、“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の時間操作系の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルするスキルだ。人類悪───(ビースト)が所持するスキルであり、回帰の獣(ビーストⅡ)であるティアマトが持っていないのはおかしい、はずなのだ。

 

「劣化していることなどどうでもいい。私は私の役割を果たせれば十分だ。」

 

「…ふむ。」

 

「近いうちに(ティアマト)が姿を現すだろう。そうなれば私の役割は終わりだ。…さて、どうする黄金の王ギルガメッシュ?私達を信じこの場所に置くか、信じずそのまま消去(デリート)するか。決定権はお前にある。」

 

「……」

 

ギルガメッシュが頭を押さえた時、ポコン、という音がした。

 

「む?……ありす、なんだこれは?」

 

「通知音ね。恐らくはメッセージ…でも、あなたにメッセージを送れるのなんて……」

 

「…ふむ。六花からか。」

 

「…ちょっと。警戒なしにメッセージを開くのは危険よ?特に今のあなたは電脳体。コンピュータウイルスでもいたら簡単に汚染されるわよ?…私も知らないけれど、コンピュータウイルスに汚染された状態で物質化(デコード)したら霊基も汚染されるかもしれないわ。」

 

「む……すまない、注意するとしよう。」

 

「汚染されても大丈夫なようにフォーマッタがいるのでしょうけど、注意するに越したことはないわ。」

 

幼女に怒られる金色の王とはやはりシュールである。…とはいえ、ありすの電脳体歴はかなり長い。電脳世界で考えればありすの方が権限は上……なのかもしれない。

 

「さて、エレシュキガル、ならびにラーヴァ/ティアマトよ。貴様達がカルデアに所属することを許可する。」

 

「え………」

 

「………いいのか?」

 

エレシュキガルが驚き、ラーヴァ/ティアマトが懐疑的な視線を向ける。

 

「構わん。叛逆するというのならしてみるがいい。が、それにはそれ相応の対応があると思え。…それだけだ。」

 

「…そうか」

 

「他に用がなければ我はこれで去るが。」

 

「私はないな。」

 

「私もないのだわ。…こんなにあっさり行くとは思っていなかったけれども。」

 

「…行くぞ、ありす。貴様でなければ扉は開かないのだろう」

 

「え、えぇ…」

 

思考が追い付いていないというように困惑しながらもギルガメッシュの前を歩くありす。しかし、数歩歩いただけで思い出したように足を止める。

 

「…あ、そうそう。あなた達は少しそこでお待ちなさいな。許可は出たといえどもIDもない現状、ボックスから出ることはできないわ。管理者に発行をお願いしておくからおとなしく待ってなさい。」

 

「わ、わかったのだわ…」

 

「……でも、発行に数日かかるかしらね…あの子達も忙しいもの。」

 

そう言い残して、ギルガメッシュとありすはボックスから出た。

 

「…む?」

 

「あ…お疲れ様です」

 

「…貴様は?」

 

ボックスから出た時、アミィと何か話をしている見覚えのない人物がいた。その人物は静かにお辞儀をして、口を開いた。

 

「ユニット識別ID:2-R、消去者型個体(フォーマット・ユニット)二号機……個体名称“Formatter Zwei”です。他の皆からは“フーマ”と。アミィの妹になります。」

 

「ほう、貴様が第二のフォーマッタか。」

 

「はい、まぁ…」

 

「…ふむ。…ちょうどいい、ここで発表するとするか。」

 

「「「??」」」

 

ギルガメッシュの言葉に三名が首を傾げる。それを気にせず、ギルガメッシュは手を振ってウインドウを表示させる。

 

「……AI三人娘か…」

 

「…あたし(ありす)、AIじゃないけれど…?」

 

「聞こえていたか…まぁいい。」

 

小さく息を吐いてから開いたウインドウに目を落とし、口を開く。

 

「───人理継続保証機関フィニス・カルデア所長“オルガマリー・アーミスレイト・アニムスフィア”、人理継続保証機関フィニス・カルデア機器系統技術長“藤丸 六花”…並びに人理継続保証機関フィニス・カルデア所属管理者型人工知能長“アドミニストレータ・アインス”、人理継続保証機関フィニス・カルデア所属消去者型人工知能長“フォーマッタ・アインス”。それに加え、英雄王“ギルガメッシュ”の五名の連名により、人理継続保証機関群ギルド・カルデア(仮称)所属サーヴァント“ストーリーズ・ライブラリ”こと固有名“ありす”を人理継続保証電脳機関エレクトロ・カルデアの所長に任命する。」

 

「…………………?」

 

ありすがフリーズした。

 

「なお、人理継続保証電脳機関エレクトロ・カルデア所属管理者型人工知能長“アドミニストレータ・ツヴァイ”と人理継続保証電脳機関エレクトロ・カルデア所属消去者型人工知能長“フォーマッタ・ツヴァイ”の了承は既に得ていることをここに明示する。」

 

「あ、あたし(ありす)が……所長?あたし(ありす)…が?」

 

復帰したありすが信じられない、というようにアミィとフーマの方を見るとアミィとフーマは揃って頷いた。

 

あたし(ありす)に…できるかしら。」

 

「完璧にできずともよい。所長であろうと、周囲を頼れ。…貴様のできることを為せばよい。」

 

「……分かったわ。」

 

「わたしも手伝う…ありすお姉ちゃん……」

 

「一緒に頑張りましょう、ありす姉様。」

 

「…頼りないだろうけれど、よろしくね。アミィ、フーマ。」

 

ありすの言葉に、アミィとフーマが深く頷いた。




月「とりあえず、お母さんの基本的な睡眠時間は5時間から7時間くらいですね。」

裁「それって……ほとんど睡眠足りてないってことじゃ…」

月「まぁ、そうでしょうね…その代償みたいなものなのか、休日に半日分…12時間寝るとかがあったそうで。」

裁「……えぇ」

月「最近は解消されつつあるみたいなのでなんとも言えませんが…」

………夜だと作業中とかに意識飛ぶのはもうほぼほぼ慣れた……

月「あ、お母さん」

裁「それって大丈夫なの…?」


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第305話 夢に見たモノ

眠い……

香月〈大丈夫ー?〉

いきなり意識飛ぶかも…

香月〈それって危険じゃないのかなぁ…〉


「………」

 

拳がブウン、と空を切る。そんな私の拳をじっと見つめる───夢に見たことがある。

 

「…せぃっ!」

 

アメリカの特異点にいたときの夢。あの夢で、私は誰かと対峙していた。黒い服の男の人…だったと思う。霧がかったような姿だったけど、刃物みたいなものを持っていたのは覚えてる。

 

「……」

 

不思議とその人への恐怖はなくて、なんというか……“対戦”みたいな感覚だったのも覚えてる。

 

「……だめだ」

 

それでも、分かってしまう。…今の私じゃ、その人には勝てない。夢の中の私で、五分……もしくは不利。

 

「……」

 

いつかきっと、私の夢は現実になるんだと思う。…あのマシュがいない夢も、きっと。でも、護るべき後輩がいなくなって、取り戻すべき人理もなくなって……どうして私は戦い続けているのだろう。

 

「フォーウ」

 

「?フォウ君?」

 

思考の海からフォウ君の声で現実に引き戻される。フォウ君はシミュレーションルームの扉のところに座っていた。

 

「フォウ」

 

「……?」

 

小さく鳴き、姿を消す。私がそれを見て首を傾げていると、再度姿を現した。

 

「フォーウ」

 

「…ついてこい、ってこと?」

 

再度姿を消すフォウ君にそんな意思を感じた。

 

「…フォウ」

 

「…みたいだね……ごめん、先にシャワー浴びさせてもらってもいい?」

 

フォウ君が頷くのを確認して、私は併設されているシャワー室に入った。

 

 

「ここ?」

 

「フォウ」

 

髪の毛を乾かしてからフォウ君に着いていって───私は1つの扉の前にたどり着いた。…なんだっけ、ここ。カルデア内ってもう迷宮っぽくなってるような感じもあるから全部は記憶できてなかったりする。……行く場所間違えるとアステリオスさんが作り出した迷宮(ラビリンス)にも繋がるし。お兄ちゃんも言ってたけどカルデアって無限迷宮化してるんだよね。一応出る方法はあるらしいけど。

 

「…失礼しまーす…」

 

一応声をかけてから部屋の中に入る。…実験室というかなんというか……色々機材がある。

 

「フォーウフォウ」

 

「こっちなんだね?…あまり先には行かないでね?私が迷っちゃう…」

 

「フォーウ…」

 

機材が多くてまるで迷宮。…アステリオスさんの迷宮(ラビリンス)とまたちょっと違うけど。

 

「フー……フォウッ!」

 

「あ、ちょっと!?……行っちゃった。」

 

少し進んだところでフォウ君がどこかに走って行っちゃった。……うーん

 

「……あっちかな」

 

直感に従って進む。…しかないと思うけど……あ。

 

「あ、マリー!」

 

「………」

 

「……マリー?」

 

なんか…怖い表情してる…?

 

「…あぁ、ごめんなさい。少し、考え事していたわ。」

 

「…考え込みすぎて思い詰めすぎるのもダメだよ?」

 

「リッカもよ、それは…あなたも最近よく考え込んでるじゃない。」

 

「あはは……バレた?」

 

「分かりやすいもの。」

 

そうかなぁ……っと

 

「あ……マシュ寝てるんだ。」

 

…そっか、今思い出したけどここ集中治療室だ。

 

「えぇ、今寝たところよ。…」

 

「……また怖い顔になってるよ。もしかして怒ってる?それとも何か心配事?」

 

「そんな、怒ってないわ。…あぁ、そういえばジュリィさんに助けられてから怒ってないかしら。叫ぶことがそもそも少なくなったというか。」

 

「初めて会った時とはまるで違う印象を受けるからね。」

 

「それはあなたもよ。…お互い、いい変化をしたのかしらね。」

 

「そう?…私自身、自覚はないけど。」

 

そう言うと、マリーが笑った。

 

「表情に色が出てるのよ。…凄く抽象的で、分からないかもだけれど。喜怒哀楽がはっきりと表現されてる…って言えばいいのかしら?」

 

「言われてみれば……」

 

特に“怒”に関してはあの時まで理解してなかっ(忘却しきって)たから抜け落ちてたと思うし……

 

「変化に気がつけるほど一緒にいたんだね……友達だし、当然といえば当然かな。」

 

「友達……ね。そうね、私とリッカとマシュは友達…だものね。」

 

「あれ、そういえばお兄ちゃんは友達じゃないの?」

 

「六花は友達というかライバルというか……嫌いではないし、信頼している部分は確かにあるのよ?…でも、友達とは何か違う気がするのよね……」

 

お兄ちゃんってよく分からないもんね……

 

「……まぁ、いっか。5つも一緒に死線潜り抜けてきて、友達と言えない訳じゃないと思うけど……それが戦友という形でも、ね。」

 

「そうね……でも六花を友達と認めるのは本能的に拒否してるのよね……」

 

「うーん…なんでだろうね。」

 

分からない、と思いながらマシュの方を見る。

 

「…マシュも一生懸命前線に立ってくれてるし。怖いはずなのに…自分を奮い立たせて、私を護ってくれてる。」

 

「…気づいていたのね。マシュの心に。」

 

「…まぁ。マシュはただ1人の後輩だから。観察する時間はたっぷりあったからね。…可愛いのもあるけど。」

 

「そう…って、中学校で後輩はいなかったの?」

 

「残念ながら呼ばれなかったね。高校一年生だったから後輩はいないし。」

 

「……そ、そう……リッカ」

 

「ん?」

 

声の調子が落ちた気がして、マリーの方を見る。

 

「…貴女に知っておいて欲しいことがあります。…マシュの出生と、生い立ちについて。私は貴女に伝えなくてはなりません。」

 

「……」

 

「本当は…伝えるのが怖くて。今になっても、それを伝えるのを躊躇っているけれど……それでも、話さないといけない。私にはそれを伝える義務があって、貴女はそれを知る義務があるのだから。」

 

「…うん」

 

……なんとなく、夢で見た気がする。…いつ見た夢だったか忘れたけど。何を言ってるか聞こえない夢が多いから、この話を聞くのは初めてかな。

 

「どんな所感を抱くかは貴女の自由です。…軽蔑、侮蔑されても文句は言えない事柄。絶交されることも覚悟で、何故ここまでの処置をマシュに施さなければいけないのかを伝えます。」

 

「…わかった。静かに聞くよ。」

 

「ありがとう。…マシュはこのカルデア……“アニムスフィア”の元研究所───今はもう、ギルや六花に総ての権限を譲渡するつもりだけれど。その研究所にて行われた非人道的実験において生み出された子供達の一人。“英霊融合実験”の唯一の成功例なのよ。」

 

 

side out

 

 

………亜英霊(デミ・サーヴァント)。貴女も知っているでしょうけれど、人間と英霊が融合した存在。見方を変えれば、貴女はもこのデミ・サーヴァントに該当するのかしら?

 

カルデアは恒久的な戦力として、サーヴァントを宿した人間───言い方を変えれば“サーヴァントを人間にする”ことを考え付いたの。

 

そうして行われたのが“英霊融合実験”───“デミサーヴァント計画”。魔術回路の優秀な人間の遺伝子を人工授精で交配させ、優秀な苗床を人為的に生み出し、彼らに核となる英霊の遺品を移植するという非人道的なものよ。

 

ホムンクルス、といっても構わないかしら。…でも、ホムンクルスとは違う。彼女達はれっきとした人間なのよ。

 

…少し脱線しかけたわね。…1999年、マシュはデザインベビーとして生み出され、14年という時間を無菌室の中で過ごしてきた。そして、その無菌室以外では生きられない程……カルデアの中以外では生きられない程、彼女の身体は脆かった。今でこそ、彼女の内に居た英霊の力もあって特異点内で活動できてはいるけれど。…それと、このカプセルの影響もあるわね。

 

───2009年、マシュが10歳の頃。融合術式が行われたわ。当然だけど、そんな無茶が易々と通るはずもないわ。唯一の成功例であるマシュでさえ、失敗だと思われていたの。

 

 

…“どうして今になって成功したの”、って冬木の時に言ってたもんね。

 

 

覚えてたのね……そう、総て失敗だと記録はされていた…だけど、ジュリィさんのおかげで冬木から帰れた後、ロマニに聞いたりマリスビリー…私の父の書斎なんかを調べていたりしたら、マシュだけは成功していたのが判明したの。マシュの内にいる英霊()が目覚めなかっただけで、成功はしていた。

 

調べていく内に彼がどんな英霊かも判明しているわ。…その彼の性格から考えても、こんな悪魔の所業を許すはずがないわ。基盤となる人間の人格を塗り潰して顕現しろ、だなんて。

 

───その身をもってマシュは証明した。英霊融合実験のおぞましさ、その過ちを。

 

彼らは英霊ではない…らしいけれど。ハンターのみんなにも聞いたわ。“この世界で生きるのなら世界をどう変えたいか”、と。“帰れない可能性があるとしてもこの世界は今ここに生きている人たちのもので今の私達が染めていいものじゃない”、という答えが帰ってきたわ。他の英霊達にも、無銘さんにも聞いたけど同じような返答だったの。…別世界の人間は、別時代の人間は“この世界は今を生きる人間のもの”という共通認識があるみたい。

 

預言書の精霊達曰く、この世界は近いうちに滅びる運命だそうだけれど…それでも、認識は変わらないのだと思うわ。だからこそ、人間との融合は拒む。

 

…そんなこんなで、実験が頓挫した1年後───父、マリスビリーが所長室で亡くなった。死因は自殺らしいけれど。それを引き継いで私が所長となった。

 

何もかもが嫌だったわね……父、マリスビリーが外道と知って、何も分からずに実験を引き継いで……あの頃はマシュに殺されるという予測が強すぎてヒステリーを起こしていたかしら。

 

“所長”という圧に耐えるのが辛いのもあったし、非人道的な実験を行った人物の娘だもの、親の罪は子の罪…みたいなものでそんな悪夢に取り憑かれていたのね。

 

“トイレでマシュに惨たらしく殺されるの!当然だわ!”が口癖だったかしら。…でも、私は彼女を完全に無視することは出来なかった。“居なかった”ことにすることはどうしても出来なかったのよ。

 

 

それは……マリーが元々……生来の性質というか。根本的な部分から世話焼きさんみたいなところがあるとかじゃないのかな?

 

 

褒めてるのかしら、それ?…まぁ、悪い気分はしないけれど。…ともかく、どんな形であれ生み出された命ならそれ相応の扱いをしてあげないといけない。…それだけは本能的に理解できたみたいね。人間として生み出されたのだから、人間として。

 

ともかく、マシュには自由を与えたの。とはいってもカルデア内のみだけだし、ロマニに説得されての事だったけれど。

 

正直怖かったし、殺されると思ったのは本当よ。それでも目を背けることは出来なかった。

 

……先にも言った通り、マシュの身体は脆かった。外の環境に適応できないのよ。…色々と手を打って今はもう違うけれど。

 

活動限界……寿命も18年と短命で、今のグランドオーダーにも耐えられたかどうかだった。

 

今は……71年、って言ってたわね。細胞劣化の改善、肉体強化……その他諸々。まだまだ短い寿命ではあるけれど、唐突にマシュが寿命で死に至ることはないわ。

 

そのマスター適性からもAチームの首席として配属し、カルデアスの火が消えた事から国連にかけあってマスター達の特異点攻略の許可を得て。…レフによって管制室が爆破され、私が死んでレイシフトしたりリッカ以外の47人が冷凍睡眠したり…マシュはデミ・サーヴァントとなったり。

 

色々あったけれど……とりあえず、これが貴女の後輩、マシュ・キリエライトの真実。貴女の最初のサーヴァントの始まりよ。

 

 

 

side リッカ

 

 

「批判、罵倒は覚悟しているわ。父の所業だという言い訳は許されない。…ロマニは、父から言われるまでこの事を知らなかったみたいだからほぼ無実よ。だからこそ、責任は私に。」

 

………

 

「絶交も、するというのなら…受け入れます。それだけのことを、私の一族はしてしまったのだから。それでも……1つだけ。1つだけ、お願いがあります。…どうかマシュのことを、お願いします。彼女は貴女を何よりも大切に思っています。…それだけは紛れもなく確かなことで、覆すことの出来ない事実だから。…この先も、彼女にとって良きマスターでいてください。」

 

……そこで、マリーの言葉は途切れた。

 

「………はぁ」

 

「っ…」

 

私のため息に身体を震わせるマリーの顔に手で触れる。

 

「…頑張ったね、って年下が言うことじゃないと思うけど。…泣いてることに、気づいてないでしょ?」

 

「…え……?」

 

制服のポケットから取り出したハンカチでマリーの顔を伝う涙を拭う。

 

「わ、私………いつから?」

 

「融合実験が失敗したとされていた、っていう話くらいから、ずっと。…本当に、頑張ったね……“理解しきれない”、“怖い”という重圧に押し潰されそうになりながら、よくここまで。…偉いよ、マリーは。」

 

「……で、でも、私はマシュの……いいえ、マシュを含めたマシュの兄弟姉妹の命を弄んだ一族なのよ!?」

 

「それはマリーがしたかったことじゃないでしょ?」

 

「でも、マシュを真っ当な父母の営みから産まれさせなかった元凶の娘な───」

 

「───それを、私に言う?私やお兄ちゃんみたいに真っ当な営みから真っ当な場所で産まれたとしても、幸せだとは限らないよ。」

 

「───っ」

 

言葉に詰まったマリーに小さく笑う。

 

「私ね、思うんだ。生き物にとって大切なのは“どう産まれたか”じゃない。“どう育つか”……産まれ落ちたあとにどんな道を辿ったか、だと思うんだ。マリーはさ、“聖徳太子”って知ってる?」

 

「聖徳太子……確か、日本の歴史上に存在する重要人物よね?ええと……記憶が確かなら10人の言っていることを同時に聞き分けるとか…」

 

「うん、その人。古事記に記される名前は“上宮之厩戸豊聡耳命(かみつみやのうまやとのとよとみみのみこと)”…あの人って、伝承上では厩舎前で産まれたんだよ?それ故に名付けられたのが“厩戸皇子(うまやどのおうじ)”。…彼は今、私が一瞬で思い浮かんだ例だけど、どんな場所で産まれたが真っ当じゃない人は英霊にもいくらでもいると思うし……神と人、人と動物……そんな勾配の英霊だっているはず。」

 

「……」

 

「エルキドゥさんとか土人形だし。…だから、出生の方法も全く関係ないと思うんだ。生き物の生き方、その生き物が英雄とされるような道かどうか……そんなのは、出生とはまるで無関係。真っ当に生きるには関係ないと思う。…まぁ、その辺りでいちゃもんみたいなの付けられるのがこの世界だっていうのはありそうだけど。」

 

その辺り面倒くさそうだもんねー、って苦笑いしながらぼやく。

 

「…でも、そんないちゃもんも気にしないならどんな産まれ方でも真っ当に生きられると思うんだ。マシュが特殊な生まれでも今を生きているように、マリーが責任に押し潰されそうになりながらも今を生きているように。この世界は、“生きる”ことに対して平等に権利を与えている。いつ死に至るかは運命次第、って感じではあるけど。“生きる”ことに悪いことなんて無いでしょ?」

 

「で、でも……!私は“無能な所長”だって!“人でなし”だって…!皆がそう責めた!みんな、みんな…!だから、私は嫌われる前に嫌われようって!マシュを貴女に任せようって…!」

 

「はは……甘く見ないでよね、マリー。」

 

マリーの目を真っ直ぐ見つめて言葉を繋ぐ。

 

「私、嫌ってほしいなんて言われても嫌うつもり無いから。仕草で嫌われたいって思ってるのなんて、明確に分かる。…マリーを嫌って、マシュを任されるなんてごめんだよ。マリーを好いてマシュを任されたいね。そもそも…マリーが頑張ってきたのなんてみんな分かってる。責めるつもりなんてないよ───その当時は多分、間が悪かったんだ。」

 

「間が…悪い。」

 

「うん───よく頑張ったね。辛かったね。これからは私もマシュも、お兄ちゃんもルナセリアさんも……他の職員の皆も、マリーを支えるから。支え、支えられての関係で未来を進んでいこう。…辛いことを、1人で抱え込まないで。」

 

ハンカチを下ろしてそのまま抱きつく。

 

「───ありがとう。ここまで生きてくれて。産まれてきて、私達と出会ってくれてありがとう。」

 

「───っ…わ、わた、しは……」

 

「ん?」

 

「わたしは……産まれて良かったの…?この世界にいて、良かったの……!?」

 

「……」

 

「あなたの友達で……よかったの……!?貴女と出会って…!」

 

「うん、よかったんだよ。…総ては運命で、偶然で……必然だった奇跡に幸せを感じながら未来を生きよう。」

 

「ふ、ふぁぁぁぁ!!」

 

号泣に変わったマリーを、静かに撫でながらその場に留まっていた。




大晦日ですので結構急ピッチで書き起こし仕上げました。いつもの時間外なのはそのせいです。

裁「よいお年を~。」


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第306話 脅威の種

あけましておめでとうございます。

(るな)「新年早々寒気がするような話題なんだけど…」

知らないよ……私が知りたい。…星見の観測者に会いに行こうかなー…ついでにどうしてこうなったか聞いてくる……


「……くしゅっ!」

 

異様な肌寒さ。それで、私は目が覚めた。

 

「……ここ、は…?」

 

カルデア───では、なかった。雪の降る何処か。…寒さの原因は、恐らく雪。

 

「寝ている最中にレイシフトされたみたいだよ、無銘さん。」

 

「ミラさ……ん?」

 

声のした方を見ると、いつもよりもさらに小さくなったミラさんが浮いていた。

 

「私のことは気にしないで。どういうわけか分からないけど、この姿で固定されてるの。」

 

「妖精さんみたい……」

 

「妖精……そんな可愛らしいものじゃない気がするけど。ともかく、ここは何処かの雪山。…でも、少なくとも私のいた世界のじゃない。というか……多分、リッカさんのいる世界にある山の何処かだと思う。」

 

雪山………

 

「…陽詩さん、この時代がいつか分かりますか?」

 

『ちょっと待ってね……変に時空間が歪んでるのか、時代測定が安定してなくて……あ、安定した。西暦2001年……なんで私達がちょうど産まれたころなのか……』

 

あ、そうなの?

 

『レイシフト……というか、別系統の力の干渉だと思う。…たぶん、単独顕現。』

 

「単独顕現……」

 

「ちなみに私は何もしてないからね。考えられるとすればフォウかゲーティアだと思うけど…」

 

『ボクじゃないさ。』

 

フォウの声が何処からか聞こえてきたと思うと、空間が歪んだ。

 

『やれやれ、どこに行ったのかと。…コレはボクやアイツの仕業じゃない。別の獣……とある変態の仕業さ。』

 

「「変態……?」」

 

『そ。変態も変態…ド変態さ。ま、どうせ旅を続けていれば出会うだろうし、今は話すことでもないか。……にしても早すぎる気がするんだよなぁ。アイツがまだ潰されてすらないのにもう来るのか。よっぽど欲求不満だったのかよ?』

 

「え、ええと…?」

 

『はぁ………ごめんね、ボクの顔見知りが。あと、ボクもこのままじゃ帰れないっぽいからさっさと用件を終わらせて帰ろうよ。』

 

その言葉にミラさんが首を傾げる。

 

「単独顕現で来たのなら単独顕現で帰れるんじゃ…?」

 

『無理。来るのはいいけど帰るのは許さない…そんな感じのブロックがかかってる。ホントめんどくさ……』

 

呆れたような声を出して私の肩の上に飛び乗る。

 

『さてと、何をすればいいのやら。』

 

「………(るな)さん、周辺に何があるか調べられますか?」

 

『任せて……とりあえず山全域を大まかに洗い出す。そこから細かく情報を細分化して目的を探す。』

 

私を中心に空間探知が広がる。私の脳裏に“何”が“どんな形”で存在しているかが鮮明に映し出される。…無意識の情報処理に慣れたのか、大きな負荷は今のところ感じられない。

 

『寺……お寺があるね。…たぶん、そこが鍵かな?』

 

「なら、そこに行きましょうか。…何があるかは分かりませんけど。」

 

『寺……寺かぁ……』

 

移動のために(るな)さんに代わろうとしたら、代われなくて。(るな)さんに能力の使い方を教わって、同時移動手段の能力を使いそのお寺の近くに飛ぶ。普通の人に見られていたら未確認飛行物体(UFO)だと思われていそう、とか思いながら能力を解除する。

 

「……お寺……ですね。」

 

「大社跡にあったのと似てる…」

 

『………』

 

「フォウ?」

 

『ごめん、2人とも。もう一度謝っとくね。…うちのお姫様達に何させる……いや、何する気だあの(アマ)ぁ…!!』

 

フォウが……怒ってる?

 

『2人とも。ここで何があったとしてもボクが絶対に君達を護る。英雄王もいればよかったんだろうけど…無い物ねだりになるし、仕方ない。…気を引き締めて、行くよ。』

 

「う、うん…」

 

『…ここが何なのかも教えよう。ここはとある宗教の総本山。真言立川詠天流───“女性は悟りを得られない”が基本の既存宗派とは違い、“男女共に悟りを得る”と掲げたことで弾圧され、経典のほぼ全てが焚書されている真言立川流の傍系のアジト。…アレの、起源となる場所さ。』

 

「アレって?」

 

『どう思うかは君達が見て判断してほしい。余計な先入観は判断の邪魔だ。…行くよ。』

 

お寺に近づくほど、泣くような声が大きくなる。…一体、ここで何が起きているのだろう。




星見の観測者「……来たか。」

来たよ。とりあえず、あけましておめでとう…かな?時間感覚なんてないと思うけど。

星見の観測者「……」

早速聞くけど、あれは何事?

星見の観測者「暇をもて余した獣の遊び、というところか。私が干渉したことではないのは創り手も分かっているだろう。」

それは分かっているけど…

星見の観測者「移動はともかくとして妙な干渉をしようとするならばこちらで防ごう。創り手は通常の観測に戻れ。」

…………分かった


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第307話 人と人ならざる者

星見の観測者「………む?」

手紙「創り手さんと香月さんにドッキリのようなものを仕掛けたいんです。ご協力願えますか?  L.M」

星見の観測者「……やれやれ。」


『暗っ!』

 

本堂に入って、陽詩さんの第一声がそれだった。

 

『暗い、というよりは薄暗いかな?とりあえず、“夜眼”を使っておいた方がいいかな…』

 

夜眼というのは別名“猫眼の術”、もしくは“暗視眼の術”。(るな)さんの術の一種で暗闇の中でも明るく見えるようにする術式。

 

『朝・光属性である陽詩はこういう暗闇系に弱いもんね。』

 

『うっ……ほんとごめん……6倍弱点なんだよ…』

 

ちなみに(るな)さんは夜・闇属性らしい。私はというと虹・虹属性なのだとか。…私自身も(るな)さん達の属性に関して理解していない部分が多い。(るな)さん曰く、“多分この仕様創ったお母さんですら全貌を把握しきってないんじゃないかな?”とのことだったが。…それよりも。

 

「あぁ……かわいそうに……かわいそうに……」

 

「神は年端も行かぬ子にも試練を与えるのか……」

 

…これは……一体?祈りを捧げている人…恐らく信徒と思われる人達が天幕前に揃っているけども。

 

『………』

 

フォウは何も言わない。…ざっと探知をしてみたところ、天幕の向こう側に小さな生命反応がある。…けれど、ここにいる誰よりも反応が弱い。フォウが何も言わないのなら、私達の好きにすればいい…はず。多分。

 

「…お邪魔します」

 

信徒達の前を通って天幕の前に。……足音は立てなかったけども、そもそも私達に気がついていないような。そんな気はしたけども、とりあえず天幕を潜る。

 

「……?女の子?」

 

恐らく……10歳、もしくはそれ以下。そんな子が、布団の中で寝込んでいた。

 

『この衰弱状態……昔の私に似てる。だけど、私みたいに呪いみたいな衰弱とは多分違う。』

 

「…どちら様…でしょう?」

 

詳しく状態を診るために触れようとしたとき、寝込んでいた少女から声をかけられた。

 

「っ…え、えと……」

 

「……」

 

どう答えればいいだろう。ええと………とりあえず落ち着いて。

 

「……薬師。医療の知識は多少ありますが……薬師、です。」

 

「薬師…様?」

 

…嘘は言っていない……というわけでもない。実際、創造師は薬師…もとい調合師よりも錬金術師に近い。違いといえば何もないところから生み出すか、触媒を元に何かを生み出すか。とはいえ、魔術に何も噛んでいないような人には薬師が一番分かりやすいと思う。

 

「……あの方達は?」

 

天幕の方を見ながら言ったために彼女も理解したようで、表情を消しながら呟く。

 

「彼らは…私を救わない。…人は、人を救わない…」

 

…………なるほど。病に侵されながら、それを治癒しようとしない信徒達。それで、この世界に絶望した……という感じだろうか。

 

「少し、診させてくださいね……目を閉じていてください」

 

「………」

 

訝しみながらも目を閉じてくれる彼女の額に手を当てる。……免疫低下による風邪。免疫低下に関しては不治性のものではなく、治癒可能。ただし低年齢なため抗生物質の分量は十分に注意…

 

「あの……?」

 

「目を開けても大丈夫ですよ。…ええと」

 

指を鳴らして木製の薬箱を出現させる。いきなり現れた薬箱に驚愕している彼女の前で薬箱を開き、薬の調合を始める。

 

「薬草とアオキノコと……アルビノエキスは絶対に要らないね…」

 

『そうだね、アルビノエキスは滋養効果を強力にするものだから小さな子の身体には逆効果だと思うよ。』

 

「ハチミツ……もだめかな」

 

『あー……どうだろう。私達の世界のものは置いておいてこの世界のって考えると……』

 

…ミラさんがいてくれて正直助かったと思ってたり。ハンターさん達から調合は習ってるものの未だ分からない部分は多い。

 

「…これで完成かな」

 

『げどく草とアオキノコ…それにウチケシの実と太陽草で“解除薬”。コレって結構子供にはキツイ薬だったような気もするんだけど……アルビノエキスや滋養エキス、それに加えてにが虫とグリーンハーブとかやらないだけまだマシなのよね……』

 

……“グリーンハーブ”はバイオハザードではなかっただろうか。という疑問はひとまず置いておくことにして。

 

「これを、ゆっくり飲んでください。…すこし、いやかなり苦いと思いますけども……」

 

「は、はぁ……」

 

困惑しながらも飲んでくれる彼女。…わ、すごく苦そうな顔してる……

 

「…あ。身体が…軽く」

 

効いた……らしい。この薬に即効性はない、と聞いていたのだけども。

 

『苦いけど本当に一時的…一時的な即効作用は現れるんだよね。』

 

『というと?』

 

『大体飲んでから10分後に飲む前の状態に戻る。でも、薬そのものは効いてるから5時間後には普通に動けるようになる。』

 

即効と遅効の二段構え……ということは。

 

『今動かさない方がいい感じですかね?』

 

『そうだね。もっと強い解除薬である“即効解除薬”だと動かしてもいいんだけど。…ちなみに私が昔使ってたのは“即効解除免疫剤”っていう超劇薬ね…逆にそれじゃないと効かなかったんだけど。』

 

ミラさんがそのあたり詳しいのは昔の経験もあったりするのだろうか。

 

「ん……」

 

「あ、身体は起こさずに。…数分後にまた元の状態に戻っちゃうので、そのさらに数時間後に体調が良くなるのを待ってください。」

 

「は…はぁ……」

 

改めて彼女を診る。…現在異常無し。徐々に免疫力が上がっているのも確認……もしかして。

 

『…ミラさん。もしかしてなんですけど、この“解除薬”って抗体を作るための薬だったりしませんか?抗体を作り、その抗体で相手となる病原体と戦えるかを試験するために即効性で病気を消してから再発、その後再発した病気を抗体で消す…みたいな。』

 

『……そう、なのかな?私専門じゃないし分からないけど…』

 

まるでワクチンのような性質をしているような、と思った私は多分間違っていないと思う。

 

「……では、私はこれで……」

 

安静にするのに(部外者)がいるのは多分不味いと思う。経過観察はしたいものの、精神を疲労させるのは病状の悪化を招きかねない。そう思って、立ち上がる。

 

『待って、ナナコ。』

 

「…?」

 

天幕の方へ向いたとき、フォウに呼び止められる。

 

「ぁ……」

 

『何か言いたげだ。…聞いてやれば?』

 

「お待ち……ください、ま……うっ……」

 

掠れるような声と辛そうな声。その声に、思わず振り向く。布団から這い出るような彼女の姿がそこにあった。

 

「……わた、くしは───殺生院……」

 

その辛そうな声に彼女に近づき、身体を布団の中に戻す。

 

「あ、ありがとうございます……改めて、私は……殺生院、祈荒。薬師様……どうか、もう少し……一緒に、いてはいただけませんか……?」

 

『……もう少しいてやれるかい、ナナコ。』

 

フォウが言うのなら……

 

「……私などでよければ。ともかく、状態がよくなるまでは安静にしてください。」

 

「…はい……ありがとう、ございま…す……」

 

そう言って彼女は眠りについた。…彼女が目覚めるまで、静かに待つとしよう。




裁「そういえばマスター」

んー?

裁「生前アルにも聞いたんだけど、マスター達の夜属性とかって一体何なの?」

あー…それか……

裁「陽詩さんに夜・闇属性が6倍弱点っていうのは聞いてるけど…」

んーとね……どう話すのがいいのか……

裁「全貌理解してないの?」

地味に複雑だから説明面倒なんだよねー…ええと。

とりあえず、時刻属性…朝、昼、夕、(こん)、夜、(あけ)……それから虹の七属性。朝は昼に強く(昼は朝に弱く)昼は夕に強く(夕は昼に弱く)夕は昏に強く(昏は夕に弱く)昏は夜に強く(夜は昏に弱く)夜は明に強く(明は夜に弱く)明は朝に強い(朝は明に弱い)

基本形として二弱二強二対で、虹は常に全てに対して等倍(全ては常に虹に対して等倍)。対面となる朝と昏、昼と夜、夕と明は互いに弱点。

残りの強弱はそれぞれ朝は夕にさらに強く(夕は朝にさらに弱く)昼は昏にさらに強く(昏は昼にさらに弱く)夕は夜にさらに強く(夜は夕にさらに弱く)昏は明にさらに強く(明は昏にさらに弱く)夜は朝にさらに強く(朝は夜にさらに弱く)明は昼にさらに強い(昼は明にさらに弱い)

“さらに強い”っていうのは3倍弱点…与ダメージ3倍になる属性。逆に“さらに弱い”っていうのは1/3耐性…与ダメージが1/3になる属性。

……一応記憶してるのはこのあたりかな。こんど正式な相関図作っておく…

裁「相関図作ってなかったの!?」

説明すると思ってなかったからね。とりあえずあの子達の時刻属性と基本属性は下みたいな感じよ。

氏名時刻属性基本
無銘
魂込 星海
創詠 月
雨照 陽詩
魂込 星乃
亡月 美雪
夢月 璃々
不明不明不明


裁「わ、夜に近い属性ばっかり……!?」

陽詩が朝属性なのは太陽神の巫女としての側面もあるからだし。実際私も夜属性だからね。

裁「え、そうなの?」

ん。夜・星属性だよ。基本属性に関してはホントに量が多くて面倒になるからまたいつか。


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第308話 病状経過観察

仕事のために寝ないと……

裁「ホント早く寝たらどうなの…?」

寝れない……


「……私って医者じゃないんだけど……いていいものなのかな……」

 

『いいんじゃない?…でも、ここの宗教の教え……それに染まるのはやめてよね。キミ達は何にも染まっていないからこそ大きな価値があるんだ。…別にボクはそれだけが目的というわけじゃないけど、キミ達の魅力が半減…どころか7割減はする気がする。』

 

え、えぇ……

 

『フォウさんの意見に同意かな。宗教の教えって大体がロクなものじゃないし。』

 

その同意を示した(るな)さんの言葉にフォウが驚くような表情をした。

 

『あれ、意外だね。月神の神官にあたるルナが宗教の教えを否定するなんて。てっきりボクの言葉を否定すると思ってたんだけど。』

 

『神や霊魂、妖怪や魔物は信じても宗教に関しては信じませんから。大体が人が創り、人の都合や人の罪状で成立しているようなものですから。“神代に存在したか”すら不明瞭な……そうでなくとも、一部でしか存在が明かされていない神になんの意味があるのか。』

 

『……へぇ』

 

『日本に存在するは八百万(やおよろず)の神、とは言いますけどもその神は記紀神話に存在するか大衆に知られている神でなければ当てはまらないと考えていますから。』

 

そんな話をしていると、背後から木の擦れる音がした。

 

「あの……」

 

「…体調はよくなりましたか?」

 

振り向きながら聞くと、そこには祈荒さんが立っていた。…5時間、経っていたようだ。

 

「はい、薬師様のお陰で……本当に、ありがとうございます。」

 

その言葉に私は首を横に振る。

 

「人類の軌跡が貴女を救っただけで、私は何も…私はただ、それを示しただけに過ぎません。」

 

『人類の軌跡って言っても異世界のだけど…』

 

人の軌跡であることには変わり無い、と私は思うのだけど。

 

「それでも……それでも、薬師様がその道を示し、私を救う選択をしてくださったのは事実です。私は、貴女という薬師様に。確かに、救われたのです。」

 

「……」

 

力説されてしまったものの、どう返したものか分からない。ひとまず私が座っている隣を示すと、祈荒さんは私の隣に座った。

 

「…薬師様。お話を、聞かせてくださいませんか?」

 

「私の話……ですか?」

 

「はい。実は、私は一度も下界に降りたことがありません。下界より来たりし薬師様のお話を、是非とも聞かせていただきたいと。」

 

「……」

 

何を話せばいいのか分からない。ひとまず、私の記憶を話すことにした。…未完成ではあるものの、今までの旅の話を。

 

「多くの人を救う……それはまさしく、菩薩のようです。薬師様はこの先もその御力できっと多くの人を救うのでしょう…」

 

「そんな……私に、力なんて。私の仲間さん達が力を貸してくれているからこそ、人を救えているだけで。…私自身が、誰かを救えているなんて…とても。」

 

「何をおっしゃいますか。…私は、貴女に救われたのですよ。」

 

「…そう、でしたね。」

 

そうだった、と私が呟くと同時に祈荒さんが小さく息を吐いた。

 

「それにしても、薬師様のお話はまるで物語のよう……どこか人を惹き付ける、そんな気がいたします。」

 

「……どう、なのでしょうね。きっと今も誰かが私達を観ている……それでも私は、誰かを惹き付けるような旅路を、誰かを惹き付けるような軌跡を辿れているか分からないのです。」

 

“お母さんは昔から自信がない”、と(るな)さんは言った。お母さん、というのは私も知らない……監獄塔にリッカさんが囚われていたとき、干渉してきた誰かのことだと思う。……私達“星の娘”は、どうやらその“お母さん”の話し方や性格なんかを強く引き継ぐようで。私が自信をもって断言できないのも、多分そこが関係しているのだろう。

 

「…気分を悪くしたのならごめんなさい。私、以前から自分自身に自信を持てないんです。」

 

「い、いえ…!未完成のお話でも、私にとっては新鮮ですので!…私、物語というものは大好きなのです。薬師様が来る前、私の心の拠り所といえば物語でしたので。」

 

「物語……」

 

すこしお待ちください、と言って布団の方に行ったかと思うと、数冊の本を持って戻ってきた。

 

『ブッ!?』

 

『……フォウ、失礼だよ?』

 

と、私は言うものの……1番上にあった本の名は“マッチ売りの少女”。作者は、“ハンス・クリスチャン・アンデルセン”───なんというか、その……暗い話を選ぶなぁ、と。

 

「私、アンデルセン様の書き上げた物語が大変に好ましいのです。理想像の幸福だけでなく現実像の不幸までも描かれ、単純な外皮と成った幸福だけでは終わらないところがもう……寝たきりであった私の現状を、思い起こさせるようで。」

 

「……」

 

暗い話だろうと、明るい話だろうと、物語は物語。どんな話が好きかは人による。個人の趣味を否定する権利は、他人にはないと思う。それに…今の話。

 

もし…

 

「薬師様?」

 

もし、あなたが最初から幸福であったのなら。あなたはどう考えていたのだろう。

 

「………????」

 

…ふと、そんなことを考えてしまった。…関係ないか。今ここにいる祈荒さんはここにいるのが総て。予測で現実を否定するのも、好ましいとは思えない。

 

「…なんでもないです。それよりその童話、私が読み聞かせてあげましょうか?1人で読む時とは別の視点で物事を捉えられるかもしれませんよ。」

 

「まぁ、よろしいのですか!?御迷惑でなければお願いさせていただこうかと思っていたところなのです!」

 

祈荒さんが複数の本の中から選び始めたのを見ると同時に、私はフォウとミラさんの方を見る。

 

『ヤバい、笑い死にそう…!知識としては知ってたけど、実際に目の当たりにするとさ…!!』

 

『笑いすぎじゃない?流石に失礼だと思うけど…』

 

『コイツの本性を見たらミラでも同じこと言うと思うよ…!記録もしたし、英雄王へのお土産もばっちりさぁ…!くくく……!!』

 

『……はぁ。』

 

…これ、ミラさんは呆れてるのか困惑してるのか…多分困惑してるんだと思うけど。

 

「それではこの“人魚姫”を……薬師様?」

 

「ん…あぁ、ごめんなさい。」

 

そうだった、フォウとミラさんの姿…あと(るな)さん達の姿も見えないんだった…………ん?

 

『………あれ?(るな)さん?』

 

『うん?』

 

『……私の外に出れたんですか?』

 

『………あ、忘れてた。』

 

え?…と、困惑しているときに祈荒さんが笑う。

 

「…ふふ、薬師様には私達には見えないものが見えているのですね。」

 

「私達…?」

 

(るな)さんが外に出ていることよりも、妙にそれが引っかかった。

 

「えぇ、私達…悩みに惑う衆生には見えぬ仏を。その眼に垣間見ているのでしょう。真に、頭が下がるばかり…」

 

……うーん。仏……仏……確かに、(るな)さん達は神様の依代たる霊魂だし、ミラさんは一応“英霊”。…それは、私もか。とりあえず、“(死者)”であることには変わりはない……“英霊”の本来の意味であれば。ただ、ここにいるのは───

 

『ヤッベェお腹痛い!ナナコ、絶対に帰るよ!あの童話作家に見てもらわなくちゃ、ヒィー!』

 

『…誰か助けて』

 

『激しく同意します…』

 

───馬鹿みたいに笑い転げている動物と思考放棄した妖精さんと超絶ほんわりしている神様の巫女しかいないんだけど…

 

「薬師様?…もしや、私が何か…?」

 

「……いえ、少し考えていただけですよ。…さ、読みましょうか。」

 

薄く周囲に結界を張り、静かに物語を読む。祈荒さんはそれを静かに聞いていた。




裁「わ、アルったら最後割と強めの毒吐かなかった?」

そうかな……


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第309話 “人”とは

星見の観測者「特に異常はない、か。……一体何のために連れ去ったのか。」


病状を確認しながら滞在し続け、早数ヵ月が経った。悪化の兆しは見られず、完治したと考えてもいいはずだ。再発の危険性があるため、もう少し様子を見るつもりだが。…だが、璃々さんがその能力でこの時代を私達にとっての夢にしたとはいえ。夢にしては長すぎるのもあり、色々心配になってくる。

 

『ところで(るな)さん、(るな)さん達って外に出られたんですね?』

 

『厳密には違うよ。今見えているのは私という立体映像(ホログラム)…魂の一部。人格としての魂は結局七虹の中にある。』

 

ふむ……

 

『どうしたの、いきなり…何か気になることでもあった?』

 

『……いいえ、特には…』

 

ただ単にどうなっているのかが気になっただけで、それ以外に深い意味はない。

 

「ここに居られましたか、薬師様。」

 

その声に振り向くと、祈荒さんがそこに立っていた。…今は真昼、この時間帯に話しかけてくるのは……酷く、珍しい。というか───

 

「…読経、写経はもういいのです?」

 

本堂の方からお経が響いているのが少し離れたここからでも聞き取れる。…聴力強化していると鮮明に。私の問いに、祈荒さんは疲れたような表情で口を開いた。

 

「あんなもの、ただの時間の無駄でしたので。読経も写経も戯言にすぎません。」

 

「よくいうなぁ…」

 

「事実です。小娘一人救えぬ教えの何処に悟りへ至る道がありましょう?皆、同じ言葉を気が狂ったように繰り返すばかり。私、もう疲れてしまいました。このように自らを収めるための行為に何の意味がありましょう。」

 

……ふーむ…

 

「自らを律する、という意味ではあるといえばあるのでしょうけどね。…そんな簡単なものでもないでしょう、祈荒さんが感じたものは。感じるものは人それぞれ、私の意見などただの1つの考え方だとお思いください。」

 

「はぁ……」

 

「…とはいえ、集団の中で自らの意見を貫き通すのは難しいもの。それができる祈荒さんは将来大物になるかもしれませんね。」

 

…私は、それができるタイプではないし。素直に尊敬する。

 

「……薬師様。人は、なぜ人を救わないのでしょう。何故、自らの信じたいものばかり信じ、他者を救おうとしないのでしょう…?」

 

………

 

「天幕の向こうより来たりしは貴女様ただお一人のみ。信者達も父も、誰一人として私という人を救いに来ようとはしませんでした。…何故でしょう。薬師様は、その答えをお持ちでしょうか…?」

 

その問いに祈荒さんの方を向くと、強い疑問と期待を感じた。…人が人を救わない答え、か。

 

「…弱いから、じゃないですかね。」

 

「弱い……?愚かなのでは、なく?」

 

「えぇ……“人”という生き物はあまりにも弱く、あまりにも脆い。その弱さは“無力”と言っても過言ではないでしょう。…貴女の父やここの信者はもちろん、貴女を救った、という私ですらただの無力な小娘でしかありません。」

 

人というのは他の生き物と比べれば比較的無力な生き物だ。道具を使う知恵がある、とは言えるが反面“人間単体”だと何もできないことの方が多い。

 

「弱いからこそ、架空なれども大きな存在に庇護して貰おうと縋る。幼子が親に甘えるかの如く。幼子の如く無力故に他の存在を救うだけの力がないのでしょう。しかし、それは大多数の人間の話。少数なれど、他の存在を救える力を持つものがいるでしょう。」

 

ただ、と一呼吸おいてからもう一度口を開く。

 

「残念なことかもしれませんが、その少数は本当にごく少数。絶対数がそもそも違いすぎる。故に救われる人は限りなく少ない。そして救える側も自らのことに手一杯な場合がほとんどでしょう。祈荒さんが言った“自らの信じたいものばかり信じ、他者を救おうとしない”の答えはここにあるのかと。」

 

「救う側が……手一杯。…では、薬師様。人というものは、救われることなく、迷い果て、やがて打ち捨てられる存在なのでしょうか。…救うことも救われることもなく、ただ滅び去るのみなのでしょうか…?」

 

絶望を含んだような問いに対し、首を横に振る。

 

「“人はいずれ、救いに至る”。今、人は救いに至るための“種”を蒔いています。それらが一斉に芽吹き、花を咲かせ、最終的に“実”を成らせた時。人は救いに至るでしょう。人類の歴史というのはその種蒔きと芽吹きの積み重ねです。種を蒔き、芽吹かせ、また種を蒔き───そうして、より良い実を結ぶために歩んでいる。私はそう思っています。」

 

「救いの種、ですか……」

 

「…酷く、抽象的でごめんなさい。」

 

「い、いえ……」

 

祈荒さんは少し考えたあと、遠慮がちに口を開いた。

 

「…薬師様。薬師様の御力を持ってしても、大勢の人を救うことはできないのですか…?」

 

「……先程、言ったでしょう。私に人を救う力なんてありません。そも、私は───」

 

次の言葉を口に出そうとしたところで、止めた。

 

「……そも?」

 

「…忘れてください、特に何もありませんので。」

 

……“どちらかといえば救う側というより堕とす側だろう”───なんて。伝えるべきではないだろう。

 

『七虹……大丈夫?』

 

『…うん』

 

お母さんの声で少しだけ落ち着く。…お母さんの声って、やっぱり落ち着くんだよね。

 

「…人とは……人とは、悪徳を為す生き物です。そのようなものが、救いに至るなど……いえ、救う側に至れるなどあり得るのでしょうか?」

 

「………」

 

この表情は……あぁ、なるほど。

 

「…十人十色、という言葉があります。雑にいえば、人それぞれ違う特色を持つ…ということです。悪を為す人もいれば善を為す人もいる。また、本質が善であっても悪を為す人もいれば、本質が悪であっても善を為す人もいる───個人的な感想ではありますが、人は悪を為しやすい。悪を積み上げ、その心を堕としやすい。…しかし、そんな中でも善を為すことがあるのが人という生き物です。どのような悪でも、どのように醜くとも、ふとした時に善行を為す。人の心というのは摩訶不思議───でも、だからこそ尊さがあるのでは?」

 

「……っ」

 

「人は等しく救いに至るための切符を持つ。悪を為すものも善を為すものもそれは変わらず、またその切符の形もそれぞれ唯一無二のもの。…人の“生”に意味などありませんが、人の“生きた証”には意味があります。また、言い換えればそれは人の“生命”には意味が…価値があります。悪を積み上げれば遺る証は悪の糸となり、善を積み上げれば遺る証は善の糸と成る。人類史とはこの善と悪の糸を紡ぎ、束ね、織り合わせた大きな織物のことですから、それぞれの生命の価値に優劣などなく。総ての生命は等しい尊さを持つ───」

 

…私が、“記録(レコード)”の理を持つ者として出した答えは。…本当は、“彼”に最初に伝えるべきなのだろうけれど。

 

「“総ての生命は等しく尊く、等しく唯一無二であるもの”。どのような生命の軌跡も、どのような生命の死も、決して無意味ではなく、どんなに小さくとも意味があるもの。」

 

そう話している時に視界の先で空が赤くなる。…夕焼け。ということは……

 

『16:54……そろそろ日の入りかな』

 

『さすがは時祀の巫女様ですね…』

 

陽詩さんが呟いた言葉に美雪さんが反応した。言われた陽詩さんは微妙な表情をしていたが。

 

「そうして積み上げられた小さな“意味”はやがて大きな“意味”へと変わる。“塵も積もれば山となる”───まさしくその通りで、その積み上げられた結果が貴女の病を治した薬でもあるのです。一人一人の形が異なる中で、その一人一人が人類の価値を…人類の意味を形作るもの。」

 

そこまで告げてから祈荒さんの目を真っ直ぐと見据える。

 

「たった1(ピース)でも欠ければ完成しない人類史と呼ばれる紋様(ジグソーパズル)。だからこそ、“総ての生命は等しく尊い”───そう思いますよ、私は。」

 

…それが、“記録者”として私が辿り着いた答え。何処かの記録が欠ければそれは正確な記録ではなく、真の形には成り得ない。

 

「………」

 

「…少し、難しかったですかね。もうしばらくは居ますからゆっくり考えてください。」

 

私は誰かに何かを伝えるのが苦手だ。私の言葉が、ちゃんと伝わっているかも分からない。…少し時間を置いて、祈荒さんが何か答えを見出だすのを待とう。




?〈Starlight Executor〉

裁「う……ん…?」

…あ、リカ。ごめん、起こしちゃった?

裁「マスター…?何して………って、魔法?」

んーん。これはシミュレータ。私が魔法の威力をテストするために作ったSpell Road Algorithm Simulation System(術式導線手順仮想稼働機構)……通称“S.R.A.S.S(スラッス)”。知っての通り私には魔力がないからね。機械的な仮想演算で魔法を再現してるの。

裁「機械的な演算…って、デバイスみたいな……」

デバイスは魔力を使うじゃない。こっちは魔力を使わないから。…というか、デバイスみたいに外に魔法を出力できるわけじゃない。演算内でどれくらいの火力が出るか、どれくらいの破壊力があるかをテストするためのものでしかないから。

裁「……」

…ホント、現実だと才能や技術なんてないからさ。こっちじゃないとこういうのできないんだよねー。……何かする前に諦めることが多いのも問題かもだけどさ…

裁「ほとんどそれじゃないかな…」

長続きしないんだよねー…ホントに。


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第310話 獣の種が導く答

創造……魔法だろうと世界だろうと物質だろうと…理だろうと作れてしまう創り手の……というか、人間の基本能力。まぁ、現実で物質として形に出来るものではないけど。

裁「基本能力……」

創造───創りあげる力、じゃなくて想像───想い象る力と言えば分かる?人は誰でも“仮想”に対して何かを創り、生み出し、定めることが出来る可能性を持つ。一番分かりやすいのはVRワールド。あの世界の全ては電子で構成され、その構成されたオブジェクトの形は人間がその世界に創造したもの。

裁「…」

リカや(るな)達の“創造”の力はそれをリカ達から見た現実世界───もっともみんなここが現実世界じゃないって知覚しちゃってるけど───において想像から創造に組み替えて自由自在に操れるように定めたもの。…他ならぬ、私の手によって。

裁「…そう考えると、想像の力って危険だよね…ここまで出ているだけでもその力のたった一端。それだけで、十分にチート性能なんだから。」

そうね。…この力は創り、産む“創造”の力であると同時に壊し、殺す“破壊”の力でもあるからね。創造と破壊は表裏一体。何かを壊せば何かを創る。何かを創れば何かを壊す。…気を付けないとね。


「ふー………」

 

あれから数日が経った。祈荒さんはまだ答えが出せないようで、目に見えて悩んでる表情なことが増えた。

 

「っ」

 

 

パァン!

 

 

「「「よし!」」」

 

的の割れる心地良い音と(あたり)を称える声が響く。…ここは山の麓、その近くにあった小さな弓道場。和弓を引いていると心が落ち着くため、度々顔を出して弓を引かせて貰っている。

 

「───確認お願いします」

 

「入ります───大前から、一中、羽分、皆中、一中、皆中です!」

 

「結構です───おぉい、マジかぁ…」

 

結果を書いてた男の人が頭を抱えていた。

 

「裏の手みたいな感じで衛宮を連れてきて貰ったってのに互角ってマジかよ……」

 

衛宮、とは確か第三射場に立ってた男の人だ。男女混成五人立───これが今回の構成。

 

「…なぁ、ナナさんよ。上手く中るコツとかあるのか?どう考えて引いたら中りやすいとか。」

 

「……いえ、私特に何も考えてませんけど…」

 

祈荒さん関連で考えてることは多いとはいえ、弓を引いているときは一度思考をリセットしている。なんなら最後の矢は祈荒さんの事を考えていたのもあって不安定なはず。

 

「うぉぉぉ……分かんねぇぇぇぇ……」

 

……確かこの男の人はこの弓道場の生徒…その筆頭だったはず。私自身そこまで精度が良いと思っていないのだけれど。精度は良いらしい。

 

『七虹、そろそろ……』

 

陽詩さんの声でハッと気がつく。時刻は───14:21。

 

「今日もこの辺りで失礼しますね、私…」

 

「おーう…また時間ある時に来てくれなー……」

 

弓の弦を外し、弓袋をかけ、矢を矢筒にしまい、弽を弽袋にしまって道場を後にする。

 

「……もう大丈夫かな」

 

道場から見えない位置、周囲に何者の反応もない場所で隠れ、遮蔽物として結界を張ってから弓道道具と弓道着をストレージに格納、いつもの服を着用する。…システムウィンドウから服を変えたとしても、服が入れ替わるときは少しの間裸になる。一応上着を着ていれば見せないことも可能だが“下着”ならともかく“服”は風によって“上着”が飛びかねない。

 

「…これでよしと」

 

いつもの服に戻ったことを確認して結界を時限設定付きで解除。続いて(るな)さんの空間を繋ぐ力を使って山の中に転移する。

 

『七虹、比較的近い場所に悪魔の反応があるよ。…脅威度は低いけど狩っておいた方がいい。』

 

「分かりました。」

 

(るな)さんの言葉に探知術式を起動する───(るな)さんは“悪魔の波長”というものに慣れすぎて直感や空気感で探知できるらしいが、私はそうもいかない。

 

「───想像段階(イメージ・ステップ)

 

…“器物生成”。創造の下位互換───未だ、私はそれを低精度でしか使えない。

 

「…いた。───生成段階(フォーム・ステップ)

 

山の中を移動して湧出していた悪魔に狙いを定める。

 

「───起動(スタートアップ)狙撃針(スナイパー・ニードル)

 

生成するのは投げるのに───否、狙撃するのに特化した“狙撃針”。見た目はただのスローイングピックでありながら、その射程は600m。…生成しておいてなのだが、針で、しかも片手投げでどうしてそんな射程を叩き出せるのか不思議で仕方がない。

 

「“音速投擲(ソニックシュート)”───」

 

私の宣言と投げと共に狙撃針が悪魔に向けて飛んでいく。当然というか、命中。だって40mしかないし。投げる前に静音結界仕込んだため断末魔も響かない。悪魔の魂…は、とりあえず回収。

 

「ここにおられましたか、薬師様。」

 

「っ!?祈荒さん!?」

 

背後から聞こえた声に驚いて後ずさる。…今の、見られていただろうか。

 

「……お取り込み中でしたか?」

 

「い、いえ……ここまで来るとは思わなかったので……ここはお寺から少しとはいえ離れていますし…」

 

「……あぁ、なるほど。私と話すときはいつも寺の中でしたものね。薬師様を探しても寺の中に居りませんでしたので、薬師様に頂いた御守りを使って外に出た次第です。」

 

あぁ、と思って思い出す。認識改竄の魔法と追跡誘導の魔法が仕込まれた御守りを祈荒さんには渡していた。追跡誘導は相手が遠すぎると使えない、とは伝えてはいた───が、山の中なら十分追跡可能範囲だ。

 

「それで、どうしてこちらへ?」

 

「…私なりの答えを出しましたので。薬師様に、聞いていただこうと。」

 

「……では、立ち話もあれですし場所を変えましょうか。少々失礼しますね。」

 

そう言って祈荒さんを抱き、薄く地面から浮く。滑るように移動するのが山の中だと早い。

 

「…っと。到着です。」

 

「以前からですが、本当にお早いですね……ここは?」

 

「んと……前からあった場所です」

 

着いたのは数日前に見つけた小屋。掃除はしておいたため綺麗にはなっている。そんな中で指を鳴らし、薬箱から瓢箪と湯呑みを取り出す。

 

「………どうぞ、粗茶ですが。」

 

「…あの、その瓢箪は……?」

 

「“湯沸き瓢箪”……まぁ、お気になさらず。」

 

“湯沸き瓢箪”。正式名称“薬湯の瓢箪”───(るな)さんが作った魔道具で、SEKIROの“傷薬瓢箪”から発想を得たらしい。傷も病もない存在が飲んでもただのお湯、とは(るな)さんが言っていた事だ。ちなみに薬湯とは本来“薬効のあるお風呂”のことだが、この瓢箪の“薬湯”とは“温かい治癒薬”のことでお風呂ではない。

 

 

閑話休題。

 

 

「それで……どのような答えを出したのですか?」

 

湯呑みの中身が空になったのを確認してから問う。祈荒さんは少し迷うような表情をした後、口を開いた。

 

「薬師様…私は、菩薩になりとうございます。」

 

無言で続きを促すと、少し緊張したような声で言葉を紡ぐ。

 

「迷える人を見守り、時に救いを共に目指し、人々が救いに至るまでの助けへと。…私なりに、なろうと思います。」

 

「菩薩…ですか。」

 

菩薩───仏教において悟りを求めるもの。他にも色々定義が存在したりするが…恐らくこれが本来の意味だ。

 

「迷い、悩み、苦悩する方々を助け、少しでも重荷を軽くしてさしあげたいと思います。…薬師様は、笑われるでしょうか?たった1ヵ月しか共にいない方に影響され、このように大それた事を口にする幼子と。」

 

…………数ヵ月経っていたように思っていたが、1ヶ月しか経っていなかったか。どうも、時空間の歪みを対処していると時間の感覚が狂う。それはそれとして───

 

「人の生き方は人それぞれで、どのような生き方も否定できるようなものではありません。…本来は。故に、祈荒さんが出したその答え、祈荒さんが挑もうとしている生き方は祈荒さんの唯一無二になるでしょう。…どうか、その想いを忘れずに。」

 

小屋の中を優しい風が吹く。冷たい風ではあるが───優しい、風。

 

「貴女が見つけた想いは貴女だけの理。決して全てが得られるものではない。いつの日か真に形になると、私は思っています。」

 

「───はい、薬師様。」

 

「…あぁ、でも───」

 

私が口を開くと、祈荒さんは首をかしげた。

 

「───1つだけ、言わせていただきますね?もう、私はこの地にいられる時間が短いでしょうから。予知夢…とでもいいましょうか。数日前に夢に見たことがあるのです。」

 

「夢…ですか?」

 

「はい。貴女はいずれ、この山を出ていくことでしょう。私が引き留めなければ、今すぐにでも。」

 

「っ!?」

 

図星だったようだ。その表情が驚愕に染まった。

 

「別に出ていくな、とはいいません。ですが、“今”は流石に。今の貴女は、あまりにも若すぎる。」

 

「あ……」

 

彼女は8歳。そんな年齢の少女が、独り身で生きていくにはこの世界は危険すぎる。

 

「だからこそ───せめて10。来年、貴女がこの世に生を受けた日を迎えたなら。この山を出てもよいでしょう。……あまり、貴女を縛りたくはありませんが。」

 

「いえ………ありがとうございます、薬師様。…えぇ、そうですね。考えを改めて、10を過ぎた後に山を降りようと思います。」

 

その言葉を聞いて、安堵するような声が陽詩さんから聞こえた。…予知夢、とは言ったものの実際は陽詩さんの“未来予知”。可能性かもしれなかったが、“起こりうる事象”であったのは間違いない。陽詩さんが“時間を司る力”で視えた1つのifを私に伝え、検証し、比較的安全になる10歳以降を勧めた、というわけである。……それでも完全に引き留められるわけではないが。

 

「山を降りた後、私なりに人を癒し、救いましょう。人が済度の日取りに自らの手で至るのを信じ、迷えるもの達を立ち上がらせてみせましょう。」

 

そう言って祈荒さんは私の方に立ち上がって手を差し出す。

 

「───時の果てで、思い出していただけるでしょうか?森の中で菩薩になると誓った身の程知らずな小娘がいたと。貴女に救われた1人の女がいたと───」

 

少し間をおいて、明確に言葉を紡ぐ。

 

「あなたが私にしてくれたように、誰かを救いたいと願った女が。この森の中に確かにいたのだと。」

 

「───えぇ、忘れません。そして───」

 

差し出された手に私の手を重ね、私側も立ち上がる。

 

「いつの日かまた逢いましょう。この世界のどこかで生きる限り、巡り逢う可能性は高いのですから。また巡り逢えたそのとき、貴女のその時までを見せてください。」

 

「───はい、必ずや。」

 

先程よりも強く風が吹く。冬だというのに、どこか温かい。その風に、ミラさんが反応した。

 

『“祝龍風”……?なんで、この世界に…?』

 

『祝龍風?なんだい、それは?』

 

『人の門出を祝う時とかに吹く強めの温かい風のこと。龍風圧と似てる性質持ってるから何かしらの古龍が吹かせているんじゃないか、っていう風。』

 

『へぇ…』

 

そんな風があるのか、と私は少し思う。

 

「───あぁ。世界とは美しいものでございます。そこに生きる全ても尊く、また唯一のもの───」

 

その言葉に私は頷く。…もう、大丈夫だろう。

 

「……祈荒さん。これを。」

 

私が懐から取り出したのは御守り。虹が刺繍された御守りだ。

 

「これは…?」

 

「私の分身…とでもいいましょうか。…ただ、それだけです。突然ですが、今日にはここを発つつもりですので。」

 

「……」

 

「本当に突然で申し訳ありません。…どうか、これを私だと思っていただければ。」

 

事実───ここ最近、私の身体は不安定になっていた。この時空に実体を留めていられない、というか。この時空から完全に消えてしまう前に、祈荒さんが答えを出してくれてよかった。

 

「……薄々と」

 

「?」

 

「薄々と、感じておりました。薬師様がこの地にいられる時間はもう少ないと。…分かりました。こちら、お預かりしますね。」

 

そう言って私をまっすぐと見つめる祈荒さん。

 

「いつの日かまた巡り逢えたとき、こちらをお返しします。…誠に、ありがとうございました。」

 

「…こちらこそ。いつの日か、また。」

 

「私の見送りは結構ですので。薬師様は次なる場所へとお急ぎくださいませ。」

 

では、と言って祈荒さんは小屋を去っていった。

 

「…………今の、大丈夫だったかな」

 

『……ギリギリ大丈夫じゃないかな。…っと、単独顕現のブロックが外れたよ───』

 

フォウの声が聞こえた直後、私は足から崩れ落ちる。

 

『ちょっ、ナナコ!?』

 

「……あ」

 

手が、揺らぐ。実体から霊体に。霊体から実体に。それを、繰り返す。

 

「───落ち着け……」

 

集中───私にはまだやることがある。強く集中して存在を補強する───

 

「……ふぅ、なんとかなった。」

 

『ホント、無理しないでよ!?』

 

『…七虹、でももうそろそろ限界だよ。心意補強はこれで最後にしないと貴女の魂そのものが崩れる。』

 

……星乃さんの言う通りだ。この時空にいられる時間はもう0に等しかった。

 

「…1つだけ。あと1つ、やらないと。」

 

『……カルデアに帰ったら速攻休むこと。いいね?英雄王には連絡しておくから怒られるのも覚悟すること。』

 

フォウの言葉に頷き、私は立ち上がった。

 

 

───その時空での全てが終わってカルデアに帰還できたのは、それから1時間後だった。




裁「そういえばマスター、S.R.A.S.Sはシミュレータなんだよね?」

え?うん。

裁「なら、エミュレータってあるの?」

あー………いや、一応案はあるんだけど使わないかなと思って創ってないんだよね…

裁「あ、そうなんだ?」

基本的に実機を創れるからねー。ワールドクリエイトリソースは枯渇するものじゃないし。エミュレータ…模倣稼働装置はあまり必要ないかなー…

裁「あれって枯渇しないんだ…」

ワールドクリエイトリソースは源が想像力だからね。


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第311話 休息の一時

(るな)「結構長く続くね?」

そうだねー…これで2週間経ってないからね、作品内時間。

裁「この日って確か……準備はできたけどお兄ちゃんが働きすぎだから一緒に休むように、ってギルに言われた日だっけ…?」

弓「……我だったか?」

裁「……………あ、ごめん。私に言ってきたのマリーだ。」

弓「何故そこで間違える……」

裁「あ、それとごめん。この日って分かる人にしか分からないようなことやってるから聞き流す…じゃなくて読み流しちゃってもいいよー」


「だぁぁっ、負けたぁぁ……」

 

「や、やっと一勝か……六花殿は強いな……」

 

「俺のは多少雑なパーティでも対戦用に調整してるからな……さて次か……」

 

マシュのことを聞いた次の日。私、お兄ちゃん、ナーちゃん、マシュ、リューネちゃん、ルーパスちゃん、ジュリィさん、ミラちゃんは私の部屋で集まってゲームをしていた。

 

「そもそも旅パのフルアタ型は対戦には不向きなんだよな…剣舞やらトリルやらめいそうやら…レベル均等の状況下で勝敗を分けやすいステータス変化への対応ができねぇからな。」

 

「そういうものなの?」

 

「おうよ。まぁ攻撃技にもステータス変化起こすやつはあるけどよ…分かりやすい例では自分に影響を与えるのはニトロチャージで…」

 

「相手に影響を与えるのはいわくだきとかかな?」

 

「ふむふむ……攻撃だけに絞ったとしても色々考えることはあるのだね…」

 

…あ、今お兄ちゃんとリューネちゃんがやってるのは“ポケットモンスター”っていうゲーム。その第六世代───カロス地方が舞台のポケットモンスターXとポケットモンスターY。お兄ちゃんが自分の部屋から3DSを20台とソフト10本ずつ持ってきた。

 

「…今更だけどさ、お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「これだけの数、どこから持ってきたの?…というか、どうやってカルデアに持ってきたの?」

 

「あ?そんなん簡単だろ、結界を倉庫代わりにして持ってきたんだよ。カルデア(ここ)に所属になるとき、俺の家から配信機材やらゲームやら、根こそぎな。」

 

「………ゲーム廃人。」

 

「褒めんな。」

 

「褒めてないよ。」

 

……そういえば、お兄ちゃんって3DSは30台持ってなかったっけ。うち10台が偽トロキャプチャー改造済みだったはずだから………

 

「…………待って、お兄ちゃん。そもそもこの機材達どうやって……」

 

「師匠からの給料」

 

「………………………」

 

んー………と。…確か、お兄ちゃんってポケットモンスターシリーズは全バージョン10本ずつ持ってて…対応ハードも20台ずつは持ってたはずなんだよね。1度お兄ちゃんの家に行ったとき、山のように積まれてるニンテンドーゲームキューブ見てるもん。…で、そう考えると……

 

「お兄ちゃん……ポケットモンスターシリーズとゲームハードだけで億越えてない?」

 

「さぁな。行って1,000~5,000万、じゃねぇの?」

 

「いや十分額おかしいから。…まぁ、何となく理由は分かるけど……」

 

多分、複数人バトルとぜんこく図鑑コンプリートなんだろうなぁ…

 

「……そういやよ、リューネ」

 

「うん?」

 

「お前さん、さっきからパーティの一番最後にイーブイ入れてるが…何か理由あるのか?」

 

そういえば、リューネちゃんはずっと最後に色違いイーブイを出してた。

 

「?…駄目かい?」

 

「いや、駄目じゃねぇけどよ。ふと気になってな。そこまで強いわけでもあるまいし。」

 

「……“強いかどうかではなく好きかどうかで物事を語れ”」

 

リューネちゃんがどことなく懐かしそうに呟く。

 

「昔、ルーパスのお父さんに言われた言葉だ。どんなに弱いものだとしても、それが好きかどうかで物事を語れ。“好き”というただ一点だけで戦えるようになれ。自分の“好き”を信じ、ただ真っ直ぐに突き進め。それが真の使い手だ───ってね。」

 

「“自分の好きに対して絶対に妥協しないこと”、だっけ。昔言われたよねー。」

 

“好き”というただ一点だけで戦えるようになれ……か。

 

「どんなに否定されても僕は自分の“好き”を貫き通す。駄目かい?」

 

「ま……嫌いじゃねぇよ、そういうの。」

 

「そうか。」

 

「私も嫌いじゃないよ。…むしろそれは好きな方………あ。」

 

私のやってるゲームの方を見て声を上げる。

 

「ミラちゃん、ごめんそれロン。」

 

「……えっ?」

 

「ごめんなさい、あたしもロンよ…」

 

あ、ダブロン……

 

「立直一気通貫一盃口混一色───7翻40符、16,000点…かな?」

 

「四暗刻単騎───二倍役満、64,000点ね……」

 

「………合ってる?お兄ちゃん。」

 

地味に点数計算自信ない。

 

「あ?どれどれ…………なんだこの局」

 

 

「とりあえずリッカ、お前それ数え役満。13翻あるぞ。」

 

「え?」

 

「まず立直(1翻)。一萬から九萬で一気通貫(2翻)。四萬五萬六萬で一盃口(1翻)。萬子順子4つの雀頭字牌で混一色(3翻)。ここまでは7翻でいいんだが赤五萬と五萬でドラが3翻。んで裏ドラ対象が中と四萬で4翻……計15翻の数え役満。」

 

「………」

 

「七海は紛うことなき四暗刻単騎でダブル役満。……で、だ。」

 

お兄ちゃんがミラちゃんの方を見る。

 

「振り込んだミラの方なんだが、なんだこの牌。…なんで四槓子大四喜字一色を白単騎待ちしてんだよ。」

 

………え゛っ

 

「ルーパスもルーパスだ、これもう少しで緑一色じゃねぇかよ。…なんだこの局。よく四槓散了と四家立直で流局しなかったな?」

 

……ということは…

 

「全員役満待ち…?」

 

「そうなんだが……これミラのやつよく見たら七倍役満か。全部暗槓だもんな…」

 

「それって……和了られてたら勝ち目ないよね……?」

 

「東3局0本場…東家がルーパスでミラは西家だから親じゃないだけまだ点数は少ないが……まぁ、ツモ和了でも全員吹っ飛ぶわな。……白はまだ山に1枚残ってるし、可能性は十分にあったな」

 

「「「怖……」」」

 

「いや結局ダブロンの96,000点でミラは吹っ飛んでんだがな。どっちみち流局しなけりゃこの半荘……半荘か?は終わってたな。」

 

ホント怖いなぁ……

 

「マジでこの局どうなってんだ……」

 

「凄いんですね……あ、すみません詰みました」

 

「……ん?」

 

マシュの声にお兄ちゃんがマシュとジュリィさんの方を向く。確かマシュとジュリィさんは“上海”……えっと、“麻雀ソリティア”って呼ばれることもあるゲームをしてたはず。…お兄ちゃん、麻雀卓20卓と麻雀牌30セット持ってるのやっぱりおかしいような…その内10卓全自動卓だし……その内5卓がちょっとおかしい。

 

「あー…こりゃマジで詰みだな。どうする?同じ牌積みでやるか、別の牌積みでやるか……それとも積み方を変えるか」

 

「…どうしますか?」

 

「………別の牌積みでお願いします」

 

「おけ。RELOAD。」

 

………うん、特に今ジュリィさんとマシュが使ってる卓はおかしいと思うんだ。なんで上海の牌積み自動でできるの?ボイスコマンド対応してるし。ちゃんと同じ牌の積み方───数牌字牌花牌それぞれの積む順番のことだけど───できるのなんで??

 

「ほい、できたぞ。」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

とりあえず、そんなこんなで───休息時間は過ぎていった。




裁「なお、当時の牌はというと。」

ルーパス・フェルト(東家・一向聴)
二索 二索 三索 三索 四索 四索 八索 八索 八索 白 發 發 發

藤丸 リッカ(南家・中単騎待ち)
一萬 二萬 三萬 四萬 四萬 五萬 五萬 六萬 六萬 七萬 八萬 九萬 中

ミラ・ルーティア・シュレイド(西家・白単騎待ち)
東東 西西西西 南南 北北

有栖ヶ藤 七海(北家・中単騎待ち)
一筒 一筒 一筒 三筒 三筒 三筒 八筒 八筒 八筒 一索 一索 一索 中

ドラ
一筒 四萬 二筒 七索 中

裏ドラ
四筒 四筒 發 三萬 白


裁「ちなみに当時全く詳しくないからね、私達。その時に教わったばかり。」

ていうかなんで麻雀してたのよ……

裁「気分。」


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第六特異点 神聖円卓領域キャメロット 修正中
第312話 夢の邂逅


ふぁぁ……ねむい…

裁「寝てきたらー?」

そうする……

裁「おやすみなさーい………ん?」


「……ん………くしゅっ」

 

変な寒さで目が覚めた。……黒い床?カルデアじゃ…ない?

 

「よっ……と……って、あ。」

 

「あ………」

 

黒い壁にあったこれまた黒い扉の奥から、毛布を持った人が現れた。その人は、私もよく知る人で───

 

「目覚めたみたいだね。よかった。」

 

「……お久しぶりです、リカさん。」

 

───未来の私。黒い龍に敗北して、自らの世界を護れなかった───私。

 

「風邪とかひかないように毛布持ってきたけど、使う?」

 

「…いいんですか?」

 

「別にいいよ………って、許可とるようなことでもないでしょうに。」

 

そうかな……?

 

「ここに来たってことは起きたら特異点攻略なんだから。ちゃんと風邪引かないようにしなさいな。」

 

「特異点………これは夢なんですか?」

 

私の問いに彼女が少し考えて頷く。

 

「正確には、今の貴女にとっての夢で、今の私にとっての現実になる。夢といっても今貴女はここで存在していて……うまく説明できないけれど、夢を介して別の世界に接続してる感じ?」

 

「…秘封倶楽部のメリーさんみたいな感じってことですかね。」

 

「そそ。…飲み物はあったかい緑茶でいい?貴女にとって夢でも実際にこの世界に“有効的物質(アクティブ・オブジェクト)”として存在してるから、喉は渇くしお腹も空くはずだけど。」

 

……妙に現実味が凄い、気がする。夢なのに。

 

「リッカさん?」

 

「え……あぁ、緑茶で大丈夫です。」

 

「そっか。じゃあ今淹れちゃうね。あと軽く何か作っちゃうねー。」

 

……不思議な感覚がする。私が料理しているのを私が見てるなんて。ドッペルゲンガーじゃないからか直感も警告も反応しないし。

 

「そういえばリカさん、マスターさんは…?」

 

「マスター?別の部屋で寝てるよー。…マスターではあるけど、あの人魔力があるわけじゃないんだよねー…」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「…あ、ごめん。厳密にはないわけじゃないのか…私も含めてサーヴァント維持できてるもんね。……なんか言ってたような気がするんだけどなー…」

 

うーん、と悩みながら料理を進めていくリカさん。……私もあんな風に料理できるようになるのかなぁ…

 

「…あ、そうだ。確か、“自分の能力に常に全術力を注ぎ込んでいるから術式が使えない”って言ってたねー。外部魔力を取り込んで術式を使うとかもできないらしい…」

 

「……というと?」

 

「んーとね。どこにあったかな……多分ここに…」

 

近くにあった食器棚を開けて赤黒い石を取り出した。

 

「…“濃厚な死血【5】”?」

 

「じゃ、ないよ?というかなんで死血なの?同じBloodborneでも“真っ赤なブローチ”とかあるでしょ?」

 

「血晶石ではないかなと思って……」

 

「せめて血晶石であってよ……じゃ、なくて。これは“魔石”ね。」

 

「魔石?バハムートでも召喚するんですか?」

 

「それはファイナルファンタジー。……というかなんで高威力なの…」

 

あ、なんか疲れてる……なんかごめんなさい…

 

「これ、さっき言った外部魔力を得るためのものね。砕くと周囲に魔力を散布するの。それを取り込む……というかそれを利用して魔法を扱うことが本来ならできるの。…それがマスターにはできない。」

 

「それは…私みたいに魔術回路が詰まっているとかではなく?」

 

(るな)さん達の魔法ですら使えないから違うね。とはいえ、一部例外はあるけど……基本的に使えないのは変わらない。…その原因は、マスター自身が術力を受け付けない体質で、魔力がほぼ常に枯渇状態にあるから。だからこそマスターはサーヴァントのマスターでありながら魔法を使えない。」

 

そう告げたあと、台所のコンロやシンク、冷蔵庫を見た。

 

「この世界……一応この場所は私の部屋なんだけど。魔法というものが存在するのに、やけに機械的・物質的だと思わない?貴女がいる世界みたいに魔法…じゃない、魔術が隠匿されているわけじゃないのに。」

 

「……言われてみれば」

 

ファンタジー系の物語だとよくあるのだけど、魔法があれば科学は衰退…もしくは科学が対立・訣別しているのが基本だ。それが完全に共存しているのは妙に違和感がある。…この場所だけ、かもしれないが。

 

創造補助機構(create support system)。元々ここのシステムはそう呼ばれてたらしいよ。マスターの扱う“創造”を補助するための機構。その“創造”を制御できなくなって、観測・調整・保護に特化したのが今のシステム。」

 

「制御……できなくなった?」

 

「そ。厳密にはほんの少しだけ制御はできるらしいけど、自分の意思で使うことができないらしいよ。…まぁ、力が封印されてる私が言えることでもないけどさ…」

 

「封印………それは」

 

「自分を縛ったわけじゃないよ。…サーヴァント化の弊害かな?多分。特に不便はしてないけど…ん、できたよ」

 

その言葉のあと私の前に置かれるご飯と料理。これは…

 

「……肉じゃが…ですか?」

 

「お兄ちゃんやエミヤさんと比べたら大分見た目悪いけどね。食べれない味付けにはしてないよ。」

 

「…ポイズンクッキングのような?」

 

「そうそう。…“自分”と話すっていうのは結構新鮮だけど、それなりに面白いね。並行世界の自分だとしても知識が似てるから話題に困りにくい気がする。」

 

「そう…ですか?」

 

「少なくとも私にとってはね。…さ、冷めないうちに食べちゃって?」

 

「……あの、リカさんの分は…」

 

そう聞くとリカさんは少し困ったような表情をして笑った。

 

「私、リッカさんが来る少し前に食べちゃったから。遠慮なくどーぞ。」

 

「…では、いただきます。」

 

用意されたお箸を使って肉じゃがをとる。それをそのまま口に入れる───

 

「───っ!?」

 

───甘すぎず、塩辛すぎず。この味付け、完璧に私好みだ。驚いてリカさんを見ると、柔らかく笑った。

 

「好きでしょ?その味付け。…だって“私”だもん。」

 

「……あぁ、そっか」

 

幾度となく言っているけれど、リカさんは未来の私。そういう好みは似通っている、どころか全く同一なはず……

 

「…………あ。」

 

「ん?どうしたの?」

 

「…リカさんは…私の未来なんですよね?」

 

「…うん、そうだけど……一応。」

 

なら……

 

「…1つだけ、聞かせてください。ミラちゃんが自分の中にいる龍のお話をしたとき…いつも、胸の奥が痛むんです。…何故でしょうか。」

 

「あー…………それかぁ」

 

納得したように頷くリカさん。そのあと、少し悩んで口を開いた。

 

「ごめん、それは答えられないかな。いずれ必ず分かることだと思うから。…とりあえず、病気ではないから安心して?」

 

「…そう、ですか。」

 

未来のことについて答えてくれないだろうと言うことはなんとなく分かっていた。ともかく、病気ではないのが分かっただけでもいい。

 

「…ごちそうさまでした。」

 

「おそまつさまでした。…っと、目覚めるみたいだね」

 

リカさんの言葉に自分の身体を見ると、白い光を放出し始めていた。

 

「第六特異点……頑張ってね、リッカさん。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

リカさんが手を振っているのを見た直後、視界がホワイトアウトして───

 

 

ピピピピピ……

 

 

「………」

 

気がついた時にはカルデアのマイルームにいた。

 

「……よし、行こう。あとあの味付け絶対に作ろう。」

 

準備をしてマイルームを出る。…特異点の全修復まで、あと少し。




おはよ……

裁「おはよー。」

………?なんか上機嫌じゃない?

裁「そんなことなくない?」


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第313話 予想外の出撃事情

うにゃーっっっ!!召喚サーヴァントのクラスが決まらない!!

裁「毎回毎回悩んでるもんね……」

ほとんど世界の成り行きに任せているけどサーヴァント召喚に関してはこっちで結構調整しないとなんだよー!!


「入ります」

 

管制室───いつもの始まり。私が管制室に入ると、既にみんな揃ってい……うん?

 

「………?」

 

なんか……人数が多い。あと、何故かお兄ちゃんがいない。

 

「おはよう、リッカちゃん。よく眠れたかい?」

 

「うん、一応は。」

 

一応、とは言ったけど───さっきまでリカさんのところにいて、意識そのものは動いていたのにいつもより調子がいい。

 

「さて───今回の目的地を確認しよう。今回舞台となるのは13世紀のエルサレム。“聖地”として知られているあの場所だ。」

 

「13世紀のエルサレムっていうと…ちょうどアサシンさん…ハサンさん達の…?」

 

「あぁ、ちょうどそのあたりになるかな?正確に言えば1273年、第九回十字軍が終了し、エルサレム王国が地上から姿を消した直後の時期だ。」

 

…う、うーん。戦争直後………っぽいところに毎回飛ばされるなぁ…

 

「十字軍遠征の終了───西洋諸国がエルサレムから撤退したことは現代にまで続く人類史に多大な影響を与えているわ。特異点として選ばれるのに十分相応しい場所といえるでしょう。…ただし。師匠?」

 

「実際のところ、第六特異点の予測はアメリカの特異点よりも先にできていたのさ。…ただ、シバから帰ってくる観測結果があまりにも安定しなかった。時代証明が一致しない、時には観測そのものが出来ない時さえあったんだ。あの赤い大地が帰ってくるんじゃなくて、観測の光そのものが消えてしまう状態。…これがどういうことか分かるかい?」

 

「…第六特異点がカルデアスの表面に存在しない───その部分だけすっぽりと空洞になりつつある、ということでしょうか?」

 

マシュは詳しいなぁ…

 

「そう、第六特異点は人理の流れから外れようとしているのさ。今までは“その時代”を乱そうとするソロモンの聖杯との戦いだったけど、今回は特異点そのものが“あってはならない”歴史になりつつあるんだ。…で、その原因はというと。」

 

ダ・ヴィンチさんが視線を向けた裸の人…確か、“オジマンディアス”さん。

 

「特異点の変質!エルサレムはとうに滅び、余の太陽の神殿に聖杯はある!…して、余の太陽の神殿と対するは聖都の騎士共!!」

 

「“獅子王”と名乗る王とそれに仕える円卓の騎士たちが守る“聖都キャメロット”。主に対立しているのはこの二つの勢力だそうです。」

 

「円卓の騎士…って、確かモードレッド?」

 

ルーパスちゃんがそう聞く。

 

「モードレッドは確かに円卓の騎士の一員ですが、円卓の騎士は彼女だけではありませんよ。ルーパスとリューネがフランスで倒したサー・ランスロットもそうです。…あれは狂ってましたが。」

 

そのアルトリアさんの言葉にルーパスちゃんとリューネちゃんが微妙な表情をした。

 

「……あんなのが大群でいるってことか……」

 

「あれを相手にするとなると私弓使えないじゃん…私の本領、弓なのに…」

 

ランスロットさんの宝具のせい、かぁ…

 

「…対峙する可能性がある……ううん、対峙するんだよね、確実に。」

 

「えぇ、間違いなく円卓の騎士達とは対峙することになるわ。…マシュ、貴女の心意を確かめます。」

 

マリーの言った“しんい”、字が違ったような…?

 

「貴女は戦えますか?円卓の騎士は確かに強敵。しかしそれでも、リッカを守護する盾として前線に立ち続けられますか?───例えどんな感情を持とうと、砕け得ぬ城壁として立ち続けられますか?」

 

「先輩を………」

 

見つめてくるマシュに小さな頷きで返す。それだけで伝わったのか、少し目を瞑ってからマリーの方を向いた。

 

「───“護ります”。先輩を、皆さんを、未来を───私がこの手で、護ってみせます。…それが、私の戦いですから。」

 

「…貴女ならそう言うと思っていました、マシュ。」

 

そう言ったと同時にどこからか現れた黒子さんから1枚の紙を渡されたマリー。………ん?…ま、いっか。何も反応してないから害はなさそうだし。

 

「それでは───マシュ、貴女に宿った英霊の真名を伝えます。」

 

「え…?」

 

「自ら見つけるべき───かつてはそう思いましたが、真名を他から聞いたところで貴女の決意は変わらない。そうよね、マシュ?」

 

「……はい、もちろん。教えてください、所長。私を…私や先輩達を助けてくれた英霊の名前を。」

 

「……リッカ達を護ったのは紛れもない貴女自身だということは忘れてはいけないわ。その上で聞きなさい。」

 

マシュの頷きに対し、マリーが一呼吸置いてから口を開く。

 

「その盾は盾でありながら盾ではなく、あらゆる英霊を招く“円卓(ラウンドシールド)”。カルデアの召喚基盤にして逸話の具現。」

 

「彼の者は円卓において最も清き騎士。その在り方にて災厄の席に立ち、呪いを跳ね退けた聖なる騎士───」

 

それって……

 

「───真名“ギャラハッド”。その英霊こそが識別ID“svt-00000002_tst”───カルデア英霊召喚例第二号。“ソロモン”と“レオナルド・ダ・ヴィンチ”の召喚の間に召喚された英霊よ。」

 

「ギャラ、ハッド……」

 

「……っとと」

 

倒れかけたマシュを支える。怪我はないから…精神的なものかな?

 

「大丈夫、マシュ?」

 

「はい…大丈夫です、先輩。」

 

そう言って私の支えから普通に立つ。

 

「………ギャラハッド。それが、私達の恩人の名前なのですね。…今、本人にお礼を伝えることはできませんが……私達を助けてくれたことに、多大なる感謝を。」

 

「……いつの日か、彼と出会えたときにその感謝は伝えてあげてください、マシュ。」

 

「…はい、アルトリアさん。」

 

その言葉に満足そうに頷いてから真剣な目付きで私達を見るアルトリアさん。

 

「───相手となるは狂い果てた円卓の騎士。これより貴女達は、私と共に狂った騎士達を天へと還す戦いに出る───力を貸してくれますか、マスター。そして聖なる騎士の意志を受け継いだ者よ。…絶望に染まった白亜の城を叩き壊し、喪われかけた生命の未来を護るために。」

 

その問いに───答えはもう、決まってる。

 

「もちろん───是は絶望を否定する戦いである。」

 

「是は未来を取り戻す戦いである───相手が円卓の騎士であっても、未来を取り戻す邪魔をするなら叩き潰します。」

 

「……ありがとう。」

 

「…リッカ殿達に頼むのはいいが、僕達の事も忘れないでくれよ?」

 

リューネちゃんの言葉にアルトリアさんがリューネちゃん達の方を向く。

 

「…あぁ、ハンターの皆さんも手伝ってくれるんですか?」

 

「とーぜん。別世界とはいえ、未来が喪われようとしてるなんて黙ってられないし。」

 

「…そもそも、私達は世界の安定を担う者。それは恐らくハンターであってもサマナーであっても変わらない。」

 

「遠慮にゃく頼っていいにゃ、人の助けににゃるのは嫌いじゃにゃいにゃー。」

 

「ワフッ!」

 

「……ということで、全面的な協力をするにゃ。…なんか嫌~な予感もするしにゃ…」

 

「……ありがとう。本当に…」

 

…スピリスさんの言う嫌な予感ってなんだろう?

 

「…マシュの決意が確認できたのはいいんだけど、1つ問題が。狂い果てた円卓───彼の騎士達はどうやら特殊な力を手にしているらしいんだ。」

 

『それについては本体から情報提供があります。その名は“祝福(ギフト)”───それこそが並行世界のマシュさん、リッカさん達を苦しめた元凶。』

 

ギフト……?

 

ギフト(贈り物)、ってこと?」

 

「えぇ、その通りです。獅子王より贈られし祝福。同時に永続の誓いとなるもの───聖杯より授かった特殊な力です。」

 

『情報開示───こちらが判明しているギフトの一覧です。』

 

(るな)さんの言葉と同時にウィンドウが開く。…えーっと。

 

「“不夜”───在るとき夜に成らず。“暴走”───常に暴れ狂う。“反転”───在り方を逆転させる。“凄烈”───自らの弱みを薄くする。……これ、確かに強敵そうだね。」

 

「できることなら戦闘は避けた方がいいわ。…だけど」

 

「そうも行かないだろうねー……戦いは避けられないと思う。」

 

「…“騎士”、だもんね。自らが護ると誓った主ならば、自らの主のためならば自らの命すら省みぬ。…(獅子王)の障害となる私達を見逃すはずがない。」

 

「えぇ、その通りです。…騎士の心、よく分かっているようで。」

 

そのアルトリアさんの言葉に苦笑いする。

 

「私はただの獣だけどね。」

 

「それは違うな、マスター。貴様は新たな神だ、そうだろう?」

 

「今はまだ神様の器じゃないもん。」

 

それに…恐らく神様になるには。リカさんが敗北したあの黒い龍を越えなくちゃいけないから。

 

「ふ、貴様のような神ならば我も不満なく仕えるというものよ。」

 

「やめて?…ギルはギルのままでいてほしい。今のまま、ギルが思うように、思うままに動けるように。…私の規定なんかで縛られてほしくない。」

 

「……む…」

 

不満そうな表情だけどそれが私の本心。

 

「…まぁ、よい。マスターが神であることは置いておく事にして、ギフトのことだ。…これに関しては既に手を打っている。そうだな?」

 

「えぇ。…彼等の祝福は私が絶ちます。彼の円卓の騎士と相対したならば、必ず討ち果たして見せましょう。」

 

「……お願いします、アルトリアさん───いいえ、騎士王様。」

 

「……はい、お任せください。」

 

多少驚いた表情だったけど、すぐに戻った。

 

「話は纏まったようだ。ならば!お前達、レイシフトとやらを為したならば、まずは余と出会い、“在り得ざる矛と盾”の話をするといい!それのみで盟約はなるだろう!」

 

「在り得ざる……」

 

「矛と、盾?」

 

それって……?

 

「うむ!片や世界の総てを砕かんとする矛!総ての存在を否定する最強の剣!片や世界の総てを護らんとする盾!総ての存在を肯定する最強の盾!1対として召喚されたそれは確かにこのファラオに価値を示した!そしてそれはその矛と盾だけではなく、“青緑の聖剣”と“紅蓮の妖刀”、“六花の大盾”と“泡沫の麗華”をも!」

 

「待ちなさい、青緑の聖剣?紅蓮の妖刀??それに六花の大盾に泡沫の麗華ですって!?」

 

ミラちゃん?

 

「まさか…!?」

 

「真偽は自らの眼で確かめるといい。さぁ、行け!貴様らの価値を、存在を───“魔術王”を騙る肉塊に示すのだ!!」

 

その言葉に全員が頷く。

 

「さてと、いつも通りレイシフトの準備に入るんだけど───」

 

ドクターがそう言ったときに通信が入る。

 

「はい、こちら管制室。」

 

〈こちら藤丸六花───ブリーディングは終わったか?〉

 

「あぁ、今終わったところだよ。」

 

〈うし、予測通り───んじゃ、レイシフトメンバーは第一シミュレーションルームに来てほしい。以上。〉

 

それで通信が切れる。

 

「……と、いうわけで。すまないが、第一シミュレーションルームに行ってくれるかい?六花がなにか用意したらしくてね。僕はここから見てるから。」

 

「う、うん……」

 

ということで、第一シミュレーションルームに移動することに。

 

「…先輩、一体なんでしょうね…」

 

「……さぁ。お兄ちゃんのことだから突拍子もないことやってそうだけど。」

 

「……ですね。六花さんはそういう方です。」

 

そんな話をしていると、第一シミュレーションルーム前についた。

 

「お兄ちゃんー?来たよー。」

 

「……ん?おう、来たか。」

 

そこに確かにお兄ちゃんはいた。…バイク二台を前にして。

 

「とりあえず……ほれ」

 

「わっ、と、と……ヘルメット?」

 

私に投げ渡されたのはヘルメット。……絶対これ私にサイズぴったりだ…勘でわかる…

 

「リッカはそれ着けろ。…んで、ギルとミラ以外の英霊達はここに入れ。」

 

そうして指差したのはバイクの後ろ部分…テールランプのあたり。

 

「………入れるわけなくない?」

 

「常識的に考えて入れないな。」

 

「規格外のお前らが常識語るのかよ……まぁいい、ぶっちゃけるとここに結界が作ってあってな。20人くらいなら入れるようになってんだ。」

 

えーと……分かりやすく?通訳すると、簡易的なシェルターみたいなのを結界で再現してその扉を小さくしてるみたい。触れるだけで人間でも入れるから問題は特にない…とか。

 

「一体どうやってるの…?」

 

「気にすんなー…で、ヘルメット着けたらミラはギルの後ろ、リッカは俺の後ろに乗れ。」

 

「………うん?」

 

“俺の後ろ”……?

 

「……え、待って!?お兄ちゃんも行くの!?」

 

「ん?おう。」

 

おう、って……

 

「目的地は砂漠だぜ?足は必要だろうが。…ま、それはアメリカでもそうだったんだが如何せん間に合わんくてな。」

 

「で、でも危険だよ!?」

 

「そんなん承知の上だっつの。それを承知せずに行くわけあるか。っと、全員入ったな」

 

マシュ達が全員入ったのを確認して結界の入り口を閉めるお兄ちゃん……本気で行く気だ、これ……

 

「…こういう時くらい頼れよな、ったく。…俺はお前に特に何か出来たわけでもねぇんだし。」

 

「…それとこれとは話が…」

 

「違うかもしれねぇが見てるだけなのはもう我慢ならん。少し位手伝わせろ。」

 

「いや十分手伝ってもらってるよ!?」

 

「足りるかバカ。…ほら、乗れよ。」

 

~~~~~~~!この、お兄ちゃんは……!

 

「俺を護ることなんて考えなくたっていい。…ただの俺の我儘だ、気にすんな。…それじゃ、ダメか?」

 

「…………………わかった。でも、1つだけ約束して───」

 

お兄ちゃんの目を真っ直ぐ見据えて言葉を紡ぐ。

 

「───絶対に死なない、絶対に私の前からいなくならないって!!!」

 

「───あぁ、約束する。」

 

「───はぁ。」

 

ため息をついてから私はバイクに乗る。…後ろに、って言ってたから運転席じゃない。その私の前にお兄ちゃんが乗った。

 

「…うし、んじゃ行くか。ロマン、管制は頼んだぞ。」

 

〈あ、あぁ…本当に大丈夫なのかい?〉

 

「問題ない。理論はレイシフトと同じだからな。…ギル、そっちは大丈夫か?」

 

「ふ、問題なしだ。」

 

「おk───んじゃ、行くぜ!!」

 

キーを回してエンジンスタート。それと同時に周囲に大量のホログラムモニターが浮かんだ。

 

「全システムオールグリーン───リッカ、しっかり掴まっとけよ!」

 

「え───」

 

反応する間もなく、バイクが動き出す。あわててお兄ちゃんの腰に手を回すけど、振り落とされそう───というか、この動きって。

 

「タイヤを、暖めてる…?」

 

しばらく直線を走ってから曲がるを繰り返す───手荒だけど多分そうだ。それを何度か繰り返して、不意にお兄ちゃんが停止した。

 

「ざっとこんなもんか……うし!」

 

呟いたかと思うと、急加速。Gが強い……けど、何となく軽減されてる感覚。…って!!!

 

「お、お、お、お兄ちゃん!?速度出しすぎじゃない!?」

 

「あぁ!?143マイルなんぞまだまだだぞ、こんなん!!」

 

「いや、約230km/hは出しすぎでしょっ!!!」

 

ていうかいつの間にそこまで加速したの!?

 

「んなことよりちゃんと掴まってるな!?」

 

「掴まってるっていうか抱きつくレベルだけど…!背中の感触でわかるでしょ!!」

 

「そりゃそうか───!!!」

 

そう叫んだと同時にお兄ちゃんが何かボタンを押したのが見えた。…“TIME LEEP”?

 

「衝撃に備えろよ!!」

 

え、と声を出す前に───周囲に強烈な光が発生する。光、というか火花というか───

 

〈速度条件クリア。レイシフト、および時間跳躍を開始します───〉

 

そんなアナウンスと共に。私達は暗いトンネルの中に入った───

 

「……!?」

 

───違う、これ()()()()()()()()!!いつも私達がレイシフトの時に見てる光景!?

 

「これって……!?」

 

速度は既に450km/hを軽く越えてる。…シミュレーションルームってそこまで広くなかった気がするけど、恐らく空間を広げたり色々したんだと思う。……問題は、これが()()()()()()()()()()使()()()()ってことなんだけど。

 

「抜けるぞ!!」

 

「え、うん!」

 

さらにお兄ちゃんがボタンを押す───“TURBO BOOST”?待って、どこかで聞いたような……と思ってたら。車体が、()()()

 

「………!?」

 

比喩じゃなくてホントに。車体が跳んで、暗い道を抜けたと思うと───上空。眼下に砂漠───え゛。

 

「き、きゃぁぁ!お、落ちてる!落ちてる!!」

 

「想定済みだ!」

 

〈低速落下、およびデザートタイヤを起動します。〉

 

そんなアナウンスと共に落下感覚は緩やかになって───私達は、砂の上に着陸(で、いいのかな?)した。一緒にバイクを降りるけど、砂嵐がすごい…

 

「───うし、1273年のエルサレム。こっちはレイシフト成功だな…っと、ギル達も来たな」

 

お兄ちゃんの言葉に空を見ると、確かにギルとミラちゃんも空から落ちてきていた。

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

「フハハハハハ!!!その悲鳴だけでもレイシフト先を上空に設定した甲斐があるというものよ!」

 

「普通に地上に設定してよ、この大馬鹿王!!!」

 

……あの二人って何となく仲いいよね。やっぱり。

 

「……っと、カルデアと回線が繋がったぞ。」

 

〈大丈夫かい、リッカちゃん!?怪我とかない!?〉

 

「だ、大丈夫…お兄ちゃん、他のみんなは?」

 

「問題ない……が、少し酔ってるっぽいな。無銘とかが。」

 

〈う……すみません……〉

 

カルデアへの通信とは別に違うウインドウが開く。…アルの姿が映されてるし、多分さっきの結界の中なんだと思う。

 

「んで、正確な時代測定頼めるか?こっちじゃ簡易的な測定しか出来ないからな。」

 

〈もうしてるわ。1273年のエルサレム…と、言いたいところだけどそこは紀元前1300年頃のエジプトね……これに関してはオジマンディアス王が言っていた通りだと思うわ。本来のエルサレムの地にオジマンディアス王───ラムセス2世の統治していた第19王朝のエジプト領そのものが召喚されている状態よ。西の方に行けば聖都、北の方に行けば本来のエルサレムかしら。〉

 

「それだけ分かれば十分だな。…うし、エジプト領の方まで行くか。乗れよ、リッカ」

 

通信を切ってバイクに乗るお兄ちゃんに

 

「……お願いだから安全運転してよ」

 

「時間跳躍くらいしかあんな荒い運転しねぇよ。」

 

「……今思い出したけどBACK TO THE FUTUREじゃん…」

 

「今更かよ…」

 

そうだよ、時間を越える乗り物ってよくよく考えたらBACK TO THE FUTUREなんだよ……!なんでそんなの再現してるわけ!?

 

「追加で“ナイトライダー”もいるしさ……」

 

「そっちも今更かよ…」

 

お兄ちゃんに出来ないことって本気で何…?…はぁ




そういえばイヴェルカーナさん来るそうですねー……

裁「冰気錬成……」

クラッチクローなくてうまく戦えるのかなー……


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第314話 どうしてこうなった───by.女王ニトクリス

裁「合掌。」

弓「ニトクリスか……ふむ。合掌。」


「……あ?」

 

砂嵐の吹く砂漠の中をバイクで走る私達。そんな中でお兄ちゃんが何かに気がついた。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「人面の獣……ありゃスフィンクスか?」

 

スフィンクスっていうと……

 

「謎かけで有名な神獣だよね?」

 

「おう、そうなんだが……まぁ、エジプト領だしいてもさほど不思議ではないか……んで、前方からサーヴァント反応が…3つ。」

 

「3つ……」

 

「1つは縛られてるが…戦闘になるかもな。とりあえず、結界内にいるマシュとサーヴァント達はいつでも出撃できるように準備しといてくれ。」

 

〈〈〈〈〈了解〉〉〉〉〉

 

そんな返事があったあと、お兄ちゃんが何かを考えてボタンを押した。“DIG”、“DIVE”───掘り、潜る?

 

「奇襲するか」

 

ガガガガガ、という音とともにバイクが砂に沈んでいく。…これ、なんか結界張ってあるっぽい…砂の中にいるのは事実なのに私の身体に砂がかからない。

 

「…このあたりか」

 

…今気づいたけど、普通のバイクのハンドルの他にゲームのコントローラーみたいな上下左右に動くハンドルがある。それを上に倒すとバイクが上に浮上していって───

 

「ブーストジャンプ」

 

宣言と共にボタンのランプが点灯、砂の中から勢いよく飛び出す。

 

「な、何奴───!?」

 

「───マシュ、お願い!」

 

「───はいっ!はぁぁぁっ!!」

 

私の声で姿を現したマシュが盾で地面を殴り付ける。

 

「続いてルルさん、スピリスさん!!」

 

「「任せるにゃ!」」

 

同時にアイルーの二匹が顕現し、捕らわれていた女性のサーヴァントの紐を切る。

 

「「撤退にゃ~!!!」」

 

「な、何ぃ!?」

 

スピリスさんがどこからか出した台車にその女性のサーヴァントを運び始めた。

 

〈スピリス、ネコタク持ってたんだ…〉

 

〈ともかく彼女はこれで1落ちだな。〉

 

〈わふっ。〉

 

〈報奨金保険もついてないと思うからあと1回運ばれたらあとがないねー。〉

 

ルーパスちゃん達は何の話をしているの…?

 

「手をとって、マシュさん!」

 

「…!はいっ!」

 

マシュはミラちゃんの手をとってバイクに復帰、私達はその場から一気に離れた。

 

「………」

 

……砂嵐の中、私達を見ていた人影がすごーく気になったけど。

 

 

「……よし、ここまでくればいいか。」

 

お兄ちゃんがそう言って停止したと同時に、スピリスさんとルルさんが運んでいた女性のサーヴァントを地面に転がした。それと同時にルーパスちゃんとリューネちゃんも外に出てくる。

 

「……雑じゃね?」

 

「……雑だね。」

 

「「こんなものじゃない?」」

「こんなものじゃないか?」

 

そうなの?

 

「う……」

 

「あ、起きた?」

 

「衝撃で起きたっぽいな。……嫌な予感もするが、大丈夫か?」

 

「…………」

 

…………嫌な予感、的中しちゃった?

 

「何者です、無礼者達!私をファラオ、“ニトクリス”と知っての狼藉ですか!!」

 

ニトクリス……!紀元前2000年以前の魔術女王!エジプト第6王朝最後のファラオ!!

 

「「「………誰?」」」

 

「「〈ですよねっ!!〉」」

 

そうだよね、知らないよね!こんな時でもルーパスちゃん達はいつも通りだ…!

 

「………っ!私を知らないなどと!!私を笑い者にするつもりですか!!」

 

「「「いや実際に知らないし……」」」

 

「っ、ともかく!私を薬で眠らせ神殿の外まで連れ出すなどという蛮行、見過ごせません!本来であれば太陽王の帰順を問うところですが、貴女達はまず蛮勇を以て女王ニトクリスの許しを得なければなりません!」

 

「…人の話聞かなさそうだな、こりゃ。…1度ぶっとばせば聞くようになるだろ。」

 

お兄ちゃんの言ったこと、物騒だけど多分それが一番なんだよね…

 

「っつーわけで峰打ち。」

 

「冥界の鏡よ、いでませぇい!この者達に我が恥辱を千倍増しで返してください!!」

 

「───相手(ニトクリス)は単なる八つ当たりな気もするけど峰打ちで頼む!!」

 

「うん、みんなお願い!!」

 

相手として現れたのはシャドウサーヴァントと───スフィンクス!?

 

〈わわわ、スフィンクスなんて神獣、神秘が強すぎて倒せるわけが───〉

 

「スフィンクスはルーパスちゃん達、やってみて!!」

 

「え!?」

 

「リッカ殿に考えがあるのだろう。やるぞ、ルーパス。」

 

「わ、わかった……ていうか特異点でまともに異世界の存在と戦うの久しぶりな気がするんだけど!?」

 

あ、確かに?

 

「相手の神秘が強いっていうなら───こんな武器はどう!?」

 

その言葉と共に手元に姿を現したのは青紫みたいな色の弓。

 

「応えて、アルカニス!」

 

「“煌黒弓アルカニス”───煌黒龍派生の最終強化!言わずもがな禁忌古龍武器です!」

 

「ふ、ならば───彼女のよりは緩いが、これでどうだい?」

 

そう言ってリューネちゃんが操虫棍を取り出した途端───スフィンクスが、()()()

 

「え……?」

 

その棍を怖れるかのように。その棍に恐怖を覚えたかのように。スフィンクスが、怯んだ。

 

「───唸れ、“()()()()”!!」

 

アヌビス───!?それって、エジプトの冥界神の名前!!道理で…!!

 

「呆けている時間なんて与えないぞ───鉄蟲糸技、“覚蟲撃”!!」

 

そう宣言すると同時に、リューネちゃんが猟虫を勢いよく飛ばして───

 

 

───バズンッ!!

 

 

「「「───はっ?」」」

 

……スフィンクスの身体に、巨大な穴を空けた。そして、そのスフィンクスは───

 

「な、消え……!?」

 

───消滅、した。リューネちゃんの……たった、()()で。

 

「あ、あわわわ……ファラオの神獣が……オジマンディアス様より預かった貴い神獣が……このように地上からいとも容易く、完全に消え去るなんて───!?い、一体なんだというのです───!!」

 

……ドクターと立てた仮説が立証された、かもしれない。それは、“ルーパスちゃん達の世界の神秘がこの世界の神代よりも遥かに古く、強いもの”だということ。だからこそルーパスちゃん達にとってはただの弓であってもサーヴァントにダメージを与えられる。…そしてそれは、たとえ神代の存在であっても同じ。

 

「えっと……すまない。悪気はなかった。」

 

「な、何故……神獣が……」

 

「……はて、どうしたらいいのだろうか。…それはそれとしてそこで見ている者、いい加減姿を現したらどうだろうか?」

 

リューネちゃんがそう言うと、砂嵐の中から白銀の鎧を身に付けた人が現れた。

 

〈……サー〉

 

『アルトリアさん?』

 

〈サー…ベディヴィエール……?〉

 

「───え。」

 

アルトリアさんとの通信は私にしか聞こえてないけど…ベディヴィエール……?

 

「申し訳ありません。機会を逃していたもので。…もしも止まらないようでしたら私が、とは思っていたのですが…まさか、スフィンクスを消滅させてしまうとは。」

 

〈何故、サー・ベディヴィエールがここに……?英霊の座に、彼は……〉

 

………!あの人……!

 

『アルトリアさん!あの人、()()()()()()()()()()()()!!』

 

〈なっ…!?〉

 

『何かで隠蔽されてサーヴァントに見せかけられてる!!そしてあの銀の腕───あれ()()()()()()()だよ!!』

 

〈エクスカリバー…?っ!まさか、彼は…!?生き続けているのですか!?私が亡くなってから、ずっと!!〉

 

多分───そうだ。生き続けて、生き続けて───この特異点に辿り着いた。…何が目的かは分からないけど。

 

「───ということで、彼等は貴女を義を以て救っただけに過ぎません。…些か謎な部分は多かったですが、救われた身としてその態度は失礼に当たるものでは…?」

 

「…はい、申し訳ありません、旅の方々……」

 

あ、お話……というかお説教?が終わったみたい?

 

「とりあえず、信じてもらえたようで何より……ところで、なんですけど。」

 

「は、はい」

 

「…これを」

 

そう言って私はニトクリスさんに1枚の羊皮紙を見せる。

 

「……?────」

 

あ、固まった。

 

「起きてくださーい…」

 

「───はうぁっ!?な、な、な───」

 

「……お分かりいただけましたか?」

 

「た、た、大変申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」

 

わぁ、綺麗な土下座……

 

「な、何卒お許しを……!」

 

「許すも何もないとは思うんですけど……とりあえず、案内してもらっても…??」

 

「は、はい……」

 

……ちなみに、何を見せたかっていうとオジマンディアス王直筆の通行許可証。管制室を出る前に“持っていけ”って言われて持たされたやつ。

 

「…では、私はこれで───」

 

「あ、待って、ベディヴィエールさん!!」

 

去ろうとしたベディヴィエールさんの名前を呼ぶと肩を大きく震わせて立ち止まった。

 

「……何故、その名前を……?私は“ルキウス”としか名乗っていないはずですが?」

 

「あれ、そうだったの?マシュ。」

 

「は、はい。」

 

「……えーと……」

 

「───私が教えたのです、サー・ベディヴィエール。」

 

あ、アルトリアさんが出てきた。

 

「な───王…?」

 

「……貴方が何を急いでいるか、今は正確には分かりません。ですが、ゆっくり話してはくれませんか。…私は今、貴方を知りたい。」

 

「……は、はぁ…」

 

「……ひとまず、太陽王の神殿まで行きましょう。…ギル」

 

「うむ、その身体の修復もせねばな。だが、なによりもまずは一度落ち着くところからだ。」

 

……とりあえず、オジマンディアス王の神殿まで全員で行くことは確定した。……ところで。

 

 

リーン……コーン……

 

 

………特異点に来たときから聞こえるこの鈴とも鐘とも取れるこの音。一体なんだろう……




うー……難しいなー……正史から外れた展開が多そう。

(るな)「観測が難しいってことはそういうことだもんね…」

ん……


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第315話 キーワード

うぁぁぁ……なんとか観測成立したー……

(るな)「お疲れ様ー…」


砂嵐の中を抜けて───巨大、かつ豪華な神殿へと辿り着く。

 

「す、すごい…!これが太陽王オジマンディアス王の居城───伝説に名高い光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)なんですね!!」

 

すごい……

 

「……何それ?」

 

「あ…そうでした、ルーパスさん達は知りませんものね。…太陽王オジマンディアス。正しくはラムセス2世───古代エジプトにおける最大最強のファラオです。紀元前1300年、エジプトに多大なる繁栄をもたらし、神王とすら名乗ったほどの人物ですね。ファラオが自己を神と同一視するのは珍しくないのですが、その中でももっとも太陽に近しいかと。」

 

「へぇ…」

 

「また───大変な建築家でもあり、この光輝の大複合神殿はそのうちの1つ。“地上の神殿は総て私が作ったものだ”───そんな発言さえあるほどです。本当にそうだとしたら、人類最古の発電機たる“デンデラの電球”も彼の逸話に連なるものかも…!」

 

「恐らくはこの神殿も宝具の1つでしかないだろうな。やれやれ…」

 

面倒臭い、ってお兄ちゃんから聞こえてきた気がする……

 

「さ、行こうぜ。カルデア側に顕れたオジマンディアスの話が確かならちゃんと盟約は通る……っと、どうした?無銘。」

 

そういえば、さっきからアルがずっと周りを気にしてる。

 

「…(るな)さんが先程から“私がよく知っている気配がする”、と…」

 

「よく知っている気配?」

 

「特定は出来ないそうですが、よく知っている何かだと…」

 

んー……なんか気になるね。とりあえず神殿に入ってオジマンディアス王と会わないとね。

 

「ところでニトクリスさんは───」

 

「何をモタついているのです!早くこちらへ来なさい!」

 

「…あ、いた。」

 

「ファラオ、オジマンディアスの御前へと案内します!」

 

そうしてニトクリスさんの案内についていくと、謁見の間みたいな場所に出た。……余談だけど、お兄ちゃんのバイクはお兄ちゃんが(るな)さんから学んでる空間操作術の応用?か何かで体積と質量を小さくして持ち運べるようにしてた。

 

「……」

 

謁見の間にはオジマンディアス王が確かにいたんだけど…なんか不機嫌そう、というか不調そうというか。

 

「ふぅむ…眠いな。余は、とても眠い。何処かの余が寄越した客人を前にしてもなお眠い───」

 

『……リッカ、気付いたか?』

 

『え?』

 

『霊基ズレだ。アイツ、霊基が不安定になってやがる。…本来ならそんなことはないはずだ。』

 

霊基ズレ…

 

「───さて。眠い眠いと言っているだけでは進まんな。貴様達が異邦の客人、人理を守護する旅人か。我が名は“オジマンディアス”。神であり太陽であり、地上を支配するファラオである。」

 

その言葉に強い圧力のようなものを感じた。…怒った時のギルやミラちゃんが発するようなものと同質のもの───恐らく、“王の覇気”とでもいうようなもの。

 

「貴様達がここまで五つの特異点を修復し、ついにここまで来たのは承知している。そして、貴様達が求める聖杯はここにある。」

 

その手元にあったのは確かに聖杯。その聖杯を置き、私の方を真っ直ぐと見つめるオジマンディアス王。

 

「───問おう。貴様が知る盟約の言葉はなんだ?」

 

「……“青緑の聖剣”、“紅蓮の妖刀”、“六花の大盾”、“泡沫の麗華”───“在り得ざる矛と盾”。」

 

「ふむ。───最後の1つは?」

 

…最後?私が聞いたのは5つだけだったような───

 

「───“魂喰の呪槍”。…で、どう?」

 

「……ふ。よかろう───貴様達との盟約はここに成った。そら」

 

そんな言葉と共に聖杯が投げ渡される。…ミラちゃんが答えたのって、一体…

 

「この神殿へ滞在することを許可する───元より、許可する前提で動いてはいたが。」

 

そ、そうなんだ…

 

「───龍を使役う娘よ。貴様は余と共に来い。」

 

「はい?」

 

ミラちゃんが呼ばれた…?

 

「……いや、必要ないか」

 

どういうこと、と言おうとしたら───ドシン、ドシンと地面を揺らす音が聞こえた。

 

「…?───え」

 

音のする方を見ると、そこにいたのは───象。その象さんを見てミラちゃんが声をあげた。

 

「巨獣“ガムート”!?それも“銀嶺”……!」

 

「…えーっと?」

 

「かなり傷ついてる……これ、どういうこと…?」

 

象さんに近づいて状態を見たミラちゃんがオジマンディアス王にそう聞いた。

 

「“六花の大盾”がそやつだ。貴様はそやつらを治療できるのだろう。治療するといい。」

 

「言われなくても…!」

 

即座に回復魔法が展開してガムート?さんを緑色の光が包む。

 

「っ、完全回復までに時間がかかりそう…!持続回復に切り替えるけど大丈夫!?」

 

そのミラちゃんの言葉に頷くガムートさん。…あとで話は聞かないとわかんない…

 

「…他にも、いるのね?」

 

「うむ。今は外に出ているが、じきに戻ってくるだろう。“在り得ざる盾”も、また。戻ってくれば呼ぶゆえ、休んで───おっと」

 

………?

 

「…休んでおくといい。余ももう一度休む。…あぁ、そうだ。」

 

「…?」

 

「難民達の受け入れはこちらで行っている。見つけたら連れてくるといい。」

 

「あ、はい…」

 

その言葉を最後にオジマンディアス王は姿を消した。…さてと、ここから自由行動かな…




裁「他の人達っていつ頃出てきたっけなぁ…」

忘れてるの?

裁「地味に忘れてる…」


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第316話 在り得ざる矛───最強の剣、哀悼

うーん………

(るな)「……調子悪い?」

んーん……今のところ大丈夫…


神殿に着いた次の日、私はオジマンディアス王に呼び出されていた。…私だけじゃないか。私とマシュと、ギルとアル。あとお兄ちゃんも。

 

「来たか!しかと眠ることはできたか?」

 

「眠ることは…はい。…あの、どうして私達を呼んだのですか?」

 

「……ふむ。まずは腰掛けよ、長話をするのに立ったままでは辛かろう?よい、特に赦す。」

 

「……では、お言葉に甘えて。」

 

オジマンディアス王の前にあった椅子に腰かける。それはマシュ達も同様。…お兄ちゃんとギルは気にしてなかったけどマシュは結構緊張してるなぁ…

 

「……さて、どこから話したものか。…まずは、既にこの地にはいない“在り得ざる矛”の話をするとしよう。」

 

「在り得ざる、矛…」

 

「しかり。英霊ではなく、人間であるもの。あらゆる武器を用い、あらゆる敵を翻弄し、あらゆる敵を滅し続けた最強の剣。」

 

最強の……剣?

 

「円卓の騎士の祝福(ギフト)はもちろん、獅子王の聖槍すらも弾き、一騎当千を具現化したかのような若き娘。しかし、“個”であるが故に“集”によって倒れた剣よ。」

 

あぁ……

 

「いくら質が高くとも数に対して対処しきれなかった、ということですね。」

 

「しかり。───その者は、余らが聖都の騎士と戦っているときに突然顕れた。」

 

懐かしむかのように言葉を繋ぐ。

 

「誰かに召喚されたわけでもなく、余が十字軍より勝ち取った聖杯が喚んだわけでもなく。その娘は突如、その場に身一つで顕現した。レイシフト、といったか。それに少し似ていたか?」

 

「つーことは単独顕現…人類悪の可能性があるか?」

 

「答えは否だな。その娘は後に“デダー”と名乗った。自らは“借者”のクラスだと。」

 

debtor(借り手)

 

「顕現してすぐにその娘が行ったのは祈りだ。余と聖都の騎士───あぁ、円卓の…ランスロットもいたな───を空中で見下ろし、祈りを捧げたのだ。」

 

「祈り……」

 

「うむ、娘が祈ると同時に───余が瞬いたその一瞬。それで、()()()()()()()()()。」

 

え?

 

「比喩などではないぞ?言葉通り総てが終わっていたのだ。余の兵は何も傷つかず、聖都の騎士は残らず殲滅され───祝福(ギフト)を持つ円卓の騎士たるランスロットさえも遥か彼方へ叩き飛ばされていたのだ。」

 

「「……!?」」

 

円卓の騎士を……!?

 

「“過程を吹き飛ばし結果だけが残る”───まさにそのような状態よ。瞬きのほんの一瞬、ただそれだけで総てが終わったのだ。」

 

「“キング・クリムゾン”かね…」

 

「スタンド…じゃないと思いたい……」

 

でも正直そうとしか思えない気がするけど……うーん。

 

「それを見て、余であろうと恐怖したものよ。いつそれが余に牙を向くかも分からぬ。…だが、在り得ざる矛は余にその牙を向けなかった。続く聖都の増援も、円卓の騎士も、果ては獅子王の聖槍をも。悉く一切を意に介せず、蹴散らしたのだ。」

 

「聖槍……宝具であろうに、どうやって防いだというのか?」

 

「無論、在り得ざる矛の宝具によって防がれた。あぁ、そなたの乖離剣に酷似していたな?」

 

「…ふむ?」

 

「“在り得ざる矛”、というのはそういう意味でもある。乖離剣などそなた以外に考えられぬ。で、あるというのに乖離剣と思われる剣を使った。そら、在り得ぬであろう?」

 

確かに……?

 

「“在り得ざる盾”が顕れたのはその次の日よ。その後は余や難民達を護る双璧として存在していた。…在り得ざる矛が命を落とすまでは。」

 

そう言ってオジマンディアス王は立ち上がり、部屋の燭台から緑色の剣を持ち上げた。それを見たアル───じゃない、眼の数字が“三”だから(るな)さんか。(るな)さんが反応した。

 

「その剣は……」

 

「在り得ざる矛が瀕死となり、この地より消滅した際にその場に落としていったものだ。遺品、といっても間違いはないだろう。」

 

「…拝見しても?」

 

「よい、赦す。」

 

(るな)さんが剣を受け取り、それをじっくりと観察する。…やがて、小さくため息をついた。

 

「…道理で、この神殿に遺る“風の痕跡”に覚えがあると思ったら。貴女が来ていたのね。」

 

「知り合いか、(るな)?」

 

「えぇ、まぁ。…私と同じ、“創詠”に連なる者です。」

 

創詠に連なる者……

 

「現創詠家基本序列第一位。現在の創詠家の中で“創詠家最強”の名を冠し、最も“月が支配する夜の世界最強”に近い少女───“創詠(つくよみ)(かすみ)(かおり)”。それが彼女の名です。……この剣、私が引き取っても?」

 

「構わん。余はもちろん、他の者に扱うことはできぬであろうからな。」

 

「では、引きとらせていただきます。…“ニュートラル”」

 

(るな)さんの小さな呟きに反応してか、剣の色が緑から白に変化した。

 

「ふむ。やはり、その剣は貴様達の声には応えるのか。」

 

「…というと?」

 

「“在り得ざる矛”と“在り得ざる盾”の言葉にその剣は反応を示し、余の言葉に反応は示さなかった。創詠、といったか。その者達でなければその剣は反応しないのではないか?」

 

その問いに対して首を傾げたあと、静かに首を横に振る(るな)さん。

 

「違いますよ。手順さえ守れば誰だってこの剣を本当の意味で扱うことはできます。」

 

「ふむ……まぁよい。遺品は遺族が持っていた方が良いだろう。」

 

「死んだわけじゃないでしょうけどね…元の世界に戻されただけというか。」

 

結構複雑なのかなぁ……

 

「…余は貴様に赦しを請おう。」

 

「はい?」

 

「貴様の家族たる“在り得ざる矛”を護りきれなんだこと。多方面より攻撃されていたとはいえ、在り得ざる矛単身で戦線を任せたこと。赦せ、“在り得ざる矛”の家族よ。」

 

頭を下げるオジマンディアス王に困惑の表情を浮かべる(るな)さん。

 

「……赦すも何も。怒ってなどいませんから何も言えませんよ。恐らく貴方の言う“在り得ざる盾”も私の知り合いでしょうけど…その方も怒っていなかったでしょう?」

 

「だとしてもだ。赦しを得なければファラオの気が収まらぬ。赦せ、“在り得ざる矛”の家族よ。」

 

「…あぁ、はい……わかりましたから顔を上げてください。」

 

あ、(るな)さんがあきらめた……ん?

 

「太陽王。少しばかりよろしいか。」

 

「む、“煙酔のハサン”か。よい、赦す!入るがいい!」

 

「失礼つかまつる───む?」

 

煙酔のハサン、と呼ばれた人が私達の方を見て疑問そうな声をあげた。

 

「失礼した、客人がいたか。」

 

「用件はなんだ、煙酔のハサンよ!」

 

「うむ、近く聖都にて“聖抜の儀”が行われるとのこと。それを伝えに来たのだ。」

 

聖抜……?

 

「ふむ……ふむ!良い情報だ、感謝するぞ煙酔のハサンよ!他に用件がなければ難民達の誘導に戻るがいい!」

 

「忝ない───それでは、失礼いたす。」

 

……早々にその人は撤退していった。

 

「聞いたな!今、貴様達の道は示された!貴様達はこれより、聖都へと向かえ!この特異点を乱し、現状とした元凶、獅子王が座す白亜の巨塔───聖都キャメロットへと!!」

 

「聖都……」

 

「キャメロット…!」

 

「うむ───この神殿より東、エジプト領たる砂漠を抜けた先に絶望の聖都はある!そして、聖抜とやらが行われるとき、“在り得ざる盾”もまた姿を現すだろう!!そして山の民、ハサン共の協力を真に取り付けるのだ!奴らの暗殺術は侮れん、ニトクリスが連れ去られたようにな!!」

 

「在り得ざる盾……一体、どんな人なのでしょうか。シールダーとして、個人的に興味があります。」

 

───方針は定まった。聖都へ赴き、聖抜の儀を知ること。それが、今の目的だ。




裁「そういえばマスター、今回の特異点の“運命の選択”ってどうするの?色々なところを調整できそうだけど。」

そこだよねー……一応候補は2つ。…どちらか片方は選択なしで見るしかないかなぁ。

裁「分岐選択点(セレクトポイント)を設定するのも大変そうだね…」


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第317話 反転───妖弦、墜つ

早いのよ、展開が……

裁「あー……あ、そうだマスター。」

んー?

裁「はいこれ、チョコ。」

………あー、今日ってバレンタインデーだっけー…

裁「忘れてたの?」

ん……チョコ作ろうとしてて忘れてた……ってリカ。なんか豪華じゃない?

裁「去年とか一昨年とか作ってなかったからねー。」

……逆にそれだけ長い時間連載続けてるってことなんだよね…

裁「3年目だねー…あ、ギルやクー達にも渡してこないと。あとマスター、こっち星見の観測者さんに渡しておいてくれる?」

あー……分かったよ。…ちょっとあっちに行くの面倒なんだけどな…皆にも聞いてから行くかな…


「あぁ……水……水だぁ…!」

 

「ふはははは!良いぞ、赦す!思う存分に飲み、食らうがいい!一時の楽園に歓喜せよ!!」

 

「喧嘩しないでくださーい!順番守ってください!」

 

砂漠を抜けたところで、飢餓状態で心を喪っている人達を発見。…とりあえず、ギルに水とか分けてもらえるか聞いてみたら良いって言ってくれたからギルとジュリィさんにお願いして配給してもらってる。

 

「ありがてぇ……ありがてぇ……!」

 

「……聖都について教えろ?」

 

「どういうところか知ってますか?」

 

「…夢の国、だな。聖都の中にはなんでもあるって話だ。だが───中に入るのは諦めた方がいい。聖都よりも砂漠の方が安全だぜ。」

 

聖都よりも砂漠の方が安全……?私達みたいに太陽王の保護がない限り、どう考えても聖都の方が安全だとは思うけど。……“普通”で考えてしまえば。

 

 

───ピリッ

 

 

「…っ」

 

警告の激痛。…今、反応した。何かを警告している。

 

〈サーヴァント反応接近中!祝福(ギフト)の反応もあるわ!〉

 

「…!アルトリアさん!」

 

円卓の騎士が近づいている───それにアルトリアさんも気づいていたようで、光る弓を構えた。

 

「弓など扱ったことがありませんが……シロウの改造したこの弓は、何故か手に馴染みますね。」

 

〈それはなにより。〉

 

「───行きます」

 

お兄ちゃんに渡された遠視鏡を使ってアルトリアさんの見ている方向を見ると、弓を持った赤い髪の人がさっきの煙酔のハサンさんを追い詰めていた。

 

「サー・トリスタン───まずはその祝福、打ち消させていただきましょう。“回帰せし黄金の剣(カリバーン)”」

 

“トリスタン”───って、“王は人の心が分からない”の人…?

 

 

ゴーン───ゴーン───

 

 

…っ!鐘の音!?トリスタンさんの方から───

 

「行きましょう、マスター、マシュ、サー・ベディヴィエール。」

 

「あ、うん…!」

 

「王命のままに。」

 

…ここまで来るまでの間にベディヴィエールさんは全部話してくれた。何故エクスカリバーを持っているのか。何故この特異点にいるのか。…何故、獅子王がこの世界にいるのかも。それらを聞いた上で、私達は彼に協力することにした。…この特異点が終わったあと、彼が一度消滅するのは避けられない。それが、彼の運命。彼の身体の限界だから。

 

「何者です───!?」

 

「唐突な割り込み失礼します!歴史を正すため、その御首───」

 

変異泥を展開、装備して煙酔のハサンさんとトリスタンさんの間に降り立つ。

 

【───頂戴させていただきますっ!!】

 

「妖弦のトリスタン───煙酔さんと難民の方々はやらせません!」

 

「な、そなたらは先程の……!」

 

…思ったけど煙酔さん、ここまで来るの早すぎない?オジマンディアス王の部屋を出たあと、ベディヴィエールさんと話をしてたから時間は経っているとはいえ。バイクを使ってた私達よりも先にエジプト領を抜けてるなんて。

 

【逃げて、煙酔さん!】

 

「───忝ない!この恩は後程!」

 

「っ、逃がしません」

 

弓の弦を弾いたのが見えた。確か、トリスタンさんの弓はかなりの射程を持つ───

 

【ナーちゃん!!】

 

「任せてちょうだい───ストリア!!」

 

Freeze element(凍結素因), Extended deployment(拡張展開).》

 

「“三月兎の狂乱”!!ごめんなさい、貴方の矢はあたしが封じさせていただくわ!!」

 

「これ、は……?」

 

煙酔さん達を狙った矢に加え、トリスタンさんの指と弓までが凍る。“痛哭の幻奏(フェイルノート)”とそれに関するもののみを凍結させたのだ、ナーちゃんは。

 

「───サー・トリスタン。貴方は、獅子王の元でそこまで堕ちていたのですか。」

 

「あな、たは…ベディヴィエール卿……?そして……獅子、いや、騎士王……!?」

 

「───狂いしトリスタン卿。祝福により、狂気に染まりし御身をここで断ち切ります。」

 

「…私は、悲しい。こうもあっさりと、この身が滅びるとは。」

 

ナーちゃんの凍結鎖───ストリアさんの補助もあって強化されてるそれは、凍結させたものの動きを完全に停止させる。英霊ですらそれを解くことは容易ではない。

 

「さらばです、トリスタン。悲哀の音色を奏でる騎士よ───束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。聖なる剣の名を以て邪悪を断つ。汝が狂気の罪を数えよ。」

 

「───わた、し、は……」

 

あの凍結は、霊基の動きを奪っていく。凍結そのものが生き物のように身体全体を駆け巡り、総ての神経を、総ての霊基を麻痺させていく。…トリスタンさんはもう、声も出せない。

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”」

 

静かに宣言された真名と同時に放たれた極光がトリスタンさんを包み───光が消えた頃にはもう、トリスタンさんの姿はなくなっていた。

 

「…先輩」

 

「…うん」

 

狂乱円卓・妖弦───討伐完遂。




三月兎の狂乱・凍結鎖
細かい氷の粒子を散布し、魔力と指向性を以て起動することで対象を凍結させる鎖。即座に打ち破るならば少なくとも神性B+と筋力B、もしくはA+ランクの宝具が必要。術式宣言が短い割に“凍結”、“停止”、“鎮静”、“捕縛”、“吸収”、“分解”、“崩壊”、“拒絶”の8つの概念を調整しながら扱うためか対魔力で無効化できない。


裁「ナーちゃんの凍結鎖ってはっきり言ってチートクラスだよねー。」

弓「で、あるな。我であっても抜けるのは容易いことではない。……ところで、これは魔神めには効くのか?」

裁「んー……あの時魔神柱に使ってなかったから分かんないけど…一応古龍…炎妃龍“ナナ・テスカトリ”には効いたらしいよ。火属性だからって効かないわけじゃないみたい。」

弓「ふむ、氷属性相手ではどうだ?」

裁「冰龍“イヴェルカーナ”に試してみてたっけー…相手が悪いのか効きにくかったって言ってたような。」


星見の観測者「……何の用だ?」

貴方にチョコだってさ。…皆が。

星見の観測者「…私に?彼女達が?」

ん。男女関係なくもらってるから好感度とかじゃないかもねー。

星見の観測者「ふむ。…君からのは手作りではないのか?」

残念ながら作り忘れました。ていうか、全然作ったことないから綺麗に出来るとは思えないんだよ。あげるならちゃんとしたの渡したいからねー。

星見の観測者「…そうか。」

ていうかなんで私からのが手作りじゃないって分かるの?

星見の観測者「君の性格上そうだろうと思ったのだが?それと包装が君と全く違う。」

うわぁ…

星見の観測者「……む?この金色のは…」

それはギル作。

星見の観測者「…彼が作るのか?このようなものを?」

超ノリノリで作ってたよー…


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第318話 太陽が欠ける

裁「あー。」

どうしたの?

裁「……合掌」




白亜の巨塔。聖都キャメロット───聖抜の儀が行われるという地に私達はやって来た。…もう夜だけど。

 

「聖抜…一体どういうものなのでしょうか。」

 

「……嫌な予感はしてるけどね。」

 

「あぁ……旧世界の王城に近い雰囲気を感じるぜ。傲慢、策略、横暴……人間、つーか王族の悪いものが渦巻く、そんな雰囲気だ。」

 

「なんか怖い…」

 

「殺意、のようなものも感じ取れますね。酷く静かですが。」

 

『………どう考えても良い方向に行くとは思えない』

 

精霊達も全員否定的な意見。…私の直感も嫌な予感を感じ取っているけど───

 

「…!」

 

突然、夜景だった空が明るくなった。太陽が昇り、昼と化した。ということは───

 

「───“不夜”の祝福(ギフト)…!」

 

「狂乱円卓が、顕れた───」

 

その昼になったのに気づいた難民達───ざっと100名。その人達もざわざわと騒ぎ出す。

 

「いつの間に日が昇ったんだ…?」

 

『───来るぞ』

 

お兄ちゃんの言葉の直後、声が響く。

 

「落ち着きなさい。これは獅子王のもたらした奇跡。“常に太陽の祝福あれ”と。私に与えたもう……た……?」

 

現れた男の人が言葉を発している最中に、()()()()()()()()()()

 

「なんだなんだ……?」

 

「また、暗く……?」

 

暗く……ううん、()()()。夜じゃないけど、どこか暗い。何故か───

 

「───っ!!!」

 

───周囲を見渡して、私は“それ”を見た。───()()()()()()、その光景を。

 

『───滅びの時間が近づいている。』

 

……滅び…

 

『……この世界はもうすぐ死ぬ。』

 

「───世界が滅ぶ前に、真に価値あるものを預言書に書き記すのです…!」

 

真に……価値のある、もの。

 

『本当に……価値あるものなんて。この世界にあるの?』

 

「「「……」」」

 

沈黙が降りる。…本当なら否定したい、けど。ネアキちゃんの言う通りだ。……私が預言書に記すべき“本当に価値あるもの”って、なんだろう?

 

「……皆さん。まずは、自ら聖地にお集まりいただけたこと、感謝します。」

 

その声で物思いに耽っていた私の意識が引き戻される。…いけない、太陽が欠けたことよりもまずは聖抜に集中しなきゃ。

 

「人間の時代は滅び、また、小さなこの世界も滅びようとしています。主の審判は下りました。もはや地上のいかなる場所にも、人の生きる余地はありません。…そう、この聖都キャメロットを除いて。」

 

『サー・ガウェイン…言っていることが滅茶苦茶だと思いますよ』

 

あれ“ガウェイン”さんなの……!?なるほど、道理で“不夜”を与えられるわけだ…!……なんだけど。

 

『……アルトリアさん。この状況であの人の能力……“太陽の出ている間は3倍に近い能力を発揮する”って効果を発揮するのかな?』

 

『…………………出落ち感がすごいですね、サー・ガウェイン。』

 

あ、やっぱり反応しないっぽい?すごく長い沈黙だった気がするけど。

 

「我らが聖都は完全、完璧なる純白の千年王国。この正門を抜けた先には理想の世界が待っています。いずれ落ちる偽りの太陽とは違うのです。」

 

いや、真の太陽落ちてるけど。偽りの太陽ってオジマンディアス王のことだろうけど───

 

『エジプト領のオジマンディアス王は無事?』

 

〈む、余には何ともないが?〉

 

……うん、“存命であれば常に輝く太陽(オジマンディアス)”とその比較対象“滅びの時間が近づき欠けた太陽(トゥルー・サン)”だとオジマンディアス王の方が優先順位高そうじゃない?

 

「我が王はあらゆる民を受け入れます。異民族であっても異教徒であっても例外なく。───ただ、その前に我が王から赦しが与えられれば、の話ですが。」

 

「幻想郷の劣化だな…」

 

お兄ちゃん、それ思っても言っちゃダメじゃないかなー…




弓「ガウェインめは涙目よな。当時は酷い出落ちを見たものよ。」

裁「そうだねー。…不夜のギフトを持ってて昼になっていたとしても、太陽が“欠けた”せいで太陽が“なくなってる”。太陽がないから“聖者の数字”が()()()()()んだよねー…ホント申し訳ないです、当時は敵ながら同情したよ。」

……聖者の数字かぁ…

裁「あれがなければちょっと強い騎士程度でしかないし。」

そう言いきれるのはリカだけじゃない?


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第319話 “せいばつ”

裁「幻想郷は総てを受け入れる。聖都は選ばれた人間を受け入れる。…そういう意味でお兄ちゃんは劣化って言ったんだろうな…」


「見ろ!正門の上に誰かいるぞ!」

 

難民の人の声に私達も正門上を見る。───獅子の仮面を被り、白い槍を手にする騎士。…ううん、騎士じゃなくて───王。“獅子王”。

 

「最果てに導かれる者は限られている。人の根は腐り落ちるもの。故に、私は選び取る。決して穢れない魂。あらゆる悪にも乱れぬ魂。生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を。」

 

「…それを行うあなたも性根が腐っていると思うのだわ…」

 

ナーちゃんの毒、入りましたー…

 

「なんだなんだ!?」

 

「強い光なのに眩しくない…?」

 

「お母さん、光ってるよ?」

 

っと、聖抜…っていうのができたみた、い………

 

「───アルがすごく光ってるんだけど……」

 

眩しい、っていうか目が痛い!!何これ!?

 

〈マスター、こちらからも報告だ。ミルドが輝きすぎている。そこにいる難民共の比ではなく、無銘と同等、もしくはそれ以上だ!!はっきり言って目が痛い!!〉

 

とりあえずアルの手に触れる。一瞬吃驚したように手が引いたけど、すぐに私の手を握りかえしてきた。それのせいなのか分からないけど、アルの光が弱まっていく。

 

「……聖抜はなされた。その3名のみを招き入れる。回収するがいい、ガウェイン卿。」

 

光が完全に消えたあと、獅子王がそう告げた。

 

「…御意。皆さん、非常に残念です。王は貴方がたの粛正を望まれました。よって───」

 

───来る

 

「“聖罰”を───」

 

「───来て、“ジャックフロスト”、“アルトリア・ペンドラゴン”!!!」

 

「───オイラにお任せホー!!」

「お任せを───!!!」

 

「なっ……!?」

 

COMPと令呪を使ってジャックフロストとアルトリアさんを呼び出す。

 

「敵全部まとめて凍るホー!───“マハブフーラ”!!」

 

……なんかトリスタンさんの時もだけど氷系多いよね、今回。

 

「とりあえず祝福を絶つよりも先にぶっ飛んで反省してきなさい!“風王結界(ストライク・エア)”!!」

 

【“ザンダイン”!!】

 

変異泥を纏ったあとにガウェインさんに向けて複製の権能で再現した“ザンダイン”。とりあえずこれで結構飛ばされるだろうしスタンもすると思う。

 

「な、ガウェイン様!?」

 

相手は困惑してるから今のうちに…!

 

「“ナズナ”!貴女の“恋霞”、お願い!!」

 

転移してきたミラちゃんが霞龍“オオナズチ”を召喚、濃い霧を散布する。霧は難民達を包み込み、騎士達から姿を隠す。

 

「ふははははは!!そら、逃げねば格好の的だぞ粛正騎士共!!」

 

「……!」

 

ギルはギルで上空から数多の武器を降らせてて、ルーパスちゃんは矢を静かに、正確に降らせてる。

 

「なんだなんだ!?」

 

「何が起こっているの……!?」

 

「落ち着きたまえ、慌てても良いことなど基本的にない。」

 

「落ち着きましたら、皆さん私達についてきてください!この地は既に危険です!早く安全なところへ!」

 

【来て、“呪腕”!】

 

呪腕さん───もとい、ハサンの方々はジュリィさん達よりも土地勘はあるはず。

 

「───皆の者、私達に続け!案ずるな、必ず皆助かる!!」

 

あっちは大丈夫。あとは───

 

〈リッカ!逃げ遅れがいるわ!!あそこよ!〉

 

【!?】

 

マリーの声が指す方向を見ると───確かに。女性の人と男の子が。でも、少し遠い。

 

「聖罰を執行します」

 

「どうか、この子は───この子だけは…!」

 

「排除───」

 

間に合わない───そう思ったとき、騎士と女性の間に割り込む影。

 

 

バキン

 

 

「───?」

 

「───やっべ、間一髪。…間に合ってよかったっての、ホント。」

 

お兄ちゃん………じゃ、ない。話し方は似てるけど違う。

 

「そら、早く逃げな。ここは危険だ、あっちの難民についていけ。」

 

「あ、あの…?貴方は…?」

 

「どうせ後で会うだろ?」

 

「不穏分子、発見。排除───」

 

「されるわけねぇだろ」

 

その男の人は、騎士の剣を大盾で押し返して───

 

「“ショック”」

 

魔力弾を放って自分から引き離した。

 

「早く行け……あぁいや、足挫いてんのか。」

 

そう呟いたかと思うと女性の足に向けて何かを呟いた。

 

「…これでいいか?」

 

「不穏分子、排除───」

 

「しぶてぇな、ホント。」

 

今度は振り向いてから小盾を使って騎士の剣を弾く。それから───

 

「“ダークウォール”───さっさと死ね。俺はそこまで良い奴じゃない。」

 

───致命攻撃。背後にわざわざ闇の壁を設置してから。子供に見えないようにしてから騎士を殺した。…あの人、絶対いい人だ。

 

「“プロテクト・オートメーション”───そら、行け!息子も忘れんなよ!!」

 

「は、はい!」

 

難民女性とその子供がこちらに向かってくる。

 

「排除す───」

 

「テメェの相手はこっちだ!!」

 

「───るっ!?」

 

女性を狙った騎士が男の人に引き寄せられる。…一体、あの人は何者なの…?




裁「ちなみにCOMP使っても“ザンダイン”その他はできるよー。」

弓「単純な興味で聞くが、他の者は女神転生世界…だったか、その術式は使えるのか?」

裁「ナーちゃんとありすさんはムド系統使えたはずー…ありすさんに至っては“死んでくれる?”が使える時点で…」

弓「ふむ……」

裁「あ、それとナーちゃんはブフ系統とザン系統、ガル系統が使えてありすさんはアギ系統とジオ系統、ディア系統とリカーム系統が使えるんだっけ。」

弓「ふむ。…七海は攻撃的なのだな。」

裁「世界が終わる前に最上位は習得してたからねー…」


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第320話 在り得ざる盾───最強の盾、防衛

(るな)「最近頑張るねー」

なんとか……


「───ふんっ!!」

 

その男の人は様々な大きさの盾を用いて戦っていた。

 

「“反射(リフレクション)”!そらそら、足元お留守ぅ!!」

 

見たこともない技で、相手の攻撃を跳ね返す。時に弾いて致命を取る。…一番気になるのは

 

形態変化(カンビオフォルマ)───加速形態(モード・アッチェレラーレ)!!」

 

あの大盾。あれが、戦闘中に何度も形を変えている。チャージアックスとはまた違う、何か。

 

「───そこのマスター!ボサッとしてんじゃねぇ!!敵は目の前だぞ!!」

 

【え───】

 

その人の声で戦闘中だったことを思い出す。……というか、あの人。私が“マスター”だって知ってる…?

 

【って、あっぶな!】

 

「排除───」

 

【シィッ!!】

 

剣を弾いて蹴り飛ばす。変異泥から投槍を作り出して追い討ちする。それにしても、数が足りない…!

 

【来て、“エミヤ父子”!!】

 

「……あぁ。仕事ならば遂行しよう。しかし───」

 

「ここで私達を喚ぶとは一体どういう了見か、マスター!」

 

【アルトリアさんから聞いてる!二人とも正義の味方になりたかったんでしょ!!大勢の人が逃げている最中、時間を稼がなくてどうするの!!】

 

実際直感の告げるまま喚んだからそういう意味で喚んだのか全く分からないけど……!!

 

「正義の味方……か…」

 

「だが相手は騎士だ、悪は完全に───」

 

【そもそも“正義”って何だと思ってるの!?総てにとっての正義なんて存在しない!自分にとっての悪を滅する、それが正義だと私は思うけど!!】

 

私の言葉に言葉を失うアーチャーのエミヤさんを横目に、騎士の剣をパリィ。

 

【“ザン”!!マシュ!!】

 

「やぁぁぁっ!!」

 

衝撃(ザン)でマシュの方に吹き飛ばしてマシュにお兄ちゃんの方へ打ち返してもらう。

 

「───“トリスアギオン”!!!」

 

お兄ちゃんのCOMPを使ったトリスアギオンが騎士を襲う。火炎(アギ)系統の最上位、相性を無視した貫通攻撃…!

 

【“ありす”さん!大きいの一発、お願いします!!】

 

「任せてちょうだい───“ラグナロク”!!」

 

流石は図書館の化身、というべきなのかな…!COMP使わずにラグナロク出しちゃった…!ていうかこの時代にないよね!?COMPは未来人でもある(るな)さん達の協力もあって成立してるからまだしも…!

 

〈リッカ、気を付けなさい!新たなサーヴァント反応───狂乱円卓よ!!〉

 

「おらぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!」

 

マリーの警告、大声と共に現れたサーヴァント───その剣をさっきの盾の男の人が防いでくれる。

 

「へっ、相変わらず硬ぇこった!!テメェがいたらアイツを殺せなかっただろうよ───“在り得ざる盾”サマよぉ!!」

 

「………!!」

 

在り得ざる盾───?この人が!?

 

「───そうさ、あいつは俺が側に居なかったから消えた。そんなこと、俺だって分かってんだよ。───俺の手の届く位置に居る限り、お前らにこっちの人間は殺させねぇ!!」

 

「ハッ、威勢が良いことだな!だがここでテメェは死ね!“在り得ざる盾、無色の邪悪と共に来たりしとき白亜の城は瓦解する”───そんなお告げがされてるんでな!!邪悪っつーのはそこのテメェだろ!!見るからにカッコ───いや、悪趣味な鎧纏いやがって!」

 

……ディアソルテシリーズを基礎に形を組み上げたんだけど、そこまで悪趣味ですかねー……

 

「そんなの知るか!俺に言わせればお前らの方が邪悪だ!狂いし円卓、叛逆の騎士───暴走の祝福“モードレッド”!!」

 

やっぱりモードレッドさんだよねぇ…

 

「ちっ、おいテメェら!!難民共を───」

 

「───狙わせると思うかい?」

 

アサシンのエミヤさんが騎士を既に仕留めてた。アーチャーの方のエミヤさんも順次仕留めていってる。

 

停止解凍(フリーズアウト)───全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!私の弾幕から逃げられると思うなよ!!」

 

「チッ───!祝福よ、オレに力を───!!」

 

不味い、強化される───!

 

「そこの盾持ち!!こっちに来れるか!!」

 

「え、はい!?」

 

「食らいやがれ、“我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)”───!!!」

「2人とも20秒稼いで!!」

 

「おう!!」

「はい!!」

 

無茶を言ったと思う。けれど、男の人とマシュは即座に応えてくれた。

 

「くっ…!」

「───“心意の絶壁”!!」

 

2人の盾が私に向かおうとする宝具を防ぐ。その間に準備を進める………って!今“心意”って言った!?

 

「きっかり20秒!耐えたぞ!!」

〈難民達は安全圏に辿り着いたわ!〉

 

「ありがとう!顕現せよ、大厄災───この白亜の地に不毛と化す大厄を喚べ───!!!」

 

変異泥最大展開───!全ての過程を無視して心意と権能で“龍の厄災”を無理やり創造する…!

 

「───“死滅の邪龍(デストロイ・ドラゴン)”!!」

 

「なっ……!!」

 

『撤退するよ!!』

 

念話で全員に伝え、退却を開始する。在り得ざる盾と呼ばれていた人も一緒に。

 

「待ちやが………!?なんだこれ、糸!?硬ってぇ!!」

 

「そのまま果てておきなさい!運が良ければ火を吐かれる前に抜けれるかもね!」

 

ミラちゃんのいる方向を見ると、白い糸を纏った大きな蜘蛛がいた。恐らくはあの蜘蛛の糸なんだと思う。

 

「クソッ!おいテメェら!糸を解けた奴から退け!!」

 

私達が全員聖都付近を離れた途端───私が創造した龍が、黒いブレスを放った。

 

「うえっ!?嘘だろ!?」

 

ブレスに触れた場所が腐敗していく───腐敗ブレス。これを何とかしない限り、この場所はどんな作物も育たず、どんな生物も生きられない不毛の地だ。




うわぁ……

裁「あー……やったねぇ」

やったねぇ、ってこれは流石に…

裁「対する存在に慈悲はない。」


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第321話 拠点確保

裁「……まぁ、敵に慈悲はないけど。」

けど?

裁「……なんでもない。後でどうせ分かるから。」


「正直助かった。俺一人じゃ全員は護れないと思ってたからな。心から、感謝する。」

 

「……こちらこそ、ありがとうございます。全員を護るためにいたとはいえ、あの時貴方がいなかったら……」

 

「…そうか。」

 

とりあえず、私はさっきの盾の男の人と話を交わしてる。

 

「えっと……オジマンディアス王が言ってた“在り得ざる盾”っていうのは貴方で合っているんですか?」

 

「───あぁ。どうやら、この世界の…この特異点の英霊達からはそう呼ばれているらしい。」

 

この世界…ということは、別世界の人なんだ。

 

「……それで、貴方はなぜここに?香もですけど。」

 

(るな)さんが問う。

 

「人理を守護する者達を手伝いに来た───じゃ、ダメか?…()()()

 

「…………うん?」

 

母さん……?

 

「その呼び方やめなさいよ……いつもみたいに名前で呼んで。」

 

「へーい。」

 

「……あの、(るな)さん。この人とは一体どういう関係で…?」

 

私がそう聞くと、(るな)さんは小さくため息をついた。

 

「彼は“創詠(つくよみ) 飾莉(かざり)”。女性家系の創詠家で、数少ない男性で───私の、息子に当たります。」

 

「どーも。適当に飾莉って呼んでくれ。」

 

息子……!?

 

「たとえ神でさえその防御を容易に崩すことは叶わぬ───“防御”という一点においては私達の世界の中でも貴方は最適かもね。」

 

「やめてくれ。…俺の防御なんざ、大したものでも無ぇ。」

 

「……こういう子なので許してあげてくださいな。」

 

呆れたように(るな)さんが告げる。なんというか…

 

「お兄ちゃんみたい……」

 

「あんたの兄…っていうと、あそこの男か。」

 

頷いてお兄ちゃんの方を見る。…自己評価低いところとか、口調とか、何となくお兄ちゃんに似てる。

 

「あの男…さっき、真・女神転生Vのトリスアギオン使ってた気がするが。」

 

「私…というか陽詩が教えたの。この世界における現代───リッカさん達が来た時空よりも未来の情報。“理論・知識さえあれば大まかに再現できる”って言ってたから。」

 

「なるほどな。そのCOMPもそれ由来か。納得はしたが───ま、にしても色々おかしいがな。」

 

「おかしい…ですか?」

 

「おう。…世界が全く違うってのに、その世界の術式を正常に扱えるなんざおかしい以外にあるか?」

 

それは……

 

「まぁ、おかしいといえばあんたもか。…さっきの龍とかな。」

 

「さっきの…」

 

腐敗するブレスを吐いた龍のことだと思う。

 

「………そんなことはどうでもいいか。別にあんたから嫌な感じはしないしな。」

 

「…そうなんですか?」

 

「おう。」

 

私は人類悪であるのに?

 

「…ま、信用できねぇのも無理ねぇな。会ってから間もねぇんだから信用しろっていう方が難しい。……ところで、これは一体どこに向かってるんだ?」

 

「えーっと………」

 

今、私達の乗る幌馬車───馬車に接続されてる車のこと───を率いているのはミラちゃんの召喚したリオレウス。導蟲を追っているみたいだけどどこに向かっているかはちょっと分からない。

 

「……ちなみに私もどこに向かってるか分からないからね?導蟲はさっきの人達を追跡してるらしいけど。」

 

…そんな私の思考をトレースしたかのようにミラちゃんが告げた。

 

「一応行動痕跡は消しながら来てるから追跡される不安はないかな。一応姿も隠してるから…相手が導蟲持ってたら流石にだけど。」

 

「それは流石に無いんじゃないかな…だって導蟲ってミラちゃんやルーパスちゃん達の世界の生き物でしょ?」

 

「うーん、そうなんだけど…」

 

「“導きの蝶”みたいなのがいたらバレる可能性はあるかもな。」

 

飾莉さんの言った導きの蝶って……ゼルダの伝説?というかゼルダ無双?…あー。

 

「なるほどな。…とりあえず、警戒はしておいた方がいいな。リッカ、お前の直感で何か感じ取れることはあるか?」

 

「えーっと…」

 

直感、というか……

 

「……さっきから、鐘の音というか、鈴の音というか……そんな音が向かってる方向からするんだよね。」

 

「鐘ぇ?」

 

「あ、リッカさんも聞こえるんだ。」

 

あれ、ミラちゃんにも聞こえるの?

 

「……別に私聞こえないけど。」

 

「ふむ…僕は微かに聞こえるが……リッカ殿とミラ殿ははっきりと聞こえるのだろう?」

 

リューネちゃんの言葉に私とミラちゃんが頷く。

 

「であれば、この音は“本来聞こえてはいけないもの”───言い方を変えようか、“特定の者にしか聞こえない”ものだ。恐らくだが2人は何かに選ばれたのだろう。」

 

「選ばれたって幽霊とか怨霊みたいなものに?」

 

その例えにリューネちゃんがピクリと反応する。…あ、幽霊苦手だっけ。ごめん…

 

「怨霊に選ばれるのは流石に面倒だと思うがね…っと、そんなことを無銘殿の前で言うのもあまりよろしくないか。」

 

『…私はあまり気にしてませんから、大丈夫ですよ。』

 

美雪さんがそう言う───美雪さんは怨霊だもんね。

 

「───ん、導蟲が止まった。降りるよ」

 

「…いや、待て」

 

降りるように指示しようとしたミラちゃんを飾莉さんが止める。

 

「敵襲……ではないが、高い確率で襲ってきそうな奴がいる。数は…ざっと10か。」

 

〈うわっ、ホントだ…!?ごめん、索敵忘れてた…!付近にボーンワイバーンの反応を10確認!〉

 

「ボーンワイバーンとか懐かしい感じするねー。」

 

冬木とかフランスだと結構襲われた気がするけど。

 

「対空戦、及び空中戦に自信のある奴は?そこのリオレウス操ってる奴は除いて。」

 

「えーっと…はい。」

 

「…私も、行きます。」

 

ルーパスちゃんとアルが手を上げた。…音もなく目の文字が変わってるの地味にビックリするなぁ……

 

「俺も含めて3人か…ま、なんとかなるか。母さん達と俺は遊撃、そこの弓持った奴は俺らの叩き漏らしを頼む。」

 

「あ、うん…」

 

飾莉さんはそう言うと幌馬車から飛んだ。…なんて説明すればいいのか分からないんだけど、ふわりと浮くというか、平行移動するというか…アルと同じなんだけど、なんか質が違う?

 

「行きます───“七色八閃”」

 

幌馬車の縁を蹴ったかと思うと、アルはいつの間にかボーンワイバーンの背中にいた。

 

「“八の刀・無色───虚影(うろかげ)”」

 

そんな呟きが風に乗って聞こえたと思うと、ボーンワイバーンの首が綺麗に切断された。

 

〈今の……一体、何をしたのかしら…?〉

 

〈超高速の七閃……“神速”の異名奥義持ちである私だから肉眼で見えたけど、普通の人には見えないよあれ。〉

 

一瞬で七閃…!?

 

「無銘!俺の盾を足場にして再跳躍できるか!!お前それ慣れてないだろ!」

 

「っ、はい!」

 

飾莉さんから投げられる盾を足場に、アルが再跳躍。跳躍後、盾は飾莉さんの元に戻っていく……あの盾、“盾”というよりは“ブーメラン”に見えるんだけど……気のせいかなぁ…

 

「───っべ!一匹撃ち落とし漏らし…!」

 

「射抜くから大丈夫。」

 

ルーパスちゃんがそう呟いたかと思うと、ルーパスちゃんの矢………矢、というか杭?が着弾したボーンワイバーンが爆発した。

 

「───えっ?」

 

「お見事。僕も久し振りに見たな、“大タル爆弾バリスタ弾G”は。」

 

大タル爆弾……バリスタ弾…?

 

「これさー……高威力なんだけどバリスタ弾と大タル爆弾Gを調合…というか接続してるからバリスタでしか使えないのが難点なんだよねー。矢に出来ないかなー…」

 

「流石に矢にするのは無理がないか?バリスタだからこそ大タル爆弾Gを飛ばすだけの力を出せるようなものだろうし。ともかく、ジュリィ殿がバリスタを作れて助かった。流石は加工屋だ。」

 

「いえ、私は加工技術を知っているだけで加工屋ではないのですけど…相棒、こんなものまで作ってたんですか?」

 

「ダレン・モーランとかジエン・モーラン、あとラオシャンロンとか撃退するのに結構重宝したんだよー?…まぁ、取り扱いには十分注意が必要だけど。」

 

「間違えてバリスタ弾で大タル爆弾Gを起動させては大惨事では済みませんから当然だと思います、相棒。」

 

………

 

「お兄ちゃん、理解追い付いてないのって私だけ?」

 

「心配すんな、俺も追い付いてねぇ。」

 

だよねー…っと、幌馬車が降下を始めた。

 

「そろそろ姿隠し解除するよー。」

 

そうミラちゃんが言うと同時に、幌馬車を覆っていた薄い空気の膜みたいなのが解除された。……これ、“竜車”とかって呼んだ方がいいのかなぁ。

 

「あ!あの赤いドラゴンに乗ってるの、カメレオンのお姉ちゃんだ!!おっきな盾のお姉ちゃんとお兄ちゃんもいるよ!!」

 

「む……敵かと思ったが敵ではなかったか。いやはや、急に現れるなど心臓に悪いことよ。…してルシュドよ、あれはドラゴンではなくワイバーンだ。」

 

「えー?何か違うの?」

 

「うむ……説明が難しいものよ。」

 

声のした方にいたのはさっきの男の子と……呪腕さん?でもあれ、カルデアの呪腕さんじゃない…ということは、聖杯に呼ばれたってことかな?

 

「っとと…到着。ありがとね。」

 

「ギャァァ」

 

ミラちゃんの声に応じたあと、リオレウスは消滅した。

 

「ようこそお越しくださいました、旅の方々。難民の方々を全員無傷で円卓の騎士と聖罰から救ってくださったとか。ここに至るまでの総てをルシュドとサリア、煙酔のから聞いておりまする。」

 

呪腕さんのその言葉に全員が私の方を見る。

 

「……えっ、私?」

 

「貴様が代表で構わぬであろう。マスターは貴様だけであろう?」

 

うーん……誰かの前に立つって……まぁ苦手とは言いきれないけど。

 

「……ええと…私達はやりたいことをやっただけなのであまりお気になさらず……」

 

「ぼく、みんなに伝えたんだ!“真っ白な竜の魔女”、“変化自在の盾の戦士”、“紫色の盾の騎士”、“綺麗な指輪の魔法使い”……ええっと、あと、あと……」

 

「“本から飛び出たような女の子”、“静かな弓の担い手”、“心落ち着く音色の奏者”、“導きの探検家”、“黒くて明るい竜”、“蒼い騎士の王様”…でしたな。いやはや、子供の表現には感心させられますとも。…我等山の民、皆様を受け入れます。それが我等が同胞を救ってくれたことへのせめてもの御礼となれば。」

 

「…あ、ありがとうございます……?」

 

な、なんかあっさり拠点確保できちゃった……!?

 

「煙酔のから話は聞いております。霊脈への接続によるターミナルが必要なのでしたな?霊脈へとご案内いたしますぞ。」

 

「「………」」

 

「……どうかなさいましたかな、お二方?」

 

ミラちゃんと一緒に周囲を気にしていたのが気になったみたい。…なんでもない、と首を横に振ってから呪腕さんについていった。




真っ白な竜の魔女=ミラ・ルーティア・シュレイド
変化自在の盾の戦士=創詠 飾莉
紫色の盾の騎士=マシュ・キリエライト
綺麗な指輪の魔法使い=藤丸 六花
本から飛び出たような女の子=ありす・創花・フリアンクル・ティアーナ
静かな弓の担い手=ルーパス・フェルト
心落ち着く音色の奏者=リューネ・メリス
導きの探検家=ジュリィ・セルティアル・ソルドミネ
黒くて明るい竜=藤丸 リッカ
蒼い騎士の王様=アルトリア・ペンドラゴン


裁「ルシュド君の言ってたのってこんな感じになってたらしいよー。」

弓「……ふと思ったが、ありすの本名が長くないか?」

裁「あー。…そういえばいつも“ありす・ティアーナ”って名乗ってたかもねー。」


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第322話 記憶整理・聖剣の罪

裁「ふぁ…」

あら、眠い?

裁「ん……」


隠れ村───そこの人達のお陰で、拠点となる場所が出来て、一旦一息つける。霊脈ターミナルも設置してあるからCOMPでの英霊召喚も可能になった。

 

「先輩?あの……」

 

「……」

 

「………あの、先輩?せんぱーい…」

 

「………」

 

「…先輩!起きてください!!」

 

「……はっ」

 

マシュの声で気がつく。…また、私はマシュの髪を梳いていたみたい。

 

「ご、ごめん…」

 

「いえ、いいのですけど……以前も思いましたが、私の髪で満足ですか?もっと長い方が……」

 

「んー……確かに長い方が梳き甲斐はあるんだけどね。なんかマシュの髪って安心するんだよね……」

 

「……そ、そうですか……私もありすさん達のように髪を伸ばしてみましょうか…?」

 

真剣に悩み始めるマシュの頭を優しく撫でる。

 

「私はマシュのなりたいようになってほしいな。私の好きなマシュになるとかじゃなくて、マシュがなりたい自分になれること。それが私の望みだから。」

 

「先輩……」

 

「どんな風に変わってもマシュはマシュ。私の大切な後輩に変わりはないんだよ。」

 

「……はい。ありがとうございます。」

 

マシュも落ち着いたみたいだし……っと。

 

「…マシュ。しばらくの間私のカラダ、お願いしてもいい?」

 

「はい……………はい?あの、どういう……?」

 

「うん?そのままの意味だよ?しばらく完全に無防備になるから護ってて、ってこと。」

 

「あぁ、そういう……」

 

他に何かあるっけ?…まぁいいや。いつもの呪文…っと。

 

「.........Deep sleep. Diving memory space: Mode replay memory.」

 

自己暗示の呪文。自発的に完全に無防備になるほど意識を落とし、記憶を再生・整理整頓する───そんな自己暗示。明晰夢を操る…に近いかもしれない。呪文を唱えたとたん、私の意識は沈む。深く、深く───沈んでいく。

 

 

 

「マスター、マシュ。少しよろしいですか?」

 

アルトリアさんがオジマンディアス王の部屋を出た私達に話しかけてくる。

 

「いいですけど…何かありました?」

 

「…その。彼を、正式に紹介したくてですね。」

 

「彼……あぁ、なるほど…」

 

私達は納得してアルトリアさんについていく。お兄ちゃんはバイクの準備をしてくれるみたい。

 

「───入りますよ、ベディヴィエール。」

 

案内されたのは部屋の1つ。アルトリアさんが使ってる部屋だっけ、ここ…

 

「調子はどうですか、ベディヴィエール。」

 

「…王。先程までよりは、大分。」

 

アルトリアさんを見たあと、私達の存在に気がついてベッドから身体を起こそうとするベディヴィエールさんを慌てて止める。

 

「あっ、身体起こさないで、楽にしててください!」

 

「は、はい……その、このような姿で大変申し訳ありません……」

 

ベディヴィエールさんが寝ているベッドはギルが持ってた治療カプセルの改造品。全身麻酔をかけて密閉する集中治療モードじゃないとマシュが使ってるようなカプセルには劣るんだけど、話をするときはこっちじゃないといけない難点がある。…ギルが情報を提供して、お兄ちゃんが理論を理解・組立して、私が創造で構築して出来上がったもの。大部分慣れてきたけど1日に5個くらいしか創造できないから創ったの少し前だけど…

 

「……彼こそが、私の自慢となる騎士。隻腕ながら我が円卓に名を連ねた騎士、“ベディヴィエール”です。」

 

「恐縮です……私は円卓の中でも地味なのですが…」

 

「地味……だっけ?」

 

〈円卓の騎士“ベディヴィエール”。隻腕ながら円卓に名を連ね、常人の三倍もの力を持つ忠誠の騎士だね。…他の騎士と比べたら知名度的には地味なのかな?でも、“アーサー王伝説”には欠かせない存在として描かれている。何せ聖剣返還という超重要な役割を担っていたんだ、当然といえば当然だと思うよ。王を終焉に導いた最後の鍵な訳だし。〉

 

隻腕……かぁ。…最後の鍵、っていうところでベディヴィエールさんの表情が一瞬曇ったのが何となく気になるけど……とりあえず。

 

「……ドクター、ベディヴィエールさんの様子は?」

 

〈まだ、良い状態とは言えないね。肉体がそもそもボロボロになっているんだから当然とは言えるけども…そもそも、これはマシュみたいに集中治療を続けても正常に戻せるか曖昧なところだぞ…〉

 

「…ベディヴィエールさん……大分、無理をなさってきていたんですね……“貴公は責任感が強い故に大きな無理をしかねないと常々思っていた”、と私の中のギャラハッドさんが訴えています。」

 

「……失礼、無礼を承知でお聞きしますが…貴女は“マシュ・キリエライト”と名乗ったはず。ですが“私の中のギャラハッド”とは一体…」

 

あー……うーんと。

 

「…ちゃんと話した方がいいと思う、マシュ。多分そうじゃないと信用されない。ベディヴィエールさん、実際私達…というか、マシュのこと信用してないでしょ?」

 

「っ……はい、大変失礼ながら。今も敵か味方か、判断しかねています。」

 

「だから、話した方がいいとは思う。…あと、ベディヴィエールさんが隠してること教えてもらうから。」

 

「…!?」

 

あ、バレてるって思ってなかったみたい。

 

〈あぁ、それはボクからもお願いしたい。キミの身体はボロボロすぎる。というか、そもそも。…キミ、一体何年生きてるんだい?…まぁ、原因はその銀の腕だろうけどね。〉

 

「銀の腕…改造されたエクスカリバーのことだよね。」

 

「っ…何故、それを……昨日、私が人間であると看破したことといい、アガートラムと隠蔽されているはずのエクスカリバーといい…貴女は何故、分かるのです…?」

 

「…あぁ、それの種明かししないとだよね。…気分悪いもんね、分からないままだと。」

 

そう言って私は左目からコンタクトレンズを外して全員に見せる。…このコンタクトレンズは普通のコンタクトレンズじゃない。

 

「これ、“破魔の瞳”っていうの。魔術、霊術、妖術、神術…魔法は試してないから分からないけど、基本的な隠蔽は総て看破する特殊なレンズなの。」

 

〈“シルフスコープ”をコンタクトレンズ状にした、ってことかしら?リッカ。〉

 

「マリーの解釈であってるよ。昨日ベディヴィエールさんと会った時、アルトリアさんの言葉に違和感を覚えて創造したの。ベディヴィエールさんの身体がボロボロなのを見抜いたのもこのレンズだよ。」

 

〈…本当に色々できるのね。〉

 

無制限には使えないけど…特にアメリカでやったみたいに宝具を創ったりすると創造可能オブジェクト数…って呼んでるけど、あれを全消費しちゃうし。ベディヴィエールさんが寝てるベッドも全消費で創ったものの1つ。

 

「……ロマン殿は…」

 

〈んー…キミの情報、ずっとモザイクがかかってるんだよねー。特にそのヌァザの神腕(アガートラム)……じゃないことはリッカちゃんに見破られちゃったけど、そういう人でなしみたいな改造するのはマーリンくらいだろうし。ホント、使う度に魂全焼するようにするとか何考えてるんだかねー…〉

 

「……隠し事は総て、あなた方には通じないようですね。ただ、私の話よりもまずは…」

 

ベディヴィエールさんの視線がマシュに向く。

 

「…私の名前は、“マシュ・キリエライト”といいます。ですが、私は“デミ・サーヴァント”という存在で…私と融合したギャラハッドさんの力を借りてこの姿、この戦いに挑んでいます。…彼がいなければ、私はもちろん先輩も……」

 

「…呪いの席に座り、精神の在り方を示したかの清廉なる騎士が選び、力を託した最新にして最後の円卓の騎士───それがマシュ・キリエライト(彼女)です、ベディヴィエール。かの騎士は彼女とそれを支える少女を認め、自らの総てを託し消滅したのです。」

 

「……そうですか。」

 

そういってベディヴィエールさんは息を吐いて身体を起こす。…本当は起こさせない方がいいんだけど。

 

「……これまでの無礼、深く謝させていただきたい。もう迷いなどありません、レディ・マシュ。」

 

「レ、レディ…ですか?」

 

困惑するマシュに頭を下げた状態でベディヴィエールさんが言葉を続ける。

 

「はい。その無礼への返礼、というわけでもありませんが貴女に敬意と感謝を。…レディ・リッカ、貴女にも。」

 

「はぇ?…私、何かした?」

 

ベディヴィエールさんの聖剣見破ったとかしか覚えないんだけど……?

 

「………そ、そういえば、貴女は酷く特徴的な魔術を使うのですね。“創造”…といいましたか。もしや凄まじい力を持つ魔術師、もしくは魔法使いであったり…?」

 

「んと……私、人類悪なの。」

 

「……………はっ?」

 

あー……フリーズするよねー。

 

「出てきて、預言書」

 

「Ja.」

 

ずっと大きな本の状態で持ち歩かなくても手帳みたいに小さくしておけるのを知った預言書。それを手に持った状態で言葉を紡ぐ。

 

「この本は“預言書”って言って…世界を砕き、世界を創る鍵なの。…今あるこの世界は、一度滅びる。そこから新たな世界が生まれる───その世界を創る担い手として、私は選ばれた。預言書の特性として、そのマスターとなった者に総てを譲渡するっていうのがあるんだけど、人類悪だった預言書の総てが私に譲渡されたことで私は人類悪となった。“創造”はこの本の持っていた獣の権能の1つで、それを私は限定的だけど使ってるだけ。」

 

「は、はぁ……」

 

「もう1つの獣の権能である“破壊”は実はまだ私には使えない。…超限定状況下だったら使えるみたいだけど。」

 

そもそも───“破壊”が使えれば多分、特異点のこととか、ゲーティアのこととか考えないで済むんだと思う。それができないってことは、何かしら制限がかかっているか……単に、私の権限が足りないのか。

 

「…まぁ、そもそもの話預言書がいなくても私は人類悪だったみたいだけど。地獄で腐り果てた人類悪の幼体みたいなの倒して、それの力も使えるから…多分。」

 

「…………」

 

あー……フリーズしてる。あっ、再起動した。

 

「…貴女の力がなんであれ、私は貴女に呼び止められた。さらに間違った道を歩もうとした私を呼び止め、こうして間違いつつも正常な道に戻してくださいました。その貴女の強かなる魂を信じます。…人類悪を担いながら、人類を護るために駆ける貴女に敬意を。」

 

「……うーん…」

 

敬意……受けたことほぼないから対応に困る……

 

「…マシュ、リッカ。改めて私から問わせてください。」

 

アルトリアさん?

 

「相手となるのは円卓の騎士。狂い果てたとしてもそれは変わりません。…獅子王の円卓はどれも正しくなければ打ち破ることは叶わぬでしょう。狂い果てた円卓に否を突きつけ、糺す覚悟がありますか?」

 

その言葉にマシュと顔を見合わせてから同時に頷く。

 

「言ったはずだよ。是は絶望を否定する戦いである───狂い果てた円卓……めんどくさいな、“狂乱円卓”を否定することに迷いなんてない。」

 

「ふふっ…狂乱円卓とは言い得て妙ですね。…マシュはどうでしょう?」

 

「是は未来を取り戻す戦いである───相手が円卓の騎士であっても、未来を取り戻す邪魔をするなら叩き潰します。それがかつての同胞たる騎士達への不義であろうと、不貞であろうと。…かつて、(ランスロット)が起こした罪であろうと、人理を護る誓いと共に。…そもそも───」

 

マシュが苦笑いする。

 

「───人理を護るために人類史を否定している時点で今更なのですが。」

 

「〈〈〈それはそう。〉〉〉」

 

そう、よくよく考えたらそうなんだよね。だってマリーがグランドオーダーの最初に言ってたもん。“私達が戦うのは先も言ったように人類史、つまり今までの歴史そのもの”、“それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜”───それから、“私達は人類を守るために、人類史に立ち向かわなくてはなりません”って。

 

「ですから、迷いなどありません。狂ったのならば正すだけです。」

 

そう宣言した途端、マシュの前に剣が現れる。…私の創造じゃない。ということは───

 

「ドクター?」

 

〈霊基の変質……いや、成長だ。マシュの意思と連動して、新たに力が解放されたみたいだ。〉

 

「ギャラハッドさん…」

 

より一層、ギャラハッドさんがマシュを認めたっていうことかな…多分。

 

〈ちなみにバックアップ班も全力でやるつもりだよ。それで十分かな?〉

 

「……えぇ。…本当に、頼もしい同胞を得ましたね。私は…」

 

「……もはや私に迷いなどありません。この命尽きるまで、あなた方についていく所存。どうかよろしくお願いします、レディ・マシュ、レディ・リッカ。」

 

「……うん、分かったからとりあえず横になろうか?」

 

流石にそろそろ言ってもいいよね?

 

「…は、はい。」

 

〈あはは、リッカちゃんの圧は結構怖いからねー。〉

 

「んー?ドクター?」

 

〈お願いですから圧をこっちに向けないでください死んでしまいます…〉

 

いやこれくらいじゃ死なないよ……

 

「で、では失礼して…横にならせていただきます…」

 

〈…リッカ。実はずっと怒っていたかしら?〉

 

「んー……いや、怒り(そこ)までは。ただ、いつ身体を横にしてくれるんだろうなー、とはずっと思ってた。」

 

ずっと思ってたんだけど、あのベッドってベッドの上に横になってないと効果70%位落ちるんだよ。ベディヴィエールさんの身体の状態上、そんなのじゃ絶対によくなると思えない。怒ってないけどずっと気にしてた。あとドクターもドクターで傷病人をずっと治癒に専念できない状態にさせておくつもりかと。

 

〈ヒッ……リッカちゃんから尋常じゃない圧力を感じる……!本当にごめんなさい反省してます!!!〉

 

「だから怒ってないんだってば……っと」

 

ベッドの上に横になり、私達の方に視線を向けているベディヴィエールさんを破魔の瞳も使って改めてみる。…改めて思うけど、本当に酷い状態。

 

「さてと……話してもらってもいいかな、ベディヴィエールさん。」

 

〈映像情報に関しては秘匿させてもらうわ。私とロマニ、師匠に六花…限られた人間にしか伝えないと約束します。〉

 

「…はい。お話ししましょう───私の罪、私がここにいる理由。…獅子王とは、一体どういう存在なのか。」

 

 

side out

 

 

私はベディヴィエール。アーサー王に参列した騎士が1人。

 

聖剣を持ちながらも聖槍をも持ち続けたアーサー王に仕えた騎士でした。

 

ifの世界であっても歴史の強制力というものは強力です。正史と同じようにブリテンは滅び、円卓は割れ、アーサー王もまた死に至る運命。それが内部からの破滅であろうと、外部からの破滅であろうと恐らく関係ないのでしょう。

 

 

………

 

 

申し訳ありません、騎士王。ですが、これは伝えなくては説明が難しい。

 

 

構いません。続けてください、ベディヴィエール。

 

 

はい。…死の淵に瀕したアーサー王を、私は森に運びました。そのアーサー王は、血濡れの聖剣を私に託し、告げました。

 

───“湖の乙女に、これを返却してほしい”。

 

 

それは…聖剣返還、だね?一度目、君は湖に駆けたわけだ。

 

 

ロマン殿の言う通りです。

 

アーサー王の命に従い、私は乙女のいる湖へと向かいました。

 

そして、いざ返還しようとしたとき───ふと、思ってしまったのです。

 

“アーサー王に生きていてほしい”、と。

 

聖剣を返還すればアーサー王はその命を繋ぎ留める楔を失い、この世から永遠に去ることになります。

 

 

聖剣(エクスカリバー)が、延命装置になっていたんだよね。

 

 

…はい。生きていてほしいと願ったが故に、私は聖剣を返還することが出来ず。聖剣を持ったまま、アーサー王の元へ戻りました。

 

“聖剣を返還した”と虚偽の報告する私に、アーサー王は言うのです。

 

───“そなたの嘘は下手すぎる。聖剣を湖の乙女に返却してほしい。”、と。

 

再び、私は湖まで馬を走らせました。

 

湖まで辿り着き、聖剣を返還しようとして───再び、躊躇ってしまったのです。

 

あの気高き姿を覚えているからこそ。

 

あの円卓を覚えているからこそ───

 

私は2度目も返還することができませんでした。

 

再び戻り、アーサー王に虚偽の報告をする私に、アーサー王は言いました。

 

“どうか私の願いを果たしてくれ。聖剣を、湖の乙女に返却してほしい。”

 

 

……それが、三度目だね?

 

 

はい。

 

三度、私は湖まで馬を走らせました。

 

本来の歴史であれば、その三度目で聖剣の返還は成されます。

 

返還は成され、人としてのアーサー王は命を落とし、理想郷へと至ります。

 

…ですが、私は。その三度目すら躊躇い、聖剣を返還できなかったのです。

 

かつて見た王の笑みを知っていたから。

 

国を、総てを護るために戦い続けた1人の少女をそのまま喪いたくなかったがゆえに。

 

……三度目を躊躇い、アーサー王の元へ戻った私を待っていたのは、“結果”でした。

 

アーサー王は、聖槍と共に何処かへと消え去ってしまいました。

 

当然、死の淵にいたアーサー王ですから独力で動けるはずもなく。

 

人として死に至れず、人ならざるモノへと変化したという“結果”。

 

私の浅はかなる選択が、王を人ではなくしてしまったのです───

 

 

 

side リッカ

 

 

 

「これが、私の真相。私の罪───」

 

ベディヴィエールさんの右腕、アガートラムと化したエクスカリバーが緩く輝く。…あぁもう、無理しちゃダメだって言ってるのに…

 

「私の返還できなかった、エクスカリバーです。…このようなことに巻き込んでしまったこと。どうかお許しください、皆様。」

 

ベディヴィエールさんの話を聞き終わって、私は席を立つ。

 

「……レディ・リッカ…?」

 

「……貴方に非はないはずなのに。世界の強制力が原因でこんなことになったはずなのに───どうして、貴方が罪の責を背負わないといけないんだろう。」

 

部屋にある窓から外を見つめる。職場とかでよくあるらしい、上司が部下の間違いの責任を負うとかじゃない。例え歴史上から間違っていたとしても、その間違い(error)可能性(if)として認めていいものであったはずなのに。“アーサー王が人のまま生きる”という未来が存在してもよかったはずなのに。

 

「───儚く優しい 真実と嘘と」

 

「……?」

 

「裏切りと罪とその総て 受け止めて───」

 

…“誰ガ為ノ世界”の一フレーズ。ベディヴィエールさんに、似てる。……席に戻ってCOMPを開き、仲魔達の一覧を開く。

 

 

ジャアクフロスト Lv.74

ジャックフロスト Lv.70

ジャックランタン Lv.70

ピクシー Lv.66

デメテル Lv.79

エルフ Lv.52

ビャッコ Lv.88

スザク Lv.87

 

 

「……来て、“ピクシー”、“デメテル”、“エルフ”」

 

私の言葉に三体の悪魔が召喚される。このCOMP、ちゃんと女神転生世界仕様だから神であっても妖精であっても“悪魔”扱いなんだよねー…

 

「はーい、ご主人。…ちょっと、この二体とあたしを喚ぶって……」

 

「ピクシーは“ディア”、エルフは“ディアラマ”、デメテルは“ディアムリタ”をベディヴィエールさんにお願い。」

 

「…はーい。」

「お任せを。」

「わかりました。」

 

……うーん。地味に“パトラ”持ちがいないの辛いなぁ…あとピクシーの今の苦言は“自分はこいつらよりも弱いのに”ってことだろうなぁ……

 

「…リッカ。英雄王に聞いたのですが、確かこのベッドは……」

 

んー?……あー。

 

「うん、そうだよ?」

 

「…では」

 

アルトリアさんが約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘───“全て遠き理想郷(アヴァロン)”をベッドの窪みに嵌め込む。…実はこれちょっとだけ特殊な仕様で、このベッドは約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘である“全て遠き理想郷(アヴァロン)”を不自然に存在している窪みに嵌め込むことで最大の力を発揮する。───それ故に。このベッドについた名前は“遥か深き理想の眠り(アヴァロン・ディープスリーパー)”だったりする。…まぁ、原典の全て遠き理想郷(アヴァロン)嵌めてもマシュの使ってるカプセルには劣っちゃうんだけど。あれは超魔改造されてるからねー……主に投影品の全て遠き理想郷(アヴァロン)とか不死の霊薬とか賢者の石とかで……

 

「これは……」

 

「……ベディヴィエール。私は人の心が分かりません。かつて、サー・トリスタンに言われたように。そして、貴方の仕えた王でもありませんから貴方の罪など知ったことではないです。それでも……」

 

エクスカリバーを見つめ、ベディヴィエールさんの銀の腕を見つめるアルトリアさん。

 

「私は貴方を助けたい。王としてではなく、“アルトリア・ペンドラゴン”一個人として。…まずはその身体と魂を癒しなさい。万全でなければ“最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)”によって神霊と化した私には届かないでしょう。」

 

「王……」

 

〈申し訳ないけど、今回の特異点にいる間にベディヴィエールがそのままの状態でカルデアに来ることは難しい。それほどまでにキミの身体はボロボロだ。だけど、今こうしてキミとの縁は繋がれた。今のカルデアの魔改造された召喚システムなら、キミのまま召喚できる可能性はある。…もしそうなったときは、カルデアで疲れを十分に癒すといい。〉

 

「そのベッドだけじゃ不完全だと思うからねー…マシュみたいにカルデアで癒した方がいいんだよ、ホントは。でも…時間、ないし。多分。」

 

〈……主婦の勘、かしら?〉

 

「そうs………っていや主婦じゃないよ!?」

 

〈マスター様が主婦でしたら若妻ですね~♪〉

 

〈シバ!?いたのかい!?いつから!?〉

 

〈マスター様が悪魔様方を召喚したときよりおりました♪〉

 

いたんだ………若妻…若妻、かぁ…

 

「……ベディヴィエールさん。貴方が聖剣を返還できなかったことを罪と思っているのなら。周囲から見て罪でなくとも自らで罪と思っているのなら。それは貴方にしか赦すことの出来ない罪。…自分自身で自分自身にかける罪科(呪詛)って、誰かに言われて解けるようなものじゃないから。」

 

だけど。と言葉を続ける。

 

「…だけど、私達は赦すことは出来ずとも罪科(呪詛)に対する赦し(解呪)に至る手助けをすることは出来る。…一緒に戦おう?一人きりで戦わずに、皆で。今度こそ、貴方の役目を果たそう。…私達も、獅子王には用があるわけだし。」

 

「……はい。ありがとう、ございます……」

 

……これで、ひとまず大丈夫かな。

 

「さてと……ドクター、お兄ちゃんの様子は?」

 

〈王様と一緒に何か作ってるよ。もう少し時間はかかるんじゃないかな?〉

 

今度は何を作ってるんだろ……

 

 

 

「………ん」

 

意識が浮上する。記憶の整理…というか、記憶の再生を完了。

 

「あ、先輩…目が覚めましたか。」

 

「うん。…何かあった?」

 

「後で会議をするそうなので集まってほしいそうです。…先程、英雄王がミラさんに殴り飛ばされて気絶しましたのでもうしばらく後になるかと……」

 

…ギル、一体何をしたの……?ミラちゃんが誰かを殴り飛ばすって相当じゃない…?

 

「……ま、いっか。私、会議まで少し寝るねー…」

 

「えっ…まだ寝るんですか!?」

 

「さっきの寝てないし…ずっと思考は動いてたから疲れちゃった……」

 

「は、はぁ…では、会議前には起こしますね。」

 

「うん、お願いー…」

 

そう言った途端、私の意識は切れた。




……リカー。これって結構危険な術じゃない?

裁「あれって別に記憶を削除できるわけじゃないよ?ただただ記憶を再生……反芻して思い出すとか、大きな記憶の塊として整理しておくとかそれくらいしかできないし。」

いや十分危険じゃない…?

裁「……あ、あとベディヴィエールさんと話している時のは視点が記憶の中の私…もとい、リッカさんになってるからね?」

あ、そう……それにしても

裁「ん?」

預言書によって人でなくなったリカと聖槍によって人でなくなった獅子王、か…


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第323話 謎を喚ぶおかしな夢

裁「……そういえばこの夢だけ謎だったんだよねー。私の見る夢は大抵予知夢なんだけど。」

あれ?っていうことはこれは“起きてない”の?

裁「うん。だから……もしかしたら。私が()()()()()()()()()()()だったのかもしれない、って。今は思ってる。」


「くっ…そ…」

 

「ふっふっふ……良い気味だ、裏切り者のウィスタリア。裏切り者にはこれくらいの罰が良いだろう…?」

 

夢。…はっきりと分かる。でも、これは……?

 

「スノウさん……!」

 

「隠れとけ……あれの、バジリスクの眼を見るな。っつーか…スリザリンの俺なんか、心配してて良いのかよ…?」

 

「僕達を助けてくれたんです、心配しないわけ…!!」

 

「そうかよ……」

 

スリザリン。そう、聞こえた。ということは多分、“ハリー・ポッター”の世界。そしてスノウと呼ばれた人。あれ…お兄ちゃんだ。

 

「ウィスタリア、いくらキミでも彼らを護りながらバジリスクの相手をするのは辛いだろう…?」

 

そして、“ウィスタリア”。私がナーちゃんにあげた名前の一部で───意味は、“藤”。恐らく……フルネームは“Snow Wisteria”。“六花(りっか)”というのは雪を示すからそこから“スノウ”という名前は来たんだろうけど。

 

「ケッ……変身術で変えただけにしちゃ、随分と鮮明に作れるもんだ…なぁ、ハリーの父を裏切った“ピーター・ペティグリュー”よぉ…」

 

「……ふん。」

 

「その腕……大方、ヴォルデモートに貰ったもんだろうがよ。随分とまぁ、粗悪なもんを手下にやるもん……っ!」

 

お兄ちゃんの顔が苦悶に歪む。

 

「…口に気を付けた方がいい。キミの命がなくなるのが早まるだけだ。」

 

「かっ……今さら、“クルーシオ”なんざ痛くも痒くもねぇよ」

 

嘘だ。…お兄ちゃん、尋常じゃない心意で磔の呪文を耐えてる。多分、後ろにいる生徒を安心させるためだ。

 

「その腕……大方、劣化したヌァザの神腕だろうよ。けっ、胸糞悪い…」

 

お兄ちゃんが呟きながら杖を取った。

 

「……仕方ねぇ。師匠にも、ロマンにも、マリスビリーにさえも使うのは止められてたが……テメェを止めるためにはそれしかねぇ、な……」

 

え?お兄ちゃん、何を───

 

「セクタムセンプラ!!」

 

その呪文宣言の瞬間───お兄ちゃんの右腕が、裂けた。

 

()()()()……あんたの呪文、こういうときに役に立ちやがる…!」

 

「な、何してるんですか!?エピ───」

 

「気にすんな!これでいいんだよ…!」

 

そう叫んだ直後、お兄ちゃんが私に聞き取れないレベルの高速詠唱をする。すると、出血したお兄ちゃんの血が右腕に集まって“血の腕”を形成する。……っていうかお兄ちゃん、今スネイプ先生のこと名前で呼んだ…?

 

「二撃……」

 

「何?」

 

「───二撃だ。バジリスクと、ワームテール。テメェら一撃ずつ、計二撃でこの場から葬り去ってやるよ。俺の奥の手も奥の手、魔術協会やマリーはもちろん、アドミスでさえも知らねぇ超大禁呪でな……!!」

 

「ふん、強がりを……」

 

「粗悪な偽物をぶら下げて、その程度でイキりやがって……!!テメェに本物の銀の腕を見せてやるよ!!」

 

血が固まって、お兄ちゃんが吐き捨てる。お兄ちゃんの言葉に不快そうな表情をしたワームテールが杖を向ける。

 

「その男を殺せ、バジリスク!!」

 

「シャァァァァッ!!」

 

指示に動き始めるバジリスクに、お兄ちゃんが舌打ちをする。

 

「同じ蛇でも、同じ竜でも───清姫やエリザベートの方がよっぽど可愛げがあるっつの!!」

 

魔力がお兄ちゃんから溢れる───この感じ、()()

 

「───“剣を摂れ、銀の腕(スイッチオン・アガートラム)”!!!」

 

お兄ちゃんの右腕が光輝くと同時に───私の意識も消えた。

 

 

 

「───はっ!?」

 

意識が戻ったときはテントの中だった。

 

「お、起きたか。」

 

「お兄ちゃん……」

 

ここにいるお兄ちゃんは普通だ。…でも、さっきのは……

 

「どうした?」

 

「……お兄ちゃん。超大禁呪、って…何?」

 

「………………何のことだ?さっぱり分からねぇな。」

 

「…嘘。」

 

だって、沈黙が長かった。長すぎるって言えるほど、長かった。

 

「よく分からんこと言ってないで打ち合わせの準備しろよー。」

 

「……分かった」

 

とりあえず、次に控える打ち合わせの準備をする。

 

「……あれ、お兄ちゃん。マシュは?」

 

「ん。」

 

お兄ちゃんが私の隣を手で示す。釣られてそっちを見ると───マシュが寝てた。

 

「すぅ……ぅん……??」

 

あ、起きた。

 

「ごめん、起こしちゃった?」

 

「先輩…?…………っ、申し訳ありません!起こすって言いましたのに…!」

 

「いいよいいよ、そんなの。」

 

「先に行っとくが早く準備しろよー?」

 

…お兄ちゃんの言葉にとりあえず準備をすることにする。……お兄ちゃん。超大禁呪といい、最後に一瞬見えた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といい。お兄ちゃんは一体、何を隠しているの……?




裁「謎だねー…ほんと。」

弓「……貴様が嘘を言っているようには見えんな。であれば本当に知らないのであろう。」

裁「お兄ちゃん、結局教えてくれなかったからね。…お兄ちゃんは本当に何を隠しているんだろう。」


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第324話 対応会議

…………

(るな)「お母さん~?…いるんでしょ?」

…あ、(るな)

(るな)「やっぱりいた。…どうしたの、こんな暗くして。」

いや、特には……

(るな)「何もないように見えて何か悩んでるとかあるんだから、何かあるんだったら話して?」

………ねぇ、(るな)

(るな)「うん?」

“無意識下創造世界の観測”…って、わかる?


「あ、リッカお姉ちゃんー!マシュお姉ちゃんー!」

 

私とマシュがテントから出ると、ルシュドくんが私に駆け寄ってきた。

 

「おう、ぐっすり眠れたかい?…って言っても、アンタ達が来てからまだ日も越えてないけどな!」

 

「あ…アーラシュさん。…よくお世話になってます。」

 

「よせやい。俺なんてただの三流サーヴァントに過ぎねぇんだからよ。」

 

「弓兵の語源となった人───“アーラシュ・カマンガー”が何を言ってるんですか…」

 

「えー?お姉ちゃん何言ってるのー!アーラシュの兄ちゃんはあのアーラシュ・カマンガーとは別人だってー!」

 

ルシュドくんの言葉に苦笑いしてからルシュドくんの頭を撫でる。…サーヴァントとか知らないと本当だと思わないもんね。

 

「ルシュドくん。お姉ちゃん達は今からお兄ちゃん達と大事なお話があるから、サリアさんのところでおとなしく待っていられる?」

 

「うん!あ、お話終わったら遊んでねー!」

 

「遊ぶの…もしかしたら明日になっちゃうかもだけど、いい?」

 

「いいよー!頑張ってねー!」

 

そう言ってルシュドくんは離れていった。それを見届けて、私達は会議の場に急ぐ。…既に全員、揃ってた。

 

「お待たせしました。」

 

「そこまで待っておらん。」

 

「………ギル、本当に何したの…」

 

ギルの左頬に綺麗な真っ赤な平手痕(紅葉)。スフィンクスの一件でもミラちゃん達の神秘が強いこと分かってたけど、武器だけじゃなくて本人の神秘も強いっぽい?それとも何か魔力強化したのか。普通ここまで綺麗な紅葉出ないでしょ。

 

「…早く始めた方がいいんじゃない?」

 

「う、うむ…」

 

あとミラちゃんの圧なんか強くない?普通を装ってるけど声に少し怒りが滲んでる。

 

「いいや、もう。私が仕切る。───それでは、対策会議を始めます。主な議題は───“聖都の正門”と“獅子王の裁き”について。」

 

ミラちゃんが告げたとたん、周囲の空気が一変する。少しゆるりとしたものから、ピリッとしたものに。

 

「まずは聖都の正門についての調査報告。あの乱戦の中で調べに行ってたアルトリアさんから報告を。」

 

「はい、プリンセス。…あの正門は、かの城壁と同質のもの。ただ力強いだけ、ただ重いだけの攻撃では崩れない。英雄王の乖離剣のような世界を破壊する力を使わないのであれば、“神聖なる力”が必要になります。…ですが」

 

「我の乖離剣ですら半端な出力では崩れぬか。…以前のような改造も意味を成さぬであろうな。」

 

「とりあえずネルルの破棘滅尽旋・天とかも通さなそうだね。…神聖なる力、か。具体的には?」

 

「……そうですね。仏に仕える者の力。あるいは仏そのもの。悟りに至るような…そのようなものです。前提条件として、属性は“秩序・善”でなくてはいけないでしょう。」

 

「ということは私は無理だね。混沌属性だし。」

 

「私も無理だ……中立だし。」

 

秩序・善か……

 

「心の在り方を以て開かなければならない……かぁ。難しいね。」

 

「なんというか…ギャラハッドさんの在り方に似ています。」

 

あ、それは確かに。

 

「…ふむ。在り得ざる盾…飾莉殿と言いましたな。飾莉殿はいかがですかな?」

 

「残念だが中立属性だ。ついでに言うが、恐らく城門を破壊するには聖なる力だけじゃ足りん。例え俺に聖なる力があったとしても俺じゃ壊せねぇな。」

 

「吸収反射したら?」

 

「倍返しか。…無理だろうな。吸収して増幅している以上、俺の力が関わってくる。」

 

うーん……難しい

 

あの……お悩み中申し訳ありません、皆様。

 

通信側から声。見るとエスナさんが画面に映っていた。机の中央に翻訳機置いてるからこっちで聞く分には問題ない。

 

どうしたの、エスナ?

 

え、ええと……その。聖なる力の件なのですけど。私が何かお役に立てたりしませんでしょうか…?

 

「「「「「え??」」」」」

 

エスナさんが?…あれ、でも。

 

そういえば、エスナさんって属性はなんだったの?

 

私の属性は…“秩序・善 人”…ですね。

 

…………

 

それに…その。私の“天女”の起源因子も解放すれば破壊するだけであれば、恐らく…

 

「なんて、身近に解決策があったの……」

 

そういえばエスナさんって“聖女”なんだっけ。

 

とはいえ、私の力だけで砕けるかどうかも分かりませんので…他の策は考えておいた方がよろしいかと……

 

「……アルトリアさん、エスナの力はあの正門に通じる?一応これが映像だけど。」

 

ミラちゃんが杖で机を叩くと、ロンドンでの光景が立体映像として映し出される。

 

「通じはしますが……些か、出力が不足しているようにも感じます。レディ・エスティナ、これ以上の出力を出すことは可能でしょうか?」

 

問題ありません。あの時は全力にはなりませんでしたので。

 

……えっ?

 

えっ、左腕活性・天撃姫裁(あれ)って全力じゃなかったんです?

 

起源解放第二段階はまだ全力ではありません。…時間がなく、パラケルスス様には申し訳無いことをしました。

 

〈エスティナさんのあの高速詠唱・高速祈祷でも時間が足りなかったのね…〉

 

…エスナ。聞くけど、最大出力を引き出すためにどれくらいの準備期間が必要?

 

最大出力を引き出すための時間。…確かに、重要。

 

……30分。今の私では、それ以上短くすることはできません、ミル姉様。

 

「30分か……円卓の騎士と粛正騎士相手に30分。その間エスナは無防備になるはずだからエスナを護る人が必要になる。今ここにいる全員が聖都を攻めるときにいられるとは限らないし…」

 

「…あの、プリンセス。1つよろしいですか。」

 

「うん?」

 

「神聖なる力は1人で出力しなくても問題ないかと。2人以上で同時に正門へ叩き込み、正門を砕くことも視野に入れるべきかと…」

 

「…それもそうなんだけど、そんな簡単に神聖なる力を扱えるサーヴァントがいるかどうか。」

 

あー…だからエスナさん単体で考えてたんだね、ミラちゃんは…

 

「…あー、でも聖杯が所謂“詰み”にはしないようにカウンターで召喚してくれてるんだっけ…フランスでのジークフリートとか。…簡単に見つかるものかなぁ。」

 

〈一応サーヴァント反応は山の翁や円卓の騎士達以外にもいくつか観測されている。彼らの中にいるかもしれないけど…〉

 

「……とりあえず今はエスナの技だけで破壊する方針で。不確定要素は後にする。個人的には防御に秀でたシールダーの2人をエスナの護衛に置きたい。それからリッカさんも護衛側に。…防御だけだと対処しきれなさそう。」

 

あー……物量で攻められたら押し潰されちゃうもんね。

 

「なら、もう1人攻撃側が欲しい。もしくは妨害。防御側は俺とマシュさんでいいだろうが、攻撃側がリッカさん1人だと負担がでかい。おまけに相手は粛正騎士、バフもデバフもなけりゃ結構硬いぜ、あいつら。」

 

「それなら、あたしが攻撃に回るわ。氷で足止めもできると思うもの。」

 

ナーちゃんがいれば結構安心かな?凍結鎖凄かったもんね。

 

「……絶対零度とかは流石にやめてね、七海さん。」

 

「流石にやらないわよ。…制御、できないもの。」

 

「了解。一先ずこれで聖都の正門に関してはなんとかなりそうかな。状況が変わればその時その時で補足する。…次、獅子王の裁き……といきたいところだけど、その前に各々の進捗について聞きたい。村の復興と万が一の時の村人達の逃亡ルート、私達の進軍ルートに関して。ジュリィさん、地図を。」

 

「はい。こちらが周辺の詳細地図となります。」

 

そう言ってジュリィさんが机に大きな羊皮紙を広げる。…これ、毎回毎回思うけどジュリィさんの手書きなのが凄いんだよねぇ。

 

「私達がいる隠れ村、東側の村がここ。聖都はこっち側で、太陽王の領地がこっち。この村自体が聖都側から見えにくい位置にあるけど、それはただ単に見えにくいだけ。相手は来るときは来るからね。…そして、それは呪腕さんから聞いた西の村も同じように。」

 

「相手側には直感スキル持ちのモードレッドがいます。魔術的な結界もない村ですから、すぐに場所は割れる───いえ、今にでも割れているでしょう。」

 

「今から行っても時間はかかる、けどこっち側でも準備が終わってない。…一応策はあるけど、できればあまり使いたくないし。正確な座標が把握できてないから転移魔法も危険だからね。」

 

あっ……(察し)

 

「アーラシュさんは今までどおり狼煙の警戒をお願い。こっちの準備が終わってなくても敵に見つかった報告が上がればすぐに行くから。」

 

「了解。万が一あっちが敵襲になった場合、乗り込むのは誰になる?」

 

「私と…あとルーパスさんとリューネさん。この3人なら多分耐えれるから。」

 

「「耐え……?」」

 

まぁ……アレだよね、多分。

 

「それは別にいいんだが、マスターのリッカはどうする?サーヴァントなんだからマスターの近くじゃねぇと本領出せないだろ。アーチャーでもないわけだしな。」

 

「私達ハンターのサーヴァントは“自立魔力”っていうスキルがあるから…リッカから離れても特に問題はないよ?」

 

「自立魔力?単独行動スキルみたいなもんか?詳細を教えてくれや。」

 

ええっと……

 

「マスターがいなくとも宝具の解放が可能で……聖杯からのサポートがなくても現界できるんだっけ。」

 

〈そうだね。単独行動スキルの魔強化…単独顕現スキルをちょっぴり弱体化したくらいのスキルかな?そのスキルを持つサーヴァントによっては聖杯なしでサーヴァントとの契約もできるっぽい…〉

 

「ふむふむ、なるほどなぁ……ってちょっと待て!!聖杯もなしにサーヴァントがサーヴァントと契約できるのはどう考えてもおかしいだろ!?」

 

「そんなこと言われても…」

 

〈でも普通に考えればおかしいわよ…第五次聖杯戦争の私の場合、山門をマスターとして小次郎を召喚しているのだもの。サーヴァント本人が聖杯を介さずマスターになれるのはおかしい以外の何物でもないわ。……常識的に考えれば、だけれど。〉

 

〈常識なんてとっくに捨て去ったさ!何せやることなすこと規格外だもんねぇ、ハンター達は!〉

 

「とりあえず常識は持ってた方がいいぞ、ダ・ヴィンチ。…生前から手遅れな気もするが」

 

〈あっはは!言うねぇ、六花!ようし、後で天才直々の鬼畜メニューを課してあげよう!カルデアに戻ってきたら覚悟するんだね!〉

 

「へいへい…天才の無茶振りは慣れたわ、マジで。」

 

慣れちゃダメだと思う…

 

〈レオナルドも楽しんでるんだろうね、キミに無茶振りするの。六花への無茶振りを考えるとき、凄く生き生きとしてるんだ。〉

 

「勘弁してくれよ……俺はただの凡人だっつーのに。」

 

〈…でも、レオナルド師匠が言っていたわよ?“六花は平凡ではなく非凡の域、天才に限りなく近いモノがある”って…〉

 

「それで封印指定されちゃ敵わん。」

 

〈君は既に封印指定域だがね…大方マリスビリーが君をカルデアに連れてくることで護ったのだろうが。人理が戻れば即座に封印指定かもしれんな。〉

 

「やめろ、マジで。つーか確か封印指定食らってた気がするんだよな……」

 

封印指定って確か……“魔術協会に所属する魔術師にとって最高級の名誉であると同時に厄介ごと”、だっけ?

 

「……個人的な質問で申し訳ないんだけど、封印指定って何?」

 

「あ?あー…封印指定ってのは魔術協会に所属する魔術師にとって最高級の名誉のことだ。…そして同時に、大きな厄介事でもある。当然だ、魔術師としては先を探求するものなのにその先を探求することを縛られるんだ。」

 

「というと?」

 

「大英博物館最奥───“橋の底”と呼ばれる場所には今も多くの魔術師が幽閉されている。その総てが封印指定を受けた魔術師で、希少な術式を扱える魔術師を保護…いや、“保存”してんだ。」

 

「……保存。…嫌な言い方するね。」

 

〈事実でしかないからな。あれは保護というよりも保存、標本採集と同じようなものだ。次の段階を求めるために魔術協会から失踪する魔術師も少なくないな。〉

 

〈…魔術協会も外道だから失踪したとしても放置することの方が多いわ。放置して魔術の成熟を待つの。…その方が魔術協会としては価値があるもの。一般人への被害なんて知ったことじゃないのよ。……今となっては、頭が痛くなる話だけれど。〉

 

「マリーって結構一般人側に染まってきてるよな。思考が。」

 

〈元々マリーは普通の魔術師よりも一般人寄りじゃ………痛い、痛い!強化した拳で殴らないで!!〉

 

何やってるんだろ、ドクターは……

 

「…とりあえず、封印指定に関しては置いておいて。話を進めるよ。…私の個人的な質問だったし。……村の復興状況について、呪腕さんからお願い。」

 

「承知。…とはいっても話せることなどそうありませんが。ギルガメッシュ殿やジュリィ殿の協力により、こちらの飢餓は総て解消。衛生環境もよくなったといえましょう。……気になるのが、最初のジュリィ殿の料理を食した者の力があり余っていたことですかな。サーヴァントまでとは行かずとも、人間離れした力を得ていたのは事実。…料理に何か盛ったのですかな?」

 

「……嬢?もしかして“ネコ飯”…鋭利上昇特化の“肉料理”振る舞った?」

 

心当たりがありそうなルーパスちゃんがジュリィさんに聞く。

 

「…不味かったでしょうか……」

 

「どうなんだろ……ハサン、何か問題起こった?」

 

「いいえ、特には。大体50分でその力は切れてしまったようですしのう。…ところで。ネコ飯、とはなんですかな?」

 

「クエストに行く前……戦いに行く前に食べる料理のことね。各地の料理によって効果は変わるけど…“食事スキル”って呼ばれるものが付与されるのは大体同じかな。嬢が振る舞ったのは恐らく新大陸の肉料理。鋭利上昇特化なんだよね。分かりやすく言えば攻撃特化。」

 

「ふむふむ。」

 

「普通のネコ飯の不思議なところは例え食べたとしても10分くらいでお腹が空くところだねー。長期クエスト用だと5時間くらいか。…というか嬢?嬢ってネコ飯じゃなくて普通の食事も作れなかった?」

 

「…相棒の言う通りです……新大陸に渡ってからの料理をする時の癖で“草食竜の卵”、“キングターキー”、“ワイルドチキン”、“壺漬け生肉”、“龍ノコハク酒”、“大吟醸・龍ころし”を入れてしまったもので……すみません」

 

だ、大吟醸……

 

「…花火師、我慢、目利きか。食事スキルはネコの射撃術、ネコの受け身術、ネコの解体の鉄人…日替わりがどうなってるかわからないけど。お酒も入ってるのはちょっと不味かったんじゃないかなぁ…」

 

私がお酒弱いのもあるかもだけど、ってルーパスちゃんは呟いてた。

 

「振る舞ってしまったのは仕方ないから、ジュリィさんは振る舞った人達が何か問題起こさないように、または何か異常を起こさないかよく経過観察すること。…大丈夫だとは思うけど。」

 

私達が食べたときとかあまり異常起こさなかったもんね…お酒は知らないけど。

 

「逃亡ルートだけど、リッカさん達が来る前に太陽王の方から銀嶺がこっちに来たから逃亡先を確保しておいてもらった。一応ルートとしては……」

 

ミラちゃんが地図に線を書き込む。…あれ、結構近い?

 

「結構近いですな?ここから遠く離れていませんぞ。」

 

「うん、結構近めの場所にしてもらったの。…こっちには子供達もいるし。長距離移動は難しいでしょ?」

 

「む…それは確かではあるのですがな…」

 

「巨獣“ガムート”はそもそも“不動の山神”とも呼ばれる存在。その老齢個体であり、強力な存在となったのが“銀嶺”───“世界最強峰”。山の神どころか山そのもの、そんな彼女は山において真の力を発揮する。」

 

「でもミラちゃん、あの日銀嶺さんって凄く傷だらけじゃなかった?」

 

「うん。別れた後で細かく診た感じ、宝具を何十発かもらったみたい。ガムートの生息地は雪山とか氷海とか…そういった寒いところが主なんだけど、あの銀嶺はしばらく太陽王の砂漠にいたんだろうね。…相性的にも概念的にも適合しない場所だからこそかなり弱体化してた。実際、山に来てからというもの急激に回復してるし力を増してるからね。」

 

ガムートさん……って氷属性なんだっけ?うろ覚えだけど。それだと確かに砂漠みたいな暑いところは辛いかも…

 

「“六花の大盾”───その存在の強さを、某はこの目でしかと見ましたぞ。あれが本気でないと言うのでしたら、我等が同胞を確かに護れそうですな。」

 

「…煙酔のが言うのであれば、間違いはないか。ミラ殿、銀嶺殿にお伝えくだされ。我等が同胞をよろしく頼みます、と。」

 

「伝えておく。…で、次は進軍ルートに関して。…なんだけど。」

 

ミラちゃんが困ったような表情になる。

 

「…ごめん、これに関してはまだ確立できてない。どれくらいの人数が動けるかによって変わってきちゃうから。」

 

あー……

 

「太陽王のところのも合わせてどれくらいの規模になるかが判明したら確立は出来そうだけど…」

 

「俺達だけだとは限らねぇもんな…」

 

「……一応、今この会議にいる人数だけだったらここに来たときに使ったルートが使えるとは言っておくね。」

 

そうなると少数精鋭…人数を絞らないとになっちゃうか…でもそれは避けないと。相手の数が未知数だし、私達はあの城を正面から叩き潰さないといけないから。…桶狭間の戦いとかみたいに、奇襲という方法がとれないから。

 

「…じゃあ、最後。───“獅子王の裁き”について。情報開示をお願い、飾莉さん。」

 

獅子王の裁き。その言葉に、空気がより一層張り詰める。今、私達が一番注意しないといけない問題。いつ起こるかが全くもって不明な、突然の奇襲攻撃。

 

「…あぁ。俺がここの特異点に来てから分かったこと程度でいいなら話すぜ。───あれは獅子王の持つ聖槍、ロンゴミニアドの一撃による局所的な無差別破壊だ。ここに来るまで何度かクレーターがあったのを見ただろうが、あれが裁きの痕跡。…だが、あれは恐らく脅しに過ぎない。既に聖槍を数回防いでる俺だが…脅しではない、全力の聖槍を撃たれて耐えられるかどうかだな。」

 

「そう…」

 

「一応1つ策はあるが、それを使った場合俺は役に立たなくなる可能性が高い。元より弱体化してるから、どうなるかが未知数だ。」

 

「……もしその策を使ったとして、勝算は?」

 

「五分……いや、8対2。その程度か?」

 

「正確には78%ほど?」

 

「さっきも言った通り未知数だ───だが、ある程度の予測は立てられてる。…(るな)の言った78%が妥当か。」

 

「耐えられないとしても俺の宝具で打ち消すことは出来るだろうからあまり気にしなくていいんじゃないか?」

 

アーラシュさんがそう言う。…うーん。

 

「できればアーラシュさんの宝具は使いたくないなぁ…」

 

「リッカに同意。できれば犠牲者は増やしたくない。人間にも、サーヴァントにもな。」

 

「やれやれ、困ったな……」

 

困ったような表情をするアーラシュさんにミラちゃんがため息をつく。

 

「自分の命は大事にしなさいな。……私達が言えることじゃないけど。」

 

「私が言うことじゃにゃいですけど、命は大切にした方がいいですにゃよ。」

 

「本当にルルが言うことではないな……」

 

「うっ…」

 

あー……たしかルルさんって全力で攻撃放つと身体壊すんだっけ…

 

「……一旦は飾莉さんの防御で防ぐ方針で。それでも足りなさそうなら私が多重防壁を組む。正直、確実性は低いけどアーラシュさんの命を使わない方法はこれくらいだと思う。…あとあるとしたら英雄王の乖離剣とかかな?」

 

「“終末剣エンキ”という弓もあるが…起こしておくのを忘れた故、出力が足りん。…先に名の出た銀嶺とやらの防御性能はどうなのだ?」

 

「どうだろ……“六花の大盾”って呼ばれるくらいだから防御性能そのものは高いんだけど。大分回復してるとはいえ負傷してるわけだから…勘だけど致命傷になる気がする。」

 

「ふむ………」

 

……私達は、どうしたらいいんだろう。結局のところ、裁きに対する対応策が定まりきらないまま、その会議は幕を閉じた。




(るな)「無意識下創造世界?」

そう。厳密には、観測・認識できてる時点で無意識下じゃないんだろうけど。“何をいれよう”、“何を作ろう”…そんなことを全く考えずに創造が行われる世界のことをそう呼んでる。

(るな)「……」

リッカさんの世界はまだ半意識下創造世界だから、調整が効きやすい。でも無意識下創造世界はその調整が全く効かない…そんな世界。私が知ったものがそのまま反映されるような世界だからなんとも。

(るな)「……それで?その話をした理由って?」

…前回の夢の話。あれを聞いて、リッカさんの世界を改めて精査してみた。その世界と繋げた記憶はないし、繋がってたとしたらそれは無意識創造領域だからね。そしたら、見つかったよ。

(るな)「……?」

世界の表側(実数世界)世界の裏側(虚数世界)───そして、()()2()()()()()()()()()()1()9()9()0()()()()()()()()()()()()()()()。並行世界があるとかじゃない、完全に共存してる。……ただ、人理焼却と人理漂白…面倒だから“人理異常”で纏めるけど、その人理異常で時空間は凍結してるみたい。

(るな)「共存…」

…彼女に警告を送っておいて。共存している以上、何が起こるかわからない。並行世界じゃない以上、ふとした弾みで簡単に交わる。…それに、原作と大分違うみたいだし。

(るな)「大分違う?」

うん……何も起こらないといいけど、ひとまず解析は進めておく。…あっちは魔法、こっちは魔術───どちらも“魔”を扱う世界だから何が起こってもおかしくないからね。

(るな)「……ところでふとした弾みって具体的には?」

(るな)の“空間歪曲爆発術”だったりあっちの世界の“姿くらまし術”…正確には“空間消失収縮反応”。存在するべき空間が何らかの理由でいきなり消失した時の空間を戻す反応が危険。

(るな)「なるほどね……ところで、今回運命の選択が4択になってるけど」

流石にどっちを選択にするか決められなかった。ホント、申し訳ないけど。

(るな)「はぁ…まぁ、なんとかなるでしょ。」


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第325話 死を告げる天使と祝福をもたらす龍と

運命の選択はまだ反映されない。…それは良いことなのか悪いことなのか。

暗「……」

貴方の出番じゃないよ

暗「…うむ」


「じゃあ、ちょっと出掛けてくるね。」

 

会議が終わったあと、私はナーちゃんとお母さんにそう告げていた。

 

「…絶対に、帰ってくるのよね?」

 

「うん。私は絶対にここに戻ってくるよ。」

 

「……分かったわ。」

 

〈お気をつけて、リッカさん。何があるとも知れませんから。〉

 

「ミラちゃんも一緒だから大丈夫だよ。」

 

「それならいいのだけど。」

 

「…じゃあ、改めて。行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。気をつけて帰ってきてね?」

 

ナーちゃんのその言葉を最後に、私はテントから出て村の入り口に急ぐ。待ち合わせはそこなんだけど…っと。

 

「お待たせ、待った?ミラちゃん。」

 

「ん……ううん、そこまで待ってないよ。私も今さっき来たとこだし。」

 

気遣い…とかじゃなくて確かにそうっぽい?見た感じ準備まだ何も終わってなさそう。

 

「さっきまで英雄王とフォウに捕まってたからねー…ホント過保護なんだから…」

 

「…でも、嫌がってるようには見えないよ?なんか以前より刺が取れたっていうか…」

 

「…そう?リッカさんからみてそう見える?」

 

「出会った頃ってもっとツンツンしてたような気がするよ?」

 

「………ごめん、表現が理解できてないんだけど…ツンツンしてた、って……」

 

「あー…えっと。刺があるとか、素直になれないとか…そういうときに使われる表現かな?」

 

「素直になれないわけじゃないんだけどな…」

 

困り顔でミラちゃんが呟く。

 

「鐘の音……山頂に近いところから聞こえてきてるよね」

 

「うん…だから一応山頂に行くための準備はしてるけど……リッカさん、じっとしてて?」

 

「?うん。」

 

ミラちゃんが私に杖を向ける。

 

「───あらゆる寒さを力と化す北風よ。あらゆる暑さを力と化す南風よ。求める者の声に応え、その力を貸し与えたまえ。寒さと暑さに立ち向かう者に、汝らが風の導きを───」

 

ミラちゃんがそう唱えた途端、何かが変わったのが分かった。…うまく説明できないんだけど、何かが。

 

「今のは?」

 

「“南北へ導く風”。“寒冷適応”スキルと“炎熱適応”スキルの合わせ技…を魔法で付与したの。流石にホットドリンクとか飲みたくないだろうし。」

 

あぁ…なるほど。

 

「山は気候が変わりやすいから、一応炎熱適応も入れておいた。…北風だけで十分だったかもだけど…おいで、キリゼ」

 

ミラちゃんの言葉で黒いユニコーンが召喚される。確か…

 

「霜幻獣“キリン亜種”、だっけ。」

 

「そうだよ。…なんかごめんね、キリゼ。今回もお願いしていいの?」

 

ミラちゃんの言葉にキリゼさんが頷く。

 

「ありがとう。…よぃっと」

 

勢いをつけてミラちゃんがキリゼさんの背中に跳び乗る。他の古龍に比べると小さめな“キリン”種だけど、古龍であることには変わりないから人1人に跳び乗られたくらいでは動きは阻害されないっぽい。

 

「ほら、リッカさんも。」

 

「…いいの?」

 

私の問いかけにキリゼさんが頷く。…というか、“早く乗れ”とまで言われてる気がする。

 

「…それじゃあ、失礼します……っと」

 

ミラちゃんの手をとってキリゼさんの背に乗る。…以前も思ったけど、少しひやりとする。

 

「しっかり掴まっててね?───跳躍力強化」

 

「う、うん…」

 

私が答えた直後、私達を乗せたキリゼさんは跳んだ。

 

 

ゴーン……コーン……ゴーン……リリーン………

 

 

「……鈴のような、鐘のような…音が混ざってるよね。ミラちゃんも分かる?」

 

「うん……私、この鈴の音どこかで聞いたことある気がするんだけど…どこだったかな。」

 

どこかで聞いたことある……か。

 

「いつのことだとか分かる?」

 

「う、うーん……少なくともこの世界に来る前。…それ以外は、ちょっと。」

 

「そっか……ん、なんか暗くなってきたね…」

 

「それどころか“北風の召喚師”の効果発動してるのに寒くなってきてるね…主に精神的なものだと思うけど。目的地が近いのかな?キリゼ、大丈夫?」

 

ミラちゃんの問いかけに頷くキリゼさん。

 

「…なんだろうね。昔、私が感じてた感覚がする。」

 

「あ、それはなんとなく私も。…でもミラちゃんと私の過去って共通点あるの?」

 

「大まかに言ってしまえば“死にかけてた”っていう点は共通してるかも?リッカさんは精神的に、私は肉体的にね。」

 

あぁ…

 

「ただ分類が全く違うはずだからあまり関係ないとは思うんだけどな…」

 

「……精神と肉体は文字通り一心同体。だから、関係ないわけじゃないのかも?」

 

「そうなのかな……ん、魔力反応?」

 

ミラちゃんがそう言った途端にゴーストが現れる。

 

「氷属性でいいかな…キリゼ、あなたの冷気使わせてもらうね?」

 

キリゼさんが頷くのを確認すると同時にミラちゃんが冷気を凝縮させる。…だけど、氷属性の色じゃない?

 

「“天然霜焼け弾”なんて久しぶりに使うんだけどー…」

 

「天然霜焼け弾?」

 

何それ…?

 

「冷気を凝縮して属性弾にするとごく稀に灼零属性の“霜焼け弾”っていうのが出来上がるの。魔法で発生させた冷気じゃなくて天然物として発生した冷気を使うから“天然霜焼け弾”。凝縮難しいんだよねー、天然魔力しか含んでないから…」

 

「な、なるほど…?」

 

灼零属性って確か…火属性125%氷属性125%の複属性だっけ…?

 

「……これでよしと。先を急ごう、キリゼ。」

 

鐘の音は近くなっている……鈴らしき音も、また。音の感覚とか響き具合からして……あれかな?もやもやしてて見えにくいんだけど…

 

「───あそこだ。リッカさん、見える?」

 

「神殿……教会?そんな感じがする、けど…」

 

「…玉座……?」

 

「………違う、あれ…」

 

近づくにつれてハッキリと視認できるようになる。あれは───

 

「「───“霊廟”」」

 

霊廟。「みたまや」ともいう、祖霊を祀る施設のこと。 身近なものとしては、神道の場合は仏教のお仏壇にあたる祖先の霊を祀る場所。

 

「キリゼ、ここで止まって。送還するからまたあとでお願い。……この先は、キリゼには危険。」

 

私が言葉に出す前にミラちゃんがそう指示していた。直感…というか歴戦の勘なんかで分かったのかもしれない。キリゼさんもそれに素直に従ってその場で停止し、降りやすいように屈んでくれた。

 

「ありがとう、キリゼさん。」

 

私が降りたあと、ミラちゃんも降りる。ミラちゃんがキリゼさんに手を翳すとキリゼさんがその場から消えた。

 

「…さて。歩いて行こっか」

 

「うん…」

 

霊廟の扉まであと少し。…強力な、“負”の感覚。祖霊を祀る場所の近くだってこともあってか、ゴーストの姿もそれなりに。

 

 

ゴーン…ゴーン…ゴーン……

 

リーン……リーン……リィィィィン……

 

 

「「っ……」」

 

咆哮かのように、身体が震える。…いや。“ように”、というよりこれは───“龍咆哮”だ。

 

【怯えるな、漆黒の王と純白の妃。遥か先の世界を護らんと猛る龍共よ。汝らの奮闘、我が剣と冬の龍は認めている。】

 

霊廟の扉が開く───その奥から、現れるのは漆黒の人と水色が明滅する白い龍。その龍を見てミラちゃんが息を飲んだ。

 

「冬祝龍“ポワズラビエ”……幻の龍、“祝福龍”が一角…どうして、ここに…」

 

ポワズラビエ……?語源はもしかしてロシア語?поздравлять(祝福する)───でも、どうして?

 

【我に名はない───が、晩鐘と龍鈴の音を聴きながら堕ちず、共とはいえど明確なる意思を以てこの地に踏み入れた気高き龍共には───名乗らなければなるまい。】

 

空気が震える。直感は強い警鐘を鳴らす───ここに顕れているのは、“死”そのものだと激しく告げる。それは“獣”を刈ることができる程の“死”。“死”の極点、“冠位”に座する存在だと。

 

【我が名、“ハサン・サッバーハ”。ありとあらゆる“生”に対して“死”をもたらす者───“冠位”を戴く暗殺者なり。】

 

ハサン・サッバーハ───それも、ただの暗殺者(アサシン)ではなく“冠位暗殺者(グランドアサシン)”ということは。ドクター…ソロモンと同等の位置に存在する“暗殺者(アサシン)”のサーヴァント。

 

「……あなたが、私とミラちゃんを呼んでいたのですか?」

 

【晩鐘と龍鈴は汝らをこの廟まで導いた。晩鐘は汝らを見定めていた───片や人類に産み出された悪でありながら人類を護らんとする龍を宿す悪なる者。片や古の悪に選ばれ悪となった存在でありながら人類を護らんとする龍を宿す善なる者。漆黒の王と純白の妃が抱えし矛盾を問いながら、晩鐘と龍鈴は警鐘を鳴らしていた。】

 

晩鐘、というのは恐らく鳴り響いていた鐘の音のこと。龍鈴、というのは恐らく鳴り響いていた鈴の音のこと。……それと、気になったのが“漆黒の王”。この人は私のことを“漆黒の王”と呼んだ。“純白の妃”というのは恐らくミラちゃんだ。白き龍───祖龍“ミラルーツ”と融合している人間(存在)だから。なら、消去法で私が“漆黒の王”ということになる。……でも、私だって女の子なんだし、言うなら“漆黒の妃”じゃないのかな…いや、妃───王様の奥様っていうほど貴族感とお姫様感ないけども。

 

「ここに私とリッカさんを呼んだ理由はなんでしょう?」

 

【無論、見定めるために他ならぬ。龍共よ、晩鐘がここに導いたのならば我は問わねばならぬ。そして、この廟に足を踏み入れた者は例外なく死ななければならぬ。】

 

「「……っ」」

 

強い圧力。この人からだけじゃなくて、後ろに控える龍───ポワズラビエからも感じる。圧力だけで精神が潰されそうになるのを、なんとか保つ。

 

【証を示すがいい。我と龍に、汝らの真実を。汝らの決意を。汝らが抱く未来への望み、未来を守護せんとする在り方を。我が総てを以て、汝らの総てを見届けん。】

 

………私達の“総て”を、か…

 

「……“総て”…いや、“真実”か。私達の過去を語ればいいのかな?嘘偽りなく、特に私は今まで話したことのあることよりももっと深くまで。」

 

……え?

 

「そうでもしないと納得してくれないでしょう?…冬祝龍、特にあなたは。」

 

「リリリィィィィィ……」

 

鈴のような咆哮。当然だ、とでも言うかのような強い眼差し。方向性は示された、か…

 

「リッカさんが先でいいよ?……私のは、少し長くなるかもしれないし。」

 

「変わらなくない…?同い年だよね?」

 

「いいからいいから。」

 

……んー…まぁ、いっか。とりあえず、話すとしたら立っているよりも正座かな。

 

「私は───藤丸リッカ。見届けてくださる方々、私のこれまでを聞いてくださいますか?」

 

【───良い。聞かせよ。】

 

「リィ…」

 

了承の言葉と同時にハサンさんとポワズラビエが座る。…あ、ミラちゃんも正座してる。

 

「ありがとうございます。では───」

 

父と母に道具として産み出されたこと。期待に応えようとして無意識に無理をし続けていたこと。

 

無理を、病魔を押し潰した結果本来の人としての機能を喪っていたこと。中学校時代に警告を感じるようになったこと。

 

総てがつまらなかった時代にリナリアやアリウム、ニキ、星羅、月詠先生と出逢ったこと。様々な感覚を取り戻したこと。

 

卒業してから視える世界が見違えるかのように広がったこと。ニキと星羅が行方不明になり、リナリアとアリウムが亡くなってしまったこと。それで暫くの間不安定になったこと。

 

リナリア達の導きでカルデアに来たこと。レフ・ライノールの策略でカルデアのシステムが瓦解したこと。

 

冬木で人の言葉を喋る不思議な猫ちゃんを見つけたこと。ルーパスちゃんやリューネちゃん、ミラちゃん達といった英霊として見ても規格外な“人間”と出会ったこと。ジュリィさんとミラちゃんにマリーを助けてもらったこと。ミラちゃんに時間を稼いでもらったこと。

 

フランスで預言書が目覚めて炎の精霊であるレンポくんと出会ったこと。ルーパスちゃんとリューネちゃんの息ぴったりな戦いを見たこと。ミラちゃん単体でも戦闘能力が凄く高かったこと。

 

ローマで森の精霊であるミエリちゃんと出会ったこと。マリーの固有結界の力強さに驚いたこと。アルの途轍もなく強大な心意に気圧されたこと。

 

大海原で氷の精霊であるネアキちゃんと出会ったこと。アリウムを思い出させてくれた大海賊と縁を結べたこと。“死”に対して全力疾走したこと。

 

ロンドンでルーパスちゃんとヴァルハザクの一度目の離別を見届けたこと。雷の精霊であるウルさんと出会ったこと。預言書の主である私は人類悪であると知ったことと。血は繋がらぬ心の母を得たこと。“母の怒り”を垣間見たこと。

 

アメリカでクーの全力を見たこと。死者を愚弄するような魔術に激怒したこと。リューネちゃんの歌に見惚れたこと。香月さん達の規格外さに驚いたこと。そしてそれ以上にミラちゃんとアルの神々しさに驚いたこと。

 

このエルサレムの地で、お兄ちゃんに怒りながらも呆れたこと。間違った円卓を割ることを再び決意したこと。欠けた太陽で預言書によって確約された滅びが近いことを知ったこと。

 

それから───

 

───童話。自らの定義(誰かのための物語)を捨て、“あなただけの物語になる”とまで言ってくれた優しい彼女。私が好きな、1人の女の子。…本人の本質では無性らしいけど、女の子でいいと思う。

 

彼女や正当なる復讐者、鋼鉄の天使に夢の人形───不思議なパーティで地獄を廻り、最奥にて私から産まれた人類悪を打破したこと。

 

未来の私が警告と教導を兼ねて私の前に姿を現したこと。まだ本気を出してなかっただろうけれど、なんとか打破して預言書での戦い方の基礎を学んだこと。

 

この旅路はまだ序盤に過ぎず、更に長く続くと思われること───

 

……結構、長くなったけど。今までの私を、喋り尽くした…気がする。

 

「私のこれまでは、これで以上です。」

 

【……藤丸リッカ。汝の真実、しかと受け止めた。決意は後程聞こう。…】

 

「リィィィィィ……」

 

ハサンさんとポワズラビエの視線がミラちゃんに向く。

 

「…次は私、か。少し長くなるけど、いいです?」

 

【良い。汝の真実、我が前に示せ。】

 

「リィ…」

 

「なら───遠慮なく、全部話すよ。」

 

姿勢を正して、深呼吸。目を瞑った後に一瞬どこか遠くを見る。

 

「───私の名前は“ミラ・ルーティア・シュレイド”。古に、まだ純粋な人間であった頃に名乗りし名前は“ミルティ・スティア・シュレイド”───今から話すのは私の始まり。」

 

歌うかのように、ミラちゃんは話し始める。……正座、辛くないのかな。




裁「誤解ないように言うけど当時の私って死霊魔術が嫌いなわけじゃないからね?」

あれ、そうなの?

裁「サーヴァント召喚自体が一種の死霊魔術みたいなものだし、そのマスターが死霊魔術が嫌いって言っちゃダメでしょ……ただただ本当に“支配する”、“利用する”、“使い潰す”といった腐りきった魂胆が見えてたのが嫌だったの。」


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第326話 龍令嬢の記憶語り・前編

記憶の抽出って結構難しいんだけどな…

裁「リコレクションシステムの限定起動…そんなこともできたんだ。」

リッカさんの時は長期的な観測が必要だと思ったし、観測そのものが危険な記憶だったからフルスペックで起動する必要があったんだけど…これくらいなら。…文字数的にはあまり変わらないのかな?

裁「さぁ…」

…それはそれとしてリカ、警戒はしておいてよね。リコレクションシステムの一部だからこそ奴らを呼びやすい。

裁「うん……今度は、絶対に護るよ。…マスターには、護らせない。」

頼りにしてるよ。…さ、起動しよう

「……絶対に。…4()()()なんて、起こさせないから」

なんか言った?

裁「ううん、何も。」


産まれました、国王様!

 

可愛らしい女の子ですよ!!

 

意外かもしれないけど、産まれた直後の記憶ははっきりとある。“思い出した”の方が正確なのかもしれないけれど。

 

そうか!よかった…!

 

お父様が喜んでいたのもよく覚えてる。お母様が涙ぐんでいたのもよく覚えてる。私は“ミルティ・スティア・シュレイド”と名付けられて第一王位継承者として育てられた。───だけど。

 

かあ、さま……

 

ミルティ…?どうしたの?

 

…あつ…い……

 

ミルティ…?っ、ミルティ!!しっかり、しっかりなさい!?ミルティ!!!誰か、お医者様を呼んで!!!

 

まだ、わずか1歳の頃。突然高熱を出して私はお母様の前で倒れた。

 

…我、汝と契約せし者───契約に従い、その姿をここに現せ───

 

お母様の詠唱───途切れ途切れにしか聞こえなかったほど意識は朦朧としていた。

 

出でよ、始まりの守護者たる青き鳥竜───

 

お母様が召喚した“ドスランポス”に乗せられて、お医者様のところまで行ったのも覚えてる。そして、色々と大事になって王宮中が大騒ぎになったのもよく覚えてる。

 

………これは…

 

…どう、でしょう。

 

…ただの風邪、ではありますがこれほどまでの高熱は異常としかいいようがありませぬな。……大変失礼ですが、御息女様の身体を詳しく調べさせていただきますぞ。産まれてからこれまでここに通った頻度が高すぎることに加え、症状診断がただの風邪である以上、御息女様の身体に原因があるでしょう。皇后様は御息女様を見守っていてくだされ。

 

…分かりました。娘を、よろしくお願いします。

 

症状として、病状としてはただの風邪で間違いなかったらしい。それでも体温が異常───40℃を越えてたらしいから私の身体を調べることになった。そのうちお父様も私が治療を受けている部屋に来て、見守ってくれていた。

 

…………皇后様。国王様。

 

なんでしょう?

…どうした。

 

…非常に申し上げにくいのですが……御息女様は、長く生きることが出来ないかと。

 

「「───」」

 

苦しそうな表情でお医者様が告げた言葉にお母様とお父様は言葉を失っていた。

 

…効くかどうかはともかくとして、幼子用の熱冷ましと風邪薬は投与しましたので、順を追って説明しますぞ。御息女様───ミルティお嬢様は抗体と免疫力を一切持たぬ身体でございます。

 

抗体……

 

医学、治癒魔法に深く通じておられます皇后様はご存じかと思われますが、免疫とは人間の身体に存在する防衛機能。病原体に対し抵抗する、いわば自然の治癒魔法にございます。そして、抗体とは異物を除去するためのいわば武器とも言えるもの。…その免疫と抗体が、ミルティお嬢様には一切見受けられませぬ。故に、ミルティお嬢様はこの先も悉く病魔に侵され続けるでしょう。

 

そんな……

 

お母様の言葉を聞いて、お医者様が顔を伏せた。

 

…そして、もう1つ。こう言ってはミルティお嬢様に大変失礼なのですが…ミルティお嬢様の身体の劣化が、異様に早いのです。

 

異様に早い…と?

 

通常の人間の約8倍から約10倍、と言ったところでしょうか。身体の劣化…細胞の変化が早いということは、それだけ生命の残りも少なくなるということでございます。

 

「「………」」

 

お母様は泣きそうな表情で、お父様は険しい表情で。収まってない高熱のせいか声は出せなかったし、視界もすごく悪かったけどそれはなんとなく分かった。

 

……何年だ

 

……

 

あと、何年……我が娘、ミルティは生きられる。

 

その問いに、お医者様が苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

…私めの判断が間違っていなければ……病原体の存在しない環境であっても、もって14年。今のままでも最悪の場合…余命9年、が良いところでしょうな。

 

「9年……あと、たった9年───そんなに、短いのか……」

 

それこそ、お伽噺に存在する神龍の奇跡でも起こらなければ覆すことは……

 

……う………

 

意識がはっきりとし始めて、声も出せるようになって。お母様達も私が起きたことに気づいた。…実際、ここに運び込まれるまでの間、数分だけ意識が完全に飛んでたからずっと寝ていると思われていたみたい。

 

熱も一応引いたようですな。…どう伝えるかは、お二方にお任せいたします。…それと、皇后様。

 

…?

 

お医者様が近くにあった紙にさらさらと何かを書き記してお母様に渡した。

 

幼子には劇薬過ぎるものですが…“即効解除免疫剤”の調合レシピでございます。…そして、一時的な症状抑制としてこちらの治癒術式も。……申し訳ない、私めではこの程度しかお力になれませぬ。

 

即効解除免疫剤…

 

ただの免疫薬やウチケシの実では効きませぬ。上位種である免疫剤、即効免疫薬でもミルティお嬢様には効かぬでしょう───私が判断した限り、即効解除免疫剤を使うのがもっとも最善手であり、もっとも悪手でございます。…もしもミルティお嬢様が薬で亡くなられた場合は、私めをお恨みくださいませ。

 

即効解除免疫剤───病を即座に治癒し、一時的に治療した病に対する強い免疫力を与える薬。それは大人が使うにしても劇薬に分類されるもの。…未成熟すぎる私の身体には劇薬も劇薬、超劇薬───そもそも12歳以下の子供に対して使うのが禁止とされているような、そんな薬。お医者様はそんな劇薬…“超毒”と呼ばれる恐ろしい症状を引き起こす“超毒薬”とも言えるようなそれを私を救うために提示した。…実際、私には()()()()()()()()()()()()()からお医者様のそれが本当に最善手だった。

 

国王様、皇后様…そしてミルティお嬢様。本日はこれにてお引き取りくださいませ。…今の私めにできることはここまでですので。

 

…分かりました。本日はありがとうございます。

 

お母様が私を抱いて部屋の外へ出て。

 

…どうしましょう、貴方。

 

…うむ。……少し、考えさせてほしい。

 

…はい。

 

それからしばらくは普通に…とはいっても高頻度で病に罹患しては熱を出したり体調崩したり喀血したりしながらも魔法の勉強と練習は続けてた。…速攻解除免疫剤が当時の私にとって超劇薬だったとしても、お医者様がそれを提示してくれなかったら、今ですら生きていたか分からない。

 

ミルティ、ちょっといい?

 

お母様?

 

そんなある日───5歳の頃。龍属性魔法の勉強中に私はお母様に呼び出された。その頃にはもう“シュレイド一の天才”、“魔法の神に愛された娘”とかって呼ばれてたっけな。…そんなことはどうでもよくて、呼び出されて向かった先にはお母様の他にお父様もいた。…流石に、妹達はいなかった。

 

…来たか、ミルティ

 

はい、お父様…?

 

ミルティは今年で5つになった。…私は、いや、私達はミルティに伝えなければいけないことがある。

 

……?

 

…ミルティ、お前は……

 

そのときのお父様の表情はとても苦しそうで。お母様が駆け寄って心配してた。

 

貴方……

 

……私が伝えるから、君は控えていてくれ。

 

…はい

 

…改めて、ミルティ・スティア・シュレイド。我が国の第一王位継承者よ。…私はお前に伝えなければならぬことがある。

 

……

 

名を総て呼ぶってことは、重要なことだと思ったから。私は姿勢を正してお父様に向かい合った。

 

私達にとっては辛いことだが、お前は───あと10年しか生きることができぬ。…そしてそれは長く保てた場合のことであり、実際にお前が生きていられる時間はあと5年が良いところ。……そうであったな、医者よ

 

お父様が視線を向けた方向に私も視線を向けると、確かにお医者様がそこにいて頷いていた。

 

その通りです。…病原体の少ないこの城の敷地であってもあの状態ですから、敷地外ではさらに酷くなりましょう。…残り5年というのですら希望的観測にすぎませぬ。

 

シュレイド王家の城……病原体が少ないその理由は、お父様が私のために城の敷地全体を覆うように結界を張ったから。様々な病原体を除去し、無菌室に限りなく近い状態……あぁ、カルデアみたいな状態かな?そんな感じにしてくれたから。

 

───問おう、我が娘よ。

 

その声で私はお父様に視線を向けた。

 

これより先、お前の部屋のみでしか生きられぬという人生を送るか、この城でしか生きられぬ人生を送るか───それとも、死を近くすることを承知で外の世界へも出る人生を送るか。……選べ、我が娘よ。私はお前の望みを尊重しよう。

 

私の部屋のみで生きる、っていうのは無菌室に監禁…幽閉?するってこと。この城で生きる、っていうのは菌の少ない環境で自由に生きるってこと。外の世界へ出る、っていうのは───死を覚悟で、寿命を縮めることを覚悟で菌が大量に存在する環境に身を投じるってこと。……今思い返すと、お父様も辛い決断だったとは思う。当然ながら私に子供はいないけど、使い魔達(みんな)がいるからなんとなく分かる。…大切な存在を、わざわざ危険な場所に行かせたくない。それでも、私の意思を尊重するために最後の選択肢を残した。…そう、なんだと思う。

 

わたしは……

 

……

 

…わたしは、外の世界に行きます。……この世界を、この目で見て回りたい。様々な獣魔と、実際に出会ってみたいのです。…お願いします。…外の世界に、行かせてください。

 

……

 

お父様はその回答を聞いて、目を瞑った。

 

…やはり、か。

 

……思えば、ずっと不思議だった。私は城の外に何故出てはいけないのだろうと。特に妹───第四王女はあちらこちらに行き回っては色々な人に迷惑をかけているらしいというのに。…私は何故、城の外で出てはいけないのだろうと。第二王女たるエスナも外に出ることは制限されていなかった。第一王女の私だけ…何故、と。不思議に思っていたことを覚えてる。

 

───よかろう。明日より、ミルティが城の外へ出ることを許可する。だが1つ条件をつけよう。ミルティが獣魔と契約するまで、東シュレイドより出ることは禁止とする。…できるか?

 

───はい。

 

当時の私は召喚魔法を勉強するのを後回しにしてたから。それを、お父様は危惧したのだと思う。私のメイン武器は超がつくほど魔法特化型な武器種の“杖”なわけだし。

 

よし。…それではこの話はこれで終わりだ。今日は休みなさい。

 

地味に張り詰めていた空気もお父様がそう言ったことで消える。私は私でそんな時に風邪を発症して倒れた。…いつものことだけど。そして回復したあとはエスナと城の外に出てひとまず東シュレイド各地の集落やギルドを見て回る日々が続いた。…その頃は、“聖女姉妹”なんて言われてたっけな。ずっと城の中にいた私にとって、何もかもが新鮮で、何もかもが初見で。時に病人を治癒したり、時にはシャドウを撃退したりして、過ごしてた。

 

た、大変だ……!!

 

───そんな、ある日。6歳になった頃。お母様とお父様とで城の庭で談笑していた私に転機が訪れた。

 

き、傷だらけの……瀕死の、滅尽龍が……!門の外で倒れてる!!

 

滅尽龍“ネルギガンテ”。全身から生える無数の黒い棘と、非常に太く頑強に発達した双角、そして何より極めて好戦的且つ凶暴な性格を特徴とする大型の古龍種。古龍種の存在はシャドウではなくとも十分に脅威だった。

 

すぐに東シュレイド王城の施術所に運んでください!

 

だけど、私としては見捨てることはできなかった。古龍種、特にネルギガンテはこっちにも被害を及ぼすことはあっても基本的に自らの意思で積極的にシャドウと戦ってくれている存在───守護神にも近い存在だったから。村人達とアイルー達はネルギガンテという強大な存在に怯えながらも、私の言葉に従って東シュレイド王城の施術所───獣魔専門の施術室にそのネルギガンテは運び込まれた。

 

酷い怪我…!いいえ、それ以前に衰弱しすぎ……でも絶対に治します…!

 

当時の私が持つ知識を総動員してネルギガンテを治療した。その時一緒に手伝ってくれたのはお父様とお母様、お医者様と学者さん。私が主体となって麻酔、治療、治癒───施術の総てを担当した。お母様もお医者様も驚いてたよ。“こんなに幼い子がここまで知り尽くしているものなのか”、って。召喚術師になる───使い魔達の主となり、使い魔達の生命の行方を左右する以上、使い魔達を護ることに妥協はしたくなかったから。獣魔達はどんなものが効いてどんなものが効かないのか、どこをどうすれば治療できるのか───そういった書物を片っ端から読み漁ったから。…流石に初見だからすごく荒いけど、それでもなんとかネルギガンテは一命を取り留めるほどにまで快復させた。

 

……ふぅ

 

施術が終わったあと、私達は疲れ果ててその場で寝ちゃって。目を醒ましたら私の目の前にネルギガンテの顔があった。

 

わ、わわわ!?

 

驚いて後ろに下がって。その驚いたときの声で皆が起きて。ネルギガンテは施術台から降りた。

 

……凄い……流石古龍種…ですな。既に心拍は安定、血流も安定していますぞ。

 

お医者様の言葉に、私は安堵した。…でも、ネルギガンテが私の方に近づいてきて私は再度緊張状態になった。知ってると思うけど、滅尽龍“ネルギガンテ”は見た目が結構怖い。敵意は感じられなかったけど、ネルギガンテという存在から自然に感じる威圧感は変わらない。…それでも、恐る恐るではあるけどネルギガンテの顔に触れた。

 

…よかった。また、自由に飛べるそうで。……荒くて、ごめんなさい。

 

「………ガァ」

 

ネルギガンテは一鳴きして、私の指を舐めた───そのとき。

 

───っ?

 

パチッ、と。何かが繋がったような感覚がした。

 

「…ガァ」

 

───え、今のは…?

 

ネルギガンテに聞くけど応答無し。その代わり、私にすり寄ってきた。…それと同時に地面に落ちる銀色の結晶。その結晶を見て、学者さんが愕然とした。

 

…な、なんと…これは……

 

学者さん…?

 

絆……()()()()……ですと…!?滅尽龍と、まさか……!

 

絆の…契約?

 

学者さんはあり得ないという表情をしながらも、でもその事実は変わらない、という矛盾で───呆然としていた。学者さんの代わりにお医者様が呻くように口を開く。

 

ご存知ないのですか、ミルティお嬢様…!古龍種との使役契約は種族別で見ても最高難易度とされているもの…!その中でもかなりの難易度を誇る滅尽龍“ネルギガンテ”と…!今貴女様は“絆の契約”と呼ばれる()()()()()()()()を結んだのですぞ…!!

 

あとで調べて分かったのだけど、絆の契約はそれそのものが難しい契約で、契約した際に“心霊契石”という結晶が現れるらしい。そしてその心霊契石と特殊な加工を用いて生産した指輪の名を“リングコネクティア”───別名を“人と獣の絆の指輪”という。絆を結んだ数が多ければ多いほど───使用された心霊契石が多ければ多いほど綺麗な指輪になっていくのだ、と。そして心霊契石のランクが高ければ高いほど───心霊契蛍石(超弱体級)心霊契結石(弱体級)心霊契石(下位級)心霊契光石(上位級)心霊契輝石(凄腕級)心霊契煌石(G級)心霊契神石(特殊級)心霊契星石(極特殊級)心霊契純石(全解放)の順でランクが高くなる───獣魔を強い状態で召喚できるようになるのだと。

 

わたしの……使い魔に、なってくれるのですか?

 

私も状況が飲み込めてなくてネルギガンテに聞いた。ネルギガンテはその問いに頷いて、私の隣で寝息をたて始めた。………もう気づいてると思うけど、このネルギガンテが…今のネルル。古龍種を使役できるようになったことでなんか色々面倒なことにはなったけど…1ヶ月後にはお父様との約束通り東シュレイドより外にも出られるようになった。

 

わぁ~!ネルギガンテ、助けてください~!!

 

「ガァァァ……」

 

獣魔に襲われる、というか獣魔に好かれ過ぎて困ったことになって。当時のネルルもどうすればいいか分からなくて困惑してたっけ。流石にシャドウには好かれなかったけどさ。…あれは獣魔というか……魔力の淀みが産み出した偽物というか。シャドウサーヴァントみたいなものだから。でも、色々と見て回ってるときもやっぱり発症は多くて。その度にネルルに東シュレイドまで送ってもらってたな…

 

助けて……

 

うん……?

 

そこからさらに転機が訪れたのが9歳の頃。…お医者様から言われた短い方の寿命の最後の年。…いつ、私は死んでしまうのだろう、ってずっと不安だったっけ。

 

助けて……

 

誰…?

 

ミル姉様?

 

初めて声が聞こえたその夏の日はエスナの魔法の勉強を見てた。その頃にはもう私は第四位“エンシェント”───複数の古龍と契約し、優秀な魔法行使能力を持つ者だったから。ふと、私達以外の声がしたのを気にした私をエスナが不思議そうに見つめてた。

 

…エスナ、だれかわたし達以外の声って聞こえませんか?

 

私達以外の声…ですか?…いえ、聞こえませんが…

 

そう……?…聞き間違い…?

 

その場は聞き間違いかと思ってエスナの勉強に戻った。だけど、その日から何日も頭の中に直接声が聞こえてた。お母様やお父様、執事やメイド、他のサマナー達に聞いてみても何も聞こえないって言われて、何かの病気かもしれないと思ってお医者様に聞いてみた。

 

ふむ……診断結果は風邪や何らかの病ではありませんな。幻聴、と言いますと高熱によるものでしたり、精神的なものでしたりするのですが…そのいずれも反応無し。…最近、速効解除免疫剤の方は?

 

……10日前に、いつもの風邪でこの王城に帰ってきて使用したのが最後です。

 

で、あればその線は薄いでしょうな。既に薬物学にも通じていらっしゃいますミルティお嬢様であればご存知だとは思いますが、速効解除免疫剤は速効性が高い分持続力がありません。現状確認されている副作用に幻聴は存在せず、またその副作用はいずれも服用後7日で終了します。

 

そこまで言ってから少し考え、思い出したように口を開く。

 

そういえば、ミルティお嬢様は獣魔言語を習得しておりましたな?

 

はい、一応…

 

でしたら、何らかの獣魔の声がお嬢様の精神会話術式に引っ掛かったのかもしれませぬぞ。…様々な獣魔と触れ合うミルティお嬢様が聞いたことがない声となると、限られてくるとは思われますが…いかがでしょう。

 

禁忌種と瘴気の谷と似た環境にのみ生息する獣魔。契約はしていないものの会ったことある獣魔が多いですから。

 

むむむ……あまり詳しくはありませぬが20種ほどですかな。未だ見ぬ獣魔と出会える吉兆……であると良いのですがな。

 

そう言ってお医者様が哀しそうな表情をする。…私の残り時間がもう少ないことを、私の他ではお医者様が一番分かっているから。

 

……ミルティお嬢様

 

はい?

 

ミルティお嬢様は…瘴気の谷へ、行きたいですかな?

 

……まぁ。できることならこの世界の全てをこの目で見たいです。…だけど、それは叶わない。わたしの体質故に瘴気と未浄化狂竜物質は致死性の高い毒ですから。

 

…そう、ですな。そしてそれは噛生虫の毒も同じこと…どうしたものでしょうな。

 

……とりあえずわたしは生きれるだけ、後悔のないように生きるつもりです。わたしはもうすぐ命を落としますし、この国の後の事はエスナに任せるしかありませんが。…でも、できることなら。エスナの成長を、エスナの行く道を……見守っていたかった。

 

……

 

…いつまでもいてはお邪魔でしょう、わたしはこれで失礼しますね。

 

…また、いつでも来てくだされ。

 

完全な解決には至ってないけど一つの方向性は示されたから、何か慌てたりしても何もないと思ってそのまま過ごすことにした。……そして、それは突然起こった。

 

おやすみなさい、ネルル

 

「ガァ」

 

雪の降った冬の日の夜。私はネルルと一緒に布団で寝た。……その、はずだった。

 

───くしゅっ

 

私の部屋の中は温度・湿度が保たれていたし、“寒い”なんてことはあり得ない。…そのはずなのに、寒かった。その寒さで目が覚めて、身体を起こして辺りを見渡すと───私は私の部屋にはいなくて、既に廃墟となり放棄されているような城の跡地にいた。

 

ここ、は……

 

その場所に足を踏み入れるのは初めてだった。だけど直感的に、知識的にその場所を私は理解した。───かつて古代文明が栄えていた頃、私達の先祖が治めていた地。憤怒の災厄により変わり果て、人の住めぬ、限られた者以外立ち入ることを禁じられた禁忌の息吹く依代───中央シュレイド、“旧シュレイド王国城跡地”だと。

 

寒……

 

雪も降ってたからすぐに“北風の護法”を発動させて体温を保った。中央シュレイドに立ち入ったことはなかったし、地理はほぼほぼ分からない。本来ならすぐにでも帰るべきなんだろうけど……私の目覚めた場所の近く、私の視線の先に異様に傷ついた白い龍が横たわっていたのが気になった。

 

大丈夫…ですか?

 

思わず竜人語で話しかけてしまって“しまった”って思ったけど、白い龍は声をかけた私を見て微かに口を開いた。その頃は、基本的に精神会話術式で獣魔に話しかけるようにしてたから口は動いてなかったはず。

 

人間の…娘…?こんなところに、珍しい……

 

その竜から聞こえたその言葉は確かに竜人語で。……その龍から聞こえたその声は。今まで聞こえていた謎の声と、全く同じだった。

 

……あなたが、わたしを呼んでいたのですか?

 

え……?

 

私がそう聞くと、白い龍は驚いたように声を上げ、その顔を持ち上げて私を直視した。

 

私の声が……聞こえる、の…?

 

はい、まぁ……

 

……夢、みたい……まさか、私の声が聞こえる人間が…いる、なん…て……

 

そこまで言って白い龍はまた横たわった。

 

大丈夫……ですか?

 

……

 

その龍は静かに首を横に降った。

 

……生きたい

 

……?

 

私は…まだ、死にたくない……

 

───“生きたい”。“死にたくない”。それは、私も同じことを思っていた。杖をしまって、私はその龍に近づいた。…不思議と禁忌種…それもミラボレアスと思われる龍に無防備で近づくことに、恐怖はなかった。

 

……わたしもです

 

…?

 

わたしも…まだ、死にたくない。まだ……みんなと一緒にいたい……

 

………私と同じ……なんだ

 

龍の言葉に頷いて、龍の身体に自分の身体を預ける。

 

『『まだ…生きたい───』』

 

そう、同時に呟いたとき。……それは、起きた。

 

「『……?』」

 

よく分からない感覚がした。普通の契約とも、絆の契約ともまた違う変な感覚。解けて、融けて、蕩けて、酔って、混ざりあって───全身が火属性やられになったかのように熱くて、水属性やられになったかのように湿って、氷属性やられになったかのように寒くて、雷属性やられになったかのようにピリピリして、龍属性やられになったかのように魔力が廻りにくくて。全部治まった頃には、白い龍の姿は忽然と消えていて───私の髪が、白くなっていた。

 

え……なんで……?それより、あの龍…は………

 

そこまで呟いて、気がついた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

…う、ううん……あれ…?

 

え……!?

 

私の中から声がした。精神会話であるのはそうだけど、私の“内部”から。

 

どう、なって……

 

……え?え??

 

その時、私は状況を理解できなくて。…そのまま、私は意識を手放した。

 

ちょっ……人間!?と、ともかく人里まで送らなきゃ!え、ええと……!!

 

本人…本龍?の話だとその時は予想外の自体に慌てながらもどうにか私の身体を動かして人里まで送ってくれたらしい。

 

 

───この白い龍こそ、私と融合した祖龍ミラルーツ……いいえ、彼女を真に呼ぶならばこの呼称は正しくない。

 

 

あらゆる文献に記録はなく、総ての獣魔が記録されるはずの私のグリモワールにも記録されない、ただ1つの御伽噺に名を残す幻の龍が片方。総ての龍の王とされ、総ての獣魔の母と呼ばれる純白の王妃。総ての女王、総ての礎となり総ての祖となった白き龍───

 

 

 

白龍“ミラボレアス”

 

 

 

───通称“ミラロード”。“総ての起源”、“幻の神龍”とまで言われし唯一無二のミラボレアス種。空間を歪ませて場所を越える力を持つ他、自身をあらゆる獣魔の性質に変化させる、自身の性質をその環境に適応させるといった適応能力を持つという。

 

そんな古龍が、私と一体となった。




裁「実はマシュと同等かそれよりも酷い状態だったミラちゃん。外界だと防菌用の結界を身体に纏うように張ってても数時間行動できるのが限界だったとか。」

こんなこと言ったらどこかから怒られそうな気もするけど免疫不全症候群と早老症の併発……なのかな、これって?

裁「早老症とはまたちょっと違うんじゃないかな…ミラちゃんの場合細胞劣化が早いとはいっても見た目の変化は普通通りなわけだし。外皮…外面的な細胞分裂が早いんじゃなくて内臓…内面的な細胞分裂が早いっていう症状だったらしいよ。」

分かりにくいなぁ…

裁「…こう言ったらあれだけどマシュみたいに人工で産み出されたわけじゃなくて自然に産まれてこの状態だからミラちゃん……じゃなくてミルティちゃんが持って産まれた運命そのものはマシュよりも遥かに儚く悲しいもの…だったんじゃないかな。私だと正確に判断できてると思えないけど。…まぁ、ミラちゃんはその運命を古龍との融合という形で強制的に上書きしたわけだけどね。」

…古龍……でも普通そんなこと出来なくない?

裁「さぁ、どうだろ……元々意味不明な“古龍”だからね。それはそれとして“超毒”の件。」

ん?

裁「ミラちゃんの世界だと実際に超毒を引き起こす薬品ってあるらしくて……ほら、ローマの洞窟でルナルガと出会った時、ミラちゃんがルナルガのことを“シャドウ”って言ったでしょ?そのシャドウに対して投げつけたり吹き付けたりして使うんだって。」

それって覚えてる人いるのかなぁ…

裁「ついでに言うと“壊毒薬”もあるらしい。…私にはピンと来なかったんだけど。」

それフロンティアだっけ…その頃私モンスターハンターシリーズやってなかったから分からないのよ…

裁「私も知らない…」


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第327話 龍令嬢の記憶語り・後編

長くなりそうで前後編に分けたのですよ

裁「それでも前話は1万字越えたっぽいけど…」

うっ…


意識が戻った時、私はベッドの上で寝かされていた。

 

……知ってる天井……ということは

 

目覚めましたかな、ミルティお嬢様

 

声に身体を起こすとお医者様が私の方に歩いてきていた。

 

お医者様……

 

昨夜、唐突にお嬢様がいなくなった事に気がついたネルル様が私共に報せてからというもの、王城内は大騒ぎだったのですぞ。…姿を消した数時間で、かなりお変わりになられたようで。

 

その言葉ではっとして鏡を出して自分の姿を見る。…私の黒髪は既に跡形もなく白髪となり、眼も緑の双眸ではなく赤と緑の虹彩異色になっていた。

 

……よく、わたしだと分かりましたね…

 

ネルル様が寄り添いましたのでな。そして魔力もミルティお嬢様のものでしたので、ミルティお嬢様で間違いないと。…少々、不可解な点はありますが。

 

不可解な点…?

 

少々お待ちくだされ、今国王様と皇后様を呼んでいますのでな…

 

お医者様の言葉の後、数分するとお父様とお母様が医務室に入ってきた。

 

…揃いましたな。

 

大事ないか、ミルティ。

 

はい、お父様……恐らくは。

 

……ならば、いい。ミルティが無事ならば、それで…私は構わん。

 

そう言って、お父様はお医者様の方を向いた。

 

話とはなんだ?

 

……ミルティお嬢様の身体のことです

 

わたしの身体の…?

 

大変失礼ではありますが、ミルティお嬢様が意識を失っている間に身体を色々と調べさせていただきました。…許しも得ず申し訳ありません、お嬢様。

 

いえ、それはいいのですけど……一体、何故?

 

たった数時間のうちに姿を変えたミルティお嬢様の身に何が起こったのかを知るため…ですな。…その結果、なのですが。……まずは、これをお伝えすべきでしょう。

 

お医者様が机の上にあった紙を手に取った。

 

お嬢様の身体から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……何?

え……?

 

強力な抗体と免疫能力。それそのもの自体は問題ない。…問題は、それが()()()()()ということ。最初に話した通り、私は生まれつき抗体と免疫能力を持たない身体。先天性全免疫欠損症…とでも言おうかな。そして、それへの治療はできないというのはお医者様から聞かされていた話。

 

昨日の検査の際、お嬢様の身体に抗体と免疫能力がないことはお嬢様の合意のもと確認済みでございます。それが、昨夜を経て存在するようになっている……というよりは…

 

少し悩んでから口を開く。

 

……そうですな。記憶や魔力、意識などはそのままに…まるで()()()()()()()()()()()()()かのような。そう思う程まで奇妙な存在方法になっております。

 

…ふむ。

 

…次にミルティお嬢様の余命の事なのですが。…こちらも奇妙なことに、身体の劣化が遅延…どころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なっております。

 

…どういうことだ

 

簡単に言えば余命が延びております。……恐らく、人間が真っ当に産まれ真っ当に死に至るまで…最低でも、残り95年。次の年を迎えられるかどうかであったはずですが、95年まで延びているのです。……喜ばしいことでは、あるのですが…

 

言い辛そうに表情を強ばらせるお医者様。

 

どうした。遠慮なく告げよ。

 

……お嬢様の身体に流れる血液から、“古龍の血”───いいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

え…?

……何?

 

古龍の血。それも、“祖龍”の血。古龍種の獣魔が持つ特殊な成分の血で、それぞれ成分構成が微妙に…本当に微妙に違う。中でもミラボレアス種の血は特殊で、一般の古龍の血と同じ成分は検出されないとか。そんなミラボレアス種の血が、人間であるはずの私から検出された。

 

お嬢様はご存知ですかな。───融合、というものを。

 

確か……憑依召喚術式の不備、もしくは憑依元との異常な共鳴によって発生する異常現象。または融合召喚術式によって一時的に獣魔の力を人間の身体で引き出す方法…ですよね?そして前者のそれを“融合事故”と呼び、後者のそれを“魔化身(まかしん)”と呼ぶ……

 

素晴らしい、流石は神童と呼ばれるだけの事はある御方です。…そして融合事故、魔化身問わず融合をした者は人龍“ヒューレア”、もしくは人竜“ヒューメア”と呼ばれます。…古龍との融合である人龍“ヒューレア”はともかく、“竜”に分類される獣魔以外との融合症例は比較的少ないため全てまとめて人竜“ヒューメア”になっているのは周知の事実ですな。

 

魚類、草食種、獣人種、甲虫種、甲殻種、牙獣種、両生種、鋏角種はほとんど憑依術式を使う人も融合術式を使う人もいないから“人竜”で呼ばれてる。…あくまで“ほとんど”だから、人によっては融合とか憑依とか使って同じ種族の獣魔と交わる人もいる……らしい。

 

お嬢様の身体はその融合を起こした状態と酷似しているのです。…というよりは、むしろ融合そのもの。そして祖龍の血の成分が検出されるということは人龍“ヒューレア”になるのです、が……

 

…ですが?

 

……ミラボレアス種との融合など聞いたことがありませぬ。ここ数百年…いえ数千年規模でしょうか。記録をどれだけ遡っても1度もありませんでしたぞ。…新大陸の古代竜人の方々であればご存知かもしれませぬが。

 

古代竜人……か。

 

逆にそこまでの知識・観察眼を持つ者でなければ分からない可能性の方が高い、ということ。

 

ですがお医者様。融合術式を用いたのだとしても、術式を解除すれば元に戻れるはず。それはいかに禁忌の獣魔であっても例外ではない…ミルティの判断には任せますが、それを提案しないのは何故でしょう?

 

……無理なのですよ

 

お母様の問いに微妙な表情でお医者様が告げる。

 

…融合事例の中でも希少中の希少、自らの魂と相手の魂を完全に同質化させる“魂同化融合”をされてしまっては如何なる術者でも解除することはできませぬ。人間の姿であったのがまだ幸い、ですかな。

 

そこまで言ってから小さくため息をつく。

 

……融合されてからまだ日は浅いでしょう。であれば、双方の魂の完全同化はまだしていないはず。ミルティお嬢様は相手と話し合い、今後をどうするのか決めるのが最優先でしょうな。…それと、ミラボレアスとしての呼び名も決めてくだされ。

 

ミラボレアスとしての呼び名…ですか?

 

ミルティお嬢様にはミラボレアスの血が流れているわけですからミラボレアスであるのは偽りようのない事実。そして、ミラボレアスとして存在する以上呼び名が必要ですぞ。…現在確認されているミラボレアス、ミラバルカン、ミララース、ミラルーツ……この4種のどの姿にも当てはまらないのですからな。

 

…なるほど

 

お医者様の言いたいことは何となく分かった。完全新種だからこそ名を付けなければならない。そして私に知性…というか常人にも理解できる言語はあるのだから私が決めろ…ということだった。獣魔言語は誰でも分かるわけじゃないし。

 

…さて、本日はこれでお引き取りくださいませ。色々と整理する時間も必要でしょう。

 

…その言葉は、私達だけではなくお医者様自身にも言っているように聞こえた。

 

……昔から、本当に世話をかけます。お医者様。

 

やめてくだされ、国王様。私はただの一介の医者、貴方様は今や国王ですぞ。…礼の言葉など要りませぬ、お気持ちのみで結構。…いえ、そのお気持ちですら私には重くのし掛かる。

 

……そ、そうか

 

お医者様はお父様が子供の頃から……というか、お祖父様が子供の頃から皇族付き医師である竜人族の方という話だからお父様も稀に敬語に戻る。…その度にお医者様は困惑してるけど、お父様は気を抜くと敬語に戻るほどお医者様に迷惑をかけた覚えがあるみたい。

 

ならば、これで失礼する。…ミルティ

 

はい

 

“答え”が出たならば私達に告げに来ることだ。…たとえどんな答えでも、ミルティが選んだのならば否定はせん。

 

そう言ってお父様とお母様は医務室を出ていった。いま思えば、このときのお父様は凄く辛そうな表情をしていた。…私がするであろう“選択”を、私が導き出す“答え”を…お父様は直感的に分かっていたのかもしれない。私はというとお医者様にお礼を言ってから医務室を出て、自分の部屋に戻ってきた。

 

……

 

集中───自分の身体の奥底に意識を集中させる。自分の内部にいる魂との対話なんてしたことがなかったから、集中しすぎたのは内緒。

 

すみません───聞こえますか?

 

……その声……人間の、娘?

 

融合した龍───ミラロードも私の奥底で眠っているときに私側から話しかけられるとは思っていなかったみたいで、驚きの声を漏らしていた。

 

意識は…無事?

 

…はい。あの……つかぬことをお聞きしますが、あの後一体何がありましたか…?

 

私が聞くとミラロードはあの時気絶した私を私の身体を動かすことでどうにか人里前まで移動させ、人里の人間が見つけられるようにしたと答えた。そして、それをした後は私に強く干渉して人格や魔力等に被害を与えないように私の奥底で静かに眠っていたのだと。

 

……ありがとう、ございます

 

私が勝手にやったこと……感謝されるようなことをした覚えはない。…ところで。人間の娘……貴女の名前は?

 

そう言われたことでようやく気がついた。私はまだ、ミラロードに名乗っていなかった。

 

名も名乗らず大変失礼致しました。わたしは……ミルティ。“ミルティ・スティア・シュレイド”と言います。

 

シュレイド……

 

……どうか、なさいましたか?

 

……いいえ。なんでもないわ。次は、私ね。

 

そう言ったあと、ミラロードは首を傾げた。

 

……私の名前、なんだったかしら……

 

え……

 

……永く生きたものだから、忘れてしまったわ。ひとまず……“ミラルーツ”、でいいわ。私の姿はその龍と似ているでしょう。

 

ミラロードの言う通りで、ミラルーツとミラロードはほぼほぼ同一の姿を持つ。それでも、見る人が見れば“これは違う”と強い違和感を感じる程度には違いがある。

 

ミラルーツ……分かりました。…あなたは、これからどうしますか?

 

どう、と言われても……

 

困ったような声を出す彼女。

 

……なんとなくだけれど、私は貴女と離れてはいけない気がするの。…私が離れると、私も貴女もすぐに同じ道をたどる。永い年月を生きて自分の名前すらも忘れているとはいえ、目的を達することができずに死ぬのは避けたいわ。

 

目的……ですか?

 

……忘れてしまったけれど、絶対にやらなくてはいけない……絶対に達さなくてはいけないという感覚だけは覚えているわ。

 

その頃のミラロードは何もかも忘れていて───言葉と、私が人間の娘であること、自分が永く生きる龍であることしか覚えていなかった。…全部を思い出したのはあの死霊魔術師との戦闘の時。ロンドンから帰ってきたときの清姫さんの嘘探知に引っ掛からなかったのは恐らくそれが理由だね。

 

貴女は…わたしを消しますか?

 

……できれば、それはしたくないわ。この身体は本来貴女のもの。…乗っ取るなんて、本来したくないの。

 

……でしたら。一緒に、生きませんか?

 

…一緒に、生きる?

 

私の言葉に疑問の声を上げる彼女。…その言葉が予想外だったらしい。

 

完全には混ざりあわず、完全には離れず───どちらにも振れていない中立の状態を基本的に維持する。主導権はわたしになるかもしれ───

 

いいわよ

 

…えっ?

 

即決具合に驚愕していると、ミラロードは小さくため息をついた。

 

私も死にたくないもの。私が貴女から離れたら私は死ぬ。同時に貴女から私が離れたら貴女が死ぬ。…共生、するしかないでしょう?利害は一致していると思うの。

 

……いいの、ですか?こんな、わたしで……

 

…いいのよ。それに……貴女と一緒にいると、いずれ目的も思い出せる気がするわ。

 

融合した人と融合した龍の共生。それはどちらか一方の意識を消さずに共に生きることを指す。1つの身体に2つの魂を常に置くわけだから難しいけれど、一応方法がないわけではない。

 

…今のやり方は、どうなっているの?私が知っているのは大昔のやり方だから貴女には合わないと思うわ。

 

……“新たな名”を依代に、“共生の楔”を生成。その楔に双方の魔力を乗せて“契約”と成す。

 

融合、命名、共生、召喚の四重契約(クアッド・エンゲージ)───正直難しいし、双方の真の合意がなければ完成しない契約。でも、私はそれが必要だと思った。何故だかは、分からないけど。

 

新たな名を依代に……分かったわ。

 

……新たな名と言っても…どうしましょう。

 

…そうね。姿は人間なのだから、貴女の名前から付ける?私も人間の姿にはなれるけれど…

 

その言葉を聞いて、少し疑問を感じた。

 

人間の姿に…なれるんですか?

 

えぇ。…思えば、貴女の今の姿はそれに似ているかしら。

 

私の姿がミラロードの人間の姿に似ている、と言われた。…ならば。

 

あの……ミラルーツさん。

 

何かしら?

 

わたしに…名前を付けてくれますか?

 

……ええ?

 

わたしの今の姿があなたに似ているのなら……多分、同じミラボレアスとなったわたしには……

 

……そう。…貴女の名前は?

 

…ミルティ……ミルティ・スティア・シュレイドです。

 

ミルティ・スティア…ね。今から考えるから時間は貰うけれど……その名前、捨てちゃダメよ。完全な人間には戻れないとしても、絶対に捨てちゃいけないわ。

 

そう声を発したあと、何かに気が付いたように声を漏らす。

 

忘れていたわ。…ねぇ、ミルティ

 

はい…

 

私に名前をくれないかしら?

 

え……?

 

私が疑問気な声を出すとミラロードは苦笑いするかのような声を出した。

 

人間の姿としての名前はもっていないの。…持っていたとしても忘れているのかもしれないけれど…私が貴女に名前をあげる代わりに……というわけでもないかもしれないけれど、貴女が私に名前をくれないかしら?

 

わたしが…人としての名前を……

 

私が考える名前とミルティが考える名前で引き換え。…どうかしら?

 

少し考えてから頷く。

 

分かりました。…考えて、みます。

 

そこから少し、名前を決めるための素材集めみたいな会話が続いた。私の元々の姿だったり、私の家系の話だったり…ミラロードの辿ってきた道だったり、ミラロードの姿の話だったり。ミラロードが何故傷だらけだったのかとか、私がなんで弱っていたのかとか。そんな話を…1時間くらいかな。そのくらいしてて、ようやく決まった。この時はミラロードには伝えなかったけど、私のミラボレアスとしての名も。

 

決まったかしら?

 

…はい。

 

そう……私から、いいかしら。

 

はい。

 

私が答えるとミラロードが苦笑した。

 

告げるわね。貴女の新しい名前は───“ミラ・ルーティア・シュレイド”。私がミラルーツ、貴女がミルティ・スティアだから───ミラ・ルーティア。シュレイドは私にとっても貴女にとっても関係が深い言葉よ。

 

…ミラ・ルーティア…

 

その名の由来に私は苦笑した。…似たようなことを、考えていたなんて。

 

次は貴女の番よ。

 

はい。あなたの人としての名前は───“ミラルーナ・ミィテル・シュレイド”。あの時……あなたの姿はフォンロンの塔より見える月にも見えたので、ミラルーナ。ミィテルは…わたしの名前とあなたのミラルーツから部分的に取り出して付けさせていただきました。……あなたが人であるときは……私に“ミラティ”、と呼ばせてください。

 

ミラルーナ……そして、ミラティ。えぇ、分かったわ。

 

それと……わたしの事も、その……

 

…?

 

……いえ、やめましょう。…契約が完成したら、お話しします。

 

……わかったわ。

 

ミラロードが同意したのを確認して、複合型魔法陣を足元に展開する。

 

二紋陣から五紋陣を開門───二紋陣に融合術。三紋陣に命名式。四紋陣に共生楔。五紋陣に契約署名。

 

説明していなかったけど、複合魔法陣の各魔法陣はどの魔法をどの順番で行うか…また、どの魔法にどれだけの魔力を割り当てるかなんかを示してる。この頃は竜門は使えなかったし五紋陣───五芒星だっけ。それまでしか使えなかったけど。

 

二紋陣に魂同化融合として正式認証。三紋陣に命名する名を“ミラ・ルーティア・シュレイド”として設定……

 

一瞬融けそうになるのを、続く高速詠唱で復帰させる。魂同化融合はその名の通り魂を融け合わせるものだから、ミラロードと会ったときと同じ現象が起こる…みたい。

 

四紋陣に新たなる名“ミラ・ルーティア・シュレイド”を依り代に共生楔を生成。五紋陣にて新たなる契り、誓約を結ぶ。

 

複合型魔法陣は魔力の消費が多くて元々魔力が多い私でも少しだけふらふらしてきていた。だけど、意識を絶やさずに次の言葉を告げる。

 

稼働───誓いの言葉を告げる

 

みんなに言うのは……ちょっと、恥ずかしいんだけど。

 

───わたし、ミルティ・スティア・シュレイドはミラルーツと魂と身体を同じくする者として、永遠に共に生きることを誓います。

 

……

 

貴女も……同じように

 

え、えぇ……私、ミラルーツはミルティ・スティア・シュレイドと魂を同じくする者として、永遠に共に生きることを誓います。

 

「『───新たなる名、“ミラ・ルーティア・シュレイド”と共に。永遠に、その生涯を終えるその時まで。』」

 

そうして、正式な契約は成った。……婚姻の儀式、みたいでしょ。実際“魂同化融合契約”は使う人がいなさすぎて喪失術式(ロストスペル)の一種とされているし。術式種別は一応連言術式(スロースペル)かな。ともかく、契約が正式に結ばれてその契約の証───冬木の時にリッカさんに渡した指輪の真作“リングルーティ”が生成された。その指輪を指に嵌めて、息を吐く。

 

…これで、契約は成りました。

 

……結婚、するみたいだったわね。

 

言わないでくださいっ!…わたしだって、恥ずかしいんです

 

…ごめんなさい。それで…言いかけていたことは何かしら?

 

……ええと…その

 

少し、言い淀んでしまった。契約が正式にされたこともあってか、彼女の人間としての姿が見えていたのもある。…私から見ても美しい女性で、神秘的な雰囲気を持つ白いドレスの少女だったから。こんな人にこんな願いをしてもいいのかと。

 

早く言いなさいな?

 

その……これからも、ミルティと呼んでくれますか?ミラ・ルーティアという名前を貰ったあとですが…その。

 

そんなことね……いいわよ。…私も貴女もミラボレアスだから呼び分けで困るもの。

 

その言葉に心底ほっとして。…それからしばらく、色々と話をしてた。

 

 

それからしばらく時間が経って、私の10回目の誕生日。私はお父様とお母様のいる謁見の間に向かった。…私の出した答えを告げるために。

 

来たか、ミルティ

 

はい、お父様。

 

…“答え”を、出したようだな。

 

無言で頷く。ミラロード……面倒だから彼女の人としての愛称にした“ミラティ”で呼ぶけど、ミラティと話を終えてから誕生日までの時間で色々と考えた。

 

告げよ。

 

はい。…まず。わたしは、融合したミラボレアスと“ミラ・ルーティア・シュレイド”という新たなる名を楔に共生する道を選びました。

 

…共生、とな。

 

……はい。この王家の血に龍の血を混ぜる無礼、お許しください。

 

構わん。……汝が思うままに生きよ

 

そうは言ってるけど、やっぱり辛そうな表情をしていた。

 

…次に、私の獣魔としての呼び名ですが…

 

決まったか。

 

はい。人龍……いえ、“人忌龍(じんきりゅう)”。禁忌の龍と交わりし人……のようなものでどうでしょう。名の本体は、“ミラヒューティア”と。もしもよろしければミラボレアスと融合した者にのみ、この名をお使いください。

 

禁忌の龍(ミラボレアス)と交わりし人……か。人忌龍“ミラヒューティア”……そう、か。

 

以前言ったと思うけど、“人忌龍”の由来は“ミラボレアスにして、人間と混ざりし忌まわしき獣魔”。でも、それは言わなかった。お父様達を困らせたくなかったから。だけど…多分、気づいていたんだと思う。人忌龍の由来にも、ミラヒューティアの由来にも。

 

……最後に。

 

……

 

お父様に、お願いがあります

 

…なんだ

 

そこで深呼吸して、精神を整える。…そうでもしないと、折れそうだったから。…私の次の言葉は、お父様達を悲しませるって、わかっていたから。

 

……わたしを

 

………

 

わたしを───このシュレイド王家の継承者より、外してください。

 

……それは

 

獣魔となった───古龍となったわたしに、人間の王家を継ぐ資格はありません。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ガタン、という音がした。…お母様が手元から杖を落とした音。お父様が杯を手元から落とした音。

 

……やはり、か。

 

……

 

お前ならば───その選択をすると思っていた。……国を愛し、民を愛し、この地を愛するお前ならば。自らが害になり得ると考えるのならば……

 

お前は自らが不幸になるどころか自らの命を自らで絶つことですら厭わぬであろう───そんな言葉が、音にならなかったとしても聞こえてくるようだった。

 

………

 

…よかろう。ミルティ・スティア・シュレイド……いや、ミラ・ルーティア・シュレイド。お前をこの王家より追放する。

 

…はい

 

新たな名を呼ばれたことで私はこの王家の一員ではなくなった…とは、思った。

 

ただし、条件がある。

 

……?

 

でも、その条件で首を傾げる。

 

追放するには手続きが面倒だ。総ての準備が揃うまで───そうさな、3年程待たれよ。

 

3年……?

 

妙だと思った。私はすぐにでも出ていくつもりだったし。

 

第二王女エスティナが王女としての務めを為せるようになるまで、お前が王女としての務めを為せ。

 

あ……

 

そうだった。エスナはまだ何も王女の務めを知らない。お父様やお母様でも務めを為せるとはいえ、それは大変な仕事になる。

 

よいな?

 

……わかり、ました。

 

よし。…では下がれ。

 

お父様の言葉に従って謁見の間を出る。扉が閉まる直前、倒れるような音を聴いた。耳を澄ませてみると、お父様が倒れたみたいだった。…私のせいだとは、わかりきっていた。

 

……

 

ミルティ……

 

…大丈夫、です。

 

ミラティに答えたあと自分の部屋に戻り、そのまま倒れこんで眠った。

 

 

それから、3年。13歳の誕生日───私が王家から追放される日が来た。

 

それでは、先の契約の通り。ミラ・ルーティア・シュレイド、お前をこの王家より追放する。

 

───はい

 

ギルドの登録名はミラ・ルーティア・シュレイドに変えてあったし、エスナは王女としての務めを果たせるようになった。婚約も破棄したし部屋も全部片付けて、これで思い残すことはなかった。…でも、謁見の間から出ようと動く直前にお父様に声をかけられた。

 

───して、ミラ・ルーティア・シュレイド。お前に告げることがある。

 

 

ミラ・ルーティア・シュレイド───お前を、“古龍の巫女”に任命する。

 

───え?

 

予想外だった。冬木の時に話したけれど、古龍の巫女というのは古龍達に“誓約の泉巡り”が行われることを伝え、それが見定めてもらうことを依頼する者のこと。必然的に王家に関わる役職だったから。

 

どう、して……

 

王家に関わらないために追放されることを望んだのに。人に危害を加えないために追放されることを望んだのに。どうしてこの人は人に関わらせようとしたのか、と。その疑問を感じたのか、お父様は表情を和らげて口を開いた。

 

……ミルド。いつでも、帰ってきていいんだよ。形式上は追放したが、お前はいつまでも私の娘でこの城はお前の家だ。

 

国王、様……

 

…国王様、などと。お前の口から聴きたくはないよ。いつものようにお父様と呼んでくれ。

 

……っ…!

 

限界だった。お父様もお母様も、お医者様に弟妹達、果ては民達までいたその謁見の間で。私は号泣してしまった。

 

 

……これが、始まり。(ミラ・ルーティア・シュレイド)という存在の、始まりのお話。

 

 

 

 

 

…ちょっと、後日の話なんだけど。私はお医者様の元を訪ねた。

 

こうやってこの場でお話しするのもお久しぶりでございますな、ミルティお嬢様。

 

…そうだね。

 

……本日はどういったご用件です?

 

……お医者様。貴方に、お礼を。

 

私がそう言うと、お医者様は首を傾げた。

 

お母様から、私への処方として速攻解除免疫剤を提示してくれたと聞いています。

 

……

 

───ありがとう、お医者様。貴方がその時私への処方として速攻解除免疫剤を提示してくれなければ、私は今ここにいなかったかもしれない。……例え昔の私にとって超毒を引き起こすかもしれないような劇薬でも、お医者様が提示してくれなければ……

 

私は今、ここにいないだろう。…本当に、そう思っていた。そのお医者様の表情は少し暗かった。

 

……あの時の私めの判断が正しかったとは、今でも思っておりませぬ。あの薬は下手すれば当時のミルティお嬢様のお命を奪いかねぬ薬。…償いにもなりませぬが、ミルティお嬢様があの薬で亡くなったならば、私も後を追おうと思っておりました。

 

ですが、と言葉を続けるお医者様。

 

ミルティお嬢様は生きてくださいました。産まれながら病に弱い身体に加え、あの劇薬によって命の危機に幾度も曝されながらも、なお。…恨まれ呪われこそすれ、感謝される道理はありませぬ。

 

お医者様……

 

……そのような目で見ないでくだされ。

 

……それでも告げさせて、お医者様。…私を助けてくれて、ありがとう。私に生きる道をくれて、私に生きるための灯りをくれてありがとう。今はルーツの力で普通に生きられるようになったけれど、ルーツと出会うまでに命の火を繋げたのは間違いなくお医者様の力が大きいから。

 

…………素直に、受け取っておきましょう。こういうとき、ミルティお嬢様は引きませんからな。

 

その呆れたような声に私は苦笑いした。




結局1万行った…

裁「記憶抽出でも結構長くなるんだねー」

前編と合わせたかったから書き終わるまでに1週間は溜めたよあっち……さらに竜人語表記化に1週間かけました


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第328話 決意の問い

そういえばさー……前に…っていっても302話だっけか。

裁「うん?」

私、“R18系が割と苦手”みたいなこと言ったんだけどさ…私って別に嫌いなわけじゃないからね?

裁「え、そうなの?」

嫌いじゃないんだよ…なんて言ったらいいかなぁ……“耐性がない”?かな?見てると恥ずかしくなっちゃうんだよね…R18だけじゃなくて恋愛描写全般そうだけど……

(るな)「…そういえばお母さんってピュアだって言われてた気が……」

それ未だに信用できない私がいる……そこまで私ピュア要素ある?

裁「純情(ピュア)…というか初心(ウブ)?それって…」

知らん…


「融合獣魔部位部分具現。龍腕顕現、龍翼展開。……融合獣魔能力稼働。龍紋励起、龍赤炎纏。」

 

ミラちゃんの詠唱に反応して腕がロンドンで見せてくれた白い龍の腕になって、ミラちゃんの背中から白い龍の翼が生えた。さらにミラちゃんの横顔に赤い龍の顔が模様として現れ、ミラちゃんの身体を赤い炎が包んだ。

 

「この龍腕も龍翼も……そして龍紋も龍炎も、全部ロードの力。獣魔融合者はまず第一に融合した獣魔の力を扱えるようにならなくてはならない……そうでなくては危険だから。“人間”ではなく“獣魔”である以上、変に獣魔の力を暴走させて制御できなくなったらどうしようもないからね。」

 

そう言った後小さくため息をつくミラちゃん。

 

「…前々から私が言われている“古の龍の王妃”。これを言った人はただただムフェト・ジーヴァと共にいる者とかを指していたんだろうけど、この話を聞くとまた違った印象も抱くとは思う。即ち───お伽噺にのみ名を残す王妃たるミラボレアス(古の龍)。そしてその古の龍が人間と融合したことで半人間半獣魔…半人半魔だっけ?そんな存在となった…それが私という存在。」

 

そう言った後ミラちゃんが自分の姿を元に戻した。

 

「あとは特に変わったことはないかな。あらゆる獣魔と出会い、契約を交わし、あらゆる獣魔の影と単身で戦ってロストサマナーになって……そして、謎の歪みからこの世界に辿り着いた。その先はリッカさんが話してくれたのと大体一緒。」

 

【………】

 

すごく…長い、話だった気がする。そして…結構、重い話だった。こんな小さな身体で、私と同い年で……重いものを、ミラちゃんは背負っていた。…あとミラちゃん、謎の歪みから別の世界に辿り着くって十分“変わったこと”だからね?

 

「真実は…これでいい?」

 

【……よい。汝の真実、しかと受け止めた。】

 

その言葉のあと、空気の質が変わる。緊張状態から、普通の状態に近くなる。…鐘と鈴は鳴り響いたまま、緊張感だけが霧散する。

 

───我は冬の祝福を司るもの。四季祝福が具現の一端、“離別”と“寒冷”の祝福を司る、忌まれし祝福龍が問う。

 

念話として静かに聞こえたその声。声の方向にはポワズラビエがいた。

 

汝らは人類に仇なす龍である。人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身である。───汝らは人類が滅ぼす悪であり、人類が人類自身の手によって滅ぼさなければならぬ災厄である。

 

その言葉は、静かだけど重くて。確かな重圧を感じる言葉だった。

 

滅ぼされるべき災厄でありながら人類を守護せんとするその決意。如何なるものか、冬龍祝鈴に示せ。

 

滅ぼされるべき災厄でありながら人類を守護せんとする決意……か。

 

私は……未来を取り戻すために戦います。皆が生きるはずだった未来を、リナリア達が生きたかったはずの未来を奪った魔術王ソロモン…ううん、ゲーティアを許さない。私が人類が引き起こした厄災かどうかなんて関係ない、私がそうしたいからそうするだけ。私が未来を取り戻したいからそうするだけです。…誰かに感謝されるかなんて、特に考えてない…

 

───漆黒の王よ、それは汝自身の意思か。

 

勿論。私は私のために絶望を砕きます。絶望を砕き、破滅を避け、“先”を取り戻す───それが、私の望み。

 

そこで一度息を吐き、ポワズラビエを見据える。

 

私は藤丸リッカ。遥か永き眠りより醒めた預言書に選ばれ、今の世界の破滅を知り、次の世界を創る乙女。今の世界が破滅することを知ったからといって、今の世界の未来を諦めるつもりなんてありません。預言書の先代の主のように、世界の寿命を延ばす術を模索します。…直感に従えば、ゲーティアを倒せば幾分か延びるでしょう。

 

……

 

私の言葉を聞いて目を閉じるポワズラビエ。数秒ほどそうしていたかと思うと、今度はミラちゃんの方を向いた。

 

私は……たとえここが私とは関係ない異世界だとしても、未来を人類が生きれるように戦う。私自身としても、召喚術師としても未来を奪いかねない存在は放っておくことはできないから。

 

───純白の妃よ、それは汝自身の意思か。

 

これは(ミルティ)の意思であり、同時に(ミラロード)の意思でもある。もしも私やミラロードが人類悪であっても関係はない。私は人類を脅威から守護する存在であり、ミラロードは人類が完全なる破滅を迎えぬように守護する存在。なれば目的と望みは共通する。

 

そこまで言ってからミラちゃんは一息つく。

 

私はミラボレアス。龍を護り、人を護り、世界が破滅に向かわぬよう総てを観つめ調律を為す守護者。人が破滅に向かおうとするのなら殺してでも止めよう。人が私と立ち会うのならば私は人を見定めよう。人が、人以外の手で破滅するのなら───私は破滅の元凶を打ち倒そう。総ては人の未来を護るために。我ら禁忌の龍、世界と人類を護る守護者であり、人類に試練を与える遥か高き壁なれば。

 

………

 

ポワズラビエが黙る……というか、さすがミラちゃん。竜人語をすらすらと、長文で言えるの凄い……

 

───解在りと見る。汝らの真実と決意、我が祝福の鈴は確かに見届けたと告げよう。

 

そう言って、ポワズラビエは身体を震わせる。…いつの間にか、鐘の音と鈴の音は消えていた。

 

【漆黒の王藤丸リッカ。そして純白の妃ミラ・ルーティア・シュレイド。晩鐘と龍鈴は汝らの生を認めたようだ。】

 

その声はどこか満足そうに聞こえた。

 

【よもや丸腰で、言葉のみにて晩鐘と龍鈴を屈させるとは。流石の我であれ、予想外の出来事である。この霊廟より、命を落とさずして帰還できるものが現れようとは。】

 

そこまで言ってから遠くを見つめるハサンさん。

 

【…そも。…かの者が認めている故、見定める必要もなかったか。】

 

「「“かの者”……?」」

 

私とミラちゃんが同時に聞くとハサンさんは小さく笑みを漏らした。

 

【今、我らが話さずともいずれ汝らはかの者と出会い、真実に辿り着くであろう。この世界の、総ての真実がそこにある。】

 

「総ての……真実。」

 

気高き魂を持つ者達よ。絶望に屈せず、希望を求める勇気を持つ者よ。天上に輝く青き星を導に進め。総ては青き星に帰結する。

 

青い星……かぁ。

 

“導きの青い星”……五匹の竜の話に存在するあの星が、この世界にも存在するの?

 

獣の炎によって隠れはしたが確かに存在する。この世の何処かに、収束の王は必ず顕れている。

 

漆黒の王じゃなくて収束の王…?私には分からなかったけど、ミラちゃんは心当たりがあるみたいで頷いた。

 

冥灯龍“ゼノ・ジーヴァ”か、赤龍“ムフェト・ジーヴァ”か……どちらにせよ、警戒はしておいた方がいいね。

 

ミラちゃんがそう呟いたあと、ポワズラビエがハサンさんと顔を見合わせてから私達の顔を見た。

 

ミラ・ルーティア・シュレイド。純白の妃の最後の娘よ。藤丸リッカ。その身に漆黒の王を宿す娘よ。汝らの行く先に、暗殺者の力は必要か。

 

……えっ?

「……えっ?」

 

汝らの求めし結末に、その助力の一端として。そこにいる暗殺者の王の剣と我が冬の祝福───否、我が死の呪詛は必要かと聞いている。

 

今度は私達が顔を見合わせる番だった。

 

「……いいの、ですか?」

 

【必要であるならば力になるまで。我らを力とするか否かは汝ら次第だ。】

 

力とするかどうかは私達が決めろ、か……だったら。

 

「───よろしくお願いします。ハサン老父、冬祝の龍妃。」

 

「私からもお願いします。暗殺王、忌告龍妃。」

 

【───】

───

 

………あれ、なんか間違えたかな?

 

忌告龍、と呼ばれたことはあるが龍妃と呼ばれたのは流石に初めてだ。…だが、よい。汝らの力となること、冬の祝福は確かに請け負った。

 

ポワズラビエがミラちゃんに翼腕(だっけ?)を向けると、ミラちゃんの手元に小さく輝く石が生成された。

 

「これって…“心霊契礎石(しんれいけいそせき)”?……いいんですか?」

 

汝ならば問題ないであろう。───これにて我が契りは成立した。あとは汝だ、暗殺者の王。

 

【……うむ。】

 

さっきから思ってたけど老父、竜人語理解してる…?というか…

 

「……えっと。老父、って呼んでしまってよろしかったですか?」

 

【よい。我は無銘。呼ばれなければならぬ名もなければ呼ばれる名の形もない。好きなように呼ぶが良い。】

 

「そ、そうですか……」

 

なら、大丈夫なのかな…?

 

【して。汝らの力となること、この無銘の暗殺剣は確かに請け負った。汝と縁を結び、汝らの助力となることを誓わん。】

 

そう言われて差し出された剣の柄に触れる。少しの沈黙のあと、老父が頷いた。

 

【───うむ。これにて縁は結ばれた。……どうした?我の面に何かついているか。】

 

剣の柄を離した後じっと見つめていたらそう言われてしまって、あわてて首を横に振る。その後、目を閉じ手を重ねて集中、イメージを固定───手の中で具現化する。

 

「……あの、老父。これを…」

 

【…?】

 

私が創造したのは紫色の珠。透き通ってはいるが中に靄が見える、強く“闇”を感じさせそうな珠。

 

【これは?】

 

「一種の…契約です。……老父。私から2つ、お願いがあります。」

 

一呼吸おいてから口を開く。

 

「1つ。いつの日か、私が“人”でなくなって。大切な人まで忘れて暴れてしまっているようなら。……どうか、私を止める足掛かりとなってください。」

 

【……】

 

「2つ。もしも私が道を間違えてしまったのなら。どうか、私の息の根を止めてください。…私は人間で、間違えないという自信はないから。」

 

冠位である老父なら、“死”そのものである老父ならば。例え私が不死性を得ていたとしても、私に死を与えられるだろうから。もしも老父1人で足りなくとも、命を管理する星乃さんと一緒なら。

 

「───たとえ。たとえ英霊の座の力が及ばぬ地、及ばぬ時代───この世界の原始にすら及ばぬほどの神秘を持つ地に在ったとしても。この宝珠は紫の輝きと共に目的の地へと導くでしょう。全ての概念を突破し、貴方を証明する楔となる。」

 

【………請け負った。その珠は受け取ろう。……願うならば、そのような時が来ないことを祈るばかりだが。】

 

その言葉に苦笑する。…直感に従えば、2つ目はともかく1つ目は()()()()。英霊の座の力が及ばない───即ち、()()()()()()()()()()()()で、必ず。

 

……なら、私も。ポワズラビエ。

 

む?

 

もしも私が人でなくなって、人の敵となったのなら。私の首を落とす……古龍の命を絶つ手助けをしてあげて欲しい。

 

助け……と?

 

そう。今は…7名、私のクエストに設定してるから。8名目に、どうか。暴走した(人忌龍)を、確実に殺せる(終わらせられる)ように。

 

……ふむ

 

そういえばミラちゃんって少し前に何かジュリィさんと話してたっけ?

 

………請け負おう。だが優しき娘達よ、1つ忘れるべからず。

 

「「?」」

 

“達”、ってことは私も?

 

怒り、決意を抱くはよし。だが、慈悲を忘れるべからず。其はこの世の人間の礎を焼尽せし者も同様なり。

 

「慈悲……」

 

忘るるな。これは我が論に過ぎぬが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。また、同様に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

………えっ?

 

心に刻め。たとえ人類が滅ぼす悪、“人類悪”という名であろうと其は絶対の悪などではない。

 

その言葉に思わずミラちゃんと顔を見合わせる。ミラちゃんも理解が追い付いていないみたいで、首を傾げてた。

 

【さて、気高き龍達よ。我らが招いた手前、何も持たず帰すでは礼に欠くであろう。故に───これを持っていけ。】

 

そう言われて老父から渡されたのは黒い外套と白い…ケープ??それぞれ黒い外套が私、白いケープがミラちゃんに手渡された。白いケープを手に取ったミラちゃんが何かに気がついた。

 

「これ……冷たい。まるで雪みたいな冷たさがある……もしかして、これってポワズラビエの……?

 

その言葉にポワズラビエが頷いた。

 

我が鱗、我が被膜で作られし衣は纏う者を冷やし、雪降り積もる地にて纏う者の身を隠し通す。この砂塵の地には不向きであろうが、隠蔽の力は少なからず発揮する───上手く使うといい。

 

……そっか。ありがとうね、ポワズラビエ。

 

そう言ってそのケープを羽織るミラちゃん。首を傾げた後その場でクルリと一回転して私達の方を見る。

 

「…んー……ね、似合う?」

 

良き。可憐なり、純白の王妃。

 

「可愛い……なんというか、冬をイメージしたお姫様みたい。いや、そもそもミラちゃんはお姫様なんだけど……」

 

【可憐なる娘をみるのはやはり良い。して…ほう。新雪の内に紛れ込めばこの我でも気づかぬか?】

 

「……ありがと。」

 

ミラちゃんの頬が赤くなる。……ミラちゃんが照れてるのって珍しい気がする?

 

「……リッカさんの方は調べないでいいの?」

 

「…実はもう調べたの。でも、どうやって使っていいか悩んじゃって……」

 

調べたところ、これは老父が使っていたもの。強い隠蔽効果と威圧効果を発揮する。…それはいいのだけど、この外套に付与されているスキル“死界の葬炎”……これがちょっと引っ掛かる。この外套は老父が使っていたもので間違いはなくて、このスキルも老父の道が染み付いたものなんだと思うけど。……このスキルには、“相手を即死させる”だけじゃない“何か”がある。

 

「……いや、いっか。今は。…老父、合わせてみてもいいですか?」

 

【うむ。】

 

許可を取ってから変異泥を展開、服を形成する。実際私は戦闘時も鎧よりも服の方が好きだから多分こっちに合わせた方がいい。

 

「んと……」

 

実際……最近って基本の戦闘服はナーちゃんのものにちょっと近づけたものにしてたんだよね。具体的に言えば黒、白、水色、ピンク、藤色、橙色の順で生地が重なるエンパイアドレス。……いや本来エンパイアドレスってそういう服じゃないけども。あと当然ながら生地って重ねれば重ねるほど重くなるけど比較的薄めで生地を使うことで軽くかつ動きやすくもしてある。ちなみにナーちゃんは同じ生地色の重ね方をしたプリンセスドレス。ナーちゃんの姿の基盤となった“不思議の国のアリス”───その“不思議の国”の風景みたいな絵も描かれているのが特徴かな。設計とか仕立てはメディアさんと私で色々と。

 

 

閑話休題。

 

 

老父の外套の色は黒。私のドレスの一番上の生地色もまた黒。同色が合わないわけじゃないんだけど……うーん……とりあえずそのまま羽織ってみる。

 

「………なんか違う。」

 

上手く言語化できない……でも直感が“これは違う”って叫んでる。………

 

「老父。これ、改造……改変しちゃってもいいですか?」

 

【良い。好きに使え。】

 

許可もとって外套をコードスキャン、それからその外套に集中する。外套を変異泥で取り込んで細かい情報に分解、それを元に“外套”という概念を改変……

 

「……こんな感じかな」

 

出来上がったのは黒のストール。ヘアピンとかネックレス、アンクレットやブレスレットとかも概念候補としては思い付いたんだけどなんか最終的な形のイメージが湧かなかった。

 

「………どう、ですか?」

 

「【───】」

───

 

………あれ?みんなフリーズしてる?

 

「……老父?ミラちゃん?ポワズラビエさん?」

 

【───は。忝ない、汝の姿がこの霊廟の闇を裂く一筋の光に照らされ、あまりにも麗しくあったが故に。…我とあろうものが、一時なれど意識を手放すとは。】

 

「……え。」

 

「綺麗で、素敵………」

 

「え……」

 

尊い。これ以上に言葉が必要であろうか。

 

…………

 

「あ、リッカさんがフリーズした。」

 

…ふむ。目醒めよ、と告げるべきではあるのではあろう…が。我は離別の祝福を司る龍。目醒めさせるというよりは永眠させる側か。

 

永眠させちゃダメだよ?…私の大切な人なんだから。

 

語弊を気にせよ、純白の王妃。…目醒めるか

 

……綺麗・素敵、とまでは言われた経験が少なかったから思考がフリーズしてた……それから少し話したあと、老父とポワズラビエさんは霊廟の威圧感が消える場所まで送ってくれた。

 

さて。渡すべきものは渡した。…別れの言葉は、必要ないか。

 

ミラちゃんがキリゼさんを召喚したのを見届けたあと、ポワズラビエさんの方を向いてその言葉に同時に頷く。

 

なれば最後に1つ指針を贈ろう。───砂塵の地、その砦の内に劇毒の如き毒を操る者がいる。汝らの助けとなるだろう。

 

「劇毒……」

 

汝らの進む先に、導きの青い星が輝かんことを。

 

そうポワズラビエさんが告げたあと、私達の身体が冷たい、けれど優しい風でゆっくりと持ち上げられる。最終的にキリゼさんの背の上に乗せられた。

 

王と王妃を頼む、霜の黒幻よ。

 

キリゼさんは頷くとその場で高く跳躍した。

 

───ありがとうございました、老父!ポワズラビエさん!

 

キリゼさんに掴まったまま後ろを振り向き、私はそう叫んだ。ふと空を見上げると、そこには白く美しく輝く北斗七星と赫く妖しく輝く2つの星があった。




冬祝龍(とうしゅくりゅう)“ポワズラビエ”
四季の祝福の具現化と言われる祝福龍、その中で“冬”を具現化したものだとされる水色が明滅する白い身体を持つ古龍。氷属性を操り、雪の塊や雹を用いて相手を阻害する。四季の祝福龍の中で唯一負の方向性の祝福を司るストッパー役を担う。この龍が放つ鈴の音のような咆哮は“冬祝鈴(とうしゅくりん)”と呼ばれ、冬の訪れを告げるとして指標となり、さらに特定の者にのみ聞こえるという“冬龍祝鈴(とうりゅうしゅくりん)”は死の予兆だとして嫌われている。“離別”と“寒冷”の祝福を司るこの龍は確かに他の者から忌み嫌われ、忌避されている存在である。だが自ら死を望むもの、また死が近く苦しみに耐え続けるものにとってそれは確かに“祝福”なのだ。また、“近く起こる忌み事を告げる龍”として“忌告龍(きこくりゅう)”と呼ぶ者も少数いる。


白龍(はくりゅう)“ミラボレアス”
たった1つのお伽噺にしか出てこない幻、古代竜人ですら名を知らなかった幻の龍。ミラルーツに良く似た姿をしているが細部が微妙に違う。お伽噺によれば総ての獣魔(モンスター)の力を使うことができ、総ての獣魔(モンスター)の姿に変化することができる古龍とのこと。そんな獣魔が存在するのか、と実在を疑いたくなるほど異次元の存在であるが───


そういえば祝福龍の冬の他ってリカは何か聞いてる?

裁「春祝龍、夏祝龍、秋祝龍、虚祝龍…それから祝福龍のこと?」

……ん?あれ?祝福龍って…

裁「ミラちゃんの話だと6体いるんだよ、祝福龍って。春を司る“春祝龍(しゅんしゅくりゅう)”、夏を司る“夏祝龍(かしゅくりゅう)”、秋を司る“秋祝龍(しゅうしゅくりゅう)”、冬を司る“冬祝龍(とうしゅくりゅう)”…それから祝福そのものを司る“祝福龍(しゅくふくりゅう)”と祝福や呪詛を無効化する“虚祝龍(きょしゅくりゅう)”。それぞれ属性は水、火、雷、氷、無、龍だっけかな。…複属性も何か言ってた気がするけど」

わ、結構バラけてるんだねぇ…

裁「……でも、ミラロードさんの話だと確かもう1体いるんだよね……全ての属性を扱う……それこそ煌黒龍“アルバトリオン”のような龍が。』

…………嘘でしょ

裁「ちなみにポワズラビエの骨格はマガラ。」


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第329話 怪血の凶槍───奇しき赫耀、襲撃

一旦運命の選択作り直すー…やりずらい

裁「あ、はーい…」

あとほんと投稿遅くなってごめんなさい……

裁「twitterもあまり動いてないもんねー…」

最近忘れがち…


「お、帰ったか。」

 

霊廟から戻った私とミラちゃんを最初に出迎えてくれたのはお兄ちゃんだった。…ここ、村じゃないんだけど…

 

「連絡つかねぇからマリーが心配してたぞ。落ち着かせてはおいたがな。」

 

「う……ありがと、お兄ちゃん。」

 

やっぱり心配させちゃったかぁ、と思った。薄々感づいてはいたんだけど、あの霊廟…“圏外”だった。恐らく老父とポワズラビエさんのどちらか…もしくはそのどちらもがあの場所を圏外、つまり通信を遮断する空間にしたんだと思う。

 

「ま,無事に戻ってきて何より───」

 

「フィィィィィィィ!!」

 

「「……うん?」」

 

お兄ちゃんの言葉をかき消すような“咆哮”。それも上空から。……というか、この咆哮……

 

「……あ、あれ星じゃなかったのか。ミラの天彗龍か、アレ。」

 

「お兄ちゃん?」

 

「死兆星の隣の赫い星。近づいてくんぞ。」

 

お兄ちゃんの言葉に私が空を見上げるとちょうど赫い星が私達の方に向かってくるところで───

 

「あ───っとあぶない。」

 

ミラちゃんが透明な壁を張ってくれて私とお兄ちゃんを護ってくれた。

 

「ただいま、ファル。…あなたが降りてきたってことは───」

 

「ここにいらっしゃいましたか、六花殿!!ミラ殿達も───ヒィッ!?」

 

ファルさん───バルファルクが降りてきたところに呪腕さんが来た……のだけど、私を見てなんか怯えた。

 

「……?私がどうかしました?」

 

「い、いえ……気のせい、気のせいですぞ……多分。そんなことより───」

 

「敵襲なんでしょ。…ファルが降りてきたってことはそういうことだし。」

 

どういうこと?って感じの目線をミラちゃんに送ると何かを用意しながら頷いた。

 

「この村を出る前にちょっとね。東の村と西の村…どちらもを監視してどちらかが敵に襲われるようなら降りてきて欲しいって頼んでおいたの。奇しき赫耀なのはファル自身が望んだことなんだけどね。」

 

そういえば、ファルさんってフランスで見た時は普通のバルファルクだったはず。それが奇しき赫耀のバルファルクになってるのは……ミラちゃんの魔法なのかな?

 

「現状は?」

 

「西の村より黒の狼煙───接触間近、とのこと。今アーラシュ殿にルーパス殿達を呼んでもらっております。」

 

「了解。それじゃあファル───本当に、いいのね?」

 

ミラちゃんが真剣な表情でファルさんに問いかける。

 

「私への負荷は気にしないでいい。重要なのはあなたが負荷に耐えられるかどうか。……本当にいいの?…本当に、大丈夫なの?」

 

でも、問いかけのその声は少し震えていて。赤い筒のようなボトルのような何かを持つ手にも強い力が入っていることが分かった。…そんなミラちゃんに、不安気だけどしっかりと頷くファルさん。

 

「……分かった。……お願いだから、死なないでよ」

 

そう言いながら赤い筒を開けるミラちゃん。その筒の中から出てきたのは……紅い……蝶?……違う、あれは……

 

「……蛭?」

 

───応えよ、毒を撒き散らす虫よ。血を蝕み病を撒く紅き虫よ。その力を以て試練を与えよ。絶望の星、天彗龍へと。───傀毒噛生虫“キュリア”よ、汝が力を以て獣魔の命を喰らえ。“生”か“死”か、獣魔に与えられしは汝が生命を賭けた試練なり───

 

「───フィギャァァァッァァ!!?」

 

「「「!?」」」

 

「……っ」

 

紅い虫───キュリアだっけ?が纏わりついた直後に聞いたことのない声。恐らく───悲鳴。それから、ミラちゃんの酷く辛そうな表情。よく見るとミラちゃんにもキュリアが纏わりついている。

 

「すまない、今ついた───と、これは…!?」

 

「知ってるの、リューネちゃん?」

 

「“傀異化”───噛生虫(げっせいちゅう)“キュリア”の持つ毒によって引き起こされる強制的且つ過剰にエネルギーを放出し続ける個体異常状態だ!その毒はかなり強く人間や小型モンスターはおろか大型モンスターでさえも死に至る可能性がある危険なもの…!」

 

え…!?

 

「……っ、づぁっ……!!」

 

「そして───恐らくあれはかなり状態が進行している!人間であるミラ殿には正気や意識を保っていられなくなるほどの強烈な苦痛をもたらしているはず───」

 

「そん、なの……分かってる………」

 

辛そうな声が微かに、それでもしっかりと響く。

 

「求めたのなら……それに応えるが、召喚師の役目……契約した獣魔に、負荷をかけるなら……自らもその負荷を背負うが、当然……!」

 

「ミラ殿……」

 

「少なくとも、私達の理では……()()()()()()()()()()()()()()!!契約獣魔に特殊な負荷をかけるのならば契約術者も同じ負荷を背負うが当然!!もしもその負荷を背負えないならば───そんな契約術者は死んでしまえ!!!身の程を弁えぬ術では自らの命すらも潰えるが定めである故に!!!

 

「「っ……」」

 

身の程を弁えぬ術では自らの命すらも潰える───ということは。この術式は……ミラちゃんの命も危険に曝している術ってこと……?

 

「───あぁぁぁぁ!!」

「───フィィィィィィィ!!」

 

その叫びと共に───紅が、消えた。その代わりに、ミラちゃんの髪とファルさんの翼にオレンジ色。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「これは…“傀異克服”?バルファルクはともかくミラ殿にまで……」

 

「ごめん、遅れた…!って、これどうなってるの…?」

 

ルーパスちゃんも合流して困惑する。ミラちゃんはミラちゃんで呼吸を整えてからルーパスちゃんの方を向いた。

 

「……ルーパスさんも来たね。早速だけどファルの背中に乗って。……西の村を助けに行くよ。」

 

「う、うん…」

「あ、あぁ…」

 

緊張したような状態でルーパスちゃんとリューネちゃんがファルさんの背中に乗る。それを見届けたあとミラちゃんが乗って再度呼吸を整える。

 

「……全力で彗星……行ける、ファル?」

 

ミラちゃんの言葉に頷きファルさんが赫い光と共に飛び上がった。

 

 

 

side ミラ

 

 

 

地上より、遥か上空。ファルの龍気放出でこの場所に私達は滞空している。ハンターの2人は…大丈夫そうだね。

 

ルーパスさん。ここから西の村を襲おうとしている敵の姿、見える?

 

え?え、ええと……あ、あそこ!!

 

ルーパスさんが指差した方向を視力強化でよく見る。あれは……

 

…モードレッド

 

アルトリアさんの予測が当たった……こんなことで当たって欲しくはなかったけど。それより……

 

相変わらず凄まじい視力……魔法じゃないのが信じられない。流石というべきか呆れるべきか…

 

あ、あはは……

 

笑い事じゃないんだけど……とりあえず。

 

ファル!!

 

ファルが頷くと両翼から龍気弾を地上に向かって70ほど放出した。…視界の端でリューネさんの表情が引き攣ったのが見えたけど……気にしない方が多分いい、気がする。それからファルが滑空体勢に移行して───

 

衝撃注意!!

 

私の警告にルーパスさんが慌てて私にしがみつくと同時に急降下───って、ルーパスさん…!

 

ちょ、つ、つよ……!!

 

え、あ、ごめ……!!きゃぁぁぁ!!!

 

───!!!!

 

即座に無詠唱かつ高速で首回りに防御術式を展開して意識を保つ。いくら私が古龍と化しているとは言えど、その大本は人間。慌ててたのは分かるけど無防備で首を強く絞められたら流石に意識が飛ぶ。というか意識が飛ぶ寸前だった。確認せずに降下指示出した私も私だけど…!そんな事考えてるうちに龍気の爆発と共にファルが地上に降り、私もルーパスさんの腕から解放される。

 

───はぁっ!はぁ、はぁ……

 

ご、ごめん……ホントに……

 

し、死ぬかと思った……いや古龍だから死ににくいけど……

 

ホンットごめん……!!後で私に出来ることだったらなんでも言うこと聞くから……!!

 

……それは、後でね

 

確かなんでも言うこと聞く(それ)は危険だってどこかで聞いた覚えあるけど……とりあえず、今は……

 

「なんだ、テメェら!」

 

「遊撃騎士モードレッド……予測よりも割と早い襲撃。と、いうか……よくあれで無事だったね?」

 

リッカさんが聖都前に作り出した“龍の厄災”。その地を腐敗させ、その地に踏み入れた存在をも腐敗、衰弱、死滅させる厄の結界。…あれ、半端なランクの対魔力スキルじゃ結界の範囲を抜ける前に死に至ると思うんだけど。

 

「あ?あぁ、あれなら魔力でブッ飛ばした。」

 

「…はい?」

 

「魔力放出でブッ飛ばした!っつってもあのドラゴンをどうにかできたわけじゃねぇけどな。魔力放出でオレ達が通れるくらいの穴はぶち抜けたからよ、魔力放出で一気に突き抜けたわけよ。」

 

「「「………」」」

 

ルーパスさんとリューネさん共々絶句した。いや、あの……ロンドンの時ので何となく分かってはいたけど、この人無茶苦茶すぎる……あの空間を護りも使わず魔力放出だけで突っ切るってどれだけ無茶してんのこの人は!!!

 

「ところであの女はどこだよ、あのドラゴン喚んだ女はよ。アイツがマスターなんだろ?お前らもサーヴァントな以上マスターが近くにいるはずだろ。アグラヴェインの指示だからな、念入りに殺してやるよ。」

 

「……彼女はここにいないよ。」

 

「はぁ?」

 

「ついでに、君が引き連れてきた兵士も僕とルーパスが全て無力化した。大人しく帰るといい、叛逆の騎士。」

 

こっちもこっちで仕事早ぁ……

 

「……チッ!使えねぇガランドウ共が……!テメェら雑魚共に全力を出すなんざ円卓の笑い者───だが、テメェらに負けたなら笑い者にすらなれねぇ。オレの面目なんざ捨ててや───」

 

ファル!!威力抑えて“龍閃”!!

 

嫌な魔力を感じてファルに“龍閃”を指示。その指示に応えてファルはかなり抑えめの龍閃をモードレッドにぶつけた。龍属性は魔力を打ち消す、それは蒼空さんの宝具で確認済み。

 

「───ってぇな!!何しやがる!!」

 

「あなた……今何しようとした?」

 

「はぁ?」

 

「今……自滅、しようとしたでしょ。自らが滅びることを厭わない───そんなことをしようとしたでしょ。」

 

あの嫌な魔力はそういうものだ。自滅を前提とするような術は必ずあんな魔力を纏う。…この世界でも同じだったみたい。

 

「ハッ、それがどうした!敵なんだからそんなの───」

 

「いい訳があるか、馬鹿者!!」

 

「!?」

 

「よく聞きなさい、自滅ということは自ら滅びるということ。もしあなたが軍勢に所属していたのならその味方の軍勢の戦力を自ら削るということに他ならない。今あなたがここで自滅すればあなたが与する軍勢の戦力はあなたという存在の分だけ削れると思いなさい。」

 

無詠唱で生成しておいた睡眠属性弾と麻痺属性弾を静かに連射する。

 

「ぐっ……て…め……」

 

「少し頭冷やしてきなさい。」

 

睡眠状態に移行したのを確認して特殊な龍属性魔力でモードレッドと騎士を包む。その後無詠唱で龍属性砲撃を10門準備。

 

ファル、“龍閃”。…今度は全力で、同時に。

 

私の指示に頷き、両翼を前で合わせて龍気を集束させる。私も私で砲撃を束ねて───

 

せー…ので……!どーん!!

 

私の声と共に集束された龍属性が私の杖先とファルの両翼から放出される。モードレッド達を包んだ魔力に直撃してモードレッド達を吹き飛ばす───その行先は、聖都。ついでに龍属性砲撃に隠れて麻痺属性弾を放っておいたから着いたときには麻痺した状態なはず。

 

ふぅ。これでよしと。…さてと、2人とも行こっか。

 

「「う、うん……」」

 

…?どうしたの、2人とも?

 

「「な、なんでもないよ!?なんでもない!!」」

 

……?なんか、怯えられてる…?




裁「いや……これは怯えても仕方ないような……」

あはは……ていうかいつの間に66,000UA行ってるのよ……

裁「あ、割と行ってる…」


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第330話 休息決定と沸いた疑問

そういえばリカ。“心霊契礎石”って?

裁「あぁ、それ?えーっと…ミラちゃんの解説によれば“心霊契石としての正常な機能を持たない、こっちの世界で言えば鉄屑みたいなもの。普通の心霊契石と違ってリングコネクティアに加工できなくて、更に扱いが非常に難しい召喚触媒。一度使えば砕けて消えるから一時的な簡易契約に使われるもの”…って。」

はぇ……

裁「ポワズラビエさんが“汝ならば問題ない”って言ったのは“ミラ・ルーティア・シュレイドなら心霊契礎石であっても正常に召喚を実行できる”ってことだね。」


「それで……西の村のハサンさん……百貌のハサンさんには協力をお願いすることができたんだ。」

 

私は西の村から帰ってきたミラちゃんから報告を受けていた。私の隣には呪腕さんもいる。

 

「うん、出来たんだけど……」

 

「けど?」

 

「……なんか怯えられてたんだよね。それのお陰もあってすぐに交渉は終わったよ。」

 

怯えられてた……?

 

「呪腕さん、原因とか分かる?」

 

「むぅ……恐らくは初代様の気でしょうな。リッカ殿の所有する…すとーる、でしたかな。それほどではありませぬがミラ殿も少なからず初代様の気を纏っていらっしゃる。我等山の翁、初代様の裁定には逆らえませぬ故……」

 

な、なるほど……

 

「とりあえず西の村の座標は分かったし、もしもまた襲われるなら即座に助けに行ける。ポワズラビエの言ってた砦も大体把握した。…それで、問題は……」

 

ミラちゃんが一緒に帰ってきたルーパスちゃんの方を向く。

 

「……さっきの彗星と龍閃…恐らく傀氣脈動状態の気にも当てられてルーパスさんとリューネさんがちょっとね。」

 

「ダウンしちゃったかぁ…」

 

「こればかりは慣れに近いから。一撃殲滅を目的にかなり強力な強化魔法使ってたのも原因だろうけど。…というか多分それが原因だけど。」

 

あ、あはは……

 

「だから私達が砦の方に行くのはちょっと無理かな……ごめんね、リッカさん。」

 

「ミラちゃん達も休んだ方がいいだろうしそれはいいと思うよ。ゆっくり休んで?」

 

ミラちゃん達、気づかないところで結構動いてるもんね。

 

「…そう?なら、お言葉に甘えて。でも、“劇毒の如き毒を操る者”……棘竜“エスピナス”の通常種ならともかく辿異種がいる可能性も十分にあるからその時は迷わず呼んで…ううん、辿異種がいた時点で呼んで欲しい。今のリッカさん達じゃ辿異種の相手は絶対に無理だから。」

 

そのミラちゃんの必死な表情に頷く。…やっぱり、少し圧強めな話し方だけど根本が優しいんだよね、ミラちゃんって。

 

「……あ、そうだ。さっきルーパスさんに“私に出来ることだったらなんでも言うこと聞く”って言われたんだけど何すればいいかな。」

 

「え?ええと……」

 

それってR18系に派生することが多いはずなんだけど……ミラちゃんはそういうの興味ないと思うし…うーんと……

 

「……素直に看病させてもらったら?ルーパスちゃんって少しの状態不調くらいなら特に気にせずに動き続けるタイプだと思うから。」

 

「……あぁ…なるほど。……分かった、そうする。」

 

ミラちゃんも何となくそんな気がしてたっぽい?

 

「……そういえばミラちゃんって看病…というか治療とかできるの?獣魔に対してじゃなくて人間に。」

 

「うん?できるよ?“超一流の召喚術師は一流以上の獣魔医師かつ一流以上の薬師であり、一流以上の治癒術師かつ二流以上の対人医師でなければならない”、だからね。これ、自分で言うのもなんだけど…私これでも割とトップクラスだし、その辺りは習得済みだよ。」

 

わぁ……って

 

「対人医師の要求は二流なんだ?」

 

「あくまで召喚術師の主要治療対象は自らの契約獣魔だからね。そもそも治癒魔法で基本はどうにかなるから物理的な対人医術はあまり重要視されてないの。」

 

あぁ、なるほど……

 

「“私の短い時間で出来ることを”───それ故に得られる知識は片っ端から学んでたからねー。結果現在になってるわけだけど。」

 

そう呟いたあと何かに気がついたようにミラちゃんは自分の髪を見た。

 

「……あ、傀異克服状態解除しなきゃね。ファルのも。…ちゃんと傀異毒抜かないと。術式を介して狂竜化、極限状態化、獰猛化、傀異化、傀異克服したならちゃんと正常まで治せるのは利点だけどやっぱりあまりやりたくないねー…」

 

「え………治せるの!?ロンドンだと狂竜化治せない可能性あるって言ってなかったっけ!?」

 

私の言葉にキョトンとした表情で私の方を向く。

 

「?もちろん治せるよ?でも、それはあくまで自分の術式を介して個体異常状態にした場合。自然に……っていうのは少し違うか……自分の術式以外で個体異常状態にされた場合は治すのが難しいの。ただ自分の術式を使ったとしてもその個体異常状態の程度や術者の力量によっては治せないんだけど。」

 

そして、とミラちゃんは付け加える。

 

「個体異常状態化に限らず原種化、亜種化、希少種化、辿異種化、特殊種化、特殊個体化、二つ名個体化、ヌシ化…等々、“外見や能力”を変化させる術式なんかも同じように術者と対象の命を削る。“本来規定された姿”をねじ曲げて姿を変えようとしてるんだから当然と言えば当然。……“契約獣魔に特殊な負荷をかけるのならば契約術者も同じ負荷を背負うが当然。もしもその負荷を背負えないならば、そんな契約術者は死んでしまえ。身の程を弁えぬ術では自らの命すらも潰えるが定めである故に”───術者の力量が足りなければ当然術者は死ぬ。また、獣魔の力が足りなければ獣魔が死ぬ。そして、術者が途中で死んだ場合獣魔が生き残る確率は低い。…ないわけじゃないけど、低い。そんな術式だから、使う人はあまりいない。」

 

「なるほど……」

 

「……さ、長く話しすぎちゃったかな。私はルーパスさんの看病してるから砦の方は任せたよ。」

 

ミラちゃんの言葉に頷いて呪腕さんと一緒にお兄ちゃんのところに戻る。

 

「…いやはや、ミラ殿もかなり厳しい世界に生きておられたようですな…」

 

「…どう、なんでしょうね。暮らすだけであれば優しい世界なのかもしれませんし。」

 

……少なくとも、ルーパスちゃん達の世界よりは安全だと思う。対立ではなく共存を基本とするミラちゃん達の世界は、人とモンスターの争いが絶えないルーパスちゃん達の世界よりも…多分。人と人の争いはともかくとして。どんな世界にでもそれはあるだろうか…ら……

 

「…人と人の争い……」

 

……“どんな世界にでも人と人の争い(それ)はある”……か。

 

「お、戻ってきたか。こっちは準備終わってるぞ。」

 

「……お兄ちゃん」

 

いつの間にかお兄ちゃんの準備しているところに着いていた。

 

「…ごめん、お兄ちゃん。少しアルと……あとドクターと話させてくれるかな。」

 

「ん?…まぁ、いいが。」

 

そう言ってお兄ちゃんはアルを呼んできてくれた。…通信もちゃんと立ち上げて、と。

 

〈はいはいこちらロマニ、どうかしたのかい?〉

 

「……ドクター。それと、アル。」

 

「はい?」

〈うん?〉

 

「……ゲーティアを知る2人に聞きたいの。ゲーティアが人間を不要と認識するなら…そう判断するなら。その判断材料って、なんなんだろう。」

 

〈「……」〉

 

その場に沈黙が落ちる。…唐突な疑問が、困らせているのだと思うけれど。

 

「……彼は…ゲーティアは私とミラさんに伝えました。悲劇など無意味だと。死のある不完全な生命体は無価値だと。…“価値のないものを捨てる”、単純な思考だったのかもしれません。判断材料としては悲劇、不幸、死…その辺りではないでしょうか。」

 

……悲劇、か…

 

〈……このところ、思うことがあるんだよね。ゲーティア…いや、七十二柱の魔神。…彼らって、酷く純粋なんじゃないだろうかって。それこそ何も知らない子供のように。善と悪の区別がうまくできなくて、必要なものと不要なものの区別もうまくできない。自らの本能のままに動く子供。人間の子供は力がなくて何もできないけど、ゲーティア達は違う。力があって動けるからこそ今の現状になっている。“人間は不要”という凝り固まった油のような頑固な汚れに支配され、それを修正する存在がいないからこそ間違ったまま突き進む。…ボクが修正することはできたんだろうけれどそれに気づかなかったから…今、こうなってしまっているんだろう。〉

 

「ドクター…」

 

〈“貴方は何も感じないのですか。この悲劇を正そうとは思わないのですか”───かつて、ゲーティアに言われた言葉だよ。ボクはこれに対して“特に何も。神は人を戒めるためのもので、王は人を整理するだけのものだからね。他人が悲しもうが己に実害はない。人間とは皆、そのように判断する生き物だ”と返した。…この解答が間違っていたとはボクも思ってないし、後悔もしていない。…後悔するとすれば、ゲーティア達の認識を聞いてボクとの認識の違いを擦り合わせれば、結果は変わっていたんじゃないかなって。その結果例え今より悪い方向に転じるとしても、良い方向に転じるとしても、何かしらに変化はあったんじゃないかって。〉

 

そこまで告げてからドクターが静かに息を吐いた。

 

〈ごめんね、話を戻そうか。ゲーティアが人間を不要と認識するならその判断材料は何かってことだよね?結論から言うと数多の悲劇と数多の死だ。“必ず死という結末を迎える”という“完全ではない”生命体、“完全ではない”存在であることに“完全である”存在のゲーティア達は疑問を抱いた。自らが完全であるのに不完全な存在もこの世界に在るのは何故だ、みたいな感じかな。最初は細やかであった疑問は嘆きに変わり、怒りに変わり、失望に変わり───果てには人類を滅ぼさんとする脅威として変貌したんだろう。それでも、それは“人理補正式ゲーティア”として“より良い人類史にしたい”、“より良い人類にしたい”の現れだったんだろう。…ギルが言っていたように人類悪とは人類愛であり、愛なければ人類悪となり得ないのなら……ね。〉

 

数多の悲劇と数多の死……か。

 

〈…もしも〉

 

「?」

 

〈もしもゲーティアが不要と断じた“悲劇”が。不要と断じた“死”が。それが“寿命によるもの”でないとしたら。つまりは人間同士の争い故に起こっていたものだとしたら……原因はボクら人間にある、のだろうね。…リッカちゃんが気になっていたのは多分、こういうことだよね?〉

 

「え……なんで…?」

 

ドクターの告げたそれは私が本当に気になっていたことだった。私の思考を読んだかのように告げたドクターは小さく笑った。

 

〈ボクもちょっとだけ考えたことがあるからね。…人類悪を使役する主は同じことを考えるのかなぁ。〉

 

…ドクターはソロモンとしてゲーティアを。私は藤丸リッカとして預言書を。“人類悪を使役する主である”という条件は共通する。…けど、それが理由ではないと思う。多分、ゲーティアじゃなくて別の人類悪だったらそんなことは考えなかったと思うから。

 

〈…さ、あまり長く話すのもだし。そろそろ砦に向かった方がいいんじゃないかな?〉

 

「あ……そうだよね、ごめん…」

 

〈こっちこそ厄介者を扱うように言ってごめんね。…六花が準備を全部終えたみたいだからすぐに行けるだろう。〉

 

……お兄ちゃん、待たせてホンットごめん……そう思いながらドクターとの通信を閉じた。

 

「………え?星乃さん、どういうことですか?」

 

「アル?」

 

アルの呟きに私がアルの方を向くと、アルが困惑した表情で口を開いた。

 

「…今、星乃さんが……“世界に平和なんてあり得ない。人が人である以上、知的生命体が知的生命体である以上完全な平和なんて訪れない”…と。…それから、“とある見方によれば、ゲーティアは善にもなりうると思う”…と。」

 

……平和が、あり得ない…?




裁「これ、私当時あまりよく理解できなかったなぁ…」

分かりにくいだろうからね。…星乃も星乃で自分(人間)の持論でしかないから“私の結論が絶対に正しい”とは思ってないらしいけど。


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第331話 劇毒行使者奪還戦

あーもう、全然決まんない……

裁「サーヴァント?」

んー

裁「…えーと」

(るな)「今のは肯定ですねー」


「さてと、砦付近に着いたわけだが…こっからどうするよ?」

 

お兄ちゃんが地中でバイクのエンジンを止めて私達に聞く。

 

「うーん……円卓の騎士は無効化したとしても他の兵士達はいるよね?」

 

〈そうですな。〉

 

〈……物騒だけど簡単な方法はあるよー?〉

 

「簡単な方法…ねぇ。ちなみに聞くがそれはどんな方法だ?」

 

〈んー?全部殺して奪い取る。〉

 

……やっぱり、っていうかほぼ確実に星乃さんってまともに見えて狂ってる?だって笑顔で言ってるもの。

 

「…まぁ簡単と言えば簡単だわな。……うちの戦力なら十分できることだろうし。だがまぁ、それは却下で。」

 

〈物騒だもんねー。…となると不殺……風がよければ麻痺毒・睡眠薬散布とか早いんだけどねー……〉

 

だから割と物騒なんだってば…いやさっきの第一案よりは良いけど。

 

「お兄ちゃん、兵士達の分布って分かる?」

 

「ん?…サーチいれるか。」

 

お兄ちゃんがバイクのスイッチを弄ると青色のホロウインドウが出てきた。

 

「……あー。哨戒兵士が外壁に10人、城壁上に10人……」

 

〈それからサーヴァント反応が地下に3つ。……3つ……?〉

 

「救い出しておいて損はないんじゃないかな。…なんとなくそんな気がする。」

 

うーんと……

 

「百貌さん、煙酔さん、お二人の力で警護兵士達の無力化ってできます?」

 

〈それはできるが……呪腕はいいのか?〉

 

「とりあえず呪腕さんは残ってもらって、次の場所に備えてもらいます。なるべく早めに終わらせたいんだけど……ドクター、砦地下の構造は?」

 

〈とりあえず六花のバイクの方に情報は送ったよ。〉

 

「ん……これなら5分あれば行けるな。…問題は地下牢の壁か。」

 

「うーん……とりあえず目標は5分。百貌さんと煙酔さんは5分経ったら撤退。5分で救い出せなかったら……まぁ、何とかする。」

 

マシュとナーちゃんいるし…なんとかなるんじゃないかな。…精神的に。

 

「それじゃあ…お兄ちゃん」

 

「ほいほい。潜行中の上部ゲート解放、上部圧縮解放型高速輸送ラインを7mに設定……割と車の方がこの辺の設定楽だったのかもな…」

 

……どうなんだろう?

 

「準備できたぞ。…百貌、煙酔」

 

〈〈む?〉〉

 

「行くなら気を付けろ───酔うぞ」

 

〈〈は───〉〉

 

ボゴン、って音がした。その音の方を見ると百貌さんと煙酔さんが上に吸い上げられていくのが見えた。マリオシリーズのとうめい土管みたいな感じかな?

 

「…さ、行くか」

 

「あれって良いの、お兄ちゃん?」

 

「まぁ、問題なかろうよ。……多分。」

 

大丈夫かなぁ……

 

「リッカが直感で気になったアトラス院の方はこうも行かないだろうから…割と魔力バッテリーが消耗激しいんだよな……」

 

「……それ、大丈夫なの?」

 

「レイシフト用のバッテリーは別途用意してあるから問題ねぇな。…基本機能とレイシフトに関わる機能以外の機構を動かす、つまりは今の潜行とか掘削とかが結構怖くなってくるとこだ。」

 

〈予備バッテリーとか準備しなかったのかい?〉

 

「用意してたんだが思ったより消耗激しいんだわ、これが。神秘の問題かねぇ。今後は時代に合わせて考える必要があるな。」

 

そんなことをお兄ちゃんが言っていたらガツン、となにかがぶつかる音と衝撃がした。

 

「っと壁か。……まぁなんとかなるな」

 

“SILENT AREA”と“SHAVE”のボタンを押すとゴリゴリと何かを削るような音がした。…というか、実際に削ってる。

 

〈それ、音って大丈夫なのかしら?〉

 

「音はできるだけ消してるが…ま、とりあえず完全に大丈夫とは思ってねぇよ。だからこそ…早めにやらんとな。シャーブモードはディグモードと違って結構物理的な破壊だし。」

 

あー……ドリルで削ってる感じするもんね。

 

「……ナーちゃん、呪腕さん、動ける準備だけはしておいて。場所は地下牢、護衛兵がいてもおかしくないのと……あと、地下牢で亡くなった人の怨念が襲ってくる可能性もあるから。」

 

〈えぇ、分かったわ。〉

〈承知。〉

 

「マシュとアル、ギルはそのまま待機。アトラス院の方で動いてもらうから力を温存しておいて。」

 

〈〈分かりました。〉〉

〈承った。〉

 

その回答の後、削る音が消えた。それと同時に声。

 

「な、ななななな、何よ……!?壁からへんな音がすると思ったらなんか突き出てきたんだけど!?」

 

「落ち着け三蔵、もしかすれば味方かもしれぬであろう?」

 

「前門の幽霊、後門のおかしな機械!ちょっと意味違うけどなんだって言うのー!!」

 

「三蔵様、少し落ち着かれては……」

 

……これは早く出ていった方がいいね。…と。

 

「呪腕さん、一応聞くけどあの褐色の女の子が───」

 

〈然り。“静謐のハサン”───その身に宿す猛毒によって相手を毒殺せしハサンでございます。〉

 

……それは確か

 

「───“毒の娘”」

 

〈……ご存知なのですね〉

 

毒の娘───自らの体液が全て猛毒となった少女。紀元前にはこの話が在ったとか。何気にカルデアの図書室にもこの情報があったの覚えてる。…ジュリィさんによれば“劇毒には普通の毒耐性じゃ効かない”って話。でも、気休め程度だろうけどここに来た全員に新大陸型製造法の“耐毒の護石III”持たせてよかったかな。ジュリィさんには無理させちゃったけど……

 

「…えーと」

 

アイテムポーチの中を探ってあの3種類があることを確認する。実際、ただの保険ではあるけど……ん、あるね。

 

「…よっと。」

 

バイクから降りて耳を澄ます。……近づいてくるような人間の足音はない、けどさっき“前門の幽霊”って言ってたよね?

 

「む、来るぞ!」

 

武士みたいな人が扉の方に向けて弓を構える。それを見て私とお兄ちゃんもCOMPを構える。

 

「「「「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛───」」」」

 

「「“マハンマ”!!!」」

 

幽霊の姿を捉えた瞬間に私とお兄ちゃんで同時にハマ(破魔)系統の全体即死。ゴースト系って確か“魔性”特性あったから即死は効かずとも少なからず効く……と思うんだけど。……そう、思ってたんだけど。

 

「……即死入るのかよ」

 

「みたい……だね?」

 

「……これってハマの多重展開でよかったんじゃないかしら」

 

≪どのみちゴースト15はいたみたいだからハマやハマオンの連打よりもマハンマの方が魔力コストは安かったんじゃない?≫

 

星乃さんの言う通り……なのかな?…とりあえず。

 

「ひとまず、捕らえられていたお三方はその乗り物の後部から結界内部に入っていてください。…こちらは少しだけまだ時間がかかりそうですので。」

 

私の言葉に静謐さんと弓の人、それから…法師さん?が頷いてバイクの結界内部に入る。

 

「お兄ちゃんは出発準備。アルはお兄ちゃんを手伝ってあげて。…来て、“ジャアクフロスト”。ナーちゃん、一緒に戦ってくれる?」

 

「えぇ、任せて。」

 

───そう、近づいてくる人間の足音はない。()()()

 

「……」

 

「……なんだっけ、この石造巨人。」

 

〈“スプリガン”ね。カルデアの仮想エネミーにもいたはずよ?〉

 

そうだっけ……と思いながらスプリガン3体と1人ずつ向き合う。

 

「煙酔さんと百貌さんが撤退するまであと3分…気づかれる前に終わらせるよ、2人とも」

 

「わかったホー」

「えぇ」

 

2人の言葉を聞いてすぐに私は正面のスプリガンに接近する。

 

「ウ゛ォ゛ォ゛ォ゛」

 

複製準備(リプロダクション・トリガー)

 

変異泥を纏い、複製を準備し、スプリガンの剣を弾く。複製するもののイメージは既に出来上がっていたために、準備はすぐに終わる。

 

【───来なよ】

 

私の挑発に乗ったスプリガンが殴りかかってくる。それを私は───右手の4本の指で受け止める。

 

【───“北斗鋼裂把”】

 

宣言と共にその拳を破壊する。…複製精度が甘いからか、やっぱり一撃必殺には至らない───ならば重ねるだけ。表面とはいえ砕いたことで殺傷能力が上がってそうな拳で更に私に殴りかかろうとするのを───避ける

 

【“北斗断骨筋”】

 

「───!ア゛───ア゛、ア゛ヴェジィィィィ!」

 

【あ、言うんだ】

 

断末魔をあげながら崩壊していくスプリガン。ちょっと…いや、かなり?濁ってたけど。…それにしても。

 

【……頭痛いな、これ…】

 

北斗神拳と南斗聖拳……やっぱり複製にかかる負荷が大きい。…うーん……

 

「これでとどめー!“黒龍撃”!」

 

「静かに、安らかにお眠りなさいっ!“眠れる森の可憐な調べ”!!」

 

ジャアクフロストがムド(呪殺)系統の黒龍撃、ナーちゃんが水と風を組み合わせた冷風の魔術でスプリガンを機能停止にまで至らせた。

 

「……ふぅ。きっかり3分、終わらせたわ。リッカさん。」

 

「こっちも終わったホー。」

 

その言葉に頷き、お兄ちゃんのバイクに再び乗った私達は地下牢を後にした。




構成もうまく行かない……(´・ω・`)

星乃「どうしたものだろうねー。」

…そだ、星乃。虹架さんの様子は?

星乃「割といい感じにはなってきてるけど……人格が目覚めてくれるかどうか…」


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第332話 穴蔵と乱入者

裁「実際北斗神拳って奥義だけじゃなくて経絡秘孔まで複製しないとだから複製負荷大きいんだよね…」

相手は生物かどうか怪しいものねぇ。

裁「完全な人体じゃないとしても機能はするみたいだけどね。」

如くじゃない、それ?

裁「なのかな?……それよりアトラス院に行った時って確か……あれが出てきた気が。」

あれ?

裁「ほら……“砂漠”といえば、ね?」

………あぁ


「……おし、着いたぞ」

 

砦付近を脱出し、砂漠を暫く走って。私達はアトラス院の入り口まで来ていた。

 

「……うん?なんか妙だな」

 

「……お兄ちゃんもなんか気になる?」

 

お兄ちゃんもこの場所に何か違和感を覚えたみたい。…けど、私にはその違和感の原因が掴めない。

 

〈アトラス院───別名を“巨人の穴蔵”。私や六花が所属している時計塔と並んで魔術協会三大部門の一角よ。話では“未来”を見る錬金術師の集団ね。〉

 

「“アトラスの封を解くな。世界を七度滅ぼすぞ”───そんなことが言われてる奴らの総本山…がここか。確か中で作られたものは持ち出しちゃいけねぇんだったな。徹底的に外界と関わることを拒絶するが、“アトラスの契約書”が絡んだときに外に出てくる。」

 

〈詳しいわね、六花。〉

 

「マリスビリーが話してたんだわ。そもそもカルデアの“霊子演算装置トリスメギストス”はアトラス院産だろうが。」

 

〈………そうだったわね〉

 

「んで、持ち出せないように入ったら出られないような迷宮構造になってるわけ…なんだが。」

 

あ、これ迷宮だったんだ。

 

「……内部に用があるってのにその迷宮から帰れなくなるのはな……」

 

「我が乖離剣でこじ開けるか?」

 

ギルが入り口を見ながらそう言う。バイクの中にいた全員───ナーちゃん、マシュ、ギル、アル、アルトリアさん、呪腕さん、百貌さん、煙酔さん、静謐さん、さっき助けた法師の人、さっき助けた弓の人には今は外に出てもらってる。

 

「……いや、それはちょっとやめてくれ。ここに来ることに賛同した1つに“疑似霊子演算装置トライヘルメス”があるんだ。あれを壊されるのは困る。」

 

お兄ちゃんがそう言ったあと、少し考えてからギルの方を向いた。

 

「なぁ、ギル。世界を七度滅ぼせる兵器───“七大兵器”。あれ、いるか?」

 

「む?……まぁ、管理することは構わんが…良いのか?」

 

「迷宮内部に人の反応はないからな……ん?」

 

お兄ちゃんがバイクのレーダーを見ながら首を傾げたのと同時にマリーが口を開いた。

 

〈人の反応はないけれど奥に動体反応があるわね?この姿は……角竜“ディアブロス”とかいうモンスターじゃないかしら?〉

 

「ディアブロス……」

 

私が聖都城門前で着てたディアソルテシリーズ……の原型となるディアブロシリーズの素材元。…って言い方あまりしたくないけど。ルーパスちゃん達曰く、かなり強いんだっけ。でも…

 

「なんでこんなところに?」

 

〈生息地は砂漠だから、一応条件は揃ってるよ?〉

 

答えてくれたのはルーナさん。でも、答えたあとに少し不安そうな顔。

 

〈でも、これ普通のディアブロスじゃないなぁ…もしも戦うってなったなら絶対に逃げた方がいいよ。〉

 

〈どういうことだい、ルーナ…さん?〉

 

〈……ねぇ、呼びにくいなら“ルーナちゃん”でもいいよ、ロマニくん。私や蒼空の容姿が幼いのは分かりきってることだし。〉

 

〈でも…本当にいいのかい?〉

 

〈もう、しつこいってば!前々からいいって言ってるでしょ!?〉

 

ドクターはなにしてるんだか……

 

〈……ごめん、話を戻すね。通常…というか、龍歴院で確認されてたディアブロスの大きさっていうのは大体1,700から2,500なの。…なんだけど。〉

 

「だけど?」

 

〈どう見ても2,700はあるよ、これ───って動き出した!!〉

 

ルーナさんの言葉にマップが映ってるウインドウを見ると、確かに私達のいる方へ一直線に向かって……って

 

「ちょっ……!?」

 

〈皆、どうにか身を守って……!!私の予測が正しければ───アイツだ!!!〉

 

ルーナさんの言葉にマシュが私の前に立つ。それと同時に───()()は、姿を現した。

 

「───ビュギィィイィィウ!!!」

 

「「「「「……!!」」」」」

 

〈ぎゃぁぁぁぁ、耳がぁぁぁぁぁ!!?〉

 

〈っ!その特徴的な咆哮───!!間違いない!!!逃げて、というか身を隠して!!!!早く!!!!!!〉

 

「空間よ、我らを守る障壁となれ。我が神月の力において堅牢なる護りを命ず───!!」

 

いつの間に代わったのか(るな)さんが詠唱をしていて、私達の周りに透明な壁が張られた。その、明らかに異質なディアブロスは煙のようなものを振り撒きながら私達には目もくれず去っていった。

 

「…なんだ、ありゃあ……」

 

〈間違いない……あれは、二つ名“鏖魔”!憤怒に従いその目に映る全てを狂奔の末に抹殺せんとする“鏖殺の暴君”……!!どうして、ここに……!?〉

 

「鏖…魔……?」

 

「それは確か……先輩がロンドンで暴走した際、ルーパスさん達が先輩を見て似てると言った……」

 

〈狂暴走状態、ね。……でも実物見たらなんとなく…分かるでしょ?〉

 

「それは……はい、失礼ながら……」

 

暴走中の私ってあんなだったんだ…

 

〈……ともかく、例のディアブロスは去っていったわ。探索を……って、迷宮が……〉

 

マリーが愕然とするような声を出した。…どうしたんだろう。

 

「……はぁ?迷宮機構ぶっ壊されてんじゃねぇか……ってことはあのディアブロス、トライヘルメスからここまで一直線に開通させたのかよ!?」

 

〈む、無茶苦茶よ……〉

 

〈……あー、いつもはちゃんと埋め直してただけで埋め直さなければ道を開通させることもできるのか…〉

 

「七大兵器…いやその他の発明品も壊れてなきゃいいが。」

 

〈アトラス院の遺産は私達も研究してみたい!是非持ち帰ってきてくれよ!〉

 

「……へいへい。んじゃま、行きますか。」

 

お兄ちゃんがそう言うと、さっき助けた法師さん───“玄奘三蔵”さんが不安そうな表情をした。

 

「……なんか、まだ嫌な予感するのよねー…」

 

「お主の勘は笑えぬからなぁ……」

 

さっき助けた弓の人───“俵藤太”さんもそう呟くと同時にマシュが周囲を気にし始めた。

 

「マシュ?」

 

「………何か聞こえませんか、先輩?」

 

「聞こえ……ないけど。」

 

「聞こえるのか?」

 

「……いえ、聞こえるというよりは……感じる、というか……」

 

マシュがそう呟いたとき───近くの砂が、爆ぜた。

 

「「「「「……!?」」」」」

 

「───グルリャァァァァァウ!!!」

 

その咆哮と───その砂埃に映った影は、確か。

 

「土砂竜“ボルボロス”……!?」

 

「ピィィィィィィィィィ!!!」

 

「っ………ここっ!!」

 

私の前に立ったマシュが恐らく勘だけで大盾を振るった。その大盾は何かにぶつかるような音を立てて、上空へと飛ばされた。

 

「っ、つ……やはり、重いですね……」

 

そう呟きながら大盾をキャッチするマシュ。アルトリアさんから突風が吹いて倒れてもがいているボルボロスの姿が露になった。

 

「……先輩、ここは先に行ってください」

 

「え……!?」

 

「誰か一人はここに残って食い止めないと、ですから。……私が残りますので、食い止めている間にアトラス院の探索をお願いします。」

 

「でも……」

 

私が次の言葉を告げる前にマシュは口を開いた。

 

「七海さん、先輩をお願いできますか?…私には、そちらまで守護を伸ばす余裕がありませんので。」

 

「いいわよ?…いい、けれど───」

 

ナーちゃんが鋭い目付きでマシュを睨んだ。

 

「───死ぬつもりじゃ、ないわよね?」

 

「まさか。人理修復を終えるまで───いいえ、その先の未来に生きるまで私は死ぬつもりはありませんよ。」

 

「……そう」

 

ナーちゃんはため息をついて私の手をとった。

 

「行きましょう。…こうなったら止められないわ。」

 

「で、でも……」

 

「何らかの意地があるのよ、彼女にも。…悔しいけれど、私達には生存を祈るしかできないわ。」

 

意地……生存を祈る……

 

「……分かった。行こう、皆。」

 

私の言葉に全員が少し暗い表情で頷く。……祈り…あ。

 

「……マシュ」

 

「…?」

 

「───令呪を以て命ず!!“必ず生きて”、“五体満足で帰ってきて”!!」

 

私の言葉に令呪が2画消える。無理難題かもしれない、でも……多分。

 

「───はい、マスター!」

 

マシュの強化には十分!!それを確認したのちマシュに背を向けて穴に向き合う。

 

「皆、行こう…!」

 

「マスター!」

 

「……?」

 

マシュの声に私が振り向くと、爽やかな笑顔で私の方を見ていた。

 

「食い止めるのはいいのですけど───別に倒してしまっても構いませんよね?」

 

「───」

 

「───やれるものならやってみなさい!!」

 

ナーちゃん!?

 

「ただし、死んだらあたしは絶対にあなたを許さないわ!!絶対に、必ず、何がなんでも生きて帰りなさい!!!人理のため、カルデアのため───そしてなにより、貴女の先輩のために!!!!」

 

「───はい!!!」

 

ナーちゃんの怒声に怯むことなく言葉を返したマシュは再度ボルボロスに向き直った。

 

「───行こう、皆!マシュが限界を迎える前に全探索を終わらせる!!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

私達はディアブロスが開けた穴の中に入っていった。

 

 

 

side マシュ

 

 

 

「……行きましたね。」

 

先輩達が穴の奥に消えたのを確認して、再度ボルボロスに向き合います。

 

「───グルリャァァァァァウ!!グル、グルリャァァァァァウ!!」

 

「……咆哮は効きませんが……やはり、大きいですね。」

 

ルーパスさん達はいつもこんなのを相手にしていると思うと、本当に尊敬します……さて。

 

「……角度は、これでいいはず…」

 

右手に取り付けたスリンガーで特殊な弾を上空に撃ちます。……“救難信号”。ルーパスさんの宝具である“緊急事態故、救援を要請する(救難信号)”とは違って魔力無しでサーヴァントを呼ぶ効果はありませんが───ないよりはあった方がいいでしょう。

 

「救難信号も撃ったことです……ただ、ギャラハッドさんには申し訳ありませんがこの盾ではボルボロスに不利ですね。」

 

「ピィィィィィィィィィ!!!」

 

「っ、また───“ガードバッシュ”」

 

突進に対してガードバッシュ。正面からぶつかり合うだけでなくこちらからも力を加えているのでこちらもかなりのダメージを負いますが、大きな問題ではありません。…問題ではありませんが、このままではこちらが圧倒的に不利。ボルボロスがふらついている間にアトラス院の入口から離れます。

 

「さて───早速ですがお願いできますか?」

 

アイテムポーチにギャラハッドさんの盾と剣をしまい、代わりの武器を取り出します。

 

「───“円卓盾斧ギャラハッド”……!!」

 

先輩が出かけている間───リューネさんの依頼でジュリィさんが作ってくださいました。そしてリューネさんとルーパスさんの2人がかりで私に扱い方を教えてくださいました。現状、あちらの世界の素材を使った武器を持つこちらの世界の人間は私、先輩、七海さんしかいません。だからこそ───

 

「お願いしますね、七海さん。」

 

目標、土砂竜“ボルボロス”。戦闘経験、なし。───戦闘を、開始します。




砂漠といったらディアブロスとボルボロスだよねー……

裁「鏖魔出たのは割と真面目にビックリだけどね。」


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第333話 円卓盾斧

先日とある作品をまた読み直そうと思って探したら作品が消えてました……

裁「あらら…あるあるだねー。」

デジタル情報はこれがあるから少し苦手なのよね…

裁「あはは……そういえばマシュの…当時の“円卓盾斧ギャラハッド”の性能。確かこんな感じだよ。」

円卓盾斧ギャラハッド
鋭利240 属性なし 最大痛撃色白 精密30 防護30

裁「私やナーちゃんの太刀よりも上かな?」


抜刀して思ったことが、1つ。

 

“重い”───これでは高く跳べません。この重さはもしかすると、内包する神秘の大きさによる違いでしょうか。いくら“この世界で造られた”とはいえどその素材は紛れもなくルーパスさん達の世界のものです。“この世界で造られた”というただ一点だけで武器や防具の素材そのものが内包する神秘が完全に消え失せることはない、というのは先輩が実証してくださっていました。

 

 

───いい、マシュ?チャージアックス最大の特徴は剣撃エネルギー。相手に剣モードの攻撃を当ててエネルギーを回収するの。チャージアックスという武器は剣撃エネルギーと合体機構を駆使して戦う武器だっていうことは覚えておいて。

 

 

ルーパスさんの言葉を思い出しながら、頭を縦に振ってきたボルボロスに通常の防御で対処します。

 

 

───剣モードの時の攻撃は、剣に仕込まれた剣撃エネルギー生成機構が反応して剣そのものにエネルギーを蓄積する。変形斬りの時の自動防御……“ガードポイント”でも反応するけどこれは後回し。剣撃エネルギーを溜めやすいのは“溜め二連斬り”。慣れないとタイミングが難しいんだけど……

 

 

「一瞬重ねた盾から引き離す時に……剣の一部が開くのを見る」

 

剣撃エネルギーを効率よく溜めるために、溜め二連斬りがちゃんと機能するタイミングでは剣に変化があるそうです。それが、“剣の一部の開き”。その場合ゴムのような力を圧縮する素材で剣と盾が繋がっているようで、時間をかけすぎたり時間が無さすぎたりすると“溜め斬り上げ”が暴発するのだとか。

 

「溜め二連斬りの慣性で───回転斬り…っ!」

 

溜め二連斬りからの回転斬りで剣の柄が黄色く点灯します。“剣撃エネルギー蓄積【中】”、と言っていましたか。この状態で“チャージ”と呼ばれる動作をするとビンが3本分使用可能になるのだとか……いえ、その前に───回転斬りの最後、自動防御(ガードポイント)で偶然にもボルボロスの頭突きを防御しました。確か───

 

「変形───属性強化回転斬り!!!」

 

ビンをチャージしていませんから盾強化はできません。ですが、回転斬りからチャージに派生することはできます。例え威力はなくとも、小さな積み重ねは後々に響きます。

 

 

───嬢が言ってたんだけど、マシュの装備スキル…“盾兵の護法”はガード強化とガード性能の複合スキルみたい。防御系武器としてはかなりありがたいかな?

 

───ガード強化とガード性能…と、言いますと?

 

───本来ガードできない攻撃……麻痺属性攻撃とか毒属性攻撃とか。そういうのをガードできるのと強いノックバックを発生させる攻撃をノックバックなしにすることができるの。チャージアックスはガードポイントから派生させられる行動が多い分、ノックバックを抑えるのは結構重要だからね。

 

───は、はぁ……

 

───…えーと……ごめん、私教えるのホント下手で…

 

 

……そういえば。ミラさんを除くハンターの皆さんって基本的に魔術を使わないのですよね。いくら魔術のように、魔法のように、奇跡のように見えてもそれはただの“武器の特性”と“防具の能力”と“本人の技術”でしかない。

 

「今更ですが、本当に馬鹿げてますね…っ!!」

 

本人達がいないことをいいことに少し愚痴りながらもボルボロスの咆哮を変形斬りのガードポイントで防いでからチャージ、盾突き、変形、属性強化回転斬り───盾強化完了。

 

「ピィィィィィィ!!」

 

ヤカンを思わせるその音にボルボロスを見ると私に向かって突進してこようとしていました。

 

 

───チャージアックスの盾はただ身を護るための盾に在らず。防御性能にあまり期待しない方がいいのだろうけれど……ただ護るために在るはずの盾を攻撃に用いるというのは君以外にもいる。防御性能は低くとも、君なら扱えるかもしれないね。“盾兵(シールダー)”というクラスを持つ君ならば、盾の扱いに関しては僕達よりも上なはずだ。

 

 

リューネさんの言葉を思い出します。…私はまだ未熟者で、英雄といえるものではありません。ですが、あの時実演してくれたそれを真似るなら。

 

「───“ガードバッシュ”」

 

足を支えにするようにして突進と正面から相対。通常のガードとは少し変えて自らを完全に護る体勢───

 

 

 

ガンッ!!

 

 

 

「っ!」

 

突進の威力を完全に消しきることはできず。少しノックバックさせられますがこれなら……!!

 

()()()()───」

 

通常のガードと変えた場所。即ち、“対衝撃反撃機構”。あれを起動し、反応した反撃機構の力で剣撃エネルギーを盾に圧縮。そのまま大きく振り回して───

 

「───“超高出力属性解放斬り”!!!」

 

斧の叩きつけと共に榴弾ビンの爆発が地を這い、ボルボロスを襲います。ビン5本直撃───いくらこの世界で造ったとはいえ用いられた素材故に内包する神秘はそれなりに高く。少なくないダメージは出るはず、なのです。

 

「グルリャァァァァウ!!」

 

「っ…!?」

 

ボルボロスは怯みすらせず、私に向かってきます。最初から怯むなんて思っていませんでしたが、ボルボロスの復帰に対して私の後隙が長い……!

 

「わぷっ…きゃっ!」

 

泥飛ばしからの尻尾振りで吹き飛ばされる私───ですが、威力が弱い。個体値的には下位個体でしょうか。

 

「下位個体……未だに単独で討伐できた事なんてありませんが……」

 

私が単独で討伐できるのは精々が弱体☆4の水獣“ロアルドロス”。防御は足りても攻撃力が足りないのが原因ではありますが…討伐に至らないのは紛れもない事実。

 

「使えるものはなんでも使え……」

 

ルーパスさん達新大陸調査団のよく言う言葉ですが…はて、どうしたものでしょうか……

 

「ピィィィィィィ!!」

 

「…っと」

 

突進に対してガードポイント、終わり際に斬り上げと盾突き。横にステップしてからクラッチクローで尻尾に飛びつき───

 

「───っ!!」

 

割と無理矢理、尻尾周辺に傷をつけます。実際チャージアックスに傷付けって微妙だったりするのですけど……ルーパスさん曰くビン爆発に傷付けによる攻撃が通りやすくなる効果はないのだとか……それはそれとして。

 

「…分かってはいましたが、結構な消耗戦ですね…」

 

痛撃色……武器の斬れ味が既に緑に落ちています。元々白斬れ味、青斬れ味ともに短めで緑斬れ味が長めの武器らしいので仕方ないといえば仕方ないのですけど……もしや、あちらの世界で作ればこの辺りも変わるのでしょうか。

 

「1人では砥石を使う時間もありませんし…」

 

困りましたね、と呟きながらもボルボロスを見据えます。今、ここでボルボロスを先輩達の元へ行かせるわけにはいきませんから。

 

「…っ!」

 

突進をガードポイント。チャージ。剣属性圧縮───榴弾ビン圧縮付与完了を見計らって盾から剣を抜き放ち───そのまま硬い頭に一閃。

 

「グルリャァァァ」

 

「っと、怯みですか……」

 

そのまま盾突き、変形、属性廻填斧強化斬り───斧が回転し始めるのを見てやはりノコギリだと思ってしまう私は悪くないと思いたいです。ルーパスさん達も苦笑いしてましたけど。

 

 

───斧強化……一応やり方は教えるけど使いにくいんだよねー…新大陸製のは持続がビン依存だから斧強化維持するなら盾強化と超高出力属性解放斬り封じられるから……

 

───現大陸製は斧モード依存だからな……少しでも剣モードに変わればすぐに消える。ルーパスの言った盾強化と超高出力属性解放斬りに加えて高出力属性解放斬り…果ては変形まで封じられる。

 

───……それ、大丈夫なの?

 

───ハモン殿曰く新大陸の技術を出来る限り再現しようとした結果だそうだ。新しい技術はやはり難しいようでね…ウツシ殿も扱いに困っていたよ。

 

───それもそっか…

 

───……一応、“疾替え”という技術を応用すれば剣モードに出来なくもない、が……

 

───……何それ?

 

───すまないが僕も全く分からない。ウツシ殿曰く“使用可能な狩猟技術を瞬時に入れ替える技術”とのことなのだが……

 

───………リューネの場合全部習得・記憶してその時々によって瞬時に替えてるから特に必要なかった、と。

 

───……その通りだ。同じことをウツシ殿からも言われたよ。“あの姉妹と同じく君と君の妻にはあまり必要ないだろうけど”、ともね……

 

───リューネの妻って私のことか……

 

───ええと…良く分かりますね、ルーパスさん?

 

───だってこれまで散々リューネの妻扱いされてきたからね。

 

───ルーパスに同じく。散々ルーパスの夫扱いされて慣れてしまったよ。噂関係なくルーパスの事は好きだから構わないのだが。

 

───………いきなりのド直球は心臓に悪いんだけど?

 

───割と伝えるタイミングは逃していたからね。

 

 

変な方向に回想が逸れ始めたのはさておき、使ってみて分かりましたけど確かに扱いが難しい……!あと斬れ味の影響もあって斬る、というか石を削るような衝撃が両手に直に来ます…!

 

 

───割と、本気で、肉質硬い場所を斧の回転で殴ると手を痛めやすいから気をつけてね?ソフィが試しに使って手首痛めたって言ってたから。実際私も痛めそうになったし。

 

───き、気をつけます…

 

───…気をつけます、とはいってもね。僕らの神秘とマシュ殿達の神秘の差はあまりにも広い……と聞いている。マシュ殿達の武器の攻撃が僕らの世界のモンスターに効きにくいのも神秘が理由だということも。であるから……ルーパス、斧強化はクラッチクローでの傷つけ効果に乗るのかい?

 

───乗ら……なくはないけど、ビン爆発は乗らないからねー…あくまで武器部分の攻撃のみしか乗らない。あと、マシュの“円卓盾斧ギャラハッド”って現大陸側の技術取り込んではいるとはいえ大本は新大陸側の技術だからさ……ビン纏わない攻撃は心眼スキルないと弾かれちゃうんだよねー……

 

───例え榴弾ビンだとしてもビンは乗らないか……まぁ仕方ないか、榴弾ビンはタル爆弾と同じようなものだからね。それより、その神秘の差が“肉質硬化”という形で現れるとすれば…だ。

 

───……あー、うん。リューネの言いたいことわかった……とりあえず、マシュ。

 

───は、はい

 

───別に使うなとは言わないけど、多用しないようにね。私やリューネもそうだけどそれよりもまずリッカが心配するから。あの子、ホントにマシュのこと大事に思ってるから。

 

───……はい!

 

───おっと、元気になったね。…ルーパス。

 

───うん、そうだねー。

 

───……??あの…?

 

───なんでもないさ。それよりもマシュ殿、こちらに近づいてくる獣の足音がする。数は10、軽くチャージアックスの練習と行こうか。

 

───は、はい!

 

 

盾突きのあと、変形から超高出力属性解放斬りに繋げず高出力属性解放斬りに繋げます。その後斧モードから剣モードへ。

 

 

───…ルーパス、これ本当に獣か?

 

───なんか人間っぽい感じするけど……

 

───獣ですね。獣、ですけど……

 

───マシュ?

 

───獣は獣でも……なんで、なんで“罹患者の獣”なんですか……!?加えて“聖職者の獣”と“血に渇いた獣”までいるのふざけないでくださいっ!?ここはBloodborneじゃないんですよ!!!

 

 

……あ、余計なこと(罹患者の獣8体と聖職者の獣、血に渇いた獣)まで思い出してしまいました……なんで居たんでしょうね、特にあの2種。それはさておき…

 

「……泥纏いならぬ砂纏いが厄介ですね」

 

通常、ボルボロスは泥沼を利用して自らの身体に泥を纏うと聞いています。ですが、今私の目の前にいるボルボロスは最初こそ泥を纏っていましたが今は砂を纏っています。この世界に来て変異でも起こしたのでしょうか。

 

「っ…!」

 

そして───泥から砂に代わった影響で防御も難しくなっています。今も、飛ばされた砂によって視界が悪く。そんな中で、頭突きをガードできたのは偶然といえるでしょう。というか───まずいです、今ので完全にスタンし(意識が半分ほど持っていかれ)ました!!纏うものが泥から砂に変わったことで攻撃の性質がそもそも変化している───!!

 

「ピィィィィィィ!!!」

 

「づっ…!」

 

スタン中に突進をもらい、そのまま吹き飛ばされます。

 

「…戦闘中に強制的に意識を持っていかれることがある、と言っていましたがこういうことですか…!」

 

正確には意識はあるのに身体は動かない、という麻痺に近い状態のようですが───スタンは覚めたものの、立ち上がるのに時間がかかりそうで。

 

「───はっ!!」

 

───私の前に唐突に割り込んだその方がいなければ、更なる追撃をもらっていたことは間違いなかったでしょう。

 

「ご無事ですかな、可憐なる騎士。」

 

…………なんでしょう。あの、助けてもらったのは事実なのです。…事実、なのですけど。あの………思いっきり背後から殴りかかりたい衝動に駆られます。それはそれとして…

 

「そこの方!2分でいいので持ちこたえてくださいますか!!」

 

「承知───我が剣、アロンダイトにかけて必ず!」

 

紫の鎧を纏った彼は自らの武器を構えボルボロスと相対します。私はその間にアイテムポーチから回復薬グレートを取り出して飲み、先程までで負ったダメージを回復させます。…飲むだけで傷が癒えるこれも、相当な神秘の塊ですよね……以前所長が言ってた気もしますけど。

 

「………これで、よし」

 

斬れ味も回復、これでまた万全に戦えます。……あの人、強い…こう見ると本当に私は戦闘向きではないのがよく分かります。…ですが

 

「たとえ霊基が変わらずとも───心だけはハンターとして。…先輩の守護者として、私は戦います。」

 

一種の自己暗示───それだけでも気分は幾分か落ち着きます。

 

「───スイッチ!!」

 

「っ!」

 

癖で言ってから“しまった”と思いましたが、彼は正確に反応し、私が入る隙を作ってくれました。その隙に対して溜め二連斬りと回転斬りで剣撃エネルギーを回収。チャージからの盾突き、変形、盾強化。頭突きに対して割と癖でパリィ───

 

「ギャァァァァォォォウ!」

 

「っ!?」

 

唐突なボルボロスとは別の咆哮に咄嗟にガード態勢。その、私の目の前を───赤い刃が通過しました。その刃の持ち主は───全体的に赤黒く鋭い甲殻を持ち、禍々しく朱く輝く双眸を持つもの。頭部左の角が肥大しているその存在の名を、私は知っていました。

 

「───燼、滅刃……」

 

二つ名“燼滅刃(じんめつじん)”。斬竜“燼滅刃ディノバルド”。今の私達では絶対に敵わないとされる“二つ名個体”が、目の前にいました。




裁「マシュの反撃ガードバッシュが突進を耐えきれない件だけどね。元々ランスのパワーガードみたいな構えしてるからノックバックが強いっぽい?のかな?…あと、このときの戦闘記録をジュリィさんとミラちゃんが見たところ、マシュのシリーズスキルがガード強化とガード性能の複合スキルで、それがあってもマシュの神秘とボルボロスの神秘の差が大きすぎて円卓盾斧ギャラハッドだけじゃ補いきれなかったらしいよ。」

あれってそういう問題だったの?

裁「結局今のマシュの霊基はハンターじゃなくてシールダーだからね。シールダーとしてじゃなくてハンターとして戦っていれば圧勝してたかも?…ハンターの霊基にはサーヴァントが内包する神秘を底上げする力があるようだ…みたいなことヘラクレスさんが言ってた。」

うーん……

裁「……あ、そういえばルーナさん達が基本的にカルデアから出てこない理由はハモンさんやダ・ヴィンチちゃんと一緒に武具や錬金壺の開発してるからなんだよね。今回に関してはマシュの意思を尊重したとか……」

はえー……あ、唐突なんですけど1個アンケート取りたいと思います

裁「ホントに急……」

まぁまぁ……それで内容なんですけど、第286話でルーナさんが使った2つの技。“桜花気刃七虹斬”と“忌刀魂喰魄塊”。あれ、ゲーム内に実装されてたら使ってみたいと思います?

裁「………あの、マスター?その2つって割と危険だったはずなんだけど…?」

んー……実際モンスターハンターシリーズのプレイヤーさん達って自分の体力が危険に晒されても火力に変わればどうでもいいって思ってる人少なからずいる気がしてさ……あとロマン技って言われる技が好きな人も少なからずいる気がしてさ?どちらにも刺さりそうだから気になって……

裁「……一応私が生前にルーナさんから聞いた内容、ゲーム風に書いておく。」


桜花気刃七虹斬(おうかきじんしちこうざん)
練気ゲージを本来の最大状態である赤から更に4段階練り上げて虹色にした状態で放つ桜花気刃斬。攻撃発動のタイミングは任意であり、練り上げが完全に完了していない銅状態、銀状態、金状態でも放つことが可能。さらに、練り上げは赤状態から始める必要はなく、練気なしの状態からでも始められる。赤状態での桜花気刃斬よりも高い火力を期待できる反面、攻撃発動のタイミングまで身動きができないこと、攻撃発動までスタミナを消費し続けること、そして何より攻撃発動後は5分間練気ゲージを上げることが出来なくなる。ルーナ曰く“練気を練れなくなる理由は攻撃するのと同時に練気を練るのではなく、何もせずに無理矢理練って放っているのが原因”……簡単にいえば、作業中に段階的に集中を高めるのではなく、何もしない状態で一気に高めて一気に解くのが原因とのこと。


忌刀(いみがたな)魂喰魄塊(たましいくらうはくかい)
忌器(いみうつわ)”と呼ばれる呪いの太刀。斬れ味を一瞬で0にし、練気ゲージを0にし、スタミナを0にし、攻撃が発動するまで体力を削り続けるまさに呪いの刀。膨大な代償を支払う代わりに一撃で相手を絶命させるほどの火力を引き出す(計算式はまるで不明だが例として技発動前が“カムラノ鉄刀I”、練気赤、匠無し斬れ味消耗無し、スタミナ180、体力170であって攻撃発動時に体力が1の状態で放った場合例え当たり所が悪くとも下位バサルモスくらいなら一撃狩猟できる……とのこと)。狩技“妖刀羅刹”と違い攻撃を発動させずに待機させていると体力が0になるため使用には危険が伴う。ルーナ曰く“かつて実在した忌刀魂喰魄塊はたとえ納刀していたとしても使い手の命を喰らい続け、喰らった命が多ければ多いほど鋭く強く進化する太刀”、“総ての忌器を破壊するために軽く1万人は犠牲になったという記録が残っている”とのこと。


裁「……改めて見て思ったけどほんと極端な性能してるねー…」

リカ的には使いやすいのはどっちだと思う?

裁「うーん……忌刀魂喰魄塊の方かな?斬れ味、練気、体力は放ったあと時間があればすぐにでも戻せるし。多分桜花気刃七虹斬で練気が制限されるよりも忌刀の方が立ち回り的には楽……なんじゃないかなぁ……」

……ちなみに“忌剣黄泉送火”は何か聞いてる?

裁「蒼空さんが使ったやつね……一応聞いてるけど忌器はだいたい全部同じ感じだよ。」

はぇ……

裁「…ところでこれ、本編に関係あるの?」

本質的には関係ないんだけど(るな)達を通して話題にしてもらうように頼んでおく…

裁「話題て……」

実際気になるところはあったから……忌器の数とか…ね?


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第334話 紅蓮の妖刀───燼滅刃、救援

戦闘描写書き起こすのが結構時間かかる……

星乃「難しいもんねー」

筆速上げたいねー……


この刃が私に向けられれば確実に私はここで死ぬ───それが一番最初に思ったことです。それほどまでに、その刃の威圧感は凄まじいものでした。とはいえ───

 

「…もし、戦闘になったとしても。死ぬわけには、いきませんけどね……!」

 

約束、ですから。先輩との大切な……そして、恋敵との大事な。それを破るわけには、いきません。たとえそれが酷く難しい事であったとしても。……破るわけには、いきませんけども。

 

「死ぬわけにもいかず、退くわけにもいかず───推定G級個体相手に、ホント無理難題ですね……!」

 

この個体の威圧感はG級個体のもの。もしくはそれ以上───凄腕、特殊許可などと呼ばれるそれ。ルーパスさんがG級個体と対峙していたのを見ていましたから知っています。たとえG級のドスジャグラスやドスランポス相手でもこの威圧感は存在したと。…流石に結界越しではなく実物を見るのは感覚が段違いですが。そんなことを考えていると、燼滅刃がその刃を持ち上げました。

 

「っ……シールドエフェクト、発揮」

 

ガードを崩さず静かに呟いた言葉に私のスキル“誉れ堅き雪花の壁”が起動。このスキルは味方となる存在に薄い防御の盾を展開させるものですが……まさか、ギャラハッドさんの盾を持たない状態で起動できるとは。……うん?

 

「………あ…れ?」

 

違和感……いえ、違和感というよりは本来とは違う挙動。狩猟笛の旋律と同じく私達のスキルというのは効果を発揮する対象を選べます。私のスキル“誉れ堅き雪花の壁”の基本発揮対象は“味方”。何も意識せずにスキルを使った場合は基本発揮対象にのみ発揮するのです。…だというのに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでしょう?

 

「……まさか…」

 

私が呟いた時、燼滅刃の顔がこちらを向きます。身構えますが───すぐに燼滅刃はボルボロスに顔を向けました。

 

「ギャァァォォ」

 

少し唸って刃を持ち上げ───その刃先が向くのは、ボルボロス。恐らくその敵意の向き先も、ボルボロス。

 

「……言葉はわかりませんから、信用はできませんからね」

 

危険ですが、一旦放置します。深呼吸したあと、起き上がったボルボロスを見据えながら納刀。

 

 

───動きにくいというのなら納刀するといい。無防備に近くはなるが動きやすくなる。

 

 

なるほど、背負う重みはありますが抜刀時の重さとは違う。これなら、跳べます。…最初からこうしておけばよかったですね。

 

「───行きますっ!」

 

私が高く跳躍すると同時に燼滅刃が刃を研ぐのが見えました。前方向に跳んだのもあってあの場所から振り回しても当たりはしませんけども。

 

「はぁっ!!」

 

上空から抜刀斧変形叩きつけ、その着地姿勢の頭上を黒い刃が通過します。……いや怖いですね

 

「……って言うかあれって爆発するって書いてありませんでしたっけ」

 

燼滅刃は黒い刃───“尻尾爆熱状態”の時の攻撃に爆発が伴う、とあった気がするのですが……はて。

 

「───せぇっ!!」

 

縦斬りから斬り上げ、再度縦斬り───と繋げようとした斬り上げで斧を何かに掴まれる感覚。

 

「…?って、なっ!?」

 

斧刃の方を見ると、燼滅刃が斧刃を咥えていました。すぐに離しましたが───斧刃に、黒い粉塵。

 

「……一応斧刃なだけじゃなくて盾なんですけどね……!」

 

そう呟きながらも剣モードに変形、溜め二連斬りから回転斬り、溜め二連斬りで剣撃エネルギーを回収。粉塵が危険すぎて盾を構えられない分、燼滅刃が敵視を取ってくれてるのは実際ありがたいです。チャージすることでビンは五本、盾強化はまだ続くのでその後同じことをして剣の柄が赤く点灯する状態───“剣撃エネルギー蓄積【大】”へ。

 

「そこの方!少し隙を作ってもらえますか!!」

 

「お任せあれっ!」

 

紫の鎧の方に声をかけるとすぐに怯みを取っていただけました。……あの人の剣ってこちらの世界の剣ですよね?どうしてあんなにも通るのでしょう。それはさておき───

 

「榴弾───全解放っ!!!」

 

超高出力属性解放斬り───しかしそれは先程とは違い、ビン爆発だけでなく高い爆破属性すら秘める一撃。放ち終わりに斧から剣と盾に自動的に変形するのは盾に圧縮したビンの負荷を放出するためだとか。簡単にいえば排熱ですかね。……それはそうと。本来この武器に爆破属性はありません。燼滅刃が強制的に爆破属性を付与しただけ。…必要以上に負荷がかかってそうです。ジュリィさんに怒られないでしょうか…

 

「リチャージ」

 

即座にチャージでビンを5本取得。爆破はダメージカット(自動防御型シールドエフェクト)に任せて盾突き、変形、属性廻填斧強化斬り。燼滅刃がボルボロスの足を赤く熱せられている刃…の峰で払って転倒させてくれたのでそのまま斬り上げ、縦斬り、斬り上げ、縦斬り、斬り上げ───斧刃が通る度に粉塵が爆発し、先程よりも遥かに強い衝撃が両腕に響きます。

 

「───っ!」

 

起き上がってこちらを向いたのを見てビンを使用する振り回し。…これだけでもビン4本は消費してますからやはり斧強化のビン燃費は悪いのでしょう。とはいえ榴弾ビンの炸裂でボルボロスが転倒。溜め二連斬りと回転斬りで剣撃エネルギーを回収し、斧強化が切れたあとにチャージ……そういえば、ボルボロスの動きが遅い気がします。…弱ってる、のでしょうか。

 

「……」

 

ふと燼滅刃の方を見ると、刃を地面に下ろしていました。……“使えるものはなんでも使え”。私の考えが吉と出るか凶と出るか───

 

「“時に煙る白亜の壁”───畳み掛けます!!」

 

3分間の無敵(高性能自動防御)、チャージアックスを納刀して走り───燼滅刃の赤熱した刃を踏みます。

 

「ギャァォォォ!?」

 

燼滅刃が驚いて刃を振り上げた、その勢いを利用して───高く跳躍

 

「最果てに至れ。限界を超えよ。彼方の王よ、この光をご覧あれ───!」

 

声と魔力の高まりに目を向けると紫の鎧の彼が自らの剣から凄まじい光を放っていました。あれは───宝具。

 

「───“縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”!!」

 

「───っ!?嘘、でしょう!!?」

 

本来宝具であれ通用しないはずのこの世界の武器で───ボルボロスを一撃で転倒させた……!?……いえ、考えるのは後です!今は───!!

 

「全力全開───“疑似アックスホッパー”!!!」

 

以前リューネさんが見せてくれたチャージアックス鉄蟲糸技“アックスホッパー”の再現。空中で偶然燼滅刃が飛ばしてきた火球を反撃GP斧変形榴弾超高圧圧縮───超高出力属性解放斬り!!!榴弾ビン全弾直撃、割と爽快ですね。

 

「ギャァァァァォォォウ!!!」

 

着地直後、咆哮と共に燼滅刃がボルボロスに赤熱した刃を振り下ろします。

 

「───ァァォウ…」

 

その一撃で───ボルボロスは、沈黙しました。…終わった、のでしょうか……

 

「終わった……のか…?」

 

……あの、それをフラグというのですが…と思ったものの、もう戦う気力もなく。燼滅刃がいるというのに戦えるだけの力が出ません。…先輩の令呪の“必ず生きて”、“五体満足で帰ってきて”という指示があったおかげで逃げることはできそうですが…流石に戦うのは無理がありますね……

 

「……」

 

当の燼滅刃はというと。私の方を見つめたあと、そのまま近くに横たわりました。……ええと。

 

「……敵ではなかった、のですかね…?」

 

燼滅刃から回答はありませんでした。こちらに敵意は…感じられず。そう思うと急に、足から力が───

 

「おっと。大丈夫ですかな、可憐なる騎士よ。」

 

「……あ、はい……ええと…」

 

…支えてもらったのに衝動に任せていきなり殴りかかるのは流石に失礼ですし、とりあえず名前を聞きましょうか。

 

「あの…貴方の名は……?」

 

「私ですか?私は“ランスロット”。円卓の騎士が1人、湖の騎士ランスロットです。」

 

…あぁ、なるほど……

 

「───あぁ。お父さん、ですか…」

 

「……っ……その……すまない、その呼び方はやめてくれ……その…我が息子、ギャラハッドの意志を継ぎし騎士よ。心の準備ができていなければ、ショック死しかねない……」

 

……あはは…あ、ダメですね……

 

「…ごめんなさい、少しだけ…頼らせて、お父、さ…ん……」

 

「だから……!?大丈夫かね!?ギャラハッド!ギャラハッド!!」

 

私はギャラハッドではない……なんて、そんな状態で言えるはずもなく。私はそのまま意識を手放しました。




裁「ちなみにマシュは最終的に……というか、私が生きてた頃まででG級行けるくらいには強くなるよ。」

それ言ってよかったの?

裁「いいと思ったんだけど……ゲームのプレイヤーからするとG級行けるくらい=G級☆1なわけだからそこまで強くないって思うかもだけど根本的な火力不足・能力不足で下位すら倒せなかった人間がそこまで強くなるのも色々と凄いからね?実際英霊の攻撃が効きにくい時点で本来は私達人間の方がもっと不利なんだし。」

本来は…かぁ

裁「あと説明不足だったけど反撃機構に関しては受けた衝撃の力で高出力・超高出力のビン圧縮よりもさらに圧縮して放っているからビンダメージ斧ダメージ共に上がる、っていう考え方ー。」

……でも反撃GP空中超解放はやりすぎじゃない?

裁「まだ逆ガードしてないし攻撃や攻めの守勢に弱点特効【属性】乗ってない、なんなら武器が最終強化じゃないからここからまだ跳ね上がるよー。」

えぇ……(困惑)…って、あれ?弱点特効【属性】?

裁「……あっ。」

え…?


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第335話 アトラスの洞窟

裁「マシュの方は終わったし今度はアトラス院班の方だねー」

そういえばアロンダイトって竜属性持ちに追加ダメージあるのね。調べて初めて知ったよ。

裁「あー…」


「うーん……防衛機構は少しだけ生きてるねー…」

 

防衛装置を変異泥で強化した拳で砕き、ナーちゃんの方を見る。……一応同族?を燃やすナーちゃんってなんかシュール。

 

「所々壊れてるがな……どこを壊していいか分からんかったんじゃねぇかな、多分。……それにしても、ナーサリーが本を燃やしてると本が本を焚書するっていうなんとも奇妙な光景になるんだよなぁ…」

 

「ごく簡単な術式が書かれただけの防衛本に意味はないもの。焚書と同時に完全封印しておいた方が帰りが楽よ。」

 

「……マジで本に関してはナーサリーとありすが強すぎるんだよな…」

 

〈ふふふ、やろうとすればどんなことでも知れるけれど…あたし(ありす)に負荷がかかりすぎるのよね。本に限定すれば長時間使えるから魔導書の完全封印は任せなさいな。〉

 

流石に預言書の封印は無理だけれど、と呟いたのには苦笑いした。人類悪を封印ってできるのかなぁ…

 

「終わりました…リッカさん」

 

「あ、お疲れさま静謐さん。…さっきから思ってたけどそんなに距離取らなくてよくない?」

 

「えっと、その…」

 

毒の娘───全身が毒になった少女型の毒殺兵器。…簡単に言えばだけどね。でも私達───お兄ちゃんも含めて毒が効かないのはここに入ったあとに実証済み。だからそこまで離れる必要はないんだけど…

 

「……」

 

あ、視線逸らした。やっぱり気になるのかなぁ…

 

「……ナーちゃん。」

 

「…いいわよ」

 

……毒とは。体内に入ると真の力を発揮するもの。それは劇毒であっても同じ。ならば───

 

「静穏───」

 

変異泥を使って静穏化、気配隠蔽。普通なら効かないけど私から視線を逸らしていた今なら。

 

「……?あれ、リッカさん…?」

 

サーヴァント相手だとしても完全に見失わせることができる。“藤丸リッカを強く認識していない”ことが重要で、お兄ちゃんやナーちゃんには特に効かない。…だから、これからすることも完全に見られてる。

 

「どこ………っ!?」

 

背後に回って手に触れて強制的に認識させたあとそのまま顔を引き寄せて唇を奪う。手を触れただけでは信用しきれず、距離を取ってしまうというのなら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お兄ちゃんやナーちゃんはともかく私であれば獣の権能の1つである“ネガ・ヴォイド”、つまり虚無の理で打ち消してしまえるから。偶然私の方が身長が低いから必然的に静謐さんが前屈みになって私の口の中に唾液が流れる形になる。

 

「!?!?!?」

 

「ファーーーー!?!?!?」

 

…まぁ、そうでなくとも割と深めのキスにしてるから確実に唾液は飲んでるはず。そう思って唇を離した。

 

「ぷはっ……ね、大丈夫でしょ?」

 

「は、はぃぃ……」

 

「……深すぎて腰が立たなくなってるわよ、リッカさん。」

 

あちゃー…ちょっとやりすぎちゃったかな?

 

〈トライヘルメスは近いし、防衛機構は全部再使用不可能にしてきてるからこの先に何も出なければ問題は………ねぇ、待って、何その目線は…〉

 

いや、どうも何も…

 

「ロマン……そういうのをフラグって言うんだぜ」

 

〈うっ…で、でもフラグ云々以前に近くに何かの生体反応は複数確認されてるんだ、気を付けた方がいい。〉

 

生体反応…ねぇ。

 

「ナーちゃん」

 

「?」

 

「あそこの白い像みたいなのが動き出すにジャルタさんのところのケーキ1つ。」

 

「奇遇ね。じゃあアリス(あたし)はあそこの灰色の岩が動き出すに。」

 

「んじゃ、俺はあそこ。あそこの壁が動き出すに賭けるわ。」

 

「我はそこの骨だな。骨の頭を被る者などよくいるだろう。」

 

〈ギルまで何してるんですか……〉

 

マリーに呆れられた……でも実際───

 

「…アリス(あたし)以外直感持ちなのだから外れるわけがないのよね。」

 

「それもそうなんだけど。ナーちゃんの読み、当たってるよ?」

 

「え?」

 

とりあえずナーちゃんのから答え合わせしようかな。

 

「“シングルシュート”」

 

足元に落ちていた石を持って投剣ソードスキル。…外でマシュが戦ってるんだし早めに終わらせないとなんだけど……無理そうかな、これは。

 

〈……岩竜“バサルモス”かぁ…通常状態だと肉質硬すぎて物理はあまり効かないから属性で攻めた方がいいよ。個人的にはレンキンスタイルかつ“絶対回避【臨戦】”、“狂竜身”、“金剛身”の構成で“龍頭琴【水戯】”があるとなおよし。〉

 

流石にないなぁ…

 

「魔術……効くのかしら?」

 

「ほとんど効かないと思ってやった方がいいだろ……俺は援護に回るぞ、流石に。」

 

「有効打を与えられるのはマスターとアリス、そして我のみか……ふむ。」

 

強さは……下位かー……

 

「下位なら…なんとかなる、かな?…連戦ってなると辛いけど。」

 

ジュリィさんの鍛えてくれた武器って曲がりなりにも上位武器だし、なんとかなると思いたい。

 

「ってか、リッカの場合穿龍棍の方がいいんじゃねぇか?一番拳に近いんだ、お前が素で使える技……八極拳、八卦掌、形意拳の3つが使いやすいんじゃねぇの?」

 

「流石にそこまで単純じゃないよー。…見た感じ完全に岩だし、中国拳法使ったら私の手の方がダメージ受けちゃう……はず。」

 

……受けちゃう、よね?

 

「……っていうか、あれ?特に敵対意思なさげ?」

 

私が投げた石に反応して地中から出てきたバサルモスだけど、私達を見つめるだけで何もしてくる様子はない。

 

〈……?確かに敵対意思無さそうだねー。元々大人しめだけど明確に攻撃されて黙ってるほど大人しくはないような……〉

 

……うーん。

 

「…ごめんドクター、ミラちゃん呼んでもらえる?私達じゃモンスター達の言語分からないから。」

 

〈あー……分かった、今繋ぐよ。〉

 

エスナさんは確か獣魔言語習得してないって話だったからねー。勉強はしてるみたいだけど、同じ世界出身のエスナさんでもやっぱり難しいらしい。…私にはまださっぱり分かんないし。

 

〈繋がったよ。何、リッカさん?〉

 

「あ、ミラちゃん。早速でごめんなんだけど、通訳をお願いしたいんだけど……」

 

〈通訳?……あー、なるほどね。…用件くらい先に言ってよ。〉

 

「ドクター?」

 

〈うっ…ごめん……〉

 

何も説明せずに唐突に呼んだんだろうなぁ……

 

〈……封印?〉

 

「ミラちゃん?」

 

〈……ちょっと待って、バサルモスとしばらく話をさせて…〉

 

そこからミラちゃんは私達には分からない言葉……獣魔言語で何かを一気に喋った。私達には唸り声のように聞こえるんだけどミラちゃんには言葉として聞こえてるんだろうね。…ロンドンのヴァルハザクの時もそうだったし。

 

〈………なるほどね〉

 

しばらくしてミラちゃんがため息を付きながら私の方を見た。

 

〈リッカさん、ひとまずバサルモスについていってもらえる?リッカさんと…七海さん、六花さんがいいかな?一度見てみないと分かんないと思う。〉

 

「バサルモスに…?」

 

私がそう呟くとバサルモスが私達に背を向けた。

 

〈この子がこの場所にいた理由がバサルモスの向かう先にある。他の人たちはここで待ってて、あとで戻ってくるから。〉

 

「「「はい、仰せのままに。」」」

 

ミラちゃんが指示してる間にバサルモスが奥の通路へと消えようとしていた。

 

「……行ってみるか、リッカ?トライヘルメスへの道に何かしら障害があってもだからな。」

 

お兄ちゃんの言葉に頷き、私達はバサルモスの導きに従うことにした。




お気に入り190て……ホントありがとうございます…更新相当遅いのに……

弓「更新遅すぎてまだまだ序盤だがな。」

ぐふっ…


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第336話 謎に包まれた封印

裁「ねぇギル、第一部第六章って“序盤”なの?」

弓「序盤に決まっておろうよ。貴様が生きていたときまでで少なくとも第二部第五章まで進んでおるのだ、これを序盤と言わずしてなんと言う。…我の見立てが正しければ現在観測中の世界の貴様は我らよりも“先”に行くであろうよ。」

裁「先……かぁ」

弓「その先は我の千里眼でも見通せぬ闇ではあるがな。」

裁「……え、そうなの?それって=未来がないってことじゃ…」

弓「…本来はそうなのだろうよ。だが、貴様の生前であろうと我の千里眼は闇しか映さなんだ。ソロモンとマーリンの千里眼も同様にな。となれば我の千里眼がおかしいと考えるのは間違いであり、“常に闇しか視えぬ世界”であると考えた方が自然だ。そしてそれが貴様のいる世界なのだろう。」

裁「常に闇しか見えない…世界。でも、濾過異聞史現象知ってたのは…?」

弓「別の並行世界より情報を得ていただけにすぎん。」


バサルモスについていって少し。不意にバサルモスが足を止めた。

 

「っと…いきなり止まったな。」

 

〈目的地に着いたんじゃないかな?〉

 

目的地……といってもこれ岩石、というか…

 

「……マップを見る感じ、この先がトライヘルメスなんだが。なんだこの石壁…崩れたような形跡があるが。」

 

「ゼルダの伝説とかで出てくる爆弾で壊せる壁に似てるよね、なんか。」

 

〈うーん……鏖魔が通りすぎた影響で埋まったのかも……〉

 

あ、ミラちゃんには鏖魔がいたことは説明してある。…戦闘にならず、どこかに行ったことも。

 

「でもこれって爆弾で壊せるかしら?」

 

「通路丸々埋まってるからなぁ……ゼルダの伝説の爆弾ならまだしもこの世界の爆弾だとな……」

 

「複製使っても多分この世界の爆弾に近くなると思う…」

 

実際私ゼルダの伝説詳しくないから精密に複製するための情報が足りないっていう…

 

〈大タル爆弾G……でもねー…実際あれって割と小規模だから壁を完全に破壊するほどの火力は出ないかな。…古代樹の森みたいに水が塞き止められててその一部を爆発するだけで水圧が壁を壊すならまだしも。〉

 

「いやそもそもゼルダの伝説の爆弾が異常なだけだろ…」

 

そんなことを話してたら何かが崩れた音がして、その音の方を見るとバサルモスが体当たりで壁を崩してた。

 

「うお、すげ……ん?なんだ、これ?」

 

壁の向こう。浮遊する光る板。まるで…

 

「魔法の…壁?」

 

「…何かの術式だってことは辛うじて分かるな。だが、見たことねぇぞこんなの。」

 

〈………嘘〉

 

「ミラさん?どうかしたのかしら?」

 

震える声にミラちゃんの方を見ると信じられない、というような表情をしていた。

 

エ、エスナ!!ちょっと!

 

ミル姉様?どうか……

 

これって……!!

 

ミラちゃんの声にカルデア直行の通信ウインドウに顔を出したエスナさんの表情が魔法の壁を見て固まった。

 

……え、これ…まさか“五竜封紋”、ですか!?何故ここに……これは私達の世界の術式ですよ!?

 

「「「!?」」」

 

“私達の世界”。これが仮にこの世界だったら問題ない。…けど、ミラちゃん達の世界だと考えると話は変わる。そもそも、現状ミラちゃん達の世界の術式を使う人はミラちゃんとエスナさんの2人しか確認されてない。ルーパスちゃん達は如何に魔術に見えても基本的に魔術じゃないからね。…アークスから習ったって言うフォトンアーツと変身・召喚宝具くらいじゃないかな、意識的に魔力を使ってるのは。奥義は特に魔力を意識したことはないらしい。

 

 

閑話休題。

 

 

私達の前に現れたのがミラちゃん達の世界の術式だとしたら───少なくとも今の私達には解呪は無理だ。

 

大丈夫です、解呪方法はあります。

 

でも、洞窟に響くエスナさんの声がそれを否定した。

 

…五竜封紋とは、何らかを五つの強力な力で封じる術式。五つの強力な力───即ち“獣魔の力”。鍵となる獣魔が解呪要求者に対して解錠条件を提示しますので、その条件を達成すればいいのです。…問題となるのは───

 

───その獣魔がどこの誰か、というところかしら?

 

ナーちゃんの言葉にエスナさんが頷いた。

 

はい。皆様だけであり、本来であれば周囲にいる獣魔を全て調べる必要があります。…ですが……ミル姉様?

 

封紋の解析、終わってるよ。私がそこにいれば強制的に砕くこともできるんだけど、今回に関してはリッカさん達でやってみよう。…それに、そもそも封紋を強制的に砕くのは推奨されないことだし。

 

というと?

 

“人柱”…って分かるよね。こういう獣魔の力で封じているような封紋はその封じている力の源である獣魔達が言葉通り柱……術式を支える支柱になってるの。そして、正規の方法で解呪しなかった場合───つまり強制的に封紋を砕く場合、力の源である獣魔達は封紋と運命を共にする。

 

それって……

 

…無理矢理砕けば死ぬ、ってことか。

 

その通り。正規の方法で解呪するのは封紋との関係性を断ち切っているの。…もちろん、強制的に砕く場合でも関係性を断ち切れば問題はないけど……でも、エスナは…

 

……申し訳ありません、未習得です。

 

ということだから。…そもそも関係性を断つ術は難しいからエスナが落ち込むことじゃないよ。

 

……ありがとうございます、ミル姉様。

 

あ、少しエスナさんの表情が明るくなった。

 

……んで、封じてる奴って?ミラなら分かってるんだろ?

 

もちろん。そのために封紋の解析……というか、封紋の術式を読んでたからね。…その前に、五竜封紋の基本を教えるね。

 

「「「基本?」」」

 

そ、基本…というか、大体の場合のこと。……基本的に、五竜封紋の錠は火水雷氷龍……つまり通常の5属性をそれぞれ扱う大型獣魔が1体ずつ封印の錠を担当する。一番分かりやすいのはテオ・テスカトル、ナバルデウス、ナルハタタヒメ、キリン亜種、バルファルクとかかな。古龍種なのかそれ以外なのか、それから竜なのか竜じゃないのかは関係ない。極論、何らかの獣魔が5体揃っていればそれでいい───つまりランポス5体やクンチュウ5体……“獣魔”として定義されている存在であればいいわけだからアロワナ5匹でも構わない。それでも基本が大型獣魔5属性なのはそれが安定しやすいから。逆に属性が片寄ると安定しにくい。

 

そこでミラちゃんは一旦区切って封印の方を見た。

 

けど、この封紋の錠は火毒水雷龍だ。つまり氷属性が足りないし毒属性が入ってる───不安定な錠構成になってる。それにも関わらず封紋が崩れずに存在しているってことはこれを構築した術者は割と実力はあるだろうね。

 

…実力はある、かぁ

 

…それと、龍。ここだけ情報が隠されててこっちからじゃ読めない。錠前隠しは割と基本技術みたいなところあるけど…大体こういう時って古龍が隠されている場合が多い。相手にするなら気を付けて。

 

ん?錠前隠しで読めない、ってことは……他は分かるのか?

 

火が岩竜“バサルモス”、毒が毒怪竜“ギギネブラ”、水が斬蟹“ショウグンギザミ”、雷が奇怪竜“フルフル”。…今の攻略班、女の子多いけど大丈夫かな…

 

大丈夫かな…って?

 

なんか不安になりそうな言葉遣いだった気がする。

 

フルフルとギギネブラですか……確かに不安ですね

 

不安だねー…

 

話が見えないのだけど…

 

あ、ごめんね。えーと…何て言っていいのかな。…といってもどう説明したものか。

 

なんとなく言いにくそう?

 

…フルフルとギギネブラはよく女性の方を襲うのです。…その、ええと……どの程度とは言いませんが……

 

R18、だっけ?そっちの方向性で襲うんだよ。

 

「……あぁ、なるほどね。…そんなエッチな同人誌みたいな展開がホントにあるのね…」

 

「七海。お前が言うと色々ヤバイ。」

 

お兄ちゃんは見た目幼女が絵面的にR18作品語るな、って言いたいんだろうなぁ…というかナーちゃんはなんで知ってるんだろ。私?私の場合は高校の同級生の男の子達の話が聞こえてたり持っているものが見えてたりと……うん。

 

「触手系の存在はR18系では定番のネタだがなぁ……このまま対峙すると……まぁ例としてだが、リッカが性的に襲われる可能性があるってことか。」

 

「なんで私……」

 

「例、って言ったろ。別に七海や無銘、静謐が襲われる可能性だってあるんだからな。」

 

「……静謐さんの場合逆に毒殺しそうね。」

 

あー……私に効かないとはいえ毒性割と強かったからねー…

 

〈流石に毒殺(それ)はないんじゃない?神秘の問題で。〉

 

「…それもそうね。となると……」

 

「…早めに戻った方がいいか?」

 

さっきの場所に置いてきてるもんね……

 

〈んーと……待ってね。……届くかな〉

 

「?」

 

〈……うーん、流石にダメだ。仕方ない……第一、第二リミッター解除、“超広域魔力精密探査”〉

 

その声が聞こえた途端───一瞬、変な感覚に包まれた。

 

〈捉えた。……動いてないね、特に。リッカさん達の位置と英雄王達の位置…さっきと全く変わってない。フルフルやギギネブラに襲われた場合、襲われたのが3時間以内くらいなら少なからず魔力に乱れが生じるから襲われた形跡もないね。〉

 

「は───おい待てミラ、村からここまで探知を広げたのか!?」

 

〈え?そうだよ?〉

 

軽く言ってるけど絶対難しいことだよね?

 

〈流石に集中力と魔力が足りなくて第二リミッターまで解除しないと洗い出せなかったけどね。動きがないかはこっちで見ておくから……とりあえず〉

 

そこで言葉を切ってミラちゃんはバサルモスの方を見た。

 

第一錠、火属性錠守護獣魔“バサルモス”。汝が錠を開く鍵を見定めるにふさわしいとする試練は如何なるものか?我等封印の錠前を解かんとする者、汝が試練を提示せよ。

 

その言葉で───周囲の空気がピリッとした。




………

裁「……なんかマスター凹んでない?」

星乃「あれは……なんだろーね。」

?「わぁぁぁぁ!ど、どいてくださいー!!」

裁「……んー?」


ゴンッ


裁「………????」

?「はぇぇぇ………」

星乃「……こっちもこっちで何やってるんだろ」


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第337話 封錠を解くための鍵

星海「……事情は、把握しました。色々と災難でしたね。」

?「あの…本当に申し訳ありません、ご迷惑をおかけして…」

星海「貴女が謝ることじゃないですよ。…アレはこの世界の特性にしてこの世界の異常。私達でも完全な予測はできませんから。」

?「……あの、私はいつ帰れるのでしょうか…」

星海「……予測では1ヶ月かかるかどうか……可能性としてはもっと長いです。アレが……“暴走した世界間の歪み”が現れないことには正常に帰ることはできませんから。追加でお母さんの接続状態が悪くなっているので帰還用の歪みが観測できるのがいつになるか…」

?「…理由は、歪みが正常に閉じないから…ですよね。香月さんが教えてくださいました。」

星海「えぇ。歪みが正常に閉じなければ致命的な欠陥を起こすことに繋がりかねませんから。あちらには連絡しておきますので…しばらくの間はこちらでお過ごしください“大妖精”さん。」

大妖精「…ありがとう、ございます。」

裁「う……」

星海「…と、リカさんも目覚めましたね。」

裁「……まだ夢…なの?大ちゃんがここにいるのって…」

星海「残念ながら現実です。」

大妖精「えっと…しばらくの間、お世話になります。」


「……」

 

バサルモスと私達が見つめ合う中。カタン、という小さな音が魔法の壁───封紋、だっけ?その方から聞こえた。

 

封印に挑みし者よ。火の錠を担う竜、並びに封印の管制竜として告げる。

 

「っ…!?」

 

普通の…人間の言葉!?竜人語だけど…

 

秘されし龍の錠は他の錠を開けば示される。龍の錠を担う龍も、またこの地に現る。そして───我司りし火の錠、既に試練は達されている。

 

既に…達されている?

 

我等が試練、即ち擬態を見抜くこと也。よって我が擬態を見破りし汝らは既に我が試練は達している。…しかし。

 

そこでバサルモスが封紋を見た。

 

封印の錠、それを認めず。本来であれば解錠される火の錠は解錠されず、未だ閉じたままである。…よって、新たな試練を汝らに課し、これを火の試練とする。

 

新たな試練……?

 

汝らに課すは力の試練。我が甲殻、我背負うは岩石の如く硬き殻。───これを、()()()()破壊せよ。

 

「「「…………はっ?」」」

 

岩を……破壊…?って、砕けってこと!?

 

手段は問わぬ。だが生半可であれば即座に再生すると知れ。

 

そう言ってバサルモスはその場に座り込んだ。

 

〈……胴の一撃部位破壊かぁ。いや難しくない?〉

 

「その前にミラちゃん、1つ聞きたいんだけど…さっきバサルモスがいきなり人の言葉喋り始めたのってミラちゃんが何かしたの?」

 

〈え?〉

 

私の問いかけにキョトンとしたミラちゃんは即座に首を横に振った。

 

〈あれは封紋の基本機能だよ。封紋を解除する相手が人間であるのなら封紋を解除するための方法を理解できないとダメでしょ?だから封紋には最初から“獣魔に人の言葉を与える”、並びに“獣魔が人の言葉を理解する”っていう効果の術式が組み込まれてるの。私がその術式を使わないのは割と組むのが面倒な物だからで……今回の封紋は止まってたんだけど……“問い”によって正常に起動させたから問題なく話せるはず。〉

 

へ、へぇ……あ、それと……

 

「ミラちゃん。この子ってもしかして女の子?」

 

〈……正解。よく分かったね、声低かったのに。〉

 

「ちょっとだけ高かったから。」

 

「いやマジで少しだけなのによく分かったな……」

 

「リューネちゃんも気づいてたんじゃない?コンラさんから音で女の子って分かったって聞いてるし。」

 

〈…リューネさんは今寝てるよ。というか、眠らせたが正しいか。ルーパスさんも同じくね。〉

 

あー……確かに寝かせとかないと色々とやってそうだもんね……

 

「……ちなみにどうやって眠らせたんだ?簡単にゃ眠らんだろ、あいつら。」

 

〈ん?ウルムメア……浮眠竜“パオウルムー亜種”と夜鳥“ホロロホルル”に添い寝してもらった。〉

 

「パオウルムー亜種…というとあの紫色のもこもこ毛並みの子よね?……羽毛布団って暑くないかしら?」

 

〈耐暑は入れたから大丈夫。そんなことより今はバサルモスの部位破壊だよ。〉

 

……確かに。“試練”というからには達成しなければ先には進めないんだろうし。

 

〈とりあえずエスナの付与は必要だと思うけど……一応聖都の門を破壊する可能性があるからあまり無理はさせたくないんだよね。〉

 

あー……それは確かに。

 

「となるとエスティナの付与に頼らない方向がいいのか?だからってリッカの創造と複製だけで処理するのは無理があるだろ…」

 

「結構私に負荷かかるからね、アレ…」

 

「創造は人間にもとから備わっているとはいえ、現実世界に具現化するならそれは神の力なんだから当然だろうが。」

 

〈私達の“呪式具現魔”みたいに“魔力の状態で形を具現化”するならともかく、リッカさんの“創造”と“複製”は“魔力から物質を0の状態から組み上げてる”からね。負荷がかかるのも当然だよ?〉

 

「無から有を作り出す、ってことよねそれ…」

 

無から有を作り出す……かぁ。

 

あの……提案なのですが

 

「?」

 

私の武器を使うことはできませんか?

 

「「〈え?〉」」

 

エスナさんの…武器?

 

私達のいた世界の素材で、私達の世界で作られた武器ですので神秘…でしたっけ、それはかなり多いはずです。ですのでこの世界で作るよりは有効に効くのではないかと…古龍種の武器であればなお効くでしょう。

 

「……あー…」

 

言われてみれば確かに。私やナーちゃんの太刀はこの世界で作ったからか少しだけ低めっぽいんだよね。担い手の神秘の問題もあるんだろうけど。

 

でもエスナさん、それってエスナさんには問題ないのかしら?

 

……と、いいますと?

 

エスナの今回使う武器がなくなるんじゃないかってことじゃない?

 

…なるほど

 

ナーちゃんの反応見る感じミラちゃんの推測で当たってるっぽい。

 

それでしたら問題ありませんよ。ミル姉様やルーパス様方と同じく、各種武器は揃えておりますので。…とはいえ、渡す武器は考えねばなりませんね……“一撃による”ということですから私の“左腕活性・天撃姫裁(レフトアクト・ヘブンリィプリンセス)”のようなものですか。…圧縮した属性を撃ち出す、ではダメでしょう。

 

左腕活性・天撃姫裁(レフトアクト・ヘブンリィプリンセス)”……あっ。

 

そういえばエスナさん。気になったんだけど左手での攻撃があるなら右手での攻撃もあるの?

 

はぇ?…あ、はい。存在しますが……よく分かりましたね?リッカ様方に話してはいないはずですが。

 

ただの勘だけどね。

 

勘といえどもすごいですよ。…とはいえ右手は火力が低いのであまり使わないのですが…

 

…どうしてかしら?

 

簡単な事ですよ。…“起源”による強化が効かないからです。

 

起源…というと

 

エスナの起源は“天女”…正確に言えば“天上の乙女”。そしてその逆は“地男”…正確には“地下の男”。夫婦系の武器を用いる場合は特にだけど左と右は一対にするのが基本だからエスナの右手での攻撃は逆転起源での強化になる。…でも、エスナが持っている起源は“天女”だけ。だからこそ起源強化ができなくて……自分の魔法だけでそれを補う必要がある。

 

ですが、起源での強化は他の付与とは比べ物にならないほど強力なものでして…起源強化をせずに“左腕活性・天撃姫裁(レフトアクト・ヘブンリィプリンセス)”を再現せよと言われますと私の全魔力でも無理があるのです。

 

え……エスナさんって魔力多い方なんじゃなかったっけ。

 

〈ちなみに私の…リミッター全解除状態でも再現には結構な魔力を持っていかれる。それだけ起源強化は凄まじい力を秘めてるの。〉

 

「はぇ……あれ、そういえばミラちゃんの起源って?」

 

〈私?“龍妃”、かな?元々私に起源はないはずだけど…融合の一件があってねー。〉

 

あぁ…なるほど

 

〈ま、起源の事は置いておいて……エスナ、どんな武器が使えそう?

 

そうですね……リッカ様は利き腕はどちらでしたか?

 

利き腕?右…かな?

 

実はあまり意識したことがない。

 

右……そもそも、片方の腕しか使わない場合はハーフナックルで十分なのですよね……

 

そうなの?

 

ハーフナックルは術式向き、ナックルは物理向き…ってロンドンの時に聞いたはずだけど。

 

確かに“ナックル”…別名“双拳”とも呼ばれる武器種は物理向きなのですが…そのナックルの本領は武器自体の軽さによる連続攻撃にあるのです。多重付与をかけながら連続攻撃を行うのは精神的にも疲れてしまいますので…それ故に連続攻撃主体のナックルは物理向き、単発攻撃主体のハーフナックルは術式向きなのです。

 

はぇ…

 

要はルーパスさん達の“双剣”と同じような性質ってことだね。ハーフナックルは“大剣”みたいな感じ?

 

恐らくは。…これが良いでしょうか

 

そう言われて転送されてきたのは、綺麗な配色の右手用の籠手だった。

 

あ、“ネロ・ウラシマ”。

 

「「「浦島?」」」

 

溟龍派生の武器だよ。対となるのは“ヒュドロスカラカサ”。

 

……なんかどこかで聞いたような

 

本当は屍套龍派生の武器とも対化(ついか)できるんだけど溟龍派生同士で対化した方がまだ扱いが楽なんだっけ?

 

えーと…ミラちゃん、“対化”って?

 

なんかまた知らない単語が…

 

えーっと……“ペアリング”、って言えば分かるかな?2つのハーフナックルを1つのナックルとして繋げることをそう言うの。実はナックルの形って固定されてるわけじゃなくて、結構自由が効くんだよね。

 

カ、カスタマイズ要素……

 

ただ……素材元の獣魔が受け入れるかによって対化が成功するか左右されるんだよね。嵐龍と雷狼竜とかすっごく仲悪いから雷と水が反発しあって大変なことになるし。特に暴走嵐龍と金雷公とか手がつけられなくてさぁ…

 

あぁ……よく分からないまま対化した古びたハーフナックルが暴走嵐龍と金雷公のもので酷いことになったという話ありましたね…

 

そもそもよく分かんないハーフナックルを対化するなっての……それで執務中に急に呼び出された私とエスナの身にもなってよね。

 

私は結局役に立ちませんでしたが……ミル姉様の一喝でピタリと止まったのは驚愕しましたね…

 

あれ私というか私の中にいるミラルーナの力よ?私自身はそこまで何かした訳じゃない。

 

それでも一瞬であの場を収めたのは凄いことだと思います。

 

た、大変なこと起こってたっぽいねー……

 

「どうだ、使えそうか?リッカ。」

 

「うーん…どうだろう。」

 

……そういえばエスナ、あのハーフナックル大丈夫なの?

 

大丈夫…とは?

 

ほら、作成依頼者…つまり素材提供者以外が武器を装備すると低確率だけど暴れるじゃない。特に古龍種なんて気が強いんだから本人以外だと暴れる確率高いよね?

 

え、何それ……

 

あぁ…確かに普通でしたらそうなのですが……ミル姉様は既にお気づきだと思いますが、リッカ様は獣魔の皆様から認められていることが多いですから。

 

あ、そういえばそうね。私の使役する……というか、私の中にいる古龍種でも特に気性が荒い方のミララースですらリッカさんのこと認めてるし。

 

ちょっと待ってどういうこと!?

 

ミララース、ってロンドンで出てきたあのかなり怖い赤い龍だよね!?

 

“マスターの小娘に請われれば力は貸すが我が主と認めるは我等が王と我等が宿主のみだ”、ってラースが言ってたよー。

 

彼がそう言うのは珍しいですね……?

 

英雄王と同じ感じなんじゃないかな、多分。まぁあの子、ちょっと素直じゃないというか……なんだっけ、ツンデレ?っぽいところあるから内心は認めきってるかもね。

 

それは……喜んでいいのかな?

 

いいと思うよ?

 

古龍に、それもミラボレアス種に認められるのはサマナーとして一種の最終到達点のようなものですからリッカ様がサマナーであればミル姉様と肩を並べる存在であったかもしれませんね。

 

「今もサマナーのようなものだけれどね。」

 

「まぁ確かにサーヴァントのマスターは見方によってはサマナーだわな。女神転生世界の悪魔も召喚できるわけだし。」

 

「女神転生世界の悪魔に関してはあなたのせいよね、六花さん?」

 

Exactly(イグザクトリー)!その通りでございます!」

 

そういえば悪魔召喚できるってことは私悪魔召喚師(デビルサマナー)なんだよねー…

 

「んで、どうだリッカ?使えそうか?」

 

「……うーん……結構難しいけど……多分。」

 

砕くだけであれば極限まで火力を上げて叩き込めばいい。…本当に“砕く”だけであれば。条件が“生存させたまま砕け”であれば難易度は跳ね上がる。絶命ラインと破砕ラインを見極めなければいけないから。

 

「……とりあえず、やってみる。」

 

砕け、ってことはあの時のアルみたいなImmortal Object(破壊不能オブジェクト)ではないから。一度叩き込んで、火力を調整する。

 

「……」

 

───意識を標的にのみ絞れ(集中)

 

「ふー……」

 

───標的の脆いところを観よ(心眼)

 

「……観えた」

 

───余計な場所へ力を流すな(体術)

 

「───一歩、加速」

 

地を蹴って高く跳躍する。

 

「───二歩、致命」

 

天井を蹴ってバサルモスの背に乗る。

 

「───三歩、静拳」

 

魔力で右腕だけ保護して手を引く───

 

「───“神明一閃(しんめいいっせん)微風絶(そよかぜたち)”」

 

疾く、鋭く、それでも静かに。バサルモスの一点、脆い“要”を突き徹す。

 

「………」

 

〈……〉

 

反応、なし。分かってはいたことだけど、この程度で壊せるわけがない。ただ───

 

「……困ったな」

 

以前、アルの心意防御としてのImmortal Object(破壊不能オブジェクト)を何度か叩かせてもらったから分かるけど……限りなくImmortal Object(破壊不能オブジェクト)に近い感触。…少なくとも、私達にとっては。

 

「…ナーちゃん、お兄ちゃん。アルのImmortal Object Protection(破壊不能オブジェクト障壁)って崩せたことある?」

 

「あるわけないだろ…」

 

「あたしもないわね……」

 

「…だよね」

 

〈ていうか、あの子の障壁…ボレアスの“劫火”とかフェナンの“王の雫”とか真正面から防いでるから生半可な防御じゃないからね。〉

 

「………待って?王の雫って相当強い技じゃなかった?」

 

アルテラさんの宝具を受けたところからも分かるけど王の雫ってたしか……フランスでルーパスちゃんがワイバーンを跡形もなく消し飛ばした技、だよね……?

 

相当強いどころか…回避方法を間違えれば即戦闘不能、ですね。

 

告げる必要もないだろうが我がかの炎を耐えられると思うな。かの炎は古の龍の王が下す排除の光。あの光を浴びて生きることができる、また無傷でいられるは古の龍の王が力を制限しているだけに過ぎぬ。総ての力で振るうならば人間の身体はおろかその地の形すら原型を留めぬであろう。

 

……………非常に危ない技だった…さてと、どうしようかな…




星海「お母さん。大妖精さんの状態、纏め終わったよ。」

んぅー……後で目を通しておくからそこ置いといて…

星海「たまには動画世界経由して幻想郷にも行きなよ?さっき連絡したら“最近全く会いに来てくれない”って紫さんがボヤいてたし。」

最近は動画世界経由せずに別ルートで行っちゃってるからねー…そもそも動画世界の方、現状止まってるから…

星海「早く動画世界も動かしなよ…」

流石に現状だと難しいかな……色々落ち着いたら動画世界側でも幻想郷に行って異変のお話とかするつもりだけども……

星海「っていうか、動画世界から行く幻想郷ってここから繋がる幻想郷と同じなんだっけ?」

同じだよー。

星海「……書けば?」

うちの幻想郷の歴史自体が相当面倒なので書きません。というか香月達の話書けないのってほぼほぼうちの幻想郷が原因だからね。

星海「歴史は書けなくても旅行みたいな感じで何か書けたりしない?」

…旅行……幻想郷旅行、ねぇ。まぁうちの幻想郷……相当賛否両論ありそうだけど。…第一部終わったあとに紫さんに相談してみるかなぁ…

星海「こんな調子で何年かかるのやら……」


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第338話 方法模索中

裁「ん……」

大妖精「あ、お目覚めですか?」

裁「あれ、大ちゃん……?それにここ、私の部屋……」

大妖精「先日の観測終了後、リカさんは急に倒れてしまいましたので…失礼ながら覚醒までお部屋の中で待たせていただきました。」

裁「それはいい、んだけど……大丈夫?寝れてる?」

大妖精「大丈夫ですよ?」


「…とりあえず分かったことは。石と石の要を壊したところで部位破壊には至らないし、地層みたいに何層も重なっているというよりは1つの岩みたいな感じになってるってことかな。」

 

「1つの岩…ねぇ。」

 

「要を壊すにしても多方向から衝撃を徹して要に集束させるのが良いんだと思う。」

 

「“兇叉”みたいなやり方ってことね?」

 

「そう……なんだけど。問題があって、兇叉だと1撃にならないの。…さっき打ち込んだ感じで分かった。1撃以外───つまり1HIT以外は打ち消される。」

 

私の言葉にお兄ちゃんとナーちゃんが困った表情になる。

 

「打ち消される、なぁ…」

 

「……打ち消されるというか判定方法が1HITごとのダメージ量なのかもしれないけど。」

 

「あー…つまり1HITずつで計算されてそのダメージ量が規定値を上回るかどうか、ってことか。」

 

「あたしは規定値を上回るか、だけじゃないと思うわ。見たところリッカさんは加減していたわね。規定値を上回るだけなら加減なんて必要ないでしょう?それなのに加減したということは、“規定値突破”ではなく“規定範囲内”なのだと思うのだけれど。」

 

「……ナーちゃん、よく私が加減してたこと分かったね……」

 

「ホントリッカのことよく見てんな、七海…」

 

「技を覚える、記録するために観察するのは当然じゃないかしら……」

 

あー……そっか、本の英霊だから記録系入ってるのか…な?……………いや、入ってないよね?確か。…まぁ、いっか。

 

「とりあえずどうするかだね……単純に強化して叩き込んだだけじゃ無理そう。」

 

「岩……いわくだきなぁ…」

 

うーん……

 

〈……すまない…少しいいかな。〉

 

「リューネちゃん?」

 

声、辛そう…っていうか起きたの?

 

〈こら、ゆっくり寝てなさいよ。ていうかどうやって無効化してるのよ…〉

 

〈はは……一瞬声が聞こえてなんとか起きたのさ…僕も、ルーパスもね……〉

 

「もしかして心意か…?」

 

あー……

 

〈なに、少しで終わらすさ……リッカ殿と話させてくれるかな…?〉

 

〈……分かった、でも短くすること。〉

 

〈相棒もそれでお願いしますね?〉

 

ルーパスちゃんの声は聞こえなかったけど代わりにミラちゃんがため息をついた。

 

〈さて…確認だが、リッカ殿達が困っているのは……岩竜“バサルモス”の岩殻…その一撃破壊についてで合ってるかい?〉

 

「えぇ、そうよ。…それがどうかしたの?」

 

〈…岩竜の身体といえば、それこそ本物の岩のように硬いのが特徴的だ……実際、岩竜の背中から鉱石が採掘できる程度には岩そのもの。高い痛撃色をもってしても、刃が通らずに弾かれるのが岩竜だ…〉

 

「高い痛撃色……具体的には?」

 

〈弱点である脚やお腹でなければ青でも弾かれるな…〉

 

……まって、青って確かそれなりに高くなかった?

 

〈だが……一部の岩竜は一時的に柔らかくなることがある。〉

 

「柔らかく……なる?一時的に?」

 

〈あぁ……“赤熱化”、というんだが……岩竜が火の攻撃をしてきた際、岩竜の身体がその火に熱せられて赤くなるんだ…熱せられて赤くなった場所は、一時的に柔らかくなるのさ……〉

 

……なるほど

 

〈リューネ……問題が、あるよ……〉

 

「問題?」

 

っていうかルーパスちゃんも辛そうな声…

 

〈あいつ……溶岩竜や、炎戈竜と……違う……〉

 

〈……あぁ…アレか……〉

 

……?

 

〈岩竜“バサルモス”と溶岩竜“ヴォルガノス”の違いといえば……もしや、赤熱化…いえ、肉質軟化の条件ですか、相棒?〉

 

〈…そうだよ、ジュリィ…〉

 

……んーと?

 

〈相棒とリューネさんの代わりに説明させていただきますね。溶岩竜“ヴォルガノス”と炎戈竜“アグナコトル”。別のモンスターですが、同じ特徴があります。それは、“溶岩の鎧を纏っている”ということ。その鎧は溶岩に浸かったり、火属性の攻撃を受けることで溶けて柔らかくなるのです。時間経過、もしくは水属性の攻撃を受けるとその鎧は冷えて硬くなり、言葉通り“鎧”と化すのです。〉

 

「厄介な性質ね…」

 

「ってなるとそのモンスターは火属性でいった方がいいのか?」

 

〈いいえ。溶岩竜、炎戈竜の名から分かる通りかのモンスターは火属性に強い存在です。故に……単独での狩猟はかなり難しいと思われます。……相棒、辛い中申し訳ありません。ですが歴戦のハンターとしての意見をお聞かせください───溶岩竜、炎戈竜に挑む際の解はなんでしょう?〉

 

〈……水属性ガンランス…もしくは爆破属性弓……固定ダメージと…肉質無視でどうにかするのが一番簡単……あと、砲撃には…素で火属性があるから……肉質軟化も狙える……〉

 

その言葉の後に小さく呻き声。

 

〈…恐らく最適解は“心眼”…刃がちゃんと通る場所、通る斬り方、それから弾かれない動き方……精密に、確実に見定めて刃を通すの……でも、これは私の個人的な意見、だから……別の解があるかもしれない……〉

 

〈……なるほど。〉

 

〈でも…これはあくまで溶岩竜の話……岩竜だと、話は変わる……〉

 

「というと?」

 

〈岩竜ってね……自分の排炎でしか赤熱化しないの……〉

 

「…は?」

 

排炎ってことは……内側から出す火ってことだよね。

 

〈外部から熱を加えても赤熱化しない……当然だよね…岩竜の岩殻は私達の防具みたいなものじゃない、皮膚のようなものなんだから……それに、リューネも言ったけど赤熱化する岩竜って実は一部なの……地域差とか、個体差とか、あるんだろうけど…〉

 

「一部か……それでもやってみる価値はあるだろうな。…だが、問題はどう赤熱化させるかだ。外部からの熱で赤熱化しねぇんだろ?どうすりゃいいんだ?」

 

お兄ちゃんの言う通りだよね…う。

 

〈……前提として…この世界は、僕達のいた世界じゃない。ならば、世界における理論…物事を決める法則が変わるはずだ……〉

 

「……急に変なとこ突いてきたな、おい。頭大丈夫か?体調不良にやられてねぇ?」

 

〈失礼だな……と言いたいが、普段こんなこと言わないのは僕も分かっているさ……〉

 

うん、そういうのを言うのって普通は世界の管理者とか転生者とかその辺りだし。…転移者、ではあるけどリューネちゃんそこまで詳しくないと思うんだよね……

 

〈だからこそ……僕らにはできない方法で、赤熱化させられるんじゃないか…?〉

 

「リューネさん達にできない方法?」

 

〈例えば……()()()()()()()()()、とかね……〉

 

………なるほど?

 

「要するに、武器や環境による外部からの熱じゃなくて魔術で内側からじわじわと熱を加えて赤熱化まで辿らせる……ってことでいいのかな?」

 

〈……ご名答〉

 

「……そんなにうまくいくかしら。」

 

「やってみる価値はあるかもな。それで無理だったら……」

 

「…それで無理だったら、私が両腕を壊す覚悟で純粋に物理破壊するよ。」

 

「マジでそれは最終手段な、リッカ。」

 

むー…

 

「…自分の身体は大事になさいな、リッカさん。」

 

〈…ハンターも、編纂者も…サーヴァントも……皆、身体が資本だ……それはサーヴァント共に戦うリッカ殿も変わらないだろう…?だからこそ無理だけはするな、リッカ殿…〉

 

〈無理しすぎて倒れちゃったら……私達も心配なんだからね、リッカ……〉

 

「……ありがとうね、リューネちゃん、ルーパスちゃん。でも、今の状態で言われてもなぁ…」

 

〈これは主に私のせいだからルーパスさん達は関係ないよ。……流石に高圧すぎる龍属性は術式防御もないハンターの身には堪えたみたい。…ホントごめん〉

 

〈とはいえ、相棒達にはこの機会にゆっくり休んでもらった方がいいと思います。…1日でもいいのでゆっくりと。〉

 

〈はは……お手柔らかに〉

 

〈とりあえず……さっさと寝ろ。言いたいことは終わったんでしょ。〉

 

〈〈……はい。〉〉

 

わぁ…ミラちゃんちょっと怒ってる?

 

〈…よし、寝たね。……原因は私だけど、原因の後のケアを怠って死なれるなんて嫌だから。召喚術師、医師としてだけじゃなくて私個人として。…わがままだけどね。〉

 

……

 

〈ごめん、“龍気祓いの丸薬”調合するから少し黙るね。〉

 

「あ、うん……」

 

さてと……本当にどうしようか。

 

「石の赤熱……じわじわ熱する火の結界……か。火力調整難しそうだな…」

 

「あたしはダメージにならない程度の火力がいいと思うわ。ダメージが入るとリセットされる可能性があるもの。」

 

「…赤熱化ってそれでリセットされるもんか?水でもかけないと時間短縮にはならんだろ。」

 

「………確証がないことだから、否定もできないのよね。」

 

……うーん。

 

「お兄ちゃん、ナーちゃん、最大火力で火を扱い続けて魔力ってどれくらい持つ?」

 

「ええっ…と………」

 

「……試したことがないな、流石に。」

 

「…あたしもよ。」

 

「……じゃあ、耐熱……熱を反射するような結界は?」

 

「それなら数十分はもつな?…だが、熱反射?」

 

数十分か…それだけあれば……?

 

「レンポくん、精霊魔法の連発ってできる?」

 

「あ?あー…いや、できなくはないけどよ……」

 

「とりあえず、一回バサルモスに撃ってみてほしい。どれくらいの変化があるのか見てみたい。」

 

そう言いながら預言書を開いて“炎の角”を取り出す。これは装備するとレンポくんの精霊魔法の威力が上がるアイテムだから熱は通しやすくなるんじゃないかな。

 

「……わぁーったよ。そんじゃ、行くぜ!」

 

レンポくんの声と同時に預言書のページに触れて魔力供給を促す。

 

「いぃっけぇぇ!!“炎の精霊、その力ここに振るえ(ヴィオスフレイム)”!!!」

 

精霊魔法を使ったことで私とレンポくんの繋がりが強まり、コードポイント───預言書のページの完成度を示す数値の事───が加算される。これを続けていけばいずれ精霊の枷は外せるようになるはずだけど……まぁそれはそれ。大体、アヴァロンコード本編では異性精霊の場合は枷が外れると告白してきたから……先代、つまりティアさんの事を好きな彼らが私との繋がりを強めてくれるかどうか。

 

「……ダメだな」

 

「……赤熱した様子はなし…」

 

レンポくんの精霊魔法でも大したダメージは出なかった……けど。

 

「……表面。少しだけど熱くなってる。」

 

「熱くなってる…か。」

 

()()()()()()()()()()()()()。…これなら。

 

「お兄ちゃん、ナーちゃん、レンポくん。…お願い、します。」

 

「任せろ。」

「任せてちょうだい、赤熱化させてみせるわ。」

「魔力の続く限り精霊魔法ぶちかましてやるよ!!」

 

……頼もしいね。




……

星乃「とぅ!」

がふっ…!?

星乃「アタタタタタタタタタ!」

痛い痛い痛い、理由は分かってるから叩かないで!!

星乃「遅い!!!」

本当に申し訳ありませんでした!!!

星乃「……ホント落ちすぎじゃない、観測力というか書き起こし能力というか。」

んでいきなり素に戻らないで……?…能力低下の原因は分かってないけど本当に申し訳ないとは思ってるよ…

星乃「投稿してなかった丸々2ヶ月……200人近くが待ってくれてるし投稿してない間も10人くらい訪問してくれてるんだからどうにかしなよ……」

うぅ……本当にごめんなさい……


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第339話 いわくだき

裁「……」

大妖精「どうしたんですか?自分の手を見つめて。」

裁「…いえ。少し……昔の事を思い出してました。」

大妖精「……そうですか。」

裁「…神秘に覆われた岩を砕くほどの強き力を以てしても……全てを砕けるとは限らない……か。」


バサルモスの加熱を始めてから10分ほどが経過。何気にレンポくんの神秘がバサルモスの神秘よりも高いのか、徐々に赤くなっていっているのが見える。

 

「おらおらおらぁぁぁぁ!!」

 

「リッカ、魔力は大丈夫~?」

 

「レンポがあれだけ暴れているのです、魔力消費は相当激しいでしょう。」

 

『自分の主の事を考えないで好き勝手に暴れて……』

 

「私なら大丈夫だから心配しないで、皆。」

 

『……虚勢じゃないのも、また大分おかしい気がする…』

 

「ティアも最終的に精霊魔法10連打くらいはできるようになっていましたが…リッカ、あなたはそれを優に越えますね。」

 

な、なんか呆れられてる…?

 

「───おし!リッカ、こんなもんでどうだ!!」

 

レンポくんの声にバサルモスの方を向くと、確かに全身が赤くなっていた。…かなり熱そうだけど、虚無で左手を覆ってバサルモスの身体を叩く。

 

「……あ、ホントに大分柔らかくなってる…」

 

少なくともアルの防壁よりは非常に柔らかい。さっきの硬さから逆算して………

 

「……うん、多分これで行ける。」

 

結構負荷はかかりそうだけど……なんとかする。

 

「お兄ちゃん、ナーちゃん、私から離れてて。…結構強めの叩き込むから。」

 

私がそう言うとお兄ちゃんとナーちゃんが私から少し離れた。

 

……お願いします。

 

来たれよ、封印に挑みし者、我に力を示さんとする者。

 

バサルモスと相対し、集中する。

 

「……」

 

───意識を標的にのみ絞れ(集中)

 

───標的の脆いところを観よ(心眼)

 

───余計な場所へ力を流すな(体術)

 

───最初の刃に総てを注ぎ(抜刀術【技】)

 

───振るう刃は鋭く研ぎ(攻撃)

 

───標的の脆い場所を精確に突き(弱点特効)

 

───有効な突きを精確に見定め(見切り)

 

───宿せし水の力を強めよ(水属性強化)

 

───精確なる突きは力強く(超会心)

 

───宿せし力もまた引き上げる(会心撃【属性】)

 

「……結構複製付与に集中力必要だね……」

 

───導かれしは極めし格闘の技(コピー能力:ファイター)

 

───内に存在する気を練り上げ(徒手空拳奥義:プラーナ)

 

───眼前の障害となる岩を砕け(ひでんマシン06:いわくだき)

 

「……力。狙い。重心───揃え」

 

小さく呟いて跳ぶ。

 

───しかし岩は行く道を封ず(わざマシン39:がんせきふうじ)

 

───障害となるは不壊の壁(Immortal Object)

 

───そして正しき力でのみ開く扉(聖槍壁ロンゴミニアド)

 

「───“大地砕く剛力の拳(メガトンパンチ)”!!!」

 

「“かちわりメガトンパンチ”じゃねぇか!!特異点ごとぶっ壊す気かよ、おい!?」

 

お兄ちゃんが何か言ってるけど無視して放つ。保護付与はしてるから多分……

 

ッ!?

 

バキッ、という音と一緒にバサルモスの痛そうな声が聞こえた。

 

───、───見事なり

 

そんな声と共に封紋の一部が輝く。これで火の錠は解除なのかな?

 

「息切れしてね?」

 

…確かに。やりすぎちゃったかな……

 

我の事は気にするな。これにて火の錠は開かれた───であれば、他の錠を探せ……む?

 

バサルモスが封紋を見て言葉を止めた。

 

……何故だ?

 

「え?」

 

何故、()()()()()()()()()()

 

雷の錠……?




……

星乃「お母さんー…って、また思考飛んでる…ちょっと、起きれる?」

……んぅん…………星乃…?

星乃「おはよ。色々動き始めてるけど大丈夫?」

んー……?たぶん……

星乃「心配だなぁ…」


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