夢女子が性転換して推しを救う話 (Orchestral Score)
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転生

性転換があるので苦手な人はブラウザバックしてくださいね。
お願いしますね。


 

 

 皆さんネット小説についてどう考えているだろうか。

 サイトに載せていた小説が書籍化、はたまたアニメ化や実写化などしてブームになり、様々なネット小説が盛んになった昨今。

 私もそんなネット小説を好んで読んでいた。

 スマホがあれば簡単に読めるし、玉石混交と言われる中でも面白い小説は転がっているものだ。

 ランキングから見付けたり、レビューを読んだり。はたまたたまたま更新されているタイトルやあらすじに惹かれたり。

 

 私は数あるネット小説サイトの中でも「小説家になろ○」を好んで利用していた。大手ということもあり作者・作品数も数知れず。分母が大きければ「良い作品」も多いだろうとそこへ手を伸ばした。

 私は長すぎるタイトルは敬遠する。だってそこに作品の全てが書かれているようなものだから。四行もあるタイトルはそれだけで目が滑ってしまう。

 だから私が選ぶ小説は大抵が短いタイトルで、あらすじも簡略化されたもの。その方が本文を楽しめるからだ。

 物語は、先が読めないからこそ、面白い。

 そんな考えの元、私は運命的な出会いをした。

 

 

 「陰陽師の当主になってモフモフします(願望)」という一つの小説に。

 

 

 元々のタイトルは(願望)じゃなくて(仮)だったみたいだけど、そんな変遷を気にしないくらいに熱中した。

 陰陽師が現代にも残って、公務員となるローファンタジー。

 一千年前からの圧倒的な乖離による、現代への侵食。

 学校を舞台に、起こる様々な事件。

 よく負けちゃうけどカッコイイ主人公。可愛いヒロイン。

 

 

 そして、主人公の悪友、住吉祐介(すみよしゆうすけ)

 

 

 私はこの住吉君が推しになった。中学時代から主人公と一緒に学校をサボったり、陰陽師として活動したり、実力があったり、ムードメーカーだったり。

 彼が主人公の隣にいるからこそ、学園ものとして成立しているんだというくらいに、良い友人関係だった。

 そして隠せない、恋心も。

 そんなもどかしさも好きだったけど、一番心に来たのは、祐介の本性。

 とある儀式をするために主人公の元に潜り込んだ、主人公と対立する人物のスパイだったのだ。

 

 それがわかった瞬間「ウソでしょ!?」って叫んでしまったし、読み返してみると主人公と祐介の怪しい行動がいくつかあったり、距離感が絶妙だったり。

 伏線はいくつもあったのに、その場面になるまで気付かなかった私は推し失格だし、物語をしっかり読めていなかったんだなと猛省した。

 それからもう一度最初から読み直して、更新されるたびに祐介の心情を知って。祐介の立場を知って、背負ってきたものを知って。

 不器用な友情を知って。

 

 仕事の帰り、電車の中で泣き出した時には近くの人に「大丈夫ですか」って心配されるほどボロボロと泣いてしまったほど、私は祐介に感情移入していた。

 そんな恥ずかしいことがあったために、たとえ更新されていても帰り道で読むことはせず、自宅に帰ってから読むことにした。まあそれでも、ご飯を食べながら泣いてしまって夕飯の味がわからなかったことが数回。

 私が思うことは一つ。

 

「ハァ〜。祐介救いてぇ〜」

 

 めんどくさいオタクのようだろうけど、本心だ。ここまで心揺さぶられたキャラクターは久しぶりだった。

 これまでも様々な娯楽作品に手を出してきたけど、ここまで入れ込んだのは初めてだ。ネット小説という「更新」があるライブ感も関係しているかもしれない。

 しかし、作者様凄いと思う。こうも感動できる物語を、一話3000字程とはいえ三日に一回は確実に更新してくれるんだから。ちょっと仕事を頑張れば最新話が更新されているという嬉しさ。日々の癒しになっていた。

 ただ。最近の更新は辛い。泣くほど辛い。

 

 祐介が、辛すぎる立ち位置なのが悪い。

 悲惨な登場キャラは他にも結構いた。それでも、救いのある終わりを迎えた者もいた。だから祐介も大丈夫なんじゃないかなと思ってたけど。

 祐介の辿っている道が、完全に救われなかったキャラと同じ感じなのだ。

 しかも地の文で散々入る怖い、容赦ない言葉の数々。

 

 先生、祐介は主人公の(あきら)君の唯一の友達ですよ……?そんな祐介を、本当に……?

 この前の更新。八章のエピローグ。祐介の独白と一緒に送られた、彼の母親に対する「遺書」。

 それがまた辛かった。また家で泣いた。

 冷遇されていた母親に愛を捧ぐって、ユウズゲェ……!しかも母親も祐介を守るために冷遇するとか……!母親だって辛かっただろうに……!

 もうほんと、そういう悲しみの諸々から救いたい。祐介は母親と一緒に静かに暮らして、恋をして過ごして欲しいなあ。

 

 今日の仕事はもう終わって、しかも今日は通称「オンモフ」の更新日。作者様が活動報告でこう略しているんだから、おそらく正規の略称のはず。

 電車から降りて、商店街を抜けて一人暮らしのアパートへ。

 今日で八章が終わるみたいなんだよね。祐介のやったことを明君が止めてくれたみたいだし、もう一話祐介に使ってくれるかな?

 そんなことを思いながら商店街を歩いていると、ミシミシと音がする。

 その音と同時に、地面が揺れる感覚が。

 

「地震だ!」

 

 さすが自然災害大国日本。でも人間慣れてしまうもので。窓ガラスとかから避けておけば大丈夫だろうと楽観視していた。さすがに震度7の地震じゃないだろうからと。

 それでも大きかったけど。

 

「危ない!」

 

 何が?と思った時には遅かった。

 立て付けが悪かったのか、地震が大きかったのか。私の上にあった大きな看板が、落ちてくる。

 あ、死んだなと思った。

 そんなあっけなさと同時に、現実逃避気味にこんなことも思った。

 祐介のこと、助けてあげたいなと。

 そうして私は、目の前が真っ暗になった。

 

 

 目が醒めるとそこは、真っ暗闇があるだけの空間。あれ?私死んだんじゃなかったっけ?

 

「そうじゃよ。お主は死んだ」

 

 おじいさんの声。どこだろうと意識すると、目の前にいかにもファンタジーな神様っぽいおじいさんが立っていた。

 

「お主の願い、聞き遂げた。是非その人物を救ってみるといい」

「もしかしてここって、神の御座ですか!?」

 

 私は反射的に聞いていた。神の御座。「オンモフ」の世界にある、神の居城。神が現存する世界観だからこそだ。

 神の御座は神ごとに景観が違うとか。だからこんな真っ暗な場所もあるのだろうと思っていた。

 

「説明が面倒じゃからそれでいい。陰陽師としての才能はくれてやろう。それと、お主の心からの願望を叶えるために不要なもの(・・・・・)を排除しておこう。では、新しい生を好き勝手に過ごすといい。儂はそれを見守るだけじゃ」

「ありがとうございます!祐介は絶対に救ってみます!」

 

 話のわかる神様だ!私の最後の願いを叶えてくれるなんて!

 祐介、しがらみのないまま明君と友達にしてやるからなあ!

 

 

 そんなやり取りをして、気が付くと。

 ベビーベッドのようなところで寝かされているような私。

 赤ちゃんに戻ってるね。これで祐介より上の年代なら祐介を助けられるんだけど。見た感じ年代は現代に近いけど、詳しい年代はわからない。そこまで年代はずれていないと思う。テレビの画質からそう判断した。

 私の目線の先には、ニュースでもやっているのかスーツの人ばかりが映っていた。文字を見てみると、呪術大臣就任。

 

 呪術大臣?

 呪術省という陰陽師を纏める省庁。これを率いているのは陰陽師大家の土御門か賀茂のどちらかの当主。ちなみに非道なことをやりまくっている、物語の中ボス的な存在だった。

 いや、通過地点?弱すぎて中ボスとも言えないくらい雑魚だった気がする。

 そんなテレビを見ていると、ある一人の人物がアップで映る。ふうん、そこそこイケメンじゃん。それに若い。三十代くらい。

 

「呪術大臣に就任した土御門晴通(つちみかどはれみち)です。先代の呪術大臣である賀茂家からの引き継ぎが済みました。これからは私が日本のために邁進してまいります」

「あうああうあうううううううう!!!!!(てめえこの!祐介が苦しんだ元凶じゃねえか!!!!!)」

「な、どうした!?(みちる)、お腹空いたか!?それとも漏らした!?」

 

 父親の制止も聞かず、私はベビーベッドで暴れまくった。

 この土御門晴道がいなければ祐介とそのお母さんは苦しまなかったのだ。

 こいつは絶対ぶっ飛ばす!覚悟しておけよ!

 そんな、0歳の時の決意。

 




多分十話くらいの短編予定。

ちなみに彼女はほぼ私の実話。マジでネット小説読んでて、電車で泣くとは思わないじゃんかよ……。
その時親切にも優しく声をかけてくれたお兄ちゃん、ホントありがとね。救われたわ。


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裏技

原作知識あるなら活用するよねって話。


 神様に転生させてもらって三年。私こと涼宮満は三歳になりました。

 住んでいる場所は京都府京都市。つまり「オンモフ」の舞台な訳で。色々手が出しやすい場所に産まれたわけですよ。

 そんな中で見過ごせない変化が。

 私、男になってるんですよ。男の子。

 

 前世は思いっきり女だったのに、性転換ってやつをしちゃったらしくて。

 私の根本の願い。祐介は天海薫ちゃんのこと好きになってほしいといういわゆるカプ厨的な思いが私は邪魔だと思われたらしくて、女じゃなくしたらしい。神様もそんなこと言ってたし。

 推しは推しであって、私が付き合いたいわけじゃない。だから全く問題ないわけだけど。

 祐介を女の私が助けると問題になると。心って難しい。

 心の中でも男で私はおかしいと思って、できるだけ僕で通している。私が一人称の三歳児とか怖いからね。ボロを出さないように、僕にしてる。

 

 そんな僕は、陰陽師の才能があった。それは一安心。原作でも才能があるかないかで使える人と使えない人の境があるって話だったし。天竜会に所属するような異能はなかった。天竜会は日常生活を送るのに困るような異能を持っていたり、家族を陰陽師が倒すべき敵、魑魅魍魎や妖などに殺された孤児が行く場所だ。

 異能は陰陽術とは別系統の、力だと思う。霊気を用いない力じゃないかと推察するけど、どうなんだろ。陰陽術は霊気を使って、異能は霊気を使わないとか。この辺りは曖昧だ。

 異能は便利なのかもわからないし、むしろ狙われる可能性もあるから持ってなくて良かったとすら思ってる。この世界の日本、割と危険が多いというか。

 

 僕は起きていられる間にできるだけ霊気の制御と、簡易式神を使うことに力を注いできた。霊気がどういうものか感覚で掴みたかったし、まずは基礎の簡易式神くらいならできるようになっておきたかったからだ。

 簡易式神は多分、便利な代物だから。ちゃんとした式神が使える主人公ですら簡易式神を使う場面は多かった。

 僕の今世の両親はプロの陰陽師だった。公務員として昼夜逆転の生活をしていて、夜中に街に出る魑魅魍魎を倒している。さすがファンタジー世界。

 

 この魑魅魍魎、陽が沈むと現れる怪物というか妖怪というか。京都だけはお昼にもいるんだけど。これを倒すのがプロの陰陽師。

 両親がプロということは、夜中好き勝手動いても良いということ。なんたって家にいないんだから。だから僕は夜に簡易式神を制御する練習をして、朝昼に爆睡するという親と同じような生活をしている。これなら陰陽師として腕を磨けるから都合がいい。

 

 僕は今こそ基礎をしっかりと固めている時期だけど、そろそろ本格的に動かないといけない。なにせ僕が平穏に生きている間に、祐介が苦しんでいるんだから。

 推しである祐介とは同い年だった。なんでわかったのかと言われれば、祐介と同い年である土御門光陰(こういん)と同い年だったから。呪術大臣の息子だからと、メディアに出てくることがあったから把握できた。

 で、そんな祐介を助けるために、だけど。ただ鍛えてたら間に合わないわけで。お父さんたちは別段凄い陰陽師ってわけでもなく、ただの三歳じゃ陰陽術の基礎しか学べない。高校に入るまで待っていたら手遅れになる。

 

 だから、強硬手段に出るしかなくて。僕は原作という知識を用いてズルをするしかなくて。

 そのために、両親が共に仕事である今夜。ちょっと遠出します。

 お父さんたちが仕事に出た後、ベランダに出る。そこそこ大きなアパートのベランダから出て行くために、簡易式神が必要なわけだ。

 イメージするのは空を飛べる存在。つまり鳥だ。お父さんの仕事道具から数個盗んでおいた呪符の一枚を取り出す。

 

急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」

 

 呪符が白い烏に変わる。それにえっちらおっちら乗り込んで、空を飛んである場所へ向かう。

 できるようになったからこそ思うけど、主人公って化け物だと思う。何で後三年したら「ON」の一言でほぼ全ての術式使えるようになるの?僕は無理そうなんだけど。

 ちなみにお父さんに興味本位で聞いてみたら、できるけど術式が正規の威力にならないっていうことをすごく噛み砕いた言葉で教えてくれた。たまたま五神──表向きは四神の一人である青竜の戦うところを映像で見ていたから質問できたけど、短縮詠唱というのはとても高等な技術らしい。

 

 お父さんはプロの七段。将棋の階級と同じで上から三番目なわけだけど、そんな人物でもまともに使えないんだとか。だから四神はすごいんだと教えられたけど。

 十年ちょっとしたらその四神、ボコボコにされるんだけどって言いそうになって危なかった。それに祐介や主人公、ヒロインは高校一年でその短縮詠唱を使うんだよね。

 そんな主人公たちも、ボコボコにされる。結構負ける。そんな存在がわんさかいる日本です。怖い。

 

 主人公が最強じゃないっていうのも、「オンモフ」の惹かれるところだったけど。主人公も相当強いはずなのにそれ以上の強い存在に負けるんだもんなあ。

 

 さて、そんな魔境日本で、僕が向かっている場所はどこでしょう?

 主人公よりもヤバい存在、神様がいる場所。稲荷神社です。

 正攻法なんて無理だから、神様に頼るしかないという。すごい博打だな、これ。でも稲荷神社にいらっしゃる宇迦(うか)様は温厚な方だから大丈夫だと思うけど。

 むしろ他に頼れる神様がいないというか。いるけど奈良だったり、僕の話を聞いてくれるかわからない存在だったり、栃木だったり。

 

 京都で頼れる神様はこの方しかいないと確信している。呪術省にも忍び込めないし。

 簡易式神に乗ってそこそこ時間をかけて到着。魑魅魍魎に遭遇したりしたけど、敵意を向けていなかったからか、襲われることはなかった。それと空の上を飛んできたからめっちゃ寒かった。できるだけの防寒着は着てきたけど。

 目指すは正道ではなく、裏道にある白い鳥居。裏道の中腹の先にあるはず。そこが宇迦様がいらっしゃる神の御座の入り口なはず。主人公たちはそこから入っていったから、多分そこからいけるはず。

 裏道を登って行きながら、僕は確信する。

 

 僕には、神様が視えない。普通の目だということ。

 ここ、稲荷神社は神様がいらっしゃって、相当敷居が高いことから神様が纏う力──神気が大量にあるって主人公は言っていた。けど、僕には霊気しか見えない。つまり主人公たちのような特殊な眼ではなく、ただの目だということ。

 

 これは困った。いきなり作戦が瓦解した。

 

 僕はこれまで神社に来た事がなかった。両親が共働きで忙しく、あまり出かける事がなかったからだ。プロの陰陽師ともなると纏まった休みがないようで、休みの日に出かけたとしても近場の公園や飲食店が精々だった。

 だから、神様が見えるかどうか、という実験をしていなかった。ぶっつけ本番で実行に移して、見事にダメだったわけだ。

 だから、最終手段。自力で白い鳥居を見付けて、直接お願いするしかない。

 何とか中腹まで上がって、広場に出る。ここが主人公たちがコトちゃんに会ったのかな?……呼びかけてみるか。

 

「コトちゃーん?いませんかー?」

 

 ダメ。ならもう一人の方。

 

「ミチちゃーん?いませんかー?」

 

 宇迦様に使える子供たちを呼んでみたけどダメ。なら神様そのものを、無礼だけど呼ぼう。

 

「宇迦様、いらっしゃいませんかー?」

 

 ダメ。そうなると、白い鳥居を探そう。もうそれしか手段がない。

 懐中電灯で辺りを探す。朱色の中に白い鳥居があれば目立つと思うんだけど。ないかなあ、難波家が寄付した鳥居。

 そうして歩くこと十分ほど。ようやく白い鳥居を見付けた。難波家寄進と彫ってある。これだこれ。

 

「あれ?神の御座に行けない?……手詰まり?」

「そこから妾の御座に入る事ができるのは、難波の人間だけやえ」

「あー、なるほど。……え?」

 

 後ろから声をかけられて、思わず振り向くと白髪の大きな御狐様がいらっしゃった。妾の、御座?つまりこの方が……。

 

「初めましてや。おかしな人間。妾こそが宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)。して、何用かえ?」

「宇迦様、ご無礼を承知でお願いいたします!僕に道摩法師を紹介してください!」

 

 僕は即座にその場で土下座した。それでしか、神様に対する敬意の見せ方を知らなかったからだ。

 しばらく静寂が続くと、御狐様から大きな溜息が聞こえた。

 

「妾に頼みたいことはそんなこと?全く……。他の神の感触があったから来たゆうのに、つまらぬのう」

 

 あれ?もしかして失敗した?

 




大天狗様はおそらく頼れないのでダメ。
天竜会は神様の実力がわからないため除外。というか、法師と関わりあるかわからない。
奈良や難波の神様も関わりあるか不明。そもそも行けない。

となると、地道に探す以外には宇迦様しかいないという。


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説明

ご都合主義です。

多分法師様、こんなに優しくないし。


『ねえねえ。何で男の子なのに陰の気が強いのー?長男だよね?』

『ねえねえ。何でコトたちの知らない神様の力を持ってるのー?人間だよね?』

「こら、ミチもコトも。分かり切ってることを聞かない」

『『はーい』』

 

 僕の前には白い御狐様に、白髪の巫女服を着た幼女二人がいた。幼女の頭の上には狐の耳がある。幼女と言っても、今の僕よりは年上に見えるけど。

 白い鳥居の前で、僕を見つめながらツンツンしてくる幼女二人。二人って換算でいいんだろうか。宇迦様の眷属なのだけど。本体は表参道にいる狐の像だったはず。

 というか、神様たちって凄い。完全に僕の素性がバレている。

 

 陰の気というのは陰陽における対立で、男性だったら陽、女性だったら陰の気が強い。兄弟であれば弟の方が陰の気が強い。

 知らない神様というのはおそらく、この世界に転生させてくれた神様のことだと思う。

 つまり、僕が元々女性で、違う世界から来ていることを知っているということだ。

 

「それで、坊。神たる妾に偽りは不敬と見做す。正直に答ぇ。道摩法師に会って、何をする気かえ?」

「はい。陰陽師として力をつけて、とある親子を助けたいと思っています!陰陽師としての実力は、法師が頭抜けています。金蘭様もいらっしゃいますが、おそらく難波にいるので長期的な指導は不可能でしょう。京都で会えて一番の実力者となれば、法師しかいません」

 

 本当に嘘とかは見抜けるだろうから、正直に話す。原作でもゴン様が嘘発見器になってたし。でもあれってゴン様っていうフィルターを通してのものだから、どこまで信じていいものか。

 

「クゥも知っているのかえ?本当にまあ、奇怪なものよのう」

「あれ!?口に出していましたか!?」

『出てないよー。でもここは、宇迦様の社だよ?』

『そうそう。よくクゥちゃんのこと、ゴンだってわかったね?』

 

 さ、さすが神様。というかここは神の御座と変わりないのか。だから考えていることも筒抜けなわけで。嘘を言わなくて良かった。

 

「陰陽師としての力。それならまあ、法師が適任でしょうけど。死ぬかもしれんよ?」

「覚悟の上です。それにもう、一度死んだ身ですので」

「ふむ。まあ、呼び出しくらいはええかの。説得は坊がしなさい」

 

 宇迦様は納得してくれたのか、法師を呼び出してくれることになった。とりあえず今日の成果はこれだけ。そのまま来た時のように簡易式神に乗って戻った。夜遅くまで起きてたこと、初めてまともに陰陽術を使ったために疲れてすぐに寝てしまった。

 次の日、朝方コトちゃんが家に来てくれて、今日の夜法師が会ってくれるということになった。話が早い。

 また稲荷神社に行き、そこで法師と法師の式神である姫さん、外道丸、伊吹童子がいた。うわあ、法師ご一行お揃いだあ。

 そこで宇迦様に説明したみたいに、全員に事情を全て打ち明けた。説明し終わったら鬼である外道丸と伊吹童子には大爆笑された。ありえない話だと思われているみたいだが、法師と姫さんは真剣に考え込んでいた。

 

『あはははは!おいおい、こんな頭おかしい奴の話を鵜呑みにするのか?』

「するしかないんよ、外道丸。この子、星見じゃないんや」

「ああ。この子は星見でも風水使いでも、金蘭のような力を持っているわけでもない。千里眼すらなく、どうやって明のことを知ることができたのか。可能性を潰していけば、そういうこともありえるということになる。我々の知らない異能というよりも、神の仕業と考えた方が早い」

 

 法師と姫さんは伊達に陰陽師の頂点にいるわけじゃなかった。知識の上でもこの人たちに勝てる人はいるんだろうか。それほどこの世界では最強の敵だと思ってる。

 主人公の敵であり、おそらく味方である道摩法師。一千年生きる傑物。そして安倍晴明の名前でも呼ばれる人物。

 日本社会を混沌に導き、日本という世界を正しい形に戻す人物。

 僕に星見の力がないことを看破されたのは、星見同士は会えばわかるのだとか。法師も姫さんも星見として過去視も未来視もできる。僕のはそういうのじゃなくて、原作知識を持ってるだけだ。

 

「星見でもないのに、知識として知っている事柄。しかし、歴史の全てでもなく、我々の全てというわけでもない。証拠に私の正確な正体については、確信が持てないらしいぞ?この仮面の下の真実を知るくせに」

『何でそんな歪なんだよ?それは神がつけた制限とかか?』

『いや、事実そいつはそこまでしか知識がないんだろ。神とかじゃなくて、そいつの知覚する世界はそこ止まり。……お前、オレが金蘭と玉藻の前を口説いたセリフ知ってるわけ?』

「いいえ……。妻にしたいと思っていたことは知っていますが」

 

 そんなセリフは原作に出てこないはず。過去視の場面で冗談を言っていた気がするけど、ちゃんとした告白のセリフはなかったと思う。

 全部は覚えていないけど。八章にもなる原作のセリフ全部覚えていろなんて無理な話だ。

 

『全知全能ってわけでもない。異なる世界から来た、この世界の観測者ねえ。生まれ変わりとは違うのか』

「この子の精神性からしても、納得できる。そないなところやない?それに、あたしたちが何かの本を読んでいてその本の世界に入るようなもんやろ?」

『この世界が物語ってか?はっ、くだらねえ。それに関係ないな。おれたちが今こうしてるのは物語に引っ張られてるだと?楽しめればいいおれたち鬼からしたら心底どうでもいいことだ』

「ああ。正直真実はどうでもいい。住吉祐介を助けることで起こりえる変化も、明に変革を促す最後の仕掛け程度。それの代用くらいはいくらでも効く。助けても、私たちの計画は大差ない。協力してやってもいいだろう」

「本当ですか!?」

 

 法師ってこんなに話がわかる人だったのか!?ああ、いや。そういえばこの人、人間の協力者を求めていたんだっけ。だから僕にはそんな一部になってほしいんだろうか。

 呪術省を潰したり、この世界を改変するならそれについていきたい気持ちはある。この人たちは犯罪者だけど、世界的に見たら正しいのはこの人たちだ。

 そうじゃないと、神々もこの人たちに協力しないはず。

 それに鬼たちはなんというか、うん。刹那的というか。快楽優先といえばいいのか。

 神っていう存在がいることをわかっているからこそ、こんなに理解が早いんだろうか。多分そう。あとは宇迦様から聞いた話だから、かもしれない。

 

「しかしそうなると、土御門本家への襲撃が必要か。その程度は問題ないが、私たち任せになっても意味がない。私たちとしてもやるべきことがあるためにお前ばかりに関わってもいられない。ひとまず、十歳になるまでに成果を見せてもらおう。それで私たちが土御門を襲うかどうか決める」

「わかりました!ありがとうございます!」

「姫。まずは徹底的に基礎を教えてやれ。元麒麟として、せめてライセンスが取れるくらいには数年で仕上げろ」

「四段でええの?」

「それくらいあれば、最低限ヨシとしよう。お前ほどの成果は求めない」

「わかりました。では今夜から早速」

 

 ライセンスの四段。つまり、プロの陰陽師として、公務員として食べていけるくらいの実力ってことだ。大人に混じれるレベルの陰陽師になれと?いや、それくらいしないとこの人たちには見放されるんだろうけど。

 姫さんレベルを求められなかっただけいいか。だってこの人、九歳で当代一の実力者である称号、麒麟になった才女なんだから。小学生で当代最強に認められちゃうってどういうこと?しかも詠び出した式神も影じゃなくて本体っていう規格外。

 姫さんレベルになるには、血筋と才能が噛み合ってないとダメだろう。僕はどれくらいの才能を与えられたんだろうか。星見じゃないらしいけど。

 

 ま、やれるだけやるだけだね。祐介を助けるためなんだから、なんでもやる。

 そうして僕は毎日、勉強実技実践の日々を続けた。僕の元が大人の女性ということもあって、知識の詰め込みについては容赦がなかったし、どれだけ疲れようが、傷付こうが御構い無しのスパルタだった。

 そうして陰陽術による回復術って便利なんだなって思い知った。祐介もお腹に風穴開けられても、即日で塞がってたもんなあ。

 

 あ、思い出したらそんなことをやらかした土御門光陰を思い出して腹が立ってきた。協力者のくせに、義兄弟のくせに仕事が遅いからって攻撃するとかどうなってるの?

 そんな怒りもモチベーションにして、様々な術式を学んだ。時には法師にも教わり、両親が休みの日にもできるだけ陰陽術の勉強をして、鬼たちには揶揄われて。

 規格外の授業を受けて三年。僕が六歳になった頃。

 

「マルチタスクの才能はそこそこあるみたいやし、式神と契約してみる?」

「ぜひ!」

 

 「オンモフ」の世界に来たら欲しいと思っていたのが式神だ。作品には数々の式神が現れる。姫さんや鬼たち、主人公の式神である銀郎や瑠姫、ゴン様など。

 動物だったり、それこそ妖怪だったり。いわゆるパートナーのような存在だ。いたら心強い。

 

「降霊を使って外道丸や伊吹のような強い存在は無理やろ?となると、生きている存在か霊狐とかの契約しやすい存在か。そんなところやな」

「天狗や狼は、難しいのでしょうか?」

「今のあんさんじゃ無理。神に近い存在やのに、精々一段のライセンスが貰える程度のひよっこじゃ契約まで辿り着かんよ」

 

 むう。やっぱり主人公って凄いんだな。六歳時点で狼と契約していた。天狗と渡り合うような狼と。三歳でゴン様と契約していたんだから、主人公も規格外か。

 そこまでの力は必要としていないんだよね。祐介とそのお母さんを助けられればいいんだから。土御門本家って強いんだろうか?祐介の胸中だと強さよりもムカつきばっかり強調されててわかんない。

 でも、本家を名乗ることになった光陰ですら、プロのライセンスを取れる程度でしょう?十五歳時点で。なら本家も大したことないんじゃないかなって思うけど、油断はしちゃダメだ。

 

 祐介を助けることが、最優先なんだから。

 結局この日は何と契約するか思いつかず、後日改めて契約することになった。どんな存在が僕には合ってるんだろうか。

 



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接触

年末の「オンモフ」で明かされた情報と、今朝の新小説でかなりヘビーなボディーブローを受けました。

その熱に侵されて書き上げました。

「オンモフ」読んでるとプロットと構成力ってめっちゃ大事だなって勉強になります…。


 僕の修行は基本的に稲荷神社で行われる。

 京都の街中は魑魅魍魎でいっぱいだし、そもそも両親が巡回している可能性が高い。その日ごとの巡回場所なんて把握していないから鉢合わせする可能性が無きにしも非ず。魑魅魍魎ばっかりで集中できないだろうし。

 そんな中、稲荷神社には魑魅魍魎がほぼいない。ほぼというのは少しはいるからだ。神様がいるから魑魅魍魎も下手に入り込めないのか、それともこの稲荷神社には魑魅魍魎を入れないような方陣が敷かれているのか。

 

 多分後者だろう。重要な施設には方陣が敷かれているって話だし。そんな方陣は京都市にも特大のものが敷かれているけど、それでも魑魅魍魎はたくさん出るし、百体以上の大災害、百鬼夜行も時たま起こる。

 方陣が絶対じゃないということもそうだけど、これは魑魅魍魎のメカニズムに問題がある。

 魑魅魍魎は人の怨念が元になっている。そういう怨念が霊気を受けて実体化するとかなんとか。つまり人間が生きていて、不平不満を持って生きていたらいつまでも消えないわけで。

 

 京都と東京は特に魑魅魍魎の出現率が酷いらしい。その理由も明かされればわかる。東京は日本の首都として人口は最大だし、この世界の京都は第二首都のようなものになっているために「私」が生きていた京都よりも発展しているし人口も多い。

 あと京都には色々な流れの元となる龍脈が日本で唯一、二つある場所だというのも関連しているのだとか。

 それでもって、魑魅魍魎よりも強い妖怪のような、妖という存在も京都には多いんだとか。

 

 要するに、ここはやばい場所ってこと。そんなところで安全に修行するなら原作に出ていたような桑名家のようにビルのフロアを丸々借り上げることだったり、こういう神様の加護があるだろう場所しかない。

 僕は姫さんに守られているために、安全に修行ができるわけだ。

 いつも通り簡易式神に乗って稲荷神社にたどり着いて、姫さんを探そうとした矢先。

 違う人影があった。これは隠れないとと思ったけど、その女性はすぐにこちらを見付ける。

 どうなってるのかな!?彼女の眼は!

 

「……子供?」

 

 バレたあ!よりにもよって後の五神、しかもその五神の中で最強と呼ばれる陰陽師である、未来の玄武となる大西マユに!

 五神とは日本で最強と呼ばれる五人の陰陽師の総称で、朱雀・青竜・白虎・玄武・麒麟の五体の式神のいづれかと契約した本物の陰陽師。その戦闘能力は法師や姫さんを除くと本当にトップだ。

 今が原作の九年前だから、目の前のマユさんは十四歳のはず。JCマユさん可愛いな!茶色のボブカットに、空色に変色した瞳。どっちも地の色何だろうなあ。この世界、生まれつき霊気を多く持っている子は髪や瞳が変色する。僕も黒髪黒目じゃなく、どちらも茶色だ。地毛なのに明るいんだよね。

 

 現実逃避しつつなんでここにって思ったけど、それはいるよね!ここ実家だもん!

 この人実力もそうだけど、眼がすごく良い。神の眼とも呼ばれている。目と眼は違うようで、眼の方が上位互換。未来視とか千里眼ができるのが眼らしい。そんな神の眼を持った彼女から逃げようなんて無理に決まっていた。感覚が鋭すぎるよ!

 さて、一応鳥居の陰に隠れてるけどどうしよう。こんなところに来ている六歳児。夜は魑魅魍魎が溢れていて危険がいっぱい。マユさんは正義感が強い人だ。絶対家に帰される。

 マユさんが絶対近付いて来てるよ……!本当にどうしよう!?

 

『マーユーちゃん!夜にどうしたの?』

『いけないんだー。夜に出歩いてー』

「え?あれ?コトちゃんとミチちゃん?」

 

 コトちゃんミチちゃん!?二人がどこからか出て来て、マユさんの周りを回り始めた。

 あれ?マユさんってこの時から二人が神の遣いって知ってたっけ……?

 

「二人の方が問題ですよ!ここは魑魅魍魎が少ないですけど、危険なことには変わりないんですから!」

『マユちゃんも出歩いてるよー?』

『じゃあ送ってって?』

「え?あ、はい……。えっと、二人の家ってどこです……?」

『『こっちこっちー!』』

 

 二人がマユさんを引っ張って行ってしまう。……助かったのかな。

 

「全く、気を抜きすぎや」

「ひゃい!?」

 

 真後ろから声がしたと思ったら姫さんが。足音もせずに後ろに現れるなんて。……確かこの人、瞬間移動みたいなことできたっけ。それならまあ。

 

「本当に一度は二十過ぎまで生きたん?隠れて行動するなら隠形は必須やん」

「あはは……。僕、前の世界で陰陽術なんて使えませんでしたから」

「なら今日から隠形の修行も多めにしよか。土御門本家に潜入するなら必要な技術やろ」

「お手柔らかに……。それより、マユさんは良いんですか?」

「マユ?さっきの女の子?あの子ならお二方が適当に巻いてくれるやろ。それにここら一帯に隠蔽の方陣を組んだから、いくらあの子がお二方の姿を見られても見付からへんよ」

 

 マユさんのこと知らないのかあ。原作でも玄武に就任してからしばらくして存在を認めたんだっけ?今の彼女もだいぶ霊気多かったけど、それだけなんだろうな。あの人が後の五神最強ですって伝えたら驚くだろうか。

 とにかく、彼女の実家であるここに忍び込んでるんだからこういう事態は想定しておくべきだった。それにバレないように隠形は習得しておいた方がいいというのも頷ける。

 

「時間も限られてることやし、どんどんスパルタにしていこ。それで、契約したい式神は決まった?」

「はい。やっぱり狐にしようと思います。優秀な生き物ですし」

 

 狐は金の属性の術が使えたり、火の属性の狐火が使えるという優秀な式神だ。この二属性を持っている生き物はとても少なく、しかもこの世界で狐は冷遇されているために霊狐はたくさんいる。降霊で呼び出さなくてもそこら中にいるため、契約もしやすいはず。

 しかもここは狐のメッカたる稲荷神社。宇迦様にも会ったことだし、警戒はされないはず。

 

「狐が襲って来たら土御門も驚くやろなあ。それじゃあ狐と契約して、基礎の基礎を徹底的にもう一度叩き込もか」

「ヒィ」

 

 姫さんはなまじ実力があり、僕の本当の精神年齢を知っているがために、かなりスパルタだ。そうでもしないと祐介を助けられないって言われたら何でもやるけど。

 基礎とは言うけど、この人たちが教えてくれることが基礎なわけがない。陰陽術の真実、深淵と呼ばれるような知識と技術ばかりだ。しかも突貫工事であるため、実践向きなことばかり。

 そしてこの前法師に言われてしまったが。僕の実力は姫さんに遠く及ばないらしい。

 

 おい、神様。転生特典の割にショボいな?

 姫さんに勝てる陰陽師って金蘭様と法師、それに先代麒麟だけだからそんなトップ層に勝てる実力寄越せとは言わないけどさ。これで土御門晴道に勝てるんだろうか。あの人一応九段だし、馬鹿でかい大百足を使役してるんだよね。

 その大百足出されたら、僕じゃ太刀打ちできないんだよな。

 

 ほんと、法師に助力を頼んで良かった。それだけで難易度がベリーハードからノーマルくらいには落ちてるはず。

 この人たちに頼ってばかりじゃダメだけどね。

 そして今夜。本当にスパルタで日中は起きられなかった。休みで良かったあ。本当だったら小学校に行かなくちゃいけなかったし。

 なお、このスパルタっぷりは次の日が平日だろうが関係なしに続いた。そのせいで学校を休んだり、学校の授業中に寝まくる問題児になった。くぅ、体力が欲しい……!

 

 というか!夜修行して朝の八時から小学校なんてスケジュール的に厳しいんだって!どんなハードスケジュールだ!

 これくらいしないと祐介助けられない?これくらいの悪評受け入れろ?そうですね、法師様……。僕は頑張ります。学校なんて二の次だ……!

 そうして僕は両親に怒られながらも修行を続けていく。ある時期から親が休みの日は姫さんに幻術をかけてもらって親には眠ってもらって修行に打ち込むようになった。明らかに睡眠が足りない子供だからそれもしょうがない。

 

 

 お父さん、お母さんごめんなさい。祐介を助けたらめいいっぱい恩返しするから、それで許してください。

 あと数年の辛抱なので。ほんと。

 




原作でやっぱり祐介は救いがないようです……。

二次創作で救うしかねえ!


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邂逅

「キューちゃん可愛い!」

『そう?ありがと』

 

 あれから、僕にはちゃんとした式神ができた。霊狐であるキューちゃん。姫さんに詠び出してもらった存在だけど、式神契約をしたのは僕だ。

 キューちゃんは標準的な狐で、尻尾も一本。凄い狐だったとかそういうことは一切ない。

 けど霊気を与えればかなり活躍してくれる式神だ。身体も大きくできるし、幻術も使える。火と金の技も使える。

 やだ、ウチのキューちゃん有能すぎ?

 

 まあ、それを遥かに超えるゴンちゃんという化け物狐がいるんだけど。陰陽師としてもやっていける五行全てを収めた神様。あの安倍晴明の弟子だった天狐という式神で良いのかという存在。難波という主人公の家がおかしいだけだと思う。

 そういえば姫さんも式神なんだよね。この人は人間だからあんまり式神って感じがしないけど。

 

 キューちゃんはメスです。尻尾がとてもキューティクル。

 キューちゃんは面倒だったので両親に説明した。偶然会って、契約を結んでしまったと。両親が狐に反抗的ではないと知っていたので、問題なかった。土御門と賀茂家が過剰に嫌ってるだけだと思うけど。一般家庭はこんなものだ。

 それから二年ほど姫さんの元で修行に明け暮れた。法師にもたまに見てもらいながら、修行の内容は段々とハードになっていった。

 

 だって、時間がないから。

 祐介を助けるタイムリミットは大体十歳。十歳を過ぎた辺りで全てを諦める。土御門の道具であることを認めてしまう。そんなことは許せないために、手遅れになる前に行動する必要がある。となれば十歳になる前、九歳の時が最終リミットだ。

 だから九歳になってすぐ襲撃できるように、霊気の量を増やしたり使えそうな術式を調べたり、法師のしごきに耐えたり。

 

 キューちゃんを常時実体化させることで霊気の消費を促して霊気の総量を増やしたり。茨木童子と酒呑童子に近接戦闘を教えるという名の遊びのていをしたいじめに遭っていた。逃げるという癖ができただけで、あんまり役に立たないと思う。

 そうしてある程度陰陽師として実力をつけた頃。とうとう法師に直接言われた。

 

「そろそろ攻めるか。もう九歳になったのだし、お前の場合は未来視というわけでもないだろう。ズレはあると考えた方がいい」

「えっと。法師はどこまで力を貸してくださるのでしょうか?」

「外道丸と伊吹は貸す。私自身はお前たちの退路を確保するだけだ。姫も姿を見せるなよ。お前は明たちのための隠し玉だ。こんな些事で出す存在じゃない」

「わかってます。でも、姿を見せなええんですよね?」

「まあ、そうだな」

 

 それから土御門の家について調べながら作戦を考える。祐介と祐介のお母さんについては確認した。祐介のお母さんはひどく衰弱していたし、祐介は同じ土御門の人間に虐待を受けていた。あれは躾を超えている。

 一刻も早く助けたかったけど、ここでミスったら全てが水の泡。慎重にいかないと。焦っても意味がない。

 この監視のために簡易式神を姫さんが放ったけど、誰にも察知されていないのは流石すぎる。安倍晴明に匹敵する現代の麒麟児というのは伊達じゃないみたい。

 

 唯一屋敷に通じる門の前には警備をしている陰陽師がいるし、屋敷全体にも方陣が仕掛けられているけど、それに引っかかることなく進入させるんだもんなあ。これが日本で一番の陰陽師の家の警備状況だと言われて愕然としたけど。

 姫さん曰く、堕落してるから自分たちより上の存在を想定していないらしい。確かに原作でもそんな感じで失態を重ねてたなあ。

 この屋敷にだって隠しておかないとマズイこといっぱいあるのに、こんな警備体制でいいんだろうか。

 

 そして今回。祐介と同じような状況の子、祐介のお母さんである亜里沙さんのような女性について。他の人たちは全員見捨てることになった。

 全員を助けることなんて僕にはできない。中学に入るまでの期間なら裏・天海家で祐介たちを保護してくれることになったが、その二人が限界だということ。

 何人も助けたら隠蔽をしようとして土御門が躍起になって本気で捜索をしかねない。今でさえ日本はグズグズになっているのに、これで土御門が別のことをやり始めたら法師が日本人の九割を殺さざるを得なくなるそうだ。

 

 そんなこと、神様と話し合ってたなあ。

 逆にいえば、数十人いる人間の内、たった二人を攫うなら問題ないだろうと。それに目当ては土御門の資料である風に装って襲撃するので、それに巻き込まれて二人には死んでもらうつもりだ。

 遺体を簡易式神と幻術で作って、それを置いて僕たちは逃げるという。この式神を作ってくれるのも姫さん。法師は姫さんを働かせすぎだと思う。たとえ式神だとしても。

 

「では、作戦を告げるぞ。方陣の要となっている石をまず私が破壊する。それと同時に外道丸とミチルが潜入。外道丸は適当に暴れろ。ミチルは目的の二人を確保。どうにか連れ出せ」

「はい」

「私の幻術と伊吹が書庫へ進む。伊吹も書庫以外で暴れろ。そうして書庫の資料を燃やし、撤退する。姫はミチルのサポートだ」

 

 なんていうか、僕以外正面からのゴリ押しという作戦だ。それができる実力があるからだろうけど。法師に勝てる人って今だと先代麒麟くらいかな。いや、現麒麟か。最近就任したらしい。明くんはまだまだだろうし。

 そうして決行当日。この日はどんよりとした曇りの日だった。

 法師が方陣の要を壊す前に、隠形を用いて姫さんに確認を取る。

 

「うん、大丈夫やろ。二人を見付けたらすぐに眠らせること。まずは母親の方を先にすれば、子どもも説得できるんやない?母親を大事にしてる子なんやろ?」

「うん。母親に最後の手紙を送るくらいには」

「なら説得できるやろ」

 

 法師が方陣を崩したのと同時に、外道丸が実体化する。そして一瞬で門番としていた二人の男の首をひねり回して捻り切った。

 グロい。

 感想を抱きながらも、外道丸の横を通って敷地内に侵入する。

 

『オラオラ!雑魚どもがかかってこいや!』

『書庫の場所はどこだ?吐け』

 

 あの鬼、本当に鬼だなあ。本当は書庫の場所知ってるくせに、尋問して吐かせるつもりだ。本当のことを言ったら助かると思ったところを頭潰す気だ。

 なんでわかるかって?そういう鬼だもの、あれ。原作でも接した感じでも。

 僕たちは姿を隠しながら亜里沙さんがいる離れへ向かう。土御門棟梁の愛人、側室として隔離されている。もちろん側室なんて制度はこの日本にもない。呪術省という表の権力を握って好き勝手やった結果だ。

 

 他の離れに目もくれず、亜里沙さんがいる離れに一直線で向かう。近くにいた人間は「オン」の一言で催眠の呪術を発動させて眠らせた。移動する時に邪魔になるために。

 離れの中には亜里沙さんしかいなかった。ここを訪れるのは使用人と晴道くらいだ。今日は誰も来なかったのだろう。

 即座に襖を開けて侵入。亜里沙さんは突然空いた襖に驚いてたけど、即座に無力化。あと監視カメラがいっぱいあるようなので離れに火をつける。隠形とはいえ、機械までは誤魔化せない。

 

 キューちゃんを実体化させてカメラの確認をしてもらう。表面を全部焼いたためにもう大丈夫と判断が出て、姫さんが偽物の死体を作り出す。焼死体になるだろう。誰かの陰陽術がここに当たって着火。衰弱していた亜里沙さんは逃げられなかったという筋書きになると思う。

 亜里沙さんは簡易式神に抱えさせようとしたら誰かがこっちにやってきた。いくら鬼二匹が暴れているとはいえ、建物の一つが燃えていたら誰かしらがやってくるのもおかしな話じゃない。鬼を止められたとしても、敷地内が全焼するかもしれないんだから。

 

「急々如律令!」

 

 子どもの声。というか、この声は。

 火へ水をかけたらしい。陰陽術でこの建物全体に水をかけて鎮火させていた。やっぱりこの歳で考えると彼は神童だ。土御門の中でも一番の才能があった人物。殺生石に呼応した天才。

 産まれが異なれば土御門を継ぐのはきっと彼だっただろうと推測できるほどの傑物。

 住吉祐介が、そこにはいた。

 

「母上!ご無事ですか、母上っ⁉︎」

 

 ああ、だから救いたくなるんだ。たとえ会ってはいけないと命令されていても。実際十年近く会えなくても。彼は母を慕っていた。愛していた。

 そんな普通の、歪まされた少年。

 祐介が陰陽術で水を出しながら建物に入ってくる。熱や炎なんて関係なく、彼はこちらへやってくる。

 天海薫に会っていない彼は、明や珠希にも会っていない住吉祐介という人間には。母親以上に大事な存在はいないから。

 

 キューちゃんが僕の側に控える。姫さんは姿を隠したまま。

 僕はこのまま、祐介を説得する。亜里沙さんを人質にしたまま。

 僕は黒い全身マントを頭から被って、顔には狐の仮面をしている。身分を明かす訳にはいかない。大層なものじゃないけど。

 両親に迷惑をかけるわけにはいかないからね。

 祐介と対面する。白い肌に痛々しい叩かれた赤い痕。今も火傷を気にせず煤がかかっているけど、母を救うために命も投げ出している真剣な眼差し。

 

「狐の仮面に、狐の式神……⁉︎母上を離せ!」

「いいえ、離しません。ここにいたらこの人は死んでしまう。心も砕けてしまう。だから、一緒に逃げませんか?住吉祐介」

 

 僕はそうするためだけに、頑張ってきたんだから。

 




明日、最終話投稿します。


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最終話 推しの笑顔

「逃げ、る?」

 

 その言葉に疑問を覚える祐介。それもそうだろう。今の僕のことは顔も姿も隠して、土御門に攻撃を仕掛けて潜入している敵として映っているだろう。

 それは間違っていないわけで。でも敵なのは土御門家であって、祐介が敵じゃない。祐介たちに危害を加えるつもりはないんだから。

 

「ここにいたら亜里沙さんは衰弱して死んでしまう。それを、君は見逃せる?」

「そうならないために!俺はここにいる!俺が頑張れば、母上に苦痛を与えずに……っ!」

「無理です。君の身体にある傷が証拠。この家では君たちを守ってくれる人はいません。君たちは道具として使い潰されるでしょう。何も、状況は改善されません。君はこのまま、亜里沙さんとは会えないままです」

 

 僕の確信を持った言い方が気に食わなかったのか、眉を顰める祐介。

 そして彼は、答えに辿り着く。

 

「まさか、星見……?」

「はい。君は数年後土御門に使い潰されて死にます。そのあと、亜里沙さんも失意を抱えたまま生きていくことになります。君は、亜里沙さんに愛されているからこそ、そんな未来になってしまう。──そんな未来は許せなくて、こうして出張ってきました」

 

 本当は、亜里沙さんの未来なんて知らない。その慟哭を知っているだけで、その後どう生きたのかは知らなかった。

 けど、彼女は祐介を愛していた。だからこそ、あの慟哭があった。

 そんな悲しみの声なんて、聞きたくなかった。

 

「君たちのこれからを、こちらが保証します。君たちの生活に何一つ不自由がないように準備はできています。もちろん、対価はあります。自衛のために十五歳までの段階で、七段ぐらいの実力を身につけてもらい、こちらのことを手伝ってもらいます。それが守れれば、二人を人権と生活の面において、すべて保証します」

「──っ!」

「選んでください。今のまま土御門に隷属するか、ちょっとした田舎で母子で過ごすか」

 

 僕は祐介の前にまで行って、右手を差し出す。

 悪魔の右手だろう。こんな風に脅して、この選択肢しか選べないように強要している。僕が嘘をついているかどうかもわからない。僕たちの方がよっぽど劣悪な環境かもしれない。

 それでも頭が良い祐介なら気付いてくれると思う。

 なぜ亜里沙さんを連れ出そうとしているのか。祐介を連れ出そうとしているのか。

 

 未来を識ったからといって、なぜ他にも冷遇されている土御門の人間や賀茂を除いてこの二人を選んだのか。

 ぶっちゃけ土御門の他の人は知らないの一言だ。そして賀茂はどうしようもできないから。特にあっちは直系とされる人物がひどい扱いを受けているので、助ければ面倒なことになる。

 祐介は土御門の中では傑物だが、家を継ぐ存在ではない。精々がていのいい駒だ。それに亜里沙さんも祐介以外産んでいなく、側室としての価値は低い。亜里沙さんの霊媒体質は珍しいかもしれないが、特別な異能というわけでもない。

 

 だが、助ければ土御門光陰という次期棟梁の思惑を出し抜ける。被害をもたらす計画を妨げることができる。これはこちらの事情か。

 土御門の家でもなぜこの二人かと言われたら、家を継がない人間の中で一番有能だからだ。祐介が優秀だからこそ、選んだ。そう考えれば終わりだ。他の土御門は優秀じゃない。

 一分ほど待っただろうか。祐介はおずおずと僕の手を取る。

 

「交渉成立だ」

「……もし嘘だったら、俺がお前を殺す」

「ああ。嘘だと思ったらこの首を取るといい。そうされる理由はある」

 

 祐介の死体を姫さんに作ってもらい、それを僕が作成したように見せかけた。姫さんの存在はまだ隠しておきたいからだ。その後全員で屋敷から出ると、正門の方には大きな大百足がいた。呪術省で管理している式神だ。それと外道丸が楽しそうに戦っている。

 その巨体を見れば周辺から巡回している陰陽師がやってくるだろう。急がないと。

 このまま近くの塀を飛び越えて逃げようと思っていたけど、こちらにやってくる人間が一人。出火が気になって送り出された土御門の人間だろう。

 姫さんが即座に祐介の首へ手刀を叩きつけて気絶させていた。そしてそのまま僕の簡易式神に背負わせる。

 

「この子らはあたしが連れ出すから、あんたはアレを倒しぃ。守りながら戦うのは無理やろ?あの男、六段くらいやから確実にやり」

「はい。二人を頼みます」

 

 見付かった時の対処法は決めていた。人型の簡易式神は姿を隠したままの姫さんと一緒に外へ出ていく。塀もひとっ飛びだ。外に敵がいるかもしれないので、実力がある姫さんに先行してもらって敵を排除してもらいたい。

 あとは僕が目の前の男を確実に倒せば、合流地点に行っておしまいだ。Aさんたちのことは心配するだけ無駄。

 

「貴様!土御門の人間を誘拐など、ここで倒してくれる!」

「人間扱いしてなかったくせに」

 

 目撃者はこの男だけ。なら、ここでこの男を殺せば祐介と亜里沙さんは巻き込まれて死んだことになるだけだ。

 ──確実に、殺す。

 

 

 祐介が目を覚ましたのは、どれほど時間が経った後だったか。目が覚めた場所には巨大な蜂が人間大のサイズになっていて、白衣を着ていた。

 そのことに、思わず大声を出してしまった。

 

「ウワァ!?」

『こっちの患者はうるさいな。坊主、ここは病院だ。静かにしろ』

「あああ、あんたは!?」

『見てわかるだろ。医者だ。お前のお袋さん、相当辛い目に遭ってたみたいだから大声を出すな』

 

 その蜂、蜂谷先生は亜里沙の容体を確認していた。祐介からしたら得体の知れない大きな蜂が母親に触診しているのだから気が気じゃないのだが、本当に触診をしているだけで取って食おうとしているわけではないと知って、ひとまず落ち着いた。

 場所はどこかの山の上の木造の診療所のような場所だった。窓の外は自然に囲まれている。

 祐介は亜里沙の隣のベッドに寝かされていたらしい。

 

「あ、祐介。目が覚めたんだ。良かった」

 

 先ほども聞いた声の人物が部屋の中に入ってきた。先ほどは真っ黒の全身マントを被っていて狐のお面をしていたので顔も知らなかったのだが、どうやら同年代の少年のようだった。左腕に包帯がグルグルと巻かれている。

 彼が蜂谷先生を見ても平然としていたため、この蜂については聞くことはしなかった。おそらく妖だろうと当たりはつけていたが、母を診てくれているので口にしない。

 

「……お前が助けて、くれたんだよな?」

「そう。涼宮満(すずみやみちる)。同い年だね」

「これから、どうなるんだ?」

「僕のお師匠様の実家がある長野県で中学に上がるまで過ごしてもらう。なんて事のない農村だけど、ネットも繋がるし田舎ってことを除けば普通の場所だよ。そこで亜里沙さんは養生、祐介は陰陽術を鍛えてもらう。その後は那須にある中学校に僕と一緒に進学してほしいかな」

 

 意外としっかりこの先は決められているらしい。

 祐介としては母がしっかりと暮らせて、その上で一緒にいられれば後はなんだっていいと思っていた。

 そんな普通のことが、できるのなら。

 

「長野はわかったけど、何で那須?長野からかなり離れてるじゃないか」

「思い当たること、あるでしょ?」

「難波の本家があったり、玉藻の前封印の土地だっていうのは知ってるけど」

「そうそう。難波の次期当主が僕たちの同じ学年にいるんだよね。その彼と仲良くなっておこうと思ってさ。──彼が高校一年生になったら、呪術省を潰してくれるからね」

「なっ」

 

 正気かと思った。今回の土御門本家襲撃は、何やら有名な呪術犯罪者も関わっていたと聞いたので納得もできたが、次は難波の人間とはいえ若干十五歳が日本の陰陽師総本山たる呪術省を潰すと言ったのだ。

 いくら星見とはいえ、にわかには信じられない情報だ。

 

「で、僕たちもそれを手伝うと。そのために陰陽術を鍛えておきたいのさ」

「それは、今回の呪術犯罪者が関わってるのか?」

「そうだね。無理強いはしないよ。君が亜里沙さんと静かに暮らしたいってなれば僕についてこなくていい。高校は京都校にするつもりだし、そうしたら土御門光陰と賀茂静香が同学年になるだろうから」

「いや、お前を手伝うよ。……母さんを助けてくれた。それだけで、十分だ。それ以上は、何も要らない」

 

 祐介の瞳には涙が溜まっていた。土御門家の側室の扱いを知っていて、子どもながらに受けてきた体罰の数々を思い出して。

 そこから助けてくれた人物を手伝おうというのは、至極当たり前の帰結だった。

 

「ありがとう。当分はこの病院で匿ってもらって、亜里沙さんの体調が良くなったら長野に行ってもらうから。僕は京都に残るから、後で携帯電話用意しておくよ」

 

 それから先代麒麟である姫を紹介されたり、Aこと蘆屋道満や外道丸と伊吹童子を紹介され、そのことに目を回したり。

 体調が良くなった亜里沙に息子として認めてもらって、土御門からの呪縛から逃れて。二人は抱き合って泣いていた。

 そのことに、ミチルも涙を流していた。

 救えて良かったなと、心から思っていた。

 

 

 それから三年の月日が流れて。僕は祐介と一緒に那須の私立中学校に進学していた。僕一人で那須に来られるかなあと思ってたけど、両親が三年間限定の転勤ということになって那須に来た。

 都合が良すぎ?それはそうだろう。なにせ姫さんが直々に呪術省に潜入して人事部を洗脳ゴホンゴホン。呪術を仕掛けて……誤魔化せてないな。とにかく両親をまとめてこっちに派遣して、僕が卒業と同時に京都に戻すように仕掛けたんだから。

 

 祐介は母親とアパートで二人暮らし。二人が土御門に身分をバレないのかという話はあるけど、祐介は結構成長したし名字も変えたからそうそう気付かれないだろうとのこと。亜里沙さんもずいぶん健康的な身体になって見違えたくらいだ。

 それに裏・天海家から難波家当主の難波康平さんに直接交渉して祐介たちの事情を話したらしい。だからすでに二人は難波の保護下にいる。難波も一大勢力だから大丈夫だと思う。

 

「へえ。そんなに長野じゃ辛かったんだ?」

「辛いっていうか高度でさ。今まで習ってた次元じゃないっていうか。あそこは魔境だよ」

「まあ、あそこの人たちはプロでも上位にくるからな」

 

 入学式を終えてそんなことを祐介と話していると久しぶりに会うからか凄く愚痴られた。電話で話はしてたけど、結構大変だったらしい。

 僕もあの事件から更に姫さんにしごかれた。あの人たちを手伝う予定だからそれなりの修行は続けさせられた。恩義があるからもちろん手伝うつもりはあるんだけど。どれだけ力をつけられるかなあ。正直姫さんほどの才能がないことはわかってる。

 

 今日は入学式も終わって授業もなかったためにもうおしまいだ。帰る前に学校をうろついてるんだけど、祐介がとある方向を見ていた。

 霊気を纏った少女。僕たちの周りと比べたら平凡になっちゃうんだろうけど、中学校であれだけの霊気を纏っているのは珍しい。名家の子だったりするんだろうか。随分と綺麗な子だ。モデルとかになれそう。

 そんな少女をしげしげと眺めている祐介。もしかして。

 

「祐介、惚れたの?」

「へ?はぁ!?いやいや、可愛い子だなとは思ったけど、それで惚れるなんて飛躍しすぎだろ!」

「そう?とりあえず小学校と事情が違うんだから、好きに恋愛してもいいんだからね?」

「……恋愛、かあ」

 

 祐介は小学校の頃、土御門光陰と賀茂静香の黒子に徹していたために友達という友達も作れなかったらしい。本当に、酷い環境だ。そんな状況で恋愛なんて以ての外だったのだろう。

 祐介が今見つめている人物、もしかして天海薫なんじゃ?中学校で優秀な女の子って彼女くらいしかいなさそう。

 もし祐介が彼女のことを好きだと思ったら精一杯応援しよう。僕は祐介と恋愛はできないわけだし。

 

『……本当に天狐がいるのね』

「あ、見付かっちゃった?キューちゃん」

『ええ。ちょっとご挨拶に行ってくるわ。主もこっちに来てるわよ』

 

 姿を隠したままキューちゃんはゴン様に挨拶に行く。離れていくのを確認するのと同時にそのゴン様の主である難波明くん──黒髪黒目をした主人公が向こうからやって来た。

 この世界、優秀な陰陽師は髪と瞳が変色する。そんな世界で主人公である明くんが純日本人の色調をしてるなんてありえないんだけど。

 

 僕と祐介の実力はプロの六段に匹敵するらしい。そんな僕たちでも見抜けない偽装をしている。僕たちより上の実力者である香炉星斗さんも見抜けなかったんだから仕方がないか。

 そんな偽装をしつつ、俺たちよりも精錬とした霊気を身に纏っている。これは名家の次期当主だ。というか、正統な安部晴明の血筋だというのも納得。

 

「初めまして。難波明だ。まさか霊狐を式神にしている人がいるとは思わなかった。君の名前は?」

 

 僕に目線を向けられる。契約の証である霊線を見たんだろうな。祐介のことも霊気の量から気になるけど、まずは僕からっぽい。

 狐を嫌う風潮が悪い。

 

「僕は涼宮満。親の転勤で京都から引っ越してきたんだ。式神は稲荷神社で知り合って」

「ああ、なるほど。そっちは?」

「俺は大川(おおかわ)祐介。京都の頃こいつと知り合いでな。俺は長野から引っ越してきたんだけど」

 

 祐介は住吉を名乗らず、偽名で通している。呪術省と土御門が没落するまでそれで通すようだ。そのため亜里沙さんの実家にも顔を出せていないのだとか。

 亜里沙さんも誘拐されたようなものだからな。実家に顔を出したら土御門にバレる。

 明くんと祐介の初邂逅は原作と比べて凄く平穏に済んだと思う。敵同士じゃなく、純粋に親友として過ごしてほしいからね。

 さーて。祐介がこれからも平穏に暮らせるように。陰日向から手を出そうか。土御門にバレないようにフォローしないと。

 祐介の未来を変えたと言っても、まだ安心できる状況じゃないんだから。僕はこれからも彼らを見守ろう。

 

 

 今日も、推しは元気に笑ってる──。

 




これにておしまいです。

これから彼らは原作通りに進みつつ、良好な仲を構築します。

みんな、「オンモフ」面白いからマジで読んで(ダイマ)。


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