Fate/Grand Order -AMAZON NEO REVISE- (古鉄の夜)
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序節 炎獄
――それでも……それでも俺は最後まで生きるよ――
なんだ……? 俺は確か、父さん達に殺された筈だ。なんで意識が戻ってきてるんだ?
それにこの熱さは一体なんだ? 周りで何かが燃えている様な……?
少年、千翼は瞼を開いて眼前に広がる光景に息を飲んだ。
そこには地獄があった。
破壊され、火の手が上がる瓦礫の山があちこちに存在している。その瓦礫の中には黒焦げになった人の腕らしきモノがあちこちから伸びている。
なんなんだよ。これは。これが地獄って奴なのか? 『アマゾン』である俺に相応しいのはこの様な場所だというのか……
いや、それも仕方ないのか。これが大勢の人に不幸をばら撒いた俺が受ける当然の報いなのかもしれない。
思考が暗い方向に向かい始めた千翼の耳に微かな声が響いた。
「――れか、誰か……いま、せんか……」
何処からかか細い声が響いてくる。千翼はハッとなり顔を上げ、周囲を見回した。立ち上がり声の聞こえた先に目を向けると、そこに一人の少女が倒れているのが見えた。
「大丈夫!? しっかりして!!」
それを見た千翼は弾かれた様に少女の側に駆け寄ったが、すぐさま顔を暗くする。
崩れた瓦礫がその少女の下半身を押し潰していた。
床を這う血液の量は尋常ではない。この娘が助かる見込みがない事を沢山の人の死を見てきた千翼に悟らせた。
それでも千翼は一縷の望みに賭け、瓦礫に手を掛けると持ち上げようと力を込める。
「くっ……ぐぐっ……! おあぁぁっ!!」
「あ……貴方、は……い、いいんです。も、もう……私は助かりませんから……」
「黙って! なんとかするからっ!!」
少女からの自分の行動を制止する声を遮り、千翼は力を振り絞って瓦礫を持ち上げようとする。何やらアナウンスがこの施設内で流れている。が、千翼は気にもくれない。だが、やはりビクともしない。
――こうなれば『ネオ』の力で――
まだ会って間もない人間の前であの姿になるのは憚られたが、状況は一刻を争う。急ぎ、自分が倒れていた付近に目を向けたが……
「えっ!? ど、どうして……」
しかし、そこにあるべきはずの物が無い。これまで片時も手放さなかった自分が頼みにしてきた『武器』が見当たらない。千翼は自分が倒れていた場所に駆け寄り、辺り一面を探し回ってみたが、どれだけ探そうと辺りの瓦礫をひっくり返しても見つからない。
「――畜生っ! こんな時に!」
「……ぱい、先輩……か、隔壁が……」
ふと、自分の耳に懸命に絞り出しているであろう声が聞こえてくる。
千翼はハッとなり、少女の元に引き返した。
「悪い! 突然離れたりして! どうかした!?」
「……に、逃げてください。隔壁が、しまっ……ちゃう」
少女が目線を向ける先、瓦礫の向こうにある大きな隔壁が閉まっていくのが見えた。
その顔が絶望に陰る。俺をもう逃がす事が出来ないと悲しんでくれているのか。見ず知らずの俺を……
「そんな顔をしないで。どっちにしろ俺にはあんたを見捨てて逃げるなんて考えられなかった。そんな後味悪い事するのはゴメンだよ……」
少女がハッと顔を上げて千翼を見る。そしてその面に弱々しくも笑顔が浮かぶ。
「先輩……お願いがあるのですが……」
「何? なんでも言って」
自分の死期を悟っているであろう少女。出来る限りのことをしてやりたいと千翼はその声に耳を傾ける。
「手を……握っていてもらえますか?」
「ああ、もちろん」
煤に塗れた少女の手を千翼は手に取る。そして包み込むように両手で優しく握りしめた。少女が安心したようにひとつ、大きく息を吐いた。
「あ、ありがとうございます……先輩。こ、れで心残りは無くなりました」
そんな事言わないでくれ、と言いたかった。でもこの少女を助けるのは自分ではどうあっても出来ない。千翼の脳裏に、最後の最後で笑顔を見せてくれた少女……『イユ』の面影がよぎる。
そうだ、せめて何もできないまでもこの子が安らかに眠れる様に『あの歌』を……
――やがて 星がふる 星がふるころ 心 ときめいて ときめいて くる――
千翼の歌に少女は目を丸くする。が、千翼が自分の為に歌ってくれている事を察して静かに目を閉じてその歌に聞き入る。少女の脳裏にこれまでの人生。懐かしい出来事がよぎり始めたその時――
『全工程完了 ファーストオーダー実証を開始します』
青白い光が周囲に広がると同時に彼らの姿は跡形もなく消え去っていた……
アマゾンネオに変身するのはもうしばらくお待ちください
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特異点F 炎上汚染都市 冬木
第一節 驚愕
馬力 187ps (127.5kw)
最高時速 437km/h
野座間製薬が実験体『アマゾン』駆除作戦の『足』として開発したアマゾン専用ビークル
「――ォウ……フー、フォーウ……」
動物の鳴き声らしきものが聞こえてくる――頬を何かにチロチロと舐められていると感じながら千翼は瞼を開いた。
目の前にいたのは白い毛並みの小型犬ともリスとも見える不思議な生き物だった。誰かに飼われていたのか、服飾品も纏っている。
「お前は……いや、それよりもここはどこなんだ……?」
千翼は仰向けに倒れていた身体を起こしながら周囲を見回した。見渡す限りの瓦礫の山とあちこちで燻る炎、ただ今までと違うのはここは意識を失う前までにいた施設内ではなく、屋外だという事。元はそれなりの街であったという面影が崩れかけた建物の棟数から窺えた。どういう事だ? 誰かが俺を外に運び出したのか?
「――そうだ! あの子はどこだ!? 俺がここにいるって事は……」
意識を失う直前まで話をしていた少女を探してそこらを見回すが姿は見えない。あの怪我では見つけられたとしても助かる見込みはほぼ無いだろう。それでも見つけてやりたかった。千翼は白い小動物の前に屈みこみ、声を掛けた。
「なあ、この辺りに誰かいなかったか? 眼鏡をかけた女の子を見なかった?」
「キューウ……」
しかし小動物は耳をぺたりと畳んで顔をうつむかせるのみ。その仕草から自分一人しか見つけられなかったのだろうと千翼は察すると、今一度、立ち上がった。
「……あの子を探してみよう。何があったのか、確かめないと」
「フォウ!」
そして一人と一匹は瓦礫と化した街を歩きだした。
あの少女を探す傍ら、千翼は自分の身に起きた異常に気付き始めていた。
(おかしい……俺はいつの間に服を着替えたんだ?)
そう、千翼が現在着ている服は父である『鷹山仁』とあの緑のアマゾン……『水澤悠』の二人と戦い、敗れた時まで身に付けていた服とは明らかに違う物。非常にしっかりした作りの……何かの制服? と思しき物だった。以前、街中で見かけた学校に通う学生が着ていた服を千翼に連想させた。
(それに……あの時は夢中で分からなかったけど、俺、血だらけのあの子を見ても『喰いたい』って思わなかった……)
千翼は人食生物『アマゾン』だ。あれだけ濃い血臭が放たれていたら――忌々しいことだが――人食い衝動が出てしまってもおかしくない。だが、そんな気は全く起こらなかった。あの時は一刻を争う状況だったが、それでも衝動が発生しなかったというのは千翼には信じ難い。アマゾンにとって人食は生理現象だ。抑えようと思って抑えられるものではない。千翼はその恐ろしさを身を持って知っている。
そしてもう一つの異常。千翼は自分の掌に目を落とした。
(傷の治りが遅い……こんなに治りが遅いなんて事これまでなかったよな……?)
そこにはあの少女を助ける為に瓦礫を持ち上げようとした時に傷だらけになった掌があった。いつもならこの程度の傷、すぐに治っていたはずだ。アマゾン特有の驚異的な再生能力。それがなりを潜めていた。それこそ銃弾を雨あられと全身に撃ち込まれても、すぐさま再生してしまう程だというのに。
(もしかして……俺は……)
ありえない。まさかそんな事が。そんな言葉が頭を埋めつくしそうになっていた所、視界に映った崩れたレストランの割れたガラス。そこに反射された人影に千翼は息を飲み、近寄った。
「俺……なのか? これは?」
毛先がはねた黒髪のショートカット。湖水を思わせる蒼い瞳。若干、童顔に見える少年の姿がそこにあった。明らかに元の自分とは違う容姿だ。千翼は信じられないとガラスに写る自分に手を伸ばした。ガラスの中の自分も同じ様に手を伸ばしてくるのを見て千翼は確信した。
間違いない。俺は別人になっている。では『アレ』を持っていなかったのもこの身体の異常も……
千翼が困惑しながらも納得しかけていたその時
「フォウ! フォウ、フォーウ!!」
突然、小動物が彼方を見て鳴き声を上げ始めた。千翼はハッとして顔をそちらに向けて見た。
遠くから異形の集団が近付いてきている。赤い骸骨がこちらにカラカラと骨の鳴る乾いた音を立てながら駆けてくるのが見えた。物騒な事に誰が持たせたのか剣、槍、弓矢がその手に握られていた。
「なんなんだ、あいつら!?」
アマゾンではない。骨のみで動く化物などアマゾンにもいなかった。では奴らは何者なのか? 何も分からないながらもこのままでは命が危ないと本能で悟った千翼は小動物を抱え上げると骸骨とは反対の方向へと遁走した。
「逃げるぞ!」
「フォウ!」
千翼の言葉にひと鳴きして答える小動物と共に、瓦礫を蹴飛ばしながら街中を走り抜ける。
やはりそうだ。俺は多分、人間の身体になっている。全力で走っているというのに少しずつ、骸骨に追いつかれてきている事実が千翼にそれを悟らせた。いくらアマゾン態に変身していないにしても、この程度の速度の全力疾走で息が上がってしまうというのはおかしい。アマゾンの身体能力は人間とは比べ物にならない。人間の姿のままであっても、以前ならばもっと早く走れていた。別人になったからか? ずっとアマゾンではなく、人間として生きたいと願っていた千翼にとってそれは望外の喜びであった筈だ。こんな状況でなければ。
今はあの忌わしい力が無い事が自分達の寿命を縮めている。骸骨達に囲まれてしまい、足を止めざる得なくなってしまった千翼はこの身体の力の無さを呪うしか無かった。
「くそっ! どうすりゃいいんだよ!?」
一か八か戦ってみるか? いや、この数の骸骨共を相手にもみ合いになったら、コイツを絶対に巻き添えにしてしまう。
胸に抱えている小動物に目をちらりと向けて千翼は憔悴する。じりじりと距離を詰めてくる骸骨に万事休すかと千翼が諦めかけたその時
――突如、獣の咆哮に似た機械の駆動音が鳴り響いた。千翼達を取り囲んでいた骸骨達の包囲の一角。骸骨を粉々に吹き飛ばしながら『ソレ』は千翼の前に飛び出した。
「うわッ!」
小動物を抱えながら千翼は避けるように地面に転がる。飛び込んできたものの正体を確かめようとそちらに顔を向けた千翼の目が大きく見開かれた。
「……な、なんでコイツがここに……」
赤いボディに黄色の複眼。まるでそれ自体が一頭の生き物のような有機的なラインで構成された異形のバイク。
――ネオジャングレイダー。かつて千翼が乗騎していた愛車が異様な存在感を持ってそこに存在していた。
呆けてしまっていた千翼を促すようにネオジャングレイダーがエンジンをひと噴かし、千翼に機首を向けると複眼型ヘッドライト――ジャンサーチャーを何度か明滅させた。
「乗れっていうのか……?」
千翼の言葉に応じてエンジンをもう一度噴かす。それを見て千翼は決心した。即座にシートに跨ると上着のジッパーを下げて、その中に小動物を放り込み、落ちないようにジッパーを上げた。
「ゴメン! ちょっと我慢してて!!」
窮屈な上着の中に押し込められてゴソゴソと暴れまわる小動物に声を掛けると千翼はハンドルを握り、エンジンの回転を確かめた。ネオジャングレイダーに戸惑っているように見える骸骨達の包囲網。比較的、数が少ない方角に向けて、千翼はネオジャングレイダーを猛然と発進させた。
前方に立ち塞がる骸骨を前輪を上げたウィリー走行で轢き潰す。前輪が再び地上に接地。同時に機体後部に翼の様に伸びる加速ユニット、ブーストウィンガーからエンジンに送り込まれたエネルギーが噴射された。ネオジャングレイダーは弾丸の如く急加速。群がってくる骸骨を体当たりで粉砕しながら突き進む。
後を追おうとする骸骨達を無視して千翼を乗せたネオジャングレイダーは街中を疾走していった……
「――ここまで離れれば大丈夫かな……」
千翼は後方から骸骨の姿が完全に見えなくなってある程度距離を稼いだ所でネオジャングレイダーを道路の路肩に寄せて停車させた。
そして停車したと同時に再びガサゴソと動き始めた小動物を外に出してやる為に上着の前を開けた。
「プフォーウ! フゥゥゥッ! フォウフォーウ!!」
「わ、悪かったって! で、でもこれで逃げきれただろ! 許してくれよ!」
小動物が上着の中から車体の上に転がり出る。窮屈な思いをさせられたためか千翼を見上げると抗議の鳴き声を上げた。
千翼はその剣幕? に両手を顔の前に上げて必死に謝罪する。それでも怒りが収まらないのか、後ろ脚で器用に立ち上がり「フォウッ! フォウッ! フォウッ!」と、前脚で千翼の両手にパンチを繰り出す小動物。てしっ! てしっ! という感触を両手で受けながら千翼は改めてネオジャングレイダーを見回した。
「――それにしても、どうしてコイツがここに? 俺達を助けに来た……いや、探してたのか?」
恐らく元の自分が騎乗していたものとは違うだろう。ネオジャングレイダーにはアマゾンの脳波を探知してある程度、オートで走行する機能が備わっているが、今の自分はアマゾンではない。そもそもこのバイクは自己判断で千翼に騎乗を促してきたのだ。――なんらかのAI、人工知能でも搭載されたのたろうか? では何者かがコイツを自分に差し向けたという事だが……
その時、小動物の後ろから電子音が響き始めた。「フォッ!?」と小動物が仰天し、千翼の肩によじ登ると首の後ろに退避した。千翼も音が響いてきたネオジャングレイダーの速度計付近を注視しているとその一部が開き、レンズが覗いたと同時に千翼の目前に画面が写し出された。
「これは……地図……か?」
虚空に突如、出現した画面に千翼は驚き、確かめる為にレンズ部に手を翳して見た所、画面が掻き消えた。どうやらこのレンズから画面が出力されているらしい。以前のネオジャングレイダーには無かった機能だ。
地図にはここから10km程先のある地点が示されている。ここに何かがあるということか? あるいはコイツを俺の元に寄越した何者かがそこにいるのかもしれない……
誰かはわからないが少なくともそいつは俺の事を知っているのだろう。でなければわざわざネオジャングレイダーを俺の元に向かわせるはずがない。この街の状況に関する情報をその誰かから聞き出せる可能性もある。
千翼は一瞬、何かの罠かもと考えたが他にアテもない。あの少女の事も気になるが、この街の状況が分からないままでは、探す事すら難しい。
「行くだけ行ってみよう……ヤバけりゃ逃げればいい」
「フ〜、フォウフォ? キャーウ!」
本気か? という様に千翼の肩から小動物が鳴き声を上げる。
「言ったろ? ヤバけりゃ逃げるって。危ないから、お前はもう一度この中に入って」
「フォ〜〜?」
開けた上着の中を指差しする千翼に対して、またここに入るのか〜? と嫌そうな雰囲気を見せる小動物。しかし、走行中に肩等の不安定な場所に捕まらせておくのは危険すぎる。先程の骸骨等に遭遇して逃げなければならなくなったら、急加速した時にでも振り落としてしまうかもしれない。千翼は少し考えた末、妥協案を口にした。
「分かった。なら顔は出していていいからさ。流石に外に剥き出しのままじゃ危なすぎるよ」
「フォウ……」
仕方ない……と言うように小動物は千翼の肩から下りると上着の中に潜り込んだ。千翼は上着のジッパーを小動物が頭を出せる程度まで上げる。すぐに小動物が顔だけを出してきた。ジッパーが下がって来ないように金具を服に引っ掛けて何とか固定する。そして千翼は、改めてネオジャングレイダーのハンドルに手をかけると確かめるようにエンジンを何度か噴かした。
「行くぞ!」
「フォウ!」
そのポジション、結構気に入ってるじゃないか……胸元で力強く返事をする小さな相棒に千翼は少し苦笑すると、ネオジャングレイダーを目的地にむけて発進させた。獣の唸り声に似たエンジン音を周囲に響かせながら……
途中、特に妨害も無く千翼達は目的地まで辿り着く事ができていた。
目の前には研究所らしき建物がある。地図はこの建物の中にある地点を指し示している。
「ここだな……」
「フォーウ!」
千翼の胸元でまたもやガサゴソと動く小動物。お望み通り上着から出してやると、小動物は飛び出るように地面に降り立ち、体をブルブルと震わせて耳裏を後ろ脚でカリカリと掻きはじめた。千翼もバイクのスタンドを立ててから降りると改めて建物を見回す。外壁があちこち崩れており全体的にボロボロになっている。火の手は上がっていないようだが、中に人がいそうな気配は感じられない。不気味だがこうして観察しているだけでは何も始まらない。
千翼と小動物は入り口付近まで慎重に歩を進めていく。自動ドアは電気が来ていないのか、作動しなかったが手で押すと横にスライドして開いた。鍵はかかっていないようだ。
「入るぞ……」
「フォウ!」
足元の小動物に一言、声をかけると千翼は中に侵入する。頭の中で地図にあった目的地を思い浮かべながら薄暗い廊下を歩いていく。他の部屋の様子を見てみたがどこも荒れに荒れていた。ひっくり返ったデスクに椅子、モニターの割れたパソコンが床に散乱している。やはり人の気配は無い。途中の部屋で見つけた懐中電灯の明かりを頼りに目的の部屋にたどり着いた。ドアをゆっくりと開けてライトで部屋を照らしていく。そして、部屋の中央にあるデスクの上、そこにアタッシュケースが置いてあるのが見えた。千翼はそれを見た瞬間、ある予感を抱いた。早歩きでそのデスクに近づくと、ケースのロックを解除して中身を確かめる。
「こ、これはっ!?」
中に収納されていた物は、大振りのベルトと注射器型ユニットが一本。腕輪が一つ、ケースの中に納められた注射器。そして手紙が一枚同封されていた。
――それはこれまでずっと求めていた物。あの少女が危機に陥っていた時、骸骨の怪物に襲われた時、これさえあればと思った力を与えてくれる物。
オオトカゲの眼を左から見たと思しき形状。メタリックレッドのバックル。眼球に当たる黄色のコアユニット。
――ネオアマゾンズドライバー――
野座間製薬が開発したアマゾン専用強化装備。
千翼は震える手で手紙を取り上げ、懐中電灯の光を当てると走り書きされた文章を読み始めた。
『これを読んでいるという事はなんとかここまで辿り着く事が出来たという事だな。この世界に干渉する事が難しかった為、これらとあのバイクしか用意できなかった。ケースの中にある注射器にはある細胞が入っている。闘争本能『のみ』を高めるタイプのモノだ。この細胞を体内に取り込まなければドライバーは使えない。腕輪は増大した闘争本能を鎮静化する薬液を封入したレジスターだ。本能に振り回されそうならばこれを腕に付けろ。
これらを使うかどうかはお前の判断に任せる。使えば今までのお前ではいられなくなる。自分の意志で決めろ』
千翼は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった……
やはり仮面ライダーはバイクで現場に急行してこそだと思うのでネオジャングレイダーには千翼の相棒として活躍してもらう予定です
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第二節 決意
「これから……どうしよう……」
研究所で見つけたネオアマゾンズドライバー一式を持ち運びやすいバッグに入れ直して一旦、外のネオジャングレイダーの元まで戻ってきた千翼。
バイクのシートにもたれ掛かり、胸元に抱いたバッグを見つめながら考えを巡らせていく。
この街で何が起きているかについては結局、分からないままだ。ただ、あの手紙の内容から察するに今、この街では相当不味い事が起きているのだろう。
クリアケースの中に入っていた注射器。恐らく──いや、間違い無くアレの中身は『アマゾン』細胞だろう。
どうやら食人本能よりも闘争本能を高めるタイプのようだ。今の状況を考えれば、すぐにでもこの注射器を身体に打ち込み、ドライバーを使えるようにしておくべきなのだろうが──
──これらを使えば今までのお前ではいられなくなる。自分の意志で決めろ──
嫌だ。どんな形であれ、人間になれたんだぞ。アマゾンとなってしまえば、またあの地獄に自分と周囲の人達を引き摺り込んでしまうかもしれない。
闘争本能のみを高めるタイプだとしても絶対安全だという保証などない。自分の意思で決めろという言葉の意味。
それはそこから発生するリスクも呑み込んだ上で決めろという事なのだろう。
あの手紙の一文が千翼に二の足を踏ませてしまう。生前の記憶が次々と脳裏に浮かび上がってくる。
全ての人からお前は生きていてはいけないのだと言われた。実の父からさえも──
──お前の母さんが……送ってやってくれって言ってんだよ……お前が人で無くなったら──
──母さんが……? 母さんの、ところへ……?──
そして母からさえも。脳裏に浮かび上がる記憶に千翼はグッと目をつむり歯を食いしばって耐える。
「またあんな思いをしなきゃいけないのか……」
だが、目を塞ぎ込む千翼の心に囁きかけてくる声があった。
──それでいいのか。あれだけの事をしておきながらお前は見て見ぬ振りをしているつもりなのか。償いもせず、ただのうのうと生き続けるというのか──
──お前は、それでいいのか──
それは自分自身の声だった。目を背けるな、己の罪から。誰かを救える手段がこの手の中にあるというのにお前は我が身可愛さでそれを捨て去るのか……
「それでも……それでも、俺は……」
──キャアアアァァァァッッ!!!──
「ッ!?」
その時、千翼の耳に悲鳴らしき声が届いた。はっと顔を上げると、いつの間にか、右肩に乗っていた小動物が耳をピンと立てて声が響いてきた方角へ顔を向けている姿が目に入った。
「フォウッ! フォーウ!!」
あっちだ! と言わんばかりに鳴き声を上げる小動物。また小動物が見やる方向から微かに悲鳴が聞こえた。間違いない。
「誰か生きている人がいるのかッ!?」
千翼は急ぎ、ネオジャングレイダーのエンジンを始動させるとシートに跨った。バッグを肩に担ぎ直すと小動物に声をかけた。
「入って!」
「フォウ!」
小動物に上着の中に入る様に促す。懐に収まったのを確認した千翼は、ネオジャングレイダーを悲鳴の主がいる方角に向けて発進させた。
今は悩むのは後回しだ。
「イヤァッ! 来てッ! 助けてよレフッ! いつだって貴方だけが私を助けてくれたじゃないッ!!」
泣き喚きながら一人の少女が街中を駆けていく。伸ばした銀髪、整った顔立ち。貴族服を思わせる服装に身を包んだ少女だ。
平時であれば整った顔立ちの才女で通ったはずだが、今その顔は恐怖で歪んでいた。背後にはその元凶たる骸骨の群れが追いかけてきているのが見える。
「あうっ!」
少女は瓦礫に足を取られ、転倒してしまう。その隙を逃さず少女に手にした剣を振り上げて襲いかかろうとする骸骨。
「イヤアァァァァァッッ!」
顔を両手で庇いながら泣き叫ぶ。少女の命運が尽きたと思われたその刹那、彼方から響いてくる獣の唸り声に似た機械の駆動音。
「やめろおおぉぉぉぉぉーーーーッ!!」
間一髪、少女に飛び掛かろうとしていた骸骨は横合いから猛烈な勢いで突っ込んできたネオジャングレイダーによって粉々に砕き散らされた。
「ヒッ! な、何!?」
「アンタッ! 生きてる人間だよな!?」
助ける事が出来た少女に千翼は声を掛けながら方向転換させたネオジャングレイダーで近づいていく。
「あ、貴方はっ!! 確か、一般枠で入ってきた候補生じゃないっ! な、なんでこんな所にっ! というかその派手なバイク……? は何っ!? 説明をっ! 説明をしなさい!!」
千翼の姿を見て腰を抜かしながらも人差し指を突きつけて一気に捲し立てる少女。その姿に千翼は少しホッとする。これだけ騒げるのならば、身体は大丈夫だろう。
千翼は少女に手を差し出しながら此方に近づいてくる骸骨に目を向ける。
「説明は後だ! とにかく今は逃げるぞ! 後ろに乗れ!」
「……ああ〜〜〜ッ! もう! 後でしっかり話してもらいますからね!!」
少し思い悩みながらも今は逃げるべきだと判断した少女は千翼の手を握りしめた。千翼は腕ごと身体を引っ張り上げるとバイクの後部シートに少女を座らせた。
後ろを見やると骸骨の群れがすぐそこまで迫ってきていた。
ネオジャングレイダーのエンジンを噴かしながら千翼は少女に声を掛けた。
「行くぞっ! しっかりと掴まってろ!!」
「ヒィィィィィィッッ!!」
タイヤが空転する盛大なスキール音が周囲に響き渡る。数瞬の後、タイヤが地面を捕え、ネオジャングレイダーが急発進。背後の空気を裂く音が聞こえる。骸骨が一瞬前まで千翼達がいた場所を剣で薙いだのだろう。危なかった。
千翼はある程度距離を稼いだ所で後方をバックミラーで確認する。数えるのが面倒になる程の骸骨群が後ろから迫ってくる。
さらにヒュンヒュンという風切り音と共に骸骨達が放った矢が雨霰と千翼達に向けて飛来してくる。千翼はネオジャングレイダーを左右ジグザグに振りながらそれをなんとか回避。さらに加速していく。
「キャアアアアアアッッ!! ち、ちょっと、あ、貴方! もうちょっとマトモな運転しなさいよおッ!」
「無茶言うな! 矢に当たっちまうだろ!」
耳元から聞こえる少女の金切り声に千翼は怒鳴り返しながらハンドルを切り、矢を避けていく。しかし、骸骨達の追跡は唐突に止むこととなる。矢の嵐が急に止んだのだ。
千翼が訝しげにチラリと後方を確認すると骸骨の群れが自分達とは反対の方向へと走り去っていくのが見えた。まるでこの先から離れようとするかの様に。
「なんだ? なんであいつら急に追ってくるのを止めたんだ……?」
「ちょっと前を見なさいよ!」
少女の声にハッとした千翼は前方に目を向けた。ヘッドライトに照らされた先に人間大の大きさをした像らしき物が見える。
千翼は咄嗟にハンドルを切り、衝突を辛うじて回避する。しかしその先にはさらに多くの像のような物が点在しているのが見受けられた。千翼はネオジャングレイダーのスピードを緩めるとそれらを注視した。
……全て人間の石像だった。しかも皆、苦悶の表情を浮かべている。
余りに精巧に出来ているのでまるでついさっきまでこれらの石像は生きている人間だったのではと思える程。あまりに異様な光景に千翼はバイクを止めてしまう。
「な、なんだこの石像の大群は……なんでこんなに沢山……」
「し、知らないわよ。でもこの石像……もしかして……」
何かを察したのか手を口元に持っていきながら考え込む少女。何か心当たりがあるのかと千翼が少女に声を掛けようとしたその時──
「──おや、これは珍しいお客様ですね──」
その場に女の声が響き渡った。ぞっとするような声音。酷薄さと残忍さが滲み出した声が聞こえた方角へと千翼は首を勢いよく向けた。
距離にして500m程先に黒いローブを纏った人らしき影が此方に歩いてきている姿が見える。
ローブの顔の辺りから覗く冷たい眼光。それを見た瞬間、千翼は肌が粟立つのを感じた。
これまで幾多の死線を潜ってきた自分の本能が全力で告げているのだ。
──逃げろ──
──その女は危険だ──
千翼はネオジャングレイダーのエンジンを吹かしながら背後の少女に静かに声を掛けた。
「……逃げるぞ」
「えっ!? ちょっと待ちなさいよ! 生存者かもしれ──」
「駄目だ! あの女はヤバい!!」
バイクを止める為に地面に着けていた片足を軸にその場でUターンを決めると近寄ってくる女から少しでも離れるべく逃走を開始。後部加速ユニット、ブーストウィンガーからエネルギーを放出、機体が弾かれる様に急発進する。
──骸骨はあの女がいるからここに近寄ろうとしなかったのかもしれない。あんな骨だけになった怪物にそんな思考ができるものか分からないが、だとしたら、自分達はまんまとあの女の縄張りに入り込んでしまった事になる。
焦りながらもネオジャングレイダーのスピードを更に上げていく千翼。だが──
「──そんなに慌てて何処へ行こうというのですか? もう少しゆっくりしていったらよろしいのに……」
すぐ横から先程の女の声が響いてきた。凄まじい風切り音が邪魔をしているというのにその声は妙によく聞こえた。
背筋が泡立つ。左横に勢いよく顔を振った。
そこには加速し続けるネオジャングレイダーに平然と並走してくる黒いフード姿の女。土煙を巻き上げ、動かしている足からそのあまりの速さに残像が生じていた。
「に、人間じゃないのかッ!?」
「違うっ! コイツ、《シャドウ・サーヴァント》よ!!」
常軌を逸したその光景。驚愕する千翼に少女が何か心当たりがあるのか、確信と共に鋭い叫び声を上げた。
──シャドウ・サーヴァント?──
アマゾンとは違うのか? 初めて聞くその単語に千翼は人以外の何かを指す言葉だろうかと場違いな疑問を抱いていまう。
しかし、女の手にいつの間にか握られていた大振りの鎌が自分達を両断せんと振りかぶる姿を見て、車体を横倒し気味に傾けて回避する。鎌が上方を通過する。
そのまま走行していたら胴切りにされていただろう。ブレーキを全力でかけながら車体を進行方向から見て横に向ける。
そのままバイクが横倒しにならない様に片足を地に着け、靴底をアスファルトでガリガリ削りながら、全身全霊で制動する。
「ギャアアアァアァァアアァァァーーーーーッッッ!!!」
目前に迫るアスファルトに、とても年頃の女子が上げてはいけない絶叫が千翼の背後で炸裂した。しかし不運が起きる。カーブに突入してしまい、曲がりきれなかったバイクを段差に突っかけてしまった。一瞬の浮遊感。千翼は後ろの少女の身体を即座に抱きすくめるとバイクを乗り捨てて右肩から地面に落ちた。
「ガッ! グウゥゥゥッ!」
右肩に感じる灼熱の痛み、千翼はそのまま、地べたに少女を抱えながらゴロゴロと転がった。
「グッ……お、おい、動けるか?」
痛みを堪えながら腕の中の少女に声をかけた。涙目になりながらコクリと頷く少女の姿に千翼はホッとする。
「キュ、キューウ……」
胸元から聞こえてくるか細い鳴き声にハッとした千翼は急いで上着のジッパーを下げる。目を回しかけている小動物の顔がそこにあった。
しかし幸い怪我等は負っていないようだ。ゆっくりと此方に近づいてくる足音が聞こえてくる。
「追いかけっこは終わりです。さて、折角の獲物。どうやって料理したものか……」
上から降ってくる冷酷な声に千翼は、急いで体勢を整えようとするが右肩の激痛が邪魔をしてすぐに動けない。
痛みはしても一応、動く事から骨は折れていないと思うが、もうバイクを乗り回すのは不可能だろう。今度こそ終わりかと思いかけたその時──
「やぁぁああああーーーーっ!!」
女の頭上から掛け声と共に黒い何かが振り下ろされた。シャドウ・サーヴァントと呼ばれるその女は咄嗟に手にした鎌を頭上に構えて防ごうとするが、堪えきれず大地に叩き伏せられるとバウンドしながら遠くに吹き飛んでいった。
「今なら、印象的な自己紹介が出来ると思います──」
「問います、貴方が私のマスターですか?」
此方に振り返ったその人物は、千翼が知っている相手だった。あの炎熱の地獄で見た千翼が探さなければと思っていた紫髪の少女が目の前に立っていた。
身体の各所に装甲が据え付けられた黒いボディスーツ。なによりも目を引くのはその右手に握られた少女の身の丈を越す大盾。先程、サーヴァントを吹き飛ばしてみせたのはアレだろう。
しかしマスター? それは自分の事なのだろうか。そして、相当の重傷を負っていた筈である少女の変わり様は一体? 分からない事だらけの中、かろうじてなんの事だ、と問いかけようとしたその刹那、左手の甲の部分から熱を感じた。目を向けてみるとそこには紅い紋様らしきものが浮かび上がっていた。少女はその紋様を見てとり、穏やかに微笑んだ。
「マスターの証、令呪を確認。やはり、貴方が私の……先輩は私の恩人です。あの時、私の心を救ってくれたご恩。今度は貴方のサーヴァントととして戦う事で返していきますね……」
「ま、待ってくれ! さっきから、一体全体なんのことを言ってるんだ!? アンタ、俺が見た時、大怪我してたよな!? それがどうして──」
「貴女、マシュ・キリエライトっ!? その姿、デミ・サーヴァントになれたのね! というか貴方! この子のマスターってどういう事!? 変な事したんじゃないでしょうね!!」
「無茶苦茶言うなよ! 俺だって何がなんだか分からないんだ!」
「……油断しました。まさか、其方にもサーヴァントがいたとは。いえ、むしろ楽しみが増えたと喜ぶべきでしょうか。一方的な蹂躙も好いモノですが、味気ないのも事実ですからね」
大声で言い合いをしていた千翼達の耳に先程、マシュと呼ばれた娘に吹き飛ばされた女の声。舌舐めずりしながら此方に近寄ってくる。
あの大盾の一撃を受けて平然としている。
耐久力もアマゾン並みだというのか? 千翼は後退りしてしまう。
「敵性体、健在。迎撃行動に移ります! 先輩、オルガマリー所長。下がっていてください!!」
背後に立つ女に向けて、大盾を構え直しながら振り返るマシュ。千翼が待ったを掛ける間もなく、女に向けて突進していく。
鎌を後ろに引いて待ち構えていた女。マシュが繰り出す大盾による上段からの一撃を横薙ぎの一閃で打ち払う。
マシュは大盾を打ち払われて若干、体制を崩しはしたものの、打ち払われた勢いそのままにその場で身体を横に一回転。遠心力を乗せた一撃を再度、女に向けて叩き込む。
女は鎌で今度は大盾を上に弾くとガラ空きになったマシュの腹部に鎌の石突きによる一撃を打ち込んだ。
「がっ! くうぅっ! まだです!」
「ほう、軽い一撃では無かった筈ですが、耐えますか。思った通り、嬲り甲斐のある獲物の様ですね……」
痛みに顔を歪めながらも気勢を保つマシュ。それを余裕の表情で観察する女。
今度は女がマシュに向けて鎌を一閃する。それを大盾で受け止めるマシュ。一撃、二撃、三撃。互いに何度も攻守を入れ替えながら攻防が続いていく。
千翼はマシュが、あんな女の子が巨大な大盾を高速で振り回す姿に驚愕を隠せなかった。
あの細腕の何処にそんな力があるのだろうか?
彼女の動きも明らかに常人のそれを逸脱している。オルガマリーという少女がデミ・サーヴァントと呼んでいたが、あのシャドウ・サーヴァントと似た人外の存在なのだろうか。
だがマシュの正体がなんであれ、千翼には自分達を守る為に戦ってくれている彼女が敵とは思えなかった。
だが、状況は芳しくない。段々とマシュが追い詰められているのだ。
恐らく、戦い慣れていないのだろう。徐々に守勢に回らされている。
「ちょっと、貴方! 何をただボーッと見てるのよ! 経緯は分からないけど、マシュは貴方をマスターとして認めて戦っているのよ! ならマスターとして出来る事をしなさい!」
「だから、マスターとか言われても俺には何も──」
また、オルガマリーとの不毛な水掛け論が始まろうとした刹那、千翼の脳裏に閃くものがあった。
自分に出来る事。あの時、少女を救いたいと思った時、手にしていなかった力を与えてくれるモノ。それが今、手元にある。
千翼は背にしたバッグを開き、中から青い内容液が封入された注射器を取り出した。ケースから注射器を取り出して腕に打ちこもうと──
「ッ!」
──これらを使えば今までのお前ではいられなくなる──
手紙に書かれた一文がフラッシュバックしたと同時、注射器を打とうとした手がピタリと止まってしまう。何を躊躇っている。このまま、あの娘が殺されるのを黙って見ているつもりか。と自分自身を叱咤してみても、注射器を持った腕は金縛りにあったように動かない。
人間の身体を手放して
千翼は思わず、今も自分達を守る為に必死で戦ってくれているマシュという少女に目を向ける。
あの時、何も出来なかった自分の行動に恩義を感じ、それを返そうとしてくれている少女。ここで彼女を死なせてしまえば……
──千翼。私、楽しい──
あの日、自分の背中でそう言って静かに息を引き取った少女──『イユ』の声が千翼の頭に響いた。その瞬間、今度こそ迷う事無く腕に注射器を打ちこんでいた。
内用液が千翼の体内に入っていく。身体の変化はすぐにやってきた。
心臓が爆発するかのごとく鼓動を刻む。自分がナニかに変わっていく。身体の中に取り込まれたアマゾン細胞が急激に増殖しているのだろう。
激変していく身体。急激に上昇していく体温。目の前が真っ赤に染まっていく。たまらず叫ぶ。
「ううううぅぅっ! うぐぁぁぁああああああああああああっっ!!」
「ち、ちょっと、アンタ!? 何やったのよ!?」
「ッ!? せ、先輩! ぐぅっ!!」
「余所見はよくありませんよ……」
マシュが後方から響いてきた千翼の叫び声に反応し、後ろを振り返ろうとしたが、それを女が鎌を振るい食い止める。大盾で防ぎながら女を睨みつけるマシュ。あの声は尋常ではなかった。一刻も早く先輩の元に戻りたいのに……! マシュは歯嚙みしながら鎌を大盾で押し返す。
千翼は異様な昂りを抑えきれなくなってきている自分を自覚し、咄嗟に地面に転がっていたあるモノに目がいった。鷹の頭部のような造形、メタリックレッドのカラーリングが特徴的な腕輪『ネオアマゾンズレジスター』。その黒いベルトの裏にはびっしりと棘が生えている。
千翼はそれを右手でひったくる様に掴み上げると左腕に押し付けながら鷹の嘴部分のスイッチを押し込んだ。同時に、鷹の眼に当たる部分が蒼く発光した。
バチンッ! とベルトが閉じると左腕を締め上げ始めた。ベルト裏の棘が肌に食い込み、棘の先端から、抑制剤が身体に流し込まれる。真っ赤になった千翼の目の前の景色が徐々に元へと戻っていく。
ネオアマゾンズレジスター内に封入された抑制剤の効果が出てきたのだろう。そして千翼は地面に転がっていた大型のベルト。『ネオアマゾンズドライバー』と注射器型ユニット『アマゾンズインジェクター』を手に取り上げた。そして迷う事無く腰にドライバーを巻き付ける。
ベルト部、『オルガバインド』──耐久性に優れた特殊硬質ゴムが千翼の身体に合わせて自在に伸縮し、最適な位置で腰を締め上げた。
そして、ドライバー左下部『インジェクタースロット』にアマゾンズインジェクターを装填、斜め上にスロットを押し上げる。インジェクターの底部を叩きながら、千翼は走り出した。
──己の意思で戻ると決めた戦場へ。再び、戦いの業火に身を投じる為に。
千翼の湖水を思わせる蒼い瞳の色が溶鉱炉で煮えたぎる鉄にも似た灼熱の赫へと変わっていく……
「おおおおおぉぉぉっ! ァァアマゾオオオォォンッ!!」
-
千翼の雄叫び。そして周囲に響き渡る電子音声。ドライバー中央のコアユニット『ネオコンドラーコア』が明滅し、アマゾン細胞を刺激する特殊パルスが発せられた。そして、千翼の身体から爆炎を伴う
──千翼の身体表面から活性化したアマゾン細胞が湧き出し、肉体構造を変化させていく。
体表をメタリックブルーの『ネオワイルダースキン』が覆い、更に頭部、胸部、両椀、両脚に機械的な装甲が形成されていく。頭部を覆うヘルメット。眼部を保護する黄色のバイザー。その奥で『アマゾン・アイ』が一際強く、そして紅く輝いた。
今、ここに蒼き戦士『アマゾンネオ』が復活した。
千翼、ようやくアマゾンネオに変身。ちなみにアマゾンネオは正体不明のエネルギーを発しており、神秘を持つサーヴァントと打ち合う事が可能となっております。
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第三節 剣盾
身長 188.0cm
体重 99.7kg
パンチ力 25.0t
キック力 31.0t
ジャンプ力 ひと跳び53.0m
走力 100m3.7秒
千翼がネオアマゾンズドライバーを使って変身した姿。
蒼いボディに赤い稲妻上のラインが走る。更にその上からガンメタリックの装甲が装着された姿をしており、見る者に何処と無く機械的な印象を与える。
「ハアアアアアアアアアアアアッ!!」
シャドウ・サーヴァントと呼ばれた黒フードの女に向けて、猛然と突進する千翼──アマゾンネオ。突如として身を縮めると、突進の勢いのままに跳ぶ。まるで宙空に放り投げられたかの如き跳躍。縦に一回転しながら勢いに任せて女の胴体に飛び蹴りを叩き込む。
「ガハッ!」
「うおおおおおぉぉおおおッ!!」
これまで只、狩りたてるだけの獲物だと思っていた少年のまさかの逆襲。しかも姿形が全く変わっている。あまりの事態に女の反応が遅れてしまい、もろに飛び蹴りを喰らってしまう。しかもアマゾンネオの攻撃は止まらない。女が体勢を整えるのを待たず、懐に飛び込むと蹴りが入った場所と同じところ、鳩尾めがけて右拳を打ち込む。続いて左拳。更に右拳。反撃の隙など与えないと言わんばかりに拳を叩き込み続ける。
「ガッ! ゲクッッ! ゴハッ! な、舐めるなアアァァァッ!!」
しかし女も千翼の好きにはさせてくれない。突如、女の全身からどす黒い瘴気が放たれ、その衝撃でアマゾンネオを吹き飛ばした。
「くうっ!」
「せ、先輩……? 先輩ですよね? その姿は……一体?」
ゴロゴロと地べたを転がりながら、マシュの傍までやってきた千翼。突然の事態に思考が止まっていたのはマシュも同じだった。
千翼は片膝を突きながら起き上がる。黄色のバイザー越しに驚いたマシュに視線を向ける。荒い息を吐きながらなんとか頷くと声を掛けた。
「アンタッ! まだやれるよな!?」
「えっ!? あ……は、ハイッ! マシュ・キリエライト! まだ戦闘続行可能です!」
「ならいい! 今は俺と協力してコイツを倒すぞ! 力を貸してくれッ!」
「ッ! 了解です、先輩! いえ、マスター!!」
姿が変わった事。そしていきなり見せられたあの戦闘力には確かに驚いた。けれど、やっぱりこの人は自分を助けてくれたあの恩人である先輩なのだ。ならば今、自分に出来る事。それは力を貸して欲しいと言ってくれたこの人と共に戦う事だ。それがマスターのサーヴァントたる自分の成すべき事だ。
「チッ! 次から次へと……! 忌々しいですね。少し遊びが過ぎましたか。まさかこんな手段を隠し持っていたとは──」
「ウゥウオオオオォアアァァァーーーーーーッッ!!!」
-BLADE LOADING-
女の声を遮るようにアマゾンネオは天を仰ぎ、咆哮。ドライバーにセットされたインジェクター底部がもう一度叩かれた。電子音声がドライバーから響く。右腕部装甲『シェルスライサーグローブ』の一部が展開。アマゾン細胞が
──『アマゾンネオブレード』生前、千翼が好んで使用していた近接戦闘用武器。鎌を持つ相手に対抗する為にはこちらも間合いが広い武器が必要だと判断したのだ。ブレードのグリップ部分を右手で握ると、剣を一振りして立ち上がった。
ブレードを後方に構え、いつでも斬りかかれる体勢を取りながらマシュに再度、声を掛ける。
「アン……いや、マシュ、だったな。いいか! あいつがどんな動きを見せても俺は右から! お前は左! とにかく挟み撃ちだ、いいな!!」
「ハイッ! マスター、行きます!!」
二人同時に駆け出すと女に向けて突進していく。片方は剣。もう片方は盾。それぞれの得物を手に挑みかかる。
先手はアマゾンネオ。袈裟懸けにブレードを叩きつける。それを女が鎌の柄で受ける。防がれると見るや、すぐさま剣を引き、刺突を胸部中央に打ち込もうとするアマゾンネオ。それを女は鎌を下から掬い上げる斬撃によってブレードを上に弾く。体勢が崩れたアマゾンネオに振り上げた勢いのまま、鎌で斬りつけようとする女。だが──
「させません!」
突如、女とは反対方向に位置したマシュが大盾を女の背中に向けて押し出すが如く、叩きつける。背中からもんどりうって倒れ込みそうになるが、なんとか堪える。しかし正面のアマゾンネオがすぐさま右薙ぎの斬撃を放ってくる。なんとか鎌の刃で受けるが……
「うおぉおおぉぉぉおおおおっ!!」
「ぐっ! がああっ!!」
鎌の防御を崩され、左脇腹を切り裂かれてしまう。まずい。この蒼い異形と化した少年の力。下手をしなくても、盾持ちのサーヴァントよりも上だ。一撃、一撃の重さが半端ではない。まともにやっていたら防御の上から潰される。切り裂かれた脇腹を抑え、後方に飛びながら女は機動力でコンビネーションを分断しようと二人の周囲を高速で動き回る。
「クッ! 早い……ぐあッ!」
背中を斬りつけられてもんどりうってしまうアマゾンネオ。胸部装甲『ネオラングアーマー』から火花が散る。幸い、装甲につけられた傷は浅い。だが何発も貰うのは不味い。反撃しようにも相手の速さに翻弄されてしまって、間合いが全く計れない。アマゾンネオの装甲に次々と斬撃痕が刻まれていく。
「マスター……!」
慌ててマシュが千翼を守ろうと、大盾を構えながら近寄ってくる。敵が疾すぎて、今までの左右から挟み撃ちにし続けるというコンビネーションが取れなくなってしまった。今はマスターの護りを固めるしかない。マシュは全方位に気を尖らせながら、女が何処から仕掛けてくるか、周囲を飛び回る影に眼を凝らす。
ガキィンッ! 左下からアマゾンネオを狙って鎌による切り上げが迫る。しかしマシュは最小限の動きで千翼の前にステップで陣取ると斬撃を食い止める。また周囲を高速で移動しながら今度は千翼の頭上から兜割りに鎌が振り落とされた。
「マスター! 伏せてください!」
マシュの鋭い叫び声。千翼は即座に腰を沈めた。逆らおうという気さえ起らなかった。マシュが頭上に振り上げた大盾が再度女の鎌を防ぐ。
「セァッ!」
大盾の下から飛び上がった千翼は、そのまま女に横薙ぎの斬撃をお見舞いしようとブレードを振るう。が、その時にはもう、女は大盾を足場に跳躍して難を逃れていた。空を切るブレード。千翼は歯噛みしながらも地面に降り立ち、マシュに顔を向けた。
「マシュ。あいつが何処から仕掛けてくるのか、分かるのか?」
「え? ええ……何故か敵が攻撃を仕掛ける寸前、強い気配がして。感じたままに身体を動かしたら、防ぐ事が……」
誰かが導いてくれたように身体が動いてくれた。もしかして、それは自分に霊基を託してくれたこの英霊の……そんな感慨がマシュの脳裏に過ぎった。
──この身は『シールダー』盾の英霊。主に降りかかるあらゆる危難をはねのける事こそが我が使命──
再びマシュの頭のどこかで声が響いた。若い男の──その胸に信念と誇りを持った騎士の声だ。その声に導かれるまま、マシュは女による三度めの奇襲を大盾で防いでみせた。その姿に千翼は確信を持った。そして作戦を彼女に伝える。
「マシュ。俺達はアイツの速度についていく事はできない。だから俺がアイツのスピードに目を慣らすまでの間、しばらく堪えてくれるか? 仕掛けてきた瞬間、カウンターで俺が叩き斬るッ! その時が来たら合図をするから……頼む!」
「ッ! ハイ! 任せて下さい、マスター!!」
己のマスターが
アマゾンネオ。マシュの防御を信じて女の動きを全力で追う。額から伸びた知覚アンテナ、ネオヘッダーから相手の仕掛けてくる際に放つ殺気、周囲から響いてくる風切り音からどう動いているかを分析。そしてアマゾン・アイで高速移動する女を徐々に視界に捉えていく。
マシュが敵の攻撃を防いでくれるお陰で、敵の動きを捕捉する事に全神経を注ぐ事が出来る。
……右から来ると見せて左から仕掛ける。と、思わせてこちらの背後に抜けて、跳躍。先程と同じく頭上から兜割りの一撃。
マシュが再び、頭上に大盾を振り上げ、防御体勢を取ろうとしたその瞬間──
「伏せろ!」
「ッ!」
-AMAZON BREAKE-
アマゾンネオ、即座に左手でインジェクターを上下に可動。ドライバーから武器強化を告げる電子音声が流れる。ブレードがギチリと音を立てて、さらに硬度と鋭利さを増した形状へと変化する。
マシュ、大盾を振り上げるのを止め、即座に千翼の指示に従った。先程とは逆にマシュがその場に伏せる事となった。
女はマシュが受けるとばかり思っていたのか、一瞬、戸惑うものの、これ幸いと千翼に鎌を振り下ろす。アマゾンネオ、振り下ろされる鎌を見据えたまま、一歩踏み込む。極度の集中から敵の動きがまるでスローモーションのように見える。鎌が背後を通過した。鎌の間合いの内側、すなわち剣の間合いに入る。迷う事無く、ブレードを逆袈裟に斬り下ろす。
女の身体が右肩から左脇まで真っ二つに斬断された。悲鳴を上げる暇もあればこそ、二つに分かれたシャドウ・サーヴァントの身体は地に叩きつけられると同時に黒い塵と化して大気に溶けていった……
荒くなっていた息が治まり、周囲に敵の気配が無くなったのを見計らって千翼はインジェクターを水平位置に戻すとドライバーから抜き取った。アマゾンネオの全身から冷気が吹き出し、元の人間、千翼としての姿に戻っていく。それをマシュは目を丸くしながら見ていた。
「あ、あの先ぱ──」
「どういう事!?」
何から聞いたものか分からず何とか千翼に声を掛けようとしたマシュ。それを遮るようにオルガマリーが千翼の前にツカツカと歩いてきた。
「あの姿は何!? 仮にも英霊でもあったサーヴァントと戦えるなんてどう考えても只事じゃない! アンタが私と会った時に乗ってたあのバイクといい、私達と合流するまで何をしていたの!? キッチリと説明をしなさい!!」
「……これを読んでくれ」
「「何よ?(なんですか?)」」
「このバイクのナビゲーションに登録してあった地点、研究所にこのベルト一式が置いてあった。それに同封されてた手紙だ」
オルガマリーの詰問にいい加減面倒くさくなった千翼は投げやりな説明と共に手紙を押し付けた。クシャクシャになった手紙を見て訝しんだオルガマリーだが今はどんな情報でも欲しいと手紙を読み始めた。マシュも横から覗き込みながら手紙の文章を目で追った。千翼は二人が手紙を読んでいる間に乗り捨ててしまったまま、横倒しになっているネオジャングレイダーの元に向かった。車体のカウルに若干、擦った跡があるだけで破損している箇所は無い。スロットルを上げてみたが、特に問題は無さそうだった。エンジンを一旦、切る。
千翼はバイクのハンドルに手をかけると、オルガマリーとマシュの元へと戻った。千翼が引っ張ってきたネオジャングレイダーを見てマシュがギョッとしている。赤い獣にも見える威嚇的な外見を持つネオジャングレイダーに驚きを隠せないらしい。
「一体誰よ? この手紙を書いたのは……この特異点の状況を知っていたというの? 貴方、これを書いた誰かに心当たりはないの?」
「全くわからない。俺はこの街で、あの骸骨の大群に追い回されていたんだ。やられそうだった所をこのバイクが……」
「フォーウ!」
「ああ、そうだこ「フォウさん! ここに来ていたんですね!」
千翼の身体を駆け上がって右肩に乗った小動物の説明をしようとした所、マシュが驚きと喜びの入り混じった叫び声を上げた。どうやら、この小動物の名前はフォウと言うらしい。
「……この街で目を覚ました時からコイツも一緒だったんだ。フォウっていうのか? マシュが飼っているペットだったのか?」
「いえ、フォウさんは私の友達です。先輩が守っていてくださったんですね。ありがとうございます!」
マシュは嬉しそうな顔でフォウに両手を差し出して抱き上げた。フォウは頬ずりしてくるマシュの顔をペロペロと舐めていた。
「話しを続けると、こいつが駆けつけてきたから、俺はすぐさま飛び乗ったんだ。奴らを撒いて暫くしたら、バイクのナビが起動して研究所の位置を示した。他に行くアテも無かった俺は研究所に向かい、その手紙とドライバーを見つけた」
そして、手紙の内容からこの街で何か不味い事が起きているのはわかったが、どうしていいか分からずにいた所、オルガマリーの悲鳴が聞こえたのでネオジャングレイダーで急行。オルガマリーを救助し、紆余曲折を経て現在に至っている。
「なるほど……貴方の経緯は分かりました。ん? ちょっと待って。さっき、そのバイクが駆けつけてきたって言ってたわね? それってどういう事?」
「このバイクは人工知能か何かが搭載されているみたいである程度ならオートで走れるんだ。骸骨に襲われている所、コイツが割って入ってきた」
「み、見た目に反して随分と高性能なのね、そのバイク。それで──『誰か! 誰か聞こえるかい!? この通信が聞こえるなら返事をしてくれ!! ってあれ? マリー? それにマシュも! ふ、二人共、レイシフトに成功していたのかい!?』
「ロマニ・アーキマン!?」
「ドクター! よかった、カルデアとの通信が回復したのですね!」
オルガマリーの言葉を遮って突如、中空に画像が映し出された。そこにはやや、気弱そうな伸びた髪を後ろで一括りにした青年が千翼達を見て驚愕していた。オルガマリーとマシュの様子からして仲間の一人なのだろう。ひとまず警戒の必要は無さそうだ。ロマニ・アーキマンと呼ばれた青年は千翼を見てハッとすると、手元のタブレット端末で何やら資料データを閲覧しながらこちらに話しかけてきた。
『あ、ああ。それとそっちの君……えーと一般登録者の四十……九番、藤丸立香ちゃんの次の子か。泉千翼くん、だね?』
ロマニから告げられたその名前に千翼は一瞬、耳を疑った。別人になったのだから名前も変わっているだろうとなんとなく思っていたのだが、まさか同名とは。それに何より『泉』というその姓は……千翼の母、『泉七羽』と同じものではないか。これはなんの偶然だ。千翼は口を開けたまま呆然と突っ立っていた。
千翼は父である鷹山仁と同じく戦いの組み立ては上手いので、マスターとしてはサーヴァントと共に戦う前線指揮官タイプになりそう。
そしてこの世界線では藤丸立香は女の子となっています。しかしカルデアには飛行機のトラブルによってそもそも到着すらしてません。
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