シスコンな双子の兄が姉になりたい妹のために弟になった話 (名も無き二次創作家)
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木組みの家と石畳の街

一話は出会いも兼ねてるので原作沿い。
暇つぶし程度に読んでってね。


「まって、姉さん」

 

昼下がり。

木組みの家と石畳の街の一角。

少年の慌てた、しかし透き通った心地よい声音が響く。

 

「はやくはやく~!」

 

少年に『姉さん』と呼ばれた少女は回転し、花のような笑顔で振り返る。

そのまま伸ばした手で少年の腕を掴み、あゆみを止めずに呟いた。

 

 

 

「これからはじまるんだ。私たちの新しい生活が……!」

 

 

 

 

◇◇

 

 

春休みも後半に差し迫った、多くの新入生が期待に胸を膨らませる季節。

街中を物珍しげに歩く双子の姉弟(きょうだい)もまた例に漏れず、いやそれ以上の期待感に溢れていた。

 

それもそのはず。

彼女たちは昔この街を気に入り、山を越えてはるばるやってきた訪問者なのだ。

そして高校生活という貴重な3年間を過ごす新たな住人でもある。

 

 

「綺麗な街並みだね~」

 

双子の姉が感嘆の吐息を漏らす。

小さい頃に訪れたこの街を気に入ったのも、そしてこの街の高校に通いたいと言いだしたのも彼女だ。

大好きになった街の相変わらずな景観にはテンションがあがるのもしかたないだろう。

記憶のとおりだ~!と、純粋に喜んでいた。

 

「そうだね、姉さん。とても絵になるよ」

 

対してこちらは姉が心配でついてきた双子の弟だ。

この街にもたいした思い入れはなく、あったとしても“姉と来たことのある場所”くらいだろう。

証拠に、この綺麗な街並みを“姉の背景”として指フレームに収めひとり頷いている。

絵になるとはつまり、姉の背景として相応しいということだった。

 

「姉さん。長旅で疲れてない?駅からもけっこう歩いてきたしそろそろ休憩する?」

 

「だいじょーぶ! まだまだ元気だよ。あ、うさぎ!」

 

弟からの心配などなんのその。

野良うさぎを追いかけようとする姉。

 

「ちょ、まってよ姉さん!」

 

そのままあっちを曲がり、こっちを曲がり、坂を下って上ってぐるぐる回り、最終的にうさぎを見失った。

 

「はあ、はぁ……、疲れた」

 

「でも、おかげで地理がだいたい把握できたね。さすが姉さん」

 

「え? で、でしょー」

 

弟はすべて姉の計算通りだと思っているが、無論そんなことはない。

ただの偶然。

姉はうさぎに夢中で地理など確認していない。

 

そんな彼女の気を引く物が再び視界に飛び込む。

カフェの看板だ。

 

「喫茶店……『ラビットハウス』……」

 

またもやうさぎ。

彼女は猫カフェならぬうさぎカフェを頭の中で思い描き、興味を完全に持って行かれた。

 

「そこの喫茶店で少し休んでいこう」

 

姉の視線にめざとく気付いた弟。

もちろん入る気満々だった姉は快諾し、2名様ご来店。

 

「うっさぎ~うっさぎ~♪」

 

「すみません、空いてますかね」

 

店内はシンプルで落ち着いており、ターゲットは双子のような若者じゃないことがうかがえた。

イメージ的にはダンディーで渋いマスターが黙って注文通りに動くだけの、静かで隠れ家的な喫茶店といったところだろうか。

すわ場違いか?という弟の危惧も杞憂に終わり、予想を360度裏切る幼い少女の声が聞こえた。

正確には180度だがいいたいことは理解してくれたと思う。

 

「いらっしゃいませ。空いてますので席にご案内します」

 

 

内装のシンプルさからは到底考えられないというか、最も遠い存在のひとつだろう。

それは渋い内装のこの店のスタッフとしてはあまりにも幼すぎた。

小さく細く、そして美しかった。

 

それはまるで妖精だった。

 

「…………うさぎがいない!?」

 

しかしうさぎに気を取られていた彼女はその店員に気付かない。

うさぎと戯れながらコーヒーを飲めるものだと信じて疑わなかった彼女にとって、混乱するに充分な理由だった。

 

「(なんだこの客。)うさぎなら一応ここにいます」

 

「……もじゃもじゃ」

 

「アンゴラうさぎっていう品種だよ、姉さん。どうやら店名にラビットと入っているだけでうさぎと戯れられる喫茶店ではないみたいだね」

 

「そんな~……」

 

「なるほど。お客様はウチを猫カフェの亜種だと思われていたのですね……」

 

姉と幼い店員2人同時に説明を果たせた弟は、うなだれる姉をエスコートしてカウンター席に並んで腰を下ろした。

 

「ご注文は」

 

「じゃあ、そのうさぎさん」

 

「非売品です」

 

「せめてモフモフさせて!」

 

どうしてもうさぎを堪能したかった姉が食い下がり、交渉の末コーヒー1杯につき1回モフれることになった。

 

「すみません、店員さん。姉は好奇心が強くって……」

 

「……なにごとにも無関心な人よりいいと思います」

 

「そうなんですよ!好奇心とはつまり探究心。それが強いことも姉さんの魅力の1つなんです。まあ、これは姉さんの魅力のほんの氷山の一角なんですがね!」

 

「(こっちも大概だった……)」

 

 

 

黙ってコーヒーを啜り、かと思えば急に見当違いな品名を答える。

きゃあきゃあと騒ぎながらうさぎをモフモフする双子の姉は、意図せずたった一人でこの喫茶店を賑やかにしていた。

弟にとってはいつもの光景で、店員にとっては異世界の光景だった。

ただ、どちらにとっても眩しいものであることに変わりは無かった。

 

コーヒーを飲み終わりうさぎもモフり終わった彼女は、窓の外をみながらそっと世間話を始める。

 

「私たち、春からこの町の高校に通うの」

 

「はあ」

 

「でも迷子……じゃないけど下宿先がどこかわからなくなっちゃって。香風さんの家って知ってる?」

 

「この近くのはずなんですが」

 

「…………香風はうちです」

 

 

「「え!?」」

 

 

偶然入ったお店が探していた下宿先だった。

双子にとっては嬉しいサプライズだ。

 

しかし店員にとっては微妙だった。

こう、なんというか。

悪い人達ではないのだろうがちょっと変わっているというか。

姉はうるさいし弟はシスコンだし。

端的に言って少し不安。

しかし拒否反応が出るほどでもない。

そんなこころ持ち。

 

「私はチノです。香風智乃。ここのマスターの孫です」

 

「私はココアだよ。保登心愛。よろしくねチノちゃん」

 

「僕はジュン。保登純。これからよろしくね」

 

客と店員の関係から同居人の関係に変わったため、彼の敬語が取れた。

 

「おふたりは双子、ですよね?」

 

髪や瞳の色、顔はもちろんのこと。

身長まで同じの男女がいれば誰だってそう思う。

 

「うん。私がお姉ちゃん!」

 

「僕が弟だよ」

 

元気な姉と静かな弟。

どちらが大人っぽいかというと。

 

「兄と妹の間違いじゃないんですか?」

 

喫茶店の店員改めチノが、つい口が滑らせてしまう。

慌てて口を押さえるチノだが、全く気にした様子のないジュンが口を開く。

 

()()()()()()()

 

「……?」

 

チノはなにもわかっていない。

ジュンの早とちりだ。

 

「戸籍上は僕が兄なんだよ」

 

 

「……え?」

 

チノの理解がまるで追いつかない。

若干無表情気味のその顔に“あなたが何を言っているのかわかりません”と書いてある。

 

 

「つまりね、双子の兄だった僕は姉になりたいと言ってきた妹のために弟になったんだよ」

 

 

 

 

「???????????????」

 

 

 

 

 




ごちうさではココアが最推しです。
三人称にしたけどオリ主の一人称も捨てがたいからそういう回もつくるかも。
ココアかわいい。

オリ主の名前の由来。

ココアパウダーには2種類ある。
調整ココアか純ココアかだ。
前者は砂糖やらなんやらが既に入っており既に甘い。
純ココアは入っていないためまだ苦い。
一見調整ココアの方がごちうさのココアに合っているように思うが、調整は既に甘さが決まってしまっている。成長の余地無し。
純ココアは入れる砂糖などの量によって甘さが自由自在。
また、純ココアの別名はピュア・ココア。
まさにココアちゃん。
よって純→ジュン。


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家族なら普通のこと

家族愛です。信じるかどうかはあなた次第。

よくある本編前の人物紹介

ココア:双子の姉。本当は妹だが姉。他に姉1人と兄2人がいる。弟といっしょに木組みの街の高校に通っている。ブラコンのシスコン。

ジュン:双子の弟。本当は兄だが弟。1つの学年に1つしか無い男子だけのクラスに通っている。いちおう主人公。シスコン。

千夜(ちや):ココアの親友。出会って数週間だが波長がどちゃくそ合う。ジュンとはお友達。たまにドキッとすることはあっても付き合うとかは絶対無い。

チノ:ココアとジュンの下宿先の一人娘。双子から”妹”としてロックオンされているが本人は二人を姉(もしくは兄)と呼ぶ気が(今のところ)ない模様。

ココアのクラスの友人達:出会って3秒で友達がモットーのココアは既にクラス全員と友達だがとくに仲の良い7人のこと。千夜は親友枠なので除く。※それぞれ名前はあるけど知らない人には逆にわかりにくそうだしあんまり出さない予定。




きゃあきゃあと、観客の少女達の歓声が響くとある高校の体育館。

現在時刻、午後12時50分。

昼休み終盤。

本来静まりかえっているはずのここでは、男子の体育の授業の延長戦が行われていた。

 

「リバウンドォッ!」

 

リングに弾かれたバスケットボールが落下する。

それに食らいつく2つの人影。

緑のゼッケンを着たディフェンスと、赤のゼッケンを着たオフェンスの生徒だ。

ディフェンス側(緑)の男子生徒がなんとかボールをキープするが、オフェンスチーム(赤)に取り囲まれてしまう。

 

「ジュン、こっちだ!」

 

鋭い呼び声に応えるような、切れのあるパスが回された。

そのまま反対側のゴールに運ばれるボール。

緑チームが攻撃に回ったのだ。

現在2点差で赤優勢。

しかし、反撃のチャンスである攻守逆転に浮き足だったのかパスが上手く回らずに、緑のボール保持者がバスケ経験者の赤に捕まってしまう。

足下にはちょうど3ポイントのラインが引かれている。

やけくそ気味に放たれたシュートは、案の定外れた。

シュートを打った彼は運動が出来ることに定評があるが未経験者。

流石に無理があった。

 

再び始まるゴール下の攻防。

緑も赤も入り乱れてボールを取り合いシュートを打ちパスを回しパスカットが横行する。

完全な乱戦である。

本来の競技バスケならポジションがきめられているためこのような団子状態にはならないが、体育の授業にそんなものはないため沢山の生徒がボールに吸い寄せられる。

 

そしてその乱戦の中、最終的にゴールの真下にいた緑チームの生徒にボールが渡る。

経験者なら絶好のシュートチャンスだが、未経験者の彼には難しい角度だ。

迫る赤チーム。

焦る男子生徒。

そのとき彼の視界に一本の線が見えた。

たまたま通っただけだが、それでも彼にとっては救世主のごときパスライン。

そこに夢中で投げられたボールは、センターラインを踏み越えてやってきたジュンの手の中に収まる。

 

点差は2点。

このまま緑チームがシュートまでつないでゴールを決められれば引き分け。

決められなければ赤の勝ち。

意を決してドリブルを開始したジュンの前に赤のバスケ経験者が立ち塞がる。

もうだめだ。

緑チームも観客の少女達もみなそう思った。

ジュン本人でさえそう思った。

 

 

しかし、ただ一人例外がいた。

 

「ジュンくーん!頑張ってー!!」

 

 

ジュンの双子の姉、保登ココアの声援が響く。

 

 

瞬間

 

 

 

既に赤チームの経験者を抜いていたジュンが空中にいた。

超速ドライブからの3ポイントシュート。

人間の意識の空隙を突いたその動きは、その場にいたほぼすべての人間にとってまるで瞬間移動であった。

 

 

 

 

ふわっ

 

 

 

 

 

と。

ボールが綺麗に放物線を描いた。

 

 

静寂の中、ボールがネットを貫いた音が体育館に響く。

観客の少女達の黄色い声が最高潮に達した。

 

 

 

◇◇

 

 

 

五限目は担当教師がお休みのため自習時間。

それを良いことに、友達どうしで集り各地でお喋りが始まっていた。

 

「今日の昼休み、最高に熱かったな!」

「あれココアの双子の弟なんでしょ?」

「そっくりだったね」

「かっこよかった~」

 

彼女たちの話題は勿論昼休みの男子バスケである。

年頃の乙女の関心を引く出来事としては充分だろう。

その証拠に、彼女たちだけで無く教室のほぼすべての女子生徒達がその話をしている。

 

「ジュンくんはなんでもできるんだよ! 自慢の弟なの。凄いでしょ」

 

我が子とのように誇らしげにふんぞり返っているのは保登心愛(ココア)

保登(ジュン)の双子の姉である。

戸籍上は妹なのだが、幼い彼女の「お姉ちゃんになりたい」という願いを叶えるためにジュンが自ら弟になったのだ。

それ以来彼女たちの中で兄・妹が姉・弟の関係になったのだ。

しかし、ココアはうっかりミスやポンコツなところが多々ありそのフォローをするのがジュンなのだ。

また、理系科目以外が壊滅的で運動も苦手なココアと比べてジュンは文武両道スポーツ万能で基本的に隙が無い。

そのため端から見たらジュンが兄に見えてしまう。

今もふんぞり返っているその姿から、ほのかにポンコツ臭を漂わせていた。

 

「千夜も仲いいんでしょ?羨ましいなあ……あ、そうだ。紹介してよ」

「そんな、確かにココアちゃんと3人で一緒に帰ったり交流はあるけど……。まだ知り合って数週間よ?そんな、紹介できるような深い仲じゃ……」

「いいじゃんいいじゃん。話だけでもさあ」

 

「ダメー!!」

 

友人たちの会話に割って入ったのは勿論ココアだ。

 

「私の弟とっちゃダメー! ジュンくんは私の弟なの!」

 

「いや……、私たちは別に姉の座が欲しいわけじゃないんだけど」

「むしろココアのことは義お姉さま(おねえさま)と呼ばせていただきたくですね?」

 

「お姉さま!? あたしの妹になりたいんだね! いいよ!」

 

「「「「「「「「(明らかに姉の意味が違う)」」」」」」」」

 

言葉は通じるのに話が噛み合わないとはこのことか。

そう感じた友人達だった。

 

「まあ、おバカは置いといて。千夜はどう思ってんの?」

「どう?」

「彼のこと好きかどうか、てことじゃないかな」

「確かに気になる」

 

突然おばか呼ばわりされて騒ぎ始めたココアを無視して、千夜に探りが入る。

 

「た、たしかにジュンくんは格好いい男の子だと思うけど……」

「けど?」

 

 

「言いにくいんだけど、その、ね? ……ちょっとユニークよね。例えばココアちゃん関連のこととか」

 

 

「「「「「「「あー」」」」」」」

 

 

保登(ジュン)は文武両道スポーツ万能で()()()()隙が無い。

だが例外として、唯一にして最大の欠点があった。

度が過ぎた超ドシスコンなのである。

 

数の上では1つだけだが、彼と共にいるといたるところでそのシスコンっぷりを見せつけられるので正直すべてのプラス要素を打ち消しているように感じる。

ジュンはそういう残念な人間なのだ。

 

「結局、遠くからみてきゃーきゃー言っとくだけの距離感が一番ってわけか」

「富士山と同じだね」

「遠くから見れば綺麗だけど実際に登ってみるとゴミの山ってやつ?」

「なるほどねえ」

 

散々な良いようである。

この言い草にココアが少し怒り、みんなすぐに謝った。

ココアは怒ってもまったく怖くないのだが、なんとなく子供を泣かせてしまったような後味の悪さがあるので大抵の人は彼女をなだめるように謝罪することになるのだ。

 

「でも学校外の弟くんの様子は気になるねえ」

「たしかに。聞かせて聞かせて~」

「お得意の弟自慢よろしくう!」

 

大好きな弟が人気なのが嬉しいココアは、先程の軽い怒りもすっかり忘れて弟との普段の様子を語りだした。

 

「えっとね、昨日の夕飯はデミグラスハンバーグだったんだけど」

「ふんふん」

「おしゃれだねえ」

「ジュンくんが作ってくれたの」

「まじか!」

「料理も作れるなんて、やるじゃん」

「でもチノちゃん、私の妹なんだけどね。その子がにんじん嫌いなの。だからチノちゃんのお皿だけにんじんが乗ってなかったの。お姉ちゃんとして「好き嫌いはいけないよ」って言ったんだけど、そしたらジュンくんが「わからないようにハンバーグに入れてあるから大丈夫。まずは成功体験を得てから徐々に克服していこう」ってチノちゃんに言ったの」

「なるほど。“にんじんを食べた”という結果をまず作る作戦か」

「それで徐々に苦手意識をなくしていく、てこと?」

「へー、よく分からん。上手くいくの?」

「ジュンくんが立てた作戦だからきっと成功するよ。実は私も昔は好き嫌いちょっとだけあったんだけどジュンくんに直してもらったの」

「へえ」

「実績があるってわけだ」

「そこから成長の話になってね、今度チノちゃんのブラを3人で買いに行くことになったの」

「ふーん……、ん?」

「「「は?」」」

「「「え?」」」

 

相づちを打っていた友人は勿論、静かに話を聞いていた友人達まで驚きの声をあげる。

 

「………ねえココア。参考までにききたいんだけど、そのチノちゃんって幾つ?」

「チノちゃん?中学2年生だけど?」

 

ドン引きする一同。

それもそのはず。

女子中学生のブラを一緒に選びに行く高校生男子などただの変態だ。

 

「中学2年生の下着を買いに行くのに男同伴はないよ……」

「え、でも私たちもう家族だし」

「いやいや、家族だからって普通男とブラジャー買いに行かないでしょ」

「えー、家族なら普通だよ」

「家族って、一緒に買いにいったのは小さいときの話でしょ」

「え?今も一緒に行ってるよ?」

 

その時クラス中の空気が凍り付いた。

いつの間にかクラスの全員が聞き耳を立てており、保登家の特殊ぶりにドン引きした。

 

「え、なにその反応……。お姉ちゃんもお兄ちゃんたちのパンツ買ってくるし、私もジュンくんのパンツ一緒に買いに行ったり私だけで買いに行ったりするよ?」

 

「ええ……」

「家庭によっては女が男のパンツ買ってくることはあっても、男が女の下着買いにはいかんでしょ」

「ていうかココアは恥ずかしくないのかよ」

「全然?むしろ選んでもらえてうれしいよ。それに、ジュンくんがいないと試着しないとサイズわかんなくて時間かかっちゃうんだよね」

「えっと?すまん誰か解説してくれ」

「目視だけでココアにぴったりなブラのサイズを見分けられるってこと?」

「そうとうの手練れだね……」

「弟はおまえの胸のサイズを把握しているのか!?」

 

 

「──うん。その、ね? 実は毎日お風呂でバストアップマッサージしてもらってるの」

 

 

『誰に?』とは聞くまでもないだろう。

先ほどのブラを一緒に買いに行く云々の爆弾が霞むような超弩級の爆弾が降ってきた。

しかも先ほどのブラとは違うココアの表情の変化がそのヤバさに拍車をかけている。

頬に朱が差し視線は逸らされ、どことなく女を漂わせている。

いや、クラスではいつもみんなの妹ポジションだからそのギャップで勘ぐってしまっているだけで実際はただの気のせい! なはず!!!

寒気とともにそう願うクラスメイト一同だった。

 

「……おい、親友のおまえからもなんか言ってやれよ」

「そうだよ。親友でしょ」

「この闇に踏み込む勇気はないけどちょっと気になるのも事実」

 

肉親での禁断の愛(かもしれない?)に寒気4割の年頃少女たち。

残り6割の無責任な好奇心で千夜をけしかけようとする。

たしかに千夜は希に無遠慮な発言もする。

しかし彼女とて10代の小娘。

さすがにこのブラックボックスは荷が重すぎた。

 

「でもほら、効果は確かみたいよ……?」

 

結局曖昧な言葉でお茶を濁した。

しかし、あながち的外れの発言でも無い。

クラスメイトたちの視線が集中したその先では、平均よりだいぶ大きい確かな膨らみがあった。

メタ的なことを言えば原作の1.3倍で、隠れ巨乳ではなく普通に巨乳だった。

 

「ね? ジュンくんはココアちゃんのために純粋な気持ちでやってるだけだと思うの」

 

純粋ならいいのか。

そう突っ込みたい友人達だったが当の本人がまんざらでもなさそうだし野暮なのかいやだからこそ倫理的に止めるべきだろうと心の中で葛藤が繰り広げられる。

 

「姉さん。朝話してた現代文の教科書を持ってきたよ」

「あ! ありがとねジュンくん」

 

 

 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

 

 

突如現れた話題の人物に驚く彼女たち。

なんで違うクラスのはずの彼がこんなところにいるのか。

その疑問はすぐに解消されることになる。

 

「姉さんのクラスはさっきまで自習だったんだね。姉さんの綺麗な声が廊下まで届いてたよ。それと顔が赤いみたいだけど大丈夫?」

「だいじょうぶだいじょうぶ。なんでもないから」

 

時計を見ると五限目が終わって、次の授業に備えるための小休憩タイムになっていた。

ちなみにココアの声はそこまで大きくなかった。

ジュンの耳がココアの声だけ無駄にしっかりと拾っていただけだ。

 

「どうも、初めまして。このクラスの委員長です。クラスを代表してあなたに聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「姉さんがいつもお世話になっています。双子の弟のジュンです。なんでしょうか?」

 

クラスの女生徒全委員が固唾をのんで見守る中、委員長が切り出す。

 

「ココアと毎晩一緒にお風呂に入って胸を揉んでるって本当ですか……?」

「まあ、はい」

 

瞬間、金切り声が教室のそこかしこで上がった。

年頃の少女達にとっては大スクープだ。

特にジュンに淡い思いを寄せていた数人にはショックが大きすぎた。

 

「しかしその言い方は語弊があります。バストアップマッサージと言って欲しいです」

 

そんなことは少女達にとって些事だ。

どちらでもあまりかわらない。

 

「なにをそんなに……。家族なら普通のことですよ?」

「いやいやいや」

「うちにも兄がいるけど想像しただけで寒気するわ」

「弟いるけどありえない……」

 

様々な否定の言葉が上がるが……

 

「そうなんですか……。家族仲がよくない方も以外と多いんですね。あ、すみません、いきなり失礼でしたね」

 

ここまで素で言われると、もはや誰も言い返せない。

 

「まあ、あんたらの仲が良いのはわかったけどさ。きっかけとかあんの?」

「マッサージのきっかけですか?姉さんが小学校高学年くらいのときにテレビでやっていたバストアップマッサージに興味を示したんです。それで僕も軽く調べてみたら、効果が無いどころか逆に小さくなったという実例もあるみたいなんですよ。あとはホルモンバランスが崩れて体調が悪くなったりなどの実例も。これは半端な知識でやったら不味いと思った僕は知り合いの医師などを総当たりして正しい知識をかき集めたんですよ」

「お、おう」

「なぜそこでベストを尽くしてしまったのか……」

「姉さんのためです。当然でしょう」

「も、もうその辺でおしまい~ッ!」

 

後ろでもじもじしながら黙って聞いていたがココアがストップをかけた。

恥ずかしさが限界を超えたようだ。

ココアに止められればジュンはもうテコでも続きを話さない。

そのことを理解している委員長たちは、もっと深掘りしたい気持ちを断念した。

 

「じゃあそろそろ次の授業が始まるから戻るね、姉さん。体調には気をつけて少しでも気分が悪くなったらすぐに保健室に行ってね? なんなら僕を呼んでくれれば飛んでいくし。では失礼しますみなさん」

 

すっかり話し込んでしまったようで、あと数分で6限が始まってしまうような時間であった。

各々が席に戻っていくが、ココアの席の近くの友人達はまだまだ話したりないようだ。

席に座りながらも目線と話題がココアに集まる。

 

「あの様子だとマッサージだけじゃ無いでしょ。他になにやってもらってるの?」

「そ、そんなには無いよ!? 確かにこっち来てからはお料理とかも任せちゃってるけど……」

「おまえ……。それでいいのか姉として」

「で、でも弟をこき使うのも姉らしいと言えば姉らしいんじゃないかしら」

「んー、まあそうなのか?」

「千夜の言うことも一理ある」

「ちがーう! 私はそんな悪いお姉ちゃんじゃないから! でも『みんなに僕の姉だと自慢できる最高の姉さんでいて欲しいから』って言われるとつい押し切られちゃって、気がついたら色々やってもらってるの……」

「姉扱いに弱いからなー、ココアは」

「でもそれ以上に私もお姉ちゃんとして色々してるから!」

「へー」

「例えば?」

「た、例えば……そう! 甘やかしたり! 落ち込んでるときや疲れてるときによしよししてあげたり、あとは理系の宿題でわからないところを教えてあげたり。ちゃんと姉らしいことたくさんしてるから!」

 

普段の様子からは想像出来ないが、実際にココアはここぞというときに姉力を発揮している。

原作でのココアはまだ姉初心者だった。

しかしここでのココアは姉玄人。

まあ、ポンコツなことに変わりは無いため空回ることも多いのだが。

それでも姉としての実績がある。

 

「でも下宿先のチノって子には姉として認められてないんだろ?」

「いつか認めさせてみせるよ!」

 

ふんすっ!

と鼻息も荒く宣言するココアをみて「ダメそうだな……」と察するクラスメイト達。

 

「ココアちゃんならきっと出来るわ」

 

しかし千夜だけは静かにそう呟いたのだった。

 

 

 

 




一巻でココアとチノちゃんの好き嫌いの話があった気がしたんですね。
ググったんですがwikiにもどこにも書いてなかったので段ボールから原作引っ張り出してきたんですね。
そしたら
ココア「チノちゃん、好き嫌いはダメだよ」
チノちゃん「ココアさんの分のアスパラがない!?」
みたいなシーンがあったのでたぶん二人ともアスパラが嫌い。
けど明言はされていない。
あとチノちゃんはにんじんが嫌い。
シチューの具をココアに訊かれたときに「にんじん以外を答えよう」と思考してました。
また、ココアとチノちゃんが共に好き嫌いを克服しようとして相手の嫌いなモノを用意したときに、ココアはチノに”セロリ”を、チノはココアに”トマトジュース”を渡したんですね。互いにそれを食べて(飲んで)ぶっ倒れたので嫌いなんでしょうが、ココアは”トマト”自体がダメなのか”トマトジュース”だけだめなのかが曖昧です。
おそらくトマトジュースが嫌いだと思うんですがどうでしょう。
餡子が空から降ってくる話で、ココアが「自分で作った」と言った弁当にミニトマトらしきものが入っているんですね。
まあ、嫌いな人に聞くと「ミニトマトとトマトは別物!」て言うんですが。

不定期更新ですがよければ高評価とかもお願いします。
ここ好きとかも待ってます。


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家族と友人

前話までとの齟齬があれば感想とかで指摘してくれると嬉しいです。


とある日の朝。

いつものようにジュンが朝食を準備する前のティー(麦茶)タイムを楽しんでいた。

そこに珍しくチノが顔を出す。

確かにチノはいつも早起きだが、ジュンが来てからは朝食ができるのと同時くらいに起きてくるのだ。

 

「おはようチノ。早いね、どうしたの?」

「おはようございます、ジュンさん。ちょっとご相談がありまして」

 

チノの顔に寝不足などの症状は見られない。

ジュンは、チノの相談事があまり深刻なモノではないと理解する。

 

「そろそろ“お兄ちゃん”と呼んで欲しいな」

「……その、私っていま成長期じゃないですか」

「(未だに兄として認められていない? いや、口下手で人見知りなチノが真っ先に頼ってくれている。これはけっこう良いところまで来てるのでは? )そうだね」

「ですから、えっと……」

「(ほう? 言いにくそうだ。「成長期」「中学生」「女の子」。ここから導き出される結論は……)なるほど、だいたいわかったよ」

 

ジュンには姉が2人いる。そのためデリカシーの大切さをよく理解している。

女の子の前であまり直接的な表現は好まれない場合がある。

そのためチノが“身長”を気にしているにもかかわらず、ジュンは彼女が“胸の大きさ”を気にしていると判断したためすれ違いが起きることになる。

 

「ほんとですか!? 相談してよかったです」

「ははは、まだ気が早いよチノ。そうだね、軽々しく「気にすることは無い」なんて僕は言わない。男と女では色々と違うけど、家族として、兄として、全力でチノの期待に応えるから安心して相談して欲しい」

「ありがとうございます」

 

チノは目をきらきらさせてジュンを見ている。

実際、チノはジュンを兄のような人だと思っている。

しかし双子の弟であるジュンを兄と認めれば双子の姉であるココアも自動的に姉になってしまう。

それがなんとなくしゃくというか、認めたくないというか。

ココアのことは別に嫌いじゃ無いけれど、チノ自身と違いすぎて苦手意識……とまでいかずとも理解できない点が多々ある。

それがチノに、ジュンを「お兄ちゃん」と呼ばせることをためらわせている。

 

「大きくするには(女性)ホルモンが重要らしいよ」

「聞いたことがあります。睡眠が大事だとか」

「(睡眠?それは成長ホルモンだと思うけど。まあ、確かにストレスは女性ホルモン分泌の大敵だし快適な睡眠も必要か……。)まあ、そうだね。睡眠も大事だね。睡眠と言えばレム睡眠とノンレム睡眠があるのは知っているかな」

「深い眠りと浅い眠り、ですよね」

「そそ。レム睡眠のレムはrapid(ラピッド) eye(アイ) movement(ムーブメント)の略で、人間が浅い眠りの時に兎のように跳ね回る眼球運動からきているんだ。僕やチノだってレム睡眠の時はそうなっているんだよ」

 

〈big〉「目玉が跳ね回るんですか!? スーパーボールみたいに!!?」〈/big〉

 

「え、ああ違うんだ。目玉自体が動くんじゃ無くて黒目が動くだけ……。跳ねるスーパーボールを目で追うと、黒目が上を向いたり下を向いたりするだろう?それが高速で起こるんだ。」

「な、なるほど」

 

ホッ、と息を吐くチノ。

知らない間に目玉がバウンドしてると思って焦ったのだ。

そんな彼女を見て、かわいらしいなあと改めて思うジュン。

 

「そのレム睡眠はいわゆる浅い眠りというやつで、ストレスを緩和しづらい。ノンレム睡眠、いわゆる深い眠りの方がストレスを緩和できるって聞いたことがある」

「じゃあ、深く眠ればいいんですね」

「ああ。寝具が身体に合わなかったり騒音があったりと、寝室環境が整っていないと眠りが浅くなってしまうらしい。あと」

「あと?」

 

 

「カフェインが駄目らしい」

「喫茶店なのに!?」

 

 

コーヒーや紅茶、他にもウーロン茶やコーラなど様々なものに入っているカフェイン。

だが、コーヒーのカフェインは紅茶の2倍と言われており、“コーヒーといえばカフェイン”というイメージも一定数あるほどのだ。

 

「す、睡眠前の4時間の間に飲まなければ大丈夫らしいよ」

「ほっ。そうなんですね」

 

「僕はココア姉さんの成長にも尽力したから、実績があるんだ。期待してくれていいよ。他にもマッサージとかを組み合わせれば効果抜群さ」

「……ココアさん?」

 

ココアは高校生としては普通の身長であったはず。

少し引っかかったチノだが、彼女もチノよりは背が高いため会話をぶった切るほどの違和感では無かった。

 

「そういえば、ジュンさんは以前に「姉さんより大きくなりたくないから夜更かしをして身長を止めている」と言ってましたが、やっぱり伸ばしておけばよかったと思ったことはないのでしょうか」

「え……、ああ。身長の話?」

「……? ずっと身長の話をしてたじゃないですか」

 

ここでジュンが勘違いに気付く。

しかしそれと同時にまだ修正可能なことにも気付く。

成長ホルモンだろうと女性ホルモンだろうとストレス緩和と睡眠が大事なことに変わりは無いのだ。

 

「そうだったね、ごめんごめん。ちょっと今一瞬ぼーっとしてたよ」

 

「おはよー。なになに? なんの話?」

 

そのときココアが起きてきた。

寝起きでまだパジャマを着ている。

 

「別に、なんでもありません」

「おはよう、姉さん。成長には睡眠が大事だなって話だよ」

 

「成長……ホルモン……」

 

そのときチノの視線がココアの大きな膨らみに吸い寄せられる。

着痩せするタイプのココアは、制服などのきっちりした衣装だと胸もそれほど目立たない。

しかし今はパジャマ姿の、それも寝起きだ。

少々乱れたパジャマの胸元を大きく盛り上げるココアの隠れ巨乳がその存在感をあらわにしていた。

 

「……!!?」

 

瞬間湯沸かし器のような勢いで沸騰したチノ。

『僕はココア姉さんの成長にも尽力したから、実績があるんだ』

『え……、ああ。身長の話?』

今までのすれ違いに気付いてしまったのだ。

 

「ジュジュジュジュンさん!!!!」

「ごめんなさいごめんなさい僕の勘違いでした!」

 

気付かれたことに気付いたジュンが速効謝罪する。

ジュンはチノのことを家族と思っているしそもそも家族の距離感がバグっているためなんの疑いも無くチノが胸の話をし出したと思っていた。

しかしチノは“兄みたい”とは思っていても本当の兄とまではまだ思っていない。

年頃の娘が異性に胸の話をされていたのだ。

顔が真っ赤になるのも仕方が無い。

 

「でも僕には実績がるあるから! チノがいずれ僕たちを正式なきょうだいと認めてくれた暁には全身全霊をこめてチノの発育をサポートするよ! ちなみに取りかかるのは早ければ早いほどいいよ」

「ダメー! よくわかんないけどチノちゃんが大きくなっちゃったらもふもふできなくなっちゃう!」

「そのぶん姉さんも大きくなれば問題無いよ!」

「た、たしかに!!」

「もうめちゃくちゃです……」

 

小さくあきれたように呟いたチノは、しかし1つ気になっていることがあった。

 

「と、ところでその……。大きく()()には、具体的にどんなことをやってくれるのでしょうか」

 

大きくなる、ではなく大きくする。

そのニュアンスの違いを察したジュンが答える。

 

「まず女性ホルモンを把握・管理するよ。女性ホルモンには2種類あって、どちらもバランス良く分泌させないといけないからね。あとはバストアップマッサージを毎日「ストップです!! もういいです!」

 

いくら兄のように慕っているとはいえ男性に自分の女性ホルモン状態を完全に把握されるなんて。

それだけでも恥ずかしすぎて死にそうなのにバストアップマッサージってつまりそれは胸を毎日揉まれるということで……。

想像しただけで羞恥心が無限に湧き出して茹で上がり、煙を噴いてしまった。

 

「まだ兄と認められていないんだね……。僕がんばるよ」

「私もお姉ちゃんと呼んでもらえるように頑張るよ!」

 

この言葉を聞いて「そういう問題じゃ無い」とか「ああ、価値観が違うな」とか、茹だった頭でいろいろ思うチノであった。

 

 

◇◇

 

 

放課後

 

今日はラビットハウスが休みだ。

そのためココアはチノと一緒に下着を買いに行った。

チノは中学生なので高校生より帰宅が早い。

そんなチノを待たせないためにココアはダッシュで香風家に帰ってしまったのだ。

 

つまり、今日の帰宅は途中までジュンと千夜の二人きりなのである。

ちなみに前話で「チノのブラを3人で買いに行くことになった」というのはココアとジュンで軽く決めたことであり、今朝チノに確認を取ったら「そんなデリカシーの無い人だったなんて、失望しました」と言われてジュンが大変な騒ぎになったのはまた別の話。

 

千夜は二人きりというシチュエーションに緊張していた。

ジュンを変に意識してしまっているのだ。

それも先程のクラスメイト達との会話のせいである。

 

『ちーやー!』

『聞いたぜえ。ココアの弟と二人っきりで帰るそうだなあw』

『前にも言ったでしょう?ジュンくんとは本当になんにもないって……』

『今は無くてもこれから芽生えるかもでしょお?』

『若い男女が二人きり。やることは1つだねえ』

『きゃー!いいな~羨ましいな~!』

『……もう』

 

年頃の少女達にとって恋バナは大好物。

例え本人が否定してても、周囲的には楽しく騒げれば関係ない。

千夜も他人の恋バナは好きなもので、文句らしい文句も言えずにいた。

 

千夜はその場では「なにを言ってるんだか」という反応だったが、いざ実際に二人きりになると緊張してきた。

彼女とて年頃の女の子なのだ。

いつか自分の家でもある喫茶店甘兎庵(あまうさあん)を全国展開するためにも今は恋愛をする気は無いが、同い年の男子(イケメン)と二人きりで下校していればドキドキくらいする。

 

「千夜さんはいつもいつも、凄いですね」

「へ?」

 

急な褒め言葉に思わず素で聞き返してしまった千夜。

 

「ああ、すみません急に」

 

ジュンは呆ける千夜に謝罪し、歩きながら言葉を続ける。

 

「将来の夢が明確で、甘兎庵でもバイトリーダー兼看板娘として毎日頑張っていて、しっかりしていて、努力家で……。ほんと尊敬してます」

「そんなことないわ。お仕事は楽しいし、それに努力ならジュンくんの方がよっぽどじゃないかしら」

 

特にココアちゃんのことに関して、と続ける千夜。

 

「僕のは努力って言うより気がついたら身体が動いてるだけだしなあ。姉さんのことが好きすぎて」

「私もよ? 身体が勝手に動くの。甘兎庵が好きだから」

「そんなものですか」

「そんなものよ」

「ははは。じゃあ僕たちおんなじですね」

「ふふふ。そうね」

 

案外自然に話せてほっとする千夜。

やはり彼とはそんな関係ではないのだと自信?を取り戻した。

しかし千夜には1つ気になることが出来た。

いい加減に敬語とさん付けを辞めて欲しいのだ。

 

「ねえジュンくん。さっきから思ってたんだけどいつまで敬語とさん付けを続けるの?」

「あ、えと、すみません。実は家族以外の女性にはあまり親しい方がいなくて……。距離感おかしかったですよね。すみません」

 

頬を染めながら2回も申し訳なさそうに謝った。

同年代の女子からキャーキャー騒がれているし普段のココアとのやりとりを聞いて勝手に女性なれしていると思っていたが、むしろ初心(うぶ)だった。

 

「(……可愛い)」

「な、なんですかその優しげな目は……!」

「敬語♡」

「あ、その目で見るの辞めて、くれ……」

 

赤くなった顔を腕で隠すジュンにキュンときた千夜。

まだ辿々しいタメ語も合わさり彼女の琴線に軽く触れたのだ。

 

「あ、そういえばこの前姉さんが──」

 

突然、何の脈絡も無く始まるココアトーク。

その姿を双子の姉に重ねる。

 

『あ、そういえばこの前ジュンくんがね──』

『急に話が変わったわね』

 

やっぱりこの男の子は、私の親友の双子なんだなあ。

そう思うと、さきほどのような男女のドキドキよりも、ほっこりした微笑ましい気持ちで一杯になった千夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

なお、愛が重かったのか単純に話の量が多かったのか。

別れ際には少し頬が引きつっている千夜がいたらしい。

 

 




感想・ここすき・高評価くれるととても感謝します。モチベも上がります。お願いします!


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サブタイが思いつかないくらい(彼らにとって)平凡な日常

サブタイが!うまく付けられない!
誰かいい感じのサブタイ思い浮かんだら感想か何かで教えてくだちい……。
良いかも! って思ったら採用させていただくかもしれません。

単行本の最初によくある人物紹介

ジュン
ココアのことを最高の姉だと心から思っているため、彼女の発言には基本的に肯定で返す。口癖は「さすが姉さん」。

ココア
ジュンの双子の姉(戸籍上は妹)。長女のモカに憧れて“よい姉”を目指している。ピンときた人間を妹(弟)にしたがる。全然関係ないけど女の子にも性欲はあるよね。関係ないけど。


「ふんふふふ~ん♪」

 

喫茶店ラビットハウスの2階。

小綺麗な部屋の中には、ベッドに転がり漫画を読んでいるココアがいた。

そして、部屋の主であるジュンは床に座り、ベッド側面に腰掛けて別の漫画を読んでいた。

 

『妹はいいものだ』『姉妹サンド』

 

どちらもきょうだい愛をテーマにした名著であり、彼等の愛読書である。

 

1人で静かに過ごすのが性に合わないココアは、よくジュンの部屋に遊びに来る。

今回は漫画を読んでいるため比較的静かな彼女だが、どうやら読んでいる漫画で気になったことがあったらしい。

顔を上げてジュンに話しかける。

 

「ねえ、このシーンなんだけどさ」

「?」

 

彼が愛読書を丁寧に閉じて振り返ると、そこには“ソファーに座った妹が、目の前の床に座ってテレビを見ている兄の両肩に足を置いているシーン”があった。

家庭によっては兄妹に限らず家族間でよくある光景だ。

同じ空間で暮らしていると相手が邪魔で足を上に置いたり、邪魔ではなくても寝転がっている家族の上になんとなく座ったり。

 

「それがどうかしたの?」

「これ、きょうだいっぽいと思わない?」

 

たしかに友達でもこんなことは滅多にしないだろう。

 

「まあ、きょうだいっぽいけど……」

「チノちゃんとやったら距離縮まるかなと思って」

 

つまり、彼女はチノに「私を踏んでくれ」と言おうとしているのだ。

 

「うーん、そういうのは自然にやるものであって、「やって欲しい」って言ってやるものじゃないと思うよ? それはただ“足蹴にされて喜ぶ変態”になっちゃうんじゃないかな」

「は!? た、たしかに……」

 

ココアは、チノにドン引きされる自分の姿が容易に想像出来た。

 

「でもいい着眼点だと思うよ。チノは素直じゃないから口ではなかなか認めないだろうけど、内心で姉だと認めてくれたら自然とそういうスキンシップをしてくるんじゃないかな。それを1つの目標にするのもいいかもしれないね」

「私を姉だと認めてくれたらしてくれるの?」

「たぶんね」

「……ジュンくん、してくれたことないよね?」

「え……?」

「だから、ジュンくんは私にそういうスキンシップしてくれたこと無いよね。肩に足をかけてきたりとか」

 

それはそうである。

一般的な兄妹なら、例えば兄が寝転んでいる妹の上に座ったりすることもあるだろう。

しかしジュンは重度のシスコンだ。

ココアが嫌がりそうなことはしたくない。

 

「姉さんに足を乗せるなんてとんでもない。大切な姉さんにそんなこと、できるわけがない」

「さっきと言ってること違うよ?」

「じゃあ、姉さんがやって欲しいんならやるよ」

「……さっきと言ってること違うよ?」

 

討論の末、まずはココアがジュンの両肩に足をかけることになった。

ジュンが乗り気ではなかったので、まずココアからやってその後ジュンがやることにしたのだ。

ちょうどベッドの上に転がっていたココアは身体を起こし、これまたちょうどベッドの側面にもたれているジュンを見る。

そのまま彼女は足の間にジュンを入れるように座り直して足を上げ、ジュンの両肩に足をかけた。

 

漫画では床に座っている兄が少し離れていたため、妹は兄の肩に足首をかける形になっていた。

 

しかしジュンはベッドに直接背中が当たっていたため、近すぎて漫画のようにはならなかった。

具体的に言うと足首では無く膝裏がジュンの両肩に乗っかっていた。

 

ジュンの頭の横にある膝までは白いニーハイソックスで覆われている。

足、とくに足の裏は人体の中でも汗腺が集中しており汗をかきやすい。

足の裏から出るその汗は本来なら無臭だ。

しかし靴下などで蒸れると雑菌が繁殖し、臭いの原因の1つとなる。

しかも、足を覆う部分が多いほど通気性が悪くなり雑菌が繁殖しやすい。

 

まあ、ココアの足は良い匂いがしたのだが。

少なくともジュンはそう感じた。

 

「どう? 姉さん」

「えへへー、楽しい♪」

「じゃあしばらくこうしてよっか」

 

ぶらぶらと足を揺らすココア。

その振動も、両肩にかかる足の重みも、楽しげなココアの鼻歌も。

なにもかもが愛おしく思うジュンは、姉の優しく包み込むような匂いにだんだんと意識を薄れさせていく。

この街に来て数週間。

慣れない環境の中で疲れがたまっていたのかもしれない。

 

「(あれ、ジュンくん寝ちゃいそう……? ここはお姉ちゃんとして子守歌を歌ってあげよう)ねんねんころーりよーこおろりーよお~

「……んぅ……心す……匂い……」

「……に、臭い!!?」

 

瞬間、ココアが足をがばりと上げてジュンの肩から外す。

いきなりの大声と振動で眠りから覚めたジュンは、目をこすりながらココアに訊ねる。

 

「どうしたの姉さん。急に」

「い、いやあ。なんでもないよ?あははは……」

 

今日一日履いていた白のニーハイソックスを脱ごうとして、しかしなにかに気付いて脱ぐのをやめた。

たしかにニーハイは蒸れて臭いの元になるが、今更脱いでも臭いが拡散するだけだからニーハイで足にフタをしたままのほうがいいと考えたのだ。

 

「今度はジュンくんの番だよ! はやくはやく!」

「あんまり乗り気はしないけど姉さんがして欲しいんならなんでもするよ」

 

さらっと「なんでも」と言ったジュンだが、今更なのでココアにはスルーされた。

ジュンも特に気にすることなくベッドに上がり、下にきたココアの両肩に膝の裏を乗っける。

 

筋肉が少ないからなのかなんなのか、女の子は触ると見た目以上に華奢に感じるため、男は驚くものだ。

昔からココアに触れてきたジュンは今更驚くことこそないものの、華奢な姉に足をのっけていることに僅かな罪悪感を覚えていた。

 

しかし、それだけでは無い。

自室で大好きな姉とスキンシップを取っている。

彼はそんな状況がなんだか嬉しくなってきたのだ。

そして揺れる足。

普段ならそんな行儀の悪いことはしないが今は姉弟水入らずの空間。

リラックスしている彼は無意識にそんなことを行っていた。

本人達は気付いていないが先ほどココアも同じ事をしていた。

まさに双子である。

 

「クンクン……、これがジュンくんの足のにおい」

「ちょっ!?」

 

こんどはジュンが足をはずそうとする。

だが一瞬早くココアにホールドされてしまった。

こうなったら力ずくで──なんてことは彼にはできない。

思いっきり振り払えば、ココアに痛い思いをさせる可能性があったからだ。

彼は足に力を入れるのをやめて、なんとか言葉で説得しようと試みる。

 

「そんなに臭うんなら放して、姉さん。恥ずかしいから。姉さんも嫌でしょ?」

「嫌じゃないよ?ジュンくんくさいだけー!」

「臭いんじゃないか!」

「そういう意味じゃないよ」

「兎に角放してくれない?恥ずかしいから」

「だーめ♡」

 

放すどころか逆に、彼の足がさらに強く抱きしめられた。

 

 

 

むにょん

 

 

 

長い説明は不要。

横乳である。

 

ココアは気付いておらず押しつけたままだが、ジュンは慌てて心頭を滅却しだす。

 

「(落ちつけ、僕。いつも一緒にお風呂に入っているし、医療行為とはいえ生で触っているじゃあないか。この程度なんてことないさ)」

 

大事な姉を邪な目で見たくないと思っている彼は、ココアに関するすべてでオナニーを禁止している。

どころか、勃起することすら許していない。

例え一緒にお風呂に入ろうが、例え胸を生で揉もうが、である。

 

彼とて性欲旺盛な10代男子。

いくら家族といえども女の子の身体に触れて興奮しないはずが無い。

しかし、そのすべてを家族愛で封殺してきたのだ。

 

ところで今は他人の家に下宿中。

そして、今ジュンが使っている部屋には鍵が付いていない。

鍵のあるトイレで抜いたとして、すぐに誰かが入ると大変不味い。

ましてや部屋で堂々とシているところにチノが突撃してきたら大事件である。

 

つまり今の彼には溜まった性欲を処理できる安全な空間すらないのだ。

 

 

なにが言いたいのかというと。

 

 

どんなに我慢強い人間でも限界があるという話だ。

 

 

にょき

 

 

「急に黙ってどうしたの?」

 

心頭滅却に忙しくて急に喋らなくなったジュンを心配して、ココアが彼の顔をのぞき込む。

 

ジュンはベッドの上にいて。

ココアはジュンの足の間にいて。

しかも床に座っており。

後ろ側にジュンがいる。

 

そんなジュンの顔をのぞき込むためにはココアが胸を張るようにして頭部を真後ろに倒す必要がある。

 

 

コツン

 

 

彼女の後頭部がジュンのムスコに当たる。

そしてその刺激で余計に大きくなる。

 

一瞬「?」となっていたココアだが理解して茹で蟹のように真っ赤になった。

全ての元凶たるジュンの足を解放してゆっくりと首を戻し、何事もなかったかのように振る舞おうとするも

 

「ちょ、調子が悪いんならお姉ちゃんに言うんだにょっ」

 

振る舞えなかった。

 

「……ごめん姉さん。ほんっとごめん」

 

顔を羞恥や罪悪感などで真っ赤にしたジュンが謝罪する。

 

「で、でもどっちも触ったわけだからおあいこだよ!」

「た、たしかに!」

 

問題は触ったうんぬんではなく実の姉に勃起したことなのだが、ココアのズレた発言もすかさず肯定するジュン。

 

「それにジュンくんは男の子なんだし、しょうがないよ。よしよし──」

 

そう言って慈愛に満ちた目をしながら彼の頭を撫でるココアの姿はまさしく“姉”。

そんな姉の雰囲気に包まれて、ジュンは照れくさく思いながらも段々と落ち着いていくのであった。

 

 

 

「やっぱり姉さんは世界一の“お姉ちゃん”だね」

「? でっしょー!」

 

ベッドの上まであがってきていたココアの膝に頭を置く。

彼はそのまま、小さな子供が大好きな姉に甘えるように眠ってしまった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「ジュンくん、エクステやってくれないかな」

「姉さんのクラスは今日体育なかったはずだし、いいよ。すぐに食べてとりかかろう」

「ありがと♡」

 

早朝。

香風家のダイニングルームで食事をとりながら会話をする双子。

 

「エクステ……。ご実家からそんなもの持ってきてたんですか」

「チノちゃん知ってるの? 凄いねえ」

「いえ、聞いたことはありますが詳しくは知りません。ウィッグの一種だとか」

 

ヘアーエクステンション。

略してエクステ。

エクステンションとは「延長する」「継ぎ足す」の意で、つまりエクステは自前の髪の毛に後天的にくっつける“付け毛”である。

 

例えば髪の毛が肩までしかない人がいて。

エクステを付ければあっという間にロングヘアーになれるのだ。

前髪や襟足など幾つかの種類があり、ポニーテールやお団子などのパーツもある。

 

ちなみにエクステは地毛につけるものなので、元から髪の毛がない人には使えない。

 

「そして、人間の髪の毛を切って加工した人毛製品と化学繊維製品がある」

「へー」

「へー……て、ココアさんも知らなかったんですか?」

「聞いた気がするけどあんまり覚えてないや」

「流石姉さん。知識マウントをとらない上品な受け答え、勉強になるよ。さっきまでの自分が恥ずかしい」

「その解釈は無理があると思います」

 

急いで朝食を終えた双子はジュンの部屋へ行き、カーペットに座らせる。

位置関係はこの前にやった漫画の真似事スキンシップと同じである。

ジュンがベッドに座りその足の間にココアが腰を下ろしている。

そしてその前には座卓(ざたく)と置き鏡。

 

ジュンはココアの髪に丁寧に櫛を通していく。

間隔の荒いこの櫛は、髪の毛に摩擦や静電気などのダメージを与えにくい。

まずはこれで軽く|梳〈す〉く。

 

「よし、付けるね」

「お願い」

 

ジュンが取りだしたのは()()()()()()()()()()()()()の毛束だった。

それもそのはず。

 

なぜならそのエクステは昔、ココア・ジュン・モカ(2人の姉)の3人が切った髪で作ったものだからだ。

 

 

ウィッグ全般には、人間の髪の毛を切って加工した“人毛製品”と“化学繊維製品”がある。

つまり、量と長ささえあれば誰だって自分の髪をエクステに加工して貰えるのだ。

 

姉の髪を傷つけないよう真剣にエクステを付けていく。

 

彼は姉の髪を弄るのが好きだ。

その髪はぱっと見茶色であり、周囲の人も大抵が茶色(そう)だと思っている。

だがよくみると濃いめのストロベリーブロンドであり、そこから立ち上るのはほのかな甘い匂い。

この匂いを嗅ぎたいがために、思わず髪の毛を下からすくい上げて顔を(うず)めたくなる。

そう考えてしまう彼を責めることが誰にできようか。

 

 

彼女は弟に髪を弄られるのが好きだ。

なにが楽しいのか、まるで視力検査のようにじっくりと髪を見つめてくる弟が可愛いからだ。

その上髪の扱いがとても丁寧で、自分のことを大切に思ってくれていると毎秒実感できる。

本来なら姉として弟の世話になるのは不本意なことだ。(端から見たらなにを今更と思うかも知れないが本人の矜持の問題なのでスルーして欲しい。)

しかしこの時間だけは特別だ。

彼のその手つきが自分に「愛おしい」と語りかけてきて、そんな彼自身を愛おしいと感じる心地よさ。

彼女にとってこればかりは、この心地よさにだけは抗うことが出来ない。

 

相手に足を乗せるよりも、相手の上に座るよりも繊細で真剣な、愛に溢れたこの双子らしいスキンシップである。

 

「よし、良い感じに出来た」

 

ジュンはココアに襟足のエクステを付け終わり、それを専用の櫛で地毛となじませた。

 

2人にとっての至福の時間が終わった。

そこで何気なく視界に入った時計に目を向けると、遅刻寸前の時間であった。

 

「うわ、もうこんな時間だ!」

「え!? ほんとだ急がなきゃ!」

 

ガタガタと音を立てながら慌てて荷物を手に取り、忘れ物が無いかチェックする2人。

 

「そういえば今日は少し肌寒いらしいよ」

「ジャージ羽織ってるから大丈夫だよ」

 

そう言って先に部屋を出て行ったココアは確かにジャージを羽織っていた。

男物の。

 

「(それ僕のなんだけど……)」

 

一分一秒が惜しいこの時に、わざわざココアの部屋にジャージを取りに行く余裕はない。

冷静にそう判断したジュンは、姉のどことなく嬉しそうな顔を思い出して「まあいいや」となるのだった。

 

 

 

 




チノ「そういえば、お風呂の後に鍵をかけてしばらく自室に籠もるのが日課みたいですが……。いつもなにをやっているんですか?」

ココア「え!?ななな、なにもやってないよ?///」

チノ「どうしてジュンさんの方を向いてもじもじしているのですか?あ、ところでゴミを出すときに毎度ウエットティッシュが山のようだと父が──」

ココア「私暑がりなんだよね!///」



『妹はいいものだ』『姉妹サンド』
内村かなめ先生の作品で、どちらも実在します。


感想、高評価、ここ好き等よろしくお願いします!


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頼りになるお姉ちゃん

それでは健全なお話しをお楽しみください。


少女が足を開き、仰向けに寝転がる少年の上に乗っていた。

 

「ごめん、姉さん……。服……汚し、ちゃって……」

 

「ううん、大丈夫」

 

「でも、臭いとか……。ハア、ハア」

 

「大丈夫だって」

 

少年の言うとおり、少女の服には少年の体液が付着していた。

先程までの激しい上下運動のさらに直前に原因があるのだが、今は置いておく。

身体を上下に動かしていたのは少年のみで、少女はその上にまたがって座っていたにすぎない。

そのため息の上がっている少年とはウラハラに少女には余裕があった。

 

「じゃあ、今度は僕が上だね」

 

そう言うと少年は少女を優しく、まるで精巧なガラス細工を扱うように床に寝かせ、そのまま少女の下半身の上に乗っかり、押さえつけた。

 

先程までは少年が下だったためどちらも動こうと思えば自由に動けた。

しかし今回は少女が下である。

筋力の差は歴然であり、これで少女は彼に許されている上下以外に動けない。

 

「姉さん」

 

暗に「はやく動け」と言っているのだ。

少女は顔を真っ赤にさせながら必死に動き始めた。

 

「……んっ」

 

時折少女が我慢できずになまめかしい声を漏らす。

しかし本人は行為に夢中でそれに気付いていない。

 

必死になって動き続けること30秒。

 

「ご、めん……ね、情けないお姉ちゃんで……、もう私っ──」

 

 

その言葉と共にぐったりと力尽きた少女は、腹部を片手で撫でながら時折ビクンッと痙攣していた。

そんな彼女を慈しみながら少年がそっと抱き起こす。

そこに人影が近寄ってきて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「保登姉弟、上体起こし終わったか?」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

「姉さん、ラビットハウスの手伝い休んでね。今日は安静にしてて」

 

「えー、もう大丈夫だよ」

 

入学してそれほどたっていないある春の日、ココアとジュンが通っている高校で体力テストが行われた。

通常は1~4限目で終わらせてそのまま下校なのだが、4限目までに終わらなかった者は5・6限目を使用して測定が終わるまで居残りをしなければならない。

クラスの違うココアとジュンはバラバラに測定を行っていた。

 

だが、ココアがシャトルランをしているタイミングで偶然ジュンが近くに来た。

弟に見られていることを意識したココアは「情けない姿は見せられない!」と限界を突破する。

そしてぶっ倒れた。

 

それに気付いたジュンがすっ飛んできてココアを抱え保健室までダッシュし、そのまま戻ってこなかったため2人の居残りが決定した。

 

その時にやり残した種目は、ココアが『上体起こし』でジュンが『シャトルラン』と『上体起こし』であった。

 

 

上体起こしはまず被測定者がマットの上で仰向けになり、両膝を90度に曲げる。

そして補助者が被測定者の両膝を押さえ固定するのだが、腕力だけでは抑えられないので足の先っぽの方に軽く乗りコアラのように抱きつくことで被測定者の足を固定する。

上半身を上げて下ろす上下運動。

足(下半身の一部)に乗り固定する。

これを30秒間続ける。

 

直前にシャトルランをやっていたからジュンは運動が得意にも関わらず上体起こしであそこまで疲れ果てていたのだ。

 

ちなみに普通は基本的に男女でのペアは組まれないのだが、二人は双子で仲も良いことと他に居残り組がいなかったためこうなった。

 

「結局ジュンくんに一種目も勝てなかった……。私ももうちょっと身体鍛えた方がいいのかなあ」

 

「リゼさんに特訓してもらう?“キロ単位でジョギングする”て聞いたことあるけど」

 

「……無理をするとストレスが溜まってよくないからやめとくよ」

 

下校しながら軽く会話を交わす双子の姉弟。

学校指定のローファーが石畳を叩き、コツコツと音が鳴る。

しかし、不意にココアのその音が乱れた。

ほんの僅かであったが、最愛の姉の不調を見逃すジュンではない。

 

「姉さん、やっぱりまだ……」

 

「……何のこと?私、超元気!」

 

「嘘。今少しふらついた」

 

「え、えっと、普段使わない筋肉とか使ったし、軽く筋肉痛ってだけでなんにもないよ?」

 

「今日は一度倒れて保健室送りになってるんだから、これ以上無理するのは禁止」

 

「でも」

「それでも無理をするって言うのなら────」

 

ひょいっとココアを抱き上げる。

 

「無理が出来ないようにするしかないよね」

 

右手は背中に、左腕は膝の裏に通している。

所謂お姫様抱っこだ。

 

 

不意打ち

 

 

 

ジュンは男子高校生にしては背が低めだ。

それは姉のココアより大きくならないために意図して夜更かしをしているからなのだが(おかげで姉と同じ身長をキープできている)、その身長のせいで力持ちにはあまり見られない。

 

だが実は、元々の才能に加えて夜更かしで太らないように運動をしっかりやっているため、そこら辺の運動部の男子よりよほど力持ちだ。

具体的にどれくらいかというと、リゼと張り合えるくらいである。

 

それに姉とはいえ彼女も乙女。

不意打ちで顔のいい男の子にこんなことをされては心臓に悪い。

 

 

「お、降ろして……。こんなのお姉ちゃん失格だよお」

 

姉としてのプライドか、はたまた理想の姉への探究心からか抵抗を試みる。

しかしそう言いながらも彼女の手はしっかりと彼を掴んでいた。

 

大好きな弟の腕の中で、ココアは胸の鼓動を激しくさせる。

ジュンは、上体起こしの時とは比べものにならないほど顔を赤くした彼女には気付かず、ただ姉の体調を案じ帰路を急ぐ。

 

 

 

街の人々はみんな微笑ましいものを見る目をしていた。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

夜、ココアの部屋。

 

 

「もっとそっち詰めてください」

「この腕の中に身を預けてごらん」

「3人は無理だし、チノがいるなら僕はいらないでしょ」

「ダメ! チノちゃんが心細いって言ってるよ!」

「こ、ココアさんが怖いだけでしょう」

 

時刻は10時。

ラビットハウスの仕事を終え、学校の宿題を終え、食事や風呂なども終えた彼等。

あとは明日に備えて寝るだけだったのだが……。

その前にたまたまつけたテレビで季節外れの怖い話特集がやっていたのを見てしまったのだ。

 

怖い物見たさと、ここでテレビを切ったりチャンネルを変えたりすると怖がりだと思われる! とココアとチノ(彼女たち)が互いに見栄を張ったおかげでこうなっている。

 

「チノは壁側でいいの?夜に……いや、なんでもない。なにか用事ができたら僕が寝ていても遠慮無く起こしてね」

 

壁側だと夜にトイレ行きたくなってもベッドを抜け出しづらいよ、と言おうとしたが女の子にそんなデリカシーのない事を言ってはいけないと思いとどまったジュン。

家族の男、特に父親が娘に嫌われるのはそのデリカシーのなさが故のことが多い。

親愛なる姉たちに嫌われたくないため、ジュンはデリカシーに関してはそこそこ気にかけている。

 

彼は頭の上に?を浮かているチノに笑顔で返して誤魔化し、チノの反対である部屋の中央側の布団に潜り込む。

姉弟で同じ布団に入っても性的興奮は無い。

しかし──

 

「(お風呂上がりの姉さん、良い匂い。安心する……)」

 

“匂いがする”という事実までは姉弟だろうとどうにもできない。

 

「ねえ、ジュンくんもうちょっとこっちに……て、もう寝てる!?

「わ、私たちも早く寝ましょう。夜更かしすると背が伸びませんし」

「そ、そうだね。夜更かしは美容の大敵だからね」

 

電気を消していそいそと頭まで布団をかぶり、目を瞑るココアとチノ。

喫茶店の仕事で疲れていたため、そのまますぐに眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んう……トイレ」

 

真夜中。

 

尿意でふと目が覚めたココアはいつものように雑に布団を撥ね除けようとするが、寸前で両隣の温もりに気がついた。

そういえば今日は3人で寝ているのだと。

 

しかし何故3人で寝ているのか。

確か、そう。

寝る前に怖い番組を見て────

 

そこまで思い出して自らを()(いだ)き、ぶるりと振るえる。

 

「(うう~、暗くて怖いよお……)」

 

いつもの彼女の部屋な筈なのに、何故か妙に不気味に見える。

例えばお気に入りのもふもふ可愛いぬいぐるみ達が今にも動き出しそうに思えてしまうのだ。

他にも毎朝使う姿見(すがたみ)やカーテンの影、果ては壁やタンスの木目調までおどろおどろしく感じてしまう。

トイレを諦めて朝まで我慢するか、それとも頑張ってトイレを済ませてくるか。

いや怖すぎて足がすくむから物理的にトイレに行けないし。

でも万が一にもチノちゃんの横でおねしょなんてしてしまったら……。

 

このように「でも、うーん、いやしかし……」と心の中で唸っていると。

 

「姉さん?」

 

聞き慣れた男の子の声がした。

隣で真っ先に寝てしまった、双子の弟のジュンだ。

 

救世主だ! と言わんばかりに喜色と安堵でいっぱいになるココア。

しかしそれも一瞬のこと。

何故なら重大な問題点に気付いてしまったからだ。

 

 

 

頼れるお姉ちゃんとして、まさか弟に「怖いからトイレ付いてきて」などと言うわけにはいかないのだ。

 

 

不安からの安堵、からの絶望。

底からすくい上げて落とす。

人間の精神に最もダメージを与えるそのコンボをくらった彼女に、しかし運命の女神は微笑んだ。

 

「トイレ行きたくなっちゃった。悪いんだけど、怖いから付いてきて貰えないかな、姉さん」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

暗い廊下を一組の男女が歩いている。

 

「流石姉さん、頼りになるよ」

「そ、そうかな? えへへ」

 

満更でも無い様子で返事をするが、まだ暗闇が怖い様子で周囲をやたらと気にしている。

 

「でもやっぱりまだ怖いから手を繋いでくれると嬉しいな」

「っ! お姉ちゃんにまかせなさーい!」

 

1も2もなくジュンの腕に飛びつくココア。

これでは手を繋ぐというより腕を組むとか絡ませるとかになるのだが、わざわざ指摘するのはマナー違反だと考えたジュン。

彼はその柔らかい姉の肢体に心臓を跳ねさせ、息子が反応しそうになるのを必死に制御した。

 

「そんなにギリギリなの?」

 

どうやらおしっこを我慢していると思われたらしい。

まあ状況的に仕方が無いが。

 

「もしお漏らししちゃってもお姉ちゃんが拭いてあげるからね!」

「なに言ってんの、姉さん」

 

どうやらまだ怖さで錯乱しているらしい。

ジュンは自分の発言の意味を理解して真っ赤になっているココアを扉の前に待たせてトイレを済ませる。

 

 

 

「お待たせ、姉さん」

 

「あ、えっと、私も……その……」

 

「ついでだから姉さんも行ってきた方がいいよ」

 

「!! そうだね、ついでだし!」

 

今度はジュンが扉の前で待つ番だ。

木製のドアに後頭部を預けたらかなり勢いの良い水の音が聞こえてきてしまったので、急いで頭を壁までずらした。

骨伝導恐るべし。

 

「ジュンくん!? そこにいるよね!?」

 

どうやら今の横移動の音が立ち去った音に聞こえたらしい。

 

「ちゃんといるよ。今夜は一人じゃ部屋まで戻れそうにないし」

 

廊下の電気は階段の側についており、トイレからみて部屋と反対方向だ。

普段廊下の電気は夜間に付けっぱなしとなっており、チノの父親が寝るときに消していくのだ。

そしていかに夜中までバーをやっているチノパパでもこの時間には流石に寝ている。

 

 

「小さい頃にもこんなことあったっけ」

 

「ジュンくん?」

 

「確かあのときは遊園地のお化け屋敷に行ったんだったかな。夜に一人でトイレ行けなくて泣いてた僕を姉さんが助けてくれたんだ」

 

「……あ」

 

「今思えば本当は姉さんも怖かっただろうにね。僕の手のひらをしっかりと握ってくれて……、かっこよかったなあ」

 

 

 

 

 

お花を摘み終えたココアと共にジュンは部屋までもどる。

二人は腕ではなく手のひらで繋がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トイレ……です」

「(今度はチノちゃんか)」

「すぴ~zzz」

 




ココア「ねえ、もしかして昨日の夜本当は私のために」
ジュン「なんのこと? コーヒー飲み過ぎちゃっただけだよ?」
ココア「……ふーん」


序盤は蒼山サグ先生が冒頭でよくやるやつ。
エッッッッッッ! なシーンに見せかけて実は普通のことしてますよって感じの。
代表作はロウきゅーぶ!の方です。


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きょうだい(自称)だから親愛もあるし問題無いよねっ

4月10日はココアの誕生日!なので短いけど書きました!
……ココアは出ないけど。
はい、すみません。
ではどうぞ。


「びしょびしょに濡れちゃった……。シャワー浴びさせてもらお」

 

天気予報では晴れだったのだが、下校時刻に急に雨が降り始めたのだ。

ジュンは置き傘を持っていたのだがそれは昇降口で困っていたココアのクラスメイトに貸してしまった。

 

いつも一緒に下校しているココアと千夜が所用のため今日は先に帰ってしまったことを思い出した彼は、学校指定の鞄を頭上にかざして傘代わりとし、走って帰宅したのだ。

 

「あれ、誰かがシャワー浴びてるなあ」

 

お風呂から上がったときに多くの人は鏡やドライヤーが使いたい。

そのため脱衣所と洗面所を兼ねるのはコストの面でも設備の面でも効率的だ。

 

ただし、プライバシーは考えない物とする。

 

 

彼は、きちんと畳まれている服の上に置かれたパンツとブラを視界に入れないように手洗いうがいをした。

今更気にするのかと思われるかも知れないが、必要も無いのにジロジロ見るのがデリカシーに欠けるというだけだ。

 

「(物音はあまりたてない方が良いかな。僕がここにいるとなると落ち着かないだろうし、チノは気が利くから僕にシャワーを譲ってくれようとするかもしれない。兄として、チノにはゆっくり暖まって欲しいからね)」

 

そんな、妹を思いやる兄の気持ちは素晴らしいものだった。

だが、世の中素晴らしいことをすれば素晴らしい結果になるとは限らない。

 

 

 

 

 

「「あっ」」

 

 

 

 

彼の背後からガチャリと扉を開けて、チノが風呂場から出てきた。

丁度うがいをし終えたジュンは、ついその音に反応してコップ片手に振り返ってしまったのだ。

 

一拍遅れて事態に気付いたチノは、慌ててボディタオルで身体を隠そうとして隠しきれず、顔を真っ赤にしながら身じろぎして余計に扇情的になってしまった。

 

「み、見ないでください……」

 

テンパった彼女はもう一度風呂場に戻るという選択肢が浮かばなかったのだろう。

謝罪しながら「これはまずい、あとでご機嫌取りしないと」と考えながら正面に向き直ると大きな鏡の中にいた裸のチノと目が合った。

 

「(これは……、どうすればいいんだ)」

 

前門の虎、後門の狼。

 

彼が目をそらしたと思って油断したのだろう。

タオルがズレて今までかろうじて隠れていた、まだ生えていないつるつるな下や膨らみかけの胸が丸見えだった。

 

おまけに洗面所の出入り口はチノの位置を超えた先にあるので、彼が退出するには狭い洗面所内ですれ違う……つまり瞬間的に接近する必要がある。

 

チノが風呂場に引っ込まないとどうにもならない。

だがチノはそこまで思考が回っていない。

 

「ううっ……ぐす」

 

お互いに右往左往している間に、ついにチノが泣き出してしまった。

 

「あわわ、まってまってごめん御免なさい謝るから泣かないでお願い」

 

先程までの裸がどうとか気まずい空気とかが頭から吹き飛んだジュンは、咄嗟に膝を床に付けて目線を合わせ、チノを優しく抱きしめ頭を撫でた。

 

「僕たちは兄妹なんだ。僕はチノの兄だから、だから泣かないで? ね?」

 

「きょうだい……ぐすっ……」

 

「そう、兄妹」

 

「……兄妹なら、しかたがないですね」

 

なにも仕方なくないが、自分に言い聞かせて落ち着こうとするチノ。

 

「きょうだいなら一緒にお風呂にも入るのが普通だしね」

 

「それはないです」

 

「あれ?」

 

泣き止んで笑顔をになった彼女を見てほっと一息つくジュン。

このまま目の前にある出入り口を抜けて華麗に立ち去ろうと画策したその時。

 

 

 

「誰もいないのか? 悪いけど洗面所借りるぞ?」

 

 

がらり

 

 

「「「…………」」」

 

 

ラビットハウスのアルバイト、リゼの前には裸の女子中学生(小学生にしか見えない)に抱きつく男子高校生の姿があった。

 

「ロリコンは断罪するっ!!!!!!」

 

「まってくださいリゼさん、これには事情が!」

 

チノの制止も耳に入らないほど怒りを露わにしたリゼに、ジュンが組み伏せられた。

 

「そんなヤツだとは思わなかったぞ、この性犯罪者!」

 

「ちが、僕は姉さん一筋だあああ!!!

 

「それはそれで問題だあああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、終わりです。
本当に短い。
いつも2本立てなんですが今日誕生日に気付いて急いで書いたのでボリューム不足です。
ココアちゃん好き失格ですね、御免なさい。
しかも話に出てこないという……。

あとこてこてなネタですまない。
でもチノちゃんとこういうハプニングも悪くない。
原作じゃこんなネタできないだろうし。


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サニーサイドアップ、ぷるんぷるん

お待たせしました。


季節は春の暮れ。

今日も大人は労働に勤しみ、子どもは学び舎に通う。

 

学び舎と言えば、双子の通っている高校の方針には特殊な方針がある。

それは「下宿している者は下宿先に奉公するべき」というものだ。

ジュンもその姉も、放課後はいつも下宿先であるここラビットハウスでバイトをしている。

普段は上がる時間も全員同時なのだが、たまに豆の袋を物置から持って来る等の力仕事でジュンだけ遅くなることがある。

ちょうど今日もそんな感じで、ジュンだけ上がるのが遅くなった。

そしてそんな時は決まって姉のココアに「チノと先にお風呂はいっちゃって」と伝えるのだ。

 

つまり、ジュンは今姉と別々に入浴をしていた。

 

「……」

 

彼にとって、姉がいなければ風呂でゆっくりする意味も無し。

無言で素早く身体を洗って拭き、湯船に浸かる間もなく脱衣所に戻りパジャマを着る。

彼は双子の姉であるココアの世話をするのが生きがいなのだ。

別に自分のことに頓着がないとは言わないが、疲れているときには扱いもテキトーになる。

 

「(これからパパッと宿題片づけて早く寝て、明日の朝に最高のコンディションで朝食を作ろう)」

 

食事は姉の身体を内側から作り整える大事な要素なので、ジュンにとって優先度はそこそこ高い。

なんにせよ先ずは宿題を片付ける必要がある。

そう思いながら自室の扉を開けると────

 

「Zzzzzz」

 

ココアが寝ていた。

この光景は、ジュンにとって珍しいことではない。

 

「(実家でもこんなだったなあ)」

 

双子だったというのもあり、彼等は実家では相部屋だった。

当然一部屋にベッドを二つも置けるわけがなく、「二段ベッドを買うか」という両親の提案も「別にいいや」の一言で撥ねられ、小さい頃から寝床は1つだけだった。

言っておくが、彼等がお金の面で苦労したことはない。

家が貧乏というわけではないのだ。

だが、兄2人と姉2人、そしてジュン本人。

合わせて5人。

5人の子どもになんでもかんでも買い与えていては流石に家計が破綻することはジュン達も子どもながらに理解していた。

……というのは理由の半分にすぎないだろうが。

 

子どもにとって同じ布団に入るということは、寝る時間になって部屋の電気を消しても一緒にいるという事だ。

小学生の頃は親に隠れて夜更かしをして、くだらない話で笑い合った。

中学の頃はジュンが姉の健康面を気にして夜更かしこそしなくなったものの、互いの手を握らないと寝られない癖が付いてしまっていた。

その癖が直ったのも実はこの街に来る直前だったりする。

 

あの頃(と言ってもほんの数ヶ月前だが)を懐かしみながら、物音を立てないように入室する。

そのまま彼はベッドに近寄り——

 

「……姉さん、可愛い」

 

頬を(つつ)いた。

サニーサイドアップの黄身を、膜を破らないように触るかのような手つきで。

人間は単純作業を繰り返しすぎると精神が壊れるという。

だが、彼にはこの「姉の頬を(つつ)く」という単純作業を10年だろうが100年だろうが笑顔で続けられる自身があった。

 

ふにゃふにゃとだらしなく表情を緩めているココア。

実は彼女は、寝る前に少しだけ弟と雑談をしにここへ来ていたのだ。

話したいことが沢山あったのに、バイトを上がる時間がズレて話す機会が無くなったのが不満だったのだろう。

だが、待つ間に弟の匂いが染みこんだ布団に誘われて、つい身を委ねてしまったのだ。

その後は見ての通り。

完全に寝落ちしてしまっていた。

 

愛する姉の幸せそうな寝顔を眼球と脳髄に刻み込んでから、女性の寝顔をまじまじと見るわけにもいかないと思い、そろそろ宿題に取りかかろうと手を離そうとする。

 

「あっ」

 

布団の下からの伸びてきた手に、引っ込めようとしていた彼の手が取られた。

 

「ジュンくぅん……チノちゃん……えへへ」

「姉さん……」

 

あまりにも幸せそうに笑うココア。

こうなると、ジュンは姉の手を振り払えなくなる。

明日提出するべき白紙の課題が入った学校指定の鞄。

机にもたれ掛かるようにして床に置かれたそれに伸ばしていた掴まれていない方の手を、諦めて降ろす。

 

「あーあ。先生に怒られちゃうなあ」

 

そう呟いた彼の顔には、台詞とは裏腹に「この世で一番幸せです」と書いてあった。

季節的にも気温が安定して暖かいため、彼も彼女もこのまま夜を越して問題は無い。

風邪を引く心配はしなくて良いだろう。

ただ、このまま夜を越すには前言を撤回する必要がある。

彼は先ほど、「女性の寝顔をまじまじと見てはいけない」といった。

だから宿題に移ろうとしていたのだが、それが出来ない状況になってしまった。

この体勢のまま手に取れる物は特にない。

このままでは彼は、寝るまで手ぶらで過ごさなければならない。

ココアはリラックスして寝落ちしているようだが、高校生が寝るにはまだ早い時間だ。

あと2時間ほど経てば日付も変わって眠れるだろうが……。

 

「(ごめんね、姉さん)」

 

というわけで、大義名分を得た弟は姉の綺麗な顔を眺め直すのだった。

床に膝をつき、ベッドに頬杖をつき、じっくりと。

 

 

 

 

翌日

身体がガッタガタになった優等生が変な挙動で、しかし緩みきった顔で宿題忘れを告白するという珍現象が起こってしまい、担任教師を困惑させたという。

 

 

 

 

 




久々だから短めになったしまった。許してください。
使えそうなネタをメモしてたんですが、時間が経ちすぎてそのメモ見ても全然情景が浮かばなくなって、全て使えなくなりました。
なので逆に1つのネタを膨らませる練習。
今回は「風呂から出たらベッドで姉が寝てた」というだけの話です。
本当は弟のジャージも姉に着せたかったけどネタの割りにはダシが薄くなりそうで勿体なかったので違うシチュエーションの時まで取っておくことになりました。


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雨の日の帰路

リハビリ二日目。
まあまあ感覚取り戻せて来たんじゃないかな。


「私の友達に傘を貸してくれたんだってね。ありがと、ジュンくん」

「ああ、うん。困っていたみたいだったから」

 

つい先日、かなり強い雨が降った。

その日は平日で学校があったが、天気予報によって殆どの生徒は朝からそうなることを知っていた。

だからその生徒達は傘を持参していた。

 

逆に言うと。

一部の生徒達は傘を持ってきていなかった。

というのも、その日の朝は雲一つ無い快晴だったのだ。

その暖かな日差しに騙されて、「今日は晴れだ」と思い込んでしまった者達が確認作業の大切さを身に沁みさせたという。

 

「それに、肝心な時に持っていないんじゃあどうしようもないし」

「今日も雨だったなんてねぇ……」

 

天気予報はあくまで予報であって予知ではない。

毎朝こまめに確認したとて、逆を付かれることは希にある。

 

現在、下校時刻。

場所は下駄箱の先にあるエントランス。

双子の眼前にはしとしとと天から落ちる雫群。

手には鞄のみで、傘は無し。

薄暗い外の景色をボーゼンと眺めながら、ジュンはこの窮地をどう乗り越えるか思考を巡らせていた。

 

「(今日もラビットハウスの手伝いがある。あまり遅れるわけにはいかない。……けど、姉さんを雨に打たせるわけにはもっといかない。どうすれば……)」

「あ、ココア。弟と一緒なんだ」

「(鞄を傘代わりにして走って帰る? でもここからラビットハウスまでの距離じゃあそれも意味無いくらい濡れるだろうし……)」

「今日も喫茶店のお手伝いか?」

「(今日は体育があった。僕のジャージを姉さんに被せて……いや、それだと僕が濡れる。姉さんは優しいから僕が濡れるのを嫌がるはずだ)」

「そうなの! でも、傘忘れちゃって……」

「じゃあ私の貸すよ。この前のお礼」

「え、いいの?」

「友達と待ち合わせしてるから。そいつの傘に入れてもらうわ。弟くんもこの前はありがとねっ! じゃあまた明日!」

「(まず一番は姉さんが濡れないようにすることが大事だけど、だからといって自分を疎かにするわけにもいかない。どうすれば……)」

「やったね、ジュンくん……ジュンくん?」

「え、ああ、なに? 姉さん」

「傘貸してもらえて良かったねって」

「……いつの間に」

「もしかしてまたボーッとしてたの?」

「すみません姉さん」

「もー、お姉ちゃんがいないと全然駄目なんだから」

「そうだね。僕は姉さんがいないと生きていけないかもしれない」

「生きて……て、それはちょっと大袈裟だよ」

「それぐらい姉さんが頼りになるってことだよ」

「なにそれ」

 

くすくすと口に手を当てて笑う姉。

それを見た弟は困った顔になって、「別に大袈裟じゃあないんだけどね」と聞こえないように呟いた。

 

姉離れできそうにないという点で、ジュンは本当に困っていたりする。

モカという上の姉が実例として身近に居る分、余計に。

 

 

 

ところで。

傘一つで人間2人が濡れずに帰るには工夫が必要だ。

 

 

 

◇◇

 

 

 

とある高校付近の道にて、一つの傘に無理矢理入るため肩を寄せ合わせている男女がいた。

 

「ジュンくん、濡れてない?」

「……まあ、少し濡れてるけど。でもこれ以上は詰められないよ」

 

少女は既に少年の左腕を抱きしめて、少しでも非密着部分を減らそうと試みている。

だがそれでも男の肩は傘から少しだけはみ出していた。

少女用の傘だったので、サイズも控えめなのだ。

 

少女の胸は高校生らしからぬほど豊かで、服の上から見て分かるくらい膨らんでいる。

そんな彼女に抱きしめられている少年の腕は、当然その胸に押し当てられていた。

衣服の中でも硬い部類の制服と、硬いブラ。

それらを容易に貫通して少年の触覚を刺激する柔らかさ。

勿論腕も、いや全身が柔らかいのだが、それと比較してもなお異次元の触り心地を発揮する少女の胸に、少年は悶々としていた。

だが彼は、自分に対してこの少女を性的な目で見ることを許していない。

あくまで家族として愛しているのであって、情欲を向けることなどあり得てはならないのだ。

幸い雨が降っていると言うことで外気温が低く、勃つのを抑えるには向いている環境ではある。

あと、少女が楽しそうというのもある。

少年の肩が少し濡れている事には少し申し訳なさそうにしているが、それ以上に引っ付いて下校できていることが嬉しいのだ。

その様子を見て、「このまま我慢しきるぞ」と内心で決意を新たにした。

 

「あ、そうだ。いいこと思いついた」

「なに? ジュンくん」

「僕が姉さんをおんぶするよ」

「え」

「その代わり姉さんが傘持ってね」

「え、」

「片手で傘持って、反対の手でしっかり僕に掴まって。ちゃんと腕回さないと危ないから」

「え、え、」

「安全性を考えてジャージでおんぶ紐的な何かを作ろう。勿論それだけじゃ危ないから右手でも支えるよ。失礼します、姉さん」

「え……あっ」

「左手で鞄持つよ。姉さんのも貸して」

「あ、うん」

 

彼にしては珍しく、少女の意見も訊かずに勝手に決めてしまった。

そしてあっという間に少女をおんぶして縦……というか上下に並び、小さい傘の下に高校生二人が入ることに成功させた。

少年は「こういうこともあろうかと!」精神で日頃から鍛えているし、少女は少女で羽のように軽いため成立したのだが、本来高校生の男女でやっても家まで保たない荒技だ。

それに雨で地面が濡れているのも端から見たら不安だ。

だが、とうの少年は慎重な足運びで確実に帰路を歩んでいた。

足を上から下に真っ直ぐ降ろし、上げるときも地面を蹴るのではなく泥濘(ぬかるみ)から足を引き抜くように上げる。

摩擦に頼らないように、重心にも気をつけて。

確かに濡れた地面は滑りやすいが、歩き方に気をつければそう簡単に転びはしないのだ。

 

ところで。

ジャージを紐代わりに使っているとはいえ、それだけで人間一人を支えきれるものでは無い。

当然少年が背後に手を回して少女を支えているのだが。

或いは両手でなら少女の背や腰に手を回せば良かっただろう。

だが、片手でずり落ちないように支えるにはおぶさっている少女のお尻を下から支えるより他にない。

衣服の中でも薄い部類に入るパンツ、普通のスカート、柔らかい素材のジャージ。

それらを貫通して少年の腕に伝わるのは、重力によってこれでもかと押しつけてくる少女のお尻の感触だ。

 

彼にとって、先ほどの胸が押しつけられている状況と変わっていなかった。

いや、寧ろ若干悪くなったといってもいい。

先程も述べたが、生地が全体的に薄くなって重力も加わっている。

そして何より、お尻に手を回したときに少女が「あっ」と軽く声を漏らしており、その声が妙に色っぽかったのも良くない。

少年の情動が色欲に殴られて、そのままお尻を揉みしだくてたまらなくなった。

咄嗟に自己分析でそれを察知した彼は、早口で彼女に声をかけて鞄を預かり、できるだけ其方に意識を割いた。

お尻の方の手はセメントと化した想像をして神経を鈍らせて、封印処置を行った。

……効果は「やらないよりマシ」程度だったが。

 

「ねえ」

「なに? 姉さん」

「お姉ちゃんでエッチなこと考えてる?」

「ブフォッ!?」

 

唐突な図星に噴いてしまう。

そんな少年を見て、「自分が性的な目で見られている」という確信を抱いた少女が顔を赤くしながら、しかし努めて姉らしく振る舞おうとする。

 

「お姉ちゃんを誤魔化せると思ったのかな? ……なんとなく、イヤらしい雰囲気を感じたよ」

「…………その、すみません」

 

姉に軽蔑されたら死ぬ。

距離を置かれたら生きていけない。

ジュンが心の中でそう叫びながら、しかし姉に言い訳することなど出来ずに即謝罪する。

そんな少年の姿を見て、姉は──

 

「ジュンくんだったら、いいよ?」

 

爆弾を放った。

 

「……っ!!!?」

「そういうお年頃なんだよね。……その、お姉ちゃん分かってるから。だからジュンくんの“そういうの”も、()()()()受け止めるよ……!」

「(あ、ああ。姉としてね……。)いや、姉さん。そういうのは良くないと思うんだ」

「そ、そうだよね。姉弟ですることじゃないよね」

 

つい口を滑らせて本音を言ってしまい、慌てて誤魔化したのか。

それともはじめから姉として言っていたのか。

それは少女にすら分からない。

ただ一つ言えることがあるとすれば、それは——

 

「僕にとって、姉さんは大事な姉さんだから」

「私だって、ジュンくんは私の大事な弟だよ」

 

お互いが実の姉弟(きょうだい)として思い合っているということだ。

互いの思いを、姉弟愛を意図せず再確認できて嬉しくなった二人。

少女は少年の背にもたれ掛かる形で身を寄せ、少年もそれを心地よく受け入れ——

 

「あ、ジュンくんまたいやらしいこと考えてる」

「……すみません」

 

少年の後頭部が、高校生離れした少女の豊かな胸に包み込まれた。

追撃として少女の髪の毛が少年のうなじを(くすぐ)りながら、女の子特有のいい匂いをまき散らしていた。

家族といっても思春期男子。

そして下宿先の諸事情によりマスターベーションも出来ない身。

まあ、人間は多面的な生き物だ。

そして世の中白黒ハッキリ分けられるほど単純でもない。

 

だが、台詞とは裏腹に。

二人は少し困った顔をしつつも、優しく微笑んでいたのだった。

 

両者の頬は朱色だった。

 

 

 

 



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姉で欲情するわけにはいかないのでリセットです

本編の前に大事なお知らせです。
タグ整理しました。
書き始めたの凄く昔で、最近復活させた作品なので、当時なにを考えてあんな適当にタグ付けしたのかは私にも分かりませんが、ガールズラブとかいうでかいタグも引っぺがしました。
百合描写があると信じてここまで付き合って下さった方がいたとしたらまことに申し訳ないですが、たぶんシャロちゃんの登場を予期して付けていただけだと思います。
思ったよりも出番ないし、そもそも片思いだし本筋に関係ないので削除しました。
よろしくお願いします。


「すまん、遅くなった! ……て、どうした?」

「リゼさん!」

 

双子達の下宿先である香風(かふう)家。

その香風家が開いている「夜はバーで昼は喫茶店」という変わったお店『ラビットハウス』。

その喫茶店には、アルバイト的にも学年的にも双子先輩の女の子が1人いた。

それこそが今、学校のお嬢様達に引っ張りダコのため下校するのに時間がかかり、大慌てでやってきたツインテールの少女だ。

彼女が何に驚いたかというと——

 

「あの2人、何があったんだ? いつも心配になるくらい仲が良いのに」

「それが……」

 

そう、保登姉弟の雰囲気が見るからに悪いのだ。

具体的には弟が露骨に沈んでおり、姉が「お姉ちゃんに相談してごらん!」と頼られようとしている。

だが恐らく少年は“姉相手だからこそ”相談できないのだろう。

「何でも無い」の一点張りで、それに姉が「は、反抗期……!?」とショックを受け、姉を悲しませてしまっていることに弟がショックを受けて、と。

そういう負のスパイラルの結果、現在に至る。

 

「と、いうわけです」

「なるほど……。まあ家族だからこそ言えないことっていうのもあるよなあ」

 

そうリゼが漏らしたとき。

先程まで暗いオーラを漂わせて死にそうな顔をしていたジュンが、彼女の眼前、いや足下にスライディングしてきた。

 

「リゼ先輩!!! もう僕にはリゼ先輩しかいません助けてくださいお願いします相談乗ってくれませんかッ!!」

「リゼちゃんに姉の座が取られた!!?」

「姉になる気は無いぞ!?」

 

 

 

◇◇

 

 

 

それから数日、学校もラビットハウスも休みの今日。

リゼの家こと天々座家にて。

 

「今日はありがとうございます」

「まあ、あそこまで縋り付かれたらな……。私でどのくらい力になれるかはわからないけど相談くらいなら受けてやるよ」

 

その言葉に深々と頭を下げ、床に頭を擦りつけるジュン。

 

「だからそんな、土下座とかしなくていいから……」

「いえ、これは頼み事を聞いてくれた事に対するソレではなく、今からする“頼み事”に対しての土下座です」

「え、そんな重い話なのか?」

 

自室のソファに座りながら唖然とするリゼ。

てっきり「ココアとケンカしてしまった」程度の話だと思っていたのだ。

 

「いえ、その。そんなこともあるけどないといいますか……。お部屋を一室貸して頂きたくてですね?」

「部屋か。それで?」

「それだけです」

「は?」

 

それだけか? が3割。

どうして? が7割。

部屋を貸す。

ジュンもこうして来るまで知らなかったが、リゼの親は金持ちで、この家も“お屋敷”と言って良いレベル。

部屋も沢山余っている。

だから別に彼女的に部屋を貸すのは構わない。

だが、急にどうしたという話だ。

部屋を貸すことと、仲が良い双子の姉と雰囲気が悪いこと。

この二つがどうにも繋がらない。

まさかココアと別居(?)を考えているのか? と彼女の思考が逸れていく。

リゼはたまに早合点をしてしまう時があるのだ。

 

「それは構わないが、理由を説明しろ」

「その、引きませんか? それに年頃の女性にするのは憚られる話なんですけど」

「そこまで言われると逆に気になる」

「……まあ、分かりました。お願いする立場な僕は先輩に詳細を説明する義務があります。ただ……」

「ただ?」

「かなり聞き苦しい内容になりますので、お覚悟を」

「お、おう」

 

いつの間にかジュンは顔を真っ赤にさせていた。

そのせいでリゼも余計分からなくなってきた。

 

一旦間が置かれる。

そして満を持して彼の口からその理由が語られる。

 

 

「実は最近、“()()()()”まして」

 

 

「???」

 

なにが溜まっているのだろか? と彼女は一瞬考える。

だが彼から追加の説明はなく、黙って俯き、赤面しながら僅かに振るえているのみ。

気まずいのか、視線も思いっきり明後日の方向に飛んでいる。

赤面。

恥ずかしいこと。

聞き苦しい。

年頃の女性にするのは憚られる話。

 

ボンッ! と沸騰した。

理解したのだ。

溜まっているというのは、つまり性欲の話だと。

 

「お、お、お、おまっ……なにを──!」

「すみませんすみませんほんっとスミマセン!でもこんなこと頼めるのリゼ先輩しかいないんです!」

 

溜まりに溜まりすぎて、最近ココアとの入浴を辞退しているくらいだ。

どうにも欲情してしまって、バストアップマッサージを無心で出来る状態ではないので仕方が無い。

本来ならこの歳で湯船を共にしないのは普通のことだが、彼にとっては一大事であった。

 

「そ、そんなの自室で……」

「鍵付いてません! 最中にチノが入ってきたら死んでしまいます!」

「じゃあ公園とかのトイレで……」

「公衆トイレでなんて勃つものも勃たないですよ!」

「贅沢だな! まあ分からなくもないが。で、でもせめてこういうことは同性に言うべきだろ……」

「同性の友達なんてクラスメイトしかいません! 実家遠いですから!」

「だからクラスメイトにしろよ」

「それは……そのですね……(僕これでも学校では優等生キャラで通ってるんですからそんなこと言えませんよ! と言いたいがそれは僕の我が儘かな。ここでリゼ先輩に「知らん!」て言われたらもう頼れる相手がいない。どう説明したら良いんだ……)」

 

「実の姉に欲情が止まらなくてシコりたいからお前の部屋貸してくれ」なんて色々な意味で問題がありすぎて、例え優等生キャラじゃ無くとも普通に言えないが。

そうして言い淀んでいる異性で年下の後輩。(顔は良い)

更には開き直ったのか大胆な告白(?)の連続と何故かピンクい雰囲気。。

その状況がリゼの思考をあらぬ方向に加速させる。

 

「(クラスの男子でもだめ。モジモジしている。上目遣い。……ま、まさか! わ、私に抜いて欲しい……とか!?)」

 

それならば同性の友人を差し置いて、バイト先が同じなだけで恋人でもない、出会って数ヶ月の異性の先輩に話を持ちかけた事に筋が通ってしまう。(彼女の中では)

ジュンとしてはそんな恐れ多いこと頼めないしそんな意図もない。

ただ言葉通り部屋を貸してくれさえすればよいのだ。

 

「(こいつが私を好き……なのはありえないだろう。真性のシスコンだし。つまりせ、せ、せ、せ、せ、セックスフレンドになりたいって事なのか!? 不純だろ! そんなの駄目だ! ……え、みんな以外とそういうのやっているんだろうか)」

 

本人はお嬢様学校に通っているものの、父親(軍人)に英才教育を受けて育ったため世間一般からズレている自覚のある彼女は、「もしかしてこれが世間の普通? 自分が間違ってる?」と不安になることがある。

今回はそれが悪い方に働いた。

いや、これは大本(おおもと)の理由ではない。

根本でそもそも本人が「性に興味を持っている」が故に誘発された事態である。

つまりドスケベだ。

またの名をムッツリともいう。

 

「その、私でいいのか……?」

「(他に頼れる先も無いし)リゼ先輩がいいです」

「……ッ! そ、そうか」

 

赤面したまま視線を右往左往させる。

明らかに照れている。

 

「リゼ先輩?」

「わ、わかった! 私もその、興味が無いと言ったら嘘になるわけで……勘違いしないでくれ。別に誰でもいいというわけじゃないんだ。お前はある意味信頼できるしルックスも悪くないし清潔感もあるから及第点と言うだけで私が淫乱というわけではないぞ」

「……? ありがとうございます」

「お、お前がまあそこまで言うのなら私がぬ、ぬ、抜いてやってもいいぞ!!!」

 

は?

(何を突然……抜く? 抜くって性処理してくれる……てこと!? え、そんな話してた? 勘違いされてる? でもここで「勘違いです」と指摘してもリゼ先輩に恥をかかせてしまう。女性に恥をかかせるのは本意じゃ無い。それに彼女も意外と乗り気というか、決して嫌々という感じはなさそうだ。年頃なのはリゼ先輩も同じだし、もしかしてそういうことに興味があるのだろうか。だからそっち方面に発想が飛躍した可能性がある。)

い! 可哀想な後輩のためにもどうかお願いします……!

「しょ、しょうがないなあ」

 

あくまでも後輩のために仕方なく。

そういう“てい”で恥をかかせないようにするのが彼の選択だった。

赤くなった彼女の顔に「正直興味津々です」とわかりやすく書いてあるのも見ないフリをする。

「はい」が多少片言になってしまったのも、緊張が故ということにすれば不自然ではなかった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

天々座邸、別室にて。

両手を背後で縛られて、目隠しをされている男がいた。

 

「こ、心の準備はいいか……!」

「ていうか、なんかそういうプレイみたいになってますね」

「うるさい!」

 

先ほどとは逆に少年がソファに座り、少女が床に膝をついている。

性に興味はあるしジュンに対する信頼もあるけど、やっぱり少し怖くもあるリゼ。

彼女はジュンが快楽で暴走しないように自由を制限したのだが、それが逆にイケない雰囲気を出してしまっている。

 

「……あの、僕恥ずかしくなってきました」

「ええい、こういうのは思い切りが肝心なんだ! 怯むな、いくぞ!」

「ちょ、いきなり!?」

 

リゼが眼前にある男物のズボンに手をかけ、無理矢理ズリ下げた。

本来座っている人間のズボンは下げにくいのだが、彼女は英才教育により通常の女子高生よりもパワーがある。

あっという間にズボンもパンツも下ろされてしまい、股間が露わにされてしまう。

 

「な……っ! なぜ既に勃っている!!? うわ臭いが──」

「しょうが無いじゃ無いですか! リゼ先輩みたいな綺麗で可愛くてスタイル抜群の年上女性にこんな……これで勃たなかったらそいつはホモかEDです!」

可愛い……。ま、まあいい。ところで、その、()()()()()いいんだ」

 

勢い込んで「抜いてやる」と宣言したものの、じゃあ具体的にどうすればいいかと訊かれると自信が無い。

彼女の知識では手で握って上下に摩るくらいなのだ。

しかし緊張で思考回路がバグっているのか、ジュンは少し違う風に捉えてしまった。

「お前の好みに合わせてやる」と。

ジュンも家族以外の女性にはあまり馴れていない。

平静を装っているが、実は極度の緊張状態にあった。

じゃあそもそも彼女にこんなこと頼むなという話だが、世の中には流れというものがあるのでしょうが無い。

 

「く、口で……! 口でしてくれると助かります!」

「口!? へ、変態か!!!」

「すみません!」

 

喰い気味で欲望をぶちまけてしまったジュン。

初心なリゼが今日一番の赤面で突っ込むが──

 

「こ、こうか?」

 

かぽり、と。

その小さなお口を精一杯開けて、棒状のナニかを咥え込む。

なにとは言わないがそれは独特の臭気を纏っており、粘膜である彼女の口内がそれを触覚刺激として感じ取った。

そのままなんとなく歯が当たらないようにした方が良いかな? と気を利かせながら唇が棒に触れるまで閉じた。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「姉さん、今日からマッサージを全力でやるから期待しててね」

「調子はもう良いの?」

「諸々の問題が解決しました。リゼ先輩には感謝してもしたりません」

「むー」

 

姉として弟に頼られなかったココアが不満げに、しかし弟が元気になったことには喜んでいると、リゼがバイトに来た。

 

「今日は早めに着いたぞ」

 

HRがすぐに終わり、誰にも掴まらなかったためいつもより10分ほど早かった。

不意打ちで現れた彼女を見たジュンが挨拶をしようとし──

 

「……」

 

彼女の口に視線が吸い寄せられた。

それに気付いたリゼが真っ赤になり、ジュンを引っ捕らえて店の奥に連れ込む。

 

「い、いいか。あのことは2人だけの秘密だぞ。軍事機密の漏洩は銃殺刑だからな!……あとお前のその、ソレを抜いてやるだけで、私がお前に肌を許すことは絶対にないから妙な期待をするんじゃないぞ」

 

と言いながら自分自身を抱きしめる。

先ほどの視線で“性の対象として見られている”と自覚できただろう。

だが、その言い草が妙に色っぽくて──

この人押したらヤれそうだなとか、思ってはいけないことを思ってしまうジュン。

彼女は姉の友人でもあるし、殊更大切にしなければ。

と自分に言い聞かせて、早鐘を打つ心臓をなんとか無視する。

 

結局。

彼女の口に意識が吸い寄せられる現象が収ったのは()()()()()()の後だった。

 

 

 

 

 

ところで、姉として弟のことを側でずっと見てきたココア。

彼女が弟の変化に気付かないはずもない。

特にリゼの口元を見たときの妙に不埒な視線には、考えさせられるものがあった。

 

「……応援、した方がいいんだよね。お姉ちゃんだもん」

 

 

 

 

 

 




そうだよ(適当)

きららでツインテールであの髪色ならムッツリというイメージ
ここぞとばかりに独自解釈やオリジナル設定のタグが輝きだしたな……
R15タグも仕事してるぞ!
あとなんかノリで意味部かな感じになってしまったがシリアスは作者が嫌いなのでやりません
たぶんね

シャロちゃんがアップを始めたようです


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