人生強くてNEW GAMEした僕だけど、会社やめました。 (毎日グラノラ)
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第0話 青葉の2年目の春のこと

もともと投稿していた0話を見直していて、展開的にこの先ちょっと大きな矛盾や違和感がでそうかなって部分が多々あったので改稿というか内容ちょっと変更しました。
大筋では変更ありませんが、もともとは八神と遠山は青葉たちと6人で一緒にテレビを見る設定にしてましたが、別室で確認という状況に変更してます。


春です!イーグルジャンプに就職してちょうど1年。大変なこともたくさんあったけど会社にもすっかり慣れてきました。

残念ながら今年は新入社員は入らないそうですが、今日はグラフィックチームのみんなでお花見もして改めてがんばろうって前向きな気持ちになりました!

PECOの製作も今のところ順調で、八神さんの力を借りながらもキャラクターをデザインするのは本当に楽しくて、お花見のあとも会社にもどって仕事に熱中してしまいました。

ただ今日は仕事だけじゃなくて、みんなでテレビをみる約束をしてるんです。

その番組はMHKで定期的に放送されている、職業人の超一流のプロを密着取材し、特集する番組で、

今日はなんと、あのゲームメーカー「レジェンディア」の代表が取り上げられるんです。

会社を立ち上げてから5年の間に「ファイナルクエストシリーズ」や「ドラゴンファンタジーシリーズ」、「ポケットメンバーズ」「ブラッドソウル」など

数々のヒット作を世に送り出しながらも、その製作指揮をとる代表者は「レプリカ」という製作上のクレジット表記のみを公開しているだけで

名前から顔まで何故か公開していなくて、その代表者が今日の特番の中で初めて本名と顔を公開するみたいなんです。

私だけじゃなく、ひふみ先輩にゆんさんはじめさんもヒットメーカーであるレジェンディアのゲームは普段から意識していて、そんないつものメンバーで集まって放送をみることになりました。

八神さんと遠山さんの二人も誘ったんですけど、葉月さんと一緒に放送内容を確認したいとのことで、3人は会議室で放送をみるそうです。

その確認したいことの内容までは教えてもらえませんでしたけど、やっぱりライバル企業の動向ってことで、上の人たちも考えることがあるのかな?

 

「それにしてもレジェンディアってあれだけ人気メーカーやのに代表がまったく表にでてこーへんけどどんな人なんやろな~?」

「確かクレジットにも芸名みたいなのつかってて本名公表されてないんだよね?レプリカだっけ?そもそも本当に実在するのかなー」

先に仕事を終えていたゆんさんとはじめさんとひふみ先輩がテレビ前のソファーに腰かけて雑談している横に私も座って放映を待ちます。

「ひふみ先輩もレジェンディアのゲーム好きなんですよね?」

「うん…私は仮面シリーズが昔から好き…。設定からUIまで全部がスタイリッシュで…。」

私がきくとひふみ先輩は言葉を選びながらも笑顔で答えてくれた。

「ひふみ先輩は仮面シリーズなんですね!ウチはブラッドソウルシリーズが好きです!あの世界観といいモンスターのデザインといい意味で頭おかしくないとつくれませんよ!」

「へー、二人はその二作品か~!私はやっぱり王道ドラファンシリーズだなー!勇者の物語ってわくわくするし!青葉ちゃんは?」

「私はレジェンディアならポケメンが好きです!モンスターがかわいいだけじゃなて、友達と対戦しても盛り上がりますし!」

昔からシリーズ新作が発売されるたびにねねっちと色違いのソフトを買っては対戦や交換を繰り返したことを思い出す。。

もしかしたらねねっちも今日の特番、家でみてるのかな。

番組が始まるまで4人でお互いの好きな作品をテーマに会話に花を咲かせているといよいよ時刻は放送時間の19時前となりました。

「お、はじまるでー」

直前のニュース番組のキャスターがニュースの終わり際に頭をさげるとついに番組がはじまったのです。

私はわくわくする気持ちを抑えることができませんでした。

 

 

 

一方会議室では、八神、遠山、葉月の三人がテレビの前を陣取り、モニターをにらみつけるようにして見つめ、真剣な表情をしていた。

この三人にはそれぞれの立場、役職としてどうしても確認しなければならないことが2つあった。

一つはレジェンディアが表に出てきた目的。

レジェンディアというメーカーは発売するゲームは一つ一つが一騎当千と呼べるほどクオリティが高く、市場において、狂信者とも呼べる数多の熱狂的なファンを獲得してきた。

ライバル企業として当然無視できない立ち位置にあり、業界内ではレジェンディアの発売日とだけは絶対に発売日をかぶせてはいけないといわれるほど警戒されている。

事実、とあるメーカーが発売日をかぶせたゲームは、シリーズ物の人気作であったのにもかかわらず、初動が非常に落ち込み、売り上げが伸び悩んだ。

しかし、そこまでの人気作を誇るメーカーであるにも関わらず、今までゲーム雑誌やテレビの取材の一切を断り続けているためレジェンディアの実態については謎が多い。

あえて、この場で表に出てきた目的は業界内の誰もが注目し、その意味を警戒している。

もう一つは代表の正体の確認。

八神、遠山、葉月を含む一部のイーグルジャンプの社員は、レジェンディアのゲームのはしばしに一人の男の姿がフラッシュバックすることがある。

八神と遠山にとっては、かつて自分たちとともに切磋琢磨していた同期であり、良きライバルでもあった彼。

葉月にとっては、自分が信じることができなかった結果、イーグルジャンプを立ち去ることになった期待の部下。

レジェンディアのゲームをプレーすると、時折そんな彼のことが頭をよぎる。

その違和感の正体が代表の素性を確認すれば晴れるかもしれないのだ。

 

「八神くんと遠山くんはレジェンディアの代表の正体について、率直にどうに考えてる?」

葉月が唐突にミーティングテーブルを挟んで反対側に座る二人に問いかける。

その表情は普段変態ちっくな事をいう葉月とはまったく違い、少しだけ陰を帯びているように見えた。

「私は…、レジェンディアのゲームをやるたびにどうしても間薙のことが頭をよぎります。あいつならこんなゲーム作るんだろうなって」

八神はレジェンディアのゲームの中に「彼」の面影を感じることがあった。

ただその一方で、口には出さなかったものの、正体のつかめない違和感のような物を感じた。

その違和感の正体が、のどにひっかかかる魚の骨のように取れない。

「私もコウちゃんと同じ意見です。間薙さんの作っていたゲームやキャラクターに近いものを感じることが多いです。正直にいって代表が間薙さん本人でもおかしくないほどに」

八神に同意するようにして遠山が続く。二人の意見は概ね同じものであった。

同期として共に働き、仲良くなり、同時にライバルであった二人だからこそ気づくことが多かった。

「実は私もそう思ってる。というか、間違いなくレジェンディアには間薙くんがかかわっているよ。彼のことはずっと見てたんだ。追い出すことになった私が言える立場ではないのかもしれないけど…」

葉月は”例の騒動”のことを思い出すと再び暗い顔になり、二人も顔を伏せたことから沈黙が訪れた。

そんな静寂を断ち切ったのは定刻を告げる、「ポーン」というこの番組特有の放送開始を告げるSEであった。

「まぁ、こんなこと今考えても仕方がない!とりあえず番組をみて事実を確認しようか!」

放送が開始されたため、重苦しいムードは断ち切られ、3人は画面へと顔を向けた。

 

 

 

私たち4人は食い入るように画面をみつめます。

はじめさんは最初興奮しすぎて画面に近づいてしまい、ゆんさんから「みえへん!」と怒られていました。

そんな二人の様子をみてあわてていたひふみさんも落ち着きを取り戻し、画面に集中して心なしかソワソワしているように見えました。

さぁ番組がはじまるぞー!

 

 

「世の中に本来あるべき作品を送り出す」

『今日特集するのは人気ゲームメーカー「レジェンディア」です。今まで数々のオファーを受けながらも誰の取材にも応じることがなかった彼の企業を、我々MHKは本日、ついに取材することができました。

レジェンディアは5年前に冒頭の言葉を企業理念として発足し、そこから大ヒット作を生み出し続けています。そのすべての作品がレジェンディア代表によって企画構想されています。

「ドラファン」、「ポケメン」「仮面」など数々のシリーズはプレイする者の心を魅了し放しません。

今日は怒涛の快進撃を続けるレジェンディアの製作秘話や代表のゲームへの思いなどをさまざまな角度から取材し、レジェンディアという企業の謎を解き明かしていきたいと思います。

では早速レジェンディア代表をお招きしたいと思います。代表は現在まで表舞台にでてくることがなく、通称のみでしか存在を確認できなかったことから

実在しない「象徴」のような存在なのではないかと噂されていましたが、どうやら実在したようですね。

それではさっそくお招きしましょう!レジェンディア、代表の間薙 レンさんです!』

そして、司会のアナウンサーのナレーションが終わり、が声高らかに宣言すると同時に、舞台の脇からスモークマシンによる煙が噴出され、煙を縫うようにして裏から30歳ほどの男性が歩いてでてきたのです。

 

その姿にそれぞれ見覚えのあった私たちは…

「「「「「「えーーーーーーーーっ!!!!???」」」」」」

その場にいた私たち4人のあまりもの驚きと混乱から漏れる声は、はもってオフィス中に響き渡ったのでした。

なんであの人がテレビに映っているのー!?




よろしくお願いします。
アドバイスや感想ありましたら忌憚のない評価、ご意見お待ちしております。


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第1話 プレリュード

文章を書く練習がしたくて登録してみました。
駄文ではありますがよろしくお願いします。


僕こと「間薙 レン」はふと気が付くと幼児になっていた。ついこの間まで中年独身サラリーマンとして身を粉にして働いていたはずなのに、だ。

どうやら僕は今はやりの転生を身をもって体験しているらしい。

転生したきっかけも思い当たらない。なんせ健康診断は1項目もひっかかっていないし、さっきまで部屋にいた記憶さえあるのだ。

コ〇ン君よろしく自分の体が小さくなっていることに気づいたときは状況が理解できなくて大泣きしてしまった。

精神は成熟したおっさんのままではなく、多少なりとも今の体にひっぱられてしまうらしい。

時間の経過とともに自分の置かれている状況がわかるにつれて、どうやらこの状況は自分にとって都合のいいものであることを理解した

 

前の人生では両親が先立ってからは僕には家族はなく、趣味らしい趣味はゲームしかなくて、仕事終わりや休日はひたすらにゲームをして過ごしていた。

若い頃から僕のそばにはいろんなゲームがあって、そんなたくさんのゲームをして過ごす時間こそが自分の人生の生きがいだった。

それこそ生まれ変わる直前までゲームをしていたような気もする。

生まれ変わったということはこれからもまだ未プレイのゲーム達と出会うチャンスをもらったということに他ならない。

僕はそんな第二の人生の始まりに期待せずにはいられなかった。

 

 

幼稚園に入園した頃だろうか。自分の生きる世界に違和感を感じたのは。

今世では両親がゲーマーで、我が家のリビングにはさまざまな家庭用ゲーム機がならんでおり、平日の夜や土日には両親が様々なゲームプレーしていた。

そんなゲームの数々見ていていもどこかおもしろくない。それどころか今世には「ファイナルクエスト」や「ドラゴンファンタジー」「ポケメン」「仮面」シリーズをはじめ、前世にあったゲームが何一つ存在しないのだ。

前世のゲーム業界を支えた数々のメーカーは存在せず、可もなく不可もないゲームを製作するメーカーばかりが乱立していたのだ。

新しい人生でも有名シリーズの最新作やまだ見ぬ神ゲー達との出会いを楽しみにしていただけに、しばらくの間沈んだ気持ちがはれなかった。

 

だたここで落ち込んだまま終わる僕ではない。

自分の好きなゲームがないなら自分がゲーム産業という娯楽が発展した前世の知識や経験を生かしたゲームを作り続けて、ゲーム業界全体を底上げすればいいんだ。

幸いなことに転生特典なのか、なぜか僕には常識外れの力があった。

その能力とは、ゲーム制作に関するあらゆる作業を完璧に行うことができる力だった。

ゲーム制作に必要なスキルである「絵」、「音楽」、「プログラミング」などをはじめ、学んだことがないのにも関わらずその技術が頭の中にあり、作りたいゲームをイメージすれば完成までの製作過程のすべてを頭にイメージすることができるのだ。

 

ゲーム業界の発展という自らの目標を果たすべく、小学校に入学したタイミングで両親に頼み込んで入学祝としておにゅーのPCを買ってもらった。

それからは自分の能力を試すように多種多様なミニゲームの製作にのめりこんだ。

「テトラス」や「ぽよぽよ」のようなパズルゲーから「サリオブラザーズ」のような横スクロールを中心にシンプルなゲームを作成し、

また十全に使いこなすことができていない自分の能力をアジャストすることに専念した。

作ったゲームは家族や友人にプレーしてもらい、聞ける範囲で前世のレプリカゲーに対する感想を求めたが、帰ってきた反応はどれも賞賛するこえばかりだった。

そうりゃそうだよな。前世で世界的にヒットしたゲームばっかりだもん。

身内の感想ではあまりにもほめる声ばかりのため、試しに複製したレプリカを同人ゲーとしてコミケなどで販売することも考えたが

複製すればするほどこれらのゲームをつくったメーカーやクリエイターの苦労や努力、熱い思いを感じることができ、尊敬の念が高まるばかりでレプリカで収益を得ることに後ろめたさを覚え結局販売するにはいたらなかった。

ゲーム業界を盛り上げるのならば、やはり自分が考え、つくり上げた作品を世に送り出すことで成し遂げなければならないのだろう。

それが前世で自分とともに生きてきたゲームに対する感謝であり供養にもつながると思ったからだ。

まずはそのために自分の能力をいかんなく発揮できるよう、精進すべきだ。

その時から僕の夢は前世のように、「心を揺さぶられる神ゲーを自らの手で生み出すこと」になった。

 

高卒でクリエイターになるという道も考えたが、僕は結局大学へ進学することにした。

理由は単純明快。ゲームクリエイターとしての技術は能力を介すれば高卒時点でもトップクリエイターとして働くことができるほどのものだと思うけど、いかんせん世間を知らなさすぎる。

世界中の歴史や芸術、物語なんかの知識やゲーム制作の根幹となる世界観は能力ではカバーできない部分なので、ゲームを作るうえでの自分の見聞を広め、引き出しを増やす必要があった。

僕の能力はあくまでも作りたいものを作るための最短ルートが頭の中に思い浮かぶだけで、イメージすらできなければ0から1を生み出すことはできないのだ。

 

 

大学ではそれこそ引き出しを増やすためになんだって勉強したし挑戦した。

スポーツなんかも見るとのやるのではまったく違うことに気づいたし、スカイダイビングなんかにもチャレンジしたことで自由落下やパラシュートによる降下なんかでも演出力はあがっただろう。

友人や家族には、一つのことに挑戦しては一日後には別のことをしている僕が自分探しをする若者のように見えたと思う。

そんな自分探しは大学生活5年にも及んだが、ついにゲームクリエイターという道に挑戦する時がきた。

大学生活までに作り上げたゲームはオリジナル、複製作品合わせて200本は作っただろう。

重ためのゲームは環境が整っていなかったので数は少ないけれど、それでも自分にできるだけのことはやってきたという自負がある。

 

 

就職活動ではゲームメーカーのみをひたすら受け続けた。

特にどこのメーカーが希望だとかはなかったけれど面接での逆質問の時間や、OB訪問などを交え自分なりに業界研究を進めていった。

どうやら大手メーカーでは、大手であるがゆえにフットワークが重く、自分のつくりたいゲームをつくるための意見をなかなかに通しにくいのではないかと感じた。

そこで、比較的風通しがよさそうで、経歴関係なくコンペなんかでチャンスがありそうな新興のメーカーを中心に考えるようになった。

 

 

そして今日はその中でも自分が第一志望に考えていたメーカーの面接だ。

いよいよ本命の面接かと思うと胸がバクバクしてきたぞ…。

受付の女性に案内された面接の待機場所は休憩スペースで、社員と思われる方が何名か食事をとっていた。

すでに面接待ちと思われる人もちらほらみかける。

案内に従い、4人掛けのボックス席に座るとすでにそこには二人の女性が座っていた。

一人は金髪ロングヘア―でどちらかというと「かわいい」というよりは「かっこいい」と印象を覚える女性で

もう一人はショートのボブカットで先ほどの女性とは対照的に「かわいらしさ」を体現したような女性だっだ。

二人とも静かにぴしっとした姿勢で自分の面接の順番をまっている。若干幼さの残る容姿からして二人とも高卒か専門卒での応募なんだろう。

僕も年下ながらも落ち着いた様子の二人を見習ってここはもう一度気を引き締めよう。

前世でも就職活動はしたはずなのに、この面接待ち時間はいつまでたってもなれない。

頭の整理のためにエントリーシートや履歴書を読んで面接前に内容の確認をもう一度しておくか考えていたところ、

僕たち三人の席に突然私服姿の眼鏡の女性が腰をかけた。

どうやら社員の方のようで、面接前で緊張しているであろう僕たち3人の緊張をほぐしにきてくれたようだった。

その女性を交えて、どんなゲームが好きかとかゲームを作るならどこのチームがいいかなんか入社後の未来の希望を4人でざっくり話をした。

僕以外の2人はグラフィックチームを希望しており、僕はグラフィックからサウンドまで幅広く携わりたいと答えておいた。

僕たちの緊張がほぐれたところで女性は「がんばってね!一緒に働けるのを楽しみにしているよ」と一言だけ残して立ち去って行った。

なんて気を使える女性なんだろう。仕事もきっとできるんだろうな…。席を立った彼女の後姿をみながらそんなことを考えた。

 

女性との雑談が終わったタイミングで僕の面接の順番が最初に回ってきた。個人面接で順次解散なので残る2人とはここでお別れだ。

次に僕らがそろうとすれば三人ともが厳しい倍率の面接を乗り越えて内定をもらえた時だ。

「3人そろって内定もらって、いつか三人で最高に楽しいゲームを作ろう!」

そんな約束を交わし、お互いの健闘を祈って面接会場へと向かった。

 

面接は圧迫面接なんかではなく終始和やかな雰囲気で進んだ。志望動機やどんなゲームを作りたいか。事前提出の課題であるテーマ自由の製作物についてなどの質問が中心となった。

ちなみに課題は「自主製作作品」というテーマで、媒体は自由だったため、前世のレプリカ作品を提出しておいた。

前世で自分が好きなゲームの一つだったし、せっかくならば表舞台にでない採用試験の場でくらい日の目を浴びてほしかったからだ。

面接官であるどことなくおねえな雰囲気を醸し出している男性が提出した課題作品についてけっこうな数の質問を投げかけてきたが、どこかで躓くこともなくすらすらと返答できたと思う。

僕一人でこのゲームを作り上げたという話をしたときはぎょっとした表情をしてたように見えたのが気になったけど。

話の余談をきっかけにその場で絵を描かされたりもしたけど、やっぱりゲームメーカーだけあって、画力なんかも求められるんだろうな。

60分オーバーにわたる長い面接が終わると面接官の一人が会社のエントランスまで見送りに来てくれて、僕はビルを後にした。

できることはやり切った。あとは結果を待つだけだ。

 

 

待つこと3日、僕の携帯電話に採用試験の結果を告げる着信音が鳴り響いた。

面接自体は可もなく不可もなくすすんだため内心電話で直接お祈りされるんじゃないかと不安に思っていたが、ちゃんと採用の旨を伝える電話であった。

ようやく、ゲームクリエイターになるという長年の夢がかなった事実に安堵した。

そして、「イーグルジャンプ」に入社して自分にしか作れないゲームを世に送り出して見せるとあらためて決心したのであった。

 

 

 

 

 

 

時ははさかのぼり面接当日のイーグルジャンプに場を移する。

「花ちゃん、面接どうだった?なにか気になることでもあったの?」

眼鏡をかけた女性が採用試験会場で書類を見つめる男性に声をかける。

予定されていた面接対応をすべて終えた男性は笑顔ながらもどこか不思議そうな顔で履歴書を確認しており、その表情の原因が気になったのだ。

「あら~、しずくちゃんじゃない。いえね、採用自体は八神コウさん、遠山りんさん、間薙レンくんの三人に決めたんだけど、間薙くんがちょっときになるのよ」

「やっぱりあの三人が採用されたんだね。面接前に私が声をかけた席にたまたま同席していた三人だけど、みんないいモノ持ってそうだったよ。間薙くんが気になるっていうのは、イケメンだからってこと?」

「イケメンで好みなのは否定しないけど違うわよ!八神さんも遠山さんももちろんいいモノもってるとは思うんだけど、間薙くんは完成されすぎているように思えて…。しずくちゃんも彼が事前課題で提出した「ドラゴンファンタジー3」プレーしたわよね?」

「うん。グラフィックからBGM、シナリオ、システムのすべてが洗練されていて、市場に送り出せばミリオンでも達成するんじゃないかってくらいには完成されていたよね。一体何人でつくったゲームで、彼が何の担当していたのか気になっていたんだよ」

「やっぱりそこが気になるわよね。私もそこがひっかかって面接中に聞いてみたの。そしたら何て言ったと思う?彼、『すべてを自分一人でつくった』って答えたの。」

「え!?あのボリュームでクオリティの高いゲームを一人で?一つ一つの要素がそれだけで売りにできるくらいだし、そんなの普通じゃない。嘘いってるんじゃないのかい?」

「私も最初は嘘をついてるか面接にありがちな誇張の一つかだと思ったの。だからちょっと突っ込んで細かいところまで聞いてみたり、実際に絵を描かせたりしてみたんだけど、完璧な回答が返ってきたのぉ~。彼、本当にグラフィッカーからサウンド班までなんでもできそうよ」

「それはすごいね…。彼の力が本物なら即戦力にも期待できそうだね。なんにしても期待の新人3人に入社が今から待ち遠しいよ」

「来年の4月、あの3人がイーグルジャンプに加わればわが社はますます大きくなるわよ!しずくちゃん、一緒に頑張って頂戴ね」

「もちろんさ、花ちゃん」




駄文にも関わらずここまでブラウザバックせずによんでいただきありがとうございます。
第一話に関しては舞台背景などの説明が多くなったため地の文が増えてますが、2話以降はすこしずつ登場人物もふやし、会話を増やしていきたいと思います。
表現力がまったくないのでどんどん語彙力ふやしていきたいところです。
つぎの投稿がいつになるかはわかりませんが、お時間がありました目を通していただければと思います。よろしくお願いします。
また、投稿自体が初めてなのでルール抵触等ありましたらご教示いただければ幸いです。


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第2話 そして勤労者へ・・・

なかなか話がすすまないためもう少し書いてから投稿するか迷いましたが、きりがよかったためここまでで投稿します。
よろしくお願いします。


「おーい、八神、遠山ー。作業のきりがいいなら昼ごはん外に食べにいかね?」

時刻は昼の12時を迎え、適度な空腹感におなかが「グゥ~」と音をたて、栄養補給をいまかいまかと催促する。

入社して2週間がすぎ、僕ら同期三人は少しずつ仕事にも慣れ、こうして外にランチを食べにいくことも増えてきた。

「いいよー、今日は私もリンもごはん持ってきてないからちょうどいいや。」

「間薙さんってもう結構な頻度で外に食べにいてるわよね?どこかおすすめないかしら。」

「そうだなー、この時間ならあそこの店なんてどうだろ。」

前世から僕の仕事の楽しみの一つに、職場周辺の飲食店の開拓がある。

始めて入る店の雰囲気や料理の味に想像を膨らませ、にわくわくしている時間が好きだからだ。

今日はそんな店の中でもワンコインでボリュームのある洋食を食べられる店に二人を案内することにした。

 

入社してからはあっという間に時間は過ぎ去った。ゲームの製作スキルについてはそれなりに自信があった僕だけど、

それでも毎日学ぶことや関連チームとの調整が入ることで忙しさに目が回りそうになる。

個人で自由に作るゲームと、企業として売り上げや世間の目を意識して製作するゲームでは根本的に考え方が変わってくるのだ。

前者はいわば自分が満足できるゲームを吊り上げることができれば十分だけれど、後者でデベロッパーや取引先等、直接の作業にあたる製作スタッフ以外の思惑か複雑にからんでくる。

大勢で一つのものを作り出すということの難しさを2週間という短い時間ながら否応なし考えさせられる日々だった。

 

僕ら3人は時にはこうして一緒にお昼をを一緒したり、仕事の後に食事へいき、お互いの仕事に進み具合や、悩みがあれば相談する程度には仲良くなっていた。

入社当日に再開したときは、まさかあの日話をした3人がそろって内定をもらっているとは誰も思ってもいなかったため、

会社のエントランスでばったり出くわしたときは何かの縁のようなものを感じたものだ。

 

「それで、八神と遠山は2週間後のコンペ応募するんだっけ?仕上がりはどんなもんなの?」

「うーん、なかなかこれだってデザインはできていないけど、それでも方向性は決まったし、いいものができると思うよ。いや、せっかくのチャンスだしいいものをつくる。」

「私は少しずつ勧めてはいるんだけど、それでもまだ提出できるほどのクオリティにはなっていないわね」

イーグルジャンプは入社前のイメージの通り、比較的自由な社風のようで、入社して間もない僕たちのような一年目社員でも最新作のキャラコンペに参加することができるようなのだ。

事実、イーグルジャンプ最新作である「プロジェクトFS」という新規IPのコンペには八神と遠山は参加を予定している。

 

入社直後のオリエンテーションののちに、二人が配属されたのはキャラ班で、僕は同じグラフィックチームの中でも背景班配置となった。

各々が、採用試験の際に提出した課題の出来から、適材適所で配属を振り分けられたらしい。

僕の場合、後から聞いた話によると、どこでもそれなりに対応できそうだったのでその時人のいなかった背景班に放り込まれたということだった。

「レンさんは今回コンペ本当に参加しないの?あれだけ絵が描けるんだからせっかくなら参加すればいーじゃん」

八神がいうように、今回僕はコンペには参加しないことにしている。

時間をみつけて描けば今からでも締め切りには間に合うだろう。

でも、僕はまずは今自分に与えらえた背景という仕事をしっかりとこなし、成果を上げたいと思ったのだ。

長い人生、まだまだこれからいくらでもチャンスはある。これからに向けてしっかりと足場を固める時間も必要不可欠だ。

 

ちなみに、八神と遠山は18歳入社で23入社の僕とは5つ年齢が離れている。自己紹介でそのことが分かってからは二人は僕のことを「さん」付けでよぶようになった。

最初は苗字で呼ばれていたものの、新人歓迎会で打ち解けてからは八神からは名前で呼ばれるようになった。遠山はどこか遠慮しているようで今でも「さん」付けで僕を呼ぶ。

一方僕はというと、ちょっとした気恥ずかしかから女性である二人のことを名前で呼ぶことができず、苗字を呼び捨てしている。

前世からずっとゲームばかりしていて女性経験が浅く、女性との会話なんて業務上でしかをすることがなかった僕にいきなり名前呼びはハードルが高すぎる。

「まぁ確かに今からでも間に合うかもしれないけど、僕はまずは背景っていう仕事をがんばってみたいんだよ。それに、もし二人のどっちかがキャラデザとして採用されたら、二人のキャラが歩く舞台を作ることになるかもしれないんだぜ?それって責任重大だしわくわくするじゃん」

今回のコンペが出来レースでもなければ二人にもチャンスがある以上、そんな未来を期待せずにはいられない。

「そういわれちゃうと、こっちもこれ以上なにも言えないじゃん…。でもこの間の歓迎会で描いてたキャラクターの絵なんかすごくうまかったじゃん。勝てないかもって思っちゃったもん」

「私もあの絵見た時はこの先この業界でやっていけるのかちょっと自信なくしちゃったわ。ポップなイラストでシンプルなのにすごく可愛いし、今にも動き出しそうで…。だからこそ参加しないのがもったいないわよねぇ」

二人は僕がコンペに参加しないことに対して残念そうにしてくれている。普通の人間なら厳しい競争のライバルが減ることに喜びこそすれ残念に思うことなんかないだろう。

二人の性格の良さをしみじみと感じ、ますます二人を応援したくなった。

「まぁあのデザインの場合は僕のオリジナルであってそうじゃないようなもんだからな。コンペに参加する時はちゃんと考えて、来るべきときに挑戦するよ。」

「んん?なんかよくわからないけどまぁいっか。その変わり、もし私たちの案が採用されたらその時は最高な背景よろしくね」

八神は僕の発言にどこかひっかかったような顔をしていたけど、気にしないことにしてくれたみたいだった。

「私もコウちゃんに負けないようにがんばるわ!間薙さんも応援していてね」

二人は直近の目指すべき目標が明確になったことでより一層仕事へのモチベーションを上げたようだった。

僕も二人と話をしていると二人のやる気にひっぱられて、今日の午後からの背景のモデリング作業に対する気持ちが高まるのであった。

 

幸いなことに、二人を連れて行った洋食やの評判も上々で、店のファンを増やすことができたのは僕も満足だ。

自分の好きな事を布教して喜んでもらえた時の達成感はなにものにもかえられないな。

二人との雑談によって、気持ちをリフレッシュできた僕は、午後からもモチベーション高く仕事に励むことができたのだった。

 

 

 

それから2週間後のこと、ついにコンペ当日がやってきた。この2週間の二人のがんばりは陰から見てきたし、結果が楽しみになる。

二人のデザインは製作途上のものをいくつか見せてもらったけど、二人とも普通にレベルが高い。

完成品はコンペ本番を楽しみにするため見ていないないけど、どちらもワンチャンあるんじゃないかと考えている。

 

定刻を迎えるとコンペ会場はしんと静まり返り、葉月さんの今回のコンペについての説明が会議室に響く

会場に集まった参加者はいずれも緊張した表情をしており、二人の応援に来ただけの僕もピリッとした雰囲気を感じ背筋が伸びる。

葉月さんというのは僕たちが面接待ちをしている時間に声をかけてくれた眼鏡姿の女性で、このイーグルジャンプでAD(アートディレクター)を務める。

面接の前に声をかけてくれたのを、僕たち三人は緊張をほぐすために声をかけてくれたのだと思っていたけれど、実際には目的はそれだけではなかったらしい。

雑談をすることで、気を抜いている素の状態での人間性やゲームへの思いの確認のための選考の一部であったらしく、我が社では採用試験の恒例になっているらしい。

入社日にその説明を聞いたときは3人そろって冷や汗をかいたものだ。本当に変なことをいわなくてよかった。

 

「今回はたくさんの応募ありがとう。最新作である『プロジェクトFS』は自社IPの中でもそれなりの規模の作品になる計画なんだ。

だから今回の募集は前例にとらわれないよう、勤続年数や経験なんかの縛りはあえて設けず、ベテランから新人まで参加できるようにしたんだ。。

新たな風を吹かせてくれるみんなの作品楽しみにしているよ。じゃあ前置きはこのへんにして、はじめようか。」

葉月さんの挨拶が終わると、各々が提出したキャラクターのイラストが一枚ずつプロジェクターに映し出されていく。どの作品も非常に出来がよく、コンペ自体の水準が高いものであることが一目にわかる。

流れとしては、映し出される一つ一つの作品に対して葉月さんがアドバイスや感想を言っては次の作品に移っていくという次第だ。

いくつかの作品についての品評がおわり、次の作品に画面がきりかわったタイミングで葉月さんの表情がほんの少し真面目なものへと変わった。。

「これ描いたのだれ?」

今まで参加者の名前は伏せて進んでいたのにも関わらずここにきて直接応募者の特定が行われたのだ。

会場が誰だ誰だとざわつく。

「あ…!私です」

聞き覚えのある声に目を向けるとその正体は八神だった。

八神は周りの視線に顔を赤らめながらも左手を上げていた。

「先月入社した八神コウ…か。うん、決めた。八神くんに新作のキャラクターデザインを担当してもらうよ。」

「っ……はい!」

一瞬戸惑ったような、それでいて力強い返事をした八神はどこか誇らしい表情をしていた。。

こうして波乱の結末となったコンペは葉月さんの大胆な決断の下、幕を引いたのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回は、会話にでてきた新人歓迎会の話か、コンペの打ち上げの話かどちらかの話にする予定です。

しかし、話が全然すすまない。はやく本題にはいらなければ…。


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第3話 打ち上げ

少しずつでも話を進めていきたいと思います。
よろしくお願いします。


「「「乾杯!」」」

八神のデザインの採用という大番狂わせにより幕を下ろしたコンペ後の金曜日。

僕、八神、遠山の同期一行は職場から駅へ向かう途上、人通りの多いメインストリートへ店を構える流行りの洋食屋へと足を運んだ。

街を行き交う人の波は週末であることも手伝って、どこか浮足立っているように見える。

今日の食事会の名目は『コンペお疲れ様でした会』と題するもので、二人をねぎらうために僕が企画させていただいた。

採用された八神はもちろん、八神に負けじとがんばっていた遠山の姿も間近で見ていて、結果はどうあれ二人にはちゃんと「お疲れ様」と一言いえる場を設けたかったのだ。

コンペでは形として遠山は八神に負けたことになる。そんな遠山が参加を許諾するか不安だったものの、「コウちゃんをお祝いしたい」との本人の申し出によりこの会の開催に踏み切った。

八神も少なからず遠山に遠慮していた部分があったようで、遠山がよろこんで参加してくれるという話をしたときには、安心してかほっと息をついていた。

本来はコンペ当日に行うつもりだったのだが、採用者は葉月さんや大和さんとともに今後のスケジュール含め様々な調整事項があるようで、当日中の開催は見送り数日後の開催となった。

打ち上げといえば普通ならばアルコールを飲むのが一般的なのかもしれないが、二人はまだ未成年だし、僕はお酒に弱く、ビールジョッキ一杯も飲むとそれだけでもうろうとしてしまうのだ。

新人歓迎会では先輩にビールを進められたのを無下に断るのも憚られ、無理して一杯だけ飲んだ結果、会の半ばからの記憶がすべて飛んでしまっている。先輩がタクシーで家まで届けてくれたそうだ。

そこで今日はお酒メインの店ではなく、お祝いに使えそうな洒落たレストランを選別するにいたった。

「コウちゃん、今回は本当におめでとう!私、コウちゃんが一緒にいてくれたから最後まであきらめずにがんばれたし、成長することができたの思うの。本当にありがとう。そしておめでとう!」

「ありがとうリン…。あとお礼をいうのはこっちだよ。リンがそばにいてくれたからこの結果がでたんだと思う。一人じゃ絶対に途中であきらめてた。こっちこそ本当にありがとう」

「コウちゃん…」

おーい、僕も同卓に座ってるんですけどー。乾杯の発生直後に突如始まった二人のバカップルみたいに甘い会話を僕は白目を向いて聞いていた。

この二人、ほっといたら数年後には同棲でもしてんじゃないの?

お互いを見つめあい、顔を赤らめている二人を前に僕はカヤの外でひとりそんなことを思ったのだった。

 

 

 

八神の大番狂わせに終わったコンペ後のこと、会場は荒れに荒れた。

頭を掻きむしって俯いている人、天を仰ぎブツブツ独り言を言う人、両手を壁にそえて無言で頭を打ち付ける人、涙を流して嗚咽を漏らし会議室から飛び出す人がでたりと異様な雰囲気に包まれた。

僕は二人の応援ばかりしていたけど、当然二人以外にもたくさんの人がいろいろな希望や夢を抱いて今回のコンペに臨んでいたことに改めて気づかされた。。

八神の案が出た時点で葉月さんが採用を決めたため、新規IPの選考という大舞台に立ててすらいない人もいる。

当然、新入社員にその夢をかっさわられた先輩たちの胸中は穏やかではないだろう。事実、その場で八神に祝福の言葉を送った人間はすくなかった。

応援に来ていただけの観覧者にも誰々を応援していたかなど、ある意味派閥のようなものがあったのだろう。あちらこちらで落ち込んでいる人間への励ましの言葉がいきかっている。

ゲーム業界というライバルメーカーや業界人との競争が否応なしに続く世界の厳しさの、ほんの一片を垣間見たような気がした。

 

「でも、今回の結果は本当に二人がいてくれたからこそのものだと思うんだ。悩んだ時、煮詰まった時に二人と話す時間でリフレッシュできてなかったらこの結果はでなかったと思う。」

ほんの少しだけ朱色にそまった頬を指でぽりぽり書きながら、伏し目がちにそういった。

彼女は人見知りの部分があって、先輩たちとはなかなかうまく距離をとれていない部分がある。しかしその反面、一度内側に入り込むとなかなかどうして素直でまっすぐなところがある。

だからこの言葉も本心でそう言っているのだなということがこちらにも伝わり、こちらまで気恥ずかしさを覚える。

「あとは改めて、キャラクターデザインというかコンペに参加することの責任の重さがわかったよ。先輩の表情や落胆してる姿をみると、その人たちの想いも背負わなきゃって。どんな時も手を抜かずにやりとげてみせるよ」

八神も僕と同じような事をあの場に感じたようで、照れていた表情が一転真面目な表情へと変わる。

「コウちゃん…」

「まぁ困ったことがあったらまた僕たちに相談してくれよ!アドバイスはできるかわからないけど同期のよしみで悩みくらい聞くからさ!」

僕たちにできるのは「プロジェクトFS」が完成するまでの間、八神を支えてあげることくらいだ。

僕は僕で背景班として全力を尽くそう。八神のキャラクターデザインとしてのデビュー作に泥なんか塗るわけにはいかない。

その後、僕たちはしばらくの間、思いのほかに絶品だった食事に舌鼓をうちコンペの反省会や今後の目標、それと四方山話に浸った。

 

 

 

楽しい時間は過ぎ去るのも早く、空になった皿はウエイターによりすでに運び出されていた。

きれいになったテーブルへ食後のコーヒーが運び込まれてくる。

僕はそのタイミングであらかじめ用意しておいた労いのプレゼントを二人に渡すことにした。

プレゼントといっても、高価な商品のようなものではなく、僕が作ったレプリカの一つだ。

僕が突然プレゼントを贈りたいと言ったとき、始め二人はあわて、遠慮をしていた。

しかし、かばんから出てきたのが包装もされていない上、表に何も書いていない白いDVDロムであることがわかると二人とも頭上にハテナマークが浮かんでいるような、不思議な表情をした。

珍妙な表情のリアクションをする二人に僕は笑いそうになるのをこらえながら言葉を続ける。

「僕、実は入社までにスキルアップのためにいろんなゲームを複製して(つくって)たんだ。ゲーム好きな二人なら楽しんでやれるんじゃないかってゲームを詰め合わせでいくつか選別してロムに入れてるからぜひ息抜きにやってほしいな。それでよかったら感想聞かせてほしい」

レプリカゲームの感想を聞くことができるのは僕にとっても貴重な機会だった。過去に名作と言われたゲームであっても、今の世界の感覚でそれがおもしろいという評価をうけるかはわからない。

両親や仲のいい友人ではなく、初めて外の人間、それも最前線で働くクリエイターからの意見を聞くことができるのだ。

その意見はこの先自分が本当の意味でのオリジナル作品を作るときの指針や財産となる。そう考えてのプレゼントだ。

若干の打算的な部分はあるものの、二人を喜ばせたいという思いもそこにあるのもまた事実だった。

「え!?レンさんって絵だけじゃなくてそんなことまでやってたの!?」

僕は面接で課題に関する質問をされて以降、ゲーム製作歴については管理職以外誰にも話していない。

別に隠しているわけではなかったけど、とりわけ話す場面やきっかけもなかったからだ。だから社内ではちょっと絵がうまい新人という程度の扱いを受けている。

「そうだな。昔からの習慣というか趣味というか。とにかく子どものころからゲームが好きだったんだけど、自分がやりたいゲームがなかなか見つからなくて、自分でつくるしかなかったみたいな。」

「そうなのね。そんなこと言う間薙さんが創るゲームってどんな作品なのかちょっと気になるわ。この前の歓迎会で書いていた絵のキャラクターがでてくるようなゲームなのかしら」

遠山も手渡した無地のディスクケースの表裏を眺めながらも興味を持ったのか質問してくれる。

「それはやってみてのお楽しみってことで!それなりに自信はあるけど、ぜひ二人の意見が聞かせてほしい。お世辞じゃなく本心でいいから」

「いいよ!でもこんな席で手渡されたってことはこっちも相当ハードルあげちゃうよ?感想も本当に1ミリも忖度なんてしないから!」

八神はこちらの挑戦にたいしてちょっとだけ生意気そうな表情で僕をのぞき込むようにしてそんなことを言う。

「あぁ、忖度なんかしなくていいよ。二人が本当に感じたことをありのままの感想をきかせてほしい」

「なら、私も家に帰ったら早速やってみるわね。明日はお休みだし」

「私も明日は予定ないしプレーしてみるよ。どれだけボリュームあるかわからないけど、それだけの時間があれば月曜日には感想くらいいえるだろうし」

同僚から唐突に渡された妙なゲームなのにも関わらず二人は快くプレーを決めくれたようだった。

でも安心してほしい、二人に送ったのはなんといってもあの作品達のレプリカなのだから。

二人からの感想が聞ける。それだけで僕は楽しみでドキドキして落ち着かない休日を過ごしたのだった。




お付き合いいただきありがとうございました。
あと1~2話くらいでタイトル回収くらいまでは話進められればと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。


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第4話 

こつこつ書いているもののなかなか時間が取れず話が進みません。
明日からまた仕事なので大急ぎでかき上げました。
よろしくお願いします。

チートや前世の知識は控えめでお送りしております。


休日が終わり月曜日を迎える。

勤め人にとって休日の終わりとは楽園からの追放にも等しいほど苦しいものである。

翌日に休日を控える日は夕方ごろから万能感に満ちあふれ、自分自身が無敵なのではないかと勘違いするほど心が軽くなる。

しかしその一方で休みの終わりが近づくと途端に心がしなびてくる。

僕も前世では日曜日の某テレビアニメのエンディングテーマが、背後に迫る仕事の足音のように聞こえ、そのアニメから距離をおいていたこともある。

一時期は「寝なければ明日にならないんじゃないか」なんて精神論の極みのようなあほなことを考えたものだ。

 

そんな僕だが今の仕事についてからはやりたかったことがそのまま仕事であるため、仕事にいくのは比較的楽しみであり苦痛にはなっていない。

しかも今日の昼は八神と遠山から「渡したゲーム」の感想を聞くことができるのだ。

昨日の夕方、八神と遠山から「もらったゲームについての感想を話したい」という旨のメッセ―ジが3人のグループチャットに書き込まれた。

そこで、昼食の時間にご飯でも食べながら話そうと提案したところ両名とも了承したのだ。

二人とも朝一番にでも話したかったようだったけれど、朝だと始業前でばたばたするため昼一番ということで落ち着いた。

二人からどんな感想がでてくるのか楽しみで昨日はそわそわしてしまったほどだ。

まずは午前中の仕事をしっかりとこなして昼休みを待とう。

 

入社してからの日々は目が回るような忙しさであるものの、日々の充実感からかその忙しさが不思議と心地よかった。

まだまだ新しい環境に緊張感はあるけれど、先輩の顔と名前が一致するようになってきたことで以前よりは楽な気持ちで作業に入れるようになってきた。

今は仕事といってもまだまだ研修扱いのようなもので、背景班の女性リーダーがその都度指示をだすのでそれにあわせて作業を進めていく。

ちなみにこの女性リーダーは先日のコンペにも参加していたが、ご存じの通りで残念ながら採用にはいたらなかった。

彼女の作品はどの作品にしても非常にレベルが高く、もし八神がコンペに参加していなかったら採用されていたのはリーダーだったと思う。

コンペ翌日は彼女の表情にも陰りが見え、落ち込んでいたように見えたが、今では気持ちを切り替えたのかさばさばとした態度で自分の持ち分である作業に集中しているように見える。

そんなリーダー監督のもと、今までは2D背景を描いていたが、数日前から3Dモデリングを任されるようになった。日々マニュアルを片手にPCとにらめっこである。

 

実は僕は今までレプリカゲームを作るうえで、本格的な3Dゲームを作成したことがなかった。

個人で製作できるような簡単なものならともかく、本格的な3Dモデリングができるだけの環境をしっかり整えることがどうしても厳しかったからだ。

また、3Dでの製作となると物理的に作業時間が増えるので自分一人の力ではおいつかず、2Dのゲームを中心にせざるを得なかったのだ。

そういった意味では、設備の整った環境で先輩の指示のもの、改めて基礎から学ぶことができるのは本当にありがたかった。

持ち前のチート能力のおかげで、すでに僕の頭のなかでは3Dで構成される名作ゲーム達がどのような作業工程を経て製作されたのか、ざっくりと理解できるようになったのだ。

おそらくこれで環境と時間さえあればグラフィックという分野においては作れないものはないと思う。

ちなみに今日の午前にリーダーからの課題として作成を依頼されたのは、「ストーリー序盤に訪れる村の家屋」というものだ。

町や村の風景というのは非常に奥が深い。町のいでたちは民俗学とでもいうのか、その土地柄や歴史、気候、宗教と様々な背景や要素によって異なる様相を呈することになるからだ。

例えば、日本国内の豪雪地帯であっても、合掌造りのような構造をとっている地域もあれば、平屋根のような形状をなっている地域もある。

その土地の風土や背景を顧みず、自分の勝手なイメージだけで考えて作ってしまうとゲームの設定や舞台から浮いてしまうものが出来上がってしまう可能性もある。

ゲームのイメージとして中世ヨーロッパ風の町並みを求められているのに、三国時代の中国のような風景を作ってしまっては背景として成り立たないのだ。

先輩からは研修みたいなものだからざっくりとりあえず作りたいように作ってみてとだけ指示をされた。

おそらくはあえて僕の自主性や作品制作上での理解度を試すような指示をしたのだろう。

ゲーム資料を拝借して資料一式を一読してから作業へと移った。

直接の作業に入る前にスケッチブックにラフ画として自分のイメージする風景を落とし込む。その後作業にとりかかる。

実は背景という作業は僕にとってかなり得意な部類にはいる、キャラクターや物語をゼロから生み出すのとは違って、物語の背景を前提に作成するものなのでイメージとしておこしやすいのだ。

あとはそこに今まで自分が学んできた自分の知識や経験をはめ込んでいけば必然的に町並は完成される。

作業は順調にすすんでおり、ぼちぼちの出来の家屋が完成した。

 

「間薙くんー?作業の進捗どんな感じー?」

課題の進み具合がきになったのか、リーダーが僕のデスク上のモニターを背後から覗き込む。

リーダーは普段はざっくりしているものの面倒見がよく、僕が困っていないかを定期的に声かけして確認してくれる。

一つ一つの作業に時間をかけて丁寧に進めたので結構いい仕上がりになっていると思う。

あとはスキルを使って量産すればそう時間をかけることなく村ができあがるだろう。

 

「っ!?これ、今の時間だけでここまですすんだの?間薙くんって3D経験あったっけ?」

先輩は僕がここまで作業をできると思っていなかったようで、驚いた顔をしてそういった。

面接以外では八神と遠山以外にはゲーム製作経験について話したことはないし、驚くのも無理もないのかもしれない。

「いえ、かじった程度にはやったことありますけど、ちゃんと取り組むのは始めてですよ。今も参考書通りに進めてるだけです」

「かじった程度っていっても新人が普通ここまでのもの作れないよ!」

「ありがとうございます。でもまだまだ素人のようなものなので今後もご指導のほどよろしくお願いします。」

そういうと僕は脇に立てかけていたスケッチブックをとりだし、自身がイメージする村の風景をリーダーに見せ、背景の方向性ついて間違いないか確認をした。

「い、いいんじゃないかな。その調子でつくれるだけ作ってみてよ。」

「わかりました。ならこのラフような感じで村全体作成していきますね。もし何かリテイクや仕様変更があれば教えてください。」

「え…えぇ。その時は連絡するわ…。それにしても八神さんにしても君にしても本当に優秀ね…。じゃあ私、席に戻るから…。」

先輩はこの後もなにか予定があるのか、足早にに僕のデスクから立ち去った。

せっかくだったのでもっとアドバイスや指示をもらいたかったのだが、忙しいなら仕方がない。

僕も本日予定している作業工程を少しでも前に進めるために机に目を向けるのであった。

 

 

ちなみにその日昼食を食べながら聞いた二人からのゲームの感想は概ね好評だった。

そしてその場で一つの約束をした。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

その場での会話については今後機会があればまた話したいと思う。

 

 

 

 

その夜。まもなく終電を迎える時間なのにも関わらず、一つのデスクに光がともっていた。

そこには、PC内に保存されている背景データ一つ一つ確認している女性が一人。

「なによこれ…。新人がこんな無駄のない3D作れるってどいう言うことよ…。おかしいじゃない…」

彼女が確認していたのは本日間薙が完成させた背景データで、その仕上がりをつぶさに確認していた。

始めは荒を探してどこかしらにケチをつけ、リテイクという名の指導すればいいと安易に考えていたものの、確認すればするほど新人がつくったとは思えない文句の付け所のない仕上がりであることがわかり、彼女は焦燥感のような嫉妬に刈られていた。

つい先日も、自信をもってコンペに参加したところ、まさかのまさか、入社一か月の新人にキャラデザの座を奪われたのだ。

彼女のプライドは完全に打ち砕かれ、平常心を取り繕っても後輩に対する劣等感をぬぐうことはできず、今でも手が空いてしまうとコンペの悔しさを思い出す。

それと重なるタイミングで、自分の専門分野である背景において、まったく警戒もしていなかった新人が思いもよらぬ伏兵として浮上してきたのだ。

コンペの結果に落胆した気持ちを引きずっていたため適格な指示をする気もわかず、「適当につくってみてほしい」と投げやりいったところ、出来上がったのは想像を遥かに上回る町並みだった。

何の変哲もない村の風景なのにもかかわらず、その情緒あふれる作りに目を奪われ、ひきつけられてしまう。

このゲームの「この村はこうあるべきだ」という姿が出来上がった3Dデータには確かにあった。

自分が新人のころに「適当に作れ」と指示されていたら、決してここまでのものはできていなかっただろう。

それを3Dを学びたての人間が参考書片手に作った作品がここまでのものであるとはリーダーにとって無視できるものではなかった。

「八神にしても間薙にしても優秀すぎるわね…。本当にいやになるくらい…」

彼女の作業音を残して静まり返った誰もいない事務所に、そんな一言がやけに響いたのだった。




あったかもしれないこんな会話
コ「あれって、本当にレンさんがつくったの?まだ全部はできてないけどどの作品も面白かった!それこそ同期が作ったなんて聞いたら嫉妬しちゃいそうなくらい」
リ「私もミニゲーム含めていくつかのゲームをやったんだけど、お休みが一瞬で過ぎ去ったくらいのめりこんじゃったわ…。熱中して夜更かししちゃったもの」
主「グラフィックだけじゃなくて、シナリオからBGMまで一人でつくった」
ふたり「「えぇっ…!?」」



ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想、評価ともどんなものであってもかまいませんので、お時間ありましたらよろしくお願いします。。


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