【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き (リレー小説実行委員会)
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ルール説明!



※現在、当企画はメンバー募集を中止しております。
 新たな参加者の追加はしていませんので、ご注意下さいませ。


管理人のアドレス ↓
https://syosetu.org/?mode=user&uid=141406




 

 

 よう来たのぉ~旅人さん。ワシはお地蔵さまじゃ♪

 当作品内では、主人公の男の子を見守ったりしておる者じゃよ~。

 

 このページは、当リレー小説企画についての、軽いルール説明になるぞい。

 基本的に「自由にやろう! 小説で遊ぼう!」がモットーの企画じゃから、むずかしい決まり事は一切ないのじゃ。

 

 しかし、安心して参加してもらう為にも、目を通しておくのじゃぞ~。

 

 

 

 

◆当企画のルール◆

 

 

・その1 【俺も参加するぞぉ~!】

 

 まずは当作品を読んでもろうた上で、自分もやってみたいと思ってくれた時は、管理人hasegawaの方にメッセージを送るか、当作品の感想欄にて、参加表明をするのじゃ。

 

「みんなと楽しく遊びたい! 交流したい!」という気持ちをお持ちであれば、どなた様でも歓迎しとるから、お気軽に参加しておくれ~。

 

 そして自分の番が来るまでは、少し時間がかかってしまうと思うのじゃ。

 その間は感想コメントなどで、みんなのこと応援してあげておくれ♪ バンバン感想を言い合っていくのじゃ~!

 

 

 

・その2 【よぉ~し、小説を書くぞぉ~!】

 

 お前さんに順番が回って来たらば、管理人の方から【バトン】というタイトルでメッセージをお送りし、手番をお知らせするぞよ。

 前の人が書いた小説の内容を、しっかり確認の上、その続きの執筆をするのじゃ!

 

 無事作品が書き上がったらば、管理人hasegawaの方にメッセージで【作品の本文、タイトル、次の人への伝言など】を記載の上、送るのじゃ。

 こちらで軽く誤字などを確認させてもらってから、当ページへと作品を投稿するぞよ♪

 

 ちなみにリレーの順番についてじゃが、企画に参加して下さった順を、そのまま行くぞよ~。

 

 

※ご注意!※

 作品の掲載時には、作者様のお名前と、TOPページのアドレスを記載させて頂く予定です。

 もし匿名でやりたい! 名前を出されるのはイヤだ! という場合は、遠慮なく言って下さいね。

 

 

 

・その3 【文字数は1500文字から、だぜ!】

 

 ハメの投稿規約を考慮して、一作品は1500文字以上、を基本でいくぞよ?

 極端に短いのは困るんじゃけど、長い分には何文字でもOKじゃぞ~。

 

 じゃが無理のない範囲で、自分にとって書きやすい文章量で書いておくれ♪

 あくまで目安なんじゃが、きっと2000~5000文字くらいが、丁度いいかもしれんのう~。

(ちなみにこのページが、ちょうど二千文字くらいじゃ。参考にするが良いぞ?)

 

 

 

・その4 【締め切りは2週間を目安に、だぜ!】

 

 当企画には、ハッキリとした締め切りは設けておらぬのじゃ。のんびり書いて大丈夫じゃぞ~。

 ただ自分に手番が回ったら、一応“2週間くらい”を目安に、頑張ってみるのじゃ!

 

 ウンウンと悩み、時間をかけてじっくり書くのも、大切なことじゃ。

 しかし時には、「スパッと書き上げて次にまわす」というのも、リレー小説においてはとても重要じゃぞ?

 たくさん書き、数をこなしながら、上手になって行けば良いのじゃ♪

 

 いわゆる“パス”は全然OKじゃからから、ちょっと考えてみて「これ書くの無理だぁ~!」と思った場合は、遠慮なくhasegawaまで連絡しておくれ。

 また、どうしても2週間以内に間に合いそうにないという場合にも、管理人まで一言くれればOKじゃ。

 ここら辺は臨機応変にいくから、安心して良いぞよ♪

 

 そして、もし早めに小説が完成した時には、いつでも送ってくれて大丈夫じゃ!

 即座に投稿して、次の人に順番をまわすぞよ~!

 

 

 

・その5 【書く内容は自由だ! フリィィーーダムッ!!】

 

 基本オリジナル作品をメインとしておるが、そこに版権キャラを出してもOKじゃぞ。

 タグが必要な時は、管理人が随時追加してゆくから、心配いらんぞよ~。

 

 例えばじゃが……、前の話ではグルメ小説じゃったのに、自分の番でいきなり宇宙に行ってロボットで戦いだすとか、そういうのも大歓迎なのじゃ!

 もう思うがまま、自分の好きなように書いてしまうが良いっ!

 

 ただ“性的描写”と“グロテスクな描写”に関してはだけは、R-18の規約があるから、もしやる場合は、それに引っかからない程度でお願いするぞよ~。

 

 

 

・その6 【何を書かれても良い! 怒らないぜッ!】

 

 ワシからのお願いなんじゃが……これを是非、みんなの約束事として決めとこうの?

 

 例えば、ワシの番で書いた内容とか、もう全部無視して書いても大丈夫なのじゃ!

 設定改変もOKじゃし、必要ならばキャラを死亡させちゃうのもアリじゃ! 容赦はいらんっ!

 

 もうあらゆる意味で、このリレー小説は自由! 自分の色やスタイルを存分に活かし、作品を書き上げるのじゃっ!

 だから逆に、他の人に何をやられても怒ってはいかんぞ? お地蔵さんとの約束じゃ♪

 

 キラーパス、無茶ブリ、設定リセット……なんでもOK!

 たとえどんなのが来ても、投稿者の矜持に賭けて、全力で応えてやるのじゃ~!

 

 遠慮や気遣いはいらぬ――――これはある意味で真剣勝負じゃ。

 

 後の人や、仲間達を信じて、おもいっきりぶつかってゆけ~い!!

 

 

 

 

・その他 【リレー順とは関係なく、“番外編”を書いてもOKだっ!】

 

 自分の順番が来るまでは、おそらく時間がかかってしまうと思うのじゃ。

 場合によっては2か月とか、3か月くらいかかってしまう時も、あるじゃろう……。

 

 そんな時は、是非もんじゃ焼きストーリーの設定を使った“番外編”を書いてみると良いぞよ♪

 例えば、本編にはないIFのお話じゃったり、今まで出てきたキャラを主役にしたスピンオフ小説じゃったり!

 

 これはリレーの順番とは関係なく、エキシビションとして、いつでも書いてくれてOKじゃ。

 書きたい人も、読みたい人も、みんなが楽しめるからの!

 

 じゃからもし「自分の番が来るまで暇だな~」と思った時は、ドンドン小説を書いて送るのじゃ。

 遠慮はいらんぞよ~♪

 

 

 

 

 

みんなを見守る、お地蔵さまより

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 以上が、このリレー小説企画の概要です♪

 

 当企画は『小説を通して、みんなと楽しく交流する事』を目的としてやっている物です。

 

 ただ小説を書くだけであれば、それは一人でも出来ること。

 なので、この企画の唯一の参加資格は「みんなと楽しく遊びたい」「一緒に何かを作り上げたい」という気持ち♪

 ただ自作品を書くだけじゃなく、感想や意見交換を通して“皆と交流をしていく”という気持ちです♪

 

 それをしっかりお持ちの方であれば、もうどなたでも大歓迎です☆

 たとえ、まだ小説を書いた事がない人でも大丈夫っ! 自信なんて全然いりませんっ!

 

 それでは、貴方のご参加をお待ちしています♪

 一緒に遊びませんか?

 

 

 hasegawa

 




※追記 作品の権利について!

 当企画にご投稿いただいた作品の権利は、全て【作者様ご本人】に御座います。
 ゆえに、こちらにご投稿いただいた作品を、後にご自身のページで改めてご投稿なさる事も、まったく問題ございません。

 いちおうは“盗作などの誤解”を避けるため、再投稿の際は前書きなどで「自身がこの企画で書いた物である」という事を、ひとこと明記して頂けたら安全かと思いますゾ♪





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登場人物のまとめ。


 こちらは現時点までの、登場人物の一覧です。
 参加者の皆様のため、資料として作成しております。

 これにはネタばれを含みますし、お読みにならずとも全く問題ありませんので、観覧者の皆様は本編へとお進み下さいませ♪

【リレー本編】第一話アドレス↓
 https://syosetu.org/novel/245415/13.html


(最終更新日、11月12日)




 

 

 

 

・秋月本家

 

 秋月 流   高校2年生。生徒会長であり、Very Uni-Merge(ベリー ユニ・マージ)のリーダー。

       なにかとお地蔵さんに縁のある一族の、当代の少年。

       一族の悲願である世界征服を目指す、実直な好青年。だが少し頭が残念な子。

       先祖から受け継いだ、膨大な“徳”を持っている。

       『――――今回の美星祭、史上最高のものにすんぞ! 以上ッ!!』

 

【挿絵表示】

 

↑天爛 大輪愛 様が書いてくれた、キャラクターイラストです♪

 

 

 お地蔵さま   この300年ほど、変なお供え物ばかりされている不憫なお地蔵様。

         秋月家の長男に加護を授け、なんやかんやと優しく見守っている。

         国生みをした伊邪那岐命(いざなぎのみこと)のご神体であるという。

        『困るねん――――懇意にしとるワシの信仰者を、虐めてもろたら』

 

 秋月 小雪   流の実妹。未だ幼さの残る13才の少女。

         生まれつき身体が弱く、ずっと入院生活をおくっていた。

         そのため純真無垢(世間知らず)で、人を疑うことを知らない。

         趣味は読書と、押し花で栞を作ること。

        『いきたいなぁ美星祭。いけたら、いいな――――』

 

 秋月 海人   流たちの父親で、先代の秋月家当主。

         故人であり、現在“幻想入り”をしている。

         秋月家防衛に策をめぐらせるが、徳の力を使い過ぎ、その反動で死亡。

        『――――絶対に世界を征服する。誰であろうと、邪魔者は排除する』

 

 

 

VUM(ヴァム)のメンバー

 

 早乙女 アルト(マクロスF)     2年。生徒会副会長。

 ルカ・アンジェローニ(マクロスF) 1年。美星祭の広報担当。

 

 渡辺 摩利(魔法科高校の劣等生)  3年。風紀委員。

 布仏 虚(IS)           3年。書記担当。

 岡村 ナミ(ワンピース)      2年。美星祭の会計担当。

 

 室斑 勝也   空手家。甘い物とネコを愛する好漢。

 飯島 直樹   流の幼馴染。オタクで雑学好き。VUMのトリックスター。

 諸星 のどか  図書委員。あだ名は“本屋ちゃん”で、お菓子作りが上手。

 

 ファンキー爺さん  軍歌を歌いながら日本刀を振り回す老人。婆さんLOVE。

 

※VUMとは、生徒会&流の友人達により結成された、世界征服を目指す集団。

 なぜか全然関係のない爺さんが交じっているが、細かいことを気にしてはいけない。

 

 

 

・美星学園の人々

 

 シェリル・ノーム(マクロスF)  美星祭で自身のランチショーを企画するが、不可。

 ランカ・リー(マクロスF)    美星祭では野外ステージ担当。マスターP氏と破局。

 千葉 修次(魔法科高校の劣等生) 摩利の幼馴染であり、彼氏さん。

 織斑先生(IS)          モテモテの弟さんがいる。

 エリート腐女子の皆さん      映画部所属のお姉さん達。“尊い物”が大好物。

 

 

 

・町の人々

 

 御釜田 歩茂(おかまだほも)           新聞屋店長。筋骨隆々のオネエ。

 同僚の野田さん          ギックリ腰で療養中。

 佐々木ちゃん           新聞配達の同僚。最近名古屋に旅行してきた。

 

 銭形のとっつぁん(ルパン三世)  自治会連合の人。

 ファンキー妻子          爺さんの妻子。のどか行きつけの書店の人達。

 

 北斗神拳の老師     人里離れた地で、見込みある若者に拳法を仕込んでいる。

 コンビニの店長さん   マスターP氏が面接を受けた店の主人。思いやりのある大人。

 

 ヴァイキングのみなさん  スパムを魂だと豪語する、西ヨーロッパの海賊のみなさん。

              VUMの皆に、スパム入りもんじゃ焼きを振舞ってくれた。

              同じ食肉加工品の優劣を競い、したたるウーマンと決闘。

 

 天津飯(DB)    突如美星町に出没した、三つ目星人の男。

           諸事情により、彼の説明は割愛する。関わってはいけない――――    

 

 アンパンマン(同主人公) 何故か運転免許を所持しており、老人殺害の前科を持つ。

              ふと自身の安直な名前に疑問を感じ、新しい名前を考案。

              剛力 甘男(あまお)という名になった。

 

 ばいきんまん(同上)   美星市郊外の、寂れた住宅団地に住んでいる。

              まるでドラ〇もんの如く、ポン助の面倒をみてやってる模様。

              実験のために美星祭を襲撃し、流たちの性別を反転させた。

 

 ジャムおじさん(同上)  夢の国では無く、香川県でパン屋を営んでいる。

              本名は大仁田 敦(おおにた あつし)。

 

 バタコさん(同上)    パン屋で働く、朗らかで心優しい女性。

              本名は山田 摩耶で、ジャムおじさんとは苗字が違うようだ。

 

 

 

・組織、団体、勢力に属する者達

 

 ワーキングプア侍  羅生門の主人公にも似た、元ホームレスの侍。

           抜刀術、毒を塗った弓矢、縮地法などの使い手。

           現在は秋月小雪を(あるじ)とし、影より守護している。

           『ホームレス侍改め、ワーキングプア侍――――いざ参るッ!!』

 

 環 いろは(まどマギ)  魔法少女の集団である神浜マギアユニオンのリーダー。

             また、オールインワンという組織の構成員でもある。

             VUMと親交が深く、彼等に助言や協力をおこなう事も多い。

             組織の垣根を越えた“もう一人の仲間”である。

            『流くんには、知ってほしくなかったのに――――』

 

 ROCKET-MAN   ComeTrueに所属する、全身を改造したサイボーグ。

            心因性の能力者である【despairster(絶望の凶星)】の一人。

           『――――この俺様が、こんなチンケなところで雑用かよ』

 

 ピンキー忍者   マスターP氏を拉致してきた、桃色装束の忍者♨

          “全ての世界の女王になる”という野望を持ち、氏の力を狙う。

          だが性別は男の模様。カメツキガメ(?)を鈍器として使用する。

          『まってぇなさい――――マスターP』

 

 きゅうべぇ  インキュベーター(孵卵器)と呼ばれる、地球外生命体。

        愛らしいマスコット的な見た目だが、どことなく胡散臭いヤツ。

        その徳と因果に目を付けて、小雪に近寄ってきた。

        『――――ぼくと契約して、魔法少女になってよ!』

 

 神名 あすみ  いろは達と敵対する、銀髪の魔法少女。

         花嫁衣裳めいたゴスロリの恰好で、使用武器はモーニングスター。

         小雪を潰し、自分達の幸せの糧にする事を目論む。

        『いけ好かない奴が現れたのよ。私の幸せを邪魔する奴が――――』

 

 トラゴロー  あすみの仲間。筋骨隆々で、二足歩行で、ぶっとい声の虎。

        虎にも人と同等の権利を求める“タイガリティ運動”をおこなっている。

        『どうする、あすみさんよ……つっても、やるこた決まってるわな』

 

 Hitomi  “P氏の娘”を自称し、押し掛けて来た謎の娘。何故かナース服のメガネっ子。

      身長196㎝で、筋肉&腹筋バキバキ。極めておおらかで、無邪気な性格。

      パパの事が大好きだが、記憶喪失であり、ずっと独りで町を彷徨っていた。

      『ずっとこのままでいたい。パパやみんなと――――』

 

 

 力石 徹子   以前は美星中央病院に勤務するナースであり、小雪の担当者だった女性。

         通称“爆乳ナイチンゲールこと力石さん”で、正体は裏組織のクノイチ。

         P氏に異常なまでの執着心を持ち、その為にこそ生きていた。

        『あの日の約束を――――叶えて』

 

 ヘルキャット  爆乳バスガイドことRui&爆乳チアガールことAi、という姉妹。

         Hitomiの妹にあたり、本来は彼女を加えた“三人組”のコードネーム。

         共に200㎝超の高身長で、人工生命体の子達。まだ生まれて間もない。

         『迎えに来たわよ、迷子のナイチンゲールさん――――』

 

 

『まどか』   小雪の魔法少女化の手助けをした、桃色の彼女。裏秋との交流もあるらしい。

        裏秋以外の仲間、また、彼女の目的等は現時点では不明。

        ちょくちょくある謎の言葉回しの真意も不明。

        『どうか頑張って。この特異な()()のために――――』

 

 デミス    オリジンゼロという組織の長。

        いま世界が崩壊しつつある事と、その原因となっている要因を告げる。

        『世界の存続と、一個人の感情。天秤にかけるまでもない――――』

 

 山本総統   悪の組織であり、ちくわ一筋70年の老舗、味のヤマモト(有)のトップ。

        世界征服を目論むも、ファンキー爺さんの手により、一夜の内に壊滅。

        今後は脇目を振らず、消費者の皆様のために、ちくわを作る事を決意。

        『馬鹿なヤツだ……。ちくわを作るのに必要なのは、手間暇しかないというに』

 

 魔法少女&プリキュア  まどマギ&プリキュアシリーズの少女達。

             世界の修正力により、流たちの世界から飛ばされた。

             現在“みっつめのセカイ”にて活動中。

             マスコットのポルン先輩は、P氏をプリキュアにしようとした。

             しかしあえなく拒否されてしまい、激おこ。

 

 幻想郷の住人    秋月海人が死後に行き着いた“幻想郷”の住人達。

           主な人物としては、管理者である八雲紫や、博麗霊夢など。

           この世界では人間、妖怪、神、天人など、様々な種族が共存する。

 

 艦娘たち  突如としてマスターP氏の部屋に住み着いた、旧日本軍の軍艦の化身。

       全員が少女の姿をしており、マスターP氏を自分たちの“提督”と仰ぐ。

       その強烈な愛国心から、躊躇なく万歳特攻をする、ピクミンみたいな子達。

 

 

 

・フランクフルト教団

 

 したたるウーマン  フランクフルト教団を指揮する、教祖の女。

           仮面を付けた絶世の美女で、自称【メインヒロイン】。

           上半身裸に、フランクフルトを股に挟んでおり、人々を催眠術で操る。

           『真に世界を支配するのは、お○ん○んだと思うのよ――――』

 

 亀〇師(キャスター)   自ら洗脳を望み、したたるウーマンに仕える狂信者。

        忠誠心が高く、魔女の後継者たる存在だが、未だ己に自信が持てずにいる。

        真名は【したたる狂信者・ガチ勢】

       『――――したたるウーマン様の御玉体に、すり傷つけやがったなぁぁ!!』

 

 〇獣(バーサーカー)   不朽の特殊合金をその身を纏い、超能力を駆使する人造人間。

        基本的に、下ネタを搦めてしか会話できない様子。

        真名は【人造人間 チ〇コショッカー】

        『――――オ〇ンポォォォォオオオオオ!!』

 

 短小(セイバー)    かつて西洋世界を征服し、文明に進化をもたらした偉人。

        吾輩の辞書に不可能の文字は無いと豪語する、超越者たる存在。

        真名は【現代に蘇った■■■■■】。

       『――――何故吾輩のチ〇コのサイズを、現代まで伝えた!?』

 

 

・裏秋月家

 

 秋月 ポン助    本家秋月の分家となる、裏秋月・壱の遺影(いえ)当主。

          裏秋月四天王の中では、最弱とされる。“貧困”の業を背負う一族。

          髪はピッチリ横分け。唐草模様のスーツに、ダサい眼鏡という風貌。

          『闇に潜みし我らが一族――――今より表の世にいでんッ!』

 

 秋月 東雲(しののめ)     裏秋月・参の遺影(いえ)当主。中高生くらいの見た目の女性。

          蟲獣使いであり、一族に積み重なる“不幸”を消し去るのが目的。

          流月 秋の奥さんとは『異世界の同一人物』にあたる。cv早見沙織。

          『丁度いい――――私あなたを殺しに参ったんですから♪』

 

 秋月 チョコ太郎  裏秋月・弐の遺影(いえ)当主であり、極道。

           蛇柄のいかついスーツを着ており、ガラの悪い大阪弁を話す。

           一族が背負いし業は“嫌悪”。ワーキングプア侍の友人。

          『友達は、一人おったらええ。そう思ってたのに――――』

 

 

・異世界に関わる者達

 

       

 流月 秋   ハーメルンで“3710”というHNで活動している男性。

       29才のリーマンで、ロリ巨乳の奥さん&娘さんがいる。

       秋月流にとって、創造主とも言える存在。

       『当たり前やろ。報告、連絡、相談は社会人の基本やで――――』

 

 裏流月 裏秋  hasegawa因子や、ポテンシアという概念を生み出したとされる人物。

         未だ正体不明だが、彼は本当に敵なのか……?

        『待ってろ。まどかと一緒に、見守ってる――――』

 

 ミスター慧眼人  ComeTrueという組織のボス。可愛らしい顔のショタっ子。

          “魔眼”の力を持つ、超越者にカテゴライズされる存在。

          世界の破壊、リセット、理想郷の再建を目論む。

          『じゃ、行っておいで――――この世界を壊しにさ』

 

 テンジクボタン  Vtuberの少女。オールインワンとは敵対関係にある。

          アカシックの次元から抜け出し、レコードの改変を働く存在。

          ちなみに“天竺牡丹”とは、ダリアの別名。

          『Vの世界(2.5次元)から、皆のこと見てるよぉ~っ……☆』

 

 スナハァラ・セキゾノフ  P氏の隣の部屋に住む、退役軍人の男性。

              ボルシチ作りが得意で、よく差し入れに来てくれる。

              通称“リンクス”と呼ばれる、アーマードコアのパイロット。

              『その力で、君は何を守る……?』

 

 ハセ・ガワ氏  作家の男性。代表作に“西の宵明”があり、映画化が決定している。

         オールインワンの長という、裏の顔を持つ。

         『私は、言葉をオブラートで包む行為がだね? 苦手なのよ――――』

 

 

 マスターP   朝っぱらから家を襲撃され、とつぜん拉致されちゃった人。

        エネルギッシュかつぶっ飛んだ人物で、元は“ひとつめのセカイ”の住人。

        いわく、【世界を繋ぎ渡る力を持ち、徳に影響を与えられる唯一の存在】

        世界の法則を乱す者、と称される。

 

        日本人で、年齢は17才。中肉中背だが、戦いの時はムキムキになる。

        顔はフツメンで、爽やかな印象の短髪。

        ケンシロウみたいなツナギの服を着ている。

 

        趣味は“食パンを殴ること”。

        物言わぬ物体を、ただ意味もなく殴り続けるのが趣味。

        好きな音楽は、ボサノバ。好きな食べ物は、米ぬか。

        ハンバーグの下にあるスパゲティも好きだが、ハンバーグに興味なし。

        日本語に加え、チュニジア語とカンボジア語を話せるトリリンガル。

 

        北斗神拳を習得しており、そのセンスは老師を驚愕させるほどの物。

        恋愛SLG【したたるメモリアル】では、攻略キャラの一人として登場。

        美星祭ではゲリラライブを敢行し、若者たちに音楽の素晴らしさを伝えた。

        映画部により【流×マスターP】の映画が作られた程、その知名度も高い。

 

        ちょっと死に急ぎがちな艦娘たちを従え、美星鎮守府の提督として着任。

        スーパーロボット“マジンガー絶頂”の、専属パイロットも務める。

        したたる&七英霊とは敵対関係。熱いライバル関係にある。

 

        そして彼は、我らが美星町の町長である(・・・・・)

        美星町の財政難を立て直すべく奮闘したが、あえなく破綻。10日で解任。

        だがその後、なんやかんやと無事に再選を果たす。

 

        突如として押し掛けて来た“自分の娘”を名乗る女の子と暮らしている。

        その一件のせいで、彼女にフラれてしまった。

 

        話の流れや、その場の空気に流されず、思った事はハッキリ言うタイプ。

        童貞であり、未来のチュニジア大統領(仮)。

        パラレル世界ではタイ人の婿養子に入り、姓が“チョモラペット”に。

 

        愛車はハーレーダビッドソンのFLHTCU-I S/C。かっこいいサイドカー。

        よくアバラを骨折しており、臓器を損傷したりもするが、全然平気。

        初恋は6才の時。相手は蛍が舞う森で出会った、ひとつ歳上の女の子。

 

        現在は家族である艦娘や、美星町の仲間達と共に、子育てに奮闘中。

        美星町、及び世界の平和を守る英雄(になる予定)

        『どうしたらいいんすかね……わい……』

 

 

 

【挿絵表示】

 

↑天爛 大輪愛さま作、各陣営のエンブレムです♪

 

 

 

 



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エキシビジョン!
【番外編】アイネ・クライネ・ナハトムジーク  (天爛 大輪愛 作)



 この作品は、【もんじゃ焼きエキジビション】です。
 リレーの順番とは関係のない“番外編”としてお読みくださいませ♪

 ……まぁぶっちゃけコレは「せっかく準備してたのに、hasegawaが設定ちゃぶ台返ししたせいでボツになっちゃった! どうしてくれんのヨ!」という、作品供養のためのエキジビションなんだッ!!(笑)

 皆さま、そして大輪愛さま! 本当にッ――――すまないと思うッ!!!!

 そしてこれは【劇場版、今日もカオスなもんじゃ焼き】とも言うべき、素晴らしい作品です!
 したらばヒゥイゴ☆



※時間軸 別れの記憶(A-11 作)の後くらい





 

 

 

 ____誰かさんの過去物語____

 

 

 私も姉も、  が   だった。

 

 いつか、       を組んで、皆に私たちの を  ようね____って、よく語り合ったものだ。

 

 生まれつき病弱だった姉も、体力づくり等を懸命に頑張って、夢に向かって……いた。

 

「____お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ!」

 

 のに。

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……!!」

 

 ある日、姉は高校にて階段から転落して、打ち所が悪く、一時昏睡状態になってしまった。

 

 うっかり、蹴つまづいたわけじゃない____姉は、同級生のヤツらに……突き落とされた。

 

 始まりは、姉が中学3年の頃。

 給食当番でおかずを運んでいた姉だったが、腕力がないため、何かの拍子に落として、半分ほどダメにしてしまった。

 勿論、それ自体は良ろしくないことだ。

 でも、それを、食べ盛りの男子に必要以上に非難され、そこから……あまりにも陰険な嫌がらせが始まった。

 

 だけど、事件当時、姉は既に高校2年生。 食べ物の恨みは怖いといえど、きっとほとんどのヤツは発端なんか覚えちゃいない。

 加害者の中には、姉とは別の中学のヤツも多かったし……ただ、姉を使って、面白がっていただけなのだろう。

 

 ……現在、病室で横になっている姉は、とっくに昏睡状態から回復している。

 それでも、私の涙は枯れることは無かった。

 

「お姉、ちゃんっ……ぅ、うぅ……!」

 

 最悪のタイミングで____持病が悪化してしまったからだ。

 

 神様。 なんでそんなに意地悪するの?

 人をいじめた馬鹿野郎どもは怒られただけで、後は平然と、しかも健康に生きているのに。

 私の、優しくて賢くて綺麗なお姉ちゃんは、どうしてこんなにも、苦しまなきゃいけないの……!?

 

「   」

 

「! ……お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 銀鈴のような声で、姉が私の名を呼ぶ。

 

 姉は、にっこりとして、ゆっくり言葉を紡いだ。

 

「……私       この世界を、ぶっ壊したかった……覆して、みせたかった……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「だけど、私は駄目みたい……」

 

「お姉ちゃんっ! やめて、そんなこと言わないで!」

 

「……でもね、   ならできる。 私の、元気で利発で可愛い、自慢の妹なら」

 

 あぁ、どうしよう。

 姉が今にも、すぅっと溶けてなくなってしまいそうで、私の根元がぐらぐらする……。

 

「        夢を叶えて。 あなたは絶対、革命を起こせる」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「   」

 

 姉は、再び私の名を呼ぶと、ゆっくり口を開……いて……?

 

 

 ……ダメ……ダメ、ダメ、ダメ!

 崩れていかないで! やめて、やめて!

 

 私は、他の誰からでもない、あなたからの、その言葉が聞きたいのに……!!

 

「   お姉ちゃん!!」

 

 消えないで、消えてしまわないでよ……このままじゃ、私____

 

 

 あなたが誰なのかも、わからなくなっちゃうよ……。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

********************

 

 

 ……。

 

 

「うふふっ、今日は何買おっかなぁ♪」

 

 諸星のどかは柔和な笑みをこぼしながら、朝の空気の中でスキップする。

 

「確か今日は、ハセ・ガワ氏の『西の宵明』シリーズ新作の発売日だったわよね____あっ♪ 着い……」

 

 学校に向かう前、行きつけの本屋に向かうことを日課としている彼女は____

 

「え?」

 

 店のシャッターが下りているのを。

 

「なんで……?」

 

 そして、そのシャッターの貼り紙を……混乱とともに、見た。

 

 ____『店主、失踪の為、誠に勝手ながら、しばらく休業いたします 【ファンキー妻子】』

 

「なんでよぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」

 

 温厚な少女・諸星のどかは、かくして、ご機嫌斜め90°の性格ツンツン女に変貌してしまった……。

 

 

********************

 

 ___ガララッ!

 

「オッス! オラ悟空!」

 

「登校早々、大嘘つかないっ!」

 

 上機嫌で教室に入ってきた流に、クラスメート・のどかのツッコみが鋭く入る。

 

「……お前、今日どうした? ____それよかさ、本屋~」

 

「うちのクラスにサイヤ人はいませんけど?」

 

「へへへっ、わりぃわりぃ」

 

 本好きであるためついた、『本屋ちゃん』というあだ名を快く思ってない のどかの塩対応に、流はパチンっと手を合わせ、謝罪のポーズをする。

 

「そのセリフのチョイスといい、反省の色無しね……まぁいいわ。 何?」

 

 のどかが面倒くさそうに頬杖をつくと、流が瞳を輝かせて叫んだ。

 

「う○い棒のコンポタって至高だよな!!」

 

「……はぁッ!? たこ焼きに決まってるでしょ、何言ってんの?」

 

「お前こそ何言ってんだよ、たこ焼き味なんか、実質しょっぱいソースじゃねーか!」

 

「なに頭イッてんの??? じゃあ批判返しさせてもらうけど! コンポタ味なんか粉っぽい穀物の味がするだけで、コーンの良さを生かしきれてない! そんなに好きなら、本物のコーンスープ飲んどきなさいよ!」

 

「そんなことしたら、お地蔵様のお供え物の分に使えるお金が減るだろ! お前こそ、そんなにたこ焼き推すなら、本物食っとけよ!」

 

「そんなことしたら、新しい本が買えないじゃない! 三度の飯より本の私に、そんな酷な要求しないでよ!」

 

「だから、口さみしいけど金がないときのベストパートナーなんだよ、アレは!」

 

「だから、読書中に手軽に何かつまみたいときのトップレベルの相棒なのよ、アレは!」

 

「やっぱ、うま○棒って最高に便利な存在すぎるかよ!!」

 

「当たり前でしょ!!」

 

 ふたりは、力強い笑顔を浮かべ、ガシッと手を握り合っている。

 

 周りの級友らは思った____わけがわからないよ。 さっきまで喧嘩しているように見えたのに。 やはり、人間の感情というものは、理解しがたいね。

 

 

 ……周囲の人らの思考に、某キュゥべえの雑念が入ってきたところで____次は、こちらの少女たちの様子を、お届けしようと思う…………。

 

 

********************

 

 

「行ってきます!」

 

「お姉ちゃん、いってらっしゃーい!」

「いろは、気を付けてね」

 

 

 ここは神浜市・新西区。

 

 薄桃色の髪の少女・環いろは は、自分らのシェアハウスである『みかづき荘』から、軽快な足取りで飛び出す。

 

 遊歩道を駆け足で進む中、眼前に広がる桜並木に、いろはは、「あぁ、やっと平穏な日常を手に入れられたんだ」と、幸せを噛み締める。

 

 いろはは、『魔法少女』。

 元々、妹・うい の難病を奇跡と魔法の力で治すために、魔法少女になったが____一時期は、世界に大きな力が働いたことによって、ういの存在は消え、自身も妹のことを忘れ去っていた。

 ある日、ういのことを思い出した彼女は、いなくなった ういを探すため、神浜市にて奔走する____

 

 いろは達の活躍は、第四の壁の向こうの世界では、『マギアレコード』という物語として収められている。

 結末云々は、是非ゲームをプレイするか何かして、皆様の目でご確認いただきたい。

 

 

 ……ところで、いろはが急いているには、訳がある。

 それは……。

 

「あっ! つぼみちゃん!」

 

「いろはちゃん! お変わりありませんか?」

 

「大丈夫、むしろ、毎日が楽しくて仕方がなくて……!」

 

「素敵ですね! ……ふふっ、私もです♪」

 

 いろはと楽しげに話す、このツーサイドテールの少女の名は、花咲つぼみ。

 彼女は『ハートキャッチプリキュア!』のリーダーで、キュアブロッサムに変身する。

 

 

「ねぇ、今度の『妹会』の件だけど……」

 

「えぇ、そこのお店に入って話しましょう?」

 

 ふたりは仲良く並んで、神浜の有名な老舗洋食屋・ウォールナッツに入店する。 (実は、この店の娘も魔法少女である。)

 

「____まず、趣旨の再確認ですね!」

 

「うん! 『妹』たちを主役にした、妹の、お姉ちゃんによる、妹のためのパーティ____だよね?」

 

「はい! 折角、幹事に選ばれたんです、私たちで、楽しい会になるよう、頑張って計画しましょうっ!」

 

 つぼみが一層力むと、いろはも両こぶしを握り締め、「うんうん!」とばかりに首をガクガク縦に振る。

 

「ういのために!」

 

「ふたばのために!」

 

「「みんなの妹たちのために! えいっえいっ、おーッ!!」」

 

 

********************

 

 

 ……。

 

 

「いよいよだね、『ナハトムジーク』」

 

 実験室を思わせるデザインの、真っ黒な部屋。

 僅かな青白い足元灯に照らされ、発言主である可愛らしい少年の顔は、愉快そうに微かに歪む。

 

「はい、『ミスター慧眼人』……」

 

 彼の前にひざまずいている、ゴスロリチックな服を着たツインテールの少女が、無表情で頭を低くする。

 

 ミスター慧眼人、と呼ばれた少年が、まだ10もいっているかどうかの見た目なのに対して……ナハトムジークは、中学生であるいろはたちと、そう変わらないように見える。

 

 そう____

 

「ねぇ、僕さ、折角、君の夢を叶えてやったんだよね。 幸いにして僕と君との利害関係だって一致してる。 ね、わかるよね?」

 

「はい……」

 

 それは、明白に。

 

「成功しなけりゃ、君の成れの果てはボロ雑巾も同然。 君のことが『大好き』だった君の姉さんも、泣くよ? いろんな意味でさ……」

 

「はい……」

 

 異常だった。

 

「今日が、僕たちの本格的な『はじまり』____ね、いいんだよね? 君なんかに期待してさ……僕の心を無駄に使わせないでよね、僕ってとっても『高い』人間なんだからさ……」

 

「はい……」

 

 異常なのだ。

 

 

「じゃ、行っておいで______この世界を、壊しにさ……」

 

 

 何もかもが____

 

 

「____はい……」

 

 

 日常と称するには____『常、日ごろ』のものだと、銘打つには……。

 

 

 

********************

 

 

 ____テレレレテレレレ テーレレレテッレッレレー♪

 

「! ……電話ですね」

 

「つぼみちゃん、着メロ、『ハートキャッチプリキュア!』のOPなの……?」

 

「い、いいじゃないですか、自分のチームなんですから……」

 

 つぼみは、「あっ、『えりか』からですね」と、呟き……チームメイトの、来海えりか(キュアマリン)からの電話に出る。

 

「もしもし、えりか?」

 

『つ、つ、つ、つぼみぃぃぃぃぃ! 大変だよ~~~!』

 

 えりかの大声のバックグラウンドでは、爆音や崩壊音が聞こえている。

 ただならぬことが起きていると察し、つぼみは、緊迫感ゆえの早口になる。

 

「どうしたんですか!? 爆破事件か何かですか?」

 

『うん! だけど、ただの事件じゃないみたいで、現場の町の周辺に、変な結界が張られてて、あたしたちじゃ入れないの!』

 

「! ……変身、してもですか!?」

 

『うん! ムーンライトが、ちょっと成功しかけたけど……結局跳ね返されちゃって……!』

 

「わかりました、私が成功するかはわかりませんが……すぐ向かいます! どこですか?」

 

 聞けば、神浜市のすぐ隣。

 『ヤングストリート』という若者街で有名な町だった。

 

「了解です! 後で落ち合いましょう!」

 

 つぼみが電話を切ったとたん。

 

 

 ____テッレテレレン テレレレテッレ テッレッテレレン テレレレテッレ♪

 

「いろはちゃんもじゃないですか! しかも、ゲーレコ2部の方なんですか!?」

 

「い、いいでしょ、時期的にもう『集結の百禍編』に入ってるんだから……」

 

 結局、お互い様だね……と、いろはは着信画面を見る。

 

「あっ、やちよさんだ」

 

 七海やちよ。 19歳の先輩魔法少女。

 みかづき荘の家主で、先ほど、「いろは、気を付けてね」と言っていた、その人である。

 

「もしもし、やちよさん?」

 

 ウォールナッツの会計をし、店を出て、つぼみと並走しながら、いろはは電話に出る。

 

『いろは、神浜の隣で大変なことが起きているみたいなの。 本来なら、私たちのテリトリー外だから関わらないほうがいいんだけど……当の現地の魔法少女が急難信号を送ってきたから、みかづき荘のみんなで向かったわ。 でも……』

 

「……結界のせいで、入れなかったんですか?」

 

『! ……えぇ、そうよ。 何か知っているみたいね』

 

「今、同じような連絡を受けたつぼみちゃんと、向かっているところなので____って、つぼみちゃん、大丈夫!? ゼェゼェ言ってるけど!」

 

「いろはちゃん、速すぎです! ……私に体力がないのも一因ですけど、魔法少女の皆さん、身体能力が強化されすぎなんですよぅ!」

 

「あはは……」

 

『……もしもし、いろは?』

 

「あっ、はい! じきに着くので、それまでに、また事態が変わったら、連絡ください!」

 

『わかったわ』

 

 いろはの方の通話も、切れる。

 

 

「……いろはちゃん、この辺りは人気もありませんし、そろそろ変身してから移動しませんか?」

 

「うん、そうだね!」

 

 ふたりの声を聞いて、つぼみのポシェットから、可愛らしい妖精(シプレ)が現れ、「プリキュアの種、行くですぅ!」と叫ぶ。

 同タイミングで、いろはは『ソウルジェム』を前にかざす。

 

 途端、ふたりの体が桃色の光に包まれ____つぼみはプリキュアとしての姿に、いろはは魔法少女としての姿になる。

 

 

「大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!」

 

「……。 (私も何か名乗りたいけど、そういう決め台詞ないしなぁ……)」

 

 ……そのまま走り続けると、いよいよ目的地が近くなり、爆発による震動が、肌にビリビリと伝わってくる。

 

「! ……これ以上、誰も犠牲にはさせません! 急ぎましょう、いろはちゃん……!」

 

「うんっ! ブロッサム……!」

 

 2つの華麗な光が、澱んだ空気を切り拓き、ただ真っすぐに伸びていった……。

 

 

********************

 

 

「はぁーっ、生徒会、終ーわりっ! 美星祭まで後ちょっとかぁ、気合いだ気合いだ~っ!」

 

 晴れやかな顔をしながら、流は電車の長椅子に腰掛ける。

 

「あ~、明日、数学と英語の小テストかぁ、めんどくせぇ~! しかも、また合格点行かなかったら、補習だったけ? ……もっとめんどくせぇ~!」

 

 よし、勉強するか! と、流は英単語帳を開く。

 

「……ん? なんか、遠くで大きな音がしたな、何事だろ……いやいや、集中! 全集中・常中!!」

 

 しばらくして、彼は単語帳のページをめくる。

 

「また、変なデカい音がしたな……しかも、近づいているような……いやいやいや、集ッ中!!」

 

 また、しばらくして、彼はページをめくる。

 

「デカい音のせいで、耳痛ぇ~……いやいやいやいや、集ちゅ____」

 

 ……うは、できなかった。

 

 

 ____ガゴドシャッ!!

 

 突然、重い金属音が響いたかと思うと____

 

「わ、わ、わ、わ、何これ!?」

 

 床が傾き、流は落下感に襲われる。

 

「お、お、ほんと何だこれ!? 世界の終わり!? 確かに、空は青く澄み渡ってるけど!!」

 

 ……いや、『感』ではなく、本当に落ちていた。

 運悪く、流の乗っている車両だけ。

 

 山道を走っていた列車は、崖から、ストーンと自由落下していく。

 

「!! ……ぉわ~~~っ!?」

 

 しかも、窓を開けて席に座っていた流は……その窓から、乗客の中でただ1人、車外に放り出されてしまった。

 

「(何だよ……こんなんで終わるとか、ナシだろ……)」

 

 列車と一緒に落ちる中で、流は思う。

 

「(いや、終わりたくない……終わらない!)」

 

 俺は____

 

「俺には、先祖のじいちゃんとの長い約束が……!!」

 

 

 ……!

 

 ……!

 

 ……。

 

 

  そ の 時 、 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た 。(3回目)

 

 

「! ……」

 

 流の自由落下が、唐突に終わりを迎えた。

 

 地面に、ではなく……誰かに、優しく抱きとめられたためである。

 

「大丈夫?」

 

 その『誰か』は、中学生ほどの、桃色と白のフード付きコートに身を包んだ、少女であった。

 

 少女は、適当な岩場に着地し、流を降ろす。

 

「いろはちゃん! こっちもOKです!」

 

 近くから響いた声に、流が目をやると……なんと、電車一車両を軽々と持ち上げている、桃色のポニーテールの少女が、ゆっくりと着陸しつつあった。

 

「ありがとう、ブロッサム!」

 

 いろは、と呼ばれたフードの少女が、ポニテ少女____ブロッサムに、返事をする。

 

「(ブロッサム……『キュアブロッサム』!?)」

 

 流は、ポニテ少女の見た目と名前に覚えがあるようだ。

 

 それもそのはず。

 ブロッサムたちプリキュアは、よく横浜辺りに集まって、強大な災厄と戦っており、しばしばニュースにもなっていたのだ。

 

 逆に、魔法少女たちは、大体は夜中に戦うし、あまり表に立たない。

 ほとんど一般には知られていない、ヒーロー集団なのである。

 

 

「……でも、運良く私たちだけでも入ることができて、よかったよね!」

 

「『運』かどうかはまだわかりませんが……間一髪でした!」

 

 ほっと一息つく少女たちに、流は声をかける。

 

「あの____ありがとうございました!」

 

「い、いえいえ____私たちは、私たちにできることをしたまでです。 逆に、こんなことになるまで、駆けつけてこられなくて、ごめんなさい……!」

 

「私も……ごめんなさい! ____それと、怪我とかない? 大丈夫?」

 

「おぅ、俺は別に____でも、緊急事態中 申し訳ないけど、ちょっと連れてってほしいところがあるんだ」

 

「いいですよ、どこですか?」

 

 ブロッサムの問いに、流は、ふたりと順に目を合わせ、答えた。

 

「____皆を傷つけることをやってる奴のとこだ」

 

「それは……!」

「あ、危ないよ!」

 

 とんでもないことを言い出す彼に、言葉が続かないブロッサム。 制止するいろは。

 少女たちの、流に反対する声が、重なる。

 

「……やっぱ、止めるよな。 でもさ、俺の夢って、『世界征服』なんだよ。 世界を統一して、惨い争いのない、幸せな世界にしたいんだ」

 

 少女たちからすると、あまりにも突拍子もない発言だったのだろうか。

 ともかく、ふたりともが黙って聞いている。

 

「だから、できることなら、皆の気持ちを遍く聞いてみたい。 皆を理解して、より良い世界にしたいんだ」

 

 ふたりはまだ、口を挟まない。

 

「俺、運動能力には自信がある。 『逃げ』は得意じゃないけど、足は速いから、いざとなれば逃げ足も速いと思う____俺にはビッグな夢があるから、まだ命は惜しい。 危なくなりそうなら、すぐ避難する。 だから____」

 

 ……。

 

「……その並々ならぬ意志____このキュアブロッサム、しかと受け止めました!」

 

「あなたの夢、とっても素敵だと思う! 私も、今、似たような目標を持って、頑張ってるから」

 

 にっこり笑う少女たちに、流は目を輝かせる。

 

「それって……!」

 

「ですが____あなたも理解している通り、あまりにも危険すぎます。 行かせたくない気持ちも、あります。 ……それでも、何となく……あなたなら、この事件を引き起こした人とも、対話できるような気がしました____私の、カンです♪」

 

「念のため、私たちも近くに控えておくよ……あなたがきちんと話し終わるまで、攻撃はしない____防衛に徹することにする」

 

 もし、命が危なくなったら____と、いろはは、近くの枝を拾って、魔力を込めた。

 枝が、魔法の杖っぽいのに変わる。

 

「これを地面に刺して、結界を作って。 少々の爆発なら、耐えられるから」

 

「おぅ、何から何まで、ありがとな!」

 

 流は、杖を受け取り……表情を引き締めて、名乗った。

 

 

「俺の名前は、秋月 流! この世界の愛と平和の流れに逆らう奴は____じいちゃんに代わって、お直しだ!!」

 

 

**********

 

「……この少年、膨大な『因果』を秘めているようだね。 あの『鹿目まどか』をも凌駕するかもしれない____利用価値がありそうだ」

 

 

********************

 

 

 ……。

 

 ____壊れていく。

 

 この世界が、壊れていく。

 

 あの方の望み通り。

 あなたの望み通り。

 

 そして。

 あなたを愛する私の、望み通り。

 

 このまま、きっと私は、ただ破壊兵器のように、世界を覆していくのだろう。

 

 何も考えなくていい。

 出来ている。 出来ているから。

 理想の形が。

 

 あなたのための、理想のセカイが。

 

 ねぇ、見てる? お姉ちゃん____

 

 ……。

 

 

「やっほー、お嬢さん! 何その服、可愛いな、コスプレ? でも、コスプレ大会は明日だぞ?」

 

「! ……誰!!」

 

 振り向き、武器である指揮棒を向けて威嚇しようとする____でも、そこにいたのは、普通の男の子だった。 たぶん、私と同じくらいの年齢。

 

「俺、秋月 流! お嬢さんは、なんて名前?」

 

「……ナハト、ムジーク……」

 

 すごく、快活な少年だ。

 抵抗感もほとんどなく、コードネームを名乗ってしまった。

 

「わーぉ、かっちょいい名前!」

 

「……ちょ、ちょっと! 怖くないの!? 私、あなたの住む町を壊してる! あなたも、すぐにでも殺されるかもしれない! 何故、わざわざ、こんなところまで来たの!!」

 

「じゃあ、ナハトムジークは、なんでこんなことしてるんだ?」

 

「!! ……」

 

 答えたところで、何になるのか。

 でも、答えなかったところで、いったい何になるのか。

 

 どっちにしても、どうにもならない。

 相手は一般人だもの。 話してやったって、いっか。

 私たちの組織を広める契機だ____と思えば、まぁ。

 

「理由は2つ。 1つは、姉が望んだから。 もう1つは____我らが組織『ComeTrue』のボス・ミスター慧眼人の崇高な望みだから」

 

「みすたー、えめと?」

 

「えぇ。 世界を破壊しつくし、リセットし、自らの手で理想郷を再建する。 それが、私たちのボスの望み」

 

 そこまで話すと、流は「そっかぁ……」と考え込む。

 

「ま、今の俺の力じゃ、まだボスはどうにもならないにしても、ナハトムジークの姉ちゃんなら連れてこられるかもな! どこにいるんだ?」

 

「っ! ____」

 

 ……わたしの。

 

 わたしの ことなんか なんにも わからない くせに

 

 

「____いるわけ……ないでしょッ!! お姉ちゃんは、もういない! あの野郎どものせいで!! 馬鹿なヤツらの____あァぁ……ああああああああああアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 ドンッッッ!! ____感情も、空気も爆発する。

 

 周りが全て揺れて、視界がぼやける……。

 

 ……。

 

「……あいつ、いない。 周囲の被害もほとんどない」

 

 空気の振動が晴れ、見渡すと、何事もなかったかのようになっていた。

 

 白昼夢、だったのだろうか。

 だとしたら……なんだか、嫌な夢だ……。

 

 

**********

 

「ComeTrue____初耳でござる……任務もあるが、報告を急いだほうが良いか……」

 

 

********************

 

 

 ……。

 

「はぁッ、はぁッ、はぁッ、はぁッ……!」

 

 流は、町はずれの畦道を、息を粗くしながら走り続けていた。

 

「(あの様子からして、ナハトムジークの姉ちゃんは既に亡くなっている! だったら、だったら……!)」

 

 悪いことをしている奴といえど、自分は彼女を傷つけてしまった____その思いが、流を更に駆り立てる。

 

 ____早く、速く、疾く……進め、辿り着け!

 

「ぅあッ、はぁッ、はぁッ、あッ……はぁッ……!」

 

 

 目的地が、見える。

 

「! ……お地蔵様ッ!!」

 

 流は、滑り込むように、お地蔵様の前に行った。

 

 お地蔵様には、わかっていた。 見えていた。

 流が、切羽詰まった顔をしている理由。 いつも以上に、誰かのために懸命な、その凛々しい表情をしている理由。

 

 ____今日は特別、無茶やりよるなぁ……えぇ加減にせんかい……。

 

 お地蔵様の声は、スピリチュアルに無縁な流には、届かない。

 

 

「なぁ、お地蔵様____ナハトムジークって女の子の姉ちゃんの声、ナハトムジークに届けられないかな?」

 

 ……無音。

 お地蔵様は何か言ったのかもしれないが、彼の声は、スピリチュアルに無縁な流には、届かない。

 

「無茶言ってるのはわかるよ。 秋月家代々、お地蔵様にお供えしてきたとは言っても、こんな超常的なこと、簡単に起きるわけないもんな」

 

 ……再び、無音。

 お地蔵様は何か言ったのかもしれないが、彼の声は、スピリチュアルに無縁な流には、届かない。

 

「……ここに、間食にしようと思ってた、塩むすびがある。 もしパワーが足りないんだったら、これを食べてくれ。 食べてください……だから……!」

 

 ……またまた、無音。

 

 お地蔵様は、「お、やっと初めてマトモなモン持ってきたやないか」____とかなんとか言ったのかもしれないが……依然として、彼の声は、スピリチュアルに無縁な流には、届かない。

 

 

 流は、パンッ! パンッ! と柏手を打って、尚も頼み込む。

 

「ナハトムジーク、めちゃめちゃ辛そうな、苦しそうな顔してた! あんなの、俺、嫌なんだよ! あんな表情……俺が目指す世界に、あるべき表情じゃないんだッ!!」

 

 

 あまりにも懸命すぎて、流は気づかなかった。

 

 お地蔵様の全身が、優しい光を発していることに……。

 

「~~~!!」

 

 頭を地面につけてまで頼み込む彼を、その光は包み込んでいって____流は、次第に意識を手放していった……。

 

 

********************

 

 

 ナハトムジークは、あの後も、上の命令通り、破壊活動を続けていた。

 

「____待ってください!」

 

 そんな彼女に、涼やかながら力強い声がかけられる。

 

「……何なの?」

 

「話は聞かせてもらいました。 そして……わかったんです」

 

 声の主は、お察しの通り、キュアブロッサム。

 

 ブロッサムの横に立つ、いろはが言葉を継ぐ。

 

「あの結界は……『お姉ちゃん』だけを通す結界、でしょ?」

 

 

 そう、『ハートキャッチプリキュア!』と『チームみかづき荘』のメンバーの中で、ブロッサムといろはのみが、姉ポジションだったのだ。

 

 厳密にいえば、『ハトプリ』内で、他にも『キュアムーンライト』が妹持ちではある。

 

 それでも、入りかかったものの失敗したのは……『ムーンライトの妹』が、『遺伝子上での実質妹』でしかなく(クローン人間)____しかも、既に消滅してしまっているからであろう。

 

「____ナハトムジークッ!」

 

 ブロッサムが、涙目でナハトムジークに抱きつく。

 

「お願いです____あなたの本質は、きっととっても優しいんです! あなたの組織も絡んでいるとはいえ、お姉さんのやりたかったことを代わりに成し遂げようとするなんて……あなたは、お姉さん想いの素敵な人なんです____こんな、誰かを傷つけるようなこと、やめてくださいッ!」

 

 

「そうだよ!」

 

 いろはも、彼女に訴えかける。

 

「もう一度、考えて! お姉さんの、夢は何? 本当の、願いは何? もし、お姉さんの願いが、いつの間にか歪んでいたなら____これ以上進んだら、取り返しがつかないことになる! あなたが彼女のために頑張れるくらい、お姉さんの存在が大きいなら……お姉さんが本当に物騒なことを願っていたなんて、私たちには考えづらいの!」

 

 

「お願いです!」

 

「思い出して!」

 

「「あなたのことが、きっと『大好き』だった、お姉さんを! お姉さんの、本当の願いの姿を!!」」

 

 

 ……。

 

「____さい……」

 

「「? ……」」

 

「うるさいッ!! お前たちがッ、お前たちなんかがッ、言うなッ!! その言葉____『大好き』って言葉を……!」

 

 ブロッサムたちを睨むナハトムジークの目は、完全に据わっている。

 

「その言葉を何度も利用されて……! 私は、ずっと縛りつけられてきた! その言葉は、呪いなんだ!!」

 

 ブロッサムといろはは、完全に言葉を失っていた。

 彼女は……ナハトムジークは、姉を失ってから、どれ程の壮絶な日々があったのだろう……。

 

「これ以上、私を縛るな!! お前たちなんか___消えてしまえ!!!!」

 

 ナハトムジークは禍々しいビームをチャージする。

 ふたりは素早く防御の姿勢に入る。

 

 これが町に放たれるのは、何としても阻止せねばならない。

 今まで彼女が放ってきた中で、一番邪悪なエネルギーが多く感じる。

 

 でも、それぞれのチームでの防御担当は、『キュアサンシャイン』と『二葉さな』。

 ブロッサムといろはは、どちらかと言えば攻撃特化である(一応、いろはには『治癒』の魔法がある)。

 

 全力は尽くすが、それでも、きちんと防ぎきれるのだろうか……?

 

 ……ふたりに、そんな不安がよぎった____

 

 ……。

 

 

  そ の 時 、 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た 。(4回目)

 

 

 上空から人影が現れ____逆光を受けながら、くるくると回転しつつ、こちらに近づいてきた。

 

 人影は、ブロッサムたちとナハトムジークとの間に、ズサーッと割り込むと……チャージされていたビームに触れ、それを残らず塵に変えてしまった。

 

 その人物とは____

 

「「流くんッ!!??」」

 

 

 確かに、少なくとも『姿は』、流そのものであった。

 

 ……『流』は、閉じていた目をカッと開く。

 その双眸は金色の輝きを持って、ナハトムジークを映していた。

 普段の流の目は、一般的な焦げ茶色である。 一体全体、どういうことだろう……?

 

 『流』は、怒気をはらみつつも、どっしりと重みのある声で、ナハトムジークを諭した。

 

「____困るねん。 懇意にしとる『わし』の信仰者……そして、その友達を虐めてもろたら____こうも数多の命を無下にしてもろぅたら……!」

 

「あなた……何なの……!?」

 

 思わず、『流』に畏怖の念を抱いたためか____ナハトムジークの感情の勢いは、急速に減衰する。

 

「そんなこと、今は、どうでもえぇやろ____それよか、『アイツ』の思いを受け止めたれ。 ……頭を、冷やしぃや」

 

 

 彼のその言葉を最後に、ナハトムジークの意識は暗転していった____

 

 

********************

 

 

 

 私も姉も、音楽が大好きだった。

 

 いつか、ガールズバンドを組んで、皆に私たちの音を届けようね____って、よく語り合ったものだ。

 

 生まれつき病弱だった姉も、体力づくり等を懸命に頑張って、夢に向かっていた。

 

 ……。

 

 

「____らいね」

 

「! ……お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 銀鈴のような声で、姉が私の名を呼ぶ。

 

 姉は、にっこりとして、ゆっくり言葉を紡いだ。

 

「……私たちの音楽で、この世界を、ぶっ壊したかった……覆して、みせたかった……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「だけど、私は駄目みたい……」

 

「お姉ちゃんっ! やめて、そんなこと言わないで!」

 

「……でもね、らいねならできる。 私の、元気で利発で可愛い、自慢の妹なら」

 

 あぁ、どうしよう。

 姉の前では、泣かないって、私、決めたのに。

 その小さな決意すら、揺らいで____やっぱり、お姉ちゃんがいないと、私、寂しいよ……。

 

「____らいね、私たちの夢を叶えて。 あなたは絶対、革命を起こせる」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「らいね……」

 

 姉は、再び私の名を呼ぶと、腕を伸ばし、ぎゅぅっと抱きしめてくれた。

 弱弱しくて、痛々しい『ぎゅぅっ』だった……。

 

 涙にぬれた私の顔を見つめながら、姉は、ゆっくりと口を開いた。

 

「____だぁいすき」

 

 ……姉は。

 私の大好きなお姉ちゃんは。

 

「あいね お姉ちゃん!!」

 

 もう一度、眠り姫となり……数日後に息を引き取るまで、一度も目を覚まさなかった……。

 

 

********************

 

 

 ……。

 

「____ぅあぁ……お姉、ちゃん……!」

 

 ナハトムジークは____らいねは……後悔と、悲しい幸せに打ちひしがれた。

 

 状況が状況であるが……なんにせよ、遂に、らいねは再び、姉からの愛を得られたのだ。

 

 

「お前の『呪い』を解いてやった。 アイツの慈悲に感謝せぇ」

 

 『流』は、そんならいねを無表情で見下ろす。

 

「お前が、これからどう生きるか____もう組織からは足を洗って、ゆっくり考えーや」

 

 

 ……。

 

 ____そんなこと、させると思う?

 

 

「「「「 !! 」」」」

 

 どこからか、幼い少年の声が響く。

 

「いったい誰ですか!」

 

 ブロッサムの問いかけに答えず、声の主は「ふふふ……」と笑うばかり____

 

 次の瞬間。

 

「なッ……!?」

 

 らいねの背後の空間に穴が開き、彼女を吸い込もうとする。

 

「あかんッ!!」

「「ダメーッ!!」」

 

 3人が手を伸ばすも……時、すでに遅し。

 

 らいねは穴の向こうへと持っていかれ____穴は、さっさと閉じてしまった……。

 

 

「「「 …… 」」」

 

 3人の、負の沈黙が____ただ、時間とともに、流れていった。

 

 

********************

 

 

「____ぉ」

 

 流は、お地蔵様の前で目を覚ました。

 

「俺……寝てたのか……? ナハトムジークは!?」

 

 彼は、ガバッと起き上がり、街中の方を見る。

 

 ……どれだけ耳を澄ましても、もう、爆音は聞こえてこなかった。

 

 

「! ……そっか! お地蔵様がやってくれたのかーッ!」

 

 サンキューベルマッチョ!! ____と、流がマッチョ踊りを始めた傍らで、お地蔵様の心は暗く沈んでいた。

 

 

 ____違う、まだ終わっとらんのや、何にもなっとらんのや……何にも……。

 

 

********************

 

 

 ……。

 

「……はい、もしもし? あぁ、今回も売れてくれましたか! 爆売れですかッ! 良いことですね♪ ……映画化? えぇ、構いませんよ、むしろありがたい☆」

 

 陽の光差し込む、書斎のような、ただっぴろい部屋。

 そこの、大きなデスクに着いた男性が、楽しそうに電話している。

 

「T映さんが配給会社になる予定ですか? いいですねぇ! では、『西の宵明』をよろしくお願いしますと、伝えてください♪」

 

 ……ふぅ……、男性は固定電話の受話器を置く。

 

 と、同時に____部屋の入り口付近に、つむじ風が巻き起こり……風がやんだころには、1人の侍が、その場に片膝を立てて座っていた。

 

 ぐぅぅ~っ、きゅるるるる____続けて、そんな音が鳴る。 この侍が、お腹を空かせているのであろう……。

 

 

「____何の用ですかな、ワーキングプア侍くん。 賃上げなら応じかねますよ? 働かざるもの食うべからず、働いても成果が出てないなら、働いていないも同じ。 ……てゆーか、『したたるウーマン』はどうしたのッ。 捕まえて来いって言ったでしょう?」

 

「殿____恐れながら、彼女の捕獲は、まだでござる。 此度は、別件で報告仕る為、馳せ参じた」

 

「ふむ……くだらないことだったら、怒りますから____フェ○ックスガムが当たったとか、そういうことだったら」

 

 否、そのようなことではござらん____と、ワーキングプア侍は、男性に鋭い眼光を向けた。

 

 

「……この『オールインワン』を脅かすような、凶悪な組織の存在についての、報告でござる____」

 

 

 

 ____ To be continued……

 

 

 

 

 



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【スピンオフ】わしの名はファンキー爺さん。 (hasegawa 作)


 これはリレー順とは関係ない【番外編スピンオフ】としてお読みください。
 ――――この作品を、創造主である大輪愛さまに捧ぐ!


※時間軸 蟲獣使い・参の遺影(天爛 大輪愛 作)の後。





 

 

 

「軍曹殿ッ! しっかりして下さい! 軍曹殿ッ!!」

 

 硝煙の匂いと煙ただよう、一寸先すらも見えない荒野を、我武者羅に走った。

 銃弾と砲撃が飛び交う中、たったいま血を噴き出して倒れた、敬愛する上官の元へ。

 

「お気を確かにッ! 目を開けて下さい軍曹ッ!!

 衛生兵ッ! 衛生兵ぃぃぃーーーーッッ!!」

 

 滑り込むように駆け寄り、その泥にまみれた顔を覗き込む。

 自身の上官である彼は、いま力なく目を閉じて、沈黙している。

 軍服に覆われた胴体から、直視するのも躊躇われる程に、大量の血を垂れ流しながら。

 

「……船木、俺のことはいい。早く下がるんだ……!」

 

 だが上官は、耐え難い激痛に顔をゆがめながら、消えそうな程に小さな声で――――

 

「塹壕に戻れッ……! これよりお前が指揮を執り、部隊を率いるのだ……!」

 

 最後の力を振り絞るように、そう告げた。

 

「なっ……何を弱気なことを! 貴方ともあろう者がッ!

 すぐ衛生兵が来ます! 気をしっかり持って下さい! 軍曹ッ!!」

 

「……馬鹿者、お前にも分かっているだろう……?

 腹をやられた者は、決して助からん(・・・・・・・)。……俺はここで終わりだ」

 

 手で必死に押えてはいるが、今も腹からは止めどなく血が噴き出している。

 大きく切り裂かれた傷口から、ピンク色の臓物までが飛び出している。

 

「頼んだぞ船木……! 必ずあの砦を落とせ……!

 撃たれた時、機関銃の位置が特定できたぞ。あちらの方角だ……!

 お前が突破口を開くんだッ! ……いけるな、船木?」

 

 身体は血に染み、もう命すら消えゆくというのに、軍曹が口にするのは仲間の為の言葉。

 一言の恨み言もなく、泣き叫びもせずに、ただ自分の使命を果たさんとしている。

 それはまごう事なき、帝国軍人の姿――――

 

「……い、嫌だッ! 嫌だ嫌だ嫌だッ!!

 軍曹が死ぬんなら、俺もここで死にますッ!! お供しますッ!!

 どうかッ……どうが俺を置いて行かんで下さいッ!! 一人にせんで下さいッ!!」

 

 だが船木は、まるで子供のように泣きじゃくり、軍曹にしがみ付く。

 早くして親を失くし、ずっと孤独の中で生きてきた船木は、軍曹をまるで本当の父親のように慕っていた。

 つねに先陣に立ち、厳しくも暖かく導いてくれたこの人を、心から信頼していた。

 この人に尽くす、この人の為に死ぬ――――そう決めて戦っていたのだ。

 

 なのに、軍曹がいなくなったら、自分はどうしたらいい?

 いったい誰を信じ、なんの為に戦えばいい? どうやって歩いていけばいい?

 

 目の前が真っ暗になる。船木は嗚咽を漏らし、ただただ軍曹にしがみ付く。

 軍人ではなく、迷子になった子供のように、悲痛な声を上げて。

 

「船木――――これを」

 

 そんな彼に、軍曹はポケットから取り出した一枚の写真を見せる。

 

「……俺の娘だ。

 もう随分と会っていないが……、ちょうどお前と同い年になる……」

 

 血まみれの指で懸命に握られた、もう随分と古くなった写真。

 ボロボロで、所々が破れているそれは、きっと軍曹が肌身離さずに持ち歩き、心の支えとして何度も見ていたであろう事が分かる。

 

「どうだ……可愛い子だろう……?

 女房なんか、いつも『貴方に似なくて良かった』なんて……そう笑ってて……」

 

 震える手で、写真を受け取る。

 少しだけ血で汚れてしまったそれを、船木は涙に滲んだ瞳で、呆けたように見つめる。

 

「俺の宝だよ――――

 この子の為ならば、俺はなんだって出来るって……そう思ってた」

 

 この砲声の響く戦場ではなく、違うどこかを見つめるようにして、軍曹は笑みを浮かべる。

 

「けど……もう会えん。

 ひとめ成長した姿を見たかったが……もうそれも叶わん」

 

 軍曹が、船木の腕を掴む。

 いま瀕死にあるとは思えないような力強さで。想いを託すように。

 

「……だから、お前に任せていいか(・・・・・・・・・)

 生きて国へ帰り……、この子を守ってやってくれないか。

 お前にしか、頼めないんだ……」

 

 光が灯る。

 たった今まで、弱々しく泣くばかりだった船木の瞳に、意思の炎が灯る。

 

「俺たち夫婦は、男の子には恵まれなかった。子供はこの子だけだ。

 けどな? お前に会えた……。こんな地獄の底みたいな場所で、お前に会えたんだ。

 こいつが俺の息子ならって――――そう思える男に」

 

 

 娘さんを守る。娘さんを預かる――――

 そうすれば俺は、この人の“本当の息子”になれる。

 この人の意思を受け継ぎ、大切な物を守り通すことで、家族になれるのだ。

 その絆はきっと、永遠に消えない――――

 

 

「頼んだぞ船木。必ず生きて帰り、娘を守ってくれ。

 お前は、俺の自慢の…………息子だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃が、全てを掻き消した。

 

 父の最後の声も、船木の叫びも。

 そして、涙で滲んだ世界も――――

 

 愛した人の身体はバラバラになり、跡形もなかった。

 どれだけ探そうとも、ひとかけらの遺骨さえ、見つけてやれなかった。

 

 

 けれど今、船木はここに立っている。

 生きて国へ帰り、軍曹の娘と出会い、夫婦となり……そして70年以上の時が経った今でも。

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「――――婆さんはどこじゃあーーッッ!!!!」

 

 船木一等兵こと、ファンキー爺さんの声が、空に響き渡った。

 

「ここはワシの世界やないッ! 知らん間に飛ばされとるがなッ!!

 婆さんどっこもおらんやないか! どこじゃココはッッ!?」

 

 以前ヤングストリートにて、まったくの善意からのアンパンチによって爆散し、いつの間にか流たちとは違う“みっつめの世界”に飛ばされていた、ファンキー爺さん。

 だが世界の改変とか、修正力もなんのその。婆さん恋しさにバッチリ記憶を取り戻していた。

 

 というか、消去出来なかったのだ(・・・・・・・・・・)

 ファンキー爺さんの持つ、妻である婆さんへの愛は、もうとんでもなく深かったから。

 世界の修正力にも抗えちゃうくらいに。

 

「――――デートするんじゃ!!

 わしゃ婆さんと、ゴージャスなデートをするという、約束があるんじゃ!」

 

 お気に入りのステッキをブンブン振り回しながら、ファンキー爺さんが「うおぉぉ!」と走っていく。

 

 恐らくは……どこかの神様とか創造主の「流石に死なせてしまうのは可哀想」という温情により、“みっつめの世界”にて復活させて貰ったファンキー爺さん。

 けどそんなもの、実はファンキー爺さんにとっては、意味のない事だった。

 

 何故なら――――婆さんがこの世界にいないから。

 連れ合いである婆さんは、今も流たちのいる世界で、本屋を営んでいるのだから。

 いきつけの本屋が営業を再開し、のどかはとても喜んでいたけれど……それとこれとは話が別。

 

 ファンキー爺さんは、見知らぬプリキュアとかと一緒に、ひとりこの世界に飛ばされてしまった。

 たとえ復活させて貰っても、それがファンキー爺さんにとっての現実なのだ。

 

 そして、それは大いに困る!!

 婆さんと離れ離れになるのは、非常に困る!!

 だってファンキー爺さんは、婆さんを守るために(・・・・・・・・・)こそ、生きているのだから!

 

 愛する婆さんを幸せにし、共に寄り添い、二人で生きる――――

 それこそが爺さんの生きる意味であり、かの地で散っていった“父親”との誓いである。

 ぶっちゃけ、こんな“みっつめの世界”とかいうワケのわからん所に飛ばされても、すんごい困っちゃうのだ!

 

 

「なんでこんなトコにおらないかんのじゃ!!

 ――――わしゃ元の世界に帰るッ! 婆さんの所に帰るッ!!

 そうと決まれば、おっしゃえーーい! ぬおぉぉぉおおお~~ッッ!!」

 

 

 ファンキー爺さんは走る。曲がってた腰もピーンと伸ばして、夕日に向かって走る。

 

 とりあえず一回家に寄り、いくつかの荷物を持ち出してから、また夕日に向かって「わーっ!」と走る。

 

 その行先は、この地で“暗黒街”と呼ばれる場所にある、不気味なまでに大きなビルだった。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

「くっくっく……まさか不覚にも、異世界に飛ばされようとはな。

 世界というヤツは、よほど我々の力が恐ろしいと見える――――」

 

 あべのハルカスにも負けない程の、巨大な高層ビル。

 それはいかにも『世界征服を企んでおります』と言わんばかりの、おぞましい風貌だ。ドクロのエンブレムとかも飾ってある。

 

 今そのビルの最上階にある、広大なまでに大きくて豪華な一室に、いかにも『わたくし悪党を生業にしております』と言った風貌の男の笑い声が、静かに響く。

 

「まぁ構わぬ……。世界の破壊、及び征服には、何の支障も無し。

 なんといっても我々は、かのComeTrueやオリジンゼロに並ぶほどの、強大な力を持つ組織なのだから」

 

 どことなく説明臭い独り言を呟く、白髪の中年。

 

「必ずや、世界を手にしてみせよう――――思うがままに操ってみせようぞ。

 そしていつの日か、財布の中身を気にする事なくコンビニでからあげを買ったり、好きなだけDVDをレンタル出来るようになるのだ」

 

 この男は、確かに組織の“総統”の地位にあるのだが、実生活においては大変な恐妻家。

 だから月のお小遣いも凄く少ないし、気軽に部下達と飲みに行ったりも出来ない。

 成果を示して妻に認めて貰い、せめて2万円くらいにはお小遣いを上げてもらう為に、一刻も早く世界征服をする必要があった。

 

「世界間の移動や、異世界の観測など……我々にとっては容易なことよ。

 オールインワンの連中が持つ技術は、我らが発見した理論が元となり、生み出された物なのだ」

 

 ちくわを作り続けて70年。

 そんな食品生産業である彼の組織は、何年か前に偶然“異世界”という物の観測に成功。

 そして、美味しいちくわをご家庭に届けるついでに、世界間の移動や、空間転移の技術の開発に成功した。

 その技術を駆使して、いま現在もこの組織は、流たちの世界に美味しいちくわを届け続けている。

 

「我ら悪の組織、味のヤマモト(有)が、必ずや世界を掴んでみせる。

 見ておれよ、オールインワン。

 貴様らなど、所詮は羽虫に過ぎんことを、思い知らせてくれよう」

 

 その豊富な資金源、組織力、そしてちくわなどの練り物を作る技術は、他の組織とは一線を画すほどに強大な物。

 恐らくは、他の組織が束になってかかろうとも、この有限会社【味のヤマモト】を打倒するのは至難だろう。

 

 この世界、そして他の組織に力を知らしめるが如く、総統である山本の高笑いが木霊する。

 その声は、彼の内心の愉快さを表すように、すでに世界征服をした自身の姿が見えているかのように、嬉しそうな声色に思えた。

 だが……。

 

「――――大変です総統! 侵入者ですッ!!」 

 

 彼の高笑いは、突然この場に飛び込んで来た部下によって、中断される。

 

「なんだ、騒々しい。

 侵入者など、いつものように排除すれば良かろう」

 

 やれやれとばかりに、山本は気だるそうにソファーに腰かける。

 

「どうせ、我が組織の持つ“ちくわの作り方”の秘密を探る、不届き者だろう?

 馬鹿なヤツだ……ちくわを作るのに必要なのは、愛情と手間暇しか無いというのに」

 

 ぶっちゃけここに来る侵入者たちは、主に異世界に関する知識や技術を狙っているのだが、山本は知る由も無かった。ちくわ一筋70年なのである。

 

「それが……! 侵入者はもう、すぐ下の階まで来ているのです!!

 警報も、トラップも、我が組織の兵隊たちも……その全てを無力化して!」

 

「なっ……! なんだとッ?!」

 

 思わず手元にあるちくわを食べ、山本がソファーから立ち上がる。その顔は驚愕の色に染まっている。

 

「止められませんッ!

 銃器も、手榴弾も、対侵入者用の装置も、ヤツには効かないのですッ!

 ありえない……! ヤツは普段着のような恰好の、杖をついた老人なのに(・・・・・・・・・・)!」

 

「ッ!?!?」

 

「とにかく! 今すぐここから避難なさって下さいッ!

 屋上にヘリが用意してあります! 逃げて下さい社長! ……いえ総統ッ!」

 

 その信じられない言葉を受けて、山本は目を見開きながらも、机の上にあるスイッチを押す。

 いま社長室(総統室)の前面にある巨大モニターに、まるで紛争地にでもなったような下の階の映像が映し出される――――

 

 

 

 

我は官軍 我敵は 天地容れざる朝敵ぞ

 

敵の大將 たる者は 古今無雙の英雄で

 

之に從ふ兵は 共に慓悍 决死の士――――

 

 

 

 

 歌声が響く――――

 老いた男の、とても暖かく勇壮な声が……

 

 

 

 

敵の亡ぶる 夫迄は 進めや進め 諸共に

 

玉ちる劔 拔き連れて 死ぬる覺悟で 進むべし――――

 

 

 

 聞き覚えがある……。これは“軍歌”だ。

 日本最後の内戦として知られる、西南戦争。そこで戦った明治政府側の官軍である、通称“抜刀隊”の勇敢さを称えて、作られた歌。

 そして現在も、自衛隊や警察隊によって“陸軍分列行進曲”として歌い継がれる曲。

 ――――軍歌【抜刀隊】

 

「……ッ?!?! なっ、なんだこのジジイは!? 何者だッッ!!」

 

 山本の叫びが響く。

 いま画面の中に、辺り一帯を覆う硝煙を抜けて堂々と歩いてくる、ひとりの老人の姿が映った。

 

 

 

皇國(みくに)の風と 武士(もののふ)の その身を護る(たましい)

 

維新このかた 廢れたる 日本刀(やまとがたな)の 今更に

 

又世に出づる 身の(ほまれ) 敵も身方も 諸共(もろとも)

 

刃の下に 死ぬべきぞ 大和魂ある者の

 

死ぬべき時は 今なるぞ 人に後れて 恥かくな――――

 

 

 

 明治維新により、武士の魂である刀は、その存在価値を失ってしまった。

 銃器の大頭によって、時代遅れの、無用の長物と化してしまった。

 同時に、この国で戦をこそ生業としていた“侍”という者達の存在すらも。

 

 しかし、武家出身の者達で構成されし、我ら警察隊(抜刀隊)が、いま西郷隆盛の率いる反政府軍を討つ任務を受けて、また刀を携えて表舞台に出られることは、身に余るほどの名誉である。

 まさに、この身命を賭して成すべき、またと無い晴れ舞台。

 

 敵は武士。そして我らも武士――――

 手にするは、共に時代遅れの日本刀(やまとがたな)

 

 ロシア、アメリカを始めとする諸外国に対抗すべく、富国強兵を目指し、近代国家として生まれ変わろうとしている国、日本。

 いまやこの時代において、侍など最早、消え去るべき存在だ。

 

 ゆえに――――死ぬべきぞ。

 

 奴らも、そして俺達も。

 敵も味方も諸共に、刃の下に死ぬべきぞ――――

 

 

 ……これは、そんな抜刀隊の心を歌った曲。国の為に殉じた兵士たちの歌。

 忠を尽くすこと、義の為に命を捧げる心を、歌った曲。

 果敢に戦い、潔く散る――――“大和魂”の歌だ。

 

『軽機関銃、防刃チョッキ、数多の敵兵……全て恐るるに足らず。

 我が刃を持って、誅殺するであります――――』

 

 船木一等兵……いやファンキー爺さんは、父の形見である軍刀を携え、堂々たる歩みでゆっくりと進む。

 呟くように、勇壮な歌を口ずさみながら。

 

 

 

前を望めば (つるぎ)なり 右も左りも 皆劔

 

劔の山に 登らんは 未來の事と 聞きつるに

 

此世(このよ)(おい)て まのあたり 劔の山に 登るのも

 

我身のなせる 罪業を 滅す爲に あらずして

 

賊を征討 するが爲 劔の山も なんのその――――

 

 

 

※四方八方、どこを見渡しても剣だらけ。

 剣の山に登るのは、死んで地獄に行ってからだとばかり、思っていたが……。

 

 その地獄のような光景が、いま俺の眼前にある。

 しかも、これは決して、己が犯した罪を償う為に非ず。

 

 俺は君主のため、国賊を倒さんが為にこそ、戦うのだ。

 ならば、このような戦場、どうという事は無い――――

 

 

 

彈丸雨飛の 間にも 二つなき身を 惜まずに

 

進む我身は 野嵐に 吹かれて消ゆる 白露の

 

墓なき最期 とぐるとも 忠義の爲に 死ぬる身の

 

死して甲斐ある ものならば 死ぬるも更に (うらみ)なし

 

我と思はん 人たちは 一歩も後へ 引くなかれ

 

 

敵の亡ぶる 夫迄(それまで)は 進めや進め 諸共(もろとも)

 

玉ちる劔 拔き連れて 死ぬる覺悟で 進むべし――――

 

 

 

※雨のように、弾丸が降り注いでいる。

 だが決して命を惜しむことなく、我らは戦おう。

 

 たとえ死体は野ざらしとなり、無残に朽ち果てる事になろうとも、構わない。

 忠義の為に、身を捧げること。それはただ死ぬのでは無く、真に意味のある死だ。

 

 ならば、たとえ命を失おうとも、悔いなどあろうハズもない。

 この国が為、我こそはと思うのならば、一歩も後へ退くな。戦い続けろ。

 

 敵の滅びるそれまでは、進めや進め、諸共に。

 氷のように煌めく、美しき日本刀――――武士の魂を持ち、死ぬ覚悟で進め!

 

 

 

『――――チェェェリャァァァアアアアアッッッッ!!!!』

 

 まるで、いま口ずさむ“抜刀隊”の歌を体現するかのように、ファンキー爺さんが軍刀を振り下ろす。

 目の前に立ちふさがる、世界の敵――――賊を誅殺する。

 

『――――チエストォォォォオオオオオーーーーッッッッ!!!!』

 

 嵐のような、暴風のような剣撃が、眼前の敵を打ち倒していく。

 ある者は胴体が二つに分かれ、またある者は吹き飛ばされ壁に激突し、赤い花を咲かせる。

 最新鋭の装備を持つ兵士たちが、時代遅れの日本刀(やまとがたな)を握る老人を止められない! 太刀打ち出来ない!

 

 その姿を目で捉えることも無く、己が斬られたことを理解する間も無く、斬り倒されていく!

 たった一人の、ファンキーな爺さんの手によって!!

 

「な……なんだコイツは!? いったい何なんだこれは……ッ!!!!」 

 

 山田総統は、いまモニターに映る理解不能な光景を前に、ただ立ち尽くしていた。

 動くことも出来ず、この場から逃げろと言われたことも忘れて。

 それが……彼の命取りとなった。

 

「――――どっせぇいッッ!!!!」

 

「うわぁぁぁああああッッ???!!!」」

 

 扉を突き破り、ファンキー爺さんがこの場に推参。

 山本総統は床にひっくり返り、もうアワアワと爺さんの方を見つめるばかり。

 

 よく見れば、さっき「逃げて下さい!」と忠告しに来た部下は、爺さんがドアを吹き飛ばした余波によって、グッタリのびていた。

 もうこのビルに、総統である山本を守る者は居ない。

 

「なっ! ななな……何者だぁ!! なんなんだお前はぁぁあああーー!!」

 

「自分は、元大日本帝国陸軍、船木一等兵。

 人は我を、ファンキー爺さんと呼ぶ」

 

 尻もちを着いたまま、ビシッとファンキー爺さんを指さす。

 もうその手はガタガタと震えているが、なんとか世界征服を企む組織の総統として、気絶するのだけは堪えた。

 

「貴様、味のヤマモト(有)の総統だな?

 大義のもと、誅殺するであります――――」

 

「ぬおぉぉぉぉおおおおっっっ!!!???」

 

 爺さんがチャキっと軍刀を構えたのを見た途端、山本総統は叫びを上げ、ちょっとだけオシッコが漏れた。

 

「なっ、何が望みだ!? ……ちくわか?! ちくわのレシピかッ?!」

 

「いらぬ。貴様はただ、命をおいていけ――――」

 

「ぬわぁぁああああーーーーッッ!!!!」

 

 もうなりふり構わず、土下座。

 涙も、鼻水も、オシッコも垂れ流して、山本総統は必死に命乞いをする。どうか命ばかりは。

 

「貴様は、世界の崩壊を目論む組織……その長と聞いた。

 異世界に干渉し、世界間の移動を可能とする技術を持つ。

 それに相違ないな?」

 

「はっ……はいぃぃッ!! でももうしませんっ! 二度と悪事は働きませんッ!!

 これからは消費者のみなさまの為、誠心誠意! 美味しいちくわを作っていきますッ!」

 

「ふむ……」

 

 なんとファンキー爺さんは、ビシュッと血糊を落とす動作をして、その刀を鞘に収めた。

 彼の身体から、闘気や威圧感が薄れ、その表情が元の優しい顔に戻っていく。

 

 この【味のヤマモト】は業界最大手なので、もしかしたらファンキー爺さんも、この会社の作る美味しいちくわを、食べたことがあったのかもしれない。

 ちょうど今、おでんが美味しい季節だ。練り物は欠かせない存在である。

 

「ひとつ訊ねるが、貴様は異世界に干渉することが出来るのだな?

 ならば、わしを元いた世界に戻すことは出来るか?」

 

「はいッ! 出来ます!

 我が組織の保有する技術で、すぐにでも戻して差し上げます!

 いつも世界の垣根を越えて、あらゆる場所にちくわ出荷してますから!」

 

「ふむ……ならばいま、元いた世界の様子を確認することは出来るか?」

 

「出来ますッ! 今すぐにでも、そこのモニターに映すことが出来ますッ!!

 私達が元々いた世界の観測は、現在もずっと続けていますからッ!!」

 

 もう大急ぎで机に飛びつき、モニターのリモコンをポチポチする山本。

 やがてこの場にある巨大モニターの映像が移り変わり、そこに美星学園……流たちの姿が映し出された。

 

「ぬ? あの少年は……たしかヤングストリートで見かけた……」

 

「はい! この者は“秋月流”という、我々の監視対象として、最重要人物の一人!

 えも知れぬ不思議な力を持つ、17才の青年なのですっ!」

 

 聞けばこの少年自身は、少しばかり身体能力に優れた、心優しいちょっと馬鹿な青年に過ぎないらしい。

 ……だがそのバックにいるらしき、彼を守護する存在がヤバい。

 下手をすると、世界を改変しうる程の(・・・・・・・・・・)、強大な力を持つ存在なのだという。

 

「確かに、これはわしがいた世界の映像に相違ない。

 謀ることなく、ちゃんとわしをこの世界に送り届けるのであれば、貴様の命はとらぬ」

 

「はっ! ははぁーーーっ!! ありがたき幸せに御座いますッ!!」

 

 ちくわ作ろうっ! 今後はもう脇目もふらず、余計なこと考えないでちくわ作ろう!

 山本はそう、決意を固める。だって物凄く怖かったんだもん。死ぬかと思ったもん。

 

「ん? ……あの坊主、どうやら仲間達と共に、“新しい組織”を立ち上げるらしいのう」

 

 その様子を見届けたファンキー爺さんは、山本に指示を出し、すぐに元の世界に帰ることが出来るよう、手配をさせる。

 すぐさま山本総統は電話機に飛びつき、別のビルにいる化学部門の者達を呼び寄せ、機材の準備をおこなった。

 

 

(婆さん……いま帰るぞぃ。

 じゃがワシらの住む世界のため、少しやる事が出来たわ――――)

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「諦めるもんか。

 こう見えてさ? 俺――――すごく怒ってるんだよな」

 

 ところ変わって、美星学園。

 いま流は、燃えるような怒りをその瞳に宿し、裏秋月四天王の一人である東雲と向かい合っている。

 

「覚悟しろ東雲ッ!!

 お前は必ず、この俺とお地蔵様が……………………って、ん?」

 

 だがその時、突然この場にドゴーンという音が響き、しばし辺りが土煙に包まれた。

 

「おー! 流とかいう坊主! ひっさしぶりじゃのう~!!」

 

 今、次元の壁を越えて……天高く空から降り立ったファンキー爺さんが、流たちの前に現れた。

 

 

「――――VUM(ヴァム)に入れてくれ!

 わしもベリーユニ・マージに入れてくれ! 一緒に戦わしてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流と東雲たちがポカンとする中、目をキラキラさせたファンキー爺さんの声が、この場に響いた。

 

 

 

 



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【スピンオフ】ワーキングプア侍、見参ッ!! (hasegawa 作)


 当作品は【番外編スピンオフ】です♪
 この素晴らしいキャラクターを産み出してくれた、砂原さまに捧ぐっ!


 ※時系列 学際に向けての準備:序(Mr.エメト 作)の後。






 

 

「小雪! 元気してるかっ!」

 

 病院のベッドの上。

 綺麗な押し花の栞を挟み、読んでいた本をパタンと閉じて、お兄ちゃんに向き直る。

 

「今日な? 奮発して、お地蔵さまに味噌カツをお供えしたんだ!

 もうカツが味噌で浸っちゃうくらい、ドロドロにかけてやったぞ!」

 

 窓から差し込む光が、夕暮れの色に染まる頃。こうして毎日のように、流お兄ちゃんは私の病室を訪れる。

 まぁいつも、開口一番になんか不穏な事を言われちゃうんだけど……。

 

「お兄ちゃん……みそカツってアレ? あの名古屋名物の?」

 

「そうだ! 佐々木ちゃん知ってるだろ? 俺が働いてる新聞配達所の。

 佐々木ちゃん最近、名古屋に旅行に行ってきたらしくてさ?

 味噌カツ用のソースを、おみやげにくれたんだよ!」

 

「そっか。またお礼をいわなきゃね。……でもお兄ちゃん?

 たしかみそカツって、すごくかわった味だって、きいたことあるんだけど……。

 名古屋の人とかの、なれてる人じゃないと、とてもたべられないってくらい。

 ビックリするくらい甘くて、すぐ胸やけしちゃうって……」

 

「心配すんな小雪! お地蔵様だったら、きっと大丈夫だ!

 せっかくだから、もう全部ソースかけてやったよ!」

 

「えっ。ぜんぶ? ……カツいちまいに、ボトル一本分のおみそを?」

 

「おう! 沢山かけた方が、ぜったい旨いに決まってるもんな!

 カツ1に対して、味噌7くらいあったよ!

 あれはもう味噌カツというより、“味噌に浮かんでるカツ”だろうな!」

 

「あはは……」

 

 目をキラキラさせるお兄ちゃんを余所に、私は笑ってお茶を濁す。

 きっとあのお地蔵様は、今日も四苦八苦しながら、お兄ちゃんのお供え物を食べたことだろう。

 いつもごめんなさいと、心の中で謝っておく。

 そしていつもありがとう御座います。お兄ちゃんを温かく見守ってくれて。

 

「身体の調子はどうだ小雪? どっか痛んだりしてないか?

 今日はずいぶん顔色が良いみたいだけど」

 

「うん、げんきだよ?

 今日はひさしぶりに、看護師さんといっしょに、お外をさんぽしてきた。

 車椅子でだけどね」

 

「おおっ、いいじゃないか小雪! お日様サイコーだよなっ!

 やっぱたまには外に出ないと、気分も沈んで来ちまうよ」

 

「うん。まえに手術してから、ひさしぶりのお外だったし、うれしかった。

 ほらみて? これ中庭のお花でつくったの」

 

「おおっ! すっげぇなこれ! 綺麗じゃんか!」

 

 今日作った押し花を見せると、またお兄ちゃんは目をキラキラさせて喜んでくれる。

 ちなみにだけど、さっき本に挟んだ栞は、前にお兄ちゃんと散歩した時に作った押し花だ。私の一番のお気に入り。

 

「美星祭はどう? 準備はすすんでる?」

 

「あぁ、いま頑張ってるよ! 映画作ったりとか、喫茶店やったりとかさ。

 みんなですげぇ文化祭にしようって、めっちゃ張り切ってるぞ!」

 

「開催まで……あとどのくらいだったっけ?

 なんかお兄ちゃん、いつきいても『いま準備中』って、ゆってるような……」

 

「うぐっ?! ……いやまぁ、色々あるというか。

 ぜんぜん関係ないエピソードやったり、時間が巻き戻ったりして、なかなか美星祭まで進まねぇっていうか……」

 

「?」

 

 お兄ちゃんはポリポリとほっぺをかいて、気まずそうに目を逸らす。

 きっと私には分からない事情があるんだと思う。よく知らないけど。

 

「でも、いいな……たのしそうだなぁ。

 みんなで文化祭のじゅんびするの、きっとすごく、たのしいだろうなぁ」

 

「……」

 

 小さな頃から、ずっと入院してばかりの私には、お兄ちゃんのような学校生活の思い出は無い。

 いつも見ているのは、この代り映えのしない病室の壁。そして季節で移り変わる、窓の外の景色くらい。

 だから私には、仲間達と何かを作り上げる楽しさっていうのは、想像することしか出来ないんだけど……。

 

「小雪……美星祭いこうな。

 お兄ちゃん、頑張って準備すっからさ。

 お前のためにも、きっと一生忘れられないくらい、すげぇ学園祭にすっから」

 

 あたたかな、でもとても真剣な瞳で、お兄ちゃんが私を見ている。

 安心させるように、何かを強く訴えるみたいに、ギュッと私の手を握って。

 

 

「うん。わたし楽しみにしてる。

 やくそくね、お兄ちゃん――――」

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………

 

 

「うわぁ! 目が覚めたら、身体が女になってるでござるぅーー!!」

 

 朝の児童公園に、ワーキングプア侍の叫びが響き渡った。

 

「なんという……! なんという仕打ちで御座るかっ!!

 主に捨てられたばかりか、身体がおなごになってしまうとはッ!

 おお神よ! 拙者はこれから、どうやって生きて行けばよいのかっ!!」

 

 主からの命により、したたるウーマンの捕獲or抹殺を請け負っていた、ワーキングプア侍。

 だが彼が手をこまねいている内に、何故か標的であるしたたるウーマンも、主であるハセ・ガワ氏も、突然“みっつめの世界”とやらに飛ばされてしまった。

 彼には詳しい事は分からないが、どこにも姿が見えなくなってしまったのだ。

 

 それにより、この度ワーキングプア侍は、めでたくホームレスへと逆戻りを果たした。

 主を失い、食べる物にも住む所にも事欠き、こうして公園の遊具(おっきな滑り台)の中で寝泊りをしていた次第である。

 

「まぁ、身体がおなごになったのは、昨日からだったりするんでゴザルけど。

 これって、自分でやった事だったりするんでゴザルけど」

 

 よくある二次小説の設定みたく、とりあえず朝っぱらから叫んではみたものの、彼が女の身体になったのは自業自得だったりする。

 有り体に言うと、彼は昨日、そのあまりのひもじさから、自ら進んで女の身体になったのであった。

 

「“1200円もらえるけど身体が女になるボタン”を押し、町の中華屋で近年まれに見る豪遊をしたは良いが、まさか朝起きても治っておらんとは……。

 このままでは、侍としての任務に支障をきたしてしまうで御座る」

 

 チャーハン食いたさに、餃子食いたさに、彼は親からもらった大切な身体を捨て去り、女として転生を果たした。

 たった千円ほどの為だが、背に腹は代えられなかった。もう4日も何も食べていなかったのだし。

 

「まぁきっと、ほっときゃ元に戻るでござるよ。

 もしくはお湯でも被れば、男の身体に戻れるハズでござる。

 昔そういう漫画を読んだことあるし」

 

 意外とポジティブに物事をとらえたワーキングプア侍は、背筋を伸ばして「ふぁ~っ」と欠伸をひとつ。

 現在、絶賛無職の身であるが、彼の新しい一日が始まる。朝日が心地よい。

 

「さて……とりあえず、朝ごはんどうするで御座るかな?

 拙者、さっきから腹がグーグー鳴ってて、正直たまらんで御座るよ」

 

 空腹を訴えるおなかをさすりながら、ワーキングプア侍はゴソゴソと荷物を漁る。

 ちなみに今、彼は無一文である。財布の中にお金は入っていないので、朝食を買うことは出来ない。

 

「てれれれってれ~♪(BGM)

 80円もらえるけど、口調が板東〇二みたいになるボタン~!」

 

 そして鞄の中から、以前雇い主であるハセ・ガワ氏に「何かあった時に使ってね♪」と渡されていた秘密道具を取り出し、躊躇なく「えいっ!」とボタンを押してみせた。

 

「いや゛~ほんばぁ~。

 ゆでたまごって言うんばぁ~、なんであんな旨いんやろうで?」

 

 80円を手にし、早速コンビニで買って来たゆでたまごを、美味しそうに頬張るワーキングプア侍。

 関係ないが、さっきから値段の設定が安すぎるような気がする。

 性別とか口調とかの、正にアイデンティティというべき物を、あまりにも簡単に売り渡しているような気がする。

 

 彼が困っている姿が面白いからなのか、ちょっとしたオチャメなのかは知らない。

 だがハセ・ガワ氏は、なぜ値段設定を、せめて万の桁にしてやらなかったのだろうか。

 

「ぼぐねぇ゛! 昔プロ野球のピッチャーやっどっでねぇ゛!

 お笑い芸人とちゃうねんがら゛! ぼんばにも゛~!」

 

 ちなみに、ワーキングプア侍はこれと似たような各種ボタンを、彼から山のように受け取っており、いま現在もたくさん鞄に入っていたりする。

 

 ハセ・ガワ氏は作家だが、同時に“オールインワンの長”という裏の顔がある。

 なので組織の科学力を無駄に試してみたくて(・・・・・・・・・・)、面白半分でこういう変なボタンを作っては、それを実験台として裏表のない厚意から、全部ワーキングプア侍にあげていた。

 

 無駄にSF要素の入った変なボタンではあるが、背に腹は代えられない。

 プライドで飯は食えない。彼はいま無職なのである。

 これで得た80円。たったひとつのゆでたまごのお蔭で、彼は今日も命を繋ぐことが出来たのだから。栄養価は抜群だ。

 

「あ、元に戻ったでござる。

 さすがに80円ほどでは、効果は30分くらいとみえる。

 なんかお得な感じで御座ったな」

 

 とにもかくにも、ワーキングプア侍は現在、生きるのに必死だ。

 突然雇い主を失い、請け負っていた任務も水泡に帰してしまった彼は、また収入という物が無くなってしまったのだから。

 

 せっかくの体術も、戦闘技術も、使うべき場所が無いのなら意味がない。

 世間一般から見れば、彼はボロボロの着物を着た、汚いオッサンでしかないのだ。

 

 ハロワに通おうにも、履歴書を書こうにも、彼は“戸籍”という物を持っていないので、それもままならない。

 ある組織(・・・・)のもとで、生まれた時からずっと山の中で育ち、ただひたすらに暗殺の技術だけを仕込まれて育った彼にとって、この現代社会で生きていく事は、非常に困難だ。

 

 今日も彼は、60円もらえるけど暫くアヒル口になるボタンとか、300円もらえるけど見た目が美輪〇宏みたいになるボタンとかを押して、なんとか食つなぐのだった。

 

 侍として、果たすべき使命も持たずに。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

「おじさん……? その草は、たべられないよ?」

 

 その少女に出会ったのは、ワーキングプア侍が男に戻り、板〇英二からも戻った後。

 ふと「野草でも採るでござる」と思い立ち、病院の中庭に忍び込んだ時のことだった。

 

「おなか、こわしちゃうよ?

 たしか図鑑で、たべられないヤツの欄に、のってた草だから」

 

 まったく気配がしなかった。

 彼は曲りなりにも暗殺者を生業とする侍。……まぁ今は自由を求めて組織から抜け出し、こうして浮浪者みたいな生活をしてはいるのだが、その五感は常人を遥かに凌駕する。

 その自分が、まさか気付かぬ内に背後を取られるとは。

 そして気配を消していたにも関わらず、存在に気付かれるとは。

 

「たべるんなら、こっち。

 これたんぽぽだよ? ここから上の部分だったら、たべられる」

 

 一瞬、斬ろうかと思った。

 今は無職とはいえ、自分は暗殺者だ。顔を見られたからには生かしておけんと、刀に手をかけた。

 

「なんか、これでコーヒーも作れるんだって。

 わたしはやったことないけど……おいしいらしいよ?」

 

 しかし、そのあまりにも儚げで、か弱い少女の姿を見た途端、彼は動くことが出来なくなった。

 

 生気を感じないほどの、病的に白い肌。

 幽霊かなにかのように、ふわふわと薄い存在感。

 そして、こんな怪しい格好の自分にも普通に声をかける、あまりの危機感の無さ。

 

 まるで世の中のことを、何ひとつ知らずに育ってきたかのような、その純粋さ。

 

「ややっ! これはしたり~!

 拙者、あやうくポンポン壊して死ぬところで御座ったな! わっはっは!」

 

 刀から手を放し、まるでアホのように朗らかに笑い、ワーキングプア侍は少女に向き直る。

 年齢のわりには小柄で、彼の背丈の半分ほどしかないようなその少女は、「かたじけないかたじけない」と笑うワーキングプア侍を、キョトンとした顔で見つめた。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

「ほう、美星祭とな?

 兄上の学校で、学園祭があるので御座るか」

 

「うん」

 

 中庭に咲く、彩りどりの季節の花。

 それを二人で眺めながら、ベンチに腰かける。

 

「それはよう御座るなぁ~。

 きっと焼きそばとか、たこ焼きとか、チョコバナナとか、たくさん店が出るで御座る。

 おっと。想像しただけで、拙者よだれが……」

 

「ふふっ♪」

 

 先ほど、300円もらえるけどマイク・タイ〇ンに腹を殴られるくらいの激痛が走るボタンを押し、二人分のジュースを買ってきたワーキングプア侍は、こうして少女との雑談に興じている。

 

 彼は不審者&不法侵入者なので、本当は今すぐにでもこの場を離れた方が良いのだろうが、そこは腐っても暗殺者の彼。

 ちゃんと他所からはこちらが見えないような工夫や、彼女以外の人間には気付かれないように気配を断つという、無駄に高度なスニーキング技術を駆使して、彼女とおしゃべりしていたりする。

 

 この少女には全くといって良いほど警戒心というものが無く、こんな不審者そのものである自分とも、のほほんと接している。

 そして、恐らくは身内の者以外とは、会うことも話すことも稀なのだろうという、そんな会話慣れしていない様子も伺えた。

 

「まぁ拙者、学び舎に通った事はござらぬから、ぜんぶ伝え聞いた知識に御座るが。

 実際の学園祭とは、いったいどのような感じで御座ろうか? 楽しそうじゃなぁ~」

 

「そうなの? わたしも学校はあんまりだから、いったことないの。

 小雪といっしょだね、おじさん」

 

 聞く所によると、この少女は幼少の頃から、ずっと入退院を繰り返す生活を送って来たらしい。

 だからろくに学校にも行けず、人生の大半を病院の中で過ごしてきた。

 でもとても活発で、ちょっとバカだけど妹想いの兄がいるらしく、毎日お見舞いにも来てくれるので退屈はしない。

 むしろ自分は幸せな、とても恵まれた娘なのだと、そう嬉しそうに話してくれた。

 

「おじさんもくる?

 お兄ちゃんにタダ券もらえるから、おいしい物いっぱいたべられるよ?」

 

「あ~いや……拙者はハロワに行ったり、異世界に行った主を探したりせねばならぬゆえ。

 お心遣いだけ、有難く頂戴いたすで御座る」

 

「?」

 

 本当にこの少女には、警戒心という物が無い。

 こんな小汚い身なりの男を簡単に信用し、挙句の果てに学園祭に誘うなどと……、物を知らないにも程がある。

 自身の憐れむべき現状すらも棚に上げ、ちょっと彼女のことが心配になるワーキングプア侍である。

 

「いけたら……いいな。

 先生、その日だけでも、外出許可をくれたらいいけど。

 美星祭、いきたいなぁ……」

 

「……」

 

 ふいに、少女がどこか遠くを見つめながら、ぼそりと呟く。

 その顔は、楽しさに想いを馳せているようにも見え、またどこか“諦め”の感情が滲んでいるようにも見えた。

 

 この少女は、つい先日にも手術を受けたばかりで、いまは経過観察の時期であるという。

 きっとこれまでの人生の中で、いくつもの「やりたい」を我慢し、その度にこの寂しい笑顔を浮かべてきたんだろう。

 今日あったばかりなのに、ワーキングプア侍にもそれが容易に見て取れるほど、あまりに儚げな表情。

 

「心配はござらぬ!

 もしお医者さまが意地悪を言っても、拙者がここから連れ出してやるで御座るよ!

 必ず美星祭に連れて行ってやるで御座るっ!」

 

 思わず、そう叫んでいた。

 

 少女はキョトンと、びっくりした顔。

 いまドンと自分の胸を叩き、ちょっとウザいくらいに輝かんばかりの笑みを浮かべるワーキングプア侍を、目をまんまるにして見つめている。

 

「……ほんと? ほんとにつれてってくれる?

 わたし、美星祭にいっても……いいの?」

 

「もちろん! なにゆえ駄目な事があろうっ!

 その為にこそ、兄上もいま頑張っているので御座ろう? 

 ならば其方は、是が非でも美星祭に行かねばっ!」

 

「おこられる……よ?

 先生や看護師さんに、おこられちゃうよ?

 身体よわいくせに、バカをゆうなって……」

 

「そん時は! 拙者もいっしょに怒られてやるで御座るッ!

 むしろ拙者が怒ってやるで御座るっ! なぜ兄上の文化祭に行ってはならんのか!!

 そのような(ことわり)、この世にはござらぬぞッ!!

 拙者に任せておくが良いッ!!」

 

 ベンチから立ち上がり、胸を張って「わっはっは!」と笑う。

 少女は、その姿をただポカンと見つめる。……だが次第に、その瞳に“希望”という光が宿っていく。

 少女が嬉しそうに、もう見惚れるほどの美しい笑みを浮かべる。

 

「――――ちょっとぉ! 誰ですか貴方はッッ!!」

 

「うひぃ?!?!」

 

 だが突然響いてきた声によって、ワーキングプア侍は即座にこの場を駆け出す。

 

「不審者ッ!! 小汚いおっさんが入って来てるわよッ!!

 誰かぁぁーーッ!! 誰かぁぁーーーーッッ!!」

 

「ひぃぃ~~ッッ!!」

 

 恐らくは、少女を担当している看護師なのだろう。

 彼女はすぐさま少女に駆け寄り、もう割れんばかりの声で悲鳴を上げた。

 脱兎の如く逃げ出すワーキングプア侍。

 

秋月さん(・・・・)! 大丈夫っ?!

 あのオッサンに、変なことされなかった?! おっぱい触られなかった?!」

 

 

 

 おっぱいの事はともかくとして……、もうワーキングプア侍は必死こいて逃走しつつも、その名前をしっかりと聞き取った。

 

 ――――秋月。

 これは以前、主であった人から“この町の重要人物”として、任務の為に教えられていた名前のひとつ。

 いずれ何らかの形で、この男と関わるかもしれないからと、事前に渡された資料の中に乗っていた名前だった。

 

「秋月……だと?

 ではあの小雪という少女は……秋月 流の?」

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 後日。夕暮れ時の病室。

 

「んでな? どーやってランカ達のステージを実現させるかって、直樹と話し合ってんだけどさ?」

 

「ふふっ。でも水着はダメだよ、お兄ちゃん」

 

 流と小雪が楽しそうに会話する姿を、中庭の木に張り付いているワーキングプア侍が、遠くからそっと観察する。

 

「あの少年は……やはり秋月 流。

 やはり小雪どのは、とんでもない重要人物の身内で御座ったか。ぎょぎょ~!」

 

 さっき“150円もらえるけど、さかな君みたいな声になるボタン”を押し、そのお金で買ったパンを齧りながら、たらりと冷や汗を流す。

 まぁ150円だし、そろそろ効果も切れる頃だとは思うが。

 

(あの屈託のない笑み。嬉しそうな表情……。

 小雪どのは、心から兄上を好いておるので御座るな)

 

 自分と共にいた時の、どこか色の無い表情とは違う。いま彼女はとてもリラックスし、心から楽しそうにしている。

 恐らくは幼い頃から、こうして二人で支え合って生きてきたのだろう。小雪にとって流は、そんな掛け替えのない存在なのだろう。

 遠くから見守っているワーキングプア侍にも、それがひしひしと分かる。

 

(だが……あの少年は……)

 

 もしかしたら……、あの少年が美星祭に情熱を懸ける理由、そして世界征服などとのたまう理由のひとつには、“妹の為に”というのが、あるのかもしれない。

 妹に思い出を。そして妹がより良く生きていける世界の為に、彼はいま必死に頑張っているのだろう。

 

 だが……彼が持つ力は、この町に潜む“闇の組織”の者達にとって、あまりにも魅力的過ぎる。

 この先、あの美しい兄妹が戦火に巻き込まれていく(・・・・・・・・・・・)姿が、もう容易に想像出来てしまう――――

 

 そうワーキングプア侍が眉をしかめたのも、つかの間。

 

「――――ッ!? 何奴ッ!!」

 

 懐から苦無(くない)を取り出し、即座に投げつける。

 たったいま感じ取った、この場にいる自分以外の気配に(・・・・・・・・)

 

「逃がさぬぞッ! 待てェッ!!」

 

 200メートルはあろうかという距離を、正確に当ててみせた。

 彼の鷹のような眼は、いま肩口を押えながら逃げ出していく何者かの姿を捉える。そして解き放たれた矢のような速さで、即座に後を追う。

 木を飛び移り、屋上に登り、全力で疾走する。

 

「……ぐぎゃッ?!」

 

 逃走していた何者かが、短い悲鳴を上げて、その場に倒れる。

 即座に追いつき、彼が再び投げはなった苦無が、その大腿部に突き刺さったのだ。

 

「言えッ! 貴様何者ぞ?!

 どこの組織の者かッ!! 答えぃ!!」

 

「……ッ?!」

 

 組み伏せられ、喉元に苦無を押しあてられた何者かが、目を見開いてワーキングプア侍を見る。

 その表情は憤怒、そして暗殺者としての冷酷さが声に滲む。

 

「なぜ秋月を監視していた(・・・・・・・・・)ッ!!

 誰の指示かッ! 言わぬかッ!!」

 

 そう。こいつは秋月兄妹の病室の方を見ていた。

 いや、明らかに秋月兄妹を“狙っていた”。

 組み伏せたコイツの傍に、狙撃銃らしき物が落ちているのが見える。

 

「おっ、お前こそ何だッ! なぜ邪魔をしたッ!

 こんな真似を……我ら裏秋月(・・・)に盾着いて、タダで済むと思ってるのか!!」

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に当て身を喰らわせ、男を失神させる。

 口から胃液を垂れ流し、グッタリとのびた男を余所に、ワーキングプア侍はただただ硬直し、たらりと汗を流す。

 

「裏秋月……だと?」

 

 知っている。これも主からの資料にあった名前だ。

 この町で仕事をする以上、必ず知っておかなければならない名前……勢力のひとつだ。

 

 まぁ聞く所によれば、ひどく貧乏だったり、ひどく不幸だったりする家系もあるらしいのだが……とりあえず裏秋月とは、この町を牛耳っている勢力のひとつである事は間違いない。

 そして主いわく、「自分が指示を出すまでは、けしてやり合うな」とも。

 

「増援が来る……。すぐこの場を離れねば」

 

 

 この倒れ伏した男の処遇など、考えている余裕は無い。

 本来は口封じの為、殺してしまうのが最上。だが自分が殺生を犯すのは、仕えるべき主の命によってのみと決めている。

 

 ワーキングプア侍は即座にこの場を離れ、すぐにその姿は、夕日の彼方へと消えた。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………

 

 

「とほほ……苦無を失ってしもうた。

 もうあの2本しか残ってなかったというに……」

 

 頑張ったらダンボールとかで作れないかな? 殺傷力とかもう我慢するから。

 そんな侍にあるまじき情けない事を考えながらも、ワーキングプア侍は“500円もらえるけど、後頭部に10円ハゲが出来るボタン”を押して購入したシュークリームを手に、再び病院へと向かった。

 

「というか……拙者はいま、何をしているので御座ろうか?

 職もなく、主もない身の上だというに。シュークリームなど買って……」

 

 この2日、食べたのは先のアンパンと、何本かのタンポポだけ。今も彼のお腹はストライキを起こすかの如く、グーグー音が鳴っている。

 こんな物を買う余裕があるなら、すぐに牛丼屋にでも駆け込むべきなのである。

 

「まぁ拙者、なにもしてないでござるし?

 いま何の任務もなくて暇でござるし? いいっちゃーいいんで御座るが」

 

 任務の標的も、仕えていた主すらも、異世界へと消えた。自分ひとりをこの世界に残して。

 ならば今なにをしようと、彼の勝手ではあるのだが……。しかし自身の“不可解な行動”の意味を、彼は未だに理解出来ずにいる。

 

「相手は……あの裏秋月ぞ?

 主の指示ならばともかく、単独でやりあえる規模の相手では御座らぬ」

 

 いったい自分は、何をしている?

 何を好き好んで、裏秋月を敵にまわすような真似をする?

 なぜ自分は、あの少女に肩入れをする(・・・・・・・・・・・)

 

「馬鹿な……。他人のことよりも、まずは自分のことを何とかせいと言うのだ。

 住む家も無く、明日も知れぬ身だというに」

 

 だが、あの日交わした約束が、彼の胸を離れない。

 あの少女が寂し気に呟いた「美星祭にいきたい」という言葉。それを聞いて思わずしてしまった約束が、どうしても頭をちらつくのだ。

 

 そして今、自分はなぜか見舞いの品なんぞを手に、もう夜だというのにあの病院に向かっている。

 様子を見るだけ、敵の動向を探る為と言い訳をしながら、「ひと目あの子の顔が見たい」と病室に向かっているのだ。

 そのワケが、どうしても彼には分からずにいる。

 

「まぁ……これを渡したらすぐ帰るで御座る。

 タンポポが食えると教えてもらった礼よ。

 これも仁義でござる」

 

 もうすっかり暗くなった中庭だが、5階建ての病院の窓から、たくさんの明りがこの場を照らしている。進むのに支障は無い。

 まぁ本当は面会時間中に、ちゃんと建物の中から会いに行くのが筋なのだろうが、自分はまごう事無く不審者である。

 あんまり頻繁には風呂にも入れないので、衛生上の観点からも、医療施設に入ることは躊躇われた。

 

 よってワーキングプア侍は手早く木に登り、ひょいひょいっと枝を飛び移って、ちょうど秋月小雪の病室の前までやってくる。

 窓からは明りが差し込んでおり、まだ消灯時間にはなっていないことが伺える。

 寝る前にシュークリームを食べるというのは暴挙かもしれないが、きっとこれを手渡せば、彼女は喜んでくれるんじゃないかという気もしている。

 

「顔を見るだけ……見るだけじゃ。

 その後は、町を去るなりなんなり、すれば良い」

 

 いくらなんでも、タンポポの恩で裏秋月とやり合うのは、流石にごめんこうむる。

 あんな、つい口から出たような“約束”など、このような汚いおっさんの事など、もうあの子もとっくに忘れてる……ハズだ。

 

 いくら自分が、明日とも知れぬ身とはいえ。

 職もなく目的もなく、ただ生きているだけのツマラナイ男とはいえ。

 無駄死にをするのは、御免だ。

 

 しかし、自分にそんな言い訳をしながら、そっと部屋の様子をうかがったワーキングプア侍の表情が、一瞬にして強張る。

 

「……ッ!?!?」

 

 見えたのは、ベッドの下に倒れ、苦しそうに吐息を漏らしている小雪の姿。

 ギュッと目を瞑り、息も絶え絶えに、ただ襲い来る痛みに耐えている、悲痛な顔。

 

「小雪どのッ!! 小雪どのぉぉーーッッ!!」

 

 せっかく買ったシュークリームが、中庭の地面に叩きつけられた。

 ワーキングプア侍は、“窓を開ける”という単純な行為すら思い至らず、叫び声を上げながら部屋に飛び込んだ。

 

「しっかりせぃ! 目を開けぬかッ!! 小雪どのッ!!

 小雪どのぉぉーーーッッ!!」

 

 あの愛らしかった顔が、激痛によって歪んでいる。

 ただでさえ白かった顔色が、今はもう蝋のように白い。そして滝のような汗を流して苦しんでいる。

 

 彼は小雪を抱き起しながら、必死にナースコールを押し続ける。

 暗殺者であり、人の死を見慣れているハズの彼は、縋るような声で叫び、ただ助けを呼び続けた。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………………………

 

 

 ちょっとした侵入者騒ぎはあったものの、小雪は即座に駆けつけてきた医師たちによって、救急治療室へと運ばれて行った。

 

 おそらく小雪は、たまたまベッドから離れていた時に発作を起こし、その場で倒れてしまったがゆえに、ナースコールのボタンを押すことが出来なかったのだろう。

 もし彼が見舞いにやって来なかったら、もしあと少しでも発見が遅れていたら、彼女がいったいどうなっていたかなど、考えるまでもなかった。

 

 

「………」

 

 ワーキングプア侍は、いま屋上にいた。

 ここは、ちょうど小雪の処置がおこなわれている部屋の、真上にあたる。

 もちろん彼の暗殺者としての技術を駆使し、気配と姿を決して、誰にも見つからないようにしながら。

 

「………」

 

 本当は、こんな所にいる意味などない。

 医療の心得がなく、そして小雪の血縁でもない、全くの赤の他人でしかない彼がここに居ても、きっと出来ることは何もない。

 だから、これはなんの意味も無いことなんだろう。

 

「小雪……どの」

 

 けれど、この場を動く気にはなれない。

 少しでも良い。たとえ僅かでもいい。彼女の傍にいてやりたかった。

 

 

 先ほど、息を切らせて病院に駆け込んでくる流の姿を見た。

 目を充血させ、学校も文化祭の準備も全てを捨ておいて、なりふり構わずに妹のもとへと駆けつけていた。

 あの妹想いの彼ならば、彼さえ傍にいれば、きっとそれで良いのだろう。

 こんな住所不定、無職の男が傍にいようとも、彼女にとってなんの足しにもならない。

 

『その草、たべられないよ?』

 

『これタンポポだよ? ここから上の部分なら、たべられるから』

 

 けれど……どうしても彼女の顔が、頭に浮かぶのだ。

 

 

『いきたいな、美星祭。

 いけたら、いいなぁ――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 気が付けば、力の限りに地面を殴りつけていた。

 コンクリートが陥没するほどの、凄まじい轟音が、夜の病院に響いた。

 

「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!!」

 

 肩で息をし、地面に蹲る。

 目を見開きながら、ここではないどこかを見て、睨みつける。

 

「――――おいおい。そんな事をしたら、また見つかってしまうよ?

 それでもいいのかい、ワーキングプアくん?」

 

「ッ?!?!」

 

 咄嗟に立ち上がり、構えを取る。

 いま突然耳元で聞えた、声のほうに向かって。

 

「ようやく時間が出来て、迎えに来てみれば……まさか病院に不法侵入とは。

 君ね? 一応は私の部下って事になってるんだから。

 こういった真似は、控えて欲しいんだけども」

 

「と……殿ッ!! 我が主(・・・)ではないかッ!!」

 

 そこにあったのは、以前仕えていたハセ・ガワ氏の姿。

 恐らくは立体映像か何かなのだろう。心なしかその姿は、少し透けているように見えた。

 

「うん、私だよプアくん。……殿とかじゃないけど。

 仕事がひと段落ついたから、迎えに来たよ♪」

 

「…………」

 

「あ、もしかして怒ってる?

 ごめんね……決して君のこと、忘れてたワケじゃないのよ。

 私も組織も、したたるウーマンですらも、みんな向こうに飛ばされたのに……、まさか君だけピンポイントでとり残されるだなんて、思ってもみなかったのよ。

 それにしてもさ……? 君はいったい、どういう存在なの?

 なんで君だけ残ったの? いったい君の何が、この世界に必要とされたの……?」

 

 何故かオネエ言葉のその男は、「まったく理解できないよ」と言わんばかりの表情で、不思議そうに彼を見つめる。

 恐らくは、なんらかの作業を速攻でかたずけてきた所なのだろう。立体映像のハセ・ガワ氏は黒い地味なジャージ姿であり、その目元には強い疲労の色が浮かんでいる。

 どうせまた、徹夜でもして小説を書いてたんだろう。

 

「彼女は……」

 

「ん? なになにプアくん?」

 

「小雪どのは…………どうなるので御座るか?」

 

「えっ」

 

 きっと、置いていったことを文句言われる。あと給料上げろとか、なんか食わせろとか言ってたかられる。

 そう高をくくっていたハセ・ガワ氏は、とつぜん彼の口をついて出た言葉に、少し面を喰らった。

 

「小雪さん、かい?

 いまここに入院してるっていう、女の子でしょう?

 なになに? 君、彼女と知り合いなの?」

 

「…………」

 

 そうのほほんと問いかけてみるが、彼の眼は真剣そのもの。いまは無駄口を叩くような場面では無いことを、ハセ・ガワ氏は悟る。

 

「どうなる……か。

 治るのかでも、病名でもなく、どうなる(・・・・)

 なんか変な訊き方だけど……プアくんもある程度は、事情を察してるみたいだね」

 

「……」

 

 迎えに来るのが遅れたお詫びに、適当にラーメン屋にでも連れて行けば、それで事足りる。

 そうとばかり思っていたハセ・ガワ氏は、まためんどくさい事になりそうだという予感を感じつつも、内心で覚悟を決める。

 今日もきっと、ロクに睡眠時間は取れない。

 

「じゃあもう、サラッと一気に説明しちゃうから、しばらく黙って聴いててね?

 分からない事とか、質問とかは、ぜんぶ後で受け付けるから。

 頑張って聴いててよ?」

 

「……」

 

 無言のまま、コクリと頷きを返す。

 それを見て、ハセ・ガワ氏が再び口を開いた。

 

 

「結論から言うと、彼女はずっとこのままだろうね(・・・・・・・・・・・・・・)

 この先、あと何年生きられるのかは、知らない。

 けれど、彼女の病気が完治する可能性は、まったくのゼロだよ」

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 君も、流くんのことは知ってるよね?

 ほら、前に資料として渡した、あの膨大な“徳”を持った少年だ。

 

 苗字も一緒だし、もう彼女が流くんの妹だって事は、知ってるんだよね?

 

 

 ちなみに君は、あの資料を読んだ時に、何か違和感を感じなかったかい?

 もう何人(なんびと)も傷つけられない位、下手すれば世界をひっくり返しかねない程の、そんな“徳”を授かった少年。

 幸福な人生を約束された、世界を握れるほどの不思議な力を授かった少年。それが流くんだ。

 

 でもさ……? なんでそんな彼が、新聞配達なんてしてるんだろうね(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 なんで流くんは、普通の苦学生みたいに、自分で生活費を稼がなくちゃいけないんだろう?

 ここ、なんかおかしいと思わなかったかい?

 

 

 結論から言うとね……? 今の流くんて、もう幸福でもなんでも無いんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 彼を守護してるどこかのおっきな存在が、今も彼の健康を願ったり、優しく見守ったりは、してるみたいなんだけど……。

 トラックが家に突っ込むとかの妨害工作を、全て無効化したり。なんか面白いことが沢山おきる~っていう、愉快な人生を歩んではいるけれど。

 

 ……でも流くんが本来受け継いでいるハズの、先祖代々の“徳”。それは本来、あんなちゃちなモンじゃないんだよ。

 その力の大部分は、いま妹さんの方に使われているんだ。

 

 

 秋月流には、両親が居ない――――

 まだ彼が幼かった頃……正確に言うと、妹さんが産まれたその年に、両親ともが事故で亡くなってるんだ。

 

 親から相続したそこそこの遺産はあったけれど……、それも秋月家を憎む誰かの悪意によって、すでにほとんどが溶かされてしまった。

 だから彼は、妹さんと二人で生きていくための生活費を、アルバイトで稼がなくちゃいけない。

 流くんがどう思ってるかは知らないけれど……でも世間一般の目から見たら、彼はまごう事なく“不憫な青年”だと思うよ?

 

 

 で、なぜそんな事態になっているかと言うと……それは全て、妹である小雪ちゃんのせいだったりする。

 彼が受け継いだ“徳”が、彼に豊かな生活をさせず、両親すらも事故で失わせてしまったその原因には、小雪ちゃんが関係してるんだ。

 

 あ……別に小雪ちゃんが悪いとかじゃないから、その拳から力を抜いてくれる?

 頼むよ、プアくん……。

 

 

 え~っと……おほん!

 じゃあ、なぜ流くんの徳が、小雪ちゃんの方に行っちゃってるのかと言うと……きっとそれが、幼き日の彼の願いだったから、なんだろうね。

 小さかった頃の彼が、「ぼくの事はいい。妹を助けてあげてくれ」って……、そう無意識にでも願ったんじゃないかなぁ?

 

 小雪ちゃんはね? 本来はもう死んでいるハズの存在なんだ(・・・・・・・・・・・・・)

 とっくの昔に……きっと産まれてすぐ位に、死んでしまう運命の子だったんだよ。

 

 それをいま、流くんは自らの“徳”を総動員して、無理やり生かしている――――

 運命とか、道理とか、神様が決めたルールとか……そんな全ての物に抗って、無理やり生かされているのが、今の小雪ちゃんという女の子なんだよ。

 

 

 たとえば世界征服とか、世界を意のままに操るとか、滅ぼすとかさ?

 そういった“この世の内側の事”って、意外と簡単なんだよ?

 もう流くんが受け継いだ力があれば、きっとすぐにどうとでもなる位の、そんな簡単な事でしかないんだと思う。

 

 でもね……?

 例えば人の生き死にとか、運命とか、神様が決めたルールっていう“外側の事”はね?

 本来は徳とか幸運とか、そんなのでどうにかなるような物じゃ、決して無いんだよ。

 

 

 たとえ、世界を握れるほどの力が、あったとしても……。

 たった一人の女の子を生かす。ただそれだけの事が……出来ない。

 

 人の作った物はどうとでも出来ても、世界が定めたルールには、抗えない――――

 

 ……まぁ流くんの家系って、もうどっかおかしいから(・・・・・・)、なんか全ての道理を無理やり捻じ曲げて、小雪ちゃんを生存させちゃってるワケなんだけど……。

 しかし、それでも今の小雪ちゃんの状態が精一杯。……これが限界なんだ。

 

 今ですら、奇跡みたいな状態なのにさ? これ以上身体を良くするなんて事、たとえ神様でも出来はしないんだよ。

 

 

 彼女は本来、死ぬべくして生まれ堕ちた子――――

 

 そして、流くんの受け継いだ“徳”の力、そのほとんどを吸い取っている存在なんだ。

 

 ……君が理解出来てるかも、納得出来てるのかも、知らない。

 でももう少しだけ、我慢して聞いてね?

 

 きっとここからが、君にとって、一番大事な所だと思うから。

 

 

 

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 ジュポっと音を立てて、ジッポを着火する。

 ハセ・ガワ氏はいったん一息入れるように、気だるそうにタバコを吹かす。

 

「裏秋月……知ってるよね?

 なんたって今日、君はその手の者と交戦したんだから」

 

 そう報告を受けてるよと、ハセ・ガワ氏は片方の眉だけを上げる。

 

「裏秋月は……小雪ちゃんの命を狙ってる。

 彼らにとって小雪ちゃんは、必ず排除しなくてはならない、盗人みたいな存在だから」

 

 きっと、激高して掴みかかりたいような場面だろうに、彼は今もじっとその場に佇み、真剣な目で聞いてくれている。

 バカだし、使えないし、その能力だってちょっと疑ってたけど……ハセ・ガワ氏は彼に対する評価を、ほんのちょっとだけ改める。

 

「困るんだよ、小雪ちゃんに生きてられちゃ。

 彼らが秋月家から奪うべき、強大な力である“徳”、そのほとんどが小雪ちゃんの為(・・・・・・・)に使われてしまってるんだから。

 ……彼女が生きてたら、彼らはいつまで経っても、世界征服なんて出来ない。

 一族の宿願を果たすことも、不幸なさだめを打ち破ることも、出来ないんだ」

 

 心底軽蔑するように、口に出すのも汚らわしいというように、ハセ・ガワ氏は言い捨てる。

 

「裏秋月だけじゃないよ?

 なんだったら他の悪~い組織の人達も、みんな小雪ちゃんを狙ってる。

 小雪ちゃんを殺し、秋月の力をなんとかしようって、そう目論んでるんだ」

 

「あわよくば、小雪ちゃんを手に入れて、ホルマリン漬けみたいにしてずっと生かし続けたまま、その徳だけをそっくり頂こう! 利用してやるぜウッシッシ♪

 ……とか考えてる馬鹿も、ぶっちゃけ居るんじゃないかな?」

 

 そして、しっかり持ち歩いている携帯灰皿の中に、グイグイやってからタバコを仕舞う。

 ここは病院だし、きっと敷地内は全部禁煙だろけど、彼はいま立体映像なので問題はないハズだ。きっと。

 

「君は、小雪ちゃんはどうなるのかって、私に訊いたね?

 ――――病気は治らない。明日も知れない命だ。

 ――――――そしてあらゆる組織、あらゆる悪意から、命を狙われる存在でもある」

 

 ふぅと、ひとつため息を、ついてから。

 

 

「言うなれば、どちらにせよ(・・・・・・)

 これが君の質問への答えだよ? ワーキングプア侍くん――――」

 

 

 

 

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「おっしいなぁ~……。

 あぁ~。残念だわ~……」

 

 立体映像のスイッチを切り、自宅の座椅子に腰かけたハセ・ガワ氏が、そう何度も呟く。

 

「ありゃもう、私のもとへは戻ってこんぞ……。

 せっかく面白そうなヤツだったのに……。

 充分戦力になったし、小説のネタにもなりそうなヤツだったのに。

 はぁ~もう……。結構な損失だよぉ~」

 

 ぐてぇ~っと背もたれにもたれかかり、天井を仰ぐ。

 この徹夜ばかりの疲れ目には、蛍光灯の光が眩しくて仕方ない。

 

「まっ! “西の宵明”の続編は、もう大体の構想は決まってるけどさ?

 肘を壊してプロ野球選手を引退した男が、野球解説者やタレント業をやりながらも、沢山しょーもないサイドビジネスに手を出して、破滅してくお話にしよ♪

 物語の始まりは、主人公の男が、電車の中で飲食物を食べているシーンだよ♪

 いや゛~ほんばぁ~。ゆでたまごって言うんばぁ~、なんであんな旨いんやろうで?」

 

 そう呟きつつ、いそいそとパソコンの電源を入れて、愛用のテキストエディタを立ち上げる。

 音楽もラジオも流さない。ただひたすらに、己と向かい合う。

 この時間を、ハセ・ガワ氏はなによりも愛している。

 

 

「はぁ~……でもやっちゃったなー。

 私はこう、言葉をオブラートで包むという行為がだね? 苦手なのよ……。

 相手の気持ちも考えずにさ? ハッキリ言ってやるのが誠意だ! それが思いやりだ! 友人ならば一歩踏み込む覚悟を! ……とか思っちゃう馬鹿野郎なのよ。

 この頭でっかちのせいで、これまで何人の友達が、私から去って行ったことか……」

 

 

 ただ今日この日に限っては、なかなか小説に打ち込むことは、出来ないようだった。

 

 

 

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「報告にあったんは、ここやな?

 かまへんかまへん! ワイひとりで充分やさかい! 援護はいらんわいッ!

 お前らもうええから、家帰ってマスでもかいとけッ!」

 

 小雪が発作を起こし、その緊急手術がおこなわれた日の、次の夜――――

 面会時間も、消灯時間も過ぎた夜の病院の廊下を、機嫌よさげに我が物顔で歩く、一人の男がいた。

 

「確か、小雪とか言うとったかな~?

 どんな乳臭い小娘か知らんけど、関係あらへんわ。

 どうでもええねんそんなん。ぶっちゃけ」

 

 彼は裏秋月・弐の遺影(にのいえ)が当主――――秋月チョコ太郎。

 なんか甘いものが好きそうな名前の、非常に柄の悪い男だ。

 

「その小娘(ガキ)殺せば、とりあえず秋月の“徳”は戻んねやろ?

 それから流とかいう小僧(ガキ)も殺して、本家の血ぃ絶やせば、それで終いや。

 ガキ二人殺すだけの、楽な仕事やないか。

 今までどないなっとってん、ホンマ」

 

 まるで蛇のような柄の、紫色のスーツ。

 喧嘩にでも使うかのように、沢山指にはめられた指輪。

 ひと目みた途端、人は彼のことを「その筋の人だ」と理解することだろう。

 

 深夜の廊下に、彼が歩くコツコツという革靴の音が響く。

 腐っても秋月の家。その組織力と、気配遮断の術式を持って、既に院内の人払いは済ませてある。

 たとえ少女がナースコールを押そうとも、どれだけ悲鳴をあげようとも、この数時間ほどだけは、彼女のもとに人が駆けつけることは無いだろう。

 

 ゆえに、ここは狩場だ。

 今も何も知らぬまま寝息を立て、集中治療室ですやすや眠っているであろう子羊。

 そして、それを狩る自分という獅子、二人だけの隔離された狩場。

 

 いま男の頭には、どうやって少女を殴り殺そうか、どうやったら楽しく殺せるかという、そんな考えしか無い。

 手早くではなく、必要に駆られてでもなく、ただ一族の鬱憤を晴らさんが為に(・・・・・・・・・・・・)、男は脳内で何度も何度も、繰り返し少女を嬲り殺すシミュレーションをおこなう。

 

 

「……おぉ? なんやねん、お前」

 

 だが、ようやく彼女のいる集中治療室の扉、そのすぐ近くまでやってきた時、男の歩みが止まる。

 

「誰やお前? 消灯時間過ぎとんぞボケ。

 患者は大人しく、部屋に引っ込まんかいワレ」

 

 軽口を叩くも、いま目の前にいる人物が患者ではない事など、充分理解している。

 けれどチョコ太郎はその会話を楽しむように、いやらしく口元を歪めながら、言葉を続けていく。

 

「おっ、アレか? お前って報告にあった、鬼みたいな目ぇした侍(・・・・・・・・・・)か?

 なんやド汚い恰好しとるけど。えらいイメージとちゃうやんけ。

 おうオッサン、どうやって入って来てんコラ。ウチの兵隊(モン)どうしてん?」

 

 腰に手をあて、ふてぶてしく睨むチョコ太郎。

 対して目の前の男は、今も壁に背中を預けながら、じっとその場で俯いている。

 こちらの言葉など、気にも止めていないかのように。

 

「なんのつもりじゃコラ? ワレ、俺が誰か知っててやっとんのか。

 死にたいんやったら、そうしたるけど。

 なんか言うたらどないや」

 

 流石に我慢の限度なのか、チョコ太郎の口調が攻撃的な物に代わる。今にも襲い掛からんばかりの闘気を、直接ぶつけるように身体から発する。

 

「…………結局なぁ。

 拙者には、分からんかったで御座るよ……」

 

 そして、今ふとワーキングプア侍が、

 

「拙者は、何がしたいのか。

 いったい何が、拙者の望みだったのか……」

 

 静かに、その口を開いた。

 

「あの山を逃げ出し、人里に降り……人の世で生活をした。

 だが明確な意思もなく、ただただ生きるだけの日々。

 働けど働けど、暮らしは楽にならず……。

 それどころか、挙句の果てに主を失うてしまう始末……。不甲斐のぅてたまらぬ」

 

「あぁ?」

 

 どこか噛み合わない会話。

 未だにこちらをみようとはせず、ただ彼方を見つめているような、男の瞳。

 

「生きる意味、成すべき使命、命を懸けた忠義……。

 そんな物、もしかしたら夢物語の中にしか、無かったのやもしれぬ……。

 組織の犬ではなく、ただの殺しではなく……、拙者が本当にしたかった事は、いったい何だったのであろうか?」

 

 ただの殺しの機械として生まれ落ち、その為に生きてきた。生かされて来た。

 だがふとした時に疑問を感じ、そのまま生まれ故郷であるあの山を、組織を裏切ってまで飛び出した。

 けれど……そこから自分がやった事といえば、死体から髪の毛を取るとか、老婆の着物を剥いで売るとか、ワケの分からんフランクフルト女を追うとか……そんな意味の無いことばかり。

 

 まったく意味の無い人生。意味の無い日々。

 それを重ね、自分のやりたい事も分からずに、ただただ生きてきた。

 

「だが……こんなワーキングプアな、つまらん男でも、ひとつすべき事がある……」

 

 いま、ようやく彼が、

 

 

「――――――ここは、通さぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前の、倒すべき敵に、向き直った。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 例えばだけど……もしあの少女の呼吸が、一晩だけでも楽になり、安心して眠れる夜が来るのなら。

 

「おぉ! ええやんけワレ!! かかってこいやコラァッッ!!」

 

 拙者はそれと引き換えに……、今すぐ自らの喉を、かっ切ろう。

 

「おんどれぇ! やっぱ侍かいッッ!!

 今までどこで生きとったんじゃコラァ!! 太秦(うずまさ)に叩き返したるわッッ!!」

 

 もし……あの少女にたった1日だけでも、自由に街を歩きまわれる足を、あげられるのならば。

 

「ははっ! 楽しいのうオッサンッ!! 楽しいのうッ!!

 こんなガチの殺し合いッ、やんの久っしぶりやわッッ!!!!」

 

 拙者はそれと引き換えに……、躊躇なく自分の両足を、切り落とそう。

 

「なぁ! お前もそうやろオッサン!!

 寝ても覚めても、殺しのことばっか、考えて来たんやろうがっ!?

 ……だから強いッ! こんなにも強いんやッ!!

 ワイと一緒やお前はッッ!! ワイらは同族やッッ!! せやろうがいッ!!??」

 

 所詮、拙者にはその程度の価値しか無い(・・・・・・・・・・・)

 そこらの残飯にも劣るような、なんの価値も見出せない、つまらん存在でしか無いのだ。

 

「オイッ……! なに目ぇ瞑って戦っとんねんッ!! なんか言えやオッサンッッ!!

 楽しいやろうが殺し合いはッ!! 力ぶつけあうんは、最高に滾るやろうがッッ!!

 それ以外……なんも持ってへんやろうがッ!! 俺らはよぉッッ!!!!」

 

 たとえ命を捧げようが、人生を賭けようが、あのたった一人の少女を救う事、叶わず。

 出来ることといえば、このようなつまらない相手と、つまらない者同士で、殺し合うことだけ。

 

「何がッ……! 何が“徳”じゃボケェ!!

 何が世界征服じゃッ!! 裏秋月の当主じゃッ!!

 ワイそんなん……、いっこもいらんかったわッッ!!!!」

 

 拙者が本当に欲しかったのは、願っていたのは、いったい何だったのだろう?

 何が欲しくて、この美星町に来たんだろう?

 

 そんなことを、ワーキングプア侍は剣撃を交わしながら、考え続ける。

 

「――――いらんねんッ! 金とか権力とかぁぁーッ!!

 ワイが欲しかったんは、友達じゃ(・・・・)!!!!

 一緒にサッカーやってくれる! 夏休みに遊んでくれる! そんな友達だけやッッ!!!!

 なんでッ……! なんでワイの家だけっ……こんなワケのわからん呪いをッ……!!」

 

 裏秋月は、それぞれが()というべき物を背負っているという。

 理由は分からない。だが流が先祖からの“徳”を受け継ぐのとはまったくの逆で、それぞれの家が、何かしらの耐えがたい悲しみを背負わされているのだと、主から受け取った資料にあった。

 

 壱の遺影は、“貧困”

 参の遺影は、“不運”

 そしてこの男の一族である弐の遺影は、“嫌悪”。

 

「なんでワイだけ独りぼっちやねんッ……!!

 いつも隅っこおらなアカンねんッ!! あの子と遊んだらアカン言われんねん!!!

 おかしいやろうがぁぁぁぁああああーーーーッッ!!!!」

 

 この世に生まれ落ちた時より、ありとあらゆる人徳、好意、愛情、信頼を失い、この世の全ての者達からの嫌悪を浴びながら、彼は生きてきた。

 彼にとっての人生とは、人から奪われ、人から奪い返すこと……それのみだった。

 

「ほんだら奪うしか無いやろがいッ!!

 秋月のガキだろうが、組織だろうが、世界が相手だろうがッッ!!

 奪って奪って……、奪いながら生きてくしか! あらへんやろがいッッ!!!!

 強ぅなるしか、あらへんやろがッッ!!!! こんな風によぉぉぉーーッ!!」

 

 彼の鋭利な拳が、ワーキングプア侍の腹に叩き込まれる。

 その途端、身体は天井に打ち付けられ、何度もバウンドして廊下に倒れ伏す。

 

「終わりじゃオッサンッ!! お前からも奪ったらぁぁぁ!!!!

 ワイは奪って奪って……この世の全てのモンから! 奪い倒してッッ!!!!

 最後は絶対にッ、幸せになったるんじゃぁぁぁあああッッ!!!!」

 

 ――――違う、と。

 

 白くなった視界。足元もおぼつかないような身体。

 だが今、男の叫びを聞いた時、ワーキングプア侍の心に「違う」という想いが、ふと沸き上がった。

 

「死ねコラぁぁぁあああッッ!!!! オッサンんんんんッッッッ!!!!!!」

 

 違う! それは違うッ!!

 だって自分は、奪いたくなくて(・・・・・・・)! 命を奪うのが嫌で! 人里に降りて来たんじゃないか!!

 

 いまワーキングプア侍の眼が、カッと限界まで見開き、猛然と迫って来る男を凝視する。

 

「 ガッッッ???????!!!!! …………あっ」

 

 ――――一閃。

 ワーキングプア侍の居合の一刀が、すり抜けるように男の身体を切り裂く。

 空気の流れや、音さえも追いつかない――――不可視の斬撃が、目の前の男に叩き込まれた。

 

「お゛ッ……?! おん、どれぇッ…………!!!!」

 

 白目を剥き、床に倒れ伏す。

 腹に峰打ち(・・・)の居合を受け、この悲しい男は、そのままぐったりと意識を失った。

 

「……奪うのでは無い。

 そうではないのだ……会ったばかりの友よ」

 

 居合を放った態勢から、ゆっくりと向き直る。

 

「そうだ……欲しかったのでは無い。

 別に、何かを得たかったワケでは無いのだ……」

 

 刀を鞘に収め、視線の先を見つめる。

 今も緑色のランプが光る、集中治療室。

 今もあの少女が眠る、その場所の方を。

 

 

「拙者はただ――――“誰かの為”にありたかった。

 その為にこそ、この町へ来たのだ」

 

 

 

 

 

 男を肩に担ぎ、この場を後にする。

 

 これにて、今宵の(いくさ)は終了。

 

 万が一にも、あの子の眠りを妨げてしまわぬよう、静かに歩き去った。

 

 

 

 

 

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「考えてみれば、これは当然の事なので御座る♪

 拙者、侍を生業とする者ゆえ」

 

 夜が明けて、澄み渡る晴天の朝が来た。

 ワーキングプア侍は、手元にあった“押せば5千円もらえるけど、頭髪が全て抜け落ちるボタン”をポチッと押して、そのお金で身支度を整えた。

 ザンバラの、まるで落ち武者みたいな頭ではあったけど……これでもう二度と、彼は侍の魂であるマゲを結うことは出来ない。

 

 けれど、それで構わないのだ。

 武士道とは、その見た目ではなく、生き方なのだから。

 

「君主に仕え、主のために生きる――――

 それが侍として、当然の生き方ではないか。

 誰に恥じることのない、最高の生き方ではないか」

 

 久しぶりに銭湯に行き、安物だけど小綺麗な服をしま〇らで買い、そして残ったお金でお見舞いのスイーツを買った。

 

 これは、彼女へのちょっとした手土産だ。

 これから臣下として、彼女に仕える許しを得る為の(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 ちなみにだが……「飯くらい食えボケ! ガリガリ君やないかワレ!」という罵詈雑言と共に、今日もあのチョコ太郎という男から、ちょっとした差し入れが届いていた。

 なんでスマホ持ってへんねん! LINEやってへんねん! ふざけとんかワレ! ……と泣きそうな顔で言われて、すんごく困っちゃったりもした。だってお金ないもん。

 

 

 

「拙者は、しょーもない男に御座る。

 しょーもない人生を、生きてきたで御座る。

 たとえこの命を捧げようとも……彼女の爪の先ほどの価値も、あるとは思わぬ」

 

 やがてそんな事を思いながら歩いていると、彼女の病室の前に到着した。

 ワーキングプア侍はキュッと襟元をただし、禿げた頭に意味もなく手櫛を入れる。

 

「ならば――――七生を持って仕えよう。

 地獄、輪廻が先、黄泉平坂を越え……。

 この(えにし)尽きし時まで、御身守護(つかまつ)る」

 

 

 ひとつで足りないなら、何度でも。

 たとえ七度生まれ変わろうとも、不変の忠義をもって、貴方を護ろう。

 そして、いつかそのお命尽きます時は……、さびしゅう無きよう、お供いたしまする。

 

 貴方の隣には、流どのがおられる。

 ならば拙者、影より御身の敵を討ち、お護り申す。

 

 

「必ず小雪どのを、美星祭にお連れ申します――――

 まずはそれを目標に、頑張っていくで御座る」

 

 

 今日はそのちょっとした、決意表明の日。

 それと、手術が無事に成功して良かった。貴方がいてくれて嬉しい。その感謝を伝える日なのである。

 

 つい先日までの、腐ったドブのような目ではない。

 ワーキングプア侍は仕えるべき主を見つけ、まるで今日から小学校に入学する子供のようにキラキラした笑顔で、愛すべき主のいる、病室のドアを開けた。

 

 

「えっ! エクスキューズミー!!

 先日は名乗りもせず、まことに申し訳ソーリー!

 拙者、ワーキングプア侍と申す者にござる!

 もう起きておられますかな、小雪どの?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――おしまい――

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ~おまけ♪~

 

 

 

 

「――――うわーっ! うわぁぁぁあああっっ!!」

 

 

 ワーキングプア侍の叫び声が、病室に響き渡った。

 

「うわぁーーっ!! 小雪どのぉぉぉおおおッッ!!」

 

 そしてすぐさま彼は、小雪のもとへと駆け寄る。

 せっかく買ってきたスイーツも、床に落としたまま。

 

「ちんちんぶらぶら、ソーセージ♪ ちんちんぶらぶら、ソーセージ♪」

 

「そうよ小雪ッ! もっとよッ!

 もっとワテクシを崇め奉りなさぁい!!」

 

「うわぁぁぁぁぁあああああああッッッッッ!!??」

 

 そこにはご機嫌な様子で「おっほっほ」と高笑いを上げる、したたるウーマンの姿。

 そして股間にフランクフルトを挟み、楽しそうに「ちんちんぶらぶら♪」と歌う、愛すべき主の姿があった。

 

「なっ………何をやっとんで御座るかぁぁああーーッッ!!

 貴様ぁぁぁぁああああッッッ!!!!」

 

「えっ。誰よアンタ? 新しい入信希望者かしらぁん?」

 

「うふふ♪ これたのしい♪ たのしいねお姉さん♪

 ちんちんぶらぶら、ソーセージ♪」

 

 いま小雪は、ワーキングプア侍のことも気にならないほど、おちんちんダンスに夢中だ。

 きっと久々の運動が、楽しくて仕方ないのだと思う。

 

「えっとね? 聞く所によると~、流くんて妹さんがいるらしいじゃなぁ~い?

 なら彼を悩殺する前に、妹さんをおちんちんの虜にしとこっかな~って、そう思ったのーん。

 ほら、いわゆる“外堀を埋める”みたいな?

 この子とってもラブリーで気に入ったし♪ その方が彼も、入信しやすいでしょーん♪」

 

「やかましいで御座るッッ!!

 ……そもそもお主、たしか“みっつめの世界”に飛ばされたハズじゃろうッ?!

 なぜ貴様がここにいるッ!! そんな行ったり来たりしたら、駄目であろうがッ!!」

 

「えっ。

 いやなんか……頑張ってちんちんブラブラやってたら、戻って来れたわよぉ~ん?

 ほら、これってなんか、プロペラみたいでしょん?

 きっと飛行機が空を飛ぶみたいに、もしくは次元の川をかき混ぜるみたいにして、戻って来れたんじゃな~い?」

 

「ちんちんぶらぶら、ソーセージ♪

 ちんちんぶらぶら、ソーセージ♪」

 

「ぬわーーーーッッ!!!!」

 

 とりあえず、事情も設定もよく分からんが、小雪ちゃんが楽しそうで何よりである。

 彼女がとても良い子で、純真無垢なのは分かる。……でもお願いだから、もうちょっとだけ警戒心を持って欲しかった。

 その人ってゴリゴリの変態で、しかもカルトな宗教家だよ?

 

 しかしながら、きっとしたたるウーマンの催眠術とか、サイコキネシスとか、おちんちん信仰的なパワーのお蔭で、今後どんどん健康になれちゃうかもしれなかった!

 スゴイ! おちんちんってスゴイ! やったね小雪ちゃん☆

 

 

「――――もう勘弁ならぬッ!!

 ここで会ったが百年目ッ!! 斬り捨ててくれるッッ!!

 ついでに報酬の5万GET☆

 それで小雪どのに、メロン買うてきたるわぁぁぁあああッッ!!!!」

 

「上等よぉん! このハゲーーッ!!

 なんかそこはかとなく、おちんちんみたいな頭しくさってからに!

 ――――燃焼せよ! ワテクシの小宇宙(エロス)! 燃 え 上 が れ ッ !!!!

 うおー! ちんちんちんちんッ……!!」ゴゴゴゴ…

 

「あっ、タンポポたべてたおじさんだ。

 こんにちは、おじさん♪ たんぽぽコーヒー作った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――完ッ!!――

 

 

 

 



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【NG集】こういう未来もあったけど、オールインワンの方で回避しときました (賽銭泥棒H 作)


 この作品は【もんじゃ焼きIFストーリー】です。
 リレー順や、本編の内容には影響しない“IF番外編”としてお読み下さい。(賽銭泥棒H)


※時間軸 継承 (砂原石像 作)の最中。





 

 

 

 これは、もしかしたら、ありえたかもしれない話――――

 

 

 

 

「……東雲、もう止めにしないか? お前じゃ、俺たちには勝てないって事は……」

 

「黙れッッ!!」

 

 東雲は即座に大砲を生成し、撃ち放つ。

 だが流は、それに一切の反応を見せず、成すがまま。

 別段効いた様子すらも無かった。

 

「こんな理不尽ッ……受け入れられない!!

 私がッ! 私のお人形さんがッ! こんなにも無力であるハズがないッッ!!」

 

 必死になって叫ぶ彼女には、もう普段の嘲るような口調すら、保つ余裕はなかった。

 そして……。

 

「私は裏秋月家・参の遺影、秋月東雲ッ!

 本家打倒を果たし、我が一族の不幸を打ち消すッ!!

 ……秋月流ぇッ! これからお前を、死ぬよりつらい目にあわせてやるッ!!」

 

「ッ!?!?」

 

 彼女の切り札となる、【逆天の鬼札】

 今まさに、それが放たれようとし、VUMのメンバー達が思わず身構えた、その時……。

 

「――――あっ、ちょっと待って! 東雲さんっ!」

 

 唐突に、岡村ナミが大きく声を上げた。

 

 

犬が入って来てる(・・・・・・・・)

 なんか校庭に、犬が紛れ込んでるわよ~!」

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 ………………………………。

 

 

 ピキンと、動きを止める一同。

 東雲にいたっては、その言葉の意味を理解出来ず、なんかカッコいいポーズのまま固まっている。

 

「――――えっ、マジかよナミ!」

 

「ホント? どこ? 犬どこにいるの!?」

 

「犬ぅーっ!!」

 

 そして流たちVUMの面子が「おっ、犬や犬や」とばかりに、この場を駆け出していく。

 学校に犬が侵入してくるという、一大イベント――――そんな学園生活において、最高にテンションが上がるハプニングを、見逃すワケにはいかない。

 

「「「うおぉぉぉ! 犬だぁー!!」」」ドドドド

 

 たった今おこなっていた戦闘も、シリアスな雰囲気もほったらかし、流たちは「わーい!」と元気に走っていった。

 

「…………ちょ! ちょっとぉ?!」

 

 それに驚いたのは、ひとりこの場に取り残された、東雲さん。

 今からぶちのめしてやろう、一族の未来を変えるのだ。……そう意気込んでいた彼女は、オロオロと流たちに追いすがる。

 さっきまでの決意とか、想いとかいった類の物は、全て置き去りにされた。

 

「わん! わんわんっ!」

 

「おぉー! この子ってなに? 犬種は?」

 

「マメシバ……いや秋田犬かな? ちょっとわかんないわ私」

 

「いいじゃないか犬種とか! こんなに可愛いんだし! それがジャスティスだ!」

 

「あぁ~♪ なんてラブリーなのかしらこの子♪ 天使よ!」 

 

 元気よく吠えるお犬様を囲み、みんなでガヤガヤと盛り上がる。

 ナミや、のどか、いろはなどの女の子勢は、もう目が♡になっている。

 

「わはは! こらっ、なめちゃダメだって! くすぐったいよ♪」

 

「わんわん! わんっ!」

 

「おー、ずいぶん好かれてるな流! さすがVUMのリーダーだぜ」

 

「きっとこの子にも、流の良い人っぷりが分かるのね。

 動物って、そういうの鋭いし」

 

「――――ちょっとぉぉぉおおおッッ!! こらぁぁぁああああッッ!!」

 

 ようやく東雲が追いつき、グワーっと喚きたてる。

 

「ななな……何をしてるのですかぁ貴方たちッ!

 いま戦いの最中でしょう?! 大事な山場のシーンだったでしょう?!」

 

「えっ」

 

 地面に屈み、犬にほっぺたをペロペロされながら、流が振り向く。

 対して東雲は、もうプリプリと怒っている。ペロペロ、プリプリ。

 

「いま私が! 万感の想いを込めてっ! 逆転の切り札を使う所でしたでしょうッ?!

 それなのにいったい、何をしているのですかッ!!

 どうしてくれるんですかぁ! この行き場のない気持ちぃッ……!!!!」

 

「えっ。でも犬が来たんだし……。そりゃ見に行くだろ?」

 

 流はキョトンとした顔、なんでもない口調で、そう言ってのける。

 

「犬が何ですか! なにがワンコなのですっ!

 私が今日この日の為に、どれだけ準備して来たと思ってるのですかっ!

 どれだけ我が裏秋月が、これまで辛酸を舐めて来たとっ……」

 

 けどよく見れば、東雲さんは何やら、ソワソワしている様子。

 背丈の小さな彼女は、そう喋りながらも「うーん!」と背伸びをしてみたり、左右に身体を傾けてみたり。

 流たちの人垣に隠れてる犬の姿を、「なんとか見えないもんか」と頑張ってるのが伺える。

 

「いやっ……でも犬だぜ東雲? 犬なんだぜ?

 こんな可愛いヤツが入って来たら、そりゃ俺達も……」

 

「行っちゃ駄目ですっ! いま戦いの途中だったデショ!?

 犬が来ても、放置しちゃいけません! 私をっ!」

 

「えぇ……。だって犬だぜぇ~?

 ほら東雲さ? お前もこっち来いよ。そんなトコに居ないで、こいつ見てみろよ」

 

「――――馬鹿にしてるのですか! 貴方はッ!!

 私は裏秋月・参の遺影(さんのいえ)当主! 秋月東雲ッ!!

 そんなので私が……!」

 

 流の主張をプンプンと跳ねのける。

 けれど、そうは言いつつも、どこかソワソワし続ける東雲さん。

 ダダダーっと流たちの方に詰め寄って来るが、その視線はずっと、犬の方に向いている。

 

「なんですか! いったい何だって言うんですか!

 雑種だか秋田犬だか、知りませんけどねぇっ!

 私が今日この日の為に、いったいどれだけの準備をねぇ?!」

 

「わん♪ わんわん♪」

 

「おー、懐かれてんじゃん東雲。ラブラブじゃん」

 

「この子ごきげんね。とっても嬉しそう♪

 きっと東雲さんのこと大好きなんだわ」

 

 傍に駆け寄ると同時に、地面に屈む。そしてお犬様を「おーよしよし!」と撫で始める。

 そのスムーズな態勢の移行は、まるでこの場にエスカレーターでもあるかのようだ。

 

「犬ってねぇ! ここにきて犬ってねぇ!!

 ……私は今日まで、がんばって来たんですヨ!

 本家を倒そう、この身に代えても成し遂げようって! がんばって来たんですっ!

 それを貴方たちときたらですねぇ!? お~よしよし♪ かわいいですねぇー♡♡♡」

 

「すげぇ。ムツゴロウさんみてぇだな、東雲」

 

「たしか蟲獣使いだっけ? きっと動物好きなのよ」

 

「いいよな、少女と子犬って。なんか見ててポカポカするよ」

 

 怒鳴り散らしながらも、慈愛に満ちた表情でワンコを撫でる東雲。

 それを見守る一同も、すごくホッコリした顔である。

 

「この子、首輪は? どっかの飼い犬なのかな?」

 

「いや、無いみたいだな……。去勢などの処置もされてないようだ」

 

「じゃあ野良犬なの? いやもしかしたら、捨て犬かも……」

 

「えッ?! こんなにも可愛いのに、捨てるんですカ!?!?

 その人いったい、どうなってるんですかッ!! 人の皮を被った鬼ですッッ!!!!」

 

 東雲さんが、わんこを抱きしめながら叫ぶ。

 目をクワッ見開き、「んまっ! 信じられないザマス!」みたいな顔をしている。

 

 

「 この子は私が育てますッ! 私が面倒をみますッ!

  立派に育て上げ、大学まで出してあげます!! 大切にしますぅぅ~~ッ!! 」

 

 

 もう半泣きで、ギュ~っとわんこを抱きしめる東雲さん。

 きっと彼女は、愛を欠いた飼い主に捨てられ、ひとりぼっちになってしまったこの子の事が、不憫で仕方ないのだろう。心から親身になっているのだろう。

 終いには、もうボロッボロ泣き始めた。

 

「今日の星占いは、最下位でした……。

 商店街のガラガラを10回やっても、ティッシュしかもらえませんでした……。

 道端のガムを踏んづけ、ヒールのかかとは折れ、その際にアワアワしていたら、田んぼに落っこちてしまいました……」

 

 なぜか唐突に始まる、彼女の不幸話。

 流石は裏秋月・参の遺影。その背負った業(不運)も半端ない。

 

「泥で服は汚すし、家の鍵は失くすし、通りかかった小学生には笑われるし……。

 ちなみに私は、一日に約30回ほどは(・・・・・・・)、こういった不運に見舞われるのです」

 

 そら本家倒そうと思うわ。鬼気迫る顔で殺そうとするわ――――

 メンバー達は、同情の目で東雲を見つめる。

 

 

「でもっ……この子に会えたッ!! 会えたじゃないですかッ!!

 ――――こんな不幸な私でも、“幸せ”に出会えたじゃないですか!!!!」

 

 

 ワンコを持ち上げ、見せつけるように天に掲げる。

 東雲はガン泣きしながらも、満面の笑み。その背中に\ペッカー/と後光が差している。

 

「もう変な蟲とか、化け物とかと、暮らさなくていいのですッ!!

 私にはこの子がいるのですから! この子と共に生きてゆくのですっ!

 あぁなんて可愛いんでしょうっ!! おーよちよち♪」

 

 さっきまで頑張ってくれてた“お人形さん”達が、なんか「がーん!」みたいな顔をしている。

 それにも構わず、嬉しそうな東雲。あたかも「我、生きる意味を得たり!」と言わんばかりの顔だ。非常に暑苦しい笑顔。

 

「あっ……」

 

 しかし! その時!

 地面に降ろしたワンちゃんが、突然ダダダーっと駆け出して行くではないか!

 いま遠くから聞えた「いーしやぁ~きいもっ♪」という音に向かって、興味深々で走っていってしまう!

 

「ちょっ……! ちょっと待って下さいよ! ワンちゃん?!

 私の幸せぇぇええーーっっ!!」

 

 それに伴い、東雲もこの場から走り去っていく。

 

 

「ワンちゃん! まって私のワンちゃん!!

 まってぇぇぇえええ~~ッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 ………………………………。

 

 

 ――――戦いは終わった。

 

 裏秋月・参の遺影の刺客は、「うわーん!」と涙を撒き散らしながら、犬を追いかけて行った。

 一族の呪いも、本家打倒のことも忘れて。

 

 流は学園の平和を守り、仲間の命を守り通したのだ。

 また一歩、世界征服へと向けて、前進したのだ。

 

「なぁ流……、あの子なんだったんだ?」

 

「……さぁ?」

 

 

 

 

 とりあえず、ミスター慧眼人にもハセ・ガワ氏にも、この可能性(みらい)が見えてはいた。

 でも組織の垣根を越えた『なんか違う』という共通の見解により、これらの展開は無事、水面下で回避されていたのである。

 具体的に言うと、犬が学校に入り込まないように、影で手回しをしました(物理)

 

 その他にも、ご存じ【美星学園が地盤沈下し、学園祭中止】という未来。

 また【流がしたたるウーマンの洗脳に引っかかり、VUMが結成されない】という未来。

 あとは【流の知らない所で、何故かアンパンマンが、裏秋月を全てやっつけてしまう】という、ホントに身も蓋もない未来などなど、沢山あったりもする。

 

 場合によっては、ファンキー爺さんの代わりに板東〇二が、VUMに加入する事もあっただろう。

 誰が書くねん。誰が読みたいねん――――そんな危険が、実はこの世界には沢山溢れているのだ。ゆでたまごなのだ。

 

 

 未来ってのは、ホントに様々な分岐があるんだな――――

 ご苦労をおかけしますが、今後もいろはとオールインワンの皆様には、ぜひ頑張って欲しいと思います。

 

 

 

 おしり

 

 







 賽銭泥棒Hさま、執筆お疲れさまでした♪

 今回の作品は、もんじゃ焼き初の“匿名投稿”。
 オールインワン大阪支部所属、謎の物書き、賽銭泥棒H氏に送って頂きましたっ!

 この他、当作品では匿名投稿のみならず、一度きりのスポット参戦、ゲスト参加なども随時受け付けておりますので、もしご興味のある方は、お気軽にご相談下さい♪

 それでは賽銭泥棒Hさん、IF編ありがとう御座いましたっ!

(hasegawa)




☆もんじゃ焼き掲示板☆

 ドーモ……賽銭泥棒デス。
 イツモ楽シク、読ヨマセテ頂イテ……マス。

 A-11サン、次ガンバッテ下サイ……。応援シテイマス。

 アト大阪ナノデ、僕もんじゃ焼き……、食ベタ事ナイデス。
 行ッテミタイデス……。

(賽銭泥棒H)



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【スピンオフ】魔女の野望  (フランクフルト教団サハラ砂漠支部S原 作)


 なんですか! なんですか!!

 ワテクシこそが小説のメインヒロインである筈よね!!
 …それが、なんですか!! この最近のヒロインの増えっぷりは!!

 生徒会メンバーはいいでしょう。ナイスバディな子が多いですが、絡みは少ないですし? 一人は彼氏持ちだからヒロインの座を揺るがすことは無いでしょう。

 本屋ちゃんも番外編ででうまい棒(意味深)論争を繰り広げていて少し嫉妬しちゃいましたが、彼女にはエロスが足りない。エッ〇でビッ〇なエ□本屋ちゃんにならない限りワテクシに対抗できまい。許しましょう。

 小雪ちゃんも妹属性は正直危険ですが、ワテクシの大切な信者ですし?
 ワテクシの妹のような存在ですから♪ きっとワテクシのことも応援してくれるはずです。許しましょう。

 ですが…何ですか!! あの娘たちは!!

 何が参の遺影ヨ!!
 あの思わせぶりな様子!! いかにも過去に何か背負っています~っていう思わせぶりな態度!!
 しれっと学校祭に参加しちゃって!!
 絶対後で彼とくっついて幸せとかのたまうつもりなんでしょう!! このビッ〇

 ナハトムジークって小娘何よ!!
 なんか思わせぶりな伏線が複数あるじゃない!!
 絶対後でヒロインに昇格するじゃないの!?
 絶対そんなことはさせませんワ!!

 な~にが魔法少女ですか!!
 番外編でゲスト出演したかと思えば、いつの間にか解説役をいただいちゃッテ!
 しかも、ここ最近の活躍とか、完全にメインヒロインの風格じゃなイ!
 どうせこのまま彼といい感じになるんでしょ? ムキー!!
 苗字がタマキ〇だからって調子に乗っちゃって!!
 変身したときの全身タイツとか何!? あんな惜しげもなくお腹出して!!
 ワテクシがスタイルを維持するのにどれだけ苦労してると…!! 若さ自慢かこの〇乱ピンク!!

 まあいいワ。今度みっつめの世界に行ったときは神浜市に寄らせていただきます。
 覚悟することね!! おほほほほほほほほほほほほ!!!

 さて、ワテクシをさておいてヒロインが跋扈するこの小説。
 抜け駆けするヒロインたちにワテクシも流石に我慢の限界です。

 というわけで。
 執筆者がその辺うろついていたので

 捕 ま え ま し た☆

 サ原? 贅沢な名前ね…。今からアナタの名前はセク原ヨ!!
 フランクフルト教団のサハラ砂漠支部担当として働いてもらうワ☆
 
 フフフ…洗脳した執筆者にスピンオフを書かせることで、ワテクシがいかにこの小説のメインヒロインにふさわしいかを知らしめる戦略…これ考えたワテクシって天才ね♪
 ええ。後発の泥棒猫に負けはしません事よ!!

 それでは☆ ワテクシのスピンオフ。お楽しみくださいませ♪

(※したたるウーマンが主役である以上この話には下ネタが多数出てきます。苦手な方がいましたら申し訳ありません。)

 この小説を、したたるウーマン様を生み出された天爛大輪愛様に捧ぐ。


 ※時間軸  継承 (砂原石像 作)の最中。





 

 

 

 これは、美星祭開催まであと15日の出来事であった。

 

 現在同高校のグラウンドでは、ある少年の命を狙う”影”と、たった今出来上がったばかりの組織が激戦を繰り広げているその裏側。

 

 学校の屋上に、一人の不審な女が堂々と立っていた。

 

 パンツ一枚に顔を覆うマスカレイド。そして、股間にフランクフルトを挟むその格好は、まさしく不審者のそれといっても過言ではないだろう。

 

 彼女はまさしく、非日常の存在である。

 

「したたるウーマン様。美星学園全体の洗脳終わりました」

 そんな女の前にもう一人不審者が現れる。

 

 その者は全身をローブで包んでおり、ほぼ全裸の露出狂とは真逆の格好をしていた。

 

 だがペストマスクならぬぺ〇スマスクという、モザイク必須になるだろう奇天烈マスクで顔を覆い、首元にはフランクフルトを模したものが連なるネックレスをしている。結局のところ変態であることには変わりがない。むしろ、見る人が見ればこっちのほうが変態に見えるかもしれない格好であった。

 

「お疲れ様亀〇師(キャスター)。ちゃんと、ワテクシの合図次第で洗脳の効果を操作できるようにしましたわね♪」

 

「はい!! 今回の騒動の間の記憶も”学校に不審者が入ったけど、すぐに撃退できた”ぐらいに調整いたしました」

 

「ブラボゥ!! いい仕事ネ!! 〇頭師(キャスター)

 

 (!! 褒められた!! やったぁ♪ すごく嬉しい!!) 

「……ありがたき御幸せにございます!! 嗚呼、したたるウーマン様からこのような御言葉を賜るとは!! 何たる幸福!! これだけで私がこの世に生を受た意味があったというもの!! いや、違う!! したたるウーマン様が、この、世に、ご降誕、なされた、ことォオオオオオオ!!!♪ ───O(≧∇≦)O────♪ これこそが全人類の幸福であり人類が存続してきた意味であるのだ!! ……嗚呼、嗚呼、嗚呼!! なんと素晴らしい!! 最高だ!! これだけでこの僕は絶t

 

「それでは、〇獣(バーサーカー)を呼んできてくれるカシラ?」

 

「仰せのままにィィィィイ!! ○ん○んぶらぶらソーセジ!! ○ん○んぶらぶらソーセージ!! ……嗚呼素晴らしき哉、したたるウーマン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ____________!!」

 

 女はその狂気染みた妄言を無視して、亀〇師(キャスター)に指示を出す。

 どうやら、その様子から察するに、その程度の妄言は聞きなれたもののようである。

 奇声を発しながらはしり去る狂信者を”大分仕上がってるわネ♪”と呟きながら、女はそれを見送る。

 心なしかそれを見る目は、どこか子供を見るような温かさを含んでいるようであった。

 

 狂信者が走り去ったのを見てグラウンドに目を移す。

 空から落ちてきた一人のジジイの手によって、趨勢が少年側のほうに傾いているようであった。

 

「……そろそろかしらネ♪ 〇獣(バーサーカー)を呼び戻して正解ネ。勢いあまって()()()()()()()()()()しれないから、セキュリティを突破したあと彼には待機してもらおうかと思ってたけど……」

 

 蟲獣をばっさばっさなぎ倒す老兵を見る。

 持ってきた武器を使って奮戦している少年少女を見る。

 そして、青い光を纏いながら蟲獣使いの攻撃をほぼ無傷で突破している”愛しの”少年を見る。

 

「杞憂だったみたいネ♪ 亀〇師(キャスター)一人だけなら突破しうるほど彼らは強い」

 

 女はふと何らかの気配を感じて、上空を見た。

 

 

 

昏く輝く巨大な緑色の眼が浮かんでいた。

 

 

 

 その視線の方向は、怪物を率いて少年と戦う少女のほうを向いている。

 それを見て女はあら。と呟く。

 

「……オンナノコのヒミツを覗き見しようだなんて、スケベなボウヤねェ……」

 

 オシオキとして、その眼にピンク色な光景を上映してやろうかしら。そう思い女はどこからかフランクフルトを取り出し構えた。

 

 ちんちんちんちんッ……!! ゴゴゴゴ…

 

 構えたフランクフルトにしたたるウーマンの謎パワーが込められる。

 そして、力を込めたそれを巨大な目に向けた放とうとしたその瞬間

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! OTL ガクッ ……

 

 のしかかる重さは、したたるウーマンを拘束し身動きが取れない状態にまで追い込む。

 何者かの攻撃だと判断した魔女は周囲にポーン……。チン・チン・ポーンと洗脳音波を放ち、ソナーの要領で周囲を判断する。

 だが、すでに周囲はミサイルらしき飛翔体で包囲され、重力で拘束されている状態では、高速で飛来するそれを躱すわすことは不可能であった。

 したたるウーマンはフランクフルトウォールを展開したが、すでにミサイルは壁の内側にまで入りこんでしまっていた。

 

 

 

 ………………

 ………………………………

 

 

 

 二つめの世界で、ワーキングプア侍を仕留めてほしい――――

 ミスター慧眼人(エメト)より依頼を受けたその男は、ターゲットを探して美星町を訪れていた。

 

 その男の外観は、一言で言えばロボットというべき外観であった。

 おおよそ2メートルの巨体は隅々まで武装が施されている。

 頭部は少し滑らかな流線形。両手足をはじめとした体の各所についたロケットブースターのようなもの。

 それらの要素を見ると、男はまるでロケットをモチーフとしたロボットのような恰好であった。

 男はその外観の通り、美星町の上空を飛び回り、自らが消すべきターゲットを探していた。

 

 男の名はROCKET-MAN(ロケットマン)

 

 全身を機械で改造したサイボーグであり、ミスター慧眼人の造りあげた心因性の能力者である【despairster(絶望の凶星)】が一人である。

 

「クソッ。この俺様がこんなチンケなところで雑用かよ。【オールインワン】の奴らめ……!! 俺様が戦場に戻った暁には目にものを言わせてやる!!」

 

 男はどこか、自らの任務を軽く見ている節があった。

 現在彼が所属している【ComeTrue】は、三つめの世界で大規模な攻撃作戦を各地で展開中である。

 その作戦においてその主力である【despairster(絶望の凶星)】は、主戦力として各地で猛威を振るっていた。

 

 

 _______それらは旧世界への絶望(despair)。絶望は凶星(dis‐aster)となり世界へと降り注ぐ。

 _______それらは新世界への欲望(desire)。欲望は厄災(disaster)となりて世界を破壊する。

 

 故に彼らは【despairster(絶望の凶星)】。

 彼らはそれぞれの絶望(despair)から欲望(desire)を生み出し、凶星(disaster)として世界を破壊する集団である。

 彼らは絶望と欲望からそれぞれの固有の異能を生み出し、厄災(disaster)として世界を歪めている。

 

 【Dogville(ドッグヴィル)】は、【人狼汚染】と呼ばれる能力ですでに複数の都市を壊滅状態に追い込んでいた。

 【ジグラット】は、たった一人で警視庁本部を襲撃。その能力を用いて、中にいる人間を皆殺しにし、三つ目の世界におけるこの国の治安機能をすべて麻痺させるという大戦果を挙げた。

 【MOTHER・D】は怪物を産み出す能力を持つ。その怪物は各地の戦線に投入され、既に膨大な戦果をあげていた。

 【アベック・デストロイヤー】も”恋人持ちを原理不明・問答無用・絶対確殺する呪い”をもって、【オールインワン】に想像以上のダメージを与えた。

 【ジュリエット】も強力なテレポート能力で【ComeTrue】の戦線を支えている。

 

 このように、恐るべき星々は、みっつめのセカイにおいて厄災となった。

 

 だが、【オールインワン】も無能では無い。

 絶望を齎す流星に対しても、一歩も引かぬ奮闘でそれらに喰らいついている。

 また、神浜市の例のように【オールインワン】の人々に協力してくれる人々も現れているようでった。

 

 そんな中でROKET-MANは、各地に絶望を齎しながらも、【オールインワン】と現地の人々や治安維持組織との連携に敗れたのであった。

 そして敗北した彼は、二つ目の世界での任務に駆り出されたのだった。

 

 ワーキングプア侍――――

 彼はComeTrueの本格始動の前段階の調査において、【オールインワン】の戦力と目された存在であり、計画遂行時には確実に戦場に現れるだろうと思われていた。

 しかし、現在彼は秋月小雪の護衛として、二つ目の世界に配置されている。

 

 現在、両組織の戦場はみっつめのセカイにあるものである。二つ目の世界は膨大な徳を持つ最重要人物がいるとはいえ、戦略上はあまり重要視されていない場所であった。

 

 すなわち、自分は左遷されたのだ。ふざけるな! 

 自分はまだやれる! おのれ。こんな雑務はさっさと終わらせて、奴らに復讐してやる!! 

 サイボーグは、自らの置かれた状況に憤りを感じていた。

 

 

 侍を探しながら空を飛ぶサイボーグは、ある高校の校舎の上に誰かが立っているのを見た。

 彼の組織の中でも、その女の存在は酷く有名であるためか、彼はすぐにそれが誰であるのかを理解する。

 

「あれは……! したたるウーマン!?」

 

 したたるウーマン。現在【ComeTrue】において最上級警戒対象とされる人物だ。

 彼女については、組織のボスであるミスター慧眼人ですら”洗脳の危険性があるため任務外での一切の戦闘および接触を禁ずる”という指示を組織全体に出すレベルでの警戒を要する超危険人物である。

 

 【ComeTrue】の一員が採る選択肢としては、彼女のことを見なかったものとし、この場から全速力で離れること。それが最善である。

 だが、一度敗北し焦りを感じていた彼にとって、その存在は別のものとして映っていた。

 

(今ここで最上級警戒対象を狩れば、俺はその戦果をもって最前線に戻れるだろう。そうだ。俺は強い。こんなところでちまちま侍狩りに精を出す程度の男ではない!! 戦場に舞い戻って、必ず奴らに復讐してやる!!)

 

 彼は、屋上にいたその女の周囲に、何らかの力場を展開した。

 これは【dispairster(絶望の凶星)】である彼の能力。彼の心から発生した歪み。

 その名は【重力強度自在空間(Violence)

 自分の周囲に能力のフィールドを展開。その中にいる対象へかかる重力強度を変化させる異能である。

 

 上限は物質の質量の何十倍で、下限は全くの無重力。

 この能力によって、敵だけが重力に押しつぶされ、自分だけが重力の影響を受けないようにすることが可能である。

 

 それは、相手だけに重力を押し付ける力。

 一方的に押し付けられるそれは、まさしく暴力というべきものだろう。

 

 

 早速彼はしたたるウーマンの周囲の重力を高め、したたるウーマンを押しつぶした。

 

 したたるウーマンは、トラックにはねられても生存するくらいには頑丈である。常人がつぶれる強度の重力でも生身で耐えることができたようだ。

 しかし、その重力は彼女をその場に縫いとどめるには、充分であった。

 動きを止めた彼女に、ROKET-MANは無数のミサイルを打ち出す。

 

 それを見て女はフランクフルトの壁を周囲に展開したようであるが、時すでに遅し。

 かの魔女は、ここで討伐されるものだと思われた。

 

 

 

 

「Impossible n’est pas français ! 次元の壁よ何するものぞ」

 

 何もないところから突如として現れたその男は、手にしたサーベルでしたたるウーマンに迫るミサイルをすべて払いのけた。

 そして男がもう一度剣を振るうと、彼女にかかっていたはずの重さがなくなっていた。

 

短小(セイバー)!!」

 

(ジョセフィーヌ)よ。無事であったか」

 

「ええ。大丈夫ヨ☆ ナイスタイミングね! 助かったわ!!」

 

 フランス人と名乗っていたが、彼の身長は現代の日本人がイメージするそれよりも背丈が低いようであった。

 軍服を身に纏い、ロバに乗って駆け付けたその男。したたるウーマンの部下の一人であるようだ。

 

「クソ!! 護衛を一人隠してやがったか!! ……いいだろう。その護衛もろとも塵に変えてやる!!」

 

 自らの攻撃を無効化されたROKET-MANは、自らの肉体をロケットのように変形させ、したたるウーマンに突撃を敢行する。

 

 このサイボーグには変形機構が搭載されていた。

 変形した彼の移動速度はその形状に恥じない速度。

 マッハの領域に達した彼は、まさしくROKET-MANというべきものだろう。

 

 再びしたたるウーマンの周囲の重力を限界まで高め、動きを拘束。それと同時に自らにかかる重力を無効化し、高速での機動を可能にする。

 ミサイルを射出しながら標的へ向かうそれは、明らかに過剰だと思われる破壊力を有していた。

 

 だが。

 

「はあ!!」

 一喝と共にミサイルはすべて撃ち落され、

 

「ぐわあああああああああああああ!!」

 サーベルはマッハで突撃していた筈のサイボーグの装甲を一刀のもとに切り伏せた。

 

「馬鹿な!? 如何なってやがる!! この俺の速度に追いついただと!? この俺の装甲をなぜこうも簡単にぶった切れる!? どうしてミサイルも効かない!? そもそも俺の重力空間の中でどうして真っ当に動けるんだ!?」

 

「簡単な話だ」

 

 男は語る。

 

「不可能という言葉は、フランスには存在しないものでね。……いや、この国ではこういう言い回しで伝わっているのだったな……」

 

「吾輩の辞書に不可能の文字は無い」 

 

 そう。短小(セイバー)と呼ばれるその男の辞書には、不可能の文字は存在しない。

 次元を裂いて現れ、主の窮地を救うことも。敵の展開した能力を無効化することも。サイボーグの装甲を両断することも。ミサイルの群れを撃ち落とすことさえも。

 死を超越して、現代に蘇ることさえも不可能ではないのだ。

 彼は超越者。彼は不可能を可能にする力を持つ超越者なのだ。

 

「なんじゃそりゃ……ぐわあああああああああああ!!」

 

 叫ぶROKET-MANの背後に何やらレーザー光線のようなものが当たり、彼の纏う装甲がこんがりと焼ける。

 

 誰だと思い、彼は背後を見る。

 

 その男は人造人間サイコ・ショッカー*1だった。

 誰がどう見ても人造人間サイコ・ショッカーだった。

 どう取り繕っても人造人間サイコ・ショッカーだった。

 どうあがいても人造人間サイコ・ショッカーだった。

 

「オ〇ンポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!」 

 

 否!! したたるウーマンによって洗脳された彼は、人造人間サイコ・ショッカーにあってサイコ・ショッカーに非ず。さしずめ彼は人造(チ〇コ)人間チ〇コ・ショッカーというべき存在であった。

 

 下劣……というより、幼稚極まりない雄たけびを上げる彼は、したたるウーマンの永劫洗脳によって〇獣(バーサーカー)という〇癖(クラス)を与えられし奴隷(サーヴァント)であった。

 

 自らの能力が効かない相手がいる状態に加え、さらに増援を確認したROKET-MANは、全身のロケットブースターを起動。上空へと退避する。

 しかし、そんな彼の横を、何やら砲弾のようなものが通り過ぎる。

 

 背後には、全身をローブに包んだ不審者が憎しみに満ちた目をしながら、どこからともなく取り出した重火器でROKET-MANを撃ち落さんと猛っていた。

 

 右手には8連装のランチャー。左手にはガトリング砲。さらに彼の後ろには40センチ口径はありそうな大砲が複数門に、レーザー砲が複数門が浮かび、敵対者へ攻撃を加える。

 さらに無数の鉄球と鉄の棒が、敵対者を追うように礫となって襲い掛かる。

 

「貴様ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! よくもしたたるウーマン様の御玉体ににすり傷をつけやがったなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ降りて来やがれこの粗〇ン野郎!! 全身に■■の穴を増やしまくってやる!! 覚悟しろてめゴルァ!! てめえが手を出したのは全人類を救済に導く救世主たる御方!! 本来てめえのような〇無しがお目にかか(中略)とにかくてめえ死ねゴルアアアアアアアアアアアアアアアアアahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」

 

 明らかに過剰すぎる武装に物騒な発言をしたそのイカレマスクを見て、ROKET-MANは今日一番の恐怖を感じた。

 クソ!! なんだその武装は!? 

 明らかに過剰じゃねえか!! そもそもどっから出した!? 

 さすがにそれ喰らったら死ぬわ! 

 

 こう内心で叫ぶ彼に追い打ちが迫る。

 

「したたる~~~~~~~~~~ビ~~~~~~~~ム♥」

 

 その攻撃を見た時、彼の心にさっき受けたものよりも何倍も強い恐怖と、それを遥かに超える生理的嫌悪が迸る。

 本能は叫ぶ。あれを喰らった食らったとき自分は人間として終わると。

 

 避。否。死________!! 

 

 サイボーグはとっさに自身の肉体にかかる重力を最大限に強める。

 限界まで高められた重力は、彼の身体を真下に引き込み、恐るべき怪光線の魔の手から救った。

 だが、その代償は大きい。

 その勢いのまま、彼は地面に墜落し、サイボーグの装甲は大きく割れる。

 

 だが、魔女の視界から外れたのは僥倖というべきだろう。

 あのまま空中にとどまっていたら怪光線を受けた可能性は高い。

 

 これ幸いとばかりにROKET-MANは、這う這うの体で逃走を試みた。

 

 こんなイカレた奴ら相手にしてられるか!! 

 嗚呼。こんなことなら欲を欠くんじゃなかった。畜生……。

 涙目になりながらもROKET-MANは、命からがら逃げおおせることに成功したのだった。

 

 

 

「したたるウーマン様あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ大変申し訳ありませんでした!! 嗚呼、まさかボクが居ない間にこのような事態に陥るとは!! もっと早く駆けつけるべきところをボクは……これは腹を切って詫び

 

「大丈夫ヨ。亀〇師(キャスター)。これは、ワテクシの油断が招いたこと何も気にすることはないワ」

 

「!! したたるウーマン様……」

 

 襲撃者が去り、変態どもしか残らなくなった美星高校屋上。

 先ほど、敵襲に遅れてしまったことを誰よりも気にしている狂信者は、いの一番にジャンピング土下座をかましているところであった。

 

 そして、許しの言葉を得ると、現場にいた超越者に八つ当たり責任を問う。

 崇拝する教祖への襲撃に一番動揺していることは明白であった。

 

短小(セイバー)ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 貴様が居ながらしたたるウーマン様の御玉体にすり傷を負わせてるんじゃあねえぞこの無能がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! てめえ、したたるウーマン様に重宝されているから調子に乗ってんのか!? ち〇こが短いなら老い先もまた短いってか? ボケてんじゃねえぞこの耄碌ジジイが!! 現代に蘇った超越者だか何だか知らねえがしたたるウーマン様の期待に添えないならあの世に着払いで送り返してやろうかあ!? そもそも

 

「どうどう。そこまでにしておきなさい亀〇師(キャスター)

 

「いいえ!! したたるウーマン様。あの泥棒猫には一回ガツンと……」

 

「ほら、短小(セイバー)がおちこんじゃったじゃない☆」

 

 そして、狂信者の罵声はこの皇帝の心に致命傷を負わせていた。

 

「吾輩は短小……。妻を満足させることさえできなかった小物。ロシア遠征に失敗してしまった敗北者……。やっぱり短いとダメなんだろうか……。吾輩の辞書に不可能という

 

短小(セイバー)も短いことを気にしすぎないノ☆」

 

 したたるウーマンはいきり立つ〇頭師(キャスター)を宥め、落ち込んだ短小(セイバー)を振るい立たせようと励ましの言葉をかける。

 教祖であるしたたるウーマンは、洗脳を行わずとも人間関係を調整することに慣れているようであった。

 なお、〇獣(バーサーカー)は、どうしようか分からずオロオロするばかりであった。

 バーサーカーと呼ばれる通り、彼にかけられた洗脳は理性を奪い、文字通り獣のような狂暴性を付与するものである。故に彼はこういった状況を何とかするだけの知能は存在しない。所詮はモンスターということなのだろう。

 とりあえず彼は、おちこんでる短小(セイバー)の頭をいい子いい子した。つぶしてしまわないように気を遣いながら。 

 

「そもそも、ワテクシ達が作りあげる楽園は小さな者から大きな者、一人ひとり違うその個性を尊重しあう真の理想郷ヨ。だから、小さいからってそれを否定しちゃダメよ」

 

(嗚呼。したたるウーマン様。貴女はなんと慈悲深い人なんだ。それに比べたらボクはなんと愚かなんだ……。怒りにまかせて人の弱いところをあげつらって八つ当たりをする。(中略)なんてひどいやつだ。生き恥……。(以下略))

「……申し訳ございません。したたるウーマン様。この私めの短慮で御座いました。嗚呼なんということだ。したたるウーマン様の()()()()でありがなら、この体たらく。これは死をもって償うしかないのではないか? 嗚呼したたるウーマン様。出来の悪い弟子で

 

「う~~ん。亀〇師(キャスター)は真面目過ぎね」

 

「……ごめんなさい」

 

 どうしたものかと、教祖は頭を捻る。

 彼女たちの神の降臨の日までに、一流の聖職者になってもらわなければならないのだ。

 才能は充分。だが、まだ精神的に未熟に見える。

 

 そうだワ!! と彼女は思いつく。

 

亀〇師(キャスター)。貴方に任務を与えます」

 

「!!」

 

「先ほどの襲撃者。あれを洗脳して捕らえて来なさい」

 

「仰せの通りにぃぃぃい!!」

 (やったあああ♪ 勅令だ♪ 見てて!! したたるウーマン様!! 貴女の勅令、ボクが完璧にこなして見せますよ!!) 

 

 崇拝する存在からの命令に、亀〇師(キャスター)は奮い立つ。

 

〇獣(バーサーカー)亀〇師(キャスター)についていってあげて」

 

「■■■____________!!」

 

 同行者をつける。

 教祖の弟子は、その提案を聞いて明らかに不満な顔(と言ってもマスクで見えないが)をした。

 

「いい。今回、一時的に彼の支配権をあなたに預けます」

 

 _____奴隷(サーヴァント)の支配権を預ける。

 すなわち、〇獣(バーサーカー)は一時的にだが亀〇師(キャスター)の部下になるということだった。

 それが意味することを弟子はよくわかっていた。

 

「したたるウーマン様!? それは……!!」

 

「彼を使いこなすのは大変だけど、アナタなら使いこなせるワ。頑張ってネ☆」

 

「……はい!! 頑張ります!!」

(そうか。彼に手伝ってもらうんじゃなくて、ボクが彼を使う……したたるウーマン様はボクを信頼してくれているのか!! よし!!)

 

 こうして、したたるウーマンの一番弟子は、彼女の部下を率いて敵を倒しに向かう。

 

「行くぞ!! バーサーカー!! ボクたちの手であの不届きものに目にものを見せてやろう!!」

 

「オ〇ンポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!」 

 

 魔術によって召喚した巨大なフランクフルトの上に立ち、無数の兵器を伴いながら、天を征くは亀〇師(キャスター)

 

 洗脳によって強化された身体能力を用い、雄たけびを上げながら、地を駆けるは〇獣(バーサーカー)

 

 2人の追跡者が狙うは教祖に危害を加えた不届きもの。

 

 彼らはヤングストリートを舞台として、先ほどの襲撃者と激闘を繰り広げるのであった。

 

 なお、不審者騒ぎに慣れているヤングストリート民にとって、これくらいのことは日常茶飯事。

 彼らの戦闘中でも普通に店はやっているし、翌日には激戦の跡もなかったかのように営業を再開した。

 流たちの打ち上げが台無しになることは無いので読者の皆様は安心していただきたい。

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「彼の性格上、多少の命令違反も計算にいれて運用しているつもりだったが、まさかしたたるウーマンにエンカウントしているとは、さすがの僕も予想外だったよ」

 

 暗黒を思わせるくらい部屋の中、スポットライトのような証明に照らされている超越者がつぶやく。

 彼は、先ほど美星高校の上空に緑色の眼を投影し、グラウンドで行われていた少年少女の戦いに介入しようとした存在である。*2 

 

 彼の名はミスター慧眼人。権能とも呼べる力をもつ魔眼を持つ超越者である。

 そして、先ほどしたたるウーマンを襲撃したROKET-MANの所属している【ComeTrue】の首魁でもある。

 

「あーあ。秋月小雪の護衛に充てられたワーキングプア侍を始末させて【オールインワン】の戦力を削ごうと思ってたのに、どうして余計なことをするかなぁ」

 

 ROKET-MAN______少し前に【オールインワン】の戦力と交戦して撃退された敗残兵________を相性のいい敵にぶつけ有効活用。生き残ったら捨て駒として【VUM】にぶつけ【オールインワン】の目を【二つ目の世界】に向けさせる囮として役立ってもらう算段______そのついでに環いろはを始末できたら百点________。といった見通しをミスター慧眼人は立てていた。

 

 しかしこのプランも、したたるウーマンというイレギュラーにわざわざ喧嘩売る馬鹿のせいで、白紙になった。

 自身のプランを台無しにされたミスター慧眼人は不機嫌________にはならなかった。

 

「まあいいや。戦力の一体も削れなかったのは痛手だけど、もともと彼は捨て駒にする予定だったし」

 

 それに。と続ける。

 

「したたるウーマン。彼女の戦力は未だ未知数。ここで彼に当たってもらうのは正直僥倖だったかな?」

 

 ミスター慧眼人。彼はアカシックレコードの果てでさえも見通す眼を持つ超越者であることと、事情をすべて把握しきっていないことは矛盾しない。

 彼は、あくまで”視ること”が可能であるだけだ。斜め読みしかしていない情報なら、その物事について誤解することもある。

 

 また、彼が視ようと意識しないものに関しては、彼の頭の中に入ることは無い。

 インターネットの検索のように、特定の情報だけを抜き取ることもまた容易ではなく、ある程度追跡や編纂などが必要である。

(それでも、目的に必要な情報の抜き出しと、それを自身の目的に合わせて利用する能力は超越者というべきレベルだろう)

 

 無駄に多い監視カメラを一人で操作しているようなものだ。

 膨大な監視カメラは、膨大な情報を集めはする。そこで犯罪が行われているなら見つけ出せるだろう。

 問題は、その情報をチェックする必要があるということだ。監視カメラだけでは人は犯人を捕まえることはできないのと一緒だ。

 膨大な監視データの中から、意識して情報を見つける作業工程が監視には必要なのである。

 

 万物の監視が可能な超越者が【オールインワン】や【オリジン・ゼロ】を相手に一方的な勝利を得ていない要因は、そこにあるのだろう。

(無論、彼らがアカシックレコードを持っていて未来予知に対抗できるという点も忘れてはならない)

 

 したたるウーマンは、その隙に入り込むのが上手であった。

 一見して、ただの不審人物であるかのように振舞いながらも、影で何らかの目的を伴い行動する。

 行動の痕跡はあれど、その行動・目的は不明。下手に放置しておくと【ComeTrue】の計画に支障をきたす恐れもあるという、未知の相手であった。

(現に秋月流と接触をしようと思われる行動が見られた)

 

 そのくせ、くだらない行動が多く、常時監視しようとすると無駄骨になるケースが多い。

 だが、目を離すとなんかどっか行ってしまい、追跡も困難。

 どちらにせよ、非常に疲れるのだ。したたるウーマンへの対応は。

 ミスター慧眼人にとって、彼女は警戒してもしなくても、対応に困る非常に厄介な相手であった。

 

 

「彼女は超越者を駒として使役している。この事実を知れたのは大きい。追跡しても追い切れないのは、超越者の力によって次元間移動をしているからだろう。【現代に蘇った■■■■■】……死を超えるという行為によって超越者になり、不可能を可能にする権能を持つ超越者。なぜこの女のしもべになっているのかはわからない。洗脳が効いたことから超越者の中でも下位であるだろうけど……警戒する必要があるな」

 

【超越者】。それはミスター慧眼人をはじめとした、法則を超えたが存在がカテゴライズされる特別な存在である。

 彼らはそれぞれの方法で法則を超え、その方法に由来する独自の権能を持っているのだ。

 ミスター慧眼人の場合は【視る】ことにまつわる権能であり、現代に蘇ったナポレオンの場合は【不可能を可能にする】ことにまつわる権能だろう。

 

 ミスター慧眼人は、したたるウーマンが持つ特別な洗脳を施した奴隷(サーヴァント)2体とROKET-MANの戦闘を、その眼で視る。

 

「さて、彼には充分に暴れてもらい、あの女が自ら選んだ精鋭……奴隷(サーヴァント)の実力を引き出す役割を担ってもらおう」

 

 超越者は戦いを視て、そこから情報を集める。

 そこには未知の力を持つ伏兵への警戒が込められていた。

 

あと、警戒対象がようやく真面目に動いてくれたことに対しての安堵も込められていた。

 

 

 

亀〇師(キャスター)」のクラスに座すは忠臣。

 自らの意志で洗脳を望み魔女に仕える狂信者。

 主である魔女の術を受け継ぐ後継者。

 真名「したたる狂信者・ガチ勢」

 

〇獣(バーサーカー)」のクラスに座すは怪物。

 不朽の特殊合金にその身を纏い、超能力を駆使する驚異の人造人間。

 立ちふさがる罠を破壊し尽くし、ただ暴れ狂うそのありようはまさしくモンスターと呼ぶべきものだろう。

 真名「人造人間 チ〇コショッカー」

 

短小(セイバー)」のクラスに座すは皇帝。

 不可能という言葉の一切を否定するもの。

 かつて西洋世界を征服し、文明に進化をもたらした偉人。

 自らの復活という大偉業さえ成し遂とげ、世界間移動でさえ可能とする超越者は魔女のもとで何を求めるのか。

 真名「現代に蘇った■■■■■」*3 

 

 

 彼らは【永劫催眠】という特別な催眠によって特別な力を得た【奴隷(サーヴァント)】と呼ばれる存在。魔女の寵愛を受けた魔人。

 彼らは7つの〇癖(クラス)に分かれ、洗脳を受けたものは、その特性に沿った特別な力を振るうとされる。

 

【永劫催眠】それは、魔女の催眠の極致である。もともとの人格としたたるウーマンの都合の良い人格を繋ぎ合わせ、統合することで、連続性のありながらもしたたるウーマンに従う【奴隷(サーヴァント)】へと変貌する。

 

 永劫に消えぬ催眠は、元の人格と混ざる不可逆な呪い。

 魔女は、まるで自分のものに名前を付けるかのように、その印を刻む。

 

 そう。これぞ人間を蟲畜生と変わらぬ存在へと変える業の極致。

 一見して、自らの意志で魔女に仕えているようにみえるが真実は違う。

 元の人格と連続性を保ちながら従うようになるからこそ、恐るべき業であるのだろう。

 

 彼らは魔女に従う、偽りの騎士。

 この中に、誰一人でさえ真っ当な人間は存在しない。

 

 

 

 

 ……………

 ………………………………

 

 

 

 魔女とその従者は、ヤングストリートの方向に飛び去った二人を見送る。

 

(ジョセフィーヌ)よ。あの二人を行かせてよかったのか? あの刺客。吾輩なら簡単に倒せるが、それでも充分に強いぞ」

 

「ええ。むしろ強くなくては困るわ。だって、あの子の成長にならないもの☆」

 

「つまり、実践を通して練度を高めさせたいということか?」

 

「うーん? どちらかというとあの子には、自信をつけてもらいたいわね♥」

 

 したたるウーマンは、亀〇師(キャスター)の乱暴な側面は“実力に自信がない”ところから来ていると予想していた。

 無理もない。数こそ少ないが、周りにいるのは魔女が自らの目で見極め【永劫催眠】_______したたるウーマンの最高の洗脳術によって超人的な力を持った怪物たちであるのだ。

 したたるウーマンの一番が取られないか心配なのだろう。

 

「だが、それで死なれては元も子もないぞ? ただでさえ戦力が足りていないのだ。少しでも消耗は少ない方が得策だと思われるが……」

 

「大丈夫♥ その時は、アナタが助けに行けばいいもの。それに……」

 

 だが亀〇師(キャスター)もまた、したたるウーマンが自らが見極めた怪物であり___________後継者であるのだ。

 

「あの子は私の術を受け継ぐ後継者。それに見合う技を次々に吸収してくれている。必ずや我らが【フランクフルト教団】のための力になってくれるワ♥」

 

「なるほど。では、もしものことがあれば吾輩が助けよう。未来に可能性を遺すことか……。こうして現代に蘇ってその大切さがよくわかる」

 

「アラ。そういえばアナタも誰かに託した側なのネ。どう? 自分のやったことが未来に伝わったのを実際に見た感想は?」

 

 かつて過去に生き、現代に蘇るという数奇な体験をした将軍は一体何を思ったのか。その顔は一言では言い表せない複雑なものであった。

 その表情はきっと生半可な表現者には再現できないものであろう。

 

「……その時が来たら、ゆっくりと話すさ。我が妻によく似た娘よ」

 

 その後、かつての将軍は明らかに苦痛に顔を歪ませた。

 まるで何か苦しい思いを自分の中で吐き出す前触れのようなそんな形の歪ませ方であった。

 

「だが……これだけは言わせてほしい」

 

 かつての偉人は現代社会に物申す。

 

 

「何故、吾輩のチ〇コのサイズを現代まで伝えた!?」 

 

 

 悲しいことに彼のチ〇コは、主治医や妻が「小児のようであった」と語ったという逸話が存在する。

 また、1960年代にオークションで出品されたそれは3㎝だったという。

 

 現代に蘇った彼は、当初自らの真名を名乗っていたという。

 だがしかし、インターネットによって高度な情報化が進む現代社会において、それは自らのチ〇コのサイズを公表しているのと同じ。

 言うなれば、下半身を露出しているのに等しい自殺行為であった。

 現代社会に蘇ったばかりの彼には、そんなことはわかる筈もなく……。

 

 蘇って最初に出会った、自分の妻によく似ていた女性_____したたるウーマンに話しかけてしまい……。

 彼女からその弱点が公表されているという事実を教わってしまい、絶望したところを洗脳されたのであった。

 

 彼はかつて世界征服に乗り出した、征服者。言うなれば秋月流の先輩でもある男だ。

 そのカリスマと、超越者として身に着けた力があれば、巨大な勢力を創りあげる可能性も充分にあり得た。

 だが、彼には運がなかった。

 せめて、現代の知識を身に着ける機会があれば……蘇って最初に出会ったのがしたたるウーマンでなければ……。

 

 そんな彼も、小さい人も大きい人も救われる世の中にするべく、したたるウーマンの奴隷(サーヴァント)として充実した第二の人生をエンジョイしているところであった。

 

「さて向こうの戦闘も終わったみたいだし、あの子たちのフランクフルトをゆでながら待ちましょうか」

 

「……Comme vous le savez.(承知した)吾輩の辞書に不可能の文字は無い。……次元を切り裂くことも例外ではない」

 

 指示をを受けた短小(セイバー)がサーベルを振るうと、”いかにも異次元”といった空間が展開され、目的地にまでつなぐゲートが作られた。

 それを見た教祖は満足気な顔をしながらそれに飛び込み、従者もそれに続いた。

 

(今回は戦力も整ってないし、小雪ちゃんのこともあるから見逃してあげるワ♥)

 

 魔女は、膨大な【徳】を持つ愛しの少年のことを思う。

 

(幸い【徳】の扱いもできるようになったのはよかったワ。これでやりやすくなったもの)

 

 したたるウーマン。

 かの魔女は【フランクフルト教団】の教祖でありながら、自らの信仰する神とコンタクトを取れる巫女である。それゆえか、彼女はスピリチュアルに高い適正があった。

 

 故に、彼女は一目見たときから気づいていたのだ。少年を守護する【地蔵菩薩に偽装された伊邪那岐命】に。 

 そして、彼の持つ膨大な【徳】に気づいていた。【徳】とは信仰に基づいて与えられる【神】の力。その力は因果すら曲げる力を持つとされる。

 

 _________________彼女たちの目的に充分届くだろう力が、そこにあった。

 

(機が熟したら迎えに行ってアゲル♥ だってアナタは___________________)

 

 トラックに撥ね飛ばされたり、かつての恩師に会ったり、次元の壁をうっかり超えたり、アンパンマンに計画を邪魔されるなど気まぐれに行動したり、失敗したり。一見フリーダムで無駄の多い行動ばかりであるが、彼女は一つの目的を見据えて行動していた。(寄り道したり、コロコロ行動を変えたり、わざと行動を取りやめたり、そもそも計画が杜撰だったりして失敗など真面目にやっているのかと疑いたくなる行動ばかりであるが)

 外堀を埋める目的で接触した秋月小雪に、彼の持つ徳の殆どが与えられいると知ったときは計画が崩れる音が聞こえたが……幸いお〇ん〇んパワーが効いたのか、だんだんと治っているようだ。

 あくまで今回は下準備。”本番”のために信仰パワーを送る信者を増やすこと。そして今の流の【徳】を使い彼の中に”種”を植え付けることを目的に動いていた。

(まあ、前者は達成したし、邪魔が入って計算が崩れたり、そも”種”も本番をやりやすくするだけで別に必須ではないためまあいいかと今回は放り投げた)

 

 彼女の見据える本番は”秋月小雪”が完治した後。

 ”秋月流”に【徳】が返ってきてから。そのときまでの行動はすべて準備。

 

(__________________我らが造りし神鎮朕武羅舞等創世神(〇ん〇んぶらぶらソーセージ)に【徳】を捧げる【人柱】なのだから♥)

 

 彼の【徳】をすべて遣い、自らの神を降臨させることそして

(_______________________そして鎮朕武羅舞等創世陣(〇ん〇んぶらぶらソーセージ)をこの世界に敷くことで我らが理想郷が完成する)

 

 そして、その力をもって自らの楽土を創生すること。それが鎮朕武羅舞等創世神(〇ん〇んぶらぶらソーセージ)に仕える彼女の使命である。

 

 

(【御鎮椿楽土(おちんちんランド)】。完成の暁には、アナタも連れていってあげるワ♥)

 

 

 

 

 

 

 鎮とは鎮めること。安らぎの意味を持つ言葉である。

 椿の花言葉は変わらぬ愛。すなわち永遠の愛である。

 

 楽土では椿の花が咲き誇り、人は永遠の愛によって真の安らぎを得る。それが【フランクフルト教団】の最終目的。

 __________________故に御鎮椿楽土(おちんちんランド)

 

 それは人類が未だ造れぬ夢の世界。

 歴史上、幾たびも試みられながらも誰一人として造ることの叶わない地上の天国。

 

 彼女たちが追い求めて止まない、楽園である。

 

 

 

 

 

*1
出典:遊☆戯☆王

*2
なお彼自身は知る由もないが、上空に投影した自身の眼にピンク色景を強制的に上映されるところであった

*3
出典:史実







 何よこれ…。ワナワナ
 これじゃあワテクシ、ヒロインじゃなくてボスキャラじゃない!!

 確かにワテクシの魅力は充分に伝わったかもだけども…。
 この小説、敵キャラ多すぎて渋滞起こしてるじゃない!!
 敵キャラ系ヒロインとか被ってるのよ!! 〇〇みたいに!!

 書きなさい…もっと書きなさイ…!!
 ワテクシのヒロイン力が伝わるようにもっと書きなさい!!
 慧眼人ボウヤの事情とかいいから、もっとワテクシにスポット当てなさい!!

 あッ!!
 逃げやがった!! 洗脳されたふりだったのかチキショウ!!
 待ちやがれ!!

 フフフフフフランクフルト…。
 隠れても無駄ヨ!!
 したたるレーダー☆ 勃起!!

 チン・ポーン…。チン・チン・ポーン…

(読者の皆様、読んでいただき誠にありがとうございます。汚い下ネタとか、色々な方面に喧嘩売る表現が多発したことをお詫び申し上げます。執筆者の皆様。今回、色々独自設定を増やしてしまいましたが気に入っていただけたら幸いです。)
 

 ____________そこか!!
 隠れても無駄ヨ!! 喰らいやがれ!!
 
 したたるゥゥゥゥゥゥ!! んビィィィィィム♥


 ____________________________!?




 この話を読んだ読者の皆様。
 この物語を紡ぐ執筆者の皆様。
 この話を作るにあたって協力をしていただいたhasegawa氏。
 そして、したたるウーマンを生み出した天爛大輪愛様。
 皆様に鎮朕武羅舞等創世神様の加護があらんことを。

【フランクフルト教団サハラ砂漠支部S原】



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【スピンオフ】魔法少女こゆき☆マギカ 前編:開拓の物語 作:祭梨乃・堕天=チョコバナナ(アローラのすがた)


 Hello, everyone! I'm Matsurino Daten Chocobanana!
 I've been watched this novel series since it was started. So now, I'm so excited because I could join it finally.
 I hope you'll read this and like my novel.
 Nice to meet you, and please enjoy reading mine!


 ……えーっと、すみません、フザけちゃって。 私です。
 とりあえず、ここで、注意事項をいくつか。

 ・『エントロピー』周りの解釈は、たかが高校生の持ち前の知識の考察です。 ガバガバだったらすみません。
 ・なんかもう好き勝手やっちゃってる挙句に、長すぎるなんて……時間がある時に、ぜってぇ見てくれよな!

【祭梨乃・堕天=チョコバナナ(アローラのすがた)】


※時間軸 継承(砂原石像 作)の数日後





 

 

 ____。

 

 ____。 ……。

 

 

 冷たく、単調な電子音を出す、何かの機械。

 

 その機械に映し出されるモニターには、青緑色で、ギザギザとした1本線が描かれていく。

 

「 ____! 」

 

「 ______!? 」

 

「 __? 」

 

「 __、__、__、__! 」

 

 白衣を着た『オトナ』たちが、休む間もなく動き回り____見上げれば、()()()()()()()()()()が涙を浮かべて、目の前の出来事を見守っている。

 

 『オトナ』たちが手を尽くす、その命に目を移す。

 

 ……雪のように白く、滑らかで、フニフニとしてそうな肌の、赤ちゃんだった。

 

 

『凄いね、もうすぐ お兄ちゃんになるんだね』

『赤ちゃんを守ってあげてね』

 

『うん! できるよ!』

 

 ____だって僕、お兄ちゃんだもん!

 

 

 ……。

 

 ……その愛でるべき対象の命も、既に風前の灯火であった。

 

 ……。

 

 あぁ、そういえば、前、こんな歌を習ったか……。

 

 

 

う ま れ て す ぐ に ♪

 

こ わ れ て き え た ♪

 

 

 

「____やだっ!!」

 

 そんなのは嫌だ。

 『死ぬ』って、まだよくわかんないけど、ずっと いなくなっちゃうのは嫌だ!

 

 

 お兄ちゃんだから。

 

 守ってあげなきゃ、いけないから。

 

 

 

 

 ____守りたい、から。

 

 

 

 

 

  だから。

 

 

 

 

 

 

 

********************

 

 

「____父さん、母さん……」

 

 お地蔵様にお供えに行く前に、俺は必ず、両親の仏壇の前に正座して、挨拶をする。

 

 俺の両親は、俺が幼稚園生の頃、交通事故で亡くなった。

 

 車が見るも無残にひしゃげた中で、生き残ったのは……体が小さく、僅かな隙間に体を収めることができた俺と____当時、ご近所さんに預けられてて、事故に遭遇しなかった、妹の小雪だけだった。

 

「……よし。 お供え物、用意するか」

 

 ろうそくの灯を消して、立ち上がり、台所に移動した俺は____とりあえず、冷蔵庫に何か残ってないか、探してみるのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

 

「あと2週間____切ったぜーっ!!」

 

 

 美星祭・残り13日、放課後。

 

 

 カウントダウン・カレンダーを勢い良くめくりながら、流は叫ぶ。

 ……めくられたカレンダーは、『残り12日』を示した。

 なお、流は昨日も上記のセリフを叫びながら引っぺがしている。 うっせぇわ。

 

 いやぁ、今日はいい日だった。

 

 一日中 晴れるし。

 授業中に当たった問題が、昨日たまたま飯島に教わったヤツだし。

 

 なにより____昨夕はスーパーがポイント10倍で 新しいパスタを沢山買えたから、楽しみにとっておいた古い分 を今日の朝食とお弁当で食べられたし!!*1

 

 

「夕飯は何パスタにしよっかなぁ~。

 冷蔵庫に、『4割引だったから衝動買いしたけど、結局使わずに賞味期限が1ヶ月近く切れてる生クリーム』があるから*2、明太クリームパスタとか良いかもなぁ!」

 

「……お腹、壊さないかな? それ」*3

 

 呆れ返った声音____振り向くと。

 

「いろは!」

 

「また来ちゃった____と いうのもね……」

 

 浮かべていた微笑を一転。

 いろはは、真剣な表情にて流を見つめる。

 

「不穏な噂を聞いて、あなたのことが気にかかっちゃって。」

 

「噂……?」

 

「____ねぇ、流くん。 あなたのところに、『キュゥべえ』来てない?」

 

 キュゥべえ? と、流は首を傾げる。

 

「うん。 猫っぽい見た目の、白い毛で、赤い目をした____よかった、来てないんだ」

 

「そのキュゥべえが、一体どうしたんだ?」

 

「! ……ううん! 何でもないの!」

 

「遠慮しなくたっていいんだぜ! ほら、カモン!」

 

「ホント ホント、ナンデモ ナイカラ、キニシナイデ?」

 

「? ……そっか、わかった」

 

 流は、頭上に『?』を浮かべながら頷いたため、小首を傾げる動作と首肯する動作が()()()()になり、首の動きが桂馬みたいになった。

 

 

「おっ、流」

 

「流、ヤッホー!」

 

 そこへ、アルトとナミが通りすがる。

 流は、「おぉ牧場は緑!」と謎の返答を返してくるが……とにかく本日の彼はご機嫌なのである。

 

「やたらハイテンションだけど……今日の地理、やらかして先生に呼ばれたの、もう忘れたの?」

 

「____うぐっ!?」

 

 全身が石化したかの如く、あからさまに硬直する彼。

 

「な、流くん……何があったの?」

 

「……。 いや、な? 小テストの『各国の首都』書くヤツでさぁ、俺____

 『()()()()()()』を『()()()()()()』って書いちゃって……」

 

「「そりゃ呼ばれるわ」」

「そりゃ怒られるよ……」

 

「し、仕方ねーだろ!? なんか似てるじゃん!!」

 

 

「っていうか、お前、英語でも、今日呼ばれてなかったか?」

 

「____うぐっ!!??」

 

 アルトの発言に、またまた石化する流。 今度は、ひびまで入っちゃっている。

 

「しょ、小テストで、『button』の意味を『布団(ぶとん)』って書いちゃってだな……」

 

「『ボタン』だろ……」

 

 呆れかえるアルトに、「まぁ、アレは私も頭が回らなくて正解できなかったし……」と、ナミが珍しくフォローに入る。

 

「でも流、つまり他にやらかした問題があるんじゃないの?」

 

「あぁ……『open』の意味を『オーペン』って書いちゃってだな……*4

 

「……アンタ、ローマ字読みすればいいとか思ってない?」

 

「それと、clatter(クラッター)の意味を『てつを』って書いちゃって____」

 

「「「 呼ばれた理由、絶対それだ!! 」」」*5

 

 

「……はぁ、相変わらず、平常運転の馬鹿ね……」

 

「でもナミさん、ここまで『やっちゃった』のに、すぐ立ち直れるのは やっぱり流くんの凄いところですよね!」

 

「おぅ! サンキューベルマッチョな、いろは!」

 

 再びコロッと機嫌を直した流を眺めながら、アルトは、

 

「(本当に褒められていたのだろうか……)」

 

と思うが、そういうのは『言わぬが花』、『知らぬが仏』である。

 

 

「んじゃ、先生に反省文提出しなきゃなんねーし、そろそろ俺、帰るわ」

 

「あっ、じゃあ、私、護衛のためについていくよ!」

 

 流といろはは、アルトとナミに見送られ 廊下を歩いていく。

 

 窓の外を見れば、まだ十分に明るい。

 やや黄色っぽい光が混じってきていて、夕刻の兆しを感じさせられるが____空は未だ真っ青で、気候は良好。 こちらまで清々しい気持ちになってくる。

 

 学校を出るふたり。

 

 帰路につく中、途中で流が「用事がある」と言うので、いろはは彼を病院まで送り、『みっつめのセカイ』へと帰っていった。

 

 

「……帰ってる途中も、何もなくて良かった____」

 

 晩御飯を食べ終え、ベッドの中で、いろははホッと息をつくが……その表情には、未だ一抹の不安が含まれている。

 

()()が全部、嘘ならいいのに……」

 

 いろはは、沈んでいく気持ちの中に 意識を包み、ゆっくりと眠りの中に落としていった……。

 

 

 

 

 

「____ヴァァア!!」

 「____ヴァァア!!」

  「____ヴァァア!!」

   「____ヴァァア!!」

    「____ヴァァア!!」

 

 

「……はっ!?」

 

 いろはは、漆黒の空の下で目を覚ました。

 

 空では、何か黄緑色のものが数多、「ヴァァア!!」と音をたてて、尾を引きながら地平線へ落ちて行っている。

 

「あれは____そうだ、流れ星だ!」

 

 うんうん! と、いろははドヤ顔でうなずく。

 だって、流星は「ヴァー」って言うものだもの。 流れ星で間違いないよね♪

 

「でも、『みかづき荘』の皆がここにいないの、残念だなぁ。 どうにか1つ、捕まえて、お土産にできないかなぁ?」

 

「いいものがあるぜっ!!」

 

 非常に聞き覚えのある声がした方へ、彼女が体を向けると____

 

「流くんっ!」

 

「よぉ、いろは! 星用の虫取り網を、Amazonでポチって来たんだ!」

 

 これでバッチリ、エビチリだぜ! と、相変わらず訳のわからないことを叫びながら、流は超巨大な網を構える。

 

「ヴァァア!!!!」

 

「おっ! ちょうど1匹、活きのいいのが来たな!」

 

 流は鼻息を荒くして、流れ星に狙いを定めた。

 

 

「だぁーいせぇつざぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!」

 

 

 某モデル*6の叫びを連想させるセリフを吐きながら____流は、しっかりと、対象を網でとらえた。

 

「捕まえたからには、しっかりアリナをアートにしてほしいワケ」

 

「ぉわぁっ!? 流れ星が喋った!?」

 

「どういう風にペイントして、コラージュしてくれるか、ベリーエキサイティングなんですケド」

 

 黄緑色の光は、何故か『ルー語』をペラペラと喋くる。

 

 「喋った、喋った」と馬鹿騒ぎする流の横で、いろはは哀れみを全面に出した表情で、流れ星に話しかけた。

 

 

「……ごめんね、喋る流れ星は、ウチじゃ飼えないの……」

 

 

 その言葉を聞いて、「ヴァァア!!」と怒り狂う流れ星を、いろはは優しく、近くの池に放流してあげた。

 

 思いっきりスプラッシュした水飛沫が、いろはの視界を真っ白に覆う____

 

 

 

「……はっ!?」

 

 いろはが意識を取り戻すと、視界を覆う白いものは、タンポポの綿毛のようなものに変わっていた。

 

 ……いや、本当に、綿毛である。

 

 空は依然として夜で、眩しかった流星群も消えてしまっているが____大地に広がるタンポポの絨毯は、真昼の太陽の下のように、燦々と輝いていた。

 

「わぁ……綺麗! 喋らないみたいだし、これなら、ういたちのお土産に____」

 

「あっ、お姉ちゃん!」

 

「____うい!?」

 

 背後から聞こえた 大好きな人の声に、いろはは驚きつつも、嬉々として振り向く。

 

 ……が。

 

「むしゃむしゃむしゃ……タンポポって美味しいね、お姉ちゃん♪」

 

「 ……………… 」

 

 我が愛しの妹は、現在、タンポポの黄色い花束を両手いっぱいに抱え、それはもうヤギの如く、むっしゃむっしゃとタンポポを食んでいる。

 

「お姉ちゃんも食べてみて♪ このタンポポ、やちよさんの料理みたいな味がするの!」

 

「 ……………… 」

 

「これがサーモンのサラダの味で~♪ うん♪」

 

 ……。

 

 うい____お姉ちゃん、悲しいよ。

 

「これが卵スープ♪」

 

 やっと、一緒に笑って過ごせる日々が帰ってきたはずなのに。

 

「こっちがポトフで~」

 

 ねぇ、うい。

 どうしてういは こんなに嬉しそうなのに____お姉ちゃん、無性に泣きたくなっちゃってるんだろう?

 

「わぁっ、ステーキだ♪」

 

 お願い、戻って。

 元のういに戻ってよ。

 

「帆立のフライ、美味しい~♪」

 

 ……あれ? そもそも、『元のうい』って何だろう?

 

「鰆のホイル焼きだ~、もう1回食べたかったの~♪」

 

 時間は戻らないし、私たち、日々成長していっているはずなのに、過去の姿を求めるのって____それはとってもおこがましいことなんじゃないかな。

 

「あっ、デザートだ!」

 

 そうだよ、いろは。

 今のういを受け入れなきゃダメじゃない。

 「うい、成長したね♪」って……笑って頭をなでてあげなきゃ……。*7

 

 

「美味し~い、ブルーベリーパイだぁ~♪*8

 

「!? ……ういっ、駄目! 今すぐ口から出して!!」

 

「____え?」

 

 全ては、手遅れだった……。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

「ういっ、ういー!!」

 

 ういの胴体は、今 味わっていたブルーベリーのように膨張していき……いろはの耳を、妹の怯え声が貫い____

 

「わ~い、なにこれ楽し~い♪」

 

 ____てはこなかった。

 

 なんと うい、普通に現状を楽しんでしまっている。

 「ボールみた~い♪」と体をバウンドさせ、可愛らしい声をたてて笑っていた。

 

「うい……凄いね、成長したね。

 いつの間に、お姉ちゃんの理解を超えたところへ行きついちゃったんだろう……」

 

 半分くらい魂が抜けたような声で呟くいろは。

 妹が幸せなら、まぁいいかな____諦めきってしまったあまり、そんなことまで思ってしまうが……。

 

 当然。

 

 こ こ で 終 わ っ て は く れ な か っ た 。

 

 

「____ヴァァア!!!!」

 

「! ……まさか!?」

 

 上を見やれば、あの黄緑色の流れ星が、「ヴァァア!!!!」と中空に浮かんでいた。

 

「エクセレントなアートになりそうだヨネ、あのブルーベリー。

 アリナが有効利用してアゲル____んだら感謝してヨネ!!!!

 

 

 流れ星は、よくわからない怪物【参照】 を、ういに向かって放つ。

 

 怪物は、大口を開けて ういを丸ごと腹の中に収め____

 

「!! ……」

 

 

 

 

 

 

「うい────────ッ!!!!!!」

 

 

 ガバッ!! と派手に音をたて、いろはは起き上がる。

 

 ……いろはは今度こそ、目を覚ました……。

 

「はぁ……はぁ……変な夢……」

 

 

 寝汗をぐっしょりと かいてしまった。

 

 現在・午前7時。 日はすでに昇りきっている。

 朝シャワーを終え、朝食を食べ、支度し____今日も いろはは、流の護衛のため、世界を越える。

 

「うい、やちよさん、フェリシアちゃん、さなちゃん、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃーい♪」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

「おー! 帰ったら、絶対、一緒にゲームだぞー!」

「いろはさん、頑張ってください!」

 

 

 

 

 ____世界を越えた、その先。

 

 

 

 

 

「いろは」

 

 

「あっ、流くん! おはよう!」

 

 

 

 

「ずっと、待ってた」

 

 

「……流、くん?」

 

 

 

 

 

 

「あのさ______」

 

 

 

 

 

 次に、流くんが口にした言葉は。

 

 

 

 

 

「……流くんには、知ってほしくなかったのに……」

 

 

 

 

 

 ____私を再び、悪い夜夢のどん底に突き落とした。

 

 

 

 

 

********************

 

 *9

 

********************

 

 

 

 

「小雪! 元気してるかっ!」

 

 

 柔らかなオレンジ色の光が、妹・小雪の病室の窓から差し込む。

 きっと明日も晴れだろう。

 

「って、んんッ!?」

 

 その窓から、何か影のようなものが、外へ飛び出していくのを見たような気がするが____うん、まぁ、気のせいだろう。

 

 

「あっ、お兄ちゃん! お帰り~」

 

 ……『お帰り』。

 

 生まれてこの方、ずっと病院で暮らしてきた小雪にとって、当然、ここは家同然になっていた。

 

 いや____彼女の辞書に、『家庭』なんてない。

 病院は、病院だ。

 ただ、『病院』に対する認識が、一般人と違うだけ____

 

 

「あのな、小雪っ。

 今日さぁ、逆転の発想で、『()()()()()()()()()()()()()()高菜おにぎり』を持ってったんだよな!」

 

「……それって、山盛りの高菜の中に、お米が入ってるってこと……?」

 

「おぅ! 形が まとまんなかったから、ラップに包んだまま置いてったぜ!」

 

 絶 対 し ょ っ ぱ い 。

 

 今日もごめんね、お地蔵様____と、小雪は心の中で手を合わせる。

 

「ところで お兄ちゃん、今日は何があったの?」

 

 愛する妹の質問に、流は包み隠さず全てを答える。

 

「____うふふっ、すごいよねぇ、倉田てつをさん。 わかいころから、あんな しぶい声なんだもんね♪」

 

「ク"ラ"イ"シ"ス"ッ!!」

 

 流の(あんまり似てない)声真似に、ふたりして おかしげに笑う。

 

「……そうだ、俺、そろそろ帰るな?」

 

 反省文書かなきゃいけないし。 と、パイプ椅子から立ち上がりかけた流の筋肉質な腕を……

 

「っ……」

 

「小雪……?」

 

 ほぼ骨と皮のみのような細腕で、小雪は掴む。

 

「……いかないで……」

 

 少女の瞳ににじむのは、『不安』と『恐怖』。

 

「どうした? 小雪」

 

 流はかがんで、妹と目線の高さを合わせる。

 

「……昨日の夜、しゃべるネコちゃんが やって来て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言ってたの。

 それに、あの猫ちゃん、よくわからないけど何だか怖くて____お願い、一緒にいて?」

 

「! ……おぅ、任せろ!」

 

 流が胸を張った、その時。

 

《____やぁ、小雪》

 

「「 ! …… 」」

 

 アニメのマスコットキャラを感じさせるような、子供っぽい声が、どこからか響く。

 

《そして、初めましてだね、秋月流》

 

 ゆらり、と、ふさふさの尻尾を揺らしながら、声の主は姿を現す。

 

 そいつは、白い毛をしていて……「猫か」と問われると疑問符が付くような、何とも形容し難い、小動物の姿をとっている。

 

「お前は……!」

 

 そして、無機質な瞳からは、微塵も『感情』というものを感じさせない。

 

《僕はキュゥべえ! ところで、秋月小雪____》

 

 

 

 

 ____僕と契約して、魔法少女になってよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交わした約束忘れないよ

 

 

目を閉じ確かめる

 

 

押し寄せた闇 振り払って進むよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女 こゆき☆マギカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつになったらなくした未来を

 

私ここでまた見ることできるの?

 

溢れ出した不安の影を何度でも裂いて

 

この世界歩んでこう

 

とめどなく刻まれた 時は今始まり告げ

 

変わらない思いをのせ

 

閉ざされた扉開けよう

 

目覚めた心は走り出した未来を描くため

 

難しい道で立ち止まっても

 

空はきれいな青さでいつも待っててくれる

 

だから怖くない

 

もう何があっても挫けない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5.5話 『幸せ』って、何なんだろうね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

「ぅ……あぁぁぁあっ!!」

 

 

 どこかの町。

 冷たい街灯の下。

 

 魔法少女が1人、苦悶に頭を抱え、地面に倒れ伏した。

 

 彼女の手首から、濁りきったソウルジェムが外れ、浮き上がる。

 闇色の光を纏ってソウルジェムから現れたソレは、真っ黒い『種』。

 

 『種』は、少女の頭上で、瘴気をまき散らしながら、グシュゥッ! と潰れる。

 

 

「ふふ……」

 

 その側で。

 

 銀髪の 小学生ほどの少女が、花嫁衣裳を思わせる ゴスロリに身を包んで、邪悪な笑みをたたえている。

 きっと、彼女も魔法少女なのだろう。

 

 ____ジャラリ。

 

 少女は、武器である『モーニングスター』を構え、現在瘴気で包まれている辺りを、その表情のまま、澱んだ瞳で見つめた。

 

 

「……サヨナラ勝ちね。」

 

 

 少女の名は、『神名(かんな)あすみ』。

 

 

 虚構の中で生まれた彼女は、今なお、偽りの幸せに生き、世界を歪ませていく____

 

 

 

 

********************

 

 

 

「魔法……少女……?」

 

 小雪が小さくこぼした疑問の言葉に、キュゥべえは、再び尻尾をゆらりとさせ、説明を始める。

 

 

 

 

 

 

 

BGM『営業のテーマ(なーにがーぽっきーだー)』 でどうぞ

 

 

 

 

 

____
希望を(もたら)す魔法少女のお話
____

by シャフト風演出(笑)

 

 

 

 

 

aa(a)女の子は素質があれば誰でも魔法少女になれるんだよaa

 

 

 

 

aa(a)魔法少女になるには ただ僕と契約すればいいだけaa

 

 

 

 

aa(a)そうすれば 誰もが一度は憧れるであろうヒーローのように超人的な力が使えるようになるんだaa

 

 

 

 

aa(a)ところで この星には『魔女』という 呪いを振りまく存在が巣食っているaa

 

 

 

 

aa(a)地球上で起きる痛ましい事件の多くは なんと魔女によるものなんだaa

 

 

 

 

aa(a)魔女の放つ瘴気に 人の思考が影響を受けるんだねaa

 

 

 

 

aa(a)そこで 魔女を倒すため活躍するのが魔法少女だaa

 

 

 

 

aa(a)魔女を仕留められれば『グリーフシード』が得られるaa

 

 

 

 

aa(a)魔力というものは消耗品だから このグリーフシードで回復しながら戦うんだaa

 

 

 

 

aa(a)そうそう 契約した時には『ソウルジェム』という『魔法少女の印』が生み出されるんだけどaa

 

 

 

 

aa(a)魔力を使うとジェムが濁るから 濁りきる前に グリーフシードをジェムに当てて浄化してねaa

 

 

 

 

 

aa(a)ここで もう1つ重要な話aa

 

 

 

 

aa(a)勿論 僕は無償で魔女退治をしろとは言わない 危険なことだしねaa

 

 

 

 

aa(a)君には 『どうしても叶えたい願い』 って あるかい?aa

 

 

 

 

aa(a)僕なら その願い 叶えてあげられるかもしれないよaa

 

 

 

 

aa(a)契約の時に1度だけ 願いをかなえる奇跡を起こせられるんだaa

 

 

 

 

aa(a)当然 どんな願いだって 構わないaa

 

 

 

 

aa(a)ただ その 効果は 個人が秘める『因果』の量に 左右されるんだけど……aa

 

 

 

 

aa(a)幸いにして 秋月小雪 君の因果の量は途方もなく大きい 僕でも見たことないほどだaa

 

 

 

 

aa(a)本当に どんな願いでも 君の好きな形で叶えられるんだよaa

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

《____さぁ、秋月小雪、どうかな?  僕と契約して、魔法少女にならないかい?》

 

 

 

 

「……待て、キュゥべえ」

 

《なんだい、秋月流。 だいぶ説明したけど、気になったことでもあるのかい?》

 

 「ありありの有田焼だっ」と、謎の発言をして、流は額にしわを寄せ、聞いた。

 

「お前____()()()()()()()()()()()()?」

 

《……。 何が言いたいんだい?》

 

「この間の、いろはの言葉____」

 

 

 ____魔法を使うとか、色々な要因で、ソウルジェムが濁ってしまうんだけど

 ____これが完全に濁りきってしまうと、私たち魔法少女は、死んだも同然になってしまうの

 

 

「アレから察するに、お前、嘘はついていなくても……不都合なことは隠して喋ってるだろ?」

 

《……君の知能は、もう少し低いと思っていたんだけどな》

 

「大事な妹の安全のためだ、少しは頭も回るよ」

 

《やれやれ。 まぁ、聞かれさえすれば、言わない道理はないからね》

 

 キュゥべえは、説明を始める合図をするかのように、また尻尾を大きく揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

____
魔法少女(Magica)・講義
____

 

 

やっちゃん……みっふ……。

 そう遠くない昔、とある町で『Yさん』『Mさん』が仲良く過ごしていました。

 

 ふたりは魔法少女です。

 歴・何年も経っていて、ベテランと呼んでも差し支えない熟練度でした。

 

 そんな ある日、ひょんなことから、新しい仲間『Kさん』が加わりました。

 次第に、チームとして結束を強めて行きますが____

 ある時、3人は魔女とエンカウント。 ソレは途轍もない強さで、3人は苦戦します。

 

 大切なチームメイトを傷つけさせないため、Kさんは、全力を振り絞って魔女を倒します。

 

 しかしそれは____相打ちに終わってしまいました。

 

 戦場だった場所には、Kさんの冷たくなった体が、1つ。

 先立たれた ふたりは、大いに悲しみました。

 

 ただ、不審な点があるのです。

 Kさんの遺体は、()1()()()()()()()()()なのです。

 

 いつもと違うのは、傍にKさんの ()()()()()()()()()()()()()()____

 

 ふたりはキュゥべえを問いただしました。

 そして、帰ってきた答えは……。

 

 ソウルジェム(魂の宝石)は、文字通り『命そのもの』

 

 だというもの。

 ならば当然、割れれば死んでしまいます。

 

 どうして、そんな仕組みに?

 

 簡単です。

『戦いやすく、痛覚等を調整できるように』と、契約時に 魂を抽出して外部化していたのです。

 キュゥべえの、素晴らしい、()()()()()です。

 

 それなのに、ふたりは怒るのです。

 

「それでは 体はただの抜け殻。 ゾンビと同じじゃないか」

「何故、契約の時に言わなかったのか」

 

と、訴えながら。

 

 ____だって、聞かなかったじゃないか?

 

 当たり前の話です。

 いつも、誰もが、全てをペラペラと教えてくれるわけ、ありません。

 むしろ、そんなこと、ほぼ皆無です。

 

 伝える側は、()()()()()の中から、「これは あまり重要じゃないな」などと、

 情報を取捨選択して、いつも伝えているのですから。

 

 

 ……YさんとMさんは、ショックを受けながらも、少しずつ立ち直っていき、

 そのうち、仲間も 沢山 増えました。

 

 その仲間の1人に、『Uさん*10』がいました。

 

 わざわざ名前を付けた時点で察せられると思いますが、

 彼女も ()()()()で『彼女』じゃなくなってしまいます。

 

 きっかけは、Yさんらのテリトリーである『神浜市・新西区』に、

 ほかの地区では倒しきれなかった 強力な魔女が流れ込んできたことです。

 

 当然、そのような魔女ですから、元が強いうえに、

 移動する中で 多くの人を食ったりなどしていますので、

 とてつもなく頑丈になってしまっています。

 

 いくらベテランのYさんとMさんがいるといえど、中々 渡りあえるものでもありません。

チーム一丸となって*11戦ったものの、とあるタイミングでYさんが窮地に陥ってしまいました。

 

 間一髪のところで助けたのは、Uさんです。

 ソウルジェムに籠った魔力を総動員し、Yさんをかばいました。

 

 ……結局、魔女は仕留めきれませんでした。

 

 更に、悪い事態は重なり____

 ソウルジェムの濁り切った Uさんが、それによる苦痛で倒れてしまったのです。

 

 ____すぐに回復させなければ……。

 チームメイトは彼女にグリーフシードを使おうとしますが、

 先ほどの戦いで、ストックは全て無くなっていたのです。

 

 為す術もないまま、Uさんのソウルジェムは____

 グリーフシードへと変質し

 その『(シード)』は、新たな魔女を生んだのです。

 

 そう____魔女は魔法少女のなれの果て。

 

 希望の(ソウル)の光が、絶望の濁りへと転換した時、

 魔法『少女』は魔女へと『成人』するのです……。

 「この国では、成長途中の女性のことを『少女』って呼ぶんだろう?」

 「だったらやがて魔女になる君たちのことは、『魔法少女』と呼ぶべきだよね」

 

 

「っ……お前、どうしてそんなこと……!!」

 

 説明が終わるやいなや、流はいきり立って、キュゥべえに怒鳴った。

 キュゥべえは、その剣幕にも動じず、涼しい顔で答える。

 

《宇宙の存続のためだよ。

 地球人だって、いずれ()()()()()、異星へ進出するだろう?

 その時に、宇宙が終わりかけだと、困るじゃないか》

 

「キュ、キュゥべえ、宇宙人だったの!?」

 

 小雪が思わず、キュゥべえの発言にツッコみを入れる。

 流も流で 何か言いたいようだが、小雪のソレとは違うようだ。

 

「っていうか、お前、宇宙のためなら 誰かの命が犠牲になってもいいのかよ!?」

 

《? ……いいに決まっているだろう?》

 

 ……この回答が返ってきたとき、流は、キュゥべえとの圧倒的な倫理観のギャップを感じた。

 

「……お前」

 

 掴みかかられる直前に、キュゥべえは再び長話を始めた。

 

《やれやれ。 じゃあ、できるだけ かみ砕いて説明するよ。

 そうすれば君たちも、僕のことを理解してくれるんじゃないかな》

 

 

 

 

 

 

____
(Q)キュゥべえの 楽しい高校化学
____

 

 

 てめぇ作中でも もっとわかりやすく言えよ……

 女の子が僕と契約するとき、『願いがエントロピーを凌駕』するんだ。

 『エントロピー』とは『乱雑さ』のことなんだけど、

 『願いが乱雑さを超える』って、()()()()()()()()よね?

当たり前だ てめぇ。

 これは、ちょっと僕が要旨を端折りすぎたから、こうなっちゃってるんだけど……。

この解釈のために、私がどれだけ知識をフル動員させたと思ってんだ。

まず、物質の変化は、『エントロピーの増大』『発熱反応の方向』に従って行われてるんだ。

その2要素があるから『可逆反応』があるんだよね

 最初に、発熱反応について説明するけど____

 部屋の中で、熱々のスープを放っておくと、やがて冷めるだろう?

 

基本的に 物質は高エネルギー状態だと不安定だから、エネルギーを熱として放出しようとする。

 だから、発熱……熱を発する方へと、自然上では変化していくんだ。

 

 そして、エントロピーの増大。

 

 地球人は、既に『エントロピー増大の法則』に気付いているようだけど……

 

 コーヒーにミルクを入れると勝手に広がるし、

 木の葉を箒で集めたまま放っておくと 風か何かで散らばるし、

 お昼時になると、高校の食堂から食物の匂い物質が分散して、漂ってくるよね。

 

 ……うん、流、涎を垂らさなくていいから、続きを聞いてくれるかい?

 

 つまり、外から何かの力が加わらない限りは、

 全ての物は、散らばる方向へ、散らばる方向へと動いていくんだ。

 

 これは、宇宙だって然りだよ。

 君たちは、宇宙がどんどん広がっていってるって、知ってるよね?

 

 ……知らないのかい、流? ……えぇ~っ……。

 あぁ、小雪はちゃんと知ってるんだね。

 

 うん、まぁ、そういうものなんだよ。

 宇宙は膨張していってるんだ。

 

それが過度になると、外の『無』や、理論上存在する 他の宇宙とのバランスが取れなくなる。

 

 宇宙の誕生というのは、無の中で有が生まれる、それだけで特異で奇跡的な存在だ。

 平衡が保てなくなると、容易く崩壊してしまうだろうね。

 

 そこで、僕たちが着目したのが、『感情エネルギー』

 『感情』というものは、他のエネルギーから独立した存在で、扱いが簡単なんだ。

 

 ただ、『感情』は、僕たちインキュベーターの星では、発生するのも稀な『()()()()』。

 

 ……納得いかないって顔をしているね。

 そうだろうね。 Heart()というものは、一説によれば『He()Art(造り物)』。

 人間にとっては、『異物』どころか、その真逆なんだろうからね。

 

 まぁ、どちらにせよ、僕らにとっては 精神疾患に変わりはない。

 

 そして、偶に 僕たちの星で その患者が現れたところで、抽出可能なエネルギーはごく微量。

 まるで話にならなかったよ。

 

 大きなエネルギーを求め、僕たちがたどり着いたのが、そう____地球。

 それも、『第2次性徴を迎えた 人間の女性』が、理想的な抽出源だったんだ。

 

 この地球の特徴に合わせ、魔法少女システムを導入し、

 人が願望を抱く際に付随する、強力な感情エネルギーを熱エネルギーに変換して、

 エントロピー増大より大きい力を逆向きにかければ____

 

 宇宙の膨張を止める、ないしは縮小させることができる。

 

 これが、

 『願い(とともに発生するエネルギーの大きさ)がエントロピー(増大時のスカラー(力の大きさ)を凌駕』

 するということなんだ。*12

 

 全ては、この宇宙に生きる民のため。

 

 地球の少女たちは、言うなれば、宇宙を生かす『心臓』。

 絶対に必要な生贄なんだよ。

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 ____空はまだ 漆塗りの器のように黒く、数えるのも億劫になるほどの星が、依然として輝いている。

 

 ただ、東の空の地平線だけが、朝を予告するかの如く、ほの明るく、濃青色に染まっていた。

 

 ……流はただ、走る。

 

 清々しい夜明け前の空気だが、その清らかで柔らかな空気は、彼の鬼気迫った表情の その異質さを より際立たせている。

 

 昨夕、()()()と別れたのは、どこだったか____

 

 記憶を頼りに探し、走り、()()の訪れを待つ。

 

 いつの間にやら、彼の背後で朝日が昇っていた。

 朝の煌めきは、陰のかかった彼の姿と、周囲の瑞々しい景色とを隔てた。

 

 ……数時間の後、世界に穴が開き、見慣れつつある 淡い桃色の髪が、彼の視界に移る。

 

 

「いろは」

 

 声をかけると、世界を越えてきた当人である いろはが、柔和な笑みを返してくれた。

 

「あっ、流くん! おはよう!」

 

「……ずっと、待ってた」

 

 流石に、いろはは彼の様子のおかしさに気付いたようだ。

 

「……流、くん?」

 

 

 ……。

 

「あのさ____

 昨日、インキュベーターが来て、魔法少女について、全部話してくれたんだ」

 

「! ……流くん……!」

 

 サッと、いろはの顔色が変わる。

 

「そして、聞いたんだ。

 妹が……小雪が、この宇宙の命を 歪め続けていることも」

 

……流の表情を、いろはは これ以上直視できなかった……。

 

「……流くんには、知ってほしくなかったのに……」

 

 いろはは、力が抜けて、崩れ落ちそうになるのを……地面を踏みしめ、歯を食いしばり、とどまった。

 

 

 話は、再び昨夜に戻る____

 

 

 

********************

 

 

 

「そもそもなんで、小雪なんだ?

 お前の理論でいえば、俺も喜怒哀楽は激しいほうだし……

 少女じゃないけど、俺でも行けるんじゃないか?」

 

 『魔法少女講義』の後、流から質問が入る。

 

《……なるほど、()()()()()()確かにそうなんだけど……

 もう1つ、言い忘れていた要素があるんだ____因果だよ。》

 

「「 因果……? 」」

 

《うん。 世界を動かすほどの『繋がり(コネクション)』や『可能性』が大きいと、

 それだけ、得られるエネルギーに上乗せがされる。

 まぁ、流も、こうして僕が見えてるんだから、基準は越えてるけど、因果は中の下。

 あまり適材じゃないんだよね。》

 

 

 キュゥべえ、もといインキュベーターは、ご丁寧に説明してくれたが……小雪の中では、益々 謎が深まったようだ。

 

「……因果っていうのが、まだイマイチわかってないんだけど……

 でも、お地蔵様のお供えに行ったり、色んな活動をしているのは、お兄ちゃんだよ。

 普通は、お兄ちゃんのほうが、そういうのは多いものじゃないの?」

 

 

《……やれやれ、勘がいいね。 さっきも言ったけれど、聞かれれば言わない道理はないさ。

 でも……いや、なんでもないや。

 僕としては、小雪が契約してくれれば、それでいいんだからね》

 

 

 

 

 

 

 

____
(B)秋月家と その因果の真実
____

 

 

 流石に頭を使いすぎて頭痛がしてきた……。

 僕たちだって、最初は、流が強い因果を秘めているように見えていたさ。

 

 ……最初に確認しておくけど、

 因果というのは、流たちの言う『徳』と同じだと思ってくれていいよ。

 

 うん、それで、流の因果を利用しようと思って、調査を進めていたら____

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが判明したんだ。

 

 流、君の徳はね____

 君自身の強い思いによって、ほぼ 小雪に譲渡されてしまってるんだよ。

 

 わけがわからない?

 いいや、わかるはずだよ、思い返してごらん。

 

 

 ____『秋月小雪』が生まれ落ちた その日。

 

小雪は生まれつき呼吸器系が弱かった上に、『胎便吸引症候群*13』というものになっていた。

 

 その病気は、普通に助かる*14こともあれば、深刻な合併症を引き起こすこともあるし、

 ……まぁ、必ず死ぬような病気ではない。

 

 だけど、本来なら、小雪の運命は____隔世(かくりよ)、つまり、あの世に在ったんだ。

 ストレートに言うと、絶対死ぬってことだ。

 

 じゃあ、何故、今こうして、小雪は生きているんだと思う?

 

 ……答えを出す前に、1つ____()()()、君は何を望んだ?

 どういう結果を、どういう未来を、どういう()()を……君は、夢見たんだい?

 

 生 き て 、 と。

 

 君は、小雪の命を、『運命』という絶対的存在から、()()()としたんじゃないのかい?

 

 ……本当に、凄いよ君は。

 その『絶対』を捻じ曲げてまで、ここに至ってるんだもんね。

 

 だけど流、()()を得るには、代償がつきものって、知ってるかな?

 

 僕たちの 魔法少女システム然り。

 勉強やスポーツや芸術で、何か成果を収めようと思っても、努力という労、その時間。

 全ての『欲しい結果』は、何かの犠牲の上に、成り立っているんだ。

 

 秋月小雪____君は、今までに、何人の魂を糧にしてきたんだい?

 『君が生きる』____そのことのために、いくつの命が縮められ、消されたんだい?

 

 出鱈目を言っていると思われたくないから、例を出そう。

 

 ____君の両親

 彼や彼女は、元々、普通に老いて死ぬ運命にあった。

 だけどそれが、どうなってしまっている?

 

 君が退院して間もなく、()()()()()()、秋月家の車が通っていた道路が陥没を起こして、

車内の両親と流は、橋から落下____流は()()()()無傷だったが、両親は後頭部強打で即死。

 

 これだけじゃないよ。

 君が、肺の病気で病院暮らしをしている間、いくつの惨いことが起こったかな?

 

 そして、これから、どんな悲劇が起こり続けるんだろうね?

 君は、いくつの国の、いくつの星の、いくつの銀河の命を歪めていくのかな?

 この宇宙の中の、どれほどの魂を、血肉にしていくのかな?

 

 君の存在は、魔法少女が討伐している魔女と、さして変わりない。

 むしろ、それ以上だね。

 

 小雪、君は、世界の法則に逆らって罪を犯し(生き)続けている、呪われ子、忌み子なんだよ。

 

 

 

 ……流、僕に殴りかかる前に、もう少し話を聞いてほしい。

 打開策は、ちゃんとあるんだ。

 

 そう、因果を開花させ、解き放つこと!

 つまり、小雪が魔法少女になる、ということなんだ。

 

 

 魔法少女になれば、不本意ながら周りを不幸にさせてしまう 因果から逃れられるし、

 肉体と魂を切り離すことで、身体能力が強化された、健康な体を手に入れられる!

 ついでに、願いも1つ、叶っちゃうんだ。

 

 どうだい、悪い話じゃあないだろう?

 明日までに、どうするか考えておいてね。

 

 

 

 

********************

 

 

 

「ごめん……いろは」

 

「ううん、流くんのせいじゃない、絶対……」

 

 頭が、くらくらする。

 

 いろはは、軽く眩暈を覚えながらも、何とか正気を保って、流と会話を続けていた。

 

 流も流で、()()()()()()()()()()()

 

 小雪を悲しませた、傷つけた。 何だか大変なことになっている。

 それだけは感じ取ったので、とりあえず、謝らずにはいられなかった。

 

「一先ず、病院に戻ろう、ね?」

 

「……あぁ」

 

 脳が ぐゎんぐゎんと、くぐもった音で鳴る。

 心臓がギュゥウッと冷たく締め付けられるようで、言いようもなく苦しい。

 

 何かを考えるという余裕もなく、なんとなくの判断で、ふたりは病院に向かっていった。

 

 

 

********************

 

 

 

 ____死ねない。

 

 

 何を試してみても、死ぬことができない。

 

 窓から身投げするとか、点滴のチューブで首を絞めるとか。

 やろうとしても、絶妙なタイミングで、邪魔が入ってしまう。

 

 わたしは、どうやっても()()()ことができない。

 

 

 

 ……。

 

 ……小雪は、昨夜から、そんな苦痛と絶望に苛まれていた。

 

 だけど、これなら……。

 

 ベッドの中で、小雪は、瞳に絶望色の希望を宿す。

 いつも、お兄ちゃんが果物をむくときに使っている、小型のナイフ(ステンレス製)。

 

 きっと。

 これで、わたしは____

 

 

「____小雪ッ、起きてるかー?」

 

「! ……」

 

 あぁ、だめだよ、わたし……。

 

 お兄ちゃんの悲しむ顔を、見られるわけ、ない……!

 でも、そんなワガママのせいで、私は また……!!

 

「……起きてるよ♪」

 

 ナイフをこっそり片付けて、心の内では泣きながら。

 小雪は、()()()()()と、隣にいる()()()()に笑いかけた。

 

 お姉さんは、ベッドに近寄って、自己紹介してくれる。

 

「初めまして、小雪ちゃん。

 私は 環いろは____魔法少女だよ」

 

「!! ……」

 

 まほう、しょうじょ。

 

 ……その1単語で、昨日の話が思い起こされる。

 

「! ……小雪!?」

 

「小雪ちゃん!?」

 

 

 ……途端に慌てだす 流といろはを数秒、呆然と見つめ____小雪は、気づいてしまった。

 

 ____わたし、泣いてる……?

 

 

 なんで? なんで、なんで、ねぇ。

 だめだよ、わたし。 こまらせちゃ……。

 だって、だって わたしは、わるい人で……!

 

 わたし、わたしは……。

 

 わ……た、し……。

 

「ゃ、だ……」

 

「小雪……」

「小雪ちゃん……」

 

「いやだ、いやだいやだ、いやだよ……!」

 

 きのうのことが、なかったらいいのに。

 今までが、ないことになったら、いいのに。

 

 このままだったら、わたしはもっと、わるい子になる。

 

 魔法少女になるのもいいけど、でも、まだ()()()

 

 でも、おかしいよ。

 なんで、こんなに なやまなきゃいけないの?

 

 だって……。

 

 

「わたし、生きたいのに……!」

 

 それだけ、なんだよ?

 

 今日も、ちゃんと生きられてる。

 ……それが、わたしの一番の幸せのはず、だったのに。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん____」

 

 いつものように、笑いかける。

 

 

「____『幸せ』って、何なんだろうね」

 

 

 

「……」

 

 お兄ちゃんは、わたしに何も言ってはくれない。

 

「わかんなくなっちゃったよ。

 わたしの生きる幸せが、わたしの だいじな時間が、うそだったんだもん。

 今のわたしだって、本当はなかった、うそなんだもん。 わたしは、ぜんぶ……!」

 

 

 

**********

 

 

 

 ____違う。

 

 と、流は声を大にして言いたかった。

 

 元はと言えば、俺が運命を捻じ曲げたせいなんだ、と。

 

 流は、小雪の表情を、これ以上見ていられなかった。

 ()()()()()()()()()()()()と。 あの日の自分と、重なるから。

 

 

 ____なんでだよ、なんでこんな……!

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()、あの日。

 

 どうしようもなくて。

 何とかする術も、現実から逃れる術も。

 

 流は、暫く愕然とした後、涙を流しながら、自然と笑みを浮かべていた。

 

 

 あんまりだよ、こんなの。

 どうしてくれるんだよ。

 

 どうすれば、いいんだよ____

 

 ……ある種の乾いた笑いとともに、流は生徒会メンバーに問いかけていた。

 

 

 あの日は、絶望を振り払いたかったのか、何なのか。

 その後、1人で屋台をやったっけか。

 

 

 ……小雪に、何か言葉をかけてやりたい。

 多分、小雪もそれを望んでいる。

 

 とは言っても、経験上、こうまで精神がやられると、以外と どんな言葉も頭にはいらないものだ。

 

 どうすれば……。

 

 

「____生きよう、小雪ちゃん!」

 

「「 ! …… 」」

 

 兄妹は、一斉にいろはを見た。

 いろはは、小雪の手を包み込むように握り、彼女の目をしっかりと見つめている。

 

「あなたも、あなたのお兄ちゃんも、悪くない!」

 

「だ、だけど わたし……」

 

「小雪ちゃんの、せいじゃないよ! 大丈夫、生きよう!

 あなたが一番『幸せ』だと思える生き方を、考えてみようよ!」

 

 いろはの言葉に数秒、小雪はフリーズしていたが……。

 

「……いいの……?」

 

「いいに決まってるだろ!」

 

 未だ迷いを見せる小雪に、大好きな兄からの声が。

 

「それに、可愛い妹を守るのが、『お兄ちゃん』だからな!

 小雪のためなら、いくらでも頑張るぜ!」

 

「だったら!」

 

 思わず、小雪は声を張り上げた。

 

「だったら、お兄ちゃん……

 もし わたしが魔法少女になって、そして魔女になってしまったら……」

 

「! ……小雪……」

 

「そうなったら、お兄ちゃんは、わたしのために、なにをしてくれる?」

 

「俺は____」

 

 即答、だった。

 あまりにも早い反応に、小雪は少し戸惑う。

 

「さっきのインキュベーターの話で『魔女は人を食う』ってあったけど……

 まず絶対、そんなことは全力で止める。

 そんでもって、魔女から元に戻れる方法がないか探しまくって、それでも駄目なら……」

 

 かがんで顔の位置を合わせた上で、流は、小雪をまっすぐに見つめた。

 

「俺が、小雪を()()()みせる」

(意訳)「俺が、小雪の命を終わらせる」

 

 その言葉を聞いて、安心のためか、小雪は ふにゃっと気の抜けたように笑う。

 ↑自分が『自分』のまま死ねるため。

「わかった、任せて、お兄ちゃん、いろはさん。

 これ以上なにも失わないように____わたし、がんばるから」

 

 一拍おいて、小雪は続ける。

 

 

「お兄ちゃんの『夢』と同じように、

 わたしも、みんなで一緒に、幸せになるの!」

 

 そして、涙を拭い、心からの笑みを見せた。

 

 

「____約束ね!」

 

 

  

 

  

 

  

 

 

  

 

 

  

 

 

《やぁ、やっと契約する気になってくれたかな?》

 

 

 その笑顔を脅かすかの如く、窓には1匹の白い悪魔が、ちょこんと座っていた。

 

「お前、どの面下げて……っ!」

 

「流くん、駄目、どれだけ言っても通じないよ」

 

 普通のキュゥべえには、感情なんてないから……。

 

 いろはが言う、そのセリフは文面のみなら冷静に思われるが、実際の言い方には昂った気持ちが滲み出ている。

 何かしらの負の感情を必死に抑え込んでいる様子である。

 

 

「……うん、今すぐ、あなたと契約する。

 なんでも思ったとおりに、かなえてくれるんでしょ?」

 

《そうだよ、小雪。 なんだっていいんだ》

 

 キュゥべえは、仮面じみた笑みを、顔面に張り付けた。

 

「……それなら、わたしは……!」

 

 小雪は一度、瞬きをし、そして、力強い声で、願いを述べた。

 

 

 

 

 

お兄ちゃんやみんなの幸せを大切にしたい!

 

 

 

 

 

 

「 わたしは、みんなの本当の『幸せ』の解のありよう(在り様)を、否定したくないの!

 もうこれ以上、不幸せにさせない! ぜんぶ! ぜんぶ、わたしの願いで!! 」

 

 

 インキュベーターは、すぐさま、この願いの結果を演算した。

 

 この願い方からして、『兄の幸せ』が一番大きな影響を持って実現しやすい。

 そして、その流の願いは……。

 

《なッ!? そんな話、前代未聞だよ!

 本当に、そういうことして上手くいくとでも思っているのかい……!?》

 

 感情がないはずのインキュベーターをも、狼狽させる。

 

「叶うさ」

 

 流が、すぐに断言した。

 

「どんな願いでも、叶うんだろ?

 なら、これが成功しない道理はないね」

 

 

因果()を渡すことなく小雪の幸せが叶う

 

 

「____そんな、無茶苦茶な願いでも」

 

《本当に無茶苦茶だ、君たちは世界をどこまで歪める気なんだい?》

 

 

 ソイツの問いに、いろはが、流の肩に手を置いて、答えた。

 

「違うよ、キュゥべえ。 私たちは『歪める』ことなんてしない」

 

「あぁ____創るんだ。 みんなの理想郷を。

 それを邪魔する『お決まり』や『しがらみ』は、打ち割ってしまえばいい!」

 

 強気な流、そして、彼に並び立ち、唇を一文字に結ぶ いろは。

 

 

《……そうやって自信を持っていられるのも、今のうちだよ。

 そんなに上手く行くわけがないんだ。 小雪1人の力で……》

 

 インキュベーターは、そう呟いて、小雪に目を移す。

 

 その双眸には____因果を使用しなかったことによって、ソウルジェムの生成に難航し、苦痛の声を漏らしている、小雪がいた。

 

 

 

**********

 

 

 ……。

 

 ____そうだね、無理かもしれない。 ()()()1()()()()()()……。

 

 

 そんな優しい声音が頭に響き、小雪は、夢心地の中 目を覚ました。

 

「だ、れ……?」

 

 小雪は寝ぼけた声で そう聞くが、声の主は静かに笑うばかり。

 

 

 ____大丈夫、あなたの思い、無駄になんてさせないよ。

 

 ____私は直接そっちには行けないけど、どうか頑張って。

 

 

 

 

 

 

この特異な()()のために____

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ふわり、と。

 

 心の中に、柔らかな桃色の羽が舞い降りてくる。

 

 

 そんな幻が、小雪の(まぶた)の裏に映った。

 

 

 

 

**********

 

 

 

「ぁぁぁあああああああああっ!! ……」

 

 気合いを込めて、小雪はソウルジェム生成の苦痛を乗り切る。

 

 

《本当に、こんなことが……!》

 

「「やった!」」

 

 いよいよ狼狽えるインキュベーターと、歓喜する 流といろは。

 

 少し荒い呼吸をしている小雪の手のひらの内には、しっかりとソウルジェムがあった。

 

 その色は、水色に透き通っていて、内側では、桃色の光が とろとろと渦巻き、淡い光を放っている。

 

 

《いや、起こりうるはずがない!》

 

 インキュベーターは、混乱しているようだ。

 

《不可解なことが多すぎる、なんで()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()んだい?

 そもそも、こんな大規模な願いを叶えれば、

 ソウルジェムが即 穢れを吸い込んで、無事ではいられないはず、そのはずなのに……!》

 

「さいごの疑問には、答えられるよ」

 

 そんなインキュベーターに、小雪が声をかける。

 

 

 ところで、魔法少女には、自分の願いに対応して付随する『固有魔法』を、最初から自然と把握している者と、そうでない者がいるのだが……。

 

「それは、わたしの固有魔法が、『希望への転移』だから。

 その魔法の効果で、わたしのジェムは、()()()()()()()()()()()()。」

 

 小雪は、前者であった。

 

 

「ってことは!」

 

 流が、さらなる喜びの声を上げる。

 

「うん____わたしは、()()()()()()()()

 なんでも、あなたの思い通りにはさせないよ、キュゥべえ」

 

《!! ……こんな、こんなことが……!》

 

 あまりの衝撃に、インキュベーターは、人形のような紅い瞳で、ただただ小雪を凝視していた。

 

 

 

********************

 

 

 

「……何が起こっているのかな?」

 

 そして ここにも、衝撃を受けている人が、1人。

 

 ミスター慧眼人____組織・ComeTrueが首領。

 

 彼は、モニターを見つめながら、高速で頭を回転させる。

 何しろ、今の一連の流れは、疑問点だらけなのだ。

 

「ね、何なんだろうね? この『繋がらない』感じ____」

 

 ミスター慧眼人は、『本来の世界の姿』を再生する……。

 

 

 

 

願いを叶えた小雪は、システムに逆らった代償により、

固有魔法により浄化が追い付かないスピードで、ジェムを濁らせてしまい、

史上最低最悪の魔女になった。

その魔女は、あらゆるものを、見境なく絶望へと変えていく。

地球の全ての命は、この魔女の手によって、生命エネルギーを絶望の力にされ、絶命し、

インキュベーターは、十分量の熱エネルギーを、

魔女が『絶望に転換する』際に発生したエネルギーを使って得ることができた。

遂には、地球の核にある膨大なエネルギーも絶望に落とされ、

この母なる星は、終末の時を迎え、崩れ去ってしまった。

しかし、魔女の活動は、まだ止まらない。

魔女は、宇宙を漂い、あらゆる生命をその力で破壊していった。*15

終いには、インキュベーターの星までも。*16

……もう、止める術は無くなった。

後は、宇宙が無に戻るだけ。

そこまでやっても、魔女は満足しなかった。

その性質が災いし、力を使う対象がなくなると、今度は自分自身を壊しだしたのだ。

『成人』して一番最初に栄養にした、彼。

彼が死してなお、一体となり添い歩いていた、幼かりし魔法少女の、『希望』。

最後に彼の存在を消して、魔女は、そっと息絶えた。

ごめん、止められなくて。

ずっと辛い思いをさせて。

もう、こんな結末、二度と繰り返させない。

……『砂時計』がひっくり返った、その先。

そこで、安心して待ってろよ。

今度は、幸せになれるように。

望み通りの形で、生きていられるように。

『まどか』と一緒に、見守ってる。

その絶える瞬間を待っていたのが、ミスター慧眼人。

彼は、『みっつめのセカイ』から、この世界を……

その時、()()宇宙がひっくり返った。

 

 

 

 

 

「……やっぱり、おかしいな……おい、ボタン!」

 

「ん~、何か用かな……☆」

 

 どこからともなく出現した、テンジクボタン。

 彼は、先程の動画をボタンに見せる。

 

 

「……。 違和感の正体はわからないけど、わかったことが、あるよ……☆」

 

「それは、どういうことなのかな?」

 

「____断言しちゃうけど、コレ、他の組織やアカシックの奴らの所業じゃないね……☆」

 

 全く別次元の連中が、巧妙に誤魔化してるね……ボタンは続けた。

 

「だから、ボタンたちのような高次元の存在にも、ぜぇんぜん わっかんな~い……☆」

 

「……まぁ、仕掛け人が多少絞り込めたと考えれば、収穫かな……」

 

 ただ、母数が把握できていないんじゃあね……ミスター慧眼人は密かに嘆いた。

 

「とりあえず、『アイツ』に伝えておこう」

 

 

 ____憎むべき敵が増えた、ってね。

 

 

 

********************

 

 

 

「……いやぁ、本当に何が起こっているんでしょうねぇ……」

 

 一方、ハセ・ガワ氏も、PCの画面を見つめながら、頭を抱えた。

 

 もう何もかもが、矛盾だらけなのだ。

 

「だって、裏秋がアカシックにいたという記録自体が、捏造クサいんですもんねぇ……」

 

 テンジクボタンと裏流月 裏秋を とっちめるため、アカシックの者たちと連携して、ふたりの経歴を洗っていたところ、ボタンはともかくとして、裏秋の経歴に、様々なヌケや穴が見られたのだ。

 

 アカシックの世界の時間は、『円環的』な時間。

 少々 小細工をしたところで、アカシックの人々の目を欺くことはできない。

 

 ____裏秋は、()()()()()()()アカシックの住人として欺き、人々の間に知らぬ間に溶け込み、そして、アカシックを裏切った。

 

 第1捜査の結果は、そうだった。

 しかし、その綻びだらけの記録すらも全て、更なる嘘で塗り固められてあったのだ。

 

 ____『裏秋』と名乗る彼は、最初っから、アカシックで暮らしていたことなど、なかった。

 

 何者かが、アカシックの人々全員の記憶を____ボタンのソレすらも____改竄し、彼の幻影をアカシックの世界の中に投影した。

 ()()()穴だらけになっている、偽装された記録は、その実態を覆い隠すためのダミーだったのだ。

 

 これが、氏やアカシックの人々が、最終的に出した結論。

 

「……と、しても、いったい誰が?

 裏秋1人で、ここまで大掛かりなことができるとは、到底思えない。

 何か、別の大きな存在が____でも、まるで見当がつきませんねぇ。 困った、困った」

 

 そして、ここまで結論が出たときに、生じる新たな疑問。

 

 ……テンジクボタンは、絶対に悪意をもって行動している。

 だが、仲間(ボタン)すらも騙す、裏秋の真意は一体?

 

「彼の目的は、何なんでしょうねぇ……。

 それがわからない限りは、こちらも大きく動くことはできない。

 神様がいらっしゃるなら、こう、パァ~ッ☆と都合よく現れて、教えてくれませんかね?」

 

 

 ____待つこと、3分。

 

「……駄目みたいですねぇ。

 やれやれ、ここ最近は、心身ともに休まる暇もない。

 こうして時間を無駄にするくらいなら、即席麺でも作っておけばよかった。

 ……いや、そもそもここに、そんなものはなかったか……」

 

 こう口にした後、本当にお腹が空いてしまったのか……彼はゆっくり立ち上がって、隣室の冷蔵庫から、昨日買った『納豆餃子(12個入り)』を取り出した。

 

 

 

********************

 

 

 

 ____神浜市の境界付近

 

 

「……おい、あすみよォ。 どうした? そんなしかめっ面して」

 

 スマホを苦い顔して見つめる 神名あすみに、近づいて声をかけたのは____

 

「……トラゴロー」

 

 ____虎、だった。

 

 筋肉隆々で、デカくて、二足歩行で、しかも(しっぶい声で)喋る、虎だった。

 

 名は『トラゴロー』というらしい。

 どこぞの『しましま虎の なんとかじろう』を 思い起こさせる名前である。

 

 変な虎がいることはさて置き、あすみは彼に、不機嫌そうに返答した。

 

「また、いけ好かない奴が現れたのよ。 私の()()を邪魔する奴が……」

 

「フン、どこの偽善者サマなんだかねェ、ソイツぁ____ちょっと見せてみな」

 

 あすみが素直にスマホを貸すと、メッセージを一読したトラゴローは、まだ見ぬ『偽善者サマ』を嘲笑うかのように、再び鼻を鳴らした。

 

「『みんなの幸せ』って抜かしやがるたァ 笑わせてくれるぜ。

 なァーにが()()()だ。

 そういう類の『みんな』っつーのは、『大多数』か『発言者のお仲間』だけが対象内なんだ」

 

 思考回路は、『都合のいい身近な奴だけを()()()に括って、玩具をねだる小学生*17』と、何ら変わりは()ェ。

 

「どうする、あすみサンよ……つっても、やるこた決まってるわな」

 

「えぇ」

 

 トラゴローからスマホを受け取り、ソレを握る手に力を籠めると……あすみは、凄みのある声で言い放った。

 

 

「____潰して、私たちの幸せの糧になってもらう」

 

 

 サヨナラ勝ち、決めるわよ____と、彼女はトラゴローに頷いた。

 

 

 

********************

 

 

 

 ____みっつめのセカイ・希望が花 *18

 

 

「つぼみちゃ~ん! えりか~! いつきちゃ~ん! ゆりさ~ん!」

 

 聞き馴染んだ声に、『花咲つぼみ(キュアブロッサム)』、『来海えりか(キュアマリン)』、『明堂院いつき(キュアサンシャイン)』、『月影ゆり(キュアムーンライト)』が振り向く。

 

 

「あっ、来ましたね!」

 

「なぎささ~ん、ほのかさ~ん、ひかりぃ~!」

 

 順に、つぼみ、えりかの声が、嬉しげに響く。

 

「やっほー!」

 

 先程4人の名前を呼んだ少女・美墨なぎさが、大きく手を振る えりかに、負けないぐらい振り返す。

 ……そして、合流した4人と3人は、街路樹の花が咲き乱れるのをバックにして、きゃいきゃいとはしゃいだ。

 

 

 なぎさたちは、一部の読者様方のお察しの通り、プリキュア____それも、初代の『ふたりはプリキュア』、『ふたりはプリキュアMaxHeart』のメンバーである。*19

 

 『美墨なぎさ(キュアブラック)』、『雪城ほのか(キュアホワイト)』、『九条ひかり(シャイニールミナス)』の3人は、この地・希望が花にて大きな祭りがあると聞き、その日に合わせて、つぼみらと待ち合わせをしていたのだ。

 

 

「じゃあ、どこから行こうか?」

 

 花吹雪の中、ゆっくり歩道を進む途中で、いつきが聞くと。

 

「そりゃー、もっちろん、私んちの『フェアリードロップ』*20でしょ~!」

 

「植物園でも、おばあちゃん*21が準備して待ってますよ!」

 

 えりかとつぼみが、口々に身内関係の場所をお勧めしだすと、ゆりがそれを窘める。

 

「落ち着きなさい。

 そもそもこういう時は、遊びに来てくれた なぎさたちの意見を最初に聞くものよ」

 

「あ、あぁ、いや……あたしとしては、勝手に連れまわしてくれても問題ないんだけど……。

 じゃあ、ほのかとひかりはどこ行きたい?」

 

 恐れ入りつつ、なぎさが聞けば、ほのかが口を開く。

 

「そうね、私は____」

 

 

「……あの……!」

 

 答えようとしたその時、すぐ背後から、鈴を鳴らしたような可愛らしい声が響いた。

 その声の主は……。

 

「「「「 ? ……さな (ちゃん/さん)!? 」」」」

 

 何時ぞやの番外編・『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』でも少し触れた、『チームみかづき荘』の防御担当・二葉さな である。

 

 

「さなさん、どうしたんですか? 変身した姿で……」

 

 心配して ひかりが問うと、さなは、目じりに少し涙を滲ませながら訴えた。

 

「大変なんです!

 『神名あすみ』って魔法少女が現れて、神浜が……いろはさんも、みんなも……!」

 

 焦りのあまりか、内容がかなりアバウトになってしまっているが、それでも十分、なぎさたちや つぼみたちには伝わった。

 

「わかった、あたしたちもすぐ向かうよ!」

 

「神浜の、どこですか?」

 

「えっと……北養区の山中の、開けて野原になっているところですが____

 相手がかなり派手に暴れてしまっているので、すぐわかると思います」

 

 それを聞いて、ほのかとゆりが彼女に短く言葉をかけた。

 

「わかったわ、ありがとう」

 

「さなちゃん*22*23も、気を付けて」

 

「はい! 見滝原の魔法少女も誘って、すぐに戻ります!」

 

 そう言うなり駆けだし、あっという間に地平線の向こうに消える さな。

 

「……あーもぅ、よりによってこんな日にぃ!」

 

「そうね……終わったら、いろはさんたちも誘って、お祭り楽しみましょう?」

 

 頭をわしゃわしゃと掻きむしる えりかに、苦笑混じりのほのか。

 

 ____絶対、お祭りを堪能できるように、間に合わせてやるんだから……と、なぎさやつぼみたちは、戦地に赴くべく、キリッと表情を引き締めた。

 

 

*24

*25

 

 

 

*******************

 

 

 

 ____高校・2年某クラス・朝会前

 

 

「……めっずらしいなぁ、流がまだ学校来てないとか」

 

 飯島の呟きに、たまたま近くにいたナミが、スマホ画面を指し示しながら答える。

 

「さっき、クラスLIME*26来てたけど、『野暮用で妹のとこ行ってる』……んだって」

 

「妹さんのとこ……病院か? ……なにかあったんだろうか……」

 

 腕を組んで、そう心配する(たまたま近くにいた)アルト。

 

 

「____うっし! いっちょ、学校抜け出して様子見に行くかっ!」

 

「「 !? …… 」」

 

「確かに心配ではあるけど、正気!?」

 

 少し離れたところで聞いていた のどかが、(こら)えきれず、飯島に物申す。

 

「いやぁ、だってなんか様子が妙じゃん?

 あくまで俺の勘だけど、どっか嫌な感じがするから、

 VUMメンバーみんな誘い合わせて行ってみてもいいかな____なんて」

 

 彼がここまで言った時、教室のドアが勢いよく開けられる。

 入室してきたのは……。

 

「皆さんっ! 流の妹さんのこと、もう聞かれましたか!?」

 

「やー、悪いな。

 生徒会用LIME見てから、虚が居ても立っても居られなくなっちゃったみたいで」

 

「「「「 ! …… 」」」」

 

 虚と、摩利だった。

 

「……飯島たちも、丁度そのことを話してたところです」

 

 今まで静観していた室斑が、立ち上がり、3年生2人に言う。

 

「タイミングいいな。

 まぁ、別に私は反対じゃないし あと学校抜けるの楽しそうだし(不謹慎)

 あとは、1年ちゃん(ルカ)と爺さん誘って行ってみるか……おっ?」

 

「せぇんぱ~い! 会長の妹さんが~~~!」

「妹さん! 流の妹さんが気になるんじゃぁ~!!」*27

 

「____ははっ、奇遇にもほどがある」

 

 噂をすれば……で、呼びに行こうとしていたメンバーが集まってくるのを見て、摩利は呆れつつ、おかしげに笑った。

 

 

 ……。

 

「はぁ~るぅ~こ~ぉろ~ぉの~はぁ~なぁ~のぉ~え~ん~♪」

 

「あー、それ、去年、中学の頃、音楽の授業でやりました!」

 

 病院への道中、のんびりとした会話が交わされる。

 

「……学校に戻ったら、どうしようか」

 

「そんなのどうだっていいじゃない、なんにしたって怒られるんだから……」

 

「言い訳せずに、素直に謝ったほうがいいかもね____ん?」

 

 のどかが何かに気づいたようで、一同も彼女の声に反応し、視線の先を追う。

 

 

「____小雪、体力は大丈夫か?」

 

「平気だよ、むしろ嘘みたいに動ける……!」

 

「ふたりとも、そろそろだよ!」

 

 

「「「「 あぁーっ!? 」」」」

 

 なんと、今から会おうと思っていた流と小雪、そしていろはがいた!

 

 てっきり、容体が急変でもしたんじゃないかと冷や冷やしていたのに、まさかの真逆だったとは! めっちゃ速く走ってる……。

 

「……あっ、消えてく……?」

 

 呆然と眺めていると、突如、流たちの前の空間が歪み、3人の姿が、その穴の中に吸い込まれていった。

 

「……追います! 追うしかないですっ!」

 

「OK!」

「了解」

 

 誰かが そう声を上げると同時に、メンバーは一斉に駆け出す。

 

 時空の穴はどんどん小さくなっていっているが、まだ余裕で飛び込めるサイズだ。

 

「「「「 とりゃぁぁぁぁあっ!! 」」」」

 

 思いっきり助走をつけて飛び込み、全員、穴の中に消えていく……。

 

 それから間もなく、穴は、何事もなかったかのように閉じ切った。

 

 

 

********************

 

 

 

 ____病院内・小雪の病室

 

 

 あれから結局、キュゥべえは、「もう1度、調査しなおさなきゃな……」と、窓から帰っていったため、後には、流、小雪、いろはの3人が残された。

 

「……凄いことになったな……」

 

「うん……。

 でも、これでわたし、もう病気に苦しまなくてもいいんだよね?

 学校にも通えるし、美星祭にも……!」

 

 小雪が、未だ実感がイマイチわかないながらも、幸せを夢見心地で味わっていると____

 

 

  ____テッレテレレン テレレレテッレ テッレッテレレン テレレレテッレ♪

 

「あっ、ごめんなさい、やちよさんから電話だ……」

 

「病院内では、電源を切るかマナーモードだよ、いろはさん」

 

 小雪からの正論に、「ごめんね……」と重ねて誤った彼女は、罪悪感のためか、部屋の隅っこに移動しつつ、電話に出る。

 

「もしもし、やちよさん?」

 

『! ……いろは、出来れば今すぐ戻って!』

 

「な、なにがあったんですか!?」

 

 スーパーで何かしらのお得情報があった、というわけではなさそうだ。 少なくとも。

 

『北養区、山の中腹の野原で、セイラムという組織が暴れ始めたわ!

 向かえる人で応急処置にあたったけど、正直苦しい状況だから____』

 

戦闘中に電話なんて、随分と余裕ね……?

 

『っ!?』

 

 電波越しに伝わる、金属音、発砲音、破壊音……。

 

「や、やちよさん!?」

 

『____お電話変わりまして、鶴乃だよ、いろはちゃんっ!』

 

「つ、鶴乃ちゃん!

 ……やちよさんは大丈夫!?」

 

ししょー(師匠)なら問題ないよ!

 一時的に集中放火されてるけど、ギリギリ未成年(ベテラン)だけあって攻撃はほぼ当たってない!』

 

 鶴乃の言葉に、いろははホッと息をつく。

 

『相手の神名あすみって子は、神浜の自動浄化システムと……

 あと、アキツキコユキって人を狙ってるみたい!

 いろはちゃん、こないだ、この人のこと話してなかったっけ?』

 

「! ……うん……でも、あのこと(魔法少女化)が、そんなに早く伝わってるわけ____」

 

『……いろはちゃん? どうし____うわぁぁあっ!?』

 

 大きな爆撃音が、いろはをさらに焦らせる。

 

「鶴乃ちゃんっ!

 待ってて、すぐ行くから!」

 

 画面をタップして通話を切り、スマホを素早く仕舞って、いろはは流と小雪に、やや早口で言った。

 

「今、みっつめのセカイで、『セイラム』っていう組織が暴れてるみたい……!

 向こうの戦力が足りないみたいだし、小雪ちゃんも魔法少女ではあるけど、

 相手は小雪ちゃんも狙ってるようだから、危ないし私1人で……」

 

「ううん、わたし、行くよ」

 

 いろはの言葉を遮る 小雪。

 誰の言葉が挟まれる間もなく、小雪は次の言葉を紡ぐ。

 

「目当ての わたしが行けば、逆に少しでも神浜の被害が小さくなるかもしれないし____

 それに、わたしには すごい固有魔法があるもん!

 サポートぐらいなら、バッチリ役に立てるよ!」

 

 この言葉を聞いて、いろはは考えた。

 

 ……神浜には、小雪の固有魔法と似たような機能があるが、()()()は、完全にジェムが濁りきってから起動する物だ。

 ジェムが濁る寸前の辺りは、心身に負荷がかかって、戦闘不能に近しい状態になることも多い。

 それは断然、強い相手には致命的な欠点だ。

 小雪の固有魔法は、まさに向こうで欲せられている物かもしれない。

 

 ____後ろのほうにいるだけなら、大丈夫かな……?

 

「……わかった。 よろしくね……!」

 

 いろはが頷くと、流が挙手して彼女に聞く。

 

「俺も行っていいか?

 何もしないで待ってるだけなのも、性に合わないし……」

 

 迷惑はかけねぇから! と、彼はパチン!と手を合わせる。

 

「ふふっ、断っても、ついてくるつもりだったでしょ?

 いいよ、一緒に行こう!」

 

「おぅ!」

 

 3人は医療従事者の目をかいくぐって病室を抜け出し、人通りの少ない渡り廊下に移動する。

 

 いろはが近くの窓を開け、見下ろすと……。

 

「うん、この高さなら大丈夫かな!」

 

「いやいやいや、十分高いぞ!? ってか何する気だ!」

 

 流の間髪入れぬツッコみが入る。

 

「え? 勿論ここから……」

 

「やめとけ!

 俺、前に似たようなことして、足の骨バッキバキのバッキンガム宮殿*28になったからな!?」

 

「大丈夫! 行くよっ!」

 

 言うなり、いろはは流を抱え、窓から飛び降りていく。

 

「えーいっ!」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、待て いろは____」

 

「あっ、いろはさん、待って~!」

 

 流が空中であたふたしていると、小雪も続けて飛び降りるのを目視した。

 

「きゃーっ♡ ()ぁのし~い♪♪♪」

 

「小雪ぃぃぃぃぃぃいっ!!??」

 

 ……。

 

 …………スタッ。

 

「ね? 大丈夫だったでしょ?」

 

 気づけば、特にこれといった事故もなく、いろはは流とともに、普通に着地していた。

 

「……凄ぇな、魔法少女……」

 

「わたしもヘーキだよ、お兄ちゃん♪」

 

「……本当に凄ぇな、魔法少女……!」

 

 そのセリフには、『妹がやっと自由に動き回れるようになった喜び』と、『それにしても色々と極端な気が……という困惑』が配合されており、その割合・1:9。

 

 今のシチュエーション下で、呑気に喜ぶ心の余裕など、勿論ほとんどないわけである。

 

「それはともかくとして、行こう、ふたりとも!」

 

「あぁ!」

「うん!」

 

 3人は再び、医療従事者に目撃されないようにしながら、『みっつめのセカイ』への入り口に向けて走っていった……。

 

 

 

********************

 

 

 

 ____みっつめのセカイ・神浜市北養区

 

 

「神浜の『自動浄化システム』は、ワタシたちが独占しているわけではなく、

 いずれ、地球中に広めようと思っているものです! もう攻撃はやめてください!」

 

「……だから、それが駄目なのよ。 ハァッ!」

 

「っ……!」

 

 やちよと同時期に魔法少女になった、『梓みふゆ』が、三日月形の剣で攻撃をいなしながら、あすみに訴えかけるも……相手方の様子からして、平和的解決には向かってくれないようだ。

 

 

 今現在、この場に集まっている味方の魔法少女は僅か。

 

 『みかづき荘』で暮らす、『七海やちよ』、『環うい』、『深月フェリシア』、『二葉さな』。

 

 みかづき荘に住んではいないが、『チームみかづき荘』に入っている、『由比鶴乃』。

 

 そして、先程述べた、『梓みふゆ』。

 

 ……ただ、計6人とはいえ、大ベテランや『最強さん*29』もメンツにいるはずなのに、たった1人の相手・神名あすみとは、やっと渡り合える程度。

 

 それは何故なのか……?

 

 

 ……。

 

「アイツの変な魔法のせいで、全然近づけねーじゃん!」

 

「でも、近づいたら、またジェムが濁って……」

 

「フェリシアちゃん、さなちゃん、頑張ろう! ねばって、お姉ちゃんを待とうよ!」

 

 きっと、すぐ来てくれるから! と、ういが励ます……。

 

 

 ……そう、近接系の武器ばかり持つこのメンツでは、神名あすみの『精神攻撃』の固有魔法と、モーニングスター(鎖付き鉄球)のとの、相性が悪かったのだ。

 

 元々 遠距離OKな鶴乃が炎を使って頑張ったり、やちよが槍を投げたり、みふゆが幻覚の固有魔法を使って撹乱したりなんだりしているが、なかなか勝負は決まらない。

 

 他にも、ういが『ツバメさん』を飛ばしたり、フェリシアが相手の足場をハンマーで「ドーン!*30」と崩してみたり、さなが魔法で透明になってアレコレしたりしてみたが、結果は芳しくなかった。

 

 

 ……。

 

「____みんな、お待たせ!」

 

「! ……おー! おせーぞ、いろは!」

「「 いろはさん! 」」

「いろは!」

「いろはちゃん!」

「お姉ちゃん! ……その人たちは?」

 

 ういが首を傾げながら、流と小雪に掌を向ける*31

 

「あ、えっと、俺、秋月流! よろしくな!」

 

「妹の小雪だよ♪ さっき、魔法少女になりました!」

 

 チームみかづき荘のメンバーと みふゆは、ふたりの自己紹介を聞いて、「あぁ」と、納得する。

 

「話には聞いているわ____そう、結局、魔法少女になることを選んだのね」

 

 やちよが軽く頷きつつ、小雪に話しかけると、

 

「うん。 ちゃんと、わたしの意志で。

 ……できることを、せいいっぱいがんばるので、よろしくお願いします!」

 

「えぇ、よろしくね。 秋月君も」

 

「おぅ!」

 

 流が片手を肩の高さに挙げて返事をすると、みふゆの緊張した声が飛ぶ。

 

「____やっちゃん*32、皆さん、来ますよ!」

 

「「「「 !! …… 」」」」

 

「環いろは、秋月小雪……!」

 

 苦い顔をして、モーニングスターを振り回しつつ迫って来る あすみ。

 

 彼女はまず、小雪をターゲットにしたようで、大きく跳躍すると、武器を彼女めがけて放ち、ブンッと鈍い音を鳴らす。

 

「わっ!?」

 

「小雪っ!」

 

 流が慌てて小雪を抱きしめ、後方へ飛びのく。

 

 狙いが外れても、あすみは鉄球の勢いを緩めず、そのまま いろはに向けて振るった。

 

「ハァッ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 いろはは咄嗟に避けつつも、クロスボウを構え……

 

「やァっ!!」

 

「っ……」

 

 ……反撃に、矢を数発放つ。

 当たりはしなかったものの、敵を少し離すことができた。

 

「……でも、どうして小雪ちゃんと いろはちゃんを狙うんだろう?

 いろはちゃんの方は、『神浜マギアユニオン』のリーダーだから、で一応説明がつくけど、

 だとしたら、小雪ちゃんは? なんで小雪ちゃんも……」

 

 距離的に余裕ができたことで、鶴乃が考え事を始めるが、いくら彼女の頭がいいとはいえ、まだ答えには辿り着けそうもなかった。

 

「小雪ちゃんの魔法少女化も今さっき初めて聞いたばかりだし、

 考察のための材料が少なすぎるよ……」

 

 彼女が、そう独りごちた時____

 

「「「「 流(先輩)~~~!!!! 」」」」

 

「! ……みんな!?」

 

 流たちの後を追って『みっつめのセカイ』に来たVUMメンバーが、戦地に到着。

 

「また何か大掛かりなことをやろうとしてただろ」

 

「一度巻き込んだからには、きっちり最後まで、私たちに迷惑かけきりなさいよね!」

 

 アルトとナミの言葉に、「それもそうだな、悪かった!」と、流は手を合わせる。

 

「単独行動()()()()()()()()ことについては、ワシは問題ないぞ?

 ()()()()()()、こうして組織一同で大暴れできるようになってるんじゃからなぁ!」

 

 ファンキー爺さんが杖を振り回しながら言ったのに続いて、他のメンバーたちも、流に声をかける。

 

「本の中の話みたいで、ワクワクさせてくれるわよね!」

 

「先輩となら、火の中水の中、異世界への穴の中です!」

 

「ってか、流お前、私ら 3年(年上)からも人望厚いの、気づいてないだろ?」

 

「私たちが朝、どれだけ心配したと思ってるんですか?」

 

「面倒事に対処するには当然、手数が多い方がいい。

 ……さっさと片付けて、近辺の甘味処を物色するぞ」

 

「ねぇ、さっきから森の小鳥が俺の頭を巣と勘違いしてるみたいなんだけど、どうすればいい?」

 

 ここ最近で状況が大きく変わり、新たな()()に身を投じざるを得なくなった流。*33

 しかし、彼の仲間は、いつもと変わらず彼を支えてくれている。

 

「みんな____サンキューベルマッチョ!!」

 

 流のお礼に、「問題ない」「あ、小鳥が卵を産み((」「当然のことをしたまでです!」などと、いつもの調子で返答をするメンバー。

 

 

「まぁ何にしろ、お嬢ちゃん1人に負けるワシらじゃないからな! このまま____」

 

「……馬鹿ね、いつから()1()()だと思ってたの?」

 

 水を差すように、それこそ水の如く冷やりとした口調で、あすみが言葉を発する。

 

「哀れな勘違いをされないために、わざわざ最初に、神浜の魔法少女たちに……」

 

 

____組織名で名乗ってあげたのに

 

 

 ____瞬間、小雪を除く魔法少女たちは、強い熱源が接近しているのを察知した。

 

「! ……さなちゃんっ!」

 

「いろはさん!」

 

プリキュア大好き(独り言)

a

aACON- @ -NECT

a

正直、ここの細かい調整は、文章書くより大変

 

 

 いろはと さなは急いで手をつなぎ、『コネクト』をする。

 ふたりの魔力が接続されると、途端に さなの固有武器である盾が10メートル以上にまで巨大化した。

 

「っ……!」

 

 さなが、一同を覆い隠すように ソレを掲げると、直後、相当量の火炎と熱波が、盾____というよりは、本来なら、その下にいる一同____目がけて襲い掛かってきた。

 

 

「____チッ、防がれちまったかよ。 クソほども面白くねェ」

 

「! ……誰っ!」

 

 どこからか響く、今の火炎を発したと思しき男性の声に、やちよは警戒して槍を構える。

 

、俺の顔なんざ、呼ばれなくとも これから嫌というほど拝ませてやんよ」

 

 そのセリフとともに、木陰から出てきた彼は____

 

「よォ、俺は『トラゴロー・ザイツェコフ』。 ()()()してくれや」

 

 

「……虎だ」

「虎ね」

「虎、ですね」

「虎さんだー」

「象と張り合ってそう(魔法瓶並感)」

 

「てゆーか、本当にコイツがやったのか?」

 

 各々の感想が述べられる中、摩利が疑わしげな目で、トラゴローの立派な筋肉を眺めると。

 

だーっ!! るっせぇ!

 テメェら、見た目が脳筋っぽいからって、ナメくさってんじゃねぇよ!

 さっきのアレは、俺が持ち前の技術を駆使して手配した! 間違いなくだ!!」

 

「……まぁ、虎が人間の言葉使えてる時点で、IQはそこそこありそうだもんな……」

 

 アルトの呆れ切った口調は、トラゴローの火に、油どころか爆鳴気*34を注いだようで*35……。

 

「……馬鹿にするのも、大概にしとけよ。

 『博士』に愛された俺が阿呆なわけがねぇ、と俺は自負し……実際に並の研究者よか()()だ。

 ……だのにそうやって、どいつもこいつも人間じゃねぇってだけで決めつけて____」

 

 彼の目が 妖しげに輝き、1人1人を、その眼光を以って射抜いていく。

 

「人間サマっつぅのは そんなに偉いか、あァン!?

 しかも最近は、フェミニズムだのマイノリティ尊重だの言って、

 ネットのお祭り大好き野郎が中途半端に馬鹿騒ぎしやがって……真面目にやってる奴に謝れ!

 

 トラゴローは、本当に悔しそうに地団駄を踏む。

 

「結局、ほとんどの人間は、自分より弱い奴をどこかで見下さなきゃ、やってけねぇクズだ!

 対等に扱おうとする人間が仮に現れても、白眼視して、内心でコケにして!

 だから、俺は手始めに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よう認めさせる!」

 

 名付けて『タイガリティ』運動だ!

 

「虎にも権利が行ってしまえば、そりゃ、人間サマは驚いて面玉引ん剝くだろうさ。

 もう人間の『障がい者』とか『LGBTQ』とか『少数民族』とかの物珍しさで、

 遊び半分に揶揄する奴は、きっとほとんどいなくなる。」

 

 世界を変えたきゃ、大胆な手を打つ!

 そしたら、それよりも規模の小さい変更は、気にされにくくなる。

 これこそ、真の平等な社会の始まりよ____

 

 ____と、トラゴローは熱弁を終えた。

 

「ってことで____邪魔モンは、消えてくんな」

 

 彼は、赤外線操作で、数台の火炎放射器を一同に向ける。

 

「まぁ、山火事が起きないようには調整してやる。

 狙いは人間野郎だけだからな。 感謝しやがれ」

 

 ニヤリと笑うトラゴロー。

 いろはは それを見て、うかうかしてはいられない、とばかりに、長い呪文を詠唱した後、クロスボウを天に向けた。

 

「イシュタル・グレイティアぁっ!!」

 

 

「いろは……」

 

「流くん、そしてVUMの皆も……

 こんなことしかできなくて申し訳ないけど、どうかそれで身を守って! ……ぅ……」

 

 そう言った直後、いろはは苦しげに膝から崩れ落ちる。

 

「いろはさんっ!

 ……あ、ソウルジェムが……ドッペルで戦うんですか?」

 

「うん、こうでもしないと……

 さなちゃん、ドッペルが出てきたタイミングで、相手がこっちに気を取られてる隙に、

 固有魔法で透明になって、ここを一旦離れて、増援を呼んできて!」

 

「……わかりました!」

 

「よろしくね、さなちゃん……きっとこれは、さなちゃんにしか できないと思うから……」

 

 さなが「はい!」と頷くやいなや、いろはのソウルジェムから禍々しいものがあふれ出し、彼女の髪の毛を媒体に、形を成していく____

 

 ……。

 

 

ふわ~って動き、できひんの?

Giovanna

 

沈黙のドッペル。その姿は、呼子鳥。

この感情の主は、自身のドッペルの情けなさを受け入れ、認める過程にいる。

このドッペルは何も語らないが、主の気持ちに耳を傾け、

『守るべきものは何か』という問いへの答えを、共に探し続けている。

呼びかけてくれる誰かがいる。 声を返す誰かがいる。

臆病だったドッペルは、その新たな現実に喜び打ち震え、自身を変えていく中途である。

 

 

 

 

********************

 

 

 

「いろはさん、みんな、待ってて……絶対、私が……!」

 

 異形の存在が展開された 先程の戦地も、既に後方遠く。

 さなは、助けを求めるため、知り合いの暮らす地、希望が花へと駆けていった……。

 

 

 

 

 !TO BE CONTINUED!

____まさかの後編に続く、ガチのコンティニュード____

 

 

 

*1
ローリングストック、大事。 フードロスを抑える、台所担当の鑑。

*2
主婦あるある。

*3
未開封であれば、本当に問題ない。 ただし、バター状になっちゃってるので、戻して使おう。

*4
キヨ(YouTuber)「ミッション・オーペン!」

*5
先生「ゆ"る"さ"ん"」

*6
出典:『仮面ライダーディケイド』、アマゾンのリマジ。

*7
??「笑えよベジータ」

*8
参考:ロアルド・ダール原作『チャーリーとチョコレート工場』

*9
NGテイク:いろは「悪い夜夢の()()()()に突き落とした。」

*10
下の名前を使うと、誰かと被ってしまうので……代わりに、彼女は占いが得意であるから『U』とする。

*11
尚、この時 チームで唯一、諸事情により不参加の者がいるが、流たちには関係ないので詳細を省いている。

*12
作中では『君の願い~』って言ってるけど、原文ママだと、文脈的に日本語おかしくなるから、勘弁してクレハカット

*13
胎便に汚染された羊水を吸引することで生じる。 処置せずに放っておくと、色々ヤバい。

*14
大輪愛がこれ。

*15
「君は、いくつの国の、いくつの星の、いくつの銀河の命を歪めていくのかな?」

*16
「この宇宙の中の、どれほどの魂を、血肉にしていくのかな?」

*17
「だって、みんな持ってるんだもん、買ってよ~!」

*18
ハートキャッチプリキュア! の面々が暮らす地名

*19
なぎさとほのかの物語は、途中でタイトルを変えて2年続いた。 2年目の『MaxHeart』からは ひかりが加わり、ストーリーにさらなる深みが出ている。

*20
ファッションショップ。 えりかの発言の通り、彼女の実家でもある。

*21
植物園の園長にして、つぼみの実の祖母。

*22
ノベライズ版『小説ハートキャッチプリキュア!』にて、まだハトプリチームが結成される前、ゆりは、えりかの姉・ももかに対して、えりかのことを『ちゃん』付けしていたため____関係の薄い年下には、同様の呼び方をするだろうと推測した。

*23
また、誰得ではあるが、初代・ハトプリ各チームの さなに対する呼び方は____『さな』…えりか、妖精たち 『さなちゃん』…なぎさ、つぼみ、いつき、ゆり 『さなさん』…ほのか、ひかり

*24
なお、さなは『願い』で透明人間になって、一般の人には見えなくなっているはずだが、見えちゃってるのは、『なぎさたちがプリキュアだから』で許してください。

*25
マギレコ未視聴者に補足するが、さなは透明人間になっていても、そのままでは魔法少女には見えている。 不可視化するには、更に透明化の魔法をかけなければならない。

*26
誤字に見えるけど、わざと『M』にしてます。 大人の都合って奴です。

*27
不法侵入? いいじゃねぇかやってやる!

*28
「……電車」 \ウェー/

*29
鶴乃のこと。 普通、自分で『最強』を名乗る人の実力は、一笑に付されるレベルのものだが……鶴乃は本当に、冗談抜きで強い。 「最強魔法少女・由比鶴乃とは、私のことだぁ~っ!」

*30
実際に声に出して叫んでいる

*31
人に指をささない、デキる子の鑑

*32
やちよのこと。

*33
「『日常』って、何なんだろうね」 \クジーケーナーイ/

*34
酸素と水素を1:2で混ぜた代物。 点火をすれば、激しく化合し、爆音を発して水になる。 detonating gas

*35
気体を注ぐって、何?






 もう何も語ることはない____

 という冗談はさておき。
 後編の進捗度0%なんで、感想送って オラに元気を分けてくれ。

 所々、隠し文字で後編への伏線を張っています。
 見てみるのも楽しいかも?
(たまに、個人的な愚痴や、見栄えをよくするための意味のない文字が入っていますが)

 さぁ皆様!
 面白くなるのは、ここからですよ~!

【祭梨乃・堕天=チョコバナナ(アローラのすがた)】





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【スピンオフ】Master P begins! (マスターPさまファンクラブ 会員No.728 作)


 オモチャにして下さい、と言ったな?
 好き勝手に書いても良いと……そういう事だな?

 ――――よかろう! ならば後悔するが良いッ!!

 覚悟せよ! マスターPさんッッ!!!!


※時間軸 世界の法則を乱す者 その後。





 

 

 

「――――ほぉ~う! わちゃあぁぁーーッッ!!」

 

 まるで仁王像のように逞しく、見る者が見れば「美しい」と形容するであろう太い腕が、目視の出来ないほどの速度で振るわれる。

 何度も、何度も、何度も!

 

「ひっ…………ひ で ぶ ぅ ー ッ !!」

 

 その途端、絵にかいたような悪党顔のモヒカン男が、まるで針で突かれた水風船の如く、その身を爆発させた。ブッシューという大きな音を立てて。

 

「うむ! 見事なり! マスターPよ!!」

 

 奥義を持って経絡秘孔を突き、悪漢を葬り去った男の名は、マスターP――――

 その背中に向けて、傍で一部始終を見守っていた老人が、愉快愉快と賛辞を贈る。

 

「今この時より、お主を“北斗神拳の伝承者”として認めようぞ!

 その力をもって、この乱世を生き抜いてゆくのじゃ!」

 

「はっ! ありがたきお言葉です! 老師!」

 

 現在マスターP氏は、北斗神拳の聖地とされる修行場に、身を寄せていた。

 あの日、突然ピンキー忍者によって“ひとつめの世界”から拉致されてしまい、なんとか謎の施設から脱走したは良いものの……、彼にはこの世界で頼れる人も無く、住む場所のあても無かった。

 

 ゆえにしばらくの間、右も左も分からないままに彷徨っていたのだが……、そんな彼が辿り着いたのが、この土地である。

 本来は俗世と隔絶された場所にあるハズの、北斗神拳宗家の修行場であった。

 

 何日も荒野を彷徨った疲労と空腹から、彼は流れに身を任せるまま、北斗神拳宗家に入門。

 ごはんをめぐんで貰い、泥のようにグッスリ眠った後、その次の日からは即、もう想像を絶する過酷な修行に打ち込む羽目となった。

 

「それにしても……。

 まさか北斗神拳の奥義を、一週間で全て会得する(・・・・・・・・・・)人間が、存在するとはの……。

 世界というんは、ほんに広いものじゃて」

 

「ほんとですね老師! 自分でもビックリですっ!」

 

 数々の武闘家を輩出してきた、北斗の偉いさん。

 そんな人から見ても、この男は「信じらんなーい」とか「人間じゃねぇ!」みたいな評価であるようだ。流石はマスターP氏である。

 とりあえず免許皆伝を貰い、ここでの修行を終えたマスターP氏は、衣服などが入ったナップサックを「よいしょ!」と担ぎ直す。

 そして、いそいそと門の方に向かって、歩き出した。

 

「これよりお主は自由の身。……じゃがマスターPよ?

 これから一体どこへ向かうつもりなのじゃ?」

 

「はい老師! とりあえず人里に降りて、いろいろ見て周ろうと思っております!

 この力を必要とする者が、どこかにいるかもしれませんし!」

 

「ほう! 実に天晴な心がけじゃ!

 頑張るのじゃぞ、北斗神拳の伝承者よ! 涙を笑顔に変えるのじゃ!」

 

 振り返り、グッと力こぶを作ってみせる。

 老師に向けてニコッと笑ってから、マスターP氏は改めて、外の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「あ~。残念だけど、今回は縁が無かったという事で」

 

 山を降り、人里にやってきたマスターP氏は、さっそく美星町にあるコンビニに立ち寄っていた。

 

「悪いけど、君にここのバイトは無理だと思う……。

 元気なのは良いんだけど、そんなんじゃ接客業は無理だよ……」

 

 そして落ちた――――バイトの面接に。

 彼は北斗神拳を習得したが、バイトの面接には落ちた。

 

「とりあえずは、履歴書の書き方から勉強したらどうかな……?

 こんな汚い字じゃ、誰も読めないし、書いてる内容も、ワケわかんない事だらけだし……。

 いくらアルバイトって言ったって、仕事には違いないんだからさ?

 何をやるにしても、やっぱ常識っていうのは必要だよ。……駄目だよそんなんじゃ」

 

「はい……。すんません……」

 

 面接に落ちた上に、軽く説教されるマスターP氏。

 店長さんからしたら、これは悪意からではなく、純然たるご厚意なのだろう。

 今も彼は、叱りつけるのではなく、終始穏やかな口調でアドバイスをしている。

 ひとりの大人として、あまりに物を知らない若者を、心配しての事であった。

 

「面接だっていうのに、ケンシロウのコスプレみたいな服で、来ちゃ駄目でしょ?

 別に服装の指定なんかしてなかったけど……でも分かるでしょ?

 ちゃんと普通の恰好で来ないとさ。印象悪いもん」

 

「……はい……はい……」

 

「それにね? さっき私が『いくらくらい稼ぎたいですか?』って質問したらさ?

 もう君、輝くような笑顔で『年収一億で!』って言ったよね? オナシャッスって。

 ……無理だって。コンビニバイトで一億は。

 面接では、絶対ふざけたら駄目なんだよ……。真面目にやんないと」

 

「はい……すんません……すんません」

 

 山を降り、さっそく職を求めて意気揚々と面接に赴いたは良いものの、マスターP氏を待ち受けていたのは、非情な現実であった。

 

 しかし何故この子は、北斗神拳伝承者という比類なき鋼の肉体を持っているのに、レジ打ちのバイトがしたいのだろう? 接客業をしようと思ったのだろう?

 店長さんには、彼の思考がまったく理解出来ないのだった。

 

「とりあえず、缶コーヒーあげるから、それ飲んで帰りなさい。

 次に面接行く時は、もっとちゃんとしなきゃ駄目だよ?

 まぁ頑張りなさい少年。いい仕事が見つかるといいね♪」

 

「あざっす……あざっす店長さん! あざぁーっす!」

 

 人の優しさが身に染みる。

 厳しいことを言われはしたが、この人は本当に良い人。あたたかい人だった。

 マスターP氏はもうボロッボロ泣きながら、ひたすら缶コーヒーを飲み続けるのだった。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 突然この世界に拉致され、お金も住む家も、頼る人も無い。

 そんな無一文&天涯孤独の身であるマスターP氏の心は、とても冷え切っていた。

 

「いったい俺は、これからどうすれば良いんだ……。

 何をすりゃー良いんだ」

 

 途方に暮れる。この見知らぬ世界で。

 今も目の前には、この美星商店街にいる沢山の人々の笑顔。楽しそうにこの場を行きかう人々の姿。

 まるで自分ひとりだけが、この世界から取り残されたかのようだ。ものすごい疎外感。

 

「元の世界に、帰るアテもねぇ。……かと言って、ここですべき事も分かんねぇ。

 ああもう! もっと時間をかけて修行すりゃー良かったぜ!

 一週間で北斗神拳を会得したりなんかせず、色々考える時間を作るべきだったぞっ!」

 

 そもそも、自分はいったい何者なのか(・・・・・・・・・・・・)

 それすらも、今のマスターP氏には、分からないのだ。

 

 別に記憶喪失なワケじゃない。マスターP氏はまったくの健康体だ。

 しかし、自身が初登場した先の小説内には、自身の性別、職業、容姿、年齢などなど……そんなあらゆる情報が一切なかった(・・・・・・)

 大事な大事な個人情報の記述が、ひとつも無かったのだ!

 

 自分は男なのか、女なのか。

 子供なのか、老人なのか。

 日本人なのか、外人なのか。

 背は高いのか、低いのか。

 

 イケメンなのか、フツメンなのか、ブサメンなのか。

 趣味は? 特技は? 特徴は? 好きな食べ物は?

 どんな髪型で、どんな服を着ていて、どんな声で喋ってる?

 

 そんな記述が――――あの小説内には一切無かったのだからッ!! 皆無なのだッ!!!

 

「俺は、いったい何者なんだ……。

 唯一確かなのは、この“マスターP”という謎の人名のみ。

 これだけでいったい、どうしろってんだ……」

 

 先の面接で、氏がまともな履歴書を用意できず、全部適当に書いてしまったのには、こういう理由があった。そりゃバイトの面接も落ちるわ。

 

「とりあえず暫定的に、俺は日本人で、年齢は17で、中肉中背。

 顔はフツメンで、爽やかな印象の短髪で、背丈は普通。

 特徴としては、北斗の拳みたいなツナギの服を着ている。……という事にしておこう」

 

 マスターP氏は町の片隅で、ひとりブツブツと呟く。

 

「趣味は……どうしよう? “食パンを殴ること”にしようかな?

 物言わぬ物体を、ただ意味もなく殴り続けるのが趣味、という事にしよう。

 なかなかパンクだろう?」

 

 マスターP氏はうんうんと頷く。通りすがる人々の「ヒソヒソ……」という声も気にせずに。

 

「なんだったら、今から言葉の語尾に、全部“うんこ”を付けていこうか。

 おはようだうんこ! 今日もいい天気だうんこ! 嬉しいんだうんこ!

 マスターPという人物は、そんな喋り方をするキャラなんだ――――

 そう好き勝手に設定してやっても、別に構わないんだが……」

 

 でもこれをやると、きっと私は友達を失くす(・・・・・・)と思う。

 大切な仲間を失ってしまう、そんな確固たる予感がある――――

 なのでこの案は自重。却下しておく事にします。(※作者より)

 

「好きな音楽は、ボサノバ。

 好きな食べ物は、米ぬか。あとハンバーグの下に敷いてあるスパゲティ。

 ちなみにハンバーグの方に関しては、別に好きでも何でも無いぞ。

 日本語に加え、チュニジア語とカンボジア語を話せることにしよう。無駄にトリリンガル」

 

 そうこうしている内に、どんどんマスターP氏のキャラ設定が固まってくる。

 うん、だんたんイメージが膨らんで来たぞ。ナイス☆

 

「おっ! 米ぬかだ! 米ぬかがあるぞぉ~う! ひゃっほーう♪

 ちょうど腹減ってたんだ! イエーイむしゃむしゃ! いえーい♪」

 

 試しに今考えたキャラ設定を、パントマイムでやってみる。

 こんな街中で、大喜びしながら米ぬかをむさぼり食う、という演技をするマスターP氏。

 

 

「――――帰りたいッ!! 元の世界に帰りたいッッ!!!!」

 

 

 かと思えば、突然地面に蹲り、わんわん泣き始めるマスターP氏。情緒が不安定だ。

 

「もう嫌ッ! こんな生活ッ!!

 元の世界に帰って、普通の生活がしたいのッ!!

 なんだよ米ぬかって! そんなの知らねえよボケぇ! アホかぁぁああーーッ!!」

 

 クソが! とばかりに、そこらにあったゴミ箱を蹴飛ばす。

 なんか足首から〈ゴキィ!〉という変な音がしたけれど、マスターP氏は気にせず、商店街をズンズン進んでいく。

 

「とりあえず、こんな事では駄目だッ!!

 ――――俺は生き抜く! この世界を生き抜いてみせるッ!!

 真面目に! 前向きに! まっすぐに!

 この美星町で生きてくんだよぉー!!」

 

 

 せっかく北斗神拳も覚えた事だし、マスターP氏は気を取り直して、もう少し頑張ってみる事にする。

 

 あのコンビニの店長さんにも「頑張れ」って言われたし、コーヒーもご馳走してもらったし。

 その分くらいは、頑張ってみようと思った。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「……んん?」

 

 例の彼が北斗神拳を習得し、美星町に潜り込みました――――

 先ほどピンキー忍者は、マスターP氏の監視任務にあたっている部下の者から、そう報告を受けた。

 

「……えっとぉ? アイツが美星町に行ったっていうのはぁ、分かったんだけどぉ~♨」

 

 そして今、ピンキー忍者はハイライトのない瞳で、じっと自室のTVを見つめている。

 

「これはいったい、どーいう事なのぉ~……?」

 

 眼前にあるモニター画面、そこに映るニュース番組には、今まさに件の男の姿があった。

 

 

『――――本日、○○県美星町で、町長選挙の開票がおこなわれ、

 無所属の新人、マスターP氏(35)が初当選しました(・・・・・・・)

 

「どーいう事ぉ?!」

 

 

 いまTVには、ダルマの目に墨を入れ終わり、「バンザーイ! バンザーイ!」と両手を上げて喜んでいるマスターP氏の姿が、映し出されている。

 ちなみにだが、この35才という年齢は、選挙に合わせて適当にでっち上げた物だ。あくまで彼は17才(という設定)である。

 

『今回初当選のマスターP氏は、現職の○○氏を50万票差という大差で破り、35才という史上最年少での当選となります』

 

『これには、氏の選挙公約である「いや~どうもどうも、みたいな感じで、自由におっぱいを触れる世界を実現する」という言葉が、多くの町民たちから支持されたのが勝因となりました』

 

『今回の当選を受けて、美星町の新町長となるマスターP氏は「頑張って良かった、諦めないで良かった。あのコンビニの店長さんに感謝したい」と、現在の心境を語り、感涙にむせび泣きました』

 

 引き続きピンキー忍者は、どこか“死んだ目”でTVを観続ける。

 

「なんなのぉ、アイツ?

 確かに、異世界を繋ぎ渡るとか、徳の力に影響を与えるとか、そういうぶっ飛んだ所はあるヤツだっていうのは、話に聞いてるけど……♨

 いったいコレ、どーなってんのぉ~?」

 

 たしか、ヤツをこの世界に連れて来てから、まだ1か月と経っていないハズだ。

 しかし、もうあのエネルギッシュな男は北斗神拳を習得しており、そればかりか美星町の町長にまで昇りつめた。

 これは、まさに人外めいた能力を持つピンキー忍者をしても、理解の範疇を越えている。

 

「なんか、アイツを見つけようと手間取ってる間に、どんどん捕まえづらくなってる……♨」

 

 北斗神拳を習得したとなれば、もう以前とは段違いの戦闘力だ。いくらピンキー忍者とはいえ、容易に捕獲する事は出来ないだろう。

 それに加えて、ヤツは町長という、この世界での確固たる地位まで築きやがった。

 とてもじゃないが、もう気軽に捕まえに行って、それで捕獲できるような存在ではない。

 

「えっとぁ……どうしよっかなぁ~? 必要なんだけどなぁ~アイツの力……♨

 でもとりあえずぅ、もうちょっとだけ泳がせてみるぅ?

 捕まえるにしても、もう少し観察が必要だしぃ……。

 ぶっちゃけ、アイツがこれからどうなってくのか、ちょっと興味あるしぃ?」

 

 

 いったいこの先、あのパンクな男は、この美星町で何を成し、どう生きていくのだろう?

 次はいったい、何をやらかしてくれるのだろう?

 

 今も光の無い瞳でTVを見つめるピンキー忍者だが、ちょっとだけ胸がドキドキしているのだった。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

『このまま君を連れ去りたい~♪ 地平線の彼方までぇ~♪』

 

 ところ変わって、美星学園の体育館。

 美星祭初日となるこの場は、いま学園の有志達によるステージ演奏がおこなわれている。

 

『愛してるぅ~♪ 君だけを~♪ どうか泣かないで~♪』

 

 現在も舞台上では、軽音楽のメンバー達によるバンドが、演奏をしている。

 ポップな曲調、キャッチ―な歌詞、そして若さあふれるパフォーマンス。

 それに群がるように、一部の女子たちはキャーキャー言いながら、ステージの真下に詰めかけていた。

 

『ありがとう! センキューみんな! さぁて次の曲は……』

 

 しかしながら……この一部の女子たちを除き、会場全体の雰囲気は、どこか盛り上がりに欠けていた。

 多くの生徒たちが、今もダルそうに椅子に腰かけ、時折スマホをいじったりしながら、おざなりに拍手を贈っている。

 

 有り体に言って、“ノリ切れていない”。

 それが正直な印象だ。

 

『イエーイ! さぁみんな! おもいっきり盛り上がって……』

 

 当然だ。この子達は音楽を知らない(・・・・・・・)

 音楽になど、まったく興味を持っていないのだから。

 

 今の時代、この世代の子供達にとっての音楽とは、“TVで流れている曲”の事を指す。

 後は有線とかの、家やファーストフード店でごはんを食べている時に、何気なく流れている曲。

 

 あとは、最近流行っていると言われているらしき(・・・・・・・・・)、いくつかの話題の曲くらいだろうか?

 今はこれを聴いておけばいい、そうしたら間違いない――――そんな誰かの指示に従って“とりあえず知っている”というような、お気楽で耳障りの良い、普遍的な曲だ。

 

 そう、いわゆる“インスタントミュージック”と呼ばれる物。

 吐いて捨てるような、ごくごく軽い、当たり障りのない普遍的な曲。

 

 それが彼らにとっての、“音楽”という物の全て。

 それ以外の物など、彼らは知る由も無い。

 

 

 ――――ならば、いったいどうして彼らが、音楽を“愛せる”と言うのだろう?

 

 聴くべき物も無く、心が震えない、重さも真実味もない。

 そんなインスタントな音楽しか聴かない……いや身近に存在しない(・・・・・・・・)彼らが、どうやって音楽を愛することが出来ようか?

 

 無いのに、“音楽”が。

 TV番組や有線の、どこを見渡しても本物の音楽(・・・・・)が無い。そんな現代の環境下で、どうして音楽の素晴らしさを知ることが出来ようか。

 

 どうして、音楽を好きになれようか。

 音楽を理解する感性を、育てることが出来ようか――――

 

『夢を信じて~♪ 明日に向かって~♪ あの日のぼくらが~♪』

 

 これは――――大人たちの罪だ。

 日本の音楽業界に携わる、全ての者達の罪――――

 

 目先の小銭や、自分達の利益に走り、育てて来なかった(・・・・・・・・)

 音楽の良さ、楽しさ、素晴らしさを、伝えることをしなかった。

 インスタントな物ばかりを作り、“本物”を作り出すことをしてこなかった。

 

 それが大人たちの罪であり、音楽業界の衰退の理由だ。

 

 

『今すぐここを飛び出して~♪ 夢に向かって走るのさ~♪』

 

 もうこの子達は、音楽を選ばない。音楽という物を“必要としない世代”。

 だって今の時代、こんなツマラナイ音楽を聴くよりも、よっぽど楽しい事で溢れているんだから。

 

 多種多様で、お手軽で、様々なジャンルの娯楽がある。

 もうわざわざ音楽を聴いたり、自分好みの曲を探したり、CDを買う必要なんて、どこにも無いのだから。

 

 その現実を……いまこの場でダルそうに椅子に座る少年少女たちが、象徴している。

 そして楽器を手に取り、これまで必死に練習に打ち込んで来たハズの、心から音楽を愛しているハズの少年たちが今ステージで奏でている、このあまりにも軽い音楽(・・・・・・・・・)が、それをハッキリと証明していた。

 

 

 知らない――――この場の誰も、音楽を。

 

 音楽という物の、本当の価値を知る事のないまま、この子達はこの先、ずっと生きていく。

 音楽を捨て、音楽を見限った世代――――それが今この場にいる、少年少女達だ。

 

 ゆえにバンド演奏など、このようなステージなど……盛り上がろうハズも無い。

 ただただ一部のミーハーな声と、社交辞令のようにおざなりな拍手だけが響く、まったく熱の存在しない空間。

 

 それが今、この国における、音楽(・・)という物。

 その象徴的な光景が、このステージであった――――

 

 

「……」

 

 客席に座り、難しい顔をした室斑勝也が、じっとステージを見つめている。

 彼はいま、その誠実な人柄と空手の腕を見込まれて、生徒会からここ体育館の警備を仰せつかっていた。

 演劇やライブがおこなわれるという性質上、羽目を外した者達による問題行動が起きた場合の抑止力であり、即座に流たちへと報告する任務を担っていた。

 

 今日一日、勝也の持ち場はここ。

 生徒たちが安心してステージをおこなえるよう、そして彼らの安全を守るのが、自分の役目だ。

 ……まぁ実は、今まさに校舎(直樹たちの教室)の方では、ばいきんまんによる性別反転テロが起こっていたりするのだが、彼には知る由も無かった。

 

「……ふむ」

 

 腕を組み、どこか仏頂面をしつつ、目の前でおこなわれているステージ演奏を鑑賞する勝也。

 もちろんステージそのものよりも、なにか異常は無いか、不穏な気配は無いかに目を光らせているのだが……当然ながら彼の耳にもこの演奏は聞こえている。そしてどこか盛り上がりに欠ける会場の雰囲気も。

 

「典型的な身内ノリ(・・・・)だな。

 それ以上でも、以下でも無い」

 

 恐らくは、いま野外でおこなわれているというランカ達のステージとは、もう比べるべくも無いだろう。

 稚拙な演奏、熱の感じない歌声、おざなりな拍手……。

 オリジナル曲ではなく、流行のJ Popをただコピーしている。CDで聴く元の音源に比べれば、もう“劣化版”としか言えないクォリティの演奏。

 

 まぁ、学生たちが自分なりに楽しく演奏している……と見るならば、文化祭に相応しい出し物だと言えなくもない。学生らしいフレッシュさもある。

 しかし、朝からずっとステージを見守っている勝也をしても、これまでおこなわれたステージには琴線に触れるような物はなく、どれひとつとして心を動かされるような“熱”は皆無だった。

 

「まぁ、時代(・・)なのかもしれんけどな……。

 いまの時代、流みたいに熱いヤツばっかりじゃないさ」

 

 ヘラヘラと笑いながら楽器をかき鳴らす、楽器隊のメンバー。

 額に汗を流すことも、力の限りに声を張り上げることも無い、弱々しいボーカル。

 そこには一生懸命さも無ければ、何かを伝えたい、自分達を見せたいという気概も感じられない。

 ただただ“こんなモンでしょ”というように、こなしてしまっている……。

 

「頑張らないのが、カッコいい……。

 本気(マジ)になるのは、ダサい事……。

 クールに賢く、それなりに……ってヤツか。流とは正反対だな」

 

 武道家という昔ながらの人達であり、音楽が好きだった両親の影響で、勝也は幼いころから沢山の音楽に触れてきた。

 人の心を打つような、圧倒されるような、歌い手の想いが籠った本物の音楽に囲まれて育った。

 

 そんな彼の眼には、いま眼前から聴こえてくる演奏は、どうしてもこんな風に映ってしまう。

 熱のない、耳障りの良いだけの、“軽い音楽”だと――――

 

「これ見たら、流は何て言うかな……?

 この日を楽しみにしてた小雪ちゃんは、どう思うのかな……」

 

 最高の文化祭にすると意気込み、情熱を燃やしていた流。

 そして美星祭に来ることを夢見て、病にも負けずに今日まで頑張って来た小雪。

 彼らがこのステージを見てどう思うのか……それを想い、少し暗い気持ちになる。

 

 まぁ自分は音楽評論家では無いし、自分の知っている物や、自分が好きな物が全てだなんて、そんなこと微塵も思っちゃいない。

 誰にでも好みという物があり、人それぞれの趣味趣向がある。それを軽々しく否定するのは、その人の人格までもを否定する事になる。

 これは決してしてはならない事だと、幼き頃より尊敬する両親に教わって来たのだから。

 

 たとえ今の時代、どこにも胸を熱くさせるような本物が、見当たらなくとも。

 たとえ今の時代、誰も本物なんて、求めていないとしても(・・・・・・・・・・)――――

 

 これは別に、音楽に限った話じゃない。

 映画も、TVも、本も……あらゆる娯楽の媒体が“本物”を作り出すことを止め、ただただ目先の小銭を求め、当たり障りのない物を作り続けている。

 

 そして何より、今の若者たち……すなわち“消費者”こそが、気軽に楽しめる物をこそ好み、本当に凄い物になど見向きもしない。

 

 今の時代、インスタントな物こそが全て。普遍的で当たり障りない物こそが正義。

 もう誰も、御大層な“本物”など、求めてはいない――――

 

 

「……ふぅ。いかんいかん。気を引き締めねばな」

 

 ただ今は、このステージの安全を守ろう。

 みんなが文化祭を楽しめるよう、良い思い出を作れるよう、自分は尽力しよう。

 

 勝也は一度だけ目を瞑った後、スッと襟元を正す。

 そして改めて、気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨーソロー……! ヨーソロー……!』

 

 

 ふと、演奏に交じって聞えてきた小さな声に、勝也は閉じていた瞼を開く。

 

 

『ヨーソロー……! ヨーソロー……!』ジャカジャカ

 

 

 前を向くと、いま正に生徒たちが演奏中である舞台上に、見知らぬ何者かが、ゆっくりと現れるのが見える。

 舞台袖から、フォークギターらしき物をジャカジャカとかき鳴らしながら、ゆっくりと中央に向かって歩いているのだ。

 

『ヨーソロゥ!! ヨーソロォーウ!!』ジャカジャカジャカ!

 

 だんだん声が大きくなる。ギターをかき鳴らす速度が上がる。

 よく見ると、その人物はグラサン&小汚いバンダナという。70年代のフォークシンガーみたいな服装……。有り体に言うと長〇剛(・・・)みたいな恰好をしているのが分かった。

 

「えっ……ちょっとアンタ……」

 

「ん? ……何このオッサン?」

 

「あれっ……?」

 

 音が止まる。

 突然、ゆっくりとした歩みでステージに乱入してきたその男性を見て、ステージ上の学生たちは演奏を中断してしまう。

 そして、キョトンとしたまん丸の目で、その男を見つめる。

 

 

『――――お前らの夢は何だッッ!!!!』

 

 

 突然この場に響く、ニセ長〇剛のシャウト――――

 その大音響に、思わず耳を押える会場の観客たち。

 

 

『――――人間を舐めるなぁぁぁあああッッ!!!!』

 

 

 バコーン!! という爆音を立てて、いきなり男がドラムセットを蹴り飛ばす!

 大小様々な太鼓がステージ上に散乱し、ドラム担当の少年が後ろにひっくり返る!

 

『人間をッ!! 人間を舐めるなッッ!!!!

 ――――そんな腐った目で、人間を見るのを止めろッッ!!!!』

 

「ヨーソロー!」の掛け声と共に、長〇剛がギターの子に蹴りを入れた。

 ゴロゴロー! すってーん! とばかりに、舞台から蹴り落とされる。

 

『人間をなめるなぁーッ!  自分をなめるなぁーーッ!!

 もっと深くッ! もっと深くぅ!! 愛してやれぇぇぇえええッッ!!!! 』

 

 シャウト――――これは魂の叫びだ。

 いま舞台上にいる謎の人物は、力の限りにフォークをかき鳴らしながら。観客席に向かって声を張り上げている。

 その姿に、勝也は思わず席から立ち上がった。

 

「おいっ……! あれって新町長じゃないのか(・・・・・・・・・)!?」

 

「何日か前に当選したっていう、美星町の町長……?!」

 

 どよめきが上がる。客席にいる誰もがステージを見つめ、眼前の男に釘付けになっている。

 本来は警備担当である勝也でさえも、目を見開いて見入ってしまっている。

 

 ――――マスターP! ヤツの名はマスターP!!

 彼が今、突如として美星祭に乱入し! ステージを乗っ取ったのだ!!

 美星町の町長による、ゲリラライブッ!!??

 

『ヨーソロゥ! ヨォォォーーソロゥ!!

 行くぞ若者たちよッ! 聴けッ!! “Captain of the Ship”!!!!』

 

 彼がかき鳴らすフォークギターが、やかましい程のジャカジャカした音を立てる!

 その音は大音響となってスピーカーから流れ、この場の全ての者達の心を揺らす(・・・・・)

 

 

『じめじめと暗く腐ったぁ~、憂鬱な人生をぅ~!

 俺は憎んでばかりいたぁ~ッ♪

 叩かれてもぉ! 突っ伏したまんまぁ! ただぁッ!!

 頭をひしゃげて、生きてきたぁ~ッ♪』ジャカジャカ!

 

 

 足が動かない。身体を動かすことが出来ない。

 勝也は、いまステージでギターをかき鳴らす男から、目を離す事が出来ない。

 

 

『えげつなさをぅ、引っかけられぇ~い!!

 横なぐりの雨が、頬を突き刺したときぃ~ッ!

 我慢ならねえたったひとつのぉ! 俺のぉッ!!

 純情がッ! 激烈な情熱にぃ! 変わるぅ~ッ♪』ジャカジャカジャカ!

 

 

 なんだこれは……? なんだあの男は……?

 この場の誰もが、彼から……マスターP氏から目を離すことが出来ずにいる……!

 

 

 

 

正義ヅラした、どこかの舌足らずな他人の戯言など、叩きつぶしてやれッ!!

 

眉をひそめられ! "出しゃばり"と罵られても!

いい人ね、と言われるより! よっぽどましだッ!!

 

ガタガタ理屈など! あとからついて来やがれ!!

街は"自由"という名の、留置場さ!

 

あんな大人になんか、なりたかねえと!!

誰もがあのころ! 噛みしめていたくせにッッ!!!!

 

 

 

 

 なんだ……あのシャウトは?

 なんだ……?! 心のド真ん中に直接響いてくるような、あの歌声は?!

 

 しゃがれて、割れて、ろくに聞き取れないような声が……シャウトが!!

 こんなにも! 俺の心に語り掛けてくるッ! 掴んで離さないッ!!

 

 

 

 

――――ああ! この潔さよッ!!

明日からお前が! Captain of the Ship!!

 

いいかッ! 羅針盤から目を離すな!!

お前がしっかり舵を取れ!!

 

 

白い帆を高く上げ!

立ちはだかる波のうねりに、突き進んで行けッ!!

 

たとえ雷雨に打ち砕かれても!

意味ある人生を求めて! 明日船を出せッ!!

 

 

 

 

 

 気が付けば……ひとり、また一人と、ステージに向かって歩き出していた。

 彼らはフラフラと、まるで誘蛾灯に向かう虫たちのように、ステージの方へと向かう。

 たった今、まるで太陽の如く眩い光を放っている、ステージ上のマスターP氏の近くへと!

 

 ――――もっと彼に近寄りたい! もっと間近で見たいッ!! マスターP氏を!!!!

 

 

 

 

あらゆる挫折を、片っぱしから蹴散らしッ!!

高鳴る鼓動で、血液が噴き出してきたッ!!

 

俺たちの魂が、希望の扉を叩くとき! 太陽よッ!!!!

お前は俺たちに“明日”を約束しろッ!!

 

 

そうさ! 明日からお前が、Captain of the Ship!!

お前には、立ち向かう若さがある!!

 

遥かなる水平線の向こう! 俺たちは今!

寒風吹きすさぶ、嵐の真っただ中!!

 

 

 

 

 

「うおおおお! 町長ぉー! すげぇぇええええッ!!」

 

「かっけぇ!!!! マスターPぃぃぃーー!! うおぉぉぉ!!!!」

 

 声が聴こえる……若者たちの上げる声が。

 いま、ステージの下へと詰めかけた多くの者達が、マスターP氏に向けて拳を振り上げている。

 彼の声に! 彼の熱に! 引き寄せられるように!! 共鳴するようにしてッ!!

 

 

 

 

Captain of the Ship!!

孤独など! ガリガリ喰い散らかしてやれッ!!

 

Captain of the Ship!

吠える海の力を! 生命に変えろッ!!

 

 

ヨーソロー!! 進路は東へッ!!

ヨーソロー!! 夕陽が西に沈む前にッ!!

 

ヨーソロー!! 確かな人生をッ!!

ヨーソロー!! 俺たちの船を出すッ!!

 

 

ヨーソロー!! お前が舵を取れッ!!

ヨーソロー!! こんな萎えた時代に!!

ヨーソロー!! 噛みつく力が欲しいッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ヨーソロー! ヨーソロォォーーッ!!」

 

「町長っ! マスターP町長ぉー! ヨォーソロォー!!」

 

「うおおおマスターP!! マスターPッ!! ヨォォーソロォォーーッッ!!」

 

 ……大きくなる……歓声が!!

 マスターP氏に合わせて、この場の誰もが声を張り上げている! 拳を振り上げている!

 

 頑張るのはカッコ悪い? 本気になるのはダサい? 恥ずかしい? ――――否ッ!!

 今ここにいる全ての者達が! 大きく口を開き! 声を振り絞っているではないかッ!!

 

 ――――マスターP氏に向けて、声援を贈っているではないかッ!! 力の限りにッッ!!!!

 

 ヨーソロー!! ヨーソロー!! 

 あぁ! ヨーソロー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと心で話をしてくれッ! もっと本当の事を聞かせてくれッ!!

 

怖がらず! ためらわず! 腐らず! ひるまずッ!!

自分を信じてッ! 自分を愛してッッ!!

 

 

決して逃げるな! 逃げるなッ!!

お前がやれ!! お前がやれッ!! お前が舵を取れッッ!!

 

死んでるのか!? 生きてるのかッ!?

 

 

――――そんな腐った瞳で、人間を見るのはやめろッッ!!!!

 

 

 

生きてくれ! 生きてくれ! 生きてくれッ!

おまえの命は! 生きる為に流れているッッ!!

 

人間だ! 人間だッ!

たかが! 俺もお前も人間だッッ!!

 

 

決して奢るなッ! 決して高ぶるなッ!!

決して自惚れるなッ!!

 

一歩ずつ! 一歩ずつ! 確かな道をッ!!

 

 

 

お前がどうするかだッ! お前がどう動くかだッ!!

 

決めるのは誰だッ!? やるのは誰だ!? 行くのは誰だ?!

そうお前だッ!! お前が舵を取れッ!!

 

 

 

お前が行け! お前が走れ!! お前が行くから道になるッ!!

 

前へ! 前へ! 前へ! 前へッ!!

ただただ! ひたすら前へ! 突き進めばいいッ!!

 

わかるか!? わかるか!?

お前が決めろ! お前がしっかり舵を取れッ!

 

 

 

――――人間をなめるなッ!! 自分をなめるなッ!!!!

 

 

 

もっと深く! もっと深く! もっと深く愛してやれッ!!

 

 

信じてくれと、言葉を放つ前に!

信じきれる自分を愛してやれッ!

 

 

感じてくれ! 感じてくれ!

幸せは、なるものじゃなく! 感じるものだッッ!!!!

 

早く行け! 早く行けッ!

立ちはだかる波のうねりに、突き進んで行けッッ!!!!

 

 

 

今すぐ! 今すぐ! 今すぐ! 今すぐ!

 

白い帆を高く上げ! お前は、お前の弱さを叩きつぶせッ!!

先ずは自分に打ち勝て! 打ち勝て! 打ち勝てッ!!

 

 

行け! 行け! 行け! 行けッ!!

お前の命は、生きる為に流れているッ!!

 

行け! 行け! 行け! 行けッ!!

お前の命は、生きる為に! 流れているッ!!

 

 

 

生きて! 生きて! 生きてッ!! 生きてッ!!!!

 

ただただ! 生きて帰ってくればいいッ!!!!

 

 

生きてッ!! 生きてぇッ!! 生きてぇーッ!!

 

 

生きて生きて生きて!! ――――生 き ま く れ ッ !!

 

 

 

 

お前が決めろッ! お前が決めろッ! お前が決めろッ!

 

お前が舵を取れッ!!

 

 

お前が決めろッ! お前が決めろッ! お前が決めろッ!

 

お前が舵を取れッ!!

 

 

 

そうさ! 明日からお前が! Captain of the Ship!!

 

そうさッ! 明日からお前がッ!! Captain of the Ship!!!!

 

 

 

 

 

ヨーソロー!! ヨーソロー!!!!

 

 

ヨーソロー!!

 

ヨーソロー!!

 

 

ヨォォォーーソロォォォオオオーーッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!! マスターP! マスターP!!」

 

「素敵よマスターP! マスターP!!」

 

 

 彼が最後に〈ジャーン♪〉とギターをかき鳴らした途端、この場を割れるような拍手と歓声が包む。

 

 

「「「 マスターP! マスターP!! マスターP!! 」」」

 

 

 腕を振り上げ、輝くような笑顔で声援を贈る、少年少女たち。

 俺達の町長、私達の新リーダー! マスターP氏に向けての! 大喝采!!!!

 

「……ッ!」

 

 そんな、まるで夢の中にいるような、信じられない光景を……勝也は見守り続ける。

 いくら町長とはいえ、本来は即通報の案件だ。許可もなくステージに乱入するなど、とても許される事ではない。

 

「……マスターP、町長……!」

 

 けれど、見てくれ。この生徒たちの輝くような笑顔を(・・・・・・・・)

 この生き生きとした目を。キラキラした瞳を。若さ溢れる元気な姿を。

 

 これは正に、流や自分達が求めてやまなかった、“最高の美星祭”の姿じゃないか。

 

「なんだ……この人は。

 何者なんだ、マスターPって男は……!」

 

 今ステージ上では、ひたすらペットボトルの水を口に含んでは、それを客席に向けて「ぶぅーーッ!」と噴き出しているマスターP氏の姿がある。

 そして、それを受けてキャッキャと笑い声を上げ、楽しそうな少年少女たちの姿。

 

「こんなブッ飛んだ人がいるのか……こんなスゲェ人が。

 おい流……お前だけじゃないぞ。

 俺達の新しい町長は、もうとんでもねぇ傑物だぞ(・・・・)ッ……!!」

 

 驚愕に目を見開く勝也を余所に、マスターP氏が大きな歓声を受けながら、ステージを降りていく。

 ヘッドから弦がビョンビョン飛び出している、彼愛用のフォークギター。

 それを肩に雄々しく担ぎ、まさに長〇剛そのものの姿で、観客たちに手を振って歩いて行く。

 

「……ん?」

 

 舞台から降りた途端、大勢の生徒たちに取り囲まれている様子のマスターP氏。

 しかし、その彼の元へテテテと駆けて行く、見知った少女の姿を、勝也の目が捉えた。

 

「いや~どうもどうも! 新町長のマスターPっす!

 好きな食べ物は米ぬかです! 以後よろしゅう! ほんによろしゅうに……って、ん?」

 

「あっ……あのあのッ!!」

 

 ランカだ(・・・・)

 まだステージ衣装を着たまんまだが、いまマスターP氏に駆け寄ったあの少女は、マクロスFでお馴染みランカ・リー。

 勝也もよく知る、学園のアイドル。その人であった。

 

「さっきの歌、すんごく良かったですっ!

 もうわたし! わたしっ……! 感動しちゃいましたっ!」

 

 ランカは人込みをかき分け、すごい勢いでマスターP氏の前までやって来る。

 そしてとても嬉しそうに、彼の手をギュッと両手で握った。

 

 

「――――好きです! マスターPさん!

 ランカとお付き合いして下さいっ☆」

 

 

『彼女が出来たッッ!!!???』

 

 

 美星学園の体育館に、マスターP氏の上げる驚愕の声が、響き渡った。

 

「やったぞ!! 彼女が出来たッ!!

 俺はついに、彼女を手に入れたぞぉぉぉおおおッッ!!!! ひゃっはーー☆☆☆」

 

 さっそくランカを「よいしょ!」っと抱え上げ、マスターP氏がうっほほーいと走り出す。

 俺は人生の勝者だ! とばかりに、満面の笑みで外へ飛び出して行った。

 お姫様ダッコされたランカの方も、イエーイって感じで、すごく嬉しそうだ。

 

「いやいやッ……!?

 おいランカ!! お前アルトの事はどうす……?!」

 

 正気を取り戻した勝也は思わず追いすがるも、もうドドドドと土煙を上げて駆けて行くマスターP氏に、追いつけるワケもなく。瞬く間にその姿を見失ってしまう。

 

 

・北斗神拳を覚える。

    ↓

・バイトの面接に落ちる。

    ↓

・町長に当選する。

    ↓

・彼女が出来る。 イマココ☆

 

 

「うひゃらひゃほーーい!! もう元の世界なんざぁ知るかぁぁーーッ!!

 ――――俺は生きるッ!! この世界で生き抜いてみせるッ!!

 これが、俺の物語だッッ!! マスターP様のなぁぁぁーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我らが美星町の町長が、元気に駆けて行く。

 

 新任だというのに町長の仕事もサボり、いま愛する彼女と共に、この世界に飛び出して行った。

 

 

 ――――マスターPの冒険は、始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 ~おしまい~

 

 







 笑いの文化が強く根付く関西には、【愛が無ければイジられない】という言葉があります。
 からかって良いのは、イジって良いのは……その人を“心から愛している”人間だけ。

 そんな私たち特有の、愛情表現のやり方があるのです。


 ――――もんじゃ焼きへようこそ! マスターPさん☆☆☆
 私達は君を、心から歓迎するぞッ!

 さぁ! いつでもかかっておいで♪
 遠慮なく来てネ! かもんマスターP☆

hasegawa マスターPさまファンクラブ 会員No.728(ナニワ)



※ここから続くお話。
【番外編】マジンガー絶頂
 https://syosetu.org/novel/245415/12.html





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【番外編】予告 (砂原石像 作)

 

 

「僕は、君たちの願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる」

 

「そのかわり……僕と契約して魔法少女になってよ!!」

 

 新しい魔法少女爆誕!! 

 

「ええええええええええええええ!! 魔法少女になっちゃったんですか!?」

 

「ずっと同年代の女の子の友達が欲しかったんだ♪」

 

「待っていろは!! 理解ができないわ!!」

 

「新ヒロイン……? ゆ る さ ん」

 

 新しい魔法少女に様々な反応を示す周囲!! 

 

「フハハハハハ!! この店の特売品は全て買い占しめてやったわ!!」

 

「あなた……なんてことを……!!」

 

「アンタが噂になっている"元男の魔法少女"って奴か面白れぇ」

 

「魔法……少女? まあいいわ。私の邪魔をするなら容赦はしない」

 

 敵対する魔法少女との戦い!! 

 

 

「やれやれ……。こんなものの為に願うなんてボクには理解できないや。まあ。契約してくれるならボクにはどうでもいいことだけどね」

 

 

 

「聞いてないでござる……。“1200円もらえるけど身体が女になるボタン”を押したら、元の身体に戻れなくなるなんて……」

 

 

 

魔法少女ワープア☆マギカ

第一話 『ええーっ!! 拙者が魔法少女!?」

 

 

どうして……欲しくてあげたくなくて

 

「いやー。元の身体に戻れなくなったと聞いたときどうなることやらと思っていたでござるが」

 

いつだっていつだって優しくなれないの

 

「まさかこんな形でワーキングプアから抜け出せるとは!!」

 

理解して向き合った嘘つきな世界

 

「ええーっ!? 一日三食食べてもいいでござるか!?」

 

怖がって今までの後悔

 

「グリーフシードって高く売れていい収入になるでござな!!」

 

私と消えて

 

「体が軽い……こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……」

 

本当なんてなくたって 笑おう

 

「もう、何も恐くないでござる━━━!!」

 

 今日もカオスなもんじゃ焼き【IF】魔法少女ワープア☆マギカ 

 連載決定!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

したたる

メモリアル

forever shitataru woman

©2021 frankfurt kult&shitataru woman hiroinka ploject.

 

 

 美星学園には一つの伝説がある。

 校庭の外れにある一本のフランクフルト。その袂で卒業の日に男の子からの告白で生まれた恋人たちは永遠に幸せになるという伝説が______。

 

 

 ワテクシ!! したたるウーマン!! 美星学園に通うJKですワ!! 

 

 今回のスピンオフはワテクシが主役!! 

 卒業までに狙った相手に告白させるのが今回の目的ね!! ヒロインとしての腕の見せどころね♥

 

 そんなワテクシと恋愛模様を繰り広げるのは、こちらの方々!! 

 

「おーす!! 俺、秋月流!! 夢は世界征服!! よろしくな!!」

 

 世界征服目指している系・馬鹿生徒会長 秋月流 高校2年

 

 

「流石したたる先輩!! ボクにできないことをやってくれる!! そこに痺れる憧れるゥウ!!」

 

「ボクはストーカーですよ。アッハッハ!」

 

「まあ、ボクは犬みたいなもんだからしょうがないですよね 」

 

 狂信者系後輩 亀〇師(キャスター) 高校一年

 

 

「さて、今日からブリュメール18日のクーデターの内容に入るが質問はあるか?」

 

「何故だ……何故、吾輩のサイズが皆に広められておるのだ……」

 

 現代に蘇った偉人にして世界史教師 短小(セイバー) 

 

「フッ……。面白れぇ女……!!」

 

「気に入ったぜ。お前俺の女になりなよ」

 

 謎の町長 マスターP 

 

「フン……。なんでこいつを監視しなきゃならない……」

 

「まただ。またこいつは僕の視界に入りこんでくる……」

 

 異次元の監視者 ミスター慧眼人(エメト) 

 

 ときめきイベントも充実☆ 

 

「ん? 好感度が聞きたいのか。いいだろう!! この天才・飯島の見立てによれば現在の好感度はこうだ!!」

 

「一緒に帰って、噂とかされると……恥ずかしいし……」

 

「む? もうこんな時間か? 今日は遅いし家に送ってやろう(ロバで)」

 

「今夜は……帰したくない」

 

「ずっと。君を見てたさ……」 

 

 

「したたる先輩……? そいつは何ですか……?」

 

 

 おっと、修羅場もあるみたいネ……☆

 

「おのれええええええええええええええ!! したたる先輩に寄って来る悪い虫がアアアアアアアアアアアアアアアアアアahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「そうか……吾輩とは遊びだったのか……」

 

「ちんぶらしたのか……。俺以外の奴と……」

 

「おっと。これは見逃すことはできないな!」

 

「したたる先輩はなあ!! ボクの母になってくれるかもしれないヒトなんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 果たして、ワテクシは卒業式に告白されるのか……!? 

 まあされなくても洗脳するけど☆

 

【スピンオフ】したたるメモリアル。連載決定!! 

 見なかったら洗脳ネ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはお返しだよ。

 僕の素晴らしい始まりを邪魔してくれた君へのね。

 

 秋月東雲(あきつきしののめ)。そのために自棄になって貰おうか。

 

 ほらほら、ここで君が頑張らなかったら参の遺影は真っ先に滅んじゃうよ? 

 君には「次」なんか無いよ? 

 滅びたく無かったら……わかってるよね? 

 

 どれ、運命を見せてあげよう。

 参の遺影がどのような【不幸】を味わって消えたのか。

 これから先、君たちが参の遺影がどのように滅ぶのか。

 

 そう。それでいい。まあ、君は自滅するわけだけどね。

 

 眼の超越者の策謀が成功した世界線。 

 参の遺影は自らの運命を知り、衝動のまま【逆天の鬼札】を振るう。

 

 

 

 あれ? おかしいな? 皆笑顔じゃないぞ? う~ん? 

 そうだ! とりあえず、俺が笑えばみんな笑顔になってくれるはず!! 

 マッチョダンス(いつもの)でもいいけど……。なんか身体だるいな? 

 

 ……そうだ!! 久しぶりにあれやってみるか!! 

 昔。旅人さんがやってたあれ!! 

 小さいころ、俺が泣きそうになったときにな!! 旅人さんは大丈夫って、励ましてくれたんだ! そして、俺が笑顔になったとき、旅人さんは、笑顔と一緒にこのポーズの意味を教えてくれたんだよ。確か、昔どっかの国でこれは……? なんだっけかな……まあいいか!! 

 

 親指をグッとたてて……っと? 

 みんなー! 俺はこの通り元気だぜー? 

 

 ……あれ? 俺のうで……無……「■■■■■■■■■■■■______________?!!?!!!?!!!」

 

『フン。こんなものか。膨大な神の力を持つものがいると思えば他愛ない』

 

 

 

 

【運命】が歪む

 

 

『悪意とは愉悦。何の正義も抱かず、生きることだけに縋ることなく、ただ純粋に悪を。他者の苦しみを愉しみたいが故に行う意思。それこそが悪意というものよ』

 

 

 少年たちの前に立ちはだかるはソロモンの悪魔。序列1番の悪魔にして、66の軍団を率いる邪悪なる王。

 

 秋月東雲の肉体をベースに造られたそれは創造主の意図を超え、堕ちた神たる権能を振るう。

 

 神の力は……神の力たる【徳】と拮抗する。

 

 

「だめ……助けにいきたいのに……からだが……」

 

「流えええええええええええええええ!!」

 

「おのれ!! 外道が!! これ以上流を傷つけるな!!」

 

 秋月流は【徳】による肉体強化を封じられ______”幸運”なことに再生は失わずに済んだ。

 

 少年は仲間を守る為に壊れた身体を治し、治した身体をすぐさま壊して走る。

 

「そうだ!! 皆じゃなくて俺を狙え!!」

 

(流!! やめろ!! これ以上力を使うと、真っ当に生きられなくなるで!!)。

 

「もしかして……流君は、痛みを感じなくなって……!!」

 

『手足を落としても再生し、臓物を掻き出しても走り続け、毒に浸しても叫び、踏み潰してもすぐに動き、眷属に体内から喰われても眉一つ動かさず、魔術攻撃も耐えて踏みとどまるか……。はてさて、己奴は本当に人間か? ”化け物”と言ったほうがよいのではないかな?』

 

(このままじゃダメだ。もっと堅い体を。もっと早い脚を。もっと強い力を。……あいつを倒す力を!!)

 

 悪魔の罠を抜け、仲間は少年を守ろうと命を賭す。

 

「死ないのだとしても。痛くないのだとしても。辛く無いわけがない!! 放っておけるわけがない!!」

 

「馬鹿野郎!! 一人っきりで戦ってるんじゃねえ!!」

 

「ごめんね……。わたし。これ以上、君が傷つくところは見たくないんだ」

 

 そして少年は決意する。

 

「俺のせいで!! 誰かの笑顔が失われるのは嫌だ!!」

 

「俺が特別な力を持っているなら!! 俺こそが傷つくべきだ!!」

 

「だから俺は!! 戦う!! 皆で笑っていられる世界の為に!!」

 

 秋月流の纏う【徳】の力が変わる。

 

(その焔はまさか_______!!)

 

 柔道着が紅蓮に染まる。

 

「BAEL! これ以上お前の好きにはさせない!!」

 

 この選択の果てに____________

 

「フライング______________」

 

「______________アキツキィィィィィック!!」

 

 _______________少年は【英雄(ひとばしら)】へと至る。

 

 

 

 

■■■の分岐点  route-G

 

覚醒

~紅蓮に染まる焔の道着~

 

 

 

 




 


 こちらの予告はエイプリルフールになにかやってみようと思い作成しました。
 
 これらの予告の内容は本当に連載する予定はございません。
 
 連絡が送れたことも含め謝罪いたします。申し訳ありません。

 
 …あと、フランクフルト教団の皆様におかれましては私に危害を加えないようにお願いいたします。
 重火器とかサーベルとか超能力とかを私に向けないでください。死んでしまいます。
 
 洗脳とか、洒落にならないからやめ

 (砂原石像)





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【番外編】結成式の一幕 (砂原石像 作)

 ※時間軸、継承 (砂原石像 作)の後。





 

 

 美星祭開催まであと14日。

 

 ここは若者達でにぎわうヤングストリートの一角にあるもんじゃ焼きの店。「今日もカオスなもんじゃ焼き」。8人の店員が勝手気ままにもんじゃ焼きの具材を決めて、お客様に提供するというフリーダムスタイルを貫き通す、まさしくカオスな店である。

 

 その店の個室で、一つの若者グループが何やら打ち上げのようなことを行っているようだった。

 

「え~。それでは【Very-Uni-Mage(ベリー・ユニ・マージ)】結成にあたりまして、、乾杯の音頭を我らがリーダーである秋月流(あきつきながれ)君に行って貰おうと思います。それでは、高校生の分際で”生一つ!”と店員に頼もうとした21歳の高校生(オッサン)の秋月流君。ヨロシクゥ♪」

 

「飯島てめえ!! さっきのことを掘り返すんじゃねえぞコノヤロオオオオ!!」

 

「うわっ。飯島の奴すっげえ楽しそう…」

 

「まるで藤〇 和〇郎の漫画に出て来そうなゲス顔ですね…。」

 

「最近で一番楽しそうなのがまた…。」

 

 この宴会の最初の注文。

 社長時代の癖でうっかり生ビールを注文しそうになった秋月流。 

 そのミスを美星学園のトリックスターが見逃す筈もなく、容赦なくいじられてしまうのであった。

 

 高校卒業後、ベンチャー企業を立ち上げ成功を収めたあと脱サラし、4年分逆行してもう一度高校生になるという数奇な人生を歩む秋月流。

 

 つい半月程前まで社会人だった流は、時折その時の癖がでてしまうことがあったのであった。

 

 「え~。あの馬鹿ヤロウが言っていることは気にしないように。俺はまだ高校生です。誰が言おうが高校生です。なんやかんやあって4年ぶんバッ〇トゥザフュー〇ャーしているが、一応高校生です。実年齢21歳とかオッサンとか言った奴は説教かましたるからな? お判り?」

 

「「「アッハイ」」」

 

「気にしているところがオッサンらしいな」

 

「飯島てめえ!!」

 

 残念なことに、この宴会の間、彼のあだ名は”オッサン”に確定してしまった。

 

 だが、そんなことでめげては世界征服など到底なしえることはない。負けるな流。

 

 一応述べておくが、飯島直樹(いいじまなおき)が流をここまで遠慮なくいじれるのは、中学の頃からの付き合いであるが故である。

 色々ぶっ飛んでいる彼だが、間柄を考えた対応は一応する。まあ、そのうえでぶっ飛んだ行動をとるからトリックスターと呼ばれるのだが…。

 

 

「あ~~~もういい! とりあえず乾杯!!」

 

「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」

 

 グループ結成に向けての挨拶とか、いろいろ考えていたのをぶん投げての乾杯。

 このグダグダした始まりは、彼等らしいというべきものなのだろうか。

 

 無論、今彼らは高校生らしくジュースの入ったジョッキで乾杯している。

 なお、ファンキー爺さんは例外である。

 

 さて、乾杯のタイミングを見計らった店員が、もんじゃ焼の生地と具材が入ったボウルをもって個室に入る。

 

 

 もんじゃ焼き。

 小麦粉をゆるく溶いたものを鉄板で焼いて食べる料理であり、その調理の簡潔さから、様々な方法で楽しまれるB級グルメである。

 

 生地で絵を書いて楽しみながら食べるたらし焼きスタイル。

 

 ベビー〇ターなどの駄菓子系。

 

 1980年代から続く、餅・チーズ・明太子という必殺コンボ。

 

 がっつり行くなら肉を使うのもよし。

 

 海産物をつかってゴージャスに行くのもよい。

 

 変わり種としてスイーツもんじゃなるものもある。

 

 原点に立ち返って、具材なしというのもありかも知れない。

 

 小麦粉を溶いた物を鉄板で焼けば、どんなスタイルも楽しめる懐の広い食文化なのである。

 

 だが【今日もカオスなもんじゃ焼き】をなめてはいけない。

 この店の店員は、ただひたすらに自分のもんじゃ(カオス)を追い求めるもんじゃ狂い。彼らはモンジャ・モンガー縮めてモンジャーと呼ばれるイカレた人種だ。

 

 自分のもんじゃが一番凄いと豪語するモンジャーたちが競争することで生まれる唯一無二の味は、蟲毒のグルメと言える。

 

 この店に足しげく通う常連もまたもんじゃ狂い(モンジャー)。彼らは競争の中で生まれる極上の一皿を、心から愉しもうと通い続けるガストロノミーである。

 彼らの欲望がタタカエ・・・タタカエ・・・とばかりに更なる狂争を駆り立て、進化する彼らの(もんじゃ)がもんじゃ狂いが願っていた未来()を生み出し続けるのであった。

 

 

 結論を言おう。

 

 この店。どう考えても初心者お断りだ。

 

 初心者お断りの店を宴会の場として選んでしまうあたり、秋月流のセンスがうかがえた。

 

 

 さて、そんな危険(デンジャー)もんじゃ狂い(モンジャー)が作ったもんじゃは、当然ながらまともなもんじゃないことは確定的に明らかである。

 

 

 一つ目のもんじゃの中身は、ただひたすらに肉だった。

 

 スパム・フランクフルト・スパム・卵・ベーコン・スパム・豆・スパム・スパム…

 

「っておい! 大体スパムじゃねえか!!」

 

 そう。大体スパム。

 当然ながら、そびえたつスパムの山にVUMのメンバーはただ唖然とするばかりであった。

 そこにヴァイキングたちが個室に乱入する。

 

「「「「「スパム・スパム・スパム・スパム・スパーム!! おいしいスパーム!!」」」」」

 

「誰だよお前ら!!」

 

「うわっ! 海賊だ!!」

 

「なんだろう…海賊と聞くと、なんか妙な気分になるわね…」

 

 岡島ナミは海賊を見てなんか違和感のようなものを感じていたが、すぐにそれは霧散した。

 

 

「スパムスパムスパムスパム?」

 

「スパム!!」

 

「スパム!?」

 

「スパム!!」

 

「「スパーム!!」」

 

「共鳴すな!!」

 

 秋月流はヴァイキングともすぐに打ち解けてしまった。

 

 不審者に対して物怖じしないのは、秋月流のもつ特性みたいなものであった。

 ヴァイキングたちは高らかに歌う。

 

 彼らは海賊。ゆえにフリーダム。

 

 この世で一番自由なのが海賊の王たる資質だといわれるくらいには、彼らは自由を重んじるのであった。

 

 

 さて、今回の結成式に参加しているのは、VUMのフルメンバーと環いろは*1の11人。

 彼らが座っている机も非常に長いものとなっている。

 

 彼らの席の中央には大きな鉄板が乗っているが、もう一つや二つもんじゃを注文する余裕はあるだろう。

 

 そこにもう一つもんじゃが届く。

 

 その具材は

 

「これは…」

 

「フランクフルト…?」

 

「さっきから肉しかねえじゃねえか!!」

 

 フランクフルトだ。ただひたすらにフランクフルトだった。

 さっきのもんじゃはひたすらにスパムであったが、ほかの具材が入る余地が一応はあった。

 

 しかし、このもんじゃは違う。

 生地の上にボウルを埋めつくすのフランクフルトのみ。

 男ならフランクフルト一本で勝負しろと言わんばかりの潔さである。

 

 さて、この小説を読んでいる読者の皆様ならご存じの通り、ちくわには異次元に干渉することができる力がある。

 食品であるちくわに異世界に干渉する力をもっているなら、フランクフルトにも同様の力があることは当然ありうることであった。

 

 

 ボウルに盛られたフランクフルトから、突如として混沌が渦巻いた。生み出されたカオスは次元に干渉し、二つのセカイをつなぐゲートを生み出す。

 そのゲートから何者かが飛び出した。

 

 あれはなんだ? 変態か? 痴女か? _______否!!

 

 パンツ一枚にマスカレイド。股間にいつもフランクフルト。

 大いなる野望を持ちながら、終始コメディリリーフに徹する、いまだ謎多き女。

 

 この小説のヒロイン*2・したたるウーマンだっ!!

 

「お~ほっほっほ♪ ワテクシ、参上!! さあ!! ワテクシを崇めなさあい♪」

 

「さらに変態が来た!!」

 

 次元を超えて、野生のしたたるウーマンが現れた!!

 

 したたる(スパム!)ウーマン。彼女は【フランクフルト教(スパム・スパム!!)団】の教祖にし(スパム!)て、鎮朕武羅舞等創世神(ちんちんぶらぶらソーセージ)の巫女なのだスパム。

 

 彼女の本来の目的はスパム、自らのスパム理想スパム郷を作りスパム上げスパムることだ。

 

 しかし(スパム)、今回の彼女はそういったシリアスパムとはまったく以て関係ないプライベートスパムなのでスパム。シリアスパムかと思った読者のスパム皆様は安心してスパム。

 

 スパム。

 

 地の文にスパムが混入してしまいましたことをこの場を借りてお詫び申し上げます。

 

 したたるスパムウーマンはスパムを連呼するヴァイキング*3の集団に話しかける。

 

 

「「「「スパム・スパム・スパム・スパム・スパーム!! おいしいスパーム!!」」」

 

「何々…真に世界を征服するのはフランクフルトではなくスパム…? 少しオハナシが必要のようね…!!」

 

 フランクフルト。スパム。

 これらはどちらも食肉加工品である。

 

 フランクフルトを股間に挟む謎の教祖と、スパム大好きヴァイキング。その両者が戦うことはもはや宿命であった。

 

 どちらが食肉加工品として優れているのか、両者の戦いによって決定する。

 勝者は一人。この戦いに勝利したものが時代を変え、敗者はただ消え去るのみ。

 

 戦わなければ生き残れない!!

 

 したたるウーマン対ヴァイキング対ダークライ

 

 今まさにヤングストリートにて、雌雄を決しようとしていた。

 

 勝手に戦え!

 

 変態どもが去った個室に静寂が訪れる。

 

「「「「何だったんだ…あいつら…」」」」

 

「多分あれ、したたるウーマンってやつだ…。噂どおりやばいやつだった…」

 

 連続してやばいやつが現れ、一同はただ呆然とするだけだった。

 

 

 そんな微妙な空気などお構いなしとばかりに、天津飯が襖をあけて部屋に入って来た。

 

「失礼。ここが座談会の会場で間違いないな?」

 

(((いや! お前誰だよ!!))

 

 

 その後、迷い込んだ天津飯にはなんとかお帰りいただき、結成式は仕切り直された。

 

 

 

*1
VUMのメンバーではない彼女は遠慮していたが、流のごり押しによって参加することになった。

*2
登場当初はhasegawa氏公認であった筈であるが、いつの間にか自称ヒロインに格下げされた哀れな女。残念ながら当然である。

*3
今更ながら解説

 ヴァイキング(英: Viking、典: viking、独: Wikinger)とは、ヴァイキング時代(Viking Age、800年 - 1050年)と呼ばれる約250年間に西ヨーロッパ沿海部を侵略した、スカンディナヴィア、スパムバルト海沿岸地域の武装船団(スパム)を指す言葉。 また、スパムヴァイキングスパムという呼称のスパム語源はスカンジナビアスパム半島一帯に点在するスパムスパムフィヨルドスパムのことをスパムと呼んだため、その「スパムのスパム」を指して「スパム」と呼ぶようになったとスパムスパムスパムスパム以上 Wikipediaより引用。一部スパム。





 あれ…? おかしいな。私はナウなヤングたちが和気あいあいと談笑しながらもんじゃをつつく光景を書きたかったはずなのに、いざ書いてみたら…なんだこれ?
 …まあ、彼らはこの後楽しく談笑していたのでしょう。
 
 お読みいただきありがとうございます!
 
(砂原石像)


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【番外編】マジンガー絶頂(ぜっちょう)  (マスターPさまファンクラブ 会員No.728 作)

 

 

 

「はじめまして提督、吹雪です! よろしくお願いします!」

 

 その少女が現れたのは、町長に就任してすぐの頃。

 マスターP氏が自宅でTVを観ながら、エー〇コックのわかめラーメンをズルズルいっている時だった。

 

「吹雪型駆逐艦(くちくかん)の、1番艦です! これより当鎮守府に着任します!」

 

 ビシッと敬礼を決めて、直立不動でこちらを見つめる、セーラー服の少女。

 彼女の名は吹雪――――

 ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』に登場する、旧日本海軍の駆逐艦であり、通称“艦娘”と呼ばれる存在であった。

 

「……えっ」

 

 わーかめ好き好きー♪

 そんな歌を口ずさみながら、合成添加物の塊のような食べ物を、「うっひょー!」と貪り喰っていたマスターP氏は、思わずその動きを止めた。

 突然〈ドカーン☆〉とドアをブチ破り、ノックも無しに侵入して来たその少女は、今も輝かんばかりのキラキラした瞳でこちらを見つめている。

 軍人らしく、見事な敬礼を決めたまま。

 

「遅れちゃってごめんなさい提督! でももう大丈夫です!

 私と一緒に、暁の水平線に勝利を刻みましょうっ!」

 

 まるで田舎の女子高生のような、素朴で愛らしい容姿。

 ヘアゴムで小さく後ろで纏められている、少し茶色ががった髪。

 元々は海軍の服であると聞く、その白いセーラー服は、彼女の可憐さと清純さを存分に引き立てている。

 

 けれど……、彼女の手や背中に装着されている“艤装”は、まごう事なき鉄の塊だ。

 軍艦の連装砲や機関部といった物を、そのままミニチュア化したような武装。

 それはとてもじゃないが女の子が持てるような物ではなく、少女には似つかわしくない武骨さである。

 

 そもそも“鎮守府”とは何だ?

 ここはマスターP氏の根城である、6畳一間の安アパートである。どこにでもあるような普通の建物なのだ。

 それに…………さっきこの子が言った“提督”とは? マスターP氏の頭にハテナマークが浮かぶ。

 

「よぉマスターP提督! オレの名は天龍だ!

 世界最高水準の軽巡さまだぜ? ……フフ、怖いか?」

 

「朝潮型10番艦、(かすみ)よ。

 ガンガン行くわよ提督。ついてらっしゃい!」

 

「航空母艦、赤城です。

 空母機動部隊を編成するなら、私にお任せくださいませ♪」

 

「海の中からこんにちは! 伊五十八ですっ。

 ゴーヤって呼んでもいいよっ! よろしくね提督♪」

 

 洋食屋さんにあるスパゲティのサンプルみたいに、お箸を持ち上げたままフリーズしているマスターP氏。

 そんな彼の様子に構うことなく、気が付けばドンドンこの部屋に、艦娘らしき少女たちが集まっていた。

 

「不知火です」

 

「時雨だよ」

 

「イクなの!」

 

「龍驤やで!」

 

「長門だ。これからよろしく頼むぞ、提督」

 

 

 ――――どういう事なんですかねぇ(困惑)

 嬉しそうにワーキャー言いながら、6畳間にギュウギュウ詰めの艦娘たち。

 そのド真ん中に立ち、マスターP氏は冷や汗を流した。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 先の町長選挙で圧勝し、一気に美星町のトップまで昇りつめた、我らがマスターP氏。

 この世界に拉致されて以来、長らく放浪の日々を送っていた彼だったが、現在は無事に職を手にし、自分の寝床を手に入れ、更には彼女まで出来たカチグミである――――

 

 しかし、その順風満帆かに見えたサクセスストーリーに、陰りが見え始めたのは……、美星祭でゲリラライブを敢行してきた、その日の夜のこと。

 部屋でほののんとラーメン食べてたら、突然“艦娘”を名乗る少女達に襲撃されるという、よく分からない事態に陥ったのだった。

 

 この世界にやってきた時もそうだったが、何故自分という男は、こんなにも部屋を襲撃されるのだろう。真剣にセ〇ムの導入を見当しなきゃいけないかもしれない。

 

 

 その夜、彼女たち艦娘は突然やって来ては、その弾けんばかりの笑顔とMAXテンションをもって、瞬く間にマスターP氏を「ワー!」と取り囲んだ。

 その後は、彼が何を言っても「貴方は私たちの提督なんです!」と言い張り、頑として譲る事はなかった。

 

 マスターP氏は艦これをやった事がなく、自衛隊にすら入った事がないのだが……。

 提督なんて物とは無縁で生きてきたし、まごう事なき一般ピーポーであるハズなのだが……。

 なぜ彼女たちは、自分の下へとやって来たのか。なぜ自分を提督と呼ぶのだろう。皆目見当もつかない。

 

 しかし、生来のお人よしであり、女の子の涙にはめっぽう弱いマスターP氏は……、この少女たちの必死なお願いを断るなど、出来はしなかったのだ。

 

 話を聞けば、彼女たちは第二次世界大戦で使用された“軍艦の化身”であるという。

 少女の姿をしてはいるが、大和、長門、武蔵といった、今は無き過去の軍艦なのだそうだ。

 当然ながらその過去、その最後は……とても悲しい物ばかり。

 主に彼女たちは、敗戦国である旧日本軍の軍艦たちであり、国のために必死に戦いはしたが、無念の内に沈んでいった者達が大半を占めている。

 

 しかし彼女たちは、今また人々を守るべく、こうして現世に蘇って来てくれた――――

 そして世界の敵である“深海棲艦”を倒すため、自分たち艦娘を率いてくれる司令官……すなわちマスターP氏という提督の存在が、どうしても必要なのだと言う。

 

 

 自分はこの町のトップになるのだし、きっとこれから職務で忙しくなる。

 ゆえに町長を歴任しながら彼女たちの提督をするのは、多大な苦労を伴うことだろう。

 

 しかし、思うのだ。

 これまで平々凡々に生きてきた自分が、今こうして異世界へとやって来て、こんなにも面白いことの数々に巻き込まれている。

 ならば、それを楽しめずして、何が男かと――――

 

 胸を張って荒波に飛び込んでこそ! 世界の平和を、そして人々の笑顔を守ってこそ、真の漢じゃないかと! アイアム ザ マン! 我が名はマスターP!!

 

 まぁそんな建前はともかくとして……、マスターP氏の脳内は「ついにハーレムを手に入れたぞ!」という歓喜でいっぱいだった。

 たくさん艦娘の子達におっぱいを押し付けられ、正に「我が世の春!」って感じだ。

 

 異世界にやって来たからには、ハーレムの主にならないと嘘だ。むしろ義務である。

 ちょっとパンクな所はあるが、マスターP氏だって健康な男の子。「女の子たちとキャッキャウフフしてぇな~。俺もな~。」と、ずっと夢見ていたのだ。

 いつも寝る前に、ベッドの中でしていたエロ妄想――――それが現実の物になる日が、ついにやって来たのだから。

 

 そんなこんなでマスターP氏は、まるで「10円貸しておくれ」と言われた時くらいの気軽さで、彼女たちの提督を引き受けた。

 恐らくは人生を左右する位に大きな問題を、まさに二つ返事と言うべきテンションで即決したのだが、その顔だけは女の子の手前「キリッ!」と決めて、イケメンに見えるよう頑張ってみたのだった。

 

 

 

『――――駄目です! 持ちこたえられませんッ! このままでは壊滅ですッ!』

 

 しかしながら……、マスターP氏が喜んでいられたのも、ほんのつかの間。

 

『利根ッ……!? 返事をしてちょうだい利根ッ! とねぇぇぇえええッッ!!』

 

 艦娘たちとの出会いから一晩空けた朝。

 現在、鎮守府という名の安アパートの部屋には、戦地で戦う艦娘たちからの無線が、引っ切り無しに鳴り響いている。

 

『大破艦、多数! すでに艦隊の半数がやられました!!』

 

『まったく歯が立たないっぽい!? これじゃあジリ貧よッ!!』

 

『敵艦見ゆ! 距離3000! 数60でち!!』

 

 ――――何なんですかねぇ、これ(白目)

 マスターPが絶句する中、スピーカーからは艦娘たちの悲痛な声が、えんえんと聞えていた。

 

 ちなみに今日は、艦娘たちによる敵掃討作戦が実行されている。

 現在マスターP氏は、ここ美星鎮守府(6畳間)に着任して初めての業務となる、艦娘艦隊の指揮をおこなっている最中だ。

 

『ヤバッ……! 囲まれてるよ加賀さんッ! 四方八方、敵だらけだよ!』

 

『こんなの、いったいどうやって戦えば!? やられちゃうっ!』

 

『しっかりしろ朝潮ッ! 気をしっかり持て! 沈むんじゃないぞッ!!』

 

 ――――えっ、ハーレムどこ?(困惑)

 今朝はみんな、あんなに笑顔だったのに。元気に手を振って出かけて行ったのに。

 しかし今、無線から聴こえてくる戦地の状況は、まごう事なき“地獄”だ。

 まるで連続した花火のように命が消えていく、凄惨な戦場の光景が瞼に浮かぶようだ。

 

 えっ、わいのキャッキャウフフは? これ注文と違くね?

 チャーハン頼んだのに、麻婆豆腐きてない?

 

『いやぁぁぁあああ! 提督たすけてぇッ!! たすけてぇぇぇえええッッ!! 』

 

『痛い痛い痛いッ!! 私の脚がぁッ!! 脚がぁぁぁあああーーッッ!!』

 

『殺してッ!! いっそ殺してよぉぉッッ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!』

 

 ――――すいません、めっちゃグロいんですが(白目)

 無線から響く、プライベート・ライアンもかくやという砲撃音、叫び声、そして悲鳴。

 なんか思ってたんと違う。わいの思い描いてたラブコメと違う。

 マスターP氏は思った。

 

「くっ……! 我々艦娘は軍艦であり、水上兵器!

 やはり陸上生物(・・・・)相手には、無力なのかッ!」

 

「いけるかと思ったのですが……。

 やはり深海棲艦でも何でもない生物と戦うのは、無謀でしたね! 私たち船ですし!」

 

 ――――何してはるんですか君ら(絶句)

 いまマスターPと同じ部屋にいる、長門さんと大淀さん。彼女らは秘書艦というポジションであり、今回の作戦立案や、マスターPの作戦指揮のサポートを担当している。

 だが、その焦った様子から察するに……どうやら彼女たちにも想定外な事態が、いま起こっているようだった。

 

「くっ! まさか我々の力が、まったく通用しないとは……。

 こうなれば魚雷を抱えて、敵に特攻するしかない(・・・・・・・・・・)!!」

 

「やりましょう長門さん! 提督のために!

 艦娘の誇りを見せてやりましょう!」

 

 ――――やめてくれませんかねぇ(懇願)

 そんなヘヴィな展開、ぜんぜん求めてない。

 わいはただ、君らとハーレム出来たらそれで良いんすよ。何その悲痛な覚悟。

 

 

『作戦了解ッ!! 総員突撃だぁ! うおおおおおッッ!!』ボカーン!

 

『こうなりゃ死なば諸共よ! わああああッッ!!』ボカーン!

 

『七生報国なのね! えええぇぇぇい!!」ボカーン!

 

『死して護国の鬼となるでち! きええええいッ!!』ボカーン!

 

『みんな、靖国で会うっぽい! やぁぁぁあああッ!!』ボカーン!

 

『マスターP提督、ばんざぁぁぁあああいッ!!』ボカーン!

 

『提督に栄光あれ! ばんざぁぁぁあああいッ!!』ボカーン!

 

 

 ――――勘弁してくれますかね(吐血)

 

 もう全員、ノリが昭和20年だ。

 旧日本軍の艦娘であり、テンションがモロに戦時中の彼女たちは、嬉々として次々と敵に特攻していく。

 

 いまは令和で、ここは異世界。夢と希望に満ちた世界のハズだ。

 そんな大戦末期めいた大和魂は、今はいらなかった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 これは、後で分かった事なのだが。

 どうやらこの世界には、深海棲艦なんてもんは一匹も居なかったらしい(・・・・・・・・・・・)

 

 人類の危機だ! 日本国が危ないゾ!

 そんな雰囲気をそこはかとなく感じ取り、よいしょと現代に蘇ってみれば……そこに居たのは機械獣だの、ジュラル星人だの、ゴルゴムの怪人だのという、全く見覚えのない悪党たちばかり。

 

 その名が示す通り、海で戦うことを生業としている彼女たち艦娘は、イソイソとこの世界にやっては来たは良いものの、悲しいほどに無力な存在であった――――

 

 

「なんという事でしょう……。世界最強の戦艦と謳われた、この大和が……。

 何のお役にも立てないだなんて……」

 

「いや……うん、どんまい」

 

 その日の夜。戦艦娘である大和さんは、6畳間の床にガックリと倒れ伏した。

 彼女は清楚な雰囲気、グラマラスな身体、ポニテの長い髪という、物凄く美人な大和撫子さんであるのだが……今は「おーいおい!」と泣き崩れて、ちょっとブサイクになってしまっている。

 その肩をポンと叩き、マスター氏が慰める。

 

「海でないと、艦娘の艦装は使えないのね。

 陸上じゃあ、砲撃の反動を上手く吸収できないし、魚雷も使えないの。

 そもそもイクたち艦娘は、そういう風には出来てないのね。色々な制限がかかるの……」

 

「海でならともかく、陸で怪人や化け物と戦うのは無理でち。

 艦装が使えないんなら、ゴーヤたちって普通の女の子と、なにも変わらないもん……。

 力も弱いし、走るのだってすごく遅いでち……」

 

「ほんと、何しに来たんだろうね……私たち……」

 

 順番にゴーヤ、イク、吹雪が呟いた。

 狭い部屋の中で、すし詰めになりながら、艦娘たちはウンウンと悩む。

 いくら役に立たないとはいえ、生まれて来ちゃったものは仕方ない。今さら海に還るワケにもいかないし……でもホントどうしよう……。

 

 今も6畳間のド真ん中で、大勢の艦娘たちによって満員電車のようにギュウギュウされているマスターP氏、こと美星鎮守府提督。

 だが「ずーん」みたいな顔の彼女たちを余所に、彼ひとりだけが、何やらとても幸せそうな顔だ。

 いえーい! おっぱいサイコー!

 女の子っていい匂ーい! いいにおーい! うっほほーい。

 

 ちなみにであるが、先の戦闘に参加した艦娘たちは、すでにその全員が戦地から撤退、無事に帰還を果たしている。

 なにやらとんでもない怪我を負った者達もいたようだが……それも現在はすっかり完治。

 マスターP氏は詳しく知らないが、どうやら艦娘の負傷を治す用の施設(装置)が存在するらしいのだ。

 あれから多少の時間はかかったものの、今ではみんな、すっかり元通りなのである。

 

「こうなったら、また魚雷を抱えて特攻するしかあるまいな――――

 いいか皆! 今後はこの戦法を、我ら艦娘の正式なドクトリン(戦闘教義)に!!」

 

「待ってもらって良いすか(震え声)」

 

 君ら船やろがい。なんでそんな零戦みたいな生き方しとんねん。マスターP氏は突っ込む。

 

「なによ提督、私たちは艦娘なのよ?

 死ぬのなんてぜんぜん怖くない。むしろ死んでナンボなのよ」

 

「そうです提督! この命、立派に咲かせてご覧に入れますっ!」

 

「戦場で散るは武士の本懐! 轟沈こそ軍艦の華! 桜の花びらのように!」

 

「「「 そう! 桜の花びらのように!! 」」」

 

「やめて頂けますかね(血涙)」

 

 

 きっさまっと、おっれっとぉーーはー♪

 

 せまっ苦しい中で器用に円陣を組み、「キャッキャ☆」と肩を揺らす艦娘たち。

 どうやらこの子たちは、その強烈なまでの愛国心が災いしてか、かなり尖った思想の持ち主ばかり。

 

 マスターP氏のもとに集う乙女たち――――

 それは提督の為ならば「えーい!」と命を捨てられる、“死に急ぎ艦娘”。

 

 有り体に言うと、なんかピクミンみたいな女の子たちであった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おーっほっほっほ♪ おちんちんの前にひれ伏しなさぁ~い!」

 

 美星町で一番高い、ビルの上。

 そこに起つ立つしたたるウーマンの高笑いが、大空に響く。

 

「――――ゆけ! フランクフルト・メカ!!

 美星町を恐怖のドン底に陥れ、ついでにちょっと勃起させてやりなさぁい!!」

 

 彼女がいま操っているのは、全長30メートルにも及ぶ巨大メカ――――その名もフランクフルト・メカ。

 大変言いにくいのだが……その見た目はフランクフルトとは名ばかりの、まんまおちんちんの形をした巨大ロボットである。

 

 ちくわの老舗であり、元悪の組織である、有限会社【味のヤマモト】。

 その一人娘である彼女は(・・・・・・・・・・・)、パパに黙って勝手に会社のお金を使い込み、この美星町制圧用マシーンを作り上げたのだった。

 その昔、少女時代に思春期をこじらせ「ちくわなんてナンセンス! フランクフルトの時代よ!」と言って家を飛び出した身ではあるが、きっと後でめっちゃ怒られると思う。

 

「オールインワン、ComeTrue、オリジンゼロ……。

 いくら超人揃いの連中とはいえ、所詮は人間ッ! 人間の集まりなのよぉんッ!

 なら巨大ロボットでも作っちゃえば(・・・・・・・・・・・・・・)、絶対ワテクシに勝つことは出来ない!

 ――――蹂躙してあげるわ! このクソッタレ共ッ!!

 豚のようにブーブー鳴きなさい! 全員おちんちんを出しなさい!!」

 

 機嫌よさげに「おっほっほ♪」と声を上げながら、股間に挟んだフランクフルトを左右にグイグイ動かすしたたるウーマン(これがリモコンなのだ)

 いくら能力があろうが、腕力に優れようが、生身の生物である以上は、巨大ロボには勝てない!

 巨大ロボという破壊力! 装甲! 圧倒的な説得力!

 

「小さいのよぉん! アンタたちは!

 器もスケールも、小さく縮こまっているのよ! 冬場のおちんちんみたくッ!!!!

 もっとロマンを持ちなさぁい!

 心のおちんちんを、おったてるのよぉーん!」

 

 ワケのわからん事を叫びながら、したたるウーマンが〈ドシーン! ドシーン!〉とメカを前進させる。

 ビルをなぎ倒し、民家を蹴飛ばし、どんどん町の中心部に向かって。

 ついでにセブ〇イレブンを見かけたら、重点的にゲシゲシ踏みつけていく。底上げ弁当Fuck!

 

 

「――――待てぇい! 俺の町で悪事は許さんッッ!!」

 

 

 だがその時! したたるウーマンの耳に、力強い正義の声が届く!

 

「なっ……何者なのぉん!? 姿を現しなさぁい!」

 

「ふははは! こっちだ! 乳首のあたりに謎の光を纏う、パンいちの女よ!」

 

 その声に振り向けば、いま〈ギュイィィン!〉と音を上げて空を飛ぶ、赤いホバークラフトのような機体の姿!

 

「俺はマスターPッ! この美星町の町長だッ!!

 良い歳してワケの分からんことを言い、フランクフルトを股に挟む変態め!

 貴様の野望は、マスターPが打ち砕くッ!!!!

 この矜持(せいぎ)を折りたくば、あの日輪の輝きを越えて、我が身に届いてみせろッ!!」

 

「――――アンタだって中二病じゃないッ! ふざけんじゃないわよ!!!!」

 

 一生懸命に考えたカッコいいセリフは、したたるウーマンに一蹴された。

 だがそれにめげる事なく、マスターP氏がギュンギュン空を飛ぶ。

 メンタルは強い方なのだ。

 

「工作艦、明石ちゃん! 聴こえるか!

 例のマシンを発進させてくれ! オナシャス!」

 

『おーけー提督! まかせて下さいっ!』

 

 無線から響いたその声と共に、近くにあった川の水が突然ゴゴゴっと盛り上がる。

 そして、そこから黒鉄の城(くろがねのしろ)とも言うべき、巨大なロボットが姿を現したのだ!

 

 

『これが、我が美星鎮守府が総力を上げて開発した、最強スーパーロボット!

 その名も、マジンガー絶頂(ぜっちょう)ですッ!!』

 

 

 ――――美星町の空にそびえる、黒鉄の城。

 ――――――――スーパーロボット、マジンガー絶頂()

 

 世界征服を目論む(かどうかは知らないが)悪のロボットの前に、いま僕らのマジンガーが、悠然と立ちはだかる。

 みんなの笑顔を守るために! 世界の平和を守るために!

 

 

「 いくぜッ! パイルダー・オン!(意味深)」

 

 マスターP氏の乗る機体が、マジンガーの頭部と合体する。

 なんか〈ずにゅっ♪〉という嫌な音が鳴る。

 

「――――はぁぁぁすッ!! ああああああんッ☆☆☆」

 

『提督! どうです? 気持ちいいですかっ?!

 マジンガー絶頂は鉄壁のマシン! 不滅の要塞です!

 その身に受けた、ありとあらゆる衝撃を、快楽に変換(・・・・・)するんです!』

 

「なんでそんなモン作ったん??!! いきなり意識飛びそうなったわッ!!」

 

『どれだけ攻撃されようが、ぜんぜん痛くないんですよ?

 正に不死身のロボットですね! どんどん気持ち良くなって下さい提督!』

 

「その機能は、外せんかったの?!

 面白いネーミングを思い付いたからって、それに引っ張られてないか?!」

 

『とんでもない! 快楽あってのマジンガー絶頂なのです!

 そのマシンは、提督がエロい事を考えれば考えるほど、どんどん馬力が上がるんです!』

 

「どういう仕組み?!?! なにその無駄な科学!?!?」

 

 うちの艦娘たちは、戦えない。

 海でならともかく、陸の相手に対しては、まったくの無力だ。

 ――――ならば、このマスターP自らが戦うしかない! 敵を打ち滅ぼすしかない!

 

 そんな発想により、工作艦明石と全艦娘たちの手によってえっほえっほと作られ、あと美星町の税金とかもちょっと使って製造されたのが、このマジンガー絶頂である。

 その黒光r……いや黒鉄のボディは、言うまでもなく某スーパーロボットまんまの見た目。

 きっと明石が、原作のファンだったのだろう。

 その斬新な発想により、光子力ではなく快楽を動力にはしているが。

 

『さぁ、エロいことを考えて下さい提督!

 いつもしてるみたいに、ハーレム作るという童貞くさい妄想でもしてて下さい!

 それではっ! 頑張って下さいね提督☆

 暁の地平線に勝利を! ――――このスケベッ!!!! おーばー♪』

 

「えっ、なんで通信切るのっ?!?! あとなんで悪口!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ――――次回予告ッ!!

 

 マスターP vs したたるウーマン。

 そしてフランクフルト・メカ vs マジンガー絶頂――――

 

 その戦いは火花を散らし、美星町の大地を震撼させる。

 

 

 

「いくわよぉん! このチンカス男ぉ!

 うおー! ちんちんちんちん……」グリグリグリ!

 

「くらえッ! ブレストファイヤー!!

 ――――うわああああん! わいの乳首がぁっ!! ちくびがぁぁぁああああッ!!!!」

 

 

 

 そんな胸が湧き、心が踊るドリームマッチではあるのだが、今回はここで筆を置こうと思う。

(ぶっちゃけ、もう良いかな? と思いました)

 

 唸れ発想! 解き放てインスピレーション! もんじゃ焼き魂!!

 ――――戦えマスターP!! 金玉を蹴り上げた方が勝つ!!!!

 

 

 

 次回! マスターP戦記、マジンガー絶頂…………第二話。

 

【――――さらばマスターP! 美星町最後の日!!】

 

 

 

 パイルダー・オン!(ずにゅっ♪)

 

 

 

 



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【リレー小説本編】一巡目
第1章、はじまり。 (hasegawa 作)


 

 

 むかしむかし、あるところに、ひっそりと立つお地蔵さんがおりました――――

 

(おぉ~、もう渡り鳥がやってくる時期か。

 よきかなよきかな。風物詩じゃのう)

 

 お地蔵さんは、もうずいぶんと長いこと、この山道の傍らに立っていました。

 日々移り変わる季節の変化を楽しみながら、たまに通りすがる村人や旅人たちを、今日ものほほんと見守ります。

 

「やや! これはお地蔵様。お元気ですかな?」

 

 お地蔵さんが意識を前に向けると、そこにひとりの男性が立っておりました。

 その途端、石であるはずのお地蔵様の表情が、ほんのちょっとだけ曇ってしまいました。

 

「今日は良い物を持ってきましたぞ、お地蔵様。ご照覧あれ」

 

 そもそも、お地蔵さまはずっとここに居ます。

 この男性は毎日のように、何度も何度もここに来ているのだから、「やや!」とかわざとらしく驚かれても困ります。お前わしがおるの知っとるやないか、みたいな事なのです。

 ご照覧あれ、もなんか違う気がしますし。

 

「これは新製品の、プロテインですじゃ」

 

 男はお地蔵さんの目の前で、専用のプロテインシェイカーを駆使し、シャカシャカし始めました。

 

「たまにプロテインの事を、危険な薬物かなにかと勘違いしておる輩がおりますがな?

 これはタンパク質。身体を作るのに必要な栄養素、それを凝縮した物なのですじゃ。

 ささ、お地蔵様。どうぞ!」

 

 男は少し泡立ったプロテインを、トンッとお地蔵様の足元に置きました。

 これも確かに食べ物(飲み物)には違いないんでしょうけど、お地蔵さん的には「お饅頭とかおにぎりの方が有難いのになぁ」と思ってしまいます。

 そもそもお地蔵さんなので、なんでプロテインもってくんねん、わしゃボディビルダーか、みたいな気持ちです。

 

「これは、我が家で放置されていた革ジャンですじゃ。

 そろそろ寒い季節じゃし、ぜひ有効活用してくだされ。

 ささ、お地蔵様」

 

 そして男性は、以前ロックバンドのギタリストをしていた時に着ていた、たくさん鋲の付いた黒い革ジャンを、お地蔵さんに羽織らせました。

 お地蔵さんの見た目が、途端にアメリカンというか、ロックな事になりました。威圧感がとんでもない感じになっています。きっと子供が見たら泣きます。

 

「それじゃあ、お地蔵様。おさらばですじゃ。

 筋肉は裏切らない。努力もまた然りですぞ?」

 

 プロテインと革ジャンを置いて、男がこの場を去っていきます。

 いかにも「あーええ事した」という満足感に満ちた表情が、少しだけお地蔵様をイラッとさせました。

 

 わし地蔵じゃし、筋トレとか出来へんのじゃけど。

 こんな革ジャン羽織らされても、ロックとかよぅ知らんのじゃけど。

 

 お地蔵さんはそう思いましたが、石なので何も言う事が出来ず、ぐむむ……となりました。

 関係ないですが、近年のプロテインは昔の物とは違い、バニラシェイクみたいで結構おいしいのでした。

 

 

 

………………………………

………………………………………………………………

 

 

「これはこれはお地蔵様。ご機嫌さんですじゃ」

 

 次の日、革ジャン地蔵のもとに、またあの男性がやって来ました。

 彼は仕事に行く前には必ずここに立ち寄るので、もう毎日のように会っています。

 

「今日は良い物を持ってきましたじゃ。ぜひ召し上がって下され」

 

 そう言って男は、のりたま(・・・・)の袋をお地蔵さんの足元に置きました。

 

「これがあれば、大概は何とかなりますじゃ。

 ぜひお役に立てて下され」

 

 ――――米わい。のりたまだけやなくて、米わい。

 男はふりかけだけを用意し、ご飯を持ってきていませんでした。

 のりたまだけ貰っても、わしどうしたらええねん? お地蔵さんは困ってしまいました。

 

「あとこれは、マックナゲットに付いていた、黄色いソースですじゃ。

 わしには赤いヤツがありますでのう、これも差し上げますじゃ」

 

 ――――ナゲットわい。ナゲット持ってこんかい。

 ソースだけでどないせいっちゅーんじゃい、とお地蔵さんは思いましたが、ニコニコと100%の善意で微笑む男を見て、もう文句すら言えません。

 

「お地蔵様、ピアスとかどう思いますかな?

 せっかく革ジャンを着ておるのだから、頭部にも何かアクセントを、と思うのじゃが」

 

 ――――殺すぞ。それしたら容赦せんぞ。

 もし耳に穴でも空けられた日には、この男を全身全霊を持って呪い殺す。黄泉平坂の無間地獄に落してやる、そう心に決めました。

 “ピアス地蔵”とか聞いた事もありません。

 

「今日は穴を空ける道具を持っておらんし……これで我慢してくだされ。

 いつの日か必ず、お地蔵様を天下一のロックファッションにしてみせますじゃ」

 

 家に転がっていた原付のヘルメットを、スポッとお地蔵さんに被せ、男は満足気に山道を登って行きました。

 お地蔵さんはバイクにも乗れないのに、なぜか革ジャンとヘルメットを装着されて、とても地蔵とは思えないような見た目になりました。

 

 とりあえず、のりたまどうしよっかな?

 いつか誰かがおにぎりをお供えしてくれた時に、使ってみようかな?

 

 お地蔵さんは意外とポジティブに、これからの事に想いを馳せました。

 食べ物を粗末にしてはいけないのでした。

 

 

………………………………

………………………………………………………………

 

 

「お地蔵様、申し訳ありませんでしたじゃ……。

 革ジャンを着せたと言うたら、女房にもう、オシッコちびるくらい怒られてしもうて……」

 

 また次の日、めそめそと泣きながらやってきた男を見て、「そらそうやろ」とお地蔵さんは思いました。嫁さんグッジョブです。

 

「ですので今日は、革ジャンの代わりを持ってきましたじゃ。

 女房のタンスに入っておった、パリジェンヌ御用達のトレンチコートですじゃ」

 

 奥さん意外とハイカラなもん着てはるんですね。

 お地蔵さんは思いました。

 

「おぉ、さすがパリジェンヌ御用達! 後ろ姿までもドラマチック!

 360度どこから見ても、美人ですじゃ!」

 

 なんでこんなファッショナブルなもん着させられなアカンねん。わし地蔵やぞ。

 お地蔵さんはそう思いますが、まぁ革ジャンよりは若干マシに思えたので、黙って着せてもらいます。

 おそらく世界初であろう、“トレンチコート地蔵”が誕生しました。

 

「そしてこれは、同じく女房のタンスにあった、Tバックですじゃ。

 お地蔵さんは穿けんじゃろうから、頭にでも被って下され。少しは寒さを防げますじゃ」

 

 ――――やめろ。いらんわ。殺すぞ。

 お地蔵さんのスピリチュアルな声は、決して男には届きません。

 いま、まるでパリジェンヌのようにトレンチコートを着こなし、そしてなぜか頭にパンツを被るお地蔵さんが爆誕しました。この地方のちょっとした名物になれるかもしれません。

 関係ないけれど、お前は嫁になんつーもん穿かせとんねん、と思いました。

 

「あ、そういえば! この前わし、カジキマグロを釣り上げて来たんですじゃ。

 2時間にもおよぶ死闘の末、ようやく一本釣りした大物ですぞ?

 お地蔵様に差し上げますで、どうぞ召し上がってくだされ」

 

 そして目の前にドーンと置かれる、巨大なカジキマグロ。

 全長2メートルを超え、もう何百キロもありそうなカジキマグロが、お地蔵さんにお供えされました。

 

 ――――どうやって食うねん。コレどうしたらええねん。

 せめて捌いて持ってこい。刺身にしてくれ。お地蔵さんは再びスピリチュアルに訴えかけますが、霊感ゼロの男には通じませんでした。

 

「あー今日もええ事をしたわい。

 それじゃあお地蔵様。チャオ」

 

 男が満面の笑みで、この場を去っていきます。

 パリジェンヌみたいになったお地蔵さまは、その後ろ姿を困った顔で見送ります。

 

 とりあえず、魚どうしよう? ここに置いといたら、山の動物たちが喜んでくれるだろうか?

 そんな事を考えますが、とりあえずすごく魚臭かったので、はやく誰かがなんとかしてくれたらいいなぁと、お地蔵さんは思いました。

 

 

………………………………

………………………………………………………………

 

 

「やや、パリジェンヌかと思いきや、お地蔵様!

 今日も良い物を持ってきましたぞ」

 

 お前がしたんやろうがい。はよ脱がせてくれや。

 そうは思うけれど、まぁこれ意外とあったかいので、黙ってお地蔵さんはその場に佇んでいます。

 

「これは最近町に出来たハイカラな喫茶店で買った、グランデ・アドショット・ヘーゼルナッツ・バニラ・アーモンド・エキストラホイップ・キャラメルソース・ランバチップ・チョコレートクリーム・フラペチーノですわい」

 

 ――――なんて? いま何て言うたん?

 お地蔵さんは、思わず聞き返しました(心で)

 

「ああ、お地蔵様はこんなオシャレな物を飲んだ事は、御座いませんかな?

 フラペチーノですわい、フラペチーノ。

 これはグランデ・アドショット・ヘーゼルナッツ・バニラ・アーモンド・エキストラホイップ・キャラメルソース・ランバチップ・チョコレートクリーム・フラペチーノ……と言う飲み物ですじゃ」

 

 ――――やかましいわ。長いわ。

 それとお前、なんかイラッとくるのぅ。お地蔵さんはそう思いますが、男は上機嫌でひたすらフラペチーノフラペチーノと言っています。手が付けられないウザさです。

 

「あ、今日はお夕飯として、チーズフォンデュもご用意しましたじゃ」

 

 ――――なんでそんなモンもってくんねん。なに農民が色気出しとんねん。

 お前、地蔵にチーズフォンデュお供えするヤツ、一回でも見た事あんのか。

 お地蔵さんは思います。

 

「専用の容器も準備しましたので、どうぞご堪能くだされ。

 あたたかいチーズをかけた野菜やソーセージは、また格別ですぞ」

 

 ――――出来へんて。わし石やし、チーズつけて食うとか無理やて。

 お地蔵さんはそう抗議しますが、いまも目の前でウイィィーンと音を立てているチーズフォンデュの機械を前に、もう何も言えなくなりました。

 

「今日はお地蔵様に、南蛮の風を感じてもらいましたじゃ。

 世界は広いですなぁお地蔵様。いろんな食いモンがありますじゃ」

 

 ――――あわとひえ持ってこい。あわとひえでええねん。次から。

 お地蔵さんは一生懸命に念話で語り掛けますが、男はそれを気にする事なく去っていきます。

 

 とりあえずお地蔵さんは、お供えしてもらったグランデ・アドショット・ヘーゼルナッツ・バニラ・アーモンド・エキストラホイップ・キャラメルソース・ランバチップ・チョコレートクリーム・フラペチーノを飲み、「甘ッ!?」と思うのでした。

 

 

………………………………

………………………………………………………………

 

 

「あんたぁー! しっかりしとくれよ! あんたぁー!」

 

「ぬおおぉぉ……」

 

 それから数十年後。

 毎日お地蔵さんのもとに来ていた男も、ずいぶん年を取ってしまいました。

 いま男は、愛する奥さんに看取られながら、その生を終えようとしている所でした。

 

「そんな! あんなに信心深かったあんたが!

 毎日欠かさずお供え物だってしてたのに! 死んでしまうだなんて!」

 

「仕方ない事じゃよ。いくら信心深くても、人間は老いには勝てんのじゃ……。

 むしろお前と60年も連れ添い、寿命まで生きられた事は、とても幸せな事じゃて」

 

 まぁお地蔵さんにしていたお供え物って、ベルマークとか、やった事もないゲームの攻略本とか、ガリガリ君ナポリタン味とかだったりするのですが……。

 一応そんなのでも、お供え物はお供え物です。

 

 ちなみにですが……男の死に関しては、あのお地蔵さんは何も関与しませんでした。

 いつも仕事の無事であったり、男の健康であったりを祈ったりはしてあげましたが、別段特別な加護を授けたりはしていません。

 男が贈ってきたのが普通のお供え物ばかりであったなら……と少しだけ思いますが、お地蔵さんは彼を特別扱いはしなかったのです。

 

「けれど、無念じゃ……。

 長年の夢であった“世界征服”も果たせぬまま、無念の内に果てるとは……」

 

「えっ、あんたそんな事しようと思ってたの?!」

 

 奥さんは60年連れ添いましたが、まさか自分の夫がそんな野望を持っていただなんて、思いもしませんでした。

 ただの農民だと思っていたのに。

 

「じゃが、わしはここで死すとも……子孫たちが。

 わしの子孫たちが想いを受け継ぎ、きっと果たしてくれるハズじゃ……!」

 

「あんたぁー! 死なんとってぇー! あんたぁー!」

 

「なんたってわしは、この60年もの間、毎日かかさずお供え物をしていたのじゃから……。

 きっと膨大な量の“徳”が貯まっておるハズじゃて!

 う゛っ! 子孫たちよッ! わしの屍を越えてゆけッ!! …………ぐふっ!!」

 

「あんた?! あんたぁぁああああっっ!!」

 

 

 ――――それは、真実でした(・・・・・)

 ちょっとアレなお供え物のセンスはともかく……確かに男のおこなってきた善行は、しっかり“徳”となって積み重なっていました。

 

 それは年老いた男に幸福をもたらす事はありません。……まぁお地蔵さん的にも、こやつを幸せにしてやるのは「なんか違う」という想いがあったのでしょう。

 

 しかし老人となるまで男が積み重ねてきた徳は、しっかりと彼の子孫に(・・・・・)受け継がれます。

 彼の子孫たちには、それはもうとんでもない位の幸福がもたらされるのです。

 

 

 きっと男の子孫たちは、頑張れば頑張るほどに、幸せを掴める事でしょう。

 

 そしていつの日か、彼の宿願であった“世界征服”の夢を、叶える日が……。

 

 

 

 

 

………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 時は流れ、現代――――

 300年続いた徳川の世も終わり、街に沢山の自動車が行きかう、令和の日本。

 

 

「――――待ってろよ爺さん! 爺さんの果たせなかった夢は、この俺がッ!!」

 

 

 いま長い時を越え、ひとりの若者の覇気に満ちた声が、空へと木霊したのです。

 

 

 

 

~つづく~

 

 

 






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 PS 好きにやっちゃってください3710さん! ふぁいと♪
 



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その男『秋月 流』 (3710 作)

 

 

その男『秋月 流』(あきつき ながれ)の朝は早い。

 

現在朝の5:00。いつも通りの朝。いそいそと布団からでて身支度を済まし、玄関を出る。

 

「さあ、今日も一日がんばりますか」と独り言をいいながら、まだ夜が明けない道を走って行く。

流が走りたどり着いた先にたたずむのはお地蔵様。

毎朝のルーティーンワークとしてこのお地蔵様の清掃及びお供え物をしているのである。

先祖代々『秋月家』の男児はこのお勤めを日課とするのである。

ひとしきりお地蔵様の清掃が終わると持参した袋から蝋燭・線香を取り出しお供えの準備をする。

「今日も良い物を持ってきました、お地蔵様。ご照覧あれ」

流がそう言って「お供え物」を取り出したとき、心なしかお地蔵様の顔が曇った気がする・・・

「これは新製品の、プロテインです」

流はお地蔵さんの目の前で、専用のプロテインシェイカーを駆使し、シャカシャカし始めた。

「お地蔵様はプロテインの事を、知っておられますかな?

 これはタンパク質。身体を作るのに必要な栄養素、それを凝縮した物なのです。

 ささ、お地蔵様。どうぞ!」

泡立ったプロテインを、トンッとお地蔵様の足元に置く。

この時お地蔵様は【なぜこの家系の男児は毎回斜め上のお供え物を持ってくるねん。というか300年位前からプロテイン知ってるっちゅうねん。主にお前の先祖のおかげで】と心の中で思ったとか思わなかったとか。

そんなことを気づかない流は手を合わせ

「先祖の夢である世界征服が成就しこの世が平和になりますように」

とお参りをする。

【毎回思うがそれは世界平和であろうに・・・】というお地蔵様のツッコミは横に置いておくとして、流は『秋月家』の先祖『秋月 海人』の夢である世界征服を実現すると心に決めている。そもそもなぜ世界平和が世界征服と入れ替わっているのかというと、『この世に争いがあるから無為の人が死んでいく』→『それを無くすにはどうすれば良いか』→『そうだ世界征服すれば平和にできんじゃね?』というウルトイラハイパーバカな思考があったためである。しかして、『世界平和』の部分を死に際にちゃんと伝えなかったため『世界征服』が先祖の夢であると後世に伝わっている。だが、蛙の子は蛙もといバカな子はバカであり、『世界征服』という先祖の夢に何も違和感を抱かなかったのである。

ー閑話休題ー

流はお参りが終わるとプロテインを下げ、再度シャカシャカし一気飲みをする。

「今日も元気だプロテインがうまい!」

という台詞で締め

「それではまた明日!」とお地蔵様へ挨拶するとダッシュでお地蔵様を後にする。

彼にはまだ日課が残っているのである。

 

「おはようございまーす!」

と元気に新聞屋の戸を開ける。そう、これから朝刊の配達なのである。

「あら流ちゃん、今日もよろしくね。」

そう告げるのは店長の「御釜田 歩茂」(おかまだ ほも)筋骨隆々のオネエなのである。

だが、美人の奥さんと3歳の娘さんが居る。謎である。

「よろしくお願いします。そういえば野田さんは?いつもなら来ている時間ですが。」

「それがね、ぎっくり腰なんですって。今日一日安静みたいなの。代打で佐々木ちゃんにいってもらおうかと思って電話しようとしてたとこのなのよ。」

「それなら俺が行きますよ。野田さんのチャリあるんでしょ?チャリならいつもの半分で配れるし、担当地区も横なので。」

「あらーそうしてくれると助かるわ♩時給に色つけとくわね☆」

パチーンとウインクつきでそう返答される。他の社員は慣れたとはいえ若干抵抗があるが、この男は

「んっじゃ行ってきますー」と耐性MAXなのであった。

 

「お疲れ様でしたー。」

夜が明け朝の7:00。

2地区分の配送が終わり帰宅。シャワーで汗し制服に着替える。

支度が終わり学校へと登校する。もちろんダッシュで。流の移動は基本ダッシュで街の皆さんにはもう見慣れた光景なのである。

目的地に着き自身の教室・・・ではなくとある部屋へと入る。

『生徒会室』

それが流の目的地なのである。

「おいーす。」

と言いながら生徒会室を開けると3人の女子生徒と2人の男子生徒が居た。

『生徒会副会長』の席に座るのは『早乙女 アルト』2年生(さおとめ あると)

『風紀委員長』の席に座るのは『渡辺 摩利』3年生(わたなべ まり)

『書記』の席に座るのは『布仏 虚』3年生(のほとけ うつほ)

『広報』の席に座るのは『ルカ・アンジェローニ』1年生

『会計』の席に座るのは『岡村 ナミ』2年生(おかむら なみ)

の5人である。

そして、空席の『生徒会長』の席に座るのは当然『秋月 流』2年生である。

流は席に着くと

「美星祭の進捗はどうだ?」

と皆に問いかける。

まずは副会長のアルトから答える。

「今各クラスからの模擬店・出し物の選定中だな。布仏先輩と協力して申請の半分は消化済みだ。」

「どんなのがあった?」

「喫茶店からお化け屋敷など無難なやつは許可で決裁してます。おそらく一部の暴走であろう『シェリル・ノームのランチショー』『水着喫茶』『ランカ・リーのショーステージ』なんかは不可で決裁済みですよ。」

と虚が続ける。

「おけ。シェリルとランカの許可はどうせ取ってないだろうし、怪しそうなやつはバンバン不可決裁でよろ(^_^)b次、広報のルカ、報告よろしく。」

「広報ですが、学内ポスターコンテストの集計済みで最優秀作品で制作かけてます。来週にできあがるので各地域に協力依頼して貼り付ける場所の確保を依頼中です。昨年貼らせてくれた店舗は今年も継続していただける見込みです。」

とルカが答える。資料によると例年通りのエリアは確保出来そうだ。

「いいね。出来れば昨年より広範囲に宣伝出来るといいな。」

「それがですね、自治会連合の銭形さんが動いてくれて去年の倍ぐらいの範囲になりそうです。」

「なぬ(゚Д゚)銭形のおっちゃんやってくれるねーこれは嬉しい誤算。んじゃ次会計のナミ報告よろ。」

「はいはい。とりあえずはアルトと虚が許可だした件の仮予算申請をまとめ中ね。予測だけど全体半数の申請に対して仮予算申請は4割程度に収まりそうだから、予算超過にはならないと思うわ。」

「ほうほう。ちなみに予算上限超過した申請はあったか?」

「3件あったけど、1件はただの集計間違いであと2件は購入物品がもっと安いところがないか確認するように再提出依頼してるわ。一応ネットの情報を添付して送っておいたから、それ通りになると思うけどね。」

「りょ。どうにもならん場合1割増まではナミの裁量でオッケー出しといてちょ。」

「りょーかい。」

「最後に風紀委員の摩利先輩報告よろしくお願いします。」

「風紀委員が担当するの会場警備だが、昨年同様各エリア常時10名の配置を行い入場門のチケットチェックも行う予定だ。今年は生きの良い1年生が風紀委員にはいったから去年よりパワーアップしてるぞ。荒事にも慣れているみたいだしな。」

「それなんですけど、風紀委員のみんなって交代制でやってます?去年見てるとあんまり人の配置が動いてないように感じたのですが?」

「いや、各自の休憩時間は作っているが交代制にはしていないな。今年も各自1時間程度の休憩の予定だ。」

「ふむふむ。風紀委員はあまり美星祭を楽しむ時間なさそうですね。」

「まあ、それが仕事だからな。」

「なのでこうしましょう。各エリア12人体制で3人✕4チーム作る。その4チームでローテーションを組み休憩時間を最低2時間とれるシフトを組みましょう。風紀委員も生徒ですから楽しむ時間が必要ですよ。」

「それはわかるが、今の配置で人数上限だがそこはどうする?」

「教師陣を使います。各エリアに4人配置します。なので実質各エリア8人で良いんですよ。余った人数を入場門のチェックに回してそこも交代制にしましょう。」

「なるほどな。だが、いいのか?教師陣を使っても。」

「実は依頼はちょっと前にかけています。織村先生に掛け合っているのであちらで選抜してくれるみたいです。」

「それは助かる。」

「なので摩利先輩も彼氏と学祭デートしてください笑」

「「「「えっ」」」」

バっと一斉に摩利の方へ視線が向く。

皆摩利に彼氏が居るのが信じられないようだ。

「な(゚-゚)修のことをどこで知った!」

「あ、修って呼んでるんですねwww先週の日曜日に見かけましたよ、レゾナスで。」

「なんだと!あいつとは幼なじみでな・・・・」

「またまたー。ただの幼なじみではあんな甘い空気出ないでしょ。」

「いやそうではなくてな・・・・」

とそこでナミが突っ込む。

「幼なじみで甘い空気。これは確定ね!」

「違う、違う!私が好きなのはな」

キーンコーンカーンコーン

そのとき摩利の台詞を遮るように予鈴が鳴る。

「その話はその辺にして朝礼に行かないと遅れるぜ。」

とアルトが助け船を出す。

「んじゃ後は放課後に続きの処理しましょう。また放課後に集合で。」

と流が言うと三々五々支度をして朝礼に向かう。

 

 

そして朝礼。

「・・・・と言うことで私からの挨拶は以上です」

長い長いありがたい校長先生の話は終わる。

「次は生徒会長からの連絡事項です。」

とアナウンスがあり流が壇上に立つ。

いつになく真剣な表情でこう語った。

「我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!

地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。

にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か?

諸君!我がジオン公国の戦争目的が正義だからだ。これは諸君らが一番知っている。

我々は地球を追われ、宇宙移民者にさせられた。

そして、一握りのエリートらが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、

宇宙に住む我々が自由を要求して何度踏みにじられたか。

ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由のための戦いを神が見捨てるはずはない。ぶへ」

演説の途中で流の顔面にスリッパがクリーンヒット!きゅうしょにあったった。114514のダメージ!

「真面目にやらんか馬鹿者!」

とスリッパを投げたのは織村教諭のようだ。

とたんに生徒から大爆笑が起こる。

生徒会のメンツに至っては「また始まった。」と頭を抱えるのであった。

「さて、織村先生のツッコミがあったところで気を取り直して。美星祭まで後1ヶ月となりました。クラス及び部活の出し物申請を出していないところは早急に提出お願いします。元々案内していた通り今週末で締め切りです。却下・再考の可能性があるので早めの提出をお願いします。また、今年は例年のトラブル発生を防ぐために入場制限を行います。生徒1人に対し最高10枚の入場券を発行します。申請書をHRで配布してもらいますので明日中に提出してください。また、今日から学園での宿泊作業が解禁されます。そちらの方も事前申請を必ず行うようにしてください。未申請による宿泊が発覚した場合何かしらのペナルティーが発生します。注意してください。最後に」

その言葉を言った瞬間にかすかに空気が変わる。生徒全員それを感じ取ったようで緊張が走る。

「美星祭は毎年あるが、この日このメンバーでやるのは最初で最後だ。後悔しないように全力で準備して全力で楽しめ!笑って、泣いて、それを今のメンバーで共有して良い思い出にするんだ!外野がとやかく言おうとも自分たちがやりたいことを徹底的に追求するんだ!楽しんだもん勝ちだ!今回の美星祭史上最高のもんにすんぞ!以上!」

そう言った瞬間生徒全体から歓声が上がる。「それを最初からやれよ」と思う生徒会メンバーと織村先生なのであった。

「以上で朝礼を終わります。」

そのアナウンスで生徒は解散する。

 

ー美星祭開催まで後31日ー

 

 

 

 

 







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 3710様、執筆お疲れ様でした♪
 前話からの設定を上手に引き継ぎ、そして新たな展開を提示して下さいましたっ!
 このhasegawa、感服いたしましたゾ☆

 ……というか、あのお地蔵さま続投しちゃいましたねw 世界征服の目的もw
 なにやら私、いま軽く冷や汗をかいておりますが……これはもう後の方々にお任せするとしましょう! 私はもう知らんゾ!w

 ではでは、2番手お見事でした♪ 3710様ありがとぉ~う!(hasegawa)


☆もんじゃ焼き伝言板☆

 Mr.エメト 様
 初めまして。【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼きに参加させていただいている3710です。
 今回いろいろと版権キャラを出さしていただきましたが、完全に私の趣味で次話につなげるフリではありませんので、次話は思う存分自由に書いてください。
 それでは【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼きをみんなで書き切るまで、お付き合いお願いします。




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他の方法で世界征服を考えよう (Mr.エメト 作)

 

 

 

秋月流は世界征服を考えている(ちょっと頭が残念な)男だ。

今回も友人を集めて、他の征服方法を考えていた!!

 

「というわけで、ほかにも世界制服する方法がないのか、案を出してもらいたい」

 

「あの、制服ではなくて、征服では……?」

 

「地の文の間違いです!!ごめんなさいでしたー!!」

 

その指摘に開き直ったかのように謝る秋月流。

"ダメだこりゃ"っと、呆れている友人たちは同学年。

 

 

―――室斑勝也(むろぶち かつや)

 

空手部に所属しており、実家も空手道場。

型にとらわれない柔軟な思考も持ち合わせているので、ダイナミックな動きも得意としてる。

喧嘩では絶対に使わないようにしている。ちなみに甘いものや犬と猫が好き。

 

 

―――飯島直樹(いいじま なおき)

 

流とは中学時代、一緒にいた馴染み。

世界征服と聞いたときは、"何を言っているんだ"と思っているがなんだかんだで付き合っている。

ゲームやアニメが好きなオタクだが、雑学的なことも知っているためクラスの男子には人気がある。

頭もよく、成績は上位にいる。

 

 

―――諸星のどか(もろぼし のどか)

 

先ほど、流の間違いを指摘した女子生徒。

図書委員でよく図書室にいることが多いから"本屋ちゃん"と呼ばれている。

菓子作りも得意で、心を鷲掴みにされるほどの美味さである。

 

 

この三人、接点はなさそうに見えるが共通点があるとすれば……、

流の"世界"をどうすればいいのかー、ということに興味を持って(半分だが)付き合っているような感じである。

 

 

「てか、その話題で95回もやってね?」

 

「違う、96回だ!!」

 

「いや、対した差じゃねぇーだろ」

 

「……結局、こうやってしょうもない話でグダグダしているよね僕たち」

 

「それに学際の準備とかもあるから、会う回数も減るかもしれませんが……」

 

「だからこそだ、今回こそは世界征服の内容を決めたい!!」

 

そんな風に意気込み、鼻息を荒くする流。

 

「でも実際に、世界征服しようとしたら、変な事故起きて……それどころじゃなくなるのが多いよね」

 

「例えば、魔界から悪魔が出てきたり、怪獣とか出てきたり、聖杯戦争が起きたり、とかですね」

 

 

 

思えば、日本の首都:東京がやたらとそういう展開が多いよな(作者談)

 

 

 

「それはそれで、面白いと思う。むしろバッチコーイだ!!」

 

「「「いや、よくないからね」」」

 

「そんなー(´・ω・`)」

 

三人のツッコミにしょぼんとするが、彼はこの程度では退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!(聖帝精神なのか)

 

「まぁ、これからやる学園祭だって……たまにへんな騒動が起きるのもあるよな」

 

「そうですね……今年はカップルが出てきたりしてね」

 

「織斑先生の弟さん……女性陣たちが色々とバトルとしてましたが、決着はつきませんでしたからね」

 

「それなー。なんで気が付かないのか全然、解らん。あれか、織斑の姉さん一択だけなのか?」

 

そんな発言をしてか、四人は口をそろえて

 

「「「「シスコンという可能性がありそうだ……」」」

 

と、ボロクソなことを言われる。姉に好きになってもいいじゃない。

 

「……で、世界征服の話でしたよね。やはり地道な努力とかしてみてはどうでしょうか?

 そのうち、異世界に飛ばされるということもありますからね」

 

「そんな、"ありふれた"とか"リゼロ"とか"オーバーロード"とか"このすば!"みたいなことが起きるのか?」

 

「何が起きても不思議ではないですからね、うちの学園って。そのうち"マジカミ!"なことも起きるかもよ」

 

……とまぁ、なんだかんだで話がうやむやになって、いつも通り他愛のない会話が続く。

 

 

 

 

忘れているが美星祭開催まで後30日!!

 

 

 

 






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 エメト様、執筆お疲れ様でした♪
 キャラ増えましたね~。今回は生徒会ではなく、同学年のご友人たちですなッ。

 私的には、今回雑談の中で出てきた“織斑先生の弟さん”の存在がすごく気になるのですが……もしかしたら今後、彼をメインとしたラブコメ展開が出てくる可能性が……? 
 わたし期待しちゃっても良いのでしょうか?! 誰かラブコメ書いてくれないカナ?!

 それでは! 3番手お見事でした♪ エメト様ありがとぉ~う!(hasegawa)



 ☆もんじゃ焼き伝言板☆

 今回は私の完全なオリキャラで、他作品の情報とかメタ的な話を創りました。
 お好きな展開を書いてもいいのですよー。
 では、よろしくお願いしますー。(Mr.エメト)





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渡る世間はマトモじゃない (天爛 大輪愛 作)


【注意】

 後半、下ネタ(小学校低学年レベル)が含まれます。
 あと、途中から自分でも何書いてるか分からなくなるくらいカオスです。(天爛 大輪愛)





 

 

 

 翌日・土曜 朝……

 

 

 ____ぱんっ! ぱんっ!!

 

 青空の下、道端に、そんな音が響き渡る。

 ……別に誰かが猛烈にパンを食べたがっているわけでもないし、あんなことやこんなことをしているわけでもない。

 

 

「お地蔵様ッ! 今日もサンキューベルマッチョな!」

 

 お察しの通り、勿論、この男・秋月 流が柏手を打っていたのである。

 

「マッチョに因んで! 持ってきたぜ、お地蔵様! 今日の珍品・プロテイン……」

 

 ____いつも通りやないかい!!

 

「……納豆餃子味ですッ!!」

 

 ____誰が飲むか!!!!

 

 本日も、スピリチュアルな世界に、お地蔵様のツッコみが響いているようである。

 

 

 ____ほんま、その供物センスをどうにかせぇッ! あの男の代から思っとったけど! 遺伝子どないなっとんねん!!

 

 ツッコみに徹するあまりか、お地蔵様の両目がクワッと開かれ、『雨にも負けず(以下略)』に定評のある彼のエターナル・スマイルが崩れかけてしまっている。 

 

 

 そんな『開眼、俺!』なお地蔵様に気づかず、流は上機嫌で、シェイカーをシャカシャカしている。

 

「プロテインと! 納豆餃子を! レッツ・ラ・まぜまぜ~!!」

 

 魅惑のドリンク、出来上がり! と、流はお地蔵様の前にシェイカーをお供えした。

 

 

「ささ、ご賞味あれ、お地蔵様! 三色パンを初めて食べた時くらいビックリしますから!」

 

 ____例えが俗すぎるねん! っていうか、三色パン持ってこいや、そっちの方が旨そうやわ!

 

「いや、もっと驚くな……そう、チーズハットグを初めて食べた時くらいビックリしますから!!」

 

 ____さっきから、わしの食べたことのないものを例にすな!!

 

 

 お地蔵様がツッコみ疲れていると。

 もう一度『ぱんぱん』した流が、プロテイン・納豆餃子味……もとい、ゲテモノをお地蔵様の前から下げ、一息に飲み干した。

 

「ぷはぁ~ッ……」

 

 ____吹きかけんな、納豆で臭いねん!

 

「……ビックリ!!」

 

 ____お前の方が色々ビックリ人間やわッ!!

 

 

 

「さて、散歩に行くか!」

 

 こっそり一息つくお地蔵様に手を振り、今日も流は、もう1つの日課・散歩をする。

 

「今日は『あっち』に行こっかな」

 

 見るからに上機嫌の流は、鼻歌を歌い、スキップしながら、町の『ヤングストリート』に出る。 

 原宿・竹下通りの下位互換みたいな場所だと思ってくれればいい。

 

 ところで、流は、先祖代々積みあがってきた徳が猛烈に高い。 それこそ、ジャンボジェットの飛行高度ばりに高いのである。

 よって、流の出会う『日常』も、そこんじょこらの一般ピーポーとは格が違うのである。 格が。

 

「……ふぅ」

 

 それは、今日だって例外ではない。

 

「着いたぜ、『ヤンスト』!!」

 

 

 ……。

 

  そ の 時 、 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た 。

 

 

「……ぉん?」

 

 ……流は、少し離れたところに、人だかりができていることに気づく。

 

 近づいてみれば、老若男女問わず数多の人々が とある人物を中心にして何やら騒いでいるようであることが、確認できた。

 

 もっと接近した次の瞬間! 彼は、マル秘ミ○テリーなナニ○レ珍百景を目にした! (※例のBGMと共にお楽しみください)

 

 

「「「「○ん○んぶらぶらソーセージ ○ん○んぶらぶらソーセージ……」」」」

 

「そうよッ! もっとッ! もっとッ! ワテクシを崇め奉りなさぁい!!」

 

 

 

「……!?」

 

 『とある人物』は、仮面をした うら若い女性であった。

 が、しかし、彼女は所謂『パンツ一丁』で、股間に立派なフランクフルトを挟み、メロンみたいな胸は自主規制の光で神々しく輝いている。

 

 どう見ても、マル卑ミス○リーなナ○コレちん百景です。

 本当にありがとう……

 

「……ございません! 何だコレ!?」

 

 取り囲む群衆は、

「○ん○んぶらぶらソーセージ……」

とつぶやきながら、虚ろな目をして、『2020紅白歌合戦でのGR○eeeNのパフォーマンス』レベルのオーバーな踊りをしている。

 

 踊っているのがGR○eeeNさんならいい。 別の意味で良くはないが、まだいい。

 だがしかし、実際は『こんなの』である。

 ちんどん屋も仰天である。

 

 

「……あら、そこのボーイ! ワテクシは『したたるウーマン』! この肉汁滴るフランクフルトがトレードマークよ、うふっ☆」

 

 そうこうしているうちに、女性・したたるウーマンに目を付けられてしまった!

 流、早く逃げt……

 

「初めましてッ! 俺は、秋月流です!」

 

 ……素直すぎるのも考え物だと思う。

 

「ねぇ、ボーイ、ワテクシの教徒になる気はないかし……」

 

「ありません!! 俺は世界征服をする男だからですッ!」

 

「強固な意志なのね、素敵よ♪ でもねボーイ……」

 

 したたるウーマンは、フランクフルトをブルンブルンと揺らした。

 そう、まるで、催眠術にかけるかのように……。

 

「ワテクシ、真に世界を支配するのは、『お○ん○ん』だと思うのよ」

 

 考えてもみなさい、と、したたるウーマン。

 

「悲しいとき、辛いとき、どんな時だって、『お○ん○ん』と口ずさむだけで、皆にっこりするでしょう?」

 

 それは男性限定な気がするのは、自分だけだろうか……。

 という天の声を他所に、残念美人のしたたるウーマンは、色気のある顔で微笑みかける。

 

「だから、ほら……あなたも一言呟いて、ワテクシたちの世界と一つになりなさい……」

 

「……」

 

「因みに、ドイツの首都はフランクフルトじゃなくてベルリンよ……」

 

「…………」

 

 流は、自分の頭が次第にボーっとしてくるのを感じた。

 

「(ダメだ、このままじゃアレを言ってしまう____あれ? 何で言っちゃダメなんだ……っけ…………)」

 

 

  そ の 時 、 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た 。(2回目)

 

 

 ____ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!! ブンブン!

 

 どこからか、10トントラックが猛スピードで現れ____

 

 ドンッッッ!!!!

 

「何ですのぉぉぉぉぉォォォォォォ!!??」

 

 ……したたるウーマンを躊躇なく撥ね飛ばし、彼女を空の星にしてしまった……。

 

 

 流が、我に返り呆然としていると。

 ガチャリと運転席のドアが開き……

 

「大丈夫かい?」

 

 トラックの運転手が、流に『自分の顔の一部』を差し出した。

 

「ぼく、アンパンマn((」

「秋月流です! アンパンどうも!!」

 

「アンパンも、ぼくのセリフも食べちゃったね……」

 

 ……ちょっとショボくれるアンパンマン(!)と、胆力無限大の流にツッコむのは置いといて。

 

 ともかく、これが徳の高い者の見る世界である。

 皆も頑張ってね☆

 

 

「ところで皆、さっきは災難だったね?」

 

 アンパンマンが、洗脳の解けた人々を見回し、気遣う。

 

「他に何か困っていることは無いかい?」

 

 そう聞くと、群衆の中から、ファンキーな老翁が、杖をブンブン振りまわしながら進み出た。

 

「お~ぅ、アンパンの兄ちゃん!」

 

「ぼく、アンパンマンだよ」

 

「アンパンの兄ちゃんマン!」

 

「ぼく、アンパンマンだよ……」

 

「アンちゃんの兄パンマン!!」

 

「ぼく……本当にアンパンマンなのかな……」

 

 自分を見失っている兄パンマンに構わず、ファンキー爺さんは杖を元気に振り回し続ける。

 

「わしなぁ! さっきの変な宗教のせいで、ばぁさんとのゴージャスなデートに遅れそうなんじゃよぅ!!」

 

「……考えてみれば、ぼくは何でアンパンマンなんだろう……」

 

「? ……おい、聞いとるか?」

 

「桃から生まれた桃太郎とか、顔がアンパンだからアンパンマンとか、実は理に適っていない名付け方ではなかろうか……」

 

「おいっ、兄ちゃん!?」

 

「それがまかり通るなら、人間皆、腹から生まれた腹太郎や、母から生まれた母子になるじゃないか……」

 

「お~い!?」

 

「とすれば、ぼくは確かに、アンパンマンという枠組みに収まる人物ではないのかもしれない……」

 

「大丈夫か!? 何か悟っとらんか!!??」

 

 心配のあまり、余計に杖の回転速度を上げるファンキー爺さんに、兄パンマンは満面の笑みでくるっと振り向く。

 

「ありがとう!! ぼくは、あなたのお陰で大事なことに気づけました!」

 

「そ、そうか……」

 

「奥さんの所へ送ればいいんですね! 任せてください、バッチリ気合い込めますから!!」

 

 そう言うなり、兄パンマンは、ファンキー爺さん以上の速さで、ぐるんぐるんと腕を回す。

 

「ア~~~~~~ン……」

 

「え、ちょ、何するつもりじゃ……」

 

「パ~~~~~~~ンチ♪♪♪」

 

 ____パンッッッッ!!!!

 

 ____パンッッッッ!!!!(リプレイ)

 

 ____パンッッッッ!!!!(リプレイ2)

 

 

 ……ファンキー爺さんは、弾けた。

 

 

「「「「 ……!!?? 」」」」

 

 弾けたのだ。

 

 流と群衆は、未だ目にしたものが信じられず、瞬きを繰り返しているが……間違いなく、彼の体は小気味良い音を立て、消滅した。

 微塵も血肉を残さずして。

 

「あっれれ~? おっかし~ぃぞぉ~? ばいきんまんが家に帰りたいときは、ぼくいっつもコレで送ってあげてるのに……」

 

 まぁでも……

  当 然 の 結 果 で あ る 。

 

 そこそこの重量がある物体を遥か彼方まで吹っ飛ばすには、相当の力積が加わらねばならない。

 一般ピーポーが、そんな圧を受けたら、パァン…するに決まっている。 あたりまえ体操。

 

「よぉし、今度は失敗しないぞ~! 誰か、ぼくに送ってほしい人~?」

 

 一同、一歩あとずさり。

 誰もあの世になど送ってほしくない。

 

「……なぁ、アンパンマン!」

 

 そんな中、流が一歩、二歩と進み出る。

 群衆が余計ブルブル震えるのを背に、彼は一言____

 

「普通に、背中に乗っけていけば、いいんじゃね?」

 

「「「「 Σ(゚Д゚;) 」」」」

 

「それもそうだね! ぼくったら、うっかり者だなぁ(*´ω`*)」

 

 全くもって、『うっかり』どころじゃないと思うの……。

 

 と、天から声が響くのに、全然気づかず、流はお茶目に手を合わせる。

 

「じゃあ、ひとつ乗っけてってくれよ、行きたいところがあるんだ」

 

「うん、ぼくに任せて♪」

 

 兄パンマン……もとい、新生アンパンマンは、流を乗せて、快晴の下、空を駆ける。

 

 ……。

 

「ねぇ、流くん。 あれからね、ぼく、どんな名前がいいかなって、考えてたんだ」

 

「おっ、何になったんだ?」

 

「……期待持たせてごめん、まだ考え中で。 次、会った時には、決まってるかもね?」

 

「わかった! 楽しみにしてる!」

 

 

 一体全体、秋月 流は、何処へ行くのだろうか。

 

 この地平線の先には、何が待ち受けているのだろうか……。

 

 

 ____ To be continued……

 

 

 






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 大輪愛さま、執筆お疲れ様でした♪
 そして――――おみそれ致しましたぁぁーーっ!! めっちゃ笑いましたヨ!! きゃーヒデキー☆

 あ、やっぱ流くんもお供え物のセンスおかしいんやねw やっぱ血筋なんでしょうねw
 このお地蔵さまは、いったい何百年のあいだ、秋月家に災難に合わされてるんだろう?(笑)

 そしてアンパンマンがトラックから「やあ」と出てきた時、わたし文章を3度見しましたヨ?!w
 まさかアンパンマンを出して頂けるとは! あたいメッチャ嬉しかったッ☆
 そして当作品のメインヒロインは【したたるウーマン】に決定いたしました! おめでとうございます!(ご報告)
 みんなで書こうぜしたたるウーマン! キャラ練り上げていこうZE!

 ではでは! 4番手お見事でした♪ 大輪愛さまありがとぉ~う!(hasegawa)


☆もんじゃ焼き伝言板☆

 すみません、はっちゃけちゃいました……☆
 無茶ぶりましたけど、頑張ってください! アンパンマンも、どなたかよろしくですw
 直前に、Y.M.C.A. 聞きまくってたら、名前が『秀樹』しかでてこなくって……私じゃ駄目でしたっ。

 ヤングマン!

(天爛 大輪愛)



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幕間・忍び寄る非日常 (砂原石像 作)

 

 

 

「「「「○ん○んぶらぶらソーセージ ○ん○んぶらぶらソーセージ……」」」」

 

「そうよッ! もっとッ! もっとッ! ワテクシを崇め奉りなさぁい!!」

 

 

 ここは原宿・竹下通りの下位互換みたいな場所と地元民に愛されている「ヤングストリート」。

 普段は平和なこの場所にて、下品な言葉をつぶやきながら踊る群衆という、カルト団体も真っ青なカオスが展開されていた。

 

 その中心にいる教祖たる人物は、海外トップモデルもかくやというその肢体を惜しげもなく披露し、股の間にはビッグなフランクフルトを挟み、光をまといながら高らかに笑っていた。

 顔にはマスクをしているが、焼け石に水である。

 顔を隠すほどの分別があるのならもっとほかのところを隠せ。

 

 光をまとう女に誘われて踊る群衆は、見る人が見れば「虫のようだ」と言う感想さえ出てきたかもしれない。

 

 

 人々を誘蛾灯に惑わされる虫畜生に堕すその術は、彼女が日常からかけ離れた存在であるということの証明であった。

 

 

 

 

 混沌極まる光景を離れたところから見ていた侍は軽いめまいを起こしていた。

 

「えっ……。拙者こんなやつと話さなければならんの……? 

 こんな頭おかしい奴と話したら、拙者も下品な言葉話すだけのゾンビになってしまうのでは? 

 ゾンビは肉を食う。ソーセージもまた肉であるなら、これはゾンビとしては自然な光景……?

 いやいや、せっかく職を求めてさまようゾンビから主君に使える侍に戻れたのに、今度は食を求めてさまようゾンビになるとか御免被るでござる。

 ち〇こと刀どちらも竿に違いはない……? やかましい!!」

 

 ここまで1秒。一人ごとの節々から、すでに自分が洗脳されているのでは? と錯覚した彼は恐怖をおぼえた。

 

「いやだ。此度は働きたくないでござる。今まで働きたいでござるといっていた自分を殴りたいでござる。

 だが、ここで引いたら拙者、“ホームレス侍”に逆戻りでござる。

 かつて戦で主君を失い。不況の中で再就職もままならず。死体から髪の毛をむしり取って鬘にするか老人から着物を剥いで質屋に売り飛ばすかの生活を続けて未来がない拙者を拾ってくれた殿の恩は踏みにじりたくないでござる」

 

 ここまで2秒。途轍もない早口で一人ごとをつぶやく彼は平常時であったなら不審者として見られていただろう。だが、幸いにも彼に注目する人はいなかった。

 

 そして、不安を口にしていくうちに彼の覚悟が定まっていく。

 

「そうだ。殿には一宿一飯どころか住居と仕事(完全歩合制)まで与えてもらった恩がある。なれば、ここで引けば侍に非ず。殿の恩のため。そして」

 

 呼吸が整い、一匹のヘタレは侍へと変わる。

 

「……成功報酬5万円のため」

 

 彼が纏う気配が氷のように冷えていき、青空のように澄み渡っていく。思考のノイズが取り除かれていき、合理だけを追い求める鬼神がごとき存在へと昇華される。

 

 侍は刀を鞘から取り出し構えた。その構えは幾たびの戦を超えて磨かれた刃金のようであった。

 

「拙者“ホームレス侍”改め……“ワーキングプア侍”。いざ、参る!!」

 

 かくして彼は主人から与えられた「したたるウーマンを説得してわが組織に引き入れろ。もし抵抗したら死体でも構わん」という指令を「したたるウーマンを殺して首を持ってこい」という自分に都合のいいように解釈し、したたるウーマンへ突貫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……突貫した? 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、していない!! 

 

 

 

 すんでのところで奴は「やっぱ、近寄りたくないから射殺すか」と弓をつがえていた!! 

 

 とんだヘタレだ!! 

 

 

 だが、その姿も本来の侍の姿を考えると自然なものといえるかもしれない。

 

 そもそも、一般でいう侍のイメージとは違い侍は刀を使うことはない。

 合戦においては主に弓と槍がメインウェポンであり、刀はそれら全てを失った後最後に頼る最終兵器であるのが実際のところである。

 時代劇のように刀もって切りあう状況こそまれなのが実態である。

 

 そして、催眠を使う相手に接近せずに済む弓を使うのは、非常に合理的な考え方であった。

 しかも、殺傷力を高めるためかその矢には丁寧に毒まで塗ってある。

 この合理性を追求する姿はまさしく合戦の侍のようである。

 

 けど、卑怯者という印象はぬぐいがたいが。

 

 和弓を引き、標準を合わせ、矢を放つ

 

「中れ」

 

 矢は、彼のつぶやき通りしたたるウーマンの眉間に中る軌道で飛翔していった。

 

 

 

 ……その時不思議なことが起こった。

 

 ____ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!! ブンブン! 

 

 どこからか、10トントラックが猛スピードで現れ____

 

 ドンッッッ!!!! 

 

「何ですのぉぉぉぉぉォォォォォォ!!??」

 

 ……したたるウーマンを躊躇なく撥ね飛ばし、彼女を空の星にしてしまった……

 

 

 ……。

 

 そして放たれた矢はどっか行った。

 しばらく、呆然としたワーキングプア侍は我に返り、主君から与えられた命令を思い出した。

 

「したたるウーマンを説得してわが組織に引き入れろ。もし抵抗したら死体でも構わん」

 

 これ、無理じゃね? どっか飛んでったし、死体とか見つからんやろ。

 

 そう彼は思った。

 

 しかし、こんな仕事でも、彼にとっては主君への恩返しと明日のご飯がかかっている。

 簡単にあきらめるのもなぁと彼はダメもとで探すことにしてみた。

 

「確か、あっちの方向でござったか?」

 

 したたるウーマンが飛んで行った方向に検討をつけつつその場をぴょんぴょん跳ねる侍。

 

 そして、路面を思いっきり踏みしめ、ワーキングプア侍は“その場から消えた”

 

 これは縮地法と呼ばれる道教神話における仙術の一つである。詳しい説明は省くが要は、一瞬にして万里を駆ける技法であった。厳密にいうと彼は別に道教に関係しているわけでもなく、ただ便利そうだと見様見真似でやっているだけのパチモンであるが効果のほどは御覧の通りだ。

 

 

 

 

 万里を一瞬にして駆けるその術は、彼が日常とはかけ離れた者であることの証明であった。

 

 

 

 

 

 人々を惑わし洗脳する魔女。万里を一瞬にして駆ける魔剣士。

 

 これは、日常の中にあってはとてつもない異常である。

 

 人々の知らぬところで何が起きようとしているのか? 

 今はただ謎のままであった。

 

 

 

 







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 砂原さま、執筆お疲れ様でした♪ ……って羅生門?!w

 そこはかとなく文章から滲み出るインテリジェンス、読書量に裏打ちされた高い文章力……。
 もとより、いったいどれほどの発想力があれば“ワーキングプア侍”というパワーワードが頭に浮かぶのだろうと、私いま驚愕してますヨ?!(笑)

 ――――ワーキングプア侍 vs したたるウーマン

 カオスになってきた! 当作品めっちゃカオスになってきた!!
 だが私は、一向にかまわんッ!! 望むところ成ッッ!!
 なんかすごく楽しくなって来ましたよ私♪ うおぉー書きたぁーい! 早く出番来ないかな?!w

 それでは、5番手お見事でした♪
 めっちゃ面白かったZE! 砂原さまありがとぉ~う!

(hasegawa)


 
☆もんじゃ焼き伝言板☆

 リレー小説に参加されている皆様、初めまして。私、砂原石像(スフィンクスまたはサハラセキゾウでも可)です。
 ハーメルンでは主に読み専をしておりましたが、いい機会と思い筆を執らせていただきました。
 今回、シリアスをにおわせて書いてみましたがその後の展開はぜひ皆様の手で面白可笑しくやっちゃってください。

 天爛 大輪愛さま
 同じシーンの別人視点という関係上、少し文章を使わせていただきました。したたるウーマン。面白い可能性を感じています!!

 A-11様
 今回の流れから、どう話をつなげるのか楽しみにしております!!



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別れの記憶(A-11 作)

 

 

同日・土曜 午前7時…。

 

美星学園正門を前にして、ルカは校舎を睨んだ。

出来上がった当日の学校祭なら、知り合いの伝手で入場券を手に入れたり、入場制限のない学校のものを訪れたりして、ルカはよく知っていた。

だが、それがどのように生み出されるのかについては、去年までは部外者に過ぎなかったルカには分かるはずもなかった。

だが今年は、いや、今は違う。

今回の学校祭がどのような素晴らしいものになるか想像はつかないが、その素晴らしいものが生まれる瞬間を、休校日だからという理由でルカは見逃したくなかった。

「…で、宿泊申請なんだがな。登校日ではない以上必要なんだがな。昨日言った通り、生徒会広報担当であろうなかろうと、具体的な用件でなければ許可は出来ない。」

横で摩利が、風紀委員長らしく何か融通の効かないことを言っているが、今日のルカは昨日のルカではない。

「あー、その件なんですけどね、校内警備に参加しようと思いましてね。手、足りてないでしょ?」

登校日の昼間しか生徒・職員のいない普段の学校であれば、警備員のオッチャンや風紀委員は、昼間だけ仕事をしていればいい。

休校日や夜間では、風紀を乱す生徒も、校外からの侵入者に出くわして事件に巻き込まれる生徒も、校内にはいないからだ。

しかし宿泊作業解禁中は、校内に生徒がいる状態が、1日24時間続くことになる。

なので、この期間の校内警備も24時間体制にならざるを得ず、風紀委員の仕事量は通常の数倍に膨れ上がるのだ。

勿論、本来ならば、如何なる状況でも揺るがない意志と、それを支える腕っ節がなければ、風紀委員の務めは果たせない。

摩利の見立てでは、ルカには腕っ節が絶望的に不足していて、「手」としては足しにならない。

だが、意志の強さの点では次第点。

警備には「手」だけでなく「目」も必要であり、現状ではどちらの量にも、摩利は不安を感じていた。

「用件はわかった。宿泊申請は風紀委員会から提出しよう。申請が済み次第、校内を巡回してくれ。問題を見つけたら、すぐに最寄りの風紀委員に知らせるのだ。」

しかし、早速校門を通ろうとするルカの前を、腕を伸ばして摩利は遮る。

「この門のシフト交代まで、私は動けないし、他の者達も忙しいのでな。9時まで待ってくれ。あと110分くらいかな。」

「ええ!? 織斑先生もここに居るんですよ!」

頑張る生徒を応援するのは教師の習性であり、生徒が誤った道に入らないよう見守るのは教師の務めである。

宿泊申請に名を連ねる教師は珍しくはない。

顧問として生徒に混じって出し物の準備をする者が大半だが、体育教師であり学園一の腕力を誇る織斑先生の場合は、校内警備をする風紀委員の応援である。

今この瞬間もルカと摩利の目の前で、その腕力を織斑先生は披露している。

引っくり返った姿勢で片腕だけ地面につけて全体重を支え、その片腕をゆっくり曲げたり伸ばしたりして、空中でフワフワ浮いたり沈んだりしているのだ。

「ひょっとしたら、織斑先生なら摩利先輩の抜けた穴を埋められるかも知れません。僕もここの門番に加わりますから、その間に申請して来て下さいよ、摩利先輩。」

「『ひょっとしたら』とか『かも知れない』では、学園の安全は守れないな。」

だが、もう片方の腕は蹲るように丸まった両脚を抱きかかえている。

口元は両膝に埋もれてよく見えないが、何か陰鬱な言葉を呟いているのは聞こえてくる。

そして瞳は、どこか遠くを見ているのか、そもそも見えていないのか、焦点が定まっていない。

「昨夜は大事な用が織斑先生にはあったそうで、来る予定ではなかったんだが、午後10時頃に現れてな。どちらかというと足手まといなんだが、この状態で夜道を一人で帰すのは心配でな。」

そこまで言うと、この話は終わったとばかりにルカから離れ、摩利は竹刀を取り出して剣道の形稽古を始める。

来客が訪れるには早すぎ、夜闇に紛れた襲撃を受けるには遅すぎる、手持ち無沙汰な早朝の門番をするハメになったルカは暇潰しに、織斑先生の唱える呪詛を拝聴することにした。

「なんで男は…別れ話になるわけ? 無いものは無いもん…。そんなに…が好きなら…、牛飼いになればいいじゃない…。」

ルカは自分の耳を疑った。

(織斑先生に、別れ話をする男がいる。)

10才若く見られてしまう、と自身で語ったという噂が立つほどの、若々しい顔立ちと立ち居振る舞い。

体育ジャージ以外の服装を見た者はいないが、それでも分かるほどのメリハリの効いたスタイル。

彼女がリサイクルショップに売ったブラウスを、今は廃部になっている探偵部が入手したところ、バストサイズは88cmだったそうだ。

だが、そのブラウスが良く手入れされていて、彼女のお気に入りであることが示唆されたことから、彼女の胸囲はもっと大きいというのが、生徒の間での通説だ。

88cmでは、彼女の胸は入らなくなったのだと。

学園の独身男性職員の半数は彼女の元彼、という噂が流れるのも仕方がない。

(そんな学園指折りの美女である織斑先生に、別れ話をする男がいる。)

前例の話はないわけではない。

生徒の間で流れる噂では、男子体育担当の織村先生が元彼で、

「あの胸は、男の自信を失わせる。」

と零したと言われている。

勿論、噂の域をでない話であり、ルカは重視していない。

しかし結局のところ、15年ちょっとしか生きていないルカには、分からないことなど沢山あるのだ。

それをルカは自覚しているし、何より、先に述べたように早朝の門番は暇なので、織斑先生の呟きにもう暫く耳を傾け、彼女を振るという決断をした男に思いを馳せることにした。

すると、門番の仕事が漸く訪れたようで、ルカは耳を織斑先生から離して来客の方へ向けた。

「摩ー利ーっ!」

見れば、学園の敷地に沿って伸びる歩道の向こうから、此方へ大きく手を振り、親しげな笑顔を向けながら、涼しげな眉目の青年が歩いて来る。

ルカは彼に見覚えがあった。

(先週、摩利先輩と一緒にデートしているのを見かけた彼氏だ。)

「あれがシュウか? ルカ。」

思わず首肯いたルカが違和感を感じて声の主の方を振り向くと、来客対応のため形稽古の手を休めていた摩利が、再び竹刀を手に取り、青年へ構えを向ける。

その構えは、先ほど稽古していた剣道の中段の構えに似ているが、何処となく異なる。

以前にルカが摩利から聞いた話では、剣道部にも所属する彼女の剣術は元々、侍のワザを現代に伝える叔父から学んだ古武術なのだという。

何より、剣道の形稽古の時には感じられなかった、摩利から発せられる鋭い剣気。

小説や漫画の世界にしか存在しないと思っていたそれを、ルカは目の当たりにする。

(あの青年は、摩利先輩の彼氏とは別人、しかも相当な危険人物らしい。)

どうやら、彼への対応にはスポーツマンシップではなく武士の覚悟が必要だということに、ルカは戦慄を覚えた。

青年の側もこちら側の雰囲気を察したのだろう。

「あれっ? そんなにリキんでいたら、動きが雑になるし、体にも悪いよ。」

笑顔は崩さないままだが、足を止めて背中のリュックを降ろし、そこから瑞々しい青葉を生やした大根を一本取り出して、その場でぴょんぴょん跳ね始める。

(小太刀?)

青年の右手に収まった大根が、一瞬だけ、小振りの日本刀に見えたことに、ルカは自分の目を疑い、先輩に縋るように摩利の方へ目を向けるが、

「縮地法か。しかし大根ではな。私をコケにするのは良い加減にすべきだったな、シュウ!」

叫びを残して、摩利の姿はルカの視界から消えてしまう。

同時に、青年の方から、トラック同士が正面衝突したかのような音が響く。

ルカが目を戻すと、天高く吹き上げられた大根の下で、大きく振り上げられた竹刀を振り下ろしている摩利の後ろ姿があった。

青年については、ルカからは摩利の陰に重なっていて良く見えないが、竹刀の届く範囲にいることは間違いない。

しかし、何時まで経っても、青年の脳天に竹刀が叩きつけられる音は聞こえてこない。

代わりに、助けを求めるかのように叫ぶ摩利の鼻音が聞こえてくる。

「んーっ。んんーっ!」

摩利の背中に目を凝らせば、振り下ろされた摩利の両上腕は、背中ごと青年の両腕で束ねられている。

青年の右腕は、摩利の後頭部に伸びていて、頭を押さえつけている。

どうやら青年は、竹刀の届く範囲の外に逃げるのではなく、逆に間合いを詰めて摩利の体に密着することで、振り下ろされる竹刀を避けたようだ。

慌ててルカは駆け寄ろうとするが、その間にも、青年からの締め付けが効いているのか、力が抜けて姿勢を崩していく摩利が見える。

(時間が無い。)

先の凄まじい攻防を見せられた後では、駆け寄っても自分では大して役に立たないだろうとルカは感じていた。

(なら、駆け寄らなくても今すぐ出来ることを。)

ルカは精一杯の大声で叫んだ。

「んーっ。んーっ。」

「摩利先輩を放せぇーっ!」

すると、青年は摩利を抱えたまま体の向きを変え、摩利の陰から半身を出してルカを見た。

だがルカの注意は、青年から放たれた視線には向かなかった。

青年に伴って体の側面をルカに向けた摩利の横顔は、その唇を青年の唇によって塞がれながら、うっとりと頬を赤く染めている。

ルカは思わず二人に背を向けてしまう。

二人の体が密着しているのが側面から見えたが、青年の腕が抱えているのは摩利の胸から上だけだった。

なら、摩利先輩の腰を青年に押し付けていた力は何処から?

(やっぱり、先輩の彼氏じゃないか。)

「んんっ! んんっ!」

摩利が何か言いたげだが、鼻音だけでは言葉にならない。

さらに、先の緊迫感の反動が疲労となって吹き出し、摩利の言い訳を聞く気力をルカから奪い去る。

「おっと、挨拶が遅れたね。アンジェローニ君だっけ? 摩利から聞いてるよ。私は千葉 修次。見ての通り、摩利の彼氏で、」

「別の人の彼氏だろう? シュウとのデート中をルカが見たんだな。」

やっと二人だけの世界から帰ってきたかと、ルカは振り返ろうしたが、そのタイミングで自分の名前が出たのにビックリして、振り返る動作で首と体とのタイミングがズレてしまう。

「先週の日曜日のレゾナスで、甘い空気をタップリ醸し出していたそうだな。彼女はシュウのことが好きなのだな。叔父様が好きな私と違ってな。」

首筋の嫌な痛みを代償にルカが見たのは、互いの唇を解放した以外は先ほどと変わらず、密着したままの二人である。

(どうやら、昨日の自分との会話が原因で、修次さんが二股を掛けていると、摩利先輩は誤解しているらしい。)

「彼女とのデート中に貪った、私の唇の味はどうだったかな? 叔父様との約束を盾に、私に付き纏うのはやめてくれないかな?」

「行方不明になる前に交わした、師匠との約束だ。地球連邦一番の侍の座と、君の愛を、僕は師匠から奪う!」

修次の腕の中で酔い痴れている摩利を見る限り、それでも二人の仲は変わらないと思ったが、自分の関わった誤解をルカは放っておけなかった。

どうすれば誤解を解けるだろうと悩み始めるルカに、修次から助け船が来る。

「僕達二人を見てどう思う? アンジェローニ君。」

「溢れんばかりの甘い空気で、噎せ返りそうです。」

「な!?」

これで、摩利とレゾナスの彼女が繋がった!

力なく後ろへ項垂れて、修次の腕の中でそっくり返る摩利。

「すっかりリキみがとれたね。しなやかな摩利は、強いし素敵だよ。今晩も学校に泊まるんだろ? おばさんから届け物とか頼まれていてさ、大根は買い直さなきゃな…。はい、弁当と着替えと…、」

彼女をそっと地面に座らせて腕を解いた修次は、降ろしていたリュックから荷物を取り出す。

「な! 娘の下着を男に預けるなって、あれほど言ったのに…、って、ナプキン?」

一瞬だけ顔を顰めるがすぐに思案顔になる摩利を見て、窘める修次。

「今日から多くなるだろ? 自分の体の周期は自分が把握しなきゃ。あの日が排卵日なのを僕が気付かなかったら、」

「一夜の過ちをいつまでっ!」

堪忍袋の緒が一瞬で切れた摩利。

鞭のようにしなやかに振るわれる摩利の体から放たれた運動エネルギーを載せて、彼女の握る竹刀が修次に襲いかかる。

咄嗟にリュックで受ける修次だが、

「また来週ーーっ! 愛してるよ、摩利ーーっ!」

空の星となり飛び去っていった。

すると、聞き慣れない不気味な音調のサイレン音が辺りで鳴り始める。

最初に動いたのは、先ほどまで膝を抱えて蹲っていた、織斑先生である。

「小学校で習ったでしょ、全球瞬時警報システム。ネオジオンによるテロを契機に整備された、連邦への武力攻撃などの情報を住民まで直接瞬時に伝達する仕組みよ。」

立ち上がって頭上の空を一瞥した後、戸惑って辺りを見回すルカ・摩利に声を掛けながら二人の手を取って、織斑先生は正門を跨いで校舎へ向かって走り出す。

「非常事態か。ルカの宿泊申請どころではないな。コロニーが降ってくるのかもな。」

未だに戸惑っているルカに向かって、自分を落ち着かせるように、蒼ざめた摩利は語る。

校舎と正門との間にはグラウンドがあり、一息では玄関には辿り着けない。

すでに不気味なサイレン音は止み、辺りに響くのはアナウンサーの緊迫した声だ。

「…の上空で飛翔体が観測されました。屋外にいる場合は直ちに近くの建物に…」

「飛翔体って、さっきの修次さんですかね?」

「なら安心なんだがな。」

ルカの冗談に和んで、彼の方へ向けた摩利の目に映る朝の空。

その空に、一点浮かぶ星を見つけ、摩利は叫ぶ。

「先生、止まって!」

摩利と繋いでいた手を引き戻され、後ろに倒れる織斑先生。

そうでなければ彼女の踏むはずだった地面は、先の星によって轟音と共に抉られ、三人から校舎を遮る土煙に変わる。

立ち昇るその土煙から、一本の焼け爛れたソーセージが、呆然とする三人の目の前に転がり落ちる。

「3秒ルールよ。」

言うが早いか、織斑先生はソーセージを拾って一口かじる。

目の前の現象を飲み込めない摩利は、自分を落ち着かせるために、何でもいいから自分の分かる所から考えることにした。

(胸の膨らみが乳房ではなく大胸筋で出来ている以前に、そういうガサツな性格が、彼氏を引かせるのだな。)

大学受験への影響を抑えるため、美星学園の修学旅行は3年生の春に行われる。

その際、摩利を含む3年女子の一部は、女湯で織斑先生のメリハリボディの正体を目撃している。

このため、3年女子の間では大胸筋の筋トレが流行っているのだが。

そこまで考えて、目の前のソーセージと土煙について何一つ分からないことに、摩利は気付いた。

だが、織斑先生は違うようだ。

「このソーセージは…。モグモグ。いえ、有り得ないわ。カリッ。でも…、まさか…。もう一口…。…! 舌樽さんなの?」

織斑先生の呼びかけに、土煙は答える。

「いいえ、そこのババァ。ワテクシは『したたるウー…』…織斑先生?」

 

ー美星祭開催まで後30日ー

 

 






 作者さまのページ
 https://syosetu.org/?mode=user&uid=316281


 A-11さん、執筆お疲れ様でした♪
 とてもしっかりした文章を書いて下さいましたね!

 この作品で注目すべき部分は、きっとラストに示された「織斑先生としたたるウーマン」についてですね。恐らくしたたるウーマンは、先生の……?
 ……まぁ私はISという作品を未読で、織斑先生の事をよく知らないので、これについては他の人にブン投げますけれども(宣言)

 ではでは、6番手ありがとうございました♪
 ――――次は私だZE!

(hasegawa)



☆もんじゃ焼き掲示板☆
 楽しく読んでいただければ幸いです。(A-11)


※このお話から続く番外編。
・【番外編】アイネ・クライネ・ナハトムジーク
 https://syosetu.org/novel/245415/3.html


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二巡目
美星祭完結ッ! 流、新たなる戦い! の巻。 (hasegawa 作)


 

 

「ぎゃー! おかあちゃーん!」

 

「いやーーん!」

 

 あれだけ楽しみにしていた、美星祭。

 流を始めとし、みんなで頑張って準備した学園祭――――

 

 だが突然起きた謎の地盤沈下によって、美星学園という学び舎が全壊してしまった今、それが開催されることは二度と無い(・・・・・)

 したたるウーマンと織斑先生は、どういう関係だったのか。

 今となっては、知る術も無い。

 

 

「美星祭のことは、残念だったな!

 だが俺は夢をあきらめんぞ!」

 

 

 流はそこらへんの公園で“ひとり美星祭”と称したフランクフルト屋の露店をやった後、なんやかんやあって高校を卒業した。

 彼の仲間達もなんやかんやあった後、元気にそれぞれの夢へと向かって、走り出していったのだった。

 

 そして時は流れ、3年後――――

 今や秋月流もベンチャー企業の社長となり、忙しくも張りのある生活を送っている。

 今日の予定は、某国の大統領との会食だ! 美味いモンがいっぱい食えると、今から胸が高鳴ってくる心地だ。

 

「……社長ッ! 大変です!」

 

「なんだね騒々しい。どうしたと言うんだね?」

 

 流が社長室でマフラーを編んでいると、部下の男が血相を変えて飛び込んで来た。

 彼は額に玉のような汗を浮かべ、急いでここまで走って来たことが見て取れる。

 

「社長! 東京湾に黒船が襲来しました(・・・・・・・・・)

 何を言ってもヤツらは、開国してくだサーイ、開国してくだサーイ、の一点張りで!」

 

「無視しろ。俺は忙しい」

 

 冬に備えてマフラーを編む――――それこそが今の流にとって、最も優先すべきこと。

 ちなみにこの国が、ごく限られた一部の国々を除いては鎖国体制をとっている事は、皆さんすでにご存知の事と思う。よってここでは割愛する。

 

「し、しかし社長!? このままでは我が国がっ……!」

 

「黙れ社畜野郎! アメリカなんてクソくらえだ!

 そもそも何で俺に言うんだ! 黒船への対応は、政府の仕事だ!」

 

「た、確かにッ……!!」

 

 部下の男は「はっ!?」とした顔で、なるほどとばかりにコクコクと頷く。

 

「ついでに言えば――――マフラーなんてクソくらえだッ!!

 なんでこんなモン編んでるんだ俺は! そんな趣味は無かったハズだッ!!」

 

 ファックとばかりに床に叩きつけ、流はその場を立ちあがる。

 

「何がベンチャーだ! 何が六本木ヒルズだッ!!

 俺はこんなトコで、社長なんてやってる場合じゃないんだよ!」

 

「しゃ、社長?! 貴方いったい何を……?!」

 

「――――俺は世界征服をしなければならないッ!!

 社長なんてやってる場合か! アホか!

 おい社畜野郎! この会社のことは、全てお前に任せる!!」

 

「社長ッ?! ちょっと待って下さい! しゃちょおッ!!??」

 

「家庭を大事にしろ? たまには休暇とれよ?

 お前のはにかんだ笑顔……嫌いじゃなかったぜッ!!」

 

「しゃちょぉぉぉおおおッッ!?!?」

 

 六本木ヒルズの高層ビル、その窓からピョーンと飛び降りた流は、両足を〈ゴキィ!〉と骨折する。

 

「うぎゃぁぁぁぁああああーーーッッッッ!!!!」

 

 なんとなしに「いける!」と思った彼の直感通り、なんとか一命だけは取り留めた。しかし流は両足のかかとを粉砕骨折し、足の指から股関節までの骨も全て骨折した。

 一歩も歩く事が出来ない!

 

「……あ、足の骨が折れた……!

 ここで俺は死ぬのか……。俺に世界征服は、出来ないのかッ……!」

 

 自社ビルの前にある植え込みの上、流は倒れ伏す。

 足の激痛、動かない身体、そして深い絶望を感じながら、彼の意識がだんだん遠のいていく。

 

 大好きだった美星学園の仲間達……みんなの顔が走馬灯のように浮かんでは消える。

 いま正に、流の命の灯火は、儚く燃え尽きようとしていた!

 

 しかし……その時。

 

『――――はっはっは! 無様だなぁ、流よ!!』

 

 突然この場に、男の高笑いが響く。

 不運にも足を粉砕骨折してしまい、満身創痍である流は、最後の力を振り絞って顔を上げる。

 

「所詮、貴様は世界征服をする器では無かった! ここで死ぬのがお似合いだ!」

 

「な……何者だてめぇ! 唐草模様のスーツなんか着やがって! どこで買ったんだ!」

 

 起き上がろうと頑張ってみたが、それも叶わずに流は倒れ込む。どうやら足だけでなく、両腕までも粉砕骨折しているようだ。なんという不運!

 

「先祖の“徳”を受け継ぐのは、なにも貴様だけでは無い(・・・・・・・・)

 300年続いた一族の血……当然その血筋を受け継ぎし者は、他にもいるという事よ!」

 

「ッ?!?!」

 

「闇に潜みし我らが一族……今より表の世にいでんッ!

 ――――この“裏秋月家”当主、秋月ポン助が! 貴様に代わって世界征服を果たす!」

 

 なんかタヌキみたいな名前の男が、ビシッと流に指を突き付け、ガッハッハと高笑いをあげる。

 

「光と影は、これより入れ替わるのだッ!!

 ……ずっとコンビニバイトや、工場のパートで生計を立ててきた、我ら裏秋月……。

 辛酸を舐め尽くした歴史も、今日で終わりだ! ――――貴様の死によってなぁ!」

 

 まさか秋月家に、知られざる分家があったとは。

 そして、このピッチリ横分けクソダサ眼鏡の男は、流とおなじ血を受け継ぎし、裏秋月家の当主であったのだ。流は驚愕に目を見開く。

 

「ここで無念のまま果てるがいい!!

 本家当主である貴様の“徳”は、全てこのポン助が貰い受ける!

 いや~。貧乏でも頑張ってきて良かった……。ホント諦めないで良かった……」

 

 これで幸せになれる。先祖の徳を受け継げば、今までよりマシな生活が出来る。

 今まで買えなかったコンビニのからあげだって、これからはたらふく食べる事が出来るだろう。

 

 ちなみに裏秋月家が貧乏だった理由は、稼いだお金を全部、秋月家への妨害に充てているからである。

 彼らはバイトやパートでお金を稼いでは、それを全て秋月家と戦うための武装購入や、よく分からない要塞を建設するための資金に充てている。

 いつか秋月家に成り代わり、世界征服を果たすこと――――それが裏秋月の悲願だ。

 

 ご飯は朝と夜の二食だけ。部屋は風呂なし4畳半。

 出来るだけ節約してお金を貯めながら、彼らは細々と生きてきた。

 

「お前ん所の家は、いくら妨害行為をおこなっても、それを全て“徳”で跳ねのけるからな……。

 窓ガラスを割ろうが、電気ガス水道の供給を止めようが、家にトラックを突っ込ませようが、全てその徳で何事もなかったかのように……。

 どうやって秋月家を潰せばいいのか……もうよく分からなくなってたんだ。

 ほんと助かったよ……流」

 

 いままで秋月家を倒そうと、ほんと彼は頑張ってきたんだと思う。

 だが先祖より受け継ぎし“徳”により、もう何をやろうが秋月家を貶めることは出来ず、心が挫けそうになっていたようだ。

 

 この降ってわいたような“流の大怪我”という幸運。

 彼としては、逃すわけにはいかない。必ずここで流を倒さなければ。

 

 

「あ、でも何年か前にやった“美星学園の破壊”は、上手くいったかな?

 あれって俺が業者に頼んで、地盤沈下をさせたんだけども……。

 どうだ? 流石のお前もアレにはビックリs

 

『 テ メ ェ か ぁ ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ あ ッ ッ !!!! 』

 

 

 ポン助の顔面に、流の拳が叩き込まれる。

 殴られた瞬間、ポン助はタヌキみたいに「ポンッ?!」と叫んだ。

 

 足を骨折してたのに、腕だって粉砕しているのに、流は怒りのままに拳を突き出し、ポン助を天高く舞い上げた。

 擬音にすれば、なんか〈ぼぐしゃぁぁああ!!〉みたいな音が鳴った。

 

「何してくれてんだテメェ!?!? 美星祭どうしてくれんだ?!?!

 ――――アルトに謝れ! 摩利に! 虚に! ルカとナミに謝れ!!

 頑張って準備してた連中に謝れぇぇぇーーーーッッ!!!!」

 

「お゛ごっ?! ぶふっ!? ぎっ?! 死゛ぬ゛っ……!?!?」

 

 マウントポジションを獲り、ひたすらポン助を殴りつける。

 まるで「俺がお前の千手観音だ」とばかりに、ドゴゴゴと殴り続ける。

 

「ランカとシェリルにエロい恰好させようって、みんな密かに企んでたんだぞ!

 勝也も! 直樹も! のどかも! なんだかんだ言いつつ手伝ってくれてたんだぞ!」

 

「ぐえ! おごっ!! ふごっ!!」

 

「なんか全員、したたるウーマンの教徒になっちまったり……アンパンマンと一緒にひとりづつ殴って、目を覚まさせたりはしてたけどぉ!!

 いつの間にか、ワーキングプア侍とかいうオッサンが、浮浪者みてぇに学校に住み着いてたりしたけどぉ!

 ――――でもみんな、頑張ってたんだよ!! 俺の青春返せこの野郎ッ!!!」

 

「だっ! や゛っ!! ほげっ?!

 な、ながれっ……! マイフレ~ンド……!!」

 

 暴力!! ああ暴力ッ!! なんと心地よい!!

 流は怒りで我を忘れ、一心不乱に殴り続ける。優しかったその心が、憎悪に支配されてしまったかのように。

 しかし――――

 

 

《流……流よ……》

 

 

 突然、耳ではなく流の“頭の中”に、何者かの声が響く――――

 

《怒りに囚われてはならぬ……。憎しみでは、何も救えぬのじゃ……》

 

「こ……これは? お地蔵さま?!

 

 見上げれば、高層ビルの隙間から巨大なお地蔵が、\ペッカー!/と眩い後光を背負って、こちらを見つめているではないか!

 お地蔵様は優しく微笑み、そして厳しさを持って、流の心に語り掛けている。

 ああ、なんという神々しさだろう! 南無阿弥陀仏!

 

《目が覚めたか、流よ……。

 お前ともあろう者が、なんという様じゃ……》

 

「お地蔵さま! ごめんよお地蔵さま!

 俺ってば、我を忘れちまってたってばよ!」

 

《慈悲の心をもって、その男を赦すのじゃ……。

 具体的に言えば、あと3回くらい殴ったら(・・・・・・・・・・・)、許してあげなさい……》

 

「分かったよお地蔵様!

 よ~しいくぜぇ!! いーち! にーい!」  

 

 やがてポン助はグッタリ気を失い、地面に大の字となった。

 

《流よ、ワシはいつでも、お前を見守っておるぞ……。

 努々それを忘れることなく、精進していくのじゃ……》

 

「分かったよお地蔵さま! ありがとう!

 おかげで俺、前科が付かなくて済んだよ! またお供え物しに行くねっ!」

 

《いや……、あの、いっぺん言うとこうと思っとったんじゃがな……?

 何故お前んとこの一族は、いつも変なモンばかり……》

 

 流はこの前、「今日は暑いですから」と言い、お地蔵さんの額に“ひえピタ”を張るという暴挙に出た。

 ――――わし石なんやから、いらんて。いい加減おにぎり持ってこいて。

 いくら念話で言おうが一向に伝わらなかったので、もしかしたら今日は、話をするにはとても良い機会かもしれない。

 お地蔵さんの300年の苦難は、ようやくここで終わりを告げるのだ。

 

「じゃあねお地蔵さま! ありがとうッ!

 こんど魔法瓶に、焼肉のタレをいっぱい入れて持ってくね!」

 

《流ッ?! 聞いておるのか流ッ?! どこへ行く?!

 いくらワシでも、それ一気飲みすんのは流石に……って流ッ?!?!》

 

 流が子供のような笑みで、嬉しそうに手を振って駆け出していく。

 ものすごい速度で走っていくものだから、すぐお地蔵さんの念話も“圏外”となってしまったのだった。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 その後、いちおう流はケータイで銭形のとっつあんを呼び、ポン助を連行してもらった。建築物破壊の容疑で。

 ひとしきり殴ってスッキリしたし、いつのまにやら全身骨折も治った。先祖の徳ってスゴイ。

 

「ポン助、早く出所しろよ! ドーンマイ!

 そして見ていてくれ! 秋月の悲願は、俺が果たすッ!!」

 

 楽しかった美星学園の思い出、頑張って立ち上げたベンチャー企業の思い出……。

 その全てを振り切って、流は走り出す。

 世界征服という、己の夢の為に――――

 

 首元のネクタイを外した時、なぜか胸に解放感が満ちた。

 このビジネスマンの象徴たる“鎖”。それをスッとほどいて、お気に入りの道着姿になった時、流は再び自由を取り戻した。

 精神の自由を!!

 

「――――さぁ、俺の第二章を始めよう!!

 次は何をしよう? どうやって世界征服をしよう?

 爺さん! お地蔵さま! 俺はやるぜッ!!」

 

 

 

 

 恐らくこの先も、裏秋月の者達が、そして多くのライバル達が、流の前に立ちはだかる事だろう。

 

『ほう、ポン助が敗れたか。

 仕方あるまい。ヤツは裏秋月“四天王”の中で最弱――――』

 

『アテクシはまだ生きてるわよぉ~ん? 必ず流を手に入れてみせるわぁ~ん♪』

 

『拙者、ぜったい諦めんで御座る! 必ずや5万円をこの手に!!」

 

『は~ひふ~へほぉーう!! なんだアンパンマン、改名したのか?

 ……えっ? 剛力 甘男(あまお)ッ?!?!』

 

 

 流は歩き出す。

 高校を卒業し、脱サラして21才となった彼は、これからの冒険にわくわくと思いを馳せる。

 

 とりあえず流は、インドにでも行こうかと思ってる。あそこで5年も暮らせば人生観が変わると評判だし。

 それとも宇宙を目指し、NASAにでも行こうか?

 大統領になって国を動かしてみるのも良いかもしれない。

 中国の秘境に行き、ハゲた仙人から拳法を伝授してもらうのもアリだ。

 

 

 

 

 

 

「あの……おにいさん?

 わたしもいっしょに、連れてってほしいの……」

 

「っ!? 君は……?」

 

 

 振り向くと、そこには泣きそうな瞳でこちらを見つめる、見知らぬ幼い少女の姿。

 

 流の冒険の旅が、いま始まる――――

 

 

 






↓作者のページ
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☆もんじゃ焼き伝言板☆

 3710さん、俺は謝らないぞ! これで美星祭編は終わりだ!!(笑)

 しかし、また君が新たな舞台を作るんだ!
 俺達がそれに続くッ! 楽しみにしてるぞ!w

 貴方が考えてくれた“流くん”というキャラクター。
 今回それを書く事が出来て、私ほんとに幸せでした♪ ありがとぉ~う!

(hasegawa)



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逆位置の死神 ―転換期、スタート、終わり― 【3710 作】

 

 

真っ白な空間。

 

そこには数え切れないほどのモニターと一つの時計が設置されている。

 

モニターにはごく平穏な日常から、血を血で洗うような戦争まで様々な物語が映し出されている。

 

現在時計は1月16日(土) 23:59を示している。

 

それが1月17日(日)0:00を示した途端

 

―Error―

 

―Error―

 

―Error―

 

モニターの1つが突如赤く点滅し―Error―の表記が映し出される。

 

それにならい他のモニターも同様な変化が起きアナウンスが響き渡る。

 

―Warning―

 

―Warning―

 

―Warning―

 

―ErrorNo,8851439―

 

―ErrorNo,8851439―

 

―ErrorNo,8851439を観測―

 

―繰り返します、ErrorNo,8851439を観測―

 

―ErrorNo,8851439の対処のためにオブジェクトプロトコルを展開します―

 

―オブジェクトプロトコルの選定に入ります―

 

―オブジェクトプロトコルの選定完了、オブジェクトNo,3165887を使用します―

 

―オブジェクトNo,3165887を使用しにあたりモニターNo.6548225以外観測を停止します―

 

―繰り返します、オブジェクトNo,3165887を使用しにあたりモニターNo.6548225以外観測を停止します―

 

―モニターNo.6548225以外観測を停止を確認―

 

―オブジェクトNo,3165887展開―

 

―オブジェクトNo,3165887展開完了まであと2時間―

 

 

 

-Side B-

 

「あの……おにいさん?

 

 わたしもいっしょに、連れてってほしいの……」

 

 

「っ!? 君は……?」

 

 振り向くと、そこには泣きそうな瞳でこちらを見つめる、見知らぬ幼い少女の姿。

 

「どっかで会ったことあるか?俺は会ったことある気がするんだが・・・・」

 

「私は環いろはです。あの、番外編であなたが乗っていた電車を持ち上げていた。」

 

「あーあのときの怪力少女!!あん時はありがとな!」

 

「いえいえ、お気になさらず・・って誰が怪力少女ですか!!」

 

「いや、電車一車両軽々持ち上げてたんだからそう思うだろ。」

 

「あれは魔法少女補正が乗っているからなんです!そもそも普通の中学生ですよ。」

 

「え、そうなん?てっきり魔法少女ってそう言う家系なんだと思ってた。」

 

「いやいや、諸事情により魔法少女にならないといけなかっただけで・・・」

 

「ふーんてっきり歌舞伎みたいに世襲制なのかと。」

 

「いやいやそんなことありませんよ・・・」

 

「なるほどなー。でなにしについてくるんだ?」

 

「私の目的は『オリジン・ゼロ』と言う組織の捜索・及び解体です。」

 

「『オリジン・ゼロ』?」

 

「はい、『オリジン・ゼロ』と言うのはいままで都市伝説のような存在がはっきりしない組織でしたが、最近になり存在を裏付ける情報がたくさん入ってくるようになりました。とても大きな国際犯罪組織です。」

 

「それが、俺とどう関係が?」

 

「4年前の美星学園崩壊事件ですが、実行犯は裏秋月家の人間でしたがそれを裏で手引きしたのが『オリジン・ゼロ』と言う組織です。」

 

「なん・だと!?」

 

「事実です。あの貧乏な裏秋月家がいくら節約したといって、地盤沈下させるほどの仕掛けが出来る金額を用意出来ますか?絶対に無理です。ならなぜ実行出来たか。それは『オリジン・ゼロ』が関わっているからです。」

 

「それはわかるが、なぜ裏秋月家の人間にそんな巨大組織が手を貸す?」

 

「それはあなたが持っている【徳】です。」

 

「【徳】だと?なんじゃそれ?」

 

「【徳】別名【積み上げられた幸福】それは所持者にとって不幸なことを打ち消す力です。もっといえば所持者に都合の良い結果をもたらすことです。」

 

「そんなものが俺に?だとしたら美星祭がなくなることはなかったはず・・・」

 

「いえ、それには例外があります。悪意の総量が徳の総量を超えていた場合完全にはうち消せないのです。

なので今回は学園は崩壊しましたが、人的被害が無いと言う結果をもたらしました。」

 

「なるほど。しかし、なんで俺に【徳】なんてものが?」

 

「とある情報によると秋月家の長男に代々受け継がれているそうです。初代当主幸平(ゆきひら)の時代から。」

 

「なんでそこまで知っている?俺たちはただの一般家庭だぞ。」

 

「いえ、そうとも言えません。あなたが毎朝お参りしているお地蔵様のことをご存じですか?」

 

「うちの長男に代々引き継がれるお勤めのお地蔵様のことだろ?」

 

「そのお地蔵様については?」

 

「いや、代々引き継がれているとしか。」

 

「そうですか。詳しいことは省きますが、あのお地蔵様は国生みをされた伊邪那岐命(いざなぎのみこと)のご神体です。【徳】は毎日欠かさずお勤めをされている秋月家に対する恩赦といったところでしょうか。

しかも代々引き継がれていき、【徳】の総量は増えていく。」

 

「そうなのか。でも俺の家族は誰一人知らなかったぞ。」

 

「それはそうでしょう。今まで自覚があった人は居なかったそうですから。」

 

「じゃあ、なぜお前が知っている?」

 

「私が所属する組織『オールインワン』の情報です。アカシックレコードというものをご存じですか?」

 

流は目に見えるほど大きな?マークを頭の上にだして首を傾ける。

 

「でしょうね。アカシックレコードは、元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念でアーカーシャあるいはアストラル光に過去のあらゆる出来事の痕跡が永久に刻まれているという考えに基づいているそうです。」

 

「でもそれっていわゆる大昔のことだろ?それとどう関係が?」

 

「そこで死海文書と言う物が関わって来ます。これは、アカシックレコードを原典とした預言書と言われています。それを手にした物は未来をコントロール出来るとも。そこにあなたが持っている【徳】が捧げられることが書いていたそうです。そして、それを5年前『オリジン・ゼロ』が手にしました。」

 

「でその【徳】を狙って裏秋月家へ接触したってか・・・」

 

「そうですね。今後ともあなたへの被害は大きくなるでしょう。そこで私と一緒に行動してもらえませんか?」

 

「やだね。」

 

「なぜですか?」

 

「美星祭の件はさっきけりがついた。俺にはそれ以上この件について復讐するつもりもない。」

 

「ですが、これからもその手の妨害が来ますよ?それを私たちが対処してあげようって言ってるんです。」

 

「自分のことは自分でする。これが俺の信条だ。だからこの【徳】を狙っていろいろと起こることは自分で対処する。【徳】があるなら大丈夫だろ。」

 

「そう、ですか・・・。なら私のプライベート番号を渡しておきますので、気が変わればご連絡ください。」

 

「ああ。そうすることは無いだろうが、一応もらっとく。」

 

「それでは。」

 

踵を返し環いろはは去って行く。

 

「【徳】にアカシックレコードに死海文書ね・・・頭爆発しそう・・・。」

 

少しグロッキーになりながら流は歩いて行く。

 

そして流は・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―香川県にあるパン屋さんでパンを作っている―

 

「ジャムおじさん!生地のこねが終わりました!チェックお願いします!」

 

「どれどれ・・・うん良い感じだね~スジが良いね流君は。」

 

そう言い『ジャムおじさん』と呼ばれた老人は柔和な笑みを浮かべる。

 

かの老人は大仁田 敦(おおにた あつし)。街の人からはジャムおじさんの愛称で呼ばれている。

 

「このまま成形に入ろうか。バタコや手伝ってあげてくれないか?」

 

「はーい。」

奥から女性が出てくる。

 

彼女は山田 摩耶(やまだ まや)街の人からはバタコさんの愛称で呼ばれている。

 

「じゃあ、流君一緒に成形しましょうか。」

 

「よろしくお願いします!」

 

二人は奥の作業場に行き成形を始める。

 

「ふふふ、流君の表情から陰がとれたねー。さて彼は何に悩んでいたのか・・・・」

 

 

 

[時は3日ほど遡る]

 

「とはいったもののこれからどうしようか・・・」

 

流は街を歩いているがいつものお調子者の表情では無い。

 

見る人がみたら相当深刻であることがわかるだろう。

 

ふとそこに新たな影が現れる。それは

 

「あれ?流くんどうしたの?具合でも悪い?」

 

そう、アンパンマンである。

 

「アンパンマン?」

 

「違うよ。僕はね、剛力 甘男(ごうりき あまお)に改名したのさ!」

 

だそうである。

 

「そ、そうか。でどうしてここに?」

 

あの流が若干顔を引きつりつつそう訪ねる。

 

「なんかね、流くんから助けて欲しそうな声が聞こえたんだ。」

 

「気のせいじゃないか?」

 

「ううん。ぼくはねそう言う心の声が感じ取れるんだ。それに今君はひどい顔をしているよ。」

 

「そうか?」

 

といいつつ横にある店舗のガラスで自分の顔を見る。

 

そこにはいつも通り笑えていない自分がいた。

 

自分では気づいて無かったが、どうやらそこまで疲弊しているようだ。

 

「ちょっといろいろあって疲れたんだよ。」

 

そう誤魔化しながら言うが、

 

「それだけじゃ無いよね?」

 

アンパンマンもとい甘男には筒抜けだったようだ。

 

「とりあえず背中に乗ってよ。良いところに行こう。」

 

流は気分転換にアリかと思いながら甘男の背中に乗る。

 

そして、甘男が向かった先がジャムおじさんがいるパン屋さんだった。

 

「ここは?」

 

「僕の家さ。ジャムおじさ~んお客さんでーす。」

 

そう言いながら甘男は中に声をかける。

 

「おやおや珍しいね、甘男がお客さんを突然連れてくるとは。さあさあ、入りなさい。」

 

「いや、あの、」

 

「まあまあいいから。」

 

狼狽えている流をジャムおじさんは中へ招き入れる。

 

「何か、悩み事かね?」

 

流に紅茶を出してジャムおじさんは聞く。

 

「まあそんなところです。自分のことは自分でするを信条としてるので、このことは己で解決するつもりです。」

 

「そうかい、そうかい。ところで、少し暇かい?」

 

「そう、ですね。特にやることを決めてなかったので。」

 

「なら、少しパン作りの手伝いをしてくれるかい?」

 

「はい?まあ、良いですが・・・」

 

「それじゃあ、よろしく。」

 

という感じでジャムおじさんの薦めでパン作りをすることになった。

 

[そして現在]

 

パン作りが一段落し、休憩に入る。

 

流はふと疑問に思ったことをジャムおじさんへ質問する。

 

「そういえばジャムおじさんは、なぜパン作りをされてるんですか?」

 

「そうだねー。みんなの笑顔がみたいからかな。」

 

「笑顔ですか・・・」

 

「パンを食べて美味しいって言ってくれて、笑顔になってくれるのが嬉しくてね。そのためにやってるんだよ。」

 

「そうなんですね・・・」

 

「ちなみに流君は笑顔にしたい人は居るかい?」

 

「居ました。けど過去にそのために頑張ったのですが、みんなを笑顔にするチャンスが無くなって、結果的に悲しい顔をさせてしまいました。」

 

「それは、流君が原因かい?」

 

「そうとも言えます。」

 

「そうなんだね。ちなみに悩み事はそのことかい?」

 

「そうですね。自分に矛先が向いた悪意の結果、みんなを悲しませることになってしまって・・・

 それが最近判明して、わかっていれば何か出来たことがあったんじゃ無いかと。」

 

「渦中に自分が居なければとも思ってるね。」

 

流はゆっくりと頷く。

 

「それはちがうね。君が渦中にいたことが原因の一つであったとしても、みんなの笑顔のために

頑張ったことは間違いじゃない。」

 

「・・・許されていいんでしょうか?」

 

「いいさ。結果的に失敗したとしてもね。それよりも何もしない方が良くないと思うよ。失敗を経験として

 先につなげることが重要なんじゃないかな?」

 

「そうですね。ここで立ち止まっていても何も解決にはなりませんね。」

 

そう言うと、何かを決意した顔で流は立ち上がった。

 

そして、着ていたコック服を脱ぎジャムおじさんへ手渡す。

 

「すいません。やることができましたので失礼します。」

 

「いい顔になったね。行ってきなさい。落ち着いたら一度戻っておいで。」

 

「はい。いろいろとありがとうございました!」

 

ビシッと効果音が出そうなきれいなお辞儀でジャムおじさんへと礼をする。

 

そしていつも通りのダッシュで駆けていく。

 

30分ほど全力疾走し、麓の街まで着くと携帯とメモを取り出し電話をかける。

 

『もしもし。環いろはですが。』

 

「もしもし、秋月流だ。」

 

『どうしました?まさか、協力したいとか?』

 

「その通りだ。」

 

『何か心境の変化でも?』

 

「人生の先達にご教示いただいたといったところかな。」

 

『こちらとしては願ったりかなったりですが。良いんですか?』

 

「俺が良いって言ってんだから良いんだよ。んでどこに向かえばいい?」

 

『携帯に位置情報送りますのでそこに。敵の本拠地に乗り込みます。』

 

「わーおジャストタイミング。」

 

『では後程。』

 

「はいよ。」

 

ーそしてなんやかんやあってー

 

本拠地の最深部へとたどり着く

 

そこにはとても広い空間だが、見慣れない機械がぽつんとあった。

 

そしてモニターには―Error―と表示されている。

 

「ここは、なんだ?」

 

「よくここまでたどり着いたな。」

 

「お前は・・・・!お前が『オリジン・ゼロ』の頭か!」

 

「そうさ、私さ。組織ではデミスで通っている。」

 

「お前がすべての元凶だな!」

 

「そうともいうが、そうでもない。」

 

「なんだと!ふざけたことをぬかして!」

 

「存外そうでもないんだよ。説明しようか。唐突だがこの世界は崩壊の危機にさらされている。」

 

「嘘だろおい。」

 

「モニターを見たまえ。―Error―と表示が出ているだろう。それが証拠だ。」

 

「それが何だっていうんだ。」

 

「ここはこの世界の中枢とでも言おうか。この機械は世界を管理する機械でね、普段はなにも無ければ時を刻むのみ。

 しかし世界に異常が発生すると原因を究明し対処方を提示するんだ。」

 

「それと、お前たちの行動と何が関係してるんだ?」

 

「だから言ったではないか。異常が発生すると原因を究明し対処方を提示すると。私たちはその対処法に従ったには過ぎん。」

 

「なんだと!それで悲しむ人がいてもいいのかよ!」

 

「当たり前ではないか。世界の存続と一個人の感情と天秤にかけるまでもない。」

 

「ということは、美星祭が開催できないのもそのせいだっていうのか!」

 

「そのはずだったのだが、事情が変わってね。美星祭が開催できないようにするのが解決法だったのだが、どうも外部からの干渉があったようだ。」

 

「外部だと?」

 

「パラレルワールドは知ってるかい?」

 

「ああ、もう一つの可能性の世界だよな。」

 

「簡単に言うとね。今回はそのパラレルワールドが発生している。つまり、美星祭が無事開催できた未来があるということだ。

 そしてそのパラレルワールドがこの世界に干渉し開催できた未来に書き換わろうとしている。」

 

「それのどこが危機だっていうんだ。いい未来じゃないか。」

 

「そうとも言えないんだなこれが。この世界ではすでに決定事項として美星祭が開催されないことで分岐を果たしている。

 それを前提条件として世界が構築されている。そこに違う前提条件の未来に書き換わろうとすると相互にエネルギーがぶつかりあい

最悪の場合世界が消滅する。」

 

「なん・・・だと。」

 

衝撃の事実を突きつけられた流。美星祭が開催できなかったのは世界の意思が原因とは思いもしなかった。

 

「しかし、これの対処法が一つ。未来を選択することだ。」

 

「どういうことだ?」

 

「このままの未来で進むか、過去に戻って美星祭が開催された未来を歩むかだね。」

 

「ん?さっきその二つで干渉しあってるから世界が崩壊するって言ってなかったけ?」

 

「問題なのは開催できなかった過去で開催できたときの未来に書き換わることさ

 開催さえできれば問題ない。だから言ったろ、『過去に戻って』と。」

 

「じゃあ、選べばいいじゃねえか。」

 

「それができないんだよね。」

 

「じゃあ、どうするんだ!」

 

「選んでもらうのさ。」

 

「誰に!」

 

「もう一人の君とでも言おうか。」

 

「は?」

 

「細かい説明は後で。向こう側で準備が整ったみたいだ。」

 

そういいながら機械を操作する『オリジン・ゼロ』の頭。

 

そこには真っ白い空間で一人の男がモニターの前に立っている映像が映し出された。

「彼の名前は『流月 秋』(るつき あき) もう一人の君さ」

 

-Side out-

 

 

 

-Side A-

一人の男がパソコンに向かっている。

その男は流月 秋(るつき あき)

ハーメルンで3710(ミナト)として活動?(ほぼ読み専だが)している29歳のしがないサラリーマンである。

ちなみに嫁と娘あり(このリア充め)ちなみに3710とは平成3年7月10日という生年月日だ。(誰得な解説?)

 

「さてさて、予告通り【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼きが更新されているな。hasegawaさんいきなり完結させてきたかwwwそれならどうしよっかなー。いきなり話しが変わってもいいかな?それとも完結までの補足する?うーん悩む。とりあえずインスピレーションで書くか。」

 

そう言い執筆作業が始まる。

 

「おけ、完成。hasegawaさんにメッセージ送ろう。コピペしてメッセージ確認からの送信・・・・が出来ない何でや。ページ更新しても出来ない。しゃーない、明日やり直しやなあ、寝よ。」

 

秋はいそいそと布団に入る。

 

現在時刻は1:59

 

時計が2:00になった時

 

―オブジェクトNo,3165887展開完了、実行します―

 

という聞こえるはずがないアナウンスが部屋に響き、秋の姿が消える。

 

 

 

「で、どういう状況?」

 

秋は白い空間で数多のモニターの前に佇む。

 

目の前には数え切れないモニター。一斉に赤く点滅し―Error―の表記が出るのは軽くホラーである。

 

―オブジェクトNo,3165887実行完了、ErrorNo,8851439の解決を要求します。―

 

「この状況で何をどないせいと。」

 

―オブジェクトNo,3165887実行完了、ErrorNo,8851439の解決を要求します。―

 

「この状況で何をどないせいと。」

 

―オブジェクトNo,3165887実行完了、ErrorNo,8851439の解決を要求します。―

 

「だから、何をどうするか説明せえや!!!てかうるさい!!」

 

―疑問、ErrorNo,8851439の解決に必要ですか?―

 

「当たり前やろ阿呆。報告・連絡・相談社会人の基本やで。」

 

―了承、要求、選択をしてください―

 

「なにを選べと?」

 

―要求、モニターNo.6548225の行く末について―

 

「モニターNo.6548225はどこや?そんでどんな選択肢があんねん。」

 

―移動、モニターNo.6548225―

 

―情報、モニターNo.6548225の世界において分岐が発生、未来の方向を確定しないとモニターNo.6548225の世界が崩壊―

 

「ほうほう、でモニターNo.6548225の世界とは?」

 

―開示、モニターNo.6548225の世界とは【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼きの世界―

 

「なん、だと」

 

秋は絶句した。なぜなら自分が関わっているリレー小説の世界であった。まさかそのような事態が発生していると思わずに続きを書こうとしてたのだから。

 

「なぜ分岐が起こる。バトンは俺が受け取ったから話しは繋がっているはず・・・」

 

―解答、1月16日00:55―

 

「1月16日00:55?なにがあった・・・・そうか!hasegawaさん炎の短編集でIF話が公開されたんや。」

 

―正解、IFと正史が存在し混同することで相反エネルギーが発生し世界の崩壊へ―

 

「たかだかそれだけで・・・他の話もIF話も掲載してるからその辺はどうやねん?」

 

―解答、hasegawa因子が起因―

 

「hasegawa因子?」

 

―解答、hasegawa因子とはhasegawa氏が執筆することにより発生する因子―

 

―hasegawa因子はそれ単体では悪影響を及ぼさないがモニターNo.654822においては複数の執筆者が関与しているためhasegawa因子の質が変化、真逆に変質した因子が相反し世界が崩壊するエネルギーが発生―

 

「やべーなそれ。hasegawaさんついに世界を揺るがす存在になったんや。」

 

―肯定―

 

「で原因はわかったとして、選択肢は?」

 

―開示、モニターNo.6548225の世界とリンク―

 

「よう、秋。いろいろと話ししたいことは山ほどあるんだが、そんな時間は無い。早速ですまないがこの世界の行く末を決めてくれ。」

 

画面には一人の青年が。そう流である。

 

「流なのか・・・」

 

「そうだ、てか俺はお前が生み出したんだぞ。わかるだろそんくらい。」

 

「だな。二番手としてのキックオフから始まったな。安直に自分の名前入れ替えただけだし。」

 

「安直すぎなwそれよりもこの世界は今崩壊の危機を迎えている。」

 

「だな。説明はきいた。んでどういう選択肢が?」

 

「美星祭りを開催するかどうかだな。」

 

「そうか、だからか。」

 

「だからとは?」

 

「2巡目のバトンが回ってきて続きを投稿しようとしたけど、なぜか出来なかった。俺の話では美星祭を開催云々については書いて無かったからな。」

 

「なるほど。」

 

「美星祭についてか・・・流お前はどうしたい?」

 

「どうしたいって?どっちでもいいさ、世界の崩壊が止まるなら。」

 

「ダウト。」

 

「は?こんな状況なんだぞ!ふざけてんじゃねーよ!」

 

「ふざけてねえよ。お前は俺が作ったキャラで、俺の名前を使ってんだよ。俺はお前でお前は俺だ。だから考えてることぐらいわかるわボケ。やりたいんだろ?美星祭。」

 

「そうだよ。そうさ!あれだけ準備したんだぞ!やりたいに決まっているだろ!」

 

「じゃあ開催で。」

 

「いいのか?」

 

「良いに決まってるだろ。」

 

「hasegawaさん怒らねえか?下手に刺激すると世界の崩壊が早まったり・・・」

 

「せんわ。交戦協定・その5 【書く内容は自由だ! は~ひふ~へほぉ~う!】

 

 その6 【何を書かれても良い! 俺さま怒らなーい!】だ。ルールに基づくやらかしの範囲だから

 無問題や。」

 

「そう、だったな。」

 

「後は任せときな。そっちは美星祭を存分に楽しむんだな。」

 

「ありがとう。恩に着る。」

 

「気にすんな。お前は俺で」

 

「俺はお前だろ?」

 

「そうそう。」

 

―質疑、美星祭開催の有無―

 

「開催一択」

 

―質疑、よろしいですか―

 

「愚問。」

 

―了承、モニターNo.6548225の世界の行く末が決定―

 

―既決、美星祭開催によりErrorNo,8851439の解決―

 

―オブジェクトNo,3165887を終了します―

 

「ということで俺は戻って美星祭開催で話書くわ。」

 

「よろしく頼む。」

 

「任せろい。」

 

そう言い秋は光に包まれ元の世界に戻った。

 

モニターNo.654822も同時に表示が元に戻る。

 

―オブジェクトNo,3165887を終了確認、通常観測に戻ります―

 

 

 

 

 

1月17日7:00

「で、外は明るいと。」

 

秋は無事帰ってきたようだ。

 

「今日は休日出勤する予定だったけど止めやな。香苗さんと早苗が帰ってくるまで時間あるか。」

 

スマホを取り出し香苗さんと書かれたところえいタップする。

 

「もしもし、香苗さん。おはよー」

 

「おはよー秋さん。どったの?」

 

この夫婦はお互いにさん付けで呼んでいるようだ。

 

ちなみに流月 香苗(CV:早見 沙織) 39歳 身長155cm 体重45kg 上から96-65-85のナイスバディな合法ロリである。

 

そのなりで昔は地元で有名な暴走族の女頭であった・・・・

 

「今日の休日出勤する予定止めにしたわ。」

 

「ふむふむ。なんかあったん?」

 

「ちょっくら世界救ってくる。」

 

「りょ∠(@O@) ビシッ!頑張ってらっしゃい。晩ご飯のリクエストあるー?」

 

「そだな、カツカレーかなー。」

 

「おけー帰りに水野屋のトンカツかって帰るかな。」

 

「よろしくー」

 

「ほんじゃ、頑張って。」

 

「あいあい」

 

と通話が終わる。

 

「さてちょっくら頑張りますかな。」

 

秋はそう言いパソコンへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う映画を生徒会で撮影して美星祭で上映しようと思うんだけどどう?」

 

「「「「「ちょとまてい」」」」」

流以外からのツッコミが入る。

 

「ちなみにこれ全部ほんまに経験したことだからwwww」

 

「「「「「なおさらまてい」」」」」

 

「多数のモニター、hasegawa因子、世界の崩壊・・・頭が痛い・・・」

 

ついにアルトが頭を抱えた。耐えがたい現実に直面し現実逃避しているようだ。

 

「この世界が小説の世界だと。全納得がいかんな。」

 

摩利も憮然とした表情でそう言う。

 

「確かに。私たちは現に自分たちで考えて行動してますし、誰かに操られていることも無いですが。」

 

と虚も続く。

 

「でも、流先輩が意味も無い嘘をつくでしょうか?流先輩は馬鹿ですが阿呆ではないと思いますよ。」

 

ルカは流を援護しながらさらっと先輩をディスっている。ルカに続きナミが

 

「まあまあ、とにかく美星祭は無事開催出来るということで良いのよね?」

 

「そう言うこと!」

 

「この馬鹿のせいでなんか疲れちゃった。今日は解散で良くない?」

 

「そうだな。ある程度も仕事終わっていること出し良いんじゃないか?」

 

アルトはどうやら現実逃避から戻ってきたようだ。

 

「んじゃ解散でー。ちなみにアイネブリーゼで新作のケーキ出たらしいけど行くやつ挙手ー」

 

そう流が言うと全員が挙手する。

 

「じゃあ、恒例の・・・・・

 

「「「「「「漢気じゃんけん、じゃんけんほい!!」」」」」」

 

流→グー

 

アルト→パー

 

摩利→パー

 

虚→パー

 

ナミ→パー

 

ルカ→パー

 

「んな!」

 

「「「「「ごちそうさまです!!」」」」」

 

「はあ、しゃーねえ。漢気じゃんけんの結果だし。んじゃいこうぜー」

 

流の号令でみんなが生徒会室から出て行く。

 

 

―美星祭は終わらない!!!―

 

 

 

 






 作者さまのページ↓
 https://syosetu.org/?mode=user&uid=24337


 3710さま、執筆お疲れ様でしたっ♪
 というか――――私のせいで世界が崩壊しかけたッ!?(爆)

 お、おう……。うん!
 何て言っていいか分からないのですが、とりあえずこの作品は、死ぬほど面白かったゼッ!!!!
 それで良いと思うの私ッ!www

 そして、美星祭復活ッ! 美星祭復活ッ!!
 これで今まで登場してきたキャラ達も、再登場が出来そうな予感っ♪ 私も人物表つくった甲斐がありましたネ!w

 そして、実は私……前回のお話を書いた理由のひとつに「ぜんぜん美星祭が進行してないじゃないか! ぷんぷんっ☆」という気持ちがあったりしたのですヨ。
 一巡した時点で、開催まで後30日……これはイカンと! これ美星祭おわらんぞと!w

 そういう想いがあって「じゃあ私が終わらせましょうか?」みたいな暴挙に出てしまったので御座いますればッ!! すまぬ……! すまぬ……!

 ――――だからみなさん、今度こそ美星祭やろうぜ!!!!(笑)

 これ私が言うのもなんなのですが……でも3710さんがもう一度チャンスを下さいましたっ!
 だから私たちで、今度こそ美星祭を、完結まで書き切ろうじゃないですかっ☆

 遠慮せず、ビビらず、ヒヨること無く! もうガンガン日数を進めていきましょう♪ 
 この【美星祭の完結】を、もんじゃメンバーみんなの“最初の目標”にしてみませんか?

 ではでは! 2番手お見事でした! 3710さまありがとぉ~う♪(hasegawa)




☆もんじゃ焼き伝言板☆

もんじゃ焼き参加者の皆様。
無駄に凝ってしまいなかなかバトンが回せず申し訳ないです!
次回は2週間以内に回せるように努力します! (3710)




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学際に向けての準備:序 (Mr.エメト 作)

 

 

 室斑勝也(むろぶち かずや)。

 お地蔵様からありがたい徳を授かった秋月流とは学友であり、いつも放課後におこなっている“世界征服について考える会”メンバーの一人。

 

 

【ちなみにメンバーはいつでも募集中!!】

 

 

 さて、彼が取り出したのは…………人気ある棒付きキャンディー:チュ〇チャップ〇。味はプリンである。

 

「……至福の時」

 

「あー、こんなところにいたー」

 

 茂みから現れたのは、飯島直樹(いいじま なおき)。

 学生服が所どころ葉っぱまみれだが、そこはほろっていく。

 

「てか、茂みから出てきて、どしたん?」

 

「いやー、猫がいたから捕まえようかと思ったけど、逃げられて」

 

「なにやってんだか……。ところで、流がやる映画の話。

 あれって、アイツの経験だそうだが……まるで意味が解らんよなぁ」

 

「だねー、時間逆行? SFみたいな話だよねー。というかデロ〇アン無しというのも驚きだけどね」

 

「ところで、直樹のところで何を出すんだっけ? たしか……」

 

「……お化け屋敷だって」

 

「こっちは、カフェ系だとさ。てか……俺が執事服なんて、需要ないだろうに」

 

 他愛のない男同士の会話。いつもの光景。

 ちなみに二人は容姿はなかなかのもの、その手に詳しいオタクな女生徒が見たら、ヨダレがでそうな光景である。

 何がとは、言わないが……言わないが!! 

 

「まぁ、本格的な準備とかになったら、集まりも悪くなるだろうしな」

 

「本屋ちゃんも、ここ最近会ってないからねー。流はいつも通りだけど」

 

 

((文化祭、何事もなければいいんだけどねー))

 

 

 二人は何事もなく無事に、文化祭が終わって欲しいと平和的に考えているが……この街には変で怪しげな"したたるウーマン"がいるとか、いないとか。

 それと同時に、妙なサムライのコスプレをした人も目撃されているとか。

 更には巷で、プリキュアとか魔法少女とかいるとか、いないとか!! 

 

 

「あ、帰りに家に寄っていく? いい資料本も購入したし」

 

「もしかして、ロードトゥドラゴンの画集か? よく買えたな」

 

「貯めていた小遣いで買ったからねー」

 

 二人は談笑して、午後の授業が始まる前に教室へ……。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 =???=

 

 

 路地裏に蠢く、怪しい影。

 

 人の姿をしているが、それは……蝙蝠の羽、爬虫類のような尻尾、手足には鋭い爪を持っている。

 

 バケモノ、あるいは悪魔とも呼ばれる存在。

 

 しかし、それは……それらは路地裏の黒い闇へと戻って消えていく。

 

 嵐の前触れになるのか、それとも……。

 

 

 

 

 

 美星祭まで……29日!!

 

 

 

 






 作者さまのページ↓
 https://syosetu.org/user/5376/


 Mr.エメトさま、執筆お疲れ様でしたっ♪

 室斑くん&飯島くん再登場!
 特に室斑くんについては、実は私って空手好きな人間なもので、いつか彼を書いてみたいな~と虎視眈々だったりしますヨ!

 また機会があれば、彼が伝統空手の奥義を駆使して、したたるウーマンの教徒達をバッタバッタとなぎ倒すシーンを書くとしましょう(笑)

 さて、今回は純然たる“次への繋ぎ”という印象のお話。
 ですが物語の後半に、なにやら不穏な雰囲気が……?
 いったいコイツは何者なのでしょうか?! わくわく☆

 ではでは! 3番手お見事でした♪ エメトさまありがとぉ~う!(hasegawa)



☆もんじゃ焼き掲示板☆

 今回は短めな話ですが、何かが起きるといいなー展開として張りました。
 ギャグ展開は苦手かも・・・しれんがそれでも頑張ります!!(Mr.エメト)


※このお話から続く番外編。
・【スピンオフ】ワーキングプア侍、見参ッ!!
 https://syosetu.org/novel/245415/5.html


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蟲獣(ちゅうじゅう)使い・参の遺影(いえ) (天爛 大輪愛 作)


 おぉ待たせしまぁぁぁぁぁしっ!!!!
 もんじゃ焼き、メガ盛りじゃぁぁぁぁぁぁあっ!!

 いろはちゃんのオリジナル中二病詠唱が出てくるので、苦手な人は飛ばし読みだぜ!(ブラバはあくまでも勧めない女)

 戦闘シーン、書きたかったけど気力がなかったのだ!
 ご勘弁・のり弁・ほっともっと!(←?)

(天爛 大輪愛)





 

 

「うふふ……そうですか、偵察、終わったんですね?」

 

 先日現れた、異形の存在。

 それが、何者かに優しくなでられて____そのおぞましい姿とは対照的に、子猫のように大人しくなっている。

 

 その『何者か』は、どうやら女性のようで、まだ声変わりをしきっていないあたり、中学生……多めに見積もって、高校生ほどだろうか。

 

「……ふむふむ、普通の男の子どころか、なんか馬鹿っぽい、と……。 ____私は、そんな方の家系に、今まで悩まされてきたんですか? それこそ馬鹿馬鹿しい」

 

 女の子の、濃い紫色の虚ろな瞳に、敵意の籠った光が宿る。

 

蟲獣(ちゅうじゅう)使いの称号にかけて」

 

 折り紙で作った、紫陽花の(がく)を模した髪留め____そして、右肩から羽織った、さらりとした白い絹の衣……それらが、微風になびいて、日光をゆらりと反射する。

 

裏秋月家・(さん)遺影(いえ)____第44代当主・秋月 東雲(しののめ)

 

 東雲は、異形を再び数回撫で……それから、浅めにゆっくりと呼吸を1度して、参の遺影の先祖と契るかのように、芯の通った声で1人、宣言した。

 

「我が家系が積年の不幸、私の手にて覆し、平安な未来を(もたら)してみせます!」

 

 

 

********************

 

 

 ____美星祭まで あと15日!!

 

 

「気合い、入ってるなぁ……」

 

 いろはは、生徒会室付近の、『カウントダウンカレンダー』を見て、感嘆の声を上げた。

 

 

「……ここで何やってるんですか?」

 

「へっ!?」

 

 そんないろはに声をかけたのは、織斑先生。

 

「ここの生徒では……明らかに、無いわよね?」

 

 現在いろはは、自分の在籍している中学の制服を着て、ここに訪れている。

 当然、怪しさMAXである……。

 

「場合によっては、不法侵入で警察沙汰になるけど____」

 

「ぇ、あっ、そのぉ……わ、私っ! 神浜市立大学附属中学校3年っ……た、環いろはです!」

 

「中学生……? そもそも、神浜なんて地名、あった……?」

 

「えっと、遠いところから来たので……ともかく……私は、知り合いの秋月流くんに、用事があって来たんです」

 

「……なるほど……丁度、中に、生徒会長(ながれ)がいるから、本当に知り合いかどうか確かめて____」

 

いょお~~~いっ!! 先生、どうした?」

 

「「! ……」」

 

 先生が流を呼ぼうとすると、ジャストタイミングで本人がガラッとドアを開けて、飛び出してきた。

 

「な、流くん……!」

 

「! ……いろは!」

 

 流がいろはの名を呼ぶと、先生は「本当に知り合いだったのね……」と、驚き半分・安心半分で、職員室に向かっていった。

 

「流くん、その、私、説明したいことがあって……」

 

「……俺も、かなり聞きたいことがある。 遠慮なく入ってくれ」

 

「わかった」

 

 いろはは、流とともに、学祭用の小道具で雑然としている生徒会室に入室する。

 中には、生徒会メンバーだけでなく、『世界征服について考える会』(のどか除く)もいた。

 

 

 ……。

 

「____環いろはです。 神浜市を中心とした魔法少女の組織・『神浜マギアユニオン』のリーダー……そして、世界を1つにし、平穏と幸福を遍く齎すことを目標とする慈善的組織・『オールインワン』の一員として、活動しています」

 

 

「……魔法少女云々に関しては、一先ず置いておくとして、神浜市って、一体何?」

 

 ナミの質問に、流も乗っかる。

 

「俺も、それをまず聞きたかった。 神浜っていったら、元々は、ここと隣接した都市だったはず……だけど、いつの間にか、存在が抹消されていて____時間を戻す前も、いろはが俺に声をかけるまで、俺自身も、神浜市のことを忘れていた。 何が起こっているんだ?」

 

 彼の問いに、いろはは、「私も、そのことを説明しようと思ってたから」と、特にあぐねる様子もなく、答え始めた。

 

 

「『hasegawa因子』によって、この世界が二分した時……魔法少女やプリキュア、その他一部の人々が____『オールインワン』や『ComeTrue』などの組織ももれなく____世界の歪みの影響を受けて、『みっつめのセカイ』に、移されてしまいました。 何故かワーキングプア侍さんだけ、取り残されちゃってたけど……

 

「『みっつめのセカイ』……?」

 

 はい、と、いろはは短く頷く。

 

h()a()s()e()g()a()w()a()()()()()()()()()()()の手によって、これ以上影響を受けないように____と、この次元に、自動防御機能が働いたんです。

 ……よって当然、その世界は、hasegawaさんズの息のかかっている 流くんたちのいない世界。 でも……そのせいで、『みっつめのセカイ』には、本来あってはならない不幸が起こり始めました。 流くんの徳で今までは抑えきれていたものが、徳の効果が遮断されて、制御が利かなくなったためです。

 その『抑えなければならない存在』は何なのか、それは____この次元・正式名称Roman von Hameln(ハーメルンの物語)にとっても特異中の特異(トップ・オブ・イレギュラー)____先述の『ComeTrue』という凶悪な組織です」

 

「! ……ナハトムジークの組織……」

 

「うん……。 そのナハトムジークも、その不幸に巻き込まれる運命になっていて……あなたが再び大人になれば、わかることだと思うけど……」

 

 話を続けます、といろは。

 

「何故、ComeTrueが生じたのか____アカシックレコードを司る方たちが調査した結果……hasegawa因子の他に、『セカイのカタチを変える』ことによって生じる粒子、『ポテンシア』が大きく関わっていることが、わかりました。 それが、日々、加速的に増えていっていることも」

 

 だけど____

 

「この次元の『性質』上、ポテンシアは、どうにも減らすことはできませんでした……そこで、せめて、増加のスピードを抑えられるように、アカシックの方々は、hasegawa因子の関わりが薄い『みっつめのセカイ』の時間を、ゆっくり流していくことにしたのです。

 『みっつめのセカイ』は、全くこの世界と繋がりがないわけじゃないから……あわよくば、この時間の操作に影響されて、こっちの世界のポテンシアの増加も抑えられるかもしれないと、期待して……」

 

「あっ! だから、いろはは、時間を戻す前に会った時も、姿が中学生のまんまだったのか!」

 

 そうだね____笑顔で相槌を打ったいろは。

 しかし、次に口を開くときには、その笑みは消え、表情を陰らせていた。

 

「でも、ComeTrueも、hasegawa因子も、一筋縄ではいかない相手でした。

 ……ところで、ポテンシアには、両極的な性質があります。 『正のポテンシア』『負のポテンシア』です。

 ____ComeTrueは、負のポテンシアから生まれただけじゃない……自らも、負のポテンシアを創り出していく存在でした。 普通は、こんなことは起こりえないんです____ポテンシアは、『1つ上の次元』からの介入によって、生み出される粒子なのに……。

 お陰で____静かな池に微生物が繁茂していくように____時の流れの勢いを失った『みっつめのセカイ』では、負のポテンシアの濃度が高まっていきました。 それこそ、未来を書き換えてしまうほどです。」

 

 

 ……長い。 流石に、長い。

 流は、頭の中で、そうツッコんだ。

 

 長いわ。

 本当に、この俺がそれだけの情報量を一気に詰め込めると思ってんのか……?

 ……そう言いたかったけど、仲間が真剣な顔で頷いているのを見て、とりあえず頑張ってついていくことにした。

 

 コレ覚えられるキャパがあるなら、普通に受検勉強用の知識を入れたいけどなぁ……。

 

 

「hasegawa因子もhasegawa因子で、『みっつめのセカイ』の状況なんか意に介さない程の猛威を振るっていました。 それはもう、大型台風が17個同時に、日本列島へ道場破りにやってきたぐらいの怒涛の勢いです。

 私、こんなに震え上がったの、妹が実は『(ネタバレ防止規制)』だった時くらいですよ?」

 

 

 知るか。

 わからん例えを出すな。

 ピー音がかかっちゃうような話を出すな。 アニレコ民に優しくして差し上げろ。

 

 っていうか、何で17という中途半端な数字にした?

 

 

「____え? 何? 実は、『割れた鏡が変化したコンパクトで大人に変身して、ラスヴェガスのあらゆる男女を飼いならした、伝説のS嬢』だったと?」

 

 をい飯島ァ!!!!

 

「 ち が い ま す 」

「妹さんとアッコちゃんとラスヴェガスへの風評被害がえげつない」

 

 いろはと摩利による同時ツッコみが入り、彼は総意によって廊下に放り出されてしまった。

 南無阿弥陀仏(テクマクマヤコン)

 

 

(うい)はいたって純情可憐ですからね……こほん、話を戻します。」

 

 いろはは、再び真面目な表情を作って話し始めた。

 

「hasegawa因子は……この世界の時の流れを、私たちの思惑とは真逆に、あまりにも進めてしまいました。 その分、世界の形も大幅に変わり、正のポテンシアが過剰量、蓄積されていきました。 さて____ここで問題、及び敗者復活戦です。 真逆の性質のポテンシアは、互いにどういう反応を起こすでしょうか? 飯島さん?」

 

 いろはがドアの向こうに声をかけると、飯島が、扉を勢い良く開けて入室してきた。 ……何故か、制服が葉っぱと土だらけになっているが……。

 

 

「多分だけど、『引力が発生する』んじゃないかな? 陽イオン・陰イオンにしろ、磁石のN極・S極にしろ、同じものには斥力____退け合う力が発生して、逆のものには引力____引きつけあう力が発生しているからね。

 ……もっと欲張って解答してみれば、『その後、2つがくっついて混ざりあってしまう』……とかになるんじゃない? 酸と塩基は中和したら水と(えん)になる____その程度ならまだいいけど、ポテンシアの場合は、何かしら出来ちゃいけないものが出来ちゃうんじゃない? もしくは、化学でいう『中和熱』みたいに、反応の際に何かがサブで発生して、それが不都合だ……とか」

 

 

「……す、すごい……全部、正解です」

 

「フンス☆ (-H-)」

 

「正解……ですけど、どうしたんですか、その格好……」

 

「ん? ……あぁ、()()()()()()()101匹のワンちゃんがいたから、めちゃくちゃに戯れてた。 超電磁砲(レールガン)の撃ち方でも一緒に特訓しよっかな~って思って

 

「ひゃ、ひゃくい……!?」

 

 ……と、とりあえず、ご着席ください……と、いろはは、ドン引いているのを隠せない様子ではあるが、説明を再開した。

 

 

「正のポテンシアと負のポテンシアは、光と闇のような存在。 互いに干渉してしまうと、光と闇の境目が曖昧になって、混沌(ケイオス)状態になってしまいます。 ____今は、宇宙の秩序(コスモス)ができていて……例えば、そこに黒板があったり、流くんがいたり……と、物の見分けがはっきりつきますが____混沌(ケイオス)というのは、『そこにあるのに判別できない』……様々な色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたせいで元の色がわからなくなってしまったような、状態というわけです」

 

 

「えぇーっと、アレか? TVで、なんかの事件の取材の時、周りの風景にめっちゃモザイクかけるだろ? あるけどわからないって、あんな感じ?」

 

 流が頭を抱えながら聞くと、アルトが助け舟を出した。

 

「そういう捉え方でもいいが、ちょっと違うな。 ……昔、こういう歌が詠まれたんだが____

  『幽霊の 正体見たり 枯れ尾花』

 ____幽霊っていうのは、超常的な、説明のつかない得体の知れない存在だ……基本的にはな。 対して、枯れ尾花は、枯れたススキの穂のことだ、なんてことはない、冬になれば、そこらの土手に()()()()ある。

 『混沌』状態になるっていうのは、この歌の逆が発生するってこと、つまり……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()____それが、ススキだけじゃなくて、全部に……お前の好きなプロテインにも、俺にも、お前自身にも起こるってわけだ」

 

「おおおスゲェ!! みんな幽霊みたいな()()()()()()()になっちまうのか! それはそれで面白そうだな!」

 

 目をシイタケにする流に、ナミからお叱りが飛ぶ。

 

「言ってる場合!?」

 

「冗談だよ、悪い悪い。 世界がダメんなると、どれだけ大変かは、俺だってよくわかってるつもりだよ」

 

「……あっ、そう言えば」

 

 ここで、いろはが思い出したように呟いた。

 

「死亡扱いになっている『本屋のファンキー爺さん』……『みっつめのセカイ』で見かけたような」

 

「____それ、ホントッ!?」

 

 ……突然、そんな声とともに、ドアがスパーン!と開かれる。

 

「「「「のどか(本屋ちゃん)(諸星さん)!」」」」

 

「ファンキー妻子さんが、代理でお店を開けてくれることになったから、復活できたの!」

 

 ハセ・ガワさんの新作、面白かったわ……購入特典の短編『おっかさんといっしょ』も! と、のどかはほおを紅潮させている。

 

「……小さい頃から、ファンキー爺さんにはお世話になってきたわ____出遅れちゃって申し訳ないけど、私にも協力させてほしい!

 そして、流くん……素晴らしく壮大な話ね、『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったものだわ*1……いよいよ世界征服を考えてるっぽくなってきたじゃない____燃えるわね!!」

 

「! ……おぅ! メラメラのメラメランチョだぜ!」

 

「そんな『らくがきんちょ』みたいな……」

 

 室斑のツッコみに、生徒会室内の雰囲気が、より和やかになる。

 

「ぃよし、いろは、じゃんじゃん続き話してくれ!」

 

「わかった____『反応の際に何かがサブで発生する』に関しては、単純に、エネルギーですね。 満員電車で誰かが動くと、誰かが押されて、それが周りにも広がっていくように……水面の波紋のように、ドミノ倒しのように……混沌(ケイオス)化した際に発生したエネルギーで、この次元内の他の世界にも影響が及び____最悪の場合、『Roman von Hameln(ハーメルンの物語)』自体が、完全に崩壊しかねません。

 ……この組織『オールインワン』は、本来は、単に世界を平和的に統一するために走っていましたが____これを知ってからは、アカシックの方々と手を結び、『Roman von Hameln(ハーメルンの物語)』の崩壊を防ぐために、動き始めました。 私が入会したのも、この活動を知ったためです。

 ……この間は、デミスが思わぬ手助けをしてくれましたが、本来なら、『他次元への干渉』は、次元のバランスを崩す危険行為。 時間を戻す行為は、もう出来ません____今回が、まさにラストチャンスです」

 

 どう? ……いろはは、流に問う。

 

「あなたも、そして、生徒会や『世界征服について考える会』の皆さんも、オールインワンに入って、このミッションの成功を、より強固にしませんか?」

 

 仲間たちは、一斉に流に視線を注いだ。

 ……彼の口から答えが出るまで、そう長くはなかった。

 

「____やだね」

 

「……一応、理由を聞いてもいい?」

 

「俺は……()()()()世界を征服したい。 オールインワンに協力はするし、是非ともしてもらいたいが……『身内』には、ならない。 絶対だ、先祖代々の夢だからな」

 

 ふふっ……、いろはは、小さく笑う。

 

「やっぱり、流くんはそうじゃなきゃ! ____時間を戻す前の一時期、情熱を失っていたみたいでヤキモキしたけど、もう心配ないね!」

 

「おぅ! 香川で修業してきたからな! ……なぁ____」

 

 ____皆、提案……ひとつ、いいか?

 

 流は仲間たちをぐるっと見渡し、問いかける。

 仲間たちは、無言で、力強く、頷いた。

 

「生徒会と、『世界征服について考える会』で合併して、俺たちだけの組織、作らねぇか?」

 

 採決をとりましょうか____虚が、前に進みでる。

 

「賛成の者……おもっきし、拍手ですッ!」

 

 ……パチ……

 パチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 

「____全員賛成により、この案は可決されました。 ……ですって、流」

 

「……! おぅっ! サンキューベルマッチョな、皆!」

 

 ____では……。

 こほん、と、流は1回、咳払いをする。

 

「ここに____」

 

 

Very Uni-Merge(ベリー ユニ・マージ)

 

 

「____略して、VUM(ヴァム)の結成を宣言します!!」

 

 

「……うん、いいと思う! 文法滅茶苦茶だけど

 

「言葉の響き的にも、悪くないですね、先輩。 文法滅茶苦茶だけど

 

「Merge____『合流』か。 リーダー()の名前も入ってて、いいじゃないか。 文法滅茶苦茶だけど

 

「をいぃッ!!??」

 

 メンバーからの総口撃(こうげき)に、たじたじになる流に、いろはが失笑しながら声をかける。

 

Very(まさしく)最高に流くんらしい組織名だね! 文法滅茶苦茶だけど

 

「はははっ、中3にまで言われてんぞー」

 

「ぐはっ!?」←流に42のダメージ

 

 流が、血反吐____ではなく、丁度口に含んでいたグレープジュースを吹き出す。

 のどか、ナミ、摩利、ルカから、「(きたな)っ!?」と悲鳴が上がる……。

 

 

 ……きちんと自分で後始末をしてから、流は再び皆の前に立った。

 

「そんじゃ、結成を記念して、こう……丸く並んで、手を重ねて『おーっ!』ってするか!」

 

 彼の声に、いろは除く全員が、円状に並びだす____

 

 ____ドーンッ!!!!

 

「「「「 !!?? 」」」」

 

「地震……じゃねーな。 グラウンドからだ! 行くぞ!」

 

「おぅ!」

「了解……!」

「OK!」

「わかった!」

「えっ!? ちょっ……えっ!?」

 

 十人十色な返事をして、『Very Uni-Merge』のメンバーは、流の後に続く。

 

 

「っ……!」

 

 いろはも、並走しながらソウルジェムをかざして変身する。

 それを間近で見た飯島が、感動して声を上げた。

 

「おぉっ! 本当に変身した!」

 

オールインワン・『呼子鳥のいろは』____行きますっ!」

 

 いろはの名乗りに、流がサムズアップする。

 

「『二つ名』って良いな! 俺らも何か考えるか!」

 

「呑気にしてる場合じゃないだろ、まだ地響き続いてる!」

 

 あんまりコレ放っとくと、美星祭できなくなるぞ____と、摩利が窘めた。

 

「だな……おし! 全速前進!!」

 

 VUMのメンバーといろはは、猛スピードで会談を駆け下りていった……。

 

 

********************

 

 

「……おや? おやおや、まぁまぁ……一般人さんが揃いも揃って、何の御用です?」

 

「____うっせぇ! ともかく、学校を壊すんじゃねぇ!!」

 

 ……現在、グラウンド。

 

 VUMメンバーといろはは、地響きを起こした主である、中学生ほどの女の子と対峙していた。

 女の子は、虫のような異形を使役して、今なお、グラウンドを壊し続けている。

 

 

「(……あれっ?)」

 

 いろはは、少女の姿を見て、強烈な既視感に襲われた。

 それもそのはず。

 実は、この女の子は、『流月 秋』の奥さんにおける『異世界の同一人物(パラレルツイン)』。

 イメージCV.早見沙織さんである。

 

 

「あなたが____秋月流くんですね? 丁度いい、私、あなたを殺しに参ったんですから♪」

 

「……いきなり物騒なこと言ってくるな……ともかく、そんな大層なこと堂々としに来たなら、まず名を名乗るってのが筋じゃねーの?」

 

 おや! と、女の子は手で口元を覆い、笑う。

 

「それもそうですね、私ったら、うっかりさんです♪」

 

 女の子は、その虚ろな瞳を微かに細め、ふわっとした声で名乗りを上げた。

 

「私は____裏秋月・参の遺影(いえ)・第44代当主____秋月 東雲です♪」

 

 東雲は、肩にかけた衣を翻し、丁寧にお辞儀をする。

 

「以後、お見知りおきを____って言っても、あなたには『以後』なんて無いんでしたね、私に殺されるんですもん? またまたうっかり、失礼いたしました♪」

 

「……ご丁寧にありがとな。 ____俺は、秋月 流。 世界征服を目論む組織、『Very Uni-Merge』のリーダーだ」

 

「おやぁ、組織を立ち上げなさったんです?」

 

「あぁ、()()()()な。 その結成式を、お前が邪魔しやがった」

 

「 た っ た 今 ! 」

 

 東雲は、おかしくて堪らないとでも言うように、プッと噴き出す。

 

「出来立てほやほやの、一般人さんの楽しい同好会に、何の力があると言うのです?」

 

「____それ以上、その気色(わり)ぃ喋り方すんな」

 

 流が、低い声で(しず)かに言うと、彼の背後から人影が飛び出し、東雲に襲い掛かる。

 

「っ!? お人形さぁん!」

 

 東雲は、素早く使役していた異形を呼び寄せ、自身の盾にした。

 

「……チッ、この虫もどき、なかなか硬いな」

 

 そう呟きながら、流たちの元にバックステップで戻ってきた人影は、室斑であった。

 彼を見て、東雲は嘲りの感情を一切隠さず、口角を上げる。

 

「おやおや、武術がお上手な一般人さんもいらっしゃるんです? 愉快愉快、実に賑やかなお遊戯ですねぇ」

 

「黙れといっただろ」

 

 流は、眼を据えて東雲を鋭く睨んだ。

 

「あいつが、どれだけ普段から鍛錬を積んでるかも知らないで……いや、別に知らなくてもいいが、仲間を散々馬鹿にしやがって____」

 

 お前は絶対____

 

「____(ゆる)さない」

 

 

 流がそう、言葉を真っすぐ東雲に向かって突き刺した____それと同時に、辺りが桃色に強く発光しだす。

 

 

「____我が名は、親人(ひと)求めの呼子鳥

 強さと慈愛を以て空白を満たし 観測(みはか)りし命運を手に沈黙を破れ

 (すべ)てを目守(まも)り (たよ)りに澄まし

 満つる現在(いま)はただ(うご)き叫ぶのみ

 永き停止から醒めし我が身は その名を(えだち)(やつ)すらむ

  色は (にほ)へど 散りぬるを

 此の花は常のものに有らず されば此度 須臾の合間(なか)

 光の如く 咲き駆けぬべし____

 

 拓いてッ! イシュタル・グレィティアッ!!

 

 いろはは、左手に装着しているクロスボウを天に向かって放つ。

 (くう)を裂いて打ちあがった矢は、幾つにも分かれ、VUMのメンバーたちに降り注ぐ。

 

「私がこの人と戦ってもいいんですが、当人のターゲットは流くんです。 そして私が、他の魔法少女と『コネクト*2』した時の魔法の特性が『仲間の強化』____コネクトをしていない時でも()()()()()()できないかなって思って、新しい魔法を作る特訓をしていたんですが……ジャストタイミングでしたね!」

 

 いろはが、ドヤ顔スマイルで見つめる先には、全身が淡いピンク色に輝く、VUMメンバーたちがいた。

 

「おおお(すげ)ぇ、凄ぇ、凄ぇ! なんかめっちゃ漲ってくる!!」

 

「中二病詠唱も馬鹿にできないのね~!」

 

「……気をつけろ、力を得ても、制御できなければ元も子もない」

 

 室斑の冷静な言葉に便乗して、東雲が思いっきり煽ってくる。

 

「うふふ、そぉですよ~? でも、皆さん、なんと可愛らしいことでしょう! まるで、新しい玩具(おもちゃ)を貰った幼子みたいで、とても微笑ましいことです♪」

 

「なんだコイツ……!」

 

「落ち着け、摩利。 憤るのは構わないし当然だが、必要以上に頭に血を登らせると、お前の()()()()がさっさと燃え尽きちまうぞ」

 

「ん……室斑お前、さっきから凄いな……」

 

「さんきゅ」

 

 そうお礼を述べて構えなおす室斑の後ろで、虚が不安げにしている。

 

「でも……私、こういう実戦なんて、初めてで……せめて足を引っ張らないよう、立ち回れるでしょうか……」

 

「初めてなのは、大体皆、そうなはずです。 とにかく、基本的に防衛に徹しましょう。 みんなの安全が一番なんですから」

 

 そんな彼女に、ルカが緊張交じりの声をかけた。

 

「そーゆーこって。 ともかく皆、無茶して怪我とかすんなよ……!」

 

 流の声に、全員、無言でコクンと頷く。

 

「____おや、もう茶番さんはお終いなんです? では……参りますねっ♪」

 

 東雲が、朝焼けの中にたなびく雲のように緩やかな動きで____しかし、残像を残すほど素早く、駆け出した。

 

 

********************

 

 

 ____『みっつめのセカイ』 オールインワン・本部

 

 

 この組織のリーダーである、ハセ・ガワ氏は、スマホを両手にガシッ!と持って、眉間にしわを寄せていた。

 

「____今を時めく Vtuber・テンジクボタン____ですか……」

 

 彼が見ているのは、『TEN j-Dチャンネル』の主・2.5次元からやってきた女の子の『テンジクボタン』による生配信。

 

『うん、うんっ……☆ ボタンも、Vの世界(2.5次元)から、3次元の皆のこと、見てるよぉ~っ……☆』

 

「何が2.5次元でしょうか、白々しいですね……あなたは、4()()()由来の存在じゃないですか」

 

『____そうだ、今、人間さんは、文化祭のシーズンみたいだねぇ……☆ 成功するといいねぇ、頑張れ~っ……☆』

 

「……よくも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんなことが吐けますね……」

 

 いつも、組織のメンバーの前で見せる、時々厳しいながらも 常ににぎやかな態度はどこへやら____彼は、じっと画面を睨み続けていた……。

 

 

********************

 

 

 ____グラウンド

 

 

「そぉ~いっ、じょいっ!!」

 

 『お人形さん(例の異形)』を、フザけた言葉を叫びながら、むんずと掴んで投げる流に、

 

「……。 この人、冗談抜きでお遊戯か何かと勘違いしてません……?」

 

と、東雲が、呆れ半分……いや、呆れ全部でコメントした。

 

「いーやっ、全力だね!」

 

 にんまりしながら、流は東雲に向かって右拳に力を籠める。

 

「俺は、物事に対しては、中途半端じゃなくて、オールウェイズ・真剣・三丁目の夕日でブチ当たる質でね! 俺たちの大事なものが係ってるなら、尚更そうだ!」

 

「っ!」

 

 流の重い一撃を、拳銃を横にして受けることで分散し、東雲は、瞬時に距離をとって銃を連射する。

 

「そうです!」

 

 無差別に撃たれる弾を避けながら、ルカが叫ぶ。

 

「流先輩は、全てにおいて馬鹿なんです!」

 

「えぇ、馬鹿真面目で、馬鹿正直で!」

 

 ナミが同調すると、摩利も強気な笑顔で……

 

「馬鹿丁寧で!」

 

 虚も額から汗を垂らしながら……

 

「筋肉馬鹿で!」

 

 室斑が、起き上がった『お人形さん』に容赦ないパンチラッシュを浴びせながら……

 

「天然馬鹿で!」

 

 飯島が、何故かウサギの大群から逃げ回りながら……

 

「とんでもねぇ馬鹿力で!」

 

 のどかが、小説でかじった拳法の立ち回り方をやてみながら……

 

「感情豊かで、悲しいときは馬鹿泣きするし!」

 

 いろはが、クロスボウを、室斑に当たらないよう、お人形さんに向かって連射しながら……

 

「嬉しいときは、こっちにまで嬉しい気持ちが移っちゃうくらい、馬鹿笑いするし!」

 

「____兎に角……だ!」

 

 アルトが、地面をおもっきしブン殴って、お人形さんの下にクレーターを作りながら、力強く言い放った。

 

「うちのリーダーは、馬鹿みたいな馬鹿中の馬鹿だけど、愛すべき馬鹿____つまり、俺たちみんな、アイツをだいす……慕ってるってことだ!!」

 

「をい、今、なんで『大好き』って言いかけたの、言い直した!?」

 

「気恥ずかしいからに決まってるだろ!」

 

 高校生にもなって、男友達に『大好き♪』って言えるか! と、アルトが流にツッコみ返しした。

 

「そっか! 俺は、いろはとメンバー皆、大好きだ!」

 

「凄いなお前、堂々と!」

 

「……喋るのもそこそこにして、流くん! そろそろ、あの怪物を倒せそうだよ!」

 

 いろはの呼びかけに、流がハッとしてそちらを向くと、お人形さんは、立ち上がるのもままならず、かなりよろめいていた。

 

「よっしゃ____いろは、このメンツで一番決定打を与えられんのはお前だ! 一発、ドカンとよろしく頼むぞ!」

 

「わかった!」

 

 いろはは、クロスボウに魔力をチャージし、必殺技を放つ。

 

「ストラーダ・フトゥーロ!!!!」

 

 その矢は桃色の軌跡を残しながら、鋭く放物線を描き、異形の頭を穿った。

 

「________!」

 

 お人形さんこと異形は、耳障りな断末魔の叫びをあげ、風解していく……。

 

 ……。

 

「……よくも」

 

「「「「 ! …… 」」」」

 

「よくも、よくもよくもよくも! 私の可愛いお人形さんを、消し炭にしてくれちゃいましたねぇ?」

 

 セリフに反して、東雲は____にぃっっっこりと、笑みを顔に張り付けている。

 

「では、お礼に、この学校____()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉を言い終わるか否かの内に、東雲はゴツい大砲(ハンディタイプ)を取り出し、校舎に向かって構える。

 

 彼女は、ゆっくりとエネルギーをチャージしだした。

 

「! ……させるか!」

 

「流! むやみに突っ込むな!」

 

 摩利が流の襟ぐりをひっつかんで止める。

 

「あんなハンディタイプの奴でも、フルチャージなら馬鹿デカい校舎を壊せるらしい____ってことは、少ししかチャージされてなくても、お前、無策で立ち向かえば、ブッ放されて大怪我じゃ済まないぞ!」

 

「……そうだな。 いろは、今の俺たちって、バリアとか張れるか?」

 

 流の質問に、いろはが答えるには……。

 

「張れないことはないよ。 イシュタル・グレィティアのパワーをいっぱい手に集中させて、前方で展開すれば……」

 

「おっしゃ! じゃ、それで行くぞ! 集めんのは、いろは由来のパワーだし……なんかこう、合体バリアとかも作れんだろ!」

 

「話し方馬鹿っぽいけど、内容はなんか頭いい……!?」

 

 ナミが ドーモ君みたいな顔芸をしつつ驚く中、とりあえず皆で集まって、手にエネルギーをチャージしていく。

 

「おやおやぁ? 何を無意味なご相談されてたんですぅ? 私、もう、いつでも学校壊せますけど♪」

 

 相変わらず、東雲が、ガッツリ煽ってきながら、大砲(ハンディタイプ)を構える。

 

「じゃ、せいぜい絶望してください♪ 秋月流____あなたを嬲り殺すのは、それからです♪」

 

「皆、準備いいか!」

「「「「おぅ(あぁ)(うん)(はい)!」」」」

 

 

「それじゃ、学校さん、さよならです♪

 イグニッショ~ン♪♪♪ 」

 

 東雲が大砲を放った瞬間、いろはとVUMのメンバーは、迅速に、放たれた方向に移動し、バリアを展開する。

 

「____なるほどぉ、バリアですかぁ♪ 一番単純明快な対策ですねぇ! でもそれ、いつまで持つんですぅ?」

 

 クスクスと笑う東雲の視線の先には、大粒の汗を浮かべながら、大砲のエネルギーを打ち消そうと苦戦している、一同がいた。

 

 バチバチとエネルギーがせめぎあう中、一同は目がつぶれないように、目を細めて防御している。

 そろそろ持久戦は限界が来るか____そう考えた流は、皆に指示を出す。

 

「皆! 力を揃えて、一気に押し返せ! ____せぇのっ!」

 

「「「「 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!! 」」」」

 

 

 途端____爆音とともに、この場にいる全員の視界が、真っ白に染まった…………。

 

 

********************

 

 

 ____オールインワン・本部

 

 

『それじゃあ皆、バイバ~イ……☆』

 

 そんなテンジクボタンの声の後、配信の終了を示す画面。

 

「なるほど……散々世界をかき回しておいて、よくもこんな呑気にできるものです」

 

「お褒めの言葉、ありがとう……☆」

 

「! ……おや、呼ばれて飛び出てってヤツですか」

 

「そーゆーこと……☆」

 

 いつの間にか、ハセ・ガワ氏の隣に、年頃の少女が満面の笑みで立っていた。

 

「余程、ボタンのことが嫌いなようだね、ハセ・ガワさん……☆」

 

「当たり前です、『アカシックの次元』から抜け出し、散々、レコードの改変という悪事を働いているのですからね……」

 

「でも、それは____色々と世界を派手にひっくり返しちゃってる点では、あなたの『写され見』さんも、同じようなものじゃないかな……☆」

 

「……。 hasegawa氏は、hasegawa氏____その『写し見』であろうと、私は私です。 何が言いたいかというと、彼と私は実質アカの他人で____そもそも、あなたの行為と彼のソレとは意図も何もかもが全く違う。 一緒にしないでいただきたい」

 

 そんな詭弁がまかり通るなら言わせてもらうが____あなたの写され見も、散々ポテンシアを生み出しているじゃないか、と、ハセ・ガワ氏は反論した。

 

「あぁ~……☆ そうだね、じゃ、やっぱりボタンたち、仲良くしちゃ、ダメ?」

 

「冗談じゃありません。 私が何のために、あなたの故郷(アカシックの次元)と提携しているとお思いですか?」

 

 ハセ・ガワ氏が、ボタンをじろりと睨む。

 

「んー……☆ 混沌(ケイオス)化と次元の崩壊を防ぐためじゃないの~……☆」

 

「ここに来てトボけないでください。 勿論、その理由もありますが……そういう枝葉のソレの大元の理由……そう____『3次元の執筆者(ライター)』を誘導し、hasegawa因子やポテンシアとかいう、至極面倒な()()()()()()()を生み出してくれた……あなた裏流月(りるつき) 裏秋(うらあき)を捕らえる為____という答えが欲しかったんですよ、私は。」

 

「ふぅ~ん……☆ 思ったより やり手だねぇ、裏秋くんのことにも気付いているなんて……☆ でも、まだ仲間いるんだけどねぇ~____まっ、取り敢えず、お見逸れ、お見逸れぇ~……☆」

 

 ヘラヘラと笑うボタンに、ハセ・ガワ氏は、ややムッとする。

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい。 ____ですから、今……」

 

「……『今ここで、あなたを捕らえさせていただきます』って言いたいのかな……☆ 甘い甘ぁい____私が瞬時に、しかも無防備でここに来たの、不思議じゃなかったのかなぁ……☆ コレ____ただのホログラムだからね、バイバ~イ……☆」

 

 ボタンはそう、一方的に喋って、勝手に消えるが____ハセ・ガワ氏は、しかし、不敵に笑っている。

 

「……人の話は最後まで聞けと、習わなかったのですかね? ____『ですから、今ここにいる あなたのホログラムに、私は、GPSのようなモノを取り付けさせていただきました』____ごく少量かつ微粒子状なので、あまりにも遠くだと位置をドンピシャしにくい分……あなたもソレを取り除きにくい」

 

 ……ハセ・ガワ氏は悠々と、小説のアイデア帳を開く。

 

「だから、『人を馬鹿にするのもいい加減にしなさい』と言ったでしょう? ……そう遠くない内、あなたも裏秋も、きっちり懲らしめてやりますから____震えて待っていてくださいね♪」

 

 彼の愉快げな笑い声が、この ただっ広く、日の光差し込む朗らかな部屋の雰囲気に違わず……緩やかに響いた。

 

 

********************

 

 

 ____再び グラウンド

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 流は、肩で息をしながら、仰向けに倒れていた。

 

「……皆、大丈夫か……?」

 

 彼の声に、メンバーらが、続々と起き上がりだす。

 

「異常なし____砂粒が肌に掠ったくらいで、傷らしい傷もないし……強いて言えば、すごく疲れただけだ」

 

「同じくです」

 

「俺も、そんな感じ」

 

 そんなメンバーたちと流に、起き上がったいろはは、「あくまで念のため、だけど」……と、回復魔法を、全員にかけた。

 

「ありがとな*3、いろは____あっ、そうだ、東雲の奴は……!?」

 

 流が慌てて目を向けると……当人は、歯を食いしばりながら、少しよろめきつつ立ち上がっている途中だった。

 

「____私、は……どうし、ても……!」

 

 ……しっかりと立ち上がりきってから、彼女は再び言葉を紡ぎだす。

 

「この、裏秋月家・参の遺影に脈々と流れ続け、年々積み重なっている『不幸』を消してしまいたい! その為に来たのに……他の、『(いち)()()遺影(いえ)』に出し抜かれる、その前に……!」

 

 東雲は、虚ろな双眸を恨みで満たし、カチャリと新たな武器を取り出す。

 

「まぁ、いいです____手段なんかいくらでもあるんです。 この『スポナー』で、新たなお人形さんを……!」

 

「! ……また学校壊す気か! もうこれ以上はやめろ!」

 

「そう言われて、大人しくやめる馬鹿がいるとすれば、あなたぐらいなものですッ! ____おいでなさい、私のお人形さん!」

 

 彼女はスポナーを起動し、何体も異形を召喚する。

 

「さぁ! 滅茶苦茶にしてしまいなさいッ!」

 

 東雲(ご主人)の指示で、グラウンドに留まらず、近くの生垣なども壊しに向かう『お人形さん』たち。

 

「! ……その小庭園は、うちの教頭先生が大事にしている……!?」

 

 ____いろは! ……流は、半分悲鳴のような声で頼む。

 

「もう1回、『イシュタル・グレィティア』、かけてもらえねぇか?」

 

「……ごめんなさい、さっき、このソウルジェムを浄化する為のアイテム*4のストックを使い切っちゃって……」

 

「浄化……?」

 

「うん、魔法を使うとか、色々な要因で、ソウルジェムが濁ってしまうんだけど____これが完全に濁りきってしまうと、私たち魔法少女は、死んだも同然になってしまうの。 それを防止するアイテムも数個あったけど、さっきの戦いで使い切っちゃって____イシュタル・グレィティアをもう1度放ってしまえば、ソウルジェムが濁りきってしまうかもしれないから……」

 

「……わかった、いろはに死んでほしくない、頼むのはやめる。 そもそも、いろはは、VUMメンバー外だしな……逆に、ここまでの協力ありがとな____でも……」

 

 流は、破壊されていく周囲を、苦い顔で見つめる。

 

「こんなの、黙って見てられるわけ…………ぉ……」

 

 突然、流の目の焦点が合わなくなり、彼は力が抜けたように、ストンと倒れこむ。

 

「先輩!」

「おいっ!」

 

 ルカと飯島が驚いて彼の体を支える____

 

 

 ……。

 

 ____流。

 

「……」

 

 ____流、起きんかい

 

「……ふぁ? あれ……ここは……?」

 

 辺りを見渡せば、そこは終わりの見えない真っ白い空間。

 

「しかも、この声……」

 

 ____そう、わしや

 

「お地蔵様! どうして……?」

 

 ____そりゃあまぁ、敬虔な信者のために決まっとるやろ。

 

「! ……ってことは!」

 

 ____あぁ、東雲をしばくために、力を貸したるわ。 ……ただし

 

「ん?」

 

 ____お前は覚えとらんやろけど、わしは前に一度、お前の体を()()()借りて、色々助けたことがある。

 

「おっ! そうだったのか! サンキューベルマッチョ!」

 

 ____せやけど、そういうことが出来るのは、基本一度きりや。 ましてや、スピリチュアルに無縁なお前に、そないなこと何べんもやりよったら、『流』自身が壊れてしまう。

 

「……つまり?」

 

 ____力は貸したるし、お前に乗り移ったるけど、お前の人格は起きたままにさしてもらう。 アドバイスはするが、お前自身で考えて、キチンと動け。 できんのやったら……

 

「やる! 絶対やる」

 

 ____おっ?

 

「学校を守る手があるなら、大抵は何でもやってみせるつもりだったし____俺は組織のリーダーになったんだ。 そういう奴は、主体的に動いてナンボだろ?」

 

 ____ぃよし、よく言うた。

 

「ってことは……!」

 

 

 ……。

 

 

「……」

 

「あっ、目を覚ました!」

「流!」

 

 仲間たちが安堵の声を漏らす中、流は無言で立ち上がり____一歩、踏み出す。

 

「……流、くん……?」

 

 いろはが心配して声をかける中、彼は静かに目をつむって、ゆっくりと開く。

 

 ____彼の眼は、()()()のように金色に染まっていた、が……。 加えて、その金色に、流水のような清い水色の差し色が入っている。

 

 

 彼は、ゆっくりと、力強く東雲のもとに歩いていく。

 

「い……今更なんです? もう学校は壊れる()()です! 潔く諦めたらどうですか!」

 

「____絶対、嫌だね」

 

 流のその声は、水面に一つ小石を投げ込んだかのように、滑らかに、(しっか)りと辺りに響く。

 

 

「諦めるもんか。 こう見えてさ、俺____」

 

 

 

 

 

 

 

 

「____すごく 怒ってるんだよな」

 

 

 

 

 さだめを変える『流れ』が、今、津々と湧き出し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____To be continued……

 

 

 

 

 

 

*1
一同「いや、ここ、小説の中の話なんだけど……」

*2
神浜市にある『調整屋』でソウルジェムをいじくられた魔法少女の間でのみ、繋がることによって発動する魔法

*3
笑いを取る気力は、無かった。

*4
『グリーフシード』という






 作者さまのページ↓
 https://syosetu.org/user/310554/


 大輪愛さま、執筆お疲れさまでした♪

 ……というか、もう本当カオスになって来ましたね! この小説!w
 ちょっと待ってプリーズ! いま私すんごい頭がこんがらがってますヨ!?
 誰か図で! 図で説明してくれッ!(笑)

 ただよく分からないなりに、「おーなんか盛り上がって来たー♪」っていうのは感じるの!
 めっちゃ面白かったし、読んでて胸が熱くなった! ――――それが私のジャスティス!!!!
(また何回か読んで、設定の理解に努めますネw)

 そして美星祭も、あと15日後に迫りました!
 これ3710さんの手番がくる頃には、開始出来るんじゃないかな? 念願の学園祭の様子を、3710さんご自身に書かせてあげられるんじゃないかな?

 まぁ日数とか、そこら辺の帳尻は、『ぜんぶ私の番でなんとかしますゆえッ!』
 みんなは自分の思う通りに、自由に書けばいいゾ! お父さんに任せておきなさいっ!(?)

 ではではっ、4番手お見事でしたっ♪ 大輪愛さまありがとぉ~う!

(hasegawa)




☆もんじゃ焼き掲示板☆


 テンジクボタンちゃん、私から見ても、『ウゼェ!』仕上がりになっちゃいました~!

 ……ってわけで、(話を)ブン投げるどころか、ブン殴ったで♪
 私、『世界が云々』系の話、だぁいすきなんです☆
 砂原石像さんの執筆パゥワを信じて、こんな壮大な話にしちゃいました!

 ……次こそは、あのストーリーを書きたいなぁ……そのためにも、流くんには、生物学的に早く大人になってもらわねば!

 お祭りまで、あと15日!
 皆様! 盛り上がっていきますよ~っ!!

(天爛 大輪愛)


※このお話から続く番外編。
・【スピンオフ】わしの名はファンキー爺さん。
 https://syosetu.org/novel/245415/4.html


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継承  (砂原石像 作)


 もんじゃ焼きメンバーの皆様!!大変長らくお待たせいたしました!!
 ご注文のもんじゃが完成いたしました!!

 なお、全身全霊をもって調理いたしましたが、味の保証はいたしませんのでご了承くださいません。
 そんな話ですが、楽しんでいただけると幸いです。

 長くなりましたが、よろしくお願いいたします。(砂原石像)



 


 

 

「諦めるもんか。  

 こう見えてさ? 俺────すごく怒ってるんだよな」

 

 

 いま流は、燃えるような怒りをその瞳に宿し、裏秋月四天王の一人である東雲と向かい合っている。  

 

「覚悟しろ東雲ッ!! 

 お前は必ず、この俺とお地蔵様が……………………って、ん?」

 

 だがその時、突然この場にドゴーンという音が響き、しばし辺りが土煙に包まれた。

 

「おー! 流とかいう坊主! ひっさしぶりじゃのう~!!」

 

 今、次元の壁を越えて……天高く空から降り立った”ファンキー爺さん”が、流たちの前に現れた。

 

 

「────VUM(ヴァム)に入れてくれ! 

 わしもベリーユニ・マージに入れてくれ! 一緒に戦わしてくれ!」 

 

 

 

 流と東雲たちがポカンとする中、目をキラキラさせたファンキー爺さんの声が、この場に響いた。

 定めを変える流れは、我々の予想もつかない方向へと流れているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もカオスなもんじゃ焼き 第ニ順 5話

 

 継承

 

~■■■が■■になる分岐点~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵も味方も、蟲獣でさえも唖然とするこの状況で真っ先に動いたのは、本屋の客として老人と親交を深めていた”諸星(もろぼし)のどか”であった。

 

「ファンキー爺さん!! よかった。無事だったんですね!!」

 

「ああ、のどかちゃんか!! 元気そうで何よりじゃ。第三の世界というわけわからんところに飛ばされおったが、無事帰還果たしたぞい!! ……婆さんはどうしているのかのう? わしが居ない間に何かなかったか心配なのじゃが」

 

「ファンキー婆さんなら、お元気にしていますよ!! おじいさんが返ってくるまで必ずこの店を守り切って見せるって、張り切っていました!!」

 

「そうか!! ならば早く婆さんに会いに行かねばのう!!」

 

 よかったと彼は安堵する。

 もし、自分が居ない間に愛する妻に何かあったら、死んでも死にきれないところであったと思う。

 

 何があっても妻を守り抜く。かの地で散っていった”父親”に誓ったのだ。それは、今でも老人の中で息づいている。

 そのために、この老人は生きているのだ。  

 

 秋月流。そして彼が率いるVUMという組織が一体何と戦っているのか、老人には皆目見当もつかない。

 けれども。流達の戦いが彼の愛した父が眠っている世界を、愛する妻が生きる世界を守るための戦いであること。それだけはわかっている。

 

 老人は”秋月流(あきつき ながれ)”に問いかけた。

 

「流よ!!」

 

「ハイッ!!」

 

 彼はとりあえず、持ち前の元気さを発揮して返事をする。

 

「いい返事じゃ!! その威勢のよさ!! まさしく大和男児そのものではないか!! 気に入った!!」

 

 ファンキー爺さんはその威勢のいい返事に好感を抱いた。

 心優しく、志高く、それでもって元気な若者であるという評判は本当だったと確信する。

「秋月流という若者のために何かしてやりたい」という思いがわいてくるのを老人は感じる。

 

 彼は妻のために戦うと誓った。

 だが、この国の未来を創っていく若者を守っていきたいという思いも人一倍、彼の中にはあるのだ。

 かつて父から受け継いだものを次代に受け継ぐこと。これは、彼が妻を守ることの他に自らに課した信念である。

 

 彼の脳裏に、自らをかばって戦場に散った”父親”の姿が浮かんだ。

 彼が父親から受け継いだものはきっと若い世代に受け継がれるだろう。

 

 このつながりは未来のために過去の思いと希望ををつなげていくもの。

 過去の怨念と憎悪で未来を歪める遺影の、その在り方とは全く違う心の在り方がそこにあった。

 

 

「さて、もう一度言おうか。この老人を仲間に入れ「喜んで!!」……最後まで言わせんか馬鹿者!!」

 

 秋月流の1分もしない決断。ベンチャー企業の社長経験者らしい即決ぶりである。

 

 かくして、老兵はカオスになっていく世界から、未来ある若者たちと自らの愛する家族を守らんがためにVUMのメンバーとして戦場に舞い戻ることとなった。

 

 

 ファンキー爺さん が なかまに くわわった。

 

 

 

 

 

「さて、老人介護はもう済みましたか? いきなり、突然現れて驚きましたが、こんなおじいさんが一人加わったところで何が起こせるのでしょか。さあ、私のかわいいお人形さんたち。校舎を破壊しなさい」

 

 流達が話している間に秋月東雲(あきつきしののめ)がしれっと増やした蟲獣。都合100体以上。

 数の暴力が美星学園に襲い掛かる。

 

 だが、老人はこの光景に眉一つ動かすことなく、杖を突きながら蟲獣の軍勢に向かう。

 

「さて、さっそくだがリーダーにわしの力をお見せしよかのぅ」

 

「え!? 爺さん? 一人で大丈________」

 

 コツ。コツ。という杖の音に、軍歌が添えられる。

 蟲獣の一体にたどりつくと老兵は片手で軍刀を思いっきり振るった。

 

 

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」

 

 

 猿叫がグラウンドに響きわたる。

 その場にいた全員が、彼のほうを見ると、暴虐の限りを尽くしてきた蟲獣その一体が斜め真っ二つに切り裂かれていた。

 

「……え?」

 

 東雲の顔から嘲笑が消え、困惑が広がる。

 

 

 「チェリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 もう一太刀振るうともう一匹。今度は蟲獣の首が鉄のにおいがする赤い花にすげ変わっていた。

 

「……えっ!?」

 

 そして、蟲獣たちの主は困惑の顔を驚愕の顔に変貌させていた

 

「ふむ。化け物でも切れば死ぬのじゃな? なら、あの戦場と何ら変わらんのう」

 

「はああ!?」

 

 魔獣は自らを害する強者を本能で感じ取り、死にもの狂いで襲い掛かるも、それはもはや蟷螂の斧。片っ端から切り刻まれていしまった。

 

「な……何ですか!? あのお爺さんは!? 私のお人形さんがこうも簡単に!! ……いいえ!! 

 そんなはずは!!」

 

 ”秋月東雲”は目の前に突如として現れた理不尽に対し、半ば現実逃避をするかのように『スポナー』で蟲獣を展開していく。

 

 だが。

 

 

「チエストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 猿叫とともに一振り!! 

 東雲が作り上げた「お人形さん」が、一刀のもとに切り伏せられる。その剣術の冴えは示を思わせる豪快なものであった。

 

 例え相手が百戦錬磨の兵士であろうと、悪の組織の戦闘員であろうと、現実離れの化け物であろうと、一太刀で切り伏せる。

 例え攻撃を受けようとも、否。攻撃の余地など与えず必ず仕留める。

 そういう覚悟のもとで放たれる剣戟であった。

 

 彼のファンキーな戦いぶりは見てて爽快なものであった。

 それを見ていた秋月流にファンキーな闘志がわいてきた。

 よし! と気合を入れて、彼は蟲獣を増やし続けている秋月東雲に向き合った。

 

「東雲! さっき、皆を馬鹿にした分きっちり返してもらうぜ!」

 

「くっ……。化け物一体仲間になって調子に乗っているのですか!? いいでしょう。私のお人形さんはまだまだ居ます。覚悟してください。あなたは確実に殺します」

 

「よっしゃ! 来やがれ!! 帰りうちにして説教かましたる!!」

 

【蟲獣使い】と【VUMの切り札(ジョーカー)】。

 

 奪うためと守るため。

 片方が勝てば必然的に敗者には未来はない。

 

 2つの信念が今まさにぶつかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ファンキー爺さんのファンキーな戦いぶりは、加入してから3分と経っていないのにも関わらず、VUMメンバーをドン引きさせるものであった。

 

「ええ……。なんだよこの爺さん、化け物かよ……」

 

「私たちが苦戦したあの化け物たちがこんなに簡単に……」

 

「もう彼一人で何とかなるのでは……」

 

「待って!! 化け物がこっちに来るわ!!」

 

 こんなジジイ(化け物)相手してられるか!! とばかりに逃げ出した蟲獣(化け物)がVUMメンバー一同に襲いかかる!! 

 

 環いろはの強化魔法が切れた今、彼らは秋月東雲が言った通り一般人。対して蟲獣はファンキー爺さんの強さが桁外れなだけで普通に人を殺すことは可能な強さを持っている。

 素の実力で相手できるのは、室斑勝也(むろぶちかつや)渡辺摩利(わたなべまり)くらいなものだろうか? 

 

 絶体絶命な状態に立たされる一同。

 その蟲獣はトラの体躯とバッタの跳躍力、鷹の持つ飛行能力をもってVUMメンバーに襲い掛かった!! 

 

 

 ________その横から、猛スピードでトラックが蟲獣に突っ込んでいく。

 

 狂走するトラックは秒速5000センチメートルの速さで蟲獣を引き飛ばし、一瞬にしてミンチ(ひき肉)に変えてしまった。

 哀れ化け物は異世界へと転生しオリ主デビューを果たしたのであった

 

 

【悲報】わい蟲獣。まさかの異世界転生WWW【死んだンゴWWW】

 

 

 

 唖然とする一同の前に、急激にトラックが停車。 

 運転席から出てきた男の名は________”飯島直樹(いいじまなおき)”。

 生徒会長・秋月流のノリに唯一ついていける学園きってのトリックスターである。

 

 美星学園に通う生徒の中には「会長よりもこいつのほうがヤバい」と考える人さえもいるほどの問題児だ。

 軍刀ぶん回すヤバい奴に続き、しれっと無免許ひき逃げを行うヤバい奴が現れた。

 

 助手席から、顔が青くなった環いろはたまきいろはが下りてきた。

 よく見ると頭にたんこぶができているようだ。

 

 「見て……うい……。あれがルーベンスの絵だよ。……あれ、あれは彗星かな? いや、流星はもっとこう……ヴァーって感じだよね? ……ごめんね、うい。お姉ちゃんここまでみたい。ダメなお姉ちゃんでほんとごめん……」  

 

をい飯島ああああ!!!  

 

 一同のツッコミが響き渡る。

 てめぇ何しとんじゃ!! 

 軽く死にかけとるやないかい!! 

 

「ちょっと飯島! いろはちゃんになんてことしてんの!」

 

「ぐはっ!」

 

 ”岡島ナミ(おかじまなみ)”の戒めの拳が炸裂!! 

 ゴム人間にも効くだろうその拳は格闘タイプ。無免許暴走トラックひき逃げアタックを行うイカレ野郎は当然、悪タイプだろう。

 

 こ う か は ば つ ぐ ん だ! 

 

 

「大丈夫!? いろはちゃん!!」

 

「やちよさん? 今日はポイント10倍ですよね? 私も手伝いますから、一緒に行きませんか?」 

 

「いろはちゃん!?」

 

 秒速5000センチ飯島スプラッタマウンテンは少女のSAN値を削ってしまった*1ようであった。

 飯島は後でシバかれろ。

 

「あれ……? ここは……? 確か、飯島さんに手伝ってほしいと言われて……。そして……」

 

 少女は少しづつ正気を取り戻しているようだ。

 

「お前、どこ行ってたんだよ……」

 

「飯島先輩、そのトラック何でしょうか……。というより、無免許運転では……」

 

 ”早乙女アルト(さおとめあると)”と”ルカ・アンジェロー二”が飯島に問かける。

 同じ組織に所属はしているが感覚的には仲間の仲間といったところ。

 飯島が天才児で問題児でありなおかつ流の友達であるために彼の評判は知っている。だが、いかんせん付き合いがまで短いため彼の真意が見えにくかった。

 

 ちなみに、風紀委員であり彼の奇行に苦労していた摩利は「またかこの人……」とばかりに頭を抱えている。

 付き合いが長いのどかは軽く苦笑していた。

 

 そんな中、付き合いが長いもう一人。室斑勝也が確認するように問いかけた。

 

「武器を取りに行ってたのか」

 

「そうそう。この状況、流がスゲー奴になったとしてもさ……。もしかしたら、敵を取り逃がしたりするかもしれないだろ? そうなったら……。きっと流は俺たちを心配する。だからさ俺たちも流が安心して前を向けるようにってさ」

 

 友の質問に答えながら、トラックの荷台を開ける。

 中には”ビームサーベル”や”ビームライフル”、”ロボノイド”*2など、武器になりそうなものが雑に散らかっていた。

 

 彼は蟲獣がスポナーで召喚されたのを見て、「これは、俺たちにも危害が及ぶな」と判断した。先ほども書いた通り、いろはの強化魔法を使えない現状、最悪の場合死者が出るリスクを負うことになるだろうと予想したのだ。

 

 自衛のための武器が必要だ。そう判断しいろはを速攻で拉致。防犯用兵器倉庫へ駆け出す。

 目ぼしい武器を片っ端から持ち出し、トラックへの積み込みをいろはにしてもらう。

 そして、自身はトラックに騎乗しそれを運搬も可能な凶器として用いたのであった。

 

 そう、トラックというものは何も敵を異世界送りにするためだけにあるのではない。

 トラックは運搬も可能なのである。

 飯島直樹が環いろはを連れて行ったのは、何も少女にトラウマを植えつけるためではない。武器の調達の際、運搬に必要だと思ったからだ。

 

 前回の話でいろは自身が語った通り、魔法少女は基本的に身体能力が向上している。

 その上がり幅は、ただの中学生女子が普通に重火器を用いた戦闘を行えるようになるぐらい大きい。

 

 飯島直樹はそこに目を付けた。

 先ほど、いろははもう魔法が使えないといった。

 だが、単純な運搬力としては? 

 

 この場にいる彼らの中で秋月流を除けば、魔法少女の補正も相まって環いろはが一番力が強いのが現状である。

 言うなれば彼女は一般人の中に紛れたゴリラ。

 言語が通じるゴリラを活用しないという選択肢は飯島直樹の中には存在しなかった。

 

「お疲れ。いろは。助かった」

 

「うう……。お疲れ様です……」

 

 先ほどの戦闘と飯島に振り回されていろは。何とか正気を取り戻せたが、少しお疲れぎみのようだ。

 流の負担を減らしたい。その気持ちはわかるけども……。

 一同は、そう思いながらも飯島に対して微妙な目線を送った。

 

 中学生に無理やり力仕事をさせた後、猛スピードで揺れる車内の中でグロテスクな光景を見せるという乱暴な行いは後で説教ものだろう。

 現在この場にいなかったファンキー爺さんもその説教に加わるに違いない。

 

 そんな周囲を全く気にせず、一匹のアホはどや顔を決め言い放つ。

 

「40秒で支度しな」

 

「お前それ言いたいだけだろ」

 

 だが、時間がないのも事実。彼らは急いで準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは各々、トラックに積み込まれた武器を見た。

 

「”ビームサーベル”か……。竹刀の要領でいけるか……」

 

「”ロボノイド”……作業用の機械ですけど、この状況だとありがたいですね」

 

「わあ! 銃を撃つ機会があるなんて! まるでサスペンスね!」

 

 それぞれ武器を取っていく中で、飯島はアルトに”それ”を見せた。

 

「アルト。お前ならこれを使いこなせるのではないか?」

 

「!? 確かに俺はこれを使いこなせるが……。いいのか? これは準備に時間がかかりすぎるんじゃないのか?」

 

「心配するな。準備が終わるまでの時間は稼いでやる。その間お前は俺が運転するトラックの中で準備してくれ」

 

「……俺に死ねと!?」

 

「ルカと虚先輩の分も用意した」

 

「更に犠牲者を増やそうとするんじゃない!!」

 

「流が心配じゃないのか?」

 

「……わかったよ。……ったく」

 

 早乙女アルトは敵と戦っている秋月流を見た。

【徳】いう力で戦えているがこちらをカバーする余裕はないようだ。

 よく見ると、敵は隙をついてさらに化け物を差し向けているようで、そのたびに流が少しあった様子を見せていた。

 あのバカのことだ。きっと周りのことも心配になって、敵にペースを握られているのだろう。

 

 

 ……学校のことは俺たちに任せろ。

 生徒会は……VUMはお前ひとりだけの組織じゃないんだ。

 

 あいつができないところは俺たちがカバーしてやる。

 

 ____________俺たちがお前の”翼”だ。

 

 

 そう誓い、副会長はトラックの荷台に乗り込む。

 ……死を覚悟しながら。

 

 

 

 

 一太刀。二太刀。三太刀。

 渡辺摩利はビームサーベルを振るい、蟲獣を捌いていく。

 

 元より、剣術が得意であった彼女が強力な剣を持ったことで強力な戦闘能力を発揮することが可能になった。

 その火力は現在のメンバーの中でも随一になった。

 

 そんな彼女の隙をついて蟲獣が迫る。

 だが、そんな蟲獣を横から殴り飛ばす猛者が一人。

 

 室斑勝也だ。

 彼は空手の名手であり、その拳は固い甲殻をもつ蟲獣を素手で殴っても怪我は見られない程堅く鍛えられたものである。

 

 そんな彼の手には手を保護するプロテクター。

 これによって、思いっきり拳を振るえるようになった彼は、摩利の隙をカバーするように立ち回る。

 

 火力と防御。

 それを両立する武術コンビはVUMの中でも頼もしい戦力であった。

 

 

 

 

 防犯用の槍を振るうのはナミだ。

 彼女はもともと自衛のために棒術を習得していたが、今回長物をもってなかったが故にその技術をもてあましていた。

 

 しかし、飯島の持ってきた武器の中に入っていたそれは彼女にとってちょうどいい武器であった。

 振るうたびにスタンガンのように先端から電流が走る。

 これは蟲獣の足止めに有力に働いていた。

 

 電流にしびれた蟲獣を殴り飛ばすのは機械の腕。

 上が開いている箱に手足をつけただけの単純な構造のそれは、”ロボノイド”と呼ばれる作業用機械である。

 採掘作業にも耐えうるその機械は蟲獣に対しても有効打を与えられるものであった。

 

 諸星のどかの戦闘能力を補佐するため彼女が操縦することになったのだが、案外適正というものはあったようだ。

 

 そして、彼女の後ろに座りボウガンで援護をしているのは環いろはだ。

 彼女はもう魔法を使う余裕がないようであるが、普通の攻撃ならある程度はできる。

 

 微力であるが、貢献したいのだ。

 

 

 

 そして、あたりを暴走するトラックが一台。

 クレイジーライダー飯島だ。

 

 荷台にいる人たちのことなどお構いなし。

 秒速5000センチメートルの速度で蟲獣をバンバンはねていく。

 

 そして、最前線でファンキー爺さんが、ばっさばっさと敵を薙ぎ払う。

 彼はこの戦場において、切込み隊長的な役割を担っていた。

 

 戦場において優秀な切込み隊長は、自軍の士気を格段に上げてくれる働きを持つという。

 そして、士気というものは戦場において、需要なファクターである。

 

 戦場で戦うのはいつだって最前線の人間だ。そして人間である以上、精神というものにある程度左右されるのだ。

 士気が低く、頭数だけそろえた集団と士気の高いたち少数の兵士であるなら、後者のほうが戦場でいい働きをするだろう。

 

 そして、高い士気は勢いを生む。

 古代中国の兵法書「孫子の兵法」において、勢いは戦場において重要である。と書かれるくらいだ。

 

 勢いを制するならば、戦場を制する。

 彼の働きによってVUMメンバーの皆はさらに快進撃を続けた。

 

 

 

 勢いのまま快進撃を続ける彼らであるが、それでも対処しきれないタイプの蟲獣が居た。

 空を飛ぶタイプである。

 

 そう。現時点でメンバーの中に対空手段はいろはぐらい。

 空の蟲獣の対処には遅れが出てしまうのだ。

 

 ふと、いろはは空から蟲獣がこちらを囲っていることに気が付いた。

 空から方位をした蟲獣の群れは、一斉に空からの強襲を仕掛けた。

 

 そんな中、急停止したトラックの荷台から3つの影が飛び出していった。

 それらはそれぞれの方向に分かれて、空を飛んでいく。

 彼らが纏っているのは”EX-ギア”*3と呼ばれる、パワードスーツの一種だ。

 元々、パイロットスーツとして運用されるそれは、対空戦用の装備として存分に活用されたのであった。

 

 ”ルカ・アンジェローニ”

 ”布仏 虚(のほとけうつろ)

 ”早乙女アルト”

 

 学校祭に向けて飛行の練習をこなしていた為か、それともこのスーツを使いこなす”才能”があったためか。

 

 __________この戦場の空は、もうすでに彼らの独壇場であった。

 

 

 

 

 

 【徳】の力をその身にまとった。秋月流に秋月東雲が生み出した蟲獣共が迫る。

 東雲がその魔獣の個体名を呼び、秋月流への殺害を命じた。

 

(上からくるで!! 気を付けろ!!)

 

 カジキの角を思わせる嘴を持った巨大なキツツキが、螺旋の軌道を描きマッハを超える速度で流に突貫する。

 一度きりの運用を前提として、速度と破壊力だけを融合によって強化された怪鳥は、敵対した相手を確実に仕留める矢として運用される。

 当たれば確実に相手を殺しうる、秋月東雲の持つ必殺の手札が一つである。

 

「よっと」

 

 だがしかし、【徳】の力の賜物か。彼にその攻撃は当たらない。

 蟲獣の攻撃をひらりと回避して次の攻撃に備える。

 

(次くるで!!)

 

 高度1000メートル上空から、巨大な羽をもつ象が重力による加速を伴い、秋月流へ衝突する。

 これもまた、一度きりの運用を前提にしてトン単位の巨大な質量と、それを宙に浮かび上がらせる巨大な筋肉量を強化された怪物は、敵対した相手を確実にミンチにする鉄槌として運用される。

 

(こういうときは【徳】を身体に纏ってと)

 

「いくぜ!! 昇竜拳!!」

 

 その程度の暴力では、”徳”の力を纏った秋月流をつぶすことはできぬ。

 掛け声とともに繰り出されたアッパーカットによって、鉄槌のような怪物はお空の星になった。

 

 確殺の手札を立て続けに潰された参の遺影の当主は、本家の当主に対する怒りをもって、次なる手札を切る。

 

「……ん? なんじゃありゃ?」

 

『スポナー』を構えると、東雲の周囲に手のひらサイズの小さなウサギが大量に召喚される。その数400。先ほどまでに飯島を追跡していた100を追加し、合計500のウサギ軍団が組織された。

 

 なぜウサギ? と首を傾げる流は、そのウサギがただのウサギではないことに気が付いた。

 

 まず、そのウサギの背には鳥のような羽が生えていた。

 次に、そのウサギの歯はピラニアのような形の鋼鉄であった。

 そして眉間にはカブトムシの角が生えていた。

 

 そう。このウサギは鉄さえもかみ砕く咢に、首を切り裂く角を持つ蟲獣。

 虫とウサギを掛け合わせた繁殖能力と、人の血肉に集まる習性を兼ね備えたその群れは、適当に街に放っただけで壊滅させることができる死の集団。

 

(気を付けろ!! これ食ろおたら流石に厳しいで!!)

 

 500羽のヴォーパル・バニーが、秋月流に襲い掛かる。

 無数の角と牙は、秋月流の肉体に傷をつける。

 

 しかし”そこ”止まりだ。

 

 

「おおおおりゃああああ!!」

 

 叫び声をあげながら、放たれた青い光は、ウサギたちを纏めて焼き払う。

 運用次第で美星学園に絶望をもたらせたかもしれない怪物を、わざわざ一か所にまとめて吹き飛ばされる大チョンボ。

 彼女が冷静さを失っているということがうかがえた。

 

「……っ!! 次!!」

 

 蛇とムカデが合わさった外見をした蟲獣が口から猛毒の液体を大量に流す。

 その液体はいかにも毒っぽい紫色であり、それが流れる光景はまるで紫色の滝であった。

 

 この蛇ムカデなる蟲獣はムカデをベースに、実に敵を毒殺するためにあらゆる毒をもつ生物を掛け合わせた亜竜。

 その猛毒はインド象ですら、2秒もかからずに殺せる即効性の猛毒であるはずなのだが……。

 

「効か────────────ん!!」

 

 まあ、当然ですよね。

 

 毒を”徳”で無力化した流れは、蟲獣の吐き出す毒の滝で修行のまねごとをして遊んでいた。

 彼の恰好は道着であるためか妙に絵になっているのが、余計に腹が立つ光景であった。

 

 毒の滝が止むと、何事もなかったかのようにマッチョダンスを踊りだす標的を見て、蟲獣は「やってられるか」とばかりに不貞寝してしまった。

 

 余りに______。余りにも一方的な蹂躙であった。

 その光景は、秋月東雲に理不尽というものを体感させるものであった。

 

 自らの感性と技術を総動員して作り上げた自慢の「お人形さん」たちは徳を持つ選ばれしものに対してあまりにも無力。

 

「く……なぜ。なぜ!!」

 

 ナメクジのような蟲獣が背中から、触手を出しながら襲いかかった。

 高速で動く触手は鞭のように鋭く変幻自在の軌道で流を翻弄する。

 

「うおっ!? 気持ちわりー!!」

 

 そう言いながらも、触手を無視してサマーソルトキックを放つ。

 ナメクジの弱点は塩。

 サマーソルトが効かない道理はない。

 

 ナメクジは溶けた。

 

 

 その後も秋月流は、”電気ウナギの性質を持つネズミの蟲獣”、”モルモットとクルマエビを掛け合わせた蟲獣”、”犬とウナギの蟲獣”など様々な蟲獣を倒していく。

 

 参の遺影に伝わる【蟲獣使い】の業は【融合】、【使役】,【召喚】である。

 秋月東雲は天才的な感性で様々な生物を【融合】させ準備。

 様々な局面に応じて【召喚】。そして【使役】する。

 

 これが、【蟲獣使い】の戦法。

 代々受け継いだ邪悪なる業。秋月東雲は参の遺影から、怨恨と憎悪と共に【蟲獣使い】の業と称号を受け継いだのだ。

 

 これは、過去の影が未来を縛る、悲しい継承であった。

 

 

 

 秋月本家は代々、お地蔵様にお供え物をして【徳】を積み重ねる一族である。

 彼らは善意をもってお地蔵様にお供えものをして【徳】を継承していったのだ。

 

 秋月本家は代々バカだから、お地蔵様がいったいなんであるのかも忘れてしまった。そも【徳】を継承したことにすら気づいてなどはいなかった。

 けれど、「お地蔵様にお供えして祈りを捧げること」、これだけは大切なこととして継承している。

 

(みかえり)】があることなんて全く知らない。 

 誰かのために。自分の持っているものを分け与えること。

 代々の秋月一族が大切に思っていることであり、当たり前にそれができたこと。それを子供たち、そのまた子供たちに大切なこととして受け継いでいった。

 

 だからこそ秋月本家は膨大な【徳】を積み重ねていけたのである。

 

 しかし、「お供えもののセンスまで受け継いでしまったのはどうなのだろうか」とお地蔵さまは困惑しているのだが……。

 ともあれ、これは過去の思いが未来を助ける、暖かい継承であった。

 

 

 代々悪いことを積み重ねた一族が、代々よいことを積み重ねた一族に負ける。

 

 ___________________この構図はまるでお伽噺のようではないか。

 

 だが、それでもだ。

 お伽噺のように、敗北する”運命”など、受け入れられようか

 

 ”運命”が決まっているのなら、生きる意味などあるものか。

 

 正しい人が報われる。

 報われないのは、どこかその人に悪いところがあったから。

 世界が公正であるべきだという誤謬へ反逆するのは、いつだって”悪”であるのだから。

 

 秋月流(選ばれし者)に挑む裏秋月の遺影(選ばれなかった者たち)は、そういう”悪”だ。

 

 秋月流が世界征服を目指す限り、必ず向き合うことになる”影”だ

 

 

 

「東雲。もうやめないか? もう俺たちには勝てないことはわかってるだろ」

 

 圧倒的な力を見せてもなお食い下がる襲撃者を見かねてか、流は説得を始める。 

 もう、勝敗がついていることは誰の目に見ても明らかであった。

 

 仲間のことを馬鹿にされた。学校を壊されそうになった。仲間を傷つけられそうになった。

 そのことに対して、思うところは少しある。 

 だが、それ以上に彼は、見ていられなかった。

 

 

 蟲獣の使役がどういうものであるのか、彼は知らない。

 けれど、限界以上に力を振り絞っているのは、彼の目から見て明らかであった。

 

 彼以外に差し向けられていた蟲獣たちも、仲間たちの手で次々と駆除されておりもはや「詰み」であることは誰の目に見ても明らかであった。

 

「!! 黙れっ!!」

 

 東雲は、手に大砲を生成して放つ。

 流はそれに一切の反応を見せず、ただ当たる。

 

 しかして、それは彼に一切の傷をつけることはできず。

 ただ、彼女の疲労を悪戯に増やしてしまうだけだった。

 

「こんな”理不尽(うんめい)”!! 受け入れられない!! 私は!! 私のお人形さんは!! こんなに無力であるはずがない!!」

 

 必死になって叫ぶ彼女からは、嘲るような口調を保っていられるだけの余裕さえもなくなってしまっていた。

 全身から、玉のような汗を流し、その呼吸はフルマラソンを完走したかのような狂いようであり、見ているだけで苦しそうだ。

 

 早く止めないと。そう流は思う。このまま放っておけない。

 

 東雲は必死になって手に生成した銃を撃ちまくる。

 当然。効かない。

 

 そのことは彼女もわかっている。

 それでもなお食い下がる。

 

 彼女の濃い紫色の虚ろな瞳は執念をくべ、煌々と輝く。

 それはまるで、命を燃やして輝きを放つ光のようで。

 

 

 

 秋月流にとってそれは見ていられないものであった。

 

 ____ 生き急いでいる。何が彼女を駆り立てるのか。

 一族の怨念か。だが、それにしてもここまで命を掛けられるものだろうか? 

 

 秋月流はまだ知らない。なぜなら彼は、幸運にも知らずに生きてこれたからだ。

 

 東雲の様子を見て、彼はナハトムジークのことを思い出した。

 失った家族のために暴走した彼女の様子と、今ここで戦う彼女の様子はどこか似ている。

 そう流には思えてならないのだ。

 

 

「もしかして_____誰かのために戦っているのか?」

 

 

 

 

 

 

 エラーを起こしたロボットのように、少女の動きが止まった。

 

 その表情は能面のように感情を反映させないものになっていた。

 

 数瞬の間、この戦場は彼女のもたらした静寂しじまに包まれた。

 

 

 

 風が吹く。揺れる彼女の髪から、折り紙でできた紫陽花の髪飾りが落ちる。

 すると、動きを止めていたはずの少女はとっさにそれを掌にやさしく包み、大切なものを守るかのように胸元に抱えた。

 

「……それを知って、何になるというのです?」

 

 先ほどの激情を感じさせない、静かな声で彼女は問いかける。

 

「教えてくれ。大切な誰かのことを。もしかしたら、俺たちに何かできることがあったら手伝う。だから___」

 

 分かり合おうとする彼の言葉は

 

 

「じゃあ。死んでいただけますか?」

 

 

 凍てついた声に遮られた。

 

「……それは」

 

「あれ~? どうしたんですか? できることがあったら手伝うんですよね? ならどうして死んでくれないんですか? それとも、あなたのそれは偽善者ごっこだと言うのですかねぇ?」

 

 氷のような冷たさは消え、代わりに嘲笑の色が混ざった。

 

「……」

 

「フフフ。冗談ですよ。まさか本当に死んでくれるとは思いませんよ」

 

 どこか、どこかその嘲笑は、何かを誤魔化そうとしているように見えた。

 

「私はあなたを殺して【徳】を手に入れる。それだけが私の使命」

 

 嘲笑が消え、何かを読み上げるような無機質に変わる。

 

「そう。私は裏秋月家・参の遺影。第44代当主・秋月東雲。一族の本懐は、秋月本家を滅ぼし、彼らがもつ徳を簒奪し、そして私の家族の【不幸】を打ち消すこと」

 

 そう語る彼女の背後には、何か影のようなものが浮かんでいるように秋月流は錯覚した。

 

「そのために私は生まれ、そのために私は生きる」

 

 秋月東雲。裏秋月の怨念を受け継ぐ、影法師。

 受け継がれた影は、彼女の在り方も歪めている。

 

 秋月本家を滅ぼすか。道半ばで一切合切滅びるか。そのどちらかをもってしか、その歩みを止めること能わず。そのありようは活ける屍と大差はない。

 

 過去の裏秋月が遺していった無念。いまもなお、浮かび続ける影。

 故に遺影。憎しみが残したおぞましき残滓。

 秋月流が世界征服を目指す限り、必ず向き合うことになったであろう”影”だ。

 

「我が一族は無数の命を費やし、化生を作りし呪われし一族。屍を重ねて天に届きうる柱。故に我が命も、また費やされる一つにすぎぬ」

 

 そのあり方を聞いていると、秋月流の心に悲しみが湧いてきた。

 目的のために自分を大切にしない、そのあり方に。

 

 そして_____。

 ______大切にされているだろうにも関わらず、その価値を否定するかのような言葉を浮かべる彼女にだ。

 

 

 さっきの様子を見て、彼女は自分じゃない誰かのために戦っている。

 きっと、それは【遺影】から受け継いでしまった悲しいものだけではない。

 何か大切な理由があるのかもしれない。

 

 そう、秋月流には思えてならないのだ。

 

 秋月流はバカだが、大切なものを見失ったことはない。

 だから、彼女の心にある何かに気づきかけたのか。

 

「違う!! 君は!! 大切にされてきたはずだ!! 君じゃない、大切な誰かに愛してもらっていたはずだ!! それなのに! そんな悲しいことを_____」

 

 だけれども彼女を止めるためには「積み重ね」が足りない。

 

「黙れ!!」

 

 無機質な声が突如として、爆発するような声に代わる。

 悪戯に心の一部に触れてしまった。

 秋月流は自分の発言を少し後悔した。

 

「____っ……」 

 

「あらあら。失礼しました。余りにもお綺麗なことを言われるものですから、私の言葉はちょっと汚いようでしたかねぇ♪」

 

 そして、また嘲笑。

 それは心を隠す防衛機制か。それとも嗤うことでしか自分を保てないのか。

 その心を推し量ることはできない。

 

 彼女を止めたくば、力をもって打ち倒すべし。

 

「……あなたが徳の力を使ってからは、私の蟲獣は酷い有様ですね。折角私が、丹精込めて作り上げたというのにほぼ無傷で突破されて、一杯出したはずのお人形さんも、一人のおじいさんとさっきまで押してた筈の一般人の皆様に倒されて。嗚呼。なんて」

 

 ________________なんて「無常」なのでしょう。

 

 

 それは、嘆きというより自身に対する嘲笑であった。

 自分の力で一族に幸福をもたらすと誓ったはずなのに、それが本家の持つ”徳”の力に一切通じず、挙句の果てに一般人にすら片づけられてしまうという事実。

 

 自らの過信と傲慢。そして無力。

 自分の無能を。滑稽なあり方を。そして自分の「不幸」を。

 纏めて嗤うその様は、どこか人間的であり、狂気的であった。

 

 嘲笑の中、秋月東雲は計算を行う。

 

(さて。ここまで倒された蟲獣は総数の8割。そのうえでもう魔力もほぼ尽きた状態では、勝ち目は薄いといったところ。ここで留まると確実に負ける。けれど……おそらく、あの人には「最高傑作」も通用しないことは目に見えて明らか。次に備えるにしても結局は負けるだろう。……これが「運命」と思うと吐き気がする)

 

 だが、一つだけ。 

 彼女の頭の中に一つの考えが浮かんだ。

 

【逆天の鬼札】

 

 裏秋月の遺影がそれぞれ秘匿してきた必殺の一。【徳】に対抗しえる神の力。 

 この力をもってすれば、秋月本家を滅ぼしうるだろう。

 

 だが、これは代償が大きすぎる。

 もし、それが発覚した場合は、おそらく他の遺影は対策を講じるだろう。

 

【徳】を簒奪できたならいい。

【徳】の力と【鬼札】の力。二つの力があれば他の遺影はおそるるに足らず。

 だが【徳】を奪えず【鬼札】が露呈した場合は……。

 

 

「さて、こうなってしまったら、私に打てる手はたった一つしかないのですが」

 

「……まだやる気なのか」

 

「そこで一つ、賭けをしますか」

 

 少女はふと面白い遊びを思いついたかのように、それを提案した。

 

「賭け……?」

 

「ええ。これから私は参の遺影に伝わる奥義を使います。もし、あなたがそれを破れるのなら_______」

 

 

 ____________貴方に、私の事情をお聞かせしましょう。

 

 

「本当か!?」

 

「ええ。本当ですよ。だって、これが破られたらどの道私が勝てる道理はないわけですしぃ。それに……」

 

 

 ______________貴方がこれに勝てる道理など、ないわけですから。

 

 

 

 

 そう語り、

 秋月東雲は嘲笑う。

 

「運命」を味方につけた敵が、「運命」に裏切られて敗北する。

 その光景を想像しただけで笑いが止まらない。

 できれば自分の力でそれを齎したかったという本音も含めて、嗤う。

 

「そうか!! なら、こっちも全力で受け止めてやる!!」

 

「フフフ……。その余裕、それが崩れるさまを想像しただけで笑いが止まらない!! 後悔するがいい!! さっさと自分の命を捨てなかったことを!! お前はこれから、死ぬよりつらい目にあわせてやる!!」

 

「よっしゃ!! 来やがれ!!」

 

 そうして、秋月東雲は手にした大砲から巨大な砲弾を放つ。

 その砲弾は校舎に直撃するコースに向けて、一直線に飛んでいく。

 砲弾の大きさを考えると、校舎にあたった場合でも多少の損害で済む可能性のほうが大きい。

 

「!? あいつ、校舎に!!」

 

 しかし、秋月流は校舎をかばう。かばってしまう。

 少年の頭の中に浮かぶのは、かつて地盤沈下で崩壊した校舎だ。

 崩壊した校舎。周囲から上がる悲鳴。そして笑顔を失った顔。彼視点で4年前の出来事は、今もなお心の空白に収まっている。

 

 彼は一つのことに真剣になって考えすぎるという点においても、バカと呼べる性格だ。

 もう少し割り切った、いわゆるバカではない考えかたをするのなら、きっと美星祭が地盤沈下で沈んだことに対して、ずっと後悔するわけはない。

 ましては4年前に戻ってやり直そうだなんて思わないだろう。

 

 失うことを恐れすぎるのは、きっと前の世界線から受け継いでしまった欠点で、いまだに克服できない心の傷だ。

 馬鹿に付ける薬はない。だから焦らずにゆっくり、傷と向き合うしかないのだ。少なくとも今の彼は幸いにも一人ぼっちじゃなくて一緒に向き合ってくれる仲間がいる。

 

 だがこの瞬間、急激にそれを直す手段はない。

 故に、彼女の策は成功する。

 

 

 秋月流が砲弾を身体で受け止めた瞬間、至近距離で爆弾が炸裂した。

 炸裂したそれからは激しい閃光と轟音が響きわたり、至近距離が故に、彼はそれを諸に食らってしまった。

 閃光が止むと、今度はスモークが出てきて引き続き視界塞ぎ続けた。

 目と耳を塞がれた彼は暫くの間行動が不可能になり、秋月東雲は数瞬、自由に動ける時間を得ることができた。

 

 だが、流にとっては幸運にも______東雲にとっては不幸にもすぐに突風が来て、グラウンド一帯に充満していた煙を吹き飛ばしていく。すぐに煙は晴れるだろう。

 晴れていく煙の中で、秋月流はすぐに仲間たちの安全を確認する。

 

「皆!! 大丈夫か!?」

 

「流!! そっちは大丈夫だ!! それより敵のほうを見ろ!!」

 

 勝也の叱責によって、流は敵がいる方へ視線を向けた。

 

(そうだ。あいつは奥義を使うと言ってたはずだ。だとしたら……)

 

 秋月流はゾッとした。

 閃光と音と煙で十手分。

 更に、仲間のほうを気にした分さらに手数を失ったことになる。

 

 これだけの時間を稼がれた。

 きっと秋月東雲は何らかの手を使ってくるだろう。

 

(巨大な化け物を出してくるのか? それとも数えきれないくらいヤバい奴を出してくるのか? まさか大砲? 俺が防げないくらい、すごいやつを打ってくるのか? これだけの時間だチャージは充分だろうし______________)

 

 そして流は晴れ上がった煙の先を閃光の影響から回復した目で確認する。

 

 

「は?」

 

 

 

 そこには何もなかった。

 

 

 

 

(流! 気を付けい。もしかしたら、姿を隠す性質の敵かもしれん!!)

 

 お地蔵様の声にハッとなった。

 

(そうだ。あれだけ変な奴らがいっぱいいたんだ。カメレオンみたいなやつとかいても、おかしくはないな)

 

 秋月流はグラウンドに落ちてた石を馬鹿力でぶん投げる。

 小石はどっかいった。

 

(流!! 徳を目に纏うんや!!)

 

(なるほど、凝ですね!!)

 

 目に【徳】の力を纏って目を凝らしてみたが、誰もいない。

 

(待てよ!! まさか!!)

 

 そうだ。なんで気づかなかった。透明になれるなら、仲間を狙ってもおかしくはない!! 

 

 そう思い仲間たちの方へと駆け寄る。

 

「皆!! 気を付けろ!! あいつ!! 透明になれる奴を呼びやがった!!」

 

「ええっ!?」

 

「なんじゃと!?」

 

「……くそ!! まさか!!」

 

 透明になれる敵。

 襲るべき存在が近くに潜んでいるという事実は、一同に強い警戒心を与える。

 もしかしたら、すぐ隣にいた一秒後には仲間が一人消えている。

 そんな事態さえあり得るだろう。

 

 秋月東雲の放った蟲獣は、見えないという特性と、その特性以外未知数であるが故。心理的な圧力を存分に与える存在であった。

 

「皆、円形を作れ!! 爺さんと摩利、室斑を外側に!! 気配があったら教えてくれ!!」

 

「俺たちは空から来ないか警戒する!!」

 

「いろはちゃん!! 魔力的な何かを感じたら教えて頂戴!!」

 

「わかりました!!」

 

 この戦いの中で鍛えられた連携は、見えない敵に対しても陣形を作り、どこから来ても対応できるようになっていた。

 この戦いを通して、彼らは一つの組織として成立するようになったようだ。

 

 だが、見えない敵。秋月東雲の放った最終兵器に対して、どう効力を発揮するのかは全く持って未知数。

 最大限の準備をしても、それが通じるかどうかわからない。

 まさしく、恐るべき奥義と言ったところか。

 一瞬でも連携を崩せばどうなるかわからない。

 

 ________そんな状態でも、自分の意見を言える飯島の胆力は、いかばかりか。

 

 

「なあ……流? 化け物はともかく、あの女はどこ行った?」

 

「え……?」

 

 

 ………………。

 

 一同に沈黙が走る。

 

 

 

「いや。わからない。あいつも何か透明に……?」

 

「勝也。何か気配は感じるか?」

 

「……そういえば、何も感じないが。摩利は?」

 

「私も何も感じないな?」

 

「殺気の一つも感じないのう?」

 

「魔力も感じません」

 

「空から見てるが、あの女らしい人影は見かけねえな」

 

 

 

 ………………。

 

 一同に沈黙が走る。

 

 

 

「いや。奥義と言うくらいだ。気配なんて簡単に……」

 

「それならなぜ仕掛けてこないんだ? チャンスはいくらでもあるはずだが」

 

 

 

 ………………。

 

 沈黙が続く。まさかという思いが彼らの頭の中に駆け巡る。

 

 

「……まさか。見えない敵は、存在しないから見えないってオチじゃないのかな……」

 

 諸星のどかはとうとうそれを言葉にした。してしまった。

 VUMの皆の視線が秋月流に集まる。

 

 

「……いや!! そんなはずない!! きっとどこかで待ち伏せてんだ!! 敵がいなかったてことは無いはず!! おい!! いるんだろ!! 出てこい!! 早く来い!! というか来てくれ!! 来てください!!! このままだと、見えない敵がいるってずっとビビってた俺がバカみたいじゃないかちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」  

 

 

 

 

 結局、秋月東雲も見えない蟲獣も姿を現すことは無く、「Very Uni-Merge」の初陣はグダグダのまま終わった。

 

 

 自らの目的のために、慚愧の念すら捨て「最適解」を選べる恐るべき”敵”。

 どこまでも”運命”へあがき続ける敵が裏秋月の遺影であった。

 

 

 

 

 

………………………………

………………………………………………………………

 

 

 

 その眼はどこかの景色を捉えて映し出している。

 その風景はどこかの学校のグラウンドと思わしきところであり、そこには蟲と獣を掛け合わせたような怪物と少年少女(あと爺)が戦いを繰り広げているところだった。

 

 景色は周囲を確認するように動きやがて、一人の少女だけを映すようになった。

 そして、その少女の眼を捉えると倍率を上げるかのようにその眼に近づいていき、やがてその奥へと、頭の中に侵入するように映像は進んでいく。

 

 そして、瞳の奥の奥。

 抽象的な映像の群れにたどりつく。

 

 そこには、少女の今までの人生。これから辿るであろう「運命」。【彼女のアカシックレコード】と呼べるものがそこに映されていた。

 

 彼女の「運命」と「過去」が映し出されているところから、いくつかの映像がピックアップされたかのように大きく映し出される。

 そして、それはまるで映像が加工されるかのように変化していく。

 

 その映像のある部分が強調され、ある部分は最初からなかったかのように消され、時系列の前後を移し替えられていく。また、どこかから誰かの人生と思わしき映像が加えられる。

 

 こうして、編集された【彼女の人生を編集した映画のようなもの】が完成する。

 

 

 そして、その映像と同時に折り紙でできた紫陽花の花畑が浮かび上がる。

 紫陽花の大きさは様々であり、小さいものは子供の手に乗るサイズであり、大きいものは人一人隠れられるほどの大きさであった。

 

 その中に、映像の少女が幼い頃らしき姿が見えた。

 そして少女の前に【人生を編集した映画】が映しだされようとして________。

 

 

 _________________________映像が途切れた。

 

 

 

 

「チッ。ここでオリジン・ゼロの工作か。……ここで秋月東雲に自棄を起こしてもらえば、素晴らしい光景が見られたのにな……」

 

 

 闇を思わせるくらい部屋の中。

 唯一の光源であるスポットライトのような光が一人の「超越者」を照らす。

 

 彼の名はミスター慧眼人(エメト)

 世界を破壊し「Come True (来たるべき未来)」を作らんとする者である。

 

「 素晴らしい始まりを邪魔してくれたお返しに、彼の始まりも台無しにしてやろうと思ったんだけどね……。どうやら、彼らはそれを望まないと見える」 

 

【超越者】は続ける。

 

「だが……いいのかな? 僕の計画を止めるためには、彼には早く【人柱】になってもらった方がいいというのに」

 

 ミスター慧眼人は自らの名を体現する【眼】の権能を行使し、アカシックレコードを閲覧した。

 

 それは、一言で言うと視覚化された嵐と言えるものであった。  

 この光景は、複数の【神】が因果を捻じ曲げ合いできた、荒れ狂う運命そのもの。

 それは、遠く___未来___に行けば行くほど激しく荒れ狂い辿りつく先が読めないカオスそのものである。

 

 その果てはアカシックレコードのオリジナルを持つ【オリジン・ゼロ】でさえ観測することができないだろう未知の領域だ。

 

 しかし、だ。

(真理をたどる)】【(魔眼を持つ)】【(人を超えたヒトたる存在)】はその名が示す通り、超越者(法則を超えた存在)の中でも目にまつわる・見ることに特化した権能を持っている。それ故にその未来の果て。

 “因果の嵐の向こう側の光景”に、たどりついていた。

 

 

 

 そこに独りの【神】が浮かんでいた。

 

 その神はどこか満足気な、そして寂しげな笑顔を浮かべているようだ。

 

(そう。これこそが僕を滅ぼしうる存在。すべてを解決するデウス・エクスマキナ(独りよがりの絶対神)。そして________あの「道化」の到達点。)

 

 少し、ブレが生じているその映像を見ながら、超越者は嗤う。自らを滅ぼしうる存在を知りながらも嗤えるのは彼の異常性が現れている。

 

 そして、超越者は閲覧を止める。

 少し、ブレが生じているその映像を見ながら、超越者は嗤う。

 

 自らを滅ぼしうる存在を知りながらも嗤えるのは彼の異常性が現れている。

 

 そして、超越者は閲覧を止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フフフ。彼らは気づいているかな。”彼”が僕を止められる唯一の【切り札(ジョーカー)】。僕の計画を止めるため、彼にいくつもの試練を超えさせて【英雄】にしなければならないということに」

 

 それなのに。と彼は続ける。

 

「その試練の機会を、自ら摘み取ってしまうとはねえ!!」

 

 悪は嗤う。どの道、彼の計画は進むのだから。

 少年の不幸を止めれば、それだけ組織のリソースは失われる。

 そうすればその分「Cume True」の計画遂行が容易になるからだ。

 

「……さて、彼らには僕から試練を与え続けよう。オリジン・ゼロ、オールインワンの連中はそれをどれだけ止められるかな? まあ、止めたらその分僕の計画は進むわけだが!」

 

 これは、超越者が破滅へと進みながら、それを止めさせる罠。

 この罠は、無視されればそれだけで自滅しかねない罠である。

 

 しかし、無視をすれば■■■の幸せを奪いかねない最悪の罠でもある。

 

 

 慈善組織故に善良な人間が多い【オールインワン】に対しては、効果を発揮するだろう。

 そしてその組織と同盟を結ぶ【オリジン・ゼロ】に対しても同様だ。もし、少年を見捨てる決断をしたら、それがきっかけで同盟が瓦解する可能性が出る可能性すらはらんでいる。

 

 そうなれば、その隙をついて両者に致命傷を負わせられるだろう。

 

「ククク。もうすでに”環いろは””ワーキングプア侍”を秋月流のところに配置した弊害は出ている。”神名あすみ(かんなあすみ)*4”率いる”神浜市殲滅部隊(セイラム)”は優位をさらに広げたところ。”味のヤマモト”陥落後の”暗黒街の乱”も我らが先手を取った。”ドッグ・ヴィル”の”人狼汚染”はもうすでに二つの都市を滅ぼした。そのほかにも僕が造った能力者たちは、各地で猛威を振るっている!!」

 

「さあ、どうする!? 【道化】を連れていくか? なら、二つ目の世界をマイナスポテンシアで染め上げて崩壊させよう!! 」

 

「オールインワン・オリジンゼロをねじ伏せ、蔓延る超越者共を超え■■■さえも斃し、この僕が視るのはただ一つCome True来たるべき未来の理想郷だ!!」

 

 

 邪悪は嗤う。Come True来たるべき未来を見据えながら。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「ふう……。間に合った……」

 

 ここはオールインワン本部。

 組織のリーダー「ハセ・ガワ氏」は、自らのデスクでため息をつきながらもたれかかった。

 

 彼の目の前にあるモニターには、どっと疲れた秋月流達が映し出されていた。彼らはグダグダした戦いに疲れているようであったが、その顔にはどこか満足そうな笑顔が含まれていた。

 

 ”悲劇が起こらなかった”その光景を見て、氏は満足そうに頷いた。

 

 

 

 ____その一方で、その外側に備えつけられたサブモニターには残酷な光景が流されていた。

 

 肉体だったものが飛び散るグラウンド。壊れる肉体を無理やり再生させながら、味方を庇うために走り続ける少年。

 最後の言葉を遺していく少年少女。蜘蛛のような怪物の群れ。邪悪なる術によって造られた【悪魔】。

 

 そして、表情の消えた顔でその悪魔を殴り殺す____の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………事の発端は、世界を管理する”オリジン・ゼロ”から借り受けた”未来演算装置ラプラス”が、その可能性を示した時からだ。

 

 ミスター慧眼人が秋月東雲を絶望させて【逆転の鬼札】を使わせ、秋月流の【徳】を消耗させようとする可能性。そして、その過程で発生する悲劇だ。

 

 裏秋月家。遺影ごとに異なる形で持ち得る【逆天の鬼札】は、秋月流の【徳】を弱体化し、秋月流に致命傷を負わせられることさえ可能であることが示された。

 

 参の遺影に伝わる【鬼札】は【悪魔の創造】。蟲獣の融合の極致であり、異端。

 継承してはいけない負の遺産そのものである。

 

 悪魔。それは宗教における絶対悪。

 そして、悪魔の中には敵対宗教の神が悪意で貶められた結果、誕生した者もいる。

 

【徳】の力は、言い換えれば【神】の力。

 これは異なる神の力によって対抗することが可能であるのだ。演算装置は【神】の力によってもたらされる結果を、可能な限り予測した。

 

 

 秋月東雲が自らの肉体さえ用いて創造し、その創造主から肉体を奪った悪魔は、まさしく貶められた神そのものであった。

 

 その悪魔の力によって秋月流は【徳】による肉体強化を封じられ______”幸運”なことに再生は失わずに済んだ。

 

 _________一方的に嬲られる結果となった。

 

 壊れる体を再生させながら、仲間を庇い続けた流を見てられない仲間たちは、次々と命を懸けて悪魔と戦い命を失った。

 ”環いろは”もソウルジェムが濁る覚悟で強化魔法を使い、結果として命を失ってしまった。

 

 そして、秋月流は怒りのままに【徳】の力のほとんどを使い、肉体を【神】の領域にまで押し上げた。

 その代償として、魂が摩耗し心が砕けたが、彼にはそんなことは重要ではなかった。

 

 こうして彼は表情を一切変えずに【悪魔】を殴り殺した________。

 

 これが、演算装置が導いた最悪の予想だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………それを見たハセ・ガワ氏は激怒した。

 

 必ずやこの運命を覆さなければならない。

 といった感じで、彼はオリジン・ゼロの助けも借りて、ミスター慧眼人の介入を全力で阻止。

 見事計画を阻止することができたのであった。

 

「全く。アカシックレコードに注ぐ【徳】が失われる可能性もそうだけど、少年少女が傷つくところなんて、見たくはありませんよ」

 

 ハセ・ガワ氏はそう呟いた。

 不安はある。秋月東雲は次は【鬼札】を使ってくるはずだ。そのために準備を重ねているだろう。

 他の裏秋月の遺影が【逆天の鬼札】を引っ下げてくる可能性も、否定できない。

 さらなる敵が現れる可能性も、超越者たちの介入もあり得るだろう。

 いつでも「オール・イン・ワン」が助けに行けるとも限らない。

 

 

 ____________秋月流はどれだけ戦い続けなければならないだろうか? 

 

 

 

 ふと、気になって彼は映像の中の時を進める。日時は一日後。

 美星祭まで14日のあたりだ。

 

 どうやら、「 Very Uni-Merge(ベリー・ユニ・マージ) 」の結成式の打ち上げが行われているようだ。

 ヤングストリートにあるもんじゃ焼きで有名な迷店でそれは行われているようだ。*5

 

 この店は、8人の店員が勝手気ままにもんじゃ焼きの具材を決めて、お客様に提供する店だ。

 シェフの気まぐれ料理を常時全てのもんじゃで行うそのフリーダムスタイルは、まさしくカオス。

 

 だからか、この店の店名は【今日もカオスなもんじゃ焼き】という名前で呼ばれていた。

 その店の個室にて、結成式が行われているようだ。

 

 

 

 その様子にハセ・ガワ氏はほっこりした。

 この光景は悲劇の後には起こりえない光景である。

 そして、一人きりでは作り出せない光景でもあった。

 

 

 ハセ・ガワ氏は願う。

 どうかこの一時が、いい安らぎになってくれることを。

 

 どうかこのままこの少年が仲間と一緒に楽しく過ごせていることを。

 

 

 

 大人は願う。子供が過去の因縁を断ち切り、光を受け継ぎ、そして未来に向かうことを。

 

 そして、仲間が友と一緒に歩んでいける未来を。

 

 

 

 

 _______________美星祭まで14日。彼の運命はどこに流れつくのだろうか? 

 

 

 

 

*1
1d6

*2
出典:未来少年コナン

*3
出典:マクロスF

*4
出典:魔法少女まどか☆マギカ(?)

*5
なおハセ・ガワ氏の知るところではないが、どうやら流はサイゼリアかこの店かで悩んだらしい。






 作者さまのページ↓
 https://syosetu.org/user/146269/


 砂原さま、執筆お疲れ様でした♪

 もう私からは、何も言う事はありません。
 きっとこの作品を読んだ全員が、私とおんなじ気持ちでいてくれてる。と思いますから。

 ――――見たか、感じたか! 砂原さまの情熱をッ!!
 これが物書きの“魂”だッッ!!!!

 それでは! 5番手お見事でしたっ☆
 めっっっっっっちゃ面白かったZE!!!! 砂原さまありがとぉ~う♪(hasegawa)

 PS
 この作品内には部分的に、いくつかの【なんか不自然な箇所】があったと思います。
 それは、あえてそうしている意図的な物ですゾ! 皆さん!(ヒント)




☆もんじゃ焼き伝言板☆

 ここまで見ていただきありがとうございます。
 今回の話を楽しんでいただけたのなら大変ありがたく思います。

 あと、品質向上のためアドバイスがあったらご気軽に書いていただけると助かります。
 原作持ちキャラクターの動かし方とかキャラクター同士の会話とか、改善点がありましたらよろしくお願いいたします。

 もちろんよかったところを書いて頂けるのなら幸いです。うれしいです。最高です!恐悦至極にございます!!

 …あと、この話には【隠し要素】を入れときました。
 割と衝撃的な内容ですが簡単に見つけられると思いますので、そちらも是非試していただけたら幸いです。
(ただ、鬱・グロ展開注意です。先に見つけてしまった方についてはお詫び申し上げます。)



天爛 大輪愛様

 最高のバトン。私なりに継承させていただきました!!

 秋月東雲さんのキャラクターの解釈はどうでしたか?
 私なりに解釈をしてみたのですが、お気に召したのであれば幸いです。

 あと、ファンキー爺さんを生み出していただきありがとうございます!!
 彼の存在が、今回の話の着地点に大きく影響いたしました。
 彼が居なければこの話はもっと違ったところに行っていたと思います。

 アイネ・クライネ・ナハトムジークの話からずっと自分の手番が来るのを楽しみにしておりました。この話を楽しんでいただければ幸いです。

 重ね重ねお礼申し上げます。ありがとうございます!!



Mr.エメト様

 今回、あなた様の名前をしたキャラクターを動かさせていただきました。
 「彼」の設定、気に入っていただけたら幸いに思います。

 あと、私の書いた世界征服の会の三人、というより飯島君はどうでしょうか?

 なんか気づいたらどんどんクレイジーになってしまっているのですが…?

 

A-11様

 引き続き、設定をエスカレートさせてしまったこと、お詫び申し上げます。

 原作持ちのキャラクターの設定ともんじゃ焼きの設定をつなげて活かす手法は素晴らしいと感じています!実のところを言うと話に唐突に出てきた【武器庫】の設定は1巡目の校舎のセキュリティ設定から思いついたものです。

 次の手番、楽しみにしております!

 

マスターP様・街田和馬様

 この場をお借りして、挨拶をさせていただきます。 

 今日もカオスなもんじゃ焼きに参加していただきありがとうございます!
 歓迎の印として、今回の話を送らせていただきます!

 あなた方の手番が来るのが楽しみです!どういったアイディアでどういった展開で勝負するのか?私は非常に楽しみになっています!

 これからよろしくお願いいたします!!



3710様

 更にエスカレートさせてしまいました(白目)。

 実は私、今回の話で初めて流君を書かせていただきました。
 私なりに書いた彼を気に入っていただけたら幸いです。

 あと、生徒会メンバーの描写に関しても違和感なく受け入れていただけたら幸いにおもいます。
 ありがとうございます!

(砂原石像)



※このお話から続く番外編。

・【NG集】こういう未来もあったけど、オールインワンの方で回避しときました
 https://syosetu.org/novel/245415/6.html

・【スピンオフ】魔女の野望
 https://syosetu.org/novel/245415/7.html

・【スピンオフ】魔法少女こゆき☆マギカ
 https://syosetu.org/novel/245415/8.html

・【番外編】予告
 https://syosetu.org/novel/245415/10.html

・【番外編】結成式の一幕
 https://syosetu.org/novel/245415/11.html



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首を供える女は肆の遺影 (A-11 作)

美星祭初日の夕日が沈む、薄暗い山道。

両脇の森から突然、悲鳴に似た鳴き声を上げながら野鳥が羽音を立てて飛び立つ。

(おや、こんな時間に誰やねん?)

この道の傍らに立つ地蔵は、未だ見ぬ来訪者を訝しんだ。

戦国時代よりも前からここにいる地蔵だが、この時間帯の山道に漂う薄気味悪い空気には、未だに慣れない。

ましてや人の身では、足を踏み入れるのは難しい。

過去の記憶を手繰り、この時間帯に来た顔ぶれを、地蔵は思い起こす。

肝試し、命知らず、命を知り尽くした者、人の身を捨てた魂。

地蔵が思いを巡らす間に、生成り色で揃えられた、来訪者のカーディガンとスラックスが現れた。

彼女は、頭の後ろのポニーテールを揺らしながら、人の頭ほどの大きさがある何かを両腕で抱え、山道を登って来る。

(人の頭ほどの大きさって、まさか…。)

最初は、それがスキンヘッドだったために、杞憂かと地蔵は思った。

剰りにも大きく赤い鼻だったので、人のそれだとは思わなかった。

だが、彼女が歩を進める度に、地蔵の懸念は濃さを増していく。

力を失った口元、光を失った瞳…。

「今日は珍しいモノを持って参りました。お地蔵様、御照覧あれ。」

薄ら笑いを浮かべた女は、両腕に抱えていたそれを、ドチャッと地蔵の足元に置く。

地蔵は見た。

見てしまった。

足元の物体に刻み込まれた、憤怒の表情。

その表情が自分に向けられていることに、地蔵は気付いてしまった。

(この首は一体…、誰やねん!)

勿論、この首が怒りを向けたのは、死の直前に目の前に居ただろう誰かであって、死後に出会った地蔵ではない。

だが、そのことを分かっているのに、元々あまり柔らかくない地蔵の体は、さらに強張る。

なぜ強張るのか、その理由に考えが至ったとき、首を持ってきた女が目の前で何かを唱えていることに、地蔵は気付いた。

(「…世界征服…」やと!?)

しかし、その考えの行き付く先から逃げる言い訳を、丁度いいタイミングで地蔵は手に入れた。

唱え終えた女が再び首を抱えると、大きく口を開いたのだ。

そして、そのまま噛み付き、首から肉をむしり取る。

凝固した血だろうか、肉片だろうか、粒の混じる赤黒い糊が女の唇にこびり付く。

舌を伸ばして唇に付いた糊を舐めとる女は、薄ら笑いを崩さない。

「今宵も元気だアンパンが旨い!」

(この女…、「人喰い」なんか?)

はるか昔、とある噂を地蔵は耳にしたことがある。

人を殺して食すことで、その人の力を自分の物とする妖怪。

先ほど中断していた考えが、地蔵の頭の中で再開される。

(この女は「世界征服」と言うとった。この女の目的は、秋月 流と同じ、世界征服なんか?)

そして、それを実現するのに十分な「徳」が、流にはある。

だから、流を喰ってその「徳」を奪い盗ることは、世界征服を狙う「人喰い」にとって、目的達成への手っ取り早い近道だ。

(いや、ありえへん。秋月 流の「徳」は膨大や。妖怪程度が食い殺そうとしても、「徳」のパワーで防がれるはずや。)

だから最初から、地蔵は目を逸らしていた。

女が姿を現す前から、気付かないフリをしていた。

だが、その「徳」は地蔵を介して得られるものであり、「徳」の流れ、つまり、誰が「徳」を継承しているか、地蔵は感じることができる。

女から発せられる、膨大な「徳」の気配。

(まさか、まさか…!)

ふと、流の供えた珍品の数々が、走馬灯のように地蔵の脳裏をよぎる。

最新型バニラ風味プロテイン、暑い日の友・ひえピタ、魔法瓶一杯の焼肉のタレ、伝統の納豆餃子風味プロテイン、カツの浮いた胸やけする甘ったるい味噌ソース、…。

「それでは、また明日!」

そう言い捨てると、哀れな首を一片残らず平らげた「人喰い」は、高笑いを上げながら山道を駆け降り、夜の街へ姿を消した。

山道に残されたのは、絶望に打ち拉がれる一尊の地蔵。

しかし、いつまでもこうしてはいられないことは、地蔵が一番良くわかっていた。

己れの涙が枯れ果てたのを確認すると、地蔵は立ち上がる。

(そうや、秋月 流には妹・小雪がいるんや。)

流の「徳」を、彼の命を奪った人喰いが継承する。

そんな道理など、あろうはずがない、あってはならない。

先に述べたように、秋月家の「徳」は地蔵を介して得られるものであり、継承者の変更も地蔵次第。

だから、地蔵はしてしまった。

秋月家の「徳」の継承者を、秋月 小雪にしてしまった。

 


 

運命というものがあるなら、それが狂い始めたのは丁度一日前。

美星祭前日の夕方だろう。

美星市郊外の、普段は寂れた住宅団地。

「シュプレヒコール!「「ヒャッハー!」」シュプレヒコール!「「ヒャッハー!」」」

「美星セイキマツ団地に、秘密基地は要らなーい!「「イラナーイ!」」」

その一室で、装置の山を相手に格闘するばいきんまん。

「ばいきんまんは、団地から出て行けー!「「デテイケー!」」」

秘密基地の窓から飛び込む騒音に掻き消されがちな、コイル鳴きの出処を追う。

装置の山の麓に取り敢えず置かれたキーボードの上では、ばいきんまんの指が華麗に舞い踊る。

「汚物は消毒だー!!「「ショウドクダー!!」」」

抗議の声を上げる住人達の携える火炎放射器から放たれる熱が、装置の不調の原因のようだ。

このため、やっとばいきんまんは外の様子に目を向けた。

(これが、「団地の経済が潤う」とか言って、秘密基地の誘致活動をしていた連中か…。)

秘密基地反対運動は年中行事のように行われているので、いつものばいきんまんなら気にも留めない。

しかし、研究が思うように進まない今回は、流石のばいきんまんにも堪えた。

装置の山に手を突っ込み、埋もれた通信機を探り当てると、ばいきんまんは部下に指示を出す。

すると、外の住民達のそれぞれの鼻の穴から、ピンポン玉に毛のように細い手足を生やしただけの、頭と胴との区別の付かない小人が姿を現した。

「フガッ、なんだ、てめぇら!?」

「やあ! 僕達、ブドウ球菌マン!」

ブドウ球菌マンはヒトから分離されることが多い常在細菌ヒーローであり、特に健常な人間の鼻腔内には100%確実に存在する。

彼らの殆どは、他の常在細菌達と協力して、人間を病気から守る役割の一端を担っている。

「巫山戯やがって。ばいきんまんの前に、まずお前らから消毒してやる!」

怒りに燃える住民達は、その怒りを火炎放射器の炎に載せて、ブドウ球菌マン達に浴びせかける。

「つまりね、人間っていうのは、細菌に覆われた汚物なん…、うわぢゃーっ!!」

当然、ブドウ球菌マンを鼻から覗かせた住人達も、怒りの炎を浴びて燃え上がる。

「おのれっ、ばいきんまん! 同士討ちとは卑劣…うわぢゃーっ!!「「うわぢゃーっ!!」」」

こうして、窓の外は静けさを取り戻した。

が、ばいきんまんの心労は終わらない。

基地の階段をけたたましく駆け上がる、聞き慣れた足音。

玄関扉の開閉スイッチを反射的にばいきんまんは押すと、駆け込んだ勢いそのままに、涙で顔をグシャグシャにした秋月 ポン助が、扉から飛び込んで来た。

「助けてぇっ、ばいきんまん!」

そのままばいきんまんに抱きつこうとする途中、括り罠に片足を突っ込み、泣きじゃくるポン助は逆さ吊りになる。

ばいきんまんの手がける秘密基地に、死角は存在しないのだ。

天井にぶら下がるポン助を、呆れた顔で見上げるばいきんまん。

「どうせまた、秋月 流に無謀なケンカを吹っ掛けて、あっさり返り討ちに遭ったんだろう?」

泣きながら頷くポン助。

「それで、天才である俺様に何か秘密道具を出して貰おうというわけだな。」

驚きつつも、泣きながら頷くポン助。

「いつものことだからな。なら、返事も分かるだろう? 俺様は21世紀から来た青狸じゃねぇっ!」

ポン助に背を向け、研究作業に戻るばいきんまん。

「そこを何とか! 美星祭の準備に忙殺されている今日までが、流を叩くチャンスなんだ。」

「ホヘッ? 明日から美星祭なのか?」

首だけ振り返るばいきんまんの腕の方は、急に激しくキーボードを叩き始める。

ポン助が頷いた途端、彼の足をロープで吊り下げていた天井に穴が開き、その穴へポン助は吸い込まれ、秘密基地から姿を消した。

「フフッ、この研究を実験するのに、ヒヒヒッ、うってつけじゃないか。ハーハッハッ!」

秘密基地から団地の入り口へ投げ飛ばされたポン助は、団地中に響くばいきんまんの高笑いで目を覚ます。

団地のどこかで、住人の叫び声が聞こえる。

「ウルセェぞ、ばいきんまん! こんなことなら、基地の誘致なんかするんじゃなかったぜ。」

 


 

美星祭初日。

コーヒーの香り漂う教室の入り口の、ペーパーフラワーで彩られたアーチ。

まず、渡辺 摩利が潜って行く。

そして彼女に手を引かれる千葉 修次。

「外でデートは久しぶりだなぁ。あれっ? 摩利、目、血走ってない?」

修次に続いてアーチを潜る秋月 流を小突きながら、燕尾服に身を包んだ飯島 直樹が囁く。

「なんで風紀委員、選りにも選って、鬼の委員長なんだよ?」

「いや、これは好機だ、絶対逃すな! 最終裁定の権限があるのは摩利だけだ!! 摩利の目さえ誤魔化せれば、後はやりたい放題だ!!」

一瞬だけ顔を引き攣らせる直樹だが、アーチに看板を掛け直したあと、覚悟を決めて流に続く。

その看板には

「AR喫茶『TS水着カフェ』」

と書かれていた。

 

その頃ばいきんまんは、コーヒーの香り漂う教室の窓の外から、中を覗いていた。

学園祭だというのに教室内には飾り付けが一切なく、一見すると、生徒達が弁当を食べる普段の昼休みに見える。

良く見れば、机の間を忙しく歩き回る何人かはメイド服や燕尾服という異様な姿なのだが、それよりも異様なのは、中の人間は例外なく全員、大きなゴーグルをかぶっていることだ。

ほくそ笑むばいきんまん。

コーヒーの香りが溢れ出す窓の隙間に、怪しげな機械から伸びるホースを突っ込む。

「ハーヒホーヘフーッ! 実験開始ーっ!」

 

教室入り口からすぐの受付で、燕尾服の直樹にゴーグルを付けてもらうと、流の目の前に現れたのは、ブラジャーとビキニ以外は何も纏わない女子。

「うおおいっ! なんでお前だけ露出度が高いんだよ!」

反射的にビキニの女子、いや、直樹から目を逸らす流は教室を見回す。

そこに居たのは、水着姿の男子女子達。

先にテーブルに着いていた、金剛力士像のモデルかという男…鬼の風紀委員長・渡辺 摩利が、流の叫びに振り向く。

(アッチャーッ、流ーッ!)

(ヤッベ、もうバレた?)

(ちょっと、何やらかしているのよ…。)

まるで教室の中が瞬時に凍りついたように、流、直樹、直樹のクラスメート達、コーヒーを味わう客達に緊張が走る。

この教室では、AR(Augmented Reality 拡張現実)技術を使った、店員・客ともに水着姿でコーヒーを愉しむ喫茶店が営まれていた。

折角のAR技術を活かし、性別が反転するというオマケ付き。

このオマケにより、男子からのイヤらしい視線を危惧する女子からも支持を受け、クラスの出し物として実現の運びとなった。

勿論、生徒会、特に風紀委員会には内緒である。

 

各クラスからの模擬店・出し物の選定作業を、流は思い出す。

今、目の当たりにしているように、本来ならば「AR喫茶」も十分に怪しい企画であり、不可決裁になるはずだった。

ところが、恐らく一部の暴走と思われていた、「水着喫茶」の申請。

(そういえば、「水着喫茶」の申請も、直樹のクラスから上がってきたものだった。)

ならば、直樹のクラスからのもの、そして直樹の教室を使用するため両立できない企画として、「AR喫茶」と纏めて生徒会に提出されたはず。

本来なら両方とも不可決裁の両企画は、競合する選択肢の形で提出されることで、片方が許可され易くなるように仕組まれていたのだ。

人間、選択肢の形で与えられると、その選択肢の外側に考えが及ばなくなる。

流の携帯電話に昨日届いた、セキュリティ・アップデート通知と同じ原理だ。

「今すぐ再起動しますか? それとも、自動的に再起動しますか?」

こうして許可と教室と機材と予算を勝ち取った直樹達の企画だが、内容が内容なだけに、それが風紀委員に露見すれば、学祭中だろうとも一発退場間違いなし。

集客を直樹達は慎重に行なったのだろうが、たまたま通り掛かった摩利が噂話を耳にしたらしい。

 

突然静まり返った教室に、摩利の声だけが響く。

「お茶を運ぶからって、飛脚の恰好はどうかな。」

どこかから安堵の息が漏れると同時に、凍てついた教室は再び動き出す。

冷や汗を掻く流の耳に、色っぽい唇が近づく。

流に耳打ちする直樹。

「こんなこともあろうかと、風紀委員長夫妻のゴーグルは江戸時代に設定してある。何とか切り抜けてくれ。」

直樹に促され、摩利と修次の着くテーブルに流は案内される。

修次の服装は、頭・手・足しか肌の見えないウェットスーツ。

だが、袖口が目立たず、体に密着しているため、反って女体の妖艶さが際立ってしまう。

「たぶん、このARシステムは、人物の仕草や恰好から、その人の性格とかを推測して、それに合った服装の拡張現実を生成するんだよ。飯島君の格好がああなのは、彼の性格に因るところが大きいんじゃないかな。秋月君の恰好もそうだろう?」

そんな目の遣り場に困る恰好の修次に問いかけられ、自分の服装を見ようと、流は視線を下に落とすが、思わぬ胸の膨らみに遮られる。

体を捩ってそれを躱すと、流の水着の腰周りにはミニスカートのようなフリルが施されていた。

「ええっ!? 何この子供っぽいデザイン! フ」

リルなんて、と喉から出掛かった言葉を流は飲み込む。

流のゴーグルと摩利・修次のゴーグルでは見えているものが違うことを、思い出したからだ。

恐らく、摩利・修次のゴーグルから見れば、流の恰好は水着ではなく、何らかの着物のはずだ。

が、それがどんな着物なのかは、流のゴーグルからは見えない。

しかも、それを摩利に気付かせないまま、彼女達との茶飲み話を遂げなければならない。

(なんで、俺のゴーグルは水着喫茶のままなんだ、直樹…。)

待ち受ける困難を前にし、流の背中に汗が滲む。

そのとき、教室の窓の隙間から白い煙が吹き込まれ、あっという間に視界がホワイトアウトする。

教室内の白い霧が晴れたとき、ばいきんまんのニヤけた顔が窓の外に現れた。

「ハーヒフーヘホー! 実験一件目は成功だ!」

嫌な予感でも感じたのかゴーグルを脱ぐ摩利は、脱いだ途端に金剛力士の野太い声で、しかし悲鳴を上げる。

流と同時にゴーグルを脱いだ修次は、ミロのヴィーナスのような顔を、険しく歪ませている。

しかし流には、何が起きたのか分からない。

目の前には、白い霧が吹き込まれる前と同じ光景が広がっている。

敢えて違う点を挙げるとするなら、流と同じように戸惑う直樹達。

「えっ? 何? 叫んでるの誰?」

そして、何処から湧いたのか、床に散らばる服。

ばいきんまんが窓から消えると同時に、摩利と修次が席を立ち、窓に向かう。

「不味いよ、摩利。逃げられてしまう。」

「済まないシュウ、手伝ってくれ。」

取り残される流と、平静を取り戻した教室。

その平静を破ったのは、ブラジャーとビキニ以外は何も纏わない女子と化した、直樹の呟きだった。

「拡張現実じゃなくなった…。」

その言葉で、既にゴーグルを脱いでいたことに流は気付き、教室を見回す。

そこに居たのは、水着姿の男子女子達。

恐らく全員、直樹と同様に性別が反転している。

海パンに紫陽花の萼(がく)を模した刺繍を施している、中学生のように小柄な男子は、秋月 東雲だろうか。

事に気付いた教室は、やっとパニックに満たされ、流もバイキンマンの後を追う。

「これが実験一件目なら、二件目をやめさせなければ。いや、それより、男に戻してくれえーっ!」

そんな教室内のパニックを横目に見ながら、足元から服を拾って、ビキニの上に重ね着する直樹。

「服は消えずに残っているようだぞ。東雲、カフェのメニューにアンパンあったよな。」

「アンパン? 何に使うの?」

彼に促されて服を羽織る東雲の疑問に、答える直樹。

「恐らく、ばいきんまんのあのガスは、仮想に過ぎないものを現実化するらしい。今のところ、水着カフェの原因はバイキンマンの仕業だと、風紀委員長は思っているようだ。だが、彼女がばいきんまんを捕まえてガスの仕組みを知ったら? このAR喫茶の正体がバレてしまう。アンパン、どの棚だっけ?」

 


 

美少女の可能性を仮面で隠したセーラー服による、エアギターの超絶技巧が鳴り響く屋外ステージ。

スピーカーから放たれるセーラー服のシャウト。

「そうよッ! もっとッ! もっとッ! ワテクシを崇め奉りなさぁい!」

彼女は片腕を頭上に伸ばし、ゆっくりと左右に振る。

熱狂する観客はそれに合わせ、各々の掲げたアメリカンドッグやホットドッグなどを左右に振る。

「「○んち○ぶらぶらソーセージ ち○○んぶらぶらソーセージ……」」

そんな観客の喧騒の後ろで、ばいきんまんは足をとめる。

右からは海パン一丁の金剛力士、左からはウェットスーツのヴィーナスが現れて前方を塞ぐ。

後方からは、腰のフリルをはためかせ、水着のポニーテールが追い付く。

「360°囲んだぞ、ばいきんまん!」

叫ぶ流に対し、余裕の表情のばいきんまんは、自分の背中の羽を指差す。

「まだだ。まだ美星祭は終わらんよ。コスプレ大会、お化け屋敷、演劇…、虚構を現実に変換する俺様の新発明『そのフィクションノンフィクション』の実験もなぁ!」

飛んで逃げようとばいきんまんが頭上を見上げると、その空中に仁王立ちする作業服姿の人影は、アンパンでできた頭部を怒りの炎で燃やすトラック運転手・剛力 甘男。

「水着姿にされたみんなを元に戻すんだ、ばいきんまん!」

「ええいっ! 甘男、なぜここに!? まさか…」

思い当たったばいきんまんが視線を下に向けると、携帯電話を必死で操作する流がいた。

「甘男くんの連絡先はどこだぁっ!」

「ぼくはね、今の流君のように、助けを求める心の声が感じ取れるんだ。」

高度を下げ、ばいきんまんに躙り寄る甘男。

すると流の後ろから、バタバタ駆け寄る、男装の令嬢が現れる。

「甘男くん、新しい首よ!」

走り込んできた彼女の強肩から放たれたアンパンは、狙い過たず甘男の顔面に激突し、彼の首を弾き飛ばす。

「元気百倍、勇気百倍、アーンパーンチ!」

「バイバイキーン!」

思いがけず新品の首を得た甘男は、勢い余って、ばいきんまんを白昼の流星にしてしまった。

自らのパンチでばいきんまんを逃してしまった甘男の逃亡を、手を振って見送る誇らしげな表情の令嬢・直樹。

「ありがとうー、甘男くーん! いやー、ばいきんまんをやっつけて一件落着!」

「なっ! この水着姿はどうするんだな?」

思わず突っ込む摩利に対し、それを見越していたのか、流れる動作で直樹は服を渡す。

「着ていた服は床に落ちるようですよ。ほら、千葉さんと流の分も。」

続いて服を受け取る修次も、直樹に抵抗する。

「性別が逆転したままじゃ、困るんじゃない?」

「摩利さんも逆転しているんだから、二人の関係は変わりませんよ。」

摩利と修次との関係に問題を矮小化する直樹だが、修次より先に流が口を挟む。

「いや、何か重大なことを忘れている気がするんだよ。」

「ああ、あのアンパンのことじゃないかな?」

生成り色の道着を流に渡しながら直樹が顔を向ける先には、大きく赤い鼻のアンパン。

新しいアンパンと先ほど入れ替わった甘男の古い顔から、怒りの炎で焼けた香ばしい匂いが漂う。

「パンは焼きたてが一番! 喫茶店やっている俺んとこのクラスには食品用ラップがあるから、湿気らない内に包んでしまおう!」

「そうだな! さすが直樹! 食べ物を粗末にしちゃいけないよな!」

人間のの頭ほどのアンパンを二人で抱えて運び去る流と直樹を、心のどこかに引っかかるものを感じながら、見送る修次。

だが、ひと仕事終えた顔の摩利を見て、彼女とのデートを優先することにした。

 

こうしてその日の夕方、女体化した流の手によって、甘男の生首は地蔵に供えられることとなった。

 


 

「今日は二回も、お地蔵様にいいことをしたぞ!」

笑いながら山道を駆け降る流には知る由もない。

秋月家の「徳」が、彼の妹・小雪へと継承されたことを。

継承が行われるのは、前の継承者の命が尽きたときだけであり、例外は三度しかなかったことを。

その三度の例外、生きたまま「徳」を失った者達こそ、裏秋月家各家の初代当主である。

今や四度目の例外が生じ、秋月 流を初代当主とする肆の遺影が誕生した。

遂に、裏秋月四天王が揃ったのだ。

「明日も、世界征服に向けて邁進するぞ!」

四天王最強と予言されし魔の手が、世界に迫る。









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 A-11さま、執筆お疲れ様でした♪
 わお! ついに美星祭開始ですネ! 学園祭一日目!

 当作品も、どんどん設定が出来上がってきた感がありますナ。
 そろそろどこかで、設定解釈の齟齬とかが出て来てそうな予感! ちょっと怖いです私!w

 ではでは! 6番手お疲れ様でした♪ A-11さまありがとぉ~う!(hasegawa)




☆もんじゃ焼き掲示板☆

 おおっ! 次節を担う新たな書き手が二人も!(A-11)



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世界の法則を乱す者  (マスターP 作)

 これは小説初心者が書いた物です。(マスターP)





 

 

ある日の早朝4時

 

『ファ~よく寝た~✨』

 

まだお日さまがこんにちはしてない時間帯にその男は起きた。

 

『わぁ~今日はかなり早いな。』

 

『さて朝めs』

 

パーリン!

 

変なまっピンクの忍者(男)が窓から突っ込んで来た

 

『なぁ~んだぁこいつぅぅぅぅ!?』

 

ピンキー忍者『おっ前ぇはぁわたぁーしたぁちのやくぅっにたってもらう~よん♨️』

 

『ファッ!?どゆこと!?』

 

ピンキー忍者『とぉりあえずぅ寝ぇてもらぁうわぁ~ん♨️』

 

『ちょまっ!今起きたばっk』

 

そんなの気にせずピンキー忍者は手に持っていたカメツキガメで殴られて気絶した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメツキガメ『解せぬ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ファ!ここは!?』

 

目が覚めるとやけに薄暗いかな~りじめじめした蒸し暑い豊潤な香りのする牢屋の中にいた。

 

『なんやぁ!ここ!クッサ!オェ~✨用を足した便器の中に頭突っ込んだ時の匂いするわぁ~( ;∀;)』

 

『マァーーン!最悪やぁ!』

 

『どうしたらいいんすかね…わい…』

 

ガチャガチャ

 

ピンキー忍者『うぉ~~いあ~さぁめぇしのじかぁーんよん♨️』

 

『出してくれません…(゜.゜)』

 

ピンキー忍者『だぁーめん♨️』

 

『マージか(^-^)』

 

んな事言いつつ飯の乗った板を受けとる。

 

ピンキー忍者『じゃあんごゆっくりん~♨️』

 

『やっとどっか言った…』

 

『まぁ…食いますk…』

 

その時戦慄が走った

 

『な、なんじゃぁ!この飯ぃ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンキー忍者の今日の朝ご飯♪

ドリンク・下水

 

主菜・ほじくり出したあんこ

 

副菜・薔薇の茎(毒)

 

汁物・毒々しいきのこの味噌(?)汁(毒)

 

デザート・嘔吐剤

 

 

 

 

 

『食えるかぁ!こんなもん!』

 

そう叫ぶと板をひっくり返した

 

『…あんこうま…』

 

『こんな所おったら確実に死ぬぅ!飯に毒入っ取ったし!』

 

『早くこんな所からおさらばしなければ!』

 

そう言ったらポケットを漁りだす

 

『あった…自作スマホ!』

 

『HEY!シリ!』

 

シリ『ご用件は何でしょう?』

 

『牢屋から出る方法!』

 

シリ『知らんわっ!バーカ!自分で考えろ!』

 

『辛辣…』(´;ω;`)

 

『せめて…分かりませんとか言ってくれよ…』

 

『はぁ…』(。・´_`・。)

 

大きなため息して牢屋の鉄格子にもたれる

 

パキーン パキーン パキーン

 

『は?』

 

鉄格子はとても脆かった…何でだろうね

 

『…やったぁ!逃げれる!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピンキー忍者側視点

ピンキー忍者『疲ぁれぇたわぁ~♨️』

 

研究者『そりゃ、ひとつめの世界に行って来たら疲れますよ…ましてや誘拐までしてきますしね。』

 

ピンキー忍者『そぉれぇでぇ彼はぁどぉうゆう人なのぉ~あたりなのぉ♨️』

 

研究者『ええ!しかも大当たりです!』

 

研究者『彼は世界と世界を繋ぎ渡る力を持っていますし…』

 

研究者『この世界の色んな組織が狙っている徳に唯一大きな影響を与えられる可能性があります。そして…』

 

研究者『この世界の権利の一部も持っております』

 

研究者『これで私達の研究と野望がまた一歩進みましたね。』

 

ピンキー忍者『そぉうねぇ~これぇでぇ全ての世界のぉ女王になる野望が近付いたわねぇ♨️』

 

ピンキー忍者『じゃあぁ♪さっそぉくぅ権利と力をぉ抜いちゃってぇ♨️』

 

研究者『了解です!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『逃げろっ~!』

 

現在絶賛逃走中

 

『むっ!声が聞こえる!』

 

下っ端研究者『さあ!あいつの力を抜きに行くぞ~』

 

下っ端研究者2『たくここまで長かったよ~』

 

『力を抜く?何の事だろう?』

 

『それよりどこかに隠れなくてわ!』

 

『まあこの部屋でいいか~』

 

 

 

下っ端研究者は通り過ぎた

 

 

 

『ふぅー楽勝ですね~』

 

そう言い机の方を見る

 

『なじゃらほい?』

 

『目覚まし時計が3個?』

 

見ただけでは目覚まし時計に見える…

しかし何やら取り扱い説明書が挟んであった

 

 

 

世界スピーカー取り扱い説明書

左のダイヤルで桁を選択

右のダイヤルで数字・日本語を選択

最大3文字まで

決まったら右と左のボタンを押すと10秒後起動

どんな世界の音が流れます。

 

 

 

『ほ~ん長々面白い物だな…持っていくか~』

 

『バックもあるし♪』

 

プァーン! プァーン!

 

大きな音で警報がなった

 

『げっ!ばれたか!』

 

『逃げろ!逃げろっ!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピンキー忍者『逃ぃげだしぃ~たぁねぇ♨️』

 

ピンキー忍者『まぁん言いわぁ~♪わたぁしが迎えに行くぅわぁ♨️』

 

ピンキー忍者『研究者ぁたぁちわぁ避難してぇ~♨️』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ヒィー!だいぶ走ったな…』

 

『ここまで走ればちょっとは安心かな…』

 

ゴゴゴ

 

『Watts!?今度は何!?』

 

何と自分がいる一本道の終わりに日の光が見えた

 

『え…出口?やったぁ!』

 

『逃げっる~♪逃げっる~♪逃げっれるよ~♪』

 

逃げれるそう思った

 

ピンキー忍者『どぉこにいくぅのぉ~♨️』

 

何と自分の真後ろにピンキー忍者がいた

 

『マァージカ!ここにきて!?』

 

ピンキー忍者『ふふ♪にがぁしわしなぁいわぁ♨️』

 

『マジィな…何か足止め出来るのは…あっ』

 

『世界スピーカーがあるじゃないか!』

 

そう思ってからの行動は早い

 

スムーズに数字を入力していく

 

『これで終わり!スイッチオン!』

 

スピーカー『10秒後に起動します…10 9 8 7…』

 

ピンキー忍者『それぇでぇなぁにするぅつもりぃ~♨️』

 

6

『さぁな!』

 

5

『ただな…』

4

『俺の平和なだらけ生活の邪魔するのはな…』

3

『やめろよなぁ!ボケェェェェェェェェェェェ!』

2

スピーカーをピンキー忍者の上に投げ走る

1

ピンキー忍者『まてぇ~♨️』

 

スピーカー『ヌゥン!ヘッ!ヘッ!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』

 

スピーカーに記入した数字は…

 

           810だ

 

ピンキー忍者『くっ!』

 

これには思わず耳をふさぐ

 

『じぁなぁーwバーカw』

 

ピンキー忍者『っ!まてぇ!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『こうして逃げるのには成功したが…』

 

『どこ?ここ…』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピンキー忍者『逃げられたわぁん♨️』

 

研究者『本当ですか!?どうするんです!』

 

ピンキー忍者『まぁ~そんなぁにキィーキィーいわぁないのお♨️』

 

ピンキー忍者『いつかぁまた捕まえてあげぇるわぁ~♨️』

 

ピンキー忍者『まってぇなさい♨️』

 

ピンキー忍者『マスターP』

 

 






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 https://syosetu.org/user/345148/


 マスターPさま、執筆お疲れ様でした♪
 とりあえず……、とりあえず私から言えるのは! ただひとつッ!

「ナイスファイト! よぅ頑張ったマスターPさん☆」

 この作品は2500文字くらいだけど……、きっとこの文字数を書くのも、マスターPさんにとって初めての経験だったんじゃないですか?
 それなのに、バトンがまわってから、たったの3日で書いてみせたッ! すごい大変やったやろうにっ!

 ――――えらいぞマスターPさん♪ ぐっじょぶ! よくやったぁぁーーっ☆☆☆

 そして、私もまさか【マスターPさまご自身を主役にした小説】を書いて頂けるとは、夢にも思って無くてですね……。
 今ちょっと、混乱してるのですヨ(笑)

 ……えっ、いいの?
 これから私たち、マスターPさんを登場人物の一人として、好き勝手に書いちゃうよ?
 裏秋月と戦わせたり、大冒険させたりしちゃうんだよ? ホントにいいのねッ?!w 

 ではでは! 7番手お疲れ様でした♪ マスターPさまありがとぉ~う!(hasegawa)




☆もんじゃ焼き掲示板☆

 街田和馬さん同じ小説初心者として応援しておりますぞ!(マスターP)


※このお話から続く番外編。
・【スピンオフ】Master P begins!
 https://syosetu.org/novel/245415/9.html


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秋月幻想記《壱》  (街田和馬 作)

 現世では今まさに、美星祭がその賑わいの最高潮を見せているのだがーー

 

 ある男は、見知らぬ場所に立っていた。見渡す限り広がる山々。その表面は鮮やかに彩られた木々が覆っている。

 

 男もその山の中のどこかに立っていたのだが、その周りには今までに見たことのないような植物やキノコが生えていた。

 

 普通なら、そんなものを見ればまずその正体を気にするところだ。だが男は、それらを見ながらも別のことを考えていた。

 

 ーーここはどこだ?俺は死んじゃないのか?

 

 

 男の名は、秋月海人ーー先祖代々『徳』を継ぐ秋月家の男だ。彼は人生を謳歌した。頭脳明晰、運動神経抜群で、特に周りより秀でて体格は持ち合わせていなかったが、人間性にも富んでいて、男女両方からの人気は絶大だった。

 

 大学は有名な国立に進み、大学院に進み、博士号も取得するほどの優秀さだった。しかし、それだけの学歴を誇りながら、卒業後は実家に帰り秋月家の当主として亡くなった父の跡を継いだ。

 

 とはいえ、やることは日々お地蔵にお供えを毎日することだけだ。……最初、海人はそう思っていた。

 

 しかし、その考えが覆されたのは実家に帰ってきてから一ヶ月が経った頃のことだった。

 

 秋月家の『徳』を狙う組織がいるということを耳にした。しかも、そいつらは怪しげな術を使ったり武装していたりするらしい。

 秋月家が狙われていることを知った海人は、すぐに対抗策を考えた。まずは、後継者を作ることにした。町に出て、『徳』を使って適当に強そうな女子を誘って、子供を作らせた。

 

 十ヶ月後、無事男の子が産まれ、海人はその子に「流」と名付けた。しかし、流だけでは流が死んだ時に秋月家を継ぐものがいなくなる。そこで、海人の二人目の子供を作った。産まれた女の子には小雪と名付けた。

 

 次に、海人は別の世界の人間に助けを求めようとした。方法を探すだけで多くの時間を要した。そして、ついに方法を見つけた頃には流は5歳になっていた。

 

 その方法とは、自身の体内に貯められた膨大な『徳』をエネルギーに変換して、時空に解れを生じさせる。そして、他の世界に存在する、海人たちの世界の未来を決める者たちに、秋月家の続く未来を予言書として書いてもらうことだった。

 

 そんな現実味のない方法だったが、海人には成功する確信があった。

 

 海人はすぐに実行に移し、結果は成功。未来を書いてもらえることとなった。これで秋月家の滅亡は免れたわけだが、『徳』を自らが蓄えていた以上に使ってしまった海人は、その反動の『反徳』によって時空の解れがなくなると同時に、瀕死に追い込まれてしまった。

 

 その後すぐに流によって自室に運び込まれたが、もう流の肩を借りても立つことができなかった。少しずつ、体の機能が失われていくのがわかった。胸から下はもう動かなかった。死が目前に迫っている。その前に、流に最後の秋月家の『徳』を守る方法を告げた。

 

「いいか、流。世界には、いろいろな悪い奴がいて、その中には俺たちの『徳』を狙う者もいる。……そいつらは、己の欲を満たすために俺たちの『徳』を使おうとしている。……だから流、お前がそんな悪い感情の生まれないような平和な世界を作れ。…………平穏で……公正な世の中を……お前が作るんだ。方法は……なんだっていい。…………ただ……世界征服なんてことはーー」

 

 「ーー考えるな」と続けようとしたところで、海人は息絶えた。意外と重要なところを言い切る前に、死んでしまったので、バカ流が勘違いをして世界征服を父の悲願と思って目指すのは、まだ先の話だ。

 

 そして、死んでしまった海人の体は、流がその死を公的機関に電話で報告して見ていない間に、不思議な光に包まれやがて跡形もなく消えてしまった。

 

 そして、その後海人は目を覚ましてーー今に至る。

 

 

 海人は間違いなく死んだ。その記憶が海人自身にもあるのだ。しかし、海人は見知らぬ場所に立っている。五感はひとつの欠損もなく、痛覚もある。だから、夢ではない。明晰夢という可能性もあるが……まあ、死んでいるからやっぱり夢ではないのだろう。

 

「ここは、どこだ?」

 

 海人は一人呟く。しかし、その問いに答えるものは誰もいない。そればかりではなく、周りに人の気配や人の営みは全く見られない。このままここにいても、状況はわからないままだと結論を出した海人は、とりあえず歩くことにした。

 

 

 そして歩き続けること約1時間、山を抜ける気配は全くなかった。というか、本当に進んでいるのか分からないほど、周囲の景色に変化がなかった。

 

 時々川が流れていたし、そこら中にはキノコが引くほど生えているので、飢えや喉の渇きには至りそうになかった。しかし、こうも進展がないと精神的にくるものがあった。

 

 歩き疲れたし、その前は死にかけの状態で体が死んでいくのを感じて、疲れていた俺は、一度休むためにその場に座り込もうとした。その瞬間ーー

 

「あんた、誰?」

「……え?」

 

 突然背後からかけられた女の声に、俺は反射的に振り向きながら前に跳び距離をとった。そこにいたのは、まっすぐな黒髪に茶色の目、やや身長が高めの少女だった。袖がなく、肩や脇の露出した赤い巫女服を着ていて、後頭部には結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンを付けている。

 

 ーーこいつ、いきなり現れたな。

 

 先程まで、俺は周囲に誰の気配も感じなかった。だから、ゆっくり休もうとしたのだが、こいつは俺に気配を感じさせずに近づいてきた。俺はかなり人の気配に敏感な方だが、それでも気が付かなかった。

 

 ーー相当な手練れだな。

 

 俺は、一歩下がった。まだ、こいつが敵なのかそうでないのかもわからない。絶対に目を離してはいけない。だから、俺は少女の姿を目で捉えながら後ずさった。

 

 すると、少女は俺が警戒しているとわかったのか、困惑の表情を浮かべながら両手を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。私は別に、あんたを襲おうとしているわけじゃないわよ」

「そうか。なら悪かった」

 

 少女の表情を見る限り、本当に俺に敵対しているわけではないようだ。俺は警戒を解いて、少女に歩み寄る。

 

「すまん。急に知らない場所に来て、警戒心が必要以上に強くなっていたんだ」

「そうなのね。……待って。あんた今、急に知らない場所に来たって言ったわね?」

「……ああ、そう言ったが」

「そうなの。あなた、『幻想入り』してしまったのね」

「『幻想入り』?」

 

 少女の口から、俺の知らない言葉が飛び出してきた。

 

「そう。この世界は『幻想郷』といって、あんたが元いた世界とは違う世界なの。ここには、人間だけじゃなく妖怪や悪魔、そのほかにも色々な種族が暮らしているの。普通は、他の世界と通じてないんだけど、たまにあんたのいた世界から人間が迷い込んでくることがあるの。それを、『幻想入り』っていうの」

「なるほどね。とりあえず、俺は違う世界に来たってだけわかってればいいのか?」

「そうね。後で元の世界に戻れるようにするから、私についてきなさい」

「ああ、それに関しては大丈夫だ。俺は、元の世界で死んでるから」

「あら、そうなの?」

「ああ。だから、元の世界に帰してもらう必要はない。帰ったら、俺はどうなるかわからないからな」

 

 少女は、しばらく唸りながら考え込んでから、溜息を小さく吐いて呟いた。

 

「あまり気は進まないけど、こういう場合はあそこがいいかしらね」

「どこだ?」

「まあ、あなたを帰さないにしても生活する場所は必要でしょう?ついてきて」

「わかった」

 

 俺が頷いたのを見て、少女は俺の背後の方向に進み始めた。俺も、それについて行った。

 

 少女の歩くペースはかなり速かった。少女は悠々と歩いていたが、俺はかなり早歩きにならざるをえなかった。

 

「そんなに、急ぐのか?」

「残念なことにあんたが飛ばされてきたのはかなり人里から離れた場所なの。目的地はここから二日はかかるわ。だから、1日私の家に泊まってもらって明日の到着を目指すわ」

「了解した」

 

 それから、しばらく沈黙の時間が続いた。俺は歩くので必死だったし、少女はそれを察してくれていた。そして、それから2時間歩いたところで、少女が足を止めた。

 

「ここで、一旦休憩にしましょう」

「わかった」

 

 そこには、透き通った川が流れていた。少女は、魔法瓶のような容器に川の水を注いでいる。汲み終えると、その容器を俺に投げてきた。

 

「かなり水分を失っているだろうから、飲んでおきなさい。まだ目的地までは距離があるから、飲んだら補充しておきなさいよ」

「ああ、ありがとう」

 

 俺は、水を一気飲みした。乾いた体に潤いが戻ってくるのがはっきりわかる。どうやら脱水がかなり進んでいたようだ。俺は、空になった容器に水を汲んで、川縁に座って休んでいる少女の隣に座った。

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私は、博麗霊夢。博麗神社の巫女よ」

「俺は、秋月海人だ。よろしく」

「よろしくね」

「ところで、博麗神社の巫女だと言ったが、今目指しているのは博麗神社ということか?」

「そうね。ここから、あと3時間くらいじゃないかしら」

「じゃ、日が暮れる前に辿り着かないとな」

 

 俺は、「よっこらせ」と言いながら立ち上がった。霊夢もそれを見て立ち上がった。

 

「もう休憩はいいの?」

「ああ、早いうちに着きたいからな」

「でも、ここから先、神社まで休憩地点はないわよ」

「あ、やっぱりもう少し休んでおきます」

 

 その後10分ほど休憩を取り、博麗神社に向けて出発した。3時間も歩くのは大変だと思っていたが、人里が近づいてきたので、少し道が歩きやすくなっていて、覚悟していたほどの辛さを味わうことはなかった。

 

 

 

「これが……博麗神社か」

「そう、ここが幻想郷を囲む博麗大結界を管理する博麗の巫女の神社よ」

 

 博麗神社は、長い階段の先に赤い鳥居があり、その先に決して大きいとは言えない本殿があった。その隣には、本殿と変わらないくらいの大きさの高床式の倉庫があった。

 

「あれ、思ったよりも……」

「しょぼくて悪かったわね。でも、私しか住んでないからこんなものでいいのよ。神主はどこにいるかもわからないし、あとは誰かが遊びにくるぐらいだからね」

「遊びに来る?」

「ええ。たまに宴会とかもするわよ」

「へぇ、そうなのか」

 

 ひと通り外観を見た後、僕は本殿の中に連れられた。中は全体的に簡素なつくりの和室で、居間は机がひとつと座布団が置いてあるだけだった。居間の隣には台所があって土間になっていた。霊夢は、今を指差して言った。

 

「後で布団を持ってくるから、あんたは今日ここで寝なさい。私は、適当なところで寝るから」

「……ん?自分の分の布団はないのか?」

「ないわよ、そんなもの。元々人を止めるための場所じゃないもの」

「それなら、俺が……」

「大丈夫よ、1日布団に入らずに寝ただけで風邪をひくほどヤワじゃないから」

「……そうか」

 

 これ以上何を言おうと、霊夢に譲る気はなさそうだったので、俺は諦めて今晩は布団で寝ることにした。

 その後、俺は霊夢と居間で話をした。

 

「明日、朝早く起きて出発するわ。ここから目的地までは距離があるから、私が抱えて飛んでいくわ」

「わかった。…………飛ぶ?」

「ええ。私は『空を飛ぶ程度の能力』を持っているからね」

「能力なんてあるのか?」

「ええ。幻想郷の住人の一部は、能力を持っているわ。私の知り合いはほとんど持ってるわよ」

「そうなのか」

「もしもし、霊夢。いるかしら?」

「あら、珍しいわね。いるわよー、今出る」

 

 霊夢は外から聞こえた声に返事をして、玄関に向かった。一度俺の視界から消えるもの、少し戻ってきてひょっこり顔を出すと、こちらを手招いてきた。

 

「あんたも来て。多分、あんたに関係ある話だから」

「わかった」

 

 俺は座布団から立ち上がり、霊夢の後について行った。

 

「こんばんは、紫。こんな時間にどうしたの?」

「あら霊夢、まだ5時よ。実は幻想郷に侵入者が来たようなの。……その人は?」

「その侵入者よ。名前は秋月海人、どうやら幻想入りしてしまったらしいの」

「あら、そうなのね。もう正体がわかっていたのなら安心したわ」

「…………」

 

 二人の間で話が進んで、俺のことは完全に置いてけぼりだ。俺が何も言わずに突っ立っていると、霊夢がちらっとこちらを見た。

 

「ああ、悪いわね。あんたの存在をすっかり忘れていたわ。一応、紹介しておくわ。こいつは八雲紫。空間を移動できる、『境界を操る程度の能力』を持つスキマ妖怪よ。大抵のことは知ってるわ」

「よろしくね」

「こちらこそ、よろしく」

 

 紫は、人間と変わらないような金髪ロングの少女だった。毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる。アメジストのような紫の瞳が、彼女の少女らしからぬ妖艶さを引き立てている。

 

「それで、この人をあなたはどうするつもりなの?」

「今日のところは少し話を聞いて、明日幽々子んとこに連れて行こうと思ってるの」

「白玉楼に?……一体どうして?あなたがしばらく預かればいいじゃない。いつものことでしょう?」

 

 知らない言葉がまた出てきた。幽々子は人の名前だろう。白玉楼は……なんかの建物だろうか。

 

「私も最初はそうしようと思ったんだけど、実はこの人、幻想入りする時にあっちで死んでるらしいのよ。だから、少し人間というよりは幽霊に近いのかなと思ったのよ」

「あら、そういうことね」

「……そうだ。紫、明日この子を白玉楼に連れて行ってくれない?」

「なんで私が?」

「私が面倒くさいからに決まってるでしょ。あんなとこまで、この人を抱えて行くのは相当な労役よ」

「私は、博麗大結界の点検をしようと思っていたのだけれど?」

 

 霊夢は図々しくも当たり前のように、面倒だという理由で俺を別の場所に連行することを紫に委託した。紫は額に血管を浮かべている。

 

「いいじゃない。送るのなんて一瞬なんだから」

「……わかったわよ。明日、朝の9時に迎えに来るわ。それまでに、訊きたいことは訊いておきなさい」

「了解、ありがとね」

「別にいいわよ。じゃ、私は外に行ってくるわ」

 

 そう言い残して、紫は背後に空間の切れ目を作った。縁がファスナーのようになっていて、中には妖しげな空間が広がっている。紫はその中に入って行った。

 それを見送って、俺と霊夢は再び本殿の中に入った。

 

 その後、霊夢から訊かれることは特になかった。俺が「何も訊かなくていいのか?」と問うと、「めんどくさい」と言って寝転びながら煎餅を貪り始めたのだ。俺は、その巫女とは思えない振る舞いに溜め息を吐きながら、外に出た。

 

 ーー本当に、俺はどうしてこんなことになったんだ。あのまま死んで終わるのも悪くなかったけどな。

 

 段々と欠けるように地平線に沈んでいく夕陽を見届けながら、俺はそんなことを考えたのだった。

 

 

 翌朝9時、紫は約束通りに俺を迎えにきた。霊夢はというと、家から出たくないという理由で俺を見送らなかった。「もう一度、紫にお礼ぐらいすればいいのに」と思いながら、俺は紫に言われるままに空間の裂け目に入った。その先に広がっていたのは、桜舞い散る春の景色だった。風が吹くたびに、桜の花びらが宙を舞い、視界が桃色一色に染め上げられる。

 

「ここが冥界よ。そして、あの階段を登った先に、目的の白玉楼があるわ」

 

 紫が指差した先にあったのは、博麗神社にも引けを取らないほどの長い階段だった。その先に、横に長い屋根が見える。博麗神社の本堂より立派そうな屋敷だった。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「ああ」

 

 紫と階段を登ったのだが、予想以上に長かった。だいぶ息があがってきたと思って上を見ると、まだ半分しか進んでいなかった。しかも、紫は息の一つも切らしていなかった。かなり運動能力に自信はあったのだが、紫その見た目に反してかなり身体能力が高いようだ。もしかしたら、幻想郷の住人はみんなこんなものなのかもしれない。

 

 ようやく登り切った頃には、俺はもうバテバテだった。動悸がするし、脚は痛いしで最悪だった。

 

「お疲れ様。今、目の前にあるのが白玉楼よ」

「……はぁ、はぁ。これがか」

 

 俺が視線を上げると、そこには立派な屋敷があった。遠目でもわかるほどの大きさだ。目の前で見ればさらに大きく感じる。しかし、そこには迫力というより風流というものを感じた。屋敷もさることながら、庭も丁寧に手入れされている。白玉楼を囲んでいるのは塀だったが、それに沿うように植えられた木々の一つの側に、一人の少女が立っていた。

 

「あれ?紫さんじゃないですか。珍しいですね。どうしたんですか?」

 

 その少女は白色の髪をボブカットにし、黒いリボンを付けていた。瞳は暗めの青緑色で、普通の人より肌は白い。白いシャツに青緑色のベストを着ていて、下半身は短めのスカートからドロワーズが覗いていて、白い靴下に黒い靴を履いていた。そして、何か人魂のようなものを纏っていた。

 

「彼女は、魂魄妖夢。半人半霊で、この白玉楼の庭師よ」

「そうなのか。庭師なのに、刀を持っているんだな」

「ただの庭師ではありません。一応、この白玉楼の主人の護衛をしています」

「なるほど。そういうことか。俺は、秋月海人だ。訳あって、ここの主人に用があるんだ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあ妖夢、ここからは任せてもいいかしら?」

「はい、問題ありません。後はお任せください」

「じゃあ、うまくやってね。海人君」

「はい。ありがとうございました」

 

 俺がお礼を告げると、紫は空間に穴を作ってそそくさと帰って行った。俺は、妖夢に連れられて、白玉楼の中へと入った。そして客間に通されて、しばらく待っていると一人の女性が入ってきた。

 ピンク髪のミディアムヘアーに水色と白を基調としたフリフリっぽいロリータ風の着物という出立ちだった。被っている帽子の三角形をした布が何となく幽霊を想起させる。

 

「あなたが、秋月海人君ね。紫から話は聞いてるわ。あっちで死んで、幻想入りしたのよね?」

「はい、ところであなたは?」

「私は西行寺幽々子よ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 俺は差し出された手を握り、疑問を投げかけた。

 

「あの、失礼だとは思いますが……今何歳ですか?」

「え?私がBBAに見えるって?」

「そんなこと言ってませんすみませんなんでもありません」

 

 どうやらこの質問は地雷だったようなので、すぐさま取り下げた。実際、年齢がとても気になるところだ。外見と服装に少し違和感を感じたからだ。でも、命の危険を感じた俺は、もうこの質問をしないことにした。

 

「ところで、あなたがあっちで死んで幻想入りしたって、本当なの?」

「ああ、本当だ。向こうで死んで、意識が薄れていって、死んだと思った瞬間には山の中に立っていた」

「うーん。そういうケースは初めて聞いたわ。不思議ねぇ」

 

 幽々子は顎に手を当てながら考えている。しばらくして、幽々子は「うん」と何かを確かめるように頷いてから言った。

 

「でも多分、あなたは幽霊じゃないわよ。だって、もしあなたが幽霊なら、ここに現れると思うから。そうじゃないなら、多分あなたは人間よ」

「そうか。じゃあ、ますますわからないな。どういう原理で俺が幻想入りしたのか」

「そうねぇ。でもまあ、今は気にしなくていいんじゃないかしら。とりあえずは、しばらくここでゆっくりしていくといいわ」

「ああ。そうさせてもらうよ」

「そういえば、あなたは何かの能力は持ってないの?」

「…………え?」

 

 俺は突然、さっきまでとは一切繋がりのない質問をされて、反応が遅れてしまった。

 

「俺に、能力が……?」

「ええ。幻想入りした人間が能力を得るっていうケースが以前あったんだけど、あなたはどうなのかなと思ってね」

「幻想入りしてから今まで、能力を感じたことはなかったんですけど……」

「自分に問いかけてみて。もしかしたら、わかるかもよ」

 

 「そんな都合のいいこと、ある訳ないじゃないか」と思いながらも、俺は心に自分の能力があるのか問いかけてみた。すると、頭の中に、何か文字が浮かび上がってきた。最初はぼやけていた文字が、段々とその輪郭を明瞭にさせていく。

 

ーー能力を複製する程度の能力

 

ーーえ?これ、強くないか?

 

 能力を複製する能力ーーもしこれをうまく使えれば、間違いなく俺が最強になれる。幻想郷には、今までに俺が会った者以外にも、強い能力者がいるに違いない。それを全部複製すれば……。そして、紫の能力を奪えば、俺は再びあの世界に立てる。不老不死なんて能力があれば、きっとさらに安全に戻れるだろう。そして、誰にも負けない力を得た俺は、世界をその力で平伏させる。そうすれば、世界からは争いがなくなり、平和になるのではないか?……これは最早、世界征服なのではないか。そう思ったが、世界平和のための世界征服ならと考えると、思いとどまることはなかった。

 

「どう?何か能力は見つかった?」

「いや。残念ながら、俺は無能力者のようだ」

「そうなの。残念ね」

「ああ。まあ、無能力でも生活には困らないだろう。しばらく、よろしくな」

 

 絶対に、この能力のことは誰にもバレてはいけない。しばらく無能力を装い、幻想郷の能力者の情報を集め、来るべき時まで正体は明かさない。

 

 ーー絶対に、俺は世界を征服する。誰であろうと、邪魔者は排除する。

 

 






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 街田さま、執筆お疲れ様でした♪

 ……って、秋月幻想記《壱》って!w
 もう単独で連載する気マンマンやがなっ! リレー小説関係ないwww

 とりあえず、今後の流パパがどのようになっていくのか、見守らせて頂こうと思いマス。何でも好きに書いたらええよw
 それでは! 8番手お疲れ様でした♪ 街田さまありがとぉ~う!

(hasegawa)



☆もんじゃ焼き掲示板☆

 皆さんへ

 初めまして、街田和馬です。小説を書き始めたばかりで、まだまだ未熟で拙い文章だとは思いますが、これから上達できればいいなと思っているので、よろしくお願いします。
 また、個人的に不定期で書いているシリーズがあります。多忙を極めていて、4月の第3週までは更新できそうにありませんが、そちらの方も私のためにお時間を割いていただけるのなら、ぜひ読んでいってください。

 読者の方々へ

 もし、東方ガチ勢の方がいましたら、違和感等感じるところがあるかも知れません。その場合は、ご指摘ください。可能な範囲で、出来るだけ不満にならないように修正いたします。どうか、よろしくお願いします。

 リレー参加者の皆様へ

 第2巡より参加しました、街田和馬です。遅くなってしまってすみません。これから、よろしくお願いします。
 なお、私が書いたこの回の時系列ですが、
序盤では『今まさに、美星祭が賑わいを見せている』的なことを書いていますが、海人が死んでから、美星祭までのどこでも構いません。だから、この回を無視して美星祭を書き続けていただいても構いません。もしかしたら、無視していただいた方が、話が流暢につながるかも知れません。そこは、お任せいたします。ただ、私が秋月海人を掘り下げたかっただけなので。以上です。
 改めて、これからよろしくお願いします!

(街田和馬)



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三巡目
小雪「信じて送り出したお兄ちゃんが、マスターPさんの変態調教にドハマリして、アヘ顔ピース動画を送ってくるなんて……」 (hasegawa 作)


※このお話には、スピンオフ番外編【ワーキングプア侍、見参ッ!!】のキャラクターが登場します。未読の方は、先にそちらをお読み下さいますよう、お願い致します。





 

 

 

 

「おっ、身体が元に戻ったな!

 あの機械の効果も切れたみたいだ!」

 

 早朝。

 目が覚めてみれば、あれだけプルンプルンしていた大きな胸も無くなり、流は元の青年らしい逞しさを取り戻していた。

 

「当然か! ずっと効く風邪薬なんて無いし、どんな治療だって効果が切れるもんな!

 いまごろみんなも、元の姿に戻ってるハズだ!」

 

 そして朝の準備を済ませた流は、いつものように、意気揚々とお地蔵さまの下へとやってくる。

 

「おはようお地蔵さま! ぐっもーにんっ! 今日もお供え物を持ってきたよっ!」

 

(あんれっ!? 流生きとるがなっ!?!?

 えっ……まさかワシ、とんでもない勘違いしとった!?)

 

 性別反転が解けた流を見た途端、ビックリしちゃうお地蔵さま。

 てっきり死んだと思っていた大切な少年が、いま正に目の前に居るのだ!

 

 そして内心で大慌てしながらも、お地蔵さまはさりげなく“徳”の加護を流に戻した(・・・・・)

 

(あぁ、なんちゅう失態じゃ……。流の両親に顔向け出来んわぃ。

 ワシが親代わりとして、しっかりこの子らを見守ったらなアカンというに……すまん流!)

 

 秋月兄妹が産まれた時から、ずっと見守ってきたハズなのに……。国生みをした伊邪那岐命のご神体という、全知全能に近い存在であるハズなのに……。

 まさか息子同然である流を、見間違えるだなんて……。

 自らが徳を授け、明らかに常人離れしているハズの彼の気配が、まさか分からなかったなんて……。

 

 お地蔵様らしくも無く、やらかしてしまった失敗、この【小雪への徳譲渡問題】は、流自身も気が付かないままに、さりげなく解決した。

 ――――たった半日で、全てが元通りになったのだ! よかったよかった!

 

(あぁ……あれは性別が反転した流じゃったのじゃな。ばいきんまんとやらの仕業か。

 辺りが薄暗かったとはいえ、ワシはなんというミスを……。危なかった……)

 

 本来、徳の加護とは、こんなポンポン渡したり取り上げたりする物ではないのだが……。こまったお地蔵さまである。とんだウッカリさんだ。

 しかし間違いに気が付いたからには、ちゃんと元通りに戻しておく。それが責任という物である。――――そりゃ元に戻すでしょ(真顔)

 お地蔵さんは少しショボンとしながらも、無事に力の行使を終えたのだった。

 

 もちろん、お地蔵さまはすごいパワーを持っているので、“徳”の譲渡先の変更など朝飯前。

 そもそもこれは、昨日実際にやって見せた事だし? もう一度やるのに何の問題もなかった。

 

 そして、今回はお地蔵さま自身の責任という事もあり、アフターフォローも完璧!

 流や小雪が徳を取り上げられて“裏秋月”になるような心配は、まったく無い(・・・・・・)

 

 ――――流が肆の遺影になるかと思ったが、そんなことは無かったぜ!

 きっと肆の遺影ってのは、別にいるんだな♪ その内また出てくるさ♪

 

 ということで、全て元通り! 何度も言うが――――全 て 元 通 り だ !!(強調)

 世界征服が出来るよ! やったね流くん☆

 

 

「さぁお地蔵さま! 今日は普通のおにぎり(・・・・・・・)を持ってきたよ♪

 たくわんとお味噌汁もあるから、いっぱい食べてくれよなっ!」

 

(今日に限って、普通のもん持ってくるな!! 罪悪感が凄いねんッ!!)

 

 

 あれだけ待ち焦がれていた普通のおにぎりは、何故か涙の味がした。

 塩味かな?

 

 そして流はお供え物を終えて、新聞配達の仕事をこなした後、イソイソと学校に赴いていった。

 みんなが楽しみにしていた、美星祭二日目が始まる――――

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「小雪、起きとんのか?」

 

 病室の窓から見える景色が、一面の紅葉の色に染まっている、心地よい朝。

 ベッドに腰かけながら、ワーキングプア侍と楽しくお話をしていた小雪の耳に、ノックの音が聴こえてきた。

 

「おぉ、もうプアも来とんのか。二人共おはようさん」

 

「おはよう、チョコおじさん。もうじゅんびできたよ♪」

 

「おはようで御座る、太郎よ。

 朝早くからすまぬな」

 

 やってきた男は、いつもの蛇柄のスーツに、ワックスで固めたいかつい金髪という風貌。

 彼はとてもじゃないが、病院に来るような恰好では無いし、さっきもチョコ太郎と廊下ですれ違ったナースたちは、「ひぃ!」と悲鳴をあげてザザッっと道を空けていた。

 しかし今、彼の目の前にいるワープアと小雪の二人は、こちらを見てニコニコと微笑んでくれている。

 

「かまへんかまへん。ワシはいっつも、お天道さんが昇んのと一緒に起きとんのや。

 まぁ今日に限っては……実は一睡もしてへんかったりすんねんけど……」

 

「?」

 

 キョトンとする小雪を余所に、病室に入って来たチョコ太郎は顔を背けて、ポリポリと頬をかく。

 

「太郎……まさかお主。

 美星祭が楽しみ過ぎて寝られんかったとか、そんな幼子(おさなご)のような……」

 

「じゃかーしぃわボケ! しゃーないやろがい!

 と……とと友達と文化祭に行くとかぁ! そんな胸キュン青春イベント、こちとら初体験なんじゃい!」

 

 顔を真っ赤にしてグゥアーっと喚きたてるチョコ太郎。

 一族が背負った“業”により、きっとこういった行事には縁がない人生だったのだろう。

 そんな彼の事情を知っている二人は、あたたかな目でチョコ太郎を見つめる。

 

「わたしもだよ? 学園祭も体育祭も、いったことないの。

 小雪といっしょだね、チョコおじさん」

 

「拙者もで御座る。ゆえに今から楽しみでならぬ。

 一緒じゃな、太郎よ」

 

「っ!?」

 

 本当に……こいつらときたら。

 そう口には出さずに毒づきつつ、チョコ太郎はボリボリと金髪頭をかき回す。

 

「もうええから、はよ準備せぇや!

 どこやねん車椅子! はよ乗れや! 行くぞ!」

 

「いや、そのように急がずとも。まだ時間には早ぅ御座るぞ?

 お主もこちらに来て、ちと座ったらどうじゃ」

 

「チョコおじさん、ジュースのむ?

 お兄ちゃんがかってきてくれた、ゼリーもあるよ?」

 

「ゼリーとかええねん! そら旨いんやろうけどな?!

 ワイは限界まで腹空かせていって、美星祭の全メニューを食い散らかすと決めとんねん!

 この日の為に、7㎏くらい減量しとんねん!」

 

「お主ッ……どれだけ美星祭を楽しみに!? お主という男は……!」

 

「ふふ♪」

 

 ドスドスと肩を怒らせながら歩いて来て、ベッド脇の椅子に腰かける。

 悪態をつきながらも、照れ隠ししているがバレバレなチョコ太郎の様子に、二人とも楽しそうに笑う。

 

 ちなみに昨日あった“美星祭初日”への来園は、小雪の治療や診察の都合で、残念ながら見送られた。

 小雪は魔法少女になり、健康を取り戻しはしたが、まだ経過観察の為に入院中なのだ。

 ゆえに、今日が小雪にとっての初来園――――念願の美星祭の日なのである。

 チョコ太郎は彼女の為に車を出す役目を引き受けており、そして一緒に遊びにいく約束をしていたのだった。

 

 

(……ったく、まさかこのワイに、こんな穏やかな日々が来るとはなぁ)

 

 

 柔らかな笑みを浮かべている小雪。そして慈愛に満ちた表情で彼女と接するワーキングプア侍。

 そんな二人に囲まれながら、チョコ太郎はひとつため息をついて、暫し過去を回想する。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

 一週間ほど前だろうか。ワーキングプア侍に付き添い、初めてこの病室を訪れたのは。

 

 チョコ太郎としては、ただ友人である彼を、車で病院に送り届けるだけのつもりだったが、ワーキングプア侍の強い勧めによって、一緒にこの病室までやってくる羽目となったのだ。

 惚れた弱み……とは少し違うが、唯一と言ってもいい友人の頼みを断り切れなかったという、ただそれだけの事だった。

 

『おじさんは、だれ?』

 

 その瞬間、息が止まる気がした。

 名前や家柄という、そんな書類上の情報を知ってはいても、初めてこの少女の姿を目にしたチョコ太郎は、暫くのあいだ硬直し、動く事が出来なくなった。

 

 病的に白い肌。儚げな雰囲気。そしてこの上なく可憐で、消えそうなくらい小さな声。

 秋月小雪という、あの日、自分が殺そうとしていた少女――――

 

『ああ小雪どの。この男は拙者の友人で、チョコ太郎という名に御座る。

 強面(こわもて)じゃが、中々に気の良い男で御座いましてな』

 

 そうワーキングプア侍によって紹介され、彼女と話をする機会を得た。

 ベッドに腰かける小雪と、備え付けの椅子に座る自分達三人で、暫しの間、雑談に興じたのだ。

 

 違和感を感じたのは、すぐだった。

 それは、この病室に入ってすぐの事。

 小雪がこちらに振り向き、じっと自分の方を見つめている表情を、ひとめ見た途端に。

 

 この子は――――ワイを嫌悪しとらへん。

 チョコ太郎を見ても眉一つ動かすことなく、ただ穏やかに微笑みを浮かべている。

 それがハッキリと分かったのだ。

 

 

『やはり、思った通りに御座る。

 太郎よ? 恐らくお主の背負う“業”とやらは、小雪どのには効かぬよ』

 

 やがて病院での面会を終え、二人が帰路に着くために車に乗り込んだ後、ワーキングプア侍は静かにそう語った。

 

『単純な話に御座る。そのような物より、小雪どのの方が強い(・・・・・・・・・)

 相対する全ての者に嫌悪を抱かせる……、すなわち“人心を惑わす”、忌まわしき呪いに御座るが、かような物が通じるお方では御座らぬ。

 小雪どのは、本家秋月の“徳”、その力に守られしお方ぞ?』

 

 エンジンをかける事も忘れ、駐車場に停めたままの車内で、チョコ太郎はただ愕然とした。

 

『拙者は……まぁ自慢ではないが、お主と同等に“不運な人生”を歩んできた。

 それに加え、お主と同等の力を持つ人間。決して常人などでは御座らぬよ。

 ……すなわち、その呪いに抗える(・・・・・・・・)力を持つが故に、お主に嫌悪など抱かんかったのじゃろう』

 

『そして太郎よ、小雪どのも同じぞ――――

 小雪どのは、その忌まわしき呪いなどに惑わさる事なく、お主の真の姿を見てくれる、数少ない人間ぞ』

 

 月明りと、ぼんやりした街灯の光に照らされた、薄暗い車内。

 二人は深くシートに腰かけ、ただただ前を見ながら、静寂に身を委ねる。

 

『因縁、これまでの苦渋、打破すべき呪い……。

 恐らくは、拙者には分からぬほどの強き想いが、その胸の内にあるのじゃろう』

 

『だが太郎よ、今一度、考えてみるがよい。

 書類や伝聞で見聞きした事だけでなく……、今日の小雪どのの姿、そしてお主自身の想いを鑑みて、今後の身の振り方を決めよ』

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「おいしょっとぉ!」

 

 小雪を車椅子から抱え上げ、後部座席に乗せる。

 愛車である黒塗りベンツのシートには、小雪の為に用意したクッションやぬいぐるみなど、とてもじゃないが強面な彼には似つかわしくないような、ファンシーグッズが並んでいる。

 

 きっとこの日の為に、チョコ太郎がイソイソと買い揃えたのだろう。

 小雪への思いやり、そして美星祭に賭ける並々ならぬ情熱が伺える。

 

「いっちょ上がりや。ほな行くで小雪。

 ゆっくり運転はするけど、しっかりシートベルトは締めとけや?」

 

「うん。ありがとう、チョコおじさん♪」

 

 その笑顔にコクリと頷きを返し、チョコ太郎も優しい表情を浮かべる。

 さぁ、いよいよ美星祭に出発だ。

 チョコ太郎も運転席に向かうべく、小雪のいる後部座席のドアを締めてやろうと、取っ手を握る。

 

 けれど今……ふと思い直したかのように……。

 チョコ太郎は一度だけ座席を覗き込み、まっすぐに小雪の顔を見る。

 

 

「なんでもしたるよ」

 

 

 

 

 

 

 ボソリと、呟くような声だった――――

 よく聞き取れなかったのか、小雪は「?」とキョトンとした顔。愛らしく小首を傾げる。

 それにプイッと顔を背けたチョコ太郎は、優しくドアを締めてやった後、運転席の方に向けて踵を返した。

 

「おら! ボケっとしとらんで、はよ乗れやワレ! 出発すんぞ!」

 

「うむ。しからば」

 

 傍で彼らの様子を見守っていたワーキングプア侍は、その顔にほのかな笑みを浮かべたまま、後部座席に乗り込んでいった。

 ニヤニヤしよってからに……とか思わないことも無いが、決してチョコ太郎を茶化すことなく、何も言わずにいてくれた事に、内心で少しだけ感謝する。

 

(えらい軽かったなぁ……小雪の身体は)

 

 先ほど抱き上げてやった時の、まるで羽のように軽かった、小雪の体重。

 少し力を入れたら壊れてしまいそうな程、小さくて華奢な身体。

 けれど……自らの腕の中で、とても嬉しそうにしていた、少女の笑み。

 それを思い出しながら、チョコ太郎は運転席のドアを開く。

 

(こちとら極道や。任侠で生きとんねん)

 

 たとえ、これまで愛情や信頼というものを知らずに、生きてきたとしても。

 この世の全ての者達から、嫌悪されていたとしても。

 

(義理人情に身体はってこその、極道やろうが。

 なんでもしたるよ、小雪)

 

 

 友達は、一人おったらええ――――

 ちゃんとワイの顔を見てくれるヤツが、一人でもおったらええねんって、そう思ってたのに。

 まったく、人生ってのはホンマよぅ分からん。

 まさか、あんなにも願っとった友達が、いっぺんに二人も出来るやなんて……。

 

 チョコ太郎は、愛車のハンドルに手をかけながら、思う。

 

 

(せやからな? この命、お前らのために使うわ)

 

 

 そう心に誓いながら、エンジンに火を入れた。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「……で、小雪よ?」

 

「?」

 

 美星祭真っ最中の、視聴覚室。

 いま二人は隣り合わせに座り、目の前にあるスクリーンを見つめている。

 

「これが……あの言うてたヤツか?

 お前さんが脚本を書いたっていう……映画なんか?」

 

「うん、そうだよ?」

 

 先ほどまで、美星学園中の教室をまわり、チョコバナナだの焼きそばだのを片っ端から買い求め、ご満悦だったチョコ太郎。

 しかし、いま彼の表情は困惑の色に染まっており、額からツゥーっと汗が流れている。

 

「まいにちちょっとずつ、がんばってかいたよ。

 どう、チョコおじさん。おもしろい?」

 

「んん!? あぁ~……」

 

 行きの車内での雑談で、今日は小雪が脚本を担当したという映像作品が、ここ視聴覚室で上映されるのだという話は聞いていた。

 これは流たち生徒会が作る映画とは別の、この学園の映画部の協力により作成した物である。

 ゆえに彼も、そしてワーキングプア侍も、やんややんやと小雪を囃し立てつつ、胸を躍らせながら映画を観ていたのだが……。

 

「いや、すごいで? こんな立派なモン、よう作ったな~思うねんで?

 でもな……小雪よ」

 

「?」

 

「ワイちょっと、男がアヘェーとかオホォ~とか言うとる映画(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)の事は、よう分からんくて……」

 

 いまチョコおじさんと小雪ちゃんの眼前では、半裸の男が縄で縛られ、変な喘ぎ声を出している映像が映し出されている。

 

「なんや……、いったい何をやっとんのやコイツ等は。

 確かお前さん……お兄ちゃんがモデルの映画やと、そう言っとったハズやが……」

 

「そうだよ?

 この主役の“ナガレくん”はね、お兄ちゃんをモデルにしてかいたの」

 

「アカンがな! 大事なお兄ちゃんを、こんな風にしたらアカンねんで!?」

 

 演者こそ別人のようだが、今もスクリーンには“ナガレくん”という、自身の兄と同姓同名の人物が、「ひぎぃ~!」とか「イグゥ!?」とか叫んでいる姿がある。

 

「あのね? じつはこの脚本、“爆乳ナイチンゲール”こと、力石さんからもらった本を参考にして、かいてみたの」

 

「誰や?! 爆乳ナイチンゲールこと力石さんて! なんか知らん名前出てきたぞ!?」

 

「爆乳ナイチンゲールこと力石さんはね? ウチのびょういんにいるナースさんだよ?

 わたしを担当してくれてる、おんなのひと」

 

「小雪お前っ……爆乳ナイチンゲールこと力石さんに担当されとんのか!? 大丈夫なんか?!

 ……つかその無駄に強そうな名前なんやねん?!」

 

「爆乳ナイチンゲールこと力石さんは、いつもわたしのために、いろんな本をもってきてくれる、やさしいひとだよ。

 なんかひらべったくて、薄い本ばかりをもってくるよ?」

 

「それアカンのとちゃうかッ!?

 子供に読ませたら、あかんタイプのヤツちゃうか?! なんか聞いたことあるで?!」

 

「小雪ちゃんもお年頃だし、そろそろこういうのをお読んでおくぞなもし。でゅふふwww

 って爆乳ナイチンゲールこと力石さんは、ゆってたよ?

 しゅくじょのたしなみだ~って」

 

「嗜まんでええねん! そういうのは!

 ――――つか患者に何を読ませとんねん!!

 美星中央病院の医療方針、いったいどーなっとんねん!?」

 

 子供の吸収力! 純真無垢な心!

 疑うことを知らぬ小雪の純粋さのおかげで、スクリーンの中のお兄ちゃんが今、えらい事になっている。

 情けない声で「ゆるじでぇ~!」とか、「ぎんもぢいひぃ~!」とか言ってる。

 

 ちなみに、いま小雪たちの後ろの席では、美星学園が誇るエリート腐女子達による「キタコレ! キタコレ!」の大合唱がおこなわれている。

 マスターP×秋月流キタコレ! 尊い!

 

「この映画はね?

 町長のマスターP氏がその権力をつかって、お兄ちゃんを手に入れようとするお話だよ」

 

「何しとんねん町長!? そんなことに権力を使うな!」

 

「“病弱な妹”という弱みに付け込まれたお兄ちゃんは、病院を追い出すとか、断れば手術を受けさせない~とか脅されて、その身を差し出すの」

 

「リアリティを出すな! 生々しいわ!

 お前はそれでええんか小雪ッ!?」

 

『お兄ちゃんな……、マスターPさんの養子になる事にしたんだ……。

 手術代のことは、なんにも心配しなくて良い……。俺がなんとかするから。

 絶対にお兄ちゃんが助けてやるからなッ! 小雪ッ!!(キリッ)』

 

「音読すな!

 それ多分、この映画における名シーンなんやろうけどな?! やめとき!」

 

「でもそのあとすぐ、お兄ちゃんはアヘェ~って即オチするの」

 

「さすな!

 自分の兄ちゃんをアヘェ~ってさせたらアカン! どんだけ業深いねん!?」

 

「たとえ強靭な精神力があろうとも、快楽には抗えんぞなもし。でゅふふwww

 って爆乳ナイチンゲールこと力石さんが」

 

「何してくれとんねん力石さん! こんな純粋な子にッ!!」

 

 ちなみにであるが、今も小雪の隣に座り、一緒にこの映画を鑑賞していたハズのワーキングプア侍は、すでに白目を向いて気絶している。

 この脚本を書いたのが小雪だという現実に、心が耐え切れなかったのだろう。口からブクブクと泡も吹いている。

 

 勝手にリタイアしよってからに……! それでも臣下かワレ……!

 大切な友達ではあるが、そう毒づかずにはいられなかった。

 

「映画のラストでね?

 ぶじに手術が成功したわたしのもとに、お兄ちゃんから一通のメールと動画が送られてくるの。

 そこに映ってたのが……」

 

「ええて! さっきの『アヘェー!』みたいなんとタイトルで、大体想像つくわ!

 言わんでもええて!」

 

「その変わり果てたお兄ちゃんの姿に、わたしはショックをうけて、ポックリ逝っちゃうの」

 

「――――死んどるやないか! なんでそんな話書いたんや小雪?! なんでや!?」

 

 今も小雪たちの後ろでは、「見てあの悔しそうな顔!」「感じてるのを必死に隠してる顔!」「尊い!」とかなんとか、腐女子の皆さんが歓声を上げている。

 関係ないが、マスターP氏もえらいとばっちりやな、とも思う。そんな人ちゃうやろ絶対。

 

 

「この脚本を、お兄ちゃんにみせたらね?

 小雪は絶対ハリウッドに行ける! ってゆってた。えっへん」

 

「甘やかし過ぎやろ!!??

 時にはガツンと言うたるのも愛やで?! いくら可愛くても!」

 

 

 

 ちなみにこの映画は、お子様でも安心して観られる、KENZENな内容だった。(震え声)

 

 

 

 







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 そこら中に喧嘩を売っていくスタイル。(もんじゃ焼きの狂犬)

 しかし、私は約束を守りましたよ3710さんっ。
 ――――私達は君を、美星祭に連れてきたぞ!!

 今回の手番では、ちょっと強引にですけど、次話のための下準備をさせて頂いたつもりです。
 上手くセンタリングが上がっていれば良いのですが……いかがでしょうか?

 次はいよいよ、3710様の手番! ついに美星祭編も大詰め!
 秋月流という少年が目指した「最高の美星祭」
 その結末が見られるのを楽しみにしております☆

(hasegawa)



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【パラレル】美星祭編、最終回。 (hasegawa Ver.)

 

 

 美星祭2日目は、大盛況だった。

 

「ちょっと所長っ! 一人でどっか行かないで下さいよっ!」

 

「うへへへ! 若い男がいっぱいだわぁ~! これ何て楽園?!」

 

 バイトである流に入場券を貰い、来場してきた新聞配達所の所長(オカマ)が、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと、男子高校生という若い燕たちに目移りしている。

 それを同僚の佐々木ちゃんや、未だギックリ腰に悩んでいる野田さんが、困った顔で追いかけている。

 

「うわぁ~、なんて華やかな学園祭なのかしらっ!

 流くんが生徒会長らしいけど、きっとすごく頑張ったのね♪」

 

「ほっほっほ。そうだねぇバタコ。さすがは流くんだよ」

 

 あの世界改変の後、しっかり挨拶に行き、そして顔見知りとなっていたジャムおじさんとバタコさん。

 流は彼らも美星祭に招待しており、今も目を輝かせて、学園の生徒が作り出すこの空間を楽しんでくれている。

 

「おい婆さんや! これメッチャ旨いぞ! 食うてみぃ食うてみぃ!」

 

「あらあらお爺さん。そんなに急いで食べると、喉に詰まってしまいますよ♪」

 

「あっ、あのフランクフルト美味しそう! おじいちゃん買ってもいーい?」

 

 ファンキー爺さん&ファンキー妻子も、もちろん美星祭に招待された。

 家族いっしょに色々な教室を見て周り、とても幸せそうな姿を見せている。

 

「スパム! スパム! スパム!」

 

「おう若いの、北斗神拳に興味は無いかの?

 今ならワシが手ほどきをしてやるぞぃ」

 

「待てぇルパァーン! こんな学園で、いったい何を盗むつもりだぁ~!」

 

「いくら美味しそうな物ばかりだからって、こんなに食べちゃうなんて……。

 あたしって、ほんとバカ……」

 

「いいじゃない、さやかさん! ダイエットなんてもう知らないわ!

 こんな気持ちはじめて――――もう何も怖くない」

 

「お嬢さん、ちくわを一本貰えるかね?

 えっ……置いてない?! 何故ちくわを置かないのだ?! 旨いのだぞちくわ!?!?」

 

 この町に住む沢山の人達が、美星祭に来場してくれた。

 生徒会長である流を中心とし、そして皆で作り上げたこの美星祭は、いま沢山の笑顔で溢れている。

 

 映画、ライブ、ヒーローショー。食い逃げ上等の武闘派メイド喫茶。

 なぜかマグロの解体ショーや、伝統芸能である歌舞伎の舞台や、流鏑馬(やぶさめ)のイベントがあったり、あと校庭に設営された特設リングではボクシングの世界タイトルマッチが行われたりと、かなりフリーダムな学園祭にはなっているが……。

 それでも皆、いま心から楽しんでいる。

 

 

 流がその青春を賭けて打ち込み、小雪という少女がずっと夢見ていた、“最高の美星祭”。

 それは今、確かに現実の物となって、ここにある――――

 

 みんなが夢見ていた最高の一日は、大盛況のまま過ぎていった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「やぁ秋月くん、調子はどうかね?」

 

「あっ、校長先生じゃん!」

 

 時刻はお昼時となり、美星学園の校庭。

 何故かわざわざ特設会場まで設けて、バナナのたたき売りという謎のイベントをしていた流のもとに、この学園の校長先生がやって来る。

 そしてにこやかな笑顔で、生徒会長である彼に、労いの言葉をかけた。

 

「君のおかげで、過去に類を見ないほどに、素晴らしい美星祭となったよ。

 頑張ったね、秋月くん」

 

「えっ、いやそんな……。俺だけの力じゃないって」

 

 上品な青いスーツに身を包んだ、恰幅の良い身体。

 白髪だけど綺麗に整えられた、オールバックの髪型。そしてあたたかな表情。

 生徒たちに愛され、この美星学園の校長を務めるその人に、流は照れ笑いを返す。

 

 この美星祭を作り上げたのは、生徒会を始めとする仲間達。そしてこの美星学園の全ての生徒たちだ。

 たくさん苦労し、精一杯準備し、仲間達と力を合わせて頑張って来たのだ。

 今日というこの日まで、この上無く充実した楽しい時間と共に、それを強く実感していた流は、頭をポリポリかきながら謙遜する。

 

「みんなで企画して、準備して、みんなで作り上げたんだ。

 俺ひとりの力なんて、ぜんぜん大した事ない。すげぇのは美星学園のみんなだよ」

 

「はっはっは! そうか……そうだね秋月くん」

 

 あたたかな表情で、校長先生は流に笑いかける。

 

 

「だが貴様の青春も――――ここが終着点となる」

 

 

 ドカン!!!! という物凄い音が鳴った――――

 その途端、流の身体は大きく吹き飛び、何度も地面をバウンドしながら、何十メートルも転がって行った!

 

「えっ……流ッ?!?!」

 

「ながれぇーーッッ!!??」

 

 傍にいたVUMのメンバー達が、悲鳴にも似た声を上げる。

 それに構わず、その場に佇んだままで、校長先生は「わっはっは」と笑う。

 

「油断したな、秋月流。

 私は今日この時を、ずっと待っていた――――」

 

「!?!?」

 

「???!!!」

 

 地面に倒れながらも、即座に顔を上げた流。そしてその場で硬直するVUMのメンバー達が、驚愕にひん剥いた目で校長先生を見る。

 

「校長とは、世を忍ぶ仮の姿。

 ――――我こそは裏秋月(・・・)肆の遺影(・・・・)! 秋月 魔化論(マカロン)なりッ!!!!」

 

 ババーン! と言い放ち、流の方にビシッと指を突き付ける!

 

「流よ! 今日が貴様の命日だッ!!

 そして、貴様の紡いできた物語――――その最終回となるのだッ!!」

 

「!!??」

 

「「「 !!!!???? 」」」

 

 驚愕するVUMのメンバー達を余所に、いま校長先生改め“秋月 魔化論”が、まるで熊のように雄々しく両手を広げ、戦いの構えを取る!

 

「下がれ流ッ!!」

 

「こいつとんでもねぇぞ!? いったん距離を取れッ!!」

 

「逃げなさいッ! 流くんっ!」

 

 早乙女アルト、渡辺摩利、布仏虚といったVUMのメンバー達が、校長先生こと魔化論の前に立ちふさがる。……だがしかし!

 

「――――じゃかぁしいわぁ!!!! ごるぁぁぁあああああッッ!!!!」

 

「ぐぅあーーーっ!!」

 

「うおぉぉぉ?!」

 

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 魔化論が腕を一閃した途端、全員が天高く跳ね飛ばされる!

 そして「ぐえっ!」という声を出して地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる!

 

「 マクロスも! ISも! 劣等生も! 私はよく知らんのじゃぁぁぁあああ(・・・・・・・・・・・・・・・・)!!!!

  サブキャラならともかく、何を普通にメインキャラなっとんのじゃ!!

  ――――書けんのじゃ! お前らなんか!! 死ねボケぇぇぇえええッッ!!!! 」

 

「「「 !!!??? 」」」」

 

 今までどうしても言えなかった、ほんとうの気持ち――――魂の叫び。

 それを今、魔化論が声を大にして言ってのける。

 これは良い機会であったのだ。

 

「――――書かんッ! もう私は、こいつらの事は書かんぞぉぉーーッ!!!!

 さぁ来い流ッ!! VUMなんて捨ててかかって来い!!

 お前と私で、正々堂々と勝負しようじゃないかッ!!

 あっ……別に勝也くんや、直樹くん、のどかチャンの事は、呼んでくれても良いぞ?

 あの子らはオリキャラだしな。別にいろはチャンも良いぞ? 可愛いし」

 

「「「…………」」」

 

 何その注文。なにその自分勝手……。

 いくらラスボスだからって、もう好き放題に言ってくれる。

 それぞれが自分に書けるキャラで書いたら、それでいいじゃないか! なぜ人の作風やスタイルに、無理やり合わせようとするんだ! 自分の色を出せ!

 

「――――裏秋月奥義、版権滅殺拳。

 我が拳は、版権キャラに対して、1.25倍の威力補正が入る」

 

「えっ、意外とそんなでもなくない?

 頑張ったら戦えそうなんだけど……」

 

「やかましいっ!

 死にたくなければマクロス、IS、劣等生のキャラ達は、発言を控えるように!

 校長先生からのお願いだッ! 廊下にでも立ってなさいッ!」

 

「理不尽ッ……!」

 

 そうしてアルトたち版権キャラは、ぶつくさ文句を言いながら、しぶしぶ校舎の方へと歩いて行く。

 なんだかよく分からないまま、この場にいたVUMのメンバーたちが去り、流は絶対絶命のピンチである。

 

「よくも俺の仲間達を、仲間外れにしたなッ!

 許さねぇぞ魔化論ッ!!」

 

「ふははは。いくら膨大な徳を持つとはいえ、貴様などちょっと身体能力に優れた、熱い心と優しさを合わせ持つ、おバカな少年に過ぎん!

 それは当学園の校長を務めるこの私が、一番知っている! 内申書にも目を通している!

 この裏秋月最強と謳われた魔化論に、敵うと思っているのか!」

 

「ぐぅあーーっ!?」

 

 魔化論のアッパーカットを喰らい、流の身体が校舎の三階まで跳ね上がる。

 そして「ぐえっ!」という声を出して、地面に叩きつけられた。ベシャッって感じで。

 

「くっ……くそっ! 身体が動かねぇ!! なんてこった!!」

 

「無様だな! 秋月流ッ!!

 所詮は貴様も子供。お地蔵さまが居ないと、何にも出来んのか!」

 

「なっ!? なんだとテメェ!!」

 

 なぜお前が、あのお地蔵さまの事を知っている?!

 未だこの町の勢力や、闇社会の事情に疎い流は、その一言に目を見開く。

 

「流よ! こちらを見るがいい!

 これを見ても、まだ私に歯向かうと言うのかっ!!」

 

「!?!?」

 

 魔化論は、すぐ傍に置いてあった風呂敷らしき荷物の所に行き、それをバッと払いのけて、中身を流に見せつける。

 

《な……流ぇ~! 助けてくれぇ~い!》

 

「――――お゛っ! お地蔵さまっ?!?!」

 

 そこにあったのは、自身がいつもお供え物をしている、あのお地蔵さまの姿! 今日もおにぎりをお供えしたばっかりだ!

 恐らく魔化論は、裏秋月の組織力を使い、ようやくお地蔵さまの在処をつきとめ、それを今日ここに持ってきたのであろう!

 流を倒すために! 大切なお地蔵さまを人質(?)にし、流の戦意を削いで無力化させるために! ああ何という事だろう!

 

 石の身体ではあるが、お地蔵さまも心なしか、困った顔をしているような気がするッ!

 

「てめぇ卑怯だぞッ! お地蔵さまを放しやがれッ!!

 とっても偉いんだぞ! そのお地蔵さまは!! 失礼だろうがよッ!!」

 

「ふははは! 知ったことか秋月流ッ!

 お前を倒せるのなら、この魔化論! もう何でもする所存よ!

 お地蔵さまには後で、必死こいてご無礼を謝罪してくれるッ!!

 土下座でもなんでもしてくれるわッ!!」

 

 信仰心が厚いのか薄いのか、もうよく分からなくなっている校長先生、こと魔化論。

 

「さぁいくぞぉ流ぇ! そいやー!!」

 

「ぐぅあーーッ!?」

 

 魔化論のアッパーカットを喰らい、流の身体がヒューっと跳ね上がる。

 そして「ぐえっ!」という声を出して、地面に叩きつけられた。ドテーっとばかりに。

 関係ないが、もう今日三回くらい見た光景だ。

 裏秋月・肆の遺影は、なんか攻撃がワンパターンであった。

 

《なっ……流ぇ~! しっかりするんじゃ~! 流ぇ~!》

 

「ううっ……お地蔵さまっ!」

 

 お地蔵さまのスピリチュアルな応援は、今日は流に届いているようだ。

 今は非常事態であるし、流もお地蔵さまも必死だ。こういう時はお話が出来るのかもしれない。

 

 しかしながら、状況はいっこうに変わらない。

 たたでさえ強大な相手だというのに、お地蔵さまを人質(?)に取られ、流はまったく抵抗が出来ないのだ。このままでは負けてしまう! 

 

「ははは! いい気味だぁ流!

 このまま貴様を殺し、我が一族が受けてきた辛酸を味合わせてやるのも良いが……。

 しかしそれは、あまりにも味気ないという物だ」

 

 流は今も苦しそうに……、よくある90年代ジャンプ漫画の主人公みたく、身体をプルプルしつつも必死に立ち上がろうと頑張っている。

 そんな彼の姿を見て、あまりにも簡単だった勝利を噛みしめながら、魔化論が言い放つ。

 

「よし決めた! ――――貴様はこの美星学園その物(・・・・・・・)で、息の根を止めてやろう!

 慣れ親しんだ校舎に殺され、無念の内に果てるが良いっ!!」

 

 魔化論はスーツの懐から、何かのリモコンらしき物を取り出す。

 そして「ぬぅえーい!」とばかりに、そのボタンを押し込む!

 

「変形だッ!! これぞ我が美星学園の、真の姿ッ!!

 ――――熱血最強! ゴウ〇ウラー!!」

 

 するとどうだ! 突然ゴゴゴゴと地面が揺れたかと思えば、いま眼前にある美星学園の校舎が動きだし、だんだん巨大なロボットの形(・・・・・・・・・)になっていくではないか!

 ――――普通の朝が、日常が! 遠くに消えていく!

 この現実的でない、非日常な光景は何だっ! というかこのロボも版権キャラじゃねーか!

 

「うわぁ! なんだこれは!」

 

「ぎゃー! 助けてぇー!」

 

「うわぁーー!」

 

 校舎の中に取り残された大勢の人達が、悲鳴を上げているのが聴こえる。

 たった今まで、美星祭を楽しんでいた人々の顔が、恐怖に歪んでしまっている!

 

「て……てめぇ! なんてことしやがるんだッ!!

 なんだこの、でけぇロボットは!!」

 

「これは、我が裏秋月が対オールインワン、ComeTrue用に開発した、巨大ロボットだ。

 まさか貴様も、自分が毎日のように通っていた学び舎が、ロボットに変形するとは夢にも思わなかっただろう? だからこそ奴らを欺けるという物だ!」

 

「くっ……!」

 

 流はどうする事も出来ないまま、ただただ驚愕の表情を浮かべる。

 やがでこの美星学園……いや熱血最強ゴウ〇ウラーは完全に変形し終わり、なんか「ガッシーン!」みたいなカッコいい決めポーズを取った。

 

「本来これは、貴様のような人間相手に使う程、安いロボットでは無い。

 だが今日は、我が裏秋月がようやく表舞台に立つ……その記念日よ。

 ひとつ冥途の土産に、お前に見せてやろうと思ってなぁ!

 そして自らが青春を過ごした、この“美星学園その物”によって、死んでいけぇい!」

 

 これはいったい、何の冗談だ?

 自分は今日、ようやく目指していた美星祭の日を迎え、仲間達とその喜びを分かち合っていた所じゃないか。

 

 なのに――――秋月流 vs 美星学園。

 これまで、何人かの敵を退けてきた流ではあるが、その最後の敵は……大好きな美星学園その物!

 

 流はその現実を、未だ受け入れる事が出来ず、ただただその場で立ちすくむ。

 いま見上げんばかりの巨体で眼前に立つ、美星学園という名のロボットを前に。

 

「さぁ行けゴウ〇ウラーよ! 秋月流を踏みつぶせッ!」

 

「くっ……!?」

 

 即座に駆け出し、受け身を取ることも考えずに前転する。

 次の瞬間、流がたった今まで立っていた場所に、ゴウ〇ウラーの巨大な足が踏み降ろされた。鼓膜どころか空気すらも振動する、途轍もない轟音を立てて。

 

「どうしたぁ流ッ! そのままではペシャンコだぞ!」

 

《なっ! 流ぇ~! 流ぇぇ~~!!》

 

 お地蔵さまのスピリチュアルな叫び。その願いも届かないまま、次々に流がいる場所に、ロボットの足が踏み降ろされていく。

 今は持ち前の運動神経で、なんとか躱しているようだが……相手は30メートルにも及ぶ巨大ロボット。流が踏みつぶされてしまうのは、もう時間の問題に見えた。

 

《流っ! 逃げるのじゃ! ワシのことはええからっ!

 お前が死んでしもうたらっ……ワシはっ!》

 

 石の身体であるハズなのに、お地蔵さまの瞳から、ポロリと涙が零れていく。

 その悲痛な表情は、たとえスピリチュアルな感性を持つ者でなくとも、ハッキリ分かることだろう。

 

《やめれっ! 流が死んでしまうっ……! やめておくれ魔化論とやらっ!》

 

 だがその叫びは、決して悪党の耳には届かない。

 お地蔵さまは、何度も何度も叫ぶ。石であるハズの、その喉が、枯れてしまうんじゃないかと思うくらい。必死に。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「き……きゃあぁぁーー!!」

 

「小雪ッ……!!」

 

 流が戦っているのと、同じ時。

 今日美星祭に来園しており、いま偶然グラウンドに出ていた小雪の頭上に、吹き飛んできた沢山の瓦礫が振って来る!

 傍にいたチョコ太郎が覆いかぶさり、その身を呈して小雪を守る。死を覚悟して!

 

「……ん?」

 

「なっ……なんや?!」

 

 守るように小雪を抱きしめていた、チョコ太郎。

 じっと身を固くしながら、ただ死を待つばかりであった二人……だがいつまで経っても、その瞬間は訪れなかった。

 

「――――何をしてるんだチョコ太郎! しっかり守ってやれよ!」

 

「貴方ぁ――――それでも裏秋月ぃ?

 情けない声を出しちゃって、恥ずかしくないのですかぁ~♪」

 

「おっ……お前らッ??!!」

 

 やがて二人が、閉じていた瞳をそっと開いた時……そこにいたのは、こちらに襲い来る瓦礫を完全に防ぎ切って見せた、ポン助と東雲(・・・・・・)の姿だった。

 裏秋月・壱の遺影、参の遺影の当主の二人だ!

 

「なっ……何しとんねんお前らッ!! なんやねんっ!!

 貧乏人と、運なし娘が、いったい何のつもりやねん!!

 ……なんでワイらの事をッ……!」

 

「あら、貴方だって嫌われ者でしょ? 裏秋月の業を背負ってるのは、お互い様です」

 

「その通りさ、チョコ太郎。

 たしかに俺たち裏秋月は、今まで仲良くも無かったし、バリバリに敵対してた。

 なんとかお前らを出し抜こうって……俺もそう躍起になってはいたけどさ?」

 

 声を張り上げながらも、今もキョトンとしている小雪を大切に抱きしめているチョコ太郎。その姿を見て、裏秋月の二人がクスッと小さく笑う。

 

「けれど……別に貴方のことを憎いだなんて、一度も思ったことはありませんよ?

 私たちは同じ物を背負い……、同じ苦しみを分かち合う者同士。

 この世で唯一、分かり合える存在。……違いますか?」

 

「そう。倒すべきは、秋月本家ってな!

 まぁ俺も、こうして小雪ちゃんのことを知っちゃった以上は……、こんな可愛らしい子を殺そうだなんて、とても思えないけど」

 

「お……お前らっ……!」

 

 二人がチョコ太郎たちの所へ歩み寄り、手を貸して身を起こしてやる。

 

 

「――――裏秋月にだって、友情はあるんだ!!」ドンッ!

 

 

 まるで悪魔超人みたいな事を言い、ポン助がメガネをクイッとやりながら、カッと決め顔を作った。

 言ってはなんだけど、非常に暑苦しかった。

 もしかして、そのセリフがやりたかっただけなんじゃ? と思ってしまう程に。

 

 

「三人揃えば、文殊の知恵です♪

 今後は私たちで協力をしつつ、この業をどうにかする方法を探してゆきましょう♪」

 

「まぁ……あの肆の遺影とかいう、狂ったオッサンは別だけどな……。

 アイツのことは、流に任せよう。

 大丈夫、きっと流なら何とかするさ。俺はよく知ってる――――」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

《流っ! 大丈夫かぁ流ぇ~! やめておくれぇ~っ!》

 

 場所は戻り、再び流たちの戦場。

 今も魔化論が操る巨大ロボ……美星学園その物である巨人が、流を踏みつぶそうと襲い掛かっている。

 

《その子は、ワシの大事な子ぉなんじゃ! たった一人の信仰者なんじゃあ!

 やめておくれっ……! どうかその子を殺さないでおくれっ……! お願いじゃあ~っ!》

 

 今も流は必死にグラウンドを駆け回り、もう成す術なく逃げ回っている。

 時に衝撃で吹き飛び、地面を転がり、傷だらけになりながらも走り続けている。

 その必死で、哀れな姿を……お地蔵さまは涙を流しながら見つめ続ける――――

 

《なんで殺すんじゃ! こんなにもまっすぐで、頑張り屋なええ子を、なんで殺そうというんじゃっ! なんでなんじゃあ~っ!》

 

 その叫びは、決して届かない。

 石であるお地蔵さまは、ただただ見守ることしか出来ない。

 

 当然だ。この300年の間、いつもあんなに酷いお供え物をされていたのに、それを咎めることも止めさせる事も、お地蔵さまには出来なかったのだから。

 いくら大切に思おうと、どれだけその心を痛めようとも、ただの石に過ぎないお地蔵さまでは、流を助けてやる事が出来ない。

 ここから動くことすら、出来ないのだ――――

 

《流っ! 流ぇぇ~っ! 嫌じゃあーー!! 流ぇぇーーーっっ!!》

 

 いま、自身の心から愛する少年が、巨大ロボットの攻撃によって、空高く吹き飛ぶ。

 なんとか受け身を取り、着地はしたが、もう流の身体に力は残っておらず、その場から起き上がる事が出来ない。

 

《やめれっ! やめておくれぇぇ~っ! 流ぇぇぇーーっ!》

 

 そして今……ついに美星学園という巨大ロボットの大きな足が、流の身体を覆い隠すように、ゆっくりと踏み降ろされ……。

 

 

 

 

《――――止めろと言うとるじゃあ!! ぼけぇぇぇええええッッ!!!!》

 

 

「!!??」

 

「?!?!?!」

 

 

 その時! 突然お地蔵さまの身体が〈ズモモモ……!〉と巨大化し始めた(・・・・・・・)

 それは見る見る内に大きくなり、もう瞬く間に空へと届かんばかりの、巨大な姿となる!

 

《なんで止めへんのじゃ! 止めろと言うとるんじゃ! お地蔵さま舐めとんのかコラァ!!》

 

「!!??」

 

「????!!!!」

 

 この突然の出来事に、怒られている魔化論はもちろんの事、流までも硬直している。

 もう「アンガー!」と口を空けて、目をひん剥きながら絶句した。

 

《――――もう怒ったワシ! お地蔵さまの本気みせたるっ!

 何がゴウ〇ウラーじゃ! 伊邪那岐命(いざなぎのみこと)の本気みせたるっ!》

 

 気が付けば……お地蔵さまのお身体は、山より大きくなっていた。

 怒りで顔面が般若のようになったお地蔵さまの、〈ドシーン! ドシーン!〉という足音が、美星町に木霊する。

 

 たかだが30メートルそこそこのゴウ〇ウラーなんて、もう目じゃない。今のお地蔵さまは、もうそれが子犬に見えてしまうくらいに大きいのだ。

 

《喰らえっ! お地蔵さま頭突き! お地蔵さまタックル! お地蔵さまドロップキック!》

 

「 !!!!???? 」

 

「 ッッ???????!!!!!! 」

 

 あんなにも大きいのに、すんごくコミカルな動きで、お地蔵さまがゴウ〇ウラーをボコボコにしていく! 瞬く間にスクラップにしていく!

 もちろんそのスーパーな力で、ロボットの中にいた民間人を、すべて別の安全な場所へと転送してからだ。

 流と魔化論がポカーンと見つめる中……天地に木霊するお地蔵さまの怒りが、炸裂する。

 ドガガガガガーッ! みたいな音がしている。

 

《流死んだらどうすんねんっ! ワシめっちゃ悲しいやないかっ!

 何してくれてんねんアホ! アホォー!

 お地蔵さまアタック! お地蔵さまストンピング! お地蔵さまファイナル・クラッシュ!》

 

「……」

 

「…………」

 

 ――――えっ、俺と美星学園ロボの戦いじゃなかったの?

 これって確か、俺が主役の物語だと思ってたんだけど……お地蔵さまが倒しちゃうの?

 さっきもポン助、「流がなんとかする」って言ってたじゃん。なんでお地蔵さまが倒すの?

 

 流はポカンとしつつ、ただただめいっぱい空を見上げて、お地蔵さまがハッスルし続ける姿を見守る。

 あれだけ温厚で、どんなお供え物をされても怒らなかったお地蔵さまのマジギレなど、きっとこの何千年もの間、誰も見たことが無いんじゃなかろうか。

 

 もう止められない。何も出来ない――――俺主人公なのに。

 あんな風になっちまったお地蔵さま、俺とめらんねぇよ。だって無理だよアレ。

 

 

《――――なんやお前コラァ! 何が裏秋月じゃコラァ!

 お地蔵さまに何か文句あるんかぁコラァ!! 流殺すなコラァーッ!!》

 

「はいッ! すんませんすんませんッ!!

 止めますッ! もう流くん殺すの止めますッ!! だから許して下さいッ!!」

 

「…………」

 

 

 もう土下座せんばかりの勢いで、裏秋月・肆の遺影の男が、お地蔵さまに平謝りしている。

 

 流、小雪に、VUMのメンバー。そしてこの美星町に住む全ての人々が……なんとも言えない気持ちで、それを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 後日。

 念願だった美星祭も無事に終える事が出来た、その翌日のこと――――

 

「お地蔵さまって、強かったんだな。

 でもあんなに怒っちゃ駄目だよ。俺はいつもの、優しいお地蔵さまが好きだなぁ」

 

《~~っっ!!》

 

 朝になり、いつものようにお供え物をしに来た流が、お地蔵さまに語り掛ける。

 お地蔵さまの方は、石であるハズの顔を「カァァ~!」っと真っ赤にし、なにやらすんごく恥ずかしがっているように見えた。

 

 なんであんな事したんじゃろう、ワシ……。

 いくら流のピンチじゃからって、我を忘れて見境なく暴れてまうなんて……。

 ワシけっこう偉いさんで、みんなの模範となるべき立場やのに……トホホ。

 

「でも、守ってくれてありがとう――――

 お地蔵さまのお蔭で、あれからちゃんと美星祭を再開できたよ。

 小雪も、学校のやつらも……、みんなお地蔵さまありがとう~って、感謝してたよ?」

 

《…………》

 

 ニコッとこちらに微笑む、大切な少年。

 

「俺も感謝してる。いつも俺たちを見守ってくれて、ほんとありがとう。

 俺お地蔵さまのこと、大好きだよ――――」

 

 

 お地蔵さまは喋れないし、彼に気持ちを伝える事も出来ない。

 今回のように何か非常事態でも無い限りは……石である自分には、彼のためにしてやれる事は少ない。

 若くして親を失くし、それでも兄妹のために必死で頑張っているこの子に、何もしてやる事が出来ずにいる。

 昔も、そして今も、お地蔵さまはそれを、すごく流に申し訳ない気持ちでいるのだ。

 

 変な物ばかりだけど、いつも毎日かかさずお供え物を持ってきてくれる、こんなにも優しくて良い子なのに。

 

 VUMの者達や、チョコ太郎だって同じ気持ちなんだろう。

 小雪も、そして流も、もうなんでもしてあげたいって思えるくらいに、すごく良い子たちだから。

 

 けれど今……流のまっすぐな気持ちの籠った、心からの感謝を伝えられて……。

 石であるはずのお地蔵さまの胸が、とても温かくなる。

 

「さって! 今日からまたバイトに学校に……あとは少しくらい勉強もしなきゃ。

 美星祭は終わっちまったけど、これからは何を目標にしよっかな?

 また目標を考えなきゃ」

 

 そうじゃな、流。お前は美星祭を成し遂げたんじゃ。

 なんか、ちょっとワシが邪魔してもうた気がせん事も無いんじゃが……とにかくお前さんは、しっかり頑張っておったぞよ? ワシは見ておったでな。

 

 

「今日からまた頑張るよ。小雪や仲間達といっしょに。

 だから見守っててくれな、お地蔵さま♪

 俺ぜったいに、世界征服が出来るような、すごいヤツになるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、がんばれ流――――

 

 正直、世界征服はせんでもええんじゃないかと、そう思うんじゃが……。

 まぁとりあえず頑張れ。

 お前らしく、一生懸命に走れ。

 

 ワシはずっと見守っておる。応援しておるでな。

 お主が紡いでいく物語を、ずっと見守っておるよ。

 

 このイザナミノミコトが――――

 

 

 

 

 

 やがて、流が山道を後にし、新聞配達をする為に、美星町へと向かっていく。

 

 その元気で頼もしい後ろ姿を……、どこか微笑んでいるようにも見えるお地蔵さまが、優しく見守っていた。

 

 

 







・エンディングその1。 ――お地蔵さまEND――




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美星祭-最終日-後夜祭  (Mr.エメト 作)

 

 

 

 文化祭の最終日というのは、稼ぎ時で大盛り上がりする大事な日である。

 時には憧れの先輩や後輩に告白して、カップル誕生するのだ(リア充、爆発)。

 

 まぁ……それは置いといて。

 

 

「現状で言うと、ハッキリ言って僕たちには、対抗できる力がない」

 

「唐突にどうした?」

 

 盛況で賑わう美星祭の様子を、なんとなしに眺めつつ……。

 いまVUMのメンバー達……、秋月流に室斑勝也と飯島直樹という、なんだかんだと付き合いの良い男三人組が、それぞれ手にタコ焼きだのチョコバナナだのを持ちながら、会話していた。

 

「いや……いろはちゃんが言っていた、ヤバい敵の皆さんだって、またいつ来るのか分かったもんじゃない。

 流の仏パワーに頼ってばかりもいられないし……。けっこうな問題だろコレ?

 これからどうすんだって話だ」

 

「まぁ、俺は空手習っているけど……倒せるとしたら雑魚な戦闘員ぐらいだしなぁ。

 なにか早急なパワーアップが必要……って事か」

 

 ぶっちゃけて言うと雑魚の戦闘員も弱いタイプや強いタイプもいるから、安心はできないぞ!!

 三人はウムム……と眉を歪め、「俺達は今、難しいことを考えているんだ」とでも言わんばかりの顔で思い悩んでいる。VUMの三馬鹿トリオが。

 

「とりあえずさ? お手軽に超能力が出来そうな本を探して、買って読んでみたら……」

 

「おい馬鹿お前、そんな胡散臭いもので……」

 

「できました」

 

「できたの!!?(;゚Д゚)」

 

 

 直樹が手をかざすと、念動力で木の枝を浮かせており、その大成功報告で勝也が本日一番、驚いていたのだ。

 

 ――――おそらく人生で一番だろう(勝也談)

 

「ポケモンで言うとエスパー、モンスターファームで言うとスエゾーというところだね」

 

「ポケモンはともかく、モンスターファームを知っている人は果しているのだろうか」

 

 ちなみにアプリ版とswitch版で、MF1とMF2が発売されているよ!!

 

 

 ―――モンスターファームは青春だ(Mr.エメト談)

 

 

「作者のメタ的な話は置いておいて、これならば皆の足は引っ張ることは無い」

 

「すげーな、なら俺は……ジャッキーチェンのアクション映画を見てみるか。

 ある人は言っていた、男の鍛錬は映画を見るだけでも強くなれる、と」

 

「それは、戦姫絶唱的なアレですか!?」

 

「ああ、お前が薦めてくれたアニメ、よかったぜ(`・ω・´)シャキーン」

 

 ―――乙女の魂が込められた歌は世界を救う

 

 

 ちなみに諸星は、プリキュアを探して強くなろうと奔走しているとかなんとか。

 

 

 






 Mr.エメトさま、執筆お疲れ様でしたっ♪

 ていうか……直樹くんがエスパーに!? 超能力すげぇぇーー!w
 VUMのトリックスターが、一気にメンバー屈指の戦闘力を手に入れた! もう彼が主役でも良いんじゃないかな?(暴論)

 とりあえず! もんじゃ焼きの新たな第二章、始まりです!(始まるとは言ってない)

 ではでは! 執筆お見事でした♪ エメトさまありがとぉ~う!

(hasegawa)




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【幕間】小雪と回る学校祭  (砂原石像 作)

 

 

「あっ、お兄ちゃんだ! お~いお兄ちゃ――――ん!!」

 

 学校祭で賑わう美星祭校舎。休憩スペースとして確保されている中庭。

 秋月小雪は待ち合わせの相手を見つけ、その相手に駆け寄る。

 

「小雪イイイイイイイイイイイイ!!」

 

 待ち合わせの相手である秋月流は、魔法少女の身体能力で突っ込んできた小雪を抱き止め、その勢いのままぐるんぐるん、回る。

 その回転に小雪は思わず、ケタケタ笑った。

 

 やがて勢いが収まったと同時に、二人とも生い茂る芝生の上へ倒れる。

 暫しの沈黙の後。

 そのやり取りが面白かったのか、芝生の上に寝っ転がりながら、暫く2人で爆笑するのであった。

 

 目に浮かぶ空に、曇りなく。

 ひだまりはあたたかく、ぽかぽかで。

 吹き抜ける風はやわらかく、涼しげで。

 

 昼寝に丁度いい天気のためか、このままぼおっとして寝てしまいそうになる。

 だが流と小雪は、その誘惑を振り払って、ゆっくりと起き上がる。

 待ち遠しかったこの日を、ぼおっと無駄に使うわけにはいかないのであった。

 そのままのんびりと歩き出す。

 

「すっげえ元気になったなぁ…」

 

 しみじみと兄は呟いた。

 少女の腕はいまだ細かった。だが、それでも魔法少女の身体になってからは、どんどん健康になっているようで、少し太くなっていた。

 もう、骨と皮だけという形容されるようなことは無いと言えるだろう。

 

 少年の腕は丸太のように硬かった。だが、それでも魔法少女の身体能力から放たれる無邪気なタックルで、少し痛んでいた。

 もう、彼女のパワーはゴリラと形容してもいいだろう。 

 

「ほんとね。こんなに動けるようになる日が来るなんて、信じられなかったよ♪」

 

「ああ…本当に良かったな…」

 

 彼女が()()()()()()()は、彼が過ごした4年間には無かった。

 だからこそ、今小雪が健康を通りこしてゴリラパワーを発揮していることに、喜びを感じていた。

 腕に痛みも感じていた。

 

 生まれつき体が弱く、病院暮らしであった秋月小雪は魔法少女になったことで、健康な体を手に入れ、こうして元気に走り回れるほどにまでなった。

 

 魔法少女としての運命とか色々、彼女には付きまとってはいる。

 だが、それでも彼女は幸せな人生を手に入れたと言っても良いだろう。

 

 きっと来年も再来年も。彼女は美星祭を見に行くことが出来る。

 もしかしたら、美星高校に進学して美星祭を作り上げている未来も、ありえるかもしれない。

 

 病気による”死”。その逃れえぬ”運命”に打ち勝つことが出来た。

 彼女の人生は、きっとこれからなのだろう。

 

 少年は妹を守る決意を密かに固めるのだった。

 

「そういや、俺が来るまで何してたんだ?」

 

「映画を観たよ」

  

 楽しかったか? という流の問いかけに、思いっきり頭を上下させて答えた後、こう続けた。

 

「映画部の人たちって凄いね!! 小雪の書いた脚本をね? 凄い映画にしてくれたの!! 特にね! ラストシーンの動画のシーンとか、思わず息を飲みそうになったよ!! 凄い演技だった!!」

 

 小雪も高校生になったら映画部に入部しようかな…。と少女は続ける。

 もしかしたら先ほどの映画体験が、彼女の人生を変えた瞬間になるかもしれない。

 

 ある達人曰く。『飯食って映画見て寝るッ! 男の鍛錬はそいつで十分よッ!』

 男。というより、これは“人”としての精神の育て方と捉えるべきだろう。

 

 良い創作物は心を育む栄養となる。そこから得る体験は心に残り、心を作る基となる。

 時には創作物に込められたメッセージを受け取り、考えることで新しい考え方の軸を作る。

 別に映画でもなくてもいい。小説であったり、アニメであったり、芸術で有ったり、音楽であったり…。

 良い体験というものは、“人”をより良い“人”に変えていくのだ。

 

 自身が脚本を担当し、映画部が作り上げた映画は、確実に彼女の心に残ったはずだ。

 彼女がどのような道を歩むのかは、まだ分からない。

 だが、彼女の人生がより豊かなものになるだろうことは確かだ。

 

「ありがとうね。お兄ちゃん」

 

「いいってことよ」

 

 このときの妹の顔を見て、兄は大きな達成感を得るのだった。

 そしてふと、少年は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。

 

「…そういえば、ここまで来るのに一人で来たのか?」

 

「? チョコおじさんに送ってもらったけど。そうだ!!」

 

(そうか…あのおっさんたちがいるのか…。 なんやかんやで世話になるな…。)

 

 ワーキングプア侍。

 秋月チョコ太郎。

 

 実は流は、既に彼らとは面識があった。

 最初、小雪に近づく不審人物かと警戒したのだが……、何かと小雪のために動いてくれていて、何より小雪自身が“友達”と思っている相手なので、今ではすっかり彼らを信用するようになった。

 

(話してみると、意外といい奴らだし。……今度、手作りパンをもっていこうかな? きっと喜んでくれるだろ)

 

 友達との関係性に飢えているチョコ太郎と、物理的に飢えているワーキングプア侍。

 彼らが泣いて喜ぶ姿が、目に浮かぶようだ。

 

 そう考え込んでいた流の眼前に、いま大量のストラップや小物らしきものが、ズイッと突き出された。

 

「じゃじゃ~ん♪ 見てみて! これチョコおじさんとプアおじさんが、射的で獲ってくれたんだ♪」

 

(前言撤回!! 鉄拳パンチを喰らわしたらああああああああああああああ!!)

 

 侍とは武芸百般に精通するもの!! 鉄砲の扱いもお手のものでござる!! ……とワーキングプア侍。

 ワイを誰やと思うとるんや? シノギ*1にテキ屋をやることもあるのがヤクザで、その首領もやっとるワイが、出来へんワケないやろうが!! ……とチョコ太郎。

 

 小雪に良いところを見せようとする両者の射的対決は、射的屋の終焉をもって幕を閉じた。

 “余った景品を山分けしよう”という、とあるクラスの企みは、見事に水泡と帰したのだ。

 そのストラップは戦利品というわけである。

  

 異性からのプレゼント。しかもお祭りの射的というシュチュエーション。

 これらの要素は、兄としての警戒レベルを急上昇させるのには、充分な材料であった。

 

 流は激怒した。必ずやあのオッサンどもから、妹を守らねばならぬ。

 流には恋愛はわからぬ。流の実年齢は21である。逆行する前も後も、恋愛とは無縁の暮らしをしてきた。されど、妹を狙う気配には人一倍敏感であった。

 

(…勝也から一度空手を教わったほうがいいな。待ってろ。小雪は俺が守る。)

 

 少年は密かに、妹を守る決意を固めるのだった。

 

 

 やがて、中庭に向かって歩いていた室斑を視界にとらえた流は、渡りに船とばかりに彼に駆け寄り、その肩に組み付く。

 

「よお勝也。早速だが、一撃必殺の技を教えてくれ!!(小声)」

 

「そんな都合のいい技が……一応ない事もないが、とりあえず落ち着け流。どうした?」

 

「頼む!! 兄として一度あいつら半生*2にしなきゃならねえんだ頼む!!」

 

「食材は火をよく通せ、食中毒になるぞ。とにかく訳を話してくれ…」

 

「かくかくしかじか…」

 

「ごめん。ちゃんと説明してくれ…」

 

「侍とヤクザ」

 

「大体わかった」

 

 

 とんだ兄馬鹿だな…と室斑は思った。

 そして「どうどう」と流を宥めつつ、むりやり組まれた肩を外してから、小雪に挨拶をすべく歩いて行くのだった。

 

 

 なお、彼らが流の分のストラップも取ってくれていたことが分かり、流の怒りはどっかいった。

 

 

 

 

 

*1
資金調達の為にする仕事のこと

*2
死なないようにボコるという意味で言ってるようだが…



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【パラレル】美星祭に乱入するキチガイ宗教団体 (ようやくスマホが帰ってきたマスターP 作)


※この小説は復帰した初心者が書いてます♨️





 

 

 

照りつける太陽!

 

賑わう人々!

 

沢山の屋台!

 

そう!祭りだぁぁぁぁぁぁ!!!

 

と言いたい所だが…

 

「ど"う"じ"で"だよぅ!( ;∀;)」

 

どうもマスターPです☆

今わいは市町室に閉じ込められてた♨️

 

理由は単純明解

1 仕事サボリ~

2 問題起こしすぎ~

 

などのことがあり

しかも学校に無許可でシャウトかましたのがトドメだった♨️

 

「畜生!祭り行きてぇよぉ!!( ;∀;)」

 

「学校で祭りなんて保育園ぶりだったのにぃ!」

 

そんなこったで泣き散らしてると

 

空から黒塗りのセダンが飛んで来た

 

「お~ほほwうwそwだwろwおw前w」

 

そのまま黒塗りセダンは市町室の壁に激突し大穴を開けた…

 

[数分後]

 

「で~これはどうゆうしょうか?」

 

わいは後頭部を琵琶湖の形にハゲ散らかしてるおっさんと話してる……何で?

 

おっさん「ホンマサーセンwww」

 

イヤイヤイヤ笑ってる場合じゃないよん

これ絶対わいのせいになるじゃん( ;∀;)

 

おっさん「ほなwさいならwww」

 

「ふぁ!?ちょい待て!」

 

車に乗り込んだとたんに壁数十枚ぶち破ってどっか行った…

 

「…」

 

わいは頭を抱えた死ぬ程怒られるやつやん

あのおっさんの証拠ないし…

 

「まっ!どうでもいいか!」(すっとぼけ)

 

「さぁここからどうするかねぇ…」

   ピッ 

1 掃除←

 

2 ふて寝

 

ピッピッピッピッピッ

↑↑↓↓→→←←(コマンド)

 

 

 

 

 

 

 

 

3 祭り行くしかねぇよなぁぁぁぁぁァァァ!!FOOOOO

OOOOOOOOO↑↑↑↑↑!!!

 

「祭り行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

そう決めたわいはおっさんが開けた大穴から飛び降りて祭りへ向かった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

到着!

 

「来たぜ来たぜぇぇぇ!」

 

おー☆これよこれ!

この賑わい!楽しくなってきたぜぇ!!

 

ん?さっそく屋台があるなぁ!買ってくぞぉ!

 

「イカ飯弁当3つください~☆」

 

そんな感じにのほほんとした学園祭が始まる…

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった

 

 

 

 

 

 

突如学校の放送機等から謎の放送が入った

 

『全リア充に告ぐ』

 

「ふぁぁぁぁ!?」

 

『我々はリア充撲滅委員会』

 

「どうゆうことですか!?」

 

問いかけても放送は止まらない

 

『我々の目的はただ一つ』

 

『全リア充の排除です』

 

『ここは色んなリア充が集まる絶好の場所』

 

『よって……』

 

『皆さんには死んでもらいます』

 

「うぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

突如の殺害予告!

 

「ちょっと待ってよぉ(泣)わいはこんな展開望んで無いからぁぁ(泣)」

 

「「「「キャアァァァァ!!」」」」

 

「今度は何ですか!?( ;∀;)」

 

振り替えるとそこには

ガスマスクをつけバズーカーを抱えた男たちがいた

 

「「「ヒャッハー!!!汚物は消毒だぁ!!」」」

 

「ヤバァァァイ!!明らかにヤバァァァイ!!」

 

クラウチングスタートを0.9秒で決め出発

ボ○トも驚きのスピードで走って校門まで逃げてく

 

「フハハハハ!見よ!この圧倒的に完璧なフォームを!!」

 

校門が見えたとこらへんまで来たがなんとそこに

虎が鎮座していた

 

「嘘だドンドコドン!」

 

しかも虎は大変気が立っているご様子

 

「しかしあれだ。下手に刺激しなければ…」

 

その瞬間後ろから大声が聞こえた

 

「「「ヒャッハー!!!まちやがれぇぇぇ!!」」」

 

ガスマスク男達だ!しかもその大声で虎もこちらへ走ってきた

 

「わりぃ…わい…死んだ♨️」

 

後ろからガスマスク前から猛獣と言う圧倒的絶望的な状況

普通の人間では死ぬと錯覚するだろう…

 

しかしその時、不思議なことが起こった

 

ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!! ブンブン!

 

正面の校門から10tトラックが突っ込んできた!

 

[トランスフォーム!!]

 

そのまま勢い良く変形しカッチョいいロボになった!

 

「うおおお!!??何だぁ!?」

 

カッチョいいロボは虎を保護して

ガスマスク男達の攻撃を受けても無傷のそのボディでガスマスク達を蹴散らした

 

「ほー!フムフム!何がどうなってるんすか?」

 

その光景を体育座りで愕然と見ていたマスターP氏

すると突然!

ガチャリとカッチョいいロボの運転席のドアが開き……

何者かが飛び降りた…

戦闘後なので煙が舞っておりその姿を見ることはできない

こちらに何者かが向かってくる…

マスターP氏は臨戦体制をとる

煙が晴れほぼ近くに来たとき

 

「大丈夫かい?」

 

優しい声がした

そして『自分の顔の一部』を差し出した。

 

 

「ぼく剛りk『後編に続く!!』

 

 

 

 






 続く! ……ってマジか!? まさかの前後編!?w
 Fu~♪ タイヘンお得でアリマース!!

 とにかく後編も楽しみにしてますヨ!
 ――――頑張れマスターPさん☆ つっ走れぇぇぇえええ~~ッ!!

(hasegawa)



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【番外編】マスターP戦記、マジンガー絶頂 第二話 (砂原石像 作)

 

 

前回までのあらすじ

「いくわよぉん! このチンカス男ぉ!

 

 

 うおー! ちんちんちんちん……」グリグリグリ!

 

 

「くらえッ! ブレストファイヤー!!

 

 

 ――――うわああああん! わいの乳首がぁっ!! ちくびがぁぁぁああああッ!!!!」

 

 

 

マスターP vs したたるウーマン。

 

 

 そしてフランクフルト・メカ vs マジンガー絶頂――――

 

 

 その戦いは火花を散らし、美星町の大地を震撼させる。

 

 

 果たして、この戦いの果てに待ち受けるものとは!!

 

マスターP戦記、マジンガー絶頂 第二話

【――――さらばマスターP! 美星町最後の日!!】

 

 

 

 

 「ハイッ!! 負けました!! チキショぉぉぉぉぉぉ!!」ドカーン!!

 

 

 マジンガー絶頂の黄金の右ストレートがフランクフルトメカを貫き、爆発させた。

 あっけない幕切れであった。 

 かくして、フランクフルト教団による侵略はあっけなく終わったのであった。

 

 

マスターP戦記、マジンガー絶頂 第二話

【――――さらばマスターP! 美星町最後の日!!】

 

 

完!!

 

 

あの激戦より数日後……。

 

 

美星町の象徴でもある、町役場。

地上30階を超えるその建物は幸いにもフランクフルトロボの攻撃の被害を免れ、以前と変わらず美星町民の税金の行方を周囲の市町村に喧伝し続けていた。

 

 

その建物の地下。暗い部屋の中でパイプ椅子に座ったマスターPの周囲をモノリスが取り囲んでいた。

モノリス越しに、美星町のお偉いさんの説教が届く。

 

マスターP「えっ(*゜д゜*) 予算が足りない!?」

 

 

お偉いさん01「そうだ。此度のフランクフルト・メカの襲撃で既にこの街の今年度の予算の7割が消費されたのだ。」

 

 

お偉いさん02「これ以上出費が増えればこの街が傾くぞ。」

 

 

お偉いさん03「左様。このままでは美星町の財政崩壊は免れぬだろう」

 

 

お偉いさん04「就任当初から数日でここまでの予算を食い潰した町長は前代未聞。既に町民の中からは貴様の能力を疑うものも出てきておるぞ」

 

 

お偉いさん?「ええ、これはもう美星町はフランクフルト教団の物ってことで、いいかしらネ?」

 

 

お偉いさん♨️「ちょっとマスターP♨️!! しっかりなさいよ♨️!! 」

 

 

マスターP「あのさぁ...そんな事言われても、仕掛けて来たのはしたたるウーマンのほうじゃないスか...黒塗りの高級車ぶつけられた挙げ句弁償求められるぐらい理不尽じゃないですかねぇ(名推理)...」

 

 

お偉いさん01「...これを見てもまだ同じことが言えるのかね?」

 

 

※マスターP、フランクフルトメカ戦視聴中

 

 

※視聴後。

 

 

マスターP「ファ!? う~ん...」

 

 

お偉いさん04「見ての通り、この街の被害、その殆どがマジンガー絶頂の仕業だ」

 

 

お偉いさん03「左様。貴様がもっと上手に闘えば被害は少なかっただろう」

 

 

お偉いさん02「この美星町の面汚しが」

 

 

マスターP「」

 

 

お偉いさん01「よいか?貴様の政策公約こそ、この街の希望なのだ」

 

 

お偉いさん02「もし、このまま貴様が失態を続ければ、その対処に追われることとなる。そうなれば公約の実現は叶わなくなるだろう。」

 

 

お偉いさん04「もとより、この町は多大な問題を抱えている。ヤングストリートの不審者騒動や秘密基地誘致に伴う住民間トラブルなど……公約が果たされぬことには解消しないことだろう。」

 

 

お偉いさん03「左様。公約が実現せねばこの街に未来はない。心してかかれ」

 

 

お偉いさん方「「「「全ては美星町の未来の為に」」」」

 

 

 

 

 マスターP「ぬわあああああああん疲れたもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」

 

 

 お偉いさんの説教が終わり、マスターPは仕事をさぼって美星中央公園のベンチで黄昏ていた。

 

 

 マスターP「全く…俺だってさ。あんなわけわからないロボットに乗せられて、アへ顔晒して頑張ったのに......どうしてあんなこと言われなくちゃならねえんだよ」

 

 

 昼下がりの美星中央公園は平日ということも相まってか穏やかな時間が流れているようだ。

 

 マスターPの眼前の原っぱでは、先日彼の家に転がりこんできた艦娘_____その中でも子供の姿をしている駆逐艦*1と呼ばれる少女が遊んでいる。

 

 

 公園の奥の方では、青いつなぎを着たイイオトコがベンチでくつろぎながら誰かを待っているようだ。

 

 

 公園の隅のほうで、しまむらの服を着たスキンヘッドの男が刀を振り回し、タンポポを切り裂いて集めている。

 

 

 マスターPの背後の木の裏に何やらカメラを持ったピンク色の影が潜んでいるようにようだが、先程の説教でいっぱいいっぱいになっている彼はそれに気づくことは無い♨

 

 

 先日のフランクフルト・メカの襲撃が嘘のように、美星町は平和である。

 けど、町長の心は沈んでいた。

 

マスターP「ま?多少はね? 街を壊しちゃったかもしれないけどさ? …しょうがないじゃねえか。あんな、目にあいながら、真っ当に操縦なんてできるかよ。当たり前だよなぁ? それでも俺は頑張った訳よ……その結果があれなら辞めたくなりますよ……」

 

 

そうぼやき、うなだれる。

先程の会議がよほど応えたようだ。

 

 

マスターPは北斗神拳を一週間で体得するほどの才能の持ち主であり、実績がない状態でいきなり町長になるほどのカリスマの持ち主である。

 

だが、それでも彼自身は人生経験の無いただの17歳の少年だ。

先程の会議のように大人たちに囲まれて説教されれば疲れるのも無理はない。

 

 

笑い声が聞こえて、項垂れていた彼がふと視線を上げ、遊んでいる駆逐艦たちを見た。

 

 

何やら、駆逐艦たちは戦争ごっこをして遊んでいるようだ。

 少々過激ではないかと思うが、子供たちが遊んでいる様子にマスターPは平和を感じざるを得なかった。

 

「軍曹殿ッ! しっかりして下さい! 軍曹殿ッ!!」

 

 

「…俺のことはいい。塹壕に戻れッ……! これよりお前が指揮を執り、部隊を率いるのだ……!」

 

 

「……い、嫌だッ! 嫌だ嫌だ嫌だッ!!軍曹が死ぬんなら、俺もここで死にますッ!! お供しますッ!!どうかッ……どうが俺を置いて行かんで下さいッ!! 一人にせんで下さいッ!!」

 

 

 戦場で瀕死の傷を負った上官と、その部下の演技をしているのだろうか?

 どうやら、戦争に携わる兵器としての本能があるのか、彼女たちが思い描いた戦場は、まるで誰かの戦争の追体験のように真に迫っている。

 子供遊びだと思っていたマスターPもあまりの臨場感に思わず入りこんでしまった。

 

 場面は進み、上官役の駆逐艦が、ポケットから写真(に見立てた紙)を取り出し、部下役に見せ「娘を頼んだ」と告げる。

 

 

「頼んだぞ船木。必ず生きて帰り、娘を守ってくれ。お前は、俺の自慢の…………息子だッ!」

 

 

マスターP 「うう……ウッウ*2ッ......オオン!アォン!......(号泣)」

 

 

 マスターPは思わず泣いた。

 大号泣だ。きったない顔で泣いている。

 彼は、この子たちは絶対にハリウッドで活躍する逸材になれると確信していた。

まごうことなき親バカである。

 

 

 艦娘の外見年齢などは、元となった艦によってある程度変わる。駆逐艦は機動力を優先して造られた小型の艦であるためか、彼女達は小学生くらいの女の子の姿形をしている。

 

 

だからか、マスターPの中にはいつの間にか駆逐艦に対する父性が目覚めていた。

もしかして㌔㍉コン? という誤解もなんのそのだ。

 

 

マスターP「ああ^~駆逐艦たちを見てると癒されるな~」

 

 

マスターPは決意した。

必ずやこの子達を守らなければならないと。

 

 

 マスターP「そうだ…俺だって、美星町を守るために戦ってるんじゃないか。しっかりしろ!」

 

 

 顔をパンと叩いて立ち上がった彼の目の前に映っていたのは、

 

 

「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」

 

 

 虚ろな目をしながら、アスリート並みの速さで公園の外にかけていく駆逐艦たちの姿であった。

 

 

マスターP「ファッ!? ……う~ん……」

 

 

「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」「ち〇ち〇ぶら〇らソーセージ…」

 

 

 公園の外を見ると、虚ろな目をした集団が、同様にアスリート並みの速さで走っていくのも見えた。

 虚ろな目で、しかもアスリート並みの速さでかけているのにも関わらず、ぶつからない綺麗な集団行動であった。

 

マスターP「クソっ…!! 一体どうなってやがるんだ!!」

 

 

 

 『オ〇ンポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!』

 

 

____突如として美星町の大地が揺れ、獣の如き叫びが美星町に響渡る。

 

 どうやら、この町は再び戦場になる。

マスターPはげんなりとした。

 

 

 

 

 _________少し時は巻き戻る。

 美星町のはずれ。町全体を見下ろす高台に二人の狂信者が並んでいた。

 

「さあ。我が同士〇獣(バーサーカー)よ。これより、したたるウーマン様に無礼を与えたマスターPに誅罰を与えよう……」 

 

「………………」

 

〇獣(バーサーカー)と呼ばれた大男には反応がない。いや、反応しようにも動きようがないと言った方が正確か。

彼の全身は拘束具と思わしきもので覆われており、身動きはおろか叫び声の一つも取れないでいる。

 

 〇獣(バーサーカー)に話かけた亀〇師(キャスター)の姿もまた全身をローブで包んでおり、顔面にはペストマスクを改悪したペ〇スマスクを装着している。

 

 単品でも非常に怪しい不審者であるが、こうして二人並ぶと最早それだけで通報ものである。

 

 彼らは、したたるウーマンを教祖とするフランクフルト教団の幹部格。

 したたるウーマンが自ら選んだ7人の精鋭のうちの二人であった。

 

 亀〇師(キャスター)が空中に手をかざすと、何もないところからフランクフルトがあらわれる。

 それを掴み、取り回しを確認するかのようにぶらぶらと振るう。

 

 その取り回しに問題がないことに納得したように頷き、狂信者は拘束された大男の方を向き、フランクフルトを構え、呪文と思わしき文言を唱える。

 

 「これより、フランクフルト教団の七英霊が一人 亀〇師(キャスター)が告げる。

 淫らなる獣の理を与えられし〇獣(バーサーカー)よ。

 これより、汝に大いなる力を与えん。

 その欲望よ解放せよ。

 

 

呪文(Spell)(Ma)詠唱(Cast)

 

勃起(ウェイクアップ)

 

 下半身を疾走する本能!!新たな性癖に目覚めよその魂!!法律(さだめ)の鎖を解き放て!! 」

 

 詠唱が終わる。 

 

 するとどうだろうか。

 拘束具に雁字搦めにされた大男の肉体がみるみるうちに肥大化していく。

膨張した筋肉は自らを拘束していた鎖を引き引き千切り、さらに巨大化。

 

身体の拘束が引き千切れるのと同時に、巨大化を続けながら、巨人は高台からひと足で美星町の道路へと着地した。

 

着地の衝撃で美星町全体が揺れ、周囲の建物が倒壊してもなお、巨人の肉体は巨大化を続ける。

そして肉体の膨張が終わった頃に、淫獣(バーサーカー)の身体はまるで山の如き巨体へと至っていた。

 

なんと恐るべき業であろうか?

かの邪教が伝承せし魔術は人の肉体を巨人それに変貌させてしまったのだ。

 

大きいのはそれだけで驚異となる。

考えるまでもなく単純な理屈だ。

 

少しでもスポーツをやったことのある人間なら身長の高さがもたらすアドバンテージは身に染みているだろう。

また、そうでない人間でも全長2メートルほどのヒグマと人間が殴り合いの対マンをした場合の勝者の予想など簡単に的中させることができるはずだ。

 

 

ビルほどの大きさの巨人がどれほどの驚異なのかは推してしるべし。

人間を巨大化させる術は単純ながら驚異であると言えよう。

 

 

自らに課せられた拘束から解き放たれた巨人は暫くの間、微睡んでいるかのように緩慢な動きでにみずからの周囲を見渡していた。

手をゆっくりと開閉し、軽くその場で足踏みをして、その感触を確かめる。

 

そして、暫く後、ゆっくりと息を吸い上げ、雄叫びを上げた。

 

 

『オ〇ンポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!」

 

 

 

 

それはどこか産まれたばかりの幼子が上げる最初の声に似ていた。

 

「マ・チ○ポオオウ……」*3

 

そして、一通り叫びを上げたあと彼は周囲を見渡し自らが倒すべき敵を探す。

 

敵が見つからないと見るや、思いっきり腕を振りかぶり、

 

『オオオオオオ!!』

 

近くのビルに叩きつけた。

 

ビルはまるで発泡スチロールのようにいとも簡単に瓦礫を巻き散らかして崩れ落ちる。

 

『マスターベェエエエエエ!!』*4

 

軽く前に進んだだけで足元にあった家がバラバラになり崩れ落ちる。

 

『スタンダアアアアアアアアアアアッッップ!!』*5

 

叫び声と共に目から放たれた光線は直線上にあった建物を全て溶かし、地平線まで突き抜けていく。

 

『オチンポオオオオオオオオオオオオオオオーーーー!!』

 

巨人を中心に超能力の渦が巻き起こり、彼の周囲の建物を全て薙ぎ払う。

 

巨大化した人造人間は癇癪を起こしたかのように暴れ狂い、街を破壊していく。

 

 

 ATMのシステム面に不具合が発覚して問題になっていた美星銀行の建物も。

 最近、怪盗に美術品を根こそぎ持ってかれ、贋作しか残っていない有様の美星美術館も。

 悪の組織の運営疑惑で炎上している味のヤマモト美星支社も。

 官僚の天下り先として人気を誇る美星商事の本社ビルも。

 悪の組織の秘密基地を誘致していた美星団地も。

 外資系企業の支店のビルも。

 揚げ底弁当が有名なコンビニエンスストアも。

 

 

 何もかもが獣の暴走によって壊されていく。

 

 ()()()()、町中の人たちの非難は既に終わっており、町がどれだけ破壊されようとも人的被害はゼロである。

 

 しかし、建物が破壊されている時点で美星町の財政は復興予算で火の車。

 美星町はこのまま終わってしまうのだろうか?

 

 

 

 否!!

 

 

 

 美星町にはこの町を守る漢が一人!!

 

 美星町役場の無駄に広い中庭にある大きな池。

 その池がモーセよろしく二つに分かれ、そこから黒鉄の城があらわれる。

 

 

 あれは…!!

 

 

 マジンガー絶頂!?

 マジンガー絶頂じゃないか!!

 

 

 そう。これこそが美星町の希望。山をも砕く黒鉄の城。

 機械の巨体に人間の性欲を咥えた究極の兵器。

 スーパーロボット・マジンガー絶頂(Z)である!!

 

 そして、それの頭の部分にマスターPが乗る戦闘機が接続され、マジンガー絶頂の瞳に光が灯った!!

 人の力が尽きるとも不滅の性欲マジンガー!!

 

マスターP「てめぇ!! ナニ人の町ぶっ壊してやがんだチクシォンホォオオおお!!」(てめぇ何人の町壊してんだ畜生が!!)

 

『オチン……グホオオオオオオオ!!』*6

 

美星町を荒らす不届きものに挨拶代わりのロケットパンチ!!

 

巨人の頬にクリーンヒット!!

 

吹き飛ばされたバーサーカーは手抜き工事疑惑のあった美星マンションにぶつかり瓦礫に埋もれる!!

 

 

美星町のサイフポイント(残り予算)に500のダメージ!!

 

 

残り予算(サイフ):7500

 

 

読者の皆さんに伝え忘れたが、この戦闘は残り予算との戦いでもある!!

残り予算(サイフポイント)がゼロになれば美星町は財政破綻を迎え、マジンガー絶頂は事業仕分けのため売却されてしまうのだ!!

 

マスターPはマジンガーの胸元に取り付けられた安っぽいタイマーを見て、出撃直後にお偉いさんに言われたことを思い出した。

 

 

お偉いさん「何らかの陰謀が渦巻くこの街を守るためにはマジンガー絶頂の力は必須である。

 そこで、だ。

 今後、マジンガー絶頂にはこの"カネータイマー"を着けてもらう。

 美星町の残り予算は三割。そして、残り一割を切ったとき、マジンガーに取り付けられたこれは点灯し警告音をならすようになっている。

 よいか。それが鳴ったら、何としても戦闘を終わらせろ。いいな?」

 

 

 カネータイマー。マジンガーのデザインを損ねているこのタイマーは、美星町の財政状況とリンクしており、財政危機になった場合、それを知らせてくれる、ありがたいタイマーである。

具体的には残り予算(サイフ)が300を切ったら、胸に強引に取り付けられたカネータイマーがなって財政危機を教える仕組みだぞ!!

 これは非常にオリジナリティのあるアイディアで、恐らく現実の創作では見ることはできないものだろう。

 美星町のお偉いさんの発想力は凄い。

 

頑張れマジンガー!!

美星町を財政破綻から守るんだ!!

 

マスターP 「美星町の財政は俺が守も…なああああ!!」

 

 

 マジンガーに向けて、浮遊する無数の瓦礫が押し寄せる。

 念動力(テレキネシス)

 手を触れずに物体を動かす超能力である。

  〇獣(バーサーカー)は超能力を使う人造人間。

 下ネタでしか会話できない知能でもこの程度のことは造作もない。

 

 マジンガー絶頂は瓦礫の礫に吹きばされ、不祥事で署長がすげ変わったばかりの美星警察署に倒れ込む。

 当然ながら、美星警察署は壊れ美星町のサイフに1000ダメージ!!

 

 

 残り予算(サイフ):6500

 

 

 瓦礫から抜けた巨人が、警察署に倒れ込むマジンガーの前に立ち、告げる。

 

『ぼんじゅーる!! 

 オチン。フランクフルトキョウダン。ナナホンチン○。

  キョーソサマー、テイクアチ○ポ。

 チ○コパワー。フルチン○ン。

 チン○ンブラブ○ソーセージ!!

  オチン○オオオオ!!*7

 

 それは名乗りであった。

 まるで古の時代の戦士がするように。

 自らの存在を高らかに名乗り、誇りをもって戦うことを告げる宣誓だ。

 

 しかし、バーサーカーはしたたるウーマンの洗脳による超パワーの獲得と引き換えに、下ネタでしか発言ができないという制約を抱えている。

 マスターPからは下ネタを話しているようにしか聞こえてなかった。 

 

 うるせえ!! 

 とばかりにマジンガー絶頂がマジンガーに殴りかかる。

 

マスターP「てめぇ!! さっきから下ネタばっか言いやがって!! こっちの事情を考えろよ!! この小説は子供も見てるかも知んねぇんだぞ!!」

 

 『オマンゲ、セッテ、ブーメラン、カ? く さ は え る www』*8

 

「実はおまえ割と喋れるじゃねぇか!!」

 

 拳を回避し、後ろに飛ぶ。

 マジンガー、および頭部の操縦席に視線を合わせ、さらに続ける。

 

 『オチン オマンゲ チンゲン ショウヴ…!!』*9

 

 思い切り、息を吸い込み叫ぶ。

 

 『ガチンコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

マスターP「上等だ!!クルルァ!!」

 

叫びと共に両者は互いに手を掴み、手押し相撲のように互いに押さえつけ合う。

 

これぞ手四つの力比べ、真っ向からのガチンコ勝負。

これぞ正しく、兜がぶつかり合うようなような激しいパワー勝負と言えるだろう!!

 

はてさて、この勝負。どちらが勝つか?

 

機械の肉体と人の性欲をあわせもつ人造人間()か?

それとも人の(性欲)でもってうごく黒鉄の城か?

 

 

これから両者の戦いは激しくヒートアップしていき、遂に危険な領域へと突入する。

果たして、美星町の未来は如何に!?

 

つづく!!

 


 

次回予告

ピンキー忍者「やめて!♨ バーサーカーの攻撃で、美星町を焼き払われたら、美星町の財政まで全部燃え尽きちゃう!!♨

 

お願い、負けないでマスターP!!♨あんたが今ここで倒れたら、秋月流の住む町はどうなっちゃうの?♨ サイフはまだ残ってる。ここを凌ぎきれば、まだ復興出来るんだから!♨

 

次回、「美星町、財政破綻(死す)!!」。デュエルスタンバイ!♨

 

 

*1
出典:艦隊これくしょん

*2
出典:ポケットモンスター

*3
特別意訳:マジンガァァァ…

*4
マスターPイイイイ!!

*5
デテコオオオオオオオオオオオイ!!

*6
グワああああ!!

*7
挨拶がおくれたな!!俺はフランクフルト教団・七英霊が一人。

教祖様より淫らなる獣の力を与えられし者。超能力と機械の身体。あらゆる罠を踏み越えて突き進む破壊の権化!! 機械淫獣 バーサーカー だ!!

*8
それって自己紹介か?淫夢語録常用してるやつには言われたくねぇなwww

*9
俺とお前で真剣勝負…!!



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅰ (hasegawa作)



 砂原さまからリクエストを頂きましたので、【私の考える“最高のヒロイン”が登場する小説】を書こうと思います。

 ――――お久しぶり! 出番ですよマスターPさま♪








 

 

 

 

「いや~ん、えっちな風ぇ☆」

 

「フゥー♪ しまパンだぜぇー!」

 

 

 ヤングストリートにイタズラな風が吹き、スカートがピラッ♡

 女性は慌てて前を前を押さえるが、偶然この場を通りかかっていたマスターPは、バッチリ現場を目撃。

 一瞬の出来事であったにも関わらず、しっかりとパンツを目に焼き付け、心のDフォルダに名前を付けて画像を保存。今日はツイてるぜ!

 

「日頃の行いですねぇ! わいっていつも頑張ってるし? ご褒美ですねぇ!」

 こいつぁ朝から縁起がいいやーっ!」

 

 ピュー♪ っと口笛を吹く、昭和のリアクション。

 マスターP氏、ただいまご機嫌である。

 

 

 先日のバーサーカー襲来により、美星町は深刻なダメージを受け、財政破綻に陥ってしまった。

 マスターP氏も死力を尽くして戦い、見事に敵を撃退したは良いものの……、結果マジンガー絶頂は事業仕分けのために()()()()()()()()、そのパイロットである彼の方も、就任から10日という電撃的な速さで()()()()()()()()()()という、憂い目にあっていた。

 

「ここにいりゃあ、もう二、三回はパンツ拝めるかも!

 じゃけん、今日はずっとここに座ってよう! そうしましょうねぇ!」

 

 なので現在のマスターP氏は、リストラされたのを家族に言い出すことが出来ずに公園で時間を潰すお父さんのように、こうしてヤングストリートのベンチで佇んでいる次第。

 通りすがる女性達のスカートが捲れ、またパンツ見れたりしないもんかな~と、ひたすら一人待ち続ける。そんな不毛な時間を過ごしているのだった。

 

 あえなく職を失いはしたが、あと5日くらいすれば給料が入る予定なので、なんとかアパートは追い出されずにすむだろう。衣食住はなんとか保たれている状況だ。

 今は艦娘たちも、みんな遠征(という名の潮干狩り。食料調達の任務)に出掛けており、話し相手がいないのはちょっと寂しいけれど……。でものんびり今後の事を考えるのには、いい機会かもしれないと思う。

 

 すっかり常連となったあのコンビニで、店長さんと雑談するがてら購入した缶コーヒーをグビッといきながら、マスターP氏はヤングストリートのベンチに腰掛けつつ、のほほんと無為に時間を潰す。

 ついさっき「いやーん!」と声をあげ、慌ててスカートの前を押さえていた女性の方を、ニヤニヤ見つめたりしながら。

 

「風よ吹けッ! 嵐よ来たれィ!!

 地球のみんな、オラにパンツを見せてくれっ!

 Salam! Ismi Master P!」*1

 

 無駄にトリリンガルなのをアピッてしまったが……それが良くなかったのだろうか?

 テンションMAXだった彼が、思わずチュニジア語を口走った途端、件のパンツの女性が、ハッとした顔でこちらを振り向いたのだ。

 まっすぐマスターP氏の方を見つめている!

 

「やっべ、パンツ見てたのバレた……!?

 こりゃあ出るとこ出たら、けっこうな問題になりおる! マズいっ……!」

 

 もう退任したとはいえ、つい昨日まで町長だった彼は、タラリと冷や汗。

 しばしの間、向こうの方で立ちすくんでいる様子の女性と、互いにじ~っと見つめ合う。

 どうやら彼女の方は、先ほど声を出したのはP氏だという事を、ハッキリ認識しているようだ。今さら言い逃れは出来まい。

 

 土下座!? 謝罪と賠償!? わい明日の一面を飾るの!?!?

 そんな最悪の想像が頭を駆け巡る、長い長い数秒ばかりの時が、経過した後……。

 

「――――パパ?」

 

 ふいに、眼前の女性が口を開いた。

 呟くような、消えそうなほど小さな声。

 

「パパ……パパなのっ……? こんなところに居たのねっ!!」

 

 そう叫ぶやいなや、突然その女性が、()()()()()()()()()()()

 感極まった表情、キラキラと涙を撒き散らしながら、一直線にマスターP氏の方へ! 物凄いスピードで!

 

「ラァァァアアアーーヴ!!!!」

 

「 ほんけ゛っ!?!? 」

 

 アメフト選手もかくやというタックルが、P氏の腹に叩き込まれる。

 ベンチに座っていた彼は、その態勢のままベンチを巻き込んで吹っ飛び、腰にしがみついている彼女と一緒に、ゴロゴロとアスファルトを転がる。

 

「その特徴のないフツメン顔、爽やかな印象の短髪、無駄なチュニジア語……!

 聞いてた通りわよ♪ 貴方がマスターPわよっ!」

 

 後頭部を強打し、目にチカチカと星が散っている中で、あたたかな感触をかんじる。

 いま彼女は「~♪」と聞こえてこんばかりの顔で、嬉しそうにP氏に抱き着いている。

 やっと会えた、いっぱい探したよと言いながら、彼のお腹にグリグリ顔を押し付けているのだ。

 さっきパンツを見てしまい、怒られるとばかり思っていた、まったく見知らぬ女性が。

 

 

「こんにちはパパ! あたしHitomiってゆーの♪

 未来からやって来た、()()()()()()(はぁと)」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな馬鹿な。

 言っては悪いが、これがマスターP氏のいだく、正直な感想。

 

 別にドラえもんみたく、未来から来た~という部分が、信じられないワケじゃない。

 まだ17である自分に娘がいて、会いに来てくれたというのを、疑ったワケでもない。

 ここ美星町はぶっとんだ所だし? もう多少のハプニングでは驚かない自信があるし?

 

 ただ――――なんでわいの娘、()()()()()()()()()()

 

 身長196㎝。

 体重79㎏。

 アメリカ人みたいな体格。

 しかも筋骨隆々なのだ、この子は。

 

 若葉のように艶やかなライトグリーンの髪は、ちょうど肩の高さで綺麗に揃えられていて、シャンプーのCMみたいにサラサラと揺れている。

 そしてよく見れば、彼女は何故かナースキャップらしき帽子をかぶっており、いま着ている服さえも、よくエロ本とかであるような“ピンク色のナース姿”なのだ。

 

 わざと切り取ったかように丸く空いた胸元には、「正に爆乳!」と言わんばかりのド迫力メロンおっぱいが、見事なまでの谷間を作っている。

 更に、その極端に丈が短いエロデザインのせいで、ドン引きするくらいにバッキバキな腹筋が、今もチラチラと覗いているのが分かる。岩を連想させるようなゴツゴツさだ。

 

「未来の世界から、会いに来ちゃった♪

 あたしずっと寂しかったっ……! もう離さないのわよ! パパぁー♡」

 

 ――――えっ。わい誰と結婚したん? どーやったら、こんな娘うまれんの?

 髪の色以外、ほとんど()()()()()()()()()()。ホントにわいの子?

 

 パンツを見たのは謝る。この状況も甘んじて受け入れよう。

 だけど、それだけはどうか教えて欲しかった。

 

 

 とてつもない彼女の剛力(ハグ)によって、アバラ骨がバキバキ粉砕していく音を聴きながら、マスターP氏は思う。

 

 わいの未来の嫁、いったい何者やと。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ――――マスターPさんの浮気者っ! クソ虫!!

 

 ふとヤングストリートを通りかかったランカ・リーに、おもいっきりバゴーンとビンタされ、職ばかりか彼女まで失ってしまうという、とても不幸な出来事があった後……。

 

「わーお☆ ここがあたしのパパの、ハウスねっ!」

 

 現在マスターP氏は、自称「貴方の娘」こと腹筋バキバキナースちゃんと共に、寝床である6畳間の安アパートにいる。

 Hitomiと名乗る緑髪のマッチョウーメンは、その2メートルに迫るほどの高身長ゆえに、入口をくぐる時にゴン☆ と額をぶつけていたけれど、無事に()()()()()()()()()()、今も怪我一つなく元気な笑みを見せている。

 あぁ……敷金。

 

「まるで豚小屋わよ♪ 狭いし、くっさいし♪

 日本のハウスって、随分しみったれてるのね。きっと土地が狭いせいわよ。

 さすが日本人は慎み深いわ! 欲しがりませーん、勝つまではーっ!」

 

 そうHitomiは、一見ボロくそに言いつつも、「とっても素敵よパパ☆」とご満悦。

 どうやら日本家屋というものが珍しいらしく、ワクワクと喜んでくれている様子だ。

 

 今も機嫌良くマスターP氏の隣に座り、無邪気に腕に抱き着いている。

 彼女の“たわわ”と呼ぶには控え目すぎるダイナマイトバストが、ムギュッと押し付けられて変形。P氏が今まで見た事がないような、魅惑的な谷間を作る。

 

 先ほどは「筋肉すげぇなオイ!」と思い、随分驚かされたものだが、反面この子は充分に女性らしい“しなやかさ”を備えているのが分かる。

 とても柔らかく、肉感的ながら、美しいと形容するにふさわしいスレンダーな身体。ようはとってもセクシーな女の子なのだ。ちょっとした仕草もキュートこの上ない。

 

 まぁ座高は彼より“頭二つ分”くらいは高いし、ガタイも遥かにデカイけれど……。

 なんかオネショタみたいな絵面になってしまっていた。

 

「これからこの部屋で、パパと暮らすのね♪

 ちょっとせまいけど、あたし嬉しいわ♪ ギュ~ってひっつけるもん♡」

 

「待ってもらっていいすか?(困惑)」

 

 ウェイウェイ、ジャストアモーメンツ。

 はっはっは、お嬢さんご冗談を。ってなモンだ。

 

「さぁニ〇リに行きましょう! ドン・キ〇ーテにも! 必要なものを買わなきゃわよ!

 女の子は色々と物いりなのよ、パパ♪」

 

「いやちょいちょい。

 それよかちょっと、訊きたい事あるんd」

 

「服とか下着とかは、パパが選んでいーよ♡

 せいぜいエロいのをチョイスしてね! あたしが着てしんぜヨウ!」

 

「聞いて? わい今しゃべっとるからね?

 とりあえず、おたくの身の上とか、そこら辺なんやかんやn」

 

「あ、ベットとかはいらないよー? ()()()()()()()()()()()

 一緒にひっついて寝れば、寒い夜も安心でアリマース!」

 

「いや冬山じゃねーんだからッ!?

 んな事できっかよオイ! 童貞なめてんのかオォイッ!」

 

 思わず声を荒げてしまうが、Hitomiちゃんの方はキョトン? 意味が分からないって顔をしてる。

 

「なんで? あたしたち親子わよ?

 パパといっしょに寝るのも、いっしょにお風呂入るのも、娘ならアタリマエ♡

 なに言ってるのわよ、粉砕するぞキサマ?」

 

「怖ぇーな!!!! ……つか先から思ってたけど、おたく日本語が変ですねぇ!

 どこ生まれの人すか!?」

 

「あたし? どこなんだろーねぇ。

 パパはジャパニーズだけど、ママって国籍不明だし。あたし何人(なにじん)なのかなぁ?」

 

「ふぁッ!?!?」

 

 アパートに帰って来てから5分。はやくもきな臭くなってきた。

 とりあえずという風に連れて来たは良いものの、これ絶対めんどくさい事になると、P氏の脳内でアラームが鳴る。アカンアカンと。

 

 

「そもそもあたしって、()()()()()()()()()

 自分の事とか、よく分からないのわよ……」

 

 

 ハイテンションだったさっきまでとは違い、この子が少しだけ「しゅん……」としている。

 まん丸の目でお父さん(仮)を見つめながらも、どこか申し訳なさそうな表情。

 小さい子供が、親に怒られるのを怖がっているかのような、不安気な雰囲気を感じた。

 

「気が付いたら、この町にいたの。

 自分が着てる服の事も、持ってたバックの中身も、あたしには覚えがない。

 ぜんぜん分からないの……」

 

「ここかどこなのか、どうしてこんな所にいるのか、分からなくて。

 あたしいっぱい歩いた。もう何日も何日も、ずっと一人っきりで。

 ……そしたらね? パパがいてくれたのっ! よーやく会えたのっ♡」

 

「自分のことは分からないケド、でもパパのことは憶えてるっ! すぐ分かったヨ♪

 あー、これが若い時のパパなんだーって。

 あたしはきっと、タイムスリップしてパパに会いに来たんだなーって♪

 それだけはハッキリわかったのっ! えらいでしょ☆」

 

 ニコッと、花のように笑った。

 無邪気で、愛らしくて、お父さんへの信頼を宿した瞳。

 彼女の名前もHitomiというらしいけど、この大きくて感情豊かな瞳こそが、この子の一番のチャームポイントなんだろう。

 マスターP氏は、何気なしに思う。

 

「怖かったし、不安だった。あたし一体どうなるんだろうって思った……。

 でもね? あたし今とーっても嬉しいのっ♪

 だってパパに会えたんだもんっ! もう全部ヘッチャラわよ☆ えへっ♪」

 

 その笑みが可愛かった。

 がんばって、がんばって、ようやく願いが叶ったんだって、そう喜びを表している顔だった。

 いつの間にやらマスターP氏の胸に、ほんのりとあたたかな感情が湧く――――

 

 

「でも帰ってくれませんかね(真顔)」

 

「えっ」

 

 

 ――――だが断る。

 そう言わんばかりの、キッパリした態度だった。

 

「娘とかパパとか、それって貴方の印象ですよね?

 なんかデータとかあるんすか?」

 

「あれっ? えっ」

 

「嘘つくの、やめてもらっていいすか?

 わい、これからランカに土下座してこんとイカンし。いそがしーんすよお嬢さん。

 帰ってくれませんかね(二度目)」

 

 初めて出来た彼女なんだよ! 失ってたまるかァ!

 そうP氏は、不退転の意思を見せる。

 さっきヤングストリートでは、この子にしがみ付かれている所を見られたせいで、ランカにフラれてしまった。その誤解を一刻も早く、解きに行かなければならない。

 まだチューもエッチもしてないのに、このまま終わってたまるかと。

 

「……えっ、そんな事ある?

 はるばる未来からやって来た娘を、普通に追い返すって。そんな親いるの???」

 

「いますねぇ! わいがそうですねぇ!

 どうも、マスターPと申しますッ!

 趣味は食パンを殴る事と、『勝った』と思っているヤツに、絶望を突き付ける事です!」

 

 え、鬼畜なの? 日本人には人の心が無いの?

 彼女は「ポカーン」としてしまうが、マスターP氏は断固拒否の構えである。とってもいい顔をしていた。

 

「あの……いっしょに寝たりとか、お風呂入ったりは?

 あたしパパに、髪を洗ってほしい。ギューってして寝たいんだケド……」

 

「そんなもん、知ったこっちゃありませんねぇ!(迫真)

 女だからって、何でも通ると思ったら大間違いだぞ! 世の中甘くねぇぞオイ! オォイ!」

 

「あのね? あたし本当にパパと、いっしょに居たいのね……?

 この町に来てから、ずっと寂しかったし、パパのこと大好きだから……。

 ごはんも一緒に食べたいし、いっぱいハグして欲しい……。ずっといっしょに居t

 

「警察への通報は110ですねぇ!(迅速な対応)

 あーもしもしぃ。こちら元町長のマスターPというモンだがね?

 そちらでいちばん戦闘力の高いポリスメンを、大至急なるはやで」

 

「――――は ら わ た 掴 み 出 す ぞ キ サ マ ?」

 

「間違いでしたサーセン(韋駄天)

 ピザの出前を取ろうと思ったとです。忙しいとこスマンね!」

 

 彼女の上腕二頭筋が岩のように隆起した瞬間、ピッとスマホを切り正座。

 まっすぐ背筋を伸ばし、しっかりHitomiさん(殺意の波動)と向かい合う姿勢に。

 さっきまでとは打って変わって「キリッ!」っとした顔をしている。どうか命ばかりは。

 

「わい、こーいうの見た事ありますわぁ。

 サメとか熊とか、捕食者がする目……ブロリーも同じ目をしてたぞ」

 

「そう思うんだったら、ふざけないで欲しいかな?

 あたし真面目に話してるのわよ」

 

「うむ、何が望みなんだね?

 生ハムでもシーフードでもプルコギでも、おたくの好きなピザを取ろうやないか。

 わいもめったに食えんし、丁度いいと思いますねぇ! ほら遠慮すんなよすんなよ!」

 

「いや、ピザはいーんだけど……。パパってやっぱ破天荒わよね。

 昔からそうだったんだぁー。へぇー♡」

 

 ふぅ、とひとつため息。それでHitomiちゃんは機嫌を直してくれた。

 悪意が無く、どこか憎めないマスターP氏の人柄が幸いしたのだろう。さっきはドスの利いた声を出したものの、全然怒っていない様子だ。

 

「あたし自分のことは分からないけど、パパのことは分かるよ?

 確かこの先、()()()()()()()()()になるんだよね。すごいよねパパ♪」

 

「――――そーなん!? でも何でチュニジア?!?!」

 

「あとぉー、なんか“タイ人の女性”の婿養子に入った事が、あるらしくってね?

 一時期、パパの苗字が()()()()()()()になったんだって。

 マスター・P・チョモラペット氏って呼ばれてたよ♪」

 

「――――えらいグローバル!! でもチョモラペット!?!?」

 

 波乱万丈。マスターP氏の未来は、驚愕に満ちていた。

 

「あと、原発に変わる新しいエネルギー供給源を開発したり、ナチスドイツの残党共を単身で壊滅させたり、地球に迫る巨大隕石を食い止めたり。

 だからパパって、ノーベル賞10個くらい取ってるのわよ。

 これ歴史の教科書にも載ってる事だから、未来じゃみんな知ってるよ♪」

 

「すげぇなわい!? 名前チョモラペットなのに!!」

 

「だからね? あたしママの顔も、友達の顔も憶えてないけど、パパのことは分かるの♡

 記憶喪失って言っても、別にぜんぶ忘れちゃうワケじゃなくてね?

 自転車の乗り方は分かるし、方程式の解き方も、サッカーのルールも知ってる。

 それと同じくらい、パパの存在って()()()()()()()()()()()

 お札にパパの絵が描かれてるんだもん」

 

「諭吉と同じカテゴリー!?

 よぅ分からんが、記憶喪失に勝った!!!! やったぁー!」

 

 たとえ記憶を失ったとしても、マスターP氏の事は忘れない。忘れられない。

 それくらいこの人は、将来大暴れするらしい。世界を股にかけて。

 

「そ、それはともかく……おたくもチョモラペットなんか?

 タイ人とかの感じには見えんが」

 

「ううん、あたしはパパが再婚した時の子供、なんだと思う。

 だからタイ人じゃないし、ヒトミ・チョモラペットでもないのわよ」

 

「せやな、日本人顔だし。

 まぁアメリカ人みてーなガタイしてっけども……。

 つーかさっき、『ママの顔おぼえてない』って言ってたよな?

 かーちゃんがどんなヤツなのかも、分かんないのか?」

 

「うん……ごめんなさい、パパ」

 

 身長196cmで、板チョコみたいに腹筋バキバキ。アマゾネスめいた身体。

 こんな子が生まれるんだし、わいは一体どんな女と結婚したのかが、非常に気になっていたのだが……。どうやらそれを知る術は無いようである。

(緑色の髪という事で、一瞬ランカ・リーの事を連想したけれど、でもHitomiいわく「あの人じゃないと思う」との事。どうやら無関係のようだ)

 

 今この子は記憶喪失で、マスターP氏という“パパ”の事しか憶えていない状況。

 しかも分かるのは顔とか経歴くらいで、どんな風に一緒に暮らしていたのかという、所謂“親子の思い出”の記憶は失っているのだという。

 

 分かっているのは、「自分はパパに会いに来たんだ」、という目的。

 そして胸の中にある、「あたしはパパが大好き」という、たとえ記憶を失くそうとも、決して忘れ得ないほどに強い気持ち。

 

 その2つだけが、いま彼女が持っている物の全て。

 それだけをギュッと握りしめて、彼女はこの見知らぬ町で、ひとり頑張っていたのだ。

 頼れる人もおらず、衣食住にも事欠く状況下で、もう一か月もの間、ずっとパパを探して歩き回っていたのだという。

 

「ちなみにだけど、あたし“この服”の事も、よく知らないのわよ。

 なんであたし、こんなの着てるんだろう? ナース服にしては変なデザインだけど……。

 この時代の看護師さんって、こうなの?」

 

「いやそれ、A()V()()()()()()()()()()()()()

 ナースキャップに十字架が書いてるし、胸元空いてるし、めっちゃピチピチのミニスカだし。

 エロい!(迫真)」

 

 えーぶぃ? なにそれパパ?

 きっと未来には無い言葉だったのだろう。Hitomiは「はてな?」って感じの顔をするが、それを説明するのは憚られる感じなので、マスターP氏は無言を貫く。

 というか、マスターP氏もまだ未成年だけどな! 知らないハズだけどな!

 ――――AV観たりとかしてないよね?! マスターPくん!(質問)

 

「だからね? あたし何にも分からないし、心細い……。

 出来たら、パパと暮らせたらって思うんだけど……ダメかな?

 パパにも都合あるだろうし、どーしてもダメなら、仕方ないわよケド……」

 

「……」

 

「で、でもね!? たまに会って欲しいのっ!

 これからもパパに会えるんなら……、あたしきっと頑張れるから! 知らない町だってヘッチャラわよっ!

 いっしょに暮らせなくたっていい! パパの傍にいたいの……! お願いっ……!!」

 

 本当は、縋り付きたかったんだと思う。

 飛びついて、ぜったい離さないって、ギュッと抱きしめたかったハズだ。

 でもHitomiは、涙の滲んだ目でじっとP氏を見つめながら、ちゃんとその場に座ったままで、真剣にお願いする。

 

 勢いとか、無理やりとか、腕力とか、そういうので押し切ってしまうのではなく、まっすぐに自分の気持ちを伝える。

 たとえ身寄りが無く、どれだけ不安で怖かったとしても、パパの言うことなら聞く。パパに迷惑はかけないと。

 

 だから、自分と会って欲しい――――あたしにはパパだけなの。

 そんな健気でいじらしい、一生懸命なお願いの仕方だった。

 見ていて、胸がキュンとつまるほどの。

 

「……アッハイ。コレ絶対めんどくさいヤツですわ。

 間違いありませんねぇ(クソデカため息)」

 

 顔を背け、この子に聴こえないくらい小さな声で、ボソッと呟いた。

 ……でもまぁ、わいマスターPですし? 雨に濡れた子犬とか、メッチャ拾ってくる方ですし? こんなの今さらかなぁ~。

 そう人知れず、加えて一瞬にして「 覚 悟 完 了 ! 」を決めたマスターP氏は、まるで聖母マリアみたいに祈りながらウルウルしちゃってる女の子の方へ、改めて向き直る。

 

 職を失ったばかりで、彼女にはフラれ、艦娘たちも出払っている最中だけど……そんなの関係あるかと。アイアム ザ マン!!

 

 

「あーこれH()i()t()o()m()i()()? あんまのんびりしてっと、ニ〇リもド〇キも閉まっちまうから。

 じゃけん、そろそろ買い物に出掛けましょうねぇ!(人間の鑑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメフトみたいな喜びのハグが、マスターP氏のアバラを粉砕。

 流石はリアル・アマゾネス。軽トラくらいの衝撃力であった。

 

 

 

 

 

*1
チュニジア語で「こんにちは、私はマスターPです」の意









 連載をします。

 もう一度申し上げます、()()()()()()(真顔)

 こちらは起承転結における“起”の部分。
 あとこの三倍くらいは書きますので、もしよろしければ、のんびりお待ち下さいませ♪



(hasegawa)




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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅱ

 

 

 

「うぅ……ああぁ……! あぁーっ……!」

 

 たくさん泣いた。前が見えなくなるくらい。

 真っ暗闇、ひとりっきりの世界で、涙を流し続けた。

 

「えぇえっ……! ぐすっ……! ぐすっ……!」

 

 “任務”の後は、いつもこう。

 とめどなく悲しみと恐怖が込み上げてきて、立っていられなくなる。

 

 わたしは現場をはなれ、ひとり安全な場所まで辿り着いた途端、崩れ落ちるみたいにして、その場に蹲った。

 顔を覆って、声を噛み殺しながら、ひとり泣き続ける。

 

 ペタンと地面に座ったから、膝やおしりは泥まみれ。

 それに、さっき殺した人達の返り血で、わたしの着物は酷く汚れているハズだった。

 でも気にしない。ここは真っ暗だし、誰も居ないから。人に見られる心配をしなくてすむ。

 それに着物の汚れなんて、気に掛ける余裕もないから。

 

 本当は、はやく帰らなくちゃいけない。

 すぐにこの場を離れ、みっつめのセカイに……“里”に戻らなくては。

 任務を終えたら、ただちに帰投すべし。けして標的以外の現世(うつしよ)の者共に接触してはならぬ。姿を見られてはならぬ――――

 そう親方様に言い付けられているから、いつまでもこんな所で、泣いてはいられないんだ。

 けれど……どうしてもわたしの足は、動いてくれなかった。

 

 圧し潰されそうな悲しみが、わたしを跪かせる。重りみたいに地面に繋ぎ止める。

 さっき聞いた、わたしが殺した人達の悲鳴、絶望に染まった恐怖の顔が、なんどもなんどもフラッシュバックする。ドロドロした赤い光景が、頭を離れない。

 

 

 いやだ、いやだ、いやだ。

 たすけて、たすけて、たすけて――――

 

 

 なんども思った、なんども助けを求めた。いつもいつも。

 わたしがやってきた事、わたしが見てきた物を、無かった事にしたかった。

 誰かに、ここから連れ出して欲しかった。

 姫をさらう王子様のように、連れ去って欲しかった。

 

 わたしを取り巻く、全て。

 義務や、里や、任務や、宿命から、助けて。

 そう何度も願った。いつもそればかりを思っていた。

 

「えええんっ……! うえぇぇぇんっ……!」

 

 だけど……、それは決して届くハズないのを、わたしは知っていたんだ。

 あの里に生まれてしまった以上、わたしの運命など、もう決ってるんだから。

 これからもわたしは殺し、殺して、殺し続ける。……あの里に囚われ続ける。

 

 それはずっと変わらない。

 未来永劫、けして逃れられない、宿命。

 いつか死んでしまう、その時まで。ずっとこのままなの。

 

 だからこの声も涙も、暗闇の中に消える。今この時だけの物。

 誰にも知られる事なく、いつものように溶けていくんだって。

 ……そう、思っていたのに。

 

 

 

『――――フリィィィザァァァーーッッ!!!!』

 

「 わひぃっ!?!? 」

 

 突然、眼前にある茂みの中から、ガッサァと()()()が飛び出して来た。

 なんか「だりゃりゃりゃあーっ!」と、悟空がパンチを繰り出す時みたいな声をあげながらだ。

 当然のごとく、わたしはビックリして〈ドテェー!〉っとひっくり返る。

 

「出て来ぉい! フリーザァーッ! 俺はオメェを許せねぇぇぇーーッッ!!!!」

 

「わぁーっ!?!?」

 

 いきなりこの場に現れた、見知らぬ男の子。

 彼はなにかを叫びながら、「うぉぉぉ!」って感じで木によじ登ったり、そっから隣の木に飛び移ったり、大暴れし始める。

 

 きっとだけど、この子は今“ドラゴンボールごっこ”をしているのだろう。

 脳内でフリーザと戦っている所を思い描きながら、スーパーサイヤ人にでもなったつもりで、ひとりこの場を駆けまわっている。

 たぶん途中で木に登ったり降りたりするのも、ドラゴンボールの空中戦をイメージしての事かもしれない。

 

「……ん、なんだオメェ? どーしてこんなトコにいるんだ?」

 

「あ、あわわわ!」

 

 暫くし、脳内スーパーサイヤ人に興じていた彼が、こちらに気が付いた。

 さっきまであんなにエキサイトしていたのに、呼吸ひとつ乱していないのが凄い。これは暗殺者の里に生れたわたしをしても、驚愕のフィジカルだった。

 

 

「――――おっす! おらマスターP!

 今日は家族でキャンプしに来たぞっ!」

 

 

 なぜかジャンプ漫画の主人公みたいな喋り方。

 マスターPと名乗った少年が、地面にへたり込んでいるわたしに、握手を求める。

 ニコッと爽やかに笑いながら。

 

「いっぺぇメシ食ったから、腹ごなしに修行してたんだっ!

 この森って、川とか崖がいっぱいあるし、いい修行になんじゃねーかって!

 オメェは何してんだぁ?」

 

「……」

 

 ちなみにだけど、ここはとある森の奥深く。

 もうとっくに日が落ちているし、とても子供が一人で来るような場所じゃない。

 きっとこの6才か7才くらいの少年は、家族とやって来たというキャンプ場で遊びまわる内、勢いあまって森の中へ入ってしまったのだろう。

 この子は今テンションMAXで、まったく自覚してないんだろうけど……立派に遭難していた。

 親からはぐれ、こんな所まで来てしまったのだから。ひとりで帰れるかどうか怪しい。

 

「なんだオメェ、んなトコにへたり込んでよぉ。

 元気ねぇなぁ! 仙豆くうか仙豆?」

 

 確かこの辺に~、とか言いながら、男の子はズボンのポケットをゴソゴソ。

 そしてすぐ、入れてあったらしきチョコボールの箱を取り出し、「ほれ!」とこちらに差し出す。本当に何気ない仕草で。

 

 一瞬――――殺そうかと思った。

 反射的に、わたしの手が懐の小太刀に伸びそうになる。

 

 顔を見られたからには、生きて帰せない。目撃者は必ず消せと、わたしは教えられている。

 今のほほんと微笑んでいる少年の首筋に、抵抗する間もなく小太刀を一閃し、息の根を止める。そのビジョンがハッキリ脳裏に浮かぶ。わたしが今から行うべき行動として。

 けれど……。

 

「ほれ、手ぇ出せ手!

 これ食えば、どんな怪我だって治っちまうんだぜ! すーぐ元気になれっぞっ!」

 

 なぜかわたしの手は、そっと彼の方に伸びた。

 懐の小太刀ではなく、彼が差し出してくれた仙豆(チョコボール)を受け取るため、お皿の形を作って。

 

 何故そうしたのか、何故すぐ殺さなかったのか、わたしには分からない。

 ただ……当たり前みたいにお菓子を分けてくれた。エグエグと泣いている見知らぬ女の子に、ニコッと微笑んでくれた。

 そんな男の子の優しさが、私にすべてを忘れさせたのかもしれない。

 

 自分が取るべき処置も、里の教えも、ぜんぜん行動に移せなかったの。まるで頭と身体が切り離されたみたいに。

 まさか一般人の子と慣れ合うだなんて、自分でも本当に意外だった。普段なら考えられない行為。

 

 きっとわたしは、放心していたんだろう。男の子の眩しい笑顔に照らされて。

 ただP君を見つめるのに、夢中だったんだと思う――――

 

 

 

「今日って“七夕”だろ? 星を見に来たんだよ。

 ここって山ん中だし、よく見えそうじゃん?」

 

 もらったチョコボールを大事にポリポリしながら、P君のお話を聞いた。

 都会っ子である彼は、天体観測が趣味であるという親御さんに連れられ、この人里離れた山へキャンプをしに来たのだという。

 初めての野外炊飯をしたり、四苦八苦しながらテントを立てたり、家族みんなで花火をしたり。今日はすごく楽しい一日だった~と、わたしに教えてくれた。

 

「なぁ、短冊書いたか?

 お願いごと書いたら、織姫サンと彦星サンが叶えてくれんだってな!

 わい何にしよっかなーって、ずっと考えててさぁ~。困ってんのさぁ~」

 

 夢中になって聞いた。わたしは時を忘れ、ずっとPくんと話し込んでた。

 ……まぁ遭難している彼を、さりげなくキャンプ場まで送り届ける道すがら、だったのだけど。

 でも一緒に並んで歩くのが、とても楽しかった。今まで感じた事が無いくらい、幸せな気持ち。

 

 彼の表情は、まるで万華鏡のようにコロコロ変わる。

 修練と任務を繰り返す、人を殺し続ける……。そんなわたし達の人生では決して出会うことの無い、感情豊かな人。掛け値なしに優しい人。

 私にとって、彼は決して手の届かない、眩しい物に見える。“普通”という名の、キラキラした憧れ、そのもののような。

 

「えっ、やった事ねぇの?! ウッソだろおい!?

 ならお前も書こうぜ! 今もってっからさぁ!

 何をお願いすっか、いっしょに考えよう! 頼むよ頼むよー」

 

 彼が山道を立ち止まり、またポッケをゴソゴソ。カラフルに色が付いた紙の束と、サインペンを取り出す。

 

「ほらお前んだ。好きなん書けよ。

 あっち帰ったら、一緒に飾っといてやっから。わいにまかしとけ!」

 

 

 ニカッと笑い、わたしに短冊を手渡してくれる。

 

 わずかに触れあった手が、とてもあったかくって、ドキドキした――――

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 

 

 

「ん? ……あぁ、寝ちゃってたのかぁ」

 

 仕事デスクでうつ伏せになっていた身体を、気だるそうに起こす。

 

「随分とまぁ、懐かしい夢を……。あれからもう10年になるのね……。

 ヤなもん見ちゃったなぁ。別に思い出したくなかったよ」

 

 パシパシとまばたきをし、「うーん!」と身体を伸ばす。

 まだ夢うつつで、頭はぼんやりしているけれど、彼女は顔でも洗って来ようと、一念発起して椅子から腰を上げた。

 

「ま、これも何かの(おぼ)し召しかも?

 なんてったって、あのP君の夢だからね」

 

 自分以外は誰も居ない、デスクライトの灯りだけが照らす、薄暗い自室。

 そこには得も知れぬ機械、巨大な装置、ポコポコと水泡があがっているカプセル型の水槽などが並ぶ。まさにマッドサイエンティストの研究室、といった風情だ。

 

 彼女はスタスタとスリッパの音を響かせ、薄明りを頼りに洗面所へ。

 そして数分がたった後、あたたかな湯気を放つコーヒーカップを手に、この場に戻って来た。

 

「もう6時半か。これ飲み終わったら、そろそろ仕事を始めなきゃね。

 小雪ちゃんが待ってるわ♪」

 

 

 

 組織の命によって、彼女がこの美星中央病院に潜入してから、早三か月の時が経過している。

 当初は秋月小雪の調査が任務だったのだが、ここ最近になって、組織の裏切り者である“ワーキングプア侍”が、よく小雪の病室を出入りするようになったせいで、その監視も任務の内に含まれるようになってしまった。

 それに、どうやら裏秋月の当主らしき、よく分からん極道の男までセットだというのだから、彼女のストレスはマッハだ。

 

 これってもう、一介の構成員(兼組織のサイエンティスト)に任される仕事じゃない気がしてる。無駄に戦闘力高いからねアイツら? バカみたいに強いのよ。

 

 しかも、しかもだ。

 ここに来て、それとはまた別の任務が、新たに命じられたと言うのだから驚きだ。

 きっと親方様……いや()()()()()()()の気まぐれか、単なる思い付きなのだろうが。そのお鉢がこちらに回って来るというのは、ホント如何なものかと思う。

 

 まぁこの任務に関しては、他ならぬ自分こそが最適任者である、というのは理解できる。

 でも小雪ちゃんの事でクッソ忙しい私に対し、今度は()()()()P()()()()とは、どういう事だ?

 ヤツの金玉もいで、私の前にキッチリ2つ並べなさぁ~い♨ ……とはどういう了見だ?

 

 いくら組織の長とはいえ、ちょっと人使いが荒すぎやしないだろうか? 明らかな労働過多である。

 おかげでここ一か月ほどは、調査だの研究だの監視だので、ロクに寝ていない。

 彼女の人目を奪うほどに美しい肌も、荒れに荒れ放題である。化粧でなんとかしてるけども。

 

 

 

「まっ、すでに手は打ってあるし。

 P君については、片手間で大丈夫でしょう。()()に全部任せるわ」

 

 さっと姿見で髪を整える。彼女のトレードマークとも言える銀髪のツインテールが、左右にピョコッと跳ねる。

 そしてクイッとメガネの位置を直し、羽織っていた白衣を脱ぎ捨て、いつもの()()()()姿()()

 ここ美星中央病院の患者達から、「美の化身」だの「おエロ様」だのと崇められている、ボンキュッボンな均整の取れたボディラインが、クッキリとあらわに。

 

「はぁい小雪ちゃん、ご機嫌いかが♪

 昨日貸してあげた薄い本は読んだ? でゅふふふwww」

 

「あっ、力石さん! おはよーございます♪」

 

 自室である研究室を出て、まっすぐ小雪の病室へ。

 扉をくぐり、その顔を見た途端、小雪の嬉しそうな声が聞こえてきた。

 

 

 彼女の名は――――爆乳ナイチンゲールこと力石さん。

 

 ここ美星中央病院のナースであり、組織の命により潜入調査を行う“クノイチ”の女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 あのアメフトタックル(歓喜のハグ)より5分後の、美星鎮守府(六畳間アパート)

 お日様が真上に昇り、とても気持ちの良い陽気の中、マスターP氏は国籍不明の“押し掛け愛娘”ことHitomiを伴い、駐輪場に足を運んでいた。

 

「パパだいじょうぶ?

 血まみれだし、吐血もしてるし、ちょっと休んだ方が……。

 きっと臓器が損傷s

 

「気にすんなってHitomi。こんなの美星町じゃ、日常茶飯事だぜ?」

 

 優しく付き添われながら、ゆっくりと歩く。

 これは自分のせいという事もあり、彼女の方はすごく不安気な顔だが、P氏は「へっちゃらへっちゃら」と気丈に振舞う。

 たとえ今、膝ガックガクでも。ちょっと気を抜くとクルッと白目を剥いてしまうくらい、身体的ダメージを負っていてもだ。

 

「さぁ急ぐぜ、ド〇キが閉まっちまうぜ、わいに付いて来いぜHitomi」

 

「う、うん……でも無理しないでねパパ? あたし買い物なんて別に……」

 

「遠慮すんなぜ、人間には215本も骨があんのぜ。アバラの5,6本が何だぜ」

 

「なぜ急に“ぜ”を付けだしたの? そんなんじゃなかったのわよ」

 

 今日からわいはお父さん! 娘にいいトコ見せたい!

 そんな想いがアリアリと滲み出ていた。分かりやすい男である。

 

「それより見ろよHitomi! ――――そぉぉうあ゛っ!!」

 

「?」

 

 駐輪場の一角にて立ち止まったP氏が、その場にある防護シートのかかった乗り物に手をかけ、おもむろに引っ張る。

 シートがブァサッ! と勢いよく翻り、中からとても大きなバイクが姿を現した。

 これはハーレーダビッドソンのFLHTCU-I S/C。いわゆるサイドカーだ。

 

「すごい! あたしこんな立派なバイク、見たこと無いっ……☆」

 

「ウケケケ! 町長になったら、絶対ハーレー乗ってやろうって、そう決めててさぁ!

 昨日よーやく届いたんだけど、ナイスタイミングですねぇ!」

 

 巨大なバッファローを連想させるような、重厚感のある黒いボディ。

 ふっといタイヤに、ピッカピカに光るエンジン。そして車体の右側に取り付けられている、かっこいいサイドカーが男心をくすぐる。

 何より、排気量なんと1450ccという、まさにモンスターマシンというべきバイク。めちゃめちゃカッコいいハーレーなのだ。

 

 マスターP氏は「がっはっは!」と胸を反らして笑う。

 隣に立つHitomiに「すごいすごい!」と褒められ、とてもご満悦の様子だ。

 まぁローンを払い終わる前に、町長解任されてるんだけども。お値段170万円也

 

「ほら乗れよ乗れよ~。遠慮すんなよHitomi~。

 これからこのサイドカーは、Hitomiの指定席だ! お前のだかんなー!」

 

「う……うんっ! ありがとうパパ!!」

 

 感激しながら、イソイソとサイドカーに乗り込む。

 まぁぶっちゃけ、身体の大きなHitomiがハーレーの本体に跨った方が、見栄えはするのだろうが……それは言いっこなしである。

 彼女は慣れないサイドカーに少し緊張しつつも、パパの優しさと男らしさを感じて、とっても嬉しそうな様子。絵に描いたようなホクホク顔だ。

 

 ド〇キやニ〇リに行くのに、こんな御大層なハーレーで?

 正直そう思わないことも無いのだが、二人が楽しそうだからOK。何の問題もないのだ。

 

「んじゃあ出発すんぞーぅ? しっかり掴まっててくれよな! 頼むよ頼むよ~」

 

「はーい♪ 了解わよパパー♡」

 

 イグニッションキーをONに入れ、ブォンとエンジンを吹かす。

 その低くて、大きくて、カッコいい音は、まさにヒーローの乗り物だ。

 二人のテンションは天井知らずに上がり、トクントクンと胸が高鳴る。目がキラキラ輝いている。

 

「いっくぜぇマスターP号・ウォルターウルフ! ()(パツ)だぁぁぁーーッ!!」

 

「ゴーゴー♪」

 

 グッとアクセルを入れ、一気に走り出す――――

 会ったばかりの愛娘を乗せた【マスターP号・ウォルターウルフ】は、一直線に電信柱に激突。大破した。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 Hitomiは綺麗だと思う。

 親の贔屓目を抜きにしても、とても魅力的な女の子。

 

「……っ! ……っ!」

 

 けれど今、Hitomiはお父さんの背中に必死に隠れるように、小さく縮こまりながら大通りを歩いている。

 まぁ小さくといっても、P氏より()()()()は大きいし、ぜんぜん隠れてないような気もするが。

 

「おっ、どうしたどうした? なんかあったかHitomi?」

 

「……ううん」

 

 背中に向かって問いかけるも、なしのつぶて。

 今もHitomiは、出来るだけ人に見られないようにするように、マスターP氏の背中にピッタリくっついている。

 まぁくっつくと言っても、二人の身長差が物凄い事になっているので、なんか【ウサギの人形を抱えている女の子】みたいな感じにしか見えないが。

 たまにリアルにひょいっとP氏を持ち上げ、人目を避ける盾のように使ってたりするし。本当にお人形さんみたいな扱いだ。

 

「あの……あたしって“おっきい”でしょ? だから恥ずかしくって……。

 みんながチラチラこっち見てるの、わかるモン……」

 

「おん?」

 

 モジモジと赤面。さっきまでの元気な姿とは裏腹、「しゅん……」としている様子。

 

「あたしが話しかけると、みんなギョッ!? って顔をするの。

 道を訊いたり、お店を訊いたりしたいだけなのに、ピューって逃げてっちゃう人もいる。

 きっと、あたしの事コワイんだと思う……。

 だからあたし、人に見られるのが、ヤなの……」

 

 

 

 何も分からないままで、美星町を彷徨っていた一か月の間、Hitomiはずっと独り。

 誰も彼女に手を貸さず、話に耳を傾けようとする者は、居なかった。

 

 

 Hitomiは“196㎝”という、非常に高身長な子。

 しかも、神話の世界から出てきたかのような、とてつもない肉体美を誇る。

 たとえ女子ボディビルの世界大会であっても、これほど身体の大きな女性は、非常に稀だろう。

 

 身体が引き締まっているとか、マッスルだとか、そんなレベルじゃない。

 彼女の肉体は、もうビックリするくらいに()()()()()

 これを見た者がみんな、「ぱちくり」とまばたきをし、我が目を疑ってしまうほどに。

 

 一般的に、理想的なバランスとされているのは八頭身ほどだが、Hitomiは非常に小顔な子であり、もう11とか12頭身に見える。

 しかも、ただ身体がデカイのかというと、決してそういうワケじゃなく……とても足が長くて、スラッとした体形。女性誌のモデルさんみたいなのだ。

 

 筋肉があると言っても、女性らしい丸みや“しなやかさ”はしっかり備えているし、決してゴリラと形容されるようなゴツさでは無い。

 普通これほど背が高ければ、巨人みたく「ぬぼぉ~!」っとして見えちゃいそうな物なのに、Hitomiに関してはスラッとして見える程だ。

 むしろその引き締まった筋肉が、高身長である事とマッチして、美しさを演出しているのだろう。

 

 2つのメロンを連想しちゃうような、ダイナマイト・バスト。

 岩や板チョコを思わせるような、ゴツゴツでバキバキの腹筋。

 これも彼女という女の子を彩る、大切なチャームポイントに他ならない。

 

 まるで神様がデザインしたかのような、奇跡的なまでのバランス――――

 有り体に言えば、アニメでも漫画でも見たこと無いくらい、()()()()()()()()()()()()()女の子だった。

 

 ……確かにP氏と並んで歩けば、その身長差は目立ってしまうだろう。

 でも仮に、彼女ひとりで写真でも撮ろうものならば、人々はその作品を見て、きっと感嘆の声を漏らす事だろう。

 ――――まるで女神みたいに綺麗な人だ、と。

 

 

 ようは、そんな美の化身アフロディーテみたいな女の子に、「ちょっとすいません」と声を掛けられたなら、素面を保っていられる人間など存在するハズもない、ってだけの話。

 相手は、明らかに存在としてのカテゴリーが違う、生き物として“格上”だとハッキリ分かるような、とんでもなく綺麗な女性なんだから(しかもエロいナースコス着てるし)

 

 Hitomiが話しかけた、または彼女の姿を見た誰しもが、「あわあわ!」と狼狽えたり、ギョッとして後ずさったり、ポカーンと口を開けて硬直したりした。

 それをHitomiは、「あたしが怖いからなんだ」と、ネガティブに解釈しているに過ぎない。

 すでにこの子と打ち解けているP氏から見れば、それは盛大なまでの“勘違い”。

 

 今も自信なさげに俯き、赤面しながらモジモジと恥じらっている、“おっきな”女の子。

 見た目とは裏腹かもしれないが、その姿を「カワイイ」と思ってしまう自分は、おかしいんだろうか? マスターP氏は思う。

 

 普通これだけ容姿が優れていたら、自信満々だったり、傲慢だったりしそうな物なのに……。

 でもHitomiはとても恥ずかしがり屋で、パパの背中にサッと隠れちゃうような、愛らしい子だったのだ。

 

 

 

「でもたまにだけど、あっちから話しかけてくれる人もいたヨ?

 たいていは、なに言ってるのかよく分からなくて、『日本語わかりませーん』で済ませちゃうケド……」

 

「なぬ?」

 

 ピキッ! とP氏の表情がこわばる。

 Hitomiはこんなにも綺麗な子なのだ。なんぞ良からぬ事を考えて声をかける輩がいても、まったく不思議じゃない。

 早くも親としての庇護欲に目覚めたか。P氏は僅かに眉間に皺を寄せつつ、そりゃーどんなヤツだと訊ねる。

 

「大学生くらいの、痩せっぽっちな男の人がね?

 ダダダって駆け寄って来るなり、『貴方のために3分間祈らせて下さい』って。

 あたしの足元にハハーッ! って跪いたのわよ」

 

「――――気持ち悪ッ!? なんだソイツおい!?!?」

 

 変な宗教でもやってるのか、あんまりにも綺麗だからつい跪いちゃったのか。

 彼が何を思っていたのかは、知る由も無い。

 

「あたしが道路脇に立ってたら、何故か『ありがたや、ありがたや』ってナムナム拝んでいくオジイチャンとか。無言でご飯をお供えしてくれるオバアチャンとかもいるヨ?」

 

「ゴッドに見えてんのかHitomiは!? すげぇな俺の娘!!」

 

「空手着とか柔道着のオジサンが、『俺と戦ってくれ』って訪ねてきたり。

 どれだけ言っても帰ってくれないから、適当に腹パン入れたげたら、川にドボーンと落ちてね? ぷかぷか流されていったヨ」

 

「範馬勇次郎じゃねーか! 武の(いただき)を目指す者達の、目標になっとる!!」

 

「下校中のちびっ子達に見つかったら、もうタイヘン。

 メッチャあたしのおっぱい触ってくるし、腹筋にボールとかぶつけてくる……。

 だから頑張って逃げるの」

 

「意外な弱点あったな!?!?

 屈強なオッサンには勝てても、小学生には勝てんか! ヤツらは無邪気に残酷だかんな!」

 

 Hitomiが来ているナース服は、やたら胸が強調されたデザインだし、しかも極端に丈が短いのでお腹が丸見えだ。加えて彼女はものすごーく丈夫そうな女の子。

 あれか、遊園地の着ぐるみマスコットを見ると、ポコポコ殴りたくなるみたいな。

 子供達がイタズラしたくなっちゃうのも、なんか分かる気がした。恰好の標的である。

 関係無いけれど、小学生の子達から「わーん!」と逃げるHitomiを想像してみると、なんかカワイイ。

 

「だからネ? あたしパパと会えて、ホントに嬉しいのわよ♡

 もうひとりじゃないモン! もう寂しくないモーン! えへへ♪」

 

 ギューっと抱き着く。もうハートマークが見えそうなくらい、幸せそうな顔。

 本当は恋人みたく、腕にしがみ付ければ良いのだが、この身長差だ。

 Hitomiは例によって、P氏をお人形さんのように抱きあげて、ほっぺをスリスリ。とってもパワフルな娘であった。

 

「とりあえず、どっから攻めますかねぇ!

 日用品や衣服は必須として、Hitomiは他に欲しいモンあるか?」

 

「うーん、どうだろ? ベッドはパパといっしょに寝るから、別にいーし。

 服とかシャツも、パパのを借りたらいーと思うし、やっぱいらないかナー?」

 

「はっはっは。ちょっと待ちやがれ下さい」

 

 それでいいのか女の子、とばかりに待ったをかける。

 半ば押し掛けのような形だし、「金銭的な負担をかけたくないと遠慮してるのか?」と疑ったが……どうやらこの子は本気で言っているようだ。

 Hitomiいわく「出来るだけパパといっしょのがいい」との事。年頃の娘さんにあるまじき発言。

 

「いや要るだろ。下着とか化粧品とか、あと()()()()とか……」

 

「ダンベル? なにそれ?」

 

 Hitomiにぶらーんと抱きかかえられながらも、その逞しい二の腕を凝視。

 すげぇ、ドーラが食ってたハムみてぇだ。わい普通に55㎏くらいあるのに、ぜんぜん疲れた素振りないし。めっちゃ安心感あるし。

 

「プロテインも買わなきゃな。

 サプリメントとか、ノンオイルのシーチキンも」

 

「そんなの要らないヨ? あたし普通のごはんが良いのわよ」

 

「えっ、日々の絶え間ぬ鍛錬と食事が、筋肉を作るんだろ?

 お前まさかっ……筋肉を裏切るつもりか!?

 そんなのお父さん許しませんよ! なめてんのかテメェ!!」

 

「い、いらないったら。別に鍛えてないモン……。

 なんかあたし、普通にお水飲んでるだけで、()()()()()()()()()()

 

「――――なにそのD.N.A!? 生まれついての虎ッ?!?!」

 

 黒人も真っ青の体質。

 考えてみれば、Hitomiはここ一か月ほど衣食住にも不自由してたんだし、ロクな食事を摂っていなかったハズ。それでこの肉体美なのだ。

 彼女の言っている事の信憑性を感じる。

 

「あー、でもひとつだけ欲しい物があるカモ。

 ワガママ言っちゃうけど、お願いしてもいーかな……?」

 

「おっ、いいですねぇ! 来いよ来いよHitomi!

 どんどんワガママ言って良いんだぞぅ!」

 

「うんっ、ありがとうパパ!

 あの……あたしね?」

 

 満面の笑みでYES。

 屈強な見た目してる割には、どこか控え目でシャイなHitomiの、初めてのおねだり。

 これは是非聞いてやらねばと、「ふんすふんす!」と鼻息を荒くして、彼女に向き直る。

 けれど……その時。

 

 

『――――見つけたわ! この泥棒猫ッ!!』

 

 

 突然、この場に大きな声が響き渡り、二人の幸せな空気を壊す。

 

「よくも私のPさんを盗ったわねっ! おんどれ生きて帰さんぞ! ぷんぷんっ!!」

 

「らっ……ランカ!?!?」

 

 振り向けば、そこにランカ・リーの姿。

 イエローを基調とした、フリフリの愛らしい衣装。ミニスカートとニーソックスがとても良く似合っている。まさにアイドルって感じの恰好だ。

 しかし……いつもと決定的に違うのは、いま彼女が()()()()()()()()という事。

 顔を真っ赤にし、ブルブルと怒りに震えながら、両手で包丁を握りしめているのだ。こちらに突き付けるような恰好で。

 

「アルト君への想いを捨てて、こんな冴えないフツメンを選んだのに、寝取られるなんて……!

 許さないんだから! この大女ぁ! きぃえぇぇぇーーーーいッッ!!!!」

 

「ちょま゛……!?!?」

 

 そして! 勢いよく突進してくる! まっすぐこちらに向けて!

 あまりに突然のことで、マスターP氏はパニック。冷静な思考が出来ない。

 そもそも彼はまだ17才なので、このような修羅場の経験など、あろうハズもないのだから。

 女の子が! 愛憎に狂い! 包丁握りしめて走ってくるのだから!

 

「死ねぇぇー! マスターPぃぃぃーーっ!!

 泥棒猫といっしょに、十万億土を踏めェェェーーッ!!!!」

 

 ふいに、ファッと身体が浮く。状況を理解する間もなく、マスターP氏が宙を舞う。

 なんか凄い力によって、自分の身体が“放り投げられた”という事を、P氏はドスンと尻から地面に着地する時まで、認識出来なかった。

 

「バカな子……。

 ケンカに刃物は無粋、って教わらなかった?」

 

 慌てて声のほうに向き直れば、そこにはランカと寄り添うようにして仁王立ちする、Hitomiの姿。

 先ほど、P氏をとっさに放り投げた後、一人でランカの突進を受け止めたのだろう。

 今も彼女は、懐にいるランカを見下ろすような姿勢で、じっとその場に佇んでいる。

 

「殺したかったの? ずいぶん思い切ったネ。

 でも――――あたしがリアルに腹筋を固めた時は、()()()()()()()()()()

 

 カラーン! と音が鳴った。

 柄の根本から()()()()()包丁の刃が、アスファルトに落ちる音だった。

 

 いまランカの眼前にあるのは、少し赤い痕が付いた程度の、バッキバキに隆起したシックスパック。彫刻のように見事な腹筋だ。

 彼女はもう「あわわ……!」という顔。対してHitomiの方は、静かな表情で彼女を見つめる。

 刃物で一方的に攻撃されたというのに、怒るでも叱るでも、騒ぐでもなく。

 

「貴方の負け。今日はもう帰りなさい。

 勝負がしたいんなら、またいつでも来て良いから」

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 

 

 ランカは目をまん丸にし、狼狽えながら走り去って行った。

 言葉なく、何もいう事が出来ず。

 ただただHitomiの静かな目と、優しい声に従うようにして。

 

 その光景を、P氏はずっと見ていた。

 情けない事だけど、地面にへたり込んだまま。ワケも分からず眺めているしか無かった。

 刃物を持った女の子のケンカなど、若い彼には対処出来ようハズもないんだから。仕方ないと言える。

 

「あ、さっきの話だけどネ?」

 

 ふいにHitomiがこちらを振り向き、スタスタと歩いて来た。

 何事も無かったみたいに、普通に。

 そしてさも当然のように、「よっ!」と軽い掛け声と共に、P氏を起こしてやった。

 というかコレ、“お姫様だっこ”だ。

 

「実はあたし、目があんまりなのわよ。

 さっきだって、あの子が包丁を握ってる事も、すぐ近くに来るまで分からなかった……」

 

 さっきまでの冷静さはどこへやら。Hitomiは悲しそうな顔。

 

 

「だからネ……? “メガネ”が欲しいかもしれない。

 あたしに似合うのを、パパに選んで欲しいの――――」

 

 

 危険な目に合わせて、ゴメン……。

 そう済まなそうに告げてから、一転して頬を赤らめてモジモジ。身をよじってクネクネ。

 それが本当に綺麗で、いじらしくて……。思わずP氏は一瞬見とれてしまった。

 

「おう任せとけっ!

 パパがカワイイの選んでやっからな! Hitomiにピッタリのヤツ!

 そんじゃあ行きましょうねぇ!」

 

 元気に言い放つ。この空気を吹き飛ばすみたいに、彼らしい笑顔で。

 

 

「あ、でも降ろせ下さいます?

 自分で歩けるっつーの! わしゃピーチ姫かっ!」

 

「えー。あたしこのままがいいナー? パパあったかいし♡」

 

 

 

 

 

 そんなやり取りをしつつ、ふたり並んで歩く。

 今度はだっこじゃなくて、仲良く手を繋ぎながら。

 

 大人と子供くらいの酷い身長差だし、通りすがる人達にジロジロ見られたけど、二人は全然気にしなかった。

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅲ

 

 

 

 

「あぁ疲れたぁー! なんか20キロくらい歩いた気がするぞ。体感的に」

 

 夜の8時。二人で選んでテイクアウトしてきた、マックのハンバーガーでの食事を終えて、いまマスターP氏はお風呂に入っているトコロ。

 Hitomiはその身体のワリに、意外なほどに小食だったのが印象的だったと、今日の出来事を振り返りながら、のんびり湯船に浸かる。

 今日一日の疲労とか、新車のバイクが大破した悲しみとかが、お風呂によって一気に浄化されていく心地。極楽極楽ってなもんだ。

 

「まぁ気疲れとかは無かったし、そりゃーいいんだけども。

 アイツ話しやすいよな……。めっちゃ気が合う感じするぞ」

 

 今日会ったばかりだというのに、二人は早くも打ち解けている感。

 P氏が破天荒で、物怖じをしない性格というのもあるが、Hitomiだってそうとうな物だ。

 あたかも「パーソナルスペース? なにそれ」とばかりに、四六時中パパに引っ付いていた。めちゃめちゃ嬉しそうに。

 

 これまでずっと一人だった反動もあるのだろう。もう“懐く”という言葉が生ぬるいくらいベッタベタ。

 愛してもらおうという打算や、血縁だから頼るのでなく、心からマスターP氏のことを好いているように思う。今日一日でヒシヒシと感じた。

 

 とくに、一緒にメガネ屋さんに行った時のHitomiは、本当に嬉しそうで……。見てみて微笑ましいくらいだった。

 

 オシャレな赤いフレームの、なんかエロ女教師がかけてそうなメガネだったのだが、それを店員さんから受け取った後、Hitomiはまるで宝物のように、胸元でギュッと握りしめていた。

 この幸せを逃がすまいとするように。そっと目を閉じて、微笑みを浮かべていたのを憶えている。

 

 ありがとうパパ。ずっと大切にするね――――

 そう二パッ☆ と笑ってお礼を言われた時、P氏はガラにも無く赤面。慌ててゴホンと咳払い。

 イカンイカン、この子わいの娘なんだわと、プルプル頭をふってみたものの、あの慈愛に満ちた美しい顔は、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。

 きっと、ずっと忘れないんだろう。

 

 

 

「ランカのことは気になっけど……、今それどころじゃないよなぁ。

 まだ艦娘たちも帰って来ねぇし、暫くはHitomiと二人っきりかぁ~」

 

 Hitomiを家に置いている以上、この状況でランカを説得するのは、非常に困難だろう。ひと悶着あった後だし、暫く二人を合わせたくない気もする。

 Hitomiが未来から来たというのも、自分の娘だという事も、とても信じて貰えるとは思えない。きっと今何を言っても、言い訳にしか聞こえてないだろうし。

 

 当アパート(美星鎮守府)の居候である艦娘たちも、帰還にはまだ少しかかるようだ。

 つい先ほど無線機に連絡があり、「潮干狩りをしてたら、全員大破しました」との事。

 いったい何故そんな事になったのかは不明だが、とにかく修復に時間がいるらしい。もう暫くは帰って来ない。

 

「まっ、なるようになるの精神っすよ!

 明日のことは、明日のわいが何とかする! がんばれTomorrow's Wai!!」

 

 今日も一日よくやった。まぁヤングストリートでパンツ見たり、買い物に行っただけかもしれないが、とにかく生き抜いた。わいエライ!

 

「風呂は日本人の魂ですねぇ! イイゾーこれ!

 この狭っ苦しいバスルームこそ、わいのホーリーランドや!」*1

 

 とにもかくにも、お風呂を堪能。

 アヒルのおもちゃがプカプカと浮かぶ湯船で、P氏はのびぃ~っと身体を伸ばしたり、峰不二子みたくセクシーに足だけを出してみたり。のんびり寛いでいく。

 

「貧ぅぅ~♪ しさにぃぃ~♪ 負けたぁぁ~~♪」

 

 パパー! ドコニイルノー! オフロー?

 

「いえっ♪ 世間にーっ♪ 負けたぁぁ~~♪」

 

 アタシモハイル! パパー! パパー!

 

「……」

 

 P氏が機嫌良く【昭和枯れすすき】を口ずさむ中……何やら良からぬ声が聞こえる。

 ふと耳を澄ますと、いま脱衣所の方からドタドタと誰かが入ってくる音、そして「フゥー♪」みたいな嬉しそうな声が。

 ……ヤツだ。

 

「抜け出したか。しっかり括りつけといたハズなんだが……。

 流石ナチュラルボーンマッスルだな」

 

 ここは沢山の艦娘たちが住む家であり、鹿島や金剛などの“提督LOVE勢”の子達が、よくマスターP氏の入浴中に乱入しようとする。「お背中お流ししまーす♪」と。

 なので先のような備えは、このアパートでは必須だったりする。

 総勢30名を超える大所帯だし、曲がりなりにも艦隊。風紀の乱れは厳禁なのだ。

 

 今日もお風呂に行く前に、「何してるのパパ?」とキョトンとした顔のHitomiを、「まぁまぁ! まぁまぁ!」とか言いながら拘束。ササッと縄で柱に括りつけといた。

 だが案の定、あの子は簡単に脱出成功。

 いま脱衣所の方からは、「♪~」とカワイイ声の鼻歌が聞こえている。恐らく服でも脱いでるんだろう。

 

「――――パパぁーーっっ!!!!」バゴーン!

 

「案の定かチキショウ」

 

 扉を破壊し、Hitomiが姿を現す。ウッキウキの顔で。

 というか、ここの扉は対艦娘用に拵えられた、ちょっとした銃弾でも弾けるくらい頑丈な代物なのだが、今テンションが振り切っているこの子にとっては、紙も同然であるようだ。

 

 破壊音が風呂場に響くのと同時に、P氏は用意してあったグラサンをスチャッと装着。

 これは物作りを得意とする艦娘“明石ちゃん”が制作した物で、通常のサングラスよりも可視光線透過率が低く、かければ視界が真っ黒に近くなる。

 湯気で曇らない加工もされており、お風呂場でも安心な仕様である。

 

 これは、誰かが風呂場に侵入を果たした時の備えとして、あらかじめ明石ちゃんに渡されていた物だ。

 女の子の裸見ちゃダメですからね! このスケベ!! ……という罵詈雑言と共に。

 

「――――来たよパパ! いっしょに入ろ♪ 洗いっこするの♡」

 

 とにかく、満面の笑みでHitomi登場。

 扉を破壊した勢いそのまま、「わーい!」と元気に両手を突き出しながら、こちらに駆けてくる。

 その様は、お父さんの胸に飛び込んでいく子供のソレ。まぁちょっとグラマラス過ぎるのだが。

 

 水着? タオル? 恥じらい? そんな物がこの子にあるハズもない。

 いま彼女はすっぽんぽん。惜しげも無くP氏の前に、その裸体を晒している。

 

 きっと縄を引きちぎるのに、多少は手間取ったのだろう。

 Hitomiは軽く汗をかいているようで、肌がキラキラと美しく光っている。

 その光は、彼女の瑞々しい肌のみならず、肉体の凹凸をクッキリと際立たせる。奇しくもオイルのような役割も果たしていた。

 

 P氏は今、「エッチなのはいけないと思います!」的なグラサンをかけているので、ハッキリとは分からない。

 だがHitomiの身体は、この上なく美しかった。

 

 

 肋骨の形が分かるほどに、全く無駄な脂肪が存在しない、キュッと引き締まった脇腹。

 それは大きくて丸みを感じさせるヒップと合わさり、信じられないくらいセクシーなクビレを形作る。

 スラッと伸びたモデル顔負けの美脚も、彼女の美しさを構成する、大切な要素。

 

 それに加え、まったく重力に負けていない、十代の張りを感じさせる巨大なバストは、もうエッチだとか綺麗だとかいった言葉では、とても表現しきる事は出来ない。

 彼女こそ女! これがおっぱいだ! と言わんばかりの圧倒的な説得力。

 

 しかもだ。そこにきて彼女の最大の特徴である、まるで彫刻刀で彫りを入れたかのようにハッキリ6つに割れた、芸術的な腹筋だ。

 汗のテカリによって、それはいつもにも増して綺麗。まるで大理石のような輝きを放っている。

 

 そんな見事なまでに豊かなお胸(女性らしさ)&至高のバッキバキな腹筋(カッコ良さ)が、上下で合わさり同時に視界に入るというアリエナサ。

 これを見た者は、脳が一瞬バグってしまう事だろう。それ程までに、この世の物とは思えない、非現実的なボディ。

 

 この肉体美よ――――神々しいまでの“美”よ。

 彼女の童顔や無邪気さとは、まるでアンバランスな()()()()()()()

 

「パパーッ♡ パパぁーー♡♡♡」タッタッタ!

 

 そんなHitomiが! 一糸纏わぬ姿で! こちらに駆けてくる!

 ばいんばいん! ボンキュッボン!! たゆんたゆん! ムキッ! ムキッ!

 おっきくて、逞しくて、すごく柔らかそうデス! えっろッ!?!?(迫真)

 

 

 

「――――だが断る」

 

「えっ」

 

 P氏が紐を〈グイッ!〉と引っ張った途端、足元の床がパカッと開き、Hitomiが落下。

 ヒューっと、絵に描いたように。

 あーれぇ~! と穴に落ちていった。

 

「甘ぇよ、ここをどこだと思ってんだ? 美星鎮守府だぞ」

 

 鹿島、イクを始めとする“肉食系艦娘勢”。

 彼女らは、隙あらば「ぐへへ♪」とマスターP提督の貞操を狙う、とても積極的な子達だ。

 それに対抗するための装置など、ここには当然の如く、バッチリ備わっている。

 全ては艦娘たちの淑女協定――――いわば「抜け駆けすんなよこのアマ」的な掟と、工作艦明石ちゃんの努力の結晶だ。

 

「悪ぃけど、わいが望むのは()()()()なんよ。キャッキャウフフなんよ。

 ボンキュッボンだか、何だか知らんけど、わいを好きに出来ると思うなよッ!(迫真)」

 

 P氏のグラサンがキラーン!

 まるでエヴァQの碇ゲンドウみたいな、中二病全開のサングラスだが、この場においては凄く似合っていた。

 

 相手は自分の娘(自称)。しかも記憶喪失の身であり、右も左も分からない雛鳥のような子。

 そんなHitomiに手を出そうものならば、“人間の屑”の誹りは免れないだろう。

 裸を見るのも、それに興奮するのも、彼女の無邪気さをいい事にボディタッチしちゃうような事態も、すべてご法度である。

 たとえあの子が何と言おうとも、絶対にNO!

 

「 パァァァパァァァアアアッッ!!!! 」ドドドド!

 

 そうフフン♪ とニヒルな笑みを浮かべていた時、またしても外からHitomiの声。

 確かあの穴は、このアパートの地下にある、おいたをしちゃった艦娘用の“懲罰房”に繋がっていたハズだが……。どうやら速攻で抜け出して、戻って来たらしい。無駄なフィジカル。

 

「 お風呂入るぅー♪ パパと入るよーっ♡ 」

 

 カワイイ声で雄たけびを挙げながら、Hitomi再臨。

 今度は脱衣所から一足飛び。床を一切踏まずに、ピョーンとP氏の胸に飛び込んでいく。とんでもない身体能力。

 

 

「――――だが無駄ァ!!」

 

「 おっぷ!?!? 」

 

 

 下から〈バサッ!〉と網が跳ね上がり、Hitomiを捕獲。

 そのままUFOキャッチャーみたく、ウィィィンとHitomiが運ばれて行き、さっきの穴にポイ!

 この場に静寂が戻る。

 

「お風呂シーンか……ラブコメの華だなぁ。

 誰しもが見てぇ、みんなに喜んでもらえるシチュだろうよ。ToLOVEるチックなよぉ……」

 

 再び「ふわぁ~」と吐息を漏らしながら、一人のんびりと湯船に浸かる。

 

「でもわい、マスターPなんスよねぇ――――

 普通の事やってたら、破天荒は名乗れんのですわ。益荒男(ますらお)にはなれませんねぇ!」

 

 きっと、エロをやるべきなんだろう。

 可愛くてエッチなHitomiと、ラッキースケベなシーンを繰り広げ、「あわわ!」なんてラノベ主人公みたく慌てふためきながら、愉快でエロいドタバタを享受する所だろう。

 

 なれど、目先の小銭に飛びつくのは、()()()()()()

 降って湧いたようなエロなんぞ、己が抱く“野望”に比べたら、いったい何だと言うのか。小さい小さい。

 

「わいは大統領になる男やぞ?

 日本人の常識では、考えも及ばんような、酒池肉林のハーレム作るんスよ絶対。

 既成事実とか責任は、断固ノーセンキュー!!

 据え膳なんぞ、ちゃぶ台返しじゃボケェェーーッ!!!!」

 

 今は辛抱の時。我慢は男の修行なのだ。童貞で何が悪い!

 とりあえず、早く大統領にならなくちゃ。わいの夢の為にも。

 チュニジアをどげんかせんとイカン(使命感)

 

「あれ? あれれ?

 パパあたしヨ? Hitomiだヨ?

 これじゃあお風呂入れないのわよ。あれれ?」

 

「OH! まだ諦めねぇのかコイツ。

 往生際が悪ぃですねぇ! ふぁっきゅめぇ~んッ!!」

 

 そう己の野望に想いを馳せていると、またしてもこの場にドドドという地響き、Hitomi推参。

 さっきのボッシュートから、まだ1分と経っていないのだが、速攻で復活して来たらしい。不屈のアフロディーテ。

 

「しゃーない、とことん付き合ってやらぁ!!

 小娘がッ! 美星鎮守府の力、とくと味わうが良いッ! カマァーーン!!!!」

 

 その後も、バネでビヨーンと吹っ飛ばしたり、洪水のように押し流したり、強風でバシルーラしたりと、多種多様な面白ギミックでHitomiを撃退。愉快にドタバタとやる。

 

「お、どうしたどうした? もうお終いっスか?」

 

 そうして、約20回ほど撃退を繰り返した後……、ふいにこの場に、長い静寂が訪れる。

 さっきまでは矢次に向かって来たのに、今はその気配すらない。どれだけ耳を澄ませても、物音がしなくなったのだ。

 

「よーやくアイツも諦めたかなぁ~。どれどれぇ~?」

 

 リモコンを操作し、備え付けのモニターを出現させる。

 これは、たとえお風呂に入っている時でも、外や部屋の様子を見ることが出来るようにと、指揮官たるマスターP氏の為に備えられた設備だ。

 

「…………う゛お゛っ!?!?!?」

 

 そこに映っていたのは、脱衣所の出入口の前で()()()()()()()、愛娘の姿。

 いまHitomiは、何をする事もなく、ただじっーとその場に座り続けているのだ。

 感情のうかがえない、色の無い表情。子供のように無垢な目で「ぽお~」っとお風呂場の方を見つめながら。石像のように微動だにしない。

 

「こ、これはッッ……」

 

 寒気がした。

 得も知れぬ恐怖が駆け抜け、ドクンと心臓が跳ねた。

 P氏の呼吸がハァハァと荒くなり、目の焦点が合わなくなる。いま眼前のモニターに映っている、あまりに衝撃的な光景に。

 

 あっ、これストーカーがやるヤツだ――――()()()()()の行動パターンだ。

 それに気が付いた時、風呂に入っているのに寒イボが立つ。身の毛がよだった。

 

 

 余談だが、以前ネットか何かで読んだ“心理テスト”に、こういう物がある。

 

【いま貴方は、包丁を手に、余所の家に強盗に押し入っています】

【目の前には大きな洋服ダンスがあり、中には家の住人が逃げ込んでいて、今ガタガタと恐怖で震えているようです】

【さて。貴方はどんな風にして、この人を殺しますか?】 ……と。

 

 これを見た当時、P氏が何気なく思い浮かべたのは、洋服タンスをドカドカ蹴りつけて、外に出てくるように仕向けるという回答。

 他には、ハンマーか何かで洋服タンスを壊すとか、トラックで突っ込んでペシャンコにするとか、すごく残酷だけどガソリンぶっかけて火を着けてやるとか、そういった方法だ。

 

 どれも非常に派手で、アグレッシブ。

 きっと中に居る人を、おおいに怖がらせる事だろう。

 ウケケとばかりに自信満々で答えたものだ。

 

 けれど……この心理テストにおいては、P氏の回答は間違い。

 何故ならこれは、「貴方のサイコパス度を診断する」という内容であり、彼のアグレッシブさや破天荒さは、それとは全くの別物だったから。

 

 このテストの正しい回答は――――【タンスの前で待つ】

 声を出さず、物音も立てずに、ただじっとその場に座り、獲物が自ら出て来るのを待つのだ。

 

 もう大丈夫、アイツは行ったハズだと、ホッとした表情で扉を開いたハズが……、扉の前にいるこちらの姿を見た途端、一転して絶望に染まる。

 その顔が見たくて、正にその瞬間に()()()()()()()、サイコパスはタンスの前に座る。じっとその場で待ち続けるのだ。いつまでも。 

 

 

 

「……ッ」

 

 いま目にしているモニターの映像が、あの日読んだ心理テストと被る。

 今もHitomiは、じっとその場に座っている――――パパがお風呂から出てくるまで。

 

 全くの素の表情で、微動だにせず、「ぽけー☆」っとそこに居る。

 見ようによっては、“主人を待っているお利口な犬”に見えなくも無い。

 けれどその顔には、不気味なくらいに色が無い。なんの感情も浮かんでいない。

 ただただ、そこにいる。じっと。何を思うこと無くだ。

 

 ――――怖ッッ!!!!

 やばいやばい! わいミンチみたくされる! ハンバァァァーーグッッ!!!!

 

 Hitomiの異常なまでの執着に、背筋が凍り付く。

 鬼のようなフィジカルだとは思っていたが、まさかこんなにも闇の深い子だとは。

 愛憎は表裏一体だと言うが、洒落にならんぞマジで。これからどうすっかな……。

 

 なんて事を、ウムムと考えてはいたのだが。

 

「おぉん? Hitomiさん……?」

 

 しかし、ふと改めてモニターを覗き込んでみれば、そこには()()()()()()()()()()、Hitomiの姿が。

 さっきと同じ顔ながら、その目だけがウルウルと潤んでおり、絶え間なく涙が零れているのだ。

 

 まるで、自分が涙を流している事にすら、気が付いていないかような泣き方。

 その感情に表情が追い付いておらず、ポカーンと放心したままで、涙だけが自然と零れている……という風な。

 

「こりゃあかんヤツですね(痛感)」

 

 前言撤回。このHitomiの姿は、決して先ほど言ったような、猟奇的なソレじゃない。

 むしろ正反対。似ても似つかないという事に、P氏は気付く。

 

 パパが拒絶するハズない。だってパパのこと大好きだもん。あたしのパパだもん――――

 

 そんな、この上なく無垢な……無条件で親を信じる幼子の純粋さ。

 ようやく理解した。これは無邪気とかそんなレベルじゃない。彼女の精神はまさに、“子供そのもの”なのだ。

 

 

 

「……あーHitomiや? ゴメンわいの負けっス。

 風邪ひいちゃうから、こっちおいでおいでー。パパが悪かったぁッ!!」

 

 ガックリしながら脱衣所に行き、そう声をかける。

 案の定、歓喜のアメフトタックルを喰らったけど……これはわいの自業自得だと、納得しておく事にした(臓器損傷)

 この子の信頼を裏切ってはいけない。もうイタズラにからかうのは無しだ――――そう心に決めて。

 

 

「おっぱいにサランラップ巻いてくるネ。それならいーでしょ?」

 

「よくねーよッ! 何その妥協点ッ!?」

 

 

 透明じゃねーか。なんの意味があるんだ。下手かッ!!

 まぁそーいうAVもあるけd……ゲフンゲフン!!

 

 とりあえず、また明日にでも水着を買いに行こう。Hitomiと風呂に入る時用の。

 マスターP氏は「ふぅ」とため息をつき、思った。

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あんれまぁ、グースカ眠ってからに」

 

 深夜。モニターの光だけが照らす、薄暗い研究室。

 

「誰が仲良くしろと言ったの。

 お前の役目は、そうじゃないでしょうに」

 

 いま彼女……爆乳ナイチンゲールこと力石さんが見つめる先には、「♡~」って感じでギューっとP氏に抱き着きながら、幸せそうに寝息を立てるHitomiの映像がある。

 まぁその剛力のせいか、P氏の方は「うーん……」とうなされているが。めっちゃ寝苦しそう。

 

「ま、彼女にもフラれたみたいだし?

 私生活を引っ掻き回してる、取り入ってるって意味では、これもアリかなー?」

 

 かの者は、曲がりなりにも北斗神拳の継承者であり、あのマジンガー絶頂(Z)のパイロット。

 そう簡単にいくとは思っていないし、次なる手段もすでに頭の中にある。

 それにピンキー忍者(親方様)は、なにやら「アイツを観察するのが最近の趣味」みたいなトコあったし、このシッチャカメッチャカな状況を、意外とお喜び下さってるかもしれないと思う。結果オーライ。

 

「にしても……やっぱ()()()みたいねぇ、あの子。

 記憶の部分に難アリ。今後の課題ね――――」

 

 

 

 背後に向き直る。

 そこには、オレンジ色の液体で満たされている、巨大な縦長の水槽があった。

 

 今この中に居るのは、酸素マスクらしき物を装着した、H()i()t()o()m()i()()()()()()()()

 この世界に生まれ出る時を、じっと待っているかのように、静かに瞳を閉じて、羊水の中を揺蕩っている。

 

 “二号”の経過は順調ね。そろそろ“三号”の制作に、取り掛かりましょうか。

 そう一人コクリと頷き、隣にあるまた別の水槽の所へ、スタスタと歩く。

 

「ねぇP君……。貴方はあの七夕を、憶えているのかな?」

 

 何気なく白衣のポケットに手を入れ、タバコくらいの大きさのケースを取り出す。

 それに収められていたのは、人間の髪の毛だ。

 以前ピンキー様より賜った、短い男性の黒髪。そして自分の頭から引っこ抜いておいた銀色の髪が、それぞれ一本づつ。

 

「私が短冊に書いた願いはね? “またP君と会えますように”……だよ」

 

 おもむろに、水槽へ落とす。

 色の違う二本の髪の毛が、科学によって作られた羊水の中で、ユラユラと揺れる。

 二人でダンスを踊るみたいに、溶け合っていく。

 

 

 

「代わりで悪いけど、私の子達が行くわ。

 あの日の約束を、叶えて――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
【ホーリーランド】 己の居場所、魂の住処の意



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅳ

 

 

 

「はわわ! とっても高いのです!」

 

「ハラショー」

 

 (いなずま)と響の嬉しそうな声。ちびっこ達がキャッキャとはしゃいでいる。

 

「次! つぎ私だからねHitomiさんっ! そこの電信柱まで行ったら交代ねっ!」

 

「れ、レディは肩車なんて、されないんかだから!

 でもせっかくだし、大人の視点を体験しとくのも……? むむむ……」

 

 その隣を寄り添うように歩くのは、雷と暁。

 Hitomiに肩車&お姫様だっこをされている二人を、キラキラと羨望の眼差しで見ている。

 

 現在彼女ら“第六駆逐隊”の4人は、Hitomiお姉さんと一緒に、買い出しの任務にあたっているトコロ。

 マスターP氏の御言い付けにより、なにかお昼ご飯を調達するべく、ヤングストリートへ向かっている。

 お前らのチョイスでいいぞ、何でも好きなモン買ってきな。頼むよ頼むよー! とP氏の弁。

 第六駆逐隊は引率役のHitomiを伴い、張り切って出掛けているのだ。

 

 駆逐艦の艦娘であり、身体も非常に小さな彼女たち。来ている服こそセーラー服なのだが、5才か6才くらいにしか見えない容姿。

 そんな“幼児”と言っても差し支えない子達と、身長196cmを誇るHitomiが並んで歩けば、いったいどうなるか?

 その答えが、いま美星町の住人たちが目にしている光景である。

 

「うわっ! すごく高いわ! 長門さんより背がおっきいっ!」

 

「私もいつか、立派なレディになれるかなぁ?

 Hitomiさんみたいに、キレイになりたいの!」

 

「うん、なれるヨ。あたしなんかより、ずっとネ♪」

 

 Hitomiはちびっこ達の“アスレチック”と化していた。

 肩車をしてやったり、だっこをしたり、ギューっと身体にしがみつかれたり。みんな彼女に楽しそうにじゃれつき、キャキャとはしゃぐ。

 

 電信柱を5つ分いったら交代、というルールにより、今度は雷と暁の番。彼女らを肩車&だっこ。

 子供とはいえ、まがりなりにも2人分の重量を担いて歩くのだ。普通なら汗のひとつもかきそうな物だが、そこは流石Hitomiといったトコロ。

 今もニコニコと笑いながら、優しい目で彼女らを見つめている。とっても頼りがいのあるお姉さんぶりだ。

 

 

 通りすがる美星町の者達は、その長身ゆえに真っ先に目に入るHitomiの姿に、一瞬「ギョッ!?」とするのだが……、でもすぐに4人の女の子たちが、無邪気に彼女にじゃれついている光景を見る事となる。

 それにより、彼らはすぐに警戒心や恐怖心が薄れ、それどころかすごく微笑ましい気持ちとなった。

 

 すごく背が高くて、モデルみたいにスラッとした女性と、その身長の半分もないような愛らしい少女達、という組み合わせ。

 なんというか、これはとても“絵になる”。

 

 下手をすれば、他者に威圧感や劣等感を与えかねない、Hitomiの逞しくて美しい身体。

 それが今、幼い彼女らと一緒にいる事により、「収まるべき所に収まった」かのよう。

 

 あの大きな身体は、子供達を守るためにあるんだ――――あの人が居れば、きっと何があっても安心だ。

 

 町人たちはそんな印象を抱き、微笑ましい気持ちで彼女らを見守る。

 まぁエロいナース服を着てたりするんだが……、なんかそれも“優しそう”というイメージに変換されているようで、結果オーライ。

 

「パパすごいよね。町長だけじゃなく、シャッチョさんだったなんて。

 こんな若い頃から、みんなを守ってたんだナァ……」

 

「はい! わたし達の“提督”なのです♪ 艦隊の指揮をお願いしているのです♪」

 

「みんな潮干狩りで大破しちゃって、今は私たち4人と、天龍さんだけだけどね……。

 でもみんなも、じきに戻ってくると思うわっ!」

 

 美星町はいわゆる“海なし県”にあるので、艦娘たちは他県に遠征していた。

 食料調達が任務だったというのに、そこでどういうワケだか。全員大破しちゃったのだが……、でもみんなを代表する形で、先に帰還したのが、電や雷たち第六駆逐隊の面子。そしてちびっ子達の引率(旗艦)を務めた、“天龍”という艦娘だ。

 

 彼女らは、通称バケツと呼ばれる高速修復材、いわばなけなしの貴重品を使ってまで身体を治療し、マスターP提督の護衛の為に、先に鎮守府(六畳間アパート)に帰って来たのだった。

 

「それにしても、ぼくビックリしたよ。

 急いで帰ってみれば、すごく綺麗な人がいるんだもの」

 

「わたしもおどろいたわ! まさか提督に、娘さんがいたなんてっ!

 う~っ! 早くみんなにも紹介したいっ!

 Hitomiさんなら、きっと仲良くなれるよ!」

 

「嬉しい、あたしもみんなと友達になりたい♪

 ずっと独りだったから、いっぱいお喋りしたいナ♪」

 

 クールで僕っ子の響、おしゃまで愛らしい暁。そして今も無邪気にじゃれついている雷&電。

 そんな第六駆逐隊のメンバーと語らいながら、のんびり美星町を歩く。

 記憶喪失という身の上だが、これまで感じた事の無かったやすらぎの中で、Hitomiはニコニコと微笑む。

 昨日パパに買ってもらった、オシャレな赤いメガネも、とても良く似合っており、彼女の笑顔を美しく際立たせている。

 通りすがる人達が、思わずドキッとしちゃうくらいに。

 

 

『――――ふぎゃあーーっっ!!!!』

 

 

 けれど、突然遠くの方から、この平穏をぶち壊す声が聞こえた。

 

『ちょ……!? 大変っ!!

 誰か来てぇーっ! 男の人呼んでぇーーっ!』

 

 続けざまに、前方から女の子の声。とても焦った様子で助けを求めている。

 Hitomi&第六のみんなは、示し合わせたようにノータイムで駆け出し、声のした方へと向かう。

 そこには……。

 

「大丈夫ですか東雲さん!? しっかりしてぇーっ!」

 

「もごご! もごごごご!! だっ……だずげどぇっ!?!?」

 

 何故か田んぼに落ちている秋月東雲と、それを救出しようと躍起になっている諸星のどかの姿があった。

 

「いっ……息がっ! 息がでぎまぜぇーん!! し゛ぬ゛っ……!?」

 

「なんで落ちちゃうのよ東雲さんっ! 私ちょっと声をかけただけなのにっ!

 ビビリすぎでしょ!?」

 

 いま東雲は、ズボッと土に埋まってしまった頭を引っこ抜こうと、躍起になっている。

 のどかの方も泥だらけになりながら、彼女の服や脚を引っ張っている模様。

 Hitomiたちは現場に辿り着いたのは良いものの、この光景を前にポカーン。

 

「しゅ……しゅいましぇ~ん!

 不幸でしゅいませぇ~ん……! 落ちぶれてしゅいませぇ~ん……!」

 

「情けない声出さないでよぉ! あなた裏秋月の当主でしょ!?

 ほらちゃんと掴まってっ!」

 

 うーんしょ! うーんしょ!

 まるで大きなカブの童話のように、いっしょうけんめい東雲を引っ張る。

 のどかは文系の少女であり、本来あまり運動は得意じゃないけれど、この時ばかりは頑張る。なんたって人の命が賭かっているのだから。

 

「わたし……()()()()()()()()()()()()()()()()を、はじめて見たのです。

 一体どんな落ち方をしたら、あんな風になるんでしょう……?」

 

「うん、あたしもそーカモ。

 とりあえず行ってくるヨ。ちょっとここで待っててネ」

 

 ちびっこ(電)の何とも言えないような表情。呆れとも同情ともつかない感じの。

 それをよそに、Hitomiが「えいやっ!」と田んぼに入る。

 靴や服が汚れることも厭わず、さも当たり前のように飛び込んでみせた。

 

「あっ、助けに来て下さったんですか? ご親切にどうも……ってデカッ!?!?」

 

 のどかが驚くのも無理はない。突然こんな大きな女の人が現れたら、誰だってビックリしちゃう事だろう。

 彼女自身はすぐに口をつぐみ、「せっかく来てくれたのに、失礼なことを言っちゃった……」と後悔したのだが、Hitomiにはまったく気にする様子は無い。

 

 よっぽど深く突き刺さっていたのか、あれだけ引っ張っても抜けなかった東雲の身体。それをHitomiは「よいしょ!」と一息で引っこ抜き、そのままブラーンと頭上まで掲げる。

 まるでちっちゃい子を“たかいたかい”するみたいに。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「よかったね東雲さん。水田だったらアウトだったよ?」

 

「田んぼで溺死するダークヒロインとか、嫌すぎますぅ!!」

 

 エグエグと泣く東雲を慰めながら、並んで歩く。

 いま彼女らは、身体に付いた泥を洗い流すべく、すぐ近くにあるというのどかの家に向かっている所だ。

 

 ちなみに第六駆逐隊のちびっこ達は、お買い物の任務を遂行すべく、ここで別行動となった。

 彼女らはHitomiのことを凄く心配していたのだが、「家でごはんを待ってるパパのために」と諭され、大任をまかされた使命感を胸に、商店街へと向かって行ったのだった。

 

「そもそもですねぇ! 貴方が突然声かけたりするから、いけないんですよぉ!

 背後から大声で呼ばれたら、誰だってビックリしますぅー!」

 

「いや……でもあんな『うひゃあい!?』みたく飛び上がる人、私はじめて見たよ?

 しかも、着地でグキッと足を挫いて、そのままピョーンと田んぼにダイブだなんて……。

 無駄に流れるような動作だったから、ちょっと感動しちゃった。

 コントみたいだったよ東雲さん?」

 

「うふふ♪ 不幸というものは、連鎖するんですよぉ♪

 ひとつ起これば、それを皮切りにし、次々と容赦なく襲いかかってくるモノなのですぅ!」

 

「なに熱弁してるの? やめてよそんな救いの無い話。

 東雲さんの人生を本にしたら、全米が泣くかも(あまりの不憫さに)」

 

「同情するなら、秋月流に言って下さいよぉ! 『東雲を助けてやれ』ってぇ!!

 私の一族みんなこうなんですからぁ! 毎日がコントですよぉ!

 まるで吸い寄せられるように、植木鉢が頭に落ちてくるような人生は、もう嫌ですぅー!」

 

 Hitomiの背中におぶられながら、「うわーん!」と泣く。

 隣を寄り添って歩くのどかも、そのあまりの迫真さにドン引き。

 

「えっと、私もぶしつけに声かけちゃって、アレだけど……。もう流くんの事はいいの?

 たしか“徳”だっけ? それを奪うために、倒そうとしてたハズじゃ……」

 

「あぁ、それはもう良いんですよぉ。

 彼の事情も分かりましたし、小雪ちゃんの事もありますしぃ……。

 本家の打倒ではなく、他の裏秋月の者達と協力して、この“業”をなんとかする手段を、現在模索中ですぅ」

 

「事情かぁ……。

 でも、もう恨んでないの? 今までずっと大変だったんでしょう?」

 

「確かに我が一族は、煮え湯を飲まされて参りましたがぁ、それはあくまで“業”による物ぉ。

 本家に何かされたとか、かのお地蔵さまのせいというワケでは、御座いませんねぇ」

 

 ふぅ、とひとつため息。そのやるせなさを吐き出すようにして。

 

「これまでグギギ……! と羨むばかりだった秋月本家は、決して一人勝ちのように幸福を甘受しているのでは無い、という事を知りましたぁ。

 誰しもが()()()()()()んですぅ。

 先日、私もチョコ太郎めに連れられ、小雪ちゃんのお見舞いに行ったんですよぉ?

 とっても愛らしい子じゃないですかぁ♪ 手作りの押し花も貰いましたし、もうお友達ですぅ♪」

 

 不思議なことに、小雪が傍にいる時には、不幸が襲い掛かることが無い。

 ふいに窓を突き破って野球のボールが飛んで来たり、湯呑をひっくり返して熱湯を被るといったような不運が、一度たりとも起こらないのだ。

 まるであの子の優しさが、包み込むように守ってくれているかのような……、そんな不思議な感覚を東雲は感じた。

 

 これはお地蔵さまの慈愛なのか、はたまた小雪に備わった力なのかは、分からない。

 しかしながら、結論として「この子を恨むのはお門違い」

 小雪ちゃんと会ってから、人生が変わりました! 初めて宝くじが当たったんだよ僕! 500円だけどね!

 そうポン助も喜んでいた事だし、いつも甲斐甲斐しく彼女を支えているチョコ太郎の姿も、微笑ましく思ってやらない事もないし。

 

 ゆえに――――もう今後、東雲が秋月本家に手出しをする事は無い。

 あの日もらった可愛いらしい押し花に誓い、人から奪ったり蹴落としたりするのではなく、前を向いて歩いていくつもりだ。

 

 まぁ……、かの“切り札”を使う機会に恵まれなかったのは無念だし、未だに()()()()嫌いだが。

 アイツは太陽か貴様って程、眩しいくらい真っすぐだし、自分と同じように苦労してるクセに、それを物ともしないほど底抜けに明るいバカだ。

 長年ウジウジと恨んで来た日陰の身としては、どうしても割り切れない感情もあるので、そこはご勘弁願いたいと東雲は思う。

 因縁を抜きし、彼を普通の目で見られるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうだった。

 

 

「と……申し訳ありません、二人で話し込んでしまってぇ。

 この度は、本当に助かりましたぁ~。

 落ちぶれてすいませぇ~ん……! 幸が薄くてすいませぇ~ん……!」

 

 Hitomiの背中で、申し訳なさそうに縮こまる。

 そんな事をしても体重は変わらないし、別に背負い安くなるワケではないのだが、そうせずにはいられなかった。

 

「いーよ? さっきまで子供達をおんぶしてたしネ。

 シノノメちゃんも、ちっちゃくてカワイイ♪」

 

「いえ、泥まみれの私を背負って頂き……って、ちっちゃい!?!?」

 

 ズガーン! と頭上に雷鳴。

 東雲は口調こそ大人びているものの、見た目は中学生くらいの子だし、当然体重も軽い。

 彼女の倍ちかい体格であるHitomiは、もう鼻歌気分でおんぶ出来てしまうのだった。

 

「ち、ちっちゃくないです! ちっちゃくないですぅー!

 ちっちゃいと言う方が、ちっちゃいのですぅ!」

 

「いや無理あるでしょ……。Hitomiさん2メートル近くあるんだよ? モデル並じゃないの」

 

「ちっちゃい方がいーよ♪ 女の子だモン♪

 背なんか大きくたって、町で変なおじさんに『モンゴルで相撲やってみねぇか?』って言われるだけわよ」

 

「――――言われた事あるんですかぁ!?!?

 それは確かに、ちょっと無理ですけどぉー!」

 

「あたしモンゴルの言葉分からないから、断っちゃったケド、やったほーが良かったカナ?

 チャンピオンになったら、パパ喜んでくれると思う?」

 

「――――ごめんなさい知りませぇん!

 自分の娘が、海を渡って、モンゴル相撲の頂点を獲ってしまった親の気持ちなど、察するに余りありますぅ!」

 

「パパってエライのわよ、シャッチョさんなのわよ。

 だからあたしも、エラくなっといたほーが良いのカナーって。

 モンゴルには、他にどんな競技があるの? どのクソから順番に捻り潰せばイイ?」

 

「――――肉体系競技を網羅しようとしないで!

 なんか普通に出来てしまいそうで怖いんですぅ!!」

 

「モンゴリアン・ドリームとか、私聞いたこと無いわ……。

 とりあえず、日本で頑張ろうよHitomiさん」

 

 女の子3人、かしましくおしゃべり。

 やがて歩く内、彼女らはのどかの家に到着。いま彼女が「ちょっと待っててね」と、家の鍵を開けに行った。

 

「そ、それはともかく……本当に申し訳ありませぇん。

 服も汚してしまいましたし、メガネにも泥がぁ……」

 

「あぁ、これ?」

 

 田んぼでワチャワチャした事で、Hitomiのメガネにも泥が跳ね、酷く汚れてしまっていた。

 東雲は裸眼なので分からないけれど、きっと前が見えにくかっただろうし、なによりそれは大切な物のハズだ。せっかくのオシャレなメガネなのに。

 心から申し訳なく思うし、弁償だってさせて貰うつもりでいた。

 

 

「いいのわよ。あたしパパの娘だモン。

 困ってる人を助けない方が、きっとパパは怒る――――」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『同じ人間とは思えませんでしたぁ……』

 

 これは、Hitomiと一緒にお風呂に()()()()()()()東雲が、後に死んだ目をしながら呟いた一言である。

 

 勘違いしないで頂きたいが、東雲は背丈こそ低いものの、中々にグラマーな身体つきをしている。まさに“トランジスタグラマー”とも言うべき、セクシーな女の子なのだ。

 しかしながら、それも肉の本場アメリカ人を彷彿とさせるような、Hitomiの肉体美を前にしては、どうしても霞んでしまうというだけの話。

 カブト虫はとてもカッコいいけれど、横に馬鹿でかい“戦車”がいる、みたいな感じだ。もう生物としてのカテゴリーが違う。

 

 それでも、のどかを加えた女の子3人で、髪を洗いっこしたり一緒に湯船に浸かったりと、すごく楽しい時を過ごした。

 特にお互い綺麗どころである為か、Hitomiと東雲が一緒に並ぶと、まるで姉と妹のような印象を受け、たいへん微笑ましい光景となる。

 ちっちゃいけどしっかり者な東雲と、身体は大きいがおおらかなHitomiは、どうやら相性が良いらしい。

 

 のどかの目から見ても、二人はすごく仲が良いように思う。

 初対面という遠慮や気遣いも、こうして一緒にお風呂に入った事で、どこぞへ吹き飛んでしまったらしい。外国人(?)ゆえのHitomiの天然ボケに、「ぜーはー!」言いながらツッコミを入れ続けた事も、この子達が打ち解ける一因となったのかもしれなかった。

 

『はい、これラッピングしたから。

 お父さんへのお土産にしてね』

 

 その後、洗濯して貰っている服が渇くまでの間、のどか主導のもと、みんなでクッキーを作った。

 時間もあるし、せっかくだからという事で、彼女の特技であるお菓子作りを教わったのだ。

 

 つい先日まで敵対していた仲だし、東雲との遺恨をキレイさっぱり消しておきたい。ちゃんと友達になりたい。

 きっとのどかには、そんな想いもあったのかもしれない。

 こうして一緒にお菓子作りをする事で、東雲は楽しそうに笑ってくれたし、掛け値なしに仲良くなれたような気がした。

 

 そして、家にお父さん(マスターP氏)を待たせているというHitomiの為に、今日みんなで作ったクッキーを、お土産として持たせてやった。

 彼女はとても喜び、「はじめてパパにプレゼントが出来る」と、凄くのどかに感謝していた。

 助けられたのは私達の方、感謝すべきは私の方なのにと、のどかは複雑な気持ちになったのだが……。受け取ったクッキーをそっと抱きしめながら微笑むHitomiの姿が、思わず見とれてしまうくらい綺麗で、儚くて……。もう何も言えなくなってしまった。

 

『また遊びに来てね。今度はおっきなケーキを作りましょ。待ってるわ』

 

『今日はとても楽しかったですぅ♪

 秋月の人間は、受けた恩を決して忘れません。またお会いしましょう♪』

 

 もう友達だ――――三人はギュッと手を握り合い、再会を誓う。

 初めての友達、あたたかな友愛。

 彼女らから貰った大切な思い出と、頑張って作ったクッキーを胸に、Hitomiは嬉しそうにアパートへ駆け出して行った。

 早く今日のことを、パパに報告したいと。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「あぁん? 提督は執務中なんだ。

 部外者はあっち行ってな」

 

 しかし、思わぬ所で、Hitomiの足は止まった。

 喜び勇んで帰ってみれば、そこに居たのはアパートの扉の前に座り込む“天龍”。

 彼女は軽巡洋艦というタイプの艦娘であり、かの第六駆逐隊の引率を務める事も多い、姉貴肌のカッコいい女性だ。

 彼女は今、ろくにHitomiの方を見ないまま「ケッ!」と舌を鳴らし、Hitomiの行く手を塞ぐようにして、じっと扉の前に座り込んでいる。

 

「あ、あのっ! あたしパパに用が……」

 

「知るかよ、いま執務中だって言ってんだろうが。消えろ」

 

 見せつけるように、手にした刀がチャキッと音を立てる。

 これは彼女の艤装のひとつであり、人間など紙のように切り裂いてしまう凶器だ。

 目線も合わせず、さもくだらないと言ったような態度。それは明確にHitomiを拒絶していた。

 

「戻ってみりゃあ、提督が大怪我してやがった。アバラが何本もイッてんだってな?

 まぁあの人なら、こんなのなんて事ねぇのは、知ってる。

 バカみてぇによ、ケラケラ笑ってやがったさ。

 だが正直……肝を冷やしたぜ」

 

「っ!」

 

「……よぉ、お前に分かるか? そん時のオレの気持ちが。

 提督を傷付けられた、艦娘の気持ちがよ……?」

 

 天龍が初めて、Hitomiに目を向ける。

 

「“守れなかった”罪悪感で、オレは死にたくなった。目の前が真っ暗になるんだ。

 ガキ共が見てなけりゃ、泣いて詫びてたよ。提督に」

 

 睨むでなく、凄むでもない、何の感情も浮かんでいないかのような、暗い瞳。

 息が詰まる。何も言えなくなる。

 Hitomiはただ、その場に立ち尽くす。ギュッと胸元で手を握って。

 

 

「2時間後だ、執務が終わんのは。

 それまでここは()()()()()だ。誰も通さねぇ」

 

 

 

 やがて、Hitomiは声も無く、踵を返す。

 

 力の無い足取りで、ゆっくりこの場から遠ざかっていく足音だけが、静かに響いた。

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅴ

 

 

 

 

「すいませぇーん、写真撮って貰えますかー?」

 

「お願いしまーすw」

 

 なんかいかにも若者って感じの男女二人が、公園のベンチで「ぽけぇ~」っと佇んでいたHitomiに、声をかけてきた。

 

「えっ……、あたし?」

 

「そそ! そこのお姉さんっ! おねがしまーすw」

 

「噴水をバックに一枚撮って! 今日ぼくら初デートなんスよ!

 しっかりフレームに入れてねー」

 

 時刻は夕暮れ時。今この公園はオレンジ色の光で照らされており、とても写真映えする事だろう。

 恐らくは、その場にいたHitomiを見つけ、適当に声をかけたのだろうが……、なんというタイミングの悪さ。

 先の出来事により意気消沈。ただ無為に時間を潰すように、ひとりポツンとベンチに座っていたHitomiは、慌てて俯いていた顔を上げる。

 

 いま彼女が纏う雰囲気も、空気も読まず、若いカップルは不躾にカメラを押し付ける。

 そして有無を言わせぬまま、自分たちは噴水の方へ駆け出し、そこで「いえーい!」とばかりにポーズ。

 

「あのっ、これを押せばいーのカナ?」

 

「はーい! シャッター切るだけでOKなんでー!

 撮る時は合図を……ってデカぁ!?」

 

 ワケも分からないまま、言われるがままにカメラを構える。

 それを余所にカップルの二人は、スクッとベンチから立ち上がったHitomiの上背を見て、なにやらキャッキャと盛り上がっている様子。

 若者特有のノリなのか、彼女に聞こえるとか失礼だとか、そういった事には全く頭が回っておらず、見たままの印象を大声で口に出す。

 こんだけ背が高けりゃ、いい感じの角度で撮れるんじゃね? すごくね? みたいに。

 

「それじゃあいくヨ? えっと……はいチーズ」バッキャァ!!

 

「!?!?」

 

「!?!?!?」

 

 シャッターのボタンを押し込んだ途端、Hitomiの手の中で()()()()()()

 彼女の軽い剛力により(?)、原型を留めないほどバラバラになった。

 

「ごっ……ゴメンナサイ! 弁償するねっ! 1万ペソでいいカナ?」

 

「――――なんでアルゼンチンペソ!? なに持ってんだアンタ!?」

 

「つかカメラ砕くなし! どんだけだし!」

 

 ごめんなさいゴメンナサイと平謝り。何度も何度もペコペコ。

 一応は、いつも所持しているバッグの中に、札束めいた日本円のお札も入っていたので、それを差し出してみたけれど……、これにより更に「ドヒャー!?」と驚かれてしまう。

 なにこんな大金持ち歩いてんだと。

 

「いや、そんな高くないヤツだし、これ一枚だけで充分なんで。

 あんま外で札束とか、出さない方がいいっすよお姉さん……?」

 

「もういいし! 他の人に頼むし!

 信じらんないわこの人! ぷんぷん!!」

 

 なんだアイツ、と言外に伝えるような態度で、二人が離れていく。

 申し訳なさそうに「しゅん……」と俯くHitomiだけが、この場に残された。

 

「やっぱりあたし、駄目な子だ。

 こんなだから、パパに怪我させちゃうのわよ……」

 

 暫しの間、じっと立ちつくした後、ようやく動くことを思い出したかのように、ベンチに戻る。

 沈んだ顔で項垂れ、力なく肩を落とす。

 今のHitomiには、それ位しかする事が無い。どこへも行けないから。

 

「骨を折ったら、とっても痛いよネ?

 でもパパ、笑ってた。

 Hitomiごめんなって言って、頭をなででくれた……」

 

 それって凄い事だ。いったいどれほどの優しさがあれば、そんな事が出来るのだろう。

 きっと甘えていたんだ、その優しさに。

 どれだけパパに迷惑をかけていたかなど、自分はこれまで、全然考えもしなかったんだから。

 

 ただただ、好きと言うばかりで、それを免罪符にパパを振り回した。

 挙句の果てに、大怪我まで負わせて。

 そんなのが許されるワケないのに、反省なんて思い至りもしなかった。

 今日だって、みんなを守るために仕事をしてるパパを置いて、ひとり遊び呆けていただけ。

 

 こんなんじゃ、あの人に怒られるのも当然だ。

 いや、あの女の人は()()()()()()。大切な提督を傷付けられ、胸が引き裂かれるような苦しみを味わったんだ。

 彼女にそのような想いをさせてしまったのは、他ならぬ自分。

 今までずっと考え無しだった、Hitomiの至らなさのせい。

 

「謝らなきゃ……テンリューさんに。

 ごめんなさい、もう二度としませんって」

 

 そして、変わらなければいけない。

 子供のように好き勝手するのではなく、パパや艦娘たちの役に立てるような。迷惑や心配をかけてしまわないよう子になろう。

 Hitomiはそう心に誓う。これから頑張ろうって、こくりと頷きながらギュッと両手を握る。

 けれど……。

 

「あっ」

 

 今しがた、何気なく拳を握った事によって、思い出される。

 ついさっき、人様のカメラを壊してしまった時の、手の感覚が。

 普通にシャッターを押したつもりだった。全然そんなつもりはなかった。でもまるで発泡スチロールの玩具のように、誰かの大切な物がHitomiの手の中で壊れた。

 

 これが物じゃなく、人だったら? 大好きなパパだったら? 小さな子供だったら?

 その時、自分はなんて謝ればいいんだろう。何億ペソ支払えば許して貰えるんだろう。想像もつかない重さだった。

 それを想い、また「ずーん」と凹む。ちびまる子ちゃんみたく、頭の上にたくさん線が入っている。

 

「両腕へし折っとくのはどーかな?

 2か月にいっぺんくらい、定期的に自分の腕を折るの。そーすれば安心わよ」

 

 ナイスアイディア☆ あたし冴えてるゥ♪ カシコーイ!

 それはどうか分からないけれど……とりあえずようやくHitomiが、少しだけ笑顔に。

 トイレとかお風呂の時は、大変かもだケド、人に怪我させちゃうよりはいーよネ?

 あたし指が二本あれば、金属で出来たカメラをスクラップにしちゃえる事が実証されたんだし、念入りにやらないト!

 そんな風にうんうん頷く。無駄にカワイイ仕草。

 

「ピッコロさんだって、たまに自分の腕を引きちぎってるし。ダイジョーブわよね!

 ……あれっ? なんであたし、そんな事知ってるんだろう?

 記憶喪失は複雑怪奇だネー」

 

 自分の事がよく分からん。あたし女の子なのに。

 マスターP氏が英雄だというのと同じく、DBも一般常識の範疇なのか。謎だ。

 

「それにしても、あたしはいったい何なんだろ……?

 パパの娘ってこと以外、なんにも分からない……」

 

 ふいに、ずっと胸の中にあった不安が、とめどなく溢れ出す。

 今日使ったお金の事も、自分のバッグに入っている物すら、Hitomiには覚えが無いのだ。

 何故これを持ってて、何故この服を着ているのか? どうして自分はパパに会いに来たのか? そんな事すらもHitomiには分からない。

 

 とんでもない恐怖と、不安、孤独感。

 Hitomiはこの一か月ほど、常にそれと戦って来た。

 圧し潰されそうになる心を、なんとかパパの顔を思い描くことで耐えて、この美星町まで歩いて来たのだ。

 

「でも、ひとつだけ憶えてる。

 なんの事だか、よく分からないんだけど……でも知ってる光景があるのわよ」

 

 

 

 それは、()()()の記憶。

 泣いて泣いて、怖くて心細かった心が、誰かの温もりで溶かされていった……そんな不思議な思い出だ。

 

 綺麗な蛍がたくさん舞う、青白い世界の中で、短冊に願いを込める――――君とまた会えますようにと。

 

 そんな知らない光景が、いつかどこかの“七夕の記憶”が、ふいに頭に浮かぶ事があるのだ。

 大切な大切な、宝物のように綺麗な記憶。

 

「あたしの髪は緑。銀色とチガウ。

 だからこれ、きっと()()()()()()()()()()

 この女の子じゃないのに……」

 

 自分以外の、誰かの想い。

 知らない女の子の、淡い恋の思い出。

 

 何故こんな記憶が、自分の中にあるのか? いったいこの少女は誰なのか?

 そしてこの子は、また男の子に会えたんだろうか――――願いは叶ったんだろうか。

 そう考えてみるも、Hitomiには知る由もない。分からない事だらけ。

 

「探してみたいナ……あの夜の森。

 そして、あの可哀想な女の子を。小さな織姫と彦星を」

 

 叶えてあげたい。会わせてあげたい。

 Hitomiの中に、そんな漠然とした想いがある。あの子を幸せにしてあげたいと……。

 

 自分は記憶喪失の身だし、そんな余裕がどこにあるのかという話だが。でも探してみたいと思う。

 いい子になって、たくさんお手伝いをして、そしていつかパパにお願いしよう。一緒に探しに行こう。

 あの七夕の願いを。その結末を――――

 

 それがHitomiにとっての、大切な道しるべだった。

 失くしてしまった自分を探すための、鍵。

 

 

 

 

「さって、そろそろ2時間カナ? 家に帰らなくっちゃ」

 

 そして、天龍さんに謝ろう。パパにごめんなさいしよう。

 Hitomiは「よいしょ!」とベンチから腰を上げる。

 落胆で縮こまっていた身体を真っすぐに、元気にのびぃ~と身体を伸ばしてみた。

 

 腰を反らした事で、その豊かな胸がさらに強調され、服がパッツンパッツンに。

 ボタンがポーン! とひとつ飛んでいっちゃったので、慌てて「あわわ」と探す羽目に。

 もう辺りは薄暗い。そんな中がんばってしゃがんでキョロキョロ。なかなか見つからないナァと。

 

 

「――――ねぇ、探してるのはコレかしら? Hitomi姉さん」

 

 

 その時、突然Hitomiの頭上から、声がした。

 

「と言っても、私達の方が、背は大きいのだけど。

 チビで出来損ないの、Hitomi姉さん?」

 

「長女のクセに、使えなーい☆

 あーし達ヘルキャットの面汚しだねぇ! プークスクス♪

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 腰まで伸びる艶やかな黒髪が、サラサラと風に揺れる。夕闇に溶けるように。

 

「迎えに来たわよ、迷子のナイチンゲール」

 

 大人の色気を感じさせる、低く美しい声。

 それに顔を向けたHitomiの目に、真っ先に飛び込んで来たのは、とても長身の女性……のバキバキに割れた腹筋。

 

 女性らしい豊かな丸みをおびた、ヒップ。

 思わず二度見してしまうほどに、大きなバスト。

 あえて腹部を見せつけているかのように、非常に丈が短いタイプの、“バスガイドのコスチューム”。

 そして()()2()0()4()()という、Hitomiをしても僅かに見上げなければならない程の、高い上背。

 服の上からでも分かる、ダイヤモンドみたいに引き締まった筋肉。肉体美。

 

「私の名はRui――――コードネーム【ヘルキャット( 性悪女 )】の№2(次女)

 ()()()()()()()()()R()u()i()、とでも呼んでおいて」

 

 スラッと伸びた足に、まっすぐ伸びた背筋。セクシーな腰のくびれ。

 女性としての自信に満ち溢れた、威風堂々の佇まいに、思わずHitomiは一歩後ずさる。

 

「あはは! そんな小鹿みたく怯えなくてもいーって♪

 あーし達姉妹でしょ? 仲良くしよーよ姉さぁーん☆」

 

 その隣に立つのは、街燈の灯りを反射してキラキラと輝く、金髪ツインテの娘。

 リップを塗った瑞々しい唇と、幼さを感じさせる無邪気な笑顔。

 それとは裏腹に、競輪選手もかくやという、信じられないくらい逞しい大腿四頭筋(ふともも)が、今もフリフリのミニスカからのぞいている。

 

 加えて、これまた丈の短いカラフルなノースリーブから、ボッコボコに割れた岩みたいな腹筋が、可愛いおへそと一緒に見え隠れ。

 その中高生的な若者口調と、両手に持った黄色い二つのポンポンが、彼女が“チアガール”であることをハッキリ示している。

 にもかかわらず、この場の誰よりもデカい2()0()8()()という、信じられないほどの長身! 美の極致と言うべき肉体よ!

 

「あーしはAi――――コードネーム【ヘルキャット】の№3(三女)

 ()()()()()()()()()A()i()だよ♪ あはっ☆」 

 

 Go! Fight! Win! Let's Go!

 足を高く上げ、リズミカルに踊る。

 金色のツインテと、大きな胸をゆさゆさ揺らしながら、次々にチアの技を繰り出していく。

 だが、そのエロキュートに似つかわしくない、凄まじい威圧感。まごう事なき強者の佇まい。

 

 ――――何だコイツらは? 何故あたしの前に!? ヘルキャット?!

 Hitomiの脳裏にいくつもハテナマークが浮かび、震えと共に身体がこわばる。額に汗が滲んでいく。

 声を出すことも、その場から動くことも、出来ない。

 

「さて、()()はどこにいるの?

 ここに連れてきて頂戴、もう待ちきれないわ」

 

「Hitomi姉さんばっかりずるーい☆ あーしもパパとチュッチュしたぁーい!」

 はやくはやくーっ☆」

 

「っ!?」

 

 だが、彼女らの口から“パパ”という言葉が出た途端、呪縛から解き放たれたように正気に戻る。

 Hitomiは身体が命じるままに、警戒の構えをとりながら、目の前の二人組に詰め寄る。

 

「なに言ってるノ……? 姉とかパパとかって……。

 あたしそんなの知らない! 貴方たちなんかっ!」

 

「駄目ね、お話にならないわ。

 記憶に難アリ、とは聞いていたけれど、これ程だなんて」

 

「この調子じゃ、自分の任務のことも、忘れてるんじゃないのぉ?

 マジ出来損ないじゃーん! 何しに来たのアンタ? キャハハ☆」

 

 なしのつぶて。爆乳バスガイドことRuiと、爆乳チアガールことAiは余裕の表情を崩さず、ニヤニヤとこちらを見ている。

 記憶喪失――――この言葉が痛烈にHitomiの頭をよぎる。同時に恐怖とも不安ともつかない、得も知れぬ感情が襲う。今はしっかり前を睨まなければいけないのに!

 

「あ、そーれ」

 

「ッ?!?!?」

 

 爆乳バスガイドことRuiの身体が()()()。そう認識した直後、Hitomiの顎が跳ね上がり、視界が真上を向く。

 瞬時に零距離まで迫る突進から、とんでもない剛力によって放たれた、腰から拳までをピンと伸ばす美しいアッパーカット。

 80㎏近くもあるHitomiの身体は、簡単にふわりと宙に浮き、受け身もままならず地面に叩きつけられた。

 

「ふむ、お腹を殴ろうかと思ったのだけど……予定変更。

 AI、油断出来ないわよ? この子とんでもない()()してる」

 

「うっげぇー! あんなの殴ったら、こっちの手が折れちゃうよーっ!

 役立たずのクセに、無駄に頑丈なんだね♪ 腐っても長女ってトコかな☆」

 

 話は無駄と判断し、即座に実力行使。その冷徹さよ。

 恐らくは、叩きのめした後で言うことを聞かせる算段だったのだろう。しかしHitomiは、苦し気な呻き声こそ挙げているものの、しっかりと目に力が宿っている様子。

 

 加えて、爆乳バスガイドことRuiの方は、拳の痛みを散らすように、プラプラと右手を振っていた。攻撃した側のハズが、逆にダメージを受けたのだ。その異常なまでの頑強さに。

 

 Hitomiは、倒れてしまった身体を起こすべく、必死に腹筋に力を込める。

 顎に不意打ちを喰らい、豪快に吹っ飛ばされたにも関わらず、もう動くことが出来ている。

 

 極限まで体脂肪の削られた、まったく無駄のない美しい腹筋が、まるで山脈のように逞しく隆起。ギギギと音が聞こえて来んばかりに引き締まり、鋼の硬度と化す。

 たとえ身長は二人に及ばずとも、身体のクォリティでは、全く引けを取らない!

 むしろ凌駕しているッ! これは見せかけの筋肉に非ずッ! Strong is beautiful( 強さこそ美だ )!!

 

「なんて肉体なの。……お前が言うな感あるけど。

 とにかく、こんな脳筋娘、まともに相手してられないわ。

 さっさと目的を果たしましょうか」

 

「りょーかいだよ、Ruiお姉ちゃん♪」

 

 爆乳チアガールことAiが、小型の無線機らしき物をたわわな胸の谷間から取り出し、手早く操作。

 時を置かず、すぐに繋がった先の相手に向けて、元気の良い声で告げる。

 

「ママぁー! Stray cat( 野良猫 )Engage( 接触 )したよっ!

 例のヤツお願ぁーい☆」

 

 

 

 ――――狂え。

 

 ボソリと、無線機から小さな声。

 得も知れぬ圧力と、不気味な強制力を伴う()()が、Hitomiに向かって放たれる。

 

 ――――目覚めろ。己を取り戻しなさい、Hitomi。

 

「ッッ!?!?」

 

 

 

 ……その途端、フッと糸が切れたように、Hitomiの身体が脱力する。

 夢遊病のように、目に力が無くなり、光を失う。

 

 瞳孔が開かれた、濁った色の眼は、もう何も映していないかのよう。

 まるで、()()()()()()()

 

「さて、パパを連れてきて貰えるかしら?

 私達は、ここで待ってるから」

 

 こくり、と頷く。

 無言のまま、(Rui)に言われるがままに――――

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「いや~、終わりましたねぇ!

 今日も頑張ったなぁオイ! わいナイスガイ!」

 

 肩をグルグル回し、書類仕事によるコリをほぐす。

 わいまだ17才やのに、なんで執務とかやっとるんやろうかと思わない事もないが、これも町の平和の為。艦娘たちの為。

 チュニジア大統領を目指して、頑張らなければ。

 

「あー腹減った! 脳に糖質が足りませんねぇ!

 今日はガッツリ銀シャリでいきます? 炭水化物サイコー!」

 

 先ほどまで書類を手伝ってくれていた第六駆逐隊の子達は、現在お夕飯の買い出し任務を受けて、再びヤングストリートへ行っている。

 表で歩哨(警備)をしていた天龍も、ちびっ子の引率として共に出払っている。

 

 すぐ戻ってくるから、部屋から出るんじゃねーぞ。オレが戻るまで――――

 そう出掛ける際に言い付けられたが、正直アイツは心配しすぎだと思う。こちとら北斗神拳の伝承者やぞと。

 だが全然たいした事は無いとはいえ、自分が怪我をしたと知った時の天龍の顔を、今も憶えている。いつもの彼女らしからぬ様子で、哀れなほど愕然としていたのだ。

 

 ゆえにここは、大人しくしておこう。アイツに心配かけるの、いくない!

 わい未成年やし、外でたばこ吸うワケじゃないしな、とマスターP氏は思う。

 通称“提督の椅子”(ホームセンターで買った2980円の座椅子)で背筋をのびぃ~っとやりながら、久方ぶりに一人の時間を堪能。気分をリラックスさせた。

 

 

『――――パパ』

 

 ガチャリと、扉が開く音。

 それと同時に、Hitomiが部屋に入ってくる気配。

 

「おう娘よ! 今日もパパは頑張ったぞぅ!

 もーすぐ艦娘たちも帰ってくるから、一緒にアホみたいに銀シャリを貪r

 

『――――ねぇ、来て』

 

 ゆっくりとした足取りで、まっすぐP氏のもとへ。

 そして有無を言わせず、その手を取る。

 

「おっ、おっ? ちょ……Hitomiどしたん? もうすぐ飯が……」

 

『ほら、来てパパ』

 

 平坦な声、感情の窺えないフラットな表情で、P氏を引っ張っていく。

 優しい手つきながら、どこか強引に。

 慌てて玄関で靴を履くけれど、こちらの戸惑いなど全く意に介さず、Hitomiはどんどん進もうとする。

 

「どこ行くんですかねぇ!? それだけ先おしえて? おーい!? 

 ちょ、えっ……Hitomi?」

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「なぁHitomiぃ! もう暗いんだし、そんな走らんでもぉ!」

 

 タタタと、軽快な足音。

 まるで物語に出てくる恋人たちのように、Hitomiは楽し気にP氏の手を引いたまま、暫く走り続けた。

 

 そして、辿り着いた先は“公園”。

 アパートの近所にある、みんなの憩いの場だ。

 だが今は7時過ぎという事で、あたりに人の気配は無く、この場は静寂に包まれている。

 町の喧騒から離れ、まるで自分たち二人だけが、世界から隔離されたかのように。

 

「なんだぁ、カナブンでも見つけたんかぁ?

 わい昔、バッタ獲るの得意だったけども。一緒にぴょーんって跳ねてよぉ」

 

 うーんと腰に手を当てて、あたりをキョロキョロ。

 だがどれだけ見渡しても、ここにはベンチや噴水くらいしか無い。公園の街燈が弱々しく照らす、何も存在しない空間。

 

『――――好き』

 

 突然、Hitomiが振り向く。

 少女のように、うしろで手を組みながら、妖艶な笑みを浮かべて。

 

「ッッ!?」

 

 キス――――Hitomiの桜色の唇が、P氏の口を塞ぐ。

 P氏が驚く間もないまま、何もさせぬまま。

 同時に、思考が真っ白になる。あまりの唐突さに、理解が追いつかない。

 

「んッ……!!??」

 

 視界がぼやける。

 目をつぶったHitomiの美しい顔が、零の距離で、いま目の前にある。

 なに? なんでチュー? わい達は親子なのに。

 怒涛の勢いで疑問が湧く。だがその意識は、だんだん遠くなっていく……。

 しだいに身体から力が抜け、眠りに落ちていく。抗えない心地よさと共に。

 

『好き、好き、好き――――』

 

 意識を失ったP氏を抱きかかえながら、愛おし気に口づけ。

 ほうっと呆けた顔、頬を赤く高揚させながら、キスの雨を降らせる。

 お母さんに甘える子犬のように。とても純粋で、原始的な、愛情――――

 

 

「あらら。Hitomi姉さんったら、随分とはしたないのね?」

 

「ずるくない!? 普通あーし達からでしょお!?

 姉さんはずっと、パパと一緒に居たじゃんっ!」

 

 雑木林の暗がりから、爆乳バスガイドことRuiと爆乳チアガールことAiの二人が、ふっと姿を現す。

 影と一体化するが如く、クノイチのように気配を消していたのだ。

 まぁ彼女らは、どちらかと言えばキャッツアイ( 怪盗 )みたいな構成だが。

 

「まぁ辛抱なさい。これからはずっと、パパと一緒にいられる。

 キスだって、それ以上の事だって……沢山して貰えるわ」

 

「そだね☆ いっぱい愛してもらわなきゃ♪

 あーし達三人、脳がトロットロになるまで。交じり合って形が分からなくなる位。

 もう離さないよ、パパ」

 

 P氏を取り囲む。隙間なく密着する。

 円になり、三方向からギュッと挟むように。

 大きくて柔らかい胸で、彼を包み込むようにして。

 

 その途端、彼女らを中心として、地面に魔法陣のような物が出現。

 それは眩いほどの光を放ち、辺りを白一色に染める。強い風が吹き荒れる。

 

 

『『『 好き、好き、好き 』』』

 

 

 不思議な力で、彼女らの身体が、宙に浮いていく。

 ふわりと、ゆっくりゆっくり、浮き上がる。

 P氏を愛おし気に抱きしめ、三人で身体中にキスをしながら、どこか別の世界へと転送されていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ちぇぇぇえええりゃあああああああーーッッ!!!!!!!!」

 

「「「 ッ?! 」」」

 

 

 その時! この場に声が木霊する!

 信じられないほど大きく、高い、()()()()()()()()()!! 

 

「――――チェストォォォオオオオオオオーーーッッ!!!!!!!!!」

 

 切り裂く! 地面を!! 光を!!!!

 突如として現れた何者かが、こちらに神速で駆け寄ると共に、刀を一閃。

 縦に振り下ろされた凄まじい斬撃が、光の根源であった魔法陣を破壊!

 中にいたHitomi達もろとも、斬り伏せんばかりに。

 

「ちぃ、外したか……。

 少しは出来ると見える」

 

 咄嗟に術式を解除し、この場から飛んだ。

 そうしなければ、彼女らは殺されていた事だろう。確実に。

 いま日本刀を肩に担ぎ、鋭い目でこちらを睨む、()()()()()()()()によって。

 

 

「主ら、物の怪の類だな?

 大義の下、誅殺するであります――――」

 

 

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅵ

 

 

 

「何このお爺ちゃん……人間?」

 

 爆乳バスガイドことRuiが、信じられない物を見る目で、彼の方を向く。

 

「人間は、神速で地を駆けたりしないよぉ……?

 なんなのぉ、あのエグイ剣圧ぅ……?」

 

 ぜったい化け物だ。サイボーグか何かだ。

 爆乳チアガールことAiは確信する。なんだこの威圧感はと。

 

「自分は、元大日本帝国陸軍、船木一等兵。

 人はワシを、“ファンキー爺さん”と呼ぶ」

 

 まぁ、今から死ぬる主らに、名乗りなど無意味だが――――

 そう付け加え、ファンキー爺さんは父の形見である軍刀を、両手で握り直す。

 凄まじい握力を感じさせる【ギュウゥゥ……!】という音が、こちらにまで聴こえてきた。

 闘志マンマン、殺す気マンマンじゃないですか。

 

「……待って貰える? 私達三人は、この人の娘なの。

 確かに、少し変な雰囲気に、見えたかもしれないわ。

 でも家に帰ろうとしていただけよ」

 

「そ、そーだよおじいちゃ~ん☆ 勘違いだってぇ~♪」

 

 懐柔にかかる。わざとらしい猫なで声で。さりげなくムニッと胸の谷間を作り、女の武器を使いながら。

 ぶっちゃけ、いま二人は()()()()()()()()

 何この爺さん。こんなのとやり合いたく無いよ。だって目に狂気が宿ってるもん。殺し屋の目じゃんコレ。

 

「その御人は、美星町の長ぞ。

 加えて主らは、断じてカタギに非ず。

 ……そも、()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?!?」

 

「?!?!?!」

 

 ――――付け過ぎた! 筋肉付け過ぎた!! 背ぇ高くし過ぎた!!!!

 この映像をアジトで見守る爆乳ナイチンゲールこと力石さん(黒幕)が、人知れず冷や汗。

 自分に似せたのか、はたまた趣味に走ったのかは知らないが、明らかに愛娘たちの肉体美は、人知を超越していたのだ。

 

「えっ。私達って変……? ウソでしょう?」

 

「なんでバレたのぉ!? あーし達って普通の子と違うのぉ~?!」

 

「ワシ90年くらい生きとるけど、主らみたいなん見たの、初めてぞ?

 神話にしかおらぬわ、こんなアマゾネス。……よもや気付いとらんかったのか?」

 

 筋肉モリモリ、マッチョの変態エロガール達が、オロオロ狼狽える。

 こんなんによぅ偵察任務とか誘拐とか、させよう思ったな。目立って仕方ないだろうに。

 

「戯言はええ。主らはただ――――首を置いていけ」

 

「っ!?」

 

「ひぃ?!?!」

 

 エゲツナイ風切り音。

 なんとか超ギリギリで回避したが、ファンキー爺さんの放つ横薙ぎで、二人の髪が数本パラッと落ちる。

 なんちゅー切れ味だソレ。なんちゅー太刀筋だアンタ。殺意MAXやないか。

 

「米国との戦に敗れ、かの東京裁判により“B級戦犯”の汚名を着せられ、はや70年あまり……」

 

「一等兵なのにB級?!?!*1

 どれだけ殺し周ったらそうなるの!? 無茶苦茶じゃない貴方!!」

 

「平和の世に生き、固く口を閉ざし、ばあさんとのアチュラチュ☆ハッピーライフを謳歌しておったが……。久方ぶりに()()()()()()()()()

 なぁ? 首おいてけ――――その首おいてけ」

 

「そらアメリカに恨まれるよっ!

 いったい戦地で何があったの!? 言ってよお爺ちゃんっ!」

 

 主らの首を、我が父に捧げようぞ――――

 なんかファンキー爺さんのおめめが、すんごいグルグルしてる。

 このガタイの良い二人が、鬼畜米英とかに見えてるのかもしれない。

 積年の恨みがフラッシュバック!

 

「 ちぇぇぇえええりゃああああああッッッッ!!!!!!

  ワシの父を返せぇぇーッ!! 軍曹殿ぉぉぉおおおーーッッ!!!! 」

 

「無理無理無理っ! 死んじゃう! 死んじゃうわコレ!」

 

「聞いてないよこんなのぉー! あーしまだ生後1日なのにぃー!

 死にたくなぁーーいっ!」

 

 軍刀を振り回し、「きえーい!」と追い回す。

 二人は涙を撒き散らしながら、なりふり構わず必死こいて逃げる。

 噴水の周りを、何度も何度もグルグル。バターになりそうなくらい。

 

「て……撤退よAi! いったん退きましょう!」

 

「えっ、でもパパはぁ?! Hitomi姉さんは連れていかないのぉ!?」

 

 ぎゃー! こーろーさーれーるぅ~! って感じで、両手を万歳しながらガンダる。*2

 そんな最中、なんとか二人でコソコソ作戦会議。

 背後から迫るドドドドド! という足音に震えつつだが。土煙がすげぇ。

 

「そんなこと言ってる場合っ!? 想定外の事態で、首チョンパの危機なのよ!? 

 パパの居所は割れてる、また出直せばいいの!

 それに、出来損ないの姉さんなんて、もう構ってる余裕ないわ!」

 

「あっ! ここに置いて行けば、囮になるかもだねぇ?

 あーし達の役に立ってもらおーっ♪ Hitomi姉さんも本望っしょ☆」

 

 ヘルキャット印の閃光手榴弾が炸裂。

 金属を叩いたような音が、鼓膜をつんざき、辺り一帯が白い煙に包まれる。何も見えなくなる。

 

「不覚、取り逃がしたか。……次は必ず殺す(比類なき殺意)」

 

 フラストレーションを振り払うように、刀をビシュッ! と一振り。

 もう二人の姿はどこにも無かった。スタコラ逃げ去ったのだろう。まるでネコのように。

 

 その後、ファンキー爺さんは背後を振り返り、そこにいる男女に目を向ける。

 光のない目で、じっとその場に立っているHitomi。その胸に抱きかかえられ、気を失っているらしきマスターP氏の方へ。

 

「傀儡か。……哀れな、同胞に見捨てられるとは」

 

 クマの人形を抱きしめる少女のように、大事そうにP氏を抱えているのが分かる。

 その様は、愛らしく見えなくもないが……。

 

「死ね――――」

 

 

 おもむろに歩み寄り、一閃。

 ファンキー爺さんの刀が、Hitomiの首を目掛け、横薙ぎに放たれた。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「おいおい……なんて斬撃だよ爺さん。

 両腕がしびれてやがる」

 

 キィィィーン! という固い音。

 それがこの場に、大きく響き渡った。

 

「……貴様、何者ぞ?」 

 

「お前こそ何だよクソが。

 わりぃけど、この人は()()でな。やらせるワケにはいかねぇ」

 

 ファンキー爺さんが、ギロリと眼前の女を睨む。

 天龍だ! 彼女が爺さんの前に立ちふさがり、斬撃を止めたのだ!

 もっとも、艦娘の艤装であるハズの愛刀は、半ばからポッキリ折れてしまったようだが。

 なれど、Hitomiは無事。咄嗟にこの場に駆けつけた天龍が、しっかりと守ってみせた。

 

「人ならざる者……、なれど邪気は無し。

 どけ、勇敢な娘よ。お主の首は獲らぬ」

 

「やだね、お前の言う事なんざ聞くかよ。

 オレに命令できんのは、P提督だけだ」

 

 へし折れ、半分の長さになった刀を、ビシッと突き付ける。

 意思を示すように。艦娘の矜持を見せつけるように。

 

「老人は敬え、って言うけどよ? アンタは別だよ爺さん。

 どうしてもってんなら、押し通れよ」

 

「その意気や良し。気に入ったぞ、娘」

 

 勝てぬ事など、承知している。だが退くのはあり得ない。

 それは艦娘の生き方では無いから。守るべき人達が、いま背中にいるから。

 向かい合う。お互い正眼の構えで。

 一足一刀の距離……から爪半分ほど離れた間合いで、静かに睨み合う。

 

 

「――――お爺さぁ~ん! ご飯が出来ましたよぉ~!

 貴方の大好きな、筑前煮ですよぉ~♪」

 

「おぉワイフ! ファンキーマイワイフ!

 いま行くぞぉー妻よぉー☆」

 

「ずこぉぉぉーーーーーーっ!!!!!!」

 

 てってけてー♪ と爺さんが踵を返す。

 そのまま迎えに来たお婆さんのもとへ、駆け寄って行った。

 

「今日は上手に出来たの。鶏肉も柔らかくなりましたよ♪

 味のヤマモト(有)のちくわも入ってます♪」

 

「そいつぁ楽しみじゃーい! 婆さんの料理は、宇宙一じゃあああーい!!」

 

「おい爺さん! アンタそれで良いのかっ!?

 デレッデレじゃねーかよ!」

 

 さっきまでの絶人ぶりはどうした。形無しじゃないか。

 もしかすると、この美星町で最強なのは、あの優し気なお婆さんなのかもしれない(爺さんを制御出来るという意味で)

 天龍は地面にひっくり返りながら言い募るが、爺さんはもうテンションMAXだ。心から妻を愛しているのだろう。ラブラブであった♡

 

「あ、ファンキー爺さんだ。この前はぶっ殺しちゃってゴメンね♪」

 

「ぬぅ! 貴様、剛力甘男!!(アンパンマン)

 ここで会ったが百年目じゃーい! きぃえええーーい!」

 

「あらまぁ、どこへ行くんですかお爺さん。あらあらあら♪」

 

「……」

 

 偶然通りかかったアンパンマン目掛け、ファンキー爺さんが突進していく。

 後を追ったお婆さん共々、嵐のようにこの場から去って行った。

 忙しい人達だ。

 

「ッ! おいHitomiッ!?」

 

 あまりの展開に、天龍が呆けていた所……背後で物音。

 バタリと、糸が切れたようにHitomiが倒れる音が聞こえ、即座に駆け寄る。

 

 あのヘルキャットの二人が去った事で、彼女を縛っていた呪詛が解けたのだろう。

 グッタリと力が抜け、地面に倒れ込んでいる。

 

 それでも、まるで宝物のようにP氏を抱きかかえたまま、微塵も離す気配が無い。

 たとえ無意識下でも、パパを守っているかのように。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あれ……? あたし、どーしテ……」

 

 もうすっかり夜となった、午後8時頃。

 寝かされていたベンチの上で、Hitomiは目覚めた。

 

「よぉ、災難だったな。

 なにはともあれ、お前が無事でよかった」

 

 パチクリとまばたき、キョロキョロと見渡せば、すぐ傍に天龍の姿。

 彼女はHitomiに寄り添い、ずっと看病をしてくれていたのだ。

 額の上に、濡れたハンカチがあるのを見つけ、それを察する。

 

「怪我は無いようだが、頭痛とかは? 無理して動かなくていいぜ」

 

「ててテンリューさん!? あ……あのあのっ!!」

 

 慌てて姿勢を正し、ベンチの上に正座。

 動かなくて良いと言われたのに、めっちゃ機敏な動き。

 それを見た時、天龍は「へっ!」と小さく苦笑。どこか照れくさそうな顔で。

 

「あたし、テンリューさんに酷いコトを……。

 いっぱい反省しなきゃって……」

 

「おっと、その話はいい。

 今は負傷兵みたいなモンだろお前。安静にしてろ」

 

 グイッと額を押し、Hitomiをコテンと寝かせる。

 わー! というカワイイ声が聞こえたが、容赦なんてしない。

 

「……すまねぇ、こりゃオレの責任だ。

 お前を外にほっぽり出したから……。面目次第もねぇ」

 

 “提督の娘”は、立派な護衛対象だろうに。

 オレはどうかしてたんだ、すまねぇ――――

 そう天龍が頭を下げる。これは自分の罪だと、沈痛の面持ちで。

 

「オレ達には、たくさん敵がいる。

 お前が狙われる事態だって、充分ありえたんだ。……なのに」

 

「ちょ! 待ってヨ! 悪いのはあたしなのに!」

 

 すまねぇ、すまねぇ。ごめんなさい! ごめんなさい!

 そうお互いペコペコ。必死に謝り合う。

 傍から見てれば「なんだコレ」みたいな感じだが、どこか微笑ましい光景。

 

「んじゃ、仲直り……だな?」

 

「うん。あたしテンリューさんと、友達になりたい。

 いい子になって、みんなの役に立ちたい。テンリューさんみたいに」

 

 フフッと、微笑み合う。

 夜の公園で、スポットライトみたいな街燈に、ふたり照らされながら。

 

「おっ、オレがいい子だぁ!? そりゃねーだろオイ……Hitomiよぉ」

 

「そんなこと無いのわよ。テンリューさんやさしーもん♪

 ちっちゃくてカワイーし♪」

 

「おぉい!?!?」

 

 手を引いて、Hitomiを立たせてやる。

 宝塚の女優さんみたいに凛々しい天龍がやると、その仕草はまるで、物語の王子様みたい。

 まぁ背丈に関しては、Hitomiの方が圧倒的におっきいのだけど。

 

「にしても、さっきのありゃ何だぁ?

 公園にモクモク煙が上がって、そっから誰かが飛び出してくのを見たが……何があったんだ?」

 

 二人で寄り添いながら歩き、すぐ隣のベンチへ。

 そこには、未だに「ぐがぁ~!」と気持ち良さげに眠る、P氏の姿。

 パパの寝顔を見つめながら、Hitomiは小さく首を横に振る。

 

 

「分からないの、何にも。

 憶えてない……。なんであたし、気を失ったりなんか……」

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「失敗、かぁ。

 なかなか上手くいかないわねぇ。何なのよあの爺さんは……」

 

 美星町は恐ろしい所だ。まさかあんな伏兵が、普通に町を闊歩しているとは……。

 ともかく、Hitomi達が映っているモニターを眺めながら、薄暗い自室でコーヒーをひとくち。

 爆乳ナイチンゲールこと力石さんが、小さくため息を吐く。

 

あの御方(ピンキー様)は大喜びしそうな、ドタバタだったけど。

 ま、焦らずやりますかぁ」

 

 相手はあのP君、一筋縄でいくとは思っていない。

 艦娘たちも居れば、本人もエゲツナイ戦闘力なのだ。簡単にいくハズも無し。

 

「けど彼は、お気楽でお人好し。

 あの子の出生も、その真偽も、さして気にしてはいない。

 物を考えてないように見えるなぁ……アホなの?」

 

 なれば、引っ掻き回してやればいい。

 彼の心に取り入り、信用させ、絆なんてクダラナイ物を育めばいい。

 そうすれば、彼はあの子に手出し出来なくなる――――敵だというのに、逆に守ろうとするだろう。

 その命が尽きる最後の瞬間まで、父親ヅラをして。

 これが仕組まれた事だとも知らずに。

 

「ここから楽しくなるよ? 大変だねぇP君。

 私のヒーローさん?」

 

 モニターに映る、グースカ眠っているP氏の顔を、何気なくツンツン。

 束の間の休息だね。しっかり身体を休めてね。また忙しくなるだろうからさ。

 

 

「早く会いに来て。私はここに居るよ?

 愛しの旦那様♪」

 

 

 

 

 巨大なバストがぷるるんと揺れる。

 けれどその顔は、まごう事なき、恋する乙女の物――――

 

 

 

 

 

 

*1
本来B級戦犯は、指揮官とかの偉い人にしか適応されない。一応は義父である軍曹殿が戦死して以降、代理で部隊を率いていた時期があったので、それで無理やりB級にねじ込まれたのかもしれない。

*2
【ガンダる】 ガンダッシュ。本気走りの事。



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅶ

 

 

 

「ひもじいよぅ。ひもじいよぅ」

 

「寒いわ」

 

 美星町の外れの方にある河川敷。その高架下。

 

「お腹すいたよぅ。キューキューいってるよぅ。ひもじいよぅ」

 

「辛いわ」

 

 現在ヘルキャットの二人、爆乳バスガイドことRui&爆乳チアガールことAiは、肩を寄せ合って三角座りしている。

 少しでも体温を逃がさないように、ギュッと足を胸に引き寄せ、お互いに密着。

 心と身体に吹きつける寒風に耐えながら、町の片隅にチョコンと座る。

 

「バッグ落としちゃったものね。お爺ちゃんから逃げた時に。

 ごめんね、私が預かっていたのに……。お金なくなっちゃったわ」

 

「いいんだよぉ。あーしが持ってるより、お姉ちゃんが管理したほーが良いもん。

 きっとあーしだって、バッグ放り出してたと思うし。あんな状況だもぉん……」

 

 バッグごと所持金を失ったので、ごはんを食べる事も出来ない。

 さっきヤングストリートで見つけたウォータークーラ―で、まわりの人達がドン引きするくらい、ガブガブお水を飲んで来た。みじめだ。

 

「ママに怒られちゃったねぇ。怖かったねぇ」

 

「ええ、泣きそうだったわ。

 ママに怒られると、胸がキュッってなる……。悲しくなってしまうの」

 

 グジグジと、二人がすすり泣く声が、朝方の高架下に響く。

 二人ともえらい綺麗な子達なのだが、今は子供のようにえぐえぐ。美人が形無しだ。

 辺りはチュンチュンと鳥の声が聴こえ、お天気も良いし、清々しい朝なのだが……二人の気分は沈んでいるのだった。

 

 愛するママに、怒られる。

 こんな悲しい事が、この世にあるのかって思った。

 

 あの人を捕まえるまで、お家に帰って来ちゃいけません――――

 昨日、アジトにすごすごと帰還した時、そう怒鳴るでもなく叩くでもなく、ただ淡々と叱りつけられた。とても冷たい声で。

 自分たちの不甲斐なさを痛感したヘルキャットの二人なのだ。ガチ凹みである。

 

「ねぇねぇ、あーし昨日生まれたばっかだし、知らないんだけどさぁ?

 ご飯ってゆーのは、どんなのがあるの?

 “おいしい”って、どんな感じなのかなぁ?」

 

「私は半日ほどAiより早かったから、一度だけご飯を食べさせてもらった事があるの。

 お米を三角の形に固めた物……おにぎりっていうらしいのだけど。

 あれはとても“美味しい”と思うわ。なんだか胸がポカポカするよ?」

 

「へぇー。いいなぁ。あーしも食べてみたい~。

 でも三角って、なんか()()()()()()()()()()、おもしろい感じするなぁ……」

 

 高架下の壁にもたれ、三角座りで寄り添い合う。

 そんな今のあーし達には、そのおにぎりという食べ物が、ピッタリかもしれない。おんなじ三角だし。

 

「はやくパパを捕まえて、おにぎり食べよーね? お腹いっぱいになろーね?」

 

「ええ、そうしましょう。一緒におにぎりを食べましょうね。

 たしかタクアンというのもあったから、楽しみにしているといいわ。

 お姉ちゃんの、ひとつAiにあげる」

 

 ありがとーお姉ちゃん! えへへ♪

 いいのよAi、うふふ♪

 こんな時でも、二人は仲睦まじい。とっても姉妹想いな子達だった。

 

「ねぇお姉ちゃん……バチが当たったのかなぁ?

 あーし達って、Hitomi姉さんに酷いこと、いっぱい言っちゃたじゃん?」

 

「……」

 

「きっとそれで、神様が怒ったんだよ……。いま腹ペコの刑に処されてるんだよ。

 姉妹なんだし、Hitomi姉さんとも仲良くすればよかった……」

 

 膝におでこをくっつけ、小さく縮こまる。

 顔を隠し、心から悔いている様子が分かった。

 

「そうね……きっと嫉妬していたのね。

 自分だけ早く生まれて、パパと暮らしてたーって。

 私、Hitomi姉さんに、辛くあたってしまったわ……」

 

「記憶そーしつって、きっとすごく怖いよねぇ? 自分が何だかも分かんないんだもん。

 不具合なんて、Hitomi姉さんのせいじゃないのに……。悪いことしちゃった……」

 

 自分たちが辛い境遇になった事で、初めてあの子の気持ちが分かる。

 不安とか、悲しみとか、頑張りとか……それを理解する事が出来た。

 

 いくらパパと会いたかったからといって、これが任務だったからとて、Hitomiに酷いことをするのは違う。辛く当たるのは可哀想だ。

 私達は今、とてもひもじい想いをしているけれど、Hitomiはこれと同じ気持ちを、一か月もの間あじわっていたんだから。

 しかも、たった一人きりで。

 常に二人で行動し、互いに慰め合える自分達とは、きっと比べ物にならないほど辛かったハズだ。

 今ならそれが分かる。

 

「ムキムキだしね。きっと怖がられてたよぉ」

 

「ええ。頼れる人も、友達も居なかったことでしょう。ムキムキだしね」

 

 考えてみれば、()()()の放浪生活だ。

 腹筋バキバキの、あんなえっちぃ恰好をした変態淑女が、オロオロ町を彷徨ってたんだから。

 たぶん、何度か通報されてるクサイ。

 許可取ってんのかオラァン!? 公然猥褻だろオラァン!(AV撮影的な意味で)みたく。

 ほんと大変だったろうに。

 

「それよりも、さっき良い物を拾って来たのよ?

 さてAiちゃん、右手側をご覧くださいませ」

 

「えっ、なにこれぇ?」

 

 話がひと段落した時、爆乳バスガイドことRuiが、おもむろに何かを取り出す。

 

「“ダンボール”って言うらしいのだけどね?

 これがあれば、寒さもヘッチャラなんだそうよ」

 

「おーっ! すごいじゃーん!

 さっすがお姉ちゃんだ♪ でっきるぅー☆」

 

 ゴソゴソとダンボールを開き、暫し二人で眺める。

 さっき道で拾って来たのだが、これはそんなに凄い物だったのか。ゴミじゃなく文明の利器なのね。

 

「これにくるまっておきましょう。

 さぁAi、こっちにいらっしゃい」

 

「えへへ♪ お邪魔しまーす♪

 わぁ! お姉ちゃんあったかーい☆」

 

 ギューッとくっつき、ダンボールにくるまる。

 安らぎとぬくもりを感じ、二人ともすごく幸せそう♪

 ……まぁこんな美人の子達が、()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、本来涙がちょちょ切れんばかりの光景なのだが、まだ生まれたばかりの二人には、知る由もない。

 

「でもこれ、なんかゴツゴツしてるねぇ。

 意外と固いし、冷たいよぉ……」

 

「まっ平らだから、あまり身体に密着しないわね。

 隙間風で、ガンガン体温が奪われてく……」

 

 布団や毛布とは違い、これはダンボール。

 とてもじゃないが、秋の寒風から身を守れるようには、出来ていなかった。

 二人とも、おへそ丸出しの服を着ていることもあり、すごい寒い。

 丈の短いバスガイドコスとチアコスは、動き安くはあれど、防寒には向いてないようだ。

 

「がんばるのよAi。ダンボールを信じましょう。

 これは文明の利器よ」

 

「そーだねお姉ちゃんっ!

 Fight! Go! Win! Let's Go☆」

 

 ――――もうやめて! 助けてあげて! 誰かこの子達をッ!!

 さりげなくモニターで見守っていた、幾人かの組織の者達は、思わず拳を握りしめて叫んだ。あの子らがいったい何したって言うんだと。

 

 そんな彼らの尊い祈りが、神様に届いたのかは分からないけれど……。やがでこの場の状況に、少し変化が訪れる。

 

「 君たちっ! ちょっと来たまえっ!! 」

 

「「っ!?」」

 

 怒鳴り声。朝の河川敷に、すごく大きな声が木霊する。

 

「何をやってるんだ君たちはっ! 早く! こっちに来ないかっ!!」

 

「えっ、あの……」

 

「おにーさんは……?」

 

 今こちらに向けてプンプン怒っているのは、“秋月ポン助”。

 かの裏秋月・壱の遺影(いえ)当主であり、だっさい唐草模様のジャージを着た、ピッチリ横分け七三メガネの男である。

 

 いそいそとダンボールを傍にどけて、言われるままに彼のもとへ向かう。

 二人はキョトンとした顔だし、なんでこの人が話しかけてきたのかなど、ぜんぜん分からないのだが、とりあえず声に従う。

 あのぉ……ナンデスカ? みたく。

 

 

「――――君たちはダンボールを、何だと思っているんだい!?

 そんな使い方で、()()()()()()()()()()()!!!!」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

 しばし……、時が止まる。

 あまりの男の剣幕、意味の分からなさに。

 

「可哀想だとは思わんのかっ!! ダンボールに申し訳ないと思わんのかっ!!

 君たちはっ……、ダンボールの可能性を潰しているんだぞっ!?

 何故もっと真剣に、()()()()()()()()()()()()()()()!!??」

 

 ブチギレ。激おこだ――――

 今ポン助は、彼女らのあまりに拙い“ダンボールの使い方”に、我を忘れて激怒しているのだった。

 

「ばっきゃろう! こうだっ!

 これがダンボールの使い方ッ! 正しい活用だッ!!」テキパキ

 

 ポン助の手によって、みるみる内に“家”が出来上がっていく。

 何枚もダンボールを重ね、強固な一枚板を形成。それに窪みを作っていくつも合体させる。

 釘一本、ガムテープすら使わず、ガッチリしっかり組み立てて見せる。

 やがてこの場に、約10畳ほどの広さがある、立派な一軒家が完成。

 

「耐震、防水、湿気や強風などへの対策……。

 考えることは沢山あるよ? でも創意工夫すればいけるさ」

 

「すっ……すごい! 魔法みたいだわ!」

 

「おにーさん大工なのっ!? めっちゃ手早く作っちゃったぁ!」

 

 ふーやれやれって感じで、汗を拭いながら“作品”を眺める。

 娘たちもテンションMAX! なんて立派なお家なんだろう! 広いしすごく丈夫そうだ!

 

「いま見せたように、ダンボールはここまで出来るんだ。

 風よけにも緩衝材にもなるし、使い方次第で、色々なことが可能だ」

 

 先ほどとは違い、ポン助が優しい顔で微笑む。

 腰に手を当て、しっかり胸を張り、まっすぐ娘たちの顔を見る。

 

「たかがダンボール、されどダンボール――――

 感謝して、ありがたく享受するんだ。

 しっかり使ってあげてね?」

 

「うんっ! ありがとうおにーさん♪ あーし分かったぁ☆」

 

「使い手によって、ここまで差が出るだなんて。感服しましたわ。

 ありがとう御座います、おにいさん」

 

 わっはっは! いいのいいの!

 そうポン助が朗らかに笑う。貧乏人とは思えない爽やかさだ。

 

「ダンボールを馬鹿にするヤツは、僕が許さないぞう! 今まで何人()()()()()()()()

 牛乳パックや割り箸を活用して、何が悪いって言うんだまったく」

 

「そのとーりだよおにーさん♪

 ゴミじゃない! 資源ですっ!」

 

「愛してあげて。大切にしてやってね?

 そうすれば、()()()()()()()()()()()()()()

 手をかけてやればやるほど、ダンボールは羽ばたく事が出来るんだ」

 

「なにやらダンボールが、愛おしく見えてきましたわ。

 すごいんですねダンボール。私にも出来るかしら?」

 

 ――――やめぇ、変なこと教えるな。

 監視していた者達は、そう叫びたくなる。

 この場の朗らかな雰囲気と、モニター室との温度差が凄い。

 まだ子供なんだぞ、その子らは。

 

「おーいポン助ぇ。おんどれどこ行っとんねーん。

 お前が『ランニングしたい』言うたんとちゃうんかーい」

 

「あっ、チョコ太郎! ごめんごめん!」

 

 やがてこの場に、紫色のスポーティなジャージ姿の男が現れる。

 金髪をオールバックにしてるし、ガタイもすごく大きいので、とても厳つい風貌だ。

 

「ワイにとっちゃ日課やし、付き合うのは構わんけどな?

 でも後で、プアにメシ届けたらなアカンねん。

 あのボケ……。ほっといたら何も食わんと過ごしよる。

 PFCバランスをなんやと思っとんねん」

 

 【PFCバランス】とは、一日で摂取すべきタンパク質、脂質、炭水化物。その理想的なバランスの事。身体作りや健康には必須だ。

 わしゃアイツのオカンか――――みたいな事を言いながらも、ぜんぜん嫌そうではないチョコ太郎の顔が、とても印象的だった。

 

「あーっ! 何あの怖いオッサン! きんもーい☆」

 

「嫌悪感があるわね。こっちに来ないで下さる?」

 

「ッ!!??」

 

 ランニング中にはぐれたポン助を探し、何気なくここへやって来たら、ものすごく辛辣なことを言われる。

 

 

「すまんポン助……ワイ帰ってもええか?

 ちょっと自分の部屋で、()()()()()()()()()

 

「――――挫けんなよチョコ太郎っ!!

 君には友達がいるじゃないか! 僕だってそうさっ!」

 

「?」

 

「???」

 

 

 キョトンとした顔で、彼らを見る。

 一方はウジウジと地面に「の」の字を書き、もう一人は必死に慰めている。

 

 あ、大の大人でも、三角座りってするのね。

 少しだけ親近感が湧く、ヘルキャット達だった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「という事で、本日はお伺いしたんです。

 この子たちの話を、聞いてやっては貰えませんか?」

 

「お願いしますぅ」

 

 お昼時。美星鎮守府(6畳間)。

 今この安アパートの一室に、ポン助&東雲の姿があった。

 後ろの方でチョコンと座り、申し訳なさそうに俯いているヘルキャットの二人も一緒だ。

 ちなみに嫌悪の“業”の事もあり、問題が起こるといけないので、チョコ太郎は同行していない。今はワーキングプア侍の所へ行っているハズだ。通い妻みたく。

 

「いや……いきなりの事で、正直ちょっと混乱してっけども……。

 でもご親切にあざっす。この子らを送って下さって」

 

「構いませんよ、これも何かも縁です。

 まさか前町長の娘さん方だったとは。お力になれたなら光栄です」

 

「ですぅ」

 

 ポン助が事情を説明し、東雲が優しくRui&Aiに寄り添う。「大丈夫ですよぉ♪」と元気づけるように。

 この子達が、貴方の娘だと言ってて――――そう告げられたマスターP氏は、飛び上がるくらいビックリしちゃったのだが、今はちゃんと客人に対応している。流石は元町長。

 

「最初はね? 行く所が無いと言っていたんです。

 でもよくよく話を聞いてみると、この町にお父さんがいるとの事で。

 遠くから訪ねて来たそうです」

 

「おせっかいかもしれませんがぁ、放っておけなかったんですぅ。

 どうかこの子達の事、よろしくお願いしますぅ」

 

「もちろんスよ! ホントあざっしたお二人とも! まかして下さいっ!」

 

 深々と頭を下げ合う。ははーっ! みたいな感じで。

 ポン助と東雲に心からの感謝を告げた後、P氏は改めて、娘達に向き直る。

 

「ごっ……ごめんなさいパパ。めーわくだよね……?」

 

「あんな事をしておいて、どの面下げて来たって言われても、仕方ないわ……」

 

「おん?」

 

 P氏は気絶してたので、二人の言うことに、まったく覚えが無い。

 それどころか、Hitomiに連れられて来た公園での出来事……その記憶が酷く曖昧なのだ。

 防衛本能が働いて、事件の前後の記憶が消し飛んだのか。それとも何者かの手によって、意図的に記憶を操られたのか……。それは定かでは無い。

 

 とにかく、P氏が憶えているのは、昨日の仕事終わりに、部屋でひとり晩飯を待っていたって事。

 そして次に気が付いたら、時刻は夜の10時になってて、なんか知らないが布団に寝かされてたって事だけだ。

 

「とりあえず、()()()()()()()

 小難しい話は、その後にしましょうねぇ!」

 

「「えっ!?」」

 

 ちょうど昼時だし、ナイスですねぇ!

 のびぃー! っと背筋を伸ばす。堅苦しい空気を壊すように。

 

 

「いまアイツらが、材料買いに行ってくれてっから。

 今日のご飯は、パパのオムライスですじゃ! たくさん食えよ食えよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカ、能天気、考え無し。

 そんなパパの人柄は聞いていた。でも違うって思う。

 

 これは……“優しさ”だ、

 この上ない器の大きさから来る、あったかさなんだ――――

 

 

「うぉおい! なぜ泣く!? 娘たちナンデ!?

 そんな腹減ってたのかお前ら!?!?」

 

 

 

 泣いた。たくさん泣いた。

 RuiとAIはグジグジ鼻を鳴らしながら、「あーん!」と天井を見上げて、泣き続けた。

 

 けれど、さっきまでの心細さじゃない。

 心があったかかった。

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅷ

 

 

 

「シャイニー(あざみ)なのです! シャイニー薊に決まってるのです!」

 

「いやいや、ジュラシック木澤でしょ。なに言ってるのよ(いなずま)

 

 Hitomiの両肩にチョコンと座りながら、電と(いかずち)が言い争い。

 どうやら二人の間で、意見が割れているようだ。

 

「シャイニーさんの腹筋は、天下無双なのです! 一番なのです!

 “沼”もおいしーのです!」*1

 

「そりゃ日本のトップフィジーカー*2だし、凄いと思うわよ?

 でも私は、ジュラシック木澤さんみたいに、身体の大きな人が好き!

 バルクの説得力が違うわっ!」

 

「むきぃー! なのです!」

 

「ぷんぷん! だわっ!」

 

 きっと、Hitomiお姉さんと出会った影響なのかも。

 現在、第六駆逐隊のメンバー達は、暇さえあればYouTubeなどで、ボディビルを観まくっている。筋肉の魅力に目覚めちゃったのだ!

 今日も自分の好きなビルダーについて、こうして激論を交わしている次第である。

 

 あと“好きな筋肉の部位”に関しても、それぞれ拘りがあるようで。

 電は腹筋、雷は上腕二頭筋(力こぶ)、暁はちょっとオシャマに下腿三頭筋(ふくらはぎ)、そして響はセクシーな大殿筋(おしり♡)が好きだったりする。

 同じ釜の飯を食う仲間とはいえ、譲れない物もあるのだった。

 

「でもあれかな? やっぱりぼくは、Hitomiさんが好きかな」

 

「うん! Hitomiさんが一番キレーよ♪

 私おっきくなったら、絶対Hitomiさんみたいになるねっ!

 がんばって牛乳飲むって決めたの♪」

 

 おててを繋いで貰い、彼女と並んで歩く響&暁が、無邪気にニコニコ。

 Hitomiの方も、それにあったかい笑顔を返す。みんなとても楽しそうだ。

 

 通りすがる町の人々も、彼女らの姿を微笑ましく見守る。

 ロリと筋肉! 筋肉&ロリ! ああなんと素晴らしいッ!!(迫真)

 いま道ですれ違ったおじさんが、「バーサーカーは、世界で一番つよい――――」となんか意味の分からない事を言っていたが、あれはいったい何だったのだろう?

 感涙してたっぽい雰囲気だったが、このシチュが彼の琴線に触れちゃったのか。尊いと。

 

 

 

「あれ? 貴方たちは……」

 

「びくぅ!?」

 

「ひぃっ!!」

 

 やがて、美星鎮守府ことアパートに到着。

 買い物袋を下げて帰宅したHitomiが見たのは、かの【ヘルキャット( 性悪女 )】の二人。

 何故か彼女達が部屋に居て、こちらを見て怯えているらしき光景だった。

 

 ――――や、やばいよお姉ちゃんっ! 絶対やられちゃうよぉ!

 ――――こんな栄養失調の身体じゃ、ボコボコにされてしまう! 成す術がないわ!

 そう二人は抱き合って、こちらを見ながらブルブルと震えている様子。

 もう見ていて哀れなほど、Hitomiの事を怖がっているようだ。

 

 腹ペコの自分たちとは違い、Hitomiの方は健康そのもの。

 P氏の家にやって来てからは、毎日充分な食事を摂り、とても肌艶が良くなった。

 しかも、以前「お水飲んでたら筋肉付いちゃうのわよ」と言っていた彼女。それがちゃんとご飯を食べたらどうなるか? 答えはお察しの通り。

 

 今のHitomiは、筋肉の張り、バルク、筋力、そのどれを取っても最高の状態――――

 ただでさえ、身体能力では三姉妹で一番だったのに、ここに来て絶望的なまでの差が出来てしまった。

 こんなグーペコでフラフラな身体じゃ、きっと二人揃って、一瞬で倒されてしまうだろう。

 

 しかも……今の自分たちには“交戦の意思”が無い。

 たくさん反省した事もあり、もうHitomiを傷付けるつもりも、パパに悪さをするつもりも、サラサラありはしないのだ。

 

 ゆえに、もう抗う術がない。抵抗することも出来ないし、したくはない。

 たとえ殴られようが、ボコボコにされようが、黙ってこの身を差し出すこと以外、彼女らには無いのだった。

 

「あ、これアカンやつなのわよ(察し)」

 

 可哀想なくらい怖がっている爆乳バスガイドことRuiと、爆乳チアガールことAi。

 彼女らを一瞥した途端、Hitomiは「あらいけない」とばかりに、テテテと駆け寄った。

 本当に、何気ない足取りで。

 関係ないが、なんかパパの口調が移ってるような気もする。

 

「これ食べる? ほら、アタシのお菓子あげる」

 

「えっ……」

 

「っ!」

 

 そして、おもむろに差し出す。「はい」って感じで。

 さっきスーパーで買って来たアポロチョコの箱を、二人に手渡してあげた。

 

「おいしいよ? 第六の子達のおすすめ。

 泣いてちゃダメなのわよ。元気だして♪」

 

 にぱっ☆ と花のように笑う。

 とても無邪気に、そして柔らかな表情で。

 二人は「ぽかーん」と見つめる。そのあまりの慈愛に。

 あたかも、子供に接するお姉さん。いやそのものだったから。

 

「昨日、会ったよね? パパにも会いに来たの?

 ならあたしと一緒だネ♪」

 

 茫然としたまま、カラフルなお菓子の箱を受け取る。

 何をどう思えばいいのか、これは一体どういう事なのか、理解が追いつかなかった。

 

「えとっ……! Hitomi姉さんは、怒ってないのぉ……?」

 

「だって私達、昨日は……」

 

「ん?」

 

 キョトン。そしてコテンと首を傾げる。Hitomiは不思議そうな顔。

 こちらの事をしっかり憶えているのなら、昨日自分たちがした仕打ちの事も、しっかり分かっているハズなのに。でも自分たちの姉は、すごくのんきでいらっしゃった。

 

「あぁー! なんか言ってたねェ、いろいろ♪

 でもごめん、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「?!?!?!」

 

 ――――気にしてないんじゃなく、理解していなかった!!(迫真)

 ぜったい怒られると覚悟してたのに、思わぬ展開であった。

 

「貴方たちは“家族”なんだよネ? あたしのこと“姉さん”って言ってたし。

 ごめんね、あたし記憶喪失っぽくて……。許してほしいのわよ……」

 

「いやっ、それ姉さんのせいじゃないしぃ!?

 ぜんぜん悪くなんてないよぉーっ!」

 

 妹のことを忘れちゃうなんて……酷いよね。

 そうHitomiが辛そうな顔。慌ててAiがフォローを入れた。

 

「でも姉さん、憶えているでしょう?

 昨日は酷い事をたくさん言ったし、私なんて暴力まで……。

 だから私達が叱られるのは、当然だって……」

 

「えっ。()()()()()()()()()()()? 後ですんごい反省したモン。

 お姉チャンなのに、『貴方たちなんか知らない』って言ったデショ?

 それで怒ったんじゃないの?」キョトン

 

 家族なのに知らないって言われたら、そりゃーすごく悲しいのわよ。叩かれたって仕方ないもん。

 どうやらHitomiは、昨日の事をそう解釈しているらしい。

 Hitomiは昨日、彼女らのあまりの威圧感に押され、とても混乱していた自覚がある。

 ゆえに、むしろ「怖がっちゃってごめんね。分からなくてゴメン」と、逆に二人に謝る始末だった。

 

「うわぁ! また綺麗なお姉さん達がいるぅー!」

 

「すごいのです! Hitomiさんそっくりなのです!」

 

「ハラショー」

 

 そして、第六駆逐隊の子達も、ダダダーッとこの場になだれ込んでくる。

 オロオロとしている二人を余所に、キャッキャと嬉しそうに纏わりつく。まるでジャングルジムでも見つけたかのように。子供は無邪気である。

 

 だがそれによって、さっきまでの空気や緊張が、一気に弛緩するのを感じた。

 あれだけ恐怖に怯えていた心が、Hitomiや子供達の笑顔によって、やわらかく溶かされていく。

 

「あれっ、シノノメちゃん! あたしに会いに来てくれたのっ!?」

 

「あはっ♪ 世間は狭いですぅ♪

 まさかHitomiさんも、P氏の娘さんだったとは♪」

 

 傍で様子を見守っていた東雲が、「うふふ♪」と微笑みを返す。

 そして再会を喜ぶように、キュッと手を取り合った。

 ニコーッ! っと最高の笑顔で見つめ合う。

 

「シノノメちゃん! シノノメちゃん!

 ねぇオムライス食べよ! パパが作ってくれるのわよっ!

 これね、あたしがお願いしたんだ♡ とっても美味しいヨ♡」

 

「はい、ではお呼ばれしますぅ♪ いっしょに食べましょう♪」

 

 なんか彼女たちの周りだけ、少女漫画みたいにキラキラだ。花とかまで幻視しちゃう程に。

 Hitomiがハイテンションで東雲の方へ行ってしまった事で、ヘルキャットの二人はポツン。取り残される。

 ――――なんか知らないけど、許されたっぽい? Hitomi姉さん天使じゃん!?

 パチクリとまばたきをしながら、二人で顔を見合わせるのだった。

 

 

 

「おいP提督ぅー、お客さんだぜぇー! 入ってもらって良いかぁー?」

 

「あの……お久しぶりですマスターPさん……。

 ちょっとこれ、作り過ぎちゃいまして……」

 

 そうこうしていると、部屋のドアが開く音。

 表で警備をしてくれていた天龍が、なにやら客人を連れて来たらしい。

 それを見たマスターP氏は、慌ててイソイソと玄関へお出迎えに向かう。

 

「あーっ、こりゃどうもどうも! セキゾノフさん!

 いつもほんまサーセン! めっちゃ助かりますわー!」

 

「いやあの……喜んで食べてくれるから……。

 自分も嬉しくて……つい張り切って作っちゃって……」

 

 料理の入ったお鍋を、P氏に渡してくれる。

 ――――彼の名は【スナハァラ・セキゾノフ】

 P氏の住むアパートのお隣さんであり、こうして大量のボルシチを作っては、3日に一回くらいおすそ分けをしに来てくれる、優しいおっさんである。

 

 その顔には、ナイフで斬り付けられたような十字傷があり、なんでも彼は退役軍人なのだそうだ。

 通称【砂漠の狼】と呼ばれ、現役の頃は世界各地の紛争に参加。沢山の功績をあげた優秀な兵士だったらしい。とっても凄い人なのだ。

 

 様々な軍用兵器や銃器の扱いに精通しており、加えて自らが考案した“プリキュアシステマ”という格闘術の使い手。

 兵士を辞めた今は、まるで癒しや心の安寧を求めるかように、毎週デリシャスパーティ♡プリキュアを視聴するのが生き甲斐という40才の男だ。

 

 ちなみに彼は“隠れシタタリアン”*3であり、家の居間には大きな壺が飾ってあったりもする。おちんちんみたいな形の。

 

「あーそうそう! 今オムライス作ってるんすよ、セキゾノフさん!

 良かったら持ってって下さいよ! いつも貰ってばっかだし!

 遠慮すんなよすんなよー!」

 

「ほんとですか……? それは楽しみだ……。

 私はオムレツやオムライスなどの、卵料理が好物なんだ……。嬉しいですPさん……」

 

 この人は喋る時、()()()()()()()()()()()()()()()という、変わった特徴がある。

 なんでか知らないが、いつも自信なさげに、申し訳なさそ~に話しよるのだ。

 一体それには、どんな理由があるのだろう? 謎だ。

 

「あ、ロリコンのおじさーん! おはよーなのです!」

 

「――――ろっ、ロロロリコンちゃうわ!!!!(迫真)」

 

 雷の無邪気な挨拶に、顔を真っ赤にして反論。

 いつもは三点リーダーの口調だが、こうして“ロリコン呼ばわり”された時にだけ、大声を出すのである。

 それがとっても面白くて、駆逐艦のロリっ子たちは、よく彼をロリコンと呼ぶ。

 まぁ、なんか3日に一回くらいボルシチ持ってくるし。怪しくない事もないし(真顔)

 

「別に必死こいて否定しなくていーすよ?

 ()()()()()()()()()()()()()。HENTAIの国じゃないすかセキゾノフさん」

 

「 ロリコンちゃうわ!! 決してロリコンちゃうわ!!

  こそっとメスガキ小説とか読んでたけど、ロリコンとちゃうわ! 」 

 

「したたる教もこそっと信仰してるし、あとB()L()()()も読んでましたよね? 衆道とかのヤツ。

 感想コメントもロクに残さんと、隠れて読んでたじゃんすか。恥ずかしーんすか?」

 

「 ホモじゃない! そしてロリコンじゃない!

  あくまで“私の友達”がそうなだけであって、決して私自身は違うッ!! 」

 

「――――あーっ、ごめんなさいですぅー! 湯呑がぁぁーっ!!」

 

「えっ? あっつッッ!!?? うぎゃああああああーーッ!!!!」

 

 ふいに東雲がドテーッと躓き、ひっくり返した湯呑がスナハァラ・セキゾノフさんを直撃。頭から熱湯を被る。

 

「 あっつ!? コレあちゅぅぅぅ~~い!!

  キュアプレシャスの、デリシャスプレシャスヒートよりあちゅぅぅぅ~~い!! 」

 

「おっ、セキウノフさん大丈夫か大丈夫か?」

 

「ホモだいじょぶ? ロリコン火傷してナイ?」

 

「 ホモでもロリコンでもないッ!! 」

 

 ちきしょー! と叫びながら、シャツを脱ぎ捨てたスナハァラ・セキゾノフさんが、外へ駆け出す。

 熱湯を被ってしまい、パニックを起こして半裸で飛び出していった。

 

 

「ボルシチありがとネー。()()()()また来てネー」

 

「――――ホリコンって何だよ!!!!(迫真)」

 

 

 

 

 

 Hitomiが手をフリフリしながら言う無邪気な言葉にも、律義に全部反応。

 セキゾノフさん捕まらないといいなぁ、と思う一同だった……(三点リーダー)

 

 

 

 

 

*1
【沼】 氏が考案した、オクラやワカメや鶏むね肉などが入った、御粥のような料理。お米を水分で膨らませているので、少量でも満足感があり、PFCバランスも完璧。とても良い減量食として、ダイエット業界で一世を風靡した。……しかしその反面、オクラやワカメをドロドロになるまで煮込んでいるので、見た目が物凄く悪く、まさにその名の通り“沼”という感じ。とても人間の食べ物とは思えない程である。ちなみにシャイニー薊さんは元料理人なので、味そのものはとても美味しく、食べやすさや作りやすさ、コスパの点で見ても、パーフェクトと言える料理だったりする。オススメです☆

*2
【フィジーク】 ボディビル競技の種目のひとつ。「ビーチでカッコいい身体」という趣旨があり、大会では海パンを穿いて出場する。上半身の筋肉が主な審査対象となる。身体の大きさではボディビルダーに軍配が上がるものの、美しくてバランスの良い筋肉が特徴。「オリバではなく刃牙みたいな身体」とイメージすると、分かりやすいかもしれない。

*3
【シタタリアン】 したたる教信者の事。でも「おちんちんを信仰してるの知られたら恥ずかしい!」という事で、隠れて信仰しているタイプの人達。



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅸ

 

 

 

 

「――――うぼぉい!! なにウチの信者を、イジめてくれてるのぉん!?」

 

 バーン! と大きな音を立てて、部屋のドアが開いた。

 みんなで一緒に食卓に着き、モグモグ幸せそうにオムライスをパクついていた時に。

 

「あの子とーっても、ナイーブなんだからねっ!

 人をイジりはしても、自分がイジられるのは大嫌いなのぉ~ん!

 すんごい打たれ弱い、ビンカン☆ヘタレおちんちんなの!

 優しくしてあげなさいよバカァ~ン! 豆腐を扱うが如くぅ~!」

 

 乳首の辺りを謎の光で隠す、パンいちの変態淑女。

 したたるウーマン――――もやはこの町の名物となりつつあるオモシロ教祖の女が、プリプリクネクネしながらマスターP宅に推参した。

 ……えっ、なんでわいの家知ってんの?(驚愕)

 

「ぐちぐち、ぐちぐち……さんざん恨み言を聞かされたわぁん!!

 あの子ガン凹みじゃないのよぅ! どーしてくれんのぉん!? メンドクサッ!!

 ワテクシは野望実現の為に、クッソ忙しい身なのに、構ってらんないのよぉん!!」

 

「いやあの、なんでアンタここに?

 わいらって敵同士じゃ……」

 

「ワテクシが“業務連絡”のメッセ送っても、いつも返信も寄こさず、無視するくせにぃ!

 面倒なのか何か知んないけどぉ!? アンタ曲がりなりにも()()でしょおん!?

 なのに……こんな時だけ『わーん! つらいよぅ!』って泣きついて来んじゃないわよぉん!!

 甘ったれんなぁぁぁーーーっ!!」

 

「おいしたたる……? お前ちょ! 聞いt

 

「いっつもいっつもぉ、()()()()()()()()()、ワテクシん所に来てからにッ!

 しかも、た~まに口を開くかと思えば、『したたる様大丈夫ですか……? ご無理はなさらないで下さい……』ってぇ!

 ――――何その上からのヤツ?! 心配してます感! 三点リーダー! なんなのぉん?!?!

 前に教団がピンチの時、()()()()()()()()()()()()? 何もしなかったよね……?

 なにを今さら『大丈夫ですか?』って、こっちすり寄ってきてんのぉん!?!?

 全部ほとぼりが冷めた頃にいぃぃぃーーッ!!!!」

 

「お、おい……お前さn

 

「――――ワテクシ頑張ってるでしょうが! 精一杯やってんでしょうがッ!!

 少なくとも、()()()()()()退()()()()()()()()()()、よっぽど“大丈夫”よぉん!!(怒)

 何を以ってアンタがッ! ワテクシにッ! 『大丈夫か?』って言ってんのぉーん?!

 お前が大丈夫かっつーのよぉーーん!!!!(迫真)」

 

 ワテクシなんて言えばいいのん? 彼と一体どう接すれば良いのん……?! 分からないのよぉん!!

 なにやら積もり積もっていた怒りや悲しみが、ここにきて爆発したらしい。

 したたる様、ただいま暴走中。クレイジートレインである。

 

「はぁっ……! はぁっ……! ぜぇぜぇ!

 ちゅー事で、もうちょっとだけ彼に、優しくしたげてくんなぁ~い?

 アンタにも人情って物があるでしょん? 同じ美星町の仲間じゃないのよん」

 

「いやお前ら、町の平和を乱す側っスからね?

 悪い事してるヤツほど、良識とか人情とかを持ち出して来るよなぁ……。

 自分のした事を棚に上げてさぁ」

 

 このしたたるウーマンの仲間である以上、これからもホリコンさんと上手くやって行くことは、正直厳しいと思える。

 けれどアイツいい人ではあるし、いつもボルシチ持って来てくれるんだよなぁ……。その義理がなぁ……。

 これは難しい問題だと、P氏は「うむむ」と唸る。どーしたもんかなコレと。

 

「ハーイ! これからはホリコンさんに、優しくするのわよー♡」

 

「私もなのです! もうイジったりしないのです! かわいそーなのです!」

 

「了解した! んじゃあ今後、なるだけアイツの事は、そっとしといてやろうぜ!

 なんかメッセ来てもガン無視してやるぜ☆」

 

 Hitomi&雷&天龍が、元気よく手を挙げる。「先生分かりましたー!」って感じで。

 ――――人をホモ扱いするだなんて、もっての外だ!

 ――――ロリコン呼ばわりなんざ、そんなのケンカ売ってるのと同じだろうが! 何考えとんのじゃゴラァ!!

 ゆえに! 絶対やっちゃ駄目な事なのだ! 人として!(迫真)

 

 ここにいる女の子たちは、みんなお利口で良い子ばかりなので、しっかり理解してくれた。

 親しき中にも礼儀あり。優しさを忘れるべからず。地球は愛で周っているのである。

 

 

「あれっ? ……あーそういう事なのん! おっけおっけ~☆」

 

 みんなでホリコンさんについての処置を確認し合っていた時、ふいにしたたるウーマンがポン! と手を叩く。

 なにやら、一人なにかに納得したかのように。

 

「ねぇそこのビューティ三姉妹? そうならそうと、言ってくれたら良かったのにぃ~ん☆」

 

「えっ」

 

「は?」

 

「うん?」

 

 順番に爆乳チアガールことAi、爆乳バスガイドことRui、そしてHitomi。

 彼女らはポカンとしながら、ウーマンさんに向き直る。

 

「入りたいんでしょん? ()()()()()。もちろん大歓迎よぉん♡」 

 

 いや~、おちんちん好きそうな顔してるもんねぇ! このドスケベ♡キャッツアイ!

 ウーマンは「おっほっほ♪」と機嫌良さそうに笑う。口元に手の甲を当て、もう絵に描いたような令嬢笑い。

 

あの子(セキゾノフ)を負かして、力を示したのぉん? 自分達こそが、この教団に相応しいって。

 クスクス♪ そんな事しなくても、別に入れたげるわよぉ~ん♪

 だって! ()()()()()()()()()()()()! もし町で見かけたら、ワテクシがスカウトしてた位よぉん!」

 

 そのえっちなコスプレは、ワテクシへのリスペクト? かなりいい線いってると思うわぁん! 実に優秀な人材よぉん!

 そうしたたるウーマンが、引き続き高笑いを挙げる。

 ( ゚д゚)ポカーン… としてる皆の事など、気にも留めていないようだ。

 

「ささっ! 本部へ行きましょん、忠実なるしもべ達よ!

 オゥケェ、ガ~ルズ! レッツエクササイーズ! イエー♪

 ラァイト、ヒゥイゴ! ワン、トゥ、スr

 

「――――フッ!!(吹き矢)」

 

「う゛っ!?!? …………ガックリ……」

 

 窓から顔だけを出した“ワーキングプア侍”が、一撃の下に彼女を仕留める。

 上機嫌で笑っていたしたたるは、成す術なくその場に倒れ込むのだった。

 

「悪の栄えた試し無し。これにて報酬5万円GET也。

 闇に滅せよ――――」

 

 右手で南無と拝み手をしつつ、彼が「よいしょ!」って感じで窓から入室。

 いったいこいつは誰なんだ。なんでそんなとこ居たんだ……。

 みんなには知る由もない。

 

「つかぬ事を訊ねるが、この辺りに、メロンを売っている店はあるか?

 我が主の為、買うときたいので御座る」

 

「いやそれよか、入って来ないでくれますかね(白目)

 ここわいの家なんでね」

 

 誰なんスかおっさん……何してはるんですかアンタ。土足で……。

 通報するぞこの野郎、とマスターP氏は冷や汗。

 とりあえずワープアはスチャっと部屋の中へ入り、無駄にキリッとした顔をする。

 その堂々とした佇まいが、無駄にカッコ良かった。なんにも悪びれてないし。

 

「この女は連れて行く。各々方、構わぬな?」

 

「そりゃー、もちろんっすけど。

 ついでに牢にぶち込んどいてくれよな! 頼むよ頼むよー!」

 

 まぁしたたるウーマンなら、すぐ脱獄とかしそうだけど……。

 このぶっ飛んだ女を拘束するだなんて、日本の警察や刑務所には無理だ。

 催眠術とかサイコキネシス使うんだぞ。これでもメチャメチャ強いのだウーマンは。

 

 

「それと――――そこの女子(おなご)

 あいすまぬが、少しばかり顔を貸してもらえぬか?」

 

 

 さっきまでの弛緩した空気じゃなく、突然ワーキングプア侍が、鋭い目で睨む。

 

「えっ……、あたしカナ?」

 

「いかにも、御身だ。

 手間は取らせぬで御座る。表で話そうぞ」

 

 Hitomiがキョトンとしながら、指で自分の顔を指す。

 それを見届けた途端、彼は先んじて部屋を出ていく。こちらを振り返ることもせずに。

 

 みんなが茫然と見守る中で、Hitomiが慌ててパタパタと後を追っていく。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「やはり似ておる。

 生き写しの如く、瓜二つに御座る」

 

 アパートから少し行った先にある“空地”。

 まるでのび太達の遊び場のように、三つ積み重なった土管や、いかにも野球が出来そうな芝生が広がっている。

 

「お前、()()()()の者だな――――

 力石めの血縁者と見たが、如何に?」

 

 ここに二人が着いた後、暫し無言の時間が流れた。

 プアはじっとHitomiの顔を見つめており、彼女はオドオドとするばかりだった。

 しかし、ここにきて彼が口を開く。

 その内容は、Hitomiに対する問いかけである。

 

「拙者も、過去にあの里におったので御座る。

 今は抜け忍の如く、この町で生きておる身ではあるが……。

 力石めの事は、よく知っている。歳は離れておるが、同じ釜の飯を食った仲だ」

 

 戸惑う。意味の分からなさに。

 “組織”という物に聞き覚えも無ければ、その“力石”という人物も知らない。

 当然の事だ、彼女は記憶を失っているのだから。

 過去の自分の事や、血縁者の事など、分かる筈もない。

 

「ごめんなさい。分からない……。

 気が付いたら、この町に居たの。

 あたしがパパの娘だってこと以外、なにも憶えてなくて」

 

「……」

 

 じっと、目を見られる。

 まっすぐ、謀ることは許さないと言うように。

 せめてもの誠意として、Hitomiは視線を逸らさぬよう心掛け、負けじとプアを見つめ返す。

 弱々しく、恐怖に曇った眼ではあったが、懸命に潔白を示した。

 

「ならば、()()()()()

 どうしてここにいる。何を企んでおる。

 お前と、力石は」

 

「っ!?」

 

 チャキッと、彼が刀に手をかける音。

 それが緊張感に満ちたこの場に、驚くほどハッキリと響いた。

 

「我が主には触れさせぬ。あの御方を守るためだけに、この身はある。

 危機の可能性は摘む。命に“やり直し”など無いのだから。

 怪しきは――――斬る」

 

 分かる。この人はあたしを殺せる。

 その刃は、斬られた事すら気付かせない内に、あたしの身体を真っ二つにするだろう。

 他ならぬこのお侍さんなら、それが出来る――――

 

「所詮、殺し屋稼業に御座る。それしか出来ぬし、他に生き方を知らぬ。

 拙者も、力石も、()()()

 あの里に生まれた者は、皆」

 

「何を成すつもりにせよ、ろくな事にはなるまいて。

 お前の存在は、必ずやこの町に、災いをもたらす。

 ……いっそ、ここで死んでおくか? 雛鳥よ」

 

「もう苦悩せずとも良い。思い出せぬ事など、そのまま忘れてしまえ。

 お前が世に害を成さぬ内、()()()()()()()()()、冥途に送ってやる。

 同胞のよしみぞ」

 

 重い。空気が。

 身体が動かない。息が上手く吸えない。

 侍が放つ威圧感に、Hitomiは氷のように身を固くする。

 指一本でも動かせば、次の瞬間あたしは死ぬ。その明確なビジョンがハッキリ頭に浮かんでいる。

 だけど……。

 

「ねぇ、貴方の主さんって、どんな子?

 貴方はその人のこと、好き?」

 

 ふいに、この場に似つかわしくないような、何気ない声。

 力まず、気負わず、あたかも世間話をするような声色で、Hitomiが問いかける。

 

 

「きっと私にとって、パパがその子なんだと思う――――」

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から。

 

 別に憶えてるワケじゃないけど、きっとそうだ。絶対。

 

 

 あたしはパパのことが好き――――ずっとずっと好き。

 

 だからこの身体は、パパのためにある。

 

 触れるため。手を握るため。

 あの人に抱きしめて貰うために、あるんだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 そんなHitomiの胸の内が、届いたのかは分からない。

 しかしワーキングプア侍は、ゆっくりと刀から手を放し、静かに居合の構えを解いた。

 どこか遠くにいる大切な誰かを想うように、どこを見つめるでも無い眼のまま。

 そして、身体から力を抜くように、ふぅとため息を吐き出す。

 

 

「何かあれば、拙者を呼べ。

 居所は東雲殿がご存じでおられる。

 スマホなどという高価な代物……、持っては御座らぬゆえ」

 

 

 

 

 そう短くHitomiに告げ、踵を返した。

 

 あー生活が苦しい! 働けど働けど! なんて呟きながら。

 

 

 

 

 

 

 




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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) Ⅹ

 

 

 

「よぉ、肝を冷やしたぜHitomi……」

 

 平穏と静けさが戻った、アパート近くの空地。

 

「この前の爺さんもそうだが、あのハゲもやべぇ。

 ぶっちゃけた話……オレには勝てるイメージが浮かばなかった。

 お前の盾になってやるくれぇしか、きっと出来なかったよ」

 

 だから、本当によかったぜ。アイツが退いてくれて。

 そう天龍が胸をなでおろす。額に玉のような汗が浮かんでいるのが分かる。

 きっと彼女はHitomiの身を案じ、こっそり後を追って来てくれたのだろう。

 

「つっても、一回斬られてお終いじゃ、お前を守った事にならねぇよな。

 くっそ! 龍田もいればッ!

 ホタテに小指を挟まれて、大破してなけりゃ……!」

 

 艦娘って一体どんな仕組みなのだろう?

 ホタテ獲ろうとして大破とか、あまりにも脆すぎるような気がする。そらワープアさんに勝てんわ。

 

「心配ないのわよ、テンリューさん。

 ちょっと話をしてたダケ」

 

 いい人だったヨ。だって目が優しかったモン。

 そう傍に来た天龍に、ニコッと微笑みかける。

 少しだけ声が小さく、どこかいつもの彼女とは違う雰囲気。

 けれど、しっかり天龍に応えて見せた。

 

「ふむ……まぁお前がそう言うんなら、問題ねぇんだろうがよ。

 でも美星町は魔窟なんだ。あんなのがそこら中、ゴロゴロしてやがる。

 だから、あんま一人でどっか行くなよ?

 出掛ける時ぁ、オレに声かけろ。連れてけ」

 

「うん、アリガト」

 

 並んで、トコトコ歩く。

 家までの帰路を。マスターP氏のいる、あのアパートへ。

 

「ねぇテンリューさん?

 もし、あたしが()()()になったら……どうする?」

 

 ふいに、ボソッと。

 前を向いたまま、何気なく声をかける。

 

「テンリューさんは、第六の子達のオネーチャンわよね。

 悪いことした子は、どんな風にする?」

 

「おぉ? オレかぁ? そうだなぁ~」

 

 片方の眉を上げた顔で、うむむと悩む。

 あまり想像出来ないようだ。Hitomiや第六の子達が、悪さをする所なんて。

 

「とりあえず、ポカッとゲンコツ入れっかなぁ?

 んで正座させてぇ、言って聞かせてぇ、終わったら旨い飯食わせる」

 

「ごはん?」

 

 ん? と愛らしい顔で、天龍の方を見る。

 彼女は腕組みをしながら、今も想像を膨らませている様子だ。

 ありえないと思える光景の。

 

「おうよ。怒るばっかじゃ、ガキは育たねぇよ。

 悪いトコは言うけど、こっちだって憎くて叱るワケじゃねぇ。

 それでガキがちゃんと成長してくれた時、『よく頑張ったな』って褒めてやる為さ」

 

 愛がなかったら、叱れねぇ。

 どーでも良いんなら、ほったらかすさ。お前の好きにしろってな。

 好きの対義語は“無関心”なんだと、天龍は語る。 

 

「まぁ正直……やってるオレの方もしんどいだろうから、しっかり説教した後は、何にもなかったみたいに飯食わせるよ。

 いっぱい食えよ! 明日からも頑張ろうな! つって。

 締めるトコは締めて、笑う時はおもいっきり笑う。この緩急がコツだぜ?」

 

 へっ! と天龍が照れ臭そうな表情。

 オレみてぇな荒くれが、ガラにもねぇこと言っちまったと自嘲する。

 そんなあったかいこの人を、Hitomiは眩しそうに見つめる。

 

「なに食べさせる? あたしオムライスがいーカナ♪

 今度はテンリューさんのヤツ」

 

「おいおい、怒らせる気マンマンかよ。

 P提督の方が旨いつーの。ガッカリさせちまうよ……」

 

 飯を目当てに悪さとか、そーいうのやめてくれよ?

 そもそもお前には、もう叱る所がねぇよ。オレの方がよっぽど不甲斐ねぇ。

 天龍がそう窘め、柔らかく微笑む。それは仲の良い友人に向ける笑み、その物。

 

 

「ううん、テンリューさんがいい♪

 もし怒られるなら、貴方がいいナ。

 だから……きっとあたしを叱ってね?」

 

 

 

 ゆーびきぃーり、げぇーんまん♪ うーそつーいたら――――

 

 二人が小指を絡ませ、元気よく上下。

 天龍は困った顔。Hitomiは楽しそうな顔。

 

 やがてアパートの前に辿り着いた時、二人は少し名残惜しそうに、その指を離した。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「――――バーベキューっしょ。BBQしかねぇっスよ東雲さん」

 

「ふぇ?」

 

 突然の言葉に、東雲がコテンと小首を傾げた。

 ちんまい彼女がやると、まるで愛らしい子供のよう。

 折り紙で作られた紫陽花の髪飾りも付けているし、容姿的には高価な日本人形のような感じか。

 

「丁度シーズンなんスよ。サンマとか椎茸とかが、めっちゃ美味い時期なんスわ。

 やるしかねぇだろォん! わい達には今しかねぇだろォん!

 ここでイモ引くわけにはイカンのですわ! アイアムザマン!!」キリッ

 

「いえ、BBQ自体の事ではなくぅ。

 なぜ唐突にぃ、お誘い下さったのかなーってぇ……」

 

 自分達は、今日会ったばかり。

 ヘルキャットの子達を送り届けた後、お昼までご馳走になってしまったというのに、そこに来てこの提案である。

 東雲もポン助も、なんか「意味が分かりません」って雰囲気。P氏の得も知れぬ勢いに、圧倒されちゃってるように見える。

 

「お二人には、この子らが大変世話になりましたからねェ!

 なんでも()()()()()()使()()()について、色々教えてもらったそうで!」

 

「それに関しては、申し訳ありませんでしたぁ。

 後で私のお人形さんに、グーパンさせときますぅ」

 

「そもそもの話っスけど……多分お二人は、()()()()()()()()()

 こんな懐かれちまったら、もう無理だと思いますわ。

 少なくとも夜までは」

 

「……」

 

「…………」

 

 ちなみにだが、いま東雲はHitomiのお膝の上、「♪~」って感じで抱っこされている。

 ニッコニコご機嫌な様子で、彼女を後ろからギューッと抱きしめ、片時も離そうとしないのだ。

 さっき人形の話があったが、彼女らの凄まじい体格差によって、ホントそんな風に見えてしまう。

 もうその様は、無邪気な子供そのもの。「シノノメちゃん大好き☆」って感じだ。

 

 ポン助に関しても、Rui&Aiにじぃ~っと見つめられ、常に無言のプレッシャーをかけられている始末。

 えっ、ダンボール師匠帰るの? 帰っちゃうの……?

 まるで捨てられたネコみたいに、うるうる潤んだ目で、ポン助をここに繋ぎ止めているのだった。

 もうエロいわカワイイわで、抗いようが無い。

 

 せめて夜まで。……もっと言うと、この子らが()()()()()()()()()

 東雲とポン助の二人は、ここに居るしか無いように思えた。大人はツラい。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「ヒャッハー肉だぜ! 全てを焼き尽くしてやるッ!(BBQ的な意味で)」

 

「おい直樹、あまり無茶するなよ?

 Pさんにご迷惑だからな」

 

 飯島直樹と室斑勝也の二人が、あーだこーだ言いながらBBQグリルを囲む。

 

「子豚とか無いの? あれグルグルやって丸ごと焼こうぜ! なんか派手じゃんか!」

 

「またお前は……。食いたいんじゃなく、焼きたいだけなんじゃないのか?

 少しは落ち着け、もう高2だろう」

 

 VUMのトリックスターの名を欲しいままにする、破天荒な直樹。

 空手道を嗜む好漢で、落ち着いた雰囲気の勝也。

 対照的な二人ではあれど、なんか良い感じで凸凹が組み合わさっている印象。

 今ギャーギャー騒いでいるけれど、まごう事なき親友同士である。

 

 

 

「えっと……なんかゴメンね?

 アイツらどうしてもって言って、ついて来ちゃったの。

 男子高校生は腹ペコの化身でね? 肉食わせろこの野郎! みたく。」

 

「ううん、大歓迎なのわよ。

 パパは『みんなに声をかけろー!』って言ってたし。

 たくさん来てくれて、パパも喜んでる♪」

 

 それを少し離れた場所で見守る、のどかとHitomiの二人。

 彼女らは仲良く寄り添って立ち、一緒にソーセージとか海老とかをパクついている。

 時折のどかはメガネをクイッと直しつつ、「おっと、野菜も焼かなきゃ」となにやら計画的に考えを巡らせている模様。

 BBQの具材達を“兵士”に例え、それで独自の布陣を組もうとしているかのように。

 せっかくのインテリジェンスの無駄遣いをする、文系少女であった。

 

 同じメガネっ子という事で、のどかとHitomiが並ぶと、とても様になる感じがする。

 まぁシンプルな銀縁メガネと、エロ女教師みたいな赤いフレームのメガネではあるが。

 しかしながら、二人はとても仲良さげ。彼女達の間には、常に穏やかで優しい空気が流れている。

 

 あっ、もうここらへん焼けたわよっ! Hitomiさーん!

 了解わよー! ええーい!

 そんな風にのどか(軍司殿)の指示の下、ドンドンみんなの分のお肉を焼いていくHitomi。

 隣では爆乳バスガイドことRui&爆乳チアガールことAiも、「ルンルン♪」と元気に手伝ってくれてるので、なんかノーパンしゃぶしゃぶならぬ【爆乳コスプレ焼肉】みたいになってしまってる事には、みんな閉口していた。

 

 

 

「ぐ……グギギ!

 早くごめんなさいしたいけど、タイミングが掴めないよぉ~っ!」

 

「まぁ焦らずやりなさいな。

 さっきもあの人、『久しぶり♪』って、明るく迎えてくれたじゃない。

 何にも心配すること無いわ」

 

 またその様子を、なんか可愛く「むきゃー!」とか言いながら見つめる、女の子二人組の姿。

 彼女らはランカ・リーと、ルカ・アンジェローニ。みんなと同じく美星学園の生徒である。

 ランカの方に関しては、先日ひと悶着あった事もあり、「はやくあの人と仲直りしたい! 友達になって欲しい!」と、モヤモヤしちゃってるようだった。

 

 

 

「スパム! スパム! スパム!」

 

「おー、スパムおにぎりですかー!

 凄く美味しそうですね。ウチのコンビニでも、人気商品なんです。

 焼きおにぎりで食べられるなんて、これは楽しみだ! みんな喜びますよ!」

 

 若者たちと少し離れた一角には、みんなの為にスパムおにぎりを量産するヴァイキングの皆さんと、それを快くお手伝いするコンビニ店長さんの姿がある。

 さっきマスターP氏と朗らかに談笑していたし、彼らもBBQを楽しんでくれているみたいだ。

 

 

 

「ねぇ、私達なんで呼ばれたんだろう?

 ぜんぜん面識なかったっぽいのに……アリエナイ」

 

「わざわざ“みっつめのセカイ”まで、声をかけに来てくれたね。

 プリキュアの皆さん! いつもご苦労様っス! みたいに……」

 

 そして、この場には主に異世界で活躍する、大勢の“プリキュア達”の姿も。

 マックスハートの三人や、5GoGoの面子、そして19年にも渡る歴代のプリキュア達がワラワラと勢ぞろい。

 

 味のヤマモト(有)のご協力により、異世界間移動の装置を使わせて貰い、わざわざHitomiとP氏が誘いに行ったのだ。「BBQやりません?」と。

 もちろん味のヤマモトに話を付けたのは、その社長さんと知り合い(?)であるファンキー爺さんである。

 有無を言わせず協力を取り付けることに成功したのだ。

 

 ちなみに彼女らプリキュアの“マスコット達”も、なにやら向こうの原っぱの方で、「わーい!」と遊んでいる模様。

 現在はみんなで鬼ごっこをやっているらしく、見ていて心が癒される、めっちゃ微笑ましい光景である。

 

 

 

「おぉ? やんのかコラ? やったんぞオイ、このショタっ子が。

 こちとらカロリー制限でピリピリしとんのじゃい」

 

「品のないこと言わないでよ。知性の欠片も無い。

 そんなだから、いつも僕らに出し抜かれるんじゃないのかい?」

 

「いーから楽しもーよぉ♪ 今日はブレイコーだって約束したじゃん! きゃは☆」

 

 今回のキャンプ場となっている河川敷、その隅っこの方では、なんか「おっコラ? あぁコラ?」と、関西人のガラの悪さを発揮しているハセ・ガワ氏。

 それを余裕のある態度で軽く受け流す、ミスター慧眼人くん。

 加えて「まーまー☆」と二人を諫めている、テンジクボタンちゃんの姿があった。

 

 彼らは普段敵対しており、もうバッキバキにやりあっている仲なので、この場に三人が集まったのはとても意外であった。

 いくら元町長であるマスターP氏の呼びかけとはいえ、なんか奇跡的に全員が来てくれた。

 ある意味これは、マスターP氏の器のデカさが成せる業なのかもしれない。

 だがこの場の空気の険悪さがスゲェ。

 

 

 

「どうだお地蔵さま、うまいか?

 いっぱい焼くから、どんどん食べてくれなっ!」

 

(――――わざわざ担いでまで連れてくるなっ! 重ぅなかったんかお前は!) 

 

 そして会場の中央には、大好きなお地蔵さまと一緒にBBQを楽しむ、秋月流くんがいた。

 

「新商品の“プロテインバー”を持ってきたんだよ!

 これチョコタイプのヤツだけど、焼けばなんでも美味くなるよねっ!」

 

(――――たまには普通のモン食わしてくれ! もうタンパク質はええて!)

 

 助けてくれ小雪ぃー! お前が居てくれればぁーっ!

 そうお地蔵さまが、心で涙を流すが、小雪はいま経過観察のために入院中。残念ながらここには居ないのだ。

 けれど、プアやチョコ太郎も付いていてくれてるし、後でお土産や写真をたくさん持って、いつものように妹の病室に向かう予定だ。

 

 彼の周りには、たくさんの人達が集まる。

 アンパンマンとかばいきんまんとか、いろはとかROCKETーMANとかきゅうべぇとか、あと天津飯も。

 秋晴れのポカポカした陽気の中、みんな代わる代わる流のもとを訪れては、ワハハと談笑をしたり、一緒に焼きプロテインバーを食べたりしている。

 お地蔵さまに「とほほ……」と見守られながら、愉快で楽しい光景を繰り広げていった。

 

 

 

 

「よかったねパパ、みんな楽しそうわよ♪」

 

「おうっ! 美星町中のバカ共が勢ぞろいだ! 壮観な光景ですねェ!」

 

 やがて、ひとしきり役目を終えたHitomiが、コーラ片手に椅子にふんぞり返っているP氏のもとに。

 この幸せを感じ入るように微笑みながら、そっとP氏の隣に寄り添う。

 

「Hitomiが頑張ってくれたから、こんなすげぇBBQが出来たんだ!

 えらいぞぅHitomi! 流石はわいの娘やでェ! ナイスゥ!」

 

「ふふっ、すごいのはパパわよ。あたしはお手伝いだけ。

 でも喜んでくれて嬉しい♪ あたし今、とっても幸せだよ♪」

 

 親子二人、ワイワイとバカ騒ぎをするみんなを見つめる。

 みんな心から笑っているし、とても喜んでくれてるのが分かった。

 

「この町に来てよかった。がんばってパパを探して良かった……。

 挫けないで、よかった」

 

 出会い、奇跡、幸せ、喜び。

 そんな全てをギュッと抱きしめ、そっと目を閉じる。

 まるで宝物を仕舞い込むように。

 ずっと、このままでいられたらと――――

 

「オイHitomi! こんくらいで満足してたら、この先もちませんぞォ?

 なんたってお前は、このワイの娘ですし!

 これからもぉ~~っと! 面白くしてくんだかんなァ!!」

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「……」

 

 薄暗い研究室で、モニターを眺める。

 

「……」

 

 茫然と。ポォっとした顔で。まるでパレードを見つめる幼子のように。

 いま力石が見つめる眼前のモニターには、美星町の大勢の者達が、楽し気に笑い合っている光景がある。

 

 料理やジュースを手に、肩を組んだり、ダンスをしたり、騒いだり。

 あれだけ自分が望んだ“普通”の世界が、決して通ることの出来ない画面の向こう側に、存在していた。

 

「……っ!」

 

 そして、こんな嫉妬で狂いそうになるほど眩しい光景の中に、マスターPが居る。

 あたかもこの楽園の中心であるかのように、強い存在感を放って。

 仲間と語らい、ガハハと肩を叩き、お腹いっぱい美味しい物を食べている。

 

 その隣には、自らが生み出した“娘”。

 出来損ないのヒトガタ。一山いくらの疑似生命体。私の偽物。

 

 あの子が今、ずっと待ち望んでいた私の王子様の隣にいるのだ。

 ()()()()()()()

 

「なぜ……笑ってるの? なんでそんなに楽しそうなのP君?

 私は、ずっと待ってるのに。

 暗闇の中、貴方にまた会える日を。…………なのに」

 

 マスターPが笑う。心底愉快そうに。ワハハと。

 それを見れば見るほど、私は――――

 

 

 

『 ()()()()()Hitomi。燃やしてしまえ 』

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 

『――――』

 

 ふいに、Hitomiの目の色が変わった。

 比喩ではなく、美しいグリーンだった眼が、アルビノのような色素のない色へと変化。

 瞳孔が小さくなり、カッと瞼が全開になる。

 

『――――』

 

「んぉ?」

 

 駆け出す。突然。

 P氏が呆けた声を出すが、それを気に留めもせず、BBQグリルの方へ走る。

 今も沢山の木炭が、中で赤く燃えているハズのそれへ。

 

「……っ!? おいHitomiぃ!?」

 

 彼女がパシッと“着火剤”を手に取る。

 炭に火を着ける為に使う、ガソリンのような液体を、何故かおもむろに掴んだ。

 

 即座に蓋を捨て去り、間を置かず撒き散らす。

 勢いよくブンと腕を振り、ボトルの中身を全部、燃え盛る炭へと。

 

 その途端、この場に見上げるような爆炎が上がった――――

 

 

 

 

 

 

 

「 ――――危ないっ!!!!!! 」

 

 

 咄嗟の出来事に、誰もが状況を理解出来ずに立ちすくむ中……()()だけが動いた。

 彼女が小さな身体で突進。頭からツッコむロケットのような体当たりで、見事Hitomiの身体を押し倒す。

 

 間一髪。今まさに爆炎に包まれようとしていたHitomiは、東雲と一緒にもんどりうって倒れ、ゴロゴロと転がる。

 人体が地面に打ち付けられる鈍い音が、何度も辺りに響く。

 けれど、二人とも無事だ。

 

 

「あ、アハッ……♪ なんか()()()()()がしたんですぅ。

 この“業”も、たまには役に立つんですねぇ。……知らなかったぁ……」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 BBQ会場は騒然。

 誰もがこの場に駆け寄り、倒れ込んだ二人を取り囲む。

 

 女の子達の悲鳴、消火作業をする男達の怒号、P氏の叫び。

 そんな沢山の声が響く中、東雲はふぅ……と意識を閉じる。

 

 

 ほっとした表情。やさしい顔。

 

 この子が無事で、ほんとうに良かったと――――

 

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅠ



 短いですが、本日二話目の更新です。
 まだの人は、前話から読むのわよ。







 

 

 

「あ、あれっ? あたし……」

 

 瞼を開いた時、たくさんの顔があった。

 今日できたばかりの友達。いっしょにBBQをした仲間たちの姿だ。

 

「動くなって! まだ寝てて! 頭を打ってるかもしれないんだ!」

 

「Hitomiちゃん大丈夫!? どこか痛むは所ない?!」

 

 けれど、あの笑顔じゃない。楽しそうな空気じゃない。

 誰もが心配そうにこちらを見つめ、泣きそうな顔をしてる子もいる。

 なんでみんなに、こんな顔をさせてるんだろう? 心配をかけない、いい子になるって、誓ったのに……。

 でも分からない。自分がなぜ倒れているのかすら。Hitomiは何も憶えていなかったから。

 

「なぁ……Hitomiよぉ……」

 

 仰向けで空を見上げ、ぼけっと呆けるばかりだったHitomiの視界に、突然ヌッと天龍が。

 彼女の顔を見た途端、Hitomiは反射的にガバッと身体を起こし、ハッとした表情で向き直る。

 いま天龍は、なにやらピクピクと額に青筋を立てていて、ワナワナと身体を震わせているのが分かった。

 まるで、必死に怒りを堪えているかのような。

 

 

「 ばっきゃろうッ!! 」ゴチーン!

 

 

 天龍がゲンコツを振り下ろし、()()()()P()()の目に星が散る。

 

「 何してんだHitomiッ! お前もうちょっとで火達磨だったぞ!?

  お前になんかあったらッ……! オレはぁッ! オレはぁぁぁああーーッ!!!! 」

 

「テンリューさん」トゥンク…

 

「えっ、なんでわいを? それだけ先おしえて?」

 

 まっすぐHitomiの方を見つめながら、天龍が目を潤ませる。吹き上がる間欠泉のように激昂。

 たまたま隣にいて、ノリで殴ってしまったP氏の事など、気にも留めずに。

 

「あったま来たッ……! お前は金輪際、オレの傍を離れんなッ!!

 ずっと見てっからな! 月月火水木金金だバカ野郎! 覚悟しとけHitomiッ!!」

 

「テンリューさん」キュン…

 

「聞いてる? これタンコブ。わい漫画みたいなってる」

 

 まるで二人だけの結界でも張られているかのように、一向に反応してくれない。

 今Hitomiと天龍のまわりだけ、ぽわわ~んとキラキラした空間。こっちには見向きもしない。

 えっ、わい透明人間なった? 女の子にエロいこと出来ます?

 一人夢を膨らませてみるけれど、それを人は“現実逃避”と呼ぶのだ。

 

「頼むP提督、オレをHitomi付きの“護衛”に任命してくれ。

 提督と同じく、Hitomiの命令でも動けるように。

 海には出れねぇかもしれねぇが、もう決めたんだ。……ぜったい守るから」

 

「パパ」ギュッ…

 

「えっ、何そのケッコン(仮)。唐突」

 

 ようやくこっちを向いたかと思えば、「娘さんを僕に下さい!」的なヤツ。

 あまりの展開の速さに、P氏は頭が混乱してくる。

 そんで、何この“断ったら悪人”という空気。周りのヤツラの視線。理不尽。

 

「つーか、今回は出しゃばれねぇや……。

 東雲の姉御に、全部持ってかれちまった。

 後で礼を言っとけよHitomi?」

 

「シノノメ、ちゃん……?」

 

 立ち上がり、辺りを見渡せば、すぐそこに自分と同じように寝かされている、ちんまい女の子の姿。

 いま東雲は「う~ん……」と可愛くおめめをグルグルしながら、ポン助たちに手厚く介抱されているようだ。

 

「“東雲ロケット”が炸裂したは良いが、()()()()()()()()()

 ピンボールみてぇに弾け飛んで、岩やらクーラ―BOXやらに激突してたよ」

 

「 シノノメちゃん!?!? 」

 

 体格差、という物がある。

 例えるなら、Hitomiが金属バットで、東雲は野球のボール。

 どちらが衝撃に負けてポーンと飛んでいくかなど、考えるまでも無かった。

 

「頸椎捻挫、全身打撲、擦過傷、アバラ骨粉砕、半月板損傷etc.

 あの一瞬で姉御は、()2()5()0()()()を負傷したぜ」

 

「 シノノメちゃん!?!? 」

 

 なにやら“250”という数字にも、神の作為めいた物を感じる。

 当て字にすれば250は、「ふ・こ・う♪」と読めなくも無いし。

 

「地面に倒れた後も、姉御にハトのフンが落ちてきたり、どこぞからバレーボールが飛んで来たり、強風でパンツ丸見えになったり……。

 姉御が居るあの一角にだけ、()()()()()()()()()()

 移動させてやろうとしたら、いきなり姉御の担架がバキィッ! って折れてさ?

 おもいっきり頭を強打してたよ」

 

「 ――――シノノメちゃん!?!?!? 」

 

 人生ハードモードか。むしろナイトメアだ。

 周りにいた人達がドン引きしちゃうくらい、次々と不幸な目に合う東雲であった。

 というか、寝てても災難が降りかかるんですね(驚愕)

 今回東雲は、何にも悪いことしてないのに。不憫な子であった。

 

 

「シノノメちゃん生きてる?! 死んじゃダメなのわよーぅ!」ゴッスン! ゴッスン!

 

「ははは。呼吸があるヤツに、心肺蘇生は駄目だぞー。

 胸骨ヘシ折れちまうからなー」

 

 

 

 

 

 みんなの思い違いなら良いのだが、なんか東雲が泡を吹いているように見える。

 めっちゃ口元ブクブクいってる。寝てるけど「やめちくり~!」って感じだ。

 

 そして、Hitomiがおっぱいブルンブルンさせながらする、あたかも「ザオリク! ザオリク!」と言っているかのような看護は、この後()()()ほど続いた。

 

 流石ナース服着てるだけあるよね(エロい)

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅡ

 

 

 

 

 

 みんな、優しかった。

 涙が出るくらい――――

 

 

 

「火は消し止めたぜ! 【despairster(絶望の凶星)】の俺さまにかかりゃ、軽いモンだ!」

 

 ROCKET-MANが「わはは!」と笑う。

 なんでアンタここに居んの? とは誰もツッコまなかった。

 美星町の懐は深い。マリアナ海溝の如く。

 

「安心してねHitomiちゃん。ゆっくり身体を休めて」

 

 環いろはが微笑む。子供を安心させる時のように。

 彼女の内面の優しさが滲む、静かで優しい笑み。

 

「織斑先生に車をまわして貰うか。ちょっと行ってくるよ」

 

「いやいやっ! 俺さまのUFOの方が速ぁ~い! ビューンって送り届けてやるぞぉ~!」

 

「ジュース飲む? 喉乾いてない? 無理しないでね♪」

 

 アルト、ばいきんまん、ナミ。

 誰もが率先して動く。言われずともHitomiを気遣う。

 

「今すぐ頭痛を治してあげようか?

 だからHitomi、ぼくと契約して魔法少女にn

 

「――――すっ込んでて。耳ギュ~ってするわよ?」

 

「何人勧誘すんだよ、きゅうべぇ。

 いくら美星町が人外魔境とはいえ」

 

「いま美星町中の学校では、『きゅうべぇクンに声をかけられても、決して返事をしないようにネ!』と、注意喚起が行われてるそうだ。

 ガン無視されてんじゃねーかお前……。もうちょっと“思いやり”っつーモンをだな?」

 

 グイッときゅうべぇを押しのける、VUMのメンバー達。

 この子に近づく事は許さんとばかりに、「おー!」とスクラムを組んで守る。

 ワケが分からないよ(べぇさん)

 

「よし、俺が気功砲をおみまいしよう。

 更なる修行を積み、パワーアップした俺n

 

「「「 お 前 は し ゃ べ ん な 」」」

 

 容赦なく言葉を遮る。

 この場の全員の声が、ピッタリ合わさった。「みんなの想いは同じ!」って感じだ。

 そしてすぐ、どこからかロビンマスクさんがこの場に推参し、ヤツに「おりゃー!」とタワーブリッジを決めた。この町から出ていけとばかりに。

 さよなら、天さん。

 

「わたしお肉焼いてくるねっ。

 ほら食べよ食べよ♪ ご飯は笑顔だよHitomiさん♪」

 

「いいねっ! じゃあアタシも手伝うっ!

 実はトマホーク・ステーキってゆーのが、すごい気になってたのよぉ!

 おっきい骨付きよ骨付き♪」

 

「田をかえせぇ~! 田をかえせぇ~!」

 

「コメコメも行くコメー! Hitomiに食べてもらうコメー☆」

 

 順番にキュアプレシャス、キュアブラック、妖怪泥田坊、マスコットのコメコメ。

 みんなHitomiにフリフリ手を振って、イソイソとバーベキューに向かう。

 

「えっ。いま変なの混ざって無かった……?」

 

「――――であえであえーっ! 妖怪だぁぁーーッッ!!

 妖怪泥田坊が出たぞぉぉぉーーッッ!!!!」

 

「クソがぁぁーー!! 者共ぉ! 出撃だぁぁぁあああ!!!!」

 

 さも当たり前のようにバーベキューしようとしていた妖怪泥田坊へと、VUMの面子が慌てて向かって行く。

 また悪さしに来たんか! この前おっきい田んぼ作ってやったじゃんか! 帰れよ! とばかりに。

 そして一気に場が騒がしくなり、みんなワーキャー叫びながら泥田坊を取り囲む。Hitomiを守れと。

 

「……おおい! ()()()()()()()()()!? 泥まみれじゃねーかよ!」

 

「田んぼに縁あるなアイツ!?

 俺らが躱した泥田坊の攻撃が、全部アイツに当たっとる!!」

 

「東雲チャン、かわいそうカワイイ☆

 ……でも気道だけは確保したげてぇー! 死んじゃうーっ!」

 

 Hitomiがボーゼンと立ちすくむ中、みんなが大立ち回り。

 ちょえー! とかきえー! とか言いながら、ドカバキとバトルを繰り広げる。

 というか、この場のほぼ全員が戦える、というのがスゴイ。流石は美星町の住人である。

 

「田をかえせ~。田をかえせ~」ノシノシ

 

「ほんじゃあな泥田坊ぉー! もう悪さするでねぇどぉー!(農民感)」

 

「また春になったら、みんなで田植えに行ってやっから~。

 それまで待ってろな~」

 

「じゃあね泥田坊さーん♪ またねー♪」

 

 やがて必死の交戦の末、見事に妖怪泥田坊を撃退。説得に成功。

 収穫の時期が終わってしまい、きっと寂しかっただけなのだろう。

 またみんなと田植えをする約束を取り付けた泥田坊は、上機嫌で田んぼに帰っていったのだった。春が楽しみである。

 

「あーあ、泥まみれだよ俺たち……。まぁいいけどさ」

 

「ぷぷっ! すっげぇ顔だぞ君ら? ミニ泥田坊じゃんかw」

 

「お前も人の事いえるか。

 ほら、さっさと顔洗ってこよう」

 

 流&直樹&勝也が微笑み合いながら、川の方へ連れ立って歩いていく。

 それに伴い、VUMの者達も追従。みんな充実感が見て取れる清々しい表情で、泥の汚れを落としに向かった。 

 

「怖かった? でも大丈夫よHitomiさん。私達が守るわ」

 

「アイツらバカだけど、頼りになるのよ。

 いつも『誰かのために』って、頼まれもしないのに走り回ってる連中だからね。ふふ♪」

 

 そっと両隣に寄り添う、いろはとナミ。

 Hitomiの手をそっと握り、微笑みをもってHitomiを包み込む。

 

 そして、この場の誰もがHitomiを見守るように、一緒にいてくれている。

 アハハと笑い、心から楽し気に。そして優しく気遣ってくれる。

 

 まるで、先ほどのHitomiの奇行など、全く気にしていないかのように。

 掛け値なしの友愛、優しさ、善。

 

 

 

「……」

 

 けれど――――()()()()()Hitomiは、孤独を覚えた。

 このあったかい人達と、あまりにも汚い自分との違いを、まざまざと見せつけられた。

 

 悪い事……したよネ? あれあたしがやったんだよネ?

 なのに、何故だれもあたしを責めないの――――なんにも言わずに許すの。

 

 友達になったから。女の子だから。パパの娘だから。

 そんな理由はあるかもしれない。けれどこの場の誰一人として、嫌な顔ひとつ見せなかった。

 変な子だ、面倒なヤツだと、そう内心で思うことすら、微塵もしていないのがハッキリ見て取れる。

 その掛け値なしの優しさが――――“痛い”。

 

 

「ありがとう、みんな。

 あたし大丈夫わよ♪」

 

 

 Hitomiは笑う。心からの感謝を伝える。みんなも優しく頷き返してくれた。

 けれど、その()()()()()()()に気付くことが出来た者は、いったいこの中に何人いたのだろう?

 誰もが、ただ思いやりに溢れ、この子を気遣うばかりだから。

 

 

 これがパパの町。パパの世界なんだ……。

 Hitomiは思う。その素晴らしさに感動する。

 あまりの綺麗さに。絵に描いたような善に。

 大した理由もない、バカみたいな優しさに。

 

 

 でも……だからこそ、()()()()

 

 あたしはパパの楽園に、居ちゃいけないんだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「これな? セキゾノフさんがくれたんだ。

 もう使ってないからどうぞ、ってよ」

 

 夕焼けに染まる河川敷。

 オレンジ色の水面がキラキラしてて、とても綺麗だった。

 

「ほんとはサイドカーに乗せてやりたいけど、我慢してくれな?

 明石ちゃんが帰って来たら、修理してもらうから」

 

 自転車に乗り、川沿いの道を走る。

 前がマスターP氏、後ろがHitomiだ。

 二人乗りだから、お巡りさんに見つかったら、きっと怒られる。けれど今だけはご勘弁願いたい。

 だって、こんな静かであたたかな時間、手放すなんて出来はしないから。

 

「見てろよHitomiぃ! わいの脚力をーっ!

 坂だろうが凸凹だろうが、パパにかかりゃー屁の河童ですわ!」

 

 力強くペダルを漕いでいく。「Hitomiにいい所を見せたい!」というのがアリアリと分かるような、微笑ましい姿だ。

 まぁぶっちゃけ、身体の大きなHitomiが漕いだ方が、早く家に着きそうな気もするのだけど……別に急ぐ理由など無い。

 まだ若いけれど、意外と逞しい背中――――それを後ろからじっと見つめながら、Hitomiはパパの声に耳を傾ける。

 

「アイツら花火するらしいわ。

 好きに使ってね! とばかりに金置いて来たから、ガキ共で上手くやるだろ。

 ジャムおじさんとかの大人も、ちゃんと付いててくれっしな!」

 

 お前も参加出来たら良かったのになぁ、とP氏は少し残念顔。

 Hitomiの体調を考慮し、残念ながら今回は、P氏達だけ先に帰らせて貰う事にしたのだ。

 せっかくの友達を作る機会だったのに、とP氏は悔しそう。

 町に来たばかりの愛娘を想いながら、頑張ってペダルを漕いでいる。

 

「けどさ? 艦娘のみんなも、東雲さん達も、こっち来てくれっから。

 後のどかチャンって言ったか? あの子も一緒に来るってよ♪

 愛されてますねェHitomiィ! ナイスゥ!」

 

 流石はわいの娘じゃと、P氏はご満悦。

 こんないい子が愛されんワケがない! と声高々に熱弁。

 P氏の機嫌良さげな笑い声が、夕方の河川敷に響いていく。

 

 

「なぁ……気にしてんのか? 今日のこと」

 

 

 ふと笑い声が途切れ、問いかける声。

 これまでじっと黙り込み、聞き手に回るばかりだったHitomiが、俯き加減だった視線を前に向ける。

 

「わいは焦った。ぶちゃけ『何しとんのコイツ!?』と思った。

 もし男だったら、ぶん殴ってたかもしれん。ゲンコじゃなくガチのグーパンだ。

 ……でもHitomiは、ワケも無くヤンチャする子じゃありませんねェ!」

 

 ハッと息を呑む。

 いつもおちゃらけていたパパの、初めての“真面目な口調”。

 それを場違いにも、一瞬“素敵だ”と思ってしまった自分は、反省が足りないんだろうか?

 Hitomiはそう自分を戒める。パパの声を聴きながら。

 

「なんかあんだな。お前も、妹達も。

 記憶喪失だけじゃなく、わいに言えんような事情が……。

 おっけおっけ、分かりますよォ(美星のホームズ)」

 

 ヒャッハー! と一気に坂を下る。

 強くて心地よい風がHitomiの髪を揺らす。あたかも心のモヤモヤを吹き飛ばすかのように。

 

「言いたくなったら()え。わいは待っとる。

 そんで……ヤンチャする時は、わいにせぇ」

 

「これでもパパなんスよ。遠慮はいらん。むしろしてくれんな。

 そーいうのホントいいんで」

 

「天龍の言葉やないが……わいの傍におれ。()()()()()()()

 それで、今日は許しといたる――――」

 

 

 

 トクン、と胸が鳴った。

 Hitomiは目をまん丸にして、夕日に照らされたP氏の背中を見つめる。

 

 こっちを向かず、あたかも背中で語るように。そして強い口調で言い切る。

 そんなP氏の姿に、胸の鼓動が早くなる。トクントクンと音が聞こえそうなくらい。

 確かに、高鳴ったのだ。

 

 

「うん……分かったヨ。

 パパの言うとおりにする」

 

「ええ子やHitomi。後で頭なでたろ」

 

 

 

 ピトッと、背中におでこをくっつける。

 そっとP氏に寄り添うみたいに。

 

 万の想いを込めて。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「復活ですぅ! 元気の子ですぅ!」

 

 夜。もうお風呂も歯磨きも終わって、寝るだけの時間帯。

 いまアパートの6畳間には、「ぐわーっ!」と両手を振り上げている東雲の姿がある。

 

「不本意ながら、不幸慣れしていますのでぇ。

 もう歩くことが出来ますぅ」

 

「ほんとに大丈夫なの東雲さん?

 だって貴方、計250箇所の……」

 

「問題ありませぇん。青汁飲んでますのでぇ。

 不幸体質ですしぃ、せめて身体は健康でいようと心掛けてましてぇ。

 耐えてナンボの人生ですぅ」

 

「えっ、ボロ雑巾だったよね?

 半月板も損傷してたんだよ? 歩けるの?」

 

「ノープロですぅ。青汁飲みましたしぃ」

 

「青汁にそんな力ないのよ。過信しすぎだよ」

 

 プラシーボ効果? 何その青汁への信頼。のどかはタラりと汗をかく。

 この子、正露丸のんだらガンとか治りそう……。なんて綺麗な心の持ち主なのでしょう(白目)

 でも東雲が元気そうで良かった……という事にしておくとする。

 下手に訂正して、また寝込まれてちゃっても困るし? 今日はせっかくの“お泊り会”なんだから。

 ほうれん草じゃなく、青汁Ver.のポパイとでも思っておく事にしよう。

 

「そんな事よりぃ、私こういうの初めてかもですぅ。

 なにやらソワソワしちゃいましてぇ」

 

「ふふっ、いわゆる女子会。パジャマパーティってヤツね!

 まぁちびっ子たちもいるんだし、あまり夜更かしはNGだけどね」

 

「れ、レディだから大丈夫よっ! 私も遅くまで起きてられるものっ!」

 

 オシャマな暁が、プリプリと怒る。まぁ全然怖く無くて、おめめもパシパシしちゃってるので、微笑ましいばかりの姿。

 みんなホンワカした雰囲気で、「まぁまぁ」と彼女を諫める。

 

 ちなみに、今この部屋には女の子勢しか居ない。

 Hitomi&のどか&東雲、そして第六の子達とヘルキャットの二人だ。

 家主であるマスターP氏、およびポン助には、申し訳ないがお隣のセキゾノフさんの所に行って貰っている。

 ゆえに、今夜はHitomi達だけのお泊り会なのだ。

 

「天龍さんも、こっちに来ればいいのに……。

 そろそろ外も寒い季節だよ」

 

「うーん。でも幾ら言っても、聞いてくれないのよねぇ。

 オレには任務があんだ! とか言って」

 

「なのです……」

 

 第六駆逐隊の子達は、心配そうな顔。

 きっと天龍は、Hitomiを守るという想いから歩哨(警備)を受け持っているのだろうが、少し気負い過ぎな気もする。

 せっかくのお泊り会なのだし、彼女も一緒に……というのがこの場の総意なのだが、中々の頑固者なのだった。

 

「いっその事、どんちゃん騒ぎでもしてみる? “天の岩戸”作戦よ!」

 

「楽し気な雰囲気に釣られて、天龍さんもおいでになるとぉ?

 むむむ。真面目そうな方ですしぃ、難しいかもですぅ」

 

 歯ぎしりしながらも、必死に耐えてしまいそう。というのが東雲の弁。

 軍師殿(のどか)のアイディアはわるく無いが、夜間だしご近所迷惑の事もある。この作戦は少し難しそうだ。

 

「ではこーゆーのは如何ですかぁ?

 私いい物を持って来たんですぅ♪」

 

「えっ……これって!?」

 

 Hitomiが思わず声を出した。

 いま彼女のお膝にチョコン☆ と座っている東雲が、ゴソゴソと懐から“アルバム”らしき本を取り出した途端に。

 まぁそんなちんまい身体で、どうやって仕舞っていたのかは知らないが。裏秋月の神秘なのだろう。

 

「実はですねぇ。

 あくまで名前だけですがぁ、私は以前から、P氏の事は存じておりましたぁ。

 立場上、町の有力者の情報を調べておくことは、必須だったものでぇ」

 

 ゆえに、資料として手に入れたのだと、東雲は語る。

 これは、P氏のアルバム――――それも小学生時代の写真がたくさん入った、子供の頃のアルバムだった。

 

「少し前にぃ、とある組織のアジトを、襲撃した事が御座いましてぇ。

 うふふ~♪ その時にぶん盗ってやったんですぅ♪

 おっ、これは町長の子供時代ね? 資料になるます! とばかりにぃ♪」

 

「えっと……あんま子供の前で、ぶっそうなこと言わないで貰える?

 でもよく今持ってたね? もしかして、部下に持って来させたの?」

 

「ですぅ♪ お泊りする話になった時ぃ、きっと女子会的なモノになると思いましてぇ。

 こんな事もあろうかとぉー!(カッ!)」

 

 彼を好いているHitomiや艦娘の子達に、ぜひ見せてあげたいと思った。

 あくまで“子供の頃”の写真だし、マスターP氏はすでに町長を退任しているので、このアルバムは資料としての価値を失っている。

 ゆえに機密でも何でもない物なので、せっかくだし、ここで活用しようと。

 むしろHitomi達にプレゼントしてやるつもりで、部下に持って来させたのだった。青汁と一緒に。

 

「流石の天龍さんでも、P氏の写真は見たいハズ。

 これをエサにおびき出しますぅ。ちょっとしたハニートラップですぅ」

 

「6才のパパかわいーん☆ とか言ってキャーキャーしてたら、こっち来てくれるかも!?

 いいじゃん東雲ちゃーん! みんなで見ようよ☆」

 

「ダー。ハラショー」

 

「なのですっ!」

 

 爆乳チアガールことAiが「わーい!」と駆け寄り、響や電たちも追従。お膝だっこされている東雲の周りに集まる。

 暁だけは「うにゅう……」とかいって、早くもコクリコクリと船を漕いでいるが、この子にはまた明日見せてあげたらいいだろう。寝かせてあげる事とする。

 

「……天使か」

 

「ショタの天使か」

 

「げぼかわ」

 

「げぼかわですぅ」

 

 ひとたびページを開いた途端、ある意味で静まり返る一同。そのあまりのプリチーさに。

 えっ……マスターPさんって、こんな()()()だったの!?

 現在の彼は爽やかな感じの短髪で、活発さや破天荒さを感じる顔付き。まさに男の子って感じの。

 だが幼少期のP氏は、髪の毛も艶やかでサラサラ。有り体に言えば小動物的な愛らしさを感じさせる、とっても“もきゅい”男の子だった。

 

 やっばい、鼻血でそう……。とは爆乳バスガイドことRuiの弁。

 なんか「ほわわ~ん」って感じの顔しちゃってるし、きっと愛おしさが溢れ出しそうなんだろう。

 ただし母性は鼻から出る。

 

「ねぇ、この子が外歩いてたら、ぜったい攫われちゃうよね?

 だってこれ……可愛すぎるでしょ……」

 

「ですぅ。よくぞこれまで無事だったものだと、関心してますぅ」

 

「なんか提督、アメとか貰ったら簡単について行きそう……。

 じゅんしんむく? って感じだもん。すごくキラキラしてる」

 

「Урааааа!!(ウラー!)

 ぼくはこの命を、美星鎮守府に捧げるよ! 提督のために戦うんだ!」

 

「なのです! がんばってお守りするのです!

 ついでに今度、髪を伸ばしてみて貰えるよう、お願いするのですっ!」

 

 ただでさえラノベ主人公くらいモテるのに、これ以上カッコ良くなっちゃったら大変だ。

 きっと艦娘たちの淑女協定は、ベルリンの壁の如くガッシャーンと崩れ去り、このアパートに血の雨が降るだろう。

 主に恋心に狂った艦娘たちの血が。

 

 そして、Hitomiも東雲を抱きかかえつつ、上からアルバムを覗き込む。

 じっと、呆けたように無言で見入る。

 優しい目なのに、どこか芯の強さを感じさせる、まるで“おうじさま”のような男の子に。

 

「この子になら、何されても良い――――ひとつになりたい(直球)」

 

「お姉ちゃん?」

 

 爆乳バスガイドことRuiが大分おかしな事になっているが、それはこの場の皆が同じ。今は気にしている余裕が無かった。

 私はこの町で、ショタコンに目覚めました! って感じだ。P君きゃわわ。

 

「ねぇ、これは何ぃ? なんか木みたいのがあるよぉ~?」

 

「ああ、これはクリスマスツリーですぅ。

 ご家族とパーティをなさっているんですねぇ」

 

「こっちは七五三ね。キリッとした顔しちゃって。

 アンタがそんな事しても、可愛いだけなのに」

 

「うっわぁ……! パパの七変化じゃーん☆

 いろんなパパがいるよぉーーっ♪」

 

 キャッキャとはしゃぐAiが、矢次に「これは? これは?」と質問。のどか&東雲がニッコリと答えていく。

 

「あーっ! 亀仙人流の道着を着て、悟空みたいなポーズ決めてるー! かわいーっ♪」

 

「コナン君みたいな服も着てるのです! 蝶ネクタイが似合うのです!」

 

「こっちは麦わら帽子だ。白いタンクトップに、半ズボン姿。

 ショタっ子の生足が眩しいね。ハラショー」

 

 第六のちびっ子たちも、すごく楽しそう。

 この頃に提督と出会っていたら、きっと恋に……なんて今とは違う世界を想像しつつ、パラパラとアルバムのページをめくる。

 そのひとつひとつが、宝石のように煌めいて見えた。

 

「東雲ちゃん、これは?

 なんか笹みたいのに、ワサッと飾り付けがしてある♪ カラフルで綺麗☆」

 

「これは“七夕”の写真ですねぇ。

 短冊に願いを込めて、お空にいる織姫と彦星に届けるんですぅ」

 

 そして、沢山の短冊が吊るされた笹の写真に、一同の目がとまる。

 その前に立ち、元気にピースサインをしているP君が愛らしかった。

 

 

 

「……っ!?」

 

 だが……ふいにHitomiが息を呑む。ある短冊の文字が目に入り、それから目を離せなくなる。

 愕然とし、目の前が白く染まる。

 

 恐らく、これは女の子が書いた物なのだろう。

 かわいい丸文字で綴られた、とてもシンプルで短い言葉(ねがい)

 

 

 

 ――――またPくんと会えますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

『 始めなさいHitomi、()()()()()() 』

 

 そんな声が、頭の中に直接届いた気がする。

 だがHitomiは無力だ。なぜならその声がした途端、ふっと意識が遠のいたから。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「……ん? どうしたよHitomi。もう遅い時間だぜ?」 

 

 扉を空けると、すぐそこに天龍の姿。

 柵に背を預けて、じっとこの場で警備をしていた事が伺える。

 だがHitomiには、それを認識する事は出来ない。

 

「提督に用か? あの人なら隣の部屋だが……もう寝ちまってるくせぇなぁ。

 また明日にしたらどうだ」

 

 もう深夜と呼べる時間帯。辺りは暗かった。

 だから艦娘の天龍といえども、気が付くことが出来なかったんだろう。

 いまHitomiが、色素の無いアルビノのような目をしている事。そして限界まで瞳孔が縮み、カッと瞼を見開いている事を。

 

「お……」

 

 その声で、終わりだった。

 Hitomiが何気ない仕草で、おもむろに一閃した腕が、天龍を()()()()()()()()()()()()

 いま出てきたばかりの部屋の中で、赤く染まった身体を布団に横たえている東雲、のどか、ヘルキャット、第六の子達と同様に、天龍もグシャリと音を立てて地に伏す。

 たった一撃の下に、倒されたのだ。

 

『――――っ』

 

 血潮を吹きながら倒れ込む天龍など、気に留める事もないまま、Hitomiの視線が隣の部屋に向く。

 さも当たり前のようにスタスタと歩を進め、ゆっくりとドアノブを捻り、中へと侵入。

 あのお泊り会が行われていた部屋を出て、たった5秒ほどの出来事。

 今Hitomiの眼前には、ポン助やセキゾノフの間に挟まれながら、豪快な寝息をたてているマスターPの姿がある。

 

『――――パパ』

 

 ガラッと開けた窓から、ポン助とセキゾノフを投げ捨てる。

 胸板に貫き手を突き刺した後、おもむろに首根っこを掴み、両の腕で大の男を二人同時に持ち上げ、まるでゴミ袋を扱うような無機質さで、外へ放り投げた。

 そしてすぐ、下から重い物体が潰れたような、鈍い音がした。

 

 あたかも、邪魔だとばかりに。

 この世界にはパパだけ居ればいい、とでも言うように、彼らを始末して見せた。

 特に何を思うことも無く。

 

『 すき 』

 

 ゆっくりと歩み寄り、P氏の上に跨る。

 愛おし気な手つきで、彼のシャツをめくり、胸板とお腹にキス。小鳥がついばむような口づけを繰り返す。

 

『 すき。すき。すき 』

 

 鎖骨、首筋、頬。それは段々と上に。

 やがてHitomiの顔は、真っすぐにP氏の寝顔と向かい合い、吸い込まれるように自然な動きで、唇を重ねた。

 甘える子供のように。慈しむ母のように。大切な宝物を扱うように。娼婦の如く妖艶に。

 

 ゆっくりと彼を愛撫していく。

 ピチャピチャと、小さな水音だけが、静寂の中で響いた。

 

『 パパ。パパ。パパ 』

 

 そっと彼の手を取り、自らの胸へあてがう。

 Hitomiの大きな胸に、彼の手が埋まっていき、柔らかな弾力を感じさせながら形を変える。

 色の無い目をしたHitomiが、ちょうど三日月のような笑みを浮かべ、恍惚の表情に染まっていく。

 月明りに照らされた、小さく幻想的な薄暗闇の世界の中、二人は熱を交換し合う。

 お互いの存在を確かめる。

 

 

『いこう? あたし達だけのセカイ。

 愛してあげる――――溶けて無くなるまで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、この場が月明りとは違う、強い光に包まれる。

 二人を中心とし、魔法陣のようなサークルが展開。P氏とHitomiの身体が、ゆっくりと宙に浮いていく。

 

 召されるように。天使によって天上に誘われるみたいに。

 

 

 転送術式が、動き続ける。

 

 我を失くした淫靡な娘と共に、マスターPがどこかへ飛ばされて行く。

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅢ



 連続投稿ですぅ。
 まだの人は、前話からお願いしますぅ。






 

 

 

 

「――――キィエエエエエエエエエエエイ゛ッッ!!!!!!!!!」

 

 夜の闇を切り裂く、奇声。

 

「ワシの飯はどこじゃぁぁぁーーッッ!!

 チェストォォォオオオーーーーーーッッッ!!!!」

 

 突然、窓を突き破って侵入してくる()()()()()()()()

 唐突に、なんの脈絡もなく、この場に現れる。

 それを認めた途端、モニターで見ていた力石は、慌ててHitomiの制御を手放す。

 糸が切れた人形のように、P氏とHitomiが床に倒れ込んだ。

 

「なんにも飯ないやないか! 一体どーなっとるんじゃフィリッピンは!

 くっさい水と、変な味するちっこい芋ばっかりやないか! 食えるかぁぁぁあああーーッッ!!」

 

 きっと、戦時中のことがフラッシュバックしているのだろう。

 有り体に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()、この場に「わっしょーい!」と飛び込んで来たことにより、P氏誘拐は未遂に終わったのだった。

 やだ美星町ってマジ魔境。悪事のひとつも出来へん。

 

「貴様ら米国かぶれの、えせアンクルサム共は、勤労の大切さと愛国心を知らぬッ!!

 それでも亜細亜人かボケェ!! 祖先に恥ずかしないんかぁぁぁーーッッ!!!!」

 

 ワケの分からない事を叫びながら、「うおー!」と部屋中を駆け回る。日本刀片手に。

 以前の精悍でカッコ良かった爺さんなど、もう影も形も無い。

 今のこやつは、大東亜戦争末期における地獄のような飢餓を生き抜いた、一人の日本兵。もっと言えばボケ老人なのだ。

 

「天皇陛下ぁ! ばんざぁぁぁあああいッッ!!!!

 一億総火の玉じゃーい! お前も戦火で空が赤く染まるのを見たじゃろう?

 皇国の興廃、この一戦にアリ! 銃剣ヲ装着セヨ! とつげぇぇぇえええーーきッ!!!!」

 

 うっひょー! とか言いつつ、ファンキー爺さんが窓から飛び出していく。

 何しに来たのかよく分からんが、とりあえず爺さんは帰って行った。

 はやくファンキー妻子に保護される事を願う。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「ほぉ~、えろぅ派手にやりおったなぁ」

 

「ぬうっ……!」

 

 それと入れ替わりのように、やがてこの場に二人の男が現れる。

 秋月チョコ太郎と、ワーキングプア侍が、夜の闇に紛れながら、HitomiとP氏がいる部屋に押し入った。

 

「昨日と今日で、二度や。

 “時空連続体”に歪みが発生しよったから、一応確認しに来てみりゃあ、この有様かい」

 

「……」

 

「なぁプアよ、このにーちゃんって、確か“マスターP”っちゅーヤツやろ?

 隣で寝そべっとる女は誰や。なんやねんコイツ」

 

 目線を合わせず、前を向いたまま問う。だがワーキングプア侍は答えない。

 今日の昼に会ったばかりだが、確かにこの子を知っているのに……。でも言葉が見つからなかった。

 

「まぁええわ、やる事は変わらん。

 すまんが、ちょっと離れとってくれ」

 

 気を失い、その場に倒れ込んでいるHitomiの所へ、何気ない足取りで向かう。

 そして。

 

「――――おうコラ」

 

 骨が折れる音。重い打撃音。

 チョコ太郎の蹴りが腹を突き上げ、Hitomiの身体はくの字に曲がったまま吹き飛ぶ。

 そのまま壁に激突し、大きな亀裂を入れた。

 

「起きぃ。おんどれの仕業やろがぃ。

 何をのんきに寝てくれとんねんコラ」

 

「う゛っ……! ゴッ……ゴホッ!!」

 

 血反吐と共に、胃液を吐き出す。

 蹲り、苦し気に呻き声をあげるHitomiを、チョコ太郎が冷たい目で見下ろす。

 

「縛り上げて、尋問じゃボケ。爪剥いだるわ。

 せやが……、とりあえず叩きのめさんとなぁ。ワイの気が治まらん」

 

 部屋の外から、大勢の者達が駆けてくる足音が聞こえる。

 恐らく、隣の部屋にいる東雲たちを救助に来たのだろう。

 今も血まみれで床に横たわっているであろう、彼女らの命を救いに。

 

「なっ……なにっ? 貴方っ……誰なのッ!?!?」

 

「ボケが、質問すんのはこっちじゃ。

 おら立て。次いくぞコラ」

 

 目を白黒させているHitomiに対し、おもむろに、瞬時に間合いを詰める。

 そこから叩き込まれる、背中までぶち抜くようなボディブロー。

 彼の格闘術は、ボクサーのそれに酷似した、独自の拳闘ともいうべき物だ。

 しかし、今はフォームの美しさなど、微塵もありはしない。

 ただただ相手に近付き、思いっきり殴りつけるだけ。憎悪に任せて。

 

 Hitomiの身体が浮く。割れた窓をさらに破壊しながら、二階の高さから落下。身体を地面に打ち付ける。

 

「いよっとぉ! まだ終わらんぞクソガキ。

 つか……ワレえらい頑丈やのぉ? 絶対カタギちゃうやろ、こんなん」

 

 強靭なHitomiの肉体をしても、耐えられないほどの打撃。

 彼女は痛みと衝撃にあえぎ、混乱した思考のままで、必死に起き上がろうと藻掻く。逃げようと試みる。

 

「まぁ丁度ええ。好きなだけ殴れる」

 

 そうせねば嬲り殺される――――この金髪の人にはそれが出来る。微塵の躊躇なくやる。

 チョコ太郎がスタッと窓から飛び降り、すぐこの場に降り立つ。

 何事もなかったかのように、さも当たり前のようにHitomiに近付き、髪を掴んで無理やり起こす。

 

「何発入れた? あのちんまい子らと、()()()()()()

 なぁ何発入れてんお前? ――――言わんかコラァァア゛ア゛!!!!」

 

 膝が叩き込まれる。Hitomiの身体がバタフライナイフのように、強制的にUの字で折れ曲がる。

 そしてすぐ、浮き上がった身体は重力に従い地面へ。

 足を付くどころか、受け身すら取れず、人形のように叩きつけられる。

 再び血を撒き散らしながら、倒れ伏した。

 

「気ぃ変わった。ワレ生きて帰さんぞコラ?

 この場で償え。ミンチにしたるわ。こねて焼いたろかボケ」

 

 見せつけるように拳を鳴らしながら、ゆっくりと歩く。

 何も出来ず、力なく倒れているHitomiへと。トドメを入れる為に。

 

「そこまでだ――――太郎よ」

 

 だが、二人の間に割り込む者の姿。

 ワーキングプア侍がこの場に駆け寄り、彼を手で制した。

 

「……おぉ? なにを止め腐っとんねん。

 おんどれ、どういうつもりや。仏心も大概にせぇよ……?」

 

「そうでは無い。この者には聞くべき事がある。

 見失うな、太郎」

 

 暫し、睨み合う。

 友とはいえ……いや()()()()()()()()()、チョコ太郎の感情が激しく波打つ。

 

「身内がやられとんねんぞッ!?

 お前もそうやろうがッ……! ポン助も東雲も、好きやったやろがいッ!!

 ワレ悔しないんかッ?! ワイら4人で飲んだやろッ!!!!

 いつも堅物のお前さんが、あん時は笑うとったやないか!! なぁプアよ!!??」

 

「……」

 

「――――風穴空いとったわ! ポン助の身体に!! あいつやなかったら即死やッ!!!!

 東雲もそうやッ! あの顔の怪我じゃ、もう元に戻らんかもしれんッ……!

 あいつ女やのにッ!! ベッピンやったのにッッ!!!!」

 

 冷静であろうと、これまで必死に抑えてきた感情が、決壊。

 チョコ太郎は絶叫。ガクガクと身体を震わせ、大粒の涙を流す。前が見えなくなる位。

 その悲痛な声に、Hitomiは凍り付く。

 この人の怒りと悲しみを、拳ではなく姿で突き付けられ、絶望が心を覆っていく。

 

 

「 しっ……知らないっ! あたし何にも知らないもんっ!!

  うわぁぁぁぁぁああああああ!!!! 」

 

 

 駆け出す。

 咄嗟に、大泣きしながら。

 

 子供みたいに。

 ワケも分からず。

 ただこの絶望や、目の前の現実から、逃れたい一心で。

 

 卑怯だとか、悪いとか、そんな事すら思い至らなかった。

 ただ必死に足を動かし、少しでも遠くにと、この状況から逃げた。

 今のHitomiに出来るのは、もうそれしかなかったから。

 

 

「……太郎よ。拙者は一度、P氏と話さねばならぬ。

 付き合ってはくれぬか?」

 

 追っては来なかった。

 二人ともその場で、逃げ去り遠くへ離れていく背中を、ただ見つめるのみ。

 

 泣き崩れる太郎、それに寄り添うプア――――

 彼らが追って来なかった事で、そんな光景が容易に思い浮かび、またHitomiの心を痛烈に責め立てる。

 

 全部、Hitomiのせいだ。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「……Hitomiさんは?」

 

「いまVUMのみんなが、手分けして探してくれてる。

 アンパンマンもいるし、きっとすぐ見つかるよ」

 

 セキゾウノフ氏の部屋。

 Hitomi失踪の連絡を受けた友人達が、この場に集まってくれた。

 

 中には、比較的軽傷で済んだヘルキャットの二人や、第六の暁の姿もある。

 暁が無事な姿を見せているのは、あの場でただ一人、先に眠ってしまっていた為に、見逃されたからだろうか? 真相は知る由もない。

 

 だが逆に、ヘルキャットの二人も無事とはいえ、今はとても動けるような身体じゃない。戦闘は元より、歩き回るなんて以ての外。

 

 第六の子達は艦娘ゆえに、独自の治療法を施せば完治も出来ようが……。

 しかし、血染めで倒れ伏している幼い彼女らを見た時、誰もが胸を引き裂かれるような想いをし、言葉を失っていた。

 

 そして特に、“のどか”の怪我が拙かった。

 本来ただの高校生である彼女は、意識不明の重体。即座に病院へと搬送されて行ったのだ。

 あんなにも優しく、あったかい子が、何故こんな目に合うの……?

 それに答えられる者は、誰も居なかった。

 

 いまこの場は、誰もが意気消沈。

 少し突けば溢れ出しそうなほどの、深い悲しみに包まれている。

 

 

 

「組織? 暗殺者の……里?」

 

「然り。Hitomi殿はそこで生まれた。

 実質的に“みっつめのセカイ”を牛耳る、闇の組織に御座る」

 

 マスターP氏が不自然なほどに深い眠りから、ようやく目覚めた時……、そこにこの侍の姿があった。

 彼はP氏と向かい合って座り、まっすぐな目で真剣さを伝えるように、静かな声で語る。

 

「全ての世界を手中に収め、王となるが目的。

 それゆえ、既に幾人かの先兵たちが、この世界にも潜んで居る。

 この子らが“母”と呼んでいる女も同様。

 恐らくは御身……マスターPを狙い、娘達を差し向けたに相違ござらん」

 

 今もお布団の中、苦しそうに呻き声を挙げつつも、パパの力になろうと健気に頑張っているこの子達が、悪党? Hitomiが悪の手先?

 

 思わず激高しそうになる。訂正しろと叫びそうになる。

 だがワーキングプア侍の目は真剣だ。この人が嘘を、しかも二人を目の前にして戯言を抜かすハズもない。

 逆に言えば、プアがそんな荒唐無稽な真実を、無理を押して告げなければならない程に、状況は切迫しているのだ。

 

「恐らく、操られておる。……いや精神を“支配”されておると申すべきか。

 あたかも繰り人形の如く、動かされておるのであろう。

 父たる御身を想う心や、自らの意思とは関係無く」

 

 ヘルキャットの二人に事情を聴き、また直接Hitomiと話をした結果、導き出した答え。

 全ては、かの女が黒幕。

 そしてHitomiは、あの組織の繰り人形にして、()()()()()()()()に他ならないと。

 

「Hitomi姉さんは、特別……。

 私達二人は、そのフォローをする為に、急造で作られた量産型に過ぎないわ」

 

「きっと、ママの“パパに会いたい”って気持ちを、いちばん色濃く受け継いでいるのが、Hitomi姉さんなんだよぉ。だから一番つよいのぉ。

 あーし達も、会わせてあげたかった……。

 暴力じゃなく、ちゃんとお話をして、パパをママの所へ連れてってあげたかったの。

 でもぉ……」

 

 時は、彼女らを待ってはくれなかった。

 Hitomiは操られ、強制的にP氏を強奪しようとし、そして幸せだった全ては、壊れてしまった。

 戻るかもしれないモノと、決して取り戻せないモノ……その両方がある。

 たとえ仮に、Hitomiが家に戻って来たとしても、今日までの楽しかった日々には、もう戻れないのだ。

 

「ハッキリしたやんけ――――あいつは“敵”や。

 そもそもワイら裏秋月は、いつもあの組織とは、バチバチにやっとんねん」

 

 向こうのセカイのヤツやし、秘匿されとんのか知らんが、名前もよぅ分からん。実態も掴めん。でもエグイくらい手練れ揃いで、イケイケドンドン。*1

 ……それが“かの組織”なのだと、太郎は語る。

 

「猫みたいにすり寄って来たから言うて、()()()()()()()()()()

 なんや改心しとるっぽいし、そこの二人は百歩譲ってええ。Pさんの好きにせぇや。

 だがワイは……、あのナースのガキだけは許さんよ」

 

 まぁ暫くはプアの顔立てて、大人しゅうしといたるけど……。

 そうふてくされた顔をプイッ! と背ける。

 さっき散々泣いたのを、優しく慰めて貰ったばかりだし、彼には頭が上がらないのだった。

 

「かの女は、組織の構成員にして、マッドサイエンティスト也。

 なんか設定がフワフワとした闇の力と、理屈不明の摩訶不思議な科学力により、Hitomi殿を生み出したので御座ろう」

 

 プアさんのフワフワした説明が続く。

 しょーがないじゃん、拙者ただの侍なんだもん。脳筋ですよ脳筋。

 

「見た所、Hitomi殿の精神は、相当に深い所で支配されておる様子。

 きゃつ本人が解くならともかく、余人にこのコントロールを断ち切るは、並大抵の事では御座らぬ」

 

「盗んだ髪の毛の遺伝情報を元に、科学で作られた子……。

 娘だけど、娘じゃない……。

 人に災いを成す為に生まれた、闇の子供だなんて……」

 

 ボソリとランカが呟く。

 色々あったものの、ちゃんとHitomiと仲直りし、しっかり友達になれたのに……。

 その悲しみと、やるせなさが、心から溢れ出たような声。

 

 

「――――だったら! なおさら助けてあげればいいっ!!

 提督はヒーローでしょ!? 護り手じゃないっ!」

 

 

 突然、これまで静観を貫いていた暁が立ち上がる。

 目を滲ませ、涙声で叫ぶ。皆の諦観をぶち壊すかのように。

 

「おんぶしてくれたよっ?! 将来美人になれるって、頭をなでてくれたよっ?!

 あんなに優しいのに! 一緒にご飯食べたのに! みんなはHitomiさんを見捨てるの!?

 ――――そんなの友達じゃないよっっ!!!!」

 

 大きな声で意思を叫び、外へ飛び出していく。

 Hitomiのもとへ。大好きなお姉さんを取り戻しに、表へ駆けていく。

 

「……プアさん、AiとRui( 娘達 )の事、オナシャス。

 Hitomiが操られた以上、この子らにも何があるか分かんねっす。

 お任せしてもよかですか……?」

 

「相分かった。承知」

 

 考慮するまでもなく、肯定。

 この人は我が主ではないが、それと同じくらい、強い目を持つ御仁だ。

 ひとりの侍として、力になれるのであれば、恐悦。

 

「後すんまそん……チョコさんにも。ここに居てくれると嬉しいっス。

 アンタは信用出来ますんで。絶対この御恩は、お返しするっス」

 

「えー。この人はいらないよぉパパー。辛気臭いもーん☆」

 

「出てって下さる? 貴方がいると空気が淀みます」

 

「 んなこと()ーとる場合かッ! ええから大人しゅう寝とき!(泣) 」

 

 またエグエグしそうになりながらも、チョコ太郎がヘルキャットの二人を諫める。

 この場でただ一人、厳しい意見を言ってくれて、しかも掛け値なしに手を貸してくれる、義に厚い人。

 マスターP氏の人を見る目は、決して間違っていなかった。

 

 

「P殿、かの敵は手練れに御座る。

 また必ずや、御身を狙ってくる筈。用心なさいませ」

 

「あざっすプアさん! ほないっちょ行きますわぁ!

 わいの子を連れ戻しにぃぃ~っ!!  ヒャッハァァァアアアーーーーッッ☆☆☆」

 

 

 

 

 暁ぃー! わいも行くどぉー! 待て待てー!(ドドドド!)

 

 そう元気に声を挙げ、たくさん土煙を巻き上げながら、マスターP氏が()()した。

 

 

 

 

 

 

*1
極道の言葉で、「非常に好戦的で冷徹」という意味



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅣ

 

 

 

 Hitomiは走った。力の限りに――――

 

 深夜の町を、街灯が照らす道を、雑踏をかき分けながらビルの隙間を走った。

 

 

 山を越え、谷も越え、冷たい川をも渡り。

 勢い余ってもう2つくらい山を踏破し、その後またUターンをして、町に戻った。

 そして息付く間もなく、また深夜の美星町を、グルグルと何周もする勢いで走った。

 

 時間にして2時間10分。距離で言えば137㎞走った。

 100mを全力疾走するのに必要なカロリーは、約6kcalだ。

 なので計算上、Hitomiは8220kcal相当のエネルギーを費やし、1㎞あたり1分32秒くらいの超人的なペースで、山道も含めた100㎞以上の行程を走破した事になる。

 

 それもひとえに筋肉……いや彼女の“悲しみ”によるもの。

 耐え難い恐怖や絶望が、足を止めることを決して許さなかった。

 あたかも、何か辛いことを誤魔化す為、見たくないモノから必死に目を背けているかような、とてもか弱い姿。

 

 137㎞もの距離を走破するのが、辛くないのかと言えば、決してそうでは無い。今そんな話はしていない。

 ただただHitomiには、それよりもよほど耐え難い現実があった……、というだけの話。

 

 約8220kcal分も延々と走り続ける事が出来るのに、「それか弱いの?」ともし問われたならば、これに関しては大いに議論の余地があるだろう。

 だが事実として、今Hitomiは酷く打ちのめされており、ポロポロと涙まで零しているのだ。

 

 これは充分同情に値するハズだし、この姿を「まごう事なき乙女」と呼ぶことに、いったい何の問題があるのだろう?

 彼女を哀れで、健気で、可憐で、か弱い存在だと表現するのを、誰にはばかる必要があると言うのか。

 

 いくら筋肉があり、強靭で、信じられないほど屈強で、余人が見ればドン引きするであろう身体能力を保持していたからとて……、たったそれだけの事で「辛そうに見えない」とか「か弱くない」とか言われてしまうのは、あまりにも酷ではないか。

 それではあまりにも情が無い。もう暴論と言っても良いくらいの所業だ。

 

 たとえ、ナイフを通さぬ程に腹筋バキバキなマッチョの変態淑女だとしても、泣いている乙女に対して言うような事では、断じて無いハズだ。

 そんなことをする人が信じられないし、ぜったい友達になれない。分かり合う事は出来ない。

 むしろ逆に、「お前はどんなサイコパスだ」と、ソイツを「ムキー!」っと叱ってやる位の気概を、きっと日本人ならば誰もが持っていらっしゃる事であろう。

 

 幼稚園でも、小学校でも、親御さんにも、繰り返し繰り返し「女の子には優しくしてあげなさい」と教わってきたハズだ。

 その大切な教えを、なぜHitomiという女の子に対してだけ、適応しないのか。

 どういう事なんだ一体。おかしいじゃないかと。

 

 ゆえに、誠に申し訳ないが、此度ばかりは無理をおして、「この子はいま打ちひしがれているんだ。シリアスなシーンなんだ」と理解し、彼女の顔を立ててやって貰いたい。

 

 現在この地球上には、約175万種類もの生物が存在し、このうち哺乳類の数は約6000種。

 その中で唯一、人間という生物だけが、これほどまでの繁栄を遂げる事が出来たのは頭脳、知恵があったから。

 ゆえに、ここでもがんばって“脳内変換”をすべきだ。

 

 

 

「あっ……!」

 

 ふいに視界が傾き、Hitomiの身体がドテッと地面に投げ出される。

 金属で出来たガードレールを生身で突き破……いやちょっとした不注意によって足をもつれさせた彼女は、ここに来てようやく足を止める事となった。

 

 ぶっちゃけ息が上がるどころか、汗すらかいていないので、やろうと思えばあと5時間くらいはイケそうな感じなのだが……。

 でも、いま美しい緑色の髪で顔を覆い隠され、弱々しく地面で身体を丸めているHitomiの姿は、まごう事なき“か弱い女の子”のそれだ。

 このワンシーンだけを切り取ったなら、きっと誰に文句をつけられる事もない、とてもシリアスな場面に見える事だろう。

 見ている側も感情移入しちゃって、きっと胸がキュッとなるような、悲しいシーンだ。

 

 先ほど、あたかも紙で出来たゴールテープを切るように、辺りにドガシャアアアン! と物凄い爆音を響かせながらガードレールを突き破って見せた事など、今は些細な問題に思える。

 彼女は可憐な女の子なんだから、それだけが全て。それで良いじゃないか。

 

「うっ……。膝を擦りむいたような気がしたけど、そんな事は無かったのわよ」

 

 丈夫。

 

「足も挫いてないし、ぶつけたけど別に痛く無いし、ぜんぜん大丈夫だったのわよ……。

 ううっ……!」

 

 丈夫。

 だがHitomiは、悲しそうに顔を伏せる。立ち上がる素振りもなく、地面に蹲ったままで。

 身体的ダメージは(困ったことに)皆無だが、ふいのアクシデントによってパニック状態から解き放たれ、ようやく正気に戻ることが出来た。

 

 まぁ己を取り戻すまでに、2時間10分も全力疾走した件に関しては、正直お口チャックマンするしか無いのだが、ここは「キャンディキャンディのように活発でオテンバなんだ」と解釈しておけば、誰も傷つかないし幸せになれるハズ。

 Hitomiは可憐な女の子(二度目)

 

「ここはどこだろう? お腹空いたナァ……。

 まぁあたし、一か月もこの町をウロチョロしてたし、お水飲んでれば筋肉育つ人だから、ぜんぜん大丈夫だケド」

 

 か弱さアピールをするかと思えば、苦境が屈強さを誇示する結果に。

 とりあえず、辺りをキョロキョロしてみると、ここは以前にも訪れた事がある“公園”である事が分かった。

 

 アパート近くの児童公園のような物ではなく、もっと広い敷地で作られた、緑地と呼ぶべき規模の所。

 ただっ広い平原の周りには、沢山の木々が生い茂っており、大きな泉や小高い丘なども見える、とても心が休まる風景。

 きっと休日には多くの家族連れと、ジョギングやハイキングを楽しむ人達で、賑わっているのだろう。

 

 けれど……既に深夜となったこの場は、Hitomiに“孤独”を感じさせる物でしかない。

 広大で、人の気配は無く、街灯の薄明かりが頼りなく辺りを照らす、物悲しい風景だから。

 あるのは、遠くから聞こえてくる虫の声、ろくに星も見えない濁った夜空、そしてこの場にへたり込んでいるHitomiの姿のみ。

 あたかも世界から切り離され、この宇宙でたった一人っきりになったような、耐え難い孤独感が押し寄せる。

 当然だ。Hitomiもつい何時間か前までは、家族と呼べる人達や、多くの友人の笑顔に囲まれていたのだから。

 もう以前とは、まったく感じ方が違う。

 

「……」

 

 歩けない、と思った。

 もう動けない、どこへも。行く所が無い。

 そんな絶望にも似た感情が、とめどなく湧き出す。痛烈に心を責め立てる。

 

「なんで、言うこと聞かなかったんだろう?

 あの時、あのハゲた人の言う通りに、してれば……」

 

 今日の昼、ワーキングプア侍に言われた事が、胸をよぎる。

 お前はいずれ、必ずやこの町に、害を成すと――――

 

 忠告をくれた。ちゃんとヒントをくれていたのに、それに耳を傾けなかった。

 胸に留めただけ。少しばかりセンチな気分になって、それでオシマイ。

 危機感も無く、思案もせず、パパに相談すらせずに、なんの対策も取らなかった。

 

 本当のことを言うと、聞きたくなかった。

 自分の出生や、失った記憶……いや真実なんて、どうでも良かったんだ。

 ただ……()()()()()()()()()()()()()。“今”を壊されたくなかった。

 パパや、艦娘の子らや、天龍や、のどかや東雲といった友人達と、これからも一緒にいたかっただけ。

 

 だから――――見て見ぬふりをした。

 別に今じゃなくて良いと、ただただ問題を先送りにし、楽な方を取った。

 その結果が、()()なんだ。

 

「……っ!!??」

 

 ふいに、強烈なまでの頭痛――――

 鈍器で殴られたような痛みと共に、視界も思考も真っ白に染まる。何も考えられなくナル。

 

「あァア……! ――――嗚呼ああァァァあ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 

 

 ……その白夜(びゃくや)めいた盲目と引き換えに、Hitomiは見た。

 目隠しされていた事実を。ロクに認識していなかった筈の記憶が、今ハッキリと蘇る。

 

 赤いペンキをぶちまけたかのような部屋。

 成す術なく倒れる、コドモ達(第六の子ら)

 それを庇うようにして貫かれた、トモダチ( のどか )

 顔面に赤い花を咲かせる、ダイスキな子( 東雲 )

 刀すら抜かず、棒立ちのまま切り裂かれた、大切な人( 天龍 )

 

 誰もがキョトンとした顔で、Hitomiを見ていた。

 それが絶望の色に染まる前に、ふぅっと糸が切れるように、崩れ落ちていった。

 

 やったのは、他ならぬ自分(あたし)

 あの柔らかく、生々しい肉の感触を、指が憶えている――――

 

 

 

「う゛っ……!? おごぇェッ!!??」

 

 胃から口へ、熱い物が込み上げる。堪える間もなく逆流。

 蹲ったHitomiの顔の下、ビシャビシャと不快な水音が鳴り、瞬く間に芝を濡らしていく。

 

「……ッ!? ……お゛ッッ!!??!!」

 

 腹を押さえ、えづく。

 繰り返し繰り返し、何度も。

 

 胃の中など、もうカラッポの筈なのに、決して止む事なく。

 あたかもこの身体が、己の汚さや醜ささえも、ぜんぶ吐き出そうとしているかよう。

 跪きながら、自分で自分を傷付け、必死に許しを乞うているかのような。

 とても、哀れな姿。

 

 ――――何発入れた? あのちんまい子らと、ワイの友達に。

 

 あの時聞いた言葉が、ふいに思い出される。

 

 ――――風穴空いとったわ! ポン助の身体に!!

 ――――東雲もそうやッ! あの顔の怪我じゃ、もう元に戻らんかもしれんッ!

 

 

「あぁ……あぁアァあぁッ!」

 

 優しかった。心から友達を想ってる、あったかい人だった。

 なのに、そんな優しい人に、()()()()()()()()()

 強くて、怖いくらい逞しい人だったのに、グシャグシャに泣き崩れてた……!

 

 

「 嫌ぁッ! こんなのはイヤぁぁぁあああーーーーッッ!!!!!!!!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 たくさんの、優しい人達を裏切り――――ここへ辿り着いた。

 

 もうどこへも行けない。帰る場所なんて無い。

 

 あたしのせいだ。

 ぜんぶゼンブ、あたしがやったんダ。

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あーっ! 提督ぅぅーっ☆」

 

「――――す し ざ ん ま い っ !!」パァーン!

 

 景気よく手を叩き、大きく腕を広げる。

 後を追って来てくれた事、そしてこの上ない心強さに、暁はピョーン! とマスターP氏の胸に飛び込んだ。

 二人で「あはは!」と笑いながら、勢いそのままグルグル回る。遊園地のコーヒーカップみたいに。

 

「バカ野郎お前、わいはやるぞお前!

 待ってろよHitomiぃぃ~~!!」

 

「抜錨! ゴーゴー☆」

 

 暁を肩車し、一気に駆け出す。

 解き放たれ矢の如く。暴走機関車のように。

 もう深夜だというのに、「うっひょー!」と奇声をあげながら走る。

 変人揃いの美星町では、これもありふれた光景のひとつだ。刀を持って深夜徘徊する爺さんとかいるし。

 

 とりあえず、P氏めっちゃパワフル。

 既にお忘れかもしれないが、彼は曲がりなりにも北斗神拳伝承者であり、戦闘力が天元突破しているのだ。

 今も肩パットの付いたツナギみたいな服を着てるし、事あるごとに「ホワッチャーイ!」って言うし。

 普段は中肉中背の身体で、なんの変哲もない17才の男の子だが、戦闘時にはムッキムキの肉体に変貌するので、どうぞご安心頂きたい。ご都合主義というヤツなのだ!

 

「ぬっ! 貴様はマスターP……

 

「 北斗! 残悔拳ッ!! 」

 

 道すがら、偶然見かけた亀〇師(キャスター)を「ひでぶ」しておく。

 

包茎(ほぇ)? アナル(あんた)ドリチン(どっかで)みこすり半(見たような)……

 

「 北斗! 十字斬ッ!! 」

 

 恐らく彼の連れだったのだろう。そこに居た〇獣(バーサーカー)も「あべし」しておく。

 

「あ、お前はチンコちっちゃいから……北斗! 有情拳ッ!!」

 

「わがはい、き゛ん゛も゛ち゛い゛ぃ゛~~っ☆☆☆(アヘ顔)」

 

 ついでに短小(セイバー)も見つけたので、彼も優しく「たわばっ!」

 結局こいつら、他の人に使って貰えんかったな……とか思いつつ、手向けのつもりでブッコロ。まあ英霊だから復活するんだろうし。ノープロである。

 

 

「ふぅ、結局は戻って来てしまったな……。

 幻想郷は、よく分からな過ぎて、世界征服どころじゃn

 

「――――北 斗 ォ ! 百 裂 拳 ッ ッ !!!!(迫真)」

 

 

 ワチャ! ワチャア!! オワチャア!! ワァァァタタタタッ!!!!

 おぉぉおお~う……ワッタァァァア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!!!!!!(ボカーン☆)

 

 マスターP氏、渾身の百裂拳が唸る。

 流や小雪の実父らしい秋月海人(ウミンチュ)さんは、〈キラーン☆〉と空の彼方へブッ飛び、再び幻想郷へ旅立って行く。

 

 ――――ねぇ! アンタ結局なんだったの!? 教えてよォ!!

 そんなモヤモヤを拳に込めて、お殴り(つかまつ)るのだった。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「パ……パパぁ……」

 

 キリキリ痛む胃、ドロドロに溶けた精神、次々に流れ込む記憶()

 

「パパ、あたしコワイ……パパぁ……!」

 

 たすけて、タスケテ、助けて。

 何度も何度も呟く。心で呼ぶ。

 どこを目指すでもなく、地面を這いずりながら。

 生まれたての野生動物が、ヨロヨロと母親を探すような仕草で、ぬくもりを探し続ける。

 

 こわい、全部が、()()()

 もう何も見えない。もう何も分からない。

 足場が無くなり、身体がフワフワ宙に浮いているかのよう。際限なく落ちていく感覚。

 

 そんな真っ暗闇の中で、Hitomiはパパを呼び続ける。

 たとえどうなっても、自分がどんな風であっても、たったひとつ信じられる物。

 彼という“絶対”を。

 

 わいの傍におれ。どっこも行くな――――

 そう言われていたのに、そんな簡単な言い付けすらも、忘れていた事に気付く。

 あたしは、本当にどうしようもない子。だからみんなに迷惑をかける、人を傷つける。

 こんなにも悪い子、他にいるだろうか? パパの言う事すらきけない子なんて……。

 

 パパの顔が見たい。パパに触れて欲しい。抱きしめて欲しい。

 帰れないのに。もう居場所なんて無いのに。でもパパに会いたい。

 

 この後に及んで……と思う。どの面を下げてと失笑してしまう。どれだけ悪い子なのかと。

 だけど、あたしには()()()()。この気持ち以外、なにも持っていないから。

 

 気が付けば、この町にいた。たった一人きりで、彷徨い続けた。

 記憶も、家も、頼れる人も、満足な食事すら無かったけれど……。でもたったひとつだけ、必死に握りしめていた。どんな辛い時でも、灯台の灯みたいに希望を示し続けててくれた。

 それが、パパだから。

 

 

「――――ッ!!??」

 

 ……しかし、またしてもHitomiの脳裏に、“知らない記憶”がよぎる。

 まるで映画を観ているかのように、全く覚えのない映像が、唐突に蘇ってくる。

 

「……えっ?」

 

 それは、()()()()()だった。

 横たわるパパの身体にまたがり、甘えるように優しく、貪るように妖艶に、何度も彼にキスをする光景。

 

 お腹、脇腹、鎖骨、頬、瞼、唇……。

 余すところなく、パパの全てを欲する、みだらで忌まわしい自分の姿。

 

「あ、ああたしっ……パパになんて事をッ……!!??」

 

 何故? どうして? パパなのに。あたしは娘なのに。

 これは嘘。何かの間違い。そんなワケない。

 けれど……どれだけ必死に否定しようとも、あの時の感触まで思い出せる。

 パパの手を胸にあてがった時の快楽。彼の唾液を飲み、舌をしゃぶった時の興奮。熱くなった下腹部の疼きを。

 

 そして、憶えてるんだ。

 あの夕焼けの中、自転車の後ろに乗せてもらった時に感じた、胸の高鳴りを――――

 娘じゃなく、()()()()()()()()()、彼にときめいていた事を。

 

 今も鳴りやまない、トクントクンという音。

 決して冷めない熱。キュッと胸が締め付けられる感覚。

 あの時に自覚した、好きだっていう想い。

 

 愛するのではなく、“恋”をした。

 尽くすのではなく、“欲しい”と思った。

 

 ならば……どうしてそんな自分が、この淫らな光景を「違う」などと言える?

 したいのに、欲しいのに、どうして否定出来よう。どうやったら今の自分などを、信用出来るだろう。

 やってないなんて戯言、どの口で。

 

 

 

 

 

『失敗に次ぐ失敗。

 やはり貴方は使えないわね――――Hitomi』

 

 

 その時背後から、芝を踏みしめる音がした。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 上下共に丈の短い白衣。はち切れそうな胸元と太もも。赤十字が入ったキャップ。

 

「使えないクセに、いっちょ前に物思いに耽って……。

 無意味な事はおやめなさい。貴方はママの言うことを聞いてれば良いの」

 

 知っている。この()を。

 ふっと気を失う時に、いつも頭の中で聴こえていた、あの声だ。

 

「痺れを切らしてね? 直接出向いちゃったわ。

 迎えに来たわよHitomi。さぁ、ママと行きましょう」

 

 腰に届くほど長い銀のツインテールが、キラキラと月明りを反射。闇夜の中で煌めく。

 美しい人――――それがHitomiが抱いた第一印象。

 そして次に感じたのは……背筋が凍るような感覚。

 手で潰した羽虫でも見るかような、“冷たい目”。

 

 この人が――――力石。

 あのハゲたお侍さんが言っていた、己の母たる女なのだと、ようやく思い至る。

 

「ああ、喋らなくて良いわ。返事はいらないのよ。

 貴方の意思……いえ“自意識”なんて物は、もう必要ないもの」

 

 おもむろに胸元のポケットから、カード型のリモコンを取り出す。

 それをゆっくりとした動作で、Hitomiの方に向けた。

 

「記憶に欠陥があっても、それがもしかしたら、良い風に転ぶかと思ってね?

 同情をひき、あのお人好し君をたぶらかせるかな~と期待したけれど……やはり駄目ね」

 

「これなら自分でやった方が早い。なんたって私クノイチだから♪

 たぶらかすならたぶらかすで、最初から“それ用”に作っておくべきだったわ。

 中途半端ないい子チャンじゃあ、信用させることは出来ても、骨抜きに出来ない」

 

「これは私の失敗。貴方は気にしなくて良いわ。

 だから、もうおやすみなさい――――」

 

 飛んだ。女を目掛けて。

 本能が警笛を鳴らし、危機を予感した途端、Hitomiはその場から駆け出す。

 地面を抉るほどの踏み込みを以って、一直線に力石へと突進。

 

「あー、そうそうっ!

 貴方に辛うじて残ってる、なけなしの記憶だけどね? ()()()()()()()()()

 

 躱す。マタドールのように。最初から全てを見越していたかの如く。

 すり抜け様に腕を掴み、柔道で言うところの脇固めの要領で、地面に組み伏せる。

 右肩を極められ、背中を膝で抑えつけられ、身動き出来ない態勢に。

 まともな格闘の経験が無いHitomiは、今なにが起こったのかを理解出来ず、ただ衝撃と痛みに目を白黒させるばかり。

 

「私が任務遂行のためにでっち上げた。ニセの記憶なのよ。

 まぁ世界間の移動どころか、時空までもを渡ることが出来る“ピンキー様”から聞いた未来の話を、元にして作った所もあるし。

 まったくのデタラメってワケじゃないけれど……」

 

「でもチュニジア大統領だの、チョモラペットだのは、あくまでパラレルワールドにおける、彼の可能性のひとつ。

 いわば、そういう未来もあるかも? 程度の話でしかないわ」

 

「どう、がっかりした? 宝石だと信じていた物が、ただのガラス玉で♪  

 貴方の記憶も、身体も、心も、()()()()()()

 人工羊水の中で作った、人間モドキの()()()()でしかないわ♪」

 

 ポタリ――――水音がなった。

 小さな透明の水滴が、Hitomiの眼下に落ち、地面に吸い込まれる。

 女の声以外、何も聴こえない夜の静寂の中、その音はハッキリと響く。

 

 動かない身体。感情のない表情。

 だがその目だけが大きく開き、そこからHitomiの意思とは無関係に、とめどなく涙の雫が零れていく。

 

 

「安心して? デリート( 消去 )したら、すぐに新しい人格を入れ直すから。

 ついでに名前も服も変えましょう。その似合わないメガネも、捨てなきゃね」

 

「だから、もう悩まなくて良い。苦しまなくていいの。

 お疲れ様Hitomi♪ ――――ママは貴方なんてキライよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパの顔が浮かぶ。

 マスターPの事だけが、とめどなく浮かぶ。

 

 アタシはそれだけ。それしか持ってないから。

 

 ガラス玉でもなんでも、アタシには大切。大事な物だったのに……。

 

 

 ねぇパパ? どうしてパパのことを考えると、苦しくなるの?

 

 どうしてこんなにも、胸が切ないの? 教えてよパパ――――

 

 

 

 

 

 

 それが、Hitomiというヒトガタが抱いた、最後の思考(オモイ)

 

 デリートは実行された。

 今そこにいるのは、姿形だけを同じくする、まったく別のヒトガタ。

 

 

 

 

 

 



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅤ

 

 

 

 

「妙やなァ、風が泣いとる――――」

 

 サラッとフラグを立てる。息を吐くように中二病発言。

 

「嫌な予感がしますねェ! 気を付けろ暁ィー!」

 

「了解っ!」

 

 肩車されている暁が、ビシッと海軍式の敬礼。

 マスターP氏も注意深く辺りを見渡しながら、美星町を駆けていく。

 

 野性の勘か、それとも歴戦の雄(北斗神拳伝承者)としての経験か、はたまた「漫画だったら次はこういうの来るな~」というしょーもない先読みなのか。

 ともかく、いまP氏はハッキリと“不穏な空気”を感じ取っており、さっきの英霊共&ウミンチュ( 海人 )さんとの邂逅で弛緩してしまった心を、改めて引き締めた。

 そして、とりあえず曲がりなりにも彼らの再登場を果たし、形だけでもバトンを引き継げた事に内心安堵しつつ、マスターP氏は走る。

 

「美星町の全ての皆様に感謝申し上げつつゥ! ありがとうの気持ちを忘れずにィ! ちょいと飛ばすぞ暁ィ!」

 

「分かったわ提督っ!」

 

 P氏の頭にギュ~っとしがみ付き、衝撃に備える暁。

 彼も前傾姿勢で「きぃ~~ん☆」と言いながら、さらに速度を上げていった。

 

 

 

「そして! 時速39㎞くらいで走り続けてたら、公園に辿り着いたぜッ!」

 

「わーい説明くさぁーい☆ でも分かりやすくてステキ!」

 

 秋の虫の鳴き声だけが遠くから響く、夜の公園。

 広大な敷地と、豊かな木々が見渡す限り広がり、街灯と月明りだけがぼんやりと照らす、青白い風景。

 どことなく心細さを感じる、深夜の公園という非日常の空間。

 P氏が「よいしょ」と暁を降ろし、二人でキョロキョロと辺りを見る。

 

「理由も理屈もよく分からんが、この辺りが怪しい気がするぜッ!」

 

「ご都合主義さいこー! これぞコメディの魔法ね☆」

 

 仮に明石ちゃんや瑞鶴あたりが居てくれたなら、レーダーなり艦載機なりで情報を集め、向かうべき場所の指示をくれるのだろうが……残念ながらまだ帰還していない。

 ゆえにマスターPは、独力でなんとかした。流石は北斗神拳伝承者である(?)

 

「……あっ、人影見ゆ!!

 数は2! 距離150です!」

 

「でかした暁ィー! 大きくなったら乳揉んでやっからなァー!」

 

「死ねっ!! とにかくあっちよ提督、行きましょう!」

 

 二人で「ウオォー!」と叫びながら、現場へ急行。

 17才の男の子と、ちんまい幼子が、横並びで元気に走っていく。

 その表情だけは、まごう事なき真剣さを宿して。

 

「なっ、なんだこの悍ましい気配はッ!?

 こんなの……ネット小説を書いてるだけなのに、サイコパスの人に粘着されちまった時にだって、感じた事ねぇぞ!」

 

「えらく具体的だけど……気をつけて提督っ! これホントにやばいわ!」

 

 P氏が、空中ダッシュする時の悟空みたいな構えを取り、暁は即座に艦娘の艤装を展開。全速力で芝の上を駆ける。

 高速で流れていく視界。近付けば近付く程にどんどん増していく悪寒と、得も知れぬ威圧感。

 けれど、二人は決して足を止めることは無い。額をつぅっと流れる冷や汗を感じながら、一刻も早くと懸命に足を動かす。

 

 そして、そこで目にしたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~らHitomi、バナナよぉ。沢山食べなさーい♪」

 

「ウホホw ウホウホwww ウホホホwww」

 

 

「「――――Hitomiぃぃぃいいいッッ!?!?!?」」

 

 

 なんか見知らぬ女性にエサを貰っている、ゴリラみたいな愛娘の姿。

 

「あーら、もう20本もいってるわぁ。Hitomiはバナナが大好きなのねぇ♪」

 

「ウホw ウホホホwww ドンドコドンドコ(ドラミング)」

 

「「――――Hitomiちゃあああぁぁぁーーんッッ!?!?!?」」

 

 楽し気にドンドコ胸を叩き、腰をくの字に曲げながらウロチョロと辺りを徘徊。バナナ片手に。

 そのゴリラよろしくの仕草をしているのは、間違いなく自分たちが探していた人物。Hitomiその人であった。

 

 無駄に筋肉があるせいで、なんか物凄く()()()()()()というか、もうゴリラにしか見えない。

 人格がデリートされ、代わりにゴリラの人格をインストールされちゃったHitomiは、人語も忘れて只今バナナに夢中。美味しそうにモシャモシャ貪っている。器用に皮を剥いててエライ。

 

「……あら? 何かしら貴方たち、うちのゴリラに何か?」

 

「ウホw パパ来たwww ウホホw バナナ食べる?www」

 

「 目を覚ませHitomiィ!! オメェそれで良いのか色々!?!? 」

 

「 私の憧れを返せぇー!! 」

 

 しがみ付き、必死にガクガク肩をゆするも、Hitomiは「ウホホホw」って感じ。

 辛うじて人語を喋り、P氏のことも認識しているようだが……もう在りし日の彼女は居ない。全ては失われていたのだ。

 

「そうそう! この子はHitomiじゃなく、【Hanako】に改名するから。

 みんなよろしくね♪」

 

「 やめてよそのゴリラみたいな名前っ! かわいそうでしょ!? 」

 

「後で毛皮的なコスチュームも着せて、()()()()()()()に進化するから。

 仲良くしてあげてね☆」

 

「――――あの子を解き放て! あの子は人間だぞッ!!」

 

 ゴリラっぽい仕草で「♪~」と歩き回るHitomiを余所に、P氏たち大激怒。

 必死に見知らぬ女性に詰め寄る。わいの娘を返せと(人権的な意味で)

 

「ちょっと前に、“逆バニー”っていうコスが流行ったじゃない?

 ゴリラの毛皮って、形があれに似てると思うんだよね。エロくない?」

 

「んなこと思うのはアンタだけよ! 考え直してっ!」

 

「まぁここはひとつ、私のことは【動物好きの優しいお姉さん】って感じで、なんとかならない?

 貴方には少しでも良く見られたいのよ、P君」

 

「 努力の方向オンチかッ!! もうサイコパスは沢山だッ!!(迫真) 」

 

 なんでどいつもこいつも、わいに粘着してくるんだろう? すり寄って来るの? 変人を引き寄せるオーラでも出してんのかな……。

 そうP氏は己を省みる。もしかしたら“類友”なのかもしれないと凹む。

 

「まぁ冗談はこの辺にして……Hitomi?」

 

「――――」

 

「っ!?」

 

 これまでおちゃらけていたHitomiの目の色が変わり、瞳孔が縮む。気配が一変。

 次の瞬間、獣のような速度で駆け出し、一瞬にして暁を捕獲。後ろから羽交い絞めにする。

 

「て、テメェ!? ……暁ィィーッ!!」

 

「おっと、動かないで頂戴ね?

 私の命令ひとつで、その子の背骨が折れる。Hitomiは躊躇なくやるわ」

 

 想定していなかった。あのHitomiが暁に手を出すなどと。

 だがこの状況においては、P氏の考えが甘かったと言わざるを得ない。

 あの子はすでに、()()()()()()()()()。そしてプアに「操られている」と忠告を受けていたハズだ。

 比喩では無く、もう在りし日のHitomiは、どこにも居ない。

 生来の活発さゆえか、ここにきて未だ楽観的に物事を捉えていた彼には“取り戻す”という意思はあっても、“交戦する”という覚悟までは、出来ていなかったのだ。

 その油断を、最悪の形で突かれた。

 

「夜の公園、素敵だね♪

 お月様の薄明り……まるであの森のよう」

 

 ふいに、どこか遠くを見つめるような目で、力石は小さなため息。

 

「夜のブランコで語り明かすのもいいけれど……、ここでは少し、舞台が不足してるよ。

 だから、場所を移そっかP君?」

 

 腰のポシェットから、手の平に収まるサイズの機械のような物を取り出し、おもむろにスイッチを押し込む。

 その途端、この場に淡い赤色の光が、柱のように円形で、空まで立ち昇る。

 あたかも魔法陣……いや異世界へとつづく扉のよう。

 

「この子カワイイね♪ 大事な子なんでしょう?

 なら追って来て。……P君だけは、このゲートをくぐれるから。()()()()()()()()

 

 世界を繋ぎ渡る力――――そうボソッと彼女が呟く。

 だがその言葉の意味を考える暇も無いまま、暁を抱えたHitomiが、躊躇なく光の柱の中へ飛び込んでしまう。

 

「てっ……提督ぅぅぅーーーっっ!!!!」

 

「暁ィィィイイイーーッッ!!!!!!!」

 

 手を伸ばす。必死に。

 だが二人の姿は、まるで煙のようにスッと消失。この世界から消える。

 どこかへ飛ばされた。ここではないどこかへ……そうP氏は直感的に理解。

 

「少し準備がしたいから、悪いけど時間稼ぎをさせて?

 童貞の君は知らないだろうけど、女の子は色々あるんだ♪

 このゲートは開いておくし、終わったらここに入ればいいよ。P君ひとりでね」

 

 彼女がふわっと手を上でかざした途端、この場に大きな地震めいた地鳴りが。

 立っているのも困難なほどの揺れに、P氏は彼女を捕まえるどころか、前を睨むことで精一杯となる。

 

 

「それじゃあがんばってね、みんなの護り手(ヒーロー)さん。――――まってる」

 

 

 彼女の身体が、すぅっと光の柱の中に消える。

 

 次の瞬間……、この場に台風を思わせる凄まじい爆風が吹き荒れ、P氏の身体が大きく跳ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「こ、これは……洒落になりません(白目)」

 

 胸に思い描くは、艦娘たちの姿。そして自らが専属パイロットを務めるロボット“マジンガー絶頂”の事。

 だがそのどちらも、いまこの場には無い。

 

「生身でどうしろってんだ、こんなの……。

 わい今日で最終回っすか?(察し)」

 

 ゴロゴロと地面を転がり、ようやく勢いを殺して立ち上がった時、異変に気付いた。

 月明りが消え、辺りがより一層暗くなっている事。そしてどこからか聞こえる“笑い声”。

 

『 アハハ。アハハハ。 』

 

『 ハハ。アハハハ 』

 

 ふと視線を上げれば、そこには“天使たち”の姿。

 背中に翼を持つ小さな女の子たちが、月明りどころか空を覆い隠すほど大量に、視界いっぱいフワフワと浮かんでいる――――

 

『 アハハ、パパ、パパ 』

 

『 パパだ。アハ。アハハハ 』

 

 ゆっくりと降りてくる。徐々に高度を下げているのが分かる。

 やがて近付いてくる内に、彼女らの容姿がハッキリ見て取れるようになり、この子達が全て“機械人形(オートマタ)”であることを悟った。

 まるで腹話術のパペットのように、左右の口角から真っすぐ下に線が入っているのが分かる。今も口元をカクカク動かし、楽し気に「パパ」と呼びながらアハハと笑っている。

 白いベールを身に纏い、手に小さな弓矢を携えた数えきれないほどの天使たちが、こちらを目掛けて舞い降りてくる――――

 

 ここは丁度公園だ。いまマスターP氏の脳裏に、以前なにげなくハトにパンを投げてやった時の思い出が、ふと思い浮かんだ。

 クルッポーと首を前後に動かしながら、テクテクこちらに歩いて来るハトに気が付いた時、P氏はちょうど手に持っていた食べ掛けのパンを、ポイっとそちらへ投げてやったのだが……。

 次の瞬間、この場に()()()()()()()()()()()()()()()()()、瞬時にパンに群がって来たのだ。

 バタバタと煩いくらいの羽音を鳴らしながら、恐ろしいほど沢山のハトが、大群となって一斉に襲い掛かり、瞬く間にパンを穴だらけに。原型を留めないほどバラバラにしてしまった。

 

 その時に感じた悪寒と、今のこの状況が、ピッタリ重なる。

 

『 アハハ 』

 

『 パパ 』

 

『 アハハ 』

 

『 パパだ 』

 

『 パパだね 』

 

『 パパいた 』

 

『 いたね 』

 

 食い散らかされる――――成す術なく。

 これから自分は、この空を覆い隠すほどの天使の大群に、一斉に群がられるだろう。

 あのパンのように、一瞬にして穴だらけにされ、バラバラになってしまう未来が、容易に想像出来た。

 

 見上げる。空を。もう愕然としながら。

 奥歯を噛みしめ、ギュッと拳を握る。……もうそれくらいしか、今の自分に出来ることが、思い浮かばなかった。

 

 ……時間稼ぎ? ウッソだろお前?

 アンタこの美星町を、()()()()()()()()()()()()()

 跡形なく、慈悲もなく、殺し尽くす気じゃないか。ここに住む全ての人達を――――

 

 

『 パパ 』

 

   『 パパ 』

 

     『 パパ 』

 

  『 パパだ 』

 

    『 あいして 』

 

 『 あいして 』

 

      『 アイシテ 』

 

  『 すき 』

 

     『 好き 』

 

    『 スキ? 』

 

  『 いい子 』

 

 『 イイコ 』

 

『 ほしい 』

 

   『 して 』

 

        『 パパ 』

 

                 『 愛せ 』

 

 

 ()()()()()()。道徳の授業で習った、焼夷弾による空襲を彷彿とさせる炎が、煙が、遠くの方でそこら中から上がっている。

 空から来襲した天使たちが地上へと放つ、雨のような矢。いくつも重なって騒音のように木霊する悲鳴。阿鼻叫喚。助けを乞う声。

 今この町の誰もが逃げ惑い、成す術なく貫かれ、また炎にまかれて死んでいる姿が、P氏の脳裏にアリアリと浮かぶ。

 

 絶望――――これがそうなんか。

 彼は、生まれて初めて知る。

 

 いま己の胸に去来している、如何ともし難い感情、そしてブルブルと震えが止まらない身体。まったく言う事をきかず、身動きすら出来ない我が身。全てを失うという恐怖。

 これが“コワイ”って事なんか。今わい絶望しとんのか。……MJD(マジで)

 こんな時だというのに、P氏は己の心を疑い、打ちひしがれずにはいられなかった。

 まさか、このわいが? と。

 

『 パパ 』

 

『 パパ 』

 

『 パパ 』

 

 そして己の内に閉じこもる暇もなく、この場にも多くの天使たちが降り立った。

 周りを取り囲み、この広大な敷地を全て埋めつくすほどの数。

 P氏は歴史の授業中はいつも居眠りをしているけれど、話に聞く関ケ原の合戦のことが思い浮かんだ。まぁ東軍も西軍もなく、自分はたった一人なのだけど……。

 

『 すき 』

 

『 スキ 』

 

『 好き? 』

 

『 して 』

 

『 して 』

 

『 ダイテ 』

 

『 あいして 』

 

 少しずつ円を縮めるように、近付いて来る。

 それは地面だけの話ではなく、空も。

 いま己は、ドーム状にこちらを取り込む天使たちにより、完全に逃げ場を失っている。どうする事も出来ない。

 

 左右の目をデタラメにぐるぐる回し、カクカクと口をカスタネットのように動かしながら、数えるのも億劫になるような無数の天使たちが、ゆっくりと迫って来る――――

 

 

 

「ッ!!!!!!?????」

 

 だが、爆音――――

 地面が激しく揺れ、空気が振動。

 

『 あぁ!? 』

 

『 ぎゃっ!? 』

 

『 あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!! 』

 

 ()()。それもすごく巨大な。

 いくつもいくつも、この場に降り注ぎ、地面に穴を空ける。

 辺りにいる天使の軍勢を、蹴散らしていく。

 

 空だ! でもこれは天使じゃない! もっと大きな!

 全長20メートルを超える巨大な人型の影が、ジェット機のような飛行音で大気を振動させながら、物凄い速度で空を駆けている!!

 

 

「――――動け! マスターPさんっ! 貴方らしくもない……!」

 

 

 赤いカラーの機体。()()()()()

 いわゆる“アーマードコア”と呼ばれる、汎用人型兵器。鉄の死神。 

 

「その声はホリコn……いや()()()()()さんすか!?!?」

 

「そうだっ……! ホモではないけれど私だ……!

 自称、ロリコンにもなれないスナハァラ・セキゾノフだ!(?)」

 

 乗っているのは彼!

 歴戦の傭兵であり、通称“リンクス”と呼ばれる元パイロットの彼が、アーマードコア・ネクストを操り、“謎の主張”を引っ提げてこの場に現れたのだ!

 

 砂漠に住む肉食獣を思わせるような、痩せっぽちなボディ。

 装甲をかなぐり捨て、何よりも速度を重視し、軽量化した機体。

 その両手に握られたサブマシンガン型の武装が、(あられ)(ひょう)のように次々と弾丸を吐き出す。

 天使のお株を奪うが如く、視界に留めることすら困難なスピードで空を駆けながら、次々とヤツらを駆逐している。

 流星のように夜空を駆け、延々と鳴り続ける銃撃音と、破壊を撒き散らす。

 

「ここは任せて……! 成すべきを成して下さい……!

 貴方にしか出来ない事がある筈だ……!」

 

 スピーカーからの声。だがそれは酷くかすれており、彼がいま咳込んでいるのが分かった。血の混じった唾液を吐き出しながら。

 

「このじゃじゃ馬(アマジーグ)は、精神負荷が酷くてね……?

 乗っているだけで、心をやすりで削られるようだ……。

 申し訳ないが、長くはもちません……。急いで下さいPさん……」

 

 本来、彼には傭兵たる……アーマードコアに乗る素質は無かった。

 彼はただ、僅かばかりの操縦技術と、“皆を守りたい”という想いのみを以って、戦場に出ていただけの男だったから。才能など無かったのだ。

 

 けれど、この致命的な精神負荷を引き起こす機体【AC・アマジーグ】と、無理やり己をリンクさせる事により、力を手に入れた。

 乗る度に、気が狂いそうになるほどの頭痛、そして戦えば戦うほどボロボロになっていく心。朝食のメニューや、友達の顔さえ思い出せなくなる程の、強烈な精神ダメージ。

 それに耐え続けながら、ずっと長い間、アーマードコアを駆って来た。

 家族や、愛する人々を守らんが為に、己の全てを捧げたのだ。

 身も心も、己の明日さえも。

 

 しかも、その致命的な精神負荷に加えて、いま彼は重傷を負っている。

 先のHitomiの暴走による負傷が、耐え難い激痛を与えているハズだった。

 

「いちおう言っておきますが……、別にいいカッコしてホモにモテたいとか、ょぅι゛ょに愛されたくてACに乗っているワケでは……。

 この“致命的な精神負荷”というのも、あくまでACによるコジマ汚染で、決して私の性癖に関する悩みとか葛藤とか、そういうのとは無関係なので……!」

 

「分かってるっすよセキゾノフさん。

 そもそもわい、アンタの事ロクに知らんのやし」

 

 ナイーブなのか、めっちゃ気にするタイプなのか、この期に及んでセキゾノフさんが懇願。ホント辛いんですと――――

 

「大丈夫。うちの艦娘たちに、ちゃんと言っとくから。

 ホリコンのことをスナハァラと呼ぶのはやめろ! って」

 

「逆。逆ですPさん。

 あぁ、意識が……(くらっ)」

 

 だんだんスピーカーから聞こえる声が、弱々しくなってるような気がする。

 それでも操縦を止めず、鬼神のような動きで天使たちを駆逐し続けている所は、流石セキゾノフさんである。

 

「とりあえず、役目は果たしたかな、っと……。

 どうやら私だけでは無かったようだ。これで一安心です……」

 

「えっ? ……あぁー! お前らぁーー!!??」

 

 気が付けば、この場に大勢の人達が。

 VUMのメンバーや、アンパンマン達、そして美星町中の猛者たちが集まり、「おらぁー!」とか言いながら()使()()()()()()()()()()

 

「なんだこの野郎! 通販で買った“クマ撃退スプレー”を喰らえ!

 かかって来いこの野郎!」

 

「直樹ッ! あまり突出するな! 陣になって戦え!」

 

 二人で協力し、天使たちと対峙する、直樹と勝也。

 お互いに背中合わせで、ニヤッと微笑み合いながら、どんどん敵を駆逐していく。

 

「大丈夫か、我が弟子よ?

 時代がお主の拳を必要としておる。ここで死なれては困るのぅ」

 

「老師っ! 北斗神拳のお師さん!?」

 

「あーらイケメンっぽい声♪

 でもセキゾノフさんのケツを掘るのは、この戦いが終わってからにしましょ♪」

 

御釜田(おかまだ)さん! 新聞配達所のっ!」

 

「スパム! スパム! スパム! こいつらの肉でスパム!」

 

「いや止めとけよバイキングの皆さん!?

 誰も食わねぇし、そもそも機械人形(オートマタ)だよっ!」

 

 次々に集まる、美星町の戦士達。

 中にはホモとか変態とかもいるが、誰もが町を守ろうと奮闘し、その拳を振るっている。

 

「どうしたのファンキー爺さん、もう疲れた?

 ぼくが全部やっつけてあげようか♪」

 

「笑止、すっこんどれ剛力甘男(あまお)

 きゃつらが片付かば、次はヌシぞ」

 

 夜の公園に、キェェェェェとかアーンパーンチとかの、大きな叫び声が響く。

 今ここに、ファンキー爺さんとアンパンマンが並び立ち、戦場を席巻。瞬く間に賊を誅殺していく。

 

「この町をやらせるワケには、いかないんですよ。

 私のホーリーランド*1なんでね」

 

「自分達でやるのならともかく、よそ者に好きにされるのはね……。

 僕の庭で何をしてるの? ――――()ね、下種共が」

 

「テンジクボタンちゃんもいっくよ~☆

 ハーイとっつげぇーーき♪ きゃは☆」

 

 大道塾*2仕込みの膝蹴りを叩き込む、ハセ・ガワ氏。

 目から青白い光を放ち、カマイタチめいた突風を巻き起こす、ミスター慧眼人くん。

 そして、無双系ゲームのように「どかーん☆」と敵陣に飛び込んでいく、テンジクボタンちゃん。

 銃器や兵装を携えたComeTrueやオールインワンの構成員たちも雪崩れ込み、この場はすでに戦の様相。激しい戦闘が繰り広げられる。

 

「よし、俺もやろう。気功h

 

「うぉぉ! タワーブリッジ! タワーブリッジ!!(瞬殺)」

 

「いいから黙ってろよオメェは。ここは俺らでやっからヨォ。

 まだ俺のバトルフェイズ(タイガリティ運動)は終了してないゼ」

 

 クソ野郎(天津飯)の脊髄を極めるロビンマスク。そして何故かいるトラゴロー。

 彼らも美星町を守るべく、推参してくれたのだ。

 

「うおー! お地蔵さまデッケェな!

 やっぱカッコいいよ!」

 

(アホンダラ! 流の町を壊すな! みんなが住まれへんようなるやろ! アホーっ!!)

 

 そして、アーマードコアに負けないくらい巨大化した()()()()()が、「えいえい!」と頑張って天使たちを踏んづけていく。

 とっても頼りになる伊邪那岐命(いざなぎのみこと)であった。

 

 

 

「ご覧の通りです……。行って下さいPさん。

 その力で――――君は何を守る?」

 

「セキゾノフさん……」

 

 “砂漠の狼”と呼ばれた傭兵が、そっと心で、彼の背中を押す。

 

「恐らく、今から貴方が向かうのは“カノジョのセカイ”。

 手で触れられるほどに具現化した、あの女の心象風景に近い場所……。

 闇の者が作り上げた、決して光の届かないセカイです」

 

 ゆえに、援軍は送れない。この心の闇の如き不可侵のゲートをくぐれるのは、選ばれし英雄たるマスターP氏のみ。

 単身で赴く他はなく、また「貴方ならやれる」と、力強くセキゾノフが頷く。

 

「行って来いよ、元町長。

 ほんで、さっさと帰って来いな?」

 

「アンタなら、何の心配もいらんだろう?

 またゲリラライブを見せてくれ。今度は小雪ちゃんにも」

 

 直樹と勝也が激励を贈る。頼りがいのある“男の顔”で。

 

「なぁPさぁーん? これ終わったら遊ぼうぜーっ!

 いっかいアンタと話してみたかったんだよ俺♪ ぜったい友達になれるって♪」

 

 そして、「おるぁー!」と天使共を束にしてシバきながら、流くんもこちらへ振り向き、ニカッと笑う。

 

 

「わーったよ流きゅん。わーったよみんな。

 ――――ほなわい突貫しますわァ! おっしゃー見とけよ見とけよー!」 

 

 

 

 

 

 

 

 もう振り向かない。迷わない。

 P氏はダッシュで光の柱に駆け込み、その途端バリバリ~っと電気のようなモノを受けて「うぎゃー!」と叫びながらも、なんとか旅立っていった。

 

 あの女と、暁と、ゴリr……いや愛娘のもとへ。

 

 

 あの子を連れ戻し、また一緒に生きるため。

 彼らしい元気さで赴いて行った。――――最後の決戦(カノジョのセカイ)へと。

 

 

 

 

 

 

*1
魂の居場所、心の住処

*2
空手道の団体。関節技や投げまで許容される過激さが特徴



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅥ

 

 

 

 

 ――――また君に会えますように。

 

 ずっと胸に抱き続けた想い。

 わたしのたったひとつのたからもの。

 七夕にかけた、願い。

 

 けれど……これを叶えるよりも、()()()()()()()()()()()、よほどタイヘンだったように思う。

 

 

 

『……なにぃ! 見逃したぁ!? 一体何を考えている貴様ッ!!!!』

 

 あの七夕の日、“みっつめのセカイ”に帰還した後、お腹が破れちゃうくらい蹴り回された痛みを、今も憶えてる。

 

『そのガキはどこだッ! 顔を見られたというガキはッ!! どこにいる!?

 すぐに代わりの者を送り、始末させるッ! 言わんかッ!!!!』

 

 縄で括られ、身体を打ち据えられた。長い時間をかけ、何百と叩かれた。

 骨が砕ける感触というのを、その時初めて知った。

 いつもわたしがやっていた事だけど、骨を砕かれた人はこんな想いをしていたのかって……胸がキュッとなった。

 

『こやつはシノビに不向きだ。心根が甘すぎる』

 

『一人しくじれば、里全体が危機に晒されよう。

 我らの任務とはそういうモノ、薄氷を踏むが如しよ。

 まだ幼き内に()()()と分かったのは、僥倖(ぎょうこう)やもしれぬ』

 

『面倒を起こす前に、いっそ処分してしまうか?

 目と腕を潰し、そこいらの獣にでも、くれてやればよい。

 または生き試しに使え。幼年組の者達にとり、情けを捨て去る良き訓練となろう』

 

 両腕を縛られ、サンドバッグのようにぶら下がりながら、遠くなる意識の中で、大人達の声を聴いた。

 歯が何本も折れているし、口の中もズタズタだったから、決して言葉にする事はなかったけれど……。やるなら早くやってくれ、と思った。

 

『――――その子の身元が割れたわ。

 “ひとつめのセカイ”に住む、マスターPとかいう、6才の男の子よ♨』

 

 けれど、この場にふらっと現れたピンキー様の一言によって、わたしは力なく閉じていた瞼を、限界まで見開く。

 

『健気じゃないの、男のために尽くすだなんて。……会ったばかりなのに。

 この子はシノビより、淫売の素質があるのかもねぇ♨』

 

 おねえっぽい口調で、楽し気に「くっく!」と笑いながら、ピンキー様がミノムシのようになったわたしの前に立ち、上を向かせる為にクイッと顎を持ち上げた。

 

『いい事を考えたわ、()()()をしましょうか? ちいさな淫売さん♨』

 

『貴方が一人殺す度、あの男の子に“三日の猶予”をあげる。

 だから、これからも里の任務をこなし、たくさん殺しなさい♨

 でなければ、()()()()寿()()()()()()()()?』

 

 男の子(マスターP)は始末する。これは決定事項よ。例外はない。

 けれど、貴方がここで()()()()()()()()()()()、彼を生かしておいてあげるわ。

 ……そうピンキー様が、ニタリと微笑む。

 妖艶に、心底愉快そうな様子で。

 

 

『いわば“命の貯金”ね。

 それが尽きたら殺す、里から逃げ出しても殺す。

 精々がんばって任務をこなす事ね♨』

 

『どう? 見ず知らずの人間の命で、彼の三日分の寿命を買うの♨

 その価値は充分にあるんじゃない? 貴方にとっては――――』

 

 

 

 

 誕生日、という物がある。

 その人が生まれた日。またひとつ歳を重ねたと、皆でお祝いする日なのだそうだ。

 

 なんの気まぐれか知らないが、ある日ピンキー様が、わたしに教えてくれた。

 きっと励みにでもなればと思ったんだろう。……P君の誕生日を。

 

 

『おめでとうP君。あれから1年だね?』

 

『誕生日おめでとう、もう9才だねP君』

 

『来年から中学ね。12才の誕生日おめでとう』

 

『……もう高校生になるんだぁ。

 立派になったねP君。おめでとう――――』

 

 

 ……それから私は、毎年彼を祝うようになった。

 独房のように狭く、暗い部屋で一人きり。呟くように。

 毎日まいにち、人を殺しながら。

 

 

 窓から夜空を見上げ、彼を想う。

 それだけは出来た。それしか出来なかった。

 

 日に日にすり減っていく心。慣れていく事への嫌悪。

 自分がバケモノになった感覚と、それをハッキリ照らし出す、お月様の光。

 “君”という、忘れられない暖かな灯。

 

 

 あの七夕のように、また同じ星の下、君の顔が見たい。

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あっ……これベルセルクのヤツや(察し)」

 

 長い長い落下。

 かのゲートに飛び込み、いつ終わるともしれない浮遊感を耐えきった後、マスターPはまるで排泄物のように、ここにボテッと落ちた。

 

「“蝕”ん時のヤツや……。

 あのキャスカのエロシーンには、わいも胸が熱くなったもんだが(正直者)」

 

 大地を埋め尽くす、顔、顔、顔。

 憎悪と怨念に染まった人間の顔が、いまP氏の足元に……いや見渡す限り広がっている。たくさん沢山。

 いわば、()()()()()()()()()だった。

 

 足を動かし、一歩を踏み出せば、その足元から踏んず蹴られた顔達の「ぎゃっ!?」とか「あ゛ぁ!?」とかの悲鳴。

 ただでさえ醜い顔が、さらに憎しみに染まるという、マリオもビックリのグロいステージ構成。

 こんなトコ、たとえピーチ姫を助ける為にだって、来たいとは思わないだろう。

 

 そして、空は黒一色。星ひとつ見えない真っ黒な夜空。

 だが月だけは()()()()()()()輝いており、僅かながらこの場に光源をもたらしている。

 それが無かったら、とても歩くことは出来なかっただろう。……まぁこのグロテスクな人面床を見ずに済んだので、一長一短という感じだが。

 

「心象風景……心の闇とか言ってたかな、セキゾノフさんは。

 これが、あのおっぱい大きい銀髪ねーちゃんの……闇。

 “カノジョのセカイ”ってヤツかよ」

 

 何個ある? もう数える気すら起きない。

 たとえ美星町の全員が集まろうとも、この眼下に広がる人面の数には、遠く及ばないだろう。

 男、女、老人、赤子、わいと同じ年頃のヤツ……。

 様々な、だがどれもが苦痛の色に染まっている。生気の無い灰色、()()()()

 

 つーか――――いったい何人殺したんだ?

 ふとP氏の心に、そんな疑問が湧く。

 誰がとも、何でとも思わず、ただただ“何人”と数を問う想い。

 

 いったいどれほどの労力と、時間と、意思があれば、これだけの事が出来るんだろう。

 P氏には、これが一人の人間がやったモノだとは、到底思えなかった。

 

「とてもやないが、こんなトコおれんわ……。

 ちょっと失礼しますよォ。あーゴメンネゴメンネー!(軽)」

 

 ワケも分からぬまま、歩を進める。

 何かを探し、どこを目指すでもなく、とにかくこの場から動く。

 それが最良。こういう場合、同じ所に留まっていても、良い事なんて起きないのだ。

 どっかの漫画で仕入れた知識を頼りに、凸凹した歩きづらい人面の大地を、ひたすらヨチヨチと進んでいく。

 この無惨で物悲しい光景にも、きっと果て(オワリ)があると信じて。

 

 

 

「おん? あーそうそう! こういうのですよォ!!

 気がききますねェ! ナイスゥ!」

 

 やがて歩く内、P氏は遠く前方に、白い大きな建物があるのを発見。

 喜び勇んで、犬のようにそちらへ駆けて行く。「おっしゃー!」って感じで。

 

「なんか……あの周辺だけ、光に包まれとる。

 これがRPGとかなら、セーブポイントなんやが(ゲーム脳)」

 

 建物だけじゃない。その周辺だけが、天から差し込む光に覆われている。

 あたかも、その一帯の土地だけが、神の恩恵により邪悪から守られているかのように。

 それは、孤独の中で抱く、たったひとつの希望。

 真っ暗闇で光る、お星さまの輝き。

 いや、耐え難い苦しみの中でも感じる、大切な思い出のぬくもりように……。

 

「ま! なんか()()()()()()()()ですけど!(爆笑)

 でもこの際、文句は言えませんねェ! ――――かいもぉぉぉおおおーーん!!!!」

 

 なんとその叫びと共に、ゴゴゴッと音を立てて、城門がひとりでに開いた。

 これを怪しいとか、警戒するとか、なんでこんなトコに城があるんだとか……そんなのは一切考える事なく、P氏は躊躇なく突貫。城に駆け込み、扉をバタンと閉める。

 ようやくあの狂った風景と、不快な淀んだ空気から開放され、「えがったえがった」一息ついた心地だ。

 

 いまP氏の眼前には、世界ふしぎ発見で見たような、豪勢で広いエントランスがある。

 正面の巨大な階段や、よく分からん芸術的な彫刻、美しい模様が入ったクソでかカーペット。

 もうまんま「お城!」って感じの、お姫様に憧れる小さな女の子が思い描いてそうな、西洋風の広間であった。

 

「おうわいやー! マスターPが来たやでー! 出てこーゥい!!」

 

 

 勢いよく、大股で、我が物顔で。

 マスターP氏が元気に侵入して行った。敵の本拠地へと。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました♪」

 

 歩き初めて30秒としない内に、とても朗らかな声を聞く。

 明るく、優しく、どこかこちらを「ほっ♪」と安心させるような、柔らかいご挨拶。

 有り体に言えば“行き届いてる”って感じの。

 

「……お前っ! あん時のねーちゃん!?

 おっしゃい! ここであったが100年m……

 

「ささ、どうぞこちらへ♪ こういった所は初めてですか?」

 

 ドスドスと足音を立てながら、そちらに詰め寄って行くも、なしのつぶて。

 いま目の前にいるラスボス(らしき女)は、ニコニコと人当たりの良い笑顔を絶やさぬまま、こちらの言葉を遮る。

 あたかも我関せず……いや“接客マニュアル”の通り、と言った様子で。

 

「ではP君さま、こちらの()()()をご覧くださいませ」

 

「おん?」

 

 ここはまるで、何かのお店の()()のような場所。

 二人の間を遮っているカウンターらしきテーブルには、いま爆乳ナイチンゲールこと力石さんが「どうぞ」とばかりに差し出した、メニュー表らしき物が置かれている。

 ちょうどファミレスなどの飲食店であるような、カラフルで見ているだけでワクワクするようなデザイン。

 

「まずはこちらから、()()()()()()()をお選びくださいませ♪

 いま空いているのは、この辺の子達になりますね。どの子もカワイイでしょう?」

 

「ッ!?!?!?」

 

 だが、そのメニュー表の一番上部にデカデカと表示されているのは、()()()のお写真だった。

 目元を手の平で覆い(目隠しをして)、床にペタンと女の子座りをしている。しかもセクシーな下着姿だ。

 ――――えっ! どの子もメッチャ可愛いじゃん!! めっちゃレベル高いじゃん!!

 マスターP氏は「カッ!」と目をひん剥きながら、そんな事を思った。

 メニュー表にゼロ距離まで顔をくっつけ、まじまじと見つめながら。

 

「この子はSMがOK。この子は赤ちゃんプレイなどが得意ですね。

 そしてこの子は“AF”が出来ますけれど……、これにはその日の体調などもありますし。お望みならご確認しますわ♪」

 

「――――AFって何!? アームズフォートすか?!(フロム脳)」

 

 わいの知らん言葉キタ! 何なのソレ!? 

 でも知らないのも無理はない。だってマスターP氏はまだ17才。()()()()()に来るのは初めてなんだから!(意味深)

 

「え、えっと……じゃあこの子で(小声)」

 

「はい♪ この真ん中の子ですね。ありがとう御座います♪

 この子は今日入った新人で、先ほど来たばかりですので、ちょうど良かったですわ。

 女の子に準備をさせますね♪」

 

 とりあえず、ETが指を合わせる時のように、そぉ~っと恐る恐るメニュー表を指さし、希望を伝える。

 一瞬、「店員さんにわいの好みがバレる!?」と心配になったが、眼前の女はニコニコと笑みを崩さず、微塵もこちらを変に思っている様子は無い。どうやらいらぬ心配だったようだ。

 P氏は改めて「めっちゃ行き届いてるな……」と感心。さすがはプロの人やでぇ。安心。

 

 ちなみにP氏が選んだのは、この中で一番おっぱいの大きい、ほわほわ系の優しい雰囲気がある、緑髪セミロングの女の子である。

 この子めっちゃエロいやないかい! 優しくリードしてくれそうやん! うひょー☆

 

「こちら有料オプションにはなりますが……この子は()()()()()()()()()()()()()

 犬耳と首輪をつけた主従プレイも、痴漢プレイも、AFでも。

 どうぞ貴方色に染めてあげt

 

「――――いや普通で!!!!

 わい今日が初めてなんで、普通のヤツで!!(膝ガックガク)」

 

「では無料オプションとして、P君さまの()()()()()を着させる事、そして()()()()()()にさせる事も出来ますが、如何いたしm

 

「――――スク水で!! いわゆる“旧スク”でオナシャスッ!!(迫真)

 あとすんまそん、ポニテとかも出来ます?

 水泳なのにギャルゲーみたいなリボン付けているという、非現実感をですね(にじり寄り)

 あと中に“しまパン”穿いてくれたら、マトリョーシカみたいでお得!(美星のエジソン)」

 

 脊髄反射で即答。マスターP氏の大声が、受付カウンターに木霊する。

 たとえ初めてであっても、言うべき事は言うタイプであった。

 いや“はじめて”というのは、あくまでこういったボス戦とかの事であるが。他意は無い。

 

「お時間の方はどうなさいます?

 60分コースから、丸一日独り占めコースまでお選び頂けますが」

 

「あ、時間多い方がお得なんスね。じゃあ思い切って、丸一日で」

 

「ありがとう御座います。きっとこの子も大喜びですわ♪

 ではお先にお会計、10万1700円になります」

 

「あ、ハイ。ちょっと金おろしてきて良いすか? ここらへんATMあります?」

 

 いそいそと受付の端っこにあるATMへ。

 艦娘たちを養っている身であるというのに、躊躇なく生活費をつぎ込む。

 

「では準備をさせますので、あちらの待合室にて、お待ち頂けますでしょうか。

 漫画本やゲームなどもご用意しておりますので」

 

「あざっす。いや~楽しみだなぁ。胸がワクワクするなぁ」

 

 わいこういうの初めてだけど、ボス戦ってこーいうモンなんだね! 自分の好きな敵を選べるシステムなんだな☆(思考放棄)

 主人公やってて良かった、ここに来て良かった、最近の悪党は随分気が利いてるなぁ~とか思いながら、P氏はイソイソと指示された待合室へ。その足取りは弾むように軽い。

 

 あたかも、もう暁やHitomiの事なんて、忘却の彼方であるかのように。

 そんなこと無いと思いたいし、「もう全部どーでもいーや♪」みたいに思ったりもしてない筈だ。きっと。

 

 これ別に浮気とか責任とか関係ないヤツだし、ぜんぜん大丈夫ですよね? ただのサービス業……いやボス戦っすからコレ♪ ――――間 違 い な い(真顔)

 そんな風にP氏は、ルンルン気分でスキップをしながら、力石さんに指示された部屋に向かったのだった。

 

 

 

 

「……ふぁ? なんすかココ……」

 

 そして、ガチャリと扉を開けて待合室に入室したマスターP氏。

 とりあえず置いてあるソファーに腰かけ、テーブルの上に並んでいた爪切り(※大切なエチケット)をひとつ手に取って、パチパチと何気なく爪を整えていたのだが……。

 

「空気が重い(確信)」

 

 小綺麗な部屋だ。清潔だし、壁紙も明るいし、漫画本がたくさん並んでいる棚や、TVゲームなんかも備わっているし。

 けれど……この待合室にただよう空気は、まさに()()()()()

 もうお通夜とか目じゃなくて、アウシュビッツもかくやという絶望感が漂っているのだ。

 

「っ! っっ!」ガタガタガタ!

 

「ふぅっ! ふぅっ! ふぅっ!(過呼吸)」

 

「…………(無呼吸)」

 

 ちなみにこの場には、大きなクマのぬいぐるみ達が(きっとこの世界の住人なのだろう)、P氏と同じく順番待ちのために、何人も待機しているのだが……。

 でもその誰もが、この後に自分が行うであろうプレイ(意味深)の事を思い、その身から凄まじい緊張感を発しながら、ケータイみたくガタガタ震えているのだ――――

 

「ついに、ついにぼくも……この時が!(白目)」

 

「コワイ……! コワイ……! コワイ……!(俯き)」

 

「ノウマクサマンダー、バサラダンカン。ノウマクサマンダー(祈祷)」

 

 よくよく見れば、この場にいるのは皆、()()()()()()()()()()()ばかりだ。

 きっと人気無いだろうし、誰かに好かれたり、女の子に手に取ってもらった経験など、人生で一度も無かったに違いない。

 

 そんな彼らが今日、()()()()()()一念発起を果たし、このお店ちっくな城へと足を運んで来た。

 自分を変える為……これまでの自分と決別すべく。そして「もうここで済ますしか無い」という、謎の諦観を以って。

 男にとって凄く不名誉な“ナニカ”を捨て去るべく、今この待合室で「深爪しちゃう~!」ってくらいに爪を整えながら、じっとその時を待っているのだ。

 

 これは余人には想像するしか無いのだが……、いま彼らの胸にのしかかっている不安や恐怖は、いったい如何ばかりか?

 未知の行為への恐怖……。自分はブサイクだからという悲観と、全部お金で済ませちゃうという敗北感……。でもぼくにはもう無理なんだという諦め……。

 そして「これから本物のおっぱい見れる」という、これまでの人生で感じた事がない程の、期待感。

 それらが全部ごっちゃになったような感情が、いま彼らの顔を、どんより曇らせているのだった。

 

 だって今日という日は、彼らにとってまごう事なき“人生の岐路”であり、また一生忘れられないであろう、大切な大切な“記念日”となるのだから――――

 そりゃー緊張だってするし、ガクガク膝を震わせもするってモンである。

 

「ごめん! お母ちゃんごめん……! こんな息子でっ……!」

 

「負け犬がなんだっ! 俺は捨てるっ……! もう決めたじゃないかっ!!」

 

「お金も払ったろ! いったい何が悪いって言うんだっ!

 ぼくはッ……! ぼくはッ……!!」

 

 

 ――――地 獄 や な い で す か(驚愕)

 悲しいクマさん達が醸し出す、なんとも言えない切ない雰囲気に、P氏は涙が出そうになる。

 一応この場には、なんか良さげなBGM(有線の音楽)もかかっているのだが……それもガン無視するかのように、みんな自分の世界にブツブツ閉じこもっている。まったく場の空気を緩和出来ていなかった。

 せっかく用意してくれてるのに、誰も漫画なんか読んでないし、ゲームもしてない。

 

 本当は、せっかく誰かと居るんだし、P氏的には「どんな子を選んだんスか?」とか、「好きなコスプレは?」とか話しかけて、お喋りに花を咲かせたいのだが……。

 でもとてもじゃないが、クマさん達はそんな雰囲気ではない。いま彼らの顔は、死刑執行当日の受刑者みたい。

 

 誰もが皆、愛されるために生を受けたハズなのに……一体どこで差が付いてしまったのだろう?

 そんな無意味なことを哲学せざるを得ない程、この“待合室”というヤツは、いたたまれない感じの空間であった。

 

 きっと試合前のボクサーだって、こんな悲壮感ない。

 ここは決して、自分のような陽キャが来ていいような場所じゃない――――“覚悟の間”なのだ。

 

 わい初めてだわこんなの(白目)

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「 くそっ! なぜ入れないの!? 」

 

「 提督ぅぅ!!!! 」

 

 オートマタ( 天使たち )の掃討をあらかた終えた、深夜の公園。

 今この場には、流たち美星町の戦士達に加え、ようやく修理を終えて美星町に帰還して来た30名もの艦娘たちの姿が。

 

「行かなきゃ駄目なのにっ……! 守らなきゃいけないのにっ……!」

 

「私達は艦娘なのっ! 提督の所に!! おねがいっ……!!」

 

「これじゃ……私達はいったい何の為に! P提督ぅぅーーッ!!!!」

 

 魔法陣のような模様が描かれた地面から、天にまで届く光の柱が上がっている。

 それは自分たちの提督であるP氏が飛び込んだ“ゲート”であり、その事をこの場の者達から聞かされた艦娘たちは、誰もが躊躇なく体当たりを敢行。彼の下へ駆けつけようと。

 

 しかし……これは闇の者が作った、余人を拒む不可侵の扉。

 他者を拒絶する心の闇(イセカイ)への入口だ。

 どれほど体当たりしようと、また無理をおして砲撃を打ち込もうと、その悉くが弾き返された。

 まるで彼女達の無力さ、そして哀れさを、痛烈に突き付けるかの如く。

 貴方たちの提督は貰った。彼は私のモノよ――――そう艦娘たち( 他の女 )に示しているかのように。

 

「危ないって! もう止めとけよッ! あの人なら大丈夫だって!!」

 

「イヤァァアア! 離してぇぇ!! 提督ぅぅぅうううーーッッ!!!!!」

 

 勝也を始めとする、この場の心ある者達が、彼女らを止める。時には羽交い絞めにして抑えつける。

 だが彼女らの動きは制すことが出来ても、その慟哭が鳴り止むことは無い。

 今この公園には、どこもかしこも、いたる所でこのような光景が繰り広げられている。

 

 ゲートに拒まれるばかりか、凄まじい衝撃を伴って、何メートルも吹き飛ばされる。

 これに触れようとした者達の身体は、視覚化出来るほどに強力な黒い電気のようなモノが、バチバチと纏わりついており、その身に強烈な痛みを与えているのが見て取れた。

 

 ある者は気絶し、ある者は地面に身体を打ち付けられて負傷。ひとたびこのゲートに触れれば、只では済まない事など、もうこの場の誰もが重々承知している。

 けれど、艦娘たちは決して諦めようとせず、やがて力を使い果たすか、気を失うかする時まで、慟哭その物である動きを止めることは無かった。

 まあぶっちゃけ、いま君たちの提督は、風俗行ってるけども。

 

 

 

「――――ふむふむ。かの者が作り出した、“心象風景の具現”ですかぁ」

 

 

 しかし。ふとこの場に……。

 

 

「闇の住人だか何だか、知りませんけどぉ……、陰キャ具合では負けませぇん。

 私は生まれついての、かわいそうな子(ダークヒロイン)――――日陰者を生業としておりますぅ♪」

 

 

 さりげなく流の足を「むんず!」と踏んづけて、()()が姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「うん、予想はしてたんよ。……どうせこんな事じゃねぇかって」

 

 受付でキーを受け取り、喜び勇んで指定された部屋に向かったP氏。

 

「ウホw いらっしゃいパパw ウホホホww」

 

「おうHitomi……、元気そうで安心したぞクソが」

 

 ――――【悲報】風俗行ったら、スク水のゴリラが出てきた【わいの娘です】

 そんな絶対クリックしないタイプのスレタイが、ふとマスターP氏の脳裏に浮かんだ。

 

「ウホホwww さぁパパwww

 お風呂にする? バナナにする? それとも……ゴ・リ・ラ?(うざいテンションで)」

 

「育て方を間違えたかなぁ。

 いや……コレはわいへの天罰か? なぁゴッドよ」

 

 天を仰ぎ、「アンタ残酷やなぁ」とか思いつつも、ちゃんと己を省みる主人公の鑑。

 いやぁ~、悪い事は出来ないもんだぁ! 世の中うまい事できてんなぁチキショウ! と反省。ちょうど猿のように。

 

「抱いてみたら良いと思うウホ。

 なんでも試してみたらいいのウホ」

 

「いつもの“わよ”が、ウホにすり替わってやがる……。

 でもあんま違和感ない! 不思議っ☆」

 

 無茶苦茶言いよんなぁこの子、とか思いつつも、冷静に対処。

 旧名Hitomi(現Hanako)がウホウホ言いながらチューしようとしてくるが、顔をグイッとやって押しのける。

 ちなみにだが、今この子が着ているのは旧スクであり、胸に縫い付けられた白い所には、ちゃんとひらがなで「ごりら」と書いてあるのだ。

 せめて名前書けバカ。

 

「そ、そんなっ……!(ガーン!)

 あたしのこと抱けないって言うの!? 娘だから……?」

 

()()()だからだよ(キッパリ)

 せめて正気に戻れ下さい。それからだぞ話は? 頼むよ頼むよ~」

 

「えっ……。でもパパお金払ったよネ? 10万1700円。

 もったいなくないカナ? ちゃんと中にしまパンも穿いたヨ?」

 

「おぅ、()()()()()()()()()

 これも勉強代だと思って、今月はモヤシ食って過ごす。一袋30円」

 

 さらばPFCバランス。腹が膨れりゃとりあえずOKの精神だ。致し方なし(血涙)

 まぁこれ、艦娘たちやランカから見たら、ぜったい「自業自得!」って言われるだろうし、なんか怒られずに済んで良かったまである。よくよく考えたら、Hitomiに救われた形なのかもしれない。流石はわいの娘。

 

「さぁ帰んぞHitomi。早くお家かえるべ。みんな待っとるから」

 

「――――やっ! 嫌なのわよっ!

 これでもプロわよ! この商売とゴリラキャラで、身を立てていくのわよ!

 エッチしてくれるまで、ここを動かんウホ! 抱けウホわよ!」

 

「混ざってる混ざってる。

 お前はホント~に、めんどくさい子だなぁ(しみじみ)」

 

 手をぐーっと引っ張るが、今も「いやいや!」と首を振る彼女は、もう微塵も動く気配が無い。筋力が高すぎるのだ。

 流石はゴリr……いやHitomiである。どっちも同じだとか言ってはいけない(戒め)

 

 とりあえず、この度【スク水ゴリラ】という新しい言葉が、めでたくこの世界に誕生した。

 某オネショタ小説の投稿者いわく、創作活動とは“新しい価値観の提示”であるらしいので、今回はそれで良しとしようではないか。

 

 

『そんなこと言っても良いの? ――――P君』

 

 

 突然、女の声。

 Hitomiとは別の。

 

『部屋の奥を見てごらんなさいな。

 なにか大切なモノがある事に、気付かない?』

 

「ッ!? あ、ありゃあ!!」

 

 力石だ。

 彼女が今、客と嬢以外は不可侵のはずのプレイルーm……いやこの部屋に立ち入り、なんかタンス(高い所)からこちらを見下ろしているじゃないか! あたかもラスボスの雰囲気を漂わせて!

 そして、ヤツに言われるがままに、部屋の奥へと目線を向けてみると、

 

「あ……暁ィ!!!! テメェらぁぁぁあああ!!」

 

 まるで街角に立つクリスマスツリーのように巨大な、笹の葉。

 沢山飾られた、色とりどりの短冊。その中心に埋もれるようにして、暁の姿があった。

 手足を縛られ、磔にされたキリストのように、ぐったりと頭をうなだれて。

 意識を失っている。

 

 咄嗟に駆け寄ろうとするP氏。だがその行く手をHitomiが阻む。

 手を横に大きく広げ、通せんぼ。

 その目にはもう、先ほどのように光は宿っていない。……意識を支配されている!

 

「そんなに怒るなんて、よほど大事な子なのね。

 少し妬けちゃうな……」

 

 ふわりと宙に浮かび、スタッとこの場に降り立つ。

 力石がP氏と対峙。まっすぐその目を見つめる。

 

 

「――――さぁP君、()()()()()()()()()()

 でなければ、その子の命は無いわよ?」

 

「 なんだその条件!? コレ最終決戦だぞ!!!!! 」

 

 

 これが無駄に長く続いたマスターP氏の物語の、()()()()()()である。

 綺麗な構成や起承転結など、犬に食わせろである。――――これがお前の物語だ(真顔)

 

「ウホホw ウホw ウホホホwww」キャッキャ!

 

「ほらHitomi( ゴリラ )も喜んでるわ。準備万端じゃないのP君。早くしてよ」

 

「いい加減にしとけよアンタ!?!?

 つかお前、ホントに見てぇのか!? ゴリラ(娘)とチュッチュしてるわいを!」

 

「いや、どちらかと言うと……、()()()()()()()()()()()()()()

 ムキムキにしたのも、腹筋バキバキなのも、ゴリラインストールもそう。

 これでもHitomiを愛せるんなら、貴方の勝ちよ。潔く白旗を上げるわ……。

 でも貴方が、私以外の女に優しくしてる所なんて、見たくはないのよP君」

 

「お 前 が 分 か ら ね ぇ !!!!(迫真)

 包丁持って突っ込んで来たランカが、今はヒヨコに見える! すげぇなアンタ!?」 

 

 サイコパスの思考など、常人に理解出来ようハズもないのだ。

 けど彼女は先天的じゃなく、色々あって歪んでしまった方なので、同情の余地はあった。

 本来はとても優しい子だったのに、どうしてこんな事に……。

 憎むべきは、このセカイなのだ! 変態その物ではなく!

 

「P君は知らないだろうし、()()()()()()()()()()……。

 遅くなったけど、ここで自己紹介をさせてね?

 私は爆乳ナイチンゲールこと、力石さん。

 本名は力石・ノースカロライナ・徹子よ」

 

「 ノースカロライナどっから出てきたよ!?

  お前どーみても、ポン人じゃねーか!! 」

 

「それじゃあ、とりあえずこの子への愛は、そんなモンだったという事でね(閉廷)

 やっておしまいなさい――――Hitomi」

 

「ッ!!!???」

 

 

 先ほどまでの空気が一変。

 瞳孔を開き、目の色が変化したHitomiが、P()()()()()()()()()

 

「やっ、やめろバカタレ!! わいが分からんのかっ……!?」

 

「その通りだよP君♪ この子は私のパペット♪

 忠実に命令を実行するだけの、()()()()の化け物でしかない。

 私が作ったの」

 

 きっと、まともにケンカなどした事は無かった。Hitomiはとても優しい子だから。

 けれど今の彼女は、真の意味で“人が変わっている”。

 野生動物を思わせる鋭い踏み込み。そこから幾度も繰り出される拳、脚、膝、腕、肘。

 決して洗練された動きではないが、パワーと速度が桁違い。

 いくら北斗神拳を習得したP氏であろうとも、気を抜けば一瞬でやられる。それほどの戦闘力。

 

 スクール水着がはち切れんばかりの胸、剥き出しになった眩しい太もも、女性らしい丸みをおびたヒップ。

 だがそんな事に、気を取られている余裕は無い。

 色香で惑わすのは、クノイチの常套手段なのだろうが、P氏でなければ視界に留める事も困難なスピードなのだから。

 

 その速度が生み出す打撃の破壊力など、もう言わずもがな。

 ガードをしたハズの腕が削れ、鮮血が霧のように飛び散る。

 とてもじゃないが、いつまでも受けきれるような甘いレベルじゃない。

 伝え聞いていた通り、その見た目以上に――――Hitomiは強い!!!!

 

「ぐっ……!!」

 

 あまりの猛攻と、その驚異的な戦闘力に、思わず手が出そうになった。

 Hitomiの拳を躱した瞬間、そのがら空きの顎にカウンターを入れそうになった。

 けれどP氏は、すんでの所でその動きを止める。

 

 そして、無理のある動作をしたツケを、その場で支払う事となった。

 身体を硬直させたその隙を逃さず、Hitomiの蹴りが腹に叩き込まれる。

 耳を疑うような重い打撃音、そして骨が砕ける鈍い音。

 

「そうそう♪ 女の子には優しくしなきゃね♪

 ヒーローって、そういうモノでしょ? いえ、パパだったかな?」

 

 吹き飛び、壁に激突。

 倒れ伏すP氏に向かって、力石が楽し気に語り掛ける。

 

「安心してP君? 貴方をやっつけ終わったら、()()()()()()()()()()

 P君を傷付けた悪い子なんて、そのままにしておけないよ。

 ちゃんと私の手で、責任を以って潰すね? ――――憎悪を込めて殺すわ」

 

 自分がやらせた、これは命令した事。……きっとそんな事は、力石には関係ない。

 いや、()()()()()()()()()()。誰のせいだとか、誰が悪いとか。

 彼女にあるのは「自分にとって都合が良いかどうか?」という、それだけのシンプルな思考。判断基準。

 

 P君を傷付けたヤツは殺す――――

 私に嫌な想いをさせたヤツは、それだけで“悪”――――

 

 理由は必要ない。それ以外ない。

 かつては確かにあった筈の、倫理や、道理や、常識など、もはや彼女の中には存在しない。

 むしろ、それらは上手に()()()()()に使う、ただの道具や方便でしかなかった。

 

 長い長い時を経て、そう()()()()()()()()

 この女はもう――――狂っている。

 

「ぎっ……!!??」

 

 P氏の身体が持ち上がる。

 Hitomiが彼の首を両手で締めあげたまま、ゆっくりと頭上へ掲げる。

 この子の剛力、人形のように色の無い目、彼女らしからぬニタリとした嫌らしい笑み。

 その全てに驚愕し、受け入れがたい想いが胸をよぎる。どんどん顔がうっ血し、脳に酸素がまわらなくなる。

 もう物を考えることが、意思を保つことが、出来なくなっていく……。

 

「心肺蘇生はお手の物。

 これでもナースよ、安心してねP君。おだいじに」

 

 その言葉とは裏腹。今もP氏を攻撃しているヒトガタを、呪い殺さんばかりに睨んでいるという二律背反。決して自覚のないムジュン( 歪さ )よ。

 P氏の胸に、怒りよりも先に、()()()()()()()()が湧く。

 こいつは何なんだ? 一体どうしてこんな風に。あんなにも可愛い子なのに……と。

 

 そして、ついにP氏の視界がブラックアウトし、意識がだんだん遠くなっていく。

 これまで必死に抵抗を続けていた腕が、カクンと力なく落ちようとした……その時。

 

 

「――――やめてぇぇぇえええええっっ!!!!!!」

 

 

 暁だった。

 

「ふんぬっ!」ブチィ!

 

 縄を引きちぎる。瞬間的に艦娘の力を引き出して。

 海ならいざしらず、陸でそんな事をすれば、身体へ負荷がかかる事は免れない。

 だがそんな事も気にせず、一気に拘束を逃れ、括られていた巨大な笹から降り立つ。

 苦し気にハァハァと吐息を漏らしながら。

 

「どうしてHitomiさん……? なんでっ……?!」

 

 いま眼前にあるのは、HitomiがP氏の首を締めあげている姿。

 たとえ目にしていようとも、それがどうしても理解出来ず、彼女は狼狽えながら声を漏らす。

 

「あら、お目覚めねおチビちゃん。

 無駄よ、その子はもう、貴方の知っているHitomiじゃないの。

 ただのキリング・ゴリラよ」

 

 ゴリラはともかくとして(まじめな雰囲気なのでスルー)、まだ幼い暁は、力石の冷たい声にも全く反応をみせず、P氏を殺そうとしているHitomiの方を、ただただ見つめ続ける。

 

「う゛っ……! うぅぅぅうううーーッッ!!!!」

 

 チラリと暁の方を一瞥。だがHitomiはすぐに、腕に力を込め直す。

 ギリギリと音が鳴るほど。P氏の首をへし折らんばかりの力で。

 

「やめてッ!! どうしてそんな事するのッ……!?」

 

「っ!!??」

 

 だが、再びこの場に響く、大切な子()の悲痛な声。

 

 

「――――よく見てよッッ!! 私をッッ!!!! Hitomiお姉ちゃん!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Hitomiの動きが、止まる。

 暁の顔を見つめ、時が止まったみたいに……。

 

 

「……パパなんだよ……!? お姉ちゃんのパパっ!!

 忘れちゃったのッッ……!!!???」

 

 

 暁が目を潤ませ、ポロポロと涙を流している。

 声が掠れるほどの絶叫。だがまっすぐにこちらを見つめ、語り掛けている――――

 

 

 

「……っ!」

 

 その途端、Hitomiの脳裏によぎる、()()

 

 一緒にお風呂に入った。

 オムライスを作って貰った。

 アバラ折れてるのに、抱きしめてくれた。

 

 心にある後ろめたい物を、訊かないでいてくれた。

 言いたくなったら言えと、待っていると、強く信頼してくれた。

 

 キスをした。攫おうとした。たくさん悪い事をした。

 でもいつも「ガハハ!」と笑ってた。

 その海みたいにおっきな心で、器で、あたしの居場所を作ってくれた。

 

 抱えきれないくらいの愛で……あったかく、包んでくれた。

 

 

 

 

 

 

「――――パパ???」

 

 Hitomiの目が、

 

「……っっっ!! パパァァーーーーーッッ!!!!」

 

 今、()()()()()()

 

「まさかッ! ……そんなッ!?!?」

 

 力石の驚愕の顔。

 だがそんなモノに、Hitomiは見向きもしない。

 

「パパッ……! パパァーーッッ!! ああああああッッ!!!!」

 

 泣く事に、抱きしめる事に、夢中だったから。

 力いっぱい、パパの胸に縋りつくのに、とても忙しかったから。

 

 ようやく会えた。寂しかった。辛かった。

 でもここに居てくれた。あたしを迎えに来てくれたんだと、子供のように泣きじゃくる。

 

 それに答えるように、P氏も力なく片目を瞑りながらではあるが……そっと抱き返す。

 この子を安心させてやるように、そっと包み込むようにして。

 

 

 乗り切った、……いや“打ち破った”のだ。力石のコントロールを。

 Hitomiが今、失われたはずの自我を取り戻し、泣き顔ではあるけれど、元の愛らしい顔を見せている。

 だが……。

 

 

『――――ひぃぃぃとぉぉぉみぃぃぃいいいい゛ーーッッッッ!!!!!!』

 

 吹き飛ばされる。二人諸共。

 突然、二人を切り裂かんばかりの勢いで力石が突進。

 その振りかぶった拳でHitomiを殴りつけ、まるでボールのように何メートルも飛ばす。

 轟音を立てて壁に衝突し、そこに生々しいヒビを入れた後、ぐったりと床に倒れ込む。

 

『 逆らうのかッ!! ヒトガタの分際でッ!!!!

  お前は私が作ったのッ!! なぜ逆らうッ!!

  ――――忘れてしまえッ!! そんなクダラナイ記憶などッ!! また消してやるッ!!!!! 』 

 

 胸元から機械を取り出し、怒りに任せてスイッチを押し込む。

 その途端、この場の者達にも見ることが可能なほどの強烈な電撃が、Hitomiの身体を襲う。

 身体が仰け反るほどの激痛、身体がバラバラに砕けそうな程の衝撃。

 喉が破れんばかりに叫ぶHitomiの悲鳴が、何秒も何秒も、あたりに木霊する……。

 

「……そうそう、いい子ねHitomi。それで良いのよ♪」

 

 やがて雷撃は止み、糸が切れたように倒れ伏す。

 だがHitomiは即座に、何事も無かったみたいにムクりと起き上がり、生気を感じない機械的な仕草で、力石に向き直った。

 未だカクンと首をうなだれたまま、まるで繰り人形の如く。

 

「さぁ、P君を捕らえなさい。

 いえ、それよりも、あの生意気なガキを先に殺……」

 

 それを言い終わる前に、衝撃――――

 

「……ッ!!?? ……ッ?!?!?!?!」

 

 ()()()()()()

 一息に飛び込み、野球のピッチャーのように振りかぶった腕が、袈裟斬りに力石の胴体を切り裂く。

 

「ひっ……Hitomiぃ! お前ぇぇぇええええええええええッッ!!!!!!!」

 

 絶叫。今日聞いた誰の物よりも大きな、怒りと憎悪に満ちた。

 けれど……。

 

 

「貴方は貴方、あたしはあたし……()()()()

 

 

 その狂気に満ちた、おどろおどろしい声を、まったく意に介す事も無く、Hitomiが静かな顔で告げる。

 

 

「ごめんね? “ちいさな織姫さん”。

 あたし、パパと居たい……。ずっとこのままでいたいの」

 

「みんなと暮らす。また美星町のみんなで、バーベキューをしたい。

 ハロウィンをして、お正月を祝って、桜を見て――――短冊にあたしの願いを書きたい」

 

 

「だから、貴方の言うことは聞けないよ。

 ここには居られないの――――」

 

 

 

 こんなひとりっきりの、真っ暗なセカイじゃなく、お日様みたいにあたたかな美星町に。

 

 あたしの居場所はココ。パパの隣わよ。

 そうHitomiは、ニコッと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「ひっ……Hitomiッ!? Hitomiィィィイイイーーッッ!!!!」

 

「お姉ちゃんッッ!!??」

 

 P氏の叫び。そして暁の。

 感情の窺えない無機質な顔をした力石が、手元にあるボタンをおもむろに押し込んだ途端……Hitomiがバタリと倒れた。

 こちらにも聞こえるほどの爆発音が、ちょうどHitomiの()()()()()()から、大きく轟いてから。

 

「バカが。この出来損ないめ……」

 

 つまらなさそうに一瞥した後、背を向ける力石。

 あたかも、踏み潰した汚らしい虫の死骸から、目を背けるみたいに。

 

 

「…………パパ?」

 

 仰向けに倒れたHitomiのもとに、マスターPと暁が駆け寄る。

 ボロボロと涙をこぼしながら、この子の顔を覗き込み、必死に名前を呼ぶ。

 いま、力なく身体を床に横たえ、今にも命の灯が消えそうなのが見て取れるほど、弱々しい姿の彼女を。

 

「パパ……ごめんネ、あたしひどい事しテ……」

 

「な、何言ってやがる! わいは全然ヘッチャラですしおすし!? ダイジョブですねェ!

 ほら見ろよ見ろよッ! 笑顔ウルトラZやろわいは! 今日もアイアイアイやぞッ!!」

 

 いつものキレが無く、もう泣いているのがバレバレな、酷く震えた声。

 それでも必死に、愛娘に語り掛ける。声をかけ続ける。

 

「あたし……わるい子だったネ。

 みんなを傷付けテ、なのに知らん顔しテ……。

 だからあの人は怒っタ。いっぱいいっぱい泣いてタ……。

 ちゃんと謝るよあたし? たくさんゴメンナサイして、それで……」

 

「Hitomiッ! もう喋んなって……! お口チャックマンやッ!!」

 

「Hitomiお姉ちゃんッッ……!!!!」

 

 Hitomiの瞼が、閉じていく。

 ゆっくり……ゆっくり。でもとても柔らかく、優しい顔で。

 

 

「アカツキちゃん……またバーベキューしようネ?

 今度は、艦娘のみんなも。あのハゲた人も、強い人も、ホリコンさんも。

 あたしみんなと――――――――ずっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩しく、強い光が、Hitomiを包み込む。

 それはこの子の内側から。まるで彼女を構成していた力が、全て外に漏れ出しているみたいに。

 

 

 何度も彼女の名を叫び、縋り付こうとする暁。

 それを押しとどめ、悔しそうに瞼を閉じたまま、ギュッと抱きしめてやるマスターP

 

 この美しいHitomiの最後を、邪魔してはいけない。ちゃんと受け止めなければならない。

 そう無理やりにでも自分に言い聞かせているような姿。

 堪え切れず、P氏が零した涙が、ポタリと床に吸い込まれて、消える。

 

 

 それと同じようにHitomiの身体が消失――――まるで最初から何もなかったみたいに。

 

 あの七夕の日に見た“蛍”を思わせる、沢山の光が天に昇っていき……やがて消えた。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「よぉ、ノースカロライナ徹子ォ。……命を弄んで、楽しいスか?」

 

 確かにここにあった、命の輝き。

 Hitomiのそれを思わせる“赤い宝石”のような物が、ポツンとその場に残っていた。

 詳しいことは分からない。……だがきっとこれが、Hitomiにとっての心臓にあたる“核”のような物なのだろう。

 

 音も立てず、厳かに地面に膝を付き、それをそっと慈しむように拾い上げながら、マスターPは問う。

 

「命……? おかしなこと言うなぁP君。あれはただのヒトガタだよ。

 貴方も見てたでしょう? 人間はあんな風に死なない。跡形もなく消失したりはしない。

 ばっちぃ血と、不愉快なくらい生暖かい臓物と、バカみたいにモロい骨で出来てるんだもん。

 私は沢山たくさん見てきたから、知ってる♪」

 

 少し離れた場所で背を向けていた力石。

 茶目っ気のある顔でこちらへ向き直り、ふふっと笑う。

 さも当然、何を当たり前の事をと、悪びれもせず。

 

「あの子は……生きとったやろぅがよ」

 

「生きてた? 科学と魔力で動いてただけの、()()()()()

 クダラナイよ。P君って結構、感受性が豊かなんだね」

 

「ざんねん(不合格)

 くだらなくねェさ――――Hitomiは()()()()()()()なんやろ?」

 

 力石の表情が歪む。

 余裕を浮かべていた顔が、はっきり見て取れる程に。

 誰にも見せなかった心の真ん中を、トンとノックされたみたいに……。

 

 

「やってしまいましたねェ(クソデカため息)

 お前さんは、“自分の半分”を殺したやで――――大丈夫か大丈夫か?」

 

 

 怒るでも、突き付けるでもなく、事実を語る。

 見たまま、ありのままの事を、そのまま告げた。

 

「おるのよ、人の痛みが分からんとか、他人の気持ちに共感できんとか……そういうヤツ。

 わいはなんとも思わん、ただ“そうなんだな”って。

 そういうヤツもいるんだな~って、ただ受け入れとるつもりスわ」

 

「漫画の主人公みたく、正論パンチかましたり、無理やり正義を示したり……しとぉない。

 ……ただただ、事実として、()()()()()()()()()()()

 生まれつきとか、疾患とか、トラウマとか、生い立ちとかの理由で」

 

「悪とかじゃねェんスよ。

 そういうレッテルみたいのとは、また別なんじゃねーかな?」

 

 Hitomiの残滓ともいえる赤い宝石を、そっとポケットにしまい、前に向き直る、

 

「ただ……わいは見てて“可哀想”だなって、思う」

 

「知らん間に失ってく……。

 大切なことを学べず、大事だとも理解できない。()()()()()()()()()()

 

「他人の気持ちを考えず、尊重する事が出来ない以上、誰もかれもがソイツから離れていく。

 ソイツの世界っちゅーんは、いつも自分一人だけ。隣に誰もおらん寂しいモンに見える」

 

 あるのは他人に勝つとか、押しのけるとか、利用するとか、欲望とか……そういうのだけ。

 自分では平気に思っとるかもしれんけど、わいから見たらそれ、めっちゃ悲しいヤツっスわ。

 ……そう静かな声で、語り掛ける。

 

 

「ほんでお前さん……、ついには()()()()()()()()()ってワケですねェ。

 わいが今、アンタをどんな風に見とるか……分かるか?

 わいの事が好きなんやったら、わいの気持ちを分かろう考えようって、してくれとるか?」

 

「もしわいが欲しいなら、お前いっぺん、それ当ててみィ。

 シンキングタイム、スタートです(制限時間2秒)」

 

 

 おれんよ、お前とは――――大事にし合えんよ。

 すまんけど、申し訳ないけど、()()()()()()()()()()()

 

 許してくれ、わい正義とかやない。口だけ優しい人にすらなれん。

 こちとら破天荒の、正直者で生きとるんじゃよ。冷たいヤツっすわマジで。

 

 もしわいに力っちゅーモンがあるなら……、それはわいの“大切な人”に使いたい。

 その為にこそ、捧げたい。

 

 お前やないんスわ――――力石よ。

 

 

 

 

 

「 うるさい!!!! うるさいうるさいうるさいッッ!!!!

  P君に何が分かるのっ!?!? ……普通の国で生まれた、普通の子のP君に!!!!!!! 」

 

 激高――――

 

「 言ってごらんよ! 知ったかぶりッ子のP君ッ!!

  眩しくて……、素敵で……、みんなに好かれてるP君ッ!! 」

 

 あ、これ駄目なヤツですね(笑)

 正論パンチせんとか言って、おもいっきりしとるがな……女の子泣かせとるがな。

 そうP氏は白目を剥く。うわぁ……やっちゃった~ってなモンだ。

 ついカッとなってやった。今は反省してる(少年P17才)

 

「 じゃあいらないッ! P君なんかいらないッ……!!!!

  誰もやさしく無い! いい人なんて居ない! 汚いよッッ!

  里の人も、みんなも、P君も、私もォォーッ!!!! 」

 

 “そら来た”……と思った。

 予想は付いていた。絶対こういう展開になると。

 駄々っ子ってゆーのはそういう物。道理も理屈も全てかなぐり捨てて、喚き散らすのがお仕事です(時給850円)

 

 ネット小説を書き続け、これまで散々()()()()()に粘着されてきたP氏は、ただただ全てを受け入れ、白目を剥くばかり。

 

 なんでいつも、上手い事やられへんねやろな……?

 ただ“なぁなぁ”で済ませて、最悪ブロックユーザーしたら良いだけなのに……。

 

 ぶっちゃけ、こんなんばっかりですよ?

 わい、よーお見掛けするんスわ。よー絡まれるんスわ。なんでか知らんが(類友の業)

 

 ハッキリ言うけど、わいが戦場にしてる場所なんてモンは、まぁ()()()()()ですわな。

 こんな闇の世界とか目じゃないってくらい、ドロドロした場所なんよ。

 なんか鬱屈あって物を書いてる人や、人にイチャモン付けてマウント取りたいだけの暇人とか、そんなん腐るほどおるからね?

 むしろ大半ちゃうかな? ちゃんと良識を持ってる人なんか()()()()()

 

 もちろん、これはわいも同じ。わいも含めての事や。フキダマリの住人よ。

 でも……そん中で必死こいて頑張っとるのよ。いつも血反吐はいとるし、身体壊しながら書いとる。

 人からみたらば、金にもならん、原作パクっただけの、ホンマ何の価値もないモンを。

 

 自分からしても、小説を書くことって、「これ排泄行為と何がちゃうんやろか?」って、そう思うからね?

 出すのがウ〇コなのか、それとも日々頭の中にポコポコ浮かんでくる、しょーもない妄想なのか。……違いはそれだけなんスわ。

 

 でも、なんとかちょっとでも輝けんもんかな~、誰が笑かしてやれんもんかな~って、そう思いながらやっとる。

 なんやかんや言うても、これ()()()()()()()()やし。好きでやっとる事よ。だからオールOK。

 

 たまにだけど、感想くれる人もおるし、読んでくれてるっぽい人もチラホラおる。

 そんだけでわいは、充分や。なら今日も頑張れる。

 失敗しても、ドえらい目に合わされても、なんだかんだあっても――――

 

 まぁ……無茶をしすぎて()()B()A()N()()()()()()()()やけども(目逸らし)

 

 

 

 

「 P君なんかッ……! P君なんかにッ……! 私のォォォ!!!! 」

 

 そして、P氏(?)が己の内側に現実逃避している内に、この状況に変化が現れた。

 なにやらハリウッド映画よろしく、この部屋の壁だの天上だのが、ガラガラと崩れだしたではないか。何このお約束? 絵に描いたようなラストバトル感?

 

 あ、これアカンやつですね(確信)

 ……とばかりに背を向けて駆け出し、急いで部屋を出る。

 道すがら、この部屋だけじゃなく、()()()()が崩れている事に気が付き、慌てて更に速度を上げていく。

 あの非モテクマさん共は、今どーしてんだろうな? とか思いつつも。

 

「うん……わいこーゆーの求めてなかったわァ(震え声)」

 

 なんとか城から抜け出すと同時に、建物が全壊。ガラガラドゴーン! ってなモンだ。

 そして……まるでその瓦礫の中から産まれるかのように、ガラガラと音を立てながら()()()()()が姿を現した。

 もうホント、さっきのお城なんて比べ物にならんくらい、物凄いデッカイ“ロボット”が。

 

 

『P君……エッチなの好きだよね? 大好物だよね?

 いつもおっぱいばっかり見てるもん』

 

 スピーカーから発せられる、力石の声。

 そのロボットは、まるで力石という女の子を模したかのように、ちゃんと女の子型のデザインをしている模様。

 

『なら……()()()()()()、好きって言える?

 触りたいんなら、おっぱい触ったらいいじゃん。お好きなだけどうぞ?(はぁと)』

 

 まぁ有り体に言えば……、()()()()()A()()()()()()()(顔面蒼白)

 ちょっとカラーを白に変えて、爆乳になっとる以外は、もうまんまですやんコレ。

 あ、一応頭部はAVのナースキャップみたいに、赤十字のマーク書いとる! 無駄に!(大発見)

 

『でもP君ちんまいし、触る前に踏み潰しちゃうかも。

 もしそうなったらゴメンね?』

 

 殺す気マンマンやないですかヤダー!

 あ、いま誰か“まんまん”って言いませんでした?(エロに食い付く能力)

 この後に及んで、またそんなしょーもない事を考えるP氏。これを現実逃避と言います。本日二度目の。

 

『そだね……いっそあの時、P君を殺しちゃえば良かった。

 そうしたら私、穏やかでいられた。

 殺戮のてぇ~んしーで、いられぇーたぁ~♪』

 

「 お前実は元気だろ!?!? そして古いッ!!!! 」

 

 せめてマジンガー歌ったれ、アフロダイAやろお前。

 そんな事を喚き散らしつつも、P氏は必死こいて逃げる。

 今もドゴンドゴン地響きを鳴らしながら、アフロダイAが「えいえい!」とこちらを踏んづけようとしてるから。容赦無しである。

 足の裏でもいいから、貴方と合体したい……ってやかましいわ。

 

「本日二度目になるが、生身でどーしろってんだボケェェェ!!」

 

『ここは私のセカイだよP君っ!

 なんでも好き勝手に出来る、私だけのセカイなの!

 往生せぇやぁPくんんんん~~ッッ!!!!(ヤンデレ感)』

 

 先ほどのシリアスなど無かったかのように、ただいま力石さん絶好調。嬉々としてP氏を追い回す。

 だが、しかし……。

 

 

「――――本当ですかぁ? なんでも好き勝手にできるとぉ? ()()()()()()?」

 

 

 突然、ゴゴゴゴッっと大気が振動する音と共に、この場に鳴り響いた声。

 

「闇の中にいるのはぁ、貴方だけじゃありませぇん♪

 そして闇の中でも――――()()()()()()()()!!!!!!!!!」

 

 ひゃっふー♪ 不幸き゛んもてぃー☆  ふ・こ・うっ! ふ・こ・うっ!(三三七拍子)

 そう言わんばかりに轟く、()()()()()()!!

 今ビニール袋をハサミで切るようにして、空を大きく縦に割り、その姿を現す!!

 あたかも、闇の住人である力石と、()()()()()()()()次元の壁を割っているかのように。

 

 

「裏秋月・参の遺影(いえ)秘伝――――【逆天の鬼札】」

 

 

 力石のロボに匹敵するほどの、巨大な漆黒の化け物が、発砲スチロールを叩き割るように“空”を破壊し、大気すら震わせるメリメリという音を立てながら、ここ“カノジョのセカイ”に侵入する。

 

 その肩に「アハハハ! ……げほっ! ゲホゲホ!」とか言いながら乗っているのは、眼帯のようにして顔の左半分に包帯を巻いている、東雲であった。

 

「すいませぇ~ん! もっと青汁持って来て下さぁ~い!

 おつむがクラクラしますぅ~!!」

 

「無理すんな東雲っ! お前さっきまで死にかけてたんだぞ!?!?」

 

 その隣に立つポン助に、栄養ドリンクやら青汁やらを渡され、グビグビいきながら術を継続。

 この【逆天の鬼札】という秘伝は、術者の身すら食い殺しかねないほどに危険な術。それはもうエゲツナイ程の身体的な負荷が、いま東雲の身体にも降りかかっている筈。

 けれど彼女は今、まさに絶 好 調 ☆ たいへんご機嫌な様子で、鼻血とか血涙とかを垂れ流しながら「ぐぎぎ……!」と頑張っているのだ。

 うんまじゅい! 青汁まじゅい! もう一杯っ!

 

「あ、この包帯のことなら、心配ご無用ですぅ。

 ()()()()()()()()()()()()()()、テンション上がってる位ですぅ♪」

 

「 不幸慣れも大概にしとけ!?!?

  ジブリのヒロインでも、もうちょっと凹むよ!! 」

 

 仲間であるポン助の苦労は、推し量るにあまりある。きっと苦労人属性に違いなかった。

 そして、とっても元気なかわいそうな子(ダークヒロイン)が、同じ闇の住人である力石の世界を蹂躙する! ここぞとばかりに壊す! 鬱憤を晴らすかのように!(やつあたり感)

 

「ますたーPぃー! こっちを向くポポー!」

 

「えっ……お前さんは、プリキュアさんトコの!?」

 

 あまりに唐突な出来事に ( ゚д゚)ポカーン… としていると、きっと東雲たちと共にやって来たのであろうポルン(※マスコットさん)が、嬉しそうにピョンピョン跳ねながら、マスターP氏のもとへ駆け寄ってくる。

 

「ではいくポポ☆ ――――光のパワーを、受け取れポポー!!」

 

「 やだよッッ!!!!(即答) 」

 

 ポルンの身体から発射された光線みたいなヤツを、スゥエーバックで必死こいて躱す。

 

「なっ……なんでポポ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「たくねーんスよ!! わいパイロットやらせてもーてますやで!?(必死)」

 

「これを避けた人を、はじめて見たポポ! 女の子の夢をなんだと思ってるポポ!」プンプン!

 

「それはすんまそん!! でも分かって下さいポルンさんっ……!!(土下座)

 けしてプリキュアさん達を、悪く言うつもりないんでッ!!

 わい17の男っス! キツイ!!(心の叫び)」

 

 プリプリと怒るポルン先輩に、頑張ってペコペコ。誠意を込めて謝罪。

 

 

「では私の出番ですね提督っ? キラキラッ☆

 ――――グレートマジンガー絶頂(Z)! はっしぃーんッ!!!!」

 

「ッ!!??」

 

 

 そしてまたしてもこの場に轟く、突然登場してきた女の子の声。

 明石ちゃんだ! 工作艦の艦娘であり、マジンガー絶頂のオペレーターも務める彼女が、()()()()()()()()()()()()()、このセカイに乗り込んで来たのだッ!!

 

 

「パイルダーをそちらに向かわせますっ!

 操作は身体で覚えて下さいね! うふ♡」

 

「いつも思うけど、マニュアルは? 訓練とかは?

 わい常にぶっつけ本番やが……ユーザーフレンドリーをプリーズ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは闇の空間、カノジョのセカイ。

 

 今ここに「パイルダー・オン!(ずにゅ♪)」という、高らかなんだか気が抜けるんだか分からないマスターP氏の声が、雄々しく響いた。

 

 闇を払う日輪の如く――――

 

 

 

 

 

 

 

 




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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅦ

 

 

 

 

 

 ――――前回までのあらすじ!

 

 

 

「ウホホw ウホw あたしずっとみんなとwww」

 

Hitomi( ゴリラ )ーーッ!!」

 

「お姉ちゃあぁぁぁーーんッ!!??」

 

 

 Hitomiは死んだ!

 愛すべき彼女(ゴリラ)の命は、永遠(とわ)に失われた!

 

 

「ではお会計の方、10万1700円になります」

 

「あ、はい。ちょっと金おろしてきて良いすか? あとポニテとか出来ます?」

 

 

 敵の卑劣な罠! ピンチに陥るマスターP!

 

 

「ちきしょう! また粘着野郎だ!

 やんわり言っても、ぜんぜん自重してくれないッ! 理解しやがらねェ!!」

 

 

 言葉の通じぬ獣たちが、次々とP氏のページへ押し寄せる!

 ガリガリ削られていく、P氏のメンタル! 失われる創作意欲!

 

 

「時には筋トレしたくない~って日もあるじゃん?

 今日はしんどいなー、やめとこかなーって。

 でもそんな時、『でもプリキュアも頑張ってるしな~。私もやらなきゃな~』という心で」

 

「サイコパスやなお前。狂ってるよ」

 

 

 信じていた友の裏切り! 辛辣な言葉!

 幼稚園からの付き合いだというのに、親友だと思っていたのに“サイコ扱い”される苦しみ! 分かってもらえない悲しみ!

 

 

「いいじゃーん、付き合っちゃおうよぉ~♪

 今フリーなんでしょ? いい経験になるってぇ~♪」

 

「いやっ……、ぼく“ノンケ”なんで。

 お気持ちは有難いんスけど……」

 

 

 蘇るトラウマ! 忘れ得ない心の傷!

 これまでの人生で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、暗い思い出がP氏を苛む!!

 

 

「ノンオイルのツナ缶が、3つで246円……!?

 安い! なんて安いんだ!!」

 

 

 しかし! 殺伐としたダイエット生活に訪れる“希望”!

 雲間から差し込む太陽の如く、P氏を照らす! 心に勇気の火が灯る!

 

 

「では私の出番ですね提督っ?

 ――――グレートマジンガー絶頂(Z)! はっしぃーんッ!!!!」

 

「マニュアル的なのは? いっつもわい、ぶっつけ本番やけども」

 

 

 

 今ここに、スーパーロボット【マジンガー絶頂】の戦いが、満を持して開幕。

 

 ラノベ一冊分以上も書いておきながら、ようやく始まるのだ――――

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 

 

マジンガー絶頂のうた

作詞作曲: hasegawa  歌: ウォーターウッド・兄貴

 

 

 

 

べべんべん♪ べべんべん♪

 

べべんべん♪ べべんべん♪

 

んひーひーひーひ♪ ほよほよ ふふーふん♪(ボイパ)

 

 

 

コメント 無いけど 10話目更新――

 

お気に入り登録 俺だけ マジンガー絶頂

 

 

活動報告 レスがいっぱい

 

小説の方は? パイルダー・オン!!!!

 

 

飛ばせ! オッサン! 悪役令嬢!

 

時代だ 書くんだ 異世界転生ぇぇ~♪

 

 

辛いんゴォ 辛いんゴォ… マ・ジ・ン・ガー ぜぇぇーっちょ!!!!

 

 

 

 

 

サンマが 一匹 200円――

 

高級魚 気取りか マジンガー絶頂

 

 

サラダチキンを 薄切りにして

 

レンジで4分 パイルダー・オン!!!!

 

 

ツナ缶! 直食い! 豆腐と共に!

 

豚の エサだぜ オートミールぅぅ~♪

 

 

痩せるぞォ 痩せるぞォ… マ・ジ・ン・ガー ぜぇぇーっちょ!!!!

 

 

 

 

 

最近 チアコス マイブーム――

 

アンスコ 大好き マジンガー絶頂

 

 

ネトゲで地雷に 遭遇したら

 

ネカマで対応 パイルダー・オン!!!!

 

 

かませ! 下ネタ! メスガキ語録!

 

諸刃の 刃だ ロリコン疑惑ぅぅ~♪

 

 

Rー15ォ Rー15ォ… マ・ジ・ン・ガー ぜぇぇーっちょ!!!!

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「――――パイルダー・オン!(ずにゅ♪)」

 

 ガッシーン!!!! とカッコいい音が鳴る。

 今P氏が乗るジェット・スクランダーが、“黒鉄(くろがね)の城”マジンガー絶頂との合体を果たした! 出撃だ!

 

「マジィィン、ゴッ……!?!? って、はぁぁあああ~~~ん☆☆☆(昇天)」

 

『どうです提督、気持ちいいですかっ?!(どアップ)

 従来のマシンから、グレートにパワーアップした、新生マジンガー絶頂ですっ♪」

 

 おめめをキラキラさせた明石ちゃんが、コックピットの内部モニター画面に映る。

 

「いきなり『壊れちゃ^~う』ってなったわボケェ!

 合体した瞬間に、目の前真っ白なったでッ!? 一気にオルガズムですじゃ!」

 

『そうですか(スルー)

 前のマジンガーと同じく、このグレートにも“衝撃を快楽に変換させる機能”が付いてます!

 敵の攻撃だろうが、自分で殴ろうが、その全てを快楽としてパイロットに伝えます!」

 

「前も聞いたけど、なんでそんな仕様!?!?

 わいになんの恨みあるんすかねェAKS(明石)ィ!?」

 

『とんでもない! 提督が気持ち良くなればなるほど、グレートの馬力も上がるんですよ?

 だから遠慮は無用です! 思う存分『やめちくりぃ~!』となって下さいっ!

 唾液を垂れ流し、アヘ顔を晒して下さい♪ ――――この変態ッッ!!!!」

 

「 制作者の悪意ッ!! あとなんで悪口ッ?!?! 」

 

 こんなモン、童貞が乗るモンちゃうわ。ハードコアですねェ!

 そうP氏は叫びたい気持ちなのだが、もう乗ってしまった以上、後には退けない。

 このグレートマジンガー絶頂を操り、敵を倒すしかないのだ! 体内の水分を全部出し尽くし、パンツがカピカピになっちゃう前に(意味深)

 

 黒と白を基調とし、胸部の真っ赤なワンポイントが映える黒鉄のボディ。

 大地の全てを眼下に見下ろしながら、雄々しくガッシーン! とポーズをとる、天をも貫く程に巨大なスーパーロボット。

 ――――その名はグレートマジンガー絶頂!! 美星の護り手たるマスターP氏が操る、無敵の機体!!

 

「ん? なんか()()()()()P()()。どうかしたのかな?」

 

「うるせェバカ! ほっとけ下さいましっ!(必死)」

 

 だが力石のアフロダイAが首を傾げているように、今グレートは超の付く“前傾姿勢”。

 モジモジと股間の辺りを両手で押さえつつ、常にプルプルと震えているのだ! 意味深に!

 

「わぁ♪ P君ピンクローターみたい。おもしろーい。

 そーれツンツン☆ ツンツン☆」

 

「や……や゛めッ……! やめろォ~~う! ハァァーーン!!??(身もだえ)」

 

 力石操るアフロダイAが、ちょこちょこ近付いて来て指でつっつく。

 それだけでグレートはワチャワチャ。仰け反って大暴れ。

 

「こんなのはどーかな? あっそれ、つーーい♪」

 

「 うぼォォい!!?? こちょばい! こちょばいッ!! 」

 

 今度は手のひらで、背中をスーッとひと撫で。

 グレートはピョーン! と海老反りになって飛び上がる。

 P氏の脳内にエンドルフィンが過剰分泌され、快楽が身体中を駆け巡る。

 

「脇腹をわしゃわしゃ♪ 足裏をコチョコチョ♪」

 

「 死ぬ死ぬ死ぬッ!! アカンわい今日で最終回や!! 地球はブルーでした!! 」

 

 山をも見下ろすような巨大ロボット二体が、イチャイチャと乳繰り合っている光景。

 そして、マジンガー絶頂の次回作にご期待下さい! と言わんばかりの醜態。フルボッコ具合。

 あぁ、何も出来ぬまま身体(ボディ)を弄りまわされるという、耐え難い屈辱よ。

 まぁそれさえもいずれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。何かに目覚めて。

 

「負ける(確信)」

 

「だめポポ(断言)」

 

「惨めですぅ(小声)」

 

 ポン助、ポルン、東雲が嘆息を漏らす。

 彼ら三人は今、巨大な漆黒の化け物の肩に乗って、この戦いを見守っているのだが……、でもまだ始まってもないのに諦めムード。

 東雲に至っては、「これ私がやった方が良くないですかぁ?」と言ってのける始末。

 なんだあのヘコいマシンは。図体ばっかりデカくて。

 

「ちょ……なに言ってるのよみんな! 応援してあげてよっ!」

 

「でもですねぇ? アレは無しですぅ」

 

「勝てる未来が浮かばないポポ。死ぬポポ」

 

「弱い(確信)」

 

 先ほど助け出された暁が、隣でぷんぷん声を荒げているが、三人は冷めた顔。

 私に任せりゃいいのに、プリキュアになっときゃー良かったのにと、ガッカリしている様子。

 もう頑張れとか負けるなとか、そんな声援をおくる気にもなれない。それ以前の問題だった。

 

「もうセキゾノフさんで良くないか? 代わりにアマジーグを呼ぼうよ」

 

「それがいいポポ。アーマード・コアの方がつよいポポ。あいつはクソだポポ」

 

「ではいったん、“ふたつめのセカイ”に戻りますぅ。

 おっきいお人形さぁん、よろしくお願いs

 

「 まってよ! 提督を見捨てないで! おねがいだからっ!!!! 」

 

 はい撤収~! みたいな雰囲気の三人を、必死で押し留める。

 昭和の夫婦ドラマみたく、「捨てないでぇ~!」と腰にしがみついて懇願。

 ポン助もポルンも東雲も、なんか「えー」とメンドクサそうな顔でこっちを見ている。もういいじゃんすかと。

 

「――――拙い! このままじゃやられるッ! 持ちこたえられんッ!」

 

「ほら暁ちゃん、駄目そうだよ彼?」

 

「もう限界ですぅ。戦闘開始から、わずか5秒でぇ」

 

「現実を見るポポ。希望を捨てろポポ」

 

「 提督ぅぅぅーーっっ!!?? 」

 

 こちょばされてるだけで、もう敗北寸前。

 苦し気に片膝を付き、あたかも12ラウンドくらい戦った後みたいな様子のマジンガー絶頂。

 まだ敵と交戦するどころか、その場から一歩も動いていないのに、どっこも損傷してないままで、もう死闘感を漂わせている。

 

 幼子の悲痛な叫びが響く中、P氏はなんとかその場から立ち上がろうと、ホワンホワンしている下敷きのような足腰に、必死に力を込める。

 あの子の声に応えるかのように(ぜんぜんカッコよくないが)

 

「ちょ、いったん待って貰える? いっかい離れて?

 ちょっと5歩くらい下がってみようか力石」

 

「?」

 

 キョトンとしたまま、とりあえずP君に言われるままに、その場から離れる。

 

「おけ、サンキュサンキュ。

 とりあえず……やるじゃねぇか力石。見直したぜ!」

 

「私なにかしたかな? まだ何の武装も使ってないけど」

 

 まさかこの俺を、ここまで追い詰めるとはな――――

 そんな感じで「キリッ!」とした顔をしてみるが、力石の方はコテン? と小首を傾げている。子供みたいな仕草で。

 この場の雰囲気だけは、もう中盤戦のテンションだった。

 

「それじゃあ、もういっても良いかな?

 パンチとかキックとかの、格闘戦をしようと思うけど……」

 

「いやいやいやッ!! このまま離れてやりましょうねェ!(必死)

 今こんなご時世だろ? ソーシャルディスタンスに配慮していこーぜ! オナシャス!」

 

 STOP! と両手を突き出し、断固拒否の構え。

 屁理屈をこねつつ「そこを動くな、一歩たりとも近付くんじゃねぇ」と頑張って説得。

 言っては悪いが、クッソ情けなかった。

 

 とりあえずは、力石さんが遠くの方でボーっと待ってくれているのを良い事に、操縦席で黙々とマニュアルを読み耽るマスターP氏。

 あーでもない、こーでもないとブツブツ呟きながら、本を片手にレバーをガチャガチャ。ボタンをポチポチ。

 うん、なんかやれそうな気がしてきた。絶頂ファイト!(レッドファイトのテンションで)

 

「――――いくぜッ! ビンカン☆ブレストファイヤー!!!!」

 

 マジンガー絶頂が雄々しくムキッとマッスルポーズ、ボディビルで言う所のダブルバイセップスを繰り出しながら、胸部よりビームを発射!

 なんか放った側のP氏が「はぁぁぁーーーん☆」とビーチク押さえて艶声をあげているが、とにかくビームは真っすぐ前方へ!

 

「……」

 

 だがヒョイッ♪ と音がしそうな軽いステップで、アフロダイAが楽々それを躱す。

 

「――――喰らえッ! パンチラ☆ルストハリケェェーン!!!!」

 

 続け様に、マジンガー絶頂の口元から、鎌鼬を思わせるような激しい突風が噴き出す!

 渦を巻いて空気が回転し、周囲の木や建造物を巻き込みながら、一直線に敵に襲い掛かる。

 

「……」

 

 しかし! 再びアフロダイAがピョイン♪ と軽くジャンプ。空中へ逃れて回避。

 

「――――くたばれェ! チンカス☆ミサイルパンチ!

 早漏☆スクランダージェット! (親の視線が)冷凍光線!!!!」

 

 矢次に放たれるマジンガー絶頂の武装! まさに全門発射と言わんばかりの猛攻!

 なれどいかなる魔術か!? 力石は朝めし前とばかりに、眠そうにチョチョイと操縦桿を動かしただけで、全ての攻撃を回避。

 

「――――トドメだぁアフロダイAッ!!!

 ア゛ーッ! イヤ~ン♪ カッタァァァアアアーーッッ!!」

 

 最後に放たれるマジンガー絶頂の拳!

 それはロケット噴射によって、勢いよく腕部から分離! しかも森羅万象どんな物でも切り裂くであろう鋭い刃までシャキーンと備え、眼前の敵を両断せんと一気に直進!!

 でも力石操るアフロダイAは、「よっこらせ」とばかりにその場に座り込んだだけで、あっさりそれを躱して見せる。

 

 

「駄目だ、ロクな武装が無い(白目)」

 

「アクビが出ちゃうよP君。……まさかとは思うけど、それ本気でやってる?」

 

 

 ちなみにだが、マジンガー絶頂の繰り出す武装は、全部()()()()()()()()()()()

 ガッキ―ン! とカッコいい効果音が鳴ったり、大声で技名を叫んだりはしても、ぜんぶ年寄りのションベンみたくキレの無い、躱しやすそ~な攻撃であった。

 

 ぶっちゃけた、力石のパイロット技術であれば、それやってる途中でも問答無用でカウンターとか入れられたのだが……。

 でもそれすると、なんか頑張ってるP君が可哀想な気がしたので、ヒョイッと躱すだけで許してあげていた。

 なんだかんだ言いつつ、彼女にも“惚れた弱み”的なヤツがあるようで、それによりマジンガー絶頂は間一髪、危機を免れていたのだ。

 ありがとう力石! あざーす! ヌクモリティ!

 

『駄目です提督! そのままじゃ勝てない!』

 

 明石ちゃんからの、切迫した声の通信に、P氏は俯いていた顔を上げる。

 

『もっと気持ち良くならなきゃ、マジンガー絶頂の真価は発揮出来ませんっ!

 素のままのマジンガーなんて、ボスボロットと似たようなスペックなんです!』

 

「――――ゴミじゃねーかコイツ!! なんで作ったお前!?!?」

 

 だが膝から崩れ落ちそうになる。

 わい提督だよね? 確かそうだよね? なんでこんなのに乗せられてるの?

 頭の中に、いくつもハテナマーク。

 

『マジンガー絶頂は黒鉄(くろがね)の城! 無敵の要塞っ!

 その()()()こそがウリなんですから、とっとと殴られて来て下さい!

 さぁ提督、ボッコボコにされましょー!』キャッキャ

 

「敬意は無いんだな? そうなんだなAKS(明石)?!」

 

 こいつもサイコパスか。イカれてんのか。

 しかも、まだ力石さんの方が優しい。容赦なかった。

 

『うふふ……♪ 貴方のベッドの下から、篠塚醸二の同人誌(浜風&浦風本)を見つけてしまった時、私の心は壊れてしまったのですっ!

 さぁ姉妹丼でも、Wパイズリでも、好きなだけ妄想すれば良いじゃないですか!

 マジンゴー!!(強制)』

 

「ちょ……!?!?」

 

 明石ちゃんの遠隔操作により、勝手にスクランダー(背中に付いているジェット)がギュイーンと起動。マジンガーを空へ飛行させる。

 そしてP氏がワケも分からず慌てている内に、マジンガーはすぐにスチャっと地面に降り立ち、敵であるアフロダイAの真ん前へ。

 あたかも「さぁ行け、死んで来い」とばかりに。

 

「……」

 

「……」

 

 両機が言葉なく向かい合う。腕をダランと下げたままで。

 パイルダーのコックピットごしに、「じぃ~」っとこちらを窺っている力石の顔が見えた。

 

 そういえば……胸部装甲(意味深)の発育が凄いので忘れがちであるが、浜風も浦風も“駆逐艦”である。

 人間で言うならば、小中学生にあたる艦種なのだ。

 たとえ出来心とはいえ、そんな子らの同人誌を隠し持っていたP氏の罪は、意外と重いのかもしれない。いま明石ちゃんが怒り狂っているのも、分からないでも無かった。

 しかもP氏って、まだ17才だし。あーいうのは全部Rー18なんだし。天誅!

 

「……P君、ソーシャルディスタンスはいいの?」

 

「あっハイ。

 よく考えたら、ここ野外ですし、ガラスごしなんで」

 

「じゃあ殴っていいのね? 遠慮なくやるよ? いくよ?」

 

「はい……オナシャス。

 それしか無いみたいなんでクソが」

 

 

 

 次の瞬間、P氏の「んほぉぉぉ~~☆」みたいな叫びが、時空の垣根を越えて三千世界に響いた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「アフロダイぱんちっ! きっく! ちょっぷ!」

 

 ボコボコボコー! と連続した打撃音。

 マジンガーの身体が、映画でよくある“マシンガンで撃たれた人”みたく、ブルブルと震える。

 

『いいっ! いいですよ提督! すんごいパワー溜まってます!』

 

 オペレーター(明石ちゃん)の声がしているが、P氏はそれどころではなかった。

 舌を出しながら白目を剥くのに忙しいのだ。

 

「アフロダイえるぼー! アフロダイDDT! アフロダイぱわーぼむ!」

 

『キレてる! キレてるよ提督! その調子ですっ!』

 

「アフロダイどろっぷ! アフロダイ金的蹴り!

 アフロダイ・ふぁいなるくらっしゅ!!」

 

『輝いてる! いま光ってますよっ!

 めっちゃ気持ちよさそうですね提督! このスケベッ!!!!(悪口)』

 

 快楽に埋め尽くされ、まったく働かない思考。それどころか、だんだん遠くなっていく意識。

 でも必死に耐える。アヘ顔を晒しながらでも懸命に操縦桿を握り、脚に力を込める。

 まぁワーキャー煩い声も聞こえているし、気を抜くと腰が砕けそうだが、なんとか精神力のみを以って、力石の猛攻を凌いでいく。

 

 だが――――()()()()()()()

 なんで一回ボコボコにされなきゃ、戦えない仕様なのか。

 何故に今、脳が沸騰しそうな程の快楽に苛まれとんのか。わいまだ童貞やぞと。

 

 そんなこの世の不条理を思う度、身を焦がすほどの()()()()()()が襲い来る。

 なんでわい、こんなロボットに乗っとんねん、乗せられとんねんと、憤死しそうになる。

 痛みや苦しみならばまだしも、快楽ってなんやねん。こんなん戦いで受けるヤツちゃうやろと。

 

 昔TVで観た、数多のカッコいいロボットやヒーロー達の御姿を思い、P氏はもう涙がちょちょ切れそうであった。

 なんか思ってたんと違う!!

 

 

《――――何をやってるのマスターP! がんばるのよぉ~ん!!》

 

 

 だが、その時……。

 

《そうじゃぞマスターPよ! お主ならいけるっ!》

 

 薄れゆく意識の中で、“美星町のみんな”の声が……。

 

《苦しい時は、おちんちんを弄るのよぉ~ん!

 それで大概は、なんとかなるわぁ~ん!》

 

《ワシなんていつも、プロテインしかお供えしてもらえんのじゃぞ!?

 それでも頑張っとるんじゃ!》

 

 これは……したたる? そしてお地蔵さま?

 倒れそうになる心を支えるような、彼らの力強い声!

 

《そうだよPさん! 負けちゃダメ! 勇気を出すんだっ!》

 

《さぁ戦えッ! 敵は目の前だゼ!》

 

《うおぉー! タワーブリッジ! タワーブリッジ!》

 

 アンパンマン、トラゴロー、ロビンマスクの声がする。心に届いて来る。

 ……でもP氏は正直、「えっ、今!?」と思った。

 こんな序盤のしょーもない場面で、“みんなの声で立ち上がる”という少年漫画お約束の流れやんの? もったいなくないスか? と。

 

《ちくわを思い出せ! ちくわを胸に抱け!》

 

《オ〇ンポォォォーーッッ!》

 

《これが終わったら、一緒にサウナ行きましょう?

 男同士、裸の付き合いをぐへへへ♪》

 

 ――――しかもロクなヤツがいないッ!!

 ちくわ製造業のオッサンとか、バーサーカー( 淫獣 )とか、新聞配達のホモ野郎とか! 美星町はイロモノばっかりだ!!

 これでは力が湧くどころか、何もかも投げ出してしまいたくなる。

 このまま死んじまおうかな~って、そんな気になってしまう。

 

 せっかくの皆のお心遣いだが、ぶっちゃけP氏にとっては“ありがた迷惑”でしか無かった。

 そして、なんで女したたるだけやねん。もっと普通の女の子おるやろ。

 わい嫌われてんのかな、モテへんのかな……と大分テンションも下がった。

 

「くそっ! とんでもねぇ威力だぜッ! なんて気持ちいいんだ!(直球)」

 

「P君ってMなの? これから“マスターM”って呼ぼっか?」

 

 ドカバキ殴り続けながらも、力石はあきれた顔。

 長年心の支えにしていた憧れの男の子は、なんか大分イメージと違った。

 

「ちぃッ!!」

 

「っ?!」

 

 だがその連撃が、一瞬途切れる。

 ふいにマジンガーが振り上げた前腕により、攻撃が弾かれたのだ。

 

『――――エクスタシー光子力、チャージ5200%! いけます提督ッ!!!!』

 

 さっきまでボスボロット並のクソザコだったが、今は違う!

 マジンガーの身体がそこはかとな~く光り、微妙に強そうに見える! なんかぱっと見イイ感じのような気がする! 

 これまで約340発にも及ぶアフロダイAの攻撃を受けた効果が、ようやく現れたのだ!

 

「 こなくそォォォーーッッ!!!! 」

 

「っっ?!?!?!?」

 

 叩き込む! 拳を!

 全身全霊を込めたマジンガー絶頂のボディブロー!

 オーバーな程に振りかぶったソレが、アフロダイAの腹を勢いよく突き上げる! 高く宙に浮かせる!

 

「つか……もうちょっと早めでも良かったんとちゃう?

 5200%は溜め過ぎだろ! なんで黙って見てたの!?」

 

『いいからさっさと追撃です提督っ! Finish her(ヤツを終わらせろ)!!』

 

 ふわりと死に体のアフロダイAに向かい、マジンガー絶頂が構えを取る! 

 背筋を大きく反らし、力強く「ムキッ☆」っと胸を張った!

 

「 ――――ビンカンッ……! ブレストファイヤァァァア゛ア゛ア゛ーーッッ!!!!!! 」

 

 胸部より放たれる、赤い波動砲!!

 先ほどのチンカスみたいなビームでは無い! 全てを薙ぎ払う真の破壊力を伴った極太光線が、凄まじい速度を以って! 天高く放射される!!

 だがッ……。

 

「 ――――舐めるなぁ! マスターPぃぃぃいいいッ!!!!!!!! 」

 

 烈火の如くの気合。それと共に放たれたアフロダイAの“エロ光子力ミサイル”が、それを相殺!!

 双方の一撃が空で衝突し、耳をつんざく程の爆音、世界が真っ白に染まるほどの光を放つ。

 

「うぐっ……! ちょー気持てぃ(小声)」

 

 思わず腰を低くし、必死に踏ん張らなければいけない程の爆風。衝撃波。

 やがてそれが過ぎ去った後、P氏が目にしたのは、悠然と空から大地へ降り立つアフロダイAの姿だった。

 

「……なんてデタラメなの。

 死ぬほどタフなだけじゃなく、あんな威力までッ……!」

 

 スピーカーからの声が、小さく震えている。

 いま力石の体までもが、その畏怖と怒りによってわなわな震えているのが分かった。

 

 この機体は“黒鉄の城”。

 そんじょそこいらのマシンじゃない。――――スーパーロボット・マジンガー絶頂だ。

 そのスペック、頑強さ、そして天地を割るような破壊力。

 なんかすったもんだあったが、ようやく真価を現したP氏の機体に、力石は目をひん剥く。

 ひとりの科学者として、驚愕せざるを得ない。

 

「それとP君……、()()()()()()()???

 そんな変な技で倒される人の気持ち、一回でも考えた事あるっ!?

 私でも毎回、『なるだけ苦しまないように』ってやってるのに! オニチクだよP君!」

 

「 うるせェAKSに言えッ! わいも普通のがいい!!(迫真) 」

 

 死ねない、これでは死ねない――――

 そんな意地とか自尊心とかを総動員して、力石はなんとかビンカン☆ブレストファイヤーを凌いだ。必死こいて。

 

 本来あの武装は、こちら側が放った攻撃を()()()()()()

 もう比べるのも烏滸がましい程に、圧倒的な威力の差があったのだ。

 それでも咄嗟の機転や、科学者である自身の優秀な頭脳を発揮し、力点だの角度だのタイミングだのを瞬時に計算し尽くし、なんとか切り抜けてみせた。

 

 力石は内心、砂を噛むような悔しさを味わっているが……それでも認めざるを得ない。

 この“快楽で馬力が上がる”というふざけた色物ロボットは、自身の作り上げたアフロダイAより上だ! 遥かに凌駕している!!

 

「ずるいなぁP君……。そんなおちゃらけてるのに、こんな強いなんて。

 もうどう君に接したらいいのか、分からないよ……」

 

 さっきまであった余裕や嘲りなど、もう微塵も無い。

 そして関係ないが、サイコパスのお前に言われたくない。

 

「認めるよ――――今のを一回でも喰らったら、私の機体はバラバラになる。

 まともにやったら、君に勝てないだろうね……」

 

「……」

 

 再び両機が向かい合う。

 だが今度は静かに。お互い構えを取ることも無いまま。

 

「強くなったねP君♪ あんなに小さかったのに……。

 私の方がお姉さんなのに、もう追い抜かれちゃったなぁ。

 背丈も、強さも……心も」

 

 聞こえるか聞こえないか、という独白に近い小声。

 離れた場所にいるから、顔は見えない。だがその声色は、どこか嬉しそうな響きを伴う。

 アイツ今、柔らかく微笑んでるんじゃないのか? P氏はそんな風に感じた。

 

「まぁP君のチートさなんて、今さらだし。

 ()()()()()()()()()に負けるなんて、死んでもイヤ。

 だから、悪いけど倒させてもらうね?」

 

 先ほどの攻撃により、アフロダイAの腹が、大きく陥没しているのが分かる。

 貫通一歩手前だ。素人目に見たら、まだ動いているのが不思議なほど。

 

「殺すわ。……手に入らないのなら。取られるくらいなら。

 覚悟してね、P君」

 

 言葉をかけそうになる。もうやめろ、もう無理だと。

 だがその優しさや憐れみが口を突く前に、P氏は彼女の佇まいから“覚悟”のような物を感じ取る。

 少し前までの軽い雰囲気じゃない、まさに“殺す”という意思を固めた、一人の女の情念。まだ若い彼には理解しがたいくらいの、深い愛憎。

 コックピットごしでもビリビリ感じる、凄まじい威圧感。重力を伴う程の殺意……。

 

「あ、いいっすよ(即答) オラわくわくすっぞ」

 

 だが、いま彼女と対するは、匹夫に非ず。

 美星町の英雄、マスターP・チョモラペット也――――

 

「やってみろッ! 力石・ノースカロライナ・徹子ォ!

 ロボを作る科学者と、ロボで戦うパイロットの差を見せてやるッ!

 てめぇ免許持ってんのかオラァン!?」

 

 きりんぐみー、そふとりー(?) とよく分からない英語を叫ぶ。

 チュニジア語が話せるワリに、英語は駄目なのネ、というのはいったん置いといて……。P氏は大きく両腕を広げ、「来い」と意思表示。

 マジンガーとアフロダイA、正と邪が真っすぐに対峙。

 

 ぶっちゃけた話、わいには()()()()()()()。言葉で理解し合うのは無理だろう。

 なら、もう拳で語るしかねェ――――意地を張り合うしかねェんすわ。

 そうP氏も覚悟を決める。

 

「オマエ、コロス。博士、ヨロコブ。

 言葉は無粋、押し通れよ力石ッ!!!!」

 

「こんだけ喋っといて何?

 そういう所だよP君?」

 

 バカだし、猪突猛進だし、イミフ。

 けれど……そういう部分にこそ、自分は魅かれたのかも。

 決して手が届かない、絶対になれないって程の()()()。だからこそ憧れたし、心から欲しいと願った。

 己の原初の想いを、力石はふと思い出す。

 

 思えば、これまでの人生の中で、無意識にでも彼の真似をしていた事があるような気がする。

 心が壊れている狂人は、他者と接する時、己を装う。とても魅力的な人物に映る“仮面”を被る。

 獲物を安心させ、無害を装うために、その術を自然と身に付けるものだ。

 そして、いつもそのお手本として、何気なしに力石が思い描いていたのが、まさにP氏。

 あの七夕の日に見た、キラキラと輝く少年の姿だった。

 

 まぁ力石は元々()()()()()()()()()()、それが成功していたとは、とても言い難いが。

 たとえば小雪と接する時も、いつも変な薄い本を勧めたり、「ぞなもし」と変な語尾を付けたり、「でゅふふwww」と妙な笑い方をしたりと。

 もうどこからどう見ても、“変なお姉さん”でしか無かったワケなのだけど。

 

 だが、あの子は笑ってくれた――――無邪気な好意で慕ってくれていた。

 いつも小雪と接している時に感じた、ほのかにあたたかな感情、ぬくもり。

 ……それはまごう事無く、P君がくれた物。己の潜入技術などではなく、彼から貰ったギフトなのだと、力石は自覚している。

 

 暗殺者でなく、サイエンティストでなく、ただのナースになれたら……。ずっと小雪ちゃんといられたら……。

 何度そう思った事だろう? 叶う筈もないのに。

 

「私はモグラだから、眩しいのは苦手なの。

 このままじゃ、目が潰れてしまう……」

 

 そっと、何気なく手をかざす。

 力石のアフロダイAが、天に向けてまっすぐ右腕を伸ばした。

 

「もう月明りはいらない。

 あの日を思い出すから」

 

 開いていた手のひらを、グッと力強く握り込む。

 その途端――――()()()()()

 つい先ほどまで天上にあったハズの、不気味な赤い月が、林檎のように砕け散る。

 音も立てぬまま、静かに消え去ってしまったのだ。

 

「重ねてになるけど、ここは“ワタシのセカイ”。なんでも思い通りになるの。

 何かを作るのも、イラナイ物を壊すのも」

 

「ッ!?」

 

 スッと、アフロダイAの姿が消失。何も見えなくなる。

 それもそのハズ、ここで唯一の光源であった月は、もう無くなったのだから。

 今しがた、彼女の手の動きと連動するようにして、木っ端みじんに。

 

「P君いくよ? 貴方も壊れてしまえ」

 

 その言葉と共に――――衝撃。

 とつぜん視界を奪われ、その場で脚を踏ん張るばかりだったマジンガーの頭部が、勢いよく後ろに跳ね飛ぶ。

 拳? 蹴り? それともなんらかの武装?!

 だがそれすらもP氏には判断が付かない。

 分かるのは、いま己の機体が地面に倒れた衝撃、そして凄まじい爆音のみ。

 

「んい゛ッ!?」

 

 直感……いや悪寒を感じ、咄嗟に真横へ転がる。

 次の瞬間、ちょうどマジンガーの頭部があった辺りで、地面が踏み砕かれる轟音。ビリビリという空気の振動。

 それに目を丸くしている暇もないまま、即座に起き上がろうと藻掻く。

 だがコックピットから見える視界は、黒一色。一切の光源が無い、真なるヤミのセカイだ。思うようにいくハズも無し。

 続け様にマジンガーの腹部へ、背中まで貫くような打撃が叩き込まれた。

 

「……アカン、気持ちよかですばい! なんか出そう(正直)」

 

 ドゴーンと後方に吹き飛びながらも、P氏が思うのはそれだけ。

 ヤバいとか拙いとかではなく、トロットロのアヘ顔で「んほぉ~!」と快楽に身を委ねるのみだ。

 このロボは本当にどうしようも無かった。

 

『何してるんです提督っ! 反撃しなきゃ!

 いくらマジンガーが丈夫だからって! そのままじゃあ……!』

 

「んなこと言ってもよAKSィ……! 何も見えねェんだってばよッ!」

 

 既にマジンガー絶頂のパワーは、十二分に溜まっている。これ以上攻撃を受ける必要など無い。

 だが成す術なく被弾し続ける。次々に衝撃が襲い来る。

 コックピットが絶え間なく揺れ、まるで洗濯機の中にでもいるかのように視界がグチャグチャだ。

 

『エクスタシー光子力、チャージ8400%! ……拙いです提督っ!

 もし1万までいけば、マジンガー絶頂グレートは()()()()()!!

 きもてぃー♪ とばかりに爆散してしまうんですっ! 主に股間の辺りが(小声)』

 

「 どーいう事すかソレ!?!? 」

 

 何かの象徴的な事かもしれないが、エクスタシーがMAXまで昇り詰めると、自動的に股間からビーム的な物を発射した後、ヘブン(意味深)的などこかへと旅立ってしまうのだそうだ。

 いくら不屈(ドM)のマジンガー絶頂とはいえ、その耐久力には限度があったという事。

 刻々と迫りくる限界、そして何も出来ないこの状況。

 次第にP氏の心に、焦りが(しょう)じ始める……。

 

「やめちくりぃ~(挑発)」

 

「壊れちゃ^~う↑(トロ顔)」

 

「ちきしょう!(建前) ナイスゥ!(本音)」

 

 まぁ痛みではなく気持ち良さなので、ぜんぜん緊張感は無かったりするけれど、それはそれ。

 凄まじいまでの未知の快楽に、思わず大人の扉を開けちゃいそうになってるが、彼は真面目にやっているのだ!

 エクスタシー光子力の計測器が“9000”を指し、あと少しで「い゛く゛ぅ゛!」みたいな状況。この酷い絵面はともかくとして、ピンチに陥っている!

 

 

「――――P君、()()()()()()()()

 今までずーっと、光の中を歩いてきたんでしょう?」

 

 

 ふいにどこかから、力石の声。

 こちとら歩くことすら苦労しているというのに、彼女だけはこの暗闇の中でも、縦横無尽に動ける。

 

 

「太陽は沈む、P君もいっしょ。

 私の闇で眠りなさい――――」

 

 

 クスクスと笑い声。姿は見えず声だけが届く。

 対してP氏は無言。それに返答する事はない。

 ただただ、その場でじっと佇んでいる様子。

 

「ん? どうしたのP君、なんで黙ってるのかな?」

 

「あ、すんません。青山ひかるの事を考えてました」

 

「な゛っ!?!?」

 

 ちなみに青山ひかるとは、Iカップ♡で有名なグラドルさんの事。

 おっぱい大好きP氏は、よく暇さえあれば、彼女のグラビアを穴が空くほど見つめている。

 こんな時でも、エロスインマイハート――――流石はマジンガー絶頂のパイロット。

 疲れた時とかにエロい事を考えると、すごく心が安らぐような気がしてる。おっぱいを忘れない。

 

「~~っっ!! もういい! P君なんか死んじゃえーっ!

 その青山ひかる? とかいう女も後で殺すからね! ぜったい生かしておかない!」プンプン

 

「やめたれ! 青山さんは唯一無二のおぱーいやぞ!? 外人にも大人気や!(必死)」

 

 シュバババ! と風切り音を立てながら、アフロダイAがマジンガーの周囲を回る。疾風のように駆ける!

 ただでさえ辺りは真っ暗なのに、もう分身のような残像が発生するほどの速さ!

 流石は暗殺者、流石の身のこなし! たとえロボに乗ろうとも、その体捌きは健在!

 

「ほっほぉ~。これわい、漫画とかで読んだ事ありますねェ!」

 

 P氏の頭上に \ピコーン!/ と電球が灯り、そのままそっと両の瞼を閉じる。

 

「目に頼んな、心の目で見るやで――――」

 

 そして、意識を集中。

 音や気配を感じ取り、じっとその場でタイミングを計る。

 グッと力強く握った右拳、それを叩き込む瞬間を。今か今かと……。

 

「お待たせしましたPさん……! ようやくこっちのセカイに来r

 

「――――そこだぁぁぁあああッッ!!!!(グーパン)」

 

 颯爽とこの場に舞い降りたアマジーグ(セキゾノフさん)に、出力9000%オーバーの拳が炸裂。

 

「AMSから、光が逆流するっ……!? ンギモッヂイイィィ--☆☆☆(絶頂)」

 

 ボゴォォォーーン!! という馬鹿でかい音と共に、アマジーグが()()()()()

 これまで身を削って人々のために戦った英雄が、一瞬にして異世界の塵と化した。まぁヒョロヒョロの軽量機ですし。

 

「……あっ(察し)

 力石テメェ! よくも哀れなセキゾノフを殺したなッ! ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!」キリッ!

 

「なんでも悪のせいにするの、どうかと思うな。

 私ゴルゴムとかじゃないし」

 

 ここ暗闇だから、みんなにはバレない筈。そんな計算高い考えが、一瞬脳裏をよぎったのだった。

 まぁセキゾノフさんは歴戦の雄だし、ちゃんとコックピットから脱出してたっぽいので、大丈夫だとは思うが。

 

「終わった(白目)」

 

「ですぅ(確信)」

 

「最後の希望が絶えたポポ(真顔)」

 

「……」

 

 遠くで観戦していた4人が、ふぅとため息。その後イソイソと帰り支度を始めた。

 まぁとにかく! やってしまった物は仕方ないのだ!

 あいつロリコンだし今それどころじゃないし! 気にしない気にしない(一休さん感)

 

「というか……もう諦めたら?

 いくらおバカでも、勝てないって理解してるよね?

 無理だよP君。闇を知らない君には――――」

 

 ふいに脚を止め、再び相対する。

 闇の中であっても、彼女がこちらの顔を見ているのが、ハッキリと分かった。

 

「大人しくするなら、楽に殺してあげる。

 ()()()()()()みたくに、綺麗に消し飛ばしてあげるよ」

 

 嘲笑。三日月のように口元を歪めて。

 彼への強い執着が、拒否された事により、そのまま憎しみに代わる。

 だから“愛憎”と言うのだ。

 けれど、それを全く意に介すこと無く、P氏は……。

 

「ヒトガタ? そりゃHitomiの事かァ……?」

 

 グッと、大地を踏みしめる。

 

 

「――――ヒ ト ミ ン の 事 か ぁ ぁ ぁ あ あ あ ッッッ!!!!!!!」

 

 

 激高。

 

ゴールデンフィンガー(  加藤鷹  )・ミサイィィーール!!!!」

 

 掃射。

 マジンガー絶頂の指から、一斉に小型ミサイルが放たれる。

 9000を超えたエクスタシー光子力によって発射されるミサイルは、まさに豪雨の如し。

 そこに居ようが居まいがお構い無しの、MAP兵器めいた全面攻撃に、思わず力石は防戦一方。目を見開いて回避に専念。

 

「 そこだァ!! 力石獲ったどぉーッ!!!! 」

 

「っっ!?!?」

 

 大地を駆け回る振動か、それとも音による物か。

 P氏がハッキリと力石の位置を捉え、腕部からワイヤーを発射。

 その先端が、アフロダイAのどことは言えないデリケートな箇所(意味深)にぶっ刺さり、彼女の動きを阻害。完全に停止させる。

 

「――――ビッグバン・高圧電流ゥゥーーッ!!!!」

 

「 んにゃあああぁぁぁ~~っ!?!?!(はぁと) 」

 

 バリバリバリー! と閃光が迸り、辺り一体を白く染める。

 これまで全く見えなかった視界が、当社比86倍はあろうかというビッグバンな電圧により、ようやくクリアとなる!

 ついでに言うと、なんか力石が色っぽい声を上げている!(重要)

 

「もう逃がさねェぞ力石! 次はテメェの番だッ!

 ええんか、ええのんか~!」

 

「 あああーーーーん♡♡♡(エビ反り) 」

 

 エネルギーは満タン、幾らでも高圧電流を継続出来る!

 それすなわち、ずっと力石のエロい声が聴ける……いや動きを拘束して視界を保ち続けられるという事!

 これまでの鬱憤を晴らさんが如く、力石にエロ電流を正義の刃を喰らわせる! 今度は俺のターンとばかりに!

 どやっ! 気持ちええやろ! どやっ☆(満面の笑み)

 そしてなんか知らないが、背徳感ですんごいゾックゾクする! 戦ってるだけなのに不思議っ☆

 

「どっ、童貞のクセにローター責めなんてっ……!

 年下の子にされるだなんてぇー!!」

 

「うぼぉい! 妙なこと抜かすなァ!!

 これはあくまで、ロボットバトルすねェ!(キッパリ)」

 

 ……つかわい、いつも戦いん時はこんな感じスよ!? お前も味わえ味わえー!

 そう言わんばかりに、容赦なく攻めたてる。どうやらP君(17才)にはベッドヤクザの素質があるようだ。

 

「女の子に、こんな事してっ……!

 もうお嫁にいけないよぉ! 責任とってよP君っ!」

 

「おめぇ悪の幹部だろォん!?

 お嫁に行く前に、まずは更生しましょうねェ! そうしましょうねェ!」

 

「え、酷くない?! エッチな事しといてっ!

 身体だけが目当て!? そんなのサイテーじゃんP君!」 

 

「お前も散々しただろ! お互い様ですねェ!(ゲス顔)

 つかわい、美星の護り手ですし? これは正当な行いじゃーい!」

 

「P君のばか! へんたい! えっちえっち! ゴリラフェチ!」

 

「ゴリラはお前の指金だろうがァァアア!!

 わいとちゃうわボケェェーーッッ!!!!」

 

「なんなの……!? ゴリラになれば愛してくれるの!? 幸せになれたの!?

 もう分かんないよP君! どーしろって言うのよぉ!」

 

「――――普通でよかったんだよお前はァーーッ!!(迫真)

 おっぱいとツインテが泣いてんぞ!? 宝の持ち腐れじゃねーか!!!!」

 

 残念な美人。もうそうとしか言えない。

 いくら暗殺者の里の生まれとはいえ、変な男の子に惚れたせいで、人生狂わせちゃったのであった。

 

「こんのぉー! P君なんか、ゴリラにAFされちゃえばいーんだ!

 ぜったい女の子にモテないもんっ!」

 

「だからAFってなんスか?!?!

 フォーアンサーはFAですけども?!(フロム脳)」

 

「なんで髪切ったの!? せっかく美少年なのに! あの頃のままでいてよっ!

 丸刈りのP君を見た時、私の心は深い悲しみに包まれたよっ!」

 

「うるせぇバカ野郎ッ!

 野球部入ろうと思ったら、ソフト部しかなかったんだよ! 後で気付いたんだよォ!」

 

 電撃にクネクネ身をよじりながら、罵詈雑言。

 しかもお互いに至近距離でドカバキ殴り合い、思いの丈をぶつける。

 もう操縦技術も武装もあったモンじゃない。ただただ子供の喧嘩のように、ワーワー言いながら叩き合うだけ。

 

 

「おめぇだって、()()()()()()()()()()()()

 あれ可愛くて好きだったのに、わいちょっと悲しかったわァ!!!!」

 

「 っっ!!!!???? 」

 

 

 絶句。

 力石は頭が真っ白になり、硬直したように動きを止める。

 

 それを認めた途端、P氏のマジンガーがワイヤーを戻し、アフロダイAの拘束を解く。

 電流攻撃が終わった事で、辺りは再び闇に包まれる。黒一色の世界に。

 

「……もういい、電気は止めだ。

 月を戻せ下さい。普通にバトろうぜ? 頼むよ頼むよー」

 

 ポカンとした顔、はたらかない思考。

 力石は言われるがまま、ワチャワチャと慌てて月を出現させる。

 子供が親の言うことを聞くみたいに。不思議と逆らう気にはなれなかった。

 

 思い出した……? 憶えてたのP君……?

 私のことを。あの七夕の日を。

 わなわなと震える。これまでの人生で感じた事のないような歓喜と興奮が、熱病のように顔を火照らせる。身体中の血が沸騰したみたいに――――熱い。

 

「先に言うとく、今9()9()7()0()すわ。

 多分つぎ殴られたら、マジンガーはチーズバーガーぶつけられたリア充みたくなる(確信)」

 

 メルトダウン( 爆発 )、すなわち死ぬという事。

 性根がまっすぐなのか、バカなのか。……とにかくP氏は真っすぐ前を睨んだまま、力石に告げる。

 

「だから悪ィけど、これラスイチらしいっすよ?

 来いよ力石……いや徹子ねーちゃん。

 わいも全力でいくやで(蒼き鋼の意思)」

 

 共に一撃必殺。ゆえにもう、馬力差など関係無い。

 次に当てた方が勝ちという事。

 お前にやられるんだったら、わい別にいいわ。散々酷いこと言っちまったしなと、P氏は強い目で彼女を見つめる。

 

「ほい(速射)」

 

「――――うお危なッ!?!?!」

 

 何気ない仕草で、エロ光子力( おっぱい )ミサイル発射。

 P氏は慌てて上体反らしで避ける。

 

「……あは♪ あははははは♪

 何その必死な動きーっ! P君おもしろーい☆」

 

「テメェいきなりステーキかッ!

 もうちょっとあんだろォん色々ォー!!??」

 

 ちっちゃい女の子のように、ケラケラお腹を抱えて笑う。

 まるで、あの日の七夕……7才だった頃に戻ったかのように。

 

「あー笑った笑った! こんな面白かったのは、あの時以来だよ♪

 ありがとね、P君」

 

 そして、涙を浮かべるほど笑っていた力石が、スッと目元を指で拭ってから、前に向き直る。

 

「そして……ゴメンねP君?

 アフロダイAの武装って、()()()()()()()()()()()()()

 これで看板(店じまい)だよ♪」

 

「は?」

 

 たった今、胸部から発射された二発目のミサイル。

 それが明後日の方向へ飛んでいくのを、どこか清々しい顔で眺めながら、力石がニッコリ笑顔を浮かべる。

 

「だから、盛り上がってるトコ悪いんだけど、()()()()

 やっぱ私、P君は殺せないよ――――君だけは」

 

 というか……分かってた。最初の最初から。

 もう10年以上も前から、君には“ぜったい勝てない”って。私はただ尽くすだけって。

 ほら、惚れた方の負けって言うでしょ?

 

 擦り切れた心の中、たった一つだけ、私に残った物。

 “憧れ”を殺したり出来ない――――

 

 そう力石が、コックピットごしに微笑む。

 憎悪や冷笑といった、今日P氏が見たどんな表情でもない。

 まだ幼かった頃、あの夜の森で見たまんまの、“徹子お姉ちゃん”の柔らかな笑顔。

 

「嫌だったし、辛かったし、憎かった。

 君に会わなければって、思うこともあった……」

 

 キラリと、月明りに照らされた力石の涙が、光る。

 

「でも私……、たとえあの日に戻れたとしても、P()()()()()()()()()()()

 何度でも、何度でも、短冊に願いを書くよ」

 

 スッと、ボタンに指を伸ばす。

 アフロダイAの操作パネルにある、薄いガラスで覆われた、赤色のスイッチに。

 

「ピンキー様……任務は失敗です。

 マスターPめの捕獲は、どうぞご自分で」

 

 まぁ、貴方などに負けるP君では御座いませんが。この青髭クソ野郎。

 男のくせして、桃色の忍装束なんか着込みやがって。*1……そう小さく呟いてから、力石はようやくといったように、自らの終わりを噛みしめる。

 

 もうP君は大丈夫。私が居なくても――――

 長かった彼女の苦しみは、ここに終わりを告げるのだ。

 

「最後に言っとくけど……やっぱ髪は伸ばした方がいいよ?

 P君はサラサラヘアーだから、大好きな悟空みたいな髪型には、出来ないだろうけどさ。

 がんばってね、美星のヒーロー君♪」

 

「おっ……おい力石ィ! おまッ!?!?」

 

 不穏な雰囲気。それを感じ取ったP氏は、思わず手を伸ばす。

 だが、彼が一歩踏み出そうとした、その瞬間……。

 

 

 

「約束、守ってくれてありがとう――――――――うれしかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 P君、すき。

 

 その言葉と共に、暗闇が眩い光によって払われた。

 アフロダイAの内部から光が溢れ出し、すぐさま木っ端みじんに爆散。

 立っているのがやっとの爆風に晒されたP氏は、ただただ何も出来ぬまま、その場で立ちすくむばかり。

 

 けれど……ふいにP氏の脳裏に、とても温かな光景が。

 これは、残滓なのか? このセカイを構成する、因子なのか? 詳しい事は分からない。

 だがP氏の瞼に、まるで万華鏡を覗いたみたいに、様々な七夕の映像(おもいで)が浮かぶ。

 

 そのどれもが、遠慮がちに男の子と手を繋ぐ、とても幸せそうな女の子の姿。

 

 

 

 

 

 闇が光に、恋するなんてね――――

 

 

 宿主を失い、ガラガラと崩れゆくセカイの中、そんな声を聴いたような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
第25話、【世界の法則を乱す者 】参照



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【劇場版】マジンガー絶頂(Z) ⅩⅧ

 

 

 

 

「……チッ! ゴミが」

 

 装着していたイヤホンを取り外す。

 そして苛立たし気に、地面に投げ捨てた。

 

「やってくれたわねぇ、小娘。

 育ててやった恩も忘れ、裏切りやがって。淫売め」

 

 彼(彼女?)の内心を表すかのように踏み潰されたイヤホンが、バキリと矮小な音を立てて砕ける。

 そしてもう見向きもせず、ピンキー忍者は憎悪の籠った目で空を睨みながら、ガリガリと爪を噛む。

 

「……親方様、村の掃討が完了いたしました。

 森に逃げ込んだ者共も、あらかじめ配置に着いていた部下達が、すでに殲滅しております」

 

「あ~ら、そうなのぉ~う♨」

 

 機嫌が悪そうな様子。それをおして配下の一人が、ビクビクしながら報告を行う。

 この人の機嫌ひとつで、自分の命など瞬く間に消える。玩具のように潰されてしまう。

 それを嫌というほど理解しつつも、己の役目を全うしているのだ。

 

 ここは、彼らに敵対する勢力、そのアジト()()()

 刀と、火と、数多の構成員、そして毒や火薬といったあらゆる道具を使い、すでにピンキー忍者の手によって壊滅した後ではあるが。

 たとえ草の根をわけて探そうが、もうここには人っ子ひとり残ってはいないだろう。

 

 つい昨日までは、おそらく平凡ながら豊かな営みがあったであろう村。

 けれど、今この場の家々は炎によって轟々と燃え盛り、煙で辺り一帯を包むどころか、空までもを赤く染めている。

 

「んじゃ、もう指揮の必要はないわね~?

 後は、無能なお前でも出来るでしょう。ここは任せるわぁ~♨」

 

「はっ! 委細承知っ!!」

 

 気だるげに手をフリフリしながら、背を向けて歩き出す。

 たった今、敵対勢力を討ち果たしたというのに、その感慨も無い。

 いくら手練れが多かったとはいえ、このような小さな村ひとつを、自分の手を借りなければ片付ける事も出来なかった、無能な部下達。

 ただただ、その使えなさに、嘆息を吐くばかりだ。

 

「どいつもコイツも、ゴミのような者ばかり。ほんと嫌になるわ~。

 退屈すぎて、首を括ってしまいそうになる♨」

 

 無能に、弱者に、淫売の小娘。

 特に、先ほど死んだらしき力石の存在が、ピンキーの心を苛立たせる。

 せっかく、多少なりとも目をかけてやったというのに……と。

 正直な話、優秀な科学者であり、里でも屈指のクノイチでもあった彼女を失った事は、酷い痛手だった。

 

 まぁそもそもの話……彼女の生きる意味でもあったマスターPを捕らえろと、過去にした約束を反故にするような命令を下さなければ、あの子を失う事はなかった。

 惚れた男の為、躊躇いなく自爆スイッチを押させるような羽目には、ならなかっただろう。

 

 けれど、ピンキーに「自分のせいだ」などという思考は無い。()()()()()()()()()

 己以外の人間など、須らく“自分の役に立つため”に存在する。

 その人生、身体、命すらも……私に使われる為にこそあるのだから、と。

 

「いいけどね、部下がひとり死んだ程度。

 多少、今後の仕事の手間が増える、ってだけの話よぉ~♨」

 

 ヤツを手に入れる。そしてこの世界全ての“女王”になる。

 それは自らの望みであり、決定事項であり、既に確定した未来だ。

 

「ひとまずは、“お見事”と言っておくわぁ~。

 曲がりなりにも、うちの幹部を退けるだなんてぇ~、やるじゃな~い♨」

 

 誰に見せるでもなく、何気なく手を叩く。

 今違う空の下、“ふたつめのセカイ”にいる、17才の物を知らない少年に向け、パチパチとやる気のない賞賛を贈る。

 

 ヤツに潜在的に備わる力を手に入れ、秋月の“徳”を変貌させ、世界を頂く――――

 かの地蔵、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)さえ味方に付ければ、この世に出来ない事など、何一つ無くなる。

 

 丁度ピンキーの歩く進路に横たわっていた、背に矢を受けて倒れたらしき、幼い子供の遺体。

 それを道すがら、おもむろに踏み付ける。軽く靴の泥を落とす為、カーペット代わりに。

 小さな背骨が折れる感触が足に伝わり、ゴキリと鈍い音が響いたが、それにピンキーが表情を変える事は無い。

 

 見つめる先は、前。ただ己の未来のみ。

 血と、快楽と、欲望に塗れたセカイだ。

 

 

「次はどの部下(ゴミ)をぶつけようかしら~ん?

 せいぜい、束の間の平和を謳歌するがいいわ、マスターP♨」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「よっし、平熱ね。

 つらい所はある? 動悸とか呼吸は?」

 

「ううん、ダイジョウブです♪」

 

 看護師の女性が、うんうんと満足気に頷きながら、体温計をポケットに仕舞う。

 

「経過は順調よ。

 前の手術から、もう結構経つけれど、このぶんなら問題なさそうね」

 

「はい、ありがとうございます、設楽さん♪」

 

 朝の検温と共に、今日の体調の質問や、「でも油断は禁物よ?」という軽い注意を受ける。

 けれど看護師さんの表情は、とても穏やかで明るい。

 以前の、この病院にいる誰もがそうだった“どこか無理をしている顔”じゃない。同情や憐れみを隠すための、作り笑顔じゃない。

 今の元気な小雪を見て、心底安心してくれている事が、伝わってきた。

 

「栄養士の香田さんも、最近小雪ちゃんがいっぱい食べてくれるようになった~って、すごく喜んでたよ?

 三田先生も、堀部先生も、小雪ちゃんとお喋りするのが好きみたい。

 いっつもあの人達、暇さえあればコーヒー飲みながら、小雪ちゃん小雪ちゃん言ってて煩いの。もうファンクラブでも作るんじゃないか~って勢いよ♪

 自分の嫁や娘の話はしないクセに。ロリコンかっつのホント!

 あっ……これ内緒にしといてくれる? 私の首飛んじゃう」

 

「あはは、わかりました♪ わたしと設楽さんのヒミツ」

 

 そんな風に軽く雑談に興じた後、看護師さんは病室を後にした。

 すぐに食事が来るからね、今日は冷えるからあったかくしててねと、こちらを優しく気遣いながら。

 小雪の方も、ベッドで身を起こしながらではあるが、にこやかな笑みで手をフリフリして、彼女を見送った。

 その様は、気の知れた友人同士がする、とても仲良さげな物。

 

 

「……」

 

 けれど、バタンと扉が閉まり、病室に静寂が訪れて暫くすると、小雪の顔からさっきまでの笑みは消える。

 代わりに、どことなく物憂げな、あまり元気のない表情に変わった。

 

「やっぱり、こなかったな……」

 

 本当は、いつもなら紅茶を入れたり、本を手に取ったりしている時間帯。

 けれど小雪は、未だにじっとベッドに腰を降ろしたまま。

 何をするでもなく、ただそこで佇むばかり。

 

 別に嫌なことがあったとか、先ほどのナースさんがキライだとか、そういうのでは無い。

 ただ……あの人は違う。いつも朝になればこの病室を訪れ、小雪に優しく「おはよう」の挨拶と笑顔をくれていたのは、自分を担当してくれていたナースさんは、()()()だったから。

 

 小雪はその事を思い、なにか切ないような寂しいような、悲しい気持ちでいる。

 小雪は自分の気持ちを隠したり、人知れず何かを我慢することが、とても上手な子である。だから設楽さんと居た時は、表面上は完璧に取り繕っていたが……でも胸に込み上げる感情までは、如何ともし難かった。

 

 小雪は、彼女のことが大好き。心から慕っている。

 あの力石という女性は、いつも「でゅふふwww」と笑いながら薄い本を持って来たり、小雪に変なことやエロい事ばかり教える、ぶっちゃけ変人だったのだが……。

 でも病院暮らしばかりで、あまり俗世に染まっていない小雪にとって、力石はまごう事無く“やさしい人”。

 綺麗だし、あったかいし、傍にいるとすごく安心できる。そんな“姉”のような存在だった。

 

 以前、ナースコールを押すことも出来ないままで倒れてしまった時も、真っ先にここへ駆けつけてくれたのが彼女だ。

 慌てふためきながらも、必死に「大丈夫!?」と声をかけてくれた。

 そして手術の時も、集中治療室にいる時も、ずっと手を握ってくれていた事を、小雪は憶えている。

 たとえおぼろげな意識の中でも、その優しさはしっかりと、届いていたのだ。

 

 この二年ほどの間、病気で身体がつらい時も、学校に行けずひとり寂しい時も、傍に居てくれた。一番近くで守ってくれた。

 呼べばすぐに、ピューッと駆けつけてくれた。

 ドア越しでもバタバタ煩いくらいに、ガン走りで廊下を駆けてくる音が、いつも聞こえていた。

 その大きくて必死な足音こそが、どれだけ力石に想われているかという証のように思えた。

 

 だからこそ信頼したし、力石といるのが楽しかった。

 彼女が傍に居てくれるだけで、いつも嬉しい気持ちになれた。幸せを感じたのだ。

 

 

 けれど……もう居ない。

 もう二度と、力石さんがこの病室に来てくれる事は無い。

 それは知っていた。でも嫌だった。認めたくなかった。

 

 もしかしたらって。

 何かの間違いだって。

 これもひょうきんな力石さんの、ちょっとしたイタズラなんだって、信じたかったのに……。

 

 でも今日、力石ではなく設楽さんが朝の検温に来た時……小雪は柔らかく笑みを返しながらも、悟った。

 もう力石さんとは、二度と会えないんだと。

 

「……」

 

 思考に沈んでいた意識を戻し、ふいに視線を横へ。

 部屋の角のあたりに詰んである、4つほどの大きなダンボール箱が、視界に入った。

 

 小雪はゆっくりとした動作で、ベッドから足を降ろし、床のスリッパを履く。

 そしてダンボール箱の所までトテトテと歩き、その上に置いてある一枚の便箋を、そっと手に取った。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 

 

【これあげる。私が頑張って集めた、()()()()()()()()()()()

 

【オネショタが5割、BLが4割、近親相姦もあるぞなもし。でゅふふwww】

 

 

【私ね、ここを辞めるの……。やんなきゃいけない事が出来てね? 行かなきゃ駄目っぽい】

 

【本当は、貴方が起きてる時に、ちゃんとお別れを言うのが筋なんだろうけど……。でも湿っぽくなっちゃうのは嫌だし、私きっと泣いちゃうからね】

 

【だから、このまま逃亡します。許しなさいwww 許しなさいwww】

 

 

【これから季節の変わり目になるし、身体には気を付けてね。体調が良いからといって、アホみたいにハッスルしちゃ駄目よ?】

 

【喜んでるトコ悪いんだけど、貴方はまだ“病人”なのよ。それは変えられないわ】

 

 

【なんで元気になったのかは、訊かない。……でもね? ()()()()()()()()()()()()()()

 

【私には隠してたみたいだけど、あの“白いヤツ”とはもう関わるな。二度とバカな真似はするな】

 

 

【地獄への道は、()()で舗装されている――――】

 

【蜘蛛の糸なんて、無いのよ。突然シンデレラのように、優しい魔女が助けに来たりはしない。……私は知ってる】

 

 

【だから、安易な救いに飛びついては駄目。それは“卑怯者”のする事よ】

 

【どんなに辛くても、目を開いて真っすぐ立ち向かいなさい。貴方は強い子でしょう?】

 

 

【貴方を本当に救ってくれるのは……流くん。貴方のお兄ちゃんなのよ】

 

【迷惑をかける事を恐れ、一人で解決しようとするな。貴方を大切に想ってくれている人をこそ、想え】

 

 

 

【それを忘れないでね。愛してるわ小雪ちゃん。       力石 徹子】

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 分からない。

 理由は分からないのだけど……ずっと“シンパシー”を感じていた。

 

 いつもニコニコしている力石が纏う、まわりとは違う独特の空気。決して人には見せない奥の部分。

 それを小雪は、なんとなしに感じ取っていた。

 ふとした瞬間に、彼女の目に宿る“孤独”、そしてどこか寂しそうな表情に、小雪だけが気付いたのだ。

 

 これまでの人生で、常に人の顔色を窺い、迷惑をかけないよう嫌われないようにと生きてきた。他人の感情の機微や、思っている事を敏感に察する事が、処世術だった。

 それに加え、形は違えど同じ“悲しみ”を抱えている小雪だからこそ、力石の特異性に気が付くことが出来たのだろう。

 

 だからこそ、あの力石をしても「一緒にいたい」と思った。心地よいと感じた。

 それは当然、小雪も同じ気持ち。

 

 小雪と力石。悲しみを背負う歪な者同士。

 彼女達はお互いにとって、まるで奇跡のように得難い“理解者”だったのかもしれない。

 

 いま手元にある便箋、その中に一緒に添えられていた、一枚の綺麗な押し花。

 前に作り方を教えてくれた。力石と一緒に色んな花を摘んでは、押し花の栞を作ってきた思い出が、小雪の胸をよぎる。

 

 

「たとえば、“もういちど力石さんにあいたい”。

 そんなキセキをねがうのも、いけないことなのかな……?」

 

 

 もうズルはしない。“心のお姉ちゃん”が言ってくれたから。

 立ち向かう。縋らない。お兄ちゃんと一緒に戦ってく。己の運命と。

 でも。

 

 

「マスターP――――」

 

 

 

 

 

 ふと、いつかあの人から聞いた“初恋の男の子”の名前が、口を突いて出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 目覚めれば、ボロボロの天井板……そして沢山の艦娘たちの顔。

 

「提督っ……! 気が付かれたんですかっ!?」

 

「もう三日も眠ってたのねっ! 良かったのね提督ぅ!!」

 

 目を開けた途端、爆発したかのように、この場が沸き立つ。黄色い声とは言えない……彼女達の涙ながらの歓声が、いつもの6畳間に溢れ返った。

 

「死んじゃうかって思ったっ……! 提督いなくなったら、どうしようって……!」

 

「このクズッ! なんでそんな無茶したのよっ! 私達がどんな想いでっ……!!」

 

「でも良かった無事で! あぁ、提督ぅ……! 提督だぁっ……!!」

 

 泣いてるんだか、笑ってるんだか、もうよく分からない顔。

 でも心から喜んでくれてる。誰もがP氏の傍に駆け寄り、布団の周囲はギュウギュウ詰。ワーキャー騒がしい。

 

 起きたばかりの、寝ぼけ頭。今だボーっとする意識。

 それでも……「帰って来たんだ」という事を実感する。

 自分が居るべき場所、いつもの日常に――――――――()()()()()()()()()

 

 

「あ、あのっ……提督っ!」

 

 団子状態になった人込みをかき分け、明石ちゃんがP氏の前にやって来る。

 その顔は、どこかうかない表情。明らかに周りの子達とは違う。

 

「私っ! そのっ……ごめんなさい!

 何にも、何にも知らないで……ただ戦え戦えって、提督に……」

 

 当然だ。明石この場でただ一人、P氏の戦いを見守っていた子だから。

 オペレーターとして、あの一部始終を見ていたんだから。

 

「その……あの“力石”って人は、どういう?

 いったい提督と、どんな関係で……」

 

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 

 

 少しばかりの間、沈黙に包まれた。

 明石はもとより、この場の子達も不思議な雰囲気を感じ取ってか、ただ黙ってP氏の方を見ている。

 重い静寂が、この場を支配。

 

「――――」

 

 立ち上がる。布団から。

 無言のまま、艦娘たちの中心で、P氏はどこでもない方を見つめながら、じっとその場に佇む。

 

 息が詰まる雰囲気。この場の誰も言葉を発する事無く、ただP氏の顔を見るばかり。

 一瞬かもしれない。だが明石にはこの時間が、永遠のように長く感じられた。

 そして……思わず訊ねてしまった“余計な事”を、心の底から悔いた。

 なぜ今の、傷心の彼に、そのような事を言ってしまったのかと――――

 

「少し出てくる。

 すまんが、今日の執務は無しだ。

 大淀、後を頼めるか?」

 

「えっ!? ……あ、はい! もちろんです提督っ!」

 

 秘書艦の一人であり、皆のまとめ役である彼女に声をかけ、そのままゆっくりと人込みをかき分けて、部屋を出ていく。

 明石の問いかけ、それに答えぬまま……。あっけに取られた顔をする皆にも構わぬままで。

 

 

「…………提督」

 

 

 ありえない、他ならぬ彼が……そう我が目を疑う。

 彼が通り過ぎた時、明石は彼の目尻に、涙の雫が光っているのを見た。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「よーお、P提督」

 

 アパートを出て、すぐ。

 近くにある児童公園。そこへ何気なく足を運んだ時、とつぜん眼前から声がかかった。

 

「ずいぶん遅いお目覚めだなぁオイ。いい気なもんだぜ全く……提督さんよぉ」

 

 ()()()

 彼女はまるで、P氏を待っていたかのように、遊具のポールに背中をもたれながら、じっと腕組みをして立っていた。

 

「こちとら散々待たされたんだ、御託はいらねぇ。単刀直入にいくぜ?」

 

 向き直る。まっすぐこちらへ歩き、すぐ目の前へ。

 

「んで? H()i()t()o()m()i()()()()()()()

 なんでアンタ一人なんだよ、提督」 

 

 先の件の負傷は、すでに完治している。

 艦娘である彼女は、特殊な装置による治療を受け、既にいつも通りの姿を見せている。

 何事も無かったかのように。いつもの日常そのもの。

 ……まるで、()()()なんて最初から居なかったみたいに。

 

「のこのこ帰って来やがって。なんで一人なんだ~って訊いてんだよ。

 ……ほら、早く会わせてくれ。

 オレぁHitomi付きの護衛なんだ。アイツがいなきゃ、役目を果たせねぇ」

 

 顔を突き合わせ、まっすぐ向かい合う。

 天龍の軽薄な笑み。へへっと声が聞こえそうな、嘲りの顔。

 対してP氏の表情に、色は無い。

 ただ彼女の目を見て、立ち尽くすのみ。

 

「――――ッッ!!!!!!!!」

 

 重い打撃音、そして彼が倒れ込む音が響いた。

 突然カッと目を見開いた天龍が、氏の胸倉を掴み上げ、殴りつけたのだ。

 

 

「 何やってんだよお前ッ!! 父親だろッ!! 護り手だろうがッッ!!!!!! 」

 

 

 そのまま飛びつくように駆け寄り、馬乗りに。

 今度は両手で氏の胸倉を掴み、激しく前後に揺らす。

 怒りのまま。癇癪を起した子供のように。

 

 

「 アンタともあろう者が、なんて様だッッ!!!!

  何故しくじったッ……!? なぜ助けなかったッ……?!

  腕をもいででも、足を引き千切ってでも、連れ帰らなかったんだッ!! 」

 

 

 すぐ真上から零れる涙が、ポタポタとP氏の顔を濡らす。

 グシャグシャになった天龍の泣き顔が、目の前にある。

 

「オレぁ……! オレぁ、()()()()()()()()()?!?!

 何があろうが、どんな時だろうが、絶対アンタなら何とかしてくれるってッ!!

 そうッ!! …………いつもッッ……!!!!」

 

 分かっているんだ。この人のせいじゃ無いと。

 彼はベストを尽くし、力の限りやったと。でもその上で、救えない命もあると。

 

 だが天龍は、言わずにはいられなかった。

 想いをぶつけずには、誰かに縋らずには、とてもいられなかった。

 

 この言葉は、怒りは、P氏に対してではない。()()()

 本当に大切な時に、アイツの傍にいられなかった。一人のうのうと気を失っていた、自分自身への怒りと悔しさだった。

 そのせいでHitomiを失ったという、耐え難い悲しみの慟哭だった。

 

 

「なんでっ……なんでアイツがっ!

 この町が好きって言ってたじゃねぇか! ずっとオレらと一緒にって!! そう言って……!」

 

「なのにっ! なんでそのHitomiがッ……!! Hitomiがぁぁあッ!!!!

 ――――なんでだよぉぉぉぉおおおおおーーっっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、怒声は嗚咽に代わり、全ての言葉は、その意味を失くした。

 

 子供のように縋り付き、声を殺して泣き続ける天龍。

 地面に横たわったまま、感情の無い目で、ただ空を見るP氏。

 

 

 青空。透き通るような空。あたたかく柔らかな日差し――――太陽。

 

 その全てが、二人には無意味。

 

 彼には、何の価値も無く、また意味の無い物のように映った。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 美星町は、今日も平和。

 

 はっちゃけた人々が繰り広げる、多少のドタバタはあれど、誰もが笑顔と平穏の中で暮らし、面白可笑しい人生を歩んでいる。

 

「……」

 

 ポタリと、今なんか頭頂部に、生暖かい感触がした……。

 たった今「カァー!」という鳴き声が空から聞こえたから、きっと真上を飛んでいたカラスに、フンでも落とされたのだろうと思う。

 思わず「ストライク!」と叫んでしまいそうな程、ちょうど()()()()()()()()に被弾した所が、流石は不運の“業”を背負う東雲であった。

 

 いつもなら、「ギャー!」だの「わー!」だのと大騒ぎする。涙目でグジグジしたりもする。

 テンションだだ下がりになって、しゅんとしちゃう所。どうせ私なんて……とネガティブな気持ちになる筈だった。

 

 けれど、今日はどこか趣きが違う。

 東雲はたった今起きた不幸の事など、ぜんぜん意に介すこと無く、それどころか頭頂部をハンカチで拭うことすらもせぬまま、トコトコと美星町を歩く。

 

 もうやるならやれ! とばかりの無駄に漢らしい(?)姿ではあるが……残念ながらそんなつもりは無い。

 今の東雲は、ただただ“そんなの気にしてる余裕は無い”というだけの話。

 次々と自らに襲い来る、いつものプチ不幸などに、構ってる暇は無いのだった。

 

「へいらっしぇー! 新鮮な魚だよぉー! 今日はデカい鯛が入ったよぉー!」

 

「クレープどうっすかぁー! 苺や桃やチョコバナナ!

 生クリームたっぷりのクレープ如何っすかぁー!」

 

「はいよっといでー! ヴァイキング的な両刃の斧だよぉー!

 クッソ重たい、何に使うのか分からない、バトルアックスの実演販売だよぉー!

 ほら奥さん! トマトもレンガも鶏肉も、この通りスパッと真っ二つ!」

 

 ヤングストリートにある店から、活気に溢れた声が聞こえる。

 店員さんが元気な声を張り上げ、そこに多くの人達が集まる。

 誰もが笑顔で、楽しそうな様子。まさに美星町といった明るい光景が、そこに広がっていた。

 

「……」

 

 けれど、東雲がそれに目線をやることは無い。足を止める事も、耳を傾ける事もしない。

 ただただ、急ぎ足で歩き去っていく。

 途中でガムを踏んづけたり、排水溝のドブに足を突っ込んだりしたけれど、それすら意に介さずに進んでいく。

 

 トコトコ、トコトコ、ヒールが固い音を立てる。

 継続して、同じリズムで、ずっと鳴り続ける。

 この場の賑やかな声には耳を貸さず、人々の幸せな光景など我関せずと言ったように、ただただ歩き続ける。

 

 だって、いま彼女の脳裏にあるのは、()()()の事のみ。

 おおらかで、明るくて、人懐っこい。そんな“おっきい妹”とも言うべき、愛すべき女の子の姿だけが、繰り返し繰り返し、頭に浮かんでいた。

 

 

 

 今日も、美星町は平和。

 誰もが幸せな日常を謳歌し、おもしろおかしく暮らしている。

 

 けれど闇の住人であり、裏秋月の当主である彼女には、あまり関わりのない事。

 

 ゆえに、今はただ、前だけを見て一生懸命に歩き続ける。

 悲しみや後悔ではなく、“決意と覚悟”の滲んだ目で。

 

 

 シノノメちゃん大好き――――

 

 

 あの花のような笑みと、愛らしかった声を、道しるべに。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「まったく……ひでぇ男だぜ。

 まさか“他の女”の墓作りを、オレに手伝わせるなんてよ」

 

 いくら部下って言ったって、オレの立つ瀬がねぇ。一応これでも女だぞ?

 そうグチグチ言いながら、帰路を歩く。

 提督と二人並んで、泥まみれになった服のまま。

 

「そっか……Hitomiの母親か。

 今回の一連の騒動は、ソイツの企てだったってワケだな」

 

 戦いを終え、昏睡状態状態から目覚めてすぐになるが、P氏が最初におこなったのは“Hitomiと力石”の墓を作る事だった。

 自分自身でもよく分からない感情、娘であるHitomiへの愛情、そして自分にとって“初恋”だった人の思い出を、全部いっしょに供養するように。

 

 といっても、そこに何を埋めたワケでも無い。ただ見様見真似の墓標的な物を作り、それを見晴らしの良い所におっ立てて花を添えただけだ。

 力石の名前すら刻まなかったのだから、きっと他の者が見れば、なんのオブジェだか意味が分からない事だろう。

 でも、それで構わないと思った。自分だけでもしっかり憶えていれば。

 

 最初は天龍も黙って見ていたのだが、やがてP氏の不器用さを見かねたのか、「しょうがねぇなぁ」って感じで手伝いをしてくれた。男である彼に代わって花を選んだのも彼女だ。天龍も意外と乙女なのか、花言葉とかも知っていた事には少し驚いた。

 

 二人とも、基本的には黙々と作業をしていたが、その途中、何気なく心から漏れ出すように、P氏から力石という女性の事を、語られたのだった。

 もう10年も前になる、七夕の思い出と共に。

 

「よぉ提督? オレは武骨だし……荒くれの艦娘さ。

 だから、『なに言ってんだコイツ?』って、思われるかもしれねぇけどよ……?」

 

 沢山泣いたからか、どこか清々しい表情をしながら、天龍が頬をポリポリとかく。

 

 

「きっと力石は――――報われたと思う。

 欲望とかじゃなく、心の底で本当にアイツが願ってた物を、アンタがあげたんだ」

 

 

 慰めとかじゃねぇぜ? ただオレだったらって……そう思うだけさ。

 照れ臭いのか、P氏と目を合わせないまま、前を向いたまま告げる。

 

「思い出したろ? 忘れてなかったろ?

 容姿が違っても、どんだけ時が経っても、ちゃんと『あの子だ』って見つけたじゃないか。

 だから提督は……約束を守ったよ。

 アイツが七夕にかけた願いを、叶えてやったんだ――――」

 

 詳しい事情は分からない。力石は何も語らなかったから。

 けれど、きっと力石は嬉しかったんじゃないかって、天龍は思う。

 P君は殺せないと、彼女が自ら死を選んだ事も、なんとなく分かるような気がした。

 同じ女性として。同じ人を想う女として。

 

 

「つーか、どんだけ女泣かせなんだアンタは。10年前に一度会ったきりって……。

 もし他に心当たりがあんなら、今のうちに言っとけ? 大人しく白状しやがれ。

 自分の提督が、色恋沙汰で刺されて死ぬなんざ、オレは御免だぜ?」

 

 

 まぁそれを言ったら、うちの連中(艦娘たち)も充分やりかねねぇが。龍田とかよ……。

 そんな怖い想像をしつつも、「へへっ」と笑い合いながら、アパートまでの道を歩いた。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

「あっ、提督! おかえりなさいでち!」

 

「おかえりなのね!」

 

 天龍と並んで帰宅すると、すぐに沢山の艦娘たちに囲まれた。

 みんな、どこかほっとした顔。きっといつもと違うP氏の雰囲気を感じ、心配してくれていたのだろう。

 余裕がなかったとはいえ、この子達を不安にさせてしまった事を、P氏は内心で反省。

 

「提督ったら、食事も摂らずに行ってしまうんだもの……。

 三日も寝込んでいたんだし、お腹空いてるでしょう?」

 

「そうだよ提督! ごはん食べよ! そーすれば元気出るよ!」

 

「じゃあ私、なにか作って来ますね♪

 よーし! 吹雪抜錨しまーす!」

 

「ぼくも手伝うよ。お米とお味噌汁はまかせて」

 

 和気あいあいとした空気。先ほどとは違って柔らかな笑みを見せているP氏の姿に、きっとみんな安心したんだろう。

 いつもの美星鎮守府、いつも通りの日常があった。

 あの地獄のような闇のセカイと、忘れがたい悲しみの面影は、そこには無い。

 

「すいませぇん。

 和んでる所、たいへん申し訳ないのですがぁ、“あの宝石”をお持ちですかぁ?」

 

「おん? ああ持ってるスけど」

 

 ゴソゴソとポケットを探り、かのセカイで拾った赤い宝石を取り出す。

 それを言われるまま、ポンと手渡した。

 

「ありがとうございますぅ、ではちょっとお借りしますねぇ」トテトテ

 

「えっ」

 

 Hitomiの形見とも言うべき、大切な物。

 それを受け取った()()は、「わーい!」とばかりにホクホク嬉しそうな顔で、P氏の傍を立ち去る。

 というか……なんでアンタいるの? いつ来てたの? なんで言わなかった?

 いくつもの疑問符が、P氏の頭に乱舞。

 

「よっし! じゃあ皆さん、注目して下さぁーい。

 アテンションプリーズ、ですぅ」

 

 部屋の中心……というか明石ちゃんに「よいしょ」と肩車をされながら、東雲が大きな声でみんなを呼ぶ。

 

「すでにある程度は、お聞き及びの事と存じますがぁ。

 実はPさんには、娘さんがいらっしゃるのですぅ。

 でも先日、少しばかり不幸な出来事がございましてぇ……。

 今はこの赤い宝石の中に、()()()()宿()()()()()()()、になってますぅ」

 

 わいわい、ガヤガヤ。艦娘たちが無邪気に色めき立つ。

 提督の娘? それどんな子だろ!? きっとメッチャ可愛い子だよっ!

 そんな風に誰もが、今ワクワクした顔で東雲を見ている。

 

 この場でたった二人……彼女が言った言葉の意味が分からずに、絶句しているP氏&天龍を除いて。

 

「こんな小さな宝石の中に、人の命が宿っているだなんてぇ、ちょっと荒唐無稽な話かもしれませんがぁ……そこらへんは『まぁ美星町だし』という事で、いったん置いといてくださぁい」

 

「ようは、何が言いたいのかと言うと……『家族がふえるよ! やったね○○ちゃん!(お好きな艦娘の名前をどうぞ)』って事なの。

 私の科学力と、東雲姐さんの家の秘術があれば、ちゃんとした一人の女の子として、この家に生まれる事が出来るって寸法!」

 

「「「おおおおーー! すごーーい!」」」

 

 肩に乗っている東雲の言葉を、明石が引き継ぐ。

 数日家を空けており、Hitomiを知らない多くの艦娘たちは、ただただ無邪気に「提督のお子さんに会える!」と喜び、大きな歓声を上げている。

 

「でもみんな……覚悟しといてね?

 ぶっちゃけこの女の子は、メチャメチャ可愛いし、暫くは提督も鎮守府も、子育てにかかりっきりになる事が予想されるから!」

 

「きっとこの場にはぁ、Pさんを慕う(狙う)数多くの子達がいらっしゃると思いますがぁ……暫くそういった事は出来ませぇん。ご遠慮くださぁい。

 なんたって、Pさんはパパになるのですからぁ♪

 ちゃんとこの子のお姉さんとして、育児や教育にご協力下さいますかぁ?」

 

「も……もちろんよ! たくさん愛してみせるわっ!」

 

「うん! あたしオムツ代える! ミルクも!」

 

「なら私は遊び相手! ずっと一緒にいるよっ!」

 

「抱っこしたい! 赤ちゃんだっこしたいよっ! 提督の赤ちゃんんん~~っ!!」

 

 みんな元気よく「はーい!」と手を上げる。

 普段は肉食系の鹿島やイクすらも、「ほわわ~ん♪」と喜びに満ちた顔をしており、まだ見ぬ提督の赤ちゃんに想いを馳せているのが分かる。

 はやく会いたい、抱きしめたいと、みんな胸いっぱいに希望を膨らませ、とても嬉しそう。

 

 やんややんやと囃し立て、パチパチと拍手が鳴り響く。

 どんな子だろうねー。早く顔が見たいなーと、やがてこの場は歓談ムードに。

 そんな中……未だポカンと呆けたままでいるP氏のもとへ、先ほどの二人がテクテクと寄って行く。

 

「提督……さっきはゴメンナサイ。

 貴方の気持ちも考えず、あまりにも不躾なことを言っちゃいました……」

 

 よいしょと東雲を床に降ろし、明石がペコリと深く頭を下げる。

 

「そのお詫びと言ったらなんだけど、明石は頑張りますっ! キラキラッ☆

 必ず提督の娘さん……Hitomiさんにもう一度、会わせてあげますからっ!!」

 

 心からの謝罪と、沈痛な面持ちから、一転してハツラツとした笑顔。

 その目はメラメラと使命感に燃え、「提督の役に立つんだ!」という気合に満ちている。

 

「あは♪ 勝手に決めてしまい、申し訳ありませぇん。

 Pさん、どうかご容赦下さぁい」

 

 そして、P氏に内緒で事を進めた片割れ、東雲がP氏の前に立つ。

 ちょっとすまなさそうに、でも強い意思の宿った瞳で、まっすぐPの目を見て。

 

「私の蟲獣使いの(わざ)が、お役に立つと思いますぅ。

 本来これは、決して褒められた物ではない、邪法とも言うべき秘術ですがぁ……」

 

 命を作り出すという、神にのみ許された行為。

 それを人の身で行い、しかも己の意のままに操るという、東雲の力。

 それに忌避感や嫌悪を持つ者も、いるかもしれない。

 汚らわしい邪法だと、そう罵られても仕方ないのかもしれない。

 

「けれど、『ずっとみんなといたい』と言っていた……」

 

 東雲が、そっとHitomiの宝石を胸に抱く。

 子を慈しむように。その命ごと抱きしめるように。

 

 

「私はあの子の願いを、叶えてあげたい――――

 その為なら、神をも貶めてみせますぅ」

 

 

 それを、どうか許して欲しいのですぅと、ペコリと頭を下げた。

 

「……なぁ、東雲さん?」

 

 ふいに、これまで黙り込んでいたP氏が、口を開く。

 

「それでもし、アンタが地獄に堕ちるんなら……、そん時は()()()()()()()

 神さんに拝み倒して、なんとかしてもらうから」

 

 なんといっても、自分はマスターPだ。

 英雄と呼ばれる(予定の)、美星町のヒーローなのだ。

 これから人々を救い、世界を救い、沢山“徳”を貯めるから。

 たとえ神様にだって、文句は言わせない。……むしろ無理を通して道理を捻じ曲げてみせる事こそが、英雄の条件だ。

 

 だから安心してくれと、P氏も東雲に、深々と頭を下げる。

 

 

「会いたい……今度こそ全力で守る。

 わいの持ってるモン、全部Hitomiにやるわ――――」

 

 

 

 

 

 わい、パパやからさ?

 

 そう涙を零すマスターP氏が、ニコッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 あれから、少しばかりの時が流れた。

 

 

「うわぁ……! ちっちゃい!

 こんな可愛くなってまぁ……!」

 

 無事怪我が治り、東雲に付き添われながらP氏のアパートを訪れた“のどか”が、小さな赤ん坊がいるベビーベットを覗き込む。

 そっと。宝物を見つめるように。

 

「なんて愛らしいんだろう……。

 ごめん、私泣きそうだぁ……。

 なんかもう、色々な感情が『わー!』ってなっちゃって……」

 

 長い入院生活を終え、ようやく退院した彼女は、いの一番にここを訪れた。

 何を置いても、どうしても待ちきれず、会いに来てくれたのだった。

 

「ちっちゃな手……すごく柔らかい。

 もう私、なんでもしてあげたいって気持ちだよ……。愛しさが込み上げて来るもん……。

 これが赤ちゃん……。“命”なんだね」

 

 思わず零れてきた涙を、メガネをずらしてクシクシ拭いながら、のどかはまるで母親のように柔らかく笑う。

 とびっきりの笑顔を、この子に見せる。

 

「はじめまして、じゃないよ?

 私はのどか、貴方の友達♪

 やっと会えたねHitomi……またいっしょに遊ぼうね」

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

「来んなぁ! あっちいけロリコン!」

 

「Hitomiちゃんには近付けさせないのですっ! ぜったいなのですっ!」

 

 アパートの玄関の前で、第六のロリっ子艦娘たちが、わーわー騒いでいる。

 

「なっ……何故ですか!?

 私はただ、皆さんにボルシチのおすそ分けを……!」

 

「そんなこと言って、Hitomiちゃん目当てだろう?

 あの子を見に来たに決まってるよ!」

 

「それにかこつけて、隙あらば攫っちゃうつもりねっ!

 だってロリコンだもんっ! ロリコンならやりかねないわっ! ロリコンはクズよ!!」

 

 ディーフェンス! ディーフェンス!

 そんな風にみんなで肩を組みながら、壁を作ってセキゾノフさんをインターセプト。部屋への侵入を防ぐ。

 

「くっ、致し方ない……!

 実はねみんな? 私はロリコンじゃなく、()()()()()()

 だからHitomiちゃんを見t……じゃなかった、部屋に入れてくれないかな?

 ボルシチも美味しく出来たんだよ……」

 

「あ、そーなの? だったら大丈夫ね!」

 

「ロリコンじゃないなら安心なのですっ!

 ホモの通行を許可するのですっ!」

 

「ハラショー」

 

 内心で「うう……!」と血の涙を流しながら、なんとかお部屋に入れて貰えたセキゾノフさん。

 まだ幼いHitomiちゃんでも食べられるよう、しっかり柔らかくなるまでボルシチを煮込んだので、きっと喜んで貰える事だろう。

 

 苦労人だし、なんだかんだあるが、彼も幸せにやっているようだ。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

「信じられん……ワイは夢を見とんのか?」

 

 P氏のアパートにお邪魔し、のほほんと茶をしばいていたチョコ太郎。

 

「すごい……()()()()()()()()()()チョコ太郎」

 

「ありえないですぅ。天変地異の前触れですぅ」

 

 驚愕に目をひん剥く裏秋月の二人。

 それを余所に、いま胡坐をかいて座るチョコ太郎のお膝に、ハイハイで近寄ってきたHitomiちゃんが、うんしょとよじ登って見せたのだ。

 そのままチョコおじさんのお膝に居付き、機嫌良くキャッキャと笑っているではないか。すんごい懐かれているのだ。

 

「確かに“嫌悪の業”は、力を持つ者には効かないよ。

 でもHitomiちゃんは……」

 

「この子は通常の何十倍ものスピードで、すくすくと育ってますがぁ、でもまだ2~3歳児ほどの子ですぅ。

 とても“業”を跳ねのけるような力はぁ……」

 

「っ!? っっ?!?!」

 

 チョコおじさんの胸元にしがみ付き、顔を見上げてにぱーっ☆ と笑っている。

 まるで「おじさんあそぼ♪」と言っているかのような、無邪気で愛らしい姿だ。

 

「すまん二人共、席外してええか……?

 ワイちょっと家帰って、3()0()()()()()()()()

 

「――――なんでだよ! いま享受しろよチョコ太郎!」

 

「せっかくの幸せですよぉ!? 感涙する前に、だっこなさぁい!」

 

 

 男性の中ではだが、実はHitomiはパパの次くらいに、チョコ太郎を好いている。

 いつも彼が遊びに来た時は、キャッキャ言いながらヨチヨチと寄って行き、そのお膝を占領。

 彼の方もアワアワしながら、本を読んでやったり、一緒におままごとをしたりと、いつも忙しい様子。

 

 なんの自覚もなく、むしろ「あん時は悪い事してもうたな……」と罪悪感を抱いているチョコ太郎は、とつぜん降ってわいたような物凄い幸せに、戸惑いを隠せないのだった。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 

「いや悪いけど、Hitomiちゃんはウチに入るから。

 手を出さないでくれるかな? 胡散臭いじゃんお前の所」

 

「何を言ってるの? ComeTrueに決まってるでしょ。

 オールインワンみたいな落ち目の組織、彼女が可哀想だよ」

 

「あぁコラ? おお?」

 

「?」

 

 某所の喫茶店。

 テーブルを挟んでガンを付けるハセ・ガワ氏と、それを平然と受け流すミスター慧眼人くんの姿があった。

 

「いやだからぁ! もうちょっと大きくなったら、ウチでスカウトするって!

 オールインワンには魔法少女の子達もいるし、友達には事欠かない! 安心だろうが!」

 

「君には、人材を活用する能力が皆無だよ。宝の持ち腐れさ。

 それに、人をまとめる力も全然足りないもの。

 見なよ? ()()()()()()()()()()()()()

 人を見る目も無いクセに、誰でも信用してホイホイ入れちゃうから、あんな酷い事になるんだ」

 

「――――表出ろゴラァ!! 膝叩き込んだるわショタっ子ぉぉぉーーッッ!!!」

 

 

 ひとり我関せずでパフェをつつくテンジクボタンちゃんの、「なんならアタシ引き取ろっか?」という声を余所に、今日もわーわー喧嘩し合うのだった。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

「おっ! Hitomiちゃん、おつかいか?

 もうひとりで出来るんだな~! えらいなぁ~」

 

「野菜はいらないか? いっぱいオマケしちゃうぞ?

 今日な? 手の平よりデッカイ椎茸が入ったんだ! スゲェだろぉー!」

 

「あ~らHitomiちゃん、こんにちは♪

 うちの人がHitomiちゃんの為にって、新作のシュークリームを作ったのよ~。

 ほら、明るい緑色で、すごくカワイイでしょ? ひとつ試食してみて♪」

 

 商店街の人達が、Hitomiを見かける度に、朗らかに声をかけてくれる。

 誰もが優しい笑みを浮かべ、心から彼女を愛してくれてる。とても大切にしてくれている。

 

 ちなみにであるが、P氏はあの騒動の後、無事に美星町の町長に()()()()()()、この子は町長の娘さんとしても有名人。

 なんか美星町のアイドル的な存在というか……、むしろもう「美星町のみんなで育てちまおうぜ!」みたいな雰囲気すらあったりする。真面目に。

 

 市役所や消防署のポスターに、Hitomiが登場していたりもするし、駐車違反だの万引きだのを注意するポスターに出れば、その効果で件数が激減したとかなんとか。

 あれか、「この子の前で悪事は出来ん」みたいな事か。

 美星町の住人は、みんなバカというか、単純というか……。

 

 彼女の持つ、まるで新緑の葉のような、明るい緑色の髪。

 もしかしたらそれが、町の人々に安らぎや癒しの印象を、与えているのかもしれない。

 

 とりあえず、いま美星町は【Hitomiちゃんフィーバー】なのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「いけるかHitomi? 届きそうか?」

 

 そして、ある日の晩。

 

「気を付けろよ付けろよ~。

 まぁしっかり支えてっから、のんびりやりましょうねェ! そうしましょうねェ!」

 

 アパートの前で、大好きなお父さんに肩車をされている、Hitomiの姿があった。

 

「しっかり結ぶんだぞ? 後でおっこちないよう、キュッってやるやで。キュッって」

 

「うんっ」

 

 二人の前にあるのは、長門にひとっ走りして採って来てもらった、大きな笹。

 そしてHitomiの小さな手にあるのは、短冊の紙だ。

 今日は7月7日――――待ちに待った七夕の日。

 パパの肩に乗ったHitomiが、よいしょと一生懸命に腕を伸ばし、枝に自らの短冊を括り付けている。

 

 家族である艦娘たち、背丈が近いので姉妹のように仲が良い第六駆逐隊の子ら、そして沢山の美星町の友人たちと一緒に、織姫と彦星にあてて願いを届ける。

 今この場の誰もが、厳かで神聖な儀式を見るようにして、P氏とHitomiという親子の姿を見守っている。

 

「おっ、でけたか?

 しっかり結べとるやないかHitomi! やりますねェ!

 どれどれ、わいの娘は何を書いたのかなっと……」

 

「あっ、だめー!

 パパみたらだめーっ! えっち!」

 

「うおっ……!?」

 

 ポカポカと頭を叩かれ、狼狽える。

 この子はまだ5歳児くらいの大きさなのだが、すでに力は成人男性と同じレベル。

 しかもちょっとしたアスリートにも引けを取らない筋力を誇るので、ぶっちゃけマジで痛い。

 北斗神拳のP氏でなければ、脳震盪くらいは起こしていたかもしれない。

 

「だれかに、みられたら、おねがい、かなわなくなる。

 パパ、めをとじてて」

 

「えっ、そんな縛りあった……!? わい聞いた事ないぞ!?」

 

「そんなきがする。

 というか、あたちが()()()()()()()()

 

「 ――――全部お前ルールかHitomiッ!! この家も美星町も、七夕すらも!?!? 」

 

 父親の威厳? そんな物ここには存在しない。

 こいつら全員デレッデレだからね? Hitomiの言う事は絶対なのだ。少なくともこの町においては。

 

「なに書いたんだよーう。言えようHitomiィー。ほら来いよ来いよー」

 

「だめ。ないしょ。

 ぐたいてきに、いうと、らいねんまでないしょ」

 

「来年なったらええの? それも今決めたんかHitomi?」

 

「あたらしいねがい、かくまで。

 でもあたち、たぶんまたおなじこと、かくから。

 じっしつ、ずっとないしょの、システム」

 

「もう墓まで持っていくつもりだな。

 七夕ってそんな重かった? わいの知ってるヤツと違う」

 

 ちっちゃなおててで、ギューっと目隠しをされながら、P氏が「うーん……」と首を傾げる。

 その様子を東雲が、慈愛に満ちた表情で、微笑ましく見守る。

 ヘルキャットの二人も凄くはしゃいでるし、のどかなんてさっきからパシャパシャ写真を撮りまくってて、とても忙しそう。

 でもきっと、これも良い思い出になるハズ。

 

「どうせアレだるォ?

 大きくなったら天龍と結婚してェとか、共産主義をこの世から撲滅してェとか、おにぎりせんべいを腹いっぱい食いてェとか、そんなだるォ?

 パパにはお見通しだぞォ~?」

 

「ばか、ちがう。ばか。

 アホのさんかいきゅうせいは。どうてい」

 

「まぁ安心しろ。少なくとも将来、“大統領秘書”にはなれっからさ?

 なんたってわいは、チュニジアをどげんかする男だかんなァ!

 Hitomiも手伝ってくれよな!」

 

「うん、それはやる。

 おっぱいのおおきい、びじんひしょになるね?」

 

「おうっ! いいですねェ! 頼むよ頼むよー」

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

 二人は手を繋ぎ、住み慣れた家へと帰っていく。

 仲間たちもゾロゾロと後に続き、やがてアパートの方から、とても賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 

 

 今、この大きくて立派な笹に飾られているのは、色とりどりの短冊。

 美星町に住むみんなの願いが詰まっているかのように、沢山たくさん飾られていてカラフル。まるでクリスマスツリーみたい。

 

 その中で一番たかい枝にあるのが、パパに肩車をしてもらい頑張って括りつけた、Hitomiの短冊だ。

 

 あの子の髪と一緒で、緑色。

 覚えたばかりのひらがなで書いた、まるっこくて愛らしい文字――――

 

 

 

 

 

 

【ぱぱやみんなと、ずっといっしょ(かくしん)】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――fin――

 

 

 

 

 







・原作、ストーリー構成参考

【天地無用! 真夏のイヴ】
【マジンガーZ】
【艦隊これくしょん】
【アーマードコア4】


・キャライメージ曲

 マスターP  【JUVES】(Diggy-MO')
 Hitomi    【Lovin' You】(Minnie Riperton)
 力石 徹子   【蛍】(鬼束ちひろ)



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