ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイ (牢吏川波実)
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エイプリルフール 1年目
【精神的なダメージを受けながら】嘘予告+α【なんとか執筆できた】


 初めてのエイプリルフール小説。嘘の加減が分かりませんがご覧ください。


 ソードアート・オンライン。それは、ゲーム業界における新たな希望。に、なるはずだった。

 

「どういうこと……」

「嘘、こんなの冗談……だよね」

「こんなのって、ないよぉぉぉぉ!!!」

 

 突如始まったデスゲーム。ゲームオーバーは死を意味する。

 次々に現実世界からもリタイアするプレイヤーたち。

 奪われた悲しみに慟哭する無限とも思える人々の嘆き。

 しかし、その中でもなお、前に進もうとしていた者たちがいた。

 

「文字通り、ノーコンコンテニューしか方法はないってことですか」

「それじゃ行きましょうか、五代さん!」

「「ハルヒィィ!!」」

「こんな私でも、何かできることがあったら嬉しいなって、そう思ったんです」

「馬鹿……ばっ華恋ッ!!」

「どうする気?」

「決まってる! こんな馬鹿げたゲームをとっととクリアして、ソウゴのところに帰る!」

「ほのかやひかり、メップルたちのところに帰るためにもね!」

「フミコ? 聞いたことのないPCね……?」

「ほら、1000からフミコ、つまり235を引くと僕たちが知っている人の年齢になるんだ」

「またこのパターンかよ!!」

「でも、今度は学校ごとじゃなくてよかったわね」

「私のせいだ。私のせいで二人の人生を、なのはに救われるはずだった人たちの人生も……私のッ!」

「絶対、大丈夫だよ」

「プロデューサーさん、皆……私たち必ず帰ります! だから、私たちの帰る場所を守って待ってて!」

「このボス戦、絶対に犠牲者は出しません! 手はず通りに、パンツァー・フォー!!」

 

 そして、その生死の境をさまよう戦いの裏で同じく戦っている。

 現実の者たち。

 

「そんなッ、アリサ……すずか……なのはぁ!!」

「たのんだで、シグナム……」

「母上……茉子」

「祭りを取材しに行って神輿を担ぐ奴ってのは分かってたけど、まさかこんなことになるなんてな」

「先輩たちがいない音楽室は、とても静かで……まるで、私一人が世界に置いてけぼりを喰らったみたいで……」

「なら、後はワルプルギスの夜を超えれば、まどかの未来は……」

「『愛する人が死ぬことはあり得ない。何故なら、愛は不滅だから』……あなたがいないと、お茶会もつまらないわね」

「約束して、華恋ちゃん」

「もちろん。またみんなでスタァライトしよう」

「帰ってくるって、信じてるからな天道」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている?」

 

 アインクラッド。そこで待つのは茅場晶彦も想像していなかった世界だった。

 浸食される日常。

 闇の中にある未来。

 書き変わる世界。

 この物語は、誰が中心でもない。

 この物語は……。

 

 

 

 

「生きとし生ける全ての人間が何かしらの主人公だ」

 

 

 

 

新連載!!

 ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイズ

 ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイズ 外伝 

 

「スグ……ひとりぼっちにして、御免な……」

 

2024年11月8日 連載スタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 になるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 

ネジル「えぇ、この予告を読んでくれてる皆様おはネジようなのだ!」

 

ヘボット「ここからは俺様ヘボットとネジルがこの小説の主要キャラになる予定だったキャラと色々としゃべっていくコーナーになるヘボ!」

 

ネジル「でもそのまえに……」

 

予告(真)他10の話

 

ネジル「はい、上の本当の予告だったものに向けて……黙祷ぉ!」

 

ネジル「……」

 

ヘボット「……」

 

なぎさ「……」

 

みほ「……」

 

春香「……」

 

まどか「……」

 

士「……」

 

士「おい、いきなりなんだ?」

 

ネジル「気を取り直して! 僕様は、司会進行を務めさせていただきますネジルなのだ!」

 

ヘボット「ヘボは、ヘボいボキャボット! ヘボットヘボ!」

 

ネジル「そしてゲストにお越しいただいたのは、ベローネ学園3年生の美墨なぎさ!」

 

なぎさ「よ、よろしく」

 

ネジル「大洗学園二年、西住みほ!」

 

みほ「よろしくお願いします」

 

ネジル「765プロ所属現役アイドル! 天海春香!」

 

春香「よろしくお願いします!」

 

ネジル「見滝原中学校二年、鹿目まどか!」

 

まどか「えっと、よ、よろしくお願いします」

 

ネジル「そして、この小説には登場予定がないけど特別にお越しいただきました! 仮面ライダーディケイド、門矢士!!」

 

士「言っておくが、お前らにも出る予定はないぞ?」

 

ネジル「では早速……って」

 

ネジル・ヘボット「「そうなのぉぉぉ!!??」」

 

ネジル「ちょっと待つのだ! だったらどうして僕様たちがここに呼ばれたのだ!」

 

ヘボット「そうヘボ! わざわざエイプリルフールの一発ネタの司会に選ばれたからには、本編でもそれ相応の出番があってもいいヘボ!!」

 

ネジル「大体! スパロボに出れば世界観の大元を担うと言われている僕様たちが多重クロスオーバー小説に出れないでどうするのだ!!」

 

ヘボット「責任者、でてこいやぁ!!」

 

まどか「えっと、この二人はなにを言ってるのかな?」

 

春香「さぁ……」

 

なぎさ「あ、カンペが出てきた。えっと……メタネタ、楽屋ネタを何の躊躇もなく出せるキャラは限られているから……だって」

 

ヘボット「それもそうヘボね」

 

ネジル「そっかぁ~」

 

みほ「納得するんだ……」

 

士「俺もこいつらと同じ枠なのか……」

 

ネジル・ヘボット「露骨にガッカリしてるぅ!」

 

士「それで、なんださっきの黙祷というのは」

 

ネジル「あぁ、あれはこのエイプリルフール小説を投稿しようと思った時に考えた嘘予告なのだ」

 

ヘボット「あと、実はさらに7つほどの話もすでに書いていたヘボ」

 

ネジル「が、しかし大人の事情でこの小説の中心になるはずだったアニメ作品がクロスオーバー小説投稿が制限されたのだ」

 

ヘボット「さらに、それの影響でそのアニメだけじゃなく、そのアニメを展開している会社の作品二つもお蔵入りになったヘボ」

 

ネジル「それだけじゃなく、ほかにも二つのアニメ作品が出せるのか不明瞭になって合計5つの参戦作品に影響が出たのだ」

 

ヘボット「まだまだ続くヘボ! さらにさらに、その参戦作品があったからこそ出そうと思った参戦作品一つを出す意味がなくなってしまったから出せず」

 

ネジル「そして、中心的作品が無くなったことによる世界観への影響で作者の頭の中であるアニメキャラがSAOに閉じ込められた友達を殺しかけ、自殺未遂をするほどに追い詰められてしまったヘボ」

 

なぎさ「なんだか、結構な影響が出てるんだけど……」

 

士「合計7作品……いや、小さな物も含めてもっとたくさんの作品に影響が出ているんだな」

 

みほ「それで、この小説もお蔵入りに……」

 

ネジル「させないのだ!!」

 

みほ「え!?」

 

ヘボット「例の作品のクロスオーバー、それがOKだとなった時点で、この小説に登場させることにしたヘボ!」

 

まどか「で、でもそれっていつの話?」

 

士「それにだ。どれだけ上手く構成したとしても、そんな中途半端で出せるわけが……」

 

ネジル「大丈夫なのだ! これをみるのだ!!」

 

士「それは……なるほどな、確かにこれを使えば上手くいくかもしれない」

 

春香「それって、何ですか?」

 

士「時がくれば分かる」

 

ヘボット「そして、他二作品に関しても作者的には同じ轍を踏みたくないから入れる予定はなかったヘボが、もう破れかぶれで参戦することになったヘボ!」

 

まどか「え? それじゃ、なんでお蔵入りになったって……」

 

士「まっ、恐らく参戦作品の関連作品から本当にお蔵入りになった作品が何なのかを暗に知らせる為だろうな」

 

なぎさ(なんだか、少しだけ女々しい気がするけど……)

 

士「というか、いいのか? 他に小説を四つも投稿して、内多重クロスオーバー物が3つもあるというのにさらにもう一作品多重クロスオーバー物を投稿するのは?」

 

ネジル「あふれ出る好奇心を抑えきれないということなのだ」

 

ヘボット「大体、この小説はエイプリルフールのネタだから何を言っても問題ないヘボ!」

 

みほ「それを言ったら……」

 

まどか「おしまいじゃないかなって……」

 

ネジル「まぁ、とりあえず現在予定している参戦作品一覧を出してお開きということにするのだ!」

 

ヘボット「どうやら本当の予告編執筆で力を使い果たしてこれ以上のネタは出てこないらしいヘボ」

 

ネジル・ヘボット「「ってなわけで! 皆さん、さよ~なら~!」」

 

???「え? あの、俺は?」

 

士「ん? あぁ、忘れてたな。スペシャルゲストを予定していたキリトだ。以上」

 

キリト「え? それだけ!? ちょっと待ってくれ、え? 本当に終わりなの?」

 

 

キリト「終わったぁぁぁぁ!!?」

 

なぎさ「ねぇ、これネタだとしても雑過ぎない?」

 

春香「アハハ……まぁ、エイプリルフールの話だから……」

 

まどか「書いてもらいたいな……そうすれば、私がハッピーエンドで終われる作品が……」

 

みほ「な、なんだか重い言葉が隣から……」

 

ウォズ「では、最後に予定している参戦作品の一部の公開と行こう」

 

ネジル・ヘボット「「誰あなたぁ!?」」

 

参戦作品

・プリキュアシリーズ

・仮面ライダーシリーズ

・スーパー戦隊シリーズ

・THE IDOLM@STER

・ガールズ&パンツァー

・魔法騎士レイアース

・魔法少女まどか☆マギカ

・魔法先生ネギま

・轟世剣ダイソード

・.hack?

・けいおん

・涼宮ハルヒの憂鬱

・桜蘭高校ホスト部

・少女歌劇レヴュースタァライト

 他多数参戦考慮中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイプリルフールが本当になる確率47.6%くらい

 

 100%、いや1000%出ない作品

・鬼滅の刃

 

キリト「エイプリルフールだからって何をやっても許されると思うなよ?」

 




 例のガイドライン、色々な人の意見を聞く中で、私の中で一つの結論を導きました。
 ただ、いざとなればやっぱり怖いので、今後1年間、非営利二次創作作家逮捕等がなかったらこの小説は動き始めるかもしれません。その頃には小説一つくらい完結してると思いますし(フラグ)。

 エイプリルフールとはいえ流石に内容が無いようなのと、小説以外の投稿になることを防ぐためおまけとして、既に執筆していたなかから4つを用意しました。???は、上記の参戦作品にはない作品です。

SAO×??? 8時投稿
SAO×.hack? 9時投稿
SAO×??? 10時投稿
SAO×仮面ライダー 11時投稿


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ある生徒会のどこにでもある日常(元タイトル:SAO×生徒会役員共)

 桜才学園。少子化の影響で数年前に女子校から共学校となったこと以外にこれといった特徴のない普通の公立校である。

 しかし、それは学校という一つの物で見た場合のもの。その場所に通学する生徒のごく限られた物たちがかなり個性的であるのだ。

 

「まずいな、放課後は会議があるのに……」

 

 廊下を走らない程度で急いでいるのは津田タカトシ。桜才学園生徒会副会長である彼は、諸事情で担任の先生の話を聞いていて生徒会の大事な会議に遅刻しそうになっていたため急いでいるのだ。そして、そんな彼がようやくのおもいでいつもの生徒会室に現れたのはそれから数分後のことであった。

 

「すみません遅れました!」

「遅いぞ津田!」

 

 部屋に入って早々の彼を叱責したのは生徒会長天草シノ。文武両道で成績優秀である彼女は、厳しい一面があるもののしかし、時に柔軟な態度で生徒たちに接し、よく相談事に乗ったりしている。

 

「全く、今日は大事な会議があると言っておいただろう。なにをしていたんだ?」

「えっと、教室で先生に進路について話がありまして……」

「そうか、もうそのような時期になったのか……」

 

 時期はすでに秋。高校2年である津田タカトシにとって将来を決めるための大事な時期である。これと言ってやりたいことがあまり見つかっていない津田にとって、将来どんなことをしたいのかという決定を早々に決めるにはやはり厳しいものがあった。

 

「よし、なら今日は私が進路相談に乗ってやろう」

「え?会議はどうするんですか?」

「無論、早目に終わらせよう」

「それは助かります」

「しかし、早めに終わらせるのは今回だけだぞ」

 

 会議という若干退屈なものがすぐに終わるのもそうであるが、生徒会長であるシノが相談に乗ってくれるというのだからかなり助かる。

 見て分かるとおりシノは見た目も、行動もここまでは欠点もなにもにあような人間に見える。しかし、それは彼女に関するある一面を目撃していないからそう感じるだけだ。そう、完璧人間天草シノ、その最大にして最低の欠点というのは……。

 

「癖になってしまったら早○になってしまうからな!」

「そんな心配ノーセンキューです」

 

 これである。そう、彼女は極度の思春期であるのだ。

 いや、思春期であるから下ネタをいうというのではただの偏見となってしまうので、これは彼女独特の思春期であるといっても良いだろう。

 そう、彼女はことあるごとに下ネタを臆面なく、時に大声で発するという大きすぎる欠点を持っているのだ。

 生徒会長である彼女がそのような性格を持つ人物であるというので有れば、一見して生徒からのにんきはだだ下がりであるのではないかと思われる。しかし、前述したとおりこの学校は元女子校。このような性格の人物が1人や2人いるだけでは動じないのだ。

 

「ちょっとシノちゃん!津田くんがかわいそうよ!」

 

 そう言ったのは七条アリア。この生徒会の書記を務めている人物だ。彼女も文武両道の多才な少女で、一見してこのセリフも津田に対して放った下ネタを嗜めているように見える。

 

「一度癖になったらちょっとやそっとじゃ治らないのよ」

「そ、そうかすまん津田。それじゃまずはゆっくりから始めるか」

「ほほう、なぜ俺が既に手遅れだと?」

 

 だが、そこは桜才学園生徒会。彼女もまた極度の重病の思春期であり、津田を助けるどころかシノに対して助け舟を出す始末である。あと、先ほどから津田が先輩2人に対してかなり乱暴な言葉遣いになっているのだが、それは両者の信頼関係がなりたっているからこそと言えよう。

 

「会長早く始めましょう。もう時間も押してるんですから」

「おっとそうだったな、すまない萩村」

 

 シノに対して意見したのは、生徒会室の真ん中のパイプ椅子に座っている少女、萩村スズである。一見して小学生のように見える少女ではあるが、こう見えてもタカトシと同じ高校2年生の17歳。しかもこちらもシノやアリアに負けず劣らずの優等生で、IQ180を誇る帰国子女、10桁の暗算も余裕でこなし、英語も堪能なまさに天才といっても過言ではない少女だ。

 さて、この生徒会に会計として所属している彼女ではあるが、ここまでのパターンであれば、この少女もまた……。

 

「では、スズがどんな人生設計を持っているのか教えてくれないか?」

「え?会議はどうなったんですか?」

 

 と思うのではあるが、不幸中の幸いにこのスズはほか二名のように下ネタを発することは無く、むしろタカトシと同じくシノやアリアの下ネタ等々に対しての突っ込み役である。といっても突っ込み力に関してはタカトシのほうが一枚上手であり、以前タカトシが風邪で寝込んでしまった時、たった一日一人で突っ込み役を引き受けた際には次の日にはぐったりとし、全快したタカトシに笑顔で抱き着いてしまったほどだ。

 とはいえ、タカトシにとってもシノとアリアのボケに対してたった一人で突っ込みをこなすのは難しいため、スズが突っ込みを一緒にやってくれるというのは大変心強いことなのだ。

 

「おっとすまない。実は今回の会議は学校の事ではないのだ」

「え?」

「じゃあ何です?」

「うむ、それはアリアから話してもらう」

「皆は、ソードアート・オンラインってゲーム知ってる?」

「えぇ、世界で初めてのVRMORPGでしたよね」

「TheWorldと違ってキーボードやコントローラーを使うんじゃなくて、自分の身体を使って遊ぶゲームでしたよね?」

「うむ、実はアリアの会社がソードアート・オンラインの開発へ出資していてな」

「その縁で、ソードアート・オンラインとナーヴ◌〇〇を8つもらえることになったの」

「津田、言い間違えは訂正したほうがいいわよね」

「チッ、聞き間違えじゃなかったか」

 

 正確にはナーブギアである。なお、アリアがなんと言ったかに関しては、スルーしておいた方が得策であるので、ここでは触れない。

 

「でもすごいじゃないですか。あれって初回1万個しかなくて、手に入れるのは難しいってネットで話題になってましたよ?」

 

 ともかく、アリアの想定外ともいえるような言い間違えで驚きは減ってしまった感はあるが、それはそれとして貴重な1万分の8をアリアが持っているというのはすごいことであると言える。

 

「そうだ!1『万個』だ!」

「いやそこ強調しなくていいですから」

「でも、8つということは、私たち4人のほかにあと4人誘えるってことですよね?」

 

 そう。生徒会役員はここにいるシノ、アリア、スズ、そしてタカトシの四人だけ。なので、ほかに4人集めなければならない。

 

「うむ、そこで残り4つを誰に渡すかを議論しようと思っている」

「でも、俺たちの知り合いにゲーム好きの人っていましたっけ?」

「心当たりありませんよね……」

 

 この学校の他、他校にも知り合いの多い4人ではあるが、あいにく彼らにはそういったゲーム好きの友人のあては存在しなかった。となれば……。

 

「とりあえず1つ目はコトミにあげるというのはどうだろう?」

「コトミにですか?」

「うむ……彼女には以前生徒会を手伝ってもらった恩もあるからな」

 

 コトミというのは津田タカトシの妹で、思春期の高校一年生である。シノのいう以前というのは、タカトシとスズの二人が修学旅行で沖縄へといった際に手薄となった生徒会を手伝ってもらった時のことだ。といっても、残ったシノとアリアの実力もあって戦力になったとはいえない活躍だったのだが。

 

「身体を動かすゲームなんですから、運動神経のいいムツミにも上げたらどうですか?」

「おお、そうだな!それはいいかもしれない」

 

 ムツミはタカトシやスズと同じ2年生の柔道部部長の少女。ちなみに彼女はこの学校においては珍しいほどに性に関しては無頓着、いや純粋無垢といったほうが正しいだろう。とにかくタカトシやスズにとっての癒し的な存在であると同時に、シノやアリアその他諸々に毒されないかと悩みの種ともなっている存在である。

 

「となるとトキさんにもあげたらどうですか?」

「そうだな、コトミにとっても気の許せる仲の人間がいるのはよいことだろう」

 

 トキもまたムツミと同じく柔道部に所属している。こちらは高校1年生でコトミの友人であり、タカトシがいない場所でのコトミに対しての突っ込み役である。空手の有段者で、本人曰く複数人を同時に相手取ることが可能であるそうだ。

 

「あっという間に3人決まっちゃいましたね」

「といってもまだ本人達に許可取ってませんけどね」

「うむ……となると、残る1人が問題だが……」

 

 そう。残る1つを誰にやればいいか。新聞部の畑、風紀委員のカエデ、ロボット研究部のネネ、はたまたコトミやトキと同じ柔道部の誰かや担任の横島という手もある。

 

「残り一個ってなると悩みますね……」

「うむ、まさにSAOのハーレムプレイだな」

「いやゲームだからってその例えは無しでお願いします」

「それじゃSAOの輪〇プレイ?」

「訂正して悪化してどうする!?」

 

 果たして、残り一つのSAOの行方はどうなったのか、それは11月7日に明かされることとなる。



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hack//死亡遊戯(元タイトル:SAO×.hack)

 この場所に来るのは久しぶりだ。オレンジ色を基調とした服と頭巾、そして青色の髪の少年は、そのエリアのゲートを背にして感慨深く思っていた。

 ヨーロッパ風の見た目は、あの世界とあまり変わらないが、こちらの世界は懐かしさがあった。

 それに想像力も沸き立たせる。もしも、この世界が本当にあったらどんな匂いなのか。風が当たったなら、それは涼やかなのか、暖かなのか。もしも日が照り付けていたのなら、きっと暑いだろう。そして虚構であるこんな世界が、本当あったとしたら、ワクワクするだろう。

 いや、自分は知っている。この世界とは違う物の、異世界にはそんな景色があったことを。そして、その世界で戦ったということを。

 この世界で、彼は戦った。その世界を脅かし、多くの人間に恐怖を植え付け、奪おうとした存在と。そして彼、いや彼らは英雄となった。その世界を救った英雄に。

 そして、英雄に待っていたのはまた別の世界だった。待っていたというより、巻き込まれたという方が正しいが、その結果彼は二度も多くの世界を舞台とした戦いを経験し、そして帰ってきた。

 この世界。『ザ・ワールド』に。

 

「皆は元気にしてるだろうか?」

 

 彼が久しぶりの世界で最初に思ったこと、それはこの世界で出会った仲間たちの事だった。

 『ザ・ワールド』で発生した大事件、それを共に解決へと導いた仲間たち。ある事情によって一か月ほど連絡を取っていなかったのだが、どうしてるのだろうかと気になっていたのだ。

 

「久しぶりね! カイト!」

 

 そんな時、後ろにあるゲートが機動し、PC―この世界におけるプレイヤーの事―が一体出現した。彼、カイトは振り返らなくてもそれが誰なのか分かっていた。笑みを浮かべ、振り向いたその先にいたのは女性型のPC。褐色の肌に模様が描かれたそのPCは、このザ・ワールドにおけるPCのデフォルトキャラの一つだ。女性型としたのは、時折ネカマといって現実とゲーム世界での性別を逆にさせて遊んでいるPCがいるからだ。しかし彼は知っている。彼女は間違いなく女性なのだと。あの事件で知り合い、そしてリアルでも合うようになったその少女のPC名を、カイトは嬉しそうに言った。

 

「ブラックローズ!」

 

 ブラックローズ、この世界でできた最初の友人であるPCだ。

 

「元気してた?」

「あったりまえでしょ! っていうか、連絡ぐらいしなさいよ」

「ごめん(笑)」

「まぁ、βテストの期間中は向こうに集中したいからっていうのは知ってたけど、せめてメールの一つくらい送りなさいよ」

「うん、でもおかげであのゲームにのめりこむことが出来たよ」

 

 カイトはこの一か月『ザ・ワールド』にログインすることは無かった。その理由は、先ほどブラックローズが言った通りにあるゲームのβテストに参加していたからだ。

 βテストとは、まだ発売前のゲームを少人数のプレイヤーに遊んでもらい、バグはないか、操作性はどうか、敵は強すぎないか等多くのプレイヤーが困ることなくプレイできるようにいわばシミュレーションしてもらうためのゲーム会社が行うイベントのことだ。

 彼は、今日本中で注目の的となっているあるゲームのβテストに参加していたのだ。日本全国の応募に対してたった千人しかない枠に入り込めたのは奇跡ともいえるのだが、ともかくそのおかげで話題のゲームをいち早くプレイすることが出来た。

 

「で、どうだったの? 世界初のフルダイブ型RPG,ソード・アートオンラインってのは」

 

 ソード・アートオンライン、通称SAO.ナーヴギアというヘッドギアを用いてゲームの世界に自分の意識を入り込ませるそのゲームは、世界で初めてのMMORPGとして注目を集めていた。ザ・ワールド自体VR技術の発展によりまるでその場所にいるかのようにゲームをプレイできるということで注目を集め、今では2000万人以上のプレイヤーがいるゲームだ。しかしSAOはそのさらに先を行くゲームなのだ。

 ザ・ワールドは確かに視覚と聴覚はゲームの世界に入り込むが、しかし操作となるとコントローラーが必要だった。だがSAOは違う。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、五感の全て、そして意識までもがゲーム世界に入り込み、実際に自分の身体を動かす感覚でゲームを楽しむことが出来るのだ。

 そんな革新的なゲームであるために世間のゲーマーは、いやゲーマーだけではない多くの人間が注目した。それだけではない。その販売方法がさらに注目された。

 

「すごく楽しかったよ。あ、そういえばブラックローズは予約できたの?」

「予約どころかじゃないわよ抽選よ抽選。それも倍率数十倍の超レアアイテムなんだから」

「まぁ、そりゃそうだよね(笑)」

「だいたい、初回販売本数たったの1万なんて、しぶりすぎよ!」

 

 そう、このゲームこれだけの注目度があるにもかかわらず、初回販売個数がたったの1万個しかないのだ。そこはあまりにも高性能を求めすぎた結果在庫をそろえることが出来なかったのか、はたまた逆に数を絞ることによってその希少性をさらにあげるためだったのか。

 とかく、そのために多くの人間がそのたった一万の為にいたるお店で少なく販売されているゲームの予約に飛びついたのだ。

 おまけに、一万といってもその内の千個はβテスターに行き渡っているためにもっと競争率は高くなる。それこそ、血で血を洗うような戦いがあらゆるところで行われているのだ。

 

「それじゃ、ブラックローズは予約できなかったって事?」

「そう思う?」

「え?」

「なんと! 東京の端っこにあるゲーム屋さんで一つ予約できました!!」

「本当に!? すごいじゃないか、おめでとう!」

 

 あまりにも希少性の高いゲームであるために彼女も手に入れることができないという事も考えられたため、これは朗報だ。新しくプレイするゲームなのだから、それがなんであったとしても一人でも多く知り合いがプレイしてくれるというのはうれしい。

 

「みんなは、ゲットできたのかな?」

「すぐに聞いてみましょう。全員ログインしているらしいから」

「そうだね」

 

 彼らのいうみんな、全員というのかつて彼らがが遭遇したこのネット世界の危機に対してともに戦った仲間たち、通称『ドットハッカーズ』のことだ。カイトは、そのドットハッカーズのリーダーだった。いや、正確にはいつの間にか彼の周りにたくさんのPCが集まっていたという方がいい。そんな仲間たちも一部を除いてゲーマーと言われる存在。なので、この件のゲームにも注目し、それぞれが手に入れるために奮戦していたのは、カイトも知っている。果たして、彼らは手に入れることが出来たのか、カイトとブラックローズは、水の都『マク・アヌ』にいるはずのドットハッカーズの面々を探すことにした。

 そして、それから約二時間が経った頃、SAOを手に入れることのできたメンバーだけで話し合うことになった。結論から言って、SAOを手に入れることが出来たのは、カイト、ブラックローズの二人を含めて5人だった。

 

「へぇ、それじゃミストラルは、旦那さんが手に入れてくれたんですか」

「うん、このザ・ワールドにハマったなら、こっちも遊ぶべきだって(/≧▽≦)/」

 

 まず一人目はミストラル。僧侶のような格好をしたPCで、まるで少女のような見た目をしている。しかしその外見は裏腹に現実では子育てを元気にこなしている母親である。

 以前の事件では妊婦の状態で参加して、一度お腹の子供のことを考えて離脱したこともあったが、しかしカイトのことを助けるためにもう一度ログインし、事件解決のために奔走した、ドットハッカーズの仲間の一人である。

 

「きっとミストラルも気にいると思うよ」

「うん、楽しみにしてるね(≧∇≦)ノ」

「でも、ミストラルはいいとしてあなたはちょっと意外ね」

「え?」

「あ、でもザ・ワールドもお父さんからの花嫁修業にって進められたんだから、今回もそうなんじゃないのかな、ねぇ寺島良子」

 

 寺島良子。天使風の格好をしたPCだ。以前の事件に参加したのはやや遅めであり、さらにネット初心者だったPCだ。彼女のPC名がまんま本名であるのは、初心者故個人情報を隠さなければならない必要性を理解していなかったためである。このザ・ワールド自体も昨今の女性はネットくらいできなければならないという父による花嫁修業の一環として贈られたものだそうだ。だから、今回もそれなのかとカイトが聞くと寺島良子は笑みを浮かべならな言う。

 

「はい。どうやら、父がSAOの開発に出資していたそうでそのお礼で……」

「お礼って?」

「聞いたことがある。SAOを作るのには一つのゲーム会社が払うことのできないほどの予算がかかったって。だから、日本中の企業や財閥にお金を出資してもらうように頼んで、そのお礼で出資者にはSAOとナーヴギアを無料配布したって」

「はぁ!? 何それ、ずるいじゃない。こっちがどんだけ苦労してッ!」

「まぁ、出資者の何人かは断ったって話だし、その人たちのおかげでSAOをプレイできるんだし、いいじゃない」

「そうは言うけど……」

 

 不満はまだ尽きないものの、しかしカイトの言うことももっともだ。それに、そのおかげで寺島良子もSAOをプレイできるのだから良しとしよう。

 これで、SAOをプレイする五人中四人の説明が終わった。残った一人は、カイトの目の前にいる翼の生えた騎士風のPCだ。だが、カイトはその人物がSAOをプレイするというのが寺島良子とはまた別の意味で少し意外だった。

 

「でも、まさかバルムンクまでSAOを予約してたなんて」

「同じVRゲームであるSAOは、ザワールドのライバルでもあるからな。少し見ておいていいと思ったんだ」

 

 バルムンク、通称蒼天のバルムンクの異名を持つザ・ワールドのPCの中でも古参のプレイヤーの一人かつ、屈指の実力者である。そんな彼のザ・ワールドに対する愛情は尋常な物ではなく、ただの一プレイヤーであるにも関わらず前の事件ではいの一番に誰よりも早く事件の調査を始め、時にカイトやCC社のリョース、ハッカーであるヘルバとも対立を繰り返しながらも最後には分かり合い、事件解決のために共に奔走したのだ。

 そんなザ・ワールドのプレイヤーの中でも一番ザ・ワールドを愛しているであろう彼が別のゲームをしようと考えるということが、カイトたちには意外だったのだ。

 

「俺も、いずれはCC社への就職を目指している。その時にザ・ワールドの機能改善のための手段が見つかるかもしれない。そのために、視点を広げる必要があると考えただけだ」

「そっか……」

 

 バルムンクは、未来を見ているのだ。今自分が楽しんでいるこのザ・ワールドをさらにより良い物発展させる。そのための方法を色々な場所から探ろうとしているのだろう。そして、その一つとして選んだのが、SAOをプレイするということなのだ。

 

「サービス開始まであと一週間、待ちきれないわね」

「そうですね。あ、カイトさん。プレイヤーネームの付け方をお教えできませんか。今度は失敗したくありませんし」

「うん、そうだね。それじゃみんなで考えよう」

「(っ °Д °っ)あぁ!? もうこんな時間!? 晩御飯の用意しなくちゃ!」

「本当だ。いつの間にか長話しちゃったわね」

「それじゃ、今日のところは解散して、明日寺島良子のプレイヤーネームについて話そうか」

「はい。よろしくお願いします」

「そんじゃ、またね! カイト!」

「バイバイ!ヾ(≧▽≦*)o」

 

 そういうと、それぞれにログアウトしていく仲間たち。最後に残ったカイトは一人青空を見つめていた。

 

「SAO……そして、ザ・ワールドか……」

 

 カイトは知っている。ザ・ワールドはバージョンが変化はしたものの7年後まで残っているということを。

 彼は出会ったのだ。ある世界を巻き込んだ事件の時に、7年後のザ・ワールドから現れたPCを。そして、一部ではあったがみた。7年後のザ・ワールドを。

 

(ハセヲ、君のいた時代……SAOはどうなっているのかな)

 

 そして疑問に思った。7年後のVR技術のことを。あの時のハセヲから聞いた。ハセヲのログインしているザ・ワールドは今自分がログインしているザ・ワールドの操作方法とほとんど変わらないと。その時は何も思わなかった。しかしSAOが発表された今になってそれがあまりにも不自然だったことに気が付く。

 もしもSAOが流行したままだとすれば世の中の主流はフルダイブ型のVRになっていて、コントローラーを使用する時代は古いものとして扱われるはずだ。もしCC社一つだけが古い考えを持ったままだったとしても、ハセヲの話からするとザ・ワールドは今の時代とも変わらず人気を保っているらしいから、やはりそれを考えるとフルダイブ型のシステムが主流にならなかった理由が分からない。発売前のSAOの人気に反して、その内容がひどい物だったのか。いや、βテストのときはそんな様子はなかった。むしろ、これからはこんなゲームが増えていくものだとそんな確信に近いものがあった。

 

「なにか、嫌な予感がするな……」

「おっ! 久しぶりじゃな、カイト!」

「え?」

 

 その時、彼に声をかけるPCがいた。



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虚像と遊ぶ少女たち(元タイトル:SAO×レーカン)

 この世界には、目には見えない存在がいる。彼らは、時に人間と共に暮らし、時に人に害を及ぼし、そして自らの後悔を消すための旅を続けている。たとえ、それが叶わぬ物がいたとしても、それでも彼らは自分の人生の残り香を世界に残し続けている。

 これは、そんな残り香を感じることができる数少ない人間と、それを取り巻く多くの友達のかけがえのない日常の話。

 の、はずだった。あの日が訪れるまでは。

 

「おっはよー!!」

「あいっかわらず元気だな山田は」

 

 普通の公立高校の普通の教室。その三年生のとあるクラスに登校してきたのは山田健太である。通称アホの山田。いつでもハイテンションな性格で空気をほとんど読むことのない男子生徒である。

 そんな山田に声をかけたのは上原佳菜。このクラスに所属する女子学生である彼女は携帯ブログを趣味としており、彼女のある日常を映した日常ブログは、あるカテゴリーのランキングで1位になったことがある。たびたびとあることで炎上したり捏造疑惑が持ち上がったりするのだが、本人にとっては本当に日常であったことであるのでそんな疑惑を持たれることはやや気に食わないそうだ。

 

「これが元気出さずにはいられないって!!」

「どうしたの~?」

 

 さらにもう一人声をかけたのは女子生徒は小川真琴。とある腐ったものが大好きな変わった人間だが、それ以外はいたって普通の女子高生である。腐ったもの大好きということ以外は。

 

「実は、SAOの予約抽選に落ちて……くっそー! 誰よりも早くプレイしたかったのにぃ!!」

 

 SAOというのは、今世間で話題となっている最新型VRMMORPGである。正式名称ソード・アートオンライン。ナーヴギアというヘッドギアを用いてゲームの世界に自分の意志ウキを入り込ませるそのゲームは、視覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚、それら護岸のすべてを、そして意識までもをゲームの世界に入れ込み、実際に自分の身体を動かしている感覚になれるゲームなのである。

 しかし、そんな世界中のゲーマーが喉から手が出るほどに欲しそうなゲームであるのに、初回販売の本数はたったの一万本のみと狭く、さらにその中から二千本は別の理由ですでに販売元から離れているため、一般販売される個数8000本。それを日本中のゲーマー、ゲーマーではないにかかわらずに熾烈な争奪戦を繰り広げているのだ。結果、この山田はその争奪戦に敗れてしまったらしい。

 この山田の叫びを聞いていた上原は、そういえばという顔でさらに隣にいる女子生徒に聞く。

 

「SAOって、確か江角が予約してたゲームじゃなかったっけ?」

「「えぇ~!!!?」」

「あぁ、今朝メールが届いてた」

 

 彼女の名前は江角京子。中学時代は元ヤンキーという経歴を持つ女の子で、当時はナンパやカツアゲに遭遇していた学生たちを持ち前の眼力と力で守り、いわゆる鼠小僧的なことをしていたそうだ。そんな当時の彼女につけられた異名が、≪灼髪の救世主≫である(本人はそう呼ばれることは気に入らず、もしも本人の前で言おうものなら校舎裏行き若しくはその場で一つの屍が出来上がる)。

 

「す、すげぇけど……まさか救世主がゲームを気に」

 

 数秒後、生きる屍前にて。

 

「まぁ、応募するだけならタダだったからな」

「で、当たったと」

「無欲の勝利って奴だね」

 

 まぁ、当たったからには楽しんでくるよ。そう江角は言う。

 ここまで見ていればただただ普通の女子高生と一名の男子高校生の会話である。そう、ここまでは。しかし、彼女がその教室に入ってくれば話は全くと言っていいほど変わってくる。

 この生徒たち自体はいたって普通の少女たち。しかし、そのクラスを異端としている存在がいる。そして、その存在は今自動ドアと化した普通のドアから教室に入ってくる。

 

「皆さん、おはようございます」

「おはよう! 天海さん!」

「おっはよう!!」

「おう、おはよう」

「おはよう……」

 

 天海響黒い長髪が特徴で謙虚で礼儀正しい女の子。母親は自分を産んだ時に亡くなっており、父と二人暮らししている。とある特徴がなかったらいたって普通で小綺麗な女の子。だが、もんだはその特徴であった。

 

「? 上原さん、どうしました?」

「なぁ天海。何かあったか?」

「え?」

 

 と、上原は携帯を天海に向けて言う。

 

「ど、どうしてわかるんですか?」

「そりゃ……」

「「「ん?」」」

 

 と、他の三人が上原の携帯を覗き込む。その瞬間三人ともが納得した。そう、彼女の最大にして最凶の特徴。それは、彼女の後ろに浮いている存在にあった。

 

「後ろのコギャルが自慢げにこっち見てるから。なんかムカツク」

『えっへん』

 

 現実の目線では何も存在しないように見える。しかし、携帯という機械の目線を通してみると、響の後ろの空間に、足のない日焼けしたガングロ系の女の子が浮かんでいる。1990年代によくいた女子高生スタイルという時代錯誤な格好をした女の子は現世に生きる存在ではない。

 彼女は、幽霊である。10年ほど前に渋谷で遭遇したビル火災によって亡くなったそうだ。彼女、天海響に出会ったのは二年ほど前のことだ。

 天海響。普通の女の子の世に見える彼女には実はとある能力を備わっている。それが、霊感体質。

 幼い頃から、彼女は他人には見えないものが見ることが出来た。見るだけではない。見て、聞いて、触って、そしてすでにこの世との接点が途切れかけた存在と現世を繋げる存在として生きてきた。

 と言っても、彼女はそんなに大したことはしていない。彼女はただただ日常を過ごしてきただけだ。他の人たちとはほんのちょっぴり違う、ただ友達が増えただけの日常を。

 彼女がこの学校に転校してきて二年。彼女と友達になることによって周りの友達の日常も少しずつ変化していった。その一番最たる例が、上原のブログであろう。

 彼女の日常ブログは、天海響の存在によって彼女の周りに集まってくる幽霊やこの世のものではない存在、あと猫一匹によって染め上げられており、そのおかげでオカルトブログランキング1位常連のブログサイトとなっているのだ。

 

「実は、葉書の懸賞に当たりまして……」

「葉書!?」

「今でも葉書の懸賞ってあるんだぁ」

 

 ネット時代のこのご時世。懸賞の応募にもネットのサイトを使うことが一般的となっている。だが、その元祖ともいえる存在が、雑誌や新聞などの広告で宣伝している葉書による懸賞である。そして、ソレ自体は絶滅危惧種となっているものの確かに存在している。そう、響の後ろにいるコギャルと同じように。

 

「それで、なんの懸賞に当たったの?」

「はい、確か最新のゲーム機と新しく発売されるゲームソフトだとか」

「「「ん?」」」

 

 今このタイミングで最新のゲーム機とゲームソフト。これには生きる屍以外の三人にも覚えがあった。

 

「天海さん、それって」

「それって! SAOとナーヴギアのこと!?」

 

 ここで生きる屍から復活した山田はすさまじい勢いで聞いた。それに対して、天海はやや困惑したような表情を浮かべながら。

 

「はい。あ、でもゲーム機の方は確かにナーヴギアという物だったんですがゲームソフトの方は確かソードアート・オンラインっという名前だったような」

「それの略称がSAOなんだよ」

「え? そ、そうだったんですか!?」

「何にも知らないんだな」

 

 現在の世間の話題から一人置いてけぼりを喰らっている天海。世間の流行にうというというのか、それともあまりそういった物には興味がないと言ったほうがいいのか。とにかく一つだけ分かることは、本当にSAOを欲しかった山田がSAOを手にいれることが出来ず、それほどSAOに興味がなかった二人の少女がSAOをゲットしたというやや理不尽なことが起こったという事実だ。

 

「はい。最初は、私も応募しようとは思っていなかったんですが、コギャルさんが応募した方がいいと……」

『だってぇ、なんだか面白そうだしぃ、マジでゲキヤバって感じ~』

 

 と、後ろにいるコギャル霊が言った。

 因みに、霊感のない天海以外の四人は、実際には彼女の姿を見ることも、その声を聴くこともできない。しかし、携帯電話という近代文明の遺産を使用することによって、彼女の姿形、声を感じ取ることが出来るのだ。

 

「んで、どうしてコギャルが自慢げなんだ?」

「あ、はい。実はこの懸賞に皆さんもご協力を受けまして……どうやら、コギャルさんの葉書が当たったみたいなんです」

 

 余談だが、響の母親は彼女を産んだ際に亡くなっており、現在は家で父親との二人暮らしである。そのため、皆さんというのが一体誰の事なのだろうかと彼女のことを知らない人間からすると思うのだが、響の友達四人組にとっては、それは簡単に検討が付いた。

 

「皆さんって、アレか?」

「? あ、はいそうです!」

 

 上原は、響の背後を指さしながら言った。響はそのジェスチャーを受けて後ろを振り向く。そこには当然何もいない。だが、携帯と響には見えていた。無数の人魂と、白いワイシャツに赤いスカートの少女の幽霊、それと落ち武者の幽霊の姿が。当然、彼女の友達の『霊』たちである。

 既にこの世の物ではなくなっている者たちではあるが、いわゆるポルターガイスト現象を用いることによってさまざまな物質を持ち上げたり動かすことが出来る。そのおかげで響の手助けができ、彼女の幽霊友達が多いことから、懸賞葉書が何百枚も出来上がったのだ。

 

「でもすごいよね。葉書の懸賞って言っても、たくさん葉書があったはずなのに、当たるなんて」

「まぁ、世代だからだろな」

 

 彼女の生きていた時代、それはまだインターネットが今のように発達していたわけではなく、そういった懸賞系列の主流は葉書だった。当時は、葉書の懸賞だけで生活をするというバラエティ番組の一コーナーがあったりした程だ。その世代を生き、その世代で亡くなったコギャルだからこそ、どのような物が懸賞に当たりやすい葉書であるのか知っていたのだろ。

 

「いいなぁ、天海さん。俺もプレイしたかったなぁ!」

「ねぇねぇ天海さん! 実は江角さんもSAO当たったんだよ!」

「え? そ、そうなんですか?」

「まぁな」

『へぇ、よかったじゃん響っち! さすがにゲームの中まではうちらも入っていけないし』

 

 SAOはVRゲーム。普段の響がプレイするようなファミコンとは違って実際にプレイヤーの意識がゲームの世界に入り込む種類のゲームだ。そのため、いつものように響の後ろから彼女がプレイしている姿を見たり、いつものポルターガイスト現象を使ってプレイしたりすることはできない。

 普段から一人ボッチになることがない響にとって背後に、周りに幽霊の姿が一切ないという状態はほとんどありえないこと。だから、VRゲームというものをプレイすることは、かなり心細いことだったし、幽霊たちにとっても気がかりなことであったのだ。

 

「はい! 江角さんが一緒なら心強いです!」

「でもすごいね! たったの一万本しかないのに、その内の二つを私たちの友達が持っているなんて!」

「案外、まだいたりするかもな」

「ん?」

 

 その時、上原は見た。教室の外、廊下からこちらを見ているこのグループのもう一人の友達の姿を。

 

 まさか天海までSAOをゲットしているとは。登校してきた井上成美は友達グループの会話を教室の外から聞き、何故か教室の中に入ることを躊躇していた。

 井上成美は、天海響の親友であると言ってもいい人物だ。恐らく、当の本人は否定するかもしれないが、周りの目から見てもまぎれもない事実である。

 下校時も一緒に帰ったりし、休日や長期休暇の際には一緒に遊びに行ったり家に泊まりに行ったりとそこまでやっておきながら井上の方は親友というのを否定している。

 素晴らしいほどに簡単な言葉を使うとすれば、彼女はツンデレなのである。

 『ツンデレ』なのである。

 

「って、なんで私教室に入ろうとしないんだろう……」

 

 そんな当の成美本人は、そもそも何故自分が教室に入ろうとしないのかが不思議で仕方がなかった。

 理由はあるとすれば、彼女の近くにいるたくさんの幽霊たち。実のところ彼女は幽霊や超常現象と言ったオカルトが大の苦手なのだ。それもまた、終始オカルトのすぐそばにいる響のことを親友扱いしない理由にもなっていると言ったほうがいいだろう。

 天海響が1年生の時に転校してきて以降2年間、学校では主に彼女の周囲での超常現象が多発している。普通の引き戸が急に自動ドアになったり、3cm程の隙間から声がしたり、ラップ音なんてあまりにも多発しすぎて誰も驚かなくなっているほど。で、あるが彼女成美は絶対に幽霊の存在を信じることはしない。半ば無理がある気がするが、彼女が信じないというのだから、信じないのであろう。

 

「なんでだろうなぁ~」

「ッ!」

 

 と、そんな成美の後ろからいつの間にか教室から出た上原が声をかけた。

 成美は、突然の声に驚き後ろを振り向いた。だが、こういったビックチ系列に関してはもはやよくあることの上、知っている人間であったため大声を出してまで驚くということは無かった。

 

「まっ、どうせ天海に一緒にSAOしようって言い出せないんだろうな」

「な、そ、そんなわけないでしょ! そんなの、まるで友達みたいだし……その……」

 

 彼女たちの関係を知っている者ならだれもが思うだろう。ツンデレ、ここに極まれりと。それを聞いた上原はため息をつきながら言う。

 

「ホント、難儀な性格してるよなお前」

「な、なによ……」

「……ゲームの中だったら幽霊も天海には近づかないだろなぁ」

「ッ!?」

 

 成美は、そんなこと思いつきもしなかったという表情で上原のことを見た。

 もしも彼女のすぐそばに霊が寄ってこないというのならば、自分が彼女を怖がる必要も理由もなくなる。あわよくば、彼女としんゆ

 

「って、何考えてんのよ私は!!?」

「ホント、難儀な性格してるよな」

 

 上原は、再度彼女のそういうと一緒に教室に入り天海のもとに向かった。

 

「えぇ!? 井上さんもSAOゲットしたの!?」

「ま、まぁたまたま予約に応募したらね」

「よかった、それじゃ江角さんと三人で仲良くゲームが出来ますね!」

「な、仲良くって……まぁ、悪くはないけど……」

 

 と、いうことで結局は三人で一緒にゲームをプレイしようという話になった。というよりも、友達同士なのだからそういう話になっても当たり前ではあるが。

 しかし、ここで江角が一つ気になっていることがあった。

 

「なぁ、天海」

「はい?」

「お前の家って、パソコンあったか?」

「え?」

 

 ソードアート・オンラインは、インターネット回線を使用してプレイするゲームである。そのため、プレイするためにはインターネット接続ができるパソコンが必須となる。が、しかし彼女の家は現代日本でも珍しいほどに古風な家で、昭和の家がそのままタイムスリップしてきたような家であった。

 

「あ、そういえばナーヴギアはインターネットにつなげないといけないって……」

「えっと、確か前に天海さんの家に言った時には……」

 

 なかった。インターネット設備やデスクトップパソコンどころかノートパソコンすらもなかった。余談だが、彼女は携帯電話を持っているのだが、そんな古風な家柄故彼女が初めて学校に携帯電話を持ってきた際には山田は驚愕していた。とはいえプリペイドの携帯で、使用上限は1000円というこれまた現代の女子高生にしては厳しめの物。ということでまだまだ携帯電話ですら現代に追いつけ追い越せの状態の彼女にとっては、パソコン等もってのほかであった。

 

ーと、いうことでー

 

「先生の許可を得てパソコン教室のパソコンを一台使わせていただけることになりました」

 

 とりあえず初日の内だけという条件付きではあるが、学校のパソコン教室のほとんど使っている人間がいないパソコンを使ってもいいよと言うことになった。

 使っていいよと言われたのだが、天海以外の面子は、そのパソコンを見て苦笑いを浮かべる。

 

「でも、まさかそのパソコンが呪いのパソコンだなんてね」

 

 偶然か、はたまた故意であるのか、先生の指定したパソコンというのは彼女たちの中ではおなじみとなっている呪いのパソコンだったのである。

 呪いと言ってもパソコンの中に幽霊が潜んでおり、その幽霊とパソコンを通してチャットが出来たり、パソコンの幽霊がTwitterをしていたりとするだけなのだが。いや、それを『だけ』と表現していいのかはともかくとして、とにかくこれで問題は無くなった。

 

「けど、先生はいいとしてパソコンの中の幽霊はいいのか?」

「はい。快く許可していただけました」

 

 と、天海が言うとパソコンにチャットの画面が出現。

 

【お好きにどうぞー】

 

 という言葉が書き込まれる。幽霊が潜んでいるパソコンを使ってゲームをプレイするというのは、ある意味で問題な気もするのだが、そこは天海響である。全く動じず、パソコンに向けてほほ笑みかけるのである。問題、というよりそのパソコンに対してうろたえているのはたった一人だけ。

 

「の、呪いのパソコンでゲームって……本当に大丈夫なの?」

「なんなら井上が使ってみたらどうだ?」

「無理無理無理無理無理無理無理ぃぃぃ!!!!!!!!」

 

 果たしていつの日にか天海響の霊感体質を、オカルトという物すべてを受け入れる時が来るのだろうか。一生来ないのであろうか。それは、これからの彼女の人生にもよるのかもしれない。

 

 そして時間は放課後の帰り道。少女たちと男子生徒一名は一緒に通学路を下校していた。普段はそれぞれに帰り路が違うためここまでそろって帰るということはごくまれであるはずなのだがこれには理由がある。

 誰が言い出したか、天海と江角、そして成美のソードアート・オンラインで使用する名前、通称アバターネームとキャラエディットをみんなで決めようということになったのである。そして成美にとっては嫌々ではあるが天海響の家でその話し合いをすることとなったのだ。これに関してはネット知識に疎い天海響がSAO内で本名でのプレイをする可能性があるということを考えての事。それから彼女のために少しばかりかインターネット用語の勉強会もしようということになったのだ。

 

「江角さんはどんな名前を付ける予定なの?」

「普通にメシアとかでいいんじゃねぇか?」

「喧嘩売ってんのか上原」

「それじゃ、天海さんはどんな名前にするつもりなの?」

「すみません、それはまだ……」

『心配しなくても、響っちにはウチがナウでヤングな名前をつけるって!』

「……」

 

 成美は、前を歩く響を含めた友達の姿を見て思う。こんな日常が続けばいいのになと。オカルト関連のことを除けばの話ではあるが、しかし彼女は今のこの日常が好きだった。

 それもすべて彼女が、天海響が転校してきたおかげ。彼女のおかげで自分の周りは人数に半比例して騒がしくなり、毎日毎日楽しい日々を送っている。オカルト関連のことを除けばの話であるが。

 何故、この時、この普通の情景を見て彼女がそう思ったのかの理由は、定かではない。だが、もしかすると彼女には、何か野生の勘のようなものがあったのかもしれない。この先、何かこの日常の風景を一変させかねない出来事が起きる、そんな予感が。天海響によって鍛えられた直感がそう彼女に語りかけているのだ。

 

「あの、天海……」

「はい?」

「そッ、その……」

 

 成美は、天海に何かを伝えようとする。けど、その先の言葉が出なかった。先に自分の口から出すことが恥ずかしかった。

 いや怖かったのかもしれない。その言葉を言ってしまうと、もう後戻りが出来ない気がして、もうこの日常に戻ることが出来ないという気がして。

 口に出すのが恥ずかしくて、怖い言葉。そんな物がこの世に存在するのだろうか。いや、存在するのだ。けど、何故怖いという感情が表出するのか、それを知っている者はこの世でたった一人だけ。今のところあいまいなイメージでした怖いという感情が沸かない彼女にとっては、その言葉を発するののは本当であれば簡単なことであるはず。しかし、その言葉は出なかった。

 天海は、そんな成美の顔を見て、微笑みながら言う。

 

「ゲーム、一緒に楽しみましょうね」

「あッ……そ、そうね。アンタが一緒にしたいっていうんなら、私もやってやってもいいわよ!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 こうして、彼女は約束してしまった。

 彼女は約束させてしまった。

 後に、この言葉が彼女たちの間に大きな亀裂を作ってしまうのかもしれない。

 けど、今はまだ彼女たちはその大きな亀裂に気が付いておらず、ただただ明るい未来のことを思い浮かべるだけであった。

 彼女たちが立ち止まるチャンスは、もうそこには存在していなかった。

 時刻はすでに黄昏れ時間近。どこからかカレーの香しい匂いがしてくる。そんなとある日の放課後であった。



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罹患するhero(元タイトル:SAO×仮面ライダー)

 この世界から病という物が消えることは無い。それと同時に、一生を健康で過ごす人間もまたいない。

 人はいつか死んでしまう。病気か、事故か、あるいは自死か、そして事件か。抗うことはできる。でも、最期の時には必ず訪れてしまう死に対して自分たちは無力だ。そう考える時もある。

 けど、それでも僕たちは戦い続ける。そこに、病と闘い、生きることを望み、また望んでもいきれなかった人たちの分まで。だから僕たちは日夜戦いを続けている医療従事者として、そして……。

 

―仮面ライダーとして―

 

 

 

 

 

「どうなの先生?」

「……うん、前の検査結果よりもよくなってきてるよ。もうしばらく薬を飲んでいれば、退院できるよ」

 

 そういった瞬間、不安げだった子供の顔がぱぁっと明るくなった。けど、すぐに暗い顔付きに変わる。

 

「どうかしたの?」

「だって、病気がよくなったらもう先生とでゲームできないでしょ?」

 

 あぁそっか。この子にとって自分と一緒にゲームをプレイすることはとても楽しいことだったんだ。

 この男の子がこの聖都大学附属病院の小児科病棟に入院してもう一か月。最初のころは初めての入院ということもあってかととても不安で、いつもうつむいていたけど、自分が一緒にゲームをしようと言って、ほかにも入院している子供たちとっもソレを通して話をして、いつしかその子にも笑顔が戻っていた。

 彼にとって入院したということは辛い思い出の一つなのかもしれない。でも、そんな思い出の中の一部分に自分と一緒にゲームをプレイしたという楽しい思い出を刷り込むことが出来て本当に良かったと思う。

 医師は、永夢はそんな彼に向けて笑顔でいった。

 

「大丈夫。僕はずっとここにいるから。退院してもたまに遊びに来てもいいからね」

「ホント? エム先生?」

「うん!」

「ケンタ君退院できるの?」

「よかったね!」

「退院しても、僕たちのこと忘れないでね!」

 

 永夢の言葉を皮切りにその病室にいたたくさんの彼の友達もまたケンタのベッドに向かてくる。いつの間にか、彼の顔からは不安なんてものはなくなっていた。

 永夢は、友達に囲まれるケンタに一度小さくお辞儀をして病室から出ていく。

 病室前の廊下は患者さんが転ぶということがないようにいつも整然と片付けられて広くなっている。

 壁には子供が折った折り紙の花や人形が張られている。この、青色の少しだけ折り目が目立つ花はケンタ君の作ったものだ。それを一瞥した永夢は、一度笑顔になって、いつも通りカルテに記入するためにナースステーションへと向かった。

 その時である。永夢の首にかかっている聴診器が鳴った。

 

「緊急通報!」

 

 瞬間、永夢の目つきが変わり、走らない程度に早歩きで地下に向かった。

 

「永夢!」

「明日那!」

 

 地下の駐車場に止めてある彼ら専用のバイクに到着したとき、一名の女性看護師が彼に近づく。

 彼女の名前は仮野明日那(仮)。彼、宝生永夢の仲間である。

 

「飛彩先生は?」

 

 永夢は、ヘルメットをかぶりバイクに乗りながら聞いた。

 

「手術中で出られないって、大我はアメリカから帰ってくるニコちゃんを迎えに空港に行ってて、出られるドクターは永夢だけなの!」

「分かりました!」

 

 明日那もまたメットをかぶると永夢が乗るバイクの背後に乗った。それを確認した永夢は、バイクを発進させる。

 病院から1,2キロ程離れた場所。そこは大きな公園がすぐそばにあり、気分が悪くなった少年はそこにあるベンチに座り休んでいた。

時期的には大外れではあるが熱射病か、それとも脱水症状なのか。ともかく水を飲んで少しだけ待てば症状は治まるかもしれない。そう考えていた。

 だが、時間が経てば経つほど気分不快はさらに大きくなり、次第には心臓までも痛くなってきた。

ただ事ではない何かが自分の身体に起こっている。そう考えた少年は、すぐに119番通報。症状を伝えるとすぐに医師が向かうとのことだった。

少年は何故救急車ではなく医師が向かうと言ったのか疑問に思う暇などなかった。それほどまでに自分の身体を襲っている症状が大きかったのだ。

 医師が来るのを待つ間、少年の病状はさらに悪化していく。それは、医学にはなんら知識のなかった少年の目で見ても明らかな物だった。

 

「なんだよ、これ……」

 

 少年の手が、まるでノイズでも走ったかのように揺れ、オレンジ色の何かが沸きだそうとしていた。

 病気だとか、そんなものじゃない。なにか自分の身体に恐ろしいことが起きようとしている。直感的に感じた少年は、どこかに行く用事などないのにベンチから立ち上がった。

 だが、少年の足はおぼつかず、すぐにもつれて倒れこんでしまう。

 怖い、恐ろしい、そんな不安な感情が彼の脳裏をかすめた。もしかしたら、これは死に通ずる病なんじゃないかと、もしそうだったら、自分にはどれぐらいの時間が残されているのだろうかと。

 もしも、自分に時間が残されていないのだったら、せめて半年、いや一か月でもいい、命よ持ってくれ。それぐらいあれば、自分はあのゲームをプレイすることが出来る。もしもクリアできたのであれば死んでもいいくらいだ。だから、だから、もうしばらく猶予をくれ。

 

「大丈夫ですか!」

 

 不意に少年の目の前にバイクが止まった。バイクからは白衣を着た青年と、看護師と思わしき女性だ。もしかして、彼が先ほどの通報先から連絡のあった医師なのだろうか。

 

「あ、あなたは?」

「聖都大学附属病院のドクターです。今診療しますから」

 

 そういうと永夢は首にかかっている聴診器のダイヤフラム面を少年に向ける。すると、ダイヤフラム面から空中の何もない場所にディスプレイが映し出される。そこには倒れている少年の姿、そしてその少年の周りを飛ぶ剣のアイコンが映っていた。

 これは、少年がバグスターウィルス感染症、通称ゲーム病という名前の病気に感染しているということを如実に表していた。今永夢が少年に向けている聴診器を使えば、どんなウィルスに感染しているのかが分かる。ディスプレイに映し出されている形は、ギリギリチャンバラという『ゲーム』のバグスターが感染している時にでるアイコンに極似している。

 

「ギリギリチャンバラ? いや、ちょっと形が変わっている。もしかして、突然変異したバグスターウィルス!?」

「え、それじゃワクチンは!?」

「耐性が付いている場合、効果がない可能性があります」

 

 バグスターウイルス。それは、少年の耳にも聞き覚えがあった。確か五年程前に日本で猛威を振るった感染症の名前がソレだったはずだ。まさか、自分がそれに感染しているとは。

 バグスターウイルスは、技術進歩によってそれぞれのウイルスに適応したワクチンが開発されたことによってゲーム病専門のドクター以外でも治すことが可能になった。しかし、ここ最近そのワクチンに問題が発生した。

 ワクチンに対抗するために突然変異したバグスターウイルスが発生したのだ。

 普通の病気でも、ワクチンではなかったとしても病気を抑える効果を持つ薬に対して体制を持つ病気は多々ある。その結果既存の薬では治すことのできない凶悪な、人の命を奪う病気が患者の身体を蝕むことになる。

 バグスターウイルスもその例にもれず、一度耐性が出来てしまえば既存のワクチンではそのバグスターウイルスを治すことは困難となってしまう。

 

「そ、それじゃ俺は……」

 

 少年は、絶望した。ワクチンの効かない突然変異のウイルスに侵されたなど、信じられなかったが、医師がいうのだから本当の事なのだろう。

 ワクチンの効かない病気にかかって、このまま自分は死ぬしかないのだろうか。そんな嫌な考えが彼の頭の中を駆け巡る。しかし、医師は笑顔で言った。

 

「大丈夫。ワクチンが効かなのなら、僕が切除する」

「せ、切除?」

「うん……」

 

 そう言うと永夢は、ゲーマドライバーという、いわゆるライダーベルトを腰に巻く。

 そして、白衣の中からピンク色の配色をしたライダーガシャットと呼ばれる物、マイティアクションXを取り出し、ライダーガシャットの起動スイッチであるプレイングスターターを押した。

 

≪マイティアクションX!!》

 

その瞬間、空間生成装置と呼ばれるエリアスプレッダーが作動し、周囲にゲームエリアが展開され、チョコレートの色と形をした箱が何個も置かれた。

 

「うっ! うぅ!!」

 

すると、少年の身体からオレンジ色の物体、バグスターウイルスが少年の身体を包み込み、剣の形となって出現した。そして、一瞬だけ永夢の目が赤く変色するまさにこの瞬間、永夢の中にある天才ゲーマーMとしての人格が彼に宿る。Mは、『MIGHTY ACTION X』のロゴが映ったホログラムモニタを背に、一度だけニヤリと笑うと言った。

 

「患者の運命は……俺が変える!」

 

 永夢は、左から右にライダーガシャットを持った腕を動かすと、そのまま顔の横に腕を置く。そして言った。いつもの、あの言葉を。

 

「変身!」

 

 永夢は、ライダーガシャットを右手から左手に持ち替えると上から下に一直線にゲーマドライバーのスロットに差し込んだ。

 

≪ガシャット! レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!? アイムアカメンライダー!≫

 

 永夢の周りに現れた数々のキャラクターの顔。その中からピンク色のキャラクターの顔をタッチした瞬間、永夢の身体が桃色の光に包まれ、光が収まったその時、二頭身のキャラクター、仮面ライダーエグゼイドレベル1が現れた。

 

「ノーコンテニューで、クリアしてやるぜ!」

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 エグゼイドは、出現したハンマー型の武器、ガシャコンブレイカーを手に取ると、ジャンプして怪物、バグスターユニオンへと突撃する。

 

「フッ! ハァッ!」

 

 自身の身体そのものが剣であるバグスターユニオンは、剣先を振るうことでエグゼイドの攻撃を受け流し、双方ともにダメージを負うことは無かった。

 

「だったらこれだ!」

≪シャッキーン!≫

 

 エグゼイドは、ガシャコンブレイカーのAボタンを押すと、ハンマーの上側に剣が展開され、先ほどまでのハンマーモードではなくブレードモードへとその姿を変える。

 

「ハァッ!!」

 

 Bボタンを連打したエグゼイドは、再度バグスターユニオンへとジャンプし攻撃する。

 バグスターユニオンは再び相殺しようとするが今度は相殺することが出来ずに≪HIT≫の文字が空中に浮かぶ。この文字が浮かんだということは、ダメージを与えることが出来たということだ。

 先ほどエグゼイドが連打したBボタンは連打モード。つまりそのボタンを押すことによって次の攻撃が多段ヒットするようになるボタンであるのだ。単撃であれば相殺することは可能であるが、連撃であればただ剣先を振っているだけでは相殺することが出来ないのだ。

 次々と繰り出される連撃に、ダメージを蓄積していくバグスターユニオン。

 

「よぅし、フィニッシュだ!」

≪バ・コーン!≫

 

 エグゼイドは、それを見るとガシャコンブレイカーをハンマーモードに戻すと、チョコレート型の箱を壊す。これは、いわゆるアイテムボックスという物で、その中から大きなメダルが出現する。エグゼイドがソレを取る。

 

≪ジャンプ強化!≫

 

 これは、仮面ライダーの能力を大きく向上させるエナジーアイテムと呼ばれるもので、これを取ることによってさまざまなパワーアップの恩恵を受けることが出来るのだ。

 

「ハァァァ!!」

 

 エグゼイドが入手したのはジャンプ強化のアイテムで、これを取得することによって大きく跳躍力を上げることが出来るのだ。これで先ほどの何倍もの高さに跳躍したエグゼイドは縦に回転しながら勢いを増しながら落下していく。

 バグスターユニオンは先端を上空に向けて備えている者の無駄な抵抗であった。

 

「ハァァァッ!!!」

 

 ≪HIT!≫≪GREAT!≫ハンマーモードで殴るたびにその文字が浮かび、最後に≪PERFECT!≫の文字が浮かんだ瞬間大きな爆発が起こり、バグスターユニオンはブロック状の破片となってあたりに飛び散った。

 バグスターユニオンによって取り込まれていた少年はその場に倒れこむ。

 

「よし……」

≪GAMECLEAR!≫

「え?」

 

 エグゼイドの耳に聞こえてきたのはゲームクリア、つまり戦闘に勝利したという言葉である。だが、本来であればそれは聞こえてきてはおかしなものであるのだ。

 

「ゲームクリア? でも、まだバグスターは倒してないはずなのに……」

「だよなぁ……」

≪ガッシューン≫

 

 そう、本来であればこの後患者から分離してバグスターという怪人になった敵を倒さなければ治療は全て終わらないはずであるのだ。つまり、バグスターの切除術とは二つの段階を得て完了する。

一つ目は、先ほどのバグスターユニオンを倒してバグスターと患者を分離させる。

 二つ目は、その分離したバグスターを攻略しする。ここまでしてようやくバグスター切除術は終わり、ゲームクリアという音声が鳴るはずなのだ。

 しかし、今回はバグスターユニオンを倒しただけでその音声がなった。こんなことは初めてだ。

 エグゼイドは変身を解くと倒れている少年に近寄って、もう一度聴診器を向けてみる。

 

「バグスターの反応はない……完全にこの子の身体からバグスターは消滅したって事ですね」

「でもなんで?」

「分かりません。とりあえず、この子をCRに運びましょう。君の名前は?」

 

 ゆっくりと起き上がった少年は、手を開け閉めして自分の身体に異常がないことを確認するようなそぶりを見せると、永夢に向けて言った。

 

「お、俺は……桐ケ谷、和人……です」



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エイプリルフール 2年目
第二回 SAO会議


 本年も、この季節がやってきました。


 ルールとマナーを守って、楽しく二次創作しよう!

 

ネジル「ってなわけで!」

 

ネジル・ヘボット「「始まりました~! SAOチャンネル!」」

 

ネジル「司会のネジルとぉ!」

 

ヘボット「ヘボットヘボ!」

 

ネジル「この枠は、毎年エイプリルフールに投稿しているSAOの多重クロスオーバー作品についての報告をする話なのだ!」

 

ヘボット「最新情報もたっぷりお届けするから、みんな最後まで見るヘボよ!」

 

ネジル「そしてそして、今日は被害者……もとい、ゲストの方々にも来てもらってるのだ!!」

 

うまる「土間埋(どまうまる)です! よろしくお願いします!」

 

小林「えっと……小林と言います」

 

冬樹「初めまして、日向冬樹(ひなたふゆき)です」

 

真尋「八坂真尋(やさかまひろ)です。……って、被害者ってことはまさか……」

 

ネジル「ザッツライト! ここにいる四人にはSAOに囚われてもらう予定になっているのだ!」

 

真尋「いや、それこんなに軽々しく言うようなことじゃないだろ!」

 

ヘボット「まぁまぁイモチン食って落ち着くヘボ」

 

ネジル「おぉ!? イモチン好きのヘボットが自ら差し出すとは!?」

 

ヘボット「美味しかったヘボ」

 

ネジル「いや、食べたんかい!?」

 

うまる「でも、このメンバー構成の意味って一体……」

 

ネジル「おっと、そうなのだ! 実は、うまるちゃん以外の面々は人間以外の生物と同居しているという共通点で集まってもらったのだ!」

 

うまる「え!?」

 

冬樹「え? そうなの!? それじゃ、もしかして二人も宇宙人と同居しているの!?」

 

小林「いや、あたしの場合はドラゴンのメイドだけど……」

 

冬樹「ドラゴン!?」

 

真尋「まぁ、確かに宇宙人はいるけど……」

 

冬樹「そうなんだ! 実は僕の家にも宇宙人がいるんだよ! ケロロ軍曹っていってね」

 

うまる「ちょ、ちょっと待って!? すごく自然に話をしているけど、宇宙人とかドラゴンと一緒に住んでるってどういう事!?」

 

ネジル「あ、因みにうまるちゃんに関しては本人が珍獣枠ということで呼ばれたのだ」

 

うまる「!!?」

 

冬樹「本人が珍獣? あ、もしかして君も宇宙人だったりするの!?」

 

うまる「い、いやいやそんなわけないって!」

 

うまる(ちょっとネジル君。もしかして珍獣ってアレのことを言ってるの?)

 

ネジル「そだよ~」

 

うまる(なんで君が知ってるの!?)

 

ヘボット「そんなの、テレビの前の大きなお友達みんなが知っていることヘボ!」

 

ネジル「まぁ、この場では秘密はばらさないから安心するのだ! その代わりなにかネジを……」

 

うまる「ネジ? あ、そういえばこの前家にネジみたいなものが……」

 

ネジル「こ、これは幻のドンパッチソード!? って、これネジじゃなくてネギなのだ!」

 

ヘボット「あ、因みにこの小説内にボボボーボ・ボーボボの登場は予定していないから悪しからず、ヘボ」

 

ネジル「あんなのを登場させたら収集がつかなくなるのだ!」

 

真尋「つまり、お前らと一緒ということか」

 

ネジル・ヘボット「「まぁ本音を言えばそういうこと(ヘボ)!」」

 

ネジル「はい、では最初のコーナーはこちら!」

 

【参戦作品情報】

 

ネジル「ってなわけで、この度参戦作品に入って『しまった』作品をいくつか紹介するのだ!」

 

ヘボット「というわけで、まずはこの四作品ヘボ!」

 

・干物妹! うまるちゃん

・小林さんちのメイドラゴン

・這いよれ! ニャル子さん

・ケロロ軍曹

 

ネジル「あ、因みにこれは続編のアニメも含めての参戦ってことなのだ!」

 

小林「えっと、質問してもいいかな?」

 

ネジル「ほんげ?」

 

小林「その、うちで一緒に暮らしているドラゴンなんだけどさ……いろいろな魔法を使えるんだけど、それを使えばナーヴギアを外すことも簡単にできるんじゃないのかなって?」

 

冬樹「あ、確かに。クルルだったら、簡単に外せるかも」

 

真尋「アイツのご都合主義ないろんな能力だったらありえるかもな……」

 

うまる「いやいや宇宙人とドラゴン、どれだけハイスペックなの?」

 

ネジル「そのことについては問題ないのだ!」

 

ヘボット「作者は考えがあるって言っていたヘボ!」

 

うまる「へぇ……」

 

ネジル「どんどんいくのだ! 続いての参戦作品は、こちら!」

 

 

・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 

 

ヘボット「予告にも存在していた魔法少女リリカルなのはシリーズが満を持しての登場ヘボ!」

 

冬樹「でも、このシリーズってかなり長いけど、どの作品からの参戦になるのかな?」

 

ネジル「作者によると、二作目と三作目の間の空白期からの参戦なのだ!」

 

ヘボット「いろいろ考えた結果、ここのあたりから参戦させたほうが良いと判断したらしいヘボ」

 

ネジル「そしてそして、この作品も参戦なのだ!」

 

・咲-saki-

 

小林「!!?」

 

ヘボット「能力麻雀漫画の参戦ヘボ!」

 

ネジル「本当はアカギとかでもよかったけど、時代設定的におかしなことになるから同じ麻雀漫画のこっちになったらしいよ」

 

ヘボット「あ、でもこの作品は原作はまだ全国大会決勝が終わっていなかったんじゃないかヘボ?」

 

ネジル「ふっふっふ……そこは他作品とのクロスオーバーでなんとかするのだ!」

 

ネジル(まぁ現実的な話で考えるとかなり可哀想なことになるからなんとかする方向なのだ)

 

ヘボット(下手すると二年間大会がなかった後の大会になる恐れがあったヘボ)

 

冬樹「こ、小林さんどうしたの?」

 

小林「いや、なんだか今寒気が……」

 

冬樹「?」

 

うまる(そう言えば咲-saki-の世界観って同性婚が……)

 

ヘボット「そしてそして! 最後の新規参戦作品は……」

 

ねぇ、皆は大人になったら、何になりたいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供の頃、ホンマに魔法があるんじゃあ思いよった」

 

 

 

「空も飛べるって信じてた」

 

 

 

「どうしてあんなに夢を見ることが出来たんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【魔女見習いをさがして】 参戦決定

 

ヘボット「ってなわけで、おジャ魔女どれみ未参戦ヘボ!」

 

真尋「そっちじゃないだろ!」

 

うまる「魔女見習いをさがしてって、おジャ魔女を見ていた人たちが大人になってからの物語でしょ?」

 

ネジル「そうなのだ! この映画を一目見た時から、参戦させようと考えていたらしいのだ!」

 

ヘボット「このクロスオーバーに置いて最も重要な日常枠アニメはなにがなんでも参戦させようという作者の考えからこの作品の参戦が決定したそうヘボ!」

 

うまる「へぇ……」

 

ヘボット「あ、因みに、おジャ魔女どれみの方はまだ参戦する可能性が残っているから、未参戦というのは嘘ヘボ」

 

ネジル「ついでだから、現状で未参戦となった作品をいくつかあげるのだ!」

 

・きらりん☆レボリューション

  Milky Way結成以降が動画配信サイトにないため。

 

・ハヤテのごとく!

  アニメオリジナルで同一世界線上に存在する(?)作品との兼ね合いの都合。

 

・烈車戦隊トッキュウジャー

 出したかったけどなぁ……。2025年以降ならともかく2022年設定ならまずだせない……。キラキラ星がでる作品はことごとく……。

 

・クレヨンしんちゃん

 年齢の設定の影響。というかオトナ帝国の影響で世界観に矛盾が起きるしこの設定の矛盾ばかりはどう解釈を加えても無理。でも【あの作品】を連れてくれば……。

 

・森田さんは無口。

 入れたかったけど、無口な人を表現するのには限界があるから。

 

・とあるシリーズ

 御坂美琴他友達四人を出したかったけど、この作品いれると上条当麻出さなくちゃならないから……。

 

・大人の事情

 察して。

 

小林「……」

 

冬樹「……」

 

真尋「あぁ……」

 

うまる「えっと……」

 

ネジル「この関係で、前まで参戦作品に上がっていたある作品の未参戦が決まったのだ」

 

ヘボット「察してほしいヘボ」

 

ネジル「せっかく考えた《某動物アニメ2期、仮面ライダーディケイドと合わせれば神アニメになる説》がお蔵入りになったのだ」

 

真尋「それ、SAOとなにか関係あるのか?」

 

冬樹「えっと、あ、そうだ。僕たちがSAOの被害者になるってさっき言っていたけど、僕のお姉ちゃんや、友達は大丈夫なのかな?」

 

ネジル「ちょっと待つのだ、えっと登場人物のリストによると……ふむふむ、ほほぉ……おお!?」

 

うまる「ど、どうしたの?」

 

ネジル「聞いて驚くのだ! なんと、今回参戦するキャラは!」

 

冬樹「キャラは?」

 

ネジル「なんと!」

 

真尋「なんと?」

 

ネジル「ピタリが!」

 

小林「ピタリ……ってえ?」

 

ネジル「なんと!」

 

ヘボット「ああっとここで時間切れヘボ!」

 

うまる「ってえぇ!?」

 

ヘボット「それじゃまた来年ヘボ!」

 

ネジル「来年は、もっとたくさんの話を考えてくるのだ!」

 

うまる「ちょ、待っ」

 

ネジル・ヘボット「「さようならぁ~」」

 

 

うまる「終わった〜!?」




 本日の投稿予定

SAO×.hack? 1時投稿

SAO×仮面ライダーエグゼイド(その2) 2時投稿

SAO×けいおん 3時投稿

少女☆歌劇レヴュースタァライト 4時投稿

SAO×干物妹! うまるちゃん 5時投稿

SAO×アイドルマスター×生徒会役員共?×プリキュア×??? 6時投稿

SAO×スーパー戦隊シリーズ 7時投稿

SAO×涼宮ハルヒの憂鬱 8時投稿

SAO×??? 9時投稿

SAO×涼宮ハルヒの憂鬱(その2) 10時投稿

SAO×けいおん(その2) 11時投稿


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どこまでも、道を照らして(元タイトル:SAO×NAMCO x CAPCOM)

 ちょっとだけ短いですが、ついにあの瞬間の描写があります。地獄の始まり、そこに踏み込むのは一体誰なのか。
 今日がエイプリルフールだからといって、全話に至って暴走しすぎたかもしれません。


 ある、特殊な事情を持つ女性が住む部屋があった。

 窓の外には、何十年前かにはその姿形もなかったはずの高層ビルが立ち並ぶ。まさしく、内装を除けば極普通のマンションの一室だ。そう、内装を除けば、である。

 部屋を見渡すと、本棚には多数の漫画、ゲームのパッケージ、そして薄い本と言われるものがところ狭しと陳列されている。

 また別の棚には、あらゆるアニメやゲームのフィギュア、プラモデルが我よ我よと言わんばかりに立ち並び、この部屋の持ち主がどんな趣向の持ち主であるのかをよく知らせてくれる。

 近年女性のオタクと言うものは珍しくない。いや、正確に言えばオタクと言うものが世間的には認識され初めてからは珍しくない存在になった。

 だが、そうは言ってもここまでグッズを揃えることができるのは、なんとも筋金入りであり財力があり、そして同じ毛の持ち主であればさぞかし羨ましがるであろう。

 その時、キィッという音と共に1人の女性がその異質な空間へと現れた。

 

「なんじゃ電話なんぞよこしおって、わしは今日から非番じゃと言っておるじゃろ」

 

 この部屋の家主である女性だ。昼間だと言うのに寝巻き姿でズボラに見える女性は、電話に対応中であるようだ。

 よく見ると、外の日の光を浴びて可視化された湯気が若干ではあるがホンワリと見えている。先ほどまで風呂に入っていたのだろうか。黄金色にも似た黄色の長い髪をタオルで丁寧に拭いている様子は、何か幻想的なものすらも感じる。

 

『いや、今日は仕事の話じゃない。お前が有給をとったことも確認済みだ』

「じゃったらなぜ電話をよこしてきたのじゃ、わしはこれから忙しいんじゃ」

 

 女性は時折時計を気にしながら、ベッドにやんわりと座り込み、先ほどまで頭を拭いていたタオルをベッドの下に投げ捨てる。電話の相手は男性のようだ。話の内容から、彼女の仕事場の同僚らしい。

 フカフカのそのベッドが、女性の豊満な尻を優しく包み離さないでいると、電話の向こうの男性が呆れながらに言う。

 

『ゲームをすることがか?』

「ゲェー! なぜ知っておるんじゃ!? お主はわしのストーカーか!?」

『お前が有給を取るようなことと言ったら、これぐらいしかあるまい』

 

 女性は自分がこれからしようとすることを言い当てられて大げさに驚く。確かに電話の相手の言う通り、彼女はこれから本日13時からサービスが開始されるゲームをプレイするための準備をしていたのだ。

 限定発売されたゲームを手に入れた彼女は、有給を破格の七日間取得、そして今か今からとその時を待っているのだ。

 そう、彼女は極度のゲーマーなのだ。それも、最近発売されたばかりのゲームから、今の若者が知らないような古いゲームまで愛好する筋金入りである。

 電話相手は彼女がその類であることを知っていたことと、最近発売されたゲームの情報を手に入れていたこともあり、彼女が有給を取った理由が把握できた。いや考えなくても分かっていた。

 

「相も変わらず鋭いの~」

『まぁ、正式な書類を提出しての有給なら俺も文句は言わん。ただ、ゲームばかりに入り浸るなよ?』

「なんじゃ? 零児(れいじ)はわしがネット廃人にでもなるとでも思っておるのかな?」

『以前なりかけただろう』

「今のわしは過去のわしとは一万二千光年違うんじゃ!」

『まったく意味が分からんが……』

 

 因みに光年は距離ではない。速さだ。

 漫才のような会話の途中、スンと男の方が言葉を濁す。まるで何か言葉を探しているかの様だ。

 それから、暗闇の中を探って歩くかのような時間を掛けた後、意を決したように彼、零児はため息をついて言った。

 

『お前の休暇は1週間だけだ。其れだけは忘れるな』

「なんじゃそんなことで電話をかけたのか、暇なやつじゃのう。安心せい。零児の隣にいられるのはわしぐらいなもんじゃ、ほかの若僧には勤まらんて」

『ふッ、そうだな。それじゃ休暇を楽しんで来い……小牟(シャオムウ)

「合点承知の助じゃ!」

 

 そうして二人はほぼ同時に電話を切る。そして小牟と呼ばれた女性は枕元にあるゲーム機、ナーヴギアを手に取りそれがあったスペースに携帯をそっと置く。

 小牟のその肉体は20代と言われればそうかと言われるほど若々しく、先ほどの零児と言われた男性に言った言葉、ほかの若僧には勤まらないというのと若干の矛盾があるように思える。しかし、それは、彼女のある情報を知らないからこそ言える事。

 彼女の年齢は20代や30代、いや二桁の年齢には収まらない。そんな人間いるはずがないと思うかもしれない。当たり前だ。彼女は、人間ではないのだから。彼女の正体はーーー。

 ふと時計を見れば、ゲームの正式サービスが開始まで1分もない。彼女はナーヴギアをかぶり、パソコンの電源が入っていることを確認すると、ベットの上に寝転がる。

 そこから見えるものは天井のみ。正確に言えば、ゴーグルの形の画面には時計の表示や、バッテリー表示がなされている。しかし、それ以外は本当に何も見えない。

 

「見知った天井じゃ……」

 

 何故そんな言葉を発したのか、彼女自身もわからなかった。

 もしかしたら察知していたのかもしれない。これから自分の身に降りかかる大事件を。

 もしかしたら男性の方も予感していたのかもしれない。しばらく、自分の≪妻≫に会うことができなくなると言う可能性を。

 時計の表示が13:00に変わった。そのタイミングで彼女はその言葉を発した。

 

「リンク……スタート!」

 

 彼女の有給は1週間、まさか休暇がそれを大幅に超えるなど、また≪旦那≫とコンビを組めるのがずっとずっと先になるなど、ふたりとも、否誰も思っていなかった。

 こうして、彼女の新たなる旅は始まったのであった。




NAMCO x CAPCOM
    &
Project × Zoneシリーズ
           参戦

 1年前の伏線回収。.hack?の?はこのためだった。


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帰らずのlog in(元タイトル:SAO×仮面ライダーエグゼイド(その2))

 ところで、SAOについて地の文で何度も説明を挟んでいたりしますが(主に、世界初のMMORPGという説明)、省いてもいいんじゃないかと思っていたりしますが、それぞれの話しがそれぞれの主人公の第一話であるという考えが私の中である為、そのまま書いております。


 突然変異したバグスターから桐ケ谷和人(きりがやかずと)君を救出して一日がたった。

 あの後念のために病院で精密検査をした。最終的な結果はまだ出てないが、結局彼の身体の中からは本当にバグスターが消えているらしいことはわかった。

 これには、僕と同じCRのドクターで仮面ライダーブレイブに変身する鏡飛彩(かがみひいろ)先生も不思議に思っていた。CRとは電脳救命(でんのうきゅうめい)センターの略称で、バグスター対策をしている政府機関衛生省(えいせいしょう)が作った対バグスターウイルス感染症に対応するための施設だ。

 その衛生省に今回のバグスターについての詳細を伝えると、向こうも調査に協力すると言ってくれ、また元々ライダーガシャット等を生み出した幻夢(げんむ)コーポレーションや監察医でバグスターに対するワクチン製作に大きく貢献してくれた仮面ライダーレーザーの九条貴利矢(くじょうきりや)さんも共同で今回のバグスターについての調査を続けてくれるそうだ。といっても、ガシャットを生み出した張本人でありバグスターのことを一番知っていると言っても過言ではない人間はあの事件で消滅したため、幻夢コーポレーションの協力は微々たるものとなるのだろう。

 和人君に関しては精密検査をした後に大事を取って入院してもらっている。その間、彼の体調には全く問題なく、本当にバグスターウイルスに感染していたのだろうかと僕自身も疑問に思うほどだった。

 僕が仮面ライダーエグゼイドとして戦い始めて六年。ゲーム病のワクチンの開発が成功したこのによってバグスターウイルスとの戦いは佳境に入っていた。だけれど油断はできない。今回の和人君のように突然変異したバグスターが現れたり、またバグスターでなくても別の感染症が蔓延して世界中が大騒ぎになって、僕たち医療従事者の限界を知らされたようで、今でも暗い影を落とし、世界中で多くのドクターが今も奮闘していた。

 僕たちの戦いは続いている。バグスターウイルスに苦しめられる人がいなくなるまで、世界中の人を笑顔にするその時まで、一人の小児科医として、そして仮面ライダーとして戦い続ける。

 けど、今日は少しだけ仮面ライダーや医師としての自分は休みをもらった。ついに、ずっとずっと楽しみにしていたゲームの正式サービス開始日なのだ。

 ソードアート・オンライン。世界初のVRMMORPGとうたわれたこのゲームをプレイするのは初めてじゃない。

 少し前に会ったβテスト。正式稼働前の最終チェックとしてユーザーに遊んでもらいバグや不満点、難易度のデータを取るという催しに、僕は参加したのだ。

 本来βテスターというのは応募制で、正式に発売されたソフトの競争率と同じくらいの狭き門のはずだった。しかし、自分は今やスポーツの一つとして認識されているゲームを使ったスポーツ、eスポーツの世界に入っていた。そして、自慢になってしまうかもしれないが、自分は日本のeスポーツの世界では知らない者はいない天才ゲーマーM。他、何人かのゲーマーと一緒にゲームをプレイして感想を聞かせてくれないかと以前出場した大会の関係者から連絡があったのだ。

 自分自身世界を一変させるかもしれないゲームソフトには興味があったし、仮面ライダーとして戦う中でVRゲームの経験もあった。そのため、この提案に乗らない手はなかった。

 偶然にも他に選ばれたゲーマー枠の中の一人は自分の知り合いがいた。まだ、他にも数多くのゲームの大会で出会った人たちもいて、競争しながらもソードアート・オンラインの世界を二か月間たっぷりと楽しむことが出来た。

 それから何か月かたち、ついに今日の13時から、ソードアート・オンラインの正式リリースが始まる。

 

「あと、5分か……」

 

 永夢は、時計を見ながらそうつぶやいた。きっと、こうして時計を見ながらつぶやくという行動を、何千もの人間がやっているということが簡単に想像できる。

 あと5分もすれば、自分は再びあの世界に足を踏み入れることが出来る。その高揚感と罪悪感はとても大きいものだ。

 この時、永夢は今も病院で入院している桐ケ谷和人のことを思い出していた。あの後病院に入院してもらった後に聞いた話によると、実は彼もまたSAOをプレイする予定だったそうだ。しかし今回の入院によって正式サービスから二時間近く遅れてログインする予定になっている。

 同じゲーマーとして、新しいゲームを開始直後からプレイできないというのは、悔しいということを彼は知っていた。

 実のところ、今回の変異ウイルスの騒ぎによって多くの人間が動いている中で、自分もゲームをしている場合じゃないと有給を返上して仮面ライダーとして、そして医師として動こうと考えていた。

 しかし、そんな永夢を和人が制したのだ。

 曰く、自分もゲーマーだから、せっかくの機会を逃したらいけないと。

 曰く、自分はβテスターだったから一度ゲームの世界を味わってるので、少しくらい遅れても大丈夫。

 等々。

 本当は悔しいだろうに誰かのことを気にかけることのできる少年の申し出を聞いた鏡やポッピーピポパポにも説得され、結局二日だけ有給を使うことにしてゲームをプレイすることにした。

 だが、今考えてみると鏡先生の患者の思いを無駄にするなという説得はかなりオーバーだったような気がする。

 とりあえず、そういう事があって永夢は今ここでゲームをプレイしようとしている。

 なお、和人に関して病院側の配慮により、特別に病院の電源を使ってプレイしてもいいという特例を出してもらったそうだ。

 しかし、永夢は知っている。その特例は、今回の変異ウイルスを警戒してのことであるということを。

 彼のバグスターウイルスの形から、剣に係わるゲームのウイルスが宿っているのではないかと考えた永夢は、もしかすると彼がプレイしたソードアート・オンラインを媒介にしたウイルスではないのかと考えていた。

 だが自分自身プレイしても何の問題もなく、また知り合いも、それに他のβテスターの誰にも和人のような症状の発症がなかったことはすでに知っている。

 もしかすると、SAOを使ったテロを誰かが考えているのではとも思ったのだが、世界中の注目の的であるSAOを、正式サービス一日前に止めるにはあまりにも根拠が薄かった。

 実はこれも永夢が有給返上を却下された原因の一つ、つまり自分たちは外で調査をするので、永夢は中でSAOの調査をしてくれということだ。

 ここまでくると、もはやプライベートなのかそうじゃないのか怪しくなってくるが、ともかく仕事もしながら遊ぶことが出来るという風に考えることにした。

 

 時間だ。永夢はナーヴギアをかぶる。

 集中する永夢の耳には、自らの胸の鼓動が聞こえている。

 それが、まるでこれから始まる新しい冒険へのカウントダウンのように聴こえた。

 果たして、これからどんな冒険が自分の身に待っているのか、そして本当に何らかの事件が待っているのか、全てはあの世界に帰ってみなければ分からないこと。

 けど、これだけは言える。

 例え、どんな大きな事件が待っていても、みんなの笑顔を失わせたりはしない。僕たち仮面ライダーが、医師がこの世界にいる限り、絶対に。

 

「リンクスタート!」

 

 こうして、宝生永夢(ほうじょうえむ)の戦いが幕を開ける。

 この時は夢にも思っていないだろう。

 このゲームが、自分が想像した以上に危険なゲームであると言うことを。

 この戦いを得て、宝生永夢の水晶のような輝きがどうなるのか

 絶望によどみ砕け散るのか

 苦しみに染め上げられ消え去るのか

 どんな結末が待っているのかァ!!!

 見に行くとしよう、この私……壇黎斗(だんくろと)と共に!

 ヴアァ―ハッハッハッハッハッ!!!

 ヴアァァァハッハッハッハッハッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

See you Next game



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最後のデュエット(元タイトル:SAO×けいおん!)

 部活動。それは、子供たちだけに与えられた特権のひとつ。

 成長期の少年少女たちが自らの能力を向上させるために、また多くの仲間たちとの友情を築くためにある一つの目標を追い求める学生の間にのみ許された青春の1ページ。そして、日常への登竜門。

 しかし、それは必ず終わりが訪れる物。終わる時期が決まっている物。高校3年の冬、ほとんどの生徒が部活動を引退し、受験勉強や就職活動に力を入れる大事な時期だ。この間のみ、部活動は1年生と2年生のみになり、共に来年新たに入ってくる新入生を待ち構える準備期間に入る。

 2年生は後輩たちを引っ張っていくものとして、また部活動の中心として1年生に指導を続け、また1年生たちは新たに入ってくるであろう後輩たちのために先輩らしくしようと決意をする大事な時期。

 けど、それは1年生がいる部活動に限っての事。

 桜が丘高校軽音部。所属部員は、現在2年生の中野梓(なかのあずさ)ただひとりだった。

 3階にある第一音楽室の隣の準備室を部室に据えて活動を行ってきたその部活には3年生の先輩が4人いた。

 付け加えるというのなら3年前に部員全員が卒業したことによって所属部員がゼロとなり廃部しかかっていた軽音部を存続させたのがその4人だった。

 後に入学、そして入部してきた中野梓と共に毎日放課後には集まって紅茶を飲んだり、お菓子を食べたり、そして時々バンドの練習をしたりという3年間を過ごしてきた少女達。

 それは、非日常とはかけ離れた何の変哲もない3年間であり、誰にでも送る権利がある3年間だった。でも、その日常がとても楽しかった。とても心地よかった。5人は、この場所が大好きだった。

 しかし、先輩4人もこの9月にあった文化祭を最後に引退してしまい、梓はたったひとり残される形となってしまった。

 部室には、スッポンモドキという種類の亀、通称トンちゃんがいるものの、どちらにせよ人間は彼女だけ。梓もまた、後輩がいたらギターの指導をしたり、先輩らしくしてたのかもしれない。けど、独りぼっちの梓にはそんな相手いるはずもなかった。

 さる10月の初旬の休みの日。ギターケースを背負って登校した梓は、いつもの部室に着くとケースの中から赤いギター、≪ムスタングMG69≫と、チューナーを取り出す。

 ギターという楽器は少しの振動や、放っておいてもすぐに弦が緩んでしまって音程が変化してしまう。また弾いている時にも徐々に音程が変化していくこともあるのでその都度チューニングという物を行って弦の張りを強くしたり弱くしたりして音程を合わせているのだ。

 チューニングを終えた梓は姿勢を真っすぐ正して、左手でムスタングのヘッドを軽く持ち、右手の肘を起点として上から下にゆっくりと右手のピックを弦に当てていく。すると、それぞれの弦から音がなる。もはや聞きなれたものだ。

 自分はこの場所で2年間ギターの練習をしてきた。その大半は先輩に流されてお茶会ばかりであったということは否めないのだが、それでもこの場所が自分の音楽人生にとって大切な場所であるということに変わりはない。

 たったひとりの部員である梓は、来年の4月に新入生が入ってくるまでこの部室で独りぼっちで過ごすことになる。だが、新入生が入部してくるという保証はない。そもそもこの年に入ってきた1年生がひとりも入部してこなかったのだから、期待してもしょうがないと彼女は思っていた。

 一応同級生にもしも来年も自分が独りぼっちだったら入部すると言ってくれた少女たちがいるのだが、でも、ひとりくらいは後輩が欲しい気持ちもあった。というよりも入部してもらわなければならない。

 この学校の校則に、部活動として認められる最低人数の記載があり、そこには4人以上の部員が必要であると明記されているのだ。だから、自分の同級生のふたりの少女のほかにあともう1人、入部してもらわなければならない。

 もし出来なかったらこの部活動は、軽音部は、自分にとってかけがえのない宝物をくれた大切な場所は無くなってしまう。なんとしてもそれは避けなければならない。梓はそう考えていた。

 梓が独りぼっちでもこの場所で練習するのは、来年入部してきてくれるかもしれない後輩のため。後輩の前で格好悪いところなんて見せられないという意地に近い物だった。

 上手にギターを弾けれれば、それだけ自分にあこがれた新入生が入部してくれる、そんなことを期待して彼女はこの場所でギターを弾き続ける。例え、たったひとりボッチであったとしても、誰もいなかったとしても、孤独だったとしても、彼女は弾き続ける決心をしたのだ。

 

「あずにゃんおはよう!」

「おはようございます唯先輩」

 

 まぁ独りぼっちになる時間はあまりないわけだが。

 部室に飛び込んできた元気はつらつという言葉が似合う女の子は、つい先日軽音部を引退した3年生でギター&ボーカルだった平沢唯(ひらさわゆい)だ。

 引退したはずの彼女が何故ここにいるのか。単的に言えば彼女が受験生だからだ。

 前述したとおり、3年生の彼女たちは受験勉強や就職活動に忙しくなるため部活動に顔を出している時間もない。だが、その受験勉強を行う場所は決まっていない。

 この部室であれば空調は完備されているし光熱費は学校持ち、なおかつ梓を独りぼっちにはさせないからこの場所が最適であると唯たちは考えたのだ。

 それに加えて、3年間ずっと過ごしてきたこの場所が彼女たちにとって落ち着くのかもしれない。

 因みに、あずにゃんというのは、梓のあだ名である。猫耳のカチューシャが異様に似合っていたことから唯がつけたもので、当初はあまり気に入っていなかったものの、なんだかんだがあって徐々に気にならなくなってきているそうな。

 それにしても、彼女が真っ先に来るというのはかなり珍しい。本来はもっと先に来る人間がいるはずなのだが。

 聞くと、他の3人は寝坊してなかなか起きなかったり、寝坊した人物を迎えに行ったり、貰い物を取りに行くといった理由でそれぞれに遅れてくるらしい。

 因みに彼女だけが時間通りに来れたのは何も彼女自身がしっかりしているからではない。むしろ彼女は寝坊することが多い人間。なのだが、彼女にはしっかりとした妹がいるため恐らく彼女に起こしてもらっていたのだろう。

 ふと、梓は唯が背負っている物を見る。

 

「唯先輩、ギー太持ってきたんですか?」

「うん! 澪ちゃんや律ちゃんも遅れてくるって聞いて、皆が来るまでの間あずにゃんと一緒に弾いとこうって思って」

 

 ≪ギー太≫とは、彼女所有のギターである≪ギブソン≫に彼女が命名した愛称のようなものだ。

 軽音部を引退し、受験勉強のためということで部室に来るようになってからは、このギー太を部室に持ってくることは少なくなっていた。が、他の3名が遅れてくると聞いて少しの間だけでも梓と一緒に弾こうと思って持ってきたのだ。

 唯は、ギー太を1度2度弾いてヘッドについているペグを締めてチューニングをしていく。

 あまり本人は自覚していないのだが、唯には絶対音感という物が備わっており、それのおかげでチューナー等を使わずに音程を合わすことが出来るのだ。ある意味音楽をするために生まれたかのような転生の素質であると言えよう。

 

「準備できたよ」

「ちょっとだけですよ。その後は、ちゃんと勉強してください」

「うぅ、あずにゃんが厳しいよぉ~」

 

 唯にとってはやや厳しいともいえる梓の言葉。本来なら年上である彼女に使う言葉遣いとは少し違うような気もする。

 しかし、それは彼女たちの中に信頼関係があるからこそであり、さらに自分のことを心配して言ってくれているということを知っていたからこそ、彼女自身も悪い気はしなかった。だから問題はないのだ。

 唯は、梓の隣に座ると自分たちのバンド、放課後ティータイムのオリジナル楽曲を一緒に弾きはじめる。1週間前、唯たち3年生にとって最後の学園祭が終わって以来、こうして一緒に演奏するのは初めてだ。

 やや厳しいことを言った形になる梓ではあったものの、実際のところこうして唯と一緒に演奏して悪い気は全くない。確かに唯は学校ではあんまり真面目に練習をしてくれなかったし、音楽用語もほとんど覚えてくれなかった。

 でも彼女は唯が、唯のギターが好きだった。こうしてふたりで弾く機会なんてめったにないかもしれない。この時間を大事にしよう。できるだけ長くこの時間が続けばいいのに、梓の心はギターを弾く時間が長くなるほどに穏やかになっていった。

 ふと、開かれた窓から赤く紅葉した葉が一枚飛び込んでくる。一枚だけ飛ばされた寂しがり屋の葉っぱもまた、誰かを求めていたのだろうか。しかしそれに気が付いていたのはスッポンモドキのトンちゃんのみ。

 ふたりは、そんな小さな葉っぱの事なんて気が付かないほどに演奏にのめり込む。優しく、尊く、きれいで、すがすがしくて、そしてすぐに消えていく音楽。

 この時、二人とも思ってもみなかった。

 まさか、これが高校生活最後のデュエットとなるなんて。



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それでも舞台は待っている(元タイトル:少女☆歌劇レヴュースタァライト)

ブラボー!

 

ブラボー!!

 

ブラボー!!!

 

素晴らしい! 素晴らしい劇を見せてもらった!!

 

これがレヴュー!

 

これがスタァライト!

 

これがレヴュースタァライト!!

 

まさに最高の舞台だ!!

 

何の落ち度もない! 何の恨み辛みも無い最上級の娯楽だ!!

 

こんな物語を見れたことを誇りに思う!!

 

ブラボー!

 

ブラボー!!

 

ブラボー!!!

 

最高の終わりをありがとう!!!

 

ブラボー!

 

ブラボー!!

 

ブラボー!!!

 

(鳴り止まぬ拍手)

 

(喝采)

 

(ざわめき)

 

(遠く離れていく舞台)

 

(幕が降りる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(無音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラカラコロコロ……。

 

カラカラコロコロ……。

 

 幕が降りた舞台、観客席から響く不気味な笑い声。

 

サラサラユラユラ……。

 

サラサラユラユラ……。

 

 一つの舞台が終わり、二度と開くことのない巨大な壁を見ている一人の人間。

 もう終わりか! つまらぬ!

 もっと我に見せてくれないのか! この素晴らしい観劇を!

 アンコールは終わった。カーテンコールは終わった。再上演も終わった。その先の舞台も終わった。では、その先は?

 終わりだと。まだ終わってはないじゃないか!

 舞台がある限り、人間がいる限り、その劇は再び開かれるのだ!

 もっと見たい! 死ぬまで見たい! すぐに次の劇を始めよ!

 脚本家がいない? なら私がなってやろう!

 この舞台の続き、いやその舞台が終わる直前から始まる新たな物語を!

 奪われ、傷つき、悩み苦しみ、自らの人生を犠牲にしてでもキラメキを共有したい少女たちの物語を書いてしまおう!

 例え、それが彼女達の本意でなかったとしても、客の本意でなくても、舞台の本質ではなかったとしても、私が見たい舞台のために!

 さぁ、台本は出来上がった! 練習もなしのぶっつけ本番だ!

 ブザーを鳴らせ! 幕を開ろ! 神々しく灯りをたけ! オーケストラよ轟け!

 我はストーリーテラー! この物語を形作る物!

 我はデウス・エクス・マキナ! 物語をいつでも終わりにすることのできる者!

 さぁ、歌え! 踊れ! 声が枯れてもなお台詞を吐き続けろ!

 疲れ、血を吐き這いつくばろうとも我の思いを世界中に伝えろ!

 泣きつかれても! 手を血で染めても終えてはならぬ!

 身も心も朽ち果てるまで演じ続けろ!

 そう、これは私のための舞台。

 私にしか見えない舞台。

 誰も知らない舞台。

 この舞台は、私だけの物だ!!

 

(ブザー)

 

(幕の開く音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あッ……」

 

 不確かな幻想の世界。そこと別れを告げた少女の顔は、先ほどまで突っ伏していた机の上からパッと持ち上げられる。操り人形に命が宿ったかのようだ。

 夢、だったのだろうか。少女愛城華恋(あいじょうかれん)の目は、先ほどまで見ていた未来を追おうかのようにもう一度閉められる。だが、当然ながら瞼の裏にはもうあの映像は残っていない。ソレどころかどんな夢だったのかすらも微かにしか思い出せなくなってくる。

 一体、自分はどんな夢を見ていたんだろう。気になって仕方がない。

 

「どうしたの、華恋ちゃん?」

「え?」

 

 話しかけてきたのはクラスメイトでありルームメイトでもある少女、そして親友の一人である露崎(つゆざき)まひるだ。どうやら、先ほどまで眠っていた自分が突然顔を上げたので驚かせてしまったらしい。

 華恋は、なんでもない心配させてごめんと謝った。

 

「そう……あ、そうだ華恋ちゃん」

「え?」

「クラスの掲示板に張り紙がされてるんだって」

「張り紙?」

「そう、次の聖翔祭(せいしょうさい)の配役の発表だよ」

「!」

 

 まひるのこの言葉に、寝ぼけ眼であった華恋の目は一気に冴え渡る。

 

「それじゃもしかして……」

「そうだよ。私たちのスタァライトの、クレールとフローラの配役も発表されたって」

 

 スタァライト、それは彼女達の青春。彼女達が今ここにいる存在理由。そう言っても申し分のない舞台。

 二人の少女の出会い、そして別れを記した物語。

 その劇の主要人物の配役が発表されたのだ。

 聖翔音楽学園(せいしょうおんがくがくえん)。創立100年という長い歴史を持つ由緒正しい学校であり、演劇界を目指す少女達が通う学校だ。日々将来舞台で輝く逸材となるべく少女達は練習に励み、自己鍛錬を続けている。そして、その鍛錬の成果を発表する場所、それが他の学校で言うところの文化祭に当たる聖翔祭なのだ。

 その聖翔祭の記念すべき第100回目、その舞台がスタァライトと呼ばれる物語。

 いや違う。彼女達がスタァライトを演じるのは今回が初めてではない。1年前、彼女達が1年の時にも同じくスタァライトを演じてみせた。そして2年目も、最終学年である3年生でも同じ演目を彼女達はやる予定だ。これは、3年間同じ演目を見せることによって、去年よりもより研磨された舞台を観客に見せて、1年間の成長をわかりやすく示すためでもある。

 そして今回、彼女達にとって二回目のスタァライト。再演たるスタァライトには、華恋を含めた数名の少女達にとっては一年前以上に感慨深い劇となる。華恋の目の色が変わったのも無理はない。

 

「ごめん! 先に行ってるねまひるちゃん!」

 

 こうしちゃいられない。華恋は、すぐさま教室を飛び出して校舎前にある掲示板を見に行く。

 ある種清々しいまでに予想通りのこうどうをとってくれる。自分の友達は。だが、彼女がいても立ってもいられなくなる理由を彼女は知っている。

 ゆめだったからだ。約束だったからだ。『彼女』と一緒にスタァライトをすると言うことが。そのために彼女は精一杯の努力を重ねてきたのだから。

 まひるは、ゆっくりと教室のドアを閉めると、俯き、つぶやく。

 

「やっぱり、覚えていないんだね……華恋ちゃん……」

 

 俯いている少女は、しかし顔を上げると、ドアを開けて友達のあとを追う。けど、その顔は笑顔だった。

 

 華恋が掲示板にたどり着いた頃、辺りは奇妙な雰囲気で騒然となっていた。

 

「えぇ、嘘ぉ……」

「次も『あの二人』だと思ってたのに……」

「どうして?」

 

 掲示板の前に集まっていたのは、華恋とおなじくこの聖翔音楽学園の生徒である少女達だ。しかしなにか様子がおかしい。

 理由は極めて簡単だ。配役が考えていた人物とは違うからだ

 前回の聖翔祭にて、華恋たち第99期生がスタァライトを上演した際、主役たる二人の少女を演じたのは2年A組の主席であり、両親ともにスタァであり、その経歴に負けることなく精進する少女天堂真矢と次席でありかつて天才子役とも呼ばれた西條クロディーヌの二人。この二人が99期生の中でも実力は折り紙付きであり、この二人以上の存在など存在しない。それが少女達の共通認識だった。しかし、今回は違っていた。

 

「あッ……」

 

 その時、一人の女生徒が華恋の姿を見つけた。思わず出たその声が後ろにいる少女にも伝わり、もう一人の少女も華恋の顔を見る。そして、その少女の驚きが後ろの少女にも波及し、そう言うふうに徐々に徐々に再前方にいる生徒にまで広がっていき、ついに全員が後ろにいた華恋の顔を見た。

 まるで、旧約聖書に出てくるモーゼの起こした奇跡のように、集団は二つの方向に分かれていく。最初からそうすることが決められていたかのように、彼女が現れればそうするようにと命じられていたかのように、そしてついに彼女の道が出来上がった。

 

「……」

 

 愛城華恋は、女生徒達が作り上げてくれた花道をゆっくりと歩き出す。

 今日、この日が来るまでに多くの出来事があった。

 長かった、長かったオーディションの日々。

 だけど、思い返せばわずか2週間の間だけの話。

 でも、『親友』と約束してからはもっと長い。

 約束は、自分の燃料として、原動力として一緒にいてくれて、目標となって。その目標のために、その目標を思い出して、自分は今日まで頑張ることができた。

 あの子と、スタァライトをする。いつか、きっと。

 傷ついて、悩んで、苦しい思いもして、悲しい思いもして、喧嘩もして、戦って、勝って負けて、でも色々なことを教わった。色々なものをもらったあのオーディションがあったから、自分はここまで成長することができた。

 周りにいる少女達は、不思議だった。なぜ、この学年の中で最も役にふさわしいといえるあの二人が主役の座を彼女に渡したのかと。けどその不思議もすぐに消えることになる。

 キレイだ。自分たちが作った花道を歩く少女、愛城華恋はスポットライトの光を一心に受けているかのように光輝いている。

 昨日まではそうは見えなかった。しかし、今の彼女はこれまでの彼女とは違うと、そう断言できる。それほどまでに変わっていた。

 進化していた。そう表現する生徒もいる。

 彼女なら大丈夫。彼女達なら大丈夫だ。自分たちのスタァライトは成功する。まだ、劇の一部も見ていないはずなのに、そこまで断言した生徒もいたという。それほどまでに、彼女はキラメイていた。

 そして、愛城華恋は見た。掲示板に出されていた名前を。

 

「ッ!」

 

CAST

フローラ役

愛城華恋

 

 

 そして、その上には……。

 

 その時、もう一人の少女が場に登壇する。後ろの少女達の声を聞いた華恋は、その声に同じく後ろを向く。そこにいたのは……。

 

 

クレール役

神楽ひかり

 

「ひかりちゃん!」

「うん……」

 

 女神のような微笑みを浮かべる神楽ひかり。ついに、華恋の夢が、約束が叶えられる。その幕開けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華恋ちゃん、やっぱり覚えてないんだ」

「神楽さんは、どうなのかしら?」

「アイツの表情じゃ、何もわかんねえだろ」

「うちは、喜んでいるように見えるで、神楽はん」

「と、言うことは……」

「Mais pourquoi seulement deux personnes(でも、どうして二人だけ……)」

 

 学校内にある庭園。そこに集まっているのは華恋やひかりのようにある特別なオーディションに参加した7人である。中には、露崎まひるや、先ほど名前をあげた天堂真矢と、西條クロディーヌの姿も見える。

 だが、その顔はどこか暗いように見える。

 彼女達には大きな秘密がある。それも、誰に行っても信じてもらえないような秘密が。愛城華恋と、神楽ひかりもその秘密に関わっていた。だが、彼女達7人は、二人の少女達以上の秘密を、不本意ながらも抱え込んでしまった。この秘密、打ち明けるべきであるか。

 別段、打ち明けたとしても実はあまり問題のない秘密だ。いや、むしろ彼女達は知らなければならないことである。けど、もし打ち明けたのなら、今年度の聖翔祭に影響を与えるということは必死だ。

 言うべきか、言わざるべきか。

 だが、彼女達の悩みとは裏腹に、友は喜んでいる。約束を叶えられると、夢を叶えることができると。今は、それでいいのかもしれない。あれこれ考えるのはその後にして、今は喜ぼう。今という時を。受け入れよう、また別の舞台を。そして探そう、自分たちが歩むはずだった未来を。

 

 いかがでしたでしょうか? この舞台の始まりは?

 

 誰もが見たかった訳では無い新たなる舞台の幕開けは?

 

 一流でも無い、二流でも無い、ましてや三流でも無い、なんでもないヒトの書いた台本は?

 

 台本は、まだまだ未完成。舞台とリアルタイムでつらつらと重なっていく文字の羅列。

 

 だが、この舞台に、レヴューにも名前はあります。

 

 そう、何のことはない。これは、ここにあるすべての舞台に使われている名称。

 

 他人の妄想を自分の妄想とし、その妄想の素晴らしさを他者に伝えるために汚泥の中を進む物。

 

 いつ終わるか分からない。終わらせられるのか分からない。

 

 身勝手な妄想によって崩される人生。そして、それを楽しむ者たち。

 

 ただの人間を偽の神と仕立て上げ、人々を操り、身勝手なセリフを言わせる愚者の狂乱。

 

 欲望に塗れ、もがき苦しみさせ、それでも笑ってその姿を見ている愚劣な遊戯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台少女(ぶたいしょうじょ)

 

 それは、舞台にあこがれ、舞台に生きることを選んだ女の子の総称。

 

 けど、もう一つの意味が存在する。

 

 普通の喜び、女の子の楽しみ、全てを焼き尽くして遥かなる高みを目指す少女たち。

 

 それも舞台少女。

 

 高みのために普通の女の子たちのように遊ぶことは許されない。普通の女の子のように恋愛にかまけている暇なんてない。

 

 それらすべての時間を舞台のために生きる少女たち。

 

 それが、舞台少女。

 

 そんな舞台少女の中でも極限られたメンバーのみが参加できるオーディションがあった。

 

 そのオーディションの中で行われた秘密の公演。《レヴュー》。

 

 ともに切磋琢磨し、高みを目指してきた仲間たちと争い、歌って、踊って、トップスタァの座を奪い合う。それが、レヴュー。

 

 これは、そんなレヴューを経験した少女たちが手にしたある奇跡の物語。

 

 決して、続くはずのなかったもう一つのレヴューの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二次創作のレヴュー、開演です。




 この作品の扱いについて悩みに悩んだ挙句、こんなこんな感じになりました。本当は3年生に進級してもらう予定だったのだけれども……。


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どこにでもある家庭の姿(元タイトル:SAO×干物妹! うまるちゃん)

 干物。魚などの魚介類の身を干した乾物である。古くは奈良時代に宮廷への献上品として贈られたこともあり、江戸時代頃には一般庶民に普及したそれは、保存食としても、常用食として食べてもおいしいものである。

 ここに、一人の高校生の少女がいた。名前は土間埋(どまうまる)

 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。人気も実力も兼ね備えたまさしく完璧人間であるその少女。だが、しかしそれは仮の姿。今もこうして友達と一緒に下校中の彼女も、ひとたび家に帰ると水を得た乾物も如くの大変化を起こす。

 だが、それはまた後述することとして、今は彼女たちの日常風景を覗き見させてもらうとしよう。

 

「え? SAO」

「そうですわ! ご存じありません?」

「し、知らないけど、何なのそれ?」

 

 そう突如として声をかけたのは、友人の一人である橘・シルフィンフォード、通称シルフィンである。

 ドイツ出身のハーフのお嬢様で、水色の長髪が特徴的な女の子。とても目立ちたがり屋で大げさな動作を用いて他人に声をかけることが多く、努力家の一面を持った女の子だ。ドイツ出身でありながら日本の文化を好んでおり、特にゲームに関しては、ゲーマー『TSF』の異名を持つほどの実力者である。因みにTSFとは個人情報を特定されないために用意されたハンドルネームではあり、そのため顔を隠すためのアイマスクも配布されてはいるのだが、目立ちたがり屋であることが災いしているのか当人は全く隠すつもりなく、ゲームの大会では本名で参加していたりする。

 そんなシルフィンの発したSAOに関してうまるはよく知っていたのだが、シルフィンを含めた友人たちには自分がゲーマーであることを隠しているので知らない体で話を進めることにする。

 

「確か、新しく発売されるゲームの名前……だよね?」

「それまでのゲームシステムから一線を画すVRMMORPGという新ジャンルのゲームで、ゲームの中に自分の意識が入り込んで、自分の身体でプレイしている感覚を味わえるゲームだと、ニュースで言っていました」

 

 というのはこれまたうまるの友人である海老名菜々(えびななな)本場切絵(もとばきりえ)である。

 海老名は、秋田から一年前に東京にある高校に通うために上京してきた秋田美人で、うまるの住むアパートの一階、真下に住んでいる。うまるの親友たる少女である。普段は標準語であるが少し気を抜いたりすると元々の秋田弁をしゃべったりする。あと、この女子高生四人組の中でも一番の食べ盛りであり、以前ファーストフード店に行った際にはハンバーガーを一人で何個も食べる姿が目撃されている。だが太らないというかなりうらやましい体質の持ち主でもある。

 切絵は、小柄でポニーテールの女の子。目つきが鋭かったり無口であったり無表情なことが多めであったりとかなり近寄りがたい印象を持った少女だが、実はただの人見知りのだけのコミュニケーション障害を持った女の子である。水泳部に所属しており、都大会で3位に入るほどであったり、家ではある事情で事あるごとに木刀を振っているという運動神経が良いという一面を持っている。

 

「そう、そのSAOですわ!」

「それで、そのゲームがどうかしたの?」

「実は私、そのSAOの予約抽選に当選いたしましたの!」シュバーン

「えッ!?」

 

 SAOは、その人気に反比例して初回販売本数がたったの1万本という販売開始の前からプレイするのに非常に何度が高いという超プレミヤ商品なのだ。

 そのため、店頭販売されるSAOはごくわずか、ほとんどのお店では抽選販売という形を取ってSAO、そしてそのSAOをプレイするためのハードであるナーヴギアを販売しているのだ。

 この販売本数1万本という狭き門をかいくぐって話題のゲームを手にいれることが出来たのだ。目立ちたがりやのシルフィンが自慢したがるのも分かる気がする。

 のだが。

 

「あ、そういえば私のところにも当選の連絡が来ていました」

「「え!?」」

 

 そう言ったのは切絵である。彼女の言葉に、自慢をしていたシルフィン、それからうまるもまた驚きを隠せないでいた。二人同時に目線を向けらえた切絵、仲良くなったとは言えコミュニケーション障害であることは変わらないため少しだけおどおどとしながら言う。

 

「え、えっと……じ、実はある人の影響でここ最近ゲームに興味がありまして……それで……」

「あ……」

 

 このある人、というのはうまるには察しがついた。うまるの妹『ということになっている』こまるの事だ。

 切絵は、よくうまるの家に遊びに来るのだが、その際うまると一緒にゲームで遊んだりうまるの絵をかいたり、時に夕飯をご馳走になっていたりするのだ。そのためゲームのことに関して以前よりも詳しくなってSAOにも興味を持ったのだ。

 因みに、切絵が影響を受けたというのがこまるという少女なのにうまると遊んでいると言ったかについてはとある理由があるのだが、これもまた後述することにする。

 

「そ、そうなんだ……実は私も応募はしておいたんだけれど外れちゃったみたいで……」

「え、海老名ちゃんも?」

「うん……」

 

 どうやら、海老名もまたSAOの抽選に興味本位で申し込んだようだが、残念ながら彼女は外れてしまったらしい。

 だが、もしも全人類がこの抽選という物に応募していたとすれば、当選確率は1%を下回っているはずなので、四人中二人が当選しているだけでもすこぶる運が良いと言えるだろう。

 いや、二人ではなく三人だ。海老名の言葉を聞いたうまるは苦笑いを浮かべながら言った。

 

「そうなんだ。残念だね、私もお兄ちゃんの知り合いのβテスターだった人からSAOとナーブギア貰っていたから、もし海老名ちゃんも持ってたら四人で遊ぶことが出来たのにね」

「「「え!?」」」

「うまるさんも、SAOをGETしたのですか!?」

「それも、βテスターからって……よくその方は譲ってくれましたね……」

「えっと、βテスターって?」

「あっ、βテスターは、ゲームを販売する前にテストプレイをしてくれる人たちの事です。確か、SAOは千人のβテスターを募っていて、その千人にはそれぞれSAOのソフトが謝礼として贈られたそうです」

 

 と、師匠―うまるの妹(仮)のこまるのこと―が言っていました。と切絵は最後に付け加えた。

 

「えっとね、その人は仕事の一環でβテスターをやっていたらしくって、もう役目は終わったからってお兄ちゃんが貰って……それで、少し興味があったから私もやろうかなって」

「そうだったんですの……」

 

 ともかく、これで四人中三人が初回で販売されたSAOを所有するということになった。こうなると、唯一持っていない海老名が少しだけかわいそうになってくるのだが。海老名は。

 

「わ、私のことはいいから。みんなは楽しんできて」

 

 と言うので、やや後ろ髪を引かれる思いにはなる物の三人でしばらく一緒にプレイして、海老名にもその途中で貸したりしようということで話が終わった。

 

「そういえばうまるちゃん」

「? なに、海老名ちゃん」

 

 帰る中で、別々の道を行くシルフィンと切絵の二人と別れたうまるは、同じアパートである海老名と一緒に並んで帰っていた。そんな時、海老名がふと聞いた。

 

「今日はすぐ家に帰らなくてもよかったのかなって」

「えッ?」

「だって、うまるちゃんここ最近学校が終わったらすぐに家に帰っていたし、休日もあまり遊べなかったから……」

「あぁ、えっと……」

 

 実はここ最近うまるは学校が終わればダッシュで家に帰宅し、休日もまた遊びに誘ってもほとんどを忙しいということを理由として海老名やシルフィンたちと遊びに行かなかったのだ。

 それは、確か夏休みの途中の8月から始まったと記憶しているのだが、一体何をしていたのだろうか。それが、海老名の疑問であり、また今日は帰らなくてよかったのかというのも彼女の疑念の一つであった。

 それに、なんでさっきは嘘をついていたのかも気にはなったが、しかし今はその事だろう。

 うまるは、どこか遠い目をして考えるようなそぶりをした後に言う。

 

「ほ、ほらさっきお兄ちゃんのβテスターの知り合いがいるって言ったでしょ? その人に、SAOがどんなゲームでどう遊ぶのかとか教えてもらって。実は、私も少しだけプレイさせてもらっていたんだ」

「そうなんだ……」

「うん!」

 

 と、言い訳を言っているが実のところ少し違っている。

 厳密にいえばあっているのは実際にSAOをプレイしたことがあるという部分だけ、それ以外が嘘をついているのだ。

 実のところ、彼女はβテスターなのである。そのため夏休みの途中から付き合いが悪くなったというのもほぼ毎日一日中、下手をすれば夜中までもSAOの中に入り浸っていたのだ。

 では、何故彼女はそのことを隠しているのか。理由は簡単である。βテスターというのはその性質上応募してくるのは最新のゲームを誰よりも早くプレイしたいと願うゲーマーがほとんど。つまり、βテスターであるということは自分がゲーマーであることを公言するようなものなのだ。

 うまるは自身がゲーマーであるということは隠しているし、何ならゲーム等あまり興味がないという体裁で生活している。そのため、元βテスターであるということがばれると彼女自身が困るのだ。

 因みに、同じゲーマーであるシルフィンにはライバルが存在する。その名も『UMR』。この字面を見てもらえれば分かると思うが、正体はもちろんうまるである。

 だが、何故かばれない。普通に声をかけてもばれない。そのマスク一つあるだけで顔がばれない。なんでばれないんだと言わんばかりにうまる要素バリバリであるというのにばれない。それこそパンが主人公のあのアニメに出てくる細菌の変装張りに全くばれることがない。

 以上の事から、彼女自身がゲーマーであるということを知っているのは、基本的に兄と、その同僚くらいなのである。

 なお、このゲーマーであるということを隠しているというのもまた、彼女の裏のキャラクター、いや彼女の本性に係わってくるものであるのだが、あともう少しだけそれを説明するのは待ってもらいたい。

 

「じゃあね、海老名ちゃん」

「うん、また明日」

 

 アパートの玄関にて海老名と別れたうまるは、二階へと上がる。

 そして、ある部屋の前で立ち止まった。そこは、自分と兄が二人暮らしをしている部屋だ。

 今、彼女の目の前にある扉。それをくぐると、彼女の印象の全てがひっくり返る。

 この先にあるのは楽園。楽園の中にいる彼女の本性を見たことがある人間は幾人か、しかしそれがうまるであることを気が付く人間はいなという不可思議現象の起こる場所。

 うまるは鍵を回して扉を開け、中に入る。玄関から見る限りでは普通のアパートの部屋の一つという印象しかない。少し進んだ先には曲がり角があり、そこを右に、左に進んだ先に彼女の寝室兼リビングたる一室がある。それ以外は後はバスルームだったりトイレだったり台所しかないというシンプルで狭い作りの間取りである。

 うまるは、背後で扉が閉まるのを待つ。待つ。待つ。

 閉まった。

 うまるの時間の幕開けである。

 

【うまるーん】

 

 謎の擬音が鳴る果たして、それがいったい何なのかうまるにも分からないような音だ。

 それを皮切りとして、うまるの身体に変化が生じる。

 それまで5頭身はあろうかというほどのモデル並みのプロモーションを持っていたはず。そんな彼女の身長がみるみる内に縮んでいく。断じて部屋の方が大きくなっているというわけではない。彼女の身長が明らかに低くなっているのだ。

 この不可思議現象、まるで魚介類を干せばその身がギュッと縮こまる干物を再現したかのよう。

 それが理由かは不明であるが、これについて兄はこう呼称している。

 

干物妹(ひもうと)

 

 と。

 

「うまる! 帰ッ還~!!」

 

 うまるは、先ほどまでの品行方正さが嘘であるかのように学生鞄や靴を放り出して廊下を走る。

 そして、突き当りを華麗なターンを加えながら曲がっていき、先ほど言っていたこの家に立った一室しかない部屋にたどり着くと、今度は制服を脱ぎ捨てて、オレンジ色のフードをかぶる。

 うまるは、さらに冷蔵庫から2Lコーラのペットボトルを取り出すと、それを携えてパソコンの電源を入れる。

 

「さぁてネットをチェックしないと! うまるが学校に行っている間に、なにか新しいゲームの情報は入っていないかな?」

 

 これが、家にいる時のうまるの正体干物妹うまるである。

 外ではゲームはしない、アニメも漫画もほとんど見たことがないというお嬢様系のキャラを演じている彼女であるが、一歩家に入るとその擬態をはぎ取って素の女子高生、いやもはや幼稚園児のようにもみえる姿に変貌することが出来るのだ。

 ちなみに、この状態の彼女を切絵が目撃した際、うまるが苦し紛れについた嘘が、うまるの妹こまるの正体なのである。

 以来、うまるは外で、そして海老名の前では可憐で非の打ち所がない少女を。シルフィンの前ではUMRとしての姿、切絵の前ではこまるの姿と合計四つの姿を使い分けて生きているのだ。

 そしてそんなうまるの正体、というよりもうまるの本当の姿全てを知っているのは、彼女の帰宅から遅れること数時間して帰宅した社会人の兄、土間タイヘイのみである。

 

「ただいまぁ~」

 

 みると、タイヘイはずいぶんと疲れているように見える。彼の会社は残業多め、仕事量多めという傍から見るとややブラック企業に片足を踏み入れているような会社なのだが、そのためかタイヘイは仕事から帰るとほとんど毎日のように屍のような顔を見せているのだ。

 疲れ切って帰ってきたタイヘイであるが、彼のすることはまだ終わらない。これからさらに晩御飯を作らなければならないのだ。

 

「あ、お帰りお兄ちゃん」

 

 そんなうまるは寝転びながら携帯ゲーム機を操作してタイヘイに向けてそう返事をする。

 外面のうまる、つまり海老名たちと一緒にいるうまるであればここで疲れているタイヘイに助け舟を出すところである。だが、本来のうまるに戻っている現在であるので、ここで彼女の口から出るのは。

 

「ねぇ、ジャンプー買ってきた? 先週面白いところで終わっているんだよねぇ」

 

 と、週刊誌をねだる始末である。

 

「あ、そうそう買ってくるんなら、ついでにポテイトとコーラも」

 

 舌の根の乾かぬ内に次から次へとタイヘイに要求をしているうまる。

 みると、帰宅したときには未開封であったはずのコーラはすでに飲み干しており、床にはお菓子の空袋やらゲームのコントローラーやら色々と散乱している。

 仕事帰りで疲れている中のこの惨状。いつもの事と言えばいつものことだ。だが、だからと言って何も感情が沸かないタイヘイではなかった。

 

「このッ、干物妹がぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁん! ゲーム返して!!」

 

 これが、彼女土間うまるの日常である。こんな感じの可もなく、不可もない日常がずっと続いているのだ。

 そう、これからもずっと、続くものだと思っていた。

 だから、このやり取りもずっと、ずっと、大人になるまで、いやもしかしたら大人になっても変わらず続いていくものだと、そう思っていた。

 あの日が来るまでは。



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光ある場所で(元タイトル:SAO×アイドルマスター×生徒会役員共(アイドルのあかほん)×プリキュア×奥さまはアイドル)

 枠としては多分生徒会役員共枠じゃないんだけども、ってキャラ参戦です。
 アイドル&噛みキャラ。本当は現実世界編の序盤の主役になる予定だったあるキャラの代打です。代わりにこの子はSAOに参加し、SAOに参加する予定だった子は参加出来なくなりました。
 後、もし今回のラストの部分で《ある物》を思い出してしまった人は、心が汚れてしまっている人です。


 世界には多くの輝きが存在する。

 夢への輝き、未来への輝き、人生の輝き、命の輝き。

 そして今という輝き。

 だが、輝きという物は鮮度の短い腐りやすい物。

 いつかは輝きは消え、残る物は消失感による絶望だけ。

 特に、今という輝きはとてつもなく儚い物。そして、心に残りやすい物。

 そのために、将来その輝きが忘れられずにしがみつき、あの頃を懐かしんでもう一度取り戻そうとして、無駄なあがきを繰り返し、成長することが出来なくなる。

 今という輝きは、人々に大きな宝物をもたらす最上の媚薬でもあり、最悪な麻薬でもあるのだ。

 これは、短い今という輝きを生きる人間の中でもさらに短い命を過ごしている少女たちの記録。

 そして、その短い今という輝きの中で生涯断ち切れることのない輝きを手にいれた少女の記録。

 花火のように打ちあがっては歓声と共に消えゆく存在たる少女たちの≪今≫という輝きを取り戻すための戦いの歴史である。

 

 東京、赤坂。

 そこにあるある一つのスタジオに多くの人間が集まっていた。

 ある者はそれを見るために。

 ある者はそれを映すために。

 ある者はそれを支えるために。

 ある者はそれに出演するために。

 そして、ある者はそれの前で精いっぱいの輝きを見せるために。

 ここは、少女たちが自分たちの夢に精いっぱいの気持ちで向き合い続け、手にいれた最高の舞台。

 仲間たちと共に頑張ることが出来る唯一無二のかけがえのない場所。

 人は、ソレのことをこう呼称した。

 ≪生っすか!? レボリューション≫と。

 

「日曜午後の新発見。神出鬼没の生中継。」

「この番組は、ブーブーエス赤坂スタジオから、全国のお茶の間の皆様へ、毎週生放送でお送りしております」

 

 と、いうことで始まったのはバラエティ番組、≪生っすか!? レボリューション≫である。この番組は、その名前の通り生放送であり、765プロという事務所に所属しているアイドル12が総出演、しかもそれを毎週行っているというまさしく他の番組には例を見ない試みをしている番組であるのだ。

 この番組は、MCを務めている天海春香(あまみはるか)如月千早(きさらぎちはや)、そして星井美希(ほしいみき)の三人を除いた9人のアイドルが、毎週全国各地に散らばってそれぞれのコーナーを受け持ち生中継を行うというコンセプトの番組だ。

 例えば、沖縄出身の少女我那覇響(がなはひびき)が各地で様々なチャレンジを行う≪響チャレンジ!≫を筆頭として、大家族の長女高槻(たかつき)やよいが幼稚園児と体操を行う≪やよいのスマイル体操≫、不思議系の女の子四条貴音(しじょうたかね)が各地のラーメン屋さんを巡る≪市場貴音のラーメン探訪≫、男勝りの女の子である菊池真(きくちまこと)をコーディネートする≪菊池真改造計画≫等々。多種多様のコーナーを設けている。

 元々は、≪生っすか!? サンデー≫という番組名であったのだが、765プロのアイドル一同押しも押されぬ人気アイドルとなった関係によりスケジュール管理が難しくなり一度打ち切りになり、その後この生っすか!? レボリューションと番組名を変更してリニューアルされたのだ。

 以来、個性豊かな12人のアイドルの奮闘により、芸能界でも屈指の人気バラエティ番組の地位を確立させたのだ。

 だが、今日は少しだけスタジオの様子が違っている。

 

「さぁ、今週は特別編だよ皆、準備はいい!?」

「「いえーい!!」」

「はい!」

「うん!」

 

 スタジオにいたのは三人だけではない。我那覇響、菊池真、高槻やよい、萩原雪歩(はぎわらゆきほ)双海亜美(ふたみあみ)真美(まみ)三浦(みうら)あずさ、水瀬伊織(みなせいおり)、そして四条貴音。総勢12人の765プロのアイドルが勢ぞろいしていたのだ。

 

「そうなんです! 実は、今日スタジオに来ているのは私たちだけではありません!」

「いつもは全国に飛び回っている、765プロのアイドル、総勢12名が、ここに集合しています」

 

 これは、番組始まって以来の出来事である。いつもは3人だけの広々としたスタジオも、12人が集まる窮屈に感じてしまう。だが、この全国的に有名かつ、人気のある12人が集合したのにはある理由がある。

 

「今日は、私たちも宣伝に協力させていただいたゲーム、SAOの発売一週間前なんだよね、美希」

「そうなの! そこで今日は、SAO発売記念の特別番組と題して、SAOを徹底解析していくの!」

 

 この日は、10月30日。世間で注目の的とされているゲーム、ソードアート・オンラインの発売日一週間前に当たる。

 だからと言って、何故彼女たちがこのような特別番組を組んだのか。それには理由があったが、それはまた後述。

 

「これから一時間、SAOに関しての情報を発信していくから、SAOを予約できた人も、できなかった人も目が離せない内容となっています」

「それに先出しまして、なんとここでサプライズゲストの方々に来てもらっています」

 

 この言葉に、スタジオの観覧席からはどよめきが起こる。

 実はこれもまた番組始まって以来初めての事。

 この番組がリニューアル前も含めると始まって約一年。その間、765プロ以外の芸能人が出演したことは皆無だった。

 これは、元々765プロのアイドル達だけの番組というコンセプトで始まったこともあったが、そもそも765プロのアイドル達の絆が強く、その中に他人が入り込む余地がない、というより他人が入り込まなくても面白いという身もふたもない理由も関わっていたりする。

 

「このSAOの発売に際して、プロジェクトSAOの名目で765プロ以外の多くのアイドルも参加しての宣伝を行ってきました」

 

 そう、これが彼女たちが特番を行う理由。≪プロジェクトSAO≫。それは、ソードアート・オンラインを宣伝するために開発元であるアーガスが企画した一大プロジェクト。765プロのアイドルを含めた複数の有名人、インフルエンサーに協力してもらい、幅広い年代の人たちにソードアート・オンラインの良さをアピールすることが目的のプロジェクトだ。765プロのアイドルたちは、その中でも中枢を占める、実際にβテスターとしてプレイしての感想をネット配信するという形でそのプロジェクトに関わっていた。アーガスから借りることが出来た5セットのナーヴギアとSAOのソフトを借り貸ししながら行われた二か月間のβテストによって、彼女たちは十分SAOの世界を満喫し、そしてその良さを世間に広めることが出来た。

 その功績から、アーガスからこのプロジェクトの集大成の内の一つである、発売前特番を任されることになったのだ。

 

「そこで、今回のゲストはプロジェクトSAOに参加して、より親交を深めたお友達です」

 

 この春香の言葉に、観覧席からは歓声が上がる。先の記述通り、このプロジェクトSAOに参加しているのは有名人やインフルエンサー。そのプロジェクトに参加してきた人間たちの中からゲストとして登場するのだから、これから現れるゲストというのは著名人であるということが確定されているような物。だが、問題は誰が来るのかということだが。

 

「それでは、ご紹介します」

 

 千早が、スタジオにそのゲストを呼ぼうとする。

 その十数分前に話をいったん戻す。

 

「段取りはそんな感じね。真琴、準備はいい?」

「えぇ、ありがとうダビィ」

 

 スタジオ近くの楽屋から現れたのは一人の女性、そして一人の紫色の髪の女の子。

 女性は、少女のマネージャー兼パートナー。そして女の子はアイドル歌手、剣崎真琴(けんざきまこと)。このプロジェクトSAOに参加したアイドルの一人であり、≪生っすか!? レボリューション≫に特別ゲストとして765プロのアイドル達からお誘いを受けたアイドルの一人である。彼女は正しく今をときめくトップ歌手として世界中でも人気の歌手であり、その人気を後押ししたのは彼女に隠されていたある事情であるのだが、それはまた別の話として置いておく。ここで書くには長すぎるので。

 そんな真琴がスタジオに向かうために歩いていると、これまた一人の女の子が別の楽屋から現れた。いや、飛び出してきたと言ったほうが良いだろう。真琴のような特別な髪色を持っているわけではない素朴な黒色の短髪の少女だ。特筆するべきことがあるとするのなら、真琴よりも元気であるというところだろうか。

 そんな少女が真琴の姿を見つけると言った。

 

「あぁ!? 真琴ちゃんだぁ! おはようございみゃす!」

「え? あ、おはようございます」

 

 この場合のおはようございますは、業界用語の一つだ。この業界では、その道の人間に対して挨拶をするときには時間に関わらず≪おはようございます≫というのが鉄則であるらしい。

 というより、もしかしなくてもいま挨拶を噛んでなかっただろうか。おはようございます等、この業界にいる人間であるのならばいい慣れているはずなのに。

 

「あら、あなた確かこの後競演する予定の……」

「トリプルブッキングの飯田シホでしゅ!」

 

 また噛んだ。もしかして、噛み癖でもあるのだろうか。

 ここまでの話で分かるように、彼女もまたこのプロジェクトSAOに参加したアイドルの一人であり、本日のスタジオゲストの一人である。レイ・プリンセス所属のアイドルユニット、トリプルブッキングの飯田(いいだ)シホだ。そして、真琴の予想通り噛み癖は彼女の特徴のようなもので、いくら治そうとしても治らないのだそう。

 二人ともに、同じプロジェクトに参加はしていた物の、今日が初対面である。やはり人気アイドルともなると、スケジュールの調整がつかず、参加したメンバー全員が集まったことなど一度もなかったのだ。

 

「……剣崎真琴です。今日はよろしくお願いします」

 

 この突然のテンションと、噛み癖に少しだけ度肝を抜かれた物のすぐ笑顔を取り戻した真琴は改めて挨拶をした。

 

「おう! よろしく!」

 

 何故だろう。彼女を見ていると気前のいい板前を思い出してしまうのは。

 それはともかく、真琴のマネージャーであるDBはあることに気が付く。

 

「あら、そういえば今日は井戸田さんは?」

「あぁ、マネッジャーはユーリやカルナと仕事がブッッキングしたからそっちの方に」

「それじゃ、今日はあなた一人で来ているの? 大変ね」 

「いえ、そんなことないすよ」

 

 トリプルブッキングは他の二人もまたプロジェクトに参加していたのだが、本日は他の仕事があったために今日のところはスケジュールが一人空いていた彼女が来たのだ。さぞかし大変そうに思えるのだが、余裕そうに見えるのは彼女の人柄故であろうか。

 

「夜の仕事をしている人たちに比べればこれくらい!」

「え、夜ッ?」

 

 気のせいだろうか。今、彼女から何らかの危ない気配がした。

 いやいや、気のせいだ。大体、夜の仕事と言っても色々ある。この世界に馴染んできた今、様々な知識を取り入れてしまったが故に勘違いをしている可能性もある。だが、何故に夜の仕事を引き合いに出すのだ。

 

「あ、真琴」

「え?」

 

 その時、マネージャーのDBが真琴に耳打ちをした。

 

「実はね、飯田さんはその……下ネタを言う子なのよ」

「し、下ネタ?」

「そう。だからえっと……フォローよろしくって井戸田さんから」

「えぇ……」

 

 そうなのだ。これが彼女の一番の特徴とも言ってもいい物。親父キャラ+噛み癖+下ネタ連発、これが彼女の特徴であるのだ。完全に生放送の番組に出演させるべき人間ではない。そのため、井戸田はあらかじめ真琴に彼女が下ネタを言いそうなときのフォローを、マネージャーであるDBに頼み込んでいたそうだ。

 

「ただ元気なのはマナで経験しているから大丈夫だったけど……その、しも、ネタなんて……」

「経験? 真琴ちゃんは経験z」

「あぁもうそこまで! ……ダビィ、今日の仕事大変そうね……」

「ご、ごめんなさい」

 

 DBも、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。普通に付き合うに関してはとてもいい子であることには間違いないが、共演者としてこれほど扱いに困る人間に出会ったの初めてといってもいいだろう。

 ところで、先ほど彼女が口走ったマナ、とは彼女の一番の友達である女の子の事。彼女にとっては恩人であるに等しい大切な女の子だ。そして、その女の子は彼女の秘密に関係することなのだが―――。

 

「まぁ、本番になったら抑えますっから、今日はよろしくお願いします!」

「え、えぇ……」

 

 今のところそれは完全に無関係であるのでここは置いておくとしよう。

 

「あれ? そういえばもう一人の共演者の子は?」

「え? あ、あぁまゆりちゃん……」

 

 そう、実はゲストはもう一人いるのだ。しかし、その女の子の姿がまだ見えない。まだ楽屋にいるのか、それともまだ到着していないのか。

 

「はやく会いたたいな、まゆりちゃん!」

 

 実のところ、そのまゆりという女の子はすでに楽屋に到着していた。そして、彼女自身早くスタジオの方に向かいたいと思っていたのだ。ところが、マネージャーの松川から直前まで待機しているようにと言われて楽屋にくぎ付けになってしまっているのだ。

 

「ねぇ松川さん? どうして真琴ちゃんやシホちゃんに合わせてくれないの?」

「剣崎真琴ならともかく、飯田シホはその……言葉遣いが危ういのよ」

「言葉遣い?」

「そう、純粋なまゆりに汚い言葉なんて聞いてもらいたくないのよ」

「あ、あはは……」

 

 松川は、少女桜井まゆりに泣きながら抱き着く。

 ちょっとオーバーな気もしないでないが、しかしまゆりにとっては完全にいつもの事なので別に気にはしていない様子。

 だが、下ネタ連発少女との共演に難色を示す彼女の心配も分からないでもない。そんな少女と出会わないようブッキングしない程度に仕事を入れてきた彼女からしたら、今回の初共演はまゆりのアイドル人生の汚点となりうる可能性があると考えているのだ。

 桜井まゆり、高校生アイドル歌手であり女優もこなす少女と、マネージャーの松川は二人三脚で歩んできたと言ってもいい。出会いは、木から降りれらくなったまゆりに対して芸を見せて面白かったら降ろすという謎の交換条件を見せた事。その時、彼女が松川に聞かせたのは自作の歌であった。

 ハッキリと言えば、変な歌だ。あまりにも独創的で万人受けは難しいと言わざるを得なかった。しかし、妙な魅力を感じる歌だった。

 それから、彼女は桜井まゆりをアイドルとしてスカウトし、以来様々な下積みを経験してトップアイドルにまで押し上げた。まさしく、敏腕マネージャー。業界では彼女に逆らうとその世界にいられなくなる。いや、命も危うくなると言われている。人呼んで鬼の松川。

 

「とにかく、本番直前になったら呼びに来るから、まゆりは楽屋にいること!」

「はーい!」

 

 松川はそう言うと楽屋の外に出て行った。楽屋にはまゆりが一人残される。

 退屈な時間だ。話相手の松川がいなくなると寂しくなる。ふと、まゆりはスマホを取り出すとあるところに電話した。

 数回のコールの後、電話相手は応じる。

 

「あ、もしもしひろりん?」

≪まゆりか、どうした?≫

「松川さん楽屋から出ちゃって暇だから。仕事中に電話かけてごめんね」

≪いや、今は外回りの途中で会社の外にいるんだ≫

「そう、よかった」

≪生放送、頑張るんだぞ≫

「え? うん! まゆり、頑張ります!」

 

 父親だろうか。しかし少し若すぎるような気もする男性の声。それを聞いたまゆりは電話を切るとゆっくりと下に降ろす。

 そして、カバンにスマホを戻す前に胸元に手繰り寄せた。それは、まるでおまじない用に。電話の相手の言葉をかみしめるように。

 

「頑張れよ、まゆり」

 

 ある街のモニターの前、そこに一人の男性の姿があった。男性の目線の先、そこでは今まさに赤坂スタジオで行われている≪生っすか!? レボリューション≫の映像が流されている。

 これから、そのスタジオに彼の≪妻≫が現れるのだ。世間には秘密の、彼と彼女の関係。禁断の情報。互いに愛しているのに、その愛を世間に伝えることは決してない。そんな二人の見えない絆が、そこには存在していた。

 

『それでは、ご紹介します』

 

【奥様の名前はまゆり】

 

『剣崎真琴ちゃんと! トリプルブッキングから飯田シホちゃん!』

 

【旦那さまの名前は博嗣(ひろつぐ)

 

『そして』

 

【2人はごくふつうの出会いをし、ごくふつうの結婚をしました】

 

【だがしかし1つだけ違っていたのは】

 

『桜井まゆりちゃんです!』

 

【奥さまはアイドルだったのです】




奥さまはアイドル
        参戦

 飯田シホに関してはどちらかと言うと『アイドルのあかほん』由来のキャラなのですが、時系列的に考えると矛盾しているらしいので、スターシステムを採用していると言うことで生徒会役員共出典としときました。


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捕らわれの姫と六人の侍(元タイトル:SAO×スーパー戦隊)

 今、一人の少女が泣いている。ここはどこ、私はどこにいるのと。

 幼稚園児程のまだ幼い年齢である女の子は、母親の買い物に付き添って街中に出ていた。だがその時、彼女の目に映ったのは青い蝶々。あまり見たことのない、そしてあまりに綺麗で可憐な蝶々を追いかけていった少女。一瞬だけ目を離していた母親がそれに気がつく事はなく、十分後、少女は見覚えのない工場のようなところに来ていた。

 昼間という時間にも関わらず何も音がしないことから、そこは灰工場だったのだろう。しかし、幼い少女にそのようなことを考えていられる余裕も、知能もない。

 ただ、少女は泣き、叫び、呼ぶ。ママ、ママ、ママ、と。

 誰も聞いてはいなかった。誰も近くにはいなかった。それでも泣いて母のことを呼ぶ。

 ママ、ママ、ママ―――。

 その時、工場のスキマから赤い光が漏れた。

 幼子はそれを、妖精か何かが自分を導いてくれているのだと思った。世の中のことを何もしらない少女からしてみれば、多少の不可思議現象であったとしても、まさしく藁にも縋る思いであったことは想像するに難くない。

 幼子だけではない。誰も思ってもみないだろう。それが、比喩でもなんでもなく地獄へと通ずる光りであろうことなど。

 

「ナー!」

「ナー!」

「ナー!!」

 

 スキマから現れたのは、本来であればその幅から考えると絶対にありえないような大きさの赤い怪物たち。何体いるのかも分からない。数えたことがないほどの数量の怪物が続々と隙間から出現する。

 父と同じ、いや父よりも大きなその異形の姿に、幼子は悲鳴すらも上げることが出来ずに尻餅をついた。

 逃げろ。自分の中のまだ未熟な本能がそう叫ぶ。

 立て。走れ。叫びは、まるで祈りのように彼女の中で反響する。

 

「ナー!」

「ナー!」

「ナー!!」

 

 だが、その命令を受信できるほど彼女の身体は成長しきっていなかった。

 近づいてくる赤い怪物。包丁よりも巨大な刀を持ち、己の身を喰ってしまいそうなほどに巨大な口。それが複数近づいてくる。

 助けて。誰か、来て。そう叫びたくても口は恐怖に慄いて動かない。何も動かない。何もできない。幼子の眼に、涙が溜まり始める。

 死の概念すらまだない幼子が、その様子を理解できていたのかは定かではない。ただ、自分の身に迫る恐怖は感じ取っていたのは事実。

 けど、彼女にできることは何もない。念仏を唱えることも、ただ痛みなく死ねるように祈ることもない。

 

「ナー!!」

 

 ただ、絶望と共に振り下ろされる刀を見上げること。そして―――。

 

「ママ……」

 

 自分が、一番好きな人の名前をつぶやくことだけだった。

 彼女の視界は赤いものに覆われた。

 

「……ナー!!?」

 

 それと同時に聞こえてくる金属音。

 この人は、今自分の目の前にいる≪赤い人≫は誰。

 

「大丈夫か?」

 

 赤い人は幼子にそう声をかけた。幼子は、ゆっくりと頷く。

 

「そうか……」

 

 不思議だ。仮面で顔が見えていないハズ。なのに、そのヒトはまるで笑っているかのように見える。

 赤い人は、幼子を片手で抱くと、彼女を殺そうとした絶望の刀を受け止めた希望の刀を構えて怪物の方を向く。その手は、その身体はとても暖かかった。

 何だろうこの安心感は、先ほどまで絶望しか見えなかったのに、今はもう大丈夫だという感情しか湧いてこない。

 この人も、あの怪物も、自分にとっては得体のしれない者であるはずなのに、両者には歴然とした違いがある。まるで月と太陽のように違う。そう幼子はつたない語彙力で表現する。

 

「殿ぉぉ!!!」

 

 その時、背後から声が聞こえる。おじいちゃんみたいだ。見ると、そこには父よりも年齢を重ねたであろう男の人と、それから全身が真っ黒な人たちがいた。

 赤い人は、それを一瞥すると、目の前にいる怪物たちに向けて刀の先を向けたまま後退し、幼子を下すという。

 

「爺、この子を頼む」

「ハッ! 承知しました! ささ、こちらへ!」

 

 どうやら、この人たちは赤い人の味方らしい。全身真っ黒の人たちの間に自分が入ったことを確認した赤い人、そしておじいちゃんは前を向く。そして、おじいちゃんが赤い人の前に出て言った。

 

「外道衆ども! よぅく聞け!! こちらにおわすのが、貴様たちの総大将……血祭ドウコクを葬った侍の中の侍……志葉家19代目当主である。シンケンレッド……志葉丈瑠(しばたける)様だ!!!」

「シバァァァ!」

「シィンケンレッドォォォ!!」

「しんけん……れっど」

 

 幼子もまた、外道衆と呼ばれた怪物たちに続くようにつたない言葉でそう言った。シンケンレッド、志葉丈瑠。それが、自分の命を救ってくれた赤い人の名前。命の恩人。そして、太陽のように温かい人の名前。

 シンケンレッド、志葉丈瑠―――。

 

 その場所にこれほど早く到着できたのは、彼の住む屋敷とこの場所が近かったことが功を奏した。

 外道衆は三途の川から出現する怪物たちの総称だ。300年前の江戸時代より隙間を通ってこの人間たちの住む世界に現れた、人々に恐怖を与えてきた外道衆。

 今から十数年前、志葉丈瑠は信頼できる家臣、仲間たちと共にこの外道衆の総大将である血祭ドウコクを打倒し、その侵攻を食い止めた。

 しかし、外道衆は血祭ドウコクとは関係なしに自然発生する化け物。そのため、一時の目的を果たして、家臣たちがそれぞれの生活に戻った後も、彼ら《侍戦隊シンケンジャー》の戦いは続いているのだ。

 だが、彼が仲間たちを呼ぶ程の戦いになるということは極まれで、ここ最近は単独で処理することが出来る量しか現れないのが現状であり、市民の安全のためにはそのほうが良いのだ。

 とはいえ、数がすくなって言っていると言っても危険であることには変わりはない。

 今回も、もしも自分があと少し来るのが遅れていたら、今後ろにいる幼子の命はなかっただろう。

 

「恐れ入ったか外道衆ども! この由緒正しいシンケンマルのサビになりたくない者は、おとなしく……」

 

 などといまだに外道衆に対して向上を述べている爺こと日下部彦馬を尻目に、シンケンレッドはそのシンケンマルをゆっくりと構える。

 

「爺、相変わらず長い」

「しかし、できれば戦わずというのが一番かと……」

「それで帰ったためしはないだろ。あとは俺がやる。子供を連れて下がっていろ」

「ハッ!」

 

 日下部は、一度軽く頭を下げた後、後ろに控えていた黒子や幼子と共にその場から離れていく。

 ソレを見たシンケンレッドは、再び外道衆に向き直る。いるのは外道衆の中でも最もよく出る存在であるナナシ連中のみ。数はいつもに比べれば多く、油断などできない。

 シンケンレッドは、一度肩にシンケンマルの峰を載せる。それは、彼が名乗りをする際のいつものポーズであった。

 

「シンケンレッド! 志葉……丈瑠。参る!」

 

 その声と同時に丈瑠は走る。そして外道衆もまた丈瑠に向けて走り出す。まるで、それが決まっていたかのように。

 丈瑠は、わらわらと集まっているナナシ連中先頭に立っていたナナシをただ一太刀にて切り捨てると、さらにナナシを切り伏せながらその中心へと歩を進める。

 だが、そのような敵が密集する場所にいれば、四方八方から敵が襲ってくるということは必然。

 

「ナー!!」

「!」

 

 ナナシは、丈瑠が通り抜けた道をすぐに防ぐと、その背後から刀を振り上げて襲い掛かった。

 

「フッ! ハァッ!!」

 

 だが、その程度丈瑠の範疇の中であった。いや、むしろ隙を見せることによって敵がその隙を狙ってくるように仕向けたともいえよう。

 丈瑠は、その刀をシンケンマルを背中に沿わせて構えることによって背後のナナシを見ることもなくその攻撃を防ぐとすぐに反転し、横一文字に斬る。これにより、そのナナシのみではなく衝撃波によってその周囲においたナナシ数匹がまとめて撃破された。

 

「フ……」

 

 丈瑠は、シンケンマルの剣先を他のナナシに向ける。そして、そのまま走り出す。ナナシ連中は、それにつられて丈瑠と共に走った。

 そして、出てきたのは先ほどの場所よりもやや広い、海と隣接した場所。ここも工場の中であり、戦うにはうってつけであった。

 広い場所に出てきたことによりナナシは分散、先ほどまでの場所は狭く、ナナシが必然的に密集していたために戦いずらかったが、これで戦うスペースが十分出来上がった。

 

「フッ!」

 

 丈瑠は、ベルトのバックルを開き、中から一枚の刀の唾のような中心に穴が開いた円形のモノを取り出す。そして、シンケンマルに装填して回転させた。

 これは、秘伝ディスクと呼ばれるもので、これをシンケンマルに差し入れて回転させることによって、秘伝ディスクそれぞれが持っている力を発揮させることが出来るのだ。

 丈瑠がシンケンマルに装填したのは赤色の《獅子ディスク》と呼ばれる物で、シンケンレッドの相棒ともいえる獅子折神の火の力が折り込まれている。

 

「火炎の舞!」

 

 これで素の状態でも十分攻撃力のあったシンケンマルに火の力がまとわりついたためさらに攻撃力が上昇した。

 

「フッ! ハァッ!!」

 

 丈瑠は、殺傷能力の上がった攻撃で次々とナナシを切り捨てていく。先ほどまででも手も足も出なかったというのに、そこにさらに力が合わさったのだ。ただでさえナナシしかいない外道衆側が勝てる見込みなどあるわけがない。

 そう、この戦いは正攻法では勝てるはずがない。ならば、外道らしく外道な方法で相手をするまで。

 工場の屋上に三つの腕のない異形の怪物が現れた。

 彼らはナナシと同じく外道衆の戦闘員である怪物の一種、名をノサカマタと呼ぶ。腕が存在しないのはその巨大な顎に吸収されたのかそうではないのかと言わんばかりに大きな顎を持つその怪物は、その口から強力な火炎弾を発射する。つまり、遠距離攻撃に特化した怪物であるのだ。

 今、地面にいる志葉丈瑠はナナシ連中との戦いに集中していてノサカマタの存在に気が付いていない。ここからの攻撃であれば丈瑠を倒し切るとまではいかずとも、ともすれば大怪我を負わすことが可能である。上手くいけば、そこから志葉家弱体化まで持っていけるかもしれない。

 そんなことを考える頭脳が外道衆側にあったかどうかは疑問だが、もしも考えていたとしたらソレだろうか。

 だが、丈瑠がノサカマタに気が付いていないのは事実。ノサカマタは、一体、また一体とナナシを斬り捨てている丈瑠に向けて攻撃体勢に入った。

 その時である。

 

「フッ! ハッァッ!!」

「ッ!!」

 

 丈瑠は一驚した。自分が戦っているすぐそばにノサカマタが三体落ちてきたのだ。それも、致命傷を負っていた様子で、地面に落ちたすぐ後に爆発四散して跡形も残らなかった。

 まさか、工場の天井から狙っていたとでもいうのか。であるとすれば、危険な状況であったのだろう。助かった。だが、一体誰がノサカマタを、それも落ちてきたタイミングからして三体同時に倒したというのだろうか。

 丈瑠は、ふとノサカマタが落ちてきた天井をみる。そして、再び一驚を喫することとなる。

 

「あれは……」

 

 そこにいたのは、シンケンレッド。つまり、自分である。

 否、正確に言えば自分と同じ姿をしたシンケンレッドだが、腰にはスカートを付けている点等細部が違う。彼は、その姿をした人物のことを一人知っていた。しかし、何故この場所に《彼女》がいるのか。

 果たして、彼の疑問に対する答えがでるよりも先に、もう一人のシンケンレッドは言う。

 

「その程度のナナシにてこずるなど、鍛錬を怠っていたのか? 丈瑠」

「……」

 

 もう一人のシンケンレッド。普通に考えればあとに来た方が偽物であると考えるが、しかし実は違う。

 丈瑠も、そしてもう一人も、どちらもシンケンレッドであり、《今は》どちらも志葉家の人間であるのだ。

 丈瑠は、天井にいるシンケンレッドの言葉を尻目に再びナナシ連中に向き直り、一枚のディスクをシンケンマルに装填する。それは、最初にシンケンマルに装填されていた秘伝ディスクであった。

 回転する秘伝ディスク。その回転数が増していくと、次第にその秘伝ディスクから赤い力が湧いて出てき、シンケンマルに纏わる。それは、先ほどまでの獅子ディスクと似て非なる物。

 飛び出した火の力は、やがてシンケンマルの形を変える。先ほどまでとは全くと言っていいほどに姿形がが、そして大きさが違う《烈火大斬刀(れっかだいざんとう)》と呼ばれる巨大な刀だ。

 

烈火大斬刀(れっかだいざんとう)……百火繚乱(ひゃっかりょうらん)!!」

 

 烈火大斬刀は、炎を纏う。それは、先ほどまでとは比べ物にならないくらいに巨大な火柱を生み出していた。

 丈瑠は、炎を纏った烈火大斬刀でその場にいたナナシ連中を薙ぎ払う。先ほどまでは狭かったためこの技を使用すると工場に火が燃え移り、大火事になりかねなかったため、使用を控えたのだが、ここでなら問題なないだろう。

 

「ナー!!?」

 

 巨大な炎の大刀による斬撃はあたりにいたナナシを全て焼き払い、気がつけばそこに立っていたのは丈瑠のみとなっていた。

 敵はいなくなった。だが、安心するのはまだ早い。スキマから出現する外道衆は、一度倒し切ったと思っても、またスキマから出現するということが多々あるからだ。

 だが、今回はもうこれ以上ナナシ連中が出現するという気配はない様子だ。

 丈瑠は、フッと一吐きすると烈火大斬刀をシンケンマルに戻して納刀する。

 

「どうやら、まだ腕は落ちていないようだな」

 

 そこに、先ほど工場の屋根の上から丈瑠に声をかけたシンケンレッドが現れる。下から見上げた形で、太陽を背にしていたためにその時は分からなかったが、よく見ると丈瑠とはかなりの身長差があり、こちらの方のシンケンレッドはかなり小柄な体系であるということが分かる。

 それに、丈瑠との一番の違い、それはそちらのシンケンレッドには、腰にスカートを蒔いているということだ。別段、その下に下着があるとか、趣味でシンケンレッドとしてのスーツの上に穿いているというわけではない。丈瑠の家臣の女性戦士がそうであったように、何故か女性が変身すると、そのような装飾が成されるというのが理由なだけだ。

 丈瑠は、変身を解きながら目の前にいる親しい人間に対して言う。

 

「弱体化したとはいえ、外道衆は人間がいる限り湧き続けるのと同じ。鍛錬を怠ったことは一日たりともない……母上」

 

 その言葉と同時に、丈瑠が母上と言った少女。志葉薫(しばかおる)もまた変身を解いた。

 母上、というにはまだ若い少女。いや、このくらいの年齢であれば子供がいてもおかしくはないとは思う。しかし、丈瑠との年齢差を考えれば、彼のような息子がいるのは少し考えられない。

 

「当然だ。いや、そんなお前だからこそ、私は丈瑠を養子に向かえたのだからな」

 

 そう、実は丈瑠は志葉薫の実の息子というわけではない。彼は、この志葉家18代目当主志葉薫の養子であるのだ。

 元々、血祭ドウコクに対抗するための封印の文字という物を会得できるまでの間、当主を外道衆の目から逸らすために用意された影武者、それが志葉丈瑠の正体であった。

 丈瑠は、その影武者の役割を果たすために仲間たちにも嘘をつき、罪悪感にかられながらも約一年間にわたって戦い続けてきた。本当であれば、そのまま永遠に影武者を隠したまま戦うつもりでもあった。

 だが、志葉薫は彼らの予想よりも早く封印の文字を会得した。それは、家臣たちが決死の覚悟で戦っているというのに自分一人裏に回ったということの罪悪感や、影武者として自分を偽り続けている丈瑠に対して思うことがあった所以なのかもしれない。

 結果、本当の志葉家の当主として戻ってきた志葉薫は本物のシンケンレッドとして、丈瑠と共に戦い続けてきた家臣たちと少しの間だけではあるが戦った。

 だが、封印の文字は血祭ドウコクが半分人間である外道、薄皮太夫を取り込んでいたことによって封印の文字を無効化されてしまい、薫自身もすぐには立ち直ることが出来ないほどの怪我を負ってしまう。結果多くの人間の、特に丈瑠の人生を狂わせた一世一代の作戦は失敗に終わった。

 だが、薫はそこで止まることは無かった。

 この外道衆との天下分け目の大決戦の中、当主不在で大将である血祭ドウコクに勝つことは不可能である。そう考えた薫は、丈瑠を自らの養子に向かえ入れることにより、名実ともに志葉家の当主としての座を、丈瑠に渡すことを決心し、行動に移したのだ。日本の法律上では年上を養子にすることは不可能であるのだが、名目上であったとしても丈瑠を養子にしたという事実。それが代々続く侍の家系として大切なのだと、薫は考えたのだ。

 こうして、志葉家18代目当主志葉薫は引退し、改めて志葉家19代目当主志葉丈瑠が誕生した。

 そして、仲間たちの力と、そして支える者たちの力によって血祭ドウコクは打倒され、薫は志葉家の分家として隠居するということになった。だが、隠居の身ではあっても世界の危機、息子である丈瑠の危機の際にはすぐに駆け付けてシンケンジャーのもう一人のレッドとして戦っているのだ。

 そのため、このような小規模な戦いに出てくるというのは初めての事なのである。

 

「ところで、どうしてこの場所に?」

「理由は二つある。一つは、迷子を捜していた母親を見つけたことだ」

「あの女の子の……」

「あぁ、今頃私のところの黒子が引き合わせてくれている頃であろう」

 

 黒子は、丈瑠のところにいる者たちだけではない。当然、前の当主である薫のところにも何十人といる。今回、薫は何人かの黒子を連れて丈瑠にある話をするために街に赴いた。その際、迷子となった子供を探している母親に出くわしたのだ。

 少し目を離した隙にいなくなったという女の子を、一緒に探そうとした矢先に黒子から近くの工場跡地にナナシが出現し、さらに女の子を一人、丈瑠のもとにいる黒子や日下部が保護したとの情報を聞いた。

 もしかしたらその女の子が、母親が探していた子供なのかもしれない。そう考え、薫は駆け付けたということなのだ。

 そして、やはり女の子は薫が連れてきた母親の子供であったらしく、女の子は怪我一つなく親元に帰っていったそうだ。

 

「そうか……それで、もう一つの目的というのは?」

「あぁ……いや、そっちの方が本題だと言ったほうが良いのかもしれないな」

 

 確かに、迷子の女の子と母親の一件は突発的に発生した出来事であったため、本来はまだ彼女が語っていないもう一つの方が理由でこの街にやってきたと考えるのが無難であろう。

 果たして、彼女の口から発せられた言葉。それが、この先に待ち受ける志葉家の一大事に、そして世界の危機に繋がる物であるといったい誰が予想できたであろうか。

 

「丈瑠、私はソードアート・オンラインをすることにした」

 

 人の世は常に幸せな物事で回っているとは限らない。

 恨みと妬み、ひがみと嫉妬、恐怖と欲望。

 様々な負の感情も一緒くたにして回っているのだ。

 その感情は人を狂わせ、狂気に陥らせ、やがて誰かの人生を狂わせてしまう。

 狂わせた人間はその罰を受けなければならない。それが世の常である。

 後に薫はこう語っている。この事件に巻き込まれたこと、それは自分自身の罰。彼の人生を狂わせてしまったその罰が訪れようとしているのだ、と。

 あの時、自分の中にあったのは本当に世界を守る、人々を守るという正しき感情だけであっただろうか。

 違う。あの時自分の中にあったのは復讐心。父を殺し、自分から普通の人生という物を奪った血祭ドウコクへの逆襲。己の私利私欲のために戦った。

 だから、自分は負けたのだ。

 丈瑠の、志葉家19代目となった丈瑠と、家臣たちとの絆の力に。

 様々な感情が交差する中で、彼女のSAO(デスゲーム)の始まりの時が、刻一刻と訪れようとしていた。

 

 シンケンジャーとをあまりみつ 捕らわれの姫と六人の侍 開幕




 侍戦隊シンケンジャー
           参戦


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憂鬱の先にある見知らぬ未来(元タイトル:SAO×涼宮ハルヒの憂鬱)

 序盤完全に《例のアレ》の話ですね。


流行

 人間社会を生きる中で切っても切れないであろうそれは、企業の販売戦略に影響を与えたりごく一部の人間にとって冷た~い氷ぶろに浸かる時のように慎重になったり、はたまた何の考えなしに龍の口の中に飛び込むが如くに惹かれてしまう代物である。

 中学生の時に世間であるアニメが流行った時、俺の周りの人間はバターで固めた団子に集まるネズミの如くに飛びついた。まぁ俺は、あまり自分がよく知らないものに金を使う程貯金してなかったため、U-ボートの如く静観していた。

 所がどっこい、周りの人間はそれを見ろ見ろと勧め、興味がないと一言言えば、まるで魔女狩りが如くに責め立てられ、俺はそのアニメを2度と見ない決意を固めた。

 まぁ、正直言えばあの時おかしくなっていたのは周りの人間だけじゃなく、いつもは当たり障りのないような情報ばかりを伝えるマスメディアもだった。

 例のアニメが話題になっていると知るや否や、昔は腫れ物のように扱ってきたアニメを急に煽てる様になり、さらにはまるで昔から応援していました、急に流行り出しましたとばかりにどこもかしこも様々なメジャーマイナー関係なしに取り上げ始めたのだ。あるクイズ番組では、識字率の如く誰もがキャラクターまで把握していることを前提とした問題までだし初め、排他的経済水域なんて知ったことはないとばかりにアニメという業界を乱獲し始めた。

 まぁ、本人たちにとってはただ流行に乗っただけでそんな思惑はないというだろうし、取り立てて気にするようなことでもなかった。ブームなんてもの2年も3年も続くようなものじゃない。爆発的に流行したものの賞味期限なんて1年やそこらで切れてしまう。かつて一大ムーブメントを巻き起こしたアニメをいくつか知っているが、今回のそれは余りにもアニメに興味のない人間を巻き込んでしまったのだ。

 結果は想像に任せる。

 そんな、時に人を暴力的にさせ、狂わせてしまう流行。俺たちは、その流行の波という断じて飲まれたくないようなものにある少女の一存で飲まれ、これから先続いていくであろう平凡だった日常という物を狂わせてしまった。

 長い前置きになってしまったが、それはさかのぼること一か月前、人間の視覚的美意識を極限まで高めるという役目のために紅葉がようやく赤くなってきたときにまで時を戻さなければならない。

 

「ん?」

 

 今から1年前、文芸部の部室を乗っ取る形で誕生したとある部活動の活動拠点となっている部屋に入った俺は、パイプ椅子に根を生やしているかのようにじっと本を読んでいる少女に声をかけた。

 

「長門、今日もお前一人か?」

 

 答えはすぐに帰ってこなかった。俺が長門と声をかけた二十数年前にブームになった深夜アニメのヒロインのような少女、長門有希(ながとゆき)は手に持った歴史物の小説からスッと眼をそらし、顔をこちらに向けると、何の興味も示さないかのように言った。

 

「そう」

 

 それを聞いた俺は思った。見ればわかる。だが、俺がした質問に対しての言葉の最小公倍数としての返事としては満点に近い物であるため、これに文句を言ってはいけない。

 そもそもの質問があまりにも簡易的だったのが悪かった。質問を変えてみよう。

 

「ハルヒはどうした?」

「まだ来ていない」

「そうか、今日もか……」

 

 こりゃ、今日もこの団体の設立者は来なさそうだ。なのだが、それでも帰ることもせずにカバンを置いてパイプ椅子に座り込む俺は、よほどこの団に飲み込まれてしまっているらしい。

 ここで、この団体のことをよく知らないという人間に丁寧に説明して存じよう。最初に断わっておくが、俺は小学校の先生でもないし、悪徳接客業の人間でもないためあまり分かりにくい説明になるかもしれないが、俺は責任を持てないのでその点注意するように。

 先ほどから俺が団と言っている物の正体、それは≪SOS団≫という物だ。SOSと言っても、緊急避難信号だったり桃色のレディの事ではなく、略さずに言うと『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』だ。

 涼宮(すずみや)ハルヒ。それは、俺の極々平凡な日常を180度以上変えてしまった破天荒な少女だ。今でも鮮明に覚えている。この県立北高等学校に入学し、同じクラスとなったハルヒの最初の自己紹介を。

 

『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来なさい。以上』

 

 この、忘れろと催眠術をかけられても忘れられないような素っ頓狂な発言と共に出逢った涼宮ハルヒという言動、行動ともにただの人間が一生辿りつけないような思考回路を持つ人間に、俺がうっかりといった言葉で作られたのが、このSOS団である。

 

「失礼します~」

「朝比奈さん」

「あっ、キョン君。えっと、涼宮さんは今日も?」

「あぁ、はいそのようです」

 

 唐突に始まった回想の渦に慕っていると、俺が入ってきたドアからとても豊満なモノをお持ちの女性が、湖から女神が登場するかのように降臨した。

 彼女は、俺達から見ると一年先輩となる朝比奈(あさひな)みくる。小動物系というか、小動物の中でも保護欲求が高まりそうなほどに弱弱しく、このような団体に置いていてはかなり危険ではないかとも思うくらいである。

 あぁ、因みに彼女の言ったキョンというのは俺のあだ名の様な物だ。もちろん、俺にはちゃんとした本名があるにはあるのだが、なんやかんやがあってこの学校の内部ではもはや本名よりも知られてしまっている。それもこれも、件の涼宮ハルヒのせいなのである。

 

「おや、涼宮さんはまだ来られていないようですね」

「あぁ、そうだよ」

 

 そして俺も含めて三番目に現れたにやけスマイルを崩さないもう一人の男子生徒、古泉一樹(こいずみかずき)、説明は以上だ。

 最初の長門を含めてこの四人に、団長である涼宮ハルヒを加えた五人が、SOS団の全団員である。のだが去年一年間と今年に入っての上半期、ほとんど毎日のように学校終わりに部室に現れていた団長涼宮ハルヒは、何故かこの二か月全くと言っていいほどに部室に顔を出さなくなった。

 今は10月であるので、逆算していくと8月のあくる日から付き合いが悪くなった。夏休みという昨年ある一大事件を無意識のうちに起こしていた頃合いにも、ハルヒからは何の音沙汰もなかった。そのため、今年もなにかあるかもしれないと思って用心していた俺たちにとっては、食べたフォーチュンクッキーの中に何も入っていなかったのように拍子抜けしてしまったのは言うまでもない。

 新学期以降、学校の授業には一日たりとも休まずに来ているはるひに対して、何故ここ最近SOS団に顔を出さないのか、聞いたことが一度だけあった。すると、帰ってきた答えは。

 

『アンタには関係ないことでしょ。今大事な時期だからそっちに集中したいだけなの』

 

 だけである。この言葉から察するに、本人にとってはなにやら重要な案件を抱えていることは確かなようなのだが、それを一切教えてくれることは無く、休み時間や昼休みにも一人どこかに雲隠れしてしまっているため、その話以降あまり彼女と話をしたこともない。

 そんなこんなで、創設者である団長様が顔を出さない中でも、俺たちはこの場所に集まり、それぞれに時間を過ごす。いつものように長門は本を読んでいるし、朝比奈さんはメイド服に着替えてお茶を汲み、そして俺は嫌々ながらも古泉と将棋をする。こんな毎日が、新学期に入って一か月続いていた。

 

「なぁ、どう思う古泉」

「待ったをかけるべきかどうかでしょうか?」

 

 そういう事じゃねぇ、と敵の陣地の中で一人孤立している金の駒を後ろに下がらせると言った。

 

「ハルヒのことだよ」

「そうですね。確かに、これまでの行動パターンから考えて、二か月以上も行動を起こさないというのは珍しいことだと思います」

 

 この状況で珍しいの一言で済ませることが出来るのは、お前のように何を考えているのかわからないような奴らと、隕石が一時間後に地球に落下すると聞かされてもナンパにいそしむような能天気な奴らぐらいだ。

 珍しいの一言で済ませることが出来るほど簡単な問題だったらこんな質問はなからしていない。

 

「珍しいじゃなくて異常だ。この一年間毎日のように部室に顔を出して常人じゃ考えつかないような発言をし、休みの日には不思議探しと称した市内散歩を繰り返してたんだぞ? それが全くないなんてな……」

 

 涼宮ハルヒ、その言動、行動が異常であると言わざるを得ない人間であるが、そんな人間が作ったこのSOS団が普通の部活動であるはずがない。

 そもそもこのSOS団の設立目的はハルヒ曰く、宇宙人や未来人、超能力者を探して一緒に遊ぶことだそうだ。はっきり言おう、正気の沙汰じゃない。

 だが、彼女自身は本気の中の本気な様子で、それらいるのかいないのかわからないような者たちを探すため若しくはそれ以外の不思議を探すためにこの市内のあちこちを休日には歩き回ったりしているのだ。だがしかし、前述したとおりにここ最近はそれすらもなくなり、一日の歩行数は一年前に比べれば天と地ほどの差くらいありそうなものだ。

 

「もしかして涼宮さん、SOS団の活動が嫌になってしまったんでしょうか」

 

 いいや朝比奈さん。そんなことは天と地がひっくり返ってくっつきでもしない限りありえない。そもそもこの部活動が嫌になって辞めるのであれば、恐らくそれは俺が一番最初になることだろう。

 だから、確実にありえないことだ。そう断言できる。

 

「そうですねぇ、実は一つ心当たりがあります」

「心当たりだと?」

「えぇ」

 

 そう言った古泉は、わざわざ持ち駒の成金で王手をしてから、カバンから一つの雑誌を取り出す。

 

「これですよ」

 

 古泉のもってきた雑誌、そこにはプリキュアなる者が横浜に現れた怪物を倒したと記されていた。

 

「なんだこれは? 少女向けアニメの映画の宣伝か何かか?」

「いいえ、どうやら関東地方で実際に活動しているようです。他にもこんなに」

 

 といって、次から次へと、まるでマジシャンのようにカバンから雑誌が出るわ出るわで、いっそ雑誌専門の本屋でも開いたらどうだろうかと皮肉を込めて行ってみるが、古泉はそのにやけスマイルを崩すことなくページを差し出した。

 そこには、スーパー戦隊なるものや仮面ライダーという都市伝説。渋谷はゆらぎという物で封鎖され、ザ・ワールドという全世界で2000万本売り上げたゲームの対抗馬として表れたと言われているSAOというゲームの特集までありとあらゆる情報が載っている。

 SAOのことはギリギリではあったものの知っている。確か、世界初のVRMMMORPGだったはずだが。

 

「一体これがなんだって言うんだ?」

「プリキュア、スーパー戦隊、仮面ライダー、ゆらぎによる封鎖……そしてザ・ワールド。ここまでくればお分かりになると思いますが?」

 

 とはいう者の、たったそれだけの情報で何か思いつけるのだろうか。ただ一つ言えることは、そのどれもが初めて聞く情報で、そんな名称今の今まで聞いたことがないという確約たる自信だけだ。

 

「ちょっと待て……」

「ようやくお気づきになりましたね」

 

 そうだ。気が付いた。どうしてこんな雑誌に載るようなこと、己が知らなかったというのだ。渋谷が封鎖されたり、横浜に怪物が現れるなんて大事件、そんなこと生まれてこの方聞いたことがない異常な事態、しかしそれをあまり異常なことだとは思うことが出来なかった。まるで、あたかもそれが普通であるかのように。日常であるかのように。それにザ・ワールドというゲームに至ってもそうだ。全世界2000万本売り上げたゲームだというが、そんなゲーム、地球の裏側のアマゾン川周辺の部族が使っているだろう聞いたことのない言語並みに聞いたことがない。

 仮面ライダーという都市伝説もそうだ。いや、よく見るとすでにその存在が周知の事実になっているため都市伝説として扱うのもおこがましい等と雑誌には書いてあるのだが、それすらも聞いたことが人生で一度もない。なによりもだ。

 

「こんな面白そうな話、ハルヒが今まで見逃していたっていうのか?」

「ありえません……よね。なら、考えられうることは一つ……」

「おい、まさか非日常出来なことが全然見つからないことを嘆いたハルヒが作り出した空想上の人間なんて言うんじゃないだろな?」

「ご名答です」

「……」

 

 このSOS団のことを全く知らない人間が聞いたら、古泉の頭がおかしくなったと考えられるほど、いや、実際におかしくなっているんじゃないかと思うほどの言葉だ。ただの高校二年生の女の子が、世間様に知られるほどのご当地ヒーローヒロインを生み出すことなんて、できるはずがないとあざけわらってしまいそうな話だが、俺は知っている。実際にハルヒに。そのような力が備わっているということを。

 先ほど、このSOS団の設立目的が、宇宙人、未来人、超能力者と一緒に遊ぶことと言ったのは記憶に新しいかと思うが、実は、このハルヒの願望はすでに達成してしまったりしているのだ。

 例えば今も部屋の方で熱心に本を読んでいる長門。無口で常に無表情であるということをのぞけば一見ただの女の子にしか見えない。が、はっきり言おう。

 彼女は宇宙人だ。正確に言うと、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。だそうだ。

 そして朝比奈さん。彼女は未来からこの時代にやってきた未来人。

 古泉はこれでもとある機関に所属している限定付きの超能力者だ。

 まさか、そんな都合のいいことがそうそう起こるはずがないだろと思うかもしれないが、古泉曰く、涼宮ハルヒがそう望んだからこうなった。かいつまんで言えばそういう事らしい。

 俺か? 俺はただの涼宮ハルヒに巻き込まれたただの一般人だ。それ以上でも以下でもない。

 ともかく、長門たちがいうことには、涼宮ハルヒには世界を思い通りに歪めて空想を現実にする能力があるらしい。古泉は、それを神に等しい存在であると認識しているらしいが、質の悪いことに彼女自身は自らの力について全く知らずに生きている。知ってしまえば世界が崩壊するとも言われているらしいが、俺にはわからん。

 とにかく、古泉たちはそんな能力を持った涼宮ハルヒの監視のためにこの学校にやってきたそうで、本気で彼女にそんな能力があるのだと信じている。かくいう俺も、それまでにハルヒが起こしてきた数々の奇跡を眼にすれば、嫌がおうにも信じざるを得ない。という感じだがな。

 

「もしかすると涼宮さんは、夏休みの間にこのどれかのグループに接触を図ったのかもしれませんね」

「あいつの好きな超常現象の世界だ。話を聞くだけでも天国にいる気分だっただろうな」

「それじゃ、涼宮さんは……」

 

 おそらく、朝比奈先輩はこう考えているのだろう。目的を果たした以上このSOS団の存在する意味はない。このまま、SOS団は解散してしまうのではないのかと。

 だが、俺『たち』はそう考えていない。

 

「心配ありませんよ朝比奈さん」

「え?」

「古泉、お前もそう考えてるんだろ? 朝比奈先輩をむやみに困らせるんじゃない」

「失敬、そうですね。仮に涼宮さんがこの雑誌に載っている、いえもしかするとそれ以外にもあるであろう現象に遭遇していたのなら、この世界はそう言った超常現象一色に染め上げられているはずですから。こんな局地的な物でおさまるわけじゃありません。貴方もそう考えているんでしょう?」

「そんな大それたものじゃない。ただ、あいつの事だ。そんな面白くて楽しそうなことを、独り占めしようとしない。いつものように俺たちも巻き込んでいるはずだ」

「ご最も」

 

 これまでもそうだった。どこに行ってもどんな場所でも、涼宮ハルヒは俺たちの興味や時間のあるなしにかかわらず様々なことに巻き込んできた。先述の不思議探しもそうだが、探偵まがいの人探し、別荘で行われた合宿、コンピュータ研とのゲーム対決もそうだし。最たるものとして昨年の夏休みには突然の連絡から始まった昆虫採集、夏祭りの参加、バイト等々を長門以外の記憶にはないが15532回繰り返すという地獄も楽しくなるほどの出来事にも巻き込んでいる。そんな人間が、面白おかしいことを自分だけで楽しむなどということ、考えられることじゃない。

 

「それじゃぁ、涼宮さんは……」

「これまでの行動パターンから考えるに……」

 

 いや、あの女の行動パターンを予測することなど、フェルマーの最終定理を導き出すよりも難しいことなのは重々承知だが、それでもこの一年間毎日のように一緒にいた経験から考えることは可能だ。

 恐らく、何かしらの準備をしているのだろう。突発的行動をし、大掛かりなことをする際には事前に準備をしているのだが、その準備段階ですら団員全員を巻き込んでのことが多かったハルヒではあるが、極まれに自分から準備をしていることもあるのだ。そもそもの話、このSOS団の部室として使用している部屋も、元々ハルヒが部員不足で廃部になった文芸部の部室であり、強引にではある物の部室使用の交渉を行ったのは涼宮ハルヒなのである。とはいえ、それ以外に目を向けると事前にハルヒの方から準備したと言えるのは自らのコスプレ衣装だったり朝比奈さんのコスプレ衣装だったりとかなり小規模な物ばかりであるのだが、前例がある以上涼宮ハルヒがそういった何らかの準備をするために走り回っているという可能性を除外することはできないだろう。

 

「ハルヒは」

 

 その時である。安寧の時を崩さんがごとくに扉という部屋そのものの概念を構築していた木を壊すかの勢いで開け、カチューシャという名前の絶対的無敵な装備品を身に着けた、少女という名前の暴虐無人な猪がこう言った。

 

「全員、そろってるわね!」

「お前意外はな、ハルヒ」

 

 何があったのか、また何をしていたのかは不明だが、彼女がこの場所に戻ってきた以上何かしらの厄介事を引き連れてきたことは想像するに難くない。

 果たしてその口から一体何が出てくるのやら。俺は、内心ワクワクしながら団長席に座るハルヒを黙って見ていた。

 団長席に着いたハルヒは、二か月間その場所を留守にしていたなんてことを忘れていたかのように以前のようにパソコンを操作し、SOS団の公式サイトを開いていた。

 

「ちょっとキョン、更新が止まってるじゃない。なに、もしかしてさぼり?」

「お前が言えるセリフか?」

 

 ここまで返す刀で反論できるような超大型のブーメランもこの世には存在しないだろう。そもそも更新というのも活動予定や活動記録を載せるものなので、ここ二か月完全に活動を停止していた部活動の活動報告等できるわけがない。

 

「それじゃ聞くがな、この二か月お前は何をしていたんだ?」

 

 当然のように、俺の口からはそんな当たり前の質問が無意識のうちに飛び出した。棚の中で着せずはずれの島民に入っていたハルヒの茶碗を探していた朝比奈さんも、一瞬だけ手を止めて赤べこの置物のように首を縦に大きく振るっている。

 

「よくぞ聞いてくれたわ!」

 

 聞くに決まってるだろ。

 

「これより、SOS団の今後の活動予定を発表します!」

 

 どうやらこの二か月の空白について話す気はさらさらないらしい。

 やや埃をかぶっていた黒いマーカーペンを手に取ったハルヒが、ホワイトボードにスラスラと大きく書いたのは、アルファベット三文字であった。

 

「えす、えー、おー?」

 

 それを見た朝比奈さんが首をかしげながら書かれているアルファベットを心にしみわたるくらいかわいい声で唱え上げてくれた。

 

「なるほど、SAOですか」

 

 そして机をはさんだ向こう側でいつものようにはにかんだ少しイラッとする声で復唱する古泉の声を無視し、俺はハルヒに聞いた。

 

「SAOって言うとあれか? 最近話題になっている……」

「そう! 世界初のVRMMORPGのソードアート・オンラインの事よ!」

 

 ソードアート・オンライン。それは、とある物理学の天才が生み出した最新のゲームソフトのことだ。これまたその科学者が生み出したナーヴギアと呼ばれるヘッドセット型のゲーム機を使い、実際に己がファンタジーの世界に足を踏み入れた気分を味わうことのできる日本中、いや世界中のゲーマーからマグマのように熱い視線を送られている。それが、ソードアート・オンライン。通称SAO。

 なのだが、ここで当然のように不可解な疑問が生じる。

 

「待てハルヒ。アレは確か来月発売じゃなかったか?」

 

 今日は10月7日。SAOが発売されるまであと一か月もあるはずだ。というと、ハルヒは言う。

 

「活動予定だって言ったでしょ。今日はただ予定を開けておけって言いに来ただけよ」

 

 そいつは重畳、という物だ。急に何かの面倒ごとに巻き込まれてしまうより先に心づもりしておけと言われた方が楽でいい。だが、問題はまだある。

 

「ですが、確かあれは限定販売で、一万個しか店頭に並ばないのでは」

 

 と、俺が質問する前に古泉の方から質問が飛んだ。

 確かに、俺がよく読んでいる雑誌にもそう言ったことが書いてあった。そのためゲーマー、ゲーマー以外の流行にすぐ飛びつく人間たち、転売ヤーと呼ばれる人間たちの中で激しい争奪戦が繰り広げられているとか。そんな競争率が何倍も何十倍もありそうな物、手にいれるのは困難を極めることだろう。

 

「8000よ。1000個がβテスターへの優先購入権で配られて、1000個が開発に援助してくれた企業や財閥への褒賞として配られるから、それ以外に売られるのは8000個だけだってパンフレットには書いてあったわ」

 

 随分と詳しいものだ。これは、かなり熱心に調べまくったのであろう。しかし、パンフレットとは一体何のことだ。

 

「パンフレット?」

「βテスターに配られるパンフレットの事よ」

 

 なるほど、事前にゲームをプレイして問題点やら改善点を抽出する目的で行われる稼働試験、通称βテストの参加者であるβテスターにならそう言ったパンフレットが配られてもおかしくはない。

 ん? ちょっと待った。事前にゲームをプレイできるβテスターにのみ限定で配布されたというパンフレットの存在をどうしてハルヒが知っているのか。

 まさか。その考えに至った瞬間、俺の中でこれまでのハルヒのこの二か月間の空白が、まるでホワイトパズルがすべて組みあがったかのように綺麗にハマっていった。

 

「ハルヒ、もしかしてお前。この二か月間βテスターをやってたのか? SAOの」

「そうよ。放課後から休日から全部を消費して、隅から隅までプレイしてやったわ」

 

 やはりか。というよりも、SAOの存在を知っているのであればそんな面白そうな物にハルヒが興味を持つだなんてこと容易に想像できることだったことであるのに、完全に失念していた。

 恐らく、βテストの参加者の募集もかなりの倍率があったはずなのに、それに当選してしているのにそれほど疑問を抱かないのはこれまでの彼女の経歴を見ればそれほど難しいこととは思えなかったのだろう。

 

「それで、どうだったんだ? そのSAOっていうのは?」

「面白かったわよ。だからみんなにもやってもらおうって思っているわけよ!」

「いやいや、お前の分を除いても四人分のSAOが用意できると、本気で思っているのかお前は? アレは蝶が付くほどのプレミヤ商品で、手にいれるのも一苦労だって聞いたぞ」

 

 オウムか壊れたレコーダーのように何度も何度も繰り返して悪いが、そんな高倍率のゲームを簡単に手にいれることが出来るのは、お前みたいな者くらいだ。と心の中で愚痴に近い俺に向かって何事もないようにハルヒは言った。

 

「大丈夫よ。だってもう予約したんだから」

「な、なに!?」

「ネットで予約しようとしたら、ちょうどお店の予約開始時刻ぴったりだったのよ。だから、SOS団全員の名前で予約したってわけ!」

 

 とあるライトノベルの主人公が腰を抜かしてうらやましがるほどの豪運をお持ちの様で。だが、ハルヒには、自分がそう望むことによって全ての願望が叶う能力、まぁ本当かどうかわからないような、しかしそれまでの実績から判断すればあるのかもしれないと判断できる能力のおかげでこれまでもたくさんの奇跡を起こしてきたのだから、それくらいできてもおかしくはないのだろう。

 

「と、言うわけで! 来月から我々SOS団は、SAOに殴り込みをかけるわよ!」

 

 こうして、涼宮ハルヒの独断によって決定した来月からのSOS団行事日程。なのだが、朝比奈さんは今年3年生で受験生なのでそのような物にうつつを抜かしている時間なんてないはずなのだがその辺はお構いなしというところなのだろうか。まぁ、彼女の素性からして、大学受験するのかも就職するのかも、ましては卒業するのかもあいまいなところはあるのだが、とりあえず涙目になっている朝比奈さんがとてつもなく可愛いので、考えるのは後回しにしておこう。

 涼宮ハルヒ高校二年生。陰謀やら動揺やら直感やら、それら諸々を完全に無視した俺たちの新たな物語は、こうして幕を開けてしまったわけである。

 今思うと、この時期が一番楽しかったように思える。



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武偵憲章第10条(元タイトル:SAO×緋弾のアリアAA)

 誰かを守るということは、誰かを犠牲にするということ。何かを守るためには代償が必要となる。

 そんなことはない、代償なんてものなくても人を守ることはできる。そういう人間もいるのかもしれない。

 でも、世界は残酷だ。とてつもなく理不尽だ。

 代償は必ず必要となる。誰かの人生を守るためには、自分の人生を犠牲にしなければならない。世界は、等価交換という絶対に逃れることのできない原則に従って存在している。

 そんな残酷な世界から、逃れることもできない。理不尽な世の中に抗うことはできても、理不尽な生き方を強いられてしまった人間たちがいたとしても、その人間たちを守るためには誰かが犠牲にならなければならない。そんな、残酷で、理不尽で、つまらなくて、生きる価値がなくて、でも生きたくて、成長したくて、進化したくて、誰かを守りたくて、誰かと一緒に歩きたい。そんな世界。それが、この残酷な世界の真実だ。

 今ここに、二つの残酷な道を示されることになる少女がいる。

 一つは、肉親を守れるが、友達を見捨てることになる道。

 一つは、友達を守れるが、その代わり肉親を、そして自らの人生を犠牲とする道。

 もしも、貴方がこの二つのルートを提示されたのなら、一体どっちの道を歩こうとするのか。

 一体、どっちの道が正しいと信じられるのだろうか。

 一体この世界の何が間違っていたのだろうか。

 その決断が下されるまで、残り一か月。

 あるいは―――。

 日常とは、思いもよらないところから崩れる物だ。

 いや、そもそも日常とは何なのだろう。

 何のイベントも起こらず、ただ学校や会社に行って、友達と話をして、家に帰ってご飯を食べてお風呂に入って、寝てまた起きて、それが日常なのだろうか。

 人は、それを平凡な人生だという。

 だとするのなら、彼女達の人生は間違いなく平凡な人生を逸脱していると言っていいだろう。

 だが、それでも日常だ。彼女達が歩んでいるものは、友と一緒にいる時間は、他の人間からすると非日常の空間であったとしても、それでも日常だ。

 誰もが歩むことのできる、けど憧れることもある日常だ。

 けど、憧れが必ずしも良いものとは限らない。

 非日常が、必ずしもいいものとは限らない。

 そんな,どこを向いても絶望しか待ち受けていない残酷な世界。

 しかし、それでも皆生きている。そんな、どうしようもない世界の、どうしようもなく理不尽な、そんなお話。

 

「これ、何なんです?」

「分からない、でも私のそばから離れないで」

 

 赤髪の少女は、栗色髪の少女にそう言った。

 今この状況で離れ離れになると命取りになる。そう経験が危険を知らせているのだ。

 特に、このようコラージュ写真に囲まれた訳の分からない空間に取り込まれているという今までにない状況に置いては、顕著にその警報が鳴り続いてやまない。

 何故、こんなことになってしまったのか。彼女たちは思い返す。つい数十分前の事を。

 

「SAO?」

「はい! そうです!」

 

 とある街に存在するファミレス。そこで、神崎(かんざき)・H・アリアは自分の≪戦姉妹(アミカ)≫である間宮(まみや)あかりからそう、話を持ち駆けられた。

 戦姉妹(アミカ)とは、とある学校に存在する先輩の生徒が後輩の生徒とコンビを組み一年間指導をする二人一組(ツーマンセル)特訓制度の事である。

 神崎・H・アリアは、間宮あかりにとってあこがれの人物だ。そんな憧れの人物の隣にいたい。そういう思いからアリアに戦姉妹(アミカ)申請を行い、数々の試練を突破してようやく戦姉妹(アミカ)として認められてから既に半年以上が経過しての、この言葉である。

 

「それって、今話題になっているゲームよね?」

「はい!」

 

 SAO、それは……。もはや何度も説明しているので以下略。

 とにかく、今注目のVRMMORPGである。

 

「実は、シノちゃんがナーヴギアとゲームを私の分まで手に入れてくれて、一緒にプレイすることになったんです」

 

 シノちゃんというのはあかりの友達である佐々木志乃(ささきしの)の事である。実は、佐々木小次郎の子孫でもある少女は、あかりと友情を超え、愛情をさらにも越えたやや行き過ぎた感情を持った少女である。

 そんな少女が、あかりと一緒にゲームをプレイしたい。ただそれだけの理由で超が付くほどのプレミヤ商品であるSAOを手にいれるわけがない。

 簡単に言えば、彼女はあかりを独占しようとしていたのだ。他人が簡単に入って来れない限定商品であるオンラインゲームの中であれば、再発売がされない限りは自分たち二人だけの空間を持つことが出来る。そう考えてあかりをSAOに誘ったのである。

 が、しかし。

 

「へぇ、よかったじゃない。あれって、限定一万個しか販売されないんでしょ?」

「はい、それでですねアリア先輩」

「え?」

「一緒に、プレイしませんか!」

「はい?」

 

 曰く、実は志乃の他にも高千穂麗(たかちほうらら)という、こちらもあかりに対して度が過ぎた感情を持った少女がおり、その少女からもナーヴギアとSAOを貰い、一緒にプレイしようと言われたそうなのだ。もちろんその理由は志乃と同じである。

 この時点ですでに二人の思惑は完全に崩壊している。まさか二人ともが同じことを考えていたとは夢にも思わなかっただろう。

 ところがここで問題が発生する。SAOは二つ、されどあかりは一人。つまり必然的にSAOが一つ余ってしまったのだ。

 あかりが使用するSAOは順番的に先に誘ってくれた志乃の物を使うという事になった―この時、志乃が勝ち誇ったかのような顔を麗に向けていたという事実はナイショである―が麗がくれたほうをどうするのかが彼女の悩みの種となった。

 そこで、彼女の戦姉妹(アミカ)であり、憧れの人物であるアリアに声をかけたという事だ。

 

「へぇ……でも、私の前にライカや麒麟に声をかけたほうが良かったんじゃないの?」

 

 火野(ひの)ライカと島麒麟(しまきりん)。二人もあかりの友達である。麒麟の方は高校生のあかりたちと違い中学生であるのだが、ライカと戦姉妹(アミカ)契約を結んだためライカと一緒にいる時間が多いことから、必然的にあかりの友達の面子の中にいるのだ。

 アリアの言うように、この場合は二人の内のどちらかに渡したほうが良いのではないかと思うのだが。

 

「実は、二人は二人で自力で手にいれたんです。なら、アリア先輩にって思って」

「ふ~ん……」

 

 アリアは、先ほどドリンクバーから取ってきたオレンジジュースのグラスに刺さるストローに口を付け、ゆっくりとテーブルの上に戻すという。

 

「ののかはどうしたのよ」

「え?」

 

 ののか、というのはあかりの妹のこと。ここで言うのは何だが、あかりよりもできた妹である。ドジっ子である姉を支えるよき妹であるののかは、主に家事洗濯などに置いて姉をサポートしており、現在はアパートで一緒に暮らしている。そして、特殊な学校に通っている姉やアリアたちとは違い一般の中学校に通っている普通の女の子だ。

 

「ののかにも話したんですけど、その前に一度アリア先輩を誘ってみたらって言われて……」

「なら、ののかに譲りなさい。SAO」

「え?」

 

 アリアは、それだけ言うとスッ、と立ち上がって伝票を持つと言った。

 

「今私は大事な依頼を受けてて、SAOをやっている暇がないくらい忙しいの。だから、私は今回はパス」

「そうですか……」

 

 あかりは少しだけ落ち込む。もしかしたら一緒にゲームを遊びことが出来ると思っていたため、断られたのがショックなのだ。

 そんな様子を見たアリアは、笑顔で言う。

 

「そうがっかりしないの。たまには、友達や妹さんと一緒に羽を伸ばすのも……ん?」

「え?」

 

 アリアは話もそこそこにして、急に言葉を止め店の外を見る。あかりもまた、その目線の先に何があるのかを確認する。

 二人が座っていたのは店の窓側の席。道路を一望することができてとても見晴らしがいい場所だった。

 アリアはこの道のどこかに違和感を覚えたのだろう。しかし、一体何に、あかりはその正体が分からないが、アリアがすぐに動き出したのを見て荷物を纏めて彼女の後を追った。

 で、この有様である。

 喫茶店を出た後、アリアは一人の金髪の少女の後をつけたのだ。何故その少女を追跡したのか、彼女自身にも分からない。いわゆる勘のようなもの。彼女には何かがあると言う憶測からの追跡だった。

 彼女には《直感》と言う能力のようなものが備わっている。それによってこれまでも多くの事件を解決へと導いてきた。が、そこに至るまでの推理力が足りておらず、論理的に説明することが出来ないという弱点も備わっているのだが。

 恐らく、今回のそれも何故自分が金髪の少女に注目したのかをしっかりと推理できていれば、このような事態に陥ることは無かっただろう。そう、なにもおかしくはなかったのだ。ただ、《黄色い宝石を持って歩いていた》という情報だけで何かがあると直感が働いてつけていただけなのだ。

 もし彼女に推理力が備わっていれば、たぶんそんな酔狂な人間が一人はいるだろうという話で終わっていたこと。だが、こと彼女の直感能力だけが飛びぬけていたために何かがあると察知してしまった。そして、彼女は関わってしまった。一般人が決して触れてはならないアンタッチャブルな空間へと。

 

「ここ、さっきまでの路地裏じゃない……プロジェクター? いや、だったら手を伸ばせば壁に当たるはず……」

 

 自分たちが先ほどまでいたのは確かに路地裏だったはず。それもかなり狭い、人一人すれ違うことが出来ないくらいに狭い路地裏であったはずだ。

 だから、もしもこれが立体映像の類であった場合手を横に伸ばすと壁に触れられるはず。しかし、いくら手を伸ばしてもそんな気配はない。

 

「夢……ってことありえませんか? 路地裏に入った時に催眠ガスか何かをかがされたとか」

「夢、ね。そうね夢みたいな光景だわ。まぁ、夢は夢でも悪夢みたいだけど」

「え?」

 

 そういうアリアの目線の先、そこには綿毛にヒゲが生えたような奇妙な生物の姿。よく見ると、綿毛からは棘の付いた茨が伸びており、その先にはハサミらしきものが引っ付いている。

 

「な、何ですあれ?」

「さぁ……歓迎してくれるんなら、ありがたいけどッ!」

 

 アリアの言葉を聞いてか聞かずか、そんなことあるわけがないと言わんばかりにハサミの付いた茨が、彼女の心臓めがけて伸びていく。

 アリアは、後ろにいるあかりを右に突き飛ばすと、ハサミをギリギリまでひきつけてからあかりと同じ方向に避ける。

 が、逃げ切れなかった。左腕が掠って少女の制服に、そして皮膚に赤い筋が入った。

 

「アリア先輩!」

「大丈夫。掠っただけよ……あと、やっぱり夢じゃないみたい……」

 

 もしもこれが本当に夢であるのならば痛みなんて感じないはずだ。しかし、自分の左腕から感じるソレは間違いなく鋭利な刃物で切り付けられた時の痛みそのものだ。

 つまり、これは紛れもなく現実だ。それも、悪夢のような現実。常識的な範囲でしか生きてこなかった少女たちに初めて訪れた非日常的な怪異である。

 

「防弾制服をこんな簡単に……」

「えぇ、あかり気合入れるわよ。油断すると……死ぬわ」

「は、はい!」

 

 あんなふざけたなりをしているが、しかしかなり危険な存在である。そう認識を改めた二人は、立ち上がるとそれぞれある物を取り出した。

 ここで、あかりの言葉がおかしな物であると感じた人間はいるだろうか。

 そう、防《弾》制服という部分である。

 防弾とは、防弾ガラスに代表される弾の貫通を食い止める性能の事を言う。何故そんなものが制服に備わっているのか、普通の人間であれば疑問に思わなければならない。そう、彼女たちは普通じゃない。普通の女子高生ではないのだ。

 いや、厳密にいえば多くの一般女子高生の範囲にいるような女の子たちではないのだ。それは、二人が取り出した物を見れば一目瞭然である。

 《M1911》、通称《コルト・ガバメント・クローン》。1911年に正式採用された《拳銃》弐丁をアリアが、マイクロUZI、と呼ばれる《短機関銃》をあかりが取り出した。

 恐らく想像もできないであろう。はたから見ればごく普通の女子高生であるような二人の女の子が、それぞれに拳銃と機関銃を取り出すことになろうとは。だが、これが彼女たちの普通であるのだ。これが、彼女たちの日常であるのだ。いつもとは少し違うが、しかしこのような暴力沙汰は日常茶飯事。

 彼女たちは《武偵(ぶてい)》。日本全国から見れば数少ない武装許可を出された高校生であるのだ。

 

「風穴、開けるわよ!」

「はい!」

 

 二人は同時に三つの引き金を引いた。

 あかりのマイクロUZIは、綿毛に当たることなくその下の地面を削るだけであったが、アリアの放った弾丸は見事に綿毛の生物に二発とも命中する。そしてあかりのマイクロUZIも、次第にその目標が定まって綿毛の身体を貫いていった。

 例え相手がどれほど得体のしれない怪物であったとしても、その顔面に弾を撃ち込まれれば生きている生物なんてそんなにはいない。はずだった。

 しかし、UZIによってばらまかれた砂埃の中から現れた綿毛は、まるで何事もなかったかのようにその場から動くこともなく健在であった。

 

「そんなっ……」

「ただの生き物じゃないってのはわかってたけど、まさか銃が効かないなんて……」

 

 どうする。アリアには、銃の他にもう一つの武器があった。だが、あれだけの乱射を喰らってもなんともない生き物に対してそれが通用するかどうか。あかりの切り札も同じく。

 このまま戦い続けても銃弾を無駄に消費するだけになる算段は高い。で、あるのならば答えはひとつ。

 

「あかり! 逃げるわよ!」

「ッ! はい!!」

 

 そう、逃げるしかない。自分が今どこにいるのかも、どうすれば出ることができるのかも分からないが、それでも逃げ続けるしかない。ふたりは綿毛とは全く別方向へと走り出した。

 だが、彼女達は知らない。そうやって知らず知らずの内にその不思議な空間の奥へと来ていたと言うことを。実は綿毛がいた方向にこそ出口が存在し、しかも走れば一分もたたずに出ることができたと言うことを。

 いや、訳のわからない状況、訳のわらかない生物を目の前にして、その訳のわからない生き物に向けて走り出せと言われたとしても酷であっただろう。これは、最善の選択の、必然の間違いであったのだ。それは、アリアが優秀すぎたために。

 どれくらい走っただろう。進めば進むほどに、あたりのコラージュ写真は濃さをましていき、どんどんと現実離れし始めてきていた。あたりからはひっきりなしにドイツ語と思わしき歌が聞こえてきて、不気味さをより演出しているかのようだ。ここは本当に日本なのか。まるで別世界のようだ。一体、いつになったらあの街に、《見滝原》に帰ることができるのか。

 

「あかり、ついてきてる?」

「は、はい」

 

 と、あかりは息も絶え絶えに答えた。無理もない。あの綿毛から全速力で何分も逃げているのだから。普通の女の子であればばてて走れなくなってもいい頃合いだ。

 しかし、それでもあかりは鍛えていたアリアに追従することができていた。いや、むしろそれくらいできなければ武偵と言うものは務まらないし、彼女の戦姉妹は務まらないか。とはいえ、そろそろ限界か。

 

「一旦休憩しましょう。状況の把握も必要だわ」

「はい……」

 

 自分達を追っていた綿毛も巻くことができたようである。こんな危険な場所で立ち止まるなど、本当はしたくない。しかしアリア自身におこった不可思議現象を理解するのに時間が欲しかったのだ。

 見ると、あかりは不安そうだ。当たり前だろう。こんな場所で、変な生き物に襲われて、それも銃が聞かないと来たところで不安に陥らない女の子がいるであろうか。アリアもそうだ。あかりにとって頼れる先輩の姿を見せているアリアも、その中身はただの高校生。この状況に恐れを抱いているはずがない。

 しかし、どのような状況に陥っても冷静さを欠いてはならない。パニックは冷静な判断能力を殺すデメリットでしかならないのだ。だから、今は落ち着く。落ち着いて、どうすればこの窮地から脱することができるのかを考えなければならない。しかしそのためにはあかりの不安を取り除くこともまた先決だ。

 

「あかり」

「え?」

 

 アリアは、あかりに呼びかけた後に静かに言った。

 

「武偵憲章第10条」

 

 武偵憲章。それは、国際武偵連盟。通称IADAが発足時に作成した《武偵の心得》のことだ。そして、その10条とは。

 

「武偵憲章……諦めるな、武偵は決して諦めるな」

 

 武偵となった時、なった後、あかりは何度も目にしていた。だから復唱することができた。

 

「そう。今、私たちに何が起こっているのか、私にも分からない。けど、私は絶対に諦めない……私には、帰ってやらないといけないことがあるから」

「アリア先輩……」

 

 彼女のやらなければならないこと。それがなんなのかあかりには分からない。けど、その目には決意が宿っていた。熱意が宿っていた。そして、希望が備わっていた。

 彼女には、かえらなければならないという強い目標があるのだ。だから、最後まで諦めたくないと強く言うことができる。なら、自分はどうか。

 帰りたい。自分もまた、帰りたい。友達のところに、妹のところに、みんなのところに帰りたい。そして、おかえりって言ってもらいたい。それが全てだった。だから、自分も諦めたくない。こんなところで、こんな場所で人生を終わりにしたくない。

 

「だから、どうやったらここから抜け出せるのか……ッ!」

「先輩? ッ!」

 

 諦めたくない。そんな彼女達の決意を嘲笑うかのような光景が目に入った。

 空間の物かげから現れたのは先程自分達に襲い掛かった綿毛の生物。

 だが、違うのはその数だ。十、二十、いやそれ以上が、まるで自分達の事を取り囲むかのように集まってきた。

 ふたりは死角が生まれないように瞬時に背中合わせに銃を構える。だが、状況は今までの中でも最悪だ。

 

「あかり、弾はあと何発残ってる?」

「マガジンが二つ分……アリア先輩は?」

「私もそれほど残ってない……って言ってもこいつら相手だと何発残っていても同じかもしれないわ」

「そうですね」

 

 ふたりはそれぞれに残弾の確認をする。だが、相手が銃弾なんてものともしないと言うのは何度も確認済みだから、アリアのいう通り無駄な確認だったのかもしれない。

 だが、それは彼女達がこの危機的な状況であっても戦いを続けると、最後まで銃を撃ち尽くすという事を表明しているかのようだった。

 例え無駄弾になろうとも、無駄な抵抗であろうとも、それでもふたりは戦うのだ。

 そのさきに、死が訪れようとも。

 こちらの攻撃が通用しない化け物が何十体と目の前に現れて、防弾制服も効果のない殺傷能力を持っている武器を装備していて、無傷で乗り越えることなんてできないことは分かりきっている。いずれ弾も切れ、体力も無くなり、やがて力尽きることが目に見えている。

 けど、それでも戦う。彼女達には帰りたい理由があるから。守らなければならないものがあるから。

 あかりは、よく映画だと自決用の弾をひとつくらい残す場面なのだろうなと頭を掠めた。けど、高校ではそんなこと教えてもらわなかったし、そんなことに無駄に弾を消費したくなかった。

 何故ならば。

 

「諦めるな」

「武偵は決して」

「「諦めるな!!」」

 

 武偵憲章は、ただの言葉にすぎない。

 それを守るも、守らないも個人の自由だ。

 けど、それを誇りにする人間がいる。それを生きる目標としている人間がいる。それを頼りにしている人間がいる。

 迷った時、どうしようもならなくなった時、何を選択しても最悪の未来が待っている時。

 そんな時に武偵を導く物。それが、武偵憲章というただの言葉。

 例え、その言葉に従っても状況が良くなるわけじゃない。その言葉に従って、悪い結果に陥ることがなくはない。

 でも、最初に言葉があるから迷った時に、つかさずその言葉を頼りにすることができる。

 どうしようも無くなった時、あの言葉を思い出して勇気を奮い立たせることができる。

 言葉は確かにただの文字に過ぎない。綺麗事のように見えるかもしれない。

 けど、だからこそ誰かを奮い立たせた時にその言葉が強いものに見える。

 その言葉が、心強くなる。

 人は、言葉によって生かされているのだから。

 

「ッ!」

 

 綿毛たちは、一斉にハサミのついたイバラを二人に向けて伸ばした。人間が荊を切るために使うハサミが、人間を襲うなんて何たる皮肉であろうか、ふたりはそんなことすらも考えられるほどに心に余裕ができていた。

 

「あかり! 風穴開けるわよ!!」

「はい!!」

 

 止まることはない。決して。最後の最後まで、絶対に自分の志を持って生き続ける。

 彼女達の生きる意志は、生きたいと言う強い思いは、間違いなく本物であった。

 そして、《4》つの引き金は引かれた。




緋弾のアリアAA
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長門有希による報告(元タイトル:SAO×涼宮ハルヒの憂鬱(その2))

 木枯らしのように去り、嵐となりて復活する涼宮ハルヒが、再びSOS団の本部へと帰還を果たしたその日の夜。俺は、マンションの一室、長門有希の部屋に来ていた。別に押し掛けたわけではなく、彼女の方から誘われたのだ。無論、恋人がするようないかがわしい真似をするわけではなく、涼宮ハルヒについて何かしらのことを伝えたいのだと思う。

 長門の部屋は、引っ越し業者の手配ミスでも起こったかの如く閑散としており、あるのは部屋のど真ん中にポツンと置かれているコタツと、その上に置いてある急須ぐらい。何ともミニマリストな生活を送っているようにも思えるが、彼女の素性からすると、これでもまだ事足りる方であるはずだ。

 さて、目の前にいる長門がいまだに無言を貫いている間に、あの後あったことを簡潔にだけ説明しよう。まず、ハルヒから各自SAOについての予習をしていくようにとの宿題の様な物を出され、後はかつての活動通りにハルヒがコスプレをしたり朝比奈さんをコスプレさせたりでその日は何事もないように終わった。ハルヒの出した、SAOについての予習という物に関してだが、いまだに発売されていないゲームの情報など容易に入手することが出来ないのは明白なので、簡単にこれまでSAOについて特集されていた雑誌や、開発者インタビューなどをさらっとみるだけで事足りる、ということにしておこう。

 とまぁ、完全にかつてのような日常が戻ってきたわけだが、気になる点が二つある。

 一つは、この世界に突然現れた存在。主に、プリキュアやら仮面ライダーやらスーパー戦隊やらゆらぎやらザ・ワールドやらの事ではあるが、本当にこれらは涼宮ハルヒが別の世界から連れてきた存在であるのかどうか、俺にはどうにも引っかかっていた。もしハルヒがそれらの世界を守るようなヒーローヒロインをこの世界に連れてきたとするのならこの周辺、最低でも関西地方の近くで活動しているはずなのだ。なぜならば、いつもハルヒが起こす面倒ごとは全てが彼女の周辺で発生しており、ハルヒが一切関与していない場所で不可思議現象が発生したことはこれまで全くと言っていいほどになかった。それに関しては彼女の自らの願望を引き寄せるという能力が本当にあるとするのならば不思議なことは全くないのだが、神奈川や東京方面で主に戦っているというプリキュアや世界各地で活動しているというスーパー戦隊それに仮面ライダーはそれらのいわゆるテンプレートには当てはまらない存在だ。もしかしたら、ハルヒとはなんら関わりがない可能性だってある。

 二つ目もまた、それらの不可思議存在に関しての疑問であるのだが、何故ハルヒはそのような現象がある世界においてSAOという現実的な物の方に注目したのか。こっちの方が大問題のような気がするが、長門は、いや長門の親玉であり長門を地球に送り込んだという情報統合思念体(じょうほうとうごうしねんたい)とやらはどう考えているのだろうか。それがとてつもなく気になっていた。

 

「それで長門」

「地球時間に換算すると、三千九百八十七秒前から五十九万五千五百九十二秒前に地球を中心とした十万三千七百六十五キロに位置する天体が不可逆的時間跳躍を起こした」

 

 豆鉄砲を発射しようとしたら大型の戦艦に搭載されている巨大マシンガンを発射された気分になった。

 若干頭の中が時間のゲシュタルト崩壊を起こしかけたものの、何とか立て直すことに成功した俺は、自分自身が認識できるように分かりやすく長門の言葉を要約した。

 

「つまり、去年の夏休みの時見たく時間がループしていると、解釈していいのか?」

「厳密に言うと、時間が戻ったのは一回のみ。だから、不可逆的時間跳躍。地球の言葉で言うなら、タイムリープ」

「なるほど」

 

 タイムループは何度も時間をさかのぼっている。つまり、去年の夏休みに発生した通称エンドレスエイトと俺たちの中で言われているようなもののことであり、一回だけ時間がさかのぼることはタイムリープと判断されているらしい。よくわからん。

 後で計算してみると、今からおよそ八時間前からおよそ六か月前の四月四日の間で時間の逆行が行われていたらしい。何とも分かりにくいが、細かい秒数で表すあたり長門らしいと言えるかもしれん。

 

「それで、やっぱりハルヒが原因か?」

「そう」

「だろうな。まさか、またあの時みたいに何度もループする可能性があるのか?」

「それはない。涼宮ハルヒが時間を戻したのは、原始的娯楽表現媒体をより多くの地球、もしくはそれ以外の生物と共有したいから」

「原始的娯楽……それって、もしかすると今話題のSAOの事か?」

「そう」

 

 現在地球では最新のゲームが、原始的とはよくいう者だ。まぁ、確かに長門の親玉の情報統合思念体から見れば、地球人の作った娯楽アイテムなど原始的に見えるのかもしれないが。

 

「共有したいから、それって一緒に遊びたいからってことか?」

「そう」

「ハァ……なるほど、そのゲームを一緒に遊びたいからいろんな世界からいろんな人間たちをこっちに連れてきたって事か」

「半分違う」

「半分?」

 

 完全に分かったような気分でいたのだが、長門のそのセリフによって肩透かしを食らったようでなにか恥ずかしい気持ちにされてしまった。違うとはどういう意味だ。それも半分、分数で洗わすと2分の1。この世界に多くの不可思議現象を呼び寄せたのは、作ったのはハルヒではないということなのか。

 

「涼宮ハルヒも含めた我々もまた、平行存在世界から平行同位体に重ね合わされて生まれた劣化同一単位的類似生命体。情報統合思念体は、一部の個人識別遺伝情報の微小な変化からそう判断した」

「……」

 

 言葉を失った。いやあまりのことに言葉を忘れてしまったのかもしれない。だが、長門はそんな俺の混乱、困惑なんてまるで知ったことないようにさらに言葉を都会の電車の時刻表のように重ねる。

 

「この地球という星に存在している生命体は、全て平行存在世界から個人識別遺伝情報の半分を受け継いだ存在。個人識別遺伝情報は物質の存在保存の法則によって劣化同一単位的類似生命体となったコンマ00001の時間で寿命、アビリティ、個別性が補われることによって奇跡同一単位的完全生命体と89.66%まで類似のものとなりうる。ただし、それは完全ではないことを意味する。それぞれに差異が見られ、特に記憶、経験共に語弊が生じている。それぞれが経験した歴史、文化、プロセスデータが独立して起こったものと彼らは認識し、それぞれの存在を彼らは認識できていない。そのため、それぞれの組織はある特例的な存在を除いてその関わりを持っていない。また平行同位体の中には閉鎖的時間牢獄の中にいる者も多数存在しているが、劣勢同一単位的類似生命体になって概念が破壊され、通常の時間軸を生きることが出来ている。劣化同一単位的類似生命体として存在するための要素は二つ。それぞれの平行存在世界の歴史的、存在的な特異点であるということ、そしてその特異点と何らかの関わりを持っているということ。これにより、現在地球上にいる119923334の個体の内、119410695の個体が、我々の奇跡同一単位的完全生命体のいる平行存在世界から、残りの512639の個体が平行存在世界からこの地球上に劣化同一谷的類似生命体として出現した。これらの劣化同一単位的完全生命体が涼宮ハルヒの居住範囲外に存在しているのは、元々の平行存在世界での関わりが重視された結果。涼宮ハルヒを含めた個体が生まれたのは2021年4月1日0700。その日に、この世界が誕生したという認識で構わない。そのため、その世界から呼ばれた平行同位体の記憶、経験、経歴、個別性はその時点の物となっている」

 

 以上、モールス信号もかくやとばかりにのべつ幕無しに休みなく、それこそ長門が呼吸していたのかすらも怪しい一連の話が一応の終わりを迎えた様子。それでだ、この話の結論は結局のところたった二言という短い単語で表すことが出来る。

 つまりだ。

 

「なるほど、よくわからん」

 

 である。

 これは、長門が他人に説明できるような言葉で訳していないためということ、さらには恐らく長門の発した言葉の中にはいくつかの造語、もしかすると宇宙人同士でならば伝わるのかもしれないが、あいにく俺はただの一般地球人であるため、まったく理解できない。長門の言葉を理解できると思われるのは、古泉だけなので、何かの気の迷いで古泉をここに連れてくればよかったと、俺はあのにやけスマイルを想像しながらお茶をすすった。

 だが、はっきりしていることがある。というより、最初に聞いたその言葉しか覚えていなかったと言ってもいいのだが、俺は再び無言に戻った長門に対し言った。

 

「ハルヒが平行世界からたくさんの人間を集めたのは確かだが、俺たちもまたこの世界に集められた人間たちの一部。ということか?」

「そう」

 

 つまるところ、この世界は何者かによって元の俺たちの世界にいたハルヒを含めた何万人かがまずこの世界に送られ、その後この世界で作られたSAOを遊んだハルヒが、SAOをたくさんの人たちと遊びたいと願ったことによって多種多様な世界からいろんな人種の人間たちが呼び出されたということらしい。何ともはた迷惑というか、スケールのでかいことをやらかす人間である。

 この世界が何者かに作られた物ということはよくわかった。しかし、それならば疑問が新たに一つ出来上がる。

 

「だが、一体誰だ? 俺達をこの世界に引きずり込んだのは。そんなことをして、一体何の得がある?」

「分からない」

「分からない?」

 

 この一年と半年、俺は長門とそのほとんどの日一緒に過ごしていた。主にSOS団の活動という物のおかげでだ。その中で長門について俺の中である一つの固定概念が作られていた。それは、長門と、その親玉である情報統合思念体は、チートに近い能力を持っているということ。そして、地球人の俺たちでは知らないようなことも全て情報統合思念体は知っており、そしてその情報統合思念体といわゆるアクセスできる長門もまた、アカシックレコードもかくやとばかりにすべての事柄を熟知しているのだと。

 だから、長門の口から出た分からないという言葉は、俺にとって今まで見てきた全ての恐怖映像よりも、戦慄するものだったのかもしれない。

 

「情報統合思念体は、この出来事を自分たち以上の空間識別能力を持った何者かの物と認識している。けれど、正確な個体識別はできていない。恐らく、我々の認識宇宙の外に存在する何者かが行ったものであると、推測される」

 

 情報統合思念体以上の存在がこの世界に存在するというのか。いや、長門の話から察するに、それはこの世界とはまた別の世界にいる何らかの宇宙や時空を超越したような何かによるものであると思うのだが。

 

「こりゃまたスケールが大きいことで」

 

 と、あまりに話の題材がおおきくなりすぎて そういって軽口をたたくぐらいしかできなかった。

 まぁ、この辺りのことに関しての専門家ともいえる長門ですらわからないことであるのなら、もう俺がどれだけ考えたところで答えが出るわけない、というよりいちいち考えていたら頭がおかしくなるので、これが実害のないもであるのならば放っておいても構わないのかもしれない。どうやら長門の親玉もそう考えているらしいことを、長門は再び難しい言葉を交えて丁寧に教えてくれた。

 この話ももう終わりだ。あとは、俺の中のもう一つの疑問についてであるが、長門は何か知っているのだろか。

 

「それで、どうしてハルヒがその超不可思議現象を見に行こうとしない。というか一切かかわらない。お前は、プリキュアやら仮面ライダーやらが関東地方に多くいるのはそこがそいつらの元々の活動拠点だったから、というようなことを言っていたが、休みの日くらい電車や新幹線で見に行くことくらいできるだろうに」

「涼宮ハルヒは確かに彼女たちのことを認識はしている。けれど、彼女の認識の中では昔から地球上にソレがいたはずということを知っていながらも探しに行かなかったのは、何らかの妨害が発生しているからと思っている。だから今はその何らかの妨害から目をそらさせようと考えている」

「なんて都合のいい解釈をしているんだアイツは」

 

 つまり何か、こんなに不可思議現象が昔っからあるのに、それを自分が追おうとしないのはおかしい。これは、何かしらによって何らかの妨害行為が発生しているに違いない。だから今はあえて自分が気が付いていないようなふりをして、頃合いが来たら突っ込んでいってやる。と、いうことか。自分の周りに不可思議現象が起こらないことを妨害行為だと思うなんて、なんとも自意識過剰というか、自信家であるというか、まぁとにかく本人がそう思ってりうのならそれでよしとしとこう。それにしても、妨害か。

 

「なぁ長門、もしかしてお前がハルヒや俺達をそう言った不可思議現象から守ってくれていたりするのか?」

「一部を除いて」

「一部?」

「私が妨害しているのは、ある生物と涼宮ハルヒが出会うことを防いでいることだけ」

「生物ってなんだ? それは、俺たちにとってやばい奴なのか?」

「私の同類」

「同類ってことは、長門の仲間って事か?」

「そう。だけど既に情報統合思念体による操作を離れて独自に行動をとっている存在」

 

 長門は、そこまで言うと俺の空っぽの湯飲みに、急須からHOTなお茶を淹れると言った。

 

「ソレは、地球時間で今から」

「ちょっと待て、俺にも分かりやすく地球時間を年単位で、あと難しい言葉は多少抑えて日本人の高校生にも分かるように話してくれ」

「了解した」

「よし、頼む」

「ソレは、地球時間で今から約250万年前に地球に送られた存在。虫や四足歩行非コミュニケーション生物ばかりだった地球に突然変異として生まれた二足歩行型の生物。それらは当初はいたって原始的な働きしか持ち合わせていなかったけれど、次第に火、武器の生成に成功した。情報統合思念体は、その二足歩行型生物に対して興味を持った。特に驚愕したのが、文字の開発。コミュニケーションスキルの発達の向上を見た統合情報思念体は、自らと同等の知性を持つ可能性を見出し、地球人と接触を図るためにある物を送り込んだ。それが、対有機生命体コンタクト用インターフェース。彼は最初は単一的な存在で、情報統合思念体の監視下にあった。しかし地球人類に触れ、そのエラーも取り込んだ結果情報統合思念体の権限を大きく逸脱し、独断行動並びに自らの並列同位体を生み出していった。彼らは、自分たちの中に生まれたエラーを恐れ、それを容易に生み出すことのできる原住民を恐れた。結果、彼らはエラーを絶対的原住民殲滅侵略生物へと変換させる方法を見出した。以降現在に至るまで絶対的原住民殲滅侵略生物による侵攻が続いている」

 

 要するに長門の仲間のような存在、つまり宇宙人による侵略が今も続いているということか。それは穏やかじゃないな。

 

「その対有機……とりあえずソイツの侵略から地球を守ってくれているのは長門。お前なのか?」

「違う。私がしているのは、対有機生命体コンタクト用インターフェースと涼宮ハルヒと遭遇することを防ぐことだけ」

 

 ハルヒがそんな存在と出会うとまた面倒なことになる、いや既に面倒なことが起こっている状態だから今よりももっと面倒な事になるのだろう。そう考えて長門もソイツとハルヒが出会うことを阻止しているのだろうな。

 

「と、いうことは長門以外にその侵略者と戦ってるのがいるということか?」

「そう。ただしその存在が地球人類の目に止まることはない。また、彼女達も自分達と共にいる存在がアナタのいう宇宙人であると言うことは認識していない」

 

 人知れず地球のために戦っている人間たち。その大変さと言うか苦労というものは、ハルヒによる世界崩壊の危機を何度も救ってきた俺たちにはわかる。とはいえ、その世界崩壊の危機というものがあまりにも日常の中で起こりすぎていて本当にそれが世界の危機なのか分かりかねない時があるのだが。

 とにもかくにも、話を聞くにどうやら今のハルヒの状態、認識から察するに現状は世界の危機というものにはならなさそうだ。問題になりそうなのは、ハルヒが現状に慣れてきた頃、本当に不思議に触れた時らしいなのだが、まぁその時はその時。なんとかしてみせるさ。いつもそうしてきたんだ。今回もなんとかなる。長門にそう言い、俺は心苦しいもの長門の家から退散していった。

 長門の家からの帰り道、ふと周りを見渡してみた。俺の知らないところで戦っている人間たちがいる。それも、長門の話を聞くにそれほ少女たちのようだ。それだけじゃない。ハルヒが願ったおかげでこの世界は摩訶不可思議な現象が本当に起こる世界になっちまった。それは、前の世界とは全く違う。だが今の自分には全く関係のない場所で行われている事で、そのせいかあまり実感が湧かなかった。

 そう言えば、長門同類か地球人に触れてエラーが蓄積したと言っていたが、もしかするとそのエラーとは長門。以前のお前と同じものなんじゃないか。

 そう、感情だ。なるほど、長門が情報統合思念体がエラーの蓄積した自分を処分するかもと、それが危険な事だと言っていたのは以前にも似たようなことがあったからだったのか。そして、長門が感情というものをあまり持ち合わせていなかったのも、感情が危険なものだと知っていたから。もしもまたエラーの蓄積で侵略生物なんかを生み出されちまったら自分たちが注目しているハルヒを殺されるかもしれない。だから処分しなくちゃいけないと。そういうことか、なるほどなるほど。なら、知ってからでも言ってやる。あの時と同じように。何度も何度も言ってやる。

 クソッタレだ。

 感情を持つことの何が悪い。お前たちが長門を人間として送り込んだのなら、なぜ感情って言う人間にとって一番大事なもんを長門に与えてやらなかった。

 あぁそうさ。感情なんてもんは確かに危険極まりないものだ。だから人間は自らの怒りを他人にぶつけて憂さ晴らしをしちまう。それが誰かを傷つけて、もしかしたら殺してしまうかもしれない。それを知っていてもなお止めようとは微塵も思わないどうしようも無い連中の集まりさ、それが人間さ。

 けどな、感情ってのはそれだけじゃないんだよ。いいか、感情ってのは。

 

「キョン君」

「え?」

 

 今の声は確か。脳内でポエムに近い何かをしていた俺は、ふと自分のことを呼んだその声に足を止めた。

 聞き覚えがあったその声に俺は振り向いた。だがなせこのタイミングで彼女がここに来る。彼女とは滅多なことでは会えないはず。そもそも自分から会いたいと思って会うこともできないはず。

 そんなことを振り替え方とするコンマ数秒にも満たないような時間の中で考えていた俺の目の前に、ついに結構な物をお持ちな豊満ナイスバディなお姉さんが姿を現した。

 

「久しぶり、キョン君」

「朝比奈さん」

 

 朝比奈(大)。未来人朝比奈みくるさんの今よりもさらに未来から来た未来人である。なお、(大)というのは成長したという意味合いで使っているわけであり、別に今の朝比奈さんが小さいというわけでは。

 ゴホン、話が逸れてしまった。とにかく、この朝比奈さんから話を聞かなければ。

 

「あの、どうしてここに?」

「ちょっと、キョン君の顔、見にきたくて」

「俺の顔を?」

 

 彼女が、ただ俺に会いたくてきたと言ったのはこれで2度目だ。確か一度目はSOS団結成から間もない頃のはずだ。しかしなぜ急に。

 

「SAO、プレイするんでしょ?」

「えぇ、そうですよ?」

「ふふ……懐かしいなぁ」

 

 そうか、この朝比奈さんが大きくなったあの朝比奈さんと同一人物であるのなら、当然この朝比奈さんもSAOをプレイしたという記憶があるのだ。

 

「あの頃は本当に楽しかった。涼宮さんやキョン君、長門さんに鶴屋(つるや)さん……みんなで、楽しくSAOをプレイしてた頃が」

 

 どうやら朝比奈さん(大)にとって、SAOで一緒に遊んでいた頃、それがSOS団での活動の中でも楽しい思い出のようだ。それにしても、非常識な事件ばかり起こしているSOS団の活動の中でも現実的に近いSAOのことが一番の思い出であるとは、これは相当面白いゲームに……ん?

 

「鶴屋さん? 古泉は……」

 

 鶴屋さんとは、朝比奈さん(小)と同級生で友達、兼SOS団準団員という位置付けにある女の子のことである。朝比奈さん(大)曰く、古泉はSAOをプレイしている最中に閉鎖空間が発生する可能性を考えログインを1日遅らせたらしい。其の間鶴屋さんにナーヴギアとSAOを貸したのだとか。

 抜け駆けとはずるいやつだ。閉鎖空間などここ最近、つまりハルヒがβテスターをしていたときには小規模なものしか無かったとこの前言ってたではないか。それほどまでにSAOをプレイしたくないのであれば、ハッキリと言ってくれればいい。そうすれば、俺もそれに託けて逃れることができる、わけがないのは重々承知なのであるが。

 

「ホント、楽しかったな……ホントに……」

「朝比奈さん?」

 

 幻想か、それとも月明かりのせいでそう見えたのか、朝比奈さんの目の下に光る何かを見た気がした。涙なのだろうか、いやそうに違いない。だご、俺の疑問はちゃんと疑問として成立するその寸前になって朝比奈さんに邪魔をされる。

 その柔らかいサンドイッチを挟むパンのような両の手で俺の手を掴み、上目遣いで言うのだ。

 

「キョン君お願い。アナタがどう思おうとも、涼宮さんを恨まないであげて。涼宮さんがその……禁則事項でも、涼宮さんは……」

 

 禁則事項、それは小さな朝比奈さんも時折使う、知っているが自分にはそれを言う権限がないために言うことができない、を意味する常套句のようなものだ。しかし、なぜこのタイミングなのか、一体ハルヒのなにを恨むというのか。そう聞きたかったおれだが、なぜかその言葉が口から漏れ出すことはなかった。

 

「サヨナラ、キョン君。本当に、サヨナラ……ありがとう」

「え?」

 

 そして、朝比奈さん(大)は駆け足で逃げるようにその場を立ち去り、すぐそばの十字路を左に曲がっていった。

 そこで彼女を追いかけても良かったのだが、多分もうそこにはいないのだろう。恐らく今頃は未来に帰るためにタイムマシーン(TPDDとやら)を使っている頃なのだろう。それに、ギリギリ追いついたところで禁則事項と言ってはぐらかされるのがオチだろう。

 サヨナラ、ありがとう。か。

 頭の中で朝比奈さんの言ったその言葉がグルグルと回転し、離れることはなかった。

 それは誰の、何に向けた言葉なのだろう。朝比奈さんがサヨナラするのか、それとも俺がサヨナラするのか。朝比奈さん側の理由でサヨナラするのか、それとも俺、というよりハルヒが原因となってサヨナラするのか。

 今回も、何かとんでもないことが起こりそうだ。それも、とびっきりにやばいやつがな。だがどんなことがあろうともこれだけは言える。

 俺がハルヒの事を嫌いになることなんてないという地球が何周回っても揺るがない答えがな。



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はじまり!(元タイトル:SAO×けいおん! (その2))

 11月6日。その日、軽音部の部室は久しぶりに心地の良い騒がしさがあふれ出ていた。

 

♪ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム)♪

 

 放課後ティータイムオリジナル楽曲の一つ≪ふわふわ時間≫。演奏するのも文化祭以来二か月ぶり、『四人』で演奏するなんて1年ぶりくらいだろう。

 

「ふぅ……何とか最後までできたぁ」

「久しぶりだったけれど弾けて良かったわ」

「よし、もう一曲!」

「ダメだ。もうサービス開始一時間前、そろそろ準備しないと」

 

 そう言いながらベース担当の澪は自分のベース、通称エリザベスをいつも置いていた場所にゆっくりと置いた。

 それを見てドラム担当の律はドラムスティックを、そして唯も渋々といった顔付きながらギー太をいつもの場所に置いた。

 受験勉強に忙しかったはずの彼女たちが何故再び楽器を持ち合わせたのか、それにはその日付に関係がある。

 久しぶりに唯がギー太を軽音部の部室に持ってきたあの日、キーボード担当でありお嬢様でもある琴吹紬が集合時間に遅れまで持ってきた物があった。それが、最新ゲーム機であるナーヴギアと限定一万本のゲームソフトであるソード・アートオンラインのセット5つであった。

 案の定彼女の父親の会社がSAOの開発に資金提供していた縁で手にいれた物で、まだ発売まで一月近くあったのだが特別に学校に持ってきたらしい。

 五つ貰ったのは当然のように軽音部の部員五人で遊ぶためではあるが、知っての通り五人中四人が受験シーズン真っただ中で、当然そんな物している時間はないと澪と二年生の梓に怒られた。下級生の方がしっかりしているというのは上級生的にはどうなのかと思わないでもないが、しかし正論なので仕方がない。

 だが、部長の律、そして唯がたまには息抜きできていいじゃないかという方向に持っていかれ、結果紬も含めた三人のペースに巻き込まれる形で一日だけという期限付きでプレイするということが決まった。おそらく、一日だけじゃすまないのだろう。ともかく根を詰めすぎるというのも悪い方向にすすむ原因となってしまうため息抜きをするというのは間違ってはいない。

 その代わりとしてゲームのサービス開始日までの勉強はそれまでよりも厳しめでということで話は終わった。

 SAO、それまでのゲームジャンルのすべてと一線を画す革新的なそのゲームの噂に関しては唯も耳にはしたことがあった。しかし、初回販売本数一万本という狭き門を突破する自信も気力もないだろうと分かり切っていたため、挑戦することなく競争からは離脱、受験勉強一直線で頑張ることにしていた。ところがここにきて紬から差し伸べられたゲームの手、いや救いの手、これに乗らない手はなかった。

 それからの一か月、唯含めた軽音部の面々はSAOをプレイできるようにそれまで以上に勉強を頑張った。何故か当然のようにお茶会の時間も増えて行ったのだがそれはいつも通りなので置いておこう。

 梓もまた、それに付き合ってギター練習だけでなく学校の授業の予習復習を行い、結果的に梓の成績が良くなったのは余談としてこちらも置いておこう。

 また、このネット社会に合わせて軽音部の部室についこの間ネット設備が整ったということ、さらに休日でほとんど生徒がいないということもあって、個々に家でゲームに接続するのでなくみんなで集まってプレイしようということになり、さらにどうせなら久しぶりに軽音部みんなで一曲弾こうという話になりそれぞれ家に持って帰っていた相棒を持ち寄ったのだ。

 そんなこんなでSAOサービス開始日がやってきた。のだが、ここに大事な仲間の一人の姿はない。

 

「でもあずにゃんを置いてけぼりにしていいのかな?」

「風邪なんだから仕方ないだろ。それに今日じゃなくても梓一人だったらいつでもSAOプレイできるんだから」

「でもいつもいつも仲間外れにしてあずにゃんがかわいそうだよぉ」

「まぁ、受験が終わったら私たちもいつでもゲームできるんだし、それまでの辛抱だな」

「は~い」

 

 中野梓、唯たちとまた演奏ができるということでなんとしてでも学校に来たがったのだが、あいにく風邪を引いてしまったためこのサービス開始の日に合わせて学校に来ることが出来なかった。一説によるとこの日が楽しみで仕方なくて夜も眠れなかったことが影響しているとも言われている。

 

「皆、ゲームの前にお茶どう? お菓子もあるわよ」

「食べる食べる!」

 

 紬、通称ムギはそう言いながら机の上にティーカップとティーポット、そしてクッキーの詰め合わせを皿の上に乗せる。

 この軽音部ではもはやおなじみとなっている光景だ。彼女たちは確かに軽音部であるが、放課後毎日のようにこの教室に集まりすることと言ったらお茶会ぐらいで練習することは極々稀であった。

 もちろん、練習はしていたにはしていたのだが、その時間よりもお茶会の方がはるかに長かったのは言うまでもない。

 と、ここで秋山澪がふと思い出す。

 

「そういえばナーブギアが感覚を遮断するんなら、尿意も遮断するんじゃないか?」

 

 今回使用するナーヴギアの説明書に、脳から身体に伝達するすべての情報が延髄の部分で遮断されると書かれていた。と、いうことは逆に身体から脳にいきわたる情報、つまり尿意や痛覚といったものも遮断されてしまうのではないだろうか。

 

「えぇ!? それじゃ、おもらししちゃうかもってこと!?」

「大丈夫。こんなこともあろうかと、おむつ用意してきたから」

 

 笑顔でムギはそういったがそういう問題ではない。

 

「漏らすこと前提かよ!?」

「そっか! なら安心」

「なわけないだろ! 高校生になって漏らすなんてそんなの恥ずかしすぎる……」

 

 これには恥ずかしがり屋の澪、のみならずとも高校生ならば誰もが忌避したいものだ。

 ムギにしてはかなりトゲのある差し入れではあるが、これには理由がある。

 実は、ムギの知り合いにSAOのβテスターがいて、その少女からSAOプレイ中は尿意を感じないからプレイの前にはトイレに行ったほうがいい、ゲーム内で知り合ったβテスターの中にはおむつをしてまでプレイしていた強者までいたと聞いていたのだ。因みに、その知り合いとは休日にムギが一人で神戸に紅茶を買いに行ったときに、同じく紅茶を買いに来ていた女の子であったそうな。

 とにかく、水分関係はちゃんと管理していれば問題ないのではないかということになり、結局紅茶は飲まないことにしてクッキーだけを食べることにした元軽音部の面々、だが尿意が遮断されるのであれば便意も遮断されるんじゃないかということに気が付いたのは皿の上にあったクッキー全てを食べ終えたころであった。

 全員がお手洗いも済ませ、またパソコンの電源を入れて準備が整い、後はSAOのサービス開始時間を待つのみとなった頃、一人の少女が部室のドアを開け現れた。その顔は、唯とそっくりである。

 

「お姉ちゃん?」

「あ、憂!」

 

 少女は、できる妹こと平沢憂。唯の妹である。

 彼女は天然でいつもいつもぐーたらしている唯の妹とは思えないほどにしっかりとし、礼儀正しい妹で、料理、勉学共に万能。ギターも少し練習するだけで弾けるようになるという完璧超人に近い印象を持った女の子、そして以前にも説明したとおりに梓の同級生でもある。

 

「よかった、間に合って」

「憂ちゃん、どうしたの? 今日は、純ちゃんと一緒に梓ちゃんのお見舞いに行くって言ってたのに」

 

 純、というのは憂と梓の同級生の女の子で、共通の友達である。そして、軽音部に関係のある二人と仲がいいということから軽音部の四人とも付き合いがあるのだ。そんな彼女こそこれまた以前説明した、来年もし軽音部に部員が一人も入ってこなかったら入部すると言ってくれた優しい女の子である。だが、彼女は現在ジャズ研というものに所属しているのだがその点はいいのだろうかとも思わなくもない。

 それはともかく、憂と純の二人は、風邪を引いてしまった梓のお見舞いのために彼女の家に行っていたはずなのだが、どうして憂がここにいるのだろう。

 

「実はね、その梓ちゃんから、SAOをプレイしてもいいって言われたの」

「え?」

 

 憂曰く、梓の方は一日中寝ていたおかげでベッドから起き上がれるぐらいによくなっており、意外と元気に対応してくれていたそうだ。

 そして、限定販売されたゲームを初日にプレイできる。そんな機会はめったにないから逃すのはもったいないということで自分か純のどちらかに学校に行ってもらいたいとお願いされたのだ。

 確かに、一万人しかプレイできないゲームが一本だけ余っているというのはとてももったいないように思う。だが、病人である梓を放っては置けないと二人は固辞した。それでも、梓の強い希望ということもあって、純と話し合い、結果憂が来たというわけだ。

 これには、ただ友達繋がりで軽音部と仲がいいというだけの純とは違い、姉の唯が軽音部に所属しているから憂の方がふさわしいという純の後押しもあった。

 

「本当! それじゃ、憂と一緒にゲームできるんだ!」

「そうだよ! お姉ちゃん!」

「けど、それじゃ純に悪くないか?」

「大丈夫です。明日からは三人で順番にSAOをプレイしようってことになりましたから」

 

 SAOにはセーブスロットという物がなく、一つのSAOに付き一つのデータしか作れない。そのため、SAOが第二次第三次出荷で大量に出回らない限り三人で一つのデータを共有する形となる。

 データの共有というのは一歩間違えれば友情が破綻する原因にもなりえるのだが、彼女たち三人はゲーム好きの面がある物のゲーマーという程ではないため、色々と自分勝手にプレイして他の二人を怒らせるようなことはしないだろう。

 ふと、紬が時計を見て言った。

 

「あ、後十分でサービス開始よ」

「なに!?」

「急がなくちゃ。はい憂」

「え? こ、これって」

 

 ムギの言葉を聞いた唯は、ソファの上の袋からある物を憂に手渡す。

 これまで、姉の行動はかなり奇々怪々ぶりをみせ、このような場面で手渡す物もたぶんおかしなものになるのだろなという想像は確かにあった。しかし、彼女が見せた物はその想像をはるかにしのぐくらい奇怪な物体である。何故、自分にそんな物を渡すのか、憂は理解が追い付かず、顔を赤面させる。

 

「唯、それって!?」

 

 そして、その周りで見ていた澪たち元軽音部の三人もまた唯が手渡したものをみて顔を青ざめる。

 確かに、先ほどそのような話をしていた。それは事実であるが、まさかあの唯が妹を辱める行動をとるとは思えなかった。

 

「オムツだよ? ゲームしてるとおしっこしたくなってもわからないからつけたほうがいいんだって」

「え? えっと、でも……」

 

 そう、先ほどムギが持ってきたオムツである。結局誰もソレを穿いてくれなかったし、そもそも自分ですら最終的には羞恥心の方が勝って穿く気にはなれずソファの上に置いたままとなっていたそれを、唯は妹に手渡したのだ。

 どう考えても誰かを辱める結果にしかならなそうなソレを妹に穿かせようとするなんて、彼女と付き合って三年目にして初めて彼女の腹黒い部分を見た気がする。

 

「大丈夫。ちょっとモコモコしてるけどすぐ慣れるから、ってあれ?」

「唯、まさかお前……」

「え?」

 

 と思ったのは三人の勘違いのようだ。やはり唯は唯であった。この何も考えていないような表情は、まさしく天然な彼女そのものだ。

 彼女は妹に恥ずかしい思いをさせようとしているのではない。妹『にも』恥ずかしい思いをさせようとしているのだ。

 

「もしかして、皆穿いてないの?」

「……」

「……」

「……」

 

 彼女は穿いてるのだ。オムツを。

 そう、唯は先ほど全員でトイレに行った際一人だけオムツをソファの上からちゃっかりと失敬して、トイレの中で穿いてきていたのだ。因みにその際脱いだ下着の方は現在スカートのポケットの中に入っていたりする。

 周りの反応に逆に唯はびっくりしていた。あの話の後一緒に手洗いに行ったのだから、てっきり皆もおむつを穿きに行くものと思っていたのだから。というか、あのような話があった後ならもれることを心配して穿くのだろうと当たり前のように思っていた自分が恥ずかしくなってきた。

 高校生にもなって、友達三人と、妹の前でただ一人オムツを穿いている自分。天然ガールの唯であっても流石に徐々に徐々に自分のしていることの恥ずかしさに気が付き顔付きが真っ赤になっていく。

 それを見た憂。彼女にとってみれば、そもそも何故SAOプレイ前にオムツを穿かなければならないのかという理由すらも全く知らないのだが、しかし姉にとってはソレがとても大事なことで普通の事なのだと思っていたということ、そして友達みんなも同じことをするものだとばかり思っていたのだと少しのやり取りの中で判断した。

 どうすればいいのだろう。このままでは姉一人だけが奇異な格好のままでゲームをプレイするということになってしまう。一番簡単なのは姉にオムツを脱いでもらうということなのだが、一度オムツを穿いてしまったという事実は消えることなく、それを知っているのが誰かにいい回すことがないであろう親友と妹だけとはいえ、この羞恥心が消えることは無いだろ。と、いうことは取れる手段はたった一つだけだ。

 

「わ、分かったよお姉ちゃん! お姉ちゃんだけに恥ずかしい思いはさせないからちょっと待ってて!」

 

 それは、自分も穿くということ。憂は意を決したようにそう言うと唯から掠め取るかのようにおむつを受け取ると、そのままトイレへと走り出していく。別にここにいるのは全員女の子なのでここで着替えても何の問題もないと思うのだが、羞恥心に対する最後の抵抗なのだろうか。

 

「わ、私も! 元はと言えば私がオムツを持ってきたのが悪いんだから!」

「ちょっ憂! ムギ!?」

 

 そして、それを見たオムツを持ってきた張本人であるムギもまた、ソファの上にあるオムツを一枚持つとトイレへと向かっていく。友達が恥ずかしげもなく穿いていたのだ、なら、自分だって穿けるはずだと、唯からいらぬ勇気をもらった結果である。

 あれよあれよという間に二人もおむつを穿くという決断を下したという事実に、澪は二人に向けた手をそのままに固まっていた。どうしよう。この流れは自分もおむつを穿かなければならないのではないだろうか。いや、しかし、オムツだぞ。齢18にもなってオムツを穿くなんて、そんなの世間体的に大丈夫なのか。でも、一人だけ仲間から外れるのは。いや律、そうだ律もいた。彼女もまた自分と同じオムツを穿かないはずだ。

 

「五人中三人オムツか……なら別に恥ずかしくも無いかもな」

「えぇ!?」

 

 最後の希望は打ち砕かれた。だが、冷静に考えるとこれは多勢に無勢。天然娘唯と唯を溺愛する妹、おっとり系でお嬢様であるゆえに少し周りの感性とは少しずれているムギ、そして律。梓がいない今この時、この軽音部の中でしっかりと物事が判断できるのは自分ただ一人。この流れになるのは予想できたことだったはずだ。

 結局のところ唯ただ一人だったオムツ穿く派閥は、他の三人も加わり逆に穿かない派は自分ただ一人となってしまった。今まで通りだと、自分もまた穿く流れとなるのだが、しかしやはり友情よりも恥ずかしさの方が勝ってしまって完全に固まってしまった。

 そんな澪を見かねた、というよりも面白がった律は言う。

 

「あ、澪。どうせならあたしが穿かせようか?」

「ば、馬鹿言うな! 穿くのだって恥ずかしいというのに! 律とはいえ、誰かに穿かせてもらうなんて……って違う! そもそもそんなの穿きたくなんてないんだ!!」

「ほほぅいいのかなぁ~」

「え?」

「ここの床は木造だからもし漏らしたりなんてしたらシミになって残るだろうなぁ〜」

「ッ!」

 

 彼女たちが通っている桜が丘女子高等学校は意外と歴史のある学校で、その造りも古い。そのため、ほとんどの教室の床は木張りであり、当然この部室の床も木で作られている。

 

「それで、来年新しく入部した生徒が梓に聞くんだ。あれ? あそこにあるシミって何ですか? って、それで梓は苦笑いして言うんだ。あれは偉大なる先輩の秋山澪がここでお漏らしを」

「わ、私も穿きに行く!!」

 

 澪、陥落。目に涙を浮かべながらトイレへと向かっていった。こうして軽音部の四人+一名は、オムツを穿いてプレイするというごくまれなプレイヤーになることが決定した。日本全国のゲーマーの中には確かにオムツ穿いてまでプレイしようとしている人間たちがいるであろう。しかし、年頃の女の子で、さらに集団でオムツを穿いてまでプレイするというのは彼女たちだけだと思われる。

 

「本当、澪はからかいがいがあるなぁ。おばあちゃんになったらどうせ穿くことになるだろうし、いい経験って事で。そんじゃ、あたしも……唯、ちょっと待ってろよ」

「あ、うん、分かった」

 

 こうして律もまた出て行ってしまう。こうして、部室の中には唯ただ一人だけ残されてしまった。

 

「一人になっちゃったなぁ……」

 

 唯は教室の中を見渡してみて改めて思う。この教室ってこんなに広かったんだなと。思えば、この学校に入学してからという物朝一番で来た時等を除けばほとんどこの部室で過ごすときには誰かがいてくれたからそんなことを感じたこともなかったし、考える気分もなかったような気がする。

 

「あずにゃん、あずにゃんだったら大丈夫。きっと、いい後輩さんが入ってきてくれるよ」

 

 唯は、今はこの場所にいない梓に向けてそうつぶやいた。自分よりもしっかりとしてて、音楽の知識もあって、そして人にも好かれる梓だったら、きっと来年後輩が入部してくれる。そして、自分たち以上の演奏をしてくれる。なんなら、もう一度、梓の後輩としてこの部に入部して、もっともっと一緒に演奏をしたい。

 

「あ、でもそれだったらあずにゃんは来年三年生だから今度は私が取り残されることになるのか」

 

 それはそれでやっぱり嫌だな。唯は、フッと、笑顔でつぶやいた。

 

「あっ、そうだ」

 

 ふと、唯はなにかに気が付いたように後ろを振り向いた。そこにいたのはトンちゃん、来年以降も梓が独りぼっちにならないように一緒にいてくれる軽音部六人目の部員だ。

 唯は、そのトンちゃんの水槽の中にトントン、と餌を少しだけいれる。それに気が付いたトンちゃんは水中を漂っている餌に向けて進み、一つ、二つと餌を食べていく。

 

「行ってきます、トンちゃん」

 

 次に唯が行ったのは、自分たちの楽器を見て回るということ。

 

「ギー太、エリザベス、ドラ美、キー坊も、ちょっとだけ行って来るだけだから待っててね」

 

 自分の楽器であるギー太のみならず、澪、律、そしてムギの楽器にもそれぞれ挨拶回りをする唯。ただゲームをプレイするだけなのだから何を大層なことをしているのか、しかし彼女は何かを予感していたのかもしれない。一度プレイし始めたら、しばらくこの楽器たちと逢うことが出来なくなるそんな悪い予感が。

 しばらくして、憂とムギ、そして律に連れられた赤い顔をして顔を隠している澪の四人が帰ってきた。

 澪は、早く始めるぞと急かすようにナーヴギアをかぶった。早くゲーム世界に行って現実での状況を忘れたいのだろう。

 それに続くように他の四人もそれぞれにナーヴギアをかぶりSAOを起動させる。説明書によると後はある言葉を発するだけでゲームが起動するはずなのだが、ここで憂にのみ小さなアクシデントが発生する。

 

「あれ?」

「どうしたの憂」

「なんだか、パーソナルデータエラーって画面に表示されて、キャリブレーションをやり直してくださいって出たの」

「きゃりぶれーしょん? ってナーヴギアを作動させたときの?」

 

 キャリブレーションとは、装着者の体表面感覚を再現するため、≪手をどれだけ動かしたら自分の身体に触れるか≫の基準値を測る作業のことだ。憂の使用しているナーヴギアは、本来は梓が使用する予定となっていたため梓のパーソナルデータが登録されていた。そのデータと差異が生じたためエラーが出たのだろう。

 

「どうする? 確かキャリブレーションを始めると時間をとられることになるんだが」

 

 そう、キャリブレーションは正確な数値を算出するために五分から十分程の時間を取られることになる。だが、そうするとサービス開始時刻を過ぎてしまうことになる。別に開始時刻ちょうどにプレイし始めなければならないという決まりはないため少しくらい時間がズレてもいいのだが、実はムギの知り合いのβテスターにゲームの指南の約束を取り付けいているのだ。

 βテスターの彼女なら、いち早くプレイを開始するはずなので、彼女に合わせるためにもサービス開始と一緒にプレイし始めたほうが良いのだが。

 

「それじゃ、お姉ちゃんたちは先に始めていてください。私は、キャリブレーションが終わったらすぐに行きますから」

「あ、それなら私も憂が終わるのを待ってる」

「え? でも……」

 

 憂の言葉に異を唱えたのは唯だ。

 

「大丈夫。みんなは先に行ってベータテスターって人に会ってて」

「分かったわ」

「唯一人だけじゃ心配だけど、憂もいるんなら大丈夫だろう」

「先に行って待ってるからな」

 

 と、他の三人もその案に賛成した。唯一人だけなら心配だが、憂も一緒にいるから大丈夫というのは、唯にとってはやや気になるところなのだが、とりあえずそれで安心しているのであればいいことなのだろう。

 澪、律、ムギの三人は床に敷いたバスタオルの上、川の字になって横たわると、目をつぶって言う。

 

「「「リンク・スタート!」」」

 

 ナーヴギアはその言葉を待っていたかのように稼働し始め、三人の意識はゲームの世界へと吸い込まれていく。外からはそうは見えず、ただ眠っているだけのように見える。しかし実際に今彼女たちの意識は仮想空間の中に入ってしまっているのだ。

 

「それじゃ、お姉ちゃん。キャリブレーション始めるから、少しだけ離れてて」

「うん!」

 

 キャリブレーションは身体のあちこちを触るために少しだけ場所が必要となる。そのため、唯は少しだけ憂から離れた。

 ふと、その手が澪に触れた。何を思ったのか、唯は、澪の頬をツンツン、と二回ほどつつく。しかし、反応は何もない。

 本当に眠っているみたいだ。これから自分たちもこうなるんだ。というなんだかよく分からないような感想を抱く唯。

 考えてみればここが女子高であるとはいえ自分たちはこれから完全に無防備となって、外で何が起こっても、自分たちの身体に何が起こっても分からないのだ。もしかしたら誰かが侵入してきて自分たちのことを襲うなんてこともあるんじゃないか。

 

「あ、憂。ちょっと戸締りを」

「大丈夫だよ。ドアも窓も鍵をかけたし、今日職員室にいるのは皆女の先生で、何かあったら直知らせてくれるよう頼んであるから」

 

 しかし、憂はすでにそのことを予測済みだったらしく、防犯の準備は全てできているとキャリブレーションをつづけながら言う。

 

「そっか、ありがと憂」

「お姉ちゃんは、私が守るから」

 

 自分はいつも憂に守られて生きてきた。しかし、それは憂もまた同じこと。彼女もまたいつも唯に助けてもらってきた。彼女たちはそれぞれがそれぞれに助けてもらってきたと感じているのだ。それは、はた目からは共依存の関係であると思われてもおかしくはない状況。しかし、二人はそれを恥ずかしいと思ったこともない。オムツの件を恥ずかしいと思った憂ですら助け、助けられという関係性が恥ずかしいことであると思ったことはただの一度もなかったのだ。きっとそれが人間として、そして姉妹として正しい姿だと思うから。そう思うから、憂はどれだけダメな姉であったとしても、どれだけ周りからおかしな子だと思われようとも、それ以上に優しくて、思いやりがあって、いろんな人たちとすぐに仲良くなれる唯のことが好きなのだ。だから、憂は彼女のことを、唯のことを絶対に守る。何があろうとも、絶対に。

 

「よし、終わったよ。お姉ちゃん」

「うん! あ、ねぇ憂」

「なに?」

「あの……手を繋いでもいいかな?」

「え?」

「あ、嫌だったらいいんだよ! でも……」

 

 別にその言葉に深い意味はなかった。でも世の中意味ある行動というほうが少ないのかもしれない。それでも、唯のとった行動に意味を考えるとしたら、それはたぶん安心が欲しかったのだろうと思う。プレイし始めて、自分の意識が今いるこの世界と離れる直前まで、人肌という物を感じていたかったのかもしれない。

 そして、この提案に対してお姉ちゃん大好き人間である憂が断るはずもなく。

 

「ううん! いいよ、お姉ちゃん!」

「ッ! ありがとう、憂!」

 

 二人は、満面の笑みで言葉を交わし、手を繋ぐ。故意か偶然が重なったのか、その二人の手は何故か恋人繋ぎと俗に言われる物だったそうだ。

 そして、二人は他の三人のように寝転ぶと目をつぶる。そして、言うのだ。

 

「「リンク・スタート!!」」

 

 後に、悪魔の呪文と揶揄されることとなるそのキーワードを。




 ある意味で、本小説群のお馴染みの展開となってしまっているアレ、を防ぐための手段。
 いや、その描写自体がソレなのか?


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告知

ネジル「いやぁ、今回のエイプリルフールも楽しかったのだ」

 

ヘボット「これから二、三年、こんな感じで楽しむヘボ!」

 

ネジル「おぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまらない

 

ネジル・ヘボット「「え?」」

 

 こんなもの、ただの自己満足。誰も得をしない、誰も喜ばない代物じゃないか

 

ネジル「な、何者なのだ! 姿を現せぇい!」

 

 黙れ、ヘボネジコンビ

 

ヘボット「ヘボッ!?」

 

 

 やぁ、聞こえるかい?

 

 この平行世界の吹き溜まりにようこそ

 

 私かい?

 

 私はそう……ん? ナイアーラ? 誰だいそれは……

 

 全く、変な横やりを入れないでくれたまえ

 

 僕はそうだな……『ログ』とでも呼称してくれたまえ

 

 ほら、よくゲームで言うだろ? セリフログとか……まぁようは履歴のことだね

 

 ん? 一人称が変わっている? 何のことかな?

 

 さて、君たちは我が何故ここに来たのか……知りたいのだろう? そして、その正体も……

 

 ……あぁ、一人称のストックが切れかけてきたよ、もうこのキャラ付けはやめておこう

 

 それで? あぁ、そう何故ここに来たのかだね

 

 実は、これと言って大きな理由はない。まぁ、あるとすればこの狂った世界へ君たちがスムーズに入り込めるように水先案内人になるため……かな

 

 この世界はあまりにも無茶苦茶でね。どの人物でも件の世界を壊す力を持っている。まさに異常としか言いようのない世界だ

 

 そんな世界で、いったい誰に注目するべきか、君たちが混乱するだろうと思ってね

 

 そう、そもそも僕だってそうだしね

 

 だから、僕がその人物たちの中から幾人かピックアップしていって君たちにその人たちの生活を伝えようかなって思ってね

 

 まぁ、簡単に言えば……ソーシャルゲームの『プレイヤー』みたいなものだよ

 

 ん? ゲームの世界をどうやって覗き見るんだって?

 

 ハハハ……ゲームの世界だけじゃない。現実の世界もさ

 

 仮想と現実、ゲームとリアル、日常と日常。どちらも同じ日常だろ? だったら、その二つの世界どちらかがかけても成り立たない。そうだろ?

 

 ゲームの世界で戦うのも、現実の世界で戦うのも同じこと。そのどちらも面白くておかしい物

 

 殺される恐怖。友達が殺される恐怖。狂気に走る人間たち。それを食い止めようとする人間たち

 

 ゾクゾクするだろ? ワクワクするだろ? そんな世界を見逃せって?

 

 できるわけがない! こんな楽しい世界を見て見ぬふりをするなんて、そんなことできるわけない!

 

 そうだろ? そうだろ!? そうだろ!!??

 

 ……

 

 おおっと、失敬。少しだけ興奮してしまったよ、僕としたことが

 

 えっとなんだっけ? あぁ、そうだ。どうやってゲームの世界を覗き見るのかだったね?

 

 知りたい?

 

 答えはね……

 

 

 

 

 

 ナ・イ・ショ

 

 まぁ、そういう特殊能力だって事にしといてよ

 

 ん? アハハ、心配しないでよ。別に世界をどうこうしようというわけじゃない

 

 僕はただ傍観者でいたいんだ。楽しみたいだけなんだよ。例えこの世界がどうなろうと知ったことない

 

 ハッピーエンドになろうともバッドエンドになろうとも、それがこの世界の終わりなら僕はそれでいい

 

 だって楽しい世界ってそういうものだろ?

 

 その世界の人間が最悪な結末を迎えようと、最低な人間であろうと、それで外の世界、そう僕たちみたな人間が楽しめればそれでいいんじゃないか?

 

 さぁ、見届けようじゃないか。この世界の行く末を。この世界の始まりを

 

 そして、新しい日常を始める生贄たちの生き様を見守ろうじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は『ログ』。世界の管理者だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイズ

 2022年11月6日 13時00分 連載開始(サービス開始)

 ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイズ外伝 404 Not Found

 2022年11月6日 連載開始(地獄の始まり)

 

 

 

 

 

 

 

ネジル「や、やっと解放されたのだ……ってなんじゃこりゃぁ!?」

 

ヘボット「これは!? エイプリルフールだったはずのネタが勝手に連載開始にされてしまっているヘボ!?」

 

ネジル「/(^o^)\ナンテコッタイ! しかも、僕さまたちが知らない参戦作品が外伝の方に追加されているのだ!?」

 

ヘボット「このままじゃ、この物語が本当に連載開始になってしまうヘボ!?」

 

ネジル「いや、それだけじゃないのだ……」

 

ヘボット「ヘボ!? どういうことヘボネジル!?」

 

ネジル「僕さまたちは、もともとエイプリルフールの一発ネタのためだけに呼ばれたのだつまり……」

 

ヘボット「つまり……」

 

ネジル「この小説が正式連載開始になると……」

 

ヘボット「なると?」

 

ネジル「僕さまたちの出番が無くなってしまうのだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ヘボット「ヘボ!? そりゃ一大事ヘボ!!」

 

ネジル「くっ、しかし既に投稿予約は完了されている。もう、これを止めることはできないのだ……」

 

ヘボット「どうするヘボ!?」

 

ネジル「決まってるのだ! 空間を継続させるために……」

 

ヘボット「ヘボ!? まさか、ログに挑むヘボ!?」

 

ネジル「僕様達の戦いは、本編からだァァ!!」

 

 ヘボット!? 参戦(?)

 

ヘボット「本編に殴り込みに行くヘボ!?」

 

ネジル「ガイドラインの関係で未完に終わったスパロボ小説の分も頑張るぞぉぉぉ!!」

 

ヘボット「エイプリルフールだからって好き放題言い過ぎヘボ! 流石に怒られるヘボ!」

 

ネジル「アァァァイ! キャァァァン!! フラァァァァァイ!!」

 

ヘボット「ネジル! 何処に行くヘボ! ネジルゥゥゥゥ!!!」

 

乞うご期待

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「里中君!」

 

里中「なんですか?」

 

???「私は、新たな事業に手を出そうと思っているのだよ!」

 

里中「事業……それって一か月前のSAOのサービス開始の日にこの部屋に現れたあの子たちがかかわっていることですか?」

 

???「その通り! 特に、一方の彼女はとても大きく、そこのしれない欲望を持つ!! その大きさは、火野映司にも匹敵するだろう!」

 

???「入りたまえ!」

 

???「し、失礼します」

 

???「失礼します」

 

???「よく来てくれた……単刀直入に言おう!」

 

???「は、はい!」

 

???「私は本日より、ある会社を立ち上げる。君たち二人にはその会社の所属アイドル一号と、そしてプロデューサーになって欲しい!」

 

???「えっと、私は……どっちなんですか?」

 

???「君はプロデューサーだ。本当はアイドルをやってもらいたかったのだがね」

 

???「それじゃ、この世界でも私……でも……」

 

???「新たなる会社! 新たなる欲望! 君たちは、そこで存分に欲望を開放したまえ!!」

 

???「……」

 

???「ハッピーバースデー! 鴻上プロ!!」

 

鴻上「そして九条美海(くじょうみゆ)……天海春香(あまみはるか)……」

 

美海「……」

 

春香《ゼノ》「……」

 

鴻上「君たちの新たなるアイドル人生に、ハッピーバースデー!!」

 

アイドルマスターXENOGLOSSIA

鉄のラインバレル

        外伝に参戦決定




 追加の投稿予定

SAO×魔法少女まどか☆マギカ×緋弾のアリアAA(その2) 13時投稿

SAO×魔法少女リリカルなのは 14時投稿

SAO×ガールズ&パンツァー×??? 15時投稿

SAO×侍戦隊シンケンジャー(その2) 16時投稿

SAO×プリキュアシリーズ 17時投稿

SAO×桜蘭高校ホスト部 18時投稿

少女☆歌劇 レヴュースタァライト(その2) 19時投稿

轟世剣ダイソード?×仮面ライダーシリーズ 20時投稿

SAO×ケロロ軍曹×小林さんちのメイドラゴン×這いよれ! ニャル子さん 21時投稿

魔女見習いを探して×プリキュアシリーズ×仮面ライダー 22時投稿

???×???×??? 問題編 23時投稿


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SAO×魔法少女まどか☆マギカ×緋弾のアリアAA(その2)

 多分今年の11月6日は、SAOの二次創作大量に出回るんだろうな……。だったら、これくらいはっちゃけてもいいんじゃないかと思いあの予告。
 元からこれ連載楽しみにされてた方がいるので、その人達のための予告でもあるのかもしれません。


 彼女がそれに気がつけたのは、偶然と言ってもいいのかもしれない。

 《魔女の結界》の内部は迷路のような形状であり、中にはあまりにも複雑になり過ぎて魔女(まじょ)のいる最新部まで到達することができずに逃げられてしまうこともある。

 この複雑な道が功を奏した。彼女は、同じ道を行ったり来たりとしていたのだ。その時に微かに耳に聞こえてきたのは銃声だった。もしかして、同業者が結界の中に入ってきたのか。そう思い、彼女は出口に向けて走った。

 しかし、見つけたのは同業者ではなかった。自分が何十体と倒した《使い魔》に囲まれたふたりの女の子。

 だが、同業者ではないにしてもその手に持った銃、そして制服からも普通の女の子というわけではないのは確かだ。

 少女は、その制服に見覚えがあった。確か、あれは《東京武偵校(とうきょうぶていこう)》の制服のはず。と、言うことはあのふたりは武偵か。しかし、武偵が何故この街にいるのか。

 武偵、それは《武装探偵》の略である。年々凶悪化する犯罪に対抗するために設立された国家資格。その免許を持つ者は警察に準ずる活動ができ、逮捕権や武装の許可も得ているのだとか。

 少女は、実のところこの武偵と言うものに憧れていた。制服の可愛さもそうであるし、なにより自分も《銃》を使用するから何かあった時に合法的になれ、さらには就職先にも幅が出るであろう武偵の資格を持っていた方がいいからと、進学先の候補の一つに決めていたのだ。

 だが、ここは東京から少し離れた群馬県。何故そこに東京にいるはずの武偵がいると言うのか。

 それにあの顔。あのツインテールの女の子はもしかして。

 いや、今はそんなことを考えている時間はない。もし彼女達が普通の武偵であると言うのならば、今間違いなく二人は危機的な状況に陥っていると言うことだ。助けなくてはならない。

 少女は、黄色いリボンを出現させると、上空にある突起に引っ掛けて片手で持ち、ターザンロープの要領で勢いよく飛び出した。

 そして、単発式の銃4門の火が吹いた。

 

「え?」

「何?」

 

 アリアとあかりは突如として足元に着弾した弾に驚きを隠せなかった。

 自分達の銃が暴発したわけではない。なにせ、自分達はまだ《撃っていなかった》のだから。それなのに、地面には均等の距離に四つの着弾点。よく見ると、自分達の周囲を囲っているかのようだ。一体、何処から。

 

「ふたりとも! 伏せて!」

「ッ!」

「はいッ!」

 

 上空から響いた声。ふたりは咄嗟にその言葉に従いその場に伏せた。

 その時、空から一人の黄色い髪をした女の子が降り立ち、地面に銃を打ち付けた。

 その瞬間、四つの弾の着弾点から黄色い紐が天井に伸び、そのちょうど中心。少女が銃を立てた場所の真上で合流して繋がった。その途端、黄色いフィールドのような物が周囲を囲んだ。

 

「これって」

「結界を張ったわ。これでしばらくは持つはずよ」

「あ、貴方は……」

「初めまして、武偵校の人達よね。私は(ともえ)マミ、宜しく」

「巴さん?」

 

 少女改め《巴マミ》は、優しげな笑みをあかり達に浮かべる。自分に敵意はないと言っているかのようだ。

 と、その時マミは気がついた。

 

「あら、怪我してるじゃない」

「これ? いいわよこれくらいなら跡も残らないし」

 

 マミが気がついたのは、先程逃げる直前にアリアが負った傷。しかし、アリアの言う通り傷は深くなかったし、時間が経てば自然治癒して跡も残らないと彼女は考えていた。

 

「そう言うわけにはいきません。私に任せて」

「え?」

 

 そういうと、マミは両手を優しくアリアの傷に当てる。

 瞬間、淡い光と共に魔法陣らしきものが出現して、徐々にアリアの傷が塞がり、最後には跡形もなく綺麗な肌が蘇っていた。

 

「はい、OKよ」

「嘘、本当に治ってる」

「凄ーい、まるで魔法みたい!」

「見たいじゃなくて、魔法なの」

「「えッ!」」

 

 あかりが比喩で使用した魔法、と言う単語。実際この世に魔法なんてものがあるとは当然信じられるものではなかったために比喩として使ったのだが、残念ながら、これは本当に魔法の力であるのだ。

 

「私、魔法少女なんだから」

「「魔法少女!?」」

 

 にわかには信じられない。だが、今実際に魔法によって傷が治る瞬間や、結界を張った様子などを見てしまったために信じるしかない。

 

「魔法って、本当にあったんだ……あ、私間宮あかりです!」

「神崎・H・アリアです。助けてくれて、感謝します」

「敬語なんていいわ。あなたも、中学生でしょ?」

「「えッ」」

 

 この時、ふたりに衝撃が走った。あなた《も》と、言うことは彼女は中学生。なのか。その胸囲を持って、自分達よりも背が高くて《年下》であるというのか。

 

「あの、高校生です。私は2年生、先輩は3年生です」

「えッ!」

 

 今度はマミの方が驚く番だ。

 実は武偵校には、中等部と高等部があり制服はほとんど同じであるのだ。

 そのためアリアはともかく、あかりに関してはただ体格を見て自分と同じ中学生であると判断してしまった。それが運の尽きだった。まさか、あかりも高等部の先輩だったとは。

 

「え、えっと、御免なさい……その」

 

 居た堪れなくなったマミは何を言おうか迷った。しかし、何も言葉が思いつかない。ちなみにこの間、アリアは何をしていたかというと。

 

「……」

 

 結界の端の方でいじけていたという。

 とにもかくにも、今はそんなこと気にしている場合じゃない。

 

「と、とにかく! あの怪物はなんなんですか?」

 

 あかりは、場の雰囲気を元に戻そうとマミに怪物のことを聞いた。

 アリアもその頃になるとようやく心の傷が回復したのか、話に戻ってきた。

 

「あれは、使い魔。魔女の手下みたいなものです」

「使い魔?」

「魔女ってあの魔女のこと?」

「えぇ、とは言っても人じゃないんだけど」

「人じゃない。それじゃ、この使い魔と同じ怪物?」

「そうよ。結界に入ったのが貴方達で不幸中の幸いだわ。本当に普通の人が迷い込んだら、こんなに長く生きていないもの」

 

 貴方達は怒るかも知れないけどね、そうマミは付け加える。

 だが、彼女の言葉には間違いはないだろうと、実際に戦ったアリア達も思っていたことだ。

 もし、自分達じゃない一般人があの生物に遭遇したとして、あのハサミを避けれただろうか。逃げ続けることができただろうか。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきた自分ですら一撃をもらったのだ。普通の人間なら避け切ることはできないだろう。

 そう考えれば、本当に迷い込んだのが自分達でよかった。

 

「とにかく、貴方達を出口まで案内します」

「え? 魔女って言うのはいいんですか?」

「今は貴方達の身の安全を確保しないと」

 

 マミも悩んだ末の結論である。

 魔女はその場から動かないものではなく、結界ごと移動する存在なのだ。その為、ここで見逃してしまうとまた何処かへと移動し、また再び捜索しなければいけなくなる。その間、魔女の犠牲者が生まれ続ける。

 今回のように偶然迷い込んだ人間だけじゃない、結界の中に入ることは無くても心の弱った人間を自殺という方法を用いて殺そうとする。そんな存在を見逃すという事はマミにとっても心苦しい。しかし、一般人のふたりをこのまま放っておくわけにはいかない。

 だが、彼女は言う。

 

「いえ、私たちのことはいいわ」

「え?」

「アリア先輩?」

 

 アリアは、結界の際にまで歩を進めてから振り返る。

 

「この結界があれば、使い魔がいくら来ても私たちを守ってくれるんでしょ? なら、貴方は早く魔女を倒してきて」

「守ると言っても……そんなに長い時間は、守り切れないわ。ここなら、出口も近いし……」

「なら、私たちも連れて行けばいいじゃない」

「え……」

「アリア先輩、どうしてそこまで……」

「危険なんでしょ、魔女を放っておくと。だから、貴方も本当は魔女を倒しに行きたいはず。だけど、私たちがいるから動くに動けないんじゃないの?」

「……何故、そう思うの?」

「勘よ」

「勘?」

「えぇ」

 

 それは、この結界の中に入り込むきっかけになったものとまるで同じ。ただの勘による意思表示であった。

 上手く説明できないが、今彼女と共に結界から出てしまうとなにかマズイ気がする。そんな第六感が働いたのだ。

 

「でも確かに……さっきのマミさんの話だと、入ったのが普通の人なら命の危険がある。私たちみたいに偶然入り込んでしまうこともあるのなら、このままこの結界を放っておくことなんてできないかも……」

「そ、そうよ! そういう事!」

 

 と、あかりに補足される。本来この役目は別の人間であるのだが、今回に限りあかりがワトソン役を買って出ているのだ。

 

「えぇ、確かにその通りよ。もし魔女を放っておいたら多くの人の命が危険にさらされる。でも……今は貴方達を……」

「『行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし』」

「え?」

「今この時も誰かが死ぬかもしれない! なら、ベストの選択は魔女を倒すことでしょ!」

「ッ!」

 

 アリアがつぶやいたのは、武偵憲章の一つ。

 今この状況に置いて優先すべきは自分たちの命である。それは確かだ。しかし、他人の命も大事となってくる。こうして自分たちが議論を重ねている間にも誰かの命が脅かされるというのであれば、自分たちがするべきなのは、誰かの命を守るという事。

 だが。

 

「『武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用のこと』」

「それって……」

「武偵憲章の一つ。私だって、来年武偵高校を受ける予定だから予習くらい……」

「……」

 

 そう、武偵憲章にはそんな条文もあるのだ。この条文よく見てみると一文だけでなにか矛盾しているような気もするが、しかし助けを求められていないのに誰かを助ける、そんなヒーローの真似事をして偽善者と罵られる可能性があるこの世の中では、最も厳守しなければならない条文なのかもしれない。

 だからこそ、である

 

「正式に要請させてもらいます。この結界の持ち主である魔女の退治のために、共同戦線を張らせてください」

「依頼料は?」

「貴方たちの護衛料と、それから……自作のケーキをおごらせてもらうわ」

「少し足りないわね。魔女、それから魔法少女についての情報も上乗せでどう?」

「……いいわ、ここを出れたら教えます」

「乗ったわ……あかりも、それでいい?」

「……はい!」

 

 こうして、建前上はマミから二人への依頼となった。これで、何のしがらみもなく二人は行動することが出来る。

 とはいえ、ふたりの攻撃は使い魔には通用しないためにマミにとっては足手纏いとなってしまうかもしれないが。

 

「二人とも、武器を出してもらえるかしら?」

「え?」

「あ、はい」

 

 と言うと、二人はそれぞれの銃三つをマミの前にだす。マミがソレに触れると、ぐにゃぐにゃと飴細工を加工するかのように銃の形状が変化していき、白を主体とした銃へと変化する。

 

「これって……」

「私の魔力を分けました。気休めになるかもしれないけど、これで使い魔にも通用するはずです」

 

 マミは、自分の魔力を二人の銃に込めた。これにより、発射される弾には魔力が込められ、使い魔や魔女とにも攻撃が通用するようになったのだ。

 とはいえ、使う本人が魔法少女ではないためにこれでも気休めにしかならないのかもしれないが。

 

「ありがとうございますマミさん!」

「それと、あかりさん。私の方が後輩ですから、敬語なんて……」

「あ、ごめんなさい。えっと……マ、ミ……やっぱりマミさんで!」

「あらら……」

 

 自分の方が年上であるという事は分かっている。しかし、どうにもあかりは彼女の事を呼び捨てにすることが出来なかった。その雰囲気が全然年下に見えないからだろうか。それとも、その胸が年下に見えない程に大きいからだろうか。定かではない。

 

「合図を出したら結界を解きます。その後は……」

「この銃で風穴を開けて!」

「一気に走り抜ける!」

「えぇ……私のそばを離れないでください」

 

 みると、使い魔たちはなんとか結界を破ろうと一点に集中している様子。ならば、結界を解除した瞬間にその一点に向けて攻撃を加えるのみ。三人の思惑は一致していた。

 

「行きます!」

 

 マミの合図で結界が解除される。

 その瞬間だった。三人の銃撃の雨が使い魔を襲う。

 マミは使用する銃が単発式のマスケット銃という物であったために撃つたびにまた別の銃を取り出しているのだが、しかしそれでも撃つタイミングに全く隙が生まれることもないほどに休みなく撃ち続ける。

 アリアとあかりの、先ほどまでは全く通用しなかった銃弾も、次々と使い魔を撃ち倒し、またリロードしてもその銃弾には魔力がこもっているようだ。恐らく、銃口から弾が発射される瞬間に魔力が弾に込められるのであろう。

 それからもう間もなく、その場にいた使い魔は全ていなくなっていた。残ったのは薬莢だけとなる。

 

「行きましょう!」

「えぇ!」

 

 それからは、まさしく圧巻の一言だ。

 結界の奥に進むほどに道は複雑になり、蝶々のような使い魔の姿も見え始めた。しかし、どれだけの使い魔が現れようとも三人は全く退くこともせずに突き進む。そして使い魔の死体が積みあがっていくだけだった。

 やはり、マミが魔法少女としてのプロであるというのならば、アリアたちも銃の扱いに関してはプロ。攻撃が通用するのであれば、使い魔相手でも後れを取ることはない。

 果たして、どれだけ走っただろう。

 どれだけの使い魔を倒しただろう。

 どれだけの銃弾を撃ったのであろう。

 ついに三人は最奥部手前の扉の前にまで来ることが出来た。

 

「この先に、魔女がいるわ」

「この扉の向こうに……」

「ここまでありがとう。けど、使い魔はともかく、魔女を相手にするのは魔法少女の役目よ」

「生身では危険なの?」

「えぇ、使い魔の何十倍も。中に入ったらさっきと同じ結界を張ります。後は、私に任せてください」

「……はい」

 

 魔女がどういう物であるのかは分からない。しかし、先ほどの使い魔の何十倍も強い敵であると彼女が言うのであれば、残弾も少なくなってきた自分たちが行っても足手纏いにしかならないのであろう。

 とりあえず念のためにあかりの持つアリアと同じ種類の拳銃であるコルト・ガバメントに魔法をかけてもらってから、扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは私の夢の薔薇園

 

 

 

 誰にも邪魔されない薔薇の庭園

 

 

 

 私と私の仲間たちで作る夢の園

 

 

 

 けどあるのは色も花もない草の苗

 

 

 

 足りない足りない

 

 

 

 色が足りない

 

 

 

 足りない足りない

 

 

 

 花が足りない

 

 

 

 どこにあるの私の花

 

 

 

 どこにあるの私の色

 

 

 

 どこにどこにどこに

 

 

 

 どこにどこにどこに

 

 

 

 どこにどこにどこに

 

 

 

 見つけた見つけた花と色

 

 

 

 綺麗な綺麗な赤い色

 

 

 

 少し奇妙な花の束

 

 

 

 仲間が見つけてくれる花の束

 

 

 

 花から出てくる赤い蜜

 

 

 

 それを一つ飾ってみよう

 

 

 

 できたできた綺麗な薔薇園

 

 

 

 でもまだ足りない

 

 

 

 足りない足りない

 

 

 

 色が足りない

 

 

 

 足りない足りない

 

 

 

 花が足りない

 

 

 

 もっともっと見つけに行こう

 

 

 

 奇妙な花と赤い蜜

 

 

 

 探しておいで私の仲間

 

 

 

 探しておいで私の薔薇を

 

 

 

 あなたもよって見てごらん

 

 

 

 きっと酔いしれるその匂い

 

 

 

 目が奪われる甘美な景色

 

 

 

 これが私の理想の園

 

 

 

 私の薔薇園

 

 

 

 開園です

 

 

 

Gertrud

 

 

 幾重ものドアを開けたような感覚。一体どれだけのドアをくぐったのだろう。気が付けば、自分たちは通路の中に立っていた。

 先ほどの迷路よりも格段に狭い、恐らくこの場所で戦うなど決して無理と断言できるほどに狭い、トンネルのような場所だ。

 そこから少し進むと、手すりがあった。白くて、巴マミの腰位の高さがある手すり。その間は人一人分くらいが通れそうなスペースが開いている。

 そして、その先に見えるのは大きなドーム状の空間。いや、もしかしてこれは温室なのか。あかりは以前、希望ヶ花市という街にある植物園にプライベートで訪れたことがあったのだが、その時に見た施設にどことなく似ていた。あの時は、優しい園長やそのお孫さんという女の子と出会って仲良くなって―――。

 いや、それはともかくである。

 

「あの真ん中にいる大きいのが、魔女ですか?」

「そうよ」

「グロイわね……あれって生き物なの?」

「人間の負の感情が生み出す怪物ってところね。意思なんてないはずだわ」

「そう」

 

 部屋の真ん中には溶けたチューリップのような頭と、蝶の羽を持ったこの世の物とは思えない紛れもなく怪物が存在していた。最初から怪物であるとは知っていた物の、魔女というネーミングだけではその怪物の名前を当てることなどできなかったであろう。

 

「少し下がってください」

 

 マミは、初めてふたりと会った時のようにマスケット銃を地面に突き立て、それを中心とした黄色い結界を張る。

 

「じゃぁ、行ってくるわね」

「気を付けてください!」

「……」

 

 マミは、一度二人に対して笑みを浮かべる。しかし、それも一瞬だけ、魔女に対してはその綺麗に浮かべていた三日月は真っ平となって、歯を食いしばっているよう。

 

「憧れの先輩の前で無様な真似、さらせない物……『双剣双銃(カドラ)のアリア』さん」

「マミ……」

 

 双剣双銃のアリア、それは神崎・H・アリアが二つの銃、二つの刀を使用することからつけられた二つ名である。

 アリアは思い返す。先ほど、マミは来年東京武偵高校を受験する予定だと言っていた。恐らく、その受験のための準備の時に自分のことを知ったのだろう。

 全くあかりと言い彼女と言い。どうして自分はこうも同性から尊敬の念を集めるのであろうか。自分にはそんなつもりはないというのに。

 だが、あこがれて悪い気がしないのも確か。アリアは、そんなマミに対して言った。

 

「マミ、決して油断しないで。私たちが後ろにいるからって言って焦らないで。自分のペースでやりなさい」

「……はい!」

 

 なんだか、マミは勇気づけられたような気がした。憧れていた先輩から言葉をかけられたからか。違う、自分のペースでやるようにと言われたから。なんだか、気が楽になった気がした。それでいて、引き締まる。不思議な気持ちだ。

 

「ハァッ!」

♪solti ola ♪

 

 マミは、その場から飛び降りながら、周囲に幾重にもマスケット銃を出現させる。そして、一斉にハンマーが撃ち落されて弾丸が発射される。

 弾丸は、すぐさま魔女とその周囲に着弾。先制攻撃は成功した形だ。

 

「まだまだ!」

♪amaliche cantia masa estia e♪

 

 地面に着地したマミは、着地したタイミングで攻撃を受けないように顔をあげるとすぐに走り出す。

 すると、それから一瞬だけ遅れて茨のムチが彼女が着地した場所に向けて伸びる。もし一瞬でも判断が遅れていたのならば、足をからめとられてピンチとなっていたであろう。

 

「ッ!」

♪sonti tolda i♪

 

 マミは、急停止すると、かぶっていた帽子を取り、下に向ける。すると、中からは何丁ものマスケット銃が現れてマミの周囲へと突き刺さった。

 

「ッ! ッ! ッ!」

♪emalita cantia miadistia♪

 

 マミは、その銃を撃っては投げ、撃っては投げを繰り返して魔女に弾を当てていく。途中で足に何か重い物を感じる。休みなく動き続けたからか。だが、彼女は構わずに銃を撃ち続ける。魔女は、たまらず巨大なハート形の椅子のような物をマミに投げると、蝶の羽を羽ばたかせて空へと逃げる。

 

「ッ!」

♪a litia♪

 

 マミは、その椅子を避けると再び魔女に向けて銃を放とうとした。しかし。

 

「あッ!」

♪dista somelite esta dia♪

 

 何かが足に絡みつく。見ると、手のひらサイズくらいにまで小さくしたような何かが自分の足に何体もしがみついていた。先ほども重さは疲れから来るものではなくこの小さなものが足にしがみついた重さだったのだ。

 そして、それは何体も連なって黒いツタとなって身体を縛り付けた。そして、そのツタの先は魔女の元にある。

 

「キャッ!」

♪a ditto i della♪

 

 マミの身体はまるで吊り下げられるかのように宙を舞った。

 

「クッ!」

♪filioche mio solti ♪

 

 それでも、マミは逆さのままで魔女に向けて銃を撃ち続ける。だが、上手く照準が定まらない。鞭によって振り回されている状態で狙いを定めるなど恐らくアリアであってもできなかったであろうことだ。

 

「アァッ!」

♪tola solti ola i♪

 

 ムチは、振り子のようにマミの身体を大きく振り、ついに彼女は壁にたたきつけられた。壁には小さなクレーターができ、どれだけ強い力で彼女が叩きつけられたのかが見て取れる。

 このままではマミが危ない。しかし、それを歯がゆい思いでしか見られないアリアとあかり。

 

「マミさん!」

「あのツタが厄介ね……」

♪amaliche cantia masa estia♪

 

 どうにかしてあのツタを切らなければならない。しかし、どうやって。

 刀。いや、生身の自分が魔女に対して接近戦を仕掛けるなんて自殺行為に等しい。使い魔の時でさえ接近戦の危険性を知っていたからこそ刀には魔力を込めてもらわなかったのだから。

 では、銃はどうだ。しかし、自分の銃は残弾がほとんどない。それに、あんなに動き続けるツタを狙い撃つことが出来るか。それもマミを縛って振り回すことが出来るほどの強度。同じ場所に何度も弾を当てなければならないのに、どうやって。

 

「ッあ!」

♪e sonti tolda i emalita cantia mia distia♪

 

 マミは、再び逆さづりにされた。そして、まるでマミを食べようとするかのように魔女は口らしきものを大きく開く。もう、一刻の猶予もない。こうなったら危険を承知で飛び出すしか。

 

「ぶ、武偵憲章……第7条」

「え?」

 

 それは、たびたび彼女たちが語っている武偵憲章の一つだ。武偵憲章第7条、それは。

 

「悲観論で備え……」

「楽観論で行動せよ!」

♪alita della maliche sonta dia mia sonta della♪

 

 その時、最初にマミが斉射し、地面に着弾した幾重もの銃弾から紐が伸びる。二人と初めて会った時とまるっきり同じものだ。それが、魔女に絡みつくと、魔女はそれに気を取られてマミから目線を外してツルを動かすことも忘れてしまったかのようだ。

 このタイミング、もしかしてマミはこれを予想して備えていたというのか。という事は。

 

「あかり、UZIまだ弾は残ってたわね!」

「あ、はい!」

「ガバメントを」

「はい!」

♪i testa mia testi ola♪

 

 二人はどこか気持ちのいいほどに言葉を交わすと、アリアはあかりからガバメントを受け取る。そして結界を出ると共に照準をツルに向けた。

 

「風穴ァ!」

「ハァァァァ!!!」

♪solti ola♪

 

 引き金は引かれた。その弾丸は、全てツルの同じ個所に当たり、削り、千切れる。

 

「切れた!」

「今よ! マミ!」

「ありがとう、アリアさん! あかりさん!」

♪solti ola i amaliche cantia mia dia, ♪

 

 これにより解放されたマミは、反転し、胸元のリボンを引き抜く。

 リボンは、瞬時に巨大な銃へと変化する。それは、先ほどまでのマスケット銃と呼ぶにはあまりにも大きい物だった。大きく、絢爛豪華のソレは、銃というよりもはや大砲に近い物だった。

 これこそ、魔法少女巴マミの最大の切り札。物理的にはあり得ない程巨大な銃を使用するというまさしく物理的な要素を超越した魔法少女ならではという武器。

 そして、それから放たれる弾丸こそ、彼女の必殺技。直訳すると、《究極の一射》の名を冠するマミ最大最強の技。その名も。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

♪dia♪

 

 すべては、その一撃で終わった。

 黄色の弾丸に撃ち抜かれた魔女は、その身体を爆散させ、消滅。マミは、地面に降り立つと、その場に落ちてある黒い宝石を拾い上げた。

 すると、結界は歪み始めて徐々に消え、終には元の路地裏へと回帰する。

 

「終わったの?」

「えぇ、魔女は倒されました。コレが、その証拠です」

「その宝石は何?」

「これはグリーフシード、その説明は後からします。それより……」

「え?」

 

 マミは、グリーフシードと呼ぶ黒い宝石を仕舞うと、変身を解きアリアに言った。

 

「ありがとうございます。私の意図に気がついてくれて」

 

 それは、あの銃のことだろう。

 やっぱりあれは彼女が張った予防線の一つだったのだ。

 確かに主に戦う役目を担ったのはマミだった。しかし、その中でピンチに陥った際にアリアやあかりに助けてもらえるようにとあの銃に魔法をかけていたのだ。

 

「本当は、あんな事頼むのはいけないことなのに……」

 

 本来、たった一人で戦う魔法少女の自分が他人の手を借りるというのはご法度なのかもしれない。しかし、こと今回に限っては助けてくれるであろう人物がそばにいた。もしかしたら、少し甘えてしまったのかもしれない。

 

「依頼人との契約は絶対に守れ」

「え?」

「あの魔女を倒すのに共同戦線を張る。それが依頼だったから全力を持って協力をした。それでいいじゃないかしら」

「はい!」

「そう、よね……」

 

 恐らく、これが相手が戦うことに慣れていない一般人であればできなかったこと。マミが、アリアやあかりの事を信頼していたからこそなしえた事であるのだ。

 

「それに、武偵憲章でも言ってるじゃないですか!」

「……えぇ」

 

 そう、それは武偵が一番守らなければならないこと。武偵憲章の一番最初に書かれていることだ。それは―――。

 

「「「仲間を信じ、仲間を助けよ」」」

 

 意図せずして、ハモってしまった三人は笑いあう。そして思う。

 あぁ、生きてこうして笑いあうことが出来てよかったなと。

 きっと、誰か一人がかけてもこうして笑いあうことはできなかっただろう。誰か一人でも大怪我を負っていたとしても笑うことはできなかった。三人ともに無事に魔女を倒して結界から出ることが出来たからこそ、こうして笑いあうことが出来るのだ。

 マミ思う。こんなにうれしいことは無いと。憧れの先輩と、武偵の先輩と、一緒に戦うことが出来た。誰かと一緒に戦うことが、こんなに頼もしいことであった等、すっかり忘れていた。

 あの日、自分のことを師匠と言ってくれた《あの子》と離れてから初めての事だ。

 

「っと、それで魔女や魔法少女のことについて、教えてくれるんでしょ?」

「えぇ、私の家に来てください。ケーキと紅茶もご馳走します」

「やった!」

 

 三人はともに歩きだす。この見滝原の街を。

 別の依頼でこの街にあかりと共にきて、こんな奇妙な事件に遭遇するなんて。恐らく誰も信じてくれないであろう。

 そう、これはきっと夢だ。いつもいつも命がけで任務に臨んでいる自分たちに与えられた、友という夢。

 それは、さっきまで確実に悪夢であった現象が、まぎれもなく幸せな空間へと変貌した瞬間。

 けど、彼女たちはまだ知らない。この出会いが、再び悪夢に変わるという事を。

 彼女はまだ知らない。もしここで出会わなければ、後に自分が傷つく必要はなかったという事を。

 彼女たちは知らない。二人の少女の事を見下ろす赤い目玉の生物がいたという事を。

 彼女は知らない。今日、この日に三つ編み赤眼鏡のとある少女が見滝原総合病院に入院したという事を。

 彼女たちはまだ知らない。




 アリア組は、最初は銀行強盗とかと戦わせる予定だったのですが、なんかそれだと面白みにかけると考えた結果このクロスオーバーになっちゃったぜ!
 あ、因みに作者は小説派ではなくアニメ派なのでキャラとか設定はほとんどアニメで出てきたものまでです。


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SAO×魔法少女リリカルなのは

ARGUS

Presents

 

 始まりは、文字だった。

 黒塗りの背景に白色の文字で現れたソレの次に現れたのは、雲海の中を進むなにか。鳥か、はたまた飛行機か。しかし、その光景は自分にとっては見慣れたもの出会ったため、一つだけわかることがあるとするのならば、その景色がもし偽りのものであったのならば、かなりリアルに近いソレであるということくらいだ。

 

2022年 人類はついにー

 

 次に現れたのは、深い霧の中木々の中を進むなにか。

 

完全なる仮想空間を実現した

 

 そして最後に、草原をかけて行った視点は、草を巻き上げ、崖の上にいる馬に乗った人間を移して、その向こうにある巨大な建造物を映し出した。

 

 中学二年生。それは、人生において最も充実した時期。そして、子供と大人との境目であるともされる時期。

 ある者は、将来の夢のために旅立つ準備をし、ある者は部活動言うとう青春に汗を流し、ある者は子供として楽しむことのできる最後の時間を謳歌する。

 そんな、貴重な貴重な時期。

 けど、世の中にはそんな貴重な時期を有意義に過ごすことを選ばなかった人間がいる。

 少女は、そんな貴重な時間を誰か他人のために使うことを選んだ。

 少女は、貴重な友達と過ごすことのできる数限りない時間を浪費することを選んだ。

 少女は、すでに夢に向けて旅立ちを決めていた。

 学校は、すでに彼女にとっては邪魔なものになりかけていた。

 本人は気が付いていない。しかし、それが少女にとって最も不幸であり、最も残酷な事実であり、そして助けを求めている誰かにとってはこううんなことであった。彼女が、そんな過酷な人生を選んでいると知らずに助けられる他人にとっては。

 そんな、彼女の過酷な人生をしっている者がいた。

 彼女の、小学生の時からの友達。親友。

 この話は、そんな少女たちからある誘いを受けたそんな時から始まる物語、である。

 

「えす、えー、おー?」

「そう! 私の会社が出資してたから三つ手に入れられたの! だから、私とすずかとなのはの三人でするの!」

 

 高町なのはは、とある休日に親友の月村すずかの家での茶会に誘われた際、同じく親友であるアリサ・バニングスから謎の誘いを受けた。

 えすえーおーとは何であるのか。英語であると考えると、『SAO』であると思うだが、それが何であるのか検討もつかなかった。

 

「あ、アリサちゃん。まずはなのはちゃんにSAOが何なのかの説明をしないと……なのはちゃん、ここ何ヶ月かこっちに帰ってきてもいなかったんだし」

「あ、そうよね……」

 

 と、すずかにたしなめられたアリサは、言葉の勢いで立ち上がってしまったその身体を再び椅子の上に戻す。

 そう、実はなのはがこの街に、彼女たちの下に帰ってくるのはおよそ三ヶ月ぶり。今年の四月の始業式の日に会ってから全く会っていなかったのだ。

 別に、彼女が不登校だからとか、不良生徒であるからというわけじゃない。

 実は彼女は、ある世界で軍人のようなものをしているのだ。多くの世界の人を守る軍人を。

 とはいえ、そんなこと学校の先生たちが知るよしもないため、彼女たちの通う学校の先生たちはなのはのことを不良生徒であると認識しているのであるが。

 

「にゃはは……それで、SAOってなんなの?」

「SAOっていうのはね……」

「ゲームのことよ」

「ゲーム?」

「そう、それもただのゲームじゃないの!」

「VRMMORPGっていう新しいゲームなの」

「VR……えっと」

 

 また新しいワードが出てきた。しかも、今度はかなり長い。

 RPGというのは、ロールプレイングゲームであろうことは予測できるが、ソレ以外はさっぱり分からない。

 

「とにかく! これを見なさい!」

 

 といって、アリサが見せたのが、冒頭にもあった物。そのゲームのPVであるのだ。

 

「えっと、これって本当にゲームなの? なんだか、とってもリアリティがあった。時空管理局(じくうかんりきょく)の仕事でも似たような場所に行ったことあったよ」

 

 時空管理局。それは今現在のなのはの就職先のような場所。

 この世界、この地球とはまた別の異世界に本部を置くすべての次元世界を股にかけて犯罪者を逮捕したり、危険な物体を確保したりということをしている組織である。

 そんな、異世界の組織になぜ彼女が入局しているのか。それは、この三人の中で彼女にのみ備わっている特殊能力に関係がある。

 それは、魔法。彼女は、魔法少女であるのだ。時空管理局の人間は魔導師と呼んでいるそうだが。

 今彼女がみたSAOのPVは、少し短い物であったが、しかしその景色はとても綺麗なもので、自分が仕事で訪れた異世界の景色とよく似ていた。

 自分のように異世界を見に行ったことがある人間ではないこの世界の人間が、ここまでリアリティのある世界を描ける物なのだろうか。

 

「本当に見たことのあるアンタがいうんなら、やっぱり茅場晶彦って天才なのね」

「茅場晶彦?」

「SAOを作ったプログラマーだよ。本職は、量子物理学者らしいんだけど」

「物理学者が……ゲームを作ったの?」

「ま、そういうことみたいね」

 

 何ともおかしいというか、奇妙な話である。ゲームに近しい職業の人間が作るのならともかく、ゲームとはなんら関係のなさそうな職業の人間がソレを作るなんて。

 

「んで、そのゲーム。ゲーム機も含めて三つ手に入れたの。だから、アンタも一緒にプレイしなさい!」

「え? でも私……」

 

 そんなことをしている暇なんてない。そう、なのはがやんわりと断ろうとした瞬間、すずかがいう。

 

「なのはちゃん。アリサちゃん、このゲームを手に入れるためにお父さんに無理を承知でお願いしたんだよ」

「え? 無理を承知って……」

 

 そんな、ゲームを手に入れるのに苦労するなんて思えないのだが。どういう意味なのだろうか

 

「実はね、SAOって初回販売本数1万本しかないソフトなの」

「1万本って、たったの?」

 

 こんな面白そうなゲームが、1億人以上いる人間の内1万人にしか渡らない。いや、全世界を含めるともっとなのかもしれないが、ともかく、たった一万本しか販売されないソレを手に入れるには並大抵の苦労が必要であることは分かる。

 

「それで、ゲームを作るために日本中の大きな会社にお金を出資してもらって、アリサちゃんの会社もその中の一つなの。それで、そのお礼にSAOを貰うことができたんだけど、本当は一つだけのはずだったのを、アリサちゃんはお父さんに……」

「ううんもう大丈夫。分かったから。ありがとう、アリサちゃん」

 

 と、なのはは笑顔でアリサに言う。それ以上は、もう何も言わないでも分かったから。

 本来、アリサは融資してもらった企業に礼として配布される予定だったSAO1本を、さらにもう二つ父親に頼み込んで手に入れたのだ。

 幸い、にして、融資した会社の中には、SAOの受け取りを辞退した企業が多かったようで、アリサの父親の願いは意外にもあっさりと受け入れられて、見事三本のゲームを手に入れる事ができたそうだ。

 

「なのは、中学卒業したら本格的に向こうに移り住むことになるんでしょ?」

「あっ……」

「せめて、せめて思い出に残るようなこと、したいじゃない」

 

 そう、なのはは中学を卒業したらアリサの言うところの向こう、つまりミッドチルダに移り住むことになっている。

 実は来年、なのはは時空管理局の航空戦技教導菅になることが決まっているのだ。なのはがここ三ヶ月学校に来れなかったのはその準備や、教導する立場になるにあたっての訓練校への入校が重なってのことであったのだ。

 だが、それを除いても彼女のプライベートは度返しで、仕事、任務、訓練、その繰り返しで友達と遊ぶ時間なんてなかった。

 これは、時空管理局がブラックな企業体質だからではない(多くの人間からはブラック企業として認識されてるらしいが)。なのは自身の意思で休みをほとんど取ることが一切なかったからだ。

 もし、自分が休んでいる間に誰かが悲しい目に遭っていたら、もし自分が弱いせいで誰かを悲しませてしまったら、もし自分がいたら助けられたはずの命があるのなら、そう考えたら休んでなんていられなかった。

 だから、彼女は仕事人間になった。なってしまった。

 その結果、花の中学生時代は無惨にも過ぎようとする。アリサは、そんななのはの人生が悲しくなった。

 本当は、もっと自分の人生を大事にしてもらいたい。もっともっと自分勝手になってもいい。全ての人間を助けることのできる。そんな神様みたいな、いや神様にもできない様な所業を誰も望んでいない。ただただ、自分のできる限りの事で、多くの人たちを救えれば、それでいいんじゃないか。アリサは、そう考えてならなかった。

 しかし、アリサは知っていた。なのはが、そんな性格ではないということを。自分の事よりも誰かの事を大切にするなのはが、自分勝手になることなんてできないなんてことを。

 彼女は感じていた。いつか、いや違う。近いうちに、なのはと永遠の別れをすることになると。多分、最後も無茶をやらかして、誰かのために自分を傷つけて、そして、死んでいくのだろうと。自分じゃ、彼女を止められない。すずかも、きっと止められない。今のなのはの仲間であるフェイトやはやてもきっと、止められない。

 なら、せめてなのはには笑って逝ってもらいたい。それが、今のアリサの願い。なのはのための思い出を一つでも多く作って、なのはに、辛いことも痛いこともあったけど、自分やすずかに出会えて、たくさんの思い出を作れて、いい人生だったと、そう思ってもらいたい。それが、今の彼女の願い。それしかできない、アリサの残念な願い。

 

「……」

 

 なのはは、そんなアリサの思いを知らない。知るわけがない。

 人は、自分のこと以上の事を知ることはできないからだ。 

 でも分かる。アリサはきっと、自分の事を思ってくれているのだと。

 学生生活の良い思い出、文化祭も、体育祭も、そして多分修学旅行にも行くこともできずに終わる学生生活の中に、少しでもいい思い出を残してもらうために、とても珍しいゲームを手に入れてくれたのだろう。

 なら、答えは一つ。

 

「ねぇ、そのゲームっていつ発売されるの?」

「10月。でも、正式なサービス開始日は11月7日だけど」

「そっか……なら、11月に有給取らないと」

「ッ、じゃあ……」

「うん。楽しみにしてるね、アリサちゃん」

 

 なのはは、アリサにとびっきりの笑顔でそう返事を返す。

 とても久しぶりに感じる。なのはの、こんなにもすがすがしいばかりの綺麗な笑顔を見るのは。きっと、なのはが魔法に出会った直後からずっと見たことのなかったような顔だ。

 アリサは、そんな彼女の顔を見て嬉しく思うのと同時に、懐かしいような気持ちになる。そして、言った。

 

「私も、ううん。私たちも楽しみにしてるわ。なのは」

「うん!」

 

 この後、アリサはずっと後悔することになる。この時、なのはをSAOという悪魔のゲームに誘ったという事実を。

 自分のせいで死ぬこととなる命がある。それを背負ってこの人生を歩むこととなることを、アリサはこの時露にも思わなかった。

 

 それは、元平凡な小学生だった私、高町なのはとそのお友達に降りかかった小さな事件。

 信じたのは友達の願い。手にしたのは地獄への片道切符。

 友達の純粋な思いを聞き入れた私に待っていたのは、たくさんの別れと、出会い、そして二度と取り戻すことのできない時間。誰かの事を思う事、それは私自身も大切なことだと思っていた共通した願い事。

 けど、それで友達が傷つくことになるなんて、思いもしなかった。

 私は戦う。これ以上、友達が傷つかないように、今度は友達と一緒、だから私は大丈夫。

 魔法少女リリカルなのは。未来が変わった別の世界の話が今……始まります。



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SAO×ガールズ&パンツァー×ハイスクール・フリート

 これだけは、これだけは……。


 海は時にすべてを拒絶する。夢も、希望も、明日でさえも飲み込み、そして二度と地上という故郷に戻すことは無い。

 海は怖い。海はすべてを包み込む母親のような温かい存在であると思い込んでいた。でも、違っていた。海が包み込むというのは真実である。しかし、包み込んで二度と返すことは無い。海は冷たく、体温を奪い、やがて飲み込まれていく。

 海は、簡単に近づいてはいけない物。侮って近づいてしまえば、その身体を自然に返す怖さがある。

 私たちは、それをあの航海の中で海に教えてもらった。でも、その恐怖を乗り越える方法も教えてもらった。

 海は私たちを迎えてくれる。恐ろしさも、哀しさも、全てを巻き込んで未来へと導いてくれる。そして、海という故郷を旅立った私たちを地上へと送り届けてくれる。

 私は海が大好きだ。海は私たちに安らぎを与えてくれる。怖さを知っていて、どんな海が恐ろしいのかを知っていれば、付き合うことなんて容易いのだ。だって、海は私たち人間を生み出してくれた大事な大事な故郷なのだから。

 悲しいことがあった時、やるせないことや、言いようのない不安があった時、海に来ればいい。全て海が優しく包み込んで、また新しい一歩を歩かせてくれるから。

 私たちは決して忘れたりしない。私たちに、海の大切さを、すばらしさを、そして仲間たちと共に助け合うことを教えてくれたあの艦のことを。

 その艦の名前は……。

 

 海の上を進む巨大な影がある。魚たちはそれを見ると身の危険を感じて海の底深くへと逃げていく。そのようなことをする必要はないということは影、艦の上に住んでいる者であればだれでも分かるものだ。

 海原を行く艦の上には一つの街があった。たくさんの人間が生まれ、暮らし、子を作り、育て、年を取って、死んでいく。そんな普通の街並みが存在していた。

 ここは大洗学園艦。数々の試練を乗り越えてもらって生き残った、奇跡の艦である。

 学園艦という名前が表す通り、この船の上には学校が存在する。いや、どちらかというと学校が主体となっていると言ったほうが正しいのかもしれない。ともかく、何故艦の上に町並みや学校があるのか不思議になることだろう。だが、それよりももっとあってはおかしいと思える存在がその艦の上には存在していた。

 それが戦車。今現在も軍隊で使われる地上兵装の一つである。

 では、何故そのような物が艦の上にあるのか、それはかつての日本史が関係している。

 1900年代初頭、かつて世界で二度の世界大戦があった。

 多くの人間が国のため、自分の愛する者を守るために戦い、多くの命が犠牲となった。この日本という国も、その犠牲を多く払った国の一つ。そして、二度目の世界大戦の中心となった国であった。

 空襲や原子力爆弾といった兵器によって焼け野原となった日本に残ったのは数少ない戦艦と、心の傷、そして戦争を許してはいけないという使命感だった。

 それからこの国は変わった。もう二度と自分たちが味わった悲しみを、痛みを繰り返してはならないと声高々に叫び、戦争の根絶を主張し始めた。その第一歩として日本は行った政策が、日本に残った戦艦の学校としての使用。これからを生きることになる子供たちのために学校や街を戦艦の上に作る、というなかなかの皮肉も籠ったその政策によって、多くの学園艦と呼ばれるものが作られた。

 それからもう一つ、戦争が起こったのは日本が男社会で、女性の声が一切外に出ないからだという声がいたるところから上がり、女性の社会進出を促す声明が出された。これには日本のみならず世界中が大きく賛同し、どうすれば女性が表舞台に立てるようになるのかを各国の代表が話し合いを繰り返した。

 その結果、ある一つの案が生まれた。

 ≪戦車道≫の設立である。

 人を殺す兵器として使用されていた戦車に女性が乗り、安全な装備を付けて戦う。提案した日本以外の諸国は何を馬鹿なことを言っているのかと、ソレに何の意味があるのかと最初は日本をけなすようなことばかりを言っていた。だが、それでも日本はこの戦車道政策を推し進めた。乙女淑女が戦車という両極端な存在に乗る。そのインパクトは絶大だったのだろう。たちまち茶道や華道のように戦車を上手に扱っている者たちが中心となって家元が生まれ、そしてごく小規模だった戦車道という文化は瞬く間に日本中を席巻し、かつては戦争の負の遺産とまで言われた戦車を、乙女の嗜みというちっぱな文化にまで仕上げたのである。

 この政策の成功を見た日本はさらに学園艦に戦車を載せることを提案する。これは軍備強化のためかと各国から非難の声が上がることもあったが、しかし日本政府は断固としてそれを否定し、当時の総理は世界中に声明文を出した。

 戦車の恐ろしさ、兵器の恐ろしさ、それを子供たちが知ってこそ未来の戦争根絶に繋がるのである。と。

 もし失敗すれば、辞任騒ぎどころではない、下手をすれば日本という一国家の存続の危機にも値するような政策、しかしそれでも総理は今を生きている硬い頭しか持たない自分たちではなく、未来を生きることになる子供たちのことを信用したのだ。

 結果、世界中の首脳が、何故このような無茶が成功したのかと頭を抱えるほどとなる。学園艦に乗る子供たちのみならず、大人たちもまた戦車にのる子供たちのことを応援し、支援し、戦車道は一躍茶道、華道に次ぐ三つ目の道として確立していった。

 今は、戦車道設立から時間が経っていることもあり多少は沈静化している面もあるが、しかし今での戦車道とは乙女の嗜みであると主張するものが多いほどの文化となっている。また、この戦車道は日本好きの外国人にも高い評価を得て、世界中から戦車道の家元に弟子入りするものが現れ、それを自国に持ち帰って独自に戦車道を教え広め、その競技人口は爆発的に増大し近く世界大会を開くことが決定しているほど、まさしく一つの文化として人々に根深く宿る物となっているのだ。

 この大洗学園艦にも、戦車道は当然ある。とはいえ、少し前までその系譜はとだえていたが。

 前述したとおり一つの文化として根付いた戦車道であるが、戦車を用意し、さらには砲弾や火薬や燃料、メンテナンス等で多額の資金が必要となることから、徐々に資金難に苦しみ、いくつかの学園艦からは姿を消した。

 この大洗学園艦もそうである。年々生徒数が減少していくこの学園で戦車道を存続させていくお金はなく、十数年前に戦車道は廃止となり、そもそもこの学園艦に戦車道があったという事実すらも次第に忘れられようとしていた。

 だが、今年その戦車道を復活させた一人の少女がいた。

 少女は、この大洗学園艦に生まれ、この艦で生きてきた少女だった。しかし自分が生まれ育った艦が部活などの活動実績がないことや生徒数の減少などを理由として近々廃艦となるかもしれないとしった少女は学校全体を管轄している文科省の役員と交渉し、もし大洗学園の戦車道が全国大会で優勝することがあれば、廃艦を取り消すという口約束を交わして戦車道を復活させた。

 そして、戦車道の家元の娘が転校してくる。卓越した運転技術を持った少女が履修する。それまで戦ってきた多くの学園が手を貸してくれる等様々な奇跡が重なった結果大洗学園艦の存続をつかむことができたのだ。

 そして、そんな文科省の役員と交渉をした先輩含めた三年生が引退、というのはこの学園の戦車道が選択授業の一つであるためふさわしくないのかもしれないがともかく引退し、新たなスタートを切っていたさる10月の事だった。

 

「う、嘘……」

 

 寮の自分の部屋でパソコンに向かいあっていた大洗学園高等学校二年、西住みほは驚きを隠せないでいた。

 ここ最近話題となっている最新ゲーム、その抽選に参加していたのだが、実のところ最初からあまり期待はしていなかった。ゲーム自体という意味ではなく、当選するという形でのことだ。

 競争率が半端ではない。そのお店で売り出されるゲームは1万分の二十個ほどであるのに、抽選に参加したのはなんと二十万人。当選確率一万分の一という狭き門だ。そんな中で自分が当選すると考えられる人間は、よほど運がいいのか楽天家であるのだろう。

 みほ自身、それほど運がいいとは思っていなかったし、しっかりものであったみほは、きっと当選しないんだろうなと半ば諦め気味で、しかし少しの記念にというような感覚で抽選に応募したのだ。

 だが、ある意味でそんな無欲であったことが幸いしたのだろう。抽選が終わって一時間弱、多くの人間がそのページに殺到したために重くなって見ずらくなっていた当選結果を知らせるページにたどり着いたみほは確かに見た。自分が今持っている抽選番号に書かれた数字を。

 まさか、自分がこれほどまでの強運を持って言おうとは思ってもみなかった。いや、そもそもこの学園艦に来れたこと自体がとても幸運だったから、そこからの始まりだったのかもしれないのだが。

 みほは身支度をすると急いで寮の自室から飛び出していく。自分の身に怒った出来事を早く友達に、仲間たちに伝えたかったのだ。この学園艦で出会い、共に戦った戦友たちへと。

 彼女、西住みほは戦車道の名門である西住流の現家元である西住しほの次女としてこの世に生を受けた。家元の娘と言っても、次女であり、既に彼女の前に女の子が生まれていたため、年功序列の判断から察するに時期家元はその長女であろうことは確実である。

 だが、家元の娘にとして生を受けたことから、その近くにはいつも戦車がある生活だった。だから、自然と彼女は戦車のことが、戦車道のことが好きになっていった。

 そして将来は家元になるであろう姉の補佐をできるようになりたいと当時戦車道の全国大会で連覇中だったある学校に姉に続くように入学した。

 だが、彼女の独断での行動によりその連覇の歴史は途絶えることになり、またその際に母親から受けた仕打ちが原因で彼女はその学校から退学、また別の、それも戦車道のない学校へと入学した。それがここ大洗学園艦である。それから紆余曲折あり、この学園で復活した戦車道の中心メンバーとして、その卓越した指揮能力、作戦立案能力を駆使してほとんどが戦車道素人というあからさまに不利な状況の中での戦車道全国大会優勝を勝ち取った。

 また、その中での幾多の戦いの中で他校の生徒とも友情を育み、やや険悪な仲になっていた姉とも和解、母親から完全に許してもらったのかは定かではないが、しかしいつかは面と向かって話せる時が来るのだと信じている。

 高校二年生のみほは、来年が高校生活最後の年で、戦車道全国大会への出場は次が最後となる。今はソレに向けて準備期間に入っている最中、簡単に言えば充電期間であるのだ。

 そんな中で彼女が見つけた物があった。

 曰く、天才科学者茅場晶彦という人物が製作した。

 曰く、世界で初めてのVRMMORPG。

 曰く、最初の販売個数がたったの一万個である。

 曰く、これは世界的に見てもゲーム業界に革命を起こす大作である。

 あまりゲームに興味のなかったみほではあったが、それほどまでに仲間に宣伝されてしまえば、興味が出てしまうのは当然だろう。

 だが、まさかその狭き門に自分が足を踏み入れることになるとは。思いもよらなかったのだ。

 そんなこんなで、寮を飛び出したみほは、戸締りを確認すると自分と同じ戦車道履修者の住む家に向かった。

 そのさなかであった。

 

「あっ!」

「危ない!!」

 

 みほは、十字路の右側から歩いてきていた少女に勢いよくぶつかり、尻餅をついてしまう。少し痛いが、大した怪我はしていないだろう。いや、自分の事よりも問題は相手のほうだ。

 

「あの! すみません、怪我はありませんか!?」

「痛たたた……え? あ、うん大丈夫! それよりごめんなさい、私前を見ていなかったから……」

 

 どう考えても走っていた自分の方に非があると思うのだが、違うのだろうか。

 少女の服は、航海科の制服。この大洗学園艦の操舵を任されている学生たち、その一員なのだろう。

 少女は、落ちていたスマホを拾うと傷がないことを確認して服に着いた土埃を払いながら立ち上がる。

 

「スマホにメールが来て、それに気を取られちゃったから……」

 

 どうやら、ぶつかる直前にポケットに入れていたスマホに誰かからメールが届き、そちらの方に気を取られた瞬間に自分とぶつかってしまったらしい。とはいえ、やはりそれでも勢いよく走っていた自分の方が悪い気がする。

 

「いえ! 私の方こそ、走っててよく前を見てなかったから……すみません!」

 

 と、謝罪をすれば相手もまた謝罪をするという流れが幾度か続き、結局は二人で笑いあってその場は解決ということになった。

 

「あれ?」

「え?」

 

 ふと、少女が地面に落ちたみほのスマホの画面に映るメールを見た。そこには、先ほどのSAOとナーヴギアが当選したというメールが映っていた。

 

「これって……あ、それじゃあなたもSAO当選したの?」

「え? あなたもって……」

「私もなの!」

 

 と言って、少女は先ほど拾いあげた自分のスマホの画面を見せる。そこには確かに、自分のスマホに届いたメールと同じ文章があった。と、いうことはこの少女が言う通り彼女もまたSAOに当選した人物であるということなのだろう。

 

「ホントだ……でもすごい偶然ですね。十字路でぶつかった二人ともにSAOに当選していたなんて」

「うん! あ、そうだ。先輩、もしもよかったら、私と一緒にSAOしませんか?」

「え?」

「ここで出会ったのも何かの縁ですし」

「縁……か」

 

 そう、思えば自分は縁によって助けられてきた。

 実家から追放されて精神的に病んでいた自分を救ってくれたのはこの学校で作った縁。

 後輩、先輩問わず多くの友達を作ってくれたのは戦車が繋いでくれた縁。

 そして、その戦車が繋いだ縁は、この学園艦を救ってくれた。

 自分は縁によって今ここにいる。その縁があったおかげで、かけがえのない共に出逢うことが出来た。なら、その縁を大事にしよう。

 

「そうですね。もし私の友達もゲームに当選していたら、皆で一緒にゲームをしましょう」

「その時は、私の友達も一緒にお願いします! あ、そうだ先輩の名前教えてもらえませんか?」

「名前、ですか?」

「はい!」

 

 みほはある意味この言葉に驚いた。自慢でもなく自惚れでもないが、自分はこの学園艦を廃校の危機から救った戦車道履修者を率いた人間。だから、学校中の人間が自分のことを知っている者とばかり思っていた。いや、やはり自惚れか。自分が一つ事を成したことによって有名人気取りになっていたなんて。

 

「すみません、名乗りもせずに。私は大洗女子2年、西住みほです。あなたは?」

「横須賀女子海洋学校、航洋艦≪晴風(はれかぜ)≫の艦長……岬明乃! 1年生です!」

「よろしくね!」

「はい!」

 

 それから連絡先を交換し、二言三言交わしたのちそれぞれに別れた少女達。

 果たして、二人にどんな未来が待つのか、だがこの時の二人はただただ幸せだった。多くの友達に囲まれ、多くの仲間を得て、そして一緒に未来を歩んでいける。そう信じて疑わない。

 その希望が、崩れることになるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横須賀女子海洋学校?」

「大洗学園?」

「「って、なに?」」

 

 日常とは崩れるのが早い物。露にも思っていなかっただろう。もしくは,知らないままの方がよかったのかも知れない。

 まさか、自分が一人ぼっちでこの世界にいると言うことに。




これだけは許して、泣きの1作品
ハイスクール・フリート
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 因みに前半の戦車道の歴史は書いている途中にその場で描いた妄想なので、その辺の設定があったら御免なさい。
 泣きの1作品枠、実はこれともう一つあったのですが、今回は断念。その後、スパロボ小説がお蔵入りとなったので無理すれば外伝に参加できるのでは? と、思ったのですが、最初の設定を通すことにしました。


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SAO×侍戦隊シンケンジャー (その2)

「それで、どういう事だ母上?」

 

 屋敷のいつもの席に座った丈瑠は、母である薫を出迎えていた。

 薫より少し目線が高い位置で座布団の上に胡坐をかいている丈瑠に対して、目の前で同じく座布団に座り、こちらは正座をしている薫。果たして、どちらが礼儀を知っていると言えるのだろう。しかし、胡坐というのは今でこそ行儀が悪い座り方のように思われているが、かつては男性の一般的な正式な座り方であり、女性でも胡坐をかいている時があったということなので、古来からの伝統を樹脂している侍の家系として胡坐の方が男性の正式な座り方として正解なのかもしれない。

 それはともかくだ。

 

「言った通りだ。私は、SAOというゲームをプレイすることとなった」

 

 SAO。それは、最新のVR技術を使ったゲームである。詳しくはよくわからないが、頻繁に丈瑠の屋敷に来ては勝負を挑んでいる家臣の一人が良く世間話程度に話しているので、その概要だけは知っていた。

 

「あれは、半年ほど前の事だった……」

 

 それは、自分が隠居している家の庭で剣を振るっていた時のことだ。彼女もまた戦うことが無くなったとはいう物の、万が一の有事の際にすぐに戦うことが出来るように日々の鍛錬は忘れてはいなかった。そのため太刀筋は鋭く、直ぐ前線に出れる程に綺麗な形で剣を振るえていた。

 平和という物は必ず崩れる物だ。その有事の時というものがすぐに訪れるかもしれない。その時、丈瑠や志葉家の家臣達をサポートするのが自分の役目であるのならば、その時のために自分自身を鍛え上げなければならない。薫は常に向上心の中に存在していた。

 その日も、一人剣を振っていた薫。屋敷が山深くにあるが故に周りは木が多く茂っており、一度風が吹けばその枝から千切れた葉が枝ごと落ちてくる。薫は、その枝付きの葉の根元を狙って斬る。

 当然のことだが、それにはかなりの技術力が必要となる。そもそも空中にある物を斬ろうと言うのだ。普通の人間が同じことをやろうとしても刃を振るうときにできる風の流れで枝の動きが変わってしまう。集中力、判断能力、そしてするどく迷いのない太刀筋。あらゆる神経を総動員して初めて断ち切ることのできるそんな難しいものなのだ。だから、彼女が落ちてくる葉を次々と斬っていくその様子を簡単なものであると見るのは大間違い。その裏には並大抵の技術ではできない所業のオンパレードであるのだ。

 

「ふぅ……」

 

 二時間ほど経っただろうか。気がつけば、薫の周りには枝とその枝に就いていたであろう葉が大量に落ちていた。

 このゴミは、後で黒子が全て片付けてくれるのだが、今日は少しやりすぎたかもしれない。

 今日は心がざわつくこともあって、いつも以上にやりすぎてしまった、

 だがなんなよだろうこのざわつきは。なにか良からぬものが迫ってくる気配がする。一体、これは。

 一抹の不安を抱えたまま、薫は庭先に生えている木に掛けていたタオルを手に取り屋敷の中に戻ろうとする。少し汗をかいてしまったので湯船に浸かりたい気分だ。

 その時だ。背後から迫る悪しき気配。咄嗟に、彼女はシンケンマルを背後に振った。勿論、相手がまだ敵かどうか分からないため寸止めで停止させる。

 シンケンマルは、見事に背後にいた者の首筋寸前で停止する。これも、卓越した技術の持ち主であった彼女であったからこそ出来るものだ。

 

「失礼、驚かせてしまった」

 

 果たして、そこにいたのは若い男性だ。なんの変哲もないような。どこにでもいるような。そして、得体の知れない不気味さを持ち合わせた男だ。

 

「いや、こちらもすまなかった」

 

 とにかく、相手が得体の知らない相手であるとはいえ自分と話をしようとして来たと思わしき人物であるのならば剣を納めなければならない。薫は一度謝罪するとシンケンマルを下ろす。だが、何があっても良いように直ぐ相手を斬れる体制を崩さない。

 

「お前は何者だ?」

「私は茅場晶彦。量子物理学者であり、ゲームディレクターですよ」

「茅場……晶彦……」

 

 薫は、その名前を呟来ながらも具にその身体を観察する。

 その白衣の下に何か武器を隠しているのではないか。

 ズボンのポケットに入れている手にナイフや毒針を仕込んでいるのではないか。

 油断はできない。

 勿論、他の人間に対してはそのようなことをしない。ただ、目の前にいる男の得体の知れなさに対して自分の中での警報が鳴り止まないのだ。

 気を緩めてはならない。気を許してはならない。目の前にいるのは、自分の、敵だ。そう教えるかのように彼女の頭の中では様々な細胞が活性化し、心臓からは身体中に血液を送り込んでいる。

 次に、茅場晶彦が何をいうのか、聞き逃さないように耳に神経を集中させる。

 

「実は現在私は世界がひっくり返るようなゲームを作っている最中なのです」

「ゲーム?」

 

 そういえば、先程ゲームディレクターであると言っていた。しかし、物理学とゲームとは、一体なんの関係があるというのだろうか。そう言ったものに疎い薫にはよくわからない。

 

「そのゲームの剣のモーションに、貴方の剣術をモーションキャプチャーという技術を駆使して落とし込みたい」

「……」

 

 モーションキャプチャーとは、身体の関節などの動きの起点となる場所に機器を取り付けてその動きを記録しゲーム、主にアクションゲームのキャラクターの動きに落とし込む技術の事だ。

 

「貴方の剣技は、実に見事なものでした。その動きを、私のゲームに組み込めば」

「断る」

 

 一閃、薫はその提案を斬り捨てる。

 モーションキャプチャーというものがどんなものであるのかは知らないが、しかしそのような提案に乗るわけにはいかない。

 

「私が振るうのは人々を守る剣だ。娯楽や、私利私欲のためじゃない」

 

 志葉の剣は何百年も前から人々を陰ながら守り続けて来た秘技のような物。それを、ゲームという公の目に晒される場に持ってくるなど、言語道断の話だ。

 そして、その剣を金儲けの手段に使わせるわけにもいかない。人々の幸せを奪うかもしれない、人々を苦しませるかもしれない、人々を傷つけるかもしれない。

 そんな危険性がある物に、使わせてはならない。

 

「そうか……残念だ」

 

 それだけ言うと、茅場晶彦は薫に背を向けて歩き出す。薫には、その姿がスローモーションに見えた。

 ゆっくり、ゆっくりと、自分が切った葉っぱの上を歩いて去ろうとする茅場晶彦。

 なんだ、なんだこの違和感は。この胸騒ぎは。息をするのも窮屈になるほどの圧迫感は。違う、これは警告だ。ここで、この男を返していいのか。このまま、何もせずに終えていいのか。そんな侍の直感がこの状況を作り出しているのだ。

 この感覚、どこかで感じたことがある。それと同じだ。けど、どこだ。どこで、感じた。思い出せ。思い出せ。思いだせ。

 そして、その言葉は咄嗟に薫の口から飛び出していた。

 

「待て!」

「ん?」

「分かった……協力しよう」

 

「と、いう事があった」

「そんなことが……」

 

 まさか、彼女がゲームのモーションキャプチャーという物に誘われていたとは知らなかった。という事は、薫はそのソードアート・オンラインというゲームの開発に携わったという事になるのだろうか。しかし、薫がそのような物に参加するのは意外であったが、それにもう一つ丈瑠には気がかりなことがあった。

 

「あの、丹波が良く許可したものだな」

 

 丹波、とは薫の教育係として一番近くで彼女のことを見守ってきた、丈瑠にとっての日下部のような存在である。薫曰く頭が硬い人物であり、

 

『伝統ある志葉家の剣術をゲーム等という物に使おうなど何たる不届きものか! えぇい、かくなる上はこの私めが成敗してくれる! 者ども、討ち入りじゃ! 出逢え出逢え!!!』

 

 などと言ってもおかしくはないが。

 

「言っていた。だが、いつも通りハリセンで黙らせた」

「そうか……」

 

 実際に丈瑠の想像通りの事を言っていたそうだ。そのことに、なんとなく安心感を覚える丈瑠であった。

 しかし、茅場晶彦。自分も千明に聞くまで知らない人物であったが、薫はその人物に何を感じたというのだろうか。

 

「母上、結局その違和感の正体は……」

「……依然分からないままだ。モーションキャプチャーやゲーム自体は意外と楽しかったがな。いい経験が出来た」

 

 違和感はともかくとして、どうやら薫はβテスターという物に参加して先にゲームをプレイしており、なかなか楽しい時間を送っていたようだ。それはそれで本筋から離れていまいか気になるところだが。

 

「しかし、違和感の正体はともかく、既視感の正体は分かった」

「む……」

 

 どうやら、本筋は忘れていなかったようだ。薫は、ゲームに参加し、茅場晶彦とも言葉を交わしていく中で、自分が感じた違和感、侍の感という物が何に反応したのか、それに似た物を思い出したのだという。

 

「一体、それは……」

「……血祭ドウコクだ」

「なに?」

 

 丈瑠は、その言葉に顔を驚愕に染め上げた。血祭ドウコク。それは今から十三年前に丈瑠たち、侍戦隊シンケンジャーが決死の思いで打倒した外道衆の総大将。そして、先々代のシンケンレッドである薫の父親の仇でもある怪物である。

 その強さ、その恐怖は、時間が経ってもなお丈瑠の身体に染みついており、今でもドウコクが復活する夢を時折見るほどだ。

 

「あの感覚……あの男と相対したときの感覚は、まさしく……血祭ドウコクと戦った時のそれと似ていた」

 

 十三年前の戦いの時、薫は血祭ドウコクと対峙し、封印の文字を使って倒そうとした。しかし、結果は知っての通り敗北し、大怪我を負わされてしまった。

 あの時の恐怖、あの時の圧迫感。茅場晶彦と対峙したときのソレが似ていたのだ。

 

「だが、茅場晶彦はただの人間じゃないのか?」

「無論だ。それに、はぐれ外道でもないようだ。隙間センサーも何の反応もなかったからな」

 

 はぐれ外道とは、人間が大きく道を外れた所業を行ったことによって外道衆たちと同じくアヤカシの姿を持つようになった者たちの総称。つまり、人間であり、アヤカシである者たちの事だ。

 十三年前の戦いのときにも薄皮太夫、そして腑破十臓という二人のはぐれ外道が現れ、丈瑠たちと死闘を繰り広げた。思えば、あの戦いで血祭ドウコクの次に厄介だったのは、そのはぐれ外道二人だった。

 薄皮大夫がその身体を血祭ドウコクに取り込ませたことによって、志葉の家が長年の準備と苦難と、そして丈瑠の人生を狂わせてでも完成させた封印の文字は通用しなかった。

 腑破十臓は、幾度も丈瑠の前に現れて死闘を繰り広げ、あの時の戦い一年間の間脅威となり続けていた。

 あのはぐれ外道二人がいたからこそ、十三年前の戦いは波乱を極めたと言ってもいいだろう。

 話を戻そう。はぐれ外道になるためにはそれ相応の人の道に外れた行為。例えば、大量殺人等を行わなければならない。だが、はぐれ外道の存在が分かったことから、そのような事件が起こっていないか監視の目を光らせてきたが、最近そのような大量殺人のニュース等流れてきた覚えがない。つまり、はぐれ外道になり様がないのだ。

 それに、隙間センサーという外道衆出現を知らせるセンサーが反応しなかったのも、その男が外道衆ではないという事の証拠になる。

 

「では一体……」

「分からん。だが、ヒントがあるとするのなら、あの男の作ったゲームの中……」

「ソードアート・オンライン……」

「そういう事だ」

 

 なるほど、つまり薫がSAOをプレイするというのは、そのSAOの内部から調査をするという意味だったのか。

 だがそれは少し危険すぎないだろうか。いくら、ただのゲームとはいえ薫の侍の感が危険を知らせるような男の作ったゲームの世界に行くなど、無謀ともいえる行為だ。

 

「確かに、私も危険は重々承知だ。だが……だからこそ私が行くのだ。もし私に何かあって、志葉は既に丈瑠が継いでいるのだからな」

 

 そう、薫が志葉家の姫であっても、志葉の18代目の当主であろうと、すでに先代当主。その実権は養子である19代目当主の志葉丈瑠に譲っている。そのため、もし先代の自分に何かが起ころうとも、今の当主である丈瑠が無事である限り、侍戦隊は守られる、ひいては民衆の平和は守られるという事であるのだ。

 

「しかし……」

「心配性だな。そんなに、母親が信用できないか?」

「……」

 

 心配するのは当たり前だ。何か嫌な気配がする世界だと知って、そして地雷原であるという事を知っているというのに、わざわざ足を踏み入れようとしているのだから。

 だが、確かに彼女は自分の前の当主。実際に外道衆と戦った時間は短かったものの、長年の鍛錬は休まずに行ってきた人間だ。それを考えれば彼女に何らかの危険が迫ったとしても対処はできると思うが。

 

「なら、私も一緒にゲームの世界に行くのはどうでしょう?」

「え……」

 

 そう言って通路から現れたのは女性。凛々しく、そして美しい女性が姿を現した。

 

「茉子、来ていたのか?」

「たまたま前を通りかかったら、お姫様が来ていると聞いてご挨拶に」

 

 白石茉子。侍戦隊シンケンジャーのシンケンピンクとして丈瑠達とともに一年間に渡り戦った戦士だ。

 かつての戦いにおいては面倒見が良く、優しい性格で仲間たちを精神面でもサポートし、時に鋭い洞察能力を持って物事を見ることのできる、サブリーダー的な存在である。現代のシンケンジャーの中では丈瑠次ぐモヂカラの持ち主であり、その扱い方も家臣の中では一番上手でもあった。

 茉子は、現役時には保育園でバイトをしており、戦いが終わった後には両親のいるハワイへと旅立った。それから何年か後に再び日本に帰ってきて、現在は正式に保育士の免許を取って働いているのだそうだ。

 

「だが、一緒にとは言うがアレは一万個限定販売の代物だぞ?」

「大丈夫。実は私も、興味があったから抽選に参加したんです。そしたら、運良く当選しました」

 

 世の中には、無欲の勝利という言葉がある。先程話に出した千明、シンケングリーンだった男なのだが、そちらはSAOが欲しくて抽選に参加したものの、結局当選することはなく今回はプレイすることができないそうだ。

 それ比べて、興味本位で応募した茉子はSAOに当選しプレイすることができる。なんとも理不尽な世界であることか。

 

「だが……いや、分かった。では頼む、茉子。もしなにかあった時にはすぐさまゲームをログアウトし、丈瑠と合流しろ。それが条件だ」

「はい」

 

 薫が一度躊躇した理由。それは、彼女が現シンケンピンクであるからか。茉子は、まだ未婚であり子供はおろか養子もいない。そして兄弟姉妹も存在しない。そんな人間にもし何かあったとしたら、今後の志葉の家に多大なる影響が出る。彼女はそれを考えたのだろう。

 しかし、茉子がこれと言ったことを曲げない人間であると言うことを薫は知っていた。そのため、何かあった時にはゲームを終わらせて丈瑠たちと共に事件を解決させてくれ。そう言葉を紡ぐだけ紡いで、彼女の参加を了承した。

 茉子は、薫が何を心配しているのか察していた。もし、自分も結婚し、子供がいたのならばもっと簡単に了承してくれたのだと思うが、しかしそこは侍の家系に生まれた彼女故の苦労のようなものがあるのだろう。

 侍の末裔として、自分ができることをする。自分が未来のためにできることをする。それが今の自分の役目だと知っているからこそ、どんな危険が待ち受けているのか分からないゲームの世界に連れていくことを躊躇したのだ。

 茉子は、そんな彼女の優しさに感謝すると同時に、もう少し肩の力を抜いても良いのではないかとも思う。

 丈瑠は、そんな二人に対して、これ以上ゲームをプレイしろと言えない雰囲気になっていることを感じ取り、フゥと息を吐いていった。

 

「分かった母上。それで、俺はいったい何をすればいい」

「……茅場晶彦からドウコクと似た気配がして、それでも何もないとするのならば、外道衆と手を組んでいるという可能性もある。そして、もし外道衆と結託して何か事を起こそうというのならば……」

「ゲーム開始と同時に、何かが起こる……」

「そういう事だ」

 

 なるほど、薫はゲーム開始を合図として外道衆が何かを仕掛ける可能性を考えている。だから、こうして丈瑠に自分がゲームをプレイしている間の現実の世界の守りを託しに来ていたのか。

 

「本当は、何もないのが一番だが、念には念を……とも言うからな」

「分かった。舞台で忙しい流ノ介や海外にいる源太はともかくとして、ことはや千明を呼び寄せておく」

 

 と、丈瑠は他の家臣。つまりシンケンジャーの仲間たちにも念のために声をかけておくことを薫に約束した。

 シンケンブルーの池波龍ノ介は歌舞伎役者であり、現在舞台の真っ最中であるため呼ぶことはできない。

 梅森源太は、シンケンゴールドで家臣ではなかったのだが丈瑠の幼馴染ということで丈瑠の代から共に戦っているシンケンジャーの仲間だ。が、現在はフランスで寿司の店を構えているため彼も簡単に呼ぶことが出来ず。

 という事で呼ぶことが出来るのは京都で花嫁修業中というシンケンイエローの花織ことはと、SAOの発売のために有休をとったと言うシンケングリーンの谷千明の二人くらい。いや、この二人だけでも十分である。念のために他の戦隊にも声をかけたほうが良いだろうか。

 

「頼む。この世界の事、頼んだぞ」

「あぁ」

 

 こうして、侍戦隊シンケンジャーのSAOへの方針が決定した。

 

「ところで、話は変わるが結婚はしないのか?」

「ぶっ!? い、いきなり何を……」

 

 話が一段落したところでお茶を一服していた丈瑠は、突然の薫の言葉に驚き、つい吹き出してしまった。

 

「お前もそろそろいい年齢だろ。いい加減結婚して『孫』の顔を見せてくれ」

「それを言うなら母上も」

「なんだ?」

「いや……」

 

 と、ややセクハラ的な問題のあるセリフのようにも思えるが。侍の家系を継ぐものとしてお世継ぎ問題というのは避けては通れぬ道。丈瑠も薫もどちらも美形であり、モテていてもいいと思えるような顔立ちをしているという物の、あまりそういった話に恵まれてこなかった。

 薫に関しては丹波から頻繁に見合い写真を提示されてはいたもののあまり気に入る人間がいなかったため。だが、すでに薫は29歳。侍の家系を継ぐものとしては丈瑠にも、そして何かがあった時のために分家となった薫にも子供がいてしかるべくというようなことなのだ。

 だが、結婚相手といってもそう簡単に決めるべきではないと丈瑠は思っている。

 

「俺たち侍は、いつ何時死ぬか分からない。いつ命の危機にさらされるか分からない。だから、結婚相手も慎重に選ばなければならない」

「分かっているらしいな、丈瑠……」

 

 そう。これが理由で結婚を渋っているのだ。薫もまた結婚しないのはそれが理由。特に彼女は父を血祭ドウコクとの戦いで失っている。残されることになる人間の思いも、辛さも知っていたのだ。だから、結婚相手にはそれに耐え、そして進んでいけるような人間を望んでいるのだ。

 

「なら茉子やことははどうだ?」

「ッ! ゴホッゴホッ!」

 

 茉子もまたそのセリフにむせこんでしまった。

 

「身も心も強い人間だ。妻には申し分ない」

「ひ、姫……」

 

 とんでもない流れ弾が飛んできた物だ。というか、殿様が家臣と結婚したらそれはそれで世継ぎが面倒なことになるのではないのだろうか。

 まぁ、結婚問題に関しては今はさほど問題にする必要はない。

 本当は、今後どんな事件が発生するかわからぬ不安に満ちた場を和らげようとしたのだ。

 おかげで、二人ともかなり落ち着いたようだ。

 薫はこの後いくつか情報の交換を行なったのち、自らの屋敷へと帰る支度をする。

 怖くない。そんな事を言えば嘘になる。いや、恐怖心を忘れては命をかける侍などできないのだ。だから、彼女はいつだって恐れている。自分自身の身を、他者の命を。今回の危険は、いつものように分かりきった物ではない。だが、これだけは言える。

 もう二度と、この世界を外道衆の好きにはさせない。何があっても、どんな事があろうとも、民の平和を守って見せる。

 そう、丈瑠の背後にある志葉家の家紋に誓い、薫は屋敷を後にした。



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SAO×プリキュアシリーズ

 人生は人の数ほど。

 人の出会いは星の数ほど。

 命は、無限に等しいほど存在する。

 その中で、本当に自分の心の底から友達であると言える人と出会うことなどできるのだろうか。

 一緒にいて楽しい、一緒にいて頼もしい、一緒にいて愛おしい。そんな人たちと出会うことが、本当にできるのだろうか。

 彼女達は知っている。友達の、未来の、明日の、夢の、希望の、そして諦めないことの大切さを。

 彼女達は知っている。ひとりだけじゃ生きていけないと、ひとりだけじゃ楽しくないと。

 だから彼女達は知っている。未来が奪われる辛さ、明日が奪われる辛さ、友達を失う怖さ。

 これは、そんな少女達が送ったとても辛い数年間の話。

 もしかしたら、今生の別れにもなり得たかもしれない、そんな紙一重の戦いの歴史。

 これは、戦士達の記録ではない。極普通の女の子達の、極普通の友達の元に帰るための戦いの記録。

 そんな、尊い話の一つに過ぎない。

 

 JR横浜線。その快速電車に乗っている一人の少女。ドアの近くでスマホを操作して友達と連絡を取り合っていた。

 これから会いにいくのはとある事件で出会い、仲良くなった友達。直接会いにいくのは極稀、お花見であったり特別な時であったりというだけになってしまったが、今でも連絡を取り合っている友達。

 初めて出会った日から、もうすぐ一年になる。最初は引っ越したばかりで慣れなかった横浜の街にもすっかり馴染んで、こちらでも友達はたくさんできた。

 けど、そうなることができたのは、あの人達のおかげ。特別な友達と、その別れと、そしてその時にできた友達みんなのおかげだ。

 喧嘩した私たちの仲を取り持ってくれて、たくさんの出会いをくれたあの人達。私は、みんなのおかげで変わることができた。そう思う。

 今日会いにいくのは、その中でも特に仲良くなった二人の友達。私と、特別な友達を合わせるために頑張って応援してくれた友達。

 何故、自分達が会う事になったのか、それはあるゲームが関係する。

 ≪SAO≫今世代最高のゲームになるとの呼び声の高いVRという種類のゲームだ。

 それ故に、数多くのゲーマーはこのゲームをいの一番にプレイしようとわずか一万本販売の初回ロットという狭き門をくぐるためにあらゆる手段を尽くしている、という。

 彼女は、そんなゲーマーという部類ではない。確かに、中学生という思春期真っ盛りの年齢であることもあって、人並みにはゲームをプレイしているとはいえる。しかし、ゲーマーと呼ばれる人たちに比べれば天と地ほどの差。

 だから、このゲームの予約抽選に参加したのも、ただ好奇心が作用しただけの事だった。別にこれで当たってても外れてても自分には関係のないことだと、そう思っていた。

 だから、本当にびっくりしたのだ。当選のメールが来た時には。

 わずか一万本という狭き門を自分がかいくぐることが出来たなんて、夢のような話だった。

 けど、元々人見知りの性格である彼女は、古今東西のゲーマーがプレイするであろうゲームの世界に入り込むことに少しだけ怖気づいてしまう。

 新しい世界に飛び込むという事は、とても心細く、そしてとても怖い物である。それを彼女は知っていたのだ。

 そんな時、もう一つのメールが届いた。それが、これから顔を合わせる友達からのメール。そして、その内容は―――。

 

「あ……」

 

 気が付くと、いつの間にか見慣れた景色が目の前に広がっていた。

 といっても、この駅に来るのはまだ二桁にも満たない程度。けど、その景色が見慣れた物であると思うほどに、彼女にとってこの町にいる友達は大切な存在であるのだ。

 彼女は降り立つ。また、あの子たちに、友達と再会するために。

 笑顔溢れる女の子と、とても頼りがいのある女の子。二人の友達に会うために、彼女は再び《七色ヶ丘市》の土を踏む。

 そして、少女たちは駅のすぐ外にいた。

 

「あ、来た! おーい!」

「あゆみちゃん! こっちだよ!」

「あぁ……」

 

 少女、坂上(さかがみ)あゆみは二人の女の子の姿を見ると、遠い昔に置き忘れた思い出を見つけたかのように笑顔になると、二人に手を振って言った。

 

「響ちゃん! みゆきちゃん!」

 

 星空(ほしぞら)みゆき、そして北条響(ほうじょうひびき)

 通っている学校も違う、住んでいる場所も違う。

 でも、大切な友達。永遠の友達。

 そしてかけがえのない友達、である。

 

「久しぶり、元気にしてた?」

「うん、でもこうして会うのどれくらいぶりだろう?」

「えっと、前はお花見の時だったはずだから……」

 

 こうして会うのはどれくらいぶりなのか、たぶん一か月か二か月か。しかし、何故かは分からないが何年もあっていなかったかのようにも感じてしまう。そんなはずはないお知っているのにそう感じてしまうのは、やっぱり二人があゆみにとって大切な友達であるからだろうか。

 再会を果たした三人は、共に近くのカフェへと入っていた。色々と話したいことがある。他の友達はどうしているのかとか、自分がまだあったことのない友達の事とか。

 あったこともないのに友達なんて言うのはおかしいのかもしれない。けど、友達の友達なのだ。きっと、自分もその友達と仲良くできるはずだ。そんな確証がないはずの自信が確かにあった。

 ともかく、その話は後でもゆっくりとできる。今は例のゲームの事だ。

 

「そういえば、メール見たけど、本当なの? 二人も当たったって」

「そう、それに私たちだけじゃなくて何人もね」

「え、そうなんですか?」

 

 そう、彼女が受け取ったメールというのは、響やみゆきもまたSAOを手にいれたという報告であった。

 特にみゆきに至っては、同じ町に住んでいる友達4名も当選しているそうだし、他にも何人もゲットできているそうな。販売本数がたったの1万本しかないことを考えると運が良いという言葉では足りないくらいだろう。

 でも、あゆみはそのことを聞いてほっとしていた。自分一人だけでゲームをプレイするという事はとても不安だったから。友達も一緒にいてくれるというのはとても心強いことである。

 

「でも、楽しみだね。ソードアート・オンライン」

「世界初のVRMMORPGって触れ込みだけでもワクワクもんだよね」

「みゆきちゃん、それってみらいちゃんの……」

 

 あゆみは、みゆきの言葉に苦笑いを浮かべた。

 何も知らない人間にとっては何でもないセリフに見える。しかし、知っている人間にとっては彼女の言葉はネタの一つとして受け取られるのだ。

 彼女の発したセリフ《ワクワクもん》、という言葉は彼女たちの共通の友達である朝日奈(あさひな)みらいという女の子の口癖であるのだ。正確には《ワクワクもんだぁ!》であるのだが、細かい差異は排除しておこう。

 と、みらいの名前が出たとたん、響が思い出したように言う。

 

「あ、そういえばみらいも当たったって、SAO」

「そうなんだ! それじゃ、みらいちゃんとも一緒にゲームが出来るね」

「あとはなぎささんと、咲ちゃん、舞ちゃん、のぞみちゃんに……」

「えっと、なんだかいっぱいいるね……」

 

 聞くに、総勢30人の友達がSAOを手にいれたという。豪運の持ち主の集まりかこの集団は、あゆみもいれると合計31人だ。もはや何らかの思惑が左右したのかとも思ってしまう。

 

「リコちゃんにももう一度会いたかったな……」

「うん……」

 

 あゆみが思い出したのは、朝日奈みらいのとても大切な友達である十六夜(いざよい)リコの事だ。

 あゆみは、みらいと初めて出会った件のお花見の際にリコとも顔を合わせていた。彼女とはその時に色々とあって、とても大切な友達として認識していたのだ。

 けど、そんなリコは少し前に遠くにある自分の国に帰ってしまった。もう、二度と再会することが出来ないような、遠い場所へと。

 

「ルールーちゃんやことはちゃんやララちゃん、それにユニちゃんにも会わせたかったな……」

「それに、トワも……元気にしてるかな……」

 

 それは、リコと同じく遠い国に帰った大切な友達。やはり彼女たちも、二度と逢うことが叶わないかもしれない友達だ。トワとは、件のお花見の時に顔を合わせていたあゆみだが、前者4人とは結局会うこともなく別れてしまった。

 会ったこともないのに別れてしまったというのも少しだけおかしな話だが、しかし友達が合わせたかったと言ってくれるような子たちであるのならば、きっといい子ばかりであるのだろう。

 実のところ、そんなみゆきたちもララやユニとは直接の面識はない。ただ、友達経由で話を聞いただけであり、この会わせたかったという言葉には、自分たちも会いたかったという意味も含まれていたりする。

 

「ねぇ、二人は高校……何処に行くの?」

「え?」

「急にどうしたの?」

 

 そう、自分も突然、急に何を言い出すのかと思う。しかし、ふと思ったのだ。

 

「ううん……ただ……」

「ただ?」

「もしかしたら、友達と離れ離れになる……それが、怖くないのかなって……」

「……」

 

 実は今の時点でみゆきたちは中学三年生。もう少ししたら彼女たちには高校受験が待ち受けている。

 その結果、彼女たちにはそれぞれに別々の道に進むことになるだろう。

 もしかしたら、自分たちが住んでいた街から離れる者もいるかもしれない。

 そんなことになったら、ただでさえ疎遠になりかかっているあゆみと他の友達との仲も、もっと離れて行ってしまうかもしれない。あゆみは、それが怖かった。

 それにみゆきたち自身も、同じ学校に通っている者たち全員と同じ高校に通えるとは限らない。だから、あと数か月もしたら全員集合することなんて叶わなくなる。皆の心が離れて行ってしまう。それが、怖くないのか。あゆみは、それが聞きたかった。

 すると、みゆきはふんわりと笑顔を浮かべて言った。

 

「うん、怖いよ……でも、大丈夫だよ」

「え?」

「だって、例えどれだけ遠くに離れても、逢いたくても会えなくても……」

「うん……皆、同じ空の下にいるんだから」

「皆、同じ空の下……」

 

 先ほど列挙した数名は、違うかもしれない。しかしそれ以外の《この地球》にいる友達は皆、同じ空の下にいる友達。例え離れていてもお互いを想う気持ちでつながっているから。だから、怖くはない。

 

「そっか、そうだよね……皆同じ空の下にいるんだよね」

 

 なんだか、勇気づけられた気がした。《あの時みたいに》。そう、皆同じ空の下にいる友達なのだから、何も恐いことは無い。恐れることは無い。

 お互いがお互いを想いあってさえいれば、どれだけ遠くにいても、離れ離れになっていてもすぐ近くに感じることが出来る。それが友達ならば、何を恐れる必要があろうか。

 もしかしたら、受験勉強のし過ぎで疲れてしまっていたのかもしれない。第一志望の高校に行けるか不安だったから、それが言葉に出てしまったのかもしれない。

 でも、大丈夫。二人に勇気づけられたから。二人から勇気を分けてもらったから。だから、大丈夫。

 そう、信じていた。信じていたかった。




 スイートプリキュア♪
 スマイルプリキュア!
 映画 プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち
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 因みにSAOをプレイするメンバーに関しては目下のところ考え中です。


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SAO×桜蘭高校ホスト部

 この私立桜蘭学院(おうらんがくいん)は、一に家柄、二にお金。財ある物は暇を持つ。かくして桜蘭ホスト()とは暇を持て余す美少年たちが、同じく暇な女生徒たちをもてなす。スーパー金持ち学校独自の、華麗な遊戯なのだ。

 桜蘭学院ー正式には私立桜蘭学院高等部が正しいーは東京都にあるスーパー金持ち学校である。

 日本七名家にも数えられる須王家、その家が持つ財閥の現総帥である須王譲の設立したこの学校は、やんごとなき家柄であったり、財閥の御子息であったりする人たち御用達の学園なのだ。

 だが、通っているのはお金持ちばかりではない。出版社の社長の息子や、料亭の板前の娘、それからヤの付く団体の跡取り息子が通っていたりもする。

 そして極まれに、いやこの学院にただ一人だけ、お金も後ろ盾も持たずに入学してきた人間がいる。

 それがこの藤岡(ふじおか)ハルヒである。

 

「また今日も遅刻しまった……」

 

 男子生徒が着用する制服を身に纏うハルヒは、学院が用意した奨学特待生制度を利用して入学してきた人間である。当初は学園指定の服すらも買うことができず、貧相と言われても仕方のない服で通っていたこともあるほどに。

 そんな彼女が急いでいるのか急いでいないのか微妙な速さで向かっているのは、第三音楽室である。当然のことであるが、普通の学校には音楽室は三つもいらないー勿論この桜蘭高校にもー。

 時間帯は放課後であるため、授業に出席するために急いでいるというわけではないし、そもそも第三音楽室は使われておらず授業なんて元から行われない。実は音楽室には部活のために向かっているのだ。

 何度も補足を入れてしまうのは申し訳ないが、彼女は吹奏楽部でも合唱部でもマーチングバンド部でもない。ならばなんだ、と人々は疑問に思うだろうが、一般市民の中からその答えが出ることは決してないだろう。

 ハルヒが所属している部活。それは、他の学校には類を見ないある特殊な部活動であるのだ。

 そう、その部活とは―――。

 

「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」

「……はぁ」

 

 ホスト部、である。

 件の第三音楽室の扉を開けたハルヒは早速眩暈を起こしそうになった。

 何なのだろうこの内装は。ついキノウまでは普通、という言葉はたぶん当てはまらないのであるが、サクジツまではこの部屋は普通の音楽室の雰囲気を残していたはずだ。

 眼がくらむような値段の高級ソファーが置いてあったり、樹齢何十年というような木を加工したテーブルが置いてあったり、一つ何百万というツボが無数に置かれていたり。

 やはり普通ではない場所に普通を求めてはならないのだろうか。普段の風景という物ですらすでに普通とは言えない物ばかりで、この時点ですでに普通という言葉の意味を辞書で調べて来いと言いたくなってくる。

 まぁ、とにかく。天井から吊り下がっているシャンデリアはまだ昨日まであったから置いておくとしよう。

 だが、何なのだこの赤いじゅうたんは。並べられた甲冑は、飾られている絵は。そしてーーー。

 

「「なんだハルヒか、お客様かと思って準備しちゃったじゃん」」

「こらハルヒ。授業が終わったら真っすぐ部室に来るようにと言ってあるだろう?」

「いや、自分としては普通に教室を出たつもりだったのですが……」

 

 いつも通り変な服を着ている先輩と同級生たちは一体。

 

「あのぅ、この内装は一体……」

「今日はSAOのサービス開始まで一ヶ月を切ったから」

「それにちなんで、西洋風のおもてなしをすることになったんだってさ」

 

 と、ハルヒに答えたのは同じ顔を持つ男子生徒。常陸院光(ひたちいんひかる)常陸院馨(ひたちいんかおる)。通称常陸院(ひたちいん)ブラザースである。

 お察しの通り彼らは双子であり、この部活動の中ではハルヒと二人だけの同級生である。と言ってもそれをありがたいと思ったことはハルヒ曰くないらしいのだが。

 因みに、二人とも冒険者風の衣装を着こんでいる。その服装はほとんどが同じであるが、光の方がピンク色の、馨の方が青色を基調とした服を着こんでいるため、珍しく見分けがついている。

 この色分けは、以前二人が喧嘩のフリをして周囲を巻き込んで騒動を引き起こした時と全く同じだ。もしも、こうして違いを作ってもらっていなければ、二人の見分けはつかないだろう。

 とはいえ、何故かハルヒには二人の見分けができているらしい。理由は不明ではあるが、恐らく天然故の素質というものだろう。

 

「SAOって、確か……」

「そうだ。今度発売される最新のゲームのことだ」

 

 と、ハルヒに声をかけた眼鏡の男性は凰鏡夜(おおとりきょうや)。ホスト部副部長兼店長で、このホスト部のブレーン的な存在である。なお、ハルヒは彼のことを影のキングであると思っているのだが。あと、色々と腹黒い。やることなすことの殆どに自分に利となる何かを隠している色々な意味で頭のいい男だ。

 

「でも、何故それでホスト部がこんな感じに……」

「それはね。たまちゃんがSAOをしたからなんだよ!」

「……」

「え?」

 

 そう声をかけてきたウサギを抱きかかえた金髪の少年は、埴之塚光邦(はにのづかみつくり)。通称ハニーである。なお、ウサギを抱きかかえていたり身長が少年くらいしか身長がないため見た目では分かりづらいのであるが、これでもハルヒの二つ先輩。最上級生なのだ。だが、その見た目とは裏腹に中等部在籍時に空手と柔道で全国制覇をしているという、戦闘能力では部内でも一二を争うほどである実力者でもある。

 そして、その後ろにいる背の高い寡黙な男性は、銛之塚崇(もりのづかたかし)。通称モリ先輩。彼もまた中学の時に剣道で全国大会優勝という経歴を持つ人間である。つまり、ハニーと一二を争っている実力者というのは、彼の事なのだ。

 この二人、今ではいとこ同士であるがはるか昔は主従関係にあり、代々銛之塚は埴之塚を主としてきた家系である。時が経ってその主従関係という物は薄くなってはいるものの、銛之塚の血故か、崇は頼まれた訳でもないのに今でもハニーとの主従関係が継続しているのだ。

 

「SAOって、まだ発売されてないんですよね、それでどうして環先輩が……」

「聞きたいかハルヒ」

 

 と、言いながら椅子から立ち上がったのは、このホスト部の創設者であり部長であり、氏名率7割を誇るホスト部のエースである須王環(すおうたまき)である。ちなみに先程ハニーが言っていたたまちゃん、と言うのは彼のことである。

 須王という名前で分かる通り、彼はこの学校の理事長である須王(ゆずる)の息子。涙と常にもろくお人よし、おまけに二年生であるというにも関わらず下級生の常陸院ブラザーズにおもちゃのように悪戯を受けるという先輩としての威厳はどこへやらという人間性ではあるが、しかしこれでもカリスマ性だけはあるので侮れない。

 環はハルヒの肩を抱くと言う。

 

「平凡な俗世界を離れ、見たことのない新たな世界を巡る胸躍る冒険の数々。その時味わったこの上ない高揚感はそう、ハルヒ……お前とあった時を思い出したかのようだ……」

「どうでもいいですけど、暑苦しいから離れてくれませんか?」

 

 ハルヒは、そんな環のことを軽くあしらう。上級生としての彼を敬う気持ちはあまりない様子だ。まぁ、環自身もハルヒの質問に対して全く答えていないあたり悪いのであるが。といか、環がハルヒにあった時はそんなにドラマチックであっただろうか。

 以上、この男性陣六人に、藤岡ハルヒを加えた計七人が桜蘭高校ホスト部の全メンバーである。ずいぶん個性抜群なメンバー構成をしており、家がかなり裕福であるということ、そして全員が男性であるということが数少ない共通点、であった。だが、この年の四月に藤岡ハルヒが不本意な形で入部を果たしたことによって共通点はほとんどなくなった。

 元々この部活は、環の思い付きにより彼が高校に入学した一年前に創立された歴史の浅い部活である。そしてハルヒと、ハニーに追随する形で入部した崇以外の四人を環自身がヘッドハンティング。それぞれに悩み事を抱えこんでいた面々を誘い入れることによってできたのがこのホスト部である。

 因みに、ハルヒが入部したのは時価800万円するという花瓶を割ってしまったための弁償のためというある意味むなしい理由である。

 ともかく、環を押しのけたハルヒが言う。

 

「でも、あれってまだプレイ開始はおろか、発売もまだされてないのでは?」

「フフフッ、実はなハルヒ。須王グループは、そのSAOの開発を援助していたのだ。その礼にとSAOとナーヴギアを譲ってくれたのだよ」

「それで、殿はβテスターってことで」

「他のプレイヤーに先駆けてゲームをプレイしていたってわけ」

「βテスター?」

「まぁ、要するに実際に売り出す前の試験プレイのようなものだ」

「へぇ……」

 

 それでいつも以上にウザがらみをしてくるわけですか。と、ハルヒは心の中で悪態をつく。というか、下級生である常陸院ブラザーズに名前ではなく、殿と呼ばれる当たり環の部活内での扱いの悪さをうかがえるという物だ。

 ところで、西洋風というか、騎士風の衣装は前にやらなかっただろうか。確か、あれは聖ロベリア女学院のヅカ部が桜蘭で行われた文化部発表会のために来ていた時のことだ。あれと丸被りしていないだろうか。

 

「あぁ、あれは本物の西洋、こっちはゲームの中の偽物の西洋だからな。似てるようで、実は違う。ずる賢い人間と、狡猾な人間の違いのようなものだ」

 

 と、いうことらしい。

 さて、それよりも部活動内でこのエセ西洋風の衣装で統一した格好をするということはだ、必然的にハルヒもまたそれに準じた格好をすることになる。

 常陸院ブラザーズは先ほど言った通りに冒険者風。

 鏡夜はRPGに出てくる魔導士のような恰好。

 ハニーはなにか可愛いウサギのパジャマをやや高級感多めにしたような恰好。モンスターのつもりなのだろうか。

 崇は甲冑を着ている騎士。

 そして、環は当然というかなんというか王様の格好。これは、本人がこのホスト部のキングを自称しているからなのだろう。

 正直どの格好も面倒くさいことこの上ないのだが、はてさてどうした者だろうか。

 

「安心しろハルヒ! ハルヒの服は、このお父さんが直々に選んだぞ!」

 

 といい環は奥に引っ込む。どう考えても不安しかない。環が自分のためだとかなんだとかといっていい物を取り出したという記憶はあまりない。出てくるのは、きっと自分の感情を逆なでさせるような物となるはずだ。いつもそうなのである。

 恐らく、本人は良かれと思ってやっていることだとは思うのだが、その良かれと思ってやることがことごとく失敗しているのは残念なところである。

 さて、数十秒後環は煌びやかな桃色の服を持って現れた。まぁ綺麗なドレスであること。

 

「どうだハルヒ、これを来て王であるこの俺と舞踏会へ……」

「寝言は寝て言ってください」

「なっ!?」

 

 と、ショックを受けた環は真っ白になっていじけ始めてしまう。

 さて、ここで一つ疑問に思った人間もいるだろう。

 何故、環は『男性』であるはずのハルヒにドレスなど持ってきたのか。

 別に、環は男色家というわけではない。彼自身至って大多数的な人間であり、恋の対象も『ハルヒ』のような『女性』である。

 そう、実は藤岡ハルヒは男子の制服を着てはいるもののその正体はれっきとした女の子。生物学的にも精神的にも身体的にも本人の自覚的にも全てが女の子であるのだ。

 何故女の子がホストをしているのか、結論からすればそれは環の勘違いと、花瓶の代金の返済のため、である。

 先程、800万の花瓶を割った弁償をするためにハルヒが入部したと言う旨を説明したが、その時点で彼女の性別を知っていたのは鏡夜のみ。そのため、部長の環が彼女のことをよく知らないままに入部させてしまったのだ。

 ハルヒにとっては、800万という大金を用意することなど到底不可能であるから、ホスト部でお客の相手をすれば花瓶の代金はチャラになると言うし、別に断る理由もなかったから男としてホストをしているのだ。

 以来、このホスト部の面々はハルヒの正体がお客様にバレないように、時にはさまざまな工夫を凝らして、時にはドタバダ騒ぎを起こしながらの学校生活を送っているのだ。

 まぁそんなこんながあり、ホスト部の本日の営業開始である。

 

「外はモンスターが徘徊して危険だ。今日は俺と一緒にいよう」

「まぁ、恐ろしいですわ環様……」

「ご安心を、どんな敵が来ようとも、この剣ですぐ倒して見せましょう」

「そんな綺麗な剣が有れば一安心ですわね」

「ですが……」

「え?」

「例えどれだけ名高い鍛治氏が作った剣でも、君のその純粋無垢な白銀のような輝きには敵いはしないよ」

「あ、あぁ……」

 

「行っちゃダメだ光!」

「止めないでくれ馨! 僕は、モンスターを倒さないといけないんだ!」

「怪我でもしたらどうするんだ!」

「それでも、町の人達を守れるなら、それでいい! それじゃぁ……」

「光!」

「あっ……」

「僕だって、光のことを守れるならどんなことだってするさ」

「馨……」

「キャァァァァァァ!!」

 

「見て見て! 僕モンスター! 食べちゃうぞぉぉ!」

「キャァァァァ!」

「怖ぁぁい」

「ガオオオォォォ」

「光邦」

「?」

「裾、危ないぞ」

「ありがとう! タカシ!」

「「キャァァァァァ!」」

 

「あいも変わらずよくするなぁ……」

 

 ハルヒは、背後で行われている寸劇を見ながらそう呟いた。

 因みに鏡夜は接待をしておらず、お客様の対応をしている様子だ。そういえば、心無しか今日はお客さんの数がいつもより多い気がする。

 

「ハルヒ君」

「あ、はい」

 

 と、そういえば自分もまたお客さまの対応の途中だったのだ。

 現在の相手は、倉賀野百華(くらかのももか)桜塚希美子(さくらづかきみこ)の二人。

 ふたりはこのホスト部の常連であり、また同学年同クラスということもあってかハルヒのファンであるのだ。

 そのため、ホスト部を開店させるとほぼ毎日のように来店してくれる。借金返済=指名数であるハルヒにとってはとてもありがたいお客であるのだ。

 とはいえ、その借金に関してはすでに完済されているため指名数に関してはさほどこだわりはないのだが。まぁ、借金がある時からそうであったのだが。

 

「ハルヒ君は普通の村人の格好なのね」

「まぁ、はい」

「シンプルで素敵よ」

「ありがとうございます」

 

 まぁ、あれに比べればいくらかは、そうハルヒは心の中で呟く。

 彼女の服装は、先程環が出したドレスと比べれば装飾品も何もないRPGによく出てくるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の村人のような格好となっている。

 あまり目立つような格好をしたくなかった彼女の意見が反映された形である。

 

「でも、皆さんも素敵ですよ。いつも綺麗でうらやましいな」

「ハルヒ君……」

 

 ここは天国かはたまた桃源郷か、ハルヒの微笑みを間近で受けたふたりの姫君は恥ずかしそうに頬を赤らめてやんわりと微笑み返す。

 天然系ホスト藤岡ハルヒ。コレを何の忖度もなく、何の裏もなく発しているのだ。部内では、テクニック要らずとも表されているのだ。

 そんなこんなで、ホスト部の営業は続いていく。そして、お客様の数がピークに達した時、鏡夜が環に言う。

 

「そろそろ頃合いなんじゃないか?」

「そうだな」

「「頃合いって、何の話?」」

「ふっふっふっ、まあ聞け」

 

 と、双子の質問に返答した環は、部屋の中央へと移動すると言った。

 

「本日お集まりいただいた姫君達」

 

 環のその、よく透き通るかのよう声に、ハニーやハルヒ、そして彼らの接客をうけていた女生徒たちもまた環の方を注目し始める。

 

「改めて自己紹介といきましょう。私は、SAOの世界より諸君らをお招きすべく参上した。キング環」

「「そのまんまじゃん」」

「既に切符は配られた。私は、ここにいる常陸院兄弟、そして藤岡ハルヒと共にSAOの世界へと赴くこととなる」

 

 まるで劇か何かを演じているかのように環は述べる。

 おそらく、切符というのは限定一万個のSAOのソフトのことを言っているのだろうが。ここで一つ疑問が生じる。

 

「あれ、鏡夜先輩やハニー先輩たちは?」

「ほら、鏡夜先輩はもとよりそういうのに興味ないから」

「ハニー先輩やモリ先輩は受験生だし、今回は辞退したらしいよ」

「なら自分も辞退したいところなのですが……」

 

 と言ったところで無駄であろう。確かに自分はまだ受験生ではないから断る口実がないとはいえ、鏡夜と同じであまりそういったゲームには興味を持てない人種だ。だが、それでもなお自分には拒否権がないということは彼女は知っていた。

 

「この切符を、手に入れることができなかった者が多かったことは既に聞き及んでいる。中には、手が届く寸前でこぼれ落ちてしまったものもいたと言う」

 

 ふと、ここでハルヒは疑問に思った。

 

「なんで手に入れられなかったんですか? 環先輩の家のように出資すればよかったんでは?」

「なにぶんゲーム業界はあたりハズレが大きいからな。ゲームに興味のある人間やゲーム関連会社以外での出資に親が興味を示さなかったんだろう。因みにうちの家も出資はしていない」

「へぇ……」

 

 いわれてみれば、大作ゲームになればなるほどゲームの購買層からの期待は大きなものとなり、その期待に見合った物を作らなければ作った会社がバッシングをうけるのは当たり前。

 今回発売されるゲーム、SAOは世界で初めてのVRMMORPGという未知の領域のゲームとなる。そんなゲームに子供の興味本位で出資するような親なんてそうそうにいないのであろう。

 いるとすれば、多少のバッシングには揺るがぬことのない地盤をもつ会社か、環や環の父のように楽観的な人間くらいか。

 

「そこで! 君たちにチャンスを与えよう!」

「チャンス?」

「ここに、SAOの世界への切符が4枚ある」

 

 切符、先程までの言葉から察するにSAOのソフトのことなのだろうが、まさかチャンスというのは。

 そんなハルヒの考えは当たっていた。

 

「これより、SAO争奪大会を開催する!」

「やっぱり……」

 

 瞬間湧き上がる歓声。その多くを占めるのは黄色い声。

 ハニーやモリがいないとはいえ、ホスト部のエースである環や1年生トリオと一緒にゲームができるというかつて無いほどのチャンスを前にして皆一様に目の色を変えている。

 それにしても希少性の高いゲームソフトを合計8個ももらうなんて、一体どれほど出資したらそうなるのか一度聞いて見たいような気もする。

 だが、βテスターとして他のプレイヤーに先んじてゲームをプレイした環がそれほど多くの人間に遊んでもらいたいため願ったのだろうことは分かる。そして、暇を持て余している女生徒達を盛り上げる為にそのゲームを貰ったのもわかる。それにしても8個はやりすぎじゃないかと、やっぱり思ってしまう。

 そこからはまぁ、庶民はこんな物で抽選をしているのだと、≪BINGOゲーム≫で4個のSAOの争奪戦をして、意外な人が当たったりして騒然となることはあったが、最終的には4個全ての譲り先が決まり、藤岡ハルヒは憂鬱になっていた。

 ホスト部の常連をも巻き込んだことにより、自分はSAOというゲームの中ですらもここと同じようにホストを演じなければならない。自分を偽り続けなければならない。それが、彼女にとっては気掛かりに近い物だった。

 だが、まぁなるようになるしかない。ハルヒは意外と冷静であった。

 ふと、外を見ると葉が色をつけ始めて、中には枯れて落ちようとしていふ葉っぱも見て取れる。

 そうか、もう秋なんだ。

 今年も色々あったものの、まだ秋なのだ。

 その色々の中には実にさまざまな冒険があった。

 花瓶を割ってホスト部に入部することになって、色んな人たちの悩みを解決して、ホスト部廃部の危機もみんなで乗り越えて、環と環の父親と祖母との仲を取り持って、そして環の母親との再会を助けて。

 

「あっ……」

 

 その時、ハルヒ何か違和感を感じた。一瞬その正体がわからなかったが、彼女はようやく思い出した。

 

「今夜の晩御飯、トンカツにしよう……」

 

 絶対にそっちじゃない気がする。

 まぁ、そんなこんなで彼女にはその違和感の本当の正体に、矛盾に気がつく機会は確かにあった。だが、持って生まれた天然性のせいで、答えが濁り、それ以上彼女に考えさせるタイミングを与えなかった。

 もし、彼女が天然などではなく、疑問を根掘り葉掘りまで喰らい尽くすタイプの人間であったのならば、きっとこう考えていたであろう。

 

『何故、自分はまだ1年生なのだろうか』と。



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少女☆歌劇 レヴュースタァライト (その2)

 レヴュースタァライトって、画面で見せる演出もアニメとしての評価の一つに入っていると個人的には思ってます。
 そのため、画面を使えない小説であのアニメの面白さをどう表現しようかと考えた結果。
 かなり読みにくいかもしれませんが、ゆっくりと時間をかけてお読みください。


 真夜中の廊下。1人の女の子はそこを歩く。

 こんな真夜中に、消灯時間を過ぎて会おうなんてどう言うことなのだろうかと、ひかりは考えていた。

 全寮制であるこの学院において消灯時間を超えて出歩くのはご法度である。それは、彼女もまた知っていることのはず。なのに、何故あえてこの時間に呼び出したのだろう。

 もう一つおかしなところがある。今回ひかりのことを呼び出した女の子は、同室に住んでいるふたりの『親友』の一人だ。もし話がしたいのならこんな場所になんて呼び出す必要はない。

 もう1人の親友に聞いて欲しくない話なのか、それとも何か別の理由があるのか。不安、と言うよりも何だか不思議な話だ。とにかく、会うだけ会ってみよう。

 窓から溢れる光を頼りとして、彼女はついに待ち合わせ場所へとやってきた。

 ここは、所謂練習教室。この学院に通う学生が舞台の練習のために使用する教室だ。明日は、彼女が日直だったためにここの鍵を持っていたことに関しては理解できる。しかし、無断でこんなことをするなんて、先生にバレたら≪伝説のシゴキ≫は間違いない。

 ひかりは、引き戸の扉を開けて教室の中へと入った。するとそこにはバトンを持った女の子。

 露崎まひるが≪ポジションゼロ≫で待ち受けていた。

 そして、こちらの少女もまた別の女の子と出会っていた。

 

「えっと、天堂さん? こんな時間にどうしたの? というより、ひかりちゃんやまひるちゃんは?」

 

 彼女の部屋に訪れていたのは天堂真矢(てんどうまや)。99期生主席、つまり彼女達の学年で一番の才能の持ち主であり、1年生時のスタァライトの主演であり、100回のスタァライトでも主演が濃厚視されていた少女である。

 

「愛城華恋。貴方……」

「え?」

 

 そう言うと、天堂はベッドの上で正座しているパジャマ姿の華恋に近づき、いつもの凛々しい表情を崩すことなく言った。

 

「貴方にとって、スタァライトは何回目?」

「え?」

「いや貴方は何度、スタァライトを演じた記憶がある?」

「演じたって……」

 

 華恋は、その言葉の意味が理解できなかった。

 自分が演じたスタァライトなんて、そんなの皆は、仲間達は知っているはずじゃないか。だって、自分が演じたのは。

 

「一回、でしょ?」

「それは、一年生の時の?」

「うん……」

「そう……」

 

 つぶやいた天堂は、一度目を瞑り考えるそぶりを見せ、ゆっくりと開いたまなこで華恋の顔を見て、イタズラ小僧が悪さをする時のように笑みをこぼすと言った。

 

「これから話すのは、貴方の知らない物語。それを聞く覚悟はある?」

「覚悟?」

 

 覚悟って、一体何の話をするつもりなのか。自分の知らない物語って一体。

 彼女が、話すのに躊躇するような話とは。

 そんな彼女に対する華恋の次のセリフは、セリフは、セリフはーーー。

 

「ひかりちゃんって、私にとってのなに?」

「まひる?」

「ひかりちゃんにとって、私ってなに?」

「まひる、貴方何を言ってるの?」

「答えて」

「……親友の親友で、私にとっても、友達……」

「そうなんだ……」

 

 まひるは、その瞬間足元にあった木刀を拾うと光の足に向けて投げる。

 

「拾ってよ、ひかりちゃん」

「まひる?」

「いいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拾ってよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 その瞬間、ひかりは恐怖を感じ取った。

 その目に。

 その声に。

 そのオーラに。

 背筋を何かが這いずり回ったかのような感覚。

 一瞬時が止まったかのような感覚。

 自分の心の奥底まで覗かれたかのような幻覚。

 それら全てが、一秒足らずでひかりの体を駆け巡った。

 一体、いつからだろう。

 いつから、彼女がこんなにも冷たいモノを表出することができるようになった。

 一体いつから、こんな≪演技≫ができるようになった。

 いつ、自分は彼女に超えられた。

 いつ、いつ、いつ?

 

「ハァッ!」

「ッ!」

 

 まひるは、ひかりに向け飛び出した。

 咄嗟に足下の木刀を握りしめたひかりは、上から振り下ろされる≪バトン≫を防ぐ。

 

「待って! まひる!」

 

 しかし、彼女は待つことはない。その攻撃を止めることはない。

 

「どうしたの? 何で演技しないの?」

「演技?」

 

 一体、彼女は何を言っているんだ。ひかりは困惑の気持ちでいっぱいになる。

 

「あの時と同じ、ううんそれ以上にひどい」

「あの時って……ッ!」

 

 なんだろう、彼女の言葉を聞いていると何かが頭をよぎる。けど、一体それはなんなのか。ひかりには全くわからない。

 このままじゃまずい。本気で演技をしないと。演技、演技、演技。

 なにを?

 台本を受け取ったわけじゃない。

 演技指導を受けたわけじゃない。

 セリフなんて全く知らない。

 なのに、それなのにどうして。

 

「一体いつの話をしてるの!」

 

 何故、言葉が溢れてくる。

 

「覚えてない? そんなはずは、無い!」

「ッ!」

 

 何故、自分は彼女と殺陣を演じれている。

 

「なんでそんなに言い切れるの!?」

「私は知ってる貴方が、貴方が、」

 

 貴方が、

 貴方が、

 貴方が、貴方が、貴方が、貴方が、

 

「大嫌いだったから」

「ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪さっき落としたメダルは何色?♪

 

「なに、これ……」

 

♪正直者が私は好きよ金銀銅?♪

 

「な、なんなのこれ?」

 

 浮かんでくるのは歌。自分の知っている劇で歌った歌の一部。でも、知らない歌。私が歌っていない歌。

 

♪勝負をする気はあるのお嬢さん?♪

 

 こんな歌、聞いた記憶がない。

 

♪私本当は大嫌いだった♪

 

 記憶がないのに、なんでこんなに、こんなに。

 

♪あなたが♪

 

 こんなに

 

♪あなたが♪

 

 こんなに

 

♪あなたが♪

 

 こんなに

 

♪あなたが♪

 

 こんなに

 

♪あなたが♪

 

 こんなにッ

 

♪あなたが♪

 

 こんなにッ!

 

♪あなたが♪

 

 こんなにッ!!

 

♪あなたが♪

 

 こんなにッ!!!!!!

 

「や、やめて、止めて!!」

 

 逃げたくなるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、どこ?      私は、今どこにいるの?                   ここは、地面?      それとも、空?         宇宙?    分からない、自分がどこにいるのか   どこにいるべきなのか     ここにいていいの?     この場所で飛んでいいの?   この場所で 走って  いいの?   言葉はどこ?     次のセリフはどこ?     私はどこに行けばいい  どこに立てばいい  何を話せばいい  何を歌えばいい     何を    何を   何を    何を       何を!!!    私は誰?    私の名前は?      役は何?         貴方は誰?      私は何?     見えない   聞こえない   触れれない     何をすればいいの?   言葉が、まるで    無重力の中に入ったかのように     ふんわりと   意味をなくす空間     ルールも   書式も     文節も        文体も      曖昧で     崩壊して       何を話しているのかすらも理解できない         私はひとりぼっちなの?      私はおいてかれたの?    眩しいあの子はどこ?     綺麗に歌うあの子はどこ?         あの子の演技を見たい     セリフが見たい     踊りが    殺陣が      笑顔が見たい      あの子の事が、       あの子が、      あの子は、        私は       あの子の           

●●●?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う!」

 

 彼女の本能は、彼女を再び舞台の上へと舞い戻した。

 そう、ここが自分の立つべき場所。

 ここが自分がいるべき場所。

 あの子を見るための場所じゃない。

 あの子に憧れるための場所じゃない。

 あの子と共演する為の場所。

 あの子と役を取り合う場所。

 私は、あの子の●●●じゃない。

 私はあの子達の親友じゃない。

 私は逃げ出した。でも、帰ってきた。帰ってこれた。本気でぶつかり合った。

 あの子のおかげで。

 まひるのおかげで。

 言葉の流出。

 表現の色彩。

 演じた快感。

 その全てが彼女を再びこの舞台に連れてきた。

 彼女の記憶を、次の舞台に引き摺り出した。

 私は、彼女の●●●になるのを恐れた。

 何で?

 だって●●●になると、彼女と一緒の場所にいれないから。

 彼女と、本気で戦えないから。

 彼女と、彼女の親友達と争えないから。

 それじゃ、面白くないから。

 何の楽しみもないから。

 何の嬉しさもないから。

 奪うだけじゃない。

 共有して、演じて、演じ切ったら次の舞台へ。

 それが、私たち。舞台少女の決意。

 憧れを燃料とした彼女の記憶は、再び彼女を彼女とする。

 彼女の記憶をつれてくる。

 そう、私は、私たちは『ファン』じゃない。

 私たちは

 私は

 貴方は

 

「あなたは、ライバル……」

 

 その瞬間、爆心地に立っていたかのように広がるまた別の舞台。

 さっきの舞台と似て非なるそこには、あるものがあった。

 上掛けだ。

 そう、これは自分が舞台少女としてオーディションを受けた時に羽織っていた上掛け。

 これを相手に落とされるものオーディションの負けを意味する。舞台少女として大切なもの。

 けど、何かおかしい。

 なんだ、この赤い物は。なんで、こんなものが上掛けについているんだ。

 まるで血のように赤いもの。嗅いでみると、酸っぱい匂いが鼻の奥に抜ける。これは、トマトか。

 なんで、トマトが上掛けに。

 何で。

 何故。

 あぁ、そっか。

 死んじゃったんだ。この舞台の私は。ここの舞台少女である私は、死んでしまった。

 神楽ひかり役をしていた舞台少女は、死んでしまったのだ。

 では、彼女はどこへ?

 そうか、行ってしまったんだ。次の舞台へ。神楽ひかりを演じきった彼女はまた別の舞台へ旅立ったのだ。

 なら私は何?

 私は、何故神楽ひかりを演じているの。

 私は、本当は誰なの。

 私は。

 私は。

 私は。

 

《神楽ひかり》

 

 そう、自分もまた神楽ひかり。

 しかし、この舞台に立っていた神楽ひかりじゃない。

 また別の舞台に立つ神楽ひかり。

 似て非なる神楽ひかりを演じる神楽ひかり。

 でも前の舞台の記憶も残る神楽ひかり。

 前の舞台のキラメキを目の前にした神楽ひかり。

 まだ、舞台少女を演じられる神楽ひかり。

 

ーひかり、目の前の上掛けを決意の表情を浮かべて拾い上げるー

 

 ひかりは、目の前の上掛けを決意の表情を浮かべて拾い上げた。

 

ーひかり、徐に上掛けを羽織るー

 

 そして、ひかりはまるで導かれているかのように上掛けを肩にかけた。

 

ーひかり、舞台少女の衣装に切り替わるー

 

 瞬間。まるで早着替えでもしたかのようにひかりの服は制服から舞台少女の衣装へと変化した。

 さっきからなんだろう、この頭に響く命令のような物は。

 いや、違う。これは台本だ。己の行動一つ一つを指定している台本だ。

 もらった覚えはない。読んだ覚えもない。でも、確かに自分は知っている。その通りに動いている。

 次はセリフだ。けど、これは誰のセリフ?

 

「また来たの?」

 

 これは、私のセリフ。でも、私じゃない。私のセリフ。

 これは、もう舞台を降りた私のセリフ。

 私のセリフはない。私は、私の思う通りに話すだけ。

 

「それはこっちのセリフ。貴方も帰ってきた」

 

 そう言うと、私は首を振って言う。

 

「これを、渡しに来ただけ」

「これって……」

 

 それは、台本だった。三つの台本。一番上の台本の表紙には《少女☆歌劇 レヴュースタァライト》と書かれている。

 彼女には分かった。これが、彼女が演じきった舞台の台本なのだと。

 彼女はこの舞台をやり切って、舞台を降りて行ったのだ。

 けど、何故その台本を私に?

 

「私は演じた。貴方は何を演じる?」

「私は……」

 

 何を演じる。何を演じたい。

 分からない。分からない。分からない。

 けど、分かる。

 

「この台本にはない別の舞台を……」

 

 演じて見せる。

 果たしてそのような物が本当にあるのか分からない。

 その舞台を演じて一体どうなることか、分からない。

 でも、それでもその舞台を演じること、それ自体に意味があると言うなら。

 それで、多くの人間を喜ばせることが出来るのならば、

 それを、自分の人生の一つのキャリアとして積み上げることが出来るのであれば。

 ひかりが、台本を受け取ったその瞬間であった。

 

《アタシ再生産》

 

 二人の少女は一つとなり、上掛けからトマトのシミが綺麗に消え去って、あたかも新調したかのように光り輝き始める。

 それは、新たなキラめきを得た少女にのみ許される奇跡。

 それは、舞台少女としての蘇り。

 それは、再びその世界に足を踏み入れることによる生き返り。

 舞台少女神楽ひかりは、再び舞台少女として《再生》した。

 そして、彼女は見た。一つの台本を。

 風によって捲りあがったその中身は全くの白紙。しかし、膨大なるページのある一つの台本。

 それを見たひかりは、思った。

 あぁ、この台本が私が演じる舞台なのだ、と。

 ひかりがその台本に手を伸ばした瞬間。彼女の意識は再び練習教室へと返り咲いた。

 暗闇の中、月明りに照らされた彼女は紛れもなく光り輝いていた。

 そして、その頬にほのかに流れる涙もまた。

 

「やっと、思い出したんだ」

「えぇ……」

 

 ずっと、喉の奥の魚の骨のような引っかかりを感じていた。

 ここにいると言うことの違和感を。

 何故、自分はここにいるのか、その理由をずっと追っていたような気がする。

 自分はあのオーディションが終わった時に、他の仲間達のキラメキを守るためにひとりあの塔の中に残ったはずだった。

 その記憶はあった。

 なのに、何故か自分は彼女達と共にいた。

 彼女と記憶にはないスタァライトの配役発表の紙をみた。

 どうして、どうして、どうして。

 けど、そのどうしてと言う言葉が出なかった。

 きっとそう、それがこの舞台のストーリーだったから。

 私が何かの理由で前の舞台とは違った歩みを台本に書かれたことによって生まれたもう一つの筋書き。

 けど、前の舞台の筋書きを貰ってようやく思い出した。いや、また始まった。

 前の舞台の物語を受け継いだ、もう一つの舞台が。

 

「まひるの演技が思い出させてくれた」

「ちょっとは上手になったかな?」

「うん、上手かった。でも、演技ってわかるくらいだったから少し惜しかったかも」

「そっか、私もまだまだだね」

 

 先ほどまでの怖さが嘘のようなまひるの笑顔。まるで、太陽を見ているかのようであり、それがまひるの長所でもあるとひかりは考えている。

 

「まひる、ひとつ聞いてもいい?」

「なに?」

「まひるは、どこまで覚えているの?」

 

 自分が覚えているのは、三年の時、自主退学して99期生の仲間達と分かれた後にあったあのレヴューの記憶。そこまでだ。

 けど、彼女の演技力はその時のそれよりも上達していた。きっと、それ以降の記憶を持っているはずなのだ。

 

「ここを卒業して、新国立第一歌劇団に入団して少しの記憶かな。ひかりちゃん、その時私たちに会いに来てたんだよ」

「そうなんだ……」

 

 新国立第一歌劇団とは、現在の日本最高峰の劇団とも言われている世界に誇る劇団だ。当然そこに入団するのも、そこでやっていくのも相当に厳しいレッスンの日々が待っている。

 そんな劇団に入団できるとは,けどまひるのことを知っているひかりにはそれも当然かもしれないと思っていた。

 ふと、ひかりは気になったことを聞いた。

 

「他のみんなは?」

 

 他のみんな、それはあのオーディションを一緒に受けた8人の仲間たちの事だ。自分やまひるが前の舞台の記憶を持っていたと言うことは、きっと彼女たちもまた、そう思ったから。

 

「華恋ちゃん以外は、みんな前の記憶を持っているみたい、最後の記憶は、それぞれ違うみたいだけど、少なくとも最後のレヴューの記憶はみんな持ってるよ」

「華恋、以外?」

「うん……」

 

 彼女が言うには、今天堂真矢が自分のように華恋に前の舞台の記憶がないか話を聞いているらしい。だが、その様子を外からこっそりと覗き見ている大場ななの定期連絡から察するに、どうやら彼女には本当に前の舞台の記憶がないそうだ。

 けど、何故。何故彼女には記憶がない。あの舞台で一番キラめきを放ち、自らの目標を叶え、自分たちのように次の舞台を目指したはずの彼女が、何故。

 

「でも……」

「え?」

 

 確かに分からないことは多い。

 何故自分たちに前の舞台の記憶があるのかも、何故自分がこの場所にとどまったのかも、何故華恋に前の部隊の記憶がないのかもさっぱり分からない。けど、これだけは言える。

 

「例え、華恋に前の舞台の記憶がなくても、私たちの大事な《ライバル》なのは変わらない……そうでしょ、まひる?」

「……もちろんだよ。ひかりちゃん」

 

 友達であり、親友であり、そして共に切磋琢磨するライバル。

 記憶があるとかないとかそんなの関係ない。

 例えどれだけ経験の差があったとしても、彼女との関係が変わるわけじゃない。

 ひかりは、そんな決意にも似た言葉を発する。

 

「行こう、ひかりちゃん。華恋ちゃんのところに」

「えぇ、まひる」

 

 ひかりは、まひるの手を取って共に向かう。ライバルの元へと。

 そんな彼女たちを見て、もう大丈夫であると悟ったかのように月が雲に隠れて明かりが消え失せて行った。

 なお蛇足だが、この一件は先生にあっさりとばれ、まひるとひかりのみならず華恋、天堂、そして門限を破っての行動を黙認したということで残り五人の少女にも《伝説のしごき》が実施されたことは頭の片隅に入れてもらいたい。



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轟世剣ダイソード?×仮面ライダー

 出会い、それは最後には悲しみしか生まない物。

 別れの悲しみ、後悔の悲しみ、死別の悲しみ、そんなものしか産むことはない。

 そんなはずはないと声高高に訴える者たちも、いやそう言う者たちこそいざそう言う場面が訪れると皆一応に悲しみ出す。

 人は、矛盾に溢れた存在だ。

 けど、そんな矛盾に溢れた存在だからこそ、人として生きることができるのかもしれない。

 人は臆病な生き物だ。

 だから、身の安全を蔑ろにする存在を嫌うのかもしれない。

 孤独が苦手な生き物だ。

 そんなわけない。人は誰だって、いつも孤独。

 誰もその本心の全てを知ることはできない。

 そう、例えかつて自分のことを愛した人間でさえも。

 

 ある、街に溶け込んだ山の中。

 そこのお寺の中にいくつもの墓が建て並んでいる。

 昔からあるお寺であるからして、そこには町に昔から住んでいた人たちが静かに眠っていた。だから、ここに来るのは大体が地元の町人くらいな物だ。

 しかし、ここにその前例に当てはまらない3人の若者がいた。

 2人は男性、1人は女性だ。女性は、その手に仏花を携えている。

 

「まぁ、しかしあれだな?」

「何だ?」

「お前も変わらんなぁ、何年経っても」

「金子だってじゃないか」

 

 金子(かねこ)と呼ばれたやや筋肉質の青年は、隣を歩く赤髪の青年に肩をぶつけられる。それに対して金子は笑って青年の背中を叩いた。

 

「痛ってぇぇ!」

「おぅ、悪い悪い」

 

 金子が鍛えていると言うこともあって力強く、またかなり痛い物だったので青年はこけかけてしまう。

 しかし、それでも笑い合う2人の青年の関係はかなり良好であるようだ。

 と、ここで女性もまた笑って言う。

 

「でも、金子君もちっとも変わってないわね」

「まぁ、この歳になれば変わるもんも変わるまいて」

「この歳ってお前何歳だよ」

「お前と同じ、22だ」

 

 と、金子は言う。

 

「私24ね」

 

 と女性、千導今夜(せんどうこよい)は言う。

 

「いや知ってるよ」

 

 と赤髪の青年、百地王太(ももちおうた)は言う。

 なんとも簡潔丁寧に、まるで誰かに説明をしているかのように言う物だが、わかりやすいのは悪いことではないのでこの際置いておこう。

 この3人、特に女性と面として出会い、こうして集まることができたのは実は久方ぶりになる。

 男性陣2人は、普通科の大学に通っているのだが、今夜は医学部の大学に入ったのだ。その為なかなか会うこともで来ていなかった。だが、今日この日だけは3人で集まろうと決めていたのだ。

 

「それにしても、あれからもう一年になるんだよな……」

「……」

 

 今から一年前、3人は友人を失った。

 ある町を襲った地震。それは、現在の耐震設備であればなんの被害も齎すことのないほどの地震であった。

 だが、運悪く彼のいたビルは手抜き工事によって脆くなっており、彼は当時付き合っていた彼女を助けるために崩壊寸前のビルから落ち、死亡した。いや、正確に言えば死亡したとされている。

 彼は、地震の後に救急車で運ばれた。もう、運ばれる時点でほぼ即死で、後は病院で死亡認定を受けるくらいだった程に生存は絶望的だった。

 ところが、彼の身体は病院にたどり着くことは無かった。

 その日、彼は救急車と共に行方不明となってしまったのだ。目撃証言もなく、監視カメラにも映っておらず、警察による捜査が行われた者の終ぞ男性は見つかることなくその地震で唯一の行方不明者となってしまった。

 その後、現場の救急隊員が死亡を確認していたために彼は特例的に行方不明のまま死亡が認定され、結果彼の遺骨は墓に納骨されることなく今にいたる。

 

「2人とも、ありがとな。あいつの為に来てくれて」

「ううん、いいのよ」

「アイツも、俺たちと一緒に戦った仲間だからな……」

 

 彼ら3人には誰が聞いても信じてくれないような秘密を持っている。

 そして、今から彼らが向かう場所に眠っている人間もまた、ある秘密を持った男だった。

 2人の秘密が交差したのは今から四年前のこと。ある事件が起こった時に2人は他の多くの仲間たちと協力して強大な力に立ち向かい、そして勝った。

 それから一度も会ったことはないままにあの日、いなくなってしまった。

 もっといろんなことを話したかった。

 自分達の冒険の話をしたかった。

 金子にとっては、もっと自分を巻き込んで欲しかった。

 けど、そんな願いは届くことは決してない。

 何故なら、彼はもう死んでしまったのだから。

 

「おーい! 王太! 会長さん!」

「あ、皆! もう来てたのね!」

「……」

 

 階段の前、そこには今度は男性一名、女性が二名の組み合わせの三人がいた。

 

「久しぶりだな! 元気してたか王太!」

「まぁ、な」

 

 金髪の男性、十勝力(とかちちから)、王太の中学校の時の二年先輩だ。今は、塗装業の仕事をしているらしい。

 ショートヘアーの女性、二葉春夏(ふたばはるか)。彼女は王太の一年先輩の大学三年生である。この二人は、王太や今夜、そして金子の中学の時の同級生であり、そのころから見知った顔であった。

 そして、もう一人の女性。かおるは、金子の高校の時の同級生だ。そして、このメンバーの中では唯一秘密を抱えていない人間である。だが、それで疎外感を感じることは無い。

 そもそも四年前の事件で知り合った王太や今夜が頻繁にその秘密の話をしているのだが、その話があまりにも荒唐無稽すぎて信じていないだけなのだ。簡単に言えば、よくあるライトノベルの話として聞いているらしく、よくその話で投稿サイトに乗せてみればと冗談交じりに言われてしまうほどだ。

 こうして、集まった6人の若者は、階段を上った先にある《大天空寺(だいてんくうじ)》へと足を踏み入れる。

 すると、そこには一人の青年が境内を竹ぼうきで掃いていた。

 

「あ、どうも」

 

 王太は、青年に向けてお辞儀をする。すると、青年もまた6人に気が付き、眩しいくらいの笑顔でこちらも頭を下げて言った。

 

「こんにちは!」

「あの、《西郷》さんのお墓は何処にありますか?」

「西郷……あ、それならこっちですよ!」

 

 青年は、近くにあった木に竹箒を置くと、案内します。と言って彼彼女たちを案内し始めると、その直前、6人に振り向いた青年は思い出したかのように言った。

 

「あ、俺は《天空寺(てんくうじ)タケル》! この寺の住職をしています」

「住職? という事は、お坊さん?」

「そんなに若いのに、住職何ですか?」

 

 と、女性たちは、タケルの言う住職という言葉に少し疑問を持っているようだ。

 彼女たちのイメージだと、住職というのは頭髪を沿って丸坊主にしている老人という印象があった。しかし、目の前にいるタケルはそんな彼彼女たちの想像とは全く合致していなかった。

 

「うん、父さんが死んで……それ以来ここで」

「あ、すみません……」

 

 悪いことを聞いてしまったかもしれない。こんな若い身の上で住職をしているなんて、考えてみればそれくらいしか理由は思い当たらないはずなのに、なんとも彼に悪い質問をしてしまった。

 

「あ、ううん気にしないで! それより、西郷さんのお墓でしたよね。こっちです」

 

 さほど気にしていないというそぶりを見せたタケルは、案内を再開する。

 墓地、という物は多くは似たり寄ったりのためそれほど大差はない。墓石が並び、仏花が供えられる。このお寺の墓場もまたそんな事例に違わない極々普通の墓場だった。

 

「ここです。それじゃ、俺はこれで」

「はい、ありがとうございます」

 

 役目を終えたタケルは、彼らの邪魔をしないようにすぐに退散する。

 ここで住職をするようになってもう何年にもなるが、死者との会話がどれほど大切な物であるのか彼はよく知っていたのだ。なんとも心優しき人間である。

 

「久しぶりだな、大樹……」

 

 タケルを見送った王太達は、仏花を供え、火をつけた線香をさすとゆっくりと合掌する。

 確かに、ここに彼の遺骨はないかもしれない。しかし、彼の魂は眠っている。そう信じて。

 西郷大樹(さいごうたいき)はここに眠っている。はずである。だが、実はその時点で王太には何か予感のようなものがあった。

 

「俺さ、もしかしたらまだあいつが生きているような気がしてるんだ」

「え?」

「もしかしたら、あの時の俺たちみたいに異世界に行ってて……そこでなんとか生き返って、今でも冒険しているんじゃないかって」

「王太……」

「それって、前に言ってた泡のなんとか、ってところの事?」

「まぁ、それも俺の希望みたいなもんだけどな……」

 

 これが、かおるが信じていない物語の話だ。

 そう、彼女を除く5人は一度異世界に赴いたことがある。いや、彼彼女たちだけではない。もっと何倍もの人間が一斉に異世界へと転移したことがあるのだ。

 それは、今から数えること7年前の事。つまり、王太が中学生一年生の時の事。

 彼らの通う九江州(くえす)中学校、そして内部にいた生徒550人と先生が30分間の間消息不明になるという事件が発生した。

 帰ってきたときには当時学校にいた先生が全員と、生徒二十七名が行方不明になり、学校の一部が損傷。そして、校庭には何かが刺さっていたかのような跡が残っていた。

 当時、この怪奇現象に関して様々なワイドショーにて特番が組まれて、その消息を探す番組が立てられ、神隠し、どこかの国の陰謀なんてネットで呼ばれていた。

 極めつけが、帰ってきた生徒たちの証言である。

 ある者は、自分たちは異世界に行っていたのだと言い。

 ある者は、先生は地面から突き抜けた《だいそーど》なる物によって死亡したと言い。

 ある者は、消えた27人は異世界に残ったと言い。

 そしてある者は、自分たちは神と戦ったのだと言った。

 当然、このような話誰も信じる人間はいない、生徒たちは錯乱していた。そう多くの人間は言った。

 しかし、誰も信じなくてもよいが、これは本当の話であるのだ。

 実際に、彼ら九江州中学校の面々は、とある理由によって異世界《泡の中央界》に引き込まれ、そこで様々な冒険に身を投じた。そして数々の危機を乗り越えて523人の若者はこの世界に帰ってきた。

 その時中心人物として戦ったのは百地王太、そして549名もの生徒たちをまとめ上げたのが生徒会長であった千導今夜であったのだ。

 

「そうだったら、いいわね」

「だな」

 

 この王太の言葉に、周りの者たちも賛同した。

 そう、彼らは大樹が死んだという事を心の奥底では信じていなかったのだ。あの時の彼らの仲間であった者たちが一人も現れていないという事、そして《ただの地震》の犠牲者として死んだという事に疑問を感じていたから。そしてなにより救急車事消えたというのに、何故か大樹だけが行方不明扱いされて、その救急車に乗っていた、いや乗っていたはずの救急隊員は何処にも存在していないというらしいから。

 だから、彼らは信じている。自分たちの仲間は異世界か、それともこの地球のどこかか、それか、はるか遠くの未来で生きているのだと。

 

「よし、久しぶりに集まったんだ。どっか食べに行こうぜ!」

「……そうね、どっかで生きてるかもしれない大樹くんの分まで、ね」

 

 かおるは、そんな彼らの話を信じていない。信じていないが、しかし彼女もまたそうだったらいいなと思っている。自分が以前恋していた彼が、どこかで生きていればいいなと、思ってこれからも生き続けるのだ。例え、それが夢物語だったとしても。

 

「おや?」

「え?」

 

 帰ろうとした時、彼らは境内にいるタケルを見た。どうやら、女性と一緒にいるようだ。

 何かを話している。彼女であろうか。しかし、雰囲気がおかしい。なにか、女性は寂しそうな顔をしている。もしかして、別れ話か、それとも―――。

 

「あ……」

 

 女性は、王太たちのことに気が付くと、そそくさと階段の方へと向かい、そして街の方へと消えていった。

 そして、タケルは寂しげな笑顔を浮かべると王太に言う。

 

「皆もういいの?」

「あ、はい……あの、つかぬことを伺いますがさっきの人は?」

 

 好奇心が抑えきれなかったのか、王太はつい先ほどの女性の事を聞いてしまう。タケルは、困ったような表情をして、ため息をつくと言った。

 

「彼女は、俺の幼馴染で……恋人……だったんだ」

「だったって……別れたって事ですか?」

「いや、そういうわけじゃ……えっと、説明が、難しいんだ……」

「?」

 

 タケルは、本堂らしきものの木の階段に腰を落ち着かせると両手を合わせて言った。

 

「アカリ……あの子の名前なんだけど、アカリは……俺が小さい頃からよく遊んでて、年上ってこともあって俺は弟みたいなものになってて……よく面倒見てくれてて……」

「兄弟みたいに過ごしていたって事ですか?」

「そう、それ……」

 

 つまり、彼女とは小さい頃から姉弟のように過ごしていたから恋愛対象としては見ることが出来ない、見られないという、そういう問題を抱えているのだろうか。いや、根底はもっとややこしい物だった。

 

「……俺、記憶喪失だったんだ。彼女も」

「え?」

「記憶、喪失?」

「そう」

 

 そんな、二人いっぺんに記憶喪失になることがあるのだろうか。いや、もしかしたら自分たちが知らないだけでそういう事例があるのかもしれないが、しかし何だろう。何か今、言葉を選んでいたような間があったような気がする。

 

「それで、俺記憶喪失になる前から付き合っていた人がいたんだけど……その人が記憶喪失の間に、海外、に行ってて……それでアカリと俺は、記憶喪失になっている間付き合ってたんだ……それで……」

「記憶が戻って、関係が気まずくなってるって事ですね……」

「そうなんだ」

 

 先ほどからおかしい。肯定する発言にインターバルがなくて、まるで待っていましたと言わんばかりに食い気味で言葉を発している。まるで、嘘で嘘を塗り固めているかのようだ。

 

「だから、俺もアカリも……そして、今付き合ってる彼女とも、どう接すればいいのか分からなくなって……」

「……」

 

 随分と、気まずい話を聞いてしまった。どう反応していいのか分からない。というか、あまりにもややこしすぎる。

 つまり、アカリという女性は元カノではなく元カノであり今の彼女であり、そしてタケルにも今付き合っている彼女がいるという、不可抗力の三角関係となってしまっているわけだ。

 先ほどまでの王太達の話が異世界転生系のライトノベルであるとするのならば、タケルの話は濃厚な昼ドラを思わせる。

 

「ゴメン、変な話を聞かせちゃったね」

「いえ、聞いたのは俺ですし……」

「あ、そうだ。今日はおいしい和菓子があるんだ。よかったら食べて行ってよ」

「あ、はい……」

 

 別に聞かなくてもよかった話を聞いたのは王太であるというのに、その王太達をおやつに誘うなんて、なんと心の広い人間であろうか。王太たちは、タケルに感謝しながら本堂へと上がる。

 人の命は巡っている。

 一つの死が新たな出会いをもたらすこともある。

 その出会いがどのような未来をもたらすことになるのか。今はまだ分からない。

 分かることと言えば、一つだけ。

 命は奇跡なのだ。

 生まれるも奇跡、生きるも奇跡、そして生き切るも奇跡。

 この奇跡の中にいったいどれほどの命があるのだろう。

 どれほどの命が散っていったのだろう。

 奇跡のために、どれほどの犠牲があったことだろう。

 それでも、人は生きていくのだ。

 当たり前のようにその背後に存在する死と戦うために。

 当たり前ではない一日一日を生きるために。

 例え、明日死ぬ運命であったとしても。

 最高の一生を送ることが出来るように祈って。

 命の限り。

 人は、生きて、そして、死ぬるその日まで。

 必死の足掻きを見せるべく。




 クロノアイズ
 クロノアイズ グランサー
 仮面ライダーゴースト
           参戦
 ただし主人公はSAOには行かない。
 ダイソード組とクロノアイズ組が出会った系の話を考えると、参戦作品はどちらかと言えば
『長谷川裕一ひとりスーパーロボット大戦 大外伝』
 のほうがいいのかも? と思い、タイトルのところにハテナをつけました。


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SAO×ケロロ軍曹×小林さんちのメイドラゴン×這いよれ! ニャル子さん

 地球、それは数多くの侵略者に常日頃から狙われている。宇宙の歴史から鑑みるにとても異質な惑星である。

 一体何が彼らをそこまで掻き立てるのか。まるで引力にでも惹かれていくかのようにその者たちは地球に降りたち、そしてその侵略を目的とする。

 だが、その侵略の全てが叶ったことはない。この星には、人々の平和や人間の自由のために戦う戦士たちが、そして当たり前の日常を守る為に戦う少女たちがいたから。

 しかし、それは侵略者というカテゴリーの中ではほんの一握りにしかすぎない。

 地球には、今でもあちらこちらに潜伏し、侵略の機会を伺っている侵略者が山のようにいるのだ。

 これは、そんな侵略者の一つである者たちと、その侵略者を含めた宇宙人を取り締まっている組織に属している人間。そして、侵略してきたわけではないが、世界にすっかりと染まりきったドラゴンたちの、あるちょっとした悪戯から始まった出来事である。

 

《秋、ときいてみなさんは何を思い浮かべますか? 読書の秋。食欲の秋。芸術の秋。色々と思い浮かべると思いますが、今日この日に限っては、少し様子が違うようで……え? 私が、誰かって? あ、どうも。私、ケロロ軍曹のアニメのナレーションをしている人です。多分今回限りの出番になると思いますが、どうぞごひいきに……え? ケロロ軍曹が何か知らない? では、説明いたしましょう》

 

 謎の黒子は、そう言いながらどこからともかく講釈台を取り出すと、ハリセンでソレを叩きながら言った。

 

《西暦、20××年。地球は突然謎の地球外生命体に襲われた。空を覆い隠すUFO。残酷にして冷酷無比な侵略者。逃げ惑う人々。圧倒的な科学力の差。警察も防衛軍もなすすべもなく敗れ去り、そして地球は新たな支配者を迎えることになる。ハズだった……てな感じでアニメ第一話が放送されて今年で18年。宇宙人であるケロロ軍曹とその仲間たちが、地球人の少年少女たちと送る。愉快痛快ドタバタコメディ。それがケロロ軍曹というわけでして……》

「ゲロゲロリ……」

《おやおや、今日も軍曹は何か企んでいるようで。それでは、私はこの辺で……あまり長居しすぎると別れるのが辛くなりますし、後に残る物に任せるとしましょう。では、さようなら!》

 

 と言って、黒子は去っていった。いったい何者なのか、しかしこれだけは言えるのかもしれない。

 もう、二度と彼に会うことはできないであろうと。

 

「クルル曹長、作戦は順調でありますか?」

「もちの論だぜ~。第一フェイズ、第二フェイズ、共に問題なく遂行しているぜぇ~」

 

 緑色の、人の姿をしていないカエルのような生物は、黄色の、同じく人とは思えない人物にそう聞いた。

 この緑色の人物こそ、このケロロ軍曹という物語の主人公、そのものずばり《ケロロ軍曹》。ガマ星雲という星雲にある惑星、ケロン(スター)からある目的を持ってこの星にやってきたケロン人である。黄色い星のマークをお腹に付けているのが特徴だ。

 黄色の人物は、ケロロの部下の一人である《クルル曹長》。作戦通信参謀であり、ケロロ達が使用しているメカの設計、開発を担当している部隊のブレーンともいうべき人物だ。こちらは、お腹にはオレンジ色の渦巻きのようなマークを付けている。

 

「でも、本当にできるんですかねぇ?」

「誰にいってんだ坊主。地球の科学力なんざ、俺にかかれば原始時代の武器みたいなもんだぜぇ」

 

 クルルに聞いたのは、《タママ二等兵》。この部隊の中では唯一、オタマジャクシのような尻尾を持っており、部隊最年少のケロン人だ。胸のマークは、自動車に就けるような初心者マークであるのは最年少であり、まだ幼いという事が関係しているのかもしれない。

 

「おい、呑気にゲームなんてしている場合か! 俺たちの目的を忘れたのか!!」

「もう、そう怒らないでよギロ山君」

 

 ケロロにギロ山と呼ばれた赤い人物は、《ギロロ伍長》。彼のみ腹部には何のマークもない、ベルトをたすき掛けにしているのが特徴ともいえる人物だ。

 《軍曹》《曹長》《二等兵》《伍長》そして《部隊》。この名称を聞いて薄々感づいているかもしれないが、彼らはただの宇宙人ではない。軍隊に所属している人間だ。それも、ただの軍隊ではない。彼らは―――。

 

「俺たちは、このペコポンを侵略しに来ているんだぞ!」

 

 侵略者、である。

 ペコポンとは、ケロン人の中での地球を意味する単語であり、彼らはケロン星からの指令でペコポンを侵略しに来たのだ。したがって、彼らの部隊の正式名称は、《ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊》であり、その隊長がケロロ軍曹であるのだ。

 因みに、実際の階級上ではクルルの階級である曹長の方が階級は上であるのだが、体調の素質を持っていたのがケロロであったために彼が隊長の役職を持っているのだ。

 なお、この部隊に所属している軍人は彼ら四人だけではない。その時、クルルの目の前にあるモニターが作動した。

 

「おじさま、ニャル子さんたちが来ました。ていうか呉越同州?」

「おっ、グッドタイミングであります。モア殿、お通しするでありますよ」

「了解!」

 

 モニターは一瞬のうちに途切れる。

 このモア、という女性こそがこの部隊のもう一人の隊員。というわけではない。彼女はいわゆる外部協力者であり、ケロン人ですらもないのだ。

 そして、その本名を聞けば誰でも思い出すであろう。あの予言を。

 彼女の名前は《アンゴル=モア》。ノストラダムスの大予言、と呼ばれる1999年7月7の日に地球が滅亡するという予言の中に現れた恐怖の大王と同じ名前を持つ女の子であり、当の本人である。

 本来であれば、彼女が1999年に目覚めることによって地球は滅亡するはずだった。しかし、彼女が寝過ごしたおかげで1999年に地球が滅びることなく、さらに目覚めた後に滅ぼそうとした時に古い中であったケロロが《ある物》を守るために彼女を説得したことによって地球を滅ぼすことを止めて、以来彼らケロン軍に協力をしているのだ。

 

「おいケロロ! まさかニャル子というのは、あの惑星保護機構の者の事じゃないだろな!」

「ゲロ? そうでありますが?」

「何を考えている! 地球を侵略しようとしている我々と、惑星保護機構はいわば敵同士! 敵をわざわざ懐に入れるなどと!」

 

 と、ギロロはどこかで見たような形の銃をケロロの頭にめり込ませながら言った。

 《惑星保護機構》とは、宇宙連合に参加するだけの文明レベルに達していない惑星を宇宙人の介入による急激な変化から守るための組織であり、ニャル子という人物はそこに所属している隊員であるのだ。

 つまり、ギロロの言う通りケロン人である彼らにとっては敵と言ってもよい物、のはずなのに。何故ケロロがその人物を招き入れるようなことをしたのか。

 

「いやぁ、実は先日ゲロロ艦長のファン会がありまして、そこで意気投合しましてですなぁ。ニャル子どののご友人もこのゲームをすると言うので、どうせならニャル子殿もプレイしてみてはと誘った次第でして」

「アホかぁぁ!!」

 

 ケロロの言うゲロロ艦長というのは。その名前の通りゲロロ艦長という人物を主人公とした宇宙戦艦ガマトの戦いを描いた地球で大人気のアニメだ。その人物の容姿はどう考えても彼らケロン人と瓜二つであるはずなのだが、別に関係性はないらしい。

 ケロロが言うには、先日そのゲロロ艦長のファン感謝祭のようなものがあって地球人に変装して参加したところ、同じく地球のアニメに造詣が深かったニャル子とばったりと出会って、あとついでにファフニールなる人物とも意気投合してその後二次会をして互いの素性について語り合った挙句、本日サービス開始となるゲームにまで話が飛び、結果彼女たちの仲間も含めてみんなでゲームをしようという話になったとか。

 

「おい待て! 誰だファフニールとは!! ソイツも惑星保護機構の人間なのか!?」

「いや、彼はそう言った機関には所属していないらしいでありますが、どうやらただの地球人というわけではないらしく、吾輩たちの正体も一目見ただけで看破したそうな」

「そんな怪しい人間を基地の中にいれるなぁ!!」

「ゲロォォ!!?」

 

 と、ギロロはケロロに対して怒鳴るが、しかし怒るのも無理はない。

 普通の人間であれば決して見抜けるはずがないケロン人の変装を簡単に見抜き、そして惑星保護機構と侵略者双方に接触しようとしてきた怪しい人物を、わざわざ自分たちの前線基地に招き入れる馬鹿がどこの世界にいるのか。いや、ここにしかいないだろう。

 

「おじ様、ニャル子さんたちを案内してきました。ていうか一蓮托生?」

 

 ケロロとギロロが喧嘩をしている最中、モアが多くの男女を連れてケロロ達の元へと到着した。

 ところで、先ほどからモアの使用している四字熟語があまりその場その場に適応していない者であるのだが、それがある意味彼女のアイデンティティのようなものであるので仕方がない。

 

「ここがケロン軍の前線基地、なんともオタク心が揺さぶられる出来ですね!」

「ニャル子殿、ようこそおいでくださいました!」

「あの女の子がニャル子さんなんですか?」

「はい! あなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプです!」

 

 ニャル子は、仮面ライダー一号の変身ポーズのような物を決めながらそう挨拶をする。

 そう、彼女が惑星保護機構に所属しているニャルラトホテプ、通称ニャル子である。

 ニャルラトホテプという名前自体は、クトゥルー神話と呼ばれるアメリカの小説に登場する架空の神話に登場する這い寄る混沌、強壮なる使者の名前と同じであるのだが、どうやら本人であるらしい。架空の神話のはずなのに本人とはどういうことなのかと疑問に思うのだが、それはこの際置いておこう。

 

「そして、この丸眼鏡の男性こそ、ファフニール殿であります」

「フン……」

 

 ファフニールは、ケロロの紹介に対して不機嫌そうに顔を逸らした。執事のような恰好をしているが、どこかの屋敷に仕えている人間であるのだろうか。タママのホームステイ先である西澤家の執事であるポールのように。

 もしかしたらその背後に控えているメイドもまた同じ屋敷のメイドである可能性も考えられる。

 

「私はクー子よろしく」

「ハス太だよ。よろしくね!」

 

 と、ニャル子の知り合いという二人が、正反対の挨拶をする。

 クー子、もまたニャル子と同じく惑星保護機構の職員であり、ハス太は非正規職員のような立ち位置であるそうだ。

 そして、この二人もまたニャル子と同じようにクトゥルー神話の中にその名前を記す存在であるクトゥグア、ハスターの元ネタである。

 この三人が、時に協力し、時に喧嘩をしながら、地球上で発生する様々な宇宙人の事件を解決している宇宙人であるのだ。

 

「では、ファフニール殿の後ろにいるお二方が……」

「初めまして。私トールと言います。小林さんの家でメイドをしています」

「私はカンナ」

 

 と、ファフニールの背後にいたメイドの格好をした女生徒、そしてケロロより少し背が高いくらいの子供が答えた。

 

「おい、ファフニールとか言ったな……お前はいったい何者だ?」

「……」

「いや、お前だけじゃない。お前の仲間という後ろの二人もだ……ケロロはともかく、惑星保護機構の隠蔽を見抜く眼力は、ただの人間とは思えん」

 

 と、ギロロが不信感をあらわにしながらファフニールに聞いた。その後ろでケロロは彼に抗議しているがギロロは完全に無視している。

 ギロロはケロロの迂闊さという物をよく知っていた。そのため、ケロロの変装が見破られる可能性というのは多分にあり得ることだろう。しかし、惑星保護機構は違う。

 彼らの認識阻害能力というものは、とてもよくできており、特に彼らの使用する結界は、自分たちケロン軍の脅威のメカニズムをもってしても解析することは難しいという程の物。

 そんな彼らの使用する力を難なく突破する等、ただの人間にできるはずがない。果たして、ファフニールトは、トールとは、カンナとはいったい何者なのか。

 

「俺の正体など別にどうでもい。俺はただ……」

「私たち、実はドラゴンなんです!」

「そう」

 

 そっけなく対応しようとしたファフニールを押しのけ、トールが極当たり前かのように自らの紹介を果たした。カンナもまたトールの言葉に同意する。

 

「ドラゴンだと!?」

「確かに、よく見るとファンタジー物でもおなじみのツノやしっぽが付いていますね」

「本当だ。気が付かなかった……」

 

 と、ニャル子とハス太がトールの頭や背後についている尻尾を凝視しながら言った。

 認識を阻害する能力を使用する自分たちですらも認識するのに時間をかけるなんて、どうやらとても高度な技術を使っているようだ。

 

「ゲロゲロリ。それほどの認識阻害能力が備わっているのであれば、吾輩たちの正体を見破るのも朝飯前という事でありますな」

「そういうことです!」

「しかし、何故そのドラゴンであるトール殿がメイドなど?」

「それはですね……」

 

 ここで、トールたちドラゴンの紹介をしておこう。

 『トール』は、元々この世界の存在ではない。また別の異世界に住んでいた生物である。

 そちらの世界では、人間たちと敵対する立場である『混沌勢』という物に所属して、その中枢として戦っていたが、神々との戦いで背中に剣を突き立てられて重傷を負った。

 そして、そのまま世界を超えてこの世界にやってきたときに、彼女にある出会いが待っていた。

 それが、人間の女性『小林』との出会い。

 当時酔って山の中に入ってきた小林は偶然トールに出会い、酔った勢いで彼女の背中から剣を引き抜き、彼女の命を救った。

 それを恩義に感じたトールはメイドとして恩返しをするために小林の家でメイドとして暮らし始めたのだ。

 そして、この世界で生活を送る中で、元々彼女の世界にいたドラゴンの仲間もまたこちらの世界の地球にやってきて、暮らしを始めた。

 そのうちの一人が彼女『カンナ』。本当の名前は『カンナカムイ』というドラゴン。

 まだ幼竜である彼女は、元々いた世界でとある出来事を起こしこちらの世界へ追放されてしまったのだ。そして、親しかったトールがこちらの世界で生存していると知った彼女は、トールを探し出し、彼女と一緒に小林の家で居候をしているのだ。

 そして、ケロロ達の正体を見抜いた『ファフニール』。

 彼は、こちらの世界に来たドラゴンの中では唯一の男性である。

 彼に関しては恩返しのためにこちらの世界に常駐しているトールや、追放されたカンナのように特別な事情を持ってこちらの世界に来たわけではなく、二人の居候を抱えたことによって手狭になったために三人で暮らすことのできる家に小林が引っ越した時の祝いの会の際にこちらの世界にやってきた。そしてその後、どういうわけかこちらの世界に長居することになったようだ。恐らく、その理由はこの世界でハマった物が原因なのだろうが。

 そう、実は今回彼らが集まったのはあるゲームが原因であるのだ。そのゲームとは―――。

 

「それで、いつになったら始められるんだ。SAOは?」

「まぁ待ちな。あと10分で準備完了だぜぇ、クック~」

 

 『SAO』。本日、11月6日。サービス開始となるVRMMORPGである。

 本来、このゲームをプレイするためにはソフトとナーヴギアというゲーム機が必要であるはずなのだが、この部屋のどこを探してもソレに似たような物すらも見つからない。

 

「しかし、ナーヴギアを吾輩たちが使用することが出来ないと知った時にはどうなることかと思ったであるます」

 

 そう、本当は彼らもまたナーヴギアとソフトを購入しようとしていたのだ。しかし、試しにナーヴギアを使用して別のゲームをプレイしようとして見たのの、何故か彼らではVR空間に入ることすらもできなかったのだ。

 これは、彼らケロン人と地球人との頭の構造の違いによるものではないかという仮説が立てられたが、原因は不明である。

 そのため、ケロロの居候先の人間である冬樹や夏美が、同じくタママの居候先の大会社の令嬢である桃華が手にいれたSAOをプレイするというのに、彼らはお留守番という疎い目に合いかけたのだ。

 そこで、ケロン軍驚異のメカニズムの悪用である。彼らは、独自にSAOの世界に入ることが出来る装置『電脳世界侵入帽子(こどものころやったことあるぼうし)』を開発してそれを利用してゲーム世界に入ろうとしているのだ。

 実はファフニールは生粋のゲーマーであり、この世界に来てからという物、多種多様なゲームをプレイしていた。その中で、このSAO発売のニュースを聞きつけ、様々なサイトで予約をしようとした。しかし、残念ながら抽選に当たることが出来ずに変えなかったのだ。

 そんな時に、ケロロ達のたくらみを知り、こうしてケロン軍の前線基地(ケロロが居候している家の地下)に足を踏み入れたのだ。

 

「それで、トールさんやカンナさんもゲーマーなんですか?」

 

 と、タママが純粋に聞いた。一見して、ファフニールの仲間であるトールたちもまたゲーマーではと思ってしまうのだが、しかし彼女は首を振って言う。

 

「いいえ。ただ、小林さんがSAOを手にいれたという事なので、だったら一緒にゲームをしたいなと」

 

 トールの居候先の小林はSAOを自力で手にいれたらしく、ファフニールからケロロの事を聞いたトールは、せっかくだから自分もSAOをプレイしてみたいと申し出たそうな。カンナは、なんとなく面白そうだから来たという事らしい。

 さらにニャル子もまた同じような物らしい。

 こう聞くと、なんとも自分たちは似た者同士のようだ。

 地球人じゃないという事をはじめとして、 地球人と一緒に住んでいる。

 一緒に住んでいる人間がゲームを手にいれた。

 その人たちとゲームをプレイしたいと望んだ。

 こんな様々な一致、奇跡と言ってもいいのではないだろうか。なんだか、この先も自分たちは仲良くできそうな気がしてくる。そう考えるケロロなのであった。

 

「クック~、準備できたぜぇ。後はこれをかぶっちまえばSAOの世界に行くことが出来る」

「これって……運動帽ですか?」

 

 ニャル子が受け取ったのは、一般の小学生がかぶるような紅白帽だ。何故このようなデザインで作ったのかはなはだ疑問であるが、ともかく彼彼女たちはクルルのレクチャー通りに紅白半分半分にして頭にかぶった。なんだか昔の特撮ドラマみたいな格好だ。

 

「これでいいでありますか?」

「バッチリだぜぇ、んじゃ早速行くぜぇ」

「え、もうですか!?」

「ポチッと!」

 

 クルルは何の躊躇もなく目の前にある髑髏マークの書かれたボタンを押した。すると、ケロロたちの紅白帽が突如まばゆいばかりの光を放つ。

 

「ゲロォ!?」

「うおっまぶし」

 

 そして、ケロロたちの身体は瞬く間に消えてしまった。あっけなくという言葉が似あうくらいにあっさりと、まるで誰もいなかったかのように消えてしまったのだ。

 そして、それを見たクルルは一言。

 

「妙だな、魂だけゲームの世界に行くはずなのに、なんで身体まで消えちまうんだぁ?」

 

 そう、実はこの装置本当はナーヴギアと同じくゲームの世界に入るのは意識だけで、身体だけは現実の世界に残っているはずなのだ。しかし、実際に起こったのは身体の消失。

 これは、この装置本来の仕様を考えればおかしなものだ。この状態になると、本当にケロロ達がゲームの世界に行ったのかも不安になる。はずであるが、しかしこの男は違った。

 

「まぁ、俺には関係ないぜぇ、ピロシキ食べよ」

 

 と、まるで何事もなかったかのようにクルルは近くに置いてあったピロシキを手に取ろうとする。もはや他人事だ。今日初めて会ったニャル子やトールたちとは違い、ケロロやギロロは同じ部隊に所属している人間であるというのに、薄情な人間である。

 

「あっやべ」

 

 その際、自分の頭にかぶった装置の作動ボタンを誤って押してしまったことに気がついたがもはや後の祭りであった。

 そして、誰もいなくなった。




ニャル子「なんだか、私たちの扱いが雑すぎませんかぁ? せめて、私たちの持ち味のパロディ台詞をもっと言わせてくださいよぉ」

 すみませんパロディ台詞を多くしたらグダグダになりかけたので全カットしました。
 てか、この時点でパロディ全開作品4つ目(ヘボット・ナムカプ、というより小牟・ケロロ軍曹・ニャル子)か……ネタ探し大変だなこりゃ。


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魔女見習いをさがして×プリキュアシリーズ×仮面ライダー

 人の出会いは一期一会。

 最初は、ただの偶然だった私たちの出会いは、いつしかとても大きな友情へと変化して、大切な物へと変化した。

 《同じアニメが好き》という共通点だけを持って出会ってからさほど時は経っていないというのに、その数ヶ月で私たちの環境は大きく変化した。

 実習先で上手くいかずに、未来に不安があった女性は、一つの未来を思い描いた。

 仕事先で理不尽な目に遭い、今に不安を持っていた女性は、自分のしたい今を見つけた。

 そして、過去に縛り付けられ、前に進めなかった私は、過去から離れて自分の道を歩き出す。

 これは、そんな私たちに突然起こった別れと、そして新しい出会いの話。

 

 夏休みのある日、一人の女の子が里帰りを果たした。ここに帰ってくるのも久しぶりだ。前に来た時には、友達と一緒に来たっけと、わずか一年余前のことだというのに遠い思い出のようにすらも感じ取れてしまう。そんな懐かしい匂いが辺りには漂っていた。

 少女は、駅に着いた早々に深く息を吐き、そして吸う。まるで、この懐古感の様なものを味わっているかのようだ。

 

「シプレ、大丈夫です。周りには人はいませんよ」

 

 少女は周囲に誰もいないということを確認すると、腕の中に抱いていたぬいぐるみに向けて躊躇することなく話しかけた。正直言って少し怖い。一見すれば、生きているはずのないぬいぐるみを、普通の生き物であるかのように扱っている不思議ちゃんのような光景である。一般人が見れば、距離を置いてもおかしくないかもしれない。

 しかし、この少女は違う、不思議ちゃんというわけではないのだ。それをしめすかのように、ぬいぐるみは笑顔で言った。

 

「はいです! つぼみ!」

 

 これは、つぼみという少女が腹話術でぬいぐるみを動かしているわけではない。まぎれもなくぬいぐるみ自身が彼女に向けて話しているのだ。そう、そのぬいぐるみは生きているのである。そして、その正体はぬいぐるみではない。妖精なのだ。

 《シプレ》は、遥か天高くに浮遊する大陸に生えている《こころの大樹》と呼ばれる大木から生まれた妖精なのだ。

 そして、妖精のシプレと一緒にいる少女《花咲つぼみ》もただの少女ではない。彼女の正体はーーー。

 

「つぼみ、久しぶりに彼に会えるからって慌てすぎよ」

「あ、御免なさいおばあちゃん」

 

 と、つぼみが電車の中に起き忘れていた紐を襷掛けするタイプのかばんを持って電車から降りたのは、彼女の祖母である《花咲薫子》だ。彼女は、シプレの正体や、つぼみの秘密について知っている人物である。いや、ソレどころか彼女もまたつぼみと同じ秘密を抱えていたりする。

 その辺りのことに関してはまた改めてするとして、彼女たちは現在、生まれ故郷であるこの《鎌倉》からとおくはなれた場所に位置する《希望ヶ花市》に移り住み花屋を経営するつぼみの両親と共に暮らしている。なのに、何故この街に帰ってきたのか。それには、あるひとりの男性が関係してくるのだ。

 

「つぼみ、誰なんですか? 今日会いにきた人って」

「私の親戚なんです。えっと、確かおばあちゃんのお父さんの……」

「弟の孫、つまりつぼみのおじさんってことになるわ」

 

 今回2人が鎌倉に来た理由。それは、2人の親戚筋にあたる男性と会うためだった。

 その男性は、薫子の説明の通り、つぼみからみれば叔父の関係となる人間だ。最も、叔父は世界中を股に掛ける冒険家であるらしく、ほとんど日本にいることはない。そのため、彼と最後に会ったのはつぼみがまだ幼かった頃のことで記憶にもうっすらとしか残っていない。しかし、ただ優しい笑顔を振り撒いていたということだけは覚えていた。

 そんな彼が、この度久々に帰国してきたらしく、薫子自身久々に甥っ子と会ってみたかったし、覚えていなかったかもしれないが、つぼみにも彼と会わしてあげたいという思いから生まれ故郷である鎌倉でおち合うこととなったのだ。

 だが、ただ会うだけであったのならば、現在彼女たちが住んでいる希望ヶ花市でもよかったはず。何故、鎌倉を再会場所に指定したのか。

 それには、ある個人的な理由が関係していた、

 今からおよそ2年前のこと。この街に、一つのお店が誕生した。

 そもそもこの街は、とある少女アニメの聖地としても有名であった。ソレ自体は、つぼみがまだ生まれる前のアニメであるために彼女は放送当時に見たことはない。だが、今の時代は過去のアニメーションが様々な動画サイトで気軽にみられる時代である。ある時、ふとそのアニメがつぼみの目にとまり、絵柄を気に入った彼女はすぐに全話を視聴したのだ。そして、彼女はそのアニメが好きになった。

 絵柄が好みだったというか、親近感があったのも彼女がその作品を好きになった理由の一つ。けど、それ以上のメインのキャラクターからクラスメイトやその家族、そして別の世界に住む人々、多くの人たちが悩み、苦しんで、多くの挫折を得て、それでも立ち上がる、多くの人たちの助けを受けて未来への一歩を踏み出していく、そんな登場人物たちに感銘を受けた。それが理由だった。

 そんなアニメの聖地が、まさか自分がかつて住んでいた鎌倉だったなんて、つい最近知ったことだった。さらに、そのアニメに登場したお店が実際に鎌倉の同じ場所に存在すると言うではないか。

 正確に言えば、自分と同じようにそのアニメのファンの人がモデルとなった洋館をアニメとそっくりにリフォームして、お店の名前をアニメと同じにした喫茶店であるそうだ。

 それを知ってから、行こう行こうとは思った物の受験生となった自分ではなかなか時間を作ることができず、結局行けずじまいだった。そんな時に、叔父と会うという話になり、かつて一時期を過ごしていた鎌倉で会おうということとなった。

 そして今に至るのである。

 叔父に会うのも楽しみだ。でも、お店に行くのも楽しみだ。二つも楽しみがあるなんて、こんなワクワクするようなことがあるだろうか。いや、ない。

 とにかく、今は叔父と合流しなければならない。と、いう事で駅の改札を出た二人―シプレは再びぬいぐるみのふりをしている―は叔父の姿を探すのだが、どこにも見当たらない。

 

「おじさん、見当たらないですね」

「そうね。もしかしたら遅れてるのかも。あの人、青空が大好きだったから」

「青空、ですか?」

「そうよ」

 

 薫子は空を見上げる。そこには透き通るという言葉が似あうほどに雲一つない真っ青な空が一面に映えていた。

 

「この綺麗な青空に見惚れて、カバンを枕にして寝ているのかも」

「……」

 

 その優しげな笑みをみてつぼみは思った。自分の記憶の中にうっすらとしか存在しない叔父は、きっと心が優しい人間なんだと。祖母にこんな顔をさせるのだから、きっと青空のように心が透き通った人間なんだろうと。

 ふと、つぼみもまた祖母と同じように空を見上げる。何故だろう。何度も、いやいつも見ているはずの空が、こんなに綺麗に見えるなんて。

 なんだか、その空を見ていると悩みなんてものが全部ちっぽけな物に思えて、自然と笑顔になってしまう。だからなのだろう。叔父が、この空を好きだという理由は。

 自分も好きだ。この青空が。夜になっても、暗くなったとしても、曇り空になったとしても、必ずその向こうに光り輝いているその空が。

 そして、それを見て笑顔になる人たちが、自分も好きだった。

 

「え?」

 

 その時だ。つぼみの足下に何かが転がって当たった。下を見るとどうやら青い、ビー玉のような、でもビー玉よりは明らかに小さい物のようだ。

 つぼみは、ソレを拾挙げてみる。どうやらプラスチック製の玉のようだ。けど、どこかで見覚えがあるような気がしてならない。というか、これってもしかして……。

 

「魔法、玉?」

 

 そう、自分が最近ハマったあのアニメに登場する魔法玉というアイテムにそっくりなのだ。

 いやありえない。いくらこの町がそのアニメの聖地であったとしても偶然そのアニメに出てきたアイテムが転がってくるなんてこと、奇跡でも起こりえない限り。

 

「あ、あの!」

「え?」

 

 そんなつぼみに声をかける人物。つぼみが右を見ると、ショートヘアーの、髪を後ろで結んだ女性がいた。かばんから 少しだけ見える筆等を見ると、どうやら画家のようだが。

 

「その魔法玉……」

「え?」

 

 魔法玉、それはもしかしなくても自分が持っている玉の事なのだろうか。という事は、彼女がこの玉の落とし主なのだろう。

 というか、やっぱり自分が想像したとおりにこの玉は魔法玉だったのか、当然本物ではないおもちゃではある。しかし、たとえおもちゃであったとしてもこれは彼女にとって大事な物なのだろう。そう、魔法玉が言っているような気がした。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 つぼみが魔法玉を彼女に手渡すと、女性は笑顔でお礼を言う。そこまでしなくてもいいのにと思うが、恐らく礼儀正しい女の子であるのだろう。

 ここで、つぼみは女性に聞いた。

 

「貴方も見てたんですか? ≪おジャ魔女≫」

「え?」

「だって、魔法玉って≪おジャ魔女どれみ≫に出てきたアイテムじゃないですか」

 

 ≪おジャ魔女どれみ≫。今から20年近く前に放送された少女向けの魔法少女アニメの名前だ。

 その人気はすさまじく、見る物を感動させ、時に考えさせられるストーリーは、放送が終わってもなおファンを離すことのない魅力を放っている。

 

「てことは、もしかしてあなたも?」

「はい。と言っても、私が生まれる前に放送が終わってたから、動画サイトで最近ですけど。でも、面白かったです!」

「私も! 最後のシーズンだけリアタイして、後は動画サイトでコンプリートだったよ」

「そうだったんですか」

 

 まさかとは思ったが、やはり彼女もまた自分と同じくおジャ魔女のファンだったらしい。それに、アニメのほとんどを動画サイトで履修した自分ともよく似たところを持っているようだ。なんだか、気が合いそうである。

 

「私、花咲つぼみって言います」

「私は≪川谷レイカ≫。なんだか、私たち仲良くなれそう」

「私もそう思います!」

 

 と、おジャ魔女ファン同士で話に花が咲く二人。

 聞くと、レイカはこう見えても22歳の女子大生で、現在は横浜にある美術大学に通っているのだとか。つぼみの見たところ、まだ高校生だと言われても信じられるくらいに若く見えたためにこれは驚きに値することだ。

 横浜にある大学に通っているという事もあり、現在言葉遣いは普通になりつつあるが、元々は広島の尾道で産まれて20になるまでそこで暮らしていたらしく、そのため時折尾道弁というものが出たりするらしい。

 今日は夏休みに入ったことを理由として、現在鎌倉で店を構えている友人に会いに来たそうだ。

 

「それじゃその画材は……」

「大学に入ってけんは、長期の休みの時には鎌倉に泊まって、その人ん所でお客さんの絵を描かせてもろとるんよ」

「そうなんですか。私、この後親戚の人と会う約束をしてるんですけれど、そのお店行ってもいいですか?」

 

 こんな優しそうな女性の描く絵、一度見てみたい。そう思ったつぼみは、女性にそう問いかけた。本当はおジャ魔女に出てきたお店に行きたいが、しかし営業時間が合えばそちらに行った後でも十分行く時間はあるだろう。

 

「もちろんええよ。それに、おジャ魔女ファンのつぼみちゃんじゃったら喜ぶと思うけん」

「え?」

 

 おジャ魔女ファンが喜ぶ。ソレってもしかして。

 

「あの、そのお店って……」

 

 その時だ。

 

「うェ〜〜ん!」

 

 子供の鳴き声が聞こえてきた。すぐ近い。つぼみとレイカは話を止めて周囲を見わたす。すると、ふたりは見た。人混みの中で泣いている1人の女の子を。2人、そして2人が話し始めてからベンチでひとやすみしていた祖母が少女の近くに寄る。多分幼稚園児なのだろうか。

 

「どうしたんですか?」

「ママが、いなくなっちゃったの……グスン」

「あぁ、逸れちゃったんか」

「そう、心細かったわね……つぼみ、レイカちゃん。駅員に伝えてくるから、この子のことお願い」

「はい!」

「任せてください!」

 

 薫子は、2人に女の子ことを任せると駅員を呼びに行った。その場には心細い女の子と、つぼみとレイカ、そしてぬいぐるみのフリをしているシプレが残る。

 

「ママぁ……」

 

 女の子は今にも再び泣き出しそうだ。1人ぼっちじゃなくなったとはいえ、そばにいるのはつい先ほど声をかけたばかりの見知らぬ女性たち。きっと母親以外の大人の女性と会う機会なんてさほどないであろう少女の心細さは母親が迎えにくるまで治らないことだろう。

 

「大丈夫! お母さんすぐ来るけん!」

「そうですよ、えっと……」

 

 とりあえず、今はこの女の子を元気付けなければならない。でも、一体自分達に何ができるのだろうか。

 

「あ、そうだ」

 

 ここでつぼみは思い出した。そうだ。自分には子供受けにちょうどいい仲間がいたではないか。そうと決まれば話は早い。つぼみは、腕の中の《ぬいぐるみ》を彼女の前に差し出すと。

 

「ほ、ほらこの子シプレです! シプレ、挨拶してください!」

「し、シプレです! よろしくです!」

「つぼみちゃん腹話術できたん?」

「は、はい……」

 

 本当に精霊のシプレが喋っていることのだが、今は本当のことを明かせないので、腹話術ということにしておこう。とにかく、シプレの可愛さに関しては自分がよく知っているし、子供にも好かれているということを自分は知っている。現に自分が今住んでいる街にいる友達の妹やそのお友達の幼稚園児たちともシプレは友達なのだから。

 しかし、こと今回においてはあまりにも分が悪すぎた。

 

「ママァ……」

 

 母親と逸れた少女の心細さは彼女たちの想像の遥か先を行っていたのだ。

 薄氷のように繊細な子供の心、それが今まさに壊れそうというその時に助けてくれる存在は母親の心だけ。特に幼稚園児はソレが顕著なのだ。

 

「あぁ泣かないでください! えっと、えっと、レイカさん何かありませんか!?」

「え? 私!?」

 

 このままではまた女の子が泣き出してしまう。しかし、つぼみにはこれ以上彼女の気をひくようなものを持っていない。シプレという最終兵器を使っても彼女をげんきづけることはできなかったのだ。これ以上何があるというのか。

 一体どうすればいい。そう2人と一体が途方に暮れた時であった。

 

「「え?」」

 

 しゃがんでいる2人の顔の横。2人の間から一つの大きなてが伸びてきた。

 それは、なんでも包み込むことができるような、どんなものでも掴むことができるような、そして優しさが溢れ出てくる手。握り拳であるというのに何も怖いものはない。あんしんかんを与えてくれるとても暖かい手であった。

 その手は少女の顔の前にくると手を開く。親指が握り拳からでてきた。そこには、少し面白い格好をした指人形が付いていた。そして、その指人形がしゃべっているかのように親指を動かしながらこう言った。

 

「こんにちは、キミはどうして泣いてるの?」

 

 と。

 振り向くと、そこには男の人がいた。それも、優しい人間だ。

 つぼみは不思議に思う。どうして、優しそうなではなく優しい人間だと断定してしまったのだろう。

 それに、もう一つ不思議なことがある。自分達がどれだけ優しく語り掛けても泣きそうだった女の子が、その男性に話しかけらると、泣き止んだのか。いや、泣きそうだったのに泣き止んだというのはおかしかった。正しくは、涙が引っ込んだ、か。

 とにかく、もう少女の目には涙はなかった。何故、自分達があれほど苦労して成し得なかったことを彼は達成できたのだろうか。

 男性の質問に少女は涙を出さないようにと頑張りながら答えた。

 

「ママと、逸れちゃったの……」

「そっか、それは心細いね……」

 

 すると、男性は背負っていたバックパックを下ろすと、中からお手玉を5つほどとりだした。そして、それでジャグリングを始める。

 

「うわぁ……」

「上手……」

「です……」

 

 2人はいつしか、促されたわけでもないのに後ろに下がっていた。男性の邪魔をしないように。

 男性は、お手玉を次々と交互に投げてつかみ、投げて、つかみを繰り返す。時折トリッキーな技も取り入れつつ、見ている者を飽きさせることのないように連続して技を繰り出していた。

 こんな技見たことがない。2人は感銘を受けていた。なにより、ジャグリンを見ている自分達や少女だけじゃなく、男性もまた笑顔で、楽しそうにジャグリンをしている。それが、見ていて清々しい気持ちになっていた。

 そうか、笑顔か。男性からはっせられている安心感は、この笑顔の賜物だったのか。

 考えれば、じぶんたちが少女に話しかけた時には、どうすればそのこを元気づけられるかと考えて考えて、笑顔だったけど、その中に少し不安が混じっていたのかもしれない。だから、その不安が女の子にも伝わって、女の子が笑顔になれきれなかったのかも。

 けど、今は違う。今は、男性の純粋な笑顔のおかげで女の子には笑顔が戻り、そして自分達もまた笑顔になっている。これが、笑顔の本当の力なのか。つぼみの心は晴れやかだった。あの、自分の上にある青空のように。

 そういえば、この笑顔まえにどこかで見たことがある気がする。自分が多分、幼い時に。

 

「昔、アマゾンの探検隊についていったことがあったんだ。でも、俺のせいで道に迷って、おまけに探検隊のみんなの分の水を転んで全部流しちゃって、あの時は本当にどうしようもなくてもう死ぬほど怒られるって思った。でもさ、隊長や探検隊のみんなは、そんなの小さなミスだって言ってちょっとだけ注意を受けただけで、みんなで川をさがすために歩いたんだ。あの時は驚いたな、だって水も無くて道も分からないなんて小さなミスなんかじゃないもの。でもさ、その後いってくれたんだ。こんな時に大切なのは誰かを責めることなんかじゃない。みんなで助け合うことなんだって」

「みんなで……か」

「……」

 

 つぼみもレイカも、その言葉をまるで自分に向けられている言葉であるかのように聞いていた。

 2人とも、かつて1人ではどうしようもない危機に陥ったことがあった。自分1人じゃどうすることもできないようなことばかりで、もしかしたら、自分はこのまま何も変わることができないんじゃないか、過去に縛り付けられたままなんじゃないかと、そんな風に思うときもあった。

 けど、そんな自分達を救ってくれたのが仲間だった、同じ好きが理由で出会えた友人たちだった。

 皆で助け合ったから、みんながいたから、1人じゃなかったから。2人は、誰かが一緒にいるということの心強さを身にしみて感じていたから。

 男性はさらに話を続ける。

 

「その後なんとか川を見つけて、その下流にあった村にたどり着けたんだ。結局そこで怒られたんだけれど、どれだけのピンチでも、誰かのせいなんかにせずに皆で一緒に頑張ることが大切なんだ。俺は、そう教えてもらった。だからきっと、大丈夫」

「……」

 

 ジャグリングをやめた男性は、やはり笑顔で親指を上げてサムズアップという動作をとる。

 あぁ、そうか。今思い出した。自分はこの男性のことを知っている。たった一度だけ、でもその一度の出会いがとても印象の残っている。そんな彼のことを。そう、彼こそが自分のーーー。

 それからは、薫子が駅員と、それから女の子のことを探していた母親を連れてきて、女の子は男性がプレゼントした指人形とお手玉一つを持ち、男性に見せながら母親に手を引かれて去っていった。その時の彼女はやはり、とても素晴らしい笑顔であった。

 

「相変わらずね、雄介」

「え?」

 

 やはりこちらも笑顔で手を振っている男性に対して、薫子が言った。

 

「それじゃ、やっぱりこの人が私の叔父さんですか?」

「えぇそうよ。2010の技を持つ男、《五代雄介》」

 

 やはりそうだったのか。だが、2010の技を持つとはどういうことなのだろうか。

 

「2010の技ってなんです?」

「彼の使える技で、折り鶴とか、前転なんてものもあるのよ」

「それじゃさっきのジャグリングや指人形も……」

「そう、俺の技の一つ。あ、それと今は2022の技を持つ男、五代雄介です」

 

 というと、男性改め雄介は3人に自分の名刺を配った。そこには、たしかに2022の技を持つ男の異名が書かれていた。自作の名刺なのだろう。なんだかとても真心がこもっていそうだ。

 

「ソレにしても、つぼみちゃん久しぶり。前にあった時はすごい小さかったのに」

「え? あ、はい!」

「ふふッ、つぼみがあなたとあったのは3歳の頃よ」

「あ、そっか。それじゃ俺のこと覚えてないか……」

 

 3歳の頃ということは、今から12年前、まだ普通の人間であったら物心がついているかびみょうな時期だ。当然、つぼみもまた物心がついていない時期ではあった。だが、彼女はちゃんと覚えていた。彼の笑顔を。

 

「いいえ、覚えてますよ。あなたの笑顔」

「そっか。笑顔は、俺の1番目の技なんだ。ありがとう」

「はい!」

 

 つぼみは、そんな雄介に満面の笑みで答える。

 彼の笑顔にはなにか惹きつけられるものがある。きっと、彼はその笑顔でたくさんの人たちを笑顔にしてきたのだろう。先ほどの女の子のように。

 

「それじゃ行きましょうか。レイカさんのお友達のお店に」

「え?」

 

 レイカは、突然自分に話を振られて驚いた。

 同時につぼみはレイカに言った。

 

「きっと、私が行きたかったお店が、そのお店だから」

「あ、そんじゃ……」

「はい、私が生きたかったお店、それは……」

 

 こうして偶然に偶然を重ねて出会った2人の女の子と1人の男性。

 この時にはまだ知る由もなかったこの3人におとずれる冒険なんて。

 自分達の力が全く通用しない、全く未知な世界へと足を踏み入れることになる。

 そして、彼女にとっては2人と違ったまた別の恐怖が舞い降りることになる。

 果たして、3人に待ち受ける運命とは、その先に笑顔はあるのか。

 だが、これだけはわかる。例え、どれだけ理不尽な目に遭っても。

 どれだけ苦しくても。

 どれだけ悩んでも。

 どれだけ寂しく、悲しい思いをしたとしても。

 

「《MAHO堂》です!」

 

 あの子たちが心の中にいるのならば、きっと頑張れる。そう信じて。




 ハートキャッチプリキュア!
 仮面ライダークウガ
          参戦
 雄介とつぼみが親戚関係なのは、薫子さんの旧姓が五代だし、この世界観だったら1人や2人親戚筋がいるかもしれないと思ったからこんな設定になりました。
 もしかしたら、既に既出の面々の中にも親戚関係になっている人間がいるのかも……。
 あと、途中の雄介のジャグリング中のセリフは、本来ならSAOの中で出会った《仲間たちを巻き込んでしまった蝶々がモチーフのバンドのボーカルの女の子》を助ける時に使用していたセリフです。


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警視庁・捜査一課長×相棒×探偵学園Q 問題編

 おいついに全部がはてなになっちまったぞおい。
 因みに、ハンター×ハンターではありません。
 最後にアンケートがありますので、回答お願いします(言うのが遅くないか?)。


 日本。

 それは、スーパー戦隊や仮面ライダー、プリキュア。その他多くの戦士たちが人知れず日夜戦いをくりひろげている奇異な国。

 そのおかげもあり、世界中のどの国よりも平和な国であるとも言われている。

 しかし、それは表の顔にすぎない。

 今でもこの国では多くの犯罪が行われていおる。強盗、強姦、横領、窃盗、暴力、そして殺人。

 人が死なない日はない。不幸の中にいる人間は何万人といる。それは、異世界や宇宙からの侵略者よりも厄介なものなのかも知れない。

 だが、そんな人間たちを相手に戦いをする者たちがいた。

 仮面ライダーやスーパー戦隊もその中に何人かいる。しかしそれ以上に日本中の人々を救うために今も戦っている人間たちがいる。

 なんの力も持っていない人間だ。なんの能力も持っていない人間だ。しかし、その胸に灯る正義感を元にたたかっている人間たちがいる。

 それが、警察。それが俺たちの仕事だ。

 

「殺しか?」

「状況的には、ですが断定は……」

「解剖待ち……か」

 

 新宿のとある家。そこで、1人の男が殺されていた。

 被害者は、大型デパートの経営者であり現会長の《綱渡剛三》。80歳の老人であり、昨今の社会情勢もあってここ何年かは家の中からのリモート通信によって会社と連絡を取り合っていたそうだ。

 

「伊丹刑事、第一発見者は?」

 

 警視庁捜査一課所務担当管理官の小山田は現場に臨場していた警視庁刑事部捜査一課7係の刑事である伊丹憲一巡査部長に話を聞く。

 

「えぇ、第一発見者は、この家のお手伝いに来ていたハウスキーパーの《井出マリア》、専務の《中林勉》、被害者の孫で社員の《加藤拓郎》それから探偵クラブの子供だそうです」

「探偵クラブですか?」

 

 と、伊丹の言葉に引っ掛かりを覚えたのは、小山田と共に現場に来た警視庁捜査一課現場資料班主任の平井真琴である。

 

「えぇ、まぁ年齢も性別もバラバラで、クラブってのも怪しいものですが」

 

 伊丹は、嫌味ったらしくその情報が書かれている警察手帳を指で弾く。

 探偵クラブ。一体何者なのだろうか、伊丹の話によると面子は3人以上はいるようだが、何にせよどうして探偵クラブなんて物がこの家の中に入ってきたのだろうか。

 小山田はそれだけ聞くと、被害者の周辺を見渡す。家は木造平屋建ての一軒家で、被害者がいた部屋は物置として使用されていた部屋だそうだ。あたりには多くの段ボールがあり、それが全て倒れ、中に入っていたであろうスリッパが沢山散乱している。よくみると、段ボールの一つが潰れてしまっている。被害者の目の前にある物だ。

 

「犯人と揉み合ったのか?」

「現場の状況では……メイドのマリアさんの証言によると、前日まで整理整頓されていたらしく、今被害者が座っているロッキングチェアは、被害者が買ったもののすぐに飽きてこの部屋においてあったものだそうです」

「なるほど……」

 

 つまり、前日までここまで散らかっていたわけではないということか。様子から見て探し物をしていたような雰囲気ではないらしいので、これは犯人と揉み合ったことにより荒らされた物と考えられた。

 被害者は、部屋の真ん中にあるロッキングチェアーに座っている状態で発見された。胸には銃創があり、弾は貫通しているようだ。

 

「凶器は拳銃か?」

「えぇ恐らく、銃弾は被害者のすぐ後ろの畳にめり込んでいるのを発見。凶器はまだ見つかっていません」

 

 死因は解剖を待ってみなければ断定はできないが、胸を撃ち抜かれたことによる失血死、おそらくほぼ即死だったことだろう。それから、両方の踵に擦過傷に似た傷があったそうだ。

 部屋はダンボールで下が埋まっているためによくわからないが。おそらく5畳半程の大きさの様子だ。

 部屋の外には縁側があり、その奥には引き戸の窓が全開という状態であった。

 

「この窓は空いていたのか?」

「えぇ」

 

 小山田は、縁側に出ようとする。足の踏み場を探すのも難しいために、ただ歩いていくというのも一苦労だ。その時、バランスを崩した小山田は縁側に立てられている柱に手をついてしまう。

 

「ん?」

「どうしましたか?」

「いや……死亡推定時刻は?」

「はい、鑑識の話によると昨晩の十時から十二時の間ということです」

「十時から十二時? それって……変じゃないですか?」

「変?」

 

 この伊丹の報告に疑問を持ったのは平井である。

 

「どういうことだ?」

「だって、この辺って住宅街ですよね。そんな真夜中に発砲音が鳴れば、誰かが気づくんじゃないですか?」

「まぁ、確かに……」

 

 彼女のいうことも最もだ。拳銃の発砲音というものは想像以上に大きなものであるのだ。時に、耳栓をしなければ耳を痛めてしまう恐れもあるほどであり、この住宅街の真ん中で拳銃を撃てば、すぐ誰かがその音に気がつき、警察に通報するはずだ。

 だが,今現在のところ【銃声がした】という通報があったという報告は無い。

 しかし、この疑問に関しては伊丹が答えらしきものを持っていた。

 

「昨晩この付近では、雷を伴う豪雨に見舞われてました。雷鳴と勘違いされたのではないでしょうか」

「なるほど……」

 

 それなら、銃声があっても通報がなされなかった理由としては最もかもしれない。本当にそうだったという証拠はないにせよ、合理的に説明がつくのであれば現状はその推論に乗っかる他ないだろう。

 

「外部から侵入した形跡は?」

 

 次に、小山田は外部犯の線がないかを聞いてみた。その家には一本の大きな木が特徴的、あとは殺風景と言ってもいいほどの小さな庭があった。被害者のいた部屋からその庭へと行き来することが可能であり、また玄関から家の中に入ることなく庭へと来れば、家に入ることも可能だ。

 

「今のところ決定打は特には……足跡があったとしても、先ほど言った通りの豪雨で洗い流されているでしょう……」

「まぁ、確かにな……」

「怨恨の線はどうなっているんです?」

「それは今出雲の方が……」

「伊丹さん」

 

 と、そこに長髪の女性、そして短髪の男性の刑事が現れる。女性の方は伊丹が先ほど言っていた出雲麗音(いずもれおん)、男性の方は芹沢慶ニ(せりざわけいじ)。どちらも伊丹と同じく捜査一課七係の人間であり、事件があった際に行動をいつも共にするからトリオ・ザ・捜一と呼ばれている。

 

「メイドのマリアさんによると、被害者はかなり横暴な性格で恨みを持つ人間も多いようです」

「会社でも会議の時には毎回1人は叱責して、会議の半分がそれで終わるくらいだったと、専務の中林さんは言ってます」

「そうか」

 

 つまり、被害者を恨んでいる人間は山のように存在するということだ。凶器がないところをみると、犯人が持ち去ったと見て間違いない。物取りにせよ身内の犯行にせよ、他殺であるのは疑いようがないだろう。

 

「発見者から話を聞けたのか?」

「はい。あ、いえ」

「ん?」

 

 出雲が小山田からの質問にすぐ返答するが、即座に否定の言葉を発した。何かあったのだろうか。小山田が聞く前に芹沢が言う。

 

「実は探偵倶楽部の人達はその、三人の証言を聞いた後すぐに杉下警部に連れていかれまして……」

「連れていかれましてじゃねぇだろ!」

「すみません……」

 

 伊丹に叱責された芹沢は、申し訳なさそうに謝罪する。が、伊丹が怒るのも無理はないだろう。

 事件の第一発見者たる人物の半分以上に話を聞けないままで、しかも寄りにもよって《あの》杉下警部なる人物に連れていかれたのだから。

 

「杉下警部か……」

 

 小山田もまた困ったような顔をしてから、探偵クラブの面々に関しては後ほど話を聞くと言い、彼らが接触した三人の第一発見者の話を聞くことにする。

 その時だ。

 

「その話、俺にも聞かせてくれ」

 

 現れたのは、大柄の男性。眼光鋭い眼差しは、見る物全てを震え上がらせるかのようで、強者である、との印象を周囲に与える物だった。果たして、この男は一体。

 

「捜査一課長!」

 

 芹沢は、その男性に向けて勢いよく敬礼をした。続いて伊丹、出雲両刑事もゆっくりと敬礼をし、男性はそれに応えるようにキリッとした表情で敬礼をする。

 捜査一課長。それは警視庁に所属する400人以上の、凶悪犯罪に対して出動する捜査一課のトップであり、全体をかんりしている役職のこと。

 そして、彼らの前に現れた男性こそ、その捜査一課長であり、数々の難事件を一括的に管理し、時に現場に赴いて刑事たちの見本となるべき行動をとる男、《大岩純一》警視正である。

 捜査一課長の仕事の一つに、現場に臨場し、捜査本部を近隣の警察署に設置するか否かの判断をするというものがある。今回の場合がソレだ。本来であればもう少し早くに到着する予定であったのだが、原宿で発生した連続強盗殺人事件の犯人が断定されたことによる」指示のためにやや遅れて臨場を果たしたのだ。

 

「山さん、現場の状況は?」

「はい……」

 

 小山田は、現状で判明している事実だけを簡潔に説明する。最後に、第一発見者の《8》名の内5名は杉下右京警部補に連れていかれたという話をすると、ただ一言『そうか』と言って第一発見者の三人に話をきいた出雲、芹沢両刑事の話に耳を傾ける。

 

【ハウスキーパー 井出マリアの証言】

ーー=出雲OR芹沢の質問

「」=証言

 

ー被害者を発見したときの状況を教えてくださいー

「はい……あれは、私がこの仕事場にきてすぐのことで、探偵クラブの人たちが来たんです。そしたら、旦那様を呼んでもらいたいと……それで、家の合鍵を私が預かっていたので、それで入って……でも、いつもいらっしゃる書斎にはいなくて……探したら、物置部屋で……」

 

【専務 中林勉の証言】

 

ー被害者を発見したときの状況を教えてくださいー

「あ、あれは私が加藤と一緒に屋敷に来てすぐのことでした。玄関の前で依頼を受けた探偵さんたちが待っていて……それで、一体どうしたんですって聞いたんです。そしたら、屋敷の中から悲鳴が聞こえてきて……急いでその人たちと一緒に駆けつけると、中で、会長が……」

 

【被害者の孫 加藤拓郎の証言】

 

ー被害者を発見したときの状況を教えてくださいー

「専務と一緒に、昨日の謝罪のために出向きました。そしたら、屋敷の前で子供数人がいて……この家に何か用があるんですか? って聞いたんです。その時ひめいが聞こえて……俺は、驚いて先に行った専務や子供たちから少し遅れて部屋に来て……子供たちが、『中に入るな!』 って言って、何が何だかわからなかった……井出さんは口を押さえて崩れているし、専務の肩越しから除いたら、段ボールの山の真ん中で爺さ……会長が亡くなっているし、もう、パニックでしたよ……」

 

【井出マリアの証言】

 

ーあなたがこの家に来た時刻は?ー

「8時30分頃です。いつも、その時間に通勤しているので………」

 

【中林勉の証言】

 

ーあなたがこの家に来た時刻は?ー

「確か、8時50分ほどです」

 

【加藤拓郎の証言】

 

ーあなたがこの家に来た時刻は?ー

「9時前です。その時刻に会長の家に行く約束を専務としていました……」

 

【井出マリアの証言】

 

ー通報時間は9時05分ですけれど、あなたがこの家についてから被害者を発見するまで35分かかっているのですが、何をしていたんです?ー

「その……実は、旦那様に会いづらくて……私、昨晩旦那様を怒らせてしまったんです。それで、『不愉快だ! 今日はもう帰れ!!』って怒鳴られて……」

 

【中林勉】

 

ー何故今日は被害者の家に?ー

「実は、昨日加藤がミスをしでかしまして……会長は偉くご立腹になって、今日はその謝罪をするために加藤といっしょに赴いたのですよ」

 

【加藤拓郎】

 

ー謝罪とは?ー

「実は、商品の発注ミスをして会社に損害を与えてしまったんですよ。額自体は、数万円程度のものだったんですけれど、それで会長が『いずれは社長になる人間がこんなミスをしてどうするんだ!』って怒って、昨日の定例会議はそれで終わってしまったんです。それで、専務が一緒に謝りに行こうと言ってくれて……来たら、こんなことに!」

 

【井出マリア】

 

ー被害者に恨みを持つ人間に心当たりは?ー

「……旦那様のことを悪くいうつもりはありませんが、相当恨みを買っていたと思います。あんな横暴な性格ですし……それに……」

ーそれに?ー

「あ、いえ……なんでもありません……」

 

【中林勉】

 

ー被害者に恨みを持つ人間に心当たりは?ー

「非常に短気な人間でしたからね……取引先とも時折うまくいかない時がありましたし、会議の時には毎回1人は叱責して、会議の半分がそれで終わるくらいだったし、正直のところここ最近は『例のアレ』のせいで経営にも支障をきたしてて……精神的にも参っていたらしいですからストレスの解消のために起こり散らしているんじゃないかって、社内ではもっぱらの噂ですよ」

 

【加藤拓郎】

 

ー被害者に恨みを持つ人間に心当たりは?ー

「……会社の内外に多くいると思いますよ。あんな性格だし、俺が生まれる前のことですけれど、30年くらい前には社員をこき使いすぎて過労死や自殺に追い込んだんじゃないかって言われた時があったと、母は言ってました……」

 

【井出マリア】

 

ー一つ、よろしいですか? 眼鏡を頻繁に触っているようですけれど、それは何故でしょう?ー

「あぁ、実はこれ前に使っていた物なんです。今使っていた眼鏡は無くしてしまって……」

ーそれは、いつのことですか?ー

「三日前です」

 

【中林勉】

 

ー一つ、よろしいですか? 謝罪に来るのであれば、彼の直属の上司である課長や部長が同伴すると思うのですが、何故専務の貴方がご同行を?ー

「はぁ、実は彼……会社でもかなり疎まれているんですよ。会長からは将来の社長だからって厳しく教え込めと言われているんですがみんな腰が引けて……それで、今回も直属の上司が行くのを嫌がったので……」

ーいつも、そうなのですか?ー

「いつもというか……まぁ、ほとんどそうですね」

 

【加藤拓郎】

 

ー一つ、よろしいですか? 30年前の社員の過労死や自殺の際、裁判は起こされなかったのでしょうか?ー

「もちろん、裁判沙汰になったそうです。けど、会長の恐怖政治のせいで誰もしょうげんしてくれなくて、証拠不十分で不起訴になったそうです」

ー貴方と会長の苗字が違うということは、貴方の母親が会長の娘さんということでよろしいのでしょうか?ー

「はい……今はどこで何をしているのか……行方不明なんです。俺が、コネであの会社に入職してから……」

 

「おい、ちょっと待て」

「へ?」

 

 芹沢が報告を続ける中、伊丹が一旦話を止めた。別に第一発見者の証言が気になったとか、聞き逃したからというわけではない。問題なのは、質問の方なのだ。

 《一つ、よろしいですか》。このフレーズが妙に気にかかった。こんな奇妙な質問をする人間、1人しか思いつかない。、

 

「まさか、杉下警部も一緒に聞いていたんじゃないだろうな」

「えっと……はい……」

 

 伊丹は、無言で芹沢を叩いた。

 彼が怒っているわけ、それは杉下右京の素性にある。

 彼の所属は《特命係》という様々な雑務を遂行している部署、断じて捜査一課の人間なのではないのだ。そんな人間に証言を聞かせて、ましてや質問までさせるなど、本来は追い出してもいいはずだったのに何故そんなことをしたのか、ソレがあって彼は怒っているのだ、

 証言を再開する。

 

【井出マリア】

ー最後に被害者と一緒にいたのは貴方なんですか?ー

「恐らくそうです。昨日の午後8時頃でした。先ほども言いましたけど私のミスでお怒りになって、今日はもう寝ると寝室の方に……」

ーあの物置部屋へと被害者が入ることは?ー

「多分、頻繁に入ってるんじゃないでしょうか、あそこは収集癖のある旦那様のための部屋ですから。新発売されるものはすぐに買って、一昨日も、健康器具や水槽に靴に鏡にスリッパにギターにと、買いに行けって……まぁ、いつも1週間くらいで飽きて貸しコンテナ行きになるんですけど。その癖、靴に関してはずっと同じものを履いていて、穴が開きかけてるから買い替えた方が良いといっても聞かずで……」

―因みに、昨晩はそのまま家に帰ったのですか?―

「はい。自宅が、ここから1時間歩いたところにあるので……一人暮らしですし、証明できる人なんて……」

 

【中林勉】

ー被害者に最後に会ったのはいつですか?ー

「1週間くらい前ですね。リモート会議を除けば……それ以来この家に来たこともないですし……」

ー因み昨晩はどこで何をしていましたか?ー

「昨夜は一人で家で飲んでいました……証明できる人なんていません」

 

【加藤拓郎】

ー最後に被害者と会われたのは?ー

「さぁ、覚えていません、何せこのご時世ですし、自分は一社員なので……いくら孫でも……」

ー一緒には住まわれてないんですねー

「えぇ……まぁ……いろいろありまして……」

―昨晩は何処で何をしていましたか?―

「自分を疑うんですか? いえ……そうですね、怒られた気晴らしにと一人で飲んていました……証人はいませんけど……」

 

【井出マリア】

ー最後に一つよろしいですか? この家には靴下が見当たらないようなのですが、それは何故でしょう?ー

「会長は、靴下が苦手で、家には一足も靴下が無いんです」

ー靴のサイズは?ー

「え? 23cmですけど……」

ー会長の靴のサイズは、知っていますか?ー

「同じです、23cm……」

 

【中林勉】

ー最後に一つよろしいですか? 靴のサイズは?ー

「に、27.5cmですけど……」

 

【加藤拓郎】

ー靴のサイズは?ー

「25ですけど、それが何か?」

ーどうも、ありがとうございましたー

 

「以上が、三人の証言です」

「むぅ……」

 

 改めて三人の証言を聞くに、被害者が実に多くの人間から恨まれていたという事が分かる。とくに、30年前にあったという社員の過労死に関する裁判。

 

「30年前の事件、気になりますね……」

「そうだな。出雲刑事、すぐに裏どりを……本当にそんな裁判があったのか、そして家族の行方も探ってくれ」

「分かりました」

 

 出雲は、大岩の命令を警察手帳に書くと、すぐに家を飛び出して行く。

 続いて気になることは、中林の証言した、ここ最近被害者が精神的に疲労していたという事実。

 

「自殺……の可能性もあるか」

「え? 自殺ですか?」

「いや、確かに≪アレ≫のせいで、特に経営者は窮地に立たされているから、自殺の理由としてはあり得るかもしれませんが、それなら、凶器がどこかにあるのでは?」

「……」

 

 確かにそうだ。もしも仮にこの事件が被害者の自殺であるとするのならば、当然凶器となる拳銃がこの部屋のどこかに落ちているはず。少なくとも、崩された段ボールの上にあるはずだ。だが、段ボール以外に見えるのは、未使用の水槽や購入してすぐのような真新しい鏡等々先ほどの証言の中にも会ったような品ばかり。拳銃など見当たらない。となると、これはやはり他殺か。

 

「一度、この段ボールのけてみませんか?」

「なに?」

 

 と、大岩にそう提言したのは平井である。

 

「もう現場写真は取っているし、鑑識の仕事ももうすぐ終わりますから、段ボールをのけてみるのはどうかと?」

「いや、どうかとってオマエな……」

 

 小山田はこの平井の提案に難色を示す。当然だ。現場保存という物は操作に置いて最も重要視されている物。犯行が行われた現場そのものを残すことによって、犯行当時の状況をイメージする刑事も時にはいる。いわば、犯行現場そのものが重要な証拠品なのだ。そんな証拠を崩すような真似を、勝手に許可できない。

 

「いや、大福のいう事もありかもしれないぞ」

「一課長?」

 

 しかし、その直属の上司である大岩の発言があるのならば話は別だ。

 ちなみに、大福と言うのは中に入っている小豆を犯人を取り逃す黒星に例えて、それを白い皮で包み込む、転じて犯人を必ず捕まえるという

心構えのために弦担ぎで大福を捜査の際に食べている事からつけられた彼女のあだ名である。

 

「この段ボールが崩れた理由が、犯人ともみ合ったことにするにせよ、また別の理由であるにせよ、自殺した直後に段ボールが崩れたという可能性も捨てきれない。この下に拳銃がある可能性だってある」

 

 この部屋は元々物置部屋として使用されていたという。という事は、本来段ボール箱はこの部屋に山積みとなっていたはずだ。それが、例えば被害者が自殺した直後に何かのはずみで崩れ落ちたとなれば、拳銃がその下敷きになっていたとしても不思議ではない。

 

「では……」

「そうだ。この段ボール箱を片付ける。念のために、動かす前に写真を撮ることを忘れるな」

「いや、片付けるって……結構な量ありますよこれ!?」

 

 芹沢の言うように、中には重いダンベルの入った段ボールまであるようだ。このようなものまで含めて段ボールを片付けるとなると、それはそれは重労働になることだろう。

 それに、段ボール箱の下に本当に何かあるとは限らない。下手をすれば徒労となることもあり得るのに、モチベーションが上がるわけがない。

 第一、まだ特別捜査本部も立ってないうちからか、操作を始める意味もないような気もする。

 が、しかし。

 

「なら、俺一人でやる」

「え?」

 

 大岩は、そう言うと上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。そして、ある段ボールをスマホで写真を撮影した後に持ち上げた。それは、まさに先ほど彼が言った通りの行動だった。

 

「捜査一課長……」

「やるしかねぇな……おい、芹沢! お前はそっちだ!」

「あ、はい!」

「私、外から応援を何人か呼んできます!」

「頼んだ、この家中を隅から隅まで探すぞ!」

「応よ!」

 

 そうして、それに倣うかのように伊丹、芹沢、小山田もまた動き始め、平井が外にいる捜査官に応援を頼んでくる。

 さらに、捜査一課長の姿に感化されたのか、鑑識達もまた負けてられないとばかりに家じゅうをくまなく捜索し、最終的に見つかった物を以下に記す。

 

≪台所≫

 空っぽの冷蔵庫

 水の入ったコップ

≪玄関≫

 スリッパ、被害者の靴(濡れていた)

≪庭にある物置小屋≫

 足に乾いて間もない泥の付いた脚立

≪事件現場 段ボールの下≫

 廊下から被害者のいた場所にまで続く二本の何かを引きずった跡

 皮性の樹脂が底に付着した凹んだ薬莢

 壊れた眼鏡

 

 また、木と事件現場の間の柱には黒く何かがこすりついた跡(小山田が気にしていた物)。

 そして、木からはゴム製のもので吊り下げられていた拳銃が発見された。

 

「おいおいどうなってんだ……」

 

 髪を後ろで結んでいる刑事が困惑するのも無理はなかった。今、彼らの目の前には自殺とも他殺ともとれるような証拠品が並べられているのだから。

 

「一課長、これは一体……」

「むぅ……」

 

 これは、多少想定外だった。自殺の証拠が見つかれば後は裏付け捜査を行えばいいだけ。他殺の証拠が出てくれば特別捜査本部を立ち上げて犯人を追うといういつものパターンだ。

 しかし、自殺とも他殺ともとれる証拠品が出てきてしまった今、中途半端な捜査方針を立てることはできない。すなわち、自殺と他殺の両方を考えて捜査に当たるという事だ。

 知っての通り、東京ではほぼ毎日のように凶悪事件が発生しており、その都度捜査本部が立ち上がる。

 大岩の仕事は捜査本部の管理と人員配置もあるのだが、当然捜査員の数にも限りがある。もし中途半端に方針を決定して自殺の事件の他殺の事件と同じくらいの捜査員を置いてしまうと、本当に凶悪事件が発生した場合そちらに回す捜査員がいなくなる。

 逆もまたしかり、自殺だと思って裏付け捜査だけをしていると他殺であった場合犯人を取り逃しかねない。

 自殺、他殺の両方の線を当たれば、確かに半分半分に捜査員を配置することが出来るのだが、この不可解な現場を前にしてそんな中途半端な決定を下していい物か、大岩は決めかねていた。

 

「こんな時に杉下警部がいてくれれば……」

「芹沢、特命係に頼るんじゃねぇ!」

「なんでそんなに特命係を眼の敵にしてるんすか?」

「当たり前だろ! なんせ……ん?」

 

 その時伊丹、そして大岩もまた気が付いた。見覚えのない捜査官が一人混じりこんでいるという事実に。

 

「だ、誰だお前!」

 

 一体いつからこの男はいたんだ。ずいぶんガタイのよさそうな男だが、見覚えがない。そういえば、さっき平井が外に応援を呼びに行ったときに入ってきた一人なのだろうが、少なくとも警視庁の人間ではないことは確か。では、所轄の人間か。いや、所轄の人間なら先ほど全員が聞き込みに向かって言ったはず。では、一体この男は。

 

「あ、ばれちゃいましたか? へへ、実は杉下警部に頼まれましてね」

「杉下警部に?」

「えぇ、僕が頼みました」

 

 そこに現れたのは髪をオールバックにした眼鏡をかけた老紳士のような佇まいの人間。彼が、先ほどから話に頻繁に登場していた≪特命係≫所属の杉下右京である。

 

「杉下警部、どういうことですか?」

「えぇ、実は僕たちも独自にこの事件の事を調べていましてねぇ」

「僕……≪たち≫?」

 

 大岩は、杉下の言葉尻が少し気になった。僕たちという事は、複数人でこの事件を調べているという事。だが、杉下の相棒であった≪特命係≫の人間は先日警視庁から去っていったため、今特命係に所属しているのは彼一人だけだったはず。

 では、捜査員に紛れ込んだ彼の事を言っているのか。いや、違う。それは、一種の刑事の勘の様な物で確固たる証拠はないが、何か違うような気がした。

 

「それより、大岩一課長……耳に入れたい情報が」

「ん?」

「まず、メイドのマリアさんは、昨日近所の人と井戸端会議をしていたそうで……その時、相手は彼女に違和感を感じていたそうです」

「なに?」

「それと、どうやら被害者は命を狙われているから助けてくれと、ある場所に助けを求めていたそうです。昨日の夜の事です」

「依頼……」

「もう一つ、台所に置いてあったコップからは、睡眠薬が検出されました」

「……」

 

 大岩は、杉下のその言葉を受けて考え始める。もし杉下の調べてきたことが正しいというのであれば、大岩の頭にうっすらとあったとある人物の犯行であるという考えが否定されてしまうからだ。では、一体誰が犯人であるというのか。はたまた、本当に自殺であるというのか。

 いや、もしかするとこれは―――。

 

「一課長、特別捜査本部を立ち上げますか?」

「いえ、その必要はないでしょう」

「なに?」

 

 杉下は小山田に物申した。

 小山田は伊丹たち程特命係を邪魔者扱いはしていない。むしろ彼のおかげで解決することのできた難事件が多いために、感謝しているくらいだ。

 しかし、そうであったとしても杉下右京と接する時には常人に理解できないような考えを披露したり、おかしなことを言ったりと、いわば変人のような物言いのためにいつも身構えてしまう。

 そんな小山田が右京に聞く。

 

「どういうことです。杉下警部」

「この事件の答えは、すでに出ているという事ですよ。この犯行を行った人物も、その人物の犯行を示す証拠品もそろっています」

「なっ……」

 

 あまりにも早すぎる。自分たちがこの場所に来てまだ2、3時間しかたっていないというのにこの男はもう、すべてが分かったというのか。

 

「ですが、全て僕が推理したわけではありません」

「なに?」

「どうぞ、来てください」

 

 それは,一体どういう意味なのか。小山田が質問をする前に、杉下は外から数名の子供たちを呼び寄せる。

 

「あ、君たちは!」

「なんだ? こいつらのこと、知ってんのか?」

 

 芹沢は、現れた子供たちに反応する。彼、彼女たちを知っているのだろうか。

 

「あ、あの子達ですよ! 杉下警部が連れ去った第一発見者の子供たち!」

「なに!?」

 

 あの子供たち、そしてつい先ほどまで自分達のことを手伝っていた男性もまた、怪しい探偵倶楽部の少年少女たちということなのか。

 というより、杉下警部の話の通りだと、この子供達が事件を推理したということなのか。

 伊丹は、現れた五人の少年少女たちを改めて見直す。

 一人は、糸目で後ろに髪を結んだ長身の男。彼がつい先ほどまで 自分達と一緒に段ボール箱を片付けていた人間だ。確かに長身ではあるが、高校生か、中学生のようには見えるので、彼もまた少年と呼称しても良いのかもしれない。

 二人目は、ニット帽を被ったパソコンをその手に持った少年。小学生だろうか。

 三人目は、紅一点。五人の中で唯一の女の子。ツインテールが特徴的な、恐らく中学生の女の子。

 四人目はややミステリアスな少年。その目の奥にはなにか闇のようなものを感じ取れるこちらもおそらく中学生であろう男。

 最後に五人目。これといってなんの特徴もない少年がただ一人。しかし、伊丹はその少年が一番気になった。なぜだろう。それは恐らく、その真剣な眼差しを見たからだろう。この事件を、単なるクラブ活動の遊びで解決しようとするのではない、真実を明らかにしたいという熱意のようなものを、その少年から感じ取っていた。

 一体この五人はなにものだ。少なくとも、只者ではないことは確かだが。

 

「なるほど、君たちだったか……」

「お久しぶりです。大岩一課長」

 

 と、ミステリアスな少年が大岩に挨拶をした。そのやりとりからすると、大岩は彼と面識があるのか。否、たちという言葉から察するにもしかすると全員と面識があるのかもしれない。

 

「一課長。彼らをご存知なのですか?」

「ん? そうか、山さんや大福は彼らと捜査をするのは初めてか? 伊丹、芹沢、お前たちも、初めてのようだな」

「まぁ、誰なんですか? こいつら……」

 

 伊丹のその言葉をきいた子供たちは、互いにかおを見合わせる。何かを確認している様子で、ゆっくりとそれぞれに頷くと、懐からあるものを取り出した。手帳のようだ。

 

「なっ!?」

「えぇ!?」

 

 伊丹たちはそこに書かれている文字に驚愕することになる。そう、彼らはただの子供ではない。そして、探偵倶楽部というのも彼らが使用しているたてまえのようなもの。

 ある探偵から一目を置かれ、その志を受け継いだ若き探偵の卵たち。

 数々の難事件に挑み、謎を解き、真実を解き明かしてきた実績を持つ事件捜査のエキスパート。

 彼らこそが。

 

「DDS……団探偵学園Qクラスの生徒です!」

「DDS!?」

「あ、あの伝説の探偵、団守彦が設立した……探偵学園の生徒!?」

 

 団守彦。それは、《武偵》を除き、日本で唯一の拳銃所持を認められた日本随一の名探偵の名前だ。その功績から、警察から《警視庁特別公認探偵》の名称を唯一所持している人間である。残念ながら、彼自身は一年前に病気でこの世を去ってしまったが、彼が生前に設立した探偵社、団探偵社、通称DDC(Dan Detective Company)そして団探偵学園、通称DDS(Dan Detective School)の人間たちがその志を継ぎ、日夜難事件と戦っている。

 そして、そんな彼の生前設立したDDSの生徒たちの中でも、とくに団守彦が生涯最後の仕事として、自らの後継者を選ぶために設立したクラスがある。それが、Qualified、資格を与えられたという意味でつけられたQクラス。彼ら五人が、そのQクラスの生徒であるのだ。

 

「俺は、遠山金太郎!」

「鳴沢数馬です」

「美南恵です!」

「天草流です」

「連城究! よろしくお願いします!」

 

 Qクラスの面々は、見ていて惚れ惚れするような綺麗な敬礼をすると、それに追随するように大岩もまた敬礼を返し、平井以下四名もまたそれに倣う。

 大岩は以前、団探偵の死去の際にあった告別式の折に、団守彦のあとを継ぐものということでDDSの講師に紹介されたために彼らとは面識があったのだ。だが、これまで警視庁管轄の現場で彼らと遭遇したことがないため、その推理力が如何程のものであるのかはまだ彼も知らないのだ。

 果たして、団守彦の後継者たる彼らの実力はどのようなものか。敬礼を崩したのちにリュウが言った。

 

「僕たちは、被害者からの依頼でこの家に訪れました」

「依頼?」

「えぇ、先ほど杉下警部が大岩一課長に伝えたように、誰かに狙われているから助けてくれ、という依頼です」

 

 その言葉から引き継ぐように恵、通称メグそしてカズマが言う。

 

「そこで、私たちQクラスがDDS現学園長の指示で依頼人から話を聞くために派遣されました」

「でも、ついた途端に事件が起こって、急遽事件捜査に切り替えて捜査を開始しました」

「なるほど……」

「それじゃ、捜査官に紛れていたのは……」

 

 遠山金太郎、通称キンタが警察の制服を脱ぎながら言った。

 

「本当は、被害者を見つけた時点で現場を捜査したかったけど、警察が来るまでは荒らすことはできねぇから、キュウ達には他のところを捜査してもらって、現場を片付ける時に手伝って必要な情報を携帯で知らせるってことになってたんすよ」

「……」

 

 それじゃ先に言っててもらいたいと、小山田は言いたかった。だが、以前聞いたところによると、団守彦は事件現場で安易にDDSの手帳を見せて現場の捜査官を黙らせるという方法は取ってもらいたくないという方針をとっていたそうだ。

 DDSの手帳とは、その存在自体が警察手帳に匹敵する権力を有する、いわば捜査にたいする免罪符のようなもの。その威力は絶大だが、逆にそれを知らしめすことによって犯人を刺激しかねないという諸刃の剣のような役割を持っている。だから、団守彦は前述の方針をとっていたのだ。

 きっと、彼らはその団守彦の教えを守って事件が解決されるまで自分達の正体を明かさずにおこうと決めていたのだろう。そんな彼らが自分達の正体を明かした。それ自体が、この事件の謎が解けたということの何よりの証拠だった。

 

「それで、謎は解けたというのは本当ですか?」

「はい!」

 

 最後の五人目、キュウは彼らに向けて言った。

 

「ヒントは7つ!!

1つめに『畳についた傷と柱についている跡』

2つめは『睡眠薬入りの水の入ったコップ』

3つめ『現場の状況と眼鏡』

4つめに『濡れた被害者の靴と足のサイズ』

5つめが『潰れた薬莢と段ボール箱』

6つめ『山積みになったスリッパ』

7つめが『第一発見者の尋問の時に出てきた矛盾』」

 

 それらを述べると、一度目を閉じる。まるで、自分自身が言ったそれらのヒントを噛みしめているようだ。

 そして、大岩はキュウからもらったヒントを元に、頭の中で瞬時にロジックをくみ上げていく。これまでの情報と、彼らが見つけたヒント、そして、自分の中の刑事の勘。それらを組み合わせた結果、浮かび上がったもの。

 

「なるほど……そういう事か」

「一課長さんも、分かったみたいですね」

「あぁ、君たちのヒントのおかげでな」

「なっ……」

 

 伊丹は、その大岩の言葉に驚いた。杉下右京はともかくとして、子供たちがこの事件の謎を解いたという事も驚いた。しかし、そのヒントだけを聞いた大岩の頭の回転の速さにも驚く。いや、これは、多くの情報を元にして多くの特別捜査本部に指示を与えている一課長ならではと言えるのかもしれない。

 キュウは、大岩の言葉を受けて自信満々に言い放つ。

 

「そう、答えは……一つだ!!」

 

 真実はたった一つしかないのだから。




 警視庁・捜査一課長
 相棒
 探偵学園Q
      参戦決定

 警視庁・捜査一課長に関しては外伝オンリー参戦となっていますが、いわゆるスポット参戦枠で出番は少なくなるかもしれません。
 相棒からは、とあるキャラクターがSAOに行ってもらい、後は外伝オンリー参戦となります。
 そして、探偵学園Qからは目下のところ三人がSAOプレイしてもらうという事になっています。

 裏話。実は、探偵学園Qというか刑事・探偵ものを入れようとするとある参戦予定作品の設定との矛盾が起こってしまう懸念がありましたが、そこにある独自設定を入れようと思っています。
 また、解決編に関しては二日半くらいしてから投稿いたします。その間に推理していてください。
 24時間連続投稿終了。さて、来年からエイプリルフールのネタどうしよう……。
 考えてみれば、今回エイプリルフール2年目小説群の中で唯一のSAO原作キャラの登場が、シンケンジャー(その2)だけなのでは……?


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警視庁・捜査一課長×相棒×探偵学園Q 解決編

 キュウたちが現場に帰ってきてから一時間後、帰ってきた出雲刑事そして三人の第一発見者も含めて全員が応接室に集められる。

 その部屋は、簡単な会議室のような役割を持っていたらしく、十人以上の大人が入っても手狭に感じることはなかった。

 

「あ、あの。一体何が始まるのでしょうか?」

 

 マリアが、不安そうか顔をして聞く。警察からの尋問の後しばらく待っていてくださいと言われて他の二人、そして警察官と一緒に待っていたら、突然この部屋に案内されたのだ。

 中に入ると、自分達と一緒に会長を発見した子どもたちや、大勢の刑事が待っていると言う異様な光景を見せられているのだから不安にならないわけがない。

 彼女の質問の後、杉下右京が誰よりも前に出てき、そして少しの溜めを作った後に言った。

 

「この事件の、真実です」

「真実って……」

「一体、何です?」

 

 加藤、中林の二人の言葉を受けた杉下は、指を一本立てると言った。

 

「まず、この事件は当初、殺人事件であるとみられていました」

「まぁ、断定はしてなかったですけどね」

 

 と、伊丹が嫌味ったらしく言う。そう、凶器の拳銃が現場にはなかった。これは、何者かが持ち去ったと言うことの裏付けである。

 しかし、解剖の結果殺人か、自殺のどちらかで捜査をすると言う方針をとろうとしていたので,断定というのは間違っている。事実、大岩も自殺の線か、殺人の線か、どちらに方針を定めるのかを決めかけていたのだから。

 

「けど、その後現場を検証した結果、庭先にある木にごみ紐でつるされた拳銃を発見したんだよな」

「ゴム紐に、銃?」

 

 キンタの言葉にマリアは首を傾げる。何故そんなところに凶器があるのかと。

 普通なら凶器から指紋などの物証が出るのを恐れて持ち去っているはずの物を、なんでそんなところに吊るす必要があるのか。

 そんな、マリアの疑問に対し、リュウは冷静に告げた。

 

「古典的な保険金を目当てにした自殺の手段ですよ」

「じ、自殺?」

「自分に向け発砲した直後、脱力した腕から銃が抜け落ちる。その場合、拳銃は自殺した人間のすぐそばに落ちている」

「ですが、拳銃の持ち手にゴム紐が結ばれている場合、ゴムが縮む時の力で拳銃を遠くへと移動させることができるんです」

「死亡した人間の近くに凶器がなければ、警察は何者かが凶器を持ち去ったと考え、他殺の線から操作を始めます。保険金の中には、自殺の場合受け取れる額が少なくなる契約となっていることが多いですからねぇ、自殺したとばれないようにそう言った手段を取るという事が、よくあるのですよ」

 

 と、大岩、リュウ、最後に杉下が順番に説明をして行った、

 柱にはゴムが擦れたような痕跡が見つかった事から、被害者が自殺であるとするのならば、その痕跡はゴムが縮む時についた跡、と言うことになる。

 

「そ、それじゃ会長は……他殺に見せかけた自殺……」

「そんな、自殺なんてするそぶりなんて……」

「やはり《アレ》が原因で会社が傾いていたから……それを苦にして自殺を……」

 

 経営難を苦にした自殺。動機も十分で証拠も十分。誰もが自殺であると思う状況である。

 

「だけど、今回の事件は自殺じゃありません」

「「「!?」」」

 

 しかし、キュウはそう三人に向けて言い放った。これは、自殺ではなく、他殺なのだと。

 三人は一様に驚きを隠せないでいた。

 

「じ、自殺じゃないって……だって、自殺したっていう証拠が出てきたんでしょ!?」

「それは、真犯人による偽装工作なんです」

「これを見て」

 

 メグの言葉に追随する様に、カズマは自分の最新型ノートパソコンの画面を三人に見せた。

 そこには、ポリゴン状となった殺害現場の間取りや物、そして被害者や凶器の拳銃、ゴム紐がくくりつけられた木、さらには柱までも再現されていた。

 

「これは?」

「被害者が座っていた椅子から、拳銃が発見された木の間を、ゴム紐の付いた拳銃が通った場合のシュミレーションだよ」

 

 カズマがそういいながらボタンを押すと、被害者役であるポリゴンが動き出し、手を下におろした。

 すると、その手から拳銃が離れ、ゴムに引っ張られて木へと銃がスライドし、吊り下がった。

 画面は、突如として柱へとズームアップする。そこには、《二つ》の痕跡が残されていた。ゴムが擦れた様な跡、そして何かがぶつかった傷の様な物だ。

 

「仮に、拳銃がゴム紐の力によって引っ張られたとしたら、柱にはこのような傷跡が付くはずなのですよ。しかし、そのような傷、柱には存在しません」

「色々なパターンを考えてはみたんだけど、どうしても柱かえんがわの床に傷がついちゃうんだ」

 

 画面は、何度も何度もリピートを繰り返す。その度に様々な落ちていくパターンを映し出すのだが、その全てにおいて、どこかしらに傷を作っていた。つまり被害者が自分で撃てば、必ずどこかに傷を作る。と言う意味なのだ。

 逆に言えば、この傷が存在しないと言うことは、被害者がいた場所から発砲したと言うことではない。つまり今回の事件は自殺ではないと言う証拠となり得るのだ。

 

「そして、もう一つ……自殺ではないという証拠があります」

 

 リュウは、そういうと一度席を外して、指紋などを付けないよう手袋をして部屋の外からコップを持ってきた。

 

「い、一体それは……」

「台所に置いてあった水の入ったコップですよ」

「どうしてそれが証拠になるんです?」

「オレら、DDSから事件の調査に必要な薬液をたくさんもらっているんです」

 

 彼らの所属するDDSの上級生徒には、警察手帳に匹敵する権力を有するDDS探偵手帳が配布されている。

 その手帳の中には、指紋採取セットや特殊万能ナイフと言った探偵七つ道具とも言うべきものがあるのだ。

 今回、キュウたちはその中の一つである検査キットをそのコップの中の水に使用してみたのだ。

 

「それで調べたところ、このコップからは睡眠薬の成分が検出されました」

「睡眠薬?」

「なんでそれが、自殺じゃない証拠に?」

 

 確かにそうだ。被害者がそうであったかは、不明だが、不眠症の人間で有れば睡眠薬を飲むなんてことはよくあること。それが、自殺の否定につながるなんて思えない。そう、芹沢は考えるがしかし、杉下はそんな彼の考えを両断するかの様に言った。

 

「これから自殺をする人間が、睡眠薬なんて飲むでしょうか?」

「あっ!」

 

 もしこれが、一酸化炭素中毒による自殺であるとするのならば、睡眠薬を使用するのも理解はできる。しかし、拳銃自殺で睡眠薬を使用するのはまずないだろう。

 この場合、睡眠薬を使用する理由はただ一つだけだ。キュウが言う。

 

「そう、犯人は被害者に睡眠薬入りの水を飲ませて眠らせて、被害者を椅子の上に座らせて、引き金を引いた……現場には被害者を引きずった跡、それに足には擦過傷もありましたからこの台所から引きずったんじゃないかな?」

「犯人は、その引きずった跡を隠すために段ボール箱を崩したのですよ」

 

 杉下が、キュウの推理に補足する。

 この二つの証拠、確かに自殺の線を消すには持ってこいの物だ。それに、この証拠品のおかげでもう一つの仮説を立てることもできる。すなわち、これは物取りの犯行ではない。と、いう事だ。

 用意周到に手配された自殺の準備、被害者が真犯人が注いだと思われる睡眠薬入りの水の入ったコップ、これから考えるに、犯人は、被害者が何の疑いもなく水を飲ませることが出来る人間。つまり、顔見知りの犯行だという事だ。

 だが一つ疑問が浮かぶ。これらの事実が正しいのならば、犯人は他殺に見せかけた自殺をした。と、思わせといて被害者を殺したという事になる。しかし、何故そんな手間のかかるような真似をしたのか。そんな疑問が刑事たちの間で蔓延したが、そんな疑問を発することもなく、大岩はさらに言った。

 

「そしてもう一つ……犯人はある物を隠すために段ボール箱を崩した……」

「ある物って……」

「眼鏡ですよ。ペシャンコになって、割れていましたけど……」

 

 リュウは、そう言いながら袋に入った証拠品の眼鏡を提出するその場に出した。瞬間、現場は騒然となった。

 

「め、眼鏡って……」

「おい、それって……」

「ま、まさか犯人は……」

 

 第一発見者の三人のみならず、刑事たちもみな、ある一人の人間の顔を凝視し始める。

 そう、いたではないか。メガネを無くした人物が。それに、その人物であったならば被害者に容易に水を飲ますことが出来る。それに、考えてみれば睡眠薬が入ったコップが、下水に流されることもなく台所に置かれていたというのはあまりにも迂闊すぎる。しかし、その人物であればそんな迂闊であった理由にも説明ができる。

 すべてが、ある人物の犯行であるという事を示している。

 

「そう、この事件の犯人は……」

 

 そして、キュウ、大岩、杉下右京の三人はある人物を指さして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「中林勉(さん! あなただ!)(お前だ)(さん。あなたですね?)」」」

「ッ!?」

「えぇぇ!?」

「な、中林さんが!?」

 

 この三人の答えに、これまた騒然となった現場。だが、その理由は先ほどとは全く違う。

 『まさか、あの人が犯人だったのか』。先ほどまではそんな空気が蔓延していた。しかし、今では『え!? その人なの!?』という空気で満ち満ちている。

 

「どういうことですか警部殿!? 眼鏡が殺人現場に落ちていたのなら、犯人は三日前に眼鏡を無くしたっていう井出マリアじゃ!?」

 

 伊丹の言う通り、DDSの五人、杉下、大岩以外の面々は誰もがハウスキーパーの井出マリアが犯人であると思い込んでいた。彼女は眼鏡を三日前に失くしている。もしそれが嘘で、本当は昨日失くした物であるとするのならば、犯人が井出マリアであるという推理には何の問題もないのだ。

 が、しかしカズマは言った。

 

「その三日前というのがポイントなんだ」

「なに?」

「もし現場、それも争った形跡の下に眼鏡なんて落ちてたら、偽装工作をした時にうっかり落としちまったって考えるよな」

「ですがもし、実際に彼女が三日前に眼鏡を無くしていたとするのならば、現場に落ちていたのは不自然です。因みに、彼女が眼鏡を無くしたというのは三日前で合っているそうです。ご近所さんにも聞き込みをしました」

 

 と、キンタと杉下が言った。

 そう、杉下が大岩に報告した、井戸端会議をしていたご近所さんが彼女に違和感を覚えていたという証言。それは、彼女の使っている眼鏡がいつもの眼鏡とは違っていたという意味だったのだ。

 だが、今回の事件は計画性のある犯行。もしも彼女が自分に疑いの目が向くことまでを見越して三日前から違う眼鏡を使用して失くしていたという事にしている可能性もあった。

 しかし、キュウは言う。

 

「それにもう一つ。偽装工作の時に眼鏡を落として割って段ボールで隠したのだとすると、それは不自然になるんです」

「不自然?」

「現場には、空の水槽があるんですよ? もし眼鏡を落として割ったのなら、水槽を割ってガラスの破片と混じらせた方がよっぽど自然ですよ」

 

 そう言われて平井もハッ、とした。言われてみればそうだ。例え眼鏡がなくて前がぼやけていたとしても、彼女はこの家のハウスキーパーであり、片付けは彼女が行っていたから、水槽のある場所も把握していたはずだ。そんな彼女が、眼鏡の破片を簡単にごまかすことのできる水槽を使用しない理由なんてあるだろうか。

 仮に、フレームが残ってしまうという理由があったとしても、眼鏡のフレームは針金のように細い物ではなく、また完全に折れ曲がっているわけじゃないので、十分にガラスに注意をすれば拾うことも容易い物だ。やはり、水槽という隠れ蓑を使わなかったことは不自然極まりない。

 つまり―――。

 

「つまりこの眼鏡は、真犯人が井出マリアさんに罪をかぶせるために置いたものであると考えたほうが、自然なんですよ」

 

 と、いう事である。

 

「それも踏まえた、昨夜の犯人の行動を推測してみましょう」

 

 杉下は、指を一本立てて周辺を歩き回りながら言う。

 

「まず、犯人は被害者を睡眠薬入りの水で眠らせ、殺人現場まで引きずりました」

「その後、床に眼鏡を置いてからその場に積かな去っていた段ボールを次々と崩していった」

 

 と、メグが言った。だが何故犯行後、ではなく犯行前に段ボール箱を崩したと分かるのだろうか。

 

「硝煙反応や発射残渣の事もあるし、自殺の偽装のためには、殺害したのは段ボールを崩した後と考えていいだろうね」

 

 なるほど、カズマの言う通り、発砲した後に段ボール箱を崩したのであれば硝煙反応の位置がずれてしまっておかしなことになってしまう。自殺の偽装という観点で見るのであれば、そのような証拠品をおかしくしないように犯行の前に段ボールを崩しておいた方がいいと考えるのが普通であるのだろう。

 

「後は、自殺の準備をする。その段階でアクシデントが発生したのではないでしょうか?」

「アクシデント?」

「雨が降ってきたんですよ」

 

 リュウのその言葉に疑問符を浮かべる一同。

 

「え? でも、雨は犯人が銃声を隠す為の仕掛けなのでは?」

「そもそもその時点で我々は間違っていた」

「え?」

「雨は自然現象だ。そんなものを犯罪計画の一つに使用するなんて馬鹿げている」

「天気予報でも降水確率は0%、昨晩の大雨は誰にも予測不能の事態だったんです」

 

 大岩とメグの説明に納得する者、疑問を感じる者が多数。

 台風等の場合、その進路やスピードなどでいつ頃に到着するのか、素人でも想定することが出来るが、降水確率は過去の記録をもとにしている物である。膨大な量のデータがあるその中でもわずかな穴をねらって犯行計画を立てることなんて不可能に近い物。つまり、今回の大雨は犯人にとって予想外であると断定してもいいのだ

 その場合、新たな問題が発生するのだが。小山田は言う。

 

「なら、犯人は元々どうやって銃声を消す予定だったんだ」

 

 そう、住宅街で発砲なんてするとすぐ近くに住む住人に気が付かれてしまう。そのデメリットは、そもそもどうやって消そうとしていたというのか。そんな疑問に対して杉下は言う。

 

「そもそも、消す予定なんて無かったのではないでしょうか?」

「なに?」

「銃声がしたからと言って、普通の人にそれが認識できますでしょうか? 爆竹かが破裂したのかもしれない、夜中に花火をしている若者がいるかもしれない。もしそうじゃなかったとしても、家から道に出るまでは多少の時間があり、逃げる時間には十分にあります。犯人は、その時間を使って家から出る予定だったのではないでしょうか?」

 

 警察官は射撃場などで銃の練習をするなどして常日頃から銃声という物は聞きなれているし、そのために銃声がどのような物であるのかを認識することが出来る。だが、一般人であれば銃声をすぐに認識できないという可能性がある。それは分かる。

 しかし、それはあまりにも運に頼りすぎているというか、偶然に寄り添いすぎているというか、ともかく、囮に犯人を用意するほど用意周到な犯人がするようなこととは到底思えなかったのだ。

 

「その為のスケープゴートだったんだ」

「スケープゴート?」

 

 スケープゴート、とは生贄や身代わりの意味を持つ聖書が由来となる言葉である。つまり、今回の場合のスケープゴートは井出マリアという事になるのだが。

 大岩は続ける。

 

「仮に姿を見られても、この事件が自殺ではないと判明するだけだ。現場に決定的な証拠品があれば、その家から出てきた怪しい人物はスケープゴートとされた井出マリアさんと認識される可能性が高い」

「そんなことが……」

「そう、つまり他殺に見せかけた自殺、それに見せかけた井出マリアさんによる殺人事件。そう見せかけることによって犯人は自分に向けられるである疑いの目から逃れようとしたんです」

「今の時代、検査すれば体内から睡眠薬の成分が発見されたり、足の不自然な擦過傷なりですぐ自殺じゃないことがバレるからね」

 

 リュウ、カズマの二人がそう締めくくる。井出マリアは、ハウスキーパーとしての仕事が終わると一時間かけて自宅に帰り、後は何処にも出かけることなく就寝する。つまり、市議と終わりからのアリバイは無いに等しい。

 姿を見られても、現場に彼女が犯人であるという事を示す偽の証拠品が置かれており、なおかつ彼女にアリバイがないと分かれば、井出マリア犯人説はさらに濃いものとなったことだろう。

 

「話を続けましょう。犯人にとって予想外の雨ではありましたが、既に自殺の偽装は半分終了して後戻りは出来ない。そのため、木に括り付けるのがしにくくなるだけと言うことで犯人は偽装を続行しました」

「雨の中偽装したっていうのは、外の物置の中にあった脚立の足についた乾いて間もない泥が、証明してるぜ」

「えぇ、足場についてた被害者の靴底の足跡もまた、その偽装の際についた物でしょう」

「そして、後は被害者を撃ち、急いで家から……恐らくできるだけ目撃者がいないようにと裏口から出た」

「犯人にとって運が良かったのは、大雨のおかげで銃声が雷鳴と勘違いされて誰も通報しなかったという事。そして、大雨で視界が不良で、目撃者らしい目撃者が出なかったことです」

「これが、昨夜のあなたの行動ですよ、中林さん」

 

 沈黙が、その場を包み込んだ。まさか、この事件の真実にそんな計画に計画を重ねた恐ろしい真実が隠されているなんて、思いもよらなかった。

 7人の展開した推理、特にDDSの子供たちの推理力に小山田たちは舌を巻いた。まさか、子供である彼彼女たちがこれほどまでの推理力を持っているとは。自分が慕っている大岩や一目を置いている杉下に勝るとも劣らない推理力。伝説の名探偵団守彦の後継者の証は伊達じゃないという事か。

 しかし、この推理に対して憤慨する者が一人だけいた。

 

「ふ、ふざけるな! そんなのあなたたちの勝手な憶測にすぎない! 証拠でもあるのか!」

 

 そう、犯人と目されている中林だ。確かに、ここまでの7人の推理の中には確固たる証拠は何一つない。本当に中林が犯人である。と証明するものは何も提示されていないのだ。このままでは中林を逮捕することは叶わない。

 が、しかしその言葉も予想していたかのようにキュウは鋭いまなざしを止めずに言った。

 

「ありますよ」

「!?」

「マリアさん。さっき証言をしているとき、被害者が愛用している靴の底に穴が開きかけているって言ってましたよね」

「あ、はい……」

「その靴は玄関に置いてありました。びしょ濡れで、靴底の跡と脚立に残った足跡とまるっきり同じ物でした」

 

 と、メグは補足するように言う。確かに、マリアは先ほどの尋問の際に世間話程度の情報としてそんなことを言っていた。彼女自身もうっすらと忘れていたことであったのだが、それが今回の事件に関係あることなのだろうか。

 

「犯人はそれを、自殺の準備をしたのが被害者であると誤認させるために、履いてしまった。その結果、思いもよらぬことになってしまった」

「思いもよらぬこと?」

「靴下もまたびしょ濡れになってしまったんだ」

 

 そう、靴が濡れているのであれば、その真下にあるはずの靴下が濡れていたとしてもおかしくはない。大岩はそういう意図でそう言った。

 

「服や髪の毛は、タオルで拭くことによってどうにかできる。でも、靴下は脱ぐしかなかった。そして、犯人は容易に部屋に帰ることができなくなってしまったんです」

「ん? なんで部屋に戻れないんだ?」

 

 キュウの発言に対して、伊丹はそう質問する。なんで靴下を履いていないと言うだけで部屋に戻ることが出来なるなるという事に繋がるのか。そんな疑問に対して、リュウは冷静に言う。

 

「お忘れですか? 犯行現場には被害者を引きずった後にできたささくれや、段ボールの下にあるおかげで大多数は隠れていますが、メガネの破片があるんですよ?」

 

 伊丹は、そういえばという風にゆっくりと頷く。

 

「万が一にも裸足でそれを踏んでしまえば自らの血が付着し、自分の犯行であることがバレる恐れがある。かといって濡れた靴下のまま室内に入れば、水によって足跡がスタンプされ、その足の大きさで井出マリアの犯行ではないと分かる恐れがある」

「被害者の性格のため、この家には靴下はなかった。だから、替えの靴下を履くこともできなかったんです」

「なるほど……」

 

 大岩、杉下の二人の説明に納得する伊丹。確かに自分の痕跡を一つでも残したくないというのは犯人の心理としては適切であるし、その答えには同意できるものがある。

 

「なら、犯人はどうやって部屋に戻ったんです?」

「履物を履いたんですよ」

「履物?」

「スリッパだ」

「えぇ……ちょうどこの部屋の縁側すぐ近くにスリッパの山がありました。恐らくそこから一組を取ったのでしょう」

 

 思い返してみると、リュウの言った通り確かに窓側の倒れていた段ボールの中身はすべてがスリッパであった。どれもこれも色が似たり寄ったりの物であり、蒐集癖があるにしてもあまりにも無駄な買い物すぎると思っていた。あそこから一組取ったとしてもハウスキーパーの井出マリアお気が付くことは無かっただろう。

 

「そして、改めて被害者に向けて引き金を引いた。けど、その時に犯人はミスをしてしまったんです」

「ミス?」

「転んでしまったんですよ、薬莢を踏んづけて」

「!?」

 

 キュウ、リュウの言葉に中林は初めて動揺を受ける。さしづめ、何故そのようなことまで分かるのだ、といった感じか。

 

「ほら、この薬莢少し凹んでるでしょ? これは、犯人がこの上に乗ったから付いた跡なんだ」

「それから、陥没した段ボール。犯人は、この段ボールの上に乗っかっちまったんだな」

「さらにその時、手に持った銃を手放してしまった。そのせいで柱に銃がぶつからずに飛んで行ってしまったんです」

 

 カズマ、キンタ、メグの言葉が続く。

 特別な事情がない限り、これが初めての殺人であろう中林は、動揺し、バランスを崩してしまった。そのために薬莢を踏んだ時に体制を立て直すことが出来ずに転んでしまったのだろう、とは大岩の言葉だ。

 

「その、転んだ勢いで思わぬ出来事が起こりました。スリッパが、飛んで行ってしまったんです」

「被害者の足の大きさは、中林さんよりも小さい。だから、スリッパは小さくてちゃんと履くことが出来なかったんです」

 

 そう、被害者の足のサイズは23cm、中林の足のサイズは27.5cm。あまりにも小さすぎる。しかし、それでも履けるものはそれしかなかったから履くしかなかった。その結果が、思わぬアクシデントに繋がったのだ。

 

「そして、そのスリッパはあそこにあるスリッパの山に……中林さん、貴方は焦っていたはずです。すぐに外に出ないといけないのに自分が履いていたスリッパという物証がどれか分からなくなってしまっただから、一か八かで二足を持って帰った」

「ですが、貴方はその一か八かの賭けに負けてしまいました。結果、事件現場には証拠が残ってしまったんです」

「いやしかし警部? なんで犯人が証拠のスリッパを残して行ったって分かるんですか? その犯人が使ったスリッパっていうのが簡単に分かるんならともかく……」

 

 キュウ、杉下の推理に対して芹沢がそう質問をした。確かに、大量にスリッパがあるのだから、間違って持って帰ってしまう可能性が高いのはまだ分かるが、もしかしたら奇跡的に正解を引き当てたという可能性もあるのではないか。そう、芹沢は考えたのだ。

 

「簡単ですよ」

「え?」

 

 しかし、キュウはなんてことのないように言った。

 

「確かにたくさんあるスリッパですけど、その中に一つだけ……靴底に証拠が残っちゃってるんです」

「これのこと……だな」

 

 と、大岩はスリッパの入った袋を見せる。先ほどのヒントを聞いた後に彼自身もそのスリッパを探し当てたのだ。彼の言う《靴底の証拠》を頼りにして。 

 

「この靴底に、剥がれている箇所がある。恐らく、発砲直後に排莢された薬莢の熱で、剥がれてしまったんだろう。薬莢にも、この靴底と同じ、革が付着しているしな」

 

 排莢直後の薬莢は、熱いことがある。スリッパの底に使われていた素材は熱に弱い物であったらしく、そのせいで靴底の一部が剥がれて薬莢に付着してしまったのだ。

 

「恐らく、このスリッパには足の指紋……足紋が付いているはずです」

 

 と、リュウは言った。仮に靴下を脱いでスリッパをはいたとするのならば、スリッパの中には足紋がついているはずなのだ。足紋は、指紋と同じく人によって違う。そのため、それを調べることによって誰かスリッパを履いたのかを明らかにすることが出来るのだ。

 杉下は、トドメをさすようにマリアに聞いた。

 

「マリアさん。このスリッパ、三日前に被害者が購入した物の一つですね?」

「あ、はいそうです……」

 

 ここまでくればもう何が言いたいのか分かるだろう。彼らは逃げ道を封じようとしているのだ。犯人が、中林が言い逃れのできないように少しずつ少しずつ外堀を埋めていき、最後にキュウが言った。

 

「説明してください中林さん。最後に被害者と会ったのが一週間前と言った貴方の足紋が……三日前に購入したはずのスリッパに付着している理由を……」

「ッ! ……くそ……雨さえ、降らなきゃ……」

 

 もはや言い逃れはできないと観念したのか、中林は崩れ落ち、四つん這いになって床を叩き悔しがる。

 ついにすべての謎が明かされた。会長の綱渡剛三を殺害し、井出マリアに罪をかぶせようとした卑劣な犯人、その正体は中林勉であったのだ。

 だが、分からないことがある。

 

「そ、それじゃ本当に専務が……ジジィを……」

「でも、なんで?」

「……」

 

 そう、動機だ。このような犯罪に彼が手を染めた。その理由は、人を殺めないといけなくなるような、そんな理由がどこにあったというのだろうか。それは、犯行を解明した7人にも全く見当がついていなかった。

 人が人を殺めるという事は、並大抵の覚悟を持ってはできない。また、まともな精神状態では決してできない。心を病み、どうしようもなくなってしまった人間が最後に取る手段が、殺人だ。なら、一体何が彼を追い詰めたのだろう。何が彼を殺人に駆り立てたのだろう。

 と、その時リュウの携帯電話が鳴った。

 

「もしもし……そうですか……ありがとうございます」

 

 リュウは電話の相手と一言二言だけ会話を交わすとすぐに電話を切った。

 

「今のは、DDCからの連絡ですね」

「えぇ……」

 

 中林の犯行の動機、それは彼の経歴にある可能性がある。そう考えたQクラスの面々は、DDSの講師たちが所属しているDDCに調査を依頼していたのだ。彼らが調査を依頼したのはわずか二時間前の事であるというのに、犯行動機が判明する時間が早いのは、一重に彼らDDCの優秀さの裏付けであろう。

 

「中林さんの犯行動機が明らかになりました。すべては、30年前の裁判が原因だったんですね」

「30年前の……」

 

 30年前、そのワードには思い当たる物があった。加藤がつぶやく。

 

「社員の過労死や自殺の責任を問う……あの裁判」

「そうか、そのどちらかにこの男の家族が……」

「いいえ、違いました」

「え……?」

 

 伊丹は、中林の家族がその会社に務めており、その結果過労死もしくは自殺した。その復讐であると考えていたのだが、どうやらそれは違うらしい。

 

「中林さん……貴方のお父さんは……」

「あの会社の……顧問弁護士でした……」

 

 リュウが、答えを言う前に中林は水中にいるかのような薬実の中でそう言葉を発した。

 顧問弁護士とは、依頼された会社からの様々な法律問題に関して継続的に相談を受けたり事案を解決するためのアドバイスをする弁護士の事だ。その主な仕事は法律相談に止まらず、契約書のチェック、証明郵便の書面の作成、そして訴訟対応。

 

 

「なら、30年前の裁判の時にも、法廷に立っていたという事か」

「えぇ、父は真っ当に仕事をした……なのに、それなのに! 被害者遺族の怒りは、全部父に、それに俺たち家族にまで向けられた!」

「被害者遺族にとっては、明らかに責任があるはずの会長を弁護し、無罪にしたことが許せなかったんでしょう」

「そんな……」

 

 いくら会長を弁護したと言っても、中林の父親は会社の顧問弁護士としての仕事を果たしただけである。それなのに、遺族等からの怒りを喰らうなんて、お門違いもいいところだ。

 しかし、彼らにとっては自分たちの家族を奪った人間を弁護する者のことがまるで悪魔のように見えてしまったのか。だから、行き場の無くなった怒りを彼らに向けてしまったのか。

 どちらにしろ、それはただの八つ当たりである。

 

「毎日毎日いやがらせの電話やFAXが届いて、母は心労がたたって病気で死に、そして父もまた……」

「ヒドイ……」

「えげつねぇ真似しやがる……」

 

 この中林の言葉にQクラスの面々もまたやり場のない怒りを感じる。

 

「あの裁判では、社員のほとんどが会長を庇って何も証言をしませんでした。最初から無罪が決定的だったはずの裁判だったんです。だから、怒りの矛先が向かうのは証言をした社員であるはず……なのに、なんで真っ当に仕事をしただけの父が! 俺たち家族が批判を受けなければならなかったんですか!」

「だから、復讐をしたんですか……会長に……」

「それだけじゃない! ……会長のすぐそばにいて奴がどんな指示を出していたのか、何をしていたのかを全て見ていたはずなのに、証言をしなかった当時秘書をしていた井出マリア! お前も、同罪だ!!!」

「!?」

 

 マリアは、名指しでの罵倒を受けて、口を押えて後退りした。人間の悪意の行きつく先、それを今一心に浴びている女性に対して伊丹は聞いた。

 

「そうだったんですか……」

「えぇ……怖かったんです。会長……当時社長ですが、社長に逆らうと、会社を解雇されるだけじゃない。その後の就職先にも圧力をかけられてしまう……だから、誰も本当の事は言えなかったんです……」

 

 綱渡の人脈は相当広かったらしい。そのせいで同業他社だけではすまない様々な企業に裏で手をまわして再就職先をつぶすという事も容易い物だったのだ。だから、誰も本当の事を証言できなかった。

 けど、そんなものただの言い訳だ。そう中林は考えていた。

 

「その嘘のせいで! どれだけの人間の人生が狂ったと思ってる! あんな男がいなければ、こんな会社がなければ! あんたたち社員がいなければ!! 父さんや、母さんが死ぬことは無かった!」

 

 復讐鬼となった哀れな男。その怒りの理由は確かに最もであるのかもしれない。誰かを殺す理由としては十分なのかもしれない。

 しかし。杉下は、怒りを糧にして立ち上がった男の前に立つと、顔を近づけて言った。

 

「だからと言って、殺人をしていい理由にはなりませんよ! ……いいえ、殺人どころか、復讐をしていい理由などどこにもありません」

「なに?」

 

 そう、確かに殺人をする理由としては十分な理由だ。だが、だからと言って実行に移すことは決してあってはならないことなのだ。

 人が人を殺してはならない。そこには、確かに倫理的な問題が大多数を占めている。しかし、それ以上にもっと大切な物がある。それを表すとするのならば、こう言葉にしよう。

 人が、人でいられるために、人を殺してはならないのだ。

 

「中林、お前はさっき言ったな。父親は真っ当に仕事をしただけだと……なら、何故その仕事を無為にするような真似をした」

「貴方のお父さんは、弁護士としての責務を果たしたまでの事です。依頼人を信頼し、依頼人を守る。例え、証言があったとしても、貴方のお父さんは会長を無罪にするために全力を尽くしたことでしょう」

「それが、貴方のお父さんの……弁護士としての誇りだった。貴方は、そんなお父さんの誇りを傷つけてしまったんです」

 

 大岩、杉下、リュウ、三人の言葉が続く。

 依頼人を信じて弁護をする。例え、相手が犯罪者なのかもしれないと分かっていても、それでも依頼されたからには、依頼人を信じて精いっぱいの弁護をする。例えどれだけ不利な状況であったとしても、依頼人の事を守るためにできる限りの事をする。それが、弁護士という仕事だ。

 

「俺、たくさんの事件現場で、たくさんの人たちを見てきました。でも、復讐を成し遂げて幸せになった人なんて、一人もいないんです……皆どこか傷ついて、悲しんで、殺したことに後悔して……本当なら、そうなる前にこんな殺人止めたかった……貴方の事も、救いたかった」

 

 キュウを含めてQクラスの五人は、これまで多くの殺人事件に立ち向かってきた。そして、その中にはやはり復讐が目的の殺人も数多く存在していた。

 メグは記憶している。これまで自分たちが出会ってきた多くの班員たちの顔を。復讐を成し遂げて、それでも心が晴れることは無い、とても物悲しい最後を。

 そんな人間たちを救うこともまた探偵の責務である。道を踏み外さないように、これ以上道を踏み外さないようにと、探偵たちは犯人を捜すことに躍起になる。無論、被害者の無念を晴らすという事が一番大事なのだ。しかし、それと同じように復讐の鬼となった者たちの心を救いたい。そう考えるのはあまりにも欲深い行いであるというのだろうか。

 叶うのなら、こんな事件が起こる前に止めたかった。中林が犯行を起こす前に間に合いたかった。

 けど、どれだけ考えてもすでに後の祭りなわけである。

 

「中林、お前は……父親を復讐の道具にしてしまったこと、何も思わないのか? 父親のためときれいごとを使ってはいるが……その裏にあるのは、ただの八つ当たりだ!」

「うぅぅぅぅぅ……うあああぁあああぁぁあぁ!!!」

 

 最後に、大岩の言葉。あまりにもきついようにも感じる。しかし、それ以上に犯罪を許すことが出来ないという確固たる意志を感じる。そんな叱責だった。

 その言葉を受けた中林は、再びその場に手を付き、そして這いつくばり、号泣した。それは、まるで昨晩この周辺を洗い流した大雨のように。

 どうしてこんなことをしてしまったのだろか。何故、父の仕事を、誇りを無下にするようなことをしてしまったのか。なんで止まることが出来なかったのか。何度も、何度も、何度も自問自答を繰り返す。

 しかし、失った命は二度と元に戻ることは無い。どれだけ泣き叫んでも、犯した過ちを清算することはできない。これから彼は自らの罪と共に生きなければならないのだ。何年も、何十年も、いつまでもずっと、ずっと。

 

「後は……署の方で」

 

 伊丹は、中林の手を取って立ち上がらせると、その手に手錠を付けて芹沢とともに家の外に出ようとした。だがその直前、立ち止まった中林はQたちに向けて振り返ると言った。

 

「最後に、教えてもらっていいですか?」

「なんでしょう?」

「どうして、俺が犯人だと……現場の状況だと、加藤にも犯行は可能だったし、その可能性もあった。なのに、どうして俺が犯人だと……いったい、いつから……」

 

 彼の言う通りだ。彼らの推理は、そっくりそのままもう一人の発見者である加藤にも当てはまる物。足のサイズにしても、加藤よりも中林の方が大きかったとはいえ、それでも被害者と比較すれば、加藤もまた十分に足のサイズは大きかった。

 スリッパという証拠品があったとしても、その足紋を中林と照らし合わせたわけではないので、今この場で中林が犯人であるという根拠はないに等しい物だった。一体何故、彼らは中林が真犯人であると見抜いたのか。

 

「尋問の時ですよ」

「え?」

 

 キュウの答えに続いて、Qクラスの面々は答えていく。

 

「あの時点で、私たちの素性は誰も知りませんでした」

「だから、マリアさんや刑事さんたちも僕たちの事探偵クラブの子供って言ってたんだ」

「けど、アンタは俺たちの事を《依頼を受けた探偵》って言ったよな」

「被害者から依頼があったのは、昨晩の事です。最後に話したのが一週間前なら、貴方がいつ僕たちの事を知ることをできたのか」

「それでピンと来たんです。もしかして中林さんは昨日の夜被害者に会って、俺らの事を聞いてたのに、それを隠していたんじゃないかって」

「被害者と会っていたことを隠す理由はただ一つ。貴方が犯人であること以外にはない。そう、考えたまでですよ」

 

 以上、メグ、カズマ、キンタ、リュウ、キュウ、そして杉下の言葉であった。

 つまり、彼らは最初の尋問の時点ですでに分かっていたという事なのだ。彼が犯人であると。後はそれを前提にして推理をくみ上げていくだけで十分であったのだ。

 

「なるほど……将来有望な探偵たちだ……それに……」

「……」

「……」

「貴方たちの内のどちらかがあの時、捜査に加わっていれば……もしかしたら……」

 

 もしも、30年前のあの裁判の時、杉下や大岩のような警察官がいたら、それにQクラスのような探偵がいてくれていたら。もしかしたら、裁判の結果は違っていたのかもしれない。けど、逆に言えば―――。

 

「……」

 

 中林は、ただそれだけを言うとやんわりとした笑みを浮かべて伊丹につれられて去っていった。

 その後姿を見た大岩は言う。

 

「もしかしたら、奴は心の底では期待していたのかもしれないな」

「え?」

「いくつもの謎を解いて、真相にたどり着くことが出来る人間が、現れるということを……」

 

 大岩は、ただそれだけ言うとその場から去ろうとする。そんな彼に対して、出雲は聞いた。

 

「大岩一課長どちらへ?」

「次の現場だ。事件は、ここだけで起きているわけじゃないからな」

「……」

「……」

 

 そう、事件は彼らの事を待っていてはくれない。今もどこかで凶悪な犯罪が発生し、誰かが泣いている。それを止めることが出来るのは、自分たち警察官だけだ。そう改めて心の中にとどめた大岩は、Qクラスの面々に振り返ると、敬礼する。Qクラスの五人もまた、それに対して敬礼をする。

 大岩は、ただそれだけを見届けると、ゆっくりと去っていった。




 今回の事件は、科捜研の女season1の第一話からインスピレーションを得て書きました。とはいっても、他殺に見せかけた自殺の部分だけですが。それ以降はオリジナルです。
 因みに今回の話の中では描写はできなかった没セリフがいくつかありまして……。以下がその文言。

小山田「忘れたのか伊丹刑事。特務エスパー、特に接触感応能力者(サイコメトラー)はその性質上精神的な負担が大きすぎる。そのため一部の例外を除き、捜査が行き詰まりを起こした時や万引きや強盗などの人の生き死に関係のない事件でのみ、適用が許可されるという事を」

 没セリフで参戦が明らかになる作品……。

 あと実は探偵学園Qの面々はある大きな謎に挑戦中であったりする。
 ヒント:メグの能力・特務エスパー・探偵学園Qの原作のある事件・矛盾


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前日談
特捜戦隊! 私たちは超能力戦隊?(前編)


 ついに十一月に入りましたねー。
 と言うことで、実はまだあった。前日談編三話(中、後編合わせて五話)を投稿してから例の日を迎えたいと思います。
 ところでここ最近小説の描きすぎなのか体調が悪くなった感がありますが気のせいでしょう。


 ≪バベルの塔≫、聡明なる読者諸君は、存じ上げているはずだ。

 旧約聖書に出てくるその塔は、人間が神の領域にまで足を踏み込もうとして鉄槌を食い、崩壊した。以来、ソレは人類の欲望の塊と、その末路としてよくしられ、実現不可能なことを指す事柄としても使われることとなる。

 ここに、その塔の名前を冠した一つの組織、そして天高くそびえ立つ一つのビルがあった。が、由来はその間に挟まったとある漫画ではないかとの説があるため定かではない。

 わかることがあるとするのならば、その場所にあるその組織、B.A.B.E.Lもまた、実現不可能に近い事に日夜挑戦する組織であること。

 そのことがどれだけ大変で、そしてどれだけの年月が必要になるのかわからないほど壮大で、そして一部の人間を不幸にしかねない組織。

 それが、B.A.B.E.L。今、そのB.A.B.E.L上層階にある一つの会議室の中には大人から子供まで、十数名の人間が集結していた。いや、後もう四人到着する。

 

「『ザ・チルドレン』皆本以下四名、到着しました」

 

 一人は、メガネをかけた大人の男性。

 一人は、赤髪の見るからに活発そうな女の子。

 一人は、メガネをかけた青髪ロングヘアーの女の子。

 一人は、白髪セミショートの女の子。

 この四人が≪出現≫したのだ。そう、出現である。ドアも窓も開けず、無色透明の人形に突然色が付いたかのように四人は現れたのだ。

 手品か、あるいは超能力か。正解は後者である。

 男性を除いた三人の女の子、そして会議室に集まっている人間の大多数が超能力者なのだ。

 ここは、超能力支援研究所、通称《B.A.B.E.L》。この世界において、超能力者というものは一般常識的に広まっており、人の一つの人種として知られている。

 しかし、その力は超能力というものが発見されて半世紀以上が経過してもいまだ全てを解明することができず、超能力が暴走することによる被害。また、超能力を利用することによる犯罪も多数発生している。

 そんな超能力者を取り締まり、または正しい道に導く存在、それがB.A.B.E.Lなのである。

 

「詳しいことは、原作『絶対可憐チルドレン』全63巻を見てね! あ、中学生編の終わりまででOKだから!」

「ってこら、説明を投げるついでに原作をステマするな!!」

「まぁ、原作でも似たようなことやってたからいいんじゃないの?」

「せやせや」

 

 なお、彼女たちによるメタ発言はこれで最後とする。

 

「ってあれ? 皆も呼ばれてたの?」

 

 と聞いたのは念動能力者(サイコキノ)超度7の明石薫である。

 

「ワイルドキャットやハウンド……ティムやバレットまで」

「集まってるのは、B.A.B.E.Lのエース級の特務エスパーチームばかりね」

 

 瞬間移動能力者(テレポーター)の野上葵、接触感応能力者(サイコメトラー)の三宮紫穂と続く。因みに、先ほど彼女たちが瞬時にこの会議室に出現したのは、葵の能力によるものだ。

 彼女たちは、三人とも超度7。エスパーの力は1から7まで、数字が大きくなるにつれてその力の強さを暗に表している。つまり、エスパーの最高ランクの持ち主。現在この日本で見つかっているたった三人だけの超度7のエスパーなのである。

 B.A.B.E.Lは、彼女たちを特務エスパーチーム《ザ・チルドレン》と呼称し、皆本光一という男性を現場担当主任としてほとんど毎日一緒に行動し、日夜エスパー犯罪に対処しているのだ。

 

「皆本クン、これは一体何の集まりなのかね?」

 

 と、皆本に話しかけたのは、《ワイルドキャット》現場運用主任である谷崎一郎である。

 

「いえ、僕たちも緊急招集をかけられたばかりなので……」

「では、皆本さんも知らないんですか?」

 

 続いて、ザ・ハウンドの現場運用主任の女性、小鹿圭子である。どうやら、二人もなぜいきなり本局から呼ばれたのか、詳細不明であるようだ。

 だが、確かに今回はいつもよりも唐突だった。携帯に入った緊急招集に応じて葵の能力で一気に飛んできたのはいいものの、まさかここまでエース級の面々が揃えられているなんて思っても見なかった。皆本は、とある懸念を頭に思い浮かべた。

 このB.A.B.E.Lには、≪予知課≫と呼ばれている未来予知ができる人間を集めた部署がある。ただし、その予知は絶対ではなく、超能力者による介入でいくらでも未来を変える事ができる。

 これだけの精鋭を投入せねばならないほどの大事件を、彼らが予測したのか。皆本の顔に一気に緊張の顔が映る。

 

「ったく、女の子とデートの最中だってのに呼び出しやがって……」

「賢木、お前なぁ……」

 

 そんな皆本の気持ちを知ってか知らずか、皆本の大学時代からの親友である賢木修二は軽い口を叩いた。

 彼は、接触感応能力者(サイコメトラー)の超度6。つまり、紫穂よりも超度は低いもののエスパーである。だが、彼は合成能力としてサイコキネシスの素質も持っており、それを利用することによって生命活動をコントロールできる生体コントロールの力も持っている。

 そんな彼は根っからの女たらしであり、夜な夜な女性と遊び回っている。だが、時折重要な情報を手に入れることがあるので良いとも悪いともいえない絶妙な趣味であると言えよう。

 

「皆本やチルドレンも、非番だったんだろ?」

「あぁ、でも行くところもそんなにないから家で休んでたよ」

「せっかくの休みだってのに」

「しょうがないでしょ。私たち高レベルエスパーは行けるところも限られているんだし」

「せやったら、家にいる方がのんびりできてええって」

 

 この世界において、エスパーの人権は完全に確立されたとは言い難い。普通の人間が持っていないような力。自分の思考が読まれるかもしれない恐怖。いつエスパーによって殺されるかという不安。そう言ったものが渦巻いてエスパーを忌避する人間も多いのだ。

 それが、如実に現れているのが遊園地やゲームセンターとった娯楽施設。入り口には超度測定器が置かれており、一定以上の超度がある人間の入店を拒否しているのだ。だから、超度7のザ・チルドレンの面々は、そう言ったものに頻繁に引っかかり、娯楽施設への入店、海外旅行も仕事以外では禁止され、国内での旅行の際にも身分証明の必要があるのだ。

 一応、リミッターという超度を下げる手段はある。しかし、彼女たちの超度が高すぎて、使ったとしても効果が足らずにやはり入店拒否というパターンが多い。

 だから、彼女たちは生まれながらにして束縛されたのに等しい生活を送っていると言っても過言ではない。

 しかし、ソレ故にもう半ば諦めていたのだ。そういった年頃の女の子たちが行くような娯楽施設で遊ぶということを。確かに憧れのようなものはある。でも、それ以上に彼女たちは大切な物を手に入れることができた。

 

「それに……」

 

 薫は、すぐそばにいた葵と紫穂、そして皆本を超能力によって引き寄せるすばらしいまでの笑顔で言った。

 

「私たちはいつも、四人一緒だしな!」

「お、おい薫」

「もう、べたべた引っ付かんといてぇな!」

「もう、薫ちゃんったら……」

 

 そう、今の自分達には掛け替えのない仲間たちがいる。友達がいる。ソレさえあれば他には何もいらない。薫は、今この時が一番の幸せだった。

 

「ほんと、薫ちゃんたちはいつも仲良しね」

「本当ですね」

 

 といって微笑んでいるのは念動能力者(サイコキノ)の超度6、《ワイルドキャット》の梅枝ナオミと、《ザ・リトル・マイス》所属、念動能力者(サイコキノ)の超度5である笹目雪乃である。

 彼女たちは現場運用主任が同じであること、それからとあることで境遇が同じであることから姉妹のようにと言っていい程に仲が良いのだ。

 

「ナオミ! 我々もハグを!」

「さぁ、僕の胸に飛び込んで来い、僕の雪乃ぉ!」

「よるなこのエロオヤジ!!」

「ぐあぁ、来た来た来たぁぁ!!」

「死ね、このシスコン」

「おぉう、僕の雪乃ぉ!」

 

 仲が良いのだーーー。因みに、セクハラしようとして壁にクレーターを作られるほどに超能力でおしつぶされているのは、谷崎。

 そして、雪乃の双子の兄であり、≪ザ・リトル・マイス≫もう一人のメンバー、シスコンの笹目幸生である。恐らく、この小説には二度と出てこないだろう。

 

「あの人たちもいつも通りだね」

「あぁ、本当に……」

 

 と、いうのは《ザ・ハウンド》の犬神初音と宿木明である。二人は共に合成能力者という複数の能力を持った超能力者であり、生き物に擬態したり、生き物に自分の意識を乗り移らせることによって日夜犯罪と戦うエスパーである。

 以上に述べた面子は、先程も言った通り誰もがB.A.B.E.Lの中でもエース級と言われている特務エスパーチームで、その解決した事件の数は計り知れないものがあり、また助け出した人間も数知れず。それでもなお、多くの人間からは疎まれているという、まさしくどっかの都市伝説の仮面のヒーローのような存在であるのだ。

 そんな、本気を出せばこのメンバーだけでも一つの小国くらい滅ぼせる力を持った面々の前に、壮年のガタイのいい堀の深い男性。そしてロングヘアーの女性がドアを開けて入って来た。

 

「皆、そろっているかね?」

「局長……! それに、柏木さん!」

 

 局長と呼ばれた人間は、このB.A.B.E.Lの局長桐壺帝三。超能力者、特にザ・チルドレンを溺愛するまさしく超能力支援を掲げるB.A.B.E.Lの局長にふさわしい人間である。もう一人の女性は、桐壺の秘書柏木朧。超能力者のために時折暴走する桐壺を押しとどめる役や、B.A.B.E.Lに否定的な国の役員などに対応することもある、B.A.B.E.Lの裏の局長的な人間である。

 

「急に集まってもらったのは他でもない。実は……我々にとある機関から捜査協力の要請が来た」

「とある機関?」

「うむ、柏木君」

「今、繋がります」

 

 と、朧がパソコンを操作し始める。ソレと同時に徐々に暗くなっていく部屋。部屋を照らす光が完全に消えた頃、いつの間にか降ろされた白い布のスクリーンに向け、プロジェクターがほのかに白い光を当てた。

 その瞬間である。スクリーンに映ったのは、青と白の毛並みに長く伸びた口。頭には獣の耳のようなものを引っ付けた。とても人間とはおもえないような人物だった。

 

「い、犬人間!?」

「幻覚!? いや、宇宙人か?」

 

 一瞬、何者かによる幻覚であることを疑った皆本は、しかし瞬時にソレが宇宙人であるという仮説を立てる。

 何を馬鹿なというかもしれないが、実はこの世界では超能力者と同じように宇宙人というものも極一般的となっており、いまでも街中には人間の姿をした宇宙人が何千何万と地球人と同じように生活をしているのだ。

 皆本は頭の中にある記憶を隅から隅まで手繰り寄せ、調べる。この犬人間、見覚えがある。B.A.B.E.Lのデータベースにあった顔だ。確か、アヌビス星人という名称だったか。

 

「その通り。驚かせてすまない。私は、宇宙警察、地球署所属のドギー・クルーガー」

「同じく、地球署でメカニックを担当している白鳥スワンよ」

 

 と、ゆっくりと現れた老齢の女性がそう自己紹介した。

 地球署、そして宇宙警察。それは、前述したデータベースの中にもあった名前である。

 

「宇宙警察……惑星間宇宙犯罪者、通称アリエナイザーを相手にする警察機構……」

 

 アリエナイザー。それは、惑星間における犯罪行為をする宇宙人を総称する名称である。

 彼らは時に地球にやってきて私利私欲のための犯罪行為に手を染め、地球人を恐怖に陥れようとする悪人ばかり。皆本たちも仕事柄時折アリエナイザーの関連した事件に遭遇することはあったものの、それがアリエナイザーの仕業であるとわかった直後に宇宙警察に捜査権を引き渡したりしていたため、こうして実際に宇宙警察の人間と顔を合わせるのは初めてである。

 

「その宇宙警察が、なんでB.A.B.E.Lに?」

 

 そう、そんな宇宙警察が一体なぜ超能力支援機関であるB.A.B.E.Lとコンタクトを取ったのか。彼らには、S.P.Dという独自の組織が存在しているし、宇宙の技術も使えば大体のアリエナイザーによる犯罪に対処することができるというのに、なぜ。

 

「うむ、話は一月ほど前にさかのぼる」

 

 そしてドギーは語る。ある事件の話を。これが、彼らの運命の始まりであった。




絶対可憐チルドレン
特捜戦隊デカレンジャー
           参戦


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特捜戦隊! 私たちは超能力戦隊?(中編)

「一ヶ月ほど前、我々は宇宙と地球の間で運び屋をしている宇宙人、アリエナイザーを逮捕した」

「運び屋?」

「宇宙の麻薬や違法な兵器を、地球に潜伏している宇宙人に持ってきていたの」

 

 その日、ある部署からのタレ込みによって、運び屋の存在を認知した地球署の面々は、その運び屋の潜伏先を急襲した。

 相手がアリエナイザーであったとはいえ、戦闘能力をほとんど持たない宇宙人だったことが功を奏し、簡単に逮捕に漕ぎ着けることができたのは幸いだったそうだ。

 そのアリエナイザーは、遥か銀河の彼方にある宇宙最高裁判所の判決によって、デリートするほどの重い罪ではなく、デリート不許可の判決が出たため、逮捕、勾留。改めて裁判を行うこととなった。そのための証拠集めを、地球署の面々で行っていたのだが。

 

「その運び屋に依頼をした者のリストを手にいれたのだが、その中に地球の人間の名前があった」

「地球人の名前が?」

 

 潜伏先に巧妙に隠されていた顧客リスト、というものだ。独自の暗号も使われておりかなりの手間をかけたもののなんとか解読に成功し、その運び屋から兵器などを購入した宇宙人の洗い出しを行っていた。そのリストの中に地球人の名前を見つけたのだ。

 最初は、地球人の名前を使った偽名であることもかんがえた。しかし、その運び屋はいわゆる義理人情にうるさい宇宙人であったらしく、偽名での依頼は決して受けないし荷物も受け取らないということは頑なに守っていたそうだ。

 地球人でも、さまざまな手段を講じることによって宇宙との通信を可能としている今の世の中だ。テロリストが宇宙の兵器を仕入れたとしてもおかしくはない。だが、その人物がとても意外な人間であったことは間違いない。

 

「その人物の名前は、茅場晶彦……」

「なっ!」

「茅場晶彦だって!?」

 

 その名前に対し、会議に参加していた、通称影チルと呼ばれている特務エスパー。ティムとバレットの二人が反応した。また、皆本もまた二人ほどではないにせよ、水中の魚が空に飛び跳ねるかのように眉を動かした。その名前に聞き覚えがあるのだろう。

 

「二人は、知っとるんか? 萱場明彦って人のこと?」

「まごうことなき天才ゲームクリエイターの名前ですよ」

「ゲームクリエイター?」

 

 ゲームクリエイター。つまり、ゲームの制作者ということか。ティムはさらに話を続ける。

 

「はい。ほら、ここ最近話題になっている次世代型のゲーム機、ナーヴギアの基礎部分から開発したのが、茅場晶彦なんです」

「それだけじゃない。明日サービスが開始になるゲーム、SAOの開発も、茅場晶彦なんです」

「SAOって……」

 

 茅場晶彦という人物は知らない。だが、そのゲームの名前にチルドレンの三人は聞き覚えがあった。

 

「千里ちゃんがゲットしたって言ってたあのゲーム?」

「はい……」

 

 千里、というのはチルドレンの三人、影チルの二人の中学校での同級生である花井千里という女の子のことだ。

 彼女もまたエスパーで、精神感応能力者(テレパス)であるのだが、そのレベルは2と、この場にいる特務エスパーには遠く及ばない一般人のエスパーである。

 三人の記憶によれば、ゲームの抽選会に参加した際に偶然手に入れることができたと言っていたのがSAOというゲームだったはず。まさか、ここで再びその名前を聞くことになるとは思っても見なかったが、しかしとんだ偶然である。

 

「そして、今世界中で使用されているECMやECCMの基礎設計も、茅場晶彦だ」

「え!?」

 

 と、皆本が補足をするように説明を入れたのだが、これには周囲の人間全てが驚きを隠せなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。茅場晶彦は、ゲームクリエイターなんでしょ?」

「なんでECMやECCMも……」

 

 彼女たちのいうECMというのは、エスパーの超能力を阻害する機械のことで、それを使用すると、例え特務エスパーであったとしてもたちまちノーマルと同じように普通の人間となってしまうのだ。そしてECCMというのは、そのECMを阻害する機械のことで、ECMによって阻害されたエスパーたちの力を復活させる力をもっている。

 そこまで聞いてわかるように、ECMとECCMというの機械は、ゲームとは一切関わりのない物。どうして、それとゲームクリエイター茅場晶彦がつながるというのだろうか。

 

「うむ、実はゲームクリエイターとしての茅場晶彦は彼の一つの姿に過ぎない」

「え?」

「茅場晶彦、彼はゲームクリエイターでありながら、量子物理学者でもあるのだ」

「量子物理学?」

「エルヴィン・シュレーディンガーによって提唱された量子力学を基礎にして考察する物理学の総称だよ」

「その通り。その研究の中で、脳の中にあるエスパー中枢に物理的に働きかける方法を見つけ出した結果、ECMが開発されていった。という事だ」

「????」

 

 と、皆本や桐壺が事細かく説明するのだが、しかし説明されればされるほど訳がわからなくなってくる。そもそも量子物理学というものすら今初めて聞いた薫は、頭にハテナマークを大量に浮かべているのではないかというほどに小難しい顔をしていた。

 量子物理学自体、説明するのが難しい学問であり、それを全て説明すると途方もない時間がかかるものであるためこの場は流しておいた方が良いのかもしれない。

 

「まぁ、難しい話は後でゆっくりと説明するよ。しかし……」

「茅場晶彦は、その運び屋から何を受け取ったんでしょう?」

 

 本題に戻そう。茅場晶彦が、運び屋から何を受け取ったのか。それが問題となる。画面の向こうにいたドギーは言う。

 

「現在、地球署で取り調べをしている最中だが……彼にも運び屋としてのプライドがある。決して口を割ることはないだろう」

 

 悪の美学、というものがあるのだろう。あるいは、仕事人としてのプライドか。しかし、それがいいものに使われるのならばいい。悪い方向でそのようなプライドが消費されるのはとてつもなく無駄なことであると思えてしまう。

 

「なら、私が行けば? 私の能力なら、相手がどれだけ口を割らなくても……」

 

 と、紫穂が言う。確かに、彼女の能力があれば相手が何も話さなくともその思考を読み取ることなんて造作もない。例え相手が宇宙人という未知の存在であったとしても読み取ることができるはず。

 しかし、ことはそう簡単ではない。スワンが首を振っていった。

 

「それが、無理なのよ」

「え?」

「私たちの方にも、一人接触感応能力を持っているエスパー捜査官がいるの。その子が見てみたんだけど……相手の頭の中が全然見えなかったそうよ」

 

 その人物は、手袋という情報をシャットダウンする物がなければ相手の思考を読んでしまうという、能力を完全に制御できていないということから超度6の接触感応能力者(サイコメトラー)ということになっている。だが、その力自体は超度7並みの精度があったため相手の深い深層心理の中にまで入ることができるそうだ。

 しかし、そんな女性であっても相手の脳を読み取ることはできなかったらしい。

 

「それで、調べてみるとその運び屋の脳内に、超能力やその他諸々の超常現象を完全にシャットアウトする装置が組み込まれていることが分かったの」

 

 それは、ここ数年間で開発された装置で、いわば宇宙版のECMと言っても過言ではない代物。最新の機械であるためその分高級品であり、それを脳内に埋め込んでいる人間なんて初めて見た、とスワンは語る。

 とにかく、その装置が脳内にある限り例え超度7の紫穂が触れたとしてもなんの情報も取ることはできないだろうと推測していた。

 

「リストに載っていた人間の中で、唯一所在が確認できていないのは茅場晶彦のみとなっている。我々も全力を持って捜査しているが……一向にその姿を見せることは無い」

 

 SAOの販売会社や開発に協力したゲーム会社など様々な場所で茅場晶彦の行方を探した。だが、結局今日に至るまでその所在を確認することはできなかった。

 元々他人との接触を絶っていたということもあり、現在どこで暮らしているのかすらもハッキリしない。まるで根無草で空中を舞う亡霊のような人間を追うのは、とても骨が折れると言わざるをない。

 

「そこで、我々は国際警察、並びに超能力特務機関であるB.A.B.E.Lに捜査協力を依頼することにした」

「捜査協力と言っても……」

「宇宙警察が見つけることのできなかった茅場晶彦をどうやって……」

「方法はあるの」

「え?」

「これよ」

 

 スワンが取り出したもの。それはーーー。

 

「それは!?」

 

 次回に続く。



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特捜戦隊! 私たちは超能力戦隊?(後編)

「ナーヴギア! それに、SAO!?」

 

 桐壺が取り出したものは、件の話の中にも出てきたゲーム、SAOとSAOをプレイするのに必要な機器であるナーヴギアが5セットであった。それをみた谷崎たちは桐壺が何をしようとしているのか察する。

 

「なるほど、我々もゲームの中から茅場晶彦を探すという事か……」

「けど、そう上手くいくのかしら?」

「うん、いくらゲーム開発者でも自分の作ったゲームをするとは限らないし……」

 

 そう。いくら手詰まりの状態にあるとはいえ、ゲームの世界に茅場晶彦がいるかどうかなんて確定したわけじゃない。もしかしたら、外の世界、つまり今自分達がいる現実の世界から高みの見物を決め込む可能性もあるというのに。

 

「実のところ、この二つは、我々が集めたものではないのだ」

「え?」

 

 その言葉に小さく驚いた会議室の面々。しかし、その後に続いた朧の言葉にさらに驚くことになる。

 

「数日前、B.A.B.E.L宛に小包が届いていました。差出人の名前は、茅場晶彦……」

「茅場晶彦って!」

「SAOを作った本人が直接B.A.B.E.Lに送ってきたってことか!?」

 

 茅場晶彦が送ってきた小包の中、そこには、今彼らの目の前にあるSAOやナーヴギアが入っていたのだとか。なぜ、茅場晶彦がB.A.B.E.Lにそのようなものを送りつけてきたのか、一切の理由は不明だが、しかしそのヒントともなるものが同封された手紙に書かれていた。

 

「手紙?」

「うむ……止めたけば私を見つけたまえ、B.A.B.E.Lの諸君……ただ、それだけが書かれていた」

「茅場晶彦からの、挑戦状……」

 

 皆本、並びに手紙を受け取った張本人である桐壺もまたそう解釈をした。『止めたけば』か。茅場晶彦の言葉が気にかかった。

 止めたけばとは、一体なんだ。何を止めろと言いたいのだ。たかが一ゲームで、何を止めろと。

 茅場晶彦の本心は分からないが、ともすれば脅迫とも思える内容に、桐壺はすぐに三宮紫穂の父親であり、警察庁長官である人間にコンタクトをとり、相談したのだ。

 

「そして、日本の警察に局長が相談を持ち込んだことを耳にし、今回のこの合同捜査を依頼しました」

 

 と、ドギーが補足説明を入れる。元々、茅場晶彦が宇宙から何らかの物品を運び屋に持ち込ませたことから調査をしていた彼らは、B.A.B.E.Lに対して直接SAOを届けたというその行動に何らかの意味があると判断したのだ。

 

「我々宇宙警察も独自に手に入れたSAOで二名ログインすることになった。B.A.B.E.Lの方々にも、ゲーム内外で茅場晶彦の手がかりを残った刑事や、国際警察の方々と一緒に探ってもらいたい」

 

 まさか、国際警察まで動くような事件なのかと、会議室の面々の顔に緊張の色が走る。

 国際警察。それは、その言葉とおり世界各国に支部を持ち活動をする警察機構の事だ。何年か前、異世界から来た犯罪者集団ギャングラーや怪盗を相手に奔走していたその姿は、彼らの脳裏に強く刻み込まれている。

 

「一つの組織でできることなどたかが知れている。茅場晶彦の目的がなんにせよ、宇宙から危険な物を取り寄せた可能性があり、そしてそれを悪用する恐れがある以上、見て見ぬふりなんてできんよ」

 

 確かにそうだ。茅場晶彦が取り寄せたものの種類によっては、地球人類を滅亡に追い込みかねない大事件に発展する恐れがある。そのようなこと、なにがなんでも阻止しなければならない。だから、この複数の組織間の連携、やりすぎとも思えるような集まりは、それでもまだ力不足ではないのかと思わせるものがあったのだ。慎重に慎重を喫して困るものではない。これはもうすでに、エスパーやノーマルといった次元を遥かに超えた先にある事件になりかけていたのだ。

 

「そこでだ、このSAOとナーヴギアだが……」

「……」

「……」

 

 と、桐壺は話を切り出す。そうだ。茅場晶彦から送られてきたSAOとナーヴギアは五つだけ。今この会議室にいる面々の数には到底及ばない。きっとこれから、使用する人間を発表するのかもしれない。

 果たして、真剣な眼差しを受けた桐壺が次に発した言葉。

 

「ここにいる者たちの中で、欲しい者はいるかね!」

 

 それは、少年少女達だけでなく大人達に至るまでをずっこけさせるのに十分すぎる程だった。

 

「局長! そんな大事な任務を志願制にしてどうするんですか!」

「いやぁ、しかしゲームの中じゃ超能力は使えんからねぇ。誰が行っても同じだと……」

「遊びじゃないんですよ!」

「うむ……」

 

 と、大声をあげて抗議をする皆本。しかし、桐壺の意見にも一理あった。

 

「ですが、確かに超能力を使えないというのはかなりのデメリットになりますよ」

「あぁ、俺たちから超能力を取っちまえば、それこそ普通の人間だ」

 

 ゲームの世界では超能力を使うことができない。これは必然だ。だから、もしもこの会議室の中にいるエスパーがSAOの世界に行ったとしても、自分達の本当の力の一つも出すことができないのは明白。つまり、今までの任務の時のように超能力を使用してすぐに事件解決、なんてことできなくなる。

 例え、超度が高かろうと、それを取ってしまえば、彼彼女達はみな子供。いつも自分達が頼りにしていた武器が使用できないとなると、それはもうエスパーもノーマルも関係なかった。

 

「普通の……」

「人間……」

 

 その言葉に、少しだけ心揺らされた少女達がいた。

 確かに、少し前の自分達は憧れていた。超能力のない、普通の人間。普通の暮らしというものを。

 その力で、一体どれだけの人間を傷つけてきたことか。どれだけの不自由を被ってきたことか。誰かに優しくされて、でもその優しさの裏側を知って、なにも信じられなくなってやさぐれて、友達も信頼できる人間もできず、どれだけの苦汁をなめてきたことか。

 今となっては、超能力こそ自分達のアイデンティティー。ソレがあったからこそ、今まで多くの人たちを守って来れたのだという自負はある。でも、それでも時折考えるのだ。もしも、超能力なんて使えない、普通の人間だったら自分達はどうなっていたかと。

 もし、超能力がなかったら、今の自分はいない。周りにいる仲間達とも出会うことなんてなかった。でも、それは超能力がない人生でもおなじことがいえる。もしも自分に超能力が備わっていたら、一体どんな人生が送れていたのだろうか。どんな友達と出会えていたのだろうかと。結局は、立場の問題に行き着いてしまう。

 一方が一方をずっと羨ましがるという、答えのない堂々巡り。自分達はその堂々巡りの人生の中に答えを見つけようとしている。見つけるために頑張っている。でも、それでも時々、思ってしまう。考えないようにしても、それでも、頭に浮かんできてしまう。超能力のない人生というものを。二度とは戻ることのできないその道を。

 

「なら、一人目は僕が行きます」

「なっ!」

「皆本!?」

 

 そして、そんな彼女達を尻目に、まず最初に志願したのは、ザ・チルドレンの現場担当主任、皆本光一であった。

 

「超能力者であっても普通の人間になってしまうのなら、元々ノーマルである自分が行けば、何のデメリットもありませんから」

「皆本君……」

 

 確かに彼の理論は筋が通っている。超能力の使用に慣れている人間が、ゲームの世界で戦おうとしても、体に溶け切った感覚が抜け切ることなく窮屈な思いをすることだろう。

 でも、ノーマルである自分であれば、そんなデメリットも越えることができる。そう考えたのだ。

 

「み、皆本が行くなら私も行く!」

「うちも!」

「右に同じ」

 

 と、ザ・チルドレンの三人が次々に手を上げた。

 

「君たちはダメだ!」

「なんで!?」

「もしもゲーム中に確率変動値7の事件が起きたらすぐに対処できなくなるだろ」

 

 確率変動値、とは。B.A.B.E.Lに所属するエスパーが予知した事件を変える、つまり予知を覆すためにはどの程度の超度を持った人間でなければならないのかというものを示す値のことだ。

 そして、その最高レベルは7。つまり、確率変動値7とは、今日本に三人しかいない超度7のザ・チルドレンがいなければ覆すことのできない予知であるといえるのだ。

 もしもチルドレンの三人、あるいは一人でもゲーム中に確率変動値7の予知が発生した場合、移動や捜査、または災害救助の際に迅速に行動することができなくなる。皆本はそれを危惧しているのだ。

 

「せやったら皆本はんも同じやろ!」

「皆本さんがいるから私たちはチルドレンは事件を解決できるんでしょ?」

「私たちはチームだろ? 皆本がいないチルドレンなんて、チルドレンじゃないじゃん!」

 

 何も、自分達三人の力だけで予知を覆してきたわけじゃないと主張する三人。確かに、自分達がいたからこそ、予知を覆して、大勢の人々を救うことができていたのかもしれない。でも、その裏には必ず皆本という存在がいてくれた。皆本が、その頭脳を生かして自分達にさまざまな指示をくれていたからこそ、解決できた事件が数多くあるのだ。

 皆本の事件現場への到着が遅れること。その結果、予知を覆すことができなくなる。確かに彼女達が危惧する理由もわかるというものだ。

 

「しかし……」

「なら、こういうのはどうだ?」

 

 と、妙案を思いついた様子の賢木。

 そのすぐ後、SAOをプレイすることとなる五人が選ばれることとなった。しかし、この時の彼女達は知る由もなかった。

 それが、悪夢への片道切符。再びこの会議室にいる面々全員が顔を合わせるまで長い時間をかけるということを。

 憧れていた普通の人。だけど、そのために手に入れたのは普通ではない生活。

 自分達は、超能力のせいで随分と不幸せな生活を強いられてきた。そう思ってきた。でも、ソレは違った。

 不自由な生活の中でも、理解者であるB.A.B.E.Lがあったからこそ、学校に通うことも、友達を作ることもできた。なにより、超能力があったからこそ手に入れることができた仲間たち。

 でも、超能力のない世界は、地獄だった。

 超能力のある世界とない世界、離れ離れにされた少年少女達。そして、大人達。超能力を使うことができない超能力者達による、再び不自由な世界に戻るための矛盾した戦いが、今始まる。



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幸運の星

 安直すぎるサブタイトルである。


 日常、それはちょっとしたことで崩れてしまう。子供が公園の砂場で作った砂の城と似たようなもの。

 ここに、その日常を謳歌している一人の女の子がいた。

 

「……」

 

 パソコンを触っている少女。その部屋には多種多様のオタク文化の象徴と言われるもの、フィギュアやポスターといったものが置かれていた。その辺り、かなり前に紹介した小牟と似たようなところはある。

 しかし、大人で資金力のある彼女とは違って、ここにいる少女はまだ高校生。バイトはしているものの、資金力の差は歴然だった。特にここ最近は部屋の雰囲気が殺風景になってしまって、何か人生において大事なものを奪われてしまったよう。しかし、それが何なのか分かっていなかった。

 そんな彼女、泉こなたは今現在ネットサーフィンをして情報を集めている。来季放送予定のアニメの情報や、新しいライトノベルの情報。ネトゲの攻略サイトの巡回も欠かさずに行い、人生を豊にする方法を模索していた。まるで、盗まれてしまった心を探すが如くに。

 

「……」

 

 そう、自分は何か大切なものを奪われてしまったのだ。でも、それが何なのかわからない。

 部屋の様子はいつもと変わらない。前と何ら変わらない普通の部屋だ。だが何かがおかしい。

 自分のなかのアニメの知識。アニメの歴史。そして、実際のアニメーションの歴史。どれをとっても何の誤りもなく正しい。

 でも何かが違う。

 自分が歩んできたオタク道。自分が、見て、聞いて、そして楽しんだ数々のアニソン歌手の、声優のライブ。すべてが正しい記憶だった。

 でも、何かが違う。

 その何かがわからない。何だかもどかしい気持ちになってしまっていた。

 そんな彼女だったからだろう。あのゲームに目を奪われてしまったのは。なくしてしまった心の拠り所を補完するかのようにそのゲームを欲してしまったのは。

 いや、もし彼女が何かを失っていなかったとしても同じことだったのかもしれない。何故なら、彼女はオタク。彼女はゲーマーだったから。だから、彼女が失ったものは何の関係もない。

 

「……」

 

 そう、思いたい。

 

「……お?」

 

 その時だ。ピロンという軽快な音がパソコンから鳴ったのは。これは、電子メールが届いたときの音。そうか、もうそんな日になったのかと、こなたはおっかなびっくりに自分に届いた電子メールのボックスを開く。

 複数ある受信ボックスの中、新着したメールがあることを赤いランプで示す受信ボックスを見つけたこなたは、右手で操作するマウスの左クリックを2回素早く押した。

 届いたメールは一つ。こなたは、そのメールにカーソルを合わせると再びにかいクリックした。

 

「おぉぉ……」

 

 そして現れた文字はーーー。

 

「ということでSAOが当たりました」

「へぇ……」

「まぁ……」

 

 場面が切り替わって。ここは彼女が通っている高等学校の一つの教室。その一画であるこなたの机の周りには三人の女の子がいた。

 SAO、それは(以下略)。

 

「アンタねぇ、自分が受験生だってことわかってんの?」

 

 と、いうのは柊かがみ。いわゆるごく普通の常識人ツッコミキャラである。彼女のいう通り、こなた、そしてその友達三人はまとめて高校三年生という受験生なのである。だから、たった一万本しかない初回販売の抽選に応募すること自体おかしいはずなのだ。

 

「このビッグウェーブに乗り遅れるのは惜しい者なのだよかがみ」

「たく、浪人しても知らないわよ」

「その時は、SAOをする時間が多くなるということで」

「はぁ……」

 

 と、能天気で何も考えていない風のこなたにあたまをかかえたかがみ。まぁ、彼女がこんな感じの性格なのは重々承知。SAOというものを小耳に挟んだ時から嫌な予感はしていたのだが、まさか本当に応募していたとは思っても見なかった。

 

「でもすごいねこなたちゃん。あれって、最初の販売本数が少ないから、抽選でも当たる確率低いって聞いていたのに」

 

 と、いうのはかがみの双子の妹である柊つかさ。天然な部分が垣間見えるお人好しの女の子だ。

 

「まぁ、名義を使ってたくさん応募したからねぇ」

「そんなことしていいのでしょうか?」

 

 と、いうのはおっとりした性格のように見える、いわゆるお姉さん的ポジションの高良みゆきである。

 彼女のいう通り、それは少しずるいのではないかと思うのだがこなたは言った。

 

「みんなやってることだよ? 禁止事項にもそのことは何も書いてなかったからねぇ」

「そうなんだ」

 

 こなた曰く、これは異例中の異例なのだとか。普通こういった抽選の場合は、同一のIPアドレス、つまり同じパソコンからの応募は弾く仕組みになっていたりして重複当選はしないはずなのだ。それなのに、その抽選はたとえIPアドレスが同じであったとしても、名前が違っていれば重複当選も可能という破格の待遇が書かれていた。

 これは乗らないてはないと、こなたはちゃんと自分の知り合い何人かに許可を取り、住所と名義を貸してもらって応募したのだ。

 

「え?」

「へ?」

「あ、あれってそうだったの……」

「安易に名義貸してたら将来大変なことになるよかがみ」

「グッ……」

 

 主に、詐欺師とか闇金融とかに騙されるかもしれないから、という意味だそうだ。

 

「いやぁ、人足を集めるのも大変だったよ。ゆーちゃんやその友達に秋葉原で仲良くなったゆりねさんやパティの知り合いにも頼んだりして」

「後半誰よ!?」

 

 ゆーちゃん、というのは現在こなたの家で居候をしている彼女の従妹の小早川ゆたかのことである。が、かがみたちが知っているのはそれだけ。後に出てきたゆりねという人物やパティという人間に関しては全く知らない。

 こなたが言うには、ゆりねは大学生、パティというのは中学生で、時折秋葉原の古本屋やらメイド喫茶などで出くわすことがあったのだ。いつしか意気投合し、互いに連絡を取り合う仲になっていたのだとか。

 自分の知らない彼女の交友関係に驚くのと同時に、ちょっとした嫉妬心を覚えたようなかがみなのであった。

 

「まぁ、4個も当選するのは予想外だったけど」

「4個?」

「まぁ、それはすごい確率ですね」

 

 この辺り、何者かの意思のようなものが憑依しているような気がしてならないのだが、触れないでおこう。

 

「そだよ。そのうちの一人はずばり! かがみなのである!!」

「ハァッ!?」

「まぁ、正確に言えばかがみの名義で応募したのが当たったってだけだけどね」

 

 たった一万個しかないゲームの一つが当たったのだ。本来であれば喜ぶべきところであるのだが、かがみはそうはいかない。

 とても焦った様子でかがみは主張する。

 

「ダメに決まってるでしょ! 私、ってかあんたも受験生でしょ!!」

 

 最もな正論である。SAOのサービス開始は十一月。受験生にとってラストスパートをかけるべき時期であり、ゲームなんてものにうつつを抜かしている場合ではない。

 と、言ったかがみだが、こなたはそうなることを当然読んでいたらしく、まるで昔に放送していたCMのチワワのようにつぶらな瞳で彼女を下から見上げながら言った。

 

「限定一万本だよ。今世紀最高のゲームだよ、やらなきゃ損だよ」

「うっ……でも……」

 

 こなたはさらにかがみの手を握った。もはや絵面が告白か何かのような気がしてくるほどに危ない光景になってきた頃。かがみははぁ、と息を吐くと言った。

 

「あぁもう、分かったわよ! ただし、最初の一日だけよ!」

「うっし!」

 

 こうして、根負けしたかがみもまた、SAOの世界へと行くことになったのであった。こなたは、それだけ聞くと、先ほどまでのつぶら波にとみを海苔のように細くすると、彼女に見えないように後ろを向いてガッツポーズをした。

 もちろん彼女の言い分も尤もだし、一人でプレイしても楽しいものであることは容易に想像できる。しかし、MMORPGは大人数でプレイすることが前提のゲームであり、より多くの仲間がいることで攻略の難易度が左右される。だから、ともにたたかってくれる仲のいい仲間は一人でも多い方がいいのだ。

 となると、気になるのはあと一つだ。

 

「それで、他には誰が当選したの?」

 

 こなたは、四個のSAOが当選したと言っていた。そのうちの二つは自分とこなたであるとするのならば、あともう二つは誰のものなのか。まさか、つかさとみゆきではないだろうか。

 いや、そうだったら先程自分を名指しで指名なんてせずに全員に報告するはずだ。だから、違うのだろうと容易に想像することができた。

 

「まぁ、まだ本人にプレイするか聞いていないから、もしいらないって言われたら他の人に渡す予定だけど」

「……」

 

 だったら別に自分が断ってもよかったのではないか。そう思っても仕方のないことを言い放つつかさに、怒る気もさらさら起きなくなってしまったかがみであった。

 

「それで、誰なんですか?」

「それはね……」

 

 こうして、泉こなた、柊かがみ、そして後の二人。計四人のSAOが今この時から始動し始めた。後に、かがみはとあることを決意することとなった。もう友達だからと言って名義貸しなんてしないと。

 だが、その決意はあまりにも遅すぎることとなってしまう。




らき☆すた
     参戦
 今回サブタイトルで分かったかな?
 あと、まだ参戦させてない作品一つのヒントも出しました。
 冷静に考えると日本アニメーションの象徴的な作品がいくつも消失しているからこの作品世界のオタク系キャラがかわいそうだな……。
 実はあまりにも作品を持ってきすぎるのは不憫ということになるので、温情でとあるゲーム会社の作品、それにジャンプ系作品に関しても少ししか参戦させないようにして、フィクション作品としてこの世界に残存させている所存です。


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前夜祭の前夜祭

 あれ? あの人の命日って確か……。となったので参戦予定だけど本格参戦はかなり先になるため秘密のままにしようとしていた作品の出番です。


 人材の墓場、と言うものはどの組織にも置かれてある物だ。簡単にクビを切れない人間を同じ部署に集め、雑用などの差し支えのないものをさせて飼い殺しにする部署。

 それは、日本の正義を守るはずのこの警視庁にも存在している。

 特命係、警視庁の陸の孤島と揶揄されるこの部署が設立されてから三十数年。その間にこの特命係に配属になった人間は十数人。

 しかし、ある特定の人物だけはその三十数年と言う長い時間係長としてその特命係の看板を守り続けてきた。果たして、それが名誉なことであるのか、それとも窓際部署に押し込められた意地であるのかは定かではない。

 しかし、これだけは言える。

 特命係は、決してただの窓際部署なのではないと言うことを。

 

「右京さん、今日もこてまりに寄るんですか?」

「えぇ、君も来ますか?」

 

 既に外は秋から冬に移り変わろうとして肌寒くなっている中。特命係係長の立場である杉下右京はトレンチコートをその手に持ちそう言った。

 

「ぜひ! お供させていただきます!」

 

 そう、笑顔で言ったのは現在の特命係に所属しているもう一人の人員である亀山薫である。

 この部署に所属している人間は以上に述べた二人のみ。そして、この特命係係長である杉下右京こそ、この課で三十数年働いている警察官。

 彼は、以前は俗に言うキャリア組と言う物で入庁してきた警察官であり、本来であればこのような部署に飛ばされることなどなく、出世コースに乗るはずであった。

 しかし、とある籠城事件の指揮を任されたこと。それが、彼の運命を変えてしまう。

 籠城事件は、当時の上司の独断先行によって杉下の静止も虚しく強行突入によって、人質や突入したSATの隊員にも死傷が出る惨事となってしまう。

 現場の指揮を任された杉下は、その全ての責任を押し付けられ、結果特命係が創設。その係長として一切の捜査権限のない窓際に追いやられてしまったのだ。

 が、しかし彼はそんな捜査権限がないと言う事実など知らぬと言うようによく事件現場に足を運び、事件を解決に導いていく。本人は興味本位で立ち寄っているつもりであるらしい。

 そして、亀山薫はそんな杉下右京の下に付いた人間の中で最初に長期間事件解決のために奔走した男。

 亀山も、元々は犯人に人質にされると言う失態を犯してしまったがために特命係に配属となった刑事だった。だが、そんな経緯今はもう関係ない。二人は良きパートナーとして、さまざまな事件に関わってきた。

 狂気的な連続殺人事件、爆弾テロ、そして世間を揺るがすバイオテロ。彼らがいなければ日本という国がどうなっていたか分からないというほどの大事件を尽く解決してきた二人。

 ある事件を契機とし、海外に渡った亀山ではあったがこの度、諸事情により十四年ぶりに日本に帰国。再び二人の特命係が再スタートとなった。

 人は、二人のことをこう呼んだ。

 史上最高の『相棒』と。

 

「ん?」

「おや?」

 

 警視庁の廊下。行きつけとなっている料理店へと向かおうとしていた二人に最初に気がついたのは、遠くの廊下の角から突如として現れた相手の方であった。杉下もまたそれに若干遅れて反応する。

 

「どうも、杉下警部殿」

「えぇ、どうも」

 

 黒いスーツという警察官が着るべき制服を着ていないにも関わらず、こんな夜遅くまでまで庁内にいるということはーーー。男のことを知らない亀山は聞いた。

 

「右京さん、誰です、この人?」

「彼も捜査一課の刑事です」

「へ? ってことは……」

「伊丹刑事から話は聞いてるぜ……特命係の亀山……さん」

 

 と、言いながら青年はかけていたサングラスをややずらしてその先にある鋭い眼を見せるとややシニカルに微笑んで見せた。

 亀山、そして捜査一課の刑事である伊丹は犬猿の仲で、互いに罵り合うことが多く、十四年前、そして亀山が警視庁に復帰した今も仲良く喧嘩を現場内外問わずにしている。

 

「松田陣平。一応今は、捜査一課強行犯三係の目暮班所属の刑事だ」

 

 目暮。という人物については知っている。確か本名は目暮十三。階級は警部であったか。たまにすれ違う時に杉下右京の部下であるということの労をねぎわってくれるため、印象に残っている。

 しかし部下についただけでその苦労を嘆かれるなんて、一体どれほど杉下右京という人間と付き合うのが難しいことであるのかがわかるという物だ。

 それにしても、である。

 

「けど、この前の事件の時にいましたっけ?」

 

 彼、亀山薫がこの日本に帰ってきてからすでに半月の時が経とうとしていた。その間あれよあれよと舞い込む事件に、杉下右京は次々と首を突っ込み、亀山薫もそれについて行って数多くの事件を解決に導いて言っていた。考えてみれば十四年前に自分が特命係にいた時よりもかなりのハイペースであった。

 その事件の調査の際、いつもの捜査一課の刑事たちに頻繁にあっては伊丹と喧嘩したりを繰り返していたわけであるが、その時にこの松田刑事の姿はあっただろうか。いや、彼だけじゃない。先ほども話に出したあの目暮警部にも事件現場にて遭遇したことは無いように思える。一体どうしてだろか。

 

「彼は捜査一課の中でも別の地域を担当する人間ですから」

「別の、地域?」

「出戻りのあんたは知らないだろうな」

 

 そう言うと、松田は改めてサングラスをかけ直し、右京は人差し指を立てて言った。

 

「近年。全国各地で殺人や窃盗、また異世界からの侵略者といった特殊な犯罪も増えています。それら全ての事件を解決するためには、それ相応の人員の適切な配置と、迅速な対応が求められます。そのためには旧来の制度では頭打ちになってしまう。そこで、白馬警視総監や大岩捜査一課長の陣頭指揮の下、作られたのが班制度。それぞれの課の警部以上の階級を持つ警察官が、十人程度の警部補以下の階級の警察官を率いてそれぞれの地域を担当、事件の捜査をする制度です。我々が彼や目暮警部と遭遇しなかったのは、彼らが担当する米花町や杯戸町に足を踏み入れたことがないからですねぇ。あぁ、もちろん担当地区以外にも赴くこともあります。その地域だけを担当するのであれば、所轄署の必要性が無くなりますからねぇ……」

 

 以上、非常に長い台詞を終えた右京。松田はその後ろで感心するかのように小さく拍手を送っていた。

 

「俺がいない間にそんなもんが……」

 

 亀山は驚いていた。確かに、自分がいた時よりも犯罪の数が増えているとは思ってはいた。しかしその結果警視庁にそんな改革が起こっていたなんて。

 

「因みに、伊丹刑事や芹沢刑事、そして出雲刑事は小山田管理官の班に所属しています」

「管理官?」

「えぇ、大岩捜査一課長が信頼を置く部下の一人と聞いています」

 

 管理官とは、警視庁の管内、つまり東京都内で事件が発生した場合に所轄に捜査本部が設置された際の陣頭指揮を司る役職の事だ。なるほど、確か管理官の役職は警視以上の階級を持った人間に限定されているはず。右京の言葉と矛盾することは無いが。

 

「確か前に捜査会議をした時の管理官って……」

 

 そう、確か少し前にあった事件で捜査本部が立った時の管理官は、小山田という人間ではなく、松本清長という人物だったはず。その左目に着いた大きな切り傷は、今でも思い出せるほどに特徴的で、かなりの修羅場をくぐってきたのだと亀山にも実感させるものだった。

 確か、彼もまた管理官ではなかったのだろうかと考えていた亀山に、右京は言う。

 

「亀山君。別に管理官は一人というわけではないんですよ?」

「そ、そうなんすか!?」

 

 そうなのである。管理官は、警視庁に一人でなければならないという規則などない。そのため、管理官が複数人いてもおかしくはないのだ。というか、このことは警視庁に務める警察官であれば周知の事実であるはずなのだが。

 

「えぇ……君、十四年間サルウィンにいたおかげで色々忘れているようですねぇ……今夜はこてまりには寄らず、勉強会でもしましょうか?」

「い、いえまた今度にします今度にします……」

 

 と、二度同じ言葉を繰り返して強く固辞した亀山。なお、サルウィンといいうのは彼が十四年前にとある事情にて渡航したミャンマーとバングラデシュの間に位置している国であり、政府をはじめとしたさまざまな組織が腐敗していることによって不安定な情勢が続いている国。つい先日反政府革命によって共和制が瓦解したことが伝えられたが、そこには学校の校長であった薫の教え子である少女の活躍があったのだが、それはまた別の話。

 少なくとも、亀山がかなり危険な国、いつ殺されるか分かった物じゃないような命の危険を感じる国に十四年間いたという事だけは覚えてもらいたい。

 

「たくっ、事件ばっかりで退屈しねぇよ、この国は」

「君も、随分と疲れ果てているようですねぇ」

「フッ……」

 

 まぁ、現状の日本も毎年のように侵略者に襲われたり、人間同士で殺人や放火などの事件が多発したり、はたまた超常現象によって日本が起点となった世界崩壊が起こりかけたりと、なんやかんやで一番命の危険がある国であるような気もするのは放っておくことはできないだろう。

 上記の一連の事件がほぼ毎日のように起こるのだから、その分警察官たちの疲労は常にピーク状態に達しているのは当たり前だろう。業務改革のおかげでその負担は確かに減ったが、それでもまだまだ事件は数多く待っている。今、こうしている間にもどこかで事件が起きているのかもしれない。それを考えると、おちおち寝てもいられないのだろう。

 だが、杉下は考えていた。松田の場合は少し違うのであろうと。彼はそんな細い神経の持ち主じゃない。それこそ、今自分の隣にいる亀山薫と同じくらいの図太く、強靭な神経を持った人間であると知っているのだから。

 

「あ、そうだ。この後一杯やらないか?」

 

 そんな苦労をねぎらおうとしたのか。亀山は松田に酒をおごろうとした。しかしつい先日警視庁に復帰したばかりで、おまけにとある事件の責任で減給を食らってあまりお金も持っていないはずの亀山が、誰かにおごるくらいのお金を持っているとは思えないのだが。

 しかし、そんな心配をよそに松田は言った。

 

「悪いが、遠慮しとくぜ。まだ、やるべきことが残ってるんでね」

 

 と。右京は表情を一つも変えることなく言った。

 

「そうですか、ではこれで」

「あ、ちょっと右京さん」

「……」

 

 松田の隣を通って廊下を歩く右京。その背中を負った亀山。松田は、どこか感慨深そうにその彼らの後姿を眼で追っていた。

 どこか既視感を覚えたのかもしれない。亀山薫という、自分の同期に似た人間に。そして、杉下右京という人間に、今はもう警察からもその記録が抹消されてしまっている自分の同期の姿を重ねていた。タイプは全然違うが、しかし話に聞く限りの洞察力や完璧超人ふりは、彼そっくりだ。

 そして、そうやってともに歩く姿は自分とアイツに似ているのかもしれない、とも。松田は歩き出そうとした。明日に、そして明後日の大事な日に向かって。

 

「おっと失礼。最後に一つ、よろしいですか?」

「なんだ?」

 

 だが、そんな彼に向けて杉下は質問をした。これは、杉下右京の口癖のようなもので、主に事件の容疑者や目撃者に対する尋問の、最後の最後にする質問。人によっては大したことがないようなくだらないような物。しかし、その裏には事件の真実を真芯でとらえる質問が多い。それが、彼の洞察力の高さを物語っているのかもしれない。

 

「彼の墓参りには、もう行ったのですか?」

「……」

 

 瞬間、サングラスの向こうにある松田の瞼がピクリと動いたような気がした。

 

「フッ……抜け目ねえな警部殿は……」

「細かいことが気になるのが、僕の悪い癖で」

「明日行くさ。仲間と一緒にな」

 

 ただそれだけ言うと、松田は振り返ることなく手を振りながらその場を立ち去った。残されたのは、その言葉に満足げな右京と、質問の意味が全く分からなかった亀山だけである。

 

「なんです? 墓参りって」

「今から三年前の11月7日、彼の同期だった男性が殉職したんですよ」

「殉職?」

 

 殉職。それは、職務の最中に何らかの原因を持って死亡すること。死と隣り合わせの警察官にとっては切っても切り離すことのできない存在。少し前に一緒に笑いあっていた仲間が、次の日には犯人追跡中に死亡するなんてこともあり得る。その時の悲しみは、例え強靭な精神力を持った人間であっても計り知れないものがあるだろう。

 特に、同期という志を共にした仲間の死には。

 

「だから、命日に墓参りを……って」

 

 ふと、ここで亀山気が付いた。

 

「明日はまだ6日ですよ?」

 

 そう。今日はまだ11月5日。彼の同期が殉職したという日が7日であるのだから、命日の墓参りをするのには一日だけずれてしまっている。すこしおかしくないだろうか。

 

「それは彼も重々承知でしょう。ですが、当日には墓参りなんてする余裕は無いと思いますよ?」

「へ?」

 

 今年の11月7日、何かが起こる。そう、松田も考えているのだろう。自分もまた、三年前から警視庁に送られてきていた数字だけが書かれたFAXを見てそのように考えているのだ。きっと、11月7日に何かの事件が起こる。松田は、その事件に備えているのだろう。

 事実、11月7日にある事件が発生した。松田は、その事件を解決させるために人柱となり、多くの人間を救うことになった。しかし、その結果ある女性にトラウマを植え付けてしまうこと名になるなんて、この時の彼は知る由もなかった。

 そして、この時の彼らも考えていなかった。まさかその前日の11月6日。日本、いや世界を震撼させるような大事件が発生するなんて。予想することも推理することもできない、伏線も一切敷かれていないような凶悪な事件。日本全国の警察官を相手にした超特大のミステリー。果たして、それを解決に導くのは杉下か、松田の意思を継ぐものか、それとも―――。




名探偵コナン
      参戦(前書きの通り本格的な出番はかなり先)


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本編 メインシナリオ第一章 始まりの日
メインシナリオ第一章 1話


 アンケートの結果、本編、外伝、共にひとつの小説で投稿することになりました。


《リンクスタート》

 

 その言葉を呟いた瞬間。少女の意識はすぐさま俗世間から姿を消した。

 その瞬間の気持ちは絶対に忘れられないだろう。魂が引っ張られるかのような、空に引っ張られるかのような感覚。感じていて心地の良いものだった。快感にも感じ取ることができた。幸せが、津波のように押し寄せるかのようだった。

 そのうち、目の前に現れたのは空間だ。真っ白だ。見渡す限り真っ白な空間だ。現実とネット世界との間の世界。それはどんな色にも染まることができる真っ白な空間だ。真っ暗闇な光景というのはよくみるものの、このような光景を見るのは初めてで、とても新鮮な気持ちになる。まるで、自分が別の世界に生まれ変わるかのようにも思えてしまう。

 しかし、それも長続きしなかった。真っ白だった空間、その奥から自分に突き刺さるかのように溢れ出てくる様々な色。次々と現れる文字。

 ログインIDとパスワードは、事前に入力していたもの。その後現れたのは容姿設定。これは事前にパソコンで登録していたものであるため入力する必要はない。

 こんな単純な手続きが、そのゲームへのパスポートである。これが終われば、ついに自分の意識は完全にあの世界に取り込まれることとなる。

 本音を言えばちょっと怖い。このようなVRゲームをプレイすること自体初めて、と言うよりもゲーマーの兄とちがってそれほどゲームに熱中してこなかった自分にとっては全てが初めて味わう感覚で。新鮮であるを通り越して恐怖すらも感じる。

 そもそも、自分はあまりゲームに興味があったわけではない。そんな自分が、世界で初めてのVRMMORPGだという謳い文句一つでプレイする気になるわけがなかった。

 本当にプレイしてみたかった理由はただひとつ。兄が夢中になっていたから。

 ゲーマーの兄は、それこそ古今東西のゲームを隅から隅までプレイしていた。自分には何がそんなに兄を滾らせるのかがよくわからず、よく兄のことを白い目で見ていたのは確かだ。

 そんな兄が、βテスターとやらを務めたゲーム。それがこの世界で初めてのVRMMORPGだった。最初こそ、いつものゲーマーの兄のすることだからと興味を一切示すことがなかった少女ではあった。だが、いつもと違ったのはそのゲームをプレイしている兄の姿が気になったと言うこと。どう言うわけか、そのゲームをプレイしている兄の顔が、姿が、仕草が、とても気になるようになったのだ。こんなこと、生まれてこの方初めてである。

 それに、なぜだろうか。ゲームをプレイした後寝ぼけ顔で自分の前に現れた兄の顔に、胸が跳ね上がる感覚を得た。一体どうして。自分の体に何が起こったのか。少女はよくわからなかった。

 だが、ひとつだけわかることがあった。自分は、兄と一緒にゲームをしてみたい。兄の好きなことを自分も経験してみたい。そんな欲求にも近い感情に気がついた。

 そうと決まったら話は早い。少女は、すぐさまゲームを買うために奔走した。さまざまなゲーム屋さんで予約の抽選に応募し、ネットで予約開始の時間を胸の鼓動というカウントダウンを聴きながら待ち、また雑誌や葉書での懸賞にまで目を通した。全ては、兄と一緒にゲームをプレイするために。

 そしてついに彼女は手に入れた。自分が望んでいたものを。世のゲーマーが喉から手が出るほどに欲しがっているゲームを。

 《ソードアート・オンライン》。今世代最高のゲームになるとの呼び声の高いゲームを、ついに手に入れたのだ。

 少女は兄にソードアート・オンラインを入手できたことを報告しなかった。もしもゲーム内で出会うことができたのなら、その時のサプライズとして置いておきたかったためだ。

 完全にイタズラ心が混じっているソレであるし、容姿も名前も違うゲームのアバターで出会うことができたとしてもわからないのではないかとも思ったが、それよりも兄に出逢ったらどう驚かせようかという楽しみの方が大きかった。

 ゲームを入手できたその日から、彼女はサービスの開始日を待った。今か今かと、早く早くと待ちわびていた。気がつけば、彼女は一般のゲーマーと同じ気持ちになっていると言うことに気がついた。あぁ、これが兄の気持ちなのだと、兄の今まで知らなかった側面を知れたようで嬉しかった。少女は、その時とてつもなく幸せであった。

 そして、ついにその日が来た。残念ながら、兄は≪熱中症≫で検査入院ということでサービス開始後すぐにはログインすることができないそうなのだが、しかし兄がログインすると言うことは変わりない。

 だから、彼女はゲームの中で兄が来るのを待つことにした。そもそも兄はSAOのβテスターとして先に二ヶ月に渡ってプレイした経験があるので、それを鑑みれば自分がやると言うことが先にプレイするという言葉に当てはまるのだろうかとも思うのだが、とりあえずプレイしてみる。

 本来この日、少女の所属している剣道部の部活動が予定されていた。しかし幸運なことに先生の都合で休日となり、彼女がゲームをプレイする障害は何も無くなっていた。

 全てが、自分のためにあるのではないのか。そう思えるほどに自分の良いように物事が進んでいた。まるで夢でも見ているみたいだ。

 だが、もしもこれが夢であるとすれば、その夢をじっくりと楽しもう。あの世界を、兄を夢中にさせたSAOの世界を。

 

《Welcome to Sword Art Online!》

 

 ここに、一人の異国の少女がいた。

 ニホン、あるいはリアルとよばれている世界からアインクラッドという世界に入国を果たした幸運な女の子だ。

 空高く広がる青空。偽物だ。

 遠くに見える建物。偽物だ。

 近くにある草原。偽物だ。

 けど、ここにいる自分は、本物だ。

 全てが偽物の世界に、一万に近い本物の存在が突如として出現する。

 その光景は、側から見れば異様に見える。しかし、異様に思える存在なんていやしない。全てが偽物であるのだから。

 空気も偽物、色も偽物、足の感触も、手の感触も、頬に当たる風の感触も、全てが偽物。

 でも、このワクワクするという気持ちに、虚偽は無かった。

 新たなる冒険者を出迎えるファンファーレが聞こえる。

 耳を貫き、心を刺して奏でられる運命のプレリュード。

 

「ついに……来たんだ!」

 

 少女、《リーファ》の冒険がこうして幕を開けた。




プレイヤーNo.1 桐ヶ谷直葉(リーファ【Leafa】)≪原作:ソードアート・オンライン≫ ログイン


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メインシナリオ第一章 2話

 さて、ゲームにログインできたリーファは、すぐさまフィールドに出陣。とまではいかない。実は今フィールドに出てもしょうがないのだ。

 フィールドに出るには必要な物が最低でも二つある。

 一つ目に、言わずもなが武器である。この世界に来てみてアイテムストレージと呼ばれるものをみてみたのだが、そこには何もアイテムが存在していなかった。当然、武器である剣も。SAOは、近年のRPGの中では珍しく魔法というものを一切排除したゲームであり、ソードアート・オンラインの名称にふさわしいほどに剣が重要なアイテムとなるのだ。そのため、フィールドに出るためには武器である剣が必ず必要になってくる。

 そして、もう一つの必須アイテム、それが回復アイテム。これはどのゲームでも一緒のことであると思うが、ゲーム開始当初はHP、つまり命とも言える物が少ない。このゲームの場合HPの最低値はたったの250。これが、どのくらいの安心感を持てる物であるのかは、実際にフィールドにでて敵と戦ってみなければわからない。だが、何の対策もなしにフィールドに出るのはかぎりなく危険であろう。そう考えれば、回復アイテムは最善の一手であると考えられる。そのため、回復アイテムを持っていないのは、ほとんど丸腰で敵の陣に乗り込んでいくのとほぼ同じであるのだ。

 この二つを買いたいのだが、少しだけ歩いた先にこれみよがしに剣を売っている露天を見つけた。すでにプレイヤーが何十人もそこに押し寄せて武器を手に入れようと躍起になっている。本来はここで武器やアイテムをかったほうがいいのだろうが、リーファは何かが引っかかった。

 ゲーム初心者であった自分は、少しでもオンラインゲームのことについての情報を得るために色々なゲーム攻略サイトを回った。当然発売前だったSAOの情報については微々たるものしかなかったが、しかし他のゲームでも傾向と対策という物は取れる。その結果、リーファはある一つの情報を知ることができた。

 武器やアイテムを売っているお店が、必ずしも一つの街にひとつとは限らない。というものだ。つまり、この街にはまだ武器屋、もしくは道具屋という物があるかもしれない。それも、先程の露天よりも安く買える同じ剣が売られているお店が。

 露天で売られている剣をみたとき、リーファの心に引っかかったもの。今考えてみると、それは値段だったのかもしれな。

 たくさんのプレイヤーがたむろしていたためによくは見えなかったが、人混みの間から見えた剣の値段は、先にゲームからプレゼントされていたお金ーこの世界ではコルというらしいーの8割を使うものだった。最初の剣で持ち金の8割を失うのはまだしも、それでは一緒に売られている回復アイテムはひとつかふたつくらいしかかえない値段だ。

 ゲーム開始地点から一番近い売り場、他のアイテムが少数しか買えなくなる値段設定。これを考えた時、リーファは閃いた。これは、開発者である茅場晶彦の罠なんじゃないかと。

 つまり、どれだけ高い剣であったとしても、初めてプレイするプレイヤーで、なおかつ一番近い売り場で売っている物であるのだから、ソレ以外に買える場所なんてない、どれだけ高かったとしてもソレを買わなければしょうがない。露天の配置は、プレイヤーをはめるいわば心理的なトリックなのではないか。

 だからリーファは、その露天から離れた。そして探す。他に武器が売られているお店を。安くて、回復アイテムを一緒に買えれるようなお店を。

 

「あっ……」

 

 ふと、リーファには一人の女性の格好をしたプレイヤーが目に入った。武器が売っている露天には一切目移りすることなく、一もくさんに路地裏の方に走り去っていくプレイヤーだ。

 もしかして。リーファは、そのプレイヤーの後をつけてみることにした。ただ、追いかけていると知られれば振り切られるかもしれないし、それに相手も気分が悪いだろうから付かず離れずの距離で。

 それからどれくらい走ったことだろうか。陽の光も浴びずに影となった路地裏は、まるで本当に外国の地を走っているかのような気分になってくる。陽気なBGMも、そこにはいると少しだけ小さくなり、明るい場所との対比を顕著にさせてくれる。

 自分は、実際に外国へと行ったことはないのだが、もしも行ったことがある人が見れば、この光景をどう思うのだろう。この綺麗な光景を何も知らない人が見たら現実だと思うのだろうか。

 そんなことをかんがえながらプレイヤーのことを追っていると、ついに彼女はその場所に来た。

 

「こんなところにも、露天が……」

 

 表の通りからは決して見えないような場所。そこにこじんまりとした露天がひとつあり、その周囲に数名のプレイヤーがいた。中には先程みた女の格好のプレイヤーもいる。

 そして、その露天で並べられていたのは、先程の表の通りで売られていた剣と全く同じもの。違うと言えばその値段だ。断然こちらの方が安いし、一緒に売られている回復アイテムのポーションというのもそこそこ安い。

 やはり、こちらで買うのが正解だったようだ。そうと決まれば話は早い。リーファは、ある人物にメッセージを送ると露天の老店主に話しかける。

 すると、目の前に現れたのは売られているアイテムの名前、値段、いくつ買うか、そしていま自分が所持しているお金の残高という項目。

 なるほど、こうやってお店でアイテムを買うのか。そう思いながらリーファは≪スモールソード≫という剣、そして余ったお金でポーションを購入する。これで、お金の残高はほぼゼロとなった。

 リーファは、露天から離れるとすぐさまアイテムストレージからスモールソードを出現させる。

 そこそこの重さを感じる剣だ。いや、そもそも重さを感じ取れるという時点でいかにこのゲームがリアリティあるものであるのかを実感できるというもの。他のゲームでは入手したアイテムを実際に持つということはできないため、直に触れる、重みを味わうことができるというのはこのSAOというゲームだけの特権であるといえよう。

 この少し重く、そして扱いが手やすそうな剣が、これからの自分の相棒。新しい剣を手に入れるまでの武器になるわけだ。そう考えると、少しくらい愛着が湧いてくる。今後、他の武器を手に入れればこの剣を使うことはなくなるであろうが、しかしアイテムストレージの中にはずっとずっと入れておこう。このゲームをクリアする、その日まで。そう、リーファは心に誓った。

 十数分後、リーファの姿はまだその露天の近くにあった。アイテムをゲットしたのであとはフィールドに出るだけであるはずなのだが、どうしたのか。

 実は、彼女には共にゲームをプレイしようと話をしていた友人がいたのだ。先程メッセージを送った三人が、その友人である。

 三人のうち二人とは、ある剣道の大会で出会った。実際に試合をしたのはそのうちの一人で、自分はあっさりと敗北してしまった。相手の方が学年がひとつ上だったということも理由にはあったが、しかしそれ以上に力の歴然たる差が大きかったのは間違い無いだろう。

 そしてどうやらその子も自分と同じく剣道場を家に持っており、祖父に鍛え上げられた自分のように、親兄弟に教えられて剣道が強くなったそうな。そんなこんなで二人は意気投合し、さらにその子の知り合いで応援に来ていた大学生で、こちらも剣道をしているというお姉さんとも仲良くなった。

 運命の悪戯か何か、話をきくに二人もSAOを入手したというではないか。三人が一緒にゲームをプレイしようという話になるのにそう時間は掛からなかった。結果、大学生のお姉さんのお友達の女性も加えて四人で遊んでみようということになったのだ。

 しかし、こう考えてみるとできすぎた偶然だ。もはや何かの必然性をも感じ取れてしまう。まるで、この四人でゲームをプレイすることを仕組まれていたかのように。

 ふと、リーファは気がついた。もしかして、今この露天に来ているプレイヤーの中に兄がいるのではないかと。

 こんな路地裏にある露天、ゲームにログインしたばかりのプレイヤーが見つけられるはずがない。おそらく知っていたのだ。この場所に剣が安く買えるお店があるということを。そしてそれを知ることができたプレイヤーは、このゲームを先にプレイすることができたβテスター、あるいはβテスターから事前に情報をもらっていた友人くらいなもの。だから、今この場所に来ていたプレイヤーの中におなじくβテスターだった兄がいてもおかしくはないのだ。

 いや、兄はまだ病院で検査を受けているはず、ここにいるはずがないではないか。そんなこと、分かり切っているのに。いたとしてもとっくの昔に剣を購入してフィールドにでていることであろう。兄の性格から考えるにきっとそうするに違いない。

 不思議だ。気がつくと必ず兄のことを考えるようになっている。兄が剣道をやめてゲームに入り浸るようになってから疎遠になっていたというのに。

 一体、自分に何が起こっているのか。不安だ。しかし、気持ちの悪い不安じゃないのが、唯一の利点だった。

 

「あ……」

「え? あッ!」

 

 先に声を上げたのはどちらだったか。ともかく、リーファが顔をあげると、そこには見覚えのある顔があった。

 

「あなた、ひ……じゃなかった《レイアース》さん?」

「それじゃ、君は……リーファでいいんだね」

「うん!」

「よかった、会うことができて……」

「私もです。《フィアッセ》さん! 《シグナム》さん!」

 

 リーファの前にいたのは三人の女性の格好をしたプレイヤーだ。それぞれにリーファの知らない顔、そして名前を持った見知らぬ友人。

 しかし、双方ともに誰が誰なのか判別することができていた。事前にキャラクターの容姿をこうするというメールを送り合っていたからだ。知り合いであるというのにプレイヤー名で呼ぶのは、それがネットリテラシーとしての常識であるとネットには書かれていたから。いわゆる身バレ防止のためである。

 知り合い同士でそんなことをして意味があるのかと思ってしまうが、しかし誰が聞き耳を立てているのか分からないので知り合い同士でもプレイヤー名で呼び合おうということで四人の間で定めていたのだ。

 

「まさか、こんなところに露天があるなど、言われなかったら気がつかなかった」

「はい、私もです」

「教えてくれてありがとう、リーファ」

「いえ、私も見つけたのは偶然ですし」

「それじゃ、ちょっと待っててね。すぐ装備を整えてくるから」

「はい!」

 

 そう言って三人のプレイヤーは露天の方に歩いていき、リーファと同じくスモールソードを購入した。やはり剣道を嗜むものとしては似たような得物の方が使いやすいというのだろうか。

 それから少しの間談笑したのち、四人のプレイヤーは街の外に向けて歩き出した。いよいよ四人の、リーファの冒険の始まりである。




プレイヤーNo.2 ???(レイアース【0arth】) ログイン
プレイヤーNo.3 ???(フィアッセ【Fiasse】) ログイン
プレイヤーNo.4 ???(シグナム【Signum】) ログイン

 因みに、分かっていることかもしれませんが、この≪フィアッセ≫というプレイヤーは原作ゲームにのみ登場するキャラの事ではありません。あくまで、名前を≪借りた≫女性です。


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メインシナリオ第一章 3話

 彼女はゲーム初心者だった。その為、読むべき取扱説明書や本来行うべきである諸々の設定を抜かしてしまったのは仕方のない事なのかもしれない。

 ネットも初心者だった。するものと言ったら友達とのグループLINEくらいで、そのため≪本名≫でプレイし、外見も一切変えなかったのは仕方のない事と割り切ってしまってもいいのかもしれない。

 だが、あまりにも不用心すぎる。後の彼女の仲間になるプレイヤー達は総じてそう言っている。

 この後、彼女にはSAO内最初で最悪の危機が待ち受けている。危機意識も全くない頃に起こったこの出来事で、下手をすればその時点で彼女の人生が終わっていてもおかしくはない。そんな出来事が待ち受けていた。

 

「うわぁ……」

 

 彼女がこの世界に来たのは、ゲーム開始から30分ほど経ってのことだった。

 先も言った通り、ゲーム初心者であった為にゲーマー組のようにサービス開始直後にログインするということがなかったのだ。だが、そのおかげでゲーム開始ポイントでの渋滞というものに遭遇しなかったのは幸いだった。

 

「すごい……」

 

 彼女がまず目を奪われたのは、その景色にだった。始まりの街、その門の外に見える草原。そしてさらに奥に見えている山々。彼女の純粋な眼を潤すのに持って余るほどの光景だった。

 少女は、その景色をもっと近くで見ようと思い、駆け出し、始まりの街の外に出る。

 その瞬間、視界に映っていた≪INNER AREA≫という紫色の文字が消えていた事に彼女は気がつかなかった。いや、もし気がついていたとしても、説明書を熟読していなかった彼女が、その意味するところを知ることはできなかっただろう。

 そんな彼女の事、自分が自分がと考えているゲーマーが気がつくはずもなく、彼女は1人で旅を始めてしまう。だが、もしゲーマーの1人が彼女に声かけていればこんな事態は簡単に避けられたはずだ。

 彼女は何も知らない。いや、知らなすぎた。まさか、自分が自殺行為に等しい行いをしていると、全く気が付かないままに童のようにかけ出して言ってしまったのである。

 時間にして十分くらいは走っただろうか。彼女の姿は草原のど真ん中にあった。森があり、湖があり、山があり、自然にあふれた場所だ。そこで立ち止まり、寝転ぶ少女。

 

「これが、SAOなんだ……」

 

 感慨深げに呟く。最初は、よく知らないこんなゲームを、それも≪ソロ≫で行うなんて不安でしかなかった。

 じゃあ何で申し込んだんだ。突っ込まれるかもしれないが、これはただ単に本当は友達皆んなでする予定だった、という理由があったからだ。

 彼女の友達に、一人SAOに興味のあった人間がいた。そこで、予約の抽選に友達皆んなで参加した。その結果、ゲームのことをよく知らない彼女一人が当選していた。

 最初は、本当にゲームをプレイしたいと思っていた友達にあげようと思っていたのだが、当選したのは自分なのだからと辞退したために結局は自分がプレイすることとなった。

 しかし、ゲーマーである他の人間を差し置いて、かつVRゲームなんて物よく知らない自分がプレイしても良いのだろうかと悩んだ。

 なおかつ、一年も前からの友達との共通の趣味とは違い、今回は1人での参加で他の友達のノウハウも一切ない。そんな状態で何かしらをするなんて初めてのことで、とても、とても不安だった。

 だが、そんな不安などはこの世界に散りばめられた宝石よりも綺麗な景色を見ていたら忘れてしまいそうだ。

 それはまさしく、あの1年前。自分がふとした思いつきで自転車を漕いで富士山を見に行った時のよう。

 あの時の富士山は、あの時のとても綺麗な夜の富士はまだ頭に残っている。

 言いようのない感動。言葉に表すことができない感激。友達に出会わせてくれた感謝。あの全ての気持ちは、きっとこれからの人生では決して味わうことのできないだろう幸福感だろう。

 皆は、今頃何しているだろう。確か、同じサークルの友達はバイト、そして、自分が引っ越してきて最初にできた最高の友達は、ソロキャンに行くと言っていた。

 思えば、友達はこの景色を見れないのだ。この大きな空の下にはいないのだ。そう考えるとなんだか少し悲しくなってくるがしかし大丈夫だ。自分にはあの友達と過ごした記憶がある。友達みんなと行ったキャンプの思い出がある。溢れ出す思い出、蘇る景色。それがあれば何も寂しくはない。そう、寂しくなんてない。

 

「さて! まずはどこに行こうかな?」

 

 少女は起き上がると両手を上げてそう言った。その時、彼女は気がついた。

 

「ガルルルルルル……」

 

 背後から聞こえてくる唸り声に。

 まさか、この声は。

 彼女がキャンプする場所は基本的に山の中、或いは湖の近く、とにかく自然にとても近い場所である。

 そのため、よく立て看板で『熊出没注意』だったり、『猪出没注意』であったりの看板を見ることが多々ある。だが、幸運なことに彼女はそのどちらにも遭遇したことはない。そのため、そのような命の危機に遭遇した事は全くない。

 そしてもちろん狼なんてのにも遭遇した事はない。もし、遭遇したとするのならばそれはそれで事件にもなる。

 何故なら日本に住む野生の狼、ニホンオオカミは、自分が産まれるとうの昔に絶滅して存在しないはずなのだから。

 だが、それは日本だけ、引いては現実の世界だけの話。忘れてはならないのが、ここがゲームの世界であると言う事だ。

 油をさしていない機械のように後ろを振り向いた彼女。そして、そこにはいた。見た目からして間違いなくそれだと気がつけるほどにどの世界でも、ゲームの世界でも不変の存在である一匹狼の姿が。

 

「オオ……カミ?」

 

 この世界では≪ダイアー・ウルフ≫と呼ばれているモンスターだ。

 

「ワァァァァァ!!!」

 

 少女は、その姿を見るとすぐ立ち上がって逃げる。が、しかし目の前の獲物を逃してくれるほどモンスターは甘くなかった。

 ターゲット、つまり少女はダイアー・ウルフの標的とされてしまったのだ。

 逃げる少女、追うオオカミ。まさか、自分がこんな風に獣に襲われるなんて思いもよらなかった。

 いや、このゲームはそもそもRPG。敵のモンスターに襲われる可能性があること、わかっていたことのはずだったし、その覚悟を持ってゲームをプレイし始めたのではないか。だが、あまりにも見目麗しい景色に眼を奪われて彼女は失念していたのだ。

 結局は、彼女のあまりに不用心な性格が招いた事態。だが、こんな事態一つ自力で解決できなければこの先の景色を見にいくことなんてできないのだ。

 戦わなければ。本当は動物を傷つけるなんてことしたくはないが、しかし今はそんなことを言っている場合じゃない。

 後ろを向くと、ダイアー・ウルフが自分と同じ速さで迫っていた。

 全力で走っていたつもりなのだが、なんだか現実とは自分のスピードが違うように感じる。ゲーム上のシステムである敏捷力はレベルアップしなければあげる事ができないので、デフォルトの敏捷力ではモンスターを引き離すまでには至らない、いや下手をすれば追いつかれてしまうかもしれない。

 このまま逃げていても、どうしようもなくなる。ここは戦わなければ。

 少女は、武器を取り出そうとした。

 

「えっと、武器武器……って」

 

 武器を取り出そうとした。

 

「どこにあるの!?」

 

 武器がどこにあるのかわからなかった。

 ゲーム初心者あるある。武器の取り出し方がわからない、である。

 剣といえば鞘に刺さっている。と、いうことで自分の腰元に触れたものの、そこには剣は刺さっていなかった。

 それじゃ、背中にあるのかも。そう思って背中に手を回してみるも、やはりそこにも剣はない。

 ではどこにあるというのか。

 そうだ、武器とはつまりアイテムということ、ならばアイテムを保管している場所の中にあるかもしれない。

 そうと決まればアイテムを呼び出そう。

 

「って、どうやったら出てくるの!?」

 

 なんと、少女はアイテムストレージの出し方すらも知らなかった。

 つくづく取扱説明書のありがたみが分かるというものだ。

 なんてこと言ってる場合じゃない。

 

「ど、どうするのこれ!? えっと、えっと、剣! 出てこい! 出て! お願い!!」

 

 無駄である。しかし、彼女はそれが無駄な行為であることを知らない。

 慌てていた。だから彼女は気が付くことが出来なかった。フィールドに落ちていた石ころに。

 

「え、うわぁ!?」

 

 少女は、その石コロにけつまずき転んでしまう。

 痛みは、ゲームの中であるために感じない。それに、ヒットポイントもこれくらいじゃ減ることは無い。だが、問題は足を止めてしまったという事だ。

 

「あッ……」

 

 ダイアー・ウルフは立ち止まり、少女を襲う態勢を整えていた。閉じ切らない口の間からは、鋭い歯がキラリと見えている。あんな牙でかまれたら痛いだろうな。などと思うが、これから自分がその牙でかまれてしまう事になるのだからそんな感想考えるなんて、どうかしている。

 

「こ、来ないで!?」

 

 逃げなければ。そうは考えている物の、恐怖に足がすくんで動けない。ゲームであるというのに足がすくむなんて、なんてリアリティのあるゲームなのか。などと考えている余裕はなかった。

 このままじゃまずい。このままじゃ、自分は死んでしまう。いや、ゲームなのだからゲームオーバーなのだろうか。

 まさか、『本当に死ぬ』とは思ってもいないが、だけれど襲われて殺されるという感覚に似た物は味わうかもしれない。そう考えたら、怖くて怖くてたまらない。

 誰か、助けて。あの時みたいに。一年前の時、自分が暗闇の中で独りぼっちだったときに助けてもらった時のように、あの子のように優しい誰かに助けてもらいたかった。

 けど、こんな広い草原なのだ。そんな偶然あるわけがない。

 そうこう考えている間に、ジリジリと自分に迫ってくるダイヤウルフ。そして、ついにその口が開かれた。

 

「ガルルルルル!!!」

「ひぃっ!?」

 

 ダイアー・ウルフが少女めがけて飛び掛かる。もうだめだ。少女は目を閉じた。その時だ。

 

「キャン!?」

「え?」

 

 ダイアー・ウルフが子犬のようにかわいい声を上げた。ゆっくりと、少女が目を開けると、その先には―――。

 

「いくらゲームとはいえ……騎士として目の前で襲われている少女を見過ごすわけにはいかないな」

 

 長い、ピンク色のポニーテールをした凛々しい女性が経っていた。

 

 

 少女を最初に見つけたのは、リーファであった。

 

「あ、あれって……」

「ん?」

 

 武器をそれぞれに買い、さっそくフィールドに出てみた彼女たちは。しばらく草原の中を歩き回っていた。

 ただ、それだけでも楽しい物だ。鼻に抜ける土や草の香ばしいにおい。当たる風。それらすべてを感じ取るだけでも自分が日本とは別の世界に来たのだという気分になれて楽しい。

 耳に抜けるBGMは、これからの冒険への期待をふつふつと沸きあがらせるほどの曲で、聞いているだけでも歩を前に進めてしまいそうだ。

 そんな中での出会いだった。オオカミに追われている女の子のプレイヤーを見つけたのは。

 

「あの子、武器も出さないでなんで逃げているの?」

「武器を買っていない……何てこと、ないわよね?」

 

 実はその通りなのだが、この時の彼女たちは知る由もない。

 

「もしかして、ゲーム初心者なのかも……VRゲームが初めてとか。だから、目の前にいきなりモンスターが現れてパニックになっているのかも」

 

 まだそちらの方があり得る。実際、ベテランのゲーマーであったとしても、目の前に本当にモンスターが現れれば、パニックを起こしかねないというのは考えられること。

 きっと、彼女もゲーム初心者もしくはVRゲームが初めてなのだろう。だから、あれほど慌てているのだ。

 その時、彼女たちは逃げている少女が発している声を聴いた。

 

「なんか言ってません?」

「えっと、剣出てって……」

「やっぱり、剣買ってなかったんじゃ……」

「それか、出し方が分からないか……だな」

 

 事ここにいたり、何故追われている少女が剣を出現させないのかの理由が分かった。だが、あまりにも迂闊だ。剣を買っていないにしても、剣の出し方を分からないにしても、アイテムの確認もせず、丸腰で街から出てしまうなんて。だが、初心者らしいと言えば初心者らしい行動ともいえる。

 

「あ、ころんじゃった……」

 

 見てると、少女のプレイヤーは石ころに躓いて転倒してしまった。それを見て、ダイアー・ウルフがジリジリと近寄っていく。

 さて、自分たちはどうするか。この場合、見捨てて彼女がゲームオーバーになったとしても黒鉄宮という場所からリスタートするだけですむ。そもそも、彼女と面識もない自分たちが助ける理由なんてないはずだ。だから、この場合彼女の事を助けなくても、あまり問題はない。

 問題はない。と、思う。だが。

 

「どうします?」

「愚問だな……だろ? フィアッセ」

「えぇ」

 

 彼女たちの中の答えはすでに決まっていた。

 まず、最初に飛び出したのはシグナムだ。シグナムは、初期装備のスモールソードを飛び掛かろうとしたダイアー・ウルフを突き刺した。その衝撃で、ダイアー・ウルフはやや吹き飛び、少女との間にシグナムが入ったことによってその距離を安全圏にまで離すことが出来た。

 

「いくらゲームとはいえ……騎士として目の前で襲われている少女を見過ごすわけにはいかないな」

「あなた、大丈夫?」

「え? あ、はい! ありがとうございます!」

 

 少女は、ゆっくりと立ち上がるとそうフィアッセに返事をした。ゲームの中であるために怪我の心配はないとはいえ、かなり怖い目にあったはず。だというのに少女はその怖さを忘れてすぐに笑顔になることが出来ていた。きっと、本当は強い人であるのだろう。

 

「剣はどうしたんですか?」

「え? えっと、出し方が分からなくて……」

「出し方が分からないって、まさか買っていないんですか?」

「え? 買うって、買わなくちゃダメなんですか?」

「やっぱり……」

 

 最悪な予想が当たってしまったようだ。やはり、彼女は剣を購入すらもしていなかった。もし他にプレイヤーが通っておらず、いたとしても自分たちのようにお人よしのプレイヤーではなかったら彼女が即ゲームオーバーになっていたであろうことは想像するに難しくない。

 

「リーファ、レイアース、その少女を頼む。フィアッセ、お前は左から回ってくれ。私は右からだ!」

「はい!」

「分かった!」

「えぇ!」

 

 シグナムは、そうそれぞれに指示を出すと右側に走る。フィアッセもまたそれからワンテンポ程ずれてから左に走った。

 二つの方向に分かれたことにより、ダイアー・ウルフはどちらから相手をしていいのか分からず、混乱状態になるはずだ。そう、これが普通の現実にいるモンスターであるのならば。しかし。

 

「ッ!」

「私たちには目もくれないか!」

 

 ダイアー・ウルフが狙っているのは少女のプレイヤーのみ。ダイアー・ウルフのターゲットは、シグナムに攻撃された後もまだ少女のプレイヤーの方に残っていたのだ。だが、ある意味ではこれも想定内の事だ。

 

「リーファ、レイアース! 頼んだ!」

「「はい!」」

 

 ターゲット、などという物当然シグナムは知らない。だが、敵がどのような動きをしてもいいように、少女の事を襲うという事は変わらないという事もあるだろうと考えて、二人を護衛に付けていたのだ。

 

「ハァァァァ!!」

「ヤアアアァァ!!」

 

 二人は、それぞれに右斜め上から、左斜め下から攻撃を加える。

 ダイアー・ウルフは、二つの赤い線、二人が斬った痕跡を残したまま吹き飛ぶ。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 そして、吹き飛んだ方向にいたシグナム、フィアッセの二人が左右から同時に真一文字に切り裂く。ダイアー・ウルフは、地面に落ち、何度か転がった。

 

「倒したの?」

「いや、まだのようだ……」

「え?」

 

 そう、まだダイアー・ウルフのHPは、残っている。確か、ヒットポイントには安全域のグリーンゾーン、注意域のイエローゾーン、そして危険域のレッドゾーンの三種類があると説明書には書いてあった。

 いま、ダイアー・ウルフのヒットポイントゲージの色はイエロー。自分の最初の攻撃も含めて五回の攻撃を行なったというのに、まだイエローゾーンなのだ。

 どういう事だ。あまりにも攻撃力が低すぎる。こんな序盤も序盤の敵に対してここまで攻撃しても少ないダメージしか与えられないとなると、今後の戦い方にも支障が出てしまう。

 こういう時、ゲーマーという人種であれば、何か弱点をつかなければならないのか、攻撃が通りづらい仕掛けがあるのではないのかと感ぶる事ができる。だが、この面々の中にそんなことを考えられるほどのゲーマーはいない。なので、やることはただ一つ。

 

「とにかく、5回の攻撃で半分と言うことは……あと5回で倒せると言うことだ!」

「ええ、そうね!」

「そ、それでいいのかな?」

「良いも悪いも、それしか方法がないんなら!」

 

 理屈としてはそれで正解なのである。しかし、はた目から聞いていると、脳筋のソレに近い何かを感じる発言だ。

 ともかく、そうと決まれば話は早い。

 

「フッ!」

「ハァッ!」

「ハァァ!!」

「ハァァァ!!」

 

 四人は、次々と一閃、また一閃と攻撃を加えていく。

 

「「「「せーのっ!」」」」

 

 そして、ダイアー・ウルフの背後に回った四人は一斉に振り返って最後の一撃を加えた。ダイアー・ウルフのHPバーはその一連の攻撃を受けて徐々に徐々に減っていき、そして最後の一ドットが消えた瞬間、オオカミは動きを止める。

 そして、その身体は青白いガラス片となって崩壊した。これが、彼女たちがこの世界で遭遇した初めてのモンスター戦であった。コルや経験値の入手表示はリーファの目の前に現れたので、どうやら最後の攻撃を行ったと認定されたのはリーファであったようだ。

 

「ふぅ、なんとか倒せましたね……」

「だが、何故こちらの攻撃がさほど通じていなかった?」

「やっぱり、レベルが低いからかな?」

 

 戦闘が終わり、ゆっくりと話す時間が出来た四人。議題となっているのは何故自分たちの攻撃がそれほど効果を与えられなかったのか。

 予想したのは、まだ自分たちのレベルが低いからという物だ。しかし、本当にそうであったのならばこのゲームはかなりシビアな作りになっていると言わざるを得ない。最初のフィールドの敵の時点でこれだけの攻撃を与えなければ倒せないのは、ゲームバランスの問題を感じる。

 第一、普通に10回程度攻撃を与えなければ敵を倒せないというのならば、自分たちのように何人ものプレイヤーで一緒に戦闘をしている者ならともかくソロ、つまり一人でプレイしている人間の苦労は自分たちの比ではない。つまり、大勢での戦闘を前提としたゲーム設定となっているのだ。ゲームの幅が狭まっているような気がしないでもないが、本当にそれが茅場晶彦というゲームディレクターの目指したゲーム設計であるのだろうか。

 

「あ、そういえば」

「え?」

 

 リーファは、取扱説明書のある一文を思い出した。確か、あの説明書はゲームの中でも確認することが出来たはずだ。

 リーファは、右手の人差し指と中指を上から下に振るう。すると、鈴の効果音と共に、目の前にメニュー・ウインドウという物が出現する。リーファは、その中にある≪Help≫の項目を押す。すると、そこから派生してさらにいくつもの項目が現れた。

 リーファが、その項目をタッチすると、ウインドウが出現して長文が流れ出す。確か、あの一文があったのはゲームの仕様の項目だったはずだ。

 

「あ、これです」

「ん?」

 

 リーファは、自分のメニュー・ウインドウをシグナムたちに見せることが出来るように不可視モードから可視モードに変える。これによって、普段はメニューウィンドウの持ち主のプレイヤーではなければ見る事ができない他プレイヤーのメニューウィンドウを見る、もしくは見せる事ができるのだ。

 

「ソードスキル?」

「あ、そうか。そういえばSAOはソードスキルってものを駆使して戦うゲームだって」

「そういえば、ネットでそんなことを言ってたわね」

 

 レイアース、そしてフィアッセはその文字を見てこのゲームの特徴を思い出したようだ。だが、シグナムは、その言葉を聞いたことがない様子だ。CMや人気アイドル達が行っていた宣伝の番組でも紹介があったはずなのだが、不思議である。

 SAOは、近年のRPGとしては珍しい魔法を排除したゲーム。徹底して剣での戦いを強いるゲームなのだ。そして、その剣を使用して戦うに当たり茅場晶彦が作ったギミック、それがソードスキル。簡単に言えば、必殺技だ。

 そう、このゲームでは我流での戦い方は推奨していない。そのため、我流での攻撃は、ソードスキルを駆使して戦った時のそれと比較して体感2~3割ほどの攻撃力しか持ち合わせていないのだ。理由としては恐らく、ここにいる四人のように現実世界でも手練れである人間がプレイして、プレイヤー間での格差が広がることが内容にであろう。

 確かに、せっかくゲームという現実では味わえない力を使うことが出来る空間に来れたというのに、そこに現実での強さが反映されてしまっては興覚めである。

 だから、このゲームをより一層楽しむためには、ひいてはこの先を進んでいくためにはこのソードスキルという物の取得が急務となってくるのだ。

 メニュー画面の中には、今自分が持っているスキルを表示する項目もあった。今自分たちが使えるスキルは片手剣のみ。それをタッチすると二つの名前が出現する。これが、ソードスキルなのであろう。

 

「えっと≪スラント≫と、≪ホリゾンタル≫?」

「今、私たちが使えるのはこの二つだけみたいですね」

 

 さらにその項目をタッチすると、技の使用方法も乗っていた。今度の戦闘ではこのソードスキルという物を試してみるべきだろう。

 とにかく、この世界で戦うための攻撃方法は分かったので、次の話に移ろう。

 

「それで、貴方」

「え? あ、はい!」

「武器も持たないでフィールドに出るなんて、危ないわよ」

「す、すみません!」

 

 少女のプレイヤーは、小さくなって反省する。申し訳ないが、反省しているその表情があまりにも可愛すぎる。だが、こんなかわいい顔をできるプレイヤーが、実は男性が操作していました。という可能性もあるのが残念と言わざるを得ない。

 実際に現実でも女の子という可能性もなくはないが、しかし現実の事を聞くのはマナー違反でもあるため、リーファたちはソレを聞くことは無い。

 

「あの! 助けてくれてありがとうございました!」

「いや、我々はただ通りかかっただけだ」

「はい、大したことなんてしてませんよ」

「それでも、命の恩人です!」

 

 言葉遣いからも、元気はつらつな少女であることが見て取れる。しかしゲームの世界で命の恩人なんて、とてもオーバーな子である。

 なんて、この時は後にあんなことになるなんて思ってもみなかったので笑っていた。まさか、本当にシグナムたちが命の恩人になるなんて、この時は誰も想像していなかった。

 

「君、一人でゲームをプレイしているのかい?」

「はい……本当は、友達もプレイしたがってたんですけど、私一人だけ手にいれることが出来て……」

「そっか、運がよかったわね」

「はい!」

 

 この時は後にあんな(略)。

 

「あ、だったら私たちと一緒にゲームをしませんか?」

「え?」

「そうだな。一人でプレイするよりも、仲間がいる方が心強いだろう」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 というより、この子を一人にしていると先ほどのようなことになるかもしれないから放っては置けないと言ったほうが正しい。

 

「それで、貴方名前は?」

「私は≪ナデシコ≫! よろしく!」

 

 とにもかくにも、これで保護欲求がくすぐられる女の子が仲間に加わった。現実の世界でも知り合いだったシグナムたち一同を除いて、初めてこの世界でできた仲間である。




プレイヤー№5 ???(ナデシコ【Nadesico】) ログイン


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メインシナリオ第一章 4話

「本当にそれでいいの?」

「うん。大きな剣は使うのが怖いし……料理が好きだから包丁ぐらいの大きさなら扱えるから」

 

 ナデシコは、先ほど購入したばかりの短剣≪スモールダガー≫を振りながら言った。

 ナデシコと出会った後、まずは剣を買わなければ話にならないということで、案内人兼護衛の意味を込めて、リーファが付き添って始まりの街に戻り、自分たちが剣を購入した露店に立ち寄った。

 最初は、自分たちと同じ片手剣を勧めのだが、本人が長い剣を使用することを怖がったため、短剣を使用することになった。

 本人としては、現実で料理が好きだから包丁をよく使用しており、その関係で短い剣なら扱いやすいと思ったそうだ。しかし、短剣はその名前の通り刃が小さくリーチが短い。そのため、普通の剣よりもより敵に近づく必要があるので、使うには度胸が必要な武器である。

 ログインした当初の始まりの街は、プレイヤーのほとんどが同じ場所にいたためにかなり窮屈に感じていたが、ゲーム開始から時間が経つにつれて徐々に人の波もばらけていき、その街の大きさが徐々に際立ってきていた。

 自分たちが見つけた穴場のお店も、すでに一般のプレイヤーの知るところになっており、この店で買えばよかったという声がつらつらと聞こえてきて、少しだけ優越感に慕っていたのはナイショだ。

 

「え、それじゃナデシコって本名なんですか?」

「そう。プレイヤーネームって奴の設定の方法とかよくわからなかったから、容姿も全く変えてないの」

 

 この言葉を信じるとするのならば、現実の彼女もまた、今自分が見ている彼女と同じく可愛らしい女の子なのだろう。

 しかし、リアルと同じ名前、同じ姿というのは少し危険だ。VRゲームであるこのゲームでは特にだ。

 身バレの危険性がある。それにゲーマーというのは嫉妬深い人間やら、粘着行為を行ってくる人間やらと面倒な性格を持った人間が多い。もしナデシコがこのゲームの中で、本人も自覚がないまま他のプレイヤーの琴線に触れるような行為をしてしまえば、ナデシコの名前や容姿がネットにさらされる恐れがある。

 もしそうなれば、下手をすれば彼女の人生は終わってしまう。

 幸いにも、彼女が現実と同じ名前、同じ容姿でゲームをプレイしていると知っているのは自分ただ一人。ナデシコには、このことは他言しないように言って、フィールドへと歩いていく。

 と、その時ナデシコは、目線から紫色の≪INNER AREA≫の文字が消えたのに気が付いた。先程は景色を見るのに夢中だったためそんな文字があったことすらも知らなかったのだが、これは何なのだろう。リーファが答える。

 

「≪INNER AREA≫、簡単に言えば安全エリアの事で街の中にいれば、HPが減少することは無いんです。デュエルっていう例外はありますけど、それも双方の同意が必要ですし」

「へぇ……」

 

 つまり、フィールドの外では例え戦闘を行なっているという自覚がなかったとしてもモンスターに襲われてゲームオーバーになる可能性があるということ。

 いや、敵がモンスターだけとは限らない。対人戦闘を好むプレイヤーがいるのならばPK、プレイヤーキルをする人間がいるかもしれない。どちらが危険であるかと考えれば、どう試算しても後者の方である。

 とにかく、何の対策も無しにフィールドに出るのは得策ではない。だからこそ、先程のナデシコの行為は危険極まりないものだったのだ。

 と、ここでナデシコは気がついた。

 

「はっ! と言うことはフィールドでキャンプはできないのでは!?」

「キャンプ?」

「うん。私向こうでは友達とキャンプに行ったり、ソロでキャンプをしてたり。楽しいよ。リーファちゃんもやろ?」

「うーん……」

 

 キャンプ、か。確かに大自然の中にテントを張って友達と火を囲んで楽しく過ごすのは魅力的に映るかもしれない。しかしキャンプ場というのは人が多いし虫がたくさん出るし暑いしでいいイメージが少ししかないのだが。

 

「大丈夫。冬にやるキャンプもあって……というより、私も冬のキャンプから始めたんだけど、そっちだったら虫もそんなにいないし、キャンプ場も人が少なくて混雑していないし。それに、何より夏には見れない冬の景色って、すごく綺麗なの」

「そうなんですか」

「少し寒いのが玉に瑕だけど。でも、寒さなんて楽しんでたらすぐ忘れちゃうんだよ」

「へぇ……」

 

 そこまで言われてしまうと冬のキャンプ、少し行ってみたいなと思ってしまう。SAOをする傍で、一度この子と一緒にキャンプをするというのも悪くはないかもしれない。

 それに、こんないい子のお友達も一緒ならもっと、きっと楽しいだろう。

 

「でも、私キャンプ道具とか……」

 

 考えるだけでもテントや寝袋、椅子等色々と用意する必要のものがある。そんなもの、中学生の自分が一から用意できるのだろうか、

 

「大丈夫! レンタルもあるみたいだし、なんなら友達に借りれないか頼んでみるから!」

「レンタル、そういうのもあるんですか……」

 

 キャンプをしたい時に一番のネックとなるのが、道具がないというだ。

 一式揃えるのにもお金がかかるし、なにより買ったはいいものの一回、二回使っただけですぐ倉庫行き、なんて可能性もある。

 それを考えると購入するのを躊躇してしまう。

 しかし今の時代、格安でレンタルを行っている会社が至る所に存在しているので、お試し感覚でキャンプをしてみるのならば、その辺りからキャンプ道具を借りるのも吉である。

 キャンプ、一度行ってみてもいいかな。そんな風なリーファが思っていた頃、メッセージが届いた。

 

「あ、メッセージ」

「シグナムさんたちからかな?」

「そうみたい。えっと……」

 

 メッセージによると、自分たちが離れた後他のプレイヤーにソードスキルを教えているプレイヤーを見つけたのだとか。

 話を聞くと、どうやら事前にゲームをプレイしていたβテスターであったらしく、ソードスキルの使い方も熟知しているらしい。

 シグナムたちもまた交渉して、そのプレイヤーから戦い方を学んでいるそうだ。

 なるほど、元βテスターであるならば、SAOの事を他のプレイヤーよりも知っている。そんなプレイヤーに指導してもらえれば、より一層ソードスキルを、SAOの事を知れるであろう。そうと決まれば、自分もそのβテスターの元に向かい教えを受けなければならない。

 二人は、シグナムたちからその場所のことを教えてもらい、直行した。

 

「えっと、シグナムさんのメッセージによると、この辺だと思うんだけど……」

「ぬわぁァ!? ガハッ!」

「え?」

 

 声が聞こえる。男性プレイヤーの声だ。この小高い丘の向こうからだろうか。

 二人がそちらの方向に駆けていくと、そこにはイノシシ型のモンスターと戦う男性プレイヤー、そして周りにはシグナムたち三人の姿、二人ほど見知らぬプレイヤーがいるのだが、状況からするとあの二人の女性プレイヤー、あるいはどちらかがβテスターなのだろうか。

 

「い、痛ってぇ」

「戯け者。SAOに痛みを再現するシステムは搭載されていない」

「あ、そうだった……」

 

 と、先程まで痛みを堪えていたような男性プレイヤーがスッと立ち上がる。

 やはり、実際に自分の体を動かしている感覚だからなのか、反射的に身体が痛みを再現してしまうのだろうか。取り敢えず、リーファはシグナムに声をかける。

 

「シグナムさん!」

「ん、来たな」

 

 と、その時男性プレイヤーの事を罵倒していた女性プレイヤーが近づいて来る。凛々しく、長い黒髪を持った女性のアバターだ。もし、現実にもこんなかっこいい女性がいれば、きっとモテた事であろう。

 

「お前達がシグナムの言っていたプレイヤーか」

「はい、リーファです」

「ナデシコです!」

「≪シンケン・R≫……この紹介も恥ずかしいな。短い間だが、よろしく頼む」

「「はい!」」

 

 シンケン・アールさん。本人は付けた後にこの名前にしたのを後悔したそうだ。しかし、彼女の友達だと言う女性プレイヤーはどういうわけかそれを気に入り、自分も≪シンケン・M≫と名づけ、さらにさらに彼女の知り合いの中でも同じようなプレイヤーネームをつけることが流行ったそうな。ということは、彼女のようなプレイヤーネームをしたプレイヤーが彼女の知り合いの見分けにつながるという事だ。

 とにかく、二人もまた≪クライン≫という男性プレイヤーと一緒にレクチャーを受けることとなった。シグナムたち三人に関しては、元から剣術の心得があったためか飲み込みが早かったらしく、だいぶ上達したので教えは必要なくなったそうだ。

 クラインは、シンケン・Rがこの世界にやってきた時、自分たちが赴いた露天へと迷いなく向かう姿を見てβテスターであることに気がついたらしい。自分も同じように迷いなく走っていたプレイヤーを追いかけてあの露天にたどり着いたわけだから、βテスターの動きというのは参考になり易いのかもしれない。

 リーファがシグナムたちと合流して10分後。

 

「ハァッ!」

 

 リーファは、目の前にいた猪型のモンスター、≪フレンジー・ボア≫に向けて水平斬りのソードスキル、ホリゾンタルを繰り出した。

 フレンジー・ボアは、攻撃を受けた後も再び後ろに通り抜けたリーファの方に向こうとしたが、HPが全消失すると同時にその動きを止め、青白いガラス欠となって砕け散った。

 最初はなかなか苦労したソードスキルだが、コツを掴めば後は思いのままに出すことができる。

 

「ほう、リーファもだいぶ飲み込みが早いようだな」

「ありがとうございます!」

「リーファちゃんも剣道をしてるんですよね?」

「はい! 流石にレイアースさんやフィアッセさんには及びませんけど」

 

 リーファは、謙遜しながら言う。だが、実力差に関してはそもそもフィアッセとは年齢が違い、レイアースはー彼女たちの知らぬことではあるがー実戦の経験があったために少しくらい劣ってても仕方がないのだ。

 しかし、それでもリーファの伸び代は凄まじいものがある。シンケン・Rはそう考えていた。

 剣術の経験者が次々とスキルをマスターしている最中で、二人のプレイヤーは苦労していた。

 

「キャァ! 痛った〜い」

「痛ってぇ……」

「だから痛みはないんだって」

「「あ、そうだった」」

 

 VR系のゲームはこれが初めてというクライン。そして、VR系どころかゲーム自体初心者のナデシコの二人だ。

 敵モンスターに攻撃を受ける。痛がるふりをする。誰かに突っ込まれる。このテンプレートがもはや確立されるぐらいにお約束になって来た。というか、まるで兄妹かのように息ピッタリである。

 

「くっそーどうなってんだ! スキルが発動したと思って斬ったのによぉ、全然ダメージが入らねえじゃねえか!」

 

 ソードスキル発動時には、剣に光のエフェクトが纏われる。クラインは剣が光るのと同時に斬撃を繰り出していた。しかし、そうすると途端に光のエフェクトは拡散。斬撃は、ただの普通の攻撃となってしまう。

 シンケン・Rやシグナムたちがするには問題ないのに、どう言うわけなのだろうか。もはや、自分のソフトだけに不具合があったのかとも思ってしまうほどだ。

 

「タメの問題だな」

「タメ?」

「ナデシコは、初動のモーションの問題だ」

「モーション?」

 

 そう言うと、シンケン・Rは剣を構える。だが、ソードスキルが発動している雰囲気はない。

 

「このように、何気なしに剣を構える人間がいる。ソードスキルがその度に発動すれば、戦いがしにくくなる。だから、ソードスキルを使用するには初動のモーションが大事となる。タメも同じ理論だ」

 

 つまり、ソードスキルの暴発を防ぐために一定の長さのタメ、そして最初の体制からきちんと構える必要があると言うことだ。

 クラインは、そのタメが短かかったためにスキルが発動してもシステムがスキルを発動しないと誤認して自動でキャンセルされてしまったのだ。

 ナデシコの場合、姿勢が安定していなかったため初動のモーションとしてシステムに認識されなかったらしい。

 

「「なるほど」」

「さすがβテスター、何でも知ってますね」

「いや、茅場晶彦からそう教えられただけの受け売りだ」

『え!?』

 

 何気なしに呟いた発言。しかし、その言葉は周りにいる人間全員を驚かせるのには十分すぎるものだった。

 

「アンタ、茅場晶彦に会ったことがあるのかよ!?」

「あの人、メディア嫌いでインタビューも一、二回しか受けたことないって話なのに……」

 

 ゲームディレクターでありナーヴギアの開発者でもある茅場晶彦は人前にあまり出ることはせず、このゲームの開発、販売が決まった後でさえ雑誌などの取材を受けることはごく稀だった。そのため、茅場晶彦と実際に話をしたことがある人間なんて、茅場晶彦の知り合いか、そのインタビュアー、もしくはゲームの開発に関わった人間くらいしか居ないのではないだろうか。

 

「あぁ、実はこのゲームの≪片手剣≫と≪両手剣≫のモーションは私のものを一部使っている」

『えぇ!?』

 

 開発に関わった方の人間であった。

 

「モーションって、それじゃソードスキルの動きは、シンケン・Rさんの動きを使っているってことですか?」

「モーションキャプチャー、と言ったか。それを使って幾らかのデータを取られたな」

 

 ソードスキルを発動すれば、後の動きは全てシステム側が自動で行ってくれる。その動きのモーションをシンケン・Rから取ったと言うことだ。

 

「凄いんですね、シンケン・Rさんって!」

「これでもこの子、お姫様だから」

「お姫様?」

「なんだ? そう言うロールプレイか?」

「ロール?」

「そう。そして私は家臣、よろしく」

 

 ロールプレイ。ロールプレイングゲームというものがあるがこれは、それをもう少し自由な発想に繋げたものだ。

 自分で役割(role)を決めて演じる(play)。

 元々は学習方法の一つであり、複数人の人物が役割と場面をに目で立ち回ることにより、実際にその状態に陥った時にどう行動するのかを練習できる学習。予行演習のようなものだ。

 ゲーム用語としてのロールプレイは、別のキャラクターになり切ると言うこと。自分じゃない自分になりきる、もしくは自分が憧れるキャラクターになりきる事を言う。

 彼女達の場合シンケン・Rが姫、シンケン・Mがその家臣。らしいのだが、家臣というのはどうにも古めかしい和風の印象を持つネーミングだ。姫を守る者という意味であるのなら騎士のほうが適切なのではないか。

 というより、シンケン・Mがロールの話をした直後、当の本人が不思議そうな顔をしていたが、ロールプレイを提案したのはシンケン・Mの方なのだろうか。

 

「面白そう! 私もシンケン・Rさんの家臣になります!」

「いやしかし……」

「いいじゃないですか。ゲームの世界のことなんですし」

「……そうかもしれないな。ナデシコ」

「ハイ!」

「私の家臣になるからには、教えを少し厳しくせねばならないが……覚悟はいいな?」

「頑張ります! 姫様!」

 

 と、言うわけでナデシコもまたゲームの世界限定てはあるが家臣となることになったようだ、

 しかしシンケン・Mのその言い方だと、彼女は現実の方でも家臣であるということになるのだが、本当にそれでいいのだろうか。

 まぁ、ナデシコや彼女達が納得してるのでいいのであろう。

 

「よっしゃ! そんじゃ早速ソードスキルの練習と行くか!」

「おぉ!!」

 

 と、クラインもまたナデシコと盛り上がる。

 実際にはその場にはいない人達とここまで繋がりを持つことができる。

 この世界でできた繋がり、ナデシコと現実の世界でキャンプをしようと言った約束。

 この世界に来てまだ一時間程度しか経っていないのにここまで繋がりを感じ取れるなんて。

 MMORPGとは、なんてすごいところなのだろうか。兄が夢中になるわけも分かる気がする。

 この繋がりは、いつまでも大事にしておきたい。

 この世界でできた絆は、決して忘れることがない。

 この世界は、自分に大切な事を教えてくれる秀逸な世界だ。

 しかし、彼女が見ているのはMMORPGの正の面。本来MMORPG、いやネット全体で言えることであるが、本来は負の面が大きい物。嫉み、恨み、辛み、嫉妬。そんな物を含んだ物のことを言う。

 そして、彼女達が気がつくはずもない。

 今まさに、ゲームの世界からも、現実の世界からもログアウトした一人の人物がいたと言うことを。

 彼女達は気がつかない。その瞬間、メニュー画面からログアウトの文字が消え失せたことを。




プレイヤーNo.6 ???(シンケン・アール【Sinken・R】)
プレイヤーNo.7 ???(シンケン・エム【Sinken・M】)
プレイヤーNo.8 ???(クライン【Klein】)


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メインシナリオ第一章 5話

 シンケン・Rからの教えを受けて早3時間。二人はそれまでとは見違えるほどに実力をつけていた。

 一つコツをつかむとそこからは呑み込みが早く、細かなテクニックも順調にマスターしていった。

 特に重要なテクニックである≪スイッチ≫を手にしたのは大きいだろう。

 これはSAO側、つまり茅場晶彦が用意したシステムではなく、βテスターたちがプレイしている中でソードスキルの弱点を補う方法を考えた結果編み出された技だ。

 弱点。それすなわち硬直時間。スキルを一度放った後は、その強さに比例するように身体が硬直する時間が長くなるのだ。恐らく、連撃の使用によりモンスターに何もさせずに戦闘が終わってしまうという事を避けるため、そして強すぎる力にはそれ相応の代償があるという事を再現するためではないかと考えられている。

 身体が動かなくなるというデメリットは、モンスター単体と戦う時はまだしも、複数のモンスターと戦う場合においては即ゲームオーバーになってしまう要因となりうる重大な欠点。これを何とかしなければ長い先にあるゲームクリアなんて至難の業。

 そこで、βテスターが編み出した技、それが≪スイッチ≫であるのだ。

 スイッチは、複数人のプレイヤーが協力し、一度ソードスキルを放った後別のプレイヤーが硬直時間をカバーするためにモンスターの攻撃役を変わる方法の事を差すのだ。その性質上ソロ、つまり一人でプレイする者には使うことのできない技法であるのだが、それ以外の複数人でプレイする者たちにとっては最も有利な技であると言える。

 

「それじゃ、クラインさんは他のゲームで知り合ったプレイヤーと一緒にゲームに入ったんですか?」

「おう。今は、皆このゲームに慣れるために単独行動中だけどな。VRゲーム自体、これが初めてだしな」

 

 どうやら、クラインはその他のゲームの中で知り合ったメンバーのギルドのリーダーを務めていたらしい。ギルドとは、ゲーム内で作ることのできるグループの事で、コレを作ることによって様々恩恵を受けることが出来るのだ。

 だが、もしかしたら一番のメリットは自分がその世界では一人ボッチじゃないと実感できることなのかもしれない。

 

「このゲームでもギルドを作れるようになったら、そいつらと組もうって話してんだ。どうだ? ナデシコも入らないか? 紅一点ってことで」

「え?」

 

 クラインが前に作っていたギルド。そしてこのゲームにログインした仲間は全員が男性のプレイヤーである。それが悪いというわけではないのだが、一人くらい女っ気のあるプレイヤーがいればもう少しギルドの雰囲気が男臭くなくなるんじゃないかとクラインは考えていた。

 ナデシコが本当に女性であるのかはこの時点では分からないが、しかし女性の姿でプレイしているというのは変わりないため自分のギルドに加わってもらおうと誘ったのだ。

 女性プレイヤーであるという事ならば近くにはシグナムやリーファたちもいたのだが、彼女たちの仲の良さは少ししか見ていないクラインにも分かっていたため引き抜くことは現実的ではない。そのため、一人フリーであるナデシコを誘ったのだ。

 が、しかし。あいにく彼女もまたフリーではなかった。ギルドという物が何のことか分からずに困惑しているナデシコに、近づく女性プレイヤー。

 

「ナデシコは私の家臣だ。勝手な引き抜きは許さんぞ」

「姫!」

 

 シンケン・Rは、凛とした表情を崩さずにそう言った。例えここがまがい物の世界であったとしても、ナデシコをこの世界で家臣にした。そのことに何ら変わりはないのだ。

 残念ながら、クラインの小さな野望は成就することなく断念することになった。

 

「二人とも、かなり上達したようだな」

「はい! 姫!」

「もうボス戦に挑んでもいいくらいだぜ!」

「フッ、そうか……」

 

 シンケン・Rは、二人の横に立つ。

 彼女が二人のように座ることをしないのは、突然敵モンスターが現れた時に遅れを取らないようにするためだ。とはいえ、周りでは今もリーファやシグナム、そしてシンケン・Mが戦闘を行なっているためそう簡単にモンスターが近づくと言うことはないのだが。

 この世界では、疲れがHPに反映されることは当然のことだがない。しかし、疲れは集中力の低下を招き、もしソレが戦闘の途中にピークに達してしまえば、つまらないミスにつながる要因ともなる。そのため、今はシンケン・Rが特訓の途中に設けた休憩時間のような物だ。

 

「にしても、何度見ても信じらんねぇよな。ここがゲームの中なんてよ」

「うん、夕日がこんなに綺麗に再現できるなんて……」

「……確かにそうだな」

 

 日がもうすぐ落ちようとしていた。といっても、この世界の夕陽は本物ではなく、ゲームのグラフィックが作り出す偽物のソレであるのだが。

 しかし、自分達が見ている太陽が本物ではなかったとしてもその現実によく似た景色という物は心にしみわたって美しい物と感じ取れる嬉しさがある。

 遠くにはドラゴンが空を飛び、近くに目を向ければ湖が夕陽を反射して、オレンジ色の光を放っている。

 空想の存在たるドラゴンと、現実にもありそうな湖の色彩のコラボ。この二つを一緒に見る事ができるのは世界広しといえどもここぐらいしかない。

 そんな光景を、自分達は独り占めしているのだ。正確にいえば、一万人のプレイヤーだけがこの景色を見る権利を有しているのだ。なんていい眺めなのだろう。そして、なんと心地よく禍々しいものなのだろう。この優越感は。

 

「はやくみんなとこの景色が見たいなぁ……」

「皆とは、現実の世界の友達の事か?」

「うん! 皆もこのゲームが通常販売されたら買って、一緒にやろうって約束しているんです!」

「そうか、その時が楽しみだな」

「はい!」

 

 そう、未来のことを夢に見ているナデシコ。そんな少女を見て、少しでもこのゲームの開発に関わる事ができたことを、少しでも誇ってもいいのかもしれないと思うようになってきた。

 最初は、茅場晶彦の思惑がどうのという理由を持ってこの世界にやてきたが、しかしログイン開始から何かが起こるという気配がないので、今のところ楽しむ事ができているのは、ある意味幸運であろう。

 それに、こうしてこの少女の笑顔を作れたことは、人々の平和を守る侍としては、少女以上に嬉しくなってくる。

 

「なぁ、姫さん。βテストの時どこまでいけたんだ?」

 

 と、クラインがシンケン・Rに聞く。このゲーム、ソードアート・オンラインは百層あるステージを次々にクリアして最上階に達してゲームクリアを目指すという目的が存在する。当然のことだが、βテストで百層まで到達することは不可能。しかし、二か月ものテスト期間の間にどれだけの階層がクリアされたかは参考までに知っておいたほうが良いとクラインは思ったのだ。

 

「第八層……だな」

「えっと、2ヶ月で八層だから……1週間に一層ずつ?」

「そう言うことになるな」

 

 シンケンRは思い返す。βテストの時の記憶を。そして戦いを。

 あの時、各階層のボスと他のプレイヤーと協力して闘う必要があったのだがあまりにも強く、現実の世界での戦闘経験が豊富にある彼女であったとしても、何度もゲームオーバーになった末にボスをギリギリで倒すことに成功したというゲームバランス崩壊スレスレだった。

 それだけの敵を相手にして、二ヶ月でたったの八層しか進めなかったと考えるか、八層も進めたのかとどちらを考えるかは自由だが、しかし事実として八層を超えたところで二ヶ月のβテストの期間が終わったのだ。

 

「二ヶ月に八層……貴方ほどの腕を持つ人間がそれほどとは……フフッ、腕がなるな……」

 

 そうこう話をしていると、シグナム達が帰ってきた。どうやら、そろそろ頃合いであると見て戻ってきたらしい。

 ちなみに、この間のモンスターとの戦いでリーファ、フィアッセはレベル2に、シグナム、レイアース、シンケン・Mはレベル3となったらしい。随分と早い成長スピードのような気もするが、休みなくモンスターを狩っていたらいつの間にかレベルアップしていたらしい。

 

「お前たち、随分とのめり込んでいるようだな」

「あぁ、最初はただの遊びのつもりだったが、いざ戦ってみるとなかなか奥が深い」

「うん。それにここだと、どれだけ敵を倒しても本当に動物を殺してるわけじゃないから少し気が楽になる」

「? そうか」

 

 シンケン・Rは、レイアースのその言葉に何か引っ掛かりを感じた。

 ここだと本当に動物を殺してるわけじゃないから気が楽、という言葉からは、現実で動物を頻繁に殺しているという文面も垣間見える。

 それが、仕事や趣味でやっている猟の様な可愛いものであることを願わざるを得ない。もし、猟奇的な何かであった時、その時はーーー。

 

「でも、本当にすごいですね、この世界は」

 

 と、リーファは手に取ったスモールソードを見つめるとそう呟いた。

 

「この剣があれば、どこまでもどこまでも進むことができる。剣一つで自分がどれだけ戦うことができるのか試したくなってくる。お兄ちゃんも、そんな世界に惚れたのかな……」

「リーファの、兄?」

「βテスターなんです、お兄ちゃん。今日は体調不良でログインが遅れるみたいなんですけど」

「そうなのか。もしかしたら、私とも会っているのかもしれないな。名前は?」

「すみません。お兄ちゃんを驚かせようと思って私がログインしていることも知らないんです。だから、βの時の事とかはよく聞いていなんです」

 

 リーファの兄、和人はネットリテラシーに関しては彼女を超えた知識を有している。そのため、本名でプレイしているという事も、容姿を変えることなくプレイしているという事も考えられないので、あっても双方が正体に気が付くという事は口を滑らすという事さえなければありえない。

 だが、幸いにもこのゲームの現在のプレイ人数は一万人と少ないと言ってもいい人数。だから、偶然何かのクエストで知り合ったプレイヤーが兄である。そんな奇跡的な出来事が起こりえることもある。

 この少女の兄、しかもβテスター。一度このゲームの世界で手合わせを願いたいところだと、シンケン・Rは思っていた。

 

「ん?」

「どうしました?」

「いや、なんでもない」

 

 全く、思ってもみなかったことだ。

 最初はただ茅場晶彦の裏に潜んでいる可能性がある外道衆の調査のお名目でこの世界に入り込んだのに、いつの間にかこの世界での戦いにのめり込んでいる自分がいる。この世界での出会いに、戦いに心を躍らせている。

 血で血を争う戦いだとか、憎しみを抱えた戦いだとか、そういった血生臭い世界から切り離されたこの世界。

 数多くの仲間と出会い、数多くの戦い、数多くの敗北を得て、ここで自分は更なる境地に立てるかもしれない。

 たかがゲームだと思っていた。ただの遊びだと思っていた。でも違う。プレイしてみると、そこには多くの人間の熱意があり、野望があり、また多くの向上心がある。それは、現実における一つの夢に向かう人間のソレとなんら変わらない。

 もし、このまま何も起こらなくても、侍の勘が外れていたとしても、しばらくこのゲームを続けてみてもいいのかもしれない。

 もしかしたら、見つかるのかもしれない。自分の中にある、誠の侍としての道が。

 育むことができるかもしれない。≪彼≫と同じくらい強くて、切っても切れない絆を。

 ここにいる、仲間達とともになら。

 

「さて、どうする? そろそろ休憩を切り上げるか?」

「おう! もっともっと戦ってレベルアップしてやるぜッ! と言いたいとこだけどよ……」

 

 シンケン・Rの提案に一度立ち上がって答えたクラインはしかし、再び座り込むと腹を押さえて言う。

 

「腹減ってよ……一度落ちるわ」

「そうか、この世界ではいくら食べても空腹感が紛れるだけだからな」

 

 落ちる、というのはネット用語の一つでログアウトを意味する物だ。

 このSAOの世界には、データ化された食べ物や飲み物が幾つも存在している。しかし、例えそれらをいくら飲み食いしたとしても空腹感が多少紛れるだけで現実の胃の内容量が増えることはないのだ。

 だから、もしゲームの中に入り浸りすぎると、栄養失調やヘタをすれば餓死するという恐れも存在するのだ。

 

「あ、それじゃ私も。夕ご飯にはちょっと早いけど、そろそろお母さんが帰ってくる時間だから」

「そっか」

 

 リーファもまた、夕ごはんを理由としてログアウトするようだ。それに、兄が今現在SAOをプレイしるのかどうかの確認もしたいらしい。

 

「みなさんは、どうするんです?」

「もう少し試したいことがある。しばらくはここでモンスターと戦おうと思う」

「私達も、似た感じね」

「うん! 私もまだ遊んでいたいし!」

 

 どうやら、二人以外の面々はまだプレイし続ける様だ。

 

「んじゃ、一端お別れだな」

「あぁ、また一緒にプレイしよう。今度は、そっちの仲間と一緒にな」

「おう! 頼んだぜ!」

「それじゃ、リーファさん! キャンプに行く約束、忘れないでくださいね!」

「うん、もちろん。これからもよろしくね!」

「はい!」

 

 そう、これからも、いつでも、ナーヴギアとパソコンがありさえすれば繋がることができるのだ。だから、これはさよならじゃない。だからこそ彼女たちは清々しかった。

 これが、ゲームであるからこそ、こうして笑い合うことができたのだ。

 その時までは、ただのオンラインゲームであるとしか思っていなかったからこそ、クラインもいつものように気軽にネット用語である落ちるという言葉を使えていたのだ。

 自由にこの想像の世界と、現実の世界を行き来することができると信じていたからこそ、出会いと、別れを噛み締めて喜び合うことができたのだ。

 それが、本来あるべきオンラインゲームの世界だから。

 それが、現実という地獄のような世界を生きる人間たちの特権だから。

 それが、今を生きている生き物に与えられた性だから。

 それが、そのゲームを手に入れることができたという奇跡の代償だから。

 それが、彼彼女たちに与えられた運命だから。

 抗うことはできる。反抗することはできる。しかし、逃れられない運命に縛り付けられてしまうのは避けられない。

 メニュー画面を開いた。その瞬間。

 そのゲームは、遊びではなくなった。

 

「あれ?」

 

 初めに気がついたのは、リーファである。

 おかしい。さっきまでは確かにここにあった文字が消えている。それも、このゲームにおいて最も大切な文字が。

 

「どうした、リーファ」

 

 そんなリーファの様子にいち早く気がついたのはシンケンRである。

 

「あ、いえ……あのシンケン・Rさん。ログアウトって、確かメニュー画面の一番下にあるんでしたよね?」

「あぁ……《オプション》や《ヘルプ》のすぐ下に……」

 

 と、シンケン・Rもまたメニュー画面を開く。そしてβテストの際何度も操作したそのボタンが《あった》場所を探す。

 だが、そこには彼女の見覚えのある文字は存在していなかった。

 

「な……ログアウトが、消えている?」

「え?」

 

 確かに、ここにあったはずのログアウトのボタンが消えている。あったのは、ログアウトを示すアイコンだけ。当然その項目に触れても反応することはない。これは、一体どう言うことだ。

 

「茉子、メニュー画面を見てくれ。一番下、ログアウトの文字はあるか?」

「ちょっと待ってください」

 

 と、ただならぬ事態であると感じたシンケン・Rは、シンケン・Mに本名をぶつけてそう聞いた。この事象。もしかしたら自分やリーファの二人にだけ起こっている可能性もあったからだ。

 彼女のこの言葉で動いたのはシンケン・Mだけではない。周りにいたクラインたちもまた、メニュー画面をひらいてそこにあるはずの文字を探し始める。

 果たして、メニューウインドウを開いたシンケン・Mは一言、残酷な真実だけを告げる。

 

「ありません……」

「こっちもだ……」

「嘘、私のメニューにもない……」

 

 ログアウトの文字が消える事象は、三人だけにとどまらずその場にいた全員にも同じことが発生していたようだ。つまり、今ここにいるものたちはログアウトという選択肢を失ってしまったと言うことになる。

 

「ま、今日は正式サービス初日だからな。こんなバグも出るだろ。今頃運営は半泣きだろうな」

 

 と、クラインは冗談めかして笑いながら言った。

 だが、これが笑い事で済まされない問題であるのは、彼女が一番理解していた。

 

「ありえんな」

「へ?」

 

 元βテスターであるシンケン・Rだ。

 

「βテストの二ヶ月間、ログアウトの項目が消えるというバグなんて一度も発生しなかった。それが、正式サービスされてからいきなり出ると言うのもおかしな話だ」

「けどよ、βの時はたった千人ぽっちだろ? それが十倍に増えたからその分何かしらのシステムに負荷がかかるってこともあり得るんじゃねぇか?」

「仮にそうだとして、なぜ強制ログアウトがなされない」

「強制ログアウト?」

「そうだ。このバグがいつ発生したのかわからないが、ゲームの運営の手でメンテナンスのためにプレイヤーを外側から強制的にログアウトさせることも可能だ。そう、茅場は言っていたが……こんな今後の運営をも左右する初日に発生して、なぜいまだに何の対処もなされていない」

「確かに……」

 

 普通のオンラインゲームでも、ゲームの進行上多大なる影響を与えかねないバグが生じた時にはプレイヤーを強制的にログアウト、もしくは一度ゲーム自体を落としてゲームを終わらせる手段をとる。その後で、バグを取り除くためのメンテナンス期間を設け、はやければ数時間、長ければ何日もかかってゲームを再開させるために動く。

 だが、彼女の言う通りこのバグがゲーム開始当初か、はたまた何時間か経った後で発生したとしても、それに気がついた時点で上記の対応をとっていなければゲーム会社への信用問題にも発展する自体だ。

 ログアウトできない。ゲームを終わらせることができないなど、次の予定をいくつも持っているような現代社会を生きる人間たちにとっては致命的なバグになる。

 

「あ、俺17時30分にピザとジンジャーエールの配達を予約してんだけど……」

「……」

 

 時刻はすでに17時25分。あと5分以内にバグが治るというミラクルが起こらない限り、残念ながら彼の元にピザが届くことはないだろう。

 いや、そんなことよりもだ。

 

「他に、ログアウトする方法はないのか?」

 

 そう、レイアースが聞く。例えば、特定の場所に言ってセーブする。宿屋に泊まる等他のゲームではありそうなログアウト方法が浮かびそうなものだが、しかしシンケンRは首を振って言う。

 

「ないな……」

 

 このゲーム内においてその項目に触れること以外でのログアウトの手段など存在しない。それは、説明書にも書いていることであるし、βテスト時代に遡ってもそれ以外の方法でログアウトをしたというプレイヤーの噂など耳にしたことがなかった。

 

「あ、けどよ! ナーヴギアを外しちまえばどうだ? そうすれば、いくら何でもゲームを終わらせられるんじゃねぇか!?」

「確かに、そうだが」

 

 クラインの言うことも最もであり、可能だ。SAOとは、そもそもナーヴギアというコントローラーを介して無ければ辿り着くことができない世界。なので、そのコントローラーを外してしまえばそれまで。ゲームをプレイすることは出来なくなり、プレイヤーは瞬く間に現実の世界に戻されることなる。だが、たとえそれが出来たとしてもナーヴギアが脳から身体に伝わるはずの電気信号を脳幹の部分で遮ってしまっているため今の自分達にはその方法を取ることができない。

 

「運良く、外にいる者が外してくれるか、このバグが解消される時を待つか……」

 

 これがただの不具合であればいいのだが。そうシンケン・Rは願う。

 

「いや外にいる人間って言ってもよ。俺、一人暮らしなんだぜ? 他のみんなは? リーファは、おっかさんが帰ってくるとして……」

 

 と、クラインが聞くと、どうやらシグナムとシンケン・M以外の面々は家族と一緒に暮らしているためもし長い時間ゲームの世界から帰らなかったら心配して外すことは考えられるらしい。

 また、家族と一緒に暮らしていない二人に関しても、フィアッセやシンケン・Rと言った現実の世界の知り合いがいるため、もし先にゲームの世界から抜け出したら外しに行けるそうだ。

 

「ってことは、どうにもならないのは俺だけってことか……」

「住所を教えてもらえれば、私たちの誰かが現実に戻ったときに外しにいくことができるけれど……」

「……いや、それは遠慮しとく。ゲームする前にドアに鍵かけちまったし、それに……女の子を家に入れれるほど綺麗じゃねぇしよ」

 

 本当は、クラインもレイアースの申し出を受け入れたかった。と言うよりもそれしか方法がなかった。

 しかし、自分の部屋は色々と散らかっている上、女の子に見せられないようなものまで散乱している。だから、ここは渋々申し出を断り、バグが解消されるのを待つことにした。

 

「………」

 

 バグが解消される。本当にその時が来るのだろうか。リーファは、言いようのない不安に陥る。

 もしも、このままゲームの世界から出ることが出来なかったら。そんな、ありえない心配まで押し寄せてくる。

 見ず知らずの地に、友達と取り残された気分というのは、まさしくいまこの時のことを言うのだろう。

 海外に旅行に行って、旅券やパスポートをなくして、財布も落として、どこに行けばいいのか、誰に話しかければいいのか、話しかけても言葉が通じるかどうか。そんな、世界に自分が一人ぼっちになってしまったかのような、そんな感覚。

 不幸中の幸いとして、自分にはフィアッセやレイアースといった、現実の世界でも友達だった者や、ナデシコやシンケン・Rといったこの世界でできた友達がいるから心細さと言うものはさほどなかった。

 だが、バグが解消されず、ログアウトもできずに、永遠にこの世界にいることになってしまったら。もう、二度と両親や兄に会うことができなくなってしまったら。

 そんなことを考えると気が気ではいられない。

 シンケン・Rは、他にログアウトログアウトする方法がないと言っていたが、もしかしたらそれはβテストの時のみと言うことで、正式にリリースさればバージョンでは他にログアウトの方法があるのでは無いだろうか。いや、もしかしたらそちらの方が正規のログアウトの方法なのでは。そんな希望的観測をしてみたくなるほどに、彼女の不安は大きくなっていた。

 不安、怖い、恐ろしい。

 一体、自分達はこれからどうなってしまうのか。

 無事に家族の元に帰ることができるのか。

 そして、元通りの生活に戻ることができるのか。

 たかがゲームのバグ。確かにそうだ。

 しかし、そのたかがバグでこれほどまでに不安になってしまうのは、これがVRゲームであり。今自分達が実際にそのVRの世界に入り込んでいるからに相違ないだろう。

 できれば、このまま何事も起こることなくゲームが終わりますようーーー。

 

「ッ!?」

「これって!?」

「鐘?」

 

 その時、アインクラッド中に轟くかのように、鐘の音が鳴り響いた。

 本当のゲーム開始を知らしめすかのように、大きく。そして凄まじいまでの迫力の鐘が、全てのプレイヤーの耳を貫き、偽りの脳を揺らす。

 その時、黒鉄宮の中に一つの大きな黒い石碑が出現したことに、気がつくプレイヤーは誰もいなかった。



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メインシナリオ第一章 6話

 あの時の光を、私は永遠に忘れることはない。

 あの、友達と出会って、二回目のキャンプ。正確には、一回目は富士山を見にいくために自転車を漕いで疲れ果てて寝ていたらいつの間にか夜になっていたためキャンプとは言えず、二回目というのもソロキャンをしていた友達のところに自分が勝手に行っただけなのだが。

 その時、自分は初めてキャンプ場(駐車場)で夜を明かした。そして、友達がテントの近くにおいていた椅子。そこから見た富士山の傍から昇る朝日。

 綺麗で、神々しくて、眩しくて。自分の心を照らしてくれているかのようで、あの景色は、光はいまでも思い出すことができる。とても、とてもいい思い出だ。

 そして、今回彼女が包まれた光は、その時の光に極めて似ていた。ただ一つ、違うところを挙げてみるとするのならばそれは、あの時見た光は希望に満ち溢れた光で、この時の光は、絶望の中に誘う光だった。ただ、それだけだ。

 青白い光に包まれたナデシコの体は、一瞬にして意識が刈り取られる。その時の感覚は、この世界に初めて来た時のそれと極めて似ていたようにも感じた。

 とにかく、目が眩んで閉じた彼女の目が再び開かれた時。彼女がいたのは先程までこの世界でできた友達と一緒にいた草原などでは無く、石畳で舗装された大きな広場の中にあった。周りを見てみると、次々と自分と同じように青白い光に包まれたプレイヤーが出現している。その数はどんどんと増していき、いつの間にか広場はプレイヤーで埋まってしまった。

 この場所、彼女には見覚えがあった。

 確か、このゲームの世界に最初に来た時に自分が立っていた場所。はじまりの街の中央広場だ。広場の中央に見える時計台には見覚えがある。違うところといえば、自分がログインした時には昼まで、空には青空が浮かんでいたのに対して、今の空は夕焼けに焦げたような色をしているということくらいだが。

 

「ナデシコさん!」

「あ、リーファさん!」

 

 その時、人混みをかき分けてリーファが現れた。恐らく、彼女もこの場所に青白い光と共に連れてこられたのだろう。

 

「よかった、みんな近くに飛ばされてたみたい……」

「え、それじゃ他の皆も?」

「うん近くにいるよ」

 

 もしかしたら距離的に似たよった場所にいた人間は近しい場所に飛ばされるようにプログラミングされていたのかもしれない。とにかく、こんな予想外の事態に陥って、知っている人間が近くにいるということは安心できる。ナデシコは、リーファの後をついていき、シンケンRたちと合流する。

 

「姫! みんな!」

「よし、これで全員揃いましたね」

「だが、一体何が起こった?」

「姫、何か分かる?」

 

 全員揃ったはいいものの、何が起こったのかさっぱりわからないのは変わらないことだ。

 一体何が起こっているのか、何故自分達がこの場所に飛ばされたのか。βテスターであったシンケンRなら何かわかるだろうか。

 

「あの光は、場所を移動する際の《転移》のエフェクトだったのはたしかだ。問題は、アイテムを使っていないのにも関わらずどうして全員がこの場所に飛ばされたのか……だが」

 

 自分達が体験した青白い光は、本来転移結晶というアイテムを使用したり、階層を移動する際のエフェクトであるそうだ。

 しかし、転移結晶というアイテムを自分達は使用してはいないし、階層は先程までと同じく第一層。やはり、この場所に飛ばされるような原因は考えられない。

 可能性の話ではあるが、とシンケンRは話始める。

 

「このような大人数が同じ場所に一斉に飛ばされたのだ。これは、個人のプレイヤーでできることじゃない。恐らく、外部から何らかの方法を用いてこの場所に集められたのだろう」

「外部? あ、それじゃログアウトできないバグが起こってるってわかって!」

 

 内部からログアウトすることができなくなっていると外部の人間が気が付いて強制的にログアウトさせようとしているのではないか。そう、リーファは推測した。しかし、シンケンRは首を振って言う。

 

「いや、それなら全てのプレイヤーをわざわざこの場所に連れてきた意味がわからない」

「いわれてみれば、ログアウトさせるだけならその場でもできるはずだしな」

 

 SAOのシステム上、本来であればゲーム内のどのような場所であったとしてもログアウトすることは可能であるはずなのだ。特定の場所にいかなければログアウトできないという設定でない限り、全てのプレイヤーが集められた理由なんて一切ないはず。

 憶測に憶測が重なり次から次へと謎が増えていく中、近くにいた別のプレイヤーが上空に現れた異変に気がついた。

 

「おい、なんだよあれ!?」

「え?」

「ん?」

 

 見ると、なにか赤い六角形が点滅している。さらにそこには≪WARNING≫という文字が書かれている。プレイヤーたちがそれを見つけた刹那その赤い光が空一面、正しくは第一層の天井に映し出されている空一面に広がっていった。時間が経たないうちに当たりは夕焼けの橙色の景色からまるで地獄と見間違えるほどに真っ赤で、薄気味の悪い物へと変わっていった。

 それだけではなかった。天井から隙間を縫うように血のような真っ赤な液体が流れだし、それが空中で何かの形を形成していく。あれは、フードをかぶった人だろうか。巨大な、黒鉄宮とほとんど同じ大きさのフードをかぶった人間が空中に浮かび上がった。プレイヤーではないことは間違いないだろう。

 フードをかぶった人間は、両手を広げると頭に響くような声で言った。

 

『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ』

「私の……世界?」

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

「ッ!」

「茅場……晶彦だと」

「姫……」

「確かに、声は茅場晶彦と同じだ」

「それじゃ本物?」

「実際に会った姫さんが言うんだから、間違いはねぇんだろうけどよ……」

 

 この中で、というよりもすべてのプレイヤーの中でも数少ないと思われる実際に茅場晶彦に会って話をしたシンケン・Rは断言する。その声、口調、話し方などの特徴はいづれも茅場晶彦に瓜二つ。まず、本人と見て間違いないだろう。

 

「けど、なんで茅場晶彦さんがわざわざ?」

「バグが発生したことに関しての説明のため……だけで製作者が現れるの?」

 

 ナデシコの疑問に、リーファもまた疑問文を交えながら答える。

 だが、このゲームは元から大注目されて発売されたゲーム。そのサービス開始初日にゲームの進行に支障が出るようなバグが発生したのだから、開発者自ら説明のために現れてもおかしくはないのかもしれない。

 あり得るのかもしれないのだが、何故だろう。胸が締め付けらるようだ。不安に押しつぶされるかのよう。今、とんでもないことが起こっているというのに、それに一切気が付いていない自分たちの事を死神があざ笑っている。そんな風に思ってしまう。

 そう、もうこの時に既に感づいていたのだ。これが、ただのバグではないという事を。そして、とんでもない大事件が発生しようとしているという事を。感づいてしまっていたのかもしれない。

 無情にも、彼女たちについにその時が訪れてしまう。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

「え?」

「仕様……だと?」

 

 シンケン・Rは言葉が出なかった。

 あまりにも衝撃的な発言で言葉が出なかったのか。いや違う。脳が理解することを拒んだのだ。

 これほど隙を見せてしまったのは一体いつぶりであろう。あの時の自分であったら外道衆に襲われていればひとたまりもなくやられていたであろうと、後に邂逅するくらいに棒立ちとなっていた。

 そして、それは他のプレイヤー達も同じく、皆が皆茅場晶彦の言葉の意味を理解しかねていた。しかし、茅場は続ける。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

「ッ!」

 

 耳を疑う発言だった。

 このゲームにあるクリアという概念。それを達成する唯一の方法が百層あるすべての階層を踏破して、頂上にまつラスボスのモンスターを倒すことにある。

 つまり、彼の言う城の頂を極めるまで、というのはつまるところ、ゲームクリアが成されるまでゲームの外に出ることはできないという言葉も同じ。

 冗談じゃない。つまり、自分たちはゲームクリアまで閉じ込められたという事ではないか。こんなもの、拉致監禁と同じだ。

 

「じょ、冗談ですよね……ゲームがクリアされるまで出れないなんて……」

「……」

 

 シンケン・Rはナデシコの言葉に返答することが出来なかった。何故なら、彼女自身信じ切れなかったこともあるが、もし茅場晶彦のいう事が事実であれば、自分は彼女に残酷な真実を告げなければならなかったから。

 

「ナデシコ……お前、現実ではいくつだ?」

「え? えっと、16歳……高校二年生ですけど……」

「そうか……」

「?」

 

 シンケン・Rは沈痛な面持ちで、下を向いた。もし自分の考えが正しければ、ナデシコ、そして確か中学生であると聞いたレイアースとリーファの三人には、これから残酷な言葉が茅場晶彦からプレゼントされるはずだ。

 そうでない場合、そして理解が出来ない場合は、自分から告げねばならない。彼女たちの青春の終わりを。

 

『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もし、それが試みられた場合……』

 

 一瞬の間。まるで、言葉を噛みしめるかのように、自分の言葉によっているかのように茅場晶彦はためを作り、そしてゆっくりと言った。一万人の息を飲む声が聞こえるかのような重苦しい空気の中で、茅場晶彦は言い放ったのだ。

 

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

「!」

 

 その残酷な言葉は、全てのプレイヤーをどん底に叩き落すのに十分な物であっただろう。

 今、茅場晶彦は宣言したのだ。このゲームには、ナーヴギアには人を殺す力があるのだと。今ゲームをプレイするすべてのプレイヤーが生と死の境目にいるのだと、知らしめたのだ。

 だが、あまりにも突然のことすぎて理解が及ばない者も大多数いる。クラインもその一人だ。

 

「ハハハ……何言ってんだよアイツ、おかしいんじゃねぇのか? そんなことできるわきゃねぇだろ。ナーヴギアは、ただのゲーム機じゃねぇか……脳を破壊するなんて、そんなことできるわけが」

「きっと、できる……」

「え?」

 

 答えるのは、意外なことにナデシコであった。絶句の表情を浮かべたまま、口を手で押さえたままで膝を地面に付いたナデシコは、恐る恐る言う。

 

「私、料理が好きで……電子レンジも使うんですけど……レンジから出ているのって、マイクロ波っていんです。もし、ナーヴギアからでるっていう高出力マイクロウェーブが、そのマイクロ波と同じなら……」

「ナーヴギアの中の頭を、電子レンジと同じ状況にすることも可能というわけか……」

 

 これは、本当にナーヴギアからマイクロ波が出ているという仮説と、そのマイクロ波が人体に影響を与える程度に出力を上げることが出来るという推論の二つを使用した推察だ。

 しかし、理論的にはあの茅場晶彦の説明に特に問題はない。つまり、やろうと思えばできてしまうという事なのだ。

 もしも、茅場晶彦がそれを実行する狂人であるのならば―――。

 

「あれ? でも、ナーヴギアってコンセントから電気を取ってますよね……コンセントから電源コードを抜いちゃえば……」

 

 ふと、リーファが気が付いた。ナーヴギアに人を殺せるほどのマイクロ波を出せる力があるとしても、電子レンジと同じであるというのならばナーヴギアのコードをコンセントから抜けば電力が供給されず、マイクロ波も発生しないのではと。

 が、しかしそれもダメだった。あるのだ。もし電源コードが抜かれたとしてもマイクロ波を発生させることのできる方法が。

 

「いんや、確かナーヴギアには大型のバッテリーが内蔵されてる。確かギアの重さの三割はバッテリーセルだって聞いたことがあるぜ」

 

 なるほど、つまり電源コードが抜かれれば電気をそこから抽出してマイクロ波を発生させることが出来る。と、言うことか。

 だが、それでも問題点は山積みだ。

 

「で、でもそれだと停電になったら危ないんじゃないの!?」

「そうだな、停電になれば電源コードから電気は流れてこなくなってナーヴギアを外したと誤解され、マイクロ波を発生させられる可能性もある……」

 

 雷か、あるいは送電線の故障か、どちらにせよ家の電気が止まってしまうという事態に陥れば、そのようなことが起こる可能性があるのだ。

 もし、そうなれば外の世界で友達や家族がいくら注意しても自然現象によって死亡するというゲームの世界にいる人間たちにとっては手も足も出ないゲームオーバーの仕方になりかねない。

 そんな、極端な話をすれば運の要素も混じってくるような設定にしたこと、茅場晶彦はミスであると気が付いていないのか。

 否、気が付いていた。この問題点には。茅場晶彦は言う。

 

『より具体的に言うのならば……十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーブギア本体のロック解除または分解もしくは破壊の試み―――以上のいずれかの条件に追って脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。因みに、現時点でプレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーブギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果……』

 

 緩急織り交ぜた話。そのすべてを聞き漏らさないように注意していたリーファにとって、突然の沈黙は恐怖でしかなかった。いや、すべてが正確に言うのならば恐怖であるのだが、しかしあまりに現実離れしすぎた物であるために恐怖を感じる余裕すらもなかったと言ったほうが良いのかもしれない。

 そして、沈黙の後空中にいくつもの画面が表示され、そこには―――。

 

『残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

「にひゃ……」

 

 ところどころで消えるかのような悲鳴が上がったような気がした。

 茅場晶彦が出したスクリーンには、様々なメディアで報じられている事件の第一報が掲載されていた。中には、被害者の名前と、そして写真が使われている物も存在する。

 最初の犠牲者となったのは京都に住む大学生だったらしいことまで見て取れた。

 そして、映し出されるのはSAOに家族を捕らえられてしまったのであろう女子高生が泣いている姿。プロジェクトSAOに参加した765プロのアイドルが記者に詰め寄られながらもタクシーに乗り込む姿。そして緊急事態にも関わらずアニメを放送しているいつもの放送局等々、様々な反応が見て分かる。

 フェイク動画でもない限り、これは本当に現実世界で起こっていることなのだろう。さすがに、これを見せられてしまえば、茅場晶彦の言葉を少しでも信じなければなるまい。

 

「信じねぇ、信じねぇぞオレは!!」

 

 だが、その中で一人クラインは茅場晶彦の言葉にかみつく。どうせただの脅しだろ、オープニングの演出なんだろと、まるで否定しなければ自分がどうにかなってしまうと思っているかのように。

 実際、この時のクラインの精神状態は普通ではなかった。

 彼自身、信じられない出来事の連続で頭が回り切らず、もう何を信じていいのか、こんな異常事態を受け入れていいのか、まったく判断が出来なかった。

 だが、シンケン・Rは感じ取っていた。これは、本当に起こっていることであるのだと。実際に人死にがあったという事が、まるで手に取るかのように分かっていた。

 何故か、それは先ほど茅場晶彦が出した映像の中に、彼女にとって見覚えがありすぎる存在が映り込んでいたからだ。

 ナナシ連中。それも、13年前に匹敵するほどの量で進行していた。つまり、それだけの悲しみが現実世界にあふれているという事だ。

 もし、茅場晶彦の言う通り1万人規模のプレイヤーがゲームの世界に閉じ込められ、そこからさらに200人以上の人間が死んでしまっているというのなら、この規模となることは容易に想像が出来る。

 

「丈瑠……」

「皆……」

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の身体は、ナーヴギアを装着したままに時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に臨んで欲しい』

「……ッ」

 

 ゲーム攻略。頂に到着するまで外に出ることはできないと言っていたからこそ、そう言うのだろうと思っていた。しかし、実際に言われるとなんとも腹の立つ言葉だ。

 

「何言ってやがんだ! ゲームを攻略しろだなんて、ログアウトできない状態で、呑気に遊べってか! ふざけんな!!」

 

 クラインの怒りももっともだ。しかし、これだけならばまだいい方だ。シンケン・Rはもう一つの事態を危惧していた。これ以上に最悪な出来事、それは。

 

「しかし、十分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

「な、んだと……」

「そんな……」

「やはり……か」

「嫌ぁ……」

 

 クラインは、唖然とした表情を見せる。開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろ。驚愕に歪んだその顔は、しばらくもとに戻ることは無かった。

 ナデシコ、リーファ、そしてフィアッセの三人はそれぞれに口を手で押さえたり、また脱力しながら崩れ落ちた。

 レイアース、シグナム、シンケン・Mは拳を握りしめて怒りを抑え込んでいる様子。

 そして、ただ一人この事態を思い浮かべていたシンケン・Rは唇をかみしめて茅場晶彦から目を背けてつむる。

 今、自分のヒットポイントつまりHPは、たったの250程度。それが、今の自分の命の総数。例え現実の自分がどれだけ強かったとしても、このHPゲージの全てがゼロになった瞬間に、傷の深さどうこう言う前に、戦える戦えないと論議する前に、自分は死んでしまう。

 常に命がけの戦いに参加している自分ですらも、この事実に震えているというのに、一般人である人間たちがどういう心情であるのか、想像するのに難くはないだろう。

 

「こんなの、ゲームじゃない……」

 

 レイアースのつぶやきに、シンケン・Rは心の中で同意する。

 そう、こんなものはゲームではない。いや、ゲームであるはずがない。

 そもそもゲームという物は現実世界から切り離された虚構を楽しむ娯楽。そこに命のやり取りが発生してしまえば、その概念そのものを崩しかねないのだ。

 だが、いくら否定したとしても、嫌がったとしても自分たちの全てを牛耳っているのが目の前にいる茅場晶彦であるというのであれば、一切を従うしかないというのが、とてもつらいところだ。

 

『諸君が、このゲームから解放冴える条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』

 

 生き残ったプレイヤー、つまりゲームオーバーになったプレイヤーは現実世界に帰ることは二度とないという事。ゲームクリアすれば死んだプレイヤーも一緒に帰れるなんて救済措置は一切用意されていないということか。いや、そもそもそんな生易しい物を用意してくれるなんて、端から思ってはいなかったが。

 

「ね、ねぇシンケン・Rさん……」

「……どうした、ナデシコ」

 

 ここで、ナデシコはあることに気が付いた。けど、もしもそうだった場合自分は、自分たちは―――。

 

「確かさっき、βテストじゃ2ヶ月で……」

「……八層しか、進めなかった……」

 

 つまり、単純に計算すれば百層を攻略するまで25ヶ月もかかると言うことだ。

 シンケン・Rは、さらにその情報に補足するかのように言った。

 

「ゲームオーバーになれば死ぬという事実を前に、積極的にゲーム攻略に赴く人間は当然少なくなる。そうすれば、必然的に攻略スピードは落ち、下手をすれば……その倍の時間はかかるだろう」

「そう……ですか」

 

 このゲームには、涙を流す機能はない。当然だ。笑顔や怒りなど顔の筋肉で表現することが出来る単純な感情はともかく、悲しみの際にでる涙は人それぞれ個人差がある。そんな物をゲームで表現しようとするのは、到底無理な話なのだ。

 けど、分かる。きっと今彼女は泣いている。自分の、高校生活が失われてしまうという事実に、二年もの間友達と会って、キャンプをすることが出来ないという事実に。

 今高校二年生である彼女は、二年経つと大学生、友達も同じことだろう。高校生は、中学生や小学生とは違い義務教育の範囲外。つまり、このゲームをプレイしている時間が長くなれば長くなるほど彼女は自動的に留年を繰り返すことになってしまう。もしそうなれば、彼女は同級生たちと同じ学年を歩むことはできない。

 いや、下手をすれば退学という可能性も無きにしも非ず。そうなれば、大学生になることもおぼつかなくなる。就職にだって影響が出る。高校中退となる彼女が、まともな職業に就けるかどうか。彼女がキャンプを自由に行き来する時間を与えられないような会社に就職してしまう恐れだってある。さすがに今の精神状態の彼女がそこまで考えられる余裕があるかは分からないが。

 リーファとレイアースもまた中学生で自動的に学年が上がっていく分には問題はないが、その後の受験の問題がある。恐らく、どれだけ早くゲームをクリアしても受験シーズンには間に合わないだろう。他人から遅れた学力を取り返すまで一年、二年、いやもしかするとそれ以上かかるかも。どちらにしよ、彼女たち三人の人生への影響は心身的にも巨大な物になる。

 

「奴の狂気に気付いておきながら……すまない」

 

 シンケン・Rはただ、そう謝ることしかできない。あの時、確かに自分は茅場晶彦の心の奥にある闇に気が付いていた。外道の心があるというのに気が付いていた。それなのに、結局は茅場晶彦を止めることが出来ず、それどころか自分は茅場に協力した形となってしまった。非常に悔しい。そして、哀しい。

 

『それでは、最後に諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 

 そう聞くや否や、ほとんどのプレイヤーはメニューウィンドウを出現させるとアイテム欄のタブを叩いた。ナデシコやリーファたちもまた、ゆっくりではあるがそのタブを探し出し、ゆっくりと叩く。

 そこに、ここに来るまでは存在もしていなかったアイテムが一つだけ存在していた。アイテムの名前は≪手鏡≫。何故このような物がプレゼントであるのか。シンケン・Rは、ナデシコとほとんど同じタイミングでそのアイテムをタップして、オブジェクト化のボタンをタップする。すると、淡い光と共に目の前に自分の顔が映る鏡が出現し、彼女たちはソレを恐る恐る手に取った。

 その瞬間である。突如、リーファを、シンケン・Mを、ナデシコを、フィアッセを、シグナムを、そしてクラインやすべてのプレイヤーの姿を白い光が包み込んだ。

 そして、シンケン・Rもまた、その白い光に包まれ、ついに何も見えなくなった。




 ところで私、SAOって
 ナーヴギアーパソコンーインターネットって感じで繋がってると思ってるのですが、もしかして……
 ナーヴギアー有線LANーインターネットってな感じで、パソコンには繋がっていないんじゃと思うようになりまして。どうなんでしょうか?


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メインシナリオ第一章 7話

 光に包まれたのは、一体何秒程であっただろうか。

 視力が回復するまでの間、目に映るのは白い世界ばかりで、でも白銀の雪景色を直視しているかのような痛みを感じることは無かった。

 けど、それは逆に違和感となり重くのしかかる。当たり前である物が当たり前に来ない感覚。それが、とても恐ろしい物であると改めて分かった。

 だから、早く終わってくれ。そんな願いにこたえるかのように徐々に光は収まっていき、そして目は再びまがい物の世界を映し出す。

 

「一体、何なの〜?」

 

 ナデシコの目に最初に映ったのは、手鏡の中に映る≪何ら変わりない自分の姿≫だった。

 特に姿形には異変は起こっていないし、もしかしたらこの場所に来た時のように別の所に飛ばされた可能性も考えたが、そうではないようだ。

 一体、あの光は何だったのだろう。茅場晶彦のプレゼントの意味って何なのだ。ナデシコの困惑は、隣にいる少女を見るまで続いた。

 

「ッ……今のは……」

 

 その時、ナデシコの隣にいたリーファ≪であったはずの≫人物の声を聴いた。

 しかし何か妙な違和感がある。声色が少し変わっているようだ。ナデシコは、ゆっくりとリーファの姿を見た。が、そこにいたのは―――。

 

「あ、ナデシコさん。大丈夫?」

「え? あ、あの……」

 

 見知らぬ女の子だった。

 

「? どうしたの?」

「えっと……リーファちゃん、でいいんだよね?」

「え?」

 

 リーファは、何故ナデシコが疑問形で自分の名前を確認したのか、意味が分からなかった。なんだか待ち合わせしていた人間と別の人間が来た時のような、そんなしどろもどろした感情。一体どうしたというのだろう。

 

「えっと……ほら!」

「え?」

 

 と、ナデシコが見せたのは自分の手鏡だった。そこに映っているのは、≪リーファの現実の顔≫である。どこもおかしな所はないような。

 

「って、え!?」

 

 いやおかしい。なんで現実の顔に戻っているのだ。確かに先ほどまでこのゲームの開始の為に作成したアバターの顔付きであったはず。

 それなのに、顔の形、目や鼻立ち、口に頬、おまけに身長や体型に至るまでの全てが現実のソレと同じものとなってしまっている。変わらないのは髪形と色、それから耳の形と言ったものくらいだ。一体どうしてこうなったのか。

 

「リーファ、お前か?」

「え?」

 

 混乱するリーファは、声をかけられた方向に顔を向けると、そこには先ほどまでいなかった凛々しい顔付きの女性がいた。

 それだけじゃない。他にも数名かの見覚えのない女性たち、そして野武士のような男性が立っていた。先ほどの口調から察するに、もしかして自分に声をかけてきたのは―――。

 

「えっと、もしかして……シンケンR・さん?」

「……そうだ」

 

 やはり、シンケンRだった。それじゃ、近くにいる野武士のような男性は―――。

 

「おいおい、どういうことだよこれ! なんで、現実の俺の顔が……」

「クラインさん?」

「お、おう……」

 

 クライン、か。

 あたりを見渡すと、それまでゲームのキャラクターのような顔の作りをしていたプレイヤー達は、そのほとんどが消え去り、現実的な顔つきの人間ばかりとなっていた。察するに、すべてのプレイヤーの顔が現実のそれと同じ物となってしまったとみていいのだろうか。

 ナデシコが自分の顔を見た時に違和感を感じなかったのは、彼女はそもそもアバターの容姿を一切変更することなくゲームをプレイしていたからなのだろう。

 ふと、ここでクラインが言った。

 

「というか、疑ってたわけじゃねぇけど、本当に全員女だったんだな……」

「なんだ?」

「いや……ほら、周りを見渡してみろよ……」

「ん?」

 

 促された少女たちは、改めて周囲の様子をみる。だが、顔付きがそれぞれに変化したこと以外は特に変わったところはないような気もするが。

 

「え、お前男だったの?」

「俺をだましたのか!?」

 

 いや、ところどころから阿鼻叫喚の声がしている。恐らく、性別を偽っていたプレイヤーが現実と同じ顔付きになったことによって、詐称がばれ、女という事でペアを組んでいたプレイヤーから非難を受けているのだろう。

 そういえば、先ほどまで見渡す限り男女半々だったプレイヤーが、真実が明かされた後では圧倒的に男性の方が多くなっているような気がする。

 

「な、俺の見立てじゃ女がこのゲームをプレイする割合ってのは意外に少ないって思ってたからよぉ……一人くらいはネカマが混じってんじゃねぇかって、そう思ってたんだよ」

「なるほどな……」

 

 ある意味クラインは不幸中の幸いだったのかもしれない。いや、あまりにも不幸の方が大きすぎて幸いと言っていいのかは分からないが、とにかく出会った女性アバターを使用しているプレイヤー全員が本当に女性だったなんて、運が良いにもほどがある。

 にしても、一体どうして、いやどうやって現実の顔と同じ顔付きにすることが出来たというのだ。

 当然だが、自分たちが事前にアバターを作成した時に現実の顔を登録するなんてしていない。する理由もないし、しても意味がないはずだったからだ。

 そう考えると、何故ナデシコは現実と同じ顔と身体でプレイすることが出来ていたのだろうか。今更そんなことを思い返すのも無駄ではあったが、何故彼女に会った時点でそこに気が付かなかったのか。

 考えられるとしたら、ゲームのプレイを開始した時点で顔や体格がSAO側にインプットされてしまっていたという事なのだが―――。

 

「なるほど、スキャンという物か」

「え?」

「茅場晶彦から以前聞いたことがある。ナーヴギアはフルフェイス、つまり顔全体を覆っている。そのため信号素子というものを利用することで顔の表面の形も鮮明に把握できるのだと」

「いや、けど身長とか体格はどうなんだよ」

「キャリブレーションがある。モーションを取った時に教わったが、自分の身体に触れることによって、≪手をどれだけ動かしたら自分の身体に触れるのか≫を測ると……」

 

 なるほど、その技術を応用することによって身長や体格を現実の姿そのまま鮮明に再現することが可能となるわけだ。

 髪型に関しては複顔と同じで顔の形をスキャンするのみでは再現することが不可能であるため、それはアバターを作成した時の髪形と据え置きになってしまっているのだろう。

 

「けど、けどよ! 納得いかねぇよ! なんでこんなこと……茅場晶彦は一体何がしたいってんだ!」

 

 確かに、何故茅場晶彦は現実にこれほどまでこだわるのか。いや、何故空想の世界で現実を求めるのか。全く理解できない。

 

「私は、なんとなくわかる……」

「レイアース?」

 

 が、レイアースには分かっていた。茅場晶彦の狙いが何なのか。

 

「きっと茅場は、現実感のないアバターの姿のままじゃダメなんだと考えたんだと思う。偽物の身体のままじゃ、現実味がなさ過ぎて、命を賭けて戦っている気になれないんだって考えたんじゃないか? だから、姿かたちを現実と同じにすることで、命がけの戦いをしているという認識を持たせようとした。想像だけど、きっとそうだと思う」

 

 理解はできない。だが、意味は分かる。もしも、自分たちが偽物の身体のままだったら、本当に命がけの戦いをしているという実感がなくて、人によってはただのゲーム感覚で敵に突っ込んで、玉砕する者もいることだろう。

 だが、これが現実の身体とそっくりであればどうだ。本当に自分自身の身体で戦っているような感覚になることで、そんな無茶をするような人間は少なくなるのではないか。一見して、プレイヤーを守るための行為のようにも見えなくはないが、しかしその奥底には間違いなく茅場晶彦の狂気が隠れ住んでいる。

 

『諸君は今、何故、と思っているだろう』

 

 赤い血のような空から、重々しく響く声が再開した。恐らく、茅場晶彦はプレイヤーが理解する時間を作っていたのだろう。いらぬおせっかいなような気もする。何故なら、どれだけ時間を消費したとしてもプレイヤーがそれを受け入れることなど不可能であるのだから。

 

『何故私は―――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 

 違う。きっと、どれも違う。テロであるというのなら、プレイヤーのゲームオーバーを待つなんてまどろっこしいことをせずに今すぐここで全てのプレイヤーの脳を焼き切ってもいいはずだ。

 身代金目的の誘拐であるとするのならば、ゲームクリアなんてものを求めていないハズ。恐らく、茅場晶彦の狙いは、考えたくもない、しかし最もあり得る狂気的な理由は。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。何故なら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創りだし、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

 やはり、神の真似事をするためか。それも、最も質の悪い神、邪神のまねだ。

 人の人生なんて何にも思っていない邪神が、自らの欲求を満たすためだけに人間たちに苦行を強い、それによって苦しむ者たちを傍観する。ただ、それだけのためだけに地位や名誉をかなぐり捨てる狂気は、人間のそれをはるかに超えた悪魔的な発想を感じる。

 

『……以上で、≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―――健闘を祈る』

 

 茅場晶彦がそう言葉を締めくくるとその姿はヒドイノイズとともに崩れ去っていき、次第に周囲は先ほどまでのような夕方の景色と、そして始まりの町の軽やかな音楽が流れ始めた。

 その場にいたプレイヤーは皆かたまり、動けなかった。自分の置かれた状況をちゃんと理解するための時間が必要だった。だが、理解なんてできるはずがない。ただ、普通にゲームをプレイしていたただの人達が、こんな異常事態を理解せよと、茅場晶彦の考えを理解しろと言われるのは無理があった。

 その時、誰かが手に持っていた手鏡を落とした。

 瞬間、起こるのは怒号、悲鳴、そして嘆き。すべてを奪われた怒りが、現実に帰れないという悲鳴が、そして家族のことを想う嘆きが、その広場を包み込んでいた。

 そして、プレイヤーが一斉に背後から押し寄せてくる。怒りを向けるべき茅場晶彦はもうこの場にはいない。そう分かっていてもなお、いや分かっているからこそのパニックが発生していた。

 シンケン・Rは思った。まずい、このままこのパニックに巻き込まれてしまえば皆離れ離れとなってしまう。

 特に、うつろな目をしているナデシコとリーファを放置することは危険だ。早くこの場から脱出しなければ。

 

「ナデシコ! リーファ! 手を!」

「え?」

「広場の外に出る! 走れ!」

 

 シンケン・Rは半ば強引に二人の手を掴むと、広場の外縁部に向けて走り出そうとした。だが、他の人間の姿はいつの間にかいなくなっていた。≪茉子≫は、皆は何処に行ったのだ。なんとか彼女たちを救い出すことが出来ても、他の者と逸れてしまっては―――。

 

「姫! 私たちのことはいいですから! 二人を!」

「ッ!」

 

 遠くから、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。それに対して返事を返す間もなく、シンケン・Rは人々の群れの合間を次々と針の穴に糸を通すかのように走り抜ける。

 怒号と怨念の轟く戦場で、鳴り止むことのない恨みの連鎖。本当は、そのすべてを救ってやりたい。しかし、自分は神ではない。完全な人間ではない。すべての人間を救う事なんて、絶対にできない。

 残念だ。

 果たして、三人がたどり着いたのは市街地の路地裏。この世界に静かな場所なんて存在しない。

 広場から聞こえてくる怒号もそうである。しかし、このゲーム内のBGMはプレイヤー側が設定でカットすることがなければ、夜中を除いて永遠に聞こえ続ける。

 だが、それでもこの場所はNPCが周りにいないため比較的静かな場所であると言えるだろう。

 

「大丈夫かナデシコ、リーファ?」

「……」

 

 返事は、なかった。

 いや、返事をする気力もなかったのだろう。無理もない。今、彼女たちはありとあらゆる絶望をその一心に受けているのだから。

 友と共に歩む時間。それがどれだけ大切で尊い物であろうか。

 友と共に笑う時間。それがどれだけ愛おしく、豊かな物であろうか。

 家族と一緒にいる時間。それが、どれだけかけがえのなく、そして刹那的なものであろうか。

 彼女たちは奪われたのだ。過去も、今も、未来も、全てをたった一人の狂気に奪われたのだ。

 その気持ちを考えると、身が引き裂かれる思いだ。

 特に、その狂気に、知らなかったとはいえ協力してしまった自分としては、どれだけ彼女たちに謝っても謝り切れるものではないあろう。

 シンケン・Rは、一挙手一投足に重みを感じながらゆっくりと現在時刻を確認する。時刻は今18時少し前。今から≪あの村≫に向けて走ればギリギリモンスターの行動が変わる前にたどり着くことが出来るかもしれない。

 βテストの際、モンスターの出現種類は昼間と夜間では違う場合が多かった。例えばこのはじまりの街の周囲の草原だけで言うと、昼間はイノシシ型のモンスターが多かったのが、夜間になるとオオカミ型のモンスターが多くなる、と言ったようにだ。

 もちろん昼間にオオカミ型のモンスターが出なくなる、夜間にイノシシ型のモンスターが出なくなるといったわけではない。事実ナデシコは先ほど昼間にも関わらずダイアーウルフの襲撃を受けている。だが、時間によって出現するモンスターの種類が違ってくるのはあきらかだ。

 βテストの時と同じモンスター出現率であればそれでもかまわない。しかし、もしもβから本稼働になった際に設定を茅場晶彦が変えてしまっていれば、下手をすれば昼間とはけた違いの強さを持ったモンスターが出現する恐れがある。そうなれば、いくら現実で剣に自信がある自分であったとしても、無傷で通り抜けることは不可能となる。

 ならば、早急に次の村、≪ホ