俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。 (蒼添)
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第一章「今日から俺は、魔法少女」
その1/触れただけで即死


初投稿です。見切り発車なTS現代魔法少女モノ・アジアンパンク風味。
対戦よろしくお願いします。


かの大魔道士・天月修を知っているだろうか?

我が国日本が異世界”オグトラム”に襲撃された際、真っ先に異世界の魔法を解析・実用化し、実践でも戦功を挙げた日本の英雄である。

しかし、彼には悪癖……正確に言うならば、拗らせた性癖があった。

 

すなわち、性転換(TS)ヒロイン萌えである。

 

彼は戦後その能力を自分の性癖が赴くままに活用し、TSヒロインハーレムを作り出し、自分も性転換自由自在というなんとも度し難い人物になってしまった。

 

これは、そんな彼が作り出してしまった呪いのアイテム、”メタモルステッキ”の()()()達の物語だ。

 

 

 

「どうしよう……これ……」

 

どこにでもいる普通でちょっと女顔な高校生男子・宮地時生は悩んでいた。

上京した兄から送られてきた物が、どうしても女児向けにしか見えなかったからだ。

 

勉強机とベッドは当然として、ラノベや漫画、ゲームソフトのパッケージが多く入った本棚が目につき、ゲーム用モニターも完備された一軒家の二階の部屋。彼はその中央に正座し、梱包されたダンボールをカッター片手に開けた状態で硬直している。

入っていたものはただ一つ。ステッキだ。水色の持ち手、先端には大きな黄色い星マークの意匠。彼にとって、いや、誰がどう見たって玩具っぽいチープな見た目だ。

 

「ええ……」

 

時生は再度兄からスマホに届いたメッセージを見返す。そこにはこう書かれてあった。

 

『お前の話を上司にしたらもらった。写真見せたときに”まさしく彼こそがふさわしい……!!”って言ってたからお前には使いこなせると思う。頑張ってくれ』

 

このメッセージの存在が彼をさらに困惑させた。なんだよふさわしいって。そしてなにをどう頑張るのか。使いこなすってなんだ。疑問ばかりが浮かぶが、行動しなければ始まらない。

時生はそれを右手で手に取る。すると、星の部分が光り始めた。

 

「!?」

 

変化は唐突だった。まず、彼に背後に投影された宇宙が広がった。

藍色の闇、星々が照らすように見えるその空間で、彼の体は無重力のように浮き上がり、瞼が閉じる。彼の体が光に包まれ、男と分かる体の線が明らかになる。

そしてそのまま、彼の体が変成していく。足、臀部、胸と下から順番に体に丸みが帯びていき、身長が落ちる。顔は面影を残したまま美少女へと変わる。

彼が無意識のまま小さく空中を輪を作るようにスケーティングすると、その軌跡に沿って六つの蒼い星が等間隔に生成され、彼が輪の中央に戻ると、その星が彼の体に一つずつ吸い寄せられていく。

まず始めに右腕に星が当たると、それは水色の手袋となった。左腕も同様に変わり、両足に行った星は太ももまでの藍色のソックスとなる。

五つ目の星は胸元に蒼の星の意匠を施したミニスカワンピースになり、最後の星は頭に行き、カチューシャとなり、その髪もまた蒼に変え腰まで伸びる。

そして、背景は元通りになり着陸。目を開けると、意思を感じられるように宣言する。

 

「……魔法少女ミーティアレイン、ここに星誕!!」

 

そんなことが、まるで洗脳でもされたように、起きた。

聞いている人は誰もいない。

 

五秒後、彼はうずくまり、悶絶した。

 

 

 

 

今、半自動でなされたそれはいわゆる変身バンクというもので、魔法少女ものにはお決まりのものとしてあるのを時生は認知していた。

しかしそれはそれこれはこれ、実際やってみるとめちゃくちゃ恥ずかしい。男子高校生なのになぜこんなことをしなければならないのか、という感じである。

 

「うぅ……でも……」

 

彼は自分の体を適当に触れてみる。完全に女体化しており、胸はわりと大きく、股間などにあったものは無くなっていた。しかし不思議と違和感はなかった。まるでこの状態でいることが正常なような――

 

「いや、なわけないだろ」

 

変な思考を、頭を振って退散させる。自分は男。うん、男。そこを見失ったらとてつもなくヤバいことになるとしか思えない。そう直感する。

しかし実際に魔法少女になったわけだが、とりあえず元に戻らなければ。そう考える彼であったが。

 

「戻り方、どうすればいいんだ……?」

 

それがいまいちわからなかった。変身、解除!とでも叫べばいいのだろうか。ステッキを振ってみたり、ちょっと一回転してみたり、四苦八苦しながら試すこと数十分。リビングのほうから非道な宣告がなされる。

 

「時生、ご飯ー」

「!?」

 

そう、夕飯である。こんな姿を親に見られるのは高校生、思春期の自意識を考えると死にも等しい。ゆえに、ここで彼がとれる選択肢は一つしかなかった。

 

彼は窓を開ける。

 

すなわち、逃走である。

 

彼には飛べるという直感があった。というか魔法少女が飛ぶのはまあありがちなことだし、こんなマジックアイテムを作った馬鹿野郎がその機能を搭載していないことはありえないだろうという予測に基づいてのものだった。

 

実際目論見は成功し、彼は夜の町を眼下に収めることができた。

彼が住んでいるのは千真田市御剣区。観光地、繁華街、公営カジノ、山、と治安がいいところから悪いところまでピンキリなこの市において、高校が五校ある学校の町にして、ヤンキーが多いことで有名な場所である。

 

この日本において、異世界戦争後の治安というのは悪くなる一方だった。その裏には誰でも持てる武力としての魔法の存在がある。

戦争中娯楽が無くなっていく中、魔法での私闘が遊びとして流行り、それが法で禁止されたあとも知ったことかと続ける者たちが多いのだ。そのあおりをもろに受けたのがこの御剣区といえる。

魔法を含めた総合的な強さでの学内カーストの成立、武力で訴えることへの世間からの風当たりの軟化などが起こり、治安が悪化したのだ。

 

空を飛ぶなか、彼は思い悩み、軽くパニックになりつつひとつの可能性へと行き着いた。

何かというと、ダメージを受ければ変身解除されるのではないか、と。

日曜朝にやっているような変身モノだと、ボコボコにされたときにそれが解除されるといのはいかにもありがちなことである。

しかしそれを行ってくれる人に彼は心当たりはないし、そもそもボコボコにされるのは心理的に嫌だ。

なら自滅ならどうだろう。たとえば、高い所から急降下して激突してみるとか。

鳥のように滑空飛行していた彼はその可能性にすがってみることにした。めちゃくちゃ怖いがボコボコにされるのよりはマシだろう。そもそもすぐに帰らないと母親に怒られるし申し訳が立たないことが彼の決断を後押しさせた。

 

スピードをつけて上空へ、高く高く上がっていく。目標は通っている学校のグラウンド。部活もおそらく終わっている時間だろうし、突っ込んでいってみても問題ないだろう。夜景がきれいに見えるぐらい、だいたい高さ数百メートルだろうかというところまであがって、一旦急停止。思いっきり急降下していく。

だいたい突っ込む軌道が安定したところで目をつぶり歯を食いしばり、衝撃に備える。

 

来る!?来る!?と衝撃のタイミングがいつ来るかに恐怖していると、顔面に衝撃。バウンドしながら一回転、二回転し、止まる。

仰向けになって転がった彼は思ったより少なかった衝撃に困惑しつつ起き上がった。体験したことある痛みだと、だいたいドッジボールが顔面にぶち当たったぐらいの痛みだろうか。

彼は自分の姿を確認する。蒼い衣装、柔らかい肉体。うん。

 

「変わってないね……」

 

どうしたものか、と途方にくれる。確かにそこそこ痛かったが衣装や体に傷一つない。せいぜいグラウンドの砂をかぶったぐらいだ。予想以上にこの魔法ステッキはガチなものらしい。

そんな彼のもとに、墜落音を聞きつけたのか何者かがやってくる。どうせ教員だろうと思って彼がそこに目を向けると、そこにいたのは。

改造された学ラン、持っているものは金属バットや鉄パイプ。染めた金髪の短い髪。ピアス。そんな男らが五人ほど。

すなわち、ヤンキーである。

 

「おいおいおい、魔法少女じゃねえか……!」

「なんか堕ちたかと思えばよ……魔法少女が落ちてくるなんて鴨葱じゃねえか……!!」

「なんか体格がちげぇな、新顔ってやつかぁ?」

「まあいい、ここでのしちまうぞ!!!そうすればボスからトレジャーもらえるかもしれねえしなぁ!!」

 

彼らの体が次々に淡く光る。身体強化魔法だ。何が起こっているのかはまったくわからないが、彼が取れることはただ一つだった。

 

「に、に、逃げなきゃ!!!」

時生は彼らに背を向けて逃走した。可愛らしいソプラノボイスで叫びながら。

 

向かった先は校内。彼の焦った頭は建物の中に逃げたほうが振り切れる確率が高いと導き出した。冷静なら空へ逃げることを考えたのだろうが、彼はヤンキーにこうやって襲われることなんて人生でなかったものだから、平静でいるのは難しかった。

そして取った行動は、しっかりと裏目に出る。

 

「に、人数、増えてるぅぅ……」

 

自分を追う声、見た数が確実に増えている。それは当然だ。ヤンキーたちがグラウンドにすぐにやってきたのは、ここを拠点にしているからだ。あっというまに追う声は十人近くまで増え、逃げ場所がだんだんとなくなっていく。

 

「っていうか、これ、逃げてるうちに上向かってるけど、逃げ場ないじゃん……」

 

走っていくなか思いあたってももう遅い。走り、逃げるなか、屋上に追い詰められた彼はヤンキーに囲まれる。

 

「逃げたって無駄だぜ魔法少女……なんでか知らねえが学校内に入ったのが運の尽きだ、ここは俺たちの庭なんだからよぉ……」

「最初っから飛んでりゃわかんなかったけどなあ、もうこっちは飛ばれてもいいよう準備してあんだよ……」

「あ、そっか、飛べばよかったんだ……」

 

飛べばいいことに今更気づいた彼。周りのヤンキーたちは硬化魔法をかけた野球ボールを持っていて、飛んだ彼女をノックか投球で撃ち落とす算段なのだろう。

万事休すか。ギュッと目をつぶってこれからの仕打ちに耐えようとする時生。バットを持ち襲いかかるヤンキーたち。

 

――そして、乱入者。

 

外から一度の跳躍で屋上にたどり着いたその人物は、持っていた武器で今まさに時生を襲おうとしていたヤンキーを一度に吹き飛ばす。

 

「え……何が、起こったんだ……?」

 

衝撃が来ないことに不審に思った時生は目をあけると、その人物を目に入れる。

それは、自分と同じような服装をしていた。違う所は、そのカラーリングがピンクだということ。

髪が短いツインテール……ピッグテールだということ。自分より少し幼児体形だということ。そして、持っているものがステッキではなく、持ち手に星がついた、野球バットになっていること。

 

「ったく……新しい魔法少女か。これはまた災難だな……」

「あ、あなたは……?」

「話は後だ。とりあえず全員潰すから待ってろ」

 

時生の問いかけに、ぶっきらぼうに答える桃色の魔法少女。天使のようなロリボイスとその口調がまるで合っていない。バットを持ち直し彼女がヤンキーたちのほうに向き直ると、ヤンキーたちは余裕そうなさっきから一転、緊張を引き締め直す。リーダー格の男が告げる。

 

「てっきりそいつがお前の新フォームで、堕ちきったんだと思ったんだと思ったが違うようだな」

「こんな一方的にやられる性格してねぇってことはお前らが一番わかってんだろ」

「それがありえんのが魔法少女じゃなかったか?」

「はっ」

 

軽い罵り会いの後、双方が動き出す。

 

「行くぞっ!!!お前ら!!!!」

「かかってこいオラァ!!!」

 

まずヤンキーたちは手に持っていた野球ボールを投球。魔法出現以前ならメジャー行けてたであろうレベルの速球が四方八方から繰り出される。

しかし、それに対抗する魔法少女の手は単純だった。

 

「ピッチャー返しだこの野郎!!!」

 

目にも止まらぬスピードで振るわれたバットは全ての球を弾き返す。逆方向に飛ばされた球は半数以上が宣言通りのピッチャー返し、ヤンキーたちの過半数を昏倒させる。

そのまま魔法少女はバットを握りしめ吶喊。ヤンキーたちとは比べものにならない身体強化によって一人ずつぶん殴り、一撃で落としていくさまはまさに無双であった。

 

「すごい……」

 

ただ守られるだけだった時生は感嘆する。魔法少女というのはこんなにも強いものなのかと。

惚れ惚れもしたし、自分もあんな強さを持てるようになるのかと期待してしまう。いや、そんな力を振るう場面は来ないでほしいのだが。

そうしている間にも一人ひとり倒され、残っているヤンキーはリーダー格の一人になった。同じように魔法少女はバットで胴体を殴り飛ばそうとするが、すんでで回避される。

 

「……?」

「おらよっ!!!」

 

カウンターとして振るわれたバールを回避し魔法少女はバックステップ、仕切り直すと問いかける。

 

「お前……避けんのかよ。スキル持ちか?」

「そうだ。俺のスキルは【スローモーション】。攻撃を避けるときの体感時間が増すのさ。さて、どうする?時間がかかるほどお前らは不利になるんだろ?」

 

スキル。その定義は体系化されていない魔法事象。

魔法はイメージによって具現化されるが、発動しやすい魔法と発動しにくい魔法がある。

異世界戦争でもよく扱われていた火、水、土、風の四元素論の魔法や身体強化、傷を癒やす回復魔法などは発動しやすい部類とされる。

逆に重力を操るだとか雷を起こすだとか、対象を性転換させるなどの発動しにくく、使用者が限られ体系化できないものはスキルと区別され、今もスキルを魔法にしようと各研究機関が総力を尽くしている。

そして、その生き残ったヤンキーは珍しいスキル持ちの人間。しかも近接戦において強い能力。これには桃色の魔法少女も歯噛みする。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

「ああ。でも厄介だな……クソッ。使うしかないか。おい、ちょっと頭下げてろよ」

「え?」

「……魔法少女ミーティアブレイク・セカンドフォーム!!!」

 

距離を取った桃色の魔法少女がバットを上に掲げ、宣言する。そうすると彼女の体に変化が起こる。

まず、背中に白の天使のような翼が生え、スカートは膝までのロングに伸びる。そして最大の変化として持っていたバットが……全長五メートルほどの鉄骨と化す。

 

「いくら【スローモーション】でも、全体攻撃は避けられないでしょう!!!」

「……これは、無理だな」

 

宙に浮き上がった彼女は、さっきまでの身体強化をさらに超えるスピードで鉄骨を持ちヤンキーのほうへ突っ込むと、ヤンキーは躱せずにモロにくらい、吹っ飛び屋上から落ちていく。

魔法少女、大勝利である。

 

「……いやいや、落ちちゃったけどあの人死にませんか!?」

「大丈夫だ。あいつ、当たる瞬間跳んで勢い少し殺された。優れた身体強化なら落ちたところでせいぜい骨折」

「そ、それならいいんですけど……って、そうだ。助けてくれてありがとうございます」

「おう。しかし、魔法少女になっちまったのか。不幸なこったな……」

 

鉄骨をバットに戻し、”セカンドフォーム”を解除した桃色の魔法少女に時生は感謝の言葉を言う。あのままだったらきっとひどいめにあっていただろう。何かしらのお礼をしなきゃいけないなと思いつつ、先輩の魔法少女なら何か知ってるだろうと思って訪ねる。

 

「あの……俺、もともと男で、ステッキに触ったらこうなっちゃったですけど、元に戻る方法って知りませんか……?」

()()

「……え?」

「男に戻る方法は、見つかっていない」

 

頭が真っ白になる、衝撃の発言だった。無い、無い?そんなことあるのか?しかも触れただけで変身して?混乱する彼に、さらに追い打ちをかけるように魔法少女が言う。

 

「そんな……嘘ですよね」

「嘘じゃない。さらに言うなら、魔法少女の力を使っている時間だけ、()()()()()()が進んでいく」

「え……どういう、こと?」

「そのまんまだ。例外はあるが、男を好くようになって、男だったころの記憶が薄れていく」

「そんな……!?」

 

そんなの呪いのアイテムかなにかじゃないか。時生は愕然とした表情をする。

そんな彼を見て、魔法少女は少し困ったような顔をする。

 

「まあ……とりあえず俺の話をしようか」



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その2/ガール・ミーツ・ガール、ただし中身は男

お気に入り10件超えに感想……ハーメルンすごい。
読んでくれてありがとうございます。そして第二話もどうぞ。


「あー……まず聞きたいんだけどさ、お前ここの生徒だよな?」

「あ、はい、そうです」

 

慧海高校。時生の通う高校にして現在地。彼はそこの高校の生徒として普通に生活していた。ただ、これからはどうなるかはわからないが。

 

「なら話は早いか。”殺人バットの虎次郎”の名前に聞き覚えねーか?」

「あ、はい、あります。なんでもバット一本でこの高校の番長にまで成り上がった漢の中の漢の先輩って。でも最近失踪したって……」

 

はっ、と時生は気づく。まさか、今目の前にいる魔法少女は。

彼女は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、告げる。

 

「そう。それが、俺だ」

「えええええええ!?」

 

時生はご近所迷惑な大声を上げる。聞いた話だと虎次郎という漢は身長190cmを超す大男で、ものすごい強面だったと。それが、こんな自分より身長が低いピンク髪のロリに。

ものすごい、ギャップだ。正直萌える。彼女はその可愛い声で話を戻す。

 

「ったく、うっせーんだよ。で、だ。元に戻る方法は見つかってねー。だから、俺に協力しろ。そのほうがお前にとってもいいだろ?」

「あ、はい、手伝います。正直女のままっていうのも嫌なので。よろしくおねがいします、虎次郎さん」

「おう。それならいい。これから俺のアジトに……」

「あ、いや」

 

時生は彼女の言葉を遮る。訝しげな表情を浮かべる魔法少女虎次郎。

 

「ちょっと、家で夕飯食べなきゃいけないんで」

「……え?」

「いや、夕飯前に変身しちゃって、それで飛び出してきちゃったんですよ、はい。こんなんになっちゃったのも報告しなきゃいけないし」

 

さすがに思春期男子として、この姿は恥ずかしいが、解除できないならもう覚悟を決めて見せるしかない。あと、普通に彼はお腹が減っていた。

 

「……はあ。いや、いいよ。食ってこい――」

「いや、先輩も来てください。話したいことあるなら後で合流は面倒くさいじゃないですか」

「え?いや、それは親御さんに悪いだろ」

「命の恩人ですし。マザコンじゃないですけど、うちの母親のご飯美味しいですよ」

「お、おう。そこまで、言うなら」

 

けっこうこの人押されるのに弱いな、と時生は感じた。いい人なのだろう。

時生は虎次郎の後ろに回って、ステッキを握ったまま抱きかかえる。

 

「ん?ちょっと、何する気だ?」

「いや、飛ぶほうが速いし、人にも見られたくないしいいかなって」

 

なんとなく虎次郎が遠慮しそうだから強引に行ったほうがいいかな、というのもあったが。

案外軽いその体を抱えながら、助走をつけて、飛ぶ。

 

「え、いや、ちょっと、まて、うおおおおおおおい!!!!」

 

夜空に、女児の声が響き渡った。

 

 

夜。といってもまだ人々が寝ない時間帯。時生と虎次郎は家の前に降り立った。

 

「めっちゃくっちゃびびったわ……」

「あはは、すいません。さて、どうしますか」

「どうするって……普通に入りゃあいいんじゃねえの?」

「まあ、そうするしかないですよね」

 

いざ、覚悟を決めて。

ピンポーン、とインターホンを鳴らすと、長い黒髪のエプロンをした美人が出てくる。

彼女は時生達二人を見ると、首をかしげる。

 

「……どちらさまですか?」

「あー、俺だよ、俺。母さん。時生」

「いや、それで通じるわけねえだろ……」

 

どう聞いても詐欺にしか聞こえないセリフを少し恥ずかしそうに彼が言う。虎次郎が呆れた顔をするなか、時生の母はじーっと時生の顔を見つめる。

 

「ん?んー……うん。時生だね。なんで女の子になってるの?」

「通じた!?」

「いや……ちょっと色々あって。詳しい話は中でするから、とりあえず上がっていい?」

「そちらの人は?」

「命の恩人」

「あら。じゃあしっかり料理ごちそうしないとね」

「ど、どうもっす……ええ?」

 

トントン拍子で話が進み、困惑した表情をする虎次郎。この親子に自分のペースを崩されまくっている。

 

「あれ、虎次郎先輩。この服、靴脱げるんですか?」

「ああ……普通に脱げる。ったく、なんだこの展開……」

 

軽く頭を抱える桃色の魔法少女を横目に、靴を脱いで家に上がりリビングにいく。ダイニングテーブルには、既に夕食が用意されていた。

 

「お、麻婆豆腐?」

「そうよー」

 

赤さよりかはひき肉の茶色が目立つ、辛さひかえめの麻婆豆腐。とろみがついたそれは、時生の好物だった。もちろんご飯もほかほかで、中華スープも用意されていた。ふと時生が横を見ると、なぜか虎次郎は黙っていた。

 

「どうしたんですか?」

「いや……久々に、こういう家庭料理食べるなあと思っただけだ。気にすんな」

 

照れるように言う。それはとてもかわいらしくて。時生は少し抱きしめたくなった。

 

「いっぱい食べなさい」

「そうですよ、先輩」

「……ありがたく、いただきます」

 

食卓についた三人は、いただきますをして食べ始めた。

 

「それで、なにがどうしたの?」

 

食べ終わり、だいたいの片付けが住んだあと、時生の母……弥生は訪ねた。

 

「えーっと……最初っからでいいんだよね」

「うん。そうね。始めからきかせてじちょうだい」

「わかった」

 

そこから時生は話し出す。兄から送られてきたもの、入っていた手紙の話、触れたら変身したということから解除に四苦八苦して襲われて助けられたところまで。

 

「なるほどねぇ……」

「おいおい、その兄ってめっちゃ怪しくないか?」

「だよね……」

 

考えた様子を見せる母。怪しむ虎次郎。しかし正直時生にもなにがなんだかわかっていない状況だった。

なんせここまでの急展開、彼自身が一番よくわかってない。そういえば、と時生が虎次郎に尋ねる。

 

「先輩はどうして魔法少女になったんですか?」

「いや……それがな……さっきの襲われたことにも関係するんだけどな」

「どういうことです?」

「簡単に言うと、ハメられたんだよ。うちの校の番長の座を狙うやつに」

 

つまり、と虎次郎が語る。ある日舎弟たちからの贈り物としてダンボールに入ったステッキを渡された。それに触れてしまい、変身。そうするとなにがなんだかわからぬうちに虎次郎失踪の噂が立ち、自分の居場所が無くなってしまったという。

 

「それは……ひどいですね」

「ああ。しかもそいつはどういうことかステッキがこんな呪いのアイテムってことも知ってたらしいからな……計画的犯行ってやつだ」

「つまりそいつを倒せば、何かわかるかもしれない……?」

「そういうこった。それが当面の目標だ」

「へえ……」

「わかってんのか?お前今からそれに協力すんだぞ?」

「え」

 

完全にそんなこと考えてなかった、という顔をする時生。目の前のピンク髪の美少女はため息をつく。

 

「え、って。魔法少女だから戦えるに決まってんだろ?」

「いやいやいや、俺戦った経験なんてないですよ!?」

「魔法少女なんて普通そういうもんだろ。たぶん」

「ええ……確かにそうですけど……」

「大丈夫だ。俺がしっかり教えてやっから」

「虎次郎さん……!!!」

 

テーブルに頬杖をしながら勝ち気な笑みを浮かべる虎次郎。見た目の可愛さとその兄貴っぷりに時生は一瞬で惚れそうになった。そりゃうちの高校の番長になれるわ、とも。

 

「教える……あ、そうだ。アレ教えなきゃだわ」

「何かありました?」

「この衣装の解除方法」

「早く言ってくださいよ!!!それあったら飛ばずに済んだのに!!!」

「いや!!教える前に飛ばれたんだよ!!!」

 

時生は憤る。正直数時間しか経ってないがこの蒼いミニスカは彼にとってきつかった。が、確かに強引だったので何も言い返せなかった。虎次郎は席から立ってステッキを持つ。

 

「魔法少女ミーティアブレイク・デイリーフォーム」

 

そう告げると髪と服装に変化が起きる。元のピンクのミニスカは光となって消え、革のジャンバーとジーンズというメンズっぽいファッションに変わる。髪は元の耳上の小さいツインテからショートボブへと変わり、その髪色のピンクも淡くなった。ステッキは小さく、形を変え、ピンクで星の意匠がついたブレスレットに変わり、虎次郎の左手に装着された。

 

「おお……似合ってますね。というかどこでその技術知ったんですか……?」

「知り合いにちょいマッドな魔道具技師がいてな……解析結果として知れた。もっとも解析できたのは全体の一割ってところだろうがな」

「ほぅ……じゃあ、やってみます」

 

時生も立ってステッキを構え、告げる。

 

「魔法少女ミーティアレイン・デイリーフォーム!」

 

宣言すると青の衣装が光に包まれて消え、女の体にはちょっと大きい藍色のジャージが残る。髪は肩までぐらいに縮み青色は水色と呼べるまでに薄くなった。

 

「おう。大丈夫そうだな」

「やっぱり少し大きいですね……なんか、彼氏のジャージ借りた女の子、みたいになってません?」

「……まあ、そうだな」

 

見た目ロリータな少し虎次郎が頬を染める。どうやら中身にそぐわずうぶなようだと時生は感じたが、口に出したら怒られそうなので言えなかった。仕切り直すように虎次郎が続ける。

 

「まあ、と、ともかくだ、これでだいたいはやるべきことは済んだよな。じゃあ今日は俺帰るから――」

「待ちなさい」

「え?あ、はい」

 

なんと、話を遮ったのは時生の母だった。いつになく真剣な表情を浮かべている。今まで黙っていたのもあり虚をつかれた虎次郎がどもる。

 

「――今日は、泊まっていきなさい」

「え」

「いくら元男だとしたって、こんな夜遅くを出歩くのはいけないわ。不良も多いし」

「いや、大丈夫っすよ。魔法少女ですし……」

「いいから。うちの息子……いや、娘と仲良くしてちょうだい」

「あ、はい……この親子、わりと強引だな……」

 

ただの魔法使いでもない成人女性に気圧される虎次郎。そこにヤンキーとしての威厳はなく、諌められている小学生にしか見えなかった。

 



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その3/魔法少女モノにありがちなアレ

UAもそろそろ500件を越えますね……ありがとうございます。
それでは。よろしくおねがいします。


「いや、うちの母親がすいません……」

「大丈夫だ。まあ、筋は通ってたし」

「ははは……」

 

場所は移り変わって、リビングから廊下に出て二階、時生の部屋。ベッドのとなりに客用布団を敷く形で、彼らは寝ることになった。時生……青い髪のジャージ美少女がベッドに座り、虎次郎……桃色の髪の革ジャン少女がその布団の上にあぐらをかいている。

 

「しかし、漫画とか多いな」

「そうですね、オタクってやつでございまして……」

「あれか、ゲーム……対戦とかもできるのか」

「できますね……」

「おお……でも夜遅いからな。やめとくか」

 

床に直置きされたゲームモニターを興味津々といった感じに見つめる虎次郎。どうやらあまりそういうのには触れずに育ってきたらしい。その目を輝かせている姿に可愛さを感じながら答える時生。自分の部屋に美少女二人(自分含む)、なんとも変な気持ちだと彼は感じた。

 

「それはそうですね。というか、こう、女の子の手入れみたいなのとかどうすればいいんですかね……」

「ああ、それか。気になるよな」

 

女の子の体の手入れは大変らしい。何がどう大変なのかはわからないが、ともかくそういうことらしいのは時生は知っていた。彼が気まぐれによんだ性転換ものでもありがちな話だった。

 

「基本的に魔法少女形態のときは汚れ対策みたいのされてるから平気なんだよ。現に今日あれこれあったけど髪とか汚れてねえだろ?」

「確かに……そうですね」

「まあ、しっかり風呂入んねえと髪のつやとかは落ちるらしい。そこらへんは女の知り合い紹介するし、俺もそいつの言うこと聞いていろいろやってる。今日はとりあえずいいじゃねえかな」

「へぇ……ん?」

 

案外魔法少女だからってうまくはいかないようだ。女の子にしかないこと……と頭を巡らせていると、ふと悪い予感がよぎる。ぎこちなく尋ねる。

 

「あの……もしかして、月のものって、来ます……?」

「……ほんっとーに、ほんっとーに許せないんだけどよ……来る」

「来ちゃうんですか……」

「本当にこのステッキ作ったやつは趣味が悪ぃ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする虎次郎。生理が来るのが性転換モノでお約束なのを知っていた時生だが、いざ自分が当事者になるとつらいものがあるなと感じた。

 

「はあ……っていうか服どうすれば。女物の服なんて持ってるわけないし……」

「いや、それなら大丈夫だ。どうにかできるやつを知ってる。というか今から来る」

「え?」

「ちょっとスマホで連絡取ってた。すまんな」

「い、今から来客ですか!?」

「大丈夫だ。少しびっくりするかもしれないが、いいやつだから」

 

さすがに夜も更ける中、それは駄目なのでは?と思う時生。あたふたする彼を虎次郎がなだめていると、二階であったはずの時生の部屋の窓に、とんとんと何かが叩かれる音がする。

 

「ん?」

「お、来たな。開けてやってくれ」

「え……?」

 

窓を開けると、時生の顔の横を素通りして小さい何かが部屋の中に落ちる。時生はそれを目で追ってしまう。

 

――それは猫だった。驚くほどきれいな、白い毛をもつ猫。その目は青で、気品があった。

その猫はあぐらをかいている虎次郎の足の上に乗っかると、時生を見つめる。そして桃色の魔法少女が口を開く。

 

 

「おう。紹介するぜ。こいつは猫の女の子のミケだ」

『あなたが新しい魔法少女ね!』

「しゃ、喋ったぁ!?」

 

ある意味、自分が魔法少女になったときよりも驚いた。

 

 

 

 

現れたお嬢様口調の白猫。実際声もかわいいそれに、時生は困惑していた。

 

「あれですか? 魔法少女ものにありがちな、ステッキのマスコット的な?」

『? 無関係よ?』

「あ、そうですか……じゃあ、なんで喋れて、っていうか服とか、え?」

「そこは俺から言うわ」

 

虎次郎が頭をかきながら言う。虎次郎もどこから説明したらいいものかと悩んでいる様子だ。

 

「あー……なんていうか、これから大切なことなんだけどさ」

「はい」

「この魔法の時代の不良……『マジックギャング』とかって呼ばれてるやつらには、『三要素』っていうのがあんだよ」

「三要素?」

「そう。マジックギャングがギャングたる強さを持つワケ。それが、魔法、スキル、トレジャーの三要素だ」

「魔法は……身体強化とか、ファイアーボールとかですよね」

「そう。で、スキルが『体系化されない魔法現象』。ざっくり言うとユニークな必殺技ってことだ」

 

魔法、スキル。この二つはこの学園で過ごしてきた以上時生は知っていた。しかし、最後の三つ目、トレジャーについては聞き覚えがなかった。

 

「トレジャー、とは?」

「簡単に言うと、すごいマジックアイテムのことだ。俺らの持ってるメタモルステッキも一応癪だがそれに含まれる」

「へえ……」

「あくまで都市伝説だけど、名を残すマジカルギャングはどういうわけか必ずトレジャーが手元に転がってくる。案外俺やお前もそうなのかもな」

「……そうだといいですね。で、それがこの子とどうつながってくるんですか?」

 

例の白猫……ミケは虎次郎の足の上で座っている。その顔はどことなくどやぁっとしている気がする。

 

「この白猫は、その三要素を()()()()()()

「……それは、すごいですね」

『もっと褒めてもいいのよ!』

「具体的に言うと、魔法としては回復魔法や動きをよくする身体強化、あと浮遊とかだったか?」

『そうね! 窓を叩いて入ったのも浮遊魔法のおかげよ!』

「すごい……」

 

正直時生は魔法も得意ではない……どころか使えないし、スキルなどももってるはずがない。だからミケのその有能さにはただ舌を巻いていた。

 

「そしてトレジャーは《人の心》。そのまんまだな」

『これがあるから喋れるのよ!』

「ド直球な名前ですね……」

「で、本題のスキル。頼めるか?」

『はーい! 【即日配達】!』

 

そうミケが宣言すると、部屋の中空に封詰めされたダンボールが光に包まれ出現し、音を立てて床に着地する。そしてなんの気なしにそれを開封しようとする虎次郎に、時生がツッコミを入れる。

 

「ちょ、ちょっと待って!?どういうこと!?」

「いや、スキルの効果だけど……」

『あたしの銀行口座のお金と引き換えに、ここに品物を配達するスキルですわ!ちなみに送料無料ですの!』

「え、ええ……そんなトンチキなの? スキルって……」

「けっこうそういうの多いから慣れてったほうがいいぞ。っと……」

 

虎次郎がダンボールの中身を開けると、そこにはふわふわのパーカーと長いズボンの上下が二セット入っていた。ひとつは白とピンクのボーダーで、もう一つは白と水色のボーダー。それらを取り出すと、ダンボールは雲散霧消した。

 

『ピンクが虎次郎さんので、水色が時生さんのですわ!』

「あのなあ、ミケ。俺こういう可愛さ特化の服好きじゃねえって言わなかったっけ……」

『その幼女な見た目にはやっぱりこういうパジャマを着せたいですわ! それにあたしのおごりですので!』

「はあ……仕方ねえな」

 

頭を掻く虎次郎にじゃれつくミケ。相変わらず押しに弱い。その会話に気になるところを感じた時生が尋ねる。

 

「おごり、とは?」

「ああ、動画投稿サイトとかで猫動画ってあるだろ?こいつ知能高いからさ、あざとい動画作って広告収入でボロ儲けしてんだよ」

『実はけっこう有名な猫なんですの!』

「だから俺のアジトとかの諸々はけっこうこいつが払ってくれててな……頭が上がんねえ」

「へぇ……」

 

どことなく現実離れした話で実感が追いついていない時生。後にミケの動画の再生数を見て驚愕することになる。

 

『ま、そういうことですの! 新しい魔法少女……時生さんも、着てくださるわよね?』

 

Noとは、言えなかった。

 

 

 

 

時生は、精神的に困憊していた。

 

「……大丈夫か?」

「あ、はい……」

 

女の体で初めての風呂に入り、【即日配達】で取り寄せてもらった女性用下着を履き、例のパジャマを着る。男性として過ごしてきた身からすれば慣れないことだらけ。プライドにもダメージが行く。

 

『うんうん! 見込んだ通りすごい可愛いですわ! お二人とも!』

「俺たちに可愛いは褒め言葉じゃねえんだよミケ……」

「男だからね……あ、外に出るようの服もお願いしていいかな……」

『もちろんですわ!』

 

ベッドにうつぶせで寝っ転がっている時生の背中に乗るミケ。虎次郎も布団の上で転がっており、その場の雰囲気は中身を考えなければまさしく女子会と呼ぶにふさわしいものになっていた。

 

『こういう時スマホがあればよろしかったのだけど……』

「ああ、お前のその体じゃ持てねえもんな」

『こういうときに文人さんがいればよろしいのですが』

「いや、俺は嫌だわ。あいつ俺のこの見た目好んでくるし」

「文人?」

 

誰なのだろうか。そう思った時生に、虎次郎は就寝前の眠そうな雰囲気で答える。もう軽く毛布までかぶっている。

 

「ああ……今度紹介する、俺の仲間。基本的にミケと俺、文人で今までいろいろやってきたから」

『虎次郎さんの親友にして舎弟なのですわ!』

「へえ……」

「あいつ基本面食いだし、お前ともきっと合うんじゃねえかな」

「楽しみにしときます」

「おう……そろそろ、寝たいんだが、いいか?」

 

虎次郎の方を見る。確かにまばたきが多くなっていて、今にも寝落ちそうな感じだ。

 

「それじゃあ電気消しますか」

『わかりましたわ!』

「おう……この体は眠くなりやすくて敵わねえ。あ、豆電球点けるのか?俺真っ暗派なんだけど」

「生憎俺も暗いほうが好きなんで。そのまま消しますね」

「おう……」

 

電気を消す。布団の中に潜りこむと、数分もしないうちに時生の耳に小さな寝息が聞こえるようになる。やっぱりかなり虎次郎は眠かったようだ。そう思っていると、時生も今日のハチャメチャの疲労が出てきたのか。意識が遠くなっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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その4/堕落の片鱗

クリスマスですね。少し短いですが。今日も更新。
地道にやっていきます。


目を覚ます。太陽の光はカーテンで少し遮られているが、それでも朝になったとわかる。ベッドの横に敷かれた布団には、ピンクの髪をした幼女が寝ている。だらしない寝相で、お腹が出ている。そしてその子の頭の近くに、買った覚えがない猫用ベッドに寝ている白猫がいる。まだ起きてはいないようだ。

淡い水色の髪。柔らかい自分の胸。白と水色のふわふわパジャマ。

時生は、改めて実感する。

 

「魔法少女に、なったんだな……」

 

夢じゃなかった。これを発端とする新しい日々の到来に、頭を抱える。正直夢である確率のほうが高いと思ってた。なんだよ魔法少女になるって。どんな与太話だ。

その声を聞いたのか、隣で眠っていた少女が可愛らしい唸り声をあげる。

 

「うぅ……」

「あ、起こしました?」

 

起き上がり、ベッドに腰掛けた時生のほうをとろんとした寝ぼけ眼で見る桃色の少女――虎次郎。

見た目少女な彼は目をこすっていると、不意に首をかしげる。

 

「……おかあさん?」

「何を言っているんですか???」

 

何を言ってるんですか???

思考が一瞬止まる。

おかしい。知り合って一日だけど中身の彼は兄貴系番長だったはず。なんでこんな幼女めいたことを……いや、朝に弱いのかと思っていると、彼が動く。

 

「ぎゅー……」

「えええ!!!!ちょ、ちょっと!!!!」

「え、えへへ……」

 

彼は身体強化を使ったのか、素早い動きで時生の太腿の間に入り、お腹に抱きつく。間違いない、これは正気じゃない。時生は少し青ざめながら頭をぽんぽん叩くが、虎次郎の頬ずりは止まらない。

そんななか、ミケの体が動く。

 

『うみゃ……にぎやかですわね』

「ミケさん!!!これ!!どうにならない!?」

「……」

 

ふにゃふにゃした笑顔を浮かべている虎次郎。これ正気に戻ったら殺されるのではないだろうかと危惧する時生に、白猫は無情な声をかける。

 

『放っておけばいいと思いますわよ……それでは、あたしは先にアジトに行ってますので』

「そんな殺生な!!!」

 

そう言うと、ミケは自身に浮遊魔法を発動し、窓の内鍵を開け去っていった。

残されたのは、でれでれなピンクロリと戸惑う青の美少女。

 

「だいすき……」

「……もういっそのこと甘やかすか」

 

やけになった時生は、そのまま幼女の頭を撫でるなりしてかわいがった。後のことは考えないように死んだ目をしつつ。

元に戻るまで、結局三十分かかった。

 

 

 

 

「わ……忘れてくれ。ほんとに」

 

どうやら性格を読み違えていたらしい、と眼の前にいる人を見て時生はトーストを頬張りながら思う。

場所は朝の食卓。虎次郎と時生はダイニングテーブルに向かい合う形で座っている。目玉焼きにウインナー、サラダというまさしく朝食らしい朝食だ。

 

「いや……はい。できるかぎり、忘れます」

「おう……ほんっとに、やらかした……」

 

時生はてっきりその身体強化でぶん殴って物理的に記憶消去、ぐらいはありえるかなと思っていたのだが、虎次郎は頬を染めて謝るだけだった。言っちゃいけないことだとはわかってるが、ものすごく可愛らしく見える光景だった。

 

「……一応、言い訳させてくれ。俺は魔法少女になりたてのときは、こんなんじゃなかった」

「……というと?」

「魔法少女の力は、使用するたびに精神汚染をもたらすってやつだ。基本的に強い精神力があればねじ伏せられるが……特に最近は寝起きとか、意識が朦朧としているときはもろに出る。そういうことだから、もし、またあっても何も触れないでくれ」

「は、はい」

 

虎次郎がうつむきながら言う。耳が赤くて、可愛らしい。

けれど、これは正直笑い事じゃないと時生は感じた。正直自分もああいうことになるかと思うと、少し背筋がゾッとする。あんなふうに誰かにデレデレする自分を想像するだけできつい。

 

「っつーか、さ。今更の話なんだけど」

 

気を取り直した虎次郎がサラダをつまみながら言う。

 

「男に戻りたい、ってことでいいんだよな? マジな話女になるのが嫌じゃないんだったら俺には協力しなくていいし。最終確認ってことで」

「……」

 

最終確認、という言葉に少したじろぐ時生。手の動きを止めて、じっくり考え、言葉を選びながら、告げる。

 

「……正直、まあ、最悪、女になってもいいかな、とは、思ってます。この体は美少女だし、ステッキの精神汚染によって、女っぽいふるまいをすることが嫌ではなくなる以上、心と体の乖離によって悩むことは無い」

「ああ、そうだな。完全に汚染されきると、自分の性別認識も書き換えられるのは間違いないはずだ」

「でも」

 

時生は、強く言い切る。

 

「同じ立場にいる、あなたが戻りたいと願う以上、俺は、とりあえずそれを手伝いたい。方法見つけて、先輩には戻ってもらって、俺はそのときになってから考える。それで……よくないですか?」

「……嬉しいこと言ってくれんな、お前」」

 

虎次郎は破顔する。食パンの最後の一口を食べ、飲み込むと、笑って言う。

 

「よし。食い終わったら、俺のアジトに行くからな」

「……そういや学校とかどうしましょう」

「俺は行方不明ってことになってるし、一蓮托生。どうだ?」

「望むところです」

 

こうして、二人の変身解除の戦いは始まった。

 

 

 

 

「どうすっか。せっかくなら飛んでいくか?」

「……いや、普通に行きましょう。変身するのは後で。というか」

 

快晴の朝、玄関を出た二人。虎次郎はデイリーフォームに変身するときに見せた革ジャンとジーンズ、Tシャツのパンクファッション。それに比べ、時生はというと。

 

「なんで、セーラー服……?」

「いや、昨晩ミケにおまかせしてたからな……あいつの趣味だな」

「ひどくないですか?」

「……まあ、おごりだし、着るものないし、な」

 

白のセーラー服だった。ご丁寧にシュシュまでついていてポニーテールである。確かにこのあたりに白セーラーが制服の高校は無いけれど、だからといってこれは……

 

「ものすごく、コスプレっぽい……」

「……そうだな。正直、俺はそれ着なくてよかったって心の底から思ってる」

 

虎次郎が目をそらす。魔法少女というコスプレ状態から脱出したのにまたこれか、と時生は頭の中で嘆いたが、後の祭りである。

 

「というか、それはともかくとして。どこにあるんですか?アジトって」

「うん。ああ、中央区のマンションだけど」

 

中央区。観光スポットがたくさんあり、景観が良く、治安が良いこの千真田市で一番発展しているところ。家賃も高く、とてもただの学生が住めるところじゃない。

 

「……本当にすごいんですね、ミケさん」

「そうだな。本当に俺なんかにはもったいないぐらいだ」

「……」

 

少し、自虐のこもった感じで言う虎次郎。その表情には少し陰りが見えた。けれど、まだ時生には虎次郎が何を抱えているかなんてわかっていない。だから、何も言うことはできなかった。

 

 

「それじゃ、行くか。電車で数駅だから」

「わかりました」

 

気を取りなおした虎次郎を見ながら仲良くなっていかないとな、と時生はふんわり思った。

 

 




いつまで毎日続くかはわかんないので、そこの所はご理解のところよろしくおねがいします。


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その5/で、結局どうすればいいのか

UA1000突破。加点式・透明の日刊ランキングにも乗ってるっぽいですね。ありがとうございます。
ゴリッゴリの説明回です。もしかしたらこの回は少し改稿入れるかもしれません。よろしくおねがいします。


「ここがいわゆるアジトっつーことになってる」

「普通に家ですね……お邪魔します」

 

中央区。わりと大きいマンションの真ん中ぐらいの階の2LDK。虎次郎が呼ぶ”アジト”に彼らは到着した。ここにもミケの財力を少し感じて、ちょっと引いた。

リビングにはL字型の黒いソファーとテーブルが置かれていて、テレビもある。

ソファーに並んで座った時生と虎次郎。時生が言う。

 

「これから、どうするんです?」

「……どうするか。やることはあるけど、色々人が足りねえんだよな……ミケもいねえし文人もいねえ」

「あれ? じゃあここに来た意味……」

「いや、ある。あるから……」

 

とりあえず案内しよう、ということだけを思っていて、ここに来てからの事はあまり考えてなかったらしい。

悩み始める虎次郎。大丈夫かな、と思いつつテレビを点ける時生。平凡なニュースが流れ始める。

昼のニュースってこんな感じなのかあ、とちょっと感心してると、虎次郎が声を発する。

 

「うーん……そうだな、少し状況確認をしよう。どこからそのステッキが手に入った、とか、俺をはめたやつの詳細とか」

「あ、わかりました」

 

状況確認。そういえば、ステッキが兄から来たこととか話してなかったな、と思い当たる。虎次郎にも色々事情がありそうだし、ここで一旦話し合っとくのは筋かもしれない。

 

「その前に、ちょっと下降りてコンビニで昼飯買いに行くか」

「あれ? ちょっと早くないです?」

「おう。昼頃にはミケが帰ってくるから、お前の魔法とかの事を話さねぇといけない。だから早めに、ってことだ」

「なるほど。了解です」

「んじゃ、行くか」

 

二人は席を立ち、玄関へ向かった。

 

 

 

 

「何食べます?」

「あー……おにぎりとか?」

「あれ、結構食べる量少ないですね」

「いや……この体けっこう胃の容量が少ないっぽくてな」

「あれ?そうなんですか?昨日はわりと食べてた気がしますけど」

「……お前とそのお母さんの厚意をないがしろにはできねえだろ」

「それは……ありがとうございます」

「お前は?何食うんだ」

「無難に牛丼でいいですかね。俺、わりとこの体になっても胃の容量減ってないみたいなんです」

「まじか。羨ましいな、それ」

「たまにめっちゃ食べる女子とかもいますし、そんなもんでは?」

「まあ確かに。って、どうかしたか?」

「いや……」

「ああ、コンビニスイーツか。シュークリーム買おうかな……」

「俺、もともと甘いもの好きじゃなかったんすけど、この体になったら好み変わるんすかね」

「……認めたくはないけどな、俺は変わった」

「え、まじっすか」

 

 

 

 

「で、お前のステッキはどこから手に入ったんだ?」

 

食事を買った二人は、昼食を摂りながら話し始める。

 

「兄です。兄の住所から送られてきた宅急便に入ってました」

「兄と連絡は?」

「それが……」

 

時生はツナマヨおにぎりを食べている虎次郎の方へ持ってきていたスマホを渡す。そこに表示されていた時生の兄との連絡用SNSの画面からは、既読がまったくついていない上に、電話にも出ていないことがわかる。

 

「まったく連絡つかず、ってわけか」

「あ、あとこの文が、ステッキが送られてきたやつです」

 

『お前の話を上司にしたらもらった。写真見せたときに”まさしく彼こそがふさわしい……!!”って言ってたからお前には使いこなせると思う。頑張ってくれ』

 

「……これ、その上司が犯人じゃねえか」

「まあ、そう考えるのが自然ですよね」

 

時生は牛丼を食べながら同意する。こんなこと言ってるやつが犯人じゃないわけじゃない。仮に違ったとしても重要参考人だろうと確信はしている。ただ、一つ問題があった。

 

「その上司の名前とかわかんねえの?」

「いや……働いてる場所はわかります。確か”財団”って」

「財団!? まじかよ……」

「……そんなやばい企業なんですか?」

 

虎次郎が驚き、軽く頭を抱える。当の告げた本人たる時生はわかってない様子だ。

時生の疑問に、表情をこわばらせながら答える。

 

「やばい……そうだな。やばい。なんせ俺たちが使ってるトレジャー、それにいち早く目をつけて解析技術を研究してるトップ企業だからな。守秘義務がすごくて、そこの社員はめったに会社から出てこないらしいし、それこそ戦争での大魔術師がかかわってたとしてもおかしくねぇ」

「まじっすか」

「ああ、そっか。そこから出てきたものならあいつが解析できないのも無理はないか……」

 

ぶつぶつ言って考え出す虎次郎に、時生はついていけない。とりあえず牛丼を頬張った。

 

「えーっと、で、その、財団に乗り込めばどうにかなるんですか?たぶんネットで調べれば住所とかわかりますし」

「いや……残念だけど、無理じゃねえかな。首謀者が大魔術師なら俺たちじゃ倒せないし、セキュリティもやばい」

「じゃあ、その住所にステッキを入れて送り返すとか」

「いや……それもきついだろう。そもそもステッキを預けて解析してもらうのは受理してくれない気がする」

「と、いうと?」

 

虎次郎がおにぎりを持っていない左手に着けられたピンクのブレスレット……メタモルステッキを見る。

 

「単純に、このステッキが財団から流れてきて、俺たちの手に渡ったならそこには意図があるはず。わざわざ回収なんてするかよ」

「なる、ほど。このステッキがなんかの試作品とかで、その実験、みたいな?」

「そうそう。それに、俺たちの元の体、そして精神は、このステッキに支配されてるって言ってもいいと思う。仮に財団がステッキを自由にいじくる技術を持っているとすれば、渡した時点で実質生殺与奪を握られるようなもんだと思う」

「いや、確かにそうかもしれないですね。やっぱり手元に置いておいたほうがいいような気がします……でも、ステッキの秘密を得て、元の体に戻るためには財団からの情報が一番なんですよね」

 

おそらく、その”財団”という大本に行ったとして、すぐ解決とはならないだろう。

しかし財団と接触しなければ、ステッキの秘密は明らかにはならない。そんなジレンマがあった。

おにぎりを食べ終わった虎次郎は、スマホを取り出す。

 

「だからとりあえずは、末端から探る」

「というと……?」

「俺がステッキを入手したのは、前の舎弟にハメられたから。つまり、そいつにステッキを渡した職員がいるはず。だからとりあえず、俺はその前の舎弟を倒してその職員とのつながりを得る。わかったか?」

「なる、ほど。わかりました」

「そうだな。だから、注意人物を知らせておきたい」

 

虎次郎はスマホをいじって、ある男の写真を見せる。両耳に三個ずつ着けたピアス、金髪のツーブロック、濃いひげ、崩した学ランが特徴的だ。

 

「なんというか……典型的なヤンキーっぽいというか……」

「そうだな。俺の舎弟だったんだが、気性が荒くてな。名前は西浦哲夫。今俺をハメて、うちの高校の番長になったやつだな。スキルは【血狂い】、トレジャーはたぶん俺が使っていた《バッドバッドバット》……打ち返した球が魔球となって必ず敵のみぞおちに突き刺さるってシロモノだな」

「えっぐ……なんすかそのバット。あと【血狂い】って? 嫌な予感しかしないんですけど」

「自分、他人問わず流れた血が多いほど身体機能が強化される増強型のスキル……シンプルに凶悪だな」

「うぇぇ……」

 

時生が苦い顔をする。もともとがオタクだった時生はオラオラしたヤンキーが苦手だった。いくら魔法少女になって強化されたであろう自身があるとはいえ、きついものがあった。

 

「ともかく、説得が効くようなやつじゃねぇ……ぶん殴ってこのステッキの情報を聞くしかなさそうなんだよな」

「どのくらい、強いんですか……?」

 

おそるおそる、時生が訪ねると、虎次郎はやっぱり苦い顔をする。

 

「俺一人じゃ、駄目だな。魔法少女になったあと、一回そいつとその取り巻きに襲われたことがあってな……都合良く”セカンドフォーム”が発現しなかったら、どうしようもなかったな」

「……ん?」

 

時生が違和感を感じる。牛丼を食べる手を止めて、考える。

 

「どうして、ヤンキーは魔法少女を襲うんでしょう?」

「どうして……か。普通に口止めで殺そうとしてんじゃねえか?あいつ……哲夫は御剣区五高を束ねる番長になる、ぐらいは野望がありそうだしな」

「そういうもん……ですか」

 

なんかそれだとひっかかるなぁ……と思う時生だが、その心当たりは思いつかない。残り少なくなった牛丼を食べきると、小さくごちそうさまをする。

 

「ともかくそういうことだ。色々話したけど、結局やることはシンプル。あいつを倒す。財団の職員を捕まえる。メタモルステッキの由来を知る。たったそれだけだ」

「わかりました。そのために、臨機応変にやればいいんですね」

「おう……ちょっと話しこんで疲れたし」

「はい」

「甘いもん食うか」

「そうしますか」

 

二人は、冷蔵庫に向かった。食べた甘味は、時生にはとても美味しく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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その6/蒼色魔法少女の魔法(前篇)

今日もよろしくおねがいします。説明回・時生強化回です。



「とりあえず舎弟……文人とミケが来るまではちょい休憩な」

「わかりました」

 

 

スイーツを美味しく食べた時生と虎次郎は、少しのんびりとしていた。適当にテレビでバラエティを流しつつ、常備されていたほうじ茶を飲み、ソファーでくつろいでいた。

 

「あのー……ちょっと聞いていいですか?」

「ん?なんだ?」

「いや……」

 

時生は少し、気になっていた。虎次郎がここに住んでいる理由だ。この年齢なら普通は親と同居しているもんだと思っていたのだが。

 

「虎次郎先輩はどうしてここに住んでいるんですか?」

「……いいだろ?別に、気まぐれだよ」

 

ごまかしている、と時生はわかった。表情は明らかにこわばっていて、目線が下に落ちた。

 

「いや、でも」

「大丈夫、大丈夫だ。俺の事情だから触れなくていい」

 

間髪入れずに、虎次郎が言葉を遮る。その様子に、時生は少し怯む。

 

「ごめんなさい」

「……いや、すまんな」

 

沈黙が訪れる。

どことなく気まずい雰囲気になったところで、インターフォンが鳴る。

 

「ちょっと開けてくるな」

「あ、お願いします」

 

虎次郎が玄関に向かい、少しした後、戻ってくる。

抱えられた腕のなかには。

 

『こんにちは!朝ぶりですわ!』

「ミケか!」

 

明るい女の子の声を持つ白猫、ミケがいた。

 

 

『と、いうわけで、ミケによる魔法入門、はじめますわ!』

「いぇーい」

 

リビング。テーブルに座り、ミケ。

時生はその得体のしれないノリに乗る。なお、虎次郎は自分の部屋にいるとのこと。

「というか、最初の疑問なんだけどさ」

「なんですか?」

「魔法少女になったからって、魔法が使えるようになるの?」

「もちろんですわ!」

 

そもそも魔法が不得意で不安だった時生が聞くと、何を当たり前なことを、という顔をしてミケが言う。

 

「だって、魔法少女ってそういうものでしょう?」

「……いや、まあ、そうなんだけどさ。こう、具体的なメカニズムというの?」

「あー……ちょっと長くなりますが、いいですか?」

「うん」

 

ミケが悩ましい顔をして、考えながら言葉を紡いでいく。

 

「……そもそも、魔法っていうのはマナを原料として発動されているって話は知ってますわよね?」

「うん。あの、異世界由来の、てやつでしょ」

「そうですわ」

 

魔法を発動させ、この世の法則を捻じ曲げる魔素。異世界と通じた穴から出てきているというそれの話はさすがの時生も知っていた。

 

「そして、魔法を発動させるには、人々の意思が必要」

「うん。常識」

「では、マジックアイテムを成り立たせているのはなんなのでしょう?」

 

ミケが問う。時生はぱっと思考を巡らせるが、そもそもマジックアイテム自体の話をあまり聞いていなかったのもあり、答えは出ない。

 

「ごめん。わからない」

「いや、いいんですの。正解は、文化と常識ですわ」

「……文化と常識?」

 

ピンとこない抽象的ワードに、首をかしげる時生。その反応に教えがいを感じるミケが、さらに続ける。

 

「たとえば、銀と十字架は吸血鬼を滅する、怨霊には清めた塩が効く……みたいな感じですわね。そういう民衆が持っているイメージがそのままマジックの元になる何かに定着するんですの」

「なる……ほど?」

「そう考えると、魔法少女は魔法を使えてしかるべき。そうではなくて?」

「うん……そう言われるとそうだけど……」

「何か引っかかるところでも?」

 

なんだか納得していない様子の時生にミケが聞く。そうすると、おずおずと時生が口を開く。

 

「いや、魔法少女って、文化というには、現代的でサブカルすぎない……?」

「まあ、そこは、ちょっと気になるわよね。でも、そういうものなのだわ。魔素が異世界にあったときは、それこそ聖剣だとか魔剣だとかしかマジックアイテムはなかった、らしいわ。あんまり論文とか読めてないから詳しくはわからないけれど。しいていうなら、この文化量が多すぎる現代日本がおかしいのだわ」

「しかも、魔法少女なんだよね?思いっきり男が変身してるし……」

「マジックアイテムを人為的に制作しようとする人は、任意に文化や常識……ミーム、と専門用語で言うのだけれど、それを乗っけられるらしい、わ。だからその製作者の性癖がおかしいのではないかしら……」

「それは、許せないな……」

「ま、そういうことで。話は脱線しましたけれど、魔法の練習をしましょう」

「わかった。どうすればいい?」

「とりあえず変身をお願いできるかしら」

「おっけー……ん?」

 

そう言われた時生は、変身しようとする。が、よく考えてみればこの状態、デイリーフォームから元の状態に戻る方法を知らないということに気づく。

 

「ごめん。変身方法わかんない」

「あれ?虎次郎教えてなかったのね。確か虎次郎はブレスレットを手で抑えて”変身!”ってやってたわね」

「わかった。気を取り直して、変身!」

 

メタモルステッキが変化したブレスレット、左手首につけてあるそれを右手で抑えてそう言うと、変化が起こる。

体が中空に浮かぶと、彼女の周りにホログラムのように夜空が投影される。

ステッキが元の姿を取り戻し、右手のなかに収まる。そして全身が光輝くと思えば、ステッキの頭の星から六つの蒼い星が飛び出し、時生を中心に円を囲む。

そしてその星々が両手足、同、頭に吸い込まれると、それぞれソックスと手袋、ミニスカワンピース、星がついたカチューシャに変化。

そして最後に、髪が腰まで伸びて、色が蒼へと変わる。

 

「……魔法少女、ミーティアレイン、星誕!」

 

ステッキを前に掲げて、決め言葉を言う。いや、時生にとっては洗脳のように言わされてるよ感じたのだが。

 

「はっっっっずかしいなぁこれ……」

「そんなことありませんわ!まさしくお見事でしたわ!」

「いや、男の尊厳にクるんだよこれ……」

 

そしてその尊厳すらこのステッキは奪ってくるのか、と考えると時生は気分がブルーになる。

 

「それで?何をどうすれば?」

「んー……水系の魔法から練習していきましょう」

「なんで水?」

「いや、その見た目、どう考えても水系じゃないですの」

 

時生の変身後の姿は、とても蒼い。そこからミケは水系が得意だろうと推察した。

 

「なるほど……」

「じゃあ、お手本見せますわ。ウォーター!」

 

そうミケがいうと、用意してあったコップに水が生成される。

 

「あれ、ミケって水魔法も……?」

「いや、まあ初級の魔法はだいたい使えますわ。まあそれ以上は適性がなかったのですが……」

「へえ……」

「まあ、ともかく。こんな感じで。重要なのはイメージですわ!どこからともなく空気中から水が湧き出てくるような!」

「わかった。ウォーター!」

 

ついに、こんな初歩すらできなかった自分が魔法を使える。期待しながら時生が告げる。

が、何も起こらない。

 

「……ちゃんと想像しました?」

「したよ!!!!!」

「じゃあ、もう一回お願いするわ」

「う、ウォーター」

 

出ない。まったく出るそぶりすらない。

 

「マジ、ですの?」

「マジだよ!!!あんなしっかり”魔法少女なんだから魔法使えますわ!”って言ってたのに!!!」

「ええ……虎次郎はけっこうしっかり使えてますのに」

「じゃあたぶんそれ元だよ!!!!」

「まあ、他の属性の可能性もありますわ。ちょっと色々試してみるのですわ」

 

「ファイア!」

出ない。

「ウィンド!」

出ない。

「アース!」

出ない。

「ヒール!」

出ない。

 

「何もでないですわね……」

「そろそろ泣きそうなんだけど」

 

数十分。色々試したが、何も出なかった。時生は軽く涙目になってるし、ミケは遠い目をしている。

 

「まあ、身体強化は少し出たじゃない……」

「いや、出たけど。虎次郎に比べたら酷いしヤンキーにも勝てそうにないってミケ言ってたじゃんか……」

 

唯一、身体強化は少しは出来た。けれど魔法少女の権能というには弱すぎるありさまだった。

ソファの上で体育座りになっていじけている時生に、ミケがフォローを入れる。

 

「まあ、空は飛べるんのでしょう?なら十分に魔法少女と言えると思いますわ!」

「攻撃できなきゃ力になれないじゃん……」

「はあ……なんでなのでしょう。魔法少女っぽいことならできるはずですのに……」

「……そもそも、魔法少女っぽいってなんだろう」

 

そう、時生はぽつりとつぶやく。それを聞いたミケが、考える。

 

「魔法少女っぽい……?そうですわね。そこを考え間違ってたからうまくいかなかったのかしら。そうですわよね。魔女とは違う。魔法少女……そういえば、時生さん。あなたの魔法少女としての名前はなんでしたっけ?」

「? 確か、ミーティアレイン、って」

「そうですわ……魔法少女のその名前はある程度その性質を示す。それを考えると……時生さん! ちょっと広いところに行きますわ!」

「え?」

 

そういうと、ミケは浮遊魔法を発動しそのまま、窓を開け始める。

 

「ちょっと!?ミケさん!?」

「大丈夫ですわ!!!重力の影響は浮遊で減らしますので!!!」

「いや、そういうことじゃなくてさ!!!エレベーターとか階段使おうよ!!!」

「あとこっちのほうが速いんですわ!!善は急げ、ですわ!!!」

 

そしてそのまま時生を置いて飛び出していく。一人残された彼も、ため息をついて下に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 




・魔法の属性

ほとんど体系化されている属性:火、水、風、土(四元素)
かなり体系化されてる属性:木、金、雷、光、闇、回復、身体強化(五元素+ゲーム的ミーム)
そこそこ体系化されてる属性:浮遊、転移(超能力、サイキックのミーム)

禁忌:ネクロマンシー(登場するかは未定)


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その7/蒼色魔法少女の魔法(後編)

UAが2000突破しました。お気に入りも増えてきて毎度ありがとうございます。
次の更新は少し遅れるかもしれません……


下に降りた時生とミケは、広い公園に来ていた。

ミケはかなりワクワクが止まらないといった感じで、時生は今も困惑していた。

晴れた午後、木々に囲まれた開けたところに来た時生は、ミケに問う。

 

「どういうことなんだ?」

「いや、あなたの魔法少女の性質を考えると、ここに来たほうがいいと思ったんですわ」

「そうか、で、その特徴っていうのは、見当ついたんだよね?」

「そうですわ!たぶん、あなたの力は――魔力弾ですわ!」

「魔力弾?」

 

魔力弾。魔力に固体としての性質を付与して、飛ばす能力。確かに創作じゃよく見かけるが、魔法として体系化はされていなかったはず。そう思った時生は疑問をミケに返す。

 

「どうしてそう思ったん?」

「ミーティアレイン……流星、雨。そこから考えると、何かを飛ばすのが自然ですし、無属性とも言えるこの魔法はかなり現代的な魔法少女らしいのでは!?」

「なる、ほど。どうすればいい?」

「こう……星型の固体を作るイメージでやればいいんと思うですわ!」

 

いまいち腑に落ちないまま、言われた通りにイメージを固める。星型の、魔力。

星。蒼い、流星。

その時、時生は何かがカチッと嵌った感覚がした。

 

「できる。これなら、いける」

 

持っているステッキの上部から、蒼色の星が生成される。人の頭ぐらいの大きさをしたそれは、空に浮かび激しく回転する。

 

 

「ちょっ……待っ」

 

無我夢中になってる魔法少女は、白猫の静止に気づかない。そのままステッキを振るい、蒼の星型弾を放つ。

 

「シュート!」

 

宣言すると、星型弾は蒼色の軌跡を残しながら目にも留まらぬ速度で直進し、進行方向にあった木にぶち当たり、へし折れる。

破壊された木の上部が、地に落ち、大きな砂埃を上げる。わりと大きな音がした。

やってから、事の大きさに気づく。

 

「……これ、大丈夫?」

「……いや、ちょっとまずいかもですわ」

 

ミケと、時生は、そのへし折れた木を見て硬直する。そして、青褪める。こういうときの損害賠償とか、わからない。どうすればいいのか。そんなことが頭の中に巡っていく。

 

「い、いちおう生物ですので、回復魔法が効くかも知れませんわ!?」

「そ、そうなの!?、ごめん、じゃあ、ちょっと、任せて、いい!?」

「え、ええ、任されましたわ!?」

 

パニクる一人と一匹。あわあわしながら、時生は自らの変容を確かに感じていた。

 

魔力弾を撃ったそのとき、何かが嵌った。

それが何かは、彼にとって形容しがたいのだけれど。

あの瞬間、自分が戦う存在だと正確に定義されたような気がした。

言い換えるならば、その瞬間、自分は真に魔法少女――戦うヒロイン――になったのだと。

そう、ステッキにわからせられた気がした。

 

 

 

 

「ふー……疲れましたわ」

「いや、ほんとにごめん……」

「いいんですの。むしろ室内でやらなかっただけよかった、と考えましょう」

 

ミケと時生は公園のベンチに座って休んでいた。

へし折れた木は、身体強化(弱い)を使った時生がなんとか持ち上げ、回復魔法で接合したことでどうにか元に戻った。

ひと安心はした二人だが、肝心の訓練はそれから進んでなかった。

 

「ここから、どうしますか……」

「そうですわね……今日は正直休んでもいいと思うのだけれど、でももうちょっと訓練したほうがいいですわよね」

「そうだね……」

 

かなりだるげな様子な猫と魔法少女。肉体的な疲労というよりかは、精神的にかなり疲れたのだろう。特に時生は魔力弾で木をへし折った張本人だし、使える魔法がない焦りもあった。

 

「でも、自分の魔法が見つかってよかったですわね」

「ほんとに。でも、これ戦いに使いものになるの?」

「たぶんなりますわ。あの速度、あの威力……並の魔法使いでは成せませんわ」

「そっか……じゃあ、もうちょっと頑張ってみるか!」

「わかりましたわ!じゃあ、あたしも付き合いますわ!」

 

こうしてやっていったならば、ステッキの真実、ひいては変身解除に貢献できる。それをミケの言葉を聞いて実感した時生は、立ち上がり伸びをする。それにミケも追従し、ベンチから降りる。まだまだ星型弾の仕様も全然わかっていないし、頑張ろう。そう、時生は思った。

 

「場所は変えますわ。ここから少し遠くに野球グラウンドがあったはずですわ!」

「最初っからそこでやればよかったね……」

「いや、木が折れるほどの威力が出るとは思わないですわよ」

「まあね……」

 

時生とミケは、並んで歩き出す。そこには確かに笑みがあった。

その後ろから、声をかける人物が一人。

 

「おつかれ。頑張ってるっぽいな?」

「えっ!?」

 

桃色の髪のボブカット。

その人物は、もうひとりの魔法少女、虎次郎。今はデイリーフォームらしく、赤いジャージを着ている。

時生の驚いた表情を見て、サプライズ成功に満足したのか、口角を上げてにやっとする。

 

「ちょっと気晴らしに運動してたら見かけて、な」

「え、あ、はい」

 

急な登場。しかもちょっと気まずくなってから。この状況、どう話せば良いのか。少し口調に動揺が入っている時生をよそに、ミケが虎次郎に声をかける。

 

「そうですわ!虎次郎さん、時生さんの訓練を手伝ってはくれませんか?」

「ん?おう、いいけど。結局魔法少女としての特徴ってなんだったんだ?」

「魔力弾ですわ!さっき撃ったら木が折れちゃいましたの!」

「おっと、それは大丈夫だったのか……?」

「大丈夫でしたわ!回復魔法で元通りでしたわ!」

「それならよかったけどよ……気をつけろよ?」

「えへへ、そうですわね?」

 

ミケを挟む形で三人で歩いている状況。片方の二人の話の盛り上がりについていけていない時生だったが、虎次郎とミケ、その二人の間に確かな絆を感じて時生はどこかほっこりする。二人ともご機嫌でよかったよかった。ちょっと疎外感も感じるが、別にいいか。

そう思いながら、二人と一匹は球場に向かった。

 

 

 

 

所変わって球場。時間は昼食が早かったこともあり、まだまだありそうだ。

デイリーフォームを解除し、桃色の魔法少女衣装を纏った虎次郎が外野側に。時生がバッターボックスの方に立つ。ちなみにミケはベンチで座っている。

 

「よし、色々確認していくか。まずは射程からだな」

「わかりました!」

 

蒼色の、星。

正確にイメージし作りだしたそれを、外野センターめがけて解き放つ。

 

「シュート!}

 

蒼色の尾を引きながら一直線したそれは、その半ばで消え去った。

 

「……端までは届きませんでしたね」

「いや、でも十分じゃねえか?大体百メートルぐらいか、後衛からぶっ放すには十分だ。んじゃ、次はリチャージっていうの?弾と弾の時間間隔見てくか」

「オッケーです」

 

星型弾、再充填。もう一度生成かけて、同じセンター方向に撃つ。

 

「シュート!んで、もう一回……」

 

再々充填。もう一度作りだしたそれを投射。

 

「うん。間隔は……連射はできないとしても、まあ十分なぐらいか。三、四秒に一発ぐらい?」

「そうですね」

 

魔力弾のチャージをしながら会話に応える時生。虎次郎は外野で軽く屈伸しながら言う。

 

「よし。それじゃ、ちょっと実践的にやるか。俺がこの一塁三塁間を適当に動くから、狙って当てれるように頑張れ」

「えっ……先輩にあたっても大丈夫なんですか?」

「安心しろ。俺にはこれがあるから」

 

そばに置いてあったバット化したステッキ。それを虎次郎は拾って肩に乗せる。

 

「たぶんこれで打てば魔力弾も消えんだろ」

「ああ、なるほど」

「んじゃ、いくぜ!」

 

虎次郎は高速機動を開始する。車か何かかという超人的スピードで往復する魔法少女に、時生は狙いがつかない。

絶え間なく魔力弾を放ちながら叫ぶ。

 

「いや、ちょっと、これ、きついですよ!」

「上位の魔術師はこんぐらいの身体強化普通にやるからな!飛んでないだけマシだろ!」

「ええ……」

 

あっけらかんと笑って言う虎次郎。

レベルの違いに軽く辟易しそうだったが、諦めないで撃ち続ける。生憎FPSは得意だったし、と自分を奮い立たせるが、現実になると正直きつい。

数十分が立ち、疲労がきつくなってきた頃、その一射は起きた。

 

「いっっけ……」

「ん……?」

 

移動していた地点に合うように撃たれた偏差射撃。まぐれか練習の成果か、確実に避けられないそれに対して虎次郎はバットを振り抜く。

その攻撃を受けた蒼の星型弾は、()()()()()()

 

「は……!? あ、やべえ、避けろ!!」

「え……?」

 

バットに当たった星型弾は元の勢いをさらに増して反転、蒼とピンクの二重螺旋の軌跡を描きながらバッターボックス……時生の方に向かう。

当然虎次郎に当てることに意識を割いていた時生が躱すことはできず――

 

星型弾は彼に衝突。

そしてベンチのほうまで吹っ飛んだ。

 

 

時生は、目を開ける。

気がついたら、日が落ちかけ、ベンチに横になってた。そうとしか彼は思えなかった。

少し痛む腹を押さえながら、起き上がる。

 

「うう……」

「……大丈夫か?」

『大丈夫ですわ?』

 

隣に立っていたのはジャージに戻った桃色の魔法少女で、ベンチに横になっている足元にいたのが白猫。彼らが時生を気遣う言葉をかける。

 

「あれ? 俺……どうしてたんだっけ」

何が、どうなって、ここにいるのか。時生は訪ねる。申し訳なさそうな顔をした虎次郎が目に入る。

 

「いや、お前の星型弾が飛んで、当たりそうになったからバットを振ってかき消そうとした」

「けれど、結局はそうはならずに威力が増して反転。それにぶつかって時生さんは気絶。ちょっと傷も負ってたので回復しましたわ」

「なる、ほど」

 

確かに投射して当たった!と思った次の瞬間から時生は思い出せない。強化される前でも木がへし折れる威力。とはいえ。

 

「高高度から落下しても気絶なんてしなかったのに……」

「それだけ強力だったってことだな」

「でも、なんでそんな威力に……」

「それはあたしの予想ですけれど、おそらく合体技ですわ!」

「合体技……」

 

なるほど。確かに虎次郎と時生は同じ衣装、色だけ違う魔法少女だ。それなら確かにセットで使えてもおかしくはない。むしろありがちとも言える。けれど。

 

「使いみち、難しくない……?」

「そうだな。基本的に俺は前線で殴って、お前が後方から支援だしな。合体技を使うとして、その時は俺がフリーになってないといけないし、乱戦の中器用に打ち返せるかっつーと……まあできるけど練習がいるだろうな」

「ですよね。失敗したら誤射ですし」

「並の敵ならたぶんそのままの星型弾で行動不能にできますわ」

 

合体技は確かにロマンだとは時生は思うし、三人ともきっと感じているはず。しかしそれを実践で使えるかというと、そうでもないような気がした。

むしろ考えることが多くなる分余裕がなくなってきつくなるような気さえした。

 

「っていうことで、まあ、封印、だな」

「わかりました」

 

合体技の処遇が決まった。しかし、もう暗くなってくる頃合い。練習するのは駄目かな、と思っているとふと時生が思いつく。

 

「……そういえば、こうして昼から練習してますけど、むしろ夜のほうが訓練には適してるのでは……?」

「いや、それはやめたほうがいい」

 

否定する虎次郎。時生に向かって首を振って続けて言う。

 

「夜が遅くなると単純に治安が悪くなる。ヤンキーも増えるし、何より警察の補導がやばい。警察、このご時世に適応して武力が強くなってっからな……それに」

「それに?」

「……なんでもない」

 

言いよどむ虎次郎。それを無垢な瞳で見つめる時生。少し会話が途切れるが、ミケが意地が悪い声で口を挟む。

 

「実はですね、時生さん。虎次郎さんはあなたのちょっとした歓迎会を夜に開くつもりだったんですわ!」

「ミケ!?それは内緒だっつたろ!?」

「いいじゃないですの〜」

 

ニヤニヤしながら言うミケ。とっさに虎次郎は彼女を捕まえて懲らしめようとしたが、するっと避けられ、逃げられてしまう。

 

「そういうことですわ! 帰りますわよ!」

 

猫……にしても速い足で駆け去っていくミケ。おそらく身体強化を使ってるのだろう。

残された虎次郎と時生。虎次郎が、ぶっきらぼうな声で言う。

 

「ミケもああだしな。行くぞ、時生。俺の舎弟……文人との顔合わせもあるしな」

 

そう言って背を向け歩き出す虎次郎。そこには照れが見え隠れして。

 

「……はい!」

 

時生は少しくすって笑って、ベンチから降りて彼の背中を追いかけた。

 




Q.ミケ野外で喋ってるけど変な目で見られない?

A.(まだ体系化されてないけど)戦時中の大魔術師とかは動物に知性を与えることができたという話もあり、何より摩訶不思議なスキルがある。だから珍しくはあれど異常ではない。
その魔術やスキルと《人の心》の差別化は隠された第二効果でなされるのです。


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その8/イケメン怖い

今日は短めです。毎度お気に入りとかありがとうございます。
顔見せ回です。


《人の心》を持つ白猫、ミケのスキルたる【即日配達】は金銭さえあれば万能となりうるスキルである。

その万能さを、時生は今実感していた。

ソファーの前にあるテーブル。そこにあるのは。

 

「お寿司……!」

「好きか?」

「好きです!」

 

ソファに座る二人の魔法少女。目の前にある日本国民のソウルフードに目を輝かせる時生。それを保護者のようにふっと微笑みながら見る虎次郎。どちらも日常姿に戻っており、時生は結局着替えずに例のセーラー服。虎次郎はジャージの上を脱いでTシャツに長ジャージの姿である。

 

「はむはむ……やっぱこれは美味しいですわ……!」

「食い過ぎんなよ……」

「もちろんですわ!それでは、ちょっと味に集中しますので!」

 

テーブルの少し横に設置された猫ハウスに籠もり、日本の猫を狂わせる魔法のようなペーストおやつを食べるミケ。虎次郎がたしなめているが、しっかり聞いているかはわからない。

 

「まだ食べちゃ駄目ですか?」

「いや、まだあいつが来てねぇからな。って……」

 

ガチャガチャ、と扉の鍵をいじる音が聞こえ、続けてドアが開く音が鳴る。どうやら虎次郎の”舎弟”が来たらしい、と時生は身構える。

 

「ただいまッスー!」

「おう、おかえり」

 

そうして、現れたのは青年。紺色のブレザーと灰色のズボンを着ている。それは時生が通っているよりワンランク上の高校の制服じゃなかったか。

髪は亜麻色と呼ばれるような色をしていて、パーマがかかっている。顔は良い。人を警戒させない大型犬のような雰囲気を出しながら、時生に近づいて言う。

 

「君が新しい”魔法少女”ッスね! おれは鬼無瀬文人。どうぞよろしくッス!」

 

このコミュ力。身長も高い。

男の自分と比較して、勝ててる所がない、と時生は思った。

 

 

 

 

そうして三人は寿司を食べ始めた。が、時生は文人の衝撃が尾を引いていた。

顔がいい。背が高い。つまり総じてハイスペック。

これはしっかりしないとこいつに雌堕ちさせられるのでは?という疑問さえ湧いていた。

おかげで寿司の味にも集中できない。

ニコニコしながら食べている文人の方に目を向ける。ちなみにL字ソファは上から見ると底辺の方が長くそちらの端のほうに時生が、もう一つの辺と接するほうに虎次郎が座り、もう片方のほうに文人が座っている。

 

「いや、美味しいッスね!」

「まあ、チェーン店のお安い寿司なんだけどな。これは俺のおごりだ」

「え?そうなんですか?」

「おう」

 

これはミケのおごりだと思っていた。時生も文人も少し目を丸くしている。

 

「いちおうこの魔法少女の武力を何かに活かせないかと考えてるもんでな。バイトとしてちょっと色々してるんだよ」

「へー……」

「あ、そういうことにするんスねアニキ」

「?」

「いや、それより……文人、最近どうだ?」

 

そういうものもあるのか、とまた一つ賢くなった時生だが、少し文人の言うことに気にかかる。が、虎次郎は話を変えてしまう。

 

「そうッスね。学業とかは順調ッスよ」

「おう。なら良かった」

「で、ヤンキーたちのことッスね」

「聞かせてほしい」

「……ついに、学校間のヤンキー抗争が始まるっぽいッスよ、アニキ」

「ほんとか!?」

 

玉子の寿司を食べながら驚く桃色少女。文人が続ける。

 

「慧海高校をアニキをハメた後にまとめたあいつは、ついにあの舞由野高校に手を出すっぽいッス」

「舞由野高校……!」

 

時生も聞いたことがあった。この地区の五つの高校で、一番偏差値が低くヤンキーが多い荒れている高校だ。

 

「それ、けっこうヤバいんじゃ……?」

「まあ、わりとヤバい。舞由野高校に強いスキルを持ってるやつとかはいないはずだからそのまま勢力併合されて、強化される可能性がある。が、これがチャンスだな」

「そうッスね」

「というと……?」

「このタイミングで、俺たちが襲って一気に潰す」

「ええ!?」

「一気に潰さないと、あいつら何も信じねえからな……全員まるごとわからせる必要がある」

 

時生ははじめ驚くが、よく考えてみればそうだなと思い直す。虎次郎をハメてまで権威を求める人ならば、もし一人の所を襲って勝ったとしてその話をもみ消しそうだ。

 

「うし。時と場所はおいおい聞く。ありがとな」

「はいッス!」

 

褒められて、まるで犬のようにニコニコしている。幼女に褒められて嬉しがる姿はちょっと特殊な性癖に見えて、少し時生は困惑する。

 

「ふぅ……で、なんか話す話題とかあるか?」

「虎次郎先輩って行き当たりばったりな所ありますよね……」

「うっせ。交流深めるにはこれが最善だと思ったんだよ」

 

苦笑いしながら言う。虎次郎もそこが自分の欠点だとはわかっているようんで、否定せずに悪態をついた。

しょうがないな、という表情をした文人が言葉を発す。

 

「交流ッスか。その……時生さん?は変身前は男なんスよね」

「そうだね。って、いうか文人……さん?は今高校の何年生?」

「文人。呼び捨てで良いッス。今は高1ッスね」

「そうか、同い年か……」

 

同い年ということを聞いてさらに完全スペック負けを実感、遠い目をする蒼の少女。

 

「その制服って確か染春のだよね……?」

「そうっすね」

「勉強とかできるんだな……すごいな……」

「ははは、照れるッスね。そこまでじゃ無いッスよ」

「そこまでじゃないってことはないだろ。お前確か学年四位とかだったろ」

 

謙遜する文人に対し虎次郎がツッコミを入れる。時生の目はさらに遠くなった。

 

「完璧超人じゃん……こわ……」

「そういう時生さんは?」

「いやいや比べれるほどよくもないです……」

 

この高スペックの後に紹介させるとか嫌味か貴様。と内心思ってもいたが、もう時生は完全に萎縮しきっていた。この男こわい。

そんな調子の会話を聞いて、虎次郎が笑う。

 

「いいじゃん。仲良くなれそうだな」

「そうッスね」

「そうですかね……」

 

ニコニコの文人。語気が弱まってる時生。二人が無事交流できてることに安心した虎次郎は、話に参加していなかったミケに声をかける。

 

「ミケ!」

「んにゃ!?あ、あたしとしたことがあまりの美味しさに放心を……って、なんですの?」

「俺のおごりで、もう少し寿司デリバリー頼めるか?」

「いいですわよ!でもせっかくの仲間増えた祝ですもの!あたしも半額出しますわ!」

 

そうして【即日配達】が実行。もう一つ出現した寿司に、一同は舌鼓を打つのだった。

 

 




・高校

御剣区の五つの高校の内訳は、

・進学校である御剣高校
・普通レベルの高校である慧海高校
・ヤンキー多め。偏差値低め。舞由野高校
・魔法エリートを輩出する才門大学附属高校
・お嬢様学園。葉雪学院

魔法少女二人が慧海、文人が御剣。


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その9/二人きり、何も起こらないはずがなく

その1の誤字がめちゃくちゃ多くてほんっとうに申し訳ないです。
誤字報告してくださったかた本当にありがとうございます!

茶髪天パ高身長インテリ男子高校生とのコミュ回です。


事の発端は、夕食を食べ終わった後のこと。

 

「あー……お前は、ここには泊まらないんだよな」

「そうですね。先輩と文人……はここに泊まってくんですよね」

「そうだな。だから間取り2LDKってところもあるし。んじゃ、帰るんだよな。飛ぶのか?」

「いや、普通に電車で帰ろうと思います」

「おう。じゃあ……文人、駅まで送ってってやれるか?中身男とはいえ、女が出歩くには辛い時間帯だからな」

「わかったッス!」

 

と、いうことでちょっと気後れする彼と時生は帰る事になり、玄関を出た。廊下を二人で歩き、エレベーターに乗る。

 

「いや……ありがとう、ございます」

「いやいや、別にいいんスよ」

 

文人の笑顔は張り付いたように変わらない。それがこの青年の完璧さを表しているようで、怖く感じた。

少し無言が続き、エレベーターは一階のエントランスに着く。

 

「……ところで、なんスけど」

「な、何か……?」

 

降りて、おもむろに文人が話題を振る。マンション特有のまとめて置かれている郵便箱の横、彼は時生の顔も見ずに言う。

 

「……虎次郎の兄貴のこと、どう思ってるんスか?」

「え、いや、どうって……」

 

時生は、手を口に当て、足を止めて少し考える。どう、か。出会ったばっかだし考えたこともなかった。あの桃色の魔法少女のことを、今一度思い浮かべてみる。

 

「乱暴な物言いは多いけど、理不尽なことは言わない。なんか隠してる部分も見えるし、支えたくもある。うん。好き、好感は持てると思う」

「……好きッスか。ふぅん」

 

瞬間、時生の進行方向を文人が手で遮り、ドンと音を鳴らして壁につく。

時生は驚いて文人のほうを郵便箱を背にして向く形になり、目と目が合う。

 

この状況を端的に言い表すなら、壁ドンである。

いきなり警戒していた相手から壁ドンされた時生は、人生最大級に思考が止まる。

 

「……ふぇ!?」

「魔法少女だからって少しいい気になってんじゃないっすよ……」

「ひ、ひぃ!?」

 

先程とまでは打って変わって、威圧的な文人の姿に時生はめちゃくちゃにびびる。頭のどこかの他人事な部分が人ってこんなに高い声出るんだ〜と謎に感心している。

 

「あの人にとっての後輩は俺一人でいいンスよ、ね」

「……うぅ」

 

元がヘタレモブな時生に言い返す

ことはできなかった。そうか、これから虎次郎のチームにはふさわしくないとか言われんのか……きつい……と口撃に対して予測防御を張っていたが。

 

「そう、俺の虎次郎兄貴に、そう色目を使わないでもらいたいっす」

「……んん!?」

 

少々予測外であった。独占発言。牽制。まさか、まさかコイツは。

 

「ふ、文人は、虎次郎先輩のこと、ど、どうお思いで?」

「……このまま雌堕ちするしかなかったら、俺が貰う。そう思ってるッス」

 

が、が、ガチのやつだーーー!!!!!!

内心時生は絶叫した。いや、まさか、そう、元男に欲情する輩なんているとは思ってなかったから。こんな、こんな身近にガチの男が。

 

「え、いや、その気持ちはいつから……?」

「最初っから敬愛はしてたっすよ?でも生憎男に欲情をする体質じゃなかったっすから。せいぜいずっとそばに仕えたいな、ぐらいっすよ」

 

重い!!!!!

こいつはやべえ、精神汚染もないってのにこのガンギマリっぷりはやべえ、時生の頭はもういっぱいいっぱいだった。

 

「でも、ああも可愛らしくなったんなら、それはもう、嫁にもらいたくなっても仕方ないっすよね?まあ本人は戻りたがってるし、俺のこの想いは二の次で元に戻るのに協力してるわけっすけど」

「……

 

クレイジーサイコじゃねえか!!!!

もう、なんというか、時生には絶句しかできなかった。というか目の前にいるコイツが怖くてしゃあない。あいにく自分が雌落ちする原因にはならなさそうだけど、それより放っといたらまずいきがする。

 

「つーことで、まあ、仲良くやっていきましょうっすね? 時生」

「あ、はい……」

 

文人のにっこりとした笑顔。もう、こいつこわい……だめ……。

 

「か、壁ドン……?」

 

突然の第三者の声。まてよ、この声、聞いたことある、というかついさっきまで……

二人はその方を向く。

 

「い、いや、なんというか、お前ら、そういうことに、なんの、速いっつうか、大胆だな?」

 

目を泳がせ、顔を赤らめながら、何も見てないよって感じに手を振っている、その桃髪の人は。

 

まぎれもなく、さっきまで話題に上がっていた虎次郎本人で。

 

「な、なんでここに……?」

 

文人の絞り出したような声。それにしどろもどろに答える。

 

「いや、一応、さ。こう、同じ仲間になるわけだから、な? 俺が仲取り持っていかないとなあ、って思ってたんだよ。で、二人で話できるよう送り出したはいいけど、ちょっと不安になったから、散歩ついでに、ちょっと、ついてこうかな、と」

「……」

「で、ついてきたら、まさかこうなってたもんだから、びっくちしちゃってな? すまんな、情事中に」

「いや……こうなったのは、そう!偶然ッス偶然!こう、転びかけただけっす!」

 

壁ドンをやめて必死の弁明。声と表情から焦りが伝わる。しかし、それは逆効果だ。

 

「いや……そんなに焦るってことは、やっぱそういうこと……なのか?」

「違うっすよ!!!!」

「まあまあ、うん。わかったわかった」

「わかってないっす!!!」

 

虎次郎の表情、というか目が生暖かいものに変わる。もう虎次郎には何言っても無駄だろう。

 

「まあ、うん。時生も今の所男に戻りたい感じらしいし……そこのところ、ちゃんと気使えよ。それじゃあな……」

「まって!!!兄貴!!!違うから!!!」

 

静止を聞かず、軽めに身体強化を使ったのかかなり速く階段を駆け上がっていく虎次郎。

残されたのはあっけにとられて動けなかった蒼色の髪の魔法少女と、哀れなイケメン。

 

「あー……うん。えっと……」

「……」

 

なんかとぼとぼしてる文人。さっきまでの威圧っぷりが嘘のようだ。結局の所文人の自業自得ってことは間違いないのだが。

少し、時生も同情してしまった。

周りを見渡すと、マンションの人用だろうか、自販機が置いてあったので、財布を取り出して小銭を入れる。

 

「うん。缶コーヒー、あげるよ……」

「……うっす……」

 

座り込んでいる文人に渡し同じように座り込んで、時生は目線をあわせる。あっけにとられてる間にふと気がついたのだが、自分が虎次郎となんやかんやで恋仲になどなるはずがない。なら、話せるはずだ。

 

「どうして、あの人のことが好きなのか、聞いていい?」

「はあ……いや、まあ、単純な話っすよ。命を救われたんス」

「命を?」

「詳細は省くっすけどね」

 

助けられた。凡庸に、一般的に過ごして行きてきた時生には馴染みのない感覚だった。その恩がどれだけ大きいのか、想像もつかない。

 

「だから、好き?」

「救われたときはあの人男ッスから、シンプルに敬愛ッスよ。けれど人柄はあの頃からほとんど変わってない、優しい人だったすよ」

「へー……」

「だからこそ、聞くッスよ」

「ん?」

「……時生は、あの人の重荷にはならないっすよね?」

 

どきり、とした。今、時生自身はそうなっているんじゃないか、と。確かに戦えるようには頑張ってる。しかし、未だ魔法で人を撃ったことなどない新米の魔法少女なのだ。うまく戦える、自身は無い。

 

「ああ、いや、そうッスね。最初っからそう言えば良かったッス。兄貴は優しい。だから時生は戦えなくても責めはしないッスよ」

 

確かにそうだった。虎次郎はそういう所を気遣ってくれた。戦い方を教える、とも言ってくれた。

 

「俺は、兄貴のことを敬愛してるッス。だからこそ、あの人と共に戦うのなら、重荷になるような真似はしてほしくはないッス。ましてやそんな重荷になって、魔法少女っていう同類同士であの人に一番親しい人になったんなら……虫唾が走るッス」

「……」

「だから、甘えんじゃねえッスよ」

 

身にしみる、言葉だった。

 

「さ、駅まで行くッスよ。缶コーヒーありがとうッス」

「……いや、こちらこそありがとう」

 

文人は立ち上がって歩き出した。

文人や虎次郎のような、強い人になれるだろうか。いや、ならなければと想いつつ、文人についていこうと立ち上がった。

 

 

「……つーか誤解のこと、どうすれば良いんスかねえ……」

「どうしようも、ないんじゃない……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・魔法適性って何よ。
それもミームとイメージに支配されている。熱血キャラは火属性だし、クール系は水。ここで重要なのが他人からの印象であって、実際の性格とは関係がない。めっちゃ魔王っぽいやつが実はメンタルよわよわでも闇属性だし、見てくれが勇者っぽいやつが自己中心的な邪悪でも光属性です。

これに起因した”魔術師としての明確な成長”については、いつか本編中に出ます。たぶん。


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その10/第二形態について

年末ですね。なので短めです。
今日もよろしくおねがいします。


なんやかんや、時生は帰宅した。あのあと、文人は軽い雑談をしながら駅まで送ってくれた。

 

「ただいま……」

「おかえり」

 

玄関まで母が出迎えてくれる。ちなみに父親は単身赴任中なのでこの家は二人暮らしだ。もともとは兄含めて四人も住んでいたが、今では家は随分ともてあます広さになっている。

 

「どう?魔法少女としての生活は」

「いや……まあ、悪くはないかな。仲間ができたから」

「そう。良かったね」

 

喋る白猫、中身ヤンキーな桃色ロリ、そしてちょっと敬愛が重すぎる青年。今までモブという感じで暮らしてきた時生にとっては、あまりにも濃い三人。アジトの非日常感や特訓など、なんだか物語の中にいるような気分で、楽しかった。それは事実だと思う。

 

「そういやさ、魔法少女になってもなんか別に驚かなかったよね。反応が薄いって感じ。何でなの?」

 

靴を脱いで廊下に上がり、ふと疑問に思って時生が聞く。時生の母は腕を組んで、少し唸ってから答える。

 

「……少しは驚いたけど、まあこういうこともあるかなって思った。この魔法がある世界、何が起こってもおかしくないからね」

「へえ……」

「昔ちょっと考えたことがあってさ。まあどんな形になっても時生は時生だし、そう接しようって決めてたんだよね」

「というと?」

「例えば、なんかの事故で足が無くなるとか、酷い火傷で顔が誰だかわからなくなるとか。まさか魔法少女になるとは思わなかったけど……」

 

そう言ってくすくすと時生の母は笑う。どんな形になっても、言い方を変えてみれば愛してくれるということ。そう宣言されたようで気恥ずかしくなりながら、そのありがたさに心が染みる。

 

「お風呂湧いてるから。入ったら?」

「……うん!」

 

 

 

 

次の日の昼。朝からグラウンドでの魔法練習を虎次郎とともにこなし、アジトに戻ってきた時生。時生がソファに座り、ミケが例の猫ハウスでだらけている。文人は学校らしい。

そして虎次郎については。

 

「なんか……意外ですね。そういうのできるんですか」

「まあここに住むようになったからな。さすがにこういうのも必要だろ。節約だ節約」

 

運動用長ジャージ、上はTシャツ。そこに黄色い無地のエプロンと三角巾。虎次郎は台所でフライパンを振るい、炒飯を作っていた。

炒め終わったそれを二つの皿に移し、リビングのテーブルの方に持ってくる。

 

「おお……」

「まあ簡単なもんだけど、自炊始めたてにしては上出来じゃねーか?」

「いただきます……!」

 

時生がスプーンで口をつける。具は玉子とネギだけの簡易なもの。しかし男らしく味付けは濃い目で、それでいてパラパラと仕上がっている。当然こういうのは時生の男の感性としてはドストライクである。

 

「うまいです……!」

「おう。それはよかった」

 

虎次郎はニカっと笑う。虎次郎自身も炒飯を頬張り、飲み込む。その顔は美味しさと自画自賛もあってか幸せそうで、時生から見ても可愛らしかった。まあ、そういうことは本人には言えないが。

 

 

「それで、今日は別のところに行くんでしたよね?」

「おう。前から言っていた”魔道具技師”のところに行く。そのステッキを見てもらうのと、あとは顔合わせだな」

 

魔道具技師。例のデイリーフォームを発見した人。おそらく頼れる人なんだろうなあと時生は期待をする。

 

「あっちとは結構連絡しててな。ステッキ同士の差異を見ればわかることもあるかもしれないらしい。あと……セカンドフォームについて、だな」

「セカンドフォーム……そういえば、それってなんなんですか?」

 

炒飯を頬張りながら訪ねる。助けてくれたときに使ってくれた巨大な鉄骨が印象的だ。それを使いこなすことができれば、時生自身もさらに強くなれるかもしれない。

 

「その魔道具技師いわく、強化形態ってものらしい。魔法少女は負けそうになったりする……ピンチになると都合よく覚醒するもの。その性質が反映された、と言っていたかな。現に俺が覚醒してのも襲われたときだ」

「めっちゃいいじゃないですか!使い方わかれば、強くなれるかも……」

「……そううまくいかないのが、このステッキに仕組まれた悪意なんだよ」

 

うまい話には裏がある。いい話を聞いたと喜ぶ時生に対し、虎次郎は苦い顔だ。

 

「まあ、使った瞬間わかる。あれにはこう……なんとも伝えづらいんだがな、人格を矯正する効果があるんだよ」

「人格を矯正……?嫌な響きですね」

「わかりやすいのが口調かな。なんというか……女の子っぽくなる」

「口調?」

「少なくとも、俺っていう一人称は使えなくなる」

 

なんて言えばいいかな……と悩みながら虎次郎は話し続ける。

 

「こう……無意識に”俺”っていう言葉で考えようとしてるんだけど、脳と口に出力される言葉が”あたし”になるんだよ。あれは正直体験しないほうがいい気持ち悪さだ」

「うええ……」

「正直、俺はお前に体験してほしくはない。けど、使わざるを得ない場合もあるし、その条件とかをしっかり把握しておきたいのが現実だ」

「なるほど……」

 

そううまい話はない。改めてこのステッキの悪質さを感じて気落ちする時生だった。

 

「あ、おかわり食べて大丈夫ですか?」

「え……いや、いいけど。よく食うな……」

「運動もしたんですし、お腹すいてたんですよ」

「……魔法少女って、太るのか……?」

 

 

 

 

 




・太るの?

ぽっちゃりな魔法少女はメジャーじゃない。つまり太りません。
が、もし、もとの体に戻れたときは……どうなんでしょうかね。はい。



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その11/魔道具技師たち

今日もなんとか更新です。
よいお年を。


目の前にあるのは、御剣区内でもかなり、いや、一番大きいといってもいいであろう建物。

なにせ普通の三階建ての高校だというのに、専用の魔法戦練習場が三つ備えられている上、専用の実習室が何十とあるという。それも当然、この市だけではなく全国から魔法に憧れ、適性を持った子女子息が集まってくる場所なのだから。

 

その場所の名を、”才門大学附属高等学校”といった。

異世界魔法戦争で活躍した大魔術師・才門慶とその門下の魔術師が創立した全国有数の魔法学園。

特にこの高校の行事の一つである”才門体育祭”はテレビとネット、その両方で中継されるほどの人気を誇り、他の都道府県でも知らない人はいないだろう――

 

「ここですか」

「ここだな」

「めっちゃ気後れするんですけど」

 

もともとそんな場所とは縁遠い環境で生きていた蒼色の髪の少女・時生はものすごく怖じ気づいていた。連れてきた桃色髪の少女たる虎次郎は苦笑しする。ちなみに、他の高校を訪れるのもあり、今日の彼らの服装はミケに用意してもらった慧海高校の女子制服である。赤いリボン、紺のブレザー、チェックのスカートが印象的だ。

 

「え、だって、ここ、偏差値70とかじゃないでしたっけ……俺みたいな凡人が入ってもいいんですかね……?」

「まあ、魔法戦闘科とかは倍率クッソ高いらしいけど……まあ、案外いざ戦っても勝てるもんだしな」

「え、そうなんです?」

 

時生は困惑する。戦闘経験ゼロの彼にとってはただのヤンキーが魔法エリートに対して殴り勝てるとはまったく思えなかった。

 

「あいつら、簡単にいうなら魔法至上主義なんだよ。スキルとトレジャーをわりと軽視してる。だからその二つを使って何が起こってるかわからないうちに倒せばいい」

「へ、へえ……そういうもんなんですか」

「もっとも、そういうのに気使ってる奴らにはまあ分が悪いけどな。身体強化魔法は苦手な傾向があるからそこを突けばワンチャン?って感じだ」

 

あけすけな論評に、さすがに戦い慣れてるヤンキーは違うな、と改めて虎次郎のことを見直す。

 

「んじゃ、入るか」

「あ、そうだ。学校の、どういう所に行くんですか?」

「ああ、それはな……」

 

虎次郎は、いたずらを想いついたときのようなにやっとした笑顔を持って言う。

 

「――サブカルチャー研究部だ」

「それ本当に大丈夫なんですか!?」

 

 

 

 

そういうことでやってきた学校内。教室が並ぶような所は一緒だが、新しめの学校なのもあり白く綺麗な所が時生には印象的だった。

ちょっと才門高校の生徒に奇異な目で見られながらも、気にしたものかと虎次郎はずんずん進み、二階の奥の奥にある部屋、そこにノックをする。

 

「こんにちは。虎次郎です。例の二人目の魔法少女連れてきました」

 

そういうと、横開きのドアが向こうから勢い良く開かれる。

開いたのは青年。頭が良さそうに見える黒縁メガネに、痩せ気味。白衣を着て指ぬきグローブをつけたその彼はカッコつけて大きく腕を広げながらテンション高く言う。

 

「おおおお!!!来たか虎次郎君!!!変わりなく今日も可愛いな!!」

「……変わらないっすね、大島先輩」

「つれないなぁ!!飛び込んできてくれてもいいのだよ!!」

「……とりあえず中入ってもいいですか?」

「もちろんだとも!!さぁ、中へ、レディ!!」

 

中に入る。そこは時生が知る理科室に似ていて、大きな机が九つ、廊下側の壁にはなにかの資料が多く入っている。

 

入ってきた入り口から対角線に奥、そこにいた女性が振り返る。

まず目を引くのがその身長。軽く175cm強はあるんじゃないかという高さに、元男の時生としては目が行ってしまうグラマラスな体。出迎えてくれた彼と同じように白衣を着ている。ただ、肩にかかる黒い髪はかなりぼさぼさで、目の隈が酷い。

 

「こんにちは……虎次郎さん……」

「おお。おつかれ、由紀子さん」

「その子が……新しい……?」

「ああ。二人目の魔法少女」

 

おお、と言っておっとりと笑う由紀子と呼ばれて女性。虎次郎は時生のほうに向き直って、二人を紹介する。

 

「えーっと……紹介するな。こっちの中二くさい白衣の先輩が大島一浩先輩。んで、こっちの背高い女子が千葉由紀子さんだ」

「よろしくな!!新しい魔法少女!!」

「よろしく……」

「よろしくお願いします……キャラ濃いですね……」

 

かたやハイテンション中二白衣、かたやローテンションでおっきい女性。サブカルチャー研究部なんて部活に所属しているから当然なのかもしれないが、その個性の強さに驚く。そんな時生にいつものにやり顔で虎次郎が言う。

 

「あ、ちなみに二人とも将来財団に就職できるぐらいには有能だからな?あんま侮んなよ」

「えっ」

「はっはっはっ!!意外か?俺も意外だ!!」

「そこまでできる人でもないよ……生活能力とかはダメダメだしね……」

 

意外なほどの実力。素で驚いてしまう時生と、謙遜する二人。サブカルチャー研究部なのに超優秀な人材……?と軽く困惑する時生。

 

「さて!!この部活について説明しておこうか!!」

「あ、お願いします」

 

大島が声をかける。あいもかわらず声は芝居ががっている。

 

「このサブカルチャー研究部は、単なるアニメ同好会などではない!!れっきとした魔法研究部だ!!」

「あ、そうなんです?」

「まあ参考までに見ることもあるがな!!現代文化を反映したトレジャーの解析、スキルの使用検証がこの部活の内容だ!!」

「なるほど」

「この才門附属は中世的魔法観を軸として四元素を基本とした魔法授業を行っているため!!少々異端である!!」

「少々どころかものすごく異端だね……」

 

大島の解説に、由紀子がツッコミを入れる。虎次郎がさっき言っていた通りにスキルやトレジャーを軽視する傾向があるなら、まあ異端扱いされるのにも納得できる。

 

「それでもって!!虎次郎君などのサポートを行ってる次第だ!!そっちは解析結果を知れる!!こっちは解析データが取れる!!ウィンウィンってやつだ!!」

「正直虎次郎さんたちがいないと……この部活成り立たないんだけどね……」

「……それじゃあ、どうやってこのサブカル研究部と虎次郎さんは出会ったんですか?」

 

慧海高校のヤンキーである虎次郎とこの魔法学園の研究部。ぱっと見縁なんてなさそうに見える。

 

「ああ……それはね……」

「部長!!だな!!」

「おう。ここの部長」

 

三人が口を揃えて言う。この人達をあわせる部長っていうのは何者なのか。

 

「その部長さんっていうのは今はいないんですか?」

「そうだね……今日もたぶんふらふらしてる……」

「そうだな!!あの人はどこにいるかわからん!!」

「本当に謎だよな……銀髪赤目、性別不詳、さらにこの学園入学当初からの”規格外”なんだっけ?」

「そうだね……正直半神半人って言われてもわたしは納得するかな……」

「三年ずっと戦闘実習学年一位らしいな!!」

「なんすかそのわけわからん人」

 

三人が笑う。どうやらその化け物じみたなにかに縁をつないでもらったらしい。

 

「まあ、それもともかくとしてだ!!ステッキの解析をするから、渡してはもらえないだろうか!!」

「わかりました」

 

デイリーフォームでブレスレット化しているそれを大島の方に受け渡す。大島は手に持ったそれをまじまじと見つめる。

「大丈夫ですか?」

「おう……大丈夫だ!!【鑑定】!」

 

そう宣言すると、大島のブレスレットを持つ手の上に、なにかが書かれた水色のホログラムのようなものが浮かび上がる。

 

「それでは俺は解析に入る!!少し待っていてくれ!!」

「じゃあ……少し話でもしましょうか……」

 

大島は部屋の奥のほうに向かっていき、時生と虎次郎は由紀子のほうに招かれるのだった。

 




・部長
たぶん本編にはあまり介入しない。そういう性格。


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その12/個性が強い

昨日はすいません。と、いうことで12話です。
サブカル研コミュ回です。


「さて……何から話そうかな……」

「そうですね……」

 

由紀子が唸る。初対面だし、何を話したもんかと時生も考える。少し沈黙が続いていると、虎次郎から助け舟が入る。

 

「由紀子自身のとか、大島先輩がまずなにやってるかってのを紹介したらどうだ?こいつ……時生はここについていろいろわかってないしな」

「ああ……それがいいかな……まず、私はこの学園の道具科で、魔道士の杖の研究をしてるの」

「杖?」

「そんなものいる?って感じだよね……」

 

魔法の学習とかもそうだし、ヤンキーとかも杖なんていうのは使っている印象は時生にはなかった。

 

「杖はこの学校特有でもあるんだけど……杖を持つことで自身に”魔法使い”としてのミームが付与されて、けっこう魔法の強化がされるの」

「へえ!じゃあなんでみんな使わないんですか?」

「ああ……そのミームだけじゃちょっと弱くてね……うちの高校は杖を制度化することで”魔法学園在中”っていうミーム付与を重ねてるの。だからうちの高校特有……って感じ。わたしは……その杖の材質や大きさ。使う木の種類によってのミーム付与の変化を研究してる」

「ちなみにけっこう結果出しててな。その実績もあってかなり由紀子はこの高校でもエリートなんだぜ?」

「すごいですね!」

 

やっぱり魔法学園は凄い。こういうところから魔導技術が造られて、バブルになっていくのか。そこを垣間見たのもあって時生はちょっと興奮する。

 

「え、じゃあなんでこの部活に……?」

「……恥ずかしい話なんだけどね、わたし、その……」

 

目を逸して、顔を少し赤らめながら言う。

 

「魔法少女に、ちょっと憧れがあって……かれらが持ってるステッキを作れないかなって、思ってこの学園に来たんだよね……」

「な、なるほど」

「だからサブカルチャー研究部に来て、色々手伝ってる……ってわけ。もともと杖の研究をい始めたのもそれがあって、ね」

「……由紀子先輩みたいな人にこのステッキがくればよかったのに」

「いやいや、いいんだよ……」

 

身近にこんな人がいたのを知って、今更ながら兄とその上司を恨む。こういう人のほうが適切だろうが。少し憤るが、それを彼女はたしなめる。

 

「それもあって、絶対に……リバースエンジニアリングして、自分用のを作る。そのために、手伝ってほしい、な……」

「わかりました。お願いします」

「んで、大島のほうはどうなんだっけ?」

「あー……えーっとね」

 

話が終わったところで、虎次郎がまた話題を出す。本当にこの辺なんでヤンキーやってたの?ってくらい気が利くな、と時生は思った。

 

「大島先輩は……今やってる召喚魔法編纂プロジェクトで……高校生唯一招聘されてる」

「召喚魔法!?って、あれですか?異世界からなんか呼び出すっていう……」

「いや……それもあるけど……悪魔だとか、そういうのを呼び出すっいうのもやってるらしいよ……?」

「えっ。悪魔って実際いるんですか?」

「いないよ……だからまずは魔界を観測することから始めてるらしいよ?地獄観のミームで造られてても不思議じゃないし……」

「それは……凄い。二人ともそんなのやってるのになんでこんな部活に……」

「こんな部活って言うこたねーだろ。俺たちは助かってるんだから」

「あっ……すいません……」

 

 

雰囲気からは底知れぬ実力にびっくりして、失礼なことを口走ってしまい虎次郎に咎められる時生。由紀子は少し苦笑しながら続ける。

 

「彼は……ね。これは本人も当然のように言ってて、なんも恥ずかしがってないんだけど……」

「はい」

「なんでも、理想の彼女を召喚したいらしい、よ?そういうラノベを読んだらしい……ね」

「嘘でしょ!?そんなモチベでこの学園のトップに立てるんですか!?」

「実際なっちゃってるからね……ほんとにすごいよね……」

「え?マジですか……」

 

マジだぞ!!、と解析している大島のほうから言葉が飛んでくる。その不純な動機でエリートになれるものだろうか、と考えたが、そういえばこんな性転換ステッキを作ったのも大魔術師だったなということに思い当たり、納得してしまう。

 

「この世界は変態のほうが強くあれるんだろうか……」

「それは……無いと思うよ?たまたま。この学校作った才門慶は人格者として知られてるし……」

「あれ?才門慶って確か二十年下の教え子に手ぇ出したんじゃなかったっけ」

「……たぶん、人格者も、いるから……」

 

由紀子の必死のフォローも、虎次郎にインターセプトされる。悲しいことにこの場にいる虎次郎と時生は性転換して今男だし、由紀子は魔法少女に憧れがある。変態でなくとも強くあれるということをこの身をもって証明できる者はいなかった。

そんな話をしていると、急にサブカル研のドアが荒っぽく開かれる。

 

「す、すいませーん!!遅れました、ってあれ?」

「知らない顔……由紀子、新入部員か?」

「そうだね……祐希くん、こっちに来てくれる?」

「あ、はい、わかりました!」

 

そこにいたのはリュックを背負った青年だった。けっこう女顔で、背は普通より低めの160弱ぐらいで、たぶん今の自分と同じぐらいかなと時生は感じた。

さっぱりとした印象を受ける祐希と呼ばれた青年が、こちらの方へ来る。

 

「えーっと、わたしは望月祐希っていいます!、そちらの二人は……?」

「宮地時生です」

「龍岡虎次郎、サブカル研にはお世話になってる外部の生徒だ。よろしく」

「よろしくおねがいします。それで、由紀子先輩……」

「ああ、あれね……用意は出来てるから、少し待ってね……」

 

由紀子は部室の棚から、何やら取り出す。それは見てくれはチャチい変身ベルトのようだった。

由紀子はそれを祐希に渡す。

 

「ありがとうございます!」

「いやいや、大丈夫……調整はしといたから、頑張ってね」

「はい! で、お二人には申し訳ないんですけど、今日は放課後色々あるので……」

「おう。また機会があったら話そうな」

 

嵐のように彼はリュックにそれを入れ、部室を去っていく。それを見ていた虎次郎が、おずおずと口を開く。

 

「……まさかとは思うんだけどな、もしかして……」

「ああ……うん……彼はね、まさしく虎次郎くんと時生くんの逆ね……」

「そっか、そっかあ……ご愁傷様だな……」

 

虎次郎は天井を仰いで遠い目をしているが、時生は何がなんだかよくわかってなかった。まあ踏み込むほどのことではないだろう。

それからも数十分か話し込んだ後、三人の元に大島がステッキを戻しに来る。

 

「ふう。ありがとうな!!時生くん!!」

「ど、どうもです。それで、何かわかりましたか?」

「ああ!わかったことがある。君のセカンドフォームの性能だ!!」

 

 

 

 

「聞いといてよかったですね。セカンドフォームの内容」

「使わないのが一番ではあるけどな……」

 

日が暮れてきたころ、時生と虎次郎は学校を出ていた。歩きながら話す。

 

「しっかし個性的な人たちでしたね……」

「それはそうだな。ああそうだ、あの人たちわりと戦闘もできるんだぜ?」

「そうなんですか!?」

「しかも強いしな……でも、うちの高校の番長の問題だ。俺たちだけで解決しなきゃ……いや、したい」

「……はい」

 

そうしていると、虎次郎の持っていたスマホが震える。彼は取り出し画面を見ると、少しいつものようにニヤッと笑った。

 

「どうしたんですか?」

「前哨戦の日程が決まった。舞由野にたむろってるヤンキーを、一部のやつらが独断で先に襲ってしまおうとしているらしい。そいつらの喧嘩を両成敗、一気に潰して戦力を削ってしまおう」

「それは……」

「明日だ。初めての戦い、気張ってけよ?」

 

時生も、身を引き締める思いになって、少し緊張が走る。そうか、ついにこの魔法を人に向けるのか。

 

「あ、ちなみに俺はできるだけ手出さないつもりだから。頑張ってな」

「え!?」




次回、ミドル戦闘です。


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その13/初戦闘(前篇)

ついに戦闘回です。きりがいいところで区切るため短め。


魔法文明が発達し始めて十何年か。そのあおりを受けて、従来の町工場なども潰れたところがいくつもある。御剣区内にある青葉廃工場もその一つだ。

普段そこでたむろっている舞由野のヤンキーたち。今どきみないような変形学生服であるボンタンを履きこなし、夜だというのにサングラスをする。それはまさしくチンピラという他無い、ある意味希少な存在であった。

その中で金のモヒカンをしたリーダー格の男が、声をあげる。

 

「それじゃあ、対慧海高校、決起集会始めっぞ!!!」

 

叫ぶと、うぇーい!!と二十人近いヤンキーが叫び、一気に飲み物を開ける。ちなみに開けた飲み物は未成年らしくサイダーの缶である。

騒ぎたて、楽しむ傍ら、武器たるバットだとか火炎瓶だとかをしっかり用意して、近くに置いておくのは忘れない。不意をつかれるのが一番ダセえというモヒカンの言。実際スキル持ちでもなんでもないヤンキーなら数の差があるゆえ不意をつかれなければやられないし、いい選択ではあった。

 

 

――瞬間、超高速で向かってくる蒼い星。それがチンピラの一人の脇腹に突き刺さって吹き飛ばす。

 

 

相手が、魔法少女たちでなければ。

 

 

 

 

時刻は、少し前へと巻き戻る。

魔法少女衣装に身にまとった時生、デイリーフォームで革ジャン装備の虎次郎、そしてこのチームの情報担当・文人が裏路地に潜んでいた。

 

「……本当に、大丈夫なんですかね」

「大丈夫だ。お前の力を見せつけてくればいい。それに文人もいるしな」

「ッス。とりあえず廃工場に近づいて来るであろう慧海のヤンキーを潰すッスよ」

 

乱闘中に割って入るのと、どっちがいいか考えたンスけどね、と文人が語るが、結局のところの作戦はこうだ。

まず、裏路地から通りがかった慧海のヤンキー少数を不意打ちで潰す。星型弾ならおそらく余裕だろう、とのこと。

そしてそのまま廃工場に行き、文人と時生で先制攻撃。イレギュラーが発生したら虎次郎が割って入る。

 

「……やっぱ怖いか?」

 

虎次郎が優しい笑みを浮かべる。たぶん、虎次郎はここで時生に自信をつけさせたいと思っている。だから今回は後方にいることにしたんだろう。そんなことが時生もわかってるからこそ、ここで頑張らないといけないと、自分に言い聞かせる。甘えないように。

 

「……頑張ります!」

「そうか?なら良かった。これが俺達の変身解除をするための戦い、その初めての戦闘だ。どうなっても俺がなんとかするから、気張ってけ。あと、文人は強いからな。信用しろよ?」

「わかりました!」

 

ステッキを、強く握りしめる。大丈夫だ、信じろ。

 

「……来るっす」

 

文人が告げる。なんでわかるんだろう。いや、余計なことを考えてはいけない。行く。

例のヤンキーが、表の道路に見える。虎次郎が、叫ぶ。

 

「ゴー!!」

 

瞬間、文人がどこから取り出したのかトリモチのようなものを投擲する。それを踏んだ先頭のヤンキーが前にこけ、周りの仲間っぽいのが気遣う。

よし、いまだ。狙いを確かに、正確に!

ステッキ上部、宙に浮いた星型弾が時生の意思に従って超高速回転、そのまま横に一回転して、投射する!

 

「シュートッ!!」

 

前にコケたヤンキーの脇腹に星型弾は突き刺さり、霧散すると同時にトリモチと仲間の一人ごと吹っ飛ばす。

残りはおそらく後三人、合計五人って文人がそう言っていた。こちらを伺った瞬間に第二投だ。ステッキを握る手の汗がヤバい、いやそれはどうでもいい!

再度生成された星型弾、間髪を入れずにもう一発!!

 

「シュート!」

 

放った一撃は、こっちに向かおうとしていたヤンキーのみぞおちにしっかり突き刺さる。

リロードに時間がかかる。後二人、ステッキの星は回転を始めてる。大丈夫。こういうときは。虎次郎の言ってた通りに。

 

『引き撃ちは長射程の基本だ。下がりつつ狙え……え、知ってる?FPSゲームでもそうだった?そうなのか……』

 

あの時はちょっとしょんぼりしてて可愛かったな、って違う違う。下がりながら、時間を稼ぐ。もっと速く回転が完了すればいいのに。

もう一発。裏路地に入りかけてたやつに。狙え。腹なら致命傷にはならないはず!

 

「シュート!」

 

しっかり狙い通りに入る。吹っ飛ぶ。よし、いける。大丈夫だ。自分自身に言い聞かせる。最後最後、って……

その時、時生の目に入るのは、最後のヤンキーが魔法を使っている姿。金属性に連なる硬化魔法をボールに付与し、身体強化で投げるこのあたりのヤンキーの常套手段だ。

リロードが終わらないうちにそれが投げられる。それが、蒼の魔法少女の胸に――

 

「〜〜っ!!!」

 

刺さらない。間一髪、身体強化で体をひねって避ける、が体勢が、だめだ、転ぶ。まずい!

前に向かって地面に倒れる。虎次郎が叫ぶ。

 

「文人っ!!!カバー!!」

「了解ッス!!」

 

文人はどこからか取り出したバスケットボールを相手に向けて全力で投げる。それは顔面に突き刺さり、最後の一人を沈黙させる。

 

「……よし、大丈夫ッス」

「よくやった文人、で、大丈夫か?」

 

虎次郎が、時生に向かって手を差し出す。時生はそれを手に取る。

 

「……最後、決めれなかったです」

「大丈夫だ。初めてでこれはいい。最初はみんなこんなもんだ」

「今、すごい、心臓バックバクです。死ぬかとおもった……」

「あっはっは。いや、わかる。手すごい汗だもんな」

「言わないでください……」

 

そのまま、手を引かれて立ち上がる。

 

「さて、次が本番だ。この調子で、いけるな?」

「はい!」

「それじゃあ、ミケに連絡入れてこいつらどうにかしてもらうっす。俺達は廃工場に向かうっすよ!」

 

裏路地から、ヤンキーたちを置いて出る。そうだ。浮かれるな自分、と自分を律して、三人は動き始めた。

 




目が覚めるヤンキーたち。不思議と直ってる傷。そして頭の近くには「次は無い」という書き置きが……

Q.文人どっから物取り出してんの?
A.そういうトレジャーです。詳しくは次回。


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その14/初戦闘(中編)

戦闘回その2です。どうぞ。


――そうして、舞由野高校のヤンキーたちは襲われた。

先に慧海高校の独断部隊を潰し、蒼色の魔法少女・時生による不意打ちをかます。その結果、ヤンキーの一人がぶっ飛ばされる事態になった。

パニックになりかけるヤンキーたち。しかし、そこにリーダーのモヒカンの指示が入る。

 

「ぼさっとしてんじゃねえ!!敵襲だ!!武器持って突っ込むぞ!!」

 

その太い声が響き渡ると、ヤンキーたちは我を取り戻し武器を担ぐ。まだモヒカン自身は気づいてはいないが、彼の統率技術は既にスキルの粋まで達しようとしていたのだ。

 

「相手の攻撃は単体遠距離、威力は高いが全員一気に潰されるほどじゃねえし近接戦は不得意と見た!!人海戦術で近づくぞ!!」

 

時生の星型弾は確かに威力が高い。が、一人ずつしか潰せない以上、その殲滅能力は低い。先程の戦いは五人だったが反撃をもらってしまった。ましては二十人なら言うまでもない。時生の表情が苦いものに変わり、手に汗が握る。

 

一人一人、星型弾をチャージして撃ち出し潰していくが、焼け石に水。七人程度が吹っ飛ばされたが、まだ十数人残っている状態で入り口にいる時生への接近を果たす。

 

 

「へへ……何がなんだかわからねえが、喰らえ魔法少女!!」

「っ!!!」

 

先頭のヤンキーが、大きくバットを振りかぶる。時生がステッキを盾にして耐えようと思ったそのとき。

 

「一人で来るわけないじゃないッスか。馬鹿ッスね」

 

瞬間、ヤンキーたの足元から何かが爆発した。

 

 

 

 

「なあ、強い奴の特徴って知ってるか?」

 

グラウンドでの魔法訓練の休憩中、ベンチに座って水を飲んでいた時生に、虎次郎が声をかける。

 

「いや、そりゃあたくさん実践経験がある人、とかじゃないんですか?」

「いやいや。それはそうだけど、もっと明快な特徴があるんだよ」

 

明快な特徴。いきなり言われてもあまり思いつかなかった。時生は首をひねりながら、答える。

 

「……単純に、強い魔法属性でもあるんですか?」

「そんなんでもない。魔法属性は極めりゃなんでも強いからな。いいか、強い奴っていうのは魔法とトレジャーとスキル、それのシナジーが強いんだ」

「なる……ほど?」

「たとえば俺の魔法少女じゃなかった頃の話なら、身体強化で近づいて、接近戦のスキルで殴って、遠距離からの攻撃は《バッドバッドバット》で弾き返す。こういうふうにコンボが組めるほうが、強い」

「なるほど……スキルやトレジャーに弱点があっても、それを別ので補強するとか、長所同士をかけ合わせて強くするとかそういうことですか」

「そうそう。で、こういうのに限っては……文人のシナジーは、ある意味俺のより()()()()()()()()()

 

 

 

ヤンキーたちは、まるで状況がわからなかっただろう。なにせイケイケで攻め込んでたら、急に全員が吹っ飛んでいた。さらに言えるのは、気がついたら突然目の前に好青年と呼べる人物が出現していたということ。

 

「な……何が起きた!?クソッ……立て、お前ら!」

 

モヒカンが号令をかけるが、彼自身も少なくはないダメージを負っていた。それでも統率を忘れないあたり、このモヒカンはリーダーとしての素質がある。が、文人はそれを嗤う。

 

「いや、まさかこんなにもいいリーダーがいたとは。正直びっくりッスよ。でも、もうお前らは詰んでるッス。起動」

「っ!?」

 

モヒカンの横、壁際まで吹っ飛ばされていたヤンキーの足元で、また爆発が起きる。

 

「さて、種明かしでもするっすかね。おれのスキルは【気配遮断】。言葉を口に出すか、攻撃が成功するまで認識できなくなる能力ッス。起動」

 

今度はモヒカンの後ろ。倒れこんでいたヤンキーたちが吹っ飛ぶなか、文人は朗々と語り続ける。

 

「おれの魔法は道具作成。予め魔法を宝石や符に込める魔法っすね。最初のは時限式魔法グレネードで、高威力の魔法を無詠唱で発動できるっす。そして今爆発してるのはキーワード式で爆発させる符ッスね。お前らが魔法少女に集中している間に撒かせてもらったッス」

「クソッ……バカにしやがって!」

 

立ち上がったヤンキーの一人がバールを持って襲いかかりそれを縦に振るう。が、それは文人がどこからか取り出したゴルフクラブで受け止められる。

 

「おれのトレジャーは《インベントリ》。生物以外ならなんでも入って取り出せる異空間ッス。だから色々な物を限界越えて投げられたンスね。起動!」

 

振るわれたバールをそのまま弾き返し、すかさず左手で符を展開。襲ってきたヤンキーの腹に貼って起動、小規模な爆発を起こして吹っ飛んでいく。

そして、まさしく悪役のように、不気味に笑う。

 

「わかったッスか?もう勝ち目なんて無いんスよ、モヒカンさん」

「外道がっ……お、お前ら、あいつをやるぞ!!」

 

爆発に巻き込まれ、残ったのはモヒカン含め五人。全員学ランはボロボロ、肌にも怪我が多いが、その目には闘志が宿っている。

それを文人は嘲笑する。

 

「いやあ、でももう俺がこれ以上やっちゃったら本来の目的にそぐわなくなっちゃうんスよね〜。だから、ここは逃げさせて貰うッス」

 

瞬間文人は《インベントリ》から煙玉を取り出し起動、目をくらましてるうちにバイクのエンジン音を響かせ逃走。煙が晴れるころには何もいなくなっていた。

 

「……あいつ、絶対ツブしてやりましょうね、モヒカンの兄貴」

「そうっすね!あれは喧嘩道にそぐわねえやつっす!」

「とりあえず仲間を助けねえと……」

「いや、待て!!」

 

戦闘終了。残ったヤンキーたちが思い思いの言葉を叫ぶなか、モヒカンは叫ぶ。

 

「魔法少女!!何処行った!?」

 

え、と呟いたヤンキーの体が蒼い星によって吹き飛ぶ。残りの四人が、その発生源を確認する。

――宙に浮かぶ、蒼色の魔法少女。

 

「やりやがったな……あの野郎……」

 

モヒカンは姿をくらました理屈を即座に理解する。【気配遮断】だ。

あれは、他人に対しても使えるのだ。

能力の説明をしたのも、注意をそらすため。たぶん、他人に多く見られてる対象にはスキルを使えないであろう。

だが、それだけでは疑問がある。

 

「なんであの男の爆発の後から攻撃しなかった?二人がかりなら俺達を潰すのは余裕だったろうが」

 

魔法少女は、答える。

 

「……単純な話、あなたより強い奴と俺は戦う必要がある。それなのに不意打ちだけで倒して、それが経験になるとは言えないと思った。だからこそ――真っ向勝負を挑みたかった。だからそう仲間にお願いした」

 

あの桃色の魔法少女。優しくて、強くて、かっこよくて、かわいい、あの人に並び立ちたい。

そう願った時生の言葉を聞いて、モヒカンは笑う。

 

「は、ははは。これでも四対一だぜ?それで真っ向勝負か。俺達がスキルを持ってないとはいえな。――舐められたもんだなあ、お前ら!?」

「「「うっす!!!」」」

 

叫び、仲間が答える。あの爆弾男にしてやられた怒り、仲間をやられた恨み、そして真っ向勝負を望んだ魔法少女への敬意。それがモヒカンの中の何か……スキルを結実させる!

 

「魔法少女!名ぁ名乗れ!」

「――魔法少女ミーティアレイン、宮地時生」

「モヒカンこと山田一清以下三名!いくぜ!【チームワーク】!!」

 

 

 




モヒカンに名前をつける気もなかったし、文人をここまで外道にする気もなかったし、戦闘が三話に伸びるとも思ってなかった。どうしてこうなった。


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その15/初戦闘(後編)

初戦闘ラストです。

更新頻度に関してですが、三日更新→一日休み→三日更新……のサイクルでいこうと思います。そのほうが能率良く書けると思ったので。

ということで今日は二話連続更新です。


妙なことになったな、と時生は思った。どうしてこいつらが覚醒しているんだろう。おかしいだろ。

しかし言ったことは取り返せないし、取り返す気もないんだ。こっちは空に飛べる分、四体一でも有利だ。後方に飛びながら、星型弾をチャージ、投射する、が。

 

「田中ァ!」

「うっす!」

 

今までなら間違いなく当たっていた距離。だが、一声かけられると避けられる。さっきとはまったく違う。スキルの恐ろしさを、身を持って感じる。

けどやれることは一つ。後方移動しながら星型弾を回転チャージ、ぶち抜くだけ……!

 

「佐藤!」

「はいっす!」

「よし、大丈夫だな!躱せる、躱せるぞこれは!」

 

二射目。また横っ飛びでかわされる。

とりあえず、とりあえず投げろ。当たるまで投げれれば……!

しかし三、四と投げていくが、すべてかわされていく。

 

「いけます、いけますっすよこれ!」

「でも、避けてるだけじゃ……」

「よし、お前ら!球用意だ!」

 

投射を避けながら、ヤンキーたちが土魔法で球を作り出していく。まずいまずいまずい……!

今までは不意打ち、もしくは当たることを良しとした特攻だった。だから避けられるような経験はなかった。それが時生の思考に焦りを生む。

 

「うっし!一気に投げろ!!」

「「「うっす!」」」

 

前方四方向からの一斉投射。虎次郎なら全部バットで跳ね返せるかもしれない。文人ならそもそもこんな事態にはならなかっただろう。

しかし、彼は彼の仲間のような実力を持たない、ただの新米魔法少女。避けれる道理は、ない。

 

魔法少女は、地に落ちる。

 

 

 

 

走馬灯のように、思考が走る。

痛い、というのはあまりなかった。魔法少女の服は瞬間的な痛覚の軽減作用がある。

だけど、それ以上に、恐い。

今にも追撃しようと四人が走ってくる。男が、四人。

このまま、起き上がれずに殴られたら?一瞬頭によぎる。ゾクッとする。息を飲む。

どうしたら、どうしたらどうしたらいい。恐怖が恐怖を、そして恐慌を呼ぶ。

そうだ、虎次郎なら、いや、でも、頼れない。甘えられない。でも、どうしたらいい!?

俺は、俺は、俺は、

 

「落ち着け!!時生!!」

 

――っ!?

どこかから聞こえた貴方の声、それが時生の負の思考を止める!

 

「狙うべきは誰かを考えろ! 死中に活だ!」

 

誰を狙うべきか。あの超反応は何によってもたらされるか。

自明だ。あの【チームワーク】とかいうスキルだ。それを使っているのは。あのモヒカン――山田に他ならない!

でもどうする?当てられるのか?いや、当てるなら方法はある。それこそ、死中に活だ。

時生は体に身体強化を巡らせる。弱いけど無いよりマシだ。

そしてそのまま駆けてくる奴らに衝突するように、走り出す!

 

「なっ――」

「おおおおおお!!」

 

破れかぶれな単純思考。当たらないなら近づけばいい!

右手に持ったステッキ、その上部の星は走りながらも回転を増す。

そのまま近づいてゼロ距離、ステッキを左から右へと振るい、腹に向けて投射する!

 

「シュー……トッ!!」

 

もともと遠距離でも人を吹き飛ばす威力があったそれ。ましてやゼロ距離で攻撃されれば、言うまでもない。

モヒカンの体はくの字に折れ、斜め30°に吹き飛んで意識を消し飛ばす!

 

「あ、兄貴ぃ!」

「くそっ……よくも!」

「か、仇を!」

 

何かを言っているが、とにかく距離を取らなきゃいけない。時生はモヒカンを吹き飛ばしたまま、勢いを殺さないようにそのまま走り、飛んで反転。

もう一度チャージしておいた星型弾をそのままぶち当てる!

 

「シュート!」

「がっ……」

 

【チームワーク】を失ったヤンキーに、もう星型弾を避けることはできない。まずは一発!

 

「くっそ……」

「もう一発……シュートッ!」

 

続けて二発。もう、もう大丈夫。チャージしながら気を緩めかけたそのとき――

 

「せめて、一発!!」

「っ!?」

 

最後の一人が、土球を投げてくる。寸前に迫ったそれを、なんとかギリギリで回避して……

 

「シュート!!!」

 

最後の一撃を、放つ。それはラストのヤンキーの腹にしっかりとぶち当たり、吹き飛ばした。

 

 

 

 

終わった……?

時生は、地面に降り立つ。戦闘が終わったことが信じられなかった。大丈夫?伏兵とかいたりしない?

じっくり周りを見渡して、何も起きないことを確認すると。

――し、死んだかと思った……。

その場にへたり込む。無理もない。彼はもともと私闘とは縁無かった高校生。緊張が抜けてしまったのだ。

特に最後の命運を分けた特攻。虎次郎の声援があったとはいえ、よく自分はアレをやったな、と自分でも信じられない心境だ。

心臓はものすごくバクバクしてるし、手汗も酷い。やばい。これは帰ったら風呂入んなきゃだめなやつ。

そんなことを考えながら、深呼吸をして、呼吸を整える。そうしていると。

 

「……」

「せ、先輩……?」

 

虎次郎が、近づいてくる。彼は時生のほうに近づくと、

 

「っ……せ、先輩!?」

「よかったっ……マジでよかったっ……」

 

――抱きしめられる。

虎次郎の胸に、時生の頭が埋まるような感じだ。突然のハグに時生は動揺を隠しきれない。が、すぐにわかる。虎次郎の心臓もかなりバクバクしていることを。そっか、見てる側も。

 

「もう、駄目じゃねえかと思った……心臓に悪いよお前……」

「……はは、ごめんなさい。っていうか、声めっちゃ震えてますけど……」

 

泣いているのだろうか、いやいやまさか。歴戦のヤンキーがこんなことで泣くはずが無いし……。

 

「うっせーー!お前が焦らせんのが悪いんだからな!!つーかこの体の仕様だし!!こうやって抱きしめてんのも!!」

「え、本当にそうなんですか……」

「あ、いや、な、泣いてねえからな!?」

 

虎次郎が慌てて取り繕う。泣いてたんだな。本当に、この人はかっこよくてかわいいな。

なんか、戦ってよかった。時生はそう思えた。心から。

 

「そういえば、文人は……」

「適当にここら一帯走った後、ミケ載せてこっちに来てるらしい。まあ、あまりにやりすぎたやつは少し治してやるのがヤンキーの義理だしな」

「はっ……そうか、優しいなあお前らは」

「!?」

 

虎次郎が抱きしめるのをやめて、声のしたほうを二人して振り向く。そこにはそこらへんに落ちていただろうバットを杖代わりにして、立ち上がろうとしているモヒカンがいた。

 

「おっ……お前……」

「いやいや……もう、戦う余裕はねえ。現にこうしてはいるけど足が言うこときかねえし、腹の骨がズキズキ痛む。で、その桃色のお前はなんだ?なんかヤジとばしてたけどな」

「――龍岡、虎次郎。慧海高校前番長だ」

 

虎次郎が宣言すると、モヒカンは目を丸くする。

 

「ええ?あの”殺人バット”か……ずいぶん可愛らしくなったもんだな。まじか?」

「嘘は言ってねえ。残念ながら」

「ってことは、お前らの戦うべき相手っていうのは今の番長、西浦の野郎か。なるほどなあ……」

 

モヒカン、山田一晴は天を仰ぎ、言葉を選んで、告げる。

 

「西浦の野郎は、気に食わねえ。ヤンキーのリーダーってのは仲間を指揮して、守る存在だってのに、あいつは駒かなんかとしか思ってねえように思うんだわ。だから、頼むぞ」

「……わかった」

「無事にあいつを倒せたときには……この舞由野の奴らと俺は、お前の傘下に入ってやる……だから、負けんじゃねえぞ」

 

そう告げて、前のめりになって彼は倒れる。意識を保ってるのは、魔法少女の二人だけ。

 

「そうだ……倒さねえと、いけねえな」

 

そう呟く虎次郎の横顔が、時生の脳裏に妙に残った。

 

 




二話目は19時15分に出します。


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その16/事後報告通話

本日二話目です。まだ一話目を読んでない人はそちらからどうぞ。


初めての戦い。その疲労ははっきり言って尋常じゃなかった。時生自身、体はそこまで疲れてなかったのだがやっぱり精神的な負担が大きい。ゆえに廃工場での戦いが終わった後、時生は自分の家に直帰していた。

 

「つかれた……」

 

風呂から上がり、ミケからもらった青白ボーダーのふわふわパジャマを着込んだ時生は、ベッドに倒れ伏す。正直戦い終わって、モヒカンが喋ってからの記憶があんまりない。残った少しだけの気力でどうにか家に帰って飯を食って風呂に入れただけすごい。時生はそう思った。もう寝たい気持ちでいっぱいっぱいだが、まだやるべきことがひとつある。

枕元に置いてあったスマホが鳴って、それを手に取る。

 

「もしもし……」

『おう。疲れてるところすまんが、事後報告やるぞ』

『まあ一応大事な話ッスから、寝ないで聞いてほしいッス』

『あたしも参加するわね!』

 

聞こえてくる三つの声は、知り合った仲間たち。そう、あの戦闘で何が好転したかを確認しなきゃいけないのだ。

 

 

 

 

 

『それで事後報告するンスけど、悪いニュースと良いニュースがあるンスけど、どっちからが良いッスか?』

「いいニュースで……」

 

こんな疲れてるときは朗報以外聞きたくない。時生は即断言した。とても眠いから声が変になってる自覚さえある。

 

『あー……じゃあいいニュースから聞くか』

『あたしもそれでいいですわ!』

 

虎次郎たちが配慮してくれたのか、いいニュースから聞くことになった。

 

『えーっとっすね、良いことに、確実に慧海高校の全ヤンキーを潰す機会が得られました。しかも自分たちで日程を決めれるっす』

『マジか!?』

『それはどういうことなんですの?』

『もともとヤンキーっていうのは大規模な抗争でもないと全員集合する機会が少ないんだよな。慧海高校の奴らもそうだ。だからこれから起きるであろう舞由野との抗争時を狙ってたんだけど、戦いのタイミングを自分たちで合わせられないから準備とかが面倒くさいし間に合わないときがあるんだよ』

『なるほど……ですわ?というか具体的にどうやって?』

『あのモヒカン……山田一清と交渉して、あの青葉廃工場で決戦する果たし状を彼名義で送ってくれることになったっす。だから決戦場所に細工し放題でもあるッスよ!』

『それはいいニュースだったな。で、悪いニュースは?』

『正確なら悪かったニュースなんすけど……舞由野のヤンキー、あれが全勢力だったらしいッス』

『え゛』

 

虎次郎がものすごい声を出す。何が問題なのか回らない時生の頭ではわからない。

 

「何が問題だったんですか……?」

『いや、抗争の時に慧海のヤンキーが全員集まるって話あったじゃないッスか。それおれ達が舞由野潰しちゃったせいであやうく無くなりかけたってことっす』

「つまり、一歩間違えてたら計画が御破算になってた、と」

『そういうことッス』

『え、まじ?嘘じゃなく?』

『気づけなかったおれも悪いンスけどね。まあ、負傷していた全ヤンキーの治療と引き換えに、さっきの果たし状を出せることになったっすので、気にすることは無いっす』

『まじか……舞由野のヤンキーって聞いた話じゃ数だけは多くて百人近くいるって聞いてたんだけどな……』

『高学歴な奴らがたくさん勉強して魔法強く使える現状ッスから、わざわざヤンキーする奴も少なくなってるみたいっすね』

『おう……そうなのか……』

『まあ、そんなところっすかね。しいていうなら交渉中のヤンキーたちのおれへの目線がめちゃくちゃ冷たかったぐらいっすか』

『あれはヤバかったわね……周り何も口に出してなかったけど』

『まあお前のシナジー断然強いけど断然嫌われやすいからな。けど戦闘で使ってくれるのはありがてえよ。嫌われ役買って出てくれるのもいつも助かってる』

『……こういうところ、なんすよねえ』

「そうですね」

『そうですわね』

『何の話だ!?』

 

あなたの人の良さについての話ですよ、虎次郎さん。そんなことを思いながら少し時生は笑う。

 

『ま、まあいい。ともかくそれなら少し休みを入れよう。決戦まで英気を養ってほしいし、明日あさっては俺たちの活動は無しってことでいいか?』

『わかりましたッス』

『わかったわよ!また動画上げなきゃいけないわね!』

「わかりました……」

『よし、じゃあ事後報告終わり!お疲れ!』

「お疲れさまです……」

 

通話を切る。このままものすごく寝たい気分だったが、時生は自分が歯を磨いていないことに気づく。重い体を引きずって、下の階に降りて歯を磨きに行った。

 

 

 

 

歯を磨き終わって、今度こそ寝るかと思ってベッドにダイブしたとき、スマホに通知が入ってることに気づく。

文人からだ。

 

『寝るところだったら申し訳無いッス。ちょっと謝りたくてこうして連絡してるッス』

『端的に言うと、会った初めての日に言ったこと。虎次郎さんに甘えんなって言ったことについてッス』

『モヒカン……山田一清から交渉中に、戦いの様子は聞いたッス。真っ向勝負で自分に打ち勝ったって』

『おれ、真っ向勝負とか大っ嫌いなんスよ。けれど、虎次郎の兄貴はそういうのを重んじるタイプじゃ無いっすか。だから、言いたくないっすけど、虎次郎の兄貴と並んで戦うのにふさわしいのは時生かな、とか思っちゃったッス』

『少なくとも、お前があの人の重荷にはならない。そう思ったッス。だから謝るッス。ごめんなさい』

『もちろん、あの人のことを一番好きで、尽力してるのはおれッスけどね!』

 

これは、要するに虎次郎にふさわしい人間として、一番近くにいた男が認めるということじゃないだろうか。

 

「あ……やばい、ちょっと泣きそう」

 

目頭を熱くしたまま、目を閉じる。その意識は心地よく眠りに落ちていくのだった。




モヒカン・山田一清については愛着が湧いたのでもしかしたらまた登場するかもしれません。


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その17/休日は外に出たくなかった。

難産でした。よろしくおねがいします。


虎次郎から休みをもらった時生。朝から彼が何をしているかというと。

 

「……」

 

カーテンすら開けてない部屋。ぼさぼさの髪。ベッドの上で握りしめるはコントローラー。モニターの画面には照準と銃。トリガーを引いて敵をヘッドショット、キルを取る。

 

「なんか修羅場ちょっとくぐったからか、すごい調子がいい……」

 

へへへ、と陰キャくさいにへら顔を浮かべながら、自画自賛をする。そう、彼は魔法少女になったとはもともとはオタク気味のモブ。外に出るはずなどなく、こうしてFPSをこなしているのだった。

 

「平均キル数が上がってるし、なんかパニクることが少なくなった気がするし……」

 

魔法少女になってよかったかもなあ、と思う。そのぐらい割と嬉しい。さあさあ次の試合だ、と意気込んでいると、スマホに連絡が届く。

 

「誰だろうな……」

 

通知欄の人物は、虎次郎。これは、無視するわけにはいけない。次の試合をキャンセルして、スマホを手に取る。メッセージだ。

 

『休みのところすまん。ちょっとその……今日遊びにいかねえか?』

 

息を飲む。外に、出たくないなあ……と。正直時生は家でごろごろした気持ちがいっぱいだ。しかし虎次郎だし……どうしようか……。

そう悩んでいると、追加でメッセージ。

 

『ほら、あの、色々と女体化して面倒なこと多いだろ?それのアドバイスしてくれる女の友人紹介するって話あったよな?それ」

「あったっけ……?」

 

思い返す。そういえば、本当に最初あった時に言っていたような言ってなかったような。それなら行く理由になるか……と重い腰を上げて着替えを始める。

 

『というか新しい魔法少女の顔がみたいってうるせーんだよこいつ!頼むから来てくれ』

 

……大丈夫かな。時生は不安になった。

 

 

 

 

一番近場の最寄り駅の御剣駅。そこそこ大きいが、大きいだけでわりと周りにはなにもない。そこで十二時に待ち合わせということらしい。

服装はパーカーとジーンズ。ミケに見繕ってもらったボーイッシュファッション。髪は気に入ったポニーテールにしている。

というか魔法少女生活のせいて日付感覚が鈍っていたが、今日は土曜日だったらしい。だからわりと人の行き来が多い。

 

「そろそろ来るかな……?」

 

駅構内の入り口、スマホをいじりながら、壁によりかかって待つ。と、なんだかかしましい声が聞こえる

 

「いやあ、やっぱ可愛いねぇ」

「おい、だから手を離せ。恥ずかしいだろうが」

「幼馴染だし、周りからみたら実質姉妹じゃん?」

「中身を考えろ中身を」

「世界基本外身だと思うんだよねえ!」

「お前は……お前は……」

 

女の子二人組。一人は見知った桃色魔法少女。デイリーフォームのいつもの革ジャン装備。そしてもうひとりは身長高めのモデル体型、茶色の髪は長く、艶がある美人だ。白のトップスに、ハイウェストのジーンズが足の長さと細さを際立出せる。

 

「お?」

「あ」

 

目が、合う。瞬間、彼女の目がきらっと輝いたような――

 

「可愛い!貴方が、噂の魔法少女だね!」

「うぇ!?」

 

虎次郎の手を離して、近づいて来て彼女は時生の手を取る。もともと女性慣れをしていない時生は赤面する。距離が近いのはヤバい。

 

「いやいや、確かにそうですけど……えっと、その」

「ねえねえ、名前は?」

「あ、えっと、宮地時生、です」

「おい、明日羽。困ってるからやめてやれって」

 

虎次郎が制止する。その声色にはかなり呆れが混じっている。そうだね、と虎次郎の言葉に答えた彼女は、改めて時生に向き直る。

 

「はじめまして。龍岡虎次郎の幼馴染、吉里明日羽です。よろしくね、時生さん」

「あ、はい、よろしくおねがいします……」

 

いきなりの美人の登場、その圧力にちょっと気後れするなか、時生にさらに爆弾発言が投げかけられる。

 

「あ、わたし面食いの全性愛者(パンセクシャル)なので。付き合ってあげてもいいよ?」

「!?」

 

時生は絶句した。

 

 

 

 

「いやあ、魔法少女っていうのはいいねぇ!可愛い外見!しかも中身は初心な男子ときたもんだし?」

「耳元でささやくのやめてください……」

「あれえ?魔法少女のことは大声で言っちゃあ駄目なんだよねえ?」

「くっ……」

 

電車内。向かっている場所は虎次郎のアジトもある中央区。そこの中心街を散策する予定だ。ドアの前で(見た目)女子三人で集まっている中、小さな声で彼らは話していた。

 

「俺のことはどうでもいいんですよ……明日羽さんのことを教えて下さい」

「あらあら、お姉さんのこと気になっちゃう?」

「同級生だろうが、明日羽」

 

虎次郎が白い目でツッコミを入れる。多分昔からこういう関係性なのだろう。明日羽がニヤニヤしながら話し出す。

 

「そうね……と、いってもただの虎次郎の幼馴染だけど」

「ただの……?それはねえだろ。葉雪学園反風紀委員会No.3」

「えぇ……それ言っちゃうの?つまんないの」

「ちょっと待って。ちょっと待って?」

 

葉雪学園の反風紀委員会とは。時生はそのパワーワードを聞いて会話にストップをかける。

 

「えーっと……えーっと?それはなんですか?」

「葉雪学園は絶対的お嬢様学園。ゆえに持ち込める物とかは絶対的権力を持つ生徒会と風紀委員会に制限されているわけ。それに対抗するために生まれたレジスタンスね!」

「そんなものが……あるんですか……なんか、葉雪の闇を知っちゃった気が……」

「ぶっちゃけ俺魔法少女になる前に一回その抗争を見たんだけどな、ヤバいぞ。物理的な魔法とかはそこまで飛び交ってはいないんだけど、精神関連のスキルがいたるところで発動している感じでな。まさしく女の戦いって感じだったな」

「いやいや、そこまででもないよ。慧海高校とかの争いのほうがヤバいと思うけど……」

「それは価値観の相違、隣の芝は青いってやつだっつーの。正直百人のヤンキーよりお前の全性対象魅了スキルのほうがヤバいと俺は思うぜ?」

 

二人ともヤバいと思うな、とは言えない時生だった。



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その18/ショッピング・ダイジェスト

買い物回です。よろしくおねがいします。


中央区、千真田駅。ショッピングセンターである駅ビルが立ち並び、老若男女だいたいの人が必要なものはここで揃うと思われるこの市の中心である。がやがやと人が行き交うなか、桃色と蒼色と茶色の美人三人組はどうするか話合っていた。と、いっても。

 

「どっか行きたい場所とかある?」

「いや、ねーけど……」

「俺も無いですね……」

 

もともとゲームと漫画とライトノベルぐらいしか趣味が無く、服とかも全然わからない時生と、欲しい物があったらたいていのものはミケの【即日配達】でどうにかしている虎次郎である。わざわざ駅ビルに来ても……という感じはあった。

 

「っつーことで、今日はお前に任せるけど、明日羽。なんか色々あんだろ?付き合ってやるよ」

「そうですね。俺も……まあ、一応元男ですし、女性の買い物には付き合いますよ」

 

そういうことでプランニングを都合の良いことを言って丸投げする魔法少女二人。といっても二人とも買い物が面倒くさいわけではない。時生はこの虎次郎の幼馴染たる彼女と交流を少ししなければいけないと思ったし、あの(変な肩書がついてるとはいえ)葉雪学園のお嬢様との行動で、少しドキドキしている。虎次郎も普段魔法少女しているせいで彼女との時間が取れていないのもあり、埋め合わせということもあった。そしてなんだかんだこの幼馴染のことを頼れる良いやつだと思ってたからだ。

 

「――ふぅん?つまり、好きに予定立てていいんだ?」

「あ、ああ」

「いや、大丈夫ですけど……」

 

明日羽が肉食獣のように妖しい笑みを浮かべる。その表情に修羅場をくぐった魔法少女たちが萎縮する。この威圧感はなんだ、と。

――虎次郎と時生は油断していたのだ。虎次郎は彼女とショッピングなんて久々だったし、ましてや時生に至っては初対面。

彼らは知らなかった。

彼女、吉里明日羽が葉雪学園で身につけたバイタリティのという物を。

そして、女性の買い物時間の長さというやつを。

 

 

 

 

三階。下着ショップ。

 

「え、ちょっと待ってください。まだ覚悟があんまり」

「いやいやいや、これはTSFの嗜みってやつでしょ?この女友人ポジションに立てたことを光栄に思うわ」

「そういうところの造詣も深いんですか明日羽さんは……」

「ティーエスエフ?」

「虎次郎先輩は知らなくてもいい言葉です。って、え、まじっすか、そんなに腕引っ張んないで」

「――店員さーん!ちょっとこの子のあれこれお願いしてもいいですか?」

「ちょっと先輩、止めてください、ってなんですかその死んだ目!?らしく無いですよ!?」

「……頑張れ」

「先輩いいいい!!」

 

 

 

 

同じく三階。香水店。

 

「魔法少女はいい香りがするべきだと思うんだよね」

「いやそんな真顔で言われましても」

「必要か……?別に戦ってる最中に匂いなんて気にしないだろ……?」

「っかー!これは男の考えですよ。さてはシャンプーとかにも気ぃ使ってないな?」

「いや、まあ……」

「ミケに頼んではいるがな」

「あ、そっかミケちゃんいるんだっけ。なら安心か。まあ、ともかく買っていきなさいよ!嗜み嗜み!なんなら奢るし!」

「奢る?」

「ああ、こいつの実家わりとデカイ……そうじゃなきゃ葉雪は似合わなすぎるだろこいつに」

「なるほど……まあ、試してみますか。匂いとか」

 

 

 

 

四階。洋服のセレクトショップ。試着室前。

 

「先輩……」

「……どうした、笑えよ」

「いや……ええっと……」

「そうよね!似合ってるよね!その()()()()!」

「ああああああ!!!!」

「いや、まさか予想つきませんよ……じゃんけんで5回連敗したら着て買ってやってもいい、でその通りに実行されるなんて……」

「わたし、正直運いい方だから、ね」

「そのうちスキルにでも昇華されそうですねそれ……」

「なんでこんな目に……日頃の行いが悪ぃのかな、俺……」

「さて、時生ちゃんも、やろうか。じゃんけん」

「え゛」

「……仇を、とってくれ」

「もちろん着させられなかったらわたしがなにか好きな物をおごってあげよう。さっきと同じルールね」

「……わかり、ました。やってやりますよ!!」

 

 

 

 

五階。(オタクに優しいほうの)本屋。

 

「まさか、泣きの一回での追加条件、”着て帰る”まで達成されるなんてな……はは……」

「虎次郎先輩が今まで見たこと無いレベルに弱ってる……」

「まあ、まさかここまで勝てるとは思ってなかったわ。いやあ眼福眼福。で、時生くんもゴスロリ似合ってるよ♡」

「……まあ、普段の戦闘用ファッションよりはマシかなって。で、次は?」

「本屋。ちょっと欲しいBLとNLとGLの新刊があってね」

「全部じゃないですか。っていうかやっぱ人多いですね……。俺も何か買おっかな……」

「こういう場ほんとうによくわかんねえなあ……」

「まあ、先輩はそうですよね。はぐれたらアレですし、一緒に行動しましょうか」

 

 

 

七階。飲食店前。

 

「百合コーナー見てたら周りの目めっちゃ惹いたんですけど」

「まあそんな格好してたら、ねえ?」

「俺らは……百合じゃ、ない……」

「百合の意味を知った虎次郎めっちゃ目が死んでる……うける」

「ウケるってなんだよ!?さすがにもう結構辛いんだが!?」

「まあまあ。ちょっとお昼にでもしましょうか。ほら、あ・そ・こ」

「え……ここ、店内に入るとき呪文を言う必要があるっていう超重量級ラーメン店……」

「明日羽……お前、太るぞ?」

「野菜たっぷりだし、大丈夫大丈夫。さ、行きましょ!」

 

 

七階。休憩用ベンチ。

 

「し、しんど……」

「大丈夫ですか……?先輩」

「きっつい……」

「いやあ、見栄張って普通盛り頼むから……小食だって自覚したほうがいいよ?」

「俺は普通盛り完食できましたけど……明日羽さん大盛りでしたよね?その細い体のどこにそんなのが入るんですか……」

「はっはっは。企業秘密、乙女の秘め事ってやつだよ。そこをつくのはお姉さん感心しないぞ?」

「ええ……というか、ほんとに大丈夫ですか先輩。なんならもう帰ったほうがいいのでは……」

「うん。さすがにわたしもワガママやりすぎちゃったかなって感じはあるし。今日はもうお開きでも――」

「いや……駄目だ。せっかく時間作れたんだからな。無駄にするわけにゃいかねえだろ。まだまだ楽しみきれてねえだろ、明日羽?」

「せ、先輩」

「虎次郎……!」

「だから、まだ連れてってくれんだろ?」

「……うん!」

 

 

 

 

夕方。早い晩ごはんも食べてもいいかなと思える午後六時。時生と明日羽はいっぱいの荷物を持って同じ電車に乗っていた。

虎次郎はもともと中央区のマンション住まい。彼らとは速い段階で別れていたのだった。

 

「そういえば今気づいたんですけど、今日虎次郎先輩なんで明日羽さんと一緒に来たんですか?」

「ああ、もともとうちで遊ぶ予定だったんだよ。午前中遊んで、午後は外に出る予定だったんだけど、時生くんの話が出たからね。誘ってみようと」

「なるほど。あと……ちょっと、聞いていいですか?」

「何?」

 

時生は少し悩む。でも、親しい人に聞いておいたほうがいいだろう。

 

「あの……幼馴染、なんですよね。なら、なんで、虎次郎先輩はあの”アジト”で暮らしてるか、わかりますか?」

「……うーん。どう話せばいいか。まず言えるのは、虎次郎の両親がどちらも亡くなってるってことはないよ?」

「あ、そうなんですか。ならなんで……」

「コンプレックス」

 

明日羽が、言い切る。

 

「非魔法的、比喩的な意味での呪い。もしくはプレッシャー。気づいてるでしょう?ヤンキーとかやるにしては、彼は粗暴さが足りなさすぎる。優しすぎる。彼がそれをやってるのはまるで義務みたいだ、って」

「――」

「まあ、根が深い問題だし、今は気にすることは無いよ。まあ、しいていうなら、虎次郎が打ち明けてくれるまで、そばにいてやってね、って話。よろしくね?」

「……はい」

 

時生は、虎次郎と話すようになってまだ早い。幼馴染にも解決できない問題を、解決するには時間が足りなさすぎる。けれど、寄り添ってやりたいな、と思った。

 

「……少し、しんみりしちゃったね。そうだ。連絡先交換しとこ。これからちょっとお世話になる可能性もあるしねー」

「……よろしくおねがいします、明日羽さん」

 

電車を降りて、少し当たり障りのない話をしながら駅構内を出る。これから話すのも多くなることだろう。

 

「あ、わたしこっちだから。気をつけて帰ってね!」

「そちらこそ。今日は楽しかったです。また!」

 

荷物を持ったまま手を振って、別れる。一人になって、ふう、と少し息を吐く。

 

「面白い人だったなあ……けっこう楽しかった」

 

まあ、性根が内向的なのもあって疲労は凄まじいんだけど、と思いながら歩いていると、コンビニが横に見える。やはりこの町は治安が悪いのか、たむろしているヤンキーが見える。まあ、日常茶飯時でもあるし、時生はこのまま無視して歩いて行こうとする。

と、違和感に気づく。ヤンキー、おおよそ三人ほどだが、こっちに近づいてきてはいないか。

 

そのまま距離を詰められたのか、後ろから声をかけられる。

 

「おい。そこの姉ちゃん。これから夕飯でもどうだ?」

「……お断りします。この時間にナンパですか?」

 

距離を取りながら、睨みつける。が、そこにいたのは、予想外の男。

耳に三個ずつ着けたピアス。金髪のツーブロック。濃いひげ。崩した、学ラン。目に覚えがあった。

 

「いや、これは口実ってもんだ。なあ、話そうや……魔法少女」

 

慧海高校現番長。西浦哲夫がそこにいた。



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その19/帰り道エンカウント

その19です。どうぞよろしくおねがいします。


どうするか。この荷物諸々を傷つけるわけにはいかないし、やはり逃げるのが手だろう。

 

「まあまあ、ちょっと話聞けって。俺の名前は西浦哲夫。慧海の現番長、この前は舎弟が世話になったな」

「……」

「なにもここでボコるわけじゃねぇ。だから、とりあえず話聞け、な?」

 

だが、後ろを別のヤンキーに取られている。踵を返すのは難しい。やはり、ここは変身するしかないか。表情を固くする。

 

「おうおう。なあんか聞いてた話と違うなあ。なんつうか自信がついてるみてえだ。確か襲われて何も動けなかったっていうのは違ったのか?」

「……何が、用ですか?」

 

舞由野と戦ったことが見破られている……?いや、それはどうでもいい。仲間たちに連絡は入れても……ここまでこられはしない。単純に遠い。なら、とりあえず対話をしてみるしかないか?時生が疑問を呈すと、哲夫は口角を上げる。

 

「ああ。そうだな……単純に話してみたかったっつうのもあるが。そうか、用か。簡単にいうなら、スカウトってところか」

「――は?」

 

こいつは何を言っているんだ?頭に血が昇る。哲夫はそのまま語り続ける。

 

「俺の下に来い。蒼の魔法少女。俺のもとに付けば、色々と歓待してやるよ」

「お断りします。俺はあの人と一緒に戦うって決めたので」

「――元に戻れる可能性があるって言ってもか?」

「!?」

 

元に戻れる可能性。それは願ってもやまないこと。虎次郎と時生が、戦う理由。

 

「今俺のところにはステッキを渡した財団の研究員がいる。そいつとのアポをとってやろう。ついでに戦力になるなら悪い扱いはしねえ。なんなら俺の右腕にしてやったっていいぜ?」

「そんなの、どうとでも言える……敵の言うことを信じられるか」

「ああ、なら信用させてやろう。――おいお前、あいつに連絡入れろ」

 

時生の後ろにいるヤンキーに哲夫が命令する。そのヤンキーはスマートフォンを鳴らすと、何かを喋ると変化が起きる。

――哲夫の横の空間が割れ、人が現れる。

それこそが財団職員であることの証明。高難易度で知られる空間魔法が一つ、テレポートの実行。

 

「……こんばんは、魔法少女。ワタシこそが財団職員の一人。塙淳と申します。以後お見知り置きを」

 

190cm近いのではないかという背丈に、不釣り合いな痩せ型。異様な猫背に丸眼鏡。ニヤッと笑ったときに見える輝く白い歯。白衣を着て、首に財団のであろう職員証を提げた男。その全てが、時生には不気味に見えた。

 

「なあ、塙サンよ。ここに魔法少女がいるわけだが、それを元に戻すことってのはできんのか?」

「まあ、弊社の技術なら出来るでしょう。まあ、ワタシは下っ端中の下っ端、出来るのはそれが出来る人との縁を繋ぐことぐらいでしょうが」

「元に戻りたいんだろ?なら、こっちに来たって別にいいじゃねえか、時生君」

「っ……なんで、名前まで」

「お、カマかけだったが当たったか。行方不明の噂が立ってたから、もしかして、と思ったんだがな」

 

駄目だ。何から何まで相手の手のひらの上。もしかして自分が今日ここに来ることまで予測してたんじゃないか、そんな疑念すら呼び起こさせる。

 

「俺が望むのは単純だ。力。人を率い、戦い、その果てに大魔術師を超える。その覇道のなかにお前を加えてやる。どうだ、非凡な人生が待ってるとは思わないか?」

答えなんて、決まっている。

 

「確かに、俺は平凡(モブ)でした。非凡さに憧れもした。でも、最初に出会ったのはあの人なんだ」

「それってひな鳥の刷り込みと同じじゃねえか。それはお前の意思だって言えんのか?ここで選び直したらどうよ」

「……あの人と、仲間と過ごしたから、今の自分があるんだ。だから――」

「それ、せいぜい一週間ぐらいだろ?浅い仲じゃねえか」

「……自分の能力をしっかり認めてもらえて、嬉しかったんだ」

「俺だって能力は認めてるさ。じゃねえと右腕にしてやる、なんて言わねえよ。どうだ?こっちに来ちまえよ」

 

ああ、もう。こいつは、いちいち人の言葉の揚げ足取りやがって。

 

「うるせえな!!刷り込みがどうとか浅い仲がどうとか!!俺は平凡な人間なんだよ!!そんな浅い理由でころっと落ちるような奴なんだよ!!お前みたいにいちいち理屈と利益で物事考えてねえわ!!」

 

絶叫。ここまで叫ぶのは自分の人生でもわりと珍しいかもしれないなあ、と頭の冷静な部分で考えながら、頭の沸騰している部分で言葉を紡ぎ続ける。

 

「それに!!お前らみたいな悪人面した奴らの仲間になるより!!可愛いロリと猫のいるほうの仲間んびつくに決まってんだろ!!男がいつだって守るのは可愛い子のほうだ!!違うか!?違わねえよな!!」

「っ……ははっ、なるほどな。あいつの絆す力っつうのはホントにバケモンだな。それじゃあプランBだ。お前ら――」

「変身っ!!」

 

哲夫が命令するよりも、時生の体に六つの蒼い星が纏わるほうが速かった。変身した時生は荷物を持ったままあ圧倒的スピードで飛び上がり、空へと消えていく。

 

「……追いますか?ワタシも専門とは言えないまでも、複数の魔法を組み合わせれば飛行くらいは出来ますが」

「いや、いい」

 

哲夫が嗤う。

 

「今度そのままぶっ潰して、無理矢理にでも配下にするだけだ」

 

 

 

玄関前に着いた。ここまで疲れる帰路は初めてだった。そもそもヤンキーに絡まれるようなことが無い人生を送ってきたし、なんでこうなった、ってところはある。

まあ、でも。幸か不幸かここで確定した事がある。

すなわち、あの西浦哲夫を潰せば、それと同時に、あの塙という男からステッキの情報を得られるということ。これなら、自分たちが元に戻るための手がかりを手に入れられるかもしれない。

あいつらを、倒せさえすれば。

 

「……」

 

だけど、本当にうまくいくのか?

話してみて敵がかなり頭がキレることがわかった。学業のほうはどうだか知らないが、少なくとも戦術眼とかはあるのは確かだろう。基本行き当たりばったりな虎次郎とは違ってしっかりと計画を練るタイプに時生には見える。

 

「これ、本当に覚悟して戦わないと負ける可能性高いよな……」

 

虎次郎とともに戦う。その覚悟も自信もある程度ついた。けれど、やはりなんだか不安が残る気がする。

 

「まあ、いいや。今日あった事はみんなに伝えるとして……魔法少女ミーティアレイン・デイリーフォーム」

 

変身を解いて、チャイムを鳴らすと少ししたあとに扉が開く。時生の母が出迎えてくれる。

 

「おかえり」

「ただいま……」

「ご飯にするから。って……」

「どうかした?」

 

なんだかまじまじと見られている気がする。親のこんな視線は初めてだ。

時生の母は、真顔で親指を立てる。

 

「……その服、いいね」

「えっ」

「そうか、ゴスロリ……ありね。今度買って着せてみようかしら……」

「ちょっと、お母さん??」

 

これはまた着せ替え人形にされることが増えるんじゃないか?

時生は将来を危惧した。



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その20/決戦前会話。

そして週が開けて、火曜日。決戦前夜。時生たち四人は決戦場所である青葉廃工場に来ていた。目的は、というと。

 

「ふふふ……ここに符、光魔法でステルス搭載した魔法地雷に、作り置きしていたグレネードを誘爆するように配置して……ああ、戦闘用に他の物も点検しておかなくちゃいけないッスね……」

「めっちゃイキイキしてる……」

「そうですわね……」

 

主に文人による下準備である。開幕先制打撃を与えるため、入り口付近にあらゆる魔法トラップを設置している次第だ。

時生たち残りの三人はそれを眺めたり、作戦を考えたり、雑談をしたりしている。

時生も虎次郎もズボンが汚れることをいとわず地面にそのまま座っている。虎次郎はあぐらで、時生はなぜか体育座りだ。地面はかなり冷たい。

 

「あのー、道具作成魔法って体系化されてる中にありました?」

「無い……ですわね。魔道具作成とは使い捨てかそうじゃないかでかなり違いがありますし、ね。ある種の”秘伝”かもしれないですわね」

「まあ、【気配遮断】とか《インベントリ》とか、初めて会ったときから持ってたしなーんか裏の多そうな奴ではあるわな。けど、本人が言い出すまでは触れないことにしてるからな」

 

鬼無瀬文人。彼に何があったのかはわからない。けれど、今罠を作ってニヤニヤしている彼は本当に楽しそうなので、なんか、良かったな、という気分になる。その外道っぷりは個人的にはちょっと引くけれど。

 

「なんか飲みます?缶コーヒーぐらいなら【即日配達】いたしますけど」

「ああ、じゃあ甘いやつもらっていいか?」

「じゃあ俺も、微糖で」

 

そう言うと、虎次郎と時生の手元に注文通りのコーヒーが来る。

電気のついていない天井。三人と一匹だけの広い空間。この前まであのモヒカン達と争っていたとは思えない静粛。

プルタブを開けて、一口飲む。

 

「……なんだか、嵐の前の静けさって感じですね」

「そうだな。まあ嵐は俺達が起こすんだが」

「それもそうですね」

 

明日が、決戦である。これに限らないけど、なんかイベントがある前の日の現実味の無さ、それを今強く感じている。

 

「なんだろう、今コンサート前のアイドルみたいな気分です」

「どんな例えだよ。でもまあ、わからんことはねえな」

「そうですわね。ちゃんと事前に購入したアイテム大丈夫かしら……」

「ああ、そういえばアレ買ったんだっけ?ミケ」

「買いましたわよ、アレ。まったく自分で言うのもあれですが、スキルというのは反則に過ぎますわね」

「あれ、とは?」

「銃ですわ」

「えっ」

 

時生が固まる。一応現代日本には銃刀法がある。まあ魔法ってものがある時点で形骸化している感じはあるが、それでも法は法。購入は難しいはずだ。

 

「【即日配達】の特徴は金さえあれば文字通りなんでも買えることですわ。まあ、今回買ったのはただの拳銃なんですけどもね。おおっぴらに見せてれば捕まりますけど、幸いわたしたちには……」

「《インベントリ》を持つ文人がいるってわけだ」

「うわぁ……犯罪じゃないですか……って私闘してる時点で今更ですかね」

「そうだな。まあ、使わないに越したことはねえけど」

 

はっはっは、と虎次郎が笑う。その笑い方はやはり男っぽいところが出ていて、なんだか見た目とのギャップ的なのを感じて少し可愛いなと思う。

 

「しかし、こんな速くに決戦のアレ出してて大丈夫だったんですか?」

「大丈夫だ。俺達は三日四日で簡単に強くなれるわけじゃねえし、あの塙?だっけっていう職員もいつ哲夫との縁が切れるかわからん。善は急げってやつだ」

「なるほど……」

 

例のショッピングの後の遭遇はその日のうちに伝えてあった。その時はかなり虎次郎から心配されたし、大丈夫だったと信用してもらうのにも時間がかかった。しかし今度の戦いは大丈夫なのだろうか。

 

「不安か?」

「まあ……」

 

モヒカンに【チームワーク】が生えただけであそこまで苦しんだのだ。それにトレジャー持ちで荒事慣れ、不安にならないわけはない。

 

「でも、不安がってても虎次郎先輩が言ってるみたいに、これから急に覚醒、みたいなことはできないですから。やれること、やるだけですよね」

「そうだな。まあ、案外楽な戦いになるかもしれんぞ?文人の今やってるアレが上手く成功すれば一気に戦力減らせるし、な」

「なんだかそう言われると逆に不安になってくるような……」

「何でだ!?」

「いや、虎次郎さんはちょっとうっかりやなところがありますので……ね?」

「ほら、ミケもこう言ってますよ?」

「ぐぬぬ……」

 

自分を舞由野戦に送りだしたはいいものの、いざ苦戦し始めると軽く泣きかけるところとかあるしなあ、と思う。まだ会って日は浅いがミケの言ってることはわかる。

そんなことを話していると、廃工場の扉が開く。

 

「ちわっす。うまいことやってますかーって、げ」

「何なんスかこっち見るなり嫌な顔して」

「そりゃするに決まってんだろ。お前の戦法まだ俺根に持ってっからな」

「あんぐらい普通だと思うンスけどねえ」

 

モヒカン、山田一清。今回の果たし状づくりにも協力してくれた、最初の敵である彼である。夜だというのにサングラスをしている。

 

「まあ、いいや。ちょっとアイサツしてえしここ通してくんない?」

「いいッスよ。今から指示した場所通ってくださいッス。さもなくば爆発するッスから」

「こっっわ」

 

手で道を示されながら、恐る恐るつま先立ちで道を通っていく山田。

 

「あ、そっから先はもう特に無いっすよ」

「わかった……ヒヤヒヤしたなここ……まあいいや。お三方、ちわっす。どうにかなりそうっすか?」

「おう。どうにかな」

「なりそうですわ!」

「おお、それなら良かった。ミケさんも相変わらず可愛らしいっすね。こっとはちゃんと果たし状送りました。で……」

 

時生が、少し固まる。これボコった相手なのに、気まずくはならないんだろうか?と。治ったが、怪我をさせてしまったし。会うことが無いならそれでよかったのだが……。心情を汲んだのか、山田が喋り始める。

 

「あー……別に気にしなくてもいいんだぜ?この世はだいたい勝った奴が正義。負けた奴は自業自得。そんなことはヤンキーやってんなら基本だしな。むしろミケさんに治してもらっただけありがてえし、あのいけすかねえ哲夫の野郎倒してくれんだろ?むしろ恩に着てるわ」

「いや、でも……」

「あー……そうだな。ゲーム。俺らの戦いはある種のゲームだって思えばいいさ。怪我覚悟の、な」

「……なるほど?」

「終わった後は握手、みてえなあれだ。まあ戦闘があまりにもアレだと根は持つけどな!」

 

あいつみたいに、と山田は文人のほうをチラ見する。なんと返したらいいのかわからずに苦笑いするが、なんとなくそういうものなんだな、と理解したような、異文化を垣間見たような感じだった。

 

「わかった。え、えーっと、よろしくおねがいします?」

「別にタメ口でいいぜ?お前は俺に勝ったんだし、俺一年だしな」

「同学年!?え、じゃあ、よろしく?」

「おう。よろしくな、時生」

 

ぎこちなく返答すると、山田がニカっと笑う。こういう所地のコミュ力が違うんだよなあ、と実感した。あとあのリーダーシップから勝手に上級生だと思い込んでいた。

 

「で、虎次郎さん。本当にウチから増援はいらないんだよな?」

「おう。スキルやトレジャー持ちとそれ以外は結構実力に差が出るからな。たぶんいても一蹴されるってところだ」

「十分な自信っすね。まあ、ウチのヤンキーが弱いのは事実だけど」

 

それじゃあ、と言って山田が伸びをする。

 

「顔見せもしましたし、帰りますわ。最後に、あのとき負けたときにも言いましたけど――負けんじゃねえよ」

「おう。任せとけ」

 

虎次郎が、力強く答える。たぶんその気持ちは作業している文人も含めて一緒だった。ふっ、と笑って山田は背を見せて入り口のほうへと去って行く。が。

 

「ん……?あっそこ踏んだらダメッスよ!」

「え?」

 

瞬間、小規模な爆発。山田は軽く吹っ飛ぶ。転がった所に文人が叫ぶ。

 

「何やってるンスか!大事な一発なのに!さては鳥頭ッスか!?」

「うっせえ!やっぱお前俺嫌いだわ!あの時生の嬢ちゃんを見習えよ!」

「はあ!?勝てばいいってさっき言ってたッスよねえ!?」

「ってめえ!聞いてたのかよ!?集中しとけ!!」

 

一気に騒がしくなる工場内。ミケが動く。

 

「……ちょっと怪我してたらアレですし、見てきますわ」

「おう、いってきな」

「……なんだか、笑えますね。明日戦うっていうのに」

 

時生が、隣にいる虎次郎にしか聞こえないような音量で喋る。

 

「おう。いい仲間たちだろ?人数は少ねえけどな」

「……哲夫の所は、やっぱりこうじゃないですよね」

「まあ、あいつの人格的に、そうだな」

「なら、やっぱりこっちに来てよかったです。俺」

 

微笑む。この前誘われたときの待遇っていうのは良かった。それこそ論理的に反論できないほどに。

だけれども、自分はこういうののほうが好きだ。そう、思った。

 

「なんか、照れくせえな」

「そうですね」

 

笑いあう。決戦は、明日。

 




次から多分クライマックス戦闘です。



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その21/クライマックスフェイズ・先制攻撃

眼を閉じる。

深呼吸する。

変身は完了。手元の星型弾のチャージも完了。いつでも放てる。

前には桃色の魔法少女。

近くには【気配遮断】した彼がたぶんいる。

白猫も爪を研いでいる。

 

騒がしくなってきた。彼らが来る。

 

ドアが、開いた。

と同時に、工場の入り口側全面が吹き飛んだ。

 

……やりすぎじゃない?時生は一瞬そう思ったが、なりふり構っていられる場合じゃない。

魔法少女のトレジャーとしての力は絶大とはいえ、敵のほうが圧倒的に数が多いのだ。

 

「よっしゃあ!行くぞ!」

「あ、はい!」

 

砂煙の中、チャージしておいた星型弾を手当たりしだいに打ち込む。当たってる感触はわからない。

そんな中虎次郎が駆けていくと同時に、詠唱する。

 

「――魔法少女ミーティアブレイク・セカンドフォーム!!!」

 

背中には天使のような白の翼が生え、スカートは膝までのロングに。武装をピンクの鉄骨に変え、力強く踏み切りジャンプ、そうして体にひねりを入れて、おそらく敵がいるであろう場所に力強く横に薙ぎ払う。

 

「先手必勝っ!!!【スマッシュ】!!!」

 

――瞬間、ヤンキー数人が見えなくなる所まで飛ばされた。

 

 

 

 

【スマッシュ】。

シンプルにして強力な接近用アクティブスキル。効果は単純、鈍器で当てた相手を吹き飛ばす。

通常ならせいぜい十メートルかそこらだが、魔法少女化による強烈な身体強化と破壊力に優れた鉄骨なら相手を即退場させることができる。

その代わり、弱点もある。

 

(よしよし、動きが止まった……この隙に攻撃されたらあたし()は避けられない(ねえ)から()

 

砂塵が晴れる。爆発、いきなり消えた仲間、立て続けに仲間がやられたのを見て動揺が走るヤンキーたち。それを見て内心安心する虎次郎。

弱点は二つ。現状、横薙ぎのモーションでしか発動できないこと。

そして、攻撃後に大きな隙が存在すること。

強いが、実際けっこう使いづらい上に、難点があった。

 

(この弱点、けっこう知られてるんだよ()……》

 

かつてのハメられる前の虎次郎は、この弱点があることを結構しっかり仲間たちに言っていた。そうしたほうがいざというときにカバーに来てもらえると考えた自分は間違ってはなかったと思うが、今裏目に出ている。

倒れ伏すヤンキーたち。だが、思ったより倒れている人数は少ないし、何しろ。

 

「――よう、虎次郎。まさかお前がここにいたとはなあ」

「……あたし()たちがここにいることわかってた?その表情でわかるよ」

「まあ、八割がた、な。まあここまで爆発物仕掛けてるとは思ってなかったけどよ。前線にいた鉄砲玉どもがやられちまった」

 

鉄色のバット、トレジャー《バッドバッドバット》を担いだ金髪ツーブロック、西浦。そして。

 

「その横にいるのがあたし()をこうした財団の野郎でいいんだよな?」

「その通りです。まあ、餓鬼の喧嘩ですから、本気は出しませんけど契約なのでねえ」

 

白衣を着た190cm近い怪人、塙。

 

「契約……?」

「ま、その辺はどうでもいい。おいお前ら!この桃色は無視してあの蒼色を潰せ!」

 

硬直していたヤンキーたちが一斉に動き出す。中央にいた虎次郎を無視して、奥へ奥へと。

 

「……あたし()を無視するの()。なら当然、ボスから潰す!」

「おっと。作戦の都合上俺は温存だ。星沢、行けるな?」

「わかりました。リベンジ、やらせてもらう」

 

突撃せず、西浦の傍に控えていた男が動き出す。オレンジと黒のボーダーのニット帽、目つきの悪さ、虎次郎には見覚えがあるような、ないようなという感じだったが、とりあえず鉄骨を薙ぎ払う。

 

「――【スローモーション】」

 

スライディングで下に潜られて回避される。虎次郎はそのスキル名を聞いてやっと思い出す。

学校の屋上、時生と初めて出会ったときの。セカンドフォームを切らざるを得なかったスキル持ち。

 

「そうか、お前は、あのときの――!」

「そうだ。あのときはこの帽子もしてなかったし、気づくわけないか。その俺だ。新兵器も持ってきた。今度はしっかり時間切れまで戦い切ってやるよ」

 

 

 

 

ヤンキーたちは最初の攻撃があったにも関わらず、人数は舞由野戦より多かった。ざっと三十人程度だろうか。

しかし、時生は余裕があった。星型弾を撃ってはいるが、その必要が無いんじゃないかと思えるほどに、仲間が強い。

 

「起動。起動。起動」

 

向かってくるやいなや爆発物をばらまいて起動しまくる文人はもちろん凄いのだが、何より目を引くのが。

 

(ミケ、強くない!?)

 

――なんか白い物体が、高速で動いている。としか時生は思えなかった。

もともと猫という生き物の跳躍力は自分の身長の五倍、最大二メートル弱は跳べるという。

さらに走ったときは人間と遜色ない速度が出る。それに身体強化が合わさったらどうなるのか。

 

「遅いですわ!」

「なっ……がっ

踏み切って、跳躍。敵の肩に乗ると同時に硬化魔法を付与した爪で顔、主に目の近くを切りつける。そしてそのまま頭に駆け上って次の相手めがけて跳躍。

 

「くっそ……あの猫をどうにかしろ!」

「動物にだけ気が散って、俺もいるンスよ?」

 

それを繰り返すだけでどんどんヤンキーの動きが硬直していく。そうして止まった所にグレネードが投げられ、爆破。

ミケに注意がいくせいで、自分に【気配遮断】をかけるのも楽になる。まさしく、圧倒というほかなかった。

そして同時に時生は合点がいく。

 

(……きっと、虎次郎先輩たちは俺の加入無しでも西浦たちを倒せるように頑張ってたんだ)

 

 

そもそも自分の加入が想定外。三人でどうにかしようと元々はしていたはず。

それを実感しながら、自分も襲いくる敵に星型弾を投げていく。

三人とヤンキーたちとの戦況は、圧倒的優勢だった。

 



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その22/クライマックスフェイズ・連撃の果て

鉄骨を横に薙ぐ。が、それは下に潜られ、躱される。それが続くなか、虎次郎は思考を回す。

鉄骨とバールでは一目瞭然な武器の間合いの差がある。それを使うことで相手、星澤を近づけさせないことはできている。

しかし確実に全て躱される。【スマッシュ】なんて使いようがない。明らかな千日手。

 

(……試してみるかな)

 

少し跳んで、下方向に角度をつけて薙ぎ払う。星澤は少し目を見開き表情を険しくするが、ジャンプすることで難なく躱される。

これはもう、どうしようもない。セカンドフォームを維持した状態で戦っても、ダメージを与えられないだろう。

相性が悪すぎる。このままだとただ人格矯正を受け続けるハメになる。

 

「……セカンドフォーム、解除」

 

持っていた鉄骨はバットへ。スカートもミニになって背中の翼も消える。

 

「戻したか。なら近づいて戦わせてもらう」

「……来いよ!」

 

正直さっさと倒して西浦と塙に打撃を入れたい。が、思ったより強い。虎次郎は歯噛みする。

表情には焦りが浮かぶが、できることは試しながら戦うだけ。

だいたいのスキルには発動条件やデメリットが存在する。ならあの【スローモーション】の弱点は何だ。

近づいてきた星沢に対してバットの連撃を入れる。大振りなさっきまでとは違い、手数を多くして右、左と振るい続けるが、全て躱されていく。

 

「発動できる時間に、間隔があると思ったが、違うか……!」

「【スローモーション】にクールタイムは無い。だから近接戦なら無敵だ」

「そんな都合良い訳ねえだろ!!」

 

星沢はニヤっと笑う。もちろん無敵発言はブラフだ。気にしてはいけないし、弱点を戦いの中いちいち言うやつはいない。

振るわれたバールを避け、応戦しながら考える。なぜ、あの屋上では当たった?

たぶん、単純だ。避けられようが無い全体攻撃なら避けられないだけ。

なら、なんで今は避けられている?相手の実力が良くなったのか?違うだろう。

 

「それなら、こういうのはどうだっ!」

「――っ!?」

 

横に振るったバットをそのまま放り投げ、左脚で腹に蹴りを入れる。それは寸前バールでガードされるも、大きくノックバックさせる。

その隙にバットを拾い上げ、仕切り直す。これで理解できた。

 

シンプルな話、意識外からの攻撃には弱い。

攻撃を食らうときに自動発動しているのではなく、マニュアル。極端な話、不意打ちなら倒せる。予想外の攻撃ならガードされるが当てることはできる。

なら、どうとでもなる。自分の仲間は、そういうのが得意だ。

 

「……何笑ってんだ」

「いやいや、勝ち筋が見えてきただけ」

 

ただ、後ろに控える彼らが怖いが。どうにでもなるだろう。

 

 

三分後。

 

文人のグレネードが爆発音とともに最後の集団を打ち倒す。

その瞬間、全員が動き出す。

 

「よし、全員倒しましたわ!行きますわよ!」

「わかった!チャージ……」

 

ミケが叫び、時生がそれに追従する。

 

「文人!!来い!!」

「っ……まずい、か?」

 

虎次郎が仲間に向けて叫び、星沢が苦渋の表情を浮かべる。

 

「……【気配遮断】」

 

文人が、消える。

 

「それじゃあ、塙サン。作戦通りに」

「わかりました。やりましょう」

 

西浦と塙が動く。

 

状況が動く。

全員がわかっていた。ここが、勝負の分水嶺。

 

 

ミケと、西浦が駆ける。来る方向は違えども、目指すのは同じ。虎次郎と星沢の所だ。

西浦は何かの魔法を自らのバッドに付与しながら、ミケは西浦に比べて長い距離を脚力を強化しながら向かう。

 

三メートル、二メートル、一メートルと彼らが近づきながらも、星沢と虎次郎の殺陣は終わらない。

星沢の注意をそらさないために、虎次郎はこれまでで一番の連撃を加えていく。

蹴り、殴り、フェイント、今までの人生で培ったその喧嘩殺法を遺憾なく発揮する。

星沢はそのラッシュに対して防戦出来ていた。が、それは【スローモーション】を全力で使っての話。

他からの横槍が確実に入るというのに、意識が他に割けない。その現実に、星沢の表情を苦いものに変える。

 

そして、虎次郎の期待通りに。

 

――文人が、動く。

小規模の魔法グレネード。そのキーワード遠隔爆破式のそれを、文人は星沢の足の踏み込みに差し込むように投げたのだ。

【気配遮断】による攻勢は絶対に反応することができない。そう、それは、この場にいる全員が

 

「――【看破】」

 

そうである、はずだったのに。

どこからか来た風魔法によって、投擲したモノの軌道がブレる。

文人が目を見開く。それは今まででありえざる光景だったから。

【気配遮断】は発動さえすれば絶対に妨害されない。それを崩した。誰が、やった。

 

 

その瞬間、文人はあることに気づく。

 

 

目があった。あの白衣の異形に。

丸眼鏡の向こう側、細長い目が愉悦に染まる。

 

しかし、だ。ここまで来たらやるしかない。

ベストとは言えずともベターに。

本来の軌道からは逸れた爆弾は、起動するしかない。

 

「起動っ……!」

 

瞬間、二人を巻き込んでそのまま爆破、虎次郎の小さな体と星沢の体が同時に宙を舞う。

星沢は虎次郎の連撃に意識を逸らされていた。けれど、虎次郎は仲間のならここでやってくれると予測していた。

それゆえ、両者の反応速度には、違いが出る。

 

「ーーセカンドフォーム!!!」

 

翼を生やす。その翼は飾りではない。

セカンドフォーム由来の空中遊泳術。それは虎次郎の体をすぐに安定させ、鉄骨を振るう準備を整える。

空中ならば星沢は絶対に回避行動は取れない。どう【スローモーション】を発動しても逃れられない。

 

ここで、流れを、変える。横の大振りを、叩き込む。

 

「【スマッシュ】!!!」



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その23/クライマックスフェイズ・作戦勝ち

星沢は、あの魔法少女にぶっ飛ばされたときのことを思い返す。

 

夜が更け、グラウンドに大の字で倒れる自分。身体強化もあって致命的にはなってないけれど、全身が痛くて起き上がれない。

このままだと親に怒られるな、と思いながらも動けない。いっそのこと寝るか。

ああ、でもあの鉄骨は初見で避けられるわけないだろう。どうすればよかったんだ?下に潜り込むとか?

次は負けない、と目をつぶり頭の中で対策を練る。

 

「おーい、きみ。ちょっといいかな?」

「っ!?」

 

警察の補導か!?と思いはっと目を開ける。しかしそこにいたのは警官ではなかった。

まさしく、神秘的、というほか無い人物が、しゃがみこんで星沢を見ていた。

 

「……誰、だ?」

 

髪の毛は銀色。目は紅い。男とも女ともとれないような、けれど若く美しいことは確かな見てくれ。その声も高いような低いような、よくわからない。

服装は下に履いてるのはジーンズだろうが、上に着ているものは覆う大きな白いローブのせいでわからない。

まるで厨ニが描いたチート主人公のような、もしくはメアリー・スーのような、そんな何かが居た。

それは微笑み、星沢の質問に答える。

 

「だれ、か。うーん……あえて名乗らずに行こう。そうだな、ぼくのことは”部長”。そう呼んでくれたまえ」

「何を、しに来た?」

「お節介かな。ぼくはそういうのが好きなんだ。ちょっといいかな?」

 

そういうと、”部長”は星沢の腹に手をかざすと、急に彼の体にある痛み、それどころか倦怠感から眠たさ、さらには古傷までが消えていく。

 

「うんうん。治癒魔法は久しぶりだけど、使えるものだね」

「……何が目的なんだ?本当に」

 

起き上がってもう一度訪ねる。古傷すらも癒やす治癒魔法なんて、正直尋常ではない。それだけで高給取りになれるレベルだ。それをただで振る舞って、一体何がしたいっていうのか。

 

「ぼくがきみにしてほしいことはただひとつ。ここに落ちていたこのペンダント、それをきみがひろって身につける。それだけでいい」

「……は?」

「ほら」

 

”部長”は近くにあったそれを持ち上げ、見せる。それは銀のチェーンにダイヤモンドのペンダントトップがある、とても高価そうなもの。

 

「……いやいやいや、俺のじゃない!こんな高そうなやつ――」

「そういうとおもった。だからぼくはここに来た。いいかい、星沢太郎。これはきみが、きみの思いで生み出したトレジャーなんだ」

「……え?」

 

”部長”は訳知り顔でうんうんとうなずく。なんで、こいつは名前まで知っているのか。というか、トレジャー?

 

「いやあ、ここで来なかったらきみは訝しんで拾わないつもりだったろう?よかったよかった」

「……本当に何が目的なんだよ」

「そうだね。とりあえず今の、喫緊の所、きみに出会った目的は」

 

目の前にいるものの底知れ無さに寒気がしながら、訪ねると、”部長”はニヤッと笑う。

 

「――魔法少女を苦しめてほしいのさ」

 

 

「――は?」

 

千載一遇の好機、【スマッシュ】を入れたとき、虎次郎はまさしくありえないものを見た。

振るった、その一撃。絶対に外していないし外さないその一撃が、当たっていない。

いや、違う。

 

「すり抜け――?」

 

星沢がニヤッと笑う。

彼があの日、手にしたトレジャー。触れてみて直感的に理解したその名前は《無敵時間+1》。

効果は単純。念じると0.4秒間だけ攻撃をすり抜けることができる。

【スローモーション】との併用なら、回避できないものは無い。それをこの大一番で、出した。

 

虎次郎が呆然とするなか、彼の体は【スマッシュ】の後隙の中空中で動けない。

そこに追撃を入れようとするのは、金髪の男。

西浦は土球を生成し、それをノックで虎次郎に打ちこもうとするが、

 

「シュート!」

「っち……」

 

向かってくるのは蒼い星に放たれるのを妨害される。その隙に虎次郎も空中で身を立て直すが、星沢も着地。西浦の元へ近づく。

 

「よし、じゃあ、やるぞ星沢ァ!」

「わかりました」

 

ミケの爪と虎次郎の鉄骨が迫るなか、西浦はその《バットバッドバット》を振るう。

 

()()()()()()

 

「――え?」

「!?」

 

突然の凶行。ミケと虎次郎の頭が一瞬固まるが、その効果はすぐに出る。

《バッドバッドバット》。その効果は使用者が弾丸だと認識したものを、特定の相手のみぞおちに当てる。

()()()()()()()()()。つまりはどういうことか。

 

狙われたのは、もちろん虎次郎でもミケでも、文人でもない。

 

「――嘘でしょ!?」

 

蒼色の魔法少女のみぞおちめがけて、星沢が頭から突っ込んでいく!!

この異常事態に対し、リチャージが間に合った星型弾を投射できたのは英断だった。

確かに軌道は一直線。迎撃弾を放つのは簡単だ。

 

しかし、相手が悪い。

 

向かってくる頭めがけて打ち込んだその蒼い星は、頭から胴をギャグのようにすり抜けていく。

 

「え、ええええ!?」

 

何がなんだかわからないうちに、その頭はみぞおちにささり、時生の華奢な魔法少女の体を吹っ飛ばす。

 

「――時生っ!?」

 

虎次郎は救援に行こうとするが、

 

「すいませんね。作戦通りと言われたもので。遅延詠唱、解除」

 

瞬間、虎次郎の行く手を阻むように天井までの土の壁が現れる。

 

どうしようもならず、そのまま、西浦のほうを振り向く。

 

「あの爆弾野郎は塙に任せた。あの蒼の魔法少女は星沢に任せた。んで、俺はお前とその猫を倒す。そういうふうに分断した」

 

西浦が嗤う。

 

「こっちの作戦勝ちだな、虎次郎。さあ、壁の向こうの決着が着くまで、ゆっくり戦おうか」

 

 

 

 




決まり手はケツバット


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その24/クライマックスフェイズ・分かたれた彼ら

子供のころならあった。頭突きを食らうことなんて。普通の近所の子供との馴れ合いとしてのそれは遊びの範疇だった。

けれど、魔法少女になった今、実践で食らうと、ヤバい。

吹き飛ばされた時生は、目がチカチカしながらそう思う。ちょっと立てない。魔法少女体のおかげで意識は保ってるけれど、既にしてきた方――星沢は近づいてきている。

いや、でも、まあ。

近づいてきている恐怖は山田との戦いで慣れた。痛みも、虎次郎との”合体技”を運悪く食らったときよりかはマシか。

時生の少ないけれども得難かった経験が、彼の思考を元通りに引き戻す。やるべきこと、そしてやれることは、”魔法少女”らしいいつもの方法。

なんとか脚に力を入れて――翔ぶ。

 

「げっ……」

「……痛っ……シュート!」

 

そして、距離の差を活かして星型弾を投射。もちろん【スローモーション】を生かされて避けられるが。

これなら、倒せなくても、倒されることは無い。たぶん相手の遠距離である硬化投球とかもギリギリ避けられる。

安全圏に入った時生は、とにかく思考を回し始める。どうすれば、勝てるか。

 

 

 

 

殺すか?、と文人は目の前の白衣の怪人、塙を見て自問する。

相手は歴戦の魔法使い。たぶん魔法に関しては自分よりも圧倒的な格上。スキルの【看破】は自分の【気配遮断】を無効化してくる完全な特攻(メタ)

だけれども、油断している。塙自身が自分のほうが強いと思っているから。

唯一のアドバンテージは《インベントリ》。そこに入ってる拳銃を使えば、身体強化による頑丈さが低そうなこの相手なら、殺せる。

けど……それをしたら虎次郎(あの人)が怒る気がする。倫理観強いし。

悩んでいると、塙が喋り始める。

 

「いやあいやあ、その顔。その表情。見たことがありますよ。あなた、非童貞ですね?」

「……下ネタッスか?」

「いやいや、まさか。コロシですよコ・ロ・シ。財団(ウチ)の暗部と雰囲気が似てる。その辺のヤンキーとは覚悟が違う。魔法少女が発する”不殺”のミームにも流されない」

 

クックック、と男は嗤う。

 

「ピンクのほうの魔法少女とサシでやりたいから、と言われてこの作戦を持ちかけられましたが、窮鼠猫噛み、いざマジになって殺されてはかないませんからねえ。ワタシもまあまあ社会のエリートですし、死んだら代え……は効きますけど、組織に取っても手間でしょう」

「はあ」

 

文人は流し聞きをしながら、頭の中で今使えるものの整理をする。《インベントリ》に入っているその中身でどうやったらこの怪人を倒せるか。

 

「だから、勝負をしましょう」

文人の思考が止まる。興味が向く。

 

「ワタシに一撃でも入れられたら、もうこの餓鬼の喧嘩には手を出しません。これでどうですか?」

「……もう一声ッス」

 

文人も、挑発的に笑う。この男の興味を引けるように。

 

「もし俺がテメエの丸メガネ、叩き割れたら魔法少女についての秘密を喋って貰うッス。それでどうっすか?」

「……ハハハ!!いいですねえ!!テンション上がって来ました」

 

白衣の怪人――塙は両手を広げ、その手の上に一つずつ巨大な火炎球を生成する。

 

「やってみなさい!!高校生!!」

 

そして、それらを文人に向かって投射する――!

 

 

 

セカンドフォームを解除して、降り立つ。

 

「さて、と。実質タイマンだなあ。虎次郎」

「……そうだな。哲夫」

「……あたしも、いますわ」

 

ミケが口を挟む。が、即座に言い返される。

 

「おお?白猫よぉ、やるか?その爪で引っ掻いて見ろよ。そのときは血が流れるだけだからよ」

「……っ!!」

「ミケ、これは俺と、あいつの問題だ。だから、割り込まなくてもいい」

 

虎次郎もミケも、哲夫のスキル――【血狂い】の効果を知っている。ただのひっかきで血を流せば、哲夫自身の利にしかならない。

 

「なあ、聞いていいか?」

 

虎次郎が、言う。

 

「なんで、そこまで俺を魔法少女にした?」

「……はあ?」

「なんつーか……俺はリーダーとして、上手くやっていた、と思った。仲間をちゃんと見て、戦っていた。それじゃあ、ダメだったのか?お前は、納得しなかったのか?」

「――テメエマジふざけんなよ?」

 

虎次郎が、本心から聞く。なんで自分はハメれられて、こういうことになっているのか、と。その言葉を聞いて、哲夫が、キレる。

 

「ヤンキーってのは!!強く、敵に力を見せつけ!!覇を刻む!!それが本質だろうが!!お前はいっつもいっつも優しすぎた!!何かあれば戦わない選択肢を考えようとしてな!!!そういうのもううんざりなんだよ!!」

「――っ!?」

「今回だってそうだろ!?テメエが俺らと戦ったワケは財団のため、違うか!?ヤンキーならそこは復讐だとか、リベンジだとか、そういうリクツで戦うべきだろうが!!テメエを見てると虫唾が走るんだよ!!お前は自分が望んでこの戦う道に入ったんじゃないのか!?」

 

一頻り叫びながら、哲夫はポケットからカッターナイフを取り出す。

 

「弱くて優しいテメエには!!その幼女の姿がお似合いだ!!そしてそのまま、今日、殺す!!」

 

そのカッターナイフを右手で持って、思いっきり自分の左手首を切りつける。

流れる鮮血とともに、哲夫の虹彩が紅く染まる。

 

【血狂い】が、発動する。

 

 

 

 

洗練された四元素魔法を、躱す。躱す。

 

「よく避けれますねえ。身体強化の効果、見た所あの蒼色の魔法少女以下でしょう!?それなのに、恐怖も無く!」

「……」

 

さすが財団職員としか言いようが無い炎や水の球、風の刃、地面からの土の槍、それらをなんとか躱していく。

もちろん躱しきれないものもあり、その肌には裂傷や小さなやけどが耐えない状況だ。

もちろん攻撃の合間に、魔導グレネードを投げるが。

 

「おっと。こんなんじゃあダメですよ」

 

――魔導グレネードの落ちた周囲を、魔法で作られた金属で囲われる。

その中から音が響くが、衝撃が漏れることは無い。

 

「これだから真っ向勝負って嫌いなンスよねえ……」

 

文人はまともに四元素魔法を使えないし、《インベントリ》からの手投げだけではどうにもならない。

だから、頭を捻って奇策を考える。それしか自分は、できないしやるつもりもない。

 

「ハッハッハ!!さっきの啖呵は口だけなんですかねえ!?」

「あんたも餓鬼の喧嘩に本気になってんじゃねえッスよ……」

 

塙はもう何度目かになる炎弾を繰り出す。そこに、ちょっとした策を入れる。

 

「こういうのどうっすかね……」

 

取り出したのは紅い円柱に黒いホース……消化器。それの引き金を魔法の炎に対してぶちまける。

白い煙が炎をかき消し、視界を悪くする。そこに合わせて、

 

「――【気配遮断】」

「【看破】、です」

 

ダメ元でかけて、使い終わった消化器を塙の顔目掛けて放り投げる。が、それは水の球によって撃ち落とされる。

 

「そろそろスキルの事忘れる頃あいだと思ったンスけどねえ……」

「忘れるはずありませんとも。ワタシは財団の末端ですが、一応そこの魔法大学卒なのですよ?」

「うっわあ……どうりで荒事慣れしているわけか。面倒くさい……」

 

そう言いつつも風の刃は回避。感覚でなんとか避けている。罠も貼れない戦いというのはこれだから嫌いだ。速攻ができない。

でも、やっぱり油断はしている、しかし自分の力だけじゃ倒せない。もう爆弾のたぐいも少ない。ならば。

 

「もうやけくそでいきますっすかね」

 

――残っている符だとの爆発物を、ひたすらに投げていく。もう狙いもしない連投。

 

「ハッハッハ、あんなこと言っといてやけくそですか!?数撃ちゃ当たるは残念ながら違いますよ!?」

「……身体強化まで使えるンスか。反則ッスね」

 

適当に投げていくそれは見事に躱されていく。その反応速度は常人にはとても出せないもの。

 

「経験ですよ。若人にはわからないでしょうがね」

「うっざいッスね……」

 

投げて、投げて、投げていく。外れたそれらの爆風が作られた壁に衝撃を与えていく。

塙は得意げにそれを避けていく上、自らの攻撃も欠かさない。それをどうにか最小限のダメージでいなす。

 

「そろそろ弾切れですよねえ!?」

「いや、これでいいんすよ」

 

塙は避けはしても、さっきのように金属で周りを囲って爆風を漏らさないようにすることはしていなかった。

ゆえに、壁に衝撃は行く。

作られた、それに。

 

「あっ」

「だから言ったッスよねえ?油断するなって」

「ワタシそんな事言われた覚えはありませんけどねえ!?」

 

――作られた壁に穴が開く。

文人は狙いを定め、そこに今までで一番出来が良いグレネードをぶん投げる!

 

 



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その25/クライマックスフェイズ・最後は物理

UA10000ありがとうございます!
これからもがんばります。


飛べるって相変わらず反則だよな、と実感する。飛んでいれば攻撃は特に運動神経とか無くたって受けづらくなる。

そう思いながら、ひたすらに時生は星型弾を投射していた。

 

「ちっ……当たんないな」

 

星沢が愚痴りながらこちらに土球を投げてくる。飛んでいるのもあり回避できるが、腹の鈍痛で避ける気力はどんどん減っていく。

ただこっちが避けられるかどうかは集中力次第だが、星沢は確実に【スローモーション】を使って避けていく。このままもし一対一ならジリ貧で負けるのは明らかだ。

けれど、今の状況は分断されてるだけで一対一ではない。

 

――壁の向こうから、爆発音が大量に響く。

ここで、時生は狙いを変える。

 

「どこ狙ってるんだ?ついに集中力尽きたか?」

「……」

 

星沢を狙うふりをしながら、爆音が響く壁に、ひたすら星を当てていく。

壁を壊そうとしていること、頼む、気づいてくれるな。

そう願いを込めながら、せめてもの演技として腹を撫でながら苦渋の表情を浮かべる。

 

「はっ……これは時間の問題かな?」

「っ!?」

 

大丈夫、いける、油断している!

三割演技、七割本気の疲労感を見せながら、回転する星型弾を放つ!

 

「シュー……ト!!」

「どこ狙ってるんだよ、って!?」

 

爆音。分断された壁に穴が開く。と、同時に急降下する!

爆発、穴、急降下、どれに対応すればわからなくなるはず!

焦りの表情を浮かべる星沢。よし、いけるいける!

それとともに一際大きいグレネードが入ってきて、起爆。どういう反射神経か、星沢はギリギリでモロに食らうのだけは避ける。

が、体勢は崩れる。

 

「ここだっ!!シュート!!」

「くっそっっ!!」

 

乾坤一擲の近接射撃、みぞおちに入るかと思われたそれはすり抜ける。まじかよ、と脳内で時生は泣きそうになる。

本当に勝負強すぎる。こいつ本当に同じ高校生か?

 

「もういいだろ!!そこまでがんばんなくてもさあ!!」

 

これ以上のチャンスはもう望めない。なら、もう、無理矢理にでも!!

時生が持っているステッキで、星沢の側頭部をぶん殴る!

手に感触、いける、クリーンヒット!

そのまま人生でやったこともない前蹴り、これも当たる。

そして、倒れたところを、馬乗りになり、起き上がろうとする彼の鼻っ柱に、ステッキをぶち当てる!

 

「これで終わってくれ!」

「がっ……」

 

そう言って振り下ろすと、彼の抵抗が無くなる。達成感なんて何一つない。なぜなら少しこいつは強すぎた。

最後のも反応されてぶん殴られてたらもう駄目だったし、壁に穴が開くのかも賭けだった。勝因は運。そうとしか、思えない。

しんどい。しんどすぎる。時生は表情を暗くするが、頭を切り替える。

 

――とりあえず、文人の元へ。

もう一度星型弾をチャージして、壁にぶち当てると、本格的に崩れる。

 

「……行くぞっ!!」

 

自分を奮い立たせて、駆ける。

 

 

「これはやらかしましたねワタシ。はい。さすがに二対一は厳しいですねえ」

 

文人は焦っていた。これで時生の方がやれたかも怪しかったし、何よりもう手持ちの爆弾は尽きた。

あとは虎の子の拳銃と、ガチではない武器のみ。こうなってくると、きつい。

文人自身の戦闘の三要素、魔法、スキル、トレジャーはその実戦闘の直接的手助けになるものは無い。

だからアイテムが切れれば、何もできなくなる。自分でもわかっていたれっきとした弱点。

――そうだとしても、虎次郎のため。何が何でも、倒す。

 

「はい。なら魔法少女が来るまでに君を倒してしまいましょう。少し本気出しちゃいますね」

 

瞬間、文人の目の前に塙が現れる。

目にもとまらぬ速さ。いや、違うこれは――

 

()()()()()()()

 

そのまま蹴り飛ばされ、吹っ飛ぶ。しかしその吹っ飛んだ方向には既に、塙がいる。

そしてそのままもう一発、今度は腹への膝蹴り。

身体強化で蹴り飛ばし、空間魔法による短距離転移で回り込む。

シンプルにして強力、それこそ無敵時間でもなければかわせないハメ技。

 

「意外だと思いますが、ワタシは”中近接型魔法使い”でしてねえ。だからいっつもこうして現場に駆り出されるのですが」

 

空中にふっとばしたなら空中から追撃を叩き込む。なすすべもない、財団職員の本気。

 

「学生時代はもっと筋肉とかもあったんですよ?今はもうそんなにですが、コツってのは忘れません」

 

まるで何かの漫画のように、蹴りを入れ続ける。が、そこに三人目。

――蒼色の魔法少女。

 

「おや、もう来てしまいましたか。早いですねえ。予想外、不言実行ですね。まあ、ワタシに上手くその弾を当てられるとは思いませんが」

 

ボコボコにされる文人を時生は見る。塙の言う通り、何もできない。

いや、ここで諦めたら駄目だ。どうすればいい。考えろ。弱る思考がはじき出したのは、ゲーム的発想。

やったことは単純。文人が蹴られた方向に先に回り込むだけ。

 

転移した場所に物があったら、重なってしまうのだろうか。

そういう、思考。もしかしたら転移場所がズレるだけかもしれない。

文人が地面に落ちる。が、塙は転移してこない。その場で火球を作り出すだけ。

――賭けに勝った。星型弾のチャージを回す。当てる。絶対に!

 

炎が生成されるよりも速く、星型弾は投射される。しかし、

 

「こんなのに当たっていたらとっくのとうにやられてますよ」

 

回避される。そして炎の球が放たれる。火球を避けるのは初めてだ、いけるか!?

投射されたそれは、時生の予想以上の速さで来る。熱量が、近づく。それに怯える。

 

「っ……」

 

体を捻って躱す。が、体勢は崩れる。それを見逃さずに炎の球をもう一度塙は生成する――

 

その時に二人は気づく。

この場所にいつの間にか煙が漂っていることを。

そして、時生の足元から文人がいなくなっていることを。

 

「っまずい!【看破】っ……」

「遅いッスよ」

 

ボロボロの体。しかしなぜか立ち上がっていた文人が塙に接近していた。

気づいた塙は、作りだしておいた炎の球を顔の前に置き、盾にしようとするが、そんなのおかまいなしのように

――文人はその拳を顔に振り抜いた。

 

 

 

 

丸眼鏡が割れ、落ちる。

 

「ふふっ……正気じゃない。その腕が焦げるというのに!殴りますか!!」

「……」

 

塙は鼻から血を流しているが、立ったまま。文人は焦げた右腕をそのままにして座り込む。

 

「おっと。もうこの戦闘は終わりですよ、魔法少女」

 

星型弾の追撃。それを土壁で片手間に防ぐと、塙は言う。

 

「ええ、ええ。あなたの心意義に免じて、ワタシはもう直接は戦いに関わりません。もちろん魔法少女のことも少しお話しましょう」

 

時生も、ステッキを下ろす。塙は文人に訪ねる。

 

「しかし解せませんね。もう貴方は立ち上がれないほどに痛めつけたはず。どうして行動できたのですか?」

「……これっすよ」

 

文人が左手に持っていたのは、何かが入っていたであろう空の蒼い瓶。

 

「ポーション、って言ったらわかるっすかね……俺はまだ作れないンスけど、知り合いからもらっていたのをたまたま思い出しただけっす」

「ポーション! なるほど、興味深い……」

「で、魔法少女のことは話してくれないんすか?」

「いやいや、君たちはそれよりもすべきことっていうのがあるでしょう?」

 

ねえ?と分断されたもう一つの方面……虎次郎と哲夫の方を塙は見る。確かに、さっさと合流したほうが絶対にいい。

とはいえ、時生は痛みと修羅場慣れしていないことからくる疲労がかなりあるし、文人はグレネードが尽きて右腕は使用不能。何ができるのかはわからないが、いないよりはましだ。

 

「それでは、せいぜい頑張ってきなさい、高校生ども」

 

塙が指パッチンをすると、作られた壁が崩れ落ちていく。

そこにいたのは。

 

――哲夫の前に圧倒され、片膝をつく虎次郎の姿だった。

 



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その26/クライマックスフェイズ・タイマン主義者

――時は遡る。

【血狂い】が発動した哲夫に対して、虎次郎がまず行った行為は単純だった。

 

「――セカンドフォーム」

 

間合い(リーチ)で優勢を取る。

翼は生やし、飛翔。分断された今現在、虎次郎と哲夫が戦うフィールドは入り口にたいして横に長い状況になっている。

ゆえにまずはその入り口に向かって右側へと飛ぶ。そして、哲夫に対して先端が当たるように鉄骨を振るう。が、しかし。

 

「そんな大振り当たるわけねえよなあ!?」

 

鉄骨をジャンプして回避、そして振り終わりの勢いが消えるタイミングで鉄骨の上に飛び乗る。

この状況だと何もできない。たまらずセカンドフォームを解除する。

 

「はっ……解いたか。ならこっちのもんだ」

「っ……」

 

虎次郎が魔法少女になってから、こうして哲夫と戦うのは今回が初めてではない。

その時に、わかっていることがある。

 

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

考えるまでもない。【血狂い】は自傷という代償あって発動する異能。

その代償から発揮されるリターンの大きさは、いくら特別なトレジャーだとしても、たかが代償が”幼女になる”程度のメタモルステッキではかなわない。

 

笑い、叫びながら突撃してくる金髪のヤンキー。虎次郎はその連撃を捌くことで手一杯だ。

――そこに現れる、一匹の白い獣。

 

「死ね!ですわ!」

 

後ろから背中を硬化魔法をかけた爪で斬りつけに飛びかかる。虎次郎が劣勢なら、たとえ【血狂い】を増長させることになっても、二対一のほうがメリットになる。

その考えは間違ってはいない。が。

飛びかかろうとしたミケの目と、紅に染まった哲夫の目が合う。

 

「動物虐待は趣味じゃねえけどなあ!」

「にゃっ……」

 

即座の回転攻撃。振るわれたバットは見事なカウンターとしてミケの胴に入る。そしてそのまま攻撃は続く。

ミケはくるりと宙で一回転して着地するが、そのダメージは大きい。

 

「テメエ動物愛護団体に怒られっぞ……!?」

「魔法使って襲ってくる猫なんてそれはもう猛獣だろ?正当防衛だっつーの」

 

打ち合って鍔迫り合い。そしてそのまま身体強化の差を見せつけられ、虎次郎は吹き飛ばされる。

しっかりと受け身を取って立ち上がりながら、次の手を考える。

 

ミケは回復魔法が使える。なら、戦闘続行は容易い。こっちはこのままじゃ劣勢のまま。

ならば、と考える。

 

(あっちは血をガンガン流している。それはつまり戦闘に時間制限があるということ)

 

殴り合う。威力は自分よりも上で、強い。それは事実として受け入れる。が、それは重い代償を支払っているから。

ならば、その重い代償に押しつぶされてしまえばいい。

 

(それでも、押し負ける可能性はある。短期決着も捨てがたいが、ここは……)

 

欲張っていこう。虎次郎は叫びながらバットを振るう。

 

「スマッシュ!!」

「っ!?」

 

横薙ぎ。それを哲夫はバックステップで避ける。でも彼は知っている。

 

「その後には隙があんだろ!?」

 

大振りな縦の一撃。しかしそれを虎次郎は――躱す。

そして顔面を狙って振るうと、クリーンヒットする。

 

「言っただけだ。騙されたのか?」

「テメエ……」

 

哲夫が顔を手でさわると、鼻血の跡が残る。身体強化は体の耐久性も高めるゆえ、致命傷にはなりえないが、これでまたタイムリミットを縮められた。しかしそれは。

 

「クソがっ……」

 

――目が、さらに紅く光る。

目の光が残像となるほどに、また動きが加速する。血を流せば流すほどに強くなる。やはり厄介すぎる。

しかし、毅然と、ニヤッと笑って虎次郎はまたそれに対処する。

 

「ほらほら、全力発動してもその程度か?強さだけを目指してるならさっさと倒してみろよ……っ」

 

――基本正々堂々と戦う虎次郎だが、一応ダーティな戦闘方は文人から学んでいる。

すなわち、煽り。口車を回せば隙が多く生まれる。得意でもないし好きでもないが、この緊急事態だ。やるしかない。

虎次郎も哲夫も、呼吸が荒く、汗を流すしながら、打ち合う。しかし余裕があるのは、虎次郎のほうだ。

やれる、これなら。虎次郎が叫ぶ。

 

「ミケっ!」

「ですわっ!!」

「【スマッ……」

 

同時攻撃。焦りが全面に出ている今なら、哲夫は躱せない。

虎次郎の攻撃を躱しても、ミケの攻撃が当たる。血でのタイムリミットが格段に縮まる。

 

そこで、哲夫が取った行動は。

 

「――おまえは、弾丸。そうだな」

「っ!?」

 

虎次郎を弾丸とみなしての、横薙ぎは、【スマッシュ】で振るわれた虎次郎のバットとかち当たる。

当てた対象を弾丸とみなし飛ばす効果と、相手を遠くに吹き飛ばす効果。どちらも特殊効果を持つ一撃が、同時にぶつかったとき、どうなるのか。

虎次郎もわからなかった。哲夫も、理解してはいなかった。

 

しかし、裁定の女神は。

 

――哲夫に微笑んだ。

 

「嘘だろ!?」

 

すなわち、威力が高かったほうの特殊効果を採用する。虎次郎より哲夫のほうが力が強い。ただ、それだけのこと。

虎次郎は哲夫を中心として半回転というありえない軌道を持って、飛びかかっていたミケの胴体に背中から突っ込む。

 

「みゃっ!?」

「くっそ……」

 

 

そのまま床に転ぶ一人と一匹。ミケは虎次郎の下敷きになっている。

哲夫はすかさず身を翻し、仰向けになった虎次郎の顔面めがけて踏みつけを入れようとするが、間一髪首をひねってかわす。

素早く立ち上がろうとして身を起こすが、その背中に向けてバットが振るわれ、分断された壁のほうへと飛ばされる。

 

「きっつい……」

 

賭けに負けた。こっちは相当なダメージを負って、ミケもそこでノビている。

さすがの西浦もその状態のミケは狙わないようだが、かわりにこちらを見て目を離さない。

 

片膝をつきながら、立ち上がろうとする。そのとき。

 

「なんだ……?」

「嘘だろ。やられやがったのか」

 

後ろの壁が崩れ、ボロボロになった文人と時生が現れる。

 

 

 

「星沢はともかく、塙ならお前らを倒すと思ったんだがな……」

「いやいや、これ以上餓鬼の喧嘩に本気になるのはのは大人としてカッコワルイですから。後は自分でどうにかしてください」

「そうかよ」

 

眼鏡を外した塙が意地悪く笑いながら西浦に向かって話す。西浦は考える。確かに三対一は分が悪い。

だから、どうしたと。

とりあえず近距離が得意じゃないやつから各個撃破すればいい。そう思ってまず時生の方へと駆けようとする。が、そこで左脚に違和感。

 

「トリモチっすよ」

 

()()()()

つまずきかけるが、右足を前に出して踏ん張る。しかしそこもまた狙われる。

 

「シュー……ト!」

 

蒼い星型弾。それがバットでも弾き返せやしない左足ギリギリを狙って放たれる。

すんでの判断で靴を脱ぎ、躱す。体制を崩す。だが、その隙を三人目が見落とすはずもない。

虎次郎が、駆ける。

 

「【スマッシュ!!】」

 

――哲夫の胴体に、その一撃が刺さる。

敗因は一つだった。

西浦哲夫は、()()()()()()()()()()()()

いくら雑兵とはいえ、ヤンキーたちを一気に突っ込ませ使い潰した。

せっかくの好機をしてしたことが、ただの分断だった。

彼自身の接近戦能力がなまじ高かったのもあり、彼は個人戦(タイマン)主義者だった。確かに、時生と星沢、文人と塙、虎次郎と哲夫。それぞれの相性は悪かった。

けれど、その分断が突破されれば、一気に情勢は傾く。集団による連携、その思考がまったくなかったためだ。

もし星沢と塙を率いているのが【チームワーク】を修得したモヒカン・山田一晴だったなら、時生たちは何も出来ずに終わっていただろう。

彼の望みとは裏腹に、彼は使われる将であったほうがよかったのだ。

 

 

――廃工場の入り口側から、西浦が吹き飛ぶ。

さすがにセカンドフォームの鉄骨でなかったのもあり、廃工場の前の何の車両の通っていない道路に転がるだけだったが、その威力は凄まじく、立ち上がるのにやっとという感じであった。

そこに塙が短距離転移で、西浦の元にやってくる。

 

「ふふふ。あれだけ啖呵切っておきながら、三人になった瞬間数秒で惨敗ですか。これもしかしなくても星沢くんのほうが君より強かったんじゃないですかあ?」

「……黙れ。俺は、俺は……」

 

虎次郎たち三人と一匹も、廃工場から出てくる。

虎次郎が、喋る。

 

「なあ、もう、勝負、ついたろ? 俺たちが欲しいのはお前が言ってた通り塙からの情報だけだ。命を奪いたいわけじゃないし、奪ったら面倒なことになる」

「黙れ、黙れ、黙れ!! 俺はなあ、強くなりてえんだよ!! この国で、いや、この世界で!!もっともっと!! まだ負けてねえ!!」

「……っ!」

「虎次郎のアニキ、もうアイツは駄目ッス。さっさと意識を飛ばしたほうがいいッス」

「……そう、だな」

 

虎次郎が駆け、時生が星型弾をチャージする。

哲夫は、絶叫する。

 

「寄越せ塙!!()()()を!!」

「ふふ、わかりました」

 

塙は、胸元から黒い星のステッカーのような物を取り出し、西浦に手渡す。

そして西浦は左手にバットを持ち、右手でそれを天に掲げると、そのステッカーから黒い光が漏れ出す。

 

「さて、データを取る準備をしませんとね……」

 

塙は空間魔法を使ってビデオカメラを取り出し、起動する。

他の三人と一匹の動きが止まる。

 

「おいおい、嘘だろ……」

「あれって……」

 

――発光が最高潮に達すると、変化が起きる。

西浦の周囲に、投影された宇宙が広がる。その闇の中から星々が照らすように見えるその空間で、西浦の体は無重力のように浮き上がる。

 

「待て、待て待て」

「シュートっ!!!」

 

時生が蒼の星型弾を投射する。しかし、その投影された宇宙の前でかき消えてしまう。

――西浦が瞼を閉じ、全身が発光。服もバットも消え、男と分かる体の線が明らかになる。

 

「くっそ……【スマッシュ】!!」

 

西浦に対して、スキルでの一撃を放つ。が、展開された宇宙に触れた瞬間、音も無くその攻撃が止まってしまう。

――彼の体が変成していく。足、臀部、胸と下から順番に丸みが帯びていき、身長が落ちる。顔はその面影を残さぬまま、金色の髪の美少女へと変わっていく。

 

「っ……!」

「無駄ですよ。変身バンク中に、攻撃はできない。それがお決まりで、ミームとして反映されているのですから」

 

時生も、虎次郎も攻撃を入れていくが、全く通用していない。それを見た塙が嗤う。

――彼が無意識のまま小さく空中を輪を作るようにスケーティングすると、その軌跡に沿って六つの黒い星が等間隔に生成され、彼が輪の中央に戻ると、その星が彼の体に一つずつ吸い寄せられていく。

 

「なるほど、こういうふうにして変わってくンスね……」

「これは……きれいですけど……きついですわ……」

 

文人とミケが、声を上げる。確かに、その様子は美しかった。

――まず始めに右腕に星が当たると、それは黒色の手袋となった。左腕も同様に変わり、両足に行った星は太ももまでの黒色のタイツとなる。

五つ目の星は胸元に黒の星の意匠を施したゴシックロングワンピースになり、最後の星は頭に行き、黒のカチューシャとなり、その髪は金のまま腰まで伸びる。

 

「”汎用試作魔法少女化礼装”、起動実験成功ですねえ。素晴らしい……」

 

塙がつぶやく。その声色に魔法の発展の喜びを乗せながら。

――そして、その手に黒く染まり、星の意匠が施されたバットを持って、着陸。

彼が目を開けると、笑いながら、ハスキーな女声で言う。

 

「いいねえ、最高の気分だ。強くなった感じがする……これなら、ああ、俺一人でいい。役にたたねえアイツラなんて放って、お前らを殺せる」

「マジかよ、ざっけんな……!!」

 

金髪紅眼の魔法少女と化した西浦が、虎次郎に向かってバットを振るう――!!

 

 




これがやりたかった。

次回、次々回あたりで第一章決着です。


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その27/クライマックスフェイズ・”魔法少女”

本日二話投稿です。まだお読みでない方はそちらを。


――まず最初に動いたのは、文人だった。

 

「【気配遮断】」

 

とりあえず、ステルス。これからどう動くかはともかく、これをしない限りは始まらない。そして《インベントリ》から拳銃を取り出し、左手で持つ。できることならば、これは使いたくは無かったが。

文人がそうしている間に、虎次郎は叫ぶ。

 

「とりあえず廃工場まで戻るぞ!」

 

――こんな路上での戦闘は危険すぎる。セカンドフォームに切り替え、背中にミケを乗っけて飛ぶ。時生もそれに追従して飛びながら、後ろめがけて牽制の星型弾を放つ。しかし。

 

「ああ、いい、いい!体が軽い!」

「速え!?」

 

西浦がその長い金髪をなびかせながら走る。その速度は明らかに虎次郎や時生たちより速い。

しかし牽制の星型弾を避けながらの移動。ギリギリ追いつかれない。

なんとか入り口まで戻ったところで、虎次郎が空中で急停止。ひねりを利かせながら鉄骨を振るう。

が、さっきの再現のように跳んで避けられる。

 

「くっそ……」

「なんの!二段構えですわ!」

 

跳んだところを背中に張り付いていたミケが飛びかかる。その爪は哲夫の右腕の肌をとらえ、そこから血を流させる。

 

「ん!?」

「血が、流れたですわ!」

 

――時生と虎次郎が魔法少女として戦ってるとき、痛みは残っても外傷は残らなかった。だが、西浦は今血を流した。

そこから導き出される事実。

 

「やっぱり魔法少女は魔法少女でも、パチモンかよ……!?」

「そうかあ?あたしはそうは思わない。いや、俺だっけ?まあいいや」

「……精神汚染はしっかりしてんのかよ」

「どうでもいいや。強くなれたんだからさあ!!」

 

ミケと哲夫が着地する。哲夫はそこでミケの方を向いたと思うと、付けられた傷を撫でる。

 

「ああ、そうだ。もう、一人でいい。だって、こういうこともできるんだもの」

「にゃ!?」

 

柔肌から出た血が三滴、空中に浮かぶと、それらは膨張し三本の血色の槍へと姿を変える。

それがミケに向かって投射されると同時に、哲夫自身は時生と虎次郎のほうに向かう。

 

「にゃ、にゃあ!!」

「――解除!牽制、頼む!」

「はい!」

 

ミケがなんとか避ける中、虎次郎が時生に叫ぶ。

これからは接近戦になる。そう読んだ虎次郎はセカンドフォームを戻す。指示を受けた時生が星型弾を投射する。

 

 

「あはははは!!わたしのトレジャーのことを忘れたのかしら!?」

「えっ!?」

 

星型弾がバットで弾き返されると、それは消えずに時生のみぞおちめがけて曲がって飛ぶ。

その魔球を避けられるわけもなく、腹に食らって吹っ飛ぶ。

 

「時生っ!?」

「こっちを見てよ、虎次郎」

 

眼には、狂気を浮かべながら殴りかかっていく哲夫。虎次郎もたまらず応戦するが、その一撃一撃が、魔法少女になる前、いや、それ以上に重い。

しかもそのバットの応酬の最中でも、

 

「ほうら、もううちは多対一でも負けない。でしょう?」

「……さすがに、きつすぎんだろ……」

 

――血色の槍が、ミケと時生向かって放たれていく。おそらく自動ホーミングなのか、虎次郎から眼をそらしていないがその軌道は正確だ。

吹き飛ばされた時生も、ミケも、躱すのに集中している。これでは、援護攻撃は望めない。

虎次郎は考える。やるしかないのか、スマッシュを。だが、蘇るのはさっきの記憶。

トレジャーの効果を使われてしまったら、撃ち負けてしまう。

 

「いいね、いいね! ギアがかかってきたわ。星よ、もっと力を!」

「やばいやばいやばい……」

 

虎次郎はドン引きしながらも、哲夫との殺陣を続ける。が、その黒と金の魔法少女の体に変化が起きる。

右腕の血が、表に出てくるスピードが早まる。

 

「増血かよ!?」

「もう、もう、時間切れなんておきない。そうだろう、虎次郎?」

 

駄目だ。これで時間切れさえ狙えない。虎次郎の表情が深刻に、絶望に歪んでいく。

そして、得てしてこういう弱気になったときに、ミスは起きるというもの。

 

「しまった」

 

バット同士が鍔迫り合った。この状況で、これをしたら、負ける――

虎次郎の頭が、真っ白になる。その時。

 

「この時を待っていたッス」

 

――文人が動く。哲夫の右腕を狙った、超近距離射撃。

誰がどうしようが外さないその距離で、拳銃を放つ。

鍔迫り合いの均衡が崩れ、虎次郎が哲夫のバットを弾き飛ばした。

追撃に虎次郎はバットを振るうが、それはバックステップで避けられる。

そして。

 

「邪魔したの?殺す」

「ああ、これは……駄目みたいっすね、俺」

 

血色の槍とともに、哲夫が文人向かって駆ける。文人の身体強化、そしてこの傷では、もう避けきることなんてできやしない。

――本当は頭か、心臓を狙おうかと思った。でも、哲夫の魔法少女体が傷を受ける以上、そうしたら死んでしまう可能性が高い。

それでも、虎次郎(あの人)の部下として、主人の意に背いても殺すべきだったのに。

 

「――甘いのは、俺だったッスね」

 

――哲夫の蹴りが、文人に入る。壁まで吹き飛んだ彼の体は、四本の血色の槍で四肢を貫かれ、磔にされる。

 

「……文人っ!?」

「さあて、バットを、って、おや?」

 

虎次郎が悲痛な声を上げる。

哲夫は振り返るが、彼の視界にバットが見当たらない。何処にいったのか。

 

「念動魔法、覚えておいてよかったですわ……!」

「クソ猫がっ……」

 

ミケが浮かして、運んでいた。

いつも使っていた浮遊魔法の拡張としての、念動力(テレキネシス)を扱う念動魔法。

それを使ってミケは自分の近くに浮かし、そのまま逃げ去ろうとしていた。

ミケを攻撃しに行こうとする哲夫に回り込むんで、虎次郎が行方を阻む。

徒手空拳とバット、武器持ちかそうじゃないかはその実大きい。さっきよりも均衡した状態で、ミケを逃がすことに成功する。

――ミケは自分の無力さを実感していた。

あの【血狂い】とは相性が悪かったとはいえ、何もできなかった。

その蒼い眼に涙を浮かべながら、入り口めがけて走っていく。

 

「まあ、バットが本体じゃないし、変身解除されることはないから、まあ無問題だけどね」

「それでも、さっきよりはやりやすくなった……」

「いや?そうでもないわよ?」

 

哲夫は自分の右手の爪で左腕を大きく引っ掻くと、そこから血が溢れ出し、膨張。バットの形になる。

 

「……まじかよ。その力は反則だろうが……」

「あと、言い忘れてたけど、【血狂い】の力はそのままだからね、虎次郎」

「っ!?」

 

眼が、さらに紅く輝いて、身体強化をさらに強める。

超高速で放たれた膝蹴りは、桃色の魔法少女のみぞおちに刺さり、吹き飛ばされる。

 

「ああ、もう、これで終わり?あっけないねえ。どうしようか。さすがに首刎ねたら死ぬかなあ?」

「っ……」

 

哲夫が、近づいてくる。その手に持った血色のバットが変形して、剣のようになる。

呼吸ができない。立ち上がれない。もう、これで、終わりなのか。

虎次郎の視界が霞むなか、かすれた声で、叫ぶ。

 

「……時生っ……」

 

 

 

 

いつの間にか来なくなった血色の槍。

眼を閉じる。集中する。それと同時に、今までの事を思い返す。

そうしている場合じゃないだろ、って?いや、今こそそうするべき時なんだよ。

 

最初流れで、魔法少女になって。

虎次郎先輩と会って、ミケに会って。

能力何かな、って検証して、文人にきついこと言われて。

サブカル研の人たちと出会って、山田たちの舞由野高校と戦った。

あの時は死ぬかと思ったけど、なんとか生きてる。

そのあと明日羽さんと会って、哲夫と塙に会って。

こうして、戦って。

 

平々凡々だった人生に、色がついた気がした。

いや、いい色ばっかじゃない。この疲労、この体の痛みは正直体験したくは無かった。

 

なんとなく、財団が俺のもとにステッキを送ってきた理由は、わかった。

俺が平凡(モブ)だったから。そういう人が力を持って、英雄は生まれると思ったんだろう。

その思惑に乗るようで、ちょっと腹立たしいけれど。

 

文人も、ミケも、たぶん俺のためにお膳立てしてくれた。その期待は裏切れない。

それに。何より重要な点だ。

 

――優しくて、可愛くて、強くて、弱い、あの桃色の少女が。

 

『……時生っ……』

 

助けを求めて、泣いてるじゃんか。

 

さあ、覚醒しろ、わたし()

 

「魔法少女ミーティアレイン・セカンドフォーム!!」

 

 

 

「シュート」

「……っ!いいところに……」

 

――人の片腕ほどの直径の巨大な星型弾が、先程とは比べられるほどじゃない速さで飛んでくる。

哲夫は虎次郎の元から飛び退きながら、弾が飛んできた方向を見る。

 

そこにいたのは、先程とは姿を変えた蒼色の魔法少女の姿。

ミニだったスカートは、中世貴族のようなフリルがたくさんついたロングスカートに。

その背には地面につくまでのマントをつけて。そしてステッキが時生の足から首ぐらいまでの長さの長杖と変化する。

時生は、それを地面に付きたてて、両手で握りしめながら魔法を行使する。

 

「――ガトリング」

 

そう宣言すると時計の数字の並びのように浮かび上がり空転を始める十二個の星。

その一つ一つがこぶし大と小さいそれらが、機関銃のように連続、そして高速で発射される。

 

「まあ、この程度避けきってしまえばいいわ……!?」

 

十二個の連射を横移動で避けきろうとするが、それの弾幕は十二発では終わらない。

撃ったところから再生成されるそれは尽きることなく哲夫を攻撃し続ける。

たまらずその攻撃を血色に再変形したバットで捌く。しまった。

 

「このためにあの白猫は……!」

 

飛び道具を確実に跳ね返すあのバットはシンプルな時生の特攻《メタ》となりうる。

それを考慮して、文人は腕を狙ったし、ミケはそれを持ち去った。

 

「ちっ……なら、これを……」

「ホーミング」

 

哲夫が宙に浮かべた四本の血色の槍に対し、時生が繰り出した六発の人の頭サイズの星型弾は速度こそさっきと落ちるものの、血色の槍に対し追尾するように放たれる。

四つの弾と四つの槍は打ち消し合うが、残りの二つの弾は、哲夫のもとへ。

バットで捌こうとするが、弾が妙な軌道を描き、バットを躱しみぞおちへと刺さる。

そして。

 

「スナイピング」

 

たった一発。大きさも”ガトリング”並。しかし、気がついたら当たっていたというほどの超高速弾。

それが哲夫の右手にぶち当たり、血色のバットが下に落ちて霧散する。

 

――時生はサブカル研で”セカンドフォーム”の内容を大島から言われたときのことを思い返す。

 

『君の”セカンドフォーム”は!!星型弾が単純に大きくなるだけではなく、速度、個数、大きさ、追尾のオンオフをマニュアルで変更することができる!!』

『それは……すごいですね。でも使いこなせるかな……』

『いや!!別にその場で撃つたびいちいちマニュアル設定する必要はない!!今のうちから使いやすい弾のテンプレートを考えておいて、それを呼び出すだけでいい!!』

 

そうして、考えた弾。

個数一、速度高、大きさ大の”シュート”。

個数十二、速度並、大きさ小の”ガトリング”。

個数六、速度低、大きさ中、追尾ありの”ホーミング”。

個数一、速度超高、大きさ小の”スナイピング”。

これらの種類さまざまな弾で圧倒する。それが魔法少女ミーティアレインの”セカンドフォーム”。

 

「――ガトリング」

「クソが、チートかよ!?」

「そうだな。チートだ」

 

矢継ぎ早に繰り出される星型弾を避けながら、哲夫が叫ぶ。チートか。確かにそう見えるかもしれない。けれど、この”セカンドフォーム”には絶大な弱点がある。

 

『ただし、これだけではない!虎次郎くんの”セカンドフォーム”の鉄骨が破壊力の代わりに小回りを失ったように、デメリットが存在する!』

『……なんですか?』

『君は射撃をしている間、()()()()()()()()()()()()

 

言われたあの時はわからなかったけれど、今になってこの弱点がどれほどヤバいかわかる。今までの戦いで飛べることがどれだけ反則か思い知ったし、過去二回の戦闘の決め手である近距離射撃も不可能になる。

それこそ相手が短距離転移持ちの塙なら三秒で負ける自信がある。

けれど、遠距離は強くなく、近距離戦が主な哲夫に対し、近づかれていない状況。なら、いくらでもやれる。

 

「クソッ!!なんで、あたしが、こんな、やつに!」

「……相性の差?」

 

冷静にそう言ってやると、哲夫の顔が歪む。が、正気を取り戻したように彼は叫ぶ。

 

「……だとしても、負けてたまるか!」

 

哲夫はスカートをめくり、自分の太腿を爪で引っ掻く。そうして出てきた血と、両腕からの血が合わさって全方位を囲む血色の殻が形成され、そのまま突撃してくる。

 

「シュート!」

 

強化された単発の星型弾は、盾となる血色の殻によって阻まれる。確かに、これは辛いかもしれない。

けれど、もう大丈夫だ。時間は稼いだのだから。”ガトリング”で牽制しながら、叫ぶ。

 

「虎次郎先輩!」

「……おう!」

 

桃色の魔法少女がよろよろと立ち上がり、”セカンドフォーム”を発動する。いつもより重たい、されど決心がついた足取りで踏み切って飛ぶ。

 

「こっちへ!」

「させ、るかあああ!!!」

 

哲夫の殻のから槍が湧き出てきて、それは虎次郎向かって何本も投射される。

それらを神がかった集中力で躱していき、時生の隣に虎次郎は立つ。

 

「なんか、どうにかなる方法があるのか?」

「あります。ほら、前にわたし()が気絶したときの……」

「ああ、なるほど。腕が鳴る()!」

 

時生は考えてあった最後の五種類目の弾を、頭上に投射する。

性質は個数一、速度零、サイズ超巨大、追尾オン。

 

「バズーカ」

 

全長が三メートルほどの超巨大な蒼い星。それが杖を両手で持つ時生の頭上に現れる。

 

「よっしゃあ!行く()

「やってください!」

「クソ、がああああああ!!」

 

哲夫もこの場にあるヤンキーたちの全ての血を、それこそ文人を磔にしていた血の槍も、自分を覆う殻も、それら全部を混ぜ合わせ一つの球に変化させる。

虎次郎は、宙に飛び上がり鉄骨を横薙ぎできるように構える。

 

「【スマッシュ】!!!!」

「あああああああ!!!!」

 

破壊力最強の”セカンドフォーム”による全力の【スマッシュ】を超巨大星型弾にぶつけると、それは見るも鮮やかな蒼とピンクの二重螺旋の軌跡を描き、哲夫の血の弾に衝突する!!

互いに持ち得る最強の攻撃、しかし大きな違いがそこにはあった。

強い絆を持つ魔法少女二人による合体攻撃を、たった一人の魔法少女が止めれるわけがなかったのだ。

 

「は、はは……」

 

――血の球が、破裂し霧散して消える。けれど、未だ螺旋の軌跡を描く星型弾は止まらない。

金と黒の魔法少女にそれは流星(ミーティア)として衝突し、強い光が輝いて……。

 

「負け、か」

 

聞こえたのは、男の声。

変身が解かれた西浦哲夫は、前のめりになって倒れ伏した。

 

 

 

 

 




次回、第一章エピローグ。


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その28/エピローグ

「これで、終わったん……ですよね?」

 

鉄骨を床に置く虎次郎と、長杖を握る手が震えている時生。

西浦が倒れ伏すのを見ても、まだ戦闘が終わったことを信じられない。さすがに第三形態は勘弁だ。そんな時生に対して、虎次郎が声をかける。

 

「大丈夫、だ。戦闘は終わった」

「そう、です、か。良かった……」

「でも、まだ、やることはある」

 

セカンドフォームを解除し、へたりこみそうになる時生の手を虎次郎が掴む。虎次郎がもう片方の手で示すのは、血まみれで壁に寄りかかり座る文人の方向。二人は彼のもとへ駆けつける。

 

「大丈夫か!?文人」

「虎次郎、の、兄貴……さすがに、駄目、みたいっすね」

「文人……」

 

口元からも血を流して、血混じりの咳をする。虎次郎は完全に泣いているし、時生も涙ぐむ。

文人が、途切れ途切れになりながらも、喋る。

 

「虎次郎さん、最初に、会った、時もこんなんだったっすね。そこで拾った命を、貴方のために捨てるのは、本望、っすよ」

「ふみひと……」

 

嗚咽を上げながら感動の別れっぽいのをしている二人につられてちょっと泣きながらも、頭の何処かで思い出す。

そう。そうだよ。

 

「わざわざ餓鬼の喧嘩で死なすわけないじゃないですか。この場で見殺しにしたら責任問題でワタシクビにされますし」

「そうですわ!」

 

――回復魔法あるじゃん。

短距離転移で現れたのは、ミケの首根っこを掴んでいる塙。その近くにはバットが浮いている。

たちまちに現れた彼らを見て、目元を赤くした虎次郎が叫ぶ。

 

「そ、そ、そうじゃん!!死ぬわけないじゃん」

「やっぱ、虎次郎のアニキは、うっかりやですね……ふふっ」

「笑ってんじゃねええええ!!!」

 

死にかけながらも、笑いをこらえる文人。どうやらさっきの問答は茶番だったらしい。

目元を隠しながら、時生も笑う。今この目は見られたくない。虎次郎さんと同じくからかわれてしまう。

 

「って、てか、それ気づいてたんならさっきのやりとりは何でやったんだよ!!」

「こふっ……決まってるじゃ、無いっすか……」

 

血まみれになりながらも、彼は時生が見たなかで一番の笑顔で言う。

 

「――泣いてる女の子ほど、可愛いものってないじゃ無いッスか」

「よしテメエちょっと頬貸せ――」

「虎次郎先輩、ストップストップ!!」

「はいはい治療しますからねえ。ちょっと黙っててくださいよ」

 

思いっきりビンタしようとした虎次郎に時生がストップをかけ、その小さな体を後ろから抱きかかえ文人から離れる。

そして、塙とミケがこの場のものの治療を始めるのだった。

 

 

 

「さて、これでこの場にいるヤンキーどもの命は保証されましたかねえ。じゃ、約束の質疑応答やりますか。魔法少女関連アリ、一人一つ聞きましょうかねえ」

 

二十分後。戦闘が終わり、夜が更けた廃工場。回復魔法を大体の人、すなわち文人はもちろん哲夫や星沢たちにも施し終わった頃。塙が首を回しながら喋り始める。

文人など負傷者が眠る中、魔法少女二人と白猫が白衣の怪人と対面する。

時生とミケが悩み始める中、間髪入れずに虎次郎が問いかける。

 

「変身解除の方法は?」

()()()()()

「――は?」

 

その言葉を聞いて虎次郎がバットを構える。その様子を見ながらやれやれと首を振るう塙が、ため息をつきながら続ける。

 

「まったく、直情的ですねえ。財団側は何も知りません。その……えーっと、”メタモルステッキ”のことは。だいたいのスペックとかはさすがに知っていますけれど、それを作った担当者がまあ面倒な人でねえ。そこだけは開示しなかったんですよ」

「その担当者は誰だ」

「質問は一人当たり一つ……いや、そこの爆弾の餓鬼が今寝てますし、その分は温情で応えてやりましょう。それを作った人物の名は天月修。戦争で活躍した大魔術師ですよ」

「っ――!!」

「だから変身解除の方法を知りたければそいつをぶん殴るしかありませんねえ」

 

大魔術師。異世界との戦争を終わらせた英雄の通称。予想はしていたけれど、やはり出てくるか。

それを聞いた上で、次は時生が言葉を投げかける。

 

「――大魔術師・天月修の強さを教えてほしい」

「ああ、そんなのネットで検索かければわりとわかりますよ……と言いたいところですが、あなたたちの戦いぶりに免じてちょっと機密を漏らしますかね」

「ぜひ」

 

大魔術師が活躍したのは自分たちが生まれるより前の頃だ。今こうやって戦った自分たちと、どこまで差があるのか。それは聞いといて損は無いと思った。

 

「あなたたちが持っているステッキによる鉄骨とか星型弾とかはですねえ、天月修の魔法の模倣、コピーなんですよ。言い換えるなら彼が持つ近接魔法を移し替えたのがそのピンクのステッキ。遠距離魔法を移し替えたのが蒼のステッキってことです」

「なる、ほど……?」

「そして、コピーがオリジナルを超えることは()()()()()。だから、君たちがセカンドフォームの次に至り、ステッキの100%を出したとして、天月修の”魔法”単体とやっと互角。これがどういう意味かわかりますね?」

 

魔法単体と互角。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

大魔術師が大魔術師たりえるためには、スキル、トレジャーのそれぞれも魔法並に強いということはおそらく確実。疲労が来て今ちょっと憂鬱だっていうのに、その実力の遠さに少しくらっとする。

 

「まあ、そういうことです。で、そこの猫は?」

「……あの、哲夫を変化させたものは一体何だったんですの?」

「ああ、それですか。それこそが本当に財団が作った魔法少女化トレジャーもどきの試作品。メタモルステッキの劣化コピーですね。本人の資質に沿った能力を強化しますが、”セカンドフォーム”などの形態変化や身体保護機能はついてない、って感じですね。まあ、こっちは普通にダメージか本人の意思で変身解除できるんですが」

 

つかつかと塙は西浦の方に近づいて、その黒の星のステッカーのようなもの……”汎用試作魔法少女化礼装”を拾い上げ、虎次郎のほうに投げる。

 

「これ、正直失敗作でしてねえ……一回使ったら壊れるんですよ。だから、まあ、記念にでも持って帰ったらいいんじゃないですかね」

「……どうも?」

「なんでゴミを渡して有難がられるんですか。ああ、あとひとつ。これは予言のようなものですが」

「はい?」

「君たちは魔法少女である。つまり、その身体には”救世主”としてのミーム、イメージが刻みこまれています。そして、救世主は事件を解決するものですよね?」

「……えーっと?」

「どういうことだ?」

「あー、なるほどですわ!」

 

時生と虎次郎が困惑の声を上げる。ミケは納得したようだが、何を言ってるのだろう。

塙はまたため息をついて言う。

 

「なんで猫が一番頭いいんですかねえ……古今あらゆる魔法現象は文化を参照する。たとえば”世界を救って勇者と呼ばれるようになった話”が文化として定着すると、その逆説が魔法現象になることがある。すなわち”勇者というイメージが定着した人には、救うべき世界とそれを救える実力”が付与される、みたいなことです」

「なる……ほど?」

「ああもう、つまり、アナタたちは特別なヒーローですので、事件が舞い込んでくる。それだけを伝えたかったんですよ!」

 

未だピンと来ていない魔法少女二人に、軽くキレながら塙は言い、魔法を講師する。

塙の後ろの空間が割れる。

 

「ちっ……悪役らしく思わせぶりに帰るつもりが。まあいいでしょう。次会う時はワタシのような雑魚を圧倒できるようになってるといいですね。また会いましょう、魔法少女」

 

そう言うと、彼はそのまま空間の裂け目に入って、手を振りながら消えていった。

消えるのを見届けると同時に、時生が女の子座りで今度こそへたり込む。

 

「――つ、疲れた……」

「お疲れ」

「お疲れさまですわ!」

 

ミケが膝に乗ってきて、虎次郎が屈んで背中を撫でてくれる。

――本当に、長い戦いだった。痛かったし、ずっと考えてたから頭を回した。戦闘っていうのは本当に、学校での生活より辛いものなんだと知った。

 

「しんどかったです……」

「そうか。でも、これですべきことはわかったな」

「はい……魔法少女らしく、事件解決して、力をつけて」

「天月修をぶん殴る。それでいい、らしいな。事件はよくわからんけれどあっちの方から舞い込んでくるらしいし」

「そこらへんの話も、後でしますとして、とりあえず今日は帰宅!ですわ!」

「おう。そうだな!今寝てるヤンキーたちもたぶん起きたら帰るだろうし、さっさと帰ろうぜ!」

 

虎次郎が立ち上がって、伸びをする。時生もそれに合わせて立ち上がり、ミケも膝から降りる。

 

「虎次郎先輩」

「ん?」

 

時生が呼びかけると、こっちを向く。中身はどうあれ、上目遣いでこっちを見る少女は可愛らしく。

改めて、言う。

 

「これからも、よろしくお願いしますね!」

「……おう!」




第一章終了です。ここまで読んでくれた人に最大の感謝を。
もしよろしければ評価ボタンの方もお願いします。

今後の予定です。(興味の無い方は飛ばしてください)
・第一章の改稿・他サイトへの転載を行う予定です。掘り下げの無い所を加筆したりもすると思います。その際にもし新しく話を作る場合、サブタイトルの通し番号に小数点を伴った話を挿入投稿します。
例)その15.5/〜〜

・第一章後の閑話を投稿します。1月が終わるまで隔日ペースで書き、投稿していきます。

・第二章は二月頭スタートの予定です。舞台はお嬢様学校たる葉雪学園と魔法科高校たる才門附属高校。その二つで起きる事件に巻き込まれる感じにしたいなと思ってます。

今後とも「俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。」をよろしくお願いします。 


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間章その1
彼にとってのプロローグ


お気に入り200件感謝です。
今後ともよろしくおねがいします。


――深夜。廃工場にて、西浦哲夫は目を覚ます。

仰向けになって倒れている。血はもう流れていない。が、その体は全く動かない。

 

(あの魔法少女化のやつの代償か)

 

『それを使って変身が解かれた後は、何時間か全く動けなくなるでしょう。具体的に言うと四肢の筋肉が硬くなって、伸縮しなくなるのですよ』

”汎用試作魔法少女化礼装”のことは塙から聞いていた。もちろん積極的に使う理由は無かった。代償の話もあったし、自分は”強い男”でありたいがゆえに、力を得られるとしても女になるのは避けたかった。

なのに、使った。

そして、負けた。

 

「クソッ……!!」

 

自分はなぜ、こうも弱いのか。それに腹が立つ。どんな奴にでも勝てる、無双の力を手にして、この国で偉大な男になるんじゃなかったのか自分は。

絆だとか、優しさだとか、仲間だとか。そういうのに頼らないまさしく無頼の強さ。自分ではそれに届かないのか。

 

「……潰す」

 

絶対に強くなって、あの魔法少女たちを負かす。面子も立たないし番長もやめて、強くなる。何が、なんだろうと。そう、決心する。

が、思い当たる事実が一つ。

 

()()()()()

 

西浦哲夫の強者への計画というのは、至ってシンプルだった。いわゆる”大番長”として君臨し、アウトロー達のカリスマになること。

 

――大魔術師は最初から大魔術師というわけではない。ある研究者が言うには、”強さを増す正のスパイラル”に入ったから強くなった、と言われている。

たとえば、無名だった魔術師が名を上げる。そうすると、”強者”として名が売れる。そして”強者”という称号(ミーム)を魔素が反映して()()()()()()()()()()()。正確には魔法適性が上昇し、強くなった魔術師がまた名を上げ、今度は”英雄”と呼ばれるようになれば、また強化される。そのような”英雄のスパイラル”によって強くなっていった。

 

西浦は”番長”として戦い、名を上げることでそれを実行しようとしていた。しかし、もう負けて経歴に傷がついた以上、それは不可能だろう。

 

じゃあ、どうやって。

 

――魔法学園に入る?いや、今からそんなことは出来ない。自分は高校2年生だ。それに魔法の大学にも入れはしないだろう。

――警察や自衛隊に入り、”闘気”を練り上げ戦う”極限武道”を習うか?いや、それも将来的には難しいだろう。組織から抜けた後にその力を行使すれば”破門”とされ免許皆伝者による”記憶を飛ばす一撃”で使えなくされるだろう。

 

ああ、どうすればいいのか。全く見当もつかない。八方が塞がれた気分だ。

いっそのこと、強く在れないのなら――

 

「おっ。居たね。やあやあ、こんばんは。良い夜だねえ!」

 

良くない想像が哲夫の頭を巡るその時、声がかけられる。

起き上がることのできない西浦を見下ろしながら声をかけたのは、噂には聞くがその正体がわからない、謎の人物。

哲夫は歯を食いしばり、睨みつける。

 

「――何をしにきた、”部長”」

「いいことだよ。ぼくはいつだっていいことしかしない」

 

銀髪赤目の中性的人物。白いローブを羽織り、下は黒いジーンズ。怪しげに微笑む”サブカルチャー研究部部長”がそこにいた。

 

 

 

 

「いやあ、まずありがとね」

「……何がだ」

 

しゃがみこんで”部長”が語りかける。何を感謝される必要があるというのか。

 

「君が、魔法少女を苦しめて負けてくれたことさ」

「っ……テメエ!!」

「煽っているわけじゃあないよ?これは純粋な感謝さ」

 

そう言いながら、部長は何の苦労もせずさらりと空間魔法を展開し、小さな手ほどの空間のひび割れから黒の油性ペンを取り出す。

それを手に取り蓋を開けたと思えば、足の方から哲夫の周りの地面に何かを書き始める。

 

「だから、この純粋な感謝の分を含めて、きみにお礼をしてあげようと思ってね」

「……何する気だ」

「それはひみつのほうが面白いだろう?」

 

素直に殴りたい、と思ったが、今の状況だと何も抵抗できない。なされるがまま。

しかもこの場所は人が来ない廃工場。もう何をしようが、無駄だ。

諦めの境地に至った哲夫に対し、”部長”はニヤニヤして笑いながら、何かを書き続ける。倒れている西浦からではまったく何をやっているのかはわからない。

が、どうせろくでもないことなのはわかる。地面に何かを書く理由なんて、あまり無い。

 

「――魔法の準備でもやってんのか?」

「お、勘が鋭い。そうそう、魔法の準備さ」

「はあ……」

 

ため息をつく。もう軽く諦めの境地だ。

何の魔法か、というのはおそらく秘密なのだろう。しかし何かを書く必要がある魔法なんていうのはあまり聞いた覚えがない。まあ、こいつは魔法学園の主席という噂があるし、”部長”しか知らないなにかがあるのだろう。

 

「……お前は何が目的なんだ?」

「だからいいことをすること、だよ。まあ今はこの魔法を完成させること、だね。西浦哲夫。それにしてもそんなにぼくは怪しいかい?いっつもそんなことを聞かれるんだよねえ」

「……お前ここまでどうやって来た?」

「ん?転移だけど」

「そういうところが問題なんだよ」

 

転移なんていうのは塙のような相当みっちり魔法を学んだものじゃないと使えない。そんな力を持つ謎の人物が怪しくないわけがないだろう。そう思ったが、伝えても理解しなさそうだ。

 

「あっはっは。そういえば、きみのところにいた、えーっと、星沢くん?だっけ。活躍した?」

「……なんでそれが気になる」

「前にちょっとおせっかいを焼いたからねえ。すこしは気になるものさ」」

「……強かった。それに、活躍もした」

 

星沢のことはあまり考えたくなかった。あいつは年下だっていうのに、スキルもトレジャーも自前で持っていた。戦闘センスも高く、正念場が強かった。もしかしたら、自分よりもっと上の器かもしれない。

 

「そうか。でもねえ、きみも強いとぼくは思うよ?」

「……なんかうぜえな、お前が言うと」

「失礼だなあ!これでも励ましてやってるんだぜ?」

 

羨ましい。そう思ったのが見破られたのか、露骨に同情される言葉をかけられる。魔法学園主席に強いと言われても、どうせお前以下だろうが。

 

「そもそも、ぼくが言ってるのはそういう話じゃないさ!精神性の問題さ!」

「……精神性?」

「そう、あの子、星沢くんは戦闘をゲームとして見てる節があってね。だから楽しんで強くなれる。それはそうとしてきみのそのハングリーさもぼくは気に入ってるって話さ」

「そうかよ。でも、俺はあいつらに負けた」

「精神性と実力は関係ないからねえ。じゃなきゃぼくみたいのが強者になってるはずもないし」

「殺すぞ」

 

はっはっは、と”部長”が笑い、油性ペンを置く。そのまま立ち上がると、哲夫に魔法をかける。

 

「おわっ!?」

「浮遊魔法。これ得意じゃないんだけどねえ」

 

西浦の体を仰向けからうつ伏せに変えられ、地面が見える。そこに書かれていたのは。

 

「……魔法陣?」

「そうだね。今から仕上げするから」

 

ちょうど哲夫の体と同じくらいの大きさの二重円。といっても内側の円は本当に少し外側のより小さいだけで、その隙間には何やら見知らぬ文字が書かれている。”部長”は空間魔法で黒のペンキとハケを取り出し、書く準備をする。

ハケをしっかりペンキに浸すと、一気に書き始める。

 

「そーれっ、と」

 

内側の円に接する正三角形が二つ。それはいわゆる、

 

「六芒星、ってやつか」

「ご明察」

 

軽く魔法で風を吹かし、乾かすと哲夫の体を元の位置……魔法陣の中央に戻す。

そうすると、魔法陣が光り始める。それとともに、哲夫は人生の終わりを悟る。

魔法陣。人。そうなってくると思い浮かぶのは悪魔か何か。そういうのの生贄にされるんじゃないのか?

 

「なあ、部長」

「なんだい」

「俺は、死ぬのか?」

「まあ、ある意味死ぬといってもいいかもしれない。けれど忘れないでほしい。――これは、純粋な感謝が六割さ」

「そこは冗談でも良いから十割って言っておけ――!!」

 

軽く叫びながらも、魔法陣は光り輝く。

その輝きに哲夫は目を細め瞑ると、やがて彼の意識が消えていった。

 

 

 

「起きてください! あの、起きてください!」

「ああ……?」

 

目を覚ます。天井が見える。妙だ、廃工場の景色じゃない。

起き上がると、そこには金髪碧眼の美少女。

何やらシスター服っぽいのを着ている彼女は、哲夫に信じられないことを言う。

 

「我が国を、助けてください!()()()!」

「は?」

 

――かくして、西浦哲夫の物語は始まった。

しかしそれは、本編とは大きく関わりの無い物語である。



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決戦後処理

「最近さあ、俺思うんだけど」

「はい、なんでしょう」

 

――アジト。夕方ごろ。虎次郎と時生とミケがいるリビング。虎次郎が時生に話しかける。

 

「時生、食い過ぎじゃねえ?」

「え?」

 

時生はもっしゃもっしゃとチョコレートを食いながら答える。虎次郎は膝の上に乗っているミケを撫でながらそのまま苦言を呈す、

 

「さすがに、魔法少女は太らないとはいえ、お菓子最近よく食ってるよな」

「あー……最近妙にお菓子が美味しくて……」

「いや、まあ、美味しいけどな?それだと戻った時困るぞ?」

「そうですわよ……健康に悪いですわよ……」

 

ミケもとてもリラックスした表情で追従する。それ適当に言ってないか?まあ、いいか。

確かにそうかもしれないけれど、でもなあ……

 

「本当にこの体甘味が美味しく感じちゃって……」

「……もうちょっと運動するか、時生」

「え、効果あるんですか?」

「魔法少女は太りもしませんけれども痩せもしないのですわ。だから、おそらく」

「な、なる、ほど」

「想像してみろ?変身解除できたと思ってたら太ってた、なんていう展開」

 

想像してみる。仮に戻ったとして、学校に戻る。その時にものすごくデブになってたら……

時生は少し身震いをする。

 

「嫌、ですね」

「じゃあ、ちょっと運動するか!」

 

ものすごくいい笑顔をする虎次郎。まあ予想は出来てたけどこの人わりとアウトドア派だな?

インドア派の時生にはその感性は理解できない。けれど言ってることは的を射ている。

 

「じゃ、じゃあ、ついてきます……」

「おう!」

「あ、ジャージとか持ってますの?取り寄せます?」

「ああ、うん。お願い。母さんから服代はもらってるから……」

 

 

渋々同意して、【即日配達】で出現したダンボールの中身を開ける。

青色の長ジャージ。家にあるのは少し大きいし、部屋着にするのにもいいだろう、という感じだ。

 

「あ、着替えるなら別の部屋行けよ?」

「え、別に良くないですか……?同性ですし」

「いいからいいから。女性の体はみだりに見せないほうがいい、と思う。元が男でも」

「えー……?」

 

時生は別の部屋に移動し、着替えるのだった。

 

 

――公園のベンチ。

 

「……」

「お前、意外と体力無いな……?」

 

そこにはぐったりとしている時生の姿。ベンチに座って力尽きたボクサーのようになっている。その姿に虎次郎は呆れる。

 

「仕方ないじゃないですか!?俺オタクなんですよ!?」

「いや、あの戦闘についてこれたんだからてっきりもうちょっと体力あるもんだと思ってたんだが……」

「飛ぶのにカロリーは消費しないんです!!」

 

思いっきり叫ぶ時生。実際持久走とか本当に苦手だったし、あまり体育も好きではない。

その感性が虎次郎にはわからないようだ。今も頭にはてなを浮かべている。

 

「こうやって走るの気持ち良くないか……?」

「無いです。無いです」

「そうか……」

 

ちょっとしょんぼりする虎次郎だが、今回ばっかしは同情できない。これだから陽キャの体力あるやつは。

時生は心の中で僻む。やはりわかりあえない。

そんな時生に声をかける男の声。

 

「いや、気持ちいいと思いますけれど……?」

「思わないよ……って!?」

「おまっ……なんでここに!?」

「ここらへんで魔法少女が出るって噂があって」

 

そこにいたのはパーカーを着た男。あまり顔立ちの特徴は無いが、そのかぶっている帽子でわかる。

魔法少女二人がさんざん苦しまされた難敵。そう、

 

「星沢……!?」

「あー……こんばんわ」

 

【スローモーション】の男、星沢太郎。彼が話かけてきていたのだ。

虎次郎が警戒しつつ、疑問を呈す。

 

「何しに……っていうかお前敬語使えたんだな!?」

「戦いが終われば握手。それがゲームの基本じゃないですか。この前はGG(グットゲーム)でした」

「あれをゲームって言っていいのか……?」

「普通に喧嘩だったと思うんですけど……それで、何か用が?」

 

虎次郎と時生は彼の戦いの価値観に困惑する。そんな戦いってスポーツみたいなものだったっけ?

それはともかく星沢は何の用でここに来たのか。時生の疑問に答える。

 

「はい。まあ、ありますね。シンプルに言うと、西()()()()()()()()()()()。それを伝えに来ました」

「……はあ!?」

 

彼が持ってきたその内容は二人を驚かせるには十分だった。

 

 

 

 

「――と、いうわけで。今の慧海高校のヤンキーはほぼ解散状態になってるんですよね」

「へえ……」

「それは、なんか……ヤバいですね……」

 

星沢から伝えられたこと。

まず、西浦が高校に来なくなったことと、周りの人が行方を知らないこと。そして、青葉廃工場には謎の魔法陣が残っていたこと。

そして、これが魔法少女のしわざだと思ってヤンキーたちが慄いていること。

 

「あ、あと言っておくけど、その魔法陣とかなんとかはまったく無関係だからな?」

「あ、まあそうですよね。それはたぶんそうだと思ってました。それで、問題なのがこれから慧海高校のヤンキーは誰がまとめるか、ってことなんですよ。それであなたの元に来た」

「……それは、番長を俺に頼むってことか?」

「はい」

 

確かに強いのが上に立つしくみならば、西浦たちを倒した魔法少女の虎次郎はまあふさわしいとは言える。

今なら変な噂も立っていることだし、権威づけもできるだろう。

 

「でもな。俺は、というか俺達はその……変身解除をするために、色々戦わないといけねえ。だからまとめるのは断りたいかな……」

「あれ?そうなんですか。てっきり俺は復讐のために俺達と戦ったのかと」

「いんや、どっちかっつーと塙の情報目当てだ。だから別に、そういうわけじゃない。それに俺の考え方はヤンキー向きじゃなかったしな」

「そうなんですか……困りましたね」

「あ、ならさ」

 

時生が口を挟む。

 

「普通に星沢……くん?自身が番長やればいいんじゃないですか?」

「あ、いや、俺は駄目なんです」

 

【スローモーション】とあのすり抜けトレジャーもそうだし、何より土壇場で回避を成功させる胆力。

まさしくそれは番長にふさわしいんじゃないかと時生は思うが、星沢は手を振って否定する。

 

「なんで?正直めちゃくちゃ強かったし、慕われると思うんだけれど……」

「えーっと……俺、慧海高校の生徒じゃないんですよ」

「ああ、なるほど……一応トップはその高校のやつが良いもんな。で、どこの高校なんだ?舞由野……は違うか。御剣か?」

「ああ、えーっと……」

 

星沢が珍しく口を濁す。別にどこの高校でもいいんだけれどなあ、と時生は思うが、何かコンプレックスがあるのだろうか。

虎次郎もそう思ったのか、彼に催促する。

 

「どうした?別にどこの高校でもいいと思うんだが……」

「……俺、高校通ってないんです」

「ああ、そういうことなのか。大変なんだな……」

「いや、違うんです。俺」

 

察して励まそうとした虎次郎を否定する星沢。確かに通ってはいないが、そういうことではない。

 

「――中学生、なんです」

「……え?」

 

ただ、年齢が足りないだけなのだ。

 

虎次郎と時生が目を見開く。

 

「中学生?それは……」

「本当です。十二歳です」

「――嘘だろ!?」

 

虎次郎が絶叫し、時生が絶句する。こんな強い十二歳がいてたまるか。っていうかそんな年下にめっちゃ苦戦してたの?

軽くプライドが折れる音が聞こえる。これは辛い。

 

「俺、そのころスキルなんて持ってないぞ……?」

「いやいや、まずその体格がおかしいでしょ。君165cm近くあるよね……?」

「いや、本当です。まだまだ成長期なだけで、スキルとトレジャーもたまたま……」

「こいつはとんでもねえな……」

「末恐ろしいですね最近の中学生は……本当に冗談じゃないんだよね?」

「……学生証、見ますか?」

 

星沢はパーカーのポケットから生徒手帳を取り出す。そこに書かれていたのは、まさしく彼が中1だという証明だった。

 

「あー……まじか……」

「本当だった……」

「っていうことで、俺は無理です。なんか、別に力は無くてもいいんですけど、そういうまとめるのが上手い人っていませんかね」

「いや、そんなの都合よくいるわけ……あ」

 

虎次郎が思い当たる。いた、そんなやつ。

 

 

「ってことで呼んだんだが」

「いいっすよ。上手くやれるかどうかはわかんないっすけど」

 

虎次郎の呼び出しに答えたのは、金髪モヒカン・山田一清。まさしく個人としての力は低いが、統率に優れるいい男である。

 

「まさかこんなに簡単に……というか山田も別の高校ですけどいいんですか?」

「そこはあれだ。舞由野・慧海不良同盟ってことにでもしておけばいいんじゃねえか?と、いうか今の状況なら俺がねじ込んだって言えばどうにかなりそうだもんな」

 

確かにそれもそうか、と時生は納得する。正直この二人が組んだらめっちゃ強い気がするが、まあもう戦うことはないはずなのでいいだろう。

 

「その案いただきますわ。ってことで!よろしくな、星沢くん!」

「あ、はい……」

「いやいや、硬くならなくてもいいぜ?俺より強いんだし、一応名目上のトップはお前だからな。なんならタメ口でもいいし」

「わ、わかった?」

「そう、それでいい」

 

山田が強引に星沢に肩を組みながら絡む。この二人はけっこう相性がいいのかもしれない。

 

「それじゃあ、俺達は帰るけど、後のことは任せていいか?」

「はい!立派に仕上げて見せますよ!」

「ありがとうございました……それでは」

 

二人を置いて時生と虎次郎は公園を出る。時生が後ろを振り向くと、まだ一方的に山田が話かけている。

が、星沢も嫌がってはいない。楽しそうだ。

妙なところで縁がつながったものだ。なんか少し感動する。

 

「なんかこれで一騒動全部終わったって感じですかね」

「そうだな。まあ、ゆっくり休んで、次の事件に備えるとするか!」

 

とりあえず夕飯だな!と言ってニカッと笑う虎次郎に、時生は笑い返した。

 



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放課後デート

『ちょっとね、紹介したい場所があるんだけど』

『場所ですか?』

 

夜の自宅。ベッドでスマホをいじっていると、虎次郎の幼馴染・吉里明日羽から連絡が来る。あの日のショッピングから初めて来た連絡だ。

そういえば女子とこうやって連絡とるなんて初めてだな……とちょっとドギマギしつつ返事を返す。

 

『そう。場所。君は知っとくべきだと思う。だからお姉さんとデートをしよう』

『そういうこと言うのやめてください。ちょっと変な感じになるじゃないですか』

 

 

デート。デートかあ……女子と二人っきりなんて全然無いな、と思うが、よく考えたら最近は結構虎次郎と二人のことがある。それを考えたらデートという言葉には緊張しなくても……いや中身同性はノーカンか。と思考が脳内でぐるぐる駆け巡る。即興で返事してるけどこれでいいのか?悩む。

 

『あれ?嫌?』

『嫌ではないです。明日羽さんが知るべきって言ってるなら知るべきなんでしょうし、行きます』

『そっかあ。良かった。明日の夕方5時、千真田駅前でどうかな?』

『了解です』

 

ここまでメッセージでの会話を続けた後、スマホのスリープをする。

ふう、と息を吐いて、目を瞑る。うん。

 

(女子と二人っきりかあ!)

 

心の中でちょっと叫ぶ。こんなこと初めて。いくら女体化が進んだからって嬉しいものは嬉しい。

いや、何を着ていけばいいんだ?わからないけど、楽しみだ。胸がうずく。

そしてそのまま眠りにつく。少しいい夢を見た。

 

 

 

何を着てけばいいのか、とか思ったけれど、よく考えてみれば持ってる服が少ない。

ゆえに。

 

「あれ?またその服?」

「いや、本当に手持ちの服少ないんですよ……」

 

千真田駅構内。連絡をとりながらやっと合流する。

夕方、彼女と合流する。パーカーとジーンズ、髪はポニテでまとめる。また同じ服を着ているというのはちょっと気恥ずかしい。

そして明日羽が着ているのは。

 

「制服……ですか?」

「そうだね。というか一応今日平日だし?」

「あ、そういえばそうでしたね」

 

この前時生が着ていた白色のではない、紺色のセーラー服。

まさしく女学校って感じである。その明日羽自身のスタイルの良さも合わさって、まさしく高嶺の花感が出ている。

まあ、その実中身はアレなのだが、それを差し引いてもちょっとドキドキする。

 

「なんだか放課後デートみたいだねえ、時生くん」

「……つ、都合いいときだけ男扱いすんのやめてください」

「あーら、ちょっと照れてる。これじゃあ雌落ちまではまだまだ遠いかなあ!」

 

からからと明日羽が笑う。でも雌落ちまで遠いというのは違う。なぜなら元の男の自分だったらもっと何も話せなくなっていたと思うし。

 

「葉雪って寄り道とか大丈夫なんですか?」

「普通の生徒はしないけれど。まあ、反風紀委員会として、ね?」

「積極的に道を外していく、と」

 

それは校則的に大丈夫なのだろうか、と思うけれど。そういうの気にする人じゃないんだろうし、本人がいいならいいか。

校則違反に関しては不干渉の立場で。

 

「まあまあ。じゃあ、行こうか」

「あ、そうですよどこ行くんですか?」

「店の前についてからのお楽しみ!」

 

いたずらっ子のように笑って、鼻歌を唄いながら彼女は歩き出す。時生は苦笑しながらそれについていく。

この人にはなんか敵いそうにない。黙ってついていく。

 

人賑わう構内を歩いていって、外に出る。

雑多なビルが立ち並ぶ道を歩くなか、急に明日羽が足を止める。振り返って彼女が告げる。

 

「ここだね!」

「ここ……?」

 

彼女が指をさす。そこの店を見る。

ちょっとお嬢様学校の生徒が行くとは思えない、そこは。

 

「……メイド喫茶?」

「いえす」

「……ええ?」

 

困惑する。なぜメイド喫茶? 明日羽がニヤニヤしている。こういうところなんだか虎次郎さんに似ている。

時生は考える。なんの目的で?

 

「どういうことです……?」

「いやいや、単純。一人で入るのは心もとないからねえ」

「貴方みたいな人が心もとなくなるわけないと思うんですけど」

 

どういうことだ。絶対トラップがある。考えろ。

問題なのはわざわざ自分を連れてきたこと。それならこのメイド喫茶は普通のではないはず。

なら。

 

「……中に入ったら俺がメイドにされるとかそんなことないですよね?」

「どうしてそんな発想になるの!?」

「いや、この分野に関しては信頼できないので……」

「ひっどいなあ!」

 

明日羽が吹き出して、時生の体をバシバシ叩く。笑ってないで己の身を省みて欲しい。自分は正しい発想をしている。

一頻り腹から笑った彼女は、時生の発言を否定する。

 

「いやー……さすがにそんなことは無いよ。まあちょっと裏はあるけれどね」

「そうですか……裏はあるんですね」

「まあね。入るよ!」

「え!?」

 

ちょっとまってまだ覚悟ができてない。そう思うが無情にもそのまま明日羽が時生の手を引いて入店してしまう。

 

「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」

 

「お、おう……」

「いやあ、やっぱいいねえ!」

 

響き渡るキャストたちの声。時生はビビる。いくら女になったからって女慣れはしていないのだ。

固まる時生に対して、明日羽は手慣れた様子で入店手続きをしていく。

 

「それでは、こちらの席へどうぞ!」

「ありがとう!」

「あ、ありがとうございます……?」

 

店員メイドの指示に従って席に移動する。経験値が無さすぎる。この店にいる間どういう態度でいればいいんだ自分は。

動揺しながらキョロキョロと周りを見渡す。案外に上品な店だ。クラシカルで、メイド服も丈が長いクラシカルスタイルだ。橙色の照明がいい味を出している。

明日羽が見かねて小声で言う。

 

「別にそこまで緊張しなくていいよ。そこまで過激なわけじゃないから」

「そ、そうですか……」

 

そう言われたってというところはあるけど、少し落ち着きが戻る。深呼吸。深呼吸。

そんでもって着席。これからどうすればいいのだろう。

とりあえずメニューを開いて見ている。物価が高い。

そう思っていると、声がかかる。黒髪がきれいなメイドさんだ。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「あ、えーっと……」

「パンケーキとカフェオレで」

 

時生が言いよどむ中、さらっと明日羽が答える。まだ考えてない……。

顔を明日羽のほうに向けると、アイコンタクトが通る。

 

(ここのパンケーキは美味しいよ)

(あ、はい)

「じゃあ……同じものを、お願いします」

「……はい。パンケーキがお二つ、カフェオレがお二つですね」

「あ、はい」

「それでお願いします」

「かしこまりました」

 

礼をして去っていく。笑顔がきれいだ。

ふう、と一息つく。しかし、まだこれといって厄ネタというか、裏が見えていないのだが。

 

「……普通のいいメイド喫茶ですね。なんだか美人さんも多いですし」

「でしょう?いいところなんだよねえ。行きつけなんだ」

「そうですか……」

 

まあ、普通のところならそれはそれで。楽しめばいいか。

料理が来るまで雑談をする。主にあの戦闘とかについて。

 

「苦戦した相手が中1だった……?」

「そうだったんですよ。びっくりしました」

「……わたし行けばよかったなあ。そういう子は多分魅了が特攻だから」

「あー……」

「中1なんて性の目覚め前の初心な男子ならイチコロだったと思う。魅了は回避もできないし」

「なるほど……」

 

確かに……と思ったが魔法少女相手に手加減なく殴れる相手。効くのか?と疑問に思う。

それだけ星沢には末恐ろしさを感じる。あれは正直大物の器だ。

そんな話をしていると、店員さんが料理を持ってきてくれる。

 

「お待たせしましたっ……て」

 

ピンクの髪。低い身長。その表情は普段見たことない笑顔。

クラシカルなメイド服がとそのロリ感が合わさってとてもかわいく見える。

そう、店員は。

 

「……虎次郎さん?」

「んっ……くくっ……ひぃっ……」

 

硬直する魔法少女二人。

明日羽はひたすらに笑いをこらえていた。

 

 

 

全てが終わった後、夜。虎次郎のアジト。

 

「てめえなあ!!てめえなあ!!」

「ああああ!!悪かったって!!だからそのこめかみぐりぐりすんのやめて!!」

 

明日羽がめちゃくちゃ虎次郎に怒られている。手もでてるし顔も真っ赤。相当恥ずかしかったようだ。

その様子を見ている時生。未だ何がなんだかな時生は質問を投げる。

 

「えーっと……つまり虎次郎さんはここで働いていた、ってことでいいんですか……?」

 

虎次郎がピタッと明日羽をいじめる動きを止める。そして観念したかのようにため息をついて話し出す。

 

「……そうだよ。そこで働いてた。バレたくはなかったんだが……」

「いやいや、虎次郎秘密主義だからさ、今後のこともあるしバラしといた方がいいかなあって」

「お前は黙ってろ!!」

「ああああ!!!」

 

またぐりぐりを始める虎次郎。叫んでいる明日羽はどことなく笑顔。きっと役得とか思ってるんだろう。

それにしては不可解な点がある。

 

「でも……どうやって?こう、戸籍とか、履歴書とか……」

 

魔法少女になって、それを証明するのは難しい。どうやったのだろうか。

 

「いやあ、それについてはな……」

「わたしが説明しよう」

 

明日羽が語りだす。もちろんこめかみには虎次郎の手が添えられたまま。

 

「うちの学校には反風紀委員会なる組織があるのは知ってると思うんだけど」

「いつ聴いてもなんだそれって感じですけどね」

「そのなかのNo.2、”斡旋屋”と呼ばれている人物がいてね?」

「なんとなく話が読めてきました……その人が斡旋しているわけですね」

「そう!うちはバイト禁止だからね!」

 

人材派遣を行う生徒。そりゃあ反風紀だ。ろくでもなさそう。

 

「その人のことをわたしが虎次郎に紹介して、バイトと相成ったわけだよ」

「ちなみに、あの場にいたメイドはだいたい葉雪の生徒な」

「まじですか……え、で戸籍とかは?」

「魔法」

「ええ!?」

 

極悪人じゃないか。ヤのつく職業の娘さんだったりしないのか?

明らかに表情が固くなっていたのか、明日羽がフォローを入れる。

 

「まあ、悪い子じゃないよ?いや、本当に、マジで」

「明日羽さんがフォローを入れると逆に不安になるんですけど……」

「だからひどくない!?」

 

明日羽が叫ぶが、なんとなくこの人にはこの扱いが妥当な気がする。

そんな様子を見て、虎次郎が告げる。

 

「……まあ、そんな事情があったってわけだ。俺のポケットマネーはそこから出してた。まあ、お前もなんかあれば”斡旋屋”を頼ればいい」

「紹介するからね!」

「あ、はい……」

 

できれば頼ることにはならないほうがいいなあ、と思う時生だった。

 

 

 

 

 




とりあえず閑話で出したい情報は出しました。
ここからどうしようかな……


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