魔法科高校の星光の殲滅者 (狩村 花蓮)
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第1話 プロローグ

前々から書きたいなと思ってたものです。原作と大きく乖離してる要素があるかもですが、よろしくお願いします。


私は、普通の人間だ。アニメの世界のように魔法が使えるわけでもなければ、特殊な力があるわけでもなし。だからこんなことはあり得ない・・・・・・・・ありえないはずなのにっ!

 

「ドウシテコウナッタ?」

 

知らない天井、見たことある少女、そしてなぜか神ですとか言っちゃってる件について。時は数刻前にさかのぼる。

 

私、渡辺彩香はオタクである。一応成人で、魔法科高校の劣等生と魔法少女リリカルなのはが大好きすぎるただのオタクだ。今日はなのはのグッズが出たのでアキバに買いに来た。

 

まぁ、こんな感じでも一応、公務員であり、小学校の教師をしてたりする。今日は生憎と親が外出に私の車を使ったせいで、ここまで電車できた。それなりにお給料をもらっているので

 

学生のオタクの時のようにお金が―と悩む必要はない。ないが、そのせいで、買いたいものを買ってしまう衝動に歯止めがかからず、ついつい大人買いしてしまうのだ。あっ、今バカとか思ったでしょ。

 

これでも大学を首席で卒業したんだぞ?ん?何でオタクになったかって?・・・・・・・・親がオタクなんだよ察しろ。そして、恒例のごとく、いろいろ買いすぎて絶賛腕か死にそうです誰か助けてください。

 

はぁ~、まぁこんなこと言って助けてくれる人なんていないよねぇ。これでも一応、腕力には自信あったんだけど・・・・・・・・とにかく、私は帰路についていたのだが、そこでおこったのだ。私のこれからを変える出来事が。

 

その少女は、大通りの道路でただぼうっとしていた。しかし、車が来ないわけなく、私がその子に近づいた時にはすでに大型トラックが眼前に迫っていた。私はその時のことをよく覚えている。

 

「危ない!」

 

私は、その子がひれそうになったのを見てとっさに飛び出し、その少女を弾き飛ばした。そしてそのまま、”死んでしまった”まぁ、教師として一人のみらいある子供を守れたことに関して不満というか後悔はない。

 

ただ一つだけ、一つだけ後悔があるとすれば・・・・・・・・

 

「最後に、シュテルちゃんの勇姿を、見たかったなぁ。」

 

そう考えたと同時に意識がブラックアウトした。そして冒頭へ戻る。

 

「えぇっと?あなたは誰です?」

 

彩香は恐る恐る聞く。

 

「失礼、名を名乗るのを忘れていましたね。私は時の女神スクルド、あなたが助けてくれた少女です。」

 

ちょっといろいろと整理をさせて?私があの時助けたのは未来ある子供ではなく、神様?しかも、偵察に来ただけであれは本体じゃないから、轢かれる瞬間に消そうと思ってた?じゃあ私の行動は無駄だったという訳!?うっそだろお前。

 

彩香が色々考えていると、その女神と名乗る少女スクルドが口を開いた。

 

「あなたは私のせいで死んだも同然です。そのお詫びにあなたを輪廻転生の理によって、転生させます。行きたいところはありますか?」

 

申し訳なさそうにそう言った。彩香はそれを聞いてふと疑問に思ったことを聞いた。

 

「あの、それは例えば、小説とか、マンガ、アニメの世界でも可能ですか?」

 

「えぇ、可能です。私たちは本来、人間の願いによって、創造によって生み出され神格化しました。なので人の創作物の世界を、神として管理するのは当然であり、神がいるということはもちろん転生も可能という訳です。」

 

彩香の目が輝く。目の中に星形のマークができる様は、どこかの学園都市の心理掌握さんを彷彿とさせる。彼女はもしかなうならここに行きたいと思ってたところを言う。これはオタクの性と言うやつなのだろうか

 

 

「じゃあ、魔法科高校の劣等生の世界でお願いします!」

 

「分かりました。じゃあ、どんな見た目になるか。そして、転生の際の特典を、今回は3つのところをサービスで5つにするので、お選びください。」

 

「え”ぇ”!?何々そんな気前いいの神様って!?」

 

「事故だったとはいえ私を守ろうとしてくれた恩人ですからこのぐらいは...」

 

彩香は考える。ここで変な特典をもらって使えなければ意味がない。そして考えること一分、彩香はその口を開く。

 

「じゃあまず見た目から。見た目はこの子にしてください。」

 

彩香はなぜか持ってたスマホの写真アプリを開き見せる。そこには、ショートヘアで髪色は赤色が混ざった茶色をしており、その瞳は青く、常に興味なさげな顔をした少女、シュテル・ザ・デストラクターの姿があった。

 

「分かりました。では姿はこのように。」

 

「じゃあ次は特典ですね。一つ、この子の武装、もといデバイスであるルシフェリオンを使えるようにしてください。あぁ、勿論向こうで言うCADと同じ扱いをしてくれていいです。」

 

「分かりました。ではそのように。」

 

「二つ、高町なのはとシュテル・ザ・デストラクターが使う魔法を使えるようにしてください。あ、もちろん向こうの魔法も基本全部使える方向で。」

 

「分かりました。」

 

「三つ目・・・・・・・・というかこれが最後ですかね。主人公たちと密接な関係を持つ関係者として転生させてください。采配はそちらに任せます。」

 

「あっ・・・・・・・・はい、わかりました。4つ目と5つ目はどうします?」

 

「うーん・・・・・・・・保留で。」

 

「分かりました。それにしてもあなたって、欲がそんなにないんですね。もっときついのお願いされると思ってました。」

 

「いや、これだけで十分チートでしょう。どんなのお願いされると思ってたんですか?」

 

「いや、その世界を支配するだけの力をくれだとか、ハーレムを作れるようにしてくれとか言われるかと。」

 

「まぁ確かにそれは思ったけど・・・・・・・・さすがにそこまで要求しませんよ。」

 

「どうしてですか?」

 

「面白くないじゃないですか、簡単に原作の主人公を圧倒してしまうのは。」

 

「フフッ、あなたはつくづく面白い方ですね。」

 

「昔はよく言われました。」

 

「では、よき人生を。」

 

そう言われると彼女の意識は消えた。




前から書きたいなと思ってたものを書くことにしました。ただこっちはそこまでの頻度では更新しないと思いますので、ご容赦ください。ではまた次回。


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追憶編
第二話 追憶編 Ⅰ 始まりと接触


前書きと言われてなかなかいい案が浮かばない私がいます。本来であれば追憶編は原作だと後の方に当たりますが、この小説では転生という手段を取っている以上飛ばすわけにはいきませんでした。という訳で追憶編からのスタートです。第二話、どうぞ。



2021/08/11 シュテルの出自に関すること、時系列などの再整理をしました。





ここはどこだろうか、知らない天井だ。そして私は今、見覚えのある二人に抱かれています。確かに私は言いました。ある家庭と関係の深い人間として転生させてくれって。

 

しかし、しかしですよ?こんなことって・・・・・・・・

 

(四葉真夜の子供って、どういうことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

 

その声とは裏腹に、その赤子はその産声を上げた。

 

四葉真夜の手によって四葉家に生まれたイレギュラー、シュテル・ヨツバ・スタークス。彼女の魔法技能は目を見張るものがあった。齢3にして、一般的な魔法技能、そのすべての魔法が行使可能という実験結果をたたき出した。

 

しかも、精神干渉系魔法に関しては、親である真夜すら凌ぐほどだという。これは、そのあとに生まれた、後に司波達也と呼ばれる少年よりも四葉家を震撼させた。やろうと思えば高難度の魔法である分解や再生なども使え

 

戦略級魔法すら行使可能というこの事実を聞いた当時の四葉家当主、四葉元造は弟である四葉英作の助言もあり、分家である黒羽家、その当主である黒羽重蔵に”何故か”暗殺技術を含めた戦闘術を叩き込むように頼んだ。

 

その時、弟の英作に何を吹き混まれたのかはいまだ分かっていない。そしてシュテルは5歳にして、裏社会へと足を踏み入れた。最初は、四葉家から出された指令、それに指定されていた人物の特定から始まり、時には奇襲で、またある時は色仕掛けで対象を殺していった。

 

それは何も犯罪者だけではなかった。時にはマフィアを、時には軍の脱走兵を、またある時には四葉家が管理している捕虜収監所にいたすでに用済みの捕虜などを、シュテルはまだ物心もついていない年齢で、その手にかけたのだ。

 

しかも彼女は、やっていることを理解せず、まるでゲーム感覚で無表情のまま人の命を奪っていったのだ。殺されたものは、死の直前、その顔を見て何を思ったのだろう?今となっては分からないことずくめだ。

 

しかも、彼女の使う魔法は、現存するすべての魔法とは全く違う技術で構成されていた。治療魔法を使えば瀕死の患者だろうが問答無用で完璧に治し、跡は一切残らない。彼女がひとたび攻撃に転じれば彼女の髪の色と同じ黒が混じったような

 

可視化されるほどのサイオンの塊が、逃げるものをどこまでも追いかけ肉塊へと変えていく。しかもサイオンを検知する機器などにそれは引っかからない。傍目に見れば突然人が爆散したように見えるだろう。

 

死体という情報も魔法の痕跡も残らない彼女の殺しは後処理が楽という点でかなり重宝された。ところが、彼女はそれでも人だった。自身や家族に害を及ぼすなら躊躇はしない冷徹な目を持つ少女、それでも彼女はまだ年頃の女の子だったのだ。

 

彼女が10歳のころ、人で言う物心がつく年頃、彼女は今まで自分が何をしていたのか悟った。そして彼女は、壊れたのだ。始まりは、部屋の中から聞こえた絶叫だった。使用人は何事かと焦り、ドアをノックせずに部屋に入った。

 

するとそこには、部屋に置かれていたカッターナイフで自身ののどを搔っ切ろうとしているシュテルの姿。慌てて使用人が止めに入るが、その間シュテルはいつもの冷徹で寡黙だった彼女とは打って変わり、

 

まるで劫火に焼かれて泣き叫ぶ人間のように、ただ狂ったように、「死なせて!」と叫んでいたらしい。彼女は四葉元造の娘である深夜と真夜の手によって止められ、眠らされた。そして、このことを知った四葉元造は

 

自身が行ったことがどれほどシュテルの負担になっていたかを知ることとなった。そしてそれを容認した四葉真夜もまた然りであった。その後、シュテルは真夜の精神干渉系魔法やメンタルカウンセリングなどによってかろうじて心が壊れずに立ち直った。

 

そして、彼女は裏の世界から足を洗い、今では真夜や深夜と一緒に割と平和に暮らしている。しかし彼女の心はどこか、歪んでいるように見えたそうだ。時々、窓の外を見上げたかと思えば、涙を流し刃物に手をかけようとすることが何度かあったらしい。

 

今のところは外傷をおっているわけではなく、大けがもしていない。しかしどこかおかしいような彼女。サスペンスドラマを見せれば殺人のシーンを見るや否や奇声を上げその場にうずくまることもしばしばあった。

 

”あまりにも精神が弱すぎる”。四葉家が彼女に下した判定はその一言に尽きる。冷徹に人を殺した彼女は、あり得ないほど精神が常人にそっくりだったのだ。まるでがわだけの仕事人のような感じである。

 

人を殺す。・・・・・・・・ひいては人を傷つけることに対しての耐性が彼女にはなさ過ぎたのである。

 


 

私、渡辺彩香。なんやかんやあって魔法科高校の劣等生の世界に転生しました。しかも、あの四葉の実の娘にです。小さいころに人殺しをさせられて危うく精神異常者一歩手前まで行きましたが何とか持ち直しました。

 

しかし、それからというものなんやかんやありましていろいろとおかしなことになっています。

 

そう、彼女こそ、転生をした渡辺彩香もとい、シュテル・ヨツバ・スタークスその人である。彼女が転生して既に13年が経過している。(ちなみに達也と深雪が生まれたのはシュテルが生まれた翌年のことである)

 

「ドウシテコウナッタ?」

 

もうすぐ彼女は中学生となるため、今日は四葉真夜と会うことになっている。しかし彼女は乗り気ではなかった。なんでかって?それは、

 

「お母さま、シュテルです。ただいま参りました。」

「・・・・・・・・ハッ!ちょちょっと待っててね?今開けるわ。」

 

そう、この人の性格があまりにも原作と離れすぎているからだ。えぇっと?この人こんな家族思いな、家族Loveな人だったっけ?原作だともっと冷たい人だと思ってたんだけど・・・・・・・・全くそうは見えない。

 

むしろ親バカレベルだと思ってる。えぇ思ってますとも。彼女はその重い足を引きずりながら部屋へと入っていく。

 

「お母さま、いったい何に手間取っていたので?」

「すこし、残っていた仕事を終わらせました。あなたが来るのだから、終わらせておくのが常でしょ?」

 

と、男が見たら即オチ2コマを引き起こしそうな笑顔をシュテルに向けるのは四葉真夜。シュテルを生んだ肉親である。しかし彼女は事故で生殖機能を失っていたはずだが、なぜシュテルを産めたのか。

 

その疑問を問うても、のらりくらりとかわす真夜は、やはり後ろめたいことがあるのだろう。こうして、彩香もとい、シュテルと真夜の祝賀会(という名の食事会)が始まった。

 

「そういえばシュテル。あなたは深雪を知っているかしら?」

「はい、知っています。彼女の能力は、そのものを比べると私よりも数段上です。ただ、まだ扱い方に難ありだとは思いますが、今の年齢でそれほどまでの力があるのは純粋にすごいと私は思います。」

「やはりあなたの目にもそう映るのね。」

 

司波深雪、真夜の姉である司波深夜の実の娘にして、シュテルの一つ年下、最初に魔法を触った時すでに、その時現役で活躍していたシュテルの実力を、ゆうに上回る魔法師の素質を見せた、とても外見が整った美少女である。

 

彼女と深雪が初めて会ったのは、シュテルが8歳のころで、その時はシュテルが任務終わりで久方ぶりに家に帰ってきた時である。その当時、海外の大学を飛び級で合格したことになっているシュテルは、学校には行かず黒羽のもとで任務に就いていたのだ。

 

しかし彼女は気になっていた。それは直属の上司である黒羽貢から聞かされたあることについてだった。それは、シュテルに並ぶ秀才が四葉に増えたというもの。何でも、初めて魔法に触れたはずなのに、振動・減速系の魔法に関してはシュテルを上回り

 

それ以外の魔法の素質も若干勝るという何とも素晴らしい評価をもらったそうだ。

 

(素晴らしい才能を持っているようですね。・・・・・・・・私で勝てるでしょうか?)

 

そんなことを考えながら四葉家の母屋に入ってきたときに、入口にあった噴水をこらせた女の子が目に留まった。それこそが件の司波深雪だった。それからというものの、暇があれば深雪の魔法を見ることになった。

 

”何故か”身分を隠すことになったが。それからは”黒羽の構成員でかなりの実力がある下っ端”というなんだか凝っているような凝っていないような肩書を言い渡され、”メイドの修行をしている"という名目で、である。

 

何もそこまで徹底することはないと思うのだが・・・・・・・・

 

「そういえば、彼女には血のつながった兄がいましたね。」

「あぁ、あの子ね。魔法師としてはいろいろとアウトだけど、実戦ではあなた以外には絶対負けないと思うわよ。」

「お母さま。それは身内贔屓が過ぎます。私が彼とやりあったところで勝てる見込みは一割もありませんよ。」

 

そう、深雪の実の兄である達也には、ゲームで言うところの対魔法師とか、魔法師特攻とか言われそうな、魔法師に対しての切り札的なものが多数存在する。その中には魔法そのものを破壊するものまで含まれており

 

シュテルとて、魔法を破壊されては勝てるわけがないのだ。

 

「あら?でもあなた、アンティナイトのキャストジャミング程度なら問題なく魔法を行使できるのではなくて?」

「お母さま、それは魔法が発動しても破壊されなければ、です。魔法式そのものを破壊できる達也にとって、私など敵ではないでしょう。」

「あらまぁ。でもあなたにはあなたにしかない特別なものを持っているじゃない。であれば切り札なんて呼ばれないわよ。」

「えぇまぁ、それはそうですが・・・・・・・・。それでもですね。使う前に無力化されれば終わりですし、司波達也にはそれが可能だと思われます」

 

そう、シュテルには魔法式を必要としない魔法があるのだ。まぁ実際それの多くはCADと一体となったあるデバイスを使わなければ制御ができず、せいぜい使えるとして、バインドぐらいではある。

 

しかし彼女の神髄は、その正確無比な魔法の操り方にある。世界最巧と言われている、九島 烈でさえ、シュテルの操作能力と応用能力には勝てない。これは本人が実際にシュテルと戦った時の感想だ。

 

しかしそれだって、デバイスを破壊されたら意味を失う。だからこそ、シュテルは達也と戦いたくないのだ。

 

「それで?司波兄妹の話を持ち出したということは、それがらみなんでしょう?殺せという命令以外なら基本的に聞きますよ。」

「さすがね。あなたの洞察力には白旗を上げるわ。今回の命令は、あの兄妹の従姉として一緒に住んでほしいというものです。」

 

今、このお方は何と言ったのか?司波兄妹と住め、そうおっしゃったのか?シュテルはいまだ真夜の言葉を理解できずにいた。

 

「お母さま、それは何ですか?あの兄妹と衣食住を共にしろと?」

「えぇ、そういうことよ。あなたには彼らが暴走しないようにストッパーとなってほしいのと、これは個人的な目的ね。深夜の身を守ってほしいの。」

「しかし、あの人には専属のガーディアンがいたはずでは?」

「桜井穂波のことね。あなたも知っていると思うけど、彼女は調整体です。なので過度な魔法行使をすると最悪死んでしまいます。シュテル。我が子にこんなことを頼むのは母親として忍びないけど、どうか私の姉妹を守って頂戴。」

「・・・・・・・・はい、分かりました。」

 

シュテルは心の中で、今更殺人とかやってきた人間に言う言葉じゃないだろうと思いながら、渋々といった表情でその命令を受諾した。

 

 

同日 四葉家本家邸宅、深夜の部屋の前にシュテルはいた。真夜を連れて、だ。しかしいいのだろうか?とシュテルは思い始めていた。確か、真夜と深夜の仲は最悪だと聞いたが、本当にうまくいくのだろうか、と年甲斐もなく思ったからである。

 

真夜が深夜の部屋の扉をノックする。

 

「姉さん、私よ。入ってもいいかしら?」

「あら、真夜。いいわよ。どうぞ。」

 

真夜とシュテルは部屋の中へと足を進める。そこには、髪型が違うだけで、顔は真夜と変わらない美女、いや美魔女と言ったほうがいいか。司波深夜がベッドに寝ていた。深夜は体を起こすと、シュテルの方を向いた。

 

「あらシュテル、あなたも一緒だったのね。」

「はい、深夜叔母様。ご機嫌麗しゅうございます。」

「フフフっ、堅苦しいのはなしよ。私が許すわ。」

「はい、分かりました。叔母様。」

「それで真夜。今日は何の用?」

「姉さんの子供がいるじゃない。この子をその中に入れてほしいのよ。」

「あぁ、達也さんに深雪ね。あなたが私に頼み込んでくるなんて珍しいわね。分かったわ。私の子供ってことにしておくわ。改竄の方はよろしくお願いね。」

「分かったわ姉さん。シュテル、あなたはこれから姉さんの子供としてふるまいなさい。誰かの前で私と合ったら、叔母だといいなさい。分かった?」

「はい、分かりました。叔母様。」

「よろしい。じゃあ後はお願いね。」

 

そういって真夜は深夜の部屋を出ていく。それを確認するとシュテルは深夜の方を向く。

 

「それでお叔母様。私はあなたのことをなんとお呼びすればいいのでしょうか?」

「そうねぇ・・・・普通にお母さんでいいわよ。」

「分かりました。お母さま。」

「もう。別に様付けはいらないのに・・・・・・・・」

「いえ、いくら血のつながりがあろうと、四葉家現当主、四葉真夜の姉である深夜様をお母さんと呼ぶのは出来かねます。これは信用問題にかかわることです。」

「・・・・・・・・もう、分かったわよ。あなたの好きに呼びなさい。」

「お心のままに。」

 

シュテルはその後、深夜のガーディアンである、桜井穂波の案内のもと、達也と深雪のところへと向かった。その実シュテルにとって達也と深雪に会うのは初めてである。兄妹のことは映像でしか見たことがなく

 

実際に面と向かって話したことはない。シュテルは内心楽しみにしていた。シュテルは二人がいる部屋へと足を踏み入れた。するとやはりというべきか、達也に”全く興味を示していない”深雪の姿を見た。

 

「こんにちは、深雪に達也。シュテル・ヨツバ・スタークスです。急な話ではあるのですが、私はあなたたちの兄妹の一員となるそうです。義理の関係ではありますが、どうかよろしくお願いします。」

「こんにちわ、シュテル・ヨツバ・スタークスさん。司波深雪です。ご当主様からお話は聞いていました。これからよろしくね。私は深雪でいいわよ。私もシュテルって呼ぶから。」

「分かりました。改めてよろしくお願いしますね。深雪。して、達也のことは何と呼べばいいのでしょう。」

「自分は何と呼ばれても構いません。」

「分かりました。では達也とお呼びします。あなたも砕けて、シュテル、と呼んでください。」

「・・・・・・・・お前はその喋り方がデフォルトか?シュテル。」

「そうですね。小さいころからこの口調でしたので。まぁ、癖のようなものです。」

「そうか、改めてよろしく頼む。シュテル。」

「はい、達也。よろしくお願いします。」

 

達也とシュテルが話しているのを見て深雪が顔を膨らませていたのは言わないでおこう。すると達也が口を開いた。

 

「そういえばシュテル。お前のホウキを見せてはくれないか?特殊な形状をしていると聞いた。」

「それは私も気になります。誠に不本意ではありますが。」

 

どうやら深雪も気になるようだが、自分の兄と考えが被るということが嫌なのだろう。不機嫌そうに言った。

 

「えぇ、構いませんよ。」

 

そう言うとシュテルはポケットから青い水晶を取り出した。

 

「起きてください、”ルシフェリオン”」

 

するとその水晶の形が見る見るうちに変わっていき、それはすぐにシュテルの身長程度まである”杖”へと変わった。

 

「これがお前のホウキか?シュテル。」

「えぇ。私の愛機、ルシフェリオンです。まぁしかし、これはあまり外で使うものではありませんから、私自身、この子の性能の限界を知りません。」

「では、普段使っているCADとはまた別なのか。」

「はい、いつもはこっちを使っています。」

 

彼女が取り出したのは、短銃身の拳銃のようなCADだった。

 

「これはどこの会社のものだ?」

「これは、私のオリジナルです。名前はデストラクター。四葉の技術者と一緒に完成させた汎用型です。」

「シュテルはCADを自作できるんですか?」

「えぇ、まぁ完全オリジナルという訳ではないですが。何なら深雪のも作りましょうか?」

「いいの!?」

「えぇ、暇ですから。」

 

その後日、深雪用のCADが完成した。彼女はノリノリでそのCADにセッティングをしてもらい、発動してみると、あまりの処理速度の速さに驚いていた。

 

そして、シュテルが正式に司波家に入ってからしばらくした頃、三人は沖縄へと、来ていた。家族旅行である。相変わらず、達也の扱いは変わらなかったが

 

一つだけ、変化したことがある。それは、達也がシュテルと楽しそうに話しているということだ。達也は魔法以外のことに関しては超がつくほどの秀才である。

 

学業では、シュテルと肩を並べるほどの頭を持ち、運動能力もすごい、さらに深雪のガーディアンということもあって、格闘技にも精通している。人を殺したこともあるらしい。

 

それはシュテルも人のことを言えないので何も言わない。とにかく、シュテルにとって達也に勝てるものと言えば、CADの話ぐらいなものである。しかも、それすら最近達也に負けつつあるのだから

 

彼の研究者心はとんでもないものなのだろう。今日も今日とて深雪とその母親、深夜の荷物を持ちながら、シュテルとCADの話で盛り上がっている。深夜はそれを事実上黙認している。それは妹である

 

真夜からのお願いがあったからだ。なんでもほぼ人と接することなく育ったために、同じ話で盛り上がれる人ができたらなるべく邪魔しないでくれ、ということらしい。しかし、この話を素直に聞く深夜もまた

 

親バカなのかもしれない。こうしてシュテルたちは別荘へと足を運んだ。

 

 

今回、シュテルたちが来たのは恩納瀬良垣に深夜の夫が急遽買ったものだ。なんでも深夜が静かなところがいいというので買ったらしい。シュテルも一回あったことがるがその時の第一印象が

 

「お金で愛情がどうにでもできると思ってる。こいつは嫌な人種だ。」

 

であった。箱入り娘的な立ち位置にいたシュテルでさえそう思ったのだ。家族だったらどう思うか。そんなことを考えなら別荘につくとその玄関が勢いよく開いた。

 

「奥様、お待ちしておりました。」

 

その人物は深雪たちにとって、すでに家族のような人物だった。

 

「穂波さん!」

 

彼女は桜井穂波。司波深夜のガーディアンである。しかし、ガーディアンである傍らで、メイドのような仕事もやっている。例えばこのように先に現地入りして、場を整えるとか。

 

「お疲れ様。掃除は終わっていて?」

「はい、午前の内にすべて滞りなく終わりました。奥様。」

「そう、やはりあなたは私の誇るべき部下だわ。」

「そんな、私は奥様の役に立ててうれしいのです。ご命令とあらばこの桜井穂波、ガーディアンからメイドまで、すべての業務を滞りなく終わらせて見せましょう!」

 

穂波はとても張り切っていた。そんな彼女は達也の方へとよっていき、達也の持つ荷物を一つ、代わりに持った。

 

「手伝いますよ達也君。」

「いえ、気にされなくても。自分でやれます。」

「まぁまぁそう言わずに。私も一応ガーディアンなんだから、同じもの同士、ね?」

「・・・・・・・・お気遣い、痛み入ります。」

 

二人の仲は良さそうだ。深雪はそれを見ていかんともしがたい表情をしている。

 

「どうしました深雪。顔色が優れませんが。」

「ううん、なんでもないの。ただ、兄と穂波さんを見てると、なんだか変な気持ちになるの。」

「ふむ、深雪。それはひょっとすると嫉妬というやつかもしれません。」

「私が嫉妬?」

「はい、どっちに嫉妬しているかは分からないですが。」

 

この時深雪は初めて?穂波さんに嫉妬した。

 

その後一通り持ってきた荷物を一通りとき終わった段階で私ことシュテルは、穂波さんに声をかけられた。なんでも、深雪たちが散歩に出るからついて行ってやれということらしい。

 

勿論承諾した。今の私にとって、彼らと一緒にいる時間こそ唯一の楽しみだったのだ。断るはずがない。こうして私は達也と深雪と三人で散歩に出かけることになった。

 

その道中、深雪はあまりの気まずさに耐えられなかったのか、私に声をかけてきました。

 

「そう言えばシュテル。あなたにご兄弟はいるのかしら?」

「いえ、いませんが。それが何か?」

「別にこれといった理由はないわ。昔あなたによく似た使用人の方に魔法を教わったのを思い出しただけ。」

 

間違いなく私のことだった。

 

「成程。私によく似たですか。それはとても興味がありますね。」

「でしょう?」

 

私たちは笑いながら話していた。その時間は私にとってとても有意義な時間で、とても楽しかった。だからこそ、その時間を破った彼らがどうしようもなく許せなかった。

 

達也たちと散歩をしている最中、私たちに絡んでくる輩がいたのだ。それは沖縄でも有名なレフトブラッドという元外人兵士だった。相当鬱憤が貯まっていたのか、まるでチンピラのごとく深雪に絡んできた。

 

その瞬間、私の中で何かが切れました。私は、その男の眼前まで迫ると、ルシフェリオンを起動しました。そして

 

「バリア・・・・・・・・バースト。」

 

魔力で練ったシールドを展開しそのシールドをわざと爆発させ、相手を吹き飛ばしました。その男はギャグマンガもかくやという吹っ飛び方をし、その取り巻きの男たちはまるで死神を見たかの如く

 

逃げて行きました。後ろでは深雪が涙を浮かべています。

 

(これは、絶対に嫌われましたね。まぁ、あれだけのことを一瞬のうちに行ったのです。怖がってしまうのは当然でしょう。)

 

そう考えた私はただ一言

 

「帰りましょう。二人とも。」

 

そう言って、別荘へと帰りました。

 

 

私は初めて、シュテルを怖いと感じてしまいました。本当は分かっているのです。シュテルが私にされたことに対してとても怒っているということに。しかし、彼女の纏う雰囲気に私は怖気ついてしまいました。

 

その時の私の顔は泣いているようだったと聞きました。本当に私は、ひどいことをしてしまいました。

 




今回はここまでです。ちなみに追憶編は基本的に漫画の内容を原作を照らし合わせながら進めていきますが、どこか齟齬が出ると思うので、そこにはご容赦ください。ではまた次回。


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第三話 追憶編 Ⅱ 黒羽のパーティと大亜連合の強襲

今回は、黒羽家とのパーティから潜水艦のところまでを書くつもりです。よろしくお願いします。


私ことシュテル・ヨツバ・スタークスは、人を一人、再起不能にしたかもしれません。やりすぎました。いくら深雪に絡んでいったからといってもあそこまではやりすぎだと今でははっきり分かります。

 

理性というか、理論的には分かっているつもりです。しかし、心が納得しませんでした。それを押し殺す様は多分、誰が見ても無理をしているのがはっきり分かります。私がやらなくても

 

達也がやったかもしれません。しかし私にはどうしても抑えることができなかった。いくら血のつながりがなくとも私には、私にとっては深雪と達也が本当の兄弟のように愛おしくてたまらないのです。

 

それに、兄妹が変な輩に絡まれているのを黙って見ていられるほど私の心は出来上がっていない。いくら達也が深雪のガーディアンであろうと、私にとっては大切な家族。私はただ大切だと思える家族を守っただけ。

 

私はこれを悪いことだとは、思いません。

 

「これが今の私のまぎれもない本心です。お母さま、これに対し何か罰を与えるのなら、与えてもらって構いません。」

「いえ、シュテル。あなたの言い分はもっともです。やり過ぎたというのはいかがなものだとは思いますが、あなたはまだ子供。気にしなくていいわ。その代わり、今度からそう言った行動は控えるように。」

「御意。」

 

シュテルは深雪たちと散歩に出かけたことの顛末を包み隠さず話した。最初は深雪がシュテルのせいではないです、といっていたがシュテルがそれをやめさせ、話し始めた。深夜はそれが嘘じゃないことを確かめ、

 

シュテルが犯した失態を許してくれた。今回のシュテルの行動は端的に行ってしまえば、”自分の兄妹を守ろうとした”この一点に尽きる。つまるところ、兄妹に喧嘩を売られてキレたのである。

 

そのことを理解した深夜はそれを叱ることができなかった。今まで無表情無感情の様子を貫いていたシュテルの、”本気の怒り”深夜はそれにとても興味が沸いたのである。それはすでに精神を調べる科学者の思考へと変わっていった。

 

 

ときは変わって、その日の夕方。シュテルは久しぶりに深雪とお風呂に入っていた。なんでもこれから黒羽のおじ様が主催するパーティがあるらしいのでその身支度をしている最中なのだ。しかし、深雪もシュテルもあまり気が乗らなかった。

 

深雪は、自分がしっかりしていなかったからシュテルにひどいことをさせてしまったと、シュテルは、深雪に怖い思いをさせてしまったとそれぞれ今日の出来事をそう振り返っていた。湯船の中に一緒に使っていてもその沈黙はしばらく続いていた。

 

それを破ったのは、シュテルだった。

 

「ごめんなさい深雪。せっかくのお散歩だったのに、怖い思いをさせてしまって。」

 

シュテルが謝る。彼女は良くも悪くも自分に素直だ、と深雪は思っている。そんな彼女がここまで謝るのだ。あの時のことを相当気にしているに違いない。だからこそ深雪はそれに答えた。

 

「いいのよシュテル。本当に、気にしないで。」

 

深雪はシュテルの顔を自分の心臓のあたりへと持って行った。

 

「あなたが悪いわけじゃない。悪いのはあの人たちよ。それに、その人たちがいることに気づけなかった私のミスよ。」

「いえ、私のせいです。私がもう少し、感情をコントロールできていればっ!」

 

深雪はその腕に力を入れる。

 

「いいのよ。あなたが気にすることないわ。でも、もしそのことで耐えられないんだったら、私が胸を貸すわ。だから、吐き出して頂戴?」

「・・・・・・・・では、すこし、胸をお借りしますっ。」

 

シュテルはついに泣き出してしまった。今まで抑えていたものに抑えが利かなくなったのだ。日頃の性格や喋り方からは想像つかないような、子供みたいになくシュテルを深雪はただ抱き続けることしかできなかった。

 

そして、深雪は心にたまっていたものが少し、軽くなったような気がした。

 

 

その夜、母である司波深夜の体調が悪くなって、急遽代理で深雪とシュテルの二人だけで行くことになり、その護衛に達也を連れて行くことになった。シュテルは、お風呂での一件を振り返りながら、その身を着飾っていく。はたから見れば美しい光景だろう。

 

しかし、彼女の眼は、瞳はいつも以上に虚ろであった。

 

(私は、出来損ないだ。どんなに強い力があっても、切り札と言われても、私はまだ未熟だ。それこそ、切り札と呼ばれるなら達也の方が向いている。いくら小さいころから人を殺すことにためらいを持たなくなったって

 

彼とは年季が違う。それに、所詮私はもともと何もできないただの人間だ。転生で人より少し強い力を持っただけのただの人間だ。だからこそ人を殺すことを割り切れた。これはゲームだと割り切っていたから

 

躊躇はしなかった。だけど、私は、怖い。この身で怒りに身を任せ辺りを蹂躙するのが。私はどうすればいいの?誰か教えてよ・・・・・・・・ねぇ、誰か・・・・・・・・)

 

「・・・・・・・・誰か、教えてよ。」

「何をですか?」

「!?」

 

シュテルはとても驚いていた。シュテル以外誰もいないはずの部屋にいつの間にか穂波がいたからだ。

 

「全く、深雪さんの支度を終えて来てみれば、支度が終わっているのに考え事とは、何かあったんですか?」

「・・・・・・・・いえ、ちょっと思い出したくないことを思い出しただけです。なんでもありません。」

 

そうして後ろに顔を向ける。それを戻した時にはすでに顔に表情が戻り、いつもの事務的な顔に戻っていた。

 

 

黒羽貢、それは四葉に連なる分家の一つ、黒羽家の現当主である。そして、四葉の裏の仕事の多くを任せられている一族でもある。

 

小さいころから暗殺家業に協力していたシュテルにとっては、顔なじみといってもいい。しかい、今の彼女の心境では一番会いたくない人間でもあった。

 

「メンソォーレ!よく来たね、深雪ちゃん。そしてシュテルちゃんも。」

「はい、叔父様。本日はお招きいただきありがとうございます。」

「話は聞いているよ。お母様の体調が悪化されたそうで。二人だけで来るとは感心だねぇ。ささ、二人も待っている、早く行こう。」

「お待ちください、あの人はいかがいたしましょう?」

「ん?あぁ、深雪ちゃんのガーディアンか。この会場に一般人は入れない。壁際にでも控えさせておきなさい。」

 

その瞬間、深雪の眉が一瞬動いた。それはそうだろう。今の彼女にとって、兄を他の人に使用人呼ばわりされるのは不愉快極まりないのだから。

 

結局変わらない。階級なんぞにこだわる家系は、いつも平等に扱わない。それが例え同じ血を分けた兄妹であっても。

 

先に進むと、見覚えのある子供が二人、立っていた。

 

「あっ。」

 

その二人はこちらを視認するなり、走ってきた。

 

「深雪姉さま、お久しぶりです!」

「お姉さまもお変わりないようで。」

「あら、亜夜子ちゃん、文弥君。こんばんわ。」

「それで、姉さま、そちらの女性はどなたで?」

「私たちの異父兄妹よ。シュテル!」

「はい、何ですか?深雪。」

「こちら黒羽の叔父様のお子さんたちです。」

「どうも初めまして、わたくしは黒羽亜夜子と申しますわ。」

「同じく、黒羽文弥です。よろしくお願いいたします。」

「ご丁寧にありがとうございます。私はシュテル・”シバ”・スタークスと申します。これからよろしくお願いしますね。・・・・・・・・良ければ二人にはシュテルと、砕けた感じで呼んでいただきたいのですが、いいでしょうか?」

「えぇ、構いませんわ。そのかわり、私のことは亜夜子とお呼びください。年齢はあなたの方が上でしょうから。よろしくお願いいたしますわ、シュテル姉さま。」

「僕も、文弥で構いません。これからよろしくお願いします。シュテル姉さま。」

「えぇ、二人ともよろしくお願いします。」

「・・・・・・・・それで、深雪姉さま。達也兄さまはどちらに?」

「えっ?えぇっと、あそこの壁際に控えさせてますよ。」

 

すると二人は達也の方へと走っていった。その様子をじっくり確認していると、達也は笑っていた。シュテルは、それが本当に心から漏れてきた感情なのだということに気づいており、内心ほっとしていた。

 

その様子を見て、貢が何か話していたようだったが、シュテルはそれを無視し、誰もいなさそうな壁際へと向かい終わるのを待った。最後に深雪が貢と見事なダンスを踊っていたということも記載しておく。

 

 

翌日、朝早くに目が覚めてしまったシュテルは、ルシフェリオンを持ち、トレーニングウェアに着替え外へと向かった。外に出ると彼女はおもむろにルシフェリオンを起動し、その後ろに赤色の魔力弾を浮遊させていく。

 

その数はどんどん増えていき、最終的に64個へと増えて行った。そして今度はそれを一斉に飛ばして、それをすべて制御下に置く練習をした。本来、この操作は慣れた人間でも難しい。これは、シュテルの類稀なる

 

操作技術によって成り立っている。そして最後に、その魔力弾をお互いにぶつけ合い、消滅させる練習。意外と簡単に見えるかもしれないが、操作されている魔力弾同士を衝突させるのは至難の業である。少し加減を間違えるだけで

 

魔力弾はその威力を変える。これにはより精密なコントロールが必要になる。シュテルも最初こそは失敗ばかりだったが、今となっては慣れたもので、単純な操作であれば、最大100個まで動かすことができる。しかしそれを彼女はしようとはしない。

 

彼女曰く、戦闘において最も強いのは威力や手数ではなく、それを正確に急所に叩き込めることだ。らしい。そういう信条?があるからこそあそこまでの正確な魔法発動を会得できたのだろう。彼女の努力は計り知れない。

 

彼女はそこで練習をやめる。人が来たからである。

 

「あら、達也じゃないですか。どうしました?こんな朝早く。」

「そのセリフ、そのままそっくり返すぞ。お前の方こそ、こんな朝早くから何をしていたんだ?」

「私は、感覚を忘れないためのトレーニングをしてました。何なら達也も混ざりますか?」

「どういうことだ?」

「これから私が、魔力で出来た光球を飛ばします。最初は一つ、次に二つと段々多くしていき、それに一回でも当たったら終わりの簡単なゲーム形式のトレーニングです。」

「ほぅ、面白そうだ。分かった。やってみよう。」

 

 

深雪は外の音で目を覚ます。時折聞こえてくるのは何かがぶつかる音と、人が地面に転がる音。深雪はすぐに意識を覚醒させる。

 

「まさか、敵っ!?」

 

そう思い、おそるおそる外を見る、しかし、外では戦闘は起きていない。というか二人しかいない。その二人は深雪のよく知る人物だった。

 

「兄と・・・・・・・・シュテル?何をしてるのかしらこんな早くに。」

 

そして深雪はそれをよく見る。そしてを見開いた。なんと、シュテルが操作しているであろう魔力弾20個を相手に達也がただひたすら避けていたのだ。

 

そしてそれは、達也の身体能力をもってしても容易ではなかった。その額からは大量の汗が流れ落ちている。深雪はシュテルが暴走したあの時に達也の身体能力を見た。

 

シュテルが一気に相手に近づいた瞬間、彼女は達也に抱かれ、後方まで”魔法を使わずに”飛んだのである。そんな並外れた身体能力を持つ達也でさえあそこまで苦労している。

 

それに対して、シュテルは何食わぬ顔で魔力弾を操っている。シュテルの取り柄、それは魔法の精密運用の一点に尽きる。切り札の一つや二つは持っているかもしれない。それこそ戦略魔法クラスのでかい切り札が。

 

しかし、彼女は使わざるを得ないときまで使うことはないだろう。それだけ彼女の精密操作は凄いということなのだから。そうこうしてるうちに達也が魔力弾を食らってしまった。

 

どうやら、当たったら終わりのようだ。シュテルは出していた魔力弾を一斉に解除した。

 

 

「魔力弾総数19個までを避け切りますか。すごいですねあなたの身体能力は。」

「あれだけ・・・・・・・・出しておいて・・・・・・・・息が上がっていないお前も・・・・・・・・すごいと思うがな。」

「いえいえ、こんなの練習すればだれでもできますよ。はい、水とタオルです。口は付けてないので安心してください。」

「あぁ、助かる。・・・・・・・・それより、さっきのお前の発言を老師が聞いたら卒倒ものだろうな。」

「いや、あれは何度も言いますがまぐれですよ。」

「まぐれでもあの老師に勝ったんだからすごいと思うがな。それに、謙遜も行き過ぎると嫌味だぞ。」

「達也、あなた性格悪いって言われません?」

「いや、言われたことはないな。悪魔とは言われたことがあるが。」

「それ多分意味合いはさほど変わりませんよ。」

 

その後、深雪たちはビーチに行くといって、別荘を出て行った。やることがなくなったシュテルは、CADをいじり始めた。そしてしばらくして深雪たちが帰ってくる。

 

その後、シュテルは達也にCADをいじらないかと誘いに部屋を訪れる。がしかし、その奥で聞こえた声にシュテルは驚愕する。

 

「・・・・・・・・て理由で、他人の喧嘩に巻き込まれる必要なんてなかったんです!」

 

最初の方こそ聞き取れなかったが、おそらくビーチに行ったときに喧嘩に巻き込まれたのだろう。肩にあざを作っているらしい。

 

それを聞いてシュテルにはまたあの時と同じような感情が出て来た。彼女はそれをすんでのところで抑える。そして、自分がそこにいなくてよかったとつくづく思う。

 

その場にシュテルがいたら、おそらく屍の山がきずかれるだろう。しかし、その会話を聞いていたのは、なにもシュテルだけではなかった。そのすぐ隣で、顔を手で覆っている少女

 

深雪はとても思いつめたような顔をしていた。

 

 

その後、母がセーリングに行きたいといったので、ヨットを借りて、近場の海を深雪たちは航海していた。時々見える魚に深雪は心躍らせていた。

 

「シュテル!見て!お魚がいるわよ!」

「えぇ、そうですね。」

 

魚に興奮するその姿はまさに可憐な少女であった。しかし、その状態は長く続かなかった。シュテルが何かに気づいたような顔をして深雪を穂波さんの方へ移動させる。

 

「どうしたのシュテル?」

「敵です!数1、潜水艦。達也!」

「分かっている!」

 

するとその潜水艦から何かが発射された。それはものすごい速さでシュテルの方へと向かってくる。その数8本。それはもう目前へと迫っていた。深雪は思わず目をつぶる。しかし、轟音も何もしなかった。

 

彼女に向かってきた魚雷は、達也の何らかの魔法によって”バラバラにされて”いた。

 

「シュテル!」

「目標補足!アクセルシューター、シュート!」

 

その瞬間彼女の後ろから魔力弾が発射される。その数30個。それは寸分たがわず、潜水艦の胴体を貫きその潜水艦を撃沈した。

 

深雪はその時、初めて自分の兄に興味を持ち始めた。彼女の前でバラバラにされた魚雷。しかもそれをシュテルに言われる前からわかっていたような口ぶり。

 

今の彼女は、徹底的に謎を追う、探偵となった。

 

 

その後、軍の人たちが来た。風間と名乗るその軍人は、狙われた原因に心当たりはあるかとか、まぁとにかくいろいろと聞いてきた。それに穂波さんがいらいらしながら答えているのを私は覚えている。

 

そして一通り聞き終えたのか、その軍人さんは乗ってきた車で帰ろうとしました。その時私はたまたまその車の運転手と目があいました。その運転手の顔に私は心当たりがあります。

 

そして向こうも心当たりがあるのか、目をそらしました。風間大尉はそれを見て大きく高笑いをしました。

 

「君か、ジョーを見たこともない魔法でのしたという少女は。」

「えっ?」

 

私はその言葉を聞いて、唖然としました。本当に彼は軍人だったんだと。あとから知りましたが、彼らはレフトブラッドと呼ばれる元USNA軍の人たちだったのです。

 

そのジョーと言われたひとは見た感じではとてもピンピンしていました。とにかく再起不能になってなくてよかった。私はその時そう思いました。

 

「桧垣上等兵!」

「ハッ!」

 

その軍人さんは、私の前まで来ました。すると風間大尉は私に頭を下げてきました。

 

「昨日は部下が失礼をした。謝罪を申し上げたい。」

「桧垣ジョセフ上等兵であります!昨日は大変失礼をいしました!」

 

私はその姿を見て、涙を流しました。風間大尉とジョセフ上等兵はおろおろしていましたが、私はその口を開きました。

 

「私は・・・・・・・・てっきり・・・・・・・・あなたのことを再起不能にしたかと思って・・・・・・・・でも無事で・・・・・・・・良かったです。」

 

私はそこまで言うとへたり込んでしまいました。しかし、私の肩を達也はつかんで支えてくれました。私は彼に目配せをします。彼は頷き軍人さんの方へと顔を向けました。

 

「彼女、シュテルはあなたを倒したことがトラウマとなっています。なので、代わりに俺がその言葉を言います。私たちはもう気にしません。こちらこそご迷惑をおかけしました。」

 

そして彼らはその言葉を聞けて満足したのか、車に乗り込んだ。そして出発しようとしたとき、風間大尉がこういいました。

 

「シュテル・シバ・スタークス君に司波達也君だったか?」

「自分は現在恩納基地で教官も兼務している。もし暇があったら訪ねてほしい。」

 

大尉さんはそう言うと帰っていきました。そして私の中にあった靄も少し、軽くなった気がします。

 




次回はいよいよクライマックスですね。それが終わったら高校生編。つまりアニメ第一話、原作の第一巻へとつながっていきます。では次回。よろしくお願いします。


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第四話 追憶編 Ⅲ 決戦?星光の殲滅者の本気

今回で追憶編は終わります。今回から、視点を分けて書いてみようと思います。まぁ、そんな目まぐるしく変わるわけではなく、基本的にシュテルがしゃべるか、三人称、つまり作者の視点から喋るかのどっちかです。まぁたまに別の人のが入るぐらいで、いつもとあまり変わりがありません。

ただ○○sideと頭につくだけですね。それでは本編行ってみましょう。

2021/2/1 加筆修正しました。


シュテルside

 

雨が降っています。私は、なんというか、雨が嫌いではありません。むしろ好きといえます。雨の音を聞いていると、私の中から聞こえるものが、聞こえなくなるから、気持ちが幾分か楽になるんです。

 

昨日はいろいろとありました。が、今日は何というか、平和?な一日になりそうです。あの後、深雪と達也は私のことを慰めてくれました。あの時ほど人のぬくもりをありがたいと思ったことはありません。

 

そして私は、私がまだ少女であること、非情に徹せない子供だということを痛感しました。これではお母様に笑われてしまいます。そして私は何とか平常心を取り戻し、普通に動けるようになりました。

 

しかし、今日はあいにくの雨です。私たちは今日の予定を考えていました。

 

三人称side

 

潜水艦襲撃事件の翌日、その日はあいにくの雨で、長時間降り続けるものだった。

 

「お母様、本日のご予定は如何いたしましょう?」

「そうねぇ・・・・・・・・こんな日にショッピングというのもねぇ・・・・・・・・シュテル、何かない?」

「申し訳ありません、私はそう言ったものにあまり詳しくはありませんので分かりかねます。」

「であれば、琉球舞踊などは如何でしょう?着つけも体験できるようですよ。」

「へぇ・・・・・・・・それは面白そうね。」

「穂波さん、これ、どうやら女性限定らしいですよ?」

「えっ?あっ、ほんとですね。達也君、どうしましょう・・・・・・・・」

「・・・・・・・・では達也、あなたは今日一日自由にして構いません。」

「お母さま、私も自由にさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「あらシュテル、構わないけど、どうして?」

「昨日、風間大尉殿から基地見学のお誘いを受けました。この際ですから、それを達也と受けておきたいのです。」

「分かりました。シュテル、達也との同行を認めます。」

「あのっ!お母様、私も同行したいのデスがよろしいでしょうか?」

「深雪さんまで・・・・・・・・でもそうね、あなたにはガーディアンの力を見定めるいい機会かもしれないわね。どうせおいおい見せる機会を作ろうとしてたわけだし。分かりました。認めます。」

「ありがとうございます。」

 

深雪は知りたかったのだ。自分の兄がどこまでの力を持っているのかを。

 

「あぁそうそう。三人とも。基地に行ってからは四葉の関係者と悟られてはなりません。よって、達也のことはほんとの兄として扱いなさい。まぁシュテルは問題ないとは思うけど。」

「「「仰せのままに。」」」

 

深雪の心はすでにすさまじい動悸で動いていた。

 

(私がこの人をほんとの兄弟のように?ま、まさか私はこの人のことを、に、兄さんと?やだやだ私ったら、こんなので恥ずかしがってたら、まるで私がブラコンみたいじゃないっ!)

 

事実である。

 

「何をしているんですか深雪。行きますよ。」

「はっ、はひっ!」

 

盛大に噛んだ。その後、穂波さんが深夜を連れて琉球舞踊に行くのを見送った後、シュテルたちは恩納基地へと向かうことにした。

 

「待ってください。今日は私から2人へのお礼を兼ねて、基地まで”飛びましょう”その方が早くつきます。」

「えっ?シュテル、聞き間違いでなければ今”飛ぶ”といったかしら?」

「えぇ、飛びます。ルシフェリオン。」

 

するとシュテルの手から青い宝石、ルシフェリオンが、その姿を現した。

 

「ルシフェリオン、浮遊モード。ブレイズフィン展開。」

 

見間違いでなければ、彼女の足に、赤色の羽が生えた。その周辺、というかシュテルの周りを杖がぐるぐると回っている。

 

「達也は私の肩をつかんでください。深雪もそうして欲しいですが、怖いなら背中に掴まってもいいですよ。」

「い、いえ。このままでも大丈夫よ。えぇ、大丈夫ですとも。」

「達也は大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。いつでもいいぞ。」

「では二人とも、決して騒がないでくださいよ。」

 

そうしてシュテルは飛行を開始した。恩納基地まではそれほど時間がかからず10分程度でついた。

 

「ようこそお越しくださいました。防衛陸軍兵器開発部の真田です。」

 

そう言って真田は軽いお辞儀をした。するとその後ろから風間が出てきて、達也に声をかけた。

 

「早速来てくれたということは、二人とも、軍に興味を持っていると考えていいのかな?」

「確かに軍には興味があります。しかし、私も達也もまだ軍役につくことは考えていません。」

「まぁ、そうでしょうな。」

 

そのままシュテルは風間に連れられ奥のフロアへと向かった。

 

 

そこには建物を模して作ったモニュメントからロープを使って降りる訓練をしている軍人がいたり、格闘訓練をしている軍人がいたりした。

 

すると、達也が口を開く。

 

「ここは・・・・・・・・魔法を使っての着地訓練ですか。」

「あぁ。ここでは現場での魔法を使用を目的とした実戦形式の訓練を行うルームになっている。」

「これほどのスキルを持った魔法師をよく揃えられましたね。」

「ここは国境最前線だからね。」

 

風間と達也は話し込んでいる。それを壁際で見ていた深雪は、つまらなさそうに見ていたためか、あくびをしていた。

 

「寝不足ですか?深雪。」

「違うの。なんかつまらななくて。」

「軍の施設とは恐らくこういうものです。一般人である私たちが来てもつまらないと思うのは仕方ないでしょう。」

「そうね。それにしても、あなたはやけにウキウキしてるように見えるのだけど?」

「・・・・・・・・えぇ、不覚にも私はここに来るのが楽しみで仕方なかったのです。お母様が達也にあれを言ってくれたのはこちらにとってはとても好都合でした。」

 

何時も表情を変えることが少ないシュテルが、深雪にもわかるほど表情を変えているのはとても珍しいことである。

 

その後、シュテルは風間から呼ばれ、そちらへと向かう。その内容は、なんとシュテルと桧垣上等兵の魔法アリの対戦だった。

 

シュテルは、それを承諾し愛機であるルシフェリオンを起動し、桧垣上等兵とは反対側に立つ。

 

「いいのですか?桧垣上等兵。全力で行っても。」

「あぁ、構わないぜ。全力を出して負けるなら俺に悔いはないさ。」

「・・・・・・・・フフッ。分かりました。全力で、お相手させていただきます。ルシフェリオン。」

『yes,sir』

「そのCADって喋れたのかよっ!?」

「いえ、私がしゃべれるようにしました。といっても管理用の自己思考型AIを搭載しただけですがね。」

「あれだけの力がありながら技術力もあるとは。俺は何て相手に喧嘩を売っちまったんだ。」

「まぁ、互いに知らなかったわけですし。それに、ほら。」

 

シュテルが顔を明後日の方向に向ける。桧垣上等兵もそっちを見ると、達也が他の隊員を伸している姿があった。

 

「あれよりは、まだ弱いですよ。」

「それでも十分だと思うがな。」

 

桧垣上等兵が構える。それを見てシュテルも構える。そのとたん、桧垣上等兵の姿が突然”消えた”。

 

そう認識した瞬間、桧垣上等兵はすでにシュテルの懐まで迫っていた。シュテルもたまらず自己加速術式で後ろに飛ぶ。

 

が、やはり追い付かれる。シュテルは桧垣上等兵の拳が自身の体を捉え、叩き込んでくるタイミングを見計らった。

 

桧垣上等兵はその拳を前に突き出す。威力は直撃すればその時点で勝負が決まるほどの威力。しかし、彼の拳が届くことはなかった。

 

「バインド。」

 

シュテルがそう呟くと同時に桧垣上等兵の四肢が固定される。よく見ればその部分に、赤いリング状のものがついていた。桧垣上等兵はそのまま一歩も動けず、決着がついた。

 

勝負が終わり、シュテルは桧垣上等兵のバインドを解く。すると桧垣上等兵が近づいてくる。

 

「今のわけわからん魔法は何だ?あんな魔法聞いたことないぞ。」

「今のは”バインド”と呼ばれるものです。文字通り、空間にあらゆるものを固定し捕縛します。そしてこれは今の魔法体形には存在しない、いわゆるBS魔法?と呼ばれるものですよ。私は普通の魔法も使えますが

本来はBS魔法師なんですよ。」

「なるほどな。じゃ、最初に俺にやったのもそれ系統なのか?」

「はい、あれはバリアバーストと呼ばれるものです。これは説明するより見てもらった方が早いでしょう。桧垣上等兵さん?私にボールを魔法ありでいいですから本気で投げてもらえますか?」

「ジョーでいいぜ。シュテルさん。で、本気でいいのか?」

「はい。本気であればあるほど、この性能を見せられますから。」

 

桧垣上等兵は、そのトレーニングルームにあったバスケットボールを一つ掴み、シュテルの方に投げた。シュテルは自身の前に赤い魔力で出来たバリアを生成。そのバリアにボールが当たる。

 

「バリア・バースト。」

 

その瞬間、そのバリアが突如”爆発した”。桧垣上等兵はそれを見てヒューと口笛を吹いた。

 

「すげぇ威力。あれがバリアバーストってやつか?」

「はい。バリアバーストとは、そのバリアに使う魔力を意図的に暴走させ、そのまま爆発させるものです。これは、受ける側だけでなく、最悪術者本人にまでけがを負わせる。ある意味最後の切り札のようなものです。」

「・・・・・・・・そんなのを俺は食らったのかよ。」

「ほんとに、すいませんでした・・・・・・・・あの時は頭に血が上っていまして・・・・・・・・」

「いいっていいって、あんときは俺も悪かったんだしな。」

 

桧垣上等兵はシュテルと友情を結んだようだ。

 

 深雪side

私は今、国防軍の風間大尉といろいろお話をしています。そして私はその中でふと疑問に思ったことを質問しました。

 

「風間大尉さん。」

「風間、でいいですよ。なんでしょう?」

「先ほど兄の戦いぶりを見て、CADも持ってない兄を魔法師と判断したのはなぜでしょう?」

 

そう、それは兄が乱闘?訓練をしている最中に風間さんが呟いた言葉でした。

 

「実戦的ですね、彼は。相手が暗器を持っている可能性を想定した間合いの取り方です。」

「あれは・・・・・・・・おそらく体術だけではない、魔法師としてもかなりのものだな。」

「えっ?」

 

そして先のところに戻ります。

 

「ふむ…………勘、ですかな。沢山の魔法師を見ているとそれが魔法師か否か。強いか否かがわかるものです」

 

勘?この人は勘だけで兄を魔法師と見抜いたんですか!?なんだろう、私はこの人がとても怖いです。

 

 

 三人称side

その後、一通りのことが終わり、シュテルと達也は真田に連れられて、研究開発をしている部門へと足を運んでいた。

 

「司波君。君にこれを。」

 

真田はそう言うと達也の前にアタッシュケースを出した。達也がそれを開けると

 

中には、拳銃形態のCADが二丁入っていた。

 

「これは?」

「自分が開発した特化型CADです。加速系と移動系の複合術式を組み込み、ストレージをカートリッジ式にしています。」

 

達也はそれをまじまじと見つめている。

 

「どうです?興味はありますか?」

 

真田は聞く。

 

「試してみたいです。」

 

達也はそう答えた。その時深雪は、兄にもちゃんと心があるということを理解した。しかし、それと同時に自身に対する嫌悪感が沸き出て来た。

 

(兄は、こんな私をどう思ってるのかしら?少なくとも、良くは思っていない、と思う。だって兄を縛り付けているのは私、私さえいなくなれば・・・・)

(私さえいなくなればあの人は、自由なのに。)

 

そうして3人は、恩納基地を後にするのだった。

 

 

翌日、シュテルは昨日までのことを思い出していた。彼女は元々転生者であった。しかし、あの女神スクルド過去の世界に来る段階で、思考と心をこちらの世界に合わせたので、今は転生者と感じることはほぼなくなっている。

 

しかし、思考は消えてもこの世界に関する記憶。所謂原作設定は今も残っている。残っているからこそ知っている。彼があそこまで分家に嫌われている理由を。

 

(達也は生まれて間もないころ、分家の人に殺されそうになった。それは彼の力があまりに強大すぎたから。しかしそれをやめさせたのはその時の四葉の当主、四葉 英作だった。彼は達也が動けるようになってすぐ彼に人殺しをさせた。

彼の感情を抑えるために。そのかいあって、達也はその力を暴走させることはなかった。そして、深夜に衝動を深雪へのものをのぞいて、達也は消された。)

 

達也の今まで歩んできた人生、それは彼にとって、いいものではなかっただろう。そうシュテルは思っている。だからこそあのパーティの時は、自分の感情を抑えるので精いっぱいだった。

 

もし、抑えきれていなかったら、おそらく彼女は黒羽貢を殺していただろう。そのぐらいシュテルはキレていたのだ。そして彼女は一つだけ間違いをしていた。それは達也の感情が向けられる相手にシュテルが入っていることである。

 

いけない、こんな気分ではと、彼の部屋にCADを調整しに行こうと部屋を出て行こうとしたとき、外が騒がしくなった。そして穂波が部屋まで来て、こう言った。

 

「大亜連合が攻めてきました!」

 

 

達也は国防軍の風間と連絡を取っている。深夜は真夜と話をしていた。どうやら国防軍を手配してくれたらしい。しばらくすると桧垣上等兵が来るまで迎えに来た。

 

「皆様を安全な場所までお送りします。」

「状況を教えてください。」

「国防軍は現在敵潜水艦隊と交戦中。敵軍の詳細はまだ判明していませんが、奇襲を水際で抑えることに成功しています。」

「陸上では戦闘が行われていないということですか?」

「おそらくは。しかし、ゲリラなどの可能性もあります。皆様におかれましては、恩納基地につき次第、すぐにシェルターへと避難してください。」

 

その後、シュテルたちはシェルターへと入っていった。そこにはすでに人がいた。

 

「迎えが来ないわね。」

「何かあったのでしょうか?」

 

深夜と穂波はあたりを見回す。そう、シェルターといってもここは連絡通路。準備が整い次第迎えを出す、と桧垣上等兵はいった。しかし、いまだに来ないのである。

 

深雪はとっても不安がっていた。もし、ここが戦場と化したら、戦わなければならない。しかし、今の彼女の使える魔法がどの程度相手に通用するかはいまだに未知数。

 

それゆえに、疑心暗鬼になっていたのである。すると達也はそれを見かねたのか深雪に声をかける。

 

「大丈夫だよ深雪。俺とシュテルがついている。お前を傷つけさせはしない。」

「そうですよ深雪。私があなたを守ります。」

 

それを聞いて深雪は顔を真っ赤にした。どうやら恥ずかしがっているようだ。しかし、その光景を長く見られるほど状況は芳しくなかった。

 

「達也。」

「あぁ、銃声だ。」

「銃声!?達也君、シュテルちゃん。様子は分かりますか?」

「いえ、自分には何も。」

「私も同じです。ここに来るときにサーチャーを飛ばしましたが、場所の特定には至っていません。」

「それにこの部屋には、何らかの形で魔法を阻害する何かが張られています。」

「そうね、しかもそれは多分この部屋だけじゃない。建物全体をこの膜が覆っている状態だと思うわ。」

「うかつに飛び出さないほうがいいと思います。・・・・・・・・っと、こっちに向かってくる人影が。その数4、おそらく軍人です。」

「分かったわ。達也、外の様子を見てきなさい。」

「ですが、今の自分の技能では、”深雪”を遠くから守るのは不可能です。」

「”深雪”?身分をわきまえなさい。達也?」

「・・・・・・・・失礼しました。」

「達也君、ここは私とシュテルちゃんで抑えます。君は早く行ってください。」

「分かりました。お願いします!」

 

達也はその扉を開けその様子を確かめに向かった。それと入れ違いになるように、軍人が入ってきた。

 

「失礼します!私は空挺第二中隊の金城一等兵であります!皆様を地下シェルターへとお送りします。ついてきてください。」

「すいません。連れが一人、外の様子を見に行っていまして。」

「ですが、ここにいるのは危険です。」

「でしたら、そちらの方たちを先に連れて行って下さいな。大切な息子を置いていきたくはないので。」

 

深雪と穂波は目を見張る。

 

「そうだ!我々を先に連れて行きなさい!」

 

と、恰幅のいい男が罵っている。

 

「奥様、達也君と合流するのはそこまで難しくないと思うのですが?」

「別に達也を心配してるわけじゃないわ。あれは”建前”よ。」

「建前、ですか。」

「えぇ、そう。あの人たちについて行くのはよくないという私の勘。」

 

それを聞いて二人はまたしても目を見張る。司波深夜の直感はよく当たる。彼女は今の魔法社会で唯一、精神に関する魔法を多く持っている。

 

そして精神に関する魔法を使う彼女にとって、人の心を本当の意味で読めるということは得意分野に等しい。そんな深夜が直感だといった。それはすなわち、敵!

 

すると、ドアが勢い良く蹴り開けられた。先に入ってきた軍人たちはそこに向かって銃を撃つ。その隙に、穂波は対物障壁を張る。

 

そしてシュテルは、すでに目に見えない形にした。魔力弾を男たちの急所へ発射する準備を整えていた。すると、深雪たちが頭を押さえる。

 

見ると、男たちが持っていた指輪のようなものを向けていた。男たちが使っていたもの、それはアンティナイト。キャストジャミングと呼ばれる妨害電波のようなものを発すことのできる

 

軍事物資の一つだ。穂波が耐え切れず対物障壁を解く。深夜もたまらず頭を抱えその場にうずくまる。男たちはそこに銃を向ける。そしてその引き金を引いた。しかし、それは深雪たちに届くことはなく

 

すべて、赤い障壁で防がれていた。

 

「てめぇ、何故キャストジャミングが効かない!?」

「生憎と、そう言うものが聞かない体質なので。では、ゆっくりとお眠りください。」

 

その瞬間、隠していた魔力弾が一斉に男たちへと向かっていく。それはすべて男たちの首の急所に当たり、男たちはたまらずその場に倒れた。

 

「ふぅ。」

「すごいわね。流石は真夜の娘。」

「おほめに預かり光栄です、母様。穂波さん、対物障壁を念のため張っておいてください。またいつ敵が来るか分かりません。」

「分かったわ。」

「深雪も早くこちらへ来てください。」

「今行くわ!」

 

しかし、シュテルは見てしまった。深雪の後ろで、ギリギリ気絶していなかった軍人が最後のあがきといわんばかりに、拳銃を向けているのを。その時、シュテルはとっさに動いてしまった。

 

「危ない!」

「きゃ!?」

 

男は銃を一発撃ったと同時に、魔力弾を受けて再度気絶した。穂波はそれを見て安堵した。しかしその安堵は深雪の悲鳴によってかき消された。

 

「シュテル!?ねぇ、シュテルってば!起きてよ!ねぇ、起きてよぉ!」

 

穂波はその光景を見て、思わず手を口に持ってきていた。それは深夜も同じだった。そこに横たわっていたシュテルのドレスには血が垂れており、その胸には、徹甲弾を撃たれたのだろう。穴が開いていた。

 

するとシュテルが口を開いた。

 

「みゆき・・・・・・・・ぶじ・・・・・・・・ですか?」

「私は無事よシュテル、だからお願い、もう喋らないで!傷がどんどん開いていっちゃうから!」

「いいん・・・・・・・・です。もう・・・・・・・・わたしは・・・・ながく・・・・・・・・ありま・・・・・・・・せん・・・・・・・・から。」

「お願い!死んじゃいや!」

「み・・・・・・・・ゆき・・・・・・・・あなたたち・・・・・・・・と・・・・・・・・会えて・・・・・・・・かぞくに・・・・・・・・なれて・・・・・・・ほんとうに・・・・・・・・よか・・・・・・・・った。」

「そ・・・・んな、駄目よシュテル。お別れみたいな。やめて!」

「わたし・・・は・・・・・・・・さきに・・・・・・・・いき・・・・・・・・ます。どうか・・・・・・・・おしあわせ・・・・・・・・に。」

 

シュテルはそう言い笑顔を見せると、その目を閉じた。

 

「いや・・・・・・・・いやっ・・・・・・・・いやいやいやいやっ!お願いシュテル、返事をして!シュテル・・・・・・・・シュテルーー!!!!」

 

深雪は泣き出し、穂波は顔を背け、深夜はただ、絶望の表情を見せていた。それだけ、シュテルがこの家庭に与えた影響は大きかったのだ。

 

そこに戻ってきたのは、達也だった。

 

 

「お兄様、シュテルが!シュテルがっ!」

「深雪、落ち着け。・・・・・・・・シュテル、もう少しだけ耐えていてくれ。」

 

すると達也は唐突にCADをシュテルに向け、彼が、彼だけが使える魔法を、再生を行使した。

 

(コアエイドスデータ、遡及を開始。修復地点、確認。バックアップとして切り出し、上書き。・・・・・・・・完了)

 

達也はCADをホルスターへと戻す。その時、シュテルが目を開けた。

 

「ここ・・・・・・・・は?」

「シュテルっ!」

 

深雪は思わずシュテルに抱き着き、泣き出した。穂波はそれを涙を流しながら見ており、深夜もその目じりに涙を浮かべていた。

 

 

その後、深雪たちを襲った軍人たちは、風間大尉の部下らによって連れていかれた。

 

「申し訳ない。今回は完全にこちらの落ち度だ。我々にできることなら何でも言ってくれ。出来る限り便宜を図ろう。」

「では、まず、母たちをここより安全な場所へと連れていってください。ここよりも安全なところはあるんでしょう?」

「・・・・・・・・あぁ。では防空指令室までお連れしよう。」

「そして二つ。アーマースーツと歩兵装備を一式貸してほしいのです。最も消耗品はお返しできませんが。」

「なぜ、そのようなものを?」

「奴らは、深雪たちを危険にさらし、あろうことかシュテルにまで手をかけました。その報いを受けさせねばなりません。」

「一人で行くつもりか?」

「自分がなそうとしていることは軍事行為ではありません。ただの復讐です。」

「それでもかまわないのだがな。非戦闘員や投降者の虐殺を認めるわけにはいかないが、そのようなつもりもないのだろう?」

「投降をする暇さえ与えません。」

「ならば良し!司波達也君。君を我々の戦列に加えよう。」

「ちょっと待ってください。」

 

そこに口をはさんだのは、まぎれもなくシュテル本人だった。

 

「達也一人で?何を冗談を。二人ですよ。」

「シュテル!?お前何を!」

「達也は黙っててください。」

 

シュテルはそう言うと風間の方を向く。

 

「私は今猛烈にはらわたが煮えくり返っています。彼らにはその報いを受けさせねばなりません。私を傷つけるだけならまだいい。しかし、彼らはあろうことか、私の最愛の家族に、深雪に手を出そうとしました。

私はそのことが許せません。このままでは私は何をしでかすか分かりません。」

「分かった。君も我々の戦列に加えよう。」

 

そしてシュテルは深夜の方を向いた。

 

「お母様、今までありがとうございました。これから私は、シュテル・シバ・スタークスではなく、シュテル・ヨツバ・スタークスとして、動きます。では”叔母様”どうかお元気で。」

「・・・・・・・・わかったわ。私からの最後の指令よ。達也をよろしくね。」

「えぇ、分かっています。叔母様。では。」

 

シュテルは、そのまま、戦場へと足を踏み入れた。

 

 

敵にとってこの二人はどう見えただろうか?片方はどんどん敵を”消し”殺したと思った兵士を復活させてゆく。もう片方はもはや蹂躙だ。的確に急所を射抜き、文字通りの死神と化している。

 

敵は、二人にどれだけの絶望を感じたことだろう。少なくとも、艦砲射撃をしようとしてくるぐらいには冷静さを失っていたのかもしれない。

 

「達也、敵艦の情報を見ましたか?」

「あぁ、捉えた。」

「ではその情報を私に。あとは私がやります。」

「分かった。俺も手伝う。」

 

達也はシュテルの手を握る。すると彼女の頭に達也が見たものが流れ込んできた。座標までである。彼女はそれをCADに保存し、飛び上がる。達也も片腕を前に突き出し、魔法を発動する準備をしている。

 

「カートリッジ、ロード」

『road cartridge』

 

すると彼女のCADがまるで銃の撃鉄をたたくみたいなことをする。空薬莢が落ち、彼女の前には巨大な赤い魔力の塊ができていた。

 

「ルシフェリオン・ブレイカー」

 

それは、戦争に終止符を打つ、終焉を告げるラッパだったのだろうか?彼女は前方に収束した魔力の塊、いや、サイオンの塊を小さいレーザーで打ち抜いた。それはサイオンの塊に当たると大きさを増していき

 

ついに一条の閃光となった。その光は、大亜連合の艦隊の約半数を焼き払った。そしてその瞬間、達也もまたその力を解放した。彼は戦艦の弾薬庫にある砲弾を起点とし、それを分解し、それと同程度の爆発エネルギーをその場に置いた。

 

簡単に言ってしまえば、その場で”炸裂弾数百発分の爆発が起こった”。その爆発で残っていた戦艦も跡形もなく消滅した。その2つの魔法は後に、非公式戦略級魔法 ルシフェリオン・ブレイカー、マテリアル・バーストと呼称されることになる。

 

そしてこの魔法は、正体不明の戦略級魔法として世界へと知れ渡り、世界中に波乱と混乱を引き起こすこととなるがそれ真はまた別のお話である。

 

 

沖縄事件。あれからすでに2年の月日が流れた。シュテルはこの事を真夜に報告した。すると真夜は、司波兄妹についていろという命令を下した。それはシュテルにとっての罰であると、真夜は言った。

 

こうしてシュテルはまたシバの姓を名乗ることとなり、深夜のことを見守りながら、達也と深雪と一緒に過ごしている。これはシュテルが直接聞かされたものなのだが、真夜は最初からシュテルを司波兄妹と

 

一緒にするつもりだったらしい。そこで、深夜に頼んで、達也の感情向ける対象ににシュテルを入れたそうだ。なので、達也は深雪並みのシスコンぶりをシュテルに発揮することになるだろう。

 

深雪はその後達也を慕うようになり、前よりもブラコンっぷりが激しく、顕著になっている気がする。あの日、深雪は自身で覚悟を決め、深夜の口から直接達也のことを色々と聞いたそうだ。

 

それでもなおお兄様と呼び慕っているということは、それだけ達也が好きなのだろう。深夜は今は入院している。病気の悪化で、集中治療室へと入っている。しかし、前よりはよくなっているそうだ。

 

それもそのはず、シュテルは、深夜に回復魔法をかけた。それが効いているのだろう。そして三人は、中学校を卒業し、無事に国立魔法大学付属第一高校への進学が決まった。それが波乱にまみれた始まりだとはこの時は誰も知らない

 

ーーーー追憶編 Fin------




随分と駆け足に放ってしまいましたが、追憶編はここで完結です。次回からはやっと本編。入学編が始まります。ではまた次回!


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入学編
第五話 入学編 Ⅰ


どうも皆さん。作者です。最近鼻血が凄く出るので困ってます(;^ω^)というか、本来書くべきなのはありふれのはずなのにこっちにご執心なのは気にしちゃいけないのでしょうか?さて今回からシュテルたちは魔法科高校へ入学します。どんな波乱が待っているのでしょうか?

さてちょっとこれからの展開についてお話させていただきます。一応なのはとフェイトは出そうと考えています。その形がどのようになるかは分かりませんが。他のマテリアルズに関しても同様です。作者はこの作品をぶっつけ本番で書いているので、やはりそこらへんに

多少の齟齬が出る場合があるのであしからず。まぁこんなことをだらだらと喋ってるのもあれなので、本編行ってみましょう。


 シュテルside

小鳥のさえずりが聞こえます。窓から差し込む光が朝であることを告げます。私は眠いながらもその体を起こしました。朝にはめっぽう弱いのです。

 

唐突ですが、私はいわゆる転生者です。最も、今の私には転生前の人物の名前どころか、プロフィールを全く覚えていません。しいてわかるとすれば、元々オタクだったこと、ぐらいなものです。

 

なので私はこれから起こることをほとんど知りません。よく2次創作などの小説で書かれているような転生主人公最強!とかいう展開には多分ならないと思います。だって、達也の方が強いのですから。

 

とまぁそれはさておき、今日は中学生?最後の休日です。明日からは深雪たちと一緒に魔法科高校へと通い始めます。昨日は母さん・・・・・・・・もとい、四葉真夜のもとに行ってきました。

 

まさか、呼ばれて行ってみれば、姉妹揃って私に母さん呼びをさせようとあれだこれだと言われるとは。結局私が折れて、深夜お母さん、真夜お母さんと呼ぶことになりました。よほど私を娘としたいようです。いや、娘だと感じたい、でしょうか?

 

でも、あの二人の気持ちは分からなくもありません。二年前のあの日、私は達也に助けてもらった。でなければ死んでいたのですから。ちなみに深雪はあの後、指令室で達也の精神とそれによる感情への影響の件を

 

すべて聞いたそうで、それからというもの、深雪は達也にぞっこんのようです。今では達也のことをお兄様と呼び、慕っています。昨日も私が本家に行っている間、買い物という名のデートをしてきたそうです。

 

昔の二人の様子を知っている私からしてみれば大変仲睦まじく思うのですが、なんでしょう?時々、何とも言えない感情を覚えることがあります。達也を見ると、です。この感情は何なんでしょうか?

 

私はいつもの服に着替え、リビングへと向かいます。

 

「おはようございます、二人とも。」

「あぁ、おはようシュテル。今日もまた随分と遅い起床だな?」

「まだ7時ですよ?二人が早すぎるのです。何時に起きたんですか?」

「6時だな。」

「早いじゃないですか。」

「そうか?昔からこの時間に起きていたからな。慣れのようなものだ。」

「フフッ、姉さま。さては昨日の夜、アニメを見てたでしょ。」

「・・・・・・・・バレましたか。はい、見ていました。止まらずに結局12時まで見続けていました。」

「おいおい、明日は始業式だぞ?そんなのでどうする。」

「大丈夫です。学生に必要な最低限の睡眠時間は確保しています。」

「それを大丈夫とは、言わないのではないかしら?」

「くっ、そこを突かれると痛いですね。やめてください。」

「なら、その不規則な生活をやめてください。姉さま。」

 

とまぁ、すっかり司波家にはなじみ、今でもヨツバ・スタークスではなくシバ・スタークスと名乗らせていただいています。しかし、私が姉と呼ばれる日が来るとは。正直思っていませんでした。

 

この家庭に入ることになって、家族関係はどういう風にするのかを決めることになったのですが、その時に深雪が、私は姉という立場が合うといって強引に決めてしまいました。最も、私はその決定に不服や不満はなかったので

 

そのままOKという形になりました。そういえば、入学願書を書く時、カタカナではなく漢字で司波と書かされたのですが、やっぱり漢字でないといけないんでしょうか?

 

それはさておき、今日も私はいつも通りアニメのグッズを買いにいき、二人も出かけました。なんでもFLT、フォアリーブズテクノロジーに用があるとか。

 

そして私がその理由を知ったのは二人が帰ってきたときでした。時計の針が午後5時を指していたころ、二人は帰ってきました。どうやらFLTの帰りにいろいろなところへ寄って何かを買ってきたようです。

 

しかし、達也の手にはそれとは全く感じの違うもの。銀色のジュラルミンケースが握られていました。そのケースの中身は、なんと白色をした拳銃型のCADでした。

 

「達也、これは?」

「お前のCADだ。シルバーホーンをベースにして作った特化型CAD。名前は”レイジングホーン”。といっても調整はお前がいないとできないから、あとで地下に来てくれ。」

「分かりました。達也、わざわざありがとうございます。」

「気にするな。それに、お前にCADを作ってほしいといってきたのは、深雪だ。」

「えっ?そうだったんですか深雪?」

「えぇ・・・・・、私たちのはありますけど、あなたのCADはあの時に壊れてしまいましたから。」

 

そう、私のCADは2年前のあの日、交戦中にホルダーに弾が当たってそのまま壊れてしまいました。元々試作機であったがためにその耐久値は一般的なものに比べて低く、あの戦いのときにはすでに限界が来ていたので

 

仕方ないのですが。あれ以来私はずっとルシフェリオンを使っていました。が、やはりあれは目立ちすぎるので、有事の際以外は使わないことにしています。なので今の私には使えるCADがないという状況です。

 

市販のを使おうとも考えましたが、試しに使ってみたところ、一回使っただけで壊れてしまったので、諦めていました。ですから今回のこれは私にとってとても喜ばしいことでした。

 

時と場は変わり今は夜の8時、達也の家の地下のラボに来ています。そこで私は、私の新たなる愛機、レイジングホーンの調整をしています。

 

「しかし、いくら魔法が存在しないからって、伯母上の流星群を利用してあの誘導魔力弾を模した魔法を作るとはとは、お前も大概、異常だな。」

「達也にだけは言われたくありません。」

「なに、普通に真っ当な意見を述べただけだ。それに、今は違うとはいえトーラスシルバーの片棒を担いでいたお前にだけは言われたくはないな。」

「・・・・・・・・ぐうの音も出ません。」

 

そう、私の魔法には今の魔法師社会では再現の難しいものが多数あります。その中の一つがアクセルシュータ―。魔力弾を生成しそれを自身の意のままに操る私の十八番の一つです。

 

しかし、あれは達也でも情報を見るのに手間取った魔法で、今の魔法技術では再現は不可能だといわれました。しかし私は、それを再現する方法を見つけました。

 

そう、それは母さんの十八番、流星群です。流星群は「空間の光分布」に作用する収束系の系統魔法であり、光の分布を偏らせることで光が100%透過するラインを作り出し、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つもの。

 

そしてこれを、対象に当たるまでは何も影響を及ぼさないようにしつつ、対象に当たるときだけ実体化させるように改造したのが、私の作った疑似アクセルシュータ―です。これには、魔法のコントロールが通常の魔法より多く求められます。

 

母さんもやろうとしましたが、対象に当たる瞬間に実体化させる、という項目が成功せず、何度も失敗していました。その時の母さんの顔はとてもかわいかったです。思わずほっこりしてしまいました。

 

それはさておき、これのいいところは、殺傷設定が変更できることにあります。達也の分解のように、相手を問答無用で殺してしまうのではなく、ただ打撃を与え気絶させるようにできたり、それこそ刺し貫くこともできます。

 

なので、この魔法は、殺傷性ランクが自由に変えられます。といっても公式にはそういう魔法は認知されていなく、見せる機会があったら見せるという形ですね。

 

「それで、達也。私にはこの魔法の魔法名を付けられるほどの語彙力がありません。なのであなたがつけてくれると嬉しいのですが。」

「俺にもそういうのはないんだがな・・・・・・・・流星弾丸(ミーティア・バレッド)というのはどうだろうか?」

「いいんじゃないでしょうか?じゃあそれで。それで、調整は終わりましたか?」

「あぁ、終わった。」

「では、私は戻りますね。達也も、早く寝てくださいね。」

「分かっている。そうだな、今日は早めに寝るとするか。」

「では、おやすみなさい達也。」

「あぁ、お休み、シュテル。」

 

 

翌日、国立魔法大学付属第一高校入学式の日。私たちは深雪の答辞のリハーサルがあるため、早く現地入りしていました。しかし、深雪は校門をくぐると、達也と私の方を向いて、とても不服そうな顔をしました。

 

「納得できません!」

「まだ言ってるのか・・・・・・・・」

 

彼女が不服そうに言っている理由。それは制服にある。この第一高校は一科生と二科生に分かれている。そして一科生の制服には花びらを模したエンブレムが入っているが、二科生には入っていない。

 

深雪と私の制服には入っているが達也の制服には入っていない。深雪はそれが不満だったのだ。

 

「なぜ!お兄様が補欠なのですか?入試の成績はお兄様は同率トップではありませんでしたか!それに姉さまもです!本来であれば私ではなく姉さまが総代を務めましたのに!」

「魔法科高校なんだからペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。俺の実技能力は深雪も知っているだろう?自分でも二科生徒とはいえよくここに受かったものだと、驚いているんだけどね」

「私も、僅差であなたに負けてしまいましたからね。それは覆されることのない事実です。」

「そんな覇気のないことでどうしますか!勉学も体術も二人に勝てる者などいないというのに!魔法だって本当なら」

「深雪!」

「それ以上はダメです!」

 

私と達也はそれ以上深雪が言うのをやめさせました。

 

「いいですか深雪。ここで入試のことをこれ以上言うのはやめてください。それに、何も入試だけが達也の技術を見せる場ではないでしょう?これからです、これから達也の技術を見せて行けばいいのです。

入試なんて、所詮はここに入るための簡単な試練です。気にしちゃいけません。」

「そうだぞ深雪。それに、俺とシュテルは楽しみなんだよ。お前があの舞台に立つのが。だから、こんなダメ兄貴と、」

「ダメな姉に見せてください。」

「「お前(あなた)の晴れ姿を。」」

「・・・・・・・・はい!」

 

そう言って深雪は会場へと入っていきました。さて、深雪の付き添いという用事は済みました。しかし、会場が開くまではまだ時間があります。

 

達也と私は、近くのベンチに腰掛けました。達也は読書を始めます。私は古い型の音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを挿しました。音楽を聴くときはイヤホンかヘッドホンに限ります。

 

そのまましばらく音楽を聴いていると、入学式開始三十分前になっていました。私は聞いていた曲を止め、イヤホンを外し、講堂へ向かおうとしました。しかし、止められました。

 

「新入生ですか?そろそろ入学式が始まるので、講堂に向かったほうがいいですよ。」

 

そう言った彼女は身長が私と同じぐらい、つまり155cmの小柄ではありますがプロポーションはよく、CADを所持していることから彼女は生徒会、または風紀委員会のどちらかに所属しているのでしょう。

 

プロポーションに関しては嫉妬していったわけじゃないですよ?私もどこがとは言いませんけど大きいですけど、彼女はそれより大きいことになんか嫉妬してませんよ。えぇ、していませんとも。

 

・・・・・・・・ゴホン。

 

「わざわざご忠告ありがとうございます。もう少しで忘れるところでした。ではこれで。行きましょう達也。」

「あぁ、分かった。」

「達也?えぇ!?じゃああなたがあの司波達也君?じゃあ、隣にいるのって、シュテル・シバ・スタークスさん?」

「えぇ、そうですが。何故我々の名前を?」

「それを話すなら、私のことを話したほうがいいですね。私は一高生徒会長の七草真由美です。ななくさと書いてさえぐさと読みます。これからよろしくね?」

 

擬音にキランッ!とかつきそうな笑顔を向けた七草さん。

 

(数字付き、ナンバーズ。しかも七草ですか・・・・・・・・これは少々面倒ごとに巻き込まれる予感がしますね。)

 

それにしてもなんで成績が・・・・・・・・いや。あぁ、なるほど。納得しました。

 

「つまり、今年の新入生の点数が書いてある書類か何かが生徒会に周知されているわけですか。よく、プライバシーのそれに引っかかりませんね。」

「えぇ、ほんとは良くないんだけど、生徒会入りをしてもらう方だとか風紀委員会に入ってもらう方とかを決めるために必要だったのよ。」

「ですが自分のことを何故?シュテルはともかく、自分はそこまで良いとも言えない点数だったはずですが?」

 

そう、達也は理論こそ私よりできるが、人工の魔法演算領域を使っているため、どうしても魔法の出力が低いのだ。

 

「先生方の間、あなたたちのうわさで持ち切りよ?両者ともに入学試験、七教科平均、百点満点中九十六点。魔法理論と魔法工学は両教科とも小論文含めて文句なしの満点。シュテルさんに至っては実技と総合で今年の新入生総代とわずか一点差。

これほどの逸材はこれまでいなかったって先生が言っていました。」

「たまたまですよ。それに、自分は実技ができないから二科生なんです。どれだけ噂されようと、それは覆ざる事実です。っと、そろそろ時間ですので自分たちはこれで。」

 

達也と私は講堂へと向かいました。

 

 

そこにつくと達也と私は顔をしかめました。見事に前後で一科と二科に分かれているからです。

 

「まさか、ここまで差別意識が高いとは・・・・・・・・」

「俺も正直驚いている。まさかここまでひどいとはな。」

「なんでしたっけ?最も差別意識が強いのは・・・・・・・・」

「差別を受けているものである、ってやつか?全く、まさに今の状況にぴったりだ。」

「さて、どうしたものでしょう。」

「荒波は立てないほうがいいだろうな。俺はこっちに座るから、シュテルは一科生の方に行ってくれ。」

「分かりました。ではまた後で。」

「後でな。」

 

私は前の席の空いているところに行きました。そこはちょうど三つ分席が開いていたので、そこに座りました。すると声がかかりました。

 

「あの、隣いいですか?」

「えぇ、構いませんよ。どうぞ。」

 

茶髪でプロポーションがいい方と物静かな黒髪?の方が私の隣にきました。どうしてこう、私の周りってプロポーションのいい方が集まるんでしょうか?

 

「あの、私光井ほのかって言います。」

「・・・・・・・・北山雫。」

「あなたのお名前は何て言うんですか?」

「・・・・・・・・えっと、シュテル・シバ・スタークスです。長いでしょうから、シュテルで結構ですよ。」

 

光井ほのかと北山雫ですか。これはまた、いい友人に出会えたようです。その後、入学式が始まり、いよいよ深雪が答辞を発表するところまで来ました。深雪の答辞はとても素晴らしいものでした。

 

途中、何とも遠回しな言い方で一科生に喧嘩を売ったのは気にしてはいけないでしょう。そして答辞が終わり礼をして深雪が降壇しました。その時にコッチをうっすら見て少し笑みを浮かべたので

 

恐らく私を見つけたのでしょう。なんともまぁ、いい目をしています。その後私たちはIDカードを作りに向かいました。一科生と二科生のIDを作る場所の指定はないのですが、なぜかきれいに分かれていました。

 

「シュテルは何組だった?」

「私はA組ですね。」

「やった!私たちと同じ!」

「私たち?では雫も?」

「うん。Aだったよ。」

「そう、それは良かったですね。」

 

すると深雪と生徒会長の七草さんが歩いているのを見かけたので、私は深雪に声をかけました。

 

「お疲れ様です深雪。なかなかに素晴らしい答辞でしたよ?」

「お姉さま!ありがとうございます。」

「おっと、生徒会の用事があるみたいですね。私はここで別れたほうがいいですかね?」

「いえ、元々そこまでの用事ではなかったですから、深雪さんお話は後日・・・・・・・・あれ?いない。」

「・・・・・・・・あぁ、生徒会長。深雪は兄を見つけたのでそっちに行ったのでしょう。出来れば一緒に来ていただけるとありがたいです。そして深雪に直接伝えていただきたい。」

「分かりました。でははんぞーくん、行きますよ。」

「分かりました。」

 

しばらく進むと、案の定というか、やはり深雪は達也のところにいました。しかし、達也はいつの間に女子と知り合ったのでしょう。あの二人について少し、気になります。

 

「深雪、生徒会長を放っておいてはいけませんよ。幸い、後日でもいいといってくれたので良かったですけど、生徒会長とはしっかり話さないと。」

「はい、すいませんお姉さま。」

「謝る相手が違うでしょう?生徒会長さんに謝ってきて下さい。」

「すいませんでした、生徒会長。私の無礼をどうかお許しください。」

「あぁ、大丈夫ですよ。今日は忙しそうだし・・・・・・・・明日にしましょうか。」

「会長!?よろしいんですか?今言われた方が・・・・・・・・」

「いいのよ。必ず今日言わなきゃいけないってわけじゃないし、それに今日は家族と一緒に居たいでしょうし。」

「・・・・・・・・分かりました。」

「では深雪さん、また明日ね。」

「はい、さようなら。生徒会長。」

 

生徒会長さんは行ってしまいました。ちなみに達也さんの隣にいたのは、クラスメイトになった、柴田美月さんと千葉エリカさんだそうです。二人ともきれいだなぁ。

 

その後私は深雪たちとともに帰宅しました。帰るときにじろじろ見られていましたが、気にしてはいけません。帰宅すると深雪は急いで部屋に戻り、着替えてきて、キッチンへと向かいました。

 

「お兄様、お姉さま。珈琲でよかったですか?」

「あぁ、構わないよ。」

「私もそれで構いません。」

「では、入れますね。」

 

彼女は自分で珈琲を入れに行きました。この時代、別に機械にやらせてもいいのですが、深雪はそれを嫌がっていました。その最中、深雪の父親 司波龍朗からの電話の件で深雪が取り乱したりしましたが

 

私たちの学校生活はこうして始まりを迎えました。




シュテル「さて主、今回いろいろと原作省いたところがあったようですが。」
自分の力ではそこまで書ききれませんでした。
シュテル「はぁ、達也。お願いできますか?」
達也「しかたない、何をすればいい?」
シュテル「数発叩き込めばいいのでは?」
いやだ、やめてくれ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
達也「ちょっと、歯を食いしばれ」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
シュテル「こんな主の小説ですが、どうか見てやってください。」


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第六話 入学編 Ⅱ

うーむ、まさかここまでの方に読んでいただけるとは思っていませんでした。こんな拙い文しか書けない私ですが、どうかこれからよろしくお願いします。という訳で、本編行ってみましょう。

2020/12/27 加筆しました。
2021/02/05 修正+流星弾丸の設定を後書きに追加しました。


 シュテルside

入学式の日の翌日、私は庭で達也に作ってもらったCAD、レイジングホーンを使って、私のオリジナル魔法である”流星弾丸(ミーティア・バレッド)”の練習をしていました。狙いは私の前方に並べられた空き缶たちです。

 

まずは、出力を最小、つまり人に当ててもせいぜい拳で殴られるほどの痛みしかないレベルでの制御の練習をしました。まだこのぐらいであればそんなに集中しなくても制御はさほど難しくなく、魔法の暴発も確認できませんでした。

 

次に出力を最大にします。ほんとはもっと細かく変えられますが、正直この魔法はそこまで細かい出力調整をする場面というのがほぼないというのが率直な感想で、怠っていい理由にはならないのですが、慣れないうちは0か100で変えて練習したほうが

 

本番で失敗するリスクが極端に減ると考えています。それはさておき、この魔法の出力の最大は、撃たれれば対戦車ライフルやロケットランチャーをを至近距離で受けるに等しいダメージが入るようになる、そんなレベルです。

 

ちなみにこの魔法は、今ある障壁魔法、例えば十文字家のファランクスとかでは止めることができません。せいぜい達也の”分解”で魔方式そのものを分解しないと対応できません。

 

当たる瞬間に、と銘打ってはいますが、実際のところ、生物の体内に入ってから実体化させても、当たる瞬間に実体化させるときに受けるダメージと同じ状態になるので

 

体内に障壁でも張らない限り、止めることができません。ですから、実質対処するのは難しいです。それはさておき、そんなことをしていると達也が庭に出てきました。

 

「おはようシュテル。どうだ?新しいCADの調子は。」

「えぇ、感度良好。反応速度も読み込み速度も申し分ないです。流石は達也ですね。」

「そうか、それは良かった。っと、俺たちはもう行くがシュテルも一緒に行くか?」

「もちろん。着替えてくるので少し待ってもらってもいいですか?」

「あぁ、待っている。」

 

そう言えば朝食を取っていませんでした。まぁ、途中どこかによって食べればいいですね。

 

私は制服に着替え、リビングへ戻りいざこれから学校へというタイミングで、達也がある提案をしてきました。

 

「それでシュテル。これから師匠のところに行くのだが、お前も来るか?というか、久々に稽古をつけてもらうといい。」

「行かせる気満々じゃないですか。分かりました。最近体術の練習をしていなくて体が鈍っていたところです。行きましょう。」

 

私は特に達也の意見を断る理由がないので従うことにしました。

 

 

九重寺、それが私と達也の体術の師匠がいるところだ。そう、私たちの師匠である九重八雲(ここのえ・やくも)はこの寺、九重寺の坊主だ。しかし、坊主にしては何かこう、似非(えせ)感がぬぐえないような人です。

 

修験者もとい僧兵が達也に襲い掛かる程度には、ここは寺という単語が似合わない空間です。しかもその矛先が私にも向いてくるのですから厄介なことこの上ないです。しかし私はここで体術などを学びましたので

 

そうも言ってられません。今日も修行者たちをあしらっていると、深雪の後ろの空間に何やら異質なものを感じました。私はそこにフィールドバインドという広域捕縛用の魔法を放ちました。すると案の定、その人物、九重八雲(ここのえ・やくも)

 

バインドに掴まっていました。もう一度言います。この人は坊主です。坊主なのですが、ほんとに坊主か?と疑いたくなります。しかし、この人は古式の魔法使い、いわゆる『忍び』もっと言えば『忍術使い』古式魔法を伝える人なのですから

 

やはり、そう言うものに、というか役職についているというのは、存外に役立ってるのかもしれません。

 

「九重先生。何をしようとしてたんですか?」

「いやー、相変わらず君のその魔法はずるいね。私がどれだけ策を講じようと私を捕まえてくるんだから。」

「何をおっしゃいますか。わざと気配を漏らしたくせに。そして先生、私の質問に答えてください。」

「それが第一高校の制服かい?」

「話を聞いてくださいよ全く。」

「ふーむ、これはなかなかに・・・・・・・・そう、これは、萌だよぉ!」

 

九重先生は相変わらずの性癖の持ち主だった。私の目の前で深雪を襲おうとしているのだから。私はとっさにCADを抜いていました。

 

「いい加減にしてください。」

 

私は冷徹な感じでそう口走り、流星弾丸(ミーティア・バレッド)を撃ってしまいました。普段なら避けられるはずの先生はそれに気づかず、入口の方へと飛ばされて行きました。俗世に行くからそうなるんですよ師匠。

 

その後達也と先生は体術での模擬戦をし、結果は達也の惨敗。その後深雪のお手製サンドイッチを食べて学校へと向かいました。ちょうどおなかがすいていたのでありがたかったです。

 

 三人称side

達也たちは学校につくとそれぞれの教室へと向かった。今日は授業があるわけではなく、受講登録と、見学だけなのでそこまで気張る必要はない。シュテルは教室へと入る。すると見覚えのある二人組がそこにはいた。

「あっ、おはようシュテル!」

「えぇ、おはようございます。ほのか。雫もおはようございます。」

「うん。おはようシュテル。」

 

ほのかと雫の二人であった。その横で深雪は不思議そうな顔をしシュテルに聞く。

 

「あのお姉さま。この方たちは?」

「あぁ、なるほど深雪は知りませんでしたね。紹介します、光井ほのかと北山雫です。昨日席がたまたま一緒になって、そこで知り合いました。」

「なるほど、よろしくお願いします。お二人とも。」

「こちらこそ、私は光井ほのか。ほのかでいいですよ。」

「北山雫。雫でいい。」

「司波深雪です。ほのか、雫。これからよろしくね?もちろん私のことも深雪でいいわよ。」

「オッケー深雪。よろしくね。」

「うん、深雪。よろしく。」

 

こうして三人の友情は深まった。そうしているうちに始業のチャイムが鳴った。深雪たちは席に向かう。ちなみにシュテルの席は深雪の後ろである。

 

シュテルは端末を開き、受講登録を済ませていく。もちろんというのか、シュテルはそれをキーボードオンリーで打ち込んでいく。その姿はなかなかに異常である、それゆえにクラス中の視線を集めることは仕方がなかった。

 

 

「この後は専門授業の見学です。午前中は基礎魔法学と応用魔法学、午後は魔法実技演習の見学を予定していますので、希望者は10分後に実験棟1階ロビーに集合してください。他に見学したい授業があれば自主的に行動しても構いません」

 

 

ここぞとばかりに周りの人間(主に男子だが)がこぞって深雪のことを誘いに席の周りに集まっていた。シュテルは軽く、聞こえない程度にため息をつき、深雪に声をかける。

 

「深雪、これから見て回りませんか?」

「お姉さま?えぇ、勿論お供します!」

「おい、お前!俺たちが先に誘ったんだぞ!勝手に決めるな!」

「はっ?」

 

シュテルは顔をしかめそう言った男子の方を見る。男子は目じりに涙を浮かべ、足がガタガタ震えていた。シュテルは殺気を放っていたのだ。そんなものを受けて「はっ?」とか言われたら普通失神ものである。

 

「私は深雪の姉です。それに今日は一緒に見ようといったのは昨日です。つまり、あなた達よりずっと前に約束していたんですよ。分かりますか?わかるなら深雪のことは諦めてください。」

 

ぐうの音も出ない正論である。それを聞いて男子たちはいっせいに散っていった。

 

「はぁ、だからああいう輩の相手は疲れるんです。」

「お姉さま、申し訳ありません。私のせいで面倒を・・・・・・・・」

「深雪が気にする必要はないんですよ。それに、私たちは家族で、姉妹なんですから、姉は妹に迷惑をかけられてなんぼです。ですからいくらでもかけてください。」

「・・・・・・・・はい!」

 

クラス中にバラ色が広がったのは言うまでもない。

 

   閑話休題

 

シュテルは深雪を連れてほのかたちの方へと向かった。

 

「ほのか、雫。一緒に見て回りませんか?さすがに二人だと悲しいので。」

「はい!ぜひお願いします!」

「うん。行く。」

「じゃあ、行きましょう。」

 

四人は見学へと向かった。

 

 

シュテルたちはその後いろいろなところを見て回り昼を迎えた。

 

「そろそろいい時間ですね。食べに行きましょうか。」

「そうだね。深雪たちと食べたい!」

「うん。それに、深雪のお兄さんにもあってみたい。」

「まぁ、来てるかどうかは分かりませんがね。」

「まぁお姉さま。まさかお兄様が食堂にいるという私の言葉が信じられませんか?」

「いえ、深雪のそれはものすごく当たりますから。信頼してますよ。」

 

そう、深雪は見学をしている最中、お兄様談義をしていたのである。四人が食堂へと向かう。そこには案の定達也と恐らくクラスメイトだろう、数人の姿が確認できた。深雪はそれにいち早く気づき

 

すぐさま駆け出して行ったのだった。

 

(相変わらず深雪は達也にぞっこんのようですね。)

 

と、シュテルはもう何度目になるか分からないため息をつくのだった。いやな気はしていないようだが。むしろ彼女が頭に来たのはそのあとの出来事だった。

 

 

 シュテルside

はぁ、まさかここまでのことをしてくるとは。正直私も予想外でした。今私の目の前では達也と一緒に食べたい深雪を無理やり連れて行こうとする1年A組の人たちがいます。

 

その先頭に立っているのは、先ほど私にかみついてきた男子、確か森崎とか言いましたっけ。がいます。まさかこりていないとは。ほんとに・・・・・・・・

 

「めんどくさいですねっ!」

 

私はそう言うと森崎という男子の前まで行きました。森崎は何だこいつという目線を送ってきましたが私はそれを無視し、深雪を席に座らせました。

 

「おい!何故深雪さんをウィードの席に座らせた!」

 

森崎はそう言います。

 

「深雪は達也の隣で食べたいといってるんですが?」

「ウィードと食べたらそこの男たちのものがうつるだろ!深雪さんの才能を奪う気か!」

「はっ?何言ってるんですか?ウィードから何がうつるって?」

「それは……」

「言えませんよね?沈黙は肯定と判断しますが?」

「・・・・・・・・」

「はぁー・・・・・・・・何のために深雪に近づいたか予想はつきますが、これだけは言っておきます。」

 

私はここで一回言葉を切ります。

 

「二度と私の兄妹のことを悪くいい、自分達の勝手な都合に付き合わせようとしないでください。もし、今後そういう行為があれば・・・・・・・・どうなるか分かっていますね?」

 

その時の私の顔は、深雪いわく、絶対零度よりも冷たい、そんな顔だったらしいです。その集団は私の顔を見てそそくさと逃げ出しました。これで少しは面倒ごとがなくなるといいのですが。

 

 

 三人称side

シュテルはその後深雪たちを達也に任せ、外の、始業式の日に座ったベンチに来ていた。その手には購買で買ったパンと飲み物が握られていた。

 

シュテルはこれ以上面倒ごとを起こすまいと、誰もいなさそうな外へと出たのだ。出たのだが、そこで予想外の人物と出会ったのだった。

 

「あら?シュテルさんではありませんか。」

「・・・・・・・・?あぁ、七草生徒会長。どうされました?こんな人気のないところに。」

 

そう、なんと七草真由美が来たのだった。

 

「それはこちらのセリフです。シュテルさんはなぜこちらに?」

「ちょっと、食堂でいろいろやらかしまして。逃げてきました。」

「へぇ、じゃあ食堂で絶対零度な瞳を向けてたって言う茶髪の子はあなただったのですね。」

「!?なぜそのことを。」

「風紀委員会の子が報告にきました。なんでも深雪さんの姉と名乗る人物が、A組の生徒にキレたと。その反応だと図星ですね?」

「・・・・・・・・はい。でも、深雪の姉と名乗る人物ときいて心当たりがあったのでは?」

「えぇ、そしてその子が外に向かったというから私はそれを追いかけてきました。」

「・・・・・・・・まさか監視されているとは。」

「申し訳ないけど、風紀委員会の仕事ですから。」

「えぇ、それはもちろん気にしていません。」

「そう言っていただけるとこちらとしても助かります。しかし、これからはこういういざこざはなるべく起こさないでね?」

「分かりました。善処します。」

「私はこれで。」

 

そう言うと真由美は戻っていった。

 

 

 シュテルside

昔から面倒ごとに関して、私はトラブルホイホイでしたが、まさかここまでのことになるとは。というか、あれだけくぎを刺しておいたのにまだ懲りないんですかねあの方たちは。

 

今、私の目の前では達也の友人と先の森崎とかいう男子の間で言い争いになっています。私がちょうど昇降口を出たときに、校門前で声が聞こえたので行ってみると、喧嘩が始まっていました。

 

 

 深雪side

私は今、お兄様とお兄様のご学友である、西城レオンハルト君、柴田美月さん、千葉エリカさんとうちのクラスでお姉様に言い負かされた森崎一派の間で言い争いになっていました。ちなみにレオンハルト君のことはレオ君、美月さんとエリカさんはそれぞれ美月、エリカと呼んでいます。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰るといっているんです!他人が口を挿むことじゃないでしょう」

 

美月はそのまま続けます。

 

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです!何の権利があって二人の仲を切り裂こうというんですか!」

 

私はその言葉を聞いて少し恥ずかしくなってしまいました。しかし、相手方はそれでは引かず言い争いはますますヒートアップしていきます。

 

「僕たちは深雪さんに用事があるんだ!」

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間をもらうだけなんだから!」

 

しかしそれをレオ君が笑い飛ばします

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間はとってあるだろうが。」

「相談だったらあらかじめ本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

エリカはレオ君の言葉に便乗しました。しかし、エリカ?あなたのそれはどう聞いても煽りにしか聞こえないわよ?そしてA組の生徒はそれに腹を立てたのか、ついにいってはいけないセリフを言います。

 

「うるさい!ほかのクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

美月はそれを聞いて顔をしかめます。

 

「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか!」

 

言ってしまった。お兄様もやれやれと言わんばかりの視線を向けます。その時ちょうどお姉さまが昇降口に出てきます。

 

「・・・・・・・・そんなに知りたいなら教えてやる!ブルームとウィードの格の違いを!」

 

森崎さんがCADを取り出します。それ以上は!しかし、森崎さんの魔法が発動することはありませんでした。

 

「この間合いなら、体動かしたほうが早いのよねぇ。」

 

エリカが警棒のようなもので森崎さんのCADを弾いていたからです。しかし、そのことがまた逆鱗に触れたのか後ろの数人が魔法を発動しようとしました。その中にはほのかもいて、彼女も発動しかけていました。私はそれを見て思わず叫びました。

 

「お兄様!」

「大丈夫。」

 

その瞬間、すべての魔法が何かに壊されたように消えました。そして手持ち型のCADは路肩にすべて落とされます。その後ろにはお兄様が御作りになった二丁の拳銃型CAD、レイジングホーンを構えたお姉さまがいました。

 

 シュテルside

私は今、森崎たちの前に立っています。私の手にはレイジングホーンが握られています。今私が森崎一派に向けてはなったのは二種類。まず、術式解体(グラム・デモリッション)。そしてオリジナル魔法、流星弾丸(ミーティア・バレッド)です。

手持ち型のCADを使っていた人の手からCADが飛ばされたのは私の魔法のせいです。私はその身に宿った怒りを抑えながら森崎たちに言います。

 

「あなたたち、何をしているんですか?屋外での魔法の行使は自衛目的以外禁止されています。なのにたかが口喧嘩で使おうとするなんて・・・・・・・・ふざけてるんですか?」

 

その声には私でもわかるくらいの怒気が含まれていました。

 

「それに、私はあの時食堂で言いましたよね?二度と自分の都合で付き合わせようとするなと。二回目をしたということは・・・・・・・・覚悟はできてるんでしょうね?」

 

その瞬間、辺りは凍りました。物理的にではなく精神的に。魔法によってではなく私の言葉によって。その目はやはり絶対零度のごとく光がなくなったとても怖い瞳だったと言われました。その時後ろで声が聞こえます。

 

「やめなさい!自衛目的以外での魔法行使は法律で禁止されています!」

「風紀委員長の渡辺摩利だ。全員来てもらおうか。」

 

七草真由美と渡辺摩利と名乗る生徒が後ろから声をかけてきました。すると達也が口を開きます。

「すいません。悪ふざけが過ぎました。」

「悪ふざけ?」

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりだったのですが、あまりにも真に迫っていたため、思わず手が出てしまいました。」

「ではそのあとに1-Aの女子が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだね?しかも、それなりの出力がありそうな攻撃術式に見えたが?」

「驚いたんでしょう。条件反射で起動プロセスを実行できるとはさすが一科生ですね。それに攻撃といっても、ただの目くらましの閃光です。失明なりの危険はありません。」

 

相変わらず達也は凄いですね。そんな出まかせをポンポン出せるなんて。私ではできません。

 

「なるほど、君は魔法の起動式を読み取れる目を持っているのか。」

「えぇ、実技は苦手ですが、分析は得意です。」

「嘘やはったりも得意と見える。」

 

摩利さん。その笑顔はやめてください。絶対に何かしようとしてますよね?

 

「・・・・・・・・分かったわ。摩利、もう戻りましょう。」

「しかし真由美。」

「いいのよ。自習だったのよね?それにそこの彼女が止めてくれたみたいだしね。」

「生徒会長がこう仰せられていることだから、今回の件は不問にします。しかし、今後こういうことのないように。」

 

2人は校舎の方へと戻っていきます。すると森崎たちはそそくさと逃げて行きました。

 

その後、達也のもとへほのかと雫が向かい、先のことを謝罪し、達也はそれを気にしていないと、許しました。その後、エリカ、美月、レオ、ほのか、雫、達也、深雪、そして私で下校することになりました。

しばらく歩いていると、みんなでCADの話をしていました。

 

「じゃあ、深雪さんのCADは達也さんが調整してるんですか?」

「ええ、お兄様にお任せするのが一番安心ですから。」

「とはいっても、深雪は処理能力が高いから、そこまで手を入れているわけじゃないよ。少しアレンジを加えてるだけだ。それに、俺なんかより、シュテルの方がそう言うの出来ると思うんだがな。」

「ですね。お姉様に昔作って頂いたCADはとても使いやすかったですし・・・・・・・・」

「えぇ!?」

 

深雪と達也の発言に、周りの人たちは驚愕をあらわにします。

 

「シュテルって、CAD作れたの?」

「・・・・・・・・まぁ、作れます。ですが私のなんて、あのトーラスシルバーには到底及びませんよ。」

「ご謙遜を、お姉様のおつくりになられたCADの性能はあのトーラスシルバーと同等レベルでしょうに・・・・・・・・それにレイジングホーン、お姉様カスタマイズしましたでしょう?」

「・・・・・・・・ほんと、深雪には隠し事ができませんね。その通りです、汎用型のCADの基幹システムをカートリッジ化して、特化型CADの精度をそのままに汎用型のいい点だけを追加したものに変えました。

といっても、まだ試作段階ですけどね。」

「・・・・・・・・やべぇ、俺、話について行けねぇや。」

「大丈夫よ、私もついていけてないから。」

「・・・・・・・・なんか引かれてませんか?私。」

「気のせいだろう。」

「それにしても・・・・・・・・そんな腕があるなら私のCADも見てくれない?」

 

エリカがそう言ってきました。

 

「無理、あれほど特殊な形のCADをいじれるほどの腕はないよ。シュテルはどうだ?」

「私も無理ですね。せいぜいできて、刻印術式の最適化ぐらいでしょう。」

「やっぱりバレてた?あれがCADってこと。」

 

エリカはそう言うと警棒のようなものを取り出した。

 

「刻印術式で、硬化魔法をかけてるってところですか?」

「よくわかるわね・・・・・・・・そうよ、中をサイオンで満たして硬化させるの。だからこの中は空洞よ。」

「でも、刻印術式は燃費が悪いはず・・・・・・・・何か、身体的か感覚的な技能を使ってたりするんですか?」

「兜割って言ってね、打ちだしの瞬間にサイオンを込めてやって、相手にぶつける。」

「・・・・・・・・その年で奥義レベルの技能を取得してるとは、私の周りにこんな逸材がいたとは・・・・・・・・私の目もまだまだですね。」

「いや、シュテルに比べたらそこまででもないから・・・・・・・・」

「あら、エリカ。兜割もすごいと思うわよ?お姉様とはまた違った凄さだと思うわ。」

「アリガト深雪。そういう風に褒められるのはいつ振りかしらねぇ・・・・・・・・」

「それにしても、魔法科高校って、一般人って少ないですよね。」

「魔法科高校に一般人はいないと思う。」

 

美月の言葉に雫が突っ込んで、一同は笑ってしまいました。

 

 




今回も随分と駆け足となりましたが次回でようやく服部先輩とのタイマンバトルが出てくる予定です。・・・・・・・・それはさておき、キャラ設定も後々、別ストーリーとして挙げる予定なのでそちらも楽しみにしていてください。とここでシュテルの使う流星弾丸について解説を入れたいと思います。

流星弾丸(ミーティア・バレッド)
四葉真夜の使う流星群(ミーティア・ライン)にアレンジを加えたシュテルのオリジナル魔法。仕組みを簡単に説明すれば、流星群を使用し、対象に”着弾するタイミング”でダイレクト・ペインと同等の効果を対象に及ぼす魔法である。
あらかじめ設定しておいた威力を伴った特殊な想子の弾丸を、”光の分布を偏らせることで光が100%透過するライン”に沿って実体をなくして放つ。そしてこの弾丸には、その効果に近いものを上げるとすれば、ダイレクト・ペインと領域干渉と同等の
効果が付与されていて、対象の手前、もしくは内部に入り込ませるときに、それを実体化させる。そして実体化させたときに、その設定した威力と同等の衝撃をその場に発生させることで、設定した威力と同等の効果を引き起こす。簡単に言えば、相手がどこにいようと
必ず当たる弾丸を発射する魔法、である。この魔法のメリットは殺傷ランクが設定できる点が挙げられる。威力が最小の時は、成人男性の拳ぐらいの威力しかなく、最大の時は、50口径の対戦車ライフル並みか、RPGなどのロケット弾の威力に匹敵する。
なお、想子弾丸を実体化させる一は発動してからでも任意で変えることが可能。

という感じです。ガバガバ設定で申し訳ありません。ではまた。


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第七話 入学編 Ⅲ

毎度毎度、前書きのネタがなくて困り果ててる主です。っとそうだ、皆様この作品を読んで下さりありがとうございます。おかげさまでお気に入り件数が100を越えました。なんかありふれの方じゃなくてこっちを優先したほうがいいのかなって思いました。さて全く進展がないこの作品ですが、今回はどのくらい進むのか。では本編行ってみましょう!
2021/02/18 加筆しました。


 三人称side

第一高校性が使っている駅は、その名も『第一高校前駅』何のひねりもないその駅は、その名の通り駅と学校までが一本道でつながっている。

 

基本近くに住んでいるもの以外は大体この駅で登校する。途中から同じ電車に乗るということは、今の電車の体形からなくなってしまったが

 

通学路の途中で会うということは今でもあまり変わりがない。入学二日目の昨日も、友人と一緒になって登校するという姿を何度も見たし、今日も実際に起こっている。

 

しかし、これはないだろうと達也は心底思っていた。

 

「達也さん。生徒会長さんとお知り合いだったんですか?」

「いや、昨日会ったので初対面の、はずなんだけど。」

 

達也は美月の質問にそう答えた。何があったかというと、というか誰が来たのかというと、そう。我らが誇るお姉さんこと七草真由美(さえぐさまゆみ)その人であった。

 

「達也君、シュテルちゃんオハヨー。深雪さんもおはようございます。」

「おはようございます、七草生徒会長。」

「「おはようございます、生徒会長」」

 

シュテルと達也の扱いが雑なのでは?と思う二人だった。

 

「生徒会長はいつもおひとりで?」

「えぇそうよ。誰かと待ち合わせとかはしてないからね。そうだシュテルちゃん。何なら私と毎朝一緒に登校しましょうか?」

「そのお気遣いはとてもありがたいのですが、私には達也と深雪がいますので。」

「なんだ、つれないわねぇ。・・・・・・・・っと、そうだ、三人とも今日のお昼は空いてるかしら?」

「えぇ、自分も達也たちも空いていますが。」

「今日、三人には生徒会室に来てほしいのよ。ちょっとした用があるから。ついでにお昼は生徒会室で食べていくといいわ。」

「分かりました。所定の時刻に出向します。」

「え、えぇ。お願いねシュテルちゃん。それに達也君たちも。」

「「分かりました。」」

 

真由美は行ってしまった。嵐のような人だ、とシュテルたちは思うのだった。

 

 

早くも昼休み。シュテルは荷物を片付け、深雪を誘う。

 

「深雪、そろそろ時間ですから。達也の教室によって一緒に行きましょう。」

「分かりました。お姉様。」

 

2人はなるべく静かに教室を出た。そしてそのまま、E組の教室へと向かう。するとやはりというべきなのだろうか、二科生たちはシュテルたちの方を見る。その目はさながら有名人を見る目だった。

 

(深雪はともかく、私まで。私なんてそんな外見良くないでしょうに。)

 

とシュテルは思った。が、それは本人の評価が低い。シュテルの見た目はわるくない、というか深雪並みに良いと言える。高身長、ショートヘヤー、そして少し主張しているその胸。このルックスに基本的に事務的な顔をしていることから

 

男子女子共に人気であり、それでいてたまに見せる笑顔がとても可愛く、ひとめぼれした生徒も多い。そうこうしているうちにE組の教室まで来た。シュテルは教室に何気なしに入り、達也に声をかけた。

 

「達也、行きますよ。あなたも呼ばれてるんですから。」

「あ、あぁ、すまない。もうそんな時間だったか。」

「いえ、私とお姉様は今来たばかりですので気にする必要はありません。」

「そうか、しかし待たせるのも悪いから、もう行こうか?」

「はい!お兄様。」

 

三人は生徒会室へと向かった。

 

 

「1-A シュテル・シバ・スタークス、司波深雪。1-E 司波達也、入ります。」

『どうぞー』

 

生徒会室に入るとそこには女生徒が4人ほどいた。

 

「改めましてになるけど、私は七草真由美。第一高校の生徒会長をしています。で、私の隣にいるのが。」

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。昨日ぶりだな三人とも。」

 

「では、今の生徒会のメンバーを紹介します。」

 

「私の隣にいるのが会計の市原鈴音。通称リンちゃん」

 

「そう呼ぶのは会長だけです。」

 

「摩利の隣にいるのが書記の中条あずさ。通称あーちゃん」

 

「会長!下級生の前でその呼び名はやめてください! 私にも立場というものがあるんです!」

 

 

 

真由美によって生徒会メンバーが紹介され、もう一人服部……真由美曰くはんぞーくんを合わせた四人で生徒会を運営していることを話、紹介を終えると、シュテルは口を開く。

 

「それで、私たちに用とは?」

「それは後で説明します。さぁ、まずは座って。」

 

すると後ろのダイニングサーバーとい呼ばれる機械から、食事が配膳付きで出て来た。

 

「生徒会室にはダイニングサーバーがあるんですか。」

「えぇ、こう言っちゃあれなんだけど、長くなる時もありますから。」

 

ダイニングサーバーから配膳されていく、しかし、数が足りない。すると摩利が弁当箱を取り出した。

 

「摩利先輩、それは毎朝自分でおつくりになっているんですか?」

「ん?そうだぞシュテル。なんだ、意外か?」

「意外と聞かれたら、意外です。でも、とてもお上手に作られていますね。食べてみたいぐらいです。」

「じゃあ、何か食べてみるか?」

「いいのですか?では、そのウインナーをいただいても?」

「あぁ、構わないよ。」

 

すっかり意気投合する二人であった。

 

「お兄様、私たちも明日からお弁当にしましょうか?」

「うん、それは魅力的な提案だね。しかし、食べる場所はどうしようか?」

「それは私がベストポジションを知っているのでそこでいいかと。」

「ふむ、そうしようか。」

 

生徒会室にまた花が咲いた。どうもこの兄妹には羞恥心というものが存在していないらしい。

 

「なんだか、恋人な会話だな。」

「あながち間違いないと思いますよ、摩利先輩。いつもこの二人はこんな調子なんです。もう結婚すればいいでしょうに・・・・・・・・」

「お姉様?私とお兄様は兄妹なんですよ?結婚なんてできるわけないじゃないですか。それにこれはただの兄弟愛です。」

「そうだぞシュテル。何をバカななことを言っているんだ?」

「・・・・・・・・はぁ、もういいです。余計なことを言った私がバカでした。」

「えっと・・・・・・・・そろそろお話してもいいかしら?」

「失礼しました会長。この二人には構わず、どうぞ始めてください。」

「なんかテンション狂うわね。まぁいいわ。それでお話というのはですね、深雪さんに対してです。といってもこれは勧誘なのだけれど。」

 

 

真由美はそのまま続ける。

 

「当校は、生徒の自治を重視しており、生徒会は学内で大きな権限を与えられています。これは当校だけでなく、他の公立高校でも、一般的な傾向です。そして当校での生徒会は伝統的に、生徒会長に権限が集中しています。

大統領制、一極集中型と言っても良いかもしれません。生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長に一任されており、他の委員会の委員長も一部を除いて生徒会長に任免権があります。」

「ちなみに私が務める風紀委員長はその数少ない例外の一つだ。生徒会、部活連、教職員会の三者が三名づつ選任する風紀委員の互選で選ばれる。」

「という訳で、摩利は実質私と同等の権限を保有しているわけですね。生徒会長には任期が定められていますが他の役員には任期の定めがありません。生徒会長の任期は十月一日から翌年九月三十日まで。その期間中、生徒会長は役員を自由に任免できます。しかし二科生は残念ながら

私の権限でも入れることはできないのですがね。」

「風紀委員なら別のそう言ったものはないのだがな。っと、勘のいい二人はもう気づいたのではないか?真由美の言いたいことが。」

「えぇ、深雪。」

「・・・・・・・・はい。」

「今年の総代である司波深雪さん、あなたを生徒会のメンバーに加えたいと思うのですが、引き受けてもらえませんか?」

「・・・・・・・・生徒会長。」

「深雪、ストップです。それは今言っても仕方ないことです。そういう風潮なんですから。それにせっかく生徒会に誘われたのですから、やってみてはどうでしょう?そうすれば、達也のことも少しは好意的に見てくれる人が増えるかもしれませんよ。」

「そうだな、それにな深雪。俺は深雪が生徒会に誘われたことを誇りに思っているんだ。こんなダメ兄貴だが、見せてくれ。お前の生徒会役員としての姿を。」

「・・・・・・・・はい!生徒会長。そのお話、受けさせてもらいます。」

「では、生徒会のメンバーは決まりですね。詳しい仕事内容はあーちゃんから聞いてくださいね。」

「会長!・・・・・・・・もう。・・・・・・・・深雪さん、放課後来ていただけますか?説明をしたいと思います。」

「分かりました。」

 

深雪はあずさと話している。その時、シュテルが真由美に聞いた。

 

「それで?私たちに用とは?まさか、用もなしに私たちを生徒会室に呼んだわけではありませんよね?」

「しかし、二人とも何となくわかるんじゃないか?さっきの私と真由美の話を聞いて、な。」

「生徒会は一科生しか入れない、しかし風紀委員はそのしがらみがない。・・・・・・・・ということは、達也を風紀委員にスカウトしたいということですか?」

「そういうことだ。して達也君、どうだ?引き受けてくれないだろうか?」

「引き受けるも何も、風紀委員は主に違反者の取り締まりなどをするんですよね?」

「あぁ、他にも論文コンペの時の会場警備などもやるのだがな。」

「では、引き受けられません。自分はそういうのが苦手だから二科生なんですが。」

「しかし、君のその起動式を見て瞬時にその魔法を理解できるスキルは大いに役に立つ。なんせ、今までの事例では魔法が一瞬だったためあやふやになった事件も少なくない。だからこそ君という人材はとても有用なのだよ。」

「しかし・・・・・」

「あっ、そうだ。シュテル。君も教職員推薦で風紀委員会に入るからな。」

「・・・・・・・・なんとなく察していましたがやはりですか。分かりました。推薦された以上やりますよ。」

「そうか、それは良かった。では達也君、君はどうするかね?」

「渡辺先輩。自分はせめて放課後まで待っていただけませんか?突然すぎて自分で整理する時間が欲しいのですが。」

「分かった。真由美、それでいいか?」

「えぇ、構わないわ。突然言われてもしょうがないでしょうからね。」

「では、時間なので私たちはこれで。達也、深雪。行きましょう。」

 

シュテルたちは生徒会室を後にした。

 

 

時は変わってA組、今は魔法実技の授業をしている。生徒たちは据え置き型のCADのコントロールパネルに手を置き、指定された魔法を発動していた。そんな中、雫が声をかけてきた。

 

「ねぇシュテル。さっきは何で生徒会室に行っていたの?」

「私は、風紀委員会に教職員推薦枠で入ることになったと言われただけですね。ちなみに深雪は生徒会メンバー入りしましたよ?」

「へぇ、じゃあ昨日のことじゃなかったんだね。」

「そうですけど、なぜそのようなことを?」

「ほのかがね、すっごく昨日のことを気にしてて。」

「あぁ、なるほど。そういうことですか。いえ、問題なかったので気にしなくていいと伝えてもらっても?」

「うん。言っておく。っと次、シュテルの番だよ。」

「分かりました。行ってきます。」

 

シュテルはCADの方へと向かった。

 

 

 シュテルside

 

放課後になる時間が今日は一段と早く感じました。さて、放課後になったということは、達也の覚悟が決まったかのチェック、もとい強制入部?の執行時間です。まぁ、私が入るのですから達也にも入って頂かないと。えっ?何でかって?

 

そんなの決まっているでしょう。私と深雪は仕事しているのに、達也だけやらないのはずるいからです。というか、深雪は時間になるとそそくさと出て行ってしまいました。全くほんとに、そういう事柄に対してはあんなに早く動けるのに。

 

とまぁ戯言は置いておいて、私も生徒会室へと向かいます。まぁそこまでのき距離ではないのですぐ着きますが、私は扉に触ると、その取っ手に霜が張り付いていました。すぐ消えたのですが、私はすぐ消えたことに疑問を感じています。

 

(まさかっ!)

 

私は嫌な予感を感じその扉を開けると、そこには少し泣き目になっている深雪と、それをなだめる達也と、生徒会のメンバー、それに、昼の時にはいなかった副会長がいました。そして深雪は副会長の前にいます。大方、達也は二科生だからうんたらで

 

達也のことを悪く言ったのでしょう。そして私はそこからの記憶が少し、無くなっていました。

 

「いったい何があったんですか?」

 

その目はほんとに何も映らなさそうな虚ろな目だったそうです。

 

 

 達也side

俺と深雪は、先に生徒会室に来ていた。深雪が早く行きたいというので早めに来た。しかしそこには副会長がいた。すごく陰険そうな顔をしている。

 

深雪はあずさ先輩に連れられて仕事を教わっている。そんな中、副会長が口を開いた。

 

「渡辺委員長」

「何だ? 服部刑部少丞範蔵副会長?」

「フルネームで呼ばないでください!」

「じゃあ服部範蔵副会長」

「服部刑部です!」

「そりゃお前の名前じゃなくて官職だろ、お前の家の」

「今は官位なんてありません!学校には服部刑部でちゃんと届けています!……って、そんなことが言いたいのではありません」

 

すると副会長は俺の方を一瞥して言った。

 

「一科生であるシュテルを任命されるのは分かりますがそちらの二科生を風紀委員に任命するのは反対です。過去、ウィードを風紀委員に任命した例はありません」

 

服部が堂々と二科生、ウィードと差別用語を使ったことにより一気に生徒会の空気が険悪になった。摩利先輩もそれに対応する。

 

「いい度胸だな、服部。生徒会の一員でもあるお前が、委員長である私の前で禁止用語を口にするとは」

「取り繕っても仕方がないでしょう。それとも、全校生徒の3分の1以上を摘発するつもりですか?そんなこと出来るわけがありませんよ」

 

そういう問題じゃないだろうと摩利と服部の会話を聞いてそう思った俺は口を開こうとするがその前にまた言い争い?になった。

 

「風紀委員は実力で違反者や騒乱行為を取り締まる役職です。実力で劣る二科生には務まらない」

「確かにその通りだが、実力にも色々あってな。達也君には発動された起動式を正確に読み取る眼と頭脳がある」

「そんな馬鹿な。単一工程の起動式でもアルファベット3万文字相当になる。そんなこと出来るはずがない!」

 

そして深雪は、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ついに冷気を漏らしてしまう。俺はそれを瞬時にやめさせるが、深雪の目には涙が流れていた。この先輩、俺の逆鱗にそんなに触れたいのか、と思った矢先、扉が勢いよく開いた。そこにいたのはシュテルだった。

 

しかし、ほんとに、この少女はシュテルなのだろうか?俺の頭にはそう、疑問が浮かんできた。いや、外見上は間違いなくシュテルなのだが、中身がちがかったように思える。その瞳にはいつも彼女が宿している光がなかったのだ。

 

 

三人称side

「いったい何があったんですか?」

 

その一言で生徒会室は一気に凍った。先の、副会長である服部刑部の達也に浴びせた言葉にキレた深雪が漏らした魔法で起こった、物理的に凍るという現象ではなく、精神的、いわゆるプレッシャーによる怯えがその一帯を包んでいた。

 

「真由美会長、何があったんですか?」

 

その声は嫌に冷たかった。

 

「えっと・・・・・・・・ちょっとした喧嘩だった「そんなわけないですよね?」のよ・・・・・・・・」

 

シュテルは真由美が言い切る前にそれを遮った。シュテルはそっと深雪の方に近づき、深雪の口からそのあらましを聞いた。それも耳元で。

 

「なるほど、事情は分かりました。・・・・・・・・では、そこの変に凝り固まった思想をお持ちの副会長には私が少しお灸を据えましょう。」

「なんだ貴様!貴様もこの男を擁護するというのか!なんて狂った目をしている!身内贔屓もいい加減にしてもらおう。魔法師には常に実力を測る冷静さが求められる。それも図れないようじゃ失格だ。」

「はっ?・・・・・・・・今、なんと言いました・・・・・・・・魔法師失格?・・・・・・・・ふざけてるのですか!」

「っ!?」

 

シュテルの放った一言で副会長は凍った。そしてその瞬間、シュテルは服部のもとに一瞬で迫り、およそその見た目に反した力で副会長の口をつかんで持ち上げる。

 

「”狂った目をしている?”悪いですが、狂った目をしているのはあなたですよ。確かに、この学校の入試で試されるのは”基本的な”魔法の使い方ですし、基礎なくして魔法は使えません。しかし、実戦で、ましてや相手がプロだった時、その基本は役に立たなくなる。

魔法は応用次第で基礎なんてものでは効かなくなるぐらい強くなる。それに第一、この学校の入試の実技試験は、”本当の実力を示していない”。というか”示せない”んですよ。一個人が保有する技能よりも、”大衆ができる当たり前”を優先しているに過ぎないのですよ。

分かりますか?あなたは魔法師と呼ばれる技能保有者の中で”当たり前にできること”に喜んでいたのに過ぎないんですよ。それをあなたは理解しているのですか?理解できていないのなら、それはとんだ愚か者です。生徒会副会長を背負っているものがこの体たらくでは

この学校の魔法師の技能もそこまででしょうね。そう言えば副会長、あなたは模擬戦では負けたことがないんですよね?果たしてその不敗神話がいつまで続くことか・・・・・・・・とても見ものですね。そしてあなたは、どこまで落ちるんでしょう?

その姿を見るのが楽しみです。」

 

シュテルはすでに正気ではなかった。サディスティックな性格をあらわにしたシュテルは服部を罵倒しながらもその手の力を強めていく、このままではシュテルはそのまま副会長の顔を潰すだろう。そう思った達也は声を上げた。

 

「シュテル!そこまでだ!」

「・・・・・・・・私は、いったい何を!?」

 

その瞬間、シュテルの手の力が抜ける。副会長はそのまま倒れこむ。

 

「はんぞーくん!?」

 

真由美が心配して駆け寄る。シュテルはそれを見て、絶望に染まった。

 

「わ・・・・・たし・・・なんて・・・・・・・・こと・・・を・・・うぅ・・・・・・・・あぁ・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

シュテルの目の前によみがえった記憶、それは二年前、沖縄で一人の軍人に対しシュテルが加えた再起不能に近い蹂躙の様子。それを思い出したシュテルでは、今の状況をみて普通でいられるはずがなかった。

 

 

 深雪side

私はまたやってしまった。また、お姉様を傷つけてしまった。私が、お兄様を侮辱されて、キレて、副会長に反抗し、それを正論で一蹴されたことがショックで泣いているところを見られてしまった。

 

もしあそこで言い返さなければ、いや、言い返さなくても結果は変わらなかっただろう。お姉様はそういうお方だ。だからこそ私は、お姉様のトラウマをよみがえらせてしまった・・・・・っ!

 

 

 三人称side

「ねぇ達也君。シュテルさんは一体?」

 

達也に真由美が聞く。達也の近くの椅子にはシュテルが気絶したように寝ている。その顔は歪んだような。苦痛のような顔をしていた。

 

「シュテルは、自分たちが中学生だった頃、旅行で行った沖縄で、深雪に喧嘩を売った軍人を、キレて再起不能一歩手前まで追い込んだ過去があります。その時のシュテルは、理性をかなぐり捨てて、ただ目の前の”敵”を倒そうとしていました。」

「それがトラウマになっていると?」

「えぇ、幸いにもその軍人は再起不能にはなっておらず、和解と仲直りはしたのですが。それでもシュテルの心の傷は今でも埋まっていません。」

「そうだったの・・・・」

 

その後ろでは摩利が服部のことを叱っていた。

 

「お前は何をやっているんだっ!どれだけ取り繕うと、お前のやったことはただのいじめと変わらないんだぞ!生徒会のメンバーであろうものが自分より下の学年の後輩をいじめるとはどういう了見だ!」

「ですが摩利先輩、自分の言ったことは決して間違いではありません。」

「まだいうかこのバカ者っ!もういい分かった。今日は帰れ。明日話そう。真由美もそれでいいな?」

「待ってください渡辺先輩。副会長のいうことはごもっともです。」

「しかし達也君。」

「ですが自分も正直怒っています。なので服部先輩、自分と模擬戦をしませんか?」

「なんだとっ!」

「その勝負で、先輩が勝ったら、自分たちの言い分が間違っていたとして、いかなる処分も受けます。ですが、自分が勝ったら、深雪たちに、謝罪してください。先輩なら、もちろんやって頂けますよね?」

「っ!・・・・・・・・いいだろう!格の違いというやつを教えてやる!」

「という訳で生徒会長、模擬戦の許可を。」

「分かりました。私は生徒会長の権限において、二年B組・服部刑部と一年E組・司波達也の模擬戦を正式な試合として認めます。」

「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、二人の試合が校則で認められた課外活動であると認める。時間はこれより三十分後。場所は第三演習室、双方CADの使用を認めます。なお、この試合は関係者以外非公開とする。」

 

服部はすぐに第三演習室に向かう。達也は事務室にCADを取りに行こうとした。が、その服の裾が誰かに掴まれた。そう、シュテルである。

 

「どうしたシュテル?俺はこれからCADを取りに行かなくちゃいけないんだが・・・・・・・・」

「・・・・・・・・達也、ごめんなさい。私のせいで、ほんと、ごめんなさい・・・・・・・・」

 

そのシュテルの目には涙がこぼれていた。これでは彼女の可愛い顔が台無しである。達也は仕方ないと、シュテルをそのまま抱きしめる。真由美たちはにやにやしていたり驚いていたりしたが、深雪は仕方ないなというような表情をしていた。

 

「別にお前が謝ることじゃないよシュテル。それに、深雪のことを思って怒ってくれたんだ。誰もそのことを咎めたりはしないよ。だから、シュテルは静かに、眠っててくれ。」

 

達也がそっとシュテルを離す。シュテルはまた気絶したようにその目を閉じていた。達也はそのままシュテルをお姫様抱っこの要領で抱きかかえ、こう言った。

 

「会長、シュテルも連れて行ってもいいですか?もし起きたら、俺の勝っている姿を見せてやりたいんです。」

「えぇ、私は構わないわ。摩利はどう?」

「私としても異論はないな。そうだ達也君。ついでに彼女のCADを持ってきてくれないか?今の彼女には酷かもしれないが、風紀委員の説明をしなければならないからな。」

「分かりました。」

 

達也はそのまま事務室にCADを取りに行った。その道中、シュテルをお姫様抱っこした様子が目撃され、達也はますます有名人になるのだが、それはまた別の話である。

 

達也は今内心猛烈に怒り狂っていた。もし、あの時に達也のCADがあれば、達也は迷うことなく、服部を”消して”いただろう。達也の分解はそれだけの危険性を秘めていたのだ。

 

しかし、彼とて定められたルールを破るほどの愚か者ではない。そして正々堂々正面切って戦うとなれば、彼の低い演算能力では特化型のCADを使うしかない。

 

達也は今第三演習室にいる。そして彼の手には黒いアタッシュケースが握られている。

 

「達也君、君はいつもストレージをいくつも持ち歩いているのかい?」

「えぇ、汎用型では、自分の力が発揮できませんから。特化型に頼るしかないので。」

「なるほどな。それでは両者は開始地点に並べ!」

 

服部と達也は開始戦に立つ。

 

「司波達也、身の程をわきまえない貴様を完膚なきまでに叩き潰す。」

「自分も、自分の持てる全力で、あなたと戦います。」

「準備はいいな?では、ルールを確認する。魔法、体術あり……殺傷のある魔法は禁止……勝負があったと判断した場合は両者とも戦闘をやめてもらう。何か異論は?」

「ありません。」

「分かっています。」

「では・・・・・・・・始めっ!」

 

その瞬間、服部が達也に向けて即座にCADを向ける。が、すでにそこに達也の姿はなかった。

 

「ぐっ!」

 

そう認識した直後、服部が倒れ、その後ろには”消えたはず”の達也が立っていた。

 

「しょ、勝者。司波達也。」

 

そこにいたメンバー、主に深雪と達也が試合を開始する瞬間に目が覚めたシュテル以外、皆己が目の前で起こったことが信じられないと言わんばかりの顔をしていた。

 

 




やっぱり達也君は強いですな。さて次回はどこまで進むのでしょうか?ではまた次回!。・・・・・・・・魔法少女リリカルなのはのやつも書きたいんですけどねwでは改めて、また次回!


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第八話 入学編 Ⅳ

Oh・・・・・・・・まさかここまでの人に読んでいただけるとは。私今泣きそうです!ほんとにありがとうございます!まぁそれは置いておいて本編行ってみましょう!


 三人称side

今、何が起こった?そこにいた人のほとんどがそう思ったことだろう。何故、試合が開始した瞬間達也の姿が”消え”その瞬間に服部が床に倒れたのか?もし開始した直後に自己加速術式を使ったなら、その速度はもう一科生と勝るに劣らない。

 

ではなぜか、それは開始する前から展開したとしか、彼女たちには説明がつかなかった。たつやはCADを片付けるためにケースの方へと向かう。しかしそれを止められた。

 

「まて、君はあらかじめ自己加速術式を展開していたのか?」

「そうでないことは先輩が一番お分かりになると思いますが?」

 

そう、摩利はこの試合で不正が行われないように、全力で魔法の兆候を見ていた。しかしその摩利が試合をやめさせなかったということは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ではあの動きは何だ、突然消えたように見えたが?」

「あれは正真正銘、自分の身体的技能ですよ。」

「バカなっ!あの動きはそれこそそういうものを習っている人間にしか・・・・・・・・まさか、君は・・・・・・・・」

 

そこで深雪が口を挿む。

 

「えぇ、兄と姉は、忍術使い、九重八雲先生のもとで修業を受けているのですよ。」

「あの九重先生のもとでか?」

「えぇ、そうです。」

 

そこで真由美は一つ疑問を抱いた。

 

「では、あの攻撃に使った魔法も忍術ですか?私にはただサイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったのですが。」

「いえ、生徒会長。達也が使ったあの攻撃は、振動系の基礎単一系術式。サイオンの波動を直接撃っただけです。」

「シュテル!大丈夫なのか?」

「えぇ、問題ありません。渡辺委員長。」

「ですか、それではんぞー君が倒れた理由がわからないんですが・・・・・・・・」

「それはですね、酔ったんですよ。」

「酔った?いったい何に?」

「魔法師というのは、魔法を扱う上で、サイオンを可視光線や可聴音波のように”知覚”します。ですから、自信が予期しないサイオンの波にさらされると、まるで船酔いのような感覚に錯覚するんです。」

「そんな・・・・・・・・魔法師は常にサイオンを浴びています。ましてや魔法科高校という魔法を専門的に扱う場所などでは特にその傾向が強い。その魔法師を倒れさせるほどの波を一体どうやって・・・・・・・・」

 

そこで鈴音が口を挿む。

 

「波の合成、ですね。」

「そのとおりです。先ほど達也は、振動系の術式を三回に分けて、それぞれ別々の出力で、その波がそれぞれ同じ場所、今回は服部先輩のいる位置で重なるように放ちました。」

「ですが・・・・・・・・それだと達也君が二科生である理由が説明できませんが。それだけの処理速度があれば、一科生と勝るとも劣りませんが・・・・・・・・」

「あのぉ―、もしかして司波君のCADはシルバーホーンではありませんか?」

 

まさかのタイミングで、おどおどしていたあずさが達也のCADを見て言う。

 

「あーちゃん、シルバーってあのトーラス・シルバーのシルバー?」

「そうです!」

「中条先輩のCAD談義が始まりそうなので、ここで私が簡潔に説明します。」

「!?ひどいですよシュテルちゃん!」

「それはさておき、達也のCAD、シルバーホーンには”ループキャスト”を行える機能があります。簡単に行ってしまえば、同じ魔法を繰り返す機能です。」

「しかしそれでは、並みの合成などは不可能なのでは?出力なども変数などで、変更しているならできますが・・・・・・・・まさか、それを行っているのですか?」

「えぇ、多変数化は、ここでのテストでは問われない、というか無視される項目ですからね。」

 

達也は何のためらいもなくそれを言った。周りは驚いているような顔をしていた。すると後ろの方で声が聞こえた。

 

「なるほど・・・・・・・シュテルが言ったことは本当のようだ。入試は実力を示せない。全くどうして、そのことに気づかなかったのか。いや、気づこうとしなかったからなのだろうな。」

 

服部は先ほどのダメージが抜けきっていないのか、朦朧としながらも立ち上がった。

 

「はんぞーくん?大丈夫なんですか?」

 

と、真由美はそんなことを服部に聞く。本人としてはほんとに心配して聞いたのだろうが、まずその顔立ちでそんなことを聞かれたら男子は全員顔を赤くしてしまうだろう。服部でさえそうなのだから。服部は顔を赤くしながら

 

「大丈夫ですっ!」

 

と、恥ずかしさをこらえるような言い方で言った。その時思いっきり真由美から視線を外していたのは言うまでもない。そしてそのままシュテルたちの方へと近づいてきた。そして

 

「申し訳ない。狂った目をしていたのはこちらの方だった、司波達也のことを悪く言い、君たち二人も馬鹿にしてしまったことを謝罪する。」

 

頭を下げてきた。潔い人ですねと思ったシュテルはその謝罪を受け入れた。

 

「いえ、こちらもあなたにひどいことをしてしまい、申し訳ありません。」

 

その後二人は和解をしたのか、とりあえず後腐れはなくなったとだけ記録しておく。しかし、シュテルは思っていた。

 

(私はやっぱり、メンタルが弱すぎる。あれだけであんなことになるなんて・・・・・・・・)

 

そう、問題なのはシュテルのメンタルが”弱すぎる”点である。元がただの一般人であることを加味しても、四歳のころから、人を殺すことにかかわってきた少女にしては、メンタルが弱すぎたのだ。

 

しかしそれは、存外簡単な方法で解消するのであった。シュテルは部屋を出ようとするが

 

「待て、シュテル君は残ってくれ。」

 

と、摩利から止められる。

「なんでしょうか?」

「いや、これは本来私が介入することではないのだろうが、ちょっと”お節介”を焼こうと思ってね。真由美、もうひと試合、頼めるか?」

「えぇ!?できないことはないけどどうして!?」

「シュテルの”弱さ”を直す荒治療だよ。」

「はぁ、分かったわ。そうなったらあなたは止まらないものね。いいでしょう。試合を認めます。」

「え?あの、渡辺先輩?姉様に何をするつもりなんですか?」

「ごめんな深雪君、君にはちょっと辛いかもしれんが、私はこんなことしかできないからな。という訳でシュテル、全力でかかってこい。」

 

突然のことにシュテルと深雪は何が何だかわからなかった。が、途端に摩利から発生した敵意を感じシュテルは理解した。

 

(この人、私を本当に完膚なきまで叩き潰すつもりなですね・・・・・・・・)

 

そう、疑いようもない”敵意”。そして全力でかかってこいというあのセリフは、私と全力の戦い(殺し合い)をしようと、そういうことなんだろう。シュテルはそう思った。だからこそ彼女は

 

「・・・・・・・・達也、私のCADはありますか?」

「シュテル!?その体では危険だ。やめておけ!」

「いいんです!だから早く!このままでは渡辺先輩に私が()()()()!」

 

達也は殺されるではなく壊されるといったシュテルの言葉を理解し、レイジングホーンを渡す。そしてシュテルはスタートラインに立つ。すると真由美がルールを説明してきた。

 

「ルールは単純明快、どちらかが試合続行不能になるまで終わりません。即死など、本当に殺してしまう術式以外なら何を使っても問題はありません。」

「会長!?」

「深雪!」

 

ルールがあまりにも”実戦に近い”ことに深雪が反論しようとするが、それをシュテルは止めた。

 

「これは完全な実戦。そういうことですよね?()()()()。まぁ、死という結果がない分こっちの方が難儀ではありますがね」

「そういうことだ、シュテル・シバ・スタークス。問答はいい、かかってこい」

「では遠慮なく・・・・・・・・」

 

そのとき、シュテルの目が変わった。絶対零度な目と似て非なる、戦いの目。それだけ、彼女は殺気を帯びているし、摩利もまた猛烈な殺気を放っている。まさに一触即発

 

そこに、開始のゴングはうたれた。

 

「始め!」

 

まずはお互いに自己加速術式を発動、互いに接近しつつ摩利はその右手を手刀の形に変えシュテルに襲い掛かる、シュテルはそれをいなし、摩利の鳩尾に掌底突きを当てようとした。が、その瞬間彼女の記憶からフィードバックされるのは

 

過去の忌々しい自分。感情を抑えられずに暴走し、以来彼女がそういう事柄に弱くなってしまったあの事件。彼女の手はそのせいでで寸でのでのところで止まってしまった。摩利はその機を逃すまいと、シュテルの足を払い、そのままサッカーボールを蹴るが如く

 

シュテルの腹の部分に硬化魔法で固くしたブーツによる蹴りを入れた。満足に受け身を取れなかったシュテルはその蹴りをもろに受けてしまい、そのまま吹き飛ばされる。

 

「シュテル、お前がどういう経験をして、なぜそのトラウマを抱えたかは知らんが、お前は自分を受け入れられてない。魔法そのものを受け入れられていない。けどな、魔法という一種の技能を持った以上、それを受け入れろ。お前は服部に対して言ったな。

魔法は技術だ。基礎だけができていても、応用ができる魔法師相手には基礎なんて効かないと。そうだ、魔法は技術だ。誰にでも使えるわけではない唯一無二の才能だ。そのことを分かっていながらお前は、魔法を持って生まれた自分を認められていない。

お前はただ、自分が魔法という訳の分からないものを持って生まれたことに戸惑っているだけだ。魔法という異能にも等しいそれを受け入れられず、魔法を使う自分が異質だと、歪な思想を持っているから弱い!お前に足りないのは、自分を肯定し

信じることだ。だからなシュテル。もう悩む必要はないんだ。もう少し自分を信じたらどうだ?お前が持つ魔法を、魔法という技能を、信じてみろ!」

 

その時、シュテルの中でくすぶっていたものが、突如なくなった気がした。気持ちが落ち着いてきたのかその顔は先の絶望に浸ったような顔ではなかった。

 

「・・・・・・・・渡辺先輩。言ってることがめちゃくちゃです。何を言っているんだか私にはわかりませんよ。」

「でも、吹っ切れたんだろ?」

「えぇ、私は、どこか歪です。そのことをどこか・・・・・・そう、無意識のうちに嫌悪していたんでしょうね。」

「今はどうだ?」

「もう、そんなことはどうでもよくなりました。私の過去がどうであろうと私は、今の私はシュテルです。魔法科高校の高校生、魔法師シュテル・シバ・スタークスです!渡辺先輩。もう遠慮はしませんから、お願いしますね。」

「フフッ、任された!」

 

それからの二人の戦いは、壮絶といっていいほど苛烈に、そして鮮烈に、その場にいたもの全員の目に焼き付けられた。

 

その後、二人はサイオン切れによる同時負け、すなわち引き分けで終わった。二人は演習室の床に仰向けに横たわるという、女性としては少々恥ずかしい格好でそこにいた。

 

「どうだ?吹っ切れたか?」

「えぇ、少なくとも、魔法を扱うものとしての自覚はできたつもりです。」

「ならば良し。では風紀委員会室に行こうか。これから風紀委員について説明をしなければなのでな。」

「了解です。渡辺先輩。」

 

先の戦いを通して、摩利とシュテルの間にはある種の、友情が芽生えていた。それを見ていた深雪は、達也にその疑問を投げかけた。

 

「あの、お兄様。お姉様はあれでよかったんでしょうか?」

「あぁ、多分あれでよかったと思う。人間そうそうトラウマを克服できるものではないが、あれだけ”人間味が溢れる”姿に変わったんだ。それだけでも、シュテルには大きな一歩になったと思うよ。」

 

過去を振り切ったシュテルの姿に、残りの兄妹は只々安堵するのみだった。




という訳で今回無理やりですが、シュテルさんの過去を振り切らせて?いただきました。メンタルが弱いというお声があったので、これを通して、メンタルが強いシュテルんをお送りできればいいなと思っています。ではまた次回!


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第九話 入学編 Ⅴ

 三人称side

シュテルは未だ、摩利との戦闘によるダメージが抜けきっておらず、立って歩くことすら困難なほどになっていた。しかしその顔はとても清々しい笑みを浮かべていた。

 

「摩利先輩。動けますか?」

「いや、私はまだ動けないよ。クタクタだ。」

「私もです先輩。ですが、何故か清々しい気分です。」

「そうか、それは良かった。吹っ切れたようで何よりだよ。」

「はい。私はもう、逃げません。しっかりと立ち向かっていきます。」

「そうか・・・・・・・・ならば私が言うことは何もないな。迷ったらまた言ってくれ。力になろう。」

「はい・・・・・・・・ありがとうございます。摩利先輩。」

 

2人はフラフラになりながらもその場に立ち、握手を交わした。そんな中、あずさがシュテルに声をかけて来た。

 

「そう言えばシュテルさんのCADはシルバーホーンに似ていますね」

「えぇ、達也がたまたまシルバーホーンの初期モデルを持っていたのでそれをもらって、私が使える魔法を組み込んだ特化型CADです。

名前はレイジングホーン。これは私がハンドメイドしたものなので、世界中でも私しか持ってないですよ」

「ちょっと触ってもいいですか!?」

「えぇ、どうぞ」

 

シュテルはその手に持ったCAD、レイジングホーンをあずさに渡した。あずさはまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供の如く興奮しており

 

何かぶつぶつ言っていた。これはしばらく止まらないなと思ったシュテルは、摩利の方へと視線を移した。

 

「渡辺先輩、そろそろ風紀委員会本部に行きませんか?いろいろとお聞きしたいことがあるんですが」

「おっと、すっかり忘れていたな。分かった、では行こうか、二人とも」

「分かりました。深雪、あとであずさ先輩から私のCADを返してもらっておいてくださいね?」

「分かりましたお姉様。」

 

シュテルと達也は摩利に連れられて、風紀委員会本部へと向かった。

 

「ここが風紀委員会の本部だ。基本的に集まるのはここで、出動の際はここか、自分のいるところから行ってもらうようになる。という訳で風紀委員会について説明するぞ。」

「渡辺先輩、私から質問いいでしょうか?」

「なんだいシュテル?」

「何故、私が選ばれたのでしょう?ほかに適任がいたのでは?例えば森崎とか・・・・・・・・」

「あぁ、その質問はもっともだな。いいだろう、説明しよう。シュテル、君の想像通り、本来であれば1-Aの森崎が選ばれる予定だった。しかし、入学二日目であの騒ぎを起こしたんだ。

当然、その選出は白紙になった。そして魔法ありきとはいえ、正確に相手のCADを吹き飛ばし、術式解体(グラム・デモリッション)という大技を使えた君が選出対象になったという訳だ。」

「なるほど、そういうことだったんですね。それなら仕方がないです。目を付けられてしまっていた以上、辞退することもできなかったでしょうしね。」

「そういうことだ。」

「それで風紀委員の話だが・・・・・・・・といってもほぼしてしまったな。」

「そうですか。では渡辺先輩、いいでしょうか?」

「なんだ改まって。言ってみろ。」

「では・・・・・・・・この部屋を片付けてもいいでしょうか?」

 

達也はそう言うと辺りを見回す。するとその部屋の惨状はひどいものだった。雑多なものは机の上に散らばっており、書類も投げ出されていた。

 

シュテルと達也は部屋の片づけをした。書類をまとめ、CADを棚に入れ、不必要なものは箱に入れて捨てる準備をする。こんな単調な作業をしている。

 

「摩利先輩。どうしてこんなに散らかってるんですか?片づけぐらいできると思うのですが・・・・・・・・」

 

シュテルがもっともらしいことを聞く。人数がいるのだから、それなりに部屋は片づけられるはずだ。しかしこの部屋はそんなことを微塵も思わせないほど絶望的に汚い。

 

かろうじて足の踏み場があるぐらいのスペースしかない。ほとんどが物で埋まっているのだ。

 

「あはは・・・・・・・・うちは男所帯だからな。どうしても片付けができないのだよ。」

 

そう言う摩利先輩の顔はとても引き攣っている。シュテルはそれを聞いて思った。

 

(あぁ、この人も後片付けが苦手なんでしょうね・・・・・・・・)

 

彼女が物を入れていた箱は今にも溢れそうになっていた。適当にものを詰めたという証拠である。その時不意に入口の扉が開いた。入ってきたのは2人の男子だった。

 

「ハヨーッス」

「おはようございます!」

「おっ?姐さん、いらしてたんですかい。」

 

姐さん。そのいかんともしがたい呼び名を聞いたシュテルは、これは摩利先輩のことなんでしょうと思ったのであった。

 

すると、姐さんといった方の男子が頭を丸めたノートでひっぱたかれた。

 

「ってぇ!」

「姐さんというなと何度も言っているだろう!お前の脳みそは飾りかっ!」

 

摩利は何度も何度もその男子生徒のことを叩いていた。その様子はまさにもぐらたたきのそれだった。

 

「そ、そんなポンポン叩かねぇでください。」

 

その男子もさすがに参ったのか弱々しいそう言った。その隣にいた男子も真顔で立っていたが、肩が若干震えている。

 

そんな中、その頭を叩かれていた男子がシュテルたちの方を向いた。そして制服の袖、エンブレムが入っているところを見ると、口を開いた。

 

「それで姐さん。そいつらは新入りですかい?」

「あぁ、紹介する。1-Aのシュテル・シバ・スタークスと1-Eの司波達也だ。二人とも今日から配属となった。」

「・・・・・・・・紋なしですかい。しかももう片方はか弱き乙女と見える。」

「辰巳先輩、先ほどの発言には違反的内容が含まれています。ここは、二科生というべきかと。重ねてか弱き乙女という発言は、差別及びセクハラに該当する表現が含まれている可能性があります。

気を付けたほうがいいかと。」

 

その二人は言い方こそ冷静そのものだが、心の奥では値踏みしているような、何とも言えない悪意のようなものがあった。そこに摩利が口を挿む。

 

「二人とも、実力を知らないからといって油断していると足元をすくわれるぞ?ここだけの話、先ほど実際に服部が足をすくわれたばかりだ。」

「なっ!?負けたんですかい?あの入学以来負け知らずの服部が?」

「あぁ、私が審判を務めた正式な試合でな。それに、もう一人は私と”全力”での勝負で私と互角に戦った。結果は引き分け。審判は真由美が務めた。これもまた正式な試合で、だ。」

「なんとっ!?委員長と互角に渡り合うとは・・・・・・・・すさまじいですね。」

「姐さん・・・・・・・・こいつは逸材ですね!」

 

先ほどまで避けるような眼をしていた二人は、それを聞くなり目の色を変えてシュテルたちの方を向いた。シュテルと達也はそれに驚きながら摩利の方を向いた。

 

すると摩利は少し笑った後口を開いた。

 

「私はね、ブルームだウィードだと変な肩書で優越感に浸り劣等感に溺れるやつが大嫌いだ。正直うんざりしていたんだよ、私は。だから今日の試合を見てちょっとばかし痛快だったんだよ。幸いにも

真由美や十文字は私がこんな性格だと知っているからね。風紀委員にはそういう思想の低い奴を選んでくれている。優越感がゼロとまでは言わないが、ちゃんと実力を評価できる奴ばかりだ。

だから、ここは君たちにとって居心地がいいところだと思うよ。」

 

摩利はそう言った。そう、彼女はしっかりと達也とシュテルの実力を評価していたのだ。他の生徒や教師とは違い、しっかりと実力を見て、それに見合った対応をする。恐らく二人にとってここほど居場所がいい場所はないかもしれない。

 

すると先ほどの男子二人が達也たちの前に来た。

 

「3-Cの辰巳鋼太郎(たつみこうたろう)だ。腕の立つ奴は大歓迎だ。よろしくな司波、そしてシュテルの嬢ちゃん。」

「2-Dの沢木碧(さわきみどり)だ。君たちを歓迎するよ。司波君、シュテルさん。」

 

こうしてシュテルたちは正式に風紀委員会へと入ることとなった。この後に起こる騒動に巻き込まれるとはいざ知らずに。




今回は短くてすいません。次回は割と長くなりそうです。なのはたちを出すのは次回ぐらいになりそうです。出され方に納得いかない方もいるかもしれませんがどうかよろしくお願いします。という訳でまた次回にお会いしましょう。


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第十話 入学編 Ⅵ

さて今回は、なのはとフェイトを出そうかなと思っております。が、読者様の中にはその展開に御不満を抱く方が多いかと私は思っております。がしかし、作者の好みによりこうなりました。読者の方々のご意向に沿えない形での登場となってしまうことをこの場でお詫び申し上げます。
では本編行ってみましょう!


三人称side

 

シュテルたちは、風紀委員会での一件の後、正門前で待ち合わせをし、帰路についていた。その途中、深雪はシュテルと達也に質問をしていた。

 

「そう言えば、どうでした?風紀委員会の様子は。」

「あぁ、そこまで悪くはなかった。むしろ心地いぐらいだったよ。」

「えぇ、でも沢木先輩の苗字呼びの徹底ぶりは凄かったですけどね。」

「あそこまで必死になるということは、昔に名前のことでいじめにあったか何かしたんじゃないか?」

「その可能性はありそうですね。」

「もう、お兄様もお姉様も先輩のことをあまり悪く言わないで上げてください。」

「「悪く言ったつもりはないが(ですが)?」」

 

深雪は口元を覆ってしまった。肩が少し動いていたので、おそらく笑いをこらえているのだろう。

 

「そう言えば先ほど、母からメールがありました。というより四葉家からですがね。」

 

深雪たちの顔が一気に引き攣る。

 

「伯母上は何と言っていたんだ?」

「最近、反魔法師団体の動きが活発になってきているようだ、と。特にブランシュという勢力が着々と手を伸ばしてきているようです。」

「なるほど・・・・・・・・警戒するに越したことはないな。」

「えぇ、何も起こらなければよいのですが・・・・・・・・」

 

そんなことを言いつつ、いつもの帰路を歩いている三人だった。が、それは唐突に起こった。

 

「ん?これは・・・・・・・・?」

「どうした?」

「いえ、サーチャーに何か反応があって・・・・・・・・この反応は、人?」

「何?それは本当か?」

「待ってください。もう少し精度を上げてみます。」

 

シュテルは、トレーニングを目的に常に”サーチャー”と呼ばれる探知魔法を自分を中心とする半径1Km圏内に飛ばしている。(この魔法は街頭スキャナーには引っ掛からない。)

 

この魔法は”魔力の供給量の上昇に伴う情報特定の精度向上”という概念が存在し、想子(サイオン)の供給量を上げれば、最高で、達也の精霊の目(エレメンタル・サイト)に匹敵する精度を出すことができる。

 

シュテルはサーチャーの精度を最大にして、先ほど反応があったところを調べた。するとそこには、明らかに衰弱している少女の情報が見つかった。

 

「やっぱり人の反応です。数は2、両方とも衰弱が激しいです。このままでは衰弱死する可能性も。」

「分かった。シュテルはどうする」

「私はこのまま行きます。このまま放ってはおけません。」

「分かった。では俺もいく。」

「いいんですか?恐らく面倒ごとですよ?」

「お前が行くといっているんだ。それに、深雪も助けたいんだろう?俺に断る理由はないさ。」

「お兄様・・・・・・・・はい!」

「分かりました。では行きましょう。時間がありませんからなるべく早く!」

 

シュテルたちは足早に目標地点まで行くのだった。

 

 

走ること数分、シュテルたちは大きな廃工場前にいた。

 

「ここは?」

「どうやら廃工場のようだ。『何か』が行われていると仮定すれば一番怪しいのはここだろう。」

「お兄様、如何いたしましょう?」

「深雪はここで見張りを頼む。俺たちが万が一にも”敵”を逃がした場合はそれの確保を頼む。」

「分かりました。お任せください。お姉様もお気を付けて。」

「えぇ、勿論です。」

「さて、準備はいいな?」

「勿論です。」

 

 

シュテルはCADを取り出し、ストレージを入れ替える。それは汎用型ストレージではなく、シュテルの開発した唯一の魔法、流星弾丸の起動式が入っている特化型のストレージだった。

 

達也もすでにCADを取り出している。そして2人はCADを構え、目の前の正面扉に実銃で言う銃口部分を向ける。

 

するとシュテルが引き金を引いた。流星弾丸を発動したのだ。威力は最大。その威力は対物ライフルかRPGの威力と遜色ない。扉はその衝撃に耐えられず部屋の奥まで吹き飛ばされてしまった。

 

シュテルside

 

私は廃工場の正面扉を、流星弾丸で吹き飛ばしました。勿論威力は最大です。無音でRPGの爆発に等しい衝撃を受けては、頑丈な鋼鉄製の扉もなすすべがなかったようです。

 

そして私と達也が廃工場内に入ると、

 

「なんだ!?」

「敵か?」

「皆、武器を取れぇ!」

 

などと様々な声が聞こえます。その奥には、”全裸の少女”が二人、男たちに囲まれているのが見えました。

 

「・・・・・・・・この、ゲスどもが・・・・・・・・」

 

私は思わずそう口にしてしまいます。そして私は、正面にいる20はいるだろう男たちの方にCADを向け、引き金を引きました。

 

CADにサイオンが吸い込まれ、起動式が送られてきます。発動したのは流星弾丸。威力設定は0にしてあります。

 

なので男どもが死ぬことはありません。流星弾丸は男どもの首元に当たるようセットしました。私のCADの銃口から、その場にいた男たちに向けて光の管のようなものができます。

 

それは男たちに重なるように実体を持ちます。そしてそれはすべて男たちの首の急所に当たり、男たちの意識を一瞬で刈り取りました。

 

するとその瞬間、男たちのうちの一人が持っていた何かが私の足元に転がってきました。それは私の足元に当たると勢いよく煙を吹き出しました。

 

私は即座に収束系魔法で、その煙を一か所に集め、外に霧散させました。

 

「大丈夫か?」

「えぇ、問題ありません。ただ少し煙を吸い込んでしまいました。」

「そうか・・・・・・・・それにしても全く、お前の魔法の精度には驚かされてばかりだよ。」

 

達也があきれたように言います。しかしその顔は笑っていました。苦笑いというやつでしょうか。

 

「いえ、私にはこれぐらいしか得意なものがないですから・・・・・・・・」

「そういうものなのか?」

「えぇ。では達也、この変態どもの後始末は任せました。私は少女たちの方に向かいます。」

「分かった、何かあったら言ってくれ。」

 

私は男たちの後始末を達也に任せ、その少女たちのもとへ行きます。そして私はその少女たちに声をかけようとしました。

 

しかし、その少女たちは体を寄せ合い、震えています。恐らく、というか絶対に私のことを怖がっています。

 

仕方ないので、たまたま持っていた飴玉をポケットから取り出し、少女たちの前に出し、言いました。

 

「私は怪しいものでも、そこの男たちの仲間でもありません。名前はシュテル・シバ・スタークス。シュテルでいいですよ。あなた達のお名前は?」

「・・・・・・・・なのは、高町なのは。中学一年生です。」

「・・・・・・・・フェイト・T・ハラオウン。同じく中学一年生。」

「なのはに、フェイトですね。安心してください。すぐ助けが来ますから。」

 

私はそう言うと、近くにあったブランケットを2人に巻き、その場を離れました。向かう先は達也のもと。達也はすでに尋問を始めていました。

 

「どうです達也、何か聞き出せましたか?」

「二つほど聞き出せた。」

「一つ目は?」

「こいつらは反魔法師団体、ブランシュのメンバーの一組のようだ。」

「なるほど・・・・・・・・で、二つ目は?」

「先ほどの少女たちの家族について聞いた。奴隷として裏市場に流したそうだ。」

「そうですか・・・・・・・・」

 

なんと彼女たちの親はすでにいなかったのだ。この時代、裏市場は鳴りを潜めてはいるが、その規模と内容は、21世紀初頭に比べて比べ物にならないほどひどいものとなっている。

 

奴隷として流されたのでは、見つけることは不可能に等しい。しばらく考え込んだ私は、携帯端末を取り出し、電話を掛けました。その相手は四葉家当主、四葉真夜。

 

電話は数コールのうちにすぐつながり、その先で声がしました。しかしその声は四葉真夜の声ではありません。

 

「これはこれはシュテル様、どうされましたか?」

「葉山さん、大至急母につないでもらえますか?」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 

電話の応答をしたのは、四葉家執事筆頭の葉山 忠教(はやま ただのり)、主に四葉真夜の側近として四葉家のほぼすべてを取りまとめている凄い人です。

 

しばらくした後、四葉真夜は出ました。

 

「どうしたの?大至急の用事なんて。」

「母さん。私の頼みを聞いてほしいのですが・・・・・・・・」

「なんでも言ってみなさい。」

「今私は、反魔法師団体と思われるアジトを一つ潰しました。」

「えぇ!?けがはない?」

「大丈夫です。でお願いというのはですね、そこにいた”身寄りのない少女たち”の保護を頼みたいのです。」

「親御さんはどうしたの?」

「・・・・・・・・そのグループの構成員の話によると、”裏に流された”と。」

「分かったわ。すぐに人を派遣するわ。」

「ありがとうございます。母さん・・・・・・・・いえ、真夜お母さん。」

 

私はそう言って電話を切りました。そこに達也がやってきます。

 

「伯母上は何と?」

「すぐに人をこさせると。」

「そうか。で、あの子たちはどうする?」

「とりあえず本家で預かってもらいます。身寄りのない子だから、使用人としていろいろやってくれるでしょう。」

 

私はそう言って四葉家の使いを待ちました。その人たちはその後すぐに到着し、なのはとフェイトを連れて行きました。その時に何故かなのはは笑顔をこちらに見せてきました。

 

何故なのでしょうか?私はそんなことを思いながら、達也たちと帰宅しました。その時、私の体が不自然に動きが鈍くなったような気がしましたが、私はそれを疲れだろうと、無視しました。

 

その後、家へと帰宅した私たちは、各々のやりたいことをやり始めました。達也は研究、深雪は達也にコーヒーを、そして私はというと

 

私の部屋兼私個人のCAD工房で、私の愛機であるレイジングホーン、そしてルシフェリオンの調整をしています。基本的に学校へはレイジングホーンをもっていっています。が、有事の際にはルシフェリオンを

 

使う羽目になると思います。元々転生した時の特典としてもらったこのルシフェリオンは、いささかこの世界のCADのスペックとはかけ離れています。CADは魔法を起動式として一度読み込んでから使うその特性上

 

発動までに若干のタイムラグがあります。それでも0.1秒とかなのですが。しかしそれが実戦となると話は違ってきます。その0コンマの間のラグが命取りになるケースが多いのです。しかしこのルシフェリンは

 

そのラグがゼロに等しく、この魔法を使うと決めた瞬間に発動は終わっています。このルシフェリオン、使用者から想子を常に吸収しているので、CAD本体が魔法を発動するに等しい状態へとなってます。

 

なので使用者はCADにとってのアクセサリー、またはオプションに等しくなっている状態なのです。やはり神様というのは凄いですね。そんなわけで今はルシフェリオンの調整とメンテナンスを行い、新しいCADを作っています。

 

それは二つ、一つはつい最近作り始めたものです。エリカの持っていた刻印式の警棒型CADから発想を得て、硬化魔法に特化した特化型CAD、もう一つは超長距離射撃を目的として開発した、狙撃用汎用型CAD。

 

それぞれ、特化型CADをステブリッヒ 汎用型CADをアーミリッヒといいます。まぁまだ仮り付けですがね。それを作っている最中、私の部屋に置いてある通信端末がなりました。相手は葉山さんでした。

 

「どうしましたか?」

『いえ、先ほどこちらで保護した少女たちの件でお話があったのでかけさせていただきました。』

「そうですか。わざわざすいません。で、容態の方は?」

『特に目立った外傷はありません。内臓も特に異常は見られなかったと。しかし、精神的ダメージがひどいらしく、今は眠っています。』

「そうですか。分かりました。今度時間があれば、見舞いに行きましょう。」

『かしこまりました。その時期になったら声をおかけください。すぐに向かいます。』

「了解です。」

『それともう一つ、あの少女たちの親についてですが、母親の方は両方、取り戻すことに成功しました。が、どちらも父親の方はすでに死亡していることが確認できました。

 

そして母親の方についても、衰弱がひどく、とてもすぐに会える状態ではないそうです。』

「分かりました。後のことは母に任せると伝えてください。」

『かしこまりました。では、失礼いたします。』

 

画面が元に戻ります。葉山さんが切ってくれたのでしょう。しかし、あの煙を吸い込んでからというもの、どうも思考がまとまりません。

 

私は半ばやけになりながらキーボードを叩くのでした。




今回も短くてすいません。そして次回からは、摩利さん曰くバカ騒ぎの一週間である部活動勧誘の回が始まります。はやてたちに関してはもう少し後で、マテリアルズに関してはまだ出るかどうか決まっていません。ですが今回でなのはたちはだすことがことができました。

ではまた次回にお会いしましょう。


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第十一話 入学編 Ⅶ

シュテルside

 

私は今、あまり・・・・・・・・いや、とても不思議な感覚に陥っています。視界ははっきりしているのに感覚がおぼろげで、まるでこの世ではないような感覚を感じています。

 

不思議といえば景色もそうです。何もないただ真っ白な空間が続いています。

 

ふと、視線を変えると視界が一気に変わります。そこはまるで映画館のような場所でした。私はそこで椅子に座り、スクリーンの方を見ています。

 

すると周りが暗くなり、スクリーンに映像が映し出されます。そこには男性と少女が映っていました。男性の方はなぜかよく見えませんが、少女の方ははっきりと見えます。

 

5歳ぐらいでしょうか?暗い茶髪をしていて、髪型はショート。そしてその手には、何故かナイフが握られていました。そんな他人が見ると訳の分からない映像ですが、私には見覚えのある映像です。

 

そう、それは紛れもなく・・・・・・・・私の記憶なのです。そこに映っているのは紛れもなく私自身なのです。そしてその少女は、突然目の前に現れ、横たわるオレンジ色の服を着た瀕死の女性の胸元にナイフを向けます。ここは処刑場で、目の前に横たわっている女性は死刑を言い渡された犯罪者だったのです。その横で先ほど少女の隣にいた男性が、少女に何かを言っています。すると、少女の体がぎこちなく動いて行きます。しかしその少女は、まるで体の動きが自分の意思に反しているかのような、そんな表情を浮かべ、それとは対照的に少女の体は女性の胸元へナイフを近づけます。

 

そのナイフはだんだんと近づいて行き、それと同時に声が聞こえ始めました。ただしどれも同じ言葉です。ただ、やめてと、その少女は繰り返すばかりです。その声を聴いて私は頭痛を覚え始めます。

 

そして私の口からは少女と同じ言葉が漏れ始めます。

 

(・・・・・・・・やめて)

 

その刃が止まることはありません。すでに刃先は5cm程度まで迫っていました。

 

(やめて!)

 

その刃は完全に胸元を捉えています。そして吸い込まれるようにナイフは胸元へと向かいます。

 

(やめてぇ!)

「っはぁ!」

 

 

刺さる直前に私は目覚めました。時計の時間はまだ4時を示しています。私は昨日、CADの調整をして、そのまま眠ってしまったようです。

 

「いやな夢を見ました・・・・・・・・」

 

私はボソッと呟くと、ルシフェリオンとレイジングホーンをもって部屋を後にしました。

 

 

私は外に出ると、レイジングホーンとルシフェリオンを待機状態のまま玄関のところに置き、そのまま格闘術の反復練習を始めました。

 

しかしそれは半ばやけのようなもので、動きにキレがありません。とにかく私は先ほどの夢を忘れたいがために体を動かしていました。

 

しかし、先ほどの夢のせいなのか、一向に体がうまく動く気配がありません。そんな状態で動き続けていれば、体もだんだんついていけなくなるのが普通です。

 

それは私も例外ではなく・・・・・・・・

 

「うわっ!」

 

足をもつれさせ転んでしまいました。幸いにも地面は柔らかい芝生の地面だったので、顔を強打することはありませんでしたが、変にひねったのか右足が少し痛みます。

 

すると転んだ音を聞きつけてなのか、達也と深雪が扉を開けて出てきました。

 

「お姉様!?大丈夫ですか?」

「シュテル、大丈夫か?」

「えぇ。少し、足をひねってしまっただけですから。」

「そんなっ!治癒魔法をかけます、お姉様はそこで安静にしていてください!」

 

深雪はCADを取り出し、私の足に治癒魔法をかけてくれました。その最中に私は達也に、なぜか体が動かないことを伝えました。

 

「ふむ、それはおかしな話だな。分かった、お前の中を”視てみよう”。」

 

達也はそう言った後、私に精霊の目(エレメンタル・サイト)を向けてきました。そうして見て行くうちに何かを見つけたようです。

 

「これは・・・・・・・・麻薬か?」

「麻薬?私そんなもの吸った覚えはありませんが・・・・・・・・」

「原因はおそらく昨日のスモークグレネードだろう。煙の中に微量に麻薬を混ぜて、強力な幻覚作用を起こせるようにしたものがあると聞いたことがある。それを使ったのだろう。」

 

幻覚・・・・・・・・納得がいきました。恐らく私の記憶の中で一番焼き付いているものを頭が呼び起こし、あのような夢を見たのでしょう。全く、人騒がせな煙ですね。

 

「今、”分解”で麻薬の作用を消した。これで普通に動けるだろう。」

「感謝します。深雪も、ありがとう。」

「いえ、別に大したことはしておりません。それよりも、やはり昨日の下衆な連中の仕業ですか・・・・・・・・私のお姉様になんという行為を!」

「落ち着いてください深雪、アイツらは今頃本家です。死よりも恐ろしい経験をしているでしょう。だからあなたが怒る必要はもうありません。現に私はもう動けます。」

「しかしっ!」

「いいんです。私はもう普通の人間として生きていくには手を汚し過ぎました。これはそんな私への罰なんですよ。だからあなたが気にすることはないんです。」

「・・・・・・・・はい。分かりました。」

「では朝食を取りましょう。おなかがすきました。」

 

私たちは、そのまま朝食をとることにしました。

 

 

三人称side

 

朝食を食べ終わったシュテルたちは学校へと向かった。ただし、シュテルの手には銀色の横長なジュラルミンケースが握られていた。やはりその姿は異質だったようで

 

第一高校の前の通学路を歩いていると、他の生徒たちが興味ありげにシュテルたち・・・・・・・・いやシュテルを見ていた。

 

「お姉様、それは一体・・・・・・・・?」

 

深雪が質問してきた。やはり中身が気になるのだろう。

 

「これですか?これは試作型の遠距離用汎用型CADです。今日は足をひねって走ることができませんから、ちょうどいいかなと思って持ってきました。」

「名前はないんですか?」

「アーミリッヒという名前を付けましたが、これはあくまでも仮付けなので。何なら深雪が名前を付けますか?」

「いえ・・・・・・・・私にはネーミングセンスがありませんから・・・・・・・・」

「そうですか。残念です。」

 

そんなことを話していると、正門前についた。ここで三人はそれぞれ別となる。

 

「では二人とも、また後でな。」

「はい、お兄様も頑張ってください!深雪は応援しております。」

「私もです、ではまた後で。」

「あぁ。」

 

三人はそれぞれの教室へと向かうのだった。

 

 

その昼、深雪は生徒会室へ行くといったので、シュテルは雫とほのかを誘ってお昼を食べに来ていた。すると達也がひとりでに昼食を食べていた。

 

「達也、今は一人ですか?」

「あぁ、今日は誰もここで食べようとしなかったからな。それに、弁当を作るのを忘れていたしな。」

「・・・・・・・・すっかり忘れていました。」

「まぁ、それはそうとして、お前も昼食か?」

「えぇ。でも今から席を取りに行くのは面倒なので達也と一緒に食べてもいいですか?」

「俺は構わないぞ。」

「ほのかたちもそれでいいですか?」

「うん、別にいいよ。」

「私も大丈夫。」

 

4人は昼食を食べ始める。しばらくすると達也が口を開いた。

 

「そう言えばシュテル、朝来たメールは呼んだか?」

「読みました。確かクラブ活動新入部員勧誘期間が始まるから、風紀委員会はそれの監視と取り締まりをやると。」

「だから今日から見回りだ。足の方は大丈夫か?」

「走ると少し痛みますが、この程度なら問題ないです。」

「そうか。そうそう、二人も気を付けたほうがいい。」

「えっ?何でですか?」

「二人だけがそうってわけじゃないが、A組の生徒はもれなく勧誘の対象に入るからな。強引な手を使われないとも限らない。だから用心するに越したことはない。」

「分かった。ほのか、気を付けようね。」

「・・・・・・・・うん。分かったよ、雫。」

「では俺は行くぞ。また後でな。」

「えぇ、また後で。」

 

達也は行ってしまった。その後シュテルたちも食堂を後にするのだった。

 

 

放課後、シュテルと達也は風紀委員会に集められていた。そこにはほかの風紀委員の生徒も集まっていた。ミーティングをやるから来てほしいといわれ、参加したのだ。

 

しばらくすると摩利が話し始めた。

 

「さて、今年もまたあの馬鹿騒ぎの一週間がやってきた。 クラブ活動新入部員勧誘期間だ。いや… 新入生獲得合戦と言うべきかな? 原因は魔法科高校ならではのクラブと九校戦だ。

九校戦の結果は 学校全体の評価に反映されるのはもちろん活躍した生徒とそのクラブは学校側から優遇される。というわけで有力な新人の獲得は最重要課題であり各部間のトラブルは多発する。

しかも勧誘期間中はデモンストレーションようにCAD携行許可が出ているから余計に厄介だ。ヒートアップしたクラブ同士、影で殴り合いどころか魔法の打ち合いになることもある。

学校の将来の九校戦の為か、多少のルール破りは黙認状態。学内は無法地帯化してしまう。この状態を沈められるのは我々風紀委員だけだ。 今日から一週間フル稼働してもらう!今年は幸い新人の補充も間に合った。

紹介しよう。1-Aのシュテル・シバ・スタークスと1-Eの司波達也だ。」

 

シュテルと達也は同時に立ち上がった。

 

「本当に役に立つんですか?」

 

一人の男子生徒がそんなことを聞いた。

 

「腕は保証する。司波は服部を模擬戦で倒しているし、単純な近接戦ならシュテルは私とやりあえるぞ?お前もやってみるか?」

「いえ・・・・・・・・遠慮しておきます。」

「ほかに質問のあるやつはいるか?」

 

誰も手をあげる者はいなかった。

 

「よろしい。ならば、出動!」

 

風紀委員の生徒たちが一斉に立ち上がった。それにつられるような形で、シュテルと達也も立ち上がった。

 

他の委員会のメンバーが出ていく中、シュテルと達也は摩利に止められていた。

 

「この前説明していなかったことを伝える。風紀委員はその仕事の性質上、学内でのCADの常時携行が許されている。しかし、不正行為などに使った場合一般生徒より重い罰が課せられるから注意することだ。

さて、ではこれから二人には見回りをしてもらう訳だが、その前にまずこれを渡しておく。」

 

摩利から渡されたのは薄い板のようなものだった。上はアーチ状になっている。

 

「これは?」

「風紀委員会用の超薄型カメラだ、上部のスイッチを入れることでカメラが起動し、撮影を始める。これは風紀委員会が不当な取り締まりをしていないという証拠として使うから、何かを取り締まる前または問題が起きそうなときは

必ずこれを付けてくれ。といっても風紀委員会の証言は基本的にそのまま証拠として通されるがな。」

「了解です。」

「さて、質問はあるかね?」

「いえ、自分はありません。」

「私も特にはありません。」

「よろしい。じゃあ二人とも、よろしくな。」

「「了解しました。」」

 

シュテルと達也は本部を出た。

 

シュテルside

 

私は今、CADを取りに来ています。今日は二つ。一つは私の愛機であるレイジングホーン、そしてもう一つが、昨日の夜に最終調整が終わったばかりの試作モデルのアーミリッヒです。

 

私は事務室の前で、二機(アーミリッヒはジュラルミンケースの中に入ったまま)を受け取り、そのまま外へ出ました。すると見覚えのある人が二人、歩いていました。ほのかと雫です。

 

私は二人に声をかけようとしましたが、その後ろから、サーフボードのようなものに乗った二人組の女性にさらわれて行きました。しかもそのボードはどんどん加速していきます。

 

ただでさえ足を負傷している私が、自己加速術式を使って追いつこうとしても追いつけないでしょう。するとその後ろを摩利先輩が行くのを見ました。私は通信機を起動し摩利先輩に聞きました。

 

「先輩、あの人たちは?」

「去年のOBだ。全く自分の部活が心配だからってここまでのことをしでかすとはな。」

「摩利先輩。自分は今あまり走ることができません。ですから彼女たちに追いつくことができません。」

「了解した。あいつらは私が何とかする。でももうしばらくかかりそうだ。なんせなかなか追いつかないからな。」

「・・・・・・・・足を止めれば、何とかできますか?」

「あぁ、出来る。最も、そんなことができればだがな。」

「先輩、それならお手伝いできるかもです。」

「なにっ!?」

 

 

OBだとか魔法の不正使用だとか、それ以前にあの速度で走っていること自体が危険です。しかし、レイジングホーンでは射程が足りず

 

足りたとして流星弾丸を使えば、腕に抱えられている雫たちに何が起こるか分かりません。そこで私はアーミリッヒを試してみることにしました。

 

ジュラルミンケースを開けると、そこには黒色で狙撃銃のようなフォルムをしたCADと、照準用の眼鏡型補助デバイスが入っています。

 

私はまず、眼鏡をかけました。すると右のレンズに、航空写真のような映像が表示されました。これは、民間で使われている通信衛星からの

 

衛星映像をリアルタイムで表示するようになっています。その後私はCADを起動し、眼鏡と同期します。するともう片方のレンズにレティクルが表示されました。

 

その照準は先ほどの女性OB二人を捉えました。

 

「流星弾丸は使えない。障壁にぶつけるのはもってのほか。ならば、ボードを止めればいい。発動するのは重力制御術式。」

 

私は引き金を引きました。するとOBの方々の乗ったボードが急に動かなくなりました。しっかりと魔法が発動した証拠です。

 

私は通信機を再び立ち上げ、摩利先輩に言いました。

 

「摩利先輩、今です!」

「感謝するぞシュテル!」

 

摩利先輩はそのままOBの方々を確保しに向かいました。私はほのかと雫のもとへと向かいました。

 

 




今回もまた短くなってしまいましたが、何とかここまで書ききることができました。これはひとえに読者の皆様のおかげです。今回出て来たアーミリッヒですが、これは作中でもあったように本決まりではありません。なのでもしこの名前がいいというものがありましたら、コメントで書き込んでもらえるとありがたいです。もしい多いようなら作者がその中から選ぶ形となりますが・・・・・・・・という訳で次回もよろしくお願いします!


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第十二話 入学編 Ⅷ

シュテルside

 

私は、先ほど止めたOBの方の腕から雫とほのかを引っ張り出しました。そのOBの方はというと、摩利先輩にこっぴどく叱られています。

 

「大丈夫ですか?二人とも。」

「うん。私は大丈夫だよ。ほのかはどう?」

「大丈夫。だけど、腰が抜けちゃった。」

「まぁ突然攫われたようなものですからね。仕方ないです。」

 

私はほのかの手を取り、立ち上がらせました。本人たちに外傷がないことを確認すると、さっきまでOBの方々を絞っていた摩利先輩の方に行きます。

 

「大丈夫ですか?摩利先輩。」

「おっ?心配してくれるのか?ありがとうな。見ての通り私は大丈夫だ。それにしてもお前がやったのか?あの重力魔法は。」

「えぇ。昨日やっと最終調整が一通り済んだ試作モデルがありましたので。」

「じゃあ、お前が今持っているCADがそうなんだな?」

「えぇ、名前はアーミリッヒ。といってもまだ仮の名前なので、いっそのこと誰かにつけてもらおうと。摩利先輩、つけますか?」

「いいや、遠慮しておくよ。私はそう言うのに疎いからな。」

「そうですか・・・・・・・・残念です。」

「ではな。引き続き見回りを頼むぞ。」

「了解です。」

 

摩利先輩は行ってしまった。

 

「二人も早く帰ったほうがいいかもです。」

「うん。分かった。じゃあねシュテル、また明日。」

「じゃあねシュテル!」

「えぇ、二人とも。帰るときはくれぐれも気を付けてくださいね。」

 

2人も帰っていきました。その後も違反者を取り締まったり、喧嘩などを仲裁したりといろいろやって、今日の見回りは終わりました。

 

私は達也たちに先に帰るといい、先に司波家へと帰ってきました。私はそのままルシフェリオンを起動しました。使うのは回復魔法。

 

ただ、この回復魔法はこの世界の魔法とは違い、一回で骨折が完治してしまう。そんなレベルの魔法です。流石なのはの世界の魔法は凄いですね。

 

そんなこんなで、少し腫れている右足を直し、私は九重寺を尋ねました。敷地内に入るといつもは飛び掛かってくる僧兵たちがいません。そう思った瞬間

 

背後に一気に人の気配と殺気を感じました。私はとっさにレイジングホーンをホルダーにいれたままの状態で引き金を引きました。発動する魔法は流星弾丸、この魔法は

 

CADがどのような状態であっても引き金を引けば発動できるように調整を施しています。私は後ろを振り向く間もなく前へと進み、後ろに向けて右手を突き出しました。

 

その右手と私を襲った相手・・・・・・・・もとい先生の左手が突き出されたのはほぼ同時でした。

 

「全く、趣味が悪いですよ先生。」

「いやいや、これぐらいなら対応してくると思っていたよ。それに、これはこの前の仕返しの意味も含むからねぇ。」

「・・・・・・・・本当に、とんでもない人ですね。先生は。」

「そんなことないよ。・・・・・・・・で、今日来た要件は?」

「この前私はある反魔法師団体のアジトを一つ潰しました。」

「知ってるよ。たしかあの者たちはブランシュの一員だったかな。」

「やはりそうですか。それで、その者たちの手は”どこまで”伸びていますか?」

「うーん、君のすぐ近くまでとだけ言っておこう。」

「そうですか。それだけで十分です。では、自分はこれで。」

「ふむ、気を付けてね。たまには達也君と一緒に顔を出してね。」

「善処します。」

 

私はそう言って九重寺を後にしました。

 

 

家に帰ると既に達也たちは帰宅していました。達也はともかく、深雪はなぜか不機嫌そうな顔をしています。

 

「ただいま帰りました。」

「・・・・・・・・おかえりなさい、お姉様。」

「ん?どうしました深雪。調子でも悪いのですか?」

「・・・・・・・・では、単刀直入に伺います。今まで一体どこに行っていたんですかっ!」

「あっ・・・・・・・・」

 

すっかり忘れていました。時計はすでに7時を回っています。何の報告もせずに出て行ってしまったのでそれに怒っているようです。

 

「私がどれだけ心配したと思ってるんですか!せめてメッセージを残すぐらいのことはしてください!」

「すいません、つい忘れていました。今度からは気を付けますね。」

「本当に気を付けてくださいよ!」

 

深雪はそう言うとキッチンの方へ戻っていきました。私は自分の部屋に荷物を置き、軽くシャワーを浴びてからリビングへと向かいました。

 

夕食を三人で食べた後、私は地下の研究室に向かいました。そこではちょうど、深雪のCADの調整が終わったところでした。深雪が部屋を出て行ったあと

 

私は達也に声をかけました。あることを聞くために。

 

「お疲れ様です。」

「あぁ、それにしても今日は疲れたな。」

「まさかあれほどひどいとは、先輩の言う通りでしたね。」

「”バカ騒ぎの一週間”だったか。本当に、言葉通りの意味だったな。」

「そう言えば達也、今日の見回りの時、違和感を覚えたことはありますか?」

「いや、特にはないが。どうしてそんなことを聞く?」

「私は先ほどまで先生の所へ行っていました。」

「師匠の?どうして?」

「ブランシュのアジトを潰した件で。まぁそのことを先生はすでにご存じだったようですがね。」

「そうか。で、そこで何を聞いてきたんだ?」

「ブランシュはその規模がとても大きく、日本にも支部と呼ばれる場所が存在します。当然下部組織と呼ばれるものも存在します。」

「確か、エガリテだったか?」

「えぇ。そしてそのエガリテ、ひいてはブランシュが、一校に手を伸ばしつつあるようです。」

「何だと?ではすでにうちの生徒が取り込まれている可能性があると?」

「数人程度なのか、はたまた何十人規模なのかは定かではありませんが、恐らくは。」

「師匠が言っていたのか?」

「そうです。師匠もこのことを危惧していました。なので私は、これからの一週間”ルシフェリオン”を携帯することにします。達也も留意しておいたほうがいいでしょう。」

「分かった。それとなく意識しておこう。」

 

達也はそう言って再びモニターを見つめ始めました。私はこの時、この心配が杞憂で済んでくれればいいなと思っていました。しかし、想現実は甘くありませんでした。

 

そのことに気づかされたのは、勧誘週間も佳境に差し掛かった頃でした。私は校舎の屋上にいました。ライフル型CAD”アーミリッヒ”の性能を最大限生かすには高所からの照準が一番良いのです。

 

本来、こういうCADを高所から扱うには相当なスキルが必要らしいのですが、私の持っているそのCADの操作スキルとサーチャーから送られてくる情報で補完できるという利点から私の魔法の命中率はほぼ100%でした。

 

これには七草会長も舌を巻いており、

 

「今度練習に付き合ってくれない?」

 

と誘われたほどでした。そんなにすごいことなんでしょうか?多分七草会長の正確さに比べれば、チートじみた能力を使っている私なんかかすんでしまうのでは?と思っています。

 

そんなことを考えながら辺りを警戒していると、達也が走っていく姿が見えました。それと同時に通信が入ってきました。

 

(こちら生徒会本部。風紀委員の方、誰でもいいので応答願います)

「こちらシュテル。本部、いったい何があったのですか?」

(この先の広場で暴動が発生しました。現場に急行してください。)

「了解です。すぐ向かいます。・・・・・・・・この先の広場なら、あっちの屋上からなら狙えるか。」

 

私は跳躍術式を発動し、隣の実技棟に移ろうと立ち上がりました。その時、下の方で魔法発動の兆候をサーチャーがキャッチしました。

 

(座標は・・・・・・・・達也の目の前!?くっ!)

 

私はすぐさま跳躍術式で向かう方向を変え、魔法発動の発生地点に飛びました。それと同時に術式が破壊されたことをサーチャーが確認しました。私がそこへ降りると、手に赤白青のトリコロールカラーのリストバンドを手に付けた

 

生徒がいました。そのせいとは私を見るとすぐさまその場を逃げ出してしまいました。しかも自己加速術式を使って。このままでは追い付かないと判断した私は、アーミリッヒを地面に置き、ポケットから青い水晶玉のようなものを取り出します。

 

「起きてください”ルシフェリオン”」

 

するとその水晶は一瞬で杖のような形に変わりました。一度はAIを組み込み最適化を図ったCADだったルシフェリオンですが、今はそのAIを取り外し、音声コマンドで指定し魔法を発動するものへと変わっています。

 

「ブレイズ・フィン展開。”飛びますよ”。」

 

その瞬間、私の足元には赤い光の羽のようなものがついていました。その場で少し浮かぶと、音速もかくやというスピードで、先の生徒のもとへと飛んでいきます。

 

しばらく飛んでいると、先ほどの生徒がいました。制服の形状から男子生徒のようです。

 

「そこの男子生徒、止まってください。あなたを魔法不正使用者として拘束します。」

 

そう警告しましたが、その男子生徒は止まりません。むしろどんどん加速していきます。しかもこの先は先ほど通報があった広場、厄介ごとを増やされてはかないません。私は足止めをすることにしました。

 

「アクセルシューター、威力最小。」

 

本来言う必要はないのですが、無意識に魔法を発動するのではなく言葉にしてしっかりと自身で認識したほうがしっくりくるのでこの方法を取っています。

 

ルシフェリオンはタイムラグなしで私の背後に赤い魔力弾を形成します。それが発射されるとその生徒を追いかけました。しかしそれは不発に終わります。

 

「対象者発見できず!?・・・・・・・・私としたことが、こんな失態を犯すなんてっ!」

 

恐らく建物の中に入られたのでしょう。流石に中に入られるとどうにもできません。私はその生徒のことをあきらめることにしました。

 

まぁ結果的に達也への魔法攻撃は回避できたので、良しとします。それと同時に広場での暴動も治まったと連絡がありました。私は他の違反者がいないか確認しに向かいました。

 

 

 

私は今、逃げています。私を勧誘せんとする生徒たちからです。最初は見回りをしていました。アーミリッヒでは小回りが利かないのでレイジングホーンを使っていました。

 

先ほどの一件から少し経ち、私は通常の見回りを再開していましたが、その間に出た逮捕者はすでに二人。いくら勧誘期間でいろいろヒートアップしているからと言って

 

この数は多すぎます。しかも片方は大勢の前で大立ち回りをしていたため、いくら目標以外をすり抜ける流星弾丸と言っても使う訳にはいかず

 

仕方ないので体術で倒すことにしました。しかもその人、その人が所属している部のエースだったようで、エースをコテンパンにした生徒がいる、と噂になり私のことを追いかけてくる生徒が後を絶ちません。

 

という訳で現在に至ります。私はインカムを起動し摩利先輩に助けを求めました。

 

「先輩、助けてください。追われています。」

「追われている?・・・・・・・・ひょっとしてあの大立ち回りのせいか?」

「えぇ、それを見たか聞いたかして、ぜひ自分の部活に~、と誘ってくる人たちが後を絶ちません」

 

私はインカムで話をしつつ、実技棟へと入りました。私は屋上に行こうとしましたが、すでにここにも人がいたらしく私は一階にある、どこかの部活の倉庫兼部室な部屋に入って身を隠すことにしました。

 

すると、それを見計らっていたといわんばかりに、部室とどこかの部屋をつなぐ扉が開きました。その奥からは一人の男子生徒が出てきました。

 

「あれ?シュテル・・・・・・・・さん?どうしてこんなところに・・・・・・・・」

「すいません。ちょっと厄介ごとに絡まれましたので隠れさせてもらってます。あなたは?」

「1-Bの十三束鋼です。厄介ごとというのは・・・・・・・・あぁ、シュテルさんの大立ち回りの件ですか。」

「そうらしいです。全く、少しはこちらのことを考えてほしいものです。」

「シュテルさん、これはあくまでも提案なんですけど・・・・・・・・」

「シュテル、で結構ですよ。敬称もいりませんし固くなる必要もありません。」

「そう?・・・・・・・・じゃあシュテル、これはあくまで提案なんだけど、マーシャル・マジック・アーツ部を見学していかない?」

「それは別に構いませんが・・・・・・・・どうしてですか?」

「ちょうど今、試合形式でのデモをやってる最中なんだよ。それに、どこかの部活の見学にいるってだけで今日の面倒ごとはなくなると思う。」

「・・・・・・・・確かに、筋は通っていますね。」

「どう、かな。いやだったら、ほとぼりが冷めるまでここにいてもいいけど。」

「では、お言葉に甘えて見学させていただきます。」

 

シュテルはそのまま鋼と見学することとなった。




ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。さて、まもなく折り返しのところまで来ましたね。しかし作者は、シュテルと誰をくっつけようか迷っています(;^ω^)

まぁそんなことはさておいて。ではまた次回お会いしましょう。


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第十三話 入学編 Ⅸ

入学編はまだ少しかかりそうです(;^ω^)


 

三人称side

 

十三束に連れられシュテルはマーシャルマジックアーツ部の見学に来た。そこでは肘やひざなどにプロテクターを装着した生徒が、魔法による体術の試合をしていた。

 

魔法といっても、何かを撃ちだすのではなく、自分の体に作用するような術式を使ってだが。

 

シュテルはそんな選手たちを観察していた。

 

(皆さん技量がすさまじい。高校生にしては出来過ぎてますね。これならプロは無理でもセミプロはいけるかもしれない・・・・・・・・)

 

と、評価していた。それだけこの部の体術のレベルが高いという証拠だった。シュテルが辺りを見回すと、見知った姿があった。

 

「おぉ!シュテル君ではないか。どうしたんだい?まさかこの部活に興味があるのかね?」

「沢木先輩、こんにちは。それもあるんですけど、一番は他の部の干渉を避けるためですね。もうしつこくてしょうがないので。」

「そうかそうか。それは大変だったな。で、この部の興味はあるかね?」

「正直言って、あります。」

「おぉ、言い切ったね。何か理由はあるのかね?」

「私はある先生に体術を習っています。そのせいなのか、そう言ったものに”興味”がありまして。」

「なるほどな・・・・・・・・おい、早瀬。相手をしてやってくれ。」

 

沢木がそう言うと、呼ばれた生徒、早瀬隼人がシュテルの前へ出て来た。

 

「いいんですか?沢木さん。自分、手加減できないですよ。」

 

と、自信満々な早瀬をよそに、シュテルは制服のスカートに自分で切れ込みを入れ,その艶やかな足を露出させる。

 

すると十三束がシュテルに近づいてきた。手にはプロテクターが握られていた。

 

「頑張ってねシュテル。僕も応援するよ。」

「ありがとうございます。頑張りますね。」

 

シュテルは笑顔でそう返した。十三束の顔は心なしか赤らんでいた。

 

シュテルは十三束から借り受けたプロテクターを装着し、フィールドに立つ。すると沢木がその中央に立つ。

 

「勝負は一回。どちらかがダウンしたらその場で終了。二人とも分かったな?」

「了解です。」

「分かってますよ。」

 

沢木の問いに、二人はそれぞれ返答を返す。

 

「よろしい。では・・・・・・・・始め!」

 

早瀬は自己加速術式を発動、シュテルに一気に近づいてきた。そのまま拳を突き出し、その勢いでノックアウトさせるのが狙いなのだろう。

 

現に、シュテルの目の前まで来た早瀬はその拳をシュテルの顔面へと突き出している。その顔は勝ち誇ったような顔をしていた。しかしその顔は絶望の色へと染まることとなる。

 

シュテルはその拳を片手で防いだのだ。そのままシュテルはその腕を弾き、その顔面に右ストレートを放つ。

 

早瀬はそれでよろけ後ろに下がる。意識がもうろうとしているようだ。シュテルはその好機を逃さなかった。

 

そのままがら空きとなった顔面に次々と打撃を放っていく。そして意識が消えかかっているというところまで来た時

 

シュテルはとどめとばかりに右ストレートを放つ。衝撃を余すことなく脳へと伝えられた早瀬はもはや意識を保っていられなかった。

 

早瀬はその場に倒れてしまった。

 

「勝者、シュテル・シバ・スタークス。」

 

沢木がそう言って、その試合は終了した。周りからは歓声が贈られた。そして次々と称賛の声が上がった。

 

 

シュテルはプロテクターを外す。そして部員に返され、腕につけた時計を見る。その時刻はすでに風紀委員会の見回り時間を過ぎていた。

 

シュテルは近くにいた部員にプロテクターを渡し、部室を後にする。部屋を出て、実技棟の出口から出ようとすると、声をかけられた。

 

「シュテル、待って。」

「ん?どうしました?」

「いや、君って本当に強いんだと思って。一応あの人次期エースって呼ばれたひとだったんだよ?」

「そうなんですね。しかし今回は相手が悪すぎました。恨むなら、沢木先輩を恨むべきでしょうね。」

「アハハ・・・・・・・・ほんと、シュテルはクールだね。」

「そうですか?というか、私のはクールではなく無関心という方が正しいのでは?」

「うん、そうとも言うかもね。」

「むっ、なんですか?その含みのある言い方は。」

「おっ、ようやく表情を変えたね。やっぱりシュテルはもう少し表情を前に押し出したほうがいいよ。その方が可愛いんだからさ。」

「なっ!?ななな何を言い出すんですかっ!?」

「アハハッ!面白いなぁ、ころころ表情が変わるじゃないか。」

「むー!」

(やっぱりシュテルも、深雪さんに負けず劣らず可愛いよ。そして僕は・・・・・・・・そんなシュテルが好きなのかもしれない。)

 

そんな十三束の心の声を知ってか知らずか、その日、シュテルは十三束と一緒に帰ったのだった。

 

 

それからしばらくたったある日の放課後、シュテルはカフェに赴いていた。やることがなく、達也は風紀委員会の仕事で、深雪は生徒会の仕事でいないため、暇になったからやってきた。

 

シュテルは働きすぎと言われたのだ。理由は簡単、魔法の不正使用者を目に付く限り確保し続けたためだ。しかもその渦中にいたのは深雪をはじめとするシュテルの知り合い・・・・・・・・というか関係者だったのでなおさらだ。

 

検挙率は達也とどっこいレベル。というか少し勝っている。シュテルは自分にかかわりを持つ人物全員の火の粉を払ったのだ。幸いにも勧誘週間は昨日の時点で終わっていたため、これ以上巻き込まれることもない。

 

しかし、面倒ごとに巻き込まれやすい達也は使用者の方から寄ってくるが、シュテルは校内をくまなく探し、見つけたら即確保という軍人でも根を上げるようなハードワークをこなし続けたために

 

今日の授業中に疲労困憊で倒れてしまったのだ。幸いにもすぐに目を覚まし、動ける状態となったが、深雪が本気で泣きながらやめてくれとお願いしたために、摩利が今日は休んでろとシュテルに言ったのだ。

 

さすがのシュテルでも深雪に泣きながらお願いされると勝てないようだ。それだけ深雪の向ける愛情というかなんというか・・・・・・・・まぁそう言うたぐいのものが強い証拠なんだろうが。

 

「我ながらかなり無理をしていたようですね。自分の体のことにこれほどまでに鈍感になっているとは。深雪にも心配をかけました、あとで謝らなければ。」

 

シュテルがそんな独り言をつぶやくと、突然声をかけられた。

 

「・・・・・・・・えっと、あなたがシュテル?」

「えぇそうですが、あなたは?」

「私は二年の壬生紗耶香、剣道部に入っているの。あなたのことはいろいろと噂になっているわ。風紀委員のダークホース、赤鬼のシュテルってね。」

「そんな呼ばれ方をしてたんですね・・・・・・・・はぁ、やりすぎた感はありましたがまさかここまでとは・・・・・・・・」

「まぁまぁ、そう落ち込まないで。」

「いえ、落ち込んでなどいません。それで、何の御用でしょうか?」

「今日はあなたに聞きたいことがあってきたの。」

「聞きたいこと、ですか。私に答えられる範囲であればお答えしましょう。」

 

そこから紗耶香の雰囲気が変わる。どうやら真面目な話のようだ。

 

「あなたは今のこの学校の制度をどう思ってる?」

(なんだ、()()()()()ですか・・・・・・・・)

「まぁ、大筋はあってると思いますよ。結局本末転倒な感じは否めませんが。」

「ふぅん。やっぱり、あなたもそう言う考え方なのね。」

「そう言う考え、とは?」

「やはりあなたも所詮は他の一科生と同じ、という意味よ。」

「言っている意味は理解しかねますが、私もこの制度にはあまりいい印象を持ってはいませんよ?現に私の妹が色々されそうになりましたからね。」

「そうなの?」

「えぇ。実力で分けるのには賛成ですが、それで天狗になるということを容認、いえ黙認しているというのは少し違うと思っています。実力で分けられている以上、上の者は下の者の見本になることが求められます。

決して上の立場の者が下の立場のことをないがしろにしたり、蔑み陥れていいという訳ではありません。そういう部分で言えばこの学校の運営方針は少し変わっていると言わざるおえません。」

「・・・・・・・・つまり、あなたはこの学校の運営方針が気に入らないと思ってる。そう解釈していいのかしら?」

「えぇ、そういうことになりますね。」

「じゃあ、変えて見ない?」

「なにをですか?」

「決まってるじゃない、この学校の制度をよ。あなたがいれば百人力よ!」

「・・・・・・・・えっと、いいんですか?というより、分かってるんですか?私は風紀委員ですよ?あなたのことを三巨頭の前に連れ出すことも可能なんですが・・・・・・・・」

「あなたならそんなことしないってわかってるから。これ、私の電話番号ね。もし協力する気があったらここに連絡頂戴ね。じゃあね。」

「あっちょっと!・・・・・・・・行ってしまいました。」

(それにしても、会話の時に感じた違和感。あれは何だったのでしょう?)

「・・・・・・・・深雪からですか。終わったようですね。では、私も行きましょうか。」

 

シュテルは静かにカフェを出たのだった。

 

 

「達也、壬生紗耶香という人物について、心当たりはありませんか?」

「んっ!?」

 

現在、シュテルは達也たちと帰路についている。いつものメンツには今日は三人で帰らせてほしいとシュテルがお願いしたのでいない。

 

キャビネットに乗ったタイミングでシュテルは達也にそう切り出した。するとそばの深雪が何やら噴きだした。

 

「ん?深雪、どうしました?」

「いえ、何でもありません。」

「そうですか。それで達也、心当たりはありますか?」

「あぁ、声をかけられたからな。電話番号渡すねと言われて無理やり渡されたから、番号も知っている。」

「今日、彼女と会いました。多分達也の時とおおよそは一緒です。」

「そうだったのか。で、それがどうした?」

「それが、少し彼女の喋り方に違和感があった気がしてならないんです。」

「違和感?」

「えぇ。なんというか、そう思ってるのは本当だけど、それが増長しているという感じで。」

「ふむ・・・・・・・・叔母上に聞いてみれば何かわかるんじゃないか?もし先ほどの話が杞憂ではないのなら叔母上が何か知っているかもしれん。」

「分かりました。後で母さんに聞いてみます。」

「・・・・・・・・それでな、前々から気になっていたんだが。」

「ん?どうしました達也。」

「何故、叔母上のことを母さんと呼んでいるのだ?」

「あぁ・・・・・・・・」

「それは私も気になります。いつの間にか呼んでいたのに妙にしっくりくるから今まで気に留めませんでしたが、疑問です。なぜそうなったのか、教えてください!」

「・・・・・・・・入学式の前日、おぼえていますか?」

「あぁ、確か本家に行っていたな。」

「その時に、真夜様と深夜様に押し切られまして。呼んでくれないと高校に入学させないってまで言って、です。」

「・・・・・・・・そうか、すまない。変なことを聞いたな。」

「いえ、気にしていません。」

 

そうして何とも言えない違和感に包まれながら三人は帰路についた。これから起こる波乱の渦は静かに、しかし確実にシュテルたちに忍び寄っていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。物語もついに終盤に差し掛かりました。もうすぐ入学編が終わります。そのあとは九校戦編となります。ではまた次回お会いしましょう。


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第十四話 入学編 Ⅹ

三人称side

 

翌日、シュテルは自室でレイジングホーンを調整していた。と言っても魔法が発動するかのチェックだけだったのでそれはすぐ終わった。

 

その横には四角い、手のひらに収まるサイズの板状のものが置かれていた。言わずもがな、新しいCADである。それにしても作りすぎではなかろうか?

 

これではCADの物流を覆しそうな気がしてならない。まぁ本人にこのモデルを売るつもりがないのが幸いか。

 

話を戻そう。シュテルは部屋を出てリビングへと向かった。しかしそこには誰もいない。今日は休日で、達也と深雪は買い物という名のデートに出かけたのだ。

 

シュテルはそんな甘々な空間にいたくないという本音を隠しつつやんわり断ったのだ。深雪はそれに反対こそしたが、シュテルが穏便に丸く収めたので今頃達也とデートを楽しんでいるだろう。

 

朝食は自分で作った。シュテルは家事もできるようである。この時代、自分で料理を作るというのはすでに無くなりつつある。

 

HALの普及で台所事情は大きく変わったからだ。シュテルのように自分の手で家事をする人間はまれである。

 

朝食を食べ終え、食器を片付けて、新たな試作CADの調整に入ろうとしたその時ウィッジホンに着信が入った。

 

相手は本家、真夜のものだった。シュテルは身だしなみを整え、モニターの前に立った。

 

「おはようシュテルちゃん。元気にしてた?」

「えぇ、何事もなく過ごしておりました。それで母さん、いったい何の用件で?」

「あなたに頼まれていた例のデータの件です。」

「・・・・・・・・あぁ、あの件ですか。すいません、すっかり忘れておりました。」

 

無論嘘である。なんならそのためにあの板状のCADを作ったまである。

 

真夜はこうでもしないと長話を始めてしまうので、シュテルはさっさと結果を聞こうとしたのだ。

 

「あら珍しい。シュテルちゃんでも忘れることがあるのね。」

「母さん。いくら私が変わってるといっても人間ですよ。忘れることもあります。それで、結果の方は?」

「あなたが送ってくれた音声データ、そして壬生紗耶香本人の高校生前の音声データのふたつを一緒に聞かせてみたら確かに少し”違和感はあった”って姉さんは言っていたわ。」

 

そう、シュテルはあの時の壬生との会話を録音していた。

 

本来はいざこざに巻き込まれたときに”正当防衛”を主張するための証拠にするためのものだが、シュテルはあの時咄嗟にレコーダーを起動させたのだ。

 

そしてそのデータを深夜に渡し、言動など、壬生紗耶香の周辺調査をしてもらっていたのだ。

 

「真夜母さんに聞かせたんですか?」

「精神のことなら私よりも姉さんの方が優れていますもの。それで、壬生紗耶香のことについてもう少し詳しく調べてたんだけどね。」

「何か分かりましたか?」

「どうやら渡辺家のご令嬢とひと悶着あったようなのよ。」

「ひと悶着、ですか?」

「なんでもあの子、渡辺家のご令嬢に剣道の稽古の申し出をしたんだけど、断られたらしいの。そのあと、数日ぐらいたった時、今のような感じになってしまったらしいわ。」

「それがどう関係しているのでしょうか?」

「壬生紗耶香は確かに二科生だけど、”差別撤廃を掲げるほどにその制度を恨むようなことは言っていなかった”らしいわ。だからこそおかしいのよ。」

「・・・・・・・・確かに。それでは私に声をかけるほどに、そして制度撤廃の話を積極的にするという行為に違和感がありますね。」

「シュテルちゃん、気を付けてね。前にも言ったかもしれないけど第一高校にはすでにブランシュの下部組織エガリテが入り込んでいるわ。そしてブランシュのリーダーである司一には催眠系の魔法が得意だという情報もある。

ひょっとすると壬生紗耶香はすでにブランシュに取り込まれてる可能性があるわ。」

「分かりました。肝に銘じておきます。」

「じゃあね。夏休みになって時間があったらこっちに顔を出しなさいな。姉さんも会いたがってるわよ。」

()()()()()()顔を出したいと思います。それでは、お手数をおかけしました。」

 

通話はそこで切れる。

 

(それにしても、ブランシュとエガリテですか。これはまた、面倒ごとに巻き込まれる予感がしますね。・・・・・・・・もし深雪の周りに手を出そうものなら、覚悟しておいてくださいね。)

 

シュテルはそんなことを思いながらCADの調整を再開した。

 

 

翌週、週最初の登校日の放課後、シュテルは風紀委員の本部にいた。

 

「すまないな。シュテルに司波君、手伝ってもらって。」

「いえ、この報告書は自分たちがやったことに関するものですから、手伝うのは当然です。」

「そうですね。これは本来私たちがやるべきものですし。それに委員長の書類作成の苦手っぷりはもう知っていますので。」

「それを言われると頭が上がらんな・・・・・・・・」

 

そう、部活動勧誘週間にシュテルたちが取り締まった一件の始末・・・・・・・・もとい報告書を作っていたのだ。

 

元々摩利は書類作成などの事務作業全般が苦手なのである。女性として、しかも恋人がいるとかのうわさがある彼女にとってその弱点は如何なものかとシュテルは思っていた。

 

それに、先ほど達也が言っていたように、摩利が作っていた書類は達也とシュテルの逮捕者数の報告書という名の始末書だ。

 

本来摩利が作るべきではない。しかし、達也は周りから疎まれていることもありなかなか忙しそうにしていて、シュテルに関しては

 

度重なる無理のし過ぎで倒れてしまったため、頼むに頼めなかったようだ。

 

「あー達也君。そこに置いてある資料を取ってくれないか?」

「すいません、こっちも手一杯なので、ご自分で取って頂けますか?」

「そうか、分かった。すまなかったな。」

「いえ、こちらこそすいません。」

「さてと、資料を取りに・・・・・・・・」

 

”パキッ” 何かが割れたような音は書類作業でそれなりにうるさかった部屋に何故かいやなほど響いた。

 

摩利がその下を見ると、足元には踏まれて画面が割れた書類作成用の端末があった。

 

「・・・・・・・・達也君、シュテル。これ、どうしよう?」

 

摩利が年甲斐もなく涙目になっている。

 

「・・・・・・・・完全に割れていますね。電源もつかなそうです。達也、直せそうですか?」

「少し見てみる・・・・・・・・どうやらメモリは無事のようだ。今回ばかりは端末がメモリ保存のタイプで助かった。でもなおすのは、ここにあるパーツだけでは無理だな。」

「買ってくるしかありませんか・・・・・・・・こっちの書類はあらかた片付きました。私が行ってきましょう。」

「・・・・・・・・頼んだぞ、シュテル。」

「了解です。」

 

シュテルは、脱いでいた制服の上着を羽織り、風紀委員会本部を出た。

 

 

シュテルside

 

私はいま、摩利先輩が割ってしまった端末の修理のためのパーツを買いに向かうところで、現在昇降口のところにいるんですが・・・・・・・・なんか、正門前でこそこそやってる方々がいるんですよね。

 

しかも二人は私の知り合いという・・・・・・・・どうしたらいいんでしょうか?

 

「何をやっているんですか・・・・・・・・そんな気配を漏らしていては尾行の意味がなくなりますよと言いたいんですけど、今から言いに行ったのではさらに怪しまれますよね。」

 

そんなことを言っていると、彼女たちが外に向かう様子が見えました。どうやら真似事ではなく本気で誰かを追っているんでしょう。

 

幸いにも向かう方向が私が行こうと思っていたお店と一緒だったので、私は尾行している彼女たちを尾行し始めました。気配を限界まで消して。

 

そしてその尾行は、功を期したようです。彼女たちが追っていた人物は途中で、行き止まりの路地裏に駆け込み(正確にはその先の兵を上りその先に)彼女たちはそれを追いますが

 

そこにその人物はいなくて、代わりに彼女たちの周囲に数人の男が寄ってきました。そしてその男たちは何かを言うと金色の指輪上の何かを彼女たちに向け、何かを発動しました。

 

私はこの不快な電波を知っています。

 

(・・・・・・・・キャストジャミングですか。ただの犯罪者集団が持てる代物ではない・・・・・・・・ついに本格的に動き出しましたか、ブランシュ!)

 

私は彼女たちを保護するために気配を殺し、足音を消しながら急いで男たちへ近づきました。

 

 

ほのかside

私はいま、幼馴染の雫と友達のエイミィとともにあるひとを付けてきました。けどその人は途中で逃げてしまい、それを追おうとしたら、知らない男の人たちに囲まれていました。

 

「お前ら魔法師だろ?いったい何の用があってここまで来たんだ?」

 

と、男の一人が訪ねてきました。けど私は怖くて一言も発することができませんでした。しかし雫は、腕に巻いていたCADをすでに待機状態にしていていつでも魔法が撃てるようにしています。

 

しかし、それは失敗に終わりました。男たちは指輪のようなものを私たちに向けると、そこから何かが発動し、私たちに襲い掛かりました。

 

「なに・・・・・・・・これ、体が重い・・・・・・・・」

 

体が何故か重くなり、気分が悪くなりました。魔法も使えません。

 

「どうだ?キャストジャミングを受けた気分は?まぁ、最悪だろうけどなぁ!」

「お前らには罰を受けてもらう。見せしめだ。お前たち、やれっ!」

(殺される・・・・・・・・だれか、たすけてっ!)

「ごはっ?」

 

私が目をつぶったと同時に、倒れる音がしました。

 

「あなた達・・・・・・・・当校の生徒に対する不当な暴力をふるうとは、覚悟はできているんでしょうね。」

 

聞き覚えのある声はそう言うと、魔法を使わずに一瞬で男たちのもとに詰め寄り、一人を殴り飛ばしました。

 

「なっ?貴様、重要人物のシュテルか!」

(シュテル?何でここに・・・・・・・・)

「それがどうしたというのです?さぁ、早く来なさい。手を出す覚悟が、御有りなのでしょう?」

 

と、シュテルは挑発します。

 

「クソガキがっ!なめやがって!」

 

男が殴り掛かりました。しかしシュテルはその男の腕を片腕でつかみ、方片方の腕を折り曲げ、肘の部分をのど元に打ち込んでいました。

 

男は首を抑えて悶絶し、その間にうずくまりました。

 

「他愛もない。もう少し格闘戦の経験をおつみになられたほうが良かったのでは?」

 

シュテルはそう皮肉めいたセリフを言います。それを聞いたのか聞かなかったのか、その男は気絶して今いました。

 

「さて、最後の一人ですね。さぁ、うちの高校(第一高校)の生徒にに手を出したことを後悔しなさい。」

 

シュテルはそう言うとその男を蹴りました。それは頭に当たり、その男は悲鳴を上げる間もなく気絶しました。

 

「ふぅ、厄介な連中に目を付けられましたね。大丈夫ですか?三人とも。」

 

シュテルは、だえが見ても可愛いと思うような可憐な笑みを浮かべながら、私に手を指し伸ばしてくれました。

 

 

シュテルside

 

ほのかたちを襲っていた不良・・・・・・・・もといブランシュのメンバーを片付けると、そこに深雪が駆けつけてきました。

 

「いったい何が・・・・・・・・お姉様、何故ここに?」

「そこにいる不良どもにこの三人が襲われそうになってたので、不良にはちょっと痛い目を見て頂きました。」

「・・・・・・・・はぁ、まぁいいです。当校の生徒が襲われそうになってるのを助けるのもまた仕事ですしね。」

「仕事・・・・・・・・まぁあながち間違ってもいませんが・・・・・・・・という訳で三人とも、二度と危ないことに首を突っ込むのはやめてくださいね。」

「そうよ三人とも。今回はたまたまお姉様が助けに来れたけど、次はそうならないかもしれない。だから安易にかかわろうとしちゃだめよ?」

「うん、そうする。ごめんねシュテル、深雪。」

「いいんですよ。とにかく無事でよかった。・・・・・・・・もう下校の時間ですね、皆さんは帰るんですか?」

「こんなことになっちゃったし、帰るよ。」

「そうですか。では、十分に気を付けて帰るんですよ。」

「うん。また明日、シュテル。」

「えぇ。また明日、雫。」

 

こうして三人は帰路へ着きました。しばらくして彼女たちが離れたのを確認して、私は真夜母さんへと電話を掛けました。

 

「おや、シュテル殿。最近はたびたびご連絡をいただきますな。して、今回はどのような用件で?」

 

電話に出たのは執事の葉山さんでした。私は手短に要件を言います。

「人を回収してほしいのです。それも早急に。」

「かしこまりました。近くのものに声をかけておきます。」

「感謝します、葉山さん。」

「いえいえ、私めにできるのはこのぐらいなものですから。」

「謙遜なさらないでください。では、また。」

「次は面倒ごとの連絡ではないことを願っております。」

 

そう言って葉山さんは電話を切った。

 

「いま、四葉の手のものに回収を要請しました。すぐ来るでしょう。ここを離れますよ、深雪。」

「はい、お姉様。」

 

私はそう言ってその場を離れました。ちなみに、端末の修理用部品を買い忘れたことに気づき、深雪に一緒に来てもらったことは私の心のうちに止めておくことにします。

 

_________

 

一高生に対する障害未遂事件、まぁ私が勝手につけたものですが。それが片付いた日の翌日、私は深雪が作ってくれたお弁当を持って教室を出ようとしました。

 

深雪は達也と一緒に居ます。なんで私がいないのかって?本来私はあの中に入れないのです。というかまぁ達也と私はある種姉弟の様なものなのですが・・・・・・・・

 

という建前は置いておいて、ただ単純に私はあの桃色空間がすこぶる嫌なだけなのです。こんなことを言いたくはないのですが、あの空間にいると調子がくるってしまいます。

 

そんなこんなで一人学食へ向かおうとしました。が、それはある一本の放送で出来なくなりました。

 

『全校生徒の皆さん!』

(あら。声が大きすぎてハウリングしましたね。)

 

『・・・・・・・・全校生徒の皆さん。』

(今度はしっかり声を押さえましたね。)

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します。』

 

ついに始まったか。私はそう心の中で言いました。普通、第一高校では放送室の生徒の独断での使用は禁止されています。

 

教師による規格の厳正なる審査を通ったものだけが、教師同伴のもと行われるようになっています。

 

そして今の放送、あれは絶対に生徒の無断使用によるものです。教師があのような放送を許可するはずがありません。

 

というか、それを許可したらそれはそれで大問題ですが・・・・・・・・とにかくまずい事態へと発展したのは確実です。

 

すると、通信機にコールが入ってきました。

 

「こちらシュテル。」

『シュテルか?すまないが放送室へと向かってくれ。既に達也君が現場に来て対応してくれているが万が一ということもあり得る。

教員にはすでに話を通した。シュテル、ここまで来るまでの自己加速術式の限定使用を許可する。』

「了解しました。すぐに向かいます。」

 

私は急いで放送室へと向かいました。

 

 

私がつくと、達也は電話を切っていました。どうやら中にいる人の中に壬生紗耶香がいたようで、話を付けたようです。

 

しかし、達也に、壬生紗耶香に行ったことを聞くと、”壬生先輩のみ”を”達也個人の権限の範囲内で安全を保証する”という意味をサラっといったようです。

 

つまり彼女以外のメンバーは拘束するという意味です。私が言うのもあれですが、少し冷たすぎませんかね?まぁ私はその文言の通りに風紀委員のメンバーとともに中へ入り

 

彼女以外のメンバーを重力魔法で確保しましたが。

 

「どう言うこと!?身の安全は保証する約束でしょう?」

 

「えぇ。ですから、魔法の範囲に壬生先輩は除外されてますよ。

 

 達也が保証したのは壬生先輩の身の安全だけですよ?」

 

 

などと言える私もなかなかに冷たいのかもしれません。その後の話し合いで後日、公開討論会が行われることとなりました。

 

今回ばかりは私にはどうもできません。これを決めた七草会長の手腕に賭けるしかありません。

 

しかし、仮初の平穏はすぐそばに、崩壊の調べを運んできていました。

 




次回はついに入学編最終回です。作者の拙い文章で書ききれるかはどうか分かりませんが、相当な文章量になると覚悟はしております。どうかこんな作者の文章ですがよろしくお願いします。

ではまた次回お会いしましょう。感想、誤字脱字などは受け付けておりますので、じゃんじゃん送って頂けると励みになります。


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第十五話 入学編 Ⅺ

ついに話はクライマックスへ・・・・・・・・ここまで視てくださって本当のありがとうございます。こんな低能チンパンジーの書く拙い文章を読んで下さるだけで私はもう感謝の念でいっぱいです。

では、入学編最終回、行ってみましょう。


シュテルside

 

皆さんは”人を致して人に致されず”という言葉を知っているでしょうか?これはあの有名な孫子が言ったことで、意味を簡単に言ってしまうなら「自身が主導権を握り、相手のペースに動かされない」という意味です。

 

戦巧者の方々はそうやって盤面を制することで勝利を勝ち取っていたということらしいです。実際、今回起きた事例はまさにこれにぴったり当てはまります。

 

「それにしても正気ですかね?本当にそれをやるなら、それは自殺行為ですよ?」

「それだけ向こうも切羽詰まっているのだろう。それか、強硬手段に出るか、だな。」

「できればそういうことはあまりしないでほしいのですが・・・・・・・・」

「ここまでのことをしたんだ。まぁ、無理だろうな。」

「私はただ二人との学校生活を満喫したいだけなのですが・・・・・・・・」

 

壬生先輩一派の小さな暴動?が起こった後、その一派は学校側・・・・・・・・いえ、生徒会側に対し公開討論会の開催を要求したそうです。

 

七草会長らによる話し合いの場が設けられましたが、それは実りあるものとは言えなかったようです。一方的な言い分で押しつけがましく制度改変を訴えるのはいいですが

 

いざ、それに関する方法を聞くと揃って黙ってしまい、口を開けばそっちで考えろの一点張り、これではまともな話し合いなど出来はしません。

 

そして公開討論会が開かれる運びとなったのですが、七草会長は焦り一つ見せることなく意気揚々としていたようです。それはそうですよね、相手が悪すぎます。

 

一方は最近初めてあまり知名度はない制度改革派。それに相対するは学校一のマドンナであり、十師族、七草家の長女という立場であり、

 

それを抜きにしても彼女は有名すぎますし、それを支える実績もあります。

 

ここまでの好条件がそろっていれば、この先を知らずとも答えは導き出せます。まず間違いなく七草会長の勝利で終わります。”彼女にとって主導権を握り、相手のペースに動かされない”

 

ことなど造作もないことなのです。ではなぜここまでの無謀な賭けができるのか?その答えは案外容易に推理できます。達也とともに風紀委員本部にいたときに私は達也に聞きました。

 

「達也、この学校を落とすにはどのくらいの人数が必要でしょう?」

「・・・・・・・・ざっと100人規模じゃないか?未熟とはいえ魔法師を相手にするんだ。万全を期すならその程度の人数は割かなければならんだろうさ。」

「・・・・・・・・達也、準備をしておいてください。間違いなく明日、一高は襲撃されます。恐らくそのほとんどが”例のアレ”を持ってるでしょう。私も明日は私の愛機(ルシフェリオン)を使います。」

「分かった。準備はしておこう。」

「お願いします。私ではおそらく深雪のことを”守り切れませんから”。」

「・・・・・・・・お前もくれぐれも無茶をしてくれるなよ?」

「分かっていますよ。そのためにできることはやりました、あとは相手方がどう動くかです。こればかりは、運ですね。」

 

私はその赤い目の中に静かに炎を宿しました。

 

(私と達也と深雪の楽しい学校生活を邪魔してくれた礼は必ずしますよ、ブランシュ。いや、司一!)

 

_________

その後、私は達也と深雪とともに自宅へと戻り、達也たちが色々と準備を済ませている間に私は四葉真夜へ掛けました。

 

「あらシュテル。どうしたの?」

「・・・・・・・・母さん。そこに深夜母さんはいますか?」

「えっ?・・・・・・・・ちょっと待っててね、今呼んでくるから。」

 

そう言って真夜は執事の葉山に頼んで深夜を呼んできた。

 

「お久しぶりねシュテル。もう一か月近くになるかしら?」

「えぇ、そのくらいにはなりますね。」

「それで、私を呼んだ要件って何?」

「・・・・・・・・私は明日、一高が襲撃されると考えています。」

 

その言葉に真夜母さんと深夜母さんは口を手で覆い驚愕の表情を浮かべます。

 

「・・・・・・・・それで?」

「まず間違いなく私たちはその者どもを潰します。ですから、後処理を頼みたいんです。」

「・・・・・・・・そう、分かったわ。深夜の精神系魔法の行使による反動もなくなってきたし、何とかしてみるわ。」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします。」

 

私はヴィジホンを切りました。私は一息つくと、部屋へと向かいました。

 

 

私の部屋兼工房には試作CADの山が積まれていました。まぁ、これは全部リサイクルしてしまう予定ですが・・・・・・・・

 

その中で一つ、机の上で最終調整を終えたCADがありました。例の板状のCADです。私はそれをもって深雪の部屋へと行きました。

 

「深雪、いますか?」

「お、お姉様!?今行きます!」

 

少し慌てる声がしたかと思うと、部屋から深雪が制服の上を脱いだ状態で出てきました。

 

「深雪、急いでるのは分かりますけど、その恰好では風邪をひきますよ。」

「・・・・・・・・はい。」

「まぁいいですけど。とりあえず着替えてください。達也のところに行きますよ。」

「え?お兄様のところにですか?」

「深雪用の新しいCADがついさっきできました。魔法の保存領域を通常の汎用型の二倍にしていますから、保存と調整のために達也にいろいろやってもらいましょう。」

「・・・・・・・・はい!」

 

私は達也のいる地下室へと向かいました。

 

 

「・・・・・・・・なぁ、シュテル?」

「はい?」

「こうポンポンと新しい技術とCADを作られてはこっちとしては面目丸つぶれなんだが・・・・・・・・」

「あらあらそんな、別に達也の仕事を奪ってるなんて思ったことはありませんよ?」

「自覚しているじゃないか・・・・・・・・よし、終わったぞ。深雪、使って見てくれるか?」

「はい、勿論ですお兄様!」

 

その後無事に新しいCADの調整はすぐに終わり、一応前のを予備に持っててもらうことにして、新しいのを深雪にプレゼントしました。

 

「良かった。特に異常はなさそうですね。」

「はい!これでどのような敵が現れても後れを取る心配はありません!ありがとうございます、お姉様!お兄様!」

「それは良かったです。でも、ケガをしない程度でお願いしますよ。」

 

その時の深雪の顔はとても可憐で、見ているこっちまでなんだか嬉恥ずかしいような気持になりました。

 

そんなことはさておき、私は二人に言います。

 

「達也、深雪、ついに明日が勝負です。まず間違いなくブランシュは一高を襲います。」

「あぁ、俺たちの日常を邪魔してくれた礼はたっぷりしてやる。」

「四葉家には後処理をお願いしてあります。ですから・・・・・・・・四葉の人間とバレないレベルでやっちゃって下さい。」

「分かった。」

「お姉様・・・・・・・・」

「大丈夫、心配いりませんよ。それに、こういう手合いは私が一番慣れている相手です。」

 

こうして、私たちは明日へ臨むのでした。

 

 

 

 

 

______________

 

 

ついに公開討論会が始まりました。とはいってもまだ話し合いなどが行われているわけではなく、そろそろ開始しますという感じでですね。

 

七草会長はいま最終調整をしています。今回ばかりは失敗が許されません。私は達也とともに会場警備へと回りました。

 

それにしてもとにかく人が多いです。こんなところでもしBC兵器*1でも使われたりしたら

 

まず間違いなく多くの死傷者が出ることでしょう。

 

(そんな事態を想定してルシフェリオンを持ち込んだんですけどね。)

 

今回私はルシフェリオンを持ち込んでいます。会場が閉まったタイミングでバレない程度の結界を使う予定だからです。この魔法が発動しているのに気づくにはそれこそ達也と同等かそれ以上に魔法に精通している

 

ものにしかわかりません。しかし、この結界もあくまで気休め程度にしかなりませんが・・・・・・・・

 

しばらく会場周辺を見回っていると、そこへ七草会長がやってきました。

 

「会長、どうされたんですか?リハーサルの最中では?」

「それはもう終わっちゃったのよ。」

「ではなぜですか?会長のことです、別に怖気づいたわけではないんでしょう?」

「・・・・・・・・うん。私、少し怖気づいちゃってるの。」

「なぜです?会長・・・・・・いえ、真由美さんならこういうことはしっかりと言えるはずです。」

「なんでかな?ほんと、自分でもわかんないんだ。今まで精いっぱい頑張ってきたつもりでも、私ができたことなんてほんとに少しだけだった。

でも、それでもってかんばってきたのにこんなことになっちゃって、ほんと、自分が今までしてきたことって何だろうって、そう思っちゃったのよ。

私って、本当に弱いね。十文字君や摩利たちにもいつも迷惑をかけてばっかりで・・・・・・・・」

「迷惑をかけて当然じゃないですか。」

「えっ?」

 

真由美さんの話を聞いて、私の中の・・・・・・・・多分前世の私の心が出て来たようなそんな気がしました。

 

前のことは覚えていない。それが今何故急に発現したのかは私にもわかりませんでした。しかし、これだけは絶対に解決しなければいけないという

 

強い意志のようなものを感じました。私はそう思ったからこそ、言いたいことを言いました。

 

「友人とはそういうものです。迷惑をかけて、かけられて。そんな関係をずっと続けているから、自然と友情という不確かでもそこにあるものができるんだと、私は思っています。

それに、人一人ができることなんて本当にごくごくわずかです。だから我々には本能的に誰かといたい、そんな感情があるのではないでしょうか。いいんですよ、あなたはまだ学生ですから。

いくら周りに迷惑が掛かろうと、許してくれる仲間がいる。それだけのものをすでに持っているあなたが、何も迷う必要はないのです。さぁ胸を張って、あなたの舞台はここではないはずです。」

 

私も何故、このようなことを言ったのかはわかりません。ただ、何故かこういうことを言うのが一番いいと感じました。そして案の定というかなんというか、真由美さんは笑っていました。

 

「なんかシュテルちゃん、先生みたい。でも、ありがとう。覚悟が決まったよ。私、行ってくるね。」

 

私は最後の一押しをかけました。

 

「えぇ、行ってらっしゃい七草会長。ご武運を。」

 

それを聞いて真由美さんは会場へと足を向けました。その背中は、先ほどあった時より、すっと伸びているような気がしました。

 

「あっ、結界張るのを忘れていました。」

 

シュテル、本日最大のミスをやらかしました。

 

__________

 

ついに演説が始まりました。詳しいことを書くと長くなってしまうので割愛しますが、とりあえずこの討論会は七草会長の独壇場と化しました。

 

いくら同盟のメンバーが反論を並べたところで所詮は駄々をこねる子供のそれ。会長の手にかかれば余裕で論破できるでしょう。

 

しかもそれと同時にその場にいた生徒全員に激励の言葉を送り、会場を沸かせた手腕は恐るべきものです。私もそこにいればよかったと後悔しています。

 

それはさておき私はいま会場周辺を警備しています。すると、校門の方から爆発音が響きました。

 

「来ましたか。」

 

私は通信機を立ち上げます。

 

『シュテルか!』

「えぇ。そちらの状況は?」

『こちらも襲撃を受けた。ガス弾が使われたようだ。幸い、服部が対処してくれた。』

「良かったです。では、自分は校舎本棟とグラウンドの方を見てきます。」

『達也君と深雪もそちら側に行った。君の実力は心配してないが、くれぐれも気を付けてくれよ。』

「了解です。」

 

どうやら達也たちは本校舎の方に行ったようです。であれば自分はグラウンドの方に行くのが先決。私はグラウンドの方へ向かいました。

___________

 

三人称side

 

シュテルたちが本格的に動き始めた頃、ほのかたちはグラウンドに併設された演習場で部活動の練習をしていた。

 

しかしその練習は校舎の方からの爆音と煙のおかげですぐに中止となり、避難を始めた。

 

「ほのか、私たちも行くよ。」

「う、うん。」

(シュテルに達也さん。大丈夫かな?)

 

雫に声をかけられ、ほのかも避難を始めようとする。しかし、シュテルたちのことを心配していたほのかは、案の定つまずいてしまう。

 

それがまずかった。その音に気付いた襲撃者がほのかたちの方へやってきた。

 

「たいちょーう。こいつらここの生徒ですぜ!」

 

若めの男が、隊長と呼ばれた人物の方を向く。その目には下心があるように見えた。

 

「ふむ・・・・・・・・なかなかいい体をしているなぁ。」

「隊長、こいつら”食っていい”?」

「あぁ、たっぷり痛めつけてから頂くとしよう。」

 

すると辺りから数人の男たちがやってきた。その男たちはそれぞれ小銃で武装していた。

 

ほのかはあまりの怖さにその場から逃げ出すことができなかった。

 

男の一人が手を伸ばす。それは髪の方から段々胸の方へと向かっていく。

 

(助けてっ!助けてっ!)

 

ほのかはそう心の中でつぶやく。それは声となってあたりに響く。

 

「誰か、助けて―!」

「ヒヒヒッ!そんな声出しても無駄だよ、さぁ、おとなごばぁ・・・・・・・・」

 

ほのかに手を出そうとした男の眼が白目をむき、ほのかの体へと倒れこむ。

 

「なんだっ!?」

「敵襲だ!総員構えろ!」

「あなた達、いったいそこで何をしようとしてるんですか?」

 

男たちが叫んだ後に聞こえたのは女の声。それはあまりにも冷たすぎる声色だった。しかしほのかにとっては聞きなじみのある声だった。

 

「シュ・・・・・テル。」

 

男たちの後ろには、赤色が混ざったような深い茶髪をした少女、シュテル・シバ・スタークスその人が立っていた。その手に握るのは赤と黒が混ざり、上部には青色の水晶が取り付けられた杖、ルシフェリオンが握られていた。

____________

 

シュテルside

 

「貴様、いったい何者だ!」

 

男の一人がそう叫びました。ほんとはこのような下衆に名乗る名はないのですが今日の私ははらわたが煮えくり返っています。なので冥途の土産に名前を名乗ることにします。

 

「第一高校風紀委員、シュテル・シバ・スタークス。覚える必要はありません、あなた達にはここで倒れていただきます。」

「ふざけるなよ!たかが生徒の分際で!」

「遅い。」

 

男の一人がその手に持つ小銃を私に向け発砲しました。私はそれを男の懐に踏み込むことで躱します。

 

「なにっ!?こいつ、早すぎぃがっ!?」

「この程度ですか。やはりといいますか、弱すぎますね。」

 

私は、どんなに鍛えようが絶対できてしまう人間の”急所”の一つである後頭部に蹴りを入れました。私は武術をたしなむ程度しかやっていませんが

 

暗殺術での蹴りは威力がしっかりと考えられ、それをいかに効率よく相手に浸透させる力がしっかりとできているので私の体でも十二分に力を発揮してくれました。

 

男は打撃をダイレクトに浸透されたせいで脳震盪を起こし倒れました。

 

「このガキ・・・・・・・・ぜってぇ楽には殺さねぇぞ!」

 

残りの男たちが一斉に飛び掛かってきました。しかし、集団で一人を相手にするというのは時に、相手に攻撃するチャンスを与えるということがあります。

 

今回の場合、私の体と相手の体には体格差的に男たちが体を斜め前に倒さないと襲えない程度の身長差があります。しかも固まっているとあればこうなるのは必然と言えるでしょう。

 

周りには男が四人。私は正面と右横からくる男の足元を蹴り体勢を崩させました。すると勢いを殺し切れず、それぞれの反対からくる男と頭をぶつけあいました。

 

その瞬間、私は即座に魔力弾を生成、残りの男たちの後頭部にぶち当てました。衝撃で、頭をぶつけあった二人はその場で気絶し斃れました。

 

「くそっ!何なんだよこいつ!」

 

「シュテル!危ない!」

 

ほのかがそう叫び私は即座に男の方を見ました。その手には小銃ではなくナイフが握られています。私はナイフを持っているその手を外側に弾き、顔に一発軽い裏拳を叩き込みます。

 

男はよろけ後ろに一歩下がりました。間髪入れずに膝のあたりに蹴りを入れて、男を強制的に軽い膝立ちの姿勢へと移行させ、不用心に伸ばしているナイフを持った腕をつかみそのまま後方へと投げます。

 

投げられた男は気絶し、そのナイフを落としました。そしてそのまま、男の後ろで小銃を構えている男の方へ、九重先生に教わった瞬歩という特殊な歩行術で、相手に近づき、小銃を外側に弾き、そのまま男の顔に五発程度掌底突きを打ち込みよろけさせます。

 

そしてとどめに掌底突きの強打を入れて脳震盪を意図的に起こさせノックアウトさせました。これで、隊長格以下、ほのかたちを襲おうとした不埒者どもは無力化できました。

 

この一連の動きは、CQC*2という格闘術を使いました。

 

「ふぅ。こんなものでしょうか?気絶は・・・・・・・・うん、しっかりしているようですね。後は縛っておくだけ・・・・・・・・っと。」

 

私は、この時のためにと準備していた結束バンドで男たちの手の親指どうしを縛り付けました。これでとりあえず反撃されることはないでしょう。

 

ほのかの方を向き私は手を伸ばしました。

 

「ほのか、大丈夫ですか?」

「うん・・・・・・・・ありがとうシュテル。」

「気にしないでください。友人を守るのもまた友人の務めです。さぁ、ここは危険です。早く避難を。」

「シュテルも気を付けてね!」

「勿論です。ありがとうございます。」

 

私はほのかが避難したことを確認し、ブレイズフィンを展開、図書館の方へと向かいます。

_________________

 

(おそらく敵の目的は、魔法大学の非公開文献辺りを盗むこと。だとすれば一番優先されるのは特別閲覧室!)

 

私は急いで向かいます。飛んでいるおかげで目的の場所まではすぐ着きました。しかし、入り口付近ではまだ戦闘が続いています。

 

(早く資料室に行かないといけないのにっ!?・・・・・・・・ん?あれは達也に、深雪。なら好都合ですね!緊急事態ですし、今更破損が増えたところで構いませんよね。)

 

よくないのである。by作者

 

私は、二階の窓を蹴破って中に入りました。その音に驚いた二人はCADをこっちに向けてきましたが、私だということを確認するとすぐにCADを下ろしました。

 

「お前はいつもとんでもないことをしでかすな。」

「今更ですよ。それより、”この中に”?」

「あぁ、この中だ。」

 

達也はCADを扉に向けます。私も透明魔力弾を生成し、待機します。

 

「行くぞ。」

「えぇ。行きましょう。」

 

達也が”分解”を発動します。手榴弾や対戦車榴弾が直撃してもびくともしない強度を誇る扉がまるで豆腐のように裂かれ、前に倒れます。

 

その奥で何やら機械を操る集団を目の前に、私は待機させていた魔力弾で見覚えのある人物以外を気絶させます。

 

「達也君に、シュテルちゃん!?」

「壬生先輩、そこまでです。非公開文献を持ち出して、何をするおつもりだったのですか?」

「私は・・・・・・・・ただ、この理不尽な魔法師制度を変えたかっただけ・・・・・・・・それだけだった。」

「そんなものを盗み出して、この制度は変わりますか?いえ、そんなことはあり得ません。むしろあなたは犯罪者、産業スパイとして社会から見放され、生きていけなくなりますよ?」

「壬生先輩、あなたは非公開文献を盗み出すために利用されただけです。」

「あなたが望んだのは、本当にそんなことだったんですか?自分を都合のいい駒としか思ってないような組織に、使い潰されるとわかっていながら、それでもあなたはまだそちら側にいることを望みますか?」

 

壬生先輩はついに本音を漏らします。

 

「分かっているわよ!自分が利用されてることぐらい!でも、それでも私は!この差別をなくしたかった!私から生きる希望を奪ったこの差別を!」

「いいですか壬生先輩、これが現実です。才能と適性で平等になるなんてことはあり得ません。それが必然です。もしそれでも、才能と適性を無視して平等な世界があるとすれば、それは等しく”冷遇された”世界。」

「じゃあ、どうすれば良かったって言うのよ!」

 

壬生先輩の我慢はすでに限界を迎えていました。私は達也と深雪を外へと移動させ、壬生先輩の心を正面から受け止める覚悟を決めます。そして、彼女の本心がついに、紐解かれます。

 

________________

紗耶香side

 

「じゃあ、どうすれば良かったって言うのよ!」

 

私はもう、我慢の限界だった。達也君に言われたことも、シュテルちゃんに言われたこともすべて正しい。

でも、それでも私のことを、私の心の内を分かったような口をきいてほしくなかった。

 

「差別をなくそうとしたのが間違いだったの!平等を目指したのが間違いだったというの!差別は確かにあるじゃない!あなたは悔しくないの?達也君があなたと比べられて、さげすまれて!それでもあなたはこの考えを間違いだって言えるの!?」

 

完全に子供の癇癪だった。全然言葉のまとまりがない。支離滅裂な言葉。

 

「悔しくない?・・・・・・・・悔しくないわけないじゃないですかっ!」

「えっ?」

 

シュテルちゃんが叫んだことに驚いて私は素っ頓狂な声を上げた。

 

_______________________

三人称side

 

「達也が蔑まれているのを見て悔しくないと思えるわけないでしょう!私は魔法事故でかけがえのない家族を失った。

けど、彼は、彼らは私を拾ってくれた。母方の兄妹の子であるにもかかわらず、本当のの兄妹のように接してくれた!」

 

これは半分事実で半分嘘である。彼女の家族はあの四葉真夜だ。死んでいるわけではない。しかし、殺し屋としてのスキルと感情操作のために色々されたシュテルを快く迎えてくれたのは誤魔化し様のない真実である。

 

「黙って見られるわけがないでしょう!でも仕方ないんですよ!才能と適性がある以上、当人のがんばったという証拠は結果という蓋で隠されてしまう!それが常なんですよ!」

 

壬生は絶句している。シュテルがそんな重荷を背負っているとは思わなかったからだ。そして達也と深雪も同様だった。シュテルは二人に何かあると感情的になるきらいがあった。

 

それは摩利のおかげで改善したが、未だトラウマの様なものとして彼女の中に残っていることに二人は一切気づかなかったのだ。

 

「・・・・・・・・いいですか壬生先輩。あなたが差別をなくそうと思う気持ちは痛いほどわかります。でもこのままいればあなたはただ利用されただけなのに人生を棒に振ることになってしまいます。

だから、こちらに来てください。あなたは、こんなところでくじける人ではないでしょう?私と違って、ただひたむきに努力しものがあなたの胸の中に、あるでしょう?」

「私は・・・・・・・・私はっ!」

「もう誰もあなたを責める人なんて、いませんよ。」

 

壬生は、泣きそうになりながらも胸の内をさらし、手を差し伸べてくれたシュテルを見て、思わず彼女の胸の中に飛び込んできた。こうして壬生紗耶香は無事、ブランシュの魔の手から解放されたのだ。

 

__________________

 

『あら?学校での騒動はもう終わったの?』

「えぇ、こっちはひと段落つきました。後はブランシュのアジトを潰すだけです。」

『そう。くれぐれも無茶はしないでね?』

「分かっていますよ、母さん。」

 

そう言うとシュテルは通信を切った。壬生を取り戻した後、シュテルは壬生を達也に任せ、辺り一帯の敵を殲滅していた。

 

シュテルの魔力弾の精密操作可能量はすでに三桁まで達しており、それをノータイムで繰り出せるとあればどんなに物量でこようがかなわないだろう。

 

何せその魔力弾は”急所”を”的確かつ一撃”で貫くのだから。文字通りの無双。誰も太刀打ちの使用がない圧倒的なまでの力の権化。

 

正確無比に打たれるそれはまさしく凶弾。こうして校内にいたテロリスト集団は壊滅した。

 

その後、一高生のブランシュのメンバーは全員、一旦保護という形で軟禁され、調べたところ案の定というかなんというか、催眠系の魔法の痕跡が確認された。

 

現在達也たちはは壬生紗耶香の取り調べをしている。シュテルも壬生が拘束されている保健室へ向かおうとする。すると扉の前にとある女性が気配を殺しながら立っていた。

 

(達也にはすでにバレている模様。by作者)

 

「あら?小野さん、お久しぶりですね。」

「!?シュ、シュテルちゃん。お久しぶりね。」

 

その女性は一高でカウンセラーとして働きつつ、公安のエージェント的な役職にもついている立派なキャリアウーマンの小野遥だった。

 

実は以前初めて達也と会う前に、四葉の仕事の時にまだ公安に所属していない彼女と面識があり、そこから仲良くなった友人みたいなものとなっていた。

 

「今は一高のカウンセラーですか。それに、どうやら極秘な任務も請け負っているようで。」

「!?」

 

小野遥、まだ十七歳の子供に驚かされる。春香の表情は完全に図星を突かれたといわんばかりの顔だった。

 

もう少しポーカーフェイスというものを覚えたほうがいいんではなかろうか。

 

そんなことをシュテルが考えていると、保健室の扉が開き、その奥から達也が出てくる。

 

「なんだシュテル、お前もそこにいたのか。」

「なんだとは何ですか。・・・・・・・・まぁいいです、こっちは片が付きました。そっちも何やら行動を始めるようで。私も一緒に行きます。」

「それは助かる。それで小野先生、ブランシュのアジトの場所なのですが・・・・・・・・ご存じでしょう?」

「えっ?えぇっと・・・・・・・・」

 

あからさまに困っている。その証拠に目が泳いでいる。

 

「はぁ・・・・・・・・ここから少し離れたところにある廃工場。そこにブランシュは潜伏している可能性が高いです。」

「なんで場所を知ってるの!?」

 

遥は驚く。そしてそれは中にいた深雪以外のメンバー・・・・・・・・真由美、摩利、克人、レオ、エリカも同様の顔をしている。

 

「なんでと聞かれましても・・・・・・・・少しあちらさんにO☆HA☆NA☆SI☆してもらっただけですから。」

 

そのセリフはそこにいたメンバー全員をドン引きさせるには十分だった。

 

まぁ、そんなこんなでブランシュという後顧の憂いを絶つために、先ほど保健室にいたメンバーから真由美と摩利を抜いたメンバー+紗耶香の敵を討ちたいという思いで参加した桐原を加えたメンバーで

 

ブランシュのアジトに突撃することとなった。シュテルは車には乗らず、そのまま飛行している。

 

それこそ最初は驚かれていたが、シュテルが普通に魔法を使えるが元々BS魔法師であることを説明すると納得してくれた。

 

(まぁ、飛行魔法については達也が今鋭意制作中ですがね。)

 

達也が飛行魔法を開発する時期は近い。

 

______________________

 

そんなことをしているうちにブランシュのアジトへと到着した。途中、しまっていた門を硬化魔法で固めた装甲車で突破するという荒業で入りはしたが、おおむね予定通りである。

 

克人と桐原が別ルートで侵入、エリカとレオが残党がりのため外で待機、そして達也、深雪、シュテルの三人で正面からという布陣となった。

 

達也たちはまるで物怖じしていないように歩いて行く。そして大きな扉の前の曲がり廊下で達也が立ち止まった。シュテルはサーチャーの精度を最大にしてその先を調べる。

 

するとその先には生体反応がとても多かった。ざっと30人はいるだろうか?それでここの戦力は全部ということだろう。そう考えるとブランシュがいかに大きな組織であるかを知ることができる。

 

達也はCADを扉に向けて分解を放つ、すると奥の方で部品が落ちる音と人の喧騒が聞こえて来た。どうやら全員、銃で武装していたのだろう。達也はその隙を見計らって扉までダッシュ。

 

扉を分解で壊し中へ入る。

 

「全員動くな。動くと命はないと思え。」

 

達也がCADを向けながら中にいた人間全員に向かって言い放つ。

 

「フフフっ。来たね、魔法師。」

 

すると奥の方から紫がかった髪色?をして、眼鏡をかけたいかにもワルな青年が出て来た。

 

「貴様が司一か?」

「いかにも。私はブランシュ、日本支部のリーダー。司一だ。」

 

この男こそ、シュテルたちの学園生活に水を差し、めちゃくちゃにした犯人だ。シュテルはその右手を握りこむ。それに応じて持っていたルシフェリオンからも少しきしむ音が聞こえる。

 

「無駄だと思うが一応言っておく。無駄な抵抗をやめて投降しろ。そうすれば、安全は保障する。最も、貴様には獄中生活が待っているがな。」

「そんなものに応じると思っているのかい?」

 

達也の警告を司一はあっさりと断る。生粋のバカなのか。この男の暴走は止まることを知らない。それどころか

 

「それより司波達也。そしてシュテル・シバ・スタークス。君たちはブランシュに入る気はないかね?」

 

そんなバカみたいな質問を言い出す始末だ。

 

「俺たちに仲間に加われと?」

「そうだ。君のそのアンティナイト不要のキャストジャミング、そしてシュテル・シバ・スタークスの魔法操作テクニック。どっちも手に入れば我々の力は揺るがないものとなる!」

「そんなもののために我々がお前に協力するメリットはない。とっとと投降しろ。」

「ふむ・・・・・・・・残念だよ。」

 

一は眼鏡をはずし、上に投げる。そして再度一の方を見ると、目のあたりが赤く光っている。何かの電波を飛ばしたのだろう。

 

達也は一瞬ふらついた。私もつられてふらつく。それを見て一は笑いだす。

 

「ハハハハハっ!どうやらかかったようだね。さぁ司波達也、シュテル・シバ・スタークス、その手で最愛の妹を殺せ!まぁ、妹君も最愛の兄と姉に殺されるのは本望だろう!」

「・・・・・・・・司一。猿芝居はよしてください。見ているこっちまで恥ずかしくなってきますよ。」

「なにっ!?」

「・・・・・・・・意識干渉型系統外魔法、邪眼(イビル・アイ)、と称してはいるが、実際のところは催眠効果を持つ光信号を人の知覚速度の限界を超えた感覚で明滅させ、指向性を持たせて相手の網膜へ投射する、洗脳技術を昇華させたただの催眠魔法だ。

こんなもの、魔法式の一部を分解してやれば只の光信号だ。」

「貴様たち、何故かかっていない!くそっ、こんなはずではっ!」

 

ついにシュテルは我慢の限界だった。

 

「・・・・・・・・司一。」

「ど、どうしたシュテル君?我々のもとに下る気になったかね?」

「・・・・・・・・えぇ、なりましたよ。」

「おぉ!司波達也が手に入れられなかったのが残念だが君がはいれば百人力だ!ではぜひとも我々のためにそこの司波深雪と司波達也ををころ」

「あなた方を残らず叩き潰すことをねッ!」

 

シュテルの堪忍袋の緒がついに音を立ててちぎれた。シュテルはそう言ったと同時にルシフェリオンを縦に構え、底の方を床にたたきつけた。そしてそれが合図となり

 

シュテルの背後には、総数200個の魔力弾が生成された。

 

「ふざけるなっ!貴様のせいで深雪たちとの高校生活がめちゃくちゃになった!それなのに仲間に加われ?いい度胸ですねッ!」

「ま、まて!シュテル・シバ・スタークス、君が仲間に入れば我々は最強となれるんだ!君もこの社会を変えたいんだろう?だったら私とこい!」

「まだそんなことを言うんですか?・・・・・・・・もういい、さえずるな。耳が腐る。」

「まて、待ってくれ!待ってくださいお願いします!」

 

口調が崩れた。しかし、こういう輩の最後は決まっている。

 

「祈るがいい。あなた達がこれでは死なないことを。せいぜい痛みに苦しみながら闇に落ちろッ!」

 

それは悪魔のささやきか。シュテルは右手を掲げ横に一閃。それが合図となり一気に魔力弾が司らを襲い始める。一切として狙いがされていない魔力弾だが、それが一方向に、それも十機関砲のごとく連発してとんでくる魔力弾に

 

ブランシュはもうなすすべがなかった。司一は部下を盾にして何とか逃げ延びたようだが、それ以外のメンバーは全員気絶している。もうしばらくは起き上がることはないだろう。

 

「シュテル・・・・・・・・大丈夫か?」

 

達也は魔力弾を生成して少し息が上がっているシュテルに声をかけた。

 

「大丈夫です。それよりあのクソパツ金野郎を追いかけましょう。」

「ぱつ金・・・・・・・・まぁいいか、了解した。」

 

シュテルたちは一を追いかけるのだった。

 

_____________

 

シュテルたちが司一を追いかけていると、また巨大な扉があった。おそらく・・・・・・・・いや、言わずもがな。この先にはまた兵士が待ち構えている広間があるんだろう。

 

「達也。」

「あぁ、俺の手を取れ。”送るぞ”。」

「いつでもどうぞ。」

 

達也の手を取ったシュテル、その頭の中、魔法演算領域に達也の”精霊の眼(エレメンタル・サイト)”からの情報が流れてくる。

 

それは奥の部屋にいる人物を全て捕らえていた。シュテルはルシフェリオンを待機モードでしまい、代わりにレイジングホーンを取り出した。

 

「目標確認、流星弾丸(ミーティア・バレッド)、非殺傷設定、威力最小。座標確定。流星弾丸(ミーティア・バレッド)、発動。」

 

引き金を引く。発動するのは”流星弾丸”、それはどのような障害物も意味をなさない、目標を確実に仕留めるためだけの魔法。

 

シュテルは引き金を引く。威力は最小、いくら敵だからと言っても殺してはならない。それはもう高校生の範疇に収まることではない。

 

ゆえに非殺傷。しかしその威力は人を気絶させるのには十分すぎるほどの威力。何人にも阻めない暴力の権化たる魔法が発動された。

 

その魔法で中にいた司一以外のメンバーは全員昏倒してしまった。痛みを一瞬だけ感じ、そのあまりの痛みに体が意識をシャットアウトしたのだ。

 

「なんだ?何が起こった?なぜ私の下僕が全員たおれたのだ・・・・・・・・くぅ、この無能がぁぁぁぁ!!」

「司一。」

「ひっ!?」

 

司一がそんなことを叫んでいると、部屋の中にシュテルたちが入ってきた。

 

シュテルと達也がCADを司一へと向ける。

 

「終わりだ、司一。」

「さっさと投降するのが身のためですよ。・・・・・・・・おっと、あちら方も来られましたか。」

 

シュテルたちとは逆側に位置し、今ちょうど司一がいる場所にある扉がいきなり鉄が切断された時の轟音とともに叩ききられた。

 

その後ろから桐原と克人が出てくる。

 

「司波兄、司波姉、もう来ていたのか。んでそいつは?」

「ブランシュのリーダー、司一です。」

「こいつがっ!?」

 

その瞬間辺り一面の想子が一気に活性化した、様な気がした。桐原が持っている刀型CADが魔法式を構築する。それは、壬生との試合の時にも使ったらしい魔法

 

高周波ブレードだ。

 

「壬生の剣をたぶらかしやがったのはぁ!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

 

桐原がCADをふるう。その刀身は司一の腕をしっかりととらえ、両断する。その腕からは血が出て、司一は絶叫する。

 

すると腕のところが焼けたようなにおいとともに出血が収まった。どうやら克人が断面を焼いて止血したようだ。

 

「三人とも、ご苦労だった。後はおれに任せろ。」

 

こうしてブランシュ日本支部による一高での一件は収束を迎えた。首謀者である司一を筆頭とするメンバーは全員逮捕され、一高のメンバーには全員催眠魔法の痕跡があったため

 

全員が検査入院している。そして日本支部壊滅に協力したメンバーのことは伏せられ、ただ事件があったとだけニュースで報道された。

 

これは一高の校長が大事にしたくないという理由で伏せられたからであるため、学校内でもあまりその話は上がらなかった。

__________________

 

通称:ブランシュ事件(シュテルが勝手につけた非公式の名前)から数日後の放課後、シュテルは達也と別行動をしている。達也たちはどうやら壬生のお見舞いに行ったようである。

 

翌日が休みということもあってシュテルは現在四葉邸へと向かっている。屋敷につくとそこにはまるでまっていたといわんばかりに葉山が待機しており、シュテルはそのまま真夜の部屋へと通された。

 

「シュテル、久しぶりね。」

「えぇ、お久しぶりです。母さん。」

「大丈夫だった?どこもケガしてない?」

「大丈夫ですよ。かすり傷一つ負っていません・・・・・・・・あぁいえ、切り傷は少し。」

「えぇ!?どこでついたの?誰にやられたの?やったやつには四葉の悪夢を見せてやらないと・・・・・・・・」

「いえ、母さん。これは自分が窓ガラスを突き破った時についた切り傷ですから。」

「そう。でも、あなたがけがをしないでよかったわ。」

「母さん。いえ、真夜様。今回は本当にありがとうございました。そして、御手を煩わせてしまったことを謝罪します。」

 

シュテルはその場でしゃがみ、首を垂れた。真夜の呼び方も礼節を伴ったものになっていた。

 

「いえ、今回の件はわたくしも手を焼いていたので結果オーライです。このまま学業に励みなさい。」

 

そのことを察したのか、真夜も口調を四葉家当主としてのものに変えた。

 

「仰せのままに、真夜様」

 

こうしてシュテルたちには一時の平穏が訪れた。しかしまだ、彼女たちの身に降りかかる不穏な空気は払いきれていないのである。

 

ーーーー入学編 Finーーーーーー

*1
毒ガスなどの毒性化学物質により、人や動植物に対して被害を与えるため使われる兵器のこと。

*2
クローズクオーターズコンバットの略、閉所や至近距離などでの近接格闘術のこと。ここでは某BIG BOSSの動きを想像してもらうとわかりやすい。




ここまで読んでいただきありがとうございました。無事、入学編を終えることができました。本当に感謝の念に堪えません。さて、次回からは九校線編となります。ではまた次回またお会いしましょう。


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九校戦編
第十六話 九校戦編 Ⅰ


今回は前から出すといって出さなかったあの人を出します。前回出すといって出さなくて本当に申し訳ありませんでした。以後このようなことがないように注意します。

ちなみに、お恥ずかしながら私ははやてちゃんの両親の名前を知らないので、今回出すのはでっち上げです。では九校戦編Ⅰ、スタートです。

2021/12/26流星散弾の名称をミーティア・シェルからミーティア・スプレッドに変更しました。


???side

 

夢を見た。私が知らない、夢を見た。夢には私を含めて三人がいた。でも私のことは、他の誰も気づいていない。

 

1人は茶髪のツインテールで、白を基調として所々に青い機械のようなパーツがついた格好をして、赤い水晶がついた杖を持っている女の子。

 

その子と相対している子は、茶髪のショートで黒を基調として、赤い意匠の入った戦闘服のような格好をして、青い水晶のついた杖と左腕に大きな爪のような何かを付けた女の子。

 

二人は互いに一歩も引かず、互いを見あっている。かと思った次の瞬間、二人はぶつかり合った。

 

なぜこんな夢を見たのかは分からない。けど、なぜか私は、この光景を、見た記憶がある・・・・・・・・

_______________________________________________________

 

シュテルside

 

「お姉様、起きてください。もう朝ですよ。」

「・・・・・・ん、深雪。おはようございます。」

 

あのブランシュ事件が収束してからいくらか日が経ちました。テロリストによって破壊されつくした校舎は元に戻り、今まで通りに授業を受けることができるようになりました。

 

そして今、私はある問題に直面しています。そう、それは学生の最大の敵・・・・・・・・

 

「おはようございますお姉様。でも今日が休日だからと言って徹夜でテスト勉強をなさるのは感心しませんよ。」

「ごめんなさい。まぁあまり心配はしていないのですが念には念をと思いまして。」

 

そう、テストです。もう期末考査が来てしまいました。なぜか高校の勉強は一度習ったかのようにすらすらととけますし、魔法理論もFLTでCADを作るにあたって全て”覚えました”から

 

心配しているわけではないのですが、それでも何故かやってしまうのです。そう、それはまるで学生に強いられた枷のごとく。というか、絶対的なものなのですがね。

 

という訳で必要なことをすべてやった私は深雪に手伝ってもらいながら着替えて髪を整え、リビングへと向かいました。

 

「おはよう、シュテル。やけに遅かったな。」

「昨日は徹夜で勉強しましたから、眠くてしょうがないんですよ。ふわぁぁぁぁ。」

「あらあら、ではお姉様。コーヒーでも飲まれますか?」

「お願いします。とびきり苦い奴を。」

「はい。少々お待ちください。」

 

深雪はキッチンへと行ってしまいました。私は、達也が座っているソファとは逆のソファーに座りました。

 

「そう言えばシュテル。例のアレは完成したのか?」

「例のアレ・・・・・・・・あぁ、流星散弾(ミーティア・スプレッド)のことですか?」

「そうだ。どの程度まで進んでいるんだ?」

「基礎理論と魔法式はできました。後は実戦で試すのみですね。」

 

達也が聞いてきたもの、それは言わずもがな私の切り札ともいえるべき魔法の一つであり、その名も流星散弾(ミーティア・スプレッド)

 

この流星散弾は名前にある”散弾”の名が示す通り、流星弾丸を拡散、マルチ状に射線を確保することができる魔法です。

 

演算量こそ流星弾丸よりも大きくなりますが、複数の目標を同時にロックオンできるというメリットはデメリットを無視できるほどです。

 

ちなみに私はこの魔法を総称して流星(ミーティア)シリーズと名付けました。今後もさらに追加させることでしょう。

 

「そうか。そこまでできているんだな。後で見せてくれ、俺も調整しよう。」

「助かります。後で研究室の端末に送付しておきますね。」

「それにしても、お前はいったい何を考えているんだ?」

「と、言いますと?」

「流星弾丸ですら過剰戦力ともいえる。どうして新しいのを作ったんだ?」

 

達也が聞いてきたことはごもっともです。元々対象を確実に倒し尚且つ周りに被害を与えないのがコンセプトであった流星弾丸、それは確かに多数の敵に対しての行使はそれなりに演算の量が必要にはなりますが

 

私の演算能力であればそれほど苦労するというものではなく、十分に実践に耐えうるものです。

 

「確かに流星弾丸は十分に実践で使えるレベルです。しかし、先日の一件でやはり対多数との戦闘では魔法発動までのラグが致命的なものとなっていました。

手数が圧倒的に不足しているんです。これではもし先日の一件に似たような、もしくは同一の事例が起こった場合無事でいられる確証がありません。

ですからこれを作りました。流星弾丸より広範囲をマルチ的に、一度の魔法発動で制圧できるように。」

 

まぁ行ってしまえば極論です。手数が足りないなら一度に大人数を屠れるようにすればいいじゃないとそういう訳です。

 

「成程な。いや何、別にそれを作ったことを責めようとは思っていない。ただ純粋に訳を知りたかっただけなんだ。」

「分かってますよ。達也はそういうことあまり言いませんからね。」

「そう言ってもらえると助かる。それで、今日は何か予定はあるか?」

「いえ?試験対策もやりましたし正直やることはないですね。予定もありません。」

「三人で久々に出かけないか?最近は色々あって疲れただろう。」

「・・・・・・・・良いかもしれませんね。ちょうど私も息抜きがしたかったところです。」

「決まりだな。準備ができたら言ってくれ。深雪もそれでいいな?」

「勿論です、お兄様。」

 

こうして私たち三人は久々にお出かけをしました。面倒ごとに巻き込まれるなど露知らず・・・・・・・・

___________________

私たちはいま家からさほど距離が離れていない大型複合商業施設へと来ています。確か名前は・・・・・・・・すいません、忘れました。

 

どうも自分の関係ないことは忘れてしまう性分でして。しかし、この施設は凄いですね。何でも売っています。

 

食品、家具、レジャー用品、電化製品、服、靴、文房具、工具、木材や石材、それに家庭用のバイクや自転車などetc・・・・・・・・

 

ちなみに私、この前大型バイクの免許を取りました。これでバイク全般に乗ることができます。まだこのことを知っているのは学校と深雪と達也だけですけどね。友人にも話してはいません。学校から許可を取るのは意外と苦労しませんでした。

 

しかし、今まで我々の中でバイクは達也しか乗れる人がいなかったので、達也たちにとっても万々歳でしょう。まぁ、実際私もバイクが欲しかったので、達也たちとのお出かけも願ったりかなったりでした。

 

でも、私がバイクを選んでいるときの達也と深雪のあの生暖かい目だけは向けてほしくありません。私だって人並みには欲というものがあるんですよ?

 

深雪に至っては「お姉様にものを欲しがる欲が御有りだとは思いませんでした。」とか言われる始末です。本当に、ドウシテコウナッタ状態です。

 

まぁそんなわけで無事バイクを買えて満足した私は、即日受け取れるバイクを施設の駐車場に止めにきました。深雪と達也は二人で服などを見ていることでしょう。

 

ちなみに私が来ている服は深雪から借りた白のワンピースだったりします。何分私服がジャージぐらいしかなくてあとはスーツだったり一高の制服だったりとバリエーションが少ないので

 

深雪に借りました・・・・・・・・というか半ば無理やり貸し付けられました。いやはやお恥ずかしい限り。で、話を戻しますと私はいま、誘拐の現場に居合わせています。

 

事の始まりは数分前、私がバイクを止めに駐車場へと足を踏み入れた時までさかのぼります。私は指定の駐車場にバイクを止めたとき、奥の方から変な音・・・・・・・・いや化かすのはやめましょう。

 

消音機(サプレッサー)で限りなく無音に近づいた銃声です。まさかこんな公共施設の集まった場所でドンパチしだすバカがいることに驚きを隠せませんが、問題は”誰が誰に向けて撃った”ということです。

 

私はサーチャーを飛ばし銃声がした方を見ました。するとそこには車いすに乗った茶髪?でショートヘヤーの少女とそれを必死に守り、右肩から血を流しているのにもかかわらず、少女に抱き着く銀髪?ロングヘヤーの女性がいました。

 

はて、あの少女どこかで見た覚えがあるのですが・・・・・・・・と、こんなことを気にしている場合ではありませんね。現在その二人は、黒い面をした三人に囲まれています。パワーアシストなどを使っていないのにもかかわらず

 

銃を片手で撃てるということは男性であることは間違いないでしょう。体形もがっちりしています。どうやら誘拐を行おうとして失敗したから実力行使に出たのでしょう。という訳で今に至ります。

 

(さて困りました。レイジングホーンもルシフェリオンも持ってきていない。深雪の使っていたCADはありますが、こんな場所で魔法を隠匿しながら行使する自信がありません。)

 

現在進行形で攻めあぐねてる私がいます。でも背に腹を変えている余裕はありません。ロングヘヤーの女性の右肩から出ている流血の勢いが増しました。どうも使われた銃弾が悪いようで傷口が開いてきているのでしょう。

 

(なら私も覚悟を決めないといけませんね・・・・・・・・使いましょう。流星散弾!)

 

いい機会です。ここで試験運用をしてしまいましょう。私の魔法は通常の魔法式よりもほんの少し出が遅いです。しかし、通常のCADで使えないわけではありません。予備ということだげあってこのCADには魔法がほとんど入っていませんでした。

 

ちょうど魔法式の用意があった流星散弾の起動式は入力済みです。サーチャーのアシストでその場にいた男たちだけを照準します。そして、魔法を発動します。威力は最小。ゴム弾と同等の威力です。

 

それを神経に直接ぶつけられたに等しいダメージを入れるわけですから、どんな人間でもあまりの激痛に気絶するのは当然の結果です。効かないのはせいぜいそういうダメージで止まらないように作られた人造兵士や、痛覚を薬物などで麻痺させられた

 

奴らだけです。もっとも、そんな奴らを相手にするなら殺傷するのもやむなしですが。私はすぐにその二人のもとへと向かい、男たちをたまたま買っていた粘着テープで手足を縛り拘束しました。

 

「大丈夫でしたか?銀髪の女性の方はいま止血をして応急処置しますから動かないでくださいね。」

 

私は二人に声をかけます。その間にも私は腕を持っていた長めのハンカチで縛って圧迫し、その間にガーゼなどを巻いて応急手当をしています。

 

「うちは大丈夫です。でもアインスが・・・・・・・・」

 

どうやら茶髪の子は無事なようです。今私が手当てしている方の名前はアインスと言うんだそうです。

 

「今から救急車を呼びますから待っててください。手当をしたとは言え、銃弾で負傷したとあっては不測の事態が考えられますから。」

 

私は携帯端末を取り出し、119番通報をしました。その後10分程度で救急車が到着し、二人は救急車へと乗り込みました。乗り込む寸前に茶髪の子から名前を聞かれたので答えておきました。

 

その後、110番通報をして男たちも警察に引き渡され、私もやむなく魔法を使ったことを話しました。しかし相手は銃で武装していたこともありその場での厳重注意だけで済んだのは幸運でした。

 

そして、長らく待機していた達也たちに事の経緯を説明し、今日は帰ろうということになって私たちは帰りました。深雪には渋い顔をされましたが、今度またどこかに行く約束をして何とか納得してもらいました。

 

何事もなく解決できて良かったです。

_________________________________

 

そして翌日からテストが始まり、すべての工程が終了し、ある程度の点数を取れた私は、昼食を食べるために食堂へと来ていました。

 

昨今、テストは紙媒体ではなく、端末に答えを打ち込んで、それをその場で機械に採点させ、その場で戻ってくる方式を取っています。

 

なのでテストが終わってしばらくしないと帰ってこないし結果も分からないという訳ではありません。ちなみに順位はこんな感じでした。

 

 総合(理論・実技の点数の総合得点)

 

  1位 シュテル・司波・スタークス

 

  2位 司波 深雪

 

  3位 光井 ほのか

 

  4位 北山 雫

 

 理論(所謂筆記試験)

  

  1位 E組 司波 達也

 

  2位 A組 シュテル・司波・スタークス

 

  3位 A組 司波 深雪

 

  4位 E組 吉田 幹比古

 

ちなみに十位に雫、十七位に美月、二十位にエリカと上位陣に見慣れた名前がずらっと並ぶ。

 

問題は、実技ができなければ理論も理解出来ないはずなのに、実技ができない二科生が上位陣に複数人いることで、さらに達也は二位のシュテルと()()()()()()()引き離している状態だ。

 

達也たちはあとで合流する手はずになっています。何でも達也が職員室に呼ばれたらしいのでそれを待ってからいくとのことでした。

 

しばらく深雪手製の弁当を食べていると、達也たちが入ってきました。深雪、エリカ、美月、レオも一緒です。

 

「やっほーシュテル。待った?」

「それほど待ってはいませんよ。それより、そろそろ混む時間帯ですから早めに昼食頼まないと混みますよ?」

「マジでっ!?もうそんな時間なの?急がないと、美月、筋肉バカ、早く行くわよ。」

「ま、待ってよエリカちゃーん。」

「誰が筋肉バカだこのアマっ!」

 

相変わらず騒がしい人たちですね。

 

「そう言えばシュテル。お前がこの前に助けた女の子、素性が分かったぞ。」

「もうわかったんですか。相変わらず仕事が早い。で、誰ですか?」

「八神はやて 13歳。有名な複合企業、八神グループの取締役社長八神伸朗の一人娘だ。」

「八神はやて、ですか。見覚えがあると思ったらそういうことだったんですか。」

「そう言えば、彼女の”事故”に関しては大々的に取り上げられていたな。」

 

あの女の子、あの有名な八神グループのご令嬢でした。私たちが行った大型複合商業施設『八神堂』最初は古書店から始まり、今は様々な企業を吸収合併し、様々な品物を取りそろえる有名どころとなったあのお店。

 

その現社長『八神伸朗』の一人娘、『八神はやて』小さい頃の事故で両足を失い、今は義足+車いす生活を送っている子です。ニュースで大々的に取り上げられていました。あの年で足が不自由になる辛さ、私は分かりませんが相当つらいのでしょうね。

 

「どうやら命に別状はないらしい。どうやら、身代金目的で近づいてきたようだ。今朝のニュースでやっていた。」

「そうですか。それは良かったです。」

 

まぁとりあえず、あの子が無事のようでよかったです。

 

「そう言えばシュテル。お前、呼び出しを受けてたぞ。」

「呼び出し・・・・・・・・ですか?」

「あぁ、生徒会長からだ。何でも九校戦がらみらしい。」

「分かりました。ありがとうございます、達也。」

「放課後来てくれと言っていた。なに、これぐらいは問題ない。」

 

九校戦。また面倒ごとに巻き込まれる予感がする。

 

 




という訳で短いですが今回はここまで。ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。次回から本格的に九校戦の話となっていきますのでよろしくお願いします。ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら


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第十七話 九校戦編 Ⅱ

大変長らくお待たせいたしました。九校戦編の二話となります。今回は後々への伏線となる(多分きっとmaybe)内容を入れました。ちょっと短くなるかもです。


シュテルside

 

時刻は四時をまわっているかという頃、外はすでに赤みがかってきています。そんな私はいま生徒会室の方に来ています。昼休みに達也から聞いた呼び出しの件で放課後になったと同時に私の端末に正式な通知が来たからです。

 

内容はいたってシンプル、『九校戦の件で話があるから生徒会室に来てくれ。』というものでした。正直九校戦に出られるのであればどのような形でもよかったですし・・・・・・・・なんなら、私自ら生徒会に直談判する勢いだったので

 

渡りに船でした。と、何故私がここまで九校戦に固執するのかといいますと、去年、おととしの九校戦の試合を見て、憧れを持ってしまったからなんですよね。昔から裏の仕事を強要され正直心がすさんでいた私の唯一の楽しみが

 

九校戦の試合映像を見ることでしたからね。魔法についての知識を深めるためにと、真夜母さんが毎年取り置きしたものをくださって、私はまるでヒーローショーを見て心を虜にされた男の子のようにどんどんのめりこんでいったんです。

 

あと、自分の持っている力がどこまで通用するのか試したくなったのも要因の一つです。幸いなことに真夜母さんからは本気を出してもいいといわれているので出し惜しみはなしで行きます。というか出し惜しみなんてしていては負けます。

 

わたしとて万能ではありません。私が得意としているのはあくまで魔法の精密制御であって、達也や深雪のような魔法力があるわけではありません。それでも普通の魔法師と比べれば総量は多いでしょうが。

 

まぁそんな話はどうでもいいですよね。では話を現実の方に戻しましょう。

 

「シュテルさん。あなたには我が校の代表として、九校戦に出てもらいたいと考えています。引き受けてくれますね?」

 

「お前も入学時に説明されたとは思うが、九校戦に出ると様々な恩恵のようなものが得られると考えていい。まぁそれをだしにするつもりはないが、考えて見てくれないか?」

 

「分かりました。お引き受けしましょう」

 

それを聞いてか、二人は安心したように笑顔を見せました。

 

「良かったぁ。断られるんじゃないかってひやひやしていたから。ありがとう、引き受けてくれて」

 

「別に面倒ごとでなければ協力は惜しみませんよ。それに、九校戦には個人的に興味があります」

 

「やる気十分といったところか。期待しているぞ、シュテル」

 

「えぇ、ご期待に沿えるよう精一杯頑張ります」

 

「あとは・・・・・・・・。一応知っていると思うけど競技の内容についておさらいするわね。時間は大丈夫?」

 

「問題ありません」

 

「シュテル、まずはこれを見てくれ」

 

そう言って摩利先輩が渡してきたのは九校戦のパンフレットでした。中には各競技の説明とルールが書いてある。

 

「そのパンフレットにもかいてある通り、九校戦には本戦と新人戦に分かれて六種目で得られた得点で勝負をします。選手は最大二種目を選ぶことができます。

 

新人戦は一年生のみで、本戦は学年制限なし。ですが基本一年生が出ることはありません。新人戦には今年から本戦同様男女の区分ができました。選手の人数は本戦、新人戦合わせて四十名。各校から各競技に出せる選手は三名のみ。

 

同じ種目でも男女で別カウントになりますから選手は男女各五人に5種目から2種目を選んで出場してもらい残りの五人が一種目を選んで出場してもらうという形になりますね。ここまでは分かりますか?」

 

「えぇ、勿論です」

 

「良かった。では、続けますね。六種目、モノリス・コードは男子のみ、ミラージ・バッドは女子のみとなっています。モノリス・コードは唯一直接戦闘が想定される競技のため男子のみとなっています。なので出場することができません。

 

モノリス・コード、ミラージ・バッド、アイスピラーズ・ブレイク、バトル・ボード、スピード・シューティング、クラウド・ボール、この六種目の総合得点が最も高かった高校が優勝となります」

 

「そう言えば、一高は今回三連覇がかかっているんでしたっけ?」

 

「そうなんだ。今回勝てば我々の完全勝利となる。この好機を逃したくはない、だからシュテル、我々に力を貸してくれないか?」

 

「勿論です。微力ですが、お力になれるよう精一杯の努力をさせていただきます」

 

それを聞いて真由美さんと摩利先輩は再び、安堵の息を吐き出しました。

 

「ほかの選手が全員決まり次第ミーティングの機会を設ける、時期は追って通達するから忘れず来るように」

 

「では、もう帰ってもらって構いません。よろしくお願いしますね、シュテルさん」

 

「こちらこそ。では、失礼します」

 

私は生徒会室を後にしました。

 


 

三人称side

 

国立魔法大学付属魔法科高校は現在、全国に九つ存在する。

 

関東(東京)に第一高校。近畿(兵庫)第二高校。北陸(石川)に第三高校。東海(静岡)に第四高校。東北(宮城)に第五高校。山陰(島根)に第六高校。四国(高知)に第七高校。北海道に第八高校。九州(熊本)に第九高校がそれぞれ位置している。

 

魔法科高校は、全国にこの九校しかない。国立魔法大学の付属高校が九校しかないのではなく、正規課程として魔法教育を行っている高校がこの九校だけなのだ。本音を言ってしまえば、政府はもっと魔法科高校を増やしたい。

 

だが、実際問題圧倒的な魔法師不足からくる教員の不足が最大のネックとなっているため、増やすに増やせないのである。モノだけあっても中身が不足している状態なのだ。東京都という日本の中心、首都である場所に位置する

 

第一高校ですら一科生と二科生に分けなければならないほど教員が不足しているのだから、その不足度合いは察せるであろう。ちなみに、第一、第二、第三高校の定員は一学年、二百名。他の高校は百名しかないということも記しておこう。

 

これが一年あたりで確保できる新たな魔法師の限界である。そして、その数は人口対比で見た有効レベルの魔法技術を扱える素質がある成人していない男女の数とほぼ一致する。ということが社会では考えられている。

 

しかしこれは早々と才能に目覚めた子供たちの比率であり、同時に適切な機会があれば才能の開花こそ遅いが、魔法に対する適性が高い子供を新たに発見する可能性も低くない、とも考えられている。

 

しかし、先に上げた一高の制度を見ても分かる通り、社会における魔法師の人員不足がどうしても足を引っ張る。開花が遅い魔法師の卵に適切な機会を与えてやれないのが現実だ。

 

故に高難度の試験をクリアできた一学年二百人の魔法科高校生たちを徹底的に可能な限り鍛え上げ、能力を底上げすることで魔法師という重要かつ貴重な人的資源をまわしていくしかない。そうすることで将来の教員不足を解消し

 

今よりさらに多くの魔法師を育成するという正のスパイラルも期待し得る。そして、そのために撮られている手段の一つが魔法科高校旧交を学校単位で競争させ、生徒の向上心をあおること。

 

そしてそれこそが『全国魔法科高校親善魔法競技大会』いわゆる夏の九校戦である。そこには毎年様々なドラマがあちこちで繰り広げられる。片や勝利の余韻につかるもの、片やその挫折に涙するもの。

 

全国から選りすぐりの魔法科高校生たちが、自身の尊厳と若きプライドを賭けて、しのぎを削り合う。西暦2000年初期にあったもので言い表すなら甲子園がこれに当たるであろう。

 

そしてこれは国内だけでなく国外にまで自国(ここでは日本)の魔法師の実力をアピールするという政治的な面も含んでいる。そのため政府関係者、魔法関係者のみならず一般企業や海外からの大勢の観客や研究者がこの九校戦を見に来て

 

お眼鏡にかなうものがいればスカウトするという名誉も与えられる。あまり目立った活躍を世間に見せられない魔法師が堂々と実力を見せられる少ない機会。魔法科高校生にとっての晴れ舞台。

 

ここに至るまでのあまたの研鑽を経てこの大舞台に立つことを許されただけでもとても名誉である。ゆえに、その舞台へ上がるものが身近にいれば周りも誇らしくなるのだ。

 

帰り道、シュテルは九校戦に出ることをエリカ、美月、レオに話した。達也たちはシュテルより先に帰って九重寺へと向かっている。

 

「へぇー、やっぱり出るんだ。九校戦」

 

「まだ決まったわけではありませんが、会長が直に声をかけてくださったので、出ようと思います」

 

「やはりすごいですね、シュテルさん。わざわざ会長からお声掛けされるなんて」

 

「美月の言うとおりだわー。それで、いったい何の競技に出るつもりなの?」

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクとスピード・シューティングに出ようかと」

 

「成程ねぇ。確かにどっちもできそうな感じするわー」

 

「そういや、シュテルさんはどの系統の魔法が得意なんだ?」

 

「収束系統ですね。やろうと思えば、恐らくレオのパンツァーも使えると思います。まぁまずは、その起動式を見ないことには使いようがありませんが」

 

「本当にやりそうな気がするから俺は怖いぜ・・・・・・・・、でもまじか。収束系が得意とは。シュテルは深雪さんと同じで万能タイプだと思ってたぜ」

 

「あぁ、いえ。確かに収束系は最も得意とする系統ではありますが、一応ほかの系統も扱えますよ?人並みレベルですが。それに、深雪は万能タイプではありませんよ?ほかの系統も使いこなせますが、深雪の得意な系統は振動・減速系です」

 

「・・・・・・・・マジ?」

 

「えぇ、オオマジです。でも、私のこの能力は決して最初からできたという訳ではないんですけどね」

 

「えっ?それじゃあ、練習・・・・・・・・したんですか?」

 

「・・・・・・・・地獄のような日々でした、とだけ言っておきます」

 

「シュテル、あんたどんだけ波乱万丈な人生送ってきたのよ・・・・・・・・」

 

エリカはあきれ顔を、美月とレオは驚き顔を浮かべていた。そしてそのまま、シュテルたちは帰路へとついた。

 


 

エリカ達と別れたシュテルは、一人でキャビネットに乗り、自身の降りる駅まで向かった。いつもと変わりない帰り道。だがこの日は、いつもとは違った。

 

「ん?あれは・・・・・・・・」

 

自宅までもう少しといったところで、歩道に倒れている人影を見た。暗がりの中でよくは見えないが、その人影はまだ子供であろう程度の大きさだった。

 

シュテルはそれを見た瞬間、急いでその人影の方へ向かう。近くまで行くとようやく全景がはっきりとした。倒れていた人影はまだ中学生程度の女の子だったのだ。

 

夏に差し掛かろうかという季節ではあるが、夜はまだ十分に寒い。こんなところに倒れていたら、寒さのせいでそのまま衰弱死するか、幼女への凌辱を趣味とした頭のねじが外れた変な人間の餌食となるだろう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

シュテルは急いでその少女の容態を確認する。呼びかけても反応がないが、幸い呼吸はしているし、脈拍も安定していた。急いで救急車を呼ぼうとすると、近くの路地裏から悲鳴と、その声とは別な声がした。

 

(声を聴く限り性別は男、トーンや喋り方の違う声が混じっているから恐らく人数は複数。悲鳴の方も男・・・・・・・・、誰かが複数人に襲われている?)

 

シュテルはサーチャーを出してその場を偵察する。するとそこには消音機付きの小銃で武装した男たち数人とその男たちの目の前で倒れている男性の姿があった。

 

シュテルは襲われている方の男性に見覚えがあった。

 

(あの男性は・・・・・・・・八神伸朗氏!?じゃあまさかこの子って!)

 

シュテルが見たのは八神伸朗だった。そして、シュテルが抱えている少女は、ついこの前八神堂にて襲われていた八神はやてその人だったのである。

 

(だとすれば目的は、はやて嬢の誘拐?)

 

シュテルはサーチャーから会話が聞き取れるようにして、男たちの会話を聞く。

 

『サンプル体、八神はやての血液は確保できた。既に別のチームが本部へと運んでいる。そして八神伸朗。いや、検体No003。貴様は始末せねばならない』

 

『な、なにっ!?なぜ私が!?なにも失敗などしていない!』

 

『もう”用済み”なんだとさ。ご愁傷様だねぇ。まぁそんなこと俺達には関係がないがな。ヒャヒャヒャ!』

 

『ボスから直々の命令だそうです。なので我々はここであなたを始末します』

 

『ま、待て!待ってくれ。私はまだやれる。八神伸朗として”生きていける”!だから頼む、殺さないでくれ!』

 

『駄目だ。お前はクローンでしかない。処分しろと言われたらおとなしく処分されるのがお前だ。既に母親役も始末している。それに、メインの対象を確保できず、すでにサンプル”二体”を逃がしているのだ。これ以上手間を賭けさせるな』

 

リーダー格と思しき男が、伸朗の眉間に小銃を突きつけ、引き金を引く。その銃弾は伸朗の脳を破壊し、即死させた。死んだことを確認するとリーダー格の男は小銃を下ろす

 

『撤収だ。死体は回収し、バンに詰め、爆破しろ。それで八神伸朗は事故死ということにする。サンプル体の方は回収しろ。処理場へ運ぶ。またおめおめと逃がすなよ』

 

そう言うとリーダー格らしき男は持っていた小銃をしまいはじめた。それと同時にその部下らしき人物が三人、シュテルの方に近づいてきた。

 

(どういうことですか?八神伸朗がクローン?分からないことだらけですけどとにかく今はこの子が危ない!すぐにはなれないとっ!)

 

シュテルはルシフェリオンを待機状態にしたまま起動する。そしてそのままブレイズフィンを展開し空まで上がる。その下でははやてを見失った男たちが何やら騒いでいる。シュテルは羽織っていた制服の上着を脱ぎ、はやてにかけてそのまま帰宅する。

 

自宅に帰ると鍵は開いており、中では深雪が待っていた。中には達也もいるだろう。どうやら用事は終わったらしい。深雪が目を丸くしながらシュテルに聞いてきた。

 

「お姉様、その子は一体?」

 

「話はあとです。この子は私の部屋に連れて行きます。おかゆとタオルを持ってきてください。大至急で頼みます」

 

「わ、分かりました!」

 

深雪はそのままダイニングの方へ向かう。シュテルは急いで自身の部屋へとはやてを連れて行き、ベッドに彼女を寝かせる。そのタイミングで深雪がおかゆと温かいタオルを持ってきた。

 

「この子の看病を頼みます。私はちょっと、達也と話があるので下にいます。目を覚ましたら私に言ってください」

 

「分かりました。お姉様」

 

シュテルははやての看病を深雪に任せ、達也がいるリビングへと向かった。

 


 

「八神伸朗がクローンだと?」

 

「えぇ、彼女を襲っていた連中がそう言っていました」

 

「にわかには信じられんな・・・・・・・・」

 

シュテルは事の顛末を達也に話した。はやてが血を抜かれたサンプル体であること。

 

「それにもう一つ。サンプル”二体”を逃がしている、と言っていました」

 

「二体?つまりはやて嬢以外にも対象者がいたという訳か」

 

「おそらく血を抜き取られているかもしれません。それにメインの対象がいるようです。放ってはおけません。私、この件をもう少し調べてみようと思います」

 

「気を付けろよ。俺もできるだけのことはする」

 

「助かります」

 

「じゃあ、俺は部屋に行く。何かあったらそっちに来てくれ」

 

「分かりました」

 

そう言うと達也は部屋へと戻っていった。

 

(でも、本当にクローンを作るのが可能なのだろうか?確かに調整体魔法師はクローン、つまるところ遺伝子操作で生まれた存在ではありますが、それでも本質的には同義ではないはず)

 

シュテルは考える。己が考え付くあらゆる予測を立てているのだ。すると唐突に深雪から声がかかった。

 

「お姉様、例の女の子が目を覚まされました」

 

「分かりました。すぐ行きます」

 

シュテルは思考をやめ、自分の部屋の、はやての元へ向かった。




今回は短いですがここまでとなります。今回から新たに『八神はやて』に関するお話を追加しました。そして捏造設定として『クローン技術』と『原作にはない謎の勢力』を導入しました。謎がますます深まる階だったなぁと書いている私ですらしみじみ思いました。

いったい何を書きたいんだ?(疑心暗鬼)。さて、今回の伏線ですが、入学編Ⅹにて、ほのかたちを襲っていたブランシュのメンバーが口走っていた『重要人物』という単語です。この言葉と、今回の謎の勢力の言った言葉を合わせて考えてみるとわかるかもしれません。

さて、次回はいよいよ、達也を交えての九校戦へと一気に時間を進めます。あ、でもその前にいろいろ整理するために設定集を上げるかもしれません(入学編の跡に出すとか言っておいて忘れてたのは内緒)。何かご不明な点、感想、ご指摘、誤字脱字の報告などは是非していただけると嬉しいです。

ですが、誹謗中傷だけはやめていただきたく思います。ではまた次回お会いいたしましょう。


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第十八話 九校戦編Ⅲ

この作品をを読んでくれている方、大変長らくお待たせしました。前回の投稿から約一年、エタッたりほかの作品に逃げたり、家庭や自身の都合などで全く執筆活動ができませんでしたが、魔法科高校×なのは、最新話がようやくできました。文字数の都合により、一高での九校戦の話は次回に持ち越しとなりましたが、今回ははやてたちのお話が焦点です。では、不定期で投稿していますが、どうぞ第十八話、お楽しみ下さい


三人称side

 

シュテルは、目を覚ましたというはやての元へといく。部屋に入ると、丁度はやては、深雪が作ってきたであろうおかゆを口にしていた。

 

「あ、あの時助けてくれた人。えぇっと・・・・・・・・」

 

「シュテル・シバ・スタークス。シュテルと呼んでいただいて結構ですよ、はやて嬢。それで、お体の方はどうですか?痛むところなどはありますか?」

 

「あ、いえ。特にはありません。わざわざありがとうございます」

 

どうやら特段異常があるわけでもないらしい。シュテルには達也のように情報を取り込む眼がないため、見た目でしか判断できないが、外傷もなく顔色も悪くないため大丈夫そうとシュテルは判断した。

 

「大事がなくてよかったです」

 

「面倒見てもらって感謝してます。それで、ここはどこです........か?先ほど深雪さんという方がこのおかゆを渡してくれたんですが・・・・・・・・」

 

「あぁ、ここは私の家です。いえ、正確に言うなら私たちの住んでいる家ですね。道端で倒れてるのを見つけてここまで運んできました」

 

「えっ!?そうだったんですか?うち、他の人の家に上がってたんか・・・・・・。わざわざありがとうございます」

 

「いえいえ、私はあくまで当然のことをしたまでですよ。・・・・・・・・それで、あなたはなんであそこで倒れていたか、覚えていませんか?」

 

シュテルは本題を切り出した。シュテルはある程度の見当はついているが念のため聞いたのである。

 

「うちもあんまり覚えてへんのですが・・・・・・、いきなり後ろからぐわっと掴まれて、口元に布を当てられたんです。そしたらいきなり眠くなってきて、気づいたらここにいました」

 

(突然眠くなった・・・・・・麻酔薬をしみこませたハンカチを当てられたのかもしれませんね。ということは間違いなくはやて嬢は狙われている)

 

半世紀前までは麻酔薬をしみこませたハンカチで人を一瞬のうちに気絶させるとは不可能と言われていたが、第三次世界大戦のさなかに開発された即効性の強力な麻酔薬はその常識を容易に覆した。

 

麻薬などで神経を常に興奮状態にされた兵士でも、体内にさえ入り込ませれば一瞬で意識を刈り取れるレベルの強さの麻酔薬は、そのあまりの危険さにWHOが戦争終結後即座に、禁止薬物に指定したほどである。

 

そもそも魔法という概念が生まれて薬品の見る影がどんどん薄れている現在では手に入れることさえ難しい。それこそ犯罪集団、それも巨大な財力と権力を持っていない限りは一目見るのすら困難である代物だ。

 

(やはりあの男たちの裏には強大な後ろ盾があるようですね。これは少し雲行きが怪しくなってきました)

 

「分かりました。話していただき、ありがとうございます」

 

「いえ、こんな話が役に立ったのであれば・・・・・・・・、って、うちはもうそろそろ帰らな」

 

「いえ、その心配はありませんよ。いま、深雪に頼んでそちらの方、アインスさんというあなたの傍付きの方にご連絡させています」

 

するとちょうど深雪が部屋に入ってきた。

 

「お姉様、先程あちらとは無事連絡が取れ、もう少し様子を見ると伝えておきました。恐らく明日の朝にはそちらにお連れできるとも伝えてあります」

 

「ありがとうございます深雪。本当にいつも助かってますよ」

 

「いいえ、これくらいはどうってことありません」

 

「ふふっ、そうですか。それは良かった。・・・・・・という訳ではやて嬢、もう少しここで休んでいってください。何かあるといけませんから」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

「では、何かあったら、私たちの誰かはリビングにいますので、気軽に声をかけてくださいね」

 

そう言ってシュテルと深雪は部屋を後にした。

 


 

シュテルはリビングへ着くと四葉本家、つまり深夜の元へとかけた。だが今回の目的は深夜ではない。

 

「おや、シュテル様。このような夜分に何の御用ですか?」

 

出たのは葉山だった。シュテルはこれ幸いと、葉山に言った。

 

「葉山さん。大至急呼んでほしい人物がいます、今からこの場に連れてこれますか?」

 

「えぇ、構いません。して、どなたをお呼びすればよろしいでしょうか?」

 

「そちらで現在保護している、高町なのは、フェイト・テスタロッサの二名です。少々聞きたいことがあるので」

 

「分かりました。すぐにお連れしましょう」

 

そう言うと葉山は画面を非表示にした。シュテルは一旦リビングのソファにかける。待つこと5分、画面に映ったのは葉山だった。

 

「お待たせしました。高町なのは、フェイト・テスタロッサの両名、お連れ致しました」

 

葉山は画面から消える。その後ろに待機していたのはなのはとフェイトだった。

 

「お久しぶりです、二人とも。こんな夜分遅くに呼び出してすいませんでした」

 

シュテルはまず謝罪から入る。

 

「い、いえ!そんなことは全くな......ありません!」

 

「私たちはあなたに救われた恩があります。これくらい全く問題ありません」

 

と、2人はあまり気にしていない様子だったのだが。

 

「そうですか、それは良かった。では本題に入りましょう。と、その前に。まずお二人には嫌なことを思い出させることになると思います。もしあの記憶を思い出したくない場合は

 

この話は聞かなくて大丈夫です。......準備はよろしいですか?」

 

2人は息をのむ。そして静かに、しかし力強く頷いた。

 

「あなた達二人は以前、エガリテの一派に誘拐されました。その時のことを思い出していただきたいのです。あの時、あなた方は“血”を抜かれませんでしたか?」

 

『血、ですか?うーん…あっ!』

 

『なのはも思い出した?捕まった直後に、確かに抜かれました。確かその時、「これで被検体のサンプルが入手できた」と、言っていた記憶があります』

 

どうやら二人には血を抜かれた記憶があるようだ。そしてこの答えこそが、シュテルの仮説を立証するピースとなった

 

「やはりですか…どうもありがとうございました。二人とも、こんな夜分に失礼しました」

 

「いえ!私たちがシュテルさんのお役に立ててよかったです!」

 

「なのはの言う通りです。少しでもお役に立てたのなら幸いです」

 

「それはよかった。では、おやすみなさい」

 

シュテルはそのまま通信を切る。そして、ソファに座り、リラックスしたように背中を背もたれに預ける。しかし、彼女の思考はまだ動き続けていた。

 

(これでホワイダニット、なぜ行ったかは仮説が付きました。今回は、対象の血液内のDNAを抽出し、それをもとに、細胞を人工的に生成することで対象のクローンを作成する。…ふふっ、まるでSF映画のようなやり方ですよ全く。問題は、フーダニット。誰がこのようなことを起こしたか、です。少なくともブランシュではない。もしブランシュだったら私があの時対峙した兵士全員がクローンかそれに準ずる何かのはず。しかし、ブランシュの構成員は普通の人間でいまだ獄中、殺害されたという報道もない。そもそも、彼らがなのはやフェイト、はやて嬢を誘拐してまでクローンを作るとは思えない…なんだかとてつもない裏がありそうですね)

 

シュテルはそこまで考え、疲労のせいかその意識を深い闇へと沈めた。

 


 

翌日、シュテルはリビングのソファで目が覚めた。

 

(どうやらそのまま寝てしまったようですね。…これは、深雪がかけてくれたんですね)

 

シュテルのその体には毛布が掛けられていた。シュテルは体を起こそうとする。

 

すると廊下側の扉が開き、達也が入ってきた。

 

「おはよう、シュテル。体の調子はどうだ?昨日は随分と考え事をしていたようじゃないか」

 

達也はすでに、黒い普段着に身を包んでいる。時計の針を見ると既に6時をまわっていた。

 

「おはようございます、達也。体調は問題ありません、少し疲れが出てしまっただけでしょう。それより、はやて嬢は?」

 

「問題ない。体調も元に戻ったようだ、ぐっすりと寝ていたよ。だが、つらい事実を突きつけられてしまうだろうな。シュテルの話が本当なら、恐らく八神夫妻はすでに......」

 

「えぇ、亡くなっているでしょう。恐らくニュースで取り上げられると思います」

 

達也もシュテルも何とも言えない表情になっている。まだ中学生になったばかりの少女に、両親が亡くなったという事実を突きつけるのは、いささか良心が痛むのだ。

 

「そうだシュテル。八神はやての”護送”はお前に任せてもいいか?」

 

「別にかまいませんが、恐らく学校を休まねばなりません。こんな時期ですから、もし九校戦のことで、会長達が何か言っていたら、あとで聞かせてください」

 

「勿論だ、何かあったら伝える。それと、例の部隊が日中襲ってくるとは思えんが、お前も十分気を付けてくれ」

 

「分かりました。十分に気を付けます」

 

「では、おれは師匠のところに行ってくる。八神はやてのことは頼んだぞ」

 

そう言うと達也は、リビングから出ていく。そして、それと入れ違いで今度は深雪がリビングに入ってきた。

 

「あらお姉様。おはようございます」

 

「深雪。おはようございます」

 

「昨日は随分と遅くまで何かをされていたご様子ですが、体調のほどは大丈夫ですか?もしよければコーヒーでも入れましょうか?」

 

「いえ、特に問題はありません。でもコーヒーはいただきましょう。深雪のいれるコーヒーは美味しいですからね」

 

「ふふふっ、では今から作りますね。お姉様は服を着替えて来てください」

 

「分かりました」

 

そう言うと深雪はキッチンの方へと行き、シュテルも自身の部屋へと向かった。

 

(達也はあのように言っていましたが、正直なところ、襲撃は起こるかもしれませんね)

 

シュテルは部屋に入ると、着ている服を脱ぎ捨て、クローゼットの中からライダージャケットとフルフェイスヘルメットを取り出した。

 

(バイクを買ったあの日に、もしかしたらと思い本家の方にバイクを防弾仕様にしてほしいとお願いしたらまさか一日で、しかも防弾防刃仕様のライダースーツとヘルメットと一緒に送り返してくるとは思いませんでしたが、役に立つ日が来るとは。私は不運に巻き込まれる体質でもあるのでしょうか?)

 

そう考えながらシュテルはライダースーツを着込んでいく。黒色に赤の差し色が入ったライダースーツはさながらシュテルのルシフェリオン展開時の防護服に似ている。 スカートでない分、少しだけスリムに見えるが。シュテルは着替えた服を洗濯機に入れておき、ヘルメットを持ち、首にルシフェリオンを待機状態でかける。そして右足の太ももについている専用ホルスターにレイジングホーンを刺し、リビングへと戻る。既に深雪はリビングに出てきており、その手にはコーヒーが入ったマグカップが握られていた。

 

「もう行かれるのですか?」

 

「えぇ、なるべく早めにいかなければ何が起こるか分からないですから。でも、深雪の淹れたコーヒーを飲んでからでもいいかもしれませんね。では、飲んでる間にはやて嬢を起こしてもらっても構いませんか?」

 

「承知しました。では、起こしてきますね」

 

シュテルは深雪からコーヒーを受け取り、深雪は、はやてが寝ている部屋へと向かった。

 

シュテルはコーヒーを飲みながらテレビをつける。適当に番組を変えていると、あるニュースが目に止まった。

 

『次のニュースです。昨夜9時頃多摩川の河川敷で、車が燃えているとの119番通報がありました、火はおよそ1時間で消し止められましたが、焼け跡から1人の遺体が見つかりました。警察の調べによりますと、遺体は八神グループ社長、八神伸郎さんであることが分かりました。なお、遺体には目立った外傷はなく、警察は事故の線で捜査しています』

 

(警察をして外傷を見つけられないほどの隠ぺい力。........やはりただモノではありませんね、今回の黒幕は。もしかしたら、黒羽の叔父様に内偵か調査を依頼するほうがいいかもしれませんね)

 

シュテルがそんなことを考えていると、奥から深雪がはやてを連れてやってきた。

 

「おはようございます、はやて嬢。お加減はいかがでしょう?問題はありませんか?」

 

「全然大丈夫です。むしろ久々にゆっくり休めた気がします」

 

はやてはそう言って体を動かす。シュテルはそれを見て虚勢などではないと確認し、そっと胸を下ろした。

 

「ではこれからあなたを送ります。バイクで向かうのでヘルメットをつけてくださいね」

 

「よろしゅうお願いいたします」

 

シュテルははやてを連れて、バイクが保管されている車庫へと向かう。

 

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

 

深雪はそっとその後ろ姿を見守るのだった。

 


 

「はやて嬢、体調は大丈夫ですか?」

 

『こちらは大丈夫です!風を切る音が心地いいくらい!』

 

現在シュテルたちは、大型バイクに乗り、公道を駆けている。まだ早朝故に車通りはそこまでなく、快適な旅となっている。

 

(今のところ怪しい動きや車両などは確認できていない。流石にこんな早朝に襲撃はしてこないか。でも、警戒はしておくべきですね)

 

シュテルはバイクのスロットルを回す。バイクは勢いを増し、公道を駆け抜ける。そうして走ること約20分、約束の場所まで残り1kmを切ったというところまできた。周りはビルが乱立しているが、見通しが悪いという訳ではない。すでに日は登りつつあり、車通りもそれなりになって来るはずの時間帯だ。しかし、シュテルはある違和感を感じていた。

 

(やけに車通りが少ないですね。ここまでくるのに一台も見かけないなんて……まさか!?)

 

シュテルがそう考えたと同時に目の前に一台の車がやってきた。バンタイプの車であり、その車体は黒く塗られていた。すると後ろのドアが勢いよく開き、中から黒ずくめの人が数人出てきた。手には対魔法師用のハイパワーライフルが握られていた。

 

(不味い!?)

 

シュテルはスロットルレバーを手放し、はやてを背負う形で飛び降りた。その瞬間、シュテルのバイクはハイパワーライフルの大口径弾に貫かれ、爆発する。突然のことについていけずパニックになり悲鳴をあげるはやてを抱え、シュテルはルシフェリオンを遠隔展開して防壁を貼らせる。何発かが防壁に被弾するも無視し、その場を走りながら後にする。が、黒ずくめの集団は車から降り、シュテルたちのことを追いかける。全員一気に撃つのではなく、数人撃って弾が切れたら、切れていないメンバーと交代し、リロードする。このサイクルで終わりのない弾幕を張り続けていたのだ。シュテルははやてを抱きかかえ、防壁を貼りつつ、ビルが乱立してできた路地裏に隠れる。そのまま身を潜めようとするが、敵はお構いなしにハイパワーライフルを撃ってくる。その威力でコンクリート製のビルの外壁が瞬く間に削られていく。

 

(どうする?このままではじり貧。かと言って上空に逃げようとすれば、ヘリでもなんでも仕掛けてくるかもしれない........かと言ってあまり時間もかけていられない!このまま被害が拡大すれば、はやて嬢を引き渡すどころか我々が無事に帰ることすらできない!そもそも、反撃しようにもルシフェリオンを展開する時間もない、レイジングホーンを出すにしても敵の位置が把握できないし、仮に把握してもこちらから攻めればハチの巣にされるのは必至!どうする!考えろ、考えろ!)

 

もはや意識的に口調を取り繕う暇もないほどに、シュテルは追い詰められていた。すでに日は完全に上り切り、通勤通学をするものが出始めるころだ。そのような状態で被害が拡大すれば、一般人への被害は免れない。最悪シュテルたちは、様々な罪で指名手配され、極悪人となってしまう可能性がある。そもそも無事で帰れる保証もないのだ。今はビルの陰に隠れているがそれもいつまで持つか分からない。そんな中、彼女たちにさらなる不幸が訪れた。

 

(この音は........ローターの音!まさかヘリ!?)

 

シュテルは急いでルシフェリオンを起動し、サーチャーを上空へ展開する。すると上空には光学迷彩で周囲の景色と同化した(ルシフェリオンのサーチャーは光学迷彩などの影響を受けずに対象を観測することができる)戦闘ヘリが向かってきていた。パイロット席の下部にはバルカン砲、後部の搭乗スペースには、四連装ミサイルランチャーが片方ずつついており、後部のスペースにはライフルを持った数人が乗っているのが見えた。見つかったらまず逃げられないし周りへの被害も甚大だ。しかし、極限状態でむしろ冷静になったシュテルは取り乱しもせず、ある一つの疑問を浮かべた。

 

(そもそも相手は、どうやってどうやってこちらを捉えた?あれから追手は撒いたはず。その後、外への警戒は怠らなかったし、それらしき人影も見えなかった。今日だって家族間でしか出発日時は確認していない。盗聴器も達也が調べて、無かったと言っていた。だったらどうしてこちらを相手は捉えられる?........なるほど、そういうことか)

 

「はやて嬢。少し、降りてください。両腕の袖をまくって、こちらに見せてください」

 

「へ?あっ........はい。どうぞ」

 

はやては両腕の袖をまくり、その腕を見せる。すると右腕の部分に黒いリストバンドのようなものがまかれていた。

 

「はやて嬢、これはいつから?」

 

「そう言えば、いつの間にかついてたんです。昨日目が覚めてから、記憶がないんですけど........」

 

「外せますか?」

 

「いいえ、お風呂に入ろうとした時に取ろう思ったんですけど、何か、全然取れなくて........」

 

シュテルはそれを聞くと、すぐにライダージャケットの左太ももに巻かれている小型のポーチを開ける。中に入っていたのは折り畳み式のポケットナイフだった。何やら柄の部分に刻印がされている。シュテルは、はやての柔肌を傷つけないように慎重に、しかし素早くそのリストバンドを切り、そこら辺にポイッと投げた。

 

「いいですか、落ち着いて聞いてください。先ほどのリストバンドは、恐らく小型の発信器です。はやて嬢をどこに行ってもすぐに攫えるように、昨日シュテルさんを襲ったやつらが付けたのでしょう。だからこちらの位置を正確にトレースできた。しかし今、発信器を切り離したことで、こちらの位置を補足されることはないでしょう。最も、切られたことに気づかない間抜けな奴らではないとは思いますが、ね」

 

一方その頃、どこかの施設。薄暗い部屋の中に数人の人影が見える。片手で足りる程だろう。よく見ればその服装は、先ほどシュテルたちを襲った人間と同じだった。その部屋を見渡すとパソコン系の機械があったり、何かのレーダーらしきものがあったりと、まるでイージス艦のCICのような部屋だった。

 

「隊長。対象αにつけていた発信器の反応が消えました。恐らく気づかれたかと」

 

パソコンをじっと見つめていた1人が、その奥で腕を組んでいる一人にそう言った。それを聞いた1人は口に笑みを浮かべた。擬音で表すならニチャァとでもつきそうな獰猛な笑みだ

 

「目聡い奴め。各隊に通達、対象αをターゲットαに変更する。最悪殺しても構わん、ターゲットを必ず回収しろと伝えろ」

 

「了解。CPより各隊へ、これより対象αをターゲットαに変更する。繰り返す、ターゲットαに変更する。各員、オールウェポンズフリー、ターゲットの生死は問わない。必ずターゲットを”回収”せよ」

 

暗い部屋の中で、周りはあわただしくなる。そのモニターの中に写っているのは、シュテルたちが隠れているビル街周辺をヘリに搭載しているだろうカメラで撮っているリアルタイムの航空映像だった。

 


(ん?敵の攻撃が止んだ?諦めたのか........いや違う。こちらが発信器に気づいたことに気づかれましたか)

 

「はやて嬢。先ほど取り外した発信器のことが敵にバレました。急いでここを離れましょう。ここにいては危険だ」

 

シュテルははやてに声をかける。が、はやては目を閉じたままその場を動こうとしない。

 

「どうしました?はやて嬢。........はやて嬢?はやて嬢!」

 

シュテルは声を荒げる。しかしはやては動かない。そして、シュテルに向かい、口を開いた。

 

「右奥の壁の向こう側、人が三人こっちに来ます」

 

はやてがそう言った。シュテルは急いでサーチャーを飛ばす。するとはやての言う通りそこには、ハイパワーライフルに、携行式のロケットランチャーを持った人物が三人、シュテルたちの方に向かってきた。

 

「はやて嬢、凄いですね。どうやってそれを?」

 

「昔から、怖いものを感じると、こうやってなんとなくで”視る”事ができるんです。何でかはうちも知りませんけど」

 

はやては苦笑いを浮かべる。恐らく、あまり使い道がない能力だと思っているのだろう。しかし、はやてのその力は今この時、大いに役に立つ。

 

「ルシフェリオン、vision correction system(視覚補正機能)、オン。サーチャーの視界をはやて嬢と同期、marker system(目印設定機能)をアクティベート。はやて嬢が見ている視覚情報とこちらのサーチャーの視界をリンク。........はやて嬢、今あなたが使っている力はこの状況を打開する力になります。どうか、協力をお願いします」

 

シュテルは、はやての方を向き、はやてに頭を下げる。はやては少し困った顔をする。その後、笑みを浮かべ、口を開く

 

「勿論です。この力がお役に立てるのであれば、使ってください」

 

「ありがとうございます。では、この場を突破します、私の手をしっかり握って、離さないでください」

 

「はい!」

 

シュテルははやての手を握り、もう片方の手でレイジングホーンを抜くと、先ほど数人の人物がいたほうに向け、引き金を引く

 

(サーチャーからの情報をフィードバック、対象を確認。ターゲット、マルチロック。流星散弾、発動)

 

その場に、想子の光が三条、迸る。すると、先ほどまで歩兵がいたところに何かが崩れるような音がする。シュテルがそちらに行くと、きっちり三人とも気絶して横たわっていた。

 

「次が来ます。先の通路右側!四人!」

 

はやてがそう言い、シュテルはサーチャーにつけられたマーカーを頼りに、CADの銃口を向け、再度引き金を引く。そして、先ほどマーカーがついたあたりで、崩れ落ちる音がする。数的不利の状態で、敵が瞬く間に無力化されていく。シュテルのもはや神業レベルの精密さとはやての感知能力がうまくかみ合った結果である。シュテルはそのまま、はやてを連れて進み、先ほどの歩兵たちが乗ってきたであろうバンの前までたどり着いた。車は路地裏の入り口に後部のドアが向くように止められていたため、簡単に乗り込むことができた

 

「シュテルさん。この後はどうするんですか?」

 

はやてがそう聞く。

 

「勿論このまま、この車に乗って逃げるんですよ」

 

シュテルはさも当然のごとく、そう答えた。旧式を通り越し、もはや骨董品レベルのガソリン車のエンジンを、シュテルは回す。エンジンは簡単につき、AT車であると思われるバンのシフトレバーをDの位置(シフトレバーのDはドライブ、走行するときに入れるギア)に持っていきサイドレバーを下ろす。そのままアクセルペダルを踏み、急発進させていく。

外に出ていた歩兵は全く気付いた様子がない。理由は単純、シュテルがルシフェリオンを使い、音波を遮断し、音を聞こえなくしたからである。相手からすれば、気づいたら対象どころか自分たちの乗ってきたはずの車すら突然消えたように感じるだろう。しかし、音と映像で確認しているヘリだけは、シュテルたちのことをしっかりととらえ続けていた。

 

「シュテルさん!上から見られてます。うちらのことずっと追いかけて来てる!」

 

「やっぱりヘリはそう簡単に巻き込めませんね........仕方ない。はやて嬢、何かに掴まっていてください。少し荒っぽい運転になります」

 

「わ、分かりました」

 

はやては、後部座席にしっかり捕まり、シートベルトをしめる。シュテルはアクセルをさらに踏み込む。そして、そのままどんどんと街中を外れ、ついたのは郊外の港湾地帯だった。

 

(サーチャー、ソナー起動。簡易人物スキャン実行、一般人のいないエリアを算出...完了。対象の墜落予測範囲を算出...完了。これで、終わりです!)

 

シュテルはブレーキを踏み、車を急停止させる。

 

「はやて嬢。絶対に車から降りないでくださいね」

 

「は、はい。分かりました。でも、シュテルさんはどうするんですか?」

 

「このくだらないチェイスにケリを付けてきます」

そう言うとシュテルはシートベルトを外して車から降り、自身の得物たるレイジングホーンをホルスターから抜き、上空の戦闘ヘリへと向ける。そして、実銃で言う引き金に当たるスイッチを押し込み、魔法式を起動する。

 

(ミーティア・バレッド、起動式ロード。威力制限修正、ニュートラルからエリミネートへ変更。対象補足)

 

「ミーティア・バレッド、発動!」

 

シュテルはヘリのパイロットに照準を合わせ、魔法を発動する。威力が通常の弾丸レベルにまで引き上げられた不可視の弾丸は、一撃で脳を破壊し、その息の根を停止させた。そうして乗り手を失った鉄の鳥は湾岸地帯の廃棄物処分スペースへと落ち、その体を炎と瓦礫に変えた。

 

「これで追手は全員撒いたはず。でも念のため別の移動手段を使いますか」

 

シュテルは乗ってきた扉に手をかけ、中にいるはやてを車から降ろした。

 

「さて、残る目的ははやて嬢を送り届けるだけですね」

 

「あの...さっきのヘリはどうしたんですか?それにあの爆発は一体?」

 

「先ほどのヘリなら”巣に帰り”ましたよ。派手な音と光をばらまいて、ですがね。さて、それじゃ行きましょうか」

 

「一体どこへ?」

 

「決まっているではありませんか。あなたを送り届けるんですよ」

 

シュテルはそういうと、首に下げていた待機状態のルシフェリオンにさわる。

 

「ルシフェリオン、起動」

 

そう言うとルシフェリオンはペンダントから外れひとりでに空中に浮遊し、本来の姿たる外装パーツを展開していく。まもなくそれは、深紅が目立つ大きな杖に変わった。それを見たはやては、まるで自分の好きなものを見た子供のように目を輝かせていた。

 

「さて、行きましょうかはやて嬢。こちらにどうぞ」

 

「はい!」

 

はやてはシュテルの方に向かう。シュテルははやてを自身の方に寄せ、ホールドする。

 

「しっかり捕まっていてくださいね。ルシフェリオン、ブレイズフィン、展開。光学迷彩機能、起動」

 

すると彼女たちの周りを光が覆い、次の瞬間にはその姿はなかった。

 

「うわぁぁぁ!?飛んでる!うち、空飛んでるよ!」

 

「どうやら満足してもらえたようですね」

 

それもそのはず、シュテルたちは光学迷彩機能で周囲と同化し、ブレイズフィンの高速飛行能力で空を飛んでいたのだ。バイクどころか航空機に匹敵する速度で空を飛翔していたシュテルたちは、あっという間に集合場所へと到着した。シュテルは地上に降り立つと、ルシフェリオンを待機状態へと戻し、はやてを待つ従者のアインスのいるところへ向かうよう促した。無事に再会できた二人は、泣きながらも笑顔で抱き合っていた。

 

「あなたがアインスさんですね?申し訳ありません。集合時刻に遅れてしまいました」

 

「いえ、構いません。我が主が無事で何よりです」

 

銀色の髪を持つ若い女性、アインスははやてとしっかり手を握り、シュテルに近づいてくる

 

「それよりもアインスさん。はやて嬢の警備を厳重にしておいたほうが良いかもしれません。先ほども謎の武装組織に襲撃されました。あれほどの武力をバレることなく保有できる組織となると、かなり厄介な手合いかもしれません」

 

「分かりました。我が主の警護は厳重にします。ご助言感謝します」

 

「では、私はこれで」

 

「今回は本当にありがとうございました。またご縁があれば、どこかで会いましょう」

 

そう言ってアインスたちとシュテルはそれぞれの帰路につく。すでに日は、上がり切っていた。

 




次回は本格的に九校戦編へとシフトしていきます。(多分きっとメイビー)大変投稿が遅くなって申し訳ありません。次回は早めに出せるように頑張ります。ではまた次回お会いいたしましょう。


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