最悪の悪魔 (カワイイもの好きのスライム)
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転移編
プロローグ


どうも、初めまして新人の「カワイイもの好きのスライム」です。
今回、初めての投稿作品ですので物凄く短めに書きました。プロローグにしては短めですが、是非読んでくれると嬉しいです


この世界には昔から言い伝えられている伝説がある

 

この世界には、元々悪魔種・人間種・亜人種・ドラゴン種という種族が存在していた――

 

常日頃、4か国間での戦争が絶えなかった――

 

結果、3か国は消滅し、その悪魔がこの世界を創造した――

 

その悪魔は多数の悪魔を従え、ここで国が落とせる戦力を持っている――

 

その悪魔の見た目は背中に8つの翼が生えており、頭には二本の角、片方の目が紫色、もう片方が緑色、全身黒い服に身を包んでいる――

 

 

というのが昔からこの世界で住んでいる者たちの間で言い伝えられている伝説だった

この世界に住んでいる限り知らない者が居ないほどだった・・・

その悪魔の名はハデスという――

 

 

ハデスは、人間たちを物凄く嫌っている。

 

なぜなら、人間と言う生物はモノや権力、地位を与えるともっと上の地位に行こうとしたりすぐに国家間で戦争をしたがるからである。人間自身、私利私欲深い生き物であることを理解してはいるが、その点を除いても、なぜ国家間で戦争するのかが理解できないハデスは、自分があまり戦争というものが好きではないことも影響しているが、そんな醜い人間たちがいるからこそ人間を終止嫌っている。しかし、逆に言うと争いを起こさず私利私欲に溺れない人間は好きということでもある。実際に彼の昔の配下には人間が数人いたのだ・・

 

そんな人間には彼は丁寧に対応したり、なにかしらの功績を成した物には本人が望んだ物を褒美として与えていたほどである。例えば、地位や権力・領土・異性etc・・・

 

                

              

 

 

               ★★★

 

 

 

              

 

 

王都からかなり離れた場所に村がある

この村に住んでいる住民の数は数百人だ。

その村のとある一軒家に住む姉がベットに入っている妹に伝説を話していた

 

 

「わかった?この世界はね、偉い悪魔さんが作ったんだよ」

 

「その悪魔さん、凄いね!私も大きくなったら会えるかな?」

 

「どうだろうね、会えるかもね。もう遅いから寝なさい」

 

「おやすみ、お姉ちゃん」

 

「おやすみ」

 

 

その姉妹の名は、エンリ・エモットとネム・エモットという

ネムはこの伝説が好きだった・・

なぜかというと、悪魔と言うのは悪の限りを尽くし支配地を増やしていくのが普通なのだ。だが、この悪魔は悪の限りをしたが、結局はこの今自分たちが住んでいる世界を1から築き上げたからだ

だから、ネムは寝る前に必ず姉のエンリに伝説を聞かせてもらっている

 

これは、ネムだけでなくこの村に住んでいる人なら好きな話の1つだ

そして、彼らはある日にあるお祝いをするのだ

 

ある日というのは、悪魔が世界を築き上げた日――建国日とでもいうのだろうか?その日に限り彼らは仕事や家事をせずに朝から音楽と大量の酒、料理で一日どんちゃん騒ぎをするのだ。そのあとこのお祝いのためだけに村人が作った大きな建物の中に貢物をする――というのが一日の流れだ

 

それだけ、この村人たちはこの伝説が好きなのだ。もし、本人が突然来ても彼らはすぐに受け入れるだろう・・・

 

しかし、彼らは既にその悪魔がこの世界に来ていることは知りもしないだろう・・・




今回は、プロローグなので短めにしましたがこんなものでいいのか正直不安です。
次回作も上げていく予定ですので、「何文字目標にすればいいよー」とかありましたら、教えて下さると有難いです。


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どういうこと!?

20××年、世界は滅亡の危機に瀕していた――

 

以前まであった木々などは全て枯れ、空の青さもなくなった――

あるのは、損壊し崩れた瓦礫の山と幾つかの企業となぜか大量にある工場だけ・・

それに加え、空気が汚染されているためガスマスクを付けないと日常生活ができないレベルなのだ

 

こんな腐りきった世界で社畜のように扱われながらも懸命に生きているサラリーマンがいた

彼の名は『鈴木 悟』。

そんな彼に1つだけ楽しみがあった――それは『ユグドラシル』というDMMORPGゲームだ

彼は、そのゲームに課金するためだけに仕事をしているといって過言ではない廃課金ゲーマーなのだ

 

しかし、そんなある日いつも通り家に帰りユグドラシルにログインしようとすると運営から重要なお知らせと題されたメールが来ていたことに気づいた

その内容は本日の24時をもってユグドラシルのサービス提供を終了するといったものだった・・

 

「なんだってー!そんな大事なことは前もって言ってくれよ!」

 

大慌てでゲームにログインをしたが、自分以外来ているメンバーは居なかった

しかし、今の彼にそんなことを気にしている暇はなかった。すぐさまウインドウを開き『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーに「今日がユグドラシルサービス最終日みたいなんですが、良かったら最終日ぐらいみんなで過ごしませんか?」と言う趣旨のメールを一斉送信した

 

それからと言うもの来たのは数名だけで、今まで自分たちがゲットしてきた武器やアイテムをギルド長であったアインズに預けに来たり、NPCのことを頼みに来たりする者が殆どで数分してログアウトして行ってしまった・・・誰もサービス終了時まで共にいてくれる人はいなかった――あの最も仲の良かったヘロヘロさんだって、すぐにいなくなってしまった

 

そのことにアインズは深い溜め息を吐いていた

 

「なんで、みんなそう簡単にいなくなるんだよ・・俺は、このギルドのことを本当の家族のように感じていたのに貴方たちは違ったのか!いや、それは違う・・・彼らだってこのギルドを愛していたはずだ・・ただリアルが忙しかったり、結婚して家庭を持ったり、夢を叶えただけだ・・・ただ、俺にはそれが無かっただけのこと・・・」

 

 

頭じゃモモンガだってしっかり理解はしているが、心がそれを受け入れられないだけだ

だから、こうやって自分の中に溜まったフラストレーションを発散しなければならなくなるのだ

 

そんな風に愚痴を溢していると、サービス終了まであと1時間もなくなっていたことに気づいた

 

「もうこんな時間か・・なら最後はナザリックにいるNPCたち全員を集めて命令でもするか」

 

そう呟きながら玉座の間から退出しNPC全員を呼びに行った

 

 

 

 

                                           ★★★

 

 

 

時間は少し遡り、アインズが玉座の間で愚痴を溢している間にもう一人この世界にログインした者が居た

彼の名は『黒野 真朱(まじゅ)

モモンガと同じとある会社のサラリーマンだった男だ。しかし、今日限りで会社は倒産し現在失業中の身である

そんな彼のアバターはガチガチの悪魔だ。背中に8つの漆黒の羽根を生やし、頭部には二本の角、衣装は黒のズボンに黒の服、更には指や首には様々なアクセサリーが付いており目は左が緑色、右目が紫色というオッドアイという見るからに悪魔の容姿を詰め込んだ感じだ――その名をハデスという

 

そして、凄いのはこのナザリックに存在するNPCの内殆どがハデス自身が創ったのだ。そんな彼は、自身で作り上げたNPCたちで凄まじい戦力を有している

保持戦力で見ればナザリック随一だろう・・・

そして彼自身戦闘力が高い。もし仮にこのナザリック内最強の階層守護者シャルティア=ブラッドフォールンと戦っても楽に勝てるだろう・・・

 

その悪魔が来た理由は、自分の根城である『幻夢城』に向かうためだ

その幻夢城には自身が今まで丹精込めて創り上げて来たNPCたちや武器、金銀財宝の全てが収められている

 

「しっかし、ここは相変わらずキレイだな・・ゲーム内の世界とは言え、流石に埃や塵ぐらいは積もるだろうに・・・モモンガさんが掃除でもしてくれてたのかな?」

 

そんなことを考えながら長い廊下を歩いていると第10階層にある厳つい扉の前まで来ていた

一応、余談としてこのナザリックは第1~10階層までの作りになっていて第1~第3階層の『墳墓』を真相(トゥルーヴァンパイア)のシャルティア=ブラッドフォールンが第4階層の『地底湖』をガルガンティアが第5階層の『氷河』を蟲の武王コキュートスが第6階層の『大森林』をダークエルフで姉のアウラ・ベラ・フィオーラと弟のマーレ・ベラ・フィオーレが第7階層の『溶岩』を悪魔のデミウルゴスが第8階層の『荒野』をアークエンジェルのヴィクティムが守護している。その各階層守護者たちをまとめているのが守護者統括のアルベド(サキュパス)なのだ。そして、第9階層はギルドメンバーの居住区、第10階層が娯楽施設やバー、食堂、スパリゾートナザリック、ハデスが守護する『幻夢城』が存在している

 

その扉を開けると先に広がっていたのは部屋ではなく、また別の世界・・・想像するならアニメや漫画なんかで出てくる魔王城とか悪魔城といった景色がわかりやすいだろう。今まさにその光景が目の前で広がっている

 

「相変わらずいつ見てもこの城はカッコイイ!」

 

自分が作った城を自画自賛しながら中に入ってみると、目の前にはすぐに階段があり、その階段の上には玉座がぽつんと置かれている。そして、その玉座の左右にも階段が二本存在しその先には幾つかの部屋が存在する。また、玉座前の階段横にも幾つかの部屋が存在し、そこがメイドたちの住処となっている。他にも手下には魔獣やガーゴイルなどがいるが彼らは外で生活し、ドラキュラやサキュパスなんかには専用の城を作り住まわせている

 

暫くこの場で思い出に耽っていると、サービス終了時間まであと数分しかないことに気づいた

 

「(まぁ、ギリギリにログアウトしても大丈夫でしょ・・・)」

 

そんな甘い考えをもった城主は、時間ギリギリまでNPCたちの設定を見たりしてさらに思い出に耽っていた

さて、そろそろログアウトしようかと思いウインドウを操作しようとしてもウインドウが出て来ず、GMコールさえ出てくることはなかった

この状況を見て、思い当たるのは3つだ――

 

 

①ユグドラシルのサービス終了が延期になった

②何らかの理由で『ユグドラシルⅡ』が開始された

③ゲームの世界が現実になった

 

しかし、①の可能性は低い。なぜなら、あの運営はやる!といったらやるから

すると②か?いや、それも違う・・・そんな告知はなかったから・・

残ったのは③だが、これは――あまりにもしっくりくる

 

「マジかー異世界転移ってやつかー・・・まぁ、リアルに未練ないからいっか」

 

自分が異世界転移したのは大問題のはずなのに城主ハデスは、あっさりとその問題を片づけてしまった

 

 

 

 

 

 

一方、玉座の間にNPCたちを集めたアインズはというと終止パニックになていた

 

「(これはどういうことだ?サービス終了時間過ぎているのにログアウトできない!しかも、GMコールすらないだと!?まさか、ゲームが現実になったのか?)」

 

そんなことを考えているとモモンガの横に佇んでいたアルベドがモモンガの様子がおかしいことに気づき声をかけた。すると、返って来た返事が「胸、触っていいか?」だった

流石に始めは驚いたが、至高の御方が私を求めていると思うと羞恥心より嬉しさの方が大きかった

 

さぁ、私はいつでも準備完了ですわ!

 

胸を揉みやすいように両腕に胸が乗るようにして至高の御方の前で待っているとモモンガ様が壊れ物を扱うかのように恐る恐る胸を鷲掴みしてくださいました

なんということでしょう!!!!!!!!!!!

 

「(ふむ、胸を触ってもセクハラアラートは鳴らないか・・・普段なら鳴るのだがな・・・そして、最も謎なのがアルベドが意思を持って言葉を発している点だ。普通NPCに自我は存在しない。それ故話すことさえできないはず・・・これはゲームが現実世界になったことで決まりだな)」

 

考え事に没頭していると、アルベドから艶めかしい声が聞こえてきていた

何事かと前を見ると、自分がまだアルベドの胸を鷲掴みしていたのだ

咄嗟に手を引いたが、アルベドの顔は赤味がかかっていた

 

「すまない、アルベド」

 

「いえ、御方がお望みならいつでも差し出しますわ」

 

「そ、そうか。それよりアルベド1時間後に第4、第8以外の階層守護者を連れて第6階層に来い。アウラとマーレには私から連絡しておく」

 

「畏まりました」

 

「次にセバス!お前には外の偵察にソリュシャンと行ってもらう。もし、知的生命体と遭遇した場合ソリュシャンを盾にして情報だけでも持ってこい。話し合いが可能なら私の前まで連れてこい」

 

「「畏まりました、モモンガ様」」

 

セバスとソリュシャン、アルベドに指示を出したアインズはすぐさまアウラとマーレに連絡し、自室に戻った

 

しばらく頭の中を整理していると、すぐに時間が過ぎ気づけばあと五分しかなかった

大体の現状を理解できたモモンガは先程よりかは冷静を取り戻していた。そして、そのまま第6階層に転移して行った

 

現地に着いてみると既に各守護者たちが闘技場に来ており、跪いていた

 

「遅くなってすまなかった、面を上げろ」

 

モモンガの命令に従順な守護者たちは、面を上げモモンガを凝視していた

 

「今回、お前たちを呼んだのは今現在このナザリックにおいて何者かに転移させられてしまったという問題が起きたからだ。」

 

その言葉を聞くと守護者たちは驚きの表情をしていたが、そんなのお構いなしに話を続けた

 

「その調査に先程セバスとソリュシャンを先程行かせた。まずは、その報告からだ」

 

「はい、まずナザリックの周囲には生体反応はございませんでした。村すらもです。それともう1つ。ナザリックの周囲は普段なら毒沼なのですが、今回は周囲は平原でした。以上です」

 

すると、その言葉を聞いていた守護者たちはまたもや驚きの表情をして口をポカンと開けたままだった

 

「今の報告どおり、ナザリックが転移された。よって、こ「誰でありんす!その扉の向こうにいるやつ出てくるでありんす!来ないならこっちから行くでありんすよ?」」

 

モモンガがこれからの方針を話し合おうとした最中、シャルティアが扉に向かって急に大声を出し始めた

するとキィィィィという音を立てながら出て来た人物に驚いた

 

 

 

『幻夢城』をでたあと、ナザリック内を歩いていると闘技場から話し合いが聞こえたから扉の前で聞き耳を立てているとシャルティアにあっさりバレてしまった

どうしようかと悩んでいると、シャルティアに宣戦布告されたため仕方なく扉を開けると守護者やモモンガ、セバスまでもがこっちを見ていた

 

「おぉー、ハデス様じゃないですか!!」

 

「久しいな、モモンガ!元気にしてたか?」

 

「おかげさまで!」

 

そんな支配者同士の会話に置いてけぼりを喰らった守護者たちだったが、ハデスに対する彼らの警戒心は依然高いままだった

だが、ずっとポカンとしているわけにはいかないためアルベドが代表して関係性を聞いてみた

 

「あの、モモンガ様、其方の方はどなたでしょうか?」

 

「ん?あぁ、お前たちは知らないのか。この悪魔は、私たちのギルドの神様だよ。といっても、種族的にはデミウルゴスと同じ悪魔だがな・・」

 

その言葉を聞いて守護者たちは至高の御方よりも高位の方がいることにビックリしているようだった

 

「自己紹介が遅れたな、俺はハデス。10階層にある『幻夢城』の城主だ。よろしくな」

 

自己紹介を聞き守護者たちは考える――

 

本当に自分たちが仕えるべきかどうか・・・

なぜ、至高の御方が様を付けて呼ぶのか・・

 

御身の前なのにそんなことがグルグルと守護者たちの頭の中を巡りに巡っている

すると先程の悪魔が口を開いてきた

 

 

「俺のことをまだ信じ切れていない者も多いだろうよ。だから、俺たちの話が終わったら俺一人VS守護者全員で手合わせしないか?なにせ、このナザリックにおいて力こそが全てなのだから!その手合わせ後に俺のことを教えてやるよ」

 

信じられなかった・・・

確かにこのナザリックにおいては力こそが全ての組織だ。そのことは理解している・・・

しかし、あの悪魔は一人でフル装備の守護者全員を相手にするつもりのようだ・・・

舐められたものだ、なにせこの中には階層最高のシャルティアがいるというのに・・・

 

 

 

 

あぁ、本当に舐められたものだ・・・




初めての投稿ということで張り切って多めに書いてしまいました。

読み切るのに時間がかかるかもしれませんが、感想などを貰えると嬉しいです。


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手合わせ

ナザリック地下大墳墓廊下内――

 

「オイ、サキホドノハナシキイタカ?」

 

「先程の話とはなんのことです?」

 

「ドウヤラ、イチジカンゴ二ダイロクカイソウデカイソウシュゴシャサマゼンイントダレカガタタカウラシイゾ」

 

 

今、話をしているのはナザリックに勤めるタキシードを着たメイド指導長のスタチュー・レイフォールドとハデス様の秘書兼幻夢城全域守護者(ナザリックでは、守護者統括の地位にあたる)ルシファーだ

立場上はルシイファーの方が上だが、この2人実はとても仲が良く、2人きりのときになると時間を忘れるくらいよくしゃべるのだ。因みに、スタチューの生みの親はもちろんハデスだ

 

すると前方からなにかが飛んでくるのがわかり、即座にルシファーは戦闘態勢に入ったが、すぐに敵ではないとわかると戦闘態勢を解いた

よく見ると前から飛んできたのは敵でもなんでもなく、このナザリック地下大墳墓の主人モモンガの使い魔バットくんだった。バットくんは蝙蝠種の悪魔だ。見た目は完全に蝙蝠だが強さ的には中くらいのカテゴリーに分類される。

 

「ヴィクティム様ガルガンティア様を除くナザリックにいる全ての者ヨ。一時間後に第六階層までコイとのお達しダ」

 

バットくんは、言うことを言うと奥の方に飛んで行ってしまった

どうやら、他の僕たちにも知らせに行ったらしい・・・だが、ここで親切にしてやるのが上司たるものだ

ルシファーは自分の口前に赤黒い魔法陣を展開させて先程バットくんが言っていたことを振動波でナザリック全体に拡散させた

 

「私は、幻夢城全域守護者のルシファーだ。ナザリックにいる全ての僕達よ、今から一時間後に第六階層に来い。これは、モモンガ様の命令だ。遅刻者は、その場で即刻処分する」

 

言い終えてホッとしていると、横にいたスタチューが「マタ、オソロシイコトヲ・・・」と呟いていたが華麗にスルーした

 

「では、私はこれで失礼させてもらうわ」

 

そう言い残し、ルシファーはバットくんが来た道を奥に進むのだった・・・

 

ちなみに、ルシファーとは頭に二本の角を生やし、髪は黒のロングヘアー、背中には6つの漆黒な羽根が付いており、黒のワンピースドレスを着ている女悪魔である。そして目は両目とも赤く、胸はアルベドより少し大きめだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      ★★★

 

 

 

 

一方、ルシファーがナザリック全域に命令を伝達していた頃、ここ会議室では支配者2人が席に座って重い溜め息を吐いていた

 

「はぁ、面倒なことになりましたね」

 

「そうですね、まさか守護者全員と戦う羽目になるとは・・」

 

「それはハデス様のせいですからね?」

 

「はいはい・・まぁ、殺さないから心配しなさんな」

 

「それなら・・・いいですけど・・・」

 

支配者2人は先程のピリピリした雰囲気から脱出するためにここ会議室まで転移してきたのだ。今の時間なら誰もいないから素の面を出しても誰にも聞かれる心配はなかった。

モモンガは先程のやり取りとピリピリした空間で痛めた――胃、ないけど――胃をなんとか落ち着かせたかったが、この後の展開を想像するとさっき以上にもっと痛くなった気がしたのだった

 

すると、そんなことお構いなしにハデスは壁にかかっていた時計を見ると「もうすぐ時間なんで準備してきますね~」と軽い足取りで会議室をあとにした。その時の姿には、緊張感や恐怖感といった感情は感じられずに軽い感じしか感じ取ることができなかった

 

 

 

一時間後、闘技場(コロッセウム)に行ってみると既に観客席にはこのナザリックで働いている僕達が全員集結していた

そして、中央に目を向けると既に完全武装した各階層守護者たちが輪を囲うように集まりなにかを話していた。一方のハデスはまだ来ていないみたいだった。本来なら来ていても可笑しくないし、時間を破ることもしないハデスに(どうしたんだろうか?)とモモンガが心配しているとハデスが転移してきた。ハデスは普段通りの黒い服装に、両手には指輪を隈なく付けている、ただそれだけだ。武器を持っているとか、防具を付けているとか鎧を着ているとか、そういうのが全く見当たらない・・

 

 

 

「遅れて悪いな。待たせたか?」

 

 

「いえ、そんなに待っておりませんわ。それより、丸腰で来るなんてなにを考えておいでですの?それとも、私たちをバカにしてます?」

 

「いやそんなことはないぞ?それに言ったろ?これはあくまで『手合わせ』だと。手合わせなのにお前たちを殺してしまったらそれはもう『手合わせ』ではなく『殺し合い』だ」

 

 

ハデスは返答と同時にスキルも使わずに単純に濃厚な殺気を守護者に向けて放った。その殺気からは、死を覚悟した。本来ならその場から逃げたいが、恐怖と畏怖から動くことができずまた守護者という立場から後退ることもできないでいた。その殺気は、観客席にいた僕達にも届いており、その中には震えている者や気絶・湿疹しかけそうな者などが多数いたが、モモンガや戦闘メイド(プレアデス)、幻夢城に棲む者たちは何の影響もなかった

 

「おい、ルシファー。今回の説明をしてくれ」

 

『畏まりました、ハデス様。今回、司会を務めさせて頂く幻夢城全域守護者のルシファーです。今回の対戦は幻夢城城主のハデス様VSナザリック地下大墳墓の各階層守護者となっております。各階層守護者には完全武装して頂いておりますし、武器の持ち込みもOKにしてあります。そして、今回の勝利条件は相手が戦闘不能あるいは戦意喪失、武器破壊、寸止めのどれかになった時点で試合終了です。それとこれはあくまで『手合わせ』であり『殺し合い』ではないので相手を殺すことは禁止とさせて頂きます。それでは、試合開始!!』

 

ルシファーの合図に合わせてアルベド、コキュートス、シャルティア、デミウルゴス、アウラは見事な連携でハデスに攻撃を仕掛け、マーレはアタッカーの彼らに支援魔法(バフ)をかけたりとフォローに徹していた

 

「《悪魔の諸相:鋭利な断爪》」

「俱利伽羅剣」

「スキル!レインアロー《天河の一射》」

 

 

デミウルゴス、コキュートス、アウラはスキルを使い、アルベドとシャルティアはまだ使うタイミングではないと感じたのかそのまま自身の身体能力だけで突貫していった。が、ハデスは無詠唱でデミウルゴスが使用した《悪魔の諸相:鋭利な断爪》を発動し、デミウルゴスの攻撃を喰いとめてみせた。その後も続くシャルティア&アルベドの怒涛の攻撃とコキュートス&マーレによるスキル攻撃をなんなく捌いていった

 

「そんな攻撃では、俺に傷一つ付けることもできんぞ」

 

ハデスは事実をただ言っただけだったのに、守護者たちにはそれがバカにされたと感じたのかさらにヒートアップしてしまった

 

「なんで。あの悪魔に当たらないでありんすか!」

 

「カテルキガマッタクシナイノダガ・・」

 

「デミウルゴス、なんかいい手はないの?」

 

「そんなのがあったら教えて欲しいものですね」

 

 

ハデスのあまりの強さに守護者たちもお手上げ状態で、どうしたものかと困惑していると目の前にいたはずのハデスがいつの間にか姿を消していた。誰も彼から目を離していないのにいつ視界から消えたのか、どうやって消えたのか誰も視認できていなかった。デミウルゴスは、自分たちが玩具のように遊ばれていることに腹を立てていたのにそれに加え自分の理解できない現象が起きたことに更に頭に血が上っていた

 

「彼はどこに消えたのですか!」

 

「わからないでありんす・・」

 

「クソっ!」

 

代表してシャルティアが答えるとデミウルゴスは普段は聞かない荒げた声を出して怒りを爆発させていた。そんなデミウルゴスを無視して他の守護者たちは周囲の警戒をしながらデミウルゴスの醜態とでもいえる姿を見ないようにした。その行為は、傍から見れば仲間想いだと見えるが彼ら守護者たちはそれを見たあと怒られるのが嫌だからという理由で見ないようにしていただけだ

 

 

 

一方、ハデスは姿を隠しながら今の戦況を見ていた

 

(んー今のところ俺が有利なのは間違いないし、このままやれば俺が勝つけどそろそろ飽きて来たしな・・・次で終わらせる?それとも片っ端から始末してくか?・・んー・・・・決めた終わらせよう)

 

考えが纏まるとハデスは手に付けていた《クリアー・リング/透明色の指輪》の効果を切って守護者たちの後ろに姿を現した

 

 

「俺は、ここだ。守護者たるものこんなことがわからなくてどうする。こんなことがわからないようじゃ俺に勝つのは不可能だと知れ!」

 

守護者たちはハデスの言葉に唇から血が出るくらい力強く下唇を噛み締ていたが、ハデスはそんなことお構いなしに更に言葉を続けた

 

「次で最後にしよう。この攻撃で死ぬことはないから安心するがよい」

 

すると、ハデスの両手には2つの禍々しく黒い渦が集まっていた。その手に集まっているものを見る限りヤバそうだと感じたアルベドとシャルティアは咄嗟にスキルを発動させて守りの体制に入っていた

 

 

「ウォ―ルズ・オブ・ジェリコ!」

「不浄衝撃盾!」

 

 

「《フォンセテネーブル・タンタシオン/闇への誘い》」

 

 

ハデスの両手から放たれた2つの黒球はゆっくりと中間まで進むと、そこで球同士がぶつかった。球同士がぶつかるとその球は一つに合わさりこの第六階層全土を飲み込んだ。このことに守護者たちも見に来ていた一般メイドや幻夢城の者、モモンガまでもがここがどこなのか、なにが起きたのか全くし理解できていなかった・・・ただ、わかっているのはハデスのみだった

しかし、ハデスはこのことについて全く説明する気がないらしくずっと黙ったままだった

 

 

暫くして、この魔法がなんなのか説明し始めた

 

「この魔法はな、この領域内にいる全ての者から魔力を奪い取る魔法さ。俺やモモンガさん、幻夢城にいる大半の僕は奪われたってほんの少ししか奪われない。それはなぜか?それはな、さっき黙っていたときがあったろ?あの時、この会場にいる者の数名を領域の対象から外したのさ。まぁ、外せるのは数名なんだがな・・・だから、お前たちの魔力なくなってきてるだろ?あ、でも、安心しな。数日、そうだなお前らなら2,3日で元に戻るから」

 

「(そんな恐ろしい魔法あったの!?これ、この世界じゃ最強魔法なんじゃないの?)」

 

「(さすがハデス様です!こんな魔法を扱えるなんて!)」

 

 

ハデスの説明を聞きていたモモンガやメイドたちはそれぞれ心の中で思っていることは違えど、顔に出している表情はなぜか同じ驚いている顔だった

しかし、守護者たちは(なら、魔力がなくなる前に倒せばいいのでは?)とでも思ったのかハデスに向かって攻撃を仕掛けようとしていた。が、それはできなかった・・・

動こうとするたびに足元にある闇の渦がドンドン中に引きずり込もうとしてくる

 

「あー言い忘れたが足元に渦は動こうとすればするほど中に引き込まれるぞー・・引き込まれたら最後、出てこれなくなるからな?中で魔力や肉体、衣類その他諸々溶かされてこいつの養分になるのさ。でも、逆に言えば動かなければ引き込まれずに済むってことさ」

 

その言葉を聞いた瞬間守護者たちはピタリと動くのを止めてジッと立ち尽くしていた

立ち尽くしていると、急にどこからか声が聞こえて来た。その声は、司会者のルシファーの声だった

 

 

『守護者の皆様が戦闘不能だとみなし、試合終了です。勝者は、ハデス様!』

 

そう言い残すと、ルシファーの声は聞こえなくなった

それと同時にハデスは魔法を解除した。結局、守護者が奪われた魔力は半分近かったが、観客席にいたアンデットやメイドは何名か泡を吹いて倒れていたり、グッタリしていた。どうやら魔力を全部持っていかれたらしい・・

 

手合わせが終わると観客席からモモンガが降りて来て闘技場内に降り立った

 

「守護者たちよ、お疲れ様だな。まぁ、無理もない。わたしですらハデス様に勝ったことはないのだから・・さて、今の試合で彼の実力は証明されたと思うがどうだ?私と同じくらい敬意を払い敬ってくれるか?」

 

モモンガが闘技場にいる全ての僕に聞くと観客席にいる僕たちは手を胸元までもっていき腰を折っていた

一方、守護者たちはハデスに向かって跪いていた

 

「ハデス様、一言」

「うむ。我はこのナザリック地下大墳墓の至高の42人の一人かつ『幻夢城』兼第10階層の守護者ハデスなり!以後、見知りおけ!」

 

 

「「「は!!」」」

 

 

 

その後は、ハデスの周りに守護者やメイドたち、幻夢城の者たちが集まり和気あいあいとおしゃべりをしていた。その楽しそうな姿を見たモモンガは自分が入る隙間がないことを悟りこっそり《ゲート/転移門》を開き自室に戻った

 

 

 

こうしてハデスはナザリックの皆に受け入れられ、ギクシャクした雰囲気は消えたのだった




よくよく考えてみたら至高の41人じゃなくハデス入れたら42人でしたので、文中では42人になっています


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ステータス紹介

今回のは、物語ではなく紹介です。

呼び飛ばしても構いませんが、読んでおいた方が後々わかりやすいと思います。

これからもかんな感じで出てくるキャラが増えていきます。


キャラ紹介

 

ハデス (『幻夢城』城主、ナザリック地下大墳墓の神)

 

Lv.110(レベルブーストのアクセサリーを付けているため上限越え。本来なら100)

 

種族:悪魔大元帥 *()内はレベル100のときのもの

 

魔力:???

 

敏捷性:???

 

攻撃力:???

 

防御力:???

 

体力:26515/26525  (24976/24976)

 

耐久力:19874/19874 (18985/18985)

 

装備:漆黒のローブ  (S級)

   魔力増幅の指輪 (S級)

   弱点耐性の指輪 (S級)

   即死・毒などによる状態異常無効の指輪(S級)

   薬物耐性の指輪 (S級)

 

 

補助能力:相手の健康状態やステータスが見れる『神ノ眼』

 相手を魅了する『魅了眼(チャーミング・アイ)

 嘘を見抜く『心眼』

 悪意や殺意などあらゆる感情を読み取る『情眼』

 

 

    *補助能力は常時発動している。

 

 

 

 

ルシファー (城主ハデスの秘書兼『幻夢城』全域守護者)

 

Lv.100

 

種族:堕天使

 

魔力:???

 

敏捷性:???

 

攻撃力:???

 

防御力:???

 

体力:24985/24985

 

耐久力:18798/18798

 

装備:濡羽色のワンピースドレス (S級)    *濡羽色とは、カラスの羽のような色のことを指す。

   魔力増幅の指輪      (S級)

   弱点耐性の指輪      (S級)

   即死・毒などによる状態異常無効の指輪(S級)

   薬物耐性の指輪      (S級)

   結婚指輪を模したプラチナ製の指輪  (B級)*特に効力はないが、ハデスからもらったため付けている

   黒鳶色のヒール      (S級)

 

 

補助能力(スキルとは別物):相手の健康状態やステータスが見れる『神ノ眼』

嘘を見抜く『心眼』

悪意や殺意などあらゆる感情を読み取る『情眼』

光や希望を奪い絶望させる『絶堕』

 

  *補助能力は常時発動している。

 

*ちなみにだが、ハデスによって生み出された元NPC。

 

 

 

 

スタチュー・レイフォールド (メイド指導長)

 

Lv.85

 

種族:半魔 (元々は人間だったが、悪魔に魂を明け渡したことにより人語が片言になった)

 

魔力:???

 

敏捷性:???

 

攻撃力:???

 

防御力:???

 

体力:20278/20278

 

耐久力:16058/16058

 

装備:執事服  (A級)

   手袋   (A級)

 

補助能力:執事が何たるかや基本・応用動作を覚える『執事ノ心構亞』

 弱き者や困っている者を助ける『正義ノ心』

 

*基本的には、セバス・チャンと同類。(生みの親は違うが・・)

 

*生みの親は、ハデス。こんなのが居たらいいなぁという気分で作った

     

*現在まで出て来たキャラしか載っていません(ナザリックの人たちは省きました)が、これから増えていきます



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自業自得

今回のお話は、ルシファーの仕事回です。
いつも普段から大変な彼女の正義感がとんでもない状況になってしまいます


ナザリック地下大墳墓 第10階層『幻夢城』内―

 

守護者たちとの『手合わせ』をした日から既に2日が経っていた

 

 

「ふぁあ~良く寝た~」

 

呑気な声を上げながら起きたのはこの『幻夢城』城主のハデスだった。そして、ハデスの横ではもう一人がスヤスヤと寝ていた。横で寝ていた人物とは、ルシファーだった。

なぜこのようなことになっているのかというと話は少し遡る。

 

 

 

昨日、いつもみたいに秘書の仕事をしていたルシファーはかなり忙しかった。いつもしている仕事量だから今回も捌ききれると甘い考えを持っていた彼女の下に次から次へと部下たちから上がって来た提案書や請求書、報告書が舞い込んでしまい自分の仕事がなかなか終わらせることができずにいた。そんな彼女には日課にしていることがあった。それは外の闇が深くなる時間にハデスの下に行き今日一日の報告をすることだった。しかし、今日に限ってその日課どころか一日分の仕事すら終えていない。そんな彼女は誰もいないシンとした静かな部屋で誰にも聞かれることのない溜め息を溢していた

 

 

「はぁ、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったわ・・いつもならハデス様に報告に行く時間なのに・・ハデス様に会いたいです・・」

 

何でもかんでも引き受けてしまった自分に嫌気をさしていると、誰かがコンコンとノックをしてきたため返事を返すことにした

 

「はい、どうぞ。開いていますわよ」

 

そう返事を返すとガチャリと音を立て訪問者が中に入って来た。のだが、入って来た人物にルシファーは嬉しさと畏怖を覚えた

それは、なぜか・・入って来たのが上司のハデスだったからだ

 

「よう、ルシファー」

「は、ハハハハデス様!?」

 

すぐさま席を立ちハデスの前で跪いたが、ハデスはなぜか笑顔だった。ルシファーにはその笑顔がなにを意味しているのか分からず怖かった。

 

「(ハデス様のあの笑顔はなに?!私、なにか失敗でもしたかしら?いや、そんな失態を犯すようなことはしてないはず!なら、なに?もしかして、なかなか報告に来ないから怒ってるのかしら?)」

 

ルシファーの頭の中は既にパニックになっていた。なぜ、ハデスが自分の書斎に来たのか、なぜ笑顔なのか。彼女は自分が思いつく限りのことを考えてみたがその理由が思いつかずにいた。

そんな彼女の姿を見ていたハデスも困惑していた。なぜ、彼女から恐怖という感情が見えるのか。跪いているため表情はよく見えないが、『情眼』の効果で彼女からは恐怖の念が見えたのだ。

 

「(明らかに怯えてるよなー・・なんで?俺、なにかしたか?それとも急に部屋に来たからか?わからん・・)」

 

ハデスもハデスで黙り込んでいると意を決したかのようにルシファーが声をかけて来た

 

「ハデス様、今回はどのようなご用件で来られたのですか?」

「ん、いや、時間になってもなかなか報告に来ないからなにかあったのか心配になって来たんだよ」

「そうでしたか・・ご心配、ありがとうございます」

 

ルシファーはハデスが自室に来た理由を聞きホッと胸を撫でおろしていた。が、ハデスはというと室内をキョロキョロしていた。女の子の部屋をキョロキョロするのは悪いと感じたハデスだが、リアルでも女の子の部屋に行ったことが無かったハデスは女の子の部屋はどんな風になっているのか興味津々だった。部屋をキョロキョロしていると片隅に書類の束がドバっと置いてあることに気づいた。その紙には、「提案書」やら「報告書」と書いてあった

 

「(うわー、あれ今日の分のだよな?すげー量あるじゃん・・・あれじゃ、なかなか仕事が終わらないわけよ・・待てよ、ということはさっきの恐怖は仕事が終わってなくて怒られると思ったわけか・・なるほどなー、でも・・よし、ここは休ませてやるか!)」

「ルシファーよ、今日の仕事は終わりだ。いいな?」

「・・!!しかし、ハデス様まだ今日の分が・・」

 

ハデスからの唐突な言葉に飽きられたと感じた彼女は必死に反論しようと試みるが、ハデスからの眼圧に負けて言い返せなかった

そんな心情を知らないハデスは部屋から出ていこうとしていたが、扉の前で止まった。

 

「あとで、俺の部屋に来い。いいな?」

「はい・・」

 

なんと、ハデスに部屋に来るように言い渡されたのだ!

普段の彼女なら「これは!」と喜ぶのだが、今回ばかりは素直に喜べなかった

 

それからというもの彼女は机の上の書類を一か所にまとめてすぐにハデスがいる部屋へと向かった。

部屋の前には今日のお付のメイドであるジャスミンが立っていた。

余談だが、ジャスミンとは黄緑色の髪をし紫色の眼をしたメイドである。こう見えて彼女の主な任務は偵察や暗殺だ。しかし、任務がないときはこうやってメイドとしても働いている

 

 

「ハデス様に呼ばれてきたのだけど、ジャス開けてくれるかしら?」

「ルシファー様、ただいま確認してきますので少々お待ち願えますか?」

「えぇ、わかったわ」

 

 

するとジャスミンは部屋に入っていきすぐさま部屋から出て来た

 

「お待たせいたしました。どうぞ」

「ありがとう」

 

 

なにされるかわからなかったルシファーは覚悟を決めて中に入ったが、特になにをされるわけでもなかった。どうやら、今回呼んだのは疲れているであろうルシファーと一緒に寝て気休めして欲しかったらしい

そして、冒頭に戻るというわけである。

 

 

 

 

 

 

いつもより、早く起きたハデスはササッといつものローブに着替え扉番に挨拶をしてルシファーの書斎に向かった。

その後を昨日のお付メイドジャスミンが着いてきた。一回はやんわりと断ったが、この時間じゃまだ他のメイドは寝ていて同行する者がいない、ということで同行を許可した。

 

 

「お邪魔しまーす・・」

 

ハデスは一言挨拶をして書斎に入り、昨日ルシファーが座っていたイスに座った

 

「意外と良いイスじゃないか!」

 

イスの座り心地がいいために今回来た目的を忘れそうになっていた・・

 

「おっと、今日来たのはこの書類を終わらせるためだった・・」

 

 

ハデスはイスに気を取られていたことに少し反省し、机の端にまとめられた書類を手に取り流れるようにサインをしていた

 

「ジャス次の書類を取って、これ置いて」

「はい、承知いたしました」

 

ジャスミンの協力もあって二時間ぐらいで書類全てを捌き切った

 

「ふぅー疲れた」

「紅茶をどうぞ」

「ありがとう。いい香りだ」

 

 

ハデスがイスに座ったまま腕を伸ばしていると横から淹れたての紅茶が出された。しかも、淹れたてのため香りがすごくよかった。それと同時にどこから持ってきたのか凄く疑問だった

 

「ジャス、今日のことは誰にも言っちゃダメだからね?これはジャスと俺だけの秘密だ」

「わかりました。」

 

ハデスから今日のことを口止めされたジャスミンはその場で静かに頭を下げていた

 

「朝食まで、まだ時間があるか・・部屋に帰ろっか」

「そうですね、ハデス様」

 

 

こうして2人は静かに部屋に帰って行った。

 

 

その後、時間通りに起きたルシファーは昨日の書類の続きをやろうと書斎に行くと昨日まで束で合った書類の山は全部なくなっており代わりにサインが自分の名でしてあった

このことにルシファーはクスッと小さな笑みを浮かべた

 

 

「(ハデス様ったら、お人好しなんですから・・うふふ、でもそんなハデス様が私は大好きですわ)」




皆さんも、友人・先生からの頼み事や部活動や会社の上司・同僚からのお願いをなんでも聞きすぎて手に負えなくなる経験をした方はいませんか?多分、いますよね(笑)
今回は、それをルシファーがやらかす回でした。

ちなみに、さりげなく新しいキャラ『ジャスミン』を登場させました。


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初めての人助け

ナザリック地下大墳墓第9階層の奥部屋ー

 

「う~ん、なかなか上手く操作できないな・・」

 

現在、この部屋では支配者であるアインズが遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使い周囲の状態を確認していた。しかし、その操作はどこかぎこちなく離れた場所からの視認しかできず近づけて視るという動作ができずにいた。

 

「そんなことは、ありません。アインズ様」

 

そんなアインズの言葉を否定したのは、執事長のセバス・チャンだ。彼はアインズの書斎に仕事の報告をしにきたのだが、アインズが「今から遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を使い周囲の状態を確認する」と言ってきたので、そのまま残り一緒に確認することにしたのだ。そして、周囲の状態を確認しているとガチャという音を立てながら大きく重そうな扉が開かれた。

 

 

「よぉーアインズいるかー」

 

そんな気さくなで且つ敬意を払わない言葉を言いながら部屋に入って来たのは我らの至高の支配者と同じく至高の42人の一人である『幻夢城』城主ハデスだった。前までは、自分たちナザリックの者が仕えるに足らない人物であると思い特に敬意を払わなかったが、ある賭けをしハデスと階層守護者たちで戦い、仕えるに足りる人物であると認識しなおした人物だ。普段は、威厳なんか感じないがやるときはやる、そんな人物だ。実力的には、片手間で階層守護者全員をあやせる程だ。そんな人物がノックもせずにズカズカと入って来た。だが、アインズは遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》に集中しており、ハデスが来たことや呼ばれていることに全く気付いていない。しかし、ハデスはアインズがいることに気づくとドンドン近づいていきー

 

「なんだ、アインズいるじゃねーか。無視すんなよ」

 

と言いながらアインズの肩に手を置いた。すると、アインズはビクッとしながら後ろを向いた。

 

 

「ハ、ハハハハデス様!?いつの間に!?」

 

 

驚きすぎてイスから落ちてしまったアインスだが、ハデスはそんなのお構いなしに「何をしていたんだ?」と疑問をぶつけた。その疑問にアタフタしながらもなんとか質問に答えようとしていた。

 

「あ、今は遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を使って周囲の状態を確認しているんです」

「遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》ね・・」

 

アインズが質問に答えると、ハデスは暫く考えたような素振りをし遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を勝手に操作し始めた。その操作はアインズよりもスムーズに行えており、すぐに村を発見することができた。その様子を見ていたアインズは少しばかりショックを受けていた。しかし、発見した村は見たこともない鎧を着た兵士によって蹂躙されており既に何軒か家や畑が燃やされていた。違う箇所に目を向けてみると女性が何人かの兵士に犯されていたり、嬲られていたりしているのが映った。

 

「なぁ、これ祭りをしている風に見えるか?」

「いや、これは侵略行為じゃないですか?」

 

 

ハデスの問いかけに先程までテンパっていたアインズがいつもの口調で答えていた。そんなアインズは今度セバスに「お前はどう思う?」と問うてきた。しかし、その質問の意味がいまいちわからなかったセバスは「どうとは?」と問い直した。すると、先程から口を閉じていたハデスが今度は「これは祭りに見えるかどうかということだ」と聞いてきた。そういうことかと理解したセバスは正直に「いえ、これは虐殺をしているように見えます」と答えた。

 

 

「だよな・・」

「どうします、ハデスさん」

「・・・」

 

アインスの問いにどうしようかと考えていたハデスは暫く唸っていた。が、その時遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》に2人の兵士から逃げている姉妹の姿が映った。これを見たハデスは『チッ!』と舌打ちをしながら、どうするか決めた。

 

「このまま殺されるのを黙って見届けるのは気分が悪いから助けに行く。セバス、すぐにルシファーに『アズリエルに完全武装で来い』と伝えろ」

「了解しました」

 

ハデスはセバスに言伝を任せて、自分の目の前に転移門(ゲート)を開き現場に急行した。取り残されたアインズは「どうかご無事で・・」とハデスの無事を祈っていた。

 

 

 

                ★★★★

 

 

 

 

人目についてはいけないだろうと思ったハデスは目的地よりも少し遠い場所に転移門《ゲート》を開いた。現場に着いたハデスは、先程遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》で見た姉妹を探していた。暫く探していると近くから<キャァァァァァアア>という悲鳴が聞こえて来た。すぐさま悲鳴が聞こえた場所に走った。

 

 

「頼むから間に合ってくれよ!」

 

ハデスが走っていると、背中を切られ大量の血を流している姉とそれを見て泣いている妹を発見した。ハデスは、すぐさま彼女らを庇うように目の前に立った

すると、自分の楽しみを邪魔されたからなのか、背中を切った兵士は機嫌を悪くしながらこちらに質問してきた。

 

 

「お前はだれだ?すぐにその場からどけ」

「退く気はない。それにお前たちに名乗る名なんかない!」

 

 

返答を聞いた兵士は遂に逆上し、ハデスを切り殺そうとしたが「しょうがない・・」と言いながら心臓掌握(グラスプ・ハート)を発動させた。すると、切りかかろうとしていた兵士が突然苦しみだし血を吐きながら倒れた。何が起きたのかわからなかったもう一人の兵士はその場に座り込んでしまい怯えていた。

 

「た、頼む・・助けてくれ・・なんで、も・・するから・・だから・・」

「・・・」

 

兵士はハデスに懸命に命乞いをするが、助ける気のないハデスは手で心臓を握り潰す動作をすると、口から血を吐きながら倒れ静かになった。その兵士が静かになると空間に黒い穴が出現し、中から漆黒の鎧を着た人物が出て来た。

 

「ハデス様、遅くなって申し訳ありません。アズリエル到着致しました。」

「うむ、忙しい時にすまんな。お前の好きな虐殺ができるぞ」

「本当ですか!?」

 

ハデスからのお言葉を聞いたアズリエルは目をキラキラさせながら口元から涎を垂らしていた。そんな彼女を見ていた姉妹はまたしても怯え、足元に水溜まりを作っていた。そのときだ、ようやく自分と主人であるハデス様以外の人物がいることに気が付いた。

 

 

「ハデス様、ここにいる下等生物も殺していいのですか?」

「ひぃ!どうかご勘弁を・・」

「いや、そいつらは違う。お前がやっていいのはそこの死んだ兵士と同じ鎧を着た者だけだ。というか、今回の目的はこいつらの救助と村の奪還だ」

「招致致しました。」

 

 

アズリエルに大まかなことを説明するとハデスは姉妹の下に行き姉の背中にポーションをぶっかけたながら「それで、お前たちは大丈夫か」と足元の水溜まりを見ながら質問していた。その質問の意味が分かったのか姉は「はい///」と顔を赤くしながら返事をしていた。それを見ていたハデスは(このままだと恥ずかしいよな・・はぁ、服でもやるか)と思い何もない空間に手を入れ中から小さな笛と2人分の服を出した

 

 

「とりあえず、そのままじゃ恥ずかしいだろうからこの服に着替えてきなさい。笛の説明はそのあとだ。」

「はい///」

 

姉はハデスの言葉通り2人分の服を取り妹と一緒に茂みに向かって歩いて行った。その間、ハデスはさっき殺した兵士の死体を使い不死者創造(クリエイト・アンデッド)死霊騎士(デス・ナイト)を創造していた。

死霊騎士《デス・ナイト》を創造し終えると、着替え終わった姉妹が茂みから出てきてた

 

「助けて頂きありがとうございました。あの、お名前は何というのですか?」

「別に感謝されるようなことはしていなさ。名は、ハデスだ」

「ハデス・・・あ、私はエンリ・エモットと言います。で、こっちが妹のネム・エモットです」

 

エンリがハデスのことを呼び捨てにしたことにアズリエルは一瞬イラついたが、主人の前でキレるわけにもいかないため我慢していた

しかし、エンリはハデスと言う名前に聞き覚えがあった。それは、昔妹ネムに読み聞かせて本の中に登場した人物の名と同じだったのだ。だから、エンリはつい呼び捨てにしてしまったが、これはマズイと感じすぐに自分たちの紹介をすることでなんとか誤魔化した

 

 

「そうか、エンリとネムか良い名だな」

「ありがとうございます//」

「さて、我々は今から村を奪還しに行くがお前たちもついてこい。その前にその笛についてだが、自分が危険だと感じたときに吹くと下級悪魔が出てくるようになっている。出て来た悪魔は呼び出した者に忠実になるから叛逆するような心配もないぞ」

「はい!何から何までありがとうございます」

「(まぁ、下級と言っても出てくるのはレベル50程度の悪魔なんだけどね)その力で村人や妹を守ってやれよ」

「はい!」

 

しかし、1つだけ疑問が残る。それは、人間嫌いのハデスがなぜ人間を助けるのかと言うことだが間違いの起こらないように1つだけ言っておこう。ハデスは全人類が嫌いなわけではない。懸命に働いている者や良き行いをしている者など善行者は好きだ。しかし、人身売買や人殺し、麻薬、仲間や部下に手を出した者なんかは基本的にどうでもいいと考えている。それこそ、奴隷にしようが人体実験しようが・・・

 

 

そう言い残しハデスはアズリエルと死霊騎士《デス・ナイト》を連れ、村の方へ向かい歩いていった。その後をエモット姉妹が付いて行ったのだった。




今回出て来たアズリエルの性格ですが、基本的には虐殺や拷問が好きな女悪魔です。基本的に人間は下等生物であると見下しており叛逆や歯向かう者には容赦ないですが、従属や気に入った者、奴隷には壊さないようにしています。そんな一面のある彼女ですが、自分のことしか考えられなくするように調教したりするのも好きです。ですが、一番好きなのは主人であるハデス。ハデスの頼みや命令であれば、一切断ることなく全て成し遂げます。たとえそれが自害や裏切りであっても・・・


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カルネ村の救済&悪魔襲撃の前兆

<>は≪思念伝達/メッセージ≫内での会話を表しており、()はキャラの心情を表しています。

それと、今回はいつもより文字数が多いです。


ここに来る前に死体で作成した死霊騎士《デス・ナイト》を連れカルネ村に行ってみると、そこでは先程殺した兵士と同じ鎧を着た派兵士たちが村人たちを蹂躙していた。その光景に嫌気の指したハデスはすぐさま死霊騎士《デス・ナイト》とアズリエルに抹殺命令を下した

 

 

「死霊騎士《デス・ナイト》、アズリエルよ5分だ。5分で終われせてこい。」

「畏まりました。しかし、ハデス様5分も要りません。2分で十分です。」

 

 

そう言い残すとアズリエルと死霊騎士《デス・ナイト》は、地面を力強く踏み込み駆けて行った。

その地面を見てみると地面が抉れ、小さなクレーターができていた。

 

 

その場に残されたハデスは兵士たちが蹂躙されているところを目を逸らさずに見入っていたが、エモット姉妹はお互いに抱き着きながら見ないようにしていた。

すると、少し離れた場所から兵士たちの悲鳴が聞こえて来た。

 

 

「ギャァァァァァァァァアア」

「お前たちは何者だ」

「お前たちに答える気はない」

 

 

目の前の兵士たちは突然自分たちの身に起きた最悪の悲劇が理解できずに泣き叫んでいる中一人の兵士が口を開いたが、アズリエルは彼の疑問を泣き叫んでいる兵士の腕や脚を引きちぎりながら答えていた。

もちろん、引きちぎられた兵士は何回も失神したり、漏らしたりしたがその都度痛みを与えて意識を覚醒させていた。四肢の分裂が完了すると、今度は持ち前の何の効果もないナイフで兵士の皮を剥ぎ取り始めた。その様子を見ていた先程の兵士は表情はドンドン青褪めていき次第に逃げようとしたがアズリエルに足を踏まれ動けずにいた

 

 

「今、逃げようとしましたね?そうですよね?私から逃げるウジ虫には罰が必要ですね」

「ひ、ひぃ・・どうか許して・・ください・・」

 

 

命乞いをする兵士にアズリエルはニッコリと笑顔を向けながら、兵士の足首を踏み砕いた。踏み砕かれた兵士はその場でゴロゴロとのたうち回っていたが、そんなことは気にも留めず皮を剥ぎ続けた。

数秒して剥ぎ終えると何かを思い出したようにハッとしていた

 

 

「いけない、こんなことしている場合じゃなかった。さっさと殲滅しなきゃ!時間は・・あと10秒か~急がなきゃ!」

 

 

アズリエルには欠点があった。それは自分の好きなことに夢中になると時間を忘れて周りのことが見えずに満足するまで終わらないことだった。それが原因で彼女はユグドラシルで一回死にかけたのだ。

だから、今回みたいに途中で手を止めて我に返るのはとても珍しかった。しかし、時間を確認すると既に残り時間が10秒しかないことに気づいた。ハデスには5分と言われたが2分と言ってしまった手前2分以内で片づけることは僕たちにとっては当たり前のことだ。ましてや、自分が言った時間に終わらなければ同僚や上司、ハデス様からお叱りを受けることにも繋がってしまう。そんなことになれば『幻夢城』での自分の立場が無くなってしまうのだ。

彼女自身も何人もの同僚や部下を叱ってきた身。だから、このことは嫌と言う程理解している。

 

 

 

それからというものの彼女の動きはとても速かった。目にも止まらない速さで兵士たちを殺さずに無力化し、ものの2、3分で全て殲滅とまではいかないが完了した。殲滅が完了すると今度は死霊騎士《デス・ナイト》に指示を出した。

 

 

「死霊騎士《デス・ナイト》よ、ここら辺に横たわっているオモチャを人目の付かない場所に持って行っておいて。絶対に気づ付けるなよ?私はハデス様に報告に行ってくる」

「ウォォォォオオ」

 

 

指示を受けた死霊騎士《デス・ナイト》はすぐに兵士たちを離れた場所に持って行った。その働きぶりを見て満足したアズリエルは急いで敬愛するハデスの下に向かった

 

 

「ハデス様、殲滅完了しました。」

「ご苦労様。でもアズのことだ、無力化しただけで全員殺してないんだろ?」

「なんのことですかね?そ、そんなことは・・ありませんよ?」

 

 

ハデスの質問が的を得ていたためアズリエルは目を逸らしながら惚けることにした。すると、ハデスはアズリエルを手招きした。

なんだろうと思い近寄ってみるとー

 

 

「アズ、素直に言わないともう甘やかしてやらんぞ?」

 

 

と耳元で言われてしまい顔を赤くしながらプルプルと震えていた。

すると、すぐに謝罪した

 

 

「申し訳ありません。実はハデス様の言う通り無力化しただけで、オモチャはあとで楽しむために生かしております。どうかお許しください!」

「はい、素直に言えました。別に怒ってんないから安心しろ。ただ、俺はアズに素直になって欲しいだけよ。ほら、遊んでおいで」

「・・・!!ありがとうございます!」

 

 

ハデスが怒っておらず、遊んでおいでと言われた喜びからアズリエルはその場をすぐにでも離れようとしていた。が、ハデスに呼び止められてしまった

 

 

「あ、ちょっと待って。アズ、そのオモチャの中に隊長みたいなのいた?」

「はい、隊長かどうかはわかりませんがやけに派手な鎧を着て騒がしい人物ならおりました。お連れしますか?」

「お願いできるか?すまんな、せっかくのオモチャを取ってしまって」

「いえいえ、お気になさらずに。一人減ったところでなにも変わりませんから。少し待っていてくださいね」

 

 

そう言い残し、アズリエルは言われた人物を持ってくるために離れて行った。数分して戻ってくると要望していた人物が渡された。その人物を受け取るとハデスは隊長と思われる人物を引きずりながら人が一ヵ所に集まっている所に歩き出した。が、ここであることに気づく。それは今の自分の姿が悪魔であること。このまま行けば、村人たちに恐怖を与えてしまう。そう考えたハデスは部分隠し《ハイド・セクション》で角や尻尾を隠し、幻術魔法で肌色を人間に近い色に変えた。村人たちはこちらに向かってくる人物に警戒しながら見ていた。すると、奥から村長らしき人が出て来た。

 

 

 

「貴方がこの村の村長さん?」

「はい、私がこの村の村長です。この度はこの村を助けてくださり、ありがとうございました。」

「いえいえ、当たり前のことをしたまでです。それで、この兵士さんどうします?」

「お任せしますよ」

 

そう言いながら村長は負傷した村人の元に歩いて行った。

しかし、ハデスは兵士の処遇をどうしたらいいのか迷っていた。

 

 

(ん~こいつらどうしようかな・・・アズのオモチャにする?それとも、ナザリックに持って行って拷問して情報引き出す?それとも、恐怖公行き?いやいやいや、最後だけはないわ・・)

 

 

ハデスは悩みに悩んでいたが、遂に決意したのかパンと手を叩いた。そして、なにも言わず目の前に《転移門/ゲート》を開き、隊長格の兵士を放り投げた。放り投げて満足していると、思念伝達(メッセージ)がすぐに届いた。送り主は、ナザリック地下大墳墓で特別情報収集官(別名:拷問官)をしているニューロニスト・ペインキルからだった。どうやら急に自分の所に送られてきたため思念伝達《メッセージ》をしてきたようだ。

 

 

<ハデス様、この人間どうするんですかぁ~?>

<そいつをお前の好きなように拷問して情報を聞き出してくれ>

<そういうことでしたらお任せくださ~い>

 

 

ハデスはなにも詳しいことや経緯を話さずに思念伝達《メッセージ》を切ったが、切る間際に向こう側から既に悲鳴が聞こえた気がした。だが、ハデスは敢えて聞くことはしなかった・・・

思念伝達《メッセージ》を終われせると、今度は村の周りを警戒させていた不可視蝙蝠(インヴィジブル・バット)から同じように思念伝達《メッセージ》が入った。

 

 

<どうした、なにかあったか?>

<はい、実はその村に向かって先程の襲撃時とは違う鎧を着た集団が向かっており、その反対側ではまた別の魔法詠唱者(マジックキャスター)軍団が潜んでおります。このことから彼らの目的は鎧を着た集団ではないかと愚行致します。如何なさいましょうか?>

 

 

 

この不可視蝙蝠《インヴィジブル・バット》はレベル50と低いものの偵察や情報収集、隠密行動に優れハデス自身がユグドラシル時代に作成した蝙蝠なのだが、名前にもある通り常に不可視化しているため目で見ることはできず、攻撃も物理攻撃も魔法攻撃も全て通さないと言った鬼畜チートな性能を兼ね備えている。それに加え、彼らには目というものが存在せず基本的に体温や嗅覚・音で識別している。そんな彼らだが、実は倒す方法は1つだけある。それは、作成者自身による命令だ。つまり、ハデス自身が「消えろ」もしくは「死ね」と言えば彼らは消滅するのだ。

そんな彼らが至急ハデスに報告したということは、それほど危険か予想外の出来事というわけだ。

 

 

<ふむ、なるほどなるほど。それはこっちで対処する。報告ご苦労だった>

<はっ!では、失礼します>

 

 

その場で佇んで動かないでいたハデスを見ていつの間にか戻っていたアズリエルは「ハデス様?」と声をかけてみることした。が、ハデスは聞こえなかったのか急に村長のいることろに向かって歩きだした。その姿に気づいた村長は自らハデスの元に向かい「いかがなされましたか?」と聞いてきた。

 

 

「実は少し前まで人里付かない場所で魔法の研究をしていてだな、ここら辺の地図や情報には疎いのだよ。よかったら、情報を貰えないか?」

「そういうことでしたら、こちらへどうぞ」

 

 

ハデスが嘘の説明をすると、そういうことならと村長はハデスを自分の家に招き入れた。そして、村長との話で分かったことがある。

 

 

・この村はリ・エスティーゼ王国領であり、リ・エスティーゼ王国はバハルス帝国と現在戦争中であること。戦争といっても、年一回カッツァ平野でやっているため今の所人的被害も建築被害もないとのこと。

 

・この村の周りには、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国といった三大国家があり、その周りに幾つもの小さい国が存在する。

 

・この世界ではユグドラシル金貨は使えず、純金と同じ価値しかない。そして、人類が到達できる最高魔法位階は第6位階までであり、現在第6位階魔法を使えるのはバハルス帝国にいるフールーダ・パラダインだけということ。

 

 

など様々な貴重な情報を貰いお礼を言おうとしたところで、村の警護を任していたアズリエルがノックもせずに入って来た。

どうやら、先程報告に上がった、別の兵士が到着したようだ。どんな人物なのか村長と一緒に見に行ってみると、そこには馬に乗った何の効果も無さそうなよりを着た騎士がいた。

 

 

「私は、リ・エスティーゼ王国騎士団戦士長、ガゼフ・ストロノーフその人である。我が王から王国から離れた村々が襲われているとの報告を受けやってきたのだ。村長と話がしたい。」

 

 

ガゼフは、高らかに自分のことを紹介し始めたがハデスはその紹介を聞いている間笑わないようにするのが精一杯だった

 

 

(なに、あの弱そうな装備を付けてるのが周辺国最強の人なの?マジかwありえないでしょw)

 

 

村長の話にももちろんガゼフのことはあったが、ハデスはもっと厳つくて鎧も立派でいかにもな人物を想像していたため思っていたイメージと違うガゼフを見て笑いそうになっていた。

すると、村長が彼の前に出ていき簡単に紹介をした

 

 

「私がこの村の村長です。」

「そなたが村長殿か。実はー・・・」

 

 

ガゼフが今周辺の村で起きていることを説明しようとした時、村長の後ろにいる人物に気づき、「村長、彼らは?」と尋ねていた。その質問に村長が答えようとするとハデスは手を上げ止めさせた。

 

 

「自分はハデスという旅人です。で、こっちがアズリエル。実は旅をしているときにたまたまこの村が襲われているのを見かけまして助けに来たのですよ」

「そうであったか、それは何とお礼を言ったらよいか!カルネ村を救って頂き感謝する」

 

 

ハデスの言葉を信じたのかガゼフは乗っていた馬から降りて、こちらに頭を下げた。

その行動にガゼフの部下たちはザワザワしていたが、彼は頭を下げ続けた。暫くして、襲われていたときの事情聴取をするために村長を連れ、村の方に消えていった。

 

 

 

村の方に消えてから数十分が経過すると村長とガゼフが戻って来た。そのまま帰ろうとした時、周囲を双眼鏡で確認していたガゼフの部下が反対側から何者かが進行してきているのを捉えた。

 

 

「戦士長殿、向こうから魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき集団が向かってきております」

「なに!?どこの国の者だ?」

「アレは、スレイン法国の者です。」

「なんで、スレイン法国が・・」

 

 

ガゼフは本来ならいるはずもないスレイン法国がいることに疑問を感じたが、考えるころをやめすぐに彼らの元へ馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ★★★★

 

 

 

 

 

 

 

ニグンは焦っていた。

 

今回の任務は、ガゼフ・ストロノーフの抹殺だった。そんなことをすれば人類守護を謳う意味がなくなってしまう・・しかし、彼らも軍の、それも自国の6つの軍の1つ陽光聖典に所属する騎士。上の者には逆らえない、逆らえるはずもない。本来ならニグンは今回の任務はしたくなかったが、やるしかないと腹を括り自国を出発した。王国領に向かっている最中に考えた作戦だったが、我ながら完璧な作戦だと思い込んでいた。まず、少数の先発隊を送り適当に村人を殺したら戻ってくる。そして、出て来たガゼフを天使を使って叩く。こういう作戦だった。だが、先発隊からなんの音沙汰もない。村人を嬲るのに楽しんでいるに違いないと最初は感じていた。しかし、いくら待っても先発隊は戻って来ず連絡もない。これはおかしいと感じた陽光聖典隊長のニグンはすぐに部下を集め急遽作戦を変更して直接乗り込むことにした。

 

 

すると、なんと嬉しいことに目的の人物が自らこちらに向かって来ているではないか。これはチャンスと思ったニグンはその場で馬を止めた。それに合わせて部下やガゼフ隊も馬を止めた。

 

 

 

「私は、リ・エスティーゼ王国騎士団戦士長、ガゼフ・ストロノーフその人である。なぜ、法国の者がこの地にいる!理由を教えてもらいたい!」

 

 

しかし、ニグンたちは馬から降りただけでしゃべろうとはしない。それとは、逆にニグン隊はすぐに天使を召喚した。その光景を見たガゼフは、法国の狙いが自分自身であると瞬時に理解した。部下たちも理解したのか、すぐに馬から降りて戦闘態勢に入った。戦闘は熾烈なものだったが、人数的にも装備的にも歩は相手側(スレイン法国)にあった。なにせ、自分の装備はいつもの戦に出るような装備ではなくどちらかと言えば鍛錬中に使う装備なのだ。王に進言しても、他の貴族の賛同が得られず持ち出すことができなかった。これらのことからガゼフはここが死地になるのだろうと覚悟を決めた。すると、先程ハデスから渡されたお守りが急に光出した。

 

 

 

 

ニグンは、違和感を抱いていた。

周辺国最強と謳われるガゼフがあまりにも弱すぎたのだ。よく見れば彼の装備は資料で見た物とは違い、みすぼらしい格好をしていた。こんな脆弱な戦士長を殺すのかと心が痛んだが、考えないようにして任務に励んだ。ガゼフを殺すことだけをひたすらに考えて・・あと少しでガゼフが殺せると思ったニグンは少し気を抜いていた。気を抜いていると、急にガゼフの腰に付いているお守りが光り始めた。その光に抗えずに咄嗟に目を閉じてしまった。暫くして目を開けると、そこにいたのは先程までいたガゼフではなく冴えない顔をし黒の法衣を着た青年に近い男と漆黒の全身鎧を着た女がいた。

 

 

「お前たちは何者だ!ガゼフをどこにやった!」

「俺は、ハデス。いや、なにさっきまでアンタの話を彼を通して聞いていたがどうにも彼じゃ勝算低いみたいだから代わりにやってやろうと思ってな」

「ほう、大層な口を利くな小僧。自分ならば我ら陽光聖典に勝てるとでも?馬鹿にしおって!今すぐにでも死ね!」

 

 

ニグンは自分たちがバカにされたと感じたのか、天使たちで一斉攻撃を行った。彼の姿は土煙に覆われ見えなくなったが、死んだと思った・・しかし、実際土煙が晴れていくとその場には人影ができ始めた。それをみてニグンたちは「まさか!」と口に出していた。

 

 

 

「きかないな。そんなものか?」

 

 

土煙の中から出て来たのは、無傷のハデスだった。ハデスは首を手で撫でているが、実を言うとハデスに魔法は全く当たっていなかった。それは、魔法が当たる直前自分の魔法と相打ちさせ爆発させていたのだ。仮にもし、魔法が当たってもハデスには完全物理無効化Ⅷと魔法攻撃完全無効化Ⅸがあるため全くダメージを負うことがないのだが・・・彼にダメージを与えるには超位魔法か第10位階魔法を使うしかないのだ。

驚きを隠せない陽光聖典はその場でフリーズしていたが、ハデスはそんなのお構いなしに脚に力を入れ一瞬で彼らとの間合いを詰めた。そして、なんの魔法を使わず身体能力だけで操作者である兵士を沈め、邪魔してくる天使をも沈めた。その光景を見ていたニグンは自分の隊が一方的にやられていく姿に呆気を取られ、切り札として渡された魔封じの水晶のことをすっかり忘れてしまっていた。粗方兵士を沈め終わったハデスはゆっくりとニグンに向かって歩きだした。

 

 

 

「く、来るな・・ば、バケモノ・・・」

「・・・」

 

 

ハデスは自分がバケモノ呼ばわれしたことに内心怒っていた。(確かに俺はあくまだよ、バケモノだよ!でもな!今は人間風に見えるだろ?あー、なんかイライラが収まらん!いっそのことこいつらの国滅ぼしちゃえ!!)

ニグンは恐怖で動くことはできなかったが、なんとか口だけは動かすことができた。しかし、ハデスはどんどんニグンに向かって歩みを進める。が、急に後ろからドンという音が聞こえた。こんな平野に岩があるはずもないと感じたニグンはすぐさま後ろに視線を向けた。すると、そこには先程の漆黒の全身鎧を着た女が立っていた。

 

 

「な、なんでも・・す、する・・だから・・命だけは・・」

 

 

そう命乞いをするも彼らの耳には届かず、急に痛みが襲ってきた。何事かと痛みの先に視線を移すと、自分の左右の手が切り落とされていた。ニグンには理解できなかった・・いつ切られたのか、どうやって切られたのか が・・だが、至って簡単なことである。後ろにいたアズリエルが魔法で疑似的な剣を創り出し両肩から切断しただけである。その後は、作った剣を消しただけだ。ニグンは、このとき死を覚悟したが言われた言葉は意外な物だった。

 

 

「おい、スレイン法国に行くぞ」

「は?」

「聞こえなかったのか?だから、スレイン法国に行くぞ。それと、アズはそこのオモチャで遊んでていいからな。でも、悪いな虐殺させてやれなくて・・」

「なにを仰いますか!遊び道具をくれただけでも感謝していますよ?」

「そうか」

 

 

と返事をしたハデスは目の前に≪転移門/ゲート≫を開いた。一方、ニグンはと言うと彼らの会話から人間のことを遊び道具としか思っていないことも驚きだったが、目の前の急に現れた黒い穴にも驚いていた。しかし、驚いている暇もない。ハデスは、ニグンを≪転移門/ゲート≫に放り込んだ後自分も潜って行った。

 

 

 

 

ーこれにより、悪魔が訪問することになったが、スレイン法国民には知る余地もなかった。



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悪魔の訪問ー上ー

皆さん、お久しぶりです。

更新するのに時間が掛かってしまってすみません 

今回のストーリーは長いので何話かに分けて投稿しようと思います。


転移門(ゲート)を通りハデス達が出現した場所は、思っていた景色とは少々違う所だった。

床も壁も天井でさえも石で囲まれた所に転移門は現れ、てっきり屋外に開かれると思い込んでいたハデスとアズリエルは少々拍子抜けしていた。

 

 

「なんか肌寒いですね。ハデス様は寒くないですか?」

「大丈夫だ。それより、ここは地下かなにかなのか?」

 

 

ニグンは、ハデスとアズリエルの会話を聞きながら内心焦っていた。

 

 

(今、なんと!彼女は今、”ハデス様”と呼んだのか!?呼んだよな!?ハデス様と言ったら誰もが知っている昔話に出てくる世界を作ったとかいう神だぞ!!その話が本当なら俺たちは神に喧嘩を売ったことになるのか!?マズイマズイマズイ・・・このままではスレイン法国が滅んでしまう!)

 

 

内心、荒れに荒れまくっているニグンだが表情は持ち前のポーカーフェイスでなんとか気づかれていないだろう・・・

しかし、いずれは気づかれてしまうのではないか、そんな感情が彼の頭の中をグルグルと駆け回っていた。

 

 

そんな彼がハデスたちを連れて来たこの場所は、聖典本部のかなり重要な場所だった。

何故そんな場所に転移門が開いたのか・・・

それはニグンの助けを求める心が導いた結果である。転移門を開く際ハデスはニグンに「人目に付かない場所はないか?」と質問したことでニグンはこの神を倒せるかも知れない唯一の人物が居る場所を教えたのだ。つまり、ニグンはハデスたちを罠に嵌めたのだ。

 

 

しかし、いくら歩いてもその倒せるかもしれない人物は姿を現すことはなかった。

この場所に来てからどれくらいの時間が経ったのか、どれくらい歩いたのか、さっぱりわからないが体感的にはかなりの時間、かなりの歩数歩いた感じがしていた。

そんなことを感じていると後ろから声がかけられたー

 

 

「なぁ、どこまで歩くんだよ?」

 

 

聞いてきたのは痺れを切らし始めたハデスだった。

ハデスたちが痺れを切らすのも当たり前だ。だって、ニグンは転移したときどこに行くとは言わずに歩き始め、その彼の後ろをハデスたちが追う形で歩いているのだから。

ニグンは正直もうダメかと思った矢先だった。遂に希望の人物が姿を現したのだ。

 

 

「ねぇ、貴方たちそこで何してるの?」

 

 

彼女はハデスの後ろから現れ、喉元に刃を突き付けながら質問していた。

(何者だ?)と感じたハデスは視線を後ろに向けるとそこにいたのは、十代半ばと思われる少女だった。肌は純白の如く白く透き通り、長く伸びた髪は奇怪な事に左右で色が分かれている。右側は光を反射しキラキラと輝く銀色をしており、左側は全てを飲み込む様な漆黒。そして、その瞳は髪とは逆の虹彩で彩られていた。

 

 

 

そしてそんな彼女が身に纏うのは、まるで拘束衣の様な色気の無い物で手には十字架を思わせる様な巨大な鎌が握られている。

 

 

 

その突然の行動にアズリエルは不快感を露わにし、少女に対して殺気を放ちながら普段なら使うことのない腰刀に手をかけていた。

しかし、ハデスは暴走しそうなアズリエルを手で制止させようとしたが、刀から手をどける素振りは見られない。ましてや自分よりも強い敵に殺気をビシビシ当てて来る彼女に興味さえ湧いたのだ。そんな彼女をみすみす殺すわけがないため、ハデスは口を開いた。

 

 

「おいおい、随分といきなりだな。流石に無礼すぎじゃないか?」

「そうかしら?」

 

 

ハデスは少女に問いながらも鎌の柄を握っていた。

少女は手に力を入れ得物を動かそうとするが、ピクリとも動く気配がない。逆にハデスから送られてきたのは明確なプレッシャーだった。彼は口角を吊り上げたまま真っすぐに少女を見ていた。

 

 

(なによ、こいつ!力、強すぎない!?てか、私、戦いを挑んじゃいけない人に挑んだかも・・・これは、勝てないわね。確実に死地確定ね・・・あーあ最後に・・・強い男の子供産みたかったな・・)

 

 

少女は死を覚悟していた。力では勝てないし、得物だって取り返せる気がしない。仮に得物が取り返せても戦闘力が足らずに負ける。滅多にこの階から出ることのない彼女だが、幾度となく戦場を駆け巡った経験からそのようなことを思わせていたーーお前では勝てない、と

しかし、次の彼の行動に彼女は目を疑った。なにせ、いつでも殺せたはずなのに殺そうとはせずにそのまま得物から手を離したのだ。最初は、余裕をこいて手を抜いたのでは?、と感じたがすぐにそれは違うと感じた。だって、彼から殺意が感じられないから・・・では、相手として見られたないのでは?とも考えたが、その可能性はあるかもしれない。が、それでも自分に刃を向けた人物には多少なりとも殺意や殺気が湧くというのに彼からは微塵もそれが感じられない。

 

 

彼女には、理解できなかった。彼が一体何を望んでいるのかということに・・・

だって、普段から人と接することが無かったのだから・・・いや、接することが無いと言うと語弊があるかもしれない。聖典以外の人が正しい。

 

 

咄嗟にハデスとの距離を取った少女は自分の焦りや不安、絶望といった負の感情から目を背けるために彼に話しかけた。

 

 

「あなた、何者なの?」

 

 

この問いかけに、ハデスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 

「人に名を聞くときは、まずは自分からが常識だろ?」

 

 

 

そう返答して少女との距離を詰め、腹に全力の殴りを入れた。少女の体はバキバキという音を立てながら壁際まで飛んで行った。どうやら、骨の何本かが折れたらしい・・

するとすぐにガシャン!という音を立てながら土煙の中から血反吐を吐きながら少女が出て来た。

 

 

「私は、スレイン法国の最強部隊漆黒聖典の一人。漆黒聖典番外席次、絶死絶命よ。」

「漆黒聖典ね・・で、番外席次ってことはお前がスレイン報国の切り札ってわけか・・まぁ、いいや。俺の名はハデスだ。」

 

 

番外席次の名を聞いたハデスは、漆黒聖典と聞いて驚きはしたものの切り札である彼女の弱さにガッカリしていた。彼の中じゃスレイン報国が誇る最強部隊漆黒聖典。その部隊よりも強い人物が切り札であると思い良い勝負になるのでは?と感じていたのだが実際にふたを開けてみるとこんなにも弱い人物が切り札だったことに落胆していた。

 

 

そんな彼の表情を読み取ったのか、番外席次は顔をしかめながら再び口を開いた。

 

 

「なにをそんなに落ち込んでいるのかしら?」

「いや、なにお前が思っていたより弱かったからな期待外れをしていただけさ。」

 

 

 

 

 

 

 

                ★★★★

 

 

 

 

ニグンは改めて驚愕していた。

ハデスが自分たちより強いのは理解していた。が、自国最強部隊に所属するそれも切り札である番外席次よりも強いことを理解してはいなかった。心のどこかでは番外席次は最強だからなんとか彼を倒してくれるだろう、と思っていた。しかし、実際は違った。番外席次をもってしても歯が立たず一方的にあしらわれている。その姿にニグンは驚愕したのだ。ここでニグンはようやく自分が犯した過ちを理解した。

 

 

 

最初から罠に嵌めるのではなかった・・・

カルネ村を襲うべきではなかった・・・

いや、もっと言えばたとえ上官からの命令でも今回の任務は断るべきだった・・・それで首が飛ぼうとも・・・

 

 

過ちを理解したニグンが再びハデスへと視線を向けると、番外席次が倒れている壁際に向かう所だった。

 

 

 

ニグンがハデスに視線を向けるまでなにがあったのか、どうして番外席次が壁際で倒れているのか理解できなかった。いや、戦闘中だったのだから嫌でも音は聞こえてくる。たとえそれが考え事に集中していたとしてもだ・・だからか、2人がどんな戦闘をしていた記憶にない。しかし、周囲を見渡してみると先程まで激しい戦闘が行われていたことは間違いない。壁は崩れ、支柱は何本か折られているし、床はフローリングが剥がれ地肌が顕著に出ているのだから・・・

 

 

 

あぁ、終わった・・・スレイン報国が終わった、と理解した瞬間でもあった。

 

 

 

しかし、ハデスは番外席次の元に向かって空間からなにやら赤い液体を取り出しかけていた。

何をしているのかわからなかったが、暫く観察していると先程まで身動き一つできなかった彼女が少しだが指を動かしていた。

ニグンはその光景を見て(死に底なっただけか・・)と思ったが、よくよく考えてみると先程までピクリとも動かなかった彼女が赤い液体をかけられてからというもの少しだが動いたのだ。それを思い出したニグンはこれを神の御業なのでは?と感じていた。

 

 

しかし、次には更なる疑問が浮かんできた。それは、私は一体どっちにつくのがいいのだろうか?という疑問だった。

このままスレイン報国側に付くのか、それとも神・ハデスに付くのか・・・確かに自分はこの国に生まれ、育てられてきたし遂には念願だった聖典の隊長にまで上り詰めた。それに感謝もしている。しかし、そんな自国にも裏の顔があった。表向きは人類守護を謳っているが、実際はガゼフ・ストロノーフという人物の殺害計画に村々の人々の殺害と表向きとは違うことをしていた。人類守護を謳っているのなら何故同じ人類を殺さなければならないのだ?常日頃から思っていたことだが、この国で生きていくにはいらない考えだった・・だから、このことについて考えないようにしていた。しかし、今目の前に神と思われる御方が存在する。それにここに来る前、ハデスは独り言のように「スレイン、滅ぼすか・・」と口にしていた。その言葉から察するにスレイン報国はいずれ滅亡するのだろう・・なら一緒に消えるよりは鞍替えして生き延びる方が得策なのではないかと思えて来たのだ。

 

 

 

第三者から見れば私は薄情に見えるかもしれないが、国と自分の命どっちが大事かと聞かれればほとんどの人は自分の命と答えるだろう。だから、ニグンには国を裏切るという感情はなかった。

だって、自分の命が大切なのは当たり前なんだから・・・

 

 

(なら、私は・・・)

 

 

どちらに付くのか決めた瞬間ハデスが番外席次を担ぎながらこちらに歩いてきているのが目に入った。

暫くその場で待っていると「お前もこっち側に付くか?」と質問された。

 

 

「・・は?」

 

 

思わず素っ頓狂な声を出してしまったニグンだが、彼の後ろにいたアズリエルからの殺気を孕んだ視線を感じすぐさま口を手で押さえた。

しかし、仕方ないと思う。だって、目の前に来て言った最初の言葉が「お前もこっち側に付くか?」だったのだから・・

 

 

現状を飲み切れずに黙っているとハデスは更に言葉を続けた。

 

 

「番外席次は俺らと一緒に来ることになった。だから、そのついでにお前もどうだ?って思ってよ」

 

 

ハデスの言葉を聞いて驚きを隠せなかった。

だって、スレイン報国の切り札が自国を出るというのだから驚くしかあるまい。

しかし、これはチャンスでもある。だって、さっきどっちに付くか決めたのだから・・・

 

 

「私もお供させてください。」

 

 

ニグンの返答にアズリエルは嫌な表情をしていたが、ハデスはニヤリと笑い「もちろん」と答えてくれた。

 

 

「では、まずこの国の腐った連中から処分していきますかね。構わぬな?ニグンよ」

「は!御身の思うがままに」

 

 

ハデスの問いにニグンは何の躊躇いもなかった。

自分が国を売っているという感覚さえなかった。だって、もう自分はこの人に付いて行くと決めたのだから。

国に残っている家族には悪いけど、もうそう決めてしまったのだから・・・

 

 

返答に満足したハデスはまたもやニヤリと笑い歩き出した。

 

 

 

この初歩がスレイン報国滅亡への最初の一歩なのだと、未だに気づかないスレイン報国であった。




久しぶりに投稿しましたが、如何だったでしょうか?

感想やコメントを頂けると嬉しいです。


P.S.

R3/03/16 本文を少し修正・削除致しました。


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悪魔の訪問ー下ー

皆さん、長らく更新できずにすみませんでした。
私事事情により、数カ月更新できませんでした。

これからは、毎日とはいきませんが週に何度かは更新していきますので、是非読んでください。


歩みを進めていくと一行の目の前には厚く重苦しい雰囲気を醸し出している青い扉が現れた。

サイズ的には1.5倍くらいはありそうだ・・・

そう、これがスレイン法国最奥つまり、法国裏側の最高意思決定所だ。

日本で言うなら議会みたいな場所だろう

 

 

 

ニグンは、そんな重苦しい雰囲気を出している扉をなんの戸惑いもなく開けてみせた。

 

 

中に入ると目の前にはナザリック地下大墳墓にある丸いテーブルではなく、今の時代なら会議室とかにありそうな一つのテーブルに数人座れるようなテーブルがあった。といっても長さはかなりあり、10,20人は座れそうなものだが・・・

 

 

 

「ハデス様、こちらに座って待っていてください」

 

 

ハデスが豪華なテーブルやイス、キラキラと淡いオレンジ色に輝くランプなどに目を取られウロウロしているとニグンがイスを引いて最高神官が座るようなイスに座るように促してきた。

初めは、こんな最高神官長の人が座るようなところに座ってもいいのか戸惑っていたが、“ココは異世界!それに今の自分は世界を作った偉い人!だから平気”と開き直って素直に座ることにした。

 

 

豪華絢爛なイスに座ると番外席次は、ここが自分の居場所だとでも言いたげにイスの後ろに立っており、ニグンはすぐさま部屋から出て行ってしまった。

 

 

イスに座ること20分ぐらいだろうか・・・

急にキイィィィと扉が開かれニグンとやけに豪華そうな青と白が基調のシスター服に似た服を着たおじさんが入って来た

なんか入って来た瞬間、凄いなにか言いたそうな視線を感じたけど・・・

 

 

「それで、ニグンよ。破壊神様を見つけたと言っておったが、どこにおるのじゃ?」

「なにを仰いますか。目の前にいらっしゃるではありませんか!」

 

 

入って来たおじさんはニグンの言ってることが理解できずに数秒固まり“まさか、こいつが!?”といいたそうな顔をしていたが、もしそれを言ってハデスが本当の神であり機嫌を損ねたらマズイと感じたのか口に出すことはなかった。しかし、ハデスにはバッチリ理解されていた・・・

 

 

 

数秒の静寂のあと先に言葉を発したのはハデスだった。

 

 

「我が名は、ハデス。破壊神とでも言った方がお前たちにはわかりやすいか?」

 

 

破壊神。それはハデスが自分で付けた2つ名ではなく、物語や伝承に残す際に誰かが『破壊神ハデス』と記したことからその2つ名がいつの間にか広まり、今では国民の間で『破壊神』が定着してしまったのだ。

故に『破壊神=ハデス』という関係性が成り立っている。

 

 

その言葉を聞いて最高神官長は冷や汗が止まらなかった。なにせ、目の前に伝承や物語なんかで語られている破壊神がいるのだから・・・

神官長には目の前にいる彼の言葉が本当なのか確認する手立てはないが、長年の勘から「この人物は本物である。逆らわずに謙虚な姿勢でいるべき!!」だと直感していた。いつもならこんな根拠のない勘など自分のものであっても信じないのに、今回だけは素直に従った方がいいとわかってしまう。彼の身だしなみや装飾品、纏っているオーラ全てがハデスが破壊神であると物語っていた。

だから、神官長はすぐに自分も名乗りをあげた。

 

 

「私(わたくし)は、スレイン報国で最高神官長を務めておりますベルモット=グリードと申します。伝説上の破壊神ハデス様にお会いできたこと大変嬉しく思います。それで、今回はなぜ我が国にいらして下さったのですか?」

 

 

最高神官長のベルモットは畏まった様子で機嫌を損なわないように話しているが、いつまでこの機嫌が保たれるのか気が気でなかった。

それ故なのか、額や背中からは既に嫌な汗がタラタラと垂れ、背中は今すぐにでも着替えたいほど濡れていた。

しかし、今ここで動くわけにもいかず我慢するのが精一杯だった。

 

 

ハデスはベルモットのそんな姿を察してかすぐに本題を話始めた。

ただ、これは偶然だろう・・・決してベルモットの様子を察したわけではない。・・・と思う。

 

 

 

「今回は警告しにきてやったのだ。今、我らはもう片方の神と共にカルネ村であることをしていた。しかし、そこにお前ところの陽光聖典だったっか?が邪魔をしてきたせいでまた1からやり直しになった!もちろん、陽光聖典はこやつを除き全員葬ってやったがな。」

 

「・・・」

 

 

ハデスの言葉を聞いたベルモットは口をあんぐりと開け、絶望と畏怖の感情からなのか血の気が引くほど真っ青になっていた。

それもそのはずだ。なんたって、カルネ村を襲うように最終命令を出したのは自分なのだから・・・ここスレイン法国に所属する全聖典の任務は隊長がまず任務内容を事細かに作成し、それを上つまり最高神官長に届ける。そして、最終判断をもらいGOサインが出てやっと作戦に移ることができるという仕組みになっている。つまり、全責任はGOサインを出した最高神官長にあるというわけだ。

そのことをベルモットは即座に理解したのだろう。だから、彼は今ハデスの目の前で口をパクパクさせているのだ。

 

 

 

しかし、これは嘘半分だ。

だって、ハデスはもう片方の神と一緒にカルネ村で何もしていないし、ましてやこの世界に来たばかりでなにから手を付けていいのか理解していないのだから・・・しかし、ハデスはなぜかこの世界で自分のことが知れ渡り、なぜか破壊神と呼ばれていることを利用することに決めたのだ。そうして思いついた嘘が先程の言葉だったというわけだ。

だが、ベルモットはこれが嘘であることを見抜けずに事実だと信じ込んでいた。その証拠に今でもハデスの前には何かをブツブツ囁きながらブルブルと震えているベルモットの姿があった。

 

 

そんな状態の彼に更なる言葉が紡がれた—―

 

 

『今度、また俺たちの邪魔をしたらスレイン法国を跡形もなく消すからな』

 

 

その言葉を聞いたベルモットは先程よりもガタガタと全身を振るわせ、その場に膝から折れた。

ハデスは、そんな彼のことを無視して、言うことは言ったとばかりに部屋を退室していった。

その後を追うようにアズリエル、ニグン、番外席次の3人も部屋を出て行った。

 

 

 

部屋をあとにするとアズことアズリエルがハデスに声をかけてきた

 

 

「ハデス様、今すぐこの国を滅ぼさなくてよかったんですか?」

「あぁ、今滅ぼすのは時期尚早すぎる。滅ぼすのはもう少し後だ」

「なるほど・・・ハデス様に考えがあるならそれに従うまでです」

 

 

こんな会話を普通にしている2人を見てニグンはもう慣れたのか特段驚いたりすることもなく目を瞑ったまま歩いてきたが、番外席次は少しだけ体を強張らせていた

それもそのはず・・・なんたって、この国には自国最強の漆黒聖典が存在し、その聖典は幾度となく死線を乗り越えてきたエリート集団である。それに加え、漆黒聖典以外の陽光聖典、風花聖典、水明聖典、火滅聖典といった聖典メンバーも漆黒聖典には劣るものの戦いのエキスパートなのだ。そんな戦いのエキスパート達が蔓延るスレイン法国を『滅ぼす』と豪語しているのだ。

それは、体を強張らせるのも納得できるというものだ・・・

 

 

 

(これは母国を見限って正解だったわね・・・いつまでもあの国にいたら私もいつか滅ぼされていたわ)

 

 

その話を聞きながらも番外席次は自分の判断が正しかったことに内心ホッとしながらも、いずれ滅ぼされる自国に微塵も同情することはなかった・・・

 

 

(母国が滅ぼされるのはもとはと言えばハデス様の計画を邪魔したのが悪いんだから自業自得よね・・・いちいち同情なんてしてられないわ。ご愁傷様。)




最高神官長についてですが、名前がわからなかったため適当に付けさせてもらいました。すみません(汗)
もし、名前をご存知の方がいたら教えてくださると幸いです。


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