ありふれた覇気の使い手は世界最優 (見た目は子供、素顔は厨二)
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0、二人の戦士

はい皆さん初めましてもしくはまた会ったね!
ありふれの二次創作しかしない男、厨二野郎です!
今作はありふれ×ONE PIECEの現代パロSSです。
何のこっちゃと思われるかもしれませんがよろしくお願いします。
なお、他にもいろんな奴の要素を取り入れてる感があります。
ご容赦を!

それではどうぞ!


 この世界には「ONE PIECE」と呼ばれる超大作が存在する。

 

 主人公がであるモンキー・D・ルフィが海賊王を目指し、新世界にあるという秘宝『ワンピース』を仲間と共に探し求める冒険譚だ。

 

 心を湧かせる島々、人々を感動させて止まない描写、山程にもある設定の数々、迫力あるバトルシーン。全てが高水準に両立しており、今なお続く伝説と言われるに相応しい漫画。

 

 子供の頃、こんなワクワクさせられる様な世界で冒険したいと思わされた人も少なくはないだろう。かく思う少年、南雲ハジメもそんな一人だった。

 

 …しかし今の彼はそんな過去に万感の思いを込めた上でこう言うだろう。

 

 ーーその先は地獄だぞ、と。

 

 

 

 

「ぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 彼、南雲ハジメはそんな事を迫る『パシフィスタ(PX)』を素手で内部から破壊しながら考えていた。

 

『フハハハハ!! どうだ【無能】!! いくら貴様と言えど、この数の兵器には勝てるまい! これこそが『旧世界(・・・)』にて生み出された兵器の力だァアア!!!』

「うるさぁああい!!! こんなGみたいにワンサカと…ちょっとこっち顔出せ、一発殴るから!!」

『馬鹿めぇ! 貴様の独壇場に誰が乗るかぁ!! 貴様はそこで大人しく潰れているがいい!!』

 

 ハジメにとって『パシフィスタ』の能力はそこまで脅威ではない。その体が鋼鉄で出来ていようと、ハジメならば片手で消し飛ばす事さえ可能だ。瞬間移動地味たことも出来れば、この船ごと破壊も出来る。

 

 しかしそれはここがガスが充満しておらず、かつ奥の部屋に人質がいない場合の話だ。

 

 一、二時間ならば呼吸を必要としないハジメではあるが、問題はガスが可燃性であること。あまりに速く動けばガスは着火する。また下手にパシフィスタや船の内装を壊せば電気が漏れ出し、誘爆となるだろう。

 

 先ほど言った様に高速移動が可能なハジメのみなら、その誘爆から逃れられる。しかし奥の人質はただの一般人だ。迫り来るであろう爆炎から逃れることも耐えることも出来ない。そしてハジメの性分上、人質を見逃すという選択肢は取り難い。

 

 つまりハジメが取れる手はただ一つ。船に負担が掛からないレベルで移動し、『パシフィスタ』を外部の損傷なく故障させて道を開き、人質を救い出すことのみ。人質まで手が届けば後は壁を破壊して即刻外に逃げればいい。

 

 これは下手に百人斬りするよりも疲れる。量だけある雑魚に手加減しながら、奥にいる人質達が毒により死ぬ前に助けねばならないのだ。ぶっちゃけ鍛えていない人間はかなり脆いので短時間での遂行が求められる。

 

「本当にっ! 面倒っ! くさいなぁあ!!」

 

 なおこの間にハジメは二体の『パシフィスタ』の胸に手を当て内部破壊、続いて流れる様に前方の『パシフィスタ』を踏んで内部破壊、そして極め付けに空中で独楽の様に舞い、七体の『パシフィスタ』を行動不能とした。これら全てにスパークすら発生することなく、ただただ『パシフィスタ』は沈黙するのみ。

 

 そう確かに難易度は高い。しかしハジメにとってはそれは本当に面倒くさいというだけなのだ。全力を使わせてもらえないというだけで、『パシフィスタ』はハジメがとうに乗り越えた壁だ。愛刀を使うことすらなく『パシフィスタ』の機能を停止させていく。

 

 それをカメラの先で見たのかマイクから悔しげな声が聞こえて来る。

 

『ぐぬぅ…やはり流石は名高き【組織】のエース。簡単にはやれんな。逃げる他、手はないか…」

 

 恐らくは元々倒せれば御の字といった所なのだろう。この状況もハジメを不利な状況にし、人質の救助を優先させる為だろう。本来のハジメならば壁を突き破り、秒で犯人を捕まえられる。そんな風に、先程のイキリ声が嘘の様に冷静に判断を下していた。

 

 しかし犯人の男は一つだけ失敗を犯していた。

 

『むっ何だ貴様…ゎあぁあああああ゛あ゛あ゛!!!』

 

 マイクの方が急に騒がしくなる。気づいたのだろう。己の背後にいる者に。その正体に。

 

 そもそもハジメの名を聞いた時点で気付かねばならなかったのだ。この業界では有名な語り草を。

 

 ーー【天蓋の跡目】の背後に【無能】あり。

 

 そう、気づかねばならなかったのだ。ハジメと常にタッグを組んでいるとされる八重樫家次期当主、【天蓋の跡目】八重樫雫がこの任務に参加していることに。

 

『終わりよ、Mr.クリッソス…』

 

 冷たく呟かれたその言葉をマイクが拾った次に聞こえてきたのは、雷鳴そして納刀の音。

 

 するとハジメを散々追いかけ回していた『パシフィスタ』もまた静止する。どうやら犯人の男の脳波等を受けて動いていたらしい。もう機能停止にする理由もなさそうだ。

 

 置物と化した『パシフィスタ』を他所にハジメは奥にいる子供達の方へと向かった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 見かけ上魔法も超常現象もない世界、地球。しかしそれはあくまでも一般人視点での話だ。

 

 知らないだけで地球のすぐそこには別の世界が存在する。それがかつてモンキー・D・ルフィ達が旅をした世界、通称『旧世界』である。『旧世界』は技術も戦力も確かに優れていた。しかしそれ以上に危険を孕んでいたのだ。

 

 海王類などの強大な怪物、地球のものなど容易く超える自然災害、そして年々凶暴さを増す荒くれ者達。ワンピースの年代から幾年もたった結果、世界は徐々に壊れていった。

 

 そこで『旧世界』の人々は荒くれ者達や怪物を他所に地球へと移った。この時の方法は明確には記録されていないが、年代は地球での15世紀半頃と言われており、ちょうど航海時代とされる頃だ。方法も何かしらの能力者による者だろうとされている。実際『旧世界』の多様な種族が現代地球において差別などもなく生活を送れているのはある悪魔の実を食べた能力者による物なのだから。

 

 しかし世界の穴は未だ繋がったままだ。ともすれば当然、荒くれ者達や怪物達は此方の世界へと訪れる時がある。

 

 それらが起こす被害から地球を守る為、【組織】は存在する。なお明確な名称は存在しない。理由は上位陣があまりにも我が強すぎるせいで決まらなかった、という下らないものである。

 

 ただこの【組織】は基本、人員が最初の構成員の血筋により固定されている。それは『覇気』や『悪魔の実』といった力を無闇矢鱈に一般へと漏らさない為である。

 

 また『悪魔の実』が何処に生えるか分からないというのは最早過去の時代。『悪魔の実』の八割程は【組織】により栽培(・・)されており、実質的に【組織】が掌握しているとも言えた。

 

 ただし人工的な栽培によるものか、現代には過去には無かった『悪魔の実』への適性という概念が生まれている。これは『悪魔の実』を取り込めるかどうかの値となっており、グレードの高い『悪魔の実』である程にその適性は類稀な物となる。

 

 ただ研究の末、この適性は過去に同種の『悪魔の実』を食べた者の血筋であった場合、どれだけグレードが高いものだろうとほぼ確実にその『悪魔の実』を摂取することが可能となることが分かった。この性質によりグレードの高い『悪魔の実』は実質的に一つの血筋が独占している。

 

 初期【組織】の構成員の血筋の一つである八重樫家もまたレアな『悪魔の実』をいくつか独占している。既に八重樫雫は次期当主確実であるということから既にかつて曽祖父が取り込んでいた『悪魔の実』、その摂取を終えた。

 

 そうして『悪魔の実』や『覇気』等の力を用いて、『旧世界』からの刺客と闘う。当然ながら殺し殺されが常套化しており、任務で死んだという者も少なくない仕事だ。少年少女にはあまりにも負担が重いものである。

 

 とはいえ、こんな話は元々一般人であった少年南雲ハジメには縁がない物であったのだが…。

 

「なーんで、僕はこうなってんのかねー」

 

 気付けばすっかりそっちの界隈にどっぷり浸かっていた。何ならハジメは強者と認められた証である二つ名を幾つか持っているし、階級も上から数えた方が早い。一般の出としては最年少での昇格であり、【組織】期待の新鋭とすらされている。

 

 愛刀である大業物、『蛟丸(みずちまる)』の感触はとうに手に馴染み、『覇気』も『覇王色』以外ならば十全に使える。その上、世界中の実力者からしょっちゅう強制任務を任せられる為、最早平穏とは程遠い場所にハジメはいた。

 

 任務からの帰り道。既に時計の短針は右斜め上となっており、翌日に突入している。明日は学校のためろくに睡眠の時間も取れないだろう。実に憂鬱であった。少し遠い目をしながらも、そう言うのは仕方のない話であろう。

 

「…もしかして辞めるの?」

 

 すると横からそんな声が掛けられる。相棒である八重樫雫だ。そんな彼女の顔からは心配そうな言葉とは裏腹に、「また言ってる…」みたいな呆れが見て取れた。実際これはここ数年よくハジメが呟いている言葉だ。相棒たる雫は既に耳にたんこぶが出来るほど聞いている。

 

 辞める、確かにそういう手段もあるのだろう。実際、無茶な注文をしてくる【組織】の上司に対し、よくその脅し文句を言ってはいる。が、

 

「いや、やめる勇気は無いかな。自意識過剰かもだけど僕一人が抜けたら、【組織】が助けられるはずだった命が助けられなくなるかもしれないし」

「過剰じゃないと思うわよ? 私も助けられた命の内の一人な訳だし。今までハジメがいたから勝てた闘いも山程あったわ」

「そう言ってくれてありがと、雫」

 

 南雲ハジメは臆病だ。故に「助けられたかもしれない」等と言った後悔を嫌う。【組織】を抜けて仕舞えば、きっと日頃からそんなことばかり考えることになってしまうだろう。それは御免だった。

 

 一方雫はハジメがそう答えるのを分かっていたのだろう。さも当然の様に言葉を返した。僅かにハジメの顔が明るくなった。

 

「…まあ、あと辞めたところで【組織(あそこ)】のトラブルメーカーの皆さんは僕の事を追いかけてくるだろうし、ね」

「ああ、デリドラ様とかザザさん…」

「だから日常を侵略されるよりかは今の方が、ね?」

「…そうね」

 

 ただ暴走機関車という例えすら不相応な程の【組織】を代表するトラブルメーカー達の事を思い出し、頭を痛めるハジメ。ハジメは彼等に物珍しさからかそれとも単純に面白いのか、理由こそは知らないがよく絡まれる。今の所、プライベートに侵略してくることこそ偶にだけだ。しかし【組織】をハジメが抜ければ、度々ハジメに構ってくるのは間違いない。

 

 それが目に浮かんでかハジメの顔がまた少し黄昏れる。雫もそれに関しては励ましの言葉を掛けられず、ただ暝目するしか無かった。

 

 兎も角、明日は学校だ。二人は同じ玄関を(・・・・・)くぐり、遅すぎる晩飯の準備を始める。

 

 

 

 ーーちなみに南雲家は現在、【組織】のご厚意により八重樫家に居候させて貰っている。即ち同じ屋根の下で暮らしている。




ちにみに同居の理由はハジメの家族の安全の為です。
ハジメがよく任務でどっか行くので、誰かハジメの両親を守る人員が欲しかった、というところですね。
八重樫家としてもハジメは是非とも「取り込みたい人員」なのでノリノリ。
ハジメと雫も最早家族みたいな感覚なので全く違和感がない。
なのでみんなWIN-WINな関係ですね!(いい笑顔)


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1、See you, 平穏. Hello, 日常.

そういや私、今までありふれ二次創作割とやってきてるけど、原作の「プロローグ」に該当する回ってあんまりまともにやったことがないんだなぁって感じました。
割と難産だったわ。
それではどうぞ!


 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

「ロスティンペリダイ♪ ナイタンデイフィデンアウッ」

「ご機嫌ね、ハジメ?」

「そりゃあもう。どうせ放課後はアレ(・・)なんだし学校生活は楽しまなきゃね」

「それはそうね」

 

 …ただし、この二人はその例外に該当する。ハジメはノリノリで鼻歌を歌いながら、雫は上機嫌に微笑みながら学校への道を登校する。

 

 何故ならば二人にとっては学校での生活こそ、まともに日常を感じられる時間。表の世界の平和を噛み締めることのできる数少ない時間だ。

 

 とはいえ万が一に備えて、二人は簡易的な武器は持っている。愛用している武器でこそないが、収納も便利で汎用性が高い【組織】共通の武器だ。表には無い様なオーバーテクノロジーが注ぎ込まれており、戦争に使われでもすれば、それこそ次元が一つや二つは変わるだろう。

 

 そもそも二人が学校に通える理由自体も【組織】関連の任務だ。本来なら二人は中卒で、【組織】の仕事に専念しなければならない身。それを許されているのは護衛対象がこの高校に通っている事が理由だ。なお放課後は別の者が二人の任務を受け持つ形となっている。

 

 ただそうであっても血に塗れた裏とは乖離して美しいこの景色は二人の心を安らがせる。同時に自分達の尽力が僅かにでもこの平和を守っているのだ、と誇りに思った。

 

 と、二人とも青春の一ページをもれなく満喫し、歩いていると──ふと雫がその端正な顔を顰めた。ハジメはハジメで横の雫に憐憫の情を向けた。

 

 何故不意に二人がそんな反応をしたのか。それは電柱から現れた陰が容易に示してくれた。

 

「ふっふっふっふっふっ、二日ぶりですねお姉様。そして我らが怨敵、南雲ハジメェ!!」

「…何してるのよ、貴女達」

「…ホント雫って変わり者に好かれるよね」

「五月蝿いわよ。あと自分はそうじゃないみたいに言うのはどうかと思うわよ、【悪魔たらし】」

「その異名、凄く嫌なんだけど…」

 

 現れたのはハジメが後輩ちゃんと心の中で呼ぶ、雫のソウルシスターズを代表する突撃隊長だ。

 

 そもソウルシスターズとは雫のカリスマとか美貌とかそんなのに惚れ込み、開かれた非公式ファンクラブの事である。主に雫にお世話になった後輩達がメンバーであり、その熱狂度は半端ではない。具体的に言えば溶岩水泳部になり得るくらい。

 

 正直、漫画とかでしか見ない様な話であり、ハジメが初めてその事実を知った時は腹を抱えて笑った。なお雫から放たれた威圧により、すぐに土下座をすることになったが。

 

 とはいえ本質は雫ファンクラブに違いなく、ハジメが目の敵にされる必要は一見無い。実際雫には男の友人も数人いるが、そちらはただ観察される程度に収まる。

 

 では、何故ハジメはソウルシスターズに「憎しみで人が殺せたら…」と恨むのか。

 

「毎日一緒に登校! 距離感スレスレ! お姉様はなんだか晴れやかとしてるし…オノレェエエエ!!! この怨み、晴らさでおくべきか!!」

「何かもう悪霊化しそうなんだけど、君の妹」

「あの子を実妹にした覚えはないわよ」

「そういうのですよ! そういうの!」

 

 彼女の言う通り二人の距離は手繋ぎや腕組みこそはしていないが相当に近い。また普段なら相手に遠慮したり、一歩距離を置く様に話す雫だが、ハジメに対しては全く気を置いていない。

 

 学校では一見イチャイチャしていないが、心が通じ合っていそうな距離感であることから二人は熟年夫婦の様な感じのそれ、と言われている。

 

 なお本人達的にはこれでもセーブしており、家でゆったりする際には雫がハジメを椅子にして座ったりしている。あと同じ家で暮らしているという事実はまだバレていない。本人等的にはそう言ったやましい事は特にない。しかしもしバレてしまえば、ハジメは毎日夜襲を受けることになる。

 

 だがまあ、どちらにせよソウルシスターズの中でも特攻性に定評のある後輩ちゃんには関係ない。野獣の如き気迫でハジメとの間合いを詰め、鞄に腕を突っ込み──

 

「先輩、討ち取ったり!」

 

 と、墨がベトベトに付着している筆をハジメに振るう。

 

 それに対してハジメ、

 

「甘い!」

 

 と鞄から折り畳み傘を取り出し、瞬時に開けた。パンッと勢いよく形を成した傘は後輩ちゃんの放った墨を余すことなく受け切ってみせた。

 

 二人の陰が交差し、一瞬場の空気が静まった。毎度こんな感じなので雫は「何やってんだろう」と阿呆を見る目をしていたが。

 

「今日も僕の勝ちだ」

「くぅっ! 完璧な不意打ちだと思ったのにぃ」

「悪戯は登校一回、昼休み一回、帰り道一回だからね。なるべく僕以外に迷惑はかけない。これは約束だからね、忘れちゃダメだよ?」

「余裕ですね、先輩! ですが本日の昼休みこそ、ぎゃふん!と言わせてやりますよ! 覚えてろぉおおおおお!!」

 

 なお後輩ちゃんは現在中等部だ。ハジメに捨て台詞だけ吐くと、すぐに己の校舎のある方へと走り去っていった。なおその校舎は高等学校からはかなり遠いはずなのだが、後輩ちゃんは皆勤賞である。凄まじい体力だ。

 

 ハジメと雫はそんな彼女の背中を見ながら、

 

「平和だなぁ」

「というか、何であの娘は律儀に約束を守りながらイタズラしてるのよ…」

 

 和んだり、呆れたりしていた。

 

 兎も角、忙しくも平和な日常が始まりを告げたのだった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 二人が教室に入ると多くの視線が出迎えて来た。ハジメに浴びせられるのは男子衆と一部女子からの嫉妬やら嫌悪。雫を迎えたのはちょっとだけソウルシスターズの魂を持っちゃってる女の子のハグだ。

 

「シズシズゥ〜! 休日会えなくて寂しかったよ〜!!」

「ええ。おはよう鈴」

 

 雫に抱きつき、頭を雫の腹にぐりぐりと擦り付けているのはクラスメイトの谷口鈴だ。ちんまりとしていて可愛らしく活発な彼女は非常に人に好かれやすい。あと割とスケベオヤジの精神を持っており、雫以外にも沢山の女子が鈴のハグを喰らっている。

 

「おはよう、谷口さん」

「おー、南雲くーん! おはよー! 今日も二人で登校? イチャイチャしてんねー、羨ましいぞ〜!!」

「いや、付き合ってはいないよ?」

「嘘だー! 距離感バグってるもん! 恋愛ハンターの鈴を誤魔化せると思うたか〜!」

「鈴、その職業はいったい何なのよ…」

 

 ハジメと鈴の会話に少し呆れながらも突っ込む雫。なおこの間も鈴にハグをされている。同級生女子の完全ソウルシスターズ達が羨ましそうにこちらを見ている。

 

 ハジメがそんな二人を見て仲ええなぁと微笑んでいると、続いてハジメの方に近づく陰があった。

 

「おはようハジメくん。今日も雫ちゃんと登校なんだね…」

 

 と、ちょっとだけ寂しそうにしながらもニコニコと現れた少女が。彼女の名は白崎香織。雫と同様、学校の【二大女神】とされている紛う事なき美少女だ。くりくりと丸い目と明るい笑顔がチャームポイントの彼女だが、今は少しばかり寂しそうな雰囲気がある。

 

 ここで轟っと殺意がハジメに襲いかかる。何故か裏の界隈を良く知るハジメでも一瞬ビックリする程のものだ。敵が来たのかと勘違い仕掛け、静止する。思わずカバンの中にある非常用武器を取り出す所であった。

 

 彼女は何かとハジメに構ってくる。最初は雫の幼馴染であるハジメの事を気にしているのか、と思ったがどうにも違う。雫は雫、ハジメはハジメ、と言った風に香織は両方にそれぞれ構っていく。

 

 こうとなればハジメとしては本気で心当たりが無い。昔雫が自分の部屋に連れて来たことがある様な気がするだけだ。その際、ハジメは雫の父にしごかれていたので接点も特に無い。中等部から一緒だが、特に大したイベントも踏んでいないはずだ。

 

「おはよう、白崎さん。もしかして雫と一緒に帰りたかったとか? だとしたら申し訳ない」

「いやいや違うよ、南雲くん! …でも、いいなぁ」

 

 上目遣い! 赤らめた頬! 悩む様な顔!

 

 本人こそは天然だが、実にあざとい。クラスの男子がその攻撃力にぐぅっと胸を抑えた。女子ですら…というか鈴が「目がぁ! 目がぁ!」と某世界の王になっちゃっている。実にあざとい。

 

 これには流石のハジメも…

 

「え? やっぱ雫と一緒に登校したい?」

 

 何の意味もなかった。そもそもこの男がそんな楽に攻略できるならば【組織】は今頃頭を悩ませてはいない。何なのあいつ、何で無神経にこんな相関図形成してんの?とゲ○ドウポーズをしてはいない。

 

 クラス全員+雫から呆れた視線を一身に受けるハジメ。その視線の嵐にハジメと香織は首を傾げた。何だこの視線は、と。

 

 しかしまだまだ止まらない。それらの視線を全て掻っ攫うかの様にハジメ達の近くへと現れたイケメンがいたからだ。

 

「やあ、香織、雫、鈴、おはよう。そして南雲、お前はいい加減に一人で登校できる様になったらどうなんだ?」

「おはよう天之河くん。ところで前々から気になってたけど君の中で僕はどんだけポンコツなの? 僕、流石に登校路ぐらいは分かるよ?」

「なら明日からでもそうするべきだ。雫も自由な時間は欲しいだろうからね」

 

 現れたのは茶髪のイケメン、天之河光輝だ。容姿端麗、文武両道、その上正義感も強い正しく完璧超人だ。雫の道場に通っているそうで、古くからの知り合いらしい。剣道では全国にその名を轟かせているそうだ。

 

 ただまあ、ハジメとしてはそこまでいい印象は抱いていない。というのもハジメと光輝は中等部から一緒な訳だが、何から何まで目の敵にしてくるのだ。例えばテストの点数、例えば走りの速さ、例えば身長の高さ…他にも様々中ことで争い、己の優位性をアピールしてくる。

 

 それが数回程度なら何とも思わないが、それが毎日どころか事あるごとに、だ。正直に言って非常に面倒くさい。というか身長で優劣を決めるのは流石に幼稚が過ぎると思う。

 

 なおハジメと雫はそれ程授業に本気を出してはいない。二人とも成績は上から数えた方が早いが、実際には海外難関大学クラスの頭を持つ。また運動神経も本気を出せば、まあ一般人には出せない領域にある。身長に関してはどうにもならないが大まか高ステータスなのを誤魔化しているのが現状だ。

 

 というわけでハジメからすれば己を誇示しまくるガキ大将を見ている気分になってくるのだ。きっかけも何が原因なのか分からないので余計に面倒くさい。

 

 とはいえ気になったので、一応雫にアイコンタクトで「迷惑? もしそうなら時間ずらすけど?」と尋ねる。すると「別に問題ないわ」とこれまたアイコンタクトで直ぐに返ってきた。どうやら問題ないらしい。

 

 他にも坂上龍太郎がハジメの背中を叩いてきたり、檜山大介がハジメを見て舌打ちしたり、中村恵里がオドオドしたり、遠藤浩介が何処かに消えたと騒がれたり、清水幸利がハジメに耳打ちしたり、畑山愛子がチャイムギリギリに転がってきたり、と兎も角も騒がしい学校生活がいつも通り流れる。

 

 そんな面倒で騒がしいが、それでも限りなく平和な学校生活を謳歌しながら、ハジメは自分の肌にはやはり殺し殺されが常用化している裏の世界などではなく、こちらの方が合っていると確信した。

 

 そして願うならばこの生活よ、永遠に続け、と天に祈りを捧げて──ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 ──ーその神様にあっさりと裏切られることとなった。

 

 教室を埋め尽くした幾何学模様の白い光。それが晴れた頃には見も知らぬまさかの異世界だ。まさか『旧世界』以外にも異世界があるとは思っていなかった。

 

 兎も角だ。イシュタルとか言う好好爺の話では『旧世界』関連の話ではなさそうだが、どちらにせよ表の人間が何人も行方不明ともなれば大事件だ。必ず解決する必要がある。

 

 そしてここは異世界。【組織】のメンバーでも流石に応援に駆け付けられるかとなれば、かなり難しいだろう。

 

 すなわちこの事件は【組織】の上位ライセンス持ちのハジメと雫が解決の中心となる必要があり…

 

「ぐふぅ!」

「あ! こら、ハジメ! 胃痛で倒れない!」

 

 とんでもなく面倒くさそうな案件の発生にハジメは胃を痛め、吐血するのであった。




ハジメの時間軸
小4…家族で旅行の帰りの飛行機で特位指名手配犯【豪鬼】に襲われる。他の者達が『旧世界』へと連れて行かれ、ハジメが抵抗する中、雫に助けられる。んで、連れ去られた家族を取り戻すため裏の界隈に入る。

中一前半まで…兎に角雫の親父さんに訓練(裏)をつけられる。光輝は表だし、基本ハジメは地下で訓練ばっかしてたので香織や光輝とは学校以外で接点が無い。

中一後半…【組織】の下位ライセンスメンバーとして加入。その後上位指名手配犯【騙し絵】や【人喰い】の討伐の功績者となる。

中二前半…特位指名手配犯【遊戯女帝】と初めての遭遇。下位ライセンスメンバー196人が『旧世界』に連れて行かれた中、数少ない生き残りとなった。また上位指名手配犯【空牙】の単独討伐を完了する。

中二後半…特位指名手配犯【紫電】の単独討伐を完了する。また現“緋”の弟子、上位ライセンスメンバーの【鏖殺(ワンアーミー)】との模擬試合に勝利。【電脳少女】の人類初使役者となる。

中三…特位指名手配犯【豪鬼】の単独討伐及びその被害者の救出。また特位指名手配犯【遊戯女帝】の捕縛における最大の功績者となる。また上位ライセンスメンバーの地位を獲得、及び正式な二つ名【無能】が与えられた。

高一…『旧世界』の犯罪組織【朧月】の情報獲得。その幹部の一人とされた上位指名手配犯【狂笑する屍】の撃退。異世界召喚←イマココ


【組織】のシステムとか過去話の詳細とかは後々やると思う。


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2、暴かれる『裏』

新年明けましたおめでとうございます!(クソ遅)
更新がめちゃくちゃ遅いですが、がんばってます。
私が分裂出来たなら…

とにかくどうぞ!


 胃痛薬を腹に収めたことで何とか復帰を果たしたハジメは現在、クラスメイト達と共に煌びやかな部屋に案内されていた。その豪華さから晩餐会にでも使われる部屋なのだろうと推測される。

 

 取り敢えず席に座るよう勧められた為、ハジメと雫は互いに机を挟むようにして座った。もし襲撃があった際にクラスメイトを守れるよう、バラけての配置、というわけだ。一応もう一人の【組織】のメンバーにも武器は準備しておくように視線を送る。彼は鬱陶しそうにしながらも頷いた。

 

 全員が着席した丁度のタイミングであろうか。「失礼します」という声と共に現れたのは、まさかの生メイドである。しかも漏れなく美人さん。男子高校生達のテンションはブチ上がり。非常にデレデレしている。逆に女子達の視線はヒエヒエであったが。

 

 一方、その程度のコスプレを見慣れているハジメはお茶を受け取ると給仕のメイドさんをガン無視。受け取ったお茶を手早く口に含んだ。所謂毒見だ。一般の人間と異なり、ガチで八重樫家に鍛えられたハジメにそこらの毒は通用しない。裏八重樫の門下生ならば毒見程度朝飯前である。

 

 結果ただのお高めの紅茶であることが分かった。あと思ったより美味しかったので、後で茶葉を聞いてみようと思考する。

 

 周囲を見ると光輝がサラッとメイドさんとフラグを立てていたのが見えた。流石リア充、と心の中で呟いた。なおこのセリフがブーメランであることをハジメは知らない。

 

 そして最後に豪奢な服装の好々爺、イシュタルに目を向ける。どうやらこの世界においての立場は非常に高いらしい。この場に来るまですれ違った者全てが彼に敬意を見せていた。教皇と自称していたことから、この世界では宗教が人々の拠り所となっているのが分かる。

 

 生メイド達が部屋から退出し、クラスメイト達が鎮まり始めた頃、イシュタルは話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 彼の話を要約するとこうだ。

 

 この世界の名はトータス。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配している。また亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしいが、今回の話にはそこまで関係ないらしい。

 

 この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

 人間族は個体数で、魔人族は個体ごとの強さによって、それぞれの持ち味を活かし戦っていた。結果戦いは乱戦を極め、未だなおその長い戦いに決着がつく事は無い。

 

 しかし問題が発生した。それこそが魔人族による魔物の使役だ。

 

 魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

 今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

 

 これの意味するところは、人間族側の『数』というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力が授けられています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、『エヒト様』の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

(…嘘は、ないな)

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべ、己に告げられた信託の内容を述べる中、ハジメはイシュタルの()()を聞いていた。そしてその鼓動の変動などで真偽を見極めようとしたのだ。

 

 結果内容に嘘は無かったが、そもそもの内容がまあ酷い。

 

(要は僕達を戦力として頼りにしたいって話か。『上位の世界』って言うならいっそ【組織】の『色持ち』を狙えば良かったものを…いや、あの人達の逆鱗に触れれば死ねるな、うん。…あとクラスのみんなの気配が少し変わったとも思ったけど、これが授けられた力とやらか…まあ、詳しいことは()()()()()()()よく分からないけど)

 

 多少愚痴が混じりながらもハジメは脳裏で思考を回す。問題は“見聞色”がある要因により仕事を果たしていないことだが、そればかりは仕方がないと諦める。

 

 すると机を叩く音と共に一人のちんまりとした女性が立ち上がる。先程まではイシュタル以外誰も言葉を発することが無かったため、その音に誰もが目を向けた。

 

 愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

『愛ちゃん』と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

 

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情で殆どの生徒がイシュタルに目を向けた。

 

 愛子も慌てて言葉を返した。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。急に非日常に追いやられれば誰でもそうなるものだ。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。

 

 なおハジメはこう言う経験を何度もしているせいであまり慌てられない。旅行で飛行機に乗っていたら空を走る巨人に捕まったとか、師匠に森へ投下されてそのまま1ヶ月放置されたり、たまたまチケットを貰って行ったアイドルのライブがいきなりデスゲームに変わったり…これだけでも序の口だ。少なくともトラブルに巻き込まれる、といった事ではハジメは一流と言えるだろう。

 

 ただそれでも一般人がこれほどあからさまに巻き込まれるのは初めてなだけにどう動くか迷っていると、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

 同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「ほかに方法がないなら…私はやるよ」

「香織……」

 

 光輝に賛同する声が段々と増える。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力。

 

 ハジメと雫はアイコンタクトを取る。目は口ほど物を言うとは正にこの二人の為にある。意思疎通は簡単だった。

 

(どう思う?)

(まず光輝達は『戦う』ことを知らないわ。でもないとこんな気楽に決意出来るわけないもの。あと素質にもよるけどあまり戦えないなら純粋に足手纏いね。そう言う意味でも出来れば避けたい所だけれど…)

(でもまあ、無理だよね。多分この教皇さん、僕達全員戦うのを当然って思ってるだろうし…下手に逆らえばみんなに何をして来るか分からないんだよね)

 

 ハジメはそれとなくイシュタルを観察した。彼は実に満足そうな笑みを浮かべている。

 

 イシュタルが事情説明をする間、クラスメイト全員を観察していた。中心人物は誰か、言葉ごとへの反応やその深層心理を。

 

 そうしてクラスの中心だと見抜いた光輝が正義感が強いと分かれば、己らが正義である事を主張し始めた。人間族の悲劇を語られた時の反応はハジメから見ても実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。そうして彼らを口車に乗せたのだ。

 

 ただ彼等が団結するまで、顔には出さなかったがイシュタルには不満らしき様子が見られた。神の意思に従わないことが不満だったのだろう。それ程に信仰心が強いのだろう。

 

(まぁ、やり方があの()()()を彷彿とさせるけど…)

 

 性格も戦略も実力もアッチの方がクソだろうな、と【組織】のNo.2を脳裏に浮かべながらハジメは取り敢えずこの流れに乗じることとしたのだった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後王家の人間との対面を済ませたり、その際にこの世界でどれだけ『エヒト神』とやらが信仰されているか目の当たりにされたりとしたが、一日目はそれで終わった。そして翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 彼は良くも悪くも豪放磊落だが、同時に『使徒』に親身に接してくれる数少ない人材だ。彼ほど気の良い異世界人はあとはリリアーナ姫ぐらいか。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 戦闘力を目に見えるデータに出来る、ということにハジメは僅かに驚いた。そのような技術は割とハイテクノロジーな地球の裏でも無かった。『実質的なスカウターかぁ』とこの時ばかりは少しテンションを上げた。

 

 なお隣に座る雫はハジメに少し冷たい目をしていた。メカに対する情熱ばかりは以心伝心と行かないらしい。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

 説明の途中、アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメも同じように血を擦りつけ表を見る。雫も同様だ。

 

 結果──

 

「……?」

「へー、まるでゲームの表示みたいね…って何やってるのよ?」

「いや、壊れてるのかなって」

 

 雫がアーティファクトに関心する一方、ハジメはステータスプレートをクルクル回したり、軽く斜め45°に叩いたり、ちょっと覇気を流したりしていた。

 

 他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。

 

 メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

 内容を纏めると以下のようになる。

 ・ステータスプレートにおける項目は『名前』『年齢』『性別』『レベル』『天職』『ステータス』『技能』の計七つ。

 ・レベルはステータスが上がる事により上昇する。高くなれば高くなる程己の潜在能力を引き出せているに等しい。100が限界値。

 ・ステータスの上げ方は様々。鍛錬、魔道具、強い外部からの刺激、重厚な経験により上昇する。なお魔力を持っている場合、その魔力が体に何らかの補助を与える為ステータスが上昇しやすい。

 ・天職は己の向き不向きを示し、同時に技能に影響を与える。戦闘系天職は千人に一人、もしくは万人に一人。一方で非戦闘職は百人に一人から十人に一人で別れる。

 ・ステータスは平均で10程度。人間族で強い物ならば300程度となる。

 

 そうした説明が続けられるほどハジメはステータスプレートに与える刺激を強くしていった。雫もまたその作業に加わり始める。

 

 そんな二人を訝しみながらメルド団長はクラスメイト達に呼び掛けた。早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

 ============================

 天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 天職:勇者

 筋力:100

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:100

 魔力:100

 魔耐:100

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 ==============================

 

 なるほど、まさにチートの権化である。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 

 ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので余程の例外でない限り、増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。

 

 これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる『壁を越える』に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

 そして光輝に続けてと言わんばかりに他のクラスメイト達のステータスもかなりチートであった。そして残り三人となった頃、メルド団長がハジメと雫の元にやって来る。

 

 二人はハジメのプレートを直さんとしていたためかその接近を許してしまった。気づいた時にはもう遅く、その手からステータスプレートが取られる。二人が「あっ」と声を上げた。

 

 今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

 そして今までと同様二人のプレートを覗き…固まった。

 

 ===============================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:──-

 天職:なし

 称号:【無能】

 付与筋力:0

 付与体力:0

 付与耐性:0

 付与敏捷:0

 付与魔力:0

 付与魔耐:0

 技能:武装色[+硬化][+一点集中][+黒刀][+流桜]・見聞色[+範囲拡大][+未来視]・言語理解

 ===============================

 

 ====================================

 八重樫雫 17歳 女 レベル:1

 天職:剣士・能力者

 称号:【天蓋の跡目】

 付与筋力:200

 付与体力:200

 付与耐性:200

 付与敏捷:200

 付与魔力:200

 付与魔耐:200

 技能:剣術・縮地・先読・隠業・武装色[+硬化][+流桜]・見聞色[+共鳴]・覇王色・言語理解

 ====================================

 

 その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というように先程までのハジメ達と同様、プレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。当然ながら直らない。団長は一言。

 

「いや、おかしいだろう」

 

 ハジメと雫は「デスヨネー」と声を揃えた。続けて団長が独り言のようにボヤいた。

 

「まず二人の各ステータスに『付与』とついている事がおかしい。ステータスプレートは本人の現在の素質全てを明らかにする物だ。決して付与された値を示す物ではない。『称号』などという項目もありはしない。ハジメの方はレベル表示がない上、天職は無し。『付与』とはいえステータスの値が全てゼロ…。また雫も天職が二つある上に『付与』ステータスが200台…。それに…技能に見慣れん物があるな。何だこの“武装色”だとか“見聞色”だという技能は…」

 

 そうして団長がイレギュラーだらけのステータスに困惑する中、ハジメを目の敵かたきにしている男子達が食いついた。

 

 檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。ステータスがゼロで、天職が無しとか…赤子以下じゃねーか。称号?ってのにも【無能】って書かれてるし…しかも“武装色”と“見聞色”って…それ『ONE PIECE』だろ? 技能に書かれるとかどんだけオタクなんだよ」

 

 檜山が実にウザイ感じでハジメと肩を組み、ハジメのステータスプレートを覗きながら嘲笑する。その笑い声は次第に周囲に電伝播すると思われたが…その声を驚愕の声が塗り潰した。

 

「な、何だこれはっ!?」

 

 三度目の驚愕に団長はつい、その生徒──白崎香織──のステータスプレートを掌から落としてしまった。周囲の生徒がついその内容を見て、団長と同じように固まった。

 

 その内容は以下の通り。

 

 ====================================

 白崎香織 17歳 女 レベル:1

 天職:治癒師・古代兵器

 真名:『ポセイドン』

 付与筋力:100

 付与体力:100

 付与耐性:100

 付与敏捷:100

 付与魔力:10000

 付与魔耐:9000

 技能:回復魔法・水属性魔法・光属性適性・高速魔力回復・水泳・海王類召喚[+魚類言語理解]・覇王色・言語理解

 ====================================

 

「ポ、『ポセイドン』?」

「古代兵器って…」

「いや魔力の数値も…」

 

 そこにあったのはハジメや雫以上に摩訶不思議なステータス。そしてまたもや現れた『ONE PIECE』の用語に全員が目を剥く。なお香織もまた不思議そうな顔をして己のステータスプレートを見ている。

 

 そしてこの状況において比較的平然としている二人,すなわちハジメや雫に自然と全員の目が向いた。そして団長が代表し、二人に問いかける。

 

「これは…どう言う事だ?」

 

 どうやら色々説明する必要がありそうだ。二人は顔を見合わせながらも、溜息を吐くのだった。




一応ここで幾つか捕捉説明。
まずステータスに『付与』っていうのをわざわざ付けたのは、トータスに来てから加えられた力っていうことです。
なので今、八重樫さんには各ステータスが向こうにいる時より+200されてます。
で、ハジメくんはバフゼロ。言語分かるだけ。虚しいね。

今までの話の途中で出てきた『上位ライセンスメンバー』、『色持ち』とかは次回説明出来ると思います。
次回は主に【組織】の説明が入るので。
まあ、大体察しがつくんじゃないかなって思ってはいる。

あと読者諸君の中には「『ポセイドン』って人魚じゃん! 香織人魚じゃないじゃん!」とか思う人いると思うけどそれもちゃんと言い訳がある。
「『ポセイドン』の詳細出てないのに勝手に使うなよ!」って人はごめんなさい。
でも唯一概要が分かってるのが『ポセイドン』だし…。
『ウラヌス』は全く分からんし、『プルトン』は戦艦ってことぐらいしか…。
ちなみに香織の母さん父さんはnotプルトン、not人魚。
ただの隔世遺伝です。


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