精神保護だけ頼み忘れた (黒の鴉・白の蛇)
しおりを挟む

しあわせ

――――――これは、エアプ作者の「艦これ二次を書きたいッ!」衝動による、果てしもない駄作である――――――!


 ――――――何も無い、けれど全てがある。故にこそ神域と称するに相応しい。

 

 ある日、僕は唐突に死んだ。

 そして次の瞬間に、得体の知れない大いなる渦に巻き込まれていた。

 銀河と形容したくなる粉塵の集まりは銀に金に赤銅に白に煌めいて。そこには星があるように見えた。

 だが、それは違う。そう見えるのは自分自身がそう思い込んでいるだけで在り、星々に見えているそれは「無」の一部であるのだと直感して理解した。

 

 形あるものに輪郭は無く、無形のものに実体があり、存在するものに実在が無く、有り得ざるものが形を帯びる。

 

 ここは()()()()所であり、0()1()の差は、光の波と粒子に相当するものだと受け入れる。0()1()、それが両立して存在し、故にどちらかに分類できない世界なのだと。

 そこまで分かれば、この世界が僕の元居た世界ではないと理解するのにさほどの時間もいらなかった。

 正確には、此処は地球でも宇宙でもない、というべきだろう。ならばここは何と呼ぶべきか。

 

 無で在り有。有で在り無。

 ならばそれは、「 」と呼ぶのが相応しいのではないか。

 理解できないものを理解するために、その世界にラベルを付ける。

 そうしてその概念を自身の中で咀嚼し、嚥下し、消火して我が物とする。

 こうして、僕は一先ずの所、この世界への知見を得た。

 

 「名付け」という行為の、その大きすぎる影響も知らずに。

 

 

 

 僕が一旦仮初の冷静さを装って深呼吸をした。いや、空気があるとは思えないし、肺どころか肉体の実体そのものが無いのだが、気分としての事だ。

 ともあれ、僕は落ち着いた。そういうことにして、沸き上がる疑問を押しつぶす。

 

 此処は何処? じゃない。此処は此処はなのだ。

 今は何時? でもない。今は今なのだ。

 僕は誰か。僕は僕で在り、僕では無く僕なのだ。

 

 冷静さを欠く感情を無視した故に、まだ少し思考が回らない。けれど、冷静じゃないよりかはましなはずだ。自己を保てないよりかはましなのだ。

 

 此処は何処か、今は何時か、僕は誰か。そんな下らない疑問は放置し、如何して此処にいるのか、此処で何をするべきなのか、此処から何処へ行くのか。その事―――つまり、目的―――へと焦点を移す。

 此処は此処で在る。此処に来たのは、恐らく死んだから。死んだ瞬間はありありと思い返せる。病死ではあったが、それにしても唐突すぎるものだ。奇病だなんて、一生縁が無い単語だと思っていたのに。

 此処で何をするのか。何でもできるだろう。では、何をしたいかを考えよう。

 これが物語なら、典型(テンプレート)は神様と会ったり、何かしらの特典を貰うことだ。つまり、黄泉帰り、転生ということだな。

 

 ならばそのように。

 

 自分以外が全てあやふやな世界に、自分以外の気配がする。

 僕はさほど武道に明るいわけではない。「気配」というものを実感したことが無い僕には、それが布ずれでも人肌の温度でも呼吸音でもないことしかわからない、未知の感覚だとしか言えない。名前を付けるとすれば「気配」だが、それが本質的に正しいのかは断定できない。

 それでも、気配が現れたのだ。

 

 ――――――ようこそ、人のコよ。

 

 声といっていいのだろうか。空気を振るわせるのではなく、脳汁を振るわせて語るような、神経細胞を介しての妄想の様な形無き声。

 ソレが、聞こえた。

 

 僕は案外冷静にそれを受け止めた。何でもありだと思っていたからだろうか。

 声の存在を疑問にも思わず、決められた(プログラムを刻まれた機械の様な)対応をするように典型的(テンプレートな)台詞を口にする。

 

 あなたは誰ですか、と。

 

 当然、声は出ない。しかし、言いたいことは伝わった。

 

 ――――――私は神。貴方がそう望み、此処に在るもの。私は貴方に与える為に来た。

 

 「与える」とは、どういうことか。

 

 ――――――これから貴方は生まれ変わる。新しい世界へ転生を遂げる。その際に記憶が引き継がれ、貴方は貴方のまま、第二の生を楽しむでしょう。その時に役立つ力を、私は与える。

 

 ならば、肉体が欲しい。

 傷病を負わず、頑強かつ堅牢な、あらゆる才知を持つ至上の肉体が欲しい。

 

 ――――――よろしい。ならば与えましょう。

 

 ならば、知識が欲しい。

 この世全ての一で在り、この世全ての全であり、終わりから始まりと、それ以外の全てを知る権利が欲しい。

 

 ――――――よろしい。ならば与えましょう。

 

 ならば、魔法が欲しい。

 幻想的に理不尽で、妄想的に不条理で、夢想的に理外の理を意のままに操る力が欲しい。

 

 ――――――よろしい。ならば与えましょう。全ては貴方の意のままに。

 

 ああ、全てが本当に叶うのならば。

 願ってもないことだ。

 

 ――――――。

 

 そして、来た時と同じように唐突に、僕の意識は矮小化した。

 

 

 

ビーストⅠ 生誕

 

 

 

 寒い。怖い。狭い、痒い、痛い、眠い、苦しい、眩し、い寂、しい侘しい、切ない苛、々しい痛々しい、恐ろしい汚らわしい憎たらしい――――――

 

 

 

 ――――――心細い。

 

 感じたのは息苦しさと肉の身の不快感。強い光を感じる苛立ちと、泣きたくなるような衝動。

 悲しいのか。苦しいのか。寂しいのか。何も分からない。

 分かるのは泣きたいという事だけ。泣きたい。泣くしかない。

 それ以外に何もできないという事だけ。

 

 それが歯痒くて、悔しくて、僕は更に泣く。

 

 どこかで誰かが笑っていた。歓喜に咽び泣いていた。

 それが酷く気に食わなくて、僕は更に泣き声(うぶごえ)をあげた。

 

 

 

 

 

 

 前世でいくら生きようが、人の精神は肉体に左右されてしまう。

 それをしみじみと実感させてくれる十と四年だった。

 

 生まれ変わったことを自覚して、まともにしゃべれるようになり、地球の日本に生まれ変わったことを知ってがっかりとしたり、超人的な肉体性能に酔いしれたり、学者を遥かに凌ぐ頭脳で楽したり。

 前世持ちならでは利点を存分に生かし、うまく生きた。それでも怒れば暴れ、悲しければ泣く、感情を隠すこともろくにできない幼少期というものは避けられなかった。

 名前も苗字も違う。家族も環境も、肉体も地域も何一つ違う。

 けれど、此処で過ごす中で感じる郷愁は一体何なのだろうか。

 

 僕は思う。異世界に生まれ変わらなくて良かった、と。

 異世界なんてところに一人、ポイっと放り出されてやっていけるわけがない。そうなるぐらいなら記憶何て引き継がない方が楽だろう。右も左も分からない世界など、怖くて仕方がない。

 結果的な話になるが、この世界に生まれ変わったのは正解だったのだ。

 

 緑茶を啜り、アパートの一室で友人とゲームを楽しむ。コントローラーを振ってチャンバラしたり、操車技術を競ったり。

 テレビゲームに飽きたらトランプやUNOだ。それもやり終えたら脇に捨て、漫画を読み始める。

 片付けもしないでいるのを見咎められ、母に怒られる。渋々トランプを片付け、悠々と寛ぐ友人を横目にUNOを纏める。

 コントローラーをベット下の収納に入れたら、さて続きは……あ、おい、僕が読んでたやつじゃないか!

 

 続きぐらい見せろ、僕が読み終えたら。漫画が破けない程度に掴み合い、母が再び怒鳴り、結局二人で読むことになる。

 顔を寄せ合いながらページを捲る。

 

 こういうのも、まあ、いいかな。

 

 「ちょ、捲るの早すぎる」

 

 ……読むの遅いな。

 やっぱ本は一人で読むのが良いな。うん。

 

 合唱する蝉の鳴き声は壁越しでも煩い。

 その音から逃げるために、再び意識を漫画に向ける。

 

 

 

 澄み渡る青空の下、クーラーの利いた室内で漫画を読み耽る。

 極めて現代的な、夏休みの過ごし方である。

 

 

 

 「蒔苗ー、この続きはー?」

 

 「まだ発売されてないって。これ発売されたの昨日だよ?」

 

 「ちぇー」

 

 「ほら、この作者の本ならまだこっちのとかあるぞ」

 

 「ああ、それか。うちにもある、ってか、これの作者だったんだ。妙に絵に見覚えがあると思ったら……」

 

 「日常にギャグにバトルにラブコメ……手広くやってるよねぇ、この人」

 

 漫画家の偉大さを語り合っている時の事だ。

 

 

 

 

 ――、――――――――――。

 

 ――――――、――――――。

 

 ――――――――――、――!

 

 サイレンが響く。サイレンが鳴り響く。

 物寂しい「夕焼け小焼け」ぐらいしか垂れ流さない、錆びついた屋外拡声設備(スピーカー)が唸りを上げる。

 胸の中の寂しさではなく、下腹から不安を掻き立てるそれは、国民保護サイレン。

 それは、平常時には用いられない、非常事態用の音声。

 誤報や間違いなどでは済まされない、けれどもそうであった方が遥かにマシである非常事態を知らせた。

 

 同時に点けていたテレビから、聞きなれない音がした。

 

 ててててテテテテてててテて。

 ててててテテテテてててテて。

 ててててテテテテてててテて。

 

 聞き慣れない、耳に馴染まない。何処か陽気でありながら、鏡越しの様にそぐわない危機感を掻き立てる。

 テレビのキャスターが、慌てだした。

 

 『――――――臨時ニュースです。現在、日本は()()()()()()()()()。現在入ってきた情報によりますと、太平洋側から莫大な戦力が弾道ミサイルを撃ち込み、宣戦布告をしました。現在より、日本は戦時下に置かれます。繰り返します。現在――――――』

 

 「――――――え?」

 

 「――――――は?」

 

 二人して、呆ける。

 だってそうだろ? 仕方ないだろ、当然だろ。

 前兆も伏線もないんだ。予想外の想定外、思いすらしなかった事態が、起きたのだ。

 

 ずっと続くと、根拠なく確信していた平和が崩れたのだから。

 

 

 

 

 

 

 『――――――はい、現在、新しい情報が入りました。どうやら未知の勢力は諸外国の政府の認知する所の軍隊ではなく、それどころか、その出所も分からない戦力であるとのことです。現在、自衛隊が反撃をしており、事態の収束まで太平洋付近の住民は十分注意するよう――――――』

 

 

 

 『――――――政府の発表によりますと、突如出現した謎の勢力は太平洋からオホーツク海、東シナ海などへ広がり、日本海側まで勢力を広げているとのことです。この事態を重く見た政府は自衛隊への入隊に関して――――――』

 

 

 

 『――――――政府は本日未明、謎の勢力を『深海棲艦』と呼称することを発表しました。この深海棲艦に対する防衛策は――――――』

 

 

 

 『――――――続報です。本州と北海道を結ぶ青函トンネルが、深海棲艦により破壊されました。北海道・本州間連系設備は未だに無事ですが、その状態の存続も危ういとのことで――――――』

 

 

 

 『――――――続報です。先日、成田空港より離陸しましたMM535便、那覇行きが海上で墜落したとのことです。原因は深海棲艦が所持する対空兵器であるとみられ、事態が収束するまで空路は封鎖となります。事実上の鎖国事態となった現状に、政府は――――――』

 

 

 

 『――――――先日、自衛隊での戦死者の身内の秋津涼子(45)さんが、深海棲艦のテロによる被害者を集めてデモ運動を行いました。国会議事堂前で行われ、現状の国民間の不安と苛立ちを――――――』

 

 

 

 『――――――続報です。先日まで諸外国と通信していた電子網が、深海棲艦の妨害により破壊されました。これから外国との通信もできなくなる状態で、国民の不安を如何に受け止めるか。政府は――――――』

 

 

 

 『――――――臨時ニュースです。本日、東京都心の新宿駅構内で、深海棲艦を崇拝対象とする新興宗教がテロを起こしました。現在、毒ガスの危険を考えて新宿駅は立ち入り禁止となっています。電車の運行や遅延の影響などは現場の――――――』

 

 

 

 『――――――』

 

 

 

 『――――――』

 

 

 

 『――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 『――――――続報です。現状の戦力不足を危ぶみ、陸軍省が兵役法を発布しました。対象となるのは15歳以上、25歳以下の健康な男性で、政府は『やむを得ない決断である』と悔やんでいます。続きまして――――――』

 

 

 

 コトン。

 

 赤紙が、届いた。




今作の目的:戦闘描写の練習。

はい、基本戦闘。
飽きたら(我慢できなくなったら)ストーリー進めます。
尚、次回投稿日は未定。即ちエタ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。