ラブライブ! 虹ヶ咲Z (ベンジャー)
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第1話 『二つの始まり』

10年前・・・・・・どこかの森の中で・・・・・・。

 

空の彼方から、青い光の球体が地上へと降り立ち、その球体の中から1体の巨大な怪獣、「宇宙怪獣 ベムラー」が出現。

 

「ガアアアアア!!!!」

 

ベムラーは口から放つ「青色熱光線」で辺りを一帯焼き払い、辺り一帯を炎で包み、森は一気に火の海となる。

 

「うっ、うぅ・・・・・・お父さん、お母さんどこぉ? うわあああん・・・・・・」

 

そんな火の海となった森の中で、道に迷ったらしい黒い髪の幼い少女が泣きじゃくっており、周りが炎で包まれたこともあり、彼女は咳をし始め、その場に膝を突き、苦しそうな様子を見せる。

 

すると、ベムラーは少女の姿に気付き、少女を見下ろすとベムラーは少女に向かって青色熱光線を吐き出そうとするのだが・・・・・・。

 

そんな彼女を守るかのように、赤い光の球体がベムラーに激突してベムラーを吹き飛ばすと、その赤い光の中から1人の光の巨人が現れたのだ。

 

光の巨人は少女を手の平に乗せ、炎が廻っていない崖の上に避難させるようにして降ろすと、光の巨人はベムラーに振り返り、立ち向かう。

 

『ヘアアッ!!』

「光の・・・・・・巨人・・・・・・?」

 

朦朧とした意識の中でベムラーと戦う光の巨人の姿を見つめながら、彼女は意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数年後、現在。

 

ベムラーが地球に降り立った影響か、世界中で異常気象が観測され、今までは空想の産物と思われていた怪獣が出現し始めた。

 

それに近年では対怪獣用兵器として「特空機」と呼ばれるロボットを配備した対怪獣特殊空挺機甲隊、通称「ストレイジ」が設立され、今日も今日とて街に突如出現した20メートルほどの「古代怪獣 ゴメス」の対処に当たっていた。

 

「ガアアアア!!!」

 

ゴメスは逃げ惑う人々を追いかけ回すように暴れており、そこに丁度、ストレイジの所有するロボット、眠そうな目に銀色のボディの「特空機1号 セブンガー」が背中のブースターで飛行しながらその場に駆けつけたのだ。

 

『セブンガー、着陸します。 ご注意ください』

 

着陸地点の民間人の避難が完了すると、セブンガーは地上に降り立ち、セブンガーはゴメスを見下ろす。

 

尚、セブンガーは55メートルほどの身長であり、ゴメスとはそこそこ身重差があってそれを受けてかゴメスはどこか怯んだ様子を見せ、それにビビったゴメスはその場から急いで逃げだそうとする。

 

「あっ、コラ待て〜!!」

 

セブンガーに搭乗している赤いメッシュの入ったロングヘアの女性、「三船 薫子」がセブンガーを操縦してゴメスを追いかけ、一方でその様子をストレイジ日本支部の司令室のモニターで確認している黒髪の男性、このストレイジで隊長を務めている「倉名 猛(くらな たけし)」は後ろの方に立っている少女の話しかける。

 

「おい璃奈、あの怪獣の情報はあるか?」

「えっと、目標は20メートル級の古代怪獣 ゴメス。 新生代第三紀頃から生息が確認されている原始哺乳類で・・・・・・かつて日本でも別個体が出現した記録があります。 その時、同時期に現れた『原始怪鳥 リトラ』と相打ちになったとされてるようで・・・・・・」

 

髪はピンクのやや短いロングヘアーで、まるで紙のような束の集まりで形成されたデザインのパッツンで頭頂部にアホ毛がある少女、「天王寺 璃奈」からゴメスについての情報を倉名は聞き出す。

 

尚、彼女はストレイジのメンバーではないのだが下手な科学者よりも日本で1番怪獣に詳しい自称「怪獣オタク」である。

 

実際、少なくとも日本で怪獣に詳しい人物は彼女以外殆どいないと言っても過言ではない。

 

また璃奈はあくまでストレイジの「民間協力者」といった立ち位置であり、ストレイジの正式なメンバーではない。

 

「そうか。 取りあえず、薫子、聞こえるか? 一応確認するぞ。 現在、セブンガーのバッテリーは1分物が3本。 実用行動時間は3分。 手短にお引き取り願え」

「了解!」

 

そこで別の場所で避難誘導していたストレイジの制服に身を包み、ヘルメットとビームライフルを持った青年、ストレイジに入ってまだ間も無い新人の「赤間(せきま) ライ」が薫子に通信を入れる。

 

「薫子先輩! 北西に大きな公園があるんでそこに誘導してください!! 位置情報送ります!!」

『了解!』

 

ライが薫子と通信を終えると、ライはフッと視界の隅に子犬がいることに気づき、それに「えっ!?」と驚きの声をあげ、急いで子犬の元に駆け寄り、子犬を抱きかかえる。

 

「オイオイオイ! こんなところにいたらダメだろ!?」

 

子犬を抱きかかえて急いでその場から離れようとするライだったが、そこに丁度ゴメスが現れ、彼は急いで隅っこの方に身を隠し、ホッと一安心するのだったが・・・・・・。

 

「グルル・・・・・・!!」

「あっ、ヤベ・・・・・・」

 

いつの間にか目の前にゴメスが立っており、ゴメスはこちらを見下ろし、今にも襲いかかりそうな勢いですぐさまライはその場から離れる。

 

「ガアアア!!」

 

そんなライをゴメスは執拗に追いかけ、同時にセブンガーに乗っていた薫子もセブンガーに設置されたカメラからライの姿を確認し、なんでまだこんなところにいるのかと目を見開き、驚愕した。

 

「なにしてんのさライ・・・・・・!」

 

しかも途中、ライは犬を庇いながら躓いて転んでしまった為、ゴメスはすぐにライに追いついてしまい、ライは急いで子犬を逃がそうとする。

 

「早く逃げろ!!」

「グアアアア!!!!」

 

そして、ゴメスがライに襲いかかろうとした瞬間、咄嗟にセブンガーが腕を振るってゴメスを殴り飛ばしてビルに激突させたのだが・・・・・・。

 

「わっ、わっ、ヤバッ!!? あっ、これダメだ」

 

体勢を持ち直せないと思った薫子は即座に諦めモードになり、ゴメスを殴り飛ばした際セブンガーもバランスを崩してゴメスと同じ方向に倒れ、ビルを破壊してしまったのだった。

 

「ラ〜イ〜!!」

「あっ・・・・・・サーセン、先輩・・・・・・」

 

一応、ゴメスは活動停止したものの、ビルを崩してしまったことで薫子は怒りの声をあげ、それにライは苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてビルを破壊してしまった件について、地球防衛軍日本支部長官にしてストレイジの創設者「クリヤマ」からライ達は「なんて体たらくだよ!!」とこってりと怒られ、倉名は「すいません長官!!」と必死に頭を下げて謝罪していた。

 

「こんなんだから、ウチはどんどん予算が削られてるんだぞ!!?」

 

しかし、子犬を助けようとしただけだし、他に大した被害も無かったのだからこんなに怒らなくても良いんじゃ無いかとでも言いたげな顔を浮かべるライ。

 

それに気付いた倉名はライの尻を掴みあげ、ライは苦痛の顔を浮かべる。

 

「ほら! お前もちゃんと謝る!!」

「お、押忍!」

 

倉名からその態度怒られ、渋々ライも頭を下げて「すいませんでした!」と謝るものの、クリヤマの怒りは収まらず、そのせいで胃を痛めてしまい、そんなクリヤマの様子を見て薫子がバナナと小松菜にモロヘイヤを混ぜたジュースを慌てて持ってやって来る。

「えっ、なんか不味そうだな」

 

そう言いつつも、受け取ったクリヤマはジュースを飲むのだが、意外に美味いらしく、結構グビグビ飲めるようだった。

 

「ってそれよりもだ!! 今後、気をつけるように!!」

『了解!!』

「押忍!!」

 

クリヤマはそれだけを言い残すとその場を去って行き、倉名は1つ溜め息を吐くとライの名を呼ぶ。

 

「おいライ、何に代えても命を守りたいっていうその心意気は俺好きだよ、大好きだよ。 でもさ、折角だから命だけじゃなくて規律の方も守ってくれないと」

 

ライは倉名にそう注意され、「だったらあの犬を放っておいたら良かったんですか?」と不満そうな顔を浮かべながら尋ねる。

 

「あの時、下手したらセブンガーがお前を踏んづけてたかもしれないんだ。 そうしたら薫子は一生消えないトラウマ背負うことになるんだ」

「そうだぞ〜! そんなことになったら一生恨んでやるからな〜」

「っ・・・・・・」

「隊長の言っていること、一理あるよ、ライさん。 ライさんだって薫子さんにそんなトラウマ背負って欲しくないでしょ?」

 

倉名や薫子、璃奈にそう言われて、ようやく自分のやっていたことに気づくライ。

 

ライだって薫子にそんなトラウマ一生背負って欲しくない。

 

思い返せば、もっと良い方法があったかもしれないとライは反省の色を見せ、そんなライの様子に倉名もライが自分の言っていることを理解してくれたことを察し、肩をポンッと叩く。

 

「そう、ですよね・・・・・・」

「分かれば良いんだ。 それじゃ、撤去作業はこっちでやっとくから。 お前と璃奈はそろそろ学校だろ? 遅刻しないようにさっさと行って来い」

「お、押忍!!」

 

ライは高校に通いながらストレイジで働いている為、時間的にもう学校に行かなくては遅刻してしまう。

 

「はい! 行って来ます!!」

「そろそろ準備しないとね」

 

そのため、言われてライと璃奈は慌てて荷物を取って急いで自身の通う高校・・・・・・「虹ヶ咲学園」へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に通い、授業を無事に終えて放課後。

 

ライは幼馴染みであり、下級生でもあるイトピンクのミディアムヘアをハーフアップにし右サイドに三つ編みお団子でまとめて前髪は左に流したぱっつんにしている少女、「上原 歩夢」と黒髪のツインテール姿で、毛先が緑色のグラデーションの少女「高咲 侑」と一緒にショッピングモールで寄り道していたのだった。

 

「・・・・・・両手に花状態だな」

「はい?」

 

ショッピングモールの中を歩いていると、不意にそんなことを呟くライに、怪訝な顔を浮かべる侑。

 

「いや、女の子2人とこうして一緒に歩いてるとさ、ハーレムアニメの主人公になった気分だなぁ〜っと思って」

「ごめんなさい。 ライのことは友達だとは思うけど恋人とかそういうのにはちょっと・・・・・・」

「いや、なんで俺フラれたみたいになってんの!?」

 

侑は単に乗ってくれてるだけなんだろうし、自分も別にそういうつもりで言った訳ではないのだが・・・・・・ジョークだとしてもフラれるのは精神的にキツいのでちょっと傷ついてしまうライ。

 

「ご、ごめんね? 私も友達としてはライくんのこと好きだけど・・・・・・恋人としては見れないって言うか・・・・・・」

「歩夢まで!? もうやめて!! とっくに俺のライフは0よ!!?」

「それよりさぁ」

「無視!?」

 

侑に話をぶつ切りにされ、侑は歩夢と話し合ってファンシーショップに立ち寄ることとなり、ポーチコーナーのポーチを歩夢達は見ることに。

 

「うーん、これはどう?」

「いまいちトキメキが足りないねー」

「お気に召すものが無かったなら、他の店行ってみる仲代先生?」

「誰だ仲代先生って」

 

よくときめきときめき言ってるので、どうしてもどこかの爆竜戦隊の追加戦士のことを思い出し、ライは思わず侑のことを仲代先生と呼んでしまう。

 

取りあえず、良いものがないのなら他の店に行ってみようかとライは提案するのだが、侑と歩夢は「良いの?」と首を傾げて尋ねる。

 

「ライくんも行きたいところあるんでしょ?」

「アニ〇イトだっけ?」

「レディーファーストだ。 それに、楽しみは後に取っておくタイプだからさ俺」

 

そう言うライに侑は「ならお言葉に甘えようか」と素直に頷き、3人は別の店に行く為、この場を離れようとする。

 

「そう言えばこの前取り損ねたぬいぐるみさぁ。 ネット見たらオークションに出てて・・・・・・」

「んっ?」

 

すると、店の外にあったショーケースの中に歩夢の視線が行き、侑もそれに気付いて彼女と同じ方向に視線を向けるとそこに飾られていたピンク色の服を見て「おっ!」と声をあげてそれを眺める。

 

「歩夢! これ良いんじゃ無い?」

「えっ!?」

「似合うと思うよ」

 

侑はその服を目を輝かせながら見つめ、物凄く歩夢に似合いそうだと言うのだが、歩夢は照れ臭そうに頬を赤くしてそれに両手をぶんぶん振ってきっと似合わないと主張。

 

「い、良いよぉ! 可愛いとは思うけど子供っぽいって〜!」

「そうかなぁ? 最近までよく着てたじゃん」

「小学生の時の話でしょ? もうそういうのは卒業だよ」

 

ライもこういうピンク系の服は歩夢にいかにも似合いそうだと侑に同意するのだが、それでも歩夢は遠慮し、そんな彼女の言葉に侑は納得していない様子だった。

 

「着たい服着れば良いんじゃん。 歩夢はなに着たって可愛いよ!」

「ヤダ、なにこの女子。 下手な男よりイケメンすぎんだろ」

 

侑のイケメンムーブにちょっと感動するライ。

 

さらに侑の言葉に乗っかる形でライも激しく首を縦に振って「侑の言う通りだよ!」と言い放つ。

 

「も、もう2人ともまたそんな適当なこと・・・・・・」

「あっ、見てみて!」

「んっ?」

 

その時、侑はそのピンクの服の下に幼い女の子などが着るタイプのウサギの耳がついたパーカーがあることに気づき、しゃがみ込む3人。

 

それを見た侑は「幼稚園の時、こんな格好してたよね?」と幼稚園の頃のことを思い出し、侑はうさ耳パーカーの幼い頃の歩夢の姿を脳裏に浮かべる。

 

『あゆぴょんだぴょん!』

 

両手をうさ耳に見立てながらそんな姿の歩夢を懐かしむ侑。

 

「可愛かったな〜」

「そう言えばそんな格好してたなぁ。 確かにあれは可愛かった」

 

そこで侑は「ねえ」と歩夢に話しかけ、「んっ?」と首を傾げる歩夢。

 

すると侑は両手を頭の上に持って行ってウサギの耳に見立てると、歩夢に「ちょっとやってみてよ」とあることをリクエストした。

 

「なにを?」

「あゆぴょん」

「・・・・・・はぁ?」

 

そんな侑に対し、歩夢はどこか呆れた表情を浮かべる。

 

「やる訳ないでしょ!? もーう・・・・・・」

「なんだ、やらないのか・・・・・・」

 

それに対してライも露骨に残念そうにし、「ライくんも!?」と驚きの表情を浮かべる歩夢。

 

「なんかお腹空いて来ちゃった。 下降りない?」

「強引に話題変えて来やがったな」

「でもそれには賛成だぴょーん!」

 

あゆぴょんは見たいが、無理強いもできないとして一応は諦め、3人は立ち上がると小腹が空いたのでどこかのお店で何かを食べることに。

 

「ゆうぴょんの方が可愛いんじゃない?」

「それはないぴょん」

「それはないな」

 

自分で実際に似合わないと思うし、自分でそう言っておいてなんだが、ライにもそれはないと言われると少し腹が立った侑は軽めにライに無言の腹パンを叩きこむのだった。

 

「ぐおっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は3人でそれぞれ車を使って野外で販売しているこっぺぱんを購入し、3人はベンチに座りながらこっぺぱんを頬張っていた。

 

「ねえねえ、今日の二限でさ〜。 おっ、それなに味?」

「食べる? 限定のレモン塩カスタード!」

「うん!」

 

歩夢の質問に侑は力強く頷き、歩夢は自分のこっぺぱんを差し出して侑に「はい、あーん」をやると侑はそれを人かじりし、「おっ、美味っ! 良いじゃんこれ!」と侑はレモン塩カスタードの味を気に入ったようだった。

 

その際、侑のほっぺにカスタードが付着し、それに歩夢は人差し指で拭い取るとそのまま指についたカスタードを舐め取る。

 

「ほら、ついてるよ?」

「こっちも食べる?」

 

侑がレモン塩カスタードのこっぺぱんを食べさせてくれたお礼にと自分のこっぺぱんも歩夢に差し出すのだが、それならと歩夢は鞄からスマホを取り出し、カメラアプリを起動させる。

 

「ほらぁ〜、よってよって・・・・・・って、ライくんはなんでそんなちょっと離れた位置にいるの?」

 

先ほどまで一緒にベンチに座っていたライはいつの間にか歩夢と侑からベンチから立ち上がって少し離れた距離から移動しており、なんでそんな離れたところにいるのかと歩夢が尋ねる。

 

「邪魔したら悪いかなって・・・・・・」

「「はい?」」

「俺のことは気にしなくて良いから、続けてどうぞ。 目の保養になるし」

 

侑は「なに言ってんだこいつ」とでも言いたげな視線をライに向け、歩夢は不思議そうに首を傾げていたが取りあえず、歩夢はライに言われた通り気にせず歩夢はスマホを構えて侑と密着すると侑は歩夢の手に持つこっぺぱんを食べるようなポーズを取って一緒に撮影。

 

「「ぷっ、アハハハ!!」」

 

それになんだか可笑しくなった2人は笑い合い、ライは自分のこっぺぱんを頬張りながらそんな2人の様子をほのぼのと見つめていた。

 

「それでライ、この後メイト行くんだよね?」

「行く。 魔王城でお〇すみの原作コミック買いに行きたい」

 

侑達はそろそろ移動しようかと考え、ベンチから立ち上がろうとしたその時・・・・・・。

 

どこからか大勢の人々の歓声が聞こえ、3人は「んっ?」と声の聞こえる方に顔を向ける。

 

「何かのイベントかな?」

「あっちら辺って確か実物大ユニ〇ーンガ〇ダムがあるところじゃないか?」

 

向こうから聞こえる歓声に興味を持った3人は歓声の声が聞こえる方へと行ってみることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

人々の歓声が飛び交うその場所はダイバーシティ東京プラザ2Fフェスティバル広場であり、そこへ赤いアイドル衣装を着た1人の黒髪の少女・・・・・・「優木 せつ菜」が階段を降りながら現れる。

 

「わー!! せつ菜ちゃーん!!」

「せつ菜ちゃーん!! 頑張って〜!!」

 

黄色い歓声を浴びる彼女は、今流行している「スクールアイドル」の1人。

 

スクールアイドルというのは言葉の通り、主に学校の部活の一貫などで行うアイドル活動のことであり、今日はそのスクールアイドル、優木 せつ菜がライブを開催する日だったのだ。

 

しかし、観客の中にはせつ菜しかライブ会場に来ていないことに疑問を抱いている者達がちらほらおり、その理由は今日は本来、せつ菜のソロライブではなく、本当ならこの日は「新グループのお披露目ライブ」だったからである。

 

そのため、せつ菜しかいないことに観客達は疑問を覚えたのだ。

 

そして、せつ菜は何かを決意したかのように一度目を閉じ・・・・・・数秒経つと音楽が流れ始め、彼女はそれに合わせて目を見開くと「歌」を歌い出し、ダンスを観客達の前で披露する。

 

そんなせつ菜が歌う曲は・・・・・・「CHASE!」

 

「〜♪」

 

そこへ少し遅れてライ達もその場に訪れ、せつ菜のライブを目撃した侑はそれを見て心を撃ち抜かれたかのような衝撃が走り、同時にライは顔を青ざめさせ、「あぁ!!?」と驚きの声をあげ、ガクリと両膝を突く。

 

「えっ、どうしたのライくん!?」

「今日、せつ菜ちゃんのライブなの・・・・・・忘れてた・・・・・・!! アニ〇イトとか行ってる場合じゃねえ!!」

 

どうやら、ライは歩夢や侑とは違い、せつ菜のことを知っているようで尚且つ彼女のファンだったようだ。

 

そのため、ライは今朝色々とやらかしてしまったことも原因なのだろうが今日せつ菜のライブがあることを忘れていたことを深く、深く後悔し、大ショックを受けていたのだ。

 

ファン失格だなこいつ。

 

しかし、ライは今からでも持ち直そうとすぐに鞄を開けてその中に手を突っ込み、そこから取り出したせつ菜の姿がプリントされたはっぴを着込んでスカーレットカラーのサイリウムを両手に持ち、今からでも全力で応援しようと必死に声をあげ、せつ菜を応援。

 

「せつ菜ちゃん頑張れえええええ!!!!」

「えぇ!?」

 

そんなライに歩夢は引き攣った顔を見せるが、それよりも今はせつ菜のライブの方が気になった為、視線を彼女に戻し、3人でせつ菜のライブを見つめる。

 

また、侑はせつ菜のライブを見て強い衝撃・・・・・・言うなれば、胸を何かで撃ち抜かれたかのような強いときめきを感じ、それは歩夢も同じようで・・・・・・せつ菜のライブを凄いと感じて唖然とした表情を浮かべていた。

 

「凄い・・・・・・」

「うん・・・・・・」

 

侑の呟きに、反射的に返事を返す歩夢。

 

そんな歩夢の両手を「だよね!!」と言いながら握りしめ、それに驚いて頬を赤くしてしまう歩夢。

 

「だよね凄かったよね!?」

「う、うん」

「かっこよかった!! 可愛かった!! ヤバいよ、あんな娘いるんだね!! なんだろうこの気持ち!!? すっごいときめき〜!!」

 

ぴょんぴょん飛び跳ねながら興奮が抑えられないといった様子の侑。

 

尚、歩夢の隣に立っていたライはというと・・・・・・その場に両膝と両手を突き、四つん這いのポーズを取りながら「うぅ、ひっぐ、ぐす・・・・・・!」と泣き崩れており、それに歩夢と侑は「なんか泣いてる!?」と若干引き気味に驚く。

 

「な、なんでライくん泣いてるの?」

「う、うぅ・・・・・・やっぱりせつ菜ちゃんのライブ最高だぜ・・・・・・!!」

「あの娘せつ菜ちゃんって言うの?」

 

ここでライブをしていた彼女の名前を丁度知りたがっていた侑は、ライに彼女の名前を尋ね、それにライは立ち上がって激しく首を縦に振る。

 

「せつ菜ちゃんの良さ、侑も分かるのか! そうだよな、せつ菜ちゃんってかっこ可愛いんだよ!! 曲もカッコイイ系が多くてさ・・・・・・。 ちなみに、俺が初めて知ったのは遊〇王の大会のイベントに出場した時で・・・・・・せつ菜ちゃんもそん時出場しててさ・・・・・・」

「えっ、あの娘遊〇王やるの?」

「そもそもせつ菜ちゃんアニメ、ゲーム、ラノベ、漫画を嗜むオタクだし。 あれも趣味で参加してたんだと思う。 ただ、その後ライブもやってたけどな」

 

なんでもライが言うのは昔自分が出場した街の遊〇王の大会に出場した際、その時せつ菜と対戦したことがあるらしく、モンスターを召喚する時などに召喚口上など言ったりしてノリノリだった為、かなりの印象に残ったそうだ。

 

ちなみにラ〇シュデュエルの大会だったそうだ。

 

「しかもさぁ、せつ菜ちゃんって今やってる遊〇王のアニメのヒロインと声そっくりなんだよなぁ。 本人もそれを自覚してるのか、使ってるデッキがそのヒロインとほぼ同じデッキだったんだよ」

『いくよライブ! とことんダイブ! 我慢が限界 オーバードライブ!! 彩光のプリマギターナ満を持して初・登・場〜!!』

 

こんな感じでかなり対戦を楽しんでいたらしく、最初こそそんなノリの良い彼女を見て面白い娘だと思う程度だったらしいのだが、その後開かれた彼女のソロライブを見て、今の侑と同じように衝撃を受け、ライはすっかり彼女の虜になってしまったらしい。

 

「しかし、なんかトラブルでもあったのかなせつ菜ちゃん」

「「トラブル?」」

「あぁ、今日って確か新しいスクールアイドルのグループのお披露目ライブの筈だったんだ」

 

新しいグループのお披露目・・・・・・ということは本来ならここに、せつ菜以外のメンバーも来てライブを行っていた筈なのだが・・・・・・なぜか今日はせつ菜ただ1人だけであり、そのことを不思議に思っているとライはここでライブを行うことを予告する1つのポスターがあることに気づき、そのポスターの元まで駆け寄る。

 

「やっぱり、ポスターにはちゃんと他のメンバーの姿が映ってるな」

 

ライの言うように、ポスターにはせつ菜を中心に他に4人の少女達が映っており、やはり何かトラブルがあったのかと心配になるライ。

 

そんなライを追いかけるように、侑と歩夢がポスターを覗き込むとそこに書かれてある「虹ヶ先学園 スクールアイドル同好会 生LIVE!」という文字を見て侑と歩夢はお互いに顔を見合わせ、驚愕の表情を浮かべる。

 

「虹ヶ咲って・・・・・・」

「「ウチの高校だーーーー!!!!?」」

「えっ、知らなかったの?」

 

 

 

 

 

 

 

その翌朝、歩夢、侑、ライの3人はそれぞれ自分達が住むマンションのベランダに出てお互いに「おはよう」と朝の挨拶を行っていたのだが・・・・・・不意に侑が「ふあぁ〜」と大きな欠伸をして、それに思わずライが笑ってしまう。

 

「侑、だっらしない顔しやがって・・・・・・異性の前でそんな姿を晒すのはどうかと思うぞ?」

「別にライのこと異性として意識してないからへーきへーき」

「そういう問題じゃないと思うけど・・・・・・」

 

侑の発言にすかさず歩夢がやんわりとツッコミを入れ、彼女は侑に「寝不足?」と尋ねると侑は「うん」と頷き、昨日どうやら夜更かしをしてしまったらしい。

 

それから歩夢は侑とライに「遅刻しないでよ」と釘を刺した後、それぞれ部屋に戻って学校に行く準備を済ませ、待ち合わせ場所で集合することに。

 

「ふわ〜」

「ってなんだ、歩夢も夜更かしか?」

 

先に待ち合わせ場所に来ていたライと歩夢。

 

そんな時、歩夢が口を押さえながら少し大きめの欠伸をした為、彼女も夜更かししたのかと尋ねると歩夢は照れ臭そうにしながらも「ちょ、ちょっとだけ」と応える。

 

「かく言う俺も、ちょっと夜更かししちゃったんだけどな。 ふあぁ〜!」

「お待たせ〜」

 

ライも欠伸をしているとそこへ少し遅れて侑がやって来た為、3人は学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その放課後、歩夢が「部室棟」と書かれた柱を眺めていると彼女の元に侑とライがやってきたのだ。

 

「歩夢〜!」

「待たせたなッ!!」

 

なぜか無駄にちょっとかっこつけて現れるライに苦笑しながらも、歩夢は「それじゃ帰ろうか」と言うのだが、何やら侑はどこかに寄りたいところがある様子で・・・・・・。

 

「その前に、ちょっと寄りたいところがあるんだけど・・・・・・良い?」

「んっ? うん、勿論!」

「どうせならライにも付き合って貰いたいんだけど・・・・・・ライもストレイジでの仕事とか大丈夫?」

 

侑はライにも一応確認し、ライの方も夕方頃にストレイジの方に顔を出さないといけないことになっているが、今はまだ時間的にも特に問題ないのでライも了承する。

 

「押忍! どこ行くか分かんないけど付き合うよ」

「ありがとう」

 

侑は2人に付き合ってくれることにお礼を述べると彼女は歩夢の手を握り、それに歩夢が驚くが・・・・・・侑は構わず彼女を引っ張って歩き出し、それにライも少し間を置きながら歩き出す。

 

「えっ? ちょ、ちょっと!? どこ行くの?」

「スクールアイドル同好会!!」

 

歩夢が戸惑いつつも侑に一体どこに行くのかと問いかけると、侑はスクールアイドル同好会のある場所に行くと言い出し、それを聞いて思わず歩夢は立ち止まり、ライもピシッと同好会に行くと聞いて石像になったかのように固まる。

 

「あ、あの・・・・・・侑ちゃん! 私、まだ・・・・・・」

「私、スクールアイドルってよく知らなかったからさ〜。 昨日帰ってから動画とかいっぱい観たんだよね!」

「・・・・・・えっ?」

 

侑が今朝眠そうにしていて夜更かしした原因、それはせつ菜のライブを観て受けた衝撃が忘れられず、その影響から眠れず、ずっとスクールアイドルの動画を観ていたことが理由だったのだ。

 

「みんなかっこ良くて、可愛くて輝いていて・・・・・・! もう、完全にときめいちゃった!!」

 

目を輝かせ、興奮した様子で歩夢に詰めよって熱弁する侑。

 

「でも、1番はやっぱり昨日観たあの人! 優木 せつ菜ちゃん!」

「ちゃん!?」

「結構有名みたいなんだよね。 神出鬼没のニジガク謎のスクールアイドルって! ファンクラブとかあるのかなぁ? 次のライブ決まってるなら行きたいなぁ〜!」

 

そんな侑の熱に押され、圧されそうになる歩夢。

 

「で、でももう私達2年だし! 一緒に予備校通うって言ってたよね!? スクールアイドルなんて追っかけてる暇ないんじゃ・・・・・・」

「問題なし!」

 

卒業したら本格的にストレイジに就職が決まっているライは兎も角、侑や自分は予備校に通う為に勉強しなくきゃいけないのにアイドルの追っかけなんてしてる時間はないのではないかと歩夢は指摘するのだが、侑はVサインを作って問題はないと言い切る。

 

「これはピースサインじゃないよ! 勝利宣言! なぜならせつ菜ちゃんの歌聞きながら勉強したらすっごく捗ったし、今日の小テストもバッチリだった!!」

 

どうやら夜更かししていたのは夜に勉強していたのも理由だったようだ。

 

「なんかさぁ。 すっごくやる気が湧いて来るんだよね〜。 こんな気持ちになったの初めて! えへへ」

 

ここまで言い切った上にそんな風に満面の笑みを浮かべる侑を見て、歩夢も「しょうがないなぁ」とでも言いたげな顔を浮かべつつも、彼女も笑みを浮かべるのだった。

 

「ところでさっきからライがずっと黙ったままなんだけど・・・・・・何してるの?」

 

そこで先ほどからやたら静かなライの様子が気になった侑は歩夢の後ろにいる筈のライの姿を見ると、何やら腕を組んで先ほどからぶつぶつぶつぶつと呟いていた。

 

「同好会行くの? えっ、マジで? 滅茶苦茶緊張するんだけど・・・・・・いや、でも歩夢や侑と一緒なら・・・・・・うーん、でも・・・・・・。 だけど1回くらい学校でせつ菜ちゃんと会ってみたいし・・・・・・」

「なにあれ怖ッ!?」

「なんか悩んでるみたいだけど・・・・・・」

 

1回本気で通報しようかと思った侑だったが、そんなことしてる場合ではないのでライのことは放っておいて2人は部室棟へと向かうのだった。

 

尚、ライがいないことに気付いたのは侑達が部室棟に向かって数分経った時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置いて行くなんて酷い!!」

「なんかぶつぶつ言ってる不審者と知り合いと思われたくなかったからつい・・・・・・」

 

その後、置いてけぼりを喰らったライは侑が「同好会に行く」と言っていたので2人とも部室棟にいるだろうと思い、すぐに追いかけてたった今2人と合流したところだった。

 

「それにしてもここが部室棟かー」

「初めて来たね」

「コミケ会場みたいに広いな」

 

3人が部室棟の広さに圧巻されるが、圧巻されすぎて当初の目的を忘れないよう即座に歩夢が同好会の場所を侑に尋ねるのだが・・・・・・。

 

「ねえ、スクールアイドル同好会の部室って・・・・・・どこ?」

「さぁ? ホームページも更新止まってたし校内の案内図にも載ってなかった。 でもライは知ってるでしょ? だから連れて来たんだけど・・・・・・」

「俺ただの道案内で連れて来られたの!?」

 

せつ菜のファンなのだから当然部室がどこにあるのかも知っているだろうと思い、侑から期待されたのだが・・・・・・ライは侑から目を反らし、「すまん」と謝罪する。

 

「俺も・・・・・・部室の場所が分からない」

「えっ、なんで分からないの!? 私よりも前からせつ菜ちゃんのファンなんでしょ!?」

 

てっきり、せつ菜のファンというくらいなのだから同好会の部室くらい知っていると思っていたのだが・・・・・・ライ曰く、「自分からせつ菜ちゃんに会いに行くとか恐れ多くて行けない!」とのことだった。

 

それならなんでついて来たのかと疑問に思う侑と歩夢だったが・・・・・・。

 

「いやだって、侑だけせつ菜ちゃんに会いに行ってその上サインまで貰おうとするなんてズルいし! 俺だってまだ貰ったことないのに!!」

「こうなったら片っ端から聞いて廻るしかないね・・・・・・」

「えぇ・・・・・・」

 

という訳でスクールアイドル同好会の場所をここにいる色んな人達から聞こうということになり、先ずはとある部室を訪れることに。

 

「流し素麺同好会にようこそ! 入部希望ですか?」

「!?」

 

扉を開けてその流し素麺同好会に顔を出すと、ライは丁度そこで流し素麺をしている生徒達の姿を見て「そんな同好会あんの!?」とでも言いたげな様子で驚くが、侑の方は特に気にせず、スクールアイドル同好会の場所を尋ねる。

 

「いや、あの・・・・・・スクールアイドル同好会の場所を探していて・・・・・・」

「うーん、知らないなぁ」

(それより部室が・・・・・・! 流し素麺するには部室が狭くない!?)

 

流し素麺の同好会があるのにも驚いたが、それ以上に部室がやたら狭いのがライはどうしても気になってしまう。

 

「美味しそう・・・・・・」

 

また侑の方はそんな部員達が食べる素麺を見て物欲しそうにしており、それを見た歩夢は慌てて「失礼します!」と侑とライを引っ張ってその場を後にするのだった。

 

それからもここで色んな部活や同好会をしている生徒達に同好会の場所を尋ねるのだが・・・・・・誰も知らないの一点張りで一向に見つかる気配がなく・・・・・・3人は途方にくれていた。

 

「全然見つからない」

「部活も生徒数も多いからね〜。 同好会だけで100個以上あるらしいよ」

「マジか・・・・・・」

 

他にも同好会が100個はあると聞いて侑はげんなりした顔を浮かべ、その時彼女は目の前を通り過ぎようとした小柄な少女、璃奈に侑が「すいません!」と話しかける。

 

「スクールアイドル同好会って・・・・・・」

「どこにあるか知ってる?」

 

話しかけられた璃奈はその場に立ち止まり、歩夢と侑がスクールアイドル同好会の場所を尋ねるのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

璃奈は無表情のままその場に立ち尽くしており、もしかして話しかけたらダメだったのだろうかと不安になる侑。

 

「ってりなりーじゃねーの!」

「えっ、知り合い?」

「ちょっとな」

 

そこでライが璃奈の存在に気付くと「おーい!」と彼女に手を振りながら駆け寄り、璃奈も「あっ、ライさん・・・・・・」と彼の存在に気付く。

 

「侑がいきなり話しかけて悪いな。 ちょっと驚いちゃったよな?」

「まぁ、少し・・・・・・」

 

無表情なのは変わらないが、どことなくまだ戸惑っている風なのが雰囲気で分かり、そんな璃奈にライは「落ち着いてから話せば良い」と彼女に笑いかけ、それを受けて璃奈もこくりと小さく頷くのだった。

 

「どうした? りなりー?」

 

だが、そんな時・・・・・・璃奈の後ろにあった階段から金髪のギャル風の少女「宮下 愛」がやってきたのだ。

 

「おー、ライも一緒でどうしたん?」

「よぉ、愛」

「あっ、愛さん・・・・・・」

 

どうやら愛もライの知り合いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、月の周辺宇宙では・・・・・・。

 

サメによく似ているが、二足歩行かつ身体の真横と尻尾の付け根辺りに爪の生えた鰭があり、どことなくワニにも見える怪獣「凶暴宇宙鮫 ゲネガーグ」が地球を目指して飛行しており、そんなゲネガーグの進行を食い止めようと胸部と両肩に銀色のプロテクター、胸部に「Z」という文字によく似たクリスタルが特徴的な巨人、「ウルトラマンゼット」が現れ、真横からゲネガーグを殴りつけて来たのだ。

 

『ゼアアアッ!!』

 

そのままゼットはゲネガーグに掴みかかり、頭部にチョップを何度も叩きこんだ後、頭部のトサカに両手の指先を当て、素早く振り下ろして光波を発射する「ゼットスラッガー」をゲネガーグに繰り出すが、ゲネガーグはなんとかゼットを振り払い、一度距離を置いて背中と側面の鰓状の穴から拡散光弾「ゲネパラサイトボム」をゼットに向けて放つ。

 

『ッ!? ヤバい・・・・・・!?』

 

しかし、ゼットを守るかのように2本のブーメラン「ゼロスラッガー」を頭部に装着し、銀色のプロテクターに赤と青の身体で青いマント、「ウルトラゼロマント」を羽織った巨人、「ウルトラマンゼロ」が間に入ってゲネガーグの攻撃を間一髪防ぎ、ゼットを救ったのだ。

 

『師匠!?』

『危ねえから手出すな!』

『また半人前扱いして! 俺も宇宙警備隊ですよ、師匠!』

 

するとゲネガーグは口から紫色の破壊光線「ゲネバスター」を放ち、ゼロやゼットを攻撃して来るが、2人は躱しながら同時にゲネガーグに向かって突っ込んでいく。

 

『お前を弟子に取った覚えはねえって前から言ってんだろ! それに俺からしたらお前なんて半人前どころか3分の1人前だ!』

『3分の1人前!? 結構ボロくそじゃないですか・・・・・・ウルトラショック!』

 

ゲネガーグはゼロやゼットを近づけさせまいと口から小惑星を吐き出し、ゼットに当てようとするが、ゼットはそれを右横に飛ぶことで回避。

 

『こいつ、小惑星を飲み込んでやがる!?』

 

続けざまにゲネガーグはさらに小惑星を吐き出し、ゼロに攻撃するのだが、ゼロはそれを「その手は食わねえ!」と右手で弾き飛ばす。

 

だが、その小惑星と思われていたものは小惑星ではなく・・・・・・ぶよぶよした人間の心臓のようにも見える怪獣、「四次元怪獣 ブルトン」であり、ブルトンによって空間に次元の穴が開き、その中にゼロは吸い込まれて行ってしまう。

 

『ブルトン!? マジかよ!?』

『師匠!』

『クソ! しゃーねぇ、ゼット!! これを持って行け!!』

 

そう言ってゼロはゼットに1つのアイテムと6つのメダルのようなものを投げ渡し、それをゼットは手に取って受け取る。

 

『これは・・・・・・!』

『奴が飲み込んだメダルはお前が取り返せ!! 頼んだぞぉ!!』

 

それだけを言い残して、ゼロは次元の狭間に飲み込まれ、ブルトンと共に消え去ってしまうのだった。

 

『師匠ーーーーー!!!!!』

 

ゼロが消え去ったのを確認すると、ゲネガーグはそのまま地球へと向かい進行を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、虹ヶ咲学園の部室棟。

 

「ほら、スクールアイドル同好会はここだよ?」

 

愛からアイドル同好会の場所をライ達は教えて貰い、それに侑は「誰に聞いても分からなかったのに!」と驚いていた。

 

「確か今年できたばっかの同好会だしね」

「ありがとう、助かったよ!」

「どういたしまして!」

 

侑は愛にお礼を述べると、その時、侑の服の裾をくいっと突然璃奈が引っ張って来て顔を璃奈の方へと向ける侑。

 

「別に、急いでなかった。 少しビックリしただけ」

 

内気な性格だからかあの時、話しかけてもなんの反応もなかったのはライが言っていたようにやはり単純に璃奈が驚いただけだったそうでそれに侑は「そっか。 なら良かった」と別に急ぎの用とかではないことに安心し、笑みを浮かべて納得するのだった。

 

「・・・・・・好きなの? スクールアイドル?」

「えっ? うん、ハマったばっかだけどね!」

 

璃奈の突然に問いかけに一瞬戸惑ったものの侑は彼女の質問に応えると、今度は璃奈は歩夢とライにも「あなた達も?」とスクールアイドルが好きなのかどうかを尋ねて来たのだ。

 

「えっ? う、うん、どうだろう・・・・・・まだよく分からないかな」

「そういや、りなりーに言ったことはなかったか。 俺はまぁ、スクールアイドルって言うか・・・・・・スクールアイドルのせつ菜ちゃんだけが好きなんだよね」

「・・・・・・そう」

 

歩夢は戸惑い気味にそう応え、ライもスクールアイドルというよりも正確にはスクールアイドルをやっているせつ菜だけが好きという感じだと応え、それに「そう」とだけ返す璃奈。

 

「ありがとね、今から行ってみるよ!」

 

侑は璃奈にもお礼を言った後、ライと歩夢を引き連れて愛に教えられた同好会へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会! 早速中に・・・・・・!」

「いや、待って!! ちょっと待って!! もう少し心の準備させて!!」

 

愛に教えられてようやく部室に辿り着いたライ達。

 

しかし、その前に心の準備をさせてくれと頼むライを無視して、侑は早速中に入ろうとしたその時・・・・・・。

 

「何をしているんですか?」

 

不意に、後ろの方からそんな声が聞こえ、3人が振り返るとそこには三つ編みにメガネをかけた1人の少女・・・・・・「中川 菜々」の姿があり、彼女はこちらに向かって歩いて来ていたのだ。

 

「普通科2年、高咲 侑さん、上原 歩夢さん。 それに、体育科3年、赤間 ライさん」

 

普通に名前や学科を言い当てられ、「会ったことあったっけ?」と頭に疑問符を浮かべる3人。

 

「生徒会長たるもの当然、全生徒の名前を覚えているものです」

「「「えっ? 生徒会長!!?」」」

「ふふ、中川 菜々と申します」

 

3人に微笑みを向けながら菜々は自己紹介を3人に行い、そう言えば確かに生徒集会で見た顔だと侑やライは思い出し、菜々はこの同好会に何か用があるのかと3人に尋ねる。

 

「あっ、はい! 優木 せつ菜ちゃんに会いに来たんです!」

「・・・・・・彼女はもう、ここには来ませんよ?」

 

侑の言葉を聞いた直後、菜々は一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべたが3人はそれに気付かず、彼女はアイドル同好会の扉の前にまで歩いて来ると、淡々とした様子で優木 せつ菜は・・・・・・もうここにこないということを冷徹にライ達に告げたのだ。

 

「「「えっ?」」」

「スクールアイドルは辞めたそうです」

「「・・・・・・へっ?」」

 

それを聞いて昨日好きになってすっかりファンになったばかりだと言うのに、優木 せつ菜はもうスクールアイドルを辞めてしまったと菜々から冷酷に告げられ、唖然とする侑。

 

当然、侑よりも前からずっと応援していてせつ菜がアイドルを辞めるなんてそんな前情報一切無かったライもそれには口をぽっかりと開けて目を見開き驚愕。

 

「えっ、ちょっと待ってください生徒会長! それ、マジなんすか? 俺、せつ菜ちゃんのファンだけどそんな情報一切・・・・・・」

「っ・・・・・・。 紛れもなく、ホントのことです。 情報を公開しなかったのは色々と彼女にも事情があるんでしょう。 それに、彼女だけではありません、このスクールアイドル同好会は・・・・・・」

 

ライの「せつ菜ちゃんのファン」という言葉に、一瞬ピクリとした菜々だったが、すぐに彼女からせつ菜がスクールアイドルを辞めるのは紛れもない事実であることが告げられ、さらに菜々はアイドル同好会のプレートに手をかけ、それを取り外してしまったのだ。

 

「ただいまを持って、廃部となりました」

「「えぇ!?」」

「ゲボォ!?」

 

ただでさえせつ菜がアイドルを辞めるということに衝撃を受けていたところなのに、さらに同好会まで廃部と言われ、驚きを隠せない歩夢と侑。

 

「失礼します」

 

しかし、ショックを受けている2人を余所に菜々はそのままその場を歩き去って行き、侑は「そんな・・・・・・」と悲しげな顔を浮かべ、そんな侑を心配そうに歩夢が見つめるのだった。

 

「・・・・・・んっ? あれ? そう言えばライくんは?」

 

そこで歩夢が先ほどまで一緒にいたライの姿がいなくなっていることに気づき、ライのことだから侑と同じくらい、いや、もしかしたら侑以上にショックを受けているかもしれない筈の彼の姿が見当たらないことに気付き、何気なく下の方へと視線を向けると・・・・・・。

 

そこには突っ伏した状態で倒れ込んでショックのあまり屍のようになっているライの姿が。

 

「あばよ、ダチ公・・・・・・」

「「し、死んでる!?」」

 

別に本当に死んでいる訳では無いが、どうやらやはり侑以上にライは相当落ち込んでしまったようで、侑は心配そうに「大丈夫?」と尋ねる。

 

「だいじょばない・・・・・・。 でも侑こそ大丈夫か? 折角せつ菜ちゃんのファンになったのに・・・・・・」

「まぁ、ショックはショックだよ。 でも前からファンだって言うライに比べたらね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園内のある場所で・・・・・・。

 

そこでは演劇部が演劇の練習をしており、その演劇部のメンバーであり、アイドル同好会の1人でもある腰まで届くダークブラウンのロングヘアをお嬢様結びにし、赤いリボンで纏めている少女、「桜坂 しずく」が他の演劇部員見守る中、演技の練習をしていたのだった。

 

「明日もまた、同じ日が来るのだろう! 幸福は一生来ないのだ! けれども・・・・・・!」

「はい、そこまで!」

 

そこで部長と思われる女性がストップをかけ、部員達にグランド10周を命じた後、部長はしずくの元まで行き、彼女の肩にポンッと手を置く。

 

「しずく、聞いたよ? 同好会の件」

「っ」

「掛け持ちじゃなくなった訳だしこれからは演劇部に専念できるんでしょ!」

 

桜坂 しずくにとって・・・・・・演劇は大切だ。

 

だが、スクールアイドルだって演劇と同じくらいに大切にしている。

 

だからこそ、部長のその言葉を聞いてしずくは複雑そうな顔をしていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

虹ヶ咲学園の中庭の片隅のベンチにて・・・・・・。

 

そこでは持参した枕を抱えながら眠るウェーブの掛かったブラウンの柔らかいロングヘアーと、紫の垂れ目の少女、スクールアイドル同好会の1人でもある「近江 彼方」が「すやぁ、すやぁ」と寝息を立てながら眠っていたのだった。

 

「ハッ!」

 

しかし、不意に彼方は慌てて飛び起きる。

 

「不味い! もう夕方じゃん! 急がなきゃまたせつ菜ちゃんに・・・・・・。 あぁ、もう、怒られないんだっけ・・・・・・」

 

どうやらもう同好会に行く時間なのに寝過ごしてしまった為、慌てて飛び起きたようなのだが・・・・・・既に同好会は廃部となっていることを思い出し、彼方は悲しげな表情を浮かべながら、再び枕に自身の頭を「ぽふっ」と埋めるのだった。

 

「今は寝る以外、することがない・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

虹ヶ咲学園の食堂。

 

そこでは赤毛の短いおさげとそばかすが特徴の少女で、スクールアイドル同好会のメンバーの1人でもある「エマ・ヴェルデ」が椅子に座り、「はぁ」と小さく溜め息を吐いていた。

 

そこへ青みがかかった黒髪で、ウルフカットヘアーが特徴的な少女「朝香 果林」がコーヒーを持ってやってきてエマの向かい側の席に座り込む。

 

「元気ないわね、エマ?」

「果林ちゃん・・・・・・モデルのお仕事は?」

「今日は休み」

 

エマの問いかけに対し、果林は今日は休みだと応え、それに「そう」と頷き、元気なさげに窓の外を眺めるエマ。

 

「どうするの? スクールアイドル」

「・・・・・・部長のせつ菜ちゃんに話そうとしたんだけど連絡つかないんだ・・・・・・。 少し活動を休止するだけって話だったのに・・・・・・廃部だなんて・・・・・・」

「・・・・・・そんな顔しないで。 なにか力になれることないかしら?」

 

悲しげな顔を浮かべるエマに果林そう声をかけ、何か自分が力になれることはないかと尋ねて来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わり、虹ヶ咲学園から帰宅途中のベージュのボブカットの髪型に、小柄な体型の少女、「中須 かすみ」は不機嫌そうな顔を浮かべながら歩いており、彼女は不意に一度その場を立ち止まると学園の方へと振り返る。

 

「ぐぬぬぬ! かすみんはやっぱり、諦めませんよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、歩夢、侑、ライは学園を出てとある広場のベンチに座っており、歩夢は侑と限定のラクレットチーズ蜂蜜のパンを半分に千切って分け合いっこしながら食べていた。

 

「ライくんも食べる?」

「いい、今は腹より俺の傷ついた心を満たしたい・・・・・・」

 

歩夢はベンチにぐったりと寝込んで未だにせつ菜がアイドルをやめたことがショックで引きずってるライを気遣い、彼にもパンを分けようかと思ったのだが・・・・・・どうやら今は食欲がないらしい。

 

「・・・・・・確かに、せつ菜さんのことは残念だったよね・・・・・・。 でも、ほら! 侑ちゃんもライくんも! せつ菜さんが学校にいるのは確かだし、会おうと思えば・・・・・・!」

 

歩夢はアイドルで無くなったとしてもせつ菜は学校にいる筈なのだからもっとちゃんと探せばきっと会えるだろうと言うのだが、侑としては別にそこまで無理して会うつもりはなかったので「それは良いよ」と言葉を返した。

 

「俺も。 下手したら迷惑かけるかもだし、やめるだけの理由もあったんだろうし・・・・・・」

「うん、そうだよね、ライの言う通り・・・・・・。 でも、やっぱり難しいのかな、夢・・・・・・追いかけるのって」

 

侑は顔を上にあげ、夕焼けを見つめながらそう呟くと、歩夢は「えっ?」と首を傾げる。

 

「アイドルやるって、そういうことでしょ? 自分の夢はまだ、無いけどさ・・・・・・。 夢を追いかけてる人を応援出来たら私も、何かが始まる! そんな気が、したんだけどな・・・・・・」

 

どこか元気なくそう語る侑にどう声をかければ良いのか分からず、だけども何かを声をかけたいと思い、口を開きかけた歩夢だったが・・・・・・それよりも早く、侑は立ち上がり、「なんてね♪」と歩夢の方へと顔を向け、笑みを浮かべるのだった。

 

「お台場寄って、帰ろうか!」

「・・・・・・」

 

しかし、その笑みはどこか悲しげで・・・・・・そんな侑の顔をベンチに寝込みながらも見てしまうと、歩夢と同じように何か言ってやりたくなったが・・・・・・。

 

「俺、気の効いたことなんて言えないからな・・・・・・」

「んっ? 何か言った?」

 

ライの呟きに反応する侑だったが、ライは起き上がって首を横に振り、そろそろストレイジの方に顔を出さないといけない時間である為、彼は立ち上がって歩夢と侑とはそこで別れることになったのだった。

 

「何時までもショゲてんじゃねえぞ!! 俺!! これから仕事だ、気合い入れないと・・・・・・!!」

 

ライは自分の頬を両手で「パン!!」と強く叩くと、彼はストレイジの基地へと向かって歩き始めるのだった。

 

(それに、侑の方はまぁ、歩夢がなんとかすんだろ)

 

 

 

 

 

 

 

 

ストレイジの基地にやってきて制服に着替えて司令室に来るや否や、早速隊長の倉名からの命令があった。

 

「えっ? 俺がセブンガーに乗って残りの瓦礫の撤去作業を?」

「あぁ、来年からはお前もストレイジの正式メンバーになるんだ。 そろそろ特空機の操縦に慣れといた方が良いだろ? シュミレーター訓練も何百回もやってるし、それくらいできるだろ?」

 

確かに、倉名の言う通り来年からはストレイジの正式な隊員となる以上、今の内に特空機の操縦に慣れておく必要はあるだろう。

 

特空機を操縦する為のシュミレーター訓練や戦闘訓練も数え切れないほどやった。

 

それに今回はゴメスが暴れた際に破壊された建物の残りの撤去作業のみで10分もあれば終わる簡単作業だ。

 

なのでライは嫌がることもなく、倉名の命令に従い、「押忍!!」と力強く返事するのだった。

 

「押忍じゃなくて了解だろ」

「押忍!! あっ、いや、了解!!」

 

倉名の命令に従い、ライはセブンガーに乗り込むと現場に向かって発信。

 

尚、セブンガーは本来3分しか活動できないが、撤去作業などでは給電ケーブルを用いていれば長時間の活動が可能となっていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、お台場のショッピングモールなどに寄りつつ、バスに乗って自分達の住むアパートの前にまで2人帰ってきていた歩夢と侑は・・・・・・。

 

「今日セブンガーにライが乗って撤去作業してるらしいよ」

「へー、大丈夫かなぁ、ライくん・・・・・・」

 

ライは結構ドジなところがあるので、何か失敗したりしないだろうかと不安になる歩夢だったが、侑は「まぁ、簡単な作業みたいだし」と言って歩夢を安心させる。

 

「ってか撤去作業してるセブンガーが積み木で遊んでるようにしか見えないのは私だけかな? 可愛い」

 

侑が笑いながら、セブンガーのことについて話していると・・・・・・不意に、いきなり歩夢がその場に立ち止まり、それに侑は「歩夢?」と首を傾げる。

 

「・・・・・・2人で、2人で始めようよ。 侑ちゃん!!」

 

何かを言い辛そうにしていた歩夢だったが、彼女は意を決して侑にそう言い放った。

 

「えっ?」

「私も観てたの。 動画。 スクールアイドルの、せつ菜さんのだけじゃなくて沢山・・・・・・!」

 

それが、今朝歩夢が寝不足気味の理由だった。

 

侑と同じだったのだ。

 

彼女もせつ菜のライブを観て侑と同じように衝撃を受け、夜遅くまでスクールアイドルの動画を観ていたのだ。

 

「本当に凄いと思ったよ! 自分の気持ちをあんなに真っ直ぐ伝えられるなんて・・・・・・!! スクールアイドルって、本当に凄い!! 私もあんな風に出来たら、なんて素敵だろうって!!」

「歩夢・・・・・・」

 

真っ直ぐ、真剣に、強く語る歩夢に少しだけ驚いたような顔を浮かべる侑。

 

「ごめんね、最初に言えなくて。 本当は私もせつ菜さんに会ってみたかった!! けど、会っちゃったら自分の気持ちが止まらなくなりそうで怖かったの・・・・・・」

 

すると歩夢は「それでも」と自分の拳を握りしめる。

 

「動き始めたなら、止めちゃいけない。 我慢しちゃいけない」

 

歩夢は胸の前で両手を重ねて少しだけ侑に歩み寄ると、彼女は息を吸って侑に今の自分の気持ちを侑へと伝える。

 

「私、好きなの!!」

 

そんな歩夢の言葉に、面を喰らったかのような顔を浮かべる侑。

 

・・・・・・愛の告白かな?

 

「ピンクとか、可愛い服だって今でも大好きだし、着てみたいって思う!」

 

歩夢はそう語りながら侑に歩み寄り、彼女の左手を手に取り、両手で握りしめる。

 

「自分に素直になりたい。 だから、見てて欲しい」

 

すると歩夢は持っていた鞄を地面に置き、近くにあった幅広い階段を駆け上がってその真ん中辺りで立ち止まると侑の方へと振り返る。

 

「私は、スクールアイドル!! やってみたい!!」

「わあ・・・・・・!」

 

歩夢のその力強い宣言に、侑は嬉しそうな声を漏らすと、歩夢は大きく深呼吸すると・・・・・・歌を、歌い始めた。

 

その曲の名は・・・・・・「Dream with You」

 

歌い終わると、歩夢は侑の元へと戻り、自分の鞄を手に取るとその中からピンクと緑のパスケースを取り出す。

 

「今はまだ、勇気も自信も全然だから。 これが、精一杯」

 

そう呟くと、歩夢は緑のパスケースを侑に渡す。

 

「私の夢を、一緒に見てくれる?」

「ふふ」

 

侑は歩夢からパスケースを受け取ると、彼女は歩夢に向かい微笑む。

 

「勿論! いつだって私は、歩夢の隣にいるよ!」

「っ・・・・・・うん!!」

 

それを受けて、歩夢は一瞬だけ泣き出しそうな顔になるが・・・・・・すぐに嬉しそうな笑みを侑に見せ、頷くのだった。

 

しかし、その時・・・・・・。

 

2人の持っているスマホから警報音が鳴り響き、歩夢と侑は慌ててスマホを取り出して画面を見るとそこには「宇宙より巨大生物飛来! 直ちに避難を!!」という文字が書かれており、歩夢と侑は互いに顔を見合わせる。

 

「ゆ、侑ちゃん! 早く逃げないと!!」

「どのタイミングで来てるのさ・・・・・・」

 

侑はタイミングの悪さに若干怒りつつ、歩夢と一緒に避難所に指定された場所に急いで向かうことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえるかライ? その付近で宇宙から怪獣が接近してる! すぐに薫子と操縦を変われ!』

「怪獣!?」

 

すると、セブンガーの目の前に巨大隕石のように空からゲネガーグが地球へと降り立ち、それに目を見開くライ。

 

「グルアアアアア!!!!」

「いや、操縦を変わってる暇はありません!! ここで俺が奴を食い止めます!!」

 

しかし、ライは地上に降り立つとのとほぼ同時にビルを破壊して行くゲネガーグの姿を見て倉名の命令を聞かずケーブルを切り離すとセブンガーを戦闘態勢にし、怪獣の出現で逃げ惑う人々を守る為にゲネガーグに戦いを挑む。

 

『おい!! ったく、仕方がねえ。 絶対に死ぬんじゃねえぞ』

「押忍!!」

 

一瞬だけ鋭い目つきとなったセブンガーは早速ゲネガーグに戦いを挑もうとするのだが、その時・・・・・・通信で薫子から待ったがかかる。

 

『ちょっと待って! そこに向かってまた別の巨大生物が接近してる!!』

「はぁ!? 今度はなんだよ!?」

 

するとセブンガーとゲネガーグの間に、眩い光が降り立ち・・・・・・その光の中から、ウルトラマンゼットが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、基地のモニターで観ていた倉名はゼットの姿を見て一瞬忌々しそうな顔を浮かべるが、すぐに元の状態に戻りタブレットを手に取って璃奈に連絡を取ろうとするが・・・・・・繋がらない。

 

「チッ、ホントここ、人手不足だよな・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光の巨人・・・・・・? まさか、かつてベムラーと交戦したっていう・・・・・・あの巨人!?」

 

ゼットは一瞬だけセブンガーの方に振り返った後、ゲネガーグの方へと顔を向け、ゼットはゲネガーグに向かって駈け出す。

 

「グルアアアアア!!!」

『ジュア!!』

 

ゼットはゲネガーグの角を左手で押さえつけると、右手でゲネガーグの頭部にチョップを叩き込み、さらに顎に膝蹴りを喰らわせて怯ませる。

 

「ギイイイアアアアア!!!」

 

ゲネガーグはブンブンと首を左右に激しく振ってゼットを引き離すと素早くゼットを角で斬りつけ、身体から火花を散らすゼット。

 

『ジェアア!!?』

「よし俺も! どう見ても、こっちが敵だよな!」

 

ライは自分も戦おうとセブンガーを操縦し、セブンガーはゲネガーグに接近すると拳を叩き込んでゲネガーグを大きく後退させることに成功。

 

続けざまにゼットもゲネガーグの横腹に蹴りを叩き込み、セブンガーも右腕を振るってラリアットを喰らわせようとするがゲネガーグはその巨大な口を開けてセブンガーの右腕に噛みついてしまう。

 

「うわ!? この・・・・・・離しやがれ!!」

 

セブンガーは左拳でゲネガーグを殴りつけるがゲネガーグは離さず、そのままゲネガーグはセブンガーを投げ飛ばしてビルに激突させる。

 

「うわああああ!!!?」

 

ビルに激突したセブンガーに襲いかかろうとするゲネガーグだが、ゼットから放たれたドロップキックがゲネガーグに直撃し、ゲネガーグは大きく吹き飛ばされる。

 

それからゼットはビルに激突したセブンガーをなんとか起こす。

 

「アンタ、一体・・・・・・。 ああもう、この際細かいことはいいや!! 兎に角味方なんだよな、アンタ!! なら、同時攻撃だ!! せーので行くぞ!!」

 

ライの言葉にゼットは頷き、ライは「日本語通じるのかよ」と驚きつつも、ライが「せーの!!」と言うと、セブンガーとゼットは同時に拳をゲネガーグに叩き込む。

 

「チェストォ!!」

『ジェア!!』

 

それにより、ゲネガーグは火花を散らして大きく後退り、すぐさまセブンガーがゲネガーグに向かって駈け出して頭を押さえつけるとライはゼットに「今だ!!」と叫ぶ。

 

それに頷いたゼットはゲネガーグに駆け出してジャンプし、跳び蹴りを喰らわせる。

 

『ゼアアア!!!』

「ギイイイイイ!!?」

 

続けざまにゼットは頭部のトサカに両手の指先を当て、素早く振り下ろして光波を発射する「ゼットスラッガー」を放つが、ゲネガーグは背中のブースターのようなもので素早く移動するとゼットスラッガーを躱しつつゼットとセブンガーに体当たりを喰らわせて吹き飛ばす。

 

「うわあああ!!!?」

『ウオオオッ!?』

 

ゲネガーグはゼット達の方に振り返ると背中と側面の鰓状の穴から拡散光弾「ゲネパラサイトボム」を放ち、倒れ込んだセブンガーとゼットに着実にダメージを与えてくる。

 

そのままゲネガーグはゼットとセブンガーを無視して別方向に背中をブーストさせながら素早く移動を開始し、セブンガーとゼットはなんとか起き上がる。

 

「待て!! 逃げるな鮫野郎!! って、不味い!! あっちの方向は・・・・・・」

『ライ、聞こえる!?』

「薫子先輩!? あいつ、ニジガクの方に・・・・・・!!」

 

そう、ゲネガーグの進行方向には怪獣の出現を受け、避難所となっていた虹ヶ咲学園が存在しており、このままゲネガーグの進行を許せば学校は壊され、そこで避難していた人々に被害が及んでしまう。

 

『私も急いでそこに行くから、ライはどうにか怪獣を足止めして!!』

「押忍!!」

 

そしてセブンガーはこれ以上進行させまいとゲネガーグになんとか追いついて掴みかかり、倒さないとしてもせめてみんなが逃げる時間を稼ごうと奮闘する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん!! 落ち着いて!! 慌てないで避難してください!!」

 

一方で避難所となっていた虹ヶ咲学園では・・・・・・生徒会の仕事で遅くまで残っていた菜々が人々に慌てず、落ち着いて避難するように避難誘導していたのだが・・・・・・。

 

「こっち来んな!!」

 

助けに来た薫子が光線銃でゲネガーグを少しでも足止めしようと攻撃するもののあまり効果もなく、さらにもう目の前にまでゲネガーグが迫っているせいか人々はパニックに陥っており、冷静な判断ができないでいた。

 

(これでは・・・・・・!! このままじゃ、怪獣がこっちに!)

 

一向に収まらない騒ぎに、菜々はどうすれば良いのか悩んでいると・・・・・・そこにゲネガーグを押さえつけるセブンガーの元にゼットが現れ、ゼットはゲネガーグの尻尾を掴んでセブンガーと共に進行を阻止しようとする。

 

「あれは・・・・・・!! 光の、巨人・・・・・・?」

 

そしてそのゼットの姿を目撃した菜々は目を見開き、驚愕した表情を浮かべる。

 

ゼットの姿を見つめ、彼女はかつて遭遇し、自分をベムラーの脅威を救ってくれた光の巨人の姿を思い出す。

 

「でも、あの時とは違う、巨人・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セブンガーはゲネガーグに頭突きを喰らわせることでゲネガーグを倒れ込ませることに成功。

 

しかし、そこでセブンガーの実用行動時間があと30秒に迫り、もうじきバッテリーが切れてしまうことに焦り始めるライ。

 

『実用行動時間、残り30秒!』

「不味い、もうバッテリーが・・・・・・!!」

 

さらにゼットもカラータイマーが点滅を始め、ゼットももうじき活動限界を迎えてしまうことにライは驚愕した。

 

「アンタも時間制限ありかよ・・・・・・!」

 

すると起き上がったゲネガーグは拡散光弾「ゲネパラサイトボム」を撃ちだし、セブンガーとゼットは光弾が学校に行き届かないように2人で学校を庇い、敢えてゲネガーグの攻撃を受ける。

 

さらにゼットとセブンガーが学校を庇って動けないことを良いことに、ゲネガーグはトドメとばかりに光弾を撃ちながら口から放つ紫色の破壊光線「ゲネバスター」をゼットとセブンガーに向かって発射。

 

「うわあああ!!!? クソ、こんなところで倒れてたまるかぁ!! 自分がどんなに傷ついても、倒れても、構わない!! みんなを守るんだあああああ!!!!」

 

しかし、そのライの叫ぶも空しくゲネガーグの光線の直撃を受け続けたセブンガーとゼットは爆発の炎に包まれ、薫子は悲痛な声でライの名を叫ぶのだった。

 

「ライ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・起きなさい、地球人』

「んっ、ここは・・・・・・」

 

気付けば、ライは薄暗い空間で倒れて眠っており、立ち上がるとライは目の前に先ほどまで一緒に戦っていた巨人、ゼットがいることに気付く。

 

「アンタは・・・・・・」

『私はウルトラマンゼット。 申し訳ないが、お前は死んだ』

「えぇっ!? 死んだ・・・・・・? 嘘だろ」

 

ゼットの言葉にライは驚愕し、死んだなんて到底信じられる訳がなかった。

 

『ついでにどうやら私もウルトラヤバイみたい』

「アンタも? アンタまでヤバかったら、このままじゃ学校が・・・・・・!!」

『1つだけ手がある。 私とお前が1つになればもう1度戦える。 手を組まないか? 私もお前の力が必要なのでございます!』

「・・・・・・はい?」

 

ゼットの言葉を聞いて、不思議そうな顔を浮かべるライ。

 

『・・・・・・言葉通じてる?』

「いや、通じてるけど、言葉遣いが変って言うか・・・・・・」

『えぇ、マジ? 参りましたなぁ。 地球の言葉はウルトラ難しいぜ』

 

表情は変わらない筈なのに、なぜか動揺している様子が手に取るように分かるライ。

 

だが地球の言葉・・・・・・というより日本語が難しいというのはなんとなく分かる。

 

「まぁ、日本語って難しいしな。 兎に角、アンタと手を組めばアイツを倒してみんなを守れるんだな?」

『あぁ、守れる!!』

「だったら、迷うまでもない!! かっとビングだ、俺!!」

 

そう発言するライに対し、「んっ?」と首を傾げるゼット。

 

『なんだその、かっと・・・・・・なんとかって』

「様々な困難にもチャレンジする事。 どんなにピンチでも、決して諦めない事。 勇気をもって一歩踏み出す事って意味の、俺の好きなアニメの主人公の決め台詞ってこんな時にオタトークは良いんだよ!! 時間ないんだから!」

 

ついついゼットの質問に対して応えてしまい、時間を食ってしまったことを後悔するライ。

 

だが、ゼット曰く、この空間と現実の空間の時間の流れは違うらしく、ここでの1分は外での1秒らしい。

 

『しかし、かっとビング・・・・・・なぜでございましょう、この言葉を妙に懐かしく感じるのは・・・・・・。 まぁ、それよりも、お前にこれを』

 

ゼットがそう言うとゼットは姿を変えて青いアイテム、「ウルトラゼットライザー」に変化すると、それがライの手に渡る。

 

『さぁ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します』

 

ライは戸惑いつつも言われた通り、ゼットライザーのトリガーを押すと目の前に1つの扉のようなもの・・・・・・「ヒーローズゲート」が出現する。

 

『その中に入れ』

「お、押忍・・・・・・」

 

恐る恐るライはその中に入ると、そこで自分の姿が描かれた1枚のカード、「ウルトラアクセスカード」が現れ、それをライは手に取る。

 

『そのウルトラアクセスカードをゼットライザーにセットだ』

「押忍・・・・・・」

 

ライはカードをゼットライザーの中央部分に装填。

 

『ライ、アクセスグランテッド!』

 

すると今度はライの腰に6枚のメダルの入ったホルダーが出現し、ライはそこから3枚のメダル、「ウルトラメダル」を取り出す。

 

「これを使うのか?」

『あぁ、それはゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠のウルトラメダルだ。 スリットにセットしちゃいなさい! 師匠達の力を合わせれば宇宙拳法秘伝の神業が使える筈だ』

「師匠いっぱいいるな・・・・・・。 まぁいいや、宇宙拳法! 秘伝の神業!!」

 

ライは言われた通り、ゼットライザーのスリットにそれぞれゼロ、セブン、レオの順番でセット。

 

「ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠!!」

『おぉ、ウルトラ勘が良いな。 じゃあ次はメダルをスキャンだ!』

「よし!」

 

ライはゼットライザーのブレード部分をスライドさせて、ゼットライザーにメダルを読み込ませる。

 

『ゼロ・セブン・レオ!』

 

するとライの後ろにゼットが現れる。

 

『よし、そして俺の名前を呼べ!』

「えっと、名前なんだっけ?」

『ウルトラマンゼット!!』

「ウルトラマンゼット・・・・・・?」

『いえ、もっと気合い入れて言うんだよ!!』

「気合い・・・・・・?」

『そう! 良いか? ウルトラ気合い入れて行くぞ!!』

 

ゼットが力強くそう言い放つと、ゼットは両腕を広げて見せる。

 

『ご唱和ください!! 我の名を!! ウルトラマンゼーット!!!!』

「ウルトラマンゼエエエエット!!!!」

 

そしてゼットライザーを掲げるライだったが、特に何も起こらず、首を傾げる。

 

「あれ? 何も起こらないけど・・・・・・もしかして壊れてる?」

『違う! 壊れてない! トリガー! トリガー最後押すの!』

「トリガー? あっ、これか!』

『そうそこ!』

 

イマイチ決まらないなぁと思いつつもライは言われた通り最後にトリガーを押してゼットライザーを掲げると眩い光が走る。

 

するとメダルに描かれた戦士、「ウルトラマンゼロ」「ウルトラセブン」「ウルトラマンレオ」の3人が空間を飛び交う。

 

『ハアッ!』

『デュア!!』

『イヤァーッ!!』

 

するとライとゼットは一体化し、ゼットは姿を変え、上半身は青、下半身は赤で身体に胸部と両肩に銀色の鎧のようなプロテクターを装着し、頭部のトサカのような部分が3つに増えた姿となった「ウルトラマンゼット アルファエッジ」へと変身したのだ。

 

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギイイイアアアアア!!!!」

 

ゲネガーグが学園に迫ったその時、光の光弾となったゼットがゲネガーグに激突し、ゲネガーグを一方的に吹き飛ばしたのだ。

 

『ヘアアッ!』

 

ゲネガーグを吹き飛ばしたゼットは大地に降り立ち、立ち上がってゲネガーグと対峙する。

 

戦闘BGM「アルファエッジのテーマ」

 

そしてそれを目撃した薫子は驚愕した表情を見せ、同時に菜々も姿を変えたゼットのその姿を見て目を見開き、キラキラと輝かせていた。

 

(か、か、かぁっこいい〜!!!!)

『息を合わせて戦うぞ、地球人!!』

「押忍!!」

 

ゼットは突進して来るゲネガーグに対して足に炎を纏わせ回し蹴りを放つ「アルファバーンキック」をゲネガーグの顔に喰らわせ、さらにそこから二度、三度と連続で回し蹴りを喰らわせゲネガーグは大きく後退。

 

「グアアアアア!!!!」

『ジェアアアア!!!!』

 

ゲネガーグは角の刃でゼットを斬りつけようとするが、ゼットはそれを左手で押さえつけて右拳でゲネガーグの顎にアッパーカットを繰り出し、さらに横腹に蹴りを素早く叩き込む。

 

「グルウ!?」

『ゼアッ!!』

 

さらに続けざまにゼットは跳び蹴りを後退したゲネガーグに叩き込み、さらに後ずさりするゲネガーグ。

 

『これが宇宙拳法、秘伝の神業か! ウルトラ強ぇ!!』

 

するとゲネガーグは視線を学園へと向け、そちらに向かってまだ避難している途中の人々に向かって拡散光弾「ゲネパラサイトボム」を撃ち込んできたのだ。

 

『こいつまた性懲りもなく!!』

『させるかよぉ!!』

 

ゼットは頭部にある2本のゼットスラッガーを稲妻状のエネルギーで連結させたヌンチャク、「アルファチェインブレード」を回転させることで攻撃を防ぐ。

 

そのままゼットは光弾を防ぎつつ、ゲネガーグに近づいて一撃を叩きこもうとするのだが、ゲネガーグはゲネパラサイトボムと同時に口から放つ「ゲネバスター」を発射。

 

『ヌアアア!!!!?』

 

それによってブレードを盾にしたことで攻撃を耐えたもののアルファチェインブレードはどこかに弾き飛ばされてしまい、ゼットは衝撃で地面に倒れ込んでしまう。

 

その隙にゲネパラサイトボムをゼットに向かって発射しようとするゲネガーグ。

 

『ヤバイ! 地球人!! もう3枚のメダルを使うんでございますよぉ!!』

「えっ!? あっ、これか!!」

 

ゼットに言われた通りインナースペース内のライはメダルホルダーから新たに3枚のメダルを取りだし、その3枚のメダルにはウルトラマンではなく、それぞれ拳のような紋章、軍艦のようなシルエット、桜のような模様が描かれていた。

 

『ニュージェネレーションヒーローズと共に戦った、女性戦士達、響さん、夕立さん、友奈さんの荒々しくも勇敢に戦う戦士達の力だ! 彼女達の力を使うんでございます!!』

「なんかよく分かんないけど・・・・・・よし、分かった!! 困難を打ち砕く、魂の一撃!!」

 

ゼットに言われ、ライは急いでゼットライザーのスリットに3枚のメダルをセット。

 

「響さん! 夕立さん! 友奈さん!」

 

ライはゼットライザーのブレード部分をスライドさせて、ゼットライザーにメダルを読み込ませる。

 

『響・夕立・友奈!』

 

するとライの後ろにオリジナル形態のゼットが現れ、両腕を広げる。

 

『ご唱和ください! 我の名を!! ウルトラマンゼーット!!』

「ウルトラマンゼエエエエット!!!!」

 

そしてゼットライザーを掲げ、トリガーを押すライ。

 

するとその空間で3枚のメダルが飛び交い、姿を変え、下半身は黒、上半身はオレンジで両手に桃色の手甲のようなものが装着され、プロテクターが無くなり、「ゼット・オリジナル」にも近い状態の姿・・・・・・「ウルトラマンゼット エプシロンワイルド」となったゼットが現れる。

 

『ウルトラマンゼット! エプシロンワイルド!』

 

そしてそれと同時にゲネガーグはゲネパラサイトボムをゼットに向かって発射するが・・・・・・ゼットは両手に光のエネルギーで作られた爪形の武器「ゼスティウムクロー」を出現させ、光弾を全て素早く切り裂いて見せる。

 

『ゼスティウムクロー!!』

「グウウウ!!?」

 

それに驚く様子を見せるゲネガーグだが、ゼットは一瞬でゲネガーグに詰め寄ると、ゼットは膝蹴りをゲネガーグに喰らわせてクローで何度もゲネガーグを斬りつける。

 

「ギイイイアアアア!!!!?」

『ウオオオオオ!!!!』

 

クローを仕舞い込むと横に倒れ込んだゲネガーグに馬乗りとなり、ゼットは荒々しく何度も拳をゲネガーグに連続で叩き込んで行く。

 

『グルアアアアア!!!!?』

 

ゲネガーグはなんとかゼットを振り落とし、ゲネガーグはゼットにその巨大な口を開けて噛みつこうとするが、ゼットは後方に飛んで攻撃を躱す。

 

そしてゼットは右拳と両足にエネルギーを溜めると、両足に溜めたエネルギーを一気に放出することで一時的に加速し、一気にゲネガーグと距離を取るとエネルギーを溜めた右拳を放って繰り出す「エプシロンバスター」をゲネガーグの角の刃に叩きつけ、ゲネガーグの角を破壊。

 

『エプシロン・・・・・・バスター!!』

「ガアアアアア!!!!?」

 

角を破壊され、それに怒ったゲネガーグは背中をブーストさせて突進し、ゼットに体当たりを喰らわせてそのまま2体はビルを突き抜けつつ空中へと移動。

 

『ウオオオ!!? グウウ、ゼア!!』

 

しかしゼットがゲネガーグの頭部を何度も殴ることでどうにか引き離し、ゼットはアルファエッジに姿を戻す。

 

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

するとゲネガーグは今までよりもより強くエネルギーをチャージして口から放つ「ゲネバスター」をゼットに向かって放ち、対するゼットも両拳を胸の前で合わせて上下に揃えた後に左腕を左上に、右腕を右下に伸ばして巨大なZの文字を光で描いた後、両腕を十時に組んで放つ必殺光線「ゼスティウム光線」を発射。

 

『ゼスティウム光線!!』

 

互いの光線がぶつかり合い、両者一歩も引かない状態が少しの間続くが・・・・・・。

 

「チェストォ!!」

 

ライが気合いを入れた叫びを上げると、ゼスティウム光線が一気にゲネバスターを押し返し、ゲネガーグに直撃。

 

ゲネガーグは地面に叩き落とされ、爆発するのだった・・・・・・。

 

「複数の光るメダル」を撒き散らしながら・・・・・・。

 

『シュウアアッ!!』

 

ゼットはゲネガーグが倒されたことを確認すると空中に『Z』の文字を描きながら飛び去るのだった。

 

「・・・・・・N?」

 

小さく、菜々がそう呟くが・・・・・・確かに向きによってはその文字はNに見えなくもなかったりするのだが。

 

「それにしても、なんだったんでしょう。 あれは・・・・・・凄かったですけど」

 

その時、菜々の頭の上にコテンッと1枚のメダルが落ちて来て、それに「痛っ!?」と頭を抑えながら地面にそのまま落ちた刀のようなシルエットが描かれたメダルを彼女は拾いあげる。

 

「なんでしょう、これは・・・・・・メダル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼットのインナースペース内にて。

 

「あれ? 終わったの?」

『あぁ、お前のおかげだ。 それと、あの怪獣から散らばったメダルを回収してくれ。 あれはこの宇宙を救う希望なんだ! お頼み申し上げます!』

 

ライは「言葉遣いやっぱ変だな」と呟やいていると、辺りが光に包まれ始め、「えっ、今度はなに!?」と動揺してしまう。

 

「ちょっと、ゼット!! ゼットってば!!」

 

やがて、目の前が一瞬光に包まれるとライはいつの間にか倒れ込んだセブンガーの傍に立っており、ライは不思議そうに辺りを見渡す。

 

「んっ? あっ、これ・・・・・・」

 

ライは自分の足下に丁度3枚のメダルが落ちていることに気づき、ライはそれを拾いあげる。

 

「ゼットが言ってたメダルって、これのことか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜い!! ライ!! 無事なの〜!!? 生きてるなら返事して!!」

 

その頃、薫子がライを探す為にセブンガーの周辺を歩いていると彼女の元に1枚のメダルが落ちて来て彼女はそれを拾いあげる。

 

「・・・・・・なんだこれ?」

「薫子先輩!!」

 

そこへ丁度彼女の元にライが駆け寄り、それに薫子はほっと一安心して胸を撫で下ろす。

 

「ライ!! 無事だったんだ!! 良かったぁ〜。 でも、よくあの攻撃の中生きてたね?」

「あっ、まぁ・・・・・・その・・・・・・。 ウルトラマンゼットが、助けてくれたって言うか・・・・・・」

 

実際、嘘は言っていない。

 

「ウルトラマンゼット?」

「あぁ、あの巨人の名前みたいっす」

「ふーん・・・・・・ってか、ホント無事で良かったぁ〜。 マジで生きてるよね?」

「も、勿論っすよ!!」

 

一方、そんな2人のやり取りを・・・・・・影から見つめる人物がいた。

 

その人物の手には6枚のメダルが握られているのだった。

 

「フゥーン、なんか、面白くなりそうじゃねェかァ・・・・・・フヒヒ、フハハハ・・・・・・ケホッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、地球防衛軍日本支部怪獣研究センター生科学研究所に所属する青年科学者「土木(どき) アイラ」は仲間達と一緒にゲネガーグの残骸処理を行っていた。

 

しかし、途中躓いて転んでしまい、その際にカプセルに収容していたゲネガーグの破片の一部が飛び出してしまう。

 

「おい、気をつけろよ土木!」

「あぁ、すいません・・・・・・」

 

同僚から注意され、その同僚がその場から立ち去るとアイラは残骸を再びカプセルに仕舞い始める。

 

「うわ、グロい。 気持ち悪いなぁ・・・・・・」

 

そんな時、カプセルの中から昆虫のような「寄生生物 セレブロ」が飛び出し、アイラの顔に突然飛びかかってきたのだ。

 

「うわっ!? なんだよこいつ離れろ・・・・・・!!」

 

必死にアイラは抵抗するものの、セレブロはそのままアイラと彼の身体と自身を一体化させ、完全に同化し、アイラの身体を乗っ取ったのだ。

 

アイラの身体を乗っ取ったセレブロは、カプセルの中に手を突っ込み、そこからウルトラゼットライザーとオレンジ色の石を取り出すのだった。

 

「キエテ、カレカレータ・・・・・・」




ストレイジのヨウコ先輩ポジはそのまんま先輩出すか、オリキャラにするかで悩んだけど、どっちにしてもなんか浮くなと思ったので薫子を登場させました。
ジードサンシャインの美渡みたいなもんですね。
妹の栞子が二期に出るかどうかはまだ分かりませんので現時点で彼女させる予定はないです。
セレブロは名前が同じオリキャラという感じ。

序盤のあの描写はオーブの1話イメージしてますね。
あと80のオマージュでもある。

この作品のストレイジについて
倉名 武を隊長とした地球の防衛チームであるが原作以上に人手不足らしく、高校生のメンバーが2人おり、内1人は民間協力者という立場。
この辺割と無理のある設定だと自分でも思う。
でもストレイジの要素どうしても入れたかった。
結構な欲張りセットな作品になりそう。


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第2話 『隊長の副業』

例のあれがやはり賛否両論みたいなので、アレを見て傷ついた人は少しでもこれが癒やしになればなと思い、更新しました。


 

 

 

 

 

 

 

世界に1番のワンダーランド、そんな場所に、行けると思っていたのに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

数日前。

 

「かすみさん!! もっと振りを大きく!! 熱量が感じられません!!」

 

それはゼットが地球に降り立つ、数日前の出来事。

 

スクールアイドル同好会がまだ廃部にされていない時の話・・・・・・。

 

そこで同好会のメンバーであるかすみ、彼方、エマ、しずくが部長のせつ菜の指示の元、ライブに向けてダンスの練習を行っていたのだが・・・・・・。

 

せつ菜は少々、熱が入りすぎてしまっているようでみんな少しだけ休みたい気持ちでいっぱいなのに、せつ菜はそのことに気付かない。

 

特に、かすみはぜぇぜぇと先ほどから息を切らしており、そんな彼女の様子を見てから詰め込みすぎは良くないと彼方がせつ菜に注意するのだが・・・・・・。

 

「そんな時間はありません!! スクールアイドルが大好きなんでしょ? やりたいんでしょう!? こんなパフォーマンスではファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよ!?」

 

もうじき自分達のライブがある。

 

そのため、ここ最近のせつ菜はかなりの気合いを入れてスクールアイドルの練習に熱を持って打ち込んでいたのだ。

 

しかし、彼女は熱を入れすぎているせいで練習内容は日に日にハードなものにエスカレートしていき、かすみ達は彼女のペースについて行くのも大変で仕方がなかった。

 

それに気付かず、先ほどの発言をしたせつ菜に対し、ここ最近溜っていた彼女への鬱憤を晴らすかのように、かすみは自分のスカートの裾を握りしめながらつい叫んでしまったのだ。

 

「でも!! こんなの全然可愛くないです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、ストレイジ日本支部では・・・・・・。

 

「ゲネガーグの襲撃以来、地底で眠っていた大型怪獣達のバイタルをはじめとする生体反応が確実に大きくなってる。 これはベムラーが襲来した時の状況とよく似てる・・・・・・」

 

司令部に設置されたスクリーンの画面を見ながら璃奈はゲネガーグが地球に飛来したことを切っ掛けにベムラーが襲来した時のように地底に眠る多くの怪獣達に影響が出ていることをライ達に説明しているところだった。

 

元々、ベムラーの出現が切っ掛けで怪獣達が目覚めるようにはなったが、そこまで数が多い訳では無かった。

 

だが、ゲネガーグが襲来した影響で以前にも増して地底に眠る怪獣達が目覚める可能性が高まっており、薫子はゲネガーグの襲来が目覚まし時計にでもなったのだろうかと呟く。

 

「その辺はまだ調査中。 でも、休眠怪獣の監視は強化すべきだと思う。 それと、ライさん」

「押忍!!」

 

名前を呼ばれた為、元気よく返事をするライだったが、それに驚いた璃奈は一瞬目を見開き、ビクッと肩を震わせ、そんな風に彼女を驚かせたライの後頭部を軽く引っぱたく薫子。

 

「璃奈ちゃんを怖がらせないの!」

「べ、別に怖がらせてるつもりは・・・・・・。 まぁ、でも、脅かせたのはごめん。 それで、りなりー? どうしたの?」

 

ライは璃奈に驚かせてしまったのを謝りつつ、自分に何の用だったのかを尋ねる。

 

「あの、ライさんが言っていたウルトラマンゼット・・・・・・で良いのかな?」

「押忍」

「彼についても引き続き調査を続ける予定」

 

それで一通りの説明を璃奈は伝え終えると倉名は「あぁ、それともう1つ」と他にも報告することがあった為、それを各メンバーに伝える。

 

「最近、この辺りで女性を狙った通り魔事件が立て続けに起こっている事件が発生している」

「通り魔事件・・・・・・っすか?」

「あぁ、目撃者の証言によれば銀色の怪物が人を襲っていたそうだ。 璃奈、画像を」

 

倉名は璃奈に指示をすると彼女は無言で頷き、モニターにその人型の銀色の怪物の画像を映し出す。

 

その画像はボヤけていたものの、それでもそれが人間ではないことは誰が見ても明白だった。

 

「こちらも現在調査中だが、こいつに対しても注意が必要だ。 仮に遭遇したとしても1人で対処しようとするな。 一般市民の安全を優先し、基地に連絡を入れるように」

「了解!!」

「押忍!!」

「・・・・・・了解」

 

倉名から連絡を受け、一同は返事をするとそのまま倉名は隊員達に「話は以上だ」と告げて解散するように指示するのだった。

 

「あぁ、それとライ」

「はい?」

 

一瞬、倉名はライの腰の辺りに装着されているメダルホルダー辺りに視線を向けると、その場から去ろうとするライを制止し、こっちに来るように手招きする。

 

「あれから身体はなんともないか?」

「えっ? いや、特に問題はありませんけど」

「そうか。 なんせ死にかけたんだ。 異常があったらすぐに言えよ」

 

ライの返答を聞いて倉名は笑みを浮かべ、ライの肩をポンッと軽く叩くと・・・・・・その時。

 

突如としてストレイジ基地の警報が鳴り響いたのだ。

 

『30メートル級の怪獣出現! ストレイジに出動命令!!』

「早速怪獣様のお出ましか。 薫子! セブンガーで出れるな! ライは現場で薫子のサポート、璃奈はここで出現した怪獣のデータ収集!!」

「了解!!」

「・・・・・・了解」

「押忍!!」

 

倉名はそれぞれライ、薫子、璃奈に指示を出し、ライはストレイジが保有する特殊車両「ステッグ」に乗り込み、薫子はセブンガーへの搭乗準備。

 

ちなみにライは運転免許持ってます。

 

「薫子、お前が言ってたセブンガーのスタビライザーの0.25%の誤差、あれ直しといたぞ!」

 

セブンガーのいる格納庫に辿り着くと、整備班班長である男性、「イナバ・コジロー」こと「バコさん」が出撃しようとする薫子に以前彼女が感じていたセブンガーの異常を直しておいたと報告し、薫子はバコさんに笑みを浮かべて「ありがとうございます!」と頭を下げてお礼を述べつつ、セブンガーのコックピットへと乗り込む。

 

「良いかお前等、10分で出すぞぉ!!」

 

そこからバコさんの号令で整備班達は即座にセブンガーの整備を完了させ、薫子がセブンガーに乗り込むと早速出現した怪獣の元に向かう為、ブースターを起動させて飛行させ、基地から発進、セブンガーは現場へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『セブンガー、着陸します! ご注意ください!』

 

そしてセブンガーは岩山の多い山奥に降り立ち、市街地に進行しようとする足が三本の蜘蛛のような姿をしている怪獣、「合成獣 ダランビア」と対峙する。

 

「ギュウアアア!!」

「これ以上は進ませないよ!!」

 

セブンガーはダランビアに向かって殴りかかるが、ダランビアは素早くジャンプすることで回避し、そのまま3本の足を使った跳び蹴りをセブンガーに喰らわせる。

 

「うわっ!? この!!」

 

ダランビアの攻撃に僅かにたじろくセブンガーだが、ダランビアは続けざまに口から光線を放ち、セブンガーは直撃を受けてしまう。

 

「ぐっ!!?」

 

どうにかしてセブンガーはダランビアを捕まえようと手を伸ばすが、ダランビアは素早くジャンプして回避し、背後に回り込んで光線を吐き出し、セブンガーの背中に直撃させる。

 

「鬱陶しい、ちょこまか逃げるなぁ!!」

「先輩、援護します!」

 

そこで現場に到着したライが「20式レーザー小銃」という武器を構え、弾丸をダランビアに撃ち込むが、ダランビアにはあまり通じておらず、ダランビアはライを無視してセブンガーに攻撃を繰り出す。

 

「クソ、だったらこいつだ!!」

 

そう言いながらライは「ウルトラゼットライザー」を取り出し、変身するためにトリガーを押すのだが・・・・・・何も反応しない。

 

「えっ? なんで!? ゼット、今!! 今戦う時!!」

 

一方、基地でその戦いの様子を見ていた倉名はダランビアの姿を見つめながら怪訝な顔をしていた。

 

(アイツは・・・・・・)

「不味いかも・・・・・・隊長。 あの素早い怪獣とセブンガーだと相性が悪いかも・・・・・・」

「確かにそうかもしれねえな、璃奈? だが、防御力とパワーではセブンガーの方が上だ! 薫子! 聞こえるか? セブンガーの防御力を生かせ! 奴の攻撃はそこまで大したもんじゃない、肉を切らせて、骨を断て!!」

 

倉名からの指示を聞いた薫子は「そうか!」と何かを閃き、ダランビアが口から光線を放ってくると、セブンガーは両腕を交差して光線をガード。

 

両腕で攻撃をガードさせつつセブンガーは構わずそのまま突進し、一気にダランビアとの距離を詰めると両腕を振るうことで光線を弾き、拳をダランビアの顔面に直撃させて身体を貫き、ダランビアは粉々に爆発して砕け散るのだった。

 

「よぉし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、戦闘を終えた後、ライは学校に行く準備をして登校することになったのだが・・・・・・ライは学校に登校しながらどうして先ほどゼットに変身できなかったのかずっと疑問に思っていた。

 

「ゼット、なんで変身させてくれなかったんだろう」

 

ライがそうこうと考えていると、突如としてライの目の前に光の扉、「ヒーローズゲート」が出現。

 

「うおわ!!?」

 

突然のことに驚くものの、それがゼットライザーを通してゼットが自分に何か伝えたいことがあるのかもしれないと即座に理解し、ライは周りに人がいないのを確認しつつ、恐る恐るヒーローズゲートの中へと入る。

 

「お、お邪魔しま~す」

 

中に入ると、ヒーローズゲートは閉じられ、代わりに自分と同じくらいのサイズになったゼットが現れる。

 

『よぉ、赤間 ライ・・・・・・だっけ?』

「あっ、うん、そうだけど・・・・・・。 ってかゼット! さっきはなんで出てきてくれなかったんだ!!?」 

『それはな。 ちゃんとギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って俺達の気持ちがぐっと出来上がってからじゃないとウルトラマンにはなれないんでございますよ!』

 

ゼットからの説明を受け、「そういうもんなの?」と思いつつも、取りあえずは先ほど変身できなかった理由は分かった。

 

「それじゃ、今度はアンタが何者なのか教えてくれないか?」

『おう、そう言えばちゃんとした説明はまだでございましたな。 なら、改めて自己紹介だ。 俺はウルトラマンゼット、M78星雲 光の国からやって来て、俺は宇宙の平和を守る、宇宙警備隊のメンバーなんだ』

 

ゼットが言うには、今宇宙のあちこちで「デビルスプリンター」と呼ばれる邪悪な因子を飲み込んだ怪獣が凶暴化して暴れ回る事件が続いているらしい。

 

また、先輩ウルトラマン達の力が宿ったウルトラメダル、「ニュージェネレーションヒーローズ」と呼ばれるウルトラマン達と共に戦った女性戦士達の力が宿った「ヒロインズメダル」はその対応策として開発されたのだが・・・・・・。

 

あのゲネガーグが突然光の国を襲撃してきてメダルやそれを使うためのアイテムを丸呑みしそのまま逃げ出したのだそうだ。

 

『それで俺は師匠のウルトラマンゼロと一緒に追いかけたんだが、師匠は異次元空間に飲み込まれちまって・・・・・・。 俺が1人で奴を追ってこの地球まで来たって訳』

「・・・・・・思ったより、スケールでかいな。 グレンラガンかよ」

 

正直、思ってたよりかなり大事になっているようで少し圧巻されてしまうライ。

 

『俺の言葉遣い、ここまでで変なところありまへん?』

「う、うーん、まぁ・・・・・・うん」

『よし、とにかく先ずは散らばったメダルを全部回収しないとな』

「お、押忍」

 

戸惑いつつもライは頷き、1つ気になったことがあったのでそのことについてライはゼットに問いかける。

 

「そう言えば、ゼットって歳幾つ? 大事でしょ? そういうの! これからは2人で1人って感じなんだろ?」

『えっ? あ、あぁ。 大体、5000歳だけど・・・・・・』

「えっ? マジで? めっちゃ年上じゃん! あっ、いや・・・・・・マジですか? 滅茶苦茶年上じゃないですかゼットさん! なんかここまでタメ口聞いてすいませんした!!」

 

ゼットが5000歳だと聞いて、ついつい頭を下げて敬語を使い出したライに「な、なんだその言葉遣い!?」とゼットは驚く。

 

『ウルトラ気持ち悪いぞ。 やめて、やめてぇ~』

「そういう訳にはいかないでしょ、ゼットさん!! その辺ちゃんとしないと!! 改めて、よろしくお願いします!!」

『えっ、図が、図が低い・・・・・・』

 

すると、ライはもう1つ気になったことを腰のゼットホルダーを指差しながらゼットに尋ねる。

 

「ところで、これ目立ちすぎじゃありません? みんなにバレませんかこれ?」

『いや、大丈夫。 それは地球人には見えない物質で出来ている。 全然見えてない、誰も気付かなかった。 そもそも目立ってない』

「えぇ・・・・・・。 いや、まぁ、ゼットさんがそう言うなら・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

それからゼットとの会話を終え、学校の授業を全て受けた後の放課後、果林とライは生徒会室の前に訪れており、ライは果林の方向音痴っぷりに付き合わされ、溜め息を吐いているところだった。

 

ちなみに、果林は歩夢や侑とは会ったことないのだが、果林は彼女等2人とはまた別のライの幼馴染みだからである。

 

「果林、お前は何時になったら道を覚えるんだ?」

「だってしょうがないでしょ!? 生徒会室なんて全然行ったことないんだからそりゃ迷うわよ!」

 

そしてなぜ果林がライと一緒なのかと言うと・・・・・・果林は生徒会室に行きたかったのに持ち前の方向音痴っぷりのせいで人に道を聞いても全く辿り着けず、そんな時偶然通りかかったライを発見し、とっ捕まえてここまで案内して貰ったという訳なのだ。

 

「まぁ、取りあえず案内してくれてありがとう。 あなたも一緒に来る?」

「なんで俺も誘うの?」

「優木 せつ菜さんのことについて生徒会長に聞く為よ。 あなたあの娘のファンなんでしょ? なんでスクールアイドルを辞めたのか、知りたくない?」

 

果林からせつ菜の名が出たことに少しだけ目を見開き、驚くライ。

 

なぜ驚いたかというと果林とは最近あんまり会っていなかったが、今まであまりスクールアイドルになんて興味が無さそうな感じだったからだ。

 

なのになぜ、今になってせつ菜のことをワザワザ生徒会長に尋ねに来たのだろうかと首を傾げ、ライは不思議そうに思う。

 

思うのだが・・・・・・正直、果林の言う通りせつ菜がスクールアイドルを辞めた理由は凄く気になる為、果林がどうして彼女のことが気になったかどうかなんてことより、せつ菜のことの方が知りたいと思い、ライは即座に考えを切り替え、「知りたいです!!」と勢いよく返事をした。

 

という訳で、果林は早速、生徒会室の扉をノック。

 

「なんのご用です? ライフデザイン学科3年の朝香 果林さん? それに、赤間さんもご一緒で・・・・・・」

 

扉をノックして果林とライは生徒会室に入ると、そこでは椅子から立ち上がった菜々の姿が1人だけあり、彼女は前回と同じように一発でここの生徒である果林の名前を言い当て、それに思わず小さな笑いが零れる果林。

 

「フフ、生徒全員の名前を覚えてるって本当なのね? じゃあ、優木 せつ菜さんのことも知ってる?」

「えぇ」

「スクールアイドルに興味があって・・・・・・。 でも、誰に聞いても学科もクラスも分からないのよね?」

「単純に果林が方向音痴だから見つけられないだけで・・・・・・むぐぅ!?」

 

それは単に果林が方向音痴だからせつ菜を見つけられないだけではないかと言おうとしたライだったが、果林に顎を鷲掴みにされて強制的に黙らされることに。

 

「今度余計なことを言ったら口を縫い合わすわよ?」

「い、イエス、サー・・・・・・」

 

例の筋肉映画の台詞から引用したジョークだろうが、果林がちょっとだけ怒ったのと掴まれた顎が少し痛いのでこれ以上余計なことは言わないようにライは口を閉じておくことに。

 

「・・・・・・同好会は優木さんとの話し合いの結果、廃部となりました。 スクールアイドルの話なら、彼女は会わないと思いますよ?」

 

一瞬果林は生徒会のファイルなどが入った棚に視線をやると、彼女は「そう、残念」とだけ静かに呟く。

 

「じゃあ生徒会長はせつ菜ちゃんがアイドル辞めた理由とかって・・・・・・!」

 

そこでライは菜々にせつ菜がなぜスクールアイドルをやめたのか、彼女ならばその理由を知っているのではないかと尋ねようとしたその時・・・・・・。

 

「きゃー! 猫よ~!」

 

という誰かの声が聞こえ、「猫?」と不思議に思いつつも菜々は生徒会室の扉を開けて外を確認すると急に目の前に猫が顔に飛びかかり、それによって「むぐっ!?」と思わず倒れそうになるとそれを見たライは「危ない!!」と叫んで倒れそうになった彼女を腕に抱きかかえて倒れないようにキャッチ。

 

「大丈夫ですか生徒会長!?」

「うぅ、あっ、すいませ・・・・・・」

 

だが、ライと菜々は即座に今、お互いに抱きかかえ、抱きかかえられているという状況に気付き、2人は顔を真っ赤にして慌てて離れ、ライはすぐさま菜々に対して土下座を行う。

 

「す、すいませんでしたぁー!!!! 俺なんかが女の子の身体を気安く触ったりなんかして・・・・・・!!」

「いえ、その、助けて頂きましたし・・・・・・って言うか言い方!! ちょっと言い方がなんか・・・・・・って!!」

 

そんなやり取りをライとやっている内に、先ほど自分に飛びかかってきた猫が去って行くのを見て菜々は「待ちなさい!!」と慌てて猫を追いかけるのだった。

 

それから菜々が去った後、未だに土下座してるライを放っておいて果林は先ほど視線を向けたファイルの入った棚に向かい、そこから1つのファイルを取り出すと即座にそれを鞄に入れ、まだ土下座してるライの背中をバァンっと強く叩き、起き上がらせる。

 

「いったぁ!!?」

「何時までやってるのよ。 生徒会長もういないわよ? 用は済んだし、帰りましょう?」

「お、押忍・・・・・・」

 

結局自分が1番聞きたいことは聞けなかったなーと思いつつ、ライと果林は一緒にその場を去って行き、それと入れ替わるようにこっそりと生徒会室に忍び込む影が・・・・・・。

 

それはサングラスにマスクを装着した、シリーズ恒例の不審者スタイルとなったかすみであり、彼女は生徒会室に誰もいないことを確認するとしめしめと部屋に入りって生徒会長の机の引き出しを探り、目的の物を発見。

 

それは「スクールアイドル同好会」と書かれたプレートであり、目当ての物を手に入れたかすみは心の中でガッツポーズをしていると・・・・・・。

 

「なにをしているんですか?」

「ふぎ!?」

 

いつの間にか菜々が戻って来てかすみの背後に立っており、それにビクリと肩を震わせたかすみは全身から汗を流し、彼女は「ひゃあああ!!?」と大きな悲鳴をあげる。

 

「もう戻って来たんですかぁ!? しかし、目的は果たしました!! さらば!!」

 

そう言うとかすみはそそくさとプレートを手に持ってその場を素早く走り去って行く。

 

「あっ、お待ちなさい!!」

 

しかし、待てと言われて待つ奴なんている筈もなく、かすみは菜々の言葉を無視して舌を出して彼女に「べー!」とだけそのまま去るのだった。

 

「・・・・・・全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、プレートを手に入れたかすみは「にひひ、大成功です!」と意気揚々として同好会のあった部室へと向かうことになったのだが・・・・・・。

 

以前あった同好会の部室は既に「ワンダーフォーゲル部」という全く別の部活のものになっており、その事実に頭を殴られたかのようなショックを受けたかすみは絶望に染まったかのような顔を浮かべ、彼女はプレートを落とし、その場に愕然と両膝を突いてしまうのだった。

 

「わ、私達の部室が・・・・・・うぅ」

 

その時、背後から「コツン」と足音が聞こえ、それにビクリと震えるかすみ。

 

「ひぃっ!?」

「普通科1年、中須 かすみさん? 何を言いたいかは、分かっていますよね?」

 

それはかすみが予想した通り、菜々がそこに立っており、メガネを光らせ、やたらと殺気だった威圧感を出す彼女にかすみは今にも泣き出しそうな顔となり、「あわわわ・・・・・・!」と恐る恐る後ろを振り返る。

 

「ガクッ」

 

そのまま菜々は「後で生徒会室に来るように」とだけ言って立ち去ると、それと入れ替わるようにして彼女の元に1人の男性が現れ、四つん這いになって落ち込む彼女に男性は話しかける。

 

「んっ? あれ? かすみん? どうしたんだ?」

「く、倉名先生ぇ・・・・・・!!」

 

それはストレイジの隊長でもある倉名だったのだ。

 

尚、なぜ彼がこのような場にいるのかと言うと・・・・・・実は彼、スクールアイドルにかなり詳しい人物でもあり、彼は副業としてアイドル同好会でコーチのようなものもしていたからだ。

 

ビルドファイターズトライのラルさんみたいなもんである。

 

ちなみにこのことはライや薫子は知らなかったりする。

 

本人が全く周りに言っていないし、同じ学校にいるライの場合は恐れ多くて1人では同好会に近づけなかったからだ。

 

最も、ストレイジの仕事が基本メインなのであまり学校の方に顔を出せない日があったりもするが。

 

「倉名先生!! 今までどこ行ってたんですかぁ!? 先生がいない間大変なことになってたんですよぉ!!?」

「どこってストレイジの隊長してたに決まって・・・・・・あれ? ワンダーフォーゲル部ってなんだこれ? ここスクールアイドル同好会だった筈じゃ・・・・・・」

「私達の同好会、無くなっちゃったんですよぉ!!」

「えっ・・・・・・? ハァ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、かすみはあれから菜々に改めて呼び出され、滅茶苦茶怒られたのか、そのことに対してかなり不機嫌そうにコッペパンを食堂で頬張るかすみの姿があり、そんな彼女を励ますように、隣の席に座ってかすみの頭を撫でながら励ますしずくの姿があるのだった。

 

「あの意地悪生徒会長!!」

「怖かったね~? でも生徒会長室に忍び込んだりするからだよ」

 

また彼女等の向かい側にはカレーパンを頬張る倉名の姿も。

 

「ストレスを食欲にぶつけると大変なことになりますよって海未ちゃんが言ってたぞかすみん?」

「海未ちゃんって誰ですか」

「しっかし、俺がいない間にこんなことになってるとはなぁ・・・・・・」

 

かすみと比べると、かなり落ち着いているように見えるものの正直、倉名は自分がいない間に同好会が潰れてしまっているなんてことに納得はできず、どうするべきかと考え込む。

 

(こいつ等には可能性があると思ったんだが・・・・・・見込み違いだったか? いや、逆境がある方がむしろ『らしい』かもしれねェなァ?)

「・・・・・・部室、無くなったんだ・・・・・・」

 

そこで部室が無くなってしまったことにしずくが悲しげに呟く。

 

「こうなったら徹底抗戦だよしず子!!」

「えっ?」

 

かすみの言う徹底抗戦というのは・・・・・・「会長の横暴を許すな!!」「部室を返せ!!」という言わばデモのようなもののことなのだが、これに関してはしずくは苦笑することはしかできなかった。

 

「あはは、でも気持ちは分かるよ」

「でしょー!?」

「・・・・・・せつ菜さんには相談した?」

「っ・・・・・・」

 

せつ菜の名前を聞いた瞬間、彼女はプイッとそっぽを向き、「する訳ないじゃん!!」としずくに返す。

 

「そもそも部室以外で会ったことなかったし!」

「そうだね・・・・・・」

「アイツ、俺にも連絡先頑なに教えなかったしな。 ったく、なんでそんなに教えたがらないんだか・・・・・・」

 

どうやらアイドル同好会のコーチをやっている倉名にもせつ菜はなぜか連絡先を教えていなかったようで・・・・・・こんなことなら無理矢理にでも聞いておけば良かったと後悔する。

 

「しずく、いこ?」

「あっ、はい!」

 

そこへ丁度、演劇部の部長であるしずくの先輩が現れ、部長はそろそろ演劇部の活動の時間だからとしずくを迎えに来たようだった。

 

「ごめんなさい、演劇部の稽古に行かなくちゃ! 後で連絡するね!」

「えっ? あっ、ちょっとー!!」

 

そのまま演劇部の稽古に行ってしまうしずくをかすみは「ぐぬぬぬ・・・・・・!」と睨み付け、その後彼女は場所を学園の外へと移し、今度はそこにあったベンチで苛立ちながらパンを頬張っていた。

 

「しず子の薄情者~!!」

「だからそういう苛立ち、ストレスを食欲にぶつけると大変なことになるって言ってるだろ? アイドルなら体型意地もしっかり保たないとな」

「だって、だってぇ~!」

 

倉名からストレスを食欲にぶつけると大変なことになると先ほどから忠告されているが、こうでもしないと溜ったストレスが発散できないとかすみは涙目で主張し、そんな彼女にやれやれといった様子の倉名。

 

「それに、エマ先輩や彼方先輩にも連絡が取れないし、こんな時にあの人達は一体なにしてるんですか!!」

 

また、かすみが苛立っているのはこんな時なのに他の同好会のメンバーと全く連絡が取れないことも苛立ちの理由の1つだった。

 

「彼方はああ見えて結構忙しい身らしいからまぁ、連絡が取れないのは分かるが・・・・・・エマまで連絡が取れないってのはなぁ・・・・・・」

「こうなったらぁ! かすみんが部長になって同好会を存続させるしか・・・・・・!!」

 

こうなればとかすみは立ち上がり、自らが部長になることでアイドル同好会を存続させようと考え、それを聞いた倉名は「えぇ~?」と物凄く不安そうな顔を浮かべる。

 

「なんですか! なんなんですかその嫌そうな顔は!?」

「かすみんが部長って不安しかねえんだけど・・・・・・」

「かすみんにだって部長くらい出来ますよ!! 可愛い溢れる、かすみんワンダーワールドを作っちゃいますよ~!!」

 

倉名の不安を余所にかすみは既にやる気満々で後に退く気はないようだった。

 

「まぁ、理論上、スクールアイドルは別に1人でも活動できるが・・・・・・」

 

別にスクールアイドルは1人でやっちゃいけないなんてルールは無いが、エマや彼方とも連絡がつかない以上、ここはかすみを優先的にアイドルとして育てるべきかと倉名は思ったが・・・・・・。

 

「この際ソロも悪くねえが、やはり仲間がいてくれた方がやりやすそうなんだよなぁ」

 

やはり出来れば一緒に活動してくれる仲間が欲しいし、部員が多くいれば部室を取り戻せるかもしれないし、そっちの方が同好会としても活動しやすくなるだろうと倉名は考え、先ずは部員の勧誘をすべきだとかすみに提案しようとしたその時・・・・・・。

 

「しかし、歩夢がスクールアイドルになりたいと聞いた時は驚いたなぁ。 でも、歩夢ならきっと人気出ると俺は思うぞ?」

「ありがとう、ライくん」

「でも、スクールアイドルってどうやってなるんだろう?」

「「えっ?」」

 

丁度、そこに帰宅途中の侑、歩夢、ライが通りかかり、スクールアイドルってどうやってなれば良いのだろうかと悩んでいる3人の姿が。

 

「スクールって言うくらいだから部に入らないとダメなんだろうけど・・・・・・ライくんは知らないの?」

「いや、俺は何時もせつ菜ちゃんを応援してるだけだったから・・・・・・どうやってなるのかまでは・・・・・・」

 

侑や歩夢よりも以前からスクールアイドルを知っている癖に、相変わらずこういう時に役に立たないなと呆れた視線を侑から送られてしまうライ。

 

「なんだよ、その目は」

「いや、別に・・・・・・」

「せんぱーい!」

「「うわっ!?」」

 

すると、そこへ侑や歩夢の肩に両手を乗せ、ニコニコした笑顔で早速勧誘してくるかすみの姿が。

 

「スクールアイドルに、ご興味あるんですかぁ?」

「俺達は怪しい者じゃない、大丈夫。 スクールアイドルに興味があるならちょっと俺達と話さないか? 大丈夫、悪いようにはしないからぁ~!」

 

かすみに続くように彼女と同じようにニコニコ笑顔の営業スマイルで倉名も早速歩夢や侑に話しかけて彼女等を勧誘するのだが・・・・・・正直、かすみだけならまだしも、倉名のニコニコ笑顔は怪しさの塊でしかなく、物凄く悪そうな人にしか見えないことから歩夢や侑は若干ドン引いていた。

 

「って隊長!? 何してんすか!?」

「あっ? ライ? なにお前、このお嬢さん方の知り合いなの?」

 

そこでライや倉名お互いの存在に気付き、ライはなぜ倉名がこんなところにいるのかと心底驚き、一同は詳しい話をするため、近くのベンチに3人を座らせることに。

 

「スクールアイドル同好会、2代目部長のかすみんこと中須 かすみでーす♪」

 

くるっと可愛らしく回ってぶりっ子のようなポーズを決めながらライ達に自己紹介を行うかすみ。

 

(あざとい)

(あざとい)

 

かすみの自己紹介にそんな感想を抱きつつ、倉名は咳払いし、彼もライ達になぜストレイジの隊長である自分がここにいるのかを説明する。

 

「俺、副業としてこいつ等アイドル同好会のコーチやってんの」

「えっ、俺、それ初耳なんですけど・・・・・・」

「だって言ってないもん、聞かれもしなかったし」

 

倉名は言ってないし、聞かれもしなかったからとライの質問にそう応え、そんな彼の言い分に若干不満げなライ。

 

「でも隊長、俺がスクールアイドル好きなの知ってましたよね!? コーチやってるってことは隊長も好きなんでしょ!? もっと早く知ってたら隊長と語り明かしてたのに・・・・・・!!」

「確かに俺はスクールアイドルについて詳しいがな、俺の場合はちょっと特殊なんだよ」

「特殊?」

 

てっきりコーチなんてやってるくらいだから倉名もスクールアイドルが好きなんだろうと思ったのだが、どうにもただ単純にスクールアイドルが好きという訳ではないようだった。

 

「理由の1つはストレイジの給料が松茸買えないくらい安いからってのがあるな。 他にも理由はあるが・・・・・・まぁ、その辺の話は後だ。 俺のここでの働き口潰さない為にも今はこちらのお嬢さん方を勧誘させろ。 ってことでお嬢さん方! お名前を伺ってもよろしいかな?」

「何故だろう、隊長が歩夢と侑に怪しい勧誘してるようにしか見えないのは・・・・・・」

「誰が怪しい勧誘だ」

 

どこかで闇のアイドル勧誘とか言われてそうである。

 

「えっと、私、高咲 侑です!」

「上原 歩夢です。 でも、同好会って廃部になったんじゃ・・・・・・」

 

同好会は確か廃部になった筈なのにと尤もな疑問を歩夢がかすみや倉名に尋ねると、倉名は苦い表情を浮かべながら「確かに1回潰れたが・・・・・・」とだけ応える。

 

「潰れてませんよ!! 諦めなければ同好会は永遠に続くのです!!」

 

しかし、即座に倉名の言葉を否定し、彼女は自分の中からコッペパンを「お近づきの印に」としてライ、歩夢、侑の3人に渡す。

 

「いいの?」

「はい♪」

 

ライ達はかすみから渡されたコッペパンを手に取り、包装紙を破ってパンを食べると、3人は目を輝かせる。

 

「「んっ!? 美味しい!!」」

「確かに美味い。 これ、あそこのお店のやつ?」

 

ライがよくニジガクの生徒達などが訪れるいきつけのパン屋のコッペパンの商品かと尋ねるが、かすみは「チッチッチ!」とドヤ顔で否定する。

 

「そのパンはかすみんの手作りですよ?」

「マジで!? 滅茶苦茶美味しいじゃん!」

「へぇー! 流石スクールアイドル! こんなに可愛いくて料理までできるんだ!!」

「へっ? 可愛い?」

 

侑の「可愛い」という言葉にかすみは頬を赤くし、「そんなぁ~!」と頬に両手を当てて身体をくねくねさせる。

 

「そりゃ確かにかすみんは可愛いに決まってますけど~! 侑先輩、見る目ありますね~!」

「へっ!?」

「そうかなぁ? 誰が見たって可愛いよ?」

「へえっ!?」

(さっきから歩夢の奴どうしたんだ・・・・・・)

 

間に挟まれながら、侑とかすみのやり取りを交互に見てなぜか驚くような声をあげる歩夢。

 

そんな歩夢をライは一体どうしたんだと不思議そうに見つめる。

 

「ホントですかぁ~!? じゃあ先輩方! そんな可愛いかすみんとスクールアイドルになりませんかぁ?」

「えっ?」

「大丈夫かなぁ?」

 

かすみはそのまま本題に入り、ここから本格的に歩夢や侑をスクールアイドルに勧誘しようとするが、歩夢はまだ不安なようで、侑の方を見ながら大丈夫だろうかと尋ねると、侑も「うーん」と唸る。

 

「大丈夫です! 信じてください!! かすみん、最強に可愛いスクールアイドル同好会にしてみせますから!!」

「っ、可愛い・・・・・・?」

 

かすみの「可愛い」という言葉に反応し、一瞬侑の方に視線を向けた歩夢は「だったら・・・・・・」と呟く。

 

「だったら、やろうかな?」

「入部決定ですね!!」

 

歩夢のその言葉を聞いた瞬間、かすみは嬉しそうに歩夢の両手を握りしめる。

 

「あっ、ちなみに私はアイドル志望って訳じゃないんだ。 歩夢を応援したくて!」

「なんだ、てっきり歩夢がやるんなら侑もやるかと思ったんだが・・・・・・」

「それって、専属マネージャーってことですか?」

 

侑は別にスクールアイドルをやるつもりはなく、ただスクールアイドルの歩夢を応援したいだけだとかすみに話し、つまりそれは彼女のマネージャーをやりたいということなのかとかすみは尋ねるが、侑はイマイチ、ピンッと来ていないようで「そうなのかなぁ?」と不思議そうな顔をしていた。

 

「ズルいです! それならかすみんのサポートもしてください!」

「へっ!?」

「スクールアイドルとしてはかすみんが先輩ですからね~? 部長には絶対服従ですよ?」

 

ウインクしながら侑に自分のサポートも侑にお願いするかすみ。

 

それに快く「分かったよ」と侑もそれを引き受ける。

 

「分かったよ、中須さん」

「もっと気軽に呼んでくださいよぉ!」

「だったら、『かすかす』だね!」

 

かすみが気軽に呼んで欲しいと頼んで来たので、歩夢は親しみを込めて「かすかす」というあだ名で呼ぼうとしたのだが、かすみは「かすみんです!!」と即座にそのあだ名を拒否。

 

「えっと、中須 かすみだからかすかすかなって」

「かすかすは悪口に聞こえるからちょっとやめとけ歩夢」

「でもかすみんは腹黒系スクールアイドルだからあながち間違ってないような気もするけどなぁ?」

 

「かすかす」はちょっと悪口に聞こえるという理由で、それはやめとけと言うライ。

 

だが、かすみはちょっと腹黒いところがあるのであながち間違ってないのではないかと倉名は主張。

 

「って誰が腹黒ですか!?」

「お前この前俺にタバスコ入りコッペパン食わせただろ」

 

誰が腹黒だと怒るかすみだったが、倉名は額に青筋を浮かべて以前タバスコ入りコッペパンを自分に食べさせたことを例に出し、それを受けてかすみは「あ、あれは材料を間違えて・・・・・・」と目を泳がせながら材料を間違えただけだと言い訳するが・・・・・・。

 

「嘘つけ!! せつ菜達にも振る舞ってたけど、アイツ等普通に食ってたし、俺のだけタバスコ入りって明らかにロシアンルーレット的なやつ狙ってただろ!?」

「うっ、うぅ・・・・・・。 もう!! かすみんって散々アピールしてるんだからそれでお願いしますよ歩夢先輩!」

「あっ、話無理矢理反らした」

 

倉名に追い詰められ、こうなればとかすみは無理矢理話を軌道修正させ、侑は先ほどから自分のことを「かすみん」と呼んでいたのはてっきり一人称なのだと思ったのだが、それがアピールだったことに少しだけ驚き、かすみは自分の鞄を持って「早速同好会の活動を始めますよ!」と宣言。

 

「ついて来てください!」

 

そのままかすみに連れられてライ達は彼女について行くことになるのだが、その途中、ライはかすみか倉名に先ほどからずっと聞きたかったことについて尋ねることに。

 

当然、それはせつ菜のことだ。

 

「隊長、隊長だったら、せつ菜ちゃんがどうしてアイドル辞めたのか、理由知ってたりします?」

「知らん、そんなことは俺の管轄街だ。 アイツが辞めた理由は誰も知らない。 せつ菜が勝手にいきなり辞めたんだ。 ったく、俺にも何も言わず、勝手に辞めるとかふざけんなっつの」

 

倉名はせつ菜がコーチである自分にも連絡を寄越さず、勝手にスクールアイドルを辞めたことをボソボソと愚痴る。

 

「ってかなんでお前もついて来てんだよ。 別に同好会入ってこいつ等のマネージャーするとかじゃねえんだろ?」

「まぁ、そんな時間ありませんからね。 でもここまで来たら気になるじゃないっすか。 幼馴染みがスクールアイドルやるって言うんだから!」

 

ストレイジのメンバーである以上、同好会や部活などに入ってる暇はないライになんでついて来るんだと倉名は尋ねるが、用は興味本位でついて来てるだけであり、倉名もついて来るだけなら別に問題はないかと納得し、ライの同行を許すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一同はなぜか近くの公園で老人達とゲートボールしたり、ドリルの音が五月蠅い工事中の場所、子供が遊んでていっぱいの公園など色々な場所を廻ったのだが・・・・・・。

 

「これスクールアイドルとどういう関係があるの? ゾンビラ〇ドサガなら町の人達と交流しろって感じの内容だと思うけど」

 

実際、歩夢が老人達とゲートボールしたり、工事現場は音が五月蠅すぎて互いの声が全く聞こえなかったり、歩夢が子供達とパペットを両手につけて一緒に遊んだりするだけでスクールアイドルの活動と全く関係なさそうなことしかしていなかった。

 

「なんでワザワザ学園の外に?」

「かすみんは生徒会に睨まれてますから、校内での活動は厳しいのです」

 

子供を肩車し、頬を抓られながら同じように子供を肩車し、ツインテールを引っ張られる侑の質問に応えるかすみ。

 

「君なにしたの?」

「あっ、あそこなら!」

 

そこで侑はぴっかーんと何か閃いたようで一同は再び場所を移動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは東京湾近くの臨海公園であり、周囲も静かで人通りも少ない。

 

「おぉ~! 広いです~!」

「ここなら、迷惑にならないでしょ? どうかな?」

「バッチリです! ここにしましょう!」

 

かすみもここなら同好会の活動に持ってこいだと彼女も納得し、目の前にある石造りのサークルベンチの上に鞄を置き、そこから取り出した同好会のプレートを鞄の上に置く。

 

「じゃーん!!」

 

しかし、そのネームプレートには「かすみんのスクールアイドル同好会」と書き足されてはいるが、それは紛れもなく、以前ライ、歩夢、侑の3人で同好会を訪れた時と同じネームプレートであり、そのことに気付いて首を傾げる侑。

 

「あれ? このネームプレートって・・・・・・」

「かすみんが生徒会室から取り返して来ました! 無断で・・・・・・」

 

最後にボソッと付け足すと、歩夢は「だから睨まれてるんだ・・・・・・」と呆れた視線をかすみに送りながら納得するが、逆に倉名はかすみの頭をポンポンっと軽く撫で、褒め称える。

 

「よくやったぞかすみん!! 流石だ!! 生徒会ざまぁ!!」

「いや、隊長これ褒め称えたらいけないやつっすよ!?」

 

立場的に倉名はかすみの行動を褒め称えてはいけない立場だろうとツッコミを入れるライだったが、倉名はそれを鼻で笑い、「知るか」と一蹴する。

 

「民衆や、メディアや、世界さえもそこを退けと言われたら・・・・・・真実の川の傍で木のように根を下ろし、こう言い返せ、『そっちが退け』ってやつだ」

「キャップの名台詞で誤魔化すのやめてください隊長」

 

尚、正確にはPS4のアベンジャーズでキャップの台詞を引用したカマラが言った台詞の模様。

 

「なにはともあれ! しばらくはここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室ですよ~!」

 

両手を広げて高らかに宣言するかすみ。

 

「ダンスや歌の練習は追々始めるとして先ずは部員をゲットです!」

「なんで部員募集からなの?」

「人がいっぱいいた方が可愛いかすみんが引き立つからです!」

 

侑からの問いかけからの返答に、苦笑する歩夢。

 

「いや、でもそれって下手したらかすみん逆に存在が霞む可能性もあるんじゃねえの? かすみだけに、フフ・・・・・・」

 

人がいっぱいいたら下手したら逆にかすみの存在が霞んでしまうのではないかと闇のオヤジギャグぶちかましながら危惧する倉名。

 

そんな倉名に冷ややかな視線を送るライ達。

 

「隊長、つまんないっす」

「えっ、そう?」

「ぷっ、ふふ、あははは!! いやいや! 隊長さんそのギャグ面白すぎだって!!」

 

ただ侑だけは受けたようで、彼女はお腹を抱えて大笑いしていたが。

 

「この娘には受けてるじゃねえか」

「侑は笑いのツボが赤ちゃんレベルなので」

「っていうかそもそも、霞んだりなんてしませんよ! 私を誰だと思ってるんですか!? 超絶可愛いかすみんが、ちょっとやそっとで存在が霞むことなんてありませんよ!」

 

そしてそんなかすみの自信は一体どこから来るのかと疑問に思うライ。

 

「自分に自信があるのは良いことだぜ? 自分を認めてやるのは大事なことだ。 自分を信じない奴は何をやってもヘマばかり・・・・・・」

 

だが倉名はかすみのそういうところを気に入っているようで、だからこそそういう奴はスクールアイドルに向いてるのだという。

 

「兎に角!! 手っ取り早く部員を集めるならこれでしょ!?」

 

そこからかすみは話を戻し、彼女は部員を集めるならこれだとスマホを取り出すと、それを「んんっ?」と不思議そうに見つめるライ達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほぉ~! みんなのアイドル! かすみんだよ~! かすみん、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長になったんだけどぉ~? そんな大役が務まるかとっても不安~! でも、応援してくれるみんなの為に日本一可愛いスクールアイドル目指して頑張るよ♪」

 

かすみが部員を集める方法として取った行動、それはスクールアイドルの自己紹介動画を撮影するというもので、侑に自分のスマホを預け動画で撮影して貰い、かすみは先ずは自分がお手本を歩夢達に見せるのだった。

 

「・・・・・・はっ?」

「あざとい」

「あざとい。 だが、それが良い! 良いぞぉ!! かすみん!! そういうの刺さる奴には刺さるからな!!」

 

かすみの自己紹介シーンを見た歩夢は思わず間の抜けた声を出してしまい、ライはそんなかすみをあざといと評し、倉名もライと同じようにあざとさを感じたもののむしろそれが良いと彼女を褒め称える。

 

「うわああ~!! スクールアイドルの自己紹介初めて生で見たー!! ときめいたよ、かすみちゃん!!」

 

また侑は思わずスマホを投げ出してしまうほどかすみの自己紹介シーンが凄く可愛いと興奮し、歩夢は侑が投げたスマホを受け止めながらそんな風に興奮する彼女に「へっ!?」と引き攣った顔を浮かべる。

 

「えへへ~、侑先輩流石! 分かってますね! これを動画サイトに投稿して部員募集をします。 次は歩夢先輩ですよ、今みたいにお願いしますよ!」

 

歩夢からスマホを受け取りつつ、かすみは今度は歩夢もお願いしますと頼みながらスマホの動画アプリを起動させるが、それに対して歩夢は「えっ、ええええ!!?」と頬を赤くしていきなり話を振られたことに驚く。

 

「無理無理!! 無理だよ!! 恥ずかしいよぉ!」

「なにが恥ずかしいんですか! 自己紹介はスクールアイドルの第一歩ですよ!?」

「目が怖いよ、かすみちゃん・・・・・・」

 

物凄く真剣に、鋭い目つきで語るかすみを見てちょっとだけ恐怖を感じる歩夢。

 

「大丈夫です! かすみん程じゃないですけど、歩夢先輩も十分可愛いですから! 張り切っていきましょー!!」

「胸の大きさではボロ負けしてるけどな」

「フン!!」

 

なんて余計なことを口走ったせいで倉名はかすみに足を思いっきり踏まれてしまい、倉名は「いってえええ!!?」と悲鳴をあげながら踏まれた足を両手で押さえる。

 

「今のは隊長が悪い」

 

結局、そのまま歩夢の自己紹介動画は撮影されることとなり、かすみが撮影をスタートさせると歩夢は頬を赤らめ、モジモジしつつも自己紹介を行う。

 

可愛い。

 

「あっ、えっと、虹ヶ咲学園普通か2年の上原 歩夢です・・・・・・。 あ、あの、私・・・・・・す、スク・・・・・・!」

「声が小さいですよ!」

「あっ、ご、ごめん! 私、スクールアイドルになりたくてぇ!!」

 

かすみに声が小さいと注意されたため、大きな声を出す歩夢だが、今度は声が大きすぎると彼女はかすみから注意されてしまう。

 

「今度大きすぎです! ちゃんとファンを思い浮かべて!」

「・・・・・・ファン・・・・・・うぅ」

「不合格ですね!」

 

かすみは歩夢は自己紹介が全く上手くできていないと注意し、それに対して溜め息を吐き出す歩夢。

 

「なに言ってんだかすみん! 最初のやつとか、モジモジなのが、良いんだろうが!!」

「あっ、それはなんか分かります隊長!」

「なんなんですかこの2人は・・・・・・」

 

あそこの歩夢ちゃんのモジモジ可愛いよね!

 

「作者まで会話に参加しようとしてんじゃないですよ!!」

「それよりも! 急にいきなりは恥ずかしいよ!」

「仕方ありませんねぇ・・・・・・」

 

溜め息を吐きつつ、それならばとかすみは歩夢に両手を頭の上に置くように指示。

 

それに疑問に思いつつも言われた通りにする歩夢。

 

「こう?」

「語尾にぴょんを付けてみましょう!」

「ぴょん!?」

「ぴょん!!」

 

そのままかすみは歩夢に語尾に「ぴょん」をつけるように言い放ち、それに前回歩夢に断られたからか「うさぴょん!!」と興奮する侑。

 

「ええええ!!?」

 

だが、流石にそれは恥ずかしすぎると歩夢は顔を真っ赤にし、かすみは「さあ!」と目をギラつかせながらスマホを構える。

 

「さあ!!」

 

歩夢は大量の冷や汗を流し、「恥ずかしすぎるから無理!!」とは思うものの、侑が物凄く期待に溢れた眼差しを自分に向けてくる為、無碍にできないと断ることもできず・・・・・・。

 

「あ、歩夢だぴょん・・・・・・」

 

結果、うさぴょんをやることに。

 

しかし、あまりに小声だった為、「声が小さい!!」とかすみから注意されリテイク。

 

「歩夢だぴょん!!」

「もっとうさぴょんになりきって!!」

「うさぴょんだぴょん!!」

「ぴょんに気持ちが籠もってない!!」

「ぴょーーーーん!!!!」

 

半場涙目でヤケクソに気味に叫び、かすみから何度もやり直しを言い渡されるハメになる歩夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、歩夢は何度も自己紹介動画を撮影したのだが、彼女は恥ずかしがって中々良い動画を撮ることができず、今日はもう無理だと思い撮影は一旦中止。

 

そのまま一同は場所を移動し、木製ベンチのあるところに座って少しだけ休むことに。

 

「週末には動画をアップするのでちゃんと自主練しておいてくださいね?」

「可愛い怖い可愛い怖い可愛い怖い・・・・・・」

 

かすみからちゃんと自主練習をしておくように言い渡される歩夢だが、彼女は先ほどから「可愛い怖い」という言葉を繰り返しブツブツと呟いており、完全に「可愛い」という言葉が彼女のトラウマになっていた。

 

「トラウマになってるじゃねーか」

「さっきのモジモジ動画じゃダメなの?」

「多分歩夢先輩的にはこっちはこっちで恥ずかしいからヤダって言いそうですし、ああいうのは一部の人にしか受けなさそうですから」

 

ライはさっきの歩夢のモジモジ動画使えば良いんじゃないのと思ったが、出来れば老若男女受けるような動画をかすみは作りたいようでライの提案は却下された。

 

かすみのあの自己紹介やあゆぴょんは老若男女に受けるかどうかは微妙な気がするが。

 

「可愛いって大変なんだね?」

「アイドルの基本ですから!」

「でも、せつ菜ちゃんのは可愛いって言うよりはカッコイイって感じだったなぁ!」

 

かすみから返ってきた言葉に、侑は「でもせつ菜は可愛いというよりもカッコイイ感じ」だと返し、かすみはそんな侑を不思議そうに見つめながら「せつ菜先輩を知ってるんですか?」と問いかける。

 

「うん、一度遠くから見ただけなんだけどね!」

「ちなみに俺もせつ菜ちゃんのこと知ってるぞ、ファンだからな!!」

 

高らかにせつ菜のファンであることを公言するライに対し、ジトッとした視線を見つめるかすみ。

 

大方なんで自分じゃなくてせつ菜なんだみたいなことを思っているのかもしれない。

 

せつ菜の方がかすみより先にスクールアイドルやってたっぽいのだから仕方がない部分もあると思うが。

 

「そう言えば気になってたんだけど、同好会ってなんで廃部になったの?」

 

そこで侑はどうして同好会が廃部になったのかをかすみに尋ね、ライもそう言えばせつ菜がアイドルを引退した理由は知らないが、廃部になった理由も知らなかったなと思い、興味深そうな顔を浮かべる。

 

「俺も廃部になった理由知らねえ」

「隊長、コーチなんすよね?」

「しょうがねえだろ!! 久しぶりに顔出したら廃部になってたんだから!!」

 

なんでコーチやってる倉名が同好会が廃部になってた理由知らないんだとツッコむライに対し、そう反論する倉名。

 

「・・・・・・元はと言えば、せつ菜先輩がいけないんです」

「えっ?」

「グループを結成した時は結構良い感じだったのに・・・・・・。 お披露目ライブに目標決めた辺りから・・・・・・なんかピリピリして来て・・・・・・。 『こんなパフォーマンスではファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよーー!!』って!! だからかすみんもムッキーってなっちゃって、そのまま・・・・・・活動、中止に・・・・・・」

 

かすみの声は徐々にトーンが下がっていき、そのまま顔を俯かせる。

 

「熱が入りすぎて、空廻っちまったってことか」

「うーん、かすみちゃんもせつ菜ちゃんも、ファンに届けたいものがあるんだね!」

 

倉名はかすみの話を聞いて同好会が廃部になった最初の切っ掛けはそれかと理解し、侑もかすみの話を聞き終えてそう言うとかすみは「当たり前ですよ!」と言葉を返す。

 

「スクールアイドルにとって、応援してくれるみんなは1番大切なんですから!! より一層可愛い「うっ!?」アイドルである為に「うううう!!?」」

 

直後、かすみの「可愛い」という言葉を聞いた瞬間、隣に座っていた歩夢が頭を抱えて怯えだし、またもやトラウマが発症。

 

「可愛いってなに? 可愛いって難しい・・・・・・」

「この娘、今『可愛い』って言葉が頭の中でゲシュタルト崩壊起こしてそうだな」

「かすみちゃんのせいだぞ!! なんとかしろ!!」

 

倉名はきっと今歩夢の頭の中は「可愛い」という言葉に埋め尽くされているんだろうなと思い、ライはこうなってしまったのはかすみのせいだからなんとかしろと主張。

 

「いや、なんとかしろと言われましても・・・・・・。 もう、そんなんじゃ、ファンのみんなに可愛いは届きませんよ? あっ・・・・・・」

 

未だに「可愛い怖い」と呟き続ける歩夢にかすみはそんなんじゃダメだと言うが、そこでかすみははっとあることに気がつく。

 

それは、今、「自分がせつ菜と同じことをしているのではないか」ということに。

 

歩夢に「可愛い」を押しつけてしまっているのではないかということに。

 

「かすみちゃん?」

「もしかして・・・・・・かすみん、同じことしてる・・・・・・?」

 

顔を俯かせ、唖然とした表情を浮かべるかすみ。

 

「どうしたかすみん?」

「倉名先生、私・・・・・・!」

『フォフォフォフォフォ!!!!』

「「「「!!!!?」」」」

 

その時、ライ達の前に突然空中から銀色の人型の異星人、「分身宇宙人 フリップ星人」が現れたのだ。

 

『フォフォフォフォ・・・・・・!!』

「ひひゃああ!!? なんですかぁ!!?」

「宇宙人!?」

 

いきなりの出来事にかすみは驚きの声をあげ、ライや倉名は歩夢達を守るように突如として現れたフリップ星人の前に立ち塞がる。

 

「銀色の宇宙人・・・・・・そうか、お前が例の通り魔事件の銀色星人・・・・・・!!」

『フォフォフォフォフォ!!』

 

フリップ星人は視線をライや倉名の後ろにいる歩夢達に移し、ライ達を無視して彼女達を狙おうとするがそれよりも早くライはフリップ星人に蹴りを叩き込む。

 

「隊長!! ここは俺が足止めします!! 隊長は歩夢達を連れて逃げてください!!」

 

そう言うとライはそのままフリップ星人に戦いを挑み、倉名は「おい!!」と怒鳴りあげるが、ライの耳には全く入っていない。

 

「ったく、1人で対処するなって言ったのに・・・・・・。 いや、この場合俺がいるから1人じゃないのか?」

 

一応、一般市民を優先しろという命令は守っているので、倉名は言われた通り歩夢達をここから逃がそうとする。

 

「えっ、待って! ライを置いて行くの!?」

「アイツはあれでもストレイジの一員だ。 それにあくまで足止めだと言ったからそこまで無茶はしない筈だ」

 

侑はライだけを置いて行くことに懐疑的だったが、倉名はそこまでは無理はしない筈だと説明し、倉名は歩夢、侑、かすみの3人をなんとかその場から逃がそうとする。

 

「オラァ!!」

 

一方でライはフリップ星人に跳び蹴りを繰り出すのだが・・・・・・フリップ星人は2人に分身し、ライの蹴りは躱されてしまった。

 

「えっ、分裂した!?」

『フォフォフォフォ!!』

 

さらにフリップ星人は3人に増え、合計5人のフリップ星人がライの目の前に現れる。

 

分身するフリップ星人に戸惑うライだが、兎に角攻撃あるのみだとライはフリップ星人の1体に殴りかかる。

 

しかし・・・・・・。

 

拳はフリップ星人の身体をすり抜け、背後に迫り寄った別のフリップ星人に背中を殴りつけられてしまう。

 

「ぐあ!!?」

 

フリップ星人の攻撃を受け、フラつきながらもまたフリップ星人に拳を振るうライだが、やはり拳はフリップ星人の身体をすり抜けてしまい、真横からフリップ星人の跳び蹴りを受けてライは大きく蹴り飛ばされてしまう。

 

「うわあああ!!!?」

「えっ? きゃああ!!?」

 

しかも蹴り飛ばされたライはそのままこの場から逃げようとしていたかすみに激突し、2人ともその場に倒れ込んでしまったのだ。

 

「いった・・・・・・!」

「っ、かすみちゃん!! 俺・・・・・・」

「かすみちゃん、大丈夫!?」

 

その際にかすみは手の平を僅かに擦りむいてしまい、ライはそのことに目を見開き、彼女に傷を負わせてしまったことにショックを受ける。

 

しかし、そんなライのことなんてお構いなしに5人のフリップ星人がこちらに向かって駈け出して来ており、かすみに怪我を負わせてしまったことでショックを受けていたライは反応が遅れてしまい攻撃を喰らってしまうと覚悟したその瞬間・・・・・・。

 

「しまっ!」

「ッラァ!!」

 

向かって来た右端のフリップ星人を倉名は蹴り飛ばしたのだ。

 

『フォフォフォ!!?』

 

それによって他の分身達も消え去るが、すぐに体勢を立て直したフリップ星人は再び4人の分身を作り出し、倉名を惑わそうとする。

 

「フンッ!!」

 

だが、倉名はピンポイントで本体のフリップ星人の顔面を殴りつけ、さらにアッパーカットを炸裂させてフリップ星人を殴り飛ばしたのだ。

 

『フォフォフォォ!!?』

「す、すげぇ・・・・・・!」

 

フリップ星人の作り出す幻影に、全く惑わされず、ピンポイントで攻撃を当てる倉名に驚きを隠せないライ。

 

フリップ星人はどうにか立ち上がり、分身達と共に一斉に殴りかかって来るが、やはり倉名は本体の攻撃だけを右腕でガードして防ぎ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「殺気を隠せてねえんだよ、お前ぇ?」

 

そのまま倉名はフリップ星人の腹部を殴りつけ、後ろ回し蹴りを喰らわせフリップ星人を蹴り飛ばし、フリップ星人は勝てないと判断したのか、そのまま姿をパッと消してその場を立ち去ってしまうのだった。

 

「チッ、逃げやがったか」

 

 

 

 

 

 

 

その後、ライは手を怪我させてしまったかすみに対し頭を地べたに強く擦りつけながら土下座して謝罪していた。

 

「すいません!! 俺が不甲斐ないばっかりにかすみちゃんに怪我をさせてしまって!!」

「い、いえ! 顔をあげてくださいよ! 先輩!! これくらい大したことありませんし!!」

 

むしろスクールアイドルの活動していたらこんな怪我くらいたまにする、気にしなくて良いとかすみはライに言うのだが、それでライが納得が出来るはずもない。

 

本人が良くても、仮入隊中とは言え人の命を守る仕事をしている以上、掠り傷だろうが守るべき人々を怪我させるなどあってはならないとライは自分を強く責め、自分を許すことができなかった。

 

「かすみちゃんが良くても、俺が良くないんです!! 何度謝っても足りません!!」

「ウザい」

 

そこで流石にいい加減ウザったく感じ始めた倉名がライの尻を蹴っ飛ばし、ライは「ふぎゃ!?」と悲鳴をあげながら地面を転がる。

 

「何時まで謝ってる? 話が進まねえだろ」

「そうだよ、ライくん。 そういう責任感が強いところはライくんの良いところだけど、同時に悪いところだよ?」

 

倉名と歩夢から注意され、ライは「お、押忍」と返事を返しながら倉名は「今回の失敗を次に生かせ」と注意され、倉名は彼の肩にポンッと手を置くと今回反省すべきだった点を倉名はライに教える。

 

「相手を足止めし、かすみん達を非難させるってのは良かったが、あそこは俺に任せるべきだったな」

「お、押忍・・・・・・。 あっ、でもどうして隊長あの異星人の分身能力を見破ることができたんですか?」

 

そこでライはなぜ、フリップ星人の分身能力を倉名はあんな風に見破ることが出来たのか、先ほどからそれが気になっており、どうしてそんなことがと尋ねるが、倉名は薄く笑い、ライに耳打ちする。

 

「今日の夜、ストレイジに設置されてる道場に来い」

「えっ? なんで道場? それ答えになってな・・・・・・」

「良いから絶対来いよ。 そしたら教えてやる」

 

取りあえず、今日はフリップ星人も無事に撃退できたこともあり、解散。

 

ライは歩夢と侑と一緒に帰宅し、今日のこともあり倉名はかすみを家まで送り届け、ライは自分の家で少し休んだ後、倉名に言われた通りストレイジに設置された道場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柔道着に着替えたライは道場へと辿り着くとそこでは既にライと同じように柔道着を着てる倉名が立っており、彼はライに「よぉ」と軽く挨拶する。

 

「押忍! こんばんわっす!! 隊長!! それで、これからなにを・・・・・・?」

「フッ、お互い道場来て、柔道着着てやることって言ったら決まってんだろ?」

 

倉名にそう言われ、ライはこういう場面なんだかアニメとかでよく見たことあるぞ思うと、頭にピンッと何か閃き、倉名が何を言いたいのかを理解した。

 

「成程、つまり、戦いの中で教えると・・・・・・」

「そういうことだ」

「お願いします!! 隊長!!」

 

そうして、倉名とライは互いに向き合い、組み手を開始。

 

「自分のタイミングでかかってきな」

「押忍!!」

 

ライは早速倉名に殴りかかって来るが、倉名はその腕を掴んで相手の勢いを利用し、背負い投げを繰り出す。

 

「おわっ!?」

「こんなもんか?」

「まだまだぁ!!」

 

ライは何度も何度も倉名に殴りかかるが、倉名はその都度ライの攻撃を受け流して捌き、一瞬倉名の姿が消える。

 

「あ、あれ!? どこに・・・・・・」

「よぉ」

 

すると、ライの肩に倉名はいつの間にか顔を乗せており、それに「わあ!!?」と驚きの声をあげるライだったが・・・・・・。

 

その隙を突かれて倉名の蹴りを腹部に喰らってしまい、畳に倒れ込んでしまう。

 

「うわああ!!? うぅ・・・・・・まだだぁ!!」

 

負けじとライは立ち上がり、その後も何度も何度も倉名に挑むものの倉名には軽くあしらわれ、反撃を喰らい、それでもフラフラになりながらもライは立ち上がり、倉名に攻撃を仕掛ける。

 

「もう1度、お願いします!! チェストォ!!」

 

再びライは倉名に殴りかかるものの頭を屈ませることでライの拳を避け、カウンターの拳をライの腹部に叩き込むとそれがツボに入ったのか、かなり苦しそうな声を出す。

 

「ぐっ・・・・・・うぅ・・・・・・」

 

だが、そのおかげで感覚が研ぎ澄まされたのか、後ろから来る気配に感づいたライは振り返りざまに拳を倉名の腹部に叩き込む。

 

それを受けて、倉名は動じなかったものの、倉名はライの耳元に顔近づけ・・・・・・。

 

「そういうことだよ」

 

それだけを言うと、倉名はライに背負い投げを繰り出して畳に叩き伏せるのだった。

 

「おわああ!!?」

「目に見えるものだけを信じるな」

 

倉名はそれだけをライに言い残すと、その場を立ち去って行き、ライは稽古をつけてくれた倉名にお礼を述べるのだった。

 

「稽古つけてくれて、ありがとうございました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、かすみは自分の部屋でベッドに寝転がり、枕に顔を埋めていた。

 

枕に埋めながら、頭に思い浮かぶのはせつ菜のやり方に反発した時のこと。

 

『こんなの全然可愛くないです!! 熱いとかじゃなくって、かすみんは可愛い感じでやりたいんです!!』

 

目尻に涙を浮かべながら叫ぶかすみの言葉を聞いて、せつ菜は「あっ・・・・・・」と小さく声を漏らし、顔を俯かせていた。

 

それは本人もかすみに言われて「押しつけがましかったかもしれない」と思ったからか。

 

そのまませつ菜とは喧嘩別れするような形となってしまい、かすみはベッドの上で足をバタバタさせながら唸るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校の中庭で・・・・・・。

 

愛と璃奈は2人一緒に昨日菜々の顔に飛びついてきた子猫の「はんぺん」に猫用の缶詰を食べさせており、愛は缶詰を食べる猫を「美味しいかい?」と笑みを向けながら写メをパシパシ撮っていた。

 

「運動部の助っ人は良いの?」

「このあと行くよ?」

「お家の人、どうだった?」

 

はんぺんはいつの間にかこの学校に住み着いていた野良猫であり、学校では愛と璃奈はこのように甲斐甲斐しく世話していたのだが・・・・・・出来ればこのような形ではなく、ちゃんと飼ってあげたいと思い、璃奈は愛の家なら飼えないかと尋ねるのだが・・・・・・。

 

「やっぱダメだった~、飲食店だしね」

 

残念ながら愛の家は飲食店、つまりペットはダメ。

 

「ウチのマンションもペット禁止・・・・・・」

 

璃奈の家もペット禁止のマンションなのではんぺんを飼うことは出来ず、愛や璃奈はライに飼えるかどうか尋ねようと一瞬思ったが・・・・・・民間協力者という立場である璃奈は比較的時間の都合がつくが、ライはストレイジに仮とは言え入隊中の身。

 

さらにライの家もマンションなことを考えると、ペットを飼うのは負担になるかもしれないし、ライの住んでいるマンションもペット禁止かもしれないという考えを考慮してライに頼む案は無しにすることに。

 

「八方塞がり・・・・・・」

「「はぁ~・・・・・・」」

 

愛と璃奈は同時に深い溜め息をつくと、そこで璃奈は石段ベンチに座るかすみの姿に気付く。

 

「昨日、はんぺん連れて行った人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石段ベンチに座るかすみはどこか思い詰めた顔をしており、「いつでもみんなが戻って来れるように頑張っていたのに・・・・・・」と大きな溜め息を吐くと、彼女は自分の頭をポカポカと殴り始めた。

 

「はぁぁぁ~・・・・・・! どうしたら良いんですかぁ!? かすみん困っちゃいますぅ~!!」

「困ってるの?」

 

両手で頭を抱えてかすみは頭を左右に振り、そのように嘆いていると不意に隣から聞き覚えのある声が聞こえ、声のした方に顔を向けるとそこには侑がいた。

 

「俺もいるぜ☆」

 

ついでに反対側には倉名がラムネを飲みながら座っており、かすみは「うぇ!?」と声を間抜けな声を出し、あたふたと驚きの声をあげる。

 

「うわああああ!!? 2人ともいつの間にぃ!!?」

「なんか様子おかしかったから」

 

昨日の様子から侑はかすみに何かあったのではないかと思い、何か力になれないかと彼女の元を訪れたようでそれは倉名も同様のようだった。

 

最も、倉名の場合はそれだけではないのだが。

 

「んっ? あの歩夢って娘とは一緒じゃないのか?」

「もう少し練習してから公園行くって!」

 

すると、かすみは今にも泣き出しそうな顔で「侑せんぱーい!!」と彼女に抱きつき、押し倒すのだった。

 

「おわああ!!?」

「あらあら、お盛んだね~。 ところで、先にちょっと俺から話良いか?」

 

グスグスと泣きながらも、指で涙を拭い、侑から離れて起き上がるかすみ。

 

侑も起き上がり、倉名に「なんですか?」と尋ねると倉名は昨日のフリップ星人の件について話し始めた。

 

「昨日のあの異星人、アイツが誰を狙って来たのかは分からなかったが少なくともかすみん、侑、歩夢の誰かを狙ってきた。 昨日は撃退できたが、あくまで撤退させただけに過ぎねえ。 また襲いかかってくる可能性がある。 だから今日は俺達ストレイジがお前達を警護することになったんだよ」

「昨日の・・・・・・」

 

つまり、フリップ星人がまた歩夢、侑、かすみの誰かを襲いにかかるかもしれないということでかすみと侑の傍では倉名、薫子はフリップ星人が巨大化する可能性を考慮して基地で待機させている。

 

璃奈にも一応警戒するようには伝えており、学園内で不審者などがいれば即基地に連絡を入れるように指示している。

 

「えっ、だったら歩夢にも・・・・・・」

「その点は心配いらねえよ、歩夢にはライが警護についてる」

「でも、ライには悪いけど、ライって昨日あの異星人に・・・・・・」

 

ライは昨日、フリップ星人にいいようにあしらわれ圧倒されていた。

 

言い方は悪いが、もしフリップ星人が再び現れ、ライと戦うことになった場合、そんなライが歩夢を守ることができるのか、ライが殺されたりしないかと心配になる侑。

 

しかし、倉名は「大丈夫だ」と侑に伝える。

 

「今のアイツなら、あの異星人を倒せる。 隊長の俺が保証する。 ライの奴を信じてやってくれねーか?」

 

倉名は頭を下げ、侑にライのことを信じてやって欲しい、今の彼なら絶対に歩夢を守れるし、あの異星人も倒せると言い切り、そんな彼の姿に侑はまだ少し心配な気持ちは残るものの「分かりました」と頷く。

 

「友達を信じるのは、当然のことだしね?」

「感謝する。 それで、取りあえず、歩夢やライとはあとで合流するとして、今はかすみんの話を聞いてやらねえか?」

「えっ、この状況で・・・・・・?」

 

流石にこの状況で相談するのは・・・・・・と思うかすみだったが、侑はにっこりと優しい笑顔を見せ、「話して良いよ?」と言うと、かすみは戸惑いつつも、「そ、それじゃお言葉に甘えて・・・・・・」と彼女は今自分が抱えている悩みについて侑に話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、学校の人気のない場所にて歩夢はいた・・・・・・。

 

歩夢は息を大きく吸い、後ろにある窓ガラスに振り返ると、スクールアイドルの自己紹介の練習を行う。

 

「新人スクールアイドルの~、歩夢だぴょん!! 臆病だから、寂しいと泣いちゃう~! ぴょーん! 温かく・・・・・・」

 

うさ耳ポーズをしながら、昨日のかすみの自己紹介などを参考にしつつ自分自身の自己紹介動画の練習をしていると、不意に右方向から誰かの視線を感じ、大量の冷や汗を流し、顔を真っ赤にして恐る恐る視線の感じる方へと顔を向けると・・・・・・。

 

そこには果林とライが立っていた。

 

「フフ」

「良いじゃん良いじゃん!! 歩夢、可愛いじゃん!! 今の!!」

 

果林はそんな歩夢に微笑みを向け、ライはニヤニヤした顔を浮かべており、ライは事情を知っているが、果林には今すぐ弁明しなくてはとあたふたしながらもスクールアイドルの練習をしてただけだと説明しようとする。

 

「あ、あの! こ、これはその練習をしてて・・・・・・す、すく・・・・・・」

「スクールアイドル?」

「うんうんうん!!」

 

歩夢は必死に首を縦に振り、果林の言葉を肯定し、果林も「そういうこと」と納得したようだった。

 

「ごめんなさいね? とっておきの可愛いところ見ちゃって。 あっ、ライは今すぐ忘れなさい」

「なんで!!?」

「ところで・・・・・・さっきのやつだけど、あれはあなたの言葉?」

 

話を戻し、果林は先ほどのやつは歩夢自身の言葉なのかと問いかけ、それに「えっ?」と不思議そうな顔を浮かべる歩夢。

 

「もっと伝える相手のことを意識した方が良いわよ?」

「頭では分かってるんですけど、今の私にファンなんていませんし・・・・・・あっ」

 

そこで歩夢は脳裏に侑の顔が過ぎる。

 

「応援してくれる人なら、います・・・・・・!」

(それは一体なに咲なに侑なんだろうな・・・・・・)

 

その「応援してくれる人」なのが大体察するライ。

 

また歩夢の返答を聞いて果林も微笑みを向け、「お節介終わり」とだけ言うと歩夢に一度手を振ってからその場を去って行くのだった。

 

「じゃあ、ライもまた」

「おう、迷子になるなよ」

「うるさいわよ」

 

果林が去った後、ライは「侑達のところ行くか?」と歩夢に尋ねると歩夢はコクリと頷くのだった。

 

「それにしてもライくん、さっきの人と知り合いだったの?」

「あぁ、歩夢達とはまた別の幼馴染み」

 

以前は愛や璃奈とも知り合いだったようだし、意外と顔が広いんだなぁと思いつつ、歩夢はライと一緒に侑達の元に向かいながら、自己紹介動画のことを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、海の見えるとある公園で・・・・・・かすみは侑や倉名に自分の悩みを聞いて貰っていた。

 

「かすみんには1番大切にしたいものがあって・・・・・・だからスクールアイドルがやりたくて・・・・・・。 それはきっと、みんなもそうなんですけど・・・・・・。 やりたいことは、やりたいんです。 けど、人にやりたいことを押しつけるのは嫌なんですよぉ。 なのに、かすみん歩夢先輩にそれをしちゃって・・・・・・」

「成程なぁ。 お前が悩んでるのはそういう・・・・・・」

「うーん、つまり、それぞれやりたいことが違ってたってことでしょ? それで喧嘩しちゃうのは、仕方ないことだと思うけどなー?」

 

倉名や侑はかすみが何に悩んでいたのか納得し、侑はやりたいことがそれぞれ違って衝突してしまうのは仕方がないことなのかもしれないと言うが、かすみはそれでは納得はできない。

 

「仕方ないじゃ困るんです!! このままじゃ、また同好会が上手く行かなくなっちゃいますぅ!!」

「ふふ、悩んでるかすみんも可愛いよ?」

 

頭を抱えて、悩むかすみを見て「可愛い」と評する侑。

 

そんな侑を見て倉名は「えっ? なに? タラシ?」と思ったが、取りあえず黙っておくことに。

 

「むぅ、先輩! こんな時にからかわないでくださいよぉ!」

「からかってないよ~」

 

かすみはポカポカと侑を叩き、倉名も侑なりにかすみを励まそうとしたんだろうと思い、かすみを侑から引き離し、「まぁまぁ」と落ち着かせる。

 

「まぁ、自分の間違いに気づけたなら、良かったじゃねえか。 もうやらなきゃ良いだけだ」

「確かに、間違いに気づけたのは良かったですけどぉ・・・・・・」

「遅れてごめんなさーい!!」

「おまたせいたしました!」

 

そこへ丁度、歩夢とライがやって来ると、歩夢は早速自己紹介動画を撮って貰おうとかすみにお願いしてきたのだ。

 

だが、かすみとしては昨日のあれを無理にやる必要なんてないと言おうとしたのだが、歩夢は昨日とは違い、自信に満ちた表情で「今、撮って貰って良い?」と言って来た。

 

「どうやらここに来るまでに、良いやつが思い浮かんだみたいでね。 動画の撮影、頼むよかすみちゃん」

 

かすみは一瞬、侑や倉名の方に顔を向けると侑は微笑みを向け、倉名は「やれ」とだけ一言。

 

「あっ、はい」

 

少し戸惑いつつもスマホを取り出して動画撮影の準備が完了すると、歩夢は鞄を置き、一呼吸して自分も心の準備を完了させる。

 

「じゃあ行くね!」

「・・・・・・どうぞ」

 

かすみの合図で動画撮影を起動させると歩夢はぺこりと頭を下げ、自己紹介を開始。

 

「虹ヶ咲学園普通科2年、上原 歩夢です!! 自分の好きなこと、やりたいことを表現したくて、スクールアイドル同好会に入りました! まだまだ出来ないこともあるけど、一歩一歩頑張る私を見守ってくれたら嬉しいです! よろしくね、えへ♪」

 

最後に両手を頭の上に置き、「あゆぴょん」のポーズを決め、動画撮影を終了。

 

「・・・・・・っ」

 

歩夢の自己紹介を見て、何か感じるものがあったのか、倉名も今のは中々良いのではと思い、「良かったんじゃねえか?」とかすみの隣に立ちながら問いかけると、かすみも言葉にしはなかったが、納得した様子だった。

 

「わぁ~! すっごく可愛い!! ときめいちゃった~!!」

 

また侑はというと歩夢の自己紹介にときめいたと抱きついていた。

 

「ゴホン! かすみんの考えてたのとはちょっと違いますけど~、可愛いから合格です!」

「ほんと? 良かった~!」

 

かすみからも認められ、安堵の笑みを浮かべる歩夢。

 

そんな歩夢を見て昨日の後ろめたさもあるせいか、複雑そうな表情をするかすみ。

 

「多分、やりたいことが違っても、大丈夫だよ!」

「えっ?」

 

それに気付いた侑がやりたいことがそれぞれ違っても大丈夫だろうと伝える。

 

「上手く言えないけどさぁ。 自分なりの1番をそれぞれ叶えるやり方って、きっとあると思うんだよね!」

「・・・・・・そうでしょうか?」

「探してみようよ!」

 

自分なりの1番をそれぞれ叶えるやり方・・・・・・そんな方法が上手く行くのか、少し疑問に思ってしまうかすみ。

 

だからこそ、侑は「探してみよう」とかすみに提案し、「それに」とさらに言葉を付け加える。

 

「その方が楽しくない?」

「っ・・・・・・」

 

かすみは一度、歩夢と顔を見合わせ、歩夢は静かに小さく頷くとかすみは口元に笑みを浮かべる。

 

「楽しいし、可愛いと思います! 先生も、そうですよね!」

「んっ? おう。 良いんじゃねえの? 歩夢もスクールアイドルの素質はありそうだし、侑も良いマネージャーになりそうだ。 ライの身近にこんな逸材がいたとはなぁ・・・・・・」

「アハハハ、なんか照れますね!」

「誰もオメーのことは褒めてねえよ」

 

侑と歩夢のことを褒めてんだよと、ツッコミを入れると、かすみはこれで悩みが吹っ飛んだからか、「アハハハ!!」と急に笑い出すし、彼女は「先輩、見ててください!!」とだけ侑に言うと、後ろにあった煉瓦造りのオブジェに走っていき、塀の上をよじ登る。

 

(色んな可愛いもカッコイイも一緒にいられる・・・・・・。 そんな場所が本当に作れるなら・・・・・・!)

 

かすみは胸の前で両手を合わせた後、歩夢に一差し指を向け・・・・・・。

 

「でも!! 歩夢先輩!! どんなに素敵な同好会でも、世界で1番可愛いのは・・・・・・かすみんですからね!!」

 

という風に歩夢に向けた一差し指を天に向け、彼女は歩夢に宣戦布告するのだった。

 

挿入歌「Poppin' Up!」

 

(色んな可愛いもカッコイイも一緒にいられる、そんな場所が本当に作れるなら・・・・・・そこは絶対、世界で1番のワンダーランドです!)

 

新しい決意を胸に、これから頑張って行こうとかすみが思ったその瞬間、にゅっとかすみの背後から顔を出すフリップ星人の姿が。

 

『フォフォフォフォ!!』

「にっぎゃあああああああ!!!!?」

 

それに思わず飛び退くように塀を飛び降り、そのまま侑に抱きつくかすみ。

 

「あの宇宙人って昨日の・・・・・・!」

『フン、心配するな、小娘共。 今日の狙いは貴様等ではない。 俺の今日の狙いは、お前だ!!』

 

フリップ星人は倉名を指差し、今まで女性をターゲットにしてきたというのになぜか急に男性の倉名を指名し、頭に疑問符を浮かべるライ達。

 

「はっ、まさか・・・・・・隊長って実は女性・・・・・・」

「ちげーよ。 正真正銘の男子!! 大方昨日やられた仕返しに来たんだろうよ」

 

フリップ星人に狙われるということはもしかして実は倉名は女性だったのかと思ったライだったが、倉名は全否定し、昨日の仕返しだろうと言うとフリップ星人は「その通りだ!!」と応えた。

 

『ちっぽけな狩られるだけの虫けらが、よくも!! お前を踏み潰してくれる!!』

 

すると、フリップ星人は突如として巨大化し、ライ達を見下ろす。

 

倉名には分身が通じないので、フリップ星人は巨大化。

 

言葉の通り倉名を踏み潰しそうとしているようだった。

 

「隊長に勝てないからって巨大化するとかセコ!」

『五月蠅い!!』

 

ライから的確なツッコミを受けるフリップ星人だが、そんなことは気にせず、問答無用でフリップ星人は倉名を踏み潰そうとしてくる。

 

「ライ!! お前はかすみん達を非難させろ!!」

「えっ、でも隊長が・・・・・・!!」

「だからだよ、奴の狙いは俺だ! ここは俺に任せろ!!」

 

そう言うと倉名はその場を走り去って行き、ライは仕方がないと思い歩夢達を早急に避難させることに。

 

「あとで絶対助けに行きます! 隊長!! みんなこっち!!」

「えっ、でも・・・・・・!」

 

倉名のことが心配なのはライ達だけではない、かすみ達だってそうだ。

 

「隊長なら、きっと大丈夫! 俺は隊長を信じる!! 兎に角、先ずは避難を!」

「・・・・・・分かったよ」

 

ライの言葉に侑が頷くと、一同はその場から移動し、安全な場所への避難を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フォフォフォフォ!!』

 

フリップ星人は倉名を何度も踏み潰そうとしてくるが、それらを倉名は逃げながら巧みに回避し、フリップ星人の攻撃をことごとく躱していた。

 

「チッ、バルタン星人さんみてーな声出しやがってよ」

 

すると今度はフリップ星人は拳を倉名に向かって振り下ろし、倉名はそれすらも躱すのだが・・・・・・その時の衝撃で吹き飛ばされてしまい、倉名は地面を転がってしまう。

 

(ぐおっ!? あー、クソ。 出来たらまだ『変身』はしたくなかったんだがなぁ・・・・・・)

 

既に薫子に連絡を入れてセブンガーが今こちらに向かって出撃して来ている。

 

セブンガーがくるまでの間を耐えれば良いと思っていた倉名だったが、思いの外キツく、地面に倒れ込みながらも、そんなことを考えていると・・・・・・フリップ星人の背中から当然小さな火花が上がり、フリップ星人が振り返るとそこには20式レーザー小銃を構えているライの姿が。

 

「ライ!! お前なんで・・・・・・!」

「歩夢達は避難させました!!」

「まぁ、正直ちょっと助かった」

 

そう言いながらライはレーザー小銃からレーザーを発射し、フリップ星人の顔に直撃させる。

 

それに僅かにもダメージを負ったフリップ星人は怒り、ライに拳を振り下ろす。

 

「おわああ!!?」

 

ライは直撃こそ避けたものの、先ほどの倉名と同じように衝撃で吹っ飛んでしまい、地面に倒れ込んでしまう。

 

ライが倒れているその隙にフリップ星人は倉名の方へと向き直り、襲いかかろうとしてくる。

 

「あっ、やべ」

「こんのぉ!! 隊長に手ぇ出すな!!」

 

倉名は背を向いて再びフリップ星人から逃れる為に走り出し、それを見たライは「ウルトラゼットライザー」を取り出し、トリガーを押す。

 

すると目の前に光の扉、「ヒーローズゲート」が出現し、その中に飛び込む。

 

インナースペース内に入るとライは「ウルトラアクセスカード」を手に取り、ゼットライザーの中央部分にセット。

 

『ライ、アクセスグランテッド!』

 

メダルホルダーを開き、ライはそこから3枚のメダルを取り出す。

 

『宇宙拳法、秘伝の神業!!』

 

ライはゼロ、セブン、レオのメダルをそれぞれライザーのスリットにセット。

 

「ゼロ師匠!! セブン師匠!! レオ師匠!!」

 

ブレード部分をスライドさせ、3枚のメダルを読み込ませる。

 

『ゼロ・セブン・レオ!』

「押忍!!」

 

するとライの後ろに「ウルトラマンゼット オリジナル」が現れ、ゼットは両腕を広げる。

 

『ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼーット!!』

「ウルトラマンゼエエエエエット!!!!」

 

最後にライザーを掲げてトリガーをもう1度押すと眩い光が走る。

 

するとメダルに描かれた戦士、「ウルトラマンゼロ」「ウルトラセブン」「ウルトラマンレオ」の3人が空間を飛び交う。

 

『ハアッ!』

『デュア!!』

『イヤァーッ!!』

 

するとライは上半身は青、下半身は赤で身体に胸部と両肩に銀色の鎧のようなプロテクターを装着し、頭部のトサカのような部分が3つに増えた姿となった「ウルトラマンゼット アルファエッジ」へと変身。

 

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

そのままゼットは現れると同時に足に炎を纏わせ放つ跳び蹴り「アルファバーンキック」をフリップ星人に炸裂させ、蹴り飛ばして倉名から引き離す。

 

『アルファバーンキック!!』

「おっ、やっと来たなぁ? ウルトラマンゼット・・・・・・」

 

戦闘BGM「アルファエッジのテーマ」

 

『邪魔をするなァ!!』

 

フリップ星人は高く跳び上がってゼットに向かって来るが、ゼットはフリップ星人の腕を掴んで背負い投げを繰り出し、フリップ星人は背中から地面に激突。

 

フリップ星人は小さな悲鳴をあげ、自分の腕を掴むゼットの手を振り払うと立ち上がり、ゼットに向かって殴りかかる。

 

しかし、ゼットはそれをゆらりと後ろに回り込むように受け流し、フリップ星人の背中に肘打ちを叩きこむ。

 

『っ・・・・・・!!』

 

フリップ星人はその攻撃を受けてフラつくが、すぐさまゼットの方へと振り返り、ジッと立ったままゼットの様子を伺う。

 

『ジュア!!』

 

動かないのなら、フリップ星人に攻撃するチャンスだと思ったゼットはフリップ星人に向かって駈け出し、拳を振るうが・・・・・・フリップ星人はそこで3体に分身し、ゼットの拳は空を切ってしまう。

 

『なに!?』

 

さらに分身を2体増やし、合計5体のフリップ星人がゼットを囲む。

 

『っ、どれが本物なんだ・・・・・・?』

 

ゼットは目の前にいるフリップ星人を殴りつけるが、そのフリップ星人は幻影で拳はすり抜けてしまい、代わりに背後からフリップ星人に殴られ、膝を突くゼット。

 

『ウアアッ!?』

 

攻撃して来た奴が本体だと思ったゼットは足を後ろに伸ばしてフリップ星人を蹴りつけようとするが、いつの間にか本物と入れ替わっていたようで・・・・・・それも幻影のフリップ星人だった。

 

すると今度は右方向からフリップ星人が蹴りを繰り出し、ゼットは蹴りを受けて倒れ込んでしまう。

 

『グゥ!?』

『フォフォフォフォフォ!!』

『くっ、あんなのウルトラズルいぜ・・・・・・』

『っ、そうだ!』

 

ゼットは5体に分身するフリップ星人に文句を言い、そこでライは昨夜行った倉名の稽古の時の『見えるものだけ信じるな』という言葉を思い出す。

 

 

『・・・・・・ゼットさん!! 目を閉じて!』

『えっ?』

『早く!!』

 

ライに言われ、ゼットは戸惑いつつも「分かった!」と頷くとライとゼットは目を閉じ、周りの気配を感じる。

 

(感じろ。 耳を、感覚を研ぎ澄ませ! 風の音を、気配を・・・・・・!)

 

次の瞬間、ゼットは自分に背後から攻撃を仕掛けようとしたフリップ星人本体を振り返りざまに蹴りを繰り出すことで攻撃し、フリップ星人は地面に倒れ込む。

 

『フォォ!!?』

『ウルトラヒットォ!!』

『よし! これでお前の技は通じないぞ!! 銀色星人!!』

 

本体を攻撃した影響で他の分身フリップ星人達は消え、そこからゼットはさらに正拳突きをフリップ星人の顔面に喰らわせ、さらなる追撃をしようとするゼットだったが・・・・・・その時・・・・・・。

 

『な、なんだ!?』

 

突如として地響きが鳴り、地中から四足歩行の怪獣、「マグマ怪地底獣 ギール」が出現したのだ。

 

「ガアアアアア!!!!」

『怪獣!? こんな時にでございますか!?』

『っ・・・・・・!』

 

ゼットやライ、フリップ星人すらも突然のギールの出現に驚くが、ライはすぐにギールが出現した理由に思い当たる節があった。

 

それは、昨日のミーティングで璃奈から報告があった「ゲネガーグが地球に飛来したことを切っ掛けにベムラーが襲来した時のように地底に眠る多くの怪獣達に影響が出ている」という話。

 

さらに、ゲネガーグが襲来した影響で以前にも増して地底に眠る怪獣達が目覚める可能性が高まっていたと璃奈は説明してくれていた。

 

考えられるに、ギールもゲネガーグの影響を受けた怪獣の1体。

 

恐らく、この辺りにギールは眠っており、ゲネガーグの襲来の影響で眠りが浅くなっていたところ、この場所でゼットとフリップ星人が激しく戦った影響で目を覚ましたのだろうとライは予測し、ギールは見たところどうやら興奮状態であることからライは敵が増えたかもしれないと警戒する。

 

するとギールは立ち上がって腹部の第2の口を開くとそこから「マグマ弾」を発射し、ゼットに直撃させる。

 

『オアアアッ!!?』

 

さらにゼットはフリップ星人の跳び蹴りを受け、地面を転がる。

 

そこから倒れ込んだゼットに向かってギールがジャンプして飛びがかかり、ゼットの肩に噛みついて来たのだ。

 

『グオオッ!!?』

『フォフォフォフォ!!』

 

フリップ星人もゼットに攻撃を加えようと近づいて来るが・・・・・・直後、顔面にいきなり現れたセブンガーの拳を受け、殴り飛ばされるフリップ星人。

 

『フォフォフォ!!!?』

「アンタの相手は私がしてやるよ!」

 

一方でゼットもギールの腹部を蹴りつけて自分から引き離し、ギールはゼットと距離を取ると再び腹部からマグマ弾を連続発射。

 

だが、ゼットはそれを頭部のトサカの横にあるスラッガー状の部位から三日月状の光刃「ゼットスラッガー」を作り出し、ゼットスラッガーを稲妻状のエネルギーで連結させ、ヌンチャクのように振るう「アルファチェインブレード」でギールが連射してくるマグマ弾を全て切り裂く。

 

そのままギールに近づいてブレードで何度もギールを斬りつけるゼット。

 

『ジィィヤ!!』

「ガアアアア!!!?」

 

またフリップ星人と戦うセブンガーはフリップ星人が放って来た右拳を受け止め、逆に左拳をフリップ星人に叩き込んで怯ませる。

 

『フォフォ!?』

 

それを受け、こうなればとフリップ星人は又もや5体に分身。

 

「なっ!? 分身した!?」

 

薫子はどれが本物か分からず、困惑するが兎に角攻撃あるのみだと思った彼女はセブンガーを動かし、目の前にいるフリップ星人を先ずは殴るか・・・・・・。

 

スカッとフリップ星人の身体はすり抜け、セブンガーは背中に本物のフリップ星人のドロップキックを受けてしまう。

 

「わああ!!? なんだよもう、あんなのズルじゃんかよ!」

『落ち着いて薫子さん』

「璃奈ちゃん!?」

 

その時、いきなりセブンガーに璃奈から通信が入り、驚きの声をあげる薫子。

 

『こっちでも戦闘の様子は確認できてる。 見たところ、あの宇宙人が作り出す分身は全て幻で本体は1体。 つまり、本体には熱がある』

「・・・・・・そうか!」

 

実は、フリップ星人はセブンガーとは相性がすこぶる悪かった。

 

それはなぜか?

 

セブンガーにはこんなこともあろうかと「熱センサー」が搭載されているからだ。

 

薫子はセブンガーを立ち上がらせると早速カメラを熱センサーのものに切り替え、すぐさまフリップ星人の本体を発見。

 

真っ直ぐフリップ星人に向かって行き、顔面を殴りつける。

 

『フォフォ!!?』

 

それと同じ頃、ギールと戦うゼットはギールの突進に弾かれて吹き飛ばされ、地面に叩き落とされていたのだった。

 

「グルアアアア!!!」

 

そのままギールはマグマ弾をゼットに連射し、ゼットは片膝を突きながらも両腕を交差し、なんとかギールの攻撃に耐える。

 

『ぐううう!? ライ!! ここはエプシロンワイルドにウルトラフュージョンだ!』

『押忍!!』

 

ゼットに言われ、インナースペース内のライはホルダーから新たに3枚のメダルを取り出す。

 

『困難を打ち砕く、魂の一撃!!』

 

そのままライはゼットライザーのブレードの位置を戻し、メダルを3枚入れ替える。

 

『響さん! 夕立さん! 友奈さん!』

 

そのままライはブレードをスライドさせ、3枚のメダルをスキャン。

 

『響・夕立・友奈!』

 

するとインナースペース内にいるライの後ろにゼット オリジナルが現れ、両腕を広げる。

 

『ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼーット!!』

『ウルトラマンゼエエエエット!!!!』

 

そしてゼットライザーを掲げ、トリガーを押すライ。

 

するとその空間で3枚のメダルが飛び交い、姿を変え、下半身は黒、上半身はオレンジで両手に桃色の手甲のようなものが装着され、プロテクターが無くなり、ゼット オリジナルにも近い状態の姿・・・・・・「ウルトラマンゼット エプシロンワイルド」となったゼットが現れる。

 

『ウルトラマンゼット! エプシロンワイルド!』

『ゼスティウムクロー!!』

 

ゼットは両腕に光のエネルギーで作った鉤爪型の武器「ゼスティウムクロー」を出現させるとギールの放つマグマ弾を切り裂きながら突き進み、すれ違いざまにクローでギールを斬りつける。

 

「グルアアアアア!!!!?」

 

クローを仕舞い、ゼットはギールの背中に飛び乗るとそのまま何度も拳をギールに叩き込んで攻撃する。

 

『ウオオオオ!!!』

「ギシャアアア!!!!」

 

だが、ギールは身体を激しく揺らしてゼットを振り落とし、ゼットは一度ギールから離れる。

 

「グルル・・・・・・!!」

 

ギールはゼットを睨み付けながら、ゼットに突進を繰り出してくるが・・・・・・その直後、セブンガーが持ち上げて投げ飛ばして来たフリップ星人がギールと激突し、2体は倒れ込む。

 

『フォフォフォ!!?』

「ガアアアア!!!!?」

『今だ!!』

 

ゼットは再びゼスティウムクローを出現させ、両足にエネルギーを溜めると、両足に溜めたエネルギーを一気に放出することで一時的に加速し、一気にフリップ星人とギールに詰めよってすれ違いざまに相手をクローで切り裂く「ゼスティウムソニック」を繰り出し、フリップ星人とギールの2体を切り裂き、斬りつけられた2体は火花を散らして爆発するのだった。

 

『ゼスティウムソニック!!』

『フォフォフォフォ!!!!?』

「グルアアアアアアア!!!!!?」

 

ゼットはギールとフリップ星人が倒されたのを確認すると、ゼットは空へと飛び立ち、空中に『Z』の文字を描きながら飛び去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!? 無事ですか!」

 

戦いが終わり、変身解除したライはすぐさま倉名の安全を確認する為、彼の元に駆け寄るのだが、倉名はベンチに座って呑気に缶コーヒーを飲みながらくつろいでおり、見たところ怪我などもなさそうだった。

 

「よぉ。 まっ、お前さんとゼットが手助けしてくれたからなぁ? ピンピンしてるぜ?」

「あぁ~、良かった~」

 

全く無傷な様子の倉名の姿を見てライはホッと一安心し、その場にへたり込んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、生徒会室にて。

 

そこでは果林、エマ、しずく、彼方の4人が生徒会室に訪れており、果林は以前生徒会室に訪れた際にこっそりと持ち出していた生徒名簿を菜々に返しに来ていた。

 

「返すわ、生徒名簿。 勝手に借りちゃってごめんなさいね?」

 

借りていた生徒名簿を生徒会長の机にコトリと置く果林。

 

「優木 せつ菜という名前はどこにも見つけられなかったわ」

 

果林が生徒名簿を持ち出した理由、それは生徒名簿でせつ菜の名前を確認する為だった。

 

しかし、生徒名簿に「優木 せつ菜」という人物が存在しない、つまりそれは・・・・・・この学園には「優木 せつ菜」なんて人物が存在していないことを意味しており、果林は鋭い視線を菜々へと向ける。

 

「いない筈のせつ菜と、どうやって廃部のやり取りができたのかしらね?」

 

未だに鋭い視線で菜々を見つめながら、果林はなぜ存在しない筈のせつ菜と、菜々が同好会の廃部のやり取りが出来たのかと問い詰め、それに徐々に険しい表情となっていく菜々。

 

「教えてくれる? 優木 せつ菜さん?」

 

なぜ菜々の表情がどんどん曇っていたのか、その理由はただ1つ、それは、生徒会長である中川 菜々こそが・・・・・優木 せつ菜であることを意味していたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、以前のセブンガーとの戦いで回収されたダランビアの砕け散った身体の破片が保管してあるとある研究施設。

 

そこにあるダランビアの身体の破片はカプセルに入れられ、保存されていたのだが、突如としてダランビアの破片は跡形もなく消え去ってしまったのだった。




倉名の副業も無理のある設定だとは思いますけど、どうしてもやりかたかった。
なんかかすみんと意気投合してそうなイメージあったから余計に・・・・・・。

ギールを出したのは「なんかガイアと状況似てるな」と思ったのと地球産怪獣今回出した方が良いよなと思ったからです。
ギールの登場は唐突感ありましたが、ムルチもエースであんな風に登場しましたし。
要するにガイアとエースオマージュ。

セブンガーVSフリップ星人という構図にしたのはりなりーが活躍できそうだったからです。


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第3話 『その笑顔が見たい』

虹ヶ咲学園、生徒会室にて・・・・・・。

 

そこでは果林によって優木 せつ菜の正体が生徒会長である中川 菜々であることがエマ達に明かされていいるところだった。

 

しかし、菜々は特に動揺するような様子もなく、だけども果林の言葉を否定するようなこともせず、彼女はただ窓の方へと振り返り、顔を向ける。

 

「否定しないのね?」

「元々隠しきれるものとは思っていませんでしたから。 ですが、同好会以外の方に指摘されたのは予想外でした」

 

菜々としては同好会のメンバーに自分の正体がバレるのは正直時間の問題だったと思っていたので、特に驚くことでもなかったそうなのだが、唯一の誤算と言えばアイドル同好会以外の人物が自分の正体に辿り着いたことくらいだった。

 

それに対し、果林は「たまたま親友が同好会にいてね?」と視線をエマに向けながら、自分がせつ菜の正体を探っていた理由を軽く菜々に説明する。

 

「なんで生徒会長が正体を隠してスクールアイドルをやっていたのか、興味はあるんだけど彼女達が今聞きたいのはそこじゃないみたい」

「・・・・・・せつ菜ちゃん!」

 

エマが菜々のことを「せつ菜ちゃん」と呼ぶと、菜々は一瞬だけ肩をピクリと動かし、エマに続くように彼方やしずくが菜々に声をかけていく。

 

「ちょっとお休みするだけって言ってたじゃん!」

「グループを解散した時に、決めてたんですか? 私達とは、もう・・・・・・」

 

スクールアイドル同好会は廃部になった。

 

しかし、それでもしずくやエマ、彼方はスクールアイドルを続けたかったのだ。

 

ここにはいないかすみも含めて・・・・・・菜々、否、優木 せつ菜と一緒に・・・・・・。

 

だからエマはもう1度スクールアイドルを一緒に続けたいとそれを伝えようと彼女はもう1度「せつ菜ちゃん!」と声をかけると、菜々は背中をエマ達に見せたまま声を荒げるようにして叫んだ。

 

「優木 せつ菜はもういません!!」

『っ・・・・・・!』

 

どことなく、悲痛な叫びにも聞こえるその声にエマ達は複雑そうな表情を浮かべ、菜々は自分はもう・・・・・・優木 せつ菜はスクールアイドルを辞めたことをハッキリと彼女達に言い放ったのだ。

 

「私は、スクールアイドルを辞めたんです!! もし皆さんがまだ、スクールアイドルを続けるなら・・・・・・『ラブライブ』を目指すつもりなら、皆さんだけで続けてください・・・・・・!」

 

菜々は自分の右腕を左手で抑えながら、彼女は自分はもうスクールアイドルはやらないと断言し、スクールアイドルを続けたいのならばエマ達だけでやれば良いと彼女達を拒絶するかのように声を上げ・・・・・・。

 

そんな姿を見せる菜々に、エマ達はそんな菜々にどう声をかけて良いのか分からなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

あの後ギクシャクした雰囲気のままエマ達と別れ、自宅のマンションへと帰って来た菜々は今、自分の部屋で綺麗に畳まれたスクールアイドルの衣装を両手に持ちながらジッとそれを見つめていた。

 

(大好きを叫びたかった私は、他の人の大好きを傷つけた。 私がなりたい自分は、こんなのじゃなかった。 だから・・・・・・)

 

そこでは、彼女は自分の大好きな気持ちが、他の誰かの大好きを傷つけてしまったことを深く、深く反省し、後悔し、彼女は両手に持った衣装をそっと赤いケースの中へと仕舞い込んだ。

 

それはきっと、二度と開くことはないであろうケースの中に。

 

そんな時、「菜々? 入るわよー」という母親の声が聞こえ、菜々は慌ててアイドル衣装の入ったケースをクローゼットの中に仕舞い込むと、彼女は素早く机の上に向かい、教科書とノートを開いて勉強をしている姿を取り繕う。

 

そして菜々が母親の問いかけに「はい!」と応えると扉を開けてお盆にコーヒーを乗せた母親が入って来た。

 

「勉強、捗ってる?」

「勿論」

「来週、模試でしょ? 頑張ってね」

 

母親のその応援に対し、菜々は「うん」と頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、菜々は浮かない表情のままトボトボと学校へ行くための通学路を歩いていたのだが、その表情はどこか暗く、端から見ても元気が無いのが丸分かりだった。

 

「いけない、こんなのじゃ・・・・・・」

 

今日は生徒会の仕事もあるのにこんな調子ではいけない、もっとしっかりとシャキッとしなくてはダメだと考え、自分はスクールアイドルを辞めたのだから何時までも引きずってはいけないと気を引き締める菜々。

 

しかし、スクールアイドルのことを忘れようとすればするほど、そのことを彼女は考え、心の中のモヤモヤが全く晴れずに、逆にどんどん曇っていくのを感じた。

 

それに菜々は苛立ちにも似た感情を覚え、どうすればこのモヤモヤが晴れるのか、どうすればスクールアイドルのことを忘れられるのか、彼女は右手で頭を抱えるように抑えて、悩んでいると・・・・・・。

 

「生徒会長?」

「えっ?」

 

不意に、声をかけられて後ろを振り返るとそこには鞄を持って自分と同じく登校中のライの姿があり、ライは菜々の顔を覗き込み、「大丈夫ですか?」と心配げに尋ねて来る。

 

「顔色、悪いですけど・・・・・・。 もしかして体調悪いんですか!? だったら、学校なんて行ってる場合じゃない!! 早く病院に行かないと・・・・・・。 あっ、俺から学校に電話しておきましょうか!?」

「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください赤間さん! 別に体調が悪いとかじゃありませんから・・・・・・!」

「でも頭抑えてたし・・・・・・!」

 

予想以上に心配してくるライに菜々は慌てて別に体調が悪い訳ではない、本当の本当になんともないと必死にライに伝えると、未だにライは心配げな表情をしたままで「本当に無理してませんか?」なんて聞いてはくるものの、一応は納得して貰えたようだった。

 

「その、ちょっと色々と悩んでることがありましてね。 そのことでちょっとモヤモヤしてて・・・・・・心配をおかけしてすいません」

「あっ、いや、俺の方こそ・・・・・・なんかすいません」

 

そこから先は目的地が同じということもあり、成り行きで一緒に学校に登校することに2人はなったのだったが・・・・・・。

 

((き、気まずい・・・・・・!))

 

お互いに話す話題も無く、ただひたらすらに気まずさだけを感じライはこういう時、何か話しかけた方が良いのだろうかと必死に考え込み・・・・・・今期の面白いオススメアニメでも話そうか、なんて一瞬考えたものの生徒会長みたいな人がアニメなんて観る訳ないだろうし、逆に鬱陶しがられるだろうと思ったのですぐにその考えを却下した。

 

逆に菜々の方はというと、彼女もまたライと同じ・・・・・・否、ライがせつ菜のファン・・・・・・つまり、自分のファンであることを公言していたことから彼女はライ以上の気まずさを感じており、彼以上に何を話して良いのか分からず、頭の中がグチャグチャしてまともな思考をすることが出来ずにいたのだった。

 

すると、ふっと菜々はライが手に持っている大きめの袋が視界に入り、「そう言えば・・・・・・」と全校生徒の顔と名前だけでなく、住所も把握している菜々はライの家は確かここから随分と方向の違うところにあることを思い出し、菜々は話題が見つかったと思い、あらかじめライに全校生徒の住所も把握しているとこを話すと、彼女はどうしてライがこんな遠回りして学校に登校しているのかを問いかけたのだ。

 

「流石ですね、生徒会長。 全校生徒の住所まで知ってるとは・・・・・・。 その、俺の趣味の話になってしまうんですけど・・・・・・」

 

そう言いながらライは手に持った袋の中に腕を突っ込み、そこから何やらロボットのようなものが描かれた1つの四角い箱を取り出した。

 

「ゼンカイオーブルマジーンのミニプラ買いに行ってました」

 

それはスーパーなどのお菓子コーナーなどによく置いてある所謂「食玩」と呼ばれる玩具の1つであり、このミニプラというのはプラ組み立ての食玩(一箱につきラムネが一個入り)である。

 

ついでにこのミニプラというのは主にスーパー戦隊シリーズのロボがメインであり、かつてはDX版のロボの玩具の劣化版みたいなもので、殆ど棒立ちのものばかりであったが最近はDX版と全く同じ合体構造なのにDX版顔負けの出来を誇っており、アクションフィギュア並にガシガシと動かせる食玩とは思えないクオリティの玩具のことである。

 

ただしこういうのは5箱くらいで何時もバラ売りしているのでDX玩具と違い、1年間ずっと置いている訳でもない為早くしないとすぐに売り切れてしまうし、1箱だけ手に入らないなんて事態も起こりうるので

今日が発売日ということもあり、ライは朝一でそれを買って来たのだ。

 

だったら他のスーパーで買えば良くないか、なんて思うかも知れないが、必ずしもスーパーに置いてある訳ではない。

 

ネットで買うという手もあるが、ネット販売は微妙に市場で出てるのより少し値段が高くなっていたりするので、やはり買うなら直が1番良いだろう。

 

つまり、「あそこしか売ってないから」という理由でライは学校に遠回りして登校することになり、今このような事態になっているという訳なのである。

 

ライは別に隠れオタ・・・・・・という訳では無いので、菜々相手にも聞かれたからと堂々と自分の買ってきたそのミニプラの箱の1つを見せると、直後菜々の目の色が変わり、ガッとライの両肩を掴んできたのだ。

 

「えっ、あれ!? ブルマジーン今日発売でしたっけ!!? まだお店に商品ありました!? 特に5番の拡張パーツ!!」

 

突然の菜々の豹変っぷりと肩を掴まれた際にずいっと菜々が顔を近づけて来た為、歩夢や侑とよく一緒にいるとはいえ女性にそこまで免疫がある訳ではないライは目を見開いて動揺し、顔が赤くなってしまうのだが・・・・・・。

 

(んっ? あれ? なんか・・・・・・生徒会長の顔って近くで見ると誰かに似ているような・・・・・・)

 

菜々の顔が間近まで迫ったことでライは菜々がどこかで見たことあるような顔であることに気づき、なんだか物凄くよく知ってる人のように感じ、ライの頭の中が疑問符だらけになる中、菜々はさらにズイッと顔を近づけて来たことでライはハッとなり、慌てて菜々を自分から引き離す。

 

「ちょっ、近い近い!! 近いです生徒会長!?」

「えっ、あっ・・・・・・す、すいません。 私ったらはしたないところをお見せして・・・・・・」

 

そこでようやく菜々の方も自分は凄くライに顔を近づけていたことに気付いて頬を赤くし、彼女は気恥ずかしそうにする。

 

「・・・・・・それにしても、今の反応からすると生徒会長ってもしかして・・・・・・」

「あっ、いや、別に毎週かかさずニチアサを観てるとかではないんですよ!? ゼンカイジャーやセイバーが毎週面白いとか思ってないですし!? タテガミ氷獣戦記やクロスセイバーとか、ツーカイザーとかがカッコイイとか思ってませんし!? 勇動とか装動とかも何時も買ってるとか無いですから!!」

 

無自覚にライに顔を近づけたことを恥ずかしがってるのもあるのか、先ほどから菜々はどうにもパニクってるようであり、必死に何か誤魔化そうとしているのだが、全然誤魔化せておらず、むしろ逆に墓穴を掘りまくっていた。

 

「会長、気付いて! それ全然誤魔化せて無いから!!」

「えっ、あっ、ああ~!!!」

 

ライから指摘されたことで、菜々は「やってしまった」とでも言わんばかりに頭を抱えてその場に蹲り、ライは少しばかりそんな菜々にどう声をかけて良いのか分からず、悩むが・・・・・・。

 

そこでライは自分の持っているミニプラの入った袋に視線をやった後、彼は菜々の隣に何気なくしゃがみ込む。

 

「生徒会長って初めて会った時はもっと結構、厳しい人なのかなって思ってたけど・・・・・・ニチアサ観てるとか、結構意外でした」

「忘れてください忘れてくださいお願いします! これでも親や周りの人には隠してるんです!」

「いや、そりゃ言いふらしたりしませんけど・・・・・・」

 

そこでライはもう1度自分の手に持つ袋に視線を向けた後、そっと菜々にそれを差し出し、菜々は「えっ?」と驚いたような表情でライの顔を見つめる。

 

「会長も欲しかったんでしょ? 拡張パーツの5番だけもう店に無かったし」

「で、でもそんな・・・・・・悪いですよ!?」

「勿論、タダじゃあげませんよ? 俺だって欲しくて買ったんだから・・・・・・ちゃんと支払い・・・・・・」

「・・・・・・ハッ!? まさか転売・・・・・・!?」

 

タダじゃあげない、ちゃんと支払え、なんてライが言ってくるものだからてっきり2倍の値段でタチの悪い転売でもされるのではないかと菜々はライのことを睨んだが、ライは「誰がするか!!」と当然ながらそんなことはしないと反論。

 

普通に定価である、定価!!(大事なことなので2回言いました

 

「転売いけません!!」

 

両手でペケの字作りながらライがそう言い放つと「ぶふ!?」と思わず笑い出しそうになり、口元を押さえる菜々。

 

「それジュランおじさんじゃないですか」

「やっぱニチアサとか観てるんじゃないですか」

「ここまで来たらもう隠せませんし」

 

そこでもう隠しきれないと判断した菜々は観念して自分もライと同様にアニメや特撮、ラノベなどを嗜んでいるオタク女子であることをカミングアウトし、彼女はまさかこんな形でライにオタバレしてしまうとはと両膝を抱えてしゃがみ込むと彼女は「はぁ」と大きな溜息を吐くのだった。

 

「今までずっと上手く、周りには隠して来てたんですけどね」

 

せつ菜としては隠していなかったが、菜々としてはずっと隠していた自分の趣味をこうもあっさりと最近会ったばかりのライに知られてしまったことに菜々は落ち込み、ただでさえまだスクールアイドルのことを完全に吹っ切れていないというのにと彼女はまたもや大きな溜息を吐きだす。

 

「あ、あの、会長! 俺、本当に言いふらしたりしませんし! それに、溜め息ばっかりしてると幸せが逃げて行くって俺の母さんが言ってました!」

「本当に、誰にも言いませんか・・・・・・?」

「押忍!! 男に二言はありません!! 破ったら腹切ります!!」

「武士ですか!?」

 

全校生徒の名前や住所、学年が分かっても菜々はその生徒達の性格まで知っている訳ではない。

 

彼女はそこまで万能ではないのだから。

 

ライのことも、せつ菜のファンであること以上のことをあまり詳しくは知らなかった。

 

だから、ライが絶対に誰にも言いふらさないなんて保証はどこにも無かったが、約束を破ったら腹を切ると断言した時のライのその真っ直ぐで真剣な目を見ると、とても彼が嘘をついているように思えず、菜々は何度目か分からない溜め息をまた零した後、「分かりました」とその場から立ち上がる。

 

「赤間さん、あなたを信じます」

「押忍! 約束です、絶対に生徒会長の秘密は誰にも言いませんので!」

 

「生徒会長の秘密」、なんて言われると一瞬せつ菜のことかと思ってドキリとしてしまう菜々。

 

「でもホント、意外でした。 会長も俺と同じ、アニメとか特撮とか好きな人だとは・・・・・・」

「えっ? あっ、そっか・・・・・・そっちですよね」

 

無論、ライの言う「生徒会長の秘密」とはせつ菜のことではなく、彼女の趣味のことであり、むしろライは目の前にいる人物こそが自身が憧れるせつ菜本人であるとは全く気付いていない。

 

「あぁ、それと・・・・・・私のこと、いちいち『生徒会長』なんて呼ばなくても構いませんよ。 普通に名前で呼んでくれれば。 歳は赤間さんの方が上なんですし、敬語も不要です」

「えっ? そう? じゃあこれからは菜々ちゃんって呼ぶよ!」

「順応早すぎ!? しかも、いきなり下の名前ですか!?」

 

そこはちょっと普通戸惑うところではないかと思わずにいられなかった菜々だったが、自分で名前を呼んでも良い、敬語も無しで良いと言った手前訂正する訳にもいかず、せめて名字の「中川」と呼んでくれないかと頼もうとしたのだが・・・・・・。

 

「いや、だって・・・・・・俺はもう菜々ちゃんと友達になったつもりだったからさ。 それに、下の名前で呼んだ方が友達感あるじゃんか!!」

 

満面の笑顔でこんな言われ方をすると菜々は断るに断ることができず、少し恥ずかしくは思うものの自分の秘密を守ってくれるのだからこのくらいは別に良いかと彼女は判断し、菜々は「分かりました、好きにしてください」と渋々納得するのだった。

 

「菜々ちゃんも俺のこと、『ライ』って呼んで良いからな!」

「それは、遠慮しておきます。 ってヤバイ・・・・・・!」

 

そうこうとしている内に登校時間が迫っていることに気付いた菜々はこのままでは遅刻してしまうと思い、彼女と同じくそのことに気付いたライは2人で急いで走って学校に向かう為に・・・・・・急いで足を踏み出そうとする。

 

しかし、次の瞬間・・・・・・。

 

「グルアアアアアアア!!!!!」

 

街に、唐突に二足歩行形態の王道体型な怪獣となって能力が大幅に強化されたダランビア・・・・・・「超合成獣 ネオダランビア」が現れたのだ。

 

出現したネオダランビアは何かを探すかのように辺りを見渡すと、手当たり次第にビルを殴り倒して破壊し、頭部の角から破壊光線を放って街を破壊し始める。

 

「怪獣!? いつの間に・・・・・・!?」

 

先ほどまで怪獣が現れる気配なんて全く無かったのに、一体どこからか現れたのかと頭に疑問符を浮かべるライだったが、すぐに彼は隣に菜々がいることを思い出し、彼女を安全な場所に避難させる為に、菜々の腕を掴む。

 

「菜々ちゃん!! 逃げるよ!!」

「ふえっ!?」

 

怪獣が現れたことも驚きだったが、異性に突然腕を掴まれたことに菜々は一瞬ビックリして驚くが、ライはそんな彼女の様子に気付くことはなく、そのまま彼女の腕を引っ張って急いでこの場から離れる為に走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、ストレイジ本部ではネオダランビアの出現を受けたことで薫子がセブンガーに搭乗し、出撃の準備を行っていた。

 

そんな中、ネオダランビアが暴れる光景を司令部のモニターで見つめていた倉名は何かを探し回るかのように街を破壊しながら蹂躙し続けるネオダランビアを興味深そうに眺めていたのだ。

 

「『この宇宙』に存在する『宇宙球体 スフィア』か。 しっかし、ここは『ネオフロンティアスペース』ほど科学が発達した世界じゃねえんだけどな・・・・・・。 一体何が目的なんだ? 何を探している?」

 

倉名が1人、そう呟き続けている間にネオダランビアは次々と建物などを破壊し、街に甚大な被害を与えていると・・・・・・そこへ怪獣の出現を受けて現場へと駆けつけた薫子の搭乗するセブンガーが到着した。

 

『セブンガー、着陸します。 ご注意ください』

 

着陸注意のアナウンスを鳴り響かせながらセブンガーが地上に降り立ち、パイロットの薫子がネオダランビアの姿を視界に入れると、彼女は「んっ?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「あれ、なんかこの怪獣・・・・・・この前戦ったのとなんとなく似てる?」

 

薫子がネオダランビアが身体が岩のようなもので出来ていることやどことなく見た目がダランビアと酷似していることに疑問を感じ、首を傾げ、不思議そうにしていると「先手必勝!!」と言わんばかりにネオダランビアは右腕を触手のように伸ばしてセブンガーを殴りつけ、攻撃を受けたことで薫子は思わず悲鳴を上げてセブンガーは倒れ込んでしまう。

 

「きゃああああ!!? この!! よくもやってくれたなぁ!!」

 

そのことに怒った薫子は「細かいことなんてどうでも言い!!」とセブンガーを起き上がらせると、セブンガーは真っ直ぐネオダランビアに向かって行き、拳を叩き込む。

 

「先制攻撃ってのは本当の主役からって決まってんのよ!!」

 

しかし、ネオダランビアはその部分にピンポイントに「亜空間バリア」と呼ばれるバリアを張ることで攻撃を防ぎ、逆に角から放つ破壊光線をセブンガーは受けてしまう。

 

「わあああ!!?」

 

その攻撃に怯むセブンガーだが、負けじとネオダランビアに掴みかかろうとするもののネオダランビアはそれをひょいっと躱してセブンガーの後ろに回り込み、セブンガーの背中にも破壊光線を撃ち込み、火花を散らして両膝を突くセブンガー。

 

「ぐうう!?」

「グルルルル・・・・・・!」

 

どうにか次の攻撃が来る前に素早く立ち上がったセブンガーは振り返りざまに右腕を振るって攻撃をネオダランビアに繰り出すが、ネオダランビアはそれを左腕で受け止め、セブンガーの腹部に蹴りを入れて引き離す。

 

「こいつ、どうしてセブンガーの攻撃が!!」

 

なぜかことごとく防がれてしまうセブンガーの攻撃。

 

これに薫子は困惑し、どうにか攻撃を叩きこもうと躍起になるもののセブンガーのどんな攻撃もネオダランビアには亜空間バリアで防がれるか躱されるかでまるで通用せず、逆にネオダランビアの攻撃は次々にセブンガーに叩きこまれ、破損レベルも一気に78%になってしまい、これ以上攻撃を受ければセブンガーは大破し、薫子が危険に晒される可能性があった。

 

『薫子! 離脱しろ!! そいつにはセブンガーの攻撃が通用しない!』

「隊長! でも・・・・・・!」

 

そんな時に倉名から通信が入り、離脱するように命令するがここで撤退すれば多くの人々の命が危険に晒されてしまう。

 

そのことを考えると、薫子は撤退するにすることができず、せめて・・・・・・せめて一撃だけでもネオダランビアに入れられないかと必死に考えるが、薫子の奮闘も空しくセブンガーの攻撃はやはり全く当たらない。

 

一度セブンガーから距離を取って離れたネオダランビアは右腕を触手のように伸ばしてセブンガーの腹部に巻き付け、そこから電撃を流し込むことでセブンガーに着実にダメージを与え、薫子のいるコックピット内やセブンガーの身体からは大量の火花が散る。

 

「うわああああ!!!!?」

 

やがてセブンガーの両目が×印になり、ネオダランビアが拘束を解くとセブンガーはその場に座り込むようにして倒れ、煙を上げながらピクリとも動かなくなってしまったのだった。

 

「ぐっ、うぅ・・・・・・ヤバッ!」

「グルルルル・・・・・・!」

 

気付けば、目の前にネオダランビアが迫って来ており、ネオダランビアはセブンガーにトドメを刺そうと角から破壊光線を発射しようとするが・・・・・・。

 

『ゼアアアア!!!!』

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

間一髪、セブンガーとネオダランビアの間にライが変身した「ウルトラマンゼット アルファエッジ」が割って入り、ゼットは頭部のトサカの横にあるスラッガー状の部位から三日月状の光刃を稲妻状のエネルギーで連結させ、それをヌンチャクのように振るう「アルファチェインブレード」でネオダランビアの身体を斬りつけ、セブンガーから引き離すことに成功。

 

『よし!! なんとか間に合った!!』

「ウルトラマンゼット・・・・・・!」

 

菜々を安全な場所に避難させていた為、少々現場に来るのが遅れてしまったライだったが、なんとか間に合ったことにホッとし、ゼットはアルファチェインブレードをそのまま立て続けにネオダランビアに振るって身体を斬りつけて行く。

 

戦闘BGM「アルファエッジのテーマ」

 

『ジェア!! ダア!!』

「グアアアアアア!!!!?」

 

ゼットはアルファチェインブレードによる連続攻撃でネオダランビアに反撃の隙すら与えずに攻撃し続けていたが、ネオダランビアは咄嗟に角から出した破壊光線をゼットに撃ち込むことでなんとかダメージを与え、引き離すことに成功し、ゼットのアルファチェインブレードもその際に消失。

 

そこからネオダランビアは右腕を触手のように伸ばしてゼットの腹部に巻き付けると電撃を流し込み、それを受けてゼットは苦痛の声をあげる。

 

『ジェアアア!!?』

 

そこでゼットは額のビームランプから放つ、超高熱の破壊光線「ゼスティウムメーザー」をネオダランビアに放つが、ネオダランビアは亜空間バリアで光線を防ぎ、攻撃を防がれたことに驚く様子をゼットは見せる。

 

『ッ!?』

「グルアアアアア!!!!!」

 

それならばとゼットは身体に流し込まれる電撃による痛みをなんとか堪えながらも頭部のスラッガー状の部位から三日月状の光刃を飛ばす「ゼットスラッガー」を飛ばし、ゼットスラッガーはネオダランビアの右腕を見事切断。

 

『ゼットスラッガー!!』

「グギャアアアア!!!?」

 

それによって拘束が解けると同時にゼットは拳を次々にネオダランビアに叩き込んで行き、最後に後ろ回し蹴りを喰らわせる。

 

「グウウウ!!」

 

そして怯んだ隙を狙って最後にゼットは両拳を胸の前で合わせて上下に揃えた後に左腕を左上に、右腕を右下に伸ばして巨大なZの文字を光で描いた後、両腕を十時に組んで放つ必殺光線「ゼスティウム光線」を発射。

 

『ゼスティウム光線!!』

「グウウウウウ、ガアアアアアアア!!!!!?」

 

ネオダランビアは亜空間バリアの展開も間に合わなかった為に諸にゼットのゼスティウム光線の直撃を受け、粉々に砕け散って爆散するのだった。

 

ゼットは怪獣を倒したことを確認すると、そのまま空へと飛び立ち、去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、ゼットがネオダランビアを倒し終えてから数十分後のストレイジ本部では・・・・・・。

 

「俺、お前に撤退しろって言ったよな」

 

そこでは司令室で自分の撤退命令に従わなかった薫子を叱っている倉名の姿があり、薫子は申し訳無さそうな顔を見せながら「すいませんでした」としょんぼりとした雰囲気で倉名に謝罪していた。

 

その場にはライや璃奈もいなかったが、もし仮に2人がここにいたら珍しく倉名から叱られている薫子をきっと珍しがっていたことだろう。

 

「でも、あそこで逃げたら一般市民への被害が拡大してしまうかもしれないと思ったら、逃げるに逃げられず・・・・・・」

「それは分かるよ。 言いたいことは分かる。 でもな? ライにも似たようなこと言ったけど、お前が死んだらそれこそ被害がもっと増えるかもしれなかったんだぞ。 ライにはまだセブンガーに乗って怪獣と戦うには少し早いし・・・・・・」

 

一応、ライはゲネガーグ襲来時にセブンガーに乗って怪獣と戦ったことはあるものの、あれは緊急事態だったからであり、もしエースパイロットの薫子を失うような事態になればストレイジにとっては大きな戦力ダウンとなっていただろうし、それ以上に倉名は大切な部下の命が失われる事態なんて望んでいない。

 

だから倉名は薫子の言い分も分かるものの、逃げられる時には逃げろと彼女に注意したのだ。

 

「自分の命も守れないような奴が、他人の奴の命を守れる訳が無いんだからな。 確かに俺達ストレイジは人々の命を守ることが仕事だが、その人々の中にちゃんと自分もカウントしとけ」

「・・・・・・はい」

 

薫子は倉名の言葉に頷き、しっかり彼女が反省したことを確認すると彼は「よし」と呟く。

 

「しっかり反省してくれたのなら、俺はもうこれ以上何も言わない。 以後気をつけるように」

「了解! あっ、そう言えば隊長・・・・・・あの怪獣についてちょっと気になることが・・・・・・」

 

そこで薫子はネオダランビアについて気になったことがあると倉名に話し始め、彼女は数日前、セブンガーが倒し、全て回収され、研究所に保管されていた筈のダランビアの破片が全て消失していることを報告する。

 

「以前回収した怪獣の破片が全て消えて無くなってる?」

「はい、塵も残さず・・・・・・」

 

研究所からの報告によれば破片が無くなっていることに気付いたのは昨日のの夕方頃だそうで・・・・・・。

 

そこに保管されていた筈のダランビアの破片は最初からまるでそこに無かったかのように研究所の保管庫から綺麗さっぱり、塵1つ残さず消えていたというのだ。

 

しかも、薫子が言うには研究所に誰かが侵入した形跡もなく、仮に侵入していたとしても研究所の警備は厳重であり、破片の塵1つ残さずに回収するなどほぼ不可能に近いことだった。

 

「もしかして異星人とかの仕業ですかねぇ。 異星人って割となんでもありですし」

「もしくは実はあの怪獣はまだ生きていて、自力で逃げ出した・・・・・・とかかもなぁ?」

 

薫子はもしや異星人などの仕業なのではないかと考える一方で倉名は実はあの怪獣は身体をバラバラにされても生きていられる怪獣なのではないかと予想し、倉名のその予想を聞くと確かにその可能性も大いにあるかもしれないと薫子は思った。

 

と言うのも、過去にも僅かだがそのような事例が幾つかあったからだ。

 

その事例の先ず1つは「吸電怪獣 ギアクーダ」と呼ばれる怪獣のこと。

 

この怪獣はセブンガーの奮闘によって一度は撃破されたのだが、バラバラにされてもその破片の一つ一つが「分身体」となって活動し、いくら細かく砕いてもその分だけ増え続けるため非常に厄介な特性を持つ怪獣だった。

 

この怪獣にはストレイジはかなり手を焼いたものの最後は主食としている電気エネルギーを餌にすることで発電所におびき寄せ、そうしたところで弱点である炎で責めることでなんとか撃退に成功することが出来た怪獣であり、もう1体はセイウチが突然変異を起こした怪獣、「海象怪獣 デッパラス」であり、この怪獣もまた一度死んで生き返った怪獣の1体なのである。

 

この怪獣は突如街に現れては街のケチャップ工場を襲ってはケチャップを食べ、鏡やガラスに写った自分の姿に興奮してこれを追いかけまわして頭部の角で突っつく等どことなく愛嬌のある怪獣で璃奈もこの怪獣のことを「可愛い」と評していたのだが・・・・・・。

 

しかし、やはり怪獣故の巨体とそれに見合った大きすぎる食欲からやむなく倒すことが決定し、一度はセブンガーによって倒されたのだが・・・・・・。

 

一晩掛けて何故か再生し、復活。

 

しかも体の一部が醜く爛れ、顔の右側に鰭のようなものがついたまるでゾンビのような姿の「再生デッパラス」として復活し、以前にあった愛嬌さはどこへやら・・・・・・。

 

ただの凶暴な怪獣へと変貌してしまったのだ。

 

このことに璃奈はデッパラスが倒された時もショックを受けていたのだが、この再生デッパラスに関してはそのグロテスクな姿からその時以上のショックを受けてしまい、彼女はしばらくの間寝込んでしまう羽目になったのだという。

 

ちなみに、再生デッパラスもセブンガーによって再びなんとか倒すことには成功していたりする。

 

「こうして思い返してみるともしかしてあの岩みてーな怪獣、ギアクーダタイプの奴か?」

「嫌ですよ、私また一晩かけて分裂した怪獣達を火あぶりにするの」

「うん、言い方気をつけよ? 間違ってないけど火あぶりって言うのやめよ? なんかスゲー極悪人感あるからその言い方」

 

兎に角、ライと璃奈にも連絡して警戒態勢を怠らないように注意しなければと倉名は考え、薫子には破片の消えた研究所に事情聴取を取りに行くようにと指示を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・しばらくして虹ヶ咲学園の放課後では。

 

怪獣騒ぎが早めに収束したということで、学校は特に休校ということにはならず、現在放課後の生徒会室では生徒会長である菜々を始めとした生徒会による会議が行われているところだった。

 

「分かりました。 放課後の体育館使用の件については私が話しておきます」

「お願いします」

「他に議題はありませんか?」

 

会議は比較的スムーズに進んでいき、他にも何か議題が無いかと役員達に尋ねると、メガネをかけた役員の1人が挙手。

 

「はい。 最近、困った子が校内に住み着いているみたいなんですが・・・・・・」

「んっ? どなたです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさーい!!」

 

校内で住み着いている困った子・・・・・・というのは前回の話にも出てきた璃奈や愛が可愛がっていた子猫のはんぺんのことであり、そんなはんぺんをジャージに着替え、捕獲用の網を持った菜々が捕まえようと奮闘している姿がそこにはあった。

 

「コラァ!! 待ちなさい!! コラ、止まってください!!」

 

必死に網を振るってはんぺんを捕まえようとする菜々だが、はんぺんはすばしっこく、中々捕まえることができない。

 

しかし、はんぺんはやがて壁際に追い込まれ、菜々は息を切らしながらようやく追い詰めたと子猫を捕まえる為に網を構える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、もう逃げられませんよ・・・・・・!」

 

しかし、そんな時・・・・・・はんぺんの元に慌てた様子の璃奈が駆け寄ると子猫は璃奈の胸に飛び込み、彼女もまた子猫をしっかりと受け止めて抱きかかえ、突然の乱入者に驚きつつ、菜々は不思議そうに璃奈の顔を見る。

 

「情報処理学科の天王寺 璃奈さん? その猫を渡してください」

「・・・・・・ダメ」

 

何時も通りの無表情ではあるものの、それでもはんぺんを絶対に渡さないという強固な意志を璃奈は菜々に見せ、そんな璃奈の意志をなんとなく感じ取った菜々は一体どうすれば良いのかと困り果てていると・・・・・・。

 

不意に背後から現れたライに「よっ」と声をかけられながら軽く背中をトンッと叩かれ、菜々は「赤間さん!?」とライの登場に驚きの声をあげ、それと同時に少し遅れて愛もその場にやって来た。

 

「今朝方ぶり、菜々ちゃん! なあ、俺からも頼むよ。 その子猫のこと見逃してくれ!」

「ですが・・・・・・」

 

両手を合わせてどうかへんぺんや璃奈のことを許してくれないだろうかと懇願するライだったが、それは生徒会長という立場的にも黙って見逃すという訳にはいかなかった。

 

「その子、学校の近くで捨てられてたんだよね。 誰の家でも飼えなくてさ・・・・・・」

「動物の放し飼いは、校則で禁じられています」

 

ライと一緒にやってきていた愛からはんぺんの事情を菜々は聞くものの、やはり校則で禁じられている以上野放しにすることはできず、それでもライは必死に菜々にはんぺんのことを許してくれと頭を下げて頼み込む。

 

「そこをなんとか頼むよ菜々ちゃん! 土下座!? 土下座すれば良いか!?」

「しなくて良いです!!」

 

すると菜々はふっと璃奈に撫でられて気持ちよさそうに気持ちよさそうににゃーにゃー鳴いているはんぺんの姿を見つめると、菜々は網を床に置きながら璃奈とへんぺんの前にしゃがみ込み、1人と1匹に向かって微笑みを向ける。

 

「・・・・・・その子は天王寺さんのことが、大好きみたいですね。 名前、なんて言うんですか?」

「・・・・・・っ」

 

 

 

 

 

 

その後、一応子猫の問題に関しては菜々がはんぺんを『生徒会お散歩役員』というものに任命するという妥協案を出した為に解決した。

 

それは「飼うのはダメだが、学校の一員に迎え入れることは校則違反にならない」という屁理屈(愛曰く『良い屁理屈』)だったが、そういった建前を菜々が出したことではんぺんは事実上、璃奈や愛、ライが世話をするという条件の元学校で世話をすることとなり、無事に問題は解決することができたのだった。

 

そして問題の解決した菜々は制服に再び着替え、生徒会室に戻ろうと廊下を歩いている時、不意に近くを通りかかった音楽室からぎこちないものの自分にとって、とても聞き覚えのあるピアノの音色が聞こえ、菜々は何気なく音楽室を覗くとそこには鼻歌を歌いながらピアノを弾く侑と、それを聴いているライの姿がそこにはあった。

 

「んっ!!? アレ!? 赤間さん!?」

 

それを見て菜々は音楽室の中と外の廊下を交互に見て頭の中で大量の疑問符を浮かべ、彼女はさっきまで璃奈や愛と一緒だった筈のライが、既に音楽室まで移動していることに驚きを隠せなかったのだ。

 

と言うのも、先ほどライと会った場所から音楽室まではそこそこの距離があり、ジャージから制服に着替える時間があったとは言え、そこまで着替えに時間がかかった訳では無い。

 

見た感じライは息切れを一つもしていない辺り、廊下を走った訳でも無さそうなので菜々はライが瞬間移動でも使ったのでは無いかと思い、彼女はそれに困惑してしまったのだ。

 

一方で、ライと侑は菜々の存在に気付かず、侑は一向にピアノを弾き続け、一度中断すると彼女は視線をライに向け、「どうだった?」と曲の感想を尋ねる。

 

「ぎこちない。 ヘタクソ」

 

そして尋ねた結果、ライからは中々に辛辣な評価が下された。

 

それに少しだけムッとした表情を浮かべる侑だが、これは何時も自分のことを雑に扱っていることへのちょっとしたライの仕返しである。

 

「せつ菜ちゃんの曲はそんなゆったりな感じじゃ無いから!! もっとこう、壁があったら殴って壊す!! 道が無ければこの手で作る!! 心のマグマが炎と燃える!! 超絶合体!! グレンラガ・・・・・」

「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんないや」

「まぁ、要するにだ・・・・・・。 よく聴くと『CHAESE!』弾いてるんだなって言うのは分かるから、練習続けていけば上手くなると思うよってこと」

 

直後、「最初からそう言え!!」と侑からのツインテールビンタを喰らうことになったのだが、あんまり痛くない上にちょっと良い匂いがしたのでそれを喰らったライは少しばかり徳した気分になるのだった。

 

「ってかなんでツインテでビンタ?」

「これで普通にビンタするのはダメでしょ、流石に。 取りあえず、もう1回弾くからまた感想聞かせて貰える?」

「良き」

 

そのまま侑はピアノを弾き始め、ライはそれを黙って聴いていると・・・・・・そこで音楽室の扉の前から「なんでその曲・・・・・・」という菜々の声が聞こえ、ライと侑が視線をそこに向けると2人はようやくそこに菜々が立っていることに気付き、ライと侑は2人揃って「どわあああ!!?」と間抜けな声を出しながら飛び退くように驚く。

 

「生徒会長!?」

「菜々ちゃん!?」

(えっ!? 菜々ちゃん!?)

 

ライがいつの間にか生徒会長のことを本名で・・・・・・しかも下の名前で呼んでいることに侑は驚愕の表情を浮かべながら隣に立つライを見つめるが、菜々の自分達の名前を呆れたように呼ぶ声を聞いて彼女はすぐにハッと視線を菜々に戻す。

 

「高咲 侑さん、赤間 ライさん。 音楽室の使用許可は取ったんですか?」

「いやぁー、あのぉー」

「おいまさかお前使用許可貰って無かったのか? それで感想を聞かせてって俺に頼みに来たの!?」

 

菜々の問いかけに対し、目を泳がせる侑をライはジト目で見つめ、冷や汗を流す侑は結局誤魔化す方法も思いつかずに観念し、「ごめんなさい!!」と90度頭を下げて菜々に謝罪した。

 

「アハハ、ちょっと弾いてみたくなっちゃって~。 でも初めてだと全然ダメですねー」

 

あっちゃーという感じのポーズを取りながら、苦笑しつつ侑は菜々にそう説明すると、菜々はそんな侑に「ハァ」と呆れたように溜め息を吐く。

 

「ところでさっき!! せつ菜ちゃんの曲知ってるみたいな感じでしたよね!?」

「えっ!?」

「良いよね『CHAESE!』 動画とか観てたの!? もしかして会長せつ菜ちゃんのファン!? もー、そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに!! せつ菜ちゃんのこと色々話そ? あっ、そうだ!! 『CHAESE!』の他にオススメの動画あったら教えてくれない!! 探してるんだけど全然見つからなくてー!!」

 

菜々は自分の両手を握りしめられてグイグイとマシンガントークを繰り出しながら顔を近づけて来る侑に圧巻されてしまい、彼女は顔を真っ赤にするが、すぐに「ち、近いです!!」と声を絞り出したことで侑は菜々が困っていることに気付き、「ごめんごめん」と謝罪をしながら菜々の手を離して侑は彼女から離れる。

 

「今の侑、なんだか俺自身を見ているようだったよ・・・・・・」

 

オタク特有の早口というのを初めて外観的に見たライがそう呟くと侑はライに対して一瞬物凄く嫌そうな顔を見せたが、同じアイドルを好きになった以上、ライが今の侑にそのような感想を抱くのは仕方が無いことだろう。

 

尚、ライが菜々に侑と同じようにせつ菜が好きなのかどうか問いたださなかったのは彼女が自分のオタク趣味を隠しているのを知っているからであり、現状まだ侑に彼女自身の趣味がバレる可能性は低いと判断した為、特にも何も言わなかったのだ。

 

「落ち着け侑。 気持ちは分かるが、一曲せつ菜ちゃんの歌知ってるからって会長がせつ菜ちゃんのファンであるかどうかなんて分からないだろ? かくいう俺もアニメ観てないのに紅蓮華とかたまに無意識で鼻歌歌ってる時とかあるもん」

 

菜々の趣味が侑にバレる可能性が低いとは言え、念のためにライは菜々へのフォローを入れるつもりで侑に落ち着くように声をかけ、それを受けて侑は反省の色を見せる。

 

「う、うん。 ごめん・・・・・・。 生徒会長がせつ菜ちゃんのファンだと思ったら、すぐに語り明かしたいって気持ちが先走っちゃって・・・・・・」

「・・・・・・そう言えば先日お会いした時、優木さんに会いたがっていましたね」

 

そこで菜々は侑達と初めて会った時、侑達が同好会にいるせつ菜に会いに来ていたことを思い出し、そんな菜々の言葉に侑は「うん!」と笑顔を浮かべながら力強く頷く。

 

「大好きなんだ!!」

「・・・・・・っ」

 

そんな侑の言葉に、菜々は目を見開く。

 

「この前、ライブやっててね? 凄かったんだよぉ。 せつ菜ちゃんの言葉が、胸にズシンって来たんだぁ。 歌であんなに心が動いたの、初めてだった!!」

「・・・・・・」

「私、夢中になれるものとか、全然無かったんだけど・・・・・・あの日からスクールアイドルにハマって、今すっごく楽しいんだ~! ライも、せつ菜ちゃんみたいな凄い娘知ってるなら早く教えてくれれば良かったのに!」

 

侑は嬉しそうに、楽しげに菜々にスクールアイドルのことを話し、その過程で彼女はせつ菜のような娘を知っているならもっと早く教えて欲しかったとライに苦言を零すが、そうは言われてもライ自身も割と最近になってハマった上に侑自身、そこまでアイドルに興味がありそうに見えなかったのでライは教えて欲しかったと言われても困ると彼女に言葉を返すのだった。

 

「それで、歩夢と一緒に同好会も入ってね!」

「・・・・・・同好会?」

「そう! かすみちゃんが、誘ってくれて・・・・・・」

「侑、侑! それ菜々ちゃんの前で言って良かったのか!?」

 

ライに指摘されたことで、侑は「あっ」と声をあげると、彼女は必死に両手をブンブン振って「ち、違うの!」となんとか同好会のことを誤魔化そうとする。

 

「ち、違うの! 勝手に部活始めたとかじゃなくってねぇ~・・・・・・」

「そそそそ、そうだよ!? 同好会って言ってもスクールアイドル同好会じゃないよ!?」

 

確かに、侑は「同好会」と言っただけで彼女やライは一言も「スクールアイドル同好会に入部した」なんて言ってはいない。

 

なので侑もライもまだ誤魔化しが通ずると思っていたのだが、優木 せつ菜としてではあるが、かすみと共に同好会で過ごしたことのある菜々にとってそんな誤魔化しは一切通用しなかった。

 

なぜなら、かすみとは喧嘩別れのような形となってしまったものの菜々はかすみがどれだけスクールアイドルのことが「大好き」なのかを知っているから。

 

自分にも負けない、スクールアイドルのことがとても「大好き」なかすみが、アイドル同好会を諦めて他の同好会を作るなんてする筈が無いことを菜々は理解している。

 

だから、ライや侑が必死にかすみが再結成させたアイドル同好会のことを隠そうとしても「かすみちゃんが誘ってくれた」と侑が言った時点で菜々には如何なる誤魔化しなど通用する筈も無かったのだ。

 

「ふふ、特に問題ありませんよ」

 

だが、彼女はワタワタする侑とライの2人を見てクスリと小さく笑うと、勝手にアイドル同好会を再結成させたことについて菜々は特に問題などは無いと、咎めるようなことはしなかったのだ。

 

「えっ、でも・・・・・・」

「確かに、スクールアイドル同好会は一度廃部になりましたが『新しく立ち上げてはいけない』という校則はありませんし」

「「・・・・・・えっ?」」

「部員が5人以上集まったら何時でも申請に来てください」

 

窓に近寄り、窓の外を見つめながらそう語る菜々の言葉に、侑は動揺しつつも「そうなんだ」と返し、ライはそんな菜々に対して深々と頭を下げる。

 

「ありがとう、菜々ちゃん!! りなりーやはんぺんの時と良い・・・・・・。 何から何まで色々と君には世話にはなりっぱなしだよ・・・・・・」

「そんな大袈裟ですね・・・・・・赤間さんは」

 

またそのように頭を全力で下げるライに菜々は呆れつつも苦笑し、再び窓を菜々が見つめると、どこか暗い表情を浮かべる彼女の姿に、ライは不思議そうに首を傾げる。

 

「・・・・・・先ほどの高咲さんの言葉、優木さんが聞いたら喜ぶでしょうね」

「だったら、嬉しいなぁ。 なんで、辞めちゃったのかな、せつ菜ちゃん・・・・・・。 こんな事を思っても仕方無いって分かってるんだけどね。 きっとせつ菜ちゃんも、色々考えてな事だろうし」

 

スクールアイドルを辞めたのはせつ菜自身の意志で、それだけの理由が本人には合った筈。

 

そのことは侑自身、頭では分かっている、分かっているのだが・・・・・・それでもやはり、「辞めて欲しくなかった」という気持ちは抑えられなかった。

 

彼女のあのライブが、自分がスクールアイドルにハマった切っ掛けなのだから尚更。

 

もっともっとせつ菜のライブが見たいと侑が思うのも、それは当然の心理だろう。

 

「でも、時々思っちゃうんだよね。 あのライブが最後じゃなくて・・・・・・始まりだったら最高だろうなって」

 

そして、その時に発した侑の言葉は、彼女としてはただの願望として言ったものだった。

 

「もし」とか「たら」とか「れば」とか、そう言った類のもの。

 

しかし、何気なく言ったその侑の言葉は、菜々の心の奥底にあるものに深く突き刺さり、彼女は僅かな苛立ちを覚えた。

 

「なんでそんなこと言うんですかッ・・・・・・!」

「えっ?」

「菜々ちゃん・・・・・・?」

 

突然、雰囲気の変わった菜々の様子にライと侑は一瞬困惑するが、菜々はそんな風に困惑する2人を無視して、顔を俯かせながらも苛立ちを外に吐き出すように言葉を続ける。

 

「良い幕引きだったじゃないですか。 せつ菜さんは、あそこで辞めて正解だったんです。 あのまま続けていたら、彼女は部員の皆さんをもっと傷付けて、同好会は、再起不能になっていたはずです」

「えっ? そんなことは・・・・・・」

「高咲さんや赤間さんは、『ラブライブ』をご存じですか?」

 

侑の言葉を遮りながら菜々は侑やライにラブライブなるもののことを問いかけると、ライは「当然!」とでも言いたげに胸を張って応え、それには侑も頷く。

 

「俺を誰だと思ってやがる。 せつ菜ちゃんの1番(自称)のファンだぞ! せつ菜ちゃんのいるチームは今年の優勝候補かもしれないって名前が挙がってたくらいだしな! まぁ、でも、その肝心のせつ菜ちゃんがアイドル辞めちゃったけどね・・・・・・」

「要するに、スクールアイドルの全国大会みたいなやつだよね?」

「その通りです。 『ラブライブ』はスクールアイドルとそのファンにとって、最高のステージ。 あなたもせつ菜さんのファンなら、そこに出て欲しいと思うでしょ? スクールアイドルが大好きだったせつ菜さんも、同好会を作り、グループを結成し・・・・・・全国のアイドルグループとの競争に、勝ち抜こうとしていました」

 

顔を俯かせながら、ライと侑にせつ菜がラブライブに向けてどう意気込んでいたのかを話す菜々。

 

しかし、それを語る菜々の姿は、どこかせつ菜というよりもまるで・・・・・・自分のことを語っているようにしかライや侑には見えなかった。

 

「勝利に必要なのは、メンバーが1つの色に纏まる事。 ですが、纏めようとすればする程、衝突は増えて行って・・・・・・その原因が、全部自分にある事に気付きました。 せつ菜さんの大好きは、自分本意の我が儘に過ぎませんでした」

 

かすみを怒らせてしまった光景を脳裏に浮かべながら自分の拳を握りしめながら、菜々はせつ菜がスクールアイドルを辞めてしまったその理由をライと侑に話し、そして・・・・・・ライと侑の目には完全に、菜々とせつ菜の姿が重なり、2人はそれに驚いた表情を浮かべて互いに顔を見合わせる。

 

「そんな彼女が、スクールアイドルになろうと思った事自体が、間違いだったのです。 幻滅しましたか?」

 

そこで今まで俯かせていた顔を上げて、侑やライの方に視線を向けると、2人にそう問いかけるがライも侑も何も応えることが出来ず、3人の間でしばらくの沈黙が走る。

 

「っ・・・・・・」

 

そこで侑が口を開こうとしたその瞬間、音楽室にひょっこりと歩夢が顔を覗かせて来たのだ。

 

「侑ちゃん? それにライくん?」

「失礼します」

 

歩夢が音楽室に来たと同時に、菜々はそれだけを言うと彼女はその場を去って行き、音楽室には気まずい空気だけが残るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室に戻った菜々は1人、ノートパソコンを開き、動画サイトで何気なく自分が行った最後のライブの映像を視聴していた。

 

「・・・・・・」

 

その動画サイトのコメントではこれが優木 せつ菜最後のライブであることを惜しむ声が多数上がっており、彼女はそれを見る度に拳を握りしめる。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「でも、どうして?」「もったいないね」「いい線いってたかもしれないのに」と書き込まれたコメントを見る度に複雑な感情が彼女の中で激しく渦巻き、菜々はその感情に押しつぶされそうな気持ちとなり、机の上に突っ伏した。

 

(期待されるのは嫌いじゃ無かったけど、1つくらい自分の大好きなことを、やってみたかった・・・・・・)

『スクールアイドルが大好きなんでしょ!? やりたいんでしょ!? こんなパフォーマンスでは、みんなに大好きな気持ちは届きませんよ!?』

 

かすみの気持ちを傷つけ、怒らせてしまったあの日の出来事を後悔しない日は無い。

 

『でも! こんなの全然可愛くないです!! 熱いとかじゃなくってかすみんは可愛い感じでやりたいんです!!』

 

あの場で感情を爆発させたのはかすみだけだったが、もしかしたらそれはかすみだけではなく、彼方やエマ、しずくの心だって深く傷つけていたのかもしれない。

 

そう思うと、菜々はやるせない気持ちでいっぱいになる。

 

(私の『大好き』が、誰かの『大好き』を否定していたんだ。 それは結局、ただのワガママでしかなく・・・・・・。 私の大好きは、ファンどころか・・・・・・仲間にも届いていなかった・・・・・・)

 

そこで菜々は顔を上げると、そっとノートパソコンを閉じ、鞄を持って椅子から立ち上がる。

 

(ケジメでやったステージが、少しでも同好会の為になったのなら、優木 せつ菜だけが消えて・・・・・・新しい虹ヶ咲スクールアイドル同好会が生まれる。 それが、私の最後のワガママです・・・・・・)

 

学園から外へと出ると、そこで彼女はふっと何かを思い出したかのように立ち止まり、ポケットにしまっていた1枚の刀のような模様が描かれたメダルを取りだした。

 

「そう言えば、結局これはなんだったんでしょう・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、歩夢、侑、かすみ、ライ、倉名はスクールアイドル同好会の新しい練習場所である公園に訪れ、集まっていたのだがそこには歩夢達が加入するよりも前にかすみと共に活動していたメンバーであるしずく、彼方、エマ+果林も来ていた。

 

「ってか隊長、ダランビアの調査の方は?」

「今、薫子が事情聴取に研究所に向かってるところ。 報告待ってる間はちょっとだけこっちに顔見せようと思ってな」

 

倉名がここに来ていた理由をライに話した後、歩夢達やエマ達は初対面であるため、お互いに軽い挨拶を交わした後、エマ達からせつ菜の正体が菜々であることかすみ達にも語られた。

 

「えええぇぇ!? 意地悪生徒会長がせつ菜先輩ぃぃ!?」

「やっぱりかあああぁぁ!!!!?」

 

両手で頬を押さえながら驚きを隠せないかすみ。

 

そしてハッキリとした確信が持てなかったライは果林達にせつ菜の正体を教えられたことで頭を抱えて公園の芝生の上に倒れ込むと両手で顔を覆い、打ち上げられた魚か、もしくはミミズのようにウネウネ動きながら彼女の1番(自称)のファンであるにも関わらず、菜々として初めて彼女と会った時にせつ菜であると気づけなかったことを彼は激しく後悔した。

 

「うわあああ!!! 初めて菜々ちゃんと会った時に気づけなかったとか、俺ファン失格じゃんホントに・・・・・・!!」

 

それからウネウネ動くライは物凄く気持ち悪かった。

 

あと、菜々のことは元々美少女だとは思っていたがあれが三つ編みメガネしたせつ菜だと思うとしたらめっちゃ似合うし可愛いとライは思った。

 

確かに、思い返せばせつ菜と菜々の容姿はどことなく似ていたし、どちらも同じくらい身長が小さかった。

 

あと、せつ菜の三つ編みメガネめっちゃ可愛いと思った。

 

どちらも髪が黒く、よく聞けば声も似ていたし、倒れそうになった彼女を支えた時に顔も間近で見たこともあるのに気づけなかったことをライは悔やまずにはいられなかった。

 

あと、せつ菜の三つ編みメガネがめっちゃ可愛いと思った。

 

自分と同じようにアニメや漫画などが好きというオタクである点も共通しており、思い返せば思い返すほどライはせつ菜と菜々が同一人物であることを確信していくことができたのだ。

 

あと、せつ菜の三つ編みメガネがめっちゃ可愛いと思った。

 

これだけの材料が揃っているのに、なぜもっと早く自分は気づくことが出来なかったんだとライは落ち込み、もっと早く気づけていれば、確信が持てていれば音楽室の時に悲しそうな顔をしていた彼女に対して何か言えたかもしれないとライは思わずにはいられなかった。

 

あと、せつ菜の三つ編みメガネg

 

「ウゼえ!!」

「ウザい!!」

「ゲホォ!?」

 

そこで倉名と果林が未だに芝生の上で悶えるライを蹴っ飛ばし、起き上がったライは「ケホケホ」と咽せながらも立ち上がり、「何すんですか!? 何すんだよ!?」と蹴りつけてきた2人にそれぞれ怒る。

 

「何時まで悶えてるのよ! 気持ち悪いわよいい加減!」

「ってかしつけーんだよ!! どんだけ三つ編みメガネに萌えてんだテメーは!!? 三つ編みメガネとか地味ジャンルだろうが!!」

「地味なのが良いんでしょうが隊長! 三つ編みメガネ良いでしょうが!! ねえ、彼方さん!!?」

「なんで彼方ちゃんに話振るのかな!?」

 

何故かいきなり話を振られて困惑する彼方だったが、そこでかすみが「それよりも!!」と声をあげ、なんで自分抜きでそんな重大なことになってるんだと彼女は自分を置いていったことへに対しての不満をしずく達に言い始めたのだ。

 

「なんでかすみんを置いてそんな大事な話しに行ったんですかぁ!? 部外者のお姉さんはいたのに!!」

「へえ、面白いこと言う娘ねぇ?」

 

かすみに部外者呼ばわりされ、少しそれに腹を立てたのか、果林はそう言いながら怪しく笑みを浮かべつつ鋭く、冷たい視線をかすみに向けるとその視線を向けられたかすみは「ヒィ!!?」と背筋を震わせながら悲鳴をあげ、しずくの背中に慌てて隠れる。

 

「ごめんなさい! コッペパンあげるから許してくださいぃ~!」

「あら、美味しそう。 有り難く貰っておくわね?」

 

かすみはしずくの背中に隠れつつ、どこからかコッペパンを取り出して果林に手渡すと、果林は鋭い視線をかすみに未だに向けながらもそれを手に取る。

 

「あんまり後輩いじめてやんなよ、果林」

「別にいじめてないでしょ? ちょっと睨んだだけ」

 

ライの言葉に果林は「心外だ」と言わんばかりにムッとした表情を浮かべながら彼女はそう言葉を返す。

 

「学校中探してもいなかったから、スマホにも連絡入れたんだよ?」

 

そこでしずくがかすみにもちゃんと声をかけようとしていたこと、スマホにも連絡を入れていたことを話し、それに「えっ? ホント?」と首を傾げたかすみがスマホを取り出すとそこには確かにしずくからの着信履歴やLINEによるメッセージが届いており、ただ単にかすみを置いていった訳では無くしずく達からの連絡に自分が気付いていないだけであったことが判明したのだった。

 

「わあ! 全然気付かなかった・・・・・・」

「色々あったからな・・・・・・気付かなくても無理はねえだろ」

 

倉名の言う通り、新しい練習場所を探したり、フリップ星人の襲撃があったり、かすみが歩夢に自分の考えを押しつけてしまっているのではないかということに悩んだりと、一度に色々なこと起きてしまったのだからかすみが気付かないのは確かに仕方ないことだろう。

 

なので気付かなかったのは自分の落ち度なのでかすみはこれ以上特に何か文句を言ったりすることはなかった。

 

また、一方で侑は顔を俯かせながら何か小さく呟いていた。

 

「やっぱり菜々さんが・・・・・・」

「せつ菜ちゃん、本当にスクールアイドルを辞めるつもりみたい・・・・・・」

「ちゃんと話そうとしたんだけど、取りつく島もなかったんだよ・・・・・・」

 

エマと彼方が生徒会室での出来事を侑達に話すと、かすみはそれに残念そうな表情を浮かべながら「そうですか・・・・・・」と呟き、そこでコッペパンを半分に割ってエマと分け合って食べていた果林がそっと口を開く。

 

「何か問題があるの?」

『んっ?』

 

果林のその言葉に全員が頭に疑問符を浮かべるが、倉名だけは果林が何を言いたいのか分かっているようだった。

 

「まぁ、目的自体はもう果たしてるも同然だかんな」

「その通り。 あなた達の1番の目的は、もう果たしているように見えるけど? 部員は5人以上居るみたいだし、生徒会も認めるって言ってるなら、同好会は今日にでも始められるでしょ?」

 

ライや倉名、侑達も果林の言いたいことは分かる。

 

「本人が辞めると言ってるんだし、無理に引き止める必要、無いんじゃない?」

 

確かに、せつ菜自身が本当に辞めたいと言っているのなら、無理に引き止めるのは良くないことだというのはライにだって分かる。

 

だから果林の言いたいことも頭では分かっている。

 

しかし、それでもライは音楽室で話した時の菜々の、せつ菜の悲しそうな顔が忘れられず、ライにはどうしても納得できないものがあった。

 

それは侑も同じなようで、本当にせつ菜はスクールアイドルを辞めたいと思っていたのかと疑問を口にした。

 

「本当に、辞めたいのかな?」

「なんでそう思うの・・・・・・?」

「・・・・・・皆さんは、どう思いますか? せつ菜ちゃん、辞めても良いんですか?」

 

侑が元祖同好会のメンバーであるしずく、エマ、彼方に問いかけると、3人は口を揃えてせつ菜がスクールアイドルを辞めることに反対した。

 

「「「それは嫌だよ!!」」」

「せつ菜ちゃん、すっごく素敵なスクールアイドルだし、活動休止になったのは・・・・・・私達の力不足もあるから・・・・・・」

「彼方ちゃん達、お姉さんなのにみんなを引っ張ってあげられなかった・・・・・・」

「お披露目ライブは流れてしまいましたけど、みんなでステージに立ちたいって練習して来たんです! せつ菜さん抜きなんてあり得ません!!」

 

エマ、彼方、しずくがそれぞれのせつ菜への想いを口にして吐き出すと、それに続くようにかすみも口を開く。

 

「かすみんもそう思います! せつ菜先輩は、絶対必要です! 確かに、厳しすぎたところもありましたけど・・・・・・今は、ちょっとだけ気持ちが分かる気がするんですよ・・・・・・。 前の繰り返しになるのは、嫌ですけど、きっと・・・・・・そうじゃないやり方もあった筈で・・・・・・。 それを見付けるには、かすみんと全然違うせつ菜先輩が居てくれないと、ダメなんだと思うんです!!」

「・・・・・・大きくなったね~、かすみちゃん~♪」

 

力強く、そう言い放つかすみに彼方が後ろから抱きついて頭を撫で、それにムッとするかすみ。

 

「バカにしてませんか?」

「本気で褒めてるよ~」

 

そこで今まで黙っていた倉名も右手を挙げながら、「俺もみんなの意見に同意だな」と前に出て主張する。

 

「どうせ、アイツ自身本当は納得してねえんだろ。 スクールアイドルを辞めるにしても、そんな終わり認めてやらねえ。 終わるんならせめてちゃんと胸張って『やり遂げたよ、最後まで』って本人が満足できる最後じゃねえと、俺も納得できないからな」

「ですね! 俺も部外者かもしんないけど、何が出来るか分かんないけど、同好会の力になるよ」

「せつ菜ちゃんは私達に夢をくれた人だもんね! 私も一緒にやりたい!」

 

倉名に続くように、ライや歩夢もまたせつ菜がスクールアイドルをやってくれることを望んだ。

 

「でも、結局あの娘の気持ち次第よね」

「うぅ、また水を差すようなことを・・・・・・」

 

しかし、そこで折角みんなが「優木 せつ菜を取り戻す!!」と意気込んでいたというのに果林が水を差すようなことを言ってしまった為に一同の空気が重いものに変わり、かすみに抱きついたままの彼方もジトッとした視線を彼女に向けていた。

 

「確かに、果林ちゃんの言う通りだよ」

 

だが、幾らを水を差すと言ってもどの道「せつ菜自身の気持ち」という壁には遅かれ早かれブチ当たるのだから果林の言う通りであるとエマは彼女の意見に同意し、そのことに一同が思い悩んでいると・・・・・・そこで侑とライの2人が同時に「はい!!」と手を挙げて来たのだ。

 

「私が話して見ても良いですか!?」

「俺も、せつ菜ちゃんには言いたいことがある」

 

 

 

 

 

 

一応、せつ菜と話すのは明日ということになり、本日は全員一時解散。

 

その後はライと倉名は途中、璃奈と合流して一緒にストレイジ本部へと行くと、丁度薫子が調査から戻って来たところであり、司令室で薫子からの報告を一同は聞いていた。

 

「そんで? 調査の結果は?」

「やはり、ダランビアの破片が何者かに盗まれた形跡は無し。 破片が独りでに動いたっていう感じでもありませんし・・・・・・」

「今日ゼットが倒した怪獣の破片は・・・・・・?」

 

璃奈は薫子にならば今日ゼットが倒したネオダランビアの破片はどうなっているのだろうかと尋ねると、薫子は眉間にシワを寄せ、気むずかしそうな顔をする。

 

「それが、ネオダランビアの破片は回収出来なかったの。 どこ探しても見つからないって処理班からの連絡があって・・・・・・」

「やっぱり独りでに動いてるんじゃ・・・・・・過去の記録にもそういう怪獣いましたよね?」

「その話なら今朝、薫子としたよ」

 

ライは破片が見つからないのならやはり今朝倉名や薫子が話していたギアクーダのような話題のように、バラバラになってもその破片の1つ1つが自我を持ち、独りでに動くことのできる怪獣なのではないかと予想する。

 

「どちらにせよ、そういう類のもんであるのは間違いないかもしれねえな。 こりゃ、面倒なのが来たもんだ。 取りあえず、各自警戒を怠るなよ!」

「「了解!!」」

「・・・・・・了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、虹ヶ咲学園の生徒会室にて。

 

「本日は以上です」

『お疲れ様でした!』

 

そこでは生徒会の会議を丁度終えた生徒会役員達や菜々の姿があり、全員が帰る支度をしようとしたその時・・・・・・。

 

校内放送が学園中に鳴り響いた。

 

『普通科2年! 中川 菜々さん! 優木 せつ菜さん! 至急、西棟屋上まで来てください!』

「っ!」

 

校内放送は指定の場所まで菜々とせつ菜が一緒に来るようにというもので、当然ながらそのことに菜々は目を見開き、せつ菜と一緒に呼び出すことに彼女は憤りを感じずにはいられなかった。

 

「ちょっと、行って来ますね」

 

菜々は他の役員達にそれだけを言うと、席を立ち上がって生徒会室を出て行き、彼女は校内放送で指定された場所へと向かうのだった。

 

(ワザワザ、せつ菜と一緒に呼び出すなんて・・・・・・まさか、エマさん? いえ、朝香さんと考えた方が・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

その頃、校内放送室では・・・・・・。

 

歩夢が「ありがとうねー」と放送部員の少女達にお礼を述べ、一緒に来ていたかすみが感謝の印として悪い笑みを見せながら少女達にコッペパンを渡していた。

 

「これ、お礼のブツです!」

 

それ賄賂って言うのでは?

 

 

 

 

 

 

 

そして、校内放送で呼び出された菜々は指定の場所に警戒しながらも辿り着くと、そこで待っていたのは侑とライの2人であり、てっきり元祖同好会メンバーか、もしくは果林だとばかり思っていた菜々はこの2人が待っていたことが意外だったのか、驚いたような表情を浮かべていた。

 

「っ、高咲 侑さん、それに、赤間さん・・・・・・」

「押忍、菜々ちゃん・・・・・・いや・・・・・・」

「こんにちわ。 せつ菜ちゃん」

 

侑の口から自分に向けられて「せつ菜」という名前が飛び出すと、菜々は又もや驚いた顔を見せるが、すぐに冷静さを取り戻し、すぐに彼女はきっとエマ達から聞いたのだろうという考えに辿り着く。

 

「・・・・・・エマさん達に聞いたんですね?」

「いや、もう殆ど答え菜々ちゃんが音楽室で言ってたけどね? まぁ、あん時はまだ確信が持てなかったけど」

「うん。 確かに私達はエマさん達から聞いたけど、音楽室で話してた時にそうじゃないかなーって思ったよね」

 

侑とライは互いに顔を見合わせながら「ねっ!」と言い合うと、再び2人は視線を菜々に戻す。

 

「それで、どういうつもりですか?」

 

どこか、機嫌が悪そうに侑とライに一体なんの用があって自分を呼び出したのかと訪ねると、唐突に侑とライは2人揃って頭を下げて「ごめんなさい!!」と謝ってきたのだ。

 

「な、なんですかいきなり!?」

 

突然2人に謝られたことに一体どうしたのだと菜々は激しく動揺し、戸惑う。

 

「昨日、何でスクールアイドル辞めちゃったのかなっとか言っちゃったから。 無神経過ぎたかなって」

「俺も、侑以上になんか無神経過ぎたこと言ってたかもしれないと思うと不安で不安で・・・・・・なんか凄くせつ菜ちゃん相手に気安く接してたし・・・・・・」

 

侑やライはまだ菜々がせつ菜であることを知る前だったとは言え、ズカズカとデリケートな部分に踏み込み過ぎたのでは無いかと思い・・・・・・。

 

特にライに至っては自分に取っては高嶺の花であるせつ菜相手にかなり気安く接してしまったことを気にしており、2人はその辺りのことで申し訳ないことをしたかもしれないと考え、菜々に謝罪したのだ。

 

「・・・・・・気にしてませんよ? 正体を隠していた私が悪いんですから。 赤間さんも、これまで通りの接し方で構いませんし」

 

菜々は侑やライが謝ってきた理由を聞くと「そんなこと気にしなくて良いのに」と2人の謝罪を受け入れ、そこで3者の間でしばらくの沈黙が走る。

 

「・・・・・・話が終わったのなら」

 

菜々はそれだけを言うと、その場を立ち去ろうとするが、それを侑が「まだあるの!」と手を彼女に伸ばしながら引き止める。

 

「なんですか・・・・・・?」

「私は、幻滅なんてしてないよ!」

「・・・・・・えっ?」

 

侑のその言葉に、目を見開く菜々。

 

それは侑やライは昨日のせつ菜の話をしたことで彼女に対し失望し、幻滅してしまったと思っていたからだ。

 

だから、侑のその言葉が、彼女には意外で仕方が無かった。

 

しかし、そんな侑の言葉を無視するかのように、空気を読まない発言をする男がここに1人。

 

「あっ、俺は幻滅はしたぞ?」

「・・・・・・(無言の腹パン」

「ゲハアア!!?」

 

直後、そんな空気を読まない男(ライ)の腹部に強烈な腹パンを侑が叩きこんだ。

 

「ぐぅ、彼女は瑠璃ではないってか・・・・・・」

(いやそれ、腹パンした方が言う台詞・・・・・・)

 

ライがそんなことを言い、菜々がそんなことを思っていると侑はそんな空気の読めない発言をするライに向かってカンカンに怒りながら彼を睨み付け、指差す。

 

「なんでそんな空気読めない発言するのライは!? っていうか幻滅してたの!? 全然そんな素振り無かったじゃんか!! せつ菜ちゃんに言いたかったことってそれ!!?」

「ゲホゲホッ・・・・・・! そうじゃなくて!! 最後まで話を聞け!!」

 

お腹を押さえながらなんとか立ち上がったライは一度「ゴホン」と咳払いした後、改めて自分が何が言いたいのかを話し始める。

 

「せつ菜ちゃんさ、『スクールアイドルになろうと思った事自体が、間違いだった』って音楽室で言ってたでしょ?」

「あっ、ハイ・・・・・・」

 

面と向かってそれもここ数日でちょっと仲良くなっていたライに「幻滅した」なんて言われたら一応、覚悟はしていたもののやはり大なり小なりショックなものはショックであり、菜々は少しばかり浮かない顔をしていた。

 

「俺が幻滅した部分って、そこだけだよ。 そこだけが、凄くムカついた」

「・・・・・・えっ?」

「だって、そうでしょ? 君がスクールアイドルをやること自体が間違いだったのなら、君を『大好き』になった俺の気持ちだって、間違いってるってことになるだろ!?」

「はっ、えっ!?」

(あれ? 何気に今、ライってせつ菜ちゃんに告白した?)

 

ライのその言葉を受けて、菜々は顔を真っ赤になり、侑は「この状況で告白するとかマジかこいつ」みたいな顔をしていた。

 

(歩夢の時みたいに面倒なことにならなければ良いけど)

 

だが、別にライは菜々に対して愛の告白をしている訳では無い。

 

「俺だけじゃない!! 侑だって、他の君のファンの人達だって!! 君がそんなことを言ったら、君を『大好き』になってファンになった人達の気持ちだって、間違いだってことになるんじゃないのか!?」

 

ライに力強くそう言われたことで、菜々ははっとなり、彼女はライのその言葉に何も言い返すことが出来なかった。

 

「そのことだけは、俺は絶対に認めないし、他の誰にもそんなこと認めさせない。 君自身にも!」

「うん。 そうだね、ライの言う通り。 だから私達は、スクールアイドルとして同好会に戻って欲しいんだ」

 

そんな侑の勧誘を受けた次の瞬間、菜々は拳を握りしめ、彼女は声を荒げる。

 

「何を・・・・・・『スクールアイドルをやるのは間違いだった』という言葉は撤回しましょう!! ですが!! あなた達ももう全部分かっているんでしょう!? 私が同好会にいたら、みんなの為にならないんです!! 私がいたら!! 『ラブライブ』に出られないんですよ!!?」

「「だったら、ラブライブになんて出なくて良い!!!!」」

 

嘆くように叫ぶ菜々に、ライと侑の2人が同時にそう言い放つと、菜々はそれを受けて唖然とした顔を浮かべる。

 

「あっ、いや、ラブライブがどうだからとかじゃなくって・・・・・・。 私は、せつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけ。 ラブライブみたいな最高のステージじゃなくて良いんだよ! せつ菜ちゃんの歌が聴ければ、十分なんだ!」

「そうだよ。 それになにより、ラブライブなんていらないくらい・・・・・・せつ菜ちゃんは元より最高だしな!」

 

ライと侑が互いに頷き合うと、2人は菜々に歩み寄る。

 

「スクールアイドルがいて・・・・・・」

「ファンがいる」

「それで良いんじゃ無い?」

 

ライと侑が同時に菜々に笑顔を向けると、それに菜々は訳が分からないといった顔を見せ、彼女は困惑するしかなかった。

 

「どうして、こんな私に・・・・・・?」

「言ったでしょ? 『大好き』だって!! こんなに好きにさせたのは、せつ菜ちゃんだよ!」

「『大好き』だから、君が悲しんだ顔のまま、スクールアイドルを辞めて欲しくないんだ」

 

侑とライは満面の笑顔で、菜々にそう言い放つと、彼女はそれに照れ臭くなったのか頬を赤くする。

 

「っ、あなた達みたいな人は、初めてです・・・・・・。 期待されるのは、嫌いじゃありません。 ですが、本当に良いんですか? 私の本当のワガママを、大好きを貫いても、良いんですか?」

「勿論!!」

「当たり前じゃん!!」

 

侑は笑顔で、ライはサムズアップで菜々の問いかけにそう応えると、その瞬間、彼女は自分の心の中が軽くなるのを感じた。

 

「・・・・・・ふぅ、分かっているんですか?」

「「んっ?」」

「あなた達は、自分が思っている以上に・・・・・・凄いことを言ったんですからね!」

 

菜々はそう言いながら数歩前に出て、棟の中央辺りまで歩いて行くと・・・・・・彼女は三つ編みを解いてメガネを外して仕舞い込み、菜々は侑やライへの方へと振り返って右拳を前に突き出す。

 

「これは、始まりの歌です!!」

 

そうして中川 菜々・・・・・・否、「優木 せつ菜」は前を向くと彼女はそこでライブを行った。

 

復活したそんな彼女が歌う曲は・・・・・・「DIVE!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・! 虹ヶ咲スクールアイドル同好会!! 優木 せつ菜でした!!」

 

せつ菜の行ったそのゲリラライブは多くの生徒に目撃されており、あちこちの至るところで彼女に対して大きな歓声が上がっており、その中には璃奈や愛、果林の姿もあり、特に璃奈や愛はせつ菜のその姿にとても圧巻されているようだった。

 

「ううううぅぅぅ・・・・・・!! おおおおぉぉぉ!! や゛っ゛ばり゛、や゛っ゛ばり゛せ゛つ゛な゛ちゃ゛ざい゛ごう゛う゛う゛ぅ゛!!」

 

また、せつ菜の生ライブを間近で見れたことにライは滝のような涙を流し、小汚い声をあげながらそのことに感動し、泣き崩れ・・・・・・。

 

侑はライブを終えたせつ菜に向かって勢いよく抱きついたのだ。

 

「せつ菜ちゃん!!」

「わああ!!?」

「もう、大好き!!」

 

そのまませつ菜は尻餅を突いてしまうが、そのことに彼女はなんだかおかしくなって思わず笑ってしまうのだった。

 

「ふふ、あははは・・・・・・!! ありがとう」

 

せつ菜はするとそこへ丁度、今まで3人の様子を影からこっそりと見守っていた歩夢、かすみ、彼方、エマ、しずく、倉名が現れ、かすみは怪訝な表情をしながらしゃがみ込む。

 

「先輩、いつまでくっついてるんですか?」

「やっぱり凄いねー」

 

またそこで歩夢が改めてせつ菜の凄さを再確認すると、彼女は侑に手を差し伸べ、侑もその手を掴んで立ち上がる。

 

「皆さん、見ていたんですか?」

「・・・・・・お帰りなさいっ!」

 

エマは同好会のメンバーを代表してせつ菜が同好会に帰ってきたことを歓迎し、倉名はそんなせつ菜の額を一差し指で軽く小突く。

 

「あたっ!?」

「ったく、俺に相談も無しに勝手にスクールアイドルやめて、同好会無くしてなんとか戻って来たと思ったら・・・・・・ゲリラライブとかやりたい放題にも程があるぞ?」

 

倉名にそう言われてせつ菜は「す、すいません」と縮こまって反省し、色々やらかしてしまったことを倉名や他の同好会メンバーに謝罪するのだった。

 

「まっ、戻って来たんだし、今回は不問にしてやるよ。 つーかライ! お前は何時まで泣いてんだ!?」

「だっで、だっでえ゛え゛え゛え゛!!」

 

ライに取ってただでさえ優木 せつ菜が復活したことは嬉しいのことだ。

 

しかも生でそれもこんなに間近で初めて彼女のライブを観ることが出来たのだから彼女の大ファンであるライにとって、これほど嬉しいことはないし、号泣してしまうのは仕方のないことだろう。

 

それに何より、ライに取って1番嬉しいことは、「せつ菜が自分の笑顔を取り戻してくれた」ということである。

 

彼女の笑顔を見られたことが、また彼女が笑ってくれたことが、ライにとって何よりも嬉しいことだった。

 

「でも、少し盛り上がりすぎかも」

 

そこでしずくがせつ菜のゲリラライブが大盛況で予想以上に彼女のライブが生徒達の間で盛り上がっていることに危機感を感じ、見つかったら先生に怒られてしまうのではないかとかすみが不安を口にする。

 

「先生に見つかったら怒られちゃいますよ?」

「どうする~? 生徒会長~?」

 

間延びした声で彼方がどうするかせつ菜に尋ねると、彼女はニッとした笑みを浮かべて見せる。

 

「今の私は、優木 せつ菜ですよ! 見つかる前に、退散しましょう!!」

『おー!!』

「俺も異論はねえ」

 

せつ菜はさっさと撤退してしまおうとみんなに意見を出すと、それにコーチである倉名含めた全員が同意し、一同はその場からそそくさと逃げ出すのだった。

 

いや、ちゃんと注意して止めろコーチ。

 

「ほら! 何時まで泣いてるんですか赤間さ・・・・・・ライさん!! あなたも一緒に!」

「はぇ!?」

 

未だにグズグズ泣いていたライの手首をせつ菜が掴むと、ライはそのことと+急に名字でなく、下の名前で呼ばれたことに二重の意味で動揺するが、有無は言わせないとばかりにせつ菜に強引に腕を引っ張られ、ライを含め、同好会メンバーは全員そこから立ち去ろうとするのだが・・・・・・。

 

「グアアアアアアアア!!!!!」

 

その時、先日ゼットが倒した筈の「ネオダランビア」が目つきが鋭くなり、茶色だった体色が若干黒っぽくなった「超合成獣 ネオダランビアⅡ」として又もや唐突に復活して街に現れたのだ。

 

「怪獣!? ってまたアイツか!!」

 

ネオダランビアⅡの出現を受け、ライはうんざりとした様子を見せ、また倉名はネオダランビアⅡの姿を見るや否や「チッ」と軽く舌打ちする。

 

「ったく、せつ菜が折角盛り上げてくれたのに、それを台無しにするように出てきやがって。 ライ、こいつ等は俺が安全なところまで避難させておくから、お前は他の生徒達を避難させろ。 薫子にも俺から連絡入れておく」

「押忍!! みんなのこと、お願いします!!」

 

ライは倉名に返事を返すと、すぐさま隊長に言われた通り他の生徒達の避難活動を行う為にその場を離れて走り去るのだが・・・・・・みんなからある程度離れた時、ライはあることに気付いた。

 

それはまたネオダランビアⅡは前回の時と同様、今回もまた何かを探しているかのような動作を見せていることと、ネオダランビアⅡは真っ直ぐこちらに向かって歩いて来ているということ。

 

「アイツ、こっちに向かって来てる!!」

 

そのことに気付いたライは、セブンガーの到着を待っている暇は無いと考え、人気のない場所へと向かうと「ウルトラゼットライザー」を取り出し、トリガーを押す。

 

「行きますよ、ゼットさん!!」

 

すると光の扉である「ヒーローズゲート」が開くと、ライはその中へと飛び込み、「ウルトラアクセスカード」を手に取り、ゼットライザーの中央に装填。

 

『ライ、アクセスグランテッド!』

 

腰のメダルホルダーを開き、ライはそこから3枚のメダルを取り出す。

 

「宇宙拳法、秘伝の神業!!」

 

ライはゼロ、セブン、レオのメダルをそれぞれライザーのスリットにセット。

 

「ゼロ師匠!! セブン師匠!! レオ師匠!!」

 

ブレード部分をスライドさせ、3枚のメダルを読み込ませる。

 

『ゼロ・セブン・レオ!』

「押忍!!」

 

するとライの後ろに「ウルトラマンゼット オリジナル」が現れ、ゼットは両腕を広げる。

 

『ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼーット!!』

「ウルトラマンゼエエエエエット!!!!」

 

最後にライザーを掲げてトリガーをもう1度押すと眩い光が走る。

 

するとメダルに描かれた戦士、「ウルトラマンゼロ」「ウルトラセブン」「ウルトラマンレオ」の3人が空間を飛び交う。

 

『ハアッ!』

『デュア!!』

『イヤァーッ!!』

 

するとライは上半身は青、下半身は赤で身体に胸部と両肩に銀色の鎧のようなプロテクターを装着し、頭部のトサカのような部分が3つある「ウルトラマンゼット アルファエッジ」へと変身を完了させる。 

 

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

『シェア!!』

 

ゼットへと変身を完了させたライはネオダランビアⅡの進行を食い止める為に立ち塞がるようにネオダランビアⅡの前に現れる。

 

「あっ、皆さん皆さん!! ウルトラマンゼットですよ!! いやぁ~、やっぱりカッコイイですよね!!」

 

ゼットが登場すると、倉名の誘導でみんなと一緒に避難していたせつ菜が立ち止まってしまい、ゼットの姿を見るや否や興奮した様子を見せる。

 

「バカ! それどころじゃねえだろ! さっさと避難するぞ!!」

「あー! あー! うぅ、そうなんですけど、そうなんですけどぉ!」

 

倉名に首根っこを掴まれ引っ張られたことでゼットに釘付けのせつ菜を引っぺがし、そんなせつ菜の姿に苦笑いする歩夢達と共に、再び避難場所を目指して一同は走る。

 

そして、ゼットはと言うと、ファイティングポーズを構えながらネオダランビアⅡに突っ込んでいき、拳をネオダランビアⅡに向けて放っているところだった。

 

『シュア!!』

 

しかしネオダランビアⅡは以前よりも強化された「亜空間バリア」を張り巡らせることで攻撃をガード。

 

それでも何度も拳を振るってネオダランビアⅡの亜空間バリアを攻撃するが、バリアは一向に割ることが出来ず、一瞬の隙を突いてバリアを解除すると同時に口から放つ「赤色破壊光線」を発射し、ゼットは大きく怯む。

 

『ジュア!!?』

「ガアアアアア!!!!」

 

続けて腹這いの状態で地面を滑走して繰り出す体当たり攻撃をネオダランビアⅡはゼットに繰り出すが、ゼットはジャンプして攻撃を回避してネオダランビアⅡの背後に回り込むと両手の指先を頭部ブレードに当て、Z字形の光刃を素早く投擲する「ゼットスラッガー」を振り返りざまに後ろががら空きのネオダランビアⅡに繰り出すが、ネオダランビアⅡは後ろに亜空間バリアを張ることでゼットスラッガーを防いでしまったのだ。

 

『嘘だろ!? こいつ後ろ向いたまま攻撃防ぎやがった!』

 

すると起き上がったネオダランビアⅡはゼットの方へと身体を向けて右腕を触手のように伸ばし相手に巻き付けてゼットの身体を拘束し、電流を流し始める。

 

『ウアアアッ!? この!! ゼスティウムメ・・・・・・!!』

 

ゼットはなんとかこの拘束を解こうと額のビームランプから超高熱の破壊光線「ゼスティウムメーザー」を放とうとするのだが、それよりも早く、ネオダランビアⅡがゼットの顔目がけて赤色破壊光線を撃ち込んだことでゼットの攻撃を阻む。

 

『グアアアッ!? こいつ、顔に・・・・・・ウルトラ痛てぇ・・・・・・!』

 

そしてネオダランビアⅡは触手になった右腕を大きく振るうことでゼットを投げ飛ばし、投げ飛ばされたゼットはビルに激突しながら倒れ込んでしまう。

 

『ウアアアア!!?』

『ぐぅ! ゼットさん!! こいつ、なんか俺達の動きを読んでませんか!?』

『どうやら、そうっぽいな・・・・・・! だったら、荒々しい戦い方で動きが読みづらいエプシロンワイルドで行くでありますよ! ライ!!』

 

ゼットにそう言われ、「押忍!!」とライが応えるとライはメダルを入れ替えて「エプシロンワイルド」にウルトラフュージョン。

 

『ウルトラマンゼット! エプシロンワイルド!』

『ワイルドに吠えるぜ!!』

『ウルアァ!!』

 

ゼットは一瞬、野獣のような声をあげると同時にネオダランビアⅡにすかさず詰めより、顎に膝蹴りを叩きこむ。

 

「ガアア!!?」

 

それにネオダランビアⅡは負けじと口から赤色破壊光線を放つが、ゼットは素早く躱してネオダランビアⅡの背後に回り込むと、光の鉤爪のような武器「ゼスティウムクロー」を出現させ、ネオダランビアⅡの背中を斬りつける。

 

『ゼスティウムクロー!!』

「グルゥ!?」

 

それを受けて怯むネオダランビアⅡだが、右腕を触手のように伸ばして鞭のようにして振り返りざまにゼットに振るい、ゼットに鞭となった腕を叩きつけるとゼットは大きく後退る。

 

「ガアアア!!」

『グウウ!?』

 

さらに続けざまに放たれた赤色破壊光線が撃ち込まれたことでゼットは片膝を突き、そこを狙ってネオダランビアⅡは腹這いの状態で地面を滑走して繰り出す体当たり攻撃を繰り出すが、なんとか痛みを堪えて立ち上がったゼットは両足にエネルギーを溜め、そのエネルギーを一気に放出することで一時的に加速し、一気にすれ違いざまに相手をクローで切り裂く「ゼスティウムソニック」をネオダランビアⅡに繰り出す。

 

『ゼスティウムソニック!!』

「グゥ、ガアア・・・・・・!!? グルアアアア!!!!?」

 

それによって身体を横一閃に切り裂かれたネオダランビアⅡは粉々に粉砕され、無事に倒されたのだが・・・・・・。

 

「グルアアアアア!!!!」

『『なに!?』』

 

ゼットによって粉々にされた直後、粉々に散った身体が元に戻り、さらにネオダランビアⅡはそこからまた新たに姿を変え、目が5つに増え胸に器官が発生し、腕の指が5本になり背中に4本の大きなコイルが生えた「超合成獣 サンダーダランビア」として復活したのだ。

 

『どうせ復活するだろうとは思ってたけど、コイツ、復活する時間が早まってる!!』

 

既に活動限界を知らせるゼットのカラータイマーも点滅を始めており、ライもゼットも予想以上のダランビアの復活の速さに驚愕し、動揺を隠せないでいた。

 

そんな2人の動揺する隙を突いて、サンダーダランビアはそのコイルから電撃を放ち、その直撃を受けたゼットは身体中に電気が走り、身体中から火花が散って片膝を突いてしまう。

 

『グアアア!!?』

「グルルル・・・・・・!!」

『こんの!! ライ!! もう1度ゼスティウムソニックだ!!』

『押忍!!』

 

なんとか立ち上がったゼットは再びゼスティウムクローを両手に構え、両足にエネルギーを溜め、そのエネルギーを一気に放出することで一時的に加速してサンダーダランビアに詰めより、クローを振るおうとするのだが・・・・・・。

 

「ガアアア!!!!」

 

クローが振り下ろされる直前、サンダーダランビアは背中のコイルから全包囲に向かって電撃を放つことで電撃をゼットの身体に喰らわせることに成功し、それを受けたゼットは吹き飛ばされ、地面に倒れ込んでしまう。

 

『グゥ・・・・・・! ジェヤァ!!』

 

しかし、それでもどうにか立ち上がったゼットはジャンプしてかかと落としをサンダーダランビアに繰り出すが、サンダーダランビアはⅡの時よりもさらに強化された「亜空間バリア」を張り巡らせることでゼットのかかと落としを防ぎ、さらにコイルから電撃を発することでゼットに電撃を直撃させ、引き離すことに成功する。

 

『ウアアッ!!?』

『さっきと違って全然攻撃が通じない!!』

『また動きを先読みされてるんだ・・・・・・!』

 

ライの言う通り、サンダーダランビアは完全にエプシロンワイルドの動き方を把握していた為に、先ほどと打って変わり、エプシロンワイルドの攻撃が全く通じなくなっていたのだ。

 

一度戦った相手の動きは完全に把握できる。

 

その「学習能力の高さ」がこのダランビアの最大の武器だった。

 

だから、ネオダランビアはダランビアの時に戦ったセブンガーの攻撃が全く通用しなかった。

 

だから、アルファエッジの攻撃はネオダランビアの時に戦ったネオダランビアⅡには通用しなかった。

 

そして、エプシロンワイルドの攻撃も、同じ理由でサンダーダランビアには通用しなかったのだ。

 

しかもこのダランビアの能力はそれだけではなく、この学習能力の高さに加えて倒されれば倒されるほど復活する時間が早まり、尚且つ復活する度にパワーアップするという非常に厄介な能力を持っていた。

 

『どうすれば・・・・・・!』

「グルアアアアア!!!!」

 

そんなサンダーダランビアをどう攻略すれば良いのか、それを考え込んでしまったことで大きな隙がゼットに出来てしまい、そこを狙ってサンダーダランビアがゼットに突進を繰り出して来たのだ。

 

『しまっ、ぐあああああ!!!?』

 

地面に倒れ込むゼットに、追い打ちをかけようとするサンダーダランビアだが、次の瞬間・・・・・・空中から振って来たセブンガーのタックルを喰らったことで吹き飛び、サンダーダランビアをゼットから引き離すとセブンガーはゼットの方へと振り返り、手を差し伸べる。

 

「私も戦うよ、ゼット!!」

『薫子先輩!』

 

ゼットはその手を掴んで立ち上がると、薫子の言葉にゼットは頷き、ゼットは一度アルファエッジの姿に戻ってゼットとセブンガーは2体同時にサンダーダランビアに飛びかかる。

 

しかし、サンダーダランビアは掴みかかったゼットとセブンガーに対し、電撃を発生させることでゼットとセブンガーに感電させ、2体は身体から火花を散らしダメージを受ける。

 

「きゃあああ!!?」

『ウアアアッ!!?』

 

さらにサンダーダランビアは右腕を伸ばしてゼットの首に巻き付けて拘束すると、電撃をゼットに流しつつセブンガーの方へと投げ飛ばし、2体を激突させ、ゼットとセブンガーの2体はその場に倒れ込んでしまう。

 

『ぐぅ、ウルトラ厄介な野郎だぜ・・・・・・コイツ・・・・・・!』

 

 

 

 

 

 

「おい、璃奈。 状況どうなってる?」

「セブンガーも、ゼットも、あの怪獣に苦戦してます」

 

一方、倉名はせつ菜達を引き連れて避難所に来ており、そこに丁度たまたま偶然、璃奈と愛も一緒の避難所に来ていた為に、倉名は璃奈から現状どうなっているのかを尋ねると、彼女は自分の持っているノートパソコンの画面を倉名に見せながら、戦況が著しくないことを報告していた。

 

倉名がパソコンの画面を覗くと、確かに璃奈の言う通りセブンガーもゼットも苦戦している姿が映し出されており、そのことに倉名は眉間にシワを寄せる。

 

「本当に面倒くせぇ怪獣だな、今回は」

「こういう何回も再生する奴って、身体のどこかにコアみたいなやつが存在するんで、それを破壊すればこの怪獣倒せるんじゃないですかね!?」

 

そこでいつの間にか倉名の元にやってきていたせつ菜がずいっと顔を出して璃奈のノートパソコンを覗き込むと、彼女はサンダーダランビアには身体の中のどこかにあるコアのようなものがあって、それが弱点なのではないかと予想し、彼女はそう意見を述べて来たのだ。

 

「あっ、あなたさっきライブやってた・・・・・・」

「ホントだ! さっきのライブ、りなりーと一緒に愛さんも観たよー! 凄かった!!」

「ライブ観てくれたんですね! ありがとうございます! ってそれより今は、怪獣の弱点です弱点! 天王寺 璃奈さんならそういうの調べられるんじゃ無いですか?」

 

璃奈や愛からライブの感想を言われて照れ笑いを見せるせつ菜だったが、それよりも今優先すべきはあの怪獣について調べることであり、璃奈は早速せつ菜に言われた通り、サンダーダランビアの内部構造を調べる。

 

「・・・・・・発見したよ。 あの怪獣、身体の殆どは岩石で出来てるけど、一箇所にだけ不自然な部分を発見した。 多分、それがあなたの言っていた通りの、コアに当たる部分だと思う」

 

璃奈はサンダーダランビアの内部構造をすぐさま調べ、せつ菜の言う通りサンダーダランビアの内部にはコアのようなものがあることを突き止めることが出来たのだが、2つほど問題があった。

 

1つは既にセブンガー、エプシロンワイルド、アルファエッジの攻撃がサンダーダランビアに殆ど通用しなくなってしまっていること。

 

もう1つはそのサンダーダランビアのコアはビー玉ほど小さく、例えもう1度サンダーダランビアを粉々に粉砕したとしても今のダランビアの再生速度を考えると粉々にした直後にコアを破壊する必要があるということである。

 

「もう少し早く、私がこのことに気づけていれば・・・・・・」

 

そのことに対し、もっと早く自分が気づけていればと何時も通り無表情ではあるものの、落ち込んだ様子を見せる璃奈。

 

そんな璃奈の頭をポンポンッと軽く叩き、倉名が励ましの言葉をかける。

 

「隊長である俺も気づけなかったんだ。 お前だけのせいじゃねえ」

「でも・・・・・・」

「せめてゼットにもう1つ、新しいフォームがあれば対応できたかもしれないんですが・・・・・・」

 

既にアルファエッジとエプシロンワイルド、セブンガーが事実上サンダーダランビアに攻略されている以上対抗するにはゼットがそれ以外のウルトラフュージョンを使うしかない。

 

しかし、今ライが所持しているメダルはゼロ、セブン、レオ、響、夕立、友奈の6枚と、現状ウルトラフュージョンには使えない3枚のメダルのみ。

 

つまり、打つ手は無いに等しかった。

 

「あれ? お前なんか、ポケットがちかちか光ってるぞ?」

「えっ!?」

 

しかし、そんな時・・・・・・せつ菜の服のポケットから光が溢れていることに倉名が気づき、そのことを指摘するとせつ菜はポケットから1枚の刀が描かれたメダルを取りだす。

 

(あの時拾った・・・・・・メダル?)

 

どうして急にメダルが光り出したのか、せつ菜は分からず、困惑するのだが・・・・・・このメダルをゼットに届けなければならない。

 

これがゼットの力になる。

 

何故か分からないが、直感的に彼女はそう感じた。

 

だから、せつ菜はメダルを握りしめて避難所から飛び出したのだ。

 

「せつ菜ちゃん!?」

「おい!! 待てせつ菜!!」

 

いきなり外に飛び出して行ったせつ菜に驚きの声をあげる侑。

 

そんな彼女を倉名は急いで追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルファバーンキック!!』

 

右足に炎を宿した跳び蹴り、「アルファバーンキック」をゼットはサンダーダランビアに繰り出すが、サンダーダランビアはそれを受け流し、ゼットの後ろに回り込むと電撃を背中に撃ち込む。

 

『ウアアッ!?』

 

そこへ今度はセブンガーが右拳をサンダーダランビアに振るって来るが、サンダーダランビアは左手でセブンガーの拳を受け止めると、右手をロケットの如く勢いよく伸ばすことでセブンガーを殴り飛ばし、自身から引き離す。

 

「うわあ!!? こんのぉ・・・・・・!!」

『チクショウ、どうすりゃ良いんだ・・・・・・!』

 

攻撃を完全に封殺し、倒しても復活し、その度にパワーアップを続けるサンダーダランビアをどうすれば倒すことが出来るのか、そのことにゼットやライ、薫子は頭を悩ませ、唇を噛み締めた。

 

「ウルトラマンゼットーーーーーー!!!!!」

 

しかし、そんな時・・・・・・ゼットの名を大きく呼ぶ声が聞こえ、ゼットが声のした方に顔を向けるとそこにはこちらに向かって手をぶんぶん振るせつ菜の姿があった。

 

『せつ菜ちゃん!?』

「その怪獣の弱点は、身体の中のどこかにあるコアです!! それを破壊すれば、恐らくはその怪獣はもう再生できません!! ただ、そのコアはビー玉みたいに物凄く小さいそうです!!」

 

せつ菜のその説明を受け、ライは「そういうことか!」と納得するが・・・・・・先ほども述べたように既にサンダーダランビアにはアルファエッジもエプシロンワイルドやセブンガーの動きも完全に把握されてしまっている。

 

だからコアを破壊するにはもう1度ダランビアの身体を粉々に砕く必要がある、それも再生される前に。

 

時間も無い以上、どうコアを破壊するかライやゼットは考え込むが・・・・・・その時、再びせつ菜からの声が届いた。

 

「これ、多分ゼットの物ですよね!? お願い、受け取ってくださーーーーーい!!!!」

 

せつ菜がウルトラメダルの1枚を取り出すと、彼女は力いっぱいそれをゼットの方へと放り投げ、ゼットはそのメダルを右手で掴むとメダルはゼットのインナースペース内にいるライの手に渡る。

 

『これって、ウルトラメダル!? せつ菜ちゃんが持ってたのか!?』

『おぉ、これは翼さんのメダル! よし、これで新しいウルトラフュージョンが使えるぞ! ライ! 翼さん、菊月さん、夏凜さんのメダルでウルトラフュージョンだ!』

『えっ、果林?』

『いや、ライの知り合いの方じゃなくて・・・・・・』

 

一瞬、知っている名前があったので少し驚いたライだったが、たまたま字が違うだけの同じ名前の人物がいただけだとゼットから教えられ、納得したライは早速メダルホルダーから新たなメダルを2枚取り出す。

 

『鋭く輝く、刃の閃光!!』

 

ライはゼットライザーのスリットに新たな3枚のメダルをセット。

 

『翼さん!! 菊月さん!! 夏凜さん!!』

『翼・菊月・夏凜!』

 

ブレード部分をスライドさせ、メダルをライはゼットライザーに読み込ませる。

 

するとライの後ろに「ウルトラマンゼット オリジナル」が現れ、ゼットは両腕を広げる。

 

『ご唱和ください! 我の名を! ウルトラマンゼーット!!』

『ウルトラマンゼエエエエエット!!!!』

 

最後にライザーを掲げてトリガーをもう1度押すと眩い光が走り、3枚のメダルが空間を飛び交う。

 

『ウルトラマンゼット! オメガブレード!!』

 

そしてゼットは姿を変え、ゼット・オリジナルの青かった部分と黒い部分が水色に変化、さらに赤い腰マントが装着され、胸部と肩には黒い鎧のようなものが装着され、胸部には三日月のような模様が入った姿・・・・・・「ウルトラマンゼット オメガブレード」へと変身したのだ。

 

「おおおおお!!!! 新フォームキター!! やっぱり私の予想は当たってましたか!!」

 

そんな新たな姿となったゼットに、興奮を抑えられないせつ菜。

 

「やっと見つけたぞ、コノヤロー」

 

そこへ、彼女を追いかけて倉名がやってくると、倉名は呆れた顔を浮かべながら、せつ菜に対して軽いデコピンを喰らわす。

 

「あたっ!?」

「あのなぁ、弱点教えるだけなら璃奈を通して、薫子からゼットに伝えられただろ?」

「あー、確かにそうだったかもしれませんね・・・・・・。 でも、ゼットに届けないといけないものもありましたし・・・・・・」

「兎に角だ!! 危険なんだから二度とこういうことはないように!! 分かったな!?」

「・・・・・・はい。 すいませんでした・・・・・・」

 

せつ菜は倉名から危険なんだから勝手に飛び出すなと強く注意され、彼女は深く反省するのだった。

 

挿入歌「ご唱和ください 我の名を!」

 

『クールに侍! シンケンに行きましょうゼットさん!!』

『あぁ、ゼスティウムブレード・・・・・・!』

 

一方でゼットは右手に光の剣、「ゼスティウムブレード」を出現させ、それを構えてジッと立つ。

 

「グルルル・・・・・・グルアアアアア!!!!」

 

そんなゼットに対し、サンダーダランビアはコイルから電撃を放つが、ゼットはブレードで電撃を受け止めるとそのままサンダーダランビアの放った電撃は反射されて跳ね返り、自身の電撃を受けるサンダーダランビア。

 

「ギシャアアア!!?」

 

ならばと腹這いの状態で地面を滑走して繰り出す体当たり攻撃を繰り出すサンダーダランビアだが、ゼットはすれ違いざまにブレードを振るい、サンダーダランビアの背中の右側のコイルを2つ破壊する。

 

『ジィヤァ!!』

「ガアアアア!!!!?」

「隙ありーーーーー!!!!」

 

そこへ今度はゼットによる攻撃でダメージを受けた隙を狙い、セブンガーがサンダーダランビアの背中に飛び乗ると左側にあった残りのサンダーダランビアのコイルを殴って破壊、これによってサンダーダランビアは電撃を発生させることが出来なくなる。

 

「ガアアアア!!!!?」

 

サンダーダランビアは身体を大きく揺らしてどうにかセブンガーをなんとか払いのけるとゼットに向かって右手を触手のように伸ばして攻撃を仕掛けるが、ゼットはそれをヒラリと躱すとそのままブレードを振るってサンダーダランビアの右手を切断。

 

『ゼア!!』

「グウウウ!!?」

 

そして、ゼットはブレードを構えゼットとインナースペース内のライは目を閉じ、前回の戦いで手に入れた心眼と、オメガブレード特有の能力である鋭く研ぎ澄まされた「超感覚」を同時に使うことでサンダーダランビアのコアに当たる部分を探す。

 

『『・・・・・・』』

「グアアアアアア!!!!」

 

そんなゼットに対し、攻撃手段を次々破壊されても尚も立ち向かってくるサンダーダランビア。

 

『そこだ・・・・・・!』

 

サンダーダランビアが左腕で殴りかかって来る直前、ゼットは殴られるよりも早く胸部の中央部分を突き刺すと中にあったコア・・・・・・「宇宙球体コアスフィア」ごと貫く。

 

「グギャアアアアアアア!!!!!?」

『これでお前は、もう再生できない』

 

ブレードを引き抜くと、サンダーダランビアは身体中から火花を散らし、ゼットはブレードを構え、それを十時に振るって放つ光刃「ゼスティウムスラッシュ」を放つ。

 

『ゼスティウムスラッシュ・・・・・・!』

「グアアアアアアア!!!!!?」

 

ゼスティウムスラッシュの直撃を受けたサンダーダランビアは身体が十時に切り裂かれ、火花を散らしながら前のめりに倒れ込み、爆発するのだった。

 

『・・・・・・再生、しませんよね?』

『コアはちゃんと破壊した。 恐らく、大丈夫だろう』

 

サンダーダランビアが完全に破壊されたことを確認すると、ゼットはブレードを仕舞い、空へとZ字を描きながら飛び去るのだった。

 

「わー!! やりましたよ倉名先生! やはり、最後はヒーローが勝つんですね!!」

「分かった! 分かったから揺らすなせつ菜!!」

 

一方でせつ菜はゼットが怪獣を倒したことを喜び、その嬉しさのあまり彼女は倉名の両肩を掴んでガクガクと激しく揺らしていた。

 

(しかし、ダランビアは一体何を探していたんだろうな・・・・・・?)

 

倉名はせつ菜を引き離し、彼はダランビアは結局、一体何を探していたのかと疑問を抱いていると・・・・・・。

 

「おーい!! 隊長ー!! せつ菜ちゃーん!!」

 

そこへ丁度こちらに向かって手を振りながら向かって来るライの姿があり、ライが2人の元に辿り着くと、彼はせつ菜に頭を下げてお礼を述べる。

 

「ありがとう、せつ菜ちゃん!! おかげで助かったよ!」

「・・・・・・えっ?」

 

ライは先ほどせつ菜がサンダーダランビアの弱点と新しいメダルをくれたことに対してお礼を言ったのだろうが、せつ菜としては何かお礼を言われるようなことをしただろうかと疑問に思い、それと同時にライもハッとした顔を浮かべる。

 

「あっ、いや、その・・・・・・だから・・・・・・! 何時もありがとうってことだよ!」

「えっと、それはどういう・・・・・・」

「俺、ストレイジの仕事とかで、失敗とかして落ち込んだりした時にいつもせつ菜ちゃんの歌を聴いたり、ライブ観たりしてたから。 それを聴いたり、観たりする度に俺、すっごく元気貰ってたから! だから、何時もありがとうってこと・・・・・・」

 

ライとしてはそれは誤魔化しで言った言葉でもあったが、同時にその言葉は本心でもあった。

 

そして、そんなライの言葉を聞いたせつ菜も、どこか、嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「私の歌で、そんな風に誰かが元気になってくれるなら・・・・・・それなら私も、とっても嬉しいです! 何時も応援、ありがとうライさん!」

 

そう満面の笑顔で自分に笑いかけるせつ菜の姿を見て、ライは・・・・・・。

 

(可愛すぎて死にそう・・・・・・)

 

と内心悶えるのだった。

 

(こいつ等、俺の存在忘れてやがんな・・・・・・)

 

そしてライとせつ菜から存在を忘れられている倉名だった。

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃・・・・・・。

 

「コシ、カレカレータ・・・・・・。 まだ色々不足してる時に、面倒な奴に目をつけられたと思ったが・・・・・・これでしばらくは問題は無いだろう」

 

ゼットと戦いを見守っていた寄生生物セレブロに取り憑かれたアイラは小さくそう呟くと、不敵な笑みを浮かべながらその場を去って行くのだった。




オマケの補足説明的なやつ。


ライ
「そう言えば隊長ってせつ菜ちゃんと菜々ちゃんが同一人物って知らなかったんですか?」


倉名
「んっ~? さぁ、どうだろうなぁ? そもそもその辺あんまり俺、興味ないし」


ライ
「えぇ・・・・・・」







ライ
「あっ、せつ菜ちゃん結局ミニプラ俺から定価で買う?」


せつ菜
「いえ、やはりこれは自分の手で勝利を掴み取りたいので、自分で普通に買いに行きます!!」







菊月
「オメガブレードって剣士形態なんだろ? 翼さんと夏凜さんがいるのは分かるんだけどなんで私が組み合わせに入ってるんだ? 私、剣なんて使わないぞ。 姉さん達みたいにモンスフュージョンも披露してないし」


ゼット
『菊月さんは、ツッコミのキレが良いからでございますよ」


菊月
「そういう理由!? 納得できるか!?」



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第4話 『愛とゴモラ』

とある山の中、そこには「古代怪獣 ゴモラ」という怪獣に見た目がそっくりで、そのゴモラが丸まったような状態の巨大な岩、通称「ゴモラ岩」と呼ばれるものがあり、その山の象徴的な存在として何時の時代からか昔から存在していた。

 

そして、これはそんなゴモラ岩のある山の、森の中で起こった数年前の出来事。

 

そこではまだ小学3年ほどだろうか・・・・・・?

 

それぐらいの歳の頃の、まだ幼かった時の愛が、ゴモラ岩の傍で友達と一緒に隠れん坊やら鬼ごっこやらをして遊んでいたのだ。

 

「じゃあ次、愛ちゃんの鬼だよ~!」

「よーっし、絶対見つけ出して、捕まえてやるんだからなぁ~!!」

 

鬼ごっこで鬼の役となった愛は、拳を握りしめながら気合いを入れ、友人達をタッチしようと追いかけ回していると・・・・・・不意に、突如としてとても大きな地響きが鳴りだし、愛や5、6人ほどいる彼女の友人達は突然起こった地震に驚き、恐怖した。

 

現在の愛ならば、地震が起こっても冷静に対処し、友人達にも適切な指示を送ったかもしれないだろうが今の彼女はまだまだ幼い子供だったこともあり、他の友人達と共に恐怖に震え、愛達はその場に蹲って早く地震が収まるのを願うしかなかった。

 

やがて地震が収まると、愛や彼女の友人達はほっと胸を撫で下ろして安心し、そこにいた誰かが「流石にもう帰ろうか」と提案してきたのだ。

 

地震のせいで、すっかりみんなもうこれ以上遊ぶ気になれなかった愛達は、その提案に頷き、今日は解散しようという流れとなり、みんなが帰路につこうとしたその時だった。

 

「あっ、愛ちゃん達危ない!!」

「へっ?」

 

先ほどの地震が原因か、山の一部が欠けて巨大な落石が起こったのだ。

 

「っ! 危ない!!」

「っ!? 愛ちゃん!?」

 

しかもその落石は、真っ直ぐ愛やすぐ傍にいた友人1人に向かって襲いかかり、愛は咄嗟に隣にいた友人を突き飛ばして庇い、愛は迫り来る岩に対して咄嗟に目を塞ぎ、自分の死を覚悟するが・・・・・・。

 

「っ!?」

 

その時、突然どこからか振るわれた・・・・・・まるで「怪獣の尻尾」のような先が鋭く、鞭のようなものが伸びて来て、その鞭は愛に迫って来ていた岩を「バコン!!」と大きな音を立てながら弾くと岩は粉々に砕け散り、愛は腰が抜けたように、その場に座り込むのだった。

 

「今のは・・・・・・」

 

愛は先ほど自分をまるで守ってくれたかのような鞭の先を目で追うと、そこにはゴモラ岩があり、さらにゴモラの顔をよく見れば薄らと目を開けているのが確認出来た。

 

つまり、愛を守ったあの鞭のようなものは「怪獣の尻尾のような」ものではなく、本当に怪獣の尻尾であり、ゴモラはその尻尾を使って落石で押し潰されそうになった愛を助けたのだ。

 

「あれって、本物の・・・・・・」

 

それと同時に、あの岩は「ゴモラそっくりの岩」ではなく、本当にゴモラそのものだったことが判明し、愛を守ったゴモラは自分の尻尾を元の位置に戻すと目を閉じて再び眠りに入るのだった。

 

「助けて、くれたんだ。 ゴモラが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在・・・・・。

 

ストレイジ日本支部では。

 

「えっ!? 二号のロボの開発、ストップしちゃったんですか!?」

 

ストレイジの戦力強化のため、開発していた特空機二号が突如として一時停止を言い渡されたことをライはバコさんから聞かされ、彼はどうして急に開発が止まってしまったのかをバコさんに尋ねる。

 

「開発予算が止まっちまってなぁ。 今度の予算会議で長官に予算をぶんどって貰うよう頼んだんだがな・・・・・・」

「あー、成程。 お金の問題っすか」

「あっ、でもその代わりと言っちゃなんだが、お前が申請してた新兵器だけどセブンガーに搭載しておいたぞ」

 

それを聞いて、二号ロボの開発ストップの話を聞いて気落ちしている様子のライだったが、自分が提案していたセブンガーの新装備が採用された話を聞くや否や、「マジっすか!?」と一気にパアッと表情が明るくなり、ライは「よっしゃあ!!」とガッツポーズを決める。

 

「やっぱりロボットって言ったらこれっすよね! 流石バコさん! ロマンが分かるぅ~!!」

「あぁ、まあな。 でも気をつけろよ? 凄い威力だからな。 下手するとどこに飛んで行くか分からねえ」

「押忍!! 気をつけて使用させて頂きます!!」

 

ライはバコさんに頭を下げながらセブンガー用に新たに開発された武装を作ってくれたことにお礼を言うと、丁度その時、ストレイジ内全体に怪獣出現を知らせる警報が鳴り響いたのだ。

 

『伊豆原高原に怪獣出現! ストレイジに出動命令!』

『ライ、警報聞いたな?』

「あっ、隊長? 押忍!」

 

ライは持っていた通信機から倉名の声が聞こえ、返事を返すと倉名は今日はセブンガーにはライに乗って欲しいと申し出てきたのだ。

 

「えっ!? 今日、俺がセブンガーに・・・・・・!? でも・・・・・・」

『今日は薫子が風邪で休みなんだ。 そろそろ本格的にお前も実戦を経験しておくべきだろう。 それに、今日出現した怪獣は『冷凍怪獣 ギガス』。 璃奈が言うにはそこまで強い怪獣じゃないらしいし、お前が相手するには丁度良い相手だ』

 

さらに言えば、ギガスが出現した場所は人も少なければ建物も少ない場所で、せいぜい近くに観測所があるぐらいである。

 

と言っても、その観測所を壊させる訳にはいかない為、その辺りのことは絶対に気をつけて戦うようにと倉名はライに釘を刺しつつ、彼に出動を命じたのだった。

 

「押忍!! 赤間 ライ、セブンガーで出動させて頂きます!!」

『押忍じゃなくて了解な?』

「押忍!! あっ、いや、了解!!」

 

そしてライは倉名の指示を受けてセブンガーへと乗り込み、ギガスが出現した場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからストレイジ基地から出撃したセブンガーは伊豆原高原に出現したというギガスの元に辿り着くと、このままギガスが真っ直ぐ進めば人のいる密集地に辿り着くため、セブンガーはそれを阻止するために、ギガスの前に立ち塞がる。

 

ギガスは自分の目の前に立ち塞がるセブンガーを見るや否や、即座に邪魔者だと感じ取ったのか、セブンガーに飛びかかるようにして拳を胸部に叩き込む。

 

「うおっ!? 先制攻撃とはやってくれたなこのゴリラ野郎!!」

 

それに対してセブンガーは仕返しとばかりに右手によるチョップをギガスの胸部に何度も叩きこんで大きく怯ませると、連続で左拳を放ってギガスに殴りかかる。

 

しかし、ギガスはそれをしゃがみ込んで躱すと、セブンガーの腹部に向かって頭突きを喰らわせる。

 

「グルアアアア!!!!」

 

そこからギガスはセブンガーに掴みかかると、今度はセブンガーの顔に頭突きを喰らわせることで、ライのいるコクピット内が大きく揺れた。

 

「ぐうう!? そこまで強くないって言ってたけど、まあまあやるじゃないっすかコイツ!? 離れろコラァ!!」

「グガアアア!!!?」

 

セブンガーは膝蹴りをギガスに喰らわせて引き離すと、すかさず右拳でギガスを殴りつけて吹き飛ばすことに成功し、ギガスは地面に倒れ込む。

 

「よし、トドメだ!! 早速新兵器、使わせて頂きます、バコさん!」

 

セブンガーが膝をつき右腕を前に出した態勢に入ると、起き上がってきたギガスに照準を合わせてターゲットをロックし、狙いを定める。

 

「男のロマンの必殺技!! セブンガー版ロケットパンチこと『硬芯鉄拳弾』!! 発射ぁ!!」

 

そしてセブンガーの右腕がライの言うようにロケットパンチの如く放たれる「硬芯鉄拳弾」がギガスに向かって繰り出され、それを受けたギガスは大きく吹き飛ばされ・・・・・・最終的に爆発四散して倒されるのだった。

 

「グウウウ、グルアアアアア!!!!?」

 

倉名に「気をつけろ」と忠告された観測所を諸共巻き込んで・・・・・・。

 

「おっしゃああ!!」

『・・・・・・オイ、ライ。 近くに観測所あるから気をつけろって言ったよなぁ・・・・・・!?』

 

基地のモニターから、戦いの様子を見ていた倉名の声が怒り半分、呆れ半分の声色で聞こえると、ライは「あっ」とうっかり観測所を巻き込んでギガスを爆発させたことに顔を青ざめさせ、頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「なんて為体なんだ!! 怪我人がいなかったから良かったものの、お前等は何かを壊さないと怪獣を倒せないのか!? あの観測所はな!! 国の大事な・・・・・・!!」

 

ストレイジ基地に戻ったライは、当然ながら今回、大きな人的被害を出すことなくギガスを倒したは良いものの、観測所を巻き込んで破壊したことについてクリヤマ長官からのお叱りを倉名と揃って受けており、ライと倉名は「申し訳ありません!!」と2人揃って激しく頭を下げてクリヤマに謝り倒していたのだった。

 

「来年から本格的にストレイジに加入するので、そろそろライにも実戦経験を・・・・・・と思った私の判断が間違っていました!」

「いや、隊長は俺を信頼して、俺に任せてくれたのに期待に応えられなかった俺のせいです!」

「この際、どっちかが悪いかの話ではないんだ!! もっと周りに気をつけろと言っているんだよ!!」

 

地団駄を踏みながら、クリヤマはライと倉名に何時も以上に怒鳴り散らしており、その様子を見ていた璃奈も今回の件に関しては何時も通りの無表情ではあったが、内心ではちょっとだけ彼女もライや倉名に滅多に怒ることのない彼女でも珍しくお冠だった。

 

(何してくれてるの、ホントに・・・・・・)

 

と言うのも、クリヤマが何時も以上に怒っているのは予算会議で2号ロボの予算を取ってくるために色々と根回ししていたらしいのだが、今回の件でまた保留になったらしく、また2号ロボの開発には璃奈も少なからず関わっており、完成も楽しみにしていたのに、それが遠のいてしまったことで彼女もちょっとばかり今回は怒っていたのだ。

 

「やべぇ、普段怒らないりなりーもちょっと怒ってるっぽいです(コソコソ」

「マジで? 無口なのが余計にこえーよ(コソコソ」

「2号ロボの完成を多分、1番楽しみにしてたからでしょうね(コソコソ」

 

璃奈までもがなんとなく怒っていることを察したライはコソコソと倉名にそのことを話し、璃奈が全く喋らず、ただこちらをジッと見ていることにライと倉名は恐怖を感じ、クリヤマからのお説教からも未だ解放されず、しばらく居心地の悪さを2人は感じ続けるしかないのであった。

 

「何コソコソ話してるんだコラ!? これで根回しが全部パーになったらどうするんだ!?」

「「も、申し訳ありませんでした!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会の部室にて。

 

一度は廃部同然の状態となったアイドル同好会だったが、せつ菜がスクールアイドルに復帰したのを皮切りに彼女等はちゃんと学校内にある新しい部室を手に入れることに成功し、部室では既に歩夢と侑、せつ菜、かすみ、別に部員でもないのに何故か入り浸っているライの姿がそこにはあったのだった。

 

そして、そのライはというと昨日の失敗を引きずっている為か、椅子に座りながら机の上で突っ伏し状態で「ハァ」と大きな溜め息を吐き出しており、侑やかすみからは「何しに来たんだお前?」とでも言いたげな視線を向けられていた。

 

「どうしたんですかライさん? あんなに落ち込んだ様子で・・・・・・」

「昨日、怪獣が現れたらしくて、何時もセブンガーに乗ってる先輩が風邪でお休みだったから、ライくんが出撃することになったらしいんだけど・・・・・・その時、何か重要な建物諸共怪獣を倒しちゃったみたいで・・・・・・」

 

何やら落ち込んでいる姿のライを見て、せつ菜は一体どうしたのだろうかと首を傾げていると、それを小声で歩夢が何があったのかを教え、仕事で失敗したのを気にしているのだと、彼女は簡潔にせつ菜へと説明。

 

「セブンガーに新装備として搭載されたロケットパンチに興奮しまくって、早く使ってみたかったばっかりに・・・・・・マジで調子乗りまくってたな、昨日の俺・・・・・」

「あのさ、仕事での失敗を反省するのは良いんだけどネガティブをここで広げるのやめてくれる?」

 

そんなライの落ち込む気持ちこそ理解できるものの、だからと言って部員でもないのにここでグチグチと反省されても困るし、何しに来たんだと、まさか自分達に励まして欲しいのかと侑は問いかけると、ライは首を横に振って「そういう訳ではない」と応えるのだった。

 

「いや、今日同好会の部室に来たのは、ほら・・・・・・侑と歩夢が言ってじゃないか? 今日は新しくなった部室の掃除をするって。 俺はそれを手伝おうと思って来たの」

「うん、手伝ってくれるのは有り難いんだけど・・・・・・ライの場合、せつ菜ちゃんに会いに来るたための口実にしか聞こえない」

「失礼だな!! 俺は歩夢や侑の為に普通に手伝おうと思って今日はここに来たんだぞ! そういう気持ちが全くない訳じゃないが!!」

 

ライは部室の掃除に手伝いに来ただけだと主張するが、侑からはそれってただ単に「せつ菜ちゃんに会いたかっただけなのでは?」と疑いの目を向けられたが、ライは今日はあくまで歩夢や侑のために普通に手伝いに来ただけだと改めて主張するのだが・・・・・・最後の言葉で色々と台無しになったことで「やっぱり本当はせつ菜に会うための建前なのでは?」と侑からツッコまれたのは言うまでもない。

 

尚、そんなライや侑の2人の会話を目の当たりで聞いていた当のせつ菜はというと・・・・・・照れているのか彼女は少々気恥ずかしそうにしており、けれどもどこか嬉しそうな表情を浮かべていてそんなせつ菜の姿を見てかすみは少々ニヤついた笑みを見せながら、せつ菜のすぐ傍に寄ると、彼女はボソッとせつ菜へと話しかけた。

 

「嬉しそうですね~、せつ菜せんぱ~い」

「ま、まぁ、そうですね・・・・・・。 目の前でファンだって言ってくれる人が、会いに来たかったと言ってくれるのは嬉しいものがあります」

(あれ、予想してた反応と違う・・・・・・)

 

かすみとしてはもっとこう・・・・・・顔を真っ赤にして慌てふためくせつ菜の姿が見たかったのだが、確かに照れてこそいるものの予想していた反応と違っていたために、彼女は少しばかり困惑したが、思えば当然かという考えに至るにはそう時間はかからなかった。

 

見たところ、せつ菜としてはライのことはただの一ファンぐらいにしか認識していないようであり、恐らく、せつ菜はライのことを異性として全く認識していないであろうことにかすみが気付くと、彼女はライに少しばかり同情してしまうのだった。

 

とは言っても、ライ自身が「ガチ恋勢」系のファンなのかどうかなのかはイマイチ、ハッキリしていないところもあったりするのだが。

 

その後、まだ来ていなかった同好会のメンバー、彼方やエマにしずく、そして時間を空けてやってきた倉名が少々遅れながら部室にやってきたことで、一同は部室の掃除を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学校に設置してあるベンチに座りながら、愛と猫のはんぺんを膝に乗せた璃奈は2人揃って何かを思い悩んでいる様子で・・・・・・愛は空を見上げながら数日前に見たせつ菜のゲリラライブのことを思い返していた。

 

(屋上から聞こえる歌に、盛り上がってるみんなを見て・・・・・・自分も未知なる道にチャレンジしてみたいと・・・・・・そう思ったんだ!)

 

せつ菜のライブを見て、あの時感じた自分の気持ち・・・・・・それを思い返しながら、自分と同じように感銘を受けたという隣に座る璃奈に「どうする?」と尋ねると、彼女ははんぺんの背中を撫でながら「うーん・・・・・・」と小さく唸るだけで、上手く応えることが出来なかった。

 

「やってみる? 愛さんは、やってみたい!!」

「・・・・・・私も、やってみたい!」

 

少しばかり考え込んだ璃奈だったが、すぐに愛の問いかけへの答えを見つけると彼女も愛と同じ気持ちであることを言い放ち、愛はそんな璃奈の答えを聞くと嬉しそうに笑い、愛と璃奈の2人はベンチから立ち上がって「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の部室へと歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「とりゃあああ!!」

「負けませんよ先輩!」

 

場所は戻り、アイドル同好会の部室ではメンバーが全員揃ったこともあり、今は歩夢やエマ、倉名が箒で床の埃を掃いたところを侑とかすみが雑巾がけをしているところだった。

 

「・・・・・・あのさぁ、かすみん。 お前スカート履いたまま雑巾がけなんかしたらパンツ見えるぞ。 てか今ちょっと見えたぞ、ほう。 そういう色か」

 

そんな時、倉名がかすみがスカートを履いたままの状態で床を雑巾で拭いているのを見て、中が見えてしまうのではないかという不安を抱いた彼はそのことを彼女に警告するのだが、忠告を受けたかすみは顔を真っ赤にして慌てて立ち上がり、自身のスカートをギュッと強く左手で抑えながら右手に持っていた雑巾を倉名の顔面へと投げつけた。

 

「ぶふっ!? うわ、きたねっ!? 何すんだゴルラァ!!?」

「なに人のスカートの中覗いてんですかこの変態コーチ!!?」

「見えちまったもんはしょうがねえだろうが!? 見たくて見たんじゃねえよ! たまたまだ! むしろ早めに忠告しておいた俺に感謝しろ!!」

 

尚、一緒にかすみと雑巾がけをしていた侑はジャージのズボンを履いていたのでかすみのような心配は無く、一方でこの場にもう1人いる男性であるライはしずくと一緒に窓の方を拭いていたのであらかじめ倉名が忠告してくれたおかげもあって彼にも下着を見られてしまったなんて事態は起こらずに済んだ。

 

「スクールとは言え仮にもアイドルなんだ。 確かにこの場は女性ばっかりだが、異性もこの場にはいることは忘れんな。 いや、例えこの場が女性陣のみだとしてもそういうのは気をつけた方が良いだろう、アイドルとしての自覚があるなら」

「むぅ。 言ってることは確かに正しいんですが・・・・・・なんでしょう。 どこからか『お前が言っても説得力が無い』って声が聞こえてくる気がします」

 

するとそこへ部室で使用する椅子を貰いに行っていたせつ菜と彼方が戻ってくると、その時には大方の掃除作業が完了しており、彼方は綺麗になった部室を見て歓喜の声をあげるのだった。

 

「おぉ~、綺麗になったね~」

「取りあえず、こんなところかな?」

「まだですよ~! 最後にぃ~?」

 

大方の作業が完了した為、あとはテーブルや椅子を置いて設置するだけだと歩夢が言うのだが、かすみはまだ最後の作業が残っていると言い出し、テーブルや椅子を設置し終えた後、全員で一旦部室の外に出るとかすみは「スクールアイドル同好会」と書かれたプレートを部室の扉に掛けて、どこか満足げな様子で胸を張りながら嬉しそうにするのだった。

 

「むふふん♪」

「ようやく復活だね!」

「祝え! 新たなメンバーを加えて生まれ代わった新生スクールアイドル同好会の復活を!」

「なに言ってんだお前? あと、なんでせつ菜はライの隣で変なポーズ取ってんの?」

 

ライが急に同好会復活を祝いだし、その隣で何故かせつ菜が人差し指と親指を直角に立て、時計の針が三時を示す長針と短針を模したようなメインビジュアルや各種商品ではやってるのに本編では実は一度もやっていない感じのポーズを決めていたが、倉名達には当然それがなんなのかは分からなかった。

 

とは言っても、当人達がお互い息ピッタリなのは誰が見ても明白であり、せつ菜とライの2人は「イエーイ!」と仲良さそうにハイタッチしていた。

 

「まぁ、それよりも! それじゃ! スクールアイドル同好会始めまーす!!」

「やっほー!!」

 

かすみが心意気を新たに部活の開始を宣言したその直後、こちらに向かってライや歩夢、侑にせつ菜には聞き覚えのある声が聞こえ、声のした方に顔を向けるとそこには手を軽く振りながらこちらに璃奈と共に歩いてくる愛の姿が見えたのだ。

 

「もしかして、スクールアイドル同好会の人達!?」

「そうですが、お2人は確か・・・・・・」

(そう言えば、せつ菜ちゃんは菜々ちゃんフォームの時に愛とりなりーと会ったことあったな)

 

せつ菜が菜々の姿の時に、愛や璃奈と面識があったのを思い返すライ。

 

「情報処理学科2年! 宮下 愛だよ!」

「1年、天王寺 璃奈・・・・・・です」

 

元気よく自己紹介を行う愛と、彼女とは対照的に落ち着いた様子で歩夢達に自己紹介を行う璃奈。

 

「あっ」

「このあいだの・・・・・・」

 

そこで歩夢や侑も愛や璃奈のことを完全に思い出したようで、愛の方も歩夢や侑の存在に気付くと、愛は「おっ!」と感慨深そうに声をあげた。

 

「ってあれ!? なんでライいんの!? ハッ! もしかしてライもスクールアイドルやりたくなったとか!?」

「違うよ。 俺、歩夢や侑とは友達でさ。 だから俺はその手伝いに来ただけ」

 

ライが愛や璃奈に自分がここにいる理由を説明すると、今度は璃奈が倉名の存在に気付き、彼までもがここにいることに表情こそ変わらないものの、璃奈は驚き、彼女はなぜ倉名がこんなところにいるのか分からず、不思議そうに首を傾げる。

 

「ライさんだけじゃなくて、倉名隊長もいる・・・・・・?」

「えっ!? りなりーが手伝ってるって言う、あのストレイジの隊長さん!?」

「よっ。 初めまして? お前さんが璃奈がよく話してくれてる『愛さん』だな? 璃奈にはよく世話になってるよ。 ストレイジで隊長を務めていて、ここじゃ副業としてこいつ等のコーチを担当している倉名 武だ。 以後お見知りおきを」

 

倉名はペコリと軽く頭を下げながら愛に自分も自己紹介を行うと、愛は璃奈が自分のことをストレイジでよく話してると聞いて照れ臭そうな表情を浮かべた。

 

「ストレイジで私のことりなりーってばそんなによく話してるの? なんか照れるじゃん」

「うん。 確かに、よく話してる・・・・・・かも」

 

それから倉名は軽く璃奈にここでの副業のことを話した後、愛や璃奈が同好会へとやってきた理由を尋ねと、愛と璃奈はどうやら同好会に入部する為に、今日はここへとやってきたそうなのだ。

 

「それで実は愛さん達も~、この前の屋上ライブ見てなんかドキドキしてきちゃってさ~!」

「っ」

 

数日前に行ったせつ菜のゲリラライブ、それを目撃した時の衝撃を愛が語るとそれを受けたせつ菜は照れ臭そうに頬を赤く染め、そんな愛の感想を聞いた侑は唐突に彼女の両手を握りしめてきたのだ。

 

「分かるよ! ときめいたんだね!」

「うん! そうそう!」

 

自分もせつ菜のライブを見て感動した身である為、愛の語る言葉に共感を感じてか、侑はまるで自分と同じ仲間を見つけたかのように興奮した様子を見せる。

 

「・・・・・・本当に、凄かった」

「あ、ありがとうございます・・・・・・!」

 

愛や璃奈にライブのことを褒められて、思わず照れつつも褒めてくれた2人にお礼を述べるせつ菜。

 

「という訳で、2人とも入部希望です! って言いたいところなんだけど・・・・・・」

「隊長、ライさん、私・・・・・・ストレイジのこともあるけど、スクールアイドル、やってみたい。 良い・・・・・・かな? 勿論、これまで通りストレイジには顔も出します」

 

ただ、璃奈としては民間協力者とは言え、ストレイジの仕事にも関わっている自分が部活をしていても良いのだろうかという心配が彼女にはあり、璃奈は不安げな声でちゃんとストレイジの仕事とも両立させるので自分もスクールアイドルをやっても良いかとライや倉名に尋ねると、それを受けたライと倉名は互いに一瞬顔を見合わせる。

 

「勿論、良いに決まってる。 りなりーはあくまで民間協力者で、正式なストレイジメンバーって訳じゃないし、俺と違って仮入隊中って訳でも無い。 だからりなりーがやりたいって言うならやれば良い。 それで文句が言う奴がいるなら、俺が許さない。 それが例え隊長やクリヤマ長官だとしても」

「フン、偉そうに言うじゃねえか、ライ。 だが、ライの言う通りだ。 俺も文句はねえ。 好きにしな? それに、俺としては同好会のメンバーが増えるのは大歓迎だ」

 

ライも倉名も璃奈がスクールアイドルをやることに反対などしたりせず、むしろ大賛成といった感じで快く愛や璃奈の同好会の仲間入りをライや倉名、他のメンバー達も受け入れ、歓迎するのだった。

 

「あっ、でも薫子さんの意見を聞いてない・・・・・・」

 

しかし、璃奈はまだ薫子に相談できていないことを気にしていたのだが、その辺は倉名曰く、ワザワザ聞かなくても「問題は無いだろう」とのことだった。

 

「アイツにはワザワザ聞かなくても大丈夫だろ。 元スクールアイドルでもあるし、その辺理解がある筈だ」

「えっ、薫子先輩って元スクールアイドルだったんっすか!?」

「私もそれは初めて知った・・・・・・」

 

薫子が元スクールアイドルだったという事実を倉名から聞き、驚愕するライと璃奈だったが、倉名としては今はそれよりも愛と璃奈のことだと言って薫子のことは後日、話すことにして彼は改めて愛と璃奈の入部を歓迎する。

 

「まっ、とりまよろしく、新入部員さん達?」

「しかし、やっぱりホント凄いんだな、せつ菜ちゃん。 せつ菜ちゃんのライブを観た人が4人も入部希望者としてきてるし! 影響力ハンパないな・・・・・・」

 

愛や璃奈の入部が決まり、ライは歩夢や侑を含めるとせつ菜のライブを観てアイドル同好会に入部希望してきた人物が4人もいることに感心し、「やはりせつ菜ちゃんは最高オブ最高!」と言いながら彼はせつ菜のことを称えた。

 

「やめてくださいライさん、恥ずかしいです・・・・・・!」

 

そんな風に自分のことを称えられて悪い気こそしなかったものの、流石に璃奈や愛に褒められた後のこともあって少しばかり照れくささで押し潰されてしまいそうになるせつ菜。

 

「やるからにはバッチリ頑張るし、みんなのことも手伝うよー!! ところで、スクールアイドル同好会って、何するの?」

 

そしてガッツポーズをしながら、抱負のようなものを語る愛だったが、まだスクールアイドル同好会がどういう活動をしているのか明確に分からない彼女は歩夢達に部活内容を尋ねるのだが、それを尋ねられた一同は全員が困り顔となってしまう。

 

「えーっと、実は今、それを探しているところでして・・・・・・」

「・・・・・・んっ?」

 

 

 

 

 

 

「勿論、やりたいことはあるんですよ!!」

 

かすみは部室の「ライブがやりたい」と書かれたホワイトボードを手でバンッと力強く叩き、一同は今後の自分達の活動内容、方向性などについて色々と話し合うことに。

 

尚、部員では無いものの、第三者的な意見も取り入れたいというせつ菜の希望もあり、歩夢達の話し合いにはライも参加することとなった。

 

最も、倉名はライなら全面的にせつ菜の言葉に同意して彼女への贔屓が酷いのではないかという心配があったりしたが。

 

「スクールアイドルですから、やっぱりライブですよね!」

「結局まだやってないしねー」

「どんなライブにしたいか、意見を出し合いましょう!」

 

せつ菜がみんなに意見を求めると、先ずは早速かすみが元気よく手を挙げて自分がやってみたいと思うライブの案を出す。

 

「かすみん全国ツアーがやってみたいです!」

「そんな予算どこにあんだよ。 部費じゃ足りねえだろ」

「むぅ」

 

しかし、倉名が普通に考えて全国ツアーなんて無理だと言うと、気持ちに水を差されたかすみは不機嫌そうな顔となり、頬を膨らませる。

 

「でも規模を小さくすれば、似たようなことはできるのでは? 例えば、県内のみとか・・・・・・」

 

だが、そこでライが妥協案として全国ツアーは規模が大きすぎるので、その辺を狭めれば似たようなこと自体は出来るのではではないだろうかと発案し、それを受けたかすみは両腕を組んで考え込む。

 

「確かにそっちの方が現実的だとは思いますけど、うーん」

「私はみんなと輪になって踊りたいなー」

「曲の間にお芝居をやるのはどうでしょう!?」

「お昼寝タイムも欲しいなぁ~」

 

かすみがそのようにライの意見について考え込んでいると、そこからかすみに続くようにエマ、しずく、彼方がそれぞれ自分のやってみたいライブの演出について意見を出して行く。

 

「みんなの大好きを爆発させたいですね! 火薬もドーンッと派手に使って!!」

「おっ、それは派手で良いね! 火薬でドーンッと爆発させるの!! だって爆発は・・・・・・!」

「ロマンですからね!!」

 

せつ菜とライがそんな会話を交わすと、2人は握手と共に互いの拳を数回打ち合わせる何かの儀式のようなことを行い、そのような息ピッタリのライとせつ菜の動作に倉名は「お前等いつの間にそんな仲良くなったんだ?」と疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「仲良いなお前等!? 息ピッタリじゃねえか!? いつの間にそんな・・・・・・」

 

確かライやせつ菜は2人ともアニメや漫画、特撮などが好きなオタクなキャラなので共通の趣味を持ってこそいるが、だかと言ってこの2人が会ったのはほんの数日前だった筈。

 

それなのにも関わらず、幾ら共通の趣味を持つからと言ってこんなにもすぐに打ち解けられるものなのだろうかという疑問が倉名の中で浮かび上がるが・・・・・・。

 

そもそも、ライもせつ菜も先ほども言ったようにお互いに似たような趣味を持っている者同士。

 

さらにせつ菜自身が抱えていた問題が解決したことで彼女にはしがらみが無くなり、そのことで元の明るい性格に戻ったこと、彼女からして見れば初めて自分と同じ趣味のアニメや特撮などについて語り合える友人が出来たこと、実はコアスフィアの事件解決後に遅い時間まで今期のアニメについてあの後遅くまで熱く互いに語り合っていたことなどから今ではもうスッカリと光の速さでこの2人は意気投合した為、ここまで息のあったやり取りを行うことが出来ていたのだ。

 

(まぁ、似たような趣味を持つ者同士、仲良くなんのは当然のことか。 ちょっと早すぎる気もするがな)

 

倉名も2人がここまで親しくなったのは同じ趣味を持つが故だろうと考えることに、取りあえず今はそれよりも今後の同好会のスクールアイドルとしての活動内容についての話し合いを優先すべきだろうと判断すると、その辺のことについて倉名は一旦置いておくことにするのだった。

 

「あーでも、せつ菜ちゃん、確かに爆発ドーンは俺も観たいけどさ、火薬の値段が幾らかは分かんないけど、多分そんな予算も無いだろうし、何より素人が火薬使ったりするのは危ないから煙が出たりするやつとかでそれっぽく見せた方が良いんじゃ無い? どうしても炎を出したいなら『CHASE!』の時に使う火柱程度にした方が良いかも」

 

ただライもライで推しのアイドルとは言え、全面的に肯定する訳ではなくしっかりと現実的な意見を出し、せつ菜も出来たら火薬を使いたかったのだが、確かにライの言う通り素人がそんなもの使って怪我でもしたら大変だと指摘された彼女は両腕を組んで悩ましいとでも言いたげな表情を浮かべるが、反論できる余地もなかったため「うーん。 それも、そうかもしれませんね・・・・・・」と彼の意見に同意し、やるならもっと危険性の少ないものでどうにか爆発の炎などに見せかけるしかないかと考えるのであった。

 

(あれ、なんか・・・・・・俺よりライの奴有能じゃね?)

 

そのように、ちゃんと現実的な意見を出しつつ、妥協案を提出し、一度は推しのアイドルと同じく「爆発はロマンだから良いね!」と共感こそしたものの完全に同意する訳でもなければ贔屓するようなこともライはせず・・・・・・。

 

てっきりライのことなのでせつ菜よいしょが酷くなるのではないだろうかと倉名は思ったのだが、彼の予想に反してライはそんなことにはならなかった。

 

むしろしっかりと自分よりも彼女等と上手くやれているのでは無いかと倉名は考え、本来自分が言うべき台詞をライが全部言ってしまってないか? 自分はなんのために彼女の等のコーチやってるのか? あれ、俺いらなくね? と少しばかり自分の役立たずっぷりに自己嫌悪に陥ってしまう倉名。

 

とは言っても、これは単にライが倉名以上にコミュ力が高いだけ、という部分が大きかっただけだったりするのだが。

 

ちなみにライはエマ、彼方、しずくの意見について特に言及するようなことはしなかったがそれはせつ菜やかすみに比べると実現させやすいものだったからだろう。

 

「私はもっと、可愛いのが良いな」

 

すると次に、今度は歩夢が控えめな感じで意見を出すと、その後もスクールアイドルについてまだあまり詳しく無い璃奈と愛以外のメンバーは次々と自分達のやってみたいライブの案を出していくのだが、まるで話が纏まらず、話し合いがただただヒートアップするのみ。

 

「白熱してる・・・・・・」

「みんな言ってること全然違うけど、凄いやる気だね・・・・・・」

 

しかし、一向に意見が纏まらなくとも、話し合いに白熱する歩夢達の姿を見て愛は感心の声をあげると、一同は一斉に愛の方へと視線を向ける。

 

「あれ? なんかマズいこと言った?」

「・・・・・・いえ」

 

急にみんなが静まりかえって自分に視線を向けて来たため、愛は何か変なことでも口走ってしまったのだろうかと不安になったが、別にそうではないとかすみがそれを否定。

 

「あはは。 因みに、2人はどう?」

 

侑はみんなそんな様子に苦笑しながら、愛や璃奈もどういう方向性でスクールアイドルをやりたいのかを訪ねると愛は両腕を組んで少しばかり悩む。

 

「うーん。 なんだろうねぇ・・・・・・。 兎に角、楽しいのが良いかな!」

 

そんな愛の答えを聞いて、どこかはっとなるエマ、しずく、かすみ。

 

「それは確かにそうだね」

「えぇ。 最初は人も集まらないかもしれませんがいつか沢山の人の前で歌えるようになりたいですね!」

 

そしてそんな愛の言葉に、歩夢が頷き、せつ菜はかすみの方に視線を向けながらそう言うと、彼女の視線に気付いたかすみは「コホン」と咳払いし、取りあえず今はライブのことは一旦置いておくことにして先ず最初にみんながやるべきことがあると彼女は一同に告げる。

 

「ライブのことは追々考えるとして・・・・・・。 先ずは、特訓です!! どんなライブにするにしてもパフォーマンスが素敵じゃなきゃファンががっかりしちゃいますからね!」

 

ビシッと一差し指をどこかに向けながらそう力強く言い放つかすみ。

 

「特訓って言うと、クレーンで振り回す鉄球に体当たりしたりとか?」

「1人の相手に7人がかりでリンチとかですか?」

「ジープで追い回されたりとか?」

 

「特訓」と聞いたライ、せつ菜、倉名は自分の頭に思い浮かんだ特訓内容をそれぞれ言葉にするとかすみはどんな特訓だと3人が想像する特訓内容についてドン引きしながらツッコミを入れる。

 

「そんな訳ないでしょ!? なんで3人揃ってそんな恐ろしい特訓内容が頭に思い浮かぶんですか!? それスクールアイドルの特訓に必要ないでしょ!?」

「かすみさんの言う特訓って、やっぱり歌にダンスとか?」

 

そこでしずくがかすみの言うスクールアイドルの特訓と言えばやはり歌やダンスなどではないだろうかと言うと、かすみは力強くコクコクと頷く。

 

「なら、私は先ず歌の練習がしたいなぁ」

「だったら、しばらくの間グループに分かれてやりたい練習をするのはどうかな?」

 

歩夢が先ずは自分は歌の練習がしたいと言い出すと、そこでエマがそれならいくつかのグループに分かれてやった方が効率など色々と良いのでは無いだろうかとアイディアを出し、それにはせつ菜も「良いアイディアですね」と頷く。

 

「私達全部のグループに参加しても良い!?」

「勿論です!」

 

するとそこで愛が椅子から身を乗り出しながら右手を挙げ、好奇心旺盛な彼女は自分と璃奈は全部のグループを廻っても良いだろうかとせつ菜に尋ねると、彼女は勿論構わないと快く承諾。

 

「すっごく楽しみ! ねっ?」

「うん」

 

そして愛が璃奈にそう話を振ると、話を振られた璃奈も無表情ながらも内心愛の言う通り楽しみにしている彼女はコクリと頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから一同は3つのグループに別れ、愛と璃奈は先ずは彼方、エマ、それとなぜか来ていた果林と共にダンスの特訓を行うこととなり、ライや倉名などはその手伝いなどを行うことに。

 

「ってかなんで果林いんの? 部外者でしょ?」

「別に、ただ単にエマに身体を柔らかくするための方法教えてって頼まれたから、来ただけよ。 それとライ、その言葉、そっくりそのまま返してやるわよ?」

 

ライは自分が言えた義理ではないが、なんで部外者の筈の果林がここにいるのだろうかと疑問を口にすると、果林曰くエマに手伝いを頼まれたからやってきたらしい。

 

「おおぉぉぉ~!!?」

 

それから、果林の手も借りて一同はダンスの特訓を始めることとなり、先ずは身体を柔らかくするためにマットを敷き、その上で両足を広げて上体を前屈みに倒れ込ませるというストレッチ的なことをすることとなったのだが・・・・・・。

 

彼方は顔を真っ赤にしながら必死に上体を前に倒そうとするのだが、身体が硬いせいかあまり曲がらず・・・・・・。

 

「もっと行けそうね」

「無理無理無理ぃ~!!?」

 

しかし、果林はそのように無理と嘆く彼方の言葉を聞き入れず、彼女は容赦なく彼方の背中をさらに押すことで彼女の身体を曲げさせる。

 

(今彼方さんの背中から『グギィ!』って変な音聞こえた気がしたんだけど気のせいかな・・・・・・)

「おおぉぉぉ~!」

 

尚、彼方と同じようにエマに背中を押して貰いながら璃奈も彼女と同じ身体を曲げるストレッチをしていたのだが、背骨に鉄でも入ってんのかと言いたくなるくらいに璃奈の背中は彼方以上に曲がっていなかった。

 

「・・・・・・それが限界・・・・・・?」

「そう見たい」

 

エマはそんな全く背中が曲がらない璃奈に思わず苦笑し、人通りの作業が終わると彼方と璃奈はマットの上でぐったりと倒れ込んでしまうのだった。

 

「りなりーは背中の骨にアダマンチウムでも入れてんの?」

「アダマンチウム入ってても背中は曲がると思うよ、ライさん。 仮に入ってたとしてもヒーリングファクターが無いと私今頃死んでる」

「ダンスをやるなら、先ずは身体を柔らかくしなきゃ。 果林ちゃんに教えて貰えて良かったよ~!」

 

ライと璃奈がなんだかよく分からない会話をしていたが、それは取りあえず置いておくとしてエマはわざわざ果林が自分達のために来てくれたことに感謝の意を示し、別に時間はあるので構わないと返す果林。

 

「まぁ、時間があるから良いけど。 さっ、続けるわよ?」

 

直後、果林は彼方と璃奈に続きをやると言うと2人とも「えっ」とでも言いたげな様子で慌てて起き上がり、まだやるのかと顔を青ざめさせた。

 

「彼方ちゃん壊れちゃうよ~」

 

不満を漏らす彼方だが、すぐさま隣から「大丈夫だよ!」と言う愛の声が聞こえ、彼方や璃奈が愛の方へと顔を向けるとそこには両足をほぼ横に水平に伸ばし、上体を前屈みに綺麗に倒している愛の姿があり、それを見た全員から「おぉ~」という感心の声が上がった。

 

「よっと。 じゃあ、もう1回やってみようか! ライもちょっと手伝って!」

「えっ、俺も?」

「うん、だってライもこれぐらいできるでしょ?」

「・・・・・・まぁ、一応できるけど」

 

愛は今の姿勢をやめて立ち上がると、今度は自分が手伝うのでもう1度やってみて欲しいと彼方や璃奈に言うと、彼女等2人は愛に言われた通り再びマットの上で両足をなるべく左右に広げ、愛は彼方、ライは璃奈の背中にそっと手を添える。

 

「それじゃ2人とも、先ずは息を大きく吸って」

「そうそう、次は息をゆっくり吐いて~」

 

ライの言われた通り、彼方と璃奈が大きく息を吸うと、今度は愛の言葉で2人は吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、それと同時にライと愛は「せーの!」とタイミングを合わせて同時に2人の背中を押す。

 

すると先ほどよりも滑らかに2人の上体が倒れ、ほんの少しではあるが愛やライの言われた通りに行ったことで身体が僅かに前の方へと曲がったのだ。

 

「「あっ」」

 

そのことに彼方や璃奈も先ほどよりも自分の身体が前に倒れたことに気付き、2人は驚いた様子でライや愛の方へと視線を向ける。

 

「どう?ちょっとでも出来るようになると楽しくない? 続けて行けば、もっと柔らかくなっていくし!」

「塵も積もればってやつだな」

「うん、頑張る」

 

ライや愛のアドバイスを受けたおかげか、璃奈も彼方もどうやらやる気に火はついたようだった。

 

「流石部室棟のヒーローねぇ」

「ヒーロー?」

「知らないの? 彼女、色んな体育会系の部活で助っ人として活躍してて結構有名なのよ?」

「そうなんだぁ~」

 

果林が呟いた言葉に、エマが首を傾げると彼女は愛が様々な部活で活躍していることを説明し、そんな愛の活躍っぷりから虹ヶ咲学園内では彼女のことを「部室棟のヒーロー」と呼ぶ生徒が多いのだという。

 

「えっ、愛ってそんな風に呼ばれてんの!? 良いなぁ、カッコイイなぁ! 俺もそんな風に呼ばれたい!!」

 

また果林の話を聞いたライは愛がそのように呼ばれていることをエマと同じように今知ったようで彼は愛の呼び名がカッコイイと評して自分もそんな風に誰かに呼ばれたいと羨ましがる。

 

「そう言えば彼方ちゃん、てっきり果林ちゃんも同好会入るのかと思ってたよー」

 

しかし、そんな風に愛の呼び名に羨ましがるライのことは無視して彼方が前回から厳しくも現実的な意見を出して色々と同好会復活のために協力してくれたことから、彼女は果林もこのままの勢いで同好会に入部するのではないかと考えていたのだが、果林としてはただ親友であるエマを助けたかっただけで別に同好会に入るつもりはないらしい。

 

「そんな訳ないでしょ? 私はエマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ」

「「「「へぇ~?」」」」

 

だが、そう語る果林にライ、彼方、愛、倉名の4人は「本当にそれだけ?」とでも言いたげなジトッとした視線を向け、そんな4人の視線に少しばかり圧される果林。

 

「な、なによ!?」

「なんというイケメン台詞。 俺が女ならキュンッとくるやつだわ。 嫌いじゃないわ! 一度でも良いから俺もそんな台詞言ってみたいよ」

「ライが今の果林の台詞言っても多分誰もキュンッときめいたりしないと思う」

「むしろお前が言うと似合わなすぎて気持ち悪い」

 

自分も一度で良いから果林みたいにカッコイイ台詞言ってみたいと言うライだったが、ライがやっても誰もときめかないだろう愛に言われてしまい、それに続くように発された倉名の言葉を受けて、ライは「酷くないっすか!?」と嘆くのだった。

 

そしてエマはそんなライ、倉名、愛のやり取りを「あははは」と微笑ましく見守りながら、果林に手助けをしてくれたことに対して彼女はお礼を述べる。

 

「ありがとう、果林ちゃん」

「っ! 別に、良いわよ・・・・・・」

 

そして、お礼を言われた果林は頬を赤くしながらエマから顔を逸らすようにそっぽを向くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて、愛、ライ、璃奈、倉名が移動し、やってきたのはかすみとしずくのいる部室であり、そこではかすみと倉名によるスクールアイドルについての講義が行われることとなっていた。

 

「オッホン!! これより、講義を始めます!!」

 

ライ、愛、しずく、璃奈の4人は体育座りでその講義を聴くこととなり、どこから持って来たのか、メガネをかけたかすみが教鞭をスクールアイドル害論・・・・・・ではなく「スクールアイドル概論」と書かれたホワイトボードにビシッと突きつけながら、彼女は講義の開始をライ達へと告げるのだった。

 

「おー!! 面白そう!!」

「こういう話聞けるの、スクールアイドル好きとしてはレアだから楽しみ!!」

 

それに対し、ライや愛はワクワクした様子を見せるのだが、それよりもしずくはかすみのあのどこかで見覚えのあるメガネは一体どこから持って来たのだろうかという疑問の方が今は気になり、「そのメガネどうしたの?」と尋ねると、なんでもかすみ曰く、せつ菜からお借りして来たらしい。

 

「せつ菜先輩から借りました!! 無断で・・・・・・」

「絶対怒られるよ!?」

 

胸を張ってメガネをクイッと動かしながら、メガネの詳細を語るかすみだが、後でせつ菜に怒られないかと心配するしずくだが、かすみは特に気にせず、話をそのまま強引に押し勧めてしまう。

 

「話の腰を折らない!!」

(あとでせつ菜の奴にチクッといてやろう)

 

尚、このことは後でせつ菜にチクりに行こうと思う倉名だった。

 

「はい桜坂くん!!」

「っ!?」

 

そんな時、急に名指しで教鞭を向けられながら呼ばれたことでしずくは僅かにビクリと肩を震わせ、かすみはしずくに対してとある質問を投げかけたのだ。

 

「スクールアイドルには何が必要なのか答えなさい!!」

 

突然質問を投げかけられはしたが、すぐにしずくはその質問についての答えを少しだけ考え込む。

 

「えーっと、自分の気持ちを表現すること?」

「正解!」

「あっ、正解なんだ・・・・・・」

 

取りあえず、パッと思い浮かんだ答えをしずくが言うと、かすみは笑みを浮かべて正解だと述べ、彼女は今度は璃奈に対しても同じ質問を投げかけてみる。

 

「天王寺くんにも同じ質問です! 答えをどうぞ!」

「・・・・・・うーん、ファンの人と、気持ちを繋げること・・・・・・?」

 

しずくの時と全く同じ質問を投げかけられた璃奈は、戸惑いながらもそのように回答をすると、それに対してまだスクールアイドルについてそこまで詳しい訳ではない彼女がそう答えられたことに感心したのか、倉名は「おっ?」という声が思わず口から漏れた。

 

「せいかーい!!」

「1つじゃないんだ・・・・・・」

「当然だろ、しずく。 誰も答えが1つだなんて言っちゃいないぜ? という訳で、愛。 しずくや璃奈とはまた違う答えを、今度はお前が言ってみろ」

 

回答が1つじゃないことに指摘を入れたしずくだったが、すかさず倉名が誰も答えが1つなんて言っていないということを教えると、今度は愛にかすみの出した質問について答えるように言うと、問題を投げかけられた愛は少しばかり考えた後、結局しずくや璃奈ほどすぐに出る答えが出なかった為、彼女は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「ごめーん! 分かんないや!」

「ピンポンピンポーン!! それも正解!」

「「えっ、なんで!?」」

 

しかし、愛の「分からない」という答えも正解だと告げるかすみにしずくやライはなんでそれが正解になるのかという疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「あっれ~!? ライ先輩はともかく、しず子ぉ? 分からないんですかぁ?」

(うわ、めっちゃベクターみてぇな煽り口調・・・・・・)

「むぅ!」

 

某カードゲームアニメの真ゲスみたいな煽り口調(あちらに比べたらかすみは可愛いげがあるが)にしずくは頬を膨らませてムッと可愛らしく唸る。

 

「今の質問にはハッキリした答えなんてないんです! ファンの皆さんに喜んで貰えることなら、どれも正解ってことです!」

「へぇー! 奥が深いんだねー!!」

「確かに。 愛の言う通り、俺が想像してる以上にスクールアイドルって奥が深いんだなって思ったな。 俺、ただのスクールアイドルの1ファンでしか無いけど、今日かすみちゃんの話が聞けてスクールアイドルについての理解が深められてスゲー嬉しいよ!」

 

そんなかすみの話を聞いて、スクールアイドルの奥の深さについて愛は感心し、ライはその奥の深さを知れたことに嬉しさを感じ、かすみに色々と教えて貰えたことを感謝するのだった。

 

「最後に、スクールアイドルをこれからやって行くお前等について俺からの教えだ」

 

すると、今度は倉名が愛達にそう語りかけると、アイドルとして大切なことを1つだけ教えると告げ、彼は一差し指をビシッとどこかに向けながら、ある言葉を彼女等へと贈る。

 

「えっ、隊長どこ指差してんすか?」

「アイドルってのは、笑顔を見せる仕事じゃねえ。 笑顔にさせる仕事なんだ」

 

ライの言葉を無視しながら、倉名が愛達にその言葉を教えると、彼女は「おぉ~!」と感心の声をあげ、倉名は「それをスクールアイドルをやるなら忘れんな」と最後に言うと、愛達は元気よく「はい!!」と返事を返し、頷くのだった。

 

「隊長のその台詞超カッコイイっすね!」

「まっ、つってもある奴の受け売りだから・・・・・・俺自身の言葉って訳じゃねえんだがな」

「へぇー、誰っすかそんな名言言った人?」

 

倉名の今の台詞が凄くかっこ良かったと評してくれるライであったが、これは別に持論などで思いついた言葉などではなく、倉名曰く今の言葉はただの受け売りだそうで・・・・・・ライはそんな名言一体誰が残したのだろうかと気になったのだが、倉名は「さぁな」と答えをぼかしたのだ。

 

「そいつとはあんまり関わり合いがなかったもんでな。 だが、かすみんとよく似てる奴だったのは覚えてる」

「えっ、私ですか?」

「あぁ、そいつもかすみんと同じアイドルに対する情熱が強い奴だったよ」

 

そんな倉名の言葉を聞いて、かすみはあんな言葉を残し、倉名がこうやって教えてくれるくらいなのだから、さぞかし凄い人だったのだろうと彼女は考え、それが自分と似てると言われることについて彼女は悪い気はしないのだった。

 

「まっ、取りあえずは皆さん! これにて私と倉名先生の授業は終了です! ん~~~! 合格♡」

((あざとい・・・・・・!))

 

そして「合格♡」のところのポーズがあといと感じるライと倉名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、倉名、ライ、愛、璃奈は移動して歩夢、侑、せつ菜のいる学園内に設置してあるレコーディングスタジオへと今度はやって来ることとなり、今は歩夢がマイクの前に立って歌の練習を行っているところだった。

 

「ふぅ、全然ダメだった~」

 

そこで歩夢の歌が終わると、彼女は思ったように歌うことが出来なかったと低めの自己評価を自分でつけ、そのことに歩夢は上手く歌えなかったことを少しばかり気にしてしまうが、侑達からはそんなことはないと励ましの言葉が贈られる。

 

「そんなことないって~!」

「えぇ、私も歩夢さんの歌声、大好きですよ! 当面の課題はリラックスして歌えるようになることですね!」

 

ただ、せつ菜自身が気になるところとしては確かに歩夢はしっかりと歌こそ歌えていたし、その点に関してはそこまでの問題はないのだが、少々肩に力が入りすぎており、身体が少々硬くなりすぎてしまっているという指摘を歩夢は受けてしまうのだった。

 

「はぁ、だよねぇ・・・・・・」

「可愛く歌えてたよ?」

「だな。 可愛らしかったぞ歩夢!」

 

せつ菜からの指摘を受けて、溜め息を吐いていた歩夢だったが、侑とライから「可愛かった」と褒められたことで歩夢は「そ、そう?」と照れ臭そうにしつつ、(特に侑から褒められて)嬉しそうな顔を彼女は見せる。

 

「でも、学校にこんなところがあるなんて知らなかったよ!」

「何個もある訳じゃないけどレコーディングスタジオっていうかこれカラオケルームだもんな。 ここ。 普通ないよ、カラオケルームなんて」

 

侑は虹ヶ咲学園にレコーディングスタジオなんて場所があるのを今日初めて知り、彼女と同じように今日この場所の存在を知ったライもこんなカラオケルームみたいな部屋が学園内にあることに2人は驚きを隠せない様子。

 

「映像系の学科や部活が使っている収録ブースですからね!」

「流石せつ菜ちゃん、立場上学園内のことはなんでも知ってるね」

 

せつ菜の正体が生徒会長「中川 菜々」であることを知っているライは、その立場的に学園内のことをなんでも知ってるんだなと感心。

 

「次はどなたが歌われますか?」

「せっつーの歌が聴きたーい!!」

 

せつ菜は曲を入れる機械を手に持ちながら、次は誰が歌うのかと尋ねると、愛がそれならば今度はせつ菜自身の曲が聴きたいと手を挙げるのだが、せつ菜はいきなり自分が「せっつー」と呼ばれたことに戸惑い、もしかして「せっつー」とは自分のことだろうかと自分を指差しながら不思議そうに首を傾げる。

 

「せっつー? 私のことですか?」

「うん! あ・だ・名!」

「良いな~、私は?」

 

するとそこで自分も愛にあだ名をつけて貰いたいのか、侑が自分にも何かあだ名ないのかと彼女に尋ねると、愛は即座に侑へのあだ名を思いつき、それを彼女に教える。

 

「ゆうゆ!」

(ゼットさんから聞いた、桜の勇者の人とあだ名が微妙に被ってるな・・・・・・)

 

ライは愛のつけた侑のあだ名に対し、そんなことを考えていたのだが、それよりもそう言えば自分に対してあだ名をつけられたことが一度も無いなと思い、彼は「そう言えばなんで俺にはあだ名ないの?」と尋ねると、愛が言うには良い感じのものが思いつかなかったらしい。

 

「ごめーん! ライのあだ名はちょっと思いつかなかくってさ~」

「えっと、それじゃあ私は?」

「あゆぴょん!」

 

そこで今度は歩夢が自分にも何かあだ名は無いのかと愛に尋ねると、彼女は「あゆぴょん!」というあだ名を歩夢に授けるのだが、それを受けた歩夢は顔を真っ赤にし、それだけはやめてと恥ずかしそうに拒否するのだった。

 

「っ~!! 『ぴょん』はやめてぇ~!」

 

可愛い。

 

「えぇ~!? 可愛いのに~」

 

侑は可愛らしいあだ名なのだから受け入れれば良いのにと少し残念がるが、歩夢はどうしてもそれだけは嫌なのでと嫌がるのでそのあだ名はお蔵入りすることに。

 

「あっ、ちなみに、折角だから倉名先生にもあだ名考えてみたよ! 『ラグナ』とかどう!? かっこいいでしょ!?」

「ぶふぉぉ!!? ゲホッ、ゲホッ!?」

 

ペットボトルのお茶を飲んでいた倉名は唐突に愛に「ラグナ」と呼ばれたせいか咳き込んで飲んでいたお茶を吹き出してしまい、ライはそんな倉名に呆れた視線を向けながら「何してんすか隊長?」とお茶で濡れた床をティッシュで拭くのだった。

 

「全くいきなりどうしたんすか隊長?」

「い、いや別に・・・・・・。 俺のあだ名超かっこ良すぎて驚いただけだ」

 

ラグ・・・・・・じゃなかった、倉名は「なんでそんなあだ名にしたんだ?」と愛の自分のあだ名の名付け方に疑問を感じつつも、彼は誤魔化すように折角愛からご指名があったのだからせつ菜に曲を入れる用に促し、それを受けたせつ菜は「分かりました!」と応えながら曲を入れる装置を手に持ち、自分の歌う曲を探していると彼女の目にある1つの曲名が目に止まった。

 

「こ、これは・・・・・・!」

「新しく始まったアニメのEDだよね?」

 

そんなせつ菜の反応を見て、彼女の隣に座っていた璃奈は気になってせつ菜の持つ装置の画面を覗いてみるとそこには自分も知っているアニメの曲名があり、璃奈がそのことについてせつ菜に話しかけると、一瞬にして彼女の表情がクワッと豹変し、鋭い目つきで璃奈の方へと視線を向ける。

 

「観てるんですか!? このシリーズを!?」

「うん、子供の頃からずっと観てる」

「おっ、これなら俺もずっと見続けてるよ! りなりーともよく一緒に話してるよなぁ!」

 

璃奈と同じように曲を入れる装置の画面をライも覗き込んでみると、どうやらそれはライも知っているアニメのシリーズのようで・・・・・・。

 

それを受けてか、せつ菜の同士を見つけたオタクの如く目が輝くと彼女はライ以外にもこの手の話が出来る相手が見つかったことがよほど嬉しかったのか、感激のあまり璃奈の両手を自分の両手を握りしめ、早口に前のシリーズの話をしだしたのだ。

 

「ううぅぅ~!! ライさんも璃奈さんも前のシリーズの第29話観ましたぁ!? 自分を犠牲にしてマグマに飛び込もうとしたジャッカルをコスモスが抱きしめるところ!!」

「激アツだった」

「分かる!! あの話はマジで神回だったよねせつ菜ちゃん!!」

「ですよねぇーーーー!!!!」

 

興奮のあまり椅子から立ち上がりながら、オタク特有の早口でライと璃奈にそのアニメの話題を次々と振っていくせつ菜。

 

「ライから事前に聞かされてはいたけど、せつ菜ちゃんアニメ好きなんだね」

 

しかし、そんな侑の言葉を受けて、せつ菜はハッと我に返ると、思わずヒートアップして周りが見えなくなっていたことに気づき、彼女は気恥ずかしそうに自分の座っていた席に戻るのだった。

 

「は、はい。 親に禁止されているので、夜中にこっそり観てるんです・・・・・・」

「お家、厳しいの?」

「まぁ、どちらかと言えば・・・・・・」

 

璃奈の問いかけに対し、せつ菜は自分の家の事情を打ち明けながら応えると、まだせつ菜からなんで正体を隠していたのか事情を聞いていなかった侑やライ、歩夢はそれでせつ菜がなぜ本名の中川 菜々としてではなく、優木 せつ菜としてスクールアイドル活動をしていたのか合点がいった。

 

「それで正体隠してたんだ!」

「んっ? 正体?」

 

ただ、愛や璃奈はまだせつ菜が菜々と同一人物だということを知らない為、侑の言った「正体」とは一体なんのことだと思い、首を傾げながらせつ菜に顔を近づけ、ジッとその顔を見つめると・・・・・・愛の頭の中で菜々とせつ菜の顔がリンクし、そこで愛も目を見開いて驚きながらせつ菜が菜々=せつ菜であるということに気付いたのだ。

 

「あー! もしかして生徒会長!?」

「あっ、はい・・・・・・」

「そうだったんだー! 水くさいなー!!」

「この前は、ありがとう」

 

せつ菜の正体が菜々であることが分かると、璃奈は以前、自分が可愛がっているはんぺんを『生徒会お散歩役員』なるものに任命して、学園側で飼うことを許可してくれたことに感謝の言葉を述べ、それを受けたせつ菜は「い、いえ・・・・・・!」と自分は大したことはしていないと謙虚な態度で応えた。

 

「愛さんも、せっつーが話してたアニメ、チェックするね!」

「えっ?」

「せっつーの熱い語り聞いてたら、楽しそうだなって思ったからさ!」

 

愛は笑みを浮かべながら、せつ菜に自分もそのアニメを観てみると約束すると、それにせつ菜も嬉しそうに笑顔を浮かべ、「楽しいですよ!」と彼女自身も愛にそのアニメをオススメだと教えるのだった。

 

「なんか、愛ってオタクに優しいギャル感あるよな」

「喜多川さんっぽい感じはしますね」

「それはオタクで優しいギャルの方だな。 同じ金髪ギャルだけど」

「? なんのことかよく分かんないけど褒められてるみたいで照れるなぁ~」

 

ライとせつ菜は2人でオススメのアニメを観てみると約束してくれた愛にそれぞれが彼女に抱いた感想を述べ、2人の言葉が褒め言葉だと受け取った愛は照れ臭そうに頭をポリポリと軽く搔く。

 

尚、実際にライとせつ菜は褒めているつもりである。

 

(正確に言うと、愛さんはオタクに『も』優しい、だよ)

 

そんなライ、せつ菜、愛のやり取りを見ながら、璃奈は心の中でやんわりと訂正を入れるのだった。

 

「よーし、それじゃ、ここからアニソン縛りでいこうー!!」

『おぉー!!』

 

そこから先は愛の号令の元、一同はちょっとしたカラオケ大会を開催することに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、全ての練習が一通り終了し、歩夢、侑、ライ、璃奈、愛、倉名が部室に戻ると、一同は愛のお婆ちゃんが作ってくれたという野菜の糠漬けを差し入れられ、全員でそれを今はポリポリと食べているところだった。

 

「美味しい!」

「お婆ちゃん特性の糠漬けだよ!」

「ホント、お婆ちゃんの味って感じだね~」

 

味の方も歩夢達には好評なようで少し遅れてからレッスンを終えたらしいかすみ、エマ、しずく、せつ菜、彼方の5人が部室に帰ってくると、かすみは部屋に充満した野菜の匂いに思わず鼻を摘まみ、顔がしかめっ面となる。

 

「うぅ!? なんですかこの匂いは!?」

「みんなも食べる~?」

 

愛は戻って来たせつ菜達にも野菜の糠漬けを勧め、何人かが愛の差し入れの野菜を受け取りつつ、今日の部活動はこれで終了という雰囲気に包まれるのだが、そこでせつ菜は少しだけかすみと話したいことがあるので部活が終わっても残っておいて欲しいと言われるのだが・・・・・・。

 

「あっ、かすみさん。 お話があるのでちょっと残って貰えますか?」

「ひい!? メガネのことなら何度もごめんなさいしましたよね!?」

 

せつ菜から無断でメガネを勝手に借りて行ってしまったことをかなり怒られてしまったのか、かすみは怯えた表情を見せるのだが、別にどうやらそのことで話がある訳では無く、全くの別件で話があるとのことだった。

 

「それではなくて・・・・・・」

(せつ菜ちゃん、どんだけかすみちゃんのこと怒ったんだろう)

 

ライは糠漬けを食べながら、せつ菜がかすみに怒った姿を想像したが、あんまり彼女が怒ったりするイメージが沸かない為、中々その姿を想像することが出来なかった。

 

「出来ることなら、今日一日全員の様子を見て頂いたライさんにも意見が聞きたいので残っておいて欲しいのですが・・・・・・」

「マジで? せつ菜ちゃんの頼みなら喜んで残るよ!」

「それなら、俺も残っておいた方が良いんじゃねえか?」

 

ライはせつ菜の頼みならばと喜んで快く彼女の頼みを引き受け、倉名もそろそろストレイジの方に顔を出さないといけないのだが、まだ時間的に余裕もあるし、時間がかからないならライと同じように今日一日様子を見ていた自分も残っておいた方が良いのでは無いだろうかとせつ菜に尋ねるのだが・・・・・・。

 

「倉名先生には、歩夢さん達の話などを聞いてそっちはそっちで意見を纏めておいて欲しいんです」

 

彼女としては倉名は歩夢達の方に行って今後の活動方針などについて話し合ったりなどしてそっちはそっちで意見などを纏めて欲しいと頼み、それを受けて倉名は「りょーかい」とせつ菜に返事を返し、今日の部活動はこれで終了となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、倉名、歩夢、愛、璃奈、しずく、彼方、エマの7人は学園の中にあるベンチが設置してある広場で今週の土曜日についての予定を話し合っていた。

 

「今週は土曜も集まるんだっけ~?」

「うん、お台場でランニングだよ?」

 

エマの肩に持たれながら、ウトウトとした表情の彼方が今週の土曜の予定について尋ねると、エマはお台場で朝からランニングの予定であることを彼方に伝える。

 

「ランニングかぁ~」

「私も走るから!」

「走るのって気持ち良いよ!」

 

土曜の予定を聞き、歩夢は少しだけ大変そうだなと考えるのだが、そんな歩夢に侑は「私も走るから」と言われ、そんな侑に歩夢は少しだけ嬉しそうにし、愛も走るには気持ちが良いので大変なことなんて無いよと彼女に言うのだった。

 

「しずくちゃんは、この後演劇部?」

「はい!」

「大変だね~、掛け持ち」

「好きでやってることですから」

 

アイドル同好会の次は演劇部の練習と、そんなしずくに対し、彼方は物凄く大変そうだなと感じるのだが、しずくは特にそれを苦としている様子は無く、スクールアイドルも演劇もどちらも好きだからと言って退け、そう語る彼女からは実際に全く大変さを感じさせなかった。

 

「愛ちゃんは今も運動部の助っ人してるの?」

「勿論! だから、明日は来るのが遅くなるかも・・・・・・」

「2人とも頑張ってるね~。 ふぁ~」

 

歩夢の問いかけに愛は運動部の助っ人に行くので明日は同好会に顔を見せるのが遅くなるかもしれないということを伝え、そんな風にあっちこっちで活躍するしずくや愛の姿を見て彼方は欠伸をしながらも感心した様子を見せる。

 

「俺も同好会のコーチとストレイジ隊長を掛け持ちしてんぞ。 誰か俺のことも褒め称えろ」

「いや、それを自分で言うのはいかがなものかと・・・・・・」

 

アイドル同好会のコーチとストレイジの隊長を自分も掛け持ちして頑張ってるんだから誰か自分を褒めるようにと歩夢達に倉名が求めて来るのだが、それを自分で言うのはどうなんだとしずくが呆れ気味に倉名は言われてしまうのだった。

 

「倉名先生もストレイジと同好会の掛け持ち出来てとてもよく頑張っていて、私は偉いと思います!」

 

しかし、エマだけは素直に愛やしずくのように掛け持ちしている倉名のことを褒め称え、それに倉名はどこか満足そうにし、そんな満足げな倉名の姿を見てしずくはそれで良いのだろうかと思わずにはいられなかった。

 

「同好会はどう?」

「・・・・・・楽しい」

 

またエマは今日一日同好会での活動してみての感想を自分の隣に座る璃奈に尋ねると、彼女は今日一日部活動での練習を経験して「楽しかった」と応えるのだが・・・・・・。

 

しかし「楽しい」と言う割には璃奈の表情は一切変わらず、そのことにエマは「んっ?」と不思議そうに首を傾げた。

 

「こーんなにウキウキなりなりー初めて見たよ! 愛さんも楽しい!!」

「璃奈はちょっと、感情を表に出すのが苦手だからな。 本人が楽しいと言ってるんなら、それは本当に楽しんでるってこった」

 

そこで愛がそのように本心から同好会での活動が楽しいと思っているにも関わらず、自分の感情を上手く表情に出すことが出来ない璃奈のほっぺをプニプニしながら愛は倉名と共に璃奈にフォローを入れるように自分もこの部活動を楽しんでいることを伝えつつ、エマに璃奈もちゃんと心の底から部活動を楽しんでいることを伝えたのだ。

 

「ごめんなさい、私・・・・・・上手く気持ち出せなくて」

「ううん、楽しんでくれてるなら良かった」

 

璃奈は感情を上手く表に出せず、エマを少しばかり困らせてしまったことを謝罪するのだが、エマは「気にしなくて良いよ」と言うように、楽しんで貰えたのなら良かったと優しく声を彼女は璃奈にかけるのだった。

 

「でも本当、他ではやってないことばかりですっごく新鮮!」

「そんなに違う?」

 

色んな部活に助っ人として顔を出し、よく引っ張りだこになるからか、今日アイドル同好会の練習を体験してみて愛は他の部活と比べるとやってないことばかりで新鮮みを感じると興奮したように語り、そのように語る愛に侑はそんなにも他の部活と違うのだろうかと疑問を抱くのだが、愛は即座に「違うよ~!」と応えたのだ。

 

「かすみんが、どれも正解って言ってたけど実際その通りって言うか、みんなそれぞれタイプ違うけどすっごく優しくて面白くて! そこが最高って感じだし!」

「かすみんってたまに奥深いこと言うよな」

「確かに奥深かったかもね! それで、このメンバーでどんなライブすることになるんだろうって、考えただけでめっちゃワクワクするよぉ~!!」

 

興奮気味に愛は同好会のメンバーがこれからどのようなライブをしていくのか、彼女はそれを想像し、その時を夢見ながらウキウキした様子でライブする日を楽しみにするのだが・・・・・・。

 

「愛ちゃんは鋭いね~」

「えっ?」

 

そんな時、彼方が呟いたその一言を受け、全員が一斉に彼女の方へと視線を向ける。

 

「・・・・・・分かってはいるんです。 私達が先に考えなきゃいけないことって・・・・・・」

 

彼方が何を言いたかったのか、彼女の言葉の意味、それを察したしずくは不安げな表情を浮かべ、顔を俯かせてしまう。

 

今日は後回しにしてしまったが、それは本来ならば真っ先に決めなければいけなかったこと。

 

それはこれから自分達はどう活動していくのか、スクールアイドルとして、自分達はどんなアイドルを目指すのか、彼女等は自分達の方向性について先ずは考えなければならなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ソロアイドルですか」

 

同じ頃、アイドル同好会の部室では・・・・・・。

 

そこでは今の歩夢達のように、今後の自分達の活動方針、方向性などについてせつ菜とかすみがライを加えつつ、話し合っており、せつ菜はこれから自分達はグループとしてではなく、「ソロアイドル」として活動していくことについて彼女はかすみやライに相談していた。

 

「私達だから出来る、新しい一歩です。 部員1人1人がソロアイドルとしてステージに立つ。 その選択肢は皆さんの頭の中にもある筈です」

「でも、それって・・・・・・簡単には決められないですよね・・・・・・?」

 

自分達はグループとしてではなく、ソロアイドルとして活動していく。

 

それは歩夢達が入部する前、せつ菜が一度はスクールアイドルを辞めようと思った切っ掛けにもなったあの出来事から来る考えだった。

 

以前にも回想したように、まだ同好会のメンバーがせつ菜、かすみ、エマ、彼方、しずくの5人のみだった頃、自分達がそれぞれ思い描くスクールアイドル像のイメージが違ったことから、彼女等はグループとして無理に1つに纏まろうとしてしまい、結果同好会は一度は廃部同然となり、せつ菜はスクールアイドルを引退するまでの事態を引き起こしてしまった。

 

そのことから、せつ菜は過去と同じ過ちを犯さない為に、グループとして纏まることが出来ないのなら、ソロでやっていくべきではないだろうかと考えたのだ。

 

「まぁ、確かに・・・・・・。 かすみちゃんから聞いた話じゃ、無理に纏まろうとして失敗しちゃったみたいだしな・・・・・・」

 

ライも何故、同好会が一度は廃部し、メンバーがそれぞれバラバラになったのかは以前かすみからあらかじめ聞いていた為、せつ菜の言うようにアイドル同好会のメンバーはそれぞれグループではなく、ソロで活動していくのが1番なのかもしれないと考えたのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・っ、その・・・・・・。 その節は、ライさんにもかすみさんにも、他の皆さんにも本当に迷惑をおかけして申し訳ありませんでした・・・・・・!」

 

ライの言葉を受けてか、せつ菜はかすみを傷つけてしまったことへの責任を取る為とは言え、生徒会長という立場を利用して一度同好会を廃部にし、様々な人に迷惑をかけてしまったことを歯がゆい顔を浮かべながら彼女はライとかすみに頭を下げて謝罪したのだ。

 

「ちょっ、やめてくださいよせつ菜先輩! 別にもう気にしてませんし! もう、ライ先輩も余計なこと言わないでください!」

「そうだよ! せつ菜ちゃんが謝ることじゃないよ! お、俺の方こそごめん! 辛かった時のこと、思い出させて・・・・・・」

 

かすみとライは慌ててせつ菜に頭を上げるように言い、それを受けて彼女は戸惑いつつも2人に言われた通りなんとか頭を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人で、ステージに・・・・・・」

 

場所は歩夢達のいる場所へと戻り、そこではせつ菜達と同じように自分達はソロアイドルとして活動していくのならば、どのように活動していくのかという話し合いが行われていた。

 

「ちょっと考えちゃうよね~。 グループはみんな協力し合えるけど、ソロアイドルは誰にも助けて貰えないだろうし」

 

しかし、彼方はエマの肩にもたれながら、グループならば「互いに助け合える」という活かせる強みがあるが、ソロではそれが活かせないことから、彼女はその不安な気持ちを吐露し、そんな彼女の抱く不安な気持ちは他のみんなも同じく共感しているものだった。

 

「正直、不安です。 皆さんが喜んで貰えるだけのものが、私1人に・・・・・・あるのでしょうか・・・・・・?」

 

顔を俯かせながら、しずくもまた自分1人に観に来てくれたお客さんを喜ばせるだけの力があるのかと不安な気持ちを口にし、思い悩むのだが・・・・・・それに応えられる者は、この場には誰もおらず、しばらくの沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

「でもさ、支え合うことは出来るだろう?」

 

しかし、しずく達と同じ話題をせつ菜やかすみとしていたライは、不意にそんな言葉を発するとせつ菜やかすみは「えっ?」とでも言いたげな視線を一斉に彼へと向けたのだ。

 

「そりゃ、ソロライブとなれば確かに仲間からのフォローも出来ない。 だけど、それ以外ならお互いに協力し合うことは出来ると思う! 同好会のみんなは別に敵同士って訳じゃないんだ! それに、1人でステージに立つとしても、そこに見守ってくれる仲間がいるのなら、案外心強いもんなんじゃないかな?」

「・・・・・・そういう、ものでしょうか・・・・・・」

 

ライは例え同好会のメンバー全員がソロアイドルとして活動していくとしても、ライブ以外ならばお互いに支え合えることもあり、ステージに立つ時にだってみんながきっと見守ってくれているから、そこまで不安になることは無いと励ましの言葉を送るのだが・・・・・・。

 

しかし、それでもせつ菜やかすみは実際にやってみなければ分からないということから不安を完全に拭うことは出来ず、ライはそんな彼女等の姿を見てこれ以上何か自分にアドバイスできるようなことは無いだろうかと必死に考えるのだが・・・・・・。

 

「まぁ、なんにしてもやってみないと分からないのも確かか・・・・・・」

 

結局良い案は浮かばず、兎に角先ずは「やってみるしかない」という答えしか出せなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

かつて幼かった頃の愛の命を救い、あれからずっと岩のような状態、通称「ゴモラ岩」となり、未だにその状態で眠るゴモラのいる山奥にて・・・・・・。

 

「親方、何時になったらトンネル工事再開するんですか?」

「って言われてもなぁ。 あそこにあるゴモラ岩ってのは寝てるだけの本物の怪獣だってんだ。 昔っからずっと眠ってるらしいが、工事の発破なんかでも使って起こしちまったら大変だかんなぁ」

 

ゴモラ岩の近くではその山の工事現場で働く作業員の何名かが存在しており、その内の1人が「親方」と呼ばれる男性に何時になったらストップしている工事の仕事を再開するのかと不満げに尋ねるのだが、あのゴモラ岩は本物の怪獣である為、ゴモラが目覚める可能性を考慮して工事が中断してしまっていることを親方は部下へと語った。

 

「へぇー、ただ形が似てるからゴモラ岩って言うんだと思ってました」

「近い内にストレイジがアイツをスフラン島っていう無人島に運んでくれるらしい。 それまで工事はやめてくれって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴモラ輸送作戦・・・・・・ですか?」

 

その後、ストレイジ基地ではクリヤマから倉名、ライ、璃奈、そして風邪が治って復帰した薫子の4人に向けて「ゴモラ輸送作戦」なるものが伝えられており、なんでもクリヤマが言うには地球防衛軍のアメリカ事務次長が予算会議出席のため今週の土曜日に出席することになったらしい。

 

「それでその会議の前に2時間だけ、スケジュールを頂いた。 それでそこでその作戦を視察して頂き、世界で唯一の対怪獣用ロボットの素晴らしさをアピールするんだ! 聞けばゴモラは休眠中とは言えバイタル停止状態で、ただの巨大な岩と変わらないのだろう?」

「あっ、はい! そうなのか璃奈?」

「目覚める可能性は低いと思います、隊長」

 

クリヤマの問いかけに思わず「はい!」と勢いよく返事をしてしまった倉名だが、ハッキリしたことは彼自身にも分からない為、ゴモラの今の状態を璃奈に尋ねると彼女はゴモラが目覚める可能性は統計上では0.1%以下らしく、今のところゴモラが覚醒する可能性は限りなく低いのだという。

 

「でもなんで今までゴモラ岩って放置されてたんすか? 無人島に運ぶならもっと早く運べば良かったのに」

 

ライの言う通り、どうせ無人島に運ぶのならばもっと前に出来たのでは無いのだろうかと疑問を感じ、それを口にすると、璃奈曰く「ゴモラを運べなかった理由は様々」とのことだった。

 

例えばゴモラを運べなかった理由の1つはセブンガーが開発されるまでゴモラ岩のようなあんなものをまともに運べる手段が確立されていなかったことや、ゴモラ岩自体一種の名物のような扱いを受けていたことから、あのままずっと放置されていたそうだ。

 

「駆除しようにも、下手に攻撃してゴモラが目覚めて暴れでもしたら被害もいっぱい出ちゃうかもしれないから・・・・・・」

 

ならば早めに駆除すれば良かったのでは無いか? とも思うかもしれないが、璃奈の言うように下手に攻撃を加えてゴモラが目覚め、暴れ始めでもしたら人的被害が出る可能性が高かったこともあり、その可能性を考慮した結果、ゴモラを攻撃することも出来ず、これまではずっと八方塞がり状態でゴモラに一切手を出すことが出来なかったのだ。

 

しかし、セブンガーが完成した直後は様々な調整などが必要だったこともあり、時間がかかってしまったが、今のセブンガーを使用すれば細心の注意を払う必要こそあるものの、ゴモラを眠ったままの状態であの場から移動させることは理論上可能であり、既に輸送作戦に必要な準備もある程度出来ていることや視察のタイミングが良かったことからも今回のこの作戦が決定したのだという。

 

「視察中の事務次官のプレゼンには君たちにも参加して貰う! 当日は絶対に失敗しないように!」

「っ・・・・・・」

 

クリヤマの「君たちもプレゼンに参加して貰う」という言葉を聞き、「えっ? 自分も参加しないといけないの?」と内心激しく動揺する璃奈だが、そんな彼女の不安な気持ちを察してか、倉名は璃奈の耳元で「無理しなくて良いぞ」と小声で声をかけたのだ。

 

「お前は民間協力者で正式なストレイジメンバーって訳じゃねえ。 お偉いさん達の前に立つなんざ璃奈には相当なプレッシャーだろ? だから、お前が無理にプレゼンに参加する義理はない」

「でももし、特空機の説明をするなら、私がいた方が・・・・・・」

「今週の土曜は朝練あんだろ? 言っただろ、お前はそっちを優先して良いんだって」

 

倉名としては璃奈にはストレイジの仕事よりも、スクールアイドルを始めるならばそっちの方を優先して良いと考え、彼はクリヤマに璃奈はその日は予定がある為、会議に参加することは出来ないことを説明すると、説明を受けたクリヤマも璃奈の立場的には無理強いすることは出来ないからか、特に文句を言ったりするようなこともなく、彼は快く「分かった」と彼女が参加出来ないことを受け入れてその後は特にクリヤマからの説明も無くこれにてミーティングも終了したのだが・・・・・・。

 

その直後、薫子が「ぶえっくしょん!!」と大きめのくしゃみをしたのだ。

 

「おい、薫子、お前本当に風邪治ったのか?」

「治りましたよ~! でも、今度は花粉症みたいで・・・・・・ミーティング中ずっと我慢してて・・・・・・ぶえっくしょん!!」

 

どうにも、薫子は風邪こそ治ったものの、今度は花粉症にかかったそうで・・・・・・ライは「風邪治った直後に花粉症って・・・・・・」と彼女に同情の視線を向け、璃奈も「大丈夫ですか?」と薫子の身を案じたのだ。

 

「平気平気! それよりも璃奈ちゃんさぁ! 聞いたよ! スクールアイドル始めるんでしょ!? 私も昔スクールアイドルやっててさ、分からないことあったらぶえっくしょん!!」

「あわわ!?」

「興奮するのは分かるがくしゃみするなら手で抑えろバカ!!」

 

思わず璃奈に向けてくしゃみをしてしまう薫子だったが、間一髪飛んで来る唾などを璃奈はなんとか躱し、そんな薫子にくしゃみするなら手で抑えろと注意する倉名。

 

「でも、私がいないとなると、誰が特空機の話を・・・・・・」

「その辺はバコさんに来て貰うかな。 特空機のことをここで1番理解してるのはあの人だろうからな」

 

しかし、璃奈は自分は朝練の方に行って良いと言われたものの、それならば誰が特空機の説明を行うのかと彼女は疑問を抱いたのだが、そこは代わりに璃奈以上に特空機について理解しているであろうバコさんに倉名は頼むつもりでいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

虹ヶ咲学園では・・・・・・。

 

昨日の同好会での活動を経て、愛は授業中、昨日の練習でかすみが言っていたことや歩夢達が自分達の方向性について思い悩んでいた姿を窓の外を見つめながら彼女はふっと思い返しながらボーッとした表情で何かを考え込んで悩んでいる様子だった。

 

(正解が1つなら、分かりやすいよね。 スポーツにはルールがある。 でも、愛さん達が目指すスクールアイドルにはそういうのは無くて・・・・・・自分1人)

 

それは愛もまた歩夢達と同じように、スクールアイドルを始めると言っても自分はどんなアイドルを目指せば良いのか、それが分からず、上手く考えが纏まらず、気付けば授業も終わり放課後となってしまっていた。

 

身体を動かせば少しは頭がスッキリして考えが纏まるかとも思い、今日はバスケ部の助っ人に参加したが、それでも中々考えは纏まらず。

 

(愛さんだけで、どんなスクールアイドルがやれるのかな? 愛さんの正解って、なんなのかな? こんなこと、今まで考えたこと無かった)

 

部活の助っ人も終わり、アイドル同好会にも少し顔を見せた後、帰路を歩いていた愛だったが、結局今日ほぼ1日色々と考えてみたもののやはり答えがでることは無かった。

 

そんな時、愛のスカートのポケットに入っていたスマホからLINEの着信音が鳴ると、彼女はスマホを取り出し、LINEに来ていたメッセージを確認する。

 

『明日のランニング、朝の9時にレインボー公園に集合ですよー!』

 

メッセージはかすみからであり、内容は明日のランニングの集合時間についてのお知らせであった。

 

その後、他の同好会のメンバー共々「OK」の返事を愛は行い、返信。

 

「・・・・・・」

 

その後、LINEでライや倉名からはゴモラが輸送されるルートには絶対に近づかないようにという注意書きのメッセージがより詳細なことが書かれた文章と共に送られ、「近づかないように気をつけます」と言った趣旨のメールが幾つか返される中、愛はその文章を読み上げながら、彼女はかつてゴモラに救われた時のことを思い返した。

 

「えっ、ゴモラ・・・・・・!? ゴモラ輸送作戦・・・・・・そっか。 ゴモラ、あそこからいなくなっちゃうんだ・・・・・・」

 

その文章を読んだ愛は目を見開き、一瞬複雑そうな顔を見せると彼女はゴモラ岩があると思われる場所に顔を向け、今度はどこか寂しそうな表情を浮かべながら愛はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

そして日を1日跨いで翌日の土曜日。

 

同好会は朝練、ストレイジはゴモラの輸送作戦当日となり、愛は一足早く起き、家を出ると彼女はそこから早速走り込みを開始。

 

それと同じ頃、薫子の搭乗したセブンガーもまたゴモラ岩の現場へと到着し、セブンガーはゴモラを輸送する為のドローンの補助をする為この場へと現れ、着陸の注意をアナウンスしながら地上へと降り立つ。

 

その光景はリアルタイムでもTVで生放送されており、その映像は予算会議が行われるビルのとある会議室の中にもプロジェクターで映し出され、クリヤマはアメリカの事務次官達に対しセブンガーの説明を行っていた。

 

「えー、ご覧くださいませ! これが、我がストレイジが誇ります世界最初の対怪獣用のロボット、セブンガーであります!」

 

そこからクリヤマはセブンガーについてのより詳しい説明を行う為にバコさんを呼び寄せると、バコさんは気まずそうな顔をしながら会議室へと入ってくる。

 

「えーっと、初めまして。 ストレイジで特空機の整備などを担当しています班長のイナバ・コジローです」

 

少しばかり緊張した様子の自己紹介を行うバコさん。

 

しかし、バコさんとしてはここにいるのは割と不本意らしく、「なんで俺はここにいんだよ」と言いたげな視線をクリヤマに送り、その視線の意図を察したクリヤマは申し訳無さそうにしつつ、バコさんに謝罪する。

 

「申し訳ない。 何分璃奈くんは部活の朝練があるらしくて・・・・・・」

「まぁ、璃奈ちゃんは正式なメンバーって訳じゃないからなぁ。 分かりましたよ、璃奈ちゃんの為だ。 私がセブンガーの説明やら何やらやりますよ」

 

クリヤマからの話を聞き、璃奈の為ならば仕方が無いかと判断したバコさんは止むなくこの仕事を引き受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

それから、ゴモラ岩のある場所では丁度ドローンによるゴモラ岩の持ち上げ作業が完了し、あとはゴモラが落下しないようにセブンガーが下から支えることでスフラン島に運ぶだけ。

 

「ぶえっくしょん!!」

『薫子、大丈夫か?』

「だいじょうぶれす・・・・・・!」

 

ただ薫子はまだ花粉症が治っていないらしく、倉名はそんな彼女のことを心配するがこのぐらいどうってことないと言い張り、ゴモラの移動作業を開始。

 

作戦開始すると、倉名やゴモラのバイタルの確認などを行ってサポートしていたライの周りにマスコミが押し寄せるが、倉名とライは迂闊に近づかないように注意を行う。

 

「すいません! もう少し後ろの方に下がってくださーい!!」

「はいはーい!! ゴモラさん通りますよー! あんまり前に出ないように!」

 

尚、本来活動時間が3分しかないセブンガーであるが、そこは整備クルーが急いでケーブルの付け替え作業を行うことで対応し、3分以上の活動時間を維持していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、会議室にて。

 

「えー、お配りの資料にありますように、セブンガーは従来の兵器では対応できないようなあらゆる場面での作戦行動がたった1機だけで対応可能でありまして・・・・・・」

「ちょっとよろしいですか?」

 

バコさんがマイクを使ってセブンガーについての説明を事務次官達に行っていると、それを遮るように事務次長の男性が手を挙げて質問をバコさんへと投げかけてきたのだ。

 

「たった1機だけで可能と言いますが、セブンガーには作戦失敗も多く、コストパフォーマンスも決して良いとは言えないんじゃ無いですか?」

(・・・・・・っ、鋭い質問を・・・・・・)

 

バコさんは事務次長のその質問を受けて思わず言い淀んでしまい、クリヤマも必死に何か言おうと「えっと、あの・・・・・・」と考えるが、そこでセブンガーの姿が窓から確認でき、クリヤマは丁度良いタイミングにセブンガーが来たことで話題を逸らすように窓の外に注目するように事務次長達に呼びかける。

 

「あー! ご覧くださいませ! こちらにセブンガーがございます!!」

 

クリヤマに言われ、事務次長達が窓の外を注目すると、彼等は興味深そうにセブンガーの姿を眺め、感心の声をあげた。

 

「近くで見るとど迫力だな」

「小さい頃観ていた日本製のロボットアニメを思い出すなぁ」

「あのセブンガーに乗っているのは、ウチのストレイジ自慢のエースパイロット、三船 薫子です!」

 

セブンガーを見つめる事務次長達に対し、バコさんがパイロットの説明を行うと、事務次長達は「ほう」とさらに興味深そうにセブンガーを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、凄いなぁ~」

 

そのゴモラを運ぶセブンガーの光景は、愛と同じように少しばかり早起きしてしまい、一足早く走り込みをしていたエマの目にも止まっており、彼女は小休憩を兼ねてとある橋の上から今はセブンガーの様子を眺めていた。

 

「エマっち~!」

 

そんな時、同じく走り込みをしていた愛がエマの姿を発見すると、彼女は素早くエマの元へと駆け寄りる。

 

「どうしたの?」

「ちょっと早起きしちゃって・・・・・・愛ちゃんは?」

「一緒!」

 

愛はこんなに早い時間にどうしたのかとエマに尋ねると、彼女は先ほども上の文でも説明したように早起きした為にランニングをしていたことを愛の問いかけに対し、応えると愛も自分も一緒だと言葉を返した。

 

「そっか~。 愛ちゃんも早起きしちゃったんだね。 あっ、ねえねえ愛ちゃん! 結構遠目だけど、ここからセブンガーが見えるよ!」

「おっ! どれどれ? ホントだー!! よく見えるね~!!」

 

エマに教えられ、愛もセブンガーの姿を視界に捉えると彼女は大声で「頑張れセブンガー!!」と応援の掛け声をかけるのだが、そんな愛にエマは「ダメだよ愛ちゃん!」と大きな声を出した彼女に「ゴモラが目覚めてしまう」という理由で慌てて注意する。

 

最もゴモラのバイタル的には人1人の大声を聞いたくらいでは簡単には目覚めたりはしないのだが・・・・・・。

 

「あんまり大きな声出したらゴモラさんが目覚めちゃうよ?」

「あっ、そっか! ごめんごめん! ・・・・・・それにしても、ゴモラ、本当にどっか行っちゃうんだねぇ・・・・・・」

 

セブンガーに運ばれるゴモラの姿を見つめながら、愛は昨日と同じようにどこか寂しげな表情を浮かべ、そんな愛の表情の変化に気付いたエマは彼女を心配し、「どうかしたの?」と問いかけると、愛は苦笑しつつ「ちょっと昔ね」とだけエマの問いに応えた。

 

「私さ、ちっちゃい頃・・・・・・あのゴモラに助けられたことがあるんだ。 私の命を救ってくれたんだよ、ゴモラはさ・・・・・・」

「そうなんだ・・・・・・」

「うん。 それで、私はまだ何もゴモラにお礼が出来てないなって思って・・・・・・。 だから、もしもゴモラが何か困った時は、今度は私が助けようと今でもたまにゴモラの様子を見に行ったりしてたんだけど・・・・・・今日で輸送作戦が開始されちゃって・・・・・・。 結局、私は何もゴモラに恩返しが出来なかったなぁって思ったんだ。 そう思うと、なんだか寂しくってね・・・・・・」

 

愛は小さい頃に、落石からゴモラが自分の身を守ってくれた時のことをエマに語り、ゴモラの輸送が完了すればゴモラに恩返しするためのチャンスはもう無いかもしれないと、そう苦笑しながら話すのだが、エマは「そんなことはないよ!」とそれを否定したのだ。

 

「確かに輸送が終わったらゴモラさんに恩返ししたりするのは難しいと思う。 でも、可能性は0じゃないよ! ライくんとか倉名先生とかストレイジの人に頼んでみようよ! ちゃんとそのことを説明をすれば、少なくともライくんや倉名先生は考えてくれると思うし協力してくれると思う!」

「エマっち・・・・・・。 ありがとう。 でも、ライは兎も角、倉名先生は中々首を縦に振ってくれなさそうな気もするけどね・・・・・・」

 

ライなら愛の話に感銘を受けて彼女の為に色々と手伝ってくれそうなイメージはあるが、倉名はゴモラに会うことを危険だと言って中々許可してくれなさそうと思うものの、それでも道しるべを示してくれたエマに愛は感謝し、お礼を述べるのであった。

 

それから愛とエマの2人は、少しの間だけ2人でそこから見える景色を眺めていたのだが、不意にエマが口を開き、一昨日のことについて話し始めたのだ。

 

「ところで、一昨日はソロアイドルって聞いて驚いたかな?」

「あっ・・・・・・。 確かに、驚いたけど1番驚いたのは自分に対してなんだよね」

「えっ?」

「同好会が悩んでるのって、自分を出せるかってことでしょ? 今まで、色んな部活で助っ人やってたけど、考えてみたらみんなとやる競技ばかりでさ」

 

愛の言うように、普通のスポーツなどの部活は複数人で行うものが基本的には多いだろう。

 

さらに言えば、スクールアイドルも同じ学校で、同じ部活に所属しているのならば基本的にグループで活動するのが普通だ。

 

しかし、過去の失敗を踏まえたことで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は他の学校のスクールアイドルとは違い、同じ学校と部活に所属していてもグループでの活動はしない方針になりつつある。

 

ライはせつ菜やかすみに「支え合うこと自体はできる」と言っていたが、それでも最後にステージに立つのは自分だけ。

 

そのことを考えると、愛は不安を抱かずにはいられなかったのだ。

 

「めっちゃハードル高いよね・・・・・・。 ソロアイドルかぁ」

 

愛は思い悩んだ顔を浮かべながら、青空を見上げ、エマはそんな愛にどう声をかければ良いのか分からなかった。

 

「・・・・・・そろそろ、走ろっか! 9時だし、もう行く時間だよ?」

 

ただ1つ言えるのは、その話はまたみんなと合流した時にでもすれば良いと思い、エマはかすみが指定した朝練の約束の時間が迫ってきていた為、彼女は流石にもう待ち合わせの場所に行かなくては愛に言うのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・」

「んっ? どうしたの?」

 

どこか呆けたような顔を晒す愛に、エマはどうかしたのだろうかと首を傾げると、何故か愛は突然吹き出し、お腹を抱えて笑い出したのだ。

 

「ぷっ、あはははは!! ウケるぅ~!!」

「えっ? えぇ~?」

「『ソロ』で『そろそろ』、『9』で時だし行『く』時間ってぇ~!! あはははは!!」

 

いきなり大爆笑する愛に困惑するエマだったが、愛の説明を受けてエマは無自覚にオヤジギャグのようなことを言っていたことに気付き、エマは「全然気付かなかったよ~」と彼女も思わず笑ってしまうのだった。

 

「・・・・・・愛ちゃんが同好会に来てくれて良かった」

「えっ? なんで!?」

「すっごく前向きでいてくれるから!」

「そう? 今はめっちゃ悩んでるけど」

 

「前向きでいてくれる」、エマにそう言われて悪い気はしないが、今はソロアイドルのことで凄く悩んでいるので、そんなことあるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない愛。

 

「でも、みんなといる時、いつも楽しそうにしてたよね!」

「・・・・・・っ」

 

そんな疑問に、エマはそう応えてくれると愛はそれを受けてどこかハッとした表情を浮かべる。

 

「私達、色々あって・・・・・・ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。 きっと、みんなが不安で、でも本当は・・・・・・それと同じくらいこれからに期待していると思うんだ。 そうじゃなきゃ、悩まないもの! まだ、一歩を踏み出す勇気が出ないだけ・・・・・・。 愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてるんだよ!」

「そうなの? 自覚無いけど・・・・・・」

 

愛としてはエマにそこまで言われても、自分がそこまで本当にみんなに影響を与えているのだろうかと思うが、そんな愛にエマは続けざまに「無いから凄いんだよ!」と言い放ったのだ。

 

「そうかなぁ?」

「そうだよ?」

 

そのように言葉を即座に切り替えされ、愛は思わず照れ臭そうにする。

 

「・・・・・・そっかぁ」

 

すると、愛は左手を空に伸ばし、太陽を握りしめるように拳を握り締めると、彼女はエマと会話したおかげか、ずっと悩んでいたものの答えをようやく得ることが出来たような気がした。

 

「ありがとうエマっち! 走ってくる!!」

「えっ!? 愛ちゃん!?」

 

そう言うと愛はソロアイドルとしての自分の道しるべを示してくれたかもしれないエマにお礼を述べると、彼女はエマの自分の名を呼ぶ声も聞かずに突然走り出したのだ。

 

(そういうことで良いんだ! 誰かに楽しんで貰うことが好き! 自分が楽しむことが好き!)

 

エマが教えてくれた、「みんなといる時、何時も楽しそうにしている」という言葉、「愛ちゃんが来てから、同好会のみんなの笑顔、すっごく増えてる」という言葉、それを受けて、愛は自分の目指すスクールアイドル像がどんなものなのか、分かった気がしたのだ。

 

(そんな楽しいを、みんなと分かち合えるスクールアイドル! それが出来たら、アタシは『道』なる『未知』に、駆け出していける!!)

 

そして、愛はとある公園の中へと走って行き、アスファルト地面を強く蹴ると、彼女は・・・・・・大きく飛び上がった。

 

(『ミチ』だけに!!)

 

そして・・・・・・愛の、今の自分の気持ちを溢れ出させるように、彼女はその場でゲリラソロライブを始めたのだ。

 

そんな今の彼女が歌う曲は、「サイコーハート」

 

彼女のゲリラソロライブ中には、いつの間にか侑達同好会のメンバーも集まっており、愛の歌が歌い終わると、彼女のライブを見た公園にいた人々は沢山の拍手を愛へと送っていたのだ。

 

(みんなと一緒・・・・・・。 ステージは、1人じゃない!!)

 

そこに溢れるみんなの笑顔を見て愛も笑うのだった。

 

「さいっこうー!!」

「・・・・・・凄いね、あれが愛ちゃんのステージなんだ」

 

また、そんな愛のライブを見た侑がボソッとそう呟くと、歩夢達は「えっ?」と一斉に侑の方へと視線を向ける。

 

「私、みんなのステージも見てみたい! 1人だけど、1人1人だからこそ色んなこと出来るかも! そんなみんながライブをやったら、なんかすっごいことになりそうな気がしてきちゃった!!」

 

そのように、どこかワクワクした様子で語る侑の姿を見て、彼方は思わず「なんか、侑ちゃんも凄いね」と言葉を返し、それに侑は不思議そうに「えっ?」と首を傾げる。

 

「・・・・・・負けてられませんね」

「燃えてきた・・・・・・!」

 

続けて、しずく、璃奈が呟くと、それに「うん!」と頷くエマ。

 

「そうだね!」

 

そして最後に、歩夢が侑の言葉に同意するように頷くと、自分達はグループではなく、ソロアイドルとして活動しやっていくことを彼女達は愛のライブを見たことで完全に決めるのだった。

 

「あっ、みんな~!!」

 

そこで愛が侑達の存在に気付くと、彼女は手を振りながら侑達の元へと走り、駆け寄ろうとするのだが・・・・・・。

 

その時だ。

 

突然、どこからか「ドスン!!」と巨大な音が周囲に鳴り響き、地面が大きく揺れると歩夢は身体のバランスを崩し、倒れそうになってしまうが、それを侑が倒れそうになった歩夢の身体を慌てて受け止める。

 

「歩夢!? 大丈夫!?」

「う、うん、ありがとう侑ちゃん・・・・・・。 でも、今のは・・・・・・地震、かな?」

「いえ、今のは地震というよりも何か・・・・・・、巨大な物が落ちたような・・・・・・」

 

歩夢は今の揺れは地震でも起きたのだろうかと首を傾げるが、せつ菜としては今のは地震というよりも巨大な何かが落ちたような感覚だったと述べ、それを聞いた愛とエマはお互いに顔を見合わせ、2人は「まさか・・・・・・」とある考えが脳裏に過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数分前の出来事。

 

「ぶえっくしょん! ちょっと今日花粉多くない? 花粉症にはきっついわぁ~」

 

今日は花粉が多いことに文句を言いながら、ゴモラを順調に運んでいた薫子が搭乗するセブンガーであったが、次の瞬間・・・・・・。

 

「グエッグス!!」

 

眠っていた時のゴモラが、くしゃみをしたのだ。

 

「・・・・・・おい、今・・・・・・。 ゴモラさん、くしゃみしなかったか?」

「・・・・・・しまし、たよね・・・・・・?」

 

ゴモラの輸送を見守っていたライと倉名は、ゴモラがくしゃみをしたのを見て互いに顔を見合わせると、ライの持っていた端末機から警戒音が鳴り響き、画面を確認するとゴモラのバイタルが急激に上昇していることが示されていた。

 

「えっ、これ! 隊長! これヤバイやつでは!?」

 

璃奈にある程度使い方を教わったこともあり、ゴモラのバイタル確認ぐらいはできるライだったが、やはり操作に慣れていない為か、ライは慌てふためくが、倉名に「落ち着け」と軽く頭を叩かれると、倉名は落ち着いて周辺の住民の避難をするようにライに指示を出す。

 

「お前は住民の避難活動を!」

「お、押忍!!」

 

倉名の指示を受け、ライはすぐさまこの辺りに残っている一般市民の避難をさせる為にすぐさまその場を離れて駆け出して行く。

 

「グルアックシュ!!」

 

そして、実は薫子と同じく花粉症だったゴモラが再びくしゃみをすると、ゴモラは目をゆっくりと開き、暴れ出すと同時にドローンでゴモラの身体を縛っていたワイヤーも千切れてしまい、ゴモラは地上へと落下。

 

「グルアアアアアア!!!!!」

 

ゴモラが目覚めたことで、クリヤマやバコさんのいる会議室でもパニックが起き、事務次長はゴモラを指差しながら「アレ起きてるんじゃ無い!?」と一体どうなってるのかとクリヤマ達に説明を求める。

 

「どういうことだこれは!?」

「ねえ、どういうことどういうこと!?」

「えっと、えっと、と、兎に角落ち着いてください! セブンガーが、薫子が対応してくれますので!」

 

バコさんは事務次長達に落ち着くように呼びかけ、ゴモラは花粉症のイライラからかビルを幾つか薙ぎ倒すと、ケーブルを切り離したセブンガーがすぐさまゴモラを押さえ付けようと飛びかかる。

 

「アンタも花粉症だったのね。 イライラする気持ちは分かるけどさ、落ち着きなって!!」

 

セブンガーは暴れるゴモラを後ろから押さえ付けようとするが、ゴモラはセブンガーを振り払いタックルを喰らわせて吹き飛ばしてしまう。

 

「おわああ!!?」

 

それによりセブンガーは怯み、ゴモラは続けざまに突進を繰り返してきたのだが、セブンガーはそれを両手でゴモラの角を掴むことで受け止めると、左手でゴモラを抑えつつ、右拳を振るってゴモラを殴り飛ばす。

 

「そっちがその気ならやってやるよ!!」

「グルアアアア!!!?」

 

さらにそこからセブンガーが両拳を前へと放ってダブルパンチをゴモラの胸部に叩きこむと、それを会議室の窓から見ていた事務次官達やクリヤマ達はゴモラに善戦するセブンガーに大盛り上がり。

 

「おおおお!! 良いぞぉ!!」

「イエーイ!!」

 

そのあまりの盛り上がりっぷりにクリヤマと事務次官はハイタッチまでする始末だった。

 

だが、そこでゴモラが大振りに尻尾を振るったことでそれを受けたセブンガーは吹き飛ばされて倒れ込んでしまい、ゴモラは倒れ込んだセブンガーを容赦なく踏みつけてくる。

 

「グルアアアアア!!!!」

「ぐぅ、こんのぉ!! パワーならセブンガーも負けんぞぉ!!」

 

セブンガーは自身を踏みつけているゴモラの足を掴むと、そのまま持ち前のパワーでゴモラを持ち上げて押し退かすとそれによって身体のバランスを崩したゴモラは今度は自分が地面へと倒れ込む。

 

「グルアアアア!!!?」

「おりゃあああ!!!!」

 

そこからセブンガーは倒れるゴモラに追い打ちをかけようと攻撃を仕掛けるが、ゴモラは尻尾を振るうことでセブンガーの右足を叩きつけ、足を取られたセブンガーは躓いてしまい、そのままセブンガーは歌舞伎役者のようなポーズを取りながら起き上がろうとしていたゴモラを巻き込んで諸共に倒れ込んでしまったのだ。

 

「おっとっとっと!! うわあああああ!!!!?」

 

その衝撃のせいで周囲のビルが傾き、クリヤマとバコさんは「何やってんだ・・・・・・!!」と顔を青ざめさせるが・・・・・・。

 

「おぉー!! カブキ・アタック!!?」

「すごい! あんな枠な必殺技まであるのか!」

 

しかし、何やら誤魔化せたようで事務次官達はなぜか大盛り上がり。

 

するとそこへセブンガーを押し退かして立ち上がったゴモラが今度はクリヤマ達のいるビルへと向かってきたのだ。

 

「まずい!! ゴモラがこっちに来てる!」

「そっちはダメ!! そっちはダメだっての!!」

 

それをセブンガーがゴモラを羽交い締めにして抑えようとするのだが、ゴモラは肘打ちを喰らわせてセブンガーの拘束を振りほどき、さらには振るったゴモラの尻尾攻撃を受けたことでセブンガーは身体中から火花を散らしながら大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「わあああ!!?」

 

それによって丁度セブンガーの時間制限である3分も経ってしまい、ゴモラは真っ直ぐクリヤマ達へと一直線に向かって行く。

 

だが、その時・・・・・・ビルの中にいるクリヤマ達と一瞬、目が合うとゴモラは突如動きを止め、それにクリヤマ達は突然動きを止めたゴモラに「どうしたんだ?」と不思議そうにゴモラを見つめる。

 

「あっ、まずい!!」

 

そこへ丁度住民避難を完了したライが、ビルに差し迫っているゴモラの姿を見て「ウルトラゼットライザー」を取り出すと、それのトリガーを押し、目の前に「ヒーローズゲート」を出現させてその中を潜り抜ける。

 

ヒーローズゲートの中へと入ったライは、「ウルトラアクセスカード」を手に取ると彼はそれをゼットライザーの中央に装填。

 

『ライ、アクセスグランテッド!』

「荒っぽい奴には、荒っぽいやつだ!!」

 

そう言いながらライは腰の腰のメダルホルダーを開き、そこから3枚の「ヒロインズメダル」を取り出す。

 

「困難を打ち砕く! 魂の一撃!!」

 

そこからライは3枚のメダルをゼットライザーのスリットを差し込む。

 

「響さん! 夕立さん! 友奈さん!」

 

さらにゼットライザーのブレード部分をスライドさせ、ライは3枚のメダルをゼットライザーに読み込ませる。

 

「押忍!!」

『ご唱和ください!! 我の名を!! ウルトラマンゼーット!!』

 

するとライの後ろに「ウルトラマンゼット オリジナル」が現れ、ゼットは両腕を広げながらそう言い放つと、ライはゼットライザーを掲げて最後にトリガーを押す。

 

「ウルトラマンゼエエエエット!!!!」

 

そして眩い光が走り、3枚のメダルが空間を飛び交うとライは下半身は黒、上半身はオレンジで両手に桃色の手甲のようなものが装着され、プロテクターが無くなり、「ゼット・オリジナル」にも近い状態の姿・・・・・・「ウルトラマンゼット エプシロンワイルド」へと変身する。

 

『ウルトラマンゼット! エプシロンワイルド!!』

『ウラアアア!!!!』

 

ゼットへの変身を完了させたライはゴモラを事務次官達のいるビルから引き離すように蹴り飛ばし、そのビルを守るように降り立つ。

 

「おぉ! ウルトラマンだ!!」

 

ゼットが目の前に現れたことで、事務次官はさらに興奮した様子を見せ、ゼットは「後は任せろ」とでも言うように事務次官達に頷いて見せると、立ち上がったゴモラに向かって駈け出して行く。

 

『ワイルドに吠えるぜ!!』

 

ゼットはゴモラに対してニーキックを叩きこむと今度は素早く後ろ回し蹴りをゴモラの腹部に炸裂させ、それを受けて後退るゴモラ。

 

「ギシャアア!!?」

『ジェア!!』

 

さらにゼットは空中へと飛び上がるとかかと落としをゴモラに繰り出すのだが、ゴモラは尻尾を横に振るうことで空中へと飛んだゼットを叩き落とし、ゼットは地面へと落下。

 

『ウアアアッ!?』

「ギシャアアアア!!!!」

 

そこへ地面に倒れたゼットをゴモラは蹴っ飛ばすと、蹴りつけられたゼットは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

『ウオオオッ!?』

 

蹴り飛ばされたゼットは再び地面に背中を激突させながらも、なんとか痛みを堪えて立ち上がろうとするのだが・・・・・・すかさずゴモラは立とうとするゼットに向かって頭部の角から強力な振動波を発生させて対象を粉々に粉砕する光線、「超振動波」を発射。

 

「ガアアア、グルアアアアア!!!!」

『ッ! ジュアアアア!!!!?』

 

ゼットはゴモラの超振動波の直撃をまともに受けてしまい、身体中から火花を散らしながら吹き飛び、ゼットは倒れ込んでしまう。

 

「グアックシュン!! ガアアアア!!!!」

 

くしゃみをしながらゴモラは顔を搔きむしるかのような動作をしつつ、倒れ込むゼットへと襲いかかり、無理矢理起き上がらせて羽交い締めにし、動きを封じるとゴモラはゼットの肩へと噛みつく。

 

『ウアアアッ!!?』

 

だが、そこへセブンガーから降りて事務次官達のいるビルとは別のとあるビルの屋上に辿り着いた薫子が20式レーザー小銃こと「LAR20」を持って現れると彼女はゼットを援護する為にゴモラの顔に向かって銃弾を撃ち込んでゼットを援護したのだ。

 

「顔が痒いなら、こいつで搔いてやるよ!!」

「グルアアアア!!」

 

ゴモラにとって、その程度の攻撃は大したダメージにはならなかったが、集中力を切らすだけの効果はあったようでゴモラは浴びせられる銃弾の鬱陶しさから思わずゼットのことを離してしまい、すぐさまゼットはゴモラから離れるとゼットは光のブーメラン、「エプシロンブーメラン」を作り出してそれをゴモラに向けて投げつけ、エプシロンブーメランはゼットと同じく起き上がったゴモラの身体を斬りつけるとゴモラは身体から火花を散らしながら片膝を突く。

 

『エプシロンブーメラン!!』

「ギジャア!!?」

『さらにこいつだ!! エプシロンブレイビングパンチ!!』

 

さらにゼットは右拳に桜色の光を纏わせると、そこから繰り出される強烈なパンチ「エプシロンブレイビングパンチ」を叩き込み、それを受けたゴモラは大きく後退る。

 

「グルアアアア!!!?」

『今だ!! ゼスティウム光せ・・・・・・!!』

 

ゼットはこのまま一気に押し切ろうと両拳を水平に胸の高さで構えた体勢から手刀をZを描くように切り開き、十字に組んで体内でスパークさせたエネルギーを相手に撃ち込む「ゼスティウム光線」をゴモラに放とうとするのだが・・・・・・。

 

「待って!! ウルトラマンゼット!!」

『ッ!?』

 

そんな時、突然聞こえてきたその声に、ゼットは思わず光線を撃ち込もうとするのを中断して声のした方へと視線を向けるとそこには愛の姿が確認でき、それにインナースペース内のライは驚きの声をあげた。

 

『愛!? なんでこんなところに・・・・・・!! 避難してなかったのか!?』

 

同好会が朝練のランニングに選んだ道のコースは、ここからはそれなりに離れている距離だった。

 

しかし、ゴモラが目覚めた以上、それなりの距離とは言え危険なことには変わりは無く、ライはてっきり今日の朝練は中止になり、愛は歩夢達と一緒に避難しているものだとばかり思っていたのだ。

 

そのため、ライはこの場に愛が現れたことに動揺し、インナースペース内で彼は愛に早くここから離れて避難するように叫ぶが、インナースペース内からではライの言葉は愛には届かない。

 

「お願い、ゴモラを倒さないで!! ゴモラは、悪い怪獣じゃないんだよ! それにゴモラは昔、アタシのことを助けてくれた怪獣なんだ!! だから・・・・・・お願い!!」

『・・・・・・どうする? ライ?』

『でも、このまま放っておく訳にはいかないし・・・・・・』

 

ゼットとライがゴモラに対してどう対応すれば良いのか分からず、困惑していたその時、愛は不意にゴモラの前に出て両手を広げながら、蹲った状態のゴモラへと呼びかけたのだ。

 

「ゴモラ!! お願い、大人しくして!! 花粉症で辛いだろうけど、それで暴れたらダメだよ!! あなたは・・・・・・私の命を救ってくれた、本当は心優しい怪獣・・・・・・。 だから!!」

 

ゴモラは愛の存在に気付くと、ゴモラはどこか懐かしんだかのような目で彼女の姿を見つめ、そんなゴモラの視線を感じ取った愛はゴモラも自分を覚えていてくれたのだということを直感で理解することができた。

 

ちなみに、なぜか愛がゴモラが花粉症だということを知っていたのかと言うと・・・・・・スマホのニュースで映像を確認したからである。

 

それでゴモラが先ほどからくしゃみをしていることもあり、愛はゴモラが花粉症にかかってそのせいで暴れてしまっているのだということを理解していたのだ。

 

「グルルル・・・・・・」

「愛さんのこと、あんな一瞬だけだったのに覚えててくれたんだ、ゴモラ・・・・・・」

 

そしてゴモラは「グッシュン!!」とくしゃみをしつつ、愛の想いが通じたのかその場に大人しく座り込むと落ち着きを取り戻し、それを見たゼット、ライ、薫子は「マジで?」とでも言いたげな表情を浮かべるのだった。

 

『取りあえず、愛がいればなんとかゴモラをスフラン島まで運べるかも!』

 

ゴモラをこのまま放置する訳にもいかない為、仮入隊中とは言えストレイジの隊員としては一般市民である愛にそんな協力を仰ぐのは気が引けるものの、あんな風にゴモラと通じ合ってるところを見るとゴモラをスフラン島にまで連れて行くには彼女の協力は必要不可欠。

 

花粉症の問題は後回しになってしまうだろうが、取りあえず先ずはゴモラをスフラン島に連れていかなくてはならないと考え、ゼットはゴモラに歩み寄り、スフラン島まで案内しようとするが・・・・・・。

 

「いや、倒せよ。 まだ俺はゴモラのメダルを持ってないんだからさぁ」

 

そこでゼットとゴモラの戦いの様子を、遠目で見ていたセレブロに寄生されたアイラがそう呟くと、彼はゴモラを機械化したような1つのソフビ人形のような物を取り出し、それを空中へと投げるとさらに小型銃のようなものを取り出し、銃弾を空中に投げられたソフビ人形・・・・・・「スパークドールズ」へと撃ち込む。

 

するとそのスパークドールズが紫色の輝きを放つと、スパークドールズは「ロボット怪獣 メカゴモラ」へと実体化し、ゼットやゴモラの前に出現したのだ。

 

「グルア!?」

『ッ!? なんだ!? 機械の・・・・・・ゴモラ!!?』

 

突如現れたメカゴモラに、ゼットやゴモラが動揺しているとその隙を突いてメカゴモラは指に内蔵されているミサイル、「メガフィンガーミサイル」を発射。

 

『愛!!』

 

それを見てゼットとゴモラは愛を守るように立ち塞がり、2体はメカゴモラの放ったミサイルの直撃を全て受けてしまった。

 

『ジュアアア!!?』

「ガアアアア!!?」

「ゼット! ゴモラ!?」

 

それにより、片膝を突くゼットとゴモラだが、ゼットは痛みに耐えながら愛を両手で優しく包み込み、手の平の上に乗せると立ち上がって彼女を安全な場所へと運んで降ろす。

 

「ゴモラ・・・・・・!」

 

その間にゴモラは雄叫びをあげながらメカゴモラに向かって行き、掴みかかってメカゴモラと取っ組み合いになるのだが、メカゴモラはゴモラの腹部に膝蹴りを叩き込み、ゴモラが蹲るとメカゴモラはゴモラの後頭部を殴りつけ、地面に叩きつける。

 

「ギシャアアア!!!?」

『グルアアアアア!!!!』

 

そのままメカゴモラがゴモラの背後に回り込むと、メカゴモラはゴモラの尻尾を掴み、ジャイアントスイングを繰り出してゴモラを投げ飛ばす。

 

その際、勢いのあまりゴモラの尻尾がブチッという音を立てて千切れてしまい、メカゴモラはゴモラの尻尾を投げ捨てると倒れたゴモラを蹴っ飛ばし、メカゴモラの攻撃を受け、弱った状態のゴモラに口から熱線を発射する「ビームバスターメガ」を放とうとするが・・・・・・。

 

「危ない!! ゴモラが!!」

『任せろ愛! させるかよぉ!!』

『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』

 

そこへ「アルファエッジ」に姿を変えたゼットが2体の間に割って入り、光で2本のゼットスラッガーを繋ぎ、ヌンチャクのように振り回して敵を切り裂く「アルファチェインブレード」でメカゴモラのビームバスターメガを防ぎ、攻撃を耐え凌ぐと素早くゼットはメカゴモラへと接近。

 

メカゴモラに近づいたゼットはアルファチェインブレードでメカゴモラの身体を斬りつけ、高熱火炎を纏った両足で連続回し蹴りを繰り出す「アルファバーンキック」を連続でメカゴモラに叩きこんで来たのだ。

 

『ガアアア!!?』

 

ゼットからの攻撃を受けて怯むメカゴモラだが、体から放たれるミサイル、「メガボディーミサイル」を先ほどのメガフィンガーミサイルと合わせて放ち、ゼットはアルファチェインブレードを高速回転させて再び盾として使用するが、先ほど同じ「ビームバスターメガ」がさらに放たれ、ゼットはそれもチェインブレードで防ごうとしたが、流石に全てを受けきることは出来ず、ブレードが弾かれてそのまま全ての攻撃がゼットに直撃してしまう。

 

『ウアアアアッ!!?』

 

さらにメカゴモラはゼットに向かって突進を繰り出し、ゼットはそれを両手で受け止めるのだが、パワーでは圧倒的にメカゴモラの方が上であり、ゼットはたまらず突き飛ばされてしまう。

 

『ジュアアアッ!!?』

 

それによってゼットは倒れ込み、その時の衝撃でビルの屋上に立っていた薫子もまた転んでしまうのだが・・・・・・その時、彼女は偶然にも持っていた初代ウルトラマンが描かれたウルトラメダルを落としたのだ。

 

『ぐっ、こいつパワーも相当ウルトラヤバイな・・・・・・。 って、んっ? あっ! アレは、ウルトラマンのメダル!?』

 

だが、起き上がった際にゼットは薫子がウルトラマンのメダルを落としたことに気付き、ライは「ウルトラマン?」とゼットの言葉に首を傾げる。

 

『俺達みんなの兄さんみたいな、ウルトラ凄い人だ!』

 

あれ? ゾフィー兄さんは・・・・・・。

 

『あれがあればメカゴモラのパワーにも対抗できる筈でございますよ、ライ!! あの娘からメダルを貰おう!!』

『でも、どうやって貰うんすか!? この状態で薫子先輩と会話ってできるんすか!?』

 

そうしている間にもメカゴモラがゼットへと殴りかかり、それを受けたゼットはフラつくがなんとか正拳突きを繰り出してメカゴモラの顔面に叩き込み、額のビームランプから超高熱の破壊光線「ゼスティウムメーザー」をメカゴモラに撃ち込んで引き離すと、今の内にゼットは薫子のいるビルへと近づく。

 

『ジェア! ジュア!! ジェア!!』

 

ゼットは薫子にウルトラマンメダルを渡すように彼女に頼むのだが、やはりと言うべきか言葉が通じている様子は無く、薫子はそんなゼットに困惑しながら「えっ? 私?」と自分を指差す。

 

『やっぱり言葉通じてないじゃないですかゼットさん!?』

『よし! こういう時は気合いとボディランゲージだ!!』

『えっ? えっと、お、押忍!! 薫子先輩!! その、メダル!! メダル!!』

 

ゼットは両手で丸を囲むような動作で必死にメダルのことを伝えよとするのだが、やはり薫子にはイマイチ伝わっていないようだった。

 

「そんな丸の描き方じゃダメだよ!! もっとまんまるじゃないと!!」

『あれ今誰かいませんでした!?』

『えぇ? いや、別にいなかったと思うけど・・・・・・それよりメダルだメダル!!』

 

ゼットは尚も必死にメダルを渡してくれとボディランゲージを続けていると、そこでようやく薫子はゼットがメダルを渡してくれと頼んでいることに気付き、彼女はメダルを拾いあげると「もしかしてこれが必要なの!?」と彼女はゼットに尋ねると、ゼットは力強く頷く。

 

「よーし、分かった!! どーぞー!! っと」

 

ゼットの求めている物が何か分かった薫子は、メダルをゼットへと投げ渡すと、ゼットはそれを右手で受け取り、メダルはインナースペース内のライのメダルホルダーの元にまで届く。

 

『よし、ライ! ウルトラフュージョンだ! 真っ赤に燃える勇気の力、手に入れるぞ!!』

『押忍!!』

 

ゼットの言葉にライは頷くとメダルホルダーから新たに3つのメダルを取り出す。

 

『マン兄さん、エース兄さん、タロウ兄さんのメダルだ!』

『おっしゃあ!! 真っ赤に燃える!! 勇気の力!!』

 

それぞれに描かれたウルトラマン達の名前をゼットから教えて貰うと、ライはゼットライザーのブレードの位置を戻し、メダルを3枚入れ替える。

 

『マン兄さん! エース兄さん! タロウ兄さん!』

 

そのままライはブレードをスライドさせ、3枚のメダルをスキャン。

 

『ウルトラマン・エース・タロウ!』

 

するとインナースペース内にいるライの後ろにゼット オリジナルが現れ、両腕を広げる。

 

『押忍!!』

『ご唱和ください、我の名を!! ウルトラマンゼーット!!』

『ウルトラマンゼエエエエット!!!!』

 

最後にゼットライザーを掲げ、トリガーをライが押すと、その空間の中をメダルに描かれた「初代ウルトラマン」「ウルトラマンエース」「ウルトラマンタロウ」の3人の戦士達が飛び交う。

 

『ヘアアッ!!』

『トアアッ!!』

『タアアッ!!』

 

そしてゼットはウルトラマン、エース、タロウの力を融合させた姿・・・・・・ボディは赤がメインカラーでパワータイプらしく筋肉質な体型へと変わり、目の周りを赤いマスクで覆われた覆面レスラーのような顔となったパワーに特化した形態、「ウルトラマンゼット ベータスマッシュ」へとウルトラフュージョンを完了させたのだ。

 

『ウルトラマンゼット! ベータスマッシュ!』

「おー! 今回は赤い!めっちゃ強そう・・・・・・! っていうかあれ赤いアイツじゃ・・・・・・?」

 

愛がベータスマッシュの姿を見て何か言っていたが、一応言っておくが赤いアイツではない。

 

もう1度言う、決してあの赤いアイツではない。

 

『ウルトラマンゼエエエエット!! ベエエエタスマアアアアッシュ!!!!』

 

そして、ベータスマッシュへと姿を変えたゼットは空中で何度も身体を回転させた後、強烈なドロップキックをメカゴモラへと叩きこんだ。

 

『グルアアア!!?』

『スリイイイ!! ツウウ!! ワアアン!! ダアアアア!!!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンゼット ベータスマッシュ」

 

メカゴモラを蹴り飛ばしたゼットは、雄叫びのような声をあげながらポーズを決めるとトンカチを握った人の描かれた看板がポロッと落ち、それが偶然にもすぐ傍で横たわっていたセブンガーの頭に当たると「カーン!」とまるでプロレス開始のゴングのような音が辺りに鳴り響く。

 

『ギシャアアア!!!!』

 

直後、メカゴモラはゼットに攻撃を仕掛けようと突進を繰り出し、それに対してゼットはタックルをメカゴモラに喰らわせる。

 

『グルウ!』

 

体当たりを受けたメカゴモラは多少怯むものの、負けじとゼットの胸部にチョップを繰り出し、ゼットは敢えてそれを胸を張って大胸筋で受けると、今度は仕返しとばかりにゼットの強烈なチョップがメカゴモラの胸部に何度も叩きこまれる。

 

『ダア!! ダアア!!』

『グウウウ!!? ギシャアアア!!!!』

 

すると今度はメカゴモラは尻尾を振るってゼットへと攻撃を仕掛けるが、ゼットはそれを跳び上がることで躱すと後ろ回し蹴りをメカゴモラの腹部へと決め、メカゴモラは後退った。

 

『ギシャアアア!!!!』

 

メカゴモラは鎖付きのロケットパンチ「ナックルチェーン」を放ち、ゼットの両腕を拘束し、メカゴモラはナックルチェーンを操ってゼットを引き寄せると、角でゼットの胸部を突き、それを受けたゼットは苦痛に満ちた声を挙げながら片膝を突く。

 

『ヌアア!!?』

 

しかし、それでもすぐさま立ち上がったゼットは今度は逆に自分がこの鎖を利用してやろうと思い、鎖の部分を掴みあげると力強くそれを引っ張り、メカゴモラを引き寄せる。

 

『グルアアア!!?』

 

引き寄せられたメカゴモラはゼットの反動を利用したドロップキックを再び受けて吹き飛ばされると、その拍子に拘束もあっさりと解けてしまい、地面へと倒れ込だ。

 

『コイオラアア!!』

 

ゼットは倒れるメカゴモラに対して「かかってこい!!」とでも言うような挑発的な動作を見せ、メカゴモラは立ち上がると同時に不意打ち気味にゼットに右胸のビームランプから発射されるビーム「クラッシャーメガ」を放ち、諸に直撃を受けたゼットは電線にぶつかり、身体に電流を受けてダメージを受けてしまう。

 

『ウアアオオ!!?』

 

その間にメカゴモラが電柱を引っこ抜くと、それを鈍器の武器のようにしてゼットへと殴りかかり、ゼットはそれを又もや大胸筋で受け止める。

 

『グウウ!? デュアア!!』

 

しかし、ゼットはメカゴモラから電柱を奪い取って地面に投げ捨てると、右腕に力を込めて強烈なパンチをメカゴモラの顔面に見舞ったのだ。

 

『グルアアアア!!!!?』

 

ならばとメカゴモラは角から強力な光線、メカゴモラ版超振動波こと「メガ超振動波」を放つが、対するゼットもそれを巨大な三日月状の光のカッター「ベータクレセントスラッシュ」を放つことで相殺。

 

『ベータクレッセントスラッシュ!!』

 

それにより両者の間で爆発が起こるのだが、ゼットは爆発の影響で起こった煙の中を通り抜けて一気にメカゴモラに接近すると、拳にエネルギーを纏い、敵を打ち上げるようにして殴り飛ばす「ゼスティウムアッパー」をゼットはメカゴモラへと繰り出した。

 

『ゼスティウム!! アッパアアアア!!!!』

『グル!? ギシャアアアアアアア!!!!?』

 

それを受けて殴り飛ばされたメカゴモラは身体中から火花を散らし、最後は空中で爆散して粉々に砕け散ちるのであった。

 

「おっしゃあ!!」

「おお~!! やったぁ!! ありがとうウルトラマンゼットー!!」

 

ゼットがメカゴモラを倒すと、薫子はゼットの勝利に喜び、愛は色々と助けてくれたゼットに感謝の意を示すのだった。

 

「ふむ・・・・・・。 メカゴモラは失ったが、これでゴモラの細胞は手に入ったも同然だから、今日は良しとするか・・・・・・」

 

しかし、ゼットが勝利という結果に終わったものの、メカゴモラはゼットに倒されはしたがアイラは特に悔しそうな様子は見せず、千切れたトカゲの尻尾のように、しばたくビタンビタンと動いていたゴモラの尻尾を見つめながらそう呟くと彼は静かにその場を去って行くのだった。

 

「キエテ、カレカレータ。 さて、怪獣の残骸を回収する仕事をしなくてはな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、メカゴモラに攻撃を受けたゴモラは命に別状はなく、愛の協力を経てどうにかゴモラをスフラン島にまでセブンガーで誘導することが出来、ゴモラは今、なるべく木々などがない岩ばかりの場所で璃奈の作ってくれた巨大なマスクを頭の角に引っかけることで装着し、花粉症の問題等はほぼ解消もされた状態で平和に暮らすこととなった。

 

そのため、当初の予定通りゴモラ輸送作戦は一応の成功とも言えなくも無いが、結果は微妙なものとなってしまい、結局セブンガーはゴモラに勝てなかったことなどもあり、事務次官達に情けない姿を晒してしまったと思った倉名、ライ、薫子はそのことにストレイジ本部でクリヤマに頭を下げ、謝罪していた。

 

「「「申し訳ありませんでした!!」」」

「作戦成功・・・・・・とは言えないような微妙な結果を残してしまいました!」

「その上、セブンガーもゴモラに負けちゃって・・・・・・」

 

ライと薫子はクリヤマに反省の言葉を口にするものの、なぜかクリヤマは特に怒っているような様子は無く・・・・・・。

 

「いや、まぁ・・・・・・。 それなんだがね・・・・・・」

 

なんでも、クリヤマが言うにはメカゴモラに敗北こそしたものの、それでもウルトラマンにゴモラが善戦したことを考えると、セブンガーがあそこまでゴモラ相手に戦えたことはむしろ称えるべきことだと事務次官はクリヤマに言っていたらしい。

 

 

 

 

 

 

『凄いですなぁ、セブンガーは。 ウルトラマンですらあんなに苦戦したゴモラ相手に、大健闘だったんじゃないんですか? この調子でいけば、何時かウルトラマン以上のロボットを開発することも可能なんじゃないんですか?』

『えっ、それでは・・・・・・』

『私の権限で、必ず・・・・・予算を出しましょう』

 

事務次官はセブンガーの健闘っぷりを称えながらそう言ってクリヤマに手を差し伸べると、クリヤマはその手を握りしめ握手を交わすと彼は感激のあまり何度も事務次官に頭を下げたのだった。

 

『ありがとうございます!! ありがとうございます・・・・・・!!』

 

 

 

 

 

 

 

「ってことは、これで2号ロボが完成するんすね!?」

「おー!! これは璃奈ちゃんも喜ぶなぁ!! 早速連絡してあげよう!!」

 

2号ロボ開発の予算が降りたことで、ライ達は飛び跳ねるように喜び合うのだった。

 

「まぁ、確かに勝てはしなかったが、勇敢な戦いっぷりだったよ。 これからも、君たちには期待してるから」

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、そんな感じで丸く収まった訳なんだけど・・・・・・。 何より当初の予定通りゴモラをスフラン島に運べたのは愛のおかげだよ。 2号ロボの予算が降りたのも愛がゴモラの誘導に尽力してくれたところもあると思うし、本当にありがとうございました!!」

 

その翌日、ライは学校の通学路を歩きながら途中で偶然合流し、一緒に登校することとなった愛に彼女のおかげでゴモラをスフラン島にまで運べ、2号ロボの開発予算が降りたのも少なからず愛の助力もあったからだとライは彼女に頭を下げてお礼を言うと、愛は照れ臭そうな表情を浮かべる。

 

「や、やめてよライ! そんな大袈裟な! 愛さんは別に大したことはしてないよ!」

「それでもありがとう。 それにしても、あそこまで人間に友好的な怪獣って案外いるもんなんだな・・・・・・」

 

思い返せば、ゴモラが一瞬事務次官達のいたビルで動きを止めたのは建物の中に彼等がいたことに気付いたからだろう。

 

愛をメカゴモラの攻撃の余波から守ったこともあり、これまで人間友好的な怪獣が全く確認できなかった訳ではないがゴモラはそこまで大人しい怪獣のイメージが無かったのでライはどこか意外に感じていたのだ。

 

「あー、でも結局ゴモラに恩返し出来なかったかー。 ゼットにも助けられたし、やること増えたな~」

「んっ? なんの話?」

「いやー、ライっていうか、ストレイジにちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・・・・まぁ、それはまた今度話すね!」

 

愛の呟きにライが首を傾げながらなんの話をしているのだろうかと問いかけると、愛は「また今度話す」と返し、2人は学校へとそのまま向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・その後の学校の放課後、同好会の部室にて。

 

「歩夢! さいっこうに可愛いね! 高2だけに! 走るのってランランするよね! ランだけに!」

「あはははは!! あはははは!!」

 

部室では愛がなぜか自分の考えたオヤジギャグをみんなの前で披露しており、それを聞いていた侑はお腹を抱えて大爆笑。

 

「次は同好会でどーこういこうかい!?」

「あはははは!! もう、もう許して!!」

「凄くウケてますね・・・・・・。 不破さんみたいです」

 

床を叩きながら笑い転げる侑にせつ菜は少しばかり驚いた様子でいると隣に座る歩夢もそんな侑の姿を見て思わず苦笑した。

 

「侑ちゃん、幼稚園の頃からずっと笑いのレベルが赤ちゃんだから・・・・・・」

「なんでいきなりダジャレを?」

 

急にオヤジギャグを言い出した愛に、かすみはなぜいきなりダジャレを始めたのかと問いかけると、愛は笑いかけながら応える。

 

「スクールアイドルの特訓だよ!」

 

そんな愛の姿を見て、エマは微笑みを向けると・・・・・・彼女は一瞬、何か考え込むような表情を見せ、窓の外の空を見つめるのだった。








ゴモラに救済ルートがあっても別に良いよね?
ライが輸送作戦の時にセブンガーに乗らなかったのはまだ仮入隊中の身であること、ギガス戦でヘマをしたことから倉名がもう少し訓練した方が良いかもしれないと判断した為です。
その結果、花粉症にかかる役割は薫子先輩に。
ところで、書いてて気付いたんですけど、エママの「昨日はソロアイドルって聞いて~」の台詞なんですが、明らかに2日経ってる描写があるので「それを言うなら一昨日では?」と思ったんでここは普通に台詞差し替えてます。
ちなみにセレブロがメダルじゃなくスパークドールズを使用したのは怪獣メダルは消費したくないんじゃないかなぁっと思ったからです。
尚、メカゴモラのSDはマーキンド星人から買い取ったものの模様。


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