宮本武蔵の師匠 (主義)
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思い出

一話目では師匠は登場しません。


 

「そう言えば、武蔵ちゃんは何でそんなに強いの?」

 

私が昔のことを思い出すようなきっかけはそんな立香ちゃんからの唐突な質問だった。

 

 

「...何でと言われてもな....」

 

 

「じゃあ、質問を変えて武蔵ちゃんは何で武士になろうと思ったの?」

 

 

「私に剣を教えてくれた人が...とてもカッコよかったからかな」

 

今の私を見たらあの人はなんて言うんだろう。もしかしたら、物凄く怒られるかもしれないし、褒められるかもしれない。気まぐれな人だったからまるで想像がつかないな。

 

 

「武蔵ちゃんに剣を教えた人なんて居たの!!!!」

 

立香ちゃんは私から見るとオーバーリアクションのように驚いていた。そこまで驚くような事かなと私が思ってしまうほどに。

 

 

「それは勿論いるよ。私だって生まれた時から強かったわけじゃないよ。それにあの人に会うまでは武士になる何て考えもしていなかったからね」

 

あの頃は女が武士なんてあり得ないという感じだったり私自身もそんなに武士への憧れはなかった。それにどうせ憧れたとしても私は女だし、なる事は出来ないと思って諦めていたからね。

 

 

「そうだったんだね。武蔵ちゃんの師匠か.......一体どんな人だったの!??」

 

さっきまで考えていたかと思いきや急にぐいぐいと師匠について聞いてきた。そんなに興味を引くような話題だったかな。まあ、別に話して損するような話じゃないから話しても良いけど....。

 

 

「うう~ん...優しい人だったかな。私が覚えている限り一度ぐらいしか師匠が声を張り上げたのを聞いた事なかったし、笑顔が誰よりも似合うような人だったからね」

 

笑顔が似合うと言ってもあまり笑顔を見せるような人では無かったんだけどね。本人が言うには元々、自分は表情が良く変わるような人間ではないらしい。でも、だからこそ時々見せる師匠の笑顔はとても魅力的だった。

 

 

「ふ~ん....」

 

マスターは何故か私の顔を見ながらにやついている。何か私の顔に付いているんだろうか。

 

 

「武蔵ちゃんにとってその師匠はとても大切な人だったんだね。だってお師匠さんの事を話している時の武蔵ちゃん、とても良い笑顔をしているもん」

 

 

「そうかな.........でも、確かに大切な人。私が出会ってきた人の中で一番大切な人」

 

彼の腕は今の私でも勝てないかもしれいぐらいに強かった。だから英霊として召喚されたとしてもおかしくないと思っていたけど現実問題、召喚されていなかった。そこで初めて私は師匠について知らないと思った。

 

師匠がどんな風に生きてきたのかについて何も知らない。師匠と最後に会ったのは私が15歳ぐらいの時だった。その頃の私は師匠と会えるだけで嬉しかったから師匠の事について聞いた事はなかった。別に知っているからと言って召喚が出来るわけではないけど.....自分の師がどんな風に生きてきたのかを聞いておくことを決して損にはならない。

 

 

「じゃあ....再会できるといいね」

 

マスターは満面の笑みを浮かべていた。私が師匠と会えることを心の底から願っているような感じだった。このマスターは私たちの事を本当に大切に想ってくれているのだと改めて感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、サーヴァントは夢を見ないはずなのだが....夢を見た。幼い私が師匠に教えを受けている一場面だった。そこ頃の私はとても笑顔でいつまでもあの幸せが続くと思っていた。あの無邪気で何もかもが幸せだった時代。

 

あの時、あの瞬間に私があの場にいたら何か変わったのだろうか。

そう考えた日もあったけど今はその事について考えないようにしている。その事について考え始めると自分の事を一生恨んでしまうから。これ以上、自分が自分を嫌いにならないためにも私は考えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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召喚

全然、進んでいません。すみません


それからいくらかの時間が経ち、あるサーヴァントが召喚されたという話が入ってきた。そしてそのサーヴァントは剣士らしく剣を持っており首筋に怪我をしている。私はそれを聞いてすぐにそのサーヴァントが今、どこにいるのか聞いた。

 

 

私の予想通りならその人物は.....。

そして場所を聞き出してすぐにその場所に歩みを進めた。私の予想通りであって欲しいと思わずにいられない。一分一秒でも早く確かめたい。

 

私がその場に着くとその場は人だかりができていた。新しいサーヴァントが来るとこんな感じになる。皆がどんなサーヴァントが来たのか確かめに来る。そして人だかりができる。

 

 

私は人をかき分けながら中央へと入っていくとそこには生前よく見た姿ではないが確実に自分の師だった。私が会った時はもう50歳~60歳ぐらいだったからかなりダンディな感じだったけど今、自分の目の前にいるのは見るからに20代な感じの好青年だった。だけどあの特殊な不意気やあの首筋にある大きな傷は師で間違いない。これでも長い間、師と一緒に暮らしてきた私がそう思う。

 

 

師も少し戸惑いながら皆の相手をしていると一瞬、目があった気がした。その目には最後に見た何者も寄せ付けない感じの威圧しているような目じゃなくて最初に会った時のような穏やかな目だった。

 

そうだ....師匠はあんな風な目をする人だった。だから誰からも慕われてて愛されているような人。そして私も師匠のような人になりたいと思っていた。

 

 

 

 

その日、私は声を掛ける事は出来なかった。もしかしたら私の事なんて覚えてないかもしれないし、私の事なんて弟子だと認めないと言われるかもしれない。だって私は最後に師匠の願いを踏みにじったんだから。そう言われたとしても仕方ない。

 

 

 

 

そう思うと声を掛けられない。誰よりも慕っていて凄いと思っていた人から忘れられたり認められないと言われる辛さは想像を絶するだろう。その痛みに私が耐えられるとは思えない。肉体の痛みはいつか治るが精神や心の痛みは一生癒えないかもしれない。

だって自分の原動力は師に認められたいと思う気持ちなんだから。

 

そんな風に思っていると時間は無情にも過ぎていく。師匠がサーヴァントとしてカルデアに来て一週間が経った。

 

マスターはここ一週間の私を見て心配したのか何度か悩みでもあるの?と聞いてきた。それに私は「何でもないよ」と作り笑いで答える。マスターに無用な心配をさせるわけにはいかない。私の問題は私が解決するのが当たり前だ。人に頼らないでこれに関しては解決しないと。それに只、今回は私の勇気がないだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は本格的に師匠が出てきます。


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真実

辨助とは宮本武蔵の幼い頃の名です。


僕は見たこともないような部屋で目を覚ました。最初は何が何だが分からなかったけど..マスターという人が懇切丁寧に説明してくれたので大体の状況は把握する事が出来た。だけどまさか死んでもなお、闘う羽目になるとは.....。

 

 

最初にこのカルデアというところに来た時に僕の弟子のような顔が見えたんだけど気の性だったのかな。マスターに一応、辨助(べんのすけ)という奴がいるか聞いてみたけどいないって言っていたから僕の勘違いだったんだろうけど....それにしては似ていた気がするんだよな。僕が面倒を見ていたのは子供の頃だったから顔立ちとかに確証はないけど...僕が弟子を見間違うわけはないと思うんだよな。それにあちらも声を掛けてくるような感じは無かったからやっぱり僕の見間違いだったんだろうな。

 

 

 

ここに居て考え事をしたとしてもきりがないし食堂にでも行ってみるか。英霊に食事はいらないけどやはり人間だった頃の習慣は簡単に抜けるものではなくて...一週間たった今でも一日に行ける時は三度ぐらい食堂で食事を取っている。料理を作って貰っているエミヤという英霊は「一人分ぐらい多くなかったとしても変わらないから大丈夫だ」と言って快く料理を作ってくれている。だけどいつまでもお世話になるのも悪いからそろそろ自分で作れるようにしないといけないかもしれないな。

食堂へと向かう途中で僕は前から来る人影に気付いた。最初は..知らない英霊だと思っていたけど距離が近くなってくるとその顔に見覚えがある事に気付いた。相手も僕に気付いたのか一瞬..驚いたような顔をした。

 

 

「間違っていたら悪いんだけど君は辨助(べんのすけ)じゃないか?」

 

 

「違いますよ。人違いじゃないですか」

 

僕は彼女の腰に差してある刀を見て確信を持った。

 

 

「いや、君は辨助(べんのすけ)。だってその腰に差してある刀は僕が使っていた世界に一本しかない刀。それを持つことが出来るのは僕が託したものだけだ」

 

僕が死ぬ五年ほど前に死期を悟った僕は懐刀を誰かに託すことにした。弟子はたくさんいたけどこれを託して大丈夫なのは僕の中では辨助(べんのすけ)以外には思いつかなかった。ちょっと問題な一面もあるが剣術に関しては問題はないし性格も優しい。この子ならこの剣を渡しても大丈夫だと思った。

 

 

 

 

 

そして彼女もさすがに言い逃れが出来ないと思ったのか深呼吸をして僕に目線を合わせることなく言った。

 

 

「.....師匠は私の事を恨んでいるじゃないですか....」

 

 

「恨んでいる?」

 

 

「..だって私は師匠から大事な剣を託してもらったのに..裏切ってしまった」

 

 

裏切られた.....僕が忘れているだけかな。物覚えは決して悪い方ではないと自負しているんだけどな。

 

辨助(べんのすけ)が僕を裏切った.....何かそんな事あったか?」

 

 

「師匠は最後まで私が武士として生きる事に反対していた。なのに私はそれに耳を貸すことなく武士になってしまった」

 

 

なんだ...そんな事か。僕はもっと重大な事かと思っていた。

 

「な~んだ。そんな事か。僕は確かに君に武士にならない方が良いと言った。だけど君の性格上そう言ったところで止まらないのは分かっていたことだよ。それに僕の一言だけで止めるようならそれは自分の意志が弱すぎるしね。まあ、武士として生きて欲しくなかったのは本当だけど..僕は君が思うほどその事を重大には考えていないよ」

 

 

あんな..何でも笑い飛ばしていた辨助(べんのすけ)がそんな事を気にしていたとは驚きだ。元々、師匠の言う事をそこまで聞く子ではなかったから別にあれも何とも思っていないと思っていた。

 

 

「...師匠...死んじゃったし...もしかしたら私の事を恨んでたかもと思ってたから」

 

 

「はぁ~そんな事を気にしなくて良い。大丈夫だから。僕は君の事を弟子として認めてるし恨んでいないから」

 

 

 

僕は彼女を抱き寄せ頭を撫でてあげながら言った。子供の頃はこうすると喜んでいたがさすがに大人になっている今は嫌がられると思ったがどうやらそうでもないらしい。

 

その後、正確には分からないけど何分かの間この体勢が続いた。



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