ゲーム世界の敵キャラに憑依したから死なないために奮闘する (赤山大和)
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プロローグ
―――朝、目が覚めると世界が 変わっていた。
これは冗談でも夢でもない。
ホコリだらけのアパートの自室で寝ていたはずなのに豪奢なベッドで寝ていたのだから。
鏡が見当たらないが固く厚くなった手のひら。
灰色に見える髪。
これは俺の体ではないという思いとこれは俺の体だという思いが混ざる
混乱する俺の頭には2つの記憶が浮かび上がる。
1つは現代の日本で生きていた『霧島直哉』としての記憶。もう一人はこの体の持ち主であるゲオルグ・ガーゼンとしての記憶だ。
霧島直哉の記憶ではこの男、ゲオルグ・ガーゼンは18禁ゲーム『八王戦乱記』の物語の中盤でルートかサブイベントの進行によって戦う事になる敵キャラだ。
地方領主のガーゼン伯爵家の長男で次男と次期当主の座を賭けて争う。
現当主である父の正妻から産まれた次男と側室から産まれた俺の次期当主を賭けた争い。
それによって荒れた領地や犠牲になる領民の姿を見た三男であり父と使用人の間から産まれたアルト・ガーゼンが友人である主人公に協力を求め、アルトを新しい領主にすべく主人公達に倒される。
もしくは、ゲオルグの婚約者であるエリス・バールが主人公のサブヒロインの一人となる過程のイベントで敵対して倒される。
…………改めて思うと主人公の行いに問題があるな。
事情を考えずに領民が困っているから手を貸してという三男の言葉で此方を攻撃したり、人の婚約者を自分のヒロインの一人にすべく倒したりと。
まぁ、今はいい。
それよりも考える事は今後どうするかだ。
まず、現在の俺は15歳。
来年には物語の前半の舞台である学園に入学する。
主人公が入学するのは三男のアルトと同じ歳。
アルトが一年の時に俺は三年のはずだから原作開始までは三年の猶予がある。
その間に生き残るための基盤が必要だ。
戦乱の世になるのだから強くなることは必須。
強くなる方法に関しては原作の知識を元に考えるとしてだ。その為に何をするかだ。
今の俺は学園の入学に向けて鍛練、レベル上げに勤しむ予定であった。入学した時点でレベルが低ければ馬鹿にされたり強者に媚びる必要がでるから貴族としては必要な事。
ならば家を出てこの一年で強くなれるだけ強くなるべきだ。
そうなると思いつくのはダンジョンの攻略か。
この領地にはダンジョンが1つ。それほど離れていない隣の領地にもう1つ。それに、ゲオルグ関連のサブイベントを終えた時に手に入る報酬やアイテムで手に入れられる物が幾つかある。
物語の中盤で手に入るそれらを初期から手にすれば今後はかなり楽だろう。
問題は戦力か。
ダンジョンの攻略は当然力がなければ出来ない。
それにこの領地ではオーク等のそれなりに強いモンスターも出る。それに対する戦力をどうする?
…………………金が有ればいけるか?
このゲームでは奴隷がいる。
サブヒロインに奴隷として購入するキャラが何人か。
それに戦争パートでは奴隷部隊を戦力にもできた。
ならば、奴隷という戦力でダンジョンの攻略が可能なんじゃないか。
それにイベントとアレを手に入れられれば。
悪くないか?
ならば後はどうやって金を得るかだ。
今まで貯めていたお金や今回の支度金だけでは不安だ。
何かお金になりそうなモノは………アレを売るか。
アイツも喜んで買うだろう。
そうと決まれば後は………
コンコンッ
ドアを叩く音に思考を切り替える。
「入れ」
「失礼します。おはようございますゲオルグ様」
入ってきたのは俺の専属のメイドである少女カタリナだ。長い銀色の髪に褐色の肌。
この辺りの地域では珍しい色合い故に忌避されていた所を拾った俺が信頼し俺に忠誠を誓うメイド。
原作での行いとゲオルグとしての知識からして裏切る事はないだろう。
「ああ、おはようカタリナ」
「こちらが本日の朝食となります」
そういってサンドイッチの載せられた皿を机に置き、俺の衣服に手を掛ける。
着替えさせ易いように立ち上がり彼女に身を任せる。
俺の着替えを同じ歳の少女にさせる事に気恥ずかしさを覚えるがこれまでやってきたことだから急に変えるというわけにはいかない。
しかし、次期当主の俺に付いているメイドが一人だけで食事も自室でと。
やはり、跡目の争いはこちらの状況が悪い。
側室である自分の母親が既に死んでいるというのも大きい。原作で二番目の弟と拮抗したのはゲオルグの実力と学園でのやらかしで弟の元を離れた奴が多かったからなのだろうしな。
やらかしていない今の弟の支持者はこの屋敷のほとんどだ。
さて、どう動くかな、
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弟と話し合い
朝の食事を終えた俺は今後の行動を決める。
先ずはこの屋敷から出て行くとする。
「カタリナ。これからこの屋敷を出る。別荘へ向かうつもりだ。準備を頼む」
「ゲオルグ様。それは………」
俺の言葉に戸惑うのはわかる。
別荘と言うのはこのガーゼン家の所有する領地の隅にあり、跡目争いに負けたり罪を置かしたガーゼン家の一族の者を幽閉する為の場所だ。
俺が弟と争い敗れたのならばそこに幽閉される事になる筈の場所に今から向かうと言うのだからな。
もっとも、今後のアイテムの回収や物語を考えれば悪くはない選択なのだ。
なんと言っても彼処には隠しダンジョンがあるはずでそこには欲しいアイテムが幾つもある。
俺の決意が硬いとみたのか荷造り任せたカタリナを横目に部屋を出る。
当主である父と弟には話を通さないとだからな。
廊下を歩いて暫くすると運良く弟であるギムルと出会う。弟は俺とは違い父と同じ水色の髪で少しばかり太っていたりする。
「おや、兄上一人とは珍しい。いつも一緒にいるメイドはどうしたのですかな」
ギムルの後ろには何人ものメイドが侍りそれはこの屋敷での俺と弟の差を示している。
長男の俺の周りには人がいないという現状。
正妻の子である弟の支持者が多いという事実。
やはり、今争うのはないな。
「ああ、カタリナには荷造りを任せている」
「荷造りですか?」
意外な返答だったのか戸惑う気持ちはわかる。
「ギムル。俺は此処を出て別荘に住むつもりだ」
「兄上、それは……」
俺の言葉に驚いた表情を浮かべるが理解が及んだのかその顔に喜びの色が混じる。
「父上にもこれから話すつもりだ。ただ、出て行く上で色々と必要な物があるし、せめて学園くらいは行っておきたい。そのための支援や生活に困らないように金銭的な援助を求めたいのだ。お前の方からも義母に伝えて貰えないか?」
家を出る手切れ金と考えればそれなりに払っても惜しくはないだろ?
「……ええ。直ぐに伝えますよ。確かに必要でしょからね。安心してください。別荘に移れば色々と必要な事は理解できますし出来るだけの支援は約束します」
言外に次期当主の座を渡すと伝えているからか素直な反応だ。
「ありがたい。それならば俺も安心して家を出れる。まぁ、婚約者との話し合いも必要だから正式な廃嫡となると学園を出た後とかになる可能性もあるが」
「ああ。そうですね。兄上には婚約者も居られる訳ですしその方が都合が良いかもしれません」
俺の婚約者であるエリスの家は没落貴族というのが現状だが没落する以前からの約束でありそれ破棄する事は出来ない。
俺が廃嫡となり自分がエリスの新しい婚約者となる可能性やデメリットを考えて納得の意を示す。
俺とエリスが結婚した上で大人しく別荘暮らしをするという未来に賛同しているのだろう。
自分が新しい当主となり家の力を強める相手との結婚を考えているのかもな。
「後は別荘で過ごす上で使用人を雇ったり近隣の村に多少の干渉をする事を許してもらわないとな。場合によっては近くの街で冒険者にでもなるか」
別荘周辺の領地を貰って分家扱いしてもらえれば最良なんだがな。
「ああ、冒険者ですか。それもいいかも知れませんね。それと近隣の村は別荘に住む方の領地扱いされているとも聞きますから干渉するのは問題ないと思いますよ。領地扱いしても怒られる事もないでしょう」
冒険者と言った辺りには多少の嘲りが見えるが意外と寛大だ。現状では当主の座を争う前だしさっさと隠居しようとしているから敵意もないのか?
貴族の中で一定数が自由な冒険者に憧れると聞くしその類いと思われたか?
どちらにせよ悪い事ではないな。
目に見えて敵意が薄れているのは良いことだ。
「ま、とりあえず父上に話さないとなんでこれから行くつもりだ。反対はされないだろうが念のためだ。お前も一緒に説得を手伝ってくれないか?」
仲良く父上を説得しようぜ。
「喜んで。説得が上手くいかなければ次は母上とも一緒に行きましょう」
「それは心強いな是非とも頼む。俺としても良い条件を引き出したいからな」
久しぶりに仲良く話して父の部屋に。
運良くその場にギムルの母親がいたので話しはトントン拍子に進んだ。
俺の話を聞くと熱烈な賛同が貰えたのがありがたい。
結果としては貴族でも数年は生活に困らない支度金と別荘で新しく使用人や奴隷を雇う為のお金を気前良く払ってもらえた。
ただ、外聞が悪いという事とエリスとはギムルではなく俺が結婚した方が都合が良いという事で俺の廃嫡は学園の卒業後という事が正式に決まった。
正式な書類に一筆書いてそれを父上とギムルの母に保管を頼んだがギムルの母は終始笑顔でギムルの嬉しそうにしていた。
さっそく物語を変えてしまったが次の手を打つとしよう。
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奴隷購入とかエロゲの基本。
親から大金をせしめてホクホク顔で部屋に戻ればカタリナが荷造りを進めていた。
「ゲオルグ様。御当主様はなんと?」
「俺の意思を尊重するとの事だ。馬車も用意してくれるらしいし十分な金銭的な支援も貰えた」
「……そうですか」
少し不満そうな顔で答えるが俺が次期当主の座を降りた事が不満なのか?
だが物語的には当主になっても利がないのだよな。
兄弟で争っても良いことないし。
三男のアルトが漁夫の利を得る可能性が高いのも嫌だ。
少なくともアルトが当主になるよりはギムルの方が当主になるのがベターだろ。
それに別荘に行く事もそこまで悪いことじゃないしな。
そもそも当主の争いで負けたり罪を犯したりした当主の一族の終の住みかといわれるが隠居した元当主が住む事もあるし実際に祖父も晩年は別荘で過ごしていた。
穏やかに暮らせるように環境は整っている。
更には隠しダンジョンや歴代の当主の隠し財産とかもある。
ゲームでは主人公達に奪われたけどな!
しかも、アルトの奴は自分が当主となる見返りにガーゼン家の財産やらアイテムを主人公に渡す事を約束したりするし考えれば最悪だ。
別荘に行ったらアイテムの確保と隠しダンジョンの攻略をしよう。
隠しダンジョンの攻略をする為の戦力については別荘に向かう途中にある街の奴隷商で購入できるかが問題か。
冒険者を雇うのも手か。
数ヶ月単位での雇用となるとあまり高いランクの冒険者は難しいよな。
ランクの低い冒険を鍛えるつもりでいけるか?
原作のキャラクターに会えれば期待できるのだが。
まぁ、それは後でだな。
翌朝になれば親兄弟に見送られて用意された馬車で屋敷を出る。
同伴はカタリナと数名の護衛のみ。
街に付けば護衛は冒険者を雇う予定ではあるが。
少しだけ俺の暗殺とかを警戒していたがその気配は無さそうだ。まぁ、黙って身を引く一族の長男をお金を惜しんでワザワザ暗殺するリスクを背をわないか。
少なくとも別荘周辺で大人しくしているならば害はないわけだしな。冒険者になる事を言ってはあるがそれで有名になったとしても冒険者になるために家を出た放蕩息子として扱えるから次期当主の座に揺るぎは出ない。
むしろ、下手に暗殺なんかしてその事実を知られたりした場合のリスクや暗殺を依頼した相手に作る弱みの方が厄介だしな。
馬車で揺られて暫くすれば事前に連絡を入れておいた奴隷商会にたどり着く。
「初めましてゲオルグ様。私は当商会のまとめ役を勤めていますグラハムと申します」
馬車を降りれば俺の事を笑顔で向かえる奴隷商人。
俺が次期当主の座を降りた事はまだ伝わっていないし伝わっていても俺が貴族で領主の一族である事は変わらないからな。
「ゲオルグだ。さっそくだが見させてもらいたい。ああ、こういう事にはなれてないのでな。時間がかかるかもしれないが一通り見せてもらいたい」
ゲームの原作キャラを探したいからな。
目玉商品とか売りたいのだけ見せられて見逃す事になるのは避けたいし。
原作の数年前だから容姿での判断は難しいかもしれないしまだ奴隷になっていないキャラもいるだろうけどな。
「そうですか。では一通りお見せしますがその場合、欠損奴隷や怪我や傷を負った見苦し者も見せる事になってしまいますが」
「構わない。その欠損奴隷や怪我を負っている奴隷等も相場などを含めて勉強させて貰えるとありがたい」
「……そうですか。ではお値段を含めてお見せいたします」
まずは身の回りの世話を頼む非戦闘系の奴隷等だが女性の奴隷等はその用途故か薄着で扇情的な格好をしている相手もいて少々困る。
エルフ等は確かに美しいが高額で人間も美しい女性は高い。ドワーフは人よりもやや安くや獣人等は種族によってマチマチ。
目玉商品として見せられるエルフは確かに美しかったがこちらをみる目が冷淡で買う気にはなれなかった。
身の回りの世話や屋敷の管理の為に何人かの奴隷の購入は決めたが非戦闘系として紹介された中に原作の戦闘キャラがいたのは驚いたぞ。
そしてこれからが俺にとってはメインである戦闘奴隷の紹介だ。
亡国の騎士、名を上げた元Aランクの冒険者、戦場で恐れられた傭兵等と見せられた相手は確かに強そうだったし今後はこの人達よりも強くならなければならないと考えると厳しく感じる。
「さて、次は元冒険の獣人姉妹ですね。」
そういって出てきたのは黒髪に犬耳と尻尾を生やした少女達。
気が強くこちらを睨む姉にその後ろに控える妹………。
姉妹と紹介されただけでどちらが姉でどちらが妹であるを判断できただと?
「姉の方がマリス妹の方がミリス。供に冒険者ランクはDとまだまだではありますが可愛らしい姉妹をセットでいかがでしょうか?」
名前から確定か。
この2人は原作のキャラだ。
確か非道な貴族に買われて姉妹で苦しみ姉が死亡。
妹は仇を売ったが犯罪者となるのだったか。
姉の能力はわからないが妹は暗殺者ミリスとしてそれなりに強いキャラだったはずだ。
値段もそれなりだし悪くないか。
「そうだな。では2人を買おう」
原作で死ぬ姉を救えるのも悪くない。
「ありがとうございます。では次ですが今度は西の蛮族との戦いで名をあげた………………。」
そのまま紹介が続き他にも原作のキャラをもう1人購入すると今度は欠損奴隷と廃棄奴隷だ。
欠損奴隷は腕や脚がなかったり片目を喪ったりしている奴隷だがその中にも原作のキャラである隻眼の少女がいたので購入。
廃棄奴隷は売れなかったり弱っていたりする奴隷で本当に捨て値で販売されるようだ。
流石にこちらも死にかけている相手を救う余裕はないな。
「最後になりますがこちらは呪われた忌み子のシエル。どんな怪我を負っても死ぬ事もなく体に鱗の生えた呪われた少女です」
出てきたのは髪も皮膚も灰色の紅い眼の少女。
全身に包帯を巻かれその包帯から鱗が覗く。
マジか!
呪い子のシエルってこのゲームの五指に入る最強キャラだぞ。それを捨て値で買えるとか幸運すぎるだろう。
確か蛇神の加護を持つ高い再生能力と魔眼に覚醒する紅い眼。並外れた身体能力を持つ強キャラ。
まぁ、仲間にはならない敵キャラだったけどな。
だが彼女を購入できるのならば購入すべきだ。
「買おう。シエルと言ったな。君は今日から私のものだ」
思わず立ち上がり彼女の抱き抱えて宣言する。
彼女もその眼を広げて驚いているし回りも戸惑っているがまぁ仕方ない。
原作キャラを6名も購入できてテンションが上がったのだからな。
そうして俺はホクホク顔で奴隷商会を出たのだった。
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冒険者ギルドに依頼します。
カタリナには買い取った奴隷達の衣服や物資の購入を頼み、護衛としてマリスとミリス、それにシエルをつれて冒険者ギルドへと向かう。
「ねぇ。ちょっといい?」
「…姉さん」
こちらに声をかけるマリスにそれを咎めるミリス。
シエルは俺の隣で沈黙している。
「ん、なんだ」
「あんたって貴族なんでしょ?あたし達ってなんで買い取られたの?護衛なら私達よりも強い人がいっぱいいるだろうし買った奴隷も女性ばっか。やっぱ、そうゆう目的?」
「姉さん。まずいよ」
「ま、否定は出来ないな。そういう下心があるのもそういう眼で見ることも否定はしない」
そういうと明らかに身を固めてミリスを庇うように前に出る。
「安心しろ。だからといって無理やりといった事は出来る限り控えるつもりだ。基本的には護衛兼メイドといった形になる。色々と物騒でな。身の回りのメイドに戦闘力が欲しい立場なんだ。メイドを鍛えて戦力にするのと戦力になる人間にメイドとしての技能を教えるのとどっちが効率的かわからなくてな」
この世界にはバトルメイドやらメイドアサシンやらの職業も存在するしな。強くなってもらう必要があるのは間違いない。
「側にいる人間に戦える力が必要って訳ね。なに?命でも狙われているの?」
「今の所は大丈夫なはずだがな。俺は側室の息子で長男。弟は正妻の息子で次男。争いを避ける為に屋敷を出たし将来的には廃嫡される予定だが万が一を考えるとな。家の用意した護衛よりも自分で買った奴隷の方が信用しやすい」
貴族のお家騒動というのはどうなるかわからないからな。
「………そういう事。一応、言ってはおくけど妹に手を出すのは止めてそれなら私が相手をするわ」
「姉さん…!」
「それはありがたいが出来れば姉妹で望んで相手をして貰えた方が嬉しいかな。まぁ、悪いようにはしないし扱いもそれほど悪くするつもりはないから安心してくれ」
「そう」
「……………ねぇ」
今度はシエルか。
「ん、なんだ?」
「貴方は何故シエルを買ったの?私は忌み子だよ」
体に生えた鱗に眼を向けている。
それで迫害されてきたのだったか。
「…………それは間違いだ。どちらかと言えば神の加護を受けた結果だろう。それに、その綺麗な紅い眼も気に入った。可愛くて綺麗な女性を購入したというだけだからな驚く事はない」
実際、シエルは綺麗だと思うし俺よりも年下のためかゲームの時よりも可愛らしく見える。
体に鱗が生えているとか眼が紅いとか肌が灰色とかは単なる萌え要素だろ。
擬人化をして船等の無機物や食べ物にすら欲情出来る現代日本人を嘗めるなよ。
俺の言葉に眼を見開く彼女の頭を撫でて冒険者ギルドへと入る。
冒険者ギルドに入ると明らかに視線が集まる。
貴族として上質な衣服を身に付けた自分に奴隷として粗末な衣服を着ているマリス達。
明らかにこの場から浮いている。
「あー、なんだ坊主達は。ここは冒険者ギルドだぜ来る場所を間違ってねえか?」
酔っぱらいが絡もうとして来るがまぁ相手をするか?
「冒険者に依頼をする為に冒険者ギルドに来るのが間違いなのか?まぁ、この手の作法には詳しくわないのだが」
依頼と言った事で雰囲気が変わる。
こちらを値踏みする視線の質が変わり俺の着ている衣服等を見て商人や貴族の可能性を考えたか?
「………依頼人かよ。それならあっちの受付でしてくれ」
絡む気が失せたのか男が離れる。
マリス達に向けていた視線も和らぐ。
依頼人やそれの連れに絡もうとする冒険者は流石にいないようだ。
男に指差された受付カウンターに向かうがやはりギルドの顔と言われる受付嬢は美人なようだ。
「えっと初めまして。当ギルドに依頼という事ですがどのような用件でしょうか?」
「頼むのは護衛になるな。俺はガーゼン家の者だ。ガーゼン家の別荘と言えばわかるといいのだが其処までの護衛。更には別荘に着いてから周辺の魔物の討伐や護衛を暫くの間頼む事になる。相場がわからないのだがどれ位になる?」
貴族としての身分を証明する為の印章と供にガーゼン家である事を明かす。
この辺りを治める貴族の名が出て明らかに雰囲気が変わる。
受付嬢の後ろにいた職員が奥に向かったのが見える。
「………詳しくお聞きしたいので奥の応接間に来ていただけますか?」
「ああ、構わない」
促されるままに皆を連れて応接間に。
椅子には俺だけが座りマリス達は後ろに控える。
教えてないのにそういうのはわかるのだなと場違いな感心を抱いているとギルドの側からスーツを着た壮年の男性と分厚い筋肉をスーツに無理矢理押し込めたような男が出て来る。
ヤクザとインテリヤクザという言葉が思い浮かんだ俺は悪くない。
「初めましてゲオルグ様。伯爵家の次期当主とされる方に来ていただけるとは光栄です。私は当ギルドのギルドマスターであるエドワードと申します。こちらは補佐のグルガです」
名前はまだ名乗ってないが普通に知られているか。
まぁ、自分たちの街を治める貴族の顔を知っているのは不思議ではないな。
それくらいの情報収集はするだろう。
「エドワードさんと言ったかな。悪いがその情報は誤りだ。次期当主は弟のギムルだ。俺は退くつもりでいる。だからこそ別荘に向かうのだしな」
「おや、そうなのですか?」
「貴族のお家騒動が自分たちの街で起こる事が無くなったのは喜んで良いと思うぞ。俺も余計な騒動を起こしたくなかったからな。現状では身を退くのが一番だと考えたんだ」
多少の情報収集をしているならば家の現状を知っているだろう?
俺が退くのが一番簡単だと思ったぞ。
あとはギムルとアルトが厄介事を起こさなければ問題ない。
「…………なるほど。そうなると護衛というのは御自分が狙われる可能性を考えての事ですか?」
「騒動を起こさず敵対もせず大人しく身を退いた現状では暗殺の可能性は少ないと思っている。護衛は普通に旅の安全のためだ。それと、別荘に着いて暫くは周辺の魔物の数を減らして欲しいと考えている」
「となるとそれなりに腕の立つ方がよろしいですかね?」
「拘束期間が長くなるからあまり腕の立つ相手は避けた方が良いかと思っていた。腕の立つ相手を長期間拘束してはギルドとしては困るだろうしな。腕の立つパーティーを1つ雇うよりもそこそこの腕のパーティーを2つくらい雇う方が良いのかと思っていたのだが」
Bランクのパーティーを1つ雇うよりもC・Dランクの冒険者を2つ雇う方が安く付きそうだしな。
「なるほど。確かに高ランクの冒険者が長い間動けなくなるのは困りますね。となると護衛依頼ですのでCランクを2つといった所ですかね」
「それで良い。ただ、依頼は信用出来る相手に頼みたい。別荘にはそれなりに高価な物もあるしな。強盗まがいの真似をするような相手がいては困る」
「その辺は大丈夫かと。私達も選別はしますし、何よりも貴族の依頼で下手をうてばどうなるかを考えないような冒険者は少ないですからね」
「そうであれば良いが。…………因みに、冒険者を正式に家の護衛として雇う事等は可能なのか?」
有能な冒険者ならばそのまま護衛として雇いたいしその場合は雇用した方が問題も少ないだろう。
「それは冒険者の方との交渉しだいですね。まぁ、冒険者の中にもずっと冒険者を続けていく事は出来ないと理解している方もおりますから」
まぁ、そうだよな。
五十代、六十代の冒険者等はまず見かけないし。
とりあえず、依頼内容を煮詰めて依頼は成立。
明後日には依頼を受けるパーティーを紹介するとのこと。
これは冒険者ギルドの方から斡旋するつもりなのかもな。とりあえず、明後日を待つとしよう。
ゲームでの冒険者ランクと強さ。
Eランク。駆け出し。
レベル1~10。
Dランク。初級
レベル10~20
Cランク。中級
レベル15~35
Bランク。上級
レベル30~50
Aランク。最上級
レベル40~70
Sランク。伝説級
レベル70~100
職業によってはレベル15で Cランクに上がったりレベル30でBランクに上がる強者もいるためあくまでも目安。
レベルが低くても実績によってはランクが上がることもある。
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依頼主の視点で見るとハーレムパーティーって不安だよな
冒険者ギルドに依頼してから2日。
予定の日となり手配された2台の幌馬車で護衛と供に冒険者を待つ。
馬車には購入した奴隷達と彼女達の荷物と食糧等の物資が載せられている。
「遅いな」
「出発する時間は伝えてあるはずなのですよね」
家の用意した護衛の男も苛立ちを覚えているようだ。
騎士なんかの軍人は時間に厳しいからな。
「ああ」
予定時間まであと僅か。
時間がにルーズな相手は信用が出来ないのだがな。
「あの~すいませ~ん」
声の方に視線を向ければこちらに近づいて来る8名ほどの男女の集団。
その身なりや武装からして彼らが依頼を受けた冒険者なのだろうか?
「…………君達は?」
「はい。僕たちがゲオルグさんの護衛依頼を受けた冒険者です。こちらが依頼の請負書になります」
「こっちもです」
槍を背負った青年と魔術師風の格好の女性が取り出した書類。
渡された二枚の書類には各々Cランクパーティー『疾風の槍』『蒼の魔女』であるという事が書かれている。
リーダーの名前はクルスとアマンダね。
「そうか。私はゲオルグという。よろしく頼む」
後ろにいるパーティーが騒いでいる所を見るとずいぶんと仲の良いパーティーのようだが冒険者としてはどうなんだ?
遅刻ギリギリで着たのも含めて多少は苛ついても笑顔で対応せねば。
「ええ。よろしくお願いします。ところで貴族であるという話でしたけど馬車はそちらの二台だけですか」
がっかりしたような感じで話しかけてこられるがこれは無礼だと判断すべきだろうか?
コイツらを寄越してきたギルドの奴らを含めて評価を下げる。
「わざわざ家紋付の馬車に乗って襲って下さいと周りに教えるつもりはない。それに今回はあくまでも私やその世話役の移動だ。幌馬車が2台もあれば事が足りる」
実際、幌馬車はそれなりに大きい。
荷物を含めた上で彼ら8人を乗せる余裕があるくらいだしな。
「それは、そうですね」
「ほら、失礼よクルス。すいませんゲオルグさん」
クルスを庇うようなアマンダの対応。
問題が起きにくいように仲の良いパーティーを護衛で送られたという事か。
それよりもだ。
「それよりも、出発の予定時間なのだがな。君達には2台の馬車に別れて乗ってもらうのだが内訳はどうする?4人づつそれぞれに乗り込むのか?」
時間に余裕を持って来てもらえれば話し合って乗ってもらえたのだが。
「えっと、どうしよっかみんな」
後ろのパーティーメンバーに振り向くがリーダーとして決めるとかはしないのだな。
「私はリーダーと一緒が良い」
「私も」
「あら、私もクルスと一緒の方が良いわ。リーダー同士で意思の疎通が出来てた方が良いでしょ?」
「ちょっと、クルスに近すぎ」
依頼主の前だとわかっているのか?
俺を含めて奴隷達も多分に呆れの感情を見せているぞ。
話し合った結果だが疾風の槍のリーダーであるクルスと蒼の魔女のリーダーであるアマンダは同じ馬車に乗るようだ。
それとクルスとやらのハーレムメンバーも。
コイツら真面目に護衛が出来るのか?
俺は物凄く不安だぞ。
しかも、2つのパーティーのリーダーが同じ馬車とか。
連携は大丈夫なのか?
正直、コイツらと一緒なのは不安なので俺が乗る馬車とは別に乗ってもらう事にしてアマンダ以外の蒼の魔女のメンバーが俺の馬車に乗る事になった。
副リーダーだというセレナさんと他のメンバーは謝っていたが。
何でも遅刻ギリギリになったのもクルスの事を取り合って時間をかけたからだそうだ。
ギルドの評価や評判も悪くなっているらしいがおそらくギルドマスター達はその事を知らないのではとのこと。
少し呆れたが馬車に乗り込み出発する。
俺の馬車にはカタリナにシエル、マリスとミリス、それに非戦闘奴隷という事であった原作では前衛をこなしていたニーナ。
それに蒼の魔女からエルフのセレナ、戦士のカナタ、盗賊のアロマの3人が乗り込み。
「私達のリーダーがすいません」
謝罪するセレナさんには悪いがきちんと言っておかないとまずいよな。
「こちらとしては護衛さえしっかりしてもらえればとは思うが正直、あまり信用出来ない。依頼主である私の護衛よりもクルスという青年を取り合うのに夢中のように見えるからね」
「はい。弁解は出来ないですね」
「私は少なくとも彼方の5人よりは貴方達の方が信用出来るとしてこちらに乗ってもらった訳だがそちらのリーダーを信用出来ないと思っている事は理解して欲しい」
「申し訳ありません。前はあんなんじゃなかったんですけど」
「………それはあのクルスという青年と関わる前の話しか?」
「はい。確かに奔放なところはありましたけどあそこまでとは」
「あーなってから依頼の失敗もあるしね。いいかげんまずいとは思ってるんだけど」
「ちょっとねー。パーティー抜ける事も考えたくらいだよ」
「なるほど。………旅の間に少し話を聞かせてもらえるか」
「まぁ、少しくらいなら」
少し気まずそうに顔を見合わせているが本人達も鬱憤が溜まっているのかもな。
というか、あのギルドマスターは引き抜き安いパーティーとしてこの子達を寄越したのではないよな?
色々と不安に思いながらも旅が始まった。
旅の構成員
1台目の馬車
ゲオルグ、カタリナ 。
護衛の騎士1名。
奴隷
マリス、ミリス、シエル、ニーナ
冒険者『蒼の魔女』セレナ、カナタ、アロマ
2台目
護衛の騎士2名
奴隷6名
『疾風の槍』クルス含めて4名
『蒼の魔女』リーダー、アマンダ
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ゴブリン相手でも油断は良くない
護衛依頼を受けた冒険者達の様子に不安を覚えてパーティーの人達に詳しい事情を聞いた訳だが呆れの方が先立つ。
「つまり、クルスという青年に惚れてリーダーをしていたアマンダが暴走。今ではまともに依頼もこなせていないと」
「はい。そうなります」
しかも、クルスというのはパーティーメンバー全員と仲良くハーレムパーティーだとか。
「まぁ、クルス達の方も少し前にいた荷物持ちを追い出してから失敗が続いているらしいがな」
「そうなのか」
「そうだよ~。荷物持ちっていうかサポート役で頑張っていた子なんだけどね」
ハーレムパーティー。
サポート役の荷物持ち。
追放。
クルス達ってテンプレの追放ざまぁされる対象じゃないのか?
不安が大きくなったぞ。
「不安ですね」
「話を聞いたかぎり良くないパーティーと当たったっぽい」
「ゲオルグ様はシエルが護る」
「向こうの5人にはあまり期待しない方が良いのかもな。君達が頼りだ。よろしく頼む」
「いえ、こちらが悪いので」
そんな風にこちらの雰囲気は微妙な感じのだが彼方の馬車から感じる雰囲気もあまり良くなさそうだ。
少なくとも護衛でありながら周囲の警戒をしているようには見えない。
もちろん、早々に襲われるなんて事はないのだろうが彼方の馬車にいる奴隷の人達が怪我でもしたら依頼の失敗としてみなす事も考えるからな。
セレナさんもカナタさんも有能そうだしアロマは少し軽い感じだが優秀だと思うからな。
マリスやミリスにも警戒をお願いする事になっているのは減点だが。
別荘までは3日程。
その間に何もなければ良いのだが。
不安には思ったが初日は問題は一応なかった。
食事の用意や夜営の準備を一切考えておらずこちら便りであることでセレナさん達が謝罪していたが。
それと夜の夜営での見張り等は普通は冒険者である彼らの仕事であるはずなのにそれをサボって夜の運動をしていた事をマリスとミリス、それにアロマが報告してきた時には少しキレそうになったが。
それとあちらの馬車での様子を聞くに馬車に対する不満をのべながらひたすらイチャイチャしていたらしい。
あちらの馬車の奴隷達から苦情と不満を述べられた。
2日目。
お昼過ぎに、馬車の前方に広がる草原に魔物がいるのを見つける。
見つけたマリスが報告をしてそれを聞いた蒼の魔女の皆さんは戦闘態勢に。
馬車を止めて戦闘に備える。
魔物のがいる事を後ろにいる馬車に伝えるとそちらも遅れて戦闘の準備を始める。
どうやら護衛依頼の最中でありながら鎧等を外していたらしく準備に手間取っているようだ。
『蒼の魔女』はともかく『疾風の槍』は評価出来ないぞこれは。
依頼が終了した場合にギルドに伝えると評価はかなり低いものになりそうだ。
俺達の前に現れたのはゴブリンとオークの群れ。
それなりに知能があるゴブリン達の襲撃であるとするならば伏兵にも注意すべきだ。
ゴブリンは弱いと思うがこのゲームではどの土地でも現れる魔物だ。場所によってレベルが異なる上に上位種が出たりする。
この辺りのゴブリンはレベル20前後だったか?
油断出来る相手ではないな。
皆に注意を呼び掛ける間に疾風の槍のクルスを中心としたメンバーがゴブリン達に向かう。
先ずは魔法使いの少女が先制の魔法攻撃をオークに向けて放ち、それを追うように緑色の槍を掲げたクルス達が走る。
速いな。
あの槍がパーティー名の由来である風の槍か。
風の刃を放ち素早さにも補正がかかる魔法の槍だったか。
魔法を受けて怯んだ魔物達に突撃……あ、転けた。
「脚が取られたように見えたが罠か?」
「多分そうですね。背の高い草もあって足元が見辛いですし」
「落とし穴までいかなくても少し地面を凹ませておくとか草と草を結んでおくだけでも罠として機能するだろう」
多少なりとも知性のある魔物達が待ち伏せているのに無警戒に突っ込みすぎだろ。
ゴブリンごときと油断していたのだろうが。
倒れた所に攻撃を受けて囲まれたクルスを助けるためかアマンダが『蒼の魔女』の由来である水の魔法を撃ち込むがあれは過剰じゃないか?
「あれは上級魔法か。凄い威力だな。感心する………周囲の被害を考えなければだが」
これから進む事になる道に対して水の上級魔法を撃ち込むとかな。ゴブリン達のいる草原を中心にこれから通る道まで水浸しだ。
もちろん道を直接狙ったわけではないので多少迂回すれば良いだけなのだろうが。
「申し訳ありません」
「謝られてもな。それから彼女の魔力は大丈夫なのか?上級魔法の魔力の消費はかなり大きかったはずだが」
ゲーム的にいえば下級はMP消費が10以内。中級が10~30で上級が30~50位。最上級はそれ以上だったか?
冒険者ランクがCという事はレベル20~30位だろう?
職業にもよるが上級を撃ったら魔力の大半は飛ぶんじゃないのか?
「そうですね。アマンダは上級魔法を撃ったら下級魔法を何回かしか使えなかったと思います。魔力の回復をしないと」
「セレナ、少し待って。敵さんの増援が来てるみたい」
視線を向ければ馬車の左右にゴブリンとオークの姿が見える。疾風の槍の面々はクルスの回りで騒いでいて気づいていない。
それに魔法を撃ったアマンダもクルスの方に行ってる。
はぁー本当に護衛としては使えないな。
「カタリナ、奴隷達にも武器を持たせてくれ。俺達で左側からくる魔物の相手をする。右側から来てる魔物は疾風の槍と家の護衛に任せよう」
「わかりました」
指示に従い武器を手に魔物と相対する奴隷達とセレナ達蒼の魔女の面々。
何気にこの世界でゲオルグになってから初めての戦闘。
援護がある上だが緊張するがさてやるとするか。
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護衛対象が戦闘をするとか護衛としては失態だよな。
疾風の槍が相手をしている魔物達も気になるが先ずは目の前の魔物を倒さないとな。
敵はゴブリンとオークの集団。
数は相手が上だか俺とカタリナ、それに蒼の魔女の面々。そして、ゲームでは最強キャラの一人であるシエルがいる。
まぁ、シエルはまだ戦闘経験とか少なくそうだから過信は出来ないが。
「セレナさん。魔物との戦闘経験は貴女が上です。指示をお願いできますか?」
「わかりました。皆さんの中で魔法が使える方は?」
「俺は土の魔法を中級までと水を初級まで使えます」
「私は火と雷を中級まで」
「私は風の下級だけ。ミリスは闇も使える」
「ならばカタリナさんはオークや奥魔物に魔法をお願いします。ゲオルグ様は土の魔法で足止めを。魔物達が一斉に来られると厄介ですから行動を制限して一度に対応する事になる数を減らして下さい。マリスさんとミリスさんは私達のサポートをお願いします」
「サンダーブラスト!」
「ウインドウカッター!」
カタリナの放つ雷の魔法がオークの頭を爆砕するのに合わせてセレナさんも魔法を放ち魔物達に裂傷を刻む。
それを気にせずにこちらに向かってくる魔物に対しては俺の魔法のに出番か。
「アースニードル。続けてアースホール」
放つのは二種類の下級魔法。
アースニードルは地面にトゲを生やし足にダメージを与える事と行動を阻害する事を目的とする魔法で。
アースホールは落とし穴だ。
先頭の魔物数匹は穴に落ちて動けなくなり、アースニードルはこちらに回り込むような動きをする事を阻害している。
戸惑うゴブリン達にセレナは魔法で追撃をかける。
それでもこちらに向かってきた魔物はカナタとアロマのペアとマリスとミリスのペア。それに俺とシエルにニーナで相手をする。
カナタとアロマのペアは安心して見れるしマリス達も一体の魔物を二人で倒すように上手く立ち回ってる。
俺の方も記憶だよりで戸惑いがあれど剣を振るいゴブリンを斬る事はできた。
盾を構えたニーナはしっかりとカタリナを護っているし俺の側で長柄の槍を振るうシエルはゲームの最強キャラと言われるだけの事があるのか一人で三匹の魔物を切り捨てた。
強いよな、まだレベルが低いはずなのに。
驚いている俺の側に歩みよるシエルは褒めてというように頭を出して来たので撫でると嬉しそうにしている。
うん。和む。
「ファイアブレイク!!」
カタリナの放つ魔法が止めとなりこちら側の魔物は殲滅完了とと後は家の護衛と疾風の槍だがまだ戦闘中のようだ。
「ゲオルグ様はこちらで敵の更なる増援に警戒してください。カナタ、貴女は私と一緒に援護に。アロマはここに残ってゲオルグ様の護衛をお願い」
「わかった」
「了解だよー」
さすがに護衛対象を連れ回せないか。
「あちらは少々、不安なんだがな」
「当家の護衛の力を信じましょう」
ここで疾風の槍の面々の力と言わない時点で彼らの評価がわかる。
「みな、怪我は大丈夫か?回復薬の類いも用意してあるから言ってくれ」
「シエルは大丈夫」
「私達も」
「僕も大丈夫だよー」
全員の状態を確認してから馬車の向こうを覗きみれば戦闘はまだ終わっていないようだ。
こちらでは近付く前に排除できたオークが2体にゴブリンが数匹未だ健在。
対してこちらは馬車の前で武器を構える奴隷達にその前に立つ護衛の3人。
馬車に近付くゴブリンを危なげなく倒す彼らの実力には安心感を持てる。
馬車の回りで倒れているゴブリン達を見る限り馬車や奴隷の心配はいらないようだ。
問題の疾風の槍の面々だがオークとの戦いに手こずっているようだ。
見た限りだか先の戦闘で魔物から攻撃を受けたクルスの動きは鈍く最初に見た速さがない。
それにアマンダの方は魔力が切れたのか魔法回復薬を飲みながら初級の魔法で援護をしているがオークを怯ませる程度の効果しかないようだ。
それ以外の疾風の槍の面々だが魔法職はオークに魔法を放っているが足止め程度。前衛らしき少女はゴブリンの相手。回復職はクルスに回復魔法を継続中と。
セレナ達がゴブリンの排除に動いているからそれまで持てば大丈夫か?
お、セレナとカナタがゴブリンと戦っている少女を援護して倒したか。
後はオーク2体を7人がかりで倒すのだから大丈夫だろう。
「方は付きそうだがまだ時間がかかりそうか?援護をするべきか?」
「ん~雇い主さんにあまり頑張られると護衛で雇われてる私達の意味が無くなっちゃうかなー」
アロマとしては大人しくしていて欲しいか。
まぁ、護衛としてこの状況ではな。
「確かに今の状態では護衛としては落第かと」
「私達よりランクが上のはずなのに大した事なさそうだよな」
「…………」
「護衛として疾風の槍の面々を評価出来ないのは確かだな。………セレナ、カナタ、アロマの3人は継続して雇いたいとは思うのだが」
「場合によっては少し遠回りをして近くの街によりそれから別荘を目指す事も考えるべきではないでしょうか」
「そうだな。疾風の槍のリーダーも怪我をしたようだし。護衛依頼の失敗を告げて街で新しい護衛を雇う事を検討すべきか」
「えーと、その場合は私達はどうなるのかなーとか」
「先程も言ったがセレナ達には護衛の継続を願いたい。……………いっそ『蒼の魔女』を抜ける気はないか?アマンダとかいうのは『疾風の槍』に押し付ければ良い。正式に護衛として長期間雇われないか?」
「あー、それは心揺れるかなー。冒険者から貴族さんの護衛とか将来を考えれば安泰だろうし」
「冒険者として活動を続けたいという場合でも俺も冒険者となる予定があるからその時に供に活動してもらう事になるな」
「冒険者になるの?」
「不思議ではないだろ。来年には俺は学園に入学する事になる。その時にある程度はレベルを上げて冒険者としてそれなりのランクになっておけば有利になるのだから」
「あー、そっか。学園があったか。だからレベル上げかー。でも、それだとパーティーの人数が多くない?この子達も一緒にするんでしょ?」
そういってシエル達を指す。
まぁ、俺にカタリナ、シエル、マリス、ミリス、ニーナで既に6人。これにセレナ達を加えると1つのパーティーとしては多い。
「俺の場合はクランの設立を目指す。依頼に合わせてメンバーを変えたり複数の依頼を各々がこなす形になるか」
実際にまだまだメンバーを増やす予定だしな。
「クランかー。拠点とか含めて色々と必要だから普通は難しいけど貴族なら問題ないのか」
クランで活動となると多くのメンバーやその装備や道具を収容する広い家が必要になるが俺の別荘をそのままクランの拠点にすれば良いし学園に通ってからも王都に拠点を用意する位は出来る。
「そう言うわけだ。セレナ達とも話あって見てくれ」
「オッケー。前向きにってか今のままだと厳しいと思ったから助かるよー」
「そうか。っと、それよりも向こうで動きがあったようだな。それも悪い方に」
オークの攻撃を受けたクルスが吹っ飛び、それに動揺した疾風の槍の面々の動きが止まってる。
「スリップグランド!」
用意していた魔法で足元を崩す。
地面を滑らせるという魔法だが足下をおろそかにしたオークには抜群の効果を示したようで派手に転倒している。
こちらに目を動かし感謝を告げるセレナの援護のために追撃をする。
「ガイアチェーン!マッドフィールド」
地面から飛び出た鎖がオークを拘束し水属性と土属性の合わせ技で地面を泥状にする事で動きを封じる。
動きを封じられたオークを他所にもう一体のオークはカナタが斬ったか。部厚い脂肪を持つオークを両断とは良い腕だなやはり。
動けないもう一体は慎重に近付いてトドメを刺した。
とりあえず、これで脅威は去った訳だか怪我を負った護衛に水浸しになり進み難くなった道。
はぁー、やはり遠回りをしないとダメだよな。
皆には予定の変更を告げて行き先を変える事にするのだった。
『疾風の槍』は追放されたもう一人の活躍により短期間でCランクに上がった新進気鋭の冒険者です。
追放された荷物持ちが常に用意していた回復薬等の必需品がクルス達は用意をしていません。夜営の用意や見張りも追放された冒険者が担当していた為にその辺りの準備が全く出来ていませんでした。
戦闘については斥候として罠の注意喚起や道具を使っての牽制や足止めをしていましたがそれが無くなったための失態。
ギルドとしては今後に期待出来る冒険者パーティーを紹介しているつもりでした。
『蒼の魔女』4人組の女性冒険者だけで構成されたパーティー。
Cランクながら上級魔法を使えるアマンダ。
豊富な魔力を持ち優れた剣士でもあるエルフのセレナ。
遠い和国よりきた二刀流の武士カナタ。
優れた危機管理能力を持ちどんな状況でも対応出来るレンジャーのアロマ。
街で有名な冒険者でその実力も実績も十分にあるとされていたが当のメンバーからはリーダーであったアマンダのワンマンやワガママが少し問題とされていた。
リーダーを変える事を考えようにもエルフであるセレナや他所の国から来たカナタがリーダーでは無用な軋轢を生む可能性があり、アロマは自分がリーダーに向いているとは思えなかった。
そんな訳でリーダーを続けていたアマンダが冒険の最中に、危ない所をクルスに助けられて惚れて状況が悪化。
冒険者としての行動よりも自分の恋愛を優先。
それによりも実害が出てきていたところで今回の依頼。
セレナ達が遅刻ギリギリで来たのもアマンダが原因。
リーダーの恋を応援するという微笑ましい段階は当に過ぎている。
このままアマンダをリーダーとして行くのは問題ではと思っている。
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依頼の失敗による賠償金が美味しい。
魔物の襲撃の後始末には少し時間を有した。
オークやゴブリンからは魔石を回収。
倒したゴブリンやオークの装備も売れそうな一部は回収。
問題は怪我を負い護衛として使えなくなったクルスと疾風の槍の一部のメンバーだ。
無事なメンバーとアマンダも騒いでいるしこのまま別荘に向かうのは無理があると判断し遠回りにはなるがルートを変えて近くの街による事が決定。
その街で疾風の槍の面々には降りてもらう。
アマンダもあの様子では降りるだろう。
他の蒼の魔女の面々がどうするかはわからないが個人個人で抜けるならば受け入れるとは伝えてある。
そんな訳で寄り道する事になった街には夜になり門が閉まるギリギリの時間にたどり着く事が出来た。
門の前で一晩明かす事にならなかったのは幸いだがこれから宿を探すとなると手間だ。
とりあえず、冒険者ギルドに行って彼らの怪我の治療と護衛任務の失敗を報告。
ギルドの受付嬢も慌てていた。
実際、これによって発生する問題が幾つかあった。
1つは俺が貴族である事。
貴族からの依頼を失敗する。これは冒険としても冒険者を紹介したギルドとしてもまずい。
ましてやその冒険者の所為でこちらは遠回りを強いられた。
それに依頼中の彼らの態度や行動にもまずい部分が幾つもあった。
冒険者は自由であるとされるが土地を治める貴族と敵対して良い事はないからな。
2つ目、ギルドの方が貴族からの依頼という事で通常よりも多くの依頼金を請求していたということ。
騙されたと言いきれないのだが通常の商人等の護衛依頼の倍以上の額を払っていた。
貴族だから商人よりも多くの報償金を設定する必要があったと言われればそれまでなのだ。
騙されたと思っても終わったあとに返せ等とは言えないからな。
3つ目は俺は目的地の別荘に着いてから周囲の魔物の退治を依頼する予定であり、それが依頼として受理されていた事だ。
本来ならば別荘まで護衛をしてもらいそこから周囲の魔物退治という新しい依頼が始まるはずでありその依頼も彼らは受けていた。
しかし、彼らは怪我を負い、その依頼は不可能。
つまり、1つの依頼の失敗ではなく彼らは2つの依頼を失敗している形になる。
そちらは拘束する期間によっては納得出来る依頼料金ではあったがそれでもやや割高なお金が支払われている。
依頼が成功していたのならば問題にはならなかった。
こちらが多めのお金を払い彼らは依頼を達成する。
なんの問題もないことだ。
ただし、依頼が失敗すればその賠償金が発生する。
ギルドとしても普通の倍以上の料金を払わせといて失敗しましたではすまない。
護衛の者達やカタリナも家の方からギルドに苦情を述べるべきだとしている。
そうすれば当然、ギルドの立場は悪くなる。
自分達のギルドのある土地を治めている貴族に明確な借りを作る事になるからだ。
ギルドに無茶のある要求をしても『以前、お前達はこういう失態を犯して迷惑をかけた』と圧力をかけられる。
明確な負い目を貴族に作るなんてどこのギルドもやりたくはないだろう。
ギルドが貴族に負い目を作り通常の数倍の賠償金と謝罪金を払う事態となった訳で状況を知ったギルドは依頼の受理をしたあちらのギルドに連絡を取り即座に謝罪と今後の話し合いとなった。
疾風の槍と蒼の魔女に対してはランクの降格と賠償金と支払い。
それに加えてギルドの方で負担をして新しく冒険者のチームを手配する事を約束させた。
俺が貴族ではなく商人や一般人であればここまでする必要はなかったが俺は貴族で表向きは次期当主の地位にいる人間だ。それに対してギルドの側が下手をうったといて事だ。
ギルドの役員が謝罪して依頼料として出したお金よりも多くのお金が戻ってきた事を考えればこちらが特をしたとも考えられるが。
とりあえず、ギルドの失態は俺の親に伝わり後はガーゼン家とギルドの話し合いがされるだろうが家として悪い事にはならないだろう。
俺個人としては金銭的な賠償に消費した物資にプラスして魔物との戦いで消耗した武器の代わりと質の良い武器を渡されたりしたしな。
それにタダで新しい冒険者を手配してその依頼料金を全てギルドが持つというのもありがたい。
いやいや、本当に特したよ。
こういう依頼をすることに慣れていない自分から多くのお金を取ろうとしたあちらの失態なんだけどな。
冒険者の手配に数日かかるという事であちらの用意した宿で休みながら今後の事を考えるとするかな。
賠償金に謝罪金。新しい装備の譲渡に無料での冒険者の手配に宿の提供と大盤振る舞いな冒険者ギルドの対応の理由としては以下の通り
貴族社会であるのにその貴族から多くの依頼料を払わせる。
普通ならば貴族という立場で依頼料を安くさせる事がありますが今回は逆に多く払わせています。
これはゲオルグが次期当主の座を退く等の情報を渡した事で相手側が侮ったところもありますが、表向きは次期当主です。
少なくともまだ、現状では自分達の土地を治める貴族の次の当主になりえる人間に対してやったらまずいです。
廃嫡する前に弟の方になにかあれば彼は当主になる事が十分にあります。
依頼の失敗が完全に冒険者側に問題がある。
護衛依頼を受けながら依頼主に魔物の撃退をやらせるのはまずいです。なんの為の護衛だという話し。
主人公が自分から出たところがあるので供に撃退したのならばまだ弁解ができ問題にはしないことも出来たのですがパーティーの片方が半壊していますので問題に。
しかも、依頼の最中に盛っていたのが知られていますのでふざけるなという話しに。
護衛依頼を受けた冒険者が原因で遠回りをした事で予定日までに別荘に着くのが不可能に。
予定日を過ぎる事になったのは普通にまずい。
商人ならば期日を過ぎる事で荷物の商品に問題が出たり取引に不備が生じたりする事があるので予定日を過ぎると普通に賠償金をギルドに請求する事があります。
その辺を見越してある程度余裕のある日程を取るのが普通ではありますが。
今回の場合は遠回りをした上に新しい冒険者を手配してもらう必要があるので数日の間足止めされる事が確定しましたので問題に。
そして、これがある意味で一番大きな理由。
この街のギルドにとっては自分達の失態ではないという事。
依頼を受理して冒険者を手配したのは自分達のギルドではないので賠償金を始めとしてゲオルグに支払った金銭等はあちらのギルドに請求できます。
幾らお金をかけても自分達の懐は痛みません。痛むのはあちらのギルド。
むしろ、土地を治める貴族には自分達はこれだけ誠実な対応をしましたと主張できます。
自分達は貴族の覚えを良くしてあちらの失態はギルドの本部にも土地を治める貴族にも主張できる。
馬車で2日程度で往き来できる近隣のギルドの不祥事。
これをどれだけ有効的に使うかという話し。
むしろ、もっと賠償金や謝罪金を払った上であちらのギルドを糾弾しようと考えてさえいる。
あちらのギルドには自分達の失態で多くの金銭を払わせたと負い目を作れるのも良い。
払った金銭をあちらのギルドが出し渋ればギルドの本部に失態を告げて立場を弱くできる。
良いこと尽くめなので笑顔で賠償金を払っています。
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借金とは怖いもの
クルス達『疾風の槍』の失態を告げてギルドより賠償を得て数日。
こちらの護衛任務を受ける冒険者が決まったという事でギルドの方に顔を出す事になる。
「お待たせしましたゲオルグ様。こちらが今回の依頼を受注しました冒険の方々です」
通された応接間には見知らぬ2人の冒険者とセレナ達がいた。
気になるのはセレナ達が装備を身に付けていない事とアマンダがいないことか。
「まずはこちらの方々ですがCランク冒険者『紅獅子の牙』。実績のある方々ですし、もう1つの依頼にある長期間の拘束も問題がありません」
「始めまして。『紅獅子の牙』のリーダーであるリエンです。こちらが副リーダーのサーシャ」
にこやかに微笑みこちらに握手を求める女性に軽い既視感を覚える。
見覚えのある相手という事か。
たぶんゲームでの記憶だと思うのだが。
「始めましてゲオルグだ。護衛の依頼と到着した後の依頼まで受けてもらえた事に感謝する」
「いえ、こちらとして報酬が良いですしその後の依頼も問題はありません」
「そう言ってもらえると助かる」
おそらくはギルドの方から色々と貰えるのだろうな。
あれだけ賠償金の支払いなどをした後の事だし美味しい依頼にしてある可能性も高い。
「それで次の話しなのですが、こちらにいる『蒼の魔女』いえ、元『蒼の魔女』の話しになります」
セレナ達の話しかここにアマンダがいない時点である程度は予想出来るが。
「彼女達の蒼の魔女はリーダーであるアマンダさんが疾風の槍への移籍をしましてね。蒼の魔女は解散となりました」
それは予想の範囲だな。
クルスとかいうのを追っかけていったんだろう。
「ただですね。依頼の失敗による賠償金の支払いが疾風の槍の方はされていますが蒼の魔女からはされていないのですよ」
「ふむ。どういうことだ?」
逆ならば分かるのだが。
「アマンダがギルドの貯金や所持金、荷物を持ったまま疾風の槍に移籍したのよ。パーティーとして貯めていたお金をリーダーであるアマンダが持ち出して疾風の槍の賠償金は払ったけど蒼の魔女として口座には一切お金が残ってなかったの」
お金を持ち逃げされたと。
「ギルドに賠償金を支払うという事で私達から集めたお金で疾風の槍の賠償金は支払っていたけどね。おまけに昨日のうちに街を出たから追うことも出来ない」
「結果として私達は一文なしで賠償金の支払いとか出来ないんだよねー」
ギルドに借金を作った訳か。
「しかし、その賠償金はリーダーであるアマンダが払うべきではないのか?」
「アマンダがパーティーを抜ける前にリーダーを私に変更していたのだ。どうやったのかはわからないがアマンダがパーティーを抜け、私がリーダーとなりその後に賠償金が発生した事になっている。だからアマンダは疾風の槍のメンバーとして支払いをしていた」
「つまり、リーダーの座と賠償金を押し付けられたと」
「そうなるねー。まぁ、最初は私も逃げなきゃまずいかなーとか思ったんだけど一応返済の当てはあったからー」
返済の当てがあるならば大丈夫なのか?
いや、待てよ?
「その返済の当てというのは俺か?」
「………そうなります。私達を雇って頂けるという話しでしたので。ダメならば借金を背負って冒険者を続ける事にしますが」
まぁ、確かに勧誘していたしな。
それに借金が俺に払われた賠償金ならば払うのも難しくない。
「そうだな。それならばこちらで働きながら借金を返済するという形にすれば良いのか?」
保証とかはないしこの世界での利息や利子の支払いはかなり厳しいと聞くからそれなりの期間は働いてもらう事になるが。
「はい。お願いします」
「良いだろう。2人もそれで良いのか?」
「構いません」
「構わないよー」
「ギルドマスター。この3人の借金は俺が請け負う」
「分かりました。借用書はお渡しします。今回の借金と返済の計画は普通であればこのようになります」
そう言って見せられた借金返済の計画書を見るとこの世界はガチでエグい。
依頼を達成してもその半分は借金の支払いに当てられる上にランクが下がった事で支払われる報酬が少なくなってるから利息の支払いを含めた返済が終わるのが2年近く先に。
しかも借金している間はギルドとして信頼出来ないからとランクアップもない。
安いお金でひたすら依頼をこなし続ける事になるとか。
これはヤバい。
「これはさすがに厳しいと思うが。これよりも緩い返済計画を提案するから安心しろ」
「ありがとうございます。その分期間が長くなる事は受け入れますので宜しくお願いします」
新しくギルドの人とカタリナが作った返済計画は確かに緩くなったがその分期間が長くなったがそれを笑顔で受け入れたセレナ達を見てこの世界で借金は絶対しないと心に誓った。
保証する人が誰もいない人間にお金を貸すというリスクを鑑みて借金の利息等はかなり厳しい。
借金を返済する前に逃げられたり、依頼で怪我をしたり死亡したりしてお金が戻ってこないリスクが高いためにその辺りの契約は厳しい。
最悪は借金を返済するまで借金奴隷になることも。
奴隷が普通に存在しますし奴隷になって借金を返せとかが普通にあります。
額の大小というよりも返済しきれる可能性の低さが状態を厳しくしています。
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冒険者はブラックだ。他の就職口があるならばそちらを望む。
セレナ達を雇用する事を決めた上で改めて『紅獅子の牙』のリーダーであるリエンとサーシャの2人と話し合う。
別荘までの道のりはこの街からは2日。
明日の朝に出発をして次の日の夕方には別荘に着く予定となる。
この辺りの地図を見ながら行動の計画を立てる。
「問題はこの辺りの道を通る時に毒や麻痺を扱う魔物が出る可能性がある事か?」
この辺りの土地は物語の中盤で通る場所。
故に毒やらなんやら少し厄介なモンスターが出始める。
「そうですね。毒消し等の備えは必要になります。こちらでも用意はしますが事前にそちらでも用意をして貰えると助かります」
「ああ、手配する。となる明日はこの辺りでの夜営は避けるべきか」
「ええ。多少無理してもここを抜けた場所で夜営をする方が良いわね」
「なるほど。まぁ、2日の日程だし多少の無理は通せると思うぞ。その後の道のりだがここの村を経由してから別荘に向かうか経由せずに別荘に向かうかだな」
村を経由すると少し時間がかかりそうだな。
「その辺りは私達の消耗を鑑みて臨機応変にとなるかしら。消耗がなければわざわざ村を経由する必要はないでしょう」
「そうね。この日程では時間のロスになるわ。別荘に着くのが夜か最悪次の日になるもの」
「基本的には村によらずに別荘に向かう方針か。それで別荘に着いてからの事だが」
「周辺の魔物の討伐ね。動くのは別荘に着いた次の日からになると思うのだけど」
「ああ。暫くは別荘を拠点にして活動して貰う事になる。まぁ、別荘は去年の夏に行ってから使われてないから掃除等をする必要があるし、魔物や不審者が入り込んでないか警戒する必要があるが」
「その時は私達がどうにかするわ」
「期待している」
「で本当に別荘を拠点として使って良いのかしら?貴族として私達みたいな冒険者が使う事に忌避感とかはないの?」
まぁ、平民を見下す貴族何かもいるのは知ってるが。
「俺は気にしない。それに護衛という役割もあるのだから別荘を拠点にして貰えた方がこちらとしても都合がいい」
俺が目指す別荘には周辺に2つの村があるがそちらを拠点にされては有事の際に対応が遅れるだろう。
それに、別荘の近くには俺の目的であるダンジョンがあるはずだからな。別荘を拠点にしつつ供に潜ってもらうつもりだ。
「そう、ならば後は雇用期間の問題だけど最短でも1月。長くなるならば1月毎に追加で料金を支払うという事だけど」
最初の1月はギルドが払うので問題はないし次の月からはこちらが給料を払うというだけだからな。
「ああ。それで良い。それとも貴族の護衛として正規雇用を望むのか?生活は安定するだろうが給料的には減ると思うぞ」
実際、冒険者として月に5回程度依頼をこなせばこちらの給料以上のお金は得られるだろう。
「安定した生活っていうのは魅力的なのよ。冒険者としての生活では確かにお金が入るけどその分命懸け。危険が多いわ」
「それに武器や防具が消耗した場合はもちろん依頼毎に回復薬などの消耗品の準備にお金がかかりますからね。依頼を失敗した時の賠償金等に備えた貯金等も必要ですし」
支出と収入でかかる金銭を考えると余裕がないのか。
それに自分達がAランクやBランクまで上がれると夢見る事が出来れば頑張れるのかもしれないが。
「なるほど。それならば結果としては雇用の方が望ましいのかもな。月毎の更新も悪くは思っていないのか」
「そうね。無理な危険や支出がないのに一定の給料は出るのでしょう?雇用して頂けるにしろ何れ辞めるにしろお金を貯える事ができそうなのよね」
「ええ。私達にとってはプラスです。冒険としても無理せずにランクを上げる事が出来そうですし。命を危険に晒して何度も依頼をこなしてBランクを目指すよりも安定して生活をしながらランクを上げる為のポイントを溜められるわけです。雇用して貰えた方がありがたいと考えています」
1月毎に依頼を達成した事にはなるし、食事や住む場所もこちらが用意をするから生活には困らずお金も入る。
護衛や周囲の見回り等の仕事はあっても現状よりは危険も少ないと。
普通に条件が良いのだな。
「なるほど。そちらの働きを見ていないので直ぐには答えられないが前向きに考えよう」
「ええ。宜しくお願いします」
後日に詳しく聞くと彼女らが冒険者となったのは『それしかなかった』からだそうだ。
農家でも三男以降に産まれると畑を与えられる事もなく労働力として消費されたり裕福な商人の愛妾として売られたり。飢饉になれば奴隷として売られる事もある。
それを避けて街で働き口を探しても街の外からきた人間を信用して雇う奇特な人は滅多にいないし女というだけで身の危険がある。
そのために他の働く道に進む事が難しく冒険者の道を進む。
なりたくてなったわけではない命懸けの仕事。
Eランク、Dランクの頃は依頼を達成しても報酬が少なくてカツカツの状態。Cランクに上がって報酬が良くなったがより強い魔物と戦う事になり危険が増えた。
このまま頑張ってBランクに上がったとしても更に強い魔物と戦う事になる。命の危険と安全な生活。
天秤は安全な生活に傾いている。
そんな所に降って湧いた貴族の護衛という名の危険の少ない雇用生活への道。
彼女らのやる気は高かった。
何気に借金の返済のためという名目でも長く雇用される事になる『蒼の魔女』の面々を羨んでいたらしい。
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ゲームで出てきた敵キャラとかが仲間にいたら警戒してしまうよね。
出発に向けての準備を終えて『紅獅子の牙』の面々との待ち合わせ場所に向かえばすでにエリス達を含む5人の男女の姿があり、簡単な自己紹介をすると彼女に対する既視感の理由が理解できた。
紅獅子の牙
リーダー・リエン
炎の魔法を得意とする魔法剣士。18歳・女性。Cランク
冒険者歴は5年。剣士としての腕を磨きながら魔法を修めCランクに昇る。金髪に青い瞳が特徴的な美人。
パーティー名の紅獅子を意識している紅く染めたライトアーマーを装備。
副リーダー・サーシャ
リエンの幼なじみで冷静に動くように勤める盾戦士。同じく18歳・女性。Cランク
冒険者歴は同じく5年。盾職と言っても力がそこまで強いわけではないので基本的には回避盾。
光系統の回復魔法を使える。
前線で回復をしながら盾の役割をしていてパーティーの要。
ターニャ
支援魔法を得意とする魔法使い。16歳・女性。Dランク
冒険者歴は3年。リエンに誘われて紅獅子の牙の一員となる。攻撃系統の魔法は苦手だが味方の力を高めるパフ系統の魔法が得意。デパフ系統の習得は現状では力を下げる類いのもののみ。
………この3人は問題ない。
問題はこの後の2人だ。
カイン
パーティーの斥候役を勤める盗賊。18歳・男。Cランク
冒険者歴は4年。斥候が出来る人間を探していたリエン達がギルドの紹介で仲間とした人物。
腕の良い斥候役で魔物の索敵能力も高く罠を見破る眼力もあるらしい。
原作キャラの一人。詳しい理由は不明だが弟のギムルの元で汚れ仕事をしていた男の部下として登場。
昔の仲間を売ったという話しがある人間なので警戒が必要。
グエン
攻撃魔法を得意とする魔法使い。20歳・男。Cランク
冒険者歴は6年。炎の攻撃魔法を始め強力な攻撃魔法の使い手として冒険者の中で高い評価を得ている。
原作キャラの一人。物語の序盤で登場。主人公に敵対する貴族に雇われて戦う敵キャラ。お金の為に色々と悪事をこなしているらしいけど。
うん。問題だ特にカインが。
リエンの事を見覚えがあったのは原作で娼館に通う事で起きるイベント系のスチルだとお陰で気付けたけどな。
雇うどころか別荘に入れる事すら注意する必要がある相手じゃないか。
別荘にある金目の物を持って逃げるとか普通にやりそうだぞこいつら。
「どうかしましたか?」
こちらの微妙な視線に気付いたのかリエンが気にして来るが教えた方が良いよな?
放置して後で娼館で出会いでもしたら気まずいぞ。
とりあえず、カタリナとシエラ達にも伝えておこう警戒しないと不味い。
今回の馬車での人員の振り分けではリーダーであるリエンだけはこちらの馬車に乗ってるから話してみるか。
「少し確認しておきたいのだがあのカインという男とグエンという男は信用出来る相手なのか?」
「カインとグエンですか?彼らは私達がDランクの頃から一緒のパーティーですし信用していますが。彼等がなにか?」
貴族であり雇い主である俺が気に掛けている事が気になるのだろう。
「悪い噂のある冒険者を調べた時に聞いた名前なので少しな。よくある名前と言えばそれまでだが」
「そういえば、ギルドで冒険者を雇う上で調べた時にその名前を聞いた覚えがあります」
カタリナが知ってるという事はガーゼン家で知られているということだよな。
「そんな。いえ、あくまでも噂なのですよね?それに名前が同じだけという事もありますし」
「あー、噂だけじゃないかもだよ。なんか私達を見る目とかちょっと嫌な感じだし」
「私も嫌な感じがした」
「シエルも嫌な感じがする」
アロマとマリスに加えて加護持ちのシエルまで嫌な感じがするとかもう確定じゃないのか?
「旅の間はもちろんだが別荘でも監視をする必要があるかもしれないな。問題を起こした場合はこちらとしてもそれなりの対処をする必要が出るぞ」
こちらの強い言葉に怯んだようだが直ぐに気を取り戻したようだ。Cランクは伊達ではないという事か。
「そんな事はありません。彼等も私達の信頼出来る仲間です。なにもしてないうちから疑うような事は止めて下さい」
真っ直ぐにこちらを見る眼には強い意思を感じる。
ゲームのスチルだと絶望的な表情だったんだが何があったのか。
冒険者やっていて仲間に裏切られたといった感じのテキストがあったと思うのだが。
「そうだな。それは済まなかった。だが、問題を起こした場合には彼等だけではなく君たちパーティーに責任がいく事を理解して欲しい」
同じパーティーに所属している以上は連帯責任というものになる。彼等を切り捨てられなければ全員が相応の責任を負うことになりかねないぞ?
まぁ、ゲームでの情報とカタリナ達の印象だけで確たる証拠はないが。
アロマを筆頭にマリスとミリスには諜報活動紛いの事を頼む事になるか。
後はカタリナとシエル、セレナに気に掛けてもらう。
カナタとニーナは他の奴隷達の護衛を任せるか。
何もなければ良いのだがな。
はぁー、何でこうトラブルの種が続くかね。
とはいえ、別荘までの道のりは順調だ。
遭遇した魔物にも危うげなく対処をするしセレナ達も最低限の援護ですんでいる。
夜の見回りでも真面目にやってるのがわかる。
何の問題もなく安全に別荘につく事で不安になるというのは笑えないが。
夕暮れ時に到着した別荘は伯爵家の人間が使用するだけあって大きく部屋も多い。
カタリナの指揮のもとに奴隷の皆が屋敷の換気や掃除をして泊まるのに問題ないように手配していく。
まぁ、本職のメイドは数名しかいないので手間取っているようだが夜までには食事を含めて用意が出来た。
その間にセレナ達やリエン達は屋敷の見回りと周辺に魔物の類いがいないかを警戒してもらった。
屋敷の中には少なかれず宝物や価値のある武具等もあるからその辺りの窃盗にも注意をしなければな。
とはいえ、最初からこちらが疑っている事に気付けば向こうもめったな行動を取らないとは思うのだが。
それに、この家にきた目的も果たさなければな。
さて、明日から忙しくなるか。
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この世界の貴族とかについての設定はこんな感じ
無事に別荘についた翌朝。
これからの予定は大分慌ただしいものになる。
屋敷の中の掃除は変わらずに続けるとして周辺の村の村長や村の代官等に話を通す必要もある。
食糧庫や村からの税を収めているはずの倉庫の中身の確認。
周辺の土地の見回りを始めとした安全の確保。
村の村長達に周辺のモンスターの様子や盗賊などが出てないかなどの情報を聞く必要があるか。
これに関しては村に出向くのではなくこちらに呼び出す形になるので少し時間がかかるか。
紅獅子の牙の面々には周辺の見回りと供に連れてきた部下と一緒に村の様子も見てきて貰う事になるか。
そして、その間に俺はこの屋敷にあるアイテムの入手とダンジョンがあるのかどうかの確認だ。
これは以外と早くに済んだ。
もともと知識としては何処にあるかがわかっていたのが大きいだろう。
しかし、中盤から終盤の手前位までは使える武器やアイテムが手に入ったのはありがたい。
書斎に隠された腕輪等はゲームではともかくこの世界で普通に秘宝扱いされるマジックアイテムだからな。
そうでなくても屋敷の地下室で何代か前の引退した当主が集めていた武器のコレクションやら秘蔵された魔道具やらが手に入ったのは普通にありがたい。
金銭等も原作以上の収入だろう。
それに隠しダンジョンへの入り口も見つけられた。
原作通りならば出てくるモンスターを相手にレベルを上げて最下層で加護も手に入れられる。
問題は『紅獅子の牙』か。
アイテムやダンジョンの事を伝えられるのは借金で縛れるセレナ達までだ。
一応は雇用を約束しているとはいえ紅獅子の面々には知られたくない。それにカインやグエンの強化とかしたくない。
となると、彼等に隠れてダンジョンの攻略をする事になるが彼等が村の方で魔物退治や盗賊退治をする為に屋敷にいない間に攻略を目指すというのは無理があるか。
とりあえずは方針を話す為にダンジョン攻略のメンバーの予定であるカタリナ、シエル達奴隷組とセレナ達を集める。
「さて、集まった皆には俺がこの別荘に来た目的について話す」
「目的ですか」
「ああ。その前にだ。皆はこの国の成り立ち。王や貴族の始まりについては知っているか?」
こちらの唐突な話しに皆が戸惑う中で首を捻りながらカタリナが反応する。
「確か名も無き邪神によって、滅びを迎えたこの世界を神の力を宿した八人の勇者が倒したのですよね。そして、名も無き邪神を倒した勇者達が各々の国の王となるというのがこの世界の国の始まりとされていたと思います」
「そうだ。神の力を借りた八人の勇者が各々国を創り、そしてその勇者の仲間達であり神の従属神や精霊、聖獣と呼ばれる存在の力を得た者達が貴族呼ばれるようにとなったとされている」
されているというよりも実際にそれらに選ばれた貴き者が貴族を名乗ったのだけどな。
そういう意味でいうならば蛇神の加護を宿したシエルは本当の意味での貴族と呼べるのだよな。
「眉唾なお伽噺ではありますが王族や貴族の中でも侯爵の地位にいる方は特別な力を持つ者が現れる事があるので一部では信じられている話しです」
「反乱を起こした軍が一人の王によって滅ぼされたなんて話も聞いた事がありますね」
文字通り神の力を使う王と戦える人間は少ないからな。
王族の中で神の力を持つ者が現れる。
それがこの世界での戦争が起こり難い理由だったりする。
高い身分にいる人間は神や精霊の力の強さを身を持って知っている。
そして戦争になれば相手もその力を奮ってくる。
核とまでは言わないが中世の世の中で各々の国にミサイルが存在する。
戦争では結局の所、神の力を持つ王や貴族達が結果を決めるという事を知ってる。
それが戦争の抑止力にもなってはいるのだがその分、一度戦争になると酷い事になるのだよな。
「少なくとも俺達貴族の間では事実とされている。そして、実際に精霊や聖獣と呼ばれる存在の加護を得る方法がある」
「それは本当ですか?」
「そういえば、シエルの事を神の加護を得ていると言っていましたよね?」
皆が驚いた顔をするが当たりまえだよな。
神や精霊の力を得るなどこちらがおかしくなったと思われてもおかしくはない。
彼女らの視線は俺とそしてシエルに向かう。
シエルの灰色の肌や鱗を神の加護と俺が言っていたのは聞いているだろうからな。
「そうだ。神や精霊の加護は存在する。そしてその加護を得る為の試練となるダンジョンがこの別荘地には有る。俺の目的はそのダンジョンの攻略だ。まぁ、加護がなかったとしてもダンジョンの攻略が出来ればいやでも力がつく。ダンジョンを攻略する為の装備なんかはこの屋敷にあるしな」
何代か前の当主の命令でこの屋敷の防衛を考えてと考えるしては過剰な位に武器や防具が揃えられているし定期的に食糧などの消耗品も新しく変えるように指示が出ている。
たぶん、この場所にあるダンジョンの事を気付いたのだろうな。ヒントなんかも有ったし。
「なるほど。加護が得られるならばそれで良し。得られるなくてもダンジョンで得られるものがあるという事ですね。それに武器等は事前に用意されているようですし」
「そうだ。全員の装備を整えたらダンジョンに向かう。ただし、ダンジョンの事は紅獅子の牙には内緒だ。話す事を禁じる」
「彼女達の協力があった方が攻略が進むと想うぞ。それに加護とやらを私達も得られるのなら………」
「紅獅子の牙の面々が加護を得たり力を強める事を危惧しているわけですか」
「リエンさんたちはともかくとしてあの男の人達はいまいち信用できませんし仕方ないですかねー」
「私達を信用してくれたと考えるべき」
まぁ、露骨だしわかりやすかったかからな。
「ダンジョンの攻略は出来る限り紅獅子にはわからなようにする。幸いにもダンジョンへの道はこの屋敷の地下にあるからな。一部を立ち入り禁止としておけばさすがに入ろうとはしないとだろう」
「地下ですか。そんなものがあるとは驚きですね」
「おそらくだが別荘の近くにダンジョンがあるのではなくダンジョンがあるからこの屋敷のを建てたのだろう。ガーゼン家の秘匿していたダンジョンというわけだ」
攻略の手記まで見つかったしな。
「貴族が直々に秘匿したダンジョンですか。先ほどの加護の話に信憑性が少しありますね」
ゲームの情報通りだったのは嬉しい事だけどな。
それにこのダンジョンはサブイベントでのダンジョン。
ゲーム的には攻略しても攻略しても構わない類いのものだが攻略する為のレベルは高くない。
難易度が低めの割に経験値やアイテムの美味しいダンジョンになっていたからな。
その辺は三男のアルトに肩入れして関わった場合とサブヒロインのエリスを攻略する為に立ち寄った場合のレベルの差とかが関係しているのだろうが。
さて、ダンジョンの攻略を始めるか。
今更ながらキャラ紹介①
ゲオルグ・ガーゼン 15歳男性
本作の主人公。ゲームでは主人公と敵対する事はあるが味方になる事はない。
ガーゼン家での当主の座を争う最中に三男のアルトを当主に据えようとする主人公に殺されるかサブヒロイン枠のエリスとの関わりで争う事になって殺されるかのどちらかの可哀想な人。
貴族として自分を高める事に熱心で政治的にも軍事的にもガーゼン家を良くしようと頑張った人でもある。
原作では弟のギムルが学園で問題を犯した故に家臣達に担ぎ上げられて後継者争いに加わった。
ガーゼン家の特徴である灰色の髪に黒い眼をしている。
身長は175cm。幼い頃から鍛えている割には体が細いが長年剣を振るっていただけ戦闘力は高い。
土と水、闇の魔法に適性がある。
来年から学園に通う予定。
原作での死亡フラグを恐れたり原作の展開的に戦争等の危険から生き延びる為に色々と努力している。
体を鍛えて魔法の修練にも意欲的。
原作がエロゲの影響なのか仲間として近くにいる人間が女性ばかりで自分でハーレムを形成しかけてる。
カタリナ 15歳女性
ゲオルグの専属メイド。
銀色の髪に褐色の肌とこの地域ではみない色の為に幼少時にイジメられていた。
ゲオルグに助けられて以来、ガーゼン家というよりはゲオルグに尽くすようになった。
ゲオルグが少し変わった事に戸惑ったが根っこの当たりは変わらないと理解した。
家を出る事を選んだゲオルグに驚きはしたが元々兄弟の争いに否定的で本妻の息子であるギムルが当主となった方が良いと口にしていた事を聞いてはいたのでおかしいとは思わなかった。
数少ないゲオルグの家臣と奴隷達をまとめようと頑張っている。
ゲオルグに仕えるメイド達の筆頭。
《バトルメイド》というメイド系の戦闘職。
火と雷系の魔法を使う。
ゲームでは最後までゲオルグに仕えた。
シエル 14歳女性
ゲオルグの奴隷。
灰色の髪に肌に紅い眼、さらには体に生える鱗を恐れられて忌み子として扱われ廃棄される前にゲオルグに購入された。
自分でも嫌っていた紅い眼や体に生える鱗を含めて受け入れてくれたゲオルグを慕っている。
蛇の神の加護を受けた影響で力も強く高い再生能力も持っている。
原作での最強クラスのキャラクターの一人。
並外れた怪力による攻撃に蛇眼による状態異常。
再生という高い回復能力。
固有魔法持ち。
と、厄介極まりない敵で世界を怨み終盤でボスの部下として主人公を苦しめる。
現在はゲオルグの側で護衛をしている。
与えられた戦斧をその怪力で振り回し一度に数体の魔物を屠れる強さを持つ。蛇眼は未だに扱いきれないが訓練の最中にその眼で強く睨み付けられると相手は体が動かなくなるので開花仕掛けているのだろう。
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ダンジョンに入る前にあるセーブポイント。転職まで出来るのはサービスが良い。
微かな光が差す暗い地下道を歩く。
屋敷の地下にこんな場所があった事が以外なのが皆物珍しげに周りを見ている。
地下道があるとは聞いてはいても実際に通ると別なのだろう。
此処にいる人数は俺にカタリナ、シエル、マリス、ミリス、セレナ、カナタ、アロマの8名だ。
ニーナには屋敷の方で紅獅子の皆が戻って来た時の対応をお願いしている。
少なくともこの地下道に繋がる地下室に紅獅子の面々が入らないようにしてもらう。
まぁ、俺達が入らないときは封鎖するつもりではあるが。
「それにしてもずいぶんと長い通路ね」
「この地下道はダンジョンへの道を隠す為と有事の際に逃げる為の隠し通路でもあるからな。最悪の場合はダンジョンの中に立て籠る事も考えて造られているらしい」
「ダンジョンに立て籠るですか」
普通ならば考えられないのだろうがな。
「領民の反乱や他国との戦争、暗殺による命の危険等に対する最後の手段だけどな」
ダンジョンの魔物達を相手にしている方が命の危険が少ないという前提とダンジョン内でサバイバルが出来る実力があることが前提だが。
「確かに最後の手段ですね。しかし、立て籠る事が可能なダンジョンなのですか?」
ゲーム的にはわからないが出てきたモンスターが食べられるなら可能だろうな。
「それはさすがにわからない。あくまでも手記にそう書かれていたというだけだからな」
「あ、それもそうですね」
「それよりも見えて来たぞ」
通路の先にある閉じられ扉。
扉には我がガーゼン家の紋章が彫られている。
ここら辺はゲームと同じか。
「閉じられていますね。それに鍵などもありません」
マリス達が扉を押してみるが何の反応もしない。
ここら辺もゲーム通りか。
「このダンジョンはガーゼン家の一族の為のものだからな」
屋敷で見つけた指輪をはめガーゼン家の紋章に触れながら魔力を流せば紋章が光り扉が開いていく。
このダンジョンはゲームでは三男のアルトを仲間にしてなければ入れないダンジョンになっているんだよな。
特定の仲間がいなければ入れないダンジョンというのが幾つかあるのだがこれはその一つ。
イベントではゲオルグの婚約であるエリスを仲間にしないと入れないダンジョンとアルトを仲間にしなければ入れないダンジョンのどちらかしか入れないようになっている。
因みに大半のプレイヤーはエリスを仲間にする。
イベントの都合で仲間に出来るのもアルトかエリスのどちらかでキャラクター的にはエリスの方が戦力になるし、エリスに仕える二人のメイドも仲間に入るからだ。
ただし、こちらのダンジョンとエリスを仲間にして入れるダンジョンではこちらのダンジョンの方が良いアイテムが手に入る。
「さて、入るぞ」
開いた扉をみて驚いた皆が慌ててついてくる。
そして、入った扉の先は大きな部屋になっており奥にはダンジョンの先へと進む為の扉があるのだがそれよりも眼を引くのは部屋の中央に置かれた女神像だ。
ゲーム的にはこの部屋でセーブが可能となるがこのセーブポイントではもう一つの機能がある。
「ゲオルグ様。この女神像は教会の女神像ですよね」
「その通りだ。そして、この場所では教会でのみ可能とされる転職が可能だ」
その言葉に皆が驚く。
転職。ジョブチェンジ。
ゲームでは神殿で無料で行えるのだが現実となったこの世界では教会に多くの金銭を払い可能とされる。
そのため、貴族や武功を上げた国の兵士、もしくはランクを上げた冒険者でなければ転職は出来ず一次職のそれも産まれついてなっていた職業から変える事がなかったりする。
本来ならば俺や彼女達のジョブは早めに変えておきたかったのだが大金がかかる為に此処まで待った。
「そんな事が」
「ま、俺が先ずは試すさ。全員、特に奴隷の皆は転職してもらうぞ」
女神像に触れれば現在の職業と転職可能な職業を提示される。
今の俺の職業は《貴族》これは特殊職扱いされるがステータスの伸びが良い訳ではない。《高位貴族》ならばステータスの伸びも悪くないからそのままにしたのだがな。
さて目的の職業はと……うん開放されているが少し予定外の職業が出ている。俺が目的としたのは《奴隷使い》これは出ている。出現条件も奴隷を五人以上購入するというもので奴隷系のキャラクターに補正をつけられるものなのだが予定にない《外道貴族》という職業が出ている。
これはゲームの敵キャラ。
しかも貴族系のみがなる職業。
敵キャラ限定の上にかなり強い職業なはずなのだが何故出現している?
まぁ、出ているならばステータス等を考えてこれしかないだろ。
『《外道貴族》にクラスチェンジしました』
「ぐっ」
「くっ」
「なに、これっ」
俺のクラスチェンジと共にカタリナと奴隷達、それにセレナ達の首筋に紋様が浮かぶ。
何らかの魔法敵な繋がりが出来たのか。
奴隷であるシエル達はわかるがカタリナやセレナ達もか。
ステータス等を確認すると皆のステータスが少し上がっている。
説明がある《外道貴族》のスキルか。
《契約と制約》契約を結んだ奴隷や恩や金銭で従えた相手を従属させる。従属れた相手は逆らう事は出来ないが契約により力を得る。
これをそのまま告げるのはまずいか?少し言葉を濁すか。
「落ち着け。それは俺が転職して得たスキルの影響だ。簡単に言えば俺に従う相手が俺に害をなしたり逆らったり出来ない代わりに力を得るというものだ。俺としても予想外ではあるが」
その言葉に驚く一同。
「奴隷使いや魔物使い等の職業は奴隷や魔物のステータスが上げるスキルがあると聞きます」
「なるほど。この首輪はゲオルグの奴隷の証で私達のステータスが上がったって訳ね」
「ん、力が溢れてくる」
全員のステータスが見えるが確かにシエルのステータスは二割増し位になってる。かなり強力な強化率だ。
カタリナやセレナ達は困惑しているが奴隷であるシエル達に戸惑いはないみたいだ。そういうスキルのある職業についたと思っているのだろう。
「とりあえず、全員転職を試してなれる職業を教えてくれ。どの職業にするかはこちらで指示する」
そういうと一番にシエルが女神像に触れる。
「えっと今の職業が《奴隷》それで転職出来るのが《奴隷戦士》と《メイド》と《戦姫》ってなってる」
奴隷に堕ちた時点で職業が奴隷なのはわかっていたがな。奴隷戦士は普通の戦士と変わらない。メイド系は先に期待出来るから基本的に悪くない職業だが戦姫が出てるならば戦姫だな。
戦闘特化で体力や力と素早さの上がりが極めて高い職業だ。それに戦姫特有のユニークスキルも存在したはずだ。
「戦姫で」
「ん、漲る」
振るう戦斧の音が先ほどよりも激しく力強い。
眼に見えて変わる職業というのはそこまでないのだがな。戦姫のスキルが発動したのか俺の方もステータスが上がっている。
「戦姫のスキルでパーティーメンバーのステータスが上がっているはずだが、皆はどうだ」
「確かに、少し力が上がっている気がしますがそこまで大きな効果ではないようですね」
おや?戦姫のステータス上昇はそれなりに高いはずだが。実際、俺のステータスは1.3倍と破格の強化を受けている。
「私のスキル、『戦姫の忠心』は自分の仕える人を強化するスキル。皆への強化はほとんどない」
ふむ。俺の知るスキルと違うな。
俺の知るスキルは『戦姫の祝福』でパーティーメンバーの全員のステータスを10上げるものだったはずだが。
色々と変わっているのは理解していたが知識を改めておこう。
次はカタリナか。
さて、カタリナの職業はゲームではバトルメイドであったはずだが変化はあるのか?
キャラクター紹介②
マリス 16歳女性
黒髪黒目の獣人族の奴隷。
犬族の少女。犬族の獣人は主人と認めた相手には忠誠を尽くすので人気がある。
ゲオルグの事は奴隷となった自分を買い上げた相手である事と奴隷ではなく人として接している事で主人として認めてはいる。
奴隷となる前は冒険者をしていてDランクになっている。
奴隷となった経緯は依頼の失敗と賠償。
自分が奴隷となった事は納得しているが妹まで奴隷となってしまった事には後悔をしている。
本来は活発な性格だったが奴隷性格でだいぶ大人しくなっている。
ゲームでは原作の前に死亡している為に詳しい事はゲオルグもわかってはいない。
ミリス 16歳女性
マリスの妹の犬族の獣人奴隷。
姉と供に奴隷となる。
ゲームでは悪徳貴族に買われて姉が虐待のされ死亡し、その復讐を果たしてた後に闇ギルドに入会して暗殺者に。
ヒロインの一人を暗殺しようとした所を撃退され捕らえられる。その後に幾つかのイベントをこなすと仲間になる。
暗殺者だけあって素早さに特化。
闇の魔法を覚え、毒や麻痺等の状態異常攻撃を得意とする。
現在は姉も生きており特に酷い眼にもあっていないため生来の大人しい性格をしている。
家事等が得意で姉のフォローに回ることも多い。
ゲオルグの事は良いご主人だと思っている。
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