華と日の刃を護る五行の刃 (アマゾンズ)
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設定(キメツ学園有り)

上記のとおりです。

※このキャラのイメージソングはポルノグラフィティの『サウダージ』です。

※専用の戦闘挿入歌兼共闘BGMは『 TM.Revolution』の『Sword Summit』です。


名前

 

神威真次(かむい まさつぐ)

 

年齢

 

17(早生まれ)

 

性別

 

男性

 

髪色

 

黒髪に近いこげ茶で髪型は兜を取った戦国BASARAの伊達政宗。

 

好きなもの

 

和菓子(特に餡子系の物)

 

嫌いなもの

 

鬼(竈門禰豆子は例外)

 

性格

 

明るく振舞うが本心を隠したがる性格。炭治郎を始めとするメンバー達には心の中にある怒りと悲しみを見抜かれている。元々、努力家で鍛錬は欠かさないが承認欲求の表れでもある。煉獄の死後、異国語(英語)を学び口に出している時があるが、これは己が口にしている言葉の意味を隠すものとして使っている。

 

能力

 

彼は直感に優れており「なんとなく」で人間の不兆や吉兆と天気予報などが行える。無論、自分自身を知る事は出来ないが自分以外の人間と共に自分が出てくるのだけは知る事が出来る。

 

※実際は平安時代に生きていた陰陽師の子孫。正確には母方の血筋が陰陽道の家系であり、隔世遺伝によって直感が優れている。母自身がそれら陰陽道に関する事を一切教えなかった為に優れた直感を自分の『勘』として認識している。

 

 

 

日輪刀

 

刀身が「青・赤・黄・白・黒」という左から鋒、鍔元へと至るまで五色の色が発現している。

 

極めて異例であり、本人としては「極められる呼吸が定まらず全ての呼吸が弱いのかもしれない」と発言しており『柱』のメンバー達もそれで納得している。

 

刀身の形は源平時代の太刀で非常にシンプルかつスタンダードなもの。

 

五行思想に基づく形をとる事ができ、呼吸によって五獣・五竜・五麟など伝説上の聖獣をイメージした色に変化するのが特徴。

 

※水の呼吸をすれば『青龍』炎の呼吸をすれば『朱雀』など。

 

 

呼吸法

 

『五行の呼吸』

 

『木・火・土・金・水』という属性を型とし「相生」「相剋」「比和」「相乗」「相侮」という異なる五つの呼吸の総称。異なる属性の型や呼吸を同時に操るなどの応用が利きやすい。

 

弱点として基本となる『炎・水・雷・岩・風』の呼吸が使えず、幅が広すぎて対策がされやすい。

 

便宜上『木(風)・炎(火)・岩(土)・金(雷)・水』としており、隠遁している。

 

 

呼吸の型

 

基本となる『炎・水・雷・岩・風』の五つの呼吸を模して『木・火・土・金・水』の型に当てはめたもの。『日』の呼吸は属性に含まれていないが読みが同じ『火』の属性の型で扱えるが『ヒノカミ神楽』を舞える炭治郎程の威力も動きも出来ない。

 

木の型

 

一之巻・歳星洸 呼吸により練り込んだ気を種が弾けるように放つ気弾。

 

二之巻・聳孤角 鞘と刀身による二重の居合抜き。

 

三之巻・青龍牙 竜巻を発生させ捲き込み、敵を斬る。龍王といわれる青龍の逆鱗状態の攻撃を表現したもの。(モデルは無明神風流・奥義 青龍)

 

火(炎)の型 

 

一之巻・熒惑炎 炎を纏う事で鎧とする。野良の鬼ならば触れた部分が焼かれてしまう。

 

二之巻・赤竜爪 火(炎)の呼吸により刀身を真っ赤にし高温で相手を斬る横薙ぎの斬撃を繰り出す。

 

三之巻・朱雀翼 陽炎を生じさせ、回避されても再び繰り出す二段構えの斬撃。不死鳥とされる朱雀の再誕を表現したもの。(モデルは無明神風流・奥義 朱雀)

 

土(岩)の型

 

一之巻・鎮星重 刀自体を軽い物と誤認識する事で重量のある一撃を繰り出す斬撃。

 

二之巻・黄竜爪 大地などに鋒を突き刺して衝撃を伝導させる間接攻撃技。

 

三之巻・麒麟角 跳躍による重力落下を利用した一撃。隙が大きく止めの為の技。麒麟の角による破壊を表現したもの。

 

 

金の型

 

一之巻・太白斬 純粋な鍛錬による斬撃。過剰な努力によって岩すらも豆腐のように斬ってしまうレベルになっている。全集中の呼吸・常中を行っている状態では斬鉄を行うことも可能。

 

二之巻・白竜爪 呼吸による身体強化で繰り出す連続の居合い。善逸の霹靂一閃の速度には及ばないが、繰り出す回数は同等。

 

三之巻・白虎爪 相手を引き寄せられると勘違いさせる程の速力で間合いを詰め、相手を引き裂く斬撃。白虎の不屈の闘志を持った一撃を表現したもの。(モデルは無明神風流・奥義 白虎)

 

 

水の型

 

一之巻・辰星冷 寒冷地で流れる水が凍り付き、氷柱が落下する速度を模した速さで突き刺す刺突技。

 

二之巻・黒竜爪 流水を模した居合い切りで切られた相手は体液がまるで和流のように流れる。

 

三之巻・玄武甲 刀身の腹に呼吸で練った気を送る事で攻撃を防ぐ盾とする防御技。(モデルは無明神風流・奥義 玄武)

 

 

極之型

 

『木・火・土・金・水』の属性の型を使わず、「相生」「相剋」「比和」「相乗」「相侮」の組み合わせによって使う事の出来る型。属性に当てはまらない為、『外伝』と区分されている。

 

異なる呼吸を組み合わせて使う為どれも強力な効果を持つが、引き換えに代償が大きく、肉体の内部の一部が大きく損傷したり、肉体硬直などの戦闘不能状態となってしまう事が多い。

 

 

一之巻・外伝 相生(そうせい)×比和(ひわ)

 

呼吸で強化した体内において脳内麻薬を過剰分泌させ、肉体そのものをドーピング状態にする。肉体の限界を容易く超えられるが薬物強化であると同時に肉体そのものが薬物中毒と同じ症状になってしまう為、胡蝶しのぶを始めとした『柱』達から多用を厳重注意されている。

 

二之巻・外伝 相剋(そうこく)×相侮(そうぶ)

 

鬼の属性を見抜き、属性を自分と相手を逆転状態にする。鬼からすれば呼吸の使い手に対し己の血鬼術が弱点の状態となるが、その弱点を上回っているという矛盾の状態を作り出す。代償として己の器官に負担が掛かり、特に三半規管が狂うため、平衡感覚が狂って一時的に戦闘不能になる。

 

三之巻・外伝 比和(ひわ)×相乗(そうじょう)

 

己自身にある属性『木・火・土・金・水』のうち、一つの属性に偏らせ、相剋の属性を失くす事で自身を選んだ属性そのものにさせる。相手が弱点となれば相乗によって更なる力が増幅されるが、相剋である場合、逆に力が下がってしまい同じ属性では拮抗する事しか出来なくなる。属性を知ってから使用する事が多く弱点は克服されているが、代償として五感『視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚』の感覚のうち一つが無作為に利かなくなってしまい、使えるようになるまで三日、長く使えば二ヶ月の間、当たってしまった感覚が使えなくなってしまう。

 

終之終 相生・相剋・相乗・相侮・比和・陰陽和合

 

全ての呼吸と共に五行の属性を一つとし、聖獣・四神と麒麟の全てを一体化させ敵へと特攻する。全ての呼吸を同時に行い、肉体という制限を無くし肉体に眠っている100%の力を出す事ができ、鬼でも超える事が難しい限界値を超えた力を発揮するが肉体の負荷が爆発的に上昇し、内部の臓器の破裂や破壊を引き起こす。

 

故に目的の鬼を滅ぼした所で、肉体が死んでいるため己の命も尽きるという究極にして禁断の技。

 

 

ーーーーー◇

 

 

キメツ学園設定

 

神威真次

 

高等部2年、菫組で栗花落カナヲとクラスメート。カナヲに告白しているが玉砕済み。学園では学園三大美女の一人、胡蝶しのぶにバレンタインデーに本命(ハートのチョコ)をもらっているのを目撃され、登下校も一緒にしている事から付き合っているのではと噂されている。

 

(実際はご近所さんで、幼少から好意はあるが学園での周りが怖くて言えていない)

 

炭治郎とカナヲの二人がくっつくのを見守っているが、自身も相手がバレバレな為、お前もなと言われている。

 

部活はバスケットボール部に所属、現在はレギュラーとして活躍中だが、アシストに回る傾向が強いので目立った成績はない。周りを活躍させるので自分も活躍しろとチームメイトには言われている。

 

時折、テンションに身を任せる傾向があり、その時は英語を交えた話し方をする。

 

好きな事はカラオケだが「ハイカラバンカラデモクラシー」に勧誘の誘いが来てるのが悩み。18番は「サウダージ」と「月夜の悪戯の魔法」

 

※「月夜の悪戯の魔法」は学園祭のメイン『キメツ☆音祭』でアレンジした和装をして歌った際に人気が出てしまい、それによって目をつけられてしまった。

 

将来は留学し薬科学者になり、胡蝶しのぶに告白するのが夢。




以上です。


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プロローグ 回忌の日

結納を済ませ数年後、二人はとある墓地にやってきた。

そこに報告をする為に。


時は大正XX年、夏。この時期は死者が特別に現世へと帰ってくると伝えられる御盆である。

 

「大丈夫?カナヲ」

 

「平気・・・」

 

一組の男女が少しだけ小高い丘を登ってある場所を目指している。そこには一つの墓があり、その前には刀の鞘と朽ちかけ刃先が折れた刀が置かれている。

 

「来たよ。真次」

 

「・・・遅れてしまってごめんなさい」

 

花を添え、線香に火を点けそれを刺して供える。二人は目を閉じて手を合わせた。線香の独特の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「君が居なくなって、随分と時間が経っちゃったね・・・」

 

「っ・・・・けれど、貴方のおかげで私達は今こうして生きている」

 

悲しみと申し訳なさが混同したような表情をする二人。だが、感謝の意をもって話しかけている。

 

「真次・・・私と炭治郎ね、夫婦になったんだよ」

 

「その祝儀の時間があったから、なかなか来れなかったんだ」

 

墓前に結婚の報告をする二人、この二人はかつて鬼を滅する事を目的に組織された鬼殺隊の隊員だ。

 

竈門炭治郎と栗花落カナヲ、この二人の名がそれである。男性が炭治郎、女性がカナヲ。

 

「真次・・・もし、君が生きていたら親友として結婚式に出て欲しかったな」

 

「・・・・」

 

二人は真次と呼ぶ相手を思い出し始める。神威真次、鬼殺隊の一人で炭治郎の親友でもあった一人である。

 

彼は炭治郎と同じように鬼に家族を殺され、凄まじい努力によってある才能を開花させた隊員であった。それは『五行の呼吸』である。元来、呼吸法は始まりである『日』から始まり『炎・水・雷・岩・風』という五つの呼吸から成り立っている。

 

だが、真次は『炎・水・雷・岩・風』ではなく『木・火・土・金・水』という特殊な呼吸と共に「相生」「相剋」「比和」「相乗」「相侮」という異なる呼吸と異なる属性を同時に操るなどの応用力を身に付けたのだ。だが、名義上『木・炎・岩・金・水』としている。

 

彼の特殊な呼吸の基本は順送りに生み出して行く、陽の関係である「相生」から発生し彼の戦闘は相手の五行属性を見つける事から始まる。

 

木生火(もくしょうか)木が燃える事により火を生む関係。

 

火生土(かしょうど)物が燃えれば後には灰が残り、灰は土へと還る関係。

 

土生金(どしょうごん)鉱物・金属の多くは土の中にあり、土を掘りその金属を得る関係。

 

金生水(ごんしょうすい)金属の表面には凝結により水が生じる関係。

 

水生木(すいしょうもく)木は水によって養われ、大木となる関係。

 

それと真逆の相手を打ち滅ぼして行く、陰の関係となる。「相剋」とは。

 

木剋土(もっこくど)木は根を地中に張り土を締め付け、養分を吸い土地を痩せさせる関係。

 

土剋水(どこくすい)土は水を吸い取り、常にあふれようとする水を地割れなどによりせき止める関係。

 

水剋火(すいこくか)水は火を消し止め勢いを殺す関係。

 

火剋金(かこくごん)火はその熱により金属を熔かす関係。

 

金剋木(ごんこくもく)金属によって形作られたの斧などが木を傷つけ、切り倒す関係。

 

その他の「比和」「相乗」「相侮」の三つは過剰な力となる為に彼は積極的には使わなかった。それと同時に彼はこの呼吸を身に付けてから基本となる『炎・水・雷・岩・風』の呼吸が使えず、これら身に付けた特殊な呼吸を複合する事で究極の技を発現させ、彼は帰らぬ人となった。

 

「真次、君がいた時はたくさん喧嘩もしたし、競い合ったよね?善逸も伊之助とも一緒になってさ!」

 

「初めて蝶屋敷に来た時・・・本当に弱かった」

 

「それで一緒に強くなって!そして君は・・・」

 

炭治郎から言葉の強さが無くなっていく。鬼殺隊はいつ死んでもおかしくないものである。だが、炭治郎が彼の死亡を聞いたのは鴉からの知らせを聞いた時であった。

 

「貴方は壮絶な最期だったと聞いてる・・・・その最後を私も炭治郎も見届けられていない・・・」

 

「けれど、君の日輪刀が戦いの凄さを物語っているよ」

 

「・・・(炭治郎には教えていない・・・私が最後に会話したのを)」

 

 

 

 

 

 

X年前、蝶屋敷道場。

 

「っしゃああ!」

 

「う・・嘘ぉ!アイツが炭治郎の前にクリアするなんて・・・!」

 

「へへっ!これで瓢箪は俺が一番乗りだな!」

 

善逸が騒いでいるのを見ながら、歯を見せニヤニヤと笑う彼こそが神威真次。まだ、少年のような好奇心とあどけなさを残しつつも、目の奥にある冷たさと優しさは隠されていない。

 

歳は17、生まれが早く現代で言うところの早生れであるため、実際は16歳である。

 

こうして明るく振舞ってはいるが、それは本心ではないと見抜かれてしまっている。

 

乱雑に切られた焦げ茶色の髪、右腕の上部と右肩にかけての火傷の跡、そして心に巣食っている鬼への強烈な怒り。肉体面では蝶屋敷における鍛錬によって順調に形になって来ている。

 

「なんでそんなに早くクリア出来るんだよぉ!?」

 

「ただただ、鍛錬の積み重ねのみ!これに尽きる!」

 

「ちくしょおめええ!」

 

こうして騒いでいるが、彼自身も鍛錬する理由があった。それは彼が蝶屋敷に運び込まれた初日の事であった。

 

 

 

 

 

 

「しのぶさん、お願いします!俺の身体を回復させてください!」

 

「うーん、それは構いませんが・・・今回みたいな戦い方をするのならお説教が必要ですね」

 

「うっ・・・」

 

そう彼は一匹の鬼を容赦なく切る事で評価されているのだが『五行の呼吸』のうち、過剰に攻撃力を上げる「相乗」を使い続けているため『柱』達から厳重注意を受けていたのだ。

 

その厳重注意を完全に無視して「相乗」を使い続け、『柱』の一人である胡蝶しのぶの屋敷に強制連行された訳である。

 

「貴方は最も『柱』に近い位置に居る。その事を忘れた訳じゃありませんよね?」

 

「・・・・・」

 

真次は大量の冷や汗を流している。男性の『柱』はどんな事があっても臆する事はないのだが、この胡蝶しのぶだけは別であった。薬学に精通し、そして何よりも『笑顔で鬼を殺す姿』を見てしまった為に恐ろしいと感じるようになってしまっている。

 

また彼は「相生」をする事で人間の体内で生成される脳内麻薬と呼ばれる物質を自分の意志で自在に引き出す事が出来る。現代で言うなら『β-エンドルフィン』や『ドーパミン』『アドレナリン』などが有名だろう。

 

彼はそれを「相生」の呼吸で相性の良い脳内麻薬を『強化』し己の肉体の限界を操作してしまうのだ。呼吸法の一つ『全集中の呼吸』と同じだと思われるが、性質が違っている。

 

『全集中の呼吸』は呼吸によって血流を操作する事で全身に血を巡らせ、身体強化と体力補強をするのに対し、真次の呼吸は体内で作られる物質を『強化』状態にして全身に巡らしている。つまり薬物強化、すなわちドーピングと変わらないのである。

 

薬学に精通しているしのぶからすれば、これは止めるべきものなのだ。常に薬物強化していては肉体の方が限界を迎えてしまう。それ以上に厄介なのが身体の内部で作られている物質であるために外部からの薬物ではそれを抑制する事しか出来ないのだ。

 

「『相生』の呼吸による限界操作は私の屋敷にいる間、使わないでくださいね?」

 

「な、だってあれは!」

 

「使・わ・な・い・で・く・だ・さ・い・ね?」

 

「はい・・・・・・」

 

ものすごい威圧のある笑顔に真次は生返事を返す事しか出来なかった。なによりも怖いからだ。

 

「では、貴方も先ずは『相生』の呼吸に頼らないようにする為に『全集中の呼吸』全集中・常中を最初に体得してもらいますよ」

 

「え”?あれは確か・・・」

 

「大丈夫、貴方なら出来ますよ。貴方が強くなった姿を私、見てみたいです」

 

「う・・・」

 

彼、真次は美人から貴方のこのような姿が見たいという言葉にめっぽう弱かった。善逸と似たような大奮起の仕方だが、彼自身強くなった自分を見てもらいたいというのが根幹である。

 

「う・・ううう・・・ああ、もう!やぁぁぁぁってやるぜ!!!」

 

この日から、真次の鍛錬が始まったのだ。だが、度重なる戦闘で脳内麻薬に頼りきりの戦いをしていた彼にとって、此処の鍛錬はまさに地獄と化していた。いうなれば薬物中毒者が完全に薬物を断つために、厳しく制限された生活を送ってるようなものだ。

 

毎夜毎晩、しのぶ特性の薬と拘束されながら眠る日々である。肉体は薬物を求める身体と同じであるために毎晩毎晩のたうち回りかねないほどだ。

 

「ぐ・・ぁ・あああああっ・・!!」

 

そして、薬物が抜け切った身体で鍛錬をしている時に出会ったのが、後に親友となる三人と自分が恋をした一人の女の子であったのだ。




鬼滅を読んでいたら浮かんだ話です。この話のオリ主は漫画の巻数で言うと6巻で登場し、19巻で死んでいます。

男が命をかけた理由は一つしかないでしょう。

『惚れた女の未来を守るため』です。


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第一話 日、雷、獣、花の刃との出会い

親友となる四人と恋した女の子との邂逅。


その日、新たに三人の人間が蝶屋敷に運び込まれてきた。その中の一人、我妻善逸が騒ぎ立てている。

 

「ねぇ、この薬を三ヶ月も飲むの!?飲まなかったらどうなるの!?」

 

「静かにしてください!」

 

竈門炭治郎も隠に担がれて病室らしき部屋に入ると、我妻善逸を見かけた途端に心配や自分を追って来てくれた事に感謝を伝えていた。

 

嘴平伊之助に対しては善逸に気を向けていた為、気付かなかったらしく助けに行けなかったことを謝罪したが・・・。

 

「イイヨ、気二シナイデ」

 

「!?(声が・・・本当に伊之助か?)」

 

善逸曰く、彼は喉を潰してしまったそうで、今のような喋り方と同時に敗北によるショックが大きい様子だ。

 

それぞれが蝶屋敷にて休息を取っている中・・・。

 

「うがああああああああああ!!!があああああああああっ!!!」

 

ものすごい叫び声が部屋に響いてきたのだ。まるで苦しんでいるかのようで鎖が軋みを上げているようにジャラジャラとした音も聞こえてくる。

 

「なっ・・ななななんだよおおおお!今の声ええええ!!?」

 

「すごい叫び声だ・・・」

 

「・・・(ウルサイ)」

 

「ああ、また彼が暴れているんですか・・・。鎖も丈夫にしてありますけど・・・今日で五日目だから仕方ないですね」

 

「あ、あの!」

 

「なんですか?」

 

治療の指揮を任されている神崎アオイが炭治郎の声に返事を返しながら振り向いた。

 

それを見た炭治郎は疑問に思った先程の声に関して質問する。

 

「さっきの声って一体何ですか?」

 

「ああ、あの声は鬼殺隊の問題児にして異端児が自分の中にある毒を抜こうとしているんです。その苦しみは貴方達のケガ以上のものなんです」

 

「え・・!」

 

「例えるなら、毎日毎日、刀の鋒で傷口を抉られ続けられているようなものです」

 

「うわぁ・・・・」

 

アオイの口から出た例えがあまりにも痛々しく、炭治郎と善逸は想像してしまった。傷口を抉られるというのは余りにも痛い。それは想像するだけでも痛みがわかるくらいに。

 

「そ、そそそそんな奴が此処に!?」

 

「そうです。今日が峠ですから乗り越えたら会えますよ」

 

 

 

 

 

翌日、肩を担がれ炭治郎達が寝ている向かい側のベッドに誰かが寝かせられた。

 

その姿はやせ細っており四肢には鎖で縛られた跡、水を飲むのもやっとだが、死んではいない。まるで極度の栄養失調のような状態で軽く呻いている。

 

「・・・・ぅ」

 

「・・・・っ」

 

伊之助以外の二人は運ばれてきた青年の状態を見て、息を飲んだ。

 

「匂いからして、運ばれてくるまでの間・・・水くらいしか飲んでなかったみたいだ」

 

「コイツの心臓・・・弱々しいけど、生きようとしてる。しぶといな」

 

「・・・・」

 

しばらくするとアオイとしのぶが病室に入ってきた。アオイの手には注射器と薬の入った瓶を乗せたお盆を持っており、しのぶは注射器を手にし瓶に入った薬品を注射器の中に吸わせ、それを青年に注射した。

 

「ぐ・・・・・ぁ・・・・・か・・・」

 

僅かに呻いたが、青年は穏やかな表情となりゆっくりと寝息を立てて眠り始めた。

 

しばらくして目を覚ますと、三人も上半身だけを起き上がらせている状態で青年を見ている。

 

「やぁ」

 

「ん?」

 

「初めまして・・・だよな?」

 

「・・・・だな」

 

「ハジメマシテ・・・」

 

「初めまして・・・・」

 

「俺、竈門炭治郎。君は?」

 

「神威・・・神威真次・・・」

 

「神威・・か」

 

「ああ・・・名前の方で呼んでくれると嬉しいかな。神威呼びは慣れてなくて」

 

「分かった、じゃあ真次で良い?」

 

「それで構わない」

 

炭治郎の言葉に真次が反応する。どうやら、注射されたのは栄養剤だったようで、ある程度の会話が出来ているが疲労の色は隠せていない。

 

「真次・・・君って、無理してない?」

 

「え?」

 

「だって、君から無理をしている匂いがするから・・・」

 

炭治郎の言葉に心を見透かされたような表情をする真次。だが、すぐに炭治郎の鼻に匂いがツンと来た。そう、この匂いは怒りだ。

 

「炭治郎・・・で、良いかな?」

 

「え・・・う、うん」

 

「あまり、人の心を暴くような真似するなよ。身体が万全だったら殴ってた」

 

「!ご、ごめん!」

 

真次からの言葉に炭治郎はすぐに謝罪した。彼から濃厚な怒りの匂いが出てきていた為、相当怒っているのだと理解したからだ。

 

「人には暴かれたり、覗かれたりされたくない部分があるんだ。それが分かっても口にしない方が良い時もあるよ。炭治郎」

 

「あ・・・うん」

 

先ほどの怒りから優しさの匂いに変わり、真次は笑みを浮かべた。だが、その中に悲しみが混ざっているのを感じたが先程、注意を受けたので炭治郎は言葉にしようとはしなかった。

 

 

「へぇ・・・炭治郎は火(日)の属性か」

 

「え?」

 

「そこの猪の皮を被っているのは、土の属性・・・」

 

「・・・・?」

 

「で、さっきから騒いでいる奴は木の属性・・・なるほどなるほど」

 

「な、何何!?アンタさっきから色々と音が変化して怖いんだけど!?」

 

「ああ、俺の単純な勘(占い)みたいなものだから気にしないでくれ」

 

真次の含みのある言い方に三人は疑問に思ったが、真次自身が寝床に潜り込んで寝てしまった為に聞く事が出来なかった。

 

 

 

 

四人の身体が回復してから、しのぶから機能回復訓練を始めると宣言された。三人は首を傾げていたが、真次だけは顔を引きつらせている。

 

ただし、善逸は四肢の回復が完全ではないため先に炭治郎、伊之助、真次の三人が先に向かい、しばらくして窶れた姿となって帰ってきた。

 

炭治郎はすぐに寝床に入ると眠ってしまい、声帯を潰している伊之助も同じ、真次は掛布団さえ掛けずに眠ってしまう。

 

そんな三人の様子に善逸は恐怖しかなかった。あの三人が窶れて帰ってくるなんて尋常じゃない。

 

「一体何があったの!?明日から俺の参加するんだからさ!」

 

「ごめん・・・・」

 

「・・・・・・気ニシナイデ」

 

「眠らせてくれ・・・・」

 

 

 

 

 

蝶屋敷の訓練場に四人が集まると善逸の為にアオイが説明をし始めた。整体、反射訓練、全身訓練と三つに分けられていた。女の子が主体となってやっている事に気付いた善逸は三人を外に連れ出した。

 

お前ら謝れ!お前ら詫びろ!!天国に居て地獄にいるような顔してんじゃねぇえええ!女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせに何をやつれた顔してみせたんだよ土下座して謝れよ切腹しろ!!

 

女の子一人につき おっぱい二つ お尻二つ 太もも二つついてんだよ!すれ違えばいい匂いがするし 見てるだけでも楽しいじゃろがい!!

 

善逸は暴れて喚き散らし八つ当たりに等しい状態だ。先に女の子に訓練してもらっていたことによる嫉妬だろうだが方向が違っている。

 

訳分かんねぇコト言ってんじゃネーヨ!!自分より体小さい奴に負けると心折れるんダヨ!!

 

ヤダ可哀想!!伊之助女の子と仲良くした事ないんだろ!?山育ちだもんね!遅れているはずだわ!あーあー!可哀想!!

 

「(カッチーン)はああ"―――ん!?俺は子供の雌、踏んだ事あるもんね!!

 

最低だよ!それは!!

 

うるせえ!テメェ等あぁぁぁぁ!!!!

 

「「「!!!??」」」

 

「黙って聞いてりゃあ・・・ギャアギャアと・・・女の子だからって下手な扱いするな!あの人達は身体を治すためにやってくれてるんだぞ!邪な欲、ぶげらぁ!?」

 

正論を言おうとした真次に対して善逸が思いっきり殴りつけ、壁に当たって止まった。

 

黙れ!このむっつりガリガリナルシスト!ぉ女の子に触れるんだぞ!体揉んで貰えて湯飲みで遊んでるときは手を!鬼ごっこしてる時は体触れるだろぉがァァー!!

 

「ぐ・・・ぐ・・・こ、こいつ生粋の女好きか?」

 

「大丈夫かい!?真次!」

 

「ああ・・・奴さん暴走してるけど」

 

うぃああああ!幸せ!!うわあああ!幸せ!!

 

善逸の暴走よりも殴り飛ばされた真次を心配する炭治郎、変にやる気を出した善逸、負けず嫌いを発揮した伊之助の二人は機能回復訓練においてアオイに勝利する事は出来た。炭治郎は敗北、真次も同じく敗北。だが、彼らの勢いは一人の女の子に止められた。

 

「・・・・」

 

「うわっ!」

 

栗花落カナヲ、胡蝶しのぶの継子である。無表情かつ身体能力が高く、炭治郎、伊之助、善逸の三人は完敗。真次は彼女に見惚れてしまっており、勝負にならず。

 

伊之助、善逸の二人はカナヲに勝てず、諦めモードに入ってしまい真次は見惚れていた自分を自覚し、真面目に打ち込み始めたが、カナヲに完敗。毎日毎日、戦略を変え、やり方を変えるがそれでも勝てない。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・強い。やっぱり呼吸法、身につけなきゃダメかぁ」

 

「え?呼吸法!?」

 

「そう、全集中の呼吸法。これを身に付けないと多分、あのカナヲって子に勝てない」

 

真次と炭治郎が珍しく会話していた。元々、努力家の二人であり気が合わないはずがなかった。

 

「けど、その呼吸法・・・俺全然できない!」

 

「俺も全力で集中して5分が限界だよ・・・それを常時出来るようになって初めて強くなれるのかも」

 

そう会話していると三人の女の子達が炭治郎と真次に何かを差し出してきた。

 

「て・・・手拭を」

 

「ありがとう」

 

「ありがとう・・・」

 

寺内きよ、中原すみ、高田なほの三人は笑顔になり、休憩したらどうだという提案を受け入れ、炭治郎と真次はお茶とおにぎりをほうばりながら話を聞く。

 

「瓢箪?」

 

「そうです。カナヲさんに稽古をつける時しのぶ様はよく瓢箪を吹かせていました」

 

「へぇー、面白い訓練だね」

 

「瓢箪・・・ああ、あの破裂させてるって言われてるアレかい?」

 

「そうですそうです」

 

「破裂・・・?」

 

「そう、持ってきてあげて」

 

「はーい」

 

真次が催促すると女の子の一人、寺内きよが瓢箪を持ってくる。小さくてもかなり丈夫で叩くと小気味良い音が響く。

 

「これをこうやるんだよな・・・確か。ふぅ~・・・すぅ・・・ふーーーー!!」

 

小さい瓢箪に真次が限界まで息を吹き込むとパンッ!と瓢箪が破裂した。だが、真次は激しく呼吸を荒くしている。

 

「すごい・・・・でも、小さくてこれなの!?」

 

「ぜいぜい!はぁっはっ!!お、俺もようやくコレが出来た!」

 

「え、今のが初成功だったの!?」

 

「はい、拘束される前から真次さんもコレにはかなり苦労してます。初めにやった時は破裂させる事が出来ませんでした。破裂させたら、これをだんだんと大きくしてくみたいです。ちなみに今、カナヲさんが破裂させているのは・・・この瓢箪です」

 

見るからに真次が初成功させた瓢箪よりも四倍以上も大きいものだった。その大きさにふたり揃って口を開けた。

 

「「でっっっっっか!!!!!!!!」」

 

少しの間、驚いた後・・・・。炭治郎と真次は互いに顔を見合わせると同時にしっかりと握手を交わすと。

 

「頑張ろう、真次」

 

「おう、炭治郎」

 

今此処に努力家コンビが結成され、二人は訓練を開始した。真次の意見で先ずは落ち着くために座禅を組む事にしたのだった。




真次が瓢箪割りを初めに成功させていますが、この出来事の後のことです。

真次はしのぶさんに気に入られています。ですが彼自身の勘という名の占いで彼女の命が失われる事を予期しているので心の中では葛藤しており、本気で異性として意識したのがカナヲです。

次回は真次の設定です。


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第二話 呼吸

努力コンビ、全力全開DA!!

サボっていた二人も全力全開DA!!



「うおおおおおお!」

 

「ぬああああああああ!!」

 

努力コンビ結成から翌日の朝、二人はそれぞれ鍛錬をしていた。炭治郎は走り込み、真次は縄で縛られた岩をもちあげて維持する鍛錬だ。

 

「はぁ、はぁ・・・!」

 

「ぜい、ぜい・・・!」

 

二人の息は上がっているが、自分でも分かっている。肺が弱い、それだけだ。人間は筋肉を鍛えることは簡単だが、肺などを鍛えるというのは難しい。だからこそ、呼吸法が要になる。

 

前日の夜、炭治郎は屋根に、真次は縁側でそれぞれ瞑想していた。炭治郎は何度も深呼吸して呼吸を落ち着かせ、真次は自身の特殊な呼吸で落ち着かせていく。

 

「(落ち着け落ち着け。集中しないと!)」

 

「もしもし、もしもし」

 

「はい!」

 

「頑張ってますね。お友達二人はどこかへ行ってしまったのに」

 

炭治郎に顔を近づけてきたのは蝶屋敷の主であり『柱』の一人でもある胡蝶しのぶだ。

 

自然と炭治郎の頬も赤く染まる。相手が異性でしかも美人であれば男としては当然の反応だろう。

 

「一人で寂しく・・・ああ、真次君が居ましたね」

 

「はい!彼と一緒に出来るようになればやり方を教えてあげられるので!」

 

しのぶと炭治郎の会話はしばらく続き、しのぶは自分の夢を炭治郎に託したいという想いを話した。

 

 

 

 

 

 

 

しのぶは屋根から降りると今度は真次の所へとやってきた。彼は呆然と月を眺めている。

 

「もしもし」

 

「ん?ああ・・・しのぶさん」

 

「昔のようにしのぶで良いですよ」

 

「昔って言っても出会ったばかりの時でしょう?今はもう立場も違うから出来ませんよ」

 

「そういう所はキチンとしていますね。自分の身体は心配しないのに」

 

「う・・・」

 

笑顔で毒を吐かれ、真次は申し訳なさそうに視線を逸らす。しのぶは隣に座ると真次と同じように月を眺め始めた。

 

「ようやく回復しましたね。君の身体は本当に危なかったんですよ」

 

「ずっと、使い続けていましたからね。この特殊な呼吸が出来るようになってから」

 

「私は君のことが気に入っているんですよ?問題児的な部分もありますが」

 

「それは嬉しいことですけどね」

 

真次はさり気なく、しのぶの横顔を見た。それと同時に頭の中に映像が浮かんで来る。しのぶらしき人影が何かに取り込まれていく様だ。具体的には見えない、自分としてはただの『勘』なのだが、不思議とこれが今まで外れた事がない。つまり、この映像はしのぶの死を暗示しているのではと真次は思う。

 

「し・・・もしもし?もしもーし?」

 

「はっ!?な、なんですか?」

 

「なんですかじゃありません、ボーッとして!」

 

「す、すみません・・・」

 

笑顔を崩さないしのぶが珍しく拗ねた声を出していた。話していたのに無視されていたのだから当然といえば当然だろう。

 

「それじゃ、私も部屋に戻りますね」

 

「あ・・・しのぶさん」

 

「はい?」

 

「もしも・・もしもですけど、自分が死ぬ時になったらどうしますか?」

 

「・・・!?そうですね・・・私は次に託そうと思います」

 

「次に・・・ですか?」

 

「はい、それでは」

 

一瞬だけ目を見開いたが、しのぶは言葉を残して去っていった。だが、真次は言えなかった。貴女はこの先、死ぬ事になる。そんな事を本人に言えるはずがない。何よりもただの『勘』でそんな重要な事は言えない。この『勘』はこういう時になって自分を苦しめてくる。以前、不安になって伝えたりしていたが皆、そんな事はありえないと言い忠告を聞いてくれなかった。

 

「どうして・・・俺の勘は当たってしまうんだ・・・」

 

 

真次は自分の頭を抱え込みながらも一通り、落ち着いた後に瞑想を済ませ休む事にした。

 

 

 

 

そして九日後、カナヲが破裂させていたという瓢箪を目の前にして真次は立っていた。

 

「すぅ・・・・・ふぅ・・・すぅぅぅぅ!ふーーーーーーーっ!」

 

ブオーーー!という低く大きな音が響き渡るが、真次は息を吹き込むのを止めようとはしない。しばらくして圧力に耐えられなくなった瓢箪がバァン!と思い切り破裂したのだ。

 

「・・・!」

 

「「「やったああ!」」」

 

「い・・・いよっしゃあああああ!」

 

「やった!真次!!すごいよ!!」

 

「へへっ!これで瓢箪は俺が一番乗りだな!」

 

「よし!俺も負けてられないな!」

 

「この瓢箪を当然のように破裂させられるようになるまで頑張ろうぜ!」

 

「うん!!」

 

この出来事を切っ掛けに努力コンビが快進撃を始めた。その翌日には炭治郎もカナヲが破裂させている瓢箪をクリアし、全身訓練は炭治郎が一番乗りとなり、反射訓練では二人共、カナヲの頭に薬湯の入った湯のみを置いてクリアした。

 

 

 

 

それを遠くから見ている二人がいた。伊之助と善逸のサボり組である。炭治郎と真次が次々に課題をクリアしていく事に対して焦りが出てきていた。

 

そんな折、鍛錬を終えた二人が近づいてくると同時にしのぶも来ている。どうやら呼吸法に関しての説明をする為のようだ。

 

「真次君と炭治郎君の二人が会得したのは『全集中・常中』という技です。『全集中の呼吸』を四六時中やり続ける事で基礎体力が飛躍的に上がります」

 

これはまぁ、基本の技というか初歩的な技術なので出来て当然ですけれども、会得するには相当な努力が必要ですよね

 

そう言いながら、しのぶは伊之助へ近づくと肩をポンと叩いて笑顔を見せた。

 

まぁ、 出来て当然(・・・・・)ですけれども。伊之助君なら簡単かと思っていたのですが、出来ないんですかぁ? 出来て当然(・・・・・)ですけれど、仕方ないです出来ないなら、しょうがないしょうがない

 

そう言いながら何度も何度もしのぶは伊之助の肩を挑発するように優しく叩き続ける。伊之助としてはふざけるなと言いたげな様子だが、ついに決壊した。

 

はあ゛―――ん!?出来るっつ―――の!!当然に!!舐めるんじゃねぇ――よ!!乳もぎ取るぞゴラァ!!

 

「(上手い!俺は付き合いがまだまだ浅いけど『やれるものならやってみろ』的な言い回しの方が、伊之助に効果的なのを見抜いてる。流石しのぶさん!)」

 

真次の心中をよそに、次にしのぶは善逸の手を包み込むように握って、微笑んだ。

 

「頑張ってください善逸君、 一番(・・)応援していますよ!」

 

「え・・・わわわわわわわ!は、はいいいいいい!!」

 

「わー!あははは」

 

「(善逸は女好きだものな、あんな風に手を握られて一番貴方を応援しています的な事を言われたら落ちるよなぁ・・・)すごい・・・二人のやる気を簡単に引き出したよ、しのぶさん」

 

「ウフフ・・・」

 

僅かに真次に笑みを見せていたが、真次は苦笑するしかなかった。炭治郎は思わず真次に聞いてしまった。

 

「しのぶさんって・・・あんな感じでやる気を出させるのが上手なの?」

 

「俺も初めて見たけど、医者をやってるから性格を見抜くのが上手なんじゃないかな」

 

「なるほどね・・・」

 

炭治郎は納得し、次真は乾いた笑いしかできなかった。その後、サボり組と化していた二人は俄然、やる気を出して鍛錬に望んでいた。

 

「うおおおおおお!」

 

「ぬぐあああああああ!!!」

 

「まだまだァ!もっともっと、呼吸を意識しろ!伊之助!!」

 

「お前が・・・指図・・・するんじゃ・・ねえええ!!」

 

「善逸!しっかり走れ!女の子達が見てるぞ!!」

 

「ぬおおおおおおお!!!!!!!」

 

次真と炭治郎の努力家コンビはそれぞれ、伊之助と善逸を担当し真次が伊之助を、炭治郎が善逸を担当している。しのぶが見抜いた二人の性格からやる気の引き出し方を真次が覚えていた為、炭治郎にアドバイスしながら鍛錬の手伝いをしている。

 

 

 

 

 

そんな四人を遠巻きに見ているのが居る、栗花落カナヲだ。彼女は四人が特訓しているのを黙って見ている。

 

「・・・・」

 

カナヲは一枚の銅貨を取り出す、裏表と書かれており空に向かって軽く弾くとそれを手の甲で受け止める。出たのは裏だ。

 

「・・・・・・」

 

そのまま屋敷へと戻る為に歩き出す。何かを決める為に使っているようで、裏が出た場合の行動を決めたのだろう。

 

「・・・」

 

一瞬だけ振り返る。四人は全員が大の字になって倒れていた。やる気を出したは良いが体力が続かなかったのだろう。

 

「ぜい・・・ぜい、俺はまだ・・やれっぞぉ・・・!」

 

「身体の動きと・・・口の動きがあってないから・・な・・・はぁ・・・はぁ!」

 

「俺が一番・・・応援されてる・・・はぁ・・・はぁ!」

 

「全員で・・・無茶しすぎた・・・・・はぁ・・・はぁ!」

 

この日から四人は徹底的に己を鍛え続け、全員が『全集中・常中』を完全に身に付ける事になる。そんな中、真次はまた直感が働いていた。

 

「はぁ・・・はぁ(なんだ・・・なにか良くない事が起こるような気がする)」




次回は時間を飛ばして列車編になるかと。

間近な人の死を初めて体験する事に。


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第三話 旅立ち

旅立つ三人に一人が同行。


打ち直した日輪刀を伊之助が自分好みにしてしまうトラブル等があったが、旅立つ準備の試験として例の巨大な瓢箪を差し出された。全員がそれに息を吹き込み破裂させ、合格とされた。

 

「さて、カナヲに挨拶・・・ん?あれは炭治郎?」

 

真次がカナヲに挨拶しようと思ってきたのだが、炭治郎はカナヲの手を握って何かを訴えかけている。

 

「またやる気を出させて・・・うっ!?」

 

真次の『勘』が二人の姿を見せてくる。二人が笑顔で歩いている姿だ。これは未来なのだろうか?まるで二人は遥か先に行っているような、そんな思いが過る。

 

「ああ・・・・なるほど」

 

それが終わると真次は何かを悟ったような表情に変わった。彼は自然とカナヲを異性として見ていた。初めて会話した時かも知れないし、出会った時かも知れない。

 

彼女の儚さや、身体能力で現る美しさ。身体の部位、黒く艷やかな髪など上げればきりがない。

 

だが、そんな恋心すら彼は自分の中で押し殺してしまった。炭治郎や伊之助、善逸にはバレてしまうだろう。だが、自分が口にする訳にはいかない。

 

そう、彼女のそばに居る事が許されている相手は既に決まっている。それを自分の『勘』が見せに来た、否、警告なのかもしれない。

 

炭治郎が居なくなったのを見計らって真次はカナヲの近くへやって来る。何事もない様に装って。

 

「カナヲ」

 

「?」

 

「今まで特訓などに付き合ってくれてありがとうな」

 

「ううん、師範の指示に従っただけだから」

 

「そっか・・・それでもありがとう」

 

「?」

 

「カナヲ、君は必ず幸せになれるよ。きっとね」

 

「・・・?」

 

「俺は『勘』が良いんだ。なんとなくだけど、君は必ず好きになった人と一緒になれるよ」

 

「意味が分からない」

 

「今は分からなくても良いよ。時間が経てば分かるようになるさ、それじゃ」

 

歩いていく背中にカナヲは彼の背中から『哀愁』が漂っているのが『視え』ていた。

 

そんな気持ちは自分には分からない、それでもとても寂しがっているのだけは理解できた。そんな相手に自分は何もできない。

 

「・・・・」

 

その背中をカナヲは黙って見送った。だが、カナヲも彼に黒い何かが纏わり付いているのを言い出す事は出来なかった。

 

 

 

 

 

そして旅立ちの日、駅へと向かおうした三人の目の前に真次が立っていた。

 

「真次!?」

 

「なんでオメーが此処にいるんだよ!?」

 

「俺も旅に同行させてくれないか?」

 

「は?いやいや、何言ってんの!?鬼殺隊の異端児が何言ってんのさ!?」

 

「俺は構わないよ。味方がいるのは嬉しいし真次なら心強いよ!」

 

「何すぐに承諾しちゃってんの!?ちょっとは考えろよ!」

 

「いや、異端児よりも問題児的な要素の方が強いし俺」

 

「それもそれで問題ありだろ!?」

 

善逸は三人の言動に一つ一つ、ツッコミを入れていく。真次は悪い事とは思っていない様子で伊之助は真次に頭突きを入れようとしており、善逸が羽交い締めをして止めている。

 

炭治郎は仲間ができたのが嬉しい様子で笑顔になっている。真次は炭治郎に声をかけた。

 

「俺は炭治郎、君と友情を築きたい」

 

「?俺達はもう友達じゃないか、だからそういう事を言わなくても大丈夫!」

 

「!」

 

炭治郎の真っ直ぐな言葉に真次はほんの少しだけ、驚愕したがすぐに笑みを浮かべてトンと上腕部を軽くぶつけ合った。

 

「あーもう!二人で仲良く友情を確かめ合うなよ!!てか、俺達を除け者にするなよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「くっ、アハハハハ」

 

「テメー!何笑ってんだ!?」

 

「いやいや、楽しくなってさ!それでつい、馬鹿にした訳じゃないさ」

 

真次は家族を鬼に殺されて以来、初めて心から笑った。楽しくて楽しくて仕方が無かった。

 

仲間といるのがこんなにも楽しいだなんて初めての事だった。誰かといても独りでいるような感覚に囚われていた。

 

どうしても他人が信用できなかった。人の汚い部分を見てしまった事もあった。母が父に暴力を受けているのを見ていて何も出来なかった。そんな自分が許せず強くなっても誰も認めてくれなかった。

 

鬼殺隊に入ったのも認めて貰いたく、家族の仇を取るためだった。そんな中『柱』の中で何故か自分を気にかけてくれたのが胡蝶しのぶであった。

 

まるで出来の悪い弟を更正させる姉のように接してくれた。彼女は真次の求めているものが分かっていたのだ。

 

それは「愛」であり「無償の愛」でもあると。真次は厳しすぎる家庭に生まれたが故に誰かに「愛されている」という自覚が足りなさ過ぎるのだ。それを理解した上での行動だったのだろう。

 

「あー、笑った笑った!それじゃ、行こうか!」

 

「そうだね!」

 

「だから、お前が仕切るんじゃねーよ!」

 

「そうじゃなくて、ちゃっかり同行してるし!」

 

文句を言いながらも伊之助と善逸は二人の後を追った。真次が笑い出すなんてものすごく貴重な場面だったのではなかろうか。

 

炭治郎はそう思わずにはいられなかった。今の真次からは感謝の匂いが感じられる。自分に明るい感情を取り戻させてくれてありがとう、そんな気持ちが匂いとして出ているのだ。しかし、それと同時に自分に対する嫉妬と哀愁の匂いも感じられた。

 

だが、初めて出会った時に注意された事を思い出して口にしなかった。口に出せば彼は怒りに任せて殴りかかってくるかもしれない。

 

自分の心の内を隠したがる彼の性格なのは分かっていた。それと同時に自分の悪い癖も。

 

「口は禍の門」とはよく言ったものである。自身の悪い癖を彼から教えて貰う事で仲間割れを起こさずに済んだのだから。

 

今は仲間として、彼と共に戦おう。炭治郎は改めて心の中で決意を固くするのだった。




汽車に乗る前です。さて、次から汽車ですが・・・煉獄さんを生かすべきか・・・それとも死なせるべきか・・・


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第四話 心地よき夢

飢えていた物を満たされるが、刹那であり偽りだと知る。



駅に到着すると同時に伊之助が騒ぎ出していた。目の前にある汽車、それを大型の動物と勘違いしている様子だ。

 

何だあの生き物はァ―――!!

 

「いや汽車だよ。知らねえのかよ」

 

「そりゃあ、言葉で知っていても実物見るのとじゃ迫力が違うって」

 

善逸は真次に対してあまり良い印象を持っていない。自分の優れた聴力によって真次の音は常に変化し続けているからだ。

 

嫌いなのではなく苦手という感じだ。彼は彼なりに寄り添ってくれているのを知っている。

 

だが、彼は怒りと悲しみが同時に響き合っている。怒りは理解できるが悲しみだけが解らなかったが、それは蝶屋敷にいた時に理解した。彼はカナヲに対し好意的な感情を持っていた事を偶然聞いてしまった。

 

それを知った善逸は殴り飛ばした時と同じテンションで詰め寄ったが、真次に返り討ちにされ、更に。

 

「バラしたら・・・水で責めて・・・木に吊るし上げて・・・火で燃やして・・・金属の杭を打ち込んで・・・土に埋めるぞ」

 

あの時の真次は本気で怖かった。あの時の彼には口にした事を必ず実行するという凄みがあった。

 

彼は何かを知ってしまい、それを隠そうとしているのだろう。そんな音が善逸には聞こえる。

 

嫌味だけではない、彼を心配している自分もいる。彼は自分の気持ちを押し殺してしまう人間だという事をこの時に知った。そして、この時に言えば良かったと後悔する時でもあった。

 

「猪突猛進!」

 

「やめろ!恥ずかしい!!」

 

「アハハ、それよりも日輪刀、背中に隠しておくなりしておいた方が良いよ」

 

「え?」

 

「俺達、鬼殺隊は政府からは公認されていないから、刀なんて本当は持てないんだよ」

 

「一所懸命、頑張ってるのに・・・」

 

「仕方ないさ、ほら」

 

真次は荷物の入ったカバンから刀袋を取り出し、炭治郎には黒と緑を、善逸には黄色を、伊之助には山などで取れる素材を生かした物を手渡した。それぞれすぐに戦えるよう、刀を取り出しやすくされている。

 

「これは?」

 

「日輪刀用の刀袋だよ。旅の必需品になるからさ。蝶屋敷で外出許可をもらった時に頼んでおいたんだ」

 

真次は常に先手を考える人間である。戦闘や何気ない日常生活でもそれは変わらない、少し行き過ぎて引かれる場合もあるが、それが彼の性分だ。

 

「おおっ!コイツ、山の匂いがしやがるぞ!懐かしい匂いだ!!」

 

「気に入ってくれたのなら嬉しいな。伊之助のは特注だから大事にしてくれよ」

 

「おうよ!」

 

伊之助の表情は伺えないが、嬉しそうなのは声からもわかる。善逸も炭治郎も嬉しそうだ。

 

「あ、俺・・切符買ってくるよ」

 

「善逸、頼んだ」

 

「静かにしてろよ?」

 

「伊之助は俺が押さえとくよ」

 

「真次、俺もお前に頼んだ」

 

 

 

 

 

 

列車の中に乗り込むと同時に伊之助が騒ぎ始めるが、真次が預かっていた弁当を見せるとそちらに興味が移って寄越せと騒いでいる。

 

そんな中、炭治郎は合流予定の炎柱である煉獄杏寿郎を探していた。同時に車両の奥で「美味い!」と大声で連呼している声が聞こえる。

 

駅弁だろうか?弁当の空箱が11個も積まれている。ものすごく良く食べているのだと炭治郎と善逸は関心と同時に驚いている。

 

「あの人が炎柱?」

 

「うん・・・」

 

「ただの食いしん坊じゃなくて?」

 

「うん・・・」

 

目的の人物である煉獄杏寿郎が目の前にいるのだが、炭治郎が声をかけても「美味い!」としか大声で返してこない。業を煮やした真次は、伊之助の口へ旅立つ前にアオイに許可をもらって台所で作っておいた大きめの肉巻きおにぎりを思い切り口に詰め込んだ後、杏寿郎に声をかける。

 

「煉獄さん!!」

 

「ん?神威少年か!!久しいな!!健在だったか!?」

 

「はい、煉獄さんもお変わりなく。相変わらず俺の事は神威呼びなんですね」

 

「うむ!ところで『あの呼吸』は使っていないだろうな!?」

 

「それ、しのぶさんにも言われましたからね。使っていませんよ」

 

「感心感心!!それでいい!!」

 

炭治郎と善逸は二人の会話の中で『あの呼吸』という単語が引っかかった。真次の呼吸は『全集中の呼吸』以外は独特で時折、分からない単語を口にしている時があった。

 

「『あの呼吸』ってなんだろう?」

 

「真次ってさ、俺達が蝶屋敷に来る前から拘束されていただろう?それと関係があるんじゃないか?」

 

「あの時、アオイさんは彼の毒を抜くためって言ってたけど」

 

「その毒がなんなのか、知りたいのかよ?」

 

「そういう訳じゃないけどさ。友達になったのに真次は自分の事を教えてくれないから・・・常に何かを隠してる匂いが濃いんだ」

 

「炭治郎もそう感じてたのか・・・」

 

「え、善逸も?」

 

「ああ・・・真次からは常に隠し事をしてる音しか聞こえないんだ。嘘は言っていないけど、本当の考えを奥底に隠してるみたいでさ」

 

「・・・・・」

 

炭治郎と善逸、それぞれが鋭敏な感覚で真次の真実に気づいていた。彼が自分の本当の気持ちを押し殺し続けて生きている事に。

 

彼の中は本来、怒りでいっぱいなはずなのにそれを感じ取れない。何かを好んでいるはずなのにそれすらも感じ取れない。まるで、心の中に入ってくるなと言わんばかりに。

 

そうこうしている内に汽車が発車した。炭治郎は煉獄に質問をしたりしていたが、彼にも『ヒノカミ神楽』に関しても分からない事であると言われ、呼吸の歴史なども教えられ、黒い刀身は扱いが難しいとされ、更には継子の勧誘まで受けてしまった。

 

そんな中、切符を切りに来た車掌がやってきた。真次は伊之助と善逸の席の向かい側におり、警戒を強めていた。

 

「切符・・・拝見いたします・・・」

 

この時、既に全員が気付いていなかった。伊之助が言っていていた主の腹の中という言葉が的を射ていた事に。

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・?昔の俺の家?うぐっ!?」

 

「おい、ガキ!何でお前は邪魔ばっかりしやがるんだ!」

 

「貴方、止めてください!」

 

これは自分が助けられなかった時の・・・母が暴力を受けている時の出来事だ。俺が・・俺である本心を捨てた時の。

 

「お前がコイツを産んだから、余計な手間が・・うぉ!?」

 

「母上を・・・甚振るなあああああああああ!」

 

これは幼き日の真次自身。救おうとして救えなかった最愛の母、父に平伏しなければ生きていけなかった幼き日の記憶。家系の血筋を重んじすぎて躾に狂った父を倒したかった幼き時の怒りの体現である。

 

そんな中、ハイカラと言われる女学生の服を身につけた少女が、真次の夢の中にいた。

 

「此処ね・・・『精神の核』を破壊すれば、あの人の夢を」

 

手には錐のようなものが握られており、風景を紙のように引き千切るとそこには五色の色に染まった部屋が現れた。

 

その中心には光で色が変化する水晶球のようなものが鎮座されている。これが少女が狙っている真次の『精神の核』である。

 

「これを破壊すれば・・・!きゃああ!?」

 

少女が核に錐を突き立てようとした瞬間、そこに巨大な鳥が現れ向かってきた。全身は炎のように赤く燃え上がっており、甲高い鳴き声で少女を威嚇している。

 

「あ、赤い・・炎の・・・鳥?」

 

鳥だけではなかった、青色の場所からは巨大な青い龍が逆鱗に触れられているかのように怒っており、白色の場所からは巨大な白い虎が咆哮を上げ、黒い場所からは蛇の尻尾を持つ黒い亀が此方を睨んでいる。そして黄色の場所からは角を持った黄色い馬が嘶きを上げている。赤色の場所は間違いなく襲いかかってきた鳥の縄張りだ。

 

「ま・・まさか・・・?これ全て神獣!?」

 

この神獣達は真次の中にある『五行の呼吸』に対するイメージにほかならない。この『呼吸』があるからこそ自分は強く守られているという精神が具現化したものなのだ。

 

故に精神そのものを破壊しようとする者が現れれば、神獣達は怒りを見せてくる。これが鬼であれば抵抗しようとしただろう。だが、今此処にいるのはただの人間の少女だ。彼女は今、尻餅をついて歯をカチカチと鳴らし、全身を震えさせている。

 

書物の物語、寺などでしか見ることのない神獣を夢とはいえ、目の前で目撃しているのだ。それも全てが怒りを自分に向けてきている。お前は我等の怒りに触れているのだと。

 

「む・・無理、こんなの無理・・・」

 

神獣達は少女に咆哮で怒りを見せているが、何も手出しはしてこない。先程、赤い鳥が襲いかかったのは『精神の核』を破壊しようとしていた為で、何もしなければ手出しをしてこないのだ。これは真次の優しさが反映されているためである。

 

 

 

 

 

「ふざけるな、ふざけるな!馬鹿野郎ぉぉおおお!」

 

真次は父親を殴った後、刀を手に家を飛び出した。自分は父親に勝てなかった。それは絶対として記憶にこびり付いている。これは夢、自分の願望が形になっているだけに過ぎないんだと言い聞かせる。

 

「こんな・・・こんなの夢だ!俺は勝ってない!」

 

真次は手にした刀を思い切り、自分の脇腹に突き刺した。瞬間、真次は目を覚まし現実の世界に戻ってこれた。

 

「みんな、眠ってる!?切符を切った時に眠らされたのか?っ!?」

 

動こうとした瞬間、真次は何かに引っ張られる感触を味わう。視線を向けると自分の手首と女学生の手首が縄らしきもので結ばれているのだ。

 

「こんな縄なんか・・・!っ!?嫌な予感がする・・・斬るのは止めておこう。くっ!ぬ・・おおおおお!!」

 

日輪刀で斬ろうとした瞬間、真次の『勘』が働き、それを止めた。刀から手を離し、きつく縛られている縄を強引に緩めていく。手首が引き抜けるだけの隙間ができた瞬間、真次は瞬発力を最大限に使って縄から手を引き抜いた。

 

「はぁ・・はぁ・・・炭治郎!伊之助!善逸!煉獄さん!!みんな、起きろ!ダメ・・っ!?」

 

「む―!」

 

「君は・・・禰豆子!?そうか、箱に入っていて・・・しかも、鬼だから影響を受けなかったのか!」

 

真次はこれを好機と思った。だが、この縄を切ってしまってはいけない。かといって、緩める事は自分のだけで精一杯だったため全てを外しきることは不可能だ。

 

「どうすればいい・・どうすれば・・・禰豆子!?」

 

禰豆子は炭治郎を目覚めさせようと必死になっている。炭治郎も目覚めようと寝言を言っているが目覚めようとしない。

 

「む―――!!」

 

怒った禰豆子は炭治郎の額に頭突きをした。だが、逆に禰豆子の額から血が出ている。真次はそれを見て驚愕している。

 

「(仮にも鬼の頭突きを受けて逆に返り討ちにするって・・・どんな石頭なんだ?)」

 

「む――!」

 

痛さのあまり、禰豆子は泣き出しそのまま炭治郎に倒れ込んでしまう。瞬間、炭治郎の身体が炎に包まれ手首に結ばれた縄を焼き切った。

 

「!?これだ!禰豆子、協力して欲しい!君の血鬼術でこの縄を全て燃やしてくれ!そうすれば君のお兄さんやその友達を助けられる!!」

 

「!」

 

コクリと頷いた禰豆子は次々に手首に結ばれた縄を焼き切っていく。それと同時に目覚めた人間の少女が真次に襲いかかってきた。

 

「うっ!」

 

「邪魔しないで!あんたたちが来たせいで夢を見せてもらえないじゃない!」

 

真次は周りを見渡すと、手に錐を持った男女がこちらに敵意を向けてきているのを確認していた。

 

「そうか・・・そういう事だよな。だけど、どんなに夢を見ても・・・いつか覚めるんだよ。明けない夜が決して無いように」

 

『五行の呼吸 木の型・一之巻・歳星洸!(さいせいこう)

 

 

真次が使った『五行の呼吸 木の型・一之巻・歳星洸(さいせいこう)』とは呼吸により練り込んだ気を植物の中でホウセンカなどの種を弾けさせる種類のように放つ気弾であり、鍔鳴りを合図に放たれる。本来ならば鬼に対する技だが、相手を気絶させる程度に呼吸を調整し、それを敵意を持って襲いかかって来た相手にのみ、ぶつけたのだ。

 

「ごめんな・・・幸せな夢の中に居たかったよな。俺も家族と共に居たかったよ・・・」

 

「真次!」

 

「炭治郎、ずいぶんと寝坊したね」

 

「ごめん!」

 

「感謝するなら禰豆子だよ。君を目覚めさせてくれたんだから」

 

「む―――!!!」

 

「ありがとう、禰豆子。あっ・・・」

 

二人の前には一人の青年がこちらを見ていた。敵意や害意は無く、病気のようで結核と騒いでいた少女がいた為に彼は結核なのだろう。この時代の結核は不治の病とされ、医者ですら匙を投げていたほどだ。

 

「・・・・」

 

「真次?」

 

「生きたいかい?」

 

「え?」

 

「どんなに辛くても、生きていたいかい?」

 

「生きたい・・・」

 

「そうか・・・ちょっと苦しいけど我慢してくれよ」

 

「え?ぐふっ!?」

 

「真次!?」

 

真次は青年に近づくと彼の横隔膜付近に手刀を入れ込み、彼の呼吸を操作している。悪い部分を見つけるとそこに左手で持った小刀を軽く突き立て、すぐに引き抜くと何かの腫瘍らしきものが鋒に刺さっていた。

 

「げほっ!げほっ!!・・あれ?あまり苦しくない?」

 

「君の呼吸を楽に出来るようにした、結核自体を治す事は出来ないけどね。切った部分に傷薬を塗っておくといい」

 

真次は傷薬を手に握らせ、申し訳なさそうにしている。これはただの延命処置であり、余計なお世話だったかもしれない。

 

「ありがとう・・・これでまだ少しの時間、家族と居られるよ。気をつけて」

 

「っ・・・行こう!炭治郎!」

 

「うん!(真次、本当に君は優しいんだね・・・今の君は優しさの匂いが強いよ)」

 

車両の扉を開け外へ出ると炭治郎は口元を押さえた。まるで人間の死臭を嗅いだように顔をしかめている。

 

その後ろで真次は嫌な予感が拭えなかった。伊之助が言っていた「主の腹の中」という言葉が引っかかって仕方がなかったのだ。

 

「いる・・・炭治郎、屋根に!」

 

「わかった!禰豆子は車両の中のみんなを守ってくれ!」

 

禰豆子は頷き、真次と炭治郎は先端車両へ行くとそこには優男のような風貌をした鬼、魘夢が立っていた。まるで嘲るようにこちらを見ている。

 

「あれぇ?起きたの?」

 

「喋るな・・・お前のような奴が、俺は一番嫌いだ」

 

「そうだ・・・!お前だけは許さない!」

 

真次も炭治郎もその表情に怒りが現れている。炭治郎は人の心に土足で入り込むこの鬼に対して、真次は暴かれたくなかった自分の出来事を暴かれたことに対して怒っている。

 

「炭治郎、水の呼吸が得意だったよな?俺はそれと相性のいい呼吸で合わせる」

 

「分かった」

 

『血鬼術 強制昏倒催眠の囁き』

 

「お眠りィィ」

 

魘夢の左手の甲から現れている口から不気味な声が二人に響き渡る。二人は昏倒しそうになるが次の瞬間には起き上がって向かっていく。

 

「眠れぇえ 眠れえぇええええ!!」

 

魘夢は眠らせようとするが二人は眠らない。夢の中で何度も何度も自分を殺し続けているのだ。炭治郎が見せられているのは悪夢、それも家族から責められるものだ。

 

「何で助けてくれなかったの?」

 

「自分だけ生き残って、俺達が殺されてる時、何してたんだよ」

 

「何のためにお前がいるんだ?役立たず」

 

「アンタが死ねばよかったのに、よくものうのうと生きてられるわね」

 

その反対に真次は心地の良い夢を見せられている。家族が愛し、守ってくれると言われている夢だ。

 

「真次、よくやったな!もういい、後はこの父に任せておけ!」

 

「さぁ、疲れたでしょう?今夜は母の下で休みなさい」

 

相反するこの夢が二人の怒りを燃え上がらせ頂点に達し、臨界点を超えた。

 

「言うはずがないだろう!そんなことを俺の家族が!」

 

「こんな事が、あり得るかぁ!!」

 

「コイツ等・・・」

 

「俺の家族を!侮辱するなァア!!」

 

「厳しさの中の優しさってやつを勉強してこい!!!!」

 

優しさに溢れ、愛に満ちた家族を知っている炭治郎。厳しさばかりで弱さを認めず、優しさも愛も厳しさだと刻み込まれた真次。まるで正反対の家族関係だったからこそ、二人は家族への侮辱を許さなかった。

 

『五行の呼吸 金の型・三之巻・白虎爪(びゃっこそう)

 

『水の呼吸 拾ノ型・生生流転』

 

龍虎が並び立ち、真次が相手を引き寄せたかのような速さで胴体を引き裂き、炭治郎が回転による遠心力を加えた斬撃で魘夢の首を切り落とした。

 

「手応えが殆ど無い。もしや、これも夢か?それともこの鬼はあの時の彼よりも弱かった?」

 

「あの方が・・『柱』に加えて『耳飾りの君』を殺せっていった気持ち、今すごく良くわかったよ存在自体がこう、癪に障ってくる感じ」

 

振り返った瞬間、二人は驚愕した。切り落とした鬼の首から肉が伸び車両の屋根にへばりついているからだ。

 

「死なない!?」

 

「違う、そうじゃない!(考えろ、なぜコイツは生きている?)」

 

真次は言葉を発しながら考える。鬼の首は確かに炭治郎が斬り落とした、肉体の崩壊まで時間があるとしても、再生は出来ないはずだ。なのに何故、再生せず生きているのか・・・?そして、あの鬼の首は肉を車両の屋根に何故へばりつかせているのか?鬼が生きられるとすれば、何かに肉体を変化させなければならない。そこまで考えた末に真次は大声を出した。

 

「しまったぁ!!そういう事か貴様ァ!!」

 

「え、どうしたのさ!?真次!」

 

「炭治郎、コイツの肉体の本体は目の前にあるコレじゃない!!おそらく、この汽車そのもの!!この汽車全体が奴の身体だ!!」

 

「なんだって!?」

 

「うわぁ・・・君鋭いねえ?一度斬っただけでそこまで見抜くなんて・・・『耳飾り』の子よりもイラつくよ。でもね?君達二人でどこまで守りきれる?この汽車にいる乗客200人が俺の餌であり人質をさぁ?君達二人で俺に"おあずけ"させられるかな?ふふふっ」

 

そう挑発しながら魘夢は屋根に溶け込んでいく。二人はどうするかと思考を巡らせる。炭治郎は2両、真次でも3両の車両を守るのが限界だ。

 

「くそぉ!みんな目覚めてくれ―――!!寝てる場合じゃないんだ―――!」

 

「煉獄さーん!善逸!!伊之助―――っ!!起きてくれ頼む!禰豆子―――っ!眠っている人達を守るんだ!」

 

叫ぶと同時に車両内部から叫び声が聞こえてくる。この声に二人は聞き覚えがあった。

 

「ウオオオ!ついて来やがれ子分共!!ウンガアアア!爆裂覚醒、猪突猛進!!伊之助様のお通りじゃアアアア!!」

 

そう、野生児であり二人の親友の一人である嘴平伊之助が屋根を突き破り、現れたのだ。此処から鬼殺隊側の反撃が始まるのだった。




明けましておめでとうございます。

新年投稿になりましたがよろしくお願いします。

列車編が終わった後、時間をかなり飛ばして真次の決戦まで行きます。

回想編を長くしようと思っていないので。

後にアンケートを設置しますので答えてくださると嬉しいです。


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第五話 立ちはだかる壁

上弦の鬼が現る。


伊之助が復活した事で反撃の狼煙が上がった。野生児である彼の体力は真次と炭治郎以上であり、加えて全集中・常中を会得しているため、基礎体力も上がっている。

 

「伊之助―――ッ!この汽車はもう安全な場所がない!眠っている人達を守るんだ!」

 

「この汽車全体が鬼だ!遠慮なく汽車をぶっ壊せ!お前なら出来るだろ!?」

 

「当然だっての!!だが、俺の読み通りだった訳だ。俺が親分として申し分無かったという訳だ!!」

 

『獣の呼吸 伍ノ牙・狂い裂き!!』

 

「伊之助様が通るぞォ!どいつもこいつも俺が助けてやるぜ!」

 

別車両では禰豆子が必死になって取り込もうとする鬼の肉片を引き裂いている。だが、邪魔だと感じた肉片は禰豆子の四肢を拘束してしまった。

 

だが、次の瞬間、禰豆子を拘束していた肉片は切り裂かれた。まるで雷が落ちたかのような一瞬でだ。

 

『雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃・六連!!』

 

その正体は善逸だった。「禰豆子ちゃんは俺が守る」と口にしているが、完全に寝ぼけ状態のようだ。

 

禰豆子も少し感激していたが、眠っているのだと気づき残念のような気持ちになるのだった。

 

しかし、此処で大きな炎の柱が目覚めているのを防衛している者達は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「うーん、うたた寝している間にこんな事態になっていようとは!!よもやよもやだ!『柱』として不甲斐なし!!穴があったら入りたい!!」

 

煉獄杏寿郎が目覚めたのだ。その一撃は烈火の如く、動きの余韻には残火が残り、その速さは激しく燃える火のように。真次が守っていた車両に衝撃が走る。

 

「この鬼の首さえ切れればなんとか!うわっ!」

 

「神威少年!」

 

「煉獄さん!」

 

「済まなかったな!『柱』として情けない限りだ!此処まで守ってくれた事に感謝する!!」

 

「俺は大丈夫です!それよりも炭治郎のもとへ行ってあげてください!今、情報が無いのがアイツですから!!」

 

『五行の呼吸 金の型・二之巻・白竜爪(はくりゅうそう)!』

 

連続の居合い切り。これは善逸の攻撃の仕方と似ているが全集中・常中によって、最大20連撃まで繰り出す事が出来るようになっていた。鍛えられる前この技は3連撃までが限界であり『あの呼吸』をしても10連撃が限界。だが、鍛えられた今の方が遥かに強くなっており、その動きの違いを煉獄も気付いている。

 

「情報伝達の重要性の理解と他の者への優しさ、相変わらずだな!うむ、承知した!!竈門少年に命令を伝えた後、この車両も俺が引き受けよう!!君は竈門少年を援護しろ!!」

 

「了解です!それまでは持たせてみせますよ!!」

 

「それでこそ、男子だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「真次が抑えてくれてるから、この二車両に専念出来るけど、このままじゃ埓があかない!わぁっ!?何だ、鬼の攻撃か?」

 

「竈門少年!」

 

「煉獄さん!」

 

「神威少年の援護もあって此処まで来たが、余裕はない手短に話す!この汽車は八両編成だ!俺は後方5両を守る!残りの3両は黄色い少年と竈門妹が守る!君と猪頭少年はその3両に注意しつつ鬼の頚を探せ!俺が後方へ向かうと同時に神威少年も向かわせる!!」

 

「頚を!?でもこの鬼は今!」

 

「どのような形になろうとも鬼である限り必ず頚はある!俺も探りながら戦う!君も気合を入れろ!」

 

命令を伝えた杏寿郎はすぐに後方へと向かってしまった。それと同時に真次も杏寿郎の命令を受けて前方車両に向かっている。

 

「伊之助どこだ!!」

 

「うるせえ!!ぶち殺すぞ!!」

 

「上か!」

 

「炭治郎!」

 

「真次!君も!」

 

「伊之助!この鬼の急所、わかってるんだろォ!!」

 

「あたりめえだ!!全力の漆ノ型で既に見つけてる!!」

 

「そうか!やっぱり、前方だな!!」

 

「そうだ前だ!とにかく前の方が気色悪いぜ!!」

 

今現在、頼りになるのが伊之助の『触覚』であり、炭治郎の『嗅覚』は汽車の速度で風が強く外では役には立たない。真次の『勘』は平時に使えるものであり、戦闘中には使えない。

 

「恐らくは車両を運ぶ先頭部分、石炭がある場所が頚だ!急ごう!!」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

伊之助が一番槍で突撃し、車掌が混乱していた。だが、彼が止まる事などありえない。

 

「オオオッシャアア!!怪しいぜ怪しいぜ、この辺り特に!!鬼の頚、鬼の急所ォオオオ!!」

 

「何だ、お前は!!で、出て行け!!」

 

だが、鬼の肉片が伊之助を殺そうと襲い掛かってきた。迎撃するが手数が多く倒しきれない。

 

「しまっ!」

 

『五行の呼吸 土の型・一之巻・鎮星重(ちんせいじゅう)!』

 

『水の呼吸 陸ノ型・ねじれ渦』

 

『五行の呼吸 土の型・一之巻・鎮星重(ちんせいじゅう)』とは「重いものを軽く、軽いものを重く」という訓練を続ける事で誤認識を利用し、重量のある一撃を繰り出す斬撃である。敵が防御状態や油断していれば致命的な一撃ともなり得る。

 

「山の王が油断してどうすんだよ!」

 

「うるっせえええ!」

 

「二人共喧嘩してる場合・・!?この真下だ!この場の真下、鬼の匂いが強い!二人共、此処が頚だ!!」

 

「よぉし、やろう!王様!」

 

「よっしゃああ!やっと分かったようじゃねえか!」

 

『獣の呼吸 弐ノ牙・切り裂き!!』

 

『五行の呼吸 金の型・一之巻・太白斬(たいはくざん)!』

 

『五行の呼吸 金の型・一之巻・太白斬(たいはくざん)』は純粋な努力による斬撃で今の真次は練度が上がっており、『柱』には及ばないがそれでも練度の高い斬撃に進化している。だが、伊之助の一撃で開いた頚椎への斬撃は肉片に阻まれ届かなかった。

 

「ちっ!防がれた!ならばもう一撃!!」

 

「真次!危ない!!」

 

「え?ぐっ!!」

 

炭治郎が叫んだその瞬間、真次は車掌に脇腹を刺された。車掌の手には錐が握られており、真次が気絶させた人達が握っていたものと同じものだ。

 

「夢の邪魔をするな!」

 

「いつまで・・・夢に・・・甘ったれてんだ・・・・よぉ!!」

 

真次は車掌の延髄に一撃を入れると気絶させ、刺された脇腹を手で押さえながら大声で叫んだ。

 

「ぐっ・・・く、伊之助!炭治郎!俺の事はいい!鬼を、この鬼の頚を斬ってくれえええ!!」

 

『獣の呼吸 肆ノ牙・切細裂き!!』

 

「(父さん!守ってくれ!!この一撃で骨を断つ!!)」

 

『ヒノカミ神楽・碧羅の天』

 

炭治郎の一撃は確実に首を切り落とした。鬼自身の肉体となっていた汽車は断末魔とともに横転し、鬼の肉体となっていた事でその肉が皮肉にもクッションの役割を果たしていた。

 

投げ出された炭治郎は真次を助け、伊之助は放り出されたが肉体の強さは半端なく軽傷だった。

 

「ぐっ、ゲホッ!炭治郎?た、助かったのか・・・伊之助は?」

 

「伊之助も大丈夫、それよりも手当しないと!真次は脇腹刺されたんだから!」

 

「そっか・・・っ・・・ちょっと集中させてくれ」

 

「うむ!全集中の常中の練度はしっかり上げていたようだな!感心感心!!」

 

「煉獄さん?」

 

「炭治郎、よく見といてくれ。呼吸を集中させれば・・・スゥ・・・フゥ~」

 

「そう、そのまま集中」

 

杏寿郎に額を押され、真次は全身の血管のうち刺された部分に全神経を集中する。集中に集中を重ねていく、すると血管の収縮と筋肉の収縮によって止血されていく。

 

「すごい・・・!血が止まった」

 

「応急処置にしかならないけどな。これが出来ないと戦えない、以前の俺ならここまで止血できなかった」

 

「うむ、正しくその通りだな!常中は『柱』への第一歩だからな!『柱』までは一万歩あるかもしれないがな!!」

 

「頑張ります・・・」

 

「神威少年の呼吸を見ていたのなら理解できたはず、呼吸を極めれば様々なことが出来るようになる。何でも出来る訳ではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

杏寿郎と炭治郎、真次の三人が話している最中、汽車と一体化していた鬼、魘夢の本体が動いていた。

 

「体が・・・崩壊する。再生できない・・・負けたのか?死ぬのか?俺が?馬鹿な・・・馬鹿な・・・」

 

何故だ、何故だと思い返す。『柱』がいた。『鬼の娘』がいた。『神速の雷』がいた。『野生の獣』がいた。『熱き日』がいた。『五行』があった。

 

全力をだせていない、人間を食えなかった。自分が負けるのか、死ぬのか。これは悪夢だ。何一つ出来なかった。やり直せるものならやり直したい。こんな惨めな最後・・・。

 

そう思いながら魘夢の肉体と意識は崩壊していった。自分のできごとは悪夢だったのだと言い聞かせながら・・・。

 

 

真次は軽く起き上がり隊服の上着を脱ぐと、それを腹に巻きつけ晒のようにし服の繊維が千切れるのでは言わんばかりに強く袖の部分を結んだ。

 

「っ・・これで呼吸も確保できるし、なんとか動ける。っ!?」

 

立ち上がった真次はゾクッとした悪寒が全身に走り抜けたのを感じた。何か、驚異的な何かが近づいて来る。その確信と共に杏寿郎に対する嫌な『勘』が働いてしまったが、次の瞬間、それは既に目の前にいた。

 

「あれは・・・!」

 

「炭治郎、自分の刀・・・探してこい」

 

「え?」

 

「素手で勝てる訳がない・・・相手は上弦の参だ・・・(それもコイツ・・・動きが洗礼されている。武術に精通しているんだ!)はっ!」

 

瞬間、上弦の鬼の拳が炭治郎へと向かう。反応できたのは杏寿郎と真次だが、杏寿郎の方が早い。

 

『五行の呼吸 水の型・三之巻・玄武甲!(げんぶこう)

 

『炎の呼吸 弐ノ型・昇り炎天』

 

『五行の呼吸 水の型・三の巻・玄武甲(げんぶこう)』とは刀身の腹に呼吸で練った気を送る事で攻撃を防ぐ盾とする防御技であり、炭治郎が直立していた為に横へ刀身を出すだけで防御できたのだ。杏寿郎の一撃が攻撃に繰り出した鬼の手首を皮一枚で繋がっている状態にしたが瞬間に再生してしまう。

 

「いい刀だ。その二本・・・」

 

杏寿郎は冷静だが、真次はケガの影響もあり、ほんの少し呼吸が荒い。真次は今まで上弦の鬼に出会った事はない。ましてや最上位ともなればその重圧は計り知れない。初見で更には仲間を守れた事すら賞賛されても問題がないレベルだ。

 

「何故、手負いの者から狙うのか理解できない」

 

「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の・・それとそこに居るお前もな」

 

「・・・・」

 

「君と俺達が何の話をする?初対面だが、俺は既に君の事が嫌いだ。俺の隣にいる者もな」

 

杏寿郎の催促に真次は黙って頷く。下手に言葉が喋れない、否、今この空気が喋らせてくれない。喋った瞬間に自分の命はない、それほどの重圧が渦巻いている。

 

「そうか、俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る」

 

「俺と君とでは物事の価値観が違うようだな」

 

「そうか、では素晴らしい提案をしよう。お前達二人、鬼にならないか?」

 

「ならない」

 

「なら・・ない」

 

「見れば解る、お前の強さ。『柱』だな?その闘気、練り上げられ至高の領域に近い。そしてその隣に居るお前『柱』ではなくとも『柱』に匹敵する闘気があり、練り上げられつつも穏やかだ」

 

「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ。そして、その隣にいるのが神威真次・・・『五行』の使い手だ」

 

「俺は猗窩座。それにしても『五行』とは・・・そんなもの使う人間は聞いた事がない」

 

猗窩座と名乗った鬼は純粋な誘いをしているのだろう。そんな中、真次は猗窩座の攻撃の動きが武術の型に沿って動いているのを見抜いていた。だが、その練度は人間が到達できるレベルを遥かに超えている。

 

「お前達、なぜ至高の領域に踏み入れないのか、教えてやろう。人間だからだ、老いるからだ、死ぬからだ」

 

「っ・・・」

 

真次は猗窩座が言葉を発する度に、背筋に冷たいものが走る感覚を味わい続けている。今の自分では防衛と援護で精一杯なのだと身体が警鐘する。

 

「鬼になろう杏寿郎、そして真次。そうすれば百年も二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」

 

「老いることも、死ぬことも・・・人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく、尊いのだ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」

 

「それに・・・」

 

「ん?」

 

「俺達はそちら側には行けない・・・こちら側に守るべきものや大切に思える人がいるからな」

 

「うむ!それにこの少年は弱くない侮辱するな。何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う・・・俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない」

 

「そうか・・・」

 

『術式展開 破壊殺・羅針』

 

「鬼にならないなら、殺す!」

 

瞬間、炎柱と上弦の参の戦いが始まった。真次の『勘』は此処で何かを失う事を見せ続けているのであった。




次回が列車編最終です。

この後に、真次の戦いと討死に話に入ります。

※この更新後の昼にヒロインアンケートを締め切ります。


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第六話 鋼の決意

四人が託された事を胸に泣きながらも強くなろうとする。

五行の一撃。



杏寿郎と鬼の上弦の参である猗窩座の動きに真次は僅かに目で追えているはずが視線を逸らしており、炭治郎は目で追えていない。

 

「(嫌だ・・嫌だ!こんなのを見せるな!こんな時に『勘』が働くなよ!)」

 

真次は今、身体を立たせてはいるが動かせていない。戦いの重圧ではなく自分の『勘』によって、杏寿郎の確実な死を知ってしまったが故だ。

 

「(動け・・・動け!!動け俺の身体!援護くらいは出来るだろ!動け!!)」

 

『炎の呼吸 壱ノ型・不知火』

 

「今まで殺してきた『柱』たちに『五行』は当たり前として、『炎』はいなかったな!そして俺の誘いに頷く者もなかった!なぜだろうな?同じ武をの道を極める者として理解しかねる!選ばれた者にしか鬼にはなれないというのに!」

 

猗窩座の言葉は目の前の強者が衰えていく事を憂いている事から出てくるものであった。鬼であるからこそ戦い続けられる。鬼であるからこそ先へと進む事が出来ると。

 

「素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えていく・・!俺はつらい!耐えられない!死んでくれ、杏寿郎!若く強いまま!」

 

『破壊殺・空式』

 

『炎の呼吸 肆ノ型・盛炎のうねり』

 

猗窩座の拳が杏寿郎へ向けて空を殴りつけると同時にその衝撃が杏寿郎を襲う。炎の呼吸 肆ノ型によって炎を壁とし防ぐが、攻撃は止まらない。

 

「(なるほど・・・虚空を打つと攻撃がこちらまで来る!一瞬にも満たない速度。このまま距離を取って戦われると頚を斬るのは厄介だ)」

 

猗窩座が地に足を付けた瞬間、地面から土煙を巻き上げながらの衝撃波が襲いかかる。その衝撃波の出処を左腕を負傷させられた猗窩座と杏寿郎が同時に見る。

 

『五行の呼吸 土の型・二之巻・黄竜爪(こうりゅうそう)!』

 

『五行の呼吸 土の型・二之巻・黄竜爪』とは呼吸と同時に地面や建物の床などに鋒を突き刺し、その衝撃を伝達させ攻撃する技である。弱点として伝達させるものがなくてはならず、空中へ放っても名の意味もなさない。

 

「ほう?」

 

「神威少年か?今の攻撃は」

 

「っ・・く・・はぁ(う・・・動いた!)」

 

「『五行』の使い手、お前も惜しいな。お前の力は眠りすぎている。なぜそれを開放しない?なぜそれを押し殺す?」

 

「うっ!」

 

猗窩座は真次の中にある己を押し殺し続ける心理を見抜いていた。それこそがお前の剣の成長を阻害しているのだと。

 

「ならば、お前の枷を外してやろう・・・ほんの少しであろうと枷を外したお前を・・」

 

猗窩座が視線を向けた先には炭治郎が居た。親友が殺される、親友が死ぬ、親友が殺される、真次の思考はそこで途切れた。まるで繋がれた鎖が断ち切られたかのように。真次は無言のまま、煉獄にも劣らぬ速さで猗窩座に迫り刀を振り下ろしたが、それを止められてしまう。

 

「・・・・!」

 

「くくく・・やはりな!お前は己自身の中に力を隠し続けていたか!!」

 

猗窩座の回し蹴りが真次の顔面に襲いかかる。それを受けた真次はまるで陽炎のように揺らめき、消えてしまう。

 

「な!?」

 

「なんと!!」

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・三之巻・朱雀翼(すざくよく)!』

 

『火(炎)の型 三之巻・朱雀翼(すざくよく)』とは朱雀、すなわち火炎鳥の翼を『五行』による火の呼吸によって作り出し温度差による陽炎を生じさせ、相手に油断を生じさせる事で斬撃を繰り出す技である。

 

「そうか・・・!朱雀とは不死鳥とも言われる火炎鳥の別名。そして不死鳥は例え焼き尽くされようと、その身を砕かれようと死の淵から何度でも蘇るものであると聞く!」

 

杏寿郎が朱雀に関しての説明と同時に、猗窩座の頚を切り裂こうとしている刃を彼は自らの右肩に入れ、切り裂かせた。この人間も杏寿郎と並ぶ程に素晴らしい力を持っていると猗窩座は感じた。だが、人間が本来の力を隠してまで勝てる相手ではなかった。

 

「素晴らしい・・・!この闘気、この技・・・!だが、まだまだ練度が甘い!!」

 

「ぐぶっ!?」

 

真次は猗窩座の拳で脇腹付近を殴り飛ばされ、炭治郎の近くへと滑ってきた、彼の技は完璧だった。だが、猗窩座の武闘家としての眼と経験の差が勝敗を分けていたのだ。

 

「がっ・・かはぁ・・・!」

 

殴られた箇所は車掌に刺された部分であった。鬼であるがゆえに血の匂いで傷を負った部分を見抜いたのだろう。その衝撃で肋骨も何本か折られており、その影響でしばらく呼吸が上手く出来ない。

 

「僅かに邪魔が入ったが続きといこう、杏寿郎!!」

 

「よかろう!(距離を取られれば、頚を斬る事は出来ない。ならば近づくまで!!)」

 

「この素晴らしい反応速度も、この素晴らしい剣技も、失われていくのだ!杏寿郎!悲しくはないのか!」

 

「誰もがそうだ、人間ならば!当然の事だ!」

 

拳の乱打と剣撃の応酬が続く。真次は言葉を発すると生じる痛みに耐えながら炭治郎に声をかける。

 

「ぐ・・・か・・・た、炭・・・治・・郎」

 

「真次!?ダメだ、喋ったら・・・!」

 

「あ・・・の・・木の・・下・・・おま・・えの刀・・・ぐぐっ」

 

震えながら真次が指さす先には炭治郎の刀があった。それを取りに行こうとし、真次は『あの呼吸』を行おうとするが。

 

「動くな!傷が開いたら致命傷になるぞ!待機命令!!」

 

杏寿郎に待機命令を促されながされてしまう。だが、二人の壮絶な戦いは止まらない。

 

「弱者に構うな!杏寿郎!!全力を出せ!俺に集中しろ!!」

 

杏寿郎は思う。最も『柱』に近いとされている真次の先程の炎の呼吸を。炎とは熱きもの侵略するものと考えていた。だが、彼の先程の呼吸は違った。たとえ炎であろうと生命の息吹があった。同じ事をしようとしても彼と自分の呼吸は性質が違う。己を弱者と蔑む彼の炎は蝋燭の灯火のように誰かを暖かく照らし敵となるものを倒す、自分は全てを灰燼と成す猛火だ。

 

ならば己のこの命、燃え上がらせて戦うまでと。それが、命としての炎の輝きを知った炎に対する己の信念だ。

 

『炎の呼吸 伍ノ型・炎虎』

 

『破壊殺・乱式』

 

「煉獄さん・・・!」

 

「(すげえ・・・隙がねぇ。入れねえ、動きの速さについていけねぇ。あの二人の周囲は異次元だ。間合いに入れば『死』しか無いのを肌で感じる。助太刀に入った所で足手まといでしかないと分かるから動けねぇ・・・。何故、まかつぐ(真次)の奴はあの時、一瞬だけあの間合いに入れた・・?コイツは俺よりも強いって事か・・・・?)」

 

伊之助は隣で脇腹を押さえて戦いを見ている真次へ僅かに視線を向ける。彼が本当に一瞬だけ潜在能力を引き出し、杏寿郎と同じ境地・・すなわち『柱』と同等とも言える実力を垣間見せた。相手が上弦の鬼である事もあり、一瞬で返り討ちにされてしまったが、それでも伊之助は真次が自分以上の実力があるのではないか?という疑心を拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

二人の戦いはは激しさを増し続ける。だが、どんなに斬りつけようとも相手は鬼、瞬時に傷が癒えてしまう。逆に杏寿郎は左目を潰され、脇腹に一撃を受けてしまった。

 

「ハァ・・・ハァ」

 

「生身を削る思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も既に完治してしまった。だが、お前はどうだ?潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓、もう取り返しがつかない」

 

猗窩座は実に残念だと言いたげに、そして、酷く憐れみを含んだ声で言葉を続ける。

 

「その程度の傷、鬼であるならば瞬きするまでの間に治る。そんなもの鬼ならばかすり傷だ。どう足掻いても人間では鬼に勝てない。だからだ、だからこそ惜しい、実に惜しい!それ程までに積み上げられた研鑽、力、闘気!それを失わせてしまう事を!!」

 

そんな中、炭治郎が立ち上がろうとするのだが、震えと筋肉の硬直によって動く事ができない。

 

「(手足に力が入らない・・・傷のせいでもあるだろうが『ヒノカミ神楽』を使うとこうなる!助けに入りたいのに・・!!)」

 

「煉・・獄・・さん!ぐっ・・うう!」

 

瞬間、杏寿郎の全身から燃え上がる闘気が膨れ上がるようにして立ち上った。そして杏寿郎は荒れていた呼吸を持ち直し、構えを取る。

 

「(神威少年、君に見せてもらった火炎鳥・朱雀の翼・・・俺の刃の力とさせてもらうぞ!)俺は俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!」

 

杏寿郎の炎を思わせる闘気が猛き虎へと変わり背中から咆哮し、その頭上には炎の鳥が翼を広げ猗窩座を見据えている。

 

「虎と鳥・・・だと?」

 

「あれは・・・朱雀・・?煉獄さんが・・・朱雀を・・纏って・・」

 

「(一瞬で多くの面積を根こそぎ、刔り斬る)」

 

「杏寿郎、お前・・・素晴らしい闘気だ・・!それほどの傷を負いながら、その気迫、その精神力、一部の隙もない構え!!やはり、お前は鬼になれ!杏寿郎!!俺と永遠に戦い続けよう!!」

 

『炎の呼吸 奥義!』

 

杏寿郎が構えを見せた瞬間、頭上の朱雀が気高い声を上げ、杏寿郎の背に炎の翼を与えるように一体化した。これは杏寿郎自身の闘気であり、翼の形を成しているように見えているのだ。

 

「(心を燃やせ!限界を超えろ!!)俺は炎柱!煉獄杏寿郎!!

 

『玖ノ型・煉獄!!』

 

『破壊殺・滅式!』

 

二つの力はぶつかり合い、凄まじい衝撃と共に周辺の土を巻き上げた。土煙によって周りが見えない、どちらが勝ったのか三人にはわからない。その土煙が晴れてきた瞬間、その結果が見えてくる。だが、それは残酷なものであった。猗窩座は左腕を落とされかかっており、頭部も抉られてはいたが彼の右腕の拳が杏寿郎の鳩尾に貫通している。それを見た炭治郎は叫び声をあげ、真次は目の前が真っ赤になって来る。

 

「ゲフッ!」

 

「煉獄さん!見えた・・煉・・獄・・・ああ・・・ああああああっ!」

 

「うああああああ!!!!!」

 

「死ぬ・・!!死んでしまうぞ!杏寿郎!鬼になれ!!鬼になると言え!!お前は選ばれし強き者なのだ!!」

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏寿郎は猗窩座の言葉で思い出した事があった。幼き頃、母である煉獄瑠火に呼ばれた日の事だ。

 

「杏寿郎」

 

「はい、母上!」

 

「よく考えるのです。母が今から聞く事を。なぜ自分が人よりも強く生まれたのか、わかりますか?」

 

「・・・・うっ、・・・・・分かりません!」

 

「弱き人を助けるためです」

 

瑠火は凛とした表情で幼き杏寿郎に教えを説く。これが母として最後の教えであるかのように。

 

「生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は、その力を世のため人のために使わねばなりません。天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません・・弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように!」

 

「はい!!」

 

瑠火は腕を広げ、幼き杏寿郎は意図が分からず母に近づき、瑠火はその腕に息子を力強く抱きしめた。幼き杏寿郎は突然、抱きしめられ母の温もりを感じた事に僅かに驚く。

 

「私はもう長く生きられません。強く優しい子の母になれて幸せでした。あとは頼みます」

 

母の涙が自分の頭上に落ちているのが分かる。これが母である瑠火の最後の温もりになるかもしれない、幼き杏寿郎は母に託された事を強く噛み締めた。

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!!!!」

 

「ぐ・・かっ!(この男、まだ刀を振るのか!!)」

 

杏寿郎は叫び声と共に強く刀を握り込み、猗窩座の頚に刃を突き立てた。

 

「(母上、俺の方こそ、貴女のような人に産んでもらえて光栄だった!)」

 

「うおああああああああああああ!!!!」

 

刃が徐々に猗窩座の首に入り込んでくる。猗窩座はそれを振り払おうと左腕の拳で杏寿郎を殴り飛ばそうとするが、その拳を手首を掴んで止めてしまう。

 

「止めた!?信じられない力だ!!鳩尾に俺の右腕が貫通しているんだぞ!っ!?」

 

猗窩座はもう一つ気付いた事があった。それは夜明けが近くなっている事である。鬼にとって太陽光は焼け付いた鉄板を押し付けられる程の激痛と身体を塵に還されてしまう最大の弱点だ。

 

「(しまった!夜明けが近い!早く殺してこの場を去らなければ!)!腕が、抜けん!」

 

「逃がさない!!」

 

真次が見つけ出してくれた自分の刀を動けるようになった炭治郎は走って手にし、戻ってくる。

 

「煉獄さんになんと言われようと、ここでやらなきゃ!斬らなければ鬼の頚を!!」

 

「ぐ・・動け!精神が肉体を超えるように!相侮(そうぶ)で!」

 

真次が行おうとしている相侮(そうぶ)とは逆相剋の『五行の呼吸』であり。『侮』とは侮ることを意味し、相剋の反対で反剋する関係である。具体例として『水』が強すぎると『土』の克制を受け付けず、逆に『水』が『土』を侮る事がある。それと同じく『土』自身が弱いと『水』を克制することができず、逆に水が土を侮る。真次はこの性質を利用し、『肉体』という属性に対して『精神』が相侮を起こすように呼吸を行っている。これは『あの呼吸』とは違い、精神力で立ち上がるものだ。今一度、立ち上がるため痛みと戦い呼吸を続ける。

 

「(夜が明ける!此処は陽光が差す!!逃げなければ!逃げなければ!)オォオオオオオオ!!アアアア!」

 

「絶対に!!離さん!お前の頚を斬り落とすまでは!!うああああああああ!!」

 

「退けえええええええ!!」

 

「ぬぅああああああ!!」

 

少しずつ少しずつ、猗窩座に杏寿郎の刀の刃がめり込んでいく。戻ってきた炭治郎が伊之助と真次へと叫ぶ。

 

「伊之助―――ッ!!真次―――ッ!!動け―――ッ!!!煉獄さんの為に動け―――ッ!!」

 

「!うああああ!」

 

「ぐっ・・あ・・がああああああああああっ!!」

 

伊之助が炭治郎の発破を受けた瞬間、真次の呼吸も完了し二人は走って敵へ向かう。伊之助の狙いは鬼自身の頚、真次が狙っているのは頚にめり込んだ杏寿郎の刀身だ。

 

『獣の呼吸 壱ノ牙・穿ち抜き!!』

 

『五行の呼吸 土の型・三之巻・麒麟角(きりんかく)!!』

 

『五行の呼吸 土の型・三之巻・麒麟角(きりんかく)』とは聖獣の一体である麒麟が天上から突進していき、角による破壊を模したものだ。だが、この技は大振りの一撃となる為に隙が大きく、敵が弱って止まっていたり、一撃で倒せる時のみにしか使えない技だ。

 

だが、猗窩座は自らの腕を引きちぎり、杏寿郎から逃れた。大地を踏み抜き、その衝撃で伊之助と真次を吹き飛ばした。腕を再生させ、素早く日陰となる森の奥へと駆け込む。

 

「があああああ!」

 

「うあああああ!」

 

炭治郎は猗窩座の逃走した位置へ走りこみ、入口から猗窩座へ向かって己の日輪刀を投擲し、それが相手の体に突き刺さった。

 

「・・・っ!」

 

「逃げるなァ―――!卑怯者!!逃げるなァ―――!」

 

炭治郎の言葉に猗窩座は一気に怒りが沸騰する。自分が敵から逃げているのだと思われたのがしゃくに障ったのだ。だが、夜明けの太陽光が出ている以上、戦う事はできない。

 

「(何を言ってるんだ?あのガキは、脳味噌が頭に詰まっていないのか?俺は鬼殺隊(おまえたち)から逃げてるんじゃない。太陽から逃げてるんだ。それにもう勝負はついているだろうが!アイツは間もなく力尽きて死ぬ!!)」

 

どんなに叫んでも、もはや暗闇しかない。だが、それでも炭治郎は叫ばずにはいられなかった。

 

「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦っているんだ!!生身の人間がだ!傷だって簡単には塞がらない!!失った手足が戻る事もない!!」

 

炭治郎の叫びに伊之助は震えており、真次は刀を支えにして立ち上がった。その叫びは勝ったのは杏寿郎だと言わんばかりだ。

 

「逃げるなァ―――!馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!お前なんかより煉獄さんの方がずっと強いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ―――!!ぅああああああ!!あああっ!!」

 

「炭治郎・・・」

 

「もうそんなに叫ぶんじゃない・・・戦いの傷が開く、君も軽傷じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ」

 

杏寿郎は優しく声をかけ、炭治郎を呼ぶ。傷の具合から見て素人目に見ても助からないだろう。

 

「こっちにおいで、最後に少し話をしよう。思い出した事があるんだ。昔の夢を見た時に・・俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の『炎柱』が残した手記があるはずだ。父はよくそれを読んでいたが・・・俺は読まなかったから内容が分からない。君が言っていた『ヒノカミ神楽』について何か・・・記されているかもしれない」

 

杏寿郎の腹部を貫通していた腕が太陽光によって消滅していく。皮肉にもその腕が止血していたため、杏寿郎の腹から血が多く流れてくる。

 

「煉・・・獄さん・・・もういいですから、呼吸で止血してください・・。傷を塞ぐ方法はないですか?」

 

「無い。俺はもう直ぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には、自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には体を大切にして欲しいと・・・それから」

 

杏寿郎は優しくも力強く笑みを浮かべ、炭治郎を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。胸を張って生きろ」

 

それは禰豆子を認めたという言葉であった。杏寿郎自身も鬼である禰豆子を信じ切れる部分がなかったのだろう。今の彼は本心から彼女の事を認めている。

 

「己の弱さや、不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」

 

「俺がここで死ぬことは気にするな。『柱』ならば、後輩の盾となるのは当然だ。『柱』ならば誰であっても同じ事をする。若い芽は摘ませない」

 

少しずつ杏寿郎の時間が失われていく。血の量が彼の時間を示しているかのように地面を濡らしていく。

 

「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年。もっともっと成長しろ、そして今度は君達が鬼殺隊を支える『柱』となるのだ。俺は信じる、君達を信じる。最後に神威少年・・・・」

 

「!!」

 

「君も自分の心に従って、生きろ・・・もう己を縛り続ける必要はない。君の鎖の一部を・・俺が持っていこう」

 

「煉・・・獄・・・さんっ!!」

 

「君の火炎鳥で・・・見送ってくれ。っ・・・!母上・・・」

 

朱雀が見せた幻影か、それとも杏寿郎自身が見ている走馬灯なのか?母である煉獄瑠火が凛とした佇まいで彼を見ていた。

 

「俺はちゃんとやれただろうか、やるべき事、果たすべき事を全う出来ましたか?」

 

『立派にできましたよ』

 

瑠火は優しい笑顔で杏寿郎を労うと同時に杏寿郎は笑顔になり、そのままゆっくりとこと切れて逝った。

 

 

 

 

 

善逸が目を覚まし、状況を真次に聞いた。いつもは隠し事の音がしている彼も悲しみの音が響いている。

 

「汽車が脱線する時・・・煉獄さんがいっぱい技を出しててさ・・・車両の被害を最小限にとどめてくれたんだよな」

 

「そうだろうな・・・」

 

「死んじゃうなんてそんな・・・ほんとに上弦の鬼、来たのか?」

 

「うん」

 

「なんで来んだよ、上弦なんか・・・そんな強いの?そんなさぁ・・」

 

「うん・・・」

 

「悔しいなぁ・・何か一つ出来るようになっても・・・またすぐ目の前に分厚い壁があるんだ」

 

炭治郎は泣いていた。悔しくて悲しくて、同時に強い人間の死を見てしまったからだろう。それは真次も一緒だった。彼にとっては尊敬していた人間の死が重くのしかかる。

 

「く・・・ううう」

 

「凄い人はもっとずっと先の所で戦っているのに、俺はまだそこに行けない。こんな所で躓いてるような俺は・・・俺は・・煉獄さんみたいになれるのかな・・・」

 

「うっ・・うっ・・ううっ!」

 

「弱気なこと言ってんじゃねぇ!なれるか、なれねぇかなんて、くだらねえ事、言うんじゃねぇ!」

 

伊之助は思い切り叫んでいた。悔しさは彼が最も一番強かった。自分よりも強い存在がいた事を知らずに居たのが恥ずかしく、それが堪らなく悔しかった。

 

「信じると言われたなら、それに応えること以外考えんじゃねえ!!死んだ生き物は土に還るだけなんだよ!べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ!!悔しくても泣くんじゃねえ!!どんなに惨めでも恥ずかしくても、生きてかなきゃならねえんだぞ!!」

 

「伊之助の言う通りだけど・・・だけど!なんで俺は言葉に出来なかったんだ!!」

 

伊之助も猪の被り物の瞳から涙が溢れ出ている。それを見ていた真次も抑えていたものが決壊し何度も何度も地面を殴りつけた。

 

「お前も泣いてるじゃん・・・被り物から溢れるくらい涙出てるし・・んがっ!?」

 

「俺は泣いてねぇ!うああああああ!!」

 

善逸の指摘を否定するかのように伊之助は思いっきり頭突きした。それを受けた善逸は気絶してしまい、伊之助は刀を置くと炭治郎の着物の袖を引っ張った。

 

「こっち来い!修行だ!お前もだ!!」

 

「ちくしょう!くそっ!くそおおおお!うああああああああああっっ!」

 

四人は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。伊之助は炭治郎の頭を軽くポカポカ殴り続け、真次は空に向かって大声で叫び続けた。情けないと言われようが、泣き虫だとも言われようが四人は泣き疲れるまで泣き止むことはなかった。




次回は時間を早送りして、オリ主の真次が最後となる場面になります。この煉獄の戦いがあったからこそ、彼は未来を守る決意をしました。



※前回のヒロインアンケートでヒロインは「胡蝶しのぶ」になりました。

異聞外伝として書こうと思いますので、二人の関係のアンケートをとります。


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第七話 五行の刃、砕ける

上弦の弐との戦い。

完全な死亡フラグ。


時間は戻り、二人が真次の墓に話しかけている時間。カナヲはいつか言わなければならないと決めていた事を真次の墓参りに来た時、炭治郎へ話す決心をしていた。

 

「炭治郎」

 

「何?」

 

「怒らないで聞いて欲しい、私・・真次に恋人になって欲しいと言われた事があったの」

 

「!」

 

炭治郎は目を見開く。自分の妻であるカナヲが親友であった真次から告白を受けていたなど初耳だったからだ。自分の中で暗い感情が出てくるのが分かる。

 

「そう・・だったんだ」

 

「その時は意味が分からなかった。だけど・・・炭治郎と夫婦になってようやく分かったの、彼の言葉はこういう意味だったんだ・・って」

 

「・・・」

 

「最初に旅立つ前に私は『必ず好きな人と幸せになれる』って・・・言われた」

 

「!」

 

「それと同時に彼は寂しそうな笑顔を向けて去っていった。何かを知ってしまったような・・そんな様子で」

 

カナヲの言葉に炭治郎は生前、彼が『勘』が鋭いという事を思い出した。それも、誰かが死ぬ時に対してよく働いてしまうとも。

 

「真次・・・」

 

恐らくは自分がカナヲと結ばれる事はなく、炭治郎とカナヲが結ばれる事を『なんとなく』知ってしまったのだろう。

 

「だから・・・あの時、カナヲを頼むだなんて・・言ってたんだ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

それは煉獄が死に激闘による傷を癒す為、蝶屋敷にいた時であった。その時の真次は異国語(英語)を覚えようとしているのか、そういった関連の本を読みふけっていることが多くなった。周りから何故と尋ねられても『なんとなく』で返されてしまった。

 

そしてある日、満月の夜。深夜帯に近い時刻に炭治郎は真次に呼び出されていた。とても大事な話があると。

 

「来たよ、真次」

 

「ああ、炭治郎。来てくれてありがとう。隣に座りなよ。お茶くらいは用意したから」

 

「うん、それで大事な話って何?」

 

「・・・炭治郎、単刀直入に言う。カナヲを頼みたい」

 

「え?」

 

「俺は恐らく、死ぬかもしれない『なんとなく』だけど『勘』が働いたんだ。何かと戦って俺がそこに血まみれで立っているのを・・さ。俺は自分の事は分からないけど、何かと一緒に居る自分を知る事は出来るんだ」

 

「それって!」

 

「未来を見通してる訳じゃない『なんとなく』分かるだけに過ぎないんだ」

 

「だけど、それがカナヲと何の関係があるの?」

 

「炭治郎、これは男と男の約束だ。カナヲを幸せにしてやって欲しい」

 

「!それなら真次自身が!!」

 

「いや、俺じゃないんだ。カナヲを幸せに出来る相手は炭治郎、お前なんだよ」

 

「・・・っ!?」

 

真次の横顔を見ると彼から哀愁の匂いが濃く出ていた。それと同時に何も隠していない本心から頼むと言っている事を炭治郎は匂いを通じて感じた。

 

「俺の『勘』が、炭治郎とカナヲが手を繋いで笑顔で道を歩いている姿が見えたんだ。そこに俺は入れない、入っちゃいけない・・・だからだ」

 

「真次、なんで・・なんでそんな事を言うんだ!自分が死ぬかも知れないなんて!絶対に死なせるもんか!」

 

「・・・ありがとう、な」

 

真次は自分の日輪刀と炭治郎の日輪刀を持ち出していた。炭治郎へ日輪刀を手渡し、自分の日輪刀を突き出し見せるような仕草をした後、刀を立てた状態にした。真次は正座しており炭治郎はその意図を理解し、炭治郎も正座し手渡された自分の日輪刀を手に柄を握って刀を立てる。

 

「改めて、親友の誓いを立てよう。俺が死んだとしても・・炭治郎、カナヲを幸せにしてやってくれ」

 

「うん・・・!」

 

真次は僅かに刀身を抜き、炭治郎も合わせるように僅かに刀身を抜いた。二人は同時に鍔鳴りを響かせた。

 

「金打(きんちょう)」

 

これが江戸時代などから、固い約束を誓い合う時に行われた金打と呼ばれる儀である。この会話を最後に炭治郎と真次は二人だけで会話することは少なくなった。

 

 

 

 

 

 

「そんな事が・・・あったんだ。炭治郎と真次に」

 

「うん・・」

 

カナヲも知らなかった二人だけの誓いの会話。だが、炭治郎はまっすぐにカナヲ見つめる。

 

「でも、頼まれたからじゃない。俺は本心からカナヲを好きになったんだ。傍に居て欲しいと思ったんだ」

 

「うん・・・信じる」

 

カナヲはあの日を思い出す。最終決戦とも言うべきあの戦いを、そして二人の姉の仇と真次が戦い、炭治郎のもとへ向かわせてくれたあの時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは伊之助とカナヲが激昂し、上弦の弐である童磨との戦いの最中であった。

 

「テメェには地獄を見せてやる!!」

 

「その怒り、俺に引き継がせてくれないか?伊之助、カナヲ」

 

「テメェ・・・っ!?」

 

「真次・・・っ!?」

 

「しのぶを殺したのはお前か?上弦の」

 

「そうさ。でも殺しただなんて人聞きの悪い、辛い事から開放してあげたんだよ。それに僕の中へ取り込んであげたんだ。彼女は永遠に僕の中で生き続け・・あれ?」

 

「Shut up(黙ってろ)・・・!クズ野郎」

 

真次は刀を抜き純粋な斬撃で真空を引き起こし、童磨の口を縦に切り裂いた。伊之助とカナヲは真次から恐怖を感じていた。味方であるはずなのに、濃厚な怒気が感じ取れるほどの凄まじい闘気だ。『柱』との稽古により真次はあの時以上に格段に強くなった。もはや『柱』と呼んでも差し支えないレベルに達していた。だが、それでも鍛錬をやめようとしなかった。

 

真次は二人を守るように立った。その目には怒りと冷静な考えを併せ持つ男の眼があった。

 

「二人共、此処から離れて炭治郎のところへ急げ」

 

「何言ってやがんだ!アイツに地獄を見せねえと気が済まねえんだよ!」

 

「私だってそう・・!」

 

「頼む、炭治郎の所へ行ってやってくれ。それまでの時間は俺が稼ぐ」

 

「「!?」」

 

伊之助とカナヲは真次の目が本気かつ、寂しさを持っている事に気付いた。それ以上に伊之助は真次の真意に気づき、カナヲの手を引っ張り出入り口へ素早く向かった。

 

「ああ!ご馳走が!む!?」

 

「行かせねえよ・・・」

 

童磨が二人を攻撃しようとするがそれを真次自身が許さない。

 

「真次!」

 

 

※推奨BGM[Fate/Grand Orderより EMIYA 千子村正ver]

 

 

「カナヲ、伊之助・・・確認しておく。時間を稼ぐのは良いが、別に(・・)アレの(・・・)頚を斬り落としても(・・・・・・・・・)構わないんだろう(・・・・・・・)?」

 

「「!?」」

 

その瞬間、伊之助とカナヲの二人は背を向けている真次が確かに強いと感じるが、それと同時にもう二度と会えなくなるのではという予感めいたものあった。

 

「カッコつけやがったんだぞ!必ず戻ってきやがれ!!これは命令だぞ!!」

 

「真次、思う存分やって!!そして、姉さん達の仇を取って!!」

 

「了解した・・・行け!二人共!」

 

二人は急いで撤退した。だが、伊之助とカナヲの目からは涙が溢れていた。真次が死ぬつもりはなくても、もう絶対に会えない。その予感が涙として出て来ているのだ。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、行っちゃった。残ったのは不味そうな男か・・・でも、優しく殺してあげるからね」

 

「・・・・」

 

「ん?」

 

真次が刀を抜き、構えを取る。その瞬間、彼の刀身を見て童磨は首を傾げた。

 

「んん?へぇ・・・君、陰陽師の血を引いてるんだね?懐かしいなぁ」

 

「・・・何が言いたい?」

 

「陰陽師の女の子は極上だったんだ。それはそれはもう、踊りたくなる程にね。でも残念だなぁ、君が女なら遠慮なく食べてあげたのに」

 

「・・・・!」

 

瞬間、真次の闘気が形を成していく。五行の色が現れ、呼応している色から聖獣の姿となって童磨へ咆哮する。

 

青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟、その全ての聖獣が童磨へ圧倒的な怒りを見せつけているが、彼は愉快そうに笑うだけだ。

 

「聖獣かぁ・・・ホントにすごいね君、陰陽道の思想を『呼吸』にするなんて今まで見た事がなかったよ」

 

真次が踏み込んだ瞬間、童磨も鉄扇で迎撃する。その力の強さに童磨は感心した素振りを見せている。間合いを外し、真次は呼吸を一瞬で整えると刀身が炎のように赤くなっていき、それを鞘に収める。

 

「(煉獄さん・・・俺は俺の心のままに為すべき事をします!)」

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)!』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)』とは己自身の属性を完全に『炎』とする事で刀身に高温とも言える熱を帯びさせ、それを居合で切り裂く技だ。更にこの状態は全身を高熱化させており、僅かな水分であれば蒸発させてしまう。

 

『凍て曇』

 

童磨が繰り出してきたのは血鬼術による氷の欠片の波だ。これを吸い込めば呼吸ができなくなる。それを『勘』で察知した真次は己の属性を『火』に変え、蒸発させているのだ。居合は届かずとも相手の繰り出してきた氷を蒸発させてしまった。だが、それでも、左腕の上腕部は損傷している。

 

「へぇ・・・君、陰陽道を知らないはずなのに使いこなせているんだ。俺が使う血鬼術は氷、即ち水だ。けれど君は相侮させる事で対抗している。賞賛に値するよ」

 

「あれから俺も気になったからな、わずかに残った文献から言葉の意味だけを理解したのさ」

 

「(ふむ・・ふむ、この子、五感で俺の血鬼術を分かっている訳じゃない、かと言って予想している訳でもない・・・厄介だね。五感なら潰せば済むけど)」

 

童磨は冷静に真次の力を見極めていた。だが、見極めようとしても見極めきれない。何故なら真次は第六感が優れているために、肉体という概念には存在しない感覚だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(しのぶ・・・『柱』の皆さんにも止められていた禁忌を今、破る!)此処からは生真面目に戦うのを止める。俺が楽しませてもらう」

 

『五行の呼吸 極ノ型・一之巻・外伝 相生×比和』

 

これこそが『柱』達が使用を禁じ、最も『柱』に近いと称された真次の所以であり『あの呼吸』と言われていた『五行の呼吸 極ノ型・一之巻・外伝 相生×比和』だ。呼吸で強化した体内において脳内麻薬を過剰分泌させ、肉体そのものをドーピング状態にする。これによって恐怖心の克服、戦意高揚なども容易く行える。更には肉体の限界を超えられるという利点もある。

 

だが、その代償として肉体を薬物で強化する物と同義であり、長時間使い続ければ肉体が薬物中毒なり、この呼吸に依存傾向が強くなってしまう。つまり、戦うにはこの呼吸を常にし続けなければならなくなるのだ。しのぶがそれを治療する事が出来たがもう、彼女はこの世にいない。

 

「ん?なんだ?傷としては深めのハズなんだけどな」

 

「俺は、今ここで倒れられねえんだ・・・!」

 

「Come on!(来いよ!)It's not over yet!!(まだ終わらねえ!!)

 

※推奨BGM[戦国BASARA2より、伊達政宗のテーマ]

 

真次の闘気として現れている五行の聖獣達が一つとなり、真次は童磨へ瞬間的に迫る。その刃を童磨は鉄扇で受け止めるが凄まじい剣力となっている真次の刃を押し込まれていく。

 

「異国の言葉を使うなんて伊達男のつもりかい?ん・・んんんっ!?人間ではありえない力だ!」

 

「はっ!ありえない事を起こせるのが人間なんだよ!」

 

真次は自分の中である予感がしていた。『勘』ではなく閃きに近い何かだ。この鬼に対してはとにかく身体を動かさせる事が重要だと。

 

「(これはマズイね。コイツの相手をしてたら俺が持たない)悪いけど君のような危険な相手はこの子にしてもらうよ」

 

『結晶の御子』

 

「結晶で作った分身か!っ!?」

 

真次は分身が出された瞬間に飛び退いた。それと同時に氷の虚像から血鬼術が放たれた。

 

『血鬼術 散り蓮華』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)・極』

 

「この子、俺と同じくらいの強さの技、出せるんだ。後は任せるね」

 

「野郎・・・!」

 

『蓮葉氷』

 

「ぐううっ!く・・ふふふ!」

 

「?何がそんなに可笑しいのかな?」

 

「今の俺は最高に高揚しててな、気分が良いんだよ」

 

真次の言葉は半分が事実で、半分が嘘である。今の彼は脳内麻薬によって高揚状態であり更には感覚で言うゾーン状態にもなっている。だが、それ以上にも目の前の奴だけは許せないのだが、圧倒的な力を繰り出してくる事に対して苛立ちを隠せない。

 

「ふーん・・でもね。男の相手は趣味じゃないんだよね」

 

そう言いながら更に三体の虚像を作り出し、三体に違う攻撃をさせてきた。

 

『寒烈の白姫』

 

『蔓蓮華』

 

『血鬼術 冬ざれ氷柱』

 

『五行の呼吸 水の型・三の巻・玄武甲(げんぶこう)・極』

 

亀の甲羅を模した闘気が真次を守っているが、それは真次自身が速さでなぎ払っているに過ぎない。

 

「(まだか・・・!まだなのか!何か起こる予感があるのに!)ぐはっ!」

 

『真次君』

 

「っ!?」

 

真次は童磨の虚像の攻撃を傷を受けながらもなぎ払い続けている中、しのぶの声が聞こえたような気がした。それと同時に藤の花の香りが、ほんの一瞬だけ真次の鼻腔をくすぐる。更には童磨の身体に異変が起こった。

 

「え?あれ?何だこれ」

 

「奴の身体が・・・溶けている!?あれは・・・まさか、しのぶの毒の症状!」

 

「(あの子の毒、だけど毒が回っていくような感覚もなかった)」

 

次々に童磨の虚像達が砕けていき、真次は決心を固めた。此処で奴を仕留める為に使うべき最後の『呼吸』がある。だが、それを使えば『死』は免れない。だが、それでいい。炭治郎(親友)カナヲ(初恋の人)の未来を守れるならばこの命、賭けるに値する。

 

『五行の呼吸 極の型・終の終 相生・相剋・相乗・相侮・比和・陰陽和合!』

 

『五行の呼吸 極の型・終の終 相生・相剋・相乗・相侮・比和・陰陽和合』とは全ての呼吸と共に属性を一つとし、聖獣・四神と麒麟の全てを一体化させ敵へと特攻する捨て身の技であり、故に目的の鬼を滅ぼした所で己の命も尽きるという究極にして禁断の技だ。

 

「さぁ!一緒に地獄へ行こうぜ!上弦のぉ!」

 

「!!」

 

『血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩』

 

真次の刀は童磨の氷の菩薩像を突き抜け、頚へと刃を突き刺した。それを横向きにし、断ち切ろうとする。毒の影響で幾分か刃が進むが、相手も抵抗を止めてはいない。

 

「ぐ・・ぐおおおおおお!!」

 

「嫌だ、男と一緒に死ぬなんて真っ平だ!!」

 

「逃がさねえよ、クズ野郎がああああ!!」

 

その咆吼と共に童磨へと食い込んでいた刃はその頚を断ち斬った。それと同時に真次の身体は刀を握ったまま、水の中へと落下した。

 

 

 

 

 

 

「死ぬんだ、俺。結局何も感じない・・・人間の感情は他所の夢幻だったなぁ」

 

「あ、やっと死にました?良かった。これで私も安心して成仏できます」

 

童磨は走馬灯を見たのか、暗闇の中しのぶと出会い。様々な会話をした後、彼女にこういった。

 

「ねぇ、しのぶちゃん、ねぇ俺と一緒に地獄へ行かない?」

 

それは童磨からの初めての異性への告白であった。だが、しのぶは笑みを深くして返答した。

 

「とっととくたばれ、糞野郎」

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・ぐ・・が」

 

水から立ち上がった真次は心臓の位置を抑えていた。自身が究極とする技を使った影響で心臓は破裂、横隔膜は破れており呼吸が上手く出来ない。

 

「(そこに・・・そこに・・あった!)」

 

真次が水の中から探していたもの、それはしのぶの髪飾りであった。それを手にして自ら出てくると同時に真次はその場に仰向けに倒れた。

 

「はぁ・・ゴブッ!」

 

吐血が始まる。呼吸が上手く出来ないため止血も不可能だ。真次は自分の鴉に合図として教えておいた床を数回たたき合図した。

 

「鴉・・・全てが終わったら・・・伝えて・・くれ。神威真次・・・は戦って死んだ・・・って」

 

鴉は了承した返事をするとそのまま外へと飛び立った。真次は次第に痛みを感じなくなってきていた。

 

「ああ・・・なんだか穏やかだ。心地いい」

 

彼はまるで眠るかのように目を閉じた。しばらくして花が咲く神社のような場所に立っていた。

 

「此処は?」

 

誰かが手を差し伸べており、その手を握るとその柔らかさに覚えがあった。自分を最後まで治療してくれた大恩人だ。その人は色艶やかな着物を着ている。

 

「俺、頑張ったよ・・・貴女の仇を射ちました」

 

その人は優しく微笑むと彼の手を握り、一緒に行こうと促した。その先には厳しかった両親が謝りながら抱きしめてくれた。

 

走馬灯を見終えた真次は嬉し涙を流しながら、謝罪とお礼の言葉を言うと静かに事切れた。

 

彼の日輪刀は砕け、残ったのは鍔元までの刃であった。その手には蝶の髪飾りをしっかりと握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

真次が死んだ後、最後の最後で無残は炭治郎を鬼とさせた。だが、皆の奮闘で人間に戻る事が出来た。

 

「無残、お前は俺が連れて行く。親友をお前の理想にしてたまるか!」

 

「黙れ、亡者が!ぬぐ!?」

 

「炭治郎、俺との誓いを忘れたのか!俺はお前に託したんだ!だから戻れ!カナヲだけじゃない、みんながお前の帰りを待っている!お前の左腕は俺の一部を持って使えるようにしてやるからな」

 

『真次、ありがとう・・・最後の最後まで助けてくれて・・・』

 

真次の魂は無残を羽交い締めにして、身動きを取れなくしている。そこには無残の体に巻きつく青龍、その利き腕に噛み付く白虎、炭治郎を爪で引っ張り上げようとする朱雀、それを手助けする玄武と麒麟。炭治郎は仲間達の思いによって帰っていく。

 

「行くな、わたしを置いていくなァァァ!!」

 

「もういいだろう、無残・・・俺もお前も、もう死んだんだ。後は来世にかけよう」

 

「ふざけるな!貴様が邪魔をしなければ私は!」

 

「永遠なんてないんだよ、無いからこそ必死になって生きて、それが刹那だとしても尊くなるんだ」

 

「貴様ァ!」

 

「俺達は生まれる時代を間違えただけなんだよ、行こう次の来世へ」

 

 

 

 

 

 

炭治郎の意識が戻り、人間に戻った事を確認した鬼殺隊の皆が歓喜の声を上げた。

 

「っ!?左腕が・・・動く?」

 

『お前の左腕は俺の一部を持って使えるようにしてやるからな』

 

「真・・・次?皆、真次は?」

 

「え・・まだ戻ってきてないよ?」

 

「アイツ、戻って来いと俺が命令したのに!」

 

「まさか・・な」

 

それと同時に四人の元に鴉がやって来た。五行を示す星の形の札を持っているのでこれが真次の鴉だとわかる。

 

「カアアア―――!伝達!竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、栗花落カナヲ、竈門禰豆子二伝達・・・!死亡!!神威真次、死亡!!上弦ノ弐ト格闘ノ末、相討チ!死亡―――ッ!」

 

「え・・・」

 

「ぇ・・・?」

 

「っぁ・・・!!」

 

「な・・・・」

 

「そんな・・・」

 

周りが歓喜している中、五人は一瞬にして凍りついた。男にとっては親友が、カナヲにとっては自分に好意を向けてくれた異性が、禰豆子にとっては鬼であった時に自分を守ってくれた人が死んだという、残酷な現実を突きつけられたのだ。

 

五人は肩を貸しあって、伊之助とカナヲが最後に真次と出会った場所である上弦の弐が居た部屋へと向かう。歩みはゆっくりでも確実に向かうことが出来た。

 

扉を開くとそこには、砕けた日輪刀を手にし、まるで眠っているかのように穏やか表情を浮かべた真次が、蝶の髪飾りを持って横たわっていた。

 

「真・・・次?」

 

「真次・・さん?」

 

「真次・・・?」

 

「おい、何寝てやがる?」

 

「・・・冗談だろ?」

 

全員が横たわっている真次の近くまで行き、伊之助が痛みが走る腕を動かし、真次を揺さぶった。

 

「おい!起きろ!!命令を無視してんじゃねえ!!起きろって言ってんだよ!」

 

「伊之助・・・」

 

「お兄ちゃん?」

 

「感じないんだ・・・真次の匂いが・・・呼吸をしてないんだ」

 

「・・・どうして」

 

「本当だよ・・・今の真次から心音も何も聞こえない」

 

嗅覚に優れている炭治郎、聴力に優れている善逸、この二人から真次が死んでいるのは現実だと口にする。

 

「そんな・・・私達は仲間をまた失っていたの?」

 

「あの時、助けに来てくれたのは・・・こういう事だったんだ」

 

「嘘だろ・・・あんなに強くなってたのに・・・真次が死ぬなんて」

 

「馬鹿野郎!なんで命令無視をしやがったんだ!!」

 

伊之助はまた涙声になっていく。その影響で全員が涙を流し始めた。

 

「君が・・・君が左腕を使えるようにしてくれたんだよね?真次・・・君との誓いを破りそうになったのに、君はまた・・・助けてくれた」

 

「私が鬼だった時も・・・必死に守ってくれたんですよね・・・?」

 

「しのぶ姉さんの髪飾りを・・・取り返してくれたんだね・・・真次」

 

「ぐぐ・・・お前が土に還ってどうすんだ!俺と勝負するって言ったじゃねえか!!」

 

「俺だって・・・全然、謝ってない事がたくさんあったのに・・・こんな、こんなの・・って」

 

五人が全員涙を流す。助けられた者、守られていた者、好意を向けられていた者、約束をしていた者、謝れなかった者、それぞれが真次に向けての涙を流し続けた。

 

真次の遺体は回収され、竈門家で葬ることになった。小さな丘を見つけそこに墓を建てた。生前、自分が死んだら見晴らしが良い居場所に埋葬してくれとあったからだ。

 

その後、お館様から渡された真次の遺書を炭治郎の実家において皆で読む事になった。

 

『みんなへ。これを読んでいるという事は俺は死んでいるんだろうな。けど、気にする事はない。俺は俺の意思で初めて親友を、好きになった人を守れたんだ。だから、俺は後悔はしていない。

 

善逸、露骨な好意は控えめにしな、逆に引かれるぞ?

 

伊之助、キノコ取りの勝負が出来なくて悪い。これからも二人を支えてやってくれ、お前なら簡単だろう?

 

禰豆子、もし人間に戻っていたらお兄さんと仲良くな?お義姉さんになる人も大切にしなよ、君に幸多からん事を。

 

カナヲ、君にはいっぱい言いたい事があった。けどそれは墓まで持っていく、俺は君が好きだった。それだけは事実だ、君はきっと幸せになれる。それだけは間違いないからさ。

 

炭治郎、カナヲを幸せにしてやって欲しいという誓い、忘れないでくれよ?もし忘れたり幸せに出来なかったら枕元に立つからな?

 

長くなったけどこれで終わりだ。来世があれば、その時にまた会おう。俺の最高の親友達と大切な人達へ。    神威真次』

 

 

真次の遺書を読み終えると皆が皆、笑いながら涙を流していた。悲しくあるのに笑ってしまうそんな不思議な状態だからだ。

 

「露骨な好意ってなんだよ、それぇぇ!!」

 

「簡単に決まってんだろうが!死んでからも俺を舐めんじゃねえ!!」

 

「ありがとう・・・ございました・・・真次さん。でも、本当に不器用な人です」

 

「私もありがとう、応える事は出来なかったけど、嬉しかった・・・」

 

「相変わらずだなぁ・・真次は・・・最後の最後までカナヲの事なんだから・・・」

 

遺書を読み終えたその夜、竈門家において蝶屋敷の面々も集め、盛大な宴が開かれた。

 

夜まで騒ぎ、喋り、食べて楽しんだ。真次の席も設けて疲れて眠るまで宴は続いたのだった。




真次はここで退場です。

次回は時間が戻ります。最終回です。

最終回を書いたら異聞外伝として、真次としのぶのカップリング話を書きます


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最終話 来世への想い

五行の刃、天へ還る。


真次の墓の前で昔を懐かしんでいる中、誰かここへ登ってくる気配を感じる二人。

 

「お兄ちゃ―ん!お義姉ちゃ―ん!やっぱり此処だったのね」

 

現れたのは炭治郎の実妹であり、カナヲの義妹でもある禰豆子であった。手には沢山の花束が握られている。

 

「禰豆子!」

 

「やっぱりバレてたんだ」

 

「当然だよ。御盆はみんなで絶対、此処に来るって決めたじゃない!」

 

「禰豆子ちゃ~ん、待ってええ」

 

「おい、アオコ!早く来いよ!」

 

「慌てて行かないでくださいよ!」

 

善逸、伊之助、アオイまでもが来ていた。それぞれ、花束やお供え物などを手にしている。

 

禰豆子を始めとする後から来たメンバー達は花を真次の墓に供え、最後に伊之助が山で取って来た山の幸の食材などを備えた。

 

「真次、俺・・・禰豆子ちゃんと恋仲になったんだ。炭治郎からも許しが貰えたんだよ。羨ましいだろ?」

 

「もう、善逸さんってば!真次さん、お兄ちゃんとお義姉ちゃんが結婚したのは聞いていると思います。私、今とても幸せなんだなって、噛み締めています」

 

善逸はいつものハイテンションではなく、まるで話しかけるような状態で真次の墓に話しかけており、禰豆子は少し顔を赤くしながらも兄や義姉達と幸せになっている事を報告した。

 

「おい、まかつぐ(真次)!お前が言った通り、俺は今もこの二人を支えてるぞ!それにな、アオコが俺の番になったんだよ!」

 

「な、何言ってるんですかぁ!?伊之助さん!もう!真次さん、あまり・・お話しませんでしたが聞いての通りです。蝶屋敷も変わりませんよ」

 

アオイも顔を真っ赤にしながら伊之助へ叫んでいた。真次の墓は花でいっぱいになっていき、炭治郎達は墓掃除を改めて行い、再び手を合わせた。しばらくして立ち上がると。

 

「それじゃ、もう行くよ」

 

「また、来るから」

 

「色々、お話に来ますね」

 

「次は俺の結婚報告に来るから!」

 

「今度はとっておきのドングリを持ってきてやる!!」

 

「それじゃ、失礼しますね」

 

皆が帰ろうとした瞬間、強い風が吹き抜けた。思わず顔を腕で覆ってしまう。

 

『みんな・・・』

 

「え?」

 

「どうしたの?お兄ちゃん」

 

「まさか!?」

 

炭治郎が振り返ると皆も一斉に振り返る。そこには全身が透けているように見える真次が自分の墓の水鉢の部分に腰を掛けてこちらを見ていた。

 

「ゆ、ゆゆゆうゆ幽霊!?」

 

『ありがとう・・・みんな、幸せにな?来世でまた会おう』

 

善逸は慌てていたが、皆は驚きすぎていてその場に固まってしまっていた。その言葉を最後に真次は消えてしまった。同時に花の傍に置いてあった真次の日輪刀の鞘にヒビが入り、砕けてしまった。

 

「鞘が・・・」

 

「きっと鞘に、最後の意思を残していたんですね。ビックリしましたけど」

 

「驚かせるの好きだったから、真次は」

 

「ねぇ・・・今日はみんなでおはぎを作らない?真次さんの為に」

 

「いい考えだな!ほら、早く行こうぜ、それから俺にも食わせろよ!」

 

皆が背を向け、真次の墓がある丘を下って去っていく。突然吹き始めた風に揺らされ花びらが散り、四神と麒麟は優しげな風と共に天へと登っていった。

 

 

『きみにより 思ひならひぬ 世の中の 人はこれをや 恋といふらむ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナタは来世を信じますか?

 

もし、前世の記憶を思い出したらその相手になんて伝えますか?

 

恋した相手、親友だった相手、そんな相手に対してどんな言葉を紡ぎますか?

 

数百年、数千年だとしても、自分の大切な人達に対してこの言葉を言うでしょう。

 

 

 

『ただいま』




短いですが、これにて完結にします。

最後の短歌は平安時代に生きていた「在原業平」のものです。

意味は「あなたによって人を想うことを学んだ。世の中の人はこれを恋というのだろう」

という意味です。

次回は異聞番外編、つまり・・「もしも」の世界として書きます。


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過去 五行の刃、柱に届かず

五行の刃、未熟なまま『柱』と出会う。



※※真次の性格は戦国BASARAの人物をモデルに時系列毎に変わっています。

家族や仲の良かった友人などを鬼に殺され、鬼殺隊に入る前→柴田勝家(過去ばかりを後悔し目に光がない)

※日輪刀が無いため、当時の鬼殺隊の死体から盗んだ二刀流。

お館様と出会った後の修行時代→真田幸村(強くなろうと愚直なまでに熱血)

※鍛錬用の木刀などの二刀流

自分の呼吸を理解し初実戦から生還の後→伊達政宗(冷静さと大胆さを和合)

※日輪刀を手にした為、一刀流となる。


怪我で動けない中、あの当時を思い出す。自分が今の力も何も無い頃を。

 

「ハァ・・・ウマイ・・・コレ」

 

「あ・・・ぁ」

 

目の前には人の姿をした鬼がいた。自分の両親、近所にいた妹分や弟分すらも喰われている。

 

自分はその場で動けなかった。鬼は食事を終えた後、自分に向かってきていた。まだ食い足りないと。

 

その瞬間、鬼の首が落ちた。まるで蛇と情熱を体現したような刃によって。

 

「生存者は一人、か」

 

「それでも生き残っちゃうなんて凄く運がいいね。この人」

 

「・・・・っ」

 

ショックを受けた影響で言葉が発せない。ただ分かるのは桃色の髪を持つ女性と、蛇のような波うった刀を持つ男性というだけだ。白い羽織の下に滅の文字があったという事、それだけを目に焼き付け、気を失った。

 

その後、彼はただただ・・さ迷い歩いていた。食べ物は虫だろうが野草だろうが何でも食べた。山に入った時には生きるのに何も困らなかった。鬼と何かの組織らしき人間との戦いを影で見ながら息を潜め、鬼が勝利し去った後にはすぐに行動し刀を盗んだ。

 

盗んだ後は、同じ重さの枝を切り出し、それを毎日振った。自分で考えられる鍛え方は全て行った。己の身体を確かめる道具にし、キノコや自然薯を掘り出してそれを金に変えた。

 

周りからは嫌われ続けた。着物一枚、布一枚を羽織っているだけなのだから当たり前、その恥辱にも耐え続けた。寺に行けば一時的に保護され、屋根を借りれた。水を飲み、山の幸を売った金を賽銭として置いていき、次々に居場所を転々とした。

 

刀は布でくるんで隠し持って歩いた。この大正の時代、刀を持っていては取り締まられてしまう。

 

食事をしている鬼を見ていた時、偶然にも頚を落としたのを目撃した時があった。その時に頚を斬ればいいと知った。今までは日光に当てなければならないと思っていたが別のやり方を知れたのは良かった。

 

ある日、鬼殺隊と呼ばれる組織の選考会があると風の噂で聞き、それに参加した。

 

「今の俺には何もない・・・ただ、仇と死にたくないだけ」

 

結果、生き残った。鬼を殺し生き残った・・・。それでも自分の中の虚無は消せなかった。

 

日輪刀を打つ為に選んだ鉱石も自分はこれがいいと適当に選んだ。そして、お館様と言われる人物の下に呼ばれる事になった。

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊に入る前に身なりを整えろとの事で銭湯へ行き、身体を磨き、垢を落し、新しい着物に袖を通す。

 

「・・・・此処か」

 

お館様と呼ばれる人間の館へと出向いた。そこには『柱』と呼ばれる九人の剣士達がこちらを見ている。

 

「・・・・」

 

「おい、てめぇ」

 

「・・・・・」

 

「返事くらいしろや、サッサとこっちへ来い!」

 

「・・・」

 

彼に話しかけているのは風柱・不死川実弥である。だが、彼はなんの反応も示さずただ中へ入って立っているだけだ。

 

「いかなる言葉も、もう遅い・・・この心には届かない」

 

「あ?」

 

「何故なら、俺はあの時に・・・止まったままだ」

 

「何を言ってやがる・・・?」

 

「貴方は俺を動かしてくれるのか・・・?止まったままの俺を」

 

「喧嘩うってんのか?」

 

「それが望みなら・・・」

 

「なら今すぐにボコボコにしてやらァ!」

 

彼を殴ったが彼は一切動じなかった。目に輝きが無いまま見ているだけだ。逆にそれが不気味に感じる。殴っても殴っても声一つ上げない、血が出て腫れ上がっても何も感じないかの如く。

 

「テメェ、なんだその眼はァ!」

 

「もう良いだろうよ」

 

「宇髄・・・!!」

 

止めたのは音柱・宇髄天元だ。不死川の腕を掴んで止めている。体格差もあって簡単には振りほどけないだろう。

 

「こんだけ派手に殴りゃあ気が済んだろ?いくら殴った所で、コイツは派手にやられ続けるだけだ」

 

「チィ・・!」

 

「うむ!だが、此処まで殴られて声一つ上げないとはな!」

 

炎柱・煉獄杏寿郎は彼のタフさに表情に出ていないが驚嘆していた。選考を生き抜いただけの隊員が『柱』の攻撃を受けて倒れない事に驚いたのだろう。

 

「(すごい・・・この子、光が無い目をしてる。冷たくて胸がキュンキュンしちゃう)」

 

恋柱・甘露寺蜜璃は彼の光の無い目に胸をときめかせている。その隣でジャラジャラと数珠を鳴らしている男がいる。岩柱・悲鳴嶼行冥だ。

 

「なんという事、心に光がなく無明を歩き続けているとは、哀れだ」

 

「(なんだろう?あの雲は)」

 

その隣にいる霞柱・時透無一郎は彼になんの興味もなさげであった。

 

「何も言わず何もしないとは目に余るのだが?コイツは本当に使えるのか?コイツは何もしないだけか?サッサと処遇を決めるべきだろう」

 

蛇柱・時透無一郎はネチネチとしながらも早く処遇を決めるべきだと意見を口にする。

 

「・・・・・」

 

水柱・冨岡義勇は彼と似たような様子で見ておりただ黙って立っているだけだ。不死川に殴られていた彼も唇を切っていたが拭う事もせずただ、立っている。

 

「これは後で手当しなければなりませんね。私の屋敷へ来てください」

 

「・・・・・」

 

「もしもーし、聞こえてますかー?」

 

「承知した・・・」

 

「はい、お返事ができましたね。偉い偉い」

 

蟲柱・胡蝶しのぶは彼の殴られた箇所を治療する旨を彼に伝えるとすぐに戻る。

 

「お館様の」

 

「お成です」

 

麩が開き、そこから一人の男性が現れる。顔の上半分は焼けただれているような痕があり、その目は機能していないようで左右の手を引かれて座した。

 

「よく来たね・・・・私の可愛い剣士たち」

 

「・・・・!」

 

彼はその声を聞いて初めて狼狽えた。その声は乾いた砂に水が染み込んでいくかのように心の中に響いてきたからだ。

 

「お早う皆。今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?顔ぶれが変わらずに半年に一度の『柱合会議』を迎えられた事、嬉しく思うよ」

 

「貴方が・・・鬼殺隊の長でございますか?」

 

「!(なんと!)」

 

「!(お館様への挨拶を・・・)」

 

「!(真っ先にされちゃった・・・)」

 

「!(仕方ありませんね、残念です)」

 

「ああ、そうだよ。聞き慣れない声だ・・・『柱』ではないね。ふむ、誰かな?」

 

「失礼しました。私は神威真次と申します、このような場は初めて故、ご無礼を」

 

真次の挨拶の仕方は目上への礼儀作法がしっかりしており、ましてや長に対する無礼への謝罪まで心得ている事に血気に逸り易い『柱』は驚きを隠せない。

 

「・・・(なんだ、コイツは!?無礼を自ら謝罪しただと?)」

 

「・・・(礼儀作法はしっかりしているようだな!)」

 

「・・・(ただ目が死んでるだけじゃねえ、派手さを隠してるだけか?)」

 

「・・・(何かを隠す性格のようだな)」

 

「・・・(お館様と話せなかったし早く終わらないかな)」

 

お館様と呼ばれる人物こそ産屋敷耀哉。この鬼殺隊の長であり最高管理者である。

 

「ふむ、神威真次・・・神の威を真に次ぐという意味かな?良い名だ。それと真次と言ったね、君から五つの気配がするのは何故かな?」

 

「?五つの気配でございますか?」

 

「そう、盲目だからこそ分かるのかな。目には見えない気配。青き龍、白き虎、朱き鳥、黒き亀蛇、そして黄色の角を持った馬であり・・・龍、それぞれが君から感じるよ」

 

「???」

 

彼、真次は訳が分からないといった表情をしている。不死川は強引に頭を垂れさせようと引っ張るが彼の体は動かない。

 

「っ!?」

 

「真次、君は立ったままで構わない・・・君から感じるものに敵意はない。だが、敵対するものには容赦がないようだね」

 

「・・・・」

 

「おい、返事を・・・!」

 

耀哉が人差し指を立て口元に当てると同時に全員が姿勢を正す。真次は耀哉からの許しを得ているため、そのまま直立したままだ。

 

「今此処に仕上がったばかりの日輪刀がある。彼の、真次の為の日輪刀だ。だが、手にするだけにして欲しい」

 

「それは・・何故でございますか?」

 

「先も言った通り、君からは五つの気配がしている。私は見ての通り盲目・・・故に君の刃の色を知りたいんだ」

 

「・・・」

 

「こちらへ」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

真次は耀哉が座している屋敷へと上がり、白木の箱に入った日輪刀を手にし、鞘から刃を抜き刀身を顕にする。瞬間、刀身が「青・赤・黄・白・黒」という左から鋒、鍔元へと至るまで五色の色が発現し始めたのだ。これには耀哉以外の全員が驚愕を隠せなかった。

 

「どうしたんだい?」

 

「刀身が・・・」

 

「五つの色を発現させています」

 

「詳しく教えてくれるかな?」

 

「はい。鋒から青く、次に赤く、次に黄色く、次に白く、そして鍔元が黒くなっています」

 

「それは、まさしく五色だね・・・この目がまだ健在な時に文献で読んだことがあるよ。五色は五行とも呼ばれ、それぞれの色が『木・火・土・金・水』という五つの属性に対応しているそうだよ」

 

「五行・・・刀を収めますね・・・」

 

真次は日輪刀を作法に法った手順で刀身を鞘に収め、刀を白木の箱に収めると一礼して、下へと下がった。

 

「お館様、ご無礼ながら発言致します」

 

「なんだい?実弥」

 

「先程、五つの属性と申されました。従って、この者は全ての属性を扱えるという事でございますか?」

 

不死川の発言に全員が顔を上げる、全ての属性が扱えるという事は類稀なる才能だ。それは全員が最も気になる事であった。

 

「ふむ、どうだろうね?五色が発現しているとしても、全てを扱えるとは限らないからね」

 

「失礼、私からも発言のお許しを」

 

「真次、どうしたんだい?」

 

「私自身が思う事ですが、極められる属性が定まらず、私自身の全ての属性が弱いのかもしれません・・・」

 

「!?」

 

真次の言葉に全員が更に驚く、それと同時に納得できるものであった。一つを極めるのではなく全てを半端に持ってしまったという事でもあるからだ。

 

「一理ある言葉だね。けれどそれを悲観することはない、君の力の一端に過ぎないからね」

 

「?」

 

「君は自分で自分を縛り付けている。そんな必要はないんだよ、君は君の思うまま心に従えばいい」

 

「!!!!」

 

その言葉は一つの氷塊となっていた真次の心に深く突き刺さり、真次の中で抑えていたものが涙として溢れてきてしまう。

 

「うあああああああ!!!お館様ァァ!!」

 

真次の大声に何事かと全員が一斉に見るが彼は自ら平伏し泣き続けている。その様子に『柱』全員が口を開けたままだ。

 

「この神威真次、そのようなお言葉を頂けた事・・・大変嬉しく思います!!」

 

「畏まらなくてもいいんだよ。君は自分で自分を追い込んでいる、それが分かりやすい形でね」

 

「うぐうううう・・・うううううっ!!」

 

「強くなりたいのだろう?君は必ず強くなれる、その類稀なる才能を伸ばせるよう努力しなさい」

 

「ありがとうございます!!お館様ァ!!」

 

『柱』達は引き気味であったが、それ程までに抑え込んでいたのかとほんの少しの哀れみもあり、お館様相手にこうなるのは仕方がないという気持ちも分からなくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『柱合会議』から二ヶ月、蝶屋敷にて殴られた怪我の手当てを受け完治した後に鴉を通じて稽古に励んでいた。

 

「まだまだ、こんなものでは!お館様のご期待には応えられはしない!!」

 

まるで燃え上がる炎のようなやる気を持って稽古に励み続けていた。無手、剣術、槍術、短刀術など武術と名のつく道場に入門しては努力をし続け、師範などからはどうやればあそこまで鍛錬をし続けられるのかと疑問に思うほどだった。

 

「今日は煉獄さんのところで稽古だった!急がないと!!」

 

煉獄家に赴くと煉獄杏寿郎が木刀を持って待っていた。今か今かと待ちきれない様子だ。

 

「煉獄さん、今日はよろしくお願いします!」

 

「うむ!神威少年、鴉から聞いているがあらゆる道場で武術を学んでいるそうだな!」

 

「今のままでは何もできないと思いましたからね。型だけでも学んでおきたいんです」

 

「うむ!良い心がけだ!だが、『呼吸』の方は鍛錬していないのか!?」

 

「『呼吸』ですか・・?」

 

呼吸と聞いて真次は表情に影を落とす。鍛錬をしてはいない訳ではないのだが雰囲気が暗い。

 

「煉獄さん、実は俺・・・『炎・水・雷・岩・風』全ての呼吸が出来ないみたいなんです」

 

「なんと!!よもやよもやだ!!」

 

それは衝撃の事実だった。どんな隊員でも必ず適正がある呼吸があるはずなのだが、真次にはそれがなかったのだ。

 

「その代わり・・・最近、不思議なことがあるんです」

 

「不思議な事?」

 

「はい『呼吸』の鍛錬をしていると気分が高揚してきて、苦痛や疲れを感じなってしまう時があるんです」

 

「ふむ!確かにそれは不思議な事だな!俺も似たような事はあるがな!」

 

「普通の事なのか、わかりませんけどね」

 

「ならば、稽古でそれを知ってみるとしよう!!」

 

「分かりました!」

 

その後、稽古が始まり竹刀から木刀のぶつかり合いへと発展し、なかなか稽古が終わらない状況になっていた。

 

「ハァアアア・・・!」

 

真次の表情は真剣そのものだが楽しんでいるものに近い。血は煮えたぎる油のように沸騰しており、二刀の木刀を持つ筋肉も限界を迎えているのか震えが出ているのだが、真次本人に疲れの色は一切見えない。

 

「むう!此処まで粘ってくるとは!しかも疲れを感じていないのか!」

 

「うおおおおお!!」

 

真次が振り下ろし、杏寿郎がそれを受けた瞬間、木刀が砕けてしまった。それと同時に杏寿郎から静止の合図が入る。

 

「はぁ・・は・・うむ!良い稽古だった!!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「しかし、驚異なものだな」

 

「え?」

 

「神威少年!君は今、疲れを感じているか?」

 

「いいえ、ですがこの状態が収まるとすごく苦しくなるんです」

 

「そうか!今日の稽古は此処までだ!この後、胡蝶の屋敷に行くといい!」

 

「あの人の屋敷にですか?」

 

「そうだ!ではな!」

 

疑問に思いつつも真次は胡蝶の蝶屋敷へと趣いた。その瞬間、真っ先に運ばれて診断を受けてしまった。

 

「一体何をどうやれば、こんな状態になるんです?」

 

「え?」

 

「自分では気付いていないんですか?今、貴方の身体は薬を使った状態と同じなんですよ」

 

「????」

 

薬?そんなものは使った覚えがない。だが、実際に身体は悲鳴を上げている。しのぶは何度も何度もしつこく入念に聞いてきた。

 

「薬を使った覚えは本当にないんですね?」

 

「無い。ただ、あるとすれば『呼吸』くらいで」

 

「呼吸・・・ですか?」

 

「ああ、その『呼吸』をすると痛みも疲れもなく動ける!」

 

しのぶは真次に軽くその呼吸をさせると血液のサンプルなどを取り、入念に調べた。その結果、彼の血液に高揚物質や麻薬に近い物質が検出されたのだ。これによりしのぶは鴉を使い時折、稽古をつけているであろう『柱』達に彼に『呼吸』を厳重に注意するよう呼びかけた。

 

「今日一日はこの屋敷に泊まってください」

 

「???だが、支障はないんだ」

 

「ダメですよ」

 

「う・・・」

 

妙に威圧感のあるしのぶの笑みに真次は気圧され、素直に従った。疲れからか何も考えることはなく静かに寝入ってしまった。

 

 

 

 

 

その数日後、久々に稽古を休みにして図書館や寺の書物が読める古本屋などに趣いた。お館様が言っていた五行について調べるためだ。その中で[陰陽五行説伝]という本を見つけ出し購入してそれを邪魔をされない神社の境内で読む事にした。

 

「なるほど・・・『木・火・土・金・水』という属性があるというのはお館様がおっしゃっていた通りだ。他には・・・「相生」「相剋」「比和」「相乗」「相侮」・・・お互いが生み出し合い、滅ぼし合い、盛んになり、過剰になり、侮るという事にもなるのか・・・」

 

不思議とこの書物に夢中になっている自分がいた。一語一句とも見逃さずに読み続け、五獣などの書かれたページに差し掛かった。

 

「なるほど・・・青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟・・・これらも五行に対応して・・ん?」

 

ペラペラとページを捲って行くと『木・火・土・金・水』と『青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟』がそれぞれ属性に対応している事が書かれたページを見つけ、これだ!と叫んでいた。

 

「俺は基本の呼吸が出来ない・・・・ならば、この本に書かれている属性を型にして『呼吸』とする事が出来れば!いや、待て。『呼吸』は「相生」「相剋」「比和」「相乗」「相侮」の四つを呼吸の仕方として使えれば!うおおおおお!見つけた!見つけました!!俺の『呼吸』の基本の基本を見つけましたああああ!!」

 

その日は神社で盛大に騒いでいた為に怒られてしまったが、その翌日から真次はイメージを加えた呼吸を鍛錬する事にした。『全集中の呼吸』をしつつ、一日に一回、二つの異なる属性をイメージしそれを呼吸とする訓練である。ちなみに今は最もイメージが付きやすい『水』と『火』をイメージし呼吸を行っている。

 

「っ・・・はぁ!はぁ!!くそぉ・・・難しい・・・」

 

だが、この鍛錬が最も難しかった。木・火・土・金・水のうち、木・火・土・水の四つはイメージ出来るが、金の属性のイメージが難しすぎるのだ。

 

「金・・・金属だよな・・・?うーん・・・刃物をイメージしてやってみるか!あ!明日にならないと無理だ」

 

そう、呼吸の鍛錬は極度に体力を消耗する。これは我流で鍛えているため、整えられていないのだ。そして、そんな中でも三週間が経過した時、彼は自分の呼吸の基礎を習得出来ていた。五行に対する知識を深め基本の基本を理解し、属性に対するイメージを付けた成果だろう。

 

「『五行の呼吸』とでも言うのか・・・俺の呼吸は」

 

だが、完成とまではいっていない。まだまだイメージを呼吸にする事が出来ているだけに過ぎない。

 

「まだまだ精進が足りない!もっともっと稽古しないと!」

 

この後に属性の型を完成させていくのだが、それはまだ先の話である。




真次の過去です。未熟で未熟でどうしようもなかった時です。彼も彼なりに色々と過酷でした。

日輪刀は本来、出来上がったら本人に届けられるのですが、真次の類稀なるモノである[五行]を見抜いていたお館様によって渡す事を延期させられていました。

お館様にとって真次はわかり易いぐらい自分で自分を縛っていました。その中で強くなりたいという部分を開放しただけです。

そこから鬼殺隊として実戦を重ねていき、強くなっていきました。


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生存ルート 姿を消した五行の刃

最終決戦後の、生還のIFです。

※アンケートでの『一人で何処かへ去る』パターンを踏まえています。


最終決戦の折、無惨を倒し鬼化した炭治郎が人間に戻り、人間の勝利となって平和な夜を取り戻した。

 

皆が刀を置き、平和に生きていこうとする中、一人違う道を行こうとする者がいた。

 

「さて、と・・・これで準備は出来たな」

 

今まで暮らしていた屋敷の掃除と出ていく準備だ。ただ、最後の仕事が残っている。それは親友の結婚式を見届けることだ。

 

「・・・未練を断ち切らないとな」

 

正装に着替えて、結婚式会場へと向かう。そこには知り合った方々などが集まり皆が祝福していた。

 

「悪い、色々あって遅れちまった」

 

「何やってんだ!もう二人でてるぞ」

 

「こっちこっち!」

 

善逸に案内され、結婚の正装をした炭治郎とカナヲの姿を見る。幸せそうに微笑む二人に真次も笑みを浮かべている。だが、隣にいる善逸だけは真次の本心を音で気付いていた。

 

「It's beautiful(綺麗だな)カナヲ・・・」

 

一瞬だけ、カナヲがこちらを見て笑顔が消えた。幸せになれると言ってくれた真次と目が合ったのだ。だが、真次は微笑むとおめでとうと言葉を口にした。

 

「カナヲ?」

 

「ううん、大丈夫」

 

炭治郎も同じ方向へ視線を向けると真次が居るのに気付いた。彼からは寂しさと祝福を合わせた匂いがしていた。

 

「・・・っ」

 

そんな彼に声を掛けようとしたが真次は顔を横に振っていた。寂しそうな眼をしているのに親友と想い人の結婚を祝福してくれているのだ。その思いは嬉しいはずなのに辛い。親友を裏切ってしまった、親友をから想い人を奪い取ってしまった。そんな思いが頭の中をグルグルと回りだす。

 

コツンと額に何かあった感触がした。真次は指の合図で「き・に・す・る・な」とメッセージを送った。恐らく何か小さな物で自分の方に視線を向けさせたのだろう。

 

「真次・・・」

 

二人の祝福が終わり、皆が宴をしている中、真次は会場を見て笑った後、背を向けて歩こうとしていた時だった。

 

「待てよ」

 

「!」

 

声をかけて来たのは善逸だった。やはりというか、真次の状態を知って会場を抜け出してきたのだ。

 

「お前、誰にも会わず居なくなる気なのか?」

 

「・・・・」

 

「答えろよ!!」

 

「ああ、そうだ」

 

「何でだよ!皆と一緒に居ればいいだろ!!」

 

「っ・・・」

 

ギリッと唇を噛み締め、強く拳を握りこんだ。善逸には怒りと嫉妬が混同している音が聞こえている。真次は善逸の胸ぐらを掴むと低い声で詰め寄った。

 

「テメエ・・・毎日毎日、見てろってのか?想い人が他の男に笑みを向けるのを・・・毎晩毎晩、聞いてろってのか?想い人が他の男に抱かれるのを・・・!お前も禰豆子が他の男と結婚して、同じ状況になったらどうなるか・・・!!考えてみろよ・・・!」

 

「あ・・・ごめん・・・」

 

真次はすぐに掴んだ手を離すと背を向けて歩き出した。これ以上ここにいるのは辛く、善逸に八つ当たりしてしまった事が情けなく感じたからだ。

 

善逸も同じ状況という事を考えていなかった。ただ、自分を親友と言ってくれた友人がいなくなるのが寂しくなってしまうことしか考えていなかった。もしも、禰豆子が自分以外の男と結婚し、一つ屋根の下で共に暮らす事になればどうなるか?それを考えただけでも気が狂いそうになる。そのことを失念してしまっていた。

 

「真次!ずっと言えなかったけど、俺もお前の事を親友だって思ってるからな!!」

 

「!・・・ああ!」

 

真次は振り返って笑みを見せると夜の闇へと消えていった。善逸は他の二人になんて言おうと考えていたが結局、宴会が終わるまで思いつくことはなかった。

 

 

 

 

 

翌日の早朝、真次は住んでいた屋敷から出ていこうとしていた。荷物も少なく、元々ものを持つ事をあまり好まなかった為にカバン一つで全て収まるくらいだった。

 

「さて、行きますか。風の吹くまま気の向くまま・・・っと」

 

歩いて駅へと向かい、何処へ行くか考える。もう、親友達にも想い人にも会う事はないし遠征でも行くかと思いながら真次は歩いて行った。

 

そして正午、新婚となった炭治郎とカナヲが真次の屋敷へと趣いていた。その後ろには禰豆子、善逸、伊之助の三人もいる。

 

その中で、善逸だけが乗り気ではなかった。彼と最後に出会ったのが善逸だったからだ。

 

「(あれ?音がしない?)」

 

「真次ー!居るかー!」

 

「おい、善次郎!扉空いてんぞ!!」

 

「ちょっと、伊之助!勝手に入るのはマズイって!」

 

「待って、ここ人の気配がしない」

 

カナヲの言葉に善逸以外の全員が驚いた。急いで中に入り屋敷の中を見回すが誰もいない。

 

「誰もいない・・・」

 

「本当に誰も居ねえぞ!!」

 

「こっちにも居ないよ!お兄ちゃん!」

 

「真次・・・どこへ行っちゃったんだ!?」

 

「(これが・・お前の答えかよ。真次)」

 

その日、全員で手分けして真次が行きそうな場所へ手当たり次第に探したが手掛かりはなかった。

 

その日の夕方、帰宅すると善逸が皆を集めた。いつもならおちゃらけている善逸が珍しく真剣な表情で。

 

「皆、言うか言わないか迷っていたんだけどさ。真次の奴、あの屋敷から出ていく準備を既にしていたようなんだよ」

 

「え?」

 

「なんだそりゃあ?アイツが居なくなる理由なんかねえだろ!連れ戻してやる!!」

 

「最後まで話を聞けよ、イノシシ!それで、アイツは姿を消す決心をしていたらしい。一緒には居られないって」

 

「どうして・・・」

 

炭治郎は信じたくないといった様子だが、善逸は心を鬼にして事実を言うことにした。

 

「炭治郎、例えばだけどカナヲちゃんが別の男と結婚して、その男と一緒に住んでてさ。好きだった人が仲良くしている場面を毎日見るの耐えられるか?」

 

「え・・・それは、無理だよ。考えたくもない」

 

「伊之助もそうだ。アオイちゃんが他の男と一緒に居るのに一緒に居られるか?」

 

「・・・・ぜってえ無理だ。暴れるかもしれねえ」

 

「真次はさ、それに耐えられない自分を自覚して居なくなったんだよ」

 

「真次・・・」

 

「真次さんが・・・」

 

これにはカナヲと禰豆子も驚きを隠せなかった。真次の好きだった人はこの場にいる全員が知っている。

 

「結婚式に参加したのは、最後の未練を断ち切る意味もあったのかもしれないな」

 

「なんで言ってくれなかったんだ!?善逸!」

 

「言えるわけないだろ!!二人が幸せな状態でこんな話なんか!」

 

「炭治郎、落ち着いて」

 

善逸の肩を掴んで騒ぐ炭治郎だったが妻となったカナヲに宥められ、炭治郎は冷静さを取り戻した。

 

「とりあえず、どうすんだ?アイツを連れ戻すのか、連れ戻さないのか」

 

「私は止めておいた方が良いと思う・・・」

 

意外にも禰豆子は連れ戻す事を反対してきた。その言葉に兄である炭治郎が疑問を投げかけた。

 

「なんでだ!?禰豆子!」

 

「真次さんは、お兄ちゃんとカナヲお義姉ちゃんの幸せを願って身を引いたんだよ?それを連れ戻すのは酷な事じゃない!」

 

「あ・・・・」

 

「私も連れ戻さない方がいいと思う」

 

「ハナヲ、お前もか!?」

 

カナヲも反対意見を出してきた。これで女性は反対という意見が固まった。

 

「同じ立場になって考えてみたら、辛すぎるもの・・・」

 

「う・・・」

 

炭治郎と伊之助は連れ戻すつもりだったようだ。だが、カナヲの意見と同じだったのを思い出し、諦めたようだ。

 

それから数年後、それぞれの子供が6歳になり東京へ遊びに来ている時であった。娘が走り出してしまい、見回りをしていた一人の警官にぶつかってしまったのだ。

 

「あ、こら。走り出したら危ないぞ!」

 

「わっ!?」

 

「おっと・・・」

 

「あ、すみません。ほら謝りなさい」

 

「おまわりさん、ごめんなさい」

 

「良いんだよ、ちゃんと謝れたね。良い子だ」

 

「(え・・・この匂い)」

 

目の前にいる警官から懐かしい匂いが出ていたのを炭治郎は感じ取った。かつて親友として友情を築いた彼の匂い。

 

「炭治郎~、ごめん。買い物に時間がかかっちゃって!(あれ?この音・・・)」

 

「お兄ちゃん、ごめんね」

 

「こっちも終わったぞ」

 

「大変でしたね」

 

善逸も警官から出ている音で気付いていた。数年間行方不明で連絡も何もなかった一人の親友が目の前にいるのだ。警官は帽子を深く被り直すと一礼した。

 

「それじゃ、本官はこれで失礼します」

 

「あ・・待って、真次!」

 

「真次なんだろ!?おい!」

 

「・・・・」

 

警官は振り向きもせずに人混みの中へと消えていってしまった。追いかけようとしたが追いかけられなかった。

 

「炭治郎?」

 

「善逸さん?」

 

「あの、おまわり・・・真担だったのか?」

 

「え、真次さんが?」

 

炭治郎と善逸は自分の妻や友人達から声をかけられていたが、耳に入っていなかった。もう彼は自分達とは全く違う場所にいる、それでも生きていてくれたという嬉しさが涙として出てきていた。

 

 

 

 

 

警官姿の真次はそのまま街を歩いていた。そんな中、一人の男が路地裏に入る隙間から声をかけてきた。

 

「おい、良かったのかよ?再会を喜ばなくて」

 

「・・・忍はお節介なんですね?宇髄さん」

 

それはかつて共に戦った宇髄天元その人であった。今は真次に情報を出す裏の情報屋として繋がりを持っている。真次は壁に話しかけるような形で会話を続ける。

 

「友と惚れた女の為に身を引く・・・か、派手だが俺には出来ねえな」

 

「そんな柄でもないでしょう?貴方は」

 

「まぁな・・・ほれ、頼まれてた情報だ」

 

「・・・・やはり重役か」

 

真次は懐から小太刀を僅かに取り出し、すぐにしまった。今の彼からは想像もつかないほど冷たい眼をしていた。

 

「裏稼業はほどほどにな」

 

それだけ言って宇髄はいなくなった。真次は空を見ながら平和に暮らしてくれともう会う事のない親友と想い人達を思い浮かべるのだった。




大正コソコソ話。

真次が警官になったのは情報面で役立つと思ったためです。

次はアンケートの結果によります。


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生存ルート2 日と共にある五行

※オリ主の生存ルートその2です。

※しのぶさんに憧れてた描写があります。


無惨を消滅させ炭治郎の完全な鬼化を阻止し、完全に鬼の居なくなった夜を取り戻した後に生き残った神威真次。その最終決戦の激闘によって彼は左目を切り裂かれて失った。四肢は無事だったのが幸いだ。

 

「さて、これからどうしようかな」

 

「真次、よかったらうちに来ないか?」

 

「え?」

 

「善逸も伊之助も来るって言ってくれた。真次もと思って」

 

「良いのか?俺、片目失ってんだぞ?」

 

「そんなこと言ったら俺もだよ」

 

真次は炭治郎の左腕に目線を向ける。形だけで動かない老人のような左腕、更には機能していない左目と自分以上の重傷だ。そんな彼からの誘いを受けて真次は一瞬迷ったが誘いを受ける事にした。

 

「分かった。一緒に行こう」

 

「本当に!?」

 

「ああ!」

 

承諾した後、人間に戻った禰豆子から「もう一人、家族が増えるんですね!嬉しいです!」と言われ、しっかり者なんだなと真次は思った。

 

その後、皆への挨拶回りを済ませ戦いに散っていった鬼殺隊の方々への献花をして回り、真次はその中でしのぶの墓の前で中腰になって話しかけた。

 

「しのぶさん・・・全て終わりましたよ。それと・・・俺、貴女に憧れてました・・・。藤の花のような美しさと蝶のような可憐さを持っていたから・・・もしかしたら好意を抱いていたのかもしれません。その先は・・また、出会えた時にお話しますね」

 

「おーい、真次!」

 

「今行くから、大丈夫だ!」

 

真次はしのぶの墓に手を合わせると炭治郎達へ合流すべく、走っていった。善逸がなにかを背負っているのが気になり、真次は聞いた。

 

「善逸、その背負っているのなんだ?」

 

「ああ・・・爺ちゃんの遺骨だよ」

 

「イコツ?それ食えんのか?」

 

「馬鹿か!お前は!!」

 

「まぁまぁ、伊之助も悪気があった訳じゃないだろ?」

 

「そうだけどさぁ」

 

「ちゃんと弔ってあげないとな、善逸の爺ちゃんも」

 

伊之助の疑問に善逸が怒った為、真次が場を宥めると同時に供養の話もした。すると善逸が泣きながら真次の手を握ってブンブンと強く上下に振った。

 

「そう言ってくれたのお前だけだよぉ~!真次~!」

 

「分かった、分かったから!腕がもげる!!」

 

賑やかに会話しながら山へと入り、途中で炭治郎と禰豆子の知り合いだという三郎という名のお爺さんとの再会を喜んでいた。その後、しばらく歩くと一つの家が見えてきた。

 

「此処が炭治郎と禰豆子の実家、炭焼きの家か・・・温かい雰囲気だな。それと同時に悲劇の始まりでもある場所・・・か」

 

「暗いのは抜きにしとこう」

 

「そうだな」

 

善逸の言葉に真次が頷き、五人全員が花が所狭しと咲いている場所が一箇所あり、そこへ供養の為に手を合わせた。二人は家族に此処まで来るまでの経緯や帰ってきた事などを報告しているのだろう。すると炭治郎と禰豆子が突然泣き出した。家族の声でも聞いたのかもしれない。

 

「(あ・・・『なんとなく』解るけど誰かが二人に声をかけたんだな)」

 

「お、おい!?どうしたんだよ!?突然!」

 

「禰豆子ちゃぁぁん!泣いちゃイヤァアア!」

 

しばらくして、家の中に入ると畳の匂いが全員の鼻腔を擽る。藺草の香りがすることから新品の物になっているのだろう。

 

「えー、家の中全然荒れてないじゃん!」

 

「三郎爺さんや街の人たちが綺麗にしてくれてたみたいだ。手紙がある」

 

「新品なら決して安くないぞ、これ全部か」

 

「畳だけじゃなく棚も全部、替えてくれてるよ」

 

「伊之助?何やってんだ?」

 

伊之助はさっきから落ち着かない様子であちこちを獣が探索するように見て回っている。すると一本の柱に何かを見つけ大声で叫んだ。

 

「なんだァ、これェ!!爪痕があるぞ!見たことねぇ獣の爪痕だ、気をつけろ!!」

 

「違うよ、伊之助。これは家族の身長を測っていたんだ。どのくらい背が伸びたか分かる様に名前を入れてあるだろう?」

 

「お?本当だ」

 

「なにぃ!?じゃあ俺も!!これ全部抜いてやる測れ!!早く早く!!」

 

「お兄ちゃん、伊之助さん。後にしてね?掃除しないと日が暮れちゃう」

 

禰豆子は髪をまとめ、三角巾を被っていた。伊之助はその場で駄々っ子のように暴れていた。

 

「今!!いーま!!」

 

「測ってやりなよ。それからでも充分、掃除は間に合うだろ?」

 

「も―――」

 

真次の提案に禰豆子は苦笑しながら、柱に伊之助をピタリと付けさせ身長を測り名前を刻み込んだ。その後、全員で役割分担を決め、家の掃除を始めた。

 

「禰豆子ー!この集めた木はどうすんだー?まとめといたけどー!」

 

「あ、それはお兄ちゃんに炭焼きの竈の場所を聞いて、持って行ってくださーい!」

 

「あいよー!」

 

「真次、こっちこっち!」

 

「おう、今行く」

 

真次は両手に炭焼きに使うための木をまとめた物を二つ抱えて、炭治郎の案内で炭焼きの竈へ持っていきそれを置いた。

 

「ふぅ、まさか鬼殺隊の稽古がこんな形で役立つとは鍛錬は続けるか。なぁ?炭治郎」

 

「あはは、俺はもう出来ないって」

 

「脚くらいは鍛えようぜ?俺も手伝うからよ」

 

「む・・・」

 

「さ、これで終わりだ。飯の仕度があるから戻ろう」

 

「うん」

 

炭治郎を支えつつ、家の中に戻り夕食の準備をする。伊之助がつまみ食いしないよう気をつけつつ禰豆子が手際よく料理をこなしていく。

 

善逸は器の準備、真次は配膳を手伝っておりそれぞれに食べ物が盛られていく。

 

「はーい、準備できましたよ」

 

「禰豆子ちゃぁんの手料理だぁ~」

 

「おい、早く食わせろ!」

 

「慌てなくても飯は逃げないって」

 

「そうだぞ」

 

それからの夕食はまるで宴のように楽しいものになった。真次が伊之助に箸の正しい使い方を教えたり、善逸が無理して食べ過ぎたりなど笑いが途切れることはなかった。

 

全員が風呂を済ませ、寝るだけになった時刻、真次は一人起きて夜空を眺めていた。

 

「・・・・」

 

「眠れないのかい?」

 

「ん?ああ、起こしちまったか」

 

どうやら炭治郎が起きてしまったようだ。片手で起き上がって真次の隣に座る。

 

「ここは、静かだな・・・ゆっくりと時間が流れてる」

 

「だろ?本当に此処は良いところなんだよ」

 

「で、お前はいつになったらカナヲに告白するんだ?」

 

「な、なななっ!急に何をい言い出すんだよ!?」

 

「静かにしろって、みんな寝てんだから」

 

真次に冷静に返され、炭治郎はハッとして口を塞いだ。先手合戦は真次に軍配が上がり、炭治郎は少し悔しくなった。

 

「で、いつ告白するんだ?」

 

「まだ分からない、カナヲだってまだ俺の事をどう思っているのかも分からないし」

 

「あんまり待たせてると俺が取っちまうぞ」

 

「それだけはダメだ!」

 

「はぁ・・・もう腹が決まってるじゃねえか」

 

「あ・・・」

 

「Go when you can(行ける時に行けよ)前にも言ったろ?カナヲを幸せに出来るのは俺じゃなくてお前なんだって」

 

「・・・・」

 

真次はどうしてこんなにも優しいのか?こうして誘わなければよかったんじゃないかと思ってしまう時もある。彼が好意を抱いた相手の心を奪ってしまったのは自分だ。だが、彼は嫉妬などを含めた匂いを出してはいない。

 

「炭治郎、良い男ってのはな?優しいだけじゃ成り立たねえんだ。いざという時には引っ張っていく胆力、実行する行動とか言われているが、俺は一つを厳守しているものがある」

 

「それは?」

 

「未練を直ぐに断ち切る事だ」

 

「え?」

 

「例えばだけどな?いずれ禰豆子は嫁いでいくだろ?いつまでもお兄ちゃんの下にはいない、新しく家族を作るんだからな」

 

「・・・・」

 

「だけど、兄妹の繋がりが無くなった訳じゃない。妹が自分の好いた相手を見つけてきた、だけど兄としては可愛い妹なのは当然だ。なら、相手になる人間を見極めて送り出してやるのが未練を断ち切る事と似てるだろ?」

 

「うん、確かにその通りだ・・・」

 

「いつまでも縛り付けたままじゃダメなんだよ。俺が言えた義理じゃないけどな」

 

そうだ、真次はいつも自分を縛り続けてきた。いつもいつも口癖のように『なんとなく』と言って解ってしまうから、煉獄さんやしのぶさんが死ぬ事も『なんとなく』解っていたと戦いの後に教えてくれた。はじめは皆で責め立てた。蝶屋敷のみんなもどうして止めてくれなかったのか!と騒いでたけど、カナヲがそれを止めてくれた。

 

「長男なんだからという我慢も程ほどにな?我慢しすぎると爆発するぞ」

 

「うん・・・」

 

自分に兄が居ればこんな感じなのかと炭治郎は思う。歳の差はほとんどないのに一回り先の考えをする彼に少し頼る時があるのを自分で自覚していた。

 

「さて、明日から大変だぞ。寝ようぜ」

 

「そうしよう」

 

翌日から何気ない生活が始まった。炭治郎は町へ炭を売りに行き、善逸は禰豆子の手伝い、伊之助は蝶屋敷へ出向いており山に行くと山の幸を取ってくる。真次は街へ出て軽食店でアルバイトをさせてもらっている。その稼いできたお金は生活費と貯金に回しており、必要な時に備え蓄えているようだ。そんな中、善逸が危機感を感じていた。

 

「あれ?俺が一番何もしてなくね?」

 

「だったら屋台でも引くか?」

 

「なんでだよおおおお!?」

 

と、年月が過ぎていき冠婚葬祭も起こることもあった。それぞれが好きあった人と一緒にいた。そんな何気ない生活は続いていく・・・。

 

それはきっと何年、何十年とかわらないまま。




大正コソコソ話

真次に発破をかけられた炭治郎はその翌日にカナヲに告白しました。

カナヲも混乱していましたが受け入れ、恋人同士に。

片目では働けないかと言われるかもしれませんが、利き目が無事だったので真次は働けています。


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異聞外伝
五色の枝に蝶が乗る


このお話は番外でオリ主である神威真次と胡蝶しのぶが恋人になっています。

「もしも」の要素が強いので原作の死亡キャラなどが生きています。

主人公グループは次世代の『柱』として書きます。次世代と前世代で分かれます。

※この話の後にアンケートを締め切ります。



※冨岡義勇×胡蝶しのぶ。いわゆる、「ぎゆしの」以外は認めない。

※原作キャラと以外は認めないという方はおすすめしません。


無残を含んだ上弦の鬼を殲滅してから数年、無残の残滓は残っており鬼殺隊は隠鬼殺隊(かくれきさつたい)と名を改め、活動を続けている。

 

その活動の基点となっているのが蝶屋敷だ。誰もが来る訳ではないが負傷した場合などを考えてという意見が採用された為である。

 

その中で、ケガを負い未だに刀を握れない人間が一人。彼の名は神威真次、隠鬼殺隊の中心で次世代の『柱』ある『新柱(しんばしら)』の一人で『五行柱』の称号を持つ。

 

「・・・・」

 

「もしもーし」

 

「・・・」

 

「なんで黙っているんですかー?返事してくださーい」

 

「返事もなにも・・・何で同衾してんだよぉ!?」

 

「良いじゃないですか、減るものじゃありませんし」

 

「良くねぇ!!」

 

そう、彼の最近の困り事はこうして、しのぶが自分の寝床に入ってくる事だった。

 

上弦の弐と戦った際、しのぶが自分を取り込ませる前に真次が間に合い、二人で協力して殲滅したのだ。方法は至って簡単、しのぶの毒を頚に打ち込み抵抗力で効かなくなる前に真次が自身の技で頚を切り落としたのだ。と、ここまでは良かったのだが、この後が良くなかった。

 

「大丈夫ですか?しのぶさん」

 

「はい、なんとか・・・貴方にほとんど助けられてしまいましたね。・・きゃっ!」

 

「手当てをするため、ここから撤退します」

 

「あ、あの!待ってください!この格好は!!」

 

「It's this easy(これくらい簡単だ)良いから黙ってて下さい」

 

そう、真次はしのぶをお姫様抱っこをして撤退したのだ。この時のしのぶは恥ずかしさの余り、顔を赤くし両手で自分の顔を隠していたという。

 

真次も真次でかなり口調などが変わり、体付きも変わっていた。細身に近いが筋肉は鍛え込まれており、鍛錬を欠かさない。更には異国語(英語)を勉強しているようで、時折、その言葉が出てしまうと説明もしているそうだ。

 

「あの頃は礼儀正しかったのに、どうしてこんな風になっちゃったんでしょうね?」

 

「だ~か~ら~、抱きつくなぁ!」

 

「ふふ、可愛い人」

 

あの時以降、しのぶは真次に積極的なアプローチをかけてきたのだ。真次自身もしのぶが嫌いという訳ではない。むしろ、好きだった為に告白もした。すんなりとOKをもらってしまったが、こうして甘えてくるようにもなっているのだ。

 

「もしかして、私に対して欲情しちゃってます?」

 

「っ・・・ああ」

 

顔を赤くしながら視線を逸らし真次は肯定する。そう言われてしまえば正直に白状するしかない。実はこの二人、接吻や同衾まではしているが未だに一線は超えていない。

 

「好きな人に抱きつかれて、欲情しない男はいないだろ」

 

「っ・・・そういう所がズルいんです。貴方は・・・だから、わた・・・んっ!?」

 

「・・・・んぅ」

 

真次はしのぶの言葉を遮るように抱き寄せて接吻をした。舌を入れて絡めてくる真次からの舌技にしのぶは抵抗できずに受け入れてしまう。

 

しばらくして、唇を離すとしのぶの顔は上気しており赤く、息も荒い。

 

「はぁ、はぁ・・・どうして、止めたんです?」

 

「はぁ・・はぁ・・・あと少しで炭治郎達が任務から帰ってくる・・・それにこの続きは腕が治ってからにしてくれ・・・片腕だけじゃ物足りないんだよ」

 

「!・・・本当にズルいです」

 

しのぶは真次の胸元に頭を乗せ、そのまま顔を隠すように密着していた。引き剥がそうにも出来ず、葛藤している間に炭治郎達が帰ってきてしまった。

 

「しのぶさ~ん、ただ今帰りま・・・・し」

 

「あ・・・」

 

「あっ・・・」

 

「えーと・・・失礼しました!」

 

炭治郎は扉を閉めると他のメンバー達を入れないように奮戦し始めた。部屋の外では、善逸、伊之助、アオイ、カナヲなどがどうして部屋に入れさせないんだと詰め寄っている。

 

「どうすんだ?この状況・・・」

 

「もう開き直って、一緒に寝ちゃいませんか?」

 

「はぁ・・・わかったよ。しのぶ」

 

「真次君から、さん付けじゃないだけでドキドキしますね、このこの」

 

「俺、ホントは敬語で喋らなきゃいけないのに・・・。頬をつつくなって」

 

「敬語に関しては私が許可しましたからね」

 

「確かに、じゃあ寝よっか」

 

「はい」

 

真次は片手だが、しのぶはしっかりと真次に抱きつき二人はそのまま眠りについてしまった。炭治郎の抑えも限界で扉が開かれてしまう。

 

「え・・・」

 

「は?なんだ寝てるだけじゃねえか」

 

「師範・・・?」

 

「しのぶ様?」

 

入れなかった四人が見たのは、真次の腕枕でスヤスヤと穏やかに眠っているしのぶと、少しだらし無さげに眠っている真次の姿だった。

 

こんなに穏やかで無防備な姿を見せられては、怒るに怒れない、そのため全員が部屋から退散していった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、真次としのぶは隣り合ってお茶をしていたのだが、全員が二人を見ている。何故なら・・。

 

「どうですか?」

 

「ああ、心地いい・・・」

 

「眠ってしまっても良いんですよ?」

 

「眠りすぎたから眠くないんだよ。けど・・・こうして目を閉じているだけで落ち着く」

 

「ふふっ・・・・」

 

今現在の二人の状態は、しのぶが真次を膝枕している状態だ。そう、膝枕である。更には真次は髪をしのぶに優しく撫でられており、しのぶの笑みも貼り付けたような笑みではなく、愛しいものを見るような微笑みを見せている。そこは誰も入れない聖域のように見えていた。

 

「どおおおいううう事!?あれはああああ!!なんで、アイツ女の子に膝枕されてんのおおお!?」

 

「真次としのぶさん・・・仲が良いなぁ」

 

「騒ぐことじゃねえだろ、別に」

 

「ふざけんなああああ!ぉ女の子の膝枕だぞおお!?羨ましい限りこの上ないだろぉがああ!」

 

善逸、炭治郎、伊之助はそれぞれ反応が違う。その中でも女好きな善逸だけが暴走していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の女性側というと。

 

「し、師範と真次が・・・・」

 

「私も知らなかったわ・・・」

 

カナヲとアオイが少し顔を赤くしながら雑談していた。だが、心境的には複雑であった。しのぶは蝶屋敷の長であり、自分達にとっては姉も同然の存在である。その姉が見知った相手とはいえ男を相手に膝枕しているなど前代未聞だ。

 

「真次なら・・・納得かな・・・」

 

「わ、私は認めてませんからね!」

 

「けど・・真次さん、頑張ってます」

 

「前の時、しのぶ様を助けたのは真次さんでした」

 

「それに私、しのぶ様が真次さんと会えない時に寂しそうにしてたのを見ました」

 

「ええっ!?」

 

やはり女子会モードになってしまい、しのぶが恋していたことが話題になって盛り上がっていってしまった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ・・・しのぶ」

 

「はい?」

 

「身体から毒は抜けるのか?」

 

「・・・・そうですね。完全に抜くのは難しいでしょうね」

 

「・・・・」

 

真次は一度だけ、酒の勢いでしのぶを抱いてしまいそうになった事があった。その時、唇を切ったしのぶに接吻しようとした時、突き飛ばされたのだ。それにより冷静になって酔いを冷まし、理由を聞くと嫌という訳ではなく、自分の血には藤の花の毒がまだ残っているのだと彼女の口から伝えられた。

 

「・・・しのぶ」

 

「なんです?」

 

「接吻したい」

 

「突然ですね、みんな見てますよ?」

 

「構わない」

 

「っ・・・仕方ない人」

 

二人はゆっくりと接吻する。その雰囲気はまるで大人のドラマのようだ。それを見た善逸、炭治郎、伊之助は驚きを隠せず、女性陣はカナヲとアオイ以外はキャーキャーと騒いでいる。

 

「コロス!ブッコロォォォス!見せつけやがってえええええ!!」

 

「善逸!邪魔しちゃダメだって!」

 

「何やってんだ?しのぶとまかつぐ(真次)は?」

 

「ししし師範!?」

 

「なっ・・なななな!?」

 

「「「キャーキャー!!しのぶ様と真次様がキャ―――ッ!!」」」

 

カナヲは自分の手で目を隠しているが、隙間からバッチリ見ており隠せていない。アオイもアオイで真っ赤になりながら目を離せてはいない。何故なら、いやらしさがないのだ。

 

まるで、芝居などの恋愛シーンの一場面を見ているようで、見ている側は恥ずかしいのだが目が離せない。

 

「んっ・・・はい、おしまいです」

 

「っ・・・名残惜しく感じるな」

 

「この先は貴方の腕が治ってから、ですよ」

 

「そうだった、承知した」

 

「それに・・・」

 

「?」

 

「いいえ、教えません」

 

「なんだ、それ!気になるじゃねえか!」

 

「うふふ・・(言える訳ありませんよ・・・早く貴方に抱かれたいなんて)」

 

しのぶもしのぶでかなり葛藤していた。年齢差は1歳なのでほとんど変わらない。だが、日に日に逞しくなっていき、多少の薬学も学び始めている彼の真剣な表情に自分の鼓動が高鳴っているのを自覚した。

 

初めて彼に好意を持っている事に気づいたのは彼が『新柱』として任命され『柱』であるしのぶと共に厄介な鬼を討伐しに行った時の事だった。

 

 

 

 

 

 

その鬼は二体で別々の山を拠点とし、迷い込んだ人間を襲い喰らっていた。真次と同じ次世代の『新柱』で『獣柱』の称号を持った伊之助が真っ先に名乗りを上げた。彼にとって、この鬼は逆鱗に触れる相手であった。彼は山の中で生活してきた、それだけに山を荒らされる事は自分の故郷を荒らされるのに等しい。しかも一体は別の山に潜伏しているらしく、そちらを任せる事になった。

 

「そっちはお前に任せるからな!!」

 

「ああ、任された!」

 

伊之助が真次の開いた手を拳でパンッと軽く殴った。これは彼らなりの頼むという行為なのだ。真次と伊之助の二人は笑みを浮かべると互いにパートナーとなった『柱』を伴い、担当場所へと向かう。その時にパートナーになったのがしのぶであった。

 

「それにしても、驚きですね」

 

「何が?」

 

「貴方が私の速度に着いて来ている事ですよ」

 

そう、彼ら次世代は『新柱』と呼ばれてはいるが未だに前世代の『柱』の強さに及んでいない。まだまだ経験が足りなく、成長の度合いがあるのだが未熟な面が多いのだ。

 

「追いつきたくて鍛錬し続けてるんだよ」

 

「そうでしたか、感心感心」

 

今現在、呼吸を乱さず走り続けているが、しのぶは前世代の『柱』の中で最も速さがある。それに付いて来ているだけでも『柱』の名を持っているのは納得されるだろう。

 

「!止まってくれ。ここから先が奴の縄張りみたいだ」

 

山の麓にて足を止めるよう真次は催促する。伊之助ほどではないが、真次の『勘』もかなり鋭い。戦闘中にも発揮できるようある程度まで鍛えてみたのだが『敵意を持った相手が此処にいる』というまでしか分からず完全把握はできない。

 

「なるほど、木の陰が多くて住みやすいみたいですね」

 

「これだと、下手に刀は振るえないな・・・木を傷つけてしまう。ん?しのぶ!」

 

「えっ!?」

 

「ぐっ!」

 

「オンナァ・・・女だぁ・・・・」

 

目の前に目的の相手が現れ、真次は軽く腕を負傷してしまう。だが、この程度の負傷はかすり傷に等しい。

 

「抱かせろォォォ!!」

 

「なるほど、男の欲望の果てに残滓と融合したわけか」

 

真次は呼吸で止血し、刀を鞘から引き抜き鬼の爪を受け返す。だが、この場所では属性に制限が出てしまう。

 

「ずいぶんと女性にご執心なんですね、怖い怖い」

 

「ガアアアア、女ぁあああ!!」

 

鬼はしのぶへ真っ直ぐ向かっていく。しのぶも相手を見極め始めるがこの鬼はかなりの数の人間を喰らってきているようで力が強い。

 

そんな戦闘を見て真次は迷ったが、相手は雑魚とは言えない程に能力が高い。本来ならば親友達の前でしか見せない自分を解放する事にする。今の真次は冷熱、熱血、冷酷、大胆この四つの自分を作り出した。未だに完全に自分を解放できない自分の仮面とするためだった。最も、異国語(英語)を口にしたが為にという理由もある。

 

「滾ってきてるのも事実、OK(良いぜ), Are you Ready?(準備はいいか?)Ya-ha-!

 

「!?」

 

「グゥ!?」

 

「さぁ、楽しいpartyと行こうかぁ!隠鬼殺隊『五行柱』神威真次、推して参る」

 

今の真次は戦いを楽しむ大馬鹿の仮面を被っている。強敵だというのに楽しんでいる姿を見たしのぶも呆れそうになっていた。

 

「グウウウ!オンナァァァ!!」

 

「お前に抱かせられる女はいねぇよ」

 

『五行の呼吸 水の型・二之巻・黒竜爪!(こくりゅうそう)

 

『五行の呼吸 水の型・二之巻・黒竜爪』とは竜が水の中を泳ぐ姿の如く、流水を模した柔の居合抜きである。斬られた方は本来噴き出す筈の血がまるで流れる水のように出て行く状態になる。両腕を斬られ、鬼はその場でのたうち回っている。

 

「ウグアアアア!」

 

「しのぶ!」

 

「はいはい、分かりました」

 

『蟲の呼吸 蝶ノ舞 “戯れ”』

 

「ガ・・ガ・・・オン・・・ナァアア」

 

しのぶはすれ違いざまに三つの刺突を繰り出し、毒を打ち込んだ。鬼はその毒に苦しみ出す。

 

「悪いがこれで終いだ、Rest in peace(安らかに眠りな)

 

言葉とともに真次は容赦なく頚を斬り落とした。作法に法った方法で、刀を鞘に収めると片手で祈る仕草をする。

 

「ガ・・・・ァ」

 

鬼は肉体を消滅させていき、完全に消滅した。任務を終えて帰ろうとする二人だったが。

 

「ん?な・・・雨か!」

 

「おやおや」

 

突然の豪雨に振られてしまう、現代で言う所のスコールであった。山の天気は変わりやすく真次が『勘』で予想しても移り変わりやすいのだ。

 

「マズイな・・・ん?あそこに洞窟がある。入ろう」

 

「そうですね」

 

真次は洞窟の中に入ると燃えそうな物をかき集め、以前誰かが使っていたらしい石竈にくべ、伊之助から教わった摩擦熱を利用した着火方法を使い、火を起こした。この時期は真冬でしかも雨という組み合わせは最悪の一言だ

 

「濡れた服は早く乾かさないとマズイぞ」

 

「え・・・」

 

「うわ、完全に濡れちまったなぁ・・・・・・あ、っと、後ろ向いてるから」

 

『柱』が纏う羽織も上着も中まで濡れてしまっていた。真次は上半身だけ服を脱ぎ、刀を利用して濡れた服の水分を絞り、乾くようにすると自分は後ろを向いた。

 

「・・・・」

 

服が脱がれていく着擦れの音が、焚き火の音と共に真次の耳の中に入ってくる。瞬間、真次の背中に柔らかいものが当たる。サラシの感触以上に柔らかいものが。

 

「!!し、しのぶ・・!?何を・・?」

 

「真次君も冷えてるじゃないですか、知ってます?寒い時は人間同士が肌を合わせると暖かいんですよ」

 

「理屈は・・分かるが・・その」

 

しのぶは真次の背中に額を当てる。彼の背中、鼓動、血液の流れ、その全てを感じる。こうしているだけで落ち着く自分がいる。なぜだと訪ねても答えは一つしかない、自分はこの男を好いている。

 

「しのぶ?」

 

「真次君・・・いえ、真次」

 

しのぶは決心したように真次を背中から抱きしめた。真次は心臓が激しく動くのを感じている。ずっと秘め続けていた想い、追いつきたくて、支えたくて、愛しくて止まらなかった。

 

「しのぶ・・・・」

 

「私は・・・貴方を」

 

真次は抱きしめられた腕に手を添えると優しく握り、自分から離すと今度は真次からしのぶを正面から抱き締めた。

 

「あ・・・・っ」

 

「その言葉は俺から言わせてくれ・・・しのぶ、好きだ」

 

「!!!本当・・・・・・に?」

 

「嘘ついてどうすんだよ・・・」

 

しのぶは真次の背中に腕を回した。それは女が男からの抱擁を受け入れた事を意味する。涙が自然と出てくる。枯れたと持っていた涙が。

 

「貴方を、信じていいんですか?」

 

「ああ」

 

「なら、その証を私に下さい・・・」

 

「!・・・なら、少しの間・・目を閉じてくれるか?」

 

「?はい・・」

 

しのぶが目を閉じると同時に真次は彼女の後頭部に手を沿え、優しく引き寄せるとその唇を奪った。

 

「んっ!?」

 

目を見開いて引き離そうとするが、真次とて己を鍛えてきた身だ。並みの男以上に腕力は強くなっている。苦しさから目を閉じてしまってはいたが、しばらくして唇を離すとしのぶは顔を真っ赤にしながら胸元を叩いてきた。しかし、力は入っていない。

 

「いきなり何をするんですか、貴方は!」

 

「これしか思い浮かばなかった・・・」

 

「もう・・・!」

 

不満を漏らしながらも、岩壁に背をもたれた真次の胸元に身を寄せるしのぶ。真次は腕を肩に回すだけで押し倒したりはしなかった。

 

「私を抱かないんですか?」

 

「ぶっ!直球すぎるだろ・・・!」

 

「このような状態になったら抱くと思いますけど?」

 

「どれだけ発情してんだよ・・・それに」

 

「それに?」

 

「抱くなら俺は蝶屋敷がいい」

 

その意図を理解したしのぶは再び顔を真っ赤にしてしまった。何故ならば、初めて知り合った場所でお前を染め上げたいという事だからだ。

 

「その・・・その時になったら優しくしてくださいね?」

 

「ああ、善処はするけどかなり求めるかもしれないからな」

 

そうして二人は雨が止むまで、二人きりの時間を過ごしたのだった。




書いてて恥ずかしくなった作者です。

バカップルになってるのかな?これ。

自分としてはかなり甘くしたつもりです。

※この後、また新しいアンケートを立ち上げますのでよろしくお願いします。


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五行の魔法にかかる蝶の羽

大切な人でかつて愛した人。

その人を思い出した時・・。

どうすればいいのだろう。



※今回は現代風に書きます、全員大学生という設定です。

※カラオケネタが入ります、カラオケ店内が架空レベルです、ご了承ください。

※前世ネタで曲を探していたら『月夜の悪戯の魔法』がものすごく合っていたので作品中で歌わせている設定です。


毎日毎日、不思議な夢を見る。蝶のような羽織を着て、満月の夜に両手を広げて羽根を現し、一人の女性がこちらに近づいて来る夢だ。

 

「っ・・・また、同じ夢か。さて、今日は3限目からだから昼までに行けば大丈夫だな」

 

俺の実家では曾々祖父と曾々祖母に関する話をよく聞かされていた。何でも鬼を退治していたそうで、今は文献しか残っていないそうだが、俺の曾々祖父、つまり俺の曾々じいちゃんは曾々ばあちゃんにあたる女性の医者と恋仲だったそうで、それはもう周りが羨む程のおしどり夫婦だったらしい。

 

「現代だとバカップルって言われそうだけどなぁ」

 

ぼやきながら着替えを済ませつつ、身支度を整える。整えると同時にスマホにラインが来ていた。

 

 

日炭「真次、今日帰りにカラオケ行こうって誘われてるんだけど一緒に行かないかい?(^∀^)」

 

五行真「は?いつものメンバーでか?Σ(゚д゚lll)」

 

日炭「そうだけど、カナヲのお姉さんも一緒に来るって、俺は歌えないけど(´・ω・`)」

 

そりゃあ、そうだ。あのカナヲでさえ歌うのを必死に止めてたもんな。

 

五行真「OK、行くよ(´∀`)b」

 

日炭「分かった、伝えておくよ!」

 

ラインの会話を終わりにして、寮からでて玄関の鍵を閉める。大学までは駅一つ分だ。歩くなら最寄りの駅は5分足らずで着いてしまう。

 

「・・・アイツ等、変な話してくるんだよな。『早く思い出して!』とか『待たせ過ぎ』とか『忘れてんな!』とかさ」

 

真次は電車に乗り、大学キャンパスへと向かう。親友三人は俺が若年性アルツハイマーにでもなったと思ってるのだろうか?と考えてしまう。炭治郎からは思い出せと言われても何を思い出せというのか?善逸からは待たせすぎと言われてるが、何を待たせているのか?伊之助からは忘れてんな!と言われるが何を忘れているというのか?

 

「ホント、訳わからねえ・・・・」

 

 

 

 

 

 

その頃、炭治郎、善逸、伊之助の三人は大学の食堂で話をしていた。この三人は『前世の記憶』を思い出しており、真次と親友であった事も全て思い出している。伊之助は天丼をかきこみつつ話を聞いている。

 

「まだ、思い出さないな・・・真次」

 

「キッカケがあれば思い出すんだろうけどな」

 

にふぃふぃひへも(にしても)ほほふひるはろ(待たせすぎだろ)

 

「口の中に物を入れたまま喋るなって!飲み込んでから話せよ!」

 

「んくっ、早いとこ思い出させてやらねえと、アイツの事を」

 

「だから、カナヲ達にも頼んだんじゃないか。けど・・・」

 

「やっぱり、向こうも?」

 

「うん、思い出してないみたい」

 

 

 

 

 

 

 

講義が終わりの時間、カナヲ、アオイは目的の人を探していた。それを見かけると二人は駆け寄った。カナヲとアオイは共に大学二年生、炭治郎達と同じように『前世の記憶』を思い出している。だが・・。

 

「しのぶ姉さん」

 

「カナヲ?あら、アオイまで」

 

「ご無沙汰してます」

 

彼女の名は胡蝶しのぶ、三姉妹の中の次女で大学三年生だ。その美貌と笑顔に言い寄ってくる男性は多いが、断っており強引に迫る相手は何故か逃げていくといった噂が立っている。

 

「今日、炭治郎達と一緒に遊びに行く約束をしたんだけど、姉さんもどうかな?」

 

「私が参加しても構わないの?」

 

「うん、参加して欲しい」

 

「私もです」

 

「じゃあ、参加させてもらいますね。楽しみにしてますから」

 

それだけを告げるとしのぶは次の講義に向かってしまった。二人はもう、講義が無いので、炭治郎達と合流することになっている。

 

「カナヲ、やっぱり・・・しのぶ様は」

 

「うん、まだ思い出してないみたい」

 

姉妹として接してはいるが、しのぶは『前世の記憶』を思い出していない。前世で幸せであった二人をもう一度幸せになって欲しいという願いがあった。だが、未だに思い出せていないのだ。

 

「根気よく行こう!きっと思い出してくれるはずだから」

 

「うん、そうだね」

 

「あ、そうだ。アオイにお願いがあるの」

 

「私に?」

 

 

 

 

 

しのぶは歩きながら二人の言葉を思い出していた。その他にも色々な夢を見る事が最近になって多い。

 

青い龍、白い虎、朱い鳥、黒い亀、黄色い一角の馬、その全てが自分の元に来る夢。

 

一人の男性の侍が道教師のような相手と戦い、特攻していくのを手を伸ばして止めようとする夢。

 

顔のわからないその侍と自分が恋人になっている夢などだ。更には妹と同じように可愛がっている親戚から妙な事を言われる。

 

『早く思い出してください』

 

『きっと待っています』

 

と言われたのだ。自分には何も覚えがない、誰かを好きになった覚えもない、なのにあの二人は必死になって伝えてくる。

 

「一体何なんでしょうね?」

 

自分の課題を早く終わらせることに集中する。今日は珍しく妹が遊びに誘いに来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして、午後。カラオケ店にあるパーティールームを予約しコースも予約した男子メンバー、もちろん女性陣にも許可はもらっている。

 

「ごめんなさい、少し遅れました」

 

「待たせちゃったかな?禰豆子ちゃんも誘ってたから」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

「姉さんはもう少ししたら来るって」

 

「真次も同じだって」

 

「こっち来いよー!」

 

『前世の記憶』を思い出しても、やはりそれぞれ夫婦になっていた相手の近くに座るメンバー達。メインの二人が遅れるため、先に自分達で楽しもうという形になった。

 

 

 

 

 

 

「えっと、ああ・・此処だ。ん?」

 

「カナヲ達が言っていたのは此処ですね。あら?」

 

真次としのぶはお互いに見つめ合う形になってしまう。まるで周りは動いているのに自分達の時間だけが静止しているように。

 

「(この人、大学で見かけたような・・・え?なんだ?この感じ?)」

 

「(あら?あらあら?大学ではすれ違っている人ですね・・・けど、何故だか気になります)」

 

二人の間に不思議な空気が流れる。お互い知らないはずなのに知っているような、何かを忘れているような、そんな感覚。

 

「あの、初めまして。俺、神威真次です」

 

「ご丁寧にありがとうございます。私は胡蝶しのぶです」

 

「胡蝶?もしかしてカナヲが言ってるお姉さんって貴女の事ですか?」

 

「カナヲの事を知ってるんですか?」

 

「ええ、まぁ・・・カナヲは友人の彼女だって聞いてますから」

 

「あぁ・・なるほどなるほど」

 

「とりあえず、中に入りませんか?みんな待っていると思うので」

 

「そうですね」

 

真次は店の中に入り、先に入店している友人達と合流しに来たという旨を店員に伝えると奥のパーティールームだという事を聞いた。

 

「奥の部屋だそうです」

 

「そうですか、行きましょう」

 

扉を開けると善逸が熱唱しており、炭治郎、伊之助の二人がバックダンサーをしている。

 

このカラオケ店のパーティールームは広めで、バックダンサーをする事も出来る簡易ステージがあり、楽器ができれば演奏モードもできる。店に言えばコスプレ服すらも貸してくれるという徹底ぶりだ。

 

「あ、姉さん!真次も」

 

「少し遅いですよ!しのぶ・・さん」

 

「カナヲもアオイも居たのね」

 

「よう、遅くなって悪かった」

 

「ふぅ、やっと来たな!」

 

「善逸さん、すごかったです!」

 

「ありがとぉ禰豆子ちゃぁん、俺も練習してるんだぁ」

 

「歌えなくてもダンスは出来るのが役に立ったな。あ、真次!」

 

「よ、炭治郎」

 

「あー、腹減った。ダンスは腹が減るんだよ」

 

それぞれが順番に炭治郎以外が歌い、合流した二人も歌った。今度はリクエスト合戦になり、それぞれが歌が上手い順に歌い始める。その途中でしのぶは歌本を眺めている中で気になる曲を見つけた。

 

「[月夜の悪戯の魔法]ですか・・・あ、私からリクエスト良いですか?」

 

えっ!と全員がしのぶの方を一斉に見る。先程まで聞き手に回っていたしのぶがリクエストをしたいと言って手を挙げてきたからだ。

 

「真次さんに[月夜の悪戯の魔法]を歌ってほしいのですけれど良いですか?」

 

「え?お、俺でよければ」

 

「あ、少し待って姉さん」

 

「?」

 

「ちょっと衣装借りてくる」

 

「あ、しのぶさん。目隠ししますね?サプライズっぽくしたいので」

 

「構いませんよ」

 

カナヲは素早く衣装を借りに行き、しのぶはアオイから目隠しをされるが準備があるのだろうと思い、受け入れた。

 

「ちょちょ!何すんだカナヲ!炭治郎達まで!!」

 

「いいから黙って衣装を着て!」

 

「そうそう、カナヲの言う通りにしてくれよ」

 

「いいから着ろって!」

 

「分かった、分かったから!」

 

真次はされるがままに衣装を着る事になった。それは大正時代に着ていた鬼殺隊の衣服に似た物で羽織は『前世』を思い出したアオイが仕立てて作ったものだ。カナヲに頼まれ、この日の為に作っていたと言うのだから驚きだ。ご丁寧にマイクはピンマイクにされている。

 

「なんだよこれ・・・?(でも、異様に馴染むなぁ)」

 

「姉さん、目隠し取るね」

 

「はい」

 

「曲は俺が入れておくよ」

 

善逸が曲を入れ、スタートする。目隠しを取った瞬間、しのぶは真次を見て目を見開く。何故なら目の前に夢の中で特攻を止めようとした侍と真次の姿が完全に一致していたからだ。

 

「あ、曲が始まるな」

 

伊之助は何気なく曲の始まりを口にしていた。しのぶが真次にリクエストした[月夜の悪戯の魔法]が始まる。元々、カラオケ好きな真次はプロとまではいかないが、通っていた影響か、かなり歌唱力が高くなっている。

 

一番AメロBメロ、サビに入っていき盛り上がるように歌詞を大事に歌う真次。しのぶの中では歌詞が切なく歌われる度に自分の胸がチクリと痛む感覚がある。何かが出てきそうな、そんな予感だ。

 

まるで自分ではない自分が誰かに呼ばれている。そのような感じがするのだ。

 

真次も曲を歌う度に大切な何かがあったような気がしてくる。一人カラオケで練習に歌った事もあったので歌詞に『花鳥風月』が入っている事を知っていた真次は動きで『花』を取り出す仕草をし、花びらを舞わせているような動きをした後、『鳥』は羽を表現する為に羽織を靡かせて翼を再現し『風』は舞踊のようにゆっくり回転する事で現し『月』は手で円を描いて表現した。

 

最後に「君は近くに居るのに」と歌い終えた瞬間、しのぶの目からは涙が溢れ出ていた。いくら拭っても拭っても止まらない。歌に感動したのとは違う。

 

「え・・・・?あ、あれ?どうして・・涙が」

 

「しのぶさん?」

 

『しのぶ・・・』

 

「っ!!」

 

真次に声をかけられたと同時に、しのぶの頭の中へ大量の映像が流れ込んでくる。これは前世の自分だ。戦いの場面、恋する場面、抱かれる場面、婚姻を挙げる場面などだ。

 

『お前にしのぶを喰わせてたまるかァァ!』

 

『貴方は!どうして!』

 

「!!」

 

瞬間、しのぶは思い出した『前世の記憶』の全てを。そしてステージで歌っていた男が自分と繋がりが深い相手だという事を。

 

「こんな時になるまで忘れていたなんて、うっかりです」

 

「姉さん?もしかして・・・!」

 

「え?え?」

 

「はい、全てを思い出しました・・・」

 

「!しのぶ様・・・!」

 

今の時代でも妹であるカナヲとアオイに笑みを見せる。あの頃と変わらない笑顔を見せ、かまぼこ隊のメンバー達も笑顔になっている。しのぶは立ち上がると真次の近くへと行き、真次の顔を正面から覗き込む。しかも上目遣いのおまけ付きだ。

 

「真次、いつまで私を待たせるんですか・・・?」

 

「へ?あ・・ああああの!?」

 

「お寝坊さんには接吻しちゃいますよ、私は此処に居ます」

 

「!!」

 

真次もしのぶの言葉で同じように頭の中へ映像が入り込んでくる。自分と同じ姿、しのぶと全く変わらない女性を愛したかつての自分。真次自身もようやく『前世の記憶』を思い出したのだ。

 

「しの・・・ぶ?」

 

「クスッ・・・ようやくですか?私も人の事を言えませんが、貴方もかなりのうっかりさんですね」

 

「ああ、思い出したよ・・・。しのぶ、待たせて悪かった」

 

「お互い、本当に待たせてしまいましたね」

 

しのぶはポフッと真次の胸元に収まり、目を閉じた。真次も抱きしめて応えるが少ししてハッとする。

 

「・・・・(ニコニコ)」

 

「・・・(ニコニコ)」

 

「ギギギギギ・・・」

 

「・・・・(ホワホワ)」

 

「・・・・(ニコッ)」

 

「・・・(真っ赤)」

 

「あ・・・・っ」

 

「?どうしまし・・・あっ!」

 

そう、二人以外のメンバーはそれぞれ反応していた。手にはスマホを持って連射撮影しているのもいる。

 

「やっと思い出したんだね?」

 

「ちょっと羨ましいんですけどおおお!?」

 

「ナカガイイッテ・・・スゴイヨネ」

 

「ウフフ、お似合いでしたからね」

 

「真次、あとでお話しないとね?」

 

「もう、私達を忘れるなんて!」

 

「し、しのぶ」

 

「知りませんっ!」

 

その後のカラオケは大盛り上がりとなり、全員が『前世の記憶』を取り戻した事で蝶屋敷があった頃のようだった。

 

時間になり解散すると、真次としのぶだけが残された。帰り道も一緒なので共に隣り合って歩く。

 

「なんだか、アイツ等にしてやられた気がしないまでもないな」

 

「フフッ、それは仕方ないと諦めましょう」

 

そう言いながら、しのぶは真次の腕に自分の腕を絡ませて腕組み状態にしてきた。

 

「真次、今日この後・・・大丈夫ですか?」

 

「?大丈夫だが、なんでだ?」

 

「私、今日・・・帰りたくありません」

 

顔を赤くして、しのぶに迫られる真次は葛藤と戦うハメになるのであった。




ど、どうでしたでしょうか?歌で記憶を取り戻すパターンにしてみました。

『前世』に関しては善逸が一番最初で、二番目に炭治郎、三番目は伊之助が記憶を取り戻しています。

女性はカナヲ、アオイの順です。現代の知識も融合してるのでほとんど変わりません。

伊之助が大学に入れたのはアオイが勉強を見ていたのと、アイツが入るならばと決起して頑張った結果、合格したという設定です。


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五行を慰める蝶

今回は原作の時代です。

戦いの場面から始まります。

※前々からやっていますが、今回は戦国BASARAの伊達政宗の要素をふんだんに使います。許せる方はどうぞ。


一人の男が呼吸を乱しながら走り続ける。整えてはいるが焦りが先行しており、ただただ前へ間に合えと走り続ける。

 

彼は神威真次、雑魚の鬼を突破し自分の恋人が向かった部屋を目指している。目的の部屋を見つけた瞬間、乱暴に開放し、その鉄扇で切ろうとしていた人物を刀で受け、間に入った。

 

「!?」

 

「上弦の鬼?Wonders(驚異)?NO…単なる生きたがりさ」

 

「おや?」

 

「どうやら、間に合ったようだな。Don't worry(心配かけるなよ)しのぶ」

 

「どうして・・・」

 

「単純な答えだ。お前は俺の女、そしてお前の仇は俺の敵だ」

 

「へぇ・・・君かぁ。そこの彼女が呟いていた相手って」

 

「だからどうした?上弦だろうが下弦だろうが、鬼には変わりねえ・・・ただ頚を落とす。それだけだ」

 

「うーん、カッコイイねえ?伊達男って言葉が似合いそうなほどカッコイイよ君」

 

「Huhn?ふざけてんのか?テメェの言葉には軽さしかねぇ。薄っぺらいんだよ」

 

真次の言葉に鬼である童磨は鉄扇を折り畳みながら初めて嫌悪感を抱いた。この男の眼は自分を見透している。どんなに言葉の壁を積み上げても射抜いてくるのだ。そんな彼に童磨は怒りを覚える。

 

「初めてだよ。そんな事を言われたの・・・君、意地が悪いね」

 

「Ha!図星を突かれたかい?怒る事くらいは出来るじゃねえか」

 

「気に入らない、本当に」

 

「だったらこの心臓、穿ってみるか?出来なきゃ・・・You’re gonna be sorry(お前は後悔するぜ)OK?」

 

異国語(英語)を口にしながら鋒を向け真次は童磨を挑発する。気に入らない気に入らない、目の前のこの男の全てが気に入らない、こんな感情は初めてだ。生まれた時から何も感じず鬼になっても何も感じない、救うという目的で教祖をしていたが、この男は自分の中にある空虚を見透かしてくる。童磨は初めて嫌悪するという感情を出していたのだ。

 

「Ha!さっきから凍りついてるぜ?アンタの周りがな。アンタの血鬼術は凍らせるってところか?そいつは驚異だな?体ン中を凍らされたら終わりになっちまう」

 

「!?」

 

「イラつくなぁ・・・本当に」

 

「だったら来いよ。この五行の刃、五つの首を持つ竜・・・即ち五竜の首を凍りつかせてみせろよ」

 

今の真次は青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟ではなく・・・青竜、赤竜、黄竜、白竜、黒竜の五匹の竜が闘気として現れそれぞれの色に対応した位置から咆哮を上げている。

 

「そうだね。五行は五のつくものならば全て対応しているものが多いからねぇ・・・君は八岐大蛇ではないにしろ・・・本当に苛立つから真っ先に・・・あれ?」

 

「二人だけで盛り上がっているところ悪いですけど、私もいるんですよ」

 

しのぶは瞬間的に童磨へ毒を打ち込んでいたが、少しずつ治まっていってしまっている。恐らくは抵抗力と再生力の組み合わせだろう。

 

「She's an unsased woman(おっかない女だ)相変わらずよ・・・」

 

「ウフフ・・・」

 

「しのぶ、Are you Ready?(準備はいいか?)」

 

「ええ、出来ていますよ。貴方から教わっていますけど、あまり難しい異国語は使わないで下さいね?」

 

「おっと、Sorry(すまねえ)クセになって来てるもんでな」

 

「はぁ・・・もういいよ君たち」

 

『凍て曇』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)!』

 

「なっ!?」

 

「何を驚いてんだ?竜は雷を伴って、怒りで火炎を吐く生き物だろう?というよりも、アンタ・・初めて余裕の仮面が剥がれたな?」

 

「?何を言っているのさ?」

 

「アンタの中にあるのは快か不快のどちらかだけだ。さっき薄っぺらいと言ったのはそういう事なんだよ。アンタの言葉には何一つ重みがねえ、『救ってやる』だの『命は大切だ』だの、そんな気概が全く見えねえんだよ。宗教でもやってるのかい?ただ、面倒だからやっておく・・・そうじゃねぇか?」

 

「っ・・・」

 

どこまでコイツは俺の心の中に入ってくる。気に入らない!あの眼、あの声、聞かされるだけで俺の全てを見抜こうとして気に入らない。ああ、これだから嫌なんだ。

 

「しのぶ、長期戦は不利だ。奴の頚にお前のPoisonを打ち込めるか?」

 

「それくらいは簡単ですけど、その後は?」

 

「斬れやすくなったら斬る。それだけだ、お前は危険なGambling(賭け)には乗らねえのかい?賭け金は自分の命だ。それとも仇は取らねえで退くかい?」

 

「その言葉、腹が立ちますね・・・良いですよ。貴方の危険な賭けに乗ってあげます!」

 

「上等!Ya-ha-!さあ、partyの始まりだ!!」

 

二人は隣り合って刀を構えると同時に童磨へと突撃する。童磨自身は氷の血鬼術で二人の猛攻をいなし続ける。

 

「この戦いの後、キッチリ謝ってもらいますからね!」

 

「今、そんなこたぁどうでもいい!勝つ事だけを考えろ!余計な思考をするな!!」

 

「本当になんなの?君達は」

 

「さぁな?今は鬼を砕き殺す竜かもな」

 

『血鬼術 冬ざれ氷柱』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・三之巻・朱雀翼・極』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・三之巻・朱雀翼・極』とは本来、陽炎によって幻惑させる技である朱雀翼を更に進化させ、自身だけではなく自分の味方の陽炎すらも作り出し波状攻撃する技だ。単体で使えば自身を、味方が居る時に使えば味方の数に応じて陽炎を作り出すことも数を増やす事もできる。しかし、作り出すには大量の水分が必要となり、空気中だけではせいぜい二人分、つまり本体と分身を合わせて四体が限界だ。

 

だが、この部屋には蓮の花を育てる為の小池、更には童磨が扱う『血鬼術』の特性を逆手に取っている為、陽炎をその四倍、作り出す事が可能であった。

 

「はぁ、勿体無いな。男はどうでも・・・あれ?」

 

『蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 “複眼六角”』

 

「流石は『五行の呼吸」ですね。どんな呼吸にも対応出来る応用力がすごいです」

 

「あれ?こんなに沢山の毒が頚に・・・でも、俺には・・がっ!?」

 

「残念だったな、本命はコッチだ!」

 

しのぶが毒を打ち込み、効いている間の僅かな時間に真次は間髪入れずに刃を首に減り込ませた。

 

「うぐっ・・・毒は、俺の肉を柔らかくする為の・・・囮!」

 

「Great answer(大正解だ)俺の刃は簡単には折れねえぜ!う、おおおお!!」

 

「ぐ・・こんな奴に!!」

 

瞬間、真次の斬撃よって童磨の首が落とされる。しのぶはそれを逃さず自分の日輪刀を突き立てた。

 

「えー、頚斬られちゃった・・・・あーあ、いくら俺に毒が効かなくてもこれじゃ無理だ」

 

胴体は真次は一刀両断し、再生できないよう。念入りに斬っていた。そんな中でしのぶは童磨に話しかける。

 

「最後に何かありますか?」

 

「なんだろう・・・ね。負けたというのに今はない心臓が脈打つ感じがしてるよ」

 

「?」

 

「これが恋って奴なのかな?ねえ、しのぶちゃん。俺と一緒に地獄へ行かない?」

 

「Don't talk about people's women(人の女を口説いてんじゃねえ)」

 

「!」

 

「見ての通り、私には相手がいますので。とっととくたばれ、糞野郎」

 

童磨が消滅したのを見ると同時に真次は床の上に大の字で倒れた。しのぶもその場で座り込んでしまう。極限状態での呼吸であった為に真次が息を荒くしている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・もう、あんな奴の相手は二度とゴメンだぜ」

 

「全くです。それと、私を挑発した事を謝ってくれますか?」

 

「ん?ああ、済まねえな。決起させるためにやったが地雷だったものな」

 

「少し、お仕置きしますね」

 

二人は冷気にやられた影響と血鬼術による怪我が多いが呼吸で止血されている為、少し休めば立てるようになるだろう。そんな中、しのぶは自分の唇に歯を立てて血を出すと口に何かを含み、大の字で倒れている真次に接吻した。

 

「むぐっ!?」

 

「んっ・・・フフ」

 

しばらくして唇を離すと、真次は自分の身体が動けないことに気づく。これは毒の症状だ。

 

「ぐ・・・し、しのぶ・・おま・・!」

 

「私、かなり怒っているんですよ?大丈夫、死なないように加減はしましたから」

 

「加減・・・って・・」

 

「言い忘れてましたが、私の全身には高濃度の藤の花の毒が回っているんですよ。解毒剤と一緒に接吻しましたから、症状は軽いですけどね」

 

「お・・・ま・・え」

 

「しばらくは一緒に休ませてくださいね」

 

そう言いながら、しのぶは真次の上にのしかかり、胸元に埋まるのだった。真次は毒でやられながらも惚れた女には弱いんだなと改めて自覚した。

 

 

 

 

 

 

「し、もし。もしもし」

 

「ん?」

 

「いつまで寝ているんですか?稽古が終わっているといっても寝過ぎは毒ですよ」

 

真次はしのぶの顔を見た後、ゆっくり起き上がった。まさか、あの激戦を夢に見る事になるとは、と思う。

 

「どうしたんですか?難しい顔をして」

 

「ん?ああ、お前と一緒に上弦と戦った時の夢を見てた」

 

「それはそれは、懐かしいですね」

 

「懐かしいって、死にかけたんだぞ?俺」

 

「あれは貴方が悪いです」

 

「う・・・・」

 

そう言いながら隣にしのぶは腰掛ける。しのぶは自分が考えられなかった今の平和を噛み締めるように目を閉じた。

 

「でも、感謝しています・・・貴方が私の怒りを分かち合ってくれた・・・貴方が居なかったら私は間違いなく死んでいた。それでもいいと思っていたのに」

 

「My sister(自分の姉)の仇を取りたい・・・そう俺に話した時からそんな気はしてたんだよ」

 

「・・・・」

 

「俺は死を恐れねえ・・・だが、死のうと思った事は一度もねえ。お前はその逆だった。仇を取るためなら死んでも構わない。そんな感じだった」

 

「その通りです」

 

しのぶは真次の言葉の重さと痛みを同時に感じている。そうしなければ自分を保てなかった姉の仇を取る事だけが自分の生きる意味ともなっていた。

 

「だが、庭を見てみろよ」

 

「?」

 

庭ではアオイが洗濯物を干し、カナヲがその手伝いをしており中原すみ、寺内きよ、高田なほといった三人が鞠を手に遊んでおり、かまぼこ隊のメンバーも皆、笑顔だ。

 

「お前が死なないで戻ってきた時、アイツ等・・・俺になんて言ったと思う?『しのぶ様を守って下さってありがとうございます』って言ってきたんだよ」

 

「あの子達が?」

 

「お前は姉の仇の為に死んでもいいとか言ってたが、アイツ等にとっての姉はお前なんだよ。血の繋がりだけじゃねえんだ。忘れろとは言えねえ・・けれどもう、抱えてるものを下ろしてもいいんじゃねえのか?」

 

「!!」

 

真次の言葉にしのぶは彼の横顔を見る。彼はまるで自身の姉であるカナエと似た雰囲気を持っていた。男性であるはずなのに優しく包まれるような雰囲気だ。しのぶはたまらず声をかける。

 

「真次さん」

 

「ん?なんだ・・んっ!?」

 

「んっ・・・」

 

しのぶは目を閉じ、真次が振り返ると同時に首に腕を回して彼に口づけした。自分の中にある精一杯の深愛の気持ちを込めて。

 

庭にいた全員が驚いているが、それ以上に真次が驚いていた、今のしのぶからは深愛の気持ちが深く深く伝わって来るのだ。ゆっくりと唇を離されるが真次の心臓は激しく鼓動している。

 

「I'm surprised(驚いたぜ)・・・どうしたんだ?しのぶ」

 

「私・・・一人の女として貴方に言いますね。貴方を心からお慕いしています」

 

それは、しのぶからの心からの告白であった。『柱』としてではない『復讐』もない、ただの『女』である胡蝶しのぶとしての。

 

「俺もお前を愛している・・しのぶ」

 

「貴方は藤の花の意味を知っていますか?」

 

「確か「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」だったか?」

 

「はい、その通りです。私は貴方から離れません」

 

「俺は離すつもりもないけどな」

 

「フフ、此処まで惚れ込ませた責任、とってくださいね?」

 

「俺はお前の毒に酔わされっぱなしだな・・・」

 

「それなら今夜、私の部屋に来てくださいね?待ってますから」

 

そう言って二人は抱き合いながら口づけを交わした後、しのぶは熱っぽい視線で人差し指を口元に当てながら去っていった。




王道みたいな感じで書きました。

話は浮かぶのに漫画だったら・・・と思わずに居られませんです。はい・・・。

アンケートに関してはしっかり見てます。一番多いものと二番目に多い意見を参考にしています。

※この後の二人は、あーんな事やこーんな事をしたり、それもう夜は燃え上がりまくりでしたよ。

※それと感想ください(切実)


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五行と蝶の縁

『五色の枝に蝶が乗る』の設定を元に書きます。

前世代の『柱』が生きています。IF柱です


その日の夜更け、親友四人が久々に集まって話をしていた。彼らは次世代の『柱』、『新柱』としての称号を持つ四人だ。

 

『日柱』・竈門炭治郎、『獣柱』・嘴平伊之助、『鳴柱』・我妻善逸、そして『五行柱』・神威真次の四人だ。

 

この四人はそれぞれ、想い人がいる。その中で、今日は炭治郎が話題に上がっていた。

 

「ねえ?なんで一昨日、カナヲちゃんと一緒に朝帰りだったのかなぁ?」

 

「え・・あ、あの・・それは・・・」

 

「朝帰りだって言っても、無事だったんだから問題ねえだろ?」

 

「大有りなんだよおおおお!!」

 

「静かにしろって!善逸!」

 

話題に挙げられた炭治郎はお茶を濁すような態度しかとっていない。ここで、真次が軽く爆弾を落としてきた。

 

「帰ってきた時の・・・あのカナヲの色っぽい笑み・・・それに『小さな傷』・・・そういうことなんだろう?炭治郎」

 

「う・・・うううう」

 

「はぁくじょうしろおおお!そういう事なんだろおおおお!?」

 

「だから、うるせぇっての!」

 

「ハイ・・・・ソウイウコト・・・デス」

 

炭治郎はとうとう観念し、白状してしまった。つまりは善逸と真次が察していた事、炭治郎とカナヲが一線を超えたという事実を知ったのだ。

 

「お前お前お前!一人超えやがってええええ!!コノヤロー!!しかもあのカナヲちゃんとだとー!!長男の我慢はどうしたんだよおおおお!?とんでもねえ炭治郎だ!」 

 

「It's too sweet(甘すぎる)・・・この二人のは虫歯になりそうだ」

 

「お前もカッコつけて異国語使うのやめろよおおお!!」

 

「??訳が分からねえ」

 

「うっせーな!出ちまうんだから仕方ねえだろ!それで、どうでした?」

 

「アマクテ・・・ヤワラカクテ・・・カワイカッタ・・・デス」

 

炭治郎は真っ赤にながら一線を超えてしまった事を白状し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

善逸の暴走の余波は真次に向かってきていた。炭治郎はさんざん善逸に揺さぶられヘロヘロになっていたが、持ち直すと矛先を変えてきた。

 

「俺は白状したけど、伊之助からもそういう匂いがするよ?」

 

「!ふ、ふん、俺はそんなことはねえからな!」

 

「伊之助は確かアオイだっけ?世話焼き女房って感じだものな」

 

「そうそう、なんだかんだで仲良いよねー」

 

伊之助とアオイの仲は周知の事実だ。お互いに気づいてないようで気づいている、そんなニヤニヤしてしまう関係だ。

 

「アイツのメシはうめえからな!」

 

「ご飯作りがうまいっていうのは良いよな」

 

「うん、俺もそう思う」

 

「Me too(俺もだ)」

 

「だから異国語はやめろっての!!」

 

わいわいと騒いでいたが、またもや真次は爆弾を落としてきた。それも特大級だ。

 

「そういえば、配膳を手伝ってる時にアオイの首筋辺りに噛まれた跡があったんだよな。それも、動物じゃない・・人間の歯の痕」

 

「「え”!?」」

 

「・・・・(ダラダラ)」

 

「聞いたら顔を真っ赤にしてたし・・・なんでもないって言ってたなぁ?」

 

「・・・ナンノコト・・・オレ・・・ヨク、シラナイ」

 

「Brothers(兄弟)・・伊之助を取り押さえろ!うつ伏せにしてな!」

 

「わかったあああ!」

 

「ええー!でも、気になるからごめん!!」

 

伊之助は善逸と炭治郎にうつぶせになるよう押さえつけられ、真次は珍しく着込んでいる衣服に手をかける。抜け出そうにも押さえ込んでいる二人の力がいつになく強い。

 

「は、離せ!」

 

「どうも珍しいと思ってたんだよ・・・伊之助が上着を着込んでるなんて」

 

「お、俺だって服を着る時ぐらいあるぞ!特に今は!!」

 

「はいはい、じゃあ・・証拠を押さえましょうか」

 

真次は伊之助の背中を露わにさせた。そこには爪で引っかかれたような傷跡が残っている。

 

「伊之助・・・この背中の傷・・・どうしたの?」

 

「まさか・・まさかだよねぇ・・・!?」

 

「く・・く・・・クマと戦ったんだよ!」

 

「へぇ・・・でもこれ、人間の爪の跡・・・だよなぁ?」

 

「(ギクッ!)」

 

「そういえばアオイさんと顔を合わせた時に・・・俺が一緒に朝帰りしてきた時のカナヲと同じ匂いがしてた時があった・・・初めて嗅いだ不思議な匂いだったから覚えてる」

 

「(ギクッギクッ!!)」

 

「それに、この爪の跡って・・・下から抱き締められないとつかない位置に有るな」

 

「(ギクッギクッギクッ!!)」

 

「おおお・・・おおおおお前えええええええ!!」

 

「観念するべきじゃないか?い・の・す・け?」

 

「ハイ・・・・ソウデス・・・コエテマシタ」

 

「お前もかよおおおお!!!なんでこんなに一線超えてる奴がおおおいいのおおお!?」

 

「それで、感想は?」

 

「ヤワラカクテ・・・ハナシテクレナクテ・・・・スゴカッタ・・・デス」

 

「Thank you for your treat・・・・(ご馳走様)」

 

「異国語で誤魔化すなあああああ!!!」

 

真次はやれやれと目頭を押さえながら首を振った。善逸はまたまた暴走モードに入ってしまい、暴れそうになっている。

 

 

 

 

「善逸は無いにしても、真次はどうなの?」

 

「さりげなく言ってるけど!それ、ひどくない!?事実だけどさ!!」

 

「え・・・俺?」

 

「そうだぞ!お前、しのぶとどうなんだよ!!」

 

そう、真次にも相手が居る。『柱』であり蝶屋敷の主である胡蝶しのぶだ。

 

「俺はその・・・まだ」

 

「え?」

 

「まだなのか!?」

 

「嘘ぉ!?」

 

三人は驚きを隠せなかった。この四人の中で最も先に一線を超えていると思っていたからだ。

 

「な、なんだよ!?そんなに意外か!?」

 

「意外」

 

「意外だな」

 

「意外だよ」

 

「お前ら・・・・」

 

そう、こんな態度なのには理由がある。蝶屋敷に行く度に真次としのぶのイチャつきを見せ付けられるのだ。

 

イチャつきと言っても休憩時間の時だけだが、仕事の反動か甘い空気がものすごいのだ。

 

「やっぱり落ち着きますね・・・」

 

「人に寄りかかっておいてそれか?」

 

「今は休憩中です。それに寄りかかりやすいんですから仕方ないでしょう?」

 

「なら、好きにしろ」

 

と、こんな感じなのである。互いに素っ気ないようで想い合っており程よい距離感を保っているのだが・・・。

 

「(どうしてあの二人は・・・いつも)」

 

「(姉さん・・・・早く結婚すればいいのに)」

 

「「「(やっぱりお似合いですねぇ・・・!!)」」」

 

蝶屋敷の面々はこんな心境である。想い人と一線を超えた二人は余裕が出てきたのか、余り不快ではないようだ、

 

 

 

 

 

「てっきり超えてると思ってたんだけどね」

 

「すぐにでも超えちまえよ、簡単だぞ!」

 

「でも、今の真次にそんな勇気あるかな・・・?」

 

「・・・」

 

真次は俯いていたが、顔を上げるとものすごく笑顔になっていた。それと同時にものすごい怒りのオーラを含みながら。

 

「お前ら・・・覚悟しろよ?」

 

その日の夜は追いかけっことなってしまい。三人が寝た後、真次は一人思い返していた。

 

「・・・・アレがあってからなぁ」

 

それは『新柱』と『柱』で飲み会をした時の事であった。それぞれ、妻を娶ったなどの話題が尽きることはなかった。

 

「煉獄さんも、とうとう新婚さんですかぁ・・・」

 

「うむ!!火弥は母上に似て、強く優しい女性だ!」

 

「自分の母親と似たような人を妻にするってよく聞きますけどね」

 

「そうだな!」

 

炭治郎と杏寿郎は話題が尽きない様子であり、それぞれが賑やかに話している。

 

「はぁ・・・・・I got a little drunk(少し酔ったな)」

 

「相変わらず、一人で飲んでるんですか?」

 

「ん?強引に付き合わされるからな。俺は俺なりで楽しんでるよ。って、おい」

 

しのぶからお酌されてしまい、真次は素直にそれを飲む。しのぶは相変わらず笑みを浮かべたままだ。

 

「・・・・俺、少し酔い気味なんだが?」

 

「ふふっ、お酒に飲まれる人じゃないでしょう?」

 

そんな二人を眺めているメンバー達もいる。どうしてあの二人はあのままなのかと。

 

「派手に娶っちまえばいいのによ。周りは解りきってんのに」

 

「そうだな」

 

「進展してるようで、して無いからね・・・」

 

「異国語使って派手に伊達男やってんなら、サッサとしろってんだ」

 

飲み会後、真次は深酔いしてしまっていた。意識は混濁していないが千鳥足の状態だ。

 

「しの~ぶ~こんな・・・のませやはへ~!」

 

「ああ、失敗しましたね・・・蝶屋敷までもうすぐですから」

 

蝶屋敷の客間に入り、真次を降ろすがその手を真次が掴んでいた。

 

「しのぶ・・・」

 

「え?ちょっと、悪ふざけは止めてください」

 

引き寄せられたと同時に真空でしのぶの唇が僅かに切れてしまう。それすらも酔った真次には妖艶に見えている。

 

「その血・・・綺麗だな」

 

「っ!?ダメッ!!」

 

「うぐっ!?」

 

真次は突き飛ばされ、しのぶ自身もそんなつもりはないといった表情をしている。

 

「あ・・・・そ、その!酔いを冷ましてください!お水持ってきます!」

 

「っ・・・」

 

しばらくして、水が入った湯呑が乗ったお盆を手にしのぶが戻ってきた。外の空気に当たっていたおかげで真次も酔いが冷め始めており、水を口にする。

 

「すみません、先程は」

 

「いや、俺も軽率だった。まだ酔いはあるがもうしない」

 

「違うんです」

 

「?」

 

「私の血は・・毒なんです」

 

「毒?」

 

「はい」

 

しのぶの口から語られたのは衝撃的な事だった。藤の花の毒を長い月日をかけて摂取し続けていたというものだ。今やその敵もいなくなり、摂取する必要はないのだが、体が毒を欲しがる体質になってしまっているそうだ。

 

「そんなことを・・・」

 

「姉の仇を取るために決断した事でしたから・・・」

 

「っ・・・」

 

「だから気にしないでくだ・・・・!?ま、真次さん!?」

 

真次はしのぶを抱きしめていた。このような態度をとり続ける裏にはそんな事があったのかと。

 

「俺は・・・・俺は貴女を誤解していた。俺は・・・」

 

「・・・・」

 

こんな時の彼を知っている。追い込まれてどうしようもなくなった時に出てくる素の彼だ。

 

「誤解されても仕方ない事をしてましたからね。けれど、まだまだ未熟ですよ」

 

「っ・・・」

 

「私が貴方を想うように、貴方も私を想うならすべてを受け入れられますか?この毒の塊の私を」

 

酔いが冷めかけ、思考が少し戻ってくる。しのぶの光のない瞳がまっすぐにこちらを見てくる。

 

「俺はもう受け入れられる・・だから・・・・」

 

「真次さん?」

 

「すぅ・・・・すぅ・・・」

 

「寝ちゃったんですか?もう、仕方ない人・・・」

 

眠ってしまった真次から抜け出すとしのぶは彼の寝顔を見つめる。伊達男を気取っていても自分とそう変わらない年相応の寝顔だ。

 

「娶ってくださいね、待ってますから」

 

真次に軽くキスした後、しのぶは出て行った。彼が起きていてドギマギしていたとは知る由もない。




次は・・・次は・・・・どうしよう。


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短命の蝶と時短の五行・前半

前半は前世、後半は来世となります。

※前世の真次は痣者、しのぶは毒の影響で寿命が短い設定です。

※宇髄さん、元々イケメンなのに更にイケメンな看取り役


最終決戦とも言える戦いを制し、生き残れた者は生き残り次代へ繋ぐことを決心し、それぞれが生き始めていた。

 

「二十五歳を待たずに死ぬ・・か」

 

彼、神威真次は自分の両腕と両肩、胸元にある痣を改めて見る。龍、虎、鳥、亀蛇、馬の一部という特異な痣が発現していた。五行に対応している神獣達を模したのだろう。

 

「俺は今18・・・後二年か?六年か?いずれにせよ。悔いのない生き方をしねえとな・・・となれば行動は一つだな」

 

真次は目的地である屋敷へと歩き出していった。その頃、蝶屋敷でも似たような出来事が起こっていた。

 

「っ・・ゴホッ!ゴホッ!いよいよ、来てしまいましたか・・・」

 

しのぶは咳き込む口を押さえ、自分の掌に付いた血を見て苦笑する。仇を取るためと自分の身体を毒の塊にしていた代償が来てしまったのだ。

 

「私も永くはないでしょうね・・・」

 

感傷に耽っていると入口の方が騒がしい、誰かが来たのだろう。しのぶは手についた血を隠すように拭き取ると部屋の扉を開け、屋敷の玄関へと向かう。そこには真次がおり、しのぶは驚きを隠せなかった。

 

「よう、しのぶ」

 

「どうしたのですか?ケガも病気もしている訳じゃないですよね?」

 

「悪いが俺を此処で雇ってくれないか?」

 

「はい?」

 

余りにも意外過ぎる言葉に全員が呆気にとられている。理由がありそうなのを察するとしのぶは全員を居間に集め、お茶を出した。

 

「真次さん、いきなり雇ってくれとはどういう事ですか?」

 

「ああ、その理由はな」

 

「ちょっと、いきなり服を脱がないで!」

 

「違う、ちゃんと見てくれ」

 

「?それは・・・!?」

 

蝶屋敷の面々が真次の上半身に釘付けになる。両腕、両肩、胸元に痣が発現していたからだ。決戦の折、話に聞いていた痣者が今、目の前にいるのだ。

 

「あの時の戦いで発現した痣だ。これの影響で二十五歳まで生きられるか分からねえんだとよ」

 

衣服を着直しながら真次は平然と答える。その言葉に真っ先に反応したのがカナヲであった。

 

「二十五歳まで?」

 

「ああ、そうだ。アイツも同じかもしれないな・・・俺以上かも知れない」

 

「出かけてきます・・・」

 

そう言うとカナヲは屋敷を飛び出していってしまった。二人は目的が分かっている為に止めなかった。

 

「変わったな・・・カナヲの奴」

 

「本当に変わりましたよ。お話を戻しますが、今この蝶屋敷に雇う事なんて」

 

「力仕事と料理ぐらいはできるぞ?俺。ずっと一人暮らしだったからな」

 

しのぶはキョトンとした後にクスクスと笑い始めた。真次の意外な特技につい笑ってしまったのだ。

 

「あ、意外すぎるって思ったろ!?」

 

「ごめんなさい、想像出来なくて・・フフフ・・・っ!」

 

「しのぶ?」

 

「・・・何でもありません、真次さんはこの後、私の部屋に来てくれますか?」

 

「ああ、分かった(真次さん、か)」

 

その後、解散となり真次はしのぶの部屋へと趣いた。様子が変だったのは見抜いていたがあの場で言う事もないと思っていた。

 

「しのぶ?返事がないな・・・扉が空いてる?しのぶ来たぞ?何やっ・・!?」

 

「ゴホッ!ゴホッ!・・・ゴホッ!ゴフッ!!」

 

「しのぶ!?おい、どうしたんだよ!吐血してるぞ!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫、です」

 

「大丈夫じゃねえだろう!」

 

「本当に大丈夫・・・忘れたんです・・か?」

 

真次はしのぶの弱々しい言葉と笑みでハッとした。まさかとは思わずにはいられないが、それしか原因がありえない。

 

「まさか・・・高濃度の藤の花の毒か?」

 

「そうです・・・その副作用が出てきてしまったんです。貴方の痣と似たようなもの・・・ですね」

 

「・・・言っていたものな?どんな副作用があるかわからない・・と」

 

「はい・・・こんな形で出てくるとは思いませんでしたけど」

 

しのぶは傍にあった紙で吐血した自分の口元を拭った。いつもの張り付いた笑顔が弱々しく見えるのは気のせいではない。

 

「しのぶ・・・お前の残った時間を俺にくれないか?」

 

「え・・・?」

 

「俺も残り時間は少ない・・・・後悔の無いように生きたい。しのぶとの時間を多く刻みたい・・!ダメか?」

 

告白ともとれる真次の言葉にしのぶは自分を戒めるように唇をキュッと結び、言葉を発した。

 

「今の私は・・・いつ死ぬか、分からないんですよ?貴方よりも早いかもしれません・・」

 

「知っている・・」

 

「私は怒りっぽいんですよ・・・?当り散らすかもしれません」

 

「分かっている・・・」

 

「私・・・私、本当は死にたくない・・・!」

 

「しのぶ・・っと!?」

 

しのぶは真次に突進し、彼はそれを受け止めた。しのぶの目には涙が浮かんでいるのが感じ取れる。

 

「私だって女の子よ!?姉さんが言ったように好きな人と一生を添い遂げたいよ!一緒に歳を重ねていきたいよ!」

 

これが本当の『胡蝶しのぶ』の素なのだ。真次はそれを『なんとなく』感じ取っていた。この痣が発現してから『勘』が冴えてしまっている。この勝気な口調、鬼に対する憎悪、姉妹に対する優しさなど全てが感じ取れる。

 

「・・・・」

 

「貴方はこんな私でいいの!?毒の塊になった、女らしさなんてない!こんな私で!」

 

「それでもいい・・・俺はしのぶと残された時間を共有したい・・・」

 

「う・・ううっ・・・うぁああああっ・・・ああああああ!」

 

その日から、真次としのぶは日常生活や旅行を楽しむようになった。アオイにばかり任せていた料理や洗濯も行うようになり、そして四年の月日が流れた。

 

 

 

 

 

「どうやら・・・先に・・逝く事になるみたいだ」

 

「ええ・・・分かっていますよ」

 

しのぶは病室の寝台で横になっている真次の手を握っていた。真次の命は尽きかけている。それを止める方法はない。

 

「教えたのか?アイツ等にお前の事は・・・・」

 

「ええ、教えました・・・・いずれ、私も貴方と同じ所に逝きます・・・」

 

「済まなかったな・・・婚姻も挙げられなくて・・・」

 

「良いんですよ。側にいてくれただけで・・・・嬉しかったです」

 

「この生が前世となるなら・・・来世でもまた会いたいな・・・しのぶに」

 

「ふふ・・・今度は夫婦になれるといいですね・・・ゴフッ!」

 

「Thank you(ありがとう)・・・しのぶ・・・・来世で・・・な」

 

そう言い残し、真次は事切れた。最後の最後まで彼女の事を気にかけ続けてくれた人が。

 

「っ・・・私も・・・もうすぐですから・・・」

 

真次が逝ったと同時に・・・彼を知っている人間達、全員に知らせた。その死を惜しむ者、悲しむ者など沢山いる。親友であった人間、慕っていた人間も彼の最期に立ち合ってくれた。

 

その数年後、しのぶの身体にも限界が来ていた。咳込みと吐血が多くなり歩く事はできるが、腕に力が入らなくなってきている。

 

「しのぶ様・・・」

 

「しのぶ姉さん・・・」

 

「二人共、あの人の所へ連れて行ってくれますか?」

 

「でも・・・!」

 

「なら、俺が連れて行ってやろうか?」

 

「音柱さま・・・!?」

 

「宇髄さん?・・・っ!ゴフッ!ゲホッ!ゲホッ!!」

 

そこに現れたのは元・『柱』である宇髄天元であった。三人の妻もその後ろに控えている。冷静に咳き込んで吐血しているしのぶの状態を見て先が長くない事を見抜いた。忍という特殊な生まれ出の知識がそうさせたのだ。

 

「胡蝶、お前・・・長くねえだろ?その様子だと持って半日ってところか」

 

「・・・今、それを言いますか?」

 

「性分でな・・・おい、コイツを支えてやれ!」

 

宇髄の三人の妻である須磨、まきを、雛鶴の三人がしのぶを支えた。虫の知らせというもので宇髄は薬をもらうという名目で蝶屋敷を訪れていたのだ。

 

「ひどい熱です・・・」

 

「本当なら横になってなきゃいけないのに・・・」

 

「何処へ行くんですか?天元様」

 

「コイツの想い人が眠ってる所だよ」

 

しのぶは支えられながら、墓地へと赴く。そこには花が供えられ、食物なども置いてある墓があった。

 

「おい、お前の想い人・・・連れてきてやったぜ」

 

「花が・・・こんなにも」

 

「お供え物まで・・・」

 

「随分と好かれてたんだね・・・この子」

 

須磨、まきを、雛鶴の三人は彼、真次の墓を見て驚く。これほどまでに花に埋もれたのを見た事がないからだ。

 

「派手な生き様だったからな・・・・コイツも」

 

しのぶは連れてきてもらった目的の場所にたどり着くと弱々しい足取りで、一歩一歩近づいていく。

 

「ああ・・・やっと・・・やっと眠れます・・・貴方の・・・・で」

 

しのぶは腕を伸ばしている真次と姉であるカナエの姿が見えていた。彼らの会話が聞こえてくるようで・・。

 

「しのぶを娶るだなんて、貴方が私の義弟になるって事よね~?」

 

「まぁ、そうなりますね。お義姉さん」

 

「ね、姉さん!!もう!!真次さんもそういうのに乗らないでください!!」

 

しのぶは真次の墓石に微笑んだ姿で寄りかかると、眠るように逝った。連れてきた四人はそのまま看取る形になってしまった。

 

「天元様・・・この子・・・」

 

「ああ、死んだな・・・それも派手に・・幸せそうに逝きやがった」

 

「・・・どうしますか?」

 

「とりあえず・・・報告しなきゃあな。蝶屋敷に」

 

「私が・・運びますね」

 

しのぶの遺体と共に戻るとしのぶが亡くなったと伝えカナヲ、アオイ、蝶屋敷の女の子たち全員がショックを受けていたが、宇髄がしのぶは幸せそうに逝ったと告げると泣きながら納得した表情を見せた。

 

「音柱様・・しのぶ様の最後の望みを叶えて下さってありがとうございます・・・」

 

「大した事じゃねえさ・・・知り合いが死ぬってのは慣れねえもんだな・・・お互いに」

 

アオイが代表して挨拶し、宇髄も寂しそうな表情を浮かべながら上を向いて自分の髪をクシャりと握る。

 

「・・後はお前らで看取ってやれ。現役の時は悪かったな」

 

「いえ、本当にありがとうございました」

 

宇髄は背を向け、軽く手を振ると妻達と共に帰っていった。アオイとカナヲはそれを見送ると布団に寝かされたしのぶの遺体に近づく。

 

「しのぶ様・・・」

 

「しのぶ姉さん・・・」

 

改めて見ると本当に眠っているようで表情は幸せそうで微笑んでいる。だが、少し青白い印象を受けてしまう。

 

「カナヲ・・・化粧道具、持ってきて。私の部屋にあるから」

 

「うん・・・」

 

「アオイ様、カナヲ様!私たちも!」

 

「お手伝い!」

 

「します!」

 

「うん、お願い」

 

寺内きよ、中原すみ、高田なほの三人も自分に出来ることを手伝い始めた。しのぶの身体を綺麗にし、新しい着物に着替えさせ、髪を梳き纏めると蝶の髪飾りを丁寧に付ける。

 

微笑みを浮かべたままのしのぶの顔に下地を塗り、化粧を施し最期に紅を筆で唇を美しく仕上げた。

 

「しのぶ様・・・綺麗ですよ」

 

「うん・・・本当に綺麗・・・姉さん」

 

「しのぶ様ぁ・・・」

 

「お綺麗ですぅ・・・」

 

「本当にぃ・・・うわああああん!」

 

高田なほが堪えきれずに泣き出してしまい、全員が泣き出してしまう。全員の姉が亡くなったのだ、ここまで堪えていた事は褒めるべきだろう。

 

蝶屋敷の面々はしのぶとの別れを惜しみながら、その夜を過ごしたのだった。




前編、後編に分けます。

漫画だったらきっとシーンが良いんだろうなぁ・・漫画描けませんが゚(ToT)

※この後、またアンケートを出します!


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短命の蝶と時短の五行・後編

後編・来世編です。

※キメツ学園要素有りですがエッセンス程度です。


朝日が窓から入って、目頭に当たる。その強さで彼女は目を覚ました。不思議な夢を見ていたが、もう慣れたものだ。

 

「しのぶ、起きたの~?」

 

「あ、はーい。今行きます!」

 

姉のカナエの声にハッとし階段を下りて洗面台に向かい、身支度を整える。

 

「姉さん、その・・・」

 

「また同じ夢?彼とは出会っていないのよね?」

 

「うん・・・」

 

この時代の胡蝶姉妹は『前世』を思い出していた。だが、二人にとって辛い記憶であり、思い出した時は発狂しそうになっていたが、今ではそれを乗り越えている。

 

「さ、早く出ましょう。遅刻しちゃうわ」

 

「姉さん、待って!」

 

二人はは女子高に通っていたのだが、時代の流れか共学になった歴史を聞かされていた。

 

だが、共学になったとはいえど元は女子高だ。その倍率は高く、教養と礼儀を弁えた男子しか入学を許可されなかった。

 

その、厳しさも緩んだ今の時代、一人の転校生が来ると話題になっていた。姉のカナエは残念がっていたが、しのぶは自分のクラスに来るとは思ってもみなかった。

 

「えー、今日は転校生がこのクラスにやってきます。男子ですが仲良くするように。どうぞ、入ってきてください」

 

教員が合図をすると一人の男子生徒が入ってくる。身長は平均よりも高め、髪型は男性の流行りを取り入れたものらしく、彼に似合っている。スポーツをやっているのか、身体は引き締まった印象を受ける。

 

「自己紹介をお願いします」

 

「神威真次です、よろしくお願いします」

 

「えっと、神威君の席は・・・胡蝶さんの隣が空いていますね。そこに座って下さい」

 

「はい」

 

席に座って隣同士になり、しのぶは自然と彼の顔を見ていた。彼はあの彼によく似ている・・・いや、似過ぎていた。

 

「よろしく、胡蝶さん」

 

「え、はい・・よろしくお願いします」

 

それからというもの、彼は部活に所属し勉学の成績も程々に学生生活を謳歌している。だが、しのぶは不安と不満が同時に自分の中で生まれていた。自分との約束、未だに思い出してくれない彼への。

 

その日から、自身が所属する部活の時間の隙を見ては彼が所属する部活を見に来ていた。

 

彼はバスケットボール部に所属し、実力の頭角を現し始めている。人気の部活なのだが、練習量がキツイ事でも有名なのだ。だが、彼は弱音を吐かず、練習が終わっても一人で個人練習を続けていた。今丁度、真次が個人練習をしている。

 

「っふ!・・・っ!」

 

U字に引かれているスリーポイントラインの外側から何度も何度も、彼はシュートを繰り返している。

 

もう、何本のシュートを打ち続けているのだろうか?真次の顔には汗が流れており、Tシャツで軽く拭うとまた何度も何度もシュートを続ける。

 

その直向きさにしのぶは見惚れていた。『前世』の彼もただ直向きに稽古をして強くなろうとしていた。形は違えど、その直向きさは変わっていない。

 

「っ・・・水、水」

 

休憩を決めていたのか、彼は走ってくると水道に近づき、蛇口を捻り勢いよく出た水に自分の頭を晒し始める。火照った頭が冷却されていき、心地よさが支配する。

 

「ふぅ~~~!」

 

髪を上げるような仕草をして水を切り、掛けてあったスポーツタオルで水分を拭き取る。水分も補給し練習へと戻ろうとする。

 

「あ、あの!もしも~し!」

 

「ん?あれ、胡蝶・・さん?ごめんごめん、練習に夢中で気付いてなかったな」

 

「下校時間、すぎていますよ?帰らないのですか?」

 

「あらま、もうそんな時間?ボール片付けたら帰るよ」

 

彼は自分が使用していたボールを磨き、片付けると制服に着替え、忘れ物がないように確認にすると体育館の扉を閉めた。

 

「さて、鍵は守衛さんに預けてきたし帰ろうかな」

 

「宜しければ、一緒に帰りませんか?」

 

「胡蝶さんと?確かに一人じゃ夜道は危ないし、良いよ」

 

「じゃあ、行きましょう」

 

二人は並んで下校する。しのぶはついつい、彼の横顔を見てしまう。こうして『前世』での任務の時、残り少ない時間を共有して歩いた時などを思い返してしまう。

 

「?」

 

視線を向けられると逸らしてしまう。今の彼は『前世』を知らない。『前世』で交わした約束なんて期待できない。

 

「あ、私・・こっちですので」

 

「そっか、じゃあまた明日」

 

「はい、また明日」

 

彼と別れ一人で歩き出すしのぶ、彼女の中に急激な寂しさが胸の中に溢れる。自宅に帰れば暖かな家に最愛の姉、両親が待ってくれている。だが、家族では癒せない別の孤独感が胸の中を走っている。

 

「未練・・・なのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「胡蝶さん・・・か」

 

去っていった後ろ姿を見送った後、俺はどうしようもない喪失感に苛まれた。まるで大切な何かが欠けてしまった。パズルを完成させるために必要なピースが足りなくて、もどかしくなるあの感じだ。

 

「なんでだろうな・・・」

 

歩きながら考える。だが、転校してきたばかりで彼女との接点は無いに等しい。別の学校にいる友人達に相談してみるか?いや、多分・・冷やかされるからやめておこう。

 

「だけど、この寂しさ・・・すごく残る」

 

数日経って朝練したり、勉強したり、部活をしたりしても胡蝶さんの顔が浮かんでばかりだ。笑顔なんだけど笑顔じゃない・・言うなれば寂しそうな笑顔といったほうがいいのかもしれない。

 

「今日はありがたい事に部活も無し・・・屋上にでも行こうかな」

 

真次は屋上来ると寝転がって雲を見る。流れている雲は時間の経過と物事は停滞していないという無常を教えてくれているかのようだ。

 

「俺・・・なにか繋がりがあったのかな」

 

 

 

 

 

屋上へ行っているとは知らず、しのぶは真次を探していた。教室には居らず、部活も休みだそうで帰宅した形跡もない。

 

「あの、神威君がどこへ行ったか知りませんか?」

 

「神威?ああ、階段上がっていったの見かけたから屋上に居るんじゃないかな。アイツ、屋上が好きらしいから」

 

「ありがとうございます」

 

しのぶは行き先を聞くとその場を離れ、屋上へと向かう。その間、生徒達の話し声が聞こえる。

 

「神威君、バスケ部のレギュラーになるって話らしいよ」

 

「すごーい、レギュラーになるの難しいのに」

 

「噂だと、胡蝶さんと良い仲なんだって!」

 

「えー、あの胡蝶さんと!?」

 

女子生徒の噂も男子生徒の噂も耳に入ってくる。良い噂だけではなく、悪い噂もだ。

 

「神威って奴、バスケ部のレギュラーになるらしいぜ」

 

「転校してすぐかよ、気に入らねえ」

 

「それに胡蝶さんとも仲が良いしな」

 

「胡蝶さんと!?マジかよ、俺、告ろうと思ってたのに」

 

「お前じゃ無理無理」

 

そんな会話が流れる廊下を抜けて、階段を上がり屋上へと出る。空を見上げるように寝転がっている彼がいた。

 

「もしもし、起きてますか―?」

 

ああ、この声の掛け方・・幾度となく仲間や彼、鬼とした私だけの挨拶。

 

「胡・・・蝶さん?」

 

一瞬だけ、俺の視界に誰かがダブついて見えた。胡蝶さんと同じ顔、同じ髪飾り、同じ髪型、それなのに全く知らない胡蝶さんだった。

 

「屋上はお昼以外、立ち入り禁止ですよ」

 

「空を見てるだけだから悪い事はしてませんよ」

 

敬語を使われるだけで他人行儀な彼の態度に、しのぶの胸にチクリと痛みが走る。ああ、彼は本当に思い出していない。

 

「よっ・・と」

 

起き上がる時まで同じ、何度も何度も今の時代では失った屋敷でやっていた行動だ。いつも私はそれを見ていた。

 

「あの、お昼・・・一緒にどうですか?」

 

「え?良いよ」

 

その昼、話題が尽きる事はなかった。食事をしながら、自分の友人や勉学、部活などの話題などなど話が尽きなかった。

 

「試合の時は応援に行きますね」

 

「うん、ありがとう。さてと・・・帰ろうか?胡蝶さん」

 

『帰ろう、しのぶ。俺達の屋敷に』

 

「!!」

 

「?胡蝶さん?」

 

「い、いえ・・なんでもありません」

 

しのぶも『前世』の彼と目の前にいる彼をダブつかせてしまった。ただ、一緒に居ただけで嬉しかった。だが、今の自分は『毒の塊』ではない、ただ一人の『女』だ。だからこそ、余計に辛い。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ラインの友人グループの三人に報告する事にした。真次に女友達が出来たのかと喜ばれたが、相手が胡蝶しのぶだと伝えると既読スルーになってしまった。

 

「あれ?なんだよ、もう・・・」

 

ベッドの上でバスケットボールのボールを弄びながら考える。最近知り合ったばかりなのに妙に気になる胡蝶しのぶという女性。頭から焼き付いて離れない、学校の花壇で彼女が花の世話をしていた時、手にとまった蝶を優しく見つめている姿を目撃した時は見惚れてしまうと同時に頭痛がしたのを思い出す。

 

「何かを思い出そうとすると頭痛がするって、聞いた事あるけどそうなのかな?」

 

時々、あの人を見てると頭痛がして何かの記憶のようなものを見る時がある。

 

「っ!?また・・来た」

 

頭痛と同時にまた映像のようなものが浮かび上がる。一体これは誰の記憶なんだ?と真次は思う。

 

『アオイー!洗濯物終わったぞー!』

 

『あ、はーい!真次さん、食事の仕込みをしといて頂けますか?』

 

『おう、任しとけ』

 

『~~♪っと!?しのぶか、どうした?』

 

『今日も作ってくれるんですね』

 

『ああ、ちゃんとな』

 

俺のようで俺じゃない人が包丁を手に料理していると胡蝶さんに似た誰かに抱きつかれ、そこで映像が途切れた。これは一体何だ?知っているようで知らない胡蝶さんの姿・・・。頭痛が激しくなってくる思い出せと訴えられているようだ。

 

「うう・・・風邪なのかな?分からないな」

 

 

 

 

 

翌日、真次は頭痛が酷く学校を休んだ。熱はないし風邪を引いた感じでもない。だが、今日に限って頭痛がものすごくひどい。

 

「ううっ!痛い!頭が割れそうだ!!」

 

喉が渇き、水でも飲もうと起き上がって壁に手を着き、階段を降りる。コップを戸棚から取り出して水を飲む、一息つくとまた頭痛が起こる。

 

『はい、お水です。今はしっかり休んでくださいね』

 

「誰なんだ・・・誰なんだよ!一体!!」

 

自室に戻ると倒れこむようにベッドへ入り込む。分からない、誰なんだ?どうしてこんなにも頭が痛くなるんだと苛立っていると急に眠気に襲われ、真次は眠ってしまった。

 

その頃、胡蝶家では学校を休んでいた真次をしのぶは心配していた。目の前に出された紅茶も冷め切ってしまっている。

 

「彼の所に行ってきなさい、しのぶ」

 

「ね、姉さん!?」

 

いつもの穏やかな笑みを浮かべている様子はなく、真剣な目でカナエはしのぶを見ていた。向かい合うように椅子に座り、しのぶを見る。

 

「わかっているんでしょう?抑えようとしても抑えられない、そんな感じが漏れ出してるわ」

 

「・・・っ」

 

「お見舞いに行って来なさい、ご自宅は知ってるんでしょう?」

 

「うん、教えてもらったから」

 

「それと、これも・・・」

 

「!姉さん・・!?これ・・!!」

 

カナエはいつもの笑顔で微笑むとしのぶの手に握らせ、背中を押すように言葉を発した。

 

「大丈夫だから、ね?」

 

「!!」

 

しのぶはある程度、必要なものを持って外へと飛び出した。彼の自宅は学校での昼食時に教えてもらっている。目的地に着くとインターフォンを押す。

 

「はーい、あら?」

 

「あ、あの・・・神威君のお母様ですか?」

 

「ええ、もしかしてあの子のガールフレンド?隅に置けないわね、こんなにも可愛い子と仲良くなってたなんて・・!あの子なら今、部屋にいるわよ。お見舞いに来てくれたのよね?上がって上がって」

 

「は、はい。お邪魔します」

 

彼の母親に催促され、自宅に上がらせてもらうことになった。二階にいるとの事で階段を上り、部屋へとはいる。

 

「・・・すぅ」

 

「眠ってる?」

 

しのぶは音を立てないよう彼へと近づいていく。頭痛で苦しんでいたとは思えないほど安らかな寝顔だ。

 

「・・・・変わらないんですね。本当に」

 

「ん・・」

 

夢の中で真次は藤の花が咲き乱れている道を歩いていた。だが、夢だというのにリアルだ、優しい香りが自分の肺を満たしてくる。

 

「・・・ん?あれは」

 

「・・・・」

 

出口らしき場所に誰かが立っていた。それは男性のようで顔が上手く見えない、羽織のような物を羽織って腰には刀を差している。

 

「・・・しのぶを・・悲しませないでやってくれ」

 

「え?」

 

「お前は俺、俺はお前だ・・・アイツを今度こそ幸せに・・・」

 

「アンタ誰だ!一体、どういう事なん!?うわっ!」

 

真次は光に包まれ、現実に引き戻されていく。額に何か冷たいものが当たっているような感触を味わった。薄く目を開けるとしのぶが自分の手を額に添えていたのだ。

 

「胡蝶・・・さん?」

 

「!?ああ・・起きたんですね。学校を休んだって聞いてましたから」

 

「っ・・・・胡蝶さんの手、心地いい・・・」

 

「!」

 

そういえばこんな事もあった。彼が熱を出して、看病した時もこうして傍に居て欲しいと。真次も目覚めと同時に頭痛が再び襲って来る。物凄い痛みが襲っているわけではないが、少しずつ少しずつ締め上げられているような痛みだ。

 

「っ・・・ううう!」

 

「真次君!?」

 

「あ、頭が痛い!」

 

「ほら、ゆっくりと横になってください」

 

「うう・・・」

 

「体調が悪いなら、ちゃんと言うことを聞いてくださいね」

 

「っ・・・!?」

 

しのぶの笑顔と頭を撫でられた事で、真次はまた体験する。走馬灯とは違う記憶の中での体験を。

 

『しのぶ、ごめん・・・』

 

『これくらい構いませんよ。さて、私は戻り・・・?』

 

『悪いがしばらく・・・居てくれ』

 

『少しだけですよ?』

 

瞬間、真次にあらゆる記憶が流れ込んでくる。好いた女と共に過ごした時間、自分が置いていってしまった申し訳なさ、仇討ちから何かを守るために刀を取ったかつての自分、つまりは『前世』である。

 

「・・・・」

 

「真次君?」

 

「その呼び方・・・懐かしいな。しのぶ」

 

「!!!?」

 

「やっとだ・・・やっと思い出したよ。こんなに近くにいたのに思い出せなかったなんて」

 

ああ、この優しげな声。弱さすらも己の糧としようとする眼、目を覚ましたように彼は起き上がった。

 

「本当に・・・貴方なんですか?」

 

「来世でまた一緒にって・・・約束しただろ?」

 

「!!待たせ・・すぎです」

 

しのぶはそのまま真次に飛び込み、真次もそれを受け止め軽く抱きしめる。この優しさ、この温もりの面影、正しく彼だ・・・彼が戻ってきてくれたのだ。

 

「もう、鬼は居ないんだよな?」

 

「ええ」

 

「みんなが笑ってすごせる夜を、取り戻したんだよな」

 

「そうですよ・・」

 

「そっか・・・なら、やっとお前との時間を過ごせるな」

 

「本当ですね・・・やっと」

 

その言葉に顔を上げたしのぶと真次は引き込まれるように、顔を近づけていた。

 

「お待たせ~しのぶちゃん!飲み物を持ってき・・・」

 

「「!!」」

 

間が悪く、真次の母が部屋に入ってきてしまった。しのぶと抱き合って顔が近いとあれば察してしまうだろう。

 

「ま~さ~つ~ぐ~?女の子と何をしてるのかな?」

 

「か、母さん!これはその!!」

 

「問答無用!!話を聞かせなさ―――い!!」

 

それからというもの、真次の母は二人の関係を根掘り葉掘り聞いてきたのだ。無論『前世』に関しては伏せていたが、あまりに聞いてくるので二人は顔を真っ赤にながら話した。

 

「しのぶちゃん、今日はウチで夕飯食べていきなさいな」

 

「よろしいんですか?」

 

「良いのよ、それにしてもこんな良い子が真次とね~?」

 

「それは・・うう、家に連絡してきますね!」

 

しのぶはスマホを手に部屋を出て行ってしまった。流石にからかいすぎたかなと真次の母は笑みを見せる。

 

「母さん、からかい過ぎ」

 

「うふふ、けれど・・・貴方もそういう年齢になったのね・・」

 

いつもはおちゃらけている母の雰囲気が一変する。その目には何かを伝えないといけない凄みがあった。

 

「真次・・・」

 

「な、何?母さん」

 

「避妊はちゃんとするのよ☆」

 

「な、ななななななな何言ってんだよ!!母さん!!」

 

「はいはい、それじゃ夕飯作ってくるからね」

 

「くぅぅぅ・・・・」

 

そうだった。この人はいつも真剣な時でもふざけて返してくるんだった。でも、言っていることは正しいから納得せざるを得ない。

 

 

 

 

 

「うん、そう・・・真次君の家で夕飯をご馳走になるから」

 

『分かったわ、しのぶ。朝帰りはまだ早いからダメよ~?』

 

「何を言っているのよ!姉さん!!」

 

『ウフフ、それじゃ鍵はいつもの場所にあるからね』

 

「分かったわ、切るわね」

 

スマホの通話を切るアイコンをスライドさせ、通話を切る。姉から朝帰りはダメと言われたが意味を理解している分だけ顔が熱くなってしまう。

 

「切り替えていきましょう」

 

リビングに戻り、その日の夕食は楽しいものとなった。真次を熱っぽい視線で見ているしのぶをニヤニヤ顔で真次の母は見ており、父の方は「とうとう息子にも春が来たか!」と嬉しそうに笑っていた。

 

夕飯後、真次はしのぶを自宅へ送る為に一緒に歩いていた。お互いの手を離さないように握って。

 

「その、すまねえ・・・いつもあんな感じなんだよ」

 

「良いですよ、楽しかったですし」

 

「今は学生の身だが、しのぶ・・・」

 

「はい?」

 

「今度こそ、夫婦になろう・・・あの時に約束した通りに」

 

「そうですね、やっと私も女の幸せを掴めます」

 

しのぶを実家前まで送ると真次は繋いでいた手を離す。お互いに寂しくなるがそれは我慢しなければならない。

 

「それじゃ、また学校で」

 

「あ、待ってください」

 

真次が振り返るとしのぶは両手で真次の顔を引き寄せると軽く接吻をし、離れた。

 

「!し・・のぶ?」

 

「今の時代で言うなら、さっきのはファーストキスなんです。それじゃ」

 

真次は接吻された唇に触れた後、自分の自宅へと帰るため戻っていった。だが、胸の高鳴りが収まらない。

 

「っ・・・しのぶの奴、今度は俺からしてやる」

 

一方、しのぶはと言うと。

 

「っっっ・・・やっちゃたぁ・・・!」

 

素の自分に戻り、自室で悶絶していた。自分から接吻だなんて思い切った行動過ぎた。『前世』では出来なかった事をやって恥ずかしくなっていた。

 

「でも、もう二度と」

 

「けれど、もう二度と」

 

「離れません」

 

「離さないからな」

 

お互いに似た者同士のような言葉を空に向けていた。




大正コソコソ話。

実は真次の両親は胡蝶家とは仲良しでお父さんは学生時代からの親友同士、お母さんはママ友同士。

真次としのぶが部屋でイチャイチャしていた時に乱入してしまった際に(゚∀゚)キタコレ!!状態になっていたのを抑えていました。

お互いの両親は孫はまだかの状態です。


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愛に結ばれた蝶と愛に癒される五行

※もう何回目かのIF柱です。

※死亡キャラが生きています。

※今回は四人が結婚しています

(伊アオ、炭カナ ぜんねず、オリジナルで[真しの]となります)

※しのぶさんは身体の毒抜きが終わりかけているという設定です。

※温泉旅行に来ている設定です。飲酒シーンがありますが、飲める年齢になっています。真次は宇髄さんや煉獄さんと付き合える程の酒豪です。


竹筒から流れる程よく冷まされた源泉、そこに男性四人が浸かっている。それぞれが、癒されているようで、ため息を吐く。

 

「にしても、温泉旅行とはなぁ」

 

「ホント、宇髄さんには感謝しかないよ」

 

「けれど、条件が変だろうが!」

 

「だよなぁ、My daughter-in-law(自分の嫁さん)を連れて来いだものな。最近は鬼の残党の動きはないけどよ」

 

それぞれ、感謝はしているのが内心は複雑であった。なぜ、このような事になったのかというと数週間前に遡る。

 

「よう、お前ら」

 

「宇髄さん!」

 

「引退したのにどうしたんですか?」

 

「神威、お前・・・まぁいい。今日は旅行の誘いに来たんだよ」

 

「旅行?」

 

「おう、俺の嫁さん達とお前らとな」

 

いきなりの事に炭治郎と真次は首を傾げる。そこへ善逸と伊之助もやって来た。温泉旅行へ行く旨を告げると善逸は嬉しそうな表情に変わり、伊之助は不思議そうに首を傾げていた。

 

「旅行!?しかも温泉!?」

 

「温泉って・・・あの熱くて変な匂いのするお湯か?」

 

「表現としちゃあ、間違ってないがそうだな」

 

「へぇ、流石は派手さを司る祭り神!やる事が派手ですね!!」

 

その言葉に気を良くしたのか、宇髄は笑みを見せて真次の肩に腕を回した。

 

「の野郎、生意気になりやがって!」

 

「痛たたた!相変わらず強いですよ!」

 

「っと、そうだ。連れてくのには条件がある」

 

「条件ですか?」

 

「ああ、お前ら全員、嫁さん娶ってんだろ?」

 

「「「!!!?」」」」

 

「嫁さんを連れて来い、それが条件だ」

 

という事になったのだ。カナヲは炭治郎と一緒ならと即断、禰豆子も善逸とならと即決、アオイも伊之助の強引さに渋々承諾したが、その中で真次は苦戦だった。

 

「しのぶ、頼む!」

 

「うーん、けれど私まで居なくなったら治療が大変になってしまいますよ?」

 

「隊員の治療も大切だけど、お前自身の治療も大切だろ?」

 

「!気付いていたんですか?というよりも、気づかれて当然ですよね」

 

「一緒に仇を取った後、『なんとなく』な?」

 

「「「しのぶ様―――!!」」」

 

そんな会話をしていると寺内きよ、中原すみ、高田なほの三人がやって来た。恐らくは扉越しに盗み聞きしてしまったのだろう。

 

「しのぶ様達が留守の間は私達に任せてください!」

 

「アオイ様やしのぶ様、カナヲ様みたいには出来ないかもしれませんが!」

 

「私達だって蝶屋敷の一員です!!」

 

「貴女達・・・」

 

「こう言ってるんだし、Spoil it(甘えろよ)たまには」

 

「そうですね・・・留守を任せても良いですか?」

 

「「「はい!お任せ下さい!!」」」

 

こうして、しのぶの参加も決まったのだ。そんな中、親友四人組とその妻四人組はそれぞれ、男湯と女湯に分かれて温泉を堪能している。

 

 

 

 

 

 

「このお湯、傷に沁みやがるな」

 

「温泉の効能が傷に効いてんだ。Grown-up Tossing(大人しくしとけ)」

 

「真担!その訳の分からねえ言葉やめろっての!!」

 

「真次、異国語に染まってきてるなぁ」

 

「宇髄さん的に言うなら伊達男って奴を派手にやってるんだよ。これからは異国交流も大切になるだろうしな」

 

「お前ら、ちょっと静かにしろよ!!」

 

善逸の言葉で静かに湯に浸かることになり、ゆったりとする。宇髄は熱めの湯が苦手らしく、既に上がっている。三人の妻達もそれを知っているので、早めに入り上がっていた。

 

そんな中、隣から男性にとっては目に毒ならぬ耳に毒的な会話が展開されていた。

 

 

 

 

 

 

「あの・・・」

 

「どうしたの?禰豆子ちゃん」

 

「どうして蝶屋敷の皆さんはそんなに、お胸が大きんですか!?」

 

禰豆子の質問に女性陣は驚きつつ、苦笑する。どうやら、人間に戻った事で自分以上に魅力のある女性が気になっている様子だ。

 

「私は別に・・・大きさで言ったら、しのぶ姉さんの方が・・・」

 

「あらあら」

 

「そうですね。蝶屋敷の中でなら、しのぶ様が一番大きいです」

 

「大きさだけですけどね、それに肌の綺麗さなら禰豆子さんが一番ですよ」

 

「ええっ!?そんな事・・・」

 

「それだけじゃありません。カナヲは腰が細く、お尻も締まっていますしアオイだって身体の柔らかさが私以上です」

 

「ね、姉さん!」

 

「し、しのぶ様!私は全然そんな事!」

 

女性陣としては大した会話ではないのだが、男性陣からすればかなり耳に毒な会話だ。隣で聞いているが、全員黙っている。

 

「(しのぶ、お前ワザとか!?ワザとやってんのか!?)」

 

「(ヤバイヤバイ、禰豆子ちゃんがそんな会話してるだけで興奮がああああ!!)」

 

「(カナヲ・・・頼むからもう話さないでくれ・・・!)」

 

「(胸?アオイのは確かに柔らかいよな)」

 

その中で炭治郎が湯の中に沈みそうになっていたのを真次が助け出し、手頃な岩に座らせ足湯をしているような状態にさせた。

 

「そこにしばらく座って冷ませ、これ以上の興奮はお前にとってdanger(危険)だからな」

 

「うん、ありがとう・・・真次」

 

なんとか、炭治郎を救出したのも束の間、ますます危ない声が聞こえてくる。水がバシャバシャと聞こえるため、身体を動かしているのだろう。

 

「キャッ!?ね、姉さん!?何を・・あっ!んっ・・・」

 

「カナヲも大きくなっていませんか?」

 

「そ、それは・・・」

 

「し、しのぶ様・・!何をやって・・!きゃあんっ!?」

 

「アオイも少し大きくなって柔らかくなってますね」

 

「んんっ!しのぶ様・・・ダメ・・です」

 

なんと、しのぶがカナヲとアオイの胸の成長を確かめているのだ。だが、長くは続けずに確認するような形で終わらせている。

 

「あの・・えっと・・ひゃん!?」

 

「禰豆子さんも大きめですね。三人とも好いた相手に愛されているからでしょうか?」

 

「「「そ、それは・・・!!」」」

 

三人は顔を真っ赤にし、夫との情事を思い出して俯いてしまった。そう、アオイは伊之助から獣のように激しく求められつつ、自分からも求め合うことが多く。カナヲは炭治郎が望む形で求められるのを叶えている。禰豆子はお互いに気を遣うが、夫の普段とのギャップのせいで求め合うと止まらなくなってしまうのだ。

 

「そういう姉さんは・・どうなの?」

 

「え?」

 

「隙有りです!」

 

「!あんっ!?」

 

カナヲが気を引き、アオイがしのぶの胸を先程、しのぶからされたように確かめた。しかも揉む時間が長い。

 

「あ、アオイ・・もう、ダメ・・です・・から、ああんっ!」

 

「しのぶ様、大きいのに柔らかくなってる・・・これはもしかして?」

 

「姉さんも愛されてたんだ・・・私達の知らないところで」

 

「しのぶさん、同じ女性なのに声でドキドキします」

 

向かい側では男性陣、特に善逸と炭治郎が鼻血を出しており、真次は善逸を炭治郎の隣に座らせ、救出しているが自身も想い人の色っぽい声を聞かされ、興奮している。

 

「も、もう・・・ダメかも・・・」

 

「(ブフッ!!)ね、禰豆子ちゃぁん・・あんなに可愛くて色っぽい声を・・・」

 

「おいおい、二人共・・大丈夫か?(俺もしのぶの声で興奮はしてるけど)」

 

「アオイ!揉んでんのか!?しのぶのを!!」

 

「バッ!伊之助!!声がでけぇっての!!」

 

「あらあら~?盗み聞きですか―!?」

 

伊之助を咎めるがしのぶからの返答が来てしまった、それ以前に親友二人がのぼせかけている。その様子を見て真次は善逸に肩を貸した。

 

「伊之助出よう、炭治郎を頼む」

 

「おう、分かった」

 

これ以上は危険と判断し、伊之助は炭治郎に真次は善逸に肩を貸して風呂場から出て行った。浴衣を着てのぼせかけた二人に真次は冷水の入った湯呑を持ってきて、二人へ渡した。

 

「あれ以上入ってたらヤバかったな?二人共、本気で大丈夫か?」

 

「あ、ありが・・・とう・・・本当に」

 

「今回ばかりは・・・本気で助かった・・・」

 

「だらしねえな、たかが女の声で」

 

「伊之助、俺も人の事を言えないが・・・前が膨らんでるからな?」

 

「なっ・・言うんじゃねえ!!」

 

のぼせかけた二人はそうでもないが、真次と伊之助は想い人の色っぽい声を聞いた為に、自分の分身が元気になってしまっている。それが収まるまで水を飲んだりして収まるのを待っているのだ。

 

「この後は飯食って、宇髄さんと男同士の宴会だったな」

 

「お?酒が飲めるのか!?」

 

「ほどほどにな?お前ら、酒にあまり強くないんだから」

 

「お前が・・・強すぎるんだって・・・」

 

「善逸の・・言う通りだよ・・・真次」

 

三人がこういう発言をするのには理由がある。親友である三人で飲んだ時、三人が潰れた中で真次だけが平然と飲み続けていたからだ。『柱』の飲み会の時もあの煉獄杏寿郎と最後まで一緒に飲んでいた程の酒豪なのだ。

 

その後、食事を済ませ男同士が集まり宴会となった。特に酒のツマミになったのは自分達の嫁の話題であった。三人の嫁を娶っている宇髄から始まり、最後は真次の話題となっている。宇髄と真次はにお互いに御猪口に入った酒をハイペースで飲んでいるが酔っている様子がない。伊之助、炭治郎、善逸は顔が真っ赤で完全に酔っ払っていた。

 

「で、お前はどうやってアイツを口説いたんだ?」

 

「はい?」

 

「恍けるなよぉぉぉ!!お前がこの中で唯一『柱』を嫁にしてるじゃないかあああ!」

 

「あ―、そういえばそうだったな。Sorry(すまねえ)」

 

「異国語で誤魔化すなってのおおおお!!!」

 

「それで、しのぶさんと仲が良いのは匂いでも知ってたけど、俺も詳しく知りたい!!」

 

「そうだぜ!俺にも聞かせろ!!」

 

「わかったわかった」

 

真次はしのぶを口説き娶る事になったいきさつを話し始めた。仇であった鬼にしのぶが殺されそうになって、それを救出してからが始まりだった事。二人で時間を過ごしている中、しのぶの[本当の笑顔]を見たくなった事、『新柱』になってからしのぶが鬼の残党に捕まった事を救出、自分から告白した事などを酒の力を借りて全て話した。

 

「なるほどな・・・・そりゃあ惚れられるわな。俺と似てやがる」

 

「真次って、よく無茶するけど・・・しのぶさんの為だったんだ」

 

「ああああああ!なにその惚気!!ドラマチック過ぎて羨ましいんですけどおおおお!!」

 

「助けてたのかよ・・・通りでか!!」

 

また、酒を飲み始め深酒になると今度は三人が嫁自慢を始めてきた。宇髄と真次はその様子を頬杖を付きながら、酒を飲み飲み見ている。

 

「ねぇぇずこちゃんはぁぁ・・・気立てはいいし・・優しくて・・・俺の為に頑張りましたっていってくれるんだよォォ・・・俺の奥さんですからねぇ」

 

「カナヲは・・・それはもう可愛いんだ・・慣れない山を登って山菜を取ってきたり、必死になっているところが愛らしいんだ・・・」

 

「アオイはもう飯が美味え・・!それにな・・・美味しいですか?って聞いてくるからよぉ・・・美味いって答えてやると笑ってくれんだ・・・その顔を見ると・・・すっげえホワホワしてくんだぜ・・・」

 

「お前ら、潰れてんのか自慢したいのか・・・どっちかにしろよな」

 

「How much love do you have・・・(どれだけ惚気てんだか)やれやれ・・・」

 

「あぁ?今、なんつったんだ?異国語で」

 

「どれだけ惚気てんだか、って言ったんですよ」

 

真次は御猪口の中身を空にすると手酌で酒を注ぎ、また飲み始める。その飲みっぷりに宇髄は相変わらずかと視線だけで伝えている。

 

「それで、お前はどうなんだ?胡蝶に関して」

 

「俺の場合はもう尻に敷かれてますよ。薬学に関しちゃ、しのぶの方が上ですし、俺は残党を斬る事と炊事、洗濯、掃除ぐらいしかできませんからね」

 

「それだけできりゃあ、充分じゃねえか。だが、お前らは夜に関しちゃまだまだのようだがな」

 

「「「はぁあ!?」」」

 

「お前ら、どうしたんだ!?」

 

いきなり立ち上がってきた三人に真次は驚きを隠せなかった。三人は酔っているが嫁を馬鹿にされたのだと思い、怒りのオーラが見える。

 

「禰豆子ちゃんはなぁ!夜は可愛らしくてすごいんだからな!!恥じらいつつも必死で満足させようとしてくれるんだかんな!抱いてると肌の暖かさと吐息が色っぽくてたまらんのじゃい!」

 

「カナヲだって夜を頑張ってくれるんだ!!上手く出来なくても必死になって受け入れてくれて、少し意地悪したくなる位に耐えるけどそこがまた良いんだ!!健気すぎて可愛くって仕方ない!毎晩だって満足してる!」

 

「アオイはな!!俺が求めると優しくしてくれって言ってくる!けれど一度求めたらアオイからもっともっと、って来るんだからな!俺が喰うはずなのに逆に夜だとアオイに喰われてばっかりだ、けどな!それがアオイのすげえところだ!」

 

三人が自分の嫁との夜伽に関してギャーギャーと自慢してきているが、真次は宇髄に手に持った御猪口で三回、テーブルを軽く叩いて合図するとその意図に気付いた宇髄は頷く。その後・・・。

 

「んがっ!」

 

「あぐっ!」

 

「ぐえっ!」

 

宇髄が三人の頭にゲンコツをしたのだ。あんな大声で話すなという意味なのだろうが、三人は酔っているためかまわず話そうとするとまたゲンコツが飛んでくる。宇髄の次に三人へゲンコツしたのは真次であった。

 

「んぎっ!」

 

「あつっ!」

 

「ぐげっ!」

 

「You're gonna do it!(お前ら、いい加減にしろ!)デカイ声で生々しい事を話すな!!」

 

二人がゲンコツを三人にくれたタイミングで禰豆子、カナヲ、アオイの三人が顔を真っ赤にして立っていた。それを見た宇髄は三人に声をかける。

 

「悪ぃ・・・」

 

「「「いえ・・・」」」

 

「あらあら?どうしたんです?随分と騒がしかったですけど」

 

間の悪い事にしのぶまで来てしまったが、三人が酔った勢いで嫁自慢を始めて行き過ぎてしまったので止めたのだと話す。

 

「そうだったんですか、で・・・真次さんは話しましたか?」

 

「いや、聞き手に回ってたし・・俺、酒は強いから話してない」

 

「そうでしたか、それなら」

 

しのぶは真次が飲んでいた御猪口を手に取るとその中身を口に含み、真次に接吻すると口の中に含んだ酒を飲ませた。

 

「っ!!!!?????」

 

「藤の花のお酒です。それじゃ」

 

「へぇ・・・あの胡蝶が・・・派手なことしやがったなぁ」

 

「Remember that!(覚えとけよ!)しのぶの奴・・・」

 

「し、師範・・・大胆」

 

「し、しのぶ様って・・・あんなに積極的だったの!?」

 

「す、すごいものを見ちゃったなぁ」

 

「お、お前ら・・・自分の旦那を部屋に運べって!!」

 

「「「はっ、はーい!!」」」

 

しのぶが部屋に戻りカナヲ、アオイ、禰豆子がそれぞれ自分の夫を運んでいき、居なくなると真次は傍にあった酒をがぶ飲みした。だが、酔いに強いため、なかなか酔えない。

 

「おーおー、どした?惚気のやけ酒か?」

 

「っ、あんな強い酒・・・始めてだ」

 

「惚気てんなぁ?どうだ?俺の嫁で解消しと・・・!?」

 

「俺がしのぶ以外の女に手を出すとでも?・・・・それに宇髄さん・・・仮にも貴方の奥さん達なんですよ?奥さん達を道具にしないであげて下さい・・・」

 

「わ、悪ィ・・・頼むから、その派手な殺気はやめろ、な?」

 

真次から物凄い濃厚な殺気を向けられてしまい、宇髄は謝った。意外にも真次が一途で自分の妻を大切にしている愛妻家という一面が見れたのが宇髄にとって嬉しくある収穫だった。

 

「改めて飲み直すか、お前・・・俺と酒が付き合えるもんな」

 

「ええ、付き合いますよ」

 

今度は御猪口ではなく、戦国時代の武将のように杯で飲み始めた。派手に飲むという宇髄からの提案だ。ある程度の酒が入り、饒舌になっていく。

 

「それで、真面目に嫁さん(しのぶ)とはどうなんだ?夜は」

 

「その時だけ、しのぶは素を見せてくれるんですよ。アイツは自己矛盾の中で生きてた・・・それから解放されてからはものすごいです」

 

「ものすごい?」

 

「離さないでくれって・・・すごいんですよ・・・離れる事を許さないんです」

 

「・・・なるほどなァ、そんな事をされりゃあ・・・他の女は抱けねえわな」

 

「宇髄さん?」

 

「今回の旅行は長くなりそうだな、宴会は終わりだ。お前も早く部屋へ戻れ。今夜は俺も久々に嫁をまとめて抱いてくるわ」

 

「・・・・俺も戻るか」

 

その夜、それぞれの部屋から熱を帯びた嬌声が響き渡り、それぞれが負けまいとして盛り上がりを見せてしまった。

 

帰宅時には皆が皆、更に絆を深めた様子であった。




大正コソコソ話

宴会が終わった後はそれぞれのカップルが激しく愛し合っていました。

特に真次さんとしのぶさんの二人はそれはそれはすごいもので。

善逸が「なんだよあの二人、まだヤるっていううのおお!?」と発狂したレベルです。

宇髄さんは「派手にヤッてんなあ、アイツ等」と聞きながら三人の妻を満足させてました。


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痛めつけられた蝶と五行の逆鱗・戦編

五行がクールでもブチギレ

※IF柱です、死亡キャラが生きています。

※残党の鬼が徒党を組んでます。

※今回も戦国BASARAノリが多いです。

※オリジナルの鬼化の設定が出ます。

※戦編、婚姻編に分けます。

※婚姻編は全く別物になります。


その日、なんの変哲もない日常を送るはずだった。一人の隊士が負傷して帰ってくるまでは。鬼の残党が徒党を組み、とある場所を根城にしていると偵察部隊から情報が入り、出立の準備をしているときであった。

 

「ご・・・五行柱・・・様・・・」

 

その隊士は全身が傷だらけで、特に腕の負傷が酷かった。真次は急いで駆け寄り、声を荒げる。

 

「!What!?(どうした!?)何があった!?ひでえ傷だ、応急手当をしてやる!おい『隠』!居るんだろ!コイツを蝶屋敷に!!」

 

「ま、待ってください・・・大切な事をお伝え・・しないと」

 

「あまり喋んじゃねえ!傷が開くぞ!!」

 

「て、偵察部隊にいた・・む・・・蟲柱・・・様が・・・奴らの罠に・・・かかって・・攫われ・・・まし・・た」

 

「んだと!?」

 

真次の命令を受けた『隠』は急いで怪我を負った隊士を運んでいき、真次は一本の屋敷の柱を八つ当たりするように殴った。

 

「Damn it!!(くそっ!!)しのぶが罠にかかっただと!?そんなはずがねえ、アイツは・・!」

 

「真次!」

 

「炭治郎!?それに善逸、伊之助まで!!」

 

「鴉達からの知らせを受けてね、しのぶさんが鬼の残党に捕まったって」

 

「しのぶは俺等にとっても大切なんだよ!アオイと同じようにな!」

 

「いや、お前らを巻き込む訳・・グアッ!?」

 

真次が言いかけた瞬間、拳が飛んできた。これは善逸からの一撃だった。ふざけているのではなく、本心からの怒りがこもった拳だった。

 

「カッコつけんなよ!!仲間に頼れる時には仲間に頼れってお前が隊士に教えていることだろう!自分ができなくてどうすんだ!それにな、伊之助が言ったように、しのぶさんはお前だけじゃなく俺達にとっても隊士のみんなにとっても大切な人なんだからな!(最も、後々恋人同士になるんだろうけど)」

 

「善逸・・・」

 

「ふん!子分が出しゃばっても親分がいなきゃ統率は取れねえ!お前が行くなら俺も行くからな!」

 

「伊之助・・・」

 

「聞いての通り、俺達は一緒に行くから。あ・・でも」

 

「?ぐわっ!?つうううううう!!何すんだ!炭治郎!?」

 

「お仕置きだよ。一人で全て抱え込もうとするのは、相変わらず変わってないな」

 

文句を言うが炭治郎からの頭突きを甘んじて受ける。これは親友を巻き込むまいとした自分へのケジメ、差し出された手を握り、立ち上がる。屋敷の外に出ると真次を慕う隊士達が所狭しと集まっていた。

 

「な!?なんだよこれ・・・皆なんで!?」

 

「水臭いじゃないですか!五行柱様!!」

 

「俺達全員、貴方に付いて行くって決めてますから!」

 

「それに、五行柱様と蟲柱様はお似合いですからね!二人の婚姻は絶対にこの目で見ないと!」

 

「Shut up!!(黙ってろ!!)人の恋路を勝手に話すんじゃねえええ!!」

 

真っ赤になった真次が叫ぶが全員がニヤニヤしており、全くもって応えていない。その中で異国語を必死に学ぶ隊士が声をかける。

 

「五行柱様、アレ・・・やって下さい。いつも異国語で俺達に発破をかけるアレを!俺達、あれから意味を調べて覚えたんですよ!みんなで返す返事も!!」

 

「アレをか?皆も?」

 

隊士全員が頷く、期待に満ちた目で全員が掛け声を待っていた。真次は軽く咳払いをするとパンッと両頬を軽く叩いて気合を入れ、自分を切り替えた。此処は人気が少ない屋敷であり、真次自身が望んで住んでいるのだが、それが発破をかけるのに一役買っていた。

 

「Are you ready guys?!(準備は出来てるか、お前ら?!)」

 

「「「「「「Yeah!!!」」」」」」

 

「We're going!! Go on with me!!(行くぞ!!俺に続け!!)」

 

「「「「「「Yeah!!!」」」」」」

 

この場にいる隊士全員が握り拳を上げて、気合の入った掛け声を腹から出している。その声の大きさに炭治郎、善逸、伊之助の三人は驚きを隠せない。

 

「すっごいなぁ・・異国語だから言葉の意味は分からないけど皆が一つになってる」

 

「多分、付いてこい的なことを言ってるのかもしれないけどさぁ・・・おっかないよぉ」

 

「お、俺以上に統率してやがる・・・負けたかもしれねえ!」

 

三人は彼が隊士から慕われる理由を知っている。彼は一人一人に合わせた稽古を行い『柱』である事を鼻にかけず、自分も共に稽古している。厳しさもあるが優しさもあり分け隔てなく向けている。また、異国語という誰も学ばないであろうものを自分から学び、学びたい者には門を開けている事も一つの要因だ。

 

だが、それだけでは人は集まらない。彼が人を惹きつけてやまない魅力、それは「自分も一人の人間であり、変わらない」という事を学び、大切にしているからだ。強くなりたいと言われれば共に稽古に付き合い、勉学を学びたいと言われれば共に学ぶ。隊士達の意見を取り入れつつ、自分だけでは進まないようにしており、非があれば自分の立場を関係なしに頭を下げ、統率する時は厳しく行く。

 

それが、隊士達の心を惹きつけてやまない[伊達男]。そんな彼に憧れを抱き、隠鬼殺隊の門を叩く人間は多い。

 

試験を突破し、真っ先に彼の屋敷に来る者も居るがそういった隊士に彼は「お前はなんの為に戦うんだ?」と問い掛ける。

 

その隊士が真次の為というと必ず彼は殴る。男性なら拳、女性なら軽い平手打ちだ。そして必ずこう返す。

 

「俺の為にだと?Don't be kidding me!!(ふざけるな!!)」

 

異国語が入る為に言葉の意味は分からないが、怒っている事は確かだ。更にはこう告げられる。

 

「自分が大切な物はなんなのか、それを他の『柱』から学んで来い。その為の鍵は自分の中にある。それを見つめ直せ」

 

そういって追い返してしまう。自分の中にある大切なものを見つめ直せと言う言葉に新しい隊士達は考え込んでしまうが、彼と同期の三『柱』に聞くことで答えを出すことが多い。

 

家族のため、恋人のため、友人のため、想い人のため、思うものは全て違う。自分が本当に心から大切だと思えるものを守れ、そう教えているのだが言葉が足らないのである。

 

 

 

 

出陣に合わせて全員が走り出す。偵察部隊からの情報によればとある山にあるを根城に、洞穴を砦として徒党を組んで人間を狩り、男は食料に女は犯し嬲り、殺しているとの情報が来ている。

 

「You're safe(無事でいろよ)しのぶ」

 

気持ちが先行してしまうが、それを必死で抑える。自分の後ろには今、沢山の隊士達が居る。出来る事なら自分だけで助けに行きたいがそうはいかない。徒党を組んでいるという事は最低でも下弦レベルの知能があるということだ。

 

「あんな風に異国語とかで伊達男を出してるけど、本当に五行柱様は蟲柱様の事が大切なんだな・・・」

 

「言葉には出さなくてもわかり易いからね、あの御二人」

 

隊士達の中には察しの良い者もいたようで、すぐに二人の関係にも気づいていたようだ。隊士という後輩、仲間を守るために戦うのが五行柱・神威真次という男だ。

 

死をも恐れない覚悟を持ち、多数の隊士を率いる。だが、その過去は重いもの、それでも戦うと決めたのだから度合いが違う。隊士同士で婚姻が決まれば自分の事のように祝ってくれる。なのに自分のことは二の次、そんな『柱』様にやきもきしているのも事実。

 

そんなふうに思いながら、目的の山へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、洞穴の中では徒党を組んだ男の鬼達が焚き火を囲み、酒を飲み町から攫ってきた女で楽しんでいた。攫われた中には胡蝶しのぶもいるが、縄で縛られ牢屋のように厳重な場所に閉じ込められていた。

 

「なぁ、大将はどうしてあの女で遊ばねえんだろうな?」

 

「なんでも、大将と因縁のある奴を誘き出すための餌なんだと」

 

「へぇ、あんな別嬪。滅多にお目にかかれねえのに」

 

「いやいや、綺麗な花には気をつけろってよく言うだろ?」

 

「違いねぇや!」

 

大げさに笑う鬼達、この鬼達は『生成り(なまなり)』という人間から鬼に変生した者達だ。本来鬼は始祖であった鬼舞辻無惨の血を受け入れ、それに耐えられる者でなければ成れないはずであった。だが、とある学者が人間を鬼にするという薬を別の形で発見してしまい、それによって何人もの人体実験の被害者が現れたのだ。政府はその学者を逮捕したが、隠鬼殺隊はこれを『無惨の残滓』と名付け、出元を追っているのだが麻薬のように蔓延しており、最早イタチごっこ状態になっている。

 

その中で、この生成りは『無惨の残滓』を大量に服用し、上弦と下弦の中間までの力と知能を会得した元人間だ。鬼のように夜に活動し、昼間は洞穴などに身を潜めている。

 

『無惨の残滓』は純度の高い麻薬と同様で、少しでも服用するとその中毒性から逃れられない。また、自分の筋力等が僅かな間、鬼と同等になるためその力を維持しようと大量服用するケースが後を絶たない。

 

その結果、生成りと成ってしまい鬼と同じ生活をするものが多い。更には生成りの力を維持するために人間を喰らう。人間の血液こそがその栄養素をクリアしている唯一の食料であるからだ。また、厄介な事に鬼となれば失うはずの人間の時の記憶を保持している為、武術家等が服用している場合が多かった。

 

 

 

 

「っ・・・不覚をとりましたね」

 

牢獄の中でしのぶは、大人しくしていた。だが、偵察部隊の一人を伝言役として逃がしたのが大きいと踏んでいる。

 

今頃は此処へ隠鬼殺隊の仲間たちが来るだろう。だが、一つの不安が有る。それは慰み者にされないかという事だ。今でも僅かに女の嫌がる嬌声が聴こえてくる。覚悟はしているが、恋慕を抱いてしまった相手が居る今ではそれは最も嫌悪することである。

 

「っ・・・早く来てください」

 

しのぶの中の不安は白紙の紙に墨を垂らしたように広がっていく。こんな風にさせたのはズルいと思いながらも助けを期待してしまう自分もいる。身を呈してまで自分を助け出そうとするあの人を。

 

 

 

 

目的の山に到着すると隊士全員が整列をかけるまでもなく五つの隊に別れる。それぞれが得意とする呼吸に合わせての隊列だ。

 

まさに五行に合わせての隊列になっている。『木・火・土・金・水』の形になるよう『炎・水・雷・岩・風』の呼吸にそれぞれ呼応している部隊が号令を待っている。

 

「良いか!死を恐れるんじゃねえ!だが、死のうとは考えるな!自分を守る事を優先にしろ!必ず戦う時は二人一組で挑め!相手は元人間でも自分から人間を捨てた連中だ!!手心なんて加えるな!!弔いの心は持ってもいい、その命を背負う覚悟を持って戦え!!」

 

これは真次が戦いを始める前に隊士に向けて、必ずかける言葉だ。一度、隊士を死なせた事があった経験からかけるようにしている。

 

「よし、雷・岩の部隊は左から攻めろ!水と風は右から!炎は俺と共に正面から行くぞ!炭治郎!善逸!伊之助!!部隊を預ける!炭治郎は水!善逸は雷と岩、伊之助は風の部隊だ!!」

 

「うん!」

 

「わ、わかった!けど、俺だけ規模が多くない!?」

 

「おう、任せとけ!!」

 

「善逸、やる時はやるんだからそれを見せてくれ、頼む」

 

真次に信頼されている音を聞いてしまった善逸は、やる気を出すように自分の頬をパンッ!と叩いて気合を入れる。

 

「今夜は最高のPARTY(宴)になりそうだ!HERE WE GO!!LET'S PARTY!!」

 

「「「「「「Yeahhhhhh!!!」」」」」」

 

異国語での号令と共に隊士達が指示された方角から突撃していく。何事かと騒ぐ間に見張りの生成り二匹が頚を切り落とされる。

 

「あ、あれ?俺の・・・頚」

 

隊士と鬼の戦いがあちこちで繰り広げられる。『新柱』達はそれぞれ追い込まれている隊士を援護しながら先へと進もうとする。

 

「どんだけいるんだよぉ!次々に出てくるじゃんかあ!!」

 

「善逸!泣き言を言ってないで頑張れ!!」

 

「そうだ!しのぶを助けるためだろうが!!」

 

それぞれが援護していてもやはり、負傷者が出てしまう。そんな中、一筋の雷光のような光が通った。

 

『五行の呼吸 金の型・二之巻・白竜爪(はくりゅうそう)!』

 

『新柱』となって以降、この五行の呼吸の技の冴えに更なる磨きが掛かっていた。『五行の呼吸』は真次が独自に編み出したと言っても過言ではない唯一にして無二の呼吸法で継承者は無きに等しい。だが、五つの色を魅せるその美しさに男女問わず惹かれてしまうのだ。

 

特に金の型は真次自身の実力を完全に反映させるため、最も強く美しく見られている。後続の二十人の頚を切り落とし、先へ進もうとするが阻まれてしまう。その中で四人の隊士が先へ行かせる為に生成りを押し返し始める。

 

「先へ急いで下さい!」

 

「ここは俺たちがなんとかします!」

 

「だから急いで!」

 

「早く、蟲柱様のもとへ行ってください!筆頭!あ・・・」

 

隊士の一人が思わず筆頭と口にしてしまい、真次は大声でツッコミを入れた。

 

「誰が!筆頭だ!!俺は確かに異国語を学んではいるが奥州の出身じゃねえし、刀を六本も扱えねえよ!!」

 

「そんなメタいツッコミはいいですから、早く洞穴の中へ!」

 

生真面目な女性隊士の言葉を受け、真次は改めて洞穴の中へと向かっていく。途中で行く手を阻む生成りの鬼達の首を容赦なく落としていく。先へ進んでいくと一つの部屋らしき場所になっているところへ足を踏み入れるが、そこに充満している匂いに真次は思わず手で鼻と口を覆い隠してしまう。

 

「うっ・・・この生臭さ、男の子種か?それに女の死体が転がっている・・・なるほど、情事をした後に嬲り殺してる訳か、胸糞悪い」

 

遺体を見れば、体中が子種まみれで喰い殺されているものが多数だ。その中に想い人が居るのではと不安がよぎるが、それはなかった。

 

「・・・・こっちか!」

 

左右に別れている別れ道に差し掛かり、己を落ち着かせ『勘』を頼りに向かっていく。右、左、右と順番に進んでいく。

 

「!生臭さが消えてきたな、ん?藤の花の匂い・・・?この辺りにしのぶが居るのか!?」

 

自分の指を舐め、風が吹いている方角を探す。藤の花の匂いがする風上が分かればそこに想い人が居るのが分かっているからだ。

 

「向こうか!」

 

風上へ向かっていくとそこには刀を取り上げられ、牢屋に投獄されているしのぶの姿が遠くから見えた。だが、そこには見張りらしき生成りの鬼が2匹で警護している。あくびをしているところ見るとかなり油断しているようだ。

 

「・・・・・」

 

息を潜め、居合いの構えに切り替える。警戒を完全に解くまで我慢比べだ。

 

「はぁ、警護役って暇だよなぁ。酒は飲めるし飯も食えるけどよぉ」

 

「女を抱けねえのがなぁ、この中にいるの味見しちまうか?」

 

「馬鹿、大将にすぐバレるぞ。大将は初物好きなんだからよ」

 

「あ、そうだったわ」

 

周りを見渡し、破壊して気を引ける手頃な岩を見つける。呼吸を静かに整え、その岩に集中する。

 

『五行の呼吸 木の型・一之巻・歳星洸(さいせいこう)

 

緑色の気弾を小さな鍔鳴りで岩へと放出する。大きな音と共に岩が崩れ見張りの生成り達が走って確認に向かう。

 

「なんだ!?岩が崩れたぞ?」

 

「此処じゃよくある事だろうが、あれ?」

 

「おい、なんでお前・・下向いてんだ?」

 

「お前こそなんで!?」

 

『五行の呼吸 水の型・二之巻・黒竜爪(こくりゅうそう)・暗』

 

音も無く静かに納刀され、生成り二匹は頚を落とされたことを気づかず、お互いに注意し合っている。だが、身体が崩壊したことで自分達の危機に気づいた時には消滅していた。

 

「それだけ型を極めてんなら、一つくらい暗殺に使えるようにしておけって宇髄さんに言われたけど、本当だったな」

 

生成りの居た場所から鍵を見つけ出し、それを手に牢屋へと近づく。蝋燭の僅かな明かりから誰かが居るのが伺える。だが、僅かに香る藤の花の香りで誰なのか解ってしまう。

 

「しのぶ、無事か!?」

 

「ああ・・来てくれたんですね」

 

鍵を開けて牢屋に入ると、抵抗の痕と殴られたであろう傷が痛々しいほどに残っている。真次は縄を切って、しのぶの四肢を自由にすると応急手当をして肩を貸し立ち上がらせた。しのぶは彼の羽織に血が付いている事に気づいた。一体どれだけの鬼をここに来るまでに斬ってきたのだろうか?自分が恨まれようと憎まれようとこんな毒の塊となっている自分を守ろうとしてくれている。それが辛くもあり、嬉しくもあった。

 

「歩けるか?」

 

「ええ、なんとか・・・」

 

「お前の日輪刀は他の奴らが回収してくれてるはずだ。ここを出ないと」

 

「おおっと、ここから逃がす訳がねえだろうが・・・」

 

そこに現れたのは生成りの『大将』と呼ばれている者だ。だが、どこかで見た事があるような気がしてならない。

 

「しのぶ・・そこに座っててくれ」

 

「・・・はい」

 

しのぶを手頃な岩に座らせると真次は生成りの大将と対峙する。日輪刀には手をかけていないが握り拳を強く握っている。

 

「お前・・・元・隠鬼殺隊だな?」

 

「流石は天下の五行柱様、すぐに気付いたか」

 

「!?」

 

しのぶは生成りの対象に視線を向ける。この男が元・隠鬼殺隊だったとは信じられない現実だったからだ。

 

「一つ聞かせろ、お前・・・なぜ『無残の残滓』に手を出した?」

 

「あぁん?こんな良い物、使わねえ手はねえだろうが!気持ちよくて力が手に入るんだからよ!!ギャハハ!」

 

「・・・っ」

 

違う、コイツはそんな奴じゃなかった。コイツは生真面目で真っ直ぐで繊細な心を持っていた男だった。

 

『五行柱様!俺、自分の呼吸が分かりましたよ!』

 

『五行柱様、俺・・もっと、強くなるんです!』

 

『五行柱様・・・俺、好きな人が出来たんです・・』

 

真っ直ぐな目をしていた男がこんな姿になる事は想像したくもなかったが、向こうから拳を振り抜いてきたため、それを咄嗟に避けて距離を取る。

 

「てめえ・・なんのつもりだ!?」

 

「それだよ・・アンタはいつもいつも俺を各下だと見てるその目が気に入らねえ!!」

 

「!?」

 

「追いつこうとしても追いつけねえ、好きになった人はアンタの恋人、俺をどれだけ惨めな思いをさせりゃあ気が済むんだアンタは!!」

 

「Shut up!!(黙りやがれ!!)」

 

彼にしては珍しい怒号が口から出た。自分のせいで『無残の残滓』を使わせてしまった責任と相手に対する怒りが混合しており、言葉を遮る事しかできなかった。

 

「どんな女に恋焦がれようと構いやしねえ、追いつけねえなら追いつこうとするのも、諦めんのも一つの道だ・・・」

 

真次は強く拳を握り続け爪が肉に食い込み血が流れ出し始める。日輪刀を鞘から引き抜くとそのまま、投げ付ける形で地面に突き刺した。

 

「だがな・・・悲劇しか生まなかった野郎の残滓に頼りやがって・・!」

 

「何とでも言え、俺はアンタを殺してやると決めた!殺した後はアンタの好いた女を楽しんでやるよぉ!」

 

その言葉に真次の中で何かがプツンと切れた音がした。いつもは冷静になれと他の『柱』達から注意を受けていたがそんな言葉は弾け飛んでいる。

 

「くっくくく・・・ハハハハ・・・!」

 

真次の様子がおかしい事にしのぶと大将は違和感を覚える。自分の顔を片手で覆い、笑い続けている。

 

「ま、真次さん?」

 

「初めて聞こえた・・・緒が切れる音がな・・!」

 

その目は憤怒と化しており、いつもはニヒルに異国語を使っているはずが、今は使わずに完全に切れてしまった男がそこにいるだけだった。

 

「ぶっ殺す!!」

 

日輪刀を手にし、地面から引き抜くと片手で持ったまま大将へ向かって歩いていく。その姿が圧倒的な強者としての威厳が出ている。

 

「う・・・うああああああ!!」

 

大将は真次に向かっていき、殴りつけた。真次は殴られ唇が切れ血が出ているのにも関わらず大将を睨んでいる。

 

「この程度か?」

 

「うっ・・・」

 

「こんな程度の力の為に人間を捨てて『無残の残滓』に頼ったってのか?」

 

左手で大将の右腕を掴み、横へと力強く横へと押しのけている。その顔は鬼気迫るもので鬼以上に鬼の顔であった。

 

「この、大馬鹿野郎があああああ!!」

 

腕を押しのけると同時に刀ではなく、拳で大将の顔面を思いっきり殴り飛ばした。呻き声を上げる前に地面に倒された事に信じられないという様子だ。

 

「うっ・・・」

 

鬼になった肉体として痛みは感じるが大したものではない。だが、大将は心が痛かった、憧れの人から叱咤され殴られた右頬は治っているのに痛みが続いているようで辛い。

 

「立て!お前が捨てたものが、どれだけ重たい物だったのか・・その身に教えてやる!!」

 

しのぶは真次が泣いている事に気づいていた。涙を流すから泣いているのではない、彼の右手から流れる血、心の奥底で泣いているのだ。自分のせいで後輩を鬼にしてしまった、自分のせいで辛い思いをさせてしまった、自分が不甲斐ないせいで殺すことになると自分を追い込んでいる。

 

大将は自分の鏡だ。誰にも相談できず、誰にも頼れず、誰にも認められず、ただ自分の中に溜め込み続けた自身の鏡像。

 

「く・・うああああああ!!」

 

「うおおおお!!」

 

手にしたままの日輪刀を使い、再生してでも殺しにかかってくる大将に対して全力で応戦している。拳で腹部を殴られ、吐血しようとも拳で反撃され、歯を折られる大将だが鬼と同じ状態である為に大した事はない、真次は怪我を負いながらも攻撃の手を緩めようとはしない。

 

「人間が鬼に勝てるものか!!」

 

「鬼になった時点でお前は成長を止めているんだよ!!」

 

 

『五行の呼吸 金の型・三之巻・白虎爪(びゃっこそう)

 

四神の一体である白い猛虎、白虎が大将に迫り、その爪で大将を引き寄せていく。大将は自身がやられそうになっていたが、それ以上に白虎の力強さに魅せられ、自分がどうして真次に憧れていたのかを思い出していた。

 

「(ああ・・・そうだ・・・気に入らなかったんじゃない・・・嫉妬しつつも憧れていたんだ・・・相手が強い鬼であっても・・・逃げようとしない・・・その力強さ、不屈の精神と不退転の決意に・・・重たくて嫌だったのに・・・こんなにも大切なもの・・・だったんですね・・・)」

 

大将の頚が斬られ、真次は大将の首の近くに行く。大将は視線を向けると無意識に泣いていた。

 

「どうだ?思い出せたか?馬鹿野郎」

 

「はい・・・思い・・・出せました」

 

「It's too late(遅すぎんだよ)・・・全く」

 

「せめて・・・憧れた人の手で」

 

「甘えんな、自分のした事をしっかり魂に刻んで反省しろ」

 

「はは・・・やっぱり・・・五行柱様は・・・厳しい・・なぁ」

 

異国語を口にしている時点で真次の怒りは冷めていた。大将の頚が崩れ始めており、もう、幾ばくもないだろう。それでも真次は視線を逸らすことはしない。大将に人間を捨てさせたのは自分なのだから、その最後を看取るのは自分の中でのケジメだ。

 

「五行柱・・・様・・・貴方の命を狙っているのは・・・俺だけじゃ・・・ありません」

 

「何・・・!?」

 

「身近に・・・います・・・蟲・・様・・を・・ねら・・を・・・つけ」

 

「おい!どういう事だ!?おい!!」

 

大将は意味が有り気な事を言い残して消滅してしまった。最後まで聞けなかったのが心残りだが、長を倒したのだからこの鬼達も倒されるだろう。

 

「しのぶ・・行こう」

 

「・・・・はい」

 

改めて洞穴から脱出し、しのぶの日輪刀は隊士の一人が回収しており本人に返却された。その後、残党も倒され、蝶屋敷に運ばれる者、帰宅する者、事後処理をする者に分かれ、真次は蝶屋敷へと運ばれ、自身の手当てを終えたしのぶから直接治療を受けていた。

 

「今回は本当に助かりました。ありがとうございます」

 

「いや、良い・・・」

 

「そこまで思い詰める必要はありませんよ?」

 

「だが、アイツは・・・俺が!っ!?」

 

「良いんですよ、あなたのせいじゃない・・・」

 

「なんで・・・なんでそこまで俺を・・・アイツを追い詰めたのは」

 

しのぶは真次を抱きしめていた。姉が自分にそうしてくれていた時みたく辛い時、悲しい時にあやしてくれた時みたく。

 

「しのぶ・・・」

 

「はい?」

 

「泣いていいか?」

 

「構いませんよ・・・」

 

「うぐ・・うぅああああ!」

 

どんなに伊達男を飾ろうと、どんなに厳しくとも、優しくとも、強かろうとこの人は私の前だけでは弱さを見せてくれる。この弱さを見せてくれる姿、辛くとも受け入れてしまうのはなぜだろう?逆に受け入れてもらえた時があったからだろうか?もう分からない、一つ言えるのはこの人に恋してしまった事だ。

 

「もう平気だ・・・ありがとう」

 

「良いんですよ」

 

その後、真次は傷を癒し、自分の屋敷へと戻っていった。その夜、自分の屋敷で一人、思考に耽っていると何かを落としていったような音が聞こえ、その場所へ行ってみると手紙のようなものが落ちていた。

 

「なんだこれ?」

 

それを拾い上げ、中身を見た瞬間に真次は震えていた。手紙らしき物を握りつぶすと夜空へ向かって大声で叫んだ。

 

 

「なんで・・・なんで、こんなものを寄越したんだあああああああああ!!!」




大正コソコソ話

最後の手紙は果たし状です。

誰とは言いませんが、真次の知っている人物です。


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痛めつけられた蝶と五行の逆鱗・婚姻編

※死亡キャラ全員生存IFです。

※IF柱です。次世代と前世代で分かれています。

※公式カップリングは結婚済み

※しのぶさんの毒は日常生活と命を宿すのに差し障りのないレベルまで解毒した状態です。

※しのぶさんと付き合っていますがお忍びです。


しのぶを救出してから三ヶ月、真次はその日の夜に蝶屋敷に呼ばれていた。特に理由がないのだが、自分も特に予定がなかったので手土産を手に向かう事にした。

 

「手土産は・・コイツでいいか。にしても一体」

 

蝶屋敷へと到着すると出迎えに高田なほ、中原すみ、寺内きよ、この三人が出てきた。真次だと分かり、三人は笑顔を見せる。

 

「真次さんだ!」

 

「ようこそ!」

 

「いらっしゃいました!」

 

「よう、how are you?(元気だったか?)」

 

「?」

 

「??」

 

「???」

 

「っと、悪い。元気だったか?って聞いたんだよ」

 

「「「はい!」」」

 

「相変わらずだなぁ。それと、コイツは土産だ。食い物だから皆で分けてくれ」

 

手土産を渡すと三人は慌ただしく中へと戻っていった。途中でアオイにも出会い、挨拶する。

 

「よう、アオイ」

 

「あ、真次さん。こんな時間にどうしたんですか?今日は」

 

「此処の主さんに呼ばれてな」

 

「ああ、そういう事ですか」

 

「そういうことだ。ん?」

 

「どうしました?」

 

真次は『勘』ではあるが、アオイに何か宿っているのを『なんとなく』感じ取った。アオイは既に結婚しており、その相手は親友である伊之助だ。親友のメンバーの中でいち早く婚姻を結んだのもこの二人である。真次は手招きして耳元で教える事にした。

 

「予感なんだがな、アオイ・・お前から何か宿ってるのが見えたぞ」

 

「え!?それって!」

 

「Keep it secret(内緒にしておきな)話すのはまだ早い」

 

真次は人差し指を立て自分の人差し指に当てると、シーッとする仕草をした。

 

「そう・・ですね。まだ、決まった訳じゃないですし」

 

「そういうこった、Good luck(頑張れよ)」

 

「真次さん、あまり異国語を使わないで下さい」

 

「クセになってるからな、許してくれ」

 

アオイとの会話を終わらせると屋敷の主の部屋へと赴く。なぜ突然呼び出したのかを聞くためである。

 

「しのぶ、来たぞ」

 

「良かった、来ないなら迎えに行くところでしたよ」

 

「いきなり呼び出されたんだ、驚きもするだろうに・・それで?要件は?」

 

「せっかちですね。お茶でも飲みませんか?」

 

「・・・・頂く」

 

お茶を用意され、一息つくと同時に何故呼ばれたのかを聞く事にした。このままでは埒があかないからだ。

 

「で、俺を呼んだ要件は?」

 

「会いたかったから、じゃダメですか?」

 

「っ!?(こ、コイツ・・・危うくお茶を噴きそうになったわ!)」

 

「ふぅ・・・」

 

「ん?疲れてるのか?」

 

「ええ、座りっぱなしでしたから」

 

しのぶは腕を回したりしており、どうやら身体が疲れている様子だ。真次は立ち上がるとしのぶの背中に回った。

 

「真次さん?あっ!」

 

「随分固まってるじゃねえか、相当だぞ?」

 

「んっ!んんっ・・少し痛いですけど・・・お上手ですね」

 

「コイツは重要だしな。よし、俺が解してやるか」

 

 

 

 

 

一時間程の時間が経った後、善逸と炭治郎それにカナヲが扉の閉まっている診察室の扉の前で聞き耳を当てていた。

 

「・・・んんっ・・・あああっ!そこ、すごいです・・・!」

 

「まだまだ、こんなものじゃないだろ?」

 

「そ、そうですけど・・ああっ・・良い!こんなの初めて・・・!」

 

扉越しに聞こえてくるしのぶの嬌声と真次の声に、盗み聞きしている全員が顔を真っ赤にして口元を押さえている。

 

「ほら、横になりな。最後まで行くからよ」

 

「そ、そんな所まで・・!んっ!・・はぁ・・・ん・・ああっ!!」

 

「最後までいかないと、気持ちよくならない・・・だろ?」

 

会話だけでもイケナイ妄想をしてしまう三人、声が漏れないように小声で会話する。

 

「ちょっと待って!あの二人ってば何やってんのおおおおお!?」

 

「な、なんだか!すごく気持ちよさそうな声を出してるよね・・・?(匂いが分からないし!)」

 

「ね、姉さん・・!まさか、真次と!?」

 

ギシギシと寝台が軋む音が聞こえ、しのぶの嬌声は大きくなっている。ここまでくれば中でやっている事は一つだとしか考えられない。

 

「もう少しだ、耐えろ」

 

「も、もうダメです・・・!んんっ・・はぁっ!ああっ!」

 

盗み聞きを続けているとアオイが通りがかり、何をしているんだと声をかけると三人は一斉にシーッ!と人差し指を立てる仕草をしている。

 

何事かと診断室の扉にアオイも耳を近づけて盗み聞きをする。

 

「ほら、最後の仕上げだ。行くぞ」

 

「あっ・・そこ・・!んんっ・・あああん!はぁ・・はぁ・・・もう、こんなになるまで・・・」

 

しのぶの嬌声を聞いた瞬間、アオイは思い切り診断室の扉を開け、大声で叫んだ。

 

「しのぶ様に何て事をしてるんですか!?この変態!」

 

「What?(なんだ?)いきなりどうした?」

 

「あら、アオイ?皆さんもどうしましたか?」

 

全員が二人を見てると真次がしのぶの肩を押さえつつ、丁寧に回していた。それは機能回復訓練時にやっているマッサージを応用しているものだと一目でわかる。

 

「え・・あ、あの?」

 

「ほら終わりだ、しのぶ。固くなってたのを解して外したから軽くなったと思うぞ」

 

「う―――ん!本当ですね。ありがとうございます」

 

しのぶは腕を伸ばすとスッキリした表情で深呼吸しており、本当に軽そうな様子だ。

 

「ま、真次さん?あの・・しのぶ様に何をしてたんですか?」

 

「ん?座りっぱなしで、しのぶの肩が固まってたのを解してやっただけだぞ」

 

さも、当然と答えてくる真次に如何わしい事は何もなさそうだ。アオイの質問に大して嘘は全くついていない。

 

「I see(なるほど)・・・しのぶの声で俺達が、此処で如何わしい事をヤってたのかとでも思ったのか?」

 

「!!」

 

「あらあら、盗み聞きは感心しませんね」

 

「ご、ごめんなさい!私、てっきり!」

 

「Ridiculous(馬鹿馬鹿しい)こんな所で普通やるか?」

 

「そもそも、そんな事は私が許しませんよ」

 

「だってさ、そこの三人」

 

真次の視線は、アオイ以外の盗み聞きをしていた三人に向けている。三人は一斉に謝ると逃走してしまった。

 

「わ、私も、し・・失礼します!」

 

アオイも一礼すると部屋を出ていき、真次はやれやれと言いたげな様子で椅子に座り直した。

 

「(本気で身を固めるか・・・今回それが目的だし)」

 

「でも、正直・・・あの四人が羨ましいですね」

 

「・・・なんでだ?」

 

「好きな人と一緒にいて、ともに歳を重ねる・・・そんな当たり前の事を私は捨てていますから」

 

「・・・」

 

真次は一歩踏み出そうとしたが出来ないでいた。断られるかもしれないという恐怖がそれを阻んでいる。だが、此処で踏み出さずしていつ踏み出すと思っているとしのぶに声をかけられた。

 

「お月見、しませんか?」

 

「季節は外れてるが今日は・・・満月だったな。OK」

 

 

 

 

月がよく見える蝶屋敷の縁側に二人で座る。真次はしばらく月を見ていた後、しのぶの横顔を見ていた。初めてこの蝶屋敷に世話になった時もこんな満月の夜だった。

 

「真次さん、月が綺麗ですね」

 

しのぶの言葉に真次は言葉を思考する。そういう意味なのか?そういう事でいいのかと。ならば、俺はこう返そう。

 

「Oh I see(そうか)・・それはきっと『お前と一緒に見る月だから』だな」

 

「え!?あ、あの・・・?」

 

しのぶは思わず真次の方を見てしまう。いつの間にか視線を月に向けており、腕組みの代わりに羽織を着込んで袖の中に隠している。

 

そのつもりで言ったのがバレてしまったのだろうか?否、言葉の意味を理解した上で返してきたのだとしたら不覚でしかない。

 

だが、目の前の彼なら有り得る。今の彼は異国語を勉強する程の勉強家になった一面があり、その中で文豪の作品を読んでいた可能性があるのだから。

 

「・・・・しのぶ、これを受け取ってくれるか?」

 

「?」

 

贈り物の包装がされている小さな箱を差し出され、しのぶはそれを手にして自分の元に持っていく。

 

「開けてもいいですか?」

 

「ああ」

 

封を解き、蓋を開けると其処には『指輪』が入っていた。蝶の彫り込みがされており、色合いも光によっては五色を連想させる艶やかなものだ。どう見ても特注品にしか見えず、しのぶは驚きを隠せない。

 

「!・・・真次さん、この意味を理解してますか?」

 

「理解してなきゃ送らねえさ・・・こんな一世一代の物はな」

 

「私に・・・こんな」

 

「・・・待ちな」

 

真次はしのぶの手を優しく握り、箱の中に入っていた指輪を取り出し、しのぶの左手薬指にはめた。しのぶは更に驚き、指輪と真次を交互に何度も見ている。

 

「I love you(俺はお前を愛している)だから・・・しのぶ、俺と結婚してくれ」

 

「!!!!」

 

しのぶは無意識に自分の手を抑えるような仕草をしていた。真次からの婚姻の申し込み、自分には相応しくないと思っていた言葉を今、目の前の男から言われたのだ。

 

「良いんですか?こんな私で・・・」

 

「お前じゃなきゃダメだ」

 

「私、怒りやすいんですよ?分かってます?」

 

「知っている」

 

「大声で泣いて、周りを勘違いさせるかもしれませんよ?」

 

「構わない」

 

「・・・ズルいです、本当に貴方は・・・こんな幸せ、一生無いと思っていたのに・・・」

 

「遅れた幸せを一緒に噛み締めていこう、しのぶ」

 

「はい・・・」

 

しのぶは泣きながら真次の手を握って、泣きながら笑顔を見せていた。

 

 

 

 

 

 

物陰では既婚組が物陰から二人の様子を覗いていた。所狭しと全員が必死になってみている。その中には炭治郎が呼んだであろう禰豆子も様子を覗いている。

 

「あの二人もやっとかぁ・・・しかも月でプロポーズとかホント嫌になるくらい伊達男だよ、アイツは!宇髄さん並に!」

 

「善逸さん、そう言わないの。ようやく実った恋じゃないですか」

 

「そうそう、真次がしのぶさんを好きなのは分かってた事じゃないか」

 

「しのぶ姉さんが選んだなら文句は言えないけど、複雑・・・」

 

「しのぶ様も本気のようですね・・・カナヲと同じで私も複雑です・・」

 

「良いじゃねえか、番になったんだろ?しのぶと真担はよ」

 

カナヲとアオイが複雑と言ったのは、この蝶屋敷においてしのぶは長姉である為、姉妹に血の繋がりはないのだが、真次が二人にとっての義理の兄となるのだ。だからこそ心境は複雑なのだろう。

 

そんな心境ではあるが、姉が幸せになって欲しいという思いは共通であり、嬉しく思っている。

 

「明日、お館様に報告に行くか」

 

「そうですね」

 

そう言うとしのぶは真次の肩にもたれ掛かってきて真次は少し驚くが、そのままにさせた。

 

「・・・今日だけは私の『戯れ』を許してください」

 

「月夜の蝶か・・・羽を休めるなら幾らでもOKだ」

 

その翌日、真次としのぶは二人だけでお館様と呼ぶ産屋敷耀哉の屋敷を訪れていた。報告したい事があるという文を予め鴉を通じて渡していたので事はスムーズに運んでいる。

 

「やぁ、真次。それにしのぶ、私に報告する事があると聞いたよ」

 

「はっ、某、神威真次はこの度こちらの胡蝶しのぶとMarriage(婚姻)を結ぶ事となりまして」

 

「真次さん、異国語が出てますよ」

 

「あ・・し、失礼しました!お館様!!」

 

しのぶからの注意を受け、慌てる真次。意味を隠す心理が働いて異国語を使ってしまった事を詫びた。

 

「大丈夫だよ、真次。その意味は婚姻だろう?」

 

「ご、ご存知でしたか?」

 

「うん、それにしても君達が婚姻か・・・。仲人をさせてもらいたいけど構わないかい?」

 

「はっ、その件でお館様に是非お願いしたく今回、参上しましてございます」

 

「しのぶ、それは君も同じかな?」

 

「はい、私もこの方と共に生きる覚悟を決めています」

 

二人の報告を聞いて耀哉は笑みを浮かべ、軽く頷くとふたりへ気配を向ける。

 

「日取りが決まったら報告して欲しい、仲人の件は喜んで引き受けよう」

 

「ありがたき幸せにございます」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

お館様の屋敷から帰宅し、一夜明けた後にお館様の屋敷に集合せよとの伝令が入った。其処には次世代の『新柱』前世代の『柱』が全員が集められている。しかも珍しく、耀哉が既に席に座っている。

 

「やあ、私の可愛い剣士たち。今日はどうしても皆に伝える事があってね・・・嬉しい知らせだ。真次、しのぶの二人から聞いて欲しい」

 

「はっ」

 

「はい」

 

全員が二人に注目する。この二人から何か伝えられること自体が非常に珍しいのだ。

 

「この度、この神威真次と」

 

「私、胡蝶しのぶは」

 

「「婚姻する事になりました」」

 

瞬間、耀哉以外の全員が大声を上げた。親友である三人とカナヲは既に知っていたのでどこ吹く風である。

 

「待てや!そりゃあ本気か!?」

 

「よもや!よもやだ!これはめでたき事だな!!」

 

「派手な事しやがるな!次世代の奴らはよ」

 

「婚姻・・・夫婦になるの?」

 

「きゃー!結婚だなんて羨ましいわ!」

 

「次世代と前世代の『柱』が婚姻とはな、だが本当に支える事ができるのか?どう支える気だ?」

 

「南無・・素晴らしきことかな」

 

「・・・・」

 

前世代の『柱』達が祝福と疑問を交互に口にしている中、真次が抑えきれなかった五行に呼応する五匹の聖獣が形を成した。

 

「お、おい!」

 

青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟は存在こそ陽炎の如く寄らいでいるが夫婦となる二人を守護するかのように、全面に立っている。

 

「ああァ?何だコイツらは?」

 

不死川実弥の殺気に当てられ、聖獣達がそれぞれ咆吼する。真次はしのぶに合図するとその意図を察し、声を出した。

 

「やめろ!」

 

「やめなさい」

 

二人の静止に聖獣達は大人しくなる。今にも攻撃しそうだったのを止めたのだ。此処はお館様である耀哉の屋敷という二人の共通認識が聖獣達を止めたのだ。

 

「この気配・・・・四神、四方を守護する聖獣達・・・おお、この目で見える事叶わぬが、気高き気配が解る。南無」

 

行冥は四神の気配を感じ取っており、全員がその姿に注目している。耀哉はなぜ現れたのかを口にし始めた。

 

「彼らは二人に対する守護の意思が強いようだね、それを証明する為に現れたのだろう。彼らを刺激する事はあまりよくないからね」

 

その後、二人は婚姻の発表を済ませた後、日取りを教え、その日取りに乗っ取っては神社による婚姻の儀が行われた。

 

とらる神社において袴姿の神威真次と白無垢に身を包んだ胡蝶しのぶの両名、真次には親類が居なかった為、代理で産屋敷家の人間が勤めている。蝶屋敷の面々は、胡蝶家の親類として呼ばれ慎ましく終わった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、親友など交友関係がある全員が集まり盛大な宴が開かれた。上下関係なくの無礼講、酒も入り気になった事を聞いてきた。

 

「おい、真次。お前、胡蝶をどうやって口説いたんだ?」

 

「そうだなぁ・・・ソイツは気になるぜぇ・・・」

 

「私も気になるわー!」

 

「Drunks(酔ってやがる)月が出てる夜に口説いただけです」

 

宇髄が話しかけ酒に酔った実弥、蜜璃の三人に絡まれ、しのぶにプロポーズした言葉が気になるようだ。その中でも恋に情熱的な蜜璃はしのぶのもとに行き、同じ事を聞いている。

 

「しのぶちゃーん!真次くんになんて告白されたのー?」

 

「え?それは・・・真次さんが言ったように月が出てる夜がプロポーズでしたよ」

 

しのぶは真っ赤になりながらも答えるが、全員が納得がいかない様子だ。全員が頷くと明かりが消え、月夜の夜が再現された。

 

「な、何だこりゃ!?」

 

「え、なんですかこれ!?」

 

「二人はどうせ隠すだろうと思って準備しておいたの!さぁ、皆さん!ご一緒に!!」

 

善逸の号令と共に再現コールが部屋に響く。ふたりして追い詰められ、やらざるを得ない状況になってしまう。

 

「し、しのぶ!」

 

「・・・・仕方ありません」

 

しのぶは真次に向き直り、何かを耳打ちすると一瞬だけ彼は目を見開き、笑みを見せて頷いた。すると、あの日の月の夜見たく言の葉を乗せた。

 

「真次さん、月が綺麗ですね・・・」

 

「そうだな・・・それはきっとお前と一緒に見る月だから、だな」

 

あまりの神秘的な世界観に全員が固まり、悶えている者も数名いた。こんなプロポーズは見たことがないと誰もが騒いでいる。

 

「なんなのこれええええ!!!ダイジェストしたら逆に神秘さと大人っぽさがありすぎるんですけどおおおおお!?」

 

「コイツは・・・地味だと思ってたが、派手だ。それも静かな派手さじゃねえかよ」

 

「よもや!月下の告白だったとは!!」

 

「こんなに素敵な告白だったなんて・・・キュンキュンが止まらない!」

 

「くぁ・・・甘ったるすぎんだろぉ・・・」

 

全員が告白の現場を見たと同時に真次としのぶは頷いて、全員にとても良い笑顔を揃って向けた。

 

「さて・・・善逸も含めて」

 

「皆さん?」

 

「覚悟は」

 

「よろしいですよね?」

 

笑顔だが怒りのオーラがハッキリとわかる。更に二人を守護する聖獣達まで現れていた。敵意はないが攻撃する意思は見て取れる。

 

「Attack(攻撃だ)!!」

 

聖獣達は普通の生き物がするような攻撃をし始めた。だが、それでもお仕置きなのである程度は痛い。

 

「痛たたたた!何この紅い鳥!?チュン太郎みたく突っついて来るんですけど!?」

 

「痛てぇ!この白い虎、噛み付いてきやがるぞ!」

 

「おい、この青い龍を何とかしろ!ぐぐぐっ!」

 

「重いー、この黒い亀ちゃん重いー!」

 

絡んできたメンバーにお仕置きを終えると、聖獣達はデフォルメみたいな姿になり、鼻息をフンと鳴らしたのが聞こえそうな勢いで出すと消えていった。

 

「これ以上、からかうなら」

 

「考えがありますからね?」

 

似た者同士だこの二人。と全員が満場一致した瞬間だった。その後は普段の飲み会と変わらないものとなり、夜も更け解散となって皆が帰っていった。

 

そんな中、真次はとある人物に呼ばれていた。前世代の『柱』の一人である冨岡義勇だ。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・神威、胡蝶を頼む」

 

「っ!?はい、義勇さん・・・」

 

真次は返事すると右手を差し出した。その意図が分からず困惑しているが右手を出せと合図し、その手を握る。

 

「!!」

 

「今度は一緒に鮭大根を食べに行きましょうか、隊員としてではなく友人として」

 

「ああ、そうだな」

 

「それと、思った事は口にしないと勘違いされますからね」

 

義勇は思った、真次もしのぶと同じ事を言っている。だが、どこか懐かしく感じるとも・・・ああ、これはアイツだ。アイツと似ている雰囲気を持っていたのかと義勇は考えた。

 

「ではな」

 

「また、任務で」

 

二人は別々に戻っていき、真次は夜空を見上げながら結婚について考えていた。これからは鬼殺隊、蝶屋敷、結婚生活と色々忙しくなるだろう。

 

「楽しくなりそうだな、色々な意味でよ」

 

部屋に戻るとしのぶが窓の外を眺めていた。抱きしめたいとなるよりもその姿を見ていたいという気持ちになり、その場で静止していた。

 

「もしもーし、そんな所で立ったままどうしたんですか?」

 

「ん?ああ・・・見とれてた」

 

「もう、そう言う言葉を簡単に言わないでください!」

 

「口にしなきゃ分からねえだろ?」

 

「そうですけど・・・・」

 

少し不満げな様子のしのぶだが、照れ隠しなのは分かっている。隣に座ってきた彼は夫婦になったのだからという風に強引にはしてこない。親しき仲に礼儀ありの通り彼は義を重んじる質なのはよく分かっている。

 

「それにしても・・・これから、胡蝶しのぶではなく神威しのぶになるんですね」

 

「そうだな、逆が良かったか?」

 

「胡蝶真次・・・・ですか?フフフ」

 

「笑うなよ」

 

「だって・・・余りにも・・・合わないですから。アハハ」

 

いつもなら軽く小突くところだが、それはしなかった。こんなにも普通に笑っているしのぶを見た事がなかったからだ。

 

「しのぶ・・・お前が抱えてる荷物、少しくらい分けちゃくれないのか?」

 

「え・・・」

 

「夫婦なんだから・・って訳じゃなく。二人で持てば楽になるだろって事さ。嫌ならそれでもいい」

 

「っ・・・」

 

ずるいずるい、この人はいつもそうだ。自分のことは二の次にして私の事を優先してくる。どうして自分を大切にしないの?何故、私の事ばかりを優先するの?だけど、結婚した今なら解る。この人は私と同じだと、形は違えどこの人も私と同じで怒りを内に潜めていたのだ。

 

「それなら、貴方の荷物も私に持たせてください。それが条件です」

 

「こりゃあ、一本取られたな・・・ハハハ」

 

彼がこうして天井や空に向けて顔を向けるのは、嬉し涙を隠す時だ。彼の優しさは厳しさと同列で人に優しくする分、己を厳しく律してしまい自分自身を縛ってしまう。

 

「もう、縛る必要はありませんよ」

 

「しのぶ?」

 

「これは『胡蝶しのぶ』として最後の言葉です。貴方は誰よりも優しい・・・優しすぎるが故に厳しく、その優しさと相克するように己を厳しく縛る。それでは本末転倒ですよ」

 

今のしのぶは張り付かせた笑顔ではなく、心から慈愛を注ぐ笑顔を見せていた。己を縛る必要ない、その優しさを厳しさに変える必要はない、貴方の優しさはきっと届いているのだから。

 

「What are you talking abou(なんだよ)・・・これじゃ、俺が慰められてるじゃねえか」

 

「泣き虫な所、変わってなくてよかったです・・・」

 

これまでとは逆にしのぶは自分の腕の中に真次を招き入れ、優しく抱きしめた。その心地よさは人間が清水の中で漂う開放感と似ていた。

 

「しのぶ・・・」

 

「はい?」

 

「今日は・・・同衾してくれ」

 

「ふふっ、分かっていますよ」

 

その夜、二人は情事をすることなく就寝に入った。その後、婚姻してから二人は互いに支え合うようになった。周りからすればただの夫婦愛にしか見えないだろう、だがそれは違っている。片羽根を亡くしていた蝶は五行という新たな羽根を与えられたのだ。

 

五行は色が欠落し、蝶はその色を与えた。蝶は片羽根を亡していたがく五行はその羽根を支える力となった。

 

二つで一つ、これこそが真の陰陽和合。後に子孫からこの夫婦はおしどり夫婦として語り継がれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恋すてふ わが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか』

 




大正コソコソ話

実は結婚する二人、西洋風にするか和風にするかで揉めていました。


それと最後の短歌は壬生忠見(みぶのただみ)のもので百人一首にあります。


歌の意味は「恋をしているという私の噂は早くも立ってしまった。人に知られず思い始めたのに」という意味です。


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蝶と契った五行

※生存IFです。

※痛めつけられた蝶と五行の逆鱗・婚姻編が軸です。

※飲酒できる年齢になっています。


結婚式を済ませてから真次は、蝶屋敷の面々に押されて蝶屋敷に住む事になった。

 

無論、しのぶと夫婦になったのだからという事もあるのだが夫婦としての経験はアオイが先輩だ。

 

最近になってしのぶは料理をアオイから習い始め、真次は異国語(英語)を学びつつ薬学に関して学び始めている。しのぶやアオイなどからも指導を受けつつ、特に傷に効く薬を調合できるようになりたいという目標ができたのだ。

 

「どうして、真次さんは傷薬に関して学ぼうとしているのですか?」

 

「いつでも各隊員がその場で傷を治せるとなれば、呼吸と併用して直ぐに行動できるだろ?」

 

「確かに、問題点はどう所持させるかですね」

 

「そうだなぁ・・・」

 

そんな風に生活しながら、早三ヶ月が過ぎた。真次はまな板の上に置かれた根菜類を包丁で切っている音が耳に入り目が覚めた。身体を起こし台所に向かうと其処には割烹着を身に纏い、アオイと共に料理しているしのぶの姿があった。

 

「あ、真次さん。おはようございます」

 

「おはようございます、あなた」

 

「っんん”!!」

 

不意打ちにも等しい、しのぶからの『あなた』発言に真次は一瞬で眠気が吹っ飛び自分の胸元を抑えて悶絶した。

 

「起きたなら顔を洗って、着替えて来て下さいね」

 

「わ、わかった!」

 

真次が出て行ったのを見計らって、しのぶは七輪を用意し、中に炭火を入れて金網を敷くと海苔を炙り始めた。

 

「しのぶ様、いたずらが過ぎると思いますよ?」

 

「ふふ、あれくらいしないとあの人には伝わりませんから」

 

「そうですね、一緒になった人はみんなそうです」

 

「本当ですね。それとアオイ、料理に関しては貴女が師匠ですから色々教えてくださいね?」

 

「!は、はい!」

 

それぞれの伴侶に関して会話しながら、アオイとしのぶは朝食の用意を続けるのだった。

 

 

 

 

 

「し、心臓に悪い・・・あなたなんて呼ばれた事がなかったから、あれは反則すぎるだろう」

 

真っ先に洗顔を済ませた真次は着替えをしながら、未だに激しく鼓動している自分の心臓に手を添えていた。

 

結婚してからも二人の態度は変わっていなかった。無論、公私混同はしないという考えからなのだが、少しは積極的になれよと善逸にも言われてしまっている。

 

現実に二人だけの時間をつくるというのが非常に難しいのだ。蝶屋敷には二人だけではなく、カナヲやアオイ、三人娘などのしのぶの姉妹や慕う子が多いのも事実。それだけにしのぶに主導権を握られている。それでも構わないと真次は考えているのだが、やはり二人きりの時間は欲しいものだ。

 

「さて、軽く身体を解すか」

 

簡単な体操と素振りを済ませ、汗を井戸から汲んだ水を使い手拭いで身体を拭いていく。それを終わらせた後、ちょうど良い間で朝食の香りがしてくる。どうやら焼き魚のようだ。

 

「おはよう、しのぶ。それにみんなも」

 

「はい、おはようございます」

 

「おはようございます、真次さん」

 

「おはよう、真次」

 

「「「おはようございまーす」」」

 

今日の朝食は鯖の塩焼きに焼き海苔、ほうれん草の味噌汁に白米だ。それぞれが席に着くと皆で一斉に声を出す。

 

「「「頂きます」」」

 

味噌汁から手を付け、真次は作法に則った食べ方をしている。その綺麗な所作は男性として身に付けているのは少ないのでつい見てしまっている。

 

「あの・・・そんなに見られてると食べにくいんだが?」

 

「ふふ、どうしても見てしまうんですよ」

 

「そうですよ、食べ方が綺麗ですし」

 

「綺麗な食べ方と動きが羨ましい・・・」

 

「そーです!」

 

「一つの動きが綺麗ですから!」

 

「つい、見てしまうんです!」

 

やれやれと思いながらも箸を進める真次、嫌な訳ではないが妻であるしのぶの姉妹達なのだから自分にとっても義妹だ。蔑ろにする訳ではないが、気恥ずかしいものがある。

 

「じゃあ、食事の所作を教えるから」

 

そう約束をした後、朝食を済ませ頼まれている仕事をする。基本的には買い出しなどだが、炭治郎の実家などに行き山にある薬草などを取らせてもらっている。

 

薬草の採取を終えると一休みしていかないかと炭治郎に誘われ、お茶を頂くことにした。この家に来る時は薬の補充がないかを聞いてそれを持ってきている。

 

「いつもすまねえな」

 

「構わないよ、しのぶさんからの頼みでもあるからさ」

 

「しのぶは俺の妻だからな?」

 

「わ、分かってるさ」

 

「炭治郎が年上好きなのは周知の事実だしな」

 

「う・・・」

 

長男という立場の考えが強い炭治郎にとって年上の女性というのは憧れる対象だ。父親を幼い時に無くし、母親とも死別してしまった彼にとって甘えたかったという思いがあるのだろう。それに関しては真次自身も分からない事ではない。

 

「まぁ、それはそれとして。カナヲが待ちくたびれてるぞ?そろそろ、この家に迎えたらどうだ?」

 

「そ、そうなのか?でも・・・」

 

「カナヲも来る気が満々だし早く迎えてやれよ」

 

「だけど、此処は山だし・・」

 

「そこから先は、二人で相談してな?」

 

真次はお茶を飲み干すと立ち上がり、荷物を背負った。要件を済ませ更には蝶屋敷で所作を教える約束があったからだ。

 

「炭治郎、ごちそうさま。じゃあまた今度な?」

 

「うん」

 

真次は炭治郎達の居る家を後にし、今は自分の家である蝶屋敷へと帰宅する。しのぶが出迎えてくれ、一礼してくれた。

 

「お疲れ様でした」

 

「ありがとう。調合の方は大丈夫なのか?」

 

「はい、後は纏めるだけなのですがアオイに止められてしまって」

 

「そういえば、徹夜四日目だったな。無茶しすぎだぞ?料理も習ってるんだからよ」

 

「大丈夫です、うっかりしていただけ・・・あっ」

 

フラりと倒れそうになったしのぶを支えた。どれだけ寝てないんだと思いながら彼女をお姫様抱っこで運ぶ。まだまだ鍛錬を欠かしていないがそれを抜きにしても、しのぶは軽い。

 

「あ、あの・・・降ろして」

 

「ダメだ」

 

ピシャリと言い切り、しのぶを寝室に運んでいく。徹夜の身体で朝食を作っていたみたいだがアオイがほとんど作ってくれていたのあろうそれくらいは予想できる。寝室に入りベッドに寝かせ横にさせた

 

「しのぶ、しばらく休め」

 

「ですが・・・」

 

「いいから休め、倒れる寸前まで身体を酷使してる時点でダメだ!」

 

「っ・・・」

 

夫となった目の前の彼が此処まで怒るのは珍しい、討伐任務で無茶をするのはそちらも同じではないかと思ってしまう。だが、徹夜してしまっているのは事実であり横になった瞬間、眠気が襲ってきてしまい、しのぶは静かに寝入ってしまった。

 

「・・・さて、所作の教えもあるし色々やらないとな」

 

しのぶが睡眠をとっている事をアオイ、カナヲなどに伝え食事の所作の仕方を全員に教えつつ、夕食の仕込みなどを済ませ、空き時間を利用して鍛錬等をする。

 

「夜は休まなきゃならないからなぁ・・・軽くだけど」

 

懐から何かが入っている袋を取り出し、中を開けるとそこには龍笛が入っていた。この龍笛は鬼から救い出した夫婦から譲り受けたものだった。話によれば蔵の中にしまってあり、奉納しようとした時に鬼に襲われ謝礼代わりに渡されてしまい手入れを欠かさずに行っているが、吹く為の練習がコッソリできる場所は炭治郎の実家がある山ぐらいしか無く、時折吹いて練習していた。

 

「また後で練習するか・・・」

 

夕食の時刻前にしのぶを起こし、夕食の準備が進んでいることを伝え真次自身が台所に立っていた。アオイからは自分がやると遠慮がちにされたが「料亭では男が料理するだろ?」と言って手伝っていた。

 

無論、配膳などの簡単な作業だけだ。全ての作業を取ってしまったらアオイの全てを否定してしまう。

 

「かなり眠ってしまいましたね・・・」

 

「仕方ないだろ。四徹もしてればな」

 

「う・・・否定できないのが悔しいです」

 

夕食を囲みながら、会話をしているが二人の会話は妻を心配する夫そのものだ。そんな二人を見ながら既婚者であるアオイと事実的な既婚者であるカナヲは羨ましいと羨望を持っている。

 

「(良いなぁ・・・しのぶ様、すぐそばにお相手がいて。伊之助さんは炭治郎さんと一緒に住んでいるし)」

 

「(私も炭治郎の傍に居たいなぁ・・・)」

 

所作を教えながら夕食は終わり、食後の休憩を取った後に湯浴みをし真次は縁側で夜空を眺めていた。手元には酒があり、小さな御猪口でゆっくりと飲んでいる。軽く酔っているせいか龍笛を落としそうになり、それをキャッチしそのまま見つめていた。

 

「・・・・」

 

夜といっても此処は藤の花があり、鬼は近づけない。酔いに任せたと自分に言い訳をしながら龍笛を奏で始めた。

 

[演奏曲 『平調 想夫恋』]

 

舞い立ち昇る龍の鳴き声を表しているとされるその音は、夜空に響き渡る。名手とという訳ではないが酔いが回っているせいか緊張なく奏でられている。龍笛には鬼を泣かせ、更には退散させる力があると言い伝えられており、音が大きいはずが鬼の気配は一切ない。

 

演奏に集中している真次をしのぶ、アオイ、カナヲの三人が息を殺して見学していた。龍笛の生演奏は滅多に聞けるものではない。雅楽自体、神社か寺院などの神楽舞を行っている所でしか聞くことは叶わない。

 

更に言えば龍笛の独奏自体が非常に珍しいものなのだ。演奏を終えた真次は静かに龍笛を口元から離した。

 

「・・・・調子に乗りすぎたな」

 

酔いは弱いが酔いのせいにして龍笛をしまい、御猪口に酒を注いで再び煽る。その姿は迷って酔いに身を任せる雅楽師のようで三人は彼に声をかけられる雰囲気ではなかった。

 

 

 

 

 

翌朝、深寝入りしてしまっていたが真次は目を覚ますと、布団の中に違和感を感じて軽く捲ってみた。そこには自分の愛しき妻であるしのぶが自分に抱き着いて安らかな寝顔をしながら、スゥスゥと寝息を立てて眠っている。

 

「・・・参ったな、起きられない」

 

「んぅ・・・」

 

軽く離れてくれたが寝間着が浴衣である為、真次の視界に着崩れた部分からしのぶの双丘が見えてしまった。無論、夫婦としての営みで彼女を抱いた事はあるのだが、無防備な姿を見せられると顔が赤くなってくるのを感じる。

 

「しのぶ、起きてくれ・・・しのぶ・・・!」

 

「んんっ・・?おはようございま・・・す?」

 

「ああ、おはよう。それと珍しいな?布団に潜り込むのは構わないが、しのぶ個人の時間帯だと寝坊してるぞ?」

 

「あ・・え!?わ、私、どうして!?」

 

「大方、寝ぼけて入り込んできたんだろう。ほら、起きようか」

 

普通なら抱き締めて二度寝する場面ではあるが、そういった事をあまりしないのが彼の性格だ。真次は布団から出ると障子を開き、太陽の光を部屋の中に入れる。その眩しさにしのぶは目を腕で覆うが、直ぐに慣れ、布団から出た。

 

そこからまた一日が始まる。朝食を終えて仕事の為に場所へ向かおうと歩いていた真次はしのぶとすれ違う。その合間にしのぶは小声で伝えた。

 

「今度は・・・笛を聴かせてくださいね」

 

「!?」

 

真次が振り返ると既に彼女の姿はない。廊下の曲がり角で悪戯っぽく笑みを浮かべていたしのぶに気づく事はなかった。




龍笛・・・良いですよね。


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時空血鬼術編
時空血鬼術・煉獄家編


IF柱の真次が現代(2021)から戻ってすぐ過去に飛ばされる話です

※自分が生きる大正時代で使える現代知識を持っています。

※今回は煉獄瑠火さんを救います、槇寿郎さんの背中を押します。

※瑠火さんの病気は結核ではなく脚気にしています。当時において二大国民病とも呼ばれ、妊娠、授乳などで栄養不足になるとなりやすいとの事で。

※医療知識がありますが診察だけです。

※JIN―仁―のネタがあります。

※偽名を使っています。髪型も違います。

※銀魂風にオリ主の心の中を書きます。


何れかの未来か過去の時代に飛ばしてしまうという厄介な血鬼術を扱う鬼の技を受けてしまい、令和と呼ばれる時代に飛ばされてしまった神威真次。

 

彼はそこで圧倒的に飛躍した医療などの知識を本で会得し、特に食事療法に関する知識を身に付けた瞬間、再び飛ばされてしまった。戻ってきた時代はどうやら自分の時代のようだが、その過去の時代であるようだ。

 

そして厄介な事に煉獄さんとソックリな御仁に抜き身の日輪刀を向けられています。一人の凛とした女性を助けて案内された屋敷に来たらイキナリです。

 

「何者だ、貴様!何故、鬼殺隊の格好をしている!?」

 

「自分は神威紅と申します。このご婦人が倒れていたのでここまで運んできた次第です」

 

「そんな戯言が信じられるか!」

 

「いえ、この方が言っているのは事実です。槇寿郎さん」

 

「瑠火!」

 

「!!!!???」

 

槇寿郎!?もしかして、この人が煉獄さんの父君と母君なのか!?って事は相当昔に来てるって事になるぞ。

 

「ありがとうございました、紅さん・・・。あっ・・」

 

瑠火と呼ばれた女性が倒れそうになるのを刀を納刀して、すぐに槇寿郎が支えた。

 

「・・・もしかして、奥方様は病気なのですか?」

 

「お前に教える義理はない!!」

 

「いえ、この方は鬼殺隊の医者だそうです」

 

「まだ駆け出しですがね。その知識を買われて鬼殺隊にいます」

 

いやいや、俺は医者じゃないよ。ただ単に簡単な診察ができるくらいだからね!?だけど、此処で助けなきゃいけない気がするから合わせるけど。

 

「宜しければ診察致しますよ。ひょっとしたらご婦人の病気が分かるやもしれません」

 

「お願いいたします」

 

「む・・・う」

 

屋敷に案内され、眼球運動などの診察を行った結果。瑠火さんは脚気の症状が出ていた事を伝えた。原因はそれとなくわかる。二人の子供を産んだ事によるものだ。

 

「胸の痛みや、腹部の不快感などはありませんでしたか?」

 

「胸の痛みはありました。それに食事も食欲がなくて」

 

「間違いない、脚気の初期症状ですね」

 

「治るのか!?」

 

「ええ、今のうちならですが・・・治すには食事療法が一番なのです」

 

「食事療法・・?」

 

槇寿郎は首を傾げて聞いた事の無い言葉に対して、疑問をぶつける。

 

「はい、食事によって必要な栄養素を摂ることができれば治ります」

 

「ですが・・・食事は」

 

「なら、菓子を作りましょう。必要な栄養を摂ることの出来る菓子を」

 

「なんだと!?」

 

「少し、買い出しに行ってきます。その後で厨房をお借りできますか?」

 

「いいだろう」

 

偶然にも金銭を持ち歩く癖に助けられ俺は走って玄米、黒糖、小麦粉、卵、豆乳を手に入れ、甘味を取るためにあずきと砂糖も入手した。令和と呼ばれる時代にあったドーナッツとやらを作ることにした。簡単だからと教えてもらった覚えが有り、料理書も貰った。

 

まずは炊いた玄米を七分位に半つぶし、ごま油と黒糖を少々混ぜて固めたものを生地とし、輪の形にする。

 

この間に鍋の中に油を入れ、それをある程度の熱さになるまで待つ。その間に小麦粉と玄米の粉を割合として8:2とし、少しの油かすと豆乳、鶏卵を混ぜたものを作る。これに先ほど輪の形にした生地を浸し、衣をつけて、熱した油で揚げる。

 

「御夫婦と子供さんが二人いるけど、一人はまだ小さいから無理だな。人数分つくろう」

 

揚がった物に砂糖をまぶし、上に餡を乗せて完成だ。とりあえずよく食べるだろうからかなりの個数を作っておいた。

 

「お待たせしました」

 

「!なんでしょう・・この甘い香り」

 

「うむ、お前が手にしているそれか?」

 

「初めて嗅ぐ香りです!!」

 

これが幼少期の煉獄さんか・・・。おっと、見てる場合じゃなかった。さっそく食べてもらわないと。

 

「はい、これが脚気に効く菓子です」

 

「頂いてもよろしいので?」

 

「無論です。皆様でどうぞ」

 

最初に俺が一つ、手に取って食べる。これは毒が入っていない事を示すためだ。半信半疑な槇寿郎さんも一つ手にして口にし、奥方様である瑠火さんも手に取って口にし、息子である杏寿郎くんも口にした。

 

「!これは!」

 

「!美味しい・・・」

 

「すごく美味しいです!父上、母上!紅様!」

 

「よかった、お口に合ったようで。たくさんありますから遠慮せずに食べてください」

 

そういうと煉獄家の男性二人が我先にと食べ始めた。よほど美味しいのだろう、これなら作った甲斐があるというものだ。瑠火さんも上品に食べているが個数がどんどん無くなっている。

 

「す、すごい・・・山盛りで作ったのに完食してしまうとは」

 

「あ、す・・すまん。あまりにも美味かったものでな」

 

「はい、とても美味しゅうございました」

 

「すごく美味しかったです!紅様!!」

 

思わず顔がほころんでしまう。だが、これだけではダメなのだ。この人、煉獄槇寿郎に次世代へ繋ぐ事を説かなければならない。一時的に救ったとしても瑠火さんを喪ってしまうかもしれない。そのためには二人に話をする必要がある。

 

「槇寿郎さん、それと瑠火さん。お二人に内密なお話があるのですがよろしいですか?出来る事なら個別でのお話の許可を頂きたいのですが」

 

「む・・それは」

 

「私は構いません。よほど重要な事なのでしょう」

 

「分かった。瑠火がそう言うなら退室しよう」

 

槇寿郎さんは息子二人を連れて部屋を出ていった。瑠火さんは凛とした眼でこちらを見ている。

 

「それで、お話とは?」

 

「はい、この先・・つまり未来のお話です」

 

「未来?」

 

「はい、未来では貴女様は亡くなられてしまっています。それと同時に炎柱としての存在意義を失う出来事もあり、槇寿郎さんは酒に溺れ、息子さん達に見向きもしなくなってしまうのです」

 

この事は炭治郎と千寿郎くんから聞いた話だ。この事を口にするのは辛いが、少しでも息子に愛情を注いで欲しいという俺の自分勝手な願いに過ぎない。

 

「そうなのですね・・・」

 

「信じるのですか?戯言かも知れないのに」

 

瑠火さんは軽く頷くと佇まいを直してこちらを見てくる。その目はまるで水晶のように透き通っているようだ。

 

「貴方が嘘をついているように思えません、それに私を助けようとしている心遣いも感じられました」

 

「・・・」

 

「未来のあの人がそんなに弱い方だったとは・・・私も説教しなくていけませんね」

 

「お手柔らかにしてあげて下さいね」

 

こわっ!すっごく怖い!静かな怒りっていうのかな?それが形になってるよ!殺気はないけど威圧感が半端ないよ!

 

「それはそれとして、紅様」

 

「ひゃい!?」

 

「?どうなされました?」

 

「ああ、いえ・・・何か自分にお話が?」

 

「先程の菓子の作り方と、私の病気の治療に役立つ食事の作り方を教えてくださいませんか?」

 

「!ええ、槇寿郎さんとのお話が終わった後に是非」

 

「よろしくお願いしますね」

 

一礼をされた瞬間、瑠火さんは本当に綺麗だと思った。恋愛感情とかではなく凛とした和の美しさを持った女性だと。その所作の一つ一つが美しいと。

 

「じゃあ、俺は行きますね」

 

「あの人をよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

槇寿郎さんの部屋へと趣き、声をかける。どうやら気配からして一人だけのようだ。

 

「紅です。入ってもよろしいですか?」

 

「ああ、入ってきて構わん」

 

「失礼します」

 

部屋に入り、刀を右側に置き正座する。その所作に槇寿郎さんはわずかながら感心していた。

 

「それで、俺に話とは何だ?」

 

「はい、単刀直入に申します・・・貴方様は未来において堕ちぶれてしまっております」

 

「何だと!?口を慎め!未来の話などと、そんな戯言を!!」

 

「いいえ、これだけは譲れません!!未来の貴方は奥方様を亡くされ、更には酒に溺れ炎柱としての存在意義すら失ってしまう事実を知ってしまうのです!!」

 

俺は怒号をきかされようが、殴られようが、斬られようが構いはしなかった。言いたい事だけはハッキリ言わないと気が済まない。

 

「貴様ぁ・・・!」

 

槇寿郎さんは顔を真っ赤にし炎の呼吸を使った状態で俺に刀を向けてきた。だが、こんなもので怯みはしない。

 

「いい加減に黙らんとその口をたたっ斬るぞ!!」

 

「どうぞ」

 

「!?」

 

「真実を聞きたくないが故に口封じ、それが『柱』の刃だというのなら。さぁ!斬れ!!」

 

抵抗する素振りどころか、自ら斬れと言ってきた目の前の男。手が震えている恐れではない、気圧されているのだ。こんな自分よりも一回り年齢が下の相手に、そう思っていると奴の背中から赤い鳥が見えた。炎を纏っているその鳥は、自らを炎に焼かれながらも新生する姿を見せていた。

 

「っ・・・く」

 

斬られても構わないと訴えかけるその目に槇寿郎は刃を収めた。未来の自分が不甲斐なくなっているという理由を聞くために。

 

「詳しく聞かせろ。未来の俺を」

 

「はい、先程も申した事は割愛させていただきますが・・・更に貴方は呼吸法の始祖である『日』の呼吸を知り、そこから派生したのが五つの呼吸だという真実を知って、自分のやってきた事が全て偽りだったと考えてしまうのです」

 

「な・・・そこまで知って・・・」

 

「未来の貴方から聞いた話ですので・・・」

 

「っ・・・!」

 

「ですが、派生した呼吸が偽りだとは俺は思えません」

 

「慰めのつもりか!」

 

「いえ、偽物が本物に叶わない通りはないと考えているんですよ」

 

「!?」

 

俺の言葉に槇寿郎さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。何事にもおいて必ず始まりがあり、その始まりから出来事は枝分かれしていくのだ。だから始祖こそが本物だという事はない。俺はそれを伝えた。

 

「・・・・・」

 

「だからこそ、貴方には気高くいて欲しい。仮に奥方様が亡くなっても息子さん達にはこのまま変わらず接してあげてください」

 

「ああ・・・」

 

「奥方様は身体が強い方ではありません。食事療法をとったとしても、どのくらい生きられるかは分かりません。ですから、奥方様と息子さん達との時間を大切にしてあげてください。ご存命のうちの姿を残しておきたいのなら『ふぉとぐらふ』を撮るのも一つの手段ですよ」

 

「!それは盲点だったな」

 

「数々のご無礼・・お許し下さい」

 

俺は頭を下げ、そのまま静止する。此処まで深々と頭を下げられるとは思いもしなかったのだろう、少し慌てた様子だ。

 

「い、いや・・俺も頭に血が上りすぎていた。だが、助かった・・・俺は家族を見ているようで見ていなかった。瑠火に甘えてばかりだったのだな、これでは父親とは言えん」

 

「奥方様、槇寿郎さんに説教するとおっしゃっていましたよ」

 

「!!!!」

 

顔を上げると槇寿郎さんは顔を真っ青にしていた。この様子からして相当怖いんだろうということが想像できた。

 

「ああ、そうだ!それと、奥方様の為に作る食事の記録を作っておくので、しっかり作れるようになっておきましょう」

 

「う、うむ」

 

二人への話が終わり説教された槇寿郎さんと瑠火さんに料理を教え、作り方やコツを記した記録本を残した。本当に此処に居た時間は楽しかった。けれど、俺はもう行かなくてはならない。この家族がどうなるか、過去を変えたが故にどうなるかは分からない。

 

「そうか、もう行くのか」

 

「はい、これ以上は長居できないので」

 

「お待ちください」

 

瑠火さんが俺の背に切り火をしてくれた。家族以外にしたのは初めてだったはず、切り火をされた背中に何か温かいものが宿った気がした。

 

「煉獄家の切り火、ありがとうございます」

 

「達者でな」

 

「お気をつけて」

 

「また、お会いしましょう紅様!」

 

四人に振り返り、俺は煉獄家を後にした。姿が見えなくなると同時にまた飛ばされ今度こそ、見覚えのある時代に帰ってきたのだ。するとそこへ見覚えのある人がこちらへやって来た。

 

「神威少年!此処に居たか!」

 

「煉獄さん?どうしましたか」

 

「うむ、何故か君を我が家に招待したいと感じたのだ!!来てくれるか!!」

 

「構いませんよ」

 

先程まで居た煉獄家に招待される俺、中に入ると殆ど変わっていない。変わっているのは瑠火さんが存命だということだ。昔見た美しさは変わっておらず、そのまま厨房へと案内される。

 

「今日は母上の誕生日で、とある菓子を作ると我が家では決まっている!」

 

「菓子ですか?」

 

「うむ、南蛮由来だそうだが俺も幼少の頃に食べた味が忘れられない!」

 

「あ、兄上。それに真次さんも」

 

そこでは千寿郎くんが生地を油で揚げているところであった。それは俺が過去に瑠火さんと槇寿郎さんに教えたもので。

 

「千寿郎くん、槇寿郎さんは?」

 

「父上なら部屋にいます。母上とご一緒ではないかと」

 

「そっか、俺も手伝うよ」

 

「いいえ、大丈夫ですから。父上と母上にお会いになって下さい」

 

彼から断られてしまい、仕方なく瑠火さんに挨拶しようと部屋へと案内してもらった。

 

「む?君か」

 

「久しいですね」

 

「お久しぶりです」

 

「ああ、本当に久しぶりだな」

 

俺も二人に挨拶をすると槇寿郎さんは俺を含めた三人だけで話したいと言い、部屋には俺と槇寿郎さんと瑠火さんだけが残っている。

 

「・・・・まさか、君だったとはな」

 

「バレていましたか」

 

「これでも、元・『柱』だ。君の刀の特徴を覚えていたのでな」

 

「私もこのような形で再会するとは思いませんでした」

 

バレてるよバレてるよ!あの時隠す物が無かったし、仕方ないけど再会を喜んでくれるならいいけどさ、すっごい感謝の眼差し向けてくるの止めて、眩しいし苦しくなるから!

 

「君には、返しきれない恩が出来てしまったな」

 

「本当に心から感謝しています」

 

「気にしないで下さい、俺がやりたくてやったことですから」

 

「今日は泊まって行ってください。息子達ともお話をしてあげてください」

 

「!分かりました」

 

その日の夕食はさつまいもご飯だった。ああ、これがこの家族の味なんだなと噛み締めて食べた。過去を変えた事で俺は恐らく、何か代償を払う時が来るだろう。それまで、この過去か未来へ渡ってしまう血鬼術を受け続けよう。

 

 

それが俺の運命ならばな・・・・。




大正コソコソ話。

ドーナッツが余りにも美味しくてずっと食べたいと言っていた瑠火さんに真次は「体調が良くなってからは運動しながら食べないと太りますよ」と言ってしまい、槇寿郎さんから稽古の仕方を教わったそうです。

その時の顔は鬼気迫るものだったとか。


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時空血鬼術・胡蝶姉妹編

過去を遡り片翼の蝶の羽根を助けられたら・・どうなるのか。

※カナエさんを助けます。

※カナヲが売られて連れて行かれる場面から始まります。

※戦闘シーンは戦国BASARA風になります、真次の心境は銀魂風です。

※時系列は煉獄家編と続いています。

※IF柱なので未来ではしのぶさん生存ルートです。


時空血鬼術という厄介な鬼の呪いにかかってしまった俺は、未来やら過去やらに跳ばされて散々な状態だ。しかもいきなり跳ばされるから余計にタチが悪い。

 

「跳びたい時に跳べないって・・・かなり辛いものがあるよなぁ」

 

この術によって最初は令和と呼ばれる未来の時代に飛ばされ、戻ってきたかと思えば過去の自分の時代で煉獄家の奥方様を助けちゃったし、けれど助けられるなら助けたいのが俺の心情だし。考え事をしていたら俺の身体が光り始めていた。

 

「って・・・おおおい!?また跳ぶのぉ!?なんでこういつも突然なんだよおお!」

 

愚痴っている間にまた跳ばされてしまう。以前のようなミスをしない為にお面と刀袋を買っておき、金銭もかなりの額を持つようになった。

 

「っ・・・此処は?橋か?あれは・・・しのぶさんなのか?隣に居るのは誰だ?とりあえず、仮面つけておこう」

 

狐を模した目だけを隠す仮面を付けるの少し苦労するけど、やっとかないとな。余りバレすぎると後々大変だし。

 

付け終えるとさり気なく近づいて、女の子を縄で縛って連れている男の隣に川を見ているふりをして待機した。すると蝶の髪飾りをした姉妹が男に話しかけていた。

 

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?その子はどうして縛られているのでしょうか、罪人か何かなのですか?」

 

「・・・見てわかるだろ、蚤だらけで汚ぇからだよ。それに逃げるかもしれねぇしな」

 

「・・・・」

 

なるほど、女子供を買って色街にでも売ろうって魂胆かね?大抵そうだろうけどよ。

 

「こんにちは初めまして、私は胡蝶カナエといいます。貴女のお名前は?」

 

「!!?」

 

はあああ!?カナエって、あの綺麗な人がしのぶさんのお姉さんかよおおお!?美人姉妹すぎんだろおおお!

 

「そいつに名前なんかねぇよ。親がつけてねえんだ。もういいだろ離れろや」

 

男がカナエを遠ざけようと手を出そうとした瞬間、その手がしのぶによって弾かれた。

 

「姉さんに触らないでください」

 

「・・・!」

 

えええ!?しのぶさん、こんなにも勝気な性格だったのかよおおお!?てか、お姉さんの真似をしてたのか?ずっと笑みを絶やしてなかったのはこういう事か、無理しすぎだろ。

 

「・・・なんなんだてめぇらは、このガキとお喋りしたきゃ金を払いな」

 

「ほう、それなら俺が代わりに払おうか」

 

「え?」

 

「誰だ、てめえ?」

 

「これだけあれば足りるか?この子の値段はよ」

 

俺は会話に割り込み男の手に500円(現在の貨幣価値に加算すると200万)を渡した。俺は元々、金を使うのが然程、好きではない。食事処へも寄る事が少なく、生活に必要なだけしか使っていなかったので金だけは余っていた。跳ばされる事が多くなった今では念のため金額にして1000円という大金を持っていたのだ。

 

「!!?お、お前・・何者だ?こ、こんな大金・・・」

 

「足りるのか、足りないのかを聞いているんだが?」

 

殺気を出して男に詰め寄り、お前にこれ以上払う金は無いと言わんばかりに威圧し続ける。金を受け取った男は走り出しながら捨て台詞を吐いた。

 

「す、好きにしろよ!こんなガキ!」

 

「・・・ほら、このお姉さん達の所へ行きな」

 

「!あ、あの?貴方は一体?」

 

「姉さん!こんな怪しい奴なんて放っておきましょうよ!お面で顔を隠してるし!」

 

俺は自由にした女の子を二人の元へ歩かせた。しかしキッツイ言葉だな、昔のしのぶさんは。

 

「すまない、大怪我の痕があってな?見せたくないからお面をつけてるんだよ」

 

「ふん、怪しいことに変わりませんけどね」

 

「けれど、助けられちゃったわね?この人に。是非お礼がしたいのですけれど、貴方のお名前は?」

 

「姉さん!」

 

「神威紅です」

 

「神威さんというのね、私の屋敷に来てください」

 

「もうーーー!」

 

いつの間にかペースを握られてたな、しのぶさんも。確か、しのぶさん・・・この人を殺されるんだったよな・・・。

 

「You're going to let me die(死なせてたまるか)」

 

 

 

 

 

 

 

ってシリアスに決めたつもりだったんだけど・・・・。

 

「やっぱり可愛いわねー!」

 

「姉さん、そうじゃないでしょ!」

 

「ハハ・・・・」

 

あの子がカナヲだったのかよおおお!?汚れが取れて着物着て髪を結ってないと全然、分からなかったっての!!てか、あんな状態で生きていたのかよ!令和ならネグ○クトですよ!?保護責任遺○罪ですよ!?オマケに殺○罪までありそうだからね!?

 

「神威さんはどう思う?やっぱりカナヲは可愛いわよね?」

 

「え、ええ・・・可愛いですよね」

 

「そうよね!わかってくれると思っていたわ!」

 

「姉さん!そうじゃなくて!!この子、言われないと何も出来ないのよ!?」

 

しのぶさんはどうやら意思がハッキリしていないカナヲを心配しているようだ。確かに自分の意思を持たないっていうのは危険だ。

 

「恐らく、今まで育った環境で愛情無く虐げられてきたんでしょうね」

 

「紅さん?」

 

「こういう子には先ず此処に居てもいい・・・此処に傷つける人は居ないといった愛情表現と安心感を与える必要があります」

 

「どうすればいいの?」

 

真剣に聞いて来てる。性格は勝気でも勉強熱心なのは変わってないんだな・・・。しのぶさん。

 

「うーん、一番効果的なのは抱きしめてあげる事ですかね」

 

「そんな事で?」

 

「意外に単純な事ほど重要ですよ」

 

「それなら私が一番乗りね」

 

そう言ってカナエさんはカナヲを抱きしめていた。しのぶさんが羨ましそうに喚いているけどなんだか微笑ましいなぁ。

 

「紅さんは抱きしめないんですか?」

 

「俺は一応男ですからね、女の子を無闇に抱きしめるなんて出来ませんよ」

 

「随分と殊勝じゃない」

 

「アハハ、で・・俺はいつまでいればいいんですかね?」

 

「好きなだけ居てくれていいのよ?」

 

待って待って!此処、過去とはいえ蝶屋敷だよね!?女性だらけの屋敷にいられないよ!それにものすごくしのぶさんが睨んできてるよ!!

 

「いえいえ、流石にそれは」

 

「それに、貴方の持っている刀にも興味がありますし」

 

「!?」

 

カナエさん笑顔だけど圧がものすごいよ!?というかこの人『柱』だったの忘れてた!ニコニコしているようで鋭い指摘をしてくるのはしのぶさんと変わらないよ!絶対に俺が鬼殺隊だってバレてるよ!

 

「ハハハ、借り物ですからね。それじゃ・・・!?」

 

「残念だけど、簡単に返すわけには行かないの」

 

日輪刀取られたああああ!この頃からこんなに速かったの!?しのぶさん確かに未来だと『柱』だけどその片鱗見せられてるんですけどおお!?

 

「ごめんなさいね、拝見します」

 

「あ、ちょっと!」

 

真次の日輪刀を鞘から抜いて刀身を見た瞬間、カナエから笑顔が消え、しのぶは驚きを隠せないような表情で彼の日輪刀を見ている。

 

「・・・五色の刀身?」

 

「な、何よこれ!?五色の色がある日輪刀なんて見た事ないわ!」

 

「・・・・」

 

ヤべーよ、五行の刀身見られたよ。コレ、完全に未来で身バレするの確定だよ。証拠隠滅することを考えるならカナエさん粛清対象になっちゃうよ!そんな事したら俺が鬼殺隊に居られなくなっちゃうよ!!

 

「あの、返してもらって良いですかね?」

 

「あ、ごめんなさい」

 

カナエは刀身を鞘に収めると真次の日輪刀を返却し、それを受け取った彼は刀袋に日輪刀を収めた。

 

「鬼殺隊の方だとは思っていたけど、変わった色を持っているのね」

 

「バレてますよねぇ、そりゃあ」

 

「ウフフ・・・その服でバレない方がおかしいじゃない」

 

「ですよねぇ」

 

カナエさん笑顔が逆に怖いよ!ものすごく怪しまれてるよ!後ろに擬音が聞こえそうな程に威圧感を醸し出してるよ!

 

「お願いがあるのだけれど・・・」

 

「?なんでしょう?」

 

「木刀でお手合せしてくれないかしら?」

 

「え?」

 

「姉さん!?」

 

「勝敗は・・・そうね。鋒を急所に向けたら終わりでどうかしら?呼吸も使って構わないわ」

 

手合わせを口にしたって事は本当に鬼殺隊なのか見極めるためなのかもしれない。しかも逃げられないようだし、やるしかないよこれ!。

 

「分かりました。場所は?」

 

「屋敷に出て、すぐ手前に広場があるからそこにしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、お手柔らかにお願いするわね」

 

「それはこちらのセリフなんですけど、じゃあ行きますよ」

 

真次は木刀の刃を立てて頭の右手側に寄せ、左足を前に出して構えた。まるで野球のバッティングフォームに似た構え方でカナエはそれを見た瞬間、笑みが消える。

 

「(八相の構え・・・五行の構えの中でも多数戦に特化した構え方だわ。この人、もしかしたら)」

 

「あの人が構えを取っただけで姉さんが真剣になった・・・それ程の実力を持っているというの?」

 

しのぶは半信半疑だが、カナエは今は紅と名乗っている真次の実力を構えを見ただけで看破した。一対多数に特化した構え方など多数の鬼と戦った事がない限り特化した構えを取らない、それをしたという事は鬼殺隊の中で生き延び続けている事にほかならない。

 

「(さて、余り呼吸は見せたくないけど仕方ないか)カァァァ・・・」

 

「!?」

 

『五行の呼吸 金の型・一之巻・太白斬(たいはくざん)

 

純粋な唐竹割りを繰り出され、カナエはそれを受けようとしたが直感的に危機を察知し避けようとした。だが避ける寸前にほんの少し、羽織っている羽織の袖が発生した真空により斬られ口が開いてしまう。それを見て、カナエは目の前に相手が並みの鍛錬をしている人間ではない事、更には実戦をくぐり抜けている事を改めて実感した。

 

「『五行の呼吸』?そのような呼吸・・・聞いた事も無いわ」

 

「俺が独自に編み出した呼吸ですからね。記録しないでくださいよ」

 

「そうなのね、次は私からも行くわよ」

 

『花の呼吸 肆ノ型・紅花衣』

 

花吹雪を観るかのような、前方に居る真次へ向けて大きな円を描くが如く斬り付けて来る。カナエの斬撃に真次は逆の位置になるよう技を捌いていく。この呼吸の使い手は未来において鬼殺隊に入り、しのぶの継子となっている栗花落カナヲが使用している呼吸だ。だが、練度も斬撃の速さもしなやかさも、更に言えば美しさまでもがカナヲ以上だ。

 

「(っ・・これが本来の『花の呼吸』なのか。未来のカナヲと稽古で見たよりも数段・・・いや、それ以上の速さだ!)」

 

「あの人、姉さんの斬撃を捌ききった!?」

 

「(ヤバイぞ、これ・・・出し惜しみできない。特に抜刀術系の型を使わないと無理だろ!けど、木刀じゃ居合は不可能だ!)」

 

「(この人・・・やっぱり只者じゃないわ。遊びでお手合せなんて言ったけど『柱』に匹敵する実力者だわ)」

 

カナエと真次はお互いに実戦と同じ空気を感じ取っていた。これでは稽古そのものだが、お互いに呼吸を使わず木刀のぶつかり合う音だけが広場に響き渡る。しなやかな柔の剣を使うカナエに対し、真次は型を切り替える事でそのしなやかさに対応している。二人が間合いを離すと僅かに二人の呼吸が荒いのをしのぶは見抜いた。

 

「(姉さんの呼吸が僅かに乱れてる!?紅って人もだけど、姉さんの呼吸を乱れさせるなんて!)」

 

「(これ以上、続けても消耗するだけだ・・なら!)」

 

「(次の一太刀で決めるわ)」

 

推奨BGM[『るろうに剣心』より{The Last Wolf Suite -志々雄真実の組曲-}(4:00前後経過部分)]

 

『五行の呼吸 水の型・一之巻・辰星冷(しんせいれい)

 

『花の呼吸 弐ノ型 御影梅』

 

五行の呼吸 水の型・一之巻・辰星冷(しんせいれい)とは氷柱が落ちるが如く、その速さを刺突として表現したものだ。一点集中型の刺突技であり、今の真次ならば例え木刀であっても鍛え方が弱い無銘の刀ならば破壊できてしまう練度に達している。

 

カナエは己を中心とし、幾度も斬撃を繰り出す攻防一体の技を出してきた。二人の繰り出した技を体現する木刀がぶつかり合い、二本とも砕けてしまった。一点集中させた力に押し込む力が重なった事で、両者の力に木刀が耐え切れなかったのだ。

 

「お仕舞い・・ですかね?」

 

「そう、なるわね。木刀が砕けちゃったもの」

 

お互いに一礼すると、俺はすぐに謝った。木刀では斬れないにしろ羽織に口を開けてしまった事に変わりはない。

 

「すみません、羽織が」

 

「大丈夫よ、これくらいなら縫えば目立たなくなるから」

 

それから数日間、蝶屋敷のお世話になり、ある日の夜にカナエさんは出陣していった。俺はこの日かと慌てて後を追った。道中で鬼に殺されてしまった鬼殺隊の隊員から刀を一本拝借し、先を急いだ。

 

「記憶が正しければ・・・カナエさんが遭遇するのは童磨だ。奴は最上位の上弦の弐の鬼、オマケに力の要である呼吸を破壊してくる。しかも女を好物としてやがるからな、間に合え!」

 

二人には明かしていなかったが今の真次は未来において次世代の『柱』の一人である。だが、童磨が相手では話が別だ。その鬼との戦いでは未来のしのぶと協力する事で倒す事ができた。だが、この時代において奴を倒す事は不可能だろう、せめて撤退させなければ。

 

 

 

 

 

月光が鈍く辺りを照らす夜の中、カナエは既に童磨と戦いを始めていた。既に軽傷ではあるが傷だらけの状態にされている。

 

「強い、これが上弦・・!」

 

「大丈夫、君は死なないから。仮に命が尽きても僕が取り込んで生き続けられるよ」

 

鉄扇による武闘術、並みの刀など問題ならない程の鋭さと丈夫さを併せ持ち、舞うように振るいカナエの身体を傷つけてくる。急所は外しているが切り刻まれ出血が酷くなっていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・」

 

「綺麗だね。まるで月の光を浴びて咲く彼岸花みたいだ」

 

「っ・・はぁ・・はぁ・・この!」

 

「おっと、残念だけど終わりだね」

 

カナエの刃よりも素早く童磨は心臓を素手で貫こうとしたその時、利き腕である右腕の上腕部分に一本の刀が突き刺さる。それによって飛び退いた童磨は刀を引き抜き周りを見渡す。

 

「いったい誰かな?花を活けようとしたのに邪魔してきたのは」

 

「・・・おい、その手で触れんじゃねえ!この女に触れんじゃねえ!!」

 

「あ・・・貴方は・・・紅・・・さん?」

 

屋根からカナエを庇うような形で真次はカナエの前に立ち、カナエの目にはその背中が大きく見える。

 

「あれ?援軍?おかしいなぁ、伝達されても大丈夫な場所にいるはずなんだけど」

 

「俺は耳が良いんでな?その薄汚え声と全身に纏った血の気配、それだけあれば分かる」

 

「カナエさん、動けるか?動けるなら今すぐに撤退しろ」

 

「で、でも・・・」

 

「今のお前じゃ、コイツの相手は無理だ。やられて喰われるのがオチだぞ?コイツは大の女好きだからな」

 

違う、今のこの人は違う。蝶屋敷で優しく話していた時とは全く違う。分かりやすいほどまでに立ち昇っている怒りの気配、一体この上弦の鬼とはどんな因縁があるのだろうか。

 

「君・・・一体何者なのかな?それに女好きだなんてはしたない言い方やめて欲しいな」

 

「さぁな?・・・I'm not going to tell you(お前に教える気は無えよ)それに女好きなのは事実だろうが」

 

「異国語?へぇ・・・本当に変わってるね君?」

 

真次は自身の愛刀である日輪刀の鯉口を切り、抜刀術である居合いの構えを取った。自分の実力では防衛と足止めが精一杯だろう。目の前の鬼は未来において毒によって弱体化させる事で、勝利を収めたのだから。

 

真次はカナエを怒鳴りつけ、行動を促した。

 

「早く行け!此処から離脱しろ!!」

 

「ごめんなさい!」

 

「ああっ!あーあ、せっかく極上のご馳走だったのに・・・」

 

「・・・(相変わらず、言葉に重みがなくヘラヘラしてやがる。この呼吸で行くしかないか)。コイツの血鬼術は氷、それならば『火』で行く」

 

『五行の呼吸 極の型・二之巻・外伝 相剋(そうこく)×相侮(そうぶ)』

 

呼吸を切り替え、真次の闘気からは五色から紅のみが残り、巨大な紅い朱雀が頭上に現れる。それが舞い降りると真次の背に気高い声を出しながら翼だけを与える。

 

「わぁ・・・綺麗だ。火炎鳥?鳳凰?それとも朱雀?ま、どれでもいいけど。君の事はサッサと始末するね」

 

「You're a puppet(人形野郎が)やれるもんならやってみろ。産まれた事がなんの意味も持たねえ奴が」

 

「・・・なんだろうね?異国語なのに物凄く腹が立ってきたよ」

 

『凍て曇』

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)・翼』

 

『火(炎)の型・二之巻・赤竜爪(せきりゅうそう)・翼』とは『五行の呼吸 極の型・二之巻・外伝 相剋(そうこく)×相侮(そうぶ)』を使用している状態の時のみに使用可能となる応用技の一つである。熱された刀身から龍の息吹のように眼前にあるものを吹き飛ばす技である。

 

「!?」

 

「やはり少しは凍るか・・・羽織だけなら上々だな。カァァァ・・・!」

 

「なっ!」

 

真次は童磨に接近戦を仕掛け、鉄扇の舞いを行わせないよう左右から刀と鞘による二刀流で攻撃していく。一見、素人が即興で思いついたような攻撃方法ではあるが一つ一つが鬼であっても重要な攻撃の起点を狙って来ている。

 

鉄扇で反撃すれば刃で受けられ、鞘で殴りつけられる。重さを感じていないのか血鬼術を使う暇を与えて来ない。逆にこちらが攻撃しようとすれば頚に刃が迫って来る。更には納刀を素早く済ませ、居合抜きを使いながら先程の即興である二刀流を繰り出してくる。

 

「(厄介すぎるね、ほんのちょっとでも気を抜けば頚を狙われちゃう。なるべく見ておきたかったけど時間も残り少ないな)」

 

童磨は攻撃を捌きながらも戦い、空を見ている。少しずつだが朝日が登ってきていた。この場所は日陰が多いとは言えない場所であり、下手に足止めされ続ければ自分が消滅してしまう。真次が間合いを外した瞬間、童磨は日陰が近い木の枝に飛び乗った。

 

「あの子を喰らえなかったのは残念だけど、僕にも時間がないからね。此処で撤退させてもらうよ」

 

「何!?」

 

「じゃあ、また会えるといいね。男でそう思えたのは初めてだったよ」

 

童磨は鉄扇で土埃を起こし、撤退してしまった。それと同時に朝日がゆっくりと上がってくる。鬼の時間が終わり、人間の時間がやってきたのだ。真次は陽の光を浴びつつ、刀身を鞘に収めた。

 

「さて、カナエさんを助けられ・・・・うっ!!?」

 

戦いが終わり、呼吸を通常に戻した瞬間に真次は目の前の景色が歪んで見えてきた。目の前の景色がグニャグニャに歪み、眩暈を起こしているかのようにグルグルと回っている。

 

「こ、これが・・・二之巻・外伝の代償・・・か?た、立てない・・・おまけに気持ち悪っ・・・!」

 

その場で膝を着き、自力で立ち上がることすら難しくなっている。その場で倒れてしまった方が楽になると思える程に今の真次は景色が歪んだの世界の中にいた。

 

「あ・・・ははは・・・マズ・・・」

 

 

 

 

 

「!!」

 

「て・・・!さい!」

 

誰かが呼んでる。一体誰だ?まだ眠いから寝かせてくれって。ああ、でも寝起き悪いから起きなきゃダメか。

 

「う・・・」

 

「あ、やっと起きた!姉さん!やっと起きましたよ!!」

 

「紅さん、良かった」

 

「へ?」

 

「あの、落ち着いて聞いてくださいね?隠の方々が此処へ運んでくださったんです。それに熱もひどくなってて」

 

熱が酷かった!?ちょっと待って!俺、グニャグニャの視界のまんま倒れたはずだよね!?熱だなんて出てなかったはずだよね!?

 

「実戦の緊張からの発熱だと思いますよ。それと姉さんを助けてくれて、ありがとうございます」

 

「あ・・うん」

 

なんだろう、この頃のしのぶさんにお礼言われると背中がムズムズする。えっと、令和だと確か、えーっと、なんていったっけ?ああ!思い出した。

 

「ツンデレか」

 

「?つんでれ?なんですか、その言葉?」

 

「ツンデレとは人間関係において敵対的な態度、過度に好意的な態度をとってしまう人のことです」

 

「そう、なら・・しのぶはツンデレなのね!」

 

「だ、誰が!ツンデレですか!!姉さんに変な言葉を覚えさせないでください!!」

 

「あらあら、しのぶってば紅さんを必死に看病してたじゃない?」

 

「そ、それは!姉さんを助けてくれた恩人だからで!」

 

すっごい真っ赤になって喚いているけど、カナエさんに言いくるめられちゃってるよ。あー、グニャグニャした景色治ってる。やっぱり・・・極之型は上弦限定で使った方がいいな。

 

「と・に・か・く!身体を治してくださいね!」

 

「行っちゃった」

 

「あらあら、じゃあ私も行きますね」

 

しのぶさん、テンプレ過ぎますよそれ。とにかく跳ばされるまでの時間、此処で身体を癒さないとダメか。と考えていた時だった。

 

「おいいいィー!?何で誰もいなくなった瞬間に光るなよおおおおお!?なんにも言え・・・!」

 

どこぞの銀髪の侍に対してメガネを掛けたツッコミ役の少年のように叫んだ後、元の時代に跳ばされ気が付くと自分の屋敷の中に居た。

 

「此処、親方様に頼んで建ててもらった俺の屋敷か。時間は昼時みたいだし蝶屋敷に行ってみるか」

 

身体が動くかどうか簡単な柔軟などを行い、確かめる。どうやら大丈夫なようで蝶屋敷へ赴くとカナエさんが出迎えてくれた。

 

「あら、真次くんじゃない。こんにちは」

 

「あ、カナエさん。こんにちは、今日は足の調子が良いみたいですね」

 

「ええ、あと少しで日常生活に差し障りのない所まで回復するわ」

 

俺が過去で童磨を撤退させた事によりカナエさんは生き残った。だが、別の任務で負傷した際に足をやられ鬼殺隊として戦う事ができなくなってしまったのだ。

 

「あ、真次さん。来ていたんですね」

 

「しのぶさんもお元気そうで何より」

 

「あら、二人を見てると恋人同士みたいね~」

 

「ち、違うから!そんなんじゃないわよ!」

 

「ツンデレ・・・」

 

「ツンデレじゃないって言ってるでしょう!!」

 

カナエさんを助けたが、しのぶさんは変わらず『柱』の蟲柱となっている。強気な性格も健在だが医者として接する時はカナエさんを喪った時のしのぶさんになる。要はスイッチの切り替えみたいなもので、カナエさんの前では強気に、皆の前では医者のしのぶさんになる訳だ。

 

「アハハ、診察お願いします」

 

「分かりました」

 

診察を受けているとしのぶさんが耳元に小声で囁いて来た。それは、しっかり聞いていないと聞こえないほど小さな声で。

 

姉さんを救ってくれて・・・ありがとう

 

「え?」

 

「それじゃ、また診に来ますね」

 

そう言ってしのぶさんは出ていき、俺とカナエさんだけが残った。カナエさんは俺を見たままで話しかけてきた。

 

「あの子をお願いしますね?私に貴方の事を話してくれるのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、カナヲも一生懸命よ。鬼殺隊に入ってから気になる男の子も出来たみたいだし!」

 

それ間違いなく炭治郎だ、絶対に。

 

こうして話していたが、俺はこれで死ぬはずの運命である人間を二人も助けてしまった。今はまだ代償は出てきていない、何が代償なのだろうか?それはわからない命か?運命か?いずれにせよ俺は助けられるなら助けよう。身勝手だとしてもそれが俺の信念なのだから。




大正コソコソ話

未来に戻った際、蝶屋敷に泊まってくれと言われ就寝中に日輪刀を見られ、紅と真次が同一人物だというのはしのぶさんだけが知っています。

僅かに運命が変わったこの世界では、恋愛に関しては昔のしのぶさんでツンデレ状態です。


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友に討たれた五行の刃(決闘ルート)

耐え切れなかった五行の刃、それを止める為に来たのは・・・。

※ある意味バッドエンドルートです

※炭治郎が一線を超えます(人間を殺す的な意味で)

※炭しの、炭カナなのかは読者さんの想像にお任せします。

※映画における猗窩座との戦闘BGMを聴きながら書いていました。


今日、隠鬼殺隊内部で良からぬ噂が立っていた。婚姻や恋人になった男女がいずれも鋭利な刃物で斬られているというものだった。これに関しては警察が動き解決していたが、鬼殺隊内部でも隊員が襲われていたというものがあったのだから驚きだ。

 

そんな話題を蝶屋敷で流れている中、真次は異国語(英語)の本ばかり読んでいた。腕は動かせるが内部の回復が間に合っていないからだ。

 

炭治郎はしのぶとカナヲから手当てを受けており、彼の人望がそうさせるのだろうと真次自身も考えていた。だが、ある討伐の日、鬼の残党から心の内を暴く血鬼術を使われ更には心を追い込まれる事案が発生した。

 

「お前、好いているんだろう?その女を、なぜ物にしない?なぜ身を引く?」

 

「黙れよ・・!!」

 

「ハハハ、押し殺すなよ?お前が親友だと思っている奴に向けている愛情が羨ましいんだろう?妬ましいんだろう?更には恋慕の想いまで」

 

「黙れえええええええ!!」

 

真次は残党の鬼の首を切り落とし、呼吸を乱しながら刃を握ったままで鬼の最後を見ていた。

 

「あら?頚を落とされちまったか・・・・まぁ、良い。アンタはもう俺の血鬼術にハマってるからな?」

 

「何!?」

 

「お前はもう感情を抑えられない、せいぜい自分の中の感情に苦しんでもがくといいさ。今度は地獄で会おうぜ・・・ギャハハ」

 

 

真次は刀を収め、帰宅した。だが、自分の内から溢れ出てくるあらゆる感情が出てきて止まらなかった。

 

特に負へ偏る感情が強く、嫉妬、羨望、憎悪、憎しみ、怒りなど自分が押さえ込んでいたものが爆発し寸前になってしまっていた。更にその日以降、真次は荒れ続けた。鬼の残党と戦えば狂っているかのように真っ先に突撃し、命乞いをしていようが容赦なく殺した。

 

だが、その血鬼術が解けた後に真次は気づいてしまった。自分はどうしようもなく、激情するという事を。想い人に告白もしたが報われることはなく、終わらない負の連鎖の中で自分に味方する者は誰一人居ないと勝手に自己完結してしまった。

 

「もう・・・どうだっていい」

 

その一言を口にした瞬間、彼は繋がっていた絆の全てを自ら離してしまった。

 

 

 

 

 

残党の活動が弱まって来た月、炭治郎のもとに手紙が置いてあった。それは宛先が無く、送ってきた相手の名前もない。書いてあるのは場所と時間、一人で来る条件だけである。

 

「お、おい炭治郎・・・これってまさか?」

 

「果たし状ってやつだな」

 

「間違いない・・・果たし状だ」

 

善逸と伊之助は炭治郎と一緒に果たし状を見ていた。文字からは無機質な印象しかない。

 

「行くのか?此処へ」

 

「行くしかない、俺に用があるみたいだし」

 

「待てよ、本気で殺し合いなんだぞ!?」

 

「それでも、行かなきゃ。二人は此処に居てくれ!蝶屋敷のみんなには黙っててくれ!」

 

そう言って、炭治郎は飛び出していった。時刻は夜、場所は誰も来る事もない草原、そこにひとりの男が向かってくる。月が雲に隠れ、顔は見えないが匂いで解る。信じたくないと思いながらも分かってしまう。

 

「何で・・・なんでお前がここ居るんだ!?真次!!」

 

「果たし状の通りだ」

 

「一体何をしようとしているんだ!?」

 

「俺はもう形振り構わなくなってきたんだよ・・・」

 

真次は手にした何かを投げてきた。それは鬼殺隊でも話題になった男女を斬りつける犯人の真似をした人間の首だった。だが、半ば鬼化しておりすぐに消えてしまった。

 

「っ・・・!?真次・・・!?」

 

「そして弱い奴ほど鬼に喰われ、それに対抗して強くなっていく程にソイツ等は優しさを忘れていく!この俺のようにな・・・」

 

「強くて優しい人達だっている!鬼殺隊がそうじゃないか!」

 

「そんな奴等からすぐに死んでいった!!優しさが仇になって、相手を倒しきれなかった!お前もそうだ、炭治郎!気付いたんだよ、俺は・・・。例え鬼であろうと人間であろうと悪事をした奴は必ず罰せられるべきだってな・・・!本当に弱い者を助けるにはそれしかないと!」

 

「だから殺し続けるとでも言うのか?鬼も人も関係なく・・!」

 

「そうだ・・・!!俺は全ての未練を断ち切る。好いた人も、全てを・・・!お前を倒す事で!」

 

真次の匂いに嘘はなかった。一体彼に何があったのか?今の真次は鬼以上に鬼だ。あの楽しく過ごしたあの日々はもう帰ってこない。真次の言葉に好いた人というのが聞こえた。それは間違いなく自分の恋人だ。おそらく告白を聞かれていたのかも知れない、そして自分に心底腹が立った。彼、真次は自分の鼻にも感知させない程、心の奥へと自分を押し殺すのが得意だというのを失念していた事に。

 

「もう・・・戻れないんだな。だけど、俺は今のお前にだけは負けない!俺が、俺が止める!お前を倒して!」

 

「それでいい・・・!お前が俺の道を決める相手に相応しいからな」

 

二人は鯉口を切り、刀の刀身を見せると同時に突撃し鍔競り合いを始める。

 

「ぐううう!!」

 

「ぬうううう!!」

 

互いに刃を弾き返し、真横へと走り出す。真次が飛び上がりその落下を利用した唐竹割りを繰り出してくる。炭治郎はそれを受け返し押し込もうとした瞬間、真次が鼻に向かって頭突きし、それをまともに受けてしまい、それを見逃さず真次は腹を蹴り飛ばした。

 

「がぁっ!?ゲホッ!」

 

「刀だけで勝負する訳がないだろうが!でぃあああ!」

 

「ぐっ!」

 

今の真次は本気で殺すつもりで刃を振るってくる。甘さを捨てなければ殺されるのは自分だ。甘さを捨てろ、今の相手は真次ではなく、真次の姿をした鬼だ。

 

「こんのおおお!!」

 

「ぐがぁあ!?」

 

お返しとばかりに炭治郎の頭突きが真次の額に炸裂する。鬼ですら怯ませる炭治郎の頭突きに一瞬だけ真次はフラつくがすぐに持ち直し、頭を振った後に刀を構えた。

 

「炭治郎ォ―――ッ!!」

 

「真次ゥ―――ッ!!」

 

名前を互いに呼び合いながら走り出し、二人の刃は再び交差する。道を踏み外してしまった親友を止める為、もう戻る事が出来ずに突き進む為。この剣戟が鳴り止むことはない。

 

 

 

 

 

 

 

二人が戦っている中、善逸と伊之助は蝶屋敷の面々に詰め寄られていた。処分し忘れた果たし状を見られてしまい、炭治郎が居ない事から結び付きを看破されてしまったのだ。

 

「どうして炭治郎を止めなかったの!?」

 

「お、俺達だって止めようとしたよ~!」

 

「アイツがすぐに飛び出しちまって、追う暇が無かったんだよ!!」

 

「とにかく、書かれている場所に向かいましょう」

 

カナヲ、しのぶ、善逸、伊之助の四人は支度を済ませ、果たし状に書いてあった場所へと急いで向かう事にした。

 

 

 

 

四人が向かっている中、二人だけの激闘は全く終わる様子を見せない。何度も何度も刃のぶつかり合う音が響き、剣戟が止むことはない。草の上で転がってしまったり、お互いに擦り傷などが出来ている。

 

「真次!絶望や悲しみしか心に残らなかったのか!?その怒りが全てだっていうのか!?」

 

「そうだ!所詮は持つ者と持たざる者に分かれる!俺が持てたのは怒りだけだ!この怒りで全てを滅する!!そして、お前を倒した先にそれが出来る!!」

 

「ぐうう!超えさせない!超えちゃいけない!その最後の一線だけは絶対に超えさせない!真次!それがお前にとっての俺なんだ!」

 

剣戟が激しくなり、鍔迫り合いを何度も起こす。お互いに呼吸を使わない、否、使う事が出来ない。使おうとすればその僅かな隙が致命的になりかねないからだ。

 

「うああああ!」

 

「でやあああ!!」

 

剣戟の中で最初に斬りつけられたのは炭治郎だった。袈裟斬りによって血は出ているが、大した傷ではなく返し技の逆風で真次の腹部に同じような傷を与えた。

 

「うぐっ!」

 

「ぐあっ!!」

 

二人は間合いを開き呼吸を整える。炭治郎も真次も互いに呼吸を整え、技を繰り出した。

 

『水の呼吸 壱ノ型・水面斬り 』

 

『五行の呼吸 土の型・一之巻・鎮星重(ちんせいじゅう)

 

二人の呼吸がぶつかり合った瞬間、軍配が上がったのは真次の方であった。炭治郎はその場に押されたように倒れたが、急いでその場を転がって離れた。

 

「(おかしい、呼吸法なのは変わらないはずなのに押し負けた!)」

 

「腑に落ちないって顔だな?なら教えてやる。俺に水の呼吸を使ってくれば、土の型で対抗するのは当たり前だろう?何度も見てたんじゃないのか?」

 

「っ!!」

 

「気付いたか?俺はお前の属性と相剋するように、呼吸を使っているだけだ」

 

そう、真次の扱う呼吸は『五行』。『木・火・土・金・水』の五つの型から成り立ち、その中で炭治郎が学んだ水の呼吸に相剋する型である土の型で対応していただけだったのだ。

 

「これなら、どうだ!」

 

『水の呼吸 弐ノ型 水車』

 

「ならば!!」

 

『五行の呼吸 木の型・三之巻・青龍牙(せいりゅうが)

 

五行の呼吸 木の型・三之巻・青龍牙とは竜巻を生じさせ、相手を高く巻き上げ自身も高く飛び上がり、斬りかかる技である。その渦に囚われた側は竜の牙に模された刃に斬られる事になる。

 

「くうう!」

 

竜巻にのまれ、炭治郎はその中でも刀を動かし、真次の一撃を受け止めながら両者は落下しつつも体制を持ち直し、お互いに刃を弾いて間合いを取った。

 

「俺の青龍牙を受け返すとはな!」

 

「負けない、絶対に!!」

 

刃を交えるたびに炭治郎の中に浮かんでくるのは真次との思い出だった。笑い合い、高め合い、悲しみ合い、衝突し合い、そして共に戦った大切な親友。何故、どうしてと思わずにはいられない、友情を誓い合った親友が道を外し、自分に凶刃を向けてくる。それならば自分が止めなかればならない、それが友情の証だから。

 

「鬼にしか見せたことはなかったが、これならどうだ!!カァァァ・・・!!」

 

『五行の呼吸 金の型・二之巻・白竜爪・八連』

 

真次は呼吸を整えた瞬間、刀を納刀し走り出した。同時に炭治郎の視界から消えその肩が斬られる。

 

「ぐあっ!?」

 

「どこを見てる?此処だ!!」

 

「がああっ!!」

 

これは移動しながらの居合抜き、これは善逸が使う雷の呼吸と似た技だ。雷の呼吸ほどの速度はにしても無いにしても真次は自身の身体能力と運動神経で速度を補っており、八連擊目でようやく受け返す事が出来た。

 

「く・・・はぁ、はぁ」

 

「・・・カァァァ」

 

またも納刀した時に響く鍔鳴りが響き、炭治郎は居合抜きの威力に舌を巻いていた。これ程までに早く鋭い斬撃を繰り出す事が出来るのかと。

 

「!!」

 

「え?うぐっ!?」

 

真次は納刀を済ませると同時に今度は拳で殴り飛ばしてきたのだ。かつて戦った鬼である猗窩座の技量には遠く及ばないが、それでも充分な威力を持っており、拳の一撃一撃が重い。

 

「刀を使うだけが、全てだと思ってたか!」

 

「うぐっ、このぉ!」

 

炭治郎も殴りかかるが避けられ、腕と襟を掴まれ背負い投げの形で叩きつけられた。そのまま顔面を踏み抜こうとする足が迫ってきたが、転がる事で避ける事が出来た。真次は武術の型のような構えを取り、呼吸を整えている。

 

「はぁ・・は・・強い!」

 

「ふううう・・・行くぞ!」

 

今度は抜刀の構えからの居合抜きだ。炭治郎も刀を右側に構える事でそれを受け止めた。お互いに考えていた事は同じだったらしく、両者の左拳が右頬に炸裂する。

 

「ぐぅ!!」

 

「ぐぐっ!!」

 

お互いに後退してしまうが、構えを取り呼吸を整え、またも技同士のぶつかり合いになっていく。

 

『水の呼吸 参ノ型 流流舞い』

 

『五行の呼吸 水の型・三之巻・玄武甲』

 

炭治郎の多重攻撃に対し、真次は玄武の甲羅を模した防御技で捌いていく。その堅牢な防御に炭治郎はさらに驚きを隠せない。

 

「これすらも捌くのか!?」

 

「その程度か?炭治郎!!」

 

今度は真次が走って刃を振り下ろしてくる。だが、炭治郎が見切りやすい唐竹割りだった為にそれを避けつつ、左薙ぎの斬撃で反撃する。これは確実に捉えたと確信した時だった。

 

「!?」

 

真次の姿が揺らめき、消えてしまったのだ。炭治郎は周りを見回すが真次を見つける事が出来ない。

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・三之巻・朱雀翼』

 

「!そこか!!」

 

凄まじい金属のぶつかる音が響き合い、真次の頭上からの一撃を受け止める炭治郎。だが、真次のヤクザキックにも似た蹴りですぐに蹴り飛ばされてしまう。それでも刀から手を離さず、直ぐに起き上がり構えを取る

 

「ぐあああ!!ぐ・・・ぅ!!」

 

「ぬうああああ!!来いッ!!!」

 

「だったらァ!!」

 

『ヒノカミ神楽・碧羅の天』

 

「がああああっ!!」

 

真次の胸元が切り裂かれるが、彼は気にもとめない。炭治郎に迫ると斬撃をいくつも繰り出し、炭治郎は捌き続けるが、とうとう自身の日輪刀を弾き飛ばされてしまった。

 

「どうした?もう、後が無いぞ!!」

 

「このおおおお!」

 

炭治郎は体術で反撃を試みるが、容赦なく止められ斬撃を食らわされてしまう。追い込む事に躊躇いがない真次は容赦なく斬撃と蹴りを炭治郎にくわえていく。

 

「うあああっ!ぐがああああ!」

 

転がされ立ち上がる度に刀のの刃が迫り、蹴りと拳が飛んでくる。炭治郎が両膝を着いた瞬間に真次は容赦なく刀を振り下ろしたが炭治郎は真次が握っている刀の柄部分に腕を交差させて止めた。

 

「ぐ・・ううう!!うあああああ・・・っ!」

 

「ぬうううう!うおおっ!!」

 

真次は一度、強引に刃を押し込み上に弾く事で炭治郎を立ち上がらせ、正面から逆袈裟によって炭治郎を斬り付けた。

 

「うあああああああ!!!ぐ・・・ぅ・・うああっ・・・」

 

「これで、終わりだ・・!炭治郎!」

 

「それでも・・俺は・・・!」

 

真次の刃は炭治郎の首元に向けられ、炭治郎の出血は酷い物だ。誰もが二人の状態を見れば真次の勝利だと言えるだろう。

 

「うおあああああ!!」

 

真次は迷いを断ち切るかのように炭治郎へ刀を振り下ろした。

 

「うあああああっ!!!」

 

一瞬の刹那を見切り、炭治郎は真次の振り下ろした刀身を真剣白刃取りをした。これには真次自身も驚きを隠せなかった。

 

「何!?真剣白刃取りだと!!」

 

「うおおおお!!」

 

炭治郎は精神が肉体を超えたのか、真次の刀を横へ横へとゆっくりながら押し返しつつ立ち上がり始めた。それと同時に真次を蹴り飛ばし、真次の刀を己の手に握った。

 

「があああ!?」

 

「たあああああ!!」

 

炭治郎は真次が立ち上がると同時に刀を真次の腹に突き立てた。真次は刃を押し止めようと炭治郎の肩を掴むが押し返せない。

 

「ぐ・・あああっ・・・が・・ああっ!!」

 

「うわああああっ!!!!」

 

「ぐ・・ううう・・・ごぶっ!?」

 

炭治郎は刀を更に深く突き立て、致命傷を真次に負わせた。刀を引き抜くと同時に真次はその場に倒れた。

 

出血は炭治郎以上に酷く、内蔵も大きく損傷しており呼吸を使ったとしても止血は出来ないだろう。

 

「真次!!」

 

「何を・・・泣いてる?お前は・・・俺に勝ったんだ・・・胸を張れよ」

 

「だけど、俺は・・・!真次の命を・・・!」

 

「俺の命は・・・悪党の命だ・・・熊を殺したくらいに思っておけ、炭治郎・・・お前は本当に、強かった・・・ツを・・・幸せ・・に」

 

そう言い残すと真次は事切れ、それと同時に蝶屋敷の面々が到着した。刀傷だらけの炭治郎と横たわっている真次、何が起きたのかは明白であった。

 

「炭治郎・・・・」

 

「善次郎・・・」

 

善逸と伊之助の二人だけが声をかける事が出来た。炭治郎を手当しようとカナヲが近づくが善逸が視線を向け首を横に振っていた。今は近づくべきではないと・・・。

 

「なんで・・・なんで真次は・・・先走っちゃったのかな?」

 

「・・・・」

 

「俺・・・俺は・・・この手で真次を殺して止めた・・・他を殺させないためにも、だけど!」

 

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇ!コイツが暴走したのは事実なんだぞ!!」

 

伊之助が受け入れられない事に対して声を上げた。彼も真次が止められなかったのを後悔していた。

 

「俺も止めればよかったんだ・・・コイツを止めなきゃいけなかったのに、死んでから止まるとかさ・・こんなのってないよ」

 

その後、真次の日輪刀だけが回収され、真次の肉体は無縁仏として葬られ鬼殺隊の中で極悪人として語れるようになった。

 

真実は炭治郎とその友人、そして彼の恋人だけが知るだけである。




大正コソコソ話。

極悪人とされたのは真実を隠すためです。ですが『柱』の何人かは真実に気づいています。

五行の日輪刀は回収され、刀鍛冶の里にて保管されました。


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