今の所、世界の命運は俺にかかっている続 (流石ユユシタ)
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一話 私と私

 あの日、彼は全てを選ぶ選択をした。それは途方もない選択で簡単な選択ではない、難しくて、尋常ではない選択。私は、私達は彼に一生ついて行くつもりだ。

 

 例え未来の自分たちを彼が嫁にしたいと言っても……ギリ、許す。彼が心の底から私たちを愛すると言う事は分かってるし、その愛が霞んだり弱くなったりすることはない事くらい知っている。疑いようがないのだ。

 

 だが……

 

「あ、あの、当たってます……」

「ふふふ、当ててるんですよ?」

 

 

 未来の私が彼を独占すると言う事態は非常に面白くない。ソファで私の彼氏を独占しているのは銀堂コハク。私とは違い髪の長さは肩くらいまで銀髪の碧眼。三十路のくせに肌が若々しい。その癖に色気だけは一貯前に出ている。未来の私であり、iカップというふしだらな物を彼に当てる頭のおかしい女。

 

 三十路のくせに……

 

 私は面白くないので反対側に座る。そのまま彼の腕に絡みついて目をいつもより見開いて声のトーンを上げて甘ったるい声を出す。

 

 

「もう、私のこと忘れないでくださいよ」

「わ、忘れてませんよ」

「未来の私ばっかりカマッテ……胸がそんなにいいんですか?」

「いや、その……そうなんですけど……コハクさんのことを忘れた訳じゃないです。その、えっと……」

 

 

 アタフタする彼が可愛い。そして、自分に照れてくれて愛を伝えようとする彼が愛おしくてたまらない。

 

 だけど、未来の私は面白くないようだ。三十路のくせに頬を膨らませて、私に嫉妬の視線を向ける。彼が今現在は私の方を向いて彼女には背を向けている。だから彼女は彼の脇の下から手を回して顔を彼の耳元に、そして豊潤な化け物突起を彼のせなかにこれでもかと押し付けた。

 

 ビクッと彼の体が跳ねる。背中の感触と耳奥に届く彼女の息に彼の全部が彼女に一瞬で持っていかれる。そのまま誘惑するように彼女は囁く。

 

「私なんかより、ぴちぴちの過去の私の方が好みですか?」

「ああああ、そそそそそそのの……」

「ふふ、耳弱いの知ってますよ? 貴方の弱い所も強い所も、敏感な所もの可愛い所も全部しってます……」

「あ、あんまりからかわないで貰ってい、いいですか?」

「すいません……あまりに可愛いから……()()()()()()()

「ッ!!!!」

 

 

再び彼の体がびくりと跳ねる。彼女は狩猟的な目で彼を見る。その姿に私はまるで自信を見ている気分になった。

 

そんなの当たり前だ。だって、彼女は未来の私なんだから。だけど、本当に今現在の私をそのまんま見ている気分なのだ。

 

三十路、なのに大人なのに子供の様だった。まるで時間がずっと止まっていたかのような……彼女の雰囲気。外見は大人だけど中身は子供のまま。

 

その時に分かった。彼女は十六夜君の生きてない時間を生きていたが、彼女の時は彼が死んでからずっと止まったままなんだと。

 

すんなり分かった。きっと自分もそうなるだろうから。そして、彼に出会ってようやく時間が動き出している。

 

きっと、妹のクロコもそうなんだろう。ずっと悲しみの中で時間が止まったまま。だから、別世界から来た彼が選んでくれたことが嬉しくて自分のものにしたくてたまらない……愛を深めたくてたまらない。

 

危険だ……この人は……いや、彼女達は……

 

十六夜君が、私の彼氏が……ドロドロに溶かされて喰われるかもしれない…‥

 

そう思いたったら行動せずにはいられなかった。彼女から無理やり引き離して彼の顔を胸に埋めさせる。そのまま私は彼女を睨んだ。この人は私のもので貴方には渡さないと明確に意思表示をした

 

 

「んんっ!!」

 

彼が話せないくらいに埋める。ちょっと苦しいかもしれなけど我慢してもらおう

 

「この人は、私の大事な人です……あまり、からかわないでください……おばさん」

「カッチーン……まだ、おばさんじゃないですよ……」

「おばさんですよ、この三十路」

「……おばさんじゃないです」

「おばさんです」

「若いです!! まだ、全然若いです!」

「全然、若くないです!」

 

 

自分と自分が言いあっている。どこか複雑な感情にもなってしまうがそれは置いておく。

 

「……はぁ、過去の私におばさんと言われるのは変な気分ですね……同じ私なんですから仲良くできませんか?」

「そんな自分が無害と言って、油断をさせて私が居ないところで抜け駆けするつもりなのはお見通しです」

「はぁ、私は仲良くしたいのに変な疑いをかける……さらに、些か貴方の話は論理に欠けていますね。全く……何を根拠に」

「私ならそうするからです」

「……論破されてしまいました」

「やっぱり……いいですか? 夜にベッドに入り込むとか絶対にやめてください……あと誘惑も禁止です!」

「……はーい」

 

 

そっぽを向いて手で髪先をくるくるしながら彼女は気の抜けた返事をする。絶対に私にとの約束を破るなコイツ……私だからこそ彼女の動きが分かる。

 

 

恐らく精神年齢もかなり近い。外見は正直言うと……私の理想ともいえるほどいい感じがする。スタイルもいいし、顔は大人な感じで私より……色気がある……認めたくないけど……

 

 

そして、きっと彼女は十六夜君を私より知っている。だから、きっと彼女は全部を使って十六夜君を獲りに来る……

 

不安だ……このまま放置なんてしておけない。よく、本当の敵は自分とか言うけどその通りだ。

 

彼女から、自分から目が離せない……

 

「そろそろ、十六夜君を離してあげたらどうですか?」

「あ! ご、ごめんなさい!」

「いえ、寧ろご褒美です」

 

 

息がしにくかっただろうに彼は親指を立ててぐっとマーク。最近の彼は色々吹っ切れたと言うか開き直ったと言うか以前より覚悟が極まっている感じがする。そんな十六夜君も勿論素敵なのだがそう思ってるのは私だけじゃない。

 

火蓮先輩、アオイ先輩、萌黄先輩、クロコ。特に妹のクロコが結構、ベッドに入ったり誘惑したりするから妨害をしたりしていたのにここに来て未来の私達……戦争だ……これは愛の戦争……

 

彼も変にオープンな所があるからそこを誰かに付け込まれたりするかもしれない。

 

私はハーレムを認めてはいるが一番でありたいことを放棄したわけじゃない。彼の初めてとか一番とか、目指し続ける。抜け駆けだってしたい。

 

ライバルであり仲間が四人から九人に増えた……ああ、もう考えることがいっぱい!!!!!!

 

 

落ち着け、取りあえず未来の私をマークしよう。

 

 

◆◆

 

 

まぁ、大体、過去の私が考えていることは分かる。だからと言って私が手を抜いたりすることはない。

 

 

何度願ったか分からない彼との再会。彼との幸せの時間を私達は願った。だけど、彼は帰らないといけないから私達は諦める選択を選んだ。

 

そして、彼が迷ったり少しでも彼の心残りがないように背中を押した。彼ならきっと気にしてしまう、優しいから悩んでしまう。それを少しでも軽減したかった。

 

 

ここに残って欲しいと私も言いたかった……

 

 

だけど、彼には幸せになって欲しかった。ここより元の世界の方が幸せになると思った。

 

だから、言わなかった。

 

でも、私のそんな気持ちなんて彼は分かっていた。彼は帰る足を止めた。

 

そして、私達に来いと言った。私達も幸せにしたいと、未来の私達も愛してしまったと。だから、自分と来いと言った。

 

 

 

 

 

 

 その答えがどれほど、私が、私達が嬉しかったか。それだけは私達は知らないだろう。分からないだろう。

 

 

十四年、私達がどれだけ焦がれたか、愛おしかったかそんなの絶対に分からない。

 

 

彼がもう一度来て選んでくれた。それでどれほど愛が溢れたか彼女達は知らない。

 

 

我慢なんて出来るはずがない……溜まりに溜まったこの想いが止められるはずがない。

 

正直、過去の私達には申し訳ないと思っている。いきなり三十路を超えたおば……お姉さんが五人も彼の恋人として現れて彼との時間も減ってしまう。それが辛いのは分かる。本当に申し訳ない。

 

でも……彼が私達も幸せになって欲しいと言うんだから仕方ないですよね?

 

「十六夜君はもっと女性に免疫を付けましょう。ノーと言える男になりましょう!」

「が、頑張ります」

「私を是非練習台として使ってください」

 

 

目のまえで過去の私が彼と話している。彼女は私の想いに気づいて妨害してくるつもりだ。

 

本当にごめんなさい。私……。

 

私は欲張りなんです。貴方もそれはよく知っていますよね? 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

すいません。プロットとか全く無いです。完全なノリと勢いです。感想とかに流される可能性大です。欲しいシチュエーション言っていただいたら描くかもしれません……

 

 

あと、不定期更新です……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二話 未来の黄と今の赤

 私は夕ご飯の買い出しに未来の萌黄と一緒に来ている。

 

 言わずもがな、居候が一気に五人も増えたので食事の量も増える。そうなると買い出しの量も増える。だから二人係で行くことになり、元々当番であった私に未来萌黄が付いてきたのだ。

 

 

「今日、夕飯結構豪勢にするだよね?」

「そうらしいわよ」

 

いや、コイツ……良いからだしてるわね……。私より全然魅力的……

 

 

引き締まった足、大人な感じな雰囲気。可愛らしいパツキンの髪と眉毛と目。何より、何より……胸!!!

 

萌黄、益々大きくなってなんなのよ!!! 未来の私見たけど、Bじゃん!! なんでみんな大きいのに私だけ小さいのよ!! 意味わからん!!!

 

せめて、ⅮいやⅭくらいは行って欲しかった……

 

 

「えっと、何か凄い視線を感じるんだけど」

「なんでもないわ」

「あ、そう?」

 

 

くっ、まぁ良いわ。ヒロインが巨乳だからって、三十路を超えてるんだから。アドバンテージは私にあるわ……よね?

 

 

「えっと、エビと豚ロース肉、鳥もも肉……」

 

 

萌黄がメモをすらすらと読み上げてカゴにテキパキと買うものを入れていく。彼女が漂ってくる良妻臭。油断ならないわね

 

 

色々買いながらスーパーを回っていると萌黄が呟く

 

 

「火蓮ちゃんとお買い物なんて久しぶりだな」

「そう……」

 

 

そう言えば、未来の皆は十六夜がいなくなってバラバラになって悲しみの毎日を生きていたって聞いたわね。

 

こういう時ってなんて言えばいいのかしら

 

 

「あ、ごめん。気、遣っちゃったよね?」

「いや……別に……」

「あー、なんかごめんね?」

「気なんて遣ってないわ……それより、買い物続けましょ」

 

こういう風にしか言えない私。自分の語弊力の無さが疎ましい。でも、彼女はちょっと笑った。

 

「そうだね……」

 

 

再び二人で歩き出すと彼女がふと足を止めた。

 

 

「ああー、お酒……飲みたい……」

 

 

彼女の視線の先には缶ビールやら、ワインやら、色々置いてある。お酒コーナー。そういえば成人してるんだからお酒くらい飲んでも不思議じゃないわよね。

 

私も飲むのかしら?

 

 

そう言えば未来の私って髪型変えてたわね……ショートヘアーでさっぱりはしてたけど。何で切ったのかしら。ツインテールって可愛いのに……でも、社会人になってツインテールは流石に無いのかしら……

 

 

今度……色々聞いてみようかな……

 

 

そんな事を考えていると目の前でお酒に目を奪われている彼女を思い出す。

 

「買ってもいいんじゃない?」

「いや、でもさ……いいのかな?」

「良いと思うわ。十六夜もそれくらいでどうこう言わないでしょ?」

「うーん……でも、未来から来て居候でお酒飲みたいって……」

 

三十路の萌黄も遠慮癖は変わってないのね。

 

 

「はいはい、どれ飲みたいの?」

「……その、この金色の奴……」

「これね……何本飲みたいの?」

「えっと……ご、五本……」

「結構飲むのね……あ、萌黄以外も飲みたいわよね?」

「そ、そうかもしれないです……」

「急に塩らしくなったわね……まぁ、これならワンケース丸々買った方が良いわね」

「そ、そうだね」

 

ワンケース丸々買う事にして私がそれを持つ。萌黄だと色々遠慮するから私が率先して買わないといけない。

 

魔力を上手いこと使うとこんなのも簡単に持てる。

 

「あ、その」

「気にしなくていいわ……今夜は、十六夜との再会とか色々祝って……このお酒で優勝したいんでしょ?」

「か、火蓮ちゃん……流石だよ!」

 

 

涙を浮かべて喜ぶ彼女。お酒がよっぽど萌黄好きなんだなと思いつつ、私は買うべきもの+お酒を持ってレジに並ぶ。

 

並びながら私は彼女に聞いた。

 

「お酒、美味しいの?」

「うん、凄く」

「へぇ……」

「多分、未来の火蓮ちゃんも飲んでると思うよ」

「そうかしら?」

「うん、きっと飲んでる」

 

 

彼女は凄い自信満々にそう言った。勘なのかただの予想なのか。社会人として普通と言う概念的な物から判断しているのか分からない。彼女はそのまま理由を言った。

 

「だって、それくらいしかすることないもん」

「……え? それって……」

 

 

それ以上言葉が出なかった。そして、彼女も言ってしまったと後悔の眼をした。彼女はまたやってしまったと思いながらもこの雰囲気を霧散させるようにテンションを上げる。

 

「ああ、ほら! 前が開いたから早く会計しよう!」

「ああ、うん……」

 

 

私も適当に相槌を打って前に行く。商品券を出して値段を安く済ませて、エコバッグに荷物を詰める。

 

私は両手でビールのダースを持って、彼女は両手に膨らんだエコバッグ。

 

 

自動ドアを抜けて、外に出る。何だか、気まずい感じになってしまっている。彼女は無理に話題を作り私に話しかける。

 

 

「あー、お酒がどんな味が気になる?」

「まぁ……」

「お酒はね、まぁ、苦みの強い感じのものがあったり、それが苦手ならワインとか梅酒とか……えっと、一応言っておくけど味が気になっても飲んじゃダメだよ?」

「分かってるわよ」

「そう、だよね……」

「……無理に話を広げたりしなくていいわよ」

「え?」

「大人でも言いたくない事とか、辛い事とか、うっかりとかあるのは当然。泣きたい時もあるだろうし、無理に笑顔なんてしなくていい……大人だからとか、関係ない。萌黄は萌黄。それが未来でも今でも……上手く言えないけど……こう、何と言うか……遠慮すんな……ってことよ」

 

 

ああ、恥ずかしいぃ。こんな週刊少年系のセリフを息を吐くように言える十六夜ってメンタル凄いと彼の良いところを再認識する。

 

 

「ふふ、そっか……変わってないね。それにしても何という熱血溢れる言葉なんだ……火蓮ちゃんの熱血言葉を本にしたいって今割と本気で思った!」

 

 

 

 

彼女はクスっと笑って笑った。私は恥ずかしくて頬を紅潮してからかわれた気がしたからそっぽを向いた。

 

 

「火蓮ちゃんありがとう……僕、大好きだよ」

「そ……」

「あれ? 何か、不機嫌になってない?」

「なってない」

「いやいや、なってるじゃん」

「なってない」

「いや、」

「なってない」

「えー、()()()()()

「っ……ふふ」

 

 

何となくだけど、彼女とも仲良くなれる気がした。さっき、からかわれた仕返しに私は彼女もからかってやろうと思った。

 

 

「三十路ってなると、体が硬くなるって言うけどそこら辺どう?」

「三十路だけど体柔らかいよ。あと、年齢のこと言うの禁止」

 

 結構ガチトーンで年齢のことを言うのを禁止された。

 

 

「ぴちぴちJKなもんで、気になっちゃうのよ。先の事が……さ」

「今両手が塞がってるから何もできないけど、空いてたらげんこつしてた」

「何か罰が古くない? 漂う三十路臭……」

「よろしい……あとで久しぶりの全身くすぐりをくらわしてあげる」

 

 

馬鹿話で盛り上がりながら、私達は帰路を歩く。ただ、三十路ネタはほどほどにしないと本気で怒られると私は感じた。

 

やはり、年は気になるのだろうか。私は全然気にならなけどそれは今が若いだけで未来の私は気になっているのだろうか。聞いてみよう。

 

何というか、自分と話すのって勇気がいるのよね。

 

 

「そう言えば、未来組ってこれからどうするの? 仕事とか」

「メルちゃんの実家の旅館手伝ったり、異世界で冒険者して食材稼いだり……? 身分証が出来ればこっちで仕事?」

「あ、決まってない感じなのね」

「うん……でも流石に働かないのはナシかな?」

「そうなんだ……十六夜ならニートでも余裕でオーケー出しそうだけど」

「甘えるのもほどほどにしないとさ。それに何かはやらないと人としてダメになる気がする」

「へぇー、考えがみそ……大人ね」

「今言い変えたのは百点」

 

 

こっちの萌黄も考え方がしっかりしてるわね。それと言い換えて良かった。途中で彼女の視線が鋭くなったのを見逃さなかったのだ。正直言うとちょっと怖かった。

 

年齢……からかいすぎるのダメ、絶対。本日二度目、そう思った。

 

 

そんなこんなで二人で歩いていると私達の前から唐突に冷たい風が吹き抜ける。まだまだ寒い季節であるなと私は感じる。

 

 

「寒いわね」

「そうだねー」

「ココア飲みたくならない?」

「うん……そうだ…‥あ、いや……」

 

 

彼女は一瞬同意したけど、撤回した。

 

「僕は……キャラメルフラペチーノかな?」

「洒落てるのね」

 

 

その日、私は萌黄の寒い時に飲みたい、好きな暖かい飲みものはキャラメルフラペチーノだと知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三話 約束

「ふんふーん、フフフーん」

 

 

私は気分よく鼻歌を歌いながらバッグに衣類を詰めていく。

 

 

なんと、なんと……十六夜が私との旅行を計画してくれたいたからだ。以前に約束した旅行。しっかりと覚えていてくれた十六夜。流石としか言いようがないわ。

 

しかも、今回は二人きり。独占、独り占めである!!

 

一泊二日、で近くには温水プールも完備。そこで私の泳ぎの練習もすると言うテンプレを詰め込んだ旅行。

 

ああ、楽しみ……

 

水着や着替えタオル色々入れて、歯磨きとか必要な物全部入れるとバッグがパンパンになる。それを持ってみると結構重かった。バッグの中には私の期待とかドキドキまで入っているんじゃないかと思う位だ。

 

ふと、視線が私の背中に注がれていることに気づく。振り向くと……私が居た。ショートヘアーでほんのりと私より胸がある。

 

そして、鏡を見ているようなのだ。さらに、何だか気まずい。

 

「……な、なに?」

「十六夜と旅行?」

「あ、そう……だけど……」

「二人きり?」

「う、うん……」

 

 

何で、そんなこと聞くんだろう。同じ私なのにイマイチ考えが分からないんのよね。

 

 

「それ……私も行っていい?」

「え? それは、遠慮してほしい…‥」

「邪魔はしないわ。遠くで見てるから……ね?」

「……まぁ、それなら」

「ありがと……このことは十六夜にも内緒でいいから…‥」

 

 

彼女はそのまま歩いて行った。何を考えているんだろう……本当に分からない。自分のはずなのに……分からない。

 

 

未来の自分の事を考えていると再び視線を背中に感じる。振り返るとコハクが居た。目を細めて嫉妬の視線を送る。

 

「旅行……ずるい……です」

「いつか、連れてってくれるわよ」

「まぁ、そうですけど……はぁ、いいなぁ。絶対連れてってもらいます……」

 

彼女はそのまま私の元を通り過ぎた。

 

 

十六夜の事だからコハクもアオイもクロコも萌黄も計画してると思うけどね。彼女もそれは分かっていると思ったのでわざわざ言わなかった。

 

 

「そろそろ、ご飯らしいですよ」

 

 

彼女が再び戻り、私に夕飯の連絡を言った。私はそこから立ち上がり、リビングに向かう。以前より騒がしくなったリビングに。

 

旅行を考えると幸せで頬が吊り上がるので、それを抑えるが大変だった。

 

 

◆◆

 

 

 

 私は過去の私と十六夜の旅行を見学することにした。理由は……ただ、見たかったから。振り返りたかった、過去に浸りたかったからだと思う。

 

 何も考えず、ただ幸せだったあの時を見たいだけ。私が入ると不要な事態を招いたり、ごちゃごちゃすると感じたから遠くで見ると言うのが一番いいと思う。

 

 

 

 私も十六夜とは二人きりで旅行に行ったことがある。本当に楽しかったし、嬉しかった。ちゃんと私の幸せを考えてくれて、二人の時間も大事にしてくれて、手を引いてくれて本当に幸せな時間。

 

 これがずっと続くと思っていた。でも、それは無かった。幸せは途中で消えた。

 

「じゃ、じゃあ、水着に着替えてくるから」

「は、はい」

 

 

二人が旅館に荷物を置いた後、近くにある温水プールでひと泳ぎするようで脱衣所で別れる。ああ、この初々しい感じも懐かしい。

 

私もサングラスをかけて水着に着替えて、ちょっと遠くから二人を見守る。

 

「じゃあ、泳ぎの練習しましょうか……」

「そ、そうね」

 

私もやったなぁ、二人で練習。泳ぐときに手を引いてくれたのよね、十六夜。

 

「あ、その手を、持ってバタ足の練習をすると良いって動画サイトで言ってました……」

「あ、そそう、じゃあ、その手を握って貰っていい……?」

 

いや、初々しいわね。本当に。彼は過去の私の水着姿に見惚れつつ少し恥ずかしさもあるようで目線を合わせたり逸らしたり。

 

逆に彼女は彼が意識しているが嬉しいのと、実はパット入れてるのがバレたんじゃないかと思いながら二重でドキドキしている。私がそうだったから彼女の今の微妙な心境は手を取るように分かる。

 

 

「も、勿論です」

 

いや、本当に照れ屋ね。十六夜。まぁ、彼女がしている水着は結構良い感じのだし。赤めの奴でコハク程じゃないけど谷間も無くはない。足と尻は良い感じに引き締まってるし。いつもと違うツインテールにしてない長髪。

 

「じゃあ、に、握るわよっ……」

「ど、どうぞ」

 

二人で旅行なんて初めてだし緊張するのは良く分かる。手を握り合って互いに赤面している二人を見るとちょっと羨ましくなり、同時に過去を思い出して楽しくもなった。

 

 

十六夜の手、ゴツゴツしてる……とか、思ってるでしょうね。

 

 

「バタ足やってみて貰っていいですか……」

「う、うん」

 

 

温水プールだから生ぬるい温度。彼女は手を握ったままバタバタと足を動かす。水飛沫が沢山彼女から起こる。

 

彼女が進むのに合わせて彼は後ろ歩きで進んでいく。

 

「ど、どう?」

「上手です! コツを掴んでるんじゃ……」

「いや、もうちょっと! ま、まだ掴んでない! 水怖いから!」

 

 

 

彼女はずっとバタ足。それを何度も繰り返しているうちにコツを掴んでいるんだけど手を握っていたいから嘘をついている。

 

暫く、練習するとここでビート版使おうとか言うのよね。私が泳げるように本気で頑張ってくれるのは嬉しいんだけど。それが欲しいんじゃないのよ。

 

ああ、ここで私がかなり恥ずかしいことを言ったのを思い出した。本当に恥ずかしい。

 

「じゃあ、ビート版借りてきます! それで出来ればもう、泳ぎなんて」

「十六夜の手が良い……」

「ッ!」

「ダメ、かなっ?」

 

見てると本当に恥ずかしい。実はこれ、限界まで上目遣いして前かがみして、若干の谷間をアピールして声音を可愛い子にしてる。

 

「もうッ、いくらでもやりましょう!」

「じゃあ、お願いしてもいいっ?」

「どんだけ、可愛いんですか! 良いに決まってます!」

「ありがとうっ」

 

 

女々しい、メスね、ここまでメスメスしてたかしら? コハクのこととやかく言えないくらいのぶりっ子ね……

 

二人は再び手を握る。そのまま泳ぎの練習を再開。

 

ずっと練習していると彼女は美人と言う事もあり、男女問わずに周りから視線を向けられる。

 

「火蓮先輩が美人だから視線が凄いですね……」

「美人かァ……こほん、まぁ、そうなのかしら?」

 

美人と言われたことにちょっと嬉しくなって表情が緩むが直ぐに年上の威厳を保ちたいと思って気を入れなおす。

 

彼女は彼が少し、面白くない顔をしているのに気付く。

 

「どう、したの? えっと、何か嫌な事でもあった?」

「いや、なんでもないです……」

「……もしかして、私が他の人に見られるのが……嫌とか?」

「……はい」

「……ば、馬鹿! それしきのことで、不機嫌に何かなるんじゃないわよ! もう……(えへへ、そっかぁ……そうなのね……独占欲が前より強くなってるじゃあない!)」

 

内と外で思ってることが違うというは凄い分かる。あの時の私も超絶嬉しかったと覚えているからだ。

 

 

その流れでかなりの爆弾発言をしたのも覚えている。

 

「すいません……なんか、こういうのを言うのってキモイって思うんですけど……なんか、その……」

 

 

十六夜が今までないくらい不機嫌な感情をあらわにする。それにちょっと嬉しくなって調子に乗った。

 

「バカ……もう、しょうがないわね。そんなことで不機嫌になるなんて」

「すいません……」

「……今日の夜は、全部、見せてあげるから、機嫌直してよ……」

「――ッ!!???」

 

 

十六夜は鈍感じゃないし、鋭い。それに期待もする。だから、この旅行でそう言ったことがあるんじゃないかと絶対に思っていた。

それを彼女は分かっている。だから、その彼の期待と意識をより一層強めたのだ。

 

ママ感を出して大人の雰囲気を醸し出す。自分良い女だなと思いながら彼女は完全に調子に乗っている。あの異世界のベンチを同じなのだ。

 

彼女は自分がどんな発言したか理解しているのだろうか。あとで思い出してとんでもなく悶えるのを覚悟しているのだろうか。

 

我ながら本当に馬鹿だなと思う。この旅行で今まで以上の特別な関係なろうと思っているから言っても良いとか思ったんでしょうけど……あなたはご飯を食べて、温泉で入浴してブレスケアと歯磨きをして勝負下着を付けたまでは良いけど、泳ぎ疲れて爆睡すんのよ…‥翌朝、赤面で起床。

 

十六夜は全然気にしてない感じで寧ろ可愛いと真面目に言うけど、どこか笑っていて……まるで年下を見るような慈愛の目を向けられるのがさらに恥ずかしくて。それからしばらくは年下扱いな感じなのよ……

 

 

まぁ、それを含めて良い思い出なんだけどね……私は馬鹿な私を見ながら思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 



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