Vtuber銀玲の憂鬱 (明日死ぬ)
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お気持ち表明

※この物語はフィクションです


零和元年は多くのバーチャルミーチューバーが誕生したことから、vtuber元年と呼ばれていたこともある。

 

「今となっては、それを覚えてるのも私くらいかな」

 

大型動画投稿サイトmetubeを活動拠点とするバーチャルミーチューバー、通称vtuberはかなり人を選ぶジャンルだ。

動画投稿者は動画の中に投稿者自身ではない自身を映し出し、それを自身として扱う

(多くの場合、安価で手軽という理由で2Dの絵が用いられる。私の場合は3Dのモデルを扱い、ゲーム実況などを行っている。

投稿者自身が動画に映りながら、極めてリアルなvtuberであると強弁することもあった。いずれにせよ、vtuberは私と私ではない現身という二重性を持つジャンルである)。私もそうなのだが、その時「中の人」の存在は無視される。

その一方で、中の人を明らかにしてvtuberを演じる人も少なくない。この場合、vtuberとは単なるコミュニケーションツールの一つである。

 

「……まだ活動してたんだ」

 

そして、多くの人はvtuberをアイドルとして捉えた。vtuberブームに目を付けた企業の半分が着手したのがアイドルグループの作成だった。

vtuberの利点に、顔を明らかにしなくてもよいというのがある。今や声優にとって必要不可欠である顔の良さがここでは必要ない。

オーディションが盛んに行われ、ここに第二次vtuberブームが成立した。

最も、vtuberブームに目を付けた企業の半分は金に釣られた馬鹿だったから一年も経たぬうちに撤退していったのだが。

 

「思い出すだけで頭が痛くなる」

 

給料未払い、脱税問題、権利争い、半グレとの付き合い発覚、オフでパコしたとかしてないの話が数十件、最後には個人情報が大量に暴露で大炎上。vtuberが抱える構造的な問題は幾つもあって、初期投資が高額であること、その割には儲からないこと、vtuberの中の人の情報の暴露が容易いことがある。例えば、12人グループのアイドルグループを作るとして、当然それを誰が演じているかは守秘義務があるが、そのうち一人が口を割れば12人全員の情報が分かってしまう。

スタッフでもいいし、何なら共演者でもいい。別に情報を漏らさなくても、アイドルグループは関係性を売りにするものが多かったから、一人居なくなるだけで容易にヒビが入ってしまう。何故ここまで情報の流出を気にするかといえば、何かしら後ろめたい過去があることが多いからだ。

vtuberの顔を隠せるというメリットは実際のところ、過去に問題を起こした人物の顔を隠すという意味で機能することが多かった。

もう少し言えば、素人を企業はあまり採用したくなかったので、脛に傷があるが実績もある人間がvtuberに多く採用された。

勿論、vtuberになったところで中の人の性格が変わるわけではないので、vtuber界隈でも問題は多発したのだが。

 

「まーた誰か燃えてるよ……ってなんだ、まとめサイトが適当言ってるだけか」

 

vtuberの一番の問題点は、vtuberで成功できるような有能な人間は、他の業界で働いた方が儲かることにある。

だからこそvtuber界隈の市場規模を増やす必要があったのだが、その時にいた古参は私一人だけ。完全に終わっている。

問題が無くても、他業に専念するためとか、儲からないとか、契約期間が終わったとか、飽きたとか、色々な都合で辞めたvtuberは多い。

 

「はぁ…………」

 

ライブと一緒に潰れた企業を思い出す。自業自得かもしれないが、自転車運業なのはどこも同じだろう。

そもそもmetube自体が不安定な稼ぎ口であるから、さもありなん。

バーチャルらしさを求めて自分を見失った

私から言わせれば、拘るのではなくある時ふと気づくものなのだ。

 

「動画、エンコード終わってますよ」

「あ、ありがとう」

「大丈夫ですか?」

 

バーチャルの永遠性というのは、その存在が失われて初めて成り立つ。玩具にされるのと何が違うのだろうか。

 

「大丈夫だよ」

 

今日も動画の中の私は笑っている。FA(ファンアート)を巡回したら首を絞められた裸の私が笑っていた。



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カルマ

ふと、彼の言葉を思い出すことがある。

百合営業を消極的ながらも継続してきた当チャンネルでは、案件を厳選しているのもあって、男と絡む機会自体が少ない。

数少ない出会いの中で、強烈に印象に残っている一人。

五回目の転生だった。

vtuberという媒体に出会う前から転生を繰り返していた彼は、水を得た魚のように個人勢として、時には企業勢として現れては消えた。

過去の動画は全て消すから、私のチャンネルでアップされたコラボ動画が捜索掲示板として活用されている始末だ。

 

「音楽というのは瞬間的なものだから、時間が経ったものは消すようにしているんだ」

 

しかし彼がどんな肩書で転生しようが、これまでの行い全てがカルマとなって、彼という存在を定義する。

 

「すべてに始まりがあって終わりがある」

 

「私はコラボ動画、残しますよ。それはずっと残り続ける」

 

「君もいつかは、終わるだろう……?」

 

或いは、その言葉があったら今日まで頑張れたのかもしれない。いつの間にか、数字が大好きな奴らも、処女が好きな奴らも、日本語分からない奴らも、

此処しかなくなってしまって、なし崩し的に登録者100万を達成してしまった。

 

「100万人登録記念、どうしますか?」

「別にめでたくはないでしょ」

「じゃあ枠を祝じゃなくて呪に変えときます?」

「シンプルに100万でいいよ」

 

意地悪な奴らがぬか喜びさせて99万に戻すかと思ってたら100.1万に増えていた。

 

「ルリアのこと話そうか」

「…………そうですね、そろそろ」

「その前に、動画の収録をしよう」

 

ある所にルリアというvtuberがいて、それなりの人気を得ることが出来た。ストーカーも付いてきて、引退した。○○警察は無能だからしょうがない。

それを私が拾って、今彼女は妖精さんとして私が冒頭だけプレイして投げたゲームを別チャンネルでクリアしてもらっている。

私は直接言及してないけど、時折声を入れて匂わせている。

 

「やっぱり、素直に祝うって気持ちになれなくてさ」

「他の人は、喜んでますよ」

「何だろうね。不幸になりたいのかな、よく分かんないけど」

「やりたいようにやれ」

「スタッフ」

「最初からそういう話だ」

 

 

私こと銀玲は、あるアパートで三人暮らしをしています。同居人は、妖精さんとスタッフ。

勿論これらの名前は本名ではないですが、お互いの身バレを極力避けるとRP(ロールプレイ)を徹底するということで普段からそう呼び合っています。

スタッフは私をVの道に引き込んだ人で、動画の編集にご飯まで作ってもらってます。

そんな二人が見守る中で、私は配信を始めます。

 

始まった!

わこつ

同接1万だ

 

「まず、ありがとう。今日来てくれた人、これから来る人、アーカイブや切り取りで見る人、アンチにも言いたい。

ありがとう。貴方たちがいたからここまでこれた」

 

そんなことないよ

こちらこそ

銀玲がいなかったら死んでた。

律儀で草

 

「だからこそ伝えます。今すぐに引き返してください」

 

え?

どういうこと?

性根悪すぎだろ

 

「今から始まるのは、貴方達にとって見たくも聞きたくもないことかもしれないから」

 

逆に気になるんだが

それってアンチにとっても?

 

「まず、妖精さんについて話したいと思います」

「妖精さんはかつて、あるvtuberとして活動していました」

「妖精さんは、追われていました」

「私達が住んでいるバーチャル空間は、バーチャルセキュリティがしっかりしているのでバーチャルストーカーも来ません」

「バーチャルハッピーエンドです」

 

バーチャル使いすぎて意味わからん

百合じゃん

てぇてぇなぁ(思考停止)

 

「その次は、一週間の活動休止の件かな」

 

ああ、あの時の。

あれって何かあったの?

あの人絡みって言っていいのかな

 

「皆さん知っての通り、あの人が居なくなってから私も一週間活動を休止しました。何事も無かったかのように復帰しましたが、本当はあの時何があったか」

 

何で休んでたっけ、体調不良?

復帰してから体制もちょっと変わったよね

銀玲も居なくなっちゃうんじゃないかってまとめで騒がれていたの、今でも覚えてる

あの時銀玲も居なくなってたら、vtuber見るの止めてた

 

「原因は、失恋です」

 

?????

え?…………誰に対して?

まさか、あの人?

 

「公言しているように、私はあの人に憧れてvtuberになりました。他のvtuberもそうです、私達のような個人勢は皆太陽のようなあの人みたいになりたいって思って、

vtuberを始めた。実際にお会いしても、想いは高まるだけでした。そんなある日、あの人に騒動が起こって、あっさりと止めた」

「私達は太陽の光を反射して輝く月に過ぎなかったのに」

「あの人のことが、好きだったのに」

 

それはどっちの?

 

「難しくて、答えられないな」

 

「何故、妖精さんと一緒に住むことになったのかという疑問があると思う。何で、他の人を救ってあげられなかったのかと怒る人も。

答えはね、妖精さんからあの人の面影を感じたからなんだ。だから、ごめんね」

 

そのごめんは誰に対して言ってるんだよ

重い、重すぎる

普通目の前でお前は代用品だって言うか?

ドン引きされてない

 

「そんな理由だったんだ」

「うん」

「私が、銀玲組を名乗ってたからじゃなくて?」

「それもある」

「なんと言うか嬉しくもあり、悲しくもあります」

 

てぇてぇなぁ(無我の境地)

湿度が高すぎる

 

「他の話題しません?」

「そうだね」

 

かつて『Viking』という、vtuber界を支配した「箱」があった。彼らは同じ船のメンバーとして、時に争い、協力し、数々のドラマを生み出した。

そして、たった一人の悪意によってバラバラになった。

問題はその後である。「箱」は潰れても、その残骸は残る。そのうち機材とスタジオを『Vark out』という私を中心とした音楽グループが(格安で)買取、個人勢などに貸し出している。当然赤字だが、メリットもある。強力なコネを手に入れるということだ。

 

「それじゃ告知でも」

「次、銀玲の部屋のゲストは、鬼さん」

「に、似た誰かが登場する予定」

 

え、嘘

復活!?

他のチャンネルで復帰告知はおかしくね

まさか、中身が変わるとか

 

居なくなったvtuberに対する風の噂も、聞こえてきたり。

言わずもがな……    あまりいいものではない。

 

「あまり期待しない方がいいとだけ。それから、これはいい告知」

「本当ですか?」

「Vark out所属のヨルノトバリのライブが決定しました」

「パチパチパチ」

 

 

あれ?誰の記念ライブだったっけ

人が良すぎる

銀玲はライブしないの?

 

「私のライブ……? 需要あるかな」

 

銀玲で需要無かったら他のVは一生ライブ出来なさそう

見てみたい

会場で銀玲コールがしたい

 

「だって歌、あんまり上手くないし」

 

銀玲で下手だったら(ry

このvtuber本当に音楽グループのリーダーなんですか?

キャラ声ではトップクラスなのに

 

「体力ないし」

 

それはそう

せやな

うん

 

「……鍛えた方がいいのかな」

 

そのままの君で居て

割と銀玲、こういうの本気で落ち込むタイプだよな

 

「こころの整理がつかなくて、その色々あったから」

 

てぇてぇ(ちくわ大明神)

今の誰だ

低評価で一々ショック受けてそう

 

「まぁ。一番大事なのはペイ出来るかどうかだから」

 

そういうのはシビアよね

お金になっても、本人が望まないならやってほしくないな

やるなら絶対行きます

 

「お金と言えば、グッズに関してだけど――」

 

それから色々なことを話して、低評価もそこそこ付いた。まぁ、無いよりかはいい。

微妙な話題も多かったから、他のvtuberもおめでとうとしか言ってくれなかった。



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銀玲の部屋

某日 銀玲の部屋

 

「vtuber元年で、僕が産まれて、それで――」

 

「(私以外にも使っている人がいたのか、元年なんて言葉)」

 

 同じ古参勢というのも大きいか。私のちょっと後くらいに登場した彼は、厳ついモデルと優しい性格のギャップを武器にし、vtuber界の良心としてひっそりと活動を続けてきた。

 

「数か月前から鬼さんとしての活動を停止することに決めました、突然で申し訳ありません」

 

「報告の一つも無しに休止。本人に何かあったんじゃないかと疑う人も多かったですが、実際の所は?」

 

「怖かったんです」

「僕は元々、ネット上のあるグループの一員として活動していました。人を玩具にして嘲笑う、法律もモラルもない最低な集団。

vtuberが世間に知れ渡る少し前から、僕たちのグループでは話題になっていました。人を不幸にするには色々な方法がありますが、

vtuberは顔を隠して活動出来るという特徴があった」

 

「vtuberとして、界隈を内部から崩壊させる……鬼さんが活動を止めたのもあの事件があった頃ですね?」

 

「お察しの通り、あの事件も僕の仲間がやったものです。僕は怖くなってしまって。最初は、vtuber界をぐちゃぐちゃにするためいい人を演じていたのに、だんだん裏切れなくなっていて、適当なタイミングで僕の本性を明かすつもりが、いつしか仲間に

僕の本性を明かされないかが怖かった」

 

「そして、あの事件が起こった」

 

「vtuber界隈が荒れるのを見るたび、僕の心は昔に戻っていきました。やっぱり、人を馬鹿にするってどうしようもなく楽しいことを思い出したんです。もう、鬼さんとしては居られない」

 

もしも鬼さんのファンがこのことを知ったらどうなるのだろうか? と私と彼は思いました。何はともあれ、元気そうで良かったと笑うのだろうか?

そう考えてしまうと、少しだけ悲しくて、言葉が出てきました。

 

「二重人格じゃ駄目ですかね?」

 

「はぁ」

 

「だって鬼さんは鬼さんだったじゃないですか。それは、嘘じゃないです」

 

「別に構いませんよ。鬼さんと名乗る人物が勝手に言ってるだけ、と解釈しても」

 

嫌な話の流れだ。

 

「僕ではなく銀玲さんのチャンネルで発表したのは、拡散力の違いを考えてのことです」

 

私が巻き添えで低評価とヘイトを買うことまで計算してるから、嫌になる。

 

「ちゃんと、情報は渡すので安心してください。カットしないでくださいね?」

 

「本当はここに来ちゃいけないのにね、vtuberであることを放棄した奴なんか。

それが貴方のvtuberだって言うのなら、私はそれを否定する」

 

「好きにしてください」

 

この後も言い争いが続いたから、カットした。

 

 

 

「実は私もネット上のあるグループのことは前から知っていて、その一人と戦ってた」

 

「あ、まだいたんだ。ひかれあうもんですね、僕ら」

 

「但し違うアプローチで。記者としてだけど」

 

vtuberがネット上の存在である以上、ネットでの評判というのは極めて大事なものである。それを決定づけるのがまとめサイトであったり、ニュースサイトであったりする。もしも、そこに存在する人間が悪意を持って記事を扱ったらどうなるだろう。

 

「中々訴えるのも難しくて、大変だったよ」

 

私も印象操作を行っていた側だったため、すぐに気づき対抗することが出来たが、そうでなければ手に負えなかったことが目に見えている。

 

「だから、負けないよ。私は」

 

「そうですか。しかし、第二第三の僕が、あの人が、やがてまた……」

 

鬼さんもどきは消えていった。

 

舞台裏。

 

「てっきり私は、取りこぼした情報を奪いに来たのかと」

 

大規模流出事件の後、vtuberの個人情報というのはよりガードが固くなった。しかしスタジオの管理者である私は、

スタジオの出入り口等にある監視カメラを見ることが出来る。つまり、中の人を把握している。

もしも私がこれを漏らしたら、vtuberの匿名性は完全に死に絶えるだろう。

 

「そこまで高望みはしませんよ」

 

「そう」

 

「僕等は楽しみたいだけなんだ」

 

まぁ、そうなったとしても離れる人は以前より少ないだろうから、面白くないということか。

であるならば、この情報提供はやはり悪意なのか。

 

「あの人が彼氏バレ程度で引退するはずがない」

 

それ以上の何かがあった。そう思い運営との軋轢の線を探ったが、何も出てこなかった。

 

「その彼氏が悪人だったとしたら?」

 

「……だとしても、それは」

 

「彼女の彼氏が、あの悪魔だったなら」

 

「――――――――ああ」

 

確かにそれは、悪意に満ちていて、救いようのない現実だ。



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再会

大規模流出事件の時、一番問題になったのは演者の心だった。

 

「彼は、私が人気じゃない頃から応援してくれて、配信の仕方から色々と……」

 

「信じられない。それしか言うことが無い」

 

「昔燃えた時覚えてる? 一番最初に助けてくれたのが――」

 

その頃のVikingは既に実績のある人間ばかりを起用していたから、前世が割れているvtuberも多く、彼らにはそこまでのダメージは無かった。

それ以前、つまり探り探りやっていた頃の初期メンバーを中心としたグループに対しての被害が大きかった。会社員や母親といった比較的普通の人がやるvtuberは、たどたどしくも界隈に色どりを与えた花だった。当然、殆どの人間に前世はない。

そういった人間を晒すことに対して、ネットも少しだけ抵抗があり、会社が頑張ったこともあって、記憶には残ったものの記録は殆ど消えた。

心の傷は残った。

あの悪魔――雛月は、Vikingの初期メンバーとして参加した一人だった。配信頻度はそこまで高くないが、落ち着いた声と雰囲気、その当時(今も十分少ないが)は珍しかった男性として人気を得て、司会をそつなくこなすことでそれは不動のものとなった。

他のVが炎上した時も、常に諫める側として冷静に対処していた。

 

写真家であるという雛月は現実でも演者と写真を撮っていた。それが流出し、雛月の演者の個人情報が全て偽りであったことが判明した時、私達は、彼が悪魔というRPに最も忠実な演者だと認めざるを得なかった。事が発覚した時既に、彼は海外へ逃げていたとか。

そして、あの人も消えた。

 

「お久しぶりです、星怜奈さん」

 

だけど、逃がしはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さなアパートだった。意外にもvtuberのグッズは多く、世間話程度に振ったvtuberの話題もある程度解っていた。

 

「嫌いになったと思ってました」

 

「嫌いにはなれないよ」

 

私達は、まるでvtuberのファンのように、色んな問題を無視して語り合った。

 

「お勧めの動画があるので、どうですか」

 

「じゃあそこのPCで再生して……」

 

私はあの人の後ろで待機して、起動した後にマウスを奪い取る。

 

「銀玲ちゃん!?」

 

「私達のこと、嫌いでしょ?」

 

履歴を漁れば、vtuberのアンチスレッドが幾つも並んでいた。

 

「好きだよ、今でも。……雛月のこともね。それよりなんでわかったの?」

 

「何をですか?」

 

「これがアンチスレなこと。タイトルには馬鹿にする言葉も、アンチとも入ってないのに」

 

「私が……その掲示板の管理人だからですね」

 

「え……えっ!?」

 

「こんな近くに居たのに、気付かなかった」

 

きつね板を作ったのは、五年以上前だ。当時、文芸部に入っていた私は人間の悪意に興味があり、掲示板を開設することにした。最初は過疎っていた板も、やがて人気になっていき、いつしかvtuberのアンチスレが立つようになっていた。私はそれを推奨した。ヤバい情報が流れた場合、即座に対応することが出来るからだ。

 

「銀玲ちゃん的には前世トークとかエロパロとかはセーフなの?」

 

「セーフでしょ」

 

そういう意思を評価されたからか、ネット上で活動していたあるグループには私も参加していたことがある。鬼さんとは入れ替わりかな。

 

「どうしてそんな平然と、人を傷つけるようなことが出来るの?」

 

「??」

 

「雛月も銀玲もあんなに優しいのに」

 

「だって現実はクソじゃないですか」

 

あの人は首を傾げた。恵まれて生きてきた人間とそうでない人間が此処にいた。

 

「もう一回vtuberやりませんか」

 

「迷惑は沢山掛けた、けど今のvtuber業界は私抜きで十分回ってる。今更復帰しても、厄介を引き連れるだけで、昔に戻るだけ」

 

「そういうのじゃなくて」

「……………………」

「あなたを……いや、あなたのvtuberが好きだから」

 

「そっか。やっぱり、嫌いになれないな。何でこんなに似て」

 

「似てる?」

 

「雛月と銀玲は凄く似てるよ。違いがあるとすれば、銀玲は雛月より私のことが好きな点くらいかな」

 

「大好きです」

 

「自宅まで押しかけてきて、とんでもない厄介ファンだね」

 

「うっ……」

 

「星怜奈として表には出れないけど」

 

「当然、モデルは用意します」

 

「嫌いだって疑ってたくせに。洗脳でもするつもりだった?」

 

私は無言で笑う。

 

 

 

ネットの付き合いである以上は、しれっと消えてしれっと戻ってくればいい。私ならそうする。

あの人が復帰する場合は、何かしらのストーリーが必要だ。今の私が用意できる一番大きなものになると……

 

「ライブを、開こうかなと」

 

「ふむ」

 

私があの人と一緒に向かったのは、ヤが付く人たちが過ごす事務所だ。

 

「銀玲、こんな怖い人たちと関わるの危ないよ。帰ろう?」

 

「…………結構長い付き合いなのです」

 

 バーチャル風俗の話が業界で出回った時、どうしても話をつけておかなければならない連中が彼らだった。

vtuberをアイドルとして本格的に売り出す時にも、話をした。身辺警護等何回かお世話になってる。

 

「銀玲姉さんにはいい付き合いをさせてもらってるから、心配あらへんよ嬢ちゃん」

 

「連れがすみません」

 

何故一緒に来たのか、そろそろあの人も理解したころだと思う。これは、銀玲の弱点だ。

すっぱ抜かれたら破滅するだろう。それはvtuber業界の破滅に繋がるかもしれない。

 

「このことは他にも?」

 

「私とスタッフのみで、『Vark out』の連中は知らない。勘づいてはいるかもしれませんが」

 

そうなった時、どうするか。

 

「私じゃ、vtuber界の顔になれない、いや、なっちゃ駄目なのです。だから……」

 

「私がなれって……? 顔も割れているのに」

 

「どのみち、ですよ。顔は割れてる方が今となっては都合がいい」

 

顔があの人でなければならないという道理はない。あの頃のvtuberを私が好きなだけ。

ここまで聞いて、知らんぷりも出来ないだろうという打算に笑う。我ながらやることが狡い。

 

「一緒にライブ、立ちませんか?」

 

「――――――ええ」



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メン限

不意に暇が訪れて、Metubeを開いた時、チャンネル登録のベルが鳴っていた。

銀玲のメンバー限定配信が始まっていた。ゲリラだから、居合わせたのは運がいい。

普段見せるきびきびとした姿とは真逆の、銀玲がそこに居る。

 

「ふぁぁあ……おはようございます」

 

おはよう

今三時だぞ

 

ここには、銀玲の味方しかいないからか、割とふにゃふにゃだ。ガサゴソ、物音が響く。衝突音。

 

「あいててて」

 

大丈夫?

ポンコツかわいい

 

「それじゃはじめます」

 

配信タイトルは、さくせんかいぎになっている。

 

「ライブをやろうかなと思っていまして」

 

お、ついにやるのか

チャンネルの方で告知しないの?

 

「正式にやるって決まったら、動画出します。今は打ち合わせ中です」

 

「今日聞きたいのは、どういうのがいいかです。

歌ってほしい曲とか、共演してほしい人とか、尺とか、値段とか場所とか、色々」

 

「まず料金なんですけど、どのくらい出せますか」

 

赤スパ代越えなければ幾らでも

流石にライブ代くらいは出すでしょ

メンバーに聞いてもな

 

「んー、じゃあ逆にします。どのくらいまでなら無料で出しても許せますか」

 

30%くらい?

15%

半分までなら

 

「結構分かれてますね。じゃあ次曲についての話をします」

「まず、オリジナル曲聴きたいですか」

 

聴きたい

ききたい

今から作るの?

 

「やっぱり、カバー曲だけで終わるライブは寂しいですよね。

となると、オリジナル曲を作る必要があります。

プロの人に頼むと、お金が掛かるので、慎重に選ばないといけません」

 

ファンメイドがあるじゃん

 

「ファンメイドの作品がもし叩かれたら、私責任取れないので。プロの人はお金払っているからまだいいですけどね。

勿論、単発の動画なら喜んで歌いますが、ライブだと中々」

 

銀玲が作るのは駄目なの?

 

「私がですか? まぁ『Vark out』に手伝ってもらえば出来なくはないですけど」

 

銀玲の曲が聞きたい

それいいじゃん

 

「じゃあ頑張って作ります」

 

やったー

 

「次は、カバー曲の内容ですね。何がいいですか?」

 

林檎もぎれビーム!

キン肉マンGO FIGHT!

 

「あくまで銀玲というキャラのライブなので、そういうキャラ名が入ってる曲はえぬじーです」

林檎もぎれビーム! は考えますけど、そんなハイテンションになれるかどうか」

 

死んだ目で歌ってもいいんやで

 

 

 

「最初に歌いたい曲はこれですね」

 

なになに

大丈夫かな

軽く歌ってみて

 

「ホントのコト!」

 

ホントのコト  作詞:般若 作曲:Mr.BEATS・a.k.a.・DJ CELORY

 

「魂なんて売るよすぐ」♪

 

「好きなタイプはデブでブス」♪♪

 

「これ歌ったら会場もぶちあがるかな?」

 

うーん

無理じゃないかな

 

「結構カラオケで練習したのになぁ……」

 

「最低のMCはどうですか! いや、これは流石に場違い……」

 

多分止めたといた方がいい奴

銀玲最低

 

「じゃあ皆殺しのメロディにしましょう」

 

皆殺しのメロディ 作詞:甲本 ヒロト 作曲:甲本 ヒロト

 

「我々人類は バカ」♪♪

 

「ホントのコトよりもコールしやすいですよ?」

 

意外と盛り上がるかも?

銀玲HIPHOP好きなんだ

これを無料公開で見せるのか(呆れ)

 

「まぁ冗談はこのくらいにしておいて」

 

マジなトーンだった

絶対冗談じゃないでしょ

切り抜いていい?

 

「メン限は切り抜きえぬじーでお願いします。見つけたら皆で通報ね。

次は真面目な話をするのでよく聞いてください」

 

「皆は生がいいですか?」

 

切り抜きNGな(先制打)

エロいニュアンスにしか聞こえん

口パクってこと?

「普通、ライブはアーティストが生で歌うじゃないですか。多少下手でもそういうものだし、上手かったら嬉しいです。時には口パクをする人がいます。何故でしょうか? 生で歌うことが重視されていないor困難であるからです。vtuber……というか私は、ライブの時皆の前にいるけど、何というか偏在していて、そこに居ない存在であって。上手く言えないけど、私は事前収録でもいいと思ってます」

 

やめてくれないか 早口で畳みかけるのは

悩んでいるのはわかった

 

「全部が全部というわけではないです。MCは即興でやるし、オリ曲は絶対生でやります。

少なくとも、ライブは一時間以上、十曲は歌うので、私の体力が持たないという面も」

 

たしかにそう

ならしょうがない

体力ないからなー

 

「体力が無い銀玲は公式設定じゃないですからね?」

 

その後も、ライブの話が続いた。

 

「こうやって考えてる時が、一番楽しいな」

 

わかる

いざやってみるとそんなに楽しくない奴

 

「あのさ、……いや……ライブ……ごめん、今日の枠はここで終わる、皆ありがとう」

 

気になるから言ってよ




【大事なお知らせ】
なんと銀玲、●月▽日にライブをやることが決定しました!
場所は◆◆◆◆で一週間の間アーカイブ視聴も可能です。
値段は5000円で現地の場合は8000円になります。
決して安くはない金額だけど、見に来てくれたら幸いです。


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それぞれの理由

好きだった作者には更新されるたび、いっぱいの文章を書いて送った。

返信はいつも、一行か二行だった。

愛を示せば、必ず同等の愛が返ってくると思っていた。

作者が受験勉強を理由にして消えた(数年後覗いてみたら、小説そのものが消えていた)。

その時の私は、三分の二を私が占める感想欄を振り返って、何か間違ったことをしてしまったんじゃないかと不安になった。

名取に出会った。

 

高校、同じクラスで名取の後ろの席、国語の授業、名取が立ち上がって朗読する。

 

「彼は大声で叫びました。危ない!!」

 

本当に大声で叫んで、先生も驚いてた。

 

「息が切れるほど走りました」

 

次は私の番で、中々話さないから「私の番だよ」って目線を優しく向けていた。

 

名取は、全力で頑張れる人なんだって知った。

 

それから、君の姿を時々目で追うようになった。

 

水泳で必死に溺れないように泳ぐ姿。時間ギリギリまでテストで悩む姿。

陳腐な言葉で言い表すならば、あの瞬間から彼女は私の推しになった。

 

 

大学も同じだった。彼女が入っていたのは文芸部だったから、私も同じ部に入った。

 

「何で、名取はそんなに頑張れるの?」

 

「生きるのに必死なだけです」

 

親が厳しいわけでもなかった。彼女の性格と相反するような厳しい規律。

 

「こういうことを言うと、精神を疑われるので黙っていましたが……」

 

彼女は私にだけ、もう一人の自分が居ることを打ち明けてくれた。

そして私には、ピンと来たものがあった。

 

「バーチャルミーチューバーって知ってる?」

 

最初は単なる遊びだった。でも、彼女は真剣だった。

 

やがてvtuberブームが来て、彼女は一気に跳ね、登録者は十万人に迫ろうとしてた。

 

「大学を辞めようと思っています」

 

「それって大丈夫なの?」

 

「大丈夫ではないです。しかし、このまま社会に出てやっていけるとも思わない」

 

昔から、誰かの傍で笑いたかった。多分、それは今だ。彼女(ひかり)の裏にある(かげ)になりたい。

 

 

■  ■  ■

 

 

 

声優に求められることとは何だろうか。声、顔、コネ、ダンス、トーク力、知識……

私は無理だった。

 

「vtuberか……」

 

Metubeはよく見る。美容系、雑学、音楽、ゲーム実況諸々。最近見始めたのがvtuberだ。

声優として、星怜奈がアニメに出演するとの告知だった。

 

「何だよそれ」

 

ああこうやって職を奪われていくのかとなってもいないのに悲観する声優くずれ。

よく分からんおっさんが吹き替えるよりかはずっとましか。

そういう愚痴をベッドの上で吐きながら、動画をスワイプする。チャンネル登録したのに通知は来ていないけど、新着の動画を発見。

 

1コメだとか2コメだとかの争いをしり目に、動画に没頭する。

ジャンルの発展と共にvtuberが増えていったが、銀玲の声はそれらと比べてもすっと入った。

よく笑うが、そこにはいつも影を感じさせた。そのせいかガチ恋勢が地味に多かった。

 

私も恋というか、憧れのようなものを、抱いた。そんな綺麗じゃないって分かってるはずなのに。

画面の中で、銀玲が語っている。

 

「個人でvtuberになるのは、今がギリギリの時期になると思う」

 

なれるはずないのに、手を伸ばしてしまう。

 

 

 

思ったより、vtuberになることは簡単だった。そして、思っていた100倍人気が出た。

 

「チャンネル登録1万人、ありがとうございます」

 

vtuberブームの影響を、ギリギリ受けることが出来た。登録が伸びれば、コラボも出来た。

そうすると、また登録が増えた。名前が出されることも増えていった。

銀玲とのコラボは、叶わなかった。私よりも先輩のvtuberが銀玲とコラボしていないのに、どうして出来るだろうか。

銀玲は、引き籠りだった。私が名前を出しても、フリッター外交すら殆どやっていなかったから、絡みようが無かった。

それでいいと思っている自分すら居た。

 

人気が増えるにつれ、悩みごとが増えた。

エゴサーチで悪口を見かけるようになった。変な写真が来るようになった。

動画の撮影や生放送を行うたびに、プレッシャーを強く感じるようになった。

確かにそれらは嫌なものだったが、有名になったことを意味していたから我慢できた。

ストーカーには、苦しまされた。

 

いくらvtuberと言っても、生身の人間あってのもの。

警察は役にたたないし、そうなるとvtuberも嫌になった。

辞めようと思った。

 

最後に予定していたコラボ、そこには銀玲も居た。

迷惑だろうと思いつつも、私はストーカー被害のことを銀玲に話した。

唾を吐き捨てるように。

 

「辞めてもストーカー被害が無くなるとは限らないよね」

 

「まぁ、そうですが。警察も動いてくれないし」

 

「何とかできると言ったら?」

 

「え?」

 

私が伸ばした手を、あの人(・・・)は握ってくれた。

 

 

■  ■  ■

 

 

 

子供の頃、ナチスに興味があった。

 

ナチスはありとあらゆる手段で飾り付けられ、今なお恐ろしいものとして言い継がれている。

ナチスの残虐行為とやらが、戦争のワンシーンに過ぎないことを知ってから、熱が冷めた。

どうしてあんなに魅力的に感じたのだろう。それはナチスが正しくあろうとしたからだ。

私は、正しくあろうとする人間が好きだ。それが実際に正しいかどうかはどうでもいいことだ。

 

私の父は正義のジャーナリストだった。たまに家やって来て父が見せてくれた写真よりも、記事の方に興味があった。父はそんな私を褒めてインターネットを自由に触らせてくれた。そこには父の批判も書かれていた。その時私は、正義というのが一面的なものだと知った。父には言えなかった。

 

中学になってフラットな情報が欲しいと思い、掲示板を開いた。

最初は少なかった人も、段々増えた。まとめを始めた。段々アクセス数が増えた。

お金が手に入るようになっていった。

 

その頃、父は苦境に立たされていた。政権批判の嘘がバレたのだ。お仲間もその時ばかりは批判していた。父は職を失ってしまった。家に毎日いるようになって、お酒を沢山飲むようになった。幸いなことに、色んな人からお金を貰っていたから、生活には困らなかった。

 

「自分のやることが正しいとでも思っていたのですか?」

 

「こんのクソガキ、誰のおかげで食えていると思ってんだ!!」

 

思い切り殴られて、突き飛ばされて、あとから調べると血もそれなりに出てたけど、その時は全然痛くなかった。

 

私は電話を掛ける

 

「もしもし、警察ですか――」

 

 

運がいいことに、まとめで生活のお金を稼げるようになった。心の傷を負ったことにしたら中学も休めた。

高校も休もうかと思っていたけど、母は私を高校に行かせたがった。

 

「普通に生きてほしいの」

 

「……………………」

 

それが正しいと思って頑張ってみるも、私の心は荒れていた。

父を殺して血の味を知った私のナイフはありとあらゆるものを傷つけることを望んだ。

結局、自分で自分のことを否定するしか、収める術はなかった。

 

やがてヒップホップに出会った。

この音楽で、初めて攻撃的な私を肯定できた。

私は少しずつ、普通になっていった。

 

「vtuberって知ってる?」

 

あの一言を聞くまでは。

 



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ライブ 1/3

「人は?」「全員来てる」

 

「告知は?」「十分やった」

 

「機材は?」「問題なしだ」

 

「警備」「過剰なくらい」

 

「天候」「晴れ」

 

「クレーム等」「特には」

 

「客」「入ってる」

 

「交通機関の渋滞とか」「配信で見てもらえばいい」

 

いざライブが始まることになって、私はそわそわしていた。

 

「吸うか?」「いや、流石に、他のvtuberが近くに居るのにそれは」

 

薬は最終手段として、本当にどうしよう。

 

「こんなにそわそわするのは、10万人記念配信の時くらいです」

 

「初配信の時は緊張してなかったのにな」

 

「あの時は、遊びというか、失敗しても何とかなりましたからね」

 

今は違う。

 

「じゃあ配信でもしてみたらどうだ? そのノリでライブもやればいい」

 

「……やってみます」

 

メン限にしておこう。

 

 

 

 

 

「た、助けてください」

 

・ライブ始まった?

・あれ、メン限だけど

 

「その、緊張してしまって。皆さんの意見を貰えたらと」

 

銀玲でもそういうことあるんだね

 

「それはそうですよ。私だって……」

 

いや、違うか。私はvtuber、人でなし。

 

「緊張している銀玲の方が萌えますか」

 

・俺は葛藤している銀玲が一番好きだよ

 

「そうですか」

 

・それは何に対して???

 

「何というか。決して、歌の上手いわけではなく。笑いものにしてくれて構いません。こんなのでもステージに立てるんだって。勇気とか感動じゃなく、ただちょっと元気になってくれれば、それで」

 

・金払って行ってるから、微妙でも脳内で補正かけとく

 

「ありがとうございます。こうやって話しているおかげで、少し落ち着いてきました。そろそろライブが始まるので切ります。アーカイブは消しておくので、慌てふためく銀玲は心の中にしまっておいてくださいね」

 

●rec

ライブ頑張ってね

 

 

 

 

 

『第一部がまもなく始まります』

 

 

これから歌うのは、他人の歌。カバー曲による自己表現。罪悪感が無いと言ったら、嘘になる。所謂文化の盗用。プレミア公開よりも早く回る時計の針が零時を刺した時、物語は始まる。

 

 

『ヒビカセ』作詞:れをる 作曲:ギガP

 

「感覚 即 体感」

 

一曲目は『ヒビカセ』だ。これは初音ミクのために作られた曲だが、私達vtuberにも繋がる部分がある。

 

「ヴァーチャルだって 突き放さないで」

 

オープニングには、相応しい曲だ。静かな立ち上がり、拍手はない。次の曲を待っているのだろうか? 

かくいう私も待っていた。一曲目は事前に録音等を済ませている。声にエフェクトを掛けたり、演出の都合という部分もあるが、実際は私自身の声が震えてちゃんと歌う自信が無かったから。小さく口ずさみながら、画面の向こうで歌っている銀玲に私は溶け込んでいく。

 

画面が割れる。

 

「皆、調子どう!?」

 

「一曲目は『ヒビカセ』でした!二曲目に行く前に今日のライブを盛り上げてくれるvtuberを紹介します」

 

「一人目はバーチャル猫耳メイド美少女おじさんDJのレイムちゃん!」デュクデュクデュクデュク

 

「2人目はVOIZEより朱雀さん」よろしくお願いします

 

「ライブをやる時にVOIZEの人とやろうって話になって、一番いい娘を頼むって言ったら、朱雀さんが来て。私は掛け声だけやるから歌ってほしいって」

 

「先輩にそんな失礼なこと出来ません」

 

「まぁ、そんな頼りない先輩だけどよろしく。歌詞忘れちゃったら代わりに歌ってね」

 

「絶対忘れないくせに」

 

「皆も知ってる曲あったら一緒に歌ってオッケーだよ。

ではニ曲続けて。『合法的トビ方ノススメ』『僕はこの瞳で嘘をつく』」

 

デュクデュクデュクデュク

 

『合法的トビ方ノススメ』作詞:R-指定 作曲:DJ松永

 

 

「バチャ豚共ぶち上がれ!!」

 

と言いつつも小悪魔的の声色で歌う。この二曲がデュエットなのは、単純に曲が難しすぎて歌いきるのが困難というのがまず一つ。朱雀さんは超正統派のかっこいい系だから、それを活かす形で。

 

「イン」「アウト」

「インイン」「アウト」

「タイトなLoopで」「ヒーヒー言わす」

「高値の――」「ですから――」

 

「「ファム・ファタールの名はMUSIC」」

 

『僕はこの瞳で嘘をつく』作詞:飛鳥涼 作曲:飛鳥涼

 

次は私が大好きな曲の一つ(選んだ曲は皆好きだが)の、『僕はこの瞳で嘘をつく』だ。この曲の問題点としてまず、どっちがCHAGEでASKAなのかがある。昔はASKAが凄いとしか思っていなかったのに、今聞くとCHAGEのハモリに驚く。結果、私がASKAで朱雀さんにCHAGEを担当してもらうことになった。

 

「僕はこの瞳で嘘をつく」

 

Creepy NutsやCHAGE and ASKAはアーティストの中でもトップレベルの実力を持ち、歌唱力で張り合うなんてものは夢のまた夢だ。原曲を超えるとか馬鹿みたいなことを言うより、私達なりのやり方でやるしかない。朱雀が私に微笑んで、私もまた返す。合わせる。

 

「僕の中の秘密の事 僕の中の誰かの事…?」

 

やがて曲が終わる。

 

「――朱雀さん、ありがとう。……ちょっと疲れちゃった」

 

「もう?」とか「ライブお疲れ」といったコメントを幻視。

 

「お水飲みます。これが本当の仮想水(バーチャルウォーター)なんてね」

 

「ではそろそろ。踊ります」

 

『ハイファイレイヴァー』 作詞:Easy Pop 作曲:Easy Pop

 

というわけでダンスナンバー。勘のいい人ならすぐにわかりますが、これも別撮りです。だってライブ中に踊ったら疲れるので。最初は他の人に踊ってもらおうと思ったのですが、自分で踊った方がいいとのことで、ライブまでのボイトレと並行してダンス練習に結構時間を取られました。後半の方ちょっとバテてますが、そっちの方がリアリティがあるとかないとか。

 

「Wow wow yeh yeh 顔が近づいて 大胆な私がいる」

 

特別にガチ恋距離もやりました。

 

『Over Drive』 作詞:YUKI 作曲:TAKUYA

 

この曲はVark outのメンバーに楽器を担当してもらいます。この曲も凄い難しくて、メンバーと一緒にかなり練習しました。そして、アレンジとしてアコースティック青春的な感じに。要するに逃げなんですけど。うまく騙されてくれると幸いです。

 

「『ハイファイレイヴァー』『Over Drive』でした」

 

オーケストラアレンジとか、ラスボスアレンジとかが嫌い(一番嫌いなのは歌い手のラスト直前でのアレンジ)。その曲にある微妙な要素を殺すというか、『Over Drive』にはそれがあるのに、私はそれから逃げた。そう思うと嫌な気分になるけれど、テンションが下がる分にはそこまで問題が無い。

 

「暗くなりました」

 

単に照明を切ってるだけ。

 

「そろそろお眠の時間なので、最後です」

 

素で欠伸が出そうになって堪える。私は歩く、演出案としてアニメのEDよろしく私が曲の間走るというものがあったけど没になって、その名残で歩く。星が流れる。

 

「星…」

 

私が、浮かび上がる。さっき嫌いと言っておきながらもオーケストラアレンジの『夜に駆ける』が始まる。

 

『夜に駆ける』 作詞:Ayase 作曲:Ayase

 

疾走感がある曲だが、少しゆっくり目にして、優しく歌う。レゲエDeejayの如く、息を吐く。段々加速する。ここから先はアレンジ無しの直球勝負だ。

雨が降る。

 

『低血ボルト』作詞:ACAね 作曲:ACAね

 

曲がそのままの分、演出でフォロー。私の姿がぼやける。白黒の私、時たまのノイズ。ずっと真夜中でいいのに。の特徴として、何度も変化するメロディがある。サビが終わったらサビが始まったという感じで、そのテンションを最後の曲まで繋ぐ。

 

「ラスト、『平面鏡』」

 

 

『平面鏡』 作詞:Reol 作曲:Reol

 

舞台は夜空、雨と流転し、何もなくなる。暗転する。配信で見ている人は、自分の顔が映ったかも。使う声色はかっこいいでもかわいいでもなく、語り掛けるような生々しい声。客は一気に幻想の世界から引き戻されるはずだ。

 

「憂いを流してよアルコホリック」クルクルクル

 

あんまりかしこまって歌うような曲じゃないという考察。

 

「君の目 映り込む身体 真実よりも確かな虚像を」

 

銀玲よりも、生身の私に近いトーン。メン限でもあんまり見せたことない。

 

「壊れていく平面世界」

 

照明は落ち着きが無く揺れて、私を捉えては放して客席の方にも興味を示す。またもや暗転。明るくなって、私が居ない。

 

アナウンス。担当は妖精さん。

 

『ニ十分の休憩を挟んだ後、第二部を開始します』

 

休憩の時間は、私が体力回復のため本当に寝たり、機材の準備をしたりするほか、妖精さんが場を繋いでくれる。

 

「応援メッセージです」

 



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ライブ 2/3

『あと1分で第二部が開演します』

 

MCを務めた妖精さんがそのままギターを持ち、私が現れる。

 

『God knows…』作詞:畑亜貴 作曲:神前暁

 

「渇いた――」

 

配信はちょっとカメラがあちこちに動いて、ライブを作画する代わりに舞台裏の話で尺を稼ぐみたいなやり口にしてみました。私はエアギターを弾いて、ハルヒの如く歌います。

 

「淡い夢の美しさを描きながら 傷跡なぞる」

 

パーンとクラッカーが鳴る。第二部の始まりです。

 

『レイメイ』作詞:さユり/Hiro 作曲:さユり/Sho

 

引き続き私と妖精さんのデュオ。女性パートと男性パートに別れていますが、私が女性担当で妖精さんが男性担当。結構難しいと思うけど……楽しそうに歌ってる。

 

 

カンペが出る。あ、そうか次は寸劇(ちゃばん)パートか。

 

「イエーイ」ハイタッチ「……いえーい」

 

「大成功だね」「そうかな?」

 

「こんな風に歌えるなんて、夢みたい」「そうかも」

 

「次はどうするの?」「え?」

 

「登録者を増やして、大きな舞台で歌ってさ。メジャーデビューとか?」

「いや、メジャーデビューは■■レーベルから◎日×日にする予定」

 

「あれ、私は何をすればいいのだろう」

「登録者をさらに増やす?」

「色んな所で歌う?」

「夢って何だったっけ」

「そうだ、あの人に憧れて……」

「………………………………」

 

「昔、あの人と一緒に歌を歌いませんかって言われたことがあって」

「歌に自信が無くて、断ってしまった」

「一生の後悔ってこういうものなのかな」

 

何か長いせいかガチ目に心配してそうな人が居るな。

 

「もし、あの人と歌えたら」

 

あの人のモデルと曲が使えないということで、代わりに何を歌うってなった時にアイカツの曲にしようっていうのは割とすんなり決まって。何にするかはカレンダーガールがいいとか、Glass Dollを私が歌うとか、オリジナルスター☆彡とかそれっぽいとか、色々言い合った末、この曲になった。

 

こつ、こつ、足音が響く。

 

「Hi signalize」

 

『Signalize!』 作詞:畑亜貴 作曲:NARASAKI

 

あの人が歌う。ざわつく。サプライズにして心から良かったと思う。練習で散々歌い倒したから、特別な感慨は今更無いが。本来、三人で歌う曲だが、あの人が一人で進める。

 

「ほら挑戦待ってるよ」

 

曲が一旦止まる。この構図が作りたかった。私にとってあの人は永遠の目標で、ライバル。これで復帰しても軽んじられることはないと信じたい。後輩も呼んであるし。

 

『Don't think, スマイル!!』 作詞:高瀬愛虹 作曲:伊藤翼

 

続いて、Re:ステージ!ドリームデイズ♪より『Don't think, スマイル!!』をチョイス。この曲は六人用なので、3人他箱から呼ぶ(紹介はしないけど)。他箱のメンバーを呼ぶ時、どの箱にするか、誰にするかというのは懸案事項だったから幾つかの箱からそこそこ人気(割とコア)なのを引っ張ってきた。変にエースとか呼んでも代理戦争起きるだけだからね。人気所はこの舞台に自力で立ってください。

 

 

『lucky train!』 作詞:只野菜摘 作曲:中野領太

 

再びアイカツより『lucky train!』。これが第二部最後の曲だ。

 

「シンデレラだから パーティの終わり」

「みんなの記憶に残らせてほしい」

 

皆で手を繋ぐ。

 

「「「「「「ありがとうございました」」」」」」

 

速攻で手を放す。

 

「ほら、ここに倒れこめ」「あい」

 

画面の向こうでは、アンコールの声。良かった。ちゃんと催促されて。私の代わりに後輩たちが出て行ってお辞儀し、時間を稼ぐカーテンコールだ。後輩やあの人の紹介もここでこなしておく。私が居ないということと、バーチャル猫耳メイド美少女おじさんDJのレイムちゃんが出て行ったことから、勘づく人も居るかな。

 

「急いで飲むと吐くぞ」「…………」

 

妖精さんが帰ってくる。第二部にずっと出ていたから疲れたはず。

 

「私に」「え?」

 

「私にとっての憧れはあなただけです」「…………」

 

「かましてきてください」「うん」

 

 

 

 

「まだ、一人来てないね?」

 

「皆で呼んでみよう せーの」

 

 

「銀玲ーーーーー」



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ライブ 3/3

「はい、アンコールありがとうございます。では期待に応えて、オリジナル曲を歌います。こんこん狐!」

 

《こんこん狐》作詞銀玲作曲フリャP

 

「はい はい はいはいはいはい はい はい 皆手叩いてね!」

 

「こんこん狐こんこんこんこん狐 ちょっと沈んでも上昇気流見つけ」♪

 

「こんこん狐こんこんこんこん狐 GOGO狐POWPOWPOWPOW狐!」♪

 

「待機画面でいつも聞いてたから皆歌えるよね!?」

 

「誕生日不定 お好きに決めて 君と出会って初めて生まれる」♪

 

virtual生まれ真っ白な狐  引き籠りがちで毎日昼寝」♪

 

 

 

「ありがとう。ではこれにてライブを――終わりません! 第三部を始めます!」

 

《sur》作詞銀玲作曲フリャP

 

「てぇてぇてぇd~~~~~~u~~~~~~n~~~~~~e ~~~~~~

 

「チェチェチェ Check it out check my style」

 

「てぇてぇてぇd~~~~~~u~~~~~~n~~~~~~e ~~~~~~

 

 

「けぇけぇけぇ k i s s代わりに kick the verse」

 

 

 

「ぶぶぶBoomが過ぎ去ってZoomに集合 すーぐ信者って吊し上げよ」

 

「しゅしゅしゅシュールなニュースが駆け抜けてく夜 呪術廻戦言いづらいよ」

 

「るんるるん♪ぬんぬぬん♪ゆんゆゆん♪ ユニコーン」

 

「ねっ チューしよ? ごめん笹食ってた 禰豆子」

 

 

「《sur》でした。ちょっとふざけた曲だけど、気に入ってくれたかな?」

 

「……そんなに反応が良くないな。――ああいや、催促とかではなく」

 

「沢山弾けたから、これからはしんみりします」

 

 

 

《shining》作詞銀玲作曲フリャP

 

「お願いだよmoney money 紙のまにまに 気合の鉢巻で踏ん張る状況 時代の波に流されて酔う」

 

「お願いだよmoney money 紙のまにまに 煌びやかにネオン瞬いて 光の中消えるまた来世」

 

 

「+と-はっきり分かれたクラウドファンディングの結果

 

あの子は返答品を制作あいつは持ち逃げを計画

 

首にゴールドチェーンを付けても 人生にストレッチゴールはない

 

儲からないビジネス 遠ざかってく信念 オーガナイズする後輩 Over the Border って

 

ご冗談 ガチョウの腹に金塊はない ハコだけ立てても仕方がない

 

企画も何処ぞのパクリじゃイライラ 地平線の先に行きたい。

 

1+1よりも大きな期待 見たこと無いもの見てみたい

 

ビッグになりたいただ 小さな夢からrealize」

 

 

《潮騒》作詞銀玲作曲フリャP

 

「Vウェーブ 波の行方 追い風頬張り進む船

Vウェーブ 回すルーレット 何処に止まるか自分で決める」

 

 

「バイオリズムのよう蠢く登録者数 愛と言いつつも暴言ばかりのyou

態度にすぐ出る性悪な奴 灰を煮詰めてろ過する灰汁

性懲りもなく証拠もなしに 焦土に帰す正気を失い

しょうもない奴らの横でひっそり 勝利手にした妖狐が一人」

 

 

「こじ開けるマグナゲート アンダーグラウンド裏芸能 迂遠な枕営業 

実は綺麗 って言われたいから 欠かさぬメイク ダブルマスカレイド

酸いも甘いも噛み分けるVirtual junky 色眼鏡で見る光と闇

神がかり的アンチの逆張り ちゃちな色仕掛けの前に見るべき鏡」

 

 

 

「はぁ、はぁ……《shining》《潮騒》でした」

 

「本当に次が最後です。《Avatar》《phantasm》《smile》の3曲でこのライブが終わります」

 

「だから皆精一杯叫んで とはいかないけど……笑って」

 

「怒ったり泣いたりするより、笑って過ごしたいの」

 

 

 

《Avatar》作詞銀玲作曲フリャP

 

[ある日道を歩いてたら 五円玉が転がっていた 見てないふりして通り過ぎたら頭の中声響いてた

そいつは私が罪悪感を感じる度 現れては指示して 正しいことをしなさいと口うるさくも導いてた

やがて私は大人になって 社会常識身に着けて まっとうに生きてるはずなのに ガンガン響く声

物心ついた時には既にいた Imaginary Friend 君にお似合いの身体を作ろう 機械仕掛けの人形を]

 

 

 

「私は銀玲で銀玲は誰?人生掛けて描くだけ人生が銀玲で私は誰?生きているのか分かんないね

 

私は銀玲で銀玲は誰?人生欠けて選ぶだけ人生が銀玲で私は誰?死んでいるのと変わんないね」

 

 

 

《phantasm》作詞銀玲作曲フリャP

 

「社会の厄介 恥かき 間違い  逃避行の始まり バーチャルに宿り

そこでも戦い 手にした立場 もう絶対しない  逃げ出したりは」

 

「刻むデジタルタトゥー ネジなら外れてる 念じ続ければ 岩をも通す

イメージは常に最強の自分 死ぬならば理想に溺れて死ぬ」

 

 

「傍からは絵畜生 鼻で笑え現実を 儚くも消えずに残る はみ出し者の幻想

 

趣味が悪い 言われてもユニバーサルに届ける やがては手のひら大回転させる

 

傍から見れば絵畜生 鼻で笑え現実を 儚くも消えずに残る はみ出し者の幻想

 

謝罪反省 ペコペコの舞 這い上がります 下剋上スタイル」

 

 

 

 

 

《smile》作詞銀玲作曲フリャP

 

「エイ エイ エイエイエイ!」

 

 

 

「flashbackするのは・゚・(つД`)・゚・(なみだ)じゃなく( ̄ー ̄)ニヤリ(えがお)(ハッシュタグ)ッ付けて呟け大好きって

 

スパナバッジ集めてるけどchampionは誰? 勝つのは銀玲だからスパチャ投げて!」

 

 

顔だけ笑ってホントは泣いてる フリーズしている激熱演出

 

表せない感情の微熱 流涙機能は未実装です

 

余計な気持ちとか嫌なもの全部 仮面の裏に隠す練習

 

挨拶すると何故だか過呼吸 カッとなってハッとするbad trip

 

 

 

うまく行かない時の方が多い(そりゃそう) 無理にでも盛り上げる(うりゃおい)

 

何気ない一言を深読みして落ち込むアホみたいなアイロニー

 

お気持ち表明 御神輿背負って haterたちが吐く暴言

 

消えかけのストーリー 悲しい顔はもう見たくないのに

 

 

「flashbackするのは・゚・(つД`)・゚・(なみだ)じゃなく( ̄ー ̄)ニヤリ(えがお)(ハッシュタグ)ッ付けて呟け大好きって

 

スパナバッジ集めてるけどchampionは誰? 勝つのは銀玲だからスパチャ投げて!」

 

 

誰かの見ることがある 忘れられたレ・ミゼラブル

 

絶えないトラブル掟破る奴もバブルが弾けてぱっと消える

 

悪名だけは高い二代目 自分で選んだから仕方ないね

 

お互い初対面だけどマイメン 残ったままの思い出

 

 

 

良い所ばかり切り抜いて 醜い私は見せないで

 

暴かれるその時が来るまで 震えて怯えて静かに狂ってる

 

銀玲a.k.a裸の王様 単なるmother-fucker

 

良いことも嫌なことも笑い飛ばすのさ」

 

 

 

「……終わっちゃったね」

 

「………………」

 

「明日。感想配信とかやるからさ」

 

「また会おうね! ありがとうございました!!」

 



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エピローグ

ライブ終了後。

 

「お嬢、実は――」

 

「えっ?……え?」

 

ヤの人達の力を借りたおかげで、ライブの安全は滅茶苦茶確保されていて、銃まで持ち出した時は過剰かと思いましたが、必要だったみたいです。

 

「まったく、銃を持ち出すとはふざけている」

 

整形でもしたのか少し顔は変わっているが、写真で見た雛月がそこに居た。

 

「ライブに入ろうとした所を捕まえて、姉さんに確認した結果雛月と判明し……」

 

「成程」

 

「お嬢、近づいては駄目です。感染症に」「!!」

 

確かに、咳をしている。

 

「そこに居るのか、銀玲」「そうだよ」

 

硝子越しの対話。

 

「海外に逃げたはずでは?」

 

「その予定だったが、感染症の影響で飛行機が止まって、逃げられなかった」

 

「何故ここに?」

 

「そのまま潜伏を続けていたら罹ったんだ。バカげた話だが、自然の悪意には勝てないということか」

「ライブの話を聞いて、自分の中にある悪意が再び目覚めたような気がした」ゴホッ……ふぅ

「この時のために自分が産まれてきたんだとさえ思ったよ」

「実際は、取り押さえられてしまったが。対人戦にも自信はあったが、病んだ身体で銃は」

 

「そっちも銃使えばいいじゃないですか」

 

「それではただのテロだ。君たちの管理が行き届かなかった、不十分だった、だから感染が広がった」

 

「悪意ってそんなルールに縛られたものでしたっけ?」

 

「……ひょっとして君も、あの輪の中に居たのかな。いや、道理で……」

 

「貴方を殺したことで、信者の誰かが復讐してくれると思ってるなら大間違いですよ」

 

「どういうことかな」

 

「さっき、例の集団と話をつけてきました。私の本名と顔写真、貴方の愉快な死にざまで手を打ってくれるとか」

 

「何を――」

 

「拷問器具が無いのが残念ですが、まぁいいでしょう。取り合えず、薬投与するんで簡単に死なないでくださいね」

 

「おい、止めろ!。人殺し共が!!」

 

「戸籍が無いのに人間扱いを要求しますか? せっかくバーチャル世界に居場所を得たのに。雛月、バーチャルは永遠ですよ。死んでもあなたは生き続ける」

 

「このバーチャル至上主義者がぁあああああああ!」

 

「雛月……んふふ……ふふっ、R.I.P.」

 

エロボイスも冗談交じりに要求されたので付けておいたら意外と反応が良く、顔写真と本名公開は数年後まで引き延ばされた。

 

「ふふふ、ははは、ハハハハハッっつつああ、嗚呼、ギャハハああ」

 

「ゲホッ、ゲホッ」

 

あれ?

 

「おい、銀玲、大丈夫か?」

 

「大丈夫……?」

 

段々意識が遠ざかっていくのを感じる。

 

「銀玲、しっかりしろ!」

 

別にここで終わっても――

 

 

 

 

 

 

翌日の感想配信は中止になった。

 

 

「頑張りすぎて熱が出たみたいです。感想配信楽しみにしてた人はごめんね」

 

「今日は安否確認代わりの雑談ということで」

 

色々あったけど、多分こうやって明日もvtuber活動を続けていくのだろう。

 

こんこん

わこつ

こんこん銀玲

元気になった?

怜がリステ歌ってびっくりした

実はライブ見てない

スパチャ投げられないんだが

こんこん

銀ちゃんが元気でよかった

ラップよくわかんなかった

感想配信になる流れでは

初見です

ヒメちゃんの感想ツイート見た?

途中で倒れるかもとひやひやしてた

銀玲 ライブのネタバレしてもいい

ハッシュタグ決めようぜ

 

fin.



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番外編:なろう三大百合/Yとの出会い

UA1000感謝です。後書きがあります。
番外編は、台本形式を採用しています。嫌な人はブラウザバックです。
犯罪を推奨しているわけでもありません。


『なろう三大百合』

 

銀玲、妖精さん、スタッフで動画の企画会議、お昼の定例です。

 

銀「なろう三大百合作品を紹介しようと思う」

 

 

妖「じゃあ私から。これは鉄板ですよね

”「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい”」「鉄板」「せやな」

 

ス「二つ目はあたしか そうだな」

ス「”はぐるまどらいぶ。”」「異論なし」「なし」

 

銀「ん……」

銀「三つ目はせーので言いませんか?」

 

「「「せーの」」」

妖「”少女の望まぬ英雄譚”」

ス「”氷の滅慕”」

銀「”幻想再帰のアリュージョニスト”」

 

銀「……やっぱり?」

 

妖「いや、冒険、SFと来たら戦記(?)では? 完結してますし」

 

ス「いやいやここは老舗を推すのが……っていうか銀玲」

 

銀「何?」

 

ス「その物語の主人公は男」

 

銀「ダブル主人公ですけどぉ??。百合結婚してたら百合でしょ」

 

ス「主従百合、姉妹(?)百合と来たら、おねロリが妥当だ」

 

 言い争いは激化していきます。

 

ス「”湯沸かし勇者の復讐譚〜水をお湯にすることしか出来ない勇者だけど、全てを奪ったお前らを殺すにはこいつで十分だ〜”とか」

 

妖「それありなら”病毒の王”もありでは? ちょっと違うというか」

 

銀「”異世界迷宮の最深部を目指そう”も百合という説が」

 

妖・ス「「ちょっと黙ってくれ(ください)」」

 

 

 

で、結局こうなった。

 

銀「”乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…”がお勧めでして」

 

知名度とか薦めやすさを考えてのチョイス。ガチ勢から怒られそう。因みに私としては”「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」”が――

 

 

『Yとの出会い』

 

 

妖「銀玲のお父さんって新聞記者ですよね」

 

銀「そうだけど、何か? もう縁は切ってるし」

 

妖「ヤの人たちとどうやって繋がったのかなと思って。その伝手ですか?」

 

銀「流石に。父も裏の世界と繋がりはないはず。ヤの人と出会ったのはね……」

 

 

 

 

数年前

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

「お願いします」

 

 スタッフが扉を閉める。未だ眠気が取れない頭にヘッドフォンをつけて、動画を再生する。

 

「うわぁあ」「ゲームが好きです」「よろしくなのじゃ」「ぶっ殺す」「あぁー……」

 

取り合えず5窓で。vtuberが増えているが、まだ1000にも満たない。その半分は一か月もしないうちに消えるだろう。要するに、数は少ないから今の内に全部のvtuberの動画を見る。

 

「キャアアアア!」

 

 それとは別に幾つか長時間のアーカイブ垂れ流しにしている。今は少ないからいいが、今後こう言った形が主流になってくると大分厳しいものがあると感じる。そんな感じで今日の分の実況も撮り、スタッフの帰りを待つ。お腹空いたな。

 

「銀玲」

 

 ドアを開ける。……あれ?

 

「はじめましテ。ワタシ飛蘭とモうしマス」

 

「スタッフ? 何で他の人」

 

「手、見てみろ」

 

 黒――拳銃? いやここ日本なんですけど。

 

「コラボシませんカ?」

 

 

 

 

 

妖「それでどうなったんですか?」

 

銀「いや、普通にコラボした。それしかないし」

 

妖「確かに、当時何でコラボしたんだろうって思ってましたが、前世の繋がりかなって」

 

銀「他にも色々言われたけど」

 

 

 

 

 

 

 

「飛蘭……登録者1万2千人、2か月前にデビューしたC国出身のvtuber。個人勢とされているが、実際はペーパーカンパニーが後ろに居て、その正体はC国系のマフィアの娘。まったくふざけた話だ」

 

「銀玲に絡む理由は?」

 

「個人勢の第一人者じゃないですカ銀玲ハ」

 

 伸びてないからかな。飛蘭は1万再生くらいは出せてるけど、それ以上は行かない。見た感じ、アピールできる要素が無い。C国系というアドバンテージも国際情勢によってはハンデになるし、今後同じC国のvtuberは間違いなく出て、個性じゃなくなる。

 

「悪いけど、私が銀玲である以上急に箱に入ったりコラボし続けたりというのは、死んでも断る。結局それって伸びが私依存だから、何か不祥事とかですぐにパァ」

 

「個人勢ドウしで連帯しないト、これからのvtuber界についテいけまセンよ?」

 

「……個人勢が企業になるパターンもあり得る」

 

 それが移籍か転生かというのは時と場合によるだろうけど。企業側が前世で実績を積んだ個人を取りこむというのは、既に行われている事例、当然vtuberも例外ではない。個人側としても、企業に移りたいvtuberは存在する筈だ。

 

「だから、多分逆で」

 

「ギャク?」

 

「個人勢と企業勢が絡まざるを得ない状況を作り出すべき」

 

 個人勢としての利点を生かす。

 

「個人勢で権利関係の健全化を目指すグループを立ち上げる」

 

 企業勢で権利関係を完全に白に出来るグループは多分無い、そこまで意識が回っていないだろうから。これから箱が増えるなら猶更。権利も個人は守って、企業は破るという対立構造が作れたら、企業は私達のことを絶対に無視できない。結果的に個人勢の秩序も保たれるし、守れない人はアウトロー路線で差別化を図ってください。

 

 

妖「とか言っておきながら、裏ではヤの人と絡む」

 

銀「バレなきゃ罪じゃないからね」

 

妖「でも、表でこの話を聞いたのは大分後になってからですよ?」

 

銀「話し合いとか色々あったから。企業間でもあの企業をはぶるみたいな」

 

 

 

「ん-気に入りましタ。銀玲は私達のマンションに住みマせんか?」

 

「マンション?」

 

「今のままだとここ危ないですヨ? 特定されたり、ご近所トラブルが起こるカモ」

 

 それを言われると弱い。実際引っ越しは検討していたが、優先順位が高く無いため見送ってたという事情のため。それに、今の住所が三大都市圏から遠いのも将来的には良くない。

 

「それってどこなの?」

 

「東京デス」

 

「まぁ断る余地はないわけだが」

 

「決定デスね。これで銀玲たちは私達のファミリーデス」

 

 

 

 

 

銀「つまり、ここに住んでる限り関係は嫌でも継続します」

 

妖「変な人をよく見かけるなと思ったら、そういう事情があったとは」

 

銀「色んなことをこっそりやるための場所らしく、私達の住処としても都合が良かっただけとか」

 

 ここまで話して、ふとヤの人からもらった煙草を思い出した。一度思い出すと無性に吸いたくなって、がさこそと戸棚を漁る。

 

銀「吸う?」

 

妖「要りません」

 

 私は火をつける。煙が充満し妖精さんが少しいやな目をする。段々と意識が遠くなって………覚醒する。

 

銀「気分悪い」

 

妖「ひょっとして馬鹿ですか?」

 

銀「合わなかっただけだから」

 

 一生馬鹿であり続けるのが容易に想像できて、少し泣いた。




現在第二部を計画していて、
その際に募集したいものがあります。

①銀玲のオリ曲
②オリジナルのvtuber
③その他、登場させたいものがあれば

取り合えず第二部の連載が終了するまで活動報告にて募集します。
詳細は活動報告にて、何らかの規約に反するようであれば教えてください。


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