異世界でも大東亜共栄圏 (えなかま)
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第一話 大日本帝国転移

合衆国領 ハワイ 現地時間 1941年12月7日 早朝

 

 真珠湾攻撃のため、ハワイ近海に接近した日本海軍機動部隊から、第一波空中攻撃隊として艦戦43機、艦爆51機、艦攻89機、計183機が発進。乗組員達の期待を一身に背負って操縦士達は敵地へと向かっていた。 

 

 「予報では晴れのはずだが想定以上に雲が多い。気象隊は何をやってるんだ…そろそろオアフ島が見えてもいいはずだが」

 

 第一次攻撃隊の隊長、淵田中佐は97式艦上攻撃機の機内で静かに焦っていた。真珠湾攻撃における総指揮官であり、これまで何度もシミュレーションしてきた中で雲が多いからと言って航路を間違えるなどというミスは許されない。

 

 「隊長、航路に間違いはないはずです。計器も正常です。」

 

 操縦士である松崎大尉は頼れる相棒である。通常は目標への攻撃が完了したら母艦へ引き返すが、総指揮官機は今後やってくる第二次、第三次攻撃隊の戦果を見届け戦況を把握し続けなければいけない。激しい対空砲火の中でも上空で待機し続ける操縦士には特に高度な腕前が求められる。

 

 「ただ、ラジオの電波も何も受信できません。天気が悪いとはいえホノルル放送が聞こえてもおかしくないはずですが…」

 

 電信員の水木一飛曹の報告で一層疑念が深まるが、その時松崎大尉より予想外の報告を受ける

 

 「11時方向より黒煙!どんどん数が増えていきます!」

 

 「なに!?既に米海軍に察知されていたか!致し方ない、信号弾2発を発射する。電信員は無線封止解除し各機にトツレ発信!」

 

 真珠湾攻撃では奇襲の場合には合図が信号弾1発で火災による煙に妨げられることない状況で対艦攻撃を実施させるべく艦攻による攻撃を先行させ、強襲の場合には合図が信号弾2発で艦爆による対空防御制圧が先行させる作戦計画になっていた。”トツレ”は突撃体形作れを意味する。

 

 「いえ!あれは日本海軍です!一番大きい船はおそらく金剛型。」

 

 「馬鹿な!金剛型は全て南方作戦に参加しているはずだ!」

 

 ありえない報告に中佐はすぐさま双眼鏡を黒煙の方向へ向けた。

 

 「確かに金剛型に瓜二つだ。しかし旗が違う。どこの国だ。」

 

 前方から接近してくる艦隊は戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦8。赤い丸に白の十字を刻んだ旗が掲げられ単縦陣で明らかにこちらに気づいているようだった。

 

 「隊長!前方の艦隊より遭難信号と思われる信号を受電!」

 

 電信員の報告とともに砲口が外向きになり、白旗が掲げられる。

 

 「対話を望んでいるのか…。とりあえず現状を赤城に報告!指示を乞え」

 

 予期していなかった事態を前に淵田中佐は作戦中止も視野に入れて次の対応を考えていた。電信員が電文を赤城に伝えようとしていたその時…

 

 「赤城より暗号電文入電!『ツクバヤマハレ』作戦中止命令です!」

 

 「機動部隊の方でも何かあったのか。各機に作戦中止を伝えろ!現状を赤城に報告しあの艦隊をどうするか指示を乞え!」

 

 

 機動部隊から作戦中止が伝えられたということは南方作戦も何かあったに違いない。何がどうなっているんだ…そんなことを考えながら待っていると

 

 「赤城より入電!第一次攻撃隊は帰投。謎の艦隊に対してはそのままの進路で進むよう伝えろとのことです。」

 

 「伝えろって言われたって…相手何語話すんだよ。とりあえず日本語と英語の平文で良いからこちらの所属と遭難信号を本国へ中継したこととそのままの進路で進むよう伝えろ」

 

 電信員が発信するとすぐに返答が返ってきた。

 

 「…こちらグラ・バルカス帝国海軍第八植民地任務部隊司令長官代理兼オリオン級戦艦3番艦アルニラム艦長のアリゴ少将だ。先ほどの緊急信号への返答感謝する。」

 

 流暢な日本語に驚きつつも感情を表に出さないで返答する。

 

 「第一航空艦隊、赤城飛行隊長の淵田中佐だ。貴艦隊には本国よりそのままの進路で進むようにとの指令が来ている。あくまでも任意ではあるが従ってくれるか。」

 

 本当は色々聞きたいことはあるが、公私混同はしないタイプの淵田中佐であった。

 

 「了解した。我々も本国より日本の指示に従うよう厳命されている。失敬、今は大日本帝国だったな。それはともかくよろしく頼む。」

 

 何故日本語が話せるのか。何故相手は日本を知っているのか。そもそもグラ・バルカス帝国ってなんだ。疑問は尽きないが後は機動部隊に任せることにし、赤城に帰投した。

 

 

 

~帰投中の機内で~

 

 「隊長、何なんですかあいつらは。グラ・バルカス帝国なんて国ありましたっけ。」

 

 

 操縦士である松崎大尉は無線を聞きながらうずうずしていたのをやっと吐き出せてテンションが上がっている。他の機内でもその話で持ち切りだ。

 

 「いや、無いだろ。もう何の話かさっぱりだ。今日はわけがわからんことばかりで疲れた。これが夢なら起こしてくれ。」

 

 何年も前から準備していた真珠湾攻撃も失敗に終わり、中佐は今まで張りつめていた糸が切れてしまったようだ。

 

 

 「どうせなら隊長がついでに聞いてくれればいいのに…」

 

 飛行機乗りには好奇心旺盛な奴が多い。そもそも好奇心旺盛じゃないと飛行機に憧れは抱かないのだ。

 

 「あんなん首突っ込むなんて真っ平ごめんなこった。面倒事はお偉いさん方に任すのが一番よ。せっかく参謀から離れたんだ。今のうちに楽させてもらうよ。」

 

 

 既に頭から米軍のことが消えつつある淵田中佐であった。

 

 

──────────────────────

 

満州国軍 興安省南警備隊 興安騎兵第8団 現地時間 1941年12月7日 深夜

 

 

薄い白化粧をした広大な草原の中を10騎が普段通り国境線を監視している。空を見れば満天の星空が広がっている。

 

 

「あれ、いつもと星の位置が違うなあ」

 

 

モンゴル人のテムーレン中兵は毎日眺めている星々が今日は異なることを不思議がっていた。

 

 

「夜空ばかり見てねぇでちゃんと国境警備しろよな」

 

 

同じく中兵のボロルマーは階級も同じなら年も同じなくせに先輩面することが多い。

 

 

「確かに風景も少しおかしいな。」

 

遊牧民であるモンゴル人は広大で目印のない草原でも道に迷うことはなく、夜間でも目的地に着くことができるので騎兵の役割が狭まりつつある今でも重宝されている。

 

 

「あれ、松明だ」

 

一番目の良いテムーレン中兵が遠くに光る5つの松明に気づく。

 

 

「中国軍か?ソ連軍の可能性もなくはないが」

 

 

中国国境沿いではあるが最近はソ連軍の動きも激しい、米国との開戦をきっかけに攻め込んでくることも想定されていた。

 

 

しかし近づいていくとそのそちらでもないことが明らかとなる。

 

 

「なんか貴族みたいな服だな。」

 

 

「いかれた馬賊どもか?」

 

 

満洲で日本軍の支配が強くなるにしたがい、馬賊は日本人とも衝突するようになり、満洲各地で日本軍ないし日本人を襲う事件も多くあった。

 

 

「どうします分隊長?」

 

 

 馬賊であれば先制攻撃しても問題はない。

 

 

「数ではこちらが有利だ。もう少し近づき警告、必要あらば攻撃する」

 

 

分隊長は同じモンゴル人である馬賊と出来るだけ戦いたくなかった。

 

 

さらに近づいていくと流石に向こうもこちらに気づいたようだ。近づいてくる

 

 

 

「貴様ら、見かけない服装だな。どこの者だ?」

 

 

一番偉そうなやつが質問してきた。

 

 

「我々は満州国陸軍興安騎兵第8団だ。貴様らこそ何者だ。」

 

 

お互いに見慣れない服装で疑いの目が強まっている。

 

 

 

「満州国?私はパーパルディア皇国マルタ属領統治機構軍第3騎士団所属のニール = コープ曹長だ。」

 

何を言っているのか分からないという顔でお互い見つめあっている。先に切り出したのは皇国側だった。

 

 

「背中に背負っているのは銃か?貴様ら庶民が持っているはずはないが、もし持っていたとなれば重罪だ」

 

 

 反乱恐れている皇国では軍人以外が銃を持つことは認められていない。

 

 

「我々は軍人だ。当然銃を持つ権利はある。お前らこそ何がパーパル皇国だかマルタ皇国だか知らんが馬賊なら容赦せんぞ」

 

 

パーパルディア皇国をいかれた馬賊の名称かなんかだと思い込んでいる。

 

 

「誇りあるパーパルディア皇国を賊扱いするとは。ここまで堂々と言われると清々するな。心置きなく反乱分子として処分できる。」

 

そう言うと何やら丸いものを取り出した。

 

 

「司令部、こちら第3騎士団第3分隊。通常警備中に反乱分子を発見。恐らく我々だけで対処できるが、銃を持っているため念のため援護求む」

 

 おそらく無線機のようなものだが、満州国にも大日本帝国にも無いものだ。

 

 

「おい、テムーレンとボロルマー。本隊に伝令、我馬賊と遭遇、援軍の要ありと認む。以上。頼んだぞ」

 

 

 話からそれなりの規模の馬賊であるらしいことが分かった分隊長は本隊に援軍を求めた。

 

 

「おい、伝令を追え、反乱分子は根こそぎ潰せ」

 

 ニール曹長が部下に指示をする

 

 

「わかってないようだな」

 

分隊長は伝令を追いかけようとした騎兵を即座に射殺した。

 

 

「ほう、民の面前で公開処刑しようと思ったがやめだ。皆殺しだ!」

 

 

そう言うと剣を抜いた。

 

 

とっさに分隊長はニール曹長を撃ったが謎の光に阻まれて弾かれた。

 

 

「今のはなんだ!?」

 

 

満州国側のの兵士は皆驚きで一瞬体が固まってしまった。しかしその隙をニール曹長は見逃すはずもなかった

 

 

「これだから魔法ナシは…」

 

「死ね!」

 

剣に謎の光を纏わせ、蔑みの笑みに満ちた顔で分隊長に切りかかる

 

 

  ドサッ

 

 

次の瞬間には分隊長の頭が地面に落ちていた。

 

 

銃で防ごうとしたようだが鋼鉄製の銃身はいとも簡単に切断され、そのまま頭が胴体と分離してしまった。

 

 

 

「分隊長!」

 

 

部下たちは必死に応戦する。ニールの部下たちは倒すも肝心のニールには攻撃がなかなか当たらず、当たっても謎の光に弾かれ、次々とやられていく。逃げる者は銃に撃たれ、果敢に挑む者には刃が飛んでくる。

 

 

このような光景が中国戦線各地で見られた。

 

 

──────────────────────

ロデニウス大陸 ロウリア王国(旧クワ・トイネ領) 大日本帝国陸軍 コタバル上陸部隊 現地時間 1941年12月7日 午前1時過ぎ

 

 

真珠湾攻撃が始まる数時間前の深夜、マレー半島に上陸する部隊があった。

 

 

「攻撃が全く無いぞ」

 

 

山貝二等兵は小声で話しかける。

 

 

「そもそもこんな寒いなんて聞いてないし、草原が広がってるし、本当にここはコタバルなのか?」

 

 

同期の斎藤二等兵が反応するが、他の第一回上陸部隊約1300名も同様に思っていたことだろう。

 

 

それは司令部も同じであった。

 

 

 

 

 

同上 コタバル上陸部隊戦闘司令所

 

 

「橋頭保が確保できたのはいいが、ここはどこだ?」

 

 

佗美浩少将が部下に尋ねる。

 

 

 

「は、イギリス領マレー半島東北端のコタバルであります!」

 

 

部下は内心、半信半疑ながらも堂々と答える。

 

 

「まあ、ここまで送ってくれた橋本信太郎海軍少将もそう言ってたからそうなんだろう。この寒さと景色を除けばな!」

 

 

佗美少将は普通に焦っていた。

マレー作戦におけるコタバル上陸部隊はシンゴラ上陸部隊を上陸させるための陽動が目的だ。もし場所が違っていたとなれば作戦の成否にかかわる重大な問題だ。

 

 

「もうすぐ斥候が帰ってくる予定です」

 

 

上陸時点で予想された敵の攻撃も無ければ陣地も無かったので周囲を偵察し、現在地や今後の行動の判断材料として斥候を出していた。

 

 

「南方軍司令部はどうだ」

 

 

「海軍に依頼しましたが、原因不明の雑音で通信できないようです」

 

 

実は移転直後にこの星特有の磁気嵐が発生していた。

 

 

 

「近くの部隊にも繋がらんか」

 

 

「全ての周波数で原因不明のノイズが乗ってしまうようで…」

 

 

司令部の中に重い空気が漂うと

 

 

「報告!」

 

斥候部隊が帰ってきた

 

 

「周囲は畑が広がっており、小屋も見受けられますが、全て燃やされ朽ち果てておりました!また、松明を持った兵士らしき人物を目撃しましたがそれが…」

 

 

報告を聞いて更にここがコタバルではないと思い始める司令と参謀達。

 

 

 

「…摩訶不思議でして、まるでおとぎ話に出てくる騎士みたいな恰好でありまして…」

 

 

斥候の兵士も自分が見たものが信じられないという表情で報告している。

 

 

「夜で見間違えたんじゃないのか!」

 

 

「より範囲を広げて偵察すべきかと具申いたします!」

 

 

「いや、もう作戦の前提から狂っているんだ!南方軍に指示を仰ぐまで動くべきではない!」

 

 

参謀達が論戦を繰り広げていると突然佗美少将が立ち上がる

 

 

 

「既に賽は投げられた。南方軍に指示を仰げぬ以上、独断で行動するしかない!」

 

 

司令はそのまま続ける

 

 

「斥候の範囲を拡大し、現地民に接触。兵士らしき者との接触は今は出来るだけ避けろ」

 

 

 

 

同上 4時

 

 

斥候の結果、ここがロウリア王国クワ・トイネ属領でここの兵士は剣や弓等しか持っていないことが分かった。

 

 

「…ということだが、皆の意見を聞きたい」

 

司令が参謀達に意見を求める

 

 

「もし報告が本当であれば我々は全く知らない国に勝手に上陸してしまったことになります。まずは船に戻り現状把握に努めるべきかと」

 

 

「間もなくシンゴラ上陸部隊が上陸する時間です。もし座標が間違っていなければ伝令を出し、接触するべきかと具申いたします」

 

 

「他の部隊と歩調を揃える必要があります。まずは橋本信太郎海軍少将とも相談する必要があるかと思いますが」

 

 

参謀各々が意見を出し、司令は腕を組み考えている。

 

 

事態は突然やってきた

 

 

「報告!ロウリア国兵士と思われる集団500が我が陣地前で集結しております!」

 

 

参謀達は騒然となる

 

 

「念のため戦闘配備させろ。橋本少将には私が伝える」

 

 

陣地内に信号ラッパが鳴り響く

 

 

休憩をとっていた兵士たちは突然の事態に驚きながらも配置につく

 

 

 

 

同上 5時 コタバル上陸部隊陣地正面

 

 

ロウリア王国軍と大日本帝国陸軍が睨みあっている中、ロウリア側から一人の騎士が陣地に近づく。

 

 

「我々はロウリア王国ワ・トイネ属領軍である!住民の通報あってここに参上した!慈悲深い私だ!降伏すれば命まではとらん!責任者は前に出ろ!」

 

 

暫くたつと

 

 

「私が責任者だ!」

 

佗美少将が前に出る

 

 

「ふむ、お前か」

 

騎士はニヤッとすると剣を振った

 

 

 ドサッ

 

 

次の瞬間には佗美少将の頭が地面を転がり、主を失った胴体は首から血を吹き出し、重力に従って膝から崩れ落ちた。

 

 

「わっはっはっは!反乱軍を生かすわけ無いだろ!全員ここで死ね!」

 

 

騎士はそう言い捨てると命令を下した

 

 

「お前ら!久しぶりの反乱軍だ!報奨金が欲しけりゃ殺しまくれ!以上!」

 

 

士気の上がった属領軍は果敢にコタバル上陸部隊陣地に突撃する

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

「金だぁぁぁあああ!!!」

 

 

「首寄越せえええぇぇぇ!!」

 

 

ダン!

 

 

一発の銃声と共に先頭を走っていた属領軍の兵士が倒れた

 

 

後ろを走っていた属領軍の兵士達は一瞬な何が起きたのか分からず反射的に止まってしまった

 

 

ダン!ダン!ダン!ダン!

 

 

銃声の度に属領軍の兵士が倒れていく

 

 

「じゅ、銃だ!」

 

 

兵士の誰かが叫んだ

 

 

 

ダダダダダダダダダダ

 

 

機関銃も射撃し始めると属領軍の士気は一気に崩壊し、敗走し始める

 

 

「グハッ!」

 

 

「何で反乱軍如きが銃なんて持ってるんだ!」

 

 

「お、お前ら逃げるな!」

 

 

属領軍の部隊長らしき騎士も恐れをなして部下を置いて一目散に逃げていく

 

 

 

 

陣地前には多くの亡骸だけが残った

 

勝ったコタバル上陸部隊兵士は皆うなだれている

 

 

 

 

これをきっかけに対ロウリア戦が始まることとなった

 

 

 

 

第三文明圏勢力図(中央歴1639年12月7日時点)

 

【挿絵表示】

 

 

 




矛盾点やミスがあれば教えていただければ幸いです。


(2021,05/11)序盤は色々説明不足感あるので転移直後の描写を追加しました。また、それに合わせてタイトルも変更しました。南方戦線の描写もそのうち追加したいと思っています。

(2021,05/17)転移直後の第三文明圏勢力図の挿絵を作ってみました。気になる点や質問等ありましたらお気軽にコメントください。

(2021,05/18)南方戦線の描写を追加しました。


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第二話 ムー大陸西方海域海戦

 大日本帝国ととグラ・バルカス帝国が接触したころ、パガンダ王国に交渉に赴いたグラ・バルカス帝国の皇族ハイラスを処刑されたことによって発生した移転後初の戦争はレイフォルとその保護国まで巻き込んだ全面戦争にまで発展した。


中央歴 1639年 9月1日 夜間 ムー大陸西方海域

 

 第一打撃軍より抽出された夜襲部隊(レイフォルカチコミ艦隊)は順調にレイフォルの首都であるレイフォリアの沖に向かっていた。

 

 「レイフォルが夜襲に気づくと思うか。」

 

 夜襲部隊の指揮官である第一戦艦戦隊司令官のラクスタル少将は傍らに立って話を聞いている参謀長のフェデリーゴ大佐に言った。

 

 「パガンダ王国攻略を行っている陸軍からはレーダーの報告は受けておりません。我々の世界の常識では戦列艦程度の技術レベルでは到底レーダーがあるとは考えられませんが、この世界には魔信なる通信機器がある以上、疑って然るべきであり夜襲を警戒している可能性は十分にあると愚考します」

 

 「その通りだ。さらに相手にはワイバーンもいる。現状ワイバーンによる夜襲は確認されていないが、まだ出し惜しみしているだけかもしれないし、そうでなくても夜間偵察くらいは出来るかもしれない。」

 「今回虎の子であるグレードアトラスターを任務に入れたのも敵の脅威を正確に判定するための強行偵察という目的もあります。まあ実際には実用試験ついでですが…」

 「とにかく、この船に搭載されているレーダーや火器管制装置等の電子装置はわが軍でも最新のものだ。これが通用しなければ我が国は滅ぶということだ。だからこそ成功させねばならん。」

 

 ラクスタル少将とフェデリーゴ大佐がひとしきり会話を交わすと、再び黙って敵との対決を待った。

 

 「レーダーより反応!北東の方角、方位45度方向に反応。数は10隻。なお増大中です。速力は12ノット!」

 

 レーダー員の言葉に気を引き締めたラクスタル少将は直ちに全艦に向けて指示を伝えた。

 

 「全艦に告ぐ。我が艦隊の方位45度方向、距離30kmに敵艦隊を発見した。これより、我々は全艦を挙げて敵に一戦挑む。速度を28ノットまで上げよ。」

 

 ラクスタル少将はレーダー上に映る敵艦を見ながら作戦を考えていた。

 

 

 

 

グラバラカス夜襲部隊

 第一戦艦戦隊:「グレードアトラスター」「コルネフォロス」「クヤム」

 第一巡洋艦戦隊:「アルドラ」「ウェズン」「フルド」

 第一水雷戦隊:「プロキオン 」「ゴメイサ」…計8隻

 

レイフォル艦隊

 第一、第二、第三戦列艦隊 各74門艦8隻、100門艦1隻(計27隻)

 

 

 

 

刻々と近づく敵艦との距離に各艦の艦長や乗組員の緊張が高まっていき、遂に20キロまで接近した頃…

 

 「敵艦隊反転!速力も20ノットまで増速!さらに反転した敵艦は3列の単縦陣を形成しつつあります!」

 

 再びのレーダ員の報告にラクスタル少将とフェデリーゴ大佐は驚きを隠せない 

 

 「…やはり敵さんにもレーダーがあったようだな。」

 

 「レーダーかまでは分かりませんが少なくとも敵には何らかの観測手段があるようですね。ある程度予想していたとはいえ夜間も使えるとは驚きです。」

 

 「わが軍の最新レーダーに劣るとはいえやはり魔法は侮れんな…」

 

 ラクスタル少将は少しの間考えて全艦に向けて指示を出した。

 

 「敵艦隊は3列縦陣でこちらに真っ直ぐ向かってきている。我々はこれに対しT字有利に持ち込むため取り舵に転舵し集中して1番艦を叩く!各艦はそれぞれの判断で撃ち方始め!」

 

 先に取り舵に転舵した第一戦隊は敵戦列艦の有効射程に入る前にこれを撃沈すべく砲撃準備を始める。レーダーから送られて来る情報を基に、推測した敵の位置に向けて、各砲塔の1番砲が放たれる。

 

 「右砲戦用意!距離15000メートル。目標、先頭の敵一番艦。弾種榴弾、交互打方始め!」

 

 ラクスタル少将の指示のもとグレードアトラスターの46㎝砲が咆哮する。そしてグレードアトラスターに続けとばかりに後続の戦艦も射撃を開始する。

 

 しばらくして第1射が敵艦の船首側海面に着弾した。

 

 「第1射、敵艦の船首側海面に着弾。」

 

 続いて第2射が船尾側500m付近に落ちる。

 

 「レーダー射撃といえど、すぐに命中弾を得る事は難しいな…」

 

 最新のレーダーと火器管制装置をもってしてもなかなか砲弾が当たらないことに

砲撃戦の難しさを実感する。

 

 「最初に敵艦に夾叉したものには褒美をやるぞ!なんとしても敵艦の有効射程に入る前に夾叉するんだ!」

 

 部下を鼓舞したからか分からないがグレードアトラスターが4射目にして敵艦を夾叉する。

 

 「敵艦を夾叉しました!」

 

 見張り員が弾んだ声で報告して来た。

 

 「よし!次で当てるぞ!」

 

  ラクスタル少将も弾んだ声で部下を鼓舞する。

 

  第5射目、遂に敵1番艦の艦首付近に命中したかに思われたが…

 

 「敵1番艦に命中! ん? こ、効果なし!?」

 

 船体にぶつかることによって作動するはずの着発信管はまるで曳下射撃かのように空中で爆発した。その瞬間、青白く光り輝く魔法陣が船を包み込み、着弾周辺の空間は一瞬時間が止まったかのように爆炎と衝撃波を留める。次には空間が歪み始め時空の狭間に飲み込まれていき、それとともに魔法陣も消えていった。

 

 「今のは何なんだ…あれも魔法か…」

 

 ラクスタル少将とフェデリーゴ大佐信じられないことを前にして数秒呆然としてしまった。

 

 「各艦も狼狽えているはずです、士気を下げないためにも改めて指示を出した方が良いかと」

 

 フェデリーゴ大佐も内心狼狽しているが参謀としての義務を果たそうとする。

 

 「よし!仕切り直しだ!水雷戦隊へ通達。敵艦隊へ突撃し敵一番艦へ集中して雷撃。戦艦戦隊と巡洋艦戦隊は水雷戦隊が狙われないよう砲撃で支援!敵のバリアのようなものを装甲と解釈し徹甲弾を使用せよ。」

 

 ラクスタル少将は敵の摩訶不思議な光景に動揺しつつも正攻法で対処しようとする。

 

 こうしてこの世界で数千年ぶりに科学文明国と魔法文明国と海戦が始まった。

 

 

◆◆◆

 

時間:同上 場所:???

 

 「レイフォルとグラ・バルカス帝国の海戦が始まったようです」

 

 「魔導機関のログはとれているか?」

 

 「は!抜かりなく。」

 

 「皇帝直々のご命令だ。この戦いには大変興味を持たれているようだ。失敗は許されん。よろしく頼むよ。」

 

 「は!」

 

 「では行け。」

 

 諜報員が部屋から立ち去ると再び一人になった。

 

 「科学文明の力……私を失望させないでくれよ…」

 

 

 

 

 



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第三話 皇国接触

 南雲機動部隊と邂逅したグラ・バルカス帝国艦隊は合流して日本本土へ向かっていった。
そのころ陸軍はパーパルディア皇国と邂逅していた…




中央暦1639年12月7日午前8時――――

 

  パーパルディア皇国属領統治軍所属ワイバーンロード2騎

 

 その日は快晴な空が広がっていた。ワイバーンと呼ばれる飛龍を操り、竜騎士であるマドックと上長であり師匠でもあるルパートは、パーパルディア皇国属領北東方向の警戒任務兼訓練飛行についていた。

 

 皇国北東方向にはリーム王国。東に行けばデュロがあるが、ここら辺は何もないド田舎である。

 哨戒勤務の必要性、それは特には無いが、一応属領を警戒するのともうすぐ訓練を始めて1年になるマドックの技量を見極める為、彼と上官のルパートは公国北東の空へ飛ばしていた。

 

 「―――――――!?」

 

 先に何かを見つけたのはルパートであった。

 

 「なんだ?あれは…」

 

 空に見える粒のような飛行物体。通常は、味方のワイバーン以外に考えられないがワイバーンにしてはおかしい。

 

 「何だこの音は…」

 

 マドックは聞いたこともない奇妙な重低音に警戒心を抱き始めた。

 

 粒のように見えた飛行物体は、どんどんこちらに進んで来た。それが近づくにつれ、味方のワイバーンでは無いことを確信する。

 

 「羽ばたいていない」

 

 ルパートは、すぐに通信用魔法具を用いて司令部に報告する。

 

 

「我、未確認騎を確認、これより要撃し、確認を行う。現在地・・・・」

 

 

 高度差はほとんど無い。彼は一度すれ違ってから、距離を詰めるつもりだった。

 

 未確認騎とすれ違う。

 

 その物体は、彼の認識によれば、ワイバーンより一回りか二回り程大きかった。羽ばたいておらず、翼についた風車のようなものが2つぐるぐる回っていた。

 

 機体は緑色、胴体と翼に赤い丸が描かれていた。

 

 彼は、反転して、愛騎を羽ばたかせる。風圧が重くのしかかり、飛ばされそうになる。一気に距離を詰める・・・つもりだったが、全く追いつけない。ワイバーンロードの最高速度時速約350km/h。生物の中では、ほぼ最強の速度を誇り、馬より速く、機動性に富んだ空の覇者(本国にはさらに品種改良を加えた上位種を試験運用しているらしいが)

 

が全く追いつけない。

 

 相手は、生物なのか何なのかも全く解らない。

 

 

「くっっっ!!なんなんだ、あいつは!!」

 

 驚愕

 

「司令部!!司令部!!!!我、飛行騎を確認しようとするも、速度が違いすぎる。追いつけない。飛行騎は皇都エストシラント方向へ進行、繰り返す。皇都エストシラント方向へ進行した」

 

報告を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

 「そんなワイバーンは聞いたこともない!復活した魔王軍の先遣隊じゃないのか!」

 

 「属領統治軍は何故今まで気が付かなかった!」

 

 「とりあえず上げられる部隊は全部上げろ!」

 

 ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、パーパルディア皇国の首都である皇都エストシラントに向かって飛んで来ると言う。

 

 攻撃を受けたら、軍の威信に関わる。

 

 機は速度からしておそらくすでに本土領空へ進入しているはず。

 

 通信魔法で、指令が流れる。

 

「この通信を聞いている飛龍隊は全騎発進セヨ、未確認騎が皇都エストシラントへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜セヨ、繰り返す発見次第撃墜セヨ」

 

 滑走路から、どんどんワイバーンが発進する。

 

彼等は透き通るような青い空に向かい、舞い上がっていった。

 

 一部の竜騎士部隊は、運良く未確認騎の正面に正対した。報告に寄れば、相手は超高速飛行が可能な者のようだ。

 

相手が速すぎる場合、チャンスはすれ違う一瞬のみ。

 

竜騎士部隊12騎が横一線に並び、口を開ける。

 

火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、落ちない飛竜はいない。

 

口の中に徐々に火球が形成されていく。その時、未確認騎が上昇を始めた。すでにワイバーンの最大高度4000mを飛んでいた彼らにとって、それは想定外の事態であった。

 

すさまじい上昇能力でぐんぐん高度が上がっていく。

 

竜騎士部隊は、未確認騎をその射程にとらえる事無く、引き離された。

 

 

 

「我、未確認騎を発見、攻撃態勢に入るも、未確認騎は上昇し、超高々度で皇都エストシラント方向へ進行した。繰り返すーーーーーーーーー」

 

 

 

 皇都防衛隊、隊長アラディンは、竜騎士部隊からの報告を受け、上空を見上げた。

 

 一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は、口から吐く火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とす方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。

 

 単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察と思慮される。

 

される。

 

 しかし、いったいなんなのだろうか?

 

 飛龍でも追いつけない正体不明の物。飛竜の上昇限度を超えて飛行していく恐るべき物、それがまもなく皇都エストシラント上空に現れる。

 

 隊長アラディンは、空を睨んでいた。

 

 

 

  遠くの方から音が聞こえ始めた。ブーンといった聞き慣れない音、しばらくして、それはエストシラント上空に現れた。

 

 

  奇妙異な物体、大きくて緑色の機体、羽ばたかない翼、怪奇な音、翼と胴体に赤い丸が描かれている。

 

  明らかな領空侵犯、しかし、飛竜は遙か遠くからこちらへ向かっている最中、攻撃手段は、あることにはあるが、今回は接近が速すぎて、何も準備が出来ていない。

 

  事実上現時点では無い。

 

  物体は、エストシラント上空を旋回し、北東方向へ飛び去った。

 

 

◆◆◆

中央暦1639年12月7日 午後

 

皇都エストシラント 皇城

 

「それでは、これより緊急御前会議を始めたいと思います。」

 

 

 

 国家の危機的状況となった時のみ開催され、根回しも何も無く、生の情報をぶつけ合う会議が始まろうとしていた。

 

 会議は国のトップ、皇帝ルディアスを筆頭として、国の重役が顔を連ねる。

 

 

 

 皆、顔は暗く、だれ1人として笑顔を見せる者はいない。

 

 会議の面々には、皇族レミール、軍の最高司令アルデ、第1外務局長エルト、第2外務局長ランス、第3外務局長カイオス。そして臣民統治機構長パーラスと皇都エストシラント防衛基地司令メイガが含まれていた。

 

 

皇都防衛軍司令のメイガが午前中に起こったことを皇帝に説明する。

 

「…でありまして、この度の失態は全て私の責任!いかなる罰も受ける覚悟であります!」

 

 

メイガの額には汗が滴る。

 

 

 

少し間を空けて、ゆっくりと皇帝は話始める。

 

 

 

「余は・・・・悲しいのだ。初代皇帝以降、パールネウス共和国の時代から皇都の空を守ってきた皇都防衛軍が今はこの有様なのかと。先祖にどう顔向けできようか」

 

 

一同が沈黙していると

 

 

「で、余に泥を塗った奴はどこの国の者だ!」

 

 

 ガシャン!

 

 

皇帝が近くに置いてあった杯をメイガに投げつける

 

 

メイガはそれを避けることなく甘んじて受け、額から血が滴り落ちる

 

 

「は!報告よりプロペラらしき物で飛んでいたとの情報がありましたので、ムー帝国かと思い大使館に問い合わせてみましたが、そんな物は無いと一蹴されまして…」

 

 

 

「ムー帝国め、列強4位だからといつも見下しおって!」

 

「で結局どこの国なんだ!ムーじゃなきゃミリシアル帝国か!」

 

 

頭に血が上っていた皇帝がさらに怒ったことで茹でだこのように赤くなっている

 

 

「そ、その件と関連して私からも報告があります…」

 

 

臣民統治機構長パーラスが今にも倒れそうなほど蒼白い表情で皇帝に報告しようとすると

 

 

「何だパーラス!はっきりと申せ!」

 

 

 ガシャン!

 

 

次は近くにあった花瓶をパーラスに投げつけた

 

 

「ひ、ひぃ!」

 

 

パーラスはとっさに避けてしまった

 

 

「本日未明から、東部一帯の統治軍より謎の蛮族と交戦中との報告が次々と入っていまして、現在も交戦中とのこと!」

 

 

 

「謎の蛮族だあ?反乱軍じゃないのか!!」

 

 

ガシャン!

 

 

皇帝はパーラスにグラスを投げつけた

 

 

 

「ひぃぃぃ!!」

 

 

皇帝に避けるのを読まれていたようで、今度は頭に当たり額から血が滴り落ちる

 

 

「そ、その蛮族は大日本帝国と名乗ったらしく黄土色の薄汚い格好をしているようで…」

 

 

「大日本帝国だと!?」

 

 

第3外務局長カイオスが驚きの反応を示す

 

 

「大日本帝国など聞いたことも無いが。カイオス、知っているのか?」

 

皇帝は聞いたこともない国名に不審がっている

 

 

 

「は、実はロウリア王国の大使館より大日本帝国と名乗る蛮族から攻撃を受けているとの報告がありました。突然の襲来ということもありロウリア王国軍は苦戦しているようです」

 

 

皇帝は少し考えると

 

 

「大日本帝国だか何だか知らんが余に恥をかかせたことは後悔させねばならん!」

 

「アルデ!やってくれるな?」

 

 

「はい、もちろんであります!」

 

アルデはこの会議で初めて笑顔を見せた

 

 

「そして、メイガとパーラス!」

 

 

「は!!」

 

 

「今回の失態の処遇に関しては保留とする。アルデと協力して大日本帝国とかいう蛮族を討伐しろ。処遇の決定はその後にする。」

 

 

「あ・・あ・・あ・・ありがたき幸せ!!!」

 

 

 

「カイオスは監査軍を使ってロウリア王国を支援しろ。ロウリアにはまだ稼いでもらわなければいかんからな」

 

 

「は!」

 

 

「情報局は速やかに大日本帝国を調べろ」

 

 

「は!」

 

 

「会議は以上だ。二度と余を失望させるなよ」

 

 

皇帝の器の大きさにメイガとパーラスは泪を流して歓喜し、より一いっそう皇帝への忠誠を強くしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はそのまんまです。次回あたりで陸戦書きたいですね。

(2021,06/01)皇国の描写を追加しました。


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第四話 中国戦線異常あり

 香港攻略当日、各中国戦線から戦闘の報告が続出する。何と戦っているのかも分からない支那派遣軍は翻弄されつつも目の前の問題に対処していく。


大日本帝国領 南京 現地時間 1941年12月7日 午前二時

 

支那派遣軍総司令部

 

 中国大陸では華北を担当する北支那方面軍と、華中を担当する中支那派遣軍が活動していたが、1939年9月に発令された大陸命第362号により、二大方面軍を統括。陸軍最大の支那派遣軍が誕生した。司令部は南京。満州国を除く中国全土に対する政戦略の統括、敵重慶政府への工作促進などを目的としていた。

 

 「すまんが時間がない。先ほど中国戦線各地で同時多発的に戦闘が始まったとの報告があった。」

 

 集まった参謀たちに動揺が広がる。それもそのはず、2か月前まで加号作戦が行われており、苦戦しつつも中国軍を撃退したばかりだというのにそんな大規模な反攻作戦を受けるとは思っていなかったのだから。

 

 「予定していた香港攻略作戦の時間も刻々と迫っている。早急に対応を決めねばならん。」

 「宮野参謀。現状の報告を頼む。」

 

 支那派遣軍総司令官である畑俊六大将は香港攻略作戦の予定が狂ったことに少し苛立ちつつもそれ以上に何が起こったのか不思議で仕方なかった。

 

 「は!げ、現在、中国戦線各地で小規模な戦闘が多発しており、これは香港攻略作戦を担当している第23軍も例外ではありません。」

 「しかしあまりにも急なことで情報が錯綜しており、共通しているのはカラフルな古めかしい軍装の騎兵の白人に日本語で話しかけられ、蛮族扱いされ攻撃されたという点で…えー…何というか荒唐無稽な情報も…」

 

 宮野大佐が部下のよこしたメモ書きを見ながら報告しているととある単語を見て固まってしまう。

 

 「どうした?続けたまえ。」

 

 総参謀長の後宮中将が訝しんで声をかける。

 

 「も、申し訳ありません!そ、空飛ぶトカゲや、宙に浮く人、妖術で攻撃してきたなどとあまりにも荒唐無稽な報告ばかりのようでして…」

 

 

 信じられない報告に会議室の時間が止まったように誰も口を開かなくなった。重い空気の中、畑司令が口を開く。

 

 「とりあえず現状は戦線は破られてはいないのだな?」

 

 「は!現在戦線を破られたとの報告は受けておりません。敵の主力武器は先込め式のゲベール銃であるらしく火力では我が方が優勢なようです。」

 

 「それを早く言わんか!」

 

 

 総参謀副長の野田中将が声を荒げる。

 

 「も、申し訳ありません!ま、また、戦線を見張っていた各部隊より風景が変わったとの報告もあり、第23軍からは香港があったはずの場所に別の大きな都市があり、敵の拠点である可能性が示唆されています。」

 

 

 「大本営からは何かないか?」

 

 畑司令が質問する。ある程度の独断専行が許されているきらいがある支那派遣軍と言えども大まかな方針は大本営に依るところが大きい。(関東軍みたいなのもいたけど…)

 

 「大本営からは”現状を維持せよ”との指令のみで本土も混乱しているようです…ただ関東軍や朝鮮は繋がりますので何かあれば相互に連携をとることは可能かと思われます。しかし、いつもなら聞こえる中国軍やソ連の定時連絡の通信がありません。」

 

 宮野大佐が不安げな表情になりながらも報告を続ける。

 

 「ふむ…我々は神隠しにあったのかもしれんな。わっはっは。」

 

 司令が軽口を叩く

 

 「畑司令、軽率な発言は控えてください。部下の士気にかかわります。」

 

 総参謀長の後宮中将が司令を諫める。

 

 「そうだな、すまん。」

 

  畑俊六大将が柄にもなくシュンとするがすぐに気を引き締める。

 

 「とにかく我々で出来ることをしよう。時間がない。先ほど香港があるはずの場所に敵の拠点と思われる別の大きな都市があるといったな?」

 

 「は、はい!。報告によれば城塞都市のようになっており、城壁には大砲のようなものも確認されているようです。」

 

 「ふむ。報告を聞く限り敵は17世紀頃の欧州並みに思える。妖術や空飛ぶトカゲというのが解せぬが…少し偵察は必要かもしれんが香港攻略作戦を少し弄ればそのまま使えるんじゃないかね。」

 

 畑司令が参謀たちに意見を乞う。

 

 「報告を精査する必要はありますが、1から作戦を練る時間はありませんし、現状は小規模な戦闘でも敵に援軍を呼ばれ戦域が拡大するのは避けたい。」

 「ここで我々が敵の拠点を攻撃すれば敵は守りに動き我々は攻めに戦力を割くことが出来る。」

 「とりあえず序盤は香港攻略作戦に沿って動いて時間を稼ぎ、その間に情報を収集して作戦を修正していくしかないでしょうな。」

 

 総参謀長が冷静に淡々と司令の期待に応える。

 

 「うむ。信じられないような状況だが我々が攻撃されていることには変わりない。我々がここで踏ん張らなければ守るべき臣民に被害が及ぶことになるのは明白だ。部下も不安だろうがまずは目の前にある脅威への対処に全力で当たるほかない。」

 「参謀には苦労を掛けるがよろしく頼む。」

 

 司令は各参謀の目を見ながら話終えると次の指令を出した。

 

 「では指令を伝える。」

 「現在中国戦線で戦闘中の各師団、旅団は司令部のもとに相互に連携しあい現状維持に努めよ。」

 「参謀は香港攻略作戦を基に速やかに敵拠点侵攻作戦を立案し、第23軍をもってこれにあたれ。以上。」

 

 

 指令を受けた参謀達は直ちに行動へ移り、支那派遣軍総司令部は盧溝橋事件並みの熱量で動き始めた。各師団、旅団に電文が飛び交い、報告を整理していった。時間とともに各戦線の詳細な状況を司令部は把握していく。どうも敵はパーパルディア皇国と呼ばれる国で目標の都市はデュロと呼ばれ敵にとってかなり重要らしい。判明した情報を本土の大本営に伝える。未だ大本営では意見がまとまっていないらしい。どうせまた海軍が駄々をこねているに違いないと思う宮野大佐であった。

 

 

 




次回はデュロ侵攻です。パーパルディア視点で描こうと思っています。


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第五話 デュロの戦い

 突発的に発生したパーパルディア皇国と大日本帝国との戦闘は双方の思惑を超えて拡大していく。兵士たちは何も知らされないまま死んでいく戦友を後目にそれぞれの大義名分を胸に今日も戦う。


パーパルディア皇国 デュロ 現地時間 中央暦1639年12月7日午前4時

 

 

 

デュロ防衛隊陸軍基地

 

 突然の非常呼集が基地内に鳴り響く。聞きなれない音に戸惑いつつもすぐに飛び起き装備を整える。窓の外を見ればどうも我々だけでなく他の部隊も非常呼集されたらしい。新兵のニコロは眠気眼に同室の先輩についていく。

 

 「先輩、非常呼集ってなんです?」

 

 寝起きで活舌がついてこない。

 

 「馬鹿、習わなかったか?まあ、俺も実際に聞いたのは初めてだが、何か非常事態が発生したということだ。急げ!完全武装で兵舎前に集合だ。」

 

 相部屋で3年先輩のウンベルトは実戦を経験したことがあるといっても属領の小規模な反乱鎮圧くらいしか経験していない。初めての非常呼集に内心高揚していた。

 

 兵舎前に行くと既に中隊長が待っていた。既に魔信で情報は伝わっているようだ。

 

 「早く整列しろ!。班長はすぐに報告!急げ!司令が話されるぞ。」

 

 中隊長が全員そろったことを確認するとまた魔信で報告したようだ。程なくしてストリーム司令官の演説が始まった。

 

 「まず言っておく。諸君、これは訓練ではない。実戦だ。」

 

 兵士たちに緊張が走る。皇国三大基地の1つであるデュロ防衛隊陸軍基地が出動する事態など列強国相手の戦争くらいしかないと思っていたからだ。

 

 「およそ1時間前、夜間巡回警備を行っていた部隊から賊を討伐したとの連絡があった。しかし近くに仲間がいたらしく戦闘となった。」

 「警備部隊も増援を呼んで対処したらしいが賊の規模が思っていたより多かったらしく、奮戦するも結果的には敗走した。」

 

 兵士たちに重い空気が漂う。

 

 「誉あるパーパルディア皇国の兵士が賊を相手に逃げだしたことが諸国に知られれば皇国の沽券にかかわる由々しき事態となる!」

 「我々は第三文明圏唯一の列強国である!列強国の兵士として責任ある行動をとる必要がある。」

 「パーパルディア皇国の兵士は強い!勇敢で!恐れ知らずだと!今こそ示そうではないか!」

 

 「おおー!!!!」

 

 演説の終わりとともに兵士たちが雄たけびを上げる。それが収まると中隊長が口を開いた。

 

 「既に警備隊からの情報により敵の位置は判明している。」 

 「我々はブレム将軍の指揮の下、すぐに打って出ることになる。」

 「質問はあるか?」

 

 ウンベルトが手をあげる。

 

 「賊相手に過剰な兵力かと思いますが、数は?」

 

 「すまん、言ってなかったな。警備隊によると1個連隊規模で連発式の銃で武装しているらしい。」

 

 兵士たちに動揺が広がる。パーパルディア皇国で連発式の銃を装備しているところなど皇都防衛軍の一部精鋭に過ぎない。それも神聖ミリシアル帝国のお下がりを買い付けたものだ。実際に撃っているところを見たことのあるものなどごくわずかしかいない。

 

 「気持ちはわかる。司令部も賊にしては装備が強力過ぎるとして列強国のどこかが支援していると考えている。」

 「心配するな。我々にはブレム将軍とデュロ防衛隊総勢11万2千人がついている。負けることはない。」

 「時間がない。敵は刻一刻と迫ってきている。行くぞ!」

 

 兵士たちは一抹の不安を感じながらも皇国民としてのプライドを胸に戦場へ向かっていく。

 

 

 

◆◆◆

 

 戦場に鼓笛隊の笛とドラムマーチが鳴り響く。戦列歩兵は3列横隊の密集陣形を組み足踏みを揃え前進する。そのすぐ後ろには地竜がついており督戦隊的な目的も含んだ配置となっている。

 

 「全体止まれ!」

 

 ブレム将軍からの魔信によって戦列の先頭を歩く上級指揮官は馬上から指揮を出す。

 

 その時。

 

 「ぎゃあああ!」

 「俺の足がああああ!」

 

 突如歩兵の中で弾が炸裂し、兵が吹き飛ぶ。

 

 「クソ!止まったところを狙われたか!魔導防壁展開!魔導防壁展開!」

 

 上級指揮官が即時に指示を出す。すると地竜の背中に乗せられた魔導機関が光り輝き兵士たちはオブラートのようなものに包まれる。

 

 パーパルディア皇国が列強国にまで成長した最大の要因は、地竜の使役に成功したことが大きい。地竜そのものの戦闘力も脅威だが、1番の脅威は積載量だ。馬の比較にならない積載量によってより大きな魔導機関、より大きな大砲を戦場に持っていくことが可能になり、諸国を武力でもって圧倒することが出来た。

 

 「た、助かった…」

 

 新兵のニコロが腰が抜けて座り込むも涙ながらにまだ生きていることを神に感謝している。

 

 「おい!立て!死にてぇか!」

 

 先輩のウンベルトが喝を入れる。

 

 「す、すみません!」

 

 浮足立った兵士たちに戦列組めのドラムマーチが鳴り響く。

 同時に陸軍の直掩をするはずだった竜騎士団のワイバーンおよそ100騎が突撃を敢行する。

 

 「おお!竜騎士団だ!」

 「やっちまえ!ワイバーン!俺らに仕事残さなくていいからな!」

 

 兵士たちの歓声が上がり士気が復活する。

 

 「総員弾込め!」

 

 上級指揮官が指示を出す。先込め式であるマスケットは装填に時間が掛かり、およそ30秒~15秒を必要とする。また装填自体も基本的には立って行う必要があり、火薬が湿気って不発になるのを防ぐため装填は直前に行う。

 

 「行進始め!」

 

 再びドラムマーチが鳴り響き兵士たちはそれに合わせて行進する。歩くことによって命中率は下がったとはいえたまに防壁直上に砲弾が直撃する。その度に防壁が波打ち悲鳴のような共鳴音を響かせる。

 

 「クソ!竜騎士団は何をやっているんだ!これでは防壁が持たんぞ。」

 

 上級指揮官が焦り始める。パーパルディア皇国軍が標準装備している魔導砲ではここまで大きな爆発と破壊力にはならない。要塞砲並みの破壊力がある野砲を敵が持っていることに内心恐怖を抱きつつ一刻も早く砲撃が収まることを祈っていた。

 

 「ん、羽音?が聞こえるような…」

 

 この砲撃音の中でニコロが些細なことに気が付く。

 

 「馬鹿なこと言ってねえで黙って歩け!」

 「羽音ってなんだよ…ん?黒い点?う、上からなんか来るぞ!」

 

 先に気が付いたウンベルトがそう言うとみんな上を見始める。

 

 「ワイバーンじゃないのか!?」

 

 「あんな速いわけがない!こっちくるぞ!」

 

兵士たちが騒ぎ始めると爆音を轟かせながら急降下してくるそれは黒い何かを落とすとまた上昇に転じた。黒い何かは隣の連隊の防壁に直撃し爆発した。これまでの砲撃の破壊力とは比べ物にならない爆発に防壁は耐えきれず最後の共鳴音を出すとガラスの様に割れ、同時に魔導機関はオーバーヒートしたかのように煙を出し停止した。

 

 「クソ!隣の連隊の防壁が破られた!」

 

 「また助かった…」

 

 

防壁が破られた連隊は潰走するも一部の中隊の指揮官は周りの防壁へ入り合流しようとしている。兵士達は浮足立つも防壁から出れば待つのは死であることは知っているので恐怖に支配されながらもドラムマーチに合わせて行進する。

 

 「全体前進!戦友の死を無駄にするな!」

 「この丘を越えれば敵は目前だ!パーパルディア皇国軍の意地を見せつけてやるのだ!」

 

 指揮官が部下を鼓舞するも、指揮官自身も内心は絶望感で満たされている。ブレム将軍の命令の下号令を出しているが、勝ち目はあるのだろうか。百戦錬磨の皇国軍の魔導防壁が破られるなど聞いたことがない。しかし戦列歩兵という密集陣形が前提の兵種の特性上、撤退戦や遅滞戦闘は不向きだしそんな練度はない。どうしても撤退する必要がある場合はワイバーンにより敵をかく乱し時間稼ぎをするはずだったがそれはもういない。このタイミングで退却の号令を出そうものなら部隊は一瞬で瓦解し潰走する。だから我々はこのまま進むしかないのだ。少なくとも魔導防壁があるうちは潰走せずに済むのだから。

 

 「し、死にたくない。もう家へ帰りたい…」

 

 ニコロが泣きべそをかいてとぼとぼと歩いている。

 

 「おい黙れ!お前だけじゃないんだぞ!俺たちの後ろにはデュロの民がいるんだ!俺たちが立ち向かわなければ…立ち向かわなければ…」

 

 ウンベルトが再び喝を入れるもその声は弱々しい。

 

 「も、もう嫌だあああああああああああああああああ!!!!」

 「お家へ帰るんだああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

 突然ニコロが武器を捨て隊列を離れる。

 

 「お、おい!待てニコロ!」

 

 突然の出来事にウンベルトや周りの兵士が動揺し始める。

 

 「やだああああああああ!!!もうやだあああああああああああああ!!!!!」

 

 「あっ…」

 

 銃声とともに突然ニコロが倒れた。

 

 「逃亡罪は現場指揮官の判断で即処刑だ!」

 「わかったか!進め!進め!行進だ!」

 

 上級指揮官がピストルを構えながら再度行進の号令を出す。ドラムマーチのテンポが先ほどより速く、音量も大きくなっていく。

 

 「また向こうの連隊がやられたか」

 

 指揮官の絶望感は峠を越え、死ぬまでに敵に一矢報いてやるという復讐心に支配されている。

 制空権を取られたデュロ防衛隊に次々と爆撃や銃撃が加えられ、爆撃音の度にどこかの防壁が破られ部隊が潰走している。各指揮官は部下の士気の維持と潰走を防ぐので必死で陣形はバラバラになりつつある。

 

 「丘を越えるぞ!」

 

 「やっと攻撃できる!」

 

 丘の頂上を目前にして兵士たちの士気が上がり始める。何もできずに攻撃を受け続け、死の恐怖に苛まれる時間から解放される喜びを噛み締める。

 

 最初に先頭を歩く上級指揮官が丘の頂上にたどり着いた直後…

 

 「あ…」

 

 敵の集中攻撃を受け一瞬で防壁が破られる。指揮官は丘の下の敵陣地を見たかと思うと次の瞬間には吹き飛ばされていた。

 

 「と、突撃!総員突撃!」

 

 下士官が透かさず号令を出す。防壁が破られたとなれば途端に士気は崩壊し、潰走し始める。ここで士気を保つには突撃しか道はない。

 

 「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 「パーパルディア皇国万歳!!!!!!!!!!」

 

 「皇帝陛下ばんざい!!!!!!!!!」

 

 兵士たちは雄たけびを上げて突撃する。あとから到着した他の連隊も遂に耐え切れなくなり突撃し始める。近代戦を経験したことのないパーパルディア皇国軍兵士はその圧倒的火力の前に次々に倒れていく。

 

 「お、俺の手は…手…。あ、あった…へへへ。」

 

 「誰か俺の足をくっつけてくれええええええ!」

 

 「いでぇぇぇぇよ!いでぇぇぇぇよ!おっかああああ!」

 

 敵の突撃破砕射撃は壮絶を極め、大量の機関銃弾や迫撃砲弾・榴弾の雨あられの中で生き残った僅かな捕虜のほとんどがPTSDを発症することになった。

 

・デュロの戦い

 

国家:パーパルディア皇国

指揮官:デュロ基地陸軍将軍 ブレム

戦力:パーパルディア皇国軍デュロ防衛隊 50,000名

戦死または戦病死:45,000名

負傷:1,000名

行方不明:4,000名

 

国家:大日本帝国

指揮官:第23軍司令官 酒井隆中将

戦力:支那派遣軍第23軍 39,700名

 

戦死または戦病死: 106名

負傷: 300名

 

 

 

 

 

 




次かその次くらいに本土描写したいですね。


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第六話 日グ会談

 ハワイ沖で邂逅したグラ・バルカス帝国艦隊は10日かけて帝都東京の土を踏んだ。大勢の見物人に気を良くした外交官一行はそのまま交渉へ向かう。



大日本帝国 東京 現地時間 中央暦1639年12月17日午前10時

 

 帝都東京。移転して間もないが通りを行き交う人々は相も変わらず忙しない。異界の国の艦隊が来航したとは露程にも思わず旭日旗を振っている見物人。金のにおいを嗅ぎつけた屋台がひしめき対米戦をしているとは思えない賑わいようである。移転前と何も変わらない風景がそこには広がっていた。そもそも対米戦が決定する前から石油等の資源物資の輸入は止められ、輸出も開戦をきっかけに止まっていたので移転したところで庶民の生活は何も変わらないのだ。政府も異世界に移転したと発表しておらず、来航したグラ・バルカス帝国艦隊も旗以外はそのまま大日本帝国海軍の軍艦でしかなかったので見物人も違和感は感じつつも対米戦に向けて東京湾に停泊するだけだろうと思っていた。対してグラ・バルカス帝国外交官一行は国民に歓迎されていると勘違いし意気揚々と交渉に向かっていく。

 

 「大日本帝国へようこそ。歓迎いたします。本来はもっと盛大にお迎えするべきですが、この会談はあくまでも内密なためご了承ください。到着早々で申し訳ないですがさっそく会場へご案内いたします。こちらにご乗車ください。」

 

 

 「うむ。時間が無いのは我々も同じだ。よろしくたのむ。」

 

 

 外務省東部方面異界担当課長のシエリア率いる外交官一行と海軍将校は艦隊を残して会場へ向かう。

 

 「しかし十分盛大なお迎えだったように思えるぞ。礼砲は無かったが、国民からあれだけ歓迎されるとは我々も有名になったものだな。」

 

 シエリアが入港した際の感想を述べる。

 

 

 「ハハ…それはありがとうございます。」

 

 別にお前らを歓迎してたわけではないと思いつつもそう思ってくれた方が都合が良いと思って何も言わない運転手であった。

 

 「しかしなかなか発展した都市ではないか。帝都ラグナとは大分雰囲気が違うがこれはこれで良い趣だな。何と言っても空気が美味い。」

 

 車内から通り過ぎていく風景を眺めながらそう言うと…

 

 「自動車も割と普及しているようですね。デザインも似ているし技術的にも価値観的にも大きく違わないのかもしれません。」

 

 直属の部下のダラスが反応する。

 

 「首都ですからね。大日本帝国内で東京より発展した都市はありません。」

 

 運転手と談笑しながらしばらくして目的地に到着する。

 

 「到着いたしました。首相官邸です。」

 

 昭和4(1929)年に竣工され、昭和7(1932)年の5・15事件。その4年後の2・26事件を経験した首相官邸。正面玄関の上部にはめ込まれたガラスには、直径1センチほどの弾痕が刻まれており今も当時の惨状を物語っている。時の犬養毅首相らが反乱軍の将校たちに暗殺されていることもあって「夜になると公邸に軍服姿の幽霊が出る」という噂が絶えない。

 

 

 「せいぜい次官クラスの者と会談するものと思っていたが総理とは…」

 

 思いがけない会談相手にシエリアも緊張を隠せない。

 

 「し、しかしこれはチャンスですシエリア様。結果次第では我々東部方面外交部の地位向上は勿論のこと大日本帝国を我々が一括して担当できれば利権は…」

 

 「黙れダラス。事は重大だ。我々に国の命運がかかっているかもしれんのだぞ。」

 

 「も、申し訳ありません…」

 

 シエリアが調子に乗ったダラスを黙らせているとすぐに案内の者が来た。

 

 「皆様こちらへ。既に総理大臣と閣僚が待っておられます。」

 

 外交官一行と将官が会議室に入ると

 

 「ようこそ大日本帝国へと言いたいところだが歓迎会は後だ。早速だが席に着いてくれ。聞きたいことが山ほどあるんだ。」

 

 参謀総長の杉山元陸軍大将が着席を促す。

 

 

今回の日グ会談の参加者

 

 日本側

  内閣総理大臣兼陸軍大臣兼内務大臣:東條英機

  外務大臣:東郷茂徳

  海軍大臣:嶋田繁太郎

  参謀総長:杉山元

   

 

 

 グラ・バルカス帝国側

  外務省東部方面異界担当課長:シエリア

      同上担当課員:ダラス

             同上:エリク

             同上:ギリアン

  第八植民地任務部隊司令長官代理:アリゴ少将

  海軍第82防備隊司令官:セシリオ少将

   +補佐の佐官クラス二人

 

 

 

 「私が外交団代表のグラ・バルカス帝国外務省東部方面異界担当課長のシエリアと申します。この度は会談の機会を頂き至極光栄と存じます。しかし首脳クラスの方々と会談とは我々も予想外でした。」

 

 シエリアが緊張した面持ちで挨拶をする。

 

 「まあ、普通はそうだが我々も時間が無い。いつまでも移転したことを臣民に隠しているわけにはいかんしな。」

 「あ、私は外務大臣の東郷茂徳だ。でこちらが内閣総理大臣兼陸軍大臣兼内務大臣の東條英機。あちらが海軍大臣の嶋田繁太郎。そして参謀総長の杉山元だ。」

 

 各大臣が会釈する。

 

 「申し遅れましたがシエリアの部下のダラスです。こちらが同じく。」

 

 「エリクです。」

 

 「ギリアンです。」

 

 「隣が第八植民地任務部隊司令長官代理のアリゴ少将と海軍第82防備隊司令官のセシリオ少将です。」

 

 各将校が会釈する。

 

 「あ、貴方であったか機動部隊と交信したのは。」

 

 海軍大臣の嶋田繁太郎大将が反応する。

 

 「はい。我々も本当に出会えるものとは思っていませんでしたがたまたまレーダーに引っかかり見つけることが出来ました。あの時はどうなるかと思いましたが無事平和的に事が進み安堵しました。そちらの海軍の練度には素晴らしいものがありますな。」

 

 「いやいや、異なる世界の国の国際儀礼が我が国と同じで良かった。もし違っていたら結果は変わったかもしれない。」

 「…交信内容を聞いた時から気になっていたが、そもそも何故あの海域に我々がいると知っていたのだ?」

 

 嶋田大将が根本的な質問をアリゴ少将にぶつける。

 

 「それに関しては私が。」

 

 シエリアが話を遮る。

 

 「ダラス、例の写真を。」

 

 グラ・バルカス帝国でも最新技術であるカラー写真を複数枚取り出す。

 

 「こ、これは日の丸!?」

 

 「しかしこの兵器は何だ?こんなのうちにはないぞ。」

 

 各閣僚は驚きの顔を隠せない。

 

 「この写真は我が国の情報部がとある遺跡の中で撮影したものです。技術部を派遣したところ我が国のおよそ40年~50年程進んだ科学文明であるという見解を得ました。」

 

 風防と座席が無く片翼はもがれているが、20世紀後半に米国のF-16を元に日米共同で開発され、鮮やかな洋上迷彩が印象的な「平成の零戦」や「バイパーゼロ」と呼ばれるF-2戦闘機の姿がそこにはあった。

 

 「F-2と呼ばれる戦闘機のようですが、文字が異なるため解読に時間が掛かっています。」

 

 「どういうことだ!日本ではないということか!?」

 

 「し、しかし、機体に日本語が書いてあるぞ。」

 

 「確かに、"この機体にはGRADE JP-4Aの燃料を使用せよ"と書いてあるな。初めて聞く燃料だが」

 

 日本の国旗が描かれているにもかかわらず誰一人として心当たりがないことに奇妙な感情を抱く。皆珍妙な表情で写真を見るが何もわからない。予想外の情報に本題を忘れているがそれどころではない。

 

 「これだけでは我々もこれを誰が作ったもので何故残っているのか分かりませんでしたが、我が国の周辺を海洋調査していたところ、潜水艦が見つかりまして、比較的浅瀬でしたので引き揚げて調査いたしました。」

 

 またダラスが写真を取り出す。

 

 

 「巡潜甲型ほどの大きさではないが奇妙な形をしているな。」

 

 「これも我が国の潜水艦なのか!?」

 

 

 表面が苔だらけで艦尾の特徴的なX舵が折れ曲がっているが、通常動力型潜水艦の中では世界最強と名高いそうりゅう型潜水艦の姿がそこにはあった。

 

 「艦尾の機関室は完全に水没していましたがその区画以外は無事で遺体もなかったことから乗組員は脱出できたものと思われます。」

 「そして重要なのが船内から発見された書類や書籍です。こちらをご覧ください。」

 

 一際大きい荷物を抱えていたエリクが数千ページに及ぶ青焼きの紙束を机に置く。

 

 「ジェーン年鑑だ!」

 

 「ワイヤー軍艦年鑑もあるぞ。それも1982年版か。こっちは2010年だが」

 

 「航空機版や軍用車両版もあるのか。時代がばらばらだな。」

 

 1898年にジョン・F・T・ジェーンが創刊して以来、毎年英国より発行されているジェーン年鑑は各国の海軍などに配備された軍艦の船種ごとに性能・装備などがまとめられている。当初は軍艦のみを扱っていたが、1909年には航空機を扱った『Jane's all the world's aircraft』が刊行されるなど、徐々に対象分野が広がっていき、兵器だけでなく、商船や鉄道、都市交通システムなども扱うようになった。(種類にもよるが1冊10万円近くする。)

 

紙束の内訳

・ジェーン海軍年鑑(2014-2015)

 ・ジェーン航空機年鑑(2011-2012)

・ジェーン軍用車輌年鑑(2010-2011)

 ・ワイヤー軍艦年鑑(1982/83)

 

 「これらを大日本帝国の皆様に訳して欲しいのです。我々も解読を試み、それによってあの戦闘機や潜水艦が日本という国のものであることが判明しましたが、写真や図面付きでの解説だったのでまだ兵器の性能等詳細な部分は分かっておりません。」

 

 シエリアが大日本帝国側にお願いをするが、何もしないで40年~50年も進んだ軍事技術を拝めるとなれば断る選択肢はない。

 

 「勿論、翻訳には協力しよう。進んだ軍事技術を手に入れることは我が国の国益に叶うものだ。しかしこれだけではそもそもの何故あの海域に我々がいると知っていたのか。そして何故我が国は移転してしてしまったのかは分らんではないか。」

 

 総理大臣の東條英機が疑問をぶつける。

 

 「申し訳ありません。最初に話すべきでしたね。実は我が国もあなた方と同じようにこの世界に移転して来たのです。」

 

 最初にグラ・バルカス帝国の紹介をしようと思っていたシエリアだったが話の流れですっかり忘れていた。

 

 「そうか我が国だけじゃないのか。」

 

 「この世界は移転国家の集合体なのか?」

 

 「移転直後から隣国と戦争になってしまってこの世界のことがまるで分らんのよな。」

 

 閣僚から様々な疑問が噴出する。

 

 「そうですね、まずこの世界の成り立ちを説明しましょう。我々が調べた限りの内容ですが。」

 

 シエリアは古の魔法帝国と太陽神の伝説。そしてこの世界特有の魔法の存在と文明圏という考え方について話した。

 

 「う~ん、なるほど道理でなめられるわけだ。」

 

 「同じ日本語を話しているのに話が通じない訳がわかったわ。」

 

 「そうか、他にムー帝国があるのか。」

 

 「しかし魔法が厄介なことに変わりはないがな。」

 

 閣僚どもがそれぞれの感想を述べると

 

 「我が国の情報部では太陽神の伝説を元にいくつか仮説を立て、移転した理由を検討しました。こちらの資料をご覧ください。」

 

 シエリアの部下のギリアンが資料を配り始める。

 

 

グラ・バルカス帝国の国家転移事象における要因検討

 

 1、この世界の言語体系は大陸共通言語に統一されており、転移国家もこの世界特有の魔法によって自動的に大陸共通言語に変換される。しかし文字体系は国によって異なり、これは古の魔法帝国に支配されていた頃の名残か、魔王軍侵攻に伴う種族間連合が発足した際に出現した太陽神の使いの言語に影響されたものと推測される。

 

 2、国家やそれに準ずる組織が転移される条件としてこの移転先の世界(以下、新世界)を根本から覆すような事態(例:魔王軍侵攻)。または元の世界で国家を揺るがす重大な事象(ムー帝国:大陸水没、グ帝:ケイン神王国との開戦)

 

 3、伝説では古の魔法帝国が再び新世界に転移する可能性が示唆されており、その際はそれに対抗できる力を持った国家、またはそれに準ずる組織が転移される可能性がある。

 

 4、グラ・バルカス帝国は太陽神の使いの所属である日本国との共通点が多く、特に大日本帝国時代の言語体系、技術体系には類似点が多くみられる。

 

 上記より、グラ・バルカス帝国は超常的存在に太陽神の使いの代わりとして転移させられた、又は超常的存在が日本と勘違いして転移させられた。

 

 

追記

 

 魔王軍侵攻の際は日本国そのものではなく、我が国よりおよそ40年~50年程進んだ技術を持つ日本国軍の1個軍団規模が召喚された。技術的に劣る我が国が転移されたのは、国家転移規模であれば我が国レベルでも問題ないと超常的存在が考えたのかもしれない。しかし魔王軍規模なら兎も角、古の魔法帝国相手であれば我が国と新世界の国々が束になっても劣勢は免れないため日本国も転移される可能性がある。日本国が転移されるとすれば船内より発見された歴史書より太平洋戦争開戦時、米国による原爆投下、キューバ危機、ベレンコ中尉亡命事件、東日本大震災、2015年以降の重大事象等のタイミングが考えられる。

 

 

 「おい、しれっと我が国の未来の片鱗が書いてあるが。」

 

 「移転した理由よりこちらの方が重要じゃないか。」

 

 「これ我々が知っても大丈夫なのか?」

 

 「転移した時点で既に理から外れている。関係なかろう。」

 

 

 閣僚たちは転移した理由よりも大日本帝国の未来の方が気になっているようだ。

 

 「実は先ほど紹介した書籍以外にも複数の書物や書類を入手しておりまして、その中には歴史書もありました。与える影響が大きいことを鑑みて今回の会談では紹介しないつもりでしたが、この資料自体が直前に電文で届いたものでして精査が足りておりませんでした。申し訳ありません。」

 

 シエリアが謝罪するが閣僚たちはそんなことはどうでもいいといわんばかりに話を続ける。

 

 「これは御前会議にて天皇陛下のご聖断を仰がねばならん。」

 

 「そうだな。我々の一存では決めかねる事案が多い。」

 

 「では明日には御前会議を行えるよう取り計らいましょう。」

 

 閣僚たちが相談し終えると

 

 「シエリア殿、今回はご足労感謝する。とりあえず翻訳の件に関しては了解した。出来るだけ早く翻訳出来るよう取り計らおう。従ってグラ・バルカス帝国側より言語に詳しい者を何名か出して欲しい。」

 

 翻訳を担当することに決定した参謀本部の参謀総長である杉山大将が決定したことを伝える。

 

 「ありがとうございます!言語に関しては私の部下であるエリクとギリアンが専門家でもありますので自由にお使いください。」

 

 当然だが近代国家における外交員はエリート集団なので様々な専門家が所属している。シエリアは前もって言語学の専門家と国語学の専門家を連れて来ていた。

 

 「あと我が国としてグラ・バルカス帝国に使節団を派遣したいと思う。詳細は明日の御前会議のあと追って連絡する。それまで観光なり自由にするとよい。案内の者をつけよう。また、今日そちらの艦隊の乗組員も含めて歓迎会を開きたいと思うが宜しいか。」

 

 「格別のご配慮、痛み入ります。乗組員も喜ぶと思います。」

 

 軍人や役人で目上の者の誘いを断る奴はいない。

 

 「あの、もし歓迎会の会場が決まっていないようでしたら我が国が誇る戦艦であるオリオン級戦艦3番艦アルニラムを会場にどうでしょうか?。海軍屈指の腕利きコックがグラ・バルカス帝国の料理を振舞うのを楽しみにしています。」

 

 アリゴ少将が歓迎会の会場場所を提案する。実はグラ・バルカス帝国側でも歓迎会を開く準備をしていた。

 

 「確かにグラ・バルカス帝国の料理は興味が湧く。それに臣民にばれる心配もない。」

 

 「いいんじゃないか。あの金剛型に似た戦艦には興味があったんだ。」

 

 「うむ。準備した料理や酒は持っていくこととしよう。」

 

 閣僚たちも乗り気だ。

 

 「そうと決まれば早速船に連絡します。おい、電信機持ってきたよな。」

 

 アリゴ少将が部下に指示を出す。

 

 

 

 その夜、会場に停泊する戦艦アルニラムで大日本帝国とグラ・バルカス帝国の邂逅を祝して歓迎会が開かれた。双方が料理や酒を持ち寄り大いに語り合った。この歓迎会を通してお互いが尊敬に値する軍人であることを認め合い、後の条約締結に大きく貢献することとなった。そして次の日、御前会議では以下のことが決まった。

 

 

 ・若杉要を全権大使とする使節団をグラ・バルカス帝国に派遣し、国交樹立させる。また、グラ・バルカス帝国に仲介を要請しムー帝国と接触、可能ならば国交樹立を目指す。

 

 ・帝国臣民に我が国が新世界に転移したことを発表する。なお混乱を避けるため発表原稿は慎重に検討する。

 

 ・新世界の隣国に独断で侵攻した司令官は転移に伴い指揮系統が混乱しており大本営に指示を乞える状況ではなかったため不問に付す。

 

 ・ロデニウス大陸を資源供給地として開発重点を置き、すでに占領統治が始まっているロウリア王国は元のクワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国に分割し大東亜共会議へ招待する。

 

 ・パーパルディア皇国は飽くなき侵略と搾取を行い、我が国を隷属化する野望をむきだしにし、ついには大東亜の安定を根底から覆そうとしており、この脅威を排除することによって大東亜の平和と安寧を取り戻す。

 

 ・新世界においても列強が富と技術を独占し、周辺国が搾取され続けている現状を鑑み、この地においても大東亜共栄圏構想を立ち上げるものとする。

 

 

 

 

 




 勢いで書いていたら割と長文になってしまいましたがやっとタイトル回収が出来ました。今回の話で原作との設定の違いが色々明らかになりましたが、もしかしたら原作と矛盾する部分があるかもしれません。矛盾点や質問等あればお気軽にコメントください。

 次回の話はまたアンケートで決めたいと思います。


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第七話 デュロ爆撃 

 デュロの戦いにおいて勝利した支那派遣軍はデュロを包囲し、連日にわたって砲爆撃を加えた。しかし一向に魔導防壁を破ることが出来ないことに業を煮やした司令部は戦略爆撃を行うことを決定する。


大日本帝国 台湾海峡上空 現地時間 中央暦1639年12月22日午前11時

 

 太平洋戦争開戦前には陸海軍共同で大規模な重慶爆撃が幾度となく行われていたが、太平洋戦争開戦にあたって新たな敵である鬼畜米英との戦いに備えるため有力な重爆撃機隊は南方軍等へ動員されていた。

 そもそも渡洋爆撃では海軍航空隊が一枚上手で当時としては先進的な電波航法が使用されていた。飛行場という着陸地点が動かない陸軍と違って空母という動き続ける着陸地点に着艦しなければいけない艦載機にとって帰るべき母艦を見失うということは死に等しいものでったため米国のFarchild社製の無線方向探知機を国産化したものを装備していた。

 

 本来、新たな場所に爆撃する場合は電波航法を使える海軍航空隊に支援を頼むべきだが、海軍もそれどころではないため、フィリピン攻撃準備のため台湾の潮州基地に移動していた飛行第14戦隊に白羽の矢が立った。デュロ自体が香港と場所がほぼ同じだったため上海爆撃の経験がある第14戦隊は丁度よかったのだ。また、最近は新型の一〇〇式重爆撃機呑龍への機種転換が行われており試験飛行としても丁度良いと判断された。

 陸軍航空隊としては爆撃機には常に戦闘機隊が随伴して、爆撃機編隊を護衛するのが敵地空襲の基本だと考えていた。しかし偵察の結果、敵の空飛ぶトカゲは高度4000m程度までしか上昇出来ないことが判明しており、もし捨て身の一撃を仕掛けられたとしても九七式重爆撃機よりも重武装の一〇〇式重爆撃機であれば十分対処可能であると考えられ、今回は護衛なしでの作戦が立案された。

 

 

 「あと30分でデュロ上空です。」

 

 偏流、速度、現在位置等を真剣に航空図にプロットしていた河野副操縦士が報告する。

 

 「よし、全員警戒を怠るな!敵のトカゲ野郎は火を吐くって話だ。あと15分で敵が来なければ高度を4000mまで下げる予定だ。それまでは血眼になって敵を探せ!」

 

 田島機長の大声が操縦席に響き渡る。

 

 しかし眼下には雲が多く、仮に敵が飛んでいたとしても見つけるのは難しいだろうと皆思っていた。そもそもトカゲは高度4000m程度までしか上昇出来ないと聞いていたので搭乗員の大半は安心して眼下を眺めていた。

 

 しかし、間もなくして機首銃座兼爆撃手の山本が気づいた。

 

 「い、いた!10時方向!羽ばたいてる!」

 

 「よし、でかした!各機にも通達!戦闘準備だ!」

 

 機長の指示で銃手が配置につくが…

 

 「撃ってこんな。」

 

 クソトカゲ共は編隊の下を追従している

 

 「やはり高度6000mまで届く有効な兵器がないのでは。」

 

 「そうかもしれんな。しかしこれでは高度を下げられん。」

 

 「精度は下がりますが、この高度のまま爆撃するしかないですね。」

 

 「まあ、判断は戦隊長次第だからな。我々は従うのみよ。」

 

 間もなくデュロ上空へ達するというときに、突如、正体不明の敵機が迫っていることに、上部銃座の銃手が気が付いた。

 

 「に、人間だ!空から降ってくる!?」

 

 慌てて銃身を向けたときには、猛烈な勢いで急接近する敵機が既に一撃を放っていた。 

 

 機内で何かが炸裂する音と同時に赤い液体がばら撒かれる。

 

 「葉山軍曹!」

 

 操縦席の田島機長は一瞬のことで何が起きたのかほとんど分からなかった。ただ分かったのは後部銃座を担当していた葉山軍曹の頭が無くなっているということだけだった。

 

 「くそったれ!こんな話聞いてないぞ!敵はどこだ!」

 

 「あ、あれです!人が飛んでいる!」

 

 副機長が示す方向を見ると人間が飛んでいた。小銃を構え、ゴーグルと防寒着に身を包んだ人間が飛んでいる。

 

 「なんだあれは、腹部が光っている?」

 

 よく見ると腹部の水晶玉のようなものが青白く発光しており、ときおり人間を包み込むように青白く光り輝く膜のようなものが波打つのが見える。

 

 「おそらく魔導防壁かと思われますが、敵にあんな兵士がいるとは…」

 

 「おい、感心してる場合じゃないぞ河野!お前、葉山軍曹の代わりに後部銃座につけ!」

 

 「は、はい!」

 

 河野副操縦士が後部銃座に向かうと機体に受けた穴が露わになる。

 

 「おいおい、これはどう見ても20mm以上の威力があるぞ。これでは呑龍の装甲板は役に立ちそうもないな。」

 

 「河野!無駄口叩いてねぇでさっさと銃座につけ!弾幕を張れ!近づけさせるな!」

 

 機長の怒号が飛ぶ

 

 「は、はい!配置つきました!」

 「くっそまだ死にたくねぇよ…」

 

 河野副操縦士が弱音を吐いていると

 

 「き、きた!8時の方向!一人!」

 

 「落ち着け!無理に当てようとするな!とにかくばら撒いて敵を近づけさせないようにしろ!」

 

 上部銃座の20mmと尾部銃座の7.7mmが火を噴く

 

 自分の魔導防壁を過信した敵は爆撃機が最も火力を発揮できる後部から攻撃してしまった。基本的に爆撃機の防護火力は敵を撃墜するためでなくあくまでも弾をばらまくことによって敵を威嚇し怯ませ、狙いをつけさせないようにするのが主だ。しかし後部の敵であれば偏差射撃もそれほど必要ないため比較的当てやすい。

 

 「当たれぇぇぇぇ!」

 

 敵が狙いをつけるために爆撃機と速度を合わせたのが命取りであった。爆撃機からは相対的に止まって見える敵に対して20mmと7.7mmが吸い込まれるように向かっていく。7.7mmはある程度耐える魔導防壁だが流石に20mmは耐えられないようで初弾で防壁は破れ7.7mmの雨をもろに受けてしまった敵は意識を手放して自由落下していく。

 

 「あ、当たった!」

 

 慣れない射撃で敵に当たったことに喜んでいる。

 

 「喜んでねぇで警戒しろ!まだそこら中にうようよ飛んでるんだぞ!まあ、敵も馬鹿で助かったな。」

 

 機長も思いがけない成果に内心喜ぶがすぐ現実に戻される。

 

 「あ、一番機が…」

 

 編隊の先頭にいる隊長機が敵に集中攻撃され穴だらけになっている様が見える。漏れた燃料に引火したのか胴体下部かが火に包まれており、火を噴いているはずの防護機銃の射撃が疎らだ。

 

 「護衛戦闘機がいれば…」

 

 機長が悔しがるのも束の間、ついに被弾に耐えられなくなった一番機は炎上による金属疲労も重なり主翼が根元から折れて墜落していく。目標を爆撃する前に散っていった戦友たちの無念さを胸にしまい冷静さを取り戻していく。

 

 「遠藤隊長…」

 

 目標を失った敵はまた新たな目標を見つけ攻撃してくる。

 

 「左から来たぞ!銃手!対処しろ!」

 

 左から敵二人が射撃しながら銃剣突撃を敢行する

 

 「くっそ機体にに張り付いたぞ!」

 

 敵も爆撃機というものの特性を戦いながら掴みつつあり、最も防護火力の薄い側面から攻撃するのが得策だと判断したようだ。銃剣突撃してきた敵が主翼に銃剣を差し込み左翼に張り付くと、拳銃で発動機を攻撃し始める。

 

 機体を揺らすが剥がれそうにない。

 

 被弾する音に紛れて突然の左から爆発音。

 発動機の爆発で敵二人の防壁は一瞬で破られ吹き飛ばされたようだ。

 

 「遂に発動機がやられたか。」

 

 機長はすぐさま燃料を遮断し消火に努める。

 

 「敵も巻き込んだが、あと少しだってのにこのままじゃ持たんな。」

 

 田島機長が覚悟を決めているところに河野副操縦士がやってくる。

 

 「2名戦死、1名重症、動ける銃手は尾部銃手の松本と私だけです。胴体後部は穴だらけで…」

 

 「報告ご苦労、よく生きてたな。」

 

 「後部銃座は装甲板に挟まれておりますから。」

 

 「そういえばそうだったな。とりあえず河野、お前操縦変われ。」

 

 「は、はい!?」

 

 「この機体では高度を下げ編隊から落伍するしかない。さっき発動機がいかれた時から左補助翼がいうことを聞かんくなった。方向舵も穴だらけになったのか知らんが反応が鈍い。このままでは右発動機のトルクを抑えるだけで限界だ。」

 「俺が発動機の出力を微調整するからお前は俺の言ったとおりに操縦しろ!わかったか!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 「よし!今から発動機の出力を下げる。そうすればトルクも無くなりお前一人でも操縦できるはずだ。そしたら高度を下げて編隊を下から追い抜け!。俺は銃座を操作して敵を引き付ける。とにかくお前は一直線に爆撃目標であるデュロに向かえ!いいな!」

 

 「はい!!」

 

 「よし、その意気だ。じゃあ頼んだぞ。」

 

 機長が発動機の出力を最小にすると後部銃座に向かっていく。

 

 「俺だって若いときは銃手だったんだぜ。まあ、実戦で撃つのは今回が初めてだがな。」

 

 独り言を言いながら後部銃座の20mmが火を噴く。

 

 「やっぱなかなか当たらんな。」

 

 敵も仲間が死んでいくのを目の当たりし、後部に張り付くのは得策ではないと学習したようだ。尾部銃手も撃ち続けているが、たまに当たっても防壁に阻まれる。

 

 「よし、高度が下がって来たな。そろそろ撃つか。」

 

 機長は緊急用の信号弾を取り出し敵に向かって撃ち始める。

 

 「かかってくれ…」

 

 初めて信号弾を目撃した敵は、曳光弾よりもよっぽど強く光り輝く照明弾を脅威と感じたようだ。隊長らしき敵と複数人の部下がこちらに向かってくる。

 

 「よし、かかったぞ!しかし問題はここからだ。」

 

 機長はすぐさま操縦席に戻り指示を出す。

 

 「敵が引っ掛かった!降下して限界まで速度をあげろ!時速500kmまでは出せるはずだ。空中分解ギリギリまで速度を引っ張れ!」

 

 「し、しかし爆撃は!?」

 

 重爆撃機である百式重爆は水平爆撃しか想定されていないため機体の強度的に急降下爆撃は出来ず、搭乗員の能力的にも不可能だ。もし無理に行おうとすれば急降下からの水平飛行時に主翼が耐え切れずに空中分解する恐れがある。

 

 「細かいことは爆撃手の山本に任せるが、速度が足りない場合は緩降下爆撃を行え。速度が足りている場合は低高度での水平爆撃だ。今はとりあえず敵を引き離すのを第一に考えろ。このままじゃ空中分解する前に敵に撃ち落されちまう。」

 

 機長は捲し立てるとすぐ銃座に戻っていた。

 

 「松本!銃座変われ!お前の方が腕が良いだろ!」

 

 「了解!」

 

 「俺はクソトカゲ共を引き付ける。お前はあの空飛ぶ人間を優先的に狙え!いいな!」

 

 「了解!」

 

 後部銃座についた松本が射撃を開始すると田島機長は下部銃座に向かい、下から近づきつつあるトカゲ共に向かって信号弾を放つ。

 

 「いい加減気付け!ノロマ野郎!」

 

 機長が適当に放った信号弾は運の良いことに下を飛んでいたトカゲを操っていた人間に直撃し装備に引火する。

 

 照明弾と言っても構造的には焼夷弾と同じで、1300度以上の温度で燃え続けるので人間に当たれば火傷だけじゃ済まない。

 

 異変に気が付いた周りのトカゲ共がこちらに気づき向かってきた。

 

 「あんなトロイ弾に当たるとは運の無いやつめ。とりあえず弾をばら撒いとくか。」

 

 機長が下部銃座から弾をばら撒きつつたまに信号弾をお見舞いする。

 

 「機長!再装填!」

 

 後部銃座の松本がリロードし始める。

 

 「よし!援護する。」

 

 機長は尾部銃座から射撃し始める。

 

 「クッソ、全部防ぎやがる。」

 

 敵は魔導防壁で攻撃を防ぎつつ小銃で攻撃してくる。

 

 「まだ生きてるのが不思議なくらいだな…」

 

 速度が上がり機体が揺れ始める。

 

 「よし、いいぞ。敵も速度を出すので精一杯なのか知らんが攻撃が少なくなっている。」

 

 速度が上がるにつれて敵も攻撃する余力がなくなっていき、速度が限界に達したものから一人、また一人と離脱していく。時速450kmを超えたあたりで隊長とみられる奴も離脱していった。

 

 「最初からこうすれば良かったんだ…」

 

 機長が後悔の念を漏らすとまた操縦席に向かう。

 

 「敵をまいたぞ!あとは爆撃するだけだ。慎重に機首を戻すぞ。」

 

 速度を超えすぎても空中分解。急激に機首を上げても空中分解。ただでさえ数多くの被弾によって機体強度は下がっているはずなので、より難易度は上がっている。機体強度ギリギリの速度を攻めながら、機首上げを行わなければいけない。

 

 「爆弾倉と着陸装置を展開。少しは抵抗が増すはずだ。」

 

 機長が経験に基づいて指示を出す。

 

 「爆弾倉は開きましたが、車輪が出ません!」

 

 「壊れてるか…空気抵抗が大きすぎて開かないか…」

 「これでやるしかない!皆覚悟を決めろ!」

 

 機長の言葉で改めて搭乗員皆覚悟を決める。

 

 「皆、何かに掴まれ!」

 

 「450…」

 

「460…」

 

「470…」

 

 速度が上がるごとに機体の揺れが一層激しくなり金属の軋む音もますます大きくなっていく。搭乗員は皆体験したことのない速度に突入する。

 

「480…」

 

「490…」

 

「500…」

 

「510…」

 

 「よし!やったぞ!」

 

 機長が機体を水平にしたころには爆撃目標であるデュロは目の前に迫っていた。

 

 「速度が速すぎるが、山本頼んだ!」

 

 「こんなデカい目標、猿でも外しませんよ!」

 

 爆撃手の山本が爆撃照準機を操作しながら軽口を叩く。

 

 「高度は頼みましたよ!」

 

 「任せろ!」

 

 副機長の河野が珍しく頼もしいことを言う。

 

 「高度ヨシ!高度ヨシ!…」

 「投下!」

 

 投下された爆弾は全てデュロの魔導防壁に阻まれるが、確実に色は変化している。

 

 「山本よくやった!あとは味方に任せるしかない。周囲を警戒しろ!」

 

 「了解!」

 

 「河野!ここら辺に着陸できそうな平地はあるか。もう燃料が持たん。」

 

 「陸軍が整地している野戦飛行場がこのあたりにあるはずです。そこへ向かいましょう。」

 

 「よし、緊急着陸だ。帰るまでが遠足なのを忘れるな、気を引き締めろ!」

 

 「はい!」

 

 

 

 

 後続の味方爆撃機によりデュロの魔導防壁は粉砕され、陸軍の第23軍が間髪を入れずにデュロに侵入。無事陥落させることに成功した。山本機の活躍は後日、新聞やラジオで美談として広く報道され反響をよび、壮烈無比の勇士としてその武功を称えられた。軍国熱も高まり映画や歌にもなり、爆弾三勇士以来ともいわれる弔慰金が集まった。

 

 しかし、陸軍内部では想定外の損失の多さに、戦略の見直しが図られることになり、今後の爆撃機開発に重要な戦訓を残すこととなった。

 

 

国家:パーパルディア皇国

 

指揮官:デュロ基地司令官 ストリーム

 

戦力:パーパルディア皇国軍デュロ基地竜騎団 300名

          同上 皇都防衛隊所属第一魔導航空大隊第三中隊 12名

 

戦死または戦病死:4名

 

負傷:2名

 

行方不明:3名

 

 

 

国家:大日本帝国

 

指揮官:第23軍司令官 酒井隆中将

 

戦力:飛行第14戦隊(一〇〇式重爆撃機 36機) 288名

 

戦死または戦病死: 44名

 

負傷: 84名

 

行方不明:72名

 

 

 

 




次回はトーパ王国で魔王軍相手に暇を持て余した関東軍が大暴れする予定です。


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第八話 魔王の足音

 支那派遣軍が対パーパルディア皇国との戦争に明け暮れている中、対ソ連の要であった関東軍は割と暇していた。そんなのを見計らってかトーパ王国で異変が起こる。



日本から西にあるフィルアデス大陸、その北東部に四国ほどの大きさの島がある。

 

 フィルアデス大陸とその島は、厚さたったの200m、長さ30kmという細長く伸びた陸地によって繋がっている。

 

 

 

 その島国の名はトーパ王国という。

 

 

 

 トーパ王国の北東部には厚さたったの100m、長さ約40kmの陸続きでグラメウスと呼ばれる大陸に繋がっている。

 

 

 

 大陸グラメウスは魔物と呼ばれる生物が支配する大陸であり、人間、亜人の国家は存在しない。

 

魔物は全く話しが通じず、人間や亜人を見つけると襲い掛かってくる。

 

 魔物自身は特に文明を築いている訳ではなく、その秀でた身体能力を使用し、バーサーカーのように人間に襲い掛かる。

 

 日本人が魔物を一言で表すなら「害獣」である。

 

 

 

 トーパ王国の北東部には城塞都市トルメスがあり、魔物の大陸グラメウスとトーパ王国の間の細長い陸地には「世界の扉」と呼ばれる城壁を築き、永きにわたりトーパ王国は魔物の侵入を防いできた。

 

 

 

 この世界の扉には、トーパ王国兵が交代で常駐し、それを支えるために城塞都市トルメスが存在する。

 

 

 

 トーパ王国の民は、フィルアデス大陸への魔物の侵入を防ぐ人類の守護国として高い誇りを持っていた。

 

 文明圏だの列強だの言っていられるのは、魔物の侵入が無いという絶対的に治安が良い状況だからこそ国が富む。

 

 トーパの民がいなければ、その国々は立ち行かなくなる・・・と。

 

 

 

 その日はいつもと同じように、穏やかな朝だった。

 

 非常勤として雇われた傭兵、ガイ は魔物の大陸グラメウスとトーパ王国の勢力圏の境目にある城壁「世界の扉」でグラメウス大陸の方向を眺めていた。

 

 

 

「はーーー、眠いなぁ。寝とくかぁ」

 

 

 

 ガイはやる気の無い声を出す。

 

 

 

「こらこら、グラメウスの監視は人類、その他亜人の生存に関して重要な任務だぞ」

 

 

 

 幼馴染であり、共に勤務をする事になった騎士モアが傭兵ガイに注意を飛ばす。

 

 

 

「そんなこと言っても・・・・。」

 

 

 

 ガイは城壁を見る。

 

 

 

「この世界の扉は、高さが20mもある城壁だ。魔物の大陸と陸続きといっても、ここ10年で最大規模の魔物でも、道に迷ったゴブリン10匹だぜ!上から弓を撃って、はい、おしまい、だろ?ゴブリンなら1000匹いてもこの城壁ならビクともしねぇ。寝てても一緒だろう?」

 

 

 

 エルフでもあり、真面目な騎士モアが反論する。

 

 

 

「・・・ここ100年くらいで見ると、オークやゴブリンロードも城壁まで来たことがある。オーク等は、やっかいだぞ」

 

 

 

・・沈黙が流れる。

 

 

 

「確かになぁ。オークは要塞砲を直撃させてやっと倒せるほど強大だが、100年単位の話を言われてもよう・・・。エルフさんは真面目だな。ヤレヤレだぜ」

 

 

 

 非常勤のガイはうなだれる。

 

 いつもの日常がそこには広がっていた。

 

 「世界の扉」と呼ばれる城壁から北側のグラメウス大陸に向かっては、長の短い草が生えているのみであり、見通しは良い。

 

 今の季節は草は濃い緑色をしており、陸地部分の北側を見れば、見通せるかぎり草原が広がる。

 

 小鳥たちは歌い、蝶は舞う。

 

 今日も何事も無く、この勤務は終わるだろう。

 

 騎士モアと傭兵ガイがそう思った時だった。

 

 

 

 コォォォォォォ・・・コォォォォォォ・・・・・。

 

 

 

 おぞましい・・・・おぞましい何かが聞こえる。

 

 

 

「何だ!?あれは!!!」

 

 

 

 グラメウス大陸の方角の大地が少しづく黒くなっていく。

 

 

 

「何だ!?大地が・・・黒くなっているのか!!?」

 

 

 

 騎士モアは望遠鏡を覗き込む。

 

 

 

「あ・・・あれは!ゴブリンだ!!!大地を埋め尽くすほどのゴブリンの群れが向かって来るぞ!!ぬ!!!オークが、オークも見える。ひゃ・・・・総数1000を超えるぞ!!!」

 

 

 

 さらに先に、オークよりも大きい魔物が2体見える。

 

 

 

「な・・・なにぃ!!!あれは、まさか・・・魔獣レッドオーガとブルーオーガ!!!!伝説の魔獣までもが見えるぞ!!!」

 

 

 

 オーガと呼ばれた2体の魔獣の後ろには、パーパルディア皇国の地竜を3回り大きくした赤い地竜のようなものが見える。

 

 その上には、オーガよりも1回り大きい魔獣のような物が1体。

 

 

 

 騎士モアはトーパ王国の資料室で古文書を読んだ事があり、それを思い出す。

 

 

 

「せ・・・せ・・・せ・・・・赤竜と、魔王ノスグーラ!!!!!!」

 

 

 

「通信兵ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

 

 彼は通信兵に命じ、世界の扉の南方にある城塞都市トルメスに至急通信を送った。

 

 

 

 コォォォォォ グゴォォォォォォ・・・

 

 

 

 大地を灰色に覆いながら、魔物ゴブリンの大群が世界の扉へ迫る。

 

 当面は、常備兵力のたった150人で城壁を支えなければならない。

 

 現時点の世界の扉を守る兵たちの長、騎士長が騎士モアに命ずる。

 

 

 

「モア!!お前の知識は魔物に精通している。今見た事を、お前はトルメスに直接出向いて伝えろ!!!」

 

 

 

「し・・・しかし、私も共に・・・・・」

 

 

 

「うるさい!!!非常時だ!!!この情報を正確に伝える必要があるんだよ。ここでミスをすると、国全体、いや、最悪フィルアデス大陸の全生命に脅威が及ぶぞ!!!反論は許さん!!!仲の良い傭兵もお供に連れて行け!!!」

 

 

 

 騎士モアとガイは馬に乗り、城塞都市トルメスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 トーパ王国 城塞都市トルメス

 

 

 

 世界の扉を管理するために作られた城塞都市トルメスに、騎士モアと傭兵ガイが馬を飛ばして到着したころには、魔通信を受信したトルメスは、すでに非常召集をかけており、全力で「戦争」の準備中であった。

 

 

 

 モアとガイは、トルメスに着くなりすぐに、トーパ王国北部守備隊長の元に通される。

 

 あいさつもそこそこに、激が飛ぶ。

 

 

 

「すぐに現状を報告せよ!!」

 

 

 

「はっ!!発見日時は通信時、グラメウス大陸方向から魔物が地を埋め尽くす勢いで侵攻!!ゴブリン約20万、ゴブリンロード約2万、オークが2千、王立古文書に記載された伝説の魔獣、レッドオーガとブルーオーガが各1体を確認、また、赤竜に乗った魔王ノスグーラを1体確認しました!!!」

 

 

 

 絶句・・・想像を絶する圧倒的戦力だ。

 

 

 

「北部守護隊の全力出撃、兵5千ではとても持たない!通信兵!!!」

 

 

 

「はっ!!!」

 

 

 

「王に速報!!魔王ノスグーラが復活した!!!国軍を全力投入する必要ありと送れ!!!」

 

 

 

「はい!!!」

 

 

 

 通信兵が走って行くと同時に別の通信兵がとび込んでくる。

 

 

 

「何事だ!!!」

 

 

 

 隊長が問いただす。

 

 

 

「世界の扉が突破されました。守備隊は全滅です」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 トーパ王国 王都 ベルンゲン

 

 

 

 国王トーパ16世の前で国の重臣たちが真剣に会議をしている。

 

 城塞都市トルメスの精鋭兵約5千は現在突如として現れた魔王軍約20万の猛烈な攻勢にさらされている。

 

 トーパ王国軍約1万5千の援軍はすでに王都ベルンゲンを出発し、城塞都市トルメスに向かっている。

 

 

 

「何故・・・今突然に、神話の魔王軍が復活したのか・・・そもそも、本当に魔王軍なのか?どうやって確認したのだ?」

 

 

 

 王が問う。

 

 王立大学の教授が発言する。

 

 

 

「神話では・・・神話では、魔王は勇者4人のうち、3人の命を使用した封呪結界に封じ込められているとあります。

 

 そして、同結界は毎年少しづつ減衰していくとも。

 

 魔王復活はこの封呪結界の減衰によるものと思われますが、今回、大軍を率いて侵攻してきているため、今復活した訳ではなく、時間軸としては少し前に復活し、軍備を整えてから侵攻してきたものと思われます。」

 

 

 

 話は続く。

 

 

 

「次に、魔王の確認方法ですが、王も知ってのとおり、勇者パーティーにいた獣人族ケンシーバのイメージの魔写を石版に施し、今では失われた技術ですが、時空遅延式魔法をかけています。

 

 王国でも古文書研究者等、魔王の魔写を見たことがある者もいます。

 

 私も見たことがありますが・・・今回最初に報告してきた騎士モアも見た事があったとの事です。

 

 また、レッドオーガやブルーオーガも確認されていることから、今回の魔王軍は本物である可能性が高いと判断いたします」

 

 

 

 外交担当大臣が前に進み出る。

 

 

 

「何れにせよ、万単位の魔物が侵攻してきている。もしも我が国が落ちれば、神話のごとくフィルアデス大陸全体に魔物が流出しかねない緊急時です。

 

 王!この事実を各国に伝えてよろしいか?」

 

 

 

「うむ、魔物の動向はリアルタイムで伝えてやれ。

 

 各国が援軍を組織中に我が国のみが倒した場合、やはりリアルタイムで伝えることが必要だろう。」

 

 

 

「援軍の要請はいかがいたしますか?」

 

 

 

 外交担当大臣の問いに、騎士団長が口を挟む。

 

 

 

「陛下、畏れながら私は援軍が必要だとは思っておりません」

 

 

 

「ほう・・・何故か?」

 

 

 

「まず、昔は国家の概念すら無かった。当時に比べたらドワーフの技術は向上し、魔導砲もあります。エルフの魔術研究により、魔法も失われたもの多いとはいえ、飛躍的に向上しています。

 

 人族についても高度な戦術、戦略が取れるため、昔に比べ、「強さ」という意味において、昔とは比較になりません。気をつけるのは、魔王とレッドオーガ、ブルーオーガくらいであり、その他のオークやゴブリンの兵を見るに、我が国のみの戦力で十分対応可能かと思われます。魔王やオーガも、王宮魔導戦闘衆特戦隊で対応可能ではないかと思います。」

 

 

 

「そうか・・・。」

 

 

 

 王は考え込む。

 

 

 

「では、各国には事実だけを伝えろ、問題は魔王とその側近だな・・・。

 

 大日本帝国は強大だが・・・そもそも国交がないしなぁ・・・。あまり頼みたくはないが・・・外務担当大臣、パーパルディア皇国に小隊規模でも良いから援軍を送れないか、打診してくれ。」

 

 

 

「はっ!!!」

 

 

 

 会議は深夜まで続いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 魔王軍 本陣

 

 

 

 暗闇の中、コウコウとした松明が焚かれ、その光が魔獣3体を照らしている。

 

 その中で中心的な場所にいる者、黒い体は筋肉で盛り上がり、針金のような毛は人間たちの刃物を弾く。黒く渦巻き状に突き出た角を持ち、他種とは隔絶した魔力を放つ「それ」はゆっくりと話し始める。

 

 

 

「しばらく見ないうちに、人間どもは随分と数を増やしたみたいだな・・・。

 

 まあ、人間の肉は美味いので、食料の現地調達はしやすくなるのは良いな」

 

 

 

 肉を食べながらその者は言い放つ。

 

 付近には食された後の人骨が散乱する。

 

 

 

「魔王ノスグーラ様、今回の侵攻、軍はどこまで行かれるご予定で?」

 

 

 

 魔王と言われし者にレッドオーガが話しかける。

 

 

 

「前回は、海の南の大陸(ロデニウス大陸)の神森に手を出して太陽神の使いを召喚されたからな・・・。

 

 今回は南の大陸(フィルアデス大陸)の制圧までにしておくか・・・。」

 

 

 

「しかし、手ごわいですな。20万用意したゴブリンのうち、すでに2万体が消耗した。しかし、人間どもは300体程度しか討ち取れていない」

 

 

 

「まあ、前回からずいぶん時間がたっているしな。下種どもも、少しは学んだのだろう。

 

 オークはまだ10体しか倒されていない。

 

 何れにせよ、我々の創造主である魔帝様の復活が近い。

 

 この世界を自分たちの物と勘違いしている下種どもを駆除し、魔帝様が速やかに統治に移れるように、少しでも助力するのが我らの使命よ」

 

 

 

 話は続く

 

 

 

「魔帝様の国・・・魔法帝国が復活した暁には、その絶大な国力であっという間に世界を征服なさるだろう。

 

 人間や亜人は魔帝様のように、今は国を作っているらしいが、下種が魔帝様の一族に対抗するなど不可能だ」

 

 

 

「時は近い。その前に少しでも征服地を広げるぞ」

 

 

 

「オウ!!!」

 

 

 

レッドオーガはゆっくりと話し始める。

 

 

 

「ところで魔王様、私は少し気になる事があるのですが・・・。」

 

 

 

 レッドオーガの顔は困惑している。

 

 

 

「何だ」

 

 

 

「前回の戦いで、我々は「太陽神の使い」に敗れました。

 

 太陽神の使いたちは、強かった。

 

 キーンと甲高い音を発し、音を超える速さで飛び回る神の船、強大な爆裂魔法を放つ角の付いた鉄の地竜、全長が250mを超える強大な力を持った魔導船。

 

 敵の種族連合をあっさりと敗った精強な魔王軍が手も足も出なかった。

 

 太陽神の使いたちの強大な爆裂魔法の恐怖が今でも魂にこびりついています。

 

 俺は、古の魔法帝国の力を知らない。

 

 魔王様、古の魔帝様のお力は、あの太陽神の使いすらも上回るのでしょうか?」

 

 

 

 魔王ノスグーラは笑い始める。

 

 

 

「はっはっは、そんな事か。あの忌々しい太陽神の使いでさえ、魔帝様のお力の足元にも及ばんよ。

 

 空を飛ぶ神の船は、おそらく魔帝軍の誘導魔光弾にかかればあっさりと落ちるだろう。

 

 魔帝軍の天の浮船の頑強さは凄いぞ!!!太陽神の使いのように、誘導魔光弾1発で墜ちる程やわではない。

 

 太陽神の使いの、巨大な戦船も、魔帝軍の爆裂誘導魔光弾の飽和攻撃で沈むだろう。

 

 何れにせよ、魔帝様の力は絶大だ。いかなる種族も魔帝様には勝てない。

 

 その強さは絶対的だ。安心するがよい」

 

 

 

「ははっ!!!」

 

 

 

 魔王軍の夜は更けていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 パーパルディア皇国 皇都 エストシラント 第3外務局

 

 

 

 トーパ王国大使は小規模部隊の派遣要請のために、第3外務局を訪れていた。

 

 

 

「以上、神話に刻まれし伝説の魔王が復活いたしました。我が国の騎士団は総力を挙げて交戦中ですが、魔王が伝説のとおりの強さであれば、討ち取るのは大変な困難を伴います。

 

 貴国の歩兵でも持ち運び可能な魔導砲が極めて有効となる可能性があります。

 

 小隊規模の派遣をお願いしたいのですが・・・。」

 

 

 

「無理ですな。」

 

 

 

 第3外務局担当は即答する。

 

 

 

「な・・・ご検討だけでもしていただけませんか?もしも我が国が突破されたら、フィルアデス大陸全土に魔王軍が浸透する事になります。」

 

 

 

「今、皇国は大日本帝国と交戦中です。

 

 小隊とはいえ「軍」を他国のために派遣している場合では無いのですよ。これは、貴国に嫌がらせをしている訳ではありません。

 

 それに・・・フィルアデス大陸に国の概念が無い時代に名を覇せた魔物が今更復活したところで、たかが知れているのではありませんか?

 

 もしも魔王軍がフィルアデス大陸に侵攻してきましたら、その時は我が国も考えるでしょう。」

 

 

「そ・・・そんな!! 魔王軍は強大です。フィルアデス大陸の存亡だけにとどまらず世界の存亡が掛かっているのですよ!」

 

 

 トーパ王国大使は食い下がらない。当然自分の生死にかかわってくるので必死だ。

 

 

 「正直申しましょう。我々としては派遣するメリットが欲しいのですよ。貴方も大使ならお判りでしょう?こちらとしては別にトーパ王国が滅んでもかまわないですし、なんならそのまま大日本帝国と戦って互いに損耗しあえば一石二鳥とまで考えているのですよ。」

 

 

 大使は少し間を置くと

 

 「わかりました。我が国は何をすればよろしいですか?」

 

 大使はプライドを捨てる。これも国のためだ。魔王に服従を誓うよりはよっぽどマシだと自分を納得させる。

 

 「流石大使。話が早くて助かりますな。ではこれでどうですか。パーパルディア皇国が魔王軍を討伐した暁には即座にトーパ王国は大日本帝国に攻め込むと。攻め込む理由は何でも構いません。」

 

 第3外務局担当はニヤついた顔で淡々と条件を提示する。

 

 大使は予想していたこととはいえパーパルディア皇国と大日本帝国どちらかを選べと問われればパーパルディア皇国を選ばざる負えない。

 

 「わかりました。しかし即座…ですか?」

 

 「トーパ王国軍の規模では大日本帝国軍に対して大した損害を与えられないでしょう。しかし奇襲であれば少しは対抗できるかもしれない。流石に駐留まで認めさせたらトーパ王国の立場上都合が悪いのは理解しているつもりです。」

 

 

 実のところ第3外務局担当は魔王軍残党討伐の為とか適当に理由をつけて実質的に駐留させようと考えていた。何なら魔王軍残党が大日本帝国側に逃れた為とか理由をでっちあげてトーパ王国側から大日本帝国を攻め込むまで考えていた。

 

 

 「わかりました。約束しましょう。ただ確実に魔王軍を退けていただきたい!」

 

 

 「もちろんですよ。列強を見くびってもらっては困りますなぁ。」

 

 第3外務局担当は少し考えると

 

 「そうですな。では軍団規模の援軍を期待しててください。古代の遺物など我が国最新の魔導砲の前には無力ですよ。」

 

 

 「それは心強い!王も喜ばれます!」

 

 

 トーパ王国大使は魔王軍を退けた後の国の行く末を憂いながらも、パーパルディア皇国の援軍要請に成功した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 満州国 首都 新京

 

 

 

 トーパ王国の外交官は悩んでいた。

 

 本国から、大日本帝国へ魔王討伐の援軍を願い出るよう指令が来る。

 

 パーパルディア皇国への援軍要請は成功したらしいが…

 

 

 

「ふぅ・・・何も知らないと、気楽だな・・・。」

 

 

 

 大日本帝国はパーパルディア皇国と戦争中だというのに。そもそも国交も無いのに。その事は、本国にも報告済みなのに・・・・どうしたものか・・一つ賭けに出るか・・。

 

 

 

 コンコン

 

 

 

 部屋のドアがノックされる。

 

 どうやら、満州国外務部の準備が整ったようだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「と、いう訳で我がトーパ王国騎士団は現在、城塞都市トルメスにおいて、各種族の敵、魔物を制御できる魔王とその配下の魔王軍と戦っています。

 

 ゴブリン等のザコは我が国の騎士団で何とかなるのですが、魔王の魔力が伝承のとおりなら、我が騎士団に相当の被害をもたらします。魔王とレッドオーガ、ブルーオーガを倒すため、小隊規模で良いので軍を派遣していただけませんか?」

 

 

 

 外務部の担当は考え込む

 

 

 

「流石に国交のない国に軍を派遣するというのは…しかし、パーパルディア皇国が軍団規模の戦力の派遣を決定しているというのは気がかりですな。」

 

 

 

「我々も驚きました。あのケチ臭い皇国が軍団規模の派遣を決定するとは。どうせパーバルディア皇国のことです。何か企んでいるに違いありません。もし、魔王軍が撃退された後に皇国が日本軍を攻撃するようなことになったとしても我々には止める術はありません。なので日本軍の皆様方がいれば安心なのですが。」

 

 

「わかりました。一旦持ち帰って検討させていただきます。」

 

 

 

 後日、トーパ王国、皇国と満州国及び関東軍の間にパーパルディア皇国軍の魔王討伐隊の領内通過をを許可する協定が成立。さらに関東軍は皇国軍の大規模な派遣を脅威と判断。皇国軍の監視も兼ねて一個師団と一個戦車連隊の派遣を決定。

 

 

 

 トーパ王国大使は、結果的にパーパルディア皇国と大日本帝国両軍の援軍要請に成功した。

 

 

 

 

 

 



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第九話 赤鬼と青鬼

 敵同士の大日本帝国とパーパルディア皇国であったが、共通の敵を前に共闘作戦を実施する。


 トーパ王国 王都 ベルンゲン

 

 

 

 中世のヨーロッパのような城と静かな城下町、悪く言えば田舎の王国であり、良く言えば趣のある王都ベルンゲン。

 

 町を行きかう人々は、人族もいれば、獣人族、エルフと呼ばれる者たちもいる。

 

 多民族国家というより、多種族国家である。

 

 

 

 トーパ王国王都、ベルンゲンの王城において、国王ラドスは外交局からの報告を受け、驚愕していた。

 

 あの横暴なパーパルディア皇国が気前よく軍団規模の派遣を決定した。さらに噂の大日本帝国も一個師団規模を派遣してくれるという。

 

日本の噂は良く聞く。

 

 ○ ロウリア王国主力軍を強烈な爆裂魔法で滅した。

 

 ○ 列強パーパルディア皇国の三大都市のひとつであるデュロを陥落させた。

 

 

 しかし我々が要請したこととはいえ絶賛戦争中の二か国を我が国に受け入れても大丈夫だったのだろうか…。国王に一抹の不安が過るが、まずは魔王軍に集中する。

 

 列強国の軍団規模であれば十分に魔王軍を倒せる可能性がある。

 

 幸いにも王国軍は多大な被害を出しながらも城塞都市トルメスで魔王の進撃をくいとめている。

 

 まもなく彼らが我が国の護衛を伴って、城塞都市トルメスに到着する。

 

 急な要請であったから皇国は多分近隣の監査軍や属領統治軍の寄せ集めだろうが…と国王ラドスが想像する。日本軍は戦車を派遣してくれるらしいが戦車とは一体何であろうか。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 城塞都市トルメス

 

 

 

 騎士モアと傭兵ガイは、騎士団の命により、城塞都市トルメスの南門へ、間もなく到着するパーパルディア皇国軍と日本軍の案内のために来ていた。

 

 パーパルディア皇国軍と日本軍は、王国軍騎士団の護衛により、南門に到着する。

 

 南門から城までは自分たち、騎士モアと傭兵ガイが案内し、その後自分たちは日本軍に観戦武官として同行する予定だった。

 

 

 

「なあ、モア、パーパルディア皇国が軍団規模の援軍を派遣してくれたらしいが、どういう魂胆だ?あのケチくせぇ皇国とは思えない規模だが。」

 

 

 

「どうせ魔王軍を倒した後、大日本帝国を挟撃して強制的に我々を巻き込む魂胆だったのだろうが日本軍も派遣を決定したからどうなることやら…国王も戦争中の二か国を受け入れるリスクは承知のはずだが魔王軍に国を滅ぼされるよりはマシといったところか…」

 

 

「ああ、日本軍も派遣してくれるのはそういうことか。そういえば日本軍ってどんなやつらなんだ。」

 

 

「ロデニウス大陸で、ロウリア王国の大軍を超短時間の猛烈な爆裂魔法の投射で滅し、そして列強パーパルディア皇国の都市のデュロを落としたらしい。」

 

 

「はえぇ。猛烈な爆裂魔法ってのがどんなもんか分らんが皇国以上なことは確かなようだな。しかしパーパルディア皇国様はいつも人の足元しか見ねぇな。話を聞く限りは日本軍だけでもよさそうだが。」

 

 

「まあ、仕方あるまい。騎士団長は援軍は必要ないなどと強気なことを言っておられるようだが世界の扉が突破された時点で楽観的だと言わざる負えない。」

 

 

 

「うーん、でもトーパ王国軍は2万もいるんだぜ。ゴブリンなんて雑魚共は数にも入んねぇよ。」

 

 

「あの世界の扉は特殊でな。伝説では世界の扉は魔王ノスグーラが最初に現れた時、太陽神の使いによって魔王軍がグラメウス大陸に押し戻された後、この世界の住人が太陽神の使いと協力して築いたものであるとされている。事実あれには今は無き時空遅延式魔法が掛けられていることは王立大学が確認している。それが破られたのだ。楽観的と言わざる負えんよ。」

 

 

 

「なるほどなぁ。でもだからってパーパルディア皇国軍と一緒に戦いたくねぇなぁ。」

 

 

 

「それは同意見だ。しかしまあ、国賓のようなものだから、嫌いであってもくれぐれも失礼のないようにな。」

 

 

 

「へっ、解ってらぁ」

 

 

 

 一時して・・・・

 

 

 

「モア様、見えました!!日本軍とパーパルディア皇国軍の方が来られました」

 

 

 

 城門の上にいた衛兵がモアたちに伝える。

 

ブゥゥゥゥゥゥグオォォォォォォン

 

 

 

 奇妙な模様の鉄の魔獣が遠くから近づいてくる。

 

 

 

「ブオォォォォォ」

 

 

 

 咆哮をあげながら近づいてくる。

 

大きい。

 

!!!!!!

 

 近づくにつて、地響きがする。

 

 なんという重さだろうか・・・近づいただけで地面が揺れるとは!!

 

 前を先導する王国軍の兵たちも、顔色が優れない。

 

 

 

「なんだ!!!この世のものとは思えない化け物は!!!!」

 

 

 

 つっ!!!

 

 騎士モア、傭兵ガイの前で一団は停車する。

 

 

 日本軍を先導してきた国軍の騎士が馬から降り、モアに近づく。

 

 

 

「こちらが日本軍の方々だ。奥にパーパルディア皇国軍が後に続いているから案内を頼む」

 

 

 奥の方を見ると先頭には煌びやかな騎兵、奥には地竜や檻に入れられたワイバーンや魔導砲も確認できる。そして馬車と戦列歩兵の隊列が永遠に続いている。

 

 

 

「はい!!」

 

 

 日本軍とパーパルディア皇国軍の司令官とその参謀たちは騎士モアの後をついて、何度か角を曲がった後、隊長のいる部屋の前に到着する。

 

 重厚な扉、騎士モアは扉をノックする。

 

 

 

「入れ」

 

 

 

 中から命令が聞こえる。

 

 

 

「失礼します。日本軍とパーパルディア皇国軍の方々をお連れしました」

 

 

 

 中へ入ると円卓があり、その1番奥の男が立ち上がる。

 

 年齢40歳くらい、身長180cmくらい、筋肉質で白色短髪、白い髭、銀色の鎧を着装し、赤いマントを羽織り、帯剣している男性が立ち上がる。

 

 

 

「おお、日本軍とパーパルディア皇国の方々、よくぞ来て下さいました。私はトーパ王国魔王討伐隊隊長のアジズです。」 

 

 

 

「パーパルディア皇国軍トーパ王国特別派遣軍、司令官のアダンだ。よろしくたのむ。」

 

「大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍司令官の西村敏雄中将であります。」

 

 

「ではさっそく日本軍とパーパルディア皇国軍の方々はこちらにお座りください。」

 

 一同は円卓に座り、状況の確認を行い始める。

 

 要約すると下記のとおりになる。

 

 

 

○ 魔王軍約20万は突如としてグラメウス大陸からトーパ王国管轄、「世界の扉」へ侵攻、守備隊は全滅した。

 

○ その後、魔王軍は城塞都市トルメスの北側に位置するミナイサ地区に侵攻し、これを陥落させる。

 

○ ここにおいて、トーパ王国軍の援軍が到着し、これより先の侵攻を被害を出しながらくいとめている。

 

○ ミナイサ地区には、まだ逃げ遅れた民間人約600名がおり、彼らはミナイサ地区中心部の広場に、昼間に一度集められ、毎日数人がつれていかれ、魔王その他の餌にされている。

 

 そのため、当初600名いた逃げ遅れた民間人もその数を減らし、現在は200名まで減っている(食されたため)

 

○ 魔王軍に与えた被害はゴブリン約30000体、オーク100体であり、こちらの損害は騎士約2000名がすでに死亡している。

 

○ 3回ほど、ミナイサ地区の人質救出作戦が行われたが、広場に至る大通りには必ずレッドオーガもしくはブルーオーガのどちらか1体がおり、多大な損害を受け撤退、細道を行った騎士は各個撃破され、戦線は硬直している。

 

○ 人質は毎日食されており、早く助けなければならない。

 

 

 

 説明を聞き終えたアダンは、トーパ王国は人質を救出したいらしいという事を理解する。

 

 

 

「なるほど・・・我々に人質を救出しろと?」

 

 

 

「い、いや・・・勿論我々が救出は行いますが、日本軍や皇国軍の方々の援護があれば百人力なのです。オーガさえ倒せればなんとかなるのですが・・・。」

 

 

「オーガとは?」

 

 西村中将が質問する。

 

 

 皇国軍が勝てると思ってるくらいだからそんなもんなんだろうと考え全く魔王軍に関して調査していなかった日本軍が今更な質問をする。。

 

「力は強く、人間の何百倍もありますが、問題は彼らが疲れを知らない事です。食事が出来る限り永遠に力が落ちずに動き続けられます。

 

 さらに、奴の毛は針金のようになっており、剣や槍を受け付けません。魔導砲はたぶん通るでしょうが、素早い動きをする彼らに当たらないのですよ。」

 

 

 

「みだりに部下を減らしたくない。人質には申し訳ないが我々の任務はあくまでも魔王討伐。狭い通路で各個撃破されると厄介だ。魔導砲で建物諸共吹き飛ばして一網打尽にするのが良かろう。」

 

 

 

 西村中将も司令官に同意見だった。どう考えてもこれは敵の罠だ。敵が最も恐れているであろう魔導砲を使えなくすることで損失を最小限に我々を各個撃破するつもりだろう。

 

 

 

「私も司令官に同意見ですな。人質には申し訳ないが、わざわざ敵の罠に乗っかりいたずらに兵を失うのが得策とは思えません。」

 

 

 

「そ、それは分かっておるのですが…」

 

 隊長のアジズも純軍事的には何をすべきかわかっているのだが、今まで民を見捨てるような命の選別をした経験がないので自分のプライドが納得できず決断ができない。

 

 

「トーパ王国軍は民の避難誘導に努めるが宜しい。日本軍も後方支援に徹しておればよい。魔王軍は我々だけで撃ち滅ぼしてやるさ。」

 

 司令官は強気な発言をするが、そもそも装備も練度も異なる他国の軍との共同作戦は難しく、事前の綿密な擦り合わせが必要となる。それであればパーパルディア皇国軍のみで魔王軍に対処した方が無用なトラブルも避けられ指揮統制もしやすいのだ。

 

「状況の確認も終わったところで作戦の協議を行いたいと思いますが。」

 

 タイムキーパー代わりのモアが発言する。

 

「では、1時間後に協議に入りたいと思う。地図等準備するので、1時間待たれたい」

 

 

 

 会議は一旦休憩に入る。

 

 皆が席を立とうとしたその時、黒い物体が1体、窓から飛び込んで来た。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 モア視点

 

 会議は続いている。人質を何としても助けたいがパーパルディア皇国軍も日本軍は援護もしてくれそうにもない。やはり我々だけでやるしかないのか。

 

 オーガの動きは速く、そして強く、疲れを知らない。

 

 我々の騎士団が、あの速い動きについていけるとは思えない。やはり皇国軍の言う通り魔導砲をもって面制圧するほかないのだろうか。

 

 オーガが疲れを知らないのは、おそらくその有り余る魔力で微弱な回復魔法をかけ続けて筋肉の疲労を除去しているのだろうと言われている。

 

 回復魔法の連続使用であれば、中途半端な傷であればすぐに回復してしまう事を意味する。

 

 古代の勇者たちは、あの化け物をどうやって退治したのだろうか。

 

 

 

 ん?

 

 

 

 会議が一旦終わり、次は作戦会議か・・・。

 

 

 

 パリン!!!

 

 

 

 天窓のガラスが砕け散る。

 

 入ってくる黒い物体。

 

 物体は漆黒の羽を生やし、白い服を着て会議室に降臨する。

 

 あ・・・あれは!!!

 

 

 

「魔王の側近、マラストラス!!!」

 

 

 

 誰かが叫ぶ。

 

 剣を抜き、マラストラスへ向け、構える。

 

 私が剣を構えたところ、会議室にいた他の騎士たちもすでに剣を抜いていた。

 

 パーパルディア皇国と日本軍の者たちは手にピストルのようなものを構えているが私が知っているピストルとは異なるようだ。

 

 

 

「ホホホ・・・人間の頭を討ち取るために、我が足を運ばねばならぬとはな・・・。

 

 永き時をへて、なかなか進化したようだな、人間どもよ」

 

 

 

 マラストラスはそう話すと、騎士隊長へ向かい、手を向ける。

 

 手の先は、魔力により空気が歪み、黒い炎が現れる。

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 副騎士長が距離を詰め、魔族マラストラスの横から斬りかかる。

 

 気持ちの悪い笑みを浮かべ、マラストラスは手を副騎士長へ向け、魔法を発動する。

 

 

 

「ヘル・ファイア」

 

 

 

 黒い獄炎の炎が副騎士長に襲いかかる。

 

 

 

「ギィアァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 黒い炎は彼を焼き尽くす。断末魔と熱風が辺りを支配する。

 

 パーパルディア皇国と日本軍の者たちは、あせった顔をしている。

 

 マラストラスから離れようとしているようだ。

 

 やはり、数々の伝説は噂だったのか?

 

 すると突然

 

 

 パンッ!

 

 耳を塞ぎたくなるような大きな音、一人が撃ち始めるとまわりの日本軍の4人と皇国軍4人も撃ち始める。

 

 

「わっはっは、そんな豆鉄砲が私に通用するか。」

 

 銃撃によってマラストラスの攻撃は止むも魔導防壁で攻撃が一切通用しない。

 

 すると銃撃を聞きつけた日本軍と皇国軍の兵士たちが部屋に入ってきた。

 

「司令!ご無事ですか!」

 

「こいつを攻撃しろ!」

 

 すかさず指示を出す。

 

「う、撃て!全力射撃!」

 

 三八式歩兵銃の6.5mm弾とマスケット銃の球形の弾がマラストラスへ襲い掛かる。

 

 

 「おお!なかなかの威力だ!もっと私を楽しませろ!」

 

 依然として攻撃が効いているようには思えないが皆撃ちまくる。トーパ王国の騎士たちは成す術もなく眺めているしかない。

 

 「良い!目的は果たせなかったが偵察としては十分だろう!次会えるのを楽しみにしているぞ人間どもよ。」

 

 マラストラスは捨て台詞を吐くとまたどこかへ飛んで行ってしまった。

 

 

 静粛があたりを支配した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 マラストラス、魔王の側近であり、こいつには散々苦労させられた。

 

 変温動物であるワイバーンは、寒いトーパ王国には存在しない。そんな中、空中から何度も打ち下ろされる魔法には、本当に苦労した。

 

 こいつ1体のせいで死んだ騎士は100人を超えるだろう。

 

 しかし、奴は騎士団のトップを狙って単体で攻撃を仕掛けてきた。

 

 彼の強大な魔力は飛ばなくても十分脅威である。

 

 しかし、日本軍と皇国軍の軍人が魔獣マラストラスを退かせた。

 

 

 

「日本軍と皇国軍の皆さん助かりました。礼を言わせてください。」

 

 

 

「しかし・・・判断が遅れたために、副騎士団長が・・」

 

 

西村中将が判断の遅さを悔やむ。

 

 

「何をいいますか。日本軍がいなかったら、我らは全滅していました。それほどまでにこいつは強力な魔獣なのですよ。」

 

 隊長のアジズは副騎士団長の死を悲しむも魔王の側近相手にこの程度の損害で済んだことに驚きを隠せない。

 

 

「しかし皇国軍の銃は時代遅れの前装式の銃しかないと思っていたが、金属薬莢の回転式拳銃があるんだな。」

 

 日本軍の参謀の一人が皮肉を込めて驚きを口にする。

 

「こ、これは…ムー帝国より購入したものだ。お前らに文句を言われる筋合いはない!」

 

「いやいや、助かりましたよ。前装式の拳銃ではこちらも危なかった。しかしムー帝国か…」

 

 同じ科学文明国家であるムー帝国が商売敵なことが判明し、後で報告が必要だなと考える日本軍将校一同であった。

 

 

 

 

 

 1時間後、魔王軍掃討作戦の会議が始まり、会議は深夜まで続いた。

 

 

 

 

 

 2日後―早朝

 

 

 

 大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍とパーパルディア皇国軍トーパ王国特別派遣軍が作戦を開始する。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

(怖い・・・怖い・・・誰か、た す け て )

 

 

 

 城塞都市トルメス、ミナイサ地区で飯屋を営んでいたエレイは恐怖に震えていた。

 

 

 

 魔王の侵攻で生き残った者たちは、昼間に一旦広場に集められ、夜には魔物に管理された建物内へ移動させられる。

 

 広場では、周囲を魔物が警戒し、逃げ出せない。

 

 現に逃げようとした人はいたが、すぐに捕まり、民衆の前につれてこられ、その場で料理されてしまった。

 

 魔物たちは料理される被害者を指差して、「生き踊り、はっはっは」などと笑っていた。

 

 毎日、何人かが料理のために連れて行かれた。

 

 

 

「今日は・・・おばえと、おばえと・・・おばえだな。」

 

 

 

 隣に住んでいた幼馴染の少女メニアも昨日連れて行かれた。

 

 メニアの両親は娘を連れて行かれまいと、必死に戦ったが、3人そろって連れて行かれてしまった。

 

 生き地獄。

 

 何故今、魔王が・・・御伽噺に載っていたような恐怖が復活したのだろうか。

 

 神様がいるなら、助けてほしい。

 

 幼馴染で、傭兵になったガイ君、騎士モア様がいたな。助けに来てくれないかな。

 

 モア様は、世界の扉に勤務していたから、もう死んじゃったかも。

 

 

 

 何回か、王国騎士たちが助けに来ようとしたけど、今広場と城門を結ぶ大通りに立っているレッドオーガにやられてしまった。

 

 昔話では、魔王軍とエルフの戦いで、エルフの神の祈りを聞き届けた太陽神がその使いをこの世に降臨させたとあった。

 

 私はエルフだ。

 

 神ではないけれど、祈ろう。

 

 神様!神様!どうか皆を、そして私たちを助けて下さい。

 

 魔を滅して下さい!!再び太陽神の使いを降臨させて下さい。お願いします!!

 

 

 

 祈るが、何も起きない。

 

 

 

「ええと、今日の肉はと・・・」

 

 

 

 また、魔物が料理のために各種族を見ている。

 

 

 

「魔王様は、今日はあっさりしたものがいいと言っていたな」

 

 

 

「今日は野菜をメインにして・・・」

 

 

 

 皆に安堵の雰囲気が流れる。

 

 

 

「味付け程度に、エルフの女くらいが丁度いいだろう。おばえな」

 

 

 

 魔物がエレイの右手を掴む。

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァ神様ァァァ助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 

「ゴラ、暴れんな」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 ドッッッ!!!

 

 

 一瞬の轟音と共に青空が広がる。

 

 ああ…空はこんなにも綺麗だったのね…

 

 次の刹那には意識は手放されていく。

 

 

 そしてそれはレッドオーガも同じだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 大通りに陣取るレッドオーガ付近が突如爆発した。

 

 

 

「効果確認!レッドオーガ消滅しました!」

 

日本軍の弾着観測班が報告する。

 

 

 皇国兵は驚きの顔を隠せない。皇国軍が標準装備している魔導砲ではこんな威力は無いし、そもそも間接照準射撃自体が皇国軍にはまだ無いものだった。

 

 

 

「これが大日本帝国軍か…」

 

 指揮官はこれが終わった後戦わなければいけない相手の戦力の一端を目撃したことで戦慄を覚える。

 

 

 

「グゥゥゥゥゥグォォォォッォ!!!!!」

 

 

 

「別のが来たぞ!」

 

 

 

 オーガは従道路の小道に向かって走りはじめる。

 

 速い!!

 

 

 

「総員構え!!」

 

 

 

 小道をオーガが走ってくる。

 

 

 

「てーーーっ!!!」

 

 

 

 ドンドンドンドン!!!

 

 戦列歩兵のマスケットが咆哮をあげる。

 

 中隊の一斉射撃も空しく魔導防壁は破れることなくそのまま突っ込んでくる。

 

 兵士たちに動揺が広がる。

 

 「くそ。魔導砲撃て!」

 

 1門だけ用意していた魔導砲が火を噴く。

 

 

キャニスター弾の750発の散弾によって魔導防壁は一瞬で破れオーガの体に大穴が多数あき、糸人形の糸が切れたかのように鬼はその場に倒れ込む。

 

 

 

 即死。

 

 

 

 休む暇もなく他の魔物の群れが突進してきた。

 

 

 「装填急げ!休む暇はないぞ!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 日本軍は後方から野砲によって皇国軍を砲撃支援することになっていた。

 

 

 砲兵陣地で75mmの九〇式野砲24門と九一式十糎榴弾砲12門が射撃準備している。

 

 

 「各隊!準備ヨシ!」

 

 野砲兵連隊は野砲3個大隊から成り、さらに1個大隊は3個中隊12門で編成されている。各隊の指揮官が連隊長に準備完了報告を行う。

 

 「異常なければ報告!」

 

 各隊の指揮官は野砲一門につき17名編成の1個分隊ごとに報告を求める。

 

 「分隊準備ヨシ!」

 

 「駐鋤( ちゅうじょ )を強固にしろ!」

 

 発砲時に砲もしくは車体を安定させるために地面に食い込ませて用いる脚のような物を駐鋤( ちゅうじょ )と言う。これの固定が甘いと射撃時に砲が動いてしまう。

 

 

 「本隊は広場と城門を結ぶ大通りに立っている敵指揮官らを撲滅する!」

 

 「各人は城塞都市トルメスを指呼の間に臨み、遺憾なく砲兵精神発揮すべし!」

 

 「わかったか!」

 

 指揮官が部下を鼓舞する。

 

 「試し撃ち方準備!」

 

 各砲兵は自分の役割に応じて気を引き締める。

 

 「方向998!」

 

 「瞬発信管! 装薬3号! 」  

 

 「砲正56!」

 

 「3600!」

 

 「目標! 大通りの敵指揮官!」

 

 指揮官が砲撃諸元を伝える。各分隊長が復唱する。各砲兵は諸元に応じて操作を行う。

 

 「第一射!撃ち込め!」

 

 「撃て!!」

 

 

 ズドーン!

 

 

 各門が分隊長の号令の下、順次射撃を開始する。鉄の筒が咆哮し砲兵陣地に煙が立ち込める。砲兵は休むことなく速やかに次弾を装填する。

 

 「装填ヨシ!」

 

 「第二効射!撃て!」

 

 ズドーン!!

 

 ドカン!

 

 「第三効射報告!!」

 

 指揮官が射撃効果を観測班に求める。

 

 「砲正56!」

 

 副官が現地の観測班からの報告である弾着場所を指揮官に伝える。

 

 「良し!!」

 

 「撃て!!」

 

 指揮官は報告の弾着場所から敵に有効弾を与えられると判断。試射から効力射準備射撃へ移行する。

 

 ドドン!ドカン!

 

 ドン!ドン!

 

 各門は諸元そのままに連続射撃を開始。

 

 「よし!!、3秒左へ撃て!!」

 

 「3秒左へ撃て!」

 

 弾着報告から右へ少しずれていると判断した指揮官は諸元を修正する。

 

 「準備良し!」

 

 「順砲! 連続各個に撃て!!」

 

 指揮官は効力射準備射撃は十分と判断。本格的に効力射へ移行し、部下に準備完了次第射撃を開始するよう号令をかける。

 

 「撃て!」

 

 「てーーーっ!!!」

 

 ドン!ズドーン!!

 

 各分隊長は射撃準備が出来次第号令をかけ効力射を開始する。

 

 

 ドカン!ドン!

 

 

 九〇式野砲24門と九一式十糎榴弾砲12門の合計36問が連続射撃を開始し、毎分2トン近い砲弾の雨が城塞都市トルメスの大通り付近に降りだす。

 

 

 砲撃の度に城塞都市トルメスの家屋が破壊されていき火の手も上がる。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 エレイは死を覚悟した。

 

 魔王の食事の肉にされるため、化け物が私の手を引く。

 

 

 

「イヤァァァァァ」

 

 

 

「ゴ・ゴラ、暴れるな」

 

 

 

 なおも手を引こうとされたとき、大通りにいた鬼が吹っ飛んだ。

 

 次の瞬間、私は意識を手放した。

 

 

 

 ドガン!

 

 ガシャン!

 

 

 

 どれくらい時間がたっただろうか、大きな何かが破壊される音が聞こえる。

 

 朧気ながらも魔獣たちが音のする方向へ走っていくのが見えた。

 

 私の手を握っていた魔物はどこへ行ったのかしら。

 

 すると1人の剣士が駆け寄ってきた。

 

 彼は・・・私の良く知る人物だった。

 

 

 

「よ・・・よぉ、エレイ、大丈夫だったか?」

 

 

 

 幼馴染の傭兵ガイだ。

 

 彼は、良く私の店にも食べに来てくれた。

 

 3年前には付き合ってほしいと告白されたが、丁重にお断りした。

 

 だって、現実を見たら、傭兵って安定していないんだもん。

 

 

 

 でも・・・私が死にそうな時、助けてくれた。

 

 こんなに怖い魔物がいる戦場に、私を助けに来てくれた。

 

 

 

(ちょっぴりカッコ良かったよ・・・)

 

 

 

 そう思って、ガイに話しかけようとした、その時、

 

 

 

「エレイさん、大丈夫ですか?」

 

 

 

 後ろから声がする。この声は!!!

 

 光の速さで振り返る。

 

 

 

「モ・・モア様ん」

 

 

 

(いかんいかん、一瞬気が迷ってしまった。戦場まで助けに来てくれたのは、モア様も同じ。やっぱりモア様は、私の白馬の王子様よ。絶対に逃がさん)

 

 

 

「私のために来て下さったのですね。エレイ、カ・ン・ゲ・キ!」

 

 

 

 救われない傭兵ガイだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 広場にいた魔獣は駆逐された。

 

 トーパ王国騎士団は、その動きに呼応し、城門から出発、市民の避難誘導に向かってきている。

 

 

 城門までの距離、約1.5km

 

 近いが遠い距離。

 

 

 

 民を交え、彼らは移動する。

 

 約500m進んだ所で皇国軍と合流、共に城門に向かう。

 

 その時だった。

 

 

 

「グォォォォォ!!!」

 

 

 

 雄叫びが聞こえる。

 

 

 

「ちくしょう!ブルーオーガだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 民たちはパニックになった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 レッドオーガは砲撃によって倒されたらしい。

 

 そして、皇国兵たちは、付近の魔獣を排除し、民たちは城門へ向かう。

 

 その時、北方からブルーオーガがオーク400体を引きつれ、走ってくる。

 

 城門までには必ず追いつかれるだろう。

 

 オークは、騎士10人でようやく1体を討ち取れる。

 

 オークが集団で襲ってきたら、単純に10倍の騎士で勝てるものではない。

 

 そのうえ、今回はあの伝説の魔獣、ブルーオーガも向かってきている。

 

 しかし列強国である皇国兵であればもしかしたら…

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 皇国兵たちが、私たちの逃げる後方、オークの群れをオーガが向かってきている方向に並ぶ。

 

 数は500名ほど。

 

 数では上回っているが時間稼ぎにしかならないだろう。それとも勝算があるのか。

 

 どちらにしても有難い。パーパルディア皇国はろくでもない印象しかなかったがこういう奴らもいるんだな。

 

 

 トーパ王国騎士団は民と共に城門へ向かう。

 

 他国の兵を捨て駒にしてでも、自国民を守るということか。

 

 その心意気は理解出来るが、捨て駒にされた国の兵はどう思うのだろうか?

 

 

 

 皇国兵は、横列に並び、銃口を魔物に向ける。

 

 

 

「てーーーっ!!!」

 

 

 

 バババン!!

 

 

 

 弾がオークたちに吸い込まれる。

 

 しかし魔導防壁の前に全て防がれる。

 

 

 ババン!バン!

 

 

 

 攻撃は続く。

 

 

「日本軍の砲撃支援が来るまで何とか足止めしろ!」

 

 

「魔導砲!撃て!」

 

 ドン!

 

 流石に魔導砲の直射は耐えられないらしく、魔導砲の射撃の度にオークが倒れていくが…

 

 

「グォォォォォ」

 

 

 ブルーオーガ!!!

 

 

 

 彼らの攻撃はほとんど効いていない。ダメだ!!!

 

 いったいどうすれば・・。

 

 その時だった。

 

 

 

「最前列!魔導防壁展開!」

 

「2列目は擲弾用意!」

 

 指揮官の号令とともに最前列の兵士がが魔導防壁を展開する。前方のみの可視化された防壁だ。

 

 2列目の兵士たちの手が光りだす。

 

 

「目標!目前に迫るオーク共手前!遅延1秒!」

 

「投擲!」

 

 

 放り投げられた光弾がオークたちの前に転がる。

 

 光弾の輝きは増していき1秒後に爆発する。

 

 

 ドカン!

 

 ドバン!ドン!

 

 先頭付近にいたオークたちの魔導防壁は破られそのまま破片によってボロボロになる者や、吹っ飛ばされるものなどで浮足立っている。

 

 

 「よし!いいぞ!このまま足止めさせろ!」

 

 「3列目!擲弾用意!」

 

 指揮官が再び擲弾を号令した時。

 

 

 「グォォォォォ!!」

 

 

 ブルーオーガが邪魔な部下のオーク共を投げ飛ばしながらこちらへ突っ込んでくる。

 

 「突っ込んでくるぞ!前列耐えろ!」

 

 身構えた最前列に対してブルーオーガがタックルで突っ込んできた。

 

 「ぐんのぉぉぉぉぉ!!」

 

 「おおおおおおお!!」

 

 最前列が必死の形相で魔導防壁を何とか維持しているが既に危うい。

 

 「後列も前列に魔力を送れ!何としても通すな!」

 

 約500人が最前列へ魔力を送り続けなんとか魔導防壁を維持しているが…

 

 「クソ!オーク共は立て直したか!」

 

 「砲兵!死にたくなかったら早く装填しろ!」

 

 浮足立っていたオーク達がブルーオーガ渾身のタックルに遅れまいとタックルに加わる。

 

 「皇国擲弾兵の意地を見せろ!」

 

 「ここが踏ん張りどころだ!」

 

 しかしブルーオーガ一体で釣り合っていたバランスがオーク達の参加によって崩れ始める。

 

 「も、もう駄目だ…」

 

 「後は…頼んだ…」

 

 魔力の限界を迎えた兵士たちが次々と倒れていく。

 

 「も、もう限界だ」

 

 指揮官も諦めかけたとき

 

 「初弾!来ます!」

 

 日本軍の観測班が報告に来た。

 

 ドカン!ガシャン!

 

 右前方の家屋に落ちたらしく数体のオークが瓦礫に巻き込まれる。

 

 突然の爆発にオーク達は攻撃を止め浮足立っている。

 

 ボカン!

 

 「グハッ!」

 

 「がぁぁぁぁ!」

 

 次弾は運悪く目の前に着弾してしまい。ブルーオーガ一も吹き飛ばされるが最前列の皇国兵も吹き飛ばされてしまった。

 

 「クソ日本軍の野郎味方に当てやがった!退避だ!退避!余裕のあるものは負傷者を運べ!」

 

 敵は指揮官が吹き飛ばされたことでオーク達は右往左往しているが皇国軍は指揮官が健在であったのですぐに統制された行動をとることが出来た。

 

 

 ガシャーン!ドン!

 

 

 最初は的外れな弾も多かったが観測班の報告によってだんだんオーク達に降り注ぎ始める。

 

 

 「ギャアアアアア!」

 

 「ゴォォォォォ!!」

 

 砲撃から逃れるためにオーク達は散り散りになるが皇国軍の魔導砲によって各個撃破されていく。

 

 

 「ゲホッ!ゴホッ!」

 

 「グアアアアアア!」

 

 気絶していたブルーオーガが起き上がる。

 

 そこへ見計らったかのように九一式十糎榴弾砲の榴弾が直撃する。

 

 ブルーオーガはとっさに魔導防壁を張るが大口径105mm榴弾の威力など想定しているはずもなく一瞬で魔導防壁が破られる。

 

 

 次の瞬間、伝説の魔獣、ブルーオーガはあっけなく爆散した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 魔物の侵攻を何とかくいとめた皇国軍と日本軍は敵の混乱を見逃さず反転攻勢に打って出る。

 

 しかし、危なかった。あのブルーオーガという魔物は、小銃が全く通じなかった。伊達に鬼を名乗っていない。

 

 まさか、小銃が通じない生物がいるとは・・・。

 

 そういえば、ワイバーンにも銃は通じなかったな。

 

 つくづく異世界だ。

 

 敵の大半を引き付けてくれた皇国軍のおかげで日本軍は楽をすることが出来た。感謝せねば。

 

 

「とりあえず、損害もほとんどなく目的を果たせて良かった。」

 

 

 

 西村司令は、満足に頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 その日のモアの日記より

 

 

 

 私は今、歴史の中にいるのを実感している。

 

 神話に記されし伝説の魔王軍、フィルアデス大陸を瞬く間に制圧したとされる恐怖の魔王軍と今、正に戦っているのが、精鋭トーパ王国軍だ。

 

 現在城塞都市トルメスにおいて、多大な犠牲を出しながらも魔王軍の侵攻を防いでいる。

 

 かつての種族間連合よりも、地の利を含めて我々は遥かに強力なのだろう。

 

 しかし、精鋭トーパ王国軍に多大な犠牲を与えていた魔物、レッドオーガとブルーオーガだけはトーパでは討ち取れなかった。

 

 かつての勇者たちはどうやったのだろうか。

 

 そう思っていた。

 

 しかし、今日、歴史的な事件が起こる。

 

 

 レッドオーガとブルーオーガが、皇国軍と新たに出現した新興国家である日本軍によって倒されたのだ。

 

 皇国の装備は知っていたが、日本軍の使用する魔導砲は我々の常識では計れないほどの威力を有していた。

 

 伝説にまで謳われた魔獣たちを、日本軍は魔導砲だけでいともあっさり倒してしまった。




とりあえず原作で言う前編と中編を投稿しました。後編はもう少々お待ちください。


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第十話 魔王退散

 満州国に虎頭要塞と呼ばれる大日本帝国陸軍の要塞がある。そこには日本軍では最大射程の火砲であると同時に唯一の列車砲である九〇式二十四糎列車加農が配備されていた。


トーパ王国 城塞都市トルメス即席司令部 現地時間 中央暦1639年12月22日午前6時

 

 

 

 皇国軍と日本軍の共同作戦によってミナイサ地区は取り戻すことが出来たが、依然として城塞都市トルメスは半包囲の状態にあった。

 

 

 「現在、我々は魔王軍によって半包囲の状態にあり、戦線は膠着しています。」

 

  パーパルディア皇国軍と大日本帝国軍、トーパ王国それぞれの将官が現状の報告を聞いている。

 

 「ミナイサ地区を取り戻した直後、皇国軍は2個師団で以てそれぞれ東西に分かれて攻勢に出ましたが、魔王軍は数の多さを活かした大規模な反攻作戦を実行。一時孤立の危機に瀕すも、予備師団投入によって戦線を維持。現在に至ります。」

 

 「皇国軍としては現状打破の見込みはあるのか?」

 

 日本軍参謀が質問する。

 

 「少しリスクはあるが現在リントヴルムとワイバーンを主体とした作戦計画を立案中だ。」

 

 皇国軍参謀が回答する。

 

 「ワイバーンによって戦線を撹乱し、そこへリントヴルムを突入させ戦線を強行突破し、再び戦線を構築される前に魔王を打ち取る。」

 

 「魔王の場所は分かってるのか?」

 

 「事前にワイバーンによる強硬偵察を行う予定だ。」

 

 「もし失敗すれば我々の戦力は半減どころでは済まなくなり撤退を余儀なくされるが、その時は日本軍に任せよう。」

 

 「ふむ、皇国軍様は余程戦果を独り占めしたいようだ。」

 

 「ほざけ。その為の1個軍団だ。日本軍に横取りされたのでは我々の沽券に関わる。」

 

 「横取りとは失礼な!我々の砲撃支援が無ければ何もできないくせに。」

 

 「何を!砲撃支援などなくともリントヴルムとワイバーンがあればどうとでもなった!ただそれでは街が破壊されつくしてしまうから少し力を借りたまでだ!」

 

 「そうですかそうですか。わかりました。ではご自由にどうぞ。もう砲撃支援しませんから。」

 

 「言われなくとも!我々だけで魔王を倒して見せるさ!」

 

 皇国軍と日本軍が騒いでいると

 

 「報告!北門正面より魔王出現!」

 

 「なに!北門はどこが対応している!」

 

 「は!北門はクラエス大佐率いる装甲擲弾兵連隊が対応しています。」

 

 

◆◆◆

 

 城塞都市トルメス北門

 

 

 「あ、あれはなんだ!」

 

皆ゴブリンと激しい鍔競り合いをしている中、一人の兵士が叫ぶと皆一斉にその方向を見る。

 

 遠くから何か大きなものが迫ってくる。

 

 それは巨大な生物のようだ。

 

 上には何かが乗っている。

 

 

 

 「愚かな人間どもよ。だまってあそばせておけば調子に乗りよって。」

 

 

 邪悪な声と共にそれまで青く澄んでいた空が淀み始める。

 

 

 「な、なんだ頭に直接…」

 

 

 魔王の声が周囲数十キロの人間や亜人、魔族の頭に直接語り掛けられる。

 

 

 その瞬間、しばしの間戦闘が止まった。

 

 

 「お前たち、そこをどけ」

 

 

 すると魔族達が一斉に左右に移動し魔王に通路を開ける。

 

 

 遠く正面には北門守備に就いていたトーパ王国と皇国の兵士たちがいる。

 

 

 「我は魔族の王にして魔帝様の従順な僕なり。万物の長たるは魔帝様以外にはなし。神に作られし木偶人形どもよ。かつてお前たちが神と崇めし者は太陽神の召喚と引き換えに消え去った。愚かなる者よ、お前たちは魔帝様を崇めるほか生きる道はないのだ。わが名はノスグーラ。魔族を束ね、暗黒魔法司るもの。」

 

 魔王はそう言い終えると止まった。

 

 

 「この赤竜の力を見るがいい。」

 

 

 全長50mの巨大な生物の表面が光りだす。溢れ出る膨大な魔力が口元に集まり始める。

 

 

 「こ、これはまずい」

 

 北門の守備を担当していた王宮戦闘魔導衆特戦隊の隊員が危機感を露わにする。

 

 「あの魔力。城門だけでなく城まで丸ごと吹っ飛んでしまうぞ。」

 

 隊員の一言でトーパ王国兵士は勿論、皇国兵も動揺し始める。

 

 「大丈夫じゃ!この門には防御術式が仕込んである。赤竜と言えど簡単には破れん!」

 

 隊長は皆を安心させるためにそう言うが、内心あの魔力にこの門が耐えられるか自信がない。

 

 「皇国兵の方!わしがあの赤竜に対抗するため防御術式を発動させる!しかし、この術式には膨大な魔力と少しの時間が必要じゃ!どうかこのおいぼれに魔力を分けてくれんか!」

 

 隊長が皇国兵にお願いするなど天地がひっくり返ってもありえないだろうと思っていた特戦隊隊員達は驚きを隠せない。

 

 「た、隊長!魔力なら我々が!」

 

 皇国兵にお願いするなどプライドが許さない特戦隊隊員が隊長に詰め寄る。

 

 「駄目なんじゃ!この術式は数多ある防御魔法の中でも最大級の物。今では失われた古代魔法の一つじゃ。本来人間の魔力では発動すら不可能な代物じゃが、特戦隊と皇国の擲弾兵がいれば何とか足りるじゃろう。わしが皆の魔力を何とか同期させる。」

 

 「こ、この人数の魔力を同期させるなど可能なのか!」

 

 

 クラエス大佐が信じられないという表情で隊長に疑問を呈す。

 

 通常、術式等の仕込み魔法はその規模に応じて複数人で術式を発動させる場合はあるが、多くても10人程度だ。魔導機関が登場するまでは都市や要塞など戦術規模の魔導防壁を数百人の魔導士で展開していたらしいが、現代では魔導機関に魔導防壁を展開させる術式回路を接続することで魔導士でなくとも魔導防壁を展開させることが出来る。

 

 「王宮戦闘魔導衆特戦隊を嘗めるでない!最近の若いもんは知らんだろうが、列強からも一目置かれるその理由をご覧に入れようぞ!」

 

 隊長はそう言うと早速術式を書き始めている。

 

 「もうやるしかない!」

 

 大佐は覚悟を決めると

 

 「わが連隊は特戦隊を支援する!トーパ王国に時間稼ぎさせろ!日本軍には砲撃支援要請だ!」

 

 大佐の指示はすぐにトーパ王国守備隊と日本軍砲兵隊に伝わった。

 

 

 ドカン!ドン!

 

 

 

 赤竜に砲撃が集中する。

 

 

 「五月蠅い下種共が。悪あがきしたところで苦しみがより長くなるだけだぞ。」

 

 魔王は絶え間ない砲撃に嫌気がさすも効果はない様だ。しかしベヒモスの口元に集まりつつあった魔力が段々薄らいでることが確認できた。

 

 

 「我らが魔族達よ!」

 

 魔王が呼びかける。

 

 「またグラメウス大陸に閉じ込められ惨めな生活に戻りたいか!?」

 

 「傲慢な人間や耳長共に虐げられる生活に戻りたいか!?」

 

 

 魔王が手をあげると降り注いでいた砲弾が着弾寸前で停止する。

 

 

 「否!我々は断固として示さねばならない!」

 

 「この世界が誰のものであるかを!」

 

 

 停止した砲弾が北門に向き始める。

 

 

 「今こそ我らが魔族の力を再び世界に示そうぞ!」

 

 「我らに歯向かうものを全て蹂躙せよ!破壊せよ!」

 

 「そして我らが魔帝様の世界を再び築くのだ!」

 

 魔王が手を振り下ろすと停止していた砲弾が一斉に解き放たれた。

 放たれた砲弾は一直線に北門へ向かい信管が作動する。

 

 

 ドカン!ガシャン!

 

 ゴロロロロロ…

 

 

 北門の爆発と共に魔物達の咆哮がそこらじゅうで木霊する。

 

 「グゥゥゥゥゥグォォォォッォ!!!!!」

 

 「ガァァァァアアアアアアア!!!!!」

 

 

◆◆◆

 

 城塞都市トルメス即席司令部

 

 「何だ今の音は!」

 

 北門の爆発音と魔物達の咆哮は司令部まで届いていた。

 

 「只今観測所より北門が爆破されたとの報告がありました!北門を担当していたクラエス大佐率いる装甲擲弾兵連隊及び王宮戦闘魔導衆特戦隊は通信途絶!現在確認を急いでいます!」

 

 「ま、また…」

 

 

 「まだあるのか!」

 

 皇国の参謀がもうこれ以上聞きたくないという様子で反応する。

 

 

 「は、はい!前線より、魔王が何か叫んだのと同時に魔物達が咆哮し始め攻勢の勢いが一気に増したとの報告!」

 

 

 司令部付きの通信手が信じられないという表情で報告する。

 

 

 「恐らく古の魔法帝国の言葉かと。」

 

 トーパ王国の王立大学の教授が発言する。

 

 「翻訳は出来ないのか?」

 

 「既に失われて久しく、話すものも魔王やオーガ等の高等魔族のみですので…」

 

 「まったくこれだから御用学者は…」

 

 皇国軍参謀が文句を言うと

 

 「それよりこれからどうするかだ。北門が破られた今、皇国軍に動ける部隊はあるのか?」

 

 日本軍参謀が危機感を露わにする。

 

 「もう予備も使い切った今、動かせるのは司令部付きの1個中隊しか…」

 

 「では北門は我々に任せていただこう。」

 

 「ぐぬぬ…致し方あるまいか…」

 

 「アダン司令官も構いませんね?」

 

 「仕方あるまい。日本軍のお手並み拝見といこうか。」

 

 皇国軍参謀が皆悔しさをにじませる中、アダン司令官は顔色一つ変えない。

 

 「では現時点で以て、城塞都市トルメス北門守備隊指揮権及び、守備任務は大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍に移管された。責任者はそのまま西村中将で構いませんね?」

 

 「うむ。我々の戦い方を見せつけよう。」

 

 

◆◆◆

 

 満州国 虎頭要塞 第4国境守備隊砲兵隊

 

 「これを使う時が来るとは…」

 

 「ソ連がなくなった今、無用の長物かと思っていましたが…」

 

 目の前には遠距離からソビエト連邦の拠点を攻撃するために研究目的で1門だけフランスから購入された、九〇式二十四糎列車加農の姿があった。

 

 「しかしよく司令部から許可が下りましたね。」

 

 「うん、何で許可下りたんだろうな。まあ、せっかく的があるんなら撃ってやらんと勿体ないしな。」

 

 「そういうもんですか…」

 

 「この列車砲自体元々研究用で購入したものだしな。そう、わが軍は伝統的に勿体ない精神を重要視している。肝に銘じておけ。」

 

 「はぁ。しかし先週組立を終えたばかりで試験も何もしていませんが本当に大丈夫ですかね?」

 

 「既に本国で研究用としての役割は果たしたんだ。もし壊れても文句は言われんさ。なんなら貴重な戦訓を得られれば評価されるまであるぞ。」

 

 「確かに帝国陸軍始まって以来、実戦で40㎞先の目標を攻撃した記録はありませんからね。」

 

 「おう、そのための列車砲よ。もう少し的が近ければ試製四十一糎榴弾砲を使ってみたかったがな。」

 

 日本軍では最大射程の火砲であると同時に唯一の列車砲である九〇式二十四糎列車加農は大和型戦艦の四十六糎砲の42,000m(42km)を凌駕する最大射程50,120m(50.12km)を誇った。

 

 

 

 

 

九〇式二十四糎列車加農 諸元

 

口径:240mm

全長:12.823m(51口径)

砲列砲車重量:136t

砲架:2輪6軸ボギー車

仰角:0°~+50°

旋回角:360°

初速:1050 m/s

最大射程:50,120 m(50.12 km)

弾重:176kg

弾種:破甲榴弾、榴弾

 

 

 

 「砲撃諸元はどうだ?」

 

 「大体は求められましたが、細かいところは撃ってみないとなんとも…」

 

 「それは向こうも分かっていることだ。前例のない長距離砲撃の上、ろくな標定も出来んまま撃つんだから初弾から至近弾など期待してはおらんよ。まあ、時間も限られているから7射目くらいには当てたいがな。」

 

 「7射目も厳しいと思いますが。」

 

 と二人が話していると

 

 「大尉殿!準備できました!」

 

 「おう!今行く!」

 

 二人は一抹の不安を抱えながらも指揮所へ向かった。

 

 

◆◆◆

 

 大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍城塞都市トルメス南部即席司令部 

 

 「王宮戦闘魔導衆特戦隊が生きていたのは朗報でしたね。」

 

 「ああ、虎頭要塞の列車砲を使うまでは良かったが、肝心の目標に命中させられるかが微妙だったからな。言ってみるもんだな。」

 

 司令と参謀が話していると、

 

 「王宮戦闘魔導衆特戦隊の方々が来られました!」

 

 「いや、遅くなって申し訳ない。ちょっとこちらでも作戦会議しててな。」

 

 「いえいえ、噂の王宮戦闘魔導衆特戦隊の方々に協力していただけるだけ有難いことです。あれ、隊長は?」

 

 「ああ、隊長は現場に残るそうだ。その方がやりやすいらしい。」

 

 「そうですか。では作戦について最終確認を行いますね。」

 

 「たのむ。」

 

 参謀はそう言うと今回の作戦を話し始めた。

 

 

 第一段階:戦車連隊による攻勢

 

 「現在、多大なる犠牲を払って魔王を食い止めていますが、そこに戦車連隊を投入し前線を撹乱。魔王の注意を逸らし足止めします。」

 

 第二段階:野砲による集中射撃

 

 「現在、魔王軍に対して弾幕射撃を行い、敵の侵攻を阻止していますが、これを一時中断し赤竜に対して集中射撃を行います。」

 

 第三段階:列車砲による砲撃

 

 「後方およそ40kmに虎頭要塞があり、そこに今回の作戦の主役である九〇式二十四糎列車加農があります。これによる長距離砲撃を行います。」

 

 最終段階:王宮戦闘魔導衆特戦隊による弾道修正

 

 「これが今作戦の肝となる部分です。虎頭要塞より放たれた176kgにも及ぶ砲弾は約120秒後に赤竜付近に降ってきます。王宮戦闘魔導衆特戦隊の皆様にはこれを弾着する前に赤竜に直撃するよう弾道修正をよろしくお願いします。」

 

 「うむ、任された。既に準備は整っている。」

 

 「それは心強い!では早速決行しましょう!」

 

◆◆◆

 

 城塞都市トルメス北門 防衛陣地

 

 「目標!前方の雑魚共!斉射300!5連!」

 

 「準備ヨシ!」

 

 「撃て!」

 

 破壊された北門に築いた即席の防御陣地で九二式重機関銃が押し寄せるゴブリン共に十字砲火を浴びせていた。

 

 

 ダンダンダンダンダン!

 

 

 「オークが来たぞ!」

 

 皇国兵が叫ぶ。

 

 

 「擲弾!」

 

 ポン!……ドカン!

 

 

 「グオォォォォォォ!」

 

 

 擲弾が直撃して腹が抉れたオークの最後の断末魔が木霊する。

 

 「まだ来るぞ!」

 

 オークが戦列を成して突撃してくる

 

 

 「戦車はまだか!」

 

 隊長が通信兵に呼びかける。

 

 「もう間もなくです!」

 

 「もうすぐ戦車がくるぞ!それまで何とか持ちこたえろ!」

 

 日本兵の士気は上がるが皇国兵やトーパ王国兵はいまいち何のことだか分かっていないようだ。

 

 「歩兵砲!射撃用意!」

 

 連隊砲たる四一式山砲が直接照準出来る位置に陣取る。

 

 「準備ヨシ!」

 

 「直接照準!目標前方のオークの集団!連続射撃!」

 

 「撃て!」

 

 

 ドン!  ドン!

 

 

 直接照準射撃によって圧倒的に命中率が上がった四一式山砲が毎分10発の連続射撃をしていると…

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴ…

 

 

 「きたか!」

 

 

 地面からかすかな低音の響きが聞こえてくる

 

 

 「な、なんだ…」

 

 聞きなれない音に皇国兵やトーパ王国兵の中には怯える者もいる

 

 

 ギャラギャラギャラギャラギャラ…

 

 

 瓦礫を踏み越えて九七式中戦車がやってきた。

 

 「すまん、待たせたな。」

 

 ハッチから戦車第11連隊連隊長が飛びだしてきた。

 

 「よくきた!待ちわびたぞ!」

 

 銃撃と砲撃の轟音の中、とびきりの笑顔で駆けつける。

 

 「状況は?」

 

 「もう限界だ。敵の数が多すぎる。速く行ってやってくれ。」

 

 「了解した。2個中隊をここに置いていく。それで大丈夫か。」

 

 「2個中隊もあれば十分だ。感謝する。」

 

 

 話を終えるとすぐに戦車に戻り指令を下す。

 

 

 「第一中隊、第二中隊は守備隊の支援!他は付いてこい!」

 

 戦車が突撃隊形を組んで魔物達を踏みつぶさんと突撃していく。日本兵は勿論のこと、初めて戦車を目撃した皇国兵やトーパ王国兵にも強い印象を残した。

 

 

 

 

戦車第11連隊 編成

 

   本部:九五式軽戦車×1輌・九七式中戦車×2輌

 第一中隊:九五式軽戦車×3輌・九七式中戦車×8輌

 第二中隊:九五式軽戦車×2輌・九七式中戦車×9輌

 第三中隊:九五式軽戦車×3輌・九七式中戦車×8輌

 第四中隊:九五式軽戦車×11輌

 第五中隊:九五式軽戦車×2輌・九七式中戦車×8輌

 第六中隊:九五式軽戦車×3輌・九七式中戦車×4輌

 整備中隊

 

 総勢764名

 

 

◆◆◆

 

 魔王は薄々気づいていた。しかし見ないふりをしていた。きっと下種共の猿真似に過ぎないと。火を噴く鉄龍を見るまでは…

 

 

 「あ・・・あれは・・・ま・・・まさか!!!」

 

 

 「た・・た・・た・・・太陽神の使いの鉄龍!!!!」

 

 「おのれ・・・人間どもめ!!!どおりでレッドオーガ、ブルーオーガがやられた訳だ!!!まさか太陽神の使いを・・・そんな大それたものを召喚していたとは!!!」

 

  しかし、眼前にいた鉄龍は、魔王の記憶の中にある太陽神の使いが使役していた鉄龍よりも遥かに小さく無骨であり、あの忌々しい爆裂魔法を放つ角も、魔王の知るそれよりも遥かに小さく、短かった。

 

 

 「チッ!!!やはり所詮は下種共の猿真似か!」

 

 

 とはいえ記憶の中の鉄龍よりも数が多くゴブリン程度では歯が立たないのは目に見えていた。

 

 

 「赤竜よ!目の前の鉄龍を滅せよ!」

 

 

 赤龍の口が光りだす。

 

 

 ドン!ドン!

 

 

 鉄龍が爆裂魔法を放ってくるがこの程度では防壁はビクともしない。

 

 

 「フン、雑魚共が!」

 

 

 ガァァァアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 臨界点を超えた光点は一直線に鉄龍に向かっていく。

 

 雄たけびと共に放たれた光線は戦車1個小隊と付近の魔族諸共消滅させた。

 

 

 

 「やはり魔導防壁が無かったな。本当に太陽神の使いなのか…」

 

 魔王は過去の記憶を呼び覚ましながら太陽神の使いのことを考えていた。

 

 強大な爆裂魔法と防御魔法を持ちながら魔力を全く感じられないため接近されないと気付かない。

 

 魔力を隠す魔法を使ったのかとも思ったが攻撃しても魔導防壁が反応するでもなく結局謎のままであった。

 

 

 ヒュ~…ドカン!

 

 ボカン!ドン!

 

 

 「クソ!忌々しい砲撃がまた来たか」

 

 魔王は自分自身に攻撃が集中していることに気が付き始めていた。同時に赤龍の魔導防壁に信頼を置き始めていた。流石に攻撃する余力はない様だが…

 

 

 「赤龍!ノロマな鉄龍を踏みつぶせ!」

 

 

 赤龍は足を振り回すも近くにいた魔物どもを蹴り飛ばすばかりで鉄龍にはなかなか当たらない。鉄龍共が周囲をかき乱しながら攻撃してくるせいで赤龍の気が散ってしまっている。

 

 「小癪な鉄龍め!」

 

 魔王が自ら鉄龍を攻撃しようとした瞬間

 

 

 「いつの間に!?」

 

 

 上空に魔力が薄い膜状に広がっていた。

 

 砲撃や鉄龍に気を取られていたせいか分らんが気づくのに遅れてしまった。しかし何なんだこれは。

 

 魔王が上空の薄い膜に気を取られていると…

 

 

 「クッ!!」

 

 

 ダン!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

◆◆◆

 

 「やったか!?」

 

 九〇式二十四糎列車加農の破甲榴弾は確かに直撃した。

 

 

 グォォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

 

 

 赤龍の断末魔が戦場に響き渡る。

 

 

 フランスのシュナイダー社製の51口径240mm加農砲は、初速1050 m/sの高速で発射され、魔導防壁を貫通し赤龍に直撃した。

 

 赤龍から血しぶきが噴き出している。血と共に魔力も漏れ出し大地に広がっている。目から光を失った赤龍は重力に身を任せ足から崩れ落ちた。

 

 静粛があたりを支配する。

 

 

 

「あ・・あ・・・あ・・・」

 

 

 

 城門の瓦礫からそれを見ていた兵士は、そのあまりの光景に声が出ない。

 

 伝説の赤龍が血を噴きながら倒れる光景・・・。

 

 

 

 ボン!!!!!

 

 

 

 赤龍の亡骸の後方から、魔王ノスグーラと呼ばれた者は、上に向かって飛び出す。

 

 

 「ん?」

 

 

 

 魔王ノスグーラの手に黒い炎が宿る。

 

 

 

 「騎士団を全滅させた、あの強力な火炎魔法か!!!まずい!!!」

 

 トーパ王国兵が叫ぶ

 

 

 「中隊長より各車へ!魔王に集中射!弾種徹甲!準備出来次第撃て!」

 

 

 赤龍を攻撃していた各戦車は魔王に狙いを定める。

 

 

 ドン!!ドン!

 バン!

 

 

 57mm戦車砲と37mm戦車砲の徹甲榴弾が魔王に襲い掛かる。

 

 魔王は攻撃魔法を解除し防御に切り替えるも、空中にいたせいで砲弾の運動エネルギーを抑えることが出来ず吹き飛ばされる。

 

 

 「追い討ちをかけるぞ。撃てぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 九五式軽戦車、九七式中戦車は勿論、九〇式野砲と九一式十糎榴弾砲の集中射撃に加え、連隊砲の四一式山砲の直接照準射撃が加わる。

 

 

 ボン!ドカン!ドン!ガン!

 

 

 魔王の周囲は着弾の度に地面が抉られ土埃が巻き上げられる。直撃の度に魔導防壁は悲鳴を上げるが遂には土埃で見えなくなった。

 

 「攻撃止め!攻撃止め!」

 

 

 バーーーン・・・ゴウゥゥゥゥゥ・・・

 

 

 

 静粛・・・

 

 

 最後の砲弾が炸裂し音が戦場に響きわたる。

 

 誰もが、トーパ王国軍でさえもその光景を唖然として眺めていた。

 

 自分たちは、神話に刻まれし伝説の勇者たちの戦いよりも遥かに強く、強烈な戦いを目撃したのだ。

 

 

 

「おのれぇぇぇぇぇ」

 

 

 

 頭だけとなった魔王から声が聞こえる。

 

 遠くまで良く響く、猛烈に大きい声だ。

 

 

 

「な・・・奴は不死身か!!!」

 

 連隊長は唖然とする。

 

 

「おのれぇぇぇぇぇ、太陽神の使いめぇぇぇぇ!!!1度ならず、2度までも我の野望を打ち砕きおってぇぇぇ!!!

 

 良く聞け!!下種どもよ!!!

 

 近いうちに魔帝様の国が復活なさる!!!おまえら下種の世界も間もなく終わるぞ!!!圧倒的な魔帝国軍によって、お前らは奴隷と化すだろう。はーっはっは・・・・」

 

 

 

 声は弱くなっていき、魔王の頭は石化し、崩れ落ち、砂となった。

 

 頭を失った魔王軍の魔物たちは、叫び声をあげ、雪崩のように北方の魔物の大陸、グラメウスへ逃げていった。

 

 

 

「た・・・倒しちまった・・・。」

 

 

 

 ガイはその戦いを見て絶句する。

 

 

 

「な・・なんというすさまじい戦いでしょう」

 

 

 

 トーパ王国軍も眼前の伝説を目に焼き付ける。

 

 

 

「う・・・・」

 

 

 

「ウオォォォォォォォーーー!!!!」

 

 

 

 城壁の上から歓喜の声があがり、民衆を包み込む。

 

 その声は伝播し、城塞都市トルメス全体を包み込んだ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 モア視点

 

 魔王ノスグーラは強烈な魔法で精鋭騎士団を壊滅に追いやった。

 

 奴はさらに赤龍を使い、その破壊的な魔力で城門や鋼鉄の魔獣を消滅させた。

 

 それに対し、王国軍の超エリート部隊、王宮魔導戦闘衆特戦隊は10名すべての魔力を惜しむ事無く注ぎ込み、魔導防壁を応用することで日本軍の砲弾を赤龍に直撃するよう誘導した。

 

 直撃した砲弾には猛烈な爆裂魔法が封入されており、赤龍を吹き飛ばした。

 

 しかし魔王にダメージは無く、日本軍を知る者を除き、誰もが絶望した。

 

 日本軍は爆裂魔法が封入された砲弾で魔王を集中して攻撃し、遂には倒してしまった。

 

 今が神話になった瞬間だった。

 

 

 

 日本は、結果からすると、あの圧倒的な魔王軍を倒してしまったのだ。。

 

 ああ・・・なんてことだ。

 

 ロウリア王国の件も、パーパルディア皇国との戦いも、日本の戦績はおそらく本当の事だったのだ。

 

 

 

 そして・・・私は今気がついた。

 

 

 

 魔王の最後の言葉、太陽神の使いに対する言葉。

 

 

 

 思い出した。

 

 

 

 日本軍が自らの国旗を白地に赤丸としているが、神話の太陽神の使いたちが自らの国、太陽の国の国旗として掲げていたもの。それも、日本の国旗と同じ、白地に赤丸だった。

 

 太陽神の使いたちは、自らを日出ずる国の住民と言っていたという。

 

 何か、関連があるのかもしれない。

 

 

 

 もしかすると、日本そのものが太陽神の使いの国なのかもしれない。

 

 もしそうだとすると、いったい誰が何のために国ごと召喚などという、大それた事をしたのだろうか?

 

 謎は深まるばかりである。

 

 

 

◆◆◆

 

 トーパ王国軍と魔王軍の戦いを見物に来ていた、誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国の情報官ライドルカは、驚きに震えていた。

 

 

 

 古の魔法帝国の遺産の一つとされる魔王ノスグーラ、奴がどの程度の魔力を持ち、どういった魔法を使用するのかを、一般人に紛れ確認する。

 

 それが彼の仕事だった。

 

 

 

 伝説の魔獣といわれたレッドオーガとブルーオーガ、奴らのタフさはすごかった。

 

 魔力総量の多い魔獣が微弱な回復魔法をかけ続けると、ああいった戦いが出来るのだ。

 

 皇国兵では敵わないだろうと思っていたが意外と善戦してして驚いた。評価を改めなければ…

 

 

 

 そして・・・問題は魔王だった。

 

 まずやはり、制御不能の魔物たちを制御する能力はすごいものだ。

 

 そして、トーパ王国騎士団約200名を滅した技、超高温の黒い獄炎の炎、すさまじいの一言だった。

 

 

 

 昔の勇者たちも、魔王の強さには絶望したことだろう。

 

 

 

 そして、魔王は古代の魔獣生物である赤龍を使役していた。

 

 皇国が使役しているリントヴルムよりも遥かに大きい。

 

 魔王の有り余る魔力があるからこそ、制御できるものなのだろう。

 

 

 

 そしてその赤龍に対し、日本という名の新興国は戦車と名のついた兵器を使用した。

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国の魔船であれば赤龍をたやすく消し去る事が出来るだろう。

 

 しかし、陸を走る乗物に魔導回路を搭載するとなると、現時点の技術から言って

 

あれほどの大きさの鋼鉄を動かし、高威力の兵器を陸戦兵器として使用するのは出力不足で不可能だ。

 

 神聖ミリシアル帝国の魔導技術をもってしても不可能なのだ。

 

 

 

 日本の兵器から魔力反応が無い事から、あれは機械文明ムーに近い技術なのだろう。

 

 

 

 日本は赤龍を倒したが魔王はまだ健在であった。

 

 その時使用された日本の兵器、猛烈な砲火力は神聖ミリシアル帝国の魔船を以てしても何隻必要になるか…

 

 

 

 そして日本は魔王を倒した。

 

 魔王が死に際に言った台詞が、今回一番の衝撃だった。

 

 

 

「間もなく古の魔法帝国が復活する」

 

 

 

 人族よりも、いや、あのエルフでさえも遥かに上回る魔力総量を持った人間の上位種たちが作り上げた歴史上最強の国家。

 

 神聖ミリシアル帝国でさえ、かれらの遺産が高度すぎて解明できていない点が多い。

 

時々発掘される遺跡からも、とても高度な文明だったことが伺える。

 

 その進みすぎた文明ゆえに、神々に弓を引いたとされる古の魔法帝国。

 

 恐怖の国の復活が近いと魔王の口から出た。

 

 

 

「こ・・・これは、本国に報告しなければ!!!」

 

 

 

 ライドルカは早急に帰国準備にとりかかるのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 太陽が降り注いでいた。

 

 激しい戦いだった。

 

 地面に座り込む兵が多数いる。

 

 

 

 今回の魔王軍侵攻で、魔王軍は離散したが、トーパ王国軍も死者3千人と、多大な戦死者を出した。

 

 しかし、守りきった。

 

 トーパの民は、フィルアデス大陸に至る前に、魔王の侵攻を防ぎ、魔王軍を滅した。

 

 恐怖からの開放と、やり遂げた達成感。

 

 その日の出来事はトーパ王国の歴史書に大きく大きく掲載されるのであった。

 

 

 

 夜―

 

 

 

 戦勝の宴が催され、日本軍と皇国軍の活躍は世界に大きく報道された。特に日本はパーパルディア皇国と戦争中ということもあり注目されていたが、今回の報道により列強国にも一目置かれる存在へとなった。

 

 トーパ王国の民の対日感情はとてつもなく良いものになり、トーパ王国は、日本にとって極めて友好的な国となった。そしてこれまで劣悪であったパーパルディア皇国の印象が少し向上した。

 

 

 因みに次の日には魔王軍残党追撃のために皇国軍と日本軍は我先にとグラメウス大陸に攻め込んでいったのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作では間話でしたが、ここでは本編とします。


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第十一話 大和の初陣

9月25日から始まったパーパルディア皇国監察軍によるフェン王国対する懲罰行動によりフェン王国は滅亡。しかし大日本帝国の登場によりフェン王国に駐留していた監察軍は補給が絶たれ、身動きが出来ない状態であった。皇国は孤立無援のフェン王国駐留軍を救出、あわよくば日本本土攻撃を目的とした皇国海軍と監察軍艦隊の連合艦隊の派遣を決定。その噂は世界中に広まった。


 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス とある酒場

 

 

 

 中央世界にある誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国。

 

 その交易拠点となっている港町カルトアルパス。

 

 とある酒場では、酔っ払い達が話しをしていた。

 

 

 

「列強パーパルディア皇国と、文明圏外の国が戦ってるらしいぞ」

 

 

 

「また、国が滅び、パーパルディア皇国がその版図を広げるのか・・・しかし、最近のパーパルディア皇国は無茶苦茶をしているな。

 

 戦争戦争戦争だぜ。

 

 第3文明圏の統一でもするつもりか」

 

 

 

「パーパルディア皇国は中位列強国、神聖ミリシアル帝国や機械文明ムーに比べたら国力は落ちる。世界の主導権でも握りたいのか?」

 

 

 

「しかし、その国も勇敢だな。国民のほとんどが不幸になると解っていて従属しないとは」

 

 

 

「新興国の大日本帝国だ」

 

 

 

「ああ、最近噂になっている偉そうな名前の国か…」

 

 

「トーパ王国に侵攻した魔王軍もそいつらが倒したらしい」

 

 

「でもあれは皇国も派遣してたろ」

 

 

「魔王って皇国軍でも倒せるのか?」

 

 

「魔王たって俺らが聞いてるのは神話の時代の話だろ。皇国軍だって当時の種族間連合よりはよっぽど強いはずだしな。そんなもんなんだろう」

 

 

「まあでもその皇国軍と魔王軍を討伐したということはそれなりの力はあるんだろうな」

 

 

 酒場では、皇国圧勝という意見が大半を占めた。

 

 

 

◆◆◆

日本海上空 中央歴1640年1月18日14時

 

 

 

 ガハラ神国 風竜騎士団長スサノウは、ガハラ神国南沖100km上空を飛行していた。

 

 そろそろパーパルディア皇国軍と大日本帝国軍の海戦が始まるということで、その観戦武官として、大日本帝国海軍の艦隊を待っていた。

 

 何故こんなまどろっこしいことをしているかというと皇国軍にばれると不味いからだ。一応皇国としては建国時の借りがあるガハラ神国を積極的に敵にする理由は無いので今まで攻められなかったが、これがばれたらどうなるかわからない。

 

 今回、大日本帝国側に観戦武官を派遣したのはお隣のフェン王国が滅亡するのを目の当たりにし、国内で危機感が広がっているというのがある。また、前々から日本の方角から見慣れない空を飛ぶ物体や島のような大きな船を目撃するようになり一度皇国の敵である日本の力を見極めたいという目的がある。

 

 「あれか…」

 

 スサノウは、地平線のかなたに灰色の煙が立っているのを見た。

 

 近づくにつれその威容があきらかとなっていく。

 

 

「あれが船だというのか、まるで島だな。」

 

 スサノウはすぐに皇国の敗北を確信した。

 

「いやはや、事前情報として聞いてはいましたが、これほどの大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは・・・。」

 

 部下の騎士が同意する。

 

「私も数回、パーパルディア皇国に行った事がありますが、これほどの大きさの船は見た事がありません」

 

 

彼らの視線の先には、大日本帝国海軍の堂々たる陣形が広がっていた。

 

常軌を逸した大きさの灰色の船9隻と、それに比べると小さい船2隻と、さらに小さい船13隻が見える。

 

 そのうち1隻は周りに比べても一回り二回り大きく、2隻は甲板が平たく着陸出来そうな大きさだ。

 

 

 

「まぶしいな」

 

 

 スサノウの相棒の風竜が話しかけてくる。

 

 風竜は知能が高い。

 

 

 

「確かに、今日は快晴だ」

 

 

 

 太陽がまぶしく、雲の少ない日だった。

 

 

 

「いや、違う。太陽ではない。あの灰色の船から、線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ」

 

 

 

「船から光?何も見えないが」

 

 

 

「フッ・・・人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話をする際に使用する光、人間にとっては、不可視の光だ。何かが飛んでいるか、確認も出来る。その光に似ている」

 

 

 

「飛行竜が判るのか?どのくらい遠くまで?」

 

 

 

「個体差がある。ワシは120kmくらい先まで判る。あの船の出している光は、ワシのそれより強い」

 

 

 

 まさか・・・。

 

 

 

「まさか、あの船は、遠くの船と魔通信以外の方法で通信出来たり、見えない場所を飛んでいる竜を見ることが出来るのか?」

 

 

 

「1隻を除いて他は通信にしか使っていないようだな」

 

 

 その1隻は日本海軍が海戦でのレーダーの運用を学ぶため要請した、オリオン級戦艦3番艦アルニラムであった。

 

 

「そうか・・・それでもすごい国だ」

「・・・ってことはあの船と通信できるのか?」

 

 

 

「我らと同じ方法で会話しているなら出来るだろうな」

 

 

 

 

 

 

 大日本帝国海軍 連合艦隊 旗艦 戦艦「大和」

 

 計画段階から徹底された機密保持の下、12月16日に就役した戦艦大和だが、転移によって敵国アメリカもいなくなり条約も関係なくなってしまったので機密にする必要が無くなってしまった。それまで旗艦であった長門から大和に旗艦が移ったのはつい先週のことであった。

 

 

 

 

「信じられんな・・・。」

 

 

 

「確かにあの竜からの通信のようです。」

 

 

 

「話せる上に無線通信もできる竜がいるとは」

 

 

 

「あれはガハラ神国の風竜ですな。あの国特有の物です」

 

 最近になって第八植民地任務部隊司令長官代理から主席駐在武官となったアリゴ少将は今回観戦武官として戦艦大和に乗り込んでいた。

 

 

「強度も品質も我が軍のそれを上回っているな」

参謀達この世界特有の生物に驚愕するとともに興味津々だ。

 

 

「レーダーのような能力もあるようです。詳しくは存じませんが。」

 

 

「電探まであるのか…それがあれば敵艦隊や敵航空機の探索がだいぶ楽になるな」

 

 

 上空に飛んでいる風竜と呼ばれる生物から、無線通信と思われる電波が照射されている。

 

 この電波は、航空機の物として見れば、かなり出力が高い。

 

 文明圏から外れた国で、電波を放つ飛行物体が確認された。

 

 グ帝より神聖ミリシアル帝国では電探を搭載した機体があるという情報、今回の会戦で電探の有用性や日本の技術の遅れを再確認したこともあり、電探の開発が急がれることとなった。

 

 

 

「着艦許可を求めていますがいかがしましょうか?」

 

 

「鳳翔に誘導せよ。私も気になるからそちらに向かおう」

 

 

 連合艦隊司令長官 山本五十六はガハラ神国 風竜騎士団長スサノウを出迎えた。

 

 

同日 18時

 

 

 

「風竜より大規模な艦隊と思しき反応を察知したとの報告!」

 

 

観戦武官として乗艦するだけだったはずのスサノウは日本艦隊の上空で索敵を行っていた。

 

 

「方位190、距離10万!」

 

 

「距離10万で発見できるのか!」

 

 

 参謀達から驚嘆の声が上がる。

 

 

「空からの索敵とはいえオリオン級戦艦が文明圏外の国に索敵能力で負けるとは…」

 アリゴ少将も衝撃を受けたようだ。

 

 

「艦種はまだ分からんか?」

 

 

「近づけば数や大きさも分かるとのことですが…」

 

 

「ガハラ神国の事情は分かっている。あとはグラ・バルカス帝国に任せよう。」

 

 

「全艦変針 進路180」

 

 第1艦隊司令長官の高須四郎中将が来るべき第二次日本海海戦に向けて指令を出した。

 

 

 

第二次日本海海戦 参加兵力

 

大日本帝国海軍

 

連合艦隊(山本五十六大将)

 直卒 第一戦隊 旗艦 戦艦「大和」「長門」「陸奥」

 

第1艦隊(高須四郎中将)

 第2戦隊 戦艦「伊勢」「日向」「扶桑」「山城」

 第3戦隊 戦艦「金剛」「榛名」「霧島」「比叡」

 第6戦隊 重巡「青葉」「衣笠」「加古」「古鷹」

 第9戦隊 軽巡「大井」「北上」

 第1水雷戦隊 軽巡「阿武隈」

  第6駆逐隊 駆逐艦「雷」「電」「響」「暁」

  第17駆逐隊 駆逐艦「谷風」「浦風」「浜風」「磯風」

  第21駆逐隊 駆逐艦「初春」「子ノ日」「初霜」「若葉」

  第27駆逐隊 駆逐艦「有明」「夕暮」「時雨」「白露」

 第3水雷戦隊 軽巡「川内」

  第11駆逐隊 駆逐艦「吹雪」「初雪」「白雪」

  第12駆逐隊 駆逐艦「白雲」「叢雲」「東雲」

  第19駆逐隊 駆逐艦「磯波」「浦波」「敷波」「綾波」

  第20駆逐隊 駆逐艦「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」

 第3航空戦隊 航空母艦「鳳翔」「瑞鳳」駆逐艦「三日月」「夕風」

 

 

グラ・バルカス帝国海軍

 

 第8任務部隊(セシリオ少将)

  戦艦 「アルニラム」

 

ガハラ神国(非公式) 

 

 風竜騎士団(スサノウ)

  風竜3騎

 

 

◆◆◆

デュロ南東方向約150km沖合い 洋上 同日 20時 超フィシャヌス級戦列艦「パール」

 

 

 

 澄んだ空気、星々は輝き、風はほとんど無い。海は凪であり、水を切る音だけがこの静寂な海に染みわたっていく。

 

 そんな平和な海を、多数の船が白い航跡を引き、北北東方向に向かっている。

 

 その数324隻。

 

 パーパルディア皇国 皇軍 

 

 100門級戦列艦を含む戦列艦211隻、竜母12隻、地竜、馬、陸軍を運ぶ揚陸艦101隻。

 

 中央世界を基準とすると、東側に位置する第3文明圏において、他の追従を許さないほどの圧倒的戦力。

 

 皇軍は大日本帝国を滅するため、フェン王国駐留軍を救出するため北北東方向へ向かっていた。

 

 パーパルディア皇国最大最強であり、大艦隊の指揮をとる超F級戦列艦パールに乗艦する将軍シウスは海を眺めていた。

 

 戦略家であり、冷静、無愛想な将軍、それが部下たちのシウスに対する評価だった。

 

 

 「見張り員の交代時間です!異常ありませんでした!」

 

 

 報告が上がる。

 

 

 「うむ。下がっていいぞ」

 

 艦長ダルダが報告を受ける

 

 

 「夜戦の経験はあるか?」

 

 

 唐突に将軍シウスは隣に立つ艦長ダルダに尋ねる。

 

 

 「いえ、ありませんが…」

 

 ダルダは質問の意図が分からず困惑している。

 

 

 「実のところ私も無い。しかし最近はムー帝国は夜間海戦の研究をしているらしいぞ。神聖ミリシアル帝国に至っては既に実戦レベルらしい。」

 

 「はあ。しかし…」

 

 ダルダが反論しようとすると

 

 「確かに夜戦は野蛮人がすることで文明人である皇国軍がすることではないという風潮は今日まで続き、私も最近までそう思っていた」

 「だからこそ大日本帝国は卑怯で野蛮人の集まりであると信じて疑わなかった。」

「ただ、最近思うのだ。時代に取り残されているのは我々の方なのではないかと」

 

 

 「将軍!それ以上は」

 

 ダルダはようやく質問の意図を察したようだった。

 

 「わかっている。皇帝陛下への忠誠を疑ったことなど一度もない。安心しろ。」

 

 シウスはダルタに忠告されてこれ以上を打ち明けるのは止めたようだった。

 

 「将軍、これほどの大艦隊と、最新の戦列艦をもってすれば、神聖ミリシアル帝国の有名な第零魔道艦隊を相手にしても負けますまい。

 

 海戦の強さを決するのは、戦列艦の質と量です。

 

 第3文明圏最高の質と、戦列艦211隻の量を超える者など、ここには存在しません。」

 

 

 

 話は続く。

 

 

 

「もし仮に、日本軍が夜戦を仕掛けてきたとしても数の多さを活かして敵艦隊へ切り込み、接近戦に持ち込めば必ず勝てるはずです。」

 

 

 

 艦長ダルダは絶対の自信を見せる。

 

 

「そうだな。今のは軽率だった。忘れてくれ。」

「しかし、ダルダに諭されるとは私も年を取ったものだな。」

 

 

「シウス将軍は今でも皇国海軍の誇りです。対パンドーラ大魔法公国戦での竜母を主軸としたワイバーンの集中運用はは世界に衝撃を与え、今でもその」

 

 

艦長が将軍を偉大さを伝えようとすると

 

 

「そんな若いころの話はやめてくれ。…そうだな、あの頃はまだ騎士道精神が生きていたからな。そんな時代もあったな。」

 

 

 艦長と将軍が談笑に耽っていると

 

 

「報告!魔導レーダーに感アリ!方位5、距離5万、速度16ノット、南南東に向かっています。距離が遠いため詳細はまだ不明ですが、既にミリシアル帝国の戦艦並みの反応が複数!」

 

 魔導技師からの報告を受けると

 

 

「流石はミリシアル製の魔導レーダーだ。高い金を出しただけはあるな。」

 

 

「あれ1基で100門級の戦列艦が作れると聞いたときは驚きましたが、それだけの価値はあるようですね。しかし夜戦とは」

 

 

口では強気の艦長も、机上の空論と思っていた夜戦が目の前に迫っていることに不安を覚えている

 

 

「どうも敵の動きからして我々の航路と時間は予想していたようだな。情報通りなら敵はミリシアル帝国の魔導艦隊と思って対処した方がいいだろう。」

 

 

「夜戦ではワイバーンは使えません、竜母艦隊と揚陸艦隊は退避させましょう。」

 

 

「うむ、竜母艦隊と揚陸艦隊は護衛を伴って別命あるまで待機せよ。戦闘艦隊は竜母艦隊と揚陸艦隊が退避後、単縦陣を組め。」

 

 シウス将軍が指令を出すとそれまで重厚な護衛船団を組んできた艦隊から竜母と揚陸艦が抜け、艦隊ごとに単縦陣が組まれる。その陣形転換は流石は列強と言わしめるものであった。

 

 

 

 

同日 21時

 

 

 単縦陣系が組み終わって間もなく

 

 

「艦種と数が判明しました!ミリシアル帝国海軍識別コードによりますと…」

 

魔導技師が以下の報告をする

 

 

ミスリル級魔導戦艦 4隻

ゴールド級魔導戦艦 7隻

マーキュリー級魔導戦艦 2隻

シルバー級魔導巡洋艦 4隻

ラ・シキベ級軽巡洋艦 4隻

ラ・ヴァニア級空母 1隻

ラ・コスタ級空母 1隻

小型艦 32隻

識別コードに該当しない巨大戦艦1隻

 

 

「あくまでもミリシアル帝国やムー帝国の保有艦に近い規模という意味ですので実際の戦力は分かりかねますが…」

 

 魔導技師はこれから戦う敵の戦力に圧倒されている。信じられないという表情だ

 

 

「この巨大戦艦というのはどのくらい大きさなんだ?」

 

 

シウス将軍はとりあえず敵の戦力把握に努めようとしている。

 

 

「全長およそ260mという測定結果が出ています。」

 

 計算間違いを疑いたくなる大きさに一同唖然とする。

 

 

「いくら敵の船が大きかろうとも我々の戦列艦は211隻だ。数を活かして敵艦隊へ切り込み、接近戦に持ち込むしか道はない。夜戦は初めてだがこの暗闇の中接近するには好都合だ」

 

「全艦に通達、灯火を全て消せ。速度や位置は随時魔導通信にて報告、敵が発砲するまでは一切の灯火を禁ずる」

 

 皇国艦隊から光が消えた。暗闇に紛れた艦隊は速度はそのままに日本艦隊に接近していく。しかしそれを日本艦隊が知らないはずがなかった。

 

 

同日 21時34分

 

 もうすぐ日本艦隊まで15キロという距離で羽虫のような音が聞こえ始める。

 

「何だこの音は」

 

 水兵一同聞いたことのない音に不安を覚える

 

 

「対空魔振感知器にそれらしき反応はありません。」

 

 魔導技師が報告するも、そもそも日本軍がワイバーンを運用していたなんて話は聞いたことがないので対空魔振感知器ではなく魔導対空レーダーがあればと後悔するシウス将軍であった。

 

 

 羽虫のような音が過ぎ去っていったかと思うと、突如空に複数の太陽が浮かび上がる。

 

 

「くそ!眩しい。これが照明弾というやつか」

 

 水兵は皆突然の光に目が眩み、状況を把握できていない。

 

 

「全艦灯火管制解除!戦闘旗を掲げよ!日本艦隊に向かって突撃する!」

 

 

 日本海軍の水偵から投下された吊光弾によって縦6m横12mもの大きさの戦闘旗が照らされる。総数211隻にも及ぶ戦列艦それぞれに戦闘旗がはためく光景は圧巻と言うほかない。

 

 

「全砲門開けっ!!!」

 

 

各艦の艦長はそれぞれ戦闘準備する。

 

位置がばれた以上は皇国艦隊の消耗を減らすためにも速やかに接近戦に持ち込み早期決着を期待するほかない。

 

各艦は単縦陣を維持しつつも一番艦に合わせて増速する。

 

 

「敵艦!爆発した!?」

 

 今まで戦列艦の大砲の射撃しか見てこなかった見張り員が敵艦の発砲炎を爆発と誤認する。

 

「馬鹿!敵艦の大砲が射撃したんだ!」

 

 発砲炎と共に敵艦のシルエットが明らかとなる。

 

 

 ドドドドドドドーン・・少し遅れて発砲音。

 

 

「何と言うデカさだ。」

 

 

 敵戦艦も単縦陣で砲撃してくるようだ

 

 

「魔導防壁展開!前方集中!」

 

 

 各艦は速度に振り分けていた魔力を防御にも割り振る。防御力は魔導機関の出力に比例し、魔導機関の出力を全て魔導防壁に割りふった時の防御力は最大魔導防御力と呼ばれ各国で最高機密となっている。

 

 

「総員衝撃に備え!」

 

 

 

◆◆◆

同日 21時45分 大日本帝国連合艦隊 旗艦 戦艦 大和

 

 

「初弾弾着、今!」

 

 

 大和率いる第一戦隊、第二、第三戦隊、合計11隻の戦艦が単縦陣を組んでいる。突撃してくる敵に対してT字有利を保ち一方的に砲撃を加えようと変針中だ。グ帝の戦艦1隻だけは別行動で先に砲撃を開始している。

 

「手前200mくらいか。初弾から流石だな。」

 

「これがグラ・バルカス帝国が誇るレーダー管制射撃です。これによってこれまで出来るだけ避けていた夜戦や風雨での戦闘を積極的に行えるようになりました。」

 

 

「これはレーダーによる精密な距離測定結果を手動で諸元に反映して射撃していますが、最新のものであればレーダーが火器管制装置と連動して砲が自動で目標を追尾し射撃することが出来ます。」

 

 

「なるほど恐らくアメリカが開発していたのもこのようなものだったんだろうな」

 

 

「アメリカ??」

 

観戦武官の方々は困惑する。

 

 

「いや、前の世界での話だ。気にせんでくれ。」

 

 

「第二射弾着、今!」

 

 

 弾着した瞬間、青白く光り輝く魔法陣が船を包み込みこんだかと思えばガラスのように割れてしまった。間もなくして命中した艦は大爆発し跡形もなく消えてしまった。

 

 

「命中弾1発!1番艦撃破!」

 

「爆発で周囲の艦も巻き込んだ模様!現在戦果確認中」

 

 戦艦アルニラムからの報告が入る

 

 

 

「これがグラ・バルカス帝国か…」

 

 スサノウはグ帝の戦艦の主砲の桁違いの威力に底知れない恐怖を感じていた。何度か見たことのある皇国の戦列艦の強力な魔導防壁が破られるなど想像だにしていなかった。

 

 

 

「なんだあの光は…」

 

 日本海軍の参謀達は二射目にして敵艦に命中させたレーダー管制射撃よりも青白く光った敵艦に興味津々だ。

 

 

「あれは魔導防壁ですね」

 

「あれが噂の、魔導防壁か」

 

陸軍より噂はかねがね聞いていた海軍であったが実際に見たのは初めてだ。

 

 

「レイフォル戦でもそうでしたが一部の高出力魔導機関を搭載している艦はオーバーロードすると爆発するようです。全てが爆発するわけではありません。」

「戦技研では既存の魔導機関を無理やり高出力に改造しているから爆発するとの見立てが出ています」

 

 

アリゴ少将が解説する。少将はレイフォル戦での報告を逐次受けていた。

 

 

「流石に戦艦の砲弾は防げないということか」

 

「いえ、榴弾であれば防がれた例がありますので今回は徹甲弾を使用しました」

 

「半端な攻撃は効かないというわけか」

 

 

日本海軍の参謀達は帆船ごときが戦艦の砲撃に耐えるなど信じられないという顔で聞いていた。

 

 

「とは言いましてもそれは一部の艦のみで、ほとんどの艦は駆逐艦の砲でも何発か当たれば魔導防壁は破れます。そもそも戦艦の砲弾が防げる艦であっても魔導防壁の回復速度を上回る攻撃を加えればそのうち破れます」

 

 

「そういえば陸軍からそんな話を聞いたな。半信半疑だったが」

 

「帆船だからと侮っていたら痛い目を見るところでしたな」

 

 

 この戦いをきっかけに海軍ではグラ・バルカス帝国協力の下、魔法研究所(仮称)が開所されることとなった。

 

 

「しかし思いのほか敵が速い。もっと早く変針するべきだったな。」

 

「帆船が20ノットも出せることは想定外でした。これも魔法の力か…」

 

「レイフォルでの海戦でも確かに20ノット出す帆船はいましたが皇国艦隊は直前まで12ノット程度だったので油断しておりました」

 

 

 

「6番艦撃沈!」

 

また戦艦アルニラムからの報告が入る

 

 

 

この間も皇国艦隊は20ノットの速さでT字有利に持ち込もうとする日本艦隊に迫っている。もう距離は1万を切っている。

 

 

「しかしこのままだと切り込まれるな」

 

「まだ完全ではないが攻撃開始しよう」

 

 

 山本五十六大将は決断する。

 

 

「各艦は探照灯を先頭艦に照射!準備出来次第攻撃開始!」

 

 

最初に射撃準備が出来たのは一番艦である大和であった。

 

 

「左砲戦用意!目標!探照灯を照射している敵艦!弾種徹甲!」

 

 

大和の艦長である高柳儀八大佐の命令の元、目標に主砲を向ける。

主砲には全長2m、砲弾重量1460kgにも及ぶ九一式徹甲弾が装填される。

 

それに対して、皇国艦隊は日本艦隊の探照灯に向かって突っ込んでくる。

 

まず、測的と装填を完了した大和が砲撃を始める。

 

「撃て!」

 

 

大和の45口径46cm3連装砲塔が実戦で初めて火を噴いた。

 

自艦よりも巨大な発射炎が出現する。

 

その威力、衝撃波は海上にも伝わり、海が震えた。

 

時速2808kmで打ち出された巨弾3発は放物線を描き飛翔する。

 

 

「初弾弾着、いま!」

 

目標艦の周りに水柱が立つ

 

 

「目標、夾叉!」

 

 

距離が近いとはいえ初弾から夾叉は幸先が良い。乗組員達には歓声をあげる者もいる

 

 

「お!おう…」

 

 スサノウは目の前で広がる発砲炎と衝撃波に驚いて後退りしてしまった。すぐに周囲を見渡し自分が後退りしたことに気づいたものがいないか確かめる。幸い皆弾着地点に視点を向けていたおかげでいなかったようだが、名誉ある風竜騎士として、団長として、国を代表する観戦武官としてそんな自分を恥じていた。

 

 

「諸元そのまま!第二射撃て!」

 

 再び目の前で発砲炎と衝撃波が広がる。今度は後退りしなかったようだ。

 

 

「2発命中!目標艦とその後ろの艦が大破!」

 

 距離が近かったため仰角が浅く、過貫通を起こしそのまま後ろに命中したようだ。

 

 

「まだまだ敵艦は残っている!近づけさせるな!」

 

「副砲、高角砲も準備出来次第攻撃開始!」

 

艦長の指令で副砲である60口径15.5cm3連装砲塔と40口径12.7cm連装高角砲も射撃を開始する。

 

 

2番艦の「長門」や3番艦「陸奥」も続々と攻撃を始める。

 

 

20分後には戦艦12隻全てが皇国艦隊に向かって攻撃していた。

 

 

◆◆◆

同日 21時45分 超フィシャヌス級戦列艦「パール」

 

オリオン級戦艦「アルニラム」の45口径35.6㎝連装砲塔から発射された砲弾は、正確にパーパルディア皇国、皇軍の100門級戦列艦に着弾し、対魔弾鉄鋼式装甲をあっさりと貫通、爆発した。

 

 爆圧は内部から外部に向かい、木造部分を粉砕しながら上部に突き抜ける。

 

 艦は壮大に吹き飛び周囲の船を巻き込んだ。

 

 

 

「戦列艦ロプーレ轟沈!!!マコケール、アーマンドも巻き込まれた!」

 

 

 

 唖然……。

 

 

 

「な……ど……どういう事だ!?」

 

 

 

 将軍シウスとパール艦長のダルダは眼前の現実の理解に苦しむ。

 

 

 

 ズドオオォォォン!!!

 

 

 

「敵艦再び発砲!!!」

 

 

 

「こ、交互撃ち方か!!!」

 

 

 

 艦隊の前方に連続して火柱が上がる。

 

 

 

「戦列艦ミシュラ、レシーン、クション、パーズ轟沈!!!」

 

 

 

 沈み行く船が多すぎて、報告が間に合わない。

 

 敵船は未だ我が方の射程距離のはるか先にいる。

 

 

「クッソ!魔導防壁が一発で破られるとは!」

 

 

 

「超巨大戦艦も発砲!!」

 

見張り員の報告を受けてシウスとダルダは前方を見るとこれまでにない巨大な水柱が立っている。

 

 

「あんなのを食らったらパールと言えども一溜まりもない」

 

 艦長ダルタは目の前に迫る恐怖に足が竦んでいる。

 

 

「超巨大戦艦再び発砲!」

 

 

「こんな……こんな現実があってたまるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 将軍シウスは閃光と共に、強烈な揺れと衝撃に見舞われ、壁に叩きつけられる。

 

 

 

「艦首に被弾!!!!」

 

 

 

 120門級戦列艦パールの艦首に大きな穴が開く。

 

 海水が艦内に流れ込み、バランスを崩したパールは、徐々にその巨体が傾き始め、やがて転覆、装甲の重みでゆっくりと沈んでいった。

 

 

 

 将軍シウスは海を漂う。

 

 流れてきた木材に捕まり、海上から皇軍を見る。

 

信じられないほどの短時間で、第3文明圏最強の国、列強パーパルディア皇国の大艦隊は1隻も残らず、海の藻屑と消えた。

 

 

 

 パーパルディア皇国皇軍211隻は大日本帝国とグラ・バルカス帝国の戦艦12隻と交戦、211隻全てを失い全滅した。

 

 

 

 その数時間後、後方に待機していた皇国軍の竜母艦隊と揚陸艦隊はその主力を失ったため、帝国海軍連合艦隊に降伏、数日後にはフェン王国駐留軍も降伏し、列強と2カ国連合軍の戦いは、2カ国連合の圧勝に終わった。

 

 

 




前にも言ったかもしれませんが、パーパルディア皇国を悪者にしたくないので原作と異なりあまり印象が悪くならないように描いています。

思っていたよりも投稿に時間が掛かってしまいましたが、これは気分転換に古代魔王編を描いていたら思いのほかオリジナル要素が多くなりすぎて原作から逸脱しすぎてしまったというのがあります。古代魔王編に関してはまた暇なときに考えたいと思います。

次回は戦闘以外を描きたいと思っています。


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第十二話 列強の思惑

パーパルディア皇国との日本海海戦の結果、パーパルディア皇国は主力艦隊を喪失。大幅な戦略の見直しを余儀なくされた。その頃列強各国は今回の戦果を受けてそれぞれ動き始めていた。


神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

 

 誰もが……世界中の誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国、その他とは隔絶した栄え方、そのあまりにも高度な発展を前に人々は『世界の中心』という意味を込め、帝国の存在する大陸を中央世界と呼ぶ。

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国は

 

○世界で最も高い魔法技術

 

○国の基礎を安定して支える高度な政治システム

 

○広大な国土と優秀な物質の量産化システム

 

○優秀な学問体系

 

 が高度に入混じり、この世界の文明圏国家や、列強国と比べても国力の優位性は疑いようがない。

 

 帝国は、国土の所々に残る、古の魔法帝国の遺跡を解析し、高度な技術を支えてきたため、地球の歴史を基準にすると、軍事技術はいびつな発展をしている。

 

 

帝都ルーンポリスにある情報局、その建物の1室で、2人の男が会談をしていた。

 

 

 

「皇国はまた負けたそうだな」

 

 

 対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部長ヒルカネ・パルペは最近何かと話題に上がっている大日本帝国の情報を得るため情報局のもとを訪ねていた。

 

 

「皇国は主力艦隊を喪失。いくら数だけは多い皇国と言えど当分は攻勢に出られんだろうな」

 

 

 帝国情報局長アルネウスは煙草を吹かすと

 

 

「せめて一隻でも沈めてくれれば後で回収できるものを…パーパルディア皇国を過大評価し過ぎていたようだ」

 

 

ヒルカネは急に立ち上がる

 

 

「皇国が一隻も沈められなったのか!陸戦でも大敗したと聞いた時からもしやと思ったがそれほどとは」

 

 

 

「まあまあ落ち着け。話はこれからだ。情報によると日本艦隊にはグ帝の戦艦もいたそうだ」

 

 

アルネウスはヒルカネに煙草を差し出す

 

 

 

「なんだって!? なんでグ帝までいるんだ」

 

 

 

「とりあえず一回吸って落ち着け。恐らく既に日帝とグ帝は同じ移転国家、科学文明国として協力関係にあるのではないかと考えている。これに関しては皇帝も危惧されている事案であることから最優先で調査中だ。もしこれにムーも加われば科学文明対魔法文明の構図が出来かねん」

 

 

ヒルカネは座って一服する

 

 

「で、どうするつもりなんだ?」

 

 

「私は外務省に先進11か国会議にパーパルディア皇国の代わりに大日本帝国を列強に認定よう働きかけるつもりだ。既にレイフォルの代わりにグラ・バルカス帝国が入った前例つい最近出来たばかりだ。問題なかろう」

 

 

「なるほど。その機会に懐柔する魂胆か」

 

 

「うむ、科学文明が魔法文明に対抗するなど皇帝は許さん。もし国民が魔法文明より科学文明の方が優れていると思い始めたら我が国は終わりだ。皇帝もそれを最も危惧されていた」

 

 

「しかし魔法文明と科学文明のどちらが優れているか興味あるがなあ」

 

 

ヒルカネの研究者としての血が騒ぎ始める

 

 

 

「それ他で言うなよ」

 

 

アルネウスはもしバレたら反逆罪にもなりかねない発言に肝を冷やしつつも、これ以上この話で盛り上がるのはまずいと考え話を変える

 

 

 

「で、そっちはどうだ」

 

 

以前渡した諜報員の報告書とデュロの戦いで回収できた日帝の兵器の解析結果を尋ねる

 

 

 

「そうそうその話をしなければ!あれは革新的だ!」

 

 

途端にヒルカネは目を輝かせる

 

 

「革新的?」

 

 

アルネウスは余り軍事面の話に明るくない

 

 

「よく考えてみろ。うちが最後に戦争したのはいつだ?」

 

 

 

「うーん。ムーの南北戦争で介入したのが最後なのか」

 

 

 中央暦1582年、ムーでの軍事クーデターをきっかけに政府軍と反乱軍で内戦勃発。双方合わせて100万にも及ぶ人的資源が投入されたが結果的には反乱軍が勝利し、共和制から帝制へと移行することとなった。実はこの際、ミリシアル帝国は密かに反乱軍を支援しており、これを機に現在にまで及ぶ従属関係が築かれることとなった。

 

 

 

「そうだ。それも50年以上前の話だし、規模的にも1個師団程度だ。」

 

 

 

「実際共和制ムーに勝つにはそれで十分だったからな。で、それがどうした?」

 

 

 

「お前んとこの諜報員の報告書を見せてもらったがな、あの国は転移したその日にロウリア王国とパーパルディア皇国に攻め込んだとんでもない戦争狂国家だ。我々とは経験が違いすぎる」

 

 

「しかし戦争狂で言えばパーパルディア皇国も大概じゃないか」

 

 

「そのパーパルディアにグラ・バルカス帝国並みの力があったら?」

 

 

「なるほどそういうことか!そいつはクレイジーだ!」

 

 

軍事に明るくないアルネウスも納得し、事の重大さに気が付き始める。

 

 

「お前が送ってくれた日本の小銃、38式と言うらしいが、我が国の小銃よりも威力以外は全て上回っている。そもそも威力は兵士それぞれの固有魔力に依存しているから一概に比べられるもんじゃないが…」

 

 

ヒルカネは煙草に火をつけ一服し落ち着くと

 

 

 

「兵器の性能も勿論だが、戦術面でも報告書を見る限り非常に洗練されている。陸海空どれをとっても戦闘速度が異常に速く短期間でここまでの戦果を挙げたのも納得だ。特にデゥロの戦いでは数十機に及ぶ爆撃機と砲撃によって集中的に都市を攻撃し、魔導防壁を破壊したそうだ」

 

 

アルネウスは驚愕しながらも質問する

 

 

「都市級の魔導防壁って砲爆撃で破れるのか?」

 

 

 

「理論上は可能だが、そもそも魔法文明国家は魔導防壁中和魔法があるからな。接近しなければいけないのがデメリットだが圧倒的な兵力差があれば兵糧攻めもあるしな。正直今までほとんど研究されていなかったのが実情だな」

 

 

 魔導防壁により野戦でも自ずと接近戦になることが多かった魔法文明では攻城戦も例外ではなかった。特に攻城戦の場合は守備側の魔導防壁が段違いに強いため、昔ながらの兵糧攻めが最も効果的な手段であった。

 

 

 

「うちは大丈夫なんだろうな?」

 

 

 

 

「少なくともうちの都市級魔導防壁の耐久力はパーパルディア皇国の比ではないからな。デュロと同じようにはいかん。だが、それでもデュロの魔導機関と防壁発生装置はうちが輸出したもので師団級の出力があるものだ。それが科学文明に破られたのは衝撃的だよ」

 

 

まだ心配なアルネウスは続けて質問する

 

「今回は数十機だったが数百機と押し寄せてきたらどうするんだ?」

 

 

 

「そうならないように空軍がいるわけだ。いくら列強一位と言えど数百機の爆撃は耐えられん。でも確かに対空兵器の拡充は必要かもしれんな。グ帝や日帝の航空兵器は強力だ。対策を練る必要がある」

 

 

 

「仮想敵国としては最適というわけか」

 

 

アルネウスは皮肉を込めて言ったがヒルカネには伝わらなかった

 

 

「そういうわけだ。だから今後とも情報よろしく頼む。特に稼働する戦車や戦闘機が鹵獲できれば最高なんだがな」

 

 

 

「それだがな。すぐには無理だが、うちから義勇軍と称して兵士と武器を送ろうかと検討している。パーパルディア皇国だけではまともな戦になりそうもないからな。そうなれば戦車や戦闘機を鹵獲する機会もあるだろうさ」

 

 

 

「それは楽しみだ!期待してるぞ」

 

 

再び目を輝かせたヒルカネはミリシアルの行く末などどうとでもいいとばかりに対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部に帰っていった。

 

 

◆◆◆

 

 

第2文明圏 列強国 ム―帝国

 

 世界5列強国の一つ。 第二文明圏最強にして、世界最強の神聖ミリシアル帝国に次ぐ第2位の国力を持つとされている。魔法技術に重点が置かれるこの異世界において、独力で科学技術中心の文明を築きあげ、グ帝と日帝が移転してくるまでは唯一の科学文明国家であった。

 

 

 技術士官マイラスは軍を通じて伝えられた外務省からの急な呼び出しに困惑していた。

 

 

控え室で待つこと20分、

 

 カチャ・・・。

 

 軍服を着た者と、外交用礼服を着た者2名が部屋に入ってくる。

 

 

 

「彼が技術士官のマイラス君です」

 

 

 

 軍服を着た者が外交用の礼服を着た者に紹介する。

 

 

 

「我が軍1の、技術士官であり、この若さにして第1種総合技将の資格を持っています」

 

 

 

「技術士官のマイラスです」

 

 

 

 マイラスはニッコリと笑い、外交官に答える。

 

 

 

「かけたまえ」

 

 

 

 一同は椅子に腰掛け、話が始まる。

 

 

 

「何と説明しようか・・・。」

 

 

 

 外交官がゆっくりと口を開く

 

 

 

「今回君を呼び出したのは、正体不明の国の技術レベルを探ってほしいのだよ」

 

 

 

 正体不明と聞いても何も思い浮かばないマイラス

 

 

「といいますと?」

 

 

 

 すると、思わぬ答えが返ってくる。

 

 

 

「大日本帝国と言うらしい。先ほどグラ・バルカス帝国から情報提供があった。パーパルディア皇国の東にある同じ移転国家で科学文明国家だ。既に大日本帝国は国交を結ぶために船でグラ・バルカス帝国に向かっている。このタイミングで我々も接触し、交渉が上手くいけばそのまま日本へ向かう手筈となっている」

 

 

マイラスは大日本帝国という遠い異国の地に思いを馳せながらも疑問が湧いた

 

「解りました。願ってもない申し出です。しかしそこまで情報があるのであればグラ・バルカス帝国は既に日本の技術水準は把握しているのでは」

 

 

 

 

「情報によればグラ・バルカス帝国とそう変わらないらしいが細かいところはまだこれからだそうだ。それにあまりグ帝の情報ばかり頼りにしてられんからな。特に今回の件は皇帝肝入りとなっている。失敗は許されん。もしこれが成功すれば科学文明だけで魔法文明に立ち向かえるかもしれん。」

 

 

 

マイラスは全く話の内容が分からず顔に疑問符が浮かぶ

 

 

「技術レベルを探ってほしいのはあくまでも目的の一つに過ぎない。最終的には大日本帝国とは軍事同盟まで持っていき、ミリシアル帝国の傘からの脱却を目指す。現在グ帝にレイフォルの情報を流しているのもその一環だ」

 

 

 

「そ、それは、私のような人間が知って良い話なんですか?」

 

 

技術士官のマイラスは、事の重大さを理解し震えている

 

 

 

「そんなに緊張しなくても良い。どうせこの任務に就いたら遅かれ早かれ知ることになるから問題はない。我々がマイラス君に期待しているのはあくまで技術士官としての職務だけだ。それ以外のことは気にするな。今話したことも口外無用だ」

 

 

そう言い終えると外交官が背後にいた女性を手招きする

 

 

 

「たった今からこの者が君の身の回りのお世話をする。好きに使ってくれ」

 

 

「パーシャです。よろしくお願いします」

 

 

 印象に残りづらいがよく見ると美人な女性だ

 

 

「あの、これは?」

 

 

マイラスは突然のことに困惑している

 

 

「これから忙しくなるだろうからな。それなりの待遇を与えなければいかん」

 

 

外交官は席を立つ

 

 

「細かいことは追って知らせよう。それまで休息をとることだ」

 

 

外交官は困惑して立ち尽くしているマイラスをよそ目にドアから出ようとすると

 

 

 

「あ、そうだ。口には気を付けることだマイラス君。その家政婦は怒ると怖いぞ」

 

 

とんでもないことを引き受けてしまったと後悔し呆然と立ち尽くすマイラスにパーシャは家政婦として接する

 

 

「家までお送りします。マイラス様」

 

 

 

「あ、はい…」

 

 

マイラスはこれからの自分の人生を悲観しながらパーシャと共に帰路についた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。思ったより時間が経ってしまいました。次回の内容については迷っていますが、少なくとも戦闘以外を描写しようかと考えています。


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第十三話 大脱走マーチ

パーパルディア皇国が主力艦隊を喪失して以降、戦線は膠着し一時の平和が訪れていた。大日本帝国はこれまでの戦闘で多数の捕虜を収容しており、特に日本海での海戦では揚陸部隊10万が捕虜となりその扱いに困り果てていた。


中央歴1640年4月2日 デュロ防衛隊陸軍基地

 

 かつては第三文明圏最大の工業都市として栄華を誇ったデュロには旭日旗がはためき、通りは日本兵が巡回し異様な雰囲気が立ち込めている。デュロが陥落して以降、外に頼れる者がいる住人は逃げ出し、いないものは日本兵を恐れながらも仕方なく生活している。郊外にあるデュロ防衛隊陸軍基地は姿はそのままに半分は捕虜収容所に変わり十数万の捕虜たちが日本兵としての訓練を受けていた。

 

 

 「突撃ぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 うおぉぉぉぉぉ!!

 

 おりゃあああああああ!!!

 

 しねえぇぇ!!

 

 

 指揮官の号令と共に突撃ラッパが鳴り響き、パーパルディアの男達の雄叫びが木霊する。

 

 

 「走れ!走れ!死ぬ気で走れ!」

 

 

 「銃口をふらつかせるな!お前どこを見て走っとるんだ!」

 

 

 「旗手が先にくたばってどうするんだ!走れ!」

 

 

 日本軍の下士官が監督となって捕虜の訓練を指導している中、一人の捕虜が突然足を止める。

 

 

 「もう、止めだ止めだ。くだらねえ」

 

 

 その男は銃を捨て煙草を吹かし始めた

 

 

 「おい、何止まっている! グハッ!」

 

 

 駆け寄った下士官にその男が手を向けるとその瞬間血を吹き出し倒れてしまった。

 

 

 「もう好きにやらせてもらいますよ。いいですよね?」

 

 

 そう言いながら何かに目線を向けている

 

 

 

 ピーーーーーー!!!

 

 

 

 異常を察知した憲兵が笛を吹き応援を呼ぶ

 

 

 

 「あいつを射殺しろ!」

 

 

 

 近くにいた下士官や憲兵が徐に銃口をその男に向けると

 

 

 

 「今だ!」

 

 

 その男が叫ぶと周りの捕虜たちは下士官や憲兵を襲いだす

 

 

 「クソ共が!ガハッ!」

 

 

 バン!

 

 

 バンバン!

 

 

 「死ねえ!」

 

 

 

 数人の捕虜は射殺されるも、数に物を言わせて銃剣で日本兵を突き刺していく

 

 

 

 「奪った銃は狙撃兵に渡せ!」

 

 

 「武器庫に向かえ!」

 

 

 周りの兵士たちをぶっ殺した捕虜たちは武器庫へ行ったりそのまま逃げだしたり思い思いの方向に向かって走り出すと

 

 

 

 ダンダンダンダンダン

 

 

 バン!バン!

 

 

 

 「機関銃だ!」

 

 

 「本隊が来たぞ!」

 

 

 

 機関銃を前に捕虜達が次々と倒れていく中

 

 

 ドンッ!

 

 

 蒼白い閃光と共に突如機関銃陣地が消滅

 

 

 「魔導士だ!捕虜に魔導士が紛れているぞ!」

 

 

 予想外の魔導士の攻撃に右往左往する日本軍を前にその男は笑みを浮かべる

 

 

 「あとは捕虜共に任せるか…」

 

 

 武器庫に一足先に着くや否や武器を回収し始める

 

 

 「しかし我が国もこんな魔法無し国家に脅威を抱くとは落ちたもんだな」

 

 

 武器は全て魔法が仕込まれた腰巾着に入れられ、外目からは汚らしい捕虜にしか見えない。

 

 

 「パーパルディアの捕虜共には悪いがおさらばさせてもらおう」

 

 

 そう言うとまた捕虜の顔に戻り、捕虜収容所を後にする。捕虜たちが武器庫を見たときの絶望した顔を思い浮かべ、自然と笑いが込み上げてくる。

 

 

 

 郊外の森まで来くるとその男は立っていた。

 

 

 

 「ほら、とってきたぞ」

 

 

 いつの間にかそこにいた男に武器が入った腰巾着を投げ渡すと報酬が返ってきた。

 

 

 「今回は楽な仕事だったな。捕虜共には犠牲になってもらったが」

 

 

 その男は初めて口を開いた。

 

 

 「問題ない。次も頼むぞ」

 

 

 そう言うとその男は消えた。

 

 

 「ちっ。愛想のないやつ。まあいいけど」

 

 

 そう吐き捨てるとタバコに火をつけた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

デュロ 第23軍司令部(旧デュロ防衛隊司令部)

 

 

 「本日11時、第三兵舎の捕虜2000人が反乱するも第104師団がこれを鎮圧。しかし数百名が脱走し現在も追撃中。被害ですが、56名が戦死、16名が重傷、18名が軽傷。また、武器庫の火器が全て無くなり」

 

 

 報告途中で第23軍司令官である酒井隆中将が口を開く。

 

 

 「おいおい、なんでそんな被害が多いんだ?」

 

 

 参謀長の栗林忠道少将が追加で説明する。

 

 

 「捕虜に魔導士が紛れていたようです。現在、捕虜の魔導士を呼び寄せ探させています。ただ武器庫にあった火器が何処へ行ったのかは調査中ですが、恐らく逃走した捕虜たちが何処かへ運んでいるのではないかと」

 

 

 「何としても見つけろ。しかし何で捕虜共は何で武器を使わなかったんだ?」

 

 

 

 「少なくとも下士官や憲兵の武器は奪って使っていたことが確認されていますので不可解な出来事です。もしかしたら今回の反乱は裏でパーパルディア皇国が手を引いているのかもしれません」

 

 

 酒井司令官は少し考えると

 

 

 「確かに今後パーパルディア皇国軍が今回強奪された火器を使っていたと判明すれば私の責任問題になりかねん…」

 

 

 司令官はまた少し考えると何かをひらめいたかのように目を開く

 

 

 「捕虜の戦力化を急がせろ。特に魔導士は重要な戦力だ。出来るだけ確保したい」

 

 

 

 「しかし魔導士に関しては陸海問わず各方面から追加の要請が届いています」

 

 

 これまでの戦いで魔法の重要性に気が付いたのは陸軍だけではない。海軍は前回の海戦で得られた魔導士だけでは足りず、魔導士を比較的多く確保している陸軍に要請を出していた。また陸軍側でも魔導士をバランスよく配分しようと動いていた。

 

 

 

 「適当に理由をつけて遅らせろ。我々第23軍は対パーパルディア皇国戦において先陣を切る!そのためには魔導士はいくらいても足りん」

 

 

 酒井司令官は中央に失態がバレないよう独断で動こうと決意した。

 

 

 

 「パーパルディア方面軍司令部には何と?」

 

 

 最近になって支那派遣軍は編成が多少変わり、パーパルディア方面軍へと名称が変わっていた。

 

 

 

 「演習を行っていたらパーパルディア皇国軍が捕虜収容所に攻め込んできたので反撃した。これでいこう!」

 

 

 

 

 「ではそれで早速作戦立案を行います」

 

 

 勝てば問題無かろうと言わんばかりの適当なストーリーで乗り切ろうとする司令に呆れつつも、自分は参謀としての職務を全うするだけだと心に留める栗林参謀長であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

多摩陸軍技術研究所

 

 

 パーパルディア皇国との戦いで魔法が発見された後、極秘裏に建てられた多摩陸軍技術研究所では魔導士が集められ日々魔法実験が行われていた。

 

 

 「3000…3500…4000…4500…」

 

 

 中央には西瓜サイズの青い球体が置かれ、それに電圧を加えている。

 

 

 

 「膜状の白い帯が出現!」

 

 

 

 電圧が上がっていくと共に帯が広がっていく

 

 

 

 「5000…5500…6000」

 

 

 

 「結晶に亀裂!」

 

 

 結晶の亀裂から光が漏れ出した瞬間白い帯は消え、過電流保護装置が動作した発電機はその動きを止める。

 

 

 「う~んダメか。もう少しだったんだがな」

 

 

 主任研究員はため息をつく。

 

 

 「また絶縁耐力が足りんかったようですね。やっぱりもう少し出力の小さい魔導防壁に変更します?」

 

 

 部下の研究員がまたかという表情で応える。

 

 

 

 「これ以上小さくすると陸軍の要求に答えられんし、魔導士曰くこれ以上小さい物は作れんそうだ」

 

 

 

 それを聞いた女性の魔導士が話に加わってくる

 

 

 

 「大賢者クラスの方であればもっと小型で高出力の物を作れるんでしょうけどね」

 

 

 

 「パーパルディアにはそういう奴はいないのか?」

 

 

 

 「少なくとも一人はいますね。私が魔法を学んだ学校の校長でした」

 

 

 

 「そうか…」

 

 

 主任研究員は捕虜としてここで働いている魔導士の彼女に同情する。

 

 

 

 「神聖ミリシアル帝国には5名の大賢者がいるそうです。その校長も昔、神聖ミリシアル帝国に留学に行ったんだとか。まあ、パールネウス共和国時代の話らしいですが」

 

 

 「その校長何歳なんだよ?」

 

 

 研究員がツッコミを入れる。

 

 

 「誰も知らないんですよね。少なくとも100歳は超えているらしいですが。」

 

 

 

 「どんだけ長生きなんだよ」

 

 

 ボケかと思ったら本当の話のようで驚く研究員

 

 

 「魔法使いは魔力のおかげで比較的長生きすると言われています。とは言ってもパーパルディア皇国の魔法使いはその殆どが軍に徴兵されるおかげで長生きできませんが」

 

 

 

 「戦死か?」

 

 

 反応しづらい内容に主任研究員が助太刀する

 

 

 「いえ、魔導士は皇国にとっても重要戦力ですし、何より魔導士自体が防御手段を数多く持っていますので戦死することはほとんどありません。ただ魔力は使いすぎると寿命を縮めます。それが何故なのかは分かっていませんが、魔力は生と死を司ると考えられていますのでもしかしたら魔力自体が人間の生命力と表裏一体の物なのかもしれません。」

 

 

 

 

 「そうか…」

 

 

 

 湿っぽい雰囲気に気が付いたのか魔導士は話を元に戻す

 

 

 

 「その魔導防壁装置は亀裂が入る前に既に回路が溶解し始めていました。亀裂はその結果に過ぎません。その溶解した回路を見直せばもしかしたら耐えられるかもしれません」

 

 

 

 

 「中が見えるのか!」

 

 

 他の魔導士には分からなかった事実が判明して喜びと驚きが噴き出す。

 

 

 

 「いえ、私は魔力の流れが見えるだけです。電気と言う力はどうも魔力に近いようですが、暴れ馬のように荒々しく回路を流れているので普通に魔力を流すよりも回路を工夫する必要があるかと思います」

 

 

 

 「やっぱり一回魔力変換機を通さんと厳しいかなあ」

 

 

 

  研究員が今後の方針について相談し合っている。

 

 

 

 「しかし時間がありません。とりあえず今回は回路の工夫で乗り切りましょう」

 

 

 

 「そうだな。よし魔導士、溶解した部分を教えてくれ」

 

 

 

 研究員が集まり、魔導士が説明を始める。

 

 

 科学と魔法が結びつき、この世界に新たな技術が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。今回は割と難産でしたがこれでいこうと思います。当初は科学文明国家で同盟を組めば魔法文明国家に対抗できなるかなと思いましたが、原作の神聖ミリシアル帝国が思ったよりも早く対空ミサイルを実用化してしまったのでちょっと厳しいかな思い、魔法の力も借りるという流れにしました。次回はパーパルディア皇国との陸上戦になるかと思います。


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