サー・クロコダイルが転生者だった件について (歩く好奇心)
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1話

 

 

   俺ことサー・クロコダイルは【元七武海】…

  …という設定だッ。そして【転生者】であるッ。

  ここにおいては後者の方が大事だッ。俺ことサ

  ー・クロコダイルは元日本人ッ。【ワンピース

  】という漫画も知っているッ。つまりは分かる

  な? じゃあ説明不要ッ。

   さて、さらには設定だというのも割かし大事

  な話であるッ。元七武海じゃないのかと聞かれ

  たら肯定しようッ。そうであるッ。今の俺こと

  サー・クロコダイルは元七武海ではないのだッ

  。

  なんなら海賊にすらなっていないッ。 何故な

  のか? 怖いからであるッ。以上、説明不要ッ

  。

   海賊がなんだ。財宝? この世のすべてをそ

  こに置いてきた? 馬鹿野郎ッ。それを夢見る

  前に人類を超越した能力者どもの存在に膝を屈

  したわッ。あいつらホントに人類かッ。

 

   いまやこの時代、海賊志願者は自殺志願者と

  変わらねぇッ。お目めキラキラさせて目指すも

  のじゃ決してないッ。

 

 

   じゃあ今の俺ことサー・クロコダイルは何を

  しているのか、という話だッ。日本人の感性を

  していれば安定を求め、普通のモブの人間とし

  て日々を送っていたことだろうッ。

 

   しかし、それもまた否であるッ。この身はサ

  ー・クロコダイルッ。サー・クロコダイルとい

  う存在は悪魔の実とひかれ会う運命にあったら

  しいッ。

   そうであるッ。俺もまた会ってしまったのだ

  ッ。悪魔の実にッ。その種もまた【スナスナの

  実】という因果なものであったッ。 そして食

  ったッ。当然だッ。あのワンピースの悪魔の実

  が目の前にあるんだぞ? そんな面白そうなも

  の食わないはずがなかったッ。無論糞マズだっ

  たッ。

 

   

   悪魔の実を食べて砂人間となったのは青年期

  のことだったッ。 能力者になったから大丈夫

  であろうという根拠なき自信から賞金稼ぎとな

  り、海を避けた長旅に出るッ。

   それから十余年、俺ことサー・クロコダイル

  は四十路へと突入し、そして今、アラバス

  タ王国へと足を踏み入れようとしていたのだっ

  たッ。

 

 

   

 

         【log】

          

 

         【ナノハナ】

 

 

   アラバスタ王国、ナノハナ。砂の国において

  海沿いに位置しているこの町は、交易の玄関口

  として重要な場所であるッ。故に人口も周辺の

  町に比べ多く集約しており、人々の活気に溢れ

  ていたッ。 

   水の供給が潤っているッ。いわば、ここはこ

  の国における数少ないひとつのオアシスであっ

  たッ。

 

 

             サー・クロコダイル

             

 

          【log】

 

 

 

 

   「マスター、オススメのワインを一杯」

 

   とある居酒屋ッ。そこは砂の国特有の石造り

  の店舗を構えており、内装もまた砂漠国独特の

  品々に溢れているッ。

   俺ことサー・クロコダイルはそんな居酒屋に

  てワインを注文したッ。この居酒屋に始めて来

  訪したのだッ。故に何が上手いのか知らない以

  上、バーの主人に任せた方が良いと俺ことサー

  ・クロコダイルは考えたッ。

   しかし注文を受けた愛想のない中年バーの主

  人はなぜか困惑げだったッ。

 

   「どうした主人。早くオススメのワインを出

    してくれ」

   

   そう促すッ。

   しかし、 へ、へぇ。と、言われましても……

  、と愛想のない中年バーの主人はなにやら歯切

  れが悪かったッ。こちらを見ては何やら言いに

  くそうにしているッ。はて、俺ことサー・クロ

  コダイルの注文に何か問題でもあっただろうか

  ?

   今度は俺ことサー・クロコダイルの方が戸惑

  ったッ。 

 

   「どうした? なにかワインを出せない問題で

   もあるのか?」

 

   バーの主人は言うッ。へぇ、オススメと言わ

  れても困りますぁ。ウチにそういうメニューは

  なくてですねぇ、とのことであるッ。

 

   「……なにぃ?」

  

   俺ことサー・クロコダイルは大いに戸惑った

  ッ。

   なんということだッ。そんなに融通が効かな

  いものなのかッ。俺はワインにそこまで詳しく

  ないのだッ。これまでもなんとなくでしか飲ん

  でなかったためか、ワインについて詳しく知ろ

  うともしなかったッ。

 

   ちっ。仕方ないッ。俺ことサー・クロコダイ

  ルはありきたりなものを一つ注文するッ。しか

  しッ、バーの主人またもや言ったッ。

   ……いや、それはウチでは扱ってないでさぁ。

   と、まさかの撃沈ッ。

 

   「じゃ、じゃあなんならあるのだ?」

   

   そう訪ねる俺ことサー・クロコダイルにバ

  ーの主人はこう言ったッ。メニュー表を見て

  くだせぇ、と。

 

   完全なる隙のない正論ッ。メニュー表を指

  差すバーの主人の視線があまりにも呆れたも

  のであったため、俺ことサー・クロコダイル

  は羞恥で悶えそうであったッ。 くっ。いつ

  ものように格好つけようとしたのが裏目に出

  たかッ。

   周囲からもクスクスと笑う声が上がってい

  るッ。チクチョウッ。隣の美人さんも俺のこ

  とを堪え笑いしてやがるッ。 キッと俺こと

  サー・クロコダイルはその女を睨んでやった

  ッ。

 

   

   「あら、失礼」

 

   美人さんはクスリと笑うと澄ました顔でワ

  インを煽ったッ。ニヒルな笑みが様になって

  るところが憎たらし……って、え? な、ま

  さかッ。こ、この美人さん、もしかして。

 

   俺ことサー・クロコダイルは凝視するッ。

 

   艶のある黒色の長髪ッ。彫りの深い顔つき

  に力強い目付きッ。高い身長ッ。特有の浅黒

  い肌つやッ。

   見れば見るほど間違いなかったッ。この美

  人さんはッ。俺ことサー・クロコダイルは確

  信するッ。

 

 

 

   「……に、ニコ・ロビン」

 

 

 

 

 

 

 

   これはとある能力者の仮初めの物語

 

   

   この世は設定という運命に縛られる。故に必

  然だ。 そう、彼女との出会いは必然であり、

  運命に縛られた結果なのである。

   

   

             サー・クロコダイル

 

 

 



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2話

 

 

   ニコ・ロビン。俺ことサー・クロコダイルは

  確かにそう口にこぼしたッ。そして彼女もまた

  、その身体的特徴からニコ・ロビン本人である

  ことは間違いなかったッ。

 

   「ッ!! どうして私の名をッ?」

 

   警戒心を露にするッ。彼女、ニコ・ロビンの

  目付きが冷たいものに変わったッ。無理もない

  ッ。彼女は現在進行形で指名手配中なのだッ。

   その金額、まさに7900万ベリー。それを

  目をすれば誰もが目を皿にするだろうッ。庶民

  ではまずお目にかかれない高額すぎる高額であ

  るッ。

 

   彼女は遠い地から遥々このアラバスタ王国に

  逃げてきたのだッ。彼女の顔は一度全国に見ら

  れてはいるものの、話題になったのは随分昔ッ

  。遠いこの地にて、彼女の顔を見てその名を言

  い当てられる者は滅多にいないに違いないッ。

 

   その警戒心を大きく高めるのもまた当然であ

  ったッ。

 

   「……そう、そういうことね」

 

   ニコ・ロビンは言ったッ。なにやら答えを導

  いたようだッ。

 

   「まさか、もうここまで追っ手が来てるなん

    て。私も随分嫌われたものね」

   「な、なにぃ?」

   「悪いけど、私はまだ捕まるつもりはないわ

    」

 

   俺ことサー・クロコダイルは慌てたッ。

 

   「ま、まて。俺ぁ別にアンタを捕まえるなん

    てーー」

   「ないとでも? 私の正体を暴いておいて、

    それでも捕まえる気はないだなんて、貴方

    は嘘が下手ね」

 

   冷たい皮肉ッ。俺ことサー・クロコダイルは

  困惑したッ。彼女ことニコ・ロビンの言ってい

  ることが何一つ理解できなかったからだッ。突

  然のことに頭が回らないッ。

   しかしこれだけは分かるッ。俺ことサー・ク

  ロコダイルと彼女の間に明らかな誤解があると

  ッ。

 

   なんとかしなければッ。俺ことサー・クロコ

  ダイルは慌てたッ。とりあえずはと、待ったを

  かけるッ。

 

   「ま、まてっ。とりあえず落ち着」

   「触らないでッ」

 

   警戒心を剥き出しにガタリッと椅子を蹴倒す

  ようにして彼女ことニコ・ロビンは立ち上がる

  ッ。

 

   「ドス・マーノ(二本樹)ーー」

 

   そして構えたッ。二本の腕が俺ことサー・ク

  ロコダイルの両肩から生え伸びるッ。それらは

  俺の顎を捉えると在らぬ方向へと曲げようとし

  ていたッ。

   これは首の関節技ッ。

   

   知っているッ。俺ことサー・クロコダイルは

  転生者故に知っているッ。彼女ことニコ・ロビ

  ンは能力者だッ。

   パラミシア(超人)系の悪魔の実ッ。種名、【

  ハナハナの実】。その能力の実態は自らの身体

  の一部をあらゆる場所を問わずに咲かすことが

  出来ることッ。

 

   この技もまた、その応用であったッ。

 

   彼女ことニコ・ロビンの関節技が決まるッ。

 

 

 

 

   「ーークラッチッ!!」

 

 

 

                               Paaaassssyaaaaaaaaaaaaa

      aaaaaaaaaaannnnnnnnn!!!!!

 

 

 

 

 

 

   「…………えっ!?」

 

    

   細やかな砂が多量に飛び散ったッ。彼女こと

  ニコ・ロビンはその光景に驚くッ。きっと想定

  していなかったのだろうッ。無理もなかったッ

  。本来、能力者など滅多に会うものではないの

  だからッ。

   

   砂煙が周囲に舞うッ。俺ことサー・クロコダ

  イルの首から上、俺の頭部はそこになく、代わ

  りに剥き出しとなった首の断面から砂がサラサ

  ラと流れるだけであったッ。

   本来であれば首が伸展可動域を越えて、血を

  吐くような関節技が決まったに違いないッ。

 

   しかし現実、それはないッ。

 

   当然だッ。

 

 

   俺ことサー・クロコダイルもまた悪魔の実の

  能力者である。

   ロギア(自然)系、【スナスナの実】。

   

   

 

 

  「悪いが効かねぇな。 ……俺ぁ砂人間なもの

   でね」

 

 

 

 

 

 

   これはとある能力者の仮初めの物語

 

   悪魔の実には相性がある。……格がある。パ

  ラミシアがロギアに叶う道理はない。

 

 

             サー・クロコダイル

 

 

 

 

 

 



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3話

 

 

   これはとある能力者の仮初めの物語

 

   決まったと思ったのだ。……しかしそうは

  ならなかった。いかに恵まれようが俺は所

  詮は凡人だったということである。

   

             サー・クロコダイル

 

 

 

 

 

 

   BaNN!!!

 

 

   開閉音ッ。居酒屋の玄関扉が勢いよく開け放

  たれて、人ひとりが走り出ていったッ。

 

  「なッ!!ちょ!?おい待てッ!!」

 

   それが彼女ことニコ・ロビンであると理解し

  たのは遅れて数瞬のことであるッ。俺ことサー

  ・クロコダイルを自らの手で対処するには不可

  能だと即座に判断しての行動か、見事な食い逃

  げであるッ。あまりの意外な行動力に俺ことサ

  ー・クロコダイルは呆気にとられるしかなかっ

  たッ。

 

   しかしそれを見て、食い逃げダァアアアッ、

  とバーの主人が怒鳴り散らすッ。怒るのも当然

  であったッ。

   俺ことサー・クロコダイルも慌てて彼女こと

  ニコ・ロビンの後を追おうと駆け出すッ。だが

  しかし、途端にその腕をガシリと強く捕まれ引

  き留められたッ。バーの主人であるッ。

 

   アンタの知り合いならアンタが代わりに払っ

  てくれよとのことであるッ。いやなんで俺がで

  ある。つか別に知り合いってわけじゃないんだ

  が……。

   説明はするがしかしバーの主人は取り合わな

  かったッ。しまいには通報するぞと脅され、善

  良なる俺ことサー・クロコダイルはしぶしぶ折

  れるしかなかったッ。なけなしのお金を財布か

  ら取り出すッ。

 

  「ちきしょう……、なんで俺が……」

 

   支払いを終えた俺ことサー・クロコダイルは

  店を出たッ。

 

  「あんのやろー、許さねぇ。きっちり払った分

   は返してもらうぞ……ニコ・ロビン」

 

   俺ことサー・クロコダイルは設定とは異なり

  秘密結社を作ってもいなければ社長でもないの

  だッ。余裕はないため金の貸し借りについては

  厳しくさせて頂くッ。

 

   俺ことサー・クロコダイルは地面に手を置い

  たッ。砂であるッ。砂漠国である以上、地面が

  砂にまみれているのも当然であったッ。

   スナスナの実。砂人間である俺ことサー・ク

  ロコダイルにとってこれほど都合の良いことは

  なかったッ。

   全ての砂は俺の味方であるッ。

 

 

  「……グラウンド・リスポスタ(砂漠の反響探知

   )」

 

 

   砂の地面を歩くことによる発生する足音を捉

  えることで、相手を捕捉する技であるッ。砂の

  地という砂漠国だからこそ行える、まさに環境

  が味方してこそ使える技であったッ。

 

   目をつむり視界を閉ざすッ。視界を閉ざした

  真っ暗な世界ッ。国中に広がる砂漠の上を人々

  が歩くため、足音が波紋のごとくそこらじゅう

  に点在しているのが伝わったッ。歩く人などそ

  こらじゅうにいるのだから、足音が多発して伝

  わるも当然であったッ。

   そんな中、俺ことサー・クロコダイルはしか

  と捉えたッ。 ここからそう遠くない場所ッ。

  俺から少しでも距離を離そうとしているかのよ

  うに常に走り続ける不規則な足音だッ。

 

   

  「……そこか」

 

   確定するように呟くッ。居場所が分かれば後

  は行動あるのみッ。そこに向かうだけだッ。重

  い腰を起こすッ。 無論、わざわざ走って追い

  かけようなどと俺ことサー・クロコダイルは思

  わないッ。

   能力者とは、常に自らの力がいかに便利に働

  くのか考えているものだッ。俺ことサー・クロ

  コダイルもまたそうであるッ。

   砂の力があるのだッ。それを使った方が断然

  早いッ。

 

 

   

   風が舞ったッ。自らの身体を砂埃のこどく粒

  子と化すッ。俺ことサー・クロコダイルは風に

  溶け込むようにしてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

   これはとある能力者の仮初めの物語

 

   食い逃げは重罪だ。身に染みて実感した。被

  害を被るのはなにも店側だけではないのだ。

  そう、……俺の財布である。

 

              サー・クロコダイル

 

 

 

 

 



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