【休載中】混沌の魔法騎士王 (森雄)
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 オリ主──────

 

 名前:アルト(本名:アルト・キーラ)

 生年月日:10月15日

 年齢:15歳

 血液型:O型

 種族:人間→半神半人

 

 魔法属性:混沌

 属性説明:世界・生命の創造を行えるほどの膨大な魔力。全ての魔法属性を有してもいるため、魔力のないアスタの【反魔法】すらも触らなければ使える。全ての生命や強魔地帯の魔力すらも遥かに超えてしまう為、魔力の全解放は魔法を使った事すら感知できない。新たな魔法属性に覚醒するには一度でも属性の効果を目にする必要があるが、術者の力量によって大いに変化する。

 

 

 魔導書:四つの国のマークを有した陰陽のマークを持つ魔導書

 

 概要:全ての神々の母たる神の母と悪魔へと転生させる呪いを受けた王族キーラ家の父を持つ。精神は500年前にエルフのファナと恋人だった王族の魂の転生者で神・悪魔の力と人間の力を持った事で混沌の魔力を得る事になった。魔導書を持たずとも魔法を創造していた為、既に中級魔法騎士レベルに当たる。しかし、混沌の魔力は10段階で枷を受けており、段階を超える事すら断崖を上るに等しい行為の状態である為、本来の力を十全使えない。特に8段階目からは天地が反転するほどに覚醒が難しい。戦火でのアルトの行動基準は「理不尽を一切赦さない」ことだ。理不尽を許容することも一切なく、理不尽を潰すことがアルトの本心だった。名前の由来:Fateのアルトリアから参照

 

 所属する魔法騎士団:「紅蓮の獅子王」団

 

 ライバル:アスタ、ユノ

 尊敬する人:ユリウス、父、母、フエゴレオン、メレオレオナ、ヤミ、ノゼル、リヒト、ルミエル

 

 悪魔憑き:消滅魔法の悪魔(バヴェル)

 神憑き:生誕の神(ビナー)

 

 登場した魔法剣(現在):聖剣エクスカリバー

 

 

 真混沌魔法への段階:1段階目・生きていること、2段階目・魔導書を手にすること、3段階目・悪魔/神の力に覚醒すること、4段階目・残りの悪魔/神の力に覚醒すること、5段階目・矛盾な感情を超越すること、6段階目・概念と理を創造すること、7段階目・全種族の王になること、8段階目・世界中の魔を完全支配すること、9段階目・星そのものを創造しなおし全知全能となること、10段階目・全知全能を越える最強になること

 

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 ヒロイン──────

 

 ミモザ、マリエラ、ファナ、ドロシー、ヴァニカ、オリキャラ、一花

 

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 オリキャラ紹介──────

 

 父・バヴェル・キーラ:クローバー王国の三大王家の一つであるキーラ家の生まれで、ダムナティオ・キーラの叔父に当たる人物で、13世目のクローバー王候補兼魔法帝候補にまで選ばれた有力者。王族らしい傲慢な態度を有しておらず、「国民一番」という思想をしている人物だった。消息不明になるまで魔法騎士団長を務めていて、アシエやユリウスと同期だが、実力は二人以上。思想から国民からの信頼も厚くアウグストゥス・キーラが選ばれる事は無いに等しかった。「刀剣魔法」の使い手でアルトの魔法剣と似た名前を持つ剣魔法を使い勝利を手にした事から「勝利の剣豪」の異名を持っていた。しかし、次期国王発表の数日前に彼はある調査の為に強魔地帯に入るとそこで神々の母たる存在・ビナーと出会い、ビナーと暮らしていく内に一児の父親になるのだった。しかし、神との間に混血を作った事を他の神が赦すことはなく、神々の呪いで悪魔へと種族を変えられ、魔法属性を失う。魔法属性を失った為に魔力弾以外の方法が使えなかったが、呪いを与えた神をビナーが子宮内にいる子供に悪魔化バヴェルを封印した。バヴェルはアルトの中で「消滅魔法」を開花する。それ以降は消滅魔法の悪魔になった。

 

 

 母・ビナー:「セフィロトの樹」に座する最上位の神様。全ての神の母たる存在で嘗て四つの国を創った混沌の魔導士と出会った事がある。彼女は各々固有の権能を持つ神々を産み落とした。「生誕魔法」の神で、他の神の権能すらもビナーは生み出す。簡単に言えば全能な存在だ。しかし、混沌の魔導士の死後、神々は多種族を下等な種族と見下す様になり、幻滅して下界へと降り立つとバヴェルと出会い半神半人の子を宿す事になる。しかし、人間が神々の母たるビナーとの間に子を宿した事を良く思わなかった神が下界してきてバヴェルを悪魔へと転生させて魔法属性を消しさった。それを見たビナーはバヴェルと自身の力の一部を子供の中へと封印し、自身の「生誕の権能」から完全超越神(デウス・エクス・マキナ)として力を与え、呪いを掛けた神を殺し、子供‥‥‥アルトを産み落としクローバー王国の教会へと預けて自身の全生命力を引き換えに神々の地である天府から下界出来ないように15層の壁を作り出して死んだ。

 

 

 シェン・シルヴァミリオン・クローバー:ルミエルとテティアとは異母兄弟で「根源魔法」の使い手。悪魔によって姉と恋人達を殺した悪魔を倒す為に魔法で500年も転生し続けた。しかし、転生には自身の血が入っている者‥‥つまり王族に転生し続けていた。人の名工が鍛え、剣の精霊が宿り、神々が祝福した魔法剣である「霊神人剣エヴァンスマナ」を王族の大地に突き刺した。

 

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 原作改変部分──────

 

 原作死亡キャラ蘇生(エルフやアシエ・シルヴァなど)

 

 星果祭でオリジナル団が二位で[黒の暴牛]は三位。他一つずつ降位

 

 マリエラ=[紅蓮の獅子王]団に入団+実力強化。

 

 ミモザ=ハート王国から帰国する際に盗賊に襲われ、当時の魔法騎士団員では対処できず誘拐される所をハージ村から届け物を送りに行っていたアルトが偶然出くわした際に助けられる。アルトに助けられた事を感謝しようとしたが、アルトが話し掛ける前に帰ってしまった為に感謝を告げられずじまいに終わった。それ以降はアルトへの好意と尊敬を抱きながら強くなっていた。叙勲式で再会した際に感謝を告げる。

 

 ファナ=エルフ族の娘。リヒトと同じく王族のシェンと愛し恋仲になっていた。しかし、悪魔によって人間を恨み、殺すことを捏造された。洞窟での一戦にてアルトの魂が恋人である事を知り、「影の王宮」での一件後アルトと共にいる。

 

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 他作品要素入りの魔法・武器:魔王学院の不適合者、魔法科高校の劣等生、OVERLOAD、ドラゴンボール、ハイスクールD×D、七つの大罪(漫画)、ポケモン、ウルトラマン、BLEACH、仮面ライダー、ソードアート・オンライン、トリコ、学戦都市アスタリスク、バトルスピリッツ、失格紋の最強賢者、マギ、骸骨騎士様、只今異世界お出掛け中、転生賢者ビナー、殲滅魔導の最強賢者、とある系、ガンダム、トランスフォーマー(実写版)、オリエント、コードギアス、ロクでなし魔術講師と禁忌教典、デート・ア・ライブ、

 



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第一章~入団試験編
誓い


HAPPY New year!!

昨年では病気に掛かったりして身体の状態が良くありませんでしたが、年始めに新作を出来て嬉しいです。



 超新星爆発などによる星々の間に生まれた一つの意思を持つ力の塊。

 その名も混沌。

 混沌が星を生み出し、世界を構築し、生命を創造する。

 

 

 

 

 

 神話の時代。

 その混沌の力を得た1人の魔導士によってある大陸は四つに分けられた。

 その力を宿した魔導書(グリモワール)には四隅に四つのマークが刻まれていた。

 魔導士はその四つから四大陸が出来上がった。

 

 混沌の魔導士の魔導書の中央に描かれた記は陰陽が刻まれていた。

 

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 人間は魔神に滅ぼされるかに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それを止めたのはたった1人の魔導士だった。

 彼は魔神を倒し、"魔法帝"と呼ばれ、伝説となった。

 その魔導士の持つ魔導書には四つ葉のクローバーが刻まれていた。

 

 ────────────────────────

 

 魔神討伐、初代魔法帝誕生の一件から500年の月日が経ち、何人もの魔法帝が選出された。

 現在の魔法帝はクローバー王国の隣国の侵略国家___ダイヤモンド王国との戦争を終え、信頼できる仲間達と共に帰国した。魔法帝と魔法騎士団が戻ってきたことにクローバー王国の三つに分けられた区分の内、一番区分が高い王族・貴族が住まう王貴界にて大騒ぎだった。

 そんな中、一番区分が低い下民が住まう恵外界の最果ての村。嘗て国を滅ぼそうとした魔神の骨が一番近くにあるハージ村ではそんなお祭り騒ぎを知る由もなく、ハージ村では恒例と言わんばかりの言葉が村中に響き渡る。

 

「結婚してくださぁぁぁぁぁい!!!」

 

 その声が聞こえたのはハージ村に建設されたたった一つの教会だった。

 件の教会ではシスターに一輪の花を向けて告白する灰色の髪をした少年がいた。

 彼の名はアスタ。シスターの名はリリィ・アクアマリン。

 アスタはシスター・リリィがこの教会に来てから一目惚れしてしまい、約10年間も告白を続けている。

 そして、告白を受けているシスター・リリィに関しては何度も何度も告白を断っていた。

 しかし、アスタは一向に諦めず今尚プロポーズをしていた。

 あまりのしつこさに業を煮やしたシスター・リリィは魔導書を開き、魔法を発動してしまう。

 

 ────水創成魔法"愛の正拳突き"────

 

 水魔法によって出来た黄色い十字架を浮かべた水の拳がアスタを地面に叩き付ける。

 魔法を発動してから気を取り直したシスター・リリィはアスタに大丈夫かどうかを尋ねる。

 尋ねられたアスタはすぐさま、尋常な身体能力にて飛び上がり、リリィに迫る。

 しかし、そんなアスタに一つの強風が襲い、空中に投げ出され、地に落ちる。

 

「いつまでやってんだよ」

「アスタらしいね」

 

 そんなアスタに次々に言葉を告げたのはこの教会に捨てられた子供であるレッカとナッシュがアスタに行動に呆れていた。

 そして、2人の隣にいたアスタと同じ15歳の高身長の青年___ユノが先程のアスタを風邪を発生させた張本人である。

 アスタは告白を邪魔したユノや、年上に対しての口調が悪いナッシュに抗議する。

 しかし、一切の魔法を使えないアスタを馬鹿にするナッシュ。

 可愛げのないナッシュにグヌヌと唸るアスタ。

 しかし、気を取り直したアスタが洗濯した洗い物を干そうと洗濯物に視線を向けると、既にユノが畦の魔力で乾燥させていた。

 

「わぁ! ユノ兄凄い!!」

「助かるわユノ」

「ねぇねぇ、アルト兄ちゃんが見当たらないよ?」

「アルトならそろそろ帰ってくる頃だと思うけど‥‥」

 

 ユノが風の魔力で乾かしているのを見て喜ぶレッカ達だったが、そんな中、アルルがもう一人の最年長の少年の名を呼びながらシスター・リリィに話し掛ける。

 シスター・リリィはアルルの質問に曖昧な返答をする。

 

 ドスゥン!! 

 

 しかし、アルルの質問に答えるように空から光の槍で串刺し状態になっている二匹の猪が落ちてきた。

 

「今日のご飯を持って帰ったぞ」

「アルト兄ちゃん!」

 

 突然の猪が落ちてきたことに驚いている教会の子供とシスター。

 しかし、そんな彼等の驚愕など気にしていないのか、猪を落とした張本人である金髪で175cm前後の少年が上空に浮いていた。彼こそが先程、アルルが質問した際に出てきた人物であるアルトだ。

 アルルはアルトを見ると喜んだ。

 

「まぁ!? 立派ね」

「後二匹捕えたから村中で食べよう?」

 

 アルトは左手に浮かべさせている落とした二匹と同じ猪を浮かばせていた。

 

「そうね、今日は村中の人達と食べましょうか?」

『わぁ~い!!!』

 

 村中で四匹の猪を分けながら食べる事になり、アルトとユノは手分けして村中に掛け合った。

 アスタは魔法で役に立っている同じ日に捨てられたアルトとユノに嫉妬し、魔神の骨にて筋トレをしに行った。

 2人はアスタを無視して村中の人達に向かって行った。

 

 アルトとユノによる誘いに答えてくれたのは教会にボランティアで手伝ってくれている人達と教会近くで畑仕事をしている達が集まった。

 四匹の猪をそれぞれ焼き肉や豚汁の様に様々な料理を作って食べていた。

 この時の夕食は誰もが楽しく食していた。

 

 ────────────────────────

 

 翌日。

 15歳になった少年達は魔導書塔にやってきた。

 この国では15歳になった少年達はその年で漸く魔導書を持つことを赦されている。

 つまり、アスタやアルト、ユノもその赦された者となったのだ。

 

 ハージ村に近い魔導書塔にやってきたアルト達。

 そこには既に3人の他にも15歳になった少年少女がいた。

 魔導書塔の脇には神父やシスター、子供達もおり、他にも付き添いの者達がいた。

 魔導書塔内に一台だけ台座のような物があり、台座の上にこの魔導書塔の管理人が現われた。

 管理人は魔導書に関する事を長々と説明していた。

 しかし、誰1人として管理人の説明を聞き逃すことはなかった。

 

『────‥‥それでは、魔導書授与!』

 

 声量を上げる魔導具から告げられた魔導書授与の言葉に反応するように魔導書塔内にある魔導書がそれぞれ青や赤、緑‥‥無数の色を輝かせて本棚から飛び出した。

 飛び出した無数の魔導書がそれぞれ自身の持ち主の元へと向かって行く。

 

 自身へ飛んで来た魔導書を手にした少年少女は各々反応は違ったが、歓喜に喜んでいた。

 しかし、そんな歓喜の場に1人の呼びかけが聞こえた。

 

「あの~‥‥魔導書が来ないんですけど‥‥?」

 

 呼びかけたのはなんとアスタだった。

 アスタの呼びかけた内容は自身の元に魔導書が一冊もやってこない事だった。

 魔導書内に静寂が襲い、管理人は前例のない事に戸惑い、また来年と言って諦めた。

 管理人の言葉に驚愕するアスタだったが、魔導書を手にできないアスタを嗤う他の少年少女達。

 アスタの住まいである教会の者達もあまりの事に言葉が出ずにいた。

 

 誰もがアスタを馬鹿にしている中、二つの光が輝いていた。

 

 一つは黄金に光り、もう一つは純白と漆黒に光り出していた。

 その光を放つ魔導書を手にしていたのはアルトとユノだった。

 ユノの持つ魔導書には気品を有した緑色の表紙に四つ葉のクローバーがあり、アルトの持つ魔導書には表紙に白と黒の渦巻き状の絵柄に陰陽マークと表紙の四角に四つ葉のクローバだけでなく、スペードやハート、ダイヤモンドのマークまでもが描かれていた。

 

「伝説の‥‥四つ葉の魔導書‥」

「神話の‥‥魔導書」

 

 何故、アルトとユノの魔導書がそれぞれ伝説・神話の魔導書と言われているのか。

 

 先ず、ユノの持つ魔導書が伝説になっているのか‥‥それはハージ村近くにある魔神を倒した初代魔法帝は"幸運"を宿した魔導書を手にしていたらしい。

 しかし、彼と同じ四つ葉の魔導書を持つ者はいなかった。

 つまり、ユノは初代魔法帝以来の四つ葉の魔導書に選ばれた存在であるという事だ。

 

 次ぎにアルトが持つ魔導書は神話の時代に世界を、生物を創造し、大陸を四つに別け国を創った魔導士が持っていた魔導書は四つの国のマークが描かれていた。

 つまり、アルトの魔導書は世界を創り出した神に等しき力を持った代物なのだ。

 

 神話と伝説の魔導書が目の前に現われた事に言葉を失い呆然と見守る皆。

 そんな皆に己の魔導書を手に持ったユノとアルトは告げる。

 

「俺は‥‥‥魔法帝になる」

「いいや、魔法帝になるのは俺だ!」

 

 2人のこの言葉に歓喜の声が魔導書塔内に広がった。

 神話と伝説の魔導書を手にした希望の星だと次々に告げる者達。

 その中には下民が四つ葉や神話の魔導書を手に入れた事に現実逃避する者もいた。

 そして、アスタは‥‥‥‥

 

「‥‥‥いいやアルト、ユノ。魔法帝はオレだ‥‥!!!!」

 

 アスタは魔法帝になる宣言をした2人に競って自分が魔法帝になると告げる。

 しかし、それを聞いた周りの者は爆笑し、アスタを嘲笑う。

 そんな中、宣言された2人は‥‥‥

 

「‥‥‥ありえねー」

 

 ユノはそう言ってアスタの隣を通り過ぎ、魔導書塔外へと歩んだ。

 その言葉を聞いたアスタは呆然とするが、アルトはアスタの隣を通り過ぎた直後、ある一言を告げた。

 

「‥‥さっさと来いよ」

「っ! ‥‥おう!!」

 

 その言葉だけでもアスタにとって十分に呆然から解放される言葉だった。

 

 しかし、魔導書塔内ではアルトとユノの魔導書を見て不敵な笑みを浮かべる妖しい影がいたことに誰も気がつかなかった。

 

 ────────────────────────

 

 魔導書を貰ったアルトは教会に帰ってくると料理を手伝おうとした。

 しかし、今日は神話・伝説の魔導書を手にしたアルトとユノのお祝いである為、休めと神父に言われたアルトは教会の祭壇を掃除していた。

 1人で掃除していたアルトは一通りの掃除を終えると食卓へと向かうとユノとアスタが帰ってきていなかった。

 

「あれ? アスタとユノは?」

「それがまだ帰ってきてないの」

「‥‥‥ちょっと探してくるよ」

「場所がわかるの?」

「検討はついてるよシスター」

 

 アルトは食事の皿を食台に置き始めていたシスター・リリィから話しを聞き、2人を探し始めた。

 

 アルトは教会から出て行くと先ずはアスタから探そうと思ったが、先程までいた魔導書塔から炎の魔力と風の魔力を感じ取った。

 しかもその風の魔力はアルトがよく感じ取っていたユノの魔力だった。

 

「ユノは魔導書塔にいるのか。アスタは何処だ?」

 

 ユノが誰かにいちゃもんを付けられて攻撃を受けて正当防衛をしたのだろうと考えたアルトは魔力を感じ取れないアスタから探そうと思った。しかし、ユノの魔力を感じ取った魔導書塔から別の魔力を感じ取り、ユノの魔力がまるで封じられたかのような力を感じ取った。

 

「ユノに何かあったのか!?」

 

 アルトはユノに何かが起きたと感じ取り、すぐさま向かって行った。

 

 

 

 

 

 アルトが魔導書塔に到着すると其処には鎖で拘束され魔導書を奪われたユノと、ユノの魔導書を奪った顔の左側が焼け爛れている犯人がいた。

 その光景を見てアルトは怒りに揺れた。

 

「何してやがる!!」

 

 アルトは真っ直ぐに魔導書を奪った罪人__レブチに向かって行く。

 そんな愚直な行動にレブチはニヤついた笑みを浮かべながら魔法を放った。

 

 ___鎖魔法"魔縛鉄鎖陣"___

 

 レブチは魔導書を貰ったばかりのアルト達を相手なら簡単に勝てると思ったのかユノに掛けた魔法と同じ魔法を使って攻撃する。

 しかし、アルトは生まれつき行使できていたマナスキンを用いてレブチの魔法を柔軟に回避していた。

 

 マナスキン____(マナ)を身体能力向上に使い続けることで魔導士の魔力に磨きがかかり、極致領域に達した状態。マナスキンを使用することで、自分の魔導書の属性魔力を常時身に纏うことが可能な戦闘技能。

 

「なに!?」

 

 唯の魔導書を貰ったばかりの者が自身の魔法を回避したことに驚きを隠せずにいた。

 そんなレブチの心象など気にしておらず、彼はそのまま拳に魔力をため込んだ。

 

「粋がるな!!」

 

 ___鎖魔法"鎖蛇の舞い"___

 

 

 アルトに回避された事で驚愕していたレブチはアルトの行動を見て対等に闘えると思い込んでいるアルトに今度は攻撃性が高い魔法で襲った。

 蛇のごとき動きをしながら攻撃してくる鎖魔法。

 その鎖魔法に一切自惚れやいい気になっている分けではないアルトは上下左右から襲ってくる鎖を並外れた身体能力にマナスキンによる更なる身体能力向上も上乗せされて、早めに襲ってきていた右側の鎖から躱し初め、続く左・上・下からくる鎖魔法を全て回避した。

 

 その光景に魔法騎士だった頃の自身の魔法が通用しないアルトに苛立ちを浮かべるレブチは魔力弾を撃ちながら鎖魔法を行なおうと考えた。

 しかし、その思考は不要のモノとなった。

 その理由は魔導書塔の入り口までにある左右に同じ高さの壁がある。

 その壁に向かってアルトの背後で衝突した者がいた。

 

 その者が衝突したことで壁が陥没した際の音が強烈だった為、レブチから視線を離してしまったアルト。

 アルトの視線の先には何とアスタが壁に衝突していた。

 

「アスタッ!!?」

「アスタ‥‥」

 

 壁に衝突した人物がアスタだと知るとアルトとユノは驚愕した。

 そんなアルトの行動を見逃さなかったレブチはユノに掛けた魔法を‥‥‥つまり"魔縛鉄鎖陣"を掛けた。

 

「ッ!! しまった‥‥」

「痛たた‥‥ッ!? アルト、ユノ!?」

 

 アスタは壁に衝突した痛みから立ち直るとアルトとユノの現状を確認し驚愕していたが、すぐさま2人を襲っているレブチに目を付けて、二人を助けるために向かって行く。

 

 しかし、アスタの動きはアルトと違い、唯々猪突猛進に駆け抜けるだけでレブチから放たれた"鎖蛇の舞い"によって身体を傷つけられ壁に激突させられた。

 

 あまりの攻撃の重さにアスタは壁に背を凭れさせて動けずにいた。

 

「良いことを教えてやる、お前には魔力が一切ない。生まれつきだろうな。生まれながらの負け犬君」

 

 レブチはアルトとユノがアスタに隠していた真実を告げてしまった。

 その真実にアスタは絶望の淵へと叩き落とされてしまい、彼の精神は諦めの二文字へと変貌し、闇が覆い尽くそうとしていた。

 しかし、そんな彼を光へ、希望へと変えた者がいた。

 

「おい、誰が負け犬だ?」

 

 声を発したのはユノだった。

 

「アスタ、お前が魔法帝になることはねぇ」

 

 ユノのその言葉は魔力が無いアスタへのダメ押しだと思ったレブチは更にアスタに罵倒しようとするが、ユノは自分が魔法帝になると告げ、続いてこう言った。

 

「────‥‥アスタはオレのライバルだ」

「は?」

 

 ユノの言葉にアスタは目を見開きレブチはユノの言っている言葉に理解が追いつかなかった。

 しかし彼の言葉を真に理解できたのはこの場にいる者で二人だけだった。

 

「さっきも言ったろユノ。魔法帝になるのは俺だ! ライバルのお前とアスタじゃねぇ」

 

 アルトもユノの言葉に感化されてライバルへの「魔法帝になる」宣言を告げる。

 ユノに続いて理解不能な事を告げるアルトに怪訝な視線を向けるレブチだったが、そんな彼は次ぎに思わぬ事が起きた事で驚愕・恐怖を覚え後退りするのだった。

 何故恐怖したのか。

 それはレブチがアスタの肩を踏みつけていた足をアスタが掴み、彼の努力によって得た膂力による痛みが彼を襲い、同時にアスタの気迫に恐怖したのだ。

 

「まだだ‥‥‥!」

 

 先程まで諦めと絶望に変えられたとは到底思えぬ気迫だった。

 

「情けねぇとこ見せたなアルト、ユノ‥待ってろ。すぐに倒して助けてやる」

 

 アスタが片膝を地に着けながら立ち上がろうとすると彼の意志に応えるように魔導書塔の外壁を突き破ってボロボロな魔導書がアスタの前に現われた。

 

「‥‥魔導‥書‥‥」

「‥‥‥やっぱりな、アスタが選らばれぇなんてありえねー」

「漸くスタートラインに入ったな、アスタ」

 

 ユノとアルトのその言葉に、二人は最初からアスタが魔導書に選ばれる存在である事に気付いていた。

 故に、魔導書授与の際に魔導書が手に入れられなかったアスタをユノは否定したのではなく、魔導書に選ばれない事を否定したのだ。

 そして、アルトも例え魔導書に選ばれずともアスタは限界を超えて魔法騎士になろうとすることに気付いていた。

 

 各々違う思いだったが、一つだけ同じ部分があった。

 それはアスタが必ず這い上がってくること‥‥‥‥‥

 

 アスタの前に現われた魔導書は自ら本が開き文字が描かれたページへと開くとそこからボロボロな大剣が顕現し、アスタはそれを手にした。

 レブチは魔力のないアスタが魔導書を手にした事に困惑しながら、アスタの背後から見える禍々しい人の物ではない幻覚に恐怖し、魔法を放った。

 

 三つ葉クローバーにはそれぞれ「誠実」「希望」「愛」が秘められている。

 四枚目には「幸運」が宿り、五枚目。つまりアスタの魔導書には‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‥‥‥「悪魔」が棲む。

 

 

 アスタへと魔法を放つレブチだが、アスタが手にした大剣を一閃すると彼の鎖魔法は簡単に消え去った。

 その光景はレブチに更なる驚愕を与えるには十分なことだった。

 

「おい‥‥相手がアスタだけなわけねぇだろ」

「あん?」

 

 アスタの手にした力に驚愕し怯えるレブチにアルトが話し掛けた。

 アルトは掛けられた魔法を魔力を上昇させる事で魔法を壊そうとしていた。

 アルトの行なおうとしている行動が読めたのかレブチは自身の魔法が掛けられた状態から魔力を放つことなどできないと高をくくる。

 それもそうであろう。

 彼は魔法騎士としてこの魔法で魔力を封じ、自身の魔法が無敵だと息巻くほどなのだから‥‥‥

 

 しかし、彼のその自信はアルトの前では何一つとして役に立たない。

 何故なら‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‥‥‥彼は混沌の魔導書に選ばれたのだから。

 

「‥‥‥う、嘘だろ‥‥!?」

 

 レブチはアルトの鎖魔法が少しずつひび割れていき、同時にレブチの魔法で封じられていた魔力が漏れていき、その魔力量はこの国の王族を総動員しても及ばないほどの魔力量だった。

 

 その魔力量の絶大さと重圧感にアルトの近くにいるレブチやユノは冷や汗を流していた。

 況してや、アルトに睨み付けられているレブチは水分の全てが放出されるかの如く滝のような汗を流していた。

 

「ハァァァアアアアアア!!!!」

 

 ギシッギシッと音を鳴らしながら鎖が鳴り響き、ヒビ割れが酷くなり遂には鎖が壊れた。

 

 鎖魔法で僅かに封じられていたアルトの魔力も解き放たれた事でアルトの持つ本来の魔力量が放出された。

 その魔力量はこの国に住む魔力を持つ者全員が感知した。

 しかも先程までユノやレブチが冷や汗を流していた重圧は更に増加した。

 国そのモノを押し潰さんとする程の重圧が国中で襲い掛かった。

 そんな重圧を出してしまったアルトはすぐさま放出した魔力を抑える。

 

 そして、彼は自身の魔導書を開き、魔法を一つ使用した。

 その魔法は魔導書から剣の柄らしき柄頭が菱形になっていた。

 

 アルトはその柄を掴むと引き抜いた。

 すると、柄しか見えなかった代物は鍔と刀身を顕わにした。

 

 柄は黄金に輝く勾玉に似た形状に天使の翼が付いており、刀身は白い刃に剣先が無数の天使の一対両翼が出ていた。

 

 ___混沌魔法"聖剣エクスカリバー"___

 

 

 アルトの感情によって光の白や闇の黒に刀身が変化するが、唯一無二の生命・世界創造を行える聖剣。

 一言で言えば万能剣だ。

 

 そんな聖剣からは先程のアルトの魔力も秘めており、壊すことは不可能に近い。

 

 そしてそんな聖剣を手にしたアルトはアスタに話し掛けた。

 

「行くぞアスタ」

「おう‥‥!」

「クソがぁぁぁぁあああああ‥‥‥‥!!!!」

 

 レブチは自棄になり鎖魔法を放つがアスタが一閃すると鎖魔法は消滅した。

 アスタがレブチの魔法を無効化するとアルトは聖剣を振った。

 するとレブチの四肢を四属性‥‥‥つまり、火・水・風・土の枷によって拘束される。

 突然の枷に驚愕し慌てるレブチだが、そんなチャンスを見ぬがさないアスタは彼の努力によって得た身体能力による高速移動で近づき、レブチに一閃した。

 大剣と言ってもボロボロである為か強力な打撃としてダメージを負わせるほどの威力しかないアスタの剣によって腹に強烈な打撲を受けたレブチは壁にまで吹き飛ばされた。

 

 その一撃だけでレブチは意識を失いユノに掛けられた魔法は解かれた。

 

 その後、魔導書塔の管理人が呼んだ魔法騎士がやってくる前にアルトがレブチを拘束した。

 ユノは奪われた魔導書を拾うと魔導書を手にできた事に歓喜しているアスタに近づき、彼等二人に交された約束を確認し合っていた。

 

 二人は笑みを浮かべながら握り拳を互いにコツンとぶつけ合う。

 

「ほら、アルトも来いよ」

「俺もか?」

「ライバルって言ったのはお前だろ」

 

 アスタとユノからアルトもするように告げられると彼は仕方がないと言わんばかりに頭を掻きながら近づき、頭を掻かなかった方の手をぶつけて、三人は約束を告げる。

 

「「「誰が魔法帝になるか、勝負だ」」」

 

 三人の約束‥‥いや、誓いは魔神の骨の頭から照らす夕暮れが三人を照らしていた。

 その後、アスタは教会の皆に魔導書を手にできた事を報告するのだった。

 



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ユリウスとマリエラ

 泥棒犯レブチが魔法騎士団の牢屋へと護送され、アスタやアルト、ユノは魔導書を手にした翌日から三人は各々魔法騎士団に入団するためにハージ村に近い場所にて修行していた。

 

 無論、ライバルである三人が同じ場所にて修行することなどありえず、彼等は各々別の場所にて修行を行なっていた。

 

 魔法騎士団に入団するために修行している一人であるアルトは既に修行を始めていた。

 先ず彼が先に行なった事は聖剣エクスカリバーを使えるように剣を振っていた。

 しかも、その聖剣はアルトが想う(・・)だけであらゆる魔法属性を作り出してしまえる事と幾多の剣豪が使っていた剣術を知り、その力を使い熟せる様に二日間、剣の使い方を自習していた。

 

 そんな中、聖剣によって現われる無数の魔法属性から多数の種類の魔法が出来上がった。

 カウンター系や高速攻撃系、拘束系など色々と魔法を作り出した。

 特に聖剣を使った闘い方が多かった。

 

 そんな中、アルトは聖剣に魔力をため込み斬撃として放つ魔法を模索して振っていた。

 何度も何度も、まるで竹刀を振るかのように‥‥

 

 しかし、聖剣に魔力を流し振っても1cm程の縦一線を木に傷つける事しかできなかった。

 

「‥はぁ‥はぁ‥はぁ‥‥上手くいかねぇな」

 

 アルトは息切れを起こしながら斬撃を出せずにいる事に悩んでいた。

 そんな時、ある1人の人物が声を掛けてきた。

 

「うぉぉぉぉおおおお!!!」

「っ!?」

 

 突然の大きな声に驚き、声のする方へと視線を向けると此方に走ってくる。

 白いモサモサの毛に二、三個のエンブレムを付け、身の丈ほどの赤いマントを羽織った灰色の髪色をした中年男性だった。

 その男性は目を輝かせてアルトに切迫してきた。

 先日のレブチの一件もあって驚きを隠せない中、警戒した。

 

 そんなアルトの素人丸出しの警戒に中年男性は苦笑しながら話し掛けた。

 

「あぁ、ごめんごめん。驚かせたね。私はユリウスという魔法好きの魔法騎士だよ」

「アルトです。魔法騎士なんですか?」

「そうだよ、もしかして魔法騎士に興味があるのかい?」

「魔法騎士より、俺は魔法帝になりたいんです。その為に修行してるんです」

 

 アルトはユリウスが魔法騎士だと知ると興味を持った。

 ユリウスも魔法騎士に興味を持ったアルトに質問をするとアルトが自分の夢を語った。

 

「なるほど、君は魔法帝になりたいんだね」

「はい!」

 

 ユリウスの質問にアルトは元気よく返事をした。

 

「そうか、それじゃ頑張って魔法騎士団に入らないとね。それで‥‥その剣は一体なんだい?」

 

 ユリウスはアルトに激励を送ったあと、彼が切迫してきた理由であるアルトの持つ魔法剣‥‥‥つまり聖剣エクスカリバーについて話題を変えた。

 彼の目は先程の切迫した際のキラキラとした目の色で見つめていた。

 

「(本当に魔法好きなんだな‥‥)エクスカリバーの事ですか?」

 

 アルトはユリウスの変貌に本当に魔法好きなんだなと思いながら、手に持つ聖剣の名を告げる。

 すると、その名にユリウスは驚愕したように目を見開いた。

 そんな彼の変化に気になったアルトは声を掛けた。

 

「どうかしたんですか?」

「っ! いいや、何でもないよ。聖剣なんて創れるなんて君の魔法は一体何魔法なんだい?」

「混沌魔法です」

「混沌魔法!? あの神話の魔法なのかい? 凄いねぇ初めて見たよぉ!!!」

 

 アルトに問われると何もなかったかのようにユリウスが返事をしたので追求することなく話しを続けた。

 するとアルトの魔法が混沌魔法だと知ると先程以上に目の色を輝かせてアルトの魔法を褒めていた。

 その後、ユリウスに聖剣に触らせて欲しいと言われて触らせるが、一切反応を示さなかった。

 否、正確には反応はあった。

 

 アルトが渡した直後、聖剣が勝手に大地に突き刺さり、抜くことが出来なくなった。

 突然に突き刺さったが為にユリウスは驚いてしまった。

 

「うぉっ!?」

「な、なんでいきなり刺さったんだ?」

「ん! ふん!! う~ん抜けないね」

 

 突然に聖剣が突き刺さった事に使い手であるアルトですらわからずにいたが、ユリウスが試しに引き抜こうとするとしてみるが、いっさい抜けそうにもなかった。

 そんな聖剣を感じて手を離したユリウス。

 

「ちょっとすみません‥‥ふん!」

 

 代わりにアルトが聖剣の鞘を掴み、一気に抜くと、大地から軽々と抜かれた。

 その光景を見て、所有者であるアルト以外が掴んだとしても使う事も、聖剣を持ったまま刀身を見ることも出きなことを知ったユリウスであった。

 

 ユリウスはその後、アルトに刀身や聖剣による魔法を見せて貰い満足した。

 満足させて貰った代わりに彼は出会う前にアルトが悩んでいた事の相談相手になった。

 

「ありがとうアルト君。そういえば、何か悩んでいた顔をしていたけどどうしたんだい?」

「っ! ‥‥‥実は────────」

 

 アルトはユリウスに伸び悩んでいた事を相談した。

 ユリウスは真剣に相談に乗ると、彼はある助言をした。

 

「覚悟が足りないんじゃないかな?」

「覚悟?」

「そうだね、剣に魔力だけじゃなく覚悟も入れるんだ。"自分が全てを守る"。"守る為に剣を振り続ける"とね」

「守るために‥‥剣を振う」

 

 アルトは聖剣を見ながらユリウスが言った例えを復唱した。

 一度目を瞑り、精神を集中すると、彼は突然、目をキリッと睨み付けて空へと聖剣を振い斬撃を放った。

 

 すると、ズオッ!!! っという音が鳴るほどの巨大で強大な斬撃が放たれた。

 

 その斬撃は天を覆った雲を完全に消し去った。

 その所行にユリウスは先程同様に目の色を輝かせていた。

 その斬撃が起きた後、魔導書のページが光り出し、文字が描かれていった。

 文字が描かれるということは魔法が新たに生まれたという事だ。

 そして、その魔法の名とは‥‥‥

 

「"月牙‥天衝"?」

「凄いね~! あんなに大きな斬撃を生み出す魔法だなんて‥‥新しく出来た魔法はきっと君に新たな可能性を生み出してくれるよ」

「‥‥‥ありがとうございます」

 

 魔導書に描かれた魔法名にアルトは疑問詞を浮かべながら呟いた。

 目の前で魔法を見たユリウスは感動とアルトに激励を送った。

 新たな魔法を手にする切っ掛けをくれたユリウスにアルトは感謝を告げるのだった。

 

 その後ユリウスと別れて、アルトは夕飯の食料を集めに行った。

 そんなアルトの後ろ姿を見ていたユリウスは楽しく笑っていた。

 

「いや~面白い子がいたね。彼が魔法騎士になってからが楽しみだよ」

 

 そんな中、ユリウスの顔面に魔法で起きた通信が送られた。

 

『魔法帝! 何処で油を売っているのですか?』

「やぁマルクス君。ちょっと変身ぶらり旅を‥‥」

『そんな事をしている場合ですか!? 昨日の強大な魔力の一件が未だわかっていないんですよ!?』

「あぁ、それなら大丈夫だよ」

『え?』

「もう解決したからね」

『ちょっ‥‥どういうことですか!?』

「さて、また新たな魔法発見に変身ぶらり旅をしようかな」

『話しを聞けよコラー!!!』

 

 マルクスと呼ばれた人物の怒声が鳴り響いた。

 

 ────────────────────────

 

 ユリウスと出会ってから数日後、300以上のページを持つ混沌魔法の魔導書に一属性魔法一ページとして魔法メイト効果が記入されていた。

 

 理解が出来なかったのなら簡単に説明しよう。

 簡単に言うと広辞苑のように「○行の名前と意味」=「○魔法の魔法名と効果・絵」が一ページに簡略化した状態で複数個も刻まれているのだ。

 その時点でアルトの魔導書が他の魔導書以上に異なっている事が分かってくれるだろう。

 

 そんな中、アルトは教会に住むアスタ達の魔法属性と参考の為に見せて貰ったユリウスの魔法属性を使用して新たな魔法に覚醒(めざ)めており、来週には教会に戻る為、どのような状態でも使える様に整えていた。

 

 しかし、そんな時だった。

 アルトが魔法を木を相手に放ったとき、一つの悲鳴が起きてしまった。

 

「きゃあ!」

「え?」

 

 突然の悲鳴に驚いたアルトはすぐさま悲鳴がした場所へと向かうと、木の破片が数個、身体に刺さった状態で傷を負っている、身長160cm前後で黒髪にフード付きの黒いマントを羽織った豊満な胸を持つアルトと同じ位の年齢の少女がいた。その少女はダイヤモンドの紋章に似たボタンのような物がマントに付けられていた。

 

 その傷を見て自分が負わせてしまった代物である事に気付いたアルトはすぐさま治療を行なった。

 

 ___混沌回復魔法"再生"___

 

 魔導書に記された回復魔法を行なった。

 アルトが右手を彼女に向けると、彼女が負った傷が完全に無くなり、まるで傷を負う前の状態へと戻した‥‥いや、魔法名通りに再生したのだった。

 

「んっ‥‥うぅん‥‥」

 

 そして回復魔法を受けた少女は声を漏らしながら閉じていた瞼を開きだし、倒れていた身体を起こし始めた。

 自分が何故倒れているのか理解できていなかった少女は記憶を遡っていた。

 

 しかし、その前にアルトが話し掛けた。

 

「大丈夫か?」

「‥‥貴方は?」

「俺はアルト。ごめん、魔法の練習で木に魔法をぶつけた際にお前に傷を負わせてしまったみたいだ」

 

 アルトに警戒心を向ける少女に先ず最初にアルトは謝罪をした。

 謝罪内容を聞いて、自分に起きた事を思い出した少女。

 

「つまり、私は貴方の魔法で傷を受けたと?」

「そういうこと。本当にごめんな‥‥えっと‥‥‥」

 

 アルトは謝罪しながら少女の名を告げようとするが、名を知らない為、告げることが出来なかった。

 

「マリエラです。謝罪は受け取っておきます」

 

 少女___マリエラはアルトの謝罪を受け取った。

 

 しかし、自身の身体に傷を与えた木の破片による痛みがない事と傷跡もないこと、そして自分が倒れた際に横に転がっていた数個の木の破片を見て、コレが自分の身体を傷つけた物だと思ったが、その破片には一切の血液が付いていなかった。

 例え回復魔導士によって肉体を回復されても、傷を負わせた破片などが未だに刺さったままだった状態ならば血液が付着しているはずなのだ。

 しかし、アルトの回復魔法はその状態が一切見受けられなかった。

 

 故に何故血が付着していないかをアルトに尋ねようとした。

 

「貴方が治療してくれたのですか?」

「あぁ、そうだけど‥‥それがなにか?」

 

 マリエラは自分を治した人物がアルトであるかを確認した。

 彼女の問いにアルトは肯定するが、何故そのような質問をされたのか理解できなかった為、問い返した。

 マリエラはアルトの回復魔法の異質さに気付いていた。

 よって彼女は是が非でもその異質さを知ろうと思い、アルトに話し掛けた。

 

「回復魔導士として随分と優秀なんですね」

「俺は回復魔導士じゃねぇぞ」

「え?」

 

 回復魔導士じゃない。

 

 そのアルトの返答にマリエラは思考が止まってしまった。

 回復魔導士ではない者がこうも完全に回復させるなど出来るのだろうか? 

 否、不可能である。

 どれほど回復魔法に適性を持つ者でも欠損すれば治せない。

 しかし、彼の魔法はそれを可能にしているとマリエラは血が付着していない破片からみて考察した。

 

 そんな思考の海にいるマリエラにアルトが告げた。

 

「俺は回復魔導士じゃないし、まだ魔法騎士団にも入ってねぇ唯の下民さ。まぁ、この国の魔法帝になる男でもある」

 

 アルトは自分が魔法騎士ではないクローバー王国の下民である事を告げながら、自身の夢を独白する。

 彼の夢など興味がないマリエラにとって彼の独白は少しばかりどうでもいいと思ってしまった。

 

「それで‥‥お前は此処で何をしてたんだ?」

「ただの旅人ですよ」

「ふぅ~ん」

 

 今度はアルトがマリエラに質問をすると、マリエラは旅人だと告げた。

 それが嘘だろうとアルトは思っていた。

 何故なら、彼女の持つ魔導書鞄にはダイヤモンドのマークが刻まれていたからだ。

 

 故に彼女はダイヤモンド王国の人間であると思った。

 同時に何が目的でやってきたのか気になった。

 

 マリエラの動向を知りたい欲求。

 アルトの魔法をもっと知りたい欲求。

 二人とも知るという欲求の中にいた為、どうすれば相手を知ることが出来るのかを考えていると、マリエラが話し掛けた。

 

「貴方の家は近くにあるんですか?」

「簡易的だけど、木造の家を造ったから‥‥ほら、あそこの家だよ」

 

 マリエラからの突然の家の所在を聞かれると、アルトは自身の混沌の魔力で生み出した。木造の家を指さした。

 因みにこの家は修行にやってきた際にすぐに建てた建造物である。

 彼は食料を取ってはこの家で調理して過ごしていた。

 薪を使った風呂などもある為、とても古風的な家であるが、修行期間だけの家な為、これぐらいでいいだろうと考えての建築である。

 

「‥‥けど、それがどうかしたのか?」

「いえ、少しの間、貴方の家に泊めさせて頂けないかと思いまして‥‥」

「旅をしてるんだろ?」

「はい。ですが‥旅先で数日滞在してから旅を再開するのが一般的なんです」

「フム‥‥別に構わないけど、薪割りとか協力してくれよ」

「はい(上手くいきましたね)」

「(何を狙ってるんだ)」

 

 マリエラはアルトといる口実を作る事が出来たことに内心でほくそ笑み。

 アルトは自身と異様とするマリエラの狙いを考えていた。

 

 それから彼等は5日間。共に過ごしてきた。

 共に食料を取りに行ったり、互いの魔法の上達の為に訓練したり、たまに口喧嘩したりと互いの思惑を疑いながらも生活している内に、仲良くなっていった。

 旧友というよりも夫婦に似た雰囲気の醸し出していた。

 

 六日目の早朝、マリエラの持つ通信魔導具に通信が入ったのだ。

 マリエラは焦りながら家から飛び出て、通信に出た。

 

 様子のおかしいマリエラが気になり、アルトは気配を消しながらマリエラに近づいた。

 

 マリエラから少し離れた場所にてアルトはマリエラの魔導具から聞こえる音声に耳を澄ませた。

 

『マリエラ、明日の夕方にはファンゼル・クルーガーを捕えろ』

「わかりました、ガレオン中隊長」

 

 マリエラは通信相手の名前を告げながら了承した。

 彼女は通信を切るが、その表情は優れたものではなかった。

 アルトは漸くマリエラが何者なのかを知ることが出来た。

 そして、彼女の表情からそれを行ないたくはないと心の底で思っている事に気付いた。

 何故、その様な事に気付けたのかというと、この五日間でそれを知るには十分な日数であった。

 

 アルトはマリエラが戻る前に家に戻り、考えていた。

 

「‥‥‥」

「戻りました」

「あぁ、お帰り」

 

 アルトは平然を装ってマリエラを迎えた。

 マリエラはアルトの様子に気付くことなく、本題を話した。

 

「アルト。急で申し訳ありませんが、旅の仲間が準備を終えたらしく今日にでも旅を村から出る事になります」

「‥‥随分と急だな。わかった。それで持っていく物はあるか?」

「いえ、私が持っていた物で十分です。お世話になりました」

 

 マリエラはマントを手にし、感謝を告げてから家を出たのだった。

 そんなマリエラを見て、少し遅れてアルトも家を出た。

 何故、アルトまで家を出たのか。それはマリエラの通信を聞いた後に、家の中で考えていた間に決めた覚悟を実行しようとしていた。

 

「(マリエラを救う!)」

 

 アルトはその覚悟を元にマリエラの後を追っていく。

 

 

 数分間、マリエラの跡を追っていると、川岸に建てられた一軒家があった。

 その一軒家にはアスタと赤見の掛った茶髪の老けたおっさんがいた。

 

 マリエラとそのおっさん____ファンゼル・クルーガーは知り合いだったらしく、彼の話では婚約者を見つける為に代わりに探らせていたらしい。

 しかし、それと先程の通信との内容が合致せず、更に様子を見続けていた。

 すると、マリエラが懐から杖頭に球体型の水晶がついた紫色の杖を取りだした。

 話しによると、どうやらファンゼルの婚約者の杖らしい。

 それを受け取ったファンゼルは一人にして欲しいと告げると、家の中へと入っていった。

 

 そんなファンゼルに留めを刺すと許りにマリエラも後を追った。

 マリエラが動いたことで必ず、彼を動けない状態にしてから、襲う気だろうと思考できたアルトはすぐさま、気配を出して、アスタと接触した。

 

「アスタ!」

「アルト!? なんで此処に?」

「要件だけを言うぞ。実は‥‥」

 

 アルトがアスタに説明しようとしていると、窓ガラスが壊れた様なガシャンっという音が家の中からした。

 しかも、その音は一つではなく複数だった。

 

 よって二人は説明よりも、先に身体が動き、家の中へと突入した。

 突入した二人は各々の武器を構えながら家の中を探していると、声のする部屋があった為、そこへ扉を壊しながら突入した。

 

 すると二人の視界に入ったのはダイヤモンド兵に拘束されたファンゼルと、そのファンゼルを見て平然としていた。

 

「おっさん大丈夫か!?」

「マリエラ‥」

「‥‥アルト」

 

 アスタは拘束されているファンゼルの心配をし、アルトはマリエラの名を呼んだ。

 呼ばれたマリエラはアルトがこの場にいる事に内心、驚愕しているが、何故此処に来たのかという困惑の気持ちが大きいようだ。

 

 そんな中、二人の雰囲気に気付いていないアスタは、マリエラに抗議した。

 

「マリエラ! おっさんに感謝してるんじゃなかったのかよ!!?」

「感謝してますよ、だから言い方も注意したじゃないですか」

 

 マリエラは冷静にアスタの怒りの言葉を受け取りながらも平然と言葉を返していた。

 二人の言い争いに否定し始めたのはファンゼルだった。

 彼はアルト達を逃がそうと必死に説得するが、アスタは退くつもりはなく拒絶するが、ファンゼルが自分1人で逃げてみせると告げると、アスタは信じたようでアルトを連れて扉から姿を消した。

 

 

 

 

 

 ‥‥‥‥ように見られたが、アスタとアルトはすぐさまファンゼルを拘束していたダイヤモンドの魔導士をそれぞれ1人に斬りつけた。

 

「ぐぁっ!!?」

「そらぁ!!」

 

 アスタは更にファンゼルの近くにいる魔導士に大剣を振う。

 大剣にぶつけられた人物は悲鳴を上げながら倒れる。

 

「いいんだアスタ。私には生きる希望がないんだ。理由がないんだ」

「くだらん」

『っ!?』

 

 ファンゼルが絶望し、この状況に諦め受け入れようとしていた。

 そんなファンゼルが独白にアルトはくだらないと冷たく一蹴した。

 あまりの冷たさにアルトと五日ほど同居していたマリエラや教会で暮らしていたアスタですら驚くほどの冷徹さであった。

 

「生きる理由? 俺もアスタも教会に捨てられた子供だ。両親も知らず、同じ教会に住む家族は最果てで貧しい者は夢を、生きる理由を持てずにいる。何故俺が‥‥俺達が生きる理由を誰かに決めつけられなければいけない。生きる理由なんて、俺自身が決めることだ!」

 

 アルトの言葉は分かりやすく言えば、自分で希望を理由を探すものだと言っていた。

 そのことを理解できたのは幼馴染みのアスタだけだった。

 

 だがら、彼も便乗して告げたのだった。

 

「俺もだ! 生きてく希望なんて、理由なんて‥‥自分で見つけていくもんだろうが!!!!」

 

 アスタのその言葉にファンゼルとマリエラは自分が間違っている事を指摘された感覚だった。

 同時に冷徹に一蹴したアルトの言葉を理解し、心に刺さりもした。

 二人の少年の言葉に動かされたファンゼルは婚約者の杖を持ちながら立ち上がる。

 

「わかったらさっさと手を貸してくれ!」

「借りるまでもない。全て倒す!」

 

 ファンゼルに助力を頼むアスタとそれを否定し自分だけで倒そうとするアルトだったが、アルトが魔法を使う前に敵の数が増えるが、突如ファンゼルを中心に風が吹き荒れる。

 

 __風創成魔法"風斬皇(カザキリノスメラギ)・凩"__

 

 婚約者の杖に纏った風の白剣。

 ファンゼルは剣先を敵に向けると、次々に風の刃が射出されていき、倒していった。

 

「大量の[ザッキーさん]を飛ばす‥‥‥通称[飛ぶヤツ]だ」

「いい! ネーミングだぜ!!」

「何処がだ?」

 

 ファンゼルのネーミングに感動するアスタとネーミングセンスが分からないアルト。

 

「すまなかったね、私はもう大丈夫だ。君もありがとう」

「おう!」

「そいつはどうも」

「油断するな!」

 

 ファンゼルはアスタ達が壊した扉の影に隠れたマリエラの奇襲に注意する。

 無論そんなことはアスタとアルトも気付いている為、油断することなく対処した。

 

 アスタとアルトに向けられた二本の氷の刃は各々の武器によって無効化されたり、消滅したりした。

 

「魔力の無効化‥」

 

 そんな中でマリエラはアルトとの生活ですら見た事がない[魔力の無効化]の魔法を有するアスタの大剣に驚いていた。

 彼女の攻撃に続くように倒したと思えば、更に敵が増えていき、三人は互いの背を守る様に体勢をとる。

 

 三人は敵を倒そうとするが、マリエラが撤退のするように指示した。

 あまりの予想外の言葉に唖然とするアスタ達だったが、ファンゼルによって教わった戦闘方法に従って行動していただけだった。

 

 マリエラは負惜しみのような言葉をファンゼルに言うも、彼も負けじと婚約者を探し続けると告げた。

 アスタもマリエラに覚悟するように告げるが、その際にファンゼルを傷つける言葉を無意識に言ってしまう。

 

 マリエラはアスタ達に背中を向けて帰って行くが、一瞬だけアルトを見てから撤退した。

 

 

 

 

 

 その後、ファンゼルは婚約者を探しに旅をすることになり、アスタとアルトは一日残った修行日で出来る事をしようとそれぞれの修行場所へと向かった。

 

 特にアルトはマリエラとも同居していたあの家を壊す必要がある為、向かって行くと、なんと其処にはマリエラが既に居たのだった。

 

 アルトとマリエラは家の前で対面した。

 

「‥‥‥何故、私の後を追ってきたんですか?」

 

 マリエラはアルトが自分の後を追ってあの場所へとやってきた理由がわからず質問した。

 

「‥‥お前と生活した五日間で、お前に送られた指令に嫌気を感じていたのは分ってた。だから助けたいと思った」

「どうしてですか? 貴方は既に気付いていた筈です! 私は犯罪者なんですよ!!?」

「関係ないだろ、俺がお前を助けたい気持ちに犯罪者や善人なんて関係のないことだろ?」

 

 アルトがそう告げると同時に一風が吹き荒れた。

 その際にマリエラの表情はまるで乙女心をつかれたかのようなものだった。

 彼女は俯きながらもアルトに歩み寄っていき、話し掛けた。

 

「貴方は本当のバカですね」

「うるせぇ」

 

 マリエラの罵倒にアルトは怒りなど感じて折らず、熟年夫婦のような会話で受け流していた。

 

「ですが、先程の言葉は惹かれました。格好良かったです‥‥それじゃあ」

 

 マリエラはそう告げるとアルトとは二度と会わないような雰囲気で去って行く。

 しかし、アルトがそれを赦すはずもなく、彼はマリエラに告げた。

 

 

「次に出会ったら、今度こそ俺がお前を助ける。絶対に」

「っ! ‥‥‥」

 

 

 アルトの言葉を聞いて表情は見せなかったが、マリエラは驚きと歓喜に包まれながら、ダイヤモンド兵の元へと向かった。

 マリエラが見えなくなると、アルトは家の中へと入り、水筒などを持ち物を整え、家を出て魔法で解体した。

 

 家を解体した後、アルトは教会へと帰宅した。

 

 帰宅してから翌日。アルトとアスタ、ユノは魔法騎士団入団試験の為に平界へと向かっていくのだった。

 



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入団

 教会の皆から見送られながらアスタとアルト、ユノは魔法騎士団入団試験の為に平界へやってきていた。

 

 三人が初めてやってきた平界では色々な店舗が開かれ、買い物をしている者や立ち話をしている者といた。

 そんな光景を始めていた三人は物珍しく見ていたが、アルトとユノは自分達の目的である試験会場へと脚を進めていくが、アスタは試験会場に向かう際に焼かれた蛇を売っているおばあさんから買い、食べていた。

 

 そんなアスタに呆れながらも、試験会場にやってきた三人は受付にて己の魔導書を見せる。

 その中でも、四つ葉の魔導書と混沌の魔導書を見た受付の魔導士は驚きの声を上げ、二人の後ろにいた入団試験者は驚いていた。

 因みにアスタの魔導書が余りにボロボロな為、疑われたのは余談である。

 

 

 

 魔法騎士団入団試験会場には三人以外にも同じく入団を夢見てやってきた者が多数いた。

 しかし、会場内では二つにわかれていた。

 何が二つなのか‥‥‥それは試験会場には魔力が少ない者に集るアンチドリと呼ばれる鳥がおり、その鳥に集れる者と集れぬ者の二つにわかれているのだ。

 

 因みにアルトとユノは一切のアンチドリが群がる事はなかった。

 

「オイ、あいつらだ! 最果ての町で"四つ葉の魔導書"と"混沌の魔導書"に選ばれたっていう────」

「四つ葉に混沌ゥ!!? ‥‥マジかよ」

「下民のくせに‥‥」

 

 周りの者達は一切アンチドリに群がれられないユノとアルトの魔力量と四つ葉と混沌の魔導書に選ばれるほどの器に驚愕する者と嫉妬する者と別れていた。

 そんな第三者の声など二人は一切気になどしていなかった。

 

「へっへっへっ‥‥オレらの誰かが魔法帝になる‥その伝説の始まりだなアルト、ユノ‥!!!」

 

 アルトとユノが声のする方向へと顔を向けると残りの一人であるアスタは歴代初めて大量のアンチドリに集られる者となり、他の受験者に笑われていた。

 

 アスタは大量のアンチドリに集られる事に嫌気を差し、全力疾走しながらアンチドリから逃げ続けていると、アスタが誰かの背中に衝突した瞬間、アンチドリは恐怖した表情でアスタから離れていった。

 

 何故離れていったのか? 

 それはアスタが衝突した相手は九つの魔法騎士団の一つである[黒の暴牛]団の団長ヤミ・スケヒロだった。

 アスタはヤミに頭を握り潰されかねない程の握力で握られる。

 しかし、アスタも抵抗するように全身の筋肉を使い対抗しようとした。

 その動きにヤミは少しばかり驚愕した。

 

 そんな奇妙な事を行なっている二人に呆れているアルトとユノ。

 しかし、彼等がこんな事をしている事など一切気にせずに、試験者がいる一階よりも更に上の階に現魔法騎士団の団長と付き人が現われた。

 団長達が現われたという事でアスタの頭を握り潰しかけたヤミはすぐさま団長達のいる階へと向かった。

 

 団長達が全員集合すると、魔法騎士団最強の団である[金色の夜明け]団の団長ウィリアム・ヴァンジャンスが魔法を発動し、試験者全員に箒を与えた。

 

 その後、入団試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒による飛行試験から始まって色々な試験が行なわれた。

 その際にアルトとユノは同率の一位に等しい結果を出していたが、魔力のないアスタは完全に最下位に等しい結果を出していた。

 

 そして最後の試験内容は実戦だった。

 しかし、魔法騎士団員と実戦をするわけではない。

 では誰と実戦を行なうのか? 

 それはとても簡単な事だ。

 

 

 対戦相手は入団試験者だ。

 一対一の大戦形式で戦う事になり、勝敗によっては先程までの試験結果以上に入団に関して響く事になる。

 それに気付いた者は尚気を引き締める事になる。

 そして、その重要な実戦に最初に試合を行なうのはアスタだった。

 

 アスタは先程までの試験でずっとアスタの隣で魔法を行使していたチャラ男___セッケだった。

 

 彼は一切の魔力行使が出来ないアスタを使って自分が良い団に入団できるための引き立て役として話し掛けて仲良くなり、自分の評価を上げていた。

 アルトとユノ以外の受験者達もアスタのような魔力もなく、試験結果も最下位の存在を相手にするなどチャンスとしか言えない。

 故に、アスタと対戦するセッケをラッキーな奴と思っている受験者達だったが、彼等の次ぎに視認する光景に唖然とする。

 唖然とする出来事‥‥‥それはセッケの青銅魔法による全方位の障壁と攻撃を兼ねた創成魔法を相手にアスタはボロボロな大剣を用いて一撃で切り伏せた。

 

 到底ボロボロな大剣で壊せぬ様な障壁をいとも簡単に壊し、障壁内にいるセッケを一撃で倒したのだ。

 ボロボロな大剣な為、切れ味は悪いようだが打撃の威力はとても高く、アスタの努力の結晶である高い身体能力でセッケを倒したのだった。

 

 今までの試験結果から低能と思っていた人物が一撃で相手を倒した事に他の受験者は唖然とし、出てきた言葉は困惑でしかなかった。

 

 そんな受験者の言葉が五月蠅かったのかアスタは試験会場の逢頼で「魔法帝になる!」と高々と宣言した。

 そんなアスタに笑みを浮かべるアルトとユノ。

 

 しかし、先程まで唖然としていた受験者はアスタの夢を馬鹿にするのは余談である。

 その後、模擬戦が続いていき、ユノも強大な魔法を見せつけ完全勝利した。

 

 そして、最後の模擬戦は残りのアルトと貴族出身の子供だった。

 

「下民のゴミが、いい気になりやがって!!」

「たかが生まれた場所の違いで罵倒とは‥‥器の小さい者しか生まれないのが王族と貴族のようだな」

 

 アルトの対戦相手は下民でありながら混沌の魔導書を手にした事に苛立ちを浮かべており、罵詈雑言を告げようとするが、逆にアルトに罵倒されて更なる苛立ちを抱いた貴族出身の子供は自身の魔導書を開き、特大の炎魔法をアルトに叩き付ける。

 

「下民が偉そうにしてんじゃねぇよ!!」

「それで終わりか?」

『「ッ!?」』

 

 貴族の子供が放った炎魔法をアルトは片手で握り潰していた。

 あまりに非現実的な現象に驚愕を隠せない貴族の子供と受験者達。

 

「燃やすなら‥‥」

 

 アルトは先程の魔法がとてもくだらなく思って仕方が無く。

 代わりに炎魔法の見本を見せるかのように、混沌の魔導書を開き、魔導書に籠もる白と黒の魔力の光が紅く輝き初めた。

 アルトは左手の人差し指をを天に向けるとそこから炎魔法が発動した。

 しかし、その炎魔法を見た魔法騎士団長は興味を持ち、先程まで馬鹿にしていた貴族は恐怖に染まり、他の受験者は驚愕の余りに目を見開き顎が外れそうな程に口を開いていた。

 

 ___混沌炎魔法"無慈悲な太陽(クルーエル・サン)"___

 

 太陽を如き熱の玉がアルトの左手の人差し指に出来ていた。

 その熱の玉が放つ熱量と眩しさは正しく太陽と言って言い程のものだった。

 

「‥あっ‥ぁぁ」

「‥‥‥こういうことを言うんだ」

 

 アルトは貴族の子供に太陽がある人差し指を向けた。

 すると、太陽は貴族へと向かって行き、貴族の子供に衝突して貴族の後ろにあった壁にぶつかった。

 

「ギャァァァアアアア!!!!!!」

 

 太陽の熱量に壁や大地が融解してしまい、ドロドロな状態へと変わっていく。

 それほど熱量を人間が受ければ当然のごとく肌が焼け爛れていき、髪の毛すらも燃やされていった。

 そんな貴族に情けを与えたアルトはパチンっと指を鳴らした時に"無慈悲な太陽"が消え去った。

 

 すると、太陽に焼かれていた貴族は全身黒焦げに等しいほどに焼け爛れていた。

 

 そんな状態を見た魔導士はすぐさま生きているかを確認した。

 

「い、生きてる‥‥勝者163番」

 

 貴族の子供は全身焼かれていながらも生きており、アルトの勝利を告げる。

 だが、すぐさま回復魔導士を呼ぶが、全身大火傷の状態から遥かに悪化した様な状態である貴族の子供を救えるかとても怪しく、貴族の子供がここで息を引き取ればアルトが罪人になるだけだ。

 貴族の子供をここまで追い込んだ当の本人は倒れている貴族の子供と回復魔導士達に近づいた。

 

 近づいてきたアルトに魔導士は警戒をするが、アルトは警戒してくる魔導士など眼中になく、彼は紅く光る魔導書の魔力を白色の魔力光へと変換して新たな魔法を発動した。

 

 ___混沌回復魔法"再生"___

 

 アルトが貴族の子供に回復魔法を施した。

 すると、貴族の子供が負った重傷が一瞬の内に消え去り、焼かれた服までも攻撃を受ける前の状態へと変わり、続いて、融解された壁と大地も元の状態へと変わっていた。

 

 その光景にアルトを除く全員が目を見開いて驚愕していた。

 "再生"を掛けられた貴族の子供はうめき声を上げながらも呼吸をしており、閉じていた瞼をゆっくりと開けていく。

 貴族の子供が完全に目を覚ましたため、アルトはアスタやユノの元へと向かって行った。

 貴族の子供は頭を抑えながらも自分の状態が攻撃を受ける前の状態になっていた為、自分が味わったのは幻覚だと思い、自分を虚仮にしたアルトに憎悪の感情が籠もった視線を向ける。

 

 そして、受験者の中でも飛びっきりの実力を見せたアルトに団長全員が自信の団に欲しいと言わんばかりに視線を向けていた。

 

 

 

 全ての受験者の模擬戦が終えた為、実戦試験が終了し、受験者の合否発表が行なわれる事になった。

 

 合否発表は呼ばれた番号順に団長が挙手した場合、その団に入団できるが挙手されなければ入団できない。

 合否発表までに至るまで時間がどうしても掛ってしまい、既に夕暮れの時期になっていった。

 

 それからは1番から順に呼ばれていくが、中々団長に挙手される者が居らず、初めて挙手されたのは紫のローブを羽織った団[紫遠の鯱]団の団長ゲルドル・ポイゾットによって入った十数番目の者だった。

 

 それから団長が挙手していく事が多くなったが、それでも受験者の数より遥かに少なかった。

 そして、呼ばれる受験者の数が増えていき、漸くアスタとアルトとユノの番号である160番台へと当たり、等々アルトの番号が呼ばれた。

 

『次ぎ‥‥163番』

「はい!」

 

 呼ばれたアルトは返事をすると、162人がした様に列から前に出ていった。

 

『えっ』

 

 すると、周りがざわつき始めた。

 

 

 

 

 それもそうだ。

 何故なら、全団長が挙手していたのだから。

 

 入団するだけでも難しく、更には好評な団に選ばれるにはそれこそ更なる難易度が存在する。

 よって全団長からの挙手など前代未聞の出来事なのだ。

 

 全団挙手、または複数の団長から挙手された場合は受験者が決める権利がある。

 よってこの場合、アルトがどの団に入団するかを決める権利があるのだ。

 

 そして、アルトが決めた団とは‥‥‥‥‥‥‥

 

「[紅蓮の獅子王]団でお願いします」

 

 アルトは[紅蓮の獅子王]団を選んだのだった。

 

 そして次ぎに呼ばれたのはユノだった。

 

『次ぎ‥‥164番』

「‥‥‥はい」

 

 ユノは胸のペンダントを握った後、勇気を振り絞って歩いた。

 すると、またもや全団長が挙手した。

 

 二人目の全団挙手に更にざわめく受験者達。

 自分のライバル二人が全団挙手を受けている事にユノの次の番号であるアスタは目を見開き驚きながらも納得していた。

 

 そして、ユノは目標である魔法帝になる為に一番近い団に入団することにした。

 つまり、

 

「‥‥[金色の夜明け]団でお願いします‥‥!!」

 

 ユノは最強の団である[金色の夜明け]に入団することになった。

 

 有力候補である二人を取られた事に残念がる団長もいた。

 そして、漸くアスタの番になった。

 

『次ぎ‥‥‥165番』

「はい!!」

 

 アスタは返事をしながら前に出ていく。

 しかし、団長達から挙手されなかった。

 

 それはつまり、入団降格ということだった。

 その現実にアスタは悔しさを感じていた。そんな時にある1人の団長が話し始めた。

 

「そりゃそーだわな」

 

 何と話し掛けたのは入団試験の直前でアスタがぶつかった人物であるヤミ・スケヒロだった。

 ヤミは座っていた席から立ち上がり、受験者達がいる場所へと降り立った。

 

「たとえ高い戦闘能力を持ってようが、それが得体の知れねぇ力は誰も手ぇ出さねーわ」

 

 ヤミは煙草を噴かしながらもアスタへと歩み寄って行く。

 

「‥なんやかんやで‥結局魔法騎士に求められるのは‥‥‥」

 

 アスタに近づいていたヤミの空気が一変した。

 

「魔力だ」

 

 ヤミから放たれる膨大な魔力量とプレッシャーに周りにいた受験者は震え上がる。

 しかし、魔導書を奪われた際にアルトの圧倒的な魔力量を体験したことがある2人からすれば、ヤミと比べるまでもなくアルトの方が震え上がるが、あの時と違いがあるのならば、アルトは魔力量による重圧だけだったが、ヤミはそこにプレッシャーも加えている為、魔力量だけで重圧を掛けていたアルトよりも更に上をいくものであった。

 

「お前さっき‥魔法帝目指してるとか言ってたな? ‥つまり‥騎士団長を越えるって事だよな? ‥今オレの目の前でもまだ‥‥‥魔力のない分際で魔法帝になるとほざけるか?」

 

 アスタはプレッシャーの中、ヤミからの質問に一歩も退くことなく堂々と告げた。

 

「────ここで魔法騎士団に入れなくても‥‥何度コケても、誰に何を植われようと、オレはいつか魔法帝になってみせます!!!」

 

 そう言ったアスタを見て、ユノとアルトはアスタらしい発言に笑みを浮かべるも内心は魔法帝になるのはオレだ! っと思いながらアスタを見つめ、他の受験者達はアスタが魔法帝になることなど出来ないと馬鹿にしていた。

 

 そして、質問をしたヤミはというと‥‥

 

「ワハハハ!! お前面白い! [黒の暴牛(ウチの団)]に来い」

「‥‥‥‥‥え?」

 

 大笑いしながら、アスタを自身の団に勧誘した。

 先程までのプレッシャーが消え、突然の勧誘に呆けた声を上げてしまうアスタ。

 そして試験結果最下位のアスタを入団させるヤミの言葉にざわつく他の受験者達。

 

「ちなみにお前に拒否権は無ぇ」

「(えええええ!!?)」

 

 選択権を与えていない横暴な発言に内心で困った声を出すアスタ。

 しかし、次のヤミの言葉にアスタは感動するのだった。

 

「そしていつか‥‥‥魔法帝になってみせろ」

 

 初めて自分が認めて貰えた言葉にアスタの心が嬉しくない筈が無く、ヤミからの言葉に先程以上に元気の良い返事を返すのだった。

 

 その後、入団試験は予定通り終了し、入団が決まった新入団員は自身の団の団長の下へと歩むが、アスタとアルト、そしてユノはその前に3人だけで出会い、挨拶をしてから自身の団の元へと向かうつもりだったが、その際にアスタが腹を下したのかトイレに颯爽と向かって行く。

 

 そんなアスタに忍び寄る一つの影。

 

 その影はどうやらアスタと模擬戦をしたセッケだった。

 彼はアスタを使って良い団に入団して適当に頑張ろうとしていたようだが、アスタに敗北した事で魔法騎士団内でも中位の団である[翠緑の蟷螂]団に入団が決まった。

 アスタに敗北した自分が悪いのにも関わらず、彼は逆恨みでアスタに呪詛魔法を行なおうとしていたのだ。

 

 しかし、セッケの呪詛魔法が籠もった青銅の蜥蜴は風魔法で出来た白い鷹によって捕まえられ、無力化されていた。

 その白い鷹の魔法を行使したのはユノだった。

 セッケはユノが相手だと勝てないと思って言い訳をするもユノの威圧に絶えかねて颯爽と逃げていった。

 トイレの入り口にはアルトも魔導書を掴んだ状態で様子を窺っていたが、自分の出番はなかった為、すぐさまトイレから離れていった。

 

 そんな事があったことに気付かずにアスタもトイレから出て行って自身の団の元へと向かう。

 そんなアスタに話し掛ける事もなくユノも自身の団の元へと向かった。

 

 それぞれ三方向へと別々の団の元へと向かって行く。

 

 一方最初に団の元へと向かったアルトは既に集まっていた自分と同じ新入団員と[紅蓮の獅子王]団長とその付き人の元へ遅れてきた為、急いで走ってやってきた。

 

「すみません、遅れました」

「気にするな。よし! 全員揃った所で‥‥私が[紅蓮の獅子王]団、団長のフエゴレオン・ヴァーミリオンだ。隣にいるのは弟のレオポルド・ヴァーミリオン」

 

 フエゴレオン・ヴァーミリオン___クローバー王国に存在する三つの王族の一家であり、歴代[紅蓮の獅子王]団の団長を務めているヴァーミリオン家の長子。正義感の強い熱血漢で、身分差を気にせず対等な姿勢を貫き、団員からの信頼も厚い人物だ。

 

 レオポルド・ヴァーミリオン___フエゴレオンの実弟にして同じ[紅蓮の獅子王]団の団員。フエゴレオンには及ばぬが兄同様に熱血漢な男。しかし、フエゴレオン以上に五月蠅い部分が玉に傷である。通称__レオ。

 

 そのレオはアルトの元へと歩み寄り、こう言い放った。

 

「オレはレオポルド・ヴァーミリオン! 先の炎魔法は中々のモノだった。貴様を我がライバルにしてやろう!!!」

 

 レオは大声でアルトに向かってライバル認定を告げる。

 まさかの王族が下民をライバル認定した事に驚く他の新入団員。

 

「俺のライバルはアスタとユノだけだ」

「なにっ!? 俺以外にもライバルが既にいたとは‥‥」

「(話しを聞けよ)」

 

 ライバル認定されたアルトだったが、アルトは最初からアスタとユノしかライバルとして認めて居らず、レオの事など眼中になく、ライバル認定を否定したが、レオは人の話など聞いて居らず既に2人もアルトにライバルがいることに驚いていた。

 

 そんな2人にフエゴレオンが一回咳き込んだ後、話題を変えた。

 

「んんっ! それではアジトへ向かう」

 

 フエゴレオンはそう告げると、自身の魔導書を開き炎魔法によってできた数匹のオスのライオンを創成した。

 彼はそのライオンに新入団員を乗せてアジトへと向かうようだった。

 

「よぉし、アルト!! どちらが最初にアジトに付けるか勝負だ!」

「俺、アジトの場所知らねぇぞ」

 

 アルトが新入団員としての正論を告げるもレオは一切聞いて居らず、炎魔法で兄と同じく獅子を作り出すとその背に乗って向かって行った。

 しかし、アルトはライバル認定していなかったが、負けず嫌いなため、彼は魔導書を開きドラゴンを創成した。

 

 ____混沌創成魔法"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"____

 

 

 橙に輝く瞳に、目のようにも見える六つの紋様を持つ特徴的な顔立ちに蒼炎に輝く、マガラ骨格の巨体が特徴。分かりにくいが皮膚は透明度が高く、内部の骨のようなものが薄っすら見えるほどの透明度を持つ一対二翼のドラゴンが創成された。

 創成されたドラゴンは先程のフエゴレオンの炎の獅子を越える程の大きさを創成していた。

 そんなドラゴンを創成したアルトは息一つ乱れて居らず、ドラゴンの背に乗ってレオの後を追っていった。

 

 そんな2人にフエゴレオンは呆れてしまい、新入団員を乗せて2人の後を追っていった。

 

 フエゴレオンが新入団員を連れて居っていくと既にアルトはレオの獅子に追いついており、レオはアルトに負けまいと五月蠅く叫びながらアルトよりも先に行こうとするが、アルトは悠々と追い抜いてしまう。

 しかし、アルトは態と同じ速度で同じ位置にて飛行していた。

 

 何故なら、彼はアジトを知らぬ為、追い抜き追い越されぬ位置にて維持していた。

 そんな2人にフエゴレオンが颯爽と前に出て行った。

 

「遅いぞ2人とも」

 

 フエゴレオンの挑発的な発言に流石のアルトも感化され、フエゴレオンに追い越そうと"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"に速度を上げさせた。

 そんな兄とライバルが先へ向かう為、競争心から大声を上げて追っていくのだった。

 

 

 そして、[紅蓮の獅子王]団のアジトへとついたアルト達。

 最初にアジトに付いたのはフエゴレオン、次ぎにアルト、そしてレオポルドだった。

 

「彼処が[紅蓮の獅子王]のアジトだ」

『おぉー』

 

 新入団員は歓声をあげた。

 フエゴレオンやアルト達はここまでやってくる際に乗っていた獅子やドラゴンから降りて消した。

 フエゴレオンは新入団員に身体を向けて歓迎の言葉を告げる。

 

「よく来た! ここがお前達の[紅蓮の獅子王]だ!!」

 



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思わぬ繋がり

 フエゴレオンによる新入団員への歓迎の言葉を上げると、まるで待っていたかの如く団員達がアジトから出てきてフエゴレオンに挨拶をした。

 

『お帰りなさい団長!! レオ!!』

「ただいま帰った。彼等が新しい団員だ、皆色々教えてやれ」

『はい!』

 

 フエゴレオンから新入団員に教育をする様に団員達に告げられた団員は挨拶の時のように息ピッタリに返事を返した。

 その後、新入団員の自己紹介が行なわれた。

 

 そんな中、アジトに三位で付いたレオは悔しさを表情に浮かべながら、アルトを見ていた。

 

 そんなレオポルドをフエゴレオンは見ており、彼はある提案をした。

 

「[紅蓮の獅子王]団よ、聞け!!」

 

 フエゴレオンの言葉に全員が身体をフエゴレオンへと変えた。

 そんな団員に彼は告げた。

 

「余興として新入団員と模擬戦をする!」

『ッ!?』

 

 フエゴレオンの言葉に各々の反応を示した。

 それもそうだろう。

 新入団員に関しては先程まで精一杯苦労して手にしたばかりにも関わらず、いきなり模擬戦をすることになってしまった。

 フエゴレオンは新入団員に現団員達の力を教える事で先輩達の力を見本とし、成長する事を望んでいた。

 特に、試験会場でアルトは相手の炎魔法を混沌魔法ではなく、同じく炎魔法を越える魔法で倒した。

 故に、強く影響が出るのではないかと思考し、この提案を持ちかけたのだ。

 

 そんな団長の提案に最初に乗ったのはレオポルドだった。

 

「賛成です兄上!! 勝負だ我がライバル!!!」

 

 レオポルドはフエゴレオンの提案に乗ると、アルトに勝負を申し込む。

 またもレオポルドに勝負を挑まれて内心で溜め息を付いてしまう。

 しかし、そんなアルトにフエゴレオンが話し掛けた。

 

「アルト」

「はい」

「正直に言えば、私もお前の本気を知りたいのだ。お前がレオポルドに勝てば私に挑むことを許す」

『なっ!?』

「あ、兄上!?」

「フエゴレオン団長! 何を言っているのですか!?」

 

 フエゴレオンのその発言に彼の弟や副団長である額に大きな傷がある顎髭の男性が彼に抗議した。

 しかし、フエゴレオンはその条件でも出さなければアルトが本気を出す事はないと思っているのだ。

 そして、その考えは正しい。

 

 彼がレブチを倒す際に四肢を拘束したのはアスタの援護だけでなく、彼自身の潜在能力があまりに高すぎるが故に魔導書を手にする前から人を殺すのに一切の苦労もない程の力を持っていたのだ。

 故に魔導書によって更に力の覚醒によって彼は魔法を減少させた状態で使うしかなかったのだ。

 それは先程の入団試験でも同じ事。

 

 フエゴレオンがその事を確信付けていたのは今までの彼の魔法騎士としての経験からによるものであった。

 そして、この魅力的な挑戦にアルトは乗らないはずがなかった。

 

「わかりました。受けます」

 

 アルトのその言葉に団員達は内心でアルトを苛立っていた。

 混沌の魔導書を手にしたからと言って彼は下民。

 只の運で手にしただけのまぐれを自身の力だと言わんばかりな態度に団員達は不満を抱えていた。

 

 そんな不満を抱えているこれから先輩になる団員達の事などの心境など察することなどせず、彼はレオポルドから少し距離を取り模擬戦の準備を終えた。

 

 アルトが距離を取った事で、模擬戦の準備完了である事に気付いたレオポルドは笑みを浮かべながら、戦闘の構えをとる。

 二人の準備が終えた事を確認するとフエゴレオンが模擬戦開始を告げる。

 

「初め!!」

 

 フエゴレオンが合図を告げると、すぐさまレオポルドが魔導書を開き自身の魔法を発動した。

 

 ___炎魔法"螺旋焔"___

 

 レオポルドの両手から放たれた螺旋状に伸びる炎魔法にアルトは魔導書を開きすぐさま魔法を行使した。

 その魔法は入団試験と同じく炎魔法を使ったのではなく、ハージ村の神父様が有している魔法属性である火魔法だった。

 

 ___混沌火魔法"超越の業火(オーバーヒート)"____

 

 レオポルドの魔法を遥かに超える約4000度以上の熱量を帯びた火魔法を放ったアルト。

 魔法名通りの業火を超越した火にレオポルドの炎魔法は簡単に打ち消し、レオポルドへと襲っていく。

 その火魔法をギリギリの状態で回避したレオポルド。

 

「くっ‥!?」

 

 ギリギリに回避したレオポルドにアルトは"聖剣エクスカリバー"を取り出し、新たな魔法をエクスカリバーに付与して魔法を発動した。

 

 ___混沌水魔法"皇鮫后(ティブロン)"___

 

 エクスカリバーを一振りすると剣から巨大な水で形成されたホオジロザメが現われてレオポルドへと向かって行く。

 

 ___炎魔法"炎獅子の咆哮(レオ・ブラスト)"___

 

 炎で形成されたライオンがアルトの放った水魔法に衝突し、大きな爆発と水蒸気が生じた。

 水蒸気で何も見えない状態でいると、レオポルドは次の魔法の発動の準備をするも、アルトがいる場所から淡い光が一瞬だけ輝いた。

 すると、レオポルドの首筋に剣の刃筋が突きつけられた。

 

「なっ!? い、いつの間に‥‥」

 

 ___混沌魔法"神速の歩み"____

 

「お前の敗けだ」

 

 混沌魔法は全ての魔法の原典。

 それ即ち複数の魔法属性の融合・合体すらも含まれている。

 二つ以下の属性ならば「混沌○○魔法」で終わるが、三種類以上の場合、それは混沌である。

 よって"神速の歩み"は混沌魔法になる。

 

 “神速の歩み”‥‥‥光魔法による光速移動と雷魔法による瞬間的高速移動に時間魔法による光速の六乗にまで加速し、雷魔法による瞬間的高速化を時間魔法で劇的に繰り上げ、周りの時間だけを遅延させる事で更に光の速度を超えた神速の状態で動く事が出来る。そして、自身の身体が追い付く様に肉体に強化魔法を掛けたいる。雷魔法と光魔法と時間魔法の加速に肉体への強化魔法の融合魔法だ。

 

「ッ!? ‥‥‥俺の‥負けだ‥!!」

「そこまで!」

 

 背後から剣を突きつけられたレオポルドは敗北を認めた。

 レオポルドが負けを認めた事でフエゴレオンが勝負の終了を告げる。

 レオポルドが負けた事に団員達は驚愕と困惑していた。

 

「レオが負けたっ‥!?」

「嘘だろ‥‥」

「あのレオが‥‥」

 

 王族であり有力な団員であるレオポルドが今日やってきたばかりの新人相手に負けた事にレオポルドよりも先に入団指定先輩団員達が次々に困惑を口に出していた。

 

 そんな中、敗北したレオポルドは‥‥

 

「っ! ‥‥‥我がライバルよ! 俺は負けたが、今度は必ず俺が勝つ!!」

「勝つのは俺だ」

 

 敗北した事への悔しさはあれど、自身のライバルより強くなり、勝利することを宣言するがアルト負けるつもりはなく、彼も淡々と告げる。

 それは次の勝負も俺が勝つという挑発も加わっている。

 そんな二人に話し掛けるフエゴレオン。

 

「良いバトルだった二人とも」

「ありがとうございます」

「‥‥レオ、アルトとの戦いはお前に新たな炎を開花させるだろう!」

「はい! 兄上!!」

 

 レオポルドはフエゴレオンから助言の様な事を言われ、素直に受け取った。

 

 そして、フエゴレオンはアルトへと顔を向けた。

 

「ミモザから聞いていた通りだったな」

「?」

 

 フエゴレオンの発言がわからずアルトは首を傾げる。

 そんな彼にフエゴレオンが話しだした。

 

「アルト、お前は三年前、魔法騎士団に護衛されていた1人の少女を助けているな」

「‥‥‥っ! あぁ。そう言えば、神父様に頼まれてフォーロン村にいった際にそんな事があったな」

 

 アルトはフエゴレオンから告げられた言葉に記憶を遡りながら思い出すと、その言葉と合致する出来事を思い出した。

 思い出したアルトにたたみかける様にフエゴレオンが告げる。

 

「お前が助けた少女はミモザ・ヴァーミリオン。私やレオの親戚に当たる者だ。彼女から魔導書を持たず魔法騎士団を越える下民の者と出会ったと聞いてな。お前の実力を知りたかったが、どうやらお前は中級魔法騎士以上である事がわかった。お前の本気を確かめる為に約束通り私が相手をしよう」

 

 フエゴレオンはどうやら従妹の告げた事を確認するためにアルトに余興を行なったのだ。

 そして、その余興の中でアルトの実力を知ることが出来るだろうと思ったフエゴレオンだったが、彼は中級魔法騎士であるレオポルドに勝てる実力者というだけで中級魔法騎士以上の位にある上級魔法騎士・大魔法騎士のどれなのかを知るべく彼に焚き付けた条件を持ち出したのだ。

 

 それはアルトを焚き付けるには十二分なものであった。

 よって、その条件を手にしたアルトは現魔王騎士団長と戦う事になった。

 それにしても、アルトが救ったという出来事に関しては何れ語ることにするが、思わぬ繋がりがあった事に変わりはなかった。

 

 話しを戻して、団長と新入団員最強との模擬戦が行なわれようとしていたが、それに待ったを掛ける者がいた。

 

「待ってください団長」

「どうしたランドール」

 

 声を掛けたのは[紅蓮の獅子王]団の副団長ランドール・ルフトエールだった。

 

「その模擬戦。私にやらせていただけませんか?」

「何故だ?」

「団長と模擬戦する前に、副団長である私を倒してからにして頂きたいのです」

「‥‥‥アルト。お前はどうだ?」

 

 フエゴレオンはランドールの発言から止めるのは無理だと判断し、対戦するアルトに問うた。

 

「俺はかまいませんが‥‥」

「ではランドールとアルトの模擬戦を行なう。他の新入団員(もの)も団員達から」

 

 アルトはランドールの要求に同意する発言を取った。

 それにより、フエゴレオンはランドールとアルトが模擬戦することになった。

 

 同時に他の新入団員も他の先輩団員達と模擬戦する事になった。

 先輩団員から声を掛けられて模擬戦を行なう他の新入団員達。

 その先輩団員の中には先程アルトと戦ったレオも参加していた。

 どうやら気持ちを切り替えて新入団員を鍛える事に

 

 そして、ランドールとアルトの模擬戦が行なわれる事になり、先程同様にフエゴレオンが審判を行なう形で模擬戦が行なわれるのだった。

 

「それでは、ランドールとアルトの模擬戦を行なう」

「「‥‥‥」」

「‥‥初め!」

 

 [紅蓮の獅子王]団の副団長と[紅蓮の獅子王]団の新入団員最強の模擬戦が始まった。

 

 



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模擬戦、初任務へ

遅くなりました。
どうぞお楽しみください


「‥‥初め!」

 

 フエゴレオンの号令によって開始された副団長ランドールと新入団員アルトとの模擬戦。

 先に動いたのはランドールだった。

 

 ____空気魔法"砕破空圧弾"____

 

「ホァッ!!」

 

 ランドールは両手で何かを包み込む様に右手を上に、左手を下にして構えると、何かを圧縮して放ってきた。

 その何かは何も見えないが、全ての魔力の原典である混沌魔法は魔力感知も含まれる為、空気の魔力弾が猛スピードで襲ってくる魔力を感知した為、"神速の歩み"を行使して回避した。

 

 同時にアルトはランドールの背後に移動して攻撃の準備を行なった。

 右手に風の魔力を圧縮した魔法を突きつけるアルト。

 

 ____混沌風魔法"螺旋丸"____

 

 高密度の風の回転力と破壊力、そしてそれを球体へと圧縮する力によって出来た風魔法。

 当たれば内部破壊する必須の魔法である。

 しかし、それは当たればの話しだ。

 

 ____空気魔法"真空"____

 

 風属性の魔法の副属性である空気魔法も混沌魔法同様に魔力感知ができる。

 よってアルトから放たれる膨大な魔力量を感知する事など簡単な事だった。

 彼の魔力は魔力感知が下手な人物(例外(アスタ)を除いて)常時認識できるレベル。

 

 そして、それが魔力感知ができて更には一魔法騎士団お副団長であるランドールからすればそれを防ぐ方法は多くあった。

 同じ風属性の魔法を防ぐには空気を真空状態にすれば、簡単に防ぐことが出来る。

 

 まぁ真空状態は火系統魔法も加わるが‥‥

 

 兎に角、アルトの"螺旋丸"を簡単に消滅させた。

 "螺旋丸"が消滅させられた事を視認するとアルトは距離を置き始めた。

 

 しかし、ランドールは距離を置こうとするアルトを逃がすはずもなく、脚に空気魔法による空気を蹴ると言った移動方法でアルトに近づいて空気魔法を付与されている両手で掌底を行なう。

 

「ホァッ!」

「ッ! ‥‥ガハッ!」

 

 アルトは近づいてきて掌底を放ってきたランドールの手を両手を交差する事で受け止める事が出来たが、空気魔法の威力が大きい為、胸板に空気泡が衝突したかの様な痛みが襲った。

 空気を全部抜き出すような痛みに息切れを起こすアルト。

 

「ゴホッ! ゴホッ! ハァ‥‥ハァ‥」

「まだやるかい?」

 

 ランドールは余裕の笑みを浮かべながらアルトに告げる。

 まるでアルトに勝ち目はないと言わんばかりに‥‥

 しかし、アルトがそんな事で止めるはずもなかった。

 

「当然! それに勝ち方はわかった」

「なに?」

 

 とても好戦的な笑みを浮かべるアルトが告げる言葉にランドールは不快に思った。

 先程の交戦で勝ち方を理解したと告げたのだ。

 それ即ち、ランドールの攻略を簡単に見抜いたという事だ。

 

 つい先程入団したばかりの人物が副団長になる為に如何なる戦績を積んできた人物に勝利する筋道を見つけたと言うのだ。

 ハッキリ言って無礼で烏滸がましい事この上ない発言だ。

 

 流石に自身の今までの努力を簡単に見透かした様な発言にランドールも怒りを隠せずにいた。

 

 ____空気魔法"真空大玉"____

 

 真空部分を大きな球体として作り出した魔法。

 それをランドールはアルトへと向かって放とうとする。

 

 しかし、アルトはその攻撃を大地から出てきた鎖でランドールと自身を囲う様に出現させた。

 

 ____混沌鎖魔法"封鎖結界"____

 

 アルトが初めて戦った相手である盗賊レブチの鎖魔法から生み出した結界内の相手の魔法・概念を束縛し封じるアルトの鎖魔法。

 

 "封鎖結界"──────鎖魔法によって出来た結界内に魔法を封縛し、酸素などの空気も封じ込めることが出来る魔法。

 

 その鎖魔法の結界の中でランドールの空気魔法を封鎖した。

 掌に収まっていた大きな真空の球体が消えた事で、ランドールは困惑していた。

 

「こ、コレは‥‥?」

 

 ランドールは"真空大玉"以外の魔法も行使するが、一向に空気魔法が使えないことに漸く気付いた。

 

「(私の魔法自体を封じているのか)なら‥‥」

 

 ランドールは鎖で囲まれた結界外へと身体を向けて、強化魔法で自走を加速し脱出しようとする。

 しかし、それすら予測していたアルトは"封鎖結界"と同時に使用していた魔法を発動させた。

 

 ____混沌空気魔法"絶滅の呼吸(デストロイ・ブリーズ)"____

 

 アルトはランドールとの交戦で視認し、解析した彼の空気魔法を発動させた。

 発動された魔法は"封鎖結界"の中にある空気を‥‥正確には酸素を膨大な吸引力で刹那の間に酸素を消し去った。

 

「カッ! ‥ガハッ! ‥‥ッ! ‥‥」

 

 アルトが空気魔法を発動すると結界内の酸素が刹那の間に消え去った為、ランドールは呼吸が出来ず、結界から出ようと動かしていた足が止まってしまった。

 何故酸素が消えたのか? 

 

 それはこの"絶滅の呼吸"が関係している。

 

 "絶滅の呼吸"──────一呼吸するだけで、周囲一帯を無酸素状態にし、生命活動に酸素を必要とする生物は戦う事すら出来なくなる魔法。しかも術者がこの魔法を使う場合一呼吸で3600億tの空気を吸う事が出来る機関を体内に作り出してしまう副次的な効果が付与される。しかも不動の場合のみ約1年間は無呼吸状態で生きられるほどである。

 

 人間では不可能に等しい魔法だが、膨大な魔力と自身の身体を創成する事が出来る混沌の魔力の持ち主であるアルトだからこその魔法である。

 しかもアルトはこの魔法を使う為に周りに効果が起きないように"風空封鎖結界"によって空気を封縛させていたので、"絶滅の呼吸"の無酸素状態を結界外に及ぶことはない。

 よって呼吸を我慢できる時間が短すぎる人間にとってこの魔法は正に致死的な魔法だ。

 

 ランドールが呼吸困難で倒れそうになった所でアルトは二つの魔法を解除した。

 

「‥‥‥‥プハッ! ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

 酸素を目一杯取り込もうと呼吸を荒くして吸い込むランドールは呼吸が整うと立ち上がり、両手を挙げた。

 

「降参だ。私の負けだよ」

 

 ランドールは敗北を認めた。

 

「勝者、アルト!」

 

 ランドールが敗北を認めた為、フエゴレオンは勝者の名を叫んだ。

 

 副団長までも倒したアルトに驚愕と恐怖を交じらせた表情で見つめる他の団員達。

 

「嘘だろ‥‥」

「ランドール副団長まで‥‥」

「何なんだアイツ‥」

 

 などとアルトへの恐怖心が先輩団員達に植え付いてしまった。

 アルトに一切の敵対的な思考はなかったのだが‥‥‥強大な力に怯えるのは生物の性である。

 ランドールとの模擬戦が終わり、流石にアルトの体力も疲れた為、フエゴレオンとの模擬戦は双方が空いた時間の際に行なうという事で終わり、新入団員を歓迎するための夕食が始まり、自室を案内された。

 その際にアルトはやはり浮いてしまっていたが、レオやフエゴレオン、ランドールから認められていた。

 

 自室に案内された後、教会への手紙を書いて翌日の早朝に使い魔によって送り届けた。

 

 ────────────────────────

 

 翌日。

 

 アルトはフエゴレオンに呼ばれて初任務を頼まれた。

 

 初任務には同伴として参加したフォルティ・グリスが選ばれ、アルトと二人の新人を連れて、国境付近のパトロールを行なう任務だった。

 

 パトロールと聞いて何故だと思った新人達だったが、国境付近は危険なことが多く遠征が必須になる為、魔法騎士団が交代で別々の国境の遠征を行なっている。

 そして、今日は[紅蓮の獅子王]団が遠征の番になったのだ。

 

「────では、頼むぞ」

『はい!』

 

 パトロールに向かう4人は右手の親指と小指をおり、人差し指と中指、薬指を三本真っ直ぐな状態にして胸に平行になるように敬礼しながら返事をした。

 

 この敬礼はクローバー王国の敬礼である。

 

 ────────────────────────

 

 クローバー王国の国境にやってきたアルトはフォルティの命令を聞きながら二人組で見回っていた。

 

「‥‥‥」

「‥‥あ、あの!」

 

 アルトとフォルティがそれぞれリーダー役としてもう一人を連れて遠征していると、アルトと組を汲んでいるアルトと同じ新入団員の金髪ショートヘアーの少女___フェリア・ハスカーが話し掛けてきた。

 

「どうした?」

 

 アルトは歩みを止めてフェリアに身体を向けた。

 

「‥‥‥」

「何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

 アルトは中々話し掛けた理由を告げないフェリアに更に問うた。

 

「‥‥して」

「ん?」

「どうしてそんなに強いんですか?」

 

 フェリア純粋に思っていた事を訪ねた。

 昨日のアルトの模擬戦を見て感じた事を聞いた。

 それも仕方のないことだろう。

 どれ程才能があろうと努力しなければ意味はなさいモノである。

 

 赤ん坊が成長して言葉や文字、時刻などと学習する必要がある。

 理解力が異なろうと全ての人間が学習という名の努力を行なっているのだ。

 魔力も同じだ。

 魔力を制御するために多くの努力が必要であり、努力の数だけ使用できる魔力量も増えるモノだ。

 魔力量が違っていたとしても努力によって魔力量の多い者が少ない者に敗退する事もある。

 

 よってアルトはフェリアのその発言に、自身が強いと思った事などなかった為、思うが儘に告げる。

 

「俺が強いか‥‥俺は自分が強いなど思った事などない」

「え?」

「俺の故郷では魔力を全く持たずに生まれた奴がいる。ソイツは誰よりも努力を諦める事はなかった」

 

 この世界は魔力が全て。

 そんな中で魔力を持たずに生まれるという事は一生の敗北者と言うことになる。

 しかし────

 

「ソイツが諦めなかったからこそ、力を得た。その力を使い魔法騎士団に入団した。確かに魔力量ならば俺は最高の者かもしれないが、力とは魔力だけじゃねぇって事だ。自分なりの強い力を見つければ良い。それが強さになる」

「自分なりの強さ」

 

 フェリアがアルトの言葉に聞き入っていた。

 昨日のアルトの模擬戦を見て自分との差を見せつけられた事に不安を感じ取っていたが、アルトの言う魔力の持たぬ人物が魔法騎士団に入団するなど前代未聞だが、それを実現させたのはその人物の心の強さだった。

 魔力という強さがないものの心という強さによって合格し入団したならば、自分にも何らかの強さがあるのだと思ったフェリアは憑き物が落ちた様な表情を浮かべ、アルトに感謝を告げた。

 

「ありがとう」

「あぁ」

 

 フェリアからの感謝に相槌を打ったアルトは遠征を続けていく。

 一通り見回して行くも異常な事はなかった。

 

「異常はなかったな」

「はい」

「フォルティさん達合流しよう」

 

 アルトはフェリアと会話をした後、フォルティ達と合流しようと合流地点へと"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"を創成して乗って行く。

 ドラゴンの背に乗って合流地点まで行く事に初めての体験だった為にフェリアは驚愕と歓喜に心を打たれていた。

 

 そして合流地点へとやってきたが、そこには思わぬ光景が広がっていた。

 フォルティ達が倒れていた。

 

「なに!?」

「フォルティさん! ガルヴァ君!」

 

 アルトとフェリアは倒れているフォルティと同じく新入団員のガルヴァを見て驚愕し、心配の声をあげる。

 "冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"を着地させた。

 "冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"が着地するとドラゴンから飛び降りた2人は倒れている二人へと早足で近づいた。

 

「どうしたんですか!? フォルティさん、ガルヴァ君!」

「これは‥‥っ!! 拙い息を吸うな!?」

「え?」

 

 フェリアはフォルティとガルヴァに心配の声をかけ続ける中、アルトは2人に起きた事を思考するが、すぐにある異変に気づき、フェリアに注意を促すが異変に気付いていないフェリアは呆けた声を告げる。

 

 そんなフェリアにアルトは仕方なく左手で彼女の口を塞ぎフォルティとガルヴァから強化魔法で強化した身体能力で離れた。

 フェリアは突然のアルトの行動に呆然としていた。

 

「いったい何を」と抗議しようとしたかったが、何故アルトがその様な行動を取ったのか漸く理解できた。

 フォルティとガルヴァの周りに黄緑色の煙のようなモノが流れていたのだ。

 

 フォルティ達から100m程離れた場所へとやってきたアルトはフェリアの口を塞いでいた手を離すとフォルティ達の周りにある煙を除去するために魔法を使った。

 

 ____混沌回復魔法"再生"____

 

 "再生"=24時間以内ならば負傷がなかった状態へと再生させる事が出来るが、人体のみならず無機質も対象に入る為、フォルティとガルヴァに起きた状態を元に戻し、空気の状態も元の状態へと再生させた。

 

「‥ぅ‥‥これは‥」

「‥‥さっきまで苦しかったのに‥」

 

 フォルティ達は自分達に起きた事が理解できずにいた。

 しかし、そんな中、四人とは別の声がこの場に聞こえた。

 

「あら~神話の混沌の魔導士がいるなんて~」

『ッ!?』

 

 第三者の声が聞こえた為に、誰もがその者へと視線を向けた。

 すると、そこにはダイヤモンドの紋章を付けたローブを羽織ったシミが多い白衣の女性がいた。

 その女性はまるで何らかの研究者と言わんばかりの格好だった。

 

「お、お前は‥‥八輝将の一人‥」

「初めまして~[八輝将]の一人、エルパ・フィルダムで~す」

 

 エルパと呼ばれた女性は下卑た笑みを浮かべながら、自己紹介した。

 あまりに巫山戯た態度にアルトは苛立ちを隠せずにいた。

 

「何のために襲ってきた?」

「何のためって、決まってるじゃな~い。私の調合魔法で出来た薬品の人体実験のためよ~」

 

 何一つ悪びれることなく告げるエルパにアルトだけでなく、フォルティ達も怒りを滲み出ていた。

 

「そんな理由で襲ったんですか!?」

「そだよ~」

 

 フェリアはあまりに信じられなかったのか再確認として問うが、エルパの反応は一切変化がなかった。

 何とも思わぬその所行にアルトも堪忍袋の緒が切れる寸前でいた。

 しかし、アルトよりも早く、堪忍袋の緒が切れた者がいた。

 

 それはエルパの調合薬の被害を受けた人物達___つまり、フォルティとガルヴァだった。

 

「巫山戯るな!!」

 

 ____炎魔法"バーストジャベリン"____

 

 ____植物魔法"切葉の蔦"____

 

 

 フォルティの炎魔法によって出来た炎の槍とガルヴァの植物魔法によって出来た切れ味が強い葉っぱを有した蔦が襲うが、エルパの調合魔法が発動した。

 

 ____調合魔法"オゾンドーム"____

 

 二人の攻撃を簡単に回避したエルパは自分達を囲むようにオゾンによって出来たドームを作り出した。

 オゾンは人間にとって有害なガスである。

 しかし、エルパ自身もこの"オゾンドーム"にいる為、自身にも影響が起きるのが普通だが、どうやら彼女はこの魔法の耐性を同時に自身に起こしている様だ。

 有害ガスを吸い込んでしまった四人はすぐさま、口に手を当てて身を低くする事で対抗しようとするも、ドーム内の空気がオゾンだけなので意味が成さない状態だった。

 

 よってアルトが動いた。

 

 ____混沌回復魔法"再生"+混沌風魔法"惑星大玉螺旋丸"____

 

 まず最初に自身達の状態を元の状態へと"再生"させて、惑星の様な複数の大玉状態の"螺旋丸"を右手に集約した魔法を"オゾンドーム"に放つ。

 すると、オゾンのドームが簡単に大玉状の乱回転の螺旋丸によって吹き飛ばされた。

 

「くっ!?」

 

 エルパは巨大な突風に回避はすれど、完全に回避できたわけではなく、彼女の左腕に僅かに軽傷を与える事が出来た。

 しかし、それで勝てる筈もない。

 

「あっは~。混沌魔法はやっぱり凄いね。どんなに調合しても簡単には死なないから~もっと実験になってよ~!!」

 

 エルパは"オゾンドーム"を防がれた事で更にアルトを実体実験対象としての評価が上がった。

 その言い方は、他の者は一切眼中にないと言わんばかりの代物だった。

 

 その発言は実験体にされた2人とアルトと共にいたフェリアは苦渋と憤怒の表情を浮かべていた。

 当然だ。

 勝手に実体実験として扱われ、今度はいない者扱いされれば、そうなるのも無理はない。

 

「お前は何故、非道な事が出来る」

「何でって、決まってるじゃ~ん。人間なんて実験動物として生まれただけの存在じゃ~ん。死んだ所で問題ないでしょ~」

 

 笑いながらも凶器な理由を告げるエルパに正気を疑うフェリア達。

 エルパの行動理由を聞いたアルトは俯いていた。

 

「さぁさぁ! もっと「もういい‥喋るな」え?」

 

 ドゴォオオオン!!! 

 

「‥‥ガハッ!! ゴホッ! ゴホッ!」

『え?』

 

 実験を続けようとしていたエルパにアルトは何時の間にか手にしていた"聖剣エクスカリバー"の剣先を向けていた。

 エルパは剣先を向けられた瞬間に、一点に無数の衝撃によってエルパの背後にあった大岩に衝突した。

 

 一体何がおきたのか、フェリア達も、エルパにもわからなかった。

 アルトは唯々純粋な剣術を行なっただけだ。

 

 強烈な連続の突きを行なう剣術、"デスペッカー"を‥‥

 

「貴様は、命を何だと思っている。お前の娯楽の為に、多くの命が犠牲になった」

 

 アルトは言葉は一つ一つに怒りが籠もっていた。

 

「俺の仲間も襲った。もう喋る必要はない。貴様は俺が殺す」

 

 深海の如き憤怒を纏ったアルトは"聖剣エクスカリバー"を構えてエルパに挑むのだった。

 




次回~裏に隠れし火種~


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裏に隠れし火種

ようやく六話目が出来ました。

どうぞ楽しんでください!


 "聖剣エクスカリバー"を構えたアルトはエルパに襲い掛かる。

 高速移動魔法だと勘違いしてしまうほどの身体能力による高速移動に驚くフェリア達を余所に彼はエルパに向かって一瞬で六回の剣撃を行なった。

 

 エルパは自身の肉体の炭素を硬質化させる様に調合して、ダイヤモンド級の硬度へと変えた。

 ダイヤモンドの皮膚に守られてアルトの連続の剣撃を受けても傷一つなかった。

 

 調合魔法=あらゆる元素を調合させて別の代物へと変える魔法。炭素を酸化させて一酸化炭素を作り出したり、空気をガスの状態にしたり、自身の炭素をダイヤモンドへと変えたりと出来る。

 

 つまり、調合するだけで、鉱石や毒なども作り出せる。

 

「‥‥」

「効いてない!」

「新人だけに戦わせるわけにはいかない!」

 

 ____炎魔法"火炎玉"____

 

 アルトだけに戦わせる事に嫌気を感じていたフォルティは炎魔法で出来た中規模の炎球体を数個エルパに放った。

 しかし、エルパが炎を消すために真空状態へと空気を調合させた事でフォルティの炎魔法がかき消された。

 

「クソッ!?」

「無駄だよ~さぁ実験の続きを‥‥「言った筈だ。もう喋るなと」」

 

 ____混沌光魔法"イクスティクション・レイ"____

 

 アルトの左手から放たれた極大の閃光がエルパに襲う。

 

「だから~無駄だって言って‥‥」

 

 エルパはアルトの魔法など効かないと考えていた。

 どれほどの魔法であろう自分の調合魔法ならば勝てると自負しているが故に彼女は人間を実体実験にしようと文句を言われないのだ。

 それは相手よりも自分の方が強いからだ。

 

 しかし、エルパはこの時、失敗した。

 今までの戦いで自分の強さを自負しすぎたが故に未知なる力への警戒と対処を疎かにしたのだ。

 

 まさか見下していた相手の魔法が自身の体を塵一つ無く削った事に彼女は死ぬまで理解できなかった。

 

 フェリア達の目に映ったのは足を残して消え去ったエルパだった。

 

「‥い、いったい何を‥‥?」

 

 フェリアは魔法を行使したアルトに質問した。

 入団したばかりの人物が最初の任務で敵を殺したのだ。

 あまりに殺害への抵抗がないアルトの行動に同じく新入団員のフェリアやガルヴァはアルトに恐怖を抱いた。

 

 混沌光魔法"イクスティクション・レイ"=あらゆる物質を分解させる閃光を放つ魔法だ。

 

 これにより、肉体の硬度をダイヤモンドにしようと、肉体の表面を鏡の様にしようと、分解されて貫かれるだけなのだ。

 

 その事を淡々と告げるアルトに恐怖の余り、何も言えなくなったフェリアとガルヴァ。

 

「なぜ殺したんだ?」

「あの女の調合魔法は複数の元素を調合して新たな物へと変換させる魔法だった。被害を最小限にするには殺すしかない。それとも敵に情けを掛ける必要があるんですか?」

 

 アルトは三人への被害も考慮してさっさとエルパを殺害したのだ。

 新入団員らしからぬ発言にフォルティは何も言えなかった。

 

「‥‥これで任務は終わりですか?」

「あ、あぁ」

 

 フォルティが任務終了を告げた為、今回の任務は終了した。

 四人はその後、エルパの遺体を回収して[紅蓮の獅子王]団アジトに帰って行った。

 

 ────────────────────────

 

 アジトへと戻ってきたアルト達はフォルティがフエゴレオンに任務の報告を行なった。

 

「そうか、国境にダイヤモンド兵が来ていたとなれば、ダイヤモンド王国との戦争も近い内に起きるかも知れないな」

 

 報告をフエゴレオンは最近にダイヤモンドとの戦争を行なっていた為、ダイヤモンドの更なる進行の対策を必要があった。

 そして、アルトの抵抗のない殺害。

 

 アルトの判断が悪いわけではない。

 しかし、新入団員が初任務で殺害を許容したという事が問題なのだ。

 

 まるで殺害になれているかのような行動が‥‥‥

 

 フエゴレオンはその事を口に出すことはなく、アルト達を労った。

 

「任務ご苦労であった。十分休め」

『はい』

「フォルティ」

「はい」

 

 フエゴレオンの労いの言葉を聞いて、各々自室などに戻ろうとする中、フォルティは彼に呼ばれて立ち止まった。

 

「アルトの様子はどうだった?」

「[八輝将]のエルパの行動を聞いて殺すことにためらいがなくなったように思えます」

「理由によっては殺害を許容するということか」

 

 フエゴレオンはフォルティの報告からアルトの行動基準を把握する事が出来た。

 

「アルトの行動はわかった。ご苦労だったフォルティ。ゆっくり休め」

「はい」

 

 フエゴレオンはフォルティに労いを告げて休ませた。

 

「‥‥アルトが、あの時の膨大な魔力の張本人なのは確かだが‥‥行動基準を明確にしておきたい‥‥姉上に頼み込んでみるか」

 

 フエゴレオンはいったい何を懸念しているのか。

 

 それは今後のアルトに訪れる戦火にて明確になるだろう。

 アルトの行動基準を理解できるのは‥‥‥

 

 

 

 最低でも半月後といった所だろう。

 

 ────────────────────────

 

 四日後。

 

 アルトはフエゴレオンに呼ばれて団長室にやってくるも、そこにはレオポルドもいた。

 

「お呼びですか? 団長」

「来たなアルト。お前とレオに任務がある」

「「はい」」

 

 フエゴレオンは団長用の椅子に座りながら目の前にいるアルトとレオポルドに告げた。

 

「最近、クローバー王国内で100人以上の夜盗が行動しているらしい。その裏には貴族が関わっているとも言われている」

 

 フエゴレオンのその言葉にアルトとレオポルドも魔法騎士としてか夜盗を使って私腹を肥やす貴族に怒りを覚えていた。

 そんな2人にフエゴレオンはクローバー王国の地図と夜盗に関する報告書を出した。

 その地図には罰印が書かれていた。

 

「これが夜盗に襲われた村々の場所と、報告書だ」

 

 アルトとレオポルドはフエゴレオンが出した地図と報告書を見た。

 罰印が書かれている場所は疎らで統一性の無い襲撃場所だった。

 報告書を見るまでは‥‥

 

「無差別に襲っているのか‥‥」

「いや、人にランダムは作れない」

「? どういうことだ?」

 

 レオポルドは夜盗達の動きが無差別の様に思えていた。

 しかし、アルトはそうではなかった。

 

 どういう事なのか気になったレオポルドはアルトに問う。

 

「無差別に見えて、人は必ず規則性を作ってしまう。特に夜盗は盗む集団だ。盗む物があるから襲うという規則性が存在して居るんだ。そして、この夜盗が盗んでいるのは建物の破壊と食物と金品の回収の規則性に則っている」

「だが、それがわかっても次の襲撃場所がわからなければ意味がないぞ」

「規則性さえ分れば罠を張る事は出来るだろ」

 

 アルトの発言を聞いてレオポルドは成る程と思った。

 

「罠を何処に張るかだが‥‥」

「村から離れた場所に、俺の魔法で偽の財宝を作る。そこに『王族が隠し財産を隠している』と、偽の情報を貴族に漏らす。それによって、国の裏切り者は夜盗に連絡を取るはずだ」

「フム。では、アルトの策を実施する。貴族へのリークは魔法帝に頼み込もう。お前達はすぐさま現場へ向かえ」

「「はい!」」

 

 アルトとレオポルドは敬礼するとアルト考案の策に合う場所へとすぐさま向かって行く。

 

 ────────────────────────

 

 アルトとレオポルドは罠を張る為に、平界の村から離れた森にいた。

 

「ここら辺でいいか?」

「フム! ではさっさと建てるか、我がライバルよ」

「‥‥勝手にライバル呼びするな」

 

 ____混沌魔法"森羅の改変者"____

 

 

 アルトは"森羅の改変者"によって罠を張る場所を改変した。

 

 "森羅の改変者"=簡単に言えば、万物を改変させるだけの魔法だが、万物を改変するという時点で驚異的な魔法である。改変するという事は燃焼し、凍結したりなど出来る。

 

 よってアルトは、地上に平民的な家を創造し、地下に巨大なシェルターのような宝物庫を作り出した。

 空は認識阻害の罠魔法(トラップ)を創造した。

 

 3分ほどの創造によって、立派な偽の宝物庫を作り上げた。

 

「ガハハハハハ!!! 見事だアルト。流石は我がライバル!」

 

 レオポルドはアルトによって作られた偽物を見て褒めた。

 

「後は夜盗が来るのを待つだけだ」

 

 アルトとレオポルドは夜盗が現われるであろう時間まで、その周りで張り込んでいた。

 

 ────────────────────────

 

 時間が経過して、夜の23時頃。

 

 フエゴレオンの計らいで魔法帝によって貴族に嘘の情報をリークする事が出来た。

 張り込んでいたアルトとレオポルドは、襲ってくるだろう時間まで入れ替わりに休憩していたが、漸く、その夜盗が罠に掛った。

 

 アルトとレオポルドは、遠くからアルトが建設した場所を監視していると、約50名ほどの黒いスカーフによって顔を隠している夜盗が現れた。

 

 魔法で視力を上げていたアルトは100人の内、半分しかいない事から疑問に思っていた。

 

「‥‥50人。残りは何処に‥‥?」

 

 アルトは半分しかいない現状に悩んでいた。

 どう考えても、先発隊の様な者達だろう‥‥

 アルトはそう考えた。

 

「行くぞ、我がライバル」

「待てレオ」

 

 夜盗を倒しに向かおうとするレオを手を伸ばすことで防いだ。

 

「何故だ!?」

 

 レオポルドはアルトに抗議する。

 その抗議にアルトは答えた。

 

「やってきたのは約50人ほどだ。残りの50人が気になる」

「考えている間に罠である事がバレてしまうぞ!」

「問題ない。幻覚の魔法や罠魔法も付けてある。早々気付かれない。さて、視てみるか」

 

 アルトはレオポルドを落ち着かせると、彼はある魔法を行使した。

 

 ____混沌時間魔法"全智の未来"____

 

 

 アルトの瞳に時計のような紋章が現れた。

 

 "全智の未来"=これから起きるあらゆる可能性の未来を視認し、理解する時間魔法

 

 そして、アルトはこの魔法を使ってこの先の未来を、レオポルドと共に見た。

 すると、そこには夜盗が罠であることを知り、アジトへと向かう未来や、先発隊を捕えた後の未来などが視認できており、アルトは可能性の未来の中で一番効率が良い方法を取ることにした。

 その方法の中ではアルトとレオポルドも見た事がある人物が写っていた。

 

「先にアジトから潰しに行くか」

「フム! 先に親玉を叩いておくのだな!!」

「では行くぞ」

 

 アルトとレオポルドは先にアジトへと向かう事に決めた。

 アルトはレオポルドの肩に手を置くと、"神速の歩み"によって"全智の未来"で視たアジトまで、神速で駆け抜けていった。

 

 ────────────────────────

 

 アルト達が張った罠の場所から飛行魔法で30分は掛る平界近くの洞窟にて、人間の声が騒がしく響いていた。

 

『アハハハハハ!!!』

「────にしても、馬鹿だよな魔法騎士団もよ!」

 

 1人の男が酒の入った酒樽を掲げながらもクローバー王国の魔法騎士団を馬鹿にしていた。

 

「全くだ。あの貴族様が俺達に情報を流してるってのに、それに全く気付いてねぇんだからよ!!」

「全くだぜ! 魔法騎士団も大した事なかったですねぇ。ボス!!」

 

 魔法騎士団に対して酔いながら罵倒していた男に同調する様に他の野党の一員達が同意していた。

 そして同調を求める様に夜盗の頭に話し掛ける下っ端。

 

「お前ら、俺達が言い思いできんのは、この貴族様たちのお陰ってぇ事を忘れんなよ!!」

 

 下っ端に同調を求められていた夜盗の頭は部下達を諫めるように、このアジト内にいる情報をリークした2人の貴族に指さしながら告げる。

 

「いぃじゃないですか、魔法騎士団が間抜けなのは事実ですからね」

 

 部下を諫める頭に落ち着くように酒の瓶を持って盃に新たな酒を入れる、高級な服装を着用した男。

 その男の隣にはまるで魔法騎士団に怨みでもあるように憎々しい表情を浮かべる子供がいた。

 

「僕を魔法騎士団に入れなかったゴミ共なんて、こうやって騙されていればいいのさ」

 

 その子供の顔は、約一週間前の魔法騎士団・入団試験で、アルトに敗北した貴族の子供だった。

 彼は自身を倒したアルトを憎み、魔法騎士団に入れなかった魔法騎士団長達を怨んだ末、彼の父親がやっている悪行を手伝う事にした。

 彼等が平界や恵外界などの村々に、夜盗を襲わせて家や食料を奪っているのは、魔力の高い貴族達の思想による行動だった。

 

 王貴界に住まう王族・貴族達は魔力の低く、身分も低い存在をゴミの様に思っていた。

 況してや、何故その様なゴミが生きているのか? という自惚れた疑問を感じていた。

 

 この夜盗は本来なら他の貴族などを襲わせて、その資金源を自分の者にする事がこの貴族の家の犯罪理由だ。

 にも関わらず、彼等が今回の行動を行なったのはアルトと魔法騎士団への復讐だったのだ。

 

 アルトへの復讐はアルトが恵外界出身である事。

 魔法騎士団へは国家に対する資金源の簒奪だった。

 

 故に夜盗と貴族はそんな事を理由に今まで平界や恵外界を襲っていた。

 

 彼等の行動は必ず報いを受ける事になる。

 

 何故なら、彼等のアジトの扉に突然、赤く燃え広がる様な熱によって融解され、爆音と共に壊れた扉から溢れた炎が、アジト内にいる夜盗へと襲った。

 

『うぁぁああああ!!!』

「な‥何だ!? 何が起きた!?」

「て、敵襲!?」

 

 炎が数名の夜盗達を襲い被害を与えた。

 炎に当たっていない夜盗達は酔いが覚めぬ中、椅子から立ち上がり、敵手に備えた。

 そんな中、壊れた扉から現れたのは2人の少年だった。

 

「ワハハハハハハ!!! どうだ、我がライバルよ」

「奇襲は成功だな。後は実力で潰すだけだ」

 

 2人の少年とは勿論、アルトとレオポルドだった。

 彼等は此処から罠の場所まで30分も掛る場所から、2分もしない内に、このアジトへとやってきた。

 それは"神速の歩み"がそれを行なうほどに高速で光速であったから‥‥としか言えない。

 

 扉を破壊し、夜盗の数名を焼いた炎魔法を放ったレオポルドはアルトに感想を聞くが、アルトは奇襲が成功した事ぐらいしか、気にしていなかった。

 2人の着用したローブを見て夜盗達は騒ぐ。

 

「[紅蓮の獅子王]団だ!」

 

 1人の夜盗の言葉に反応した残り39人の夜盗達。

 そんな中、夜盗討伐にやってきたアルトとレオポルドはというと‥‥

 

「アルト、どちらが多く討伐できたか競おうではないか!」

「遊びじゃないんだぞ」

 

 アルトはレオポルドの発言に呆れてしまっていた。

 レオポルドの発言は自分達が雑魚扱いされているも当然の評価だった為、夜盗達は怒り心頭だった。

 

 しかし、夜盗が怒りを表す前に突如、アルト達に襲い掛かる炎魔法。

 

 ____混沌反魔法"幻想殺し(イマジン・ブレイカー)"____

 

 襲い掛かる炎魔法を相手に、アルトは右手で殴りつけた。

 すると、ガラスの割れる様な音を出しながら、炎魔法が掻き消えた。

 

「ワハハ! 新たな魔法を使うか。流石、我がライバル」

 

 レオポルドは既に炎魔法の事など気にも止めて居らず、止めたアルトの力にライバル心を抱いていた。

 アルトはそんなレオポルドを放っておいて炎魔法を出した者に視線を向ける。

 しかし、見えた人物がアルトにとっても驚くべき人物だった。

 

「お前は確か、入団試験の‥‥‥」

「出てきたな下民!!」

 

 先程の炎魔法は貴族の子供が放った魔法だった。

 魔法騎士団・入団試験で初めて出会い、実戦相手として戦った2人が夜盗のアジトで、それぞれ、国と民を守る者・国と民を傷つける者として‥‥

 

 平和の為に闘う者と、私欲の為に他人を傷つける者。

 善と悪に分れた同じ年頃の人物が、夜盗のアジトにて出会ったのだった。

 




次回~嵐の前の静けさ~


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嵐の前の静けさ

今回は短編として出しました。


 前回のあらすじ~

 

 フエゴレオンによって命令を受けたアルトとレオポルド。

 アルトの作戦で罠を張るも、夜盗の半分しか罠に掛らなかった。

 アルトの魔法によって夜盗のアジトへとやってくるも、アジトには残りの夜盗と裏切りの貴族がいた。

 その貴族の中には魔法騎士団・入団試験でアルトと実戦した貴族の子供がいたのだった。

 

 ────────────────────────

 

 夜盗のアジトにて再会したアルトと貴族の子供。

 

 レオポルドもアルトよりも遅く、彼の存在に気付いた。

 

「奴は、入団試験でアルトに負けた相手だな」

「‥‥どうやら、彼等が裏切り者でいい様だ」

 

 アルトはほんの数秒前、驚愕で思考が少し止まっていたが、すぐさま気を取り直し、残り約40名近くの夜盗と貴族親子を目の前に臨戦態勢を取る為、魔導書から"聖剣エクスカリバー"を取りだした。

 

「行くぞレオ。全員捕まえる」

「任せろ!」

 

 アルトとレオポルドがそう告げると、二人は夜盗へと襲撃した。

 レオポルドは炎魔法を駆使して夜盗を燃やし、アルトは剣技と炎や風、水や土など無数の魔法属性を行使して倒していった。

 

 魔法騎士団には星取得数による称号がある。

 新人団員は全員、五等下級魔法騎士の称号で、五等下級から~一等下級魔法騎士、五等中級~一等中級、五等上級=一等上級魔法騎士。

 そして、大魔法騎士と魔法帝という称号に上がっていく事になる。

 

 無論。これには、任務によって得られる星を個人がどれ程取得したかによって称号が進級する事になる。

 

 しかし、これは称号の始まりが新入団員が全員五等下級魔法騎士から始まるというだけで、称号=実力というのは大半がそうであっても、得希にその法則から外れた者が現れる。

 アルトがその一人である。

 

 既に[紅蓮の獅子王]団の一等上級魔法騎士である副団長のランドールを敗北させたのだ。

 それは即ち、アルトに上級魔法騎士としての実力が存在しているという事だ。

 

 その通り、夜盗の中には下級は勿論のこと、中級魔法騎士や上級魔法騎士が数名ほどは居たが、アルトとレオポルドは示し合わせたかの如く、見事な連携で敵を戦闘不能へと追い遣っている。

 

 残り十人ほどになった所で、暴れていた二人が止まった。

 

 ____混沌雷魔法"雷霆の戦鎚(トールハンマー)"____

 

 聖剣を持たない左手にアルトは雷で出来た巨大な戦鎚を雷轟と共に放った。

 

 ____炎魔法"螺旋焔"____

 

 レオポルドは両手に螺旋状の炎魔法を放った。

 

 二人の魔法が残りの十人へと襲う。

 障壁魔法で攻撃を防ごうとするも、破壊力のある"雷霆の戦鎚"が障壁を壊し、レオポルドが相手を焼いたのだった。

 残ったのは、軽傷の夜盗のボスと貴族の親子だった。

 

 倒れた夜盗達を見て、貴族の子供はワナワナと現実を受け入れがたく、怒りをぶつける様に二人に告げる。

 

「なんでだ‥‥何でだよ!? 上級魔法騎士以上の夜盗だって居たんだぞ! なのに何で‥‥何で倒れねぇんだよ!!!」

 

 貴族の子供はまるで何かに縋るように喚き散らした。

 

 しかし、アルトはそんな言葉など気にもしてなかった。

 

「巫山戯たことを言っている? お前は私腹を肥やす為に、関係ねぇ人を巻き込んだんだ。それがどういう事かわかってるよな。敵に絶望の淵に叩き落とす。それが俺の戦い方だ」

 

 アルトはそう告げると、右手に"螺旋丸"を作り出し、レオポルドは同じく掌に炎魔法を準備した。

 

「行くぞレオ」

「おう!」

 

 二人の掌の魔法が重なる様に重なり合い、魔法が放たれた。

 

 ____合体魔法"炎風暴燼砲"____

 

 炎魔法に乱回転の圧倒的な威力を有した圧縮された風の球体によって乱回転の大破壊力を有した炎魔法へと変化させて、残り三人を襲った。

 

 ドッガァァァン!!!! と轟音が鳴る中、魔法によって舞う煙がアジト内を充満し、煙が晴れるのに一分以上の時間が必要になってしまったが、煙が晴れるとそこには夜盗のボスと貴族の子供が、全身を裂傷と大火傷という被害を受けて、白目を向けて気絶していた。

 

 しかし、貴族の男が消えていた。

 

 彼が立っていた場所には大量の血だまりがあった為、攻撃を紙一重で躱そうとするも、躱しきれず怪我を負いながら逃げたのだろう。

 

 煙が晴れるのに待ってしまった為、今から追うのは簡単だが、倒した約50名の夜盗と罠に掛けた50名を連行する手段を選んだ。

 貴族の男に関しては、彼が雇っていた夜盗を捕まえた為、彼等に白状させれば掴まるのは時間の問題だった為、逮捕に焦る事はなかった。

 

 二人は[紅蓮の獅子王]団のアジトに報告してから、魔法騎士団の本部へと連絡して、牢屋の準備をさせた。

 アルトは鎖魔法を使って倒した50名と貴族の子供を拘束し、罠に掛けた50名を地形ごと拘束する事で逮捕した。

 

 "冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"を創造し、鎖魔法で繋げた盗賊達を魔法騎士団本部へと連れて行った。

 

 しかし、その考えが、すぐさま泡沫へと消えるとはこの時、アルトでも知り得なかった。

 

 ────────────────────────

 

 アルトとレオポルドの攻撃から逃れ、ある洞窟内へと逃げ延びた裏切り者貴族は息を切らしながら、負傷した部分から大量の血を流していて、意識が朦朧としていた。

 洞窟内には松明が掛けられており、明るかった。

 

「どうかしたのかい?」

 

 そんな中、若々しい声が貴族に話し掛ける。

 声のする方へと視線を向けるも、松明の光と洞窟の岩場などによって顔の部分が見えずにいた。

 しかし、首より下の部分は白八割と黒二割の配色を持ったローブに、三つの目の様な装飾が付けられていた。

 声からして、話し掛けてきたのは男性であることは分かった。

 

「どういう事だ? アンタが無事は補償するって‥‥」

「君は私たちの動きを誤魔化すための捨て駒だよ」

「‥‥にッ!?」

 

 貴族はその男の言葉に驚愕した。

 

「ありがとう。貴方のお陰でこちらの計画は順調に進んでいるよ」

 

 男のその言葉に貴族の男は驚愕から憤怒へと変えて魔法を行使しようとする。

 

「巫山戯るなぁぁぁああああ!!!」

 

 ____炎魔法"至上なる聖炎"____

 

 傷の痛みなど忘れて、右手に炎魔法を放とうとするが、彼の炎魔法を遥かに超える速度で男の右手を切断した光る何かが通り過ぎた。

 

 ____光魔法"断罪の光剣"____

 

 ローブを羽織った男は光魔法を行使して男の右手を切り落していた。

 ローブの男の周りに現れた光の剣が無数が貴族の男へと襲い、顔や心臓、足などを貫き絶命させた。

 

「さて愈々、彼の持つアレを手に入れるとしようか」

 

 貴族の男を殺したローブの男は黄金の冊子を有した魔導書を閉じた。

 その魔導書に描かれたクローバーには四つ葉だった。

 




次回~果たされた約束~


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果たされた約束

 100名の夜盗達を捕えたアルトとレオポルドは騎士団本部へと連れて行き、捕獲した。

 

 夜盗達を送った後、二人はフエゴレオンに報告していた。

 

「よくやった二人とも」

「ありがとうございます、兄上」

「‥‥」

 

 フエゴレオンの激励にレオポルドは返事を返すが、アルトは返事を返さなかった。

 

「どうしたのだ、アルト?」

「‥‥」

 

 レオポルドは返事をしないアルトに訪ねるも、彼は応えようとはしない。

 しかし、何かを思案する様なアルトの表情にフエゴレオンは先程、アルト達がアジトに戻った際に聞いた情報のことだと思い、話題を出した。

 

「殺された貴族の事を考えているのか?」

「はい」

 

 二人が倒した夜盗の雇い主である貴族が殺害され、遺体となって発見された。

 遺体には頭や心臓などを貫かれており、一撃で絶命されていた。

 

 それは即ち、裏で何者かが暗躍していたという事だ。

 それは貴族の男の罪状を知っている者ならば馬鹿でも分かる事だ。

 

 殺害された貴族の男は度々、侵略国家であるダイヤモンド王国と密会し、資金提供の代わりに、もしもの時にダイヤモンド王国への亡命を確約していた事が発覚。

 夜盗を使い、多くの未発見の貴重な魔導具や資金を強奪させていた。

 

 その為なら、多くの命を夜盗に奪わせていた。

 情状酌量の余地のない屑だ。

 

 そんな人物を殺害した存在。

 どう考えても、何かを隠すための口封じのため。

 

 それを思い立ったのは魔法帝や報告を受けた大魔法騎士ならば、すぐに気付いた事だった。

 それを魔法騎士団員になったばかりのアルトすらも感づいた。

 

 彼はどうしても胸騒ぎがしてどうしようもなかった。

 

 まるで大きな事件が起きる前触れ‥‥‥俗に言う。「嵐の前の静けさ」というべき何かが‥‥

 

「どうしても‥‥不安が過ぎってしまって‥」

 

 アルトは「嵐の前の静けさ」に不安を感じ取っていた。

 

「‥‥アルト」

「はい」

「あの時の約束を果たそう」

 

 フエゴレオンは席から立ち上がると、アルトとレオポルドを連れてアジトの近くにある、広い空き地へとやってきた。

 

「約束通り、お前と模擬戦をする」

「‥‥わかりました」

 

 どうやらフエゴレオンは入団試験後に行なった模擬戦でランドールに勝利した事でフエゴレオンとの模擬戦の許可を得ていたアルトとは、その際に模擬戦をしておらず、今その時がやってきたのだ。

 

「始めるぞ!!」

 

 ____炎魔法"大火炎獅子の顎(レオ・ストライク)"____

 

 炎魔法で創成された巨大な獅子が大きく口を開けて、アルトへと噛み付いて来た。

 

 "大火炎獅子の顎"=巨大な火炎の獅子を創成し、相手を噛み付き、炎で焼き切る炎魔法。

 

「ッ!? (早い!?)」

 

 アルトはランドール以上の速度で襲ってきたフエゴレオンの魔法に驚愕しながらも、後方にジャンプして回避した。

 アルトは魔導書を開き、魔法を行使した。

 

 ____混沌氷魔法"ニブルヘイム"____

 

 "ニブルヘイム"=領域内の物質を比熱、相に関わらず均質に冷却する氷魔法

 

 マイナス100℃近くの冷気をアルトは掌からフエゴレオンへと放出させた。

 しかし、フエゴレオンは炎で出来た螺旋の柱を作り出して防ぎきった。

 

 ____炎魔法"螺旋炎柱(イグニス・コルムナ)"____

 

 フエゴレオンの"螺旋炎柱"が"ニブルヘイム"を防ぐも、防御魔法の周りの大地や草木が凍り付いていた。

 アルトはそれを見るや、ある事を思いつき、更に強力な氷魔法を叩き付けた。

 

 ____混沌氷魔法"氷河期(グレイシャル・エイジ)"____

 

 自身の足下を含む、広範囲に氷河期の世界へと変えるほどの冷却を一瞬でフエゴレオンに向けて放出した。

 すると、赤色に輝くほどの炎のような形をした氷像が出来た。

 

 "氷河期"=広範囲に氷河期の世界へと変化させるほどに物質の振動を停滞させながら、冷却させる

 

 

「兄上!!」

 

 レオポルドは凍らされたフエゴレオンを見てしまい、叫んでしまう。

 

 アルトはその氷像に向けて、両手を空に挙げると両手に大量の水の塊を作り出し、圧縮し始めた。

 アルトが次の攻撃の準備を行なっていると、氷像となったフエゴレオンから炎が漏れ出し、氷像が少しずつ解凍し始めるが、炎が勢い始めると、大量の蒸気が溢れ出した。

 

 アルトは"ニブルヘイム"を防がれた際に、炎で冷気が蒸発した事と、炎に触れていない場所が固体化した部分があった為、フエゴレオンを氷像にするほどの強大な氷魔法で凍らせれな、彼は炎魔法で自身凍らせる氷魔法を蒸発させるほどの熱気を上げるだろうと考えていた。

 

 そして、その熱気を使い、大量の水を叩き込んだ場合、一気に沸点まで水が蒸発してしまう為、その際の爆発力を利用しようとしていた。

 科学的に言えば、水蒸気爆発を引き起こそうとしていたのだ。

 

 しかし、それを読んでいないフエゴレオンではなかった。

 

 蒸気を発する氷像から小さな青白い熱線がアルトを襲う。

 

「ッ!?」

 

 アルトは大量の水を手放し、"神速の歩み"で回避した。

 

「読まれてた!?」

 

 水蒸気が晴れると、そこからフエゴレオンが現れた。

 

「お前の策ごと焼き尽くしてやろう」

「クッ!?」

 

 アルトは自身の策ごと破壊してきた事に苦渋を呑まされた感覚を受けてしまった。

 

「‥‥なら、こっちも焼き尽くす!」

 

 ____混沌炎魔法"流刃若火"____

 

 アルトは聖剣に炎魔法を纏わせた。

 その熱量は炎の領域を越えた正しく太陽の熱量を発しており、肉眼では熱気というよりも、火炎であった。

 

 "流刃若火"=武器に太陽の火炎を纏わせる魔法。一振りでさえも致命傷な熱量である。

 

 アルトが聖剣を一振りすると、圧倒的な熱量を秘めた膨大な火炎がフエゴレオンを襲う。

 

 ____炎創成魔法"大火炎獅子の咆哮(レオ・ルゼーナス)"____

 

 フエゴレオンは炎で形成された巨大な獅子を創成し、口から炎の息吹きを出した。

 

 "大火炎獅子の咆哮"=炎魔法によって創成された巨大な火炎獅子が口から膨大な炎の咆哮を放つ魔法

 

 2人の炎が衝突し、爆風消化の如く、炎が消え去った。

 

 爆風によって2人は後方に少し後退りするが、既にフエゴレオンが新たな魔法を発動していた。

 アルトの両手と両足を掴むように炎の獅子の手が現れていた。

 

 ____炎魔法"大火炎獅子の掌(レオ・パルマ)"____

 

 "大火炎獅子の掌"=複数の炎のライオンの手で相手の動きを封じる魔法。

 

「アルト。如何なる任務であろうと、不安は憑き物だ。だが、我々魔法騎士団は理不尽な相手を倒し、平和を示さねばならん!! それには強き心で、悪を打たねばならん!!」

 

 フエゴレオンは「嵐の前の静けさ」への不安を感じていたアルトの不安解消の為に、模擬戦を行なう事にしたのだ。

 故に、模擬戦にて一喝したのだ。

 死闘ではないとはいえ、戦いの中で成長しなければ、国を守れない事もあるのだ。

 予期せぬ状況の対処は無論の事だが、何時怒るか分からない不安に対する

 

 新たな魔法はその者の努力と才能、危機的状況での願いにある。

 

 アルトには魔法騎士団‥‥いや、魔導士の中では一位たる才能の塊だ。

 その才能を行使しながら、己の肉体や魔法を努力で修練し研鑽した。

 

 しかし、今までの任務では、人への攻撃理由による憤怒や正義感のみで行なっていった。

 だが、先日の一件に起きた「嵐の前の静けさ」による不安を覚えた。

 

 しかし、フエゴレオンによって自分が今、何を行なっているのかを改め知る事が出来た。

 それが、アルトに新たな覚悟を示す事になるのだった。

 

 ____混沌炎魔法"卍解・残火の太刀"____

 

 先程まで聖剣に宿っていた"流刃若火"の炎が消え去った。

 その代わりに、聖剣の刀身が焼け焦げたボロボロな刀身へと変化した。

 

 "卍解・残火の太刀"="流刃若火"の進化‥‥真価の魔法。太陽の炎と熱を刀に収束させて出来た圧倒的な破壊力を秘めた、見た目とは裏腹な魔法。

 

 その魔法と、アルトの目つきが変わった事から、フエゴレオンは不安が解消された事い気付いた。

 

「不安は解消できた様だな」

「はい。俺が何を成すために魔法騎士団に入ったのか‥‥それを思い出したお陰で、俺は成長できました。ありがとうございますフエゴレオン団長」

「では、お前が魔法騎士団に入った理由とはなんだ?」

「理不尽を滅ぼす事です」

 

 アルトは何ともないかの如く告げた。

 その言葉にフエゴレオンもレオポルドも普通に思えた。

 しかし、普通なのではなかった。

 

「快楽のために、実験のために、私利私欲のために‥‥そんな事のために、どれ程の被害が生まれたか‥そこに人道的な思考などない。何故そんな理不尽を許容する必要がある。いや、許容などする価値もない。悩み苦しみながらも人は生きている。何気ない理不尽で生きようとする意志を奪うならば、俺が全て滅ぼす」

 

 この時、フエゴレオンは初めてアルトに恐怖を感じた。

 

「平和を手にするなら理不尽のない、笑い合う世界であってこそだ。それを邪魔する者は‥‥魂すら滅ぼし、消し去るだけだ」

 

 アルトの異常性が漸く分ったのだ。

 フエゴレオンも民を思い、悪を撃つ正義感の強い男だ。

 しかし、アルトはそれとは別だ。

 

 今のクローバー王国の状況を滅ぼし、苦しみも悩みもない、平和な国へと変えようとしている。

 彼の理想に、一切の理不尽が許容されていない。

 この世界では魔力が全てでありながら、この国では、魔力が劣っていようと、身分だけで優劣を決める。

 一種の理不尽である。

 

 アルトはそれすらも許さない。

 それを許容させようとする者、理不尽な行為を行なおうとする者をアルトは滅ぼし、勝利し、理不尽を消し去る。

 

 それがアルトの魔法騎士団に入った理由。

 それを証明する為に、実績を積み、魔法帝になり、理不尽を悉く消し去ろうとしているのだ。

 

 平和の為に‥‥‥

 

 

 それを知ったフエゴレオンは開放している魔力を収めた。

 

「ならば、実績を出し、お前の理想を叶えてみろ。だが、魔法帝になるのならば、私ともライバルだ!」

 

 フエゴレオンはそう言うや、アジトへと帰っていった。

 アルトは開放した魔法を止めて、魔力を収めた。

 

 アルトは自身の成すべき事を改めて知ることが出来た事に、そして、その機会を与えてくれたフエゴレオンに感謝の気持ちで頭を一度下げてから、アジトへと戻った。

 

 先程までの戦闘を見てレオポルドは実兄とライバルを越える為に、努力することを改めて炎の如く心を燃やした。

 

 ────────────────────────

 

 フエゴレオンとの模擬戦から四日後。

 

 更なる任務を熟したアルトは、フエゴレオンに休暇を与えられていた。

 そんな中、[紅蓮の獅子王]団の先輩団員に、ブラック・マーケットを教えられて、地図を貰った後、一度そこへと脚へと進めていた。

 そこで、思いがけない人物と再会するのだった。

 

「‥‥‥マリエラ」

「‥アルト」

 

 ブラック・マーケットに入ったアルトは街を見学していると、嘗て出会ったダイヤモンド王国の暗殺部隊の1人であるマリエラと再会したのだった。

 




次回~再会~


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再会

 ダイヤモンド王国の暗殺部隊に所属しており、魔法騎士団入団試験の為に鍛錬していた期間にアルトが出会った少女___マリエラがブラック・マーケットにいた。

 

「‥‥‥マリエラ」

「‥アルト」

 

 思わぬ再会をした2人はお互いに相手に驚愕した表情で見つめていた。

 そんな2人を見て、楽しそうに口に片手を当てて、からかうように見ている茶髪ポニーテールの女性。

 

「どうして貴方がここに‥‥」

 

 マリエラはアルトがこの場所にやってきた理由を尋ねた。

 

「団の先輩に此処を教えて貰ってな、気になって来ただけだ。お前こそどうして此処に?」

「‥‥私は、ファンゼル先生の婚約者であるドミナさんに会いに来たんです」

 

 ファンゼル‥‥鍛錬の際にマリエラが任務で襲ったおっさんだとアルトは頭の中で思い出していた。

 

 ファンゼルの婚約者に会いに来たということは、いったいどういう事なのか気になり、更に質問した。

 

「追いかけていた標的(ターゲット)の婚約者に会うという事は人質のつもりか?」

「いいえ。ファンゼル先生とドミナさんを救うためです」

「なに?」

 

 アルトはその言葉を聞くと、更に質問しようとしたが、このブラック・マーケットにある者達が空間魔法でやって来た。

 

 その一人を見たドミナことドミナント・コードは男性を蛸殴りにしながら、文句を言っていた。

 

「このヤドロク!? 何時まで待たせるのよ! こんなか弱い女子を長い間放置しやがってェエエ!!」

 

 しかし、文句を言った後、先程の言葉とは裏腹にファンゼルの胸元に目尻に涙を浮かべながら抱き付いた。

 

「本当に心配したんだからね‥怪我してないかって‥‥」

「怪我なら今してたんですけど‥‥」

 

 現れた際から少しばかり怪我を負っていたファンゼルは先程のドミナントによる蛸殴りによって更に腫れ顔になってしまう。

 

 ドミナントは愛しい男性と再会できた事に喜び、[黒の暴牛]団の銀髪の女子___ノエル・シルヴァに感謝をした。

 

 しかし、彼女は先程の婚約者への蛸殴りを見て彼女の言葉を素直に受け止められなかった。

 そんな彼女を無視して、ドミナントはアスタに視線を向けた。

 

 しかも、アスタの名を呼びながら‥‥

 

 自身の名を知っている事に驚いたアスタは何故知っているのかを尋ねると、ある人物から聞いていたとドミナントは答える。

 その誰かが気になったアスタがその人物を聞くが、彼女が体をむき直す事でその人物に視線を誘導した。

 そして、その人物と近くにいるアルトを視認したアスタは驚愕する。

 

「‥なっ‥!? お前、マリエラ!? アルトも何で‥‥!?」

「俺は団の先輩に此処のことを教えて貰ってな。気になってきただけだ。来てみると偶然にもマリエラと再会しただけだ」

「物騒な事しませんよ。そもそも、女の子一人に何ができるというんですか」

「教師を集団でボコっただろうがよ。どうせまた同じ様な‥‥」

 

 アスタは嘗てファンゼルを集団で襲撃したマリエラを警戒し、ファンゼルも婚約者を守る様に身を挺した。

 事情を知らぬ、アスタと共にやってきたノエルと茶髪の青年____フィンラル・ルーラケイスは首を傾げていた。

 

「此方に敵意はありません。でも、私に利用されてください」

「え?」

「どういう事だ?」

 

 彼女を警戒していたアスタとファンゼルは彼女の言葉に疑問に思い、問い質すことになった。

 アルト達は丸い机と人数分の椅子を集めて座り、マリエラの話しを聞いた。

 優雅にお茶を飲みながら‥‥‥

 

「────あの連中を壊滅させるつもりで、[黒の暴牛]のアジトに攻め込ませた!?」

 

 マリエラの話しを聞いたアスタは驚愕の声を上げた。

 彼以外にも、驚いている者はいる。

 

 そんな彼等の心境など無視して、マリエラは話しを続けた。

 

「その間にブラック・マーケットに来て、ドミナさんに先生が来ることを伝えて準備をしてたんです。アルトと出会ったのは想定外でし、こんなに早く来ると思ってもみませんでしたが‥‥」

 

 マリエラはポケットから折りたたまれた紙を差し出した。

 

「この地図には私が調べた、安全な逃走経路が書かれています」

 

 どうやらその紙は地図らしい。

 しかし、嘗てファンゼルを襲った彼女がそこまでするのか怪しんだアスタは問い。

 ファンゼルは彼女がそれを行動した理由に少しばかり予想がついた。

 どうやら、彼女は組織への復讐だった様だ。

 

 暗殺を行なう組織の仕事に精神が参り、疲労した彼女は自身の犯した罪を償うために、クローバー王国ないで、今回の復讐を行える機会を待ち続けていたらしく、今日、ファンゼルが[黒の暴牛]のアジトへと入った事を知り、結構した様だ。

 

「────だから、私を捕まえてください。これでめでたしめでたしです」

「本当に上手くいくと思っているのか? コレまで君がやってきた事からして、重い処罰を受けるかもしれないし、収容所の中でだって、組織の報復を受ける事になる」

 

 マリエラは全てを話し終えると、事件が解決しめでたく、終了すると思っていた。

 しかし、ファンゼルは昔の教え子がそんな簡単に終了できるとは思っても居らず、彼女を心配するかの様に、法の処罰や、ダイヤモンド王国からの刺客による報復を突きつけるが、マリエラはそれすらも覚悟の上らしく、死ぬ事以外ならば甘んじて受ける所存だった。

 

 マリエラはアルトに視線を向けた。

 その視線に気付いたアルトはマリエラに訪ねた。

 

「どうした?」

「以前に言っていましたよね。生きる理由なんて、俺自身が決めることだって」

「それがどうした?」

「上から目線でウザかったです」

「‥‥会わない内に変わったかと思ったが、変わってないな」

 

 アルトは嘗て、ファンゼルやマリエラの前で言った言葉が上から目線でウザいと言われてしまった。

 マリエラの久しく出会わなかった為、変化があったと思っていたアルトだったが、毒舌が変わっていない事を指摘した。

 

「でも、しびれました。格好良かったです」

「‥‥お前熱でもあるのか?」

 

 アルトのその言葉に、周りの空気が凍った。

 

「褒めたのですが‥‥」

「一緒に暮らしてた時に褒めた事があったか?」

「‥‥」

 

 ファンゼルへの襲撃までアルトの力について近づいてきたマリエラと、短い期間だけ共に生活していた。

 その際に彼女の毒舌などであって、褒めた事などなかった。

 よって、彼はその言葉が癇にさわってしまったのか、マリエラは右手に氷の剣を創り出すと、アルトに一閃した。

 

「うぉっ!? ‥危ねぇだろ!?」

「あなたが悪いからです」

「はぁっ!?」

 

 アルトはマリエラの攻撃を躱すが、突然、攻撃してきたマリエラを非難するが、マリエラがアルトが悪いと言ってきた。

 その言葉が理解出来ず、素っ頓狂な声を上げるアルト。

 しかし、周りはマリエラの言葉に同調する様に頷いた。

 

 特にマリエラと同じ女であるノエルとドミナントは強く頷き返していた。

 

「(俺が悪いのか?)」

 

 女性達から強く頷かれてしまったアルトは攻撃された原因が自分なのかと思いながらも、マリエラに話しの続きをさせた。

 

「私に下される処分はリストアウトされた代償を、今までの贖罪と考えています。だからどんな罰でも受けなきゃダメだと思うんです」

「マリエラ」

 

 教え子の覚悟に思うところがあったのか、ファンゼルは思いに耽っていると、この場にいる者とは違う、第三者の声が彼等の耳に響いた。

 

「巫山戯るな!!」

 

 ファンゼルの右側に赤い空間魔法の孔が広がり、左目に古い切り傷痕があるダイヤモンド王国のローブを羽織った、ヒゲ面の男がやってきた。

 マリエラはその男を見るや、驚いて立ち上がり、その男に苦言を告げる。

 

「ガレオンさん! あなた中隊長なのに部隊を捨ててきたんですか!? 酷いです」

「お前だけには言われたくない。そんなに処刑されたいなら、今此処で俺が処刑してやる」

 

 ガレオンと呼ばれた魔導士は両手を広げながら、マリエラの処刑を行なおうとしていた。

 

「皆さん逃げてください。あのオジサン、言っている事は小物臭いですけど、魔法はちょっと面倒くさいです」

 

 マリエラも自身の魔導書を開き、対抗しようとする中、アルト達に逃げるように告げる。

 

 ____空間魔法"開かずの赤い部屋"____

 

 ガレオンは広げた両手を地面に叩き付けながら魔法を行使した。

 すると、赤い波動が地を這ってマリエラへと近づくが、その波動がマリエラに当たる前に突然と凍り砕けちった。

 

「なにっ!?」

「これは‥‥!?」

 

 魔法を防がれたガレオンは無論。

 自身に向けられた魔法を防いだ自分以外の人物による氷魔法。

 

 この場で氷魔法を使える、マリエラ以外の人物を彼女は考えた。

 ファンゼルは風魔法、ノエルはファンゼルに水の魔力弾を使っていた事から水魔法、ドミナントも違う系統の魔法で、アスタは魔力無しで反魔法を使える。

 そして、フィンラルはアジトからここまで最短で来たことから空間魔法。

 

 よって残る1人を想像したマリエラはアルトへと視線を向けた。

 するとそこには氷の魔力を少し開放したアルトが立っていた。

 

「アルト‥」

「邪魔をするな!」

 

 ガレオンはヒステリックな叫びを行ないながら、魔力弾を放つ。

 しかし、その魔力弾すらも凍り砕け散る。

 

「マリエラ、お前は自身の今までの事に疲れたと言ったな?」

「え? はい‥‥」

 

 突然の質問に戸惑いながらも答えるマリエラ。

 

「罪を償うなら、死以外は受け入れると言ったな?」

「はい」

「なら、今度は殺した以上の数の人を助けろ」

「え?」

「ゴチャゴチャと‥‥‥‥邪魔をするな!」

 

 ガレオンは新たに空間魔法を行使しようするが、アルトが少し開放した魔力の量を上げると、彼は空間を形成するどころか、魔力操作すらもできなくなった。

 

 しかも、その魔力量はアルトがレブチの鎖魔法から開放されるために行なった方法と同じで魔力を上げる事で防いだ事だが、違うのは、あの時は鎖魔法で抑えられた魔力が開放されてクローバー王国内全土に重圧を掛けてしまったが、アルトはガレオンだけにその魔力を重圧させている。

 

 ガレオンはその重圧に負けて、地に這いつくばり、アルトの上げた魔力量の溢れがファンゼルたちにも襲っているが、それでも身動きが出来ないワケではなかった。

 しかし、アルトへの驚愕の視線を向けるファンゼルたち。

 

 その魔力量を呼吸するように行なっているアルトは淡々とマリエラに告げる。

 

「お前は理不尽に殺したのならば、今度は生かす為に尽くせ」

「馬鹿が‥ソイツは死んで終わ‥ガハッ!!?」

 

 アルトの言葉に地に這い蹲るガレオンが否定するが、更なる上昇を起こした魔力量に中毒症状を起こしたかのように表情を更に悪化し、血反吐を嘔吐する。

 

「お前が喋っていいと、誰が言った?」

 

 アルトは無慈悲にガレオンに中毒のように魔力を上昇させて黙らせた。

 ガレオンを黙らせると、マリエラに告げた。

 

「ダイヤモンド王国の情報を吐き出したら、殺した以上の数の人を救え。ダイヤモンド王国からの刺客から狙われるっていうなら、お前に降りかかる理不尽を俺が滅ぼしてやる」

「なっ!? なぜ私を守ろうとするんですか!?」

 

 マリエラはアルトの発言に、異を唱えた。

 自身が起こした事は決して許されることではない。

 無論、理不尽を行なう者や、許容する者を許すつもりがないアルトも、許して等いないが、マリエラの場合、彼女が行なってきた事に疲労を感じ、自身の罪を認めている。

 

 そういう者に関しては、アルトも許している。

 故に、"死"以外の事で償おうとしていた。

 しかし、先程ファンゼルが言った様に刺客を送ってくる可能性がある。

 

 それ即ち、理不尽(・・・)だ。

 

 故にアルトはマリエラを守る事を選んだ。

 

「なに、下らん理不尽を許容するつもりがないだけだ」

 

 アルトはマリエラの質問に答えながら、ガレオンへと歩み寄った。

 

「さて、ガレオンと言ったな。誰が誰を処刑するって?」

 

 アルトの言葉に反応する様に、更なる魔力の重圧を受けるガレオンは苦渋の声を漏らしながらアルトを睨み返す。

 その睨みからアルトはこの状況を打開できる方法があると言わんばかりな意志の目を向けている事に気付いた。

 

「ふむ。この状況を打破できると言いたいようだな」

「っ!?」

 

 ガレオンは自身の心中を見抜かれた事に驚いた。

 しかも、打破の方法すらも見抜かれているとはガレオンも思わなかった。

 

「先程の魔法の効果に入れれば勝てると思っているようだな」

「っ!? ‥‥‥っ」

 

 自身の打破の方法までも見抜かれたガレオンは苦しみながらも、更なる眼光で睨みつける。

 

「そんなに自身の魔法に自信があるなら、試してみろ。無駄である事を教えてやる」

 

 アルトはそう言うと、ガレオンに掛けていた魔力の圧力が解かれた。

 自由になったガレオンは身体強化の魔法を行使してアルトから離れると、魔導書を開き魔法行使に入った。

 

「お、おい! アルト」

 

 アスタはアルトの奇行に戸惑う。

 アスタ以外にもアルトの行動に驚いている者が多かった。

 

「もう遅い!!」

 

 ____空間魔法"開かずの赤い部屋"____

 

 先程の魔法をガレオンが行なうと、アルトは今度は何もせずに受けた。

 すると、アルトの近くにいたマリエラも一緒にガレオンの空間内に入れられた。

 

 ────────────────────────

 

 アルトとマリエラがガレオンの魔法空間内に入った。

 その空間内は赤い立方体の部屋だった。

 

「ふむ。ここが奴の魔法空間か」

「アルト! なにを考えているんですか!? 魔法効果も知らないのに、馬鹿なんですか!?」

 

 そんな事を告げるアルトにマリエラが声を荒げながら抗議する。

 

「奴の思惑の全てを壊せば、簡単に心が折れるのはわかっている」

 

 そんな会話をしていると、突然、"開かずの赤い部屋"の立方体の空間が、小さな四角形によって閉じられようとしていた。

 

「まさか、空間魔法内の全てを閉じ込めて殺すつもりです!」

 

 マリエラは自分達に起きようとしている事に気付いた。

 

「アルト! 混沌魔法なら、貴方だけでも逃げられます! ですから‥‥」

「慌てるなマリエラ」

 

 マリエラはアルトだけでも逃がそうとするが、アルトは一切焦った様子もなく、自身の魔力を解放させた。

 すると、閉じ込めようとするかの如く、閉ざし始めていた空間魔法に亀裂が無数に走り、アルトはマリエラを庇うように魔力で覆うと、彼等に迫った閉じる空間が自壊する様に、割れたガラスの如く破砕した。

 

 ────────────────────────

 

 一方

 アルトとマリエラがガレオンの空間魔法内へと入れられた事で、二人の姿はブラック・マーケットから消えた。

 

「‥ふ‥フハハ‥ハハハハハハハハ‥!!!」

 

 ガレオンは空間魔法内にアルトとマリエラを入れた事に高笑いした。

 

「いい気味だ! あいつらは2度とこの場所に戻れないのだ!」

「なにっ!?」

「どういう事よっ!!」

 

 ガレオンの言葉にファンゼルは驚きの声を上げ、ノエルが問い質す。

 

「俺が使った魔法は"開かずの赤い部屋"だけじゃない。空間魔法"閉じる赤い部屋"で"開かずの赤い部屋"内にいる存在を消滅させるんだ! 今頃、後悔しながら死んでるだろうよ!」

 

 ガレオンは"開かずの赤い部屋"だけでなく、もう一つの魔法も使用しており、その魔法で裏切り者のマリエラと、自身に屈辱を味合わせたアルトを葬った事に、歓喜していた。

 それを聞いて、アスタとファンゼルが魔導書を開き、魔法を行使しようとするが、その前にある人物の声がこの場にいる全員に聞こえた。

 

「何かと思えば、それがお前の切り札か?」

「は‥‥?」

「え?」

 

 ガレオンは間抜けを声を上げた。

 同じくアスタやファンゼル達も声がした方向へと視線をやると、突如空間に大きな罅が入り、ガラスのごとく砕け散った。

 すると、そこからアルトとマリエラが無傷で現れた。

 

「なっ‥!?」

「アルト!!」

「マリエラ、無事だったか!」

 

 アスタとファンゼルはアルトとマリエラが生きていた事に喜んでいた。

 同時にガレオンは自身の切り札が効かなかった事に驚き、呆然と立ち尽くしていた。

 

「はい。空間が圧縮してきたのですが‥‥アルトが魔力を少し解放したら壊れていきました」

 

 マリエラはファンゼルに状況を教えながら、無事である事を証明する。

 マリエラの言葉を聞いて、呆然と立ち尽くしていたガレオンが話しに割り込んだ。

 

「馬鹿なっ! たかが魔力を解放したくらいで俺の魔法が壊れるものかっ!!!」

 

 惨めな悲痛の叫び。

 自信作と言って良い切り札の魔法が魔力を解放した程度で簡単に敗れたのだ。

 とても非現実的な破り方にガレオンの頭は理解出来なかった。

 

 マリエラの話しが真実だとしたら、状況が違えど、嘗て彼が行なってきた所行の被害者と同じく、ガレオンは理不尽を味わっている事になる。

 

「空間に閉じ込めたぐらいで、俺を閉じ込められるとでも思ったのか?」

 

 アルトはガレオンに向けて、ガレオンの魔法など無駄だと言い付けた。

 余りにも屈辱的な結果を示されたガレオンはやけくそになり、魔力弾を放とうとする。

 しかし、そんなガレオンに無数の光の線が彼の身体を貫き、身動きが出来ないようにした。

 

「‥ば、馬鹿‥な‥お前の‥魔法は‥氷魔法じゃ‥‥ないのか?」

 

 ガレオンはそう告げると、倒れたのだった。

 

「俺の魔法属性は氷じゃない‥‥混沌だ」

 

 アルトがそう告げると、倒れたガレオンは居られた心が持たず、気絶した。

 

 アルトは魔導書を開き、鎖魔法でガレオンを縛り上げた。

 

「さて、後はお前達だ」

 

 アルトはそう言いながら、マリエラとファンゼルを見た。

 その瞳からまるで自分達を逮捕するのではと思ったファンゼルだったが、アルトから告げられる言葉に、驚愕するのだった。

 

「ダイヤモンド王国について知っている事を[黒の暴牛]団アジトで話して貰おうか」

『えっ?』

 

 あまりのアルトの言葉に裁かれる立場であるファンゼルやマリエラ、ドミナントだけでなく、[黒の暴牛]団員であるアスタやノエル、フィンラルまでも驚いていた。

 

「なにを驚いてるんだ?」

 

 アルトは彼等が驚いている事に理解出来なかった。

 

「[黒の暴牛]団は、今回の一件の第一発見者であり、ダイヤモンド王国の重要人物の逃亡の協力をした様なものだからな」

「な、なんで‥協力者扱いになるのよ‥!!」

 

 アルトの言葉にノエルは抗議する。

 

「利用されたとはいえ、ファンゼルをここに連れて行く際にダイヤモンド王国の刺客から逃亡させた事に変わらないだろ」

「‥‥‥っ!?」

 

 アルトの正論に反論できないノエル。

 フィンラルも同じ様な思いだが、アルトの言葉は正論であり、魔法騎士団としては当然の対処だ。

 納得出来ずとも、魔法騎士団として動かなければならない。

 

 魔法騎士団は命を賭けて国を護る事を使命とする英雄軍。

 

 国とは民と民の暮らす村々によって維持されている。

 無論、魔法騎士団は無料で命を賭けてはいない。

 しかし、犯罪者をどのように裁くかは魔法議会と呼ばれるクローバー王国の司法機関だが、犯罪者をどの罪状で逮捕するかは魔法騎士団である。

 

 よってアルトはそれを行使して、ファンゼル達のクローバー王国亡命を許可させようとしていた。

 その為に、今回のダイヤモンド王国からの刺客による奇襲時の状況を[黒の暴牛]団アジトで聞く事にした。

 

 フィンラルの空間魔法を経由して、[黒の暴牛]団アジトへと来たアルトは団長のヤミ・スケヒロを初めとした団員達から話しを聞いたりした後、マリエラ達に起きた出来事を事細かに記し、クローバー王国の魔法騎士団員の入団を魔法騎士団本部の魔法帝に申し込んだ。

 

 アルトの手紙を一文字も見逃さず読んだ魔法帝は三人に共通として「ダイヤモンド王国に関する情報の全てを提示」と、一人ずつ、別の義務を与える事にした。

 

 ファンゼルに「魔法騎士団への入団希望者と兵士の教育」の義務化。

 ドミナントに「魔導具開発部門の入隊」。

 マリエラは「[紅蓮の獅子王]団に入隊。殺害数の倍以上の救済を活動」を条件付けられた。

 

 ファンゼルとドミナントはそれぞれ監視を付けることになるが、二人の生活を安全を保護され、マリエラはアルトが監視役兼護衛を行なう事になった。

 特に、マリエラに関しては行なってきた事例の贖罪として、

 

 今回のダイヤモンド王国魔導士の襲撃を解決した[黒の暴牛]団には星二つが授与され、独自でこの行動を行なったアルトはマリエラの護衛と監視を行なうという罰則で咎められた。

 無論、マリエラが入隊する[紅蓮の獅子王]団の団長であるフエゴレオンも、今回のアルトの独断行動に思う所があり、五時間以上の説教をアルトに行なっていた。

 

 正座させられた状態で五時間も説教を受けた為、アルトは脚を痺れさせながらも、仕事を全うしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、マリエラ達の処遇が決まった翌日。

 マリエラは‥‥‥

 

「皆聞け! 今日から新しく入団したマリエラだ!!」

「よろしくお願いします」

 

 いつも着用していたダイヤモンド王国のマークが付いた黒いモサモサのフード付きマントではなく、[紅蓮の獅子王]団のローブを羽織ったマリエラがフエゴレオンの紹介に応じるように、挨拶した。

 [紅蓮の獅子王]団に入団し、アルトとペアを組むようにフエゴレオンに言われた彼女は、今後、アルトと多く任務を受ける事になる。

 

「‥‥こうなるとは、思いもしませんでした」

「だろうな」

 

 そんな何気ない会話を、アジトの庭にて、アルトとマリエラはしていた。

 

「殆ど魔法帝のおかげだが‥」

「何故、そうまでして助けたんですか?」

「前に約束したろ。次に出会ったら今度こそお前を助けるっと」

 

 庭にて寝転んだ状態で話しているアルト。

 マリエラはその言葉に、そっぽ向くように顔を背けた。

 彼女は頬を赤く染めて‥‥‥‥‥

 

 

 そんな二人にフエゴレオンがやってきて話し掛けた。

 

「アルト」

「フエゴレオン団長」

 

 フエゴレオンを見ると、寝転んでいたアルトは立ち上がる。

 

「明日の戦功叙勲式にお前も呼ばれている。明日、私とレオポルドと共に王都に向かうぞ」

「戦功叙勲式?」

 

 アルトは聞き覚えのない言葉に頭を傾けた。

 そんなアルトにフエゴレオンが戦功叙勲式について話した。

 

「規定数の星を取得した魔法騎士団員に新たな等級を与える式だ。お前の星取得数は13。お前はダイヤモンド王国の八輝将の一人を倒している事から、これほどの星を取得している」

「八輝将を、倒した」

 

 マリエラはフエゴレオンの言葉に驚いていた。

 ダイヤモンド王国の最強の魔導士の名称に新人魔導士であるアルトが勝ったのだ。

 無理もないだろう。

 

「新たな等級を手にし、今回のお前の独断行動の贖罪を他の者達に見せ、認めさせるのだ!」

「‥‥‥そのつもりです」

 

 フエゴレオンはアルトのその言葉に、頷き、建物の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 ある事件を裏で引き起こしていた人物が本来の目的のために動き始めているとは‥‥‥‥まだ誰も知らない

 



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第二章~王都襲来編
戦功叙勲式


久々に最新話を投稿しました。


 マリエラの[紅蓮の獅子王]入団から翌日。

 

 アルトはレオポルドとフエゴレオンと共に王都に来ていた。

 大きな扉がある場所にやってくると、3人の他にも別の団の魔法騎士団と団長が来ていた。

 

 一つは、銀色の鷲のシンボルを持った毛皮の様なローブを羽織った3人の銀髪男女。

 彼等は[銀翼の大鷲]団の団長ノゼル・シルヴァと団員2人だ。

 

 一つは、薔薇のシンボルを持った青いローブを羽織った銀の鶏冠を模した兜や胸や籠手などに鎧を着けた、兜に収まる様に纏められた金髪の女性と褐色肌の長身長の女性。

 彼女たちは[青の野薔薇]団の団長シャーロット・ローズレイと団員だった。

 

 そして、太陽のシンボルを持った金色のローブを羽織った3人の男達。

 彼等は[金色の夜明け]団の団員たちだった。

 しかし、この団だけは団長が不在だった。

 

 

 初めてやってきたアルトはフエゴレオンに言われた通りの場所で待機した。

 右隣に褐色肌の長身長の女性が立っており、左隣にレオポルドが立ち、アルトとレオポルドの間の背後に立つ様にフエゴレオンが立っていた。

 彼等は大人しくその場にて待っているが、フエゴレオンがアルトに説明した事から、アルトがこの場に初めてやってきた事を知るや、馬鹿にする様な視線を向ける銀髪男女と、見下す様な視線を向ける[金色の夜明け]の団員が一人。

 

 そんな彼等の視線など気にも止めていないアルトは唯々待ち続けた。

 すると、大きな扉が開き、皆が開いた扉へと体を向けた。

 しかし、扉の先にいる人物を見てアルトは驚いた。

 

 その人物は嘗て、魔法騎士団入団の為の修行の際に出会ったユリウス・ノヴァクロノだった。

 彼の背後にはアスタとユノまでもが一緒にいた。

 

 アスタとユノも式典用の長机に向かって歩いて行くユリウスの後ろ姿を見ていると、ユリウスが机に向かっていく中、今回の勲章授与の為に待っていた魔法騎士団員達の整列して並んでいる姿の中に、アルトがいる事に気付き、驚いていた。

 

「──────では‥‥戦功叙勲式を始めよう!」

 

 ユリウスの言葉と共に戦功叙勲式が始まった。

 

 戦功叙勲式とは個人で規定の星の取得数を得た魔法騎士団員に新たな称号を与えられる。

 つまり、ユリウスと共にやってきたアスタ達を除いた、元々この場に来て待っていたアルト達がその称号授与者に当たる。

 

「星取得数7[紅蓮の獅子王]団、レオポルド・ヴァーミリオン!! 二等中級魔法騎士の称号を授与する!! ‥‥‥兄である獅子王団団長と同じく、君の炎魔法の威力は圧倒的だね! やり過ぎに要注意かな」

 

 ユリウスに呼ばれたレオポルドが机を挟んで、ユリウスの目の前に移動して、勲章を貰った。

 レオポルドは勲章を貰いながら、ユリウスからのアドバイスに返事を返した。

 

「悪に容赦など必要がありません」

 

 レオポルドがそう告げると、彼は元いた場所まで戻った。

 

「星取得数13[紅蓮の獅子王]団、アルト!!」

 

 アルトはレオポルド同様にユリウスの目の前まで移動した。

 

「一等中級魔法騎士の称号を授与する!!」

 

 その言葉を聞いて、魔法騎士団入団試験に来ていた他の団長や団員、そして、アスタやユノが驚いていた。

 短期間の内に新入団員が一等中級魔法騎士の称号を得るなど、到底考えられない事なのだ。

 実際に、1年前に入団しているレオポルドですらも、今回の勲章授与で二等中級魔法魔法騎士の称号なのだ。

 この事から、アルトは約二年間のレオポルドの実績を凌駕したのだ。

 

「ダイヤモンド王国の[八輝将]を一人で倒すとは、あの時よりも更に強くなったね!」

 

 ユリウスの言葉に更なる驚愕を他の騎士団員を襲った。

 [八輝将]とはクローバー王国でいう所の魔法騎士団長クラスの実力者を意味する名称。

 新入団員が団長クラスを倒した。

 

 それならば、彼の異常な昇格も頷けると思った二人の団長。

 

「俺はあの時の人が魔法帝だった事に驚いてますよ」

「ははは、すまなかったね。単独行動は控えても精進するように頑張ってね!」

「はい」

 

 アルトはユリウスと二言三言、話した後で元の場所へと戻った。

 その際に、アスタとユノに視線を向けた。

 

 先に魔法帝になるのは俺だっ! と言わんばかりな視線を‥‥‥

 

 それを受けた二人はライバル心を沸騰させるかのように、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「──────みんな、大義だったね。さて、これから簡単な席を設けてるから楽しんで行ってくれ。あ、そうそう‥‥今日は特別ゲストも呼んであるから大いに交流してくれ」

 

 その後、残りの昇格する騎士団員達への称号授与が終えると、ユリウスは戦功叙勲式を終わらせた。

 その直後、水色のキノコ頭の青年がユリウスに耳打ちするや、ユリウスの表情が一瞬険しくなるも、用事が出来たからといって、彼とキノコ頭の青年が部屋を出て行った。

 彼等が出て行くのを見ると、呼応するかのように、アルト達は場所を移動し、ユリウスが言っていた席が用意された複数のテーブルに幾つもの料理が並べられた部屋へと案内された。

 

 

 そこで、功績を上げた団ごとに分れていた。

 ユリウスと共に来たアスタ達は授与された団員ではないため、団の垣根を越えて、同じテーブルで食事をし合っていた。

 そんなアスタ達に話し掛けるために、アルトhあフエゴレオンに許可を求めた。

 

「フエゴレオン団長」

「どうした」

 

 アルトはフエゴレオンを呼び、アスタ達を右手の親指で示しながら、こう言った。

 

好敵手(ライバル)に宣戦布告しても構いませんか?」

「‥‥ふむ。よかろう」

「ありがとうございます」

 

 アルトは頭を下げて感謝すると、アスタ達がいるテーブルへと近づいた。

 

「よぉ」

「おう、アルト!」

「元気そうだな」

「お前らもな。にしてもなんで魔法帝と一緒に来てたんだ?」

「あぁ、この前に魔宮(ダンジョン)捜索の報告をした時に、誘われたんだ」

 

 アルトの質問に答えるユノ。

 

「アルト! 必ずお前を追い越すからな!!」

「ありえねー。二人を追い越すのは俺だ」

「追い越されるつもりはないぞ」

 

 幼馴染みであり、ライバルである三人は笑みを浮かべながら告げた。

 

 そんな三人に‥‥正確にはアルトに話し掛ける者がいた。

 

「あ、あの‥‥お久しぶりです。覚えておられますか?」

 

 頬を赤くして恥じらうようにアルトに訪ねてきた。

 アルトは少しの間、思考の海に呑まれるが、すぐさま思い出し応答した。

 

「‥‥あぁ、フォーロン村に行った際に助けた」

「はい! あの時は助けてくださりありがとうござます!」

 

 話し掛けた[金色の夜明け]団のローブを羽織った茶髪のおっとりとした表情の少女が歓喜の笑顔でアルトにサムズアップした。

 いきなりのサムズアップにアルトは驚き、少し引いていた。

 

 彼女の名はミモザ・ヴァーミリオン。

 嘗て、アルトがハージ村の教会の神父の頼みでフォーロン村にある教会へとある手紙を渡すために向かい、渡した後で、偶然居合わせた盗賊に襲われていた者がいた為、助けた後教会へと帰宅したのだ。

 その際、彼女は盗賊に襲われた張本人だったのだ。

 

 ミモザはその時から、自身を助けたアルトの事を恋い焦がれ、今日この時に漸く再会出来たのだ。

 彼女の反応は恋い焦がれる少女を対象とすると、なんら奇妙な事もなかった。

 

「アルト、ミモザと知り合いなのか?」

「あぁ2~3年ほど前に神父様に頼まれてフォーロン村に行った際に、盗賊に襲われているのを助けた事があってな」

「ああ、あの時の‥‥」

 

 アルトの説明を受けてユノは嘗て聞いた事があったらしく思い出した。

 しかし、同じく聞いた事がある筈のアスタが思い出せていなかった。

 しかも、大食らいにテーブルに置かれた食料を食べながら‥‥

 

 そんなアスタを見て、他の団員は下民など散々な罵倒を与える。

 その言われようにミモザたちは沈黙するが、アルトはまるで、ゴミを見るような視線をアスタを罵倒した輩を見ていた。

 

「う~ん。散々な言われようですな。まぁもう慣れてるけど」

 

(な‥なんという器の大きさ‥!)

 

 アスタの態度に同じく、[黒の暴牛]と[金色の夜明け]のテーブルにいた水色髪の眼鏡を掛けた青年___クラウス・リュネットが驚いていた。

 そんな中、叙勲式を受けた方の[金色の夜明け]のいるテーブルにレオポルドが近づき、口撃を仕掛けた。

 

「下民なら貴殿らの団にいるではないか‥‥」

「!」

「四つ葉の魔導書を持ち、祭り上げられ、図に乗っている下民がな‥‥! 先の魔宮攻略任務‥俺の方が上手くやれた!」

 

 その言葉にアレクドラは‥‥

 

「大した自信だな、紅蓮の小僧────別に我々はあのような下民に気体などしていない。ヴァンジャンス様の‥[金色の夜明け]団の理想を体現するのは我々だ‥‥!! 況してや、混沌魔法を手にして祭り上げられ図に乗っている下民がいる紅蓮に言われる筋合いはない」

 

 アレクドラはユノの事など仲間としてみて居らず、いない者扱いのようにしており、下民という事で混沌魔法を持つアルトの事を先程のレオポルドの発言への意趣返しを行なった。

 

 そんな発言にアルトとユノは気にしていないが、アスタは苛立ちを見せていた。

 

「──────‥‥お言葉ですが‥‥」

 

 クラウスが口を開くも、

 

「お前もダクラウス! お前程度の実力の者が此処に居て恥ずかしくないのか」

「‥‥‥‥はっ‥‥‥」

 

 アレクドラの言葉に開いた口を閉ざさざるを得なかったクラウス。

 ユノやクラウスのみならず、残りのミモザにまで、アレクドラは文句を告げた。

 

「ミモザ! 魔宮では最初に脱落したとの事じゃないか、王族のヴァーミリオン家が笑わせる」

「‥‥申し訳あr「くだらん」えっ?」

「なにっ?」

 

 ミモザが謝罪をしようとした際に、アルトが話しに割って入った。

 アレクドラは自身の言葉をくだらないと告げたアルトを睨んだ。

 

「なにを言うのかと思いきや、他の者と大差ない思想持ちとは、呆れて物も言えん」

「黙れ! 下民が貴族である私に口を挟むな!」

「その程度でしか価値観も見えんか、節穴も良いところだ。流石自称の"理想の体現者"だ」

「貴様‥‥‥‥っ!!!?」

 

 アレクドラはアルトの言葉に怒りを我慢の限界だと言わんばかりにアルトを睨み付けるが、そんな2人を無視して、右側の側道部を掻き上げて、十字の様な二つのヘアピンで留めた、ちぢれ前髪の銀髪の男がアスタの後方にいたノエルの頭に水の入ったコップを上から溢す様に掛けた。

 

 その行為にミモザとクラウスは驚愕し、ノエルは恐る恐ると背後に立つ彼の名を呼んだ。

 

「‥‥ソリド兄様」

「シルヴァ家の恥曝しであるお前が、なんで此処にいんだ?」

 

 戦功叙勲式に表彰者であった[銀翼の大鷲]団の団員であり、ノゼル・シルヴァの弟であり、ノエルの二人目の兄である。

 そんなソリドによるノエルの罵倒に参加する様にもう一人のノゼルやソリドと似た髪型をした女性が同じくノエルを罵倒し始めた。

 最後には、[銀翼の大鷲]団がいたテーブルにて立ちながらも、ノゼルはノエルに辛い一言を告げた。

 

「‥わざわざシルヴァ家の名に泥を塗りに来たのか? この場はお前に相応しくない。去れ」

 

 ノゼルのその言葉を聞いて、ノエルは去ろうと踵を返すが、そんなノエルの腕を掴み、止めた者がいた。

 

「こんな奴らから逃げる必要ねぇ!」

「アス‥タ‥‥‥」

 

 その者はアスタだった。

 アスタは怒りの表情に染まりながら、ノエルを引き留めた。

 

 アスタは自分達が食していたテーブルの上に立ち、この部屋内にいる者達に向かって叫んだ。

 魔法騎士団を尊敬して、職に就いたにも関わらず、見下したり、差別を行なう他の者と何ら変わらない事に怒っていたのだ。

 

「────いいか! 俺は‥」

 

 アスタが怒鳴っている際に、アレクドラが魔導書を開き、アスタを砂で覆い尽くした。

 しかし、アスタは魔導書から反魔法の片手剣を取りだして斬り裂き、魔法を無効化した。

 己の魔法を無効化された事に驚くアレクドラ。

 

 アスタが新たな力を手にしている事にアルトは不敵な笑みを浮かべる。

 

「俺は必ず実績を積んで、魔法帝になってお前ら全員‥‥黙らせてやる!!!!」

 

 アスタは堂々と魔法帝になると宣戦布告した。

 




次回~王都襲撃~


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王都襲撃

 アスタの魔法帝になる宣言に呆然とする者が多くいた。

 そんなアスタの言葉にアルトとユノは対抗心と、いつも通りのアスタの言葉に笑みを浮かべていた。

 

「「「笑わせるなッ!!」」」

 

 しかし、そんなアスタの言葉に怒り、魔導書を開き、アスタに魔法を放つシルヴァ姉弟とアレクドラ。

 ソリドの水拘束魔法とネブラの霧拘束魔法、そしてアレクドラの砂魔法がアスタを襲うが、アスタが反魔法の剣で斬りつけ無効化する前に、ある人物の息の吹きかけで三つの魔法が吹き飛ばされ、魔法を発動した三人は後方の壁に衝突死、壁は破砕され、三人は体内の空気を全て失うかのように吐き出した。

 

「「「ガハッ‥‥‥!!?」」」

「「「なっ!?」」」

 

 その光景にクラウスとミモザ、ノエルが驚いていた。

 他の者も声を出しはしなかったが目を見開き驚く者もいた。

 

 そんな三人を壁に吹き飛ばしたのは先も言ったが、アスタではない。

 では誰なのか? 

 アスタへ向けられた魔法に対して動いたという事は、アスタに近しい人物という事になる。

 そう考えると、先ずクラウスとミモザ、ノエルは当然のごとく、魔法属性が違うため、風で吹き飛ばす事は出来ない。

 次ぎにアスタのライバルであるユノならば、吹き飛ばす事は可能だが、彼の現魔力量では息を吹きかけるだけで魔法を吹き飛ばす事は出来ない。

 つまり、消去法でいくと、もう一人のライバルであるアルトによってもたらされたという事になる。

 

「何を言ってるんだアスタ。魔法帝には俺がなる」

「いいや! 俺だァァァアアア!!」

 

 アルトがアスタに向けて、対抗心を向けて発言するが、アスタも対抗心剥き出しに大声で発言した。

 そんな二人に苛立ったのか、壁に衝突して、ヨロヨロと立ち上がったソリドが睨み付けながら、前に出ていく。

 ソリドは新たなページを開き、巨大な水の弾丸を作り出した。

 

「下民が図に乗ってんじゃねぇよォォ!!!」

 

 __水魔法"聖水の凶弾"__

 

 巨大な水の弾丸がアルトとアスタへと襲ってくる。

 アルトは息を吹きかけようとするが、アスタが目の前に出てきて、レブチを倒した際に使っていた"断魔の剣"を取り出して、剣脊で弾き返した。

 

 弾き返された水魔法はソリドへと襲い掛かり、ソリドは片手に魔力を集めて"聖水の凶弾"を防いだ。

 しかし、自身の魔法の威力と、アスタによって弾かれた事による速度によって後方に飛ばされ、膝を付いた。

 

「このオレに‥膝を付かせたなァァ。この下民風情がァァ──!!」

 

 ソリドは更なる怒りに燃えて、なおも戦いが続けられそうになるかと思われたが、とてつもない重圧がこの部屋を襲った。

 

 誰もがその重圧へと視線をやると、そこにはノゼルが冷たい威圧を放ちながら歩いてきた。

 

「ソリド」

「ノゼル‥兄様‥!」

「下民ごときにそう容易く魔法を使うな‥‥!」

 

 その威圧にアスタは内心冷や汗を流していた。

 

(何だ‥‥この寒気────ヤミ団長とはまた違った冷たい威圧!! これが、王族のシルヴァ家の長男で銀翼の大鷲団長の‥‥!)

「王族に逆らいし下民。どう裁いてやろうか────」

「裁く?」

 

 ノゼルの言葉に反応する様にアルトが言葉を口遊む。

 だが、次ぎに出た言葉はノゼルの言葉を一笑した。

 

「くだらん」

 

 その言葉と共に溢れたノゼルの魔力の約5倍以上の膨大な魔力量と重圧に、この室内にいる全ての魔導士に重力の如き圧が襲った。

 大小違いはあれど全員が少なからず地に膝を付いていた。

 

 特に重圧が大きく受けているノゼルやネブラやソリド、アレクドラが地に這い蹲っていた。

 

「王族に逆らったからと言って、裁けるとでも思ったか?」

『ぐっ‥‥ぁ‥』

 

 あまりの加重にネブラやソリド、アレクドラは特に言葉を話すことすら出来ずに、地に這い蹲られていた。

 そして、残り一人であるノゼルは地に膝を付いた状態で耐えてはいるものの、その重圧に表情は苦しみに染まっていた。

 ノゼルは強化魔法で自身の身体能力を向上させて立ち上がろうとしながら、魔力を放出した。

 その魔力は大鷲を形取り、アルトに威圧する。

 アルトのコップ一杯分から二杯分へと変わった放出量に、ノゼルは両手を地に着けて耐える事しかできずにいた。

 しかも、その魔力からは大鷲を掌に収めたかの様な白き光輝を放つ女神と、黒き暗闇を放出する魔王の幻影が、第三者に視えていた。

 

「『下民ごときに容易く魔法を使うな』だったか? ではこっちも言ってやるぞ。王族如きに魔法を使う必要があると思ったか?」

 

 アルトの傲岸不遜な発言に苛立ちを浮かべるシルヴァ家三人とアレクドラ。

 

「その辺にしておけアルト、シルヴァ家の者達よ」

 

 雰囲気が悪く、一人対四人の戦慄状態を止めたのは、アルトが入団している団の団長、フレゴレオンだった。

 フエゴレオンの言葉に流していた魔力を止めた。

 

 アルトの魔力放出の停止によって地に着いていた者達は、足で直立し直した。

 

「ユリウス殿がこの場にいることを許した者だ。下民といえど多少は認めても良いのではないか?」

「‥‥まさか王族の者からその様な言葉が出るとはな‥‥ヴァーミリオン家もお優しくなったものだ。天空を舞う鷲が地を這う虫ケラをどう認めろというのだ?」

「その虫ケラに足をもがれて、立つこともままならなかったのは何処の家畜だ?」

「なんだと‥‥?」

 

 フエゴレオンとノゼルの会話にアルトがそう言うや、先程の一件も加わってノゼルは最大の殺気をアルトに向けながら魔力を放出するが、それに対して自身の団員とライバルを収める為に獅子を形取った魔力を放出する。

 しかし、王族で団長にまで上り詰めたこの二人の魔力を足しても、アルトの魔力には足りなかった。

 実際にアルトは嘗て、レブチの魔力封じの鎖から脱出した際に思いあまって、溢れた魔力がクローバー王国全土に重圧として与えてしまっていた。

 

 そんな彼と、国一つに重圧を与えられない二人の魔力量が足された所で遠く及ばず、圧倒的で膨大な魔力量を持つアルトからすれば、その魔力を当てて威圧されても、威圧にすら感じていない。

 しかし、それでアルトが有頂天になっていると思っている者がいるのならば、それは間違いである。

 

 魔力を一切持たずに生まれたアスタが魔力無効化を持つ(アンチ)魔法に選ばれた事などから、魔力の大きさなど意味が成さないのは、ライバルの一人に彼が含まれている事で、膨大な魔力量で、生まれを理由に馬鹿にする愚者(ゴミ)共の様にはなっていない。

 

 その点では、混沌魔法の魔力を有するアルトと、四つ葉に選ばれる程の魔力量と潜在能力を持つユノは恵まれているというべきだ。

 慢心しない事を身につけているからだ。

 

 とまぁ、そんな事は置いておくとしよう。

 何故なら、彼等の事を説明するよりも、大事な事が王都に起きているのだから‥‥

 

「たっ‥‥大変です!!」

 

 慌てて入ってくる宮廷の魔導士の言葉に、魔力を放出していた二人が魔力を収め、報告を聞いた。

 

「‥‥どうした?」

「王都が‥‥王都が襲撃されています!!!」

 

 報告内容は王都が襲撃による被害を受けている事であった。

 




次回~奇跡VS混沌~


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奇跡VS混沌

 王都襲撃される数分前‥‥‥

 

 クローバー王国外にて、岩に腰を下ろした男が背後に立つ存在に向けて言いはなった。

 

「なぁ~? オカシイよなぁ!? 何でこの俺様が追い出されなきゃなんねぇんだよ、なぁ俺様は王族以上の魔力をもってんだぞ‥‥!?」

「‥‥‥‥」

 

 左目に目の意匠が付いた黒い布帯状の眼帯で左目を隠している男の不満・憎悪・悪意が籠もった言葉だった。

 しかし、彼の言葉に背後にいる者は一切言葉を出そうとはしなかった。

 

「この世界は魔力が全てだろぉが‥‥‥なぁ!?」

 

 男の話し掛けに一切返答しないのも無理はない。

 何故なら、彼が話し掛けていたのは、ただの死体だったからだ‥‥

 

「フザケやがって‥クソがぁ!!!」

「‥誰に向かって喋っている‥‥」

 

 しかし、この場には先程から喚き散らす男と死体しかいない。

 にも関わらず第三者が話しに加わり、独り言をしている男に尋ねていた。

 しかし、その問いにすら、独り言をしていた男は八つ当り気味に問うてきた姿無き声に反応する。

 

「俺の力、教えてやるぜ‥‥‥! 魔法騎士団」

 

 男が立ち上がると、彼の背後には無数の動く死体の軍団がいた。

 

 ────────────────────────

 

 そして、アルト達が王都襲撃の報告を受けた時。

 王都では、先程の男が死体を操り、王都の五ヶ所で家や人々を襲っていた。

 

「ハハハハハハハハハ。壊せ壊せ壊せ壊せぇぇ!!!」

 

 狂ったロボットの如き発言を繰り返す男の言葉に反応し、破壊を続ける動く死体の軍団。

 それに恐怖し、逃げ惑う一般人と、死体に攻撃を行なう防衛を行なう複数の魔導士達。

 

 しかし、死体に魔力弾で致命傷を与えようと、所詮は死体。

 苦痛など受けるはずもなく、体に穴を開けられようと、気にせずに魔導士達に襲っていく。

 その様に恐れる魔導士達。

 奮闘しようとする魔導士もいたが、死体を操る男の魔力に結局は怯えて死亡した。

 

 ────────────────────────

 

 魔導士の一人から報告を受けたアルト達に緊張が襲った。

 

「王都が襲撃されているだと‥‥!?」

 

 驚きを隠せない中、「金色の夜明け」団の団員であるシレンは冷静に魔導書を開きある魔法を行使した。

 

 ___岩石創成魔法"世界を語る模型岩"___

 

 彼は王都の様子魔法で再現した。

 魔力は勿論、逃げ惑う人々の悲鳴や、爆発音なども忠実に再現されており、科学的未来の場所ではリアルタイム映像と言って良いほどのクオリティである。

 

「‥これは‥王貴界の立体模型!? ‥現地の人間の声や魔力量まで‥! 魔をこの地域一帯に張り巡らせ、同時にそれを可視化させているのか‥!」

「私の"魔花の道標"よりも遥かに高レベルですわ‥‥!」

 

 その再現力にクラウスとミモザは驚いていた。

 

「‥‥これ程の魔力量の軍勢が我々に気付かれず、5ヶ所同時に‥‥」

「どうやら相当な空間魔法の使い手によって一瞬の内に現れたようだな‥」

 

 フエゴレオン達が"世界を語る模型岩"を見ながら作戦を立てていた。

 しかしその最中、痺れを切らしたかのように騒ぐ者がいた。

 

「いや、コレ何待ち!? 助けを求めてる奴らがいるのは充分わかった!! 俺はもう行く!!!」

 

 部屋から飛び出し、街の人々を守る為に掛けて行くアスタ。

 

「何処に行くつもりだアスタ‥! まだ状況を把握しきれていないし‥それにお前は魔力感知が全く出来んのだろう!?」

 

 そんなアスタを止めるために、話し掛けるクラウス。

 

「音のデカい方に行く!!」

「なっ!? 動物かオマエは────!!」

 

 クラウスは獣染みた行動理由を告げたアスタにツッコミを入れた。

 

「フハハハハハ!! 面白いォォイ!! 貴様の力、見せてもらおう!! 待たんか、我がライバル!!」

 

 レオポルドは感化されたかの如く、アスタを追いかけていった。

 そんなアスタとレオポルドの行動を見抜きもせずに、何かを感じ取っていたアルトはシレンに近づいた。

 

「すみませんが、この部分まで広げられますか?」

「‥‥やってみよう」

 

 シレンは言葉が少なめで了承し、更に"世界を語る模型岩"の効果範囲を広めた。

 そんな事を頼んだアルトが気になってミモザが話し掛けた。

 

「どうかされたのですか、アルトさん?」

「よく見ろ」

 

 アルトが"世界を語る模型岩"を見るようにミモザに告げると、王都に猛烈な速度で迫ってくる王都を襲撃している魔力以上の所持者。

 しかも、それは一種の城を崩さんとする槍の如き速度だった。

 

「これは‥‥何者かが向かっているのか!?」

 

 その情報を知ったクラウスは声を荒げながら驚愕していた。

 新たにやってくる敵に対しての対処を考えようとした時だった。

 

「団長、俺が行きます」

 

 アルトがフエゴレオンにそう言い付けた。

 その言葉に先程、一方的にアルトに馬鹿にされる程の惨めさを起こされていたネブラ達だったが、その前に了承したのはフエゴレオンだった。

 

「‥‥わかった。行ってこいアルト!」

「了解」

 

 フエゴレオンからの了承を得たアルトはやってきてくる敵に向けて、"神速の歩み"と飛行魔法で神速で飛行していった。

 その余りの速さに、その速さを見た事がない者達は絶句していた。

 

 ────────────────────────

 

「ワハハハッ!! 悪行のクローバー王国よ! 今こそ我が直々に裁きを下してやるぞ!!」

 

 クローバー王国の平界の上空から大声を上げて笑い、王都へと侵攻してくる謎の襲撃者。

 謎の襲撃者は左手に剣を盾に収納して、金色の三つの眼を飾ったエンブレムを付けた白いフード付きのマントを羽織った者は前方から、やってくる強烈な魔力を感知すると、左手の盾を自身の頭を覆い隠すように持っていった。

 すると、丁度、王都の入り口当たりにて、前方から突然と現れたアルトが右手に大きな"螺旋丸"を作り出し、その襲撃者の持つ盾にぶつけた。

 

 数秒間の拮抗が彼等に起きるも、アルトの魔法が消失すると同時に反動が二人を襲い、互いに距離を取らされた。

 

「ワハハハッ!!! 我に挑んでくるとは、中々面白い悪党ではないか!」

「悪党だと?」

 

 二人は空中に箒や魔法による生物に乗る事で飛行するではなく、己自身を飛行させながら睨み合っていた。

 その中で、己に挑んできた事がとても良く思ったのか襲撃者はアルトを悪党呼びした。

 悪党呼びされた事に苛立ちを少し覚えた。

 

 何故、アルトが攻撃しなければ王都を襲撃しようとしていた者に悪党呼びされる事に理解が出来なかったのだろう。

 

「よく聞くが良い悪党よ! 我はゴルメル・フォリア! 奇跡の戦士なり!」

「(奇跡だと‥)なぜ俺が悪党呼ばわりされる?」

 

 アルトは自身が悪党呼びされる理由を尋ねた。

 それを襲撃者___ゴルメルが高らかに告げた。

 

「当然だ! 悪行の塊たるクローバー王国を護る者など悪党に相違ない!! 死して罪を償えっ!!!」

 

 そう告げると、ゴルメルが盾に収納された剣を右手で抜剣し、アルトに襲い掛かる。

 アルトも魔導書から"聖剣エクスカリバー"を抜き取ると、互いに剣を何度もぶつけ合った。

 激しい剣撃の音が上空から鳴り響く。

 剣閃の中、アルトが剣技に更なる魔法を加えてゴルメルに傷を与えた。

 

 __混沌魔法"月牙天衝"__

 

 ゴルメルの剣と衝突した際に、左手も剣の柄に携えて新たな魔法を行使した。

 刀身に込まれた魔力を吸収して巨大な斬撃をゴルメルに放った。

 

 すると、ゴルメルの右肩から斜めに斬撃が当たり、深い傷を負ってアルトから遠く距離を置かされた。

 

 吹き飛ばされるも、体勢を立て直したゴルメルだが、体に巨大な傷跡が残っており、その損傷は余りにも大きく、大量の傷を負っていた。

 しかし、その傷を受けたゴルメルの表情は苦痛に染まったものではなく、満面の笑みを浮かべていた。

 

 痛みに苦しむのではなく、痛みに喜ぶかの様な不気味な態度を行なうゴルメル。

 

 そんな彼の態度に不気味さを感じながらも、アルトは警戒を解くことはなかった。

 

「よく我を傷つけた悪者よ!」

「なに?」

「我は‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 ──────もっと強くっ!!!」

 

 そう告げると、先程負った切り傷が光と共に発光し、見る見ると治る処か、更に強くなって変化した。

 

「なにっ!?」

「奇跡回復魔法"奇跡の英雄"。さぁ、もっと我を強くしろっ!!」

 

 ゴルメルがそういうと、アルトに襲い掛かっていく。

 アルトは"聖剣エクスカリバー"に宿る剣士達の記憶と鍛えた肉体で回避や受け流したりとゴルメルの攻撃を無効化していたが、少しずつ後方に下げられて王都へと近づきつつあった。

 

「クッ!? デタラメな魔法だなっ!?」

「その程度であるか!!」

 

 強烈な上段からの一撃に剣で受け止めるも、その膂力に負けて上空から地へと叩き付けられた。

 

「ガハッ!?」

 

 思いっきり大地に叩き付けられた為に、血を吐いた。

 アルトが落とされた場所は陥没が出来ていた。

 

「コレまでであるか?」

 

 ゴルメルは猛スピードで剣を突き刺す様な体勢になり、アルトに突撃してきた。

 しかし、ただでやられるアルトではなかった。

 

 __混沌鎖魔法"無限縛鎖"__

 

 歪んだ空間から現れた無数の鎖がゴルメルを縛り上げた。

 

 それによって出来た時間でアルトは直ぐさま立ち上がり、別の魔法でゴルメルを襲う。

 

 __混沌水魔法"爆水衝波"+混沌土魔法"地割れ"__

 

 ゴルメルに大量の水で呑み込ませてその場で制止させ、大地に一筋の大きな地割れを引き起こした。

 アルトは鎖で縛り上げ、水に覆われたゴルメルをその中へと引き入れ、裂かれた大地を閉じた。

 

「窒息で押し潰されたらどうだ」

 

 人間ならば大地に押し潰されただけで即死。

 または即死レベルの重傷だ。

 

 しかし、それでは先程のゴルメルの魔法で更に強化されてしまうと考えたアルトは体への欠損・負傷以外の方法を加えて大地に押し潰す事にした。

 ゴルメルの膂力と魔法効果を考えての方法だった。

 

 しかし‥‥‥

 

 ドゴォォォォォオオオオオオン!!!!! 

 

「なにっ!?」

 

 割れた大地によって叩き潰し、窒息させたにも関わらず大地を割ってゴルメルが現れた。

 あまりの規格外の行いに驚いたアルト。

 

「その程度では、我は止められぬわ!!」

 

 意気揚々と告げるゴルメル。

 そんなゴルメルに先程の"月牙天衝"を刀身に纏わせた状態で斬りつけ合う。

 戦火に燃える王都に甲高い剣撃が鳴り響く。

 

「コレならどうだ!」

 

 __混沌火魔法"白閃煉獄龍翔(アシュトル・インケラード)"__

 

 巨大な黄色に輝く光の八芒星の魔法陣から巨大な青白い龍が現れゴルメルに巻き付き、燃やしていた。

 ゴルメルはその火力に悲鳴を上げる。

 

「グォォオオッ!!」

 

 全身を火傷の状態になり、致死となり死に行く‥‥‥‥‥‥はずだった。

 その火傷が治り始めるまでは‥‥‥

 

「まさか‥‥火傷も通用しないのかっ!?」

「フハハハハッ! 更に我は強くなる!!!」

 

 火傷していたゴルメルの姿が変化した。

 体中に黒い線が無数に走り、更なる強化が施されていた。

 

「チッ!」

 

 アルトはゴルメルに近づき、すれ違い様に無数の剣撃を行ない体中に傷跡を残したが、薄皮一枚程度の傷しか与えられなかった。

 

「その程度か。悪党よ!」

 

 ゴルメルがアルトの背後から剣を振り下ろす。

 アルトは"月牙天衝"を剣にぶつける事で爆発を起こし距離を取った。

 

 しかし、その方法は悪手だった。

 その理由はゴルメルの剣に"月牙天衝"によって出来た刃毀れが生じていた。

 

「悪手であるぞ悪党よ。"希望剣"に刃毀れができたぞ!」

 

 ドバァッ!! 

 

「ガッ!?」

 

 腹部が裂けて血を流し、吐血した。

 アルトはすぐさま回復魔法"再生"を行使して、裂けた状態から元の状態へと回復した。

 

「今のは‥‥」

 

 アルトは先程の件がわからなかった。

 剣に刃毀れが起きた事がわかった瞬間に自身にダメージが起きた。

 その事に戸惑いを隠せずにもいた。

 

「フハハハッ! 驚いたか悪党。我の奇跡創成魔法"希望剣"を!!」

 

 ゴルメルが戸惑うアルトに向けて笑いながら自身の魔法を告げた。

 

「"希望剣"はこの剣に民の希望全てを宿している! それが刃毀れし、壊れれば絶望が襲うのは当然のことだ!」

「成る程。その剣に危害が加わると敵にダメージを与えられるというわけか」

 

 しかも、物理的な攻撃力もあり、剣の性能と加えてアルトが今まで戦った中でも厄介な分類にいる。

 しかし、コレによってアルトは漸くゴルメルの魔法の性質を知る事ができた。

 

「漸くお前の魔法性質を知る事が出来た」

「知ったからといって我に勝てると思うな、悪党!」

 

 ゴルメルはそう告げると、またもや"希望剣"を構えて、アルトへと突貫してくる。

 アルトは混沌雷魔法"雷霆の戦鎚"を発動し、ゴルメルの身体ごと叩き落とした。

 

 雷轟がゴルメルに響き渡る。

 落雷が起きたかに思える雷轟が王都に響き渡るも、ゴルメルには雷と同じ電圧が流れ、黒焦げになったゴルメルが落下していく。

 しかし、落下途中でまたもやゴルメルの身体が強化された。

 

「フハハハハッ! 無駄であるぞ悪党」

 

 ゴルメルはそう告げると、先程以上の速度でアルトに向かって行った。

 その速度は正しく音速の類に入るであろうスピードだ。

 しかし、ゴルメルのその速度を除けば、単調な攻撃しかない彼の攻撃に遭わせてカウンターを行なった。

 

 アルトの右手(・・)がゴルメルの顔面を捕え殴りつけた。

 

「ゴハッ!?」

 

 ゴルメルは見事にカウンターを受けてしまい顔に殴られた痕を残していた。

 しかし、ゴルメルにダメージを負わせば強化されるのおは先程からわかっている。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────と思ったであろう。

 

 

 しかし、一向にゴルメルの顔の傷が治り強化されることはなかった。

 

「何をした悪党?」

「混沌反魔法"幻想殺し"。お前の奇跡という幻想を、俺がこの手でブチ殺す!」

 

 アルトがそう言い切ると、ゴルメルは俯く。

 俯きながら身体を震わせていた。

 アルトの言葉に怒ったのか。

 

 いや‥‥‥

 

「フハハハハッ‥‥ハァハハハハハッ!!!」

 

 ゴルメルは顔を上げると大笑いしていた。

 愉快と言わんばかりの大笑いだ。

 

「面白いっ! 我を傷つける者がいようとは‥‥!!」

 

 ゴルメルは"奇跡の英雄"を無効化した存在が今までいなかったのだろう。

 よってゴルメルは先程以上の好戦的な態度で、アルトへと迫った。

 そんなゴルメルを倒すためにアルトもゴルメルへと迫っていった。

 




次回~白夜の魔眼~


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白夜の魔眼

「我の奇跡魔法を更に伸ばすが良い、悪党」

「ほざけっ!」

 

 ゴルメルは剣と盾を使い、アルトへと接近する。

 アルトも魔法によってできた属性の武器を複数使い同じく接近した。

 

 __混沌水魔法"水神の荒ぶる大海の槍(トライデント)"__

 

 水で創成された三又の槍。

 矛先から空気中の水分を含む水分を集め、荒々しく揺れる大海の如き水を纏わせながらゴルメルへと突き刺される。

 一定方向に揺れる事はなく、嵐の時の津波がゴルメルの身体を理不尽に削っていく。

 しかし、やはり"奇跡の英雄"によってまたもや強化されるが、アルトはそんな事などお構いなしに攻撃を続けた。

 

 __混沌風魔法"轟風旋(パイル・アルハザード)"___

 

 巨大な竜巻がゴルメルを襲い身体の部位という部位を何度も切り刻み続けながら、突風によって上空へと打ち上げられた。

 

 __混沌空気魔法"八十神空撃"__

 

 アルトはゴルメルの隣に"神速の歩み"で移動し、空気魔法による無数の巨大な拳の状態の空気の衝撃波がゴルメルを襲い王都から遠く離れた位置へと飛ばしていった。

 

 __混沌時間魔法"終焉時刻(タイムブレイク)"__

 

 更には遠く離れた場所へと飛ばしたゴルメルの周りに刻限の数字が現れ、それがⅠからⅫの順に数字が集まり、数字がアルトの足裏に集まり纏われると、強烈なキックを上空からゴルメルの腹部に行なった。

 

「ガハッ!!」

 

 ゴルメルが血反吐を吐きながら、アルトの強烈なキックを受けて地面へと叩き落とされた。

 

「ゴホッ! ゴホッ! フハハハハッ! いいぞ我にこれ程の強化を行なわせるとは‥‥」

 

 土煙から現れたゴルメルは血反吐を吐いたかと思えば、すぐさま強化されて現れた。

 その姿はまるでカルタゴの英雄・ハンニバル・バルカを思わせる様な服装と肉体をしていた。

 

「我をここまで強化させたのは貴様が初めてだ! 悪党よ!!」

 

 ゴルメルはそう言うと両手を前に伸ばし、左手を弓を持つ様に固定し、矢を放つために右手を引いた。

 すると、両手の間に無数の矢が凝縮していった。

 

 __奇跡魔法"逆転の矢"__

 

 光速に放たれた光の矢がアルトを襲うもアルトは"イクスティクション・レイ"によって分解消滅させ、ゴルメルの肉体全てを分解消滅させた。

 

 ゴルメルが消えた事でアルトの勝利が決まったかのように見えた。

 

 ゴルメルがいた場所から一筋の光が発し、すぐさまその光は巨大なものへと変化させ、一つの巨大な姿へと変貌させた。

 

 巨人たるその姿はまるで神の使いの如く‥

 

「神の使いへと至った我によって滅びるが良い!!」

 

 ゴルメルがそう言うと突然、アルトの身体に大きな孔が出来てしまった。

 

「ガッ‥‥!?」

 

 ゴルメルは突然の事に驚愕しながらも、すぐさま"再生"を行使して一瞬で回復した。

 

「(なんだ‥‥今のは)」

「フハハハハッ! 驚いたか? 悪党よ! 我の"逆転の矢"は因果を逆転する奇跡を持った弓矢だ。我の奇跡の前では因果も死すらも意味は成さん!!」

 

 自分の敗北を一切信じていないと言わんばかりな言葉を煌々と告げるゴルメル。

 しかし、その言葉はアルトにとってコレまでにないヒントであった。

 

 アルトは口元を少し上げて笑っていた。

 

「‥‥成る程‥そうすればいいのか」

 

 アルトの言葉はまるで何かを設定するかのような物言いだった。

 

 しかし、そんな言葉すら今のゴルメルにはまったく聞いて居らず、高らかに笑いながら攻撃をしてきた。

 

「コレで終わりであるっ!!」

 

 ゴルメルが強化され、巨人となりながらも、圧倒的な身体能力による速度による移動からの、剣撃にアルトは自らの意志で、右腕の肘から先の部分を差し出した。

 すると、右腕が切断された

 

「? なぜ右腕を差し出した?」

「簡単だ。その意味は‥‥‥こうだ!」

 

 アルトが切り落された腕の切断面から一匹のドラゴンが現れた。

 そのドラゴンは巨人となったゴルメルの腕に噛み付いた。

 

「なんのこれしき‥‥」

「誰が一匹だけと言ったんだ?」

 

 アルトの切断面から新たに七匹の別々の姿形・色をしたドラゴンが現れた。

 最初に現れたドラゴンが通常とすると、後に現れたドラゴンはそれぞれ盲目・単眼・四ツ目・骸炎・氷晶・槍状吻・天使型といった色々なドラゴンが現れゴルメルの身体に噛み付き始めた。

 

 しかも‥‥‥

 

 

「‥‥どう‥いう‥‥ことであるかっ!? ‥‥‥」

 

 ゴルメルは眉間に皺を寄せ、苦痛の表情を浮かべていた。

 苦痛の表情を出している理由はアルトが出したドラゴン達にあった。

 

 通常‥‥つまり基本型ドラゴンはゴルメルの魔法を解呪・精神攻撃し、盲目ドラゴンは恐怖と混乱へと陥らせ、単眼ドラゴンは毒の概念を有した牙で蝕み、四ツ目のドラゴンは幻覚催眠を引き起こし、骸炎ドラゴンはゴルメルのエネルギー‥‥生命力焼き命を吸収し続け、氷晶ドラゴンは強靱な氷で凍てつくし、天使型は肉体を塩化させていた。

 

 八匹のドラゴンの能力にゴルメルは必至に奇跡魔法を行使するも、基本型ドラゴンによって無効化され続けて、強化された肉体が弱体化していき、魔法行使すらも盲目と四ツ目による精神への異常が来され、骸炎によって生命力を吸収され、肉体を氷と塩化に蝕まれ続けた事で、ゴルメルは元の状態へと戻され、更には命を蝕まれ、死がゴルメルを襲っていた。

 

「俺は、お前との戦いの中、ずっとこの魔法の深淵を覗き続けていた」

「‥馬鹿な‥英雄たる‥我の力が‥‥」

「今まで俺は、唯々魔法を使うだけだった。だが、奇跡という力を持ったお前を倒すために深淵を知る必要があった。感謝するぞ"奇跡の英雄"ゴルメル」

 

 アルトはそう告げると、八匹のドラゴンにゴルメルの肉体を食いちぎらせて、食させた。

 

 ドラゴンの口内に入ったゴルメルは消化されていき死んでいった。

 

 ドラゴンが蜃気楼の様に消えていくと斬り落された右腕が元に戻っていた。

 

「‥‥フエゴレオン団長と合流するか」

 

 アルトはそう呟くと、身体の向きをフエゴレオンの魔力を感知した東側へと向けて向かおうとしたが、四つの場所で黒い空間が噴火の様に飛び出した。

 

「あれはっ!? ‥急がないと‥‥」

 

 アルトは空間魔法を見て焦りを感じ取り、すぐさま"神速の歩み"で向かって行った。

 

 ────────────────────────

 

 ゴルメルとアルトが王都を離れながら空中戦を行なう最中、アスタは死体を操る魔導士と戦い、他の魔導士は国民を襲う死体を破壊し終えていた。

 しかし、そんな中、[紅蓮の獅子王]団と[黒の暴牛]団や、死体を操る屍霊魔法の使い手__ラデスがいる場所を除く他の四ヶ所に突然と黒い空間がその場所にいた魔法騎士団員を呑み込んだ。

 

 呑み込まれた黒い空間が消えると魔法騎士団員たちが王都から消えた。

 

 そして、黒い空間に呑まれた魔法騎士団員たちは王都から数万㎞離れた平野へと転送され、まんまと敵の罠に掛ってしまった。

 

 そんな王都から消えていった魔法騎士団たちの魔力消失に気付いたフエゴレオンとレオポルドとノエル。

 

「っ!? ‥他の魔法騎士団の魔力が消えた!?」

「どうなっている‥‥っ!?」

 

 ノエルとレオポルドは魔法騎士団達の魔力消失に驚愕と困惑に襲われていた。

 二人の呟いた言葉で魔力を全く持っていないが故に魔力感知も出来ないアスタは他の魔法騎士団に何かが起きた事を知った。

 

「────‥‥‥‥オレらの目的はな。お前だよ、フエゴレオン・ヴァーミリオン」

「なに‥?」

 

 捕えたラデスがそう告げると、フエゴレオンの足下から先程魔法騎士団を空間転移させた空間魔法が彼を襲った。

 黒い空間魔法に呑み込まれ行くフエゴレオン。

 

 それを視認したレオポルドは拘束しているラデスの首元を掴んで、鬼気迫る気迫でラデスを尋問した。

 

「貴様アアアアア!! 兄上をどこへやったァ──────!!!」

「ハハハハハハッ!!!」

「何が可笑しい!?」

 

 詰め寄るレオポルドにラデスは唯々笑うだけだった。

 言うつもりなどないと、示しているかのように‥‥‥

 

「レオポルド! そいつは空間魔法の使い手じゃないわ!」

 

 ノエルはレオポルドを冷静にさせる為に、ラデスの魔法ではないことを伝え、思考する。

 ピンポイントでフエゴレオンを転移させたということは近くに術者がいるという事‥しかし、一体何処にいるのかわからずにいた。

 

 しかし、アスタは迷うことなく、屍の山に走り出した。

 

「そこだァァ──────!!!」

 

 断魔の剣で薙ぎ払られた屍の山から一体だけ、まるで避けるように飛び退き、上方向に空間魔法を開けて距離を取った。

 屍の山に術者がいた事にノエルはとても驚愕していた。

 

「(死体の中に‥‥‥っ!?)」

「よく見破ったな。魔法で化ければ魔力で気付かれると思い、わざわざ小汚い格好に変装していたというのに‥‥獣のような奴だな‥だがもう‥終わったようだ‥」

 

 空間魔法テロリストの言葉と同時に別の空間からアスタ達の前に何かが落ちてきた。

 それに目を向けるアスタ達は、現実を受け入れられなかった。

 

「‥‥‥‥‥‥‥あ‥‥‥兄上ぇええええええ!!!」

「うぁああああああああ!!!」

 

 レオポルドはフエゴレオンだと知り叫び、ノエルは悲鳴を上げた。

 そしてすぐさまフエゴレオンの元へと駆け寄る二人。

 

 しかし、フエゴレオンの右腕は切り落されており、別空間に落ちているのか、一緒に落とされる事はなかった。

 フエゴレオンは右腕を欠如し、ダメージが大きく意識を失っていた。

 ノエルは共に落ちてきたフエゴレオンの魔導書を見て、まだ生きている事を確認すると、彼女は着用している服の布を破り、彼の出血している部分に押し当てた。

 

 回復魔法が使える者がいない為、応急手当しか出来ずにいた。

 

 彼女の努力を無駄だと言わんばかりにフエゴレオンの魔導書の端が崩れ始めた。

 

「レオポルド手伝って!」

 

 ノエルは魔導書が崩れた為に、時間がないことに焦りを感じ取り、レオポルドに手伝わせようとした。

 しかし、レオポルドは兄が敗れた事に現実逃避という戦意喪失を起こし掛けており、動揺しまくっていた。

 

 そんなレオポルドに拘束魔法が解けたラデスが魔力弾を放った。

 

「さっきはよくも嘗めた口利いてくれたなぁ‥‥!」

 

 動揺しているレオポルドにラデスが襲い掛かり、魔力弾によってレオポルドは大きく壁に激突する。

 

「レオポルド!!」

 

 次々に状況が悪化していく魔法騎士団。

 

「正しき心だぁ……!? 俺はいつだって自分の心に正直に生きてるぜ……!! あの世でほざいてなフエゴレオン・ヴァーミリオン……!!」

「目的は果たした……他の騎士団員が来る前に行くぞ……ラデス……」

「……待ち……やがれ……!!」

 

 王都を襲撃したテロリストは空間魔法を使って逃げようとした。

 しかし、それを止めるべく行動を再開したアスタだったが、ラデスとの距離が大きく、走って間に合う距離ではなかった。

 

「アスタとか言ったな‥テメェはそのうち絶対殺して俺のオモチャにしてやる‥‥!! 楽しみ待ってろクソガキィ────!!」

 

 三流の負け犬が言いそうな台詞を残して逃げようとしたラデス。

 そんなラデスを逃がさないために足を進めるアスタだったが、先程のラデスの操った死体の一体が持っていた呪力の効果が残っており、今尚出血しており、何時倒れても可笑しくない状態にいた。

 

「アスタ‥! もうムリよ!」

 

 そんなアスタを思ってノエルは制止の声を上げるも、アスタは止まる事はなく、ラデスが逃げようとしている方法への対処法を考えた。

 

「(オレのこの剣は反魔法!!)」

 

 自身の手に持つ大剣を槍のごとく投げ飛ばし、ラデスの足下に突き刺さる。

 すると、反魔法が付与された断魔の剣は空間魔法を消滅した。

 それによってラデスはその場から逃げる事が出来ず、アスタは身体能力を駆使して迫り、彼の頬に片手剣の反魔法の剣___宿魔の剣を使い傷を付けた。

 

 本当ならば、頭にぶつけて意識を刈り取るべきだったのだが、アスタが負った傷が痛み狙いがそれてしまった。

 

「ぎゃああああ!! いてぇえ────! 何しやがるこのクソがぁああ」

「マズイな‥‥」

 

 ラデスが斬りつけられた事で、これ以上の攻撃を受けるのは良くないと判断した空間魔法使いはもう一度空間魔法でラデスを逃がそうとするが、アスタは先程と同様に地面に反魔法の剣を突き刺すことで魔法を無効化した。

 

「人をあれだけ傷付けて……何言ってやがる──!! これが……痛みだ!!! お前が笑いながら罪の無い人に与えたモノだ──!!」

 

 アスタは武器を離し、ラデスを殴りつけた。

 殴られたラデスは更に傷を負う。

 

「‥‥やめろ‥傷負って血ぃ流すなんてのは弱者の証なんだよ‥‥!! 魔力で劣る奴は魔力で勝る者にいいようにやられりゃいいんだ‥‥特にお前のような魔力のないクズはなァァァアアア!!!」

 

 ラデスは何度も傷を受けた事で逆上し、彼の有する膨大な魔力を使い、魔力弾でアスタを攻撃しようとするが、魔力弾を放つ前にアスタからの頭突きを受けた。

 

「それをさせねーために俺がいる!! そして‥‥魔力のない奴でも最強になれるって‥‥俺が魔法帝になって証明してやる!!!」

「ヴァルトス!! 何とかしろぉ──!!」

 

 ラデスは自分の抵抗が空しくも終わっているが故に、仲間に助けを希う。

 

「出来たらもうしている‥‥反魔法‥思った以上に厄介だ。先にそいつ自体を片付ける必要があるようだな‥‥」

 

 ヴァルトスはアスタを殺すべく、彼の背後の足下に空間を繋げて、魔力弾で殺そうとした。

 しかし、それを阻止するべく復活したレオポルドの"螺旋焔"がヴァルトスを襲う。

 

 ヴァルトスは間一髪の所を回避した。

 

「‥‥‥オレが‥取り乱してどうする‥‥!? どんな時でも冷静に‥‥ですねよ! 兄上──────!!」

 

 立ち直ってはいないが、それでも自らを奮い立たせ戦うために立ち上がった。

 それも先程の空間魔法で逃げようとしたラデスを逃がさないアスタの行動を見たが故なのだろう。

 

「どうしたものか‥‥」

「クソがぁあ──────」

 

 アスタとレオポルドに囲まれて逃げるに逃げられないラデス。

 ラデスを逃がそうとするも反魔法で邪魔され、アスタを殺そうにもレオポルドが邪魔をする。

 他の魔法騎士団を別の場所へと強制転移させ、フエゴレオンを瀕死へと追い遣って形勢が逆転されたかの様に見えても、傷を負った獣たるこの二人の前ではラデスとヴァルトスは刈られる時を待つ獲物と変わらなかった。

 

 しかし、そんなラデスとヴァルトスを助けるかの様に、更なる逆転が起きてしまった。

 

「来るな‥‥来るんじゃねぇ────っ!!?」

『情けない』

 

 この場にいない第三者の声が響き渡った。

 アスタやラデスたちの位置、たれたフエゴレオンと応急処置するノエルを覆うように白色の風が吹き荒れる中、数名の人影が現れる。

 風が止むと、白を基調としたY字の黒の線に胸元に一直線に伸びた金色の線と真ん中に三つの目を模した刺繍が付けられたローブを羽織った者達が現れた。

 

「あの方からの報を受けて来てみれば‥このような者どもを相手に‥情けない────‥‥」

 

 どうやら彼等はラデスの仲間の魔導士のようだ。

 新たな敵の増援に一気に形勢が逆転されたアスタ達。

 

 同時にアスタは先程までの戦いにて受けた呪詛魔法によって血を流し続けてしまい、既に立つこともままならぬ状態にいた。

 そんな彼は先程、フエゴレオンに言われた言葉を思い出した。

 

【豪快さはお前の一番の武器だろうが冷静さを持て!】

 

 そう告げられた事を思い出したアスタは自身の両手に持つ反魔法の剣を自身が傷を負った箇所である右頬と左脇腹に剣を当てて、思いっきり引いた。

「アスタっ!?」

 

 ノエルはアスタの所行に驚愕し、声を荒げる。

 端から見れば自身を傷つける所行だが、彼の反魔法がラデスの屍霊魔法によって操られた屍の呪詛魔法の効力が消え去り、傷口から流れていた血が止まった。

 

「これで‥‥オレはまだ戦えます‥‥!! 見ていて下さい‥!!」

 

 倒れて生死の狭間にいるフエゴレオンに告げながら、アスタは戦意を剥き出しにしながら周りの敵を倒そうとしていた。

 そんな彼に参加するかのように、上空からこの場所に降り立った者がいた。

 

 轟音と共に現れたのはアルトだった。

 

「アルトッ!!」

「随分とボロボロだな。アスタ」

 

 降り立ったアルトは外見的な傷はなかった。

 それは"再生"によって元に戻しているからだが、その代わりに膨大な魔力が消費してしまっている。

 それ程までにゴルメルの奇跡魔法に苦戦したという事なのだろう。

 アルトの魔力量を知っているレオポルドからすれば、残り1/5ほどの魔力量しかなかった。

 

 そんなアルトは右腕を失い生死の狭間に迷い続けているフエゴレオンを見てしまった。

 

「‥‥‥‥」

「誰だ‥?」

「ハッ! そこに倒れてる[紅蓮の獅子王]の団員か。今まで隠れてただけの雑魚だろがァア────」

 

 突然現れたアルトに対して疑問に思った増援に来たテロリストの言葉にラデスが罵倒していた。

 その罵倒にアスタが怒ろうとしたが、すぐさま今この場にいる全員が黙らされる。

 それは、残り1/5ほどの魔力量しかないアルトの魔力による圧だった。

 

 

 

 

 

 忘れているとは思うが、アルトの魔法属性は混沌。

 

 混沌は世界を創造し、生物を創造し、大陸を四つに別けて国を創った意志ある魔力の塊。

 光を照らす光、闇を呑み込む闇。時間と空間すらも飛び越えて、全ての事象は混沌から生まれた。

 

 

 ‥‥‥謂わば、始まり(・・・)終わり(・・・)の魔力

 

 

 真の混沌の魔力には至るには地球から太陽までの距離を一気に飛び越える様な覚醒が必要であり、一気に飛び越えるだけでも不可能に等しい困難なのだ。

 しかも、その覚醒には10段階もあり、僅か2段階目の覚醒まで至っているアルトの魔力は全力を出せば、国中の人間を濃厚な魔力で即死(・・)させるだけの魔力(ちから)があり、テロリスト襲撃前までの他の騎士団との諍いすらもアルトからすれば戯れに等しい魔力なのだ。

 

 ゴルメルとの戦いで魔力量が1/5になろうとも、その魔力量は嘗て魔力に好かれたと言われる異種族と同等以上の魔力なのだ。

 

 そんな膨大な魔力を持っていて、肉体と精神も代償無く戦い続けている彼の潜在能力は過去・現在・未来に至るまで最高の代物といっていい程であり、他者からすれば、正しく彼の魔力は‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 ‥‥‥‥怪物(バケモノ)なのだ。

 

「‥‥誰がやった?」

 

 アルトが問い詰めるように怒りに燃え、ボソリと呟くような泡のように脆く弾ける様な声が、沈黙に包まれたこの場所に響いた。

 

「‥兄上は‥‥空間魔法で何処かに連れて行かれ‥こんな状態になった‥っ!!」

 

 そんなアルトの言葉にレオポルドが悔しそうに呟くように教えた。

 そんなレオポルドを見ることなく、唯々フエゴレオンを見つめるアルトは右手を向けた。

 同じ様に、傷ついているアスタに左手を向けた。

 

 すると、フエゴレオンとアスタの身体が一瞬。霞の様な靄が起きると、負傷していた傷や服までもが元に戻り、フエゴレオンに関しては失っていた右腕が元に戻り、流れていた血までもが何もなかったかのように消えていた。

 

 それを見たノエルとテロリストは驚愕した。

 

「うぉぉおおおお!!!! 怪我が治ったぁぁあああ!!! サンキュー、アルト!!」

 

 アスタは怪我が治っている事にアルトに感謝した。

 

(ウソでしょっ!? アスタは兎も角。フエゴレオン団長の傷は腕が無くなってるのよ‥‥一瞬で治療したなんてレベルじゃないわよっ!?)

 

 ノエルはアルトが行なった魔法が回復魔法である事は傷が癒えたアスタを見ればわかるが、腕を切り落されたフエゴレオンに関しては回復魔法では説明できない領域にいた。

 

 斬られて何処にあるかわからないフエゴレオンの右腕が、何もなかったかのように元に戻り、出血すらも消えていたとなれば、一般的な回復魔導士の回復魔法の領域を逸脱していた。

 

「さて‥‥お前らの誰が殺人未遂(ころしそこ)ねたのか。お前らが何者なのか‥‥吐かせてやるぞ‥‥畜生共!」

 

 アルトはそう言うや否や、アルトの周りに雷で出来た戦鎚と、水で創成された三又の槍、巨大な火よって出来た刀の刀身が現れ、彼の瞳には時計の紋章が浮かんでいた。

 

 __混沌雷魔法"雷霆の戦鎚(トールハンマー)"+混沌水魔法"水神の荒ぶる大海の槍(トライデント)"+混沌火魔法"一刀火葬"×混沌時間魔法"全智の未来"__

 

「‥‥ッ!? 図に乗るな!」

 

 テロリストがそう言うと、魔導書を開き攻撃を開始してきた。

 しかし、アルトは"雷霆の戦鎚"と"水神の荒ぶる大海の槍"、"一刀火葬"によって叩き潰し、突き刺し、斬り裂いていった。

 しかも、テロリストの動きを見抜いているかのように行動をしていた。

 

「チッ!? 嘗めんじゃねぇ!」

 

 __樹木魔法"引魔の根"__

 

 地面から生やした無数の樹木の根が"水神の荒ぶる大海の槍"を捕えようとしていた。

 しかし、"一刀火葬"によって灰燼へと還すアルト。

 加えて、アルトの攻撃に続くようにアスタとレオポルドも攻撃を続けた。

 

(この三人。手負いでここまで‥‥危険だ)

 

 テロリスト達は三人を危険と判断し、魔力弾ではなく魔導書の魔法で殺す事に変えた。

 度重なる交戦が続く中、戦況が一変する事になった。

 

 __風魔法"穿通竜巻針"__

 

 風で出来た細い竜巻の針がアスタとレオポルドの身体を貫いた。

 二人は無数の針に突き刺され地に倒れる。

 

「アスタッ! レオポルドッ!!」

「チッ!?」

 

 アルトが二人の治療を行なおうとした時、ゲル魔法の魔導士とヴァルトスの空間魔法がアルトの行動を妨げる。

 

「行かせん!」

「君、面白いねぇ!解剖した~い!!」

 

 そう言いながら、ゲル魔法の魔導士がゲル魔法"ベトベトサラマンダー"で襲い、ヴァルトスがアルトの魔法を空間魔法でアルトに戻る様に仕向けていたが、アルトの周りでアルトの魔法やゲル魔法が消滅していった。

 

 __混沌空間魔法"絶滅界"__

 

 僅かな黒い球体型の空間が出来ていた。

 その球体型の空間は触れる万物の全てを消滅させる魔法空間がアルトの魔法とゲル魔法を消滅させていた。

 

「邪魔だ」

 

 __混沌魔法"月牙天衝"__

 

 アルトは聖剣エクスカリバーを使い"月牙天衝"を放った。

 しかし、その巨大な斬撃に小さな毒々しい紫のボールが斬撃に接触した。

 

 すると、ドクンッ! とアルトの心臓が大きくうねりを上げた。

 

「ッ!? ‥‥ガハッ!!」

 

 アルトの心臓がうねりを上げると、アルトは血を吐いた。

 同時にアルトが放っている魔法が全て解除された。

 アルトの足下は彼の多量の血によって広がっていた。

 

「アルト!」

 

 アルトが吐血した事にノエルが騒いだ。

 

(‥‥毒? しかもこれは‥‥)

「いや~、危なかったねヴァルトス君達~」

 

 そんな中、ヴァルトスの隣に立つ様に降り立った新たな増援が現れた。

 

「カル。お前はゴルメルと行動する様に言われていた筈だ」

「そのゴルメルさんが、そこにいる混沌の魔導士に殺されちゃったんだよね~」

「なにっ!?」

 

 おどけた様な発言で現れたのは白黒の縞模様の様な髪の分け方をし、テロリスト達と同じローブを羽織った男が現れた。

 ヴァルトスがカルと呼んだ事から名前はカルなのだろう。

 そして、カルの魔法属性は毒魔法。

 

 そんなカルの報告にヴァルトスたちが驚愕していた。

 それはゴルメルの死なのか。

 それとも、アルトの魔法属性についてなのか‥‥‥

 

 どちらにしろ。敵が驚愕している間に、アルトはカルの毒魔法の特性をすぐさま理解し、解読した。

 

「‥‥致死量を‥操る毒‥か」

「正解。いや~凄いよ混沌の魔導士君。あの方が言った通り君は厄介だ。でも君の膨大な魔力は利用できるからね。この場にいる魔法騎士を殺した後、連れて行くよ~」

 

 カルは語尾を伸ばしながらアルトに話していた。

 

「‥‥笑わせるな」

 

 __混沌回復魔法"再生"__

 

 アルトは自身の身体を"再生"させるが、毒の影響が戻らなかった。

 

「‥‥‥どういう事だ‥」

「無駄だよ~毒魔法"毒入りボール"と"決定の毒虫"。この二つの魔法で君は触れた時点で、君は回復魔法では治らないよ~」

 

 回復魔法では治せない事を語るカル。

 魔法名と自身の魔力量に関係している事を毒魔法である事に気付いた。

 

「毒に干渉した場合‥元に戻す効果‥だな‥」

「またまた正解~素晴らしいよ~」

 

 カルがアルトの次々と自分の毒魔法を解読して出てきた解答に、カルは盛大に喜んでいた。

 

「そんな事より、止めだ」

 

 アスタとレオポルドに止めを刺そうと風魔法の魔導士の"穿通竜巻針"が襲う。

 

「止めてぇぇぇええええ!!!」

 

 ノエルの悲鳴が響く中、彼等の前に銀の球体が現れ、二人を護った。

 銀の球体は水銀で出来ており、水銀が解かれるとそこにはヴァルトスによって転移された魔法騎士団がいた。

 

「みんな!」

 

 ノエルはそれを見ると、歓喜した。

 アルトは今まで何をしていたのかと呆れたように、苦しみながらも魔法騎士団を見ていた。

 

「‥‥魔法騎士団‥‥」

「よくもあんな所まで転移(とば)してくれたな」

 

 他の魔法騎士団と共に帰還してきたアレクドラが建物の屋上に立っているヴァルトスに臨戦態勢のまま近づいた。

 

「どうやってこんなに早く‥‥」

「バカな‥! あの距離をこんなにも早く‥‥‥‥!?」

 

 彼等を転移させたヴァルトスは驚きを隠せずにいた。

 彼が転移させた場所から王都までは短時間で戻れる距離ではない。にも関わらず、魔法騎士団は戻ってきた。

 そんなヴァルトスにアレクドラが語る。

 

「不本意の極みだったが‥全員で協力し戻ってきた‥‥超複合魔法‥とでも言うべきか」

 

 全員の魔法を合わせたが故に、「超複合魔法」と例えたアレクドラ。

 

「力を合わせるというのも‥‥良いものですねぇ」

「ま、男も捨てたもんじゃないっスね」

「フン。能力だけは認めてやる」

「協力なんざ二度とごめんだな」

「違う団とはやはり相容れないものだもの」

 

 不本意だったのはアレクドラだけではなかったらしく、次々と不満を告げる魔法騎士団。

 

「────‥だが、我ら九つの魔法騎士団はただ一つ。クローバー王国の平和の為にある!!」

 

 ノゼルはテロリストたちを冷たく睨み付けながらそう言い放った。

 

 ヴァルトスはアレクドラの隙を付いて空間移動し、テロリスト達の元へと移動した。

 

「このまま戦えばただでは済まない‥‥退こう」

 

 ヴァルトスは戦況を冷静に把握し、撤退する事を提案し、空間魔導士にとって固有の空間を空けて撤退するのならば、仲間が近くにいる方が効率が良いのだ。

 敵からの妨害や短時間による空間移動に備えてもあるのだ。

 

「そう急ぐな」

 

 __水銀魔法"銀の雨"__

 

 ノゼルがテロリスト達の頭上から一匹逃さずこの場で一網打尽しようとする水銀で出来た雨を放つ魔法にカルとゲル魔法の魔導士が魔導書を開いき魔法を行使した。

 

 __ゲル魔法"ベトベトサラマンダー"__

 __毒魔法"毒入りボール"__

 

 

 アルトはカルが魔法を使ったのを見て、毒に犯されながらも耐えてノゼルの魔法を強制解除する為に魔法を放った。

 

 __混沌調合魔法"魔法解散(グラム・デモリッション)"__

 

 アルトが左手を挙げて水銀の雨に向けて魔法を放つと、水銀は一つ残らず消え去り、魔法自体が分解された。

 ノゼルは驚きながらも、自身の行動を邪魔したアルトに向けて殺気を込めて睨み付けながら問うた。

 

「貴様‥なんのつもりだ?」

「‥‥‥」

 

 他の魔法騎士団もアルトの行動がテロリスト達の補助‥‥つまり国への反逆に見える行いに同じく彼に視線を向けた。

 ノゼルの問いにアルトは息を切らしながら答えようとしない。

 それは答えないのではなく、答えられないのだ。

 

 彼の受けた毒魔法が致死量を操り、そして操作されている致死量は魔力であるが故に‥‥‥

 

「いやいや~彼を責めるのはお門違いだよ~銀翼の団長さん」

「なに‥‥?」

「彼が君を助けないと、君の魔法に僕の致死量を操る毒魔法に干渉されて君は死んでいたよ~。つ・ま・り‥‥君は彼に助けられたんだよ。僕の魔力の致死量を受けて死にかけている状態の彼にね」

『!』

 

 カルがアルトの行動を褒めながら、ノゼル達が魔法行使を迂闊に出来ないように脅した。

 魔法自体に干渉し、その魔法に使われた(マナ)へと侵食し、致死量を操る。

 それはカルの毒魔法の性質であるのだ。

 

 しかも、カルが設定した毒の部分は魔力の致死量。

 つまり、魔力が高ければ高いほど毒牙強力であるという事だ。

 

 カルがアルトを擁護している間に、ゲル魔法の魔導士がサラマンダーを操りクラウスに抱きかかえられ、気を失っているアスタを捕えた。

 

「もぉ~~~らい」

 

 アルトはどうにかしてアスタを救おうとするが、カルの"毒入りボール"の影響が強く、ノゼルを助けた際の魔法でもう既に動けない状態にまで追い込まれていた。

 

 アスタをゲル内に入れて拘束した魔導士は機嫌を良くした。

 

「どうするつもりだ‥‥ソイツ」

「秘密」

 

 アスタが掴まった事にクラウスとノエルが騒いだ。

 

「アスタ‥!」

「ッ‥!?」

 

 ヴァルトスの空間魔法が開かれ、黒い空間がテロリスト達を覆っていく。

 

「覚えておくがいい‥‥魔法騎士団の者どもよ」

 

 フードを被った一人が魔導書を閉じて告げた。

 

「我らは[白夜の魔眼]。クローバー王国を滅ぼす者だ‥‥!!」

 

 そう言い放つとヴァルトスの空間魔法でアスタを連れ去りながら、この場から消えていった。

 

「アスタぁぁぁああああああ!!!」

 

 アルト達はその場に立ち尽くしか無かった。

 




次回~赤獅子の姉~


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赤獅子の姉

 アスタが連れ去られて、ノエルは冷静ではなかった。

 

「そんな‥連れて‥助けないと!?」

 

 ノエルが声を荒げながらそう言ってきた。

 

「アルトさん! 治療しますわ」

「止せ‥‥回復魔法でも治らん」

「そんな‥‥っ!?」

「レオポルドを治してやってくれ」

 

 アルトは自分を治療しようとするミモザを止めて、レオポルドの治療を頼んだ。

 

「ノエル、無理だ」

「でも‥‥っ!?」

 

 ノエルの言ってきた事にクラウスが冷静に否定した。

 しかし、ノエルは反論する。

 

「残念だが、移動した魔力を探ることは出来ない」

「だからって‥‥」

「ダメだ」

 

 クラウスの言葉に食って掛かるノエルにノゼルが止めた。

 

「今は王都の守りを固めるのが先決。敵があれだけとは限らん。あのような者に割ける時間も魔力もない」

 

 ノゼルの言葉にノエルは黙ってしまった。

 

「フエゴレオンたちの様子はどうだ」

「私の魔法では応急処置が限界です! 医療棟に運んでもっと高レベルの回復魔法を施さないと、レオポルドさんの命が危ないです! ‥‥ですが、フエゴレオンさんは傷が全くないのに目覚める気配がありません」

「無くて‥当然だ‥‥」

 

 ミモザの疑問にアルトが答えた。

 

「俺の回復魔法で右腕を切り落されて瀕死だった団長を再生させた‥目覚めないのは、右腕を斬られた際のダメージが精神にまで負っているからだ‥‥精神を回復させる以外で‥目覚める可能性は低い」

「そんな‥‥っ!?」

 

 ミモザがそう言ったのは自身の回復魔法では精神を回復させる事が出来ないからだ。

 

「ケッ! 団長ともあろう者がざまぁないな」

 

 ソリドが気を失っているフエゴレオンを見下しながら罵倒し、ネブラも右手を口元に持ってきて嘲笑していた。

 

「ヴァーミリオン家も墜ちたもんだ。それに加え、偉そうにしてた奴が敵の魔法にやられて死にかけとは、いい気味だぜ!!」

 

 ソリドは空間転移しても未だに毒魔法が続いて蝕まれるアルトも罵倒した。

 どうやら襲撃前のいざこざでのアルトから受けた屈辱が尾を引いていたのだ。

 あまりの言い分に彼の妹であるノエルは無論。

 ミモザやクラウスもソリドの発言に眉をひそめる。

 

「黙れソリド」

 

 しかし、そんなソリドを黙らせたのはノゼルだった。

 

「魔法騎士団は勝利しなければならない。だが、この場にいなかった我々はヴァーミリオン家とこの男よりも、それ以下だ。この男は襲撃直後の新手に気づき、即座に対処しながら、毒に蝕まれながら敵の魔法の被害を最小限に収めた。これ以上、被害が広がらないよう守りを固めろ」

「‥‥はい‥」

 

 見下し気分に浸っていたソリドと、発言しなかったが見下していたネブラはノゼルの一括の前に萎縮した。

 そんなソリドの見下しなど一切気にしていないアルトは右手を魔法で白くすると、自身の身体を突き刺した。

 

「アルトさんっ!? 何を‥‥ッ!?」

 

 ミモザはそれを見て声を荒げた。

 それは他の魔導士達も同じだったが、アルトは懸命に右手を動かしてあるモノを引っ張り出した。

 突き刺した場所から右手を抜くと、血が噴出した

 右手には毒々しい紫色の球体があった。

 アルトは残り少ない魔力で"再生"し、右手にカルの魔法を持ちながら立ち上がった。

 

「何だそれは‥‥?」

「カルと呼ばれていた毒魔法使いの魔法だ‥‥回復魔法でも治せない様に呪詛魔法を施しているようだ‥‥‥」

 

 紫色の球体について聞いてきたシャーロットにアルトが答えた。

 

「だが‥‥構造はもうわかった」

 

 __混沌反魔法"幻想殺し(イマジン・ブレイカー)"__

 

 右手に"幻想殺し"を纏わせるとカルの毒をテュゥーンッと言う音と共に無効化された。

 

「厄介な毒魔法使いだ(奴は最初っから俺を殺す気がないなかったから助かったものだ‥‥次はないぞアルト)」

 

 しかし、アルトは自身を連れて行こうとしていたカルが殺さない程度に落としていたからこそ生きている事への屈辱と、己の力量不足に対する憤怒がアルトの表情に浮かび上がっていた。

 

 アルトは内心、己に対する未熟さに怒りを隠せていなかったが、負傷したレオポルドを"再生"させて傷を無くし、攻撃を受けて空き、ボロボロになっているロープや服装までもが元に戻った。

 

「凄い! (一瞬でレオポルドさんの傷を‥‥)」

(なんだこの魔法は‥‥? 傷はまだしも、穴の空いた服まで元に戻っている!?)

 

 レオポルドの傷を無くした事に、ミモザはアルトの魔法に感嘆し、クラウスはアルトの異質な回復魔法に困惑していた。

 

「‥‥‥アルトと言ったな」

 

 そんなアルトにノゼルが話しかけた。

 アルトは冷静を装いながらノゼルに視線を向けた。

 

「礼を言う」

「‥‥どういたしまして」

 

 ノゼルの感謝にネブラとソリドやノエルは驚くが、アルトは一応感謝を受け取った。

 

「通信魔法を妨害する魔法が散布されて、指揮系統が不足している。おかげで本部からの援軍も来られなかった。まだ油断できん!」

 

 アレクドラが他の[金色の夜明け]団員に指示を出していた。

 

「ソル。周辺を固めるぞ。警戒を怠るな」

「はいです、姉さん」

「団長と呼べ」

「わかってます団長姉さん」

 

 シャーロットはソルを連れて警戒を行なった。

 アレクドラはクラウスに本部へ行って応援を呼ぶように言った。

 そんな他の団たちの団員の指示が起きていく最中、アルトが片膝を付いた。

 

「アルトさん!」

 

 ミモザはアルトが膝を付いた事を視認すると、慌てて近づいた。

 

「大丈夫だ。ただの魔力切れだ」

「ですが、医療棟で休んだ方がいいです」

「そうよ。貴方さっきまで毒魔法を受けてたんでしょう」

 

 ミモザに続くようにノエルが休むように告げてきた。

 特にミモザからは有無を許さない威圧感があった。

 

 アルトはそれを受けて、ミモザを落ちつかせる為に頭をポンポンと撫でた後、甘んじて休むことを了承した。

 

「わかった。少し休ませて貰う」

 

 アルトはそう言うと、意識を失うように瞼を閉じた。

 すると、ミモザはノエルの手伝いなどもあり、[紅蓮の獅子王]団の三人を医療棟へと送った。

 

 ────────────────────────

 

 アスタが誘拐されてから数十分後。

 

 ミモザとノエルのご厚意に甘えて休んだアルトは夢を見ていた。

 

【兄上!】

 

 自身の視界から発言しているのは自分なのだとわかるが、口が勝手に動いていた。

 視界には、なんとハージ村にある魔神の頭部の骨の上にある初代魔法帝の石像で形取られた姿と顔をした金髪で王族の服を着用した人物がいた。

 

【どうかしたのシェン?】

 

 初代魔法帝に似た人物を兄上と呼んだ自分に名前で呼び返してようだが、その名前の部分が雑音が混じって聞こえなかった。

 

【エルフの皆はどうでしたか?】

【エルフの皆は本当に凄いよ! 僕たちの魔導具の技術を合わせれば、この地をよりよい安全な土地に出来る。エルフの皆も協力してくれたよ】

【リヒトやファナたち‥‥‥これから生まれてくる子供の未来が安心になれる切っ掛けになりますね】

 

 自身と兄上と呼ばれる者はエルフと呼ばれる存在と仲が良いらしい。

 兄上はエルフを褒め、自身は国よりも、子供や国民たちの未来の安全を願うような優しい声で語っていた。

 

【テティアはリヒトと、シェンはファナと付き合ってるしね】

【兄上。茶化すような言い方は止めて下さい! それにその事はまだ私達しか知られてはいけないのですから】

【ごめんごめん】

 

 兄弟仲の言い話し合いをしていた二人の光景から、突如景色が変わり、見覚えのある風景に、一本の木の日陰にて、自身を入れて五人の大人がいた。

 

【新しい命が宿ったんだって?】

【わぁ! 二人の子供なら、絶対良い子が生まれるよ!】

【おめでとうテティア。ついでにリヒト君】

【はは。ついでに祝ってくれてありがとう】

【姉上をよろしく、リヒト】

【必ず、命に代えても守るよ】

 

 どうやら自身の姉テティアがリヒトと呼ばれる髪を後ろに結んだ青年との間に子が出来た様だ。

 その事に大柄の男と、赤みのあり、頭に華の輪っかを付け、肩に乗るようにしたツインテールの女に青黒いマントを左側を覆うように羽織った白髪の男が祝っていた。

 自身も赤子が出来た事を祝っていた。

 

シェンは、ファナとの時間を作ってあげなきゃダメよ】

【‥‥わかってるよ姉上】

【いいのよテティア。シェンは魔法騎士団の設立者で、<エヴァンスマナ>に選ばれた勇者として忙しいから】

【ダメよファナ。シェンは仕事の方を優先しちゃうんだから】

【‥‥‥】

 

 姉上の発言から自分とファナがそういう関係である事を知ったアルト。

 しかし、仕事を優先してしまう正確なせいでファナとの時間が少ない事も知ったが、その事に関してファナが自身が魔法騎士団の設立者である事と、<エヴァンスマナ>と呼ばれる代物に選ばれた勇者である事による忙しさから、自身の疲労を和らげる為に自分が我慢する事で許容している様だった。

 

 そんなファナに自身のダメな所をテティアが注意する。

 テティアも自身が忙しい事を知っているが、それでも愛する存在の為にもっと時間を作る事と、ファナにもっと我侭でいいと教えていた。

 

 そんなテティアに男性人は苦笑しながら、忙しい身である自身の肩などに手を置いて労うようにポンポンっと同情の念を送っていた。

 自身も少しばかり苦笑しているのをアルトは感じ取れていた。

 

 またも景色が変わった。

 しかも、それは先程までの平和的な景色なんかではなく、炎に包まれ式場、血が流れ、取れ伏したエルフたち。

 愛する存在であるファナを抱き留めた自身の光景だった。

 

【ファナ! しっかりしてくれ!!】

【‥‥シェン‥よかった‥シェンは無事‥‥なんだね‥‥】

【喋るな! 今治療を‥‥】

【もう‥‥ダメだよ‥】

 

 ファナの身体には数カ所、何かで撃たれた様な穴が出来ており、死を免れない状況にいた。

 アルトは自身が負傷したファナを抱き上げて話し込んでいる事を知った。

 

シェン‥貴方だけでも‥‥生きて‥‥私の分も‥‥お願い】

 

 ファナが涙ながらに自身に言ってきた。

 アルトは自分ではないのに愛する者が死ぬ事への恐怖を‥‥感情移入してしまっていた。

 ファナはそう言うと息を引き取ってしまった。

 

【フッフッフ! 中々面白かったですよ】

 

 そんな悪意が籠もる発言にアルトも怒りの籠もった感情で自身の視線が振り返ると、そこには黒い霞があった。

 しかし、奇妙な事にその黒い霞には目と口があった。

 

【お前がやったのか?】

【フッフッフ! そうですよ】

 

 黒い霞の答えはYesだった。

 アルトはその言葉に怒りを隠しきれなかった。

 それは視界の人物も同じだったらしく、傍らに置いていた₼の様な鍔をした聖剣エクスカリバーと同じく聖なる力を有した聖剣があった。

 政権を取った自身は黒い霞に振うが、間合いを見切られて回避された。

 

【霊神人剣‥‥秘奥が壱<天牙刃断>】

 

 霊神人剣と呼ばれた聖剣に集った純白の光を剣身と化し、何かを切った。

 

 その際に起きた光と共に、アルトの意識が活性化していった。

 

「‥‥‥‥ハッ!?」

 

 アルトが目を覚ますとそこは医療棟にある医療用ペッドだった。

 どうやらミモザたちが[紅蓮の獅子王]団の三人を医療棟に目を覚まさないフエゴレオンとレオポルドを休ませ、魔力切れしたアルトを回復させていた。

 

「‥‥‥」

 

 アルトは自身の魔力量と回復させてくれる十人ほどの回復魔導士の総量を比べて、そろそろ退散すべきだと思い、ベットから起き上がり、立ち上がった。

 

「まだ回復しきっていません! 動かれるのは‥‥」

「3分の1ほど魔力が回復すれば大丈夫です」

 

 アルトは止めに入った回復魔導士の言葉を優しく断りながら団のローブを羽織って医療棟から出て行った。

 

 医療棟から出てくると、そこには王都の防衛を立て直してこの医療棟に集まっていたテロリスト達相手に戦っていた騎士団たちがいた。

 その中にはユリウスを呼んだマルクスもいた。

 

「アルトさん! まだ安静にしてないと‥‥」

「ただの魔力切れだって言ったろ。気にするな」

 

 アルトが医療棟から出てきた事に気付いたミモザがアルトに安静にするように告げるも、アルトは聞く耳を持たなかった。

 

 それもそうだろう。

 アスタ誘拐が起きた事にアルトも気が気ではないが、3分の1ほど回復した魔力を行使して未来を視た。

 その未来を視るや、魔法を解除して魔力回復のために自然から魔を吸収していた。

 

 少しずつ自然から魔が集まり、アルトに吸収され、アルトの魔力を回復させていく中、この場にいる全員がある人物の魔力を感じ取った直後。

 彼等の前に、金星の様に、半透明の水色球体と時刻が刻まれたリングに包まれたテロリストと、ユリウス。

 ユリウスの右腕に抱え込んだアスタが現れた。

 

「魔法帝‥!」

「それにアスタ!?」

ど‥どうも‥‥

 

 アスタは迷惑を掛けた身である事と、今の状態に対する反応に対応できずにいた様だ。

 そんなアスタの無事にノエルがツンデレをかますが、クラウスがノエルを撥ねのけてアスタの無事を喜んでいた。

 

 そんなアスタの後方から近づいたアルトがアスタを一発殴った。

 

「痛っ!?」

 

 アスタは痛みを告げると、殴ってきた方向へと視線をやるとそこにアルトがいる事に気付き抗議した。

 

「何すんだよアルト!!」

「なに心配させた罰を与えただけだ」

「お前も心配したのか?」

「あぁ‥‥」

 

 ここまでの二人の会話からアルトがアスタの生死を心配したという美談にも聞こえる。

 しかし、アルトが心配したのは‥‥‥

 

「約束から早速リタイヤした奴が現れた事にな」

「だぁれがリタイヤするかぁぁああああああ!!!!!」

 

 アルトの発言にアスタの生死に関して気にして等いない意味が出ていた。

 アルトの言う約束とは無論。あのこと(・・・・)だ。

 

「三人のどちらが先に魔法帝になるか」の競争である。

 

 

 その競争に参加している三人の内、アスタが誘拐されて殺害されては、その競争からリタイヤしたという事だ。

 まだ半年も経ってないのにリタイヤしたのならば競い合いがないというものだ。

 

 あまりに冷徹な思考にも思えるが、それは同時にアルトがアスタとユノが先のテロリスト達に殺されるような柔な存在ではない事を信じているからこその発言である。

 

 そんな二人の会話が止むのを待つことなく、マルクスとシャーロットが状況をユリウスに説明した。

 

「‥‥‥そうか。フエゴレオンほどの者がいつ目覚めるかわからない状態とは‥‥コレは私の判断ミスだったかな」

「いえ、我々が不甲斐ないばかりに‥‥‥」

 

 ユリウスが王都からいなかったのは、テロリスト[白夜の魔眼]の逃げ込んだ先に先回りして待ち伏せていたからだ。

 フエゴレオンの一件を除けば、戦功叙勲式に集まった団員たちだけで充分に勝てると考えたが故であり、実際に屍霊魔法のラデスによる屍達は魔法騎士団によって排除されている。

 実力という点では確かに対処できない領分ではなかった。

 

 それでもフエゴレオンに起きた一件と、他の団員達に起きた敵の罠である空間転移。

 そして、アスタが連れ去られ、ユリウスが待ち伏せていた場所にあったある代物たちの事を考えて彼は自信の判断が間違っていたと思ったらしい。

 

 しかし、シャーロットは敵の罠に簡単に嵌まってしまった自分達の未熟さにも原因があると言外

 に告げる。

 

「魔法帝。それからもう一つご報告なのですが‥‥」

「なんだいマルクス君?」

 

 シャーロットの会話に割り込むようにマルクスがユリウスに話しかけた。

 

「王都から数百mほど離れた場所で戦闘の痕が発見されました」

「ん? それってもしかして、西側の平界ですか?」

 

 アルトはマルクスの話しを聞いて、マルクスに質問を返した。

 

「え? そうですが、どうしてそれを‥‥」

「あ~‥‥その戦闘の痕は俺とゴルメルによるもんです」

 

 アルトは苦笑交じりに戦闘の痕の正体を語った。

 王都に堂々と入り込もうとした[白夜の魔眼]の一人であるゴルメルを相手にしていた際の戦闘の痕である事を教えた。

 

 その際にゴルメルの魔法属性なども教えた為に、魔法マニアのユリウスが食い付かない筈が無く。

 

「奇跡魔法だって~! 死んでも強くなって蘇るなんて、そんな魔法があるんだね~」

「魔法帝!!!」

 

 そんなユリウスを叱るマルクス。

 

「いや~ごめんごめん」

 

 ユリウスが謝罪すると玩具に喜ぶ子供から一変。

 一国を守る戦士としての表情へと変わり、話し出した。

 

「────その為にも我々は全てをかけて戦い続けよう」

「はい!」

「私はこれにて失礼する」

「ノゼル兄様」

 

 ユリウスの言葉にアスタが返事するも、ノゼルが協調性のない発言と共に去って行く。

 そんなノゼルを追うようにネブラとソリドが追っていく。

 

「(なんだ~アイツ)」

 

 アスタはそんなノゼルの発言に協調性を行なわない白い目を向ける。

 しかし、ノゼルの様子の変化にユリウスとアルトだけは気付いていた。

 

「ふふ。眠れる虎ならぬ鷲を目覚めさせたようだね」

「随分と殺気だっているようでしたね」

「?」

 

 ユリウスとアルトがそう言った事にわからずにいた。

 

「我々も更に精進します」

 

 シャーロットがそう言うと、医療棟の扉が勢い良く開かれた。

 そこにはレオポルドがいた。

 

「真っ先に強くなるのは俺だ!!!」

 

 レオポルドは扉に片手を置いた。

 

「レオポルドさん」

「安静にしてないと‥‥」

「体力や疲労も"再生"の際に戻してある。安静にする必要はないんだが‥‥」

「え? そうなの?」

 

 ノエルがアルトの"再生"の効力を聞いて、間抜けな声で聞き返した。

 

「我がライバル、アルト! アスタよ! お互い生きていて何よりだった。だが、オレは兄上をも越える男になる。そしてコレは‥‥‥‥」

 

 レオポルドはアスタとアルトに宣戦布告を行なっていると、突如右手の親指に炎の魔を集めて発火させると、親指を額に押し付けた。

 親指が額から離れると、そこにはフエゴレオンと同じく菱形の赤い紋様が付いていた。

 

「‥コレは、誓いの印だ」

「‥‥おう!」

「抜かれるつもりはないぞレオ」

 

 良い雰囲気まま、レオポルドの宣戦布告が終わると思われた。

 

「‥‥ってか、お前は誰だぁああ?」

「ぇぇぇえええええ!!!」

 

 アスタがレオポルドの事を覚えていなかった。

 王都襲撃の間近で起きたアルトとノゼル達の諍いの最中で、レオポルドがアスタに自己紹介をしながらライバル認定していたのだが、その時のノゼルとアルト達の魔力の暴力と王都襲撃の一件でレオポルドの名をすっかり忘れていたアスタ。

 

 あまりにしまらない宣戦布告の終結に、他の者は笑っていた。

 

「おいぃぃ! 何故未だに知らん!!!」

「オレはちゃんと自己紹介した人しか覚えません!」

「俺の名はレオポルド・ヴァーミリオン! 親しみを込めてレオと呼べ!!」

「な、なんて厚かましい奴なんだ」

「お前が言うな!!」

 

 とまぁ、和やかな雰囲気にもなり、この場にいる団員達は各々、この一件に対する反省を行ないながら強くなる事を心に誓い、魔法帝は逞しく成長を遂げようとする次代の若者たちの成長を期待した。

 

 ────────────────────────

 

 王都襲撃から翌日。

 

 アルトの空間魔法で[紅蓮の獅子王]団のアジトへと戻ってきた二人は昨日の夜。副団長ランドールに頼み混み、[紅蓮の獅子王]の団員達を呼び集めて貰い、フエゴレオンに起きた事と王都での一件を話した。

 これにより、[紅蓮の獅子王]の団員達はフエゴレオンが負傷し、何時目が覚めるか分からない状態に置かれてしまったへの困惑と、自分達の団の団長をそんな目に遭わせたテロリスト[白夜の魔眼]に対しての怒りが集った。

 

 その際の説明にアルトはレオポルドに頼んでいた。

 レオポルドはフエゴレオンの弟であり、フエゴレオンがこうなった経緯を二人の中では一番近くで見ていた目撃者である事と、未だにアルトを良く思わぬ者達がいる為、彼に頼んだのだ。

 

 因みに王都は建築職人が再建築している。

 

 そして、昨日の王都襲撃での一件で臨時戦功叙勲式が行なわれる事になり、アルトとレオポルドが再び王都に集まる事になった。

 

「行くぞレオ」

「うむ! 頼むぞアルト」

 

 レオポルドはアルトの肩に触れると王都まで一直線に転移した。

 

 __混沌空間魔法"転移"__

 

 王都に到着すると、同じく昨日の一件で活躍した者達が集まっていた。

 後からも授与される者達が集まり、臨時戦功叙勲式が終わった。

 

 レオポルドは二等中級魔法騎士に、アルトは五等上級魔法騎士になった。

 レオポルドの昇級に関して歓喜する者もいたが、アルトの昇級に納得できない者もいた。

 しかし、少なくともアルトの実力を認める団員もおり、彼自身が他人の目に関して興味を持たないため、あまりいざこざはなかった。

 

 戦功叙勲式を終えたアルトはレオポルドに話しを聞いて、ある場所へとマリエラと共にやってきていた。

 その場所は強魔地帯「シャプス氷山」だった。

 

 ────────────────────────

 

 シャプス氷山の麓へとやってきたアルトとマリエラは、この氷山地帯の膨大な冷気に寒さを感じていた。

 

「ここに本当にいるのですか?」

「レオの話しだと、ほぼ一年中、野生染みた生活を行なっているようだ」

 

 アルトはそう言うが、荒れ狂う吹雪の音が強まり、風も強くなっていた。

 そんな中、氷山から爆発が起きた。

 その爆発には自然な魔ではない魔力を感じ取ったアルトはマリエラに伝えた。

 

「どうやらあの爆発の所にいるようだな」

「<マナスキン>はできますか?」

「当たり前だ」

 

<マナスキン>=魔を身体能力向上に使い続けることで魔導士の魔力に磨きがかかり、極致領域に達した状態。マナスキンを使用することで、自分のグリモワールの属性魔力を常時身に纏うことが可能となる。

 

 元よりマナスキンが出来ていたアルトと、元ダイヤモンド王国の暗殺部隊に所属し、ファンゼルの教えで既に学習し、身につけているのだ。

 

 しかし、彼等が爆発音に向かおうとするのは希有であった。

 何故なら、目の前から膨大な炎の魔力が此方に接近していた。

 

 炎の塊がアルトとマリエラの前に降り立った。

 その際の音はまるで爆音であった。

 

 炎の塊は、そう見えるだけのただの高魔力による幻影‥‥いや、陽炎といっていいだろう。

 

 そしてその高魔力を放出したのは、橙色の髪をしたフエゴレオンとレオポルドと同じ服を着用した女が立っていた。

 その女のイメージは正しく女獅子! 

 彼女こそがレオポルドが言っていた彼等兄弟の姉である無冠無敗の女獅子。

 

 メレオレオナ・ヴァーミリオン

 

「貴様、面白い魔を持っているな。私と殺り合うとしよう!!」

 

 そう言って、メレオレオナはアルトへと襲い掛かってきた。

 




次回~マリエラの思い~


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第三章~「白夜の魔眼」邂逅編
マリエラの思い


 アルトの混沌の魔力は、強魔地帯の魔よりも珍しい代物だ。

 野生の中で生き続けていた本能の赴くが儘に活動していると言わんばかりなメレオレオナはクローバー王国内では誰よりも魔の異変に気付きやすい‥‥‥‥正しく獣の本能の如き知性である。

 

 そんな獣なみの本能を持ったメレオレオナは更に良いのか悪いのか、戦闘狂でもある。

 

 つまり、一番珍しい魔力である混沌の魔力に反応し、アルトに挑むのは、彼女からすれば、本能的な働きに過ぎないのだろう。

 自由奔放にも程があるが‥‥‥

 

「ハァッ!!」

 

 メレオレオナは自身から半径2m程の炎の塊で襲ってくる。

 アルトはマリエラに"空間支配"を使って遠くに移動させるとメレオレオナの攻撃に"聖剣エクスカリバー"を抜いて対処した。

 

 メレオレオナの猛攻な打撃の連続にアルトは聖剣で受け止めながら剣技をメレオレオナに向けて繰り返していく。

 聖剣と魔力を帯びた拳の衝突の際にガキンと音を鳴らせながら、何度も何度も彼等は拳と剣をぶつけ合いながら、吹雪は続き、氷柱が壊れては鎌鼬の様に風に乗って斬りつけようとする。

 二人の交戦が続く中、メレオレオナの拳が柄の部分に近い刀身の根元部分に当たり、聖剣が飛ばされた。

 

「っ!!?」

「ハァアッ!!」

 

 アルトは聖剣が離れた事で隙を作ってしまい、メレオレオナによって一発頬に魔力を込めた拳で殴られた。

 

「ガハッ!」

 

 殴られたアルトは悲鳴を上げながらも既に次の手を行なっていた。

 メレオレオナの周りに"雷霆の戦鎚"と"一刀火葬"、"水神の荒ぶる大海の槍"を出していた。

 

 "雷霆の戦鎚"が轟音を鳴り響かせながら、雷速でメレオレオナの頭を殴りつけようとする。

 しかし、そんな魔法が襲ってくる中、メレオレオナは深い笑みを浮かべると、魔力ではなく、魔法を拳に纏わせた。

 

「‥全てを燃やし尽くす燼滅の魔法」

 

 __炎魔法"灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)"__

 

 メレオレオナの灼熱を帯びた拳が"雷霆の戦鎚"を燃やし尽くした。

 炎を纏った拳で殴っただけで‥‥

 

「殴って燃やしやがった!?」

「規格外です‥」

 

 アルトは驚き、マリエラは驚愕を超えて、メレオレオナを人間扱いしなかった。

 

「次ぎっ!」

 

 メレオレオナは空中で、何かを蹴るかのようにジャンプしてアルトへと近づく、アルトは残りの二つの魔法をメレオレオナに向けて放った。

 

 同系統の"一刀火葬"がメレオレオナを襲うも彼女の"灼熱腕"と10秒ほど拮抗したが、すぐさま威力で負けて消え去り、シャプス氷山にある膨大な自然の魔と吹雪を渦巻き集約させた"水上の荒ぶる大海の槍"で突き刺しにいった。

 

 しかし、すぐさま彼女の魔法で蒸発させられ、水蒸気が舞うだけだった。

 しかし、それがアルトの狙いだった。

 

「コレならどうだ!」

 

 __混沌時間魔法"表裏一体の(トゥワイス)終焉時刻(タイムブレイク)"__

 

 左脚に過去を集約させ、右脚に未来を集約させた過去と未来の蹴撃がメレオレオナの背後から襲う。

 しかし、メレオレオナは分っていたと言わんばかりに空中で身体を反転させてアルトに振り向き、殴りつけようとするが、アルトはもう一つ時間魔法を行使した。

 

 __混沌時間魔法"時間の加速化(クロックアップ)"__

 

 自身の時間を人間が反応できないほどの時間速度へと加速させて、メレオレオナに"表裏一体の終焉時刻"を当てた。

 攻撃を当てられたメレオレオナは吹き飛ばされ、凍結された水場へと叩き付けられた。

 叩き付けられた場所から幾千も氷河割れした。

 

「来い! エクスカリバー!!」

 

 吹き飛ばされた聖剣の名を呼ぶと聖剣が勝手に飛んで来てアルトの元へと戻った。

 直後、メレオレオナが入った一番氷が割れている場所が爆発した。

 突如、猛烈な速度でアルトへと向かってくるメレオレオナ。

 

「次ぎっ!!」

 

 メレオレオナは攻撃を受けた部分だけ衣服が破れ、血を流していたが、好戦的な笑みを浮かべ、戦いに愉悦を抱いている様な表情でアルトへと近づき、"灼熱腕"で殴りつけてきた。

 

 アルトは"神速の歩み"で移動しながら、左手を指鉄砲の形にして魔法を放った。

 

 __混沌火魔法"灼熱の銃撃"__

 

 まるで銃弾のような熱線がメレオレオナに放たれる。空中にいれば躱せる動作も出来ず、例え躱すために身体を捻ろうとしても、身体が当たる様に胴体を狙った。

 

 しかし、メレオレオナは先程と同じ様に空中を蹴って、別方向へと跳躍して回避し、更に何度も空中を蹴ってアルトへと猛烈な速度で近寄ってくる。

 

 アルトはメレオレオナの動きから剣技は彼女の武闘で圧倒され、斬撃や遠距離は彼女の魔法で燼滅される。

 ならば彼が取る方法は、彼女と同じく魔法行使中の武闘以外無いと考えた。

 

「コイツはどうだ!」

 

 __混沌反魔法"幻想殺し"__

 

 右手でメレオレオナの拳とぶつけ合った。すると、彼女が纏っていた魔力や魔法が解除された。

 解除されたせいか、彼女は先程まで空中を蹴っていた状態が消えて、重力にそって落下したが、すぐさま空中を蹴ってきた。

 

「ほう。中々面白い魔法を使うな」

 

 驚愕を与える事が出来たが、同時に更なる好戦的な笑みを浮かべた。

 そして、今までアルトとメレオレオナの衝突を見ていたマリエラがメレオレオナの使っている技術に気付いた。

 

「アルトッ! 彼女はマナゾーンを使っています!」

「マナゾーン?」

 

 アルトはマリエラから聞いた言葉に聞き覚えがなかった。

 

「マナゾーンは自分の周囲を魔を自分の味方として自由自在に操るマナスキンの上位技術です!」

「ほう。15歳あたりでよく知っているようだな、小娘」

 

 メレオレオナは僅か15歳でマナゾーンに関する情報を得ている事に感心した。

 

「周囲の魔を味方にする‥‥か。なるほど大体分った」

 

 マリエラの助言のお陰でマナゾーンに関する方法を理解したアルトはマナスキンの技術力を向上させた。

 すると、アルトの膨大な魔力に加えて、周囲の魔を味方にしてみせた。

 

 しかも、アルトのマナゾーンはメレオレオナが起こしているマナゾーンの4倍以上の範囲と濃度をしていた。

 

「フハハハ!! 私よりも濃密なマナゾーンとは、愚弟の団に入った者にしてはやるな!!」

「俺はフエゴレオン団長に起きた事について話しに来ただけだ」

「ほう、言ってみろ。聞いてやる」

 

 構えを解こうとは為ずに話を聞き始めたメレオレオナ。

 

「つい昨日。テロリストである[白夜の魔眼]の掛けられた(トラップ)を受けて意識不明の状態です。団長が意識不明という事で浮き足立つ団員が多くいます。貴女に浮き足立つ団員に叱咤を行なって頂きたく来ました」

 

 アルトはメレオレオナがいつ攻めに来ようとするだろうことは感づいていた為、戦闘できる状態で話しを終えた。

 

「フン! 愚弟が眠っただけで浮き足立つとはフエゴレオンの馬鹿め、とんだ腑抜け軍団を育て寄って‥‥」

 

 メレオレオナは弟を意識不明にさせたテロリストへの憤怒ではなく、怠慢な鍛え方をしている弟への罵倒であった。

 その罵倒はアルトにとっても怒りを隠せずにいた。

 

「‥‥自身の弟を罵倒か」

 

 先程まで目上に対する敬語ではなく、いつも通りな口調だった。

 それは彼にとって家族を大切にする思いは、彼が最果て出身である事と教会で育成された事で、彼にとって家族への、仲間への暴言は許せないのだ。

 

 事実、戦功叙勲式の際に起きた、妹への躊躇無き罵倒をしる兄姉たちに少なからず怒りを覚え、アスタやユノへの罵倒すらも怒りを抑える事で精一杯だったのだから‥‥‥

 

 そんな彼が団長を、同じく姉が弟を罵倒するのは許せなかった。

 

「ほんの数ヶ月だが、フエゴレオン団長は誰よりも熱くこの国を想う最高の大魔法騎士だ! いくら姉弟であろうと、それを罵倒することは許さん!!」

「ならば、口だけでなく己の手で体現せんか!!」

「「っ!?」」

 

 メレオレオナはアルトとマリエラに叱咤した。

 叱咤された二人は驚愕した。

 

「最高の団長に導かれた最強の団だという事を!!!」

 

 メレオレオナは自身の身体に炎の魔力を膨大に放出した。

 

「あの大馬鹿は貴様等を、この国を見捨てて死んだりは絶対にせん! アイツが戻るまで貴様等が誇りある[紅蓮の獅子王]の力を見せつけて見ろ!!!」

 

 メレオレオナの叱咤に二人は唯々沈黙した。

 

 それもそうだ。

 理不尽を許さないといいながら、フエゴレオンの姉に団長代行を頼もうとした。

 それは同時に理不尽に屈し、放棄する事と同義。

 理不尽を滅ぼすことを信条にしていたアルトは己の愚かさに苛立ち、そして、フエゴレオンとの模擬戦のことを思い出していた。

 

【アルト。如何なる任務であろうと、不安は憑き物だ。だが、我々魔法騎士団は理不尽な相手を倒し、平和を示さねばならん!! それには強き心で、悪を打たねばならん!!】

「(そうだ。俺はフエゴレオン団長にいった矢先に‥‥)」

 

 メレオレオナの叱咤から俯いていたアルトは顔を上げた。

 顔を上げたアルトに覚悟が籠もっていた。

 それを見たメレオレオナは笑みを浮かべた。

 

「先程の失礼を謝罪します」

 

 アルトは戦闘態勢を解いて、頭を下げた。

 

「そして、一魔法騎士として、貴女に決闘を申し込む!」

「私も、決闘を申し込ませて貰います」

「よかろう。まとめて掛ってこい!!」

 

 アルトとマリエラの決闘申し込みにメレオレオナが了承し、マナゾーンを発揮して二人を威嚇した。

 

 __混沌強化魔法"無限の倍加(メビウス・ブーステッド)"__

 

 __氷創成魔法"氷剣の暗殺"__

 

 アルトの胸元と両肩両足に∞のマークが浮き上がった。

 

 そしてマリエラは[紅蓮の獅子王]の団員となった後、アルトと時折とも訓練をしていた彼女はダイヤモンド王国の暗殺者時代以上の実力を秘め、暗殺部隊時代で使っていた氷の剣を無数に出した。

 

「こい!」

 

 メレオレオナがそう言うと、アルトがメレオレオナに攻撃しに向かい、マリエラは無数の氷剣を射出した。

 

 アルトより早く"氷剣の暗殺"がメレオレオナを襲う。

 しかし、メレオレオナの"灼熱腕"が連続的に無数の氷剣を燼滅させていく。

 

 無駄だと言わんばかりな剛胆にして単純な攻撃で‥‥

 しかし、それはアルトも同じだった。

 

「「ハァアッ!!」」

 

 "灼熱腕"のメレオレオナの右腕と"無限の倍加"のアルトの右手が衝突した。

 すると、メレオレオナが吹き飛ばされた。

 

「ほぅ(私が膂力で負けるとは‥‥)」

 

 マナゾーンで空を蹴るように立ち上がった。

 そんなメレオレオナに熱気ごと凍結させる魔法を行なった。

 

 __氷魔法"凍結する火炎(フリーズドライ)"__

 

 マリエラの"凍結する火炎"が彼女の炎魔法を凍らせようとする。

 しかし、マナゾーンを使っているメレオレオナ相手にマリエラの魔法はあまり有効打を与えていなかった。

 

 __炎魔法マナゾーン"灼熱腕"・連撃__

 

 連続的な振われる"灼熱腕"がの熱線がアルトとマリエラを襲う。

 アルトは"神速の歩み"で何度も移動しながら熱線を捌ききった。

 すると、メレオレオナと同じく空中を蹴ってメレオレオナに近づいた。

 

 メレオレオナに一瞬で近づくと、今尚強化し続ける身体機能とマナゾーンを加えて

 

 __混沌強化魔法マナゾーン"無限の倍加・連撃"__

 

 __炎魔法マナゾーン"灼熱腕"・連撃__

 

 

 アルトとメレオレオナはマナゾーン越しの互いの拳と拳、拳と足とぶつけ合っていた。

 

(同じ女性として、あの実力は犯則ですね。それにアルト)

 

 それを見たマリエラはメレオレオナに対して、同じ女性として悔しさを覚え、アルトに対して嫉妬した。

 

(貴方は出会った時から規格外でした。圧倒的な潜在能力に余所を寄せ付けない増え続ける魔力量)

 

 マリエラがアルトとあったばかりの頃と心の内に思っていた事を思い出していた。

 

(一度見ただけでその属性を得る貴方を化け物の様に見てました)

 

 アルトと出会ったのは、アルトの修行時に起きた流れ弾によって負傷したことから始まった。

 一瞬にして傷を治し‥‥いや、元に戻したアルトの魔法にマリエラはダイヤモンド王国に引き入れようとも思った。

 その為にアルトと幾日も同居生活をしていた。

 アルトもマリエラを警戒してか、最初は二人とも互いを見張るような行動をしていた。

 しかし、幾日も同居していた為か、友人の様に感じられるようになり、生活が楽しくなっていた二人。

 

(でも、先生の捕獲を貴方が邪魔した時は理解に苦しみました)

 

 そんな二人の生活に終止符が起きた。

 ガレオと呼ばれるダイヤモンド王国の魔導士によってファンゼルの捕獲を行なうも、それを止めに入ったのはアスタとアルトだった。

 何故アルトが自分達の前にいるのか、なぜ邪魔をするのか理解出来ずにいた。

 しかし、その時のアルトの言葉にマリエラは強く勇気を得た。

 

【──────何故俺が‥‥俺達が生きる理由を誰かに決めつけられなければいけない。生きる理由なんて、俺自身が決めることだ!】

(そして、貴方は犯罪者である私に言ってくれました)

【次に出会ったら、今度こそ俺がお前を助ける。絶対に】

(とても嬉しかったです。だから、貴方の隣に立ち、共に強くなろうと、闇市場(ブラックマーケット)で思いました)

 

 しかし、彼女の思いを叶わせない様にするかの如く成長という名の進化をし続けるアルトに焦りを感じていた。

 

(それでも、貴方は呼吸するように成長していく。あまりに遠い背中に私は焦りました。でも、貴方にも敗北がある事を知りました)

 

 王都襲撃の際に起きたフエゴレオンの意識不明の状態に陥った出来事に対して、アルトが自身でも気付かぬほどに己を悔やんでいる事に、何時も彼を見ていたからこそ、マリエラは気付いていたのだ。

 しかし、メレオレオナの叱咤によって悔やみを乗越え、成長したアルトに安堵をかんじながらも、メレオレオナに嫉妬してしまっている。

 

(彼女によって何時もの貴方になった事は嫉妬しますが、今度こそ、貴方の力になり、先生とドミナさんと同じくらいに、大事な貴方を助け、守りたい!)

 

 マリエラがアルトとメレオレオナとの戦いで、自身への決意を秘めた。

 それに呼応するかの如く、彼女の魔導書が光り出した。

 

 同時にマリエラの魔導書の発光と同時にシャプス氷山の地下深くから膨大な魔力が起動した。

 

 地下深くの魔力を感じ取ったアルトとメレオレオナは互いの頬を殴りつけようとした拳を止めて、すぐさまその場を遠ざかった。

 すると、彼等がいた場所から青白い光柱が現れた。

 その光柱を仰ぎ見る三人に、獅子のごとき獣の声が響いた。

 

「ウォオオオオオンッ!!!!」

 

 耳に響く雄叫びはアルトとメレオレオナの表情を苦痛に変えた。

 しかし、マリエラだけが、そうはならなかった。

 

 光柱が発光体となり、マリエラへと向かう。

 

「マリエラッ!!」

 

 アルトは思わず、助けに行こうとするが、マリエラが頭を横に振った。

 まるで来るなと言わんばかりに‥‥‥

 そんなマリエラの行動で動きを止めてしまったアルト。

 発光体はマリエラへと衝突した。

 

「マリエラァァアア!!」

 

 アルトは発光体と衝突したマリエラの名を叫んだ。

 




今回はヒロインの覚醒話の前編として書かせて貰いました。

次回~教授の証明~



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教授の証明

 謎の発光体と衝突する前にマリエラはある声を聞こえていた。

 

『話しがしたい』

 

 マリエラはその声を信じた。

 まるで洗脳でもされたかのように従順に‥‥

 

 そして、発光体と衝突したマリエラが閉じた瞼を開き、その両眼に映ったのは満月の月の如き白銀色に染まった毛並みを持ち、黄色の獰猛な眼をした雄の獅子だった。

 しかし、問題があった。

 

 それは純粋に巨大である為、見上げていたことだ。

 

 その巨大さは180cmの約6倍‥‥つまり単純計算すると、180×6=1080cm≒10m80cmもあるのだ。

 それは正しく巨人‥‥いや、巨獣である。

 

 その巨獣はマリエラを見下ろしていた。

 

「貴方は誰ですか?」

「我は獅子幻獣レグルス」

 

 巨獣は獅子幻獣レグルスと名乗った。

 

「獅子幻獣?‥ですか」

「嘗て混沌によって生み出された種族にして幻獣族の一角。我は月光と氷、獅子の力を宿し幻獣」

「‥‥‥なぜ私に話しかけたんですか?」

 

 マリエラは疑いながらレグルスに質問した。

 

「先まで、お主が願い祈った思いに反応したまでのこと」

「更に理解出来ません」

 

 レグルスの返答に更に理解できなかったマリエラは更なる説明を求めた。

 

「お主は願った。混沌の少年の助けとなり、守りたいと」

「‥‥‥」

 

 レグルスの言葉にマリエラは沈黙した。

 レグルスが言った事は間違っていない。

 アルトとメレオレオナの戦いを見ながらそう思っていたのだから‥‥

 

 それを指摘されてはマリエラも反論はできなかった。

 

「だからっと言って、なぜ貴方が反応したのですか?」

 

 しかし、それでレグルスが反応するのかわからないマリエラはレグルスに質問する。

 

「我ら幻獣族は近しい思念を持つ者を契約者とす。お主は我が思念に近しいものを持つ者なり」

「‥‥」

「故に我はお主と接触した」

「貴方と契約して、私に何の様な利点があるのですか?」

「混沌の少年の力となれる」

 

 混沌の少年‥‥‥つまり、アルトの力になると言った。

 端から聞けば、飴玉のような‥‥いや、天使の囁きに等しい誘いだ。

 しかし、暗部として行動していたマリエラはレグルスの言葉に裏があると気付いていた。

 

「‥‥‥本当は何が狙いですか?」

「お主も知っておろう。混沌は矛盾の塊にして、神と悪魔を初めとした全ての力を持つ。それは同時に暴走を引き起こす可能性が高いのだ」

「っ!?アルトが暴走すると言いたいんですか?」

 

 好きな男に対する悪口にも聞こえたその言葉に、マリエラは怒りを浮き出していた。

 相反する力を持つから暴走すると言われれば、誰でも怒るだろう。

 

「お主ら人間は神と悪魔の力をあまく見過ぎている。神と悪魔は混沌を消し去る事に躊躇せぬ」

 

 しかし、マリエラの怒りなど何処吹く風と言わんばかりに堂々と無視したレグルスは逆にマリエラの‥‥いや、人間の認識力の甘さに激怒する。

 激怒しても、この場にいる人間はマリエラしか居ないため、指摘できるのは一人だけなのだが‥‥‥

 

「神と悪魔は存在だけで矛盾を起こす存在。しかも、近頃は神すらも人間への敵対が起き始めている」

「えっ!?」

 

 レグルスの教えにマリエラは驚いていた。

 

「いずれ、アルトに危険が起きると言うんですか?」

「そうだ。混沌は神と悪魔の力が均衡してるが故に暴走せぬ。しかし、均衡が崩れれば暴走す」

「‥‥‥」

 

 レグルスからもたらされた言葉にマリエラは沈黙した。

 彼女にも心当たりがないわけではないのだ。

 アルトが得希に歓喜の様な善意の感情に、憤怒の様な悪意の感情での性格があまりに違いすぎる事に、それは同時に混沌に存在する光の闇の分類である。

 どちらかに感情を揺れて、力までも強く反映する。

 

「わかりました。貴方の力なら、受け入れましょう」

 

 マリエラはレグルスの言葉を信じた。

 

「ですが、アルトを裏切るような行動をとれば、私が始末します」

 

 マリエラは覚悟の籠もった瞳でレグルスを睨み付けた。

 

「後悔はさせぬ」

 

 レグルスはそう言うと、鼻先をマリエラへと近づけていく。

 マリエラは近づけられた鼻先を右手の人差し指で受け止めるように触れた。

 マリエラとレグルスが触れた場所に発光する。

 

 ────────────────────────

 

 謎の発光体と衝突したマリエラの名を叫んだアルト。

 しかし、マリエラと衝突した発光体が止むと、そこには無事なマリエラと10m程の巨体をした獅子が立っていた。

 

「マリエラ、無事か?」

「はい、私は大丈夫ですよ」

 

 アルトは瞬時にマリエラへと近づき彼女が無事かどうかを確認した。

 マリエラの体には傷はなく、ただ後ろの獅子が加わっただけのようだった。

 

「それよりも‥」

 

 マリエラはアルトから視線を外し、背後にいる獅子幻獣レグルスに獰猛な瞳と笑みを浮かべて睨み付けるメレオレオナに視線を向けた。

 

「メレオレオナさん。お手合わせをお願いします」

「よかろう。幻獣族の契約者と出会うのは私とて初めてだ」

 

 メレオレオナは魔法が解けた右手で力強く握り潰さんと言わんばかりにゴキッゴキッ!と指を鳴らしながら握り拳を作った。

 メレオレオナが炎の魔力を纏いながらマリエラとアルトへと向かってくる。

 

 __氷幻獣魔法"獅子幻獣の氷霧(レグルス・フロスト)"__

 

(マリエラの魔力が上がった!?)

 

 アルトは幻獣と契約したマリエラの魔力量が今までの倍以上の容量を有している事に気付く。

 獅子幻獣レグルスの口から吐き出された氷霧がメレオレオナを襲う。

 

 __炎魔法"獅子女王の炎咆(レオ・バースター)"__

 

 メレオレオナを囲む様に現れた炎の獅子の顔。

 炎の獅子は口を開けると、炎の咆哮を"レグルスの氷霧"へと襲う。

 しかし、氷霧が熱線に衝突すると、少しの蒸発があったが、熱線が凍り始めていた。

 

 アルトはレグルスの能力を視るために、熱心に見つめていた。

 

(そういうことか‥‥)

 

 __混沌炎魔法"卍解・残火の太刀"×"天地灰尽"__

 

 アルトは聖剣エクスカリバーの刀身を黒焦げの状態"卍解・残火の太刀"を行使し、触れた物を燃焼による消滅を引き起こす灰燼の斬撃。

 "天地灰尽"を起こした。

 "天地灰尽"が二つの魔法へと襲い、爆発を起こさせた。

 

「俺がいる事を忘れるな」

 

 アルトはまるで三竦みの様な位置取りをする。

 

「三竦みか、面白い。久々に力を使うとしよう」

 

 レグルスはそう言うと、レグルスとマリエラから膨大な魔力が放出された。

 その魔力量は四つ葉に選ばれた魔法騎士と相違ない魔力量だった。

 

「ほう。更に魔力が上がったか。面白い」

 

 メレオレオナも同じ様に魔力を放出してきた。

 しかもマナゾーンを開放した状態でだ。

 

 二人に続くようにアルトも魔力を開放した。

 しかも、全力で解放すればクローバー王国ないを覆い混乱を引き起こしかねなかったが、マナゾーンを習得した事で、その制御(コントロール)を手にする事が出来たため、彼はこの場のみに魔力を解放した。

 

 その魔力量にメレオレオナは思い出したかのように呟いた。

 

「愚弟が言っていた混沌の魔力か」

「あらため感じると、化け物級ですね」

「真なる混沌に至るには10の覚醒が必要。2段階目の覚醒は魔神と相違ない実力と魔力を秘めておる」

 

 アルトの魔力量にレグルスがマリエラに告げた。

 どうやら、アルトの現魔力量が伝説の魔神と相違ない程らしい。

 つまりは、今のアルトは伝説の魔神であるという事だ。

 

 __炎魔法・マナゾーン"灼熱腕"・連撃__

 __氷幻獣魔法"獅子幻獣の吹雪裂爪(ネメアネイル・シュネーシュトゥルム)"__

 

 メレオレオナの無数の炎の熱線。

 マリエラと契約したレグルスの大地を掻き裂く吹雪の如き猛烈な勢いを乗せた強力にして剛胆な金剛石の如く輝く獅子の爪によって起きた5本の爪の斬撃がアルトを襲う。

 

 そんな攻撃にアルトはマナゾーン越しに新たな魔法を行使する。

 

 __混沌時間魔法"未来の改変者(ユーハバッハ)"__

 

 アルトの眼に瞳が無数に現れると、突如二つの魔法が強制解除された。

 

 

 "未来の改変者"="森羅の改変者"と"全智の未来"を重ね合わせた未来を改変する魔法。無数に存在する全ての未来を視て、未来に干渉し、強力で強制的な改変力で上書きするという効果だ。しかも、この魔法は一秒先の未来であろうと、100年先の未来であろうと改変できる。

 

 

 つまり、アルトは二つの魔法の未来へと干渉し、魔法を解除したのだ。

 

「未来そのものに干渉し、強制的な改変力で我らの魔法を解除したようだ」

「恐ろしい魔法を作りましたね、アルト」

「ふん!面白い!次だ」

 

 レグルスがアルトのやった事を説明すると、マリエラはあまりの魔法効果に感想を呟き、メレオレオナは更なる戦闘への快楽を感じていた。

 

「次は此方からだ」

 

 __マナゾーン・混沌炎魔法"無慈悲な太陽"・連射+混沌光魔法"ライトニング・ノア"・乱射__

 

 入団試験の際に使った"無慈悲な太陽"を連射し、両手に電光の魔力を帯びさせるとL字に構えた魔法"ライトニング・ノア"を無方向に乱射させた。

 

 連射した"無慈悲な太陽"と乱射した"ライトニング・ノア"がメレオレオナとマリエラ、レグルスへと襲う。

 

「レグルス!」

「うむ!」

 

 __氷魔法"無限絶甲氷盾"__

 

「ウォォォオオオン!!!!」

 

 元々氷の魔力が荒れる強魔地帯であるこの場所で、マリエラはあらゆる攻撃を防ぐ氷の盾を作りだした、

 しかも、レグルスの遠吠えが加わって氷の魔力に加わって、空気中の水分に魔法の効果が働き、無限に氷の盾を創成させていった。

 創成された無限の氷の盾が二つの魔法を防ぎ続けていた。

 

「ハァァァアアアアッ!!!!」

 

 メレオレオナは気合いの声を上げながら"灼熱腕"を連撃して"無慈悲な太陽"と"ライトニング・ノア"を防いでいたが、攻撃力と効果が"灼熱腕"を越えており、五発以上殴らないと相殺できない程だった。

 

 そんな二人に更にアルトはエクスカリバーを構えて横一文字に一閃した。

 

 __混沌魔法"森羅万象斬"__

 

 四色以上の色の光を輝かせたエクスカリバーの刀身から一閃したと同時に斬撃が放たれた。

 四元素を含んだ4つ以上の属性斬撃。

 

 __氷創成魔法"狂牙の氷滅刺槍(ガーズ・ヴォイド)"__

 

 マリエラは防御をレグルスに巻かせると、新たに魔法を放った。

 その魔法はあらゆる万物を突き刺し、滅ぼす凶器的な獅子の牙の如き無数の氷槍。

 

 "森羅万象斬"と"狂牙の氷滅刺槍"が衝突する。

 10本以上の氷の槍が壊されるが、同時に斬撃が相殺された。

 

 そんな中、無数の中から僅か10本以上ではそれ程数が減って居らず、残りの数百以上の氷槍。

 しかし、アルトが連射・乱射した二つの魔法にも衝突した事で数百以上の氷槍が壊されていった。

 

「フハハハッ!!!アルトとマリエラと言ったな。愉しませてくれた礼だ。私の全力の魔法をくれてやろう」

 

 先程までアルトの放った"無慈悲な太陽"と"ライトニング・ノア"の攻撃から移動・反撃で防御していたメレオレオナが戦いを愉しみ笑いながらそう告げる。

 アルトとマリエラは彼女の言葉に最大で警戒をした。

 それもその筈だ。

 

 アルトと修行したが故に上級魔法騎士レベルのマリエラと

 既に団長レベルの実力を持っていたアルトが、フエゴレオンよりも上だと評していたレオポルドの言葉から警戒するのも当然だ。

 彼女の"灼熱腕"は当たらなければどうという事もないのだが、マナゾーンを加えたその魔法は、当たれば全方向からの抜けだし不可能な攻撃だ。

 しかし、メレオレオナはアルトの膨大な魔力によるマナゾーンの影響下と、レグルスと契約したマリエラの魔法凍結と魔力増強によって嘗てない歓喜ある手合わせをしていた。

 

(これぐらいのガキ共とやり合って心躍ったのは、あの生真面目莫迦以来か)

 

 メレオレオナは何かを思い出すように今の手合わせに対して滾っていた。

 嘗て自分が15歳ほどの年齢の頃に弟フエゴレオンと喧嘩し、ヴァーミリオン家を全焼してしまいそうな被害を起こしていた。

 その歳はフエゴレオンが珍しくも怒りが抑えきれなかったが故に起きた事件_____「焔血の火曜日」と呼ばれる事になった。

 

 当時のフエゴレオンと似通った年齢のアルトとマリエラに滾っていたメレオレオナは最大の敬意を表して最大の魔法を発動した。

 

 __マナゾーン・全開!!!__

 

 

 メレオレオナが自身の技術の全てを解放して出来たマナゾーンの完全解放。

 コレによって、彼女の炎の魔力がマリエラの"無限絶甲氷盾"燃やされ、空気中の水分までもが消えていった。

 

 __炎魔法"灼熱腕・煉獄"__

 

 マナゾーンを全開にした状態での新たな"灼熱腕"の魔法。

 それは先程まで赤い色の炎から一変、青白い炎とかして当たり一帯を燃やしていた。

 

「マズイ‥‥!」

 

 レグルスは契約者への危険を察知してマリエラを守る様に包まり、月光と氷で我が身と契約者を守った。

 そして、アルトの方はと言うと、メレオレオナの魔法を視て、直ぐさま"森羅の改変者"を使って身を守っていた。

 

 しかし、"森羅の改変者"が"灼熱腕・煉獄"に負けて改変した事象が焼失していった。

 アルトは王都襲撃の際と同じく命の危険を改めて感じ取った。

 そんなアルトが賢明に"森羅の改変者"を行使していると、彼の魔導書の創成魔法のページに新たな魔法が刻まれた。

 

 __マナゾーン・混沌創成魔法"創造の月(アーティエルトノア)"__

 

 アルトの上空に白い三日月が出来ていた。

 その三日月から溢れる光が、彼女の炎魔法に加えて、膨大な冷気までもが凍らせながら脆く塵のごとき別の物へと創造し直していた。

 

 それと同時にアルトから神聖な魔力が溢れていた事にレグルスが反応した。

 

(三段階目に覚醒しつつあるのか)

 

 レグルスはアルトの力を見て、そう感じ取った。

 三段階目の覚醒が何なのか?

 それを知る事が出来るのは、アルトや混沌を知る者のみ。

 

 つまり、結局はアルトが切り開くしかないのだ。

 メレオレオナが魔法を使い終えると、そこには膨大な冷気と共に、シャプス氷山が冷気がなく、見当のいい自然的なシャプス氷山として創り変えられた(・・・・・・・)

 

「強魔地帯を、安全な場所として創り変えたのか‥‥」

 

 流石のレグルスでも、この現象に驚いていた。

 

「‥‥‥これは」

 

 強魔地帯を創り変えたアルトですら、この現象に驚いていた。

 

「ッ!?‥‥~~~~~~~ッ!?」

 

 しかし、すぐさま体にズキッと突き刺さるかのような痛みに襲われ、声にならぬほどの悲鳴を上げてしまうアルト。

 

 あまりの痛みにアルトは気絶してしまった。

 

「アルトッ!?」

 

 レグルスに守られていたマリエラが大地へと落ちようとするアルトに向かって行く。

 マリエラよりも早くメレオレオナが魔力でできた獅子の手がアルトを掴んだ。

 

「なかなか面白かったぞ。アルト」

「‥‥‥‥」

 

 メレオレオナがそう言うが、気絶したアルトが反応することはなかった。

 

 ────────────────────────

 

 数時間後。

 アルトの"創造の月"によって変えられたシャプス氷山の山頂にて横にされていた。

 本物の月が暗闇の空に輝くほどの綺麗な風景が見えるほど、時間が過ぎていた。

 

「‥‥‥ぅつ‥」

 

 アルトは漸く目を覚まし、閉じていた瞼を開けた。

 

「‥‥ここは?」

 

 アルトは自分がいる場所が違う事に気付き、呟いてしまう。

 

「シャプス氷山の山頂です」

 

 そんなアルトに彼の隣で正座をして看病していたマリエラが教えた。

 

「マリエラ‥」

 

 アルトはマリエラに気付くと、視線を向けた。

 その後方に湯煙の立ち上がった何かがあった。

 

「なn「アルトは見てはダメです!」ぐぇ!?」

 

 湯煙の正体を知るために見ようとした時、マリエラがアルトの顔を両手で挟むと、強制的に湯煙から顔が向いている方向を逆側へと向けさせた。

 いきなりすぎて、首がゴキッと音を鳴らしながら逆側、つまりアルトの背後側へと向けさせられた。

 流石に瀕死が免れない曲げ方をされて、ダメージを負うアルトだったが、すぐさま回復魔法で直していた。

 

「仲がよい奴らよ」

 

 そんな二人にレグルスは呆れるように呟いた。

 

「ワハハハ!!目が覚めたかアルト」

 

 首を押さえていたアルトが湯煙が出ていた方向からメレオレオナの声が聞こえた。

 同時にザバァンッ!!という水の中から上がった様な音がした。

 その音と湯煙からアルトは漸く、湯煙の正体に気付いた。

 

「まさか‥‥温泉の近くで寝てたのか?俺は‥‥」

 

 アルトは絶望したかのような表情を浮かべながらマリエラやレグルスに問う。

 

「そうだ」

 

 レグルスから肯定された事で、更に絶望的な表情が深まる。

 

「その絶望した様な表情は何ですか?」

 

 そんなアルトにマリエラは鋭い視線でジトーっと睨み付けながら訊いてきた。

 

「変態ですね」

「なぜそうなるんだ!?」/////

 

 訊かれた事に答えようとしたというのに、勝手に変態扱いされて大声で抗議するアルト。

 その際にマリエラの方向へと視線を向けてしまい、立ち上がっていたメレオレオナまでもが見えてしまっていた。

 彼女の姿は温泉に浸かっていた為、生まれたての姿となって湯から立ち上がっていた。

 

 それが視界に入ってしまったアルトは顔をトマトの様に赤くしてすぐさま視線を外した。

 

「やはり変態です」

「だから違う!!!」/////

 

 アルトの反応から察したマリエラが起源を悪くしながらジト眼で睨みながらアルトを変態と罵る。

 ハッキリいって、気絶していたアルトを看病する場所が悪すぎたのだ。

 

「何をやっている!目が覚めたのならば、さっさと温泉に入れ!!」

 

 しかし、そんな二人にメレオレオナが怒鳴り散らす。

 アルトとマリエラは条件反射で従い、二人とも生まれたての姿となり、互いにお互いを見ないようにしながら離れながら入浴していた。

 

「ふぅ‥‥‥‥」

 

 アルトは女性二人から遠く離れた位置にて入浴した事で湯煙もあって彼女たちを見ることなく、温泉を楽しんでいた。

 因みにレグルスは入浴を却下して入っていない。

 ネコ科だからなのだろうか?

 アルトはゆったりと、湯に浸かって疲れを取っていた。

 

 

 

 

 

 

 アルトが温泉を楽しんでる中、女性二人は‥‥‥

 

「プハァーッ!!ここでの酒も中々いけるな」

 

 メレオレオナは持参していた酒をお猪口に加えて飲んでいた。

 

「マリエラ。お前クローバー王国の者ではないな」

 

 メレオレオナは先程の手合わせの際に、マリエラの魔導書の表紙にあった象徴(シンボル)がダイヤモンドであった為、すぐさま彼女がクローバー王国民ではない者だと気付いた。

 にも関わらず、[紅蓮の獅子王]団のローブを羽織っている。

 その事が気になったメレオレオナは訪ね‥‥いや尋問した。

 

「はい。アルトに助けられ、[紅蓮の獅子王]に入団しています。私は元々、犯罪者でしたが、アルトのお陰でこうやって償いが出来ています」

 

 マリエラは本当に感謝するかのような豊かな表情で語っていた。

 その顔を見たメレオレオナはマリエラがアルトに対する気持ちに気付いた。

 

「貴様、アルトを好いているな?」

「はい‥?‥‥っ!?」/////

 

 メレオレオナの突然の言葉に無自覚に返事を返してしまった。

 しかし、すぐさま自分が何に対して返事を返したのか理解すると、彼女は顔を赤くしてしまう。

 

「な、なにを言って‥‥」/////

「構わん」

「え?」

 

 マリエラは羞恥の中でメレオレオナに抗議をしようとするが、彼女が自分の好意に関して肯定らしい発言をした為、呆けてしまう。

 

「一匹のオス獅子にメス獅子は集まるものだ。アイツは多くの女に好かれるだろう」

「‥‥‥メレオレオナさんは、アルトが好きなんですか?」

 

 マリエラはメレオレオナの発言からそう聞いてしまった。

 

「私と殺り合って死なん男ならばな。アイツの実力は団長レベルだ。混沌を使い熟せば、私でも勝てんな」

 

 メレオレオナは先程の手合わせて冷静に的確に実力を測っていた。

 そして、彼女の目算は正しい。

 混沌の力は未だに二割しか覚醒していない。

 

 その状態で既に団長レベルならば、完全覚醒は人智を越えているのはまず間違いない事だ。

 

 

 メレオレオナの発言にマリエラは居たたまれない思いだった。

 自分の恋のライバルの様な人物が増えたからだ。

 しかし、メレオレオナに基本的な一夫一妻でなく、一夫多妻を許容していた。

 

 しかも、それを伝えるのに、獅子を例えて許可するとは、彼女は人間ではなく獣人と言われた方が間違いがなかっただろう。

 

 女性達の間でそんな会話をしているなど知らないアルトはふにゃ~と溶け込むように入浴しきっていた。

 

 ────────────────────────

 

 メレオレオナとの手合わせを終えて、一夜の温泉に浸かったアルトはマリエラと共に[紅蓮の獅子王]団のアジトへと向かっていく。

 

「温泉なんて久しぶりだったから。随分と疲れが取れた気分だ」

「そうですね」

 

 アルトはゼノ・ジーヴァに乗り、マリエラはレグルスに乗って上空を飛行しながら会話をしていた。

 

「にしても、発光体とぶつかった際は流石に焦ったぞ」

 

 アルトはマリエラがレグルスと契約する際に起きた出来事について、焦っていた事を語った。

 

「レグルスから話しをしたいと言われたので、止めたのですが‥‥」

「すまぬな、混沌の少年。だが、お主にとっては関係のない話ではないからな。それを止めるために、マリエラと契約する必要があったのだ」

 

 マリエラは発光体との衝突から助けようとしていたアルトを止めた理由を告げ、レグルスは焦らせてしまった事に謝罪した。

 しかし、アルトは温泉に浸かり、シャプス氷山で寝泊まりした後のマリエラの様子が少しばかり違う事に気付き、質問した。

 

「温泉浸かってから様子がおかしいぞ、マリエラ」

「っ!?アルトの勘違いです」/////

 

 マリエラは温泉での一件を思い出して、頬を赤面させてそっぽを向きながら否定した。

 

「メレオレオナさんの裸を見た変態の勘違いです」/////

「だから見てないって言っただろ!?」

 

 昨夜の一件を言われて、アルトも声を荒げながら抗議する。

 その光景は夫婦喧嘩と変わりなかった。

 

(男と女とはよくわからん)

 

 幻獣族はその幻獣が死ぬと同種同名の同個体が新たに地球から生まれる様になっている為、レグルスはアルトとマリエラのイチャつきに、理解出来ていなかった。

 レグルスは背に乗せているマリエラとゼノ・ジーヴァに乗っているアルトの口喧嘩に呆れながらも飛行していた。

 

 

 そんな時だった。

 

『!!』

 

 突如、岩山の中から膨大な魔力を感じ取った。

 

「あの岩山からですね」

「あぁ」

 

 __混沌時間魔法"全智の未来"__

 

 "全智の未来"を行使して先の未来を視た。

 すると、そこにはアスタや負傷したシスター、シスターを見て泣き続ける子供達に、アスタ達を襲う[白夜の魔眼]の三人。

 その中にはヴァルトスとカルがいた。

 

「アスタが[白夜の魔眼]と戦っている!急ぐぞ」

「はい」

 

 アルトは方向転換して岩山へとゼノ・ジーヴァを突撃させた。

 マリエラも続くようにアルトの後を追いかける。

 

 ゼノ・ジーヴァが炎の熱線を口から放つと、岩山の一部が溶解する。

 岩山の一部が溶解して熔けきると、岩山の内部にあった洞窟内へと熱線が入る。

 その熱線に驚く[白夜の魔眼]とアスタ達。

 しかし、その驚愕の隙に、アスタの背後へと回った光魔法の使い手であり、[白夜の魔眼]のリーダーであるリヒトが左手に光魔法を凝縮してアスタを殺そうとしていた。

 

(死────)

 

 アスタは死を覚悟した時、彼と光魔法の間に入る様に突如現れた空間魔法から[黒の暴牛]団長ヤミ・スケヒロが登場し、魔法を光魔法を防いだ。

 

「マジか‥‥!?」

「や、ヤミ団長!?どうして此処に!?」

 

 アスタと、[黒の暴牛]のローブを羽織った左目を覆うような前髪をしている男性が突如現れたヤミ・スケヒロに驚愕していた。

 そして、彼をここまで送った空間魔法の魔導士___フィンラル・ルーラケイスもちゃっかりとヤミの斜め後ろにて立っていた。

 

「どうしてって、決まってんだろ」

 

 ヤミは咥えてた煙草を左手の人差し指と薬指で挟み、口から離して副流煙を吐き出すと、告げた。

 

「ただの迷子です。ちょっと道教えろや」

 

 右肩に乗せるように刀の刀身の峰を当てながら言った。




次回~[白夜の魔眼]VS[魔法騎士団]~



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[白夜の魔眼]vs[魔法騎士団]

二日連続で投稿してみました。

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 ヤミたちが現れた後に、溶かした場所から洞窟内へと入ってきたアルトはゼノ・ジーヴァを解除して大地に降り立ち、マリエラはレグルスと共に大地に着陸した。

 

 アルトとマリエラは日の光が当たる場所に照らされながらも、警戒していた。

 同時にアルトは怪我をした負傷者を"再生"させた。

 

「おいアスタ。俺とユノ以外に負けるつもりか?」

 

 アルトが負傷者を治療した後、アルトはアスタにそう言った。

 

「だぁれが負けるかぁぁああああああ!!! 勝つのは俺だぁああ!!」

「ほざけ‥‥」

「っていうか、なんでアルトとマリエラまで此処に‥‥!?」

「用事が終わったからアジトに帰ろうとした矢先に、魔力を感じてな。きたんだよ」

「えぇ‥‥‥」

「うるせぇぞ小僧ども!」

 

 そんなアスタとアルトの会話にヤミが一括した。

 

「彼が混沌の魔導士、それに獅子の幻獣族の契約者か」

(アイツは‥夢に出てきたテティアと呼ばれた女性の夫‥)

 

 アルト達がそんな会話をしていると、[白夜の魔眼]の当主が話し出した。

 アルトはリヒトを見るや少し驚いた。

 王都襲撃の際に夢見た何者かの記憶に出てきた人物と似た容姿だったからだ。

 しかも、その当主が開いている魔導書の表紙にはユノと同じ四つ葉のマークがあった。

 

「ユノと同じ四つ葉か‥‥マリエラ。行くぞ」

「そうですね。っと言いたいところですが、負傷者と子供たちがこんなにいては戦況的にこちらが不利です」

「随分と戦況が見えてんな。黒ふわマントちゃん」

(黒ふわマントちゃん?)

 

 ヤミがマリエラに奇妙な渾名を付けられてしまった。

 マリエラの着用している黒い毛皮のマントを羽織っている為、その様に言われてしまうのは無理もないが、名前を知っているだろう人物がその渾名はないと思うのだが‥‥

 まぁ、ヤミの渾名のネーミングセンスがないという事なのだろう。

 

「フィンラルさん、マリエラと共に子供達の避難を!」

「わ、わかった」

 

 フィンラルは[白夜の魔眼]当主から溢れ出る魔力に怯えていた。

 フィンラルが治療された後のシスター・テレジアを抱え込み、マリエラは子供達を誘導した。

 

 そんなフィンラルとマリエラに当主の光魔法の光剣が襲う。

 二人への攻撃にアルトとヤミがそれぞれ破壊した。

 

「テメェ。オレのアッシーくんに何してくれてんだ?」

「(アッシーくんって‥)そ、それじゃあヤミさん! 後はお願いします」

「テメェ、ちゃんと戻って来いよ!?」

 

 ヤミは颯爽と負傷者と子供たちを連れて逃げていったフィンラルにそう告げた。

 

 この場に残された魔法騎士団員はヤミとアスタ、そしてアルトだけだった。

 そして敵側は当主__リヒト__とヴァルトス、そしてカルだった。

 

「[黒の暴牛]‥‥<三魔眼(サード・アイ)>を呼びますか?」

「いや、闇魔法の彼とは一度戦ってみたいと思っていたんだ」

「では混沌魔法の少年は僕が相手をするよ~さっきから彼が僕を眼殺しそうな程睨んできてるしね~」

 

 ヴァルトスは援軍を呼ぶ事を打診するが、リヒトはそれを拒否。

 リヒトがヤミと戦うというのでカルが王都襲撃の際に毒魔法を受けたアルトはカルを標的にしていた。

 

「カッケぇぇえええ!! なんで止められるんんですか? その剣なんですか?」

「今聞く事か?」

「うるせぇ小僧。────」

 

 ヤミがアスタに自身の故郷の武器と止めた方法を語ろうとするが、リヒトが光魔法を発動している事に気付き、戦いを見ている様に告げた。

 

「混沌魔法の少年君~君は僕が相手してあげるよ」

「そうか」

 

 カルがアルトの相手をすることを告げると、アルトが刹那の間に"神速の歩み"でカルに近づき、同時に洞窟外へと"螺旋丸"で飛ばした。

 

「親玉の相手はお願いします、ヤミ団長」

「おう、任せな」

 

 アルトは洞窟外へと飛ばしたカルを追って外へと出て行った。

 

 ────────────────────────

 

 "螺旋丸"で吹き飛ばされたカルは体勢を立て直すと、魔法で空中に浮いていた。

 

「痛いな~突然攻撃するなんて酷いじゃないか~」

 

 カルは攻撃を当てられた鼻の部分を抑えながら文句を言う。

 すると、アルトが目の前に現れた。

 

「なにか問題があるか?」

「まったく‥‥痛いのは嫌いなんだよ~」

「知らん」

 

 __混沌雷魔法"雷光滅剣(パララーク・インケラード・サイカ)"__

 

 青白い雷で出来た竜の手の様な柄をした巨大な剣が現れると、轟音が鳴り響き、雷光が迸りながらカルを襲う

 

 __毒創成魔法"致死量の番人"__

 

 巨大な紫色の毒魔法の番人が"雷光滅剣"を受け止めた。

 

「忘れたのか~い? 僕の魔法に干渉すると‥‥「致死量を操られて死ぬか?」っ!?」

 

 カルが王都騒乱の際と同じ誤ちをしている事を指摘するが、アルトが一切毒に犯された様子など無くその場にいた事に驚愕の余り目を開いた。

 

「お前の魔法はもう通じねぇよ」

「そうかな?」

 

 __毒魔法"毒の天使"__

 

 カルは頭に毒のリングを作りだし、背中に毒々しい翼を生やした。

 

 __毒創成魔法"暗殺の神門(へヴンズ)兵団"__

 

 毒魔法で出来た大きな門から、毒魔法で出来た無数の一対二翼を生やし、複数の武器を持った天使の兵団を創成した。

 

 __混沌世界樹魔法"霊槍シャスティフォル・第四形態<増殖(インクリース)>"__

 

 太陽の様な円状の穴が空いている一本の槍が現れると、槍が右回転しながら光り出し、形状を無数のクナイの様に変化し、兵団へと突撃していく。

 

「もう一つ追加だ」

 

 __混沌世界樹魔法"霊槍バスキアス・第九形態<死荊(デスソーン)>"__

 

 三日月状の穴が空いた一本の槍が増えると、同じく回転しながら形状を変化させて、赤黒い荊に変わった。

 その荊も同じく兵団へと襲っていく。

 

 クナイで突き刺された兵団は身体を欠如していき、荊に突かれた兵団は突かれた状態で動かなくなった。

 

「やるね~君」

「‥‥‥そろそろ正体を明かしたどうなんだ?」

 

 アルトがそう言うとカルの目尻が少しばかり動いた。

 

「なんの事だい?」

「惚けても無駄だ。お前の魔法に蝕まれたあの時から、お前からは人間とは違う何かを感じていた。特にさっきの毒魔法の番人からはその要素が大きく出ていた。もう一度言うぞ、正体を明かせ」

 

 アルトはなにか真相に気付いた探偵のごとく言葉を並べながら説明していき、告げると、最後には殺気の籠もった目で睨み付けた。

 

「‥‥‥ふふふ、フハハハハハハハ!!!!」

 

 突然カルが笑いだした。

 アルトは警戒を解くことなく彼を相手に臨戦態勢を整えていた。

 

「よくぞ見破った」

 

 先程までのカルの喋り方ではない事から目の前のカルは本性‥‥いや、別の存在だった。

 

「初めましてだな混沌の魔導士。嘗ての混沌の魔導士の死から1万年も経ったか」

 

 カル?が毒魔法で顕現した輪と翼が毒々しさが無くなり、神々しい翼を生やしていた。

 

「何者だ?」

「私はハゲルド。天府に住まう神々の一柱」

 

 ハゲルドと名乗った神がカルの意識を奪って顕現してきた。

 

「神が人間に憑依か」

「貴様も同じであろう。混沌は神の光と悪魔の闇を宿している。貴様に我を非難する資格無し」

 

 __使者魔法"神火の使者"__

 

「疾く消えろ。混沌の魔導士」

 

 全身を炎へと変えたハゲルドはそのままアルトへと襲っていく。

 

 __混沌火魔法"白閃煉獄竜翔(アシュトル・インケラード)"__

 

 八芒星で出来た魔法陣から白色の東洋竜が現れた。

 現れた竜がハゲルドを襲う。

 

 ハゲルドが"白閃煉獄竜翔"に向けて殴りつけると、簡単に神の火によって消されてしまった。

 

(神の火を名乗るだけはあるか‥‥)

「通じぬわ」

 

 ハゲルドが魔法を焼失させると、すぐさまアルトを同じ様に燃やし尽くそうと捉えに掛る。

 しかし、昨日習得したマナゾーンを使い"神速の歩み"を匠に使い熟してハゲルドを翻弄する。

 

「小癪な」

「これはどうだ?」

 

 __マナゾーン・混沌空気魔法"絶滅の呼吸"__

 

 軽くマナゾーンで洞窟から空いた孔までを半径とした球体内で"絶滅の呼吸"を行使した。

 アルトは"絶滅の呼吸"によってマナゾーン内の空気を全て吸い取った。

 

 すると、神の火の使者となったハゲルドの神の火が消え去った。

 

 同時にハゲルドは呼吸が出来なくなっている事に気付き、眼から血が溢れ出していた。

 しかし、すぐさま違う魔法を行使した。

 

 __使者魔法"無明"__

 

 ハゲルドの新たな魔法が発動した。

 すると、空気のなかったマナゾーン内に空気が溢れていた。

 

「小賢しい」

 

 __毒×使者創成魔法"ヨルムンガンド"__

 

 毒によって出来た巨大な竜がアルトの目の前に現れた。

 竜がアルトを喰らおうと口を開けて喰らいに行く。

 

 アルトは新たな魔法を使い攻撃を防いだ。

 

 __混沌調合魔法"完絶結界力域(エリア・アルベミューム)"__

 

 六角形の緑色に輝く光の球体がアルトを囲む。

 "ヨルムンガンド"が必至になって喰らおうとするが、"完絶結界力域"によって完全防御されていた。

 

(同じ属性でも神の力で上回り、空気を無くしても、空気を創りだし‥‥いや、空気のある場所から取りだしたのか)

 

 そして攻撃を防ぎながら新たな魔法を"ヨルムンガンド"とハゲルドに向かって用意した。

 

(となると、空間と時間の魔法を行使するしかないな。それに一番合う形は‥‥鍵だな)

 

 __混沌時間魔法"黄金の鍵"+混沌空間魔法"銀の鍵"__

 

 片手サイズの大きさをした黄金の鍵と銀の鍵。

 右手に黄金の鍵を、左手に銀の鍵を持った。

 

 アルトは両手に持っている鍵をそれぞれ錠前を開く様に鍵を回した。

 すると、ヨルムンガンドの巨大な体型を一瞬にして小石サイズへと変化させ、同じく一瞬にしてヨルムンガンドが消え去った、

 

「なんだそれは?」

 

 __使者創成魔法"使者の兵団"__

 

 ハゲルドはアルトに問いながらも、1000人の兵団を創りだした

 その使者の兵団一体一体が別々の属性を持っており、無数の属性が集まった兵団のようだ。

 

「自分で考えろ」

 

 アルトはそう言うと、二つの鍵を重ねるようにして鍵を回した。

 すると二つの鍵の部分から二つの波紋が引き起こされ、新たな時間魔法と空間魔法を発動させた。

 

 __マナゾーン・混沌空間魔法"インフィニットゼロドライヴ"×混沌時間魔法"オーバークロノアクセル"__

 

 

 二つの魔法を掛けた後、アルトは二つの鍵を手放した。

 二つの鍵は魔法が起きると黄金と白銀の結界となって洞窟のある岩山を含み、アルト達がいる場所を簡単に覆うような結界を掛けただのだ。

 

 襲い来る兵団は一瞬にしてハゲルドの側へと1000人の兵団が転移された。

 アルトは集まった兵団に向けて別の魔法を行使する。

 

 __マナゾーン・混沌光魔法"イクスティクション・レイ"・五光__

 

 波動に似た光魔法が五方向から一撃ずつ放たれると、刹那の間にハゲルド達の元へと到達し、直撃した。

 

「時間と空間の支配か」

 

 閃光が消えると兵団は全滅していたが、ハゲルドは衣服だけが破れているだけだった。

 

 __使者魔法"恩寵を賜りし者"__

 

「恩寵を持つ者は未来永劫消えはせぬ。さぁ死ぬがよい」

 

 簡単に言えば、ハゲルドは不滅の存在になったという事だ。

 

 __使者呪詛魔法"神は是である"__

 

 ハゲルドの体から無数の光の粒子が溢れ出してきた。

 すの粒子はアルトの"インフィニットゼロドライヴ"と"オーバークロノアクセル"を侵食していく。

 

「っ!?(魔法を侵食している)」

 

 アルトは魔法が侵食されている事に気付くや攻撃を再開した。

 

 __マナゾーン・混沌魔法"月牙天衝"・連撃__

 

 

 エクスカリバーを抜剣し、巨大な斬撃を何度もハゲルドに放った。

 

「通じぬ」

 

 ハゲルドは毒魔法や使者魔法で出来た剣を両手に持って、アルトへと向かって行く。

 "恩寵を賜りし者"によって傷の付かない存在へとなった事で"月牙天衝"を受け続けても一切効果が無くアルトは"神速の歩み"を使っても"神は是である"の魔法効果である事象の侵食によって少しずつ追い詰められていき、アルトは幾つもの魔法で対抗するが、体中に瀕死と言っていい程の傷を受ける。

 

 そして、体中から血を流し、息を荒げながらもハゲルドを睨み付けるアルト。

 そんなアルトに近づくハゲルドは両手に持つ剣をX字に構えると鋏の要領で切り落そうとしていた。

 

「死ね」

 

 一瞬で近づいたハゲルドはアルトの首を切り落そうとした。

 しかし、アルトの魔力から、神や幻獣、精霊とは別の魔力が新たに溢れ出した。

 

 漆黒の魔力の粒子が剣に触れると、一瞬の内に腐るかのように滅んだ。

 

「ッ‥‥!!!?」

 

 ハゲルドは驚愕して距離を置いた。

 ハゲルドが距離を置くも、アルトの右腕に"森羅の改変者"を掛けた事で白く発光した。

 アルトが右手で何かを掴むような動作をすると、ハゲルドの首が何かに捕まえられた。

 

「莫迦な‥‥"神は是である"が消滅している‥だと‥‥」

 

 ハゲルドがそう呟いていたが、アルトは傷ついた体を"再生"で癒やした。

 ハゲルドの言うとおり、アルトの漆黒の魔力粒子がハゲルドの魔法を滅ぼし尽くしていた。

 

 そして、睨んでいたアルトの瞳が滅紫(けしむらさき)色の瞳に十字の紋様が現れた。

 

 __混沌消滅魔法"混滅の魔眼"__

 

「ありえぬ‥混沌に帰す滅びの魔眼‥だと‥‥混沌を宿していても‥所詮は人間‥‥神に敵うはずが‥」

 

 ハゲルドは初めて恐怖を覚えた。

 神は絶対なる者と信じ切っていたハゲルドが例え神々を作りだした混沌であろうと、使い手が人間ならば簡単に勝てると思っていた。

 その通り、先程まで優勢であった。

 

 にも関わらず、今の状況はどうだ。

 ハゲルドにあるのは自分を蚊とんぼの如く握り潰そうとする巨大な王の幻覚が見えていた。

 恐怖の余りに見えてしまった幻影は正しいのかも知れない。

 

「‥‥‥俺の勝ちだ。ハゲルド」

 

 __混沌消滅魔法"五龍の転滅"__

 

 五匹の滅紫色の龍がハゲルドを襲った。

 

「ッ────────!!!!」

 

 五匹の龍は声にならぬ悲鳴を上げるハゲルドを咥えながら天へと向かって行き、アルトから十分な距離を取ると、その龍は渦巻いていき、収束していくと、一瞬にして花火のように消滅していった。

 

「‥‥うっ!?」

 

 昨日に続いて、消滅魔法を使った後、体に痛みが襲った。

 しかし、すぐさま痛みが途絶えた。

 

「‥‥ふぅ。戻るか」

 

 落ち着いたアルトは溢れていた漆黒の魔力粒子を解除した。

 瞳に映っていた"混滅の魔眼"も解除していた。

 

 アルトはアスタ達がいる洞窟内へと戻っていった。

 

 




次回~ザウスの異変~


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<三魔眼>

今月、三回目の次話投稿です

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 カルとハゲルドを殺害したアルトがヤミ達がいる洞窟内へと降り立ったとうとした時だった。

 目の前から光魔法の巨大な光線に襲われた。

 アルトあ光よりも早く空間を歪めて消滅させた。

 

 光魔法が途絶えた為、洞窟内へと降り立つと、そこには倒れたリヒトと、岩を背もたれにして気絶したヴァルトスがおり、リヒトの前には[黒の暴牛]が集まっていた。

 

「こっちも片は付きました」

「おー。戻ってきたか。こっちも終わった所だ」

 

 アルトの報告にヤミが受け答えをしている最中、倒れているリヒトが無理に顔を上げてゴーシュに視線を向けた。

 

「君を‥傷つけるわけには‥いかなかった」

「あ?なに言ってやがる」

「あれ?知り合いだったの、ボコっちゃってゴメンな」

「そんなわけないでしょう。知りませんよこんな奴」

 

 リヒトの言葉からまるでゴーシュを知っている様な発言にヤミはゴーシュに謝罪するが、当の本人はリヒトを知らない様だった。

 

「‥いずれ‥‥わかるよ」

 

 リヒトがそう言うと、無理してあげていた頭を地に乗せて動かなくなった。

 

「?」

「なんかよくわかんねぇけど‥‥これであの熱血真面目大王も浮かばれんだろ。安らかに眠れ」

「勝手にうちの団長を殺さないでくれませんか?」

「うるせぇ!細けぇことを一々気にすんじゃねぇ!」

「細かいっ!?」

 

 アルトの抗議にヤミが怒り気味で告げる。

 その内容にアスタが驚愕する。

 

「さて‥‥追い詰めたとはいえ、拘束しねぇとな」

「では俺も‥‥っ!?」

 

 ヤミが拘束魔法を使って拘束しようとしていたので、アルトも拘束魔法を行使しようとしたが、その前に突如別の場所から新たな魔力を感じ取り、そちらへと視線を向けた。

 同じくヤミ達も感じ取っていたので視線を向けると、そこには見覚えのある空間魔法から三人の男女が現れた。

 アルトがヴァルトスを見ると、

 

「いくら面倒くさがりなウチでも、マブ達は助けないとな」

 

 そう言った主な黒髪の中に数カ所白髪が交じった中年の男性が欠伸をした後、ヤミの前に突如として現れた。

 

「へ~変わった柄だな」

「っ!?」

(チッ! コイツも光速移動を‥‥)

 

 __混沌火魔法"灼熱の鉤爪"__

 

 左手の人差し指と中指に灼熱の火が現れ、獣の鉤爪の如く新手の黒髪中年に攻撃する。

 

「おっと‥‥」

 

 しかし、後方に飛び退かれて事で回避されるが、ヤミが攻撃する事に気付き"神速の歩み"で、ヤミの5m右側に移動した。

 ヤミも氣の感知でアルトがやろうとしている事に気付いていた為、抜刀しながら"闇纏い・無明斬り"を黒髪中年に放つ。

 

 闇の斬撃を黒髪中年は左後方へと回避するが、間合いを間違えて、右腕に軽傷ながらも攻撃を受けてしまう。

 

「痛って!クソ面倒いなもう‥‥まぁこのくらいすぐに治せるから良っか」

 

 黒髪中年がそう言うと、怪我した右腕に光魔法による回復魔法が起きていた。

 

「あの魔法は‥‥っ!?」

 

 アスタはその回復魔法を見た事があるようだ。

 そして、黒髪中年と共にやってきた毛深マッチョな大男と、赤みが掛ったピンク色の少女が、それぞれリヒトを守る様に達、リヒトの容態を見るようにしゃがんでいた。

 

「来てくれたんだね。すまな。私一人では及ばなかった」

「リヒト、痛い?」

「ファナ。君が来てくれたから」

「もう大丈夫」

 

 __炎回復魔法"不死鳥(フェニックス)の羽衣"__

 

 リヒトを覆うようにファナの炎で出来た羽衣が、傷ついたリヒトを癒やし始めた。

「君たちが来たなら安心だ」

「あ? 随分と嘗められたものだな」

「紹介しよう。彼等は[白夜の魔眼]でも最強の存在。

「最強だって‥‥!?」

「そう。こと戦闘に置いては私よりも上の存在<三魔眼(サード・アイ)>」

 

 リヒトのその言葉にフィンラルは冗談だと思った。

 

「この人より強いだなんて、流石にハッタリでしょう」

「ハッタリなんて面倒なことしねぇよ」

「君たちのクローバー王国は、その名の通り、クローバーを象徴しているね。彼等にはクローバーの三つの対となる名を付けて貰った」

 

 リヒトが回復されながらも<三魔眼>を紹介した。

 

「誠実の対と成る《不実》のライア」

 

 先程ヤミの魔導書に触れた黒髪の中年男__《不実》のライア__

 

「希望と対と成る《絶望》のヴェット」

 

 リヒトを守る様に立っていた毛深マッチョの大男__《絶望》のヴェット__

 

「愛と対と成る《憎悪》のファナ」

 

 そして、リヒトを回復させている女__《憎悪》のファナ__

 

 状況的に団長クラスが四人に増えた事にアルトは焦りを感じていたが、焦り以上に困惑に襲われていた。

 

(ファナにライアに、ヴェットだと‥‥!?)

 

 リヒトに続いて、ファナ・ライア・ヴェットの名前が出た事にだ。

 アルトは三人をようく観察すると夢で見た人物たちと似ていた。

 

(間違いない‥‥夢で見たあの‥)

 

 観察した結果、夢で見た者達と少なからず似ていた。

 

「‥お前らに質問する。エヴァンスマナって言葉に聞き覚えはないか?」

『ッ!!!』

 

 故にアルトは彼等に質問をした。

 彼の質問してきた内容を聞いて[白夜の魔眼]たちは目を見開き、驚愕した。

 アルトは四人が驚愕した事を見逃さなかった。

 

「‥‥知ってるようだな」

「何故‥君がそれを‥」

 

 リヒトは困惑し、エヴァンスマナの事を問うように呟いた。

 アスタに対して取った言動とは真逆の反応だった。

 

「ここ最近、奇妙な夢ばかりを見てな。テティアって女を姉上って呼んでいる奴の記憶の様な夢をな」

『!』

 

 アルトがそう言うと又もやリヒト達は驚いていた。

 しかし、聞いているアスタ達はまるで分って居らず、頭が可笑しいのではと言わんばかりな疑いの目だった。

 

「そうか‥‥君は彼の‥‥」

「どうするリヒト君?」

「彼奴だけは我らと同じく絶望を受けた者だ」

「‥‥彼を陥れた人間‥憎い‥許さない」

 

 リヒトと<三魔眼>はそれぞれそう言った。

 どうやらアルトの夢に関わる人物の記憶は彼等にとってとても関係が深いようだ。

 

「そうだね。手荒だが、連れて行くとしよう」

「それじゃあ、ファナのためにも連れて行きますか」

「他の面は果てしなき絶望を与えてやる」

「‥あなた達に‥二度と彼を陥れさせない‥!」

 

 リヒトと<三魔眼>はそれぞれそう言うや重傷であるリヒトを除いて好戦的な雰囲気を出し始めた。

 

「なんだかよくわかんねぇが‥‥<三魔眼>ね。大層な名前を付けたようだが、名前だけじゃ強いかどうかわからねぇな」

「それじゃ証明しようか、面倒だけど」

 

 そう言ったライアは闇魔法で出来た刀を作り出した。

 

「あれは‥‥‥」

「ヤミ団長と同じ‥」

 

 アスタ達がライアの使った魔法を見て驚愕・困惑しているのを無視して、光速移動で近づいたライアは左手に刀の峰を乗せるような構えを取ると魔法を使った。

 

 __模倣魔法"闇纏い・無明斬り"__

 

 ライアはリヒト戦でヤミが使った闇魔法の一つを行使し、横一文字に斬撃を放った。

 

「《不実》のライアとか言ったな。テメェ人の魔法を勝手に使うんじゃねぇ! 著作権の侵害で訴えるぞ!」

 

 ヤミはそう言うと縦に同じ魔法の斬撃を行使した。

 二つの魔法が衝突し合うと互いに消滅した。

 

「ヤミさん!」

 

 フィンラルがヤミを心配な声で言う中、アルトは"無限の倍加"によって強化し続ける身体能力で、やって来たヴェット相手に攻撃した。

 

「ほぅ。我の動きに反応したか。だが、その程度で希望を持つな!」

 

 __獣魔法"ベア・クロウ"__

 

 クマの爪の名を冠した魔法名の通りの攻撃力を持ったヴェットの獣魔法にアルトは攻撃を紙一重しながら"無限の倍加"で殴りつけるが、同じ様にヴェットもアルトの攻撃を簡単に躱し、距離を取るとすぐさまアルトに襲い掛かる。

 

「気絶していろ!!」

 

 ヴェットが襲い来る中、横からヤミが切りかかるも、ヴェットはヤミを見ることなく回避した。

 

(コイツ、オレの氣を読みやがった)

 

 ヤミが驚く中、ヴェットは獣が獲物を見つけたような笑みを浮かべると、ヤミへと襲う。

 

 __混沌時間魔法"時間の加速化(クロックアップ)"__

 

 アルトはヴェットが鈍くヤミへと襲うような時間軸へと己の時間を加速させてうヴェットに近づいた。

 

 __混沌風魔法"螺旋連丸"__

 

 両の掌に"螺旋丸"を作り出すと、ヴェットの身体にぶつけた。

 二つの乱回転の風魔法の球体に攻撃された瞬間、時間軸が元に戻り、ヴェットは距離を置かされ、同時にダメージを負った。

 

「やるではないか。だが、真の絶望はまだこれからだ」

 

 ヴェットがそう言いながら獰猛とした目つきで睨み付けてきた。

 

 アルトとヤミが警戒する中、二人とも魔力と氣の感知で次の攻撃にすぐさま気づき、アスタ達の近くへと移動すると、アルトが水魔法を発動した。

 

 __混沌水魔法"水神の召海(ヴァイネル・ガネッサ)"__

 

 極大の海の津波を洞窟内で発生させたアルトは大津波を起こさせて、迫り来る巨大な炎球を防いだ。

 その際に、あまりの火力に水蒸気が発生。

 煙が起きてしまうが、すぐさまアルトが魔力を放出する事で水蒸気を一掃する。

 

 すると、先程炎球を放たれた場所にはファナが立っており、ファナの右肩に小さな翼を生やした赤色のトカゲがいた。

 

 __炎精霊魔法"サラマンダーの吐息"__

 

「憎い。許さない、殺してやる」

 

 ファナが憎悪の籠もった目で睨んできた。

 

「サラマンダー‥‥精霊魔法か」

「よりにもよって攻撃力の高い火の精霊‥」

「《憎悪》のファナとか言ったか? ヒステリックな女はモテねぇぞ。(チッ! まだ未発達みてぇだが、四大属性の火の精霊ってまじか)」

 

 リヒトが自分よりも強いと口語しただけあって、三人が厄介な相手である事は間違いなかった。

 

(こうなったら、消滅魔法で奴らを‥‥)

 

 アルトが先程ハゲルドを倒した消滅魔法を行使しようとした直後だった。

 

 ドクンッ!! 

 

 ハゲルドとの戦いの後以上に、心臓が高鳴り、体中に痛みが走り、気分が悪化し始めた。

 

「グッ‥‥!(またか)」

「さてと、じゃあ」

「覚悟するんだな」

「リヒトの受けた痛み、何倍にもして返してあげる」

 

 そういうや否や、三人が攻撃を始めた。

 

 迫り来る三人の攻撃にヤミとアルトが対処するが、アルトは唯でさえ不調な状態の中で、ヴェットの獣の如き猛攻とライアの模倣魔法による闇魔法の斬撃、ファナの精霊魔法とヤミと分担して戦ってもきりが無く、身体に切り傷を増やしていった。

 

「ヤミ団長、アルト!オレも‥‥」

「坊主。まさかオレを心配してんのか? 十‥‥いや百年早ぇな。そこで見てろ。オレが今ここで、限界を超えるのを‥‥」

「‥‥無駄だよ。彼等は魔法騎士団長より強い」

 

 三人のトドメと言わんばかりの同時攻撃にヤミとアルトが絶対的窮地に追い込まれる中、二人と三つの攻撃の間に発光体が出現した。

 

「面白そーな戦いやってんじゃねーか、ヤミぃぃちょっと混ぜろや‥‥!!」

 

 現れたのは三人の団長。

 左から[蒼の野薔薇]団長シャーロット・ローズレイ。[銀翼の大鷲]団長ノゼル・シルヴァ。そして[翠緑の蟷螂]団長ジャック・ザ・リッパーだった。

 

「テメェら、魔法騎士団長より強いんだって、そりゃあいい。試してやるぜ!」

 

 ジャックが舌なめずりしながらそう言った。

 

「‥あ~~~~あ‥もう少しでオレの何かが覚醒しそうだったのに‥‥何してくれんのこの腐れ縁団長共」

 

 ヤミは尻餅をつきながらもジャック達に苦渋を告げていた。

 因みにアルトは気を失って倒れていた。

 

「その様でよくそのような言葉が口から出るな‥‥貴様はいつか私が処刑してやるから首を洗って待っていろ異国人」

「何だテメー、変な前髪しやがって」

 

 ノゼルはそんなヤミにきつい言葉を告げるが、ヤミは喧嘩口調で啀み合う。

 

「まったく男のくせに情けない」

「愛からわずオレに厳しいな、お前は」

 

 辛辣な事を言うシャーロットにヤミがそう言った。

 

「魔法騎士団、団長が三人か」

「ハン! 何人‥いや、何匹現れようが我々の敵ではない」

「リヒトを傷つける奴は殺す。絶対に」

 

 現れた団長三人を見ながら、<三魔眼>はそう言った。

 

「さてと、殺ろうじゃねぇか。八つ裂きにしてやるぜ」

「[白夜の魔眼]とやら」

「貴様等には聞きたいことが山ほどある」

 

 団長三人と<三魔眼>が睨み合い、彼等の間に緊張感が襲った。

 




次回~ザウスの異変~


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ザウスの異変

「ヤミ、ズリィぞ。一人だけ楽しいのを相手にしやがって~どうだアイツら、裂き応えがあんのかァァ?」

「いやいや全然無いね。ホント紙っぺらレベル」

「カカカ! ムリあんだろォ! つーかこのスキにオマエ裂いちまうかァ? 今までの怨みを込めてよォ~~」

「あ~出たわ、コイツバカだわ」

 

 ヤミがそう言うとジャックは右腕の鎌をヤミの首筋に突き出した。

 

「すみません、勘弁して下さい」

 

 ヤミは棒読みながらも謝罪した。

 

「カカカ! バ~~~~カするわけねーだろが。やるんならテメーが万全の時にやるっつーんだよ。じゃねぇと裂き甲斐が無ぇ‥‥‥!!」

 

 ジャックはそう言ってヤミに突きつけた鎌を離れさせた。

 

「いつまで尻餅をついている‥‥男のくせに情けのないヤツだな」

 

 ジャックとヤミの会話が終えると、今度はシャーロットがヤミに辛辣ながらも話しかけた。

 

「バカタレ。大地がオレを愛しすぎてケツをはなさねーんだよ」

「馬鹿は貴様だ。大地が貴様の様な無法者を愛するわけがないだろう」

「おーキツイキツイ。オマエそんなんだと何時まで経っても嫁にいけねーよ?」

 

 ヤミがそう告げると、シャーロットが彼の首に荊を巻き付けた。

 

「いらん。戦場が我が伴侶だ」

「戦場が我が伴侶って‥‥哀しいヤツだな」

 

 ヤミはシャーロットの発言に一般的な女性の思考から離れている事に率直な想いを口遊んだ。

 でも、シャーロットの本当の想いは‥‥‥

 

「(ううう~~~どうしてまたこんな悪態を‥‥!! というよりもどうしても私は、あのような者は好きになってしまったのだ~~~~だが、どうしようもなくヤツのことを想ってしまっている‥‥!! 今さら好きだなどと言えん)」

 

 どうやらシャーロットはヤミに異性として好意を抱いていた。

 しかも彼女は、素直になれない気質。つまりツンデレと呼ばれるタイプの女性だった。

 

 そんな彼女の好意など先程の態度や言動を考えるとヤミは気付いていなかった。

 氣を感じ取れば分かる事ではあるのだが、それに関してはヤミが異性としての好意に気付かぬ朴念仁である為、どっちもどっちな二人であった。

 

「我が国を襲った逆賊のトップが雁首揃えているとは‥‥またとない好機‥」

 

 無論、シャーロットの好意は他の者にすら気付かれて居らず、テロリスト[白夜の魔眼]のトップと三幹部に敵意を向けているノゼルが最後にヤミに話しかけた。

 

「この手で葬ってくれよう。貴様は早く消えるがいい異邦人」

「いやーお気遣いありがどうございます。プライドの塊さん」

 

 ヤミの言うとおりプライドの塊な発言だが、負傷しているヤミを思っての優しさから来る発言にも聞こえるものだった。

 しかし、その意味であっているのか、間違っているのか定かではないが、ヤミはノゼルの前髪について自身の団員達と話し始めた。

 

 [黒の暴牛]団の会話を聞いたノゼルは左頬に怒りマークが浮き出ており、ヤミを睨み付けていた。

 

「まずは貴様から葬ってくれようか‥‥!?」

「異邦人に魔力の無駄遣いはやめよう」

 

 冗談だとヤミは告げる。

 

 三人の団長が参戦した事にアスタは先程以上に元気よく大声で告げる。

 

「うぉぉぉおおおお!!! なんだか燃えてきた!! オレも一緒に戦いまぁす!!」

「引っ込んでいろ下郎。我々団長が出張った戦場‥‥生半可な戦力では足手纏いだ。特に貴様の様な魔力のない下民花‥‥‥!!」

「‥‥‥」

 

 アスタはその言葉に何か言いたげだったが、沈黙に留まった。

 彼のその沈黙は、先程の一件で自身が何も出来なかった事に悔しんでいた。

 

 そして‥‥‥

 

「新手か‥‥良いだろう!! 果てしなき闘争の果てにこそ、神の絶望がある!! いくぞ!! 二人とも!!」

「‥‥‥‥」

「なんかヴェットくんノリノリなんだけど‥‥メンドーだな~~~~~~」

 

 ヴェットはやる気満々に言葉を発し、ファナは答える事はなかったが、ノゼル達と殺し合う気持ちはあった。

 そしてライアは欠伸をしながらもめんどくさがった。

 しかし、すぐさま目つきをかえて他の二人や三人の団長よりも早く先陣を切った。

 

「────ウチはあのキレーなお姉さんとやるわ!! ウチが勝ったら一緒に飲みに行ってもらうよ~~~~~」

「ならば貴様と盃を交わすことは無いな‥‥!」

 

 シャーロットはライアの口説きを拒絶しながら荊魔法を発動した。

 

 __荊創成魔法"軀狩りの荊棘樹"__

 

 __模倣魔法"闇纏い・無明斬り"__

 

 ライアは模倣魔法に応戦した。

 

 そしてヴェットに向かって一つの斬撃が襲った。

 

 __裂断魔法"デスサイズ"__

 

「テメェはオレだ────デカブツぅ!!」

「ほぅ‥‥カマキリの団とは‥虫ケラが、この我とやろうと‥‥!?」

「カカカ! 虫ケラ舐めんじゃねぇ!!」

 

 そう言ってジャックはヴェットと戦い始めた。

 彼等の魔法や団名と名の通り、カマキリと獣の戦いが起きたのだ。

 

 そして残ったノゼルはというと、彼のライバルであるフエゴレオンの右腕を切り落し、命の危機にまで追い込んだリヒトを倒す為に水銀魔法を行使した。

 

「私が用があるのは‥‥貴様だ」

 

 __水銀魔法"銀の槍"__

 

 水銀によって形成された一本の槍が回復中のリヒトへと襲う。

 しかし、その水銀が炎で溶けた。

 

「アナタも‥リヒトを傷つけるのね‥‥憎い‥‥! 死んで‥‥!!」

「カカカ! 水銀が炎で溶かされてんじゃねーか! 代わってやろうか銀ピカァ!」

 

 それを戦いの最中視認したジャックはノゼルに提案する。

 

「‥‥ぬかせ、この程度の炎でやられるものか──────‥‥私が誰と‥競ってきたと思っている‥‥!!」

 

 そう言って、ノゼルとファナの戦いも起きた。

 

 一分もしないうちに天変地異と言って過言ではない土煙と爆風の最中、突如。

 この場にいる全員が冷や汗を流す事になった。

 

 ズッ!!!! 

 

 この場にいる全員がまるで地球から睨まれたかのような威圧感の様な魔力を感じた。

 魔力感知のできないアスタは先程までヴァルトスを相手にする際に、ヤミ直伝の氣の感知を覚えたばかりとは言え、感じ取った威圧感なる氣に他と同じく冷や汗を感じ取っていた。

 

<三魔眼>と三人の団長は戦闘を止め、魔力回復と見学をしていた[黒の暴牛]の四人は魔力と氣を出している人物へと視線をやった。

 

「‥ザ、アルト‥?」

 

 そこにはゆらりっと立ち上がったアルトがいた。

 顔が俯いていて表情がわからなかったが、立ち上がるやいなや、先程から感じる魔力が膨大していき、氣までもが人間なる氣とは異質なものへと変わっていた。

 

「(なんだこりゃ‥‥アイツからは破壊の氣しか感じられねぇ)」

 

 氣を熟知し、使い熟しているヤミはアルトの氣を読み取っていた。

 

 そんなヤミの思考などお構いなくと言わんばかりに、アルトの背から三対六翼の純白の鳩の様な翼が生え、頭には三重の光輪が出ていた。

 姿は違えど、純白の翼に頭部の光輪。

 それは先程までアルトが戦っていたハゲルドの様に‥‥

 

『!』

 

 アルトに起きた変化に誰もが驚愕する。

 アルトはそのまま上空して行き、穴の空いた天井を背にして止まった。

 外からの陽光とアルトに起きた変化も相俟って、まるで神だと言わんばかりの景色だった。

 

‥‥‥人間と魔に愛されし異種族か

 

 今まで話していたアルト? の声とは裏腹に、ノイズ混じりの声をしていた。

 

 ────────────────────────

 

 アルトは光しかない空間にて目を覚ました。

 

「ここは‥‥?」

 

 アルトは先程まで自分がいた場所ではないことを知る。

 周りを見つめていると、背後から強力な何かを感じ取り、振り向いた。

 

 そこにはもう一人の自分が立っていた。

 しかし、一つだけ違うとすれば、頭に三重の光輪があり、背中には三対六翼の純白の翼が生えていたことだった。

 

「お前は‥‥誰だ?」

 

 アルトがそう訪ねるが、その者は応えようとはしなかった。

 その代わりにもう一人のアルトに纏わり付く様に赤白い靄があった。

 

()の封印が弱まった‥‥今のうちに神の雷を与えてやれ。超越の神よ】

「なにっ!?」

「‥‥‥」

 

 靄から声がしたと思えば、まるでもう一人の存在に指示を出してきた。

 すると、もう一人がアルトを襲ってきて、体内に手を差し込んできた。

 

「ガッ‥‥!?」

 

 アルトはもう一人のアルトによって体内に手を突っ込まれた場所からドンドンと何かが侵入していき、アルトは意識を失った。

 

 ────────────────────────

 

「‥やはり‥‥我が種族以外は時代が流れようと愚かだ‥」

「な‥なに言ってんだよアルト」

 

 ノイズ混じりの声で語り続けるアルトが自分の知っているアルトではない事に困惑しながらアスタが発言する。

 発言してきたアスタに視線を向けた。

 アルト? の瞳はまるで汚物を見るかのように、この洞窟内にいる全員を見ていたが、魔力のないアスタを見て更に視線が険しくなった。

 

「魔力を持たぬ人間か‥‥‥やはり壊すべきだ。神以外の種族はこの星に不要である」

 

 アルト? がそう告げると両手を白く発光させて、上空に高魔力によって出来た複数の属性の魔法が具現した。

 

 __混沌魔法"森羅の改変者・神業万象(ゴルファヌ)"__

 

 噴火、大波、嵐、落石と地滑り、極大の閃光とアスタ達に襲い掛かった。

 

「うぉぉおお! 何だよコレ!」

「クソッ! 何なんだ一体!?」

 

 魔力切れを起こしたフィンラルとゴーシュは文句しか言えなかった。

 アスタは断魔の剣で魔法無効化し、ヤミは闇魔法で応戦、ノゼルは水銀を匠に操作し閃光を反射。

 ジャックとシャーロットは地割れと地滑りに対処し、ライアは噴火を模倣した水魔法とファナのサラマンダーの火力による爆風消化で対処、ヴェットは嵐を獣魔法でリヒトとヴァルトスを守り続けていた。

 

「混沌は‥‥‥この世界を創り‥天府と冥府に神と悪魔を創造した‥‥後に他の多種族を作り上げ‥‥最後に混沌に近しい人間を創造した‥‥だが‥混沌は間違いだった‥世界は全て光によって定めるべきこと‥神以外の種族がこの地に住まう必要はない‥」

 

 アルト? は攻撃しながら会話をしていた。

 アルト? から放たれる強烈な魔法攻撃の連続に対処する事でしか余裕がない魔法騎士団と[白夜の魔眼]は唯々聞いていることしか出来ずにいた。

 

「カカ! テメェ! 調子に乗んじゃねぇ!!」

 

 __裂断魔法"デスサイズ・狂い咲き"__

 

 シャーロットに落石と地滑りを一時的に対処して貰ったジャックは両腕の鎌を何度も繰り返して振い続ける事で"デスサイズ"を大量に発動する魔法をアルト? に放った。

 水銀で閃光を反射し、少しばかり余裕が出てきたノゼルも攻撃した。

 

 __水銀魔法"銀の玉"__

 

 ジャックと同様にファナ一時的に爆風消化による噴火の消化を頼んだライアもアルト? 攻撃した。

 

 __模倣魔法"闇纏い・無明斬り"__

 

 ヤミから模倣した闇魔法の斬撃を複数はなった。

 

 ヴェットに守られ、ファナの"不死鳥の羽衣"によって守られているリヒトも光魔法で応戦した。

 

 __光魔法"断罪の光剣"__

 

 

 四つの魔法がアルト? へと襲う中、四つの魔法とアルト? の間に赤色の波紋が生じると、四つの魔法がその中へと入り、波紋が消えた。

 しかし、すぐさま波紋が生じると、先程彼等が放った魔法の数が増量し、威力が拡大した状態で四人へと襲う。

 

 __混沌空間魔法"複写の波紋反撃(カウンター)"__

 

 アルト? は空間魔法に捕えた魔法を複写して反撃したのだ。

 

「クッ!?」

「カカカ! 裂き応えがあんじゃねぇか!」

「‥‥‥」

「ちょっとメンドーだねぇ。彼」

 

 己の魔法を跳ね返されたノゼルたちは回避や迎撃で対処したが、"森羅の改変者・神業万象"による攻撃が終わっていない中での己の魔法の跳ね返しは戦況を悪くさせる悪手だった。

 

 そんな彼等に追い打ちを掛ける様にアルト? が"聖剣エクスカリバー"を手にすると、刀身が無数の色で光り輝くと、無数の斬撃としてノゼル達に放った。

 

 __混沌魔法"森羅万象斬・連斬"__

 

 連続的に放たれた無数の属性を持った斬撃がノゼルたちを襲った。

 "森羅万象斬・連斬"が衝突して洞窟内が完全に崩壊し、大量の煙が発生した。

 

 煙が数秒間発生していると、三人の団長と[白夜の魔眼]が傷つき倒れていた。

 

「さて、最初の処罰だ」

 

 アルト? がそう言うと右手を高らかに挙げた。

 

 __混沌神炎魔法"蒼い太陽の覇壊(ドグダ・アズベダラ)"__

 

 右手の上空に大きな青色に発光し、強烈な熱量を放出する太陽が現れた。

 その大きさは崩壊した洞窟をマグマにまで融解させる事が出来るほどの代物だった。

 

 あまりの熱量に、岩が熱を持って融解し、水銀が溶かされ、同属性のファナですら防げない炎に、二つの勢力は死を免れない事を理解した。

 しかし、そんな太陽が突如、凍結し吹雪の如き塵となって消え去った。

 

「なに?」

 

 アルト?は突然の凍結に眉間に皺を寄せる。

 そんなアルト?の元へと天から崩れ去った洞窟内へと降り立った存在がいた。

 獅子幻獣レグルスに乗ってキテンからやって来たマリエラだった。

 

「やはり暴走したか」

「止めますよ」

「うむ」

 

 レグルスに乗ったマリエラが暴走したアルト?を相手に鋭い視線と魔力を高めながら向けた。

 

「神と悪魔を喰らう幻獣族とその契約者」

 

 __混沌神火魔法"灼熱の刀剣"+混沌神雷魔法"迅雷の剛斧"__

 

 右手を灼熱で出来た刀剣へと変え、左手を雷霆の斧が出来ていた。

 

「躊躇はするなマリエラよ。幾ら我とて混沌の暴走は本来の力を出せなければ、真面な抵抗も出来んぞ」

「‥‥はい」

 

 マリエラは返事を返すと、魔法を行使した。

 

「初めから全力で行け!マリエラ」

 

 __氷幻獣魔法"獅子幻獣の氷霧(レグルス・フロスト)"__

 

 精霊憑きの魔導士の精霊魔法と似た様な関係をレグルスと持つマリエラはレグルスの口から氷霧を引き起こした。

 氷霧が現れるとアルト?が両手を振り下ろすと、"灼熱の刀剣"が触れる全てを燼滅と化す火焔の刃を"迅雷の剛斧"が雷鳴を轟かせながら触れるモノを焼き尽くす斧が氷霧を襲う。

 

 しかし、氷霧は燼滅の火刃と焼却の雷斧を凍結させた。

 凍結された二つの魔法はまるで食されるかの様に塵となって消え去った。

 

「やはり喰らうか」

「ジッとしてよいのか?」

 

 アルト?の魔法を簡単に対処して見せたマリエラと獅子幻獣レグルスに[白夜の魔眼]と[魔法騎士団]は驚いていた。

 アルト?は氷霧から距離を置きながらある魔法を発動した。

 

「幻獣族とて破壊出来ぬわけではない」

「なに‥‥?」

「破壊神の力は初めてか?獅子の幻獣」

 

 __混沌破壊魔法"破壊の太陽(サージエルドノア)"__

 

 アルト?は先程の"蒼き太陽の覇壊"とは違い、黒い太陽を創り‥‥いや、召喚した。

 召喚された太陽は黒き陽光から膨大な魔力を

 

「破壊神の権能!?」

「どうしますか?」

「破壊神の権能を全力解き放つつもりならば、我の真力(ちから)でしか対抗できぬ」

「‥‥つまり、万事休すですか‥‥」

「そこが知れたな」

 

 アルト?がレグルスから遠く離れた場所へと飛翔する。

 アルト?は神を喰らう幻獣諸共この場を消し去ろうとしていた。

 しかし、そんな彼の上空に空間が開かれ、強化魔法で強化された脚力による上昇速度も加わったヤミが上段構えで落ちてきた。

 

「気付かぬと思ったか?」

 

 アルトはヤミがそう来るであろう事を感づいており、空いている左手に無数のビー玉サイズの闇魔法を掌に凝縮していた。

 

 __混沌闇魔法"トリリオン・ダーク"__

 

「(テメェもコイツを狙ってんだろ‥‥さぁ、来い!)」

 

 ヤミの思いに応えるように、アルトの左側からヤミが通ってきた空間魔法と同じ空間が現れた。

 すると、そこからアスタが猛烈な勢いでやってきた。

 その事にアルト?は無論のこと‥‥ノゼル達ですら驚愕していた。

 

「なっ‥‥‥!?」

『(なぜ奴がそこに‥‥!!??)』

「(あの攻撃の中をどうやって‥‥)」

 

 ノゼルは先程までのアルト?の攻撃を回避して、空間魔法を使ったとは言え、生き延びていた事に疑問を持った。

 

 実はヤミにアルト?が起こした魔法の溢れを吸収して魔力回復を早めるように言われたフィンラルは急拵えで三回まで空間魔法を使える状態になっていた。

 それを使い、魔力の力場が薄いアルト? の上空に一回目を使い、二回目を少し離れたアルト? の横側に使った。

 後はアスタの並外れた身体能力による移動と空間魔法での移動距離の節約でアルトの近くへと現れたのだ。

 

 しかもコレにはマリエラとレグルスによるアルト?の神力喰らいによってアルト?の魔法の影響下が弱まっていたからこそ出来た方法である。

 

「(氣を感知してりゃそれぐらい余裕だよな)」

「目を覚ませぇえええ!!!」

「オレが来るのを信じてくれてありがとよ。オレは魔力のないバカを信じさせて貰ったぜ」

「アルトぉぉおお!!!!」

 

 アルト? に向けて横振りした断魔の剣はアルト? に当たり、それによってアルト? の用意していた二つの魔法が無効化されて、ヤミの方向に少し飛ばされ、ヤミが留めと言わんばかりに"黒刃"で振り下ろし、大地へと叩き落とした。

 

 ドッゴォオン!! っと強烈な音と土煙がアルト? が落下した衝撃で起きた。

 アスタとヤミ、レグルスに乗ったマリエラが大地に降り立つと、ノゼルたちも既に立ち上がっていた。

 煙が晴れると、蹌踉めきながらも立ち上がったアルト? 

 

(アンチ)魔法‥‥厄介な魔法だ‥‥‥だが‥貴様等が死ぬことは変わら‥‥」

【そこまでだ】

 

 突然聞こえたこの場にいる者の中にはいない声が元洞窟内に響いた。

 特に第三者の声にヤミは目を見開いて驚いていた。

 その声と共に、アルト? の身体が壊れた機械の様にぎこちない動作で動いていた。

 

「なぜ‥‥動けない」

【随分と、息子の身体で勝手をしてくれたな。もう一度眠っていろ】

 

 怒りを顕わにした様な声がそう言うと、アルト? の左半身の翼が蝙蝠のような翼と変わり、頭の光輪までも、左部分が消えて、こめかみから歪曲状に上に向いた赤黒い角が生えた。

 

 すると、アルト? に起きていた変化の全てが弾ける様に消えた。

 弾けた際の反動でアルト? の身体がビクンッ! と動くと、開かれた瞼が閉じていき、前のめりに倒れて、気絶した。

 

「アルト!」

「アルトッ!」

 

 アスタはすぐさまアルトの元へと走っていくと、アルトが唯気絶して眠っているだけだと知り、漫才コンビの様に盛大に転けたアスタ。

 マリエラも同じくレグルスから下りて走り寄ったが、アスタのような転け方はせず、冷たい眼差しでアルトを見ていた。

 

「今のうちに帰ろうか、リヒト君」

「そうだね、ライア」

 

 ライアが危険なアルト? が気絶した事で今のうちに撤退する事をリヒトに告げると、リヒトもそれを了承した。

 ライアが空間魔法を展開した。

 

 魔法騎士団は抵抗しようとしたが、先程のアルト? の攻撃の際に魔力を膨大に使用して残量が少なかったため、諦めた。

 

「今日はここで帰らせてもらうよ」

「今回は我々の敗北だ。だが、次はお前達に真の絶望を与えてやる」

「その時が貴方達の最後」

「我々[白夜の魔眼]は常に君たちを見ているよ」

 

 リヒトと<三魔眼>が互いに捨て台詞を残して逃げていった。

 

 [白夜の魔眼]がいなくなった。

 

「奴ら‥まだ本気ではなかった」

 

 シャーロットは先程のアルト? の攻撃を受けても逃げるだけの魔力量を持っていた四人が本気をだしていなかった事に気付き呟いた。

 

「魔に愛されているねぇ。カカ! 裂き応えがある奴らだぜ」

 

 ジャックは破壊フェチまるだしの発言をする。

 

「(逃げられたか。だがしかし、お前の敵は私が取る。必ず‥‥‥そして、[紅蓮の獅子王]のアルト。奴に最後に起きたあの変化は‥‥あの者(・・・)と同じものだった。奴は一体‥‥)」

 

 ノゼルは逃げた[白夜の魔眼]に対する決意を新たにしながらも、アルトに起きた最後の変化に対して何か思い当たる何かがあったようだ。

 

 そして、[白夜の魔眼]との戦いで勝利した事を喜んでいたアスタは疲労の余り倒れた。

 

「アスタくん!」

「流石に限界だったか‥‥医療室に連れてやれフィンラル」

「俺ですか!?」

「少しは働け」

 

 ヤミのフィンラルへの扱いの酷さが起きていた。

 

「(にしても‥‥最後に聞こえた[紅蓮の]小僧へのあの声‥なんであのダンナ(・・・・・)の声がしたんだ? それに息子って‥‥まさかこの小僧‥)」

 

 ヤミもノゼルとはまた別の内容だったが、アルトに止める様な声を上げた人物に対して心当たりがあるらしい。

 

 ────────────────────────

 

 そんな頃。

 

 逃げてきた[白夜の魔眼]はリヒトを含むヴァルトスとサリーに大きな容器に入った緑色の透明な液体が彼等を癒やしていた。

 

「────でどうすんだよ? リヒトの存在が知られたとなると、魔法帝も調査に本腰を上げてくるぞ。ゲオルグとキャサリンだって捕えられたままなんだ。情報が漏れたら何れこの場所も‥‥リヒトの正体も突止められちまう」

「‥‥‥ッ!!」

 

 意見してくるラデスにヴェットは睨み付ける事で黙らせたが、ラデスの言っている事は間違ってはいない。

 ライアは今知られるわけにはいかないと思い、ヴェットを落ち着かせた。

 

「今、あれこれ知れられるのは不味いな。ふぁ~あ。う~んどうしようかな。あんまり行きたくないけど行ってこようかな。ふぁ~あ」

 

 欠伸混じりに何処かへと向かおうとする事を告げたライア。

 一体、彼は何処へと向かおうとしているのだろうか。

 




高評価、お気に入り登録よろしく!


次回~裏切り者~


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裏切り者

お気に入り登録者数がもう少しで250になります。
21話目で越えられたらいいな!と思っています。

それでは、どうぞ


<三魔眼>との戦いを終えたアスタ達。

 

 アルトに起きた異変もあったが、[白夜の魔眼]の撤退という事で勝利を収めた魔法騎士団。

 気絶したアルトとアスタはマリエラ達によってネアンという平界の村の一つの家の一室にて眠っていた。

 

 目を覚ましたアルトの前にはレグルスの力を付与されたマリエラの氷魔法に囲まれながらも、ミモザの回復魔法を受けていた。

 

 アルトが上半身を起こすと、自身を囲む氷魔法を使っているマリエラと回復魔法を行なっているミモザが見えた。

 

「マリエラ。ミモザ」

「アルトさん!」

「漸くお目覚めですか」

 

 ミモザはアルトが起きた事に喜び、マリエラはツンケンな態度で、アルトの目覚めを確認した。

 他にもミモザとマリエラの他にユノやノエル、そしてクラウスがおり、隣にはミモザの回復魔法を受けたアスタが眠っていた。

 

 しかしすぐさま‥‥‥‥

 

「──────死んでたまるかぁぁあああ!!!」

「キャッ!?」

 

 突然のアスタの発言にミモザが驚き、魔法を解いてしまった。

 

「ぐぉ!?」

 

 魔法が解かれた為、落ちてしまう二人だが、アルトだけは転けなかった。

 

「何寝ぼけてるのよ」

「お前が死ぬなんてありえねぇ」

 

 アスタの発言にノエルとユノが否定した。

 

「それで?これは何のつもりだレグルス」

「お主の暴走を止める為のことぞ」

「ふむ。それならいいが、お前の目的が暴走を止めるだけとは思えんがな」

「‥‥‥」

 

 アルトの問いに答えたレグルスだったがアルトも混沌の暴走というだけで手を貸すとは到底思えなかった。

 故に、なにかあると言わんばかりに告げると、レグルスが黙ってしまった。

 

 どうやら、レグルスにとっても無償のつもりはないようだ。

 そんなアルトとレグルスの雰囲気が悪くなり、レグルスの契約者であり、アルトに好意を抱くマリエラは板挟みの状態だった。

 

 そんなアルトとレグルスの間に生まれた空気を壊すため、ノエルが話しをし始めた。

 

「えぇぇぇぇ!!!オレとアルト、丸一日寝てたのか!?」

「そうよ。鼾まで掻いていい気なモノね」

 

 ノエルは丸一日も寝ていたアスタとアルトに呆れていた。

 

「それだけ全力を出し切ったという事だ。我々も向かったのだが、既に終わった後だった」

「それで運び込まれたアスタさんとアルトさんを看病していたのですわ」

 

 アルトはそれを訊くと、回復魔法を掛けていたのがミモザだった事を思い出し感謝を告げた。

 

「ミモザ、礼を言う」

「いえ、私なんて‥‥それに3年前の恩返しが出来てよかったですわ」

 

 ミモザはアルトに感謝されると頬を紅潮させて謙遜するが、同時に3年前にアルトに助けられた際の恩返しが出来た事に歓喜していた。

 しかし、その際のミモザの態度にマリエラは嫉妬した。

 昨日に続いて嫉妬している事に彼女自身でも驚いていた。

 

 数回の会話を行なっているとアルトがアジトに帰ることを告げた。

 

「アジトに戻って報告書を出すから、俺達は此処で退散させて貰う」

「では我々も戻るか」

「はい」

 

 アルトの言葉に続くようにクラウスたちもアジトへと帰還するのだった。

 その後は洞窟内での出来事をアルトとマリエラが合同で報告書を出したのだった。

 

 ────────────────────────

 

 翌日。

 

 

 一日という時間を置いて魔法騎士団本部の最重要人物を取り調べる地下牢へと、魔法帝直属の魔導士マルクス・フランソワと共にやってきたアスタとアルト。

 そこには柱に括り付けられた二人の魔導士と、その前にいる魔法帝ユリウスがいた。

 

「やぁアスタ君、アルト君。今回もご苦労様」

「魔法帝。お疲れ様です!」

「悪いね、疲れてるところ‥‥(アンチ)魔法は君たちにしか使えないからね」

 

 ユリウスはそう言いながらアスタとアルトへと近づきながら、疲労が蓄積している二人に謝罪をしながらも、理由を告げた。

 しかし、それは則の魔の出来事‥‥‥

 

「ところで、[白夜の魔眼]の幹部と手合わせしたんだって?」

 

 目をキラキラと玩具を貰った子供のように歓喜の瞳をしてアスタとアルトに近づいた。

 その反応に困っているとアスタとアルトに、ユリウスは手を肩に乗せた。

 

「何々、模倣魔法?人の魔法をコピーするって、凄いなぁ。おぉ!獣魔法だって、そんな魔法聞いたことないよ。精霊魔法!?火の!サラマンダー!僕も見たかったなぁ」

 

 ユリウスはまるで見ていたかのように幹部の魔法を次々と当てた。

 どうやらユリウスはアスタとアルトの体に触れ、彼等の周りの魔を遡行する事で洞窟内での出来事を知ったようだ。

 

 そんな趣味思考に入ってしまったユリウスにマルクスが咎める。

 咎められたユリウスは頭を掻きながら反省すると、直ぐさまアスタとアルトに頼んだ。

 ユリウスの頼みを聞いて、アスタは断魔の剣を、アルトは右手に"幻想殺し"を発動して近づいた。

 

「こんなガキ共が何だって言うのよ」

 

 しかし、目の前のアスタ達を知らぬユノに敗北したキャサリンは怪訝な表情を浮かべる。

 

「まずい。あの小僧は反魔法を使う小僧と、混沌魔法の小僧だ。俺達に掛けられた保護(プロテクト)魔法を解くつもりだ」

 

 それを聞いたキャサリンは慌てた様に狼狽え始める。

 

「や、やめて‥止めなさいよ、このクソガキ共っ!!」

 

 偉そうにもそう言うキャサリンだったが、すぐさまアスタの剣の鍔とアルトの右手によって彼等の額をコンッと当てられると、彼等に掛けられた保護魔法が解除された証明である黒い靄が現れた。

 それを確認したユリウスはマルクスに指示を出した。

 

 __記憶交信魔法"メモアール・アブソリュ"__

 

 マルクスの記憶交信魔法によって[白夜の魔眼]の二人の頭の上に、水色の棘が付いた半休体が現れ、頭頂部から細い線が現れ、枝分かれしながら白い映像が現れた。

 

「な、なんだこれ‥‥」

「彼等の頭に直接交信し、真実の記憶だけを聞き出す魔法だ。これでもう隠し事はできない」

「スゲェエッ!!」

「だよね!だよね!凄い魔法だよねぇ、格好いいよねぇ!」

「うっす!!」

 

 マルクスの魔法を凄く感じたから出た言葉に反応したユリウスがまたも暴走しかける。

 しかし、マルクスの一括で二人は黙らされた。

 

「五月蠅い、静かにして下さい!!」

「「はい‥‥」」

 

 二人を黙らせたマルクスは颯爽と二人に質問をした。

 

「君たちに幾つか質問をする。正直に答えるんだ‥‥いいね?」

「「はい」」

 

 捕えられた二人は虚な瞳でマルクスの質問に正直に答えた。

 

 ────────────────────────

 

 マルクスの質問が終えると、ユリウスはマルクスに別室で待たせている魔法騎士団長全員をこの場に呼び寄せた。

 

「おう小僧。テキパキ働いているか?」

「う、うっす‥‥お疲れ様っす」

 

 ヤミからの質問に、何時ものアスタらしい活気な返事が返ってこなかった。

 

「何のご用ですか?魔法帝」

「その二人は‥‥[白夜の魔眼]の。なにかわかったのですか?」

 

 ウィリアムとシャーロットの質問に、ユリウスはいつも通りの態度で返した。

 

「ああ。色々わかったよ。アスタ君とアルト君とマルクス君のお陰でね」

 

 背後に光が灯っているが故に、逆光でユリウスの顔が暗く見えにくい中、[白夜の魔眼]から得た一番の情報があったと笑顔で告げた。

 

「一番の情報はこれかな。[白夜の魔眼]に協力した裏切り者が君たちの中にいる事が分ったよ」

 

 ユリウスの言葉に、驚愕する者や、ユリウスと同じ事を考えに行き着いていた者、自身以外の者への疑いの視線など色々あった。

 

「────では、答えてくれるかな。[白夜の魔眼]に協力した裏切り者の団長は誰だい?」

「「それは、[紫遠の鯱]団長‥ゲルドル・ポイゾット」」

 

 二人の言葉によって、誰もがゲルドルから距離を取った。

 それは今尚眠っている[珊瑚の孔雀]団長ドロシー・アンズワースすらも、距離を取っていた。

 

「なっ!?‥馬鹿なっ!?何を言っている!?や、奴らは国家に反逆するテロリストだ。あのような奴らの言うことを信じるのか!?この私が王国を売るようなことをするかっ!!」

 

 名指しされたゲルドルは精一杯の言い訳を行なっていた。

 しかし、彼の信頼など他の団長たちからすれば、無かった。

 

 何故なら、ゲルドルの黒い噂がある事をシャーロットを初めとする他の団長達が次々に言ってきたからだ。

 ユリウスたちを初め、ゲルドルを除く他の団長達も彼に対して睨み付けていた。

 

 ゲルドルは自身の信頼がない事から今度は[白夜の魔眼]の二人が虚偽をしていると告げてくるが、マルクスの言葉に敢えなく撃沈。

 ゲルドルは追い詰められ、後退りする。

 

 そんなゲルドルにヤミがマルクスの魔法を受ける事を提案した。

 マルクスも同様にそれに賛成する。

 

 しかし、ゲルドルはそれを受け入れようとしなかった。

 

 そんな不審な行動に誰もが疑う中、その行動に彼が裏切り者である事をうなづけさせていた。

 

「やっぱりお前なのかっ!?お前のせいで、フエゴレオン団長はっ!!!」

 

 アスタは彼の行動から彼を黒と決めつけ、怒りを燃やしていた。

 アルトも発言をしないが、怒りの感情を隠していなかった。

 誰もが彼を裏切り者と見られたゲルドルは自身の魔導書を右手に持った。

 

「私は汚名を雪ぐ!これは戦略的撤退だ!」

 

 __透過魔法"見えざる大魔導士"__

 

 ゲルドルが魔法を使うと、足下から姿が透過していき、姿が消えた。

 

『っ!?』

「消えたっ!?」

 

 誰もがその行動に驚き、アスタはゲルドルが消えた事に驚いた。

 ヤミが驚くアスタにゲルドルの魔法の効果を説明していると、ゲルドルは更に新たな魔法で魔法騎士団長を攻撃した。

 

 __透過創成魔法"見えざる軍兵"__

 

 同じく透過した見えない兵団が十人以上も現れた。

 その軍兵達によ攻撃に騎士団長達は各々の魔法を使って迎撃する。

 しかし、一定時間、自身の姿を消し、魔法を透過させるという魔法効果があり、軍兵たちにもそれが携えており、防御は出来ても、攻撃という点では意味がなかった。

 ある二人を除いては‥‥

 

「何かと思いきや、下らんな」

「え?」

 

 アルトのその言葉にマルクスが反応し、ユリウスも自身の後ろ側にいたアルトに視線を向けた。

 すると、アルトの瞳には独特の魔法陣が描かれていた。

 

 __混沌消滅魔法"破滅の魔眼"__

 

 アルトの両眼がほんの一瞬、赤く発光すると、ゲルドルの使った魔法が解除された。

 

「なっ!?」

『ッ!!』

 

 ゲルドルの魔法が解除された事に当人は無論のこと、他の者も驚いていた。

 しかし、アルトは周りの反応など気にも止めずに歩いて行く。

 

「魔法を透過したぐらいで無敵だとでも思っていたのか?」

 

 アルトがそう言うと、誰もがアルトに視線を向けた。

 アルトの瞳に独特な魔法陣が描かれている事に他の者も気付いた。

 

 アルトはゆっくりとゲルドルへと歩いて行く。

 ゲルドルは何度も魔法を行使しようとするが、全てが悉く破壊され消滅していく。

 

 これはアルトがハゲルドに使った"混滅の魔眼"と似通っているが、魔法効果と魔法の持続や行使難易度は"破滅の魔眼"の方が良かった。

 映る全てを破壊し、消滅させる"破滅の魔眼"は一種の(アンチ)魔法でもある。

 

 故にゲルドルの魔法を幾度も無力化し、物質すらも破滅させる。

 そんな魔法を受けたゲルドルはまるで信じられないと言わんばかりは表情を浮かべていた。

 

「どうした?まさか自分の魔法が無敵だとでも思ったか?」

 

 そんなゲルドルを嘲笑うかの如く、アルトはゆっくりと、更に近づきながら、似た様な台詞を再度告げる。

 

「嘗めるな!私は団長だぞ!!」

「哀れな。お前の敵は俺だけではないぞ」

 

 アルトがそう言うと、先程同様に"見えざる大魔導士"を行使したゲルドルが懲りずに魔法を行なおうとするが、ゲルドルがいた場所の左側からアスタが断魔の剣で斬りつけた。

 すると、ゲルドルの魔法がアルトと同じく強制的に解除された。

 

 二人も自身の魔法を解除した存在にゲルドルはあんぐりと口を開けて唖然とする。

 

「アスタの(アンチ)魔法は魔法ではない。それに加え、先の一件で氣の感知を会得したアスタにはバレバレだぞ」

「‥‥‥‥ッ!!?」

 

 ゲルドルは下民で団長でもない者達に二度も自身の魔法を解除されれば自信(プライド)がズタズタに傷ついた。

 因みに、アルトがアスタの氣の感知を知っていたのは、ヤミがリヒトの攻撃を捌いていた際に彼が説明していたのをカルを睨んでいた際に聞いていたからだ。

 あまりに自信を傷つけられた彼は逃げの一手を取ろうとしたが、既に横にいたアルトがゲルドルの腹を貫いた。

 

「グフッ!?」

 

 口から血を流したゲルドル。

 そんなゲルドルの腹から手を抜き、胸ぐらを掴んで捕えられている二人の[白夜の魔眼]の方面へと投げた。

 投げられたゲルドルは音速で向かって行き、捕虜二人の間の前あたりにやってくると、その上に既に描かれていた絵の具がゲルドルを捕える。

 すると、絵の具が無数の帯の如く集合してゲルドルを捕えると、泉に体の大半を捕えられ、腕と足が使えない状態へと捕獲されたゲルドルの姿があった。

 

「なんだこの魔法‥」

「絵画魔法か」

 

 アスタはその魔法を行使した、水色の髪色をした団長内で最年少の少年が捕まえていた。

 

「リル。貴様生ぬるい真似を‥‥」

「だってぇ。僕がやらないと、ここ一帯消えちゃいますもん」

 

 [水色の幻鹿]団長リル・ボワモルティエが他の団長達を見ると、天井などを壊して手にした瓦礫などを使って準備をしていた。

 

「奴の魔法は一切の魔法を透過する。ならば周囲の物体を利用して攻撃するまで、建造物など下々の者にまた建て直させればいい」

 

 水銀で瓦礫を掴んでいるノゼルが告げる。

 

「カ!団長とガチで殺り合うチャンスを逃しちまったぜ。ハムに似ているだけあってスライスしがいがあったのにな」

 

 続いてジャックが裂断魔法の刃を両腕から生やし、ノゼルと違い瓦礫を利用した形跡がなかった。

 そしてジャックに続くようにヤミが煙草を咥えながらも、闇魔法が籠もった刀を持って構えていた。

 

「魔法騎士団、団長として、ただボゥっと見ているだけってのは不味いだろ。ポーズだけでも取っとかないと‥ってか、テメェは寝てんのかよ!」

 

 ヤミがポーズだけを取っている中でも、先程から眠っているドロシーに告げる。

 彼女は先程から一切起きていないのだ。

 

「男のくせに逃亡とは情けない。裏切り者以前に団長失格だな(なぜ、ヤミはドロシーを気に掛ける。ああいう隙のある女が好みなのか?)」

 

 辛辣な意見を告げるシャーロットだったが、好意を抱く男性がドロシーに告げた為に、ヤキモチを抱いていた。

 そんな戦闘態勢を取る彼等に[金色の夜明け]団長ウィリアム・ヴァンジャンスが魔法を行使していないが、彼等に意見をした。

 

「皆、そのぐらいにしておこう。何者かに魔法で操られている可能性もある」

「ならば逃げる必要はない。操るなら、操っていた間の記憶を消すぐらいの方法は取る。裏切り者が逃げた時点で操られている線はなくなったも同義だ」

 

 そんなウィリアムの言葉にアルトが意見した。

 しかも、目上に対する口調ではなく。

 

「いや~皆がいる所で話して良かった。私じゃ加減ができないからね」

 

 そう言うユリウスの手には金星の様な形状に似た透明な球体と時の文字が描かれた円輪がある時間魔法を用意していた。

 

(滅茶苦茶だこの人達‥‥それにアルトまで‥‥)

 

 アスタは余りに無茶苦茶な行動を取る事に驚愕しながら、幼馴染みのアルトまでもがその域にいる事に驚いていた。

 その後、リルがアスタとアルトに友達になろうと言ってきた為、二人は軽く了承していた事は余談である。

 

「さて、色々聞かせて貰おうかな?ゲルドル」

 

 捕えたゲルドルの前にユリウスが立ち、その後方には最強の魔導士に認められた右腕の如き実力者が7名と特異な実力者2名が立っていた。

 ゲルドルにマルクスの魔法を行なった。

 

「ゲルドル。ここまで君が答えた事は間違いないかい?」

「はい」

「出るわ出るわ。団員達への暴行。片や国宝級の魔導具の横流し。他国から危険な薬物の密輸。裏切り以前に真っ黒じゃねぇか。コイツこそ[黒の暴牛]に相応しいのでは?」

「カッ!なにくだらねぇこと言ってんだ」

「だから記憶を見られるのを嫌ったのか」

 

 ゲルドルの記憶の中にあったのは犯罪者丸出しの真っ黒な経歴だけだった。

 アルトはゲルドルへの怒りを感じながらも、怒りを抑える様に努力していた。

 

「そして何より、障壁魔導士の誘拐。コレが[白夜の魔眼]の協力と言えるな」

 

 シャーロットがそう言った記憶には[白夜の魔眼]のフードを被った人物がゲルドル相手に貴重な魔導具を提供し、その代償となる障壁魔導士の誘拐補助を行なった記憶があった事がゲルドルの記憶を見ていた誰もが理解した。

 

「これは前代未聞の失態だ。本来国民を守るべき騎士団がこの国を売るような真似を、国民を不安に陥れない為にも、公表を避けるが、二度とこの様な事がないよう‥‥全団員に改めて反勢力と繋がりがないかどうか確認してくれ!」

『了解!』

 

 ユリウスの言葉に誰もが了承した。

 

「さて、アルト君。実は君を呼んだのはもう一つあってね」

「俺が何者なのか訊く事も加わっている‥‥でしょ?」

「‥‥その通りだよ」

「‥‥‥っ!?」

 

 アルトとユリウスの会話にアスタが驚いていた。

 しかし、ユリウスがアルトの発言を肯定したのには理由がある。

 アルトに起きた二つの異変。

 その異変の解明をしておく必要があるのだ。

 そして、アルトがその事を指摘したという事は、アルト自身が自分が何者なのかを知っている事を示している証明だった。

 

「君は何者なんだい?」

 

 ユリウスの発言に団長達はアルトを見る。

 特に被害を受けた四人の団長の視線を鋭かった。

 それ程までに彼等が体験したのは[白夜の魔眼]以上の事象なのだ。

 

「‥‥俺はこの国の王族キーラ家と生誕の神との間に生まれた混血児(ダブル)だ」

『っ!!??』

 

 アルトが告げた言葉に誰もが驚いた。

 




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次回~ザウスの真実~


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ザウスの真実・前編

あまりに長くなりそうなので前後編に分けました。

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 アルトから告げられた言葉にこの場にいる全員(一部の者除いて)が驚いていた。

 

「‥‥ぇぇぇぇえええええええ!!!??王族と神様の子供っ!!?」

 

 アスタは大声を出して驚いていた。

 

「あ、アルト。ほ、本当か!?」

「あぁ。俺の父は【そこからは私が話そう】

「「「ッ!!?」」」

 

 その声を聞いて驚いた者が三人。

 

「この声は‥‥」

「‥あの時に聞こえた声だな」

 

 シャーロットとノゼルはその声がアルトに起きた異変が止まった際に起きた何者かの声である事に気付く。

 

「いいのか、父さん?」

【あぁ。その方が納得してくれる者が多い。私と知り合いが数名いるしな】

「では、その間は俺が抑えていよう」

【スマンな】

 

 アルトが何者かの声と会話をすると、どうやらその声の主が話すことになった。

 

 アルトが一度瞼を閉じてから瞼を開くと、額から角を、背中から蝙蝠の様な翼を、お尻には剣のような形の尾先をした尻尾を生やしていた。

 

 そして同時に、瞳が獰猛な縦筋の瞳孔を持った赤い眼へと変わっていた。

 

【ふぅ。久々の現世だな】

 

 アルトは肉体を父に貸した。

 つまり、肉体はアルトだが、精神は父である。

 

【さて、久しぶりだなユリウス。ヤミとヴァンジャスも団長になっていたのか。おめでとう】

 

 アルトの父が語り出した。

 突然の親しみのある物言いに他の者は怪訝な表情で、見つめていた。

 その中には先程まで寝ていたドロシーまでもが起床し、同じ様に見つめていたのだった。

 

 しかし、その中で、驚愕した様に目を見開いた状態で固まってしまっているヤミ、ヴァンジャンス、そしてユリウス。

 

「まさか‥‥」

「‥‥マジか‥」

「‥‥‥」

【私の名はバヴェル・キーラ。嘗て[勝利の剣豪]と呼ばれた男だ】

 

 アルトの父・バヴェル・キーラが自己紹介を行なった。

 バヴェルの名を知る者は、誰もが驚き、この場を驚愕の空気が占領した。

 

「本当にバヴェルなのかい?」

 

 バヴェルの存在に最初に訪ねたのはユリウスだった。

 

【疑うのも仕方がないな。なら、今から20年前のお前の恥ずかしい話しを訊いたらお前も納得するか?】

「いや、遠慮しておくよ‥‥バヴェルだね」

 

 ユリウスは羞恥の話しを話される前にバヴェル認定を示した。

 

「ユリウスの旦那。それで認めちゃダメだろ」

 

 そんなユリウスにヤミがツッコミを入れる。

 しかし、そんなヤミとヴァンジャンスには威圧感をぶつけたバヴェル。

 すると、その際の威圧感に覚えがあるのか、二人は冷や汗を流していた。

 

【何か言ったか?】

「いえ‥‥」

「バヴェルの旦那であってるわ」

 

 ヤミとヴァンジャンスもアルトの体を使って話している人物がバヴェルである事を認めた。

 

「えぇ!?それだけで認めちゃうんですか魔法帝!」

「いや~、こういう言い回しをするのがバヴェルだから‥‥」

 

 よっぽど訊かれたくないのか誤魔化そうとするユリウス。

 

【さて、息子の事だったな】

 

 バヴェルは誤魔化そうとするユリウスを放っておき、話し始めた。

 突然に本題に入った為、先程までの三人も真剣な顔立ちになった。

 

【あの子は嘗て、私がクローバー王国国王と魔法帝就任の前に起きた事件にて出会った生誕の理を司る神との間に生まれた】

「だが、貴様の姿と、アルトの体を借りている事にどう結びつく?」

 

 アルトの出生について、彼の両親を話したバヴェル。

 しかしそれは、先程アルトが言った為、この場にいる者は誰もが知っていることだ。(捕虜二人と、ゲルドルは除く)

 よって、ノゼルは質問した。

 しかも、その言葉には少しばかり怒りや憎しみが交じった様な発音だった。

 

【アルトが生まれて翌日だった。私は神々が住む世界。「天府」から下界してきた破滅の神の呪いを受け、私は人間から悪魔に転生させられた】

『っ!!?』

 

 神の呪いによる種族転生。

 訊いただけでも驚くべき内容だった。

 正しく神の御業だ。

 

【私は妻と子を守るために戦ったが、破壊の理に敵わず、瀕死を負った。妻は私を癒やしながら破滅の神と戦っていたが、二人とも殺す事を躊躇っていたのだが、後に破滅の神は躊躇無く妻を殺しにかかった】

「それがどうかされたのですか?」

 

 バヴェルの説明を聞いて、ヴァンジャンスがそう訪ねた

 

【神は理を司り、司った理が魔法になる。つまり、神を殺す事は、その理を消し去る事を意味するらしい】

『ッ!!?』

 

 その言葉を聞いて誰もが驚愕した。

 神々が理を司る事は王族や貴族ならば、誰もが古書などで知っている可能性がある知識だ。

 しかし、その理を厳守しなければならない。

 にも関わらず破滅の神は同じ神であるバヴェルの妻を神殺しした。

 

【神は一つでも理が崩れるのを許さぬらしい。にも関わらず、破滅の神は妻を殺しにかかった】

 

 バヴェルは当時の事を思い出したのか、暗いを雰囲気を出していた。

 彼から感じた雰囲気は歴戦の戦いをしてきた団長達やユリウスは親しい者・愛する者の死に対して悲しむ者のものだった。

 

【さて、今から話すとしよう。アルトが生まれるまでの詳しい経緯を‥‥】

 

 そう言ってバヴェルは話し始めた。

 

 ────────────────────────

 

 時は遡り、アルトの異変から目が覚めるまでの一日の間での出来事だった。

 

 アルトは<三魔眼>と三人の団長の戦闘時の際に入った光しかない空間へとやって来た。

 しかし、今回は光だけでなく闇も空間内に同じ量で空間を埋めていた。

 

「またここか‥‥」

 

 アルトはそう言うと、警戒した。

 先程同様のことが起きると思ったからだ。

 

 そんなアルトに話しかける者がいた。

 

【そう警戒するな】

 

 アルトがその声を聞こえると、その方向へと向きながらも後退した。

 そこには、闇の空間の中に、左右に歪曲状の赤黒い角が生やし、背中に蝙蝠の翼を生やした自分が俯いた状態で立っており、その隣に中年男性ぐらいの顔をした自身と同じ様な角と翼を生やし、尻尾を生やしていた存在が立っていた。

 

 同時に背後から先程自身に攻撃してきた存在の力を感じ取った。

 背後は先程同様、光の空間があり、そこには気絶した際に見た人物がおり、靄も存在していたが、以前よりは靄が弱まっていた。

 

【その靄には封印を再度行なった。今は問題ないがお前自身が解決しない限り、ソイツの殺戮行為の呪いからは解放されないぞ】

 

 中年の男性がそう言ってきた。

 

【‥ぐ‥ぬぅ‥貴様‥‥】

 

 靄から目と口が出てきて、頭の部分に光輪が出てきた。

 靄から告げられた言葉はまるで恨み言のようなものだった。

 

【まだ喋れたのか】

 

 中年男性がそう言った。

 どうやら中年男によって靄は封印によって力が不安定になっているのだろう。

 

【貴様如きが‥‥】

「黙れ」

 

 アルトは自身を乗っ取ろうとした靄相手に黄金の鎖で縛り付けた。

 

【‥こ‥これは‥っ!?】

「黙れと言った」

 

 アルトは未だに話し続ける靄に空間をキューブ型の空間で囲まれた。鎖に縛られている光景も加えて正しく、封印の言葉が合うような光景だった。

 

「それで、アンタは誰だ?」

【私の名はバヴェル。バヴェル・キーラ。神々によって悪魔へと強制転生させられたクローバー王国王族・キーラ家の者であり、お前の実の父親だ】

「‥‥‥‥ッ!?」

 

 アルトはその言葉に驚愕を隠せなかった。

 しかし、瞬時に驚愕から脱したアルトは問い詰める。

 

「それが事実だと‥証拠があるのか?」

【だからこそ、お前に見せよう。お前が戦う度にお前の魂の中で私だけの魔法を得ておいたからな】

 

 バヴェルはそう言うと、両手を広げた。

 同時に魔力を解放させた。

 

【見るがいい。お前のルーツだ】

 

 __消滅魔法"起源の伝達"__

 

 膨大な黒い粒子がアルトを包み込んだ。

 アルトの頭に、いや、脳内の記憶を司る部分にバヴェルの魔法が作用した。

 

 ────────────────────────

 

(ここは‥‥?)

 

 アルトが視界に入ったのは、王都の中で一番高い場所に建てられた王家の敷地内だった。

 

【なに?それは本当か?】

 

 アルトが声がした方向へと視線を向けると、そこには姿が違うがバヴェルがいた。

 

【はい!以前確認された悪魔とはまた別の危険な魔力が観測されました】

【叔父上】

 

 王家の三家の一家の屋内にて、バヴェルが歩きながら隣に年老いた老人が報告を行なっていた。

 

 そんな中、オールバックの髪型をし前髪を一房だけ額に出し、唇と顎の中間部分にほくろを持つ少年が現れた。

 

【ダムナティオ】

【叔父上、本当に向かわれるおつもりですか!?】

 

 ダムナティオと呼ばれた少年は慌てた様にバヴェルと会話をしていた。

 

【俺が行かなくては解決出来ないなら、行くまでだ】

【どう考えても罠です。アウグストゥスが叔父上を目の敵にしているのはご存じの筈です!!】

【無論知っている。アイツが俺を亡き者にしたいだけであることも、国王となる為に次期国王筆頭である俺が邪魔であることもな】

 

 どうやらアウグストゥスと呼ばれる者が老人の報告にあった出来事を引き起こしている様だ。

 そしてその目的がバヴェルの始末と次期国王の椅子を手にすること。

 

【だが同時に悪魔や悪魔以外の種族が国民達に被害を与えるのならば、俺が斬るだけだ。俺はこの国の王家であり、魔法騎士団なのだがらな】

 

 バヴェルはそう言うとダムナティオの頭を優しく撫でていた。

 

【例え俺が戻らなければ、お前が悪を罰しろ。お前の魔法は真実を明らかにし正義を全うする力があるんだからな】

【‥‥‥叔父上】

 

 ダムナティオは目尻に涙を浮かべていた。

 

【爺やもよく世話してくれた】

【‥‥坊ちゃま】

 

 バヴェルが老人を爺やと呼び、爺やはダムナティオ同様涙を流していた。

 しかし、涙を拭っては覚悟を決め、主人に尽くすかのような執事としての顔をすると、頭を下げた。

 

【行ってらっしゃいませ!坊ちゃま】

【行ってくる】

 

 バヴェルは爺やの言葉を受けながら家から出て行った。

 

 ────────────────────────

 

 場所が変わり、恵外界から更に離れた場所にい移動したバヴェル。

 

【爺やの報告ではここだな】

 

 バヴェルは警戒をしながら歩み続けた。

 すると、ある湖から膨大な魔力が放出された。

 その魔力はとても神々しく、慈愛に満ちた魔力だった。

 

 湖から一つの発光が中心から起き、そこから湖をすり抜けるかのように頭頂部と水平になるように光輪があり、純白のドレスを身に纏った豊かな胸部を持つ女性が現れた。

 

【来てくれましたね】

【どういう意味だ?】

 

 バヴェルは手が届く範囲に剣を思わせる表紙を持った魔導書を白く輝かせながら女性に質問した。

 

【私は生誕の理を司り[セフィラの樹]の第3の理神(セフィラ)‥‥ビナーといいます。クローバー王国最強の魔法剣士バヴェル・キーラ】

 

 女性は女神と言っていい程の慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべていた。

 

【?お前が俺を呼びつけた様な言い方だが、お前はアウグストゥスと手を組んでいるのではないのか?】

【アウグストゥス?いったい誰のことでしょうか?】

 

 バヴェルはビナーが惚けている様子がない事から、アウグストゥスが悪魔とは別の危険な魔力を討伐させて自分を戦死させたいだけで、情報の正確性は一切なかったという事がわかった。

 

【では、[セフィロトの樹]第3の理神(セフィラ)【ビナーで構いませんよ】ビナー殿はなぜ俺を呼んだのだ?】

【貴方達に神の雷が起きようとしています】

 

 ビナーは真剣な表情と雰囲気でバヴェルに告げた。

 その雰囲気は先程の慈愛に満ちた優しい微笑みなど一切無く、彼女の表情だけで殺せるといっていいい程の真剣さだった。

 それを感じ取ったバヴェルは気を引き締めた。

 

【我ら神が住まう世界‥‥天府にて神々は地上に住まう人間や生命体を消し去るつもりです】

【なぜ神がそんな事を‥‥】

【天府に住まう神々は、元々この星に住む全ての生命の安寧の為に理を司る存在として混沌に創られました】

 

 ビナーは湖の水から出るために湖の上を歩いていた。

 

【しかし、嘗ての混沌を手にした人間はその力に自惚れ、悪行を繰り広げました。混沌の魔導士を倒しても、人間や異種族の争いに嫌気を挿した神々はこの星に、神以外の種族を必要としない事を決定したのです】

【!!!??】

(なんだと‥‥!?)

 

 バヴェルとこの記憶を見ていたアルトも驚いていた。

 アルトは先程まで神の呪いによる暴走での記憶がなかったからだ。

 

【なぜそう判断したのだ?】

 

 流石のバヴェルもその事がわからず質問した。

 

【世界に光と闇の様な相反したモノがあるからだと、世界の理の主を司る十二柱の私以外の神がそう判断しました】

 

 ビナーは悲しむようにその十二柱を思った。

 

【故に神々は世界を一つに染めることで世界は平和となる。それが出来るのは神だけで、他の種族は星を食い尽くすだけの悪病だと決めつけたのです】

 

 ビナーはその時の十二柱たちの発言をさせた事がとても悲しんでいた。

 

【神々は司る理こそが魔法なのです。ですから我々はその魔法と共に感情もそうなっています。私は全ての生命の誕生に対して歓喜を感じ、幸せを願う様に‥‥ほかの十二柱にもそれぞれの理の感情と魔法を有しているのです】

 

 理=魔法が神々であるらしい。

 ビナーは何かが生まれる事に対する喜びが主に強く影響しているらしい。

 故に、彼女はほかの十二柱たちの考えが理解出来なかったのだろう。

 

【ビナー殿の考えに賛同する者はいなかったのか?】

【ほんの僅かな味方はいましたが、それでも‥‥‥】

【‥‥‥‥】

 

 バヴェルはビナーが味方以外の神々の考えにとても哀しく感じてしまっており、表情も落ち込んだ様に暗かった。

 

【それで、ビナー殿はどうするつもりなのだ?】

【どのような理由であれ、いずれ種を越えて生きていく事になります。そこには種を越えた生命の誕生もあります。私は生誕を司る神。新たな命が生まれてこそ幸せを感じ、新たな人生を進み続ける。それが生命の輝き。その輝きは神であろうと奪う権利はありません。私はどのような事に手を染めようと護ります】

 

 ビナーの瞳から彼女の覚悟が伝わっていた。

 バヴェルは彼女から一切のウソを感じず、そして、彼女の言葉から覚悟の度合いを感じ取って、彼は返答した。

 

【わかった。手を貸そう】

【!本当ですか】

 

 バヴェルの了承を訊いてビナーはまるで子供のように笑顔になった。

 その笑顔にドキッ!となったバヴェルだったが、知られないように話しを続けた。

 

【あぁ。さっさと行くぞ】

【はい】

 

 バヴェルはビナーを連れて、神々からの全生命の滅亡阻止の為に動き始めた。

 

 ────────────────────────

 

 バヴェルが行方知れずになってから1年と4ヶ月。

 

 ビナーと共に行動し始めたバヴェルは刀剣魔法を駆使して、色々な準備をしてきた。

 その準備の最中に二人の間に愛が生まれ、生誕神ビナーは初めて魔法や理ではなく、己の身体から新たな生命(いのち)を宿し、お腹を膨らませていた。

 

【あら、動いたわ】

【本当か】

【えぇ。触ってみて】

 

 ビナーは胎内に宿る新たな命に対して、今まで味わった事がない愛情で満たされていた。

 彼女の胎内は既に妊娠9ヶ月も経っており、見るからに妊婦であるとわかる程に彼女のお腹は膨らんでいた。

 

 神々による他の生命の滅亡までの間に、阻止のために行動を共にしていた二人。

 先程も言ったが1年と4ヶ月の間に愛が生まれ、神と人間との間に生命が生まれたのだ。

 

 その為、バヴェルとビナーは夫婦となり、彼等が行なっていた準備の為に使っていた時間が少なくなっていた。

 

 しかし、愛する者との間に生まれる新たな命に対して、親の愛情が湧き上がり続けるバヴェルとビナー。

 

 ビナーは妊娠9ヶ月を経っており、既に胎内の赤子はいつ出産しても可笑しくないものだった。

 本当ならば、彼女の理・魔法でなら、出産時期など関係なく出産させる事など簡単な事なのだが、彼女も今までの多種族の生命誕生に対する聖女のような感情ではなく、親として愛する夫の子供を産みたいという愛を知り、人間の様に、出産時期というモノを味わっていた。

 

 バヴェルも初めてとなる父親としての愛情が赤子にあった。

 

 ビナーの胎内にいる赤子は元気よく、彼女の胎内を中から蹴っていた。

 その際の感触を感じ取ったビナーは、とても愛情に満ちた笑みでお腹を擦る。

 

 そんなビナーが言った言葉に反応するバヴェルは安静にしている彼女に近寄った。

 ビナーは近寄った夫の手を取り、腹部に手を当てた。

 

 当てたから赤子の胎動が感じ取り、彼も子供への愛情に満ちた微笑みを浮かべる。

 

【名前は考えてくれた?】

【あぁ。アルトだ】

【アルト‥‥とても良い名前。早く生まれてきてね。アルト】

 

 生まれくる子供への親の愛はビナーが告げた悲劇___神々による多種族の滅亡__を阻止する為に、何時襲撃を受けるかわからない緊張感の中で生まれた一つの命は、二人の緊張感を和らげ、平和を噛みしめるモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、既に天府では、神と人間の子を産もうとするビナーに向けられた刺客が、現世に顕現しようとしていた。

 




次回~ザウスの真実・後編~


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ザウスの真実・後編

PCが故障してしまい、予定よりもかなり遅れてしまいました。
故障の中でも編集していたので、駄文な状態になっているかもしれませんがお許しください・・・・


 バヴェルとビナーの間に生まれた一つの命はビナーの故郷‥‥‥神々が住む「天府」にも感じ取っていた。

 

 その中で11人の神々が円卓のように集まっていた。

 それぞれその姿を光に包まれる事で隠しながら‥‥‥

 

【第3の理神(セフィラ)が人間との間に子を宿した】

 

 一人の神が残りの十人に教えるように告げた。

 

【愚かね】

 

 その神の報告を聞いた神の一柱である女の神が罵倒する。

 

【神以外の生命などいらぬと決まったというのに‥‥】

 

 同時にビナーが言った通り、神々は自分達の種族以外の生存を許していないらしく、ビナーの行動に小言を告げる老人の様な声を出した神の一柱。

 

【どうする?】

 

 ビナーの行動に対して相談する四人目の神。

 

【決まっている】

 

 そんな四人目の神の言葉に冷徹に言い放つ。

 まるで、裏切り者を粛正する事に一切の躊躇いを持たぬ犯罪者のように‥‥‥

 

【‥‥‥そうだな】

 

 五人目の神の言葉に、少しの間があったが、五人目の神の言葉に心当たりがあるかのように言葉を溢す六人目の神。

 

【第3の(セフィラ)を始末するしかあるまいな】

 

 七人目の神が五~六人目の神が考えていた事を告げた。

 彼等は同じ神を殺すと口語した。

 

【生誕の理が消えてしまいますわ】

 

 お上品な言葉使いで第3の|理(セフィラ)が死んだ場合のデメリットを口にする八人目の神。

 

【しかり、生誕の理は神々(われら)にも付随する】

 

 くぐもった声を出して九人目の神の言葉に賛同しながら告げる九人目の神。

 

【ならば、生誕と人間の半神を目の前で消せばよいのではないか?】

 

 十人目の神が他の九人に、第3の理神(セフィラ)と人間との間に生まれた新たな命である半神半人の殺害を提案した。

 十人目の神の提案を訊いて五人目の神が名乗り出た。

 

【ならば、第5の理神(セフィラ)たる我が向かおう】

 

 そんな第5の理神(セフィラ)に問う二人目の神。

 

【それならば、終焉の神たる私でも構わないのに‥‥】

【第3の理神(セフィラ)に罰を、人間には絶望を与えねばならん。ならば第5の理神(セフィラ)が効果的であろう】

 

 一人目が二人目の愚痴に応えた。

 どうやら第3の理神(セフィラ)のみならず、彼女と子を作った人間‥‥‥‥つまりバヴェルに絶望を与えようとしていたのだった。

 

【では、向かうとしよう】

 

 そう言った第5の理神(セフィラ)の光りに包まれて現れていた人影が消えた。

 人影が消えると同時に第5の理神(セフィラ)を包んだ光りが消えた。

 

【我々も準備を整えよう。この世界は我らの宿願を叶える為に‥‥】

 

 一人目の神がそう言うと、他の神々は頷き、先程の第5の理神(セフィラ)と同様に人影が消えると光りが消えていった。

 

 ────────────────────────

 

 天府にいる最上級神たちが不穏な話しをしている中、ビナーに悪寒が襲った。

 

【‥‥‥ッ!?】ブルッ

【どうした?】

 

 悪寒に襲われてブルッと身体を震わせたビナーにバヴェルが心配した。

 

【‥‥あなた。もしかしたら、天府の神々が‥‥】

 

 ビナーは怯える様に両肩を抱いて、自分を抱き締めた。

 そんな妻にバヴェルは彼女を優しく抱き締めた。

 

【大丈夫だ。必ず、守ってみせる】

【あなた‥‥】

 

 不安に呑まれそうになるビナーにバヴェルは励ましながら生活していった。

 

【明日はこの子の生まれる日だ。早く寝た方が良い】

【えぇ】

 

 ビナーはバヴェルと共に就寝したのだった。

 

 ────────────────────────

 

 そして翌日。

 

 ビナーとバヴェルの子供の出産日になった。

 

 ビナーは自身の力を使い出産しようと半径10m程の魔法陣が浮かび上がる。

 

【これは?】

【第3の理神(セフィラ)が誕生を行なう際に使う魔法です】

 

 魔法陣には数字や文字、絵柄のようなモノが幾つも存在していた。

 その中心にいるビナーの胎内にいる命から虹色の光りを起こしながら、胎動を早めていった。

 

【もうすぐ誕生するわ】

【それはとても好機だ】

【ッ!?】

【まさか‥‥】

 

 ビナーが子供を産もうとした時、突如自分達の目の前に光の門が現れた。

 

【愚かな行為をしたな第3の(セフィラ)、ビナー】

 

 光の門から現れた人物の容姿は中年男性ほどの顔立ち、頭に無数のXによって出来た光輪を持ち、漆黒の生地に金の線が入った男性用の衣服を着用していた。

 

【第5の理神(セフィラ)、ゲブラー】

【ビナー。この世界に住むのは神のみで良い。にも関わらず、最も罪深き人間との間に新たな理の神を生み出すとは‥‥愚行の極み】

 

 ゲブラーと呼ばれた第5の理神(セフィラ)

 彼はビナーの行動を愚行と罵った。

 

【第3の理神(セフィラ)第3の|理(セフィラ)が多種族を生む必要なし】

【違います。生誕はどの種族であろうと尊く美しいもの‥‥そこに種族間の優劣など意味はありません】

 

 ゲブラーの言葉にビナーが否定する。

 神が是であり、神以外の種族を生み出すビナーの考えを否定するが、ビナーにとっては全ての種族の生誕時に起きる慈しみ・歓喜を感じ取る事が出来るビナーにとっては、神以外の種族の生誕など論外なのだ。

 

 しかも、神が生誕する事はその度に理が誕生し続けるという事だ。

 理が誕生し続ければその分、神々同士の戦いが起きる事も生誕の理を持つビナーだからこそ気付いた事であった‥‥

 

【神同士が争うのは不要な理を消す為、存在が不要たる人間共に慈悲などいらん】

【ゲブラー。それは間違いなのです。人や異種族がいるからこそ、我々神の理が必要であり、平和を‥‥】

【裏切り者らしい言い訳だな】

【‥‥‥‥】

 

 ゲブラーはビナーの言葉に耳を貸そうとすらしなかった。

 

【いずれにせよ。神に人間の血を混ぜさせた元凶は永遠(とわ)の苦しみを受けてもらう】

【!逃げてあなた!!】

 

 __破滅魔法"破壊の炎"__

 

 ゲブラーの周りから広範囲に漆黒に黄金の炎がバヴェルを襲い始めた。

 そんな炎にバヴェルは刀剣魔法を行使した。

 

 __刀剣魔法"屍焔剣ガラギュードス"__

 

【屍焔剣‥秘奥が壱<焔舞>】

 

 バヴェルは魔導書から召喚させた魔法剣‥‥"屍焔剣ガラギュードス"の秘奥を使い剣身を炎と化して舞い踊らせながら"破壊の炎"とぶつけ合った。

 

 "屍焔剣ガラギュードス"はッ相応しくない使い手には滅びの炎で包み込むほどの危険な魔法剣だが、バヴェルはそれを使い熟して破滅の理を有した炎と全うに対抗していた。

 

【力が落ちているとはいえ、破滅の理に抗うか】

【人間を甘く見るな】

 

 ゲブラーは自身の理に抗っている事に驚いていた。

 そんなゲブラーにバヴェルは殺意の籠もった目で睨みながら告げる。

 

【あなた】

【ビナー。お前は息子を守れ】

【‥‥‥はい】

 

 バヴェルは出産間近なビナーに無茶させたくなかったらしく、そう告げた。

 ビナーはバヴェルの考えを悟ったが、人間が神に挑むことに対して、不安を隠せなかったが、自身が子を身籠もっている事と、一番危険なのは自分達の子供であると考え直して胎内にいる命を守ることにした。

 

 __生誕魔法"誕生の命界"__

 

 先程からビナーの周りにあった魔法陣が更に光りを発行して、強力な魔法陣へと変化していった。

 

 二重三重などと軽すぎると言わんばかりの幾重にも重ねられた魔法陣の結界だった。

 

 __マナゾーン・刀身魔法"流星群の嵐爆撃(スターバースト・ストリーム)"・連撃__

 

 マナゾーンを展開したバヴェルが嵐のような荒々しさに、原爆の如く爆発力を秘めた、流星群のような無数の光りの突き攻撃。

 それを連続攻撃している為、僅か10回ほど突きを行なっただけで、既に100発以上の流星がゲブラーを襲っていた。

 

【愚か】

 

 __破滅魔法"連壊の迅雷"__

 

 

 襲い来る流星群の突きに、一つの漆黒の雷が衝突する。

 一つの流星の突きに衝突したあ漆黒の雷が連鎖的に放電するように流星群へと次々に襲い衝突し合っていた。

 

 __破滅創成魔法"業報の破壊獣(インデュラ)"__

 

 ゲブラーは破壊の力を持った巨大な獣を創成した。

 破壊の獣の姿は背中や鉄球のような尻尾に無数の棘が付いている四足歩行に紫色の体色をした獰猛な牙を持っていた。

 破壊の獣を創成されたバヴェルは新たな魔法剣を召喚した。

 

 __刀剣魔法"鉄砕牙"__

 

 鍔が羽毛のようにふさふさとしており、刀身が大刀になっている刀を取りだした。

 

 __刀剣魔法"冥導残月波"__

 

 "鉄砕牙"の刀身が漆の如き黒くなっていた。

 バヴェルが両手で振り下ろした"鉄砕牙"の刀身からバレーボールの30倍ほどの規模を持った紫色の球体に、星雲や星々があった。

 

 "冥導残月波"が破壊の獣に衝突すると、衝突した部分がえぐり取られていた。

 空間ではなく、触れるもの全てを(・・・)だ。

 

【あれは、冥導の切り開いてるのですか!?】

 

 ビナーはバヴェルが行なった魔法に驚いていた。

 

【冥導を開くか。面白いが同時に面倒だ】

 

 ゲブラーもバヴェルが行なった魔法が冥導‥‥‥つまり、死の世界へと誘う魔法を放った事に流石の神ですら驚いたのだろう。

 神からすれば、生殺与奪は誰でもできるが、死の世界へと誘う魔法は神や悪魔ぐらいしか出来ないと思っていたのだろう。

 

【人間の中で、最強だとわかってはいましたが‥‥こんな魔法にまで使えるなんて‥‥】

 

 ビナーは驚きすぎて目を奪われていた。

 

 __刀剣魔法"神造兵装・聖剣"__

 

 驚くビナーを無視してバヴェルは魔導書から今度は刀身が金色に輝き、剣脊に文字が書かれている聖剣が現れた。

 

 __刀剣魔法"約束された勝利の剣(エクスカリバー)"__

 

 "神造兵装・聖剣"を両手で掴んだバヴェルを掲げる。

 すると、周囲から膨大な黄金色に輝く魔力の粒子が無数に集め始めた。

 刀身に纏われた黄金の光りが少し長めの刀身へと形取っては光りを留めた。

 

 留めた光りを聖剣を振り下ろしたバヴェル。

 

 振り下ろされた聖剣から極大の光りの斬撃がゲブラーを襲う。

 極大の斬撃が斜め上空に向けて、刹那の間、貫いた。

 貫かれた光りが消えると、ゲブラーがいた場所は煙で見えずにいた。

 

 しかし、ゲブラーがいた場所の煙が晴れると、そこには∮を横文字にしたような形をした文字が翼や胴体などに刻まれていた。

 

【星によって生まれた武器すらも扱うか、聖剣といい魔剣といい‥‥貴様は存在自体が厄介だ】

 

 ゲブラーは何事もなかったかのように呟きながらバヴェルを危険視した。

 

【どうやら、貴様の力の底から破滅せねばなるまい】

 

 ゲブラーは先程以上にバヴェルを睨み付けた。

 その睨みは彼等の近くの大地や水が怯えているかの様に、地響きと津波が起き出した。

 その事から、バヴェルは更にゲブラーに対する警戒を強め、聖剣を構えた。

 

【ならば、貴様の魔法ごと破滅してやろう】

【!逃げてあなたゲブラーの狙いは‥‥】

 

 ビナーはシェヴェが狙っている何かに気づき、逃げるように催促する。

 

【遅い】

 

 __破滅呪詛魔法"種族破滅転生"+"破滅の魔性"__

 

 金色のオーラを纏った漆黒の魔力でできた八芒星に、銃弾の様な小さな漆黒の弾丸が現れた。

 

【当たってはダメ!】

 

 その弾丸が八芒星の中心を通りながら弾丸が光の速さを超えてバヴェルを襲う。

 

 __刀剣魔法"魔法破壊斬(スペルブラスト)"__

 

 聖剣に紅い光を纏わせたバヴェルが襲い来る弾丸を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────かに思われた。

 

 弾丸はすり抜けてバヴェルの身体を貫いた。

 

【ガッ!?】

【あなた!?】

 

 ビナーは悲鳴に似た声を上げる。

 バヴェルは弾丸を受けた部分から痛みが走り出し、片手を胸に当てて、服を掴んだ。

 ドクンッドクンッと激しく心臓の鼓動音を鳴らしながらバヴェルに強烈な痛みを与えていた。

 鼓動音が強くなり続けると、バヴェルの身体に影響を与えていた。

 

 バヴェルの背中に蝙蝠の様な一対の両翼が生え始め、続くように尻から剣を形取った尾先を持つ尻尾が生え、更に頭部の両側から前面に伸びる様に現れた角が生え始めた。

 

 それと同時に、白色に輝かせた魔力に覆われたバヴェルお魔導書から魔力が途絶えて、浮遊していた魔導書が地に落ちた。

 

 魔導書が落ちたと同時にバヴェルに起きた異変が終わった。

 

【こ、これは‥‥‥】

 

 バヴェルは自身の手を見ると、その手は人間とは形容しがたい物へと変わっていた。

 

【ゲブラー!悪魔に転生させたのですか!!?】

 

 ビナーは困惑するバヴェルとは打って変わり、種族の転生を行なったゲブラーに怒りを向ける。

 

【そうだ。"種族破滅転生"は標的の種族を無理矢理破壊し、新たな種族として転生させた】

【あなたは‥‥‥】

 

 なんとも無いと言わんばかりに告げるゲブラー。

 そんなゲブラーに対して怒りを向けた。

 

 バヴェルも種族の強制転生された事に怒り、刀剣魔法を行使しようとするが、手に持っていた聖剣が突如消えた。

 

【!】

 

 バヴェルは突如消えた聖剣に疑問に思いもう一度、魔法を行使する為に魔力を回そうとするが、魔法が使えなかった。

 

【どういうことだ?】

【無駄だ】

 

 困惑するバヴェルに冷たく言い放つゲブラー。

 そんなゲブラーにバヴェルが睨み付ける。

 

【なにをした?】

【"種族破滅転生"と共に使った"破滅の魔性"は貴様から魔法属性を破壊する】

 

 淡々と真相を告げるゲブラーにバヴェルは表情を変える事はなかったが、両手を強く、血が滲み出すほどに握りしめた為に、大地に血が流れ落ちた。

 

【バヴェルの魔法属性を破壊したことで、魔法を使えないようにしたのですか!!】

 

 ビナーも夫が受けた魔法の効果に怒りを隠せずにいた。

 

【さて、愚かな人間は力を失ったあとは‥‥】

【ゲブラー】

【!】

 

 ゲブラーはバヴェルを脅威の存在として見るのを止めて、人間と神の血を引く子を宿したビナーに視線を向けようとした矢先だった。

 ビナーからは夫や神々の思考に対する怒りが爆発し、静かに殺意を向けていた。

 その殺意に、天府から無理矢理現世へと下界したゲブラーにとって新たな脅威となった。

 

【私が怒るどうなるか‥‥‥わかっていますよね?】

 

 __生誕創成魔法"無限循環生車"__

 

 輪廻を思わせる粒子によって出来た三つの歯車がビナーの背後に創成され、三つの歯車に乗るように魔力と生命力が巡り、歯車が回転する毎に生命の息吹きが膨れ上がる様に魔力と生命力が増幅していった。

 生誕とは、無から新たな命が生まれ誕生すること、"無限循環生車"はその特性を強く秘めており、輪廻によって新たに誕生する際の生命の息吹きを起こさせて、術者に強化を与える事が出来る魔法だ。

 

 その魔法を見るやゲブラーの額から冷や汗が流れていった。

 

【ビナー。なぜそうまでして殺意を向ける?】

 

 ゲブラーはビナーの殺意に理解が及ばなかった。

 神以外の種族が生きる必要を感じていないビナーと一部の神以外の思考と行動はゲブラーの行動と発言からとっても、それが証言されている。

 

【もうあなたたちには‥‥私が怒っている事の理解もできないのですね】

 

 ビナーは自分が怒っている事への理由が理解できないゲブラーに哀れみさえも感じ取った様な声色で呟いた。

 しかし、いくら神とて、子を宿した状態で戦うのはあまりよくない。

 例えそれが、生誕の理を司るビナーであろうとも‥‥

 

 __生誕魔法"生命の誕生に戻りて"__

 

 ビナーが両手を大きく広げては、翼も同様に大きく広げた。

 翼を羽ばたかせるのと同時に両手をゲブラーに向けた。

 すると、虹色の輝きを持った膨大な粒子がゲブラーを襲う。

 その粒子はあまりに膨大にして広範囲に広がっていた。

 

 __破滅魔法"破壊出来ぬモノなし"__

 

 ゲブラーも同様に漆黒の光に金色のオーラを纏った無数の粒子がビナーの"生命の誕生に戻りて"と衝突し合う。

 生誕を起こし続ける虹色の粒子と、破壊だけを引き起こす漆黒の粒子が衝突する中、音無く衝突し、拮抗し続けていた。

 

 そんな中、ビナーが子を守る為に使った結界の魔法陣‥‥‥つまり"誕生の命界"が後押ししていた。

 

 "誕生の命界"=今この時に生まれゆく全ての生物に魔力と生命力を肥大化させながら同時に強固な存在として生み出すための補助でもある。

 

 よって"無限循環生車"と"生命の誕生に戻りて"が結界も加わって強化され続けているのだ。

 強化されていない第5の理神(セフィラ)‥‥しかも、下界する際に現世との間にある門を正式な開門を行なわない限り、下界は出来ても力は削られてしまっている為、本来の第5の理神(セフィラ)としての力が十二分に発揮していないのだ。

 

【くっ・・・ぁぁぁあああ!!】

【消えなさいゲブラー】

 

 ビナーの魔法がゲブラーを埋め尽くさんと覆っていった。

 ビナーは冷徹にゲブラーに死の宣言を告げる。

 

【‥ぅぁあっ!!?‥‥‥】

【‥‥‥】

 

 今のビナーは無慈悲にゲブラーを倒すために戦っている。

 その様は神の名に相応しく一方的なものだった。

 

 しかし、そんな一方的な攻撃を受けてゲブラーは危機的な状況に追いやられていた。

 

【我が消えれば破滅の理も消えるのだぞ!】

 

 ゲブラーは命乞いと許りに怒鳴りつける。

 しかし、戦う前にゲブラーが言い放った言葉を一言一句換えることなく復唱するビナー。

 

【神同士が争うのは不要な理を消すため‥‥‥なんですよね?ゲブラー】

【!】

 

 ギリッ!と歯軋りをするゲブラー。

 彼はビナーの隙を付くために、態と神の死に関する事を告げた。

 しかし、自分が言い放った言葉を一言一句間違える事なく言われ、そして、自身が言った言葉を撤回など神が行なうことではない。

 そう思っているゲブラーは自身の死を犠牲にある魔法を使うことをした。

 

 __破滅呪詛魔法"破極の呪刻印"+破滅創成魔法"破壊の滅槍"__

 

 螺旋状に出来た漆黒の槍に十二個の呪いの刻印が纏わり付き、ビナーへと襲う。

 ビナーの"生命の誕生戻りて"で押し返そうとするが、その槍は一直線上の力を破壊しながらビナーの胸を貫いた。

 

【貴様も死ね】

【がふっ‥‥!】

【ビナーッ!!??】

 

 槍がビナーの身体を刺し、刻印は未だ胎内にいる子供へと向けて侵食していく。

 バヴェルはビナーに近づいた。

 

【これは‥‥】

 

 ビナーは両手で槍を掴んだ。

 "生命の誕生に戻りて"が両手からも起きている為、"破壊の滅槍"を侵食しようとするが、それらが破壊されていた。

 

 "破壊の滅槍"=槍が触れた部分に破壊の因子を強制的に起こし続ける滅びの槍。

 

 その槍に刺さったままのビナーは今尚、破壊の因子が肉体を蝕んでいった。

 

【加えて、"破極の呪刻印"は貴様等の子に破壊衝動を強制的に起こさせる。生まれたが最後。貴様等が守った子が世界を壊し、子を殺せば、貴様の教示が否定される】

【!】

【いずれにせよ‥‥貴様の願いは途絶えるだけだ】

【貴様ァァアアア!!!!】

 

 バヴェルは妻と子供にされた事に怒り、魔力弾しか使えなくなったバヴェルは空しくも、その技を消えゆくゲブラーに向けて放った。

 悪魔に転生されたとはいえ、魔力量に関しては人間時とは比べられないほどの魔力量・・・最低でも上級悪魔(クラス)の魔力量を秘めていた。

 そんな魔力を消えかけのゲブラーが受ければ、どうなるか、素人であろうと簡単に予見できるだろう。

 

 

 放たれた魔力弾がゲブラーに衝突すると、灰をまき散らすように、消えていった。

 

 ゲブラーが消えたのを視認したバヴェルは片膝をつけてビナーの両肩に両手を置いた。

 

【しっかりしろビナー!!】

 

 バヴェルは苦しむ妻にそう言った。

 ゲブラーによって受けた"破壊の滅槍"は消えつつあるが、それは同時にビナーの命の限界にもあった。

 

【あなた・・・最後のお願いを聞いて・・・】

 

 ビナーがそういったことと、槍による攻撃のダメージが重症であることからバヴェルは妻が助からないことに気づいた。

 気づいたからこそ、本当は希望を持たせようと空しさを含んだ言葉を投げかけようとするのだろうが、ビナーにそんなことは意味をなさない事を今までともに生活してきたことから知っていた彼はビナーの願いを聞くことにしたのだ。

 

【・・・わかった】

 

 涙を流さないように堪えながら、バヴェルは彼女の頼みを聞く体制をとった。

 

【この子に・・・混沌の魔力を与えるわ】

【なっ・・・・・・!!?】

 

 ビナーが告げた言葉に流石のバヴェルでも驚愕した。

 混沌の魔力を手にするには色々な条件が必要であることはビナーからも聞いている。

 そして、先代の混沌の所有者は神によって殺されていることも、出会った当初にビナー自身が語っていた。

 

【第3の(セフィラ)第3の|理(セフィラ)は生まれ来る子の力を把握することもできるの・・・この子には・・・・・・世界を救い理不尽を跳ね除ける・・・力を持ってる・・・四つ葉に選ばれた魂までも・・・この子は秘めてるわ】

【だが・・・】

【この子には既に選ばれた人間と神の力がある・・・後は、この子にあなたを封印して産むわ】

【私を・・・?】

 

 ビナーがバヴェルを生まれ来る子供の中へと封印することを告げた。

 あまりの発言にバヴェルでも疑問に思い口遊んだ。

 口遊んだ夫の言葉に肯定するように力なく頷いたビナーは説明を続けた。

 

【神と悪魔・・・選ばれた人間の魂・・・・・・それで混沌の魔力をこの子は手にするわ・・・だけどゲブラーがこの子に与えた呪いを防ぐには反する存在の力がいる】

【だから・・・私を封印するわけか】

 

 ビナーの意図を知った彼は分かり合っていることを伝えるために言葉をつぶやく。

 ビナーも夫の意思に気づいているのか、儚い笑みを浮かべながら説明を続けていく。

 

【あなた・・・この子に起きた呪いを止めてあげて・・・】

【あぁ。約束しよう。この子にかけられた呪いは必ず私が止める】

【・・・ありがとう】

 

 __生誕封印魔法"ライフ・ゴー・ゾンディ"__

 

 バヴェルを覆うように現れた虹色の水の繭。

 水の繭の中へとバヴェルをを入れたビナーは眉の大きさを縮小していき、小石のようなサイズへと変わっていき、膨らんだ胎内へと入れていった。

 その繭は胎児の中へと封印されていった。

 

 __生誕魔法"生命誕生の日"__

 

 バヴェルを胎内にいる子供へと封印した後、ビナーはその胎児を産む為に魔法を行使した。

 魔法として現れた虹色の螺旋が胎内にいる胎児へと包み込んで、胎内から体外へと出てきた。

 その胎児はすくすくと成長していき、赤子へとなった。

 

【あなたの名はアルト・・・】

 

 ビナーはそういうと、赤子の服と篭にアルトと名付けた赤子をくるんだ。

 

 アルトを抱えたビナーは自身の子を抱いた喜びを感じながらも、近くの教会へと一瞬にして移動した彼女はその協会へと赤子を入れた篭を教会の玄関口へと置いた。

 

【ごめんなさい・・・私たちのことに息子(あなた)を関わらせて・・・もっと・・一緒にいたかったわ】

 

 ビナーは涙ぐみながら告げると、教会から離れていき、一瞬でゲブラーが通ってきた天府の通り道にやってくると、封印魔法を行使した。

 

 __生誕封印魔法"誕生封緘・全開放(フルバースト)"__

 

 自身の命を犠牲にした全力の魔力を解き放った。

 それは同時に、彼女の残りの命のすべてを解き放つ・・・つまり代償にするという意味だ。

 

【さようなら・・・あなた、アルト】

 

 虹色に輝く光の粒子となってビナーは絶命した。

 

 ────────────────────────

 

 ビナーの絶命とともに、自身に起きた起源の映像を脳内へと見せられたアルトの意識は目の前の父バヴェルと話していた空間内へと戻っていた。

 戻ってきた意識の中でアルトは考え伏せるかのようにう俯いていた。

 

【これが、私達に起きた出来事だ】

「‥‥‥」

 

 流石のアルトも自身と両親に起きた事に沈黙してしまった。

 

【私はお前の中で、神々を呪い怒り続けることで、新たに消滅魔法を手にした。おかげでお前にかけられた呪いに対抗することができた・・・・お前にとって一度に自身をことを知る行為だ。考えがまとまらないのも無理は・・・】

「そうでもない」

【!?】

 

 バヴェルはアルトが己の出来事に関して傷心しているだろうと思っていたようだが、アルトがそれを否定したのだ。

 

「前々から俺が混沌を手にした理由を知りたいと思っていたし、自身の理由を知れたのは嬉しいことだ」

 

 アルトはそう言いながら、バヴェルの背後にいる虚ろの状態で俯いている悪魔化した自身へと歩んでいく。

 そんなアルトを見続けるバヴェル。

 

「母さんは誰よりも平和を望んだ」

 

 アルトがそういうと、悪魔化しているアルトの手がピクッと反応した。

 

「父さんは世界を、愛する者を守るために戦い続けた」

 

 今度は眉毛の部分がピクリと反応を示した。

 

「俺は報わなければならん。母は平和を望み、父は愛する者ために戦った。ならば、二人の願いをかなえねばならない。貴様はいつまでそう眠っているつもりだ?」

 

 アルトがそういうや否や、悪魔化しているアルトが虚ろだった瞳に光が灯り、俯いていた顔を上げた。

 

【俺はお前であり、お前は俺だ。お前の考えは俺でもある。その考えに変わりはしない。目の前の理不尽を消し去ってやろう】

 

 悪魔アルトがそういうと、悪魔的笑みを浮かべて右手を差し出してきた。

 アルトがその手を取ると、二人のつないだ手から一つの淡い光が発光した。

 光がやむと、そこには悪魔アルトと一つとなり、黒い蝙蝠の翼を生やし、二本の角を生やして上半身が漆黒に覆われたアルトが立っていた。

 

【アルト・・・】

 

 バヴェルは自身の瞳に映った光景に呆然となりながら言葉を呟いた。

 アルトは両手をグッパ、グッパと握ったり開いたりを続けてると、感覚を取り戻したように手を下げた。

 そして、後ろに踵を返したアルトの瞳は悪魔化したときと同じく赤黒く獰猛な一筋の縦線が出ていた。

 

【行くぞ父さん。世界を変える】

 

 アルトの覚悟を決めた顔つきにバヴェルは頷いた。

 

【これからの戦いにおいて、お前の前に神々が現れるのは必然だ。お前はハゲルドと名乗った神を倒したが、私が新たに得た消滅魔法は、お前の中の悪魔の力に覚醒し、習得する以外にお前の身体がもたなかったんだが、まさかこうも早く覚醒するなんてな・・・】

 

 バヴェルは自身の息子の覚醒速度に驚愕半分呆れ半分に呟いた。

 それほど彼の混沌の覚醒に伴う難易度が高いということだ。

 そして、相手が神となると、それなりの難易度が高い戦いが繰り広げられることになる。

 

 神と相反する力を持つ悪魔の力か、同じく神の力に覚醒し、戦わないとアルトの肉体が持たなかった。

 しかし、悪魔の力へと覚醒し、一体化した今のアルトは自在に切り替えることができる。

 つまりは、悪魔と神に対抗する力へと目覚めたことになる。

 

 

 そこに神の力を加えないのは、ゲブラーによる呪いが関わっているため、仕方がないといえる。

 

 

【・・・さて、意識を現世に戻そう。お前を心配している者がいる。安心させてやれ】

 

 バヴェルはそういうと、アルトの意識を現世に戻した。

 己の真実を知る事が出来たアルトは父バヴェルから語られた自分のルーツを知ることによって、悪魔の力を覚醒する事が出来たアルトは、これからくる神々との戦いへの対抗手段を手にして・・・・・

 

 




次回~混沌の王VS破壊の神~


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混沌の王VS第5の理神

漸くできました。

七つの大罪と魔王学院の不適合者の台詞を所々入れてみました。

高評価とお気に入り登録よろしく!



 バヴェルがアスタ達に説明をしている間。

 アルトは悪魔の力を使い神の呪いを受けている神の己自身と相対していた。

 

 悪魔化している為、自分の立ち位置が黒い空間内に立っていた。

 

【貴様はどうするつもりだ?】

 

 アルトは意識を失っていた間、ゲブラーの呪いで暴れ続けていた

 

【‥‥‥】

 

 しかし、呪いに掛かっているからか、俯き、沈黙を貫いていた。

 

 そんな中、一人の存在が神化アルトの近くにいた。

 その存在とは、バヴェルとの対話の際に、彼の力で封じられながらもアルトにさらに縛られていた靄が人の形をしながらも、束縛されていた。

 

【愚かな神の子よ】

 

 人の形をしたゲブラーが語りだした。

 

【ほう。負け犬が何の用だ?】

【神の血を引きし者が、他種族を救うなど愚かな】

【誰が喋っていいと言った?】

 

 アルトがそういうと、ゲブラーに縛り付けた鎖が更に縛り付けられ、口元に猿轡までもがされていた。

 

【さて、漸く話ができるな】

【‥‥‥‥】

 

 悪魔化アルトの言葉に未だ反応を示さない。

 まるで主人が動かさない限り動くことのない人形の如く‥‥‥‥

 

 そんな神化アルトにジーっと見つめ続ける悪魔化アルト。

 その目はまるで観察対象と言わんばかりなものだった。

 神化アルトの近くにいる束縛されたゲブラーが神の力を行使して束縛を破壊しようとするが、一向にそれが叶うことはなく、うぅっ!!?と言葉を告げようにもくぐもりった声がでるだけで、言葉が出ることはなかった。

 

【なるほど、生まれる前の子供に対して呪いを行ったことで、神化はいまだに理性が得られるずにいるということか】

【!?‥‥‥‥っ!!】

 

 アルトがそういうと、ゲブラーが焦りだすかのように身動きを荒々しく始めた。

 そんな破壊の神など気にもせずアルトが神化アルトに左手を向けた。

 

【や、やめろ!!】

 

 焦ったゲブラーが声を荒げながら制止を求める。

 

【聞く気はない】

 

 しかし、アルトがそんな懇願を聞く気など全くなく、囚われている神化アルトに魔法を行った。

 

 __混沌魔法"全呪解放"__

 

 アルトが知る人間が使う文字とはまた違った禍々しい黒色の文字が使われ、神化アルトへと纏わり付き、神化アルトの肉体についていた白く発光するまた別の文字が衝突すると、相殺するかのごとく二つの文字が消え去り、そして、人間が使う文字が神化アルトへと入っていく。

 

【目覚めるがいい】

【‥‥‥‥んっ】

 

 神化アルトに反応が起きた。

 

 ────────────────────────

 

 アルトが精神世界で神化アルトと対話をし、ゲブラーの呪いを解く約5分ほど前。

 

 アルトが<三魔眼>との戦いにて気絶している間に起きた出来事を語り終えたバヴェルは話を終えた頃だった。

 

 話しを聞いていた魔法帝とアスタ、マルクスと七人の魔法騎士団長は沈黙していた。

 誰もがバヴェル達に起きた事を悲惨なモノであるが故に、痛みと苦しみを感じ取っていた。

 

【私は15年間。アルトの中で破壊の神の呪いが発動した際の対応への準備をしていた。それがあの洞窟内で、[白夜の魔眼]内にいた神の一柱との戦いで、相反する力と言える悪魔(わたし)の力が現出した事と、アルトが未覚醒であった事、そして神の呪いへの均衡が崩れてしまったが故に、アルトは神の呪いによって神の力を一時的に現出し、暴れていたのだ】

 

 バヴェルはアルトの出生と自分達に起きた出来事の全てを語ると、今度は洞窟内での一件でアルトが暴走した理由を軽く説明した。

 前置きのように語られた出来事がアルトの暴走に繋がっている事は話しを聞いていた者ならば誰もが理解出来た事だ。

 超が付くほど大馬鹿なアスタであってもだ。

 

「‥‥随分と濃い人生送ってんな。バヴェルの旦那」

 

 ヤミが普段通りな声色で告げるも、彼としても知り合いであるバヴェルに起きた出来事に痛感しているのは彼と苦楽を共にした事のある者や成長を見届けた者からも感じ取っていた為、誰もがヤミの普段通り名声色に抗議する者はいなかった。

 

【そうだな。今の私には息子を守る事と消滅魔法の修行程度しか出来ないだろうな】

 

 アルトの身体越しに喋っているバヴェル。

 自身の無力さへの怒りを漏らす。

 

 しかし、それは何も守れなかった場合のこと。

 今は守るべき息子がいて、尚且つその息子には新たに得た魔法属性・消滅魔法を習得している事から鍛錬への助言などが出来る事に対して喜びを感じていないと言えば、ウソになる。

 

 彼も一児の父親であり、子を愛する親なのだから‥‥‥

 

【‥‥さて、暗い話しはこれでお終いだ。騎士団内部に裏切り者がいたという事は、王都への侵入に関して我々が思った以上に敵が容易である可能性を見つけられたのだ。団長ならば、その事も踏まえて公務を続行しろ】

 

「勝利の剣豪」と言われたバヴェル・キーラとしての助言をアルトの身体越しに伝えた。

 その言葉の一つ一つには二つ名を与えられただけの実力者たる貫禄と重みが乗ってあり、彼を慕うヤミとヴァンジャンスは無論の事。

 他の団長やアスタですらも、気を引き締められる言葉だった。

 

 そんな時だった。

 突如バヴェルの意識に変わっているアルトの肉体が光り輝いたのだ。

 

 ────────────────────────

 

 神化アルトが悪魔化アルトの魔法によって理性を有した。

 

【目覚めた気分はどうだ?】

 

 悪魔化アルトの質問に、先ほどまで俯いていた神化アルトが頭を上げた。

 頭を上げた彼の瞳には明確な意思があった。

 

【随分と寝ていた気分だ】

 

 洞窟内で異変と違ってノイズが一切なく、一言一句に神聖な力が宿っていた。

 どうやらコールドスリープでも受けていた様な状態だったらしい。

 

【今までの会話は覚えているのか?】

 

 悪魔化アルトがさらに質問をした。

 質問の内容から、悪魔化アルトが聞きたいのは、アルトが意識を持って生活をしていた約15年間の記憶の全てについてだろう。

 

【あぁ。意識がハッキリすれば覚えている】

 

 神化アルトは質問の答えを肯定した。

 

 すると、神化アルトの背後からゲブラーが息を乱しながら現れた。

 

【許さぬ‥‥】

 

 ゲブラーの姿は先ほどとは打って変わり、ボロボロな状態であり、口から血を垂らし、目を赤く充血させて、ヨロヨロと近づきつつあった。

 

【ほう。神化の俺が自我を手にした事で消えたと思ったが‥‥】

【しぶとさだけは神らしいということか】

 

 悪魔化アルトと神化アルトがそれぞれ似通った意見をゲブラーに言った。

 

【忌み子の分際で‥‥破壊の神にかなうと‥‥】

【たかが破壊の理だ】

【理不尽な理に俺たちが従う義理はない】

 

 そう言った二人(正確には一人なのだが‥‥)は瀕死の状態のゲブラーに向けて、光と闇の領域が呑み込んだ。

 

【ぐ‥‥ぐぁぁああああああっ‥‥‥!!!???】

 

 ゲブラーが悲鳴を上げながら消えていった。

 ────────────────────────

 

 光が止むと、そこにはバヴェルが憑依したことによってできた悪魔の角が左側だけ消えていた。

 その代わりに左側には洞窟内での時に神化の暴走にバヴェルの悪魔の力によって気絶にした半分状態のときと同様の変化に変わっていた。

 

「洞窟のときと同じに‥‥‥」

「まさか‥‥」

「カカ!裂き応えがあるぜ‥‥!」

「‥‥‥」

 

 しかし、神化が起きているということで、暴走の危険性を感じ取ってしまったアスタやシャーロットは言葉をこぼしてしまい、ジャックは神化したアルトを裂く気満々な表情を浮かべ、言葉をつぶやいていた。

 そしてノゼルも同様に警戒を強めていた。

 

「‥‥‥いや」

 

 しかし、ヤミだけは違うと言わんばかりに警戒をしていなかった。

 

【安心しろアスタ。俺のままだ。暴走はしていない】

 

 話しかけたのはアルト自身だった。

 安心する様に告げたアルトは、肩がこっているかのように、肩を動かしていた。

 

「ざ‥アルト‥‥ぇ‥‥ぇぇえええ!!?‥アルトなのか!?」

 

 アスタは驚きのあまり、聞き返してしまう。

 

【そうだが‥‥?それがどうかしたか?】

 

 何を当たり前のような事を聞くと言わんばかりに告げるアルト。

 

「アルト君。意識が君のままなのは何よりだが、一体何があったんだい?バヴェルの話じゃ、神の力は破壊の神(ゲブラー)によって呪われていると聞いたんだが‥‥?」

 

 アルトのままである事を知ってホッとするユリウスが代表となってアルトに訪ねた。

 

【父さんが貴方たちに説明している間、暇だったんでね。神の呪いを破り、覚醒させただけだ】

『‥‥‥‥』

 

 なんともないような発言をしたアルトに、アルト以外の誰もが、彼を規格外と言わんばかりに沈黙に包まってしまった。

 そんな彼らの思いなど気にしていないのか、それとも気づいていないだけなのか‥‥まぁ、アルト本人しかわからないが、彼は自身の手を眺めると、視線を厳しくした。

 

【やはりか‥‥】

「?なにがやはりなんだアルト?」

 

 アスタはアルトが溢した言葉が気になったのか、訪ねた。

 

 __混沌魔法"森羅の改変者・掌握(ファナティオ)"__

 

 アスタの質問に答えようとはせずに、アルトが右手に青白い魔力が宿る。

 突然に魔法を行使した事で、驚愕する魔法騎士団。

 

 誰もが魔法で対抗しようとするが、ユリウスが手を上げた事で、団長たちに止めるように指示している事に気づき、怪訝しながらもアルトの挙動の全てを警戒していた。

 

 しかし、その警戒は無用のモノだった。

 

 

 アルトは青白くさせた手を己の胸に突き刺したのだ。

 この行動を、シャーロットとノゼルは見覚えがあった。

 [白夜の魔眼]による王都襲撃後に、受けてしまった毒魔法を体内から取り出した方法である。

 

 今回アルトが取り出したのは神聖な魔力を発行する、黒光りした小さな発光体。

 

【どうやら完全に消滅させる必要があるようだ】

 

 アルトがそう言うと、掴んだ発光体を放り投げた。

 すると掌を広げて発光体へと向けた。

 

 その掌から魔法陣が浮かび上がった。

 魔導書も別のページへと開かれると、その魔導書に書かれた文字が光り出す

 

 __混沌生誕魔法"誕生命主"__

 

 アルトの掌の魔法陣が光り輝くと発光体が突如、姿形をなしていった。

 その形とは人の形をしており、形をなすと、光が止んだ。

 光が止み、発光体の正体が姿を現した。

 

 その容姿は中年男性ほどの顔立ち、頭に無数のXによって出来た光輪を持ち、漆黒の生地に金の線が入った男性用の衣服を着用していた神‥‥‥‥バヴェルとライフに被害を与えた張本人__________第5の理神(セフィラ)ゲブラーだった。

 

【っ!?‥‥‥‥】

 

 ゲブラーは自身が現世に蘇った事に驚いていた。

 同時に、アスタ達は異様な力‥‥神々の神聖な魔力に威圧され、冷や汗を出していた。

 

【フフフ‥‥‥愚かなり忌み子。態々第5の理神(セフィラ)たる我を蘇らせようとは‥‥】

 

 自身を蘇らせたアルトにそう告げるゲブラー。

 

「ざ、アルトさん!なぜ第5の理神(セフィラ)を蘇らせたんですか!!?」

 

 ゲブラーの言葉を聞いて、ユリウスの側近であるマルクスがアルトへと抗議した。

 

【ほう。何度も俺に拘束されては煮え湯を飲まされいる者が、随分とほざくじゃないか】

【なんだと‥‥‥!!!?】

 

 アルトの挑発に乗ったゲブラーは体中から破滅の魔力を奔流させた。

 その魔力は触れるモノ全てを破滅させんと言わんばかりに、足下を破滅させていった。

 セフィロトの樹から無理矢理に出たばかりだった場合は力が弱まり、その魔力量と使える魔法が極端に低下する。

 

 故に人間の状態だったバヴェルはゲブラーと渡り合う事ができたのだ。

 

 

 しかし、今回は違う。

 アルトがバヴェルによって見せられた過去から手にした生誕魔法によって生誕したのだ。

 神々は生まれた時点で各々の理の強さによって強大となる。

 破滅の理は「破壊と消滅」が合わさった理であり、十二の神は世界の理の基礎となった神々だ。

 その魔力量は王族であるノゼルの魔力を1000とした場合、その約1000倍近くの力になる。

 

 それは世界の理の基礎である事も加わっているのだろう。

 

『!!』

「な、なんだこれはぁぁぁああ!!!」

 

 故にあまりに強大な魔力にユリウスと魔法騎士団長は最大限に警戒を強め、魔力感知ができないアスタは破滅していく足下の状態に絶叫していた。

 しかし、挑発した当の本人は涼しい顔をしていた。

 

【それがどうした?】

【なに?】

 

 アルトがそう言うと、混沌の魔力でこの場を覆った。

 混沌の魔力に覆われた事で破滅の魔力が届かなくなった。

 

【フッ!!】

 

 アルトが淡く笑みを浮かべながら告げた。

 

【どういうことだ?】

 

 ゲブラーはあり得ないと言わんばかりにワナワナと体を震えさせていた。

 

【混沌の魔力で、この場を覆った】

【馬鹿な‥‥‥】

 

 ゲブラーは自身の破滅の力が混沌によって軽く消え去った事に驚いていた。

 ゲブラーの破滅の理は星の半球を破滅させる事ができる程のものだ。

 それを覆したのは、アルトが第四まで覚醒したからこそであり、悪魔と神の力も覚醒したからこそでもあり、アルトがゲブラーの魔力を混沌の魔力で、一室程度にまで抑えているからこそだ。

 

 第一の覚醒で高魔力の種族エルフレベルの魔力量、第二は国を、第三は悪魔や神を倒すほど、第四は四カ国を覆うほどの魔力量だ。

 アルトは覚醒すればするほどに世界すらも凌駕しうる存在なのだ。

 

 故に、半球程度を破滅させる理など、彼は何れ大きく覆す事など容易いモノとなる。

 

【忌み子など人間などと見下し、神以外の種族を消し去ろうとしていたようだが、その忌み子に負けている気分はどうだ?】

【我は破滅の司る神なり。第5の理神(セフィラ)に破滅できぬものなし】

 

 ゲブラーがそう言うや否や、更なる破滅の魔力が溢れだし、ゲブラーは半球を破滅させる魔法を行使した。

 

 __破滅魔法"森羅破滅"__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 業火。

 

 

 その一言でしか表すしかない光景だった。

 いや、業火のように見えるというだけなのだろう。

 

 混沌によって覆われたこの一室を破滅させ、世界の半球をも破滅させようとする第5の理神(セフィラ)ゲブラーの最大の理は破滅の力を森羅を燃やす業火の様に燃え広がろうとする。

 

 ユリウスや魔法騎士団長達が用意していた魔法が全て、悉く破滅へと燃え尽きようとし、アスタの(アンチ)魔法ならば対抗できたが、大剣の大きさ分しか抵抗できず、アスタ自身は何も効力がない。

 洞窟内でリヒトの巨大な魔法を撥ね返すと言って、ヤミに剣だけが残ると言われた通りの状況へとなるだけだった。

 

「ど、どうすれば‥‥‥」

「僕の絵も、まともに描けないですよ!!?」

「お姉さんの魔法でも無理だね~」

「お前、そんなキャラだったの‥‥?」

 

 マルクスはこの状況下をどうするか焦っていた。

 彼の言葉に追い打ちをかけるように、リルとドロシーも参ったと言わんばかりに自分の状況を告げる。

 ヤミは起きたドロシーの性格に驚いていた。

 

「だったら俺の剣で斬れば‥‥」

「はい、馬鹿。剣だけ残る」

「いやぁぁああああ!!!」

 

 なんとか抵抗しようと声を出しながら、思考し続けながる魔法騎士団長たち。アスタとヤミの会話はかの洞窟内でリヒト相手に溢していた会話とあまりに同じなため、ヤミは内心、デジャブを感じていたは彼だけしか分からないことである。

 

(茨を出そうにもすぐさま消されている!)

(裂こうにも刃すら出させねぇ‥‥)

(魔力の制御(コントロール)さえも破壊されている)

(時間の干渉まで滅んでいる‥‥私の魔法でも対処できない)

 

 ユリウスもこの破滅への対処が思いつくことができず、苦悩していた。

 この時、ユリウス達は漸く知った。

 人間と神との差を‥‥‥

 

 しかし、その差は簡単に覆った。

 

 

 アルトの瞳に"混滅の魔眼"が描かれた。

 その魔眼はゲブラーの破滅の理を上書きして滅ぼし尽くしていた。

 

【ば‥‥‥馬鹿なっ‥‥!!?】

「‥‥あれ?消えてない」

 

 アスタは自身が消えていない事に自身の体を見回す事で確認していた。

 

【世界の半分を破滅させるからと言って、俺が滅ぼさせるとでも思ったか?】

【何なのだ貴様は‥‥破滅の理が通じぬ‥‥‥】

 

 この時、ゲブラーはバヴェル以上にアルトがどれ程の危険なのか、そして、自身が生み出す事になった存在の実力に恐怖し怯え始めた。

 

【忘れたかゲブラー。世界は混沌によって生まれた。この世界は余さず混沌(おれ)の庭だ。我が庭で混沌に挑むのがどういうことか、貴様に教えてやろう】

 

 アルトがそう言うと、彼の影からゆらりと上空へと伸びていく。

 

【[勝利の剣聖]か。父さんはまさしく英雄だ。刀剣と消滅がなければ、この魔法はできなかった】

 

 伸びていった影がアルトの右手の掌へと付いた瞬間。

 その姿を剣へと変容し、影が反転して実体を持った。

 

 __混沌消滅創世魔法"理滅魔剣ヴェヌズドノア"__

 

 闇の長剣へと変容した魔剣を手にしたアルト。

 

【い、いや‥‥‥我が忌み子如きに負けるわけがない‥‥!!!】

 

 __破滅創世魔法"破滅神鞭フレイラー"__

 

 棘の鉄球が付いた棍棒型の鞭___フレイルの形をした神の鞭が現れた。

 

 ゲブラーは鎖で繋がった鉄球を振り回した。

 

【この鞭は振り回せば回すほど、破滅の威力が上がる。我の前に破滅できぬものなし!!】

 

 振り回した鉄球を振り下ろしたゲブラー。

 それを手にした長剣で軽く振るった。

 

 すると、長剣の刃が破滅の鞭に当たると簡単に切り落とした。

 

【‥‥‥‥ッ!!?】

【破滅の鞭を振り下ろせば、俺の剣を破滅できるとでも思ったか?】

 

 斬られた破滅の鞭が粒子となりて消えていった。

 

「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」

「すげぇぇぇえええ!!!」

 

 魔法マニアと、アルトをライバル視するアスタは盛大に驚いていた。

 他の騎士団長達も声を出してはいないが、神の魔法を容易く攻防しているアルトに驚愕していた。

 

【運命は変えられん。貴様らの破滅は世界の摂理‥‥神の定めし運命。なればこそ、愚かな貴様の父も、異種族の生誕を願う愚かな第3の理神(セフィラ)も、消えて然り】

 

 ゲブラーは言ってはならない事を言ってしまった。

 アルトは先程以上に険しい表情にてゲブラーを睨み付ける。

 

【母さんは誰よりも平和を望み、新たな生誕の可能性を願った。父さんは世界を、愛する者を守る為に、奇跡を信じて戦った】

【貴様は誰も護れはせん。奇跡など起こらぬ!!】

 

 新たに創世し直した破滅の鞭の鉄球を巨大化して振り下ろすゲブラー。

 

 そんな鉄球の棘を混沌の魔力で覆った左手で楽々と掴んだアルト。

 

【我が両親が魂を込め、健気に口にし、血の滲む努力を、嘲笑われて、黙っていられる息子(おれ)ではないぞ】

【先から何だ、その言葉は‥‥‥王にでもなったつもりか?愚かな忌み子よ】

 

 ゲブラーは自身の成すことを全てを悉く阻止されるばかりに、怒りを隠せずにいた。

 

【王とは何だ、ゲブラー?力か?称号か?権力か?】

【その全てだ!!!!】

 

 自身の膂力を振り絞って押しつけようとするゲブラー。

 しかし、1mmも動くことはなかった。

 

【いいや、どれでもない。俺が俺であると言うこと‥‥それが王だ。平和が欲しければ俺が創ってやる。可能性が欲しければ無限の物にしてやる。絶望からも守れる奇跡が欲しければ俺が永劫の本物にしてやる。願うな。祈るな。唯々我が後ろを歩ませてやる。全てに降り注ぐ、ありとあらゆる理不尽を俺が永劫に潰し尽くす】

【愚か‥‥この世界に永劫など無い。そんな物は矛盾だ。混沌だ!!!】

 

 ゲブラーがそう言うと、この一室が静寂になった。

 

【えっ‥‥?】

「カカ!認めちまってるぜアイツ‥」

「語るに落ちたな」

 

 呆けるゲブラーにジャックが笑い、ノゼルは呆れた。

 

【そうだ。俺が、混沌の王だ】

 

 そう言ったアルトが掴んだ鉄球の棘を引っ張ると、釣られてやって来たゲブラーに手にするヴェヌズドノアを振り下ろした。

 振り下ろされた長剣の刃があっさりとゲブラーの両腕を両断する。

 

【っ!!?ぁぁぁあああああ!!!?】

 

 悲鳴を上げるゲブラーにアルトが両足を斬り落とす。

 

【あり得ぬ!?神の理が‥‥】

【恐怖と共に頭蓋に刻め!俺が混沌の王。アルト・キーラ】

 

 アルトがそう言うと、ゲブラーの全てを滅ぼす様に頭蓋へと長剣を突き刺した。

 

 突き刺された長剣がゲブラーの全てを消し去るように神の心臓ごと、全てを滅ぼしていった。

 

【おのれ‥‥‥世界の理に背く‥‥‥理外者が‥】

 

 ゲブラーはそう言い残すと、今度こそ完全に消え去った。

 一切の力の欠片すら残さず‥‥‥‥

 




次回~10番目は[混沌の王軍]団~


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10番目は[混沌の王軍]団

 シェヴァが完全に消え去ると、シェヴァによって溢れていた破滅の魔力が完全に消え去った。

 

 これによって、アルトは覆っていた混沌の魔力を消した。

 

「凄いね凄いねぇ!!破滅の神の魔法を簡単に消し去るなんて────!!!」

 

 魔法マニアのユリウスがアルトへと近づいた。

 

「ま、魔法帝‥!!?」

「いったい、どんな魔法なんだい~~~?気になって仕方がないよ~~」

 

 マルクスが注意しようとするが、ユリウスが無視してアルトに質問した。

 

【混沌消滅創世魔法"理滅魔剣ヴェヌズドノア"。あらゆる理を滅ぼす我が魔剣だ】

 

 それを聞いて騒いだのはユリウスだけではなかった。

 賢い者ならば直ぐさま理解出来ただろう。

 

 "理滅魔剣ヴェヌズドノア"の前には不可避であると‥‥‥

 

 洞窟内での一件から僅か2日ほどの間に、悪魔と神の力へと覚醒し、理へと干渉し、世界の半球を破滅出来るシェヴァを相手に余裕綽々と勝利を収めた。

 

 余りな実力と成長速度に騎士団長や魔法に興奮しているユリウスが各々の気持ちを感じ取っていた。

 

 アルトが長剣を消しさると、自身の胸へと視線を向けた。

 今のアルトは以前よりも遙かに世界の‥‥いや、(マナ)の深淵へと近づきつつある。

 

【さて、仕上げとするか‥‥】

 

 __混沌生誕魔法"誕生命主"+混沌魔法"封呪解放"__

 

 アルトがそう言うと、先程のシェヴァを誕生させた魔法"誕生命主"と"封呪解放"を自身に掛けた。

 

 すると、アルトの身体から光と闇に輝く発光体が一つ解き放たれた。

 その光と闇に輝く二つの発光体がシェヴァの時と同様に姿形をなしていった。

 

 すると、二つの発光体の姿形がそれぞれ違う形へと変わっていく。

 一つはシェヴァと同様の魔力を発生させ、もう一つはアルトが出す禍々しい悪魔の魔力を発していた。

 

 すると、光の発光体から頭頂部と水平になるように光輪があり、純白のドレスを身に纏った豊かな胸部を持つ女性が生まれ、闇の発光体からは中年男性ぐらいの顔をした自身と同じ様な角と翼を生やし、尻尾を生やしていた存在が生まれた。

 

 アルトはシェヴァを倒した後に新たな神と悪魔を誕生させたのだ。

 アルトは神と悪魔の力を同時発動させた状態を解いた。

 

「目覚めた気分はどうだ?」

 

 アルトはそう訪ねた。

 

【これは‥‥】

【もしかして‥生誕を使ったの‥‥?】

 

 男女は自分達が生まれた事に驚いていた。

 

「そうだ。俺の中に封印された父さんを解放し、俺の中にある母さんの遺伝子から一つの命として生誕させた」

【アルト。神を生み出す事も出来るようになったのか?】

 

 封印から解放されたバヴェルは驚嘆していた。

 そんなバヴェルの言葉に、隣に立っている女性がピクリと反応した。

 女性はアルトへと視線を向けると、驚きを表す様に目を見開き、目尻に涙を浮かばせていた。

 

【アルト?アルトなの?】

 

 女性がワナワナと身体を震わせながら、アルトへと近づき続けた。

 

「あぁ」

 

 アルトがそう言うと、女性が両手を広げてアルトへと抱き締めた。

 女性はクスックスッと涙を啜っていた。

 

【こんなに‥‥‥大きくなって‥‥】

 

 ギュッと抱き締める女性こそ、アルトの母にしてバヴェルの妻。

 世界の生命の生誕の理を司る女性型の神、ビナー本人である。

 

【‥‥‥】

 

 そんなビナーにバヴェルは苦笑しながらも、眺めていた。

 他の魔法騎士団長たちやユリウス達も沈黙していた。

 バヴェルの話しを聞いて、母子の時間を許したのだ。

 

「‥‥‥母さん」

 

 アルトが抱き締めるビナーに感涙でも受けたのか、少しばかり声がくぐもっていた。

 彼にとっても母親の温もりを受けるのは初めてのことなのだから、彼が涙を流すのも無理は‥‥‥

 

「苦しいから離してくれ」

 

 ドタッ!!!

 

 

 

 

 

 

 ‥‥‥‥まったく違ったようだ。

 

 

 アルトの言葉にバヴェルも含めてアルトとビナー以外がずっこけた。

 ビナーに抱き締められた際の膂力があまりに強かった為、苦しくて声がくぐもっていただけのようだ。

 しかし、アルトがそういうのも仕方のない事だ。

 先程からアルトの身体からミシミシと音が鳴り響いていた。

 

 そんなアルトを見かねてバヴェルが離す様に告げた。

 

【‥‥‥ビナー。アルトを離してやれ。アルトの身体から不穏な音が鳴ってるぞ】

【ぁあ!?ごめんなさい!!】

 

 ビナーは慌ててアルトを離した。

 

 アルトは首を軽く回したり、肩を解す様に動かしていた。

 母からの抱擁力が強かった証拠だろう。

 

「‥‥ふぅ」

【大丈夫か?】

「あぁ」

【ごめんなさいアルト】

「気にするな母さん」

 

 アルトは両親からの心配に問題ないと告げた。

 

「そろそろいいかな?」

 

 そんな親子の会話にユリウスが話しに介入していいかを訪ねた。

 

【すまんなユリウス。いいぞ】

 

 そんなユリウスにバヴェルが肯定した。

 

「君がバヴェルの奥さんだね?」

【初めまして。クローバー王国現魔法帝ユリウス・ノヴァクロノですね?私が第3の理神(セフィラ)ビナーです】

 

 ユリウスの問いにビナーが自己紹介を行なった。

 

「ビナー神。君がバヴェルと接触した理由は聞いたよ。君のように僕たちに味方をしてくれる神とは誰何だい?」

「?どうしてそんな事を訊くんすか、魔法帝?」

 

 アスタがユリウスの質問に理解が出来なかった。

 

「敵味方をハッキリさせる為に確認しているだけだ」

 

 理解出来ていないアスタに説明するアルト。

 

【私以外の十二柱は全員。神々だけの世界を主張しています。ですが、セフィロトの樹を司る十一柱の三神だけは私と同じ様に、他の神々の意見を叛旗しています】

 

 アスタが理解した事でビナーが返答していた。

 

「因みに、君たち神々の理の基準はいったい何だい?」

 

 ビナーの話しを訊いて話しを続けたユリウスは新たな質問をした。

 

神々(われわれ)が司る理は一つの秩序の表裏に分れた兄弟姉妹の神なのです】

「秩序の表裏?」

 

 ビナーの言葉にシャーロットがそう呟いた。

 

【はい。私の場合は生命体の秩序の表に位置する理を司っています】

 

 ビナーはシャーロットの呟きに答えた。

 

「えぇっと‥‥どういう意味ですか?」

 

 馬鹿なアスタにはわからずだった。

 

「つまり、動物や植物などの生き物には生と死の表裏(おもてうら)があり、母さんは生の理を司っているという事だ」

「なるほどぉぉぉおお!!」

 

 アルトがアスタに説明した事で、漸く理解したのだった。

 

【秩序に反したらどうなるんだ?】

【‥‥‥】

 

 バヴェルの質問にビナーは頭を横に振った。

 

【わからないの】

「わからないだと?」

 

 ノゼルがそう呟いたため、頷いた。

 

「神が秩序を反した事がないからだろう」

 

 そんなノゼルの疑問にアルトがビナーの代わりに返答した。

 

「それじゃあ、どうなるか分からずじまいということですか?」

「いや」

 

 マルクスがそう呟いたが、それぞ否定するアルト。

 

「神々の中で、生命体の生誕を司る母さんだけが、十二柱の間で秩序を反した‥‥いや、母さんや終焉の神以外の神が秩序に反したという事だ」

【?どういうことだアルト?】

 

 アルトが何を言っているのか理解できなかったバヴェルは訪ねた。

 

「つまり、母さんの生誕は全ての種族に当てはまる。だが、他の神々の思考は神以外の種族の生存のみだった。それは母さんの理と秩序に反するモノであり、母さんにとっては異端だったからだ」

 

 アルトの説明に誰もが耳を澄ますように聞き入っていた。

 

「母さんは理に反しておらず、生命体の死・終焉の理を司る神にとっては、神以外の死は理に反してなどいないという事でもある。逆に言えば、死ぬ存在が神以外も含まれているということだ」

【確かにそうだけど‥‥】

「母さんは生命体の第3の理神(セフィラ)。神以外の種族も含めて生誕してこその理、終焉の神は生命体が死ぬ事が理。つまり、終焉の神が、神を含む生命体が何人死んだとしても、理に反していないため、叛旗しなかったんだ」

「なるほど。つまり、神々の理は条件によって、神々の意志によって敵対するわけだね」

 

 アルトが告げた言葉は正しい理解だった。

 

 ビナーは生命体の生誕。

 つまり、全ての種族の誕生こそが、彼女の理なのだ。

 これに、一種族だけの生誕は彼女の理に反し、秩序に不安定な状態をもたらす。

 

 よって、ビナーはそんな不安定な秩序を発生させない為に、行動したのだ。

 

 

 終焉の神が動かないのは、その神の理が生命体の死であるからだ。

 その中に、人間や動物たちの死が含まれているため、一つの種族が消えるのではなく、生命体が死ぬ事が理な為、不安定な秩序が起きる事がない。

 故に行動する必要がなかったということだ。

 

「でも、それがどうして秩序に反したのが他の神々になるの?」

 

 ドロシーがアルトへと訪ねた。

 

「母さんが死んでから、生まれた命があるからだ」

『!!』

 

 アルトがビナーが死んだにも関わらず生誕があった事を指摘した。

 

「神の理は死ねば消失する。ならば何故、第3の理神(セフィラ)が死んでも新たな命が生まれた?答えは簡単だ」

 

 アルトはまるで確信しているかのように、告げた。

 

「全ての神々を操る神がいて、ソイツが理を知り、能くする。謂わば、全知全能の神が裏にいるということだ」

『!?』

 

 アルトの言葉に誰もが驚いた。

 星にとって世界の成り立ちとなる六つの秩序。

 その秩序の表裏たる理を司る十二柱の神をも操る神。

 

 正しくその存在は、全てを知り、全てを能う神の王だ。

 

 そんな存在が人間や他の生命を殺そうと画策している事をアルトに指摘されるまで一切気づけなかった第3の理神(ビナー)消滅の悪魔(バヴェル)、魔法帝ユリウスと側近のマルクス、そして魔法帝によって最強の称号を与えられた団長たちに特異な(アンチ)魔法を持ったアスタ。

 

「母さんのみならず‥‥」

 

 アルトは壁に向かってただの(・・・)魔力弾を撃った。

 

 すると魔力弾は壁を壊した。

 

「世界の破滅の理が消えたのならば、壁が壊れるはずもない」

 

 アルトはそう言うと、彼の仮設に立証性が増した。

 

「これで、神々を操る神がいる事が分ったな」

『‥‥‥‥』

 

 アルトの言葉に誰もが沈黙に染まった。

 

【となると、魔法騎士団には神々に関する調査を行える団を作ったほうがいいだろうな】

「そうだね」

 

 バヴェルの言葉にユリウスが了承した。

 

「し、しかし、調査が出来る団なんて‥‥」

「アルト君がいるだろ?」

 

 講義するマルクスにユリウスが名指しする。

 ユリウスはアルトに身体を向けた。

 

「アルト君。君を大魔法騎士を授与し、10番目の団長として神々の調査を命ずる」

 

 ユリウスは魔法帝としての態度で、そう言った。

 

「ええええええぇぇぇぇぇ!!!大魔法騎士ぃぃぃぃっ!!?」

 

 ライバルであるアルトが突如大魔法騎士となり、クローバー王国10番目の騎士団長として任命された事に盛大に驚愕するアスタ。

 唯でさえ、アルトの出生が驚くきの連発であり、目の前で破滅の神を殺し、第3の理神(セフィラ)を誕生させ、消滅の悪魔の封印を解放した。

 

【それって、凄いの?】

 

 全てを知っているわけではない為、ビナーはアスタが驚いている事に、どれ程の凄いことなのかを夫に尋ねた。

 

【大魔法騎士はクローバー王国を守る騎士団を纏める最強の称号を与えられた長達の事だ。しかも、アルトの様に一年も待たずに大魔法騎士になるのは特希なんだ】

【そうなんだ】

 

 神々の呪いによる暴走の一件を差し引けば、アルトは危うい魔法属性を持つ者を相手に何度も倒した。

 その中には、先程の破滅の神シェヴァも含まれている。

 そんな存在を倒していったアルトは神と悪魔‥両方の力を宿した混沌を司るからこそ、ユリウスは彼に調査を頼んだのだ。

 

「了解した」

 

 アルトは親指と小指をくっつけるようにして数字の3を指で表した状態にすると、その手を胸に置くように敬礼をした。

 

「バヴェル。君はどうするんだい?」

【息子を手伝うとつもりだ】

【私もです】

 

 二人の返答を聞いたユリウスは頷いた。

 

「では、アルト君の新たな団名は後で話すとして、[白夜の魔眼]と神々の対処を考える必要がある、先も言ったが、団員に反政府と繋がりがないか確認し、神々と戦えるように、鍛える様にしてくれ」

『了解!』

 

 ユリウスの命令に魔法騎士団長とアスタ、アルトは敬礼して承った。

 

 ────────────────────────

 

 ユリウスの言葉を最後に、アルトとバヴェルとビナー。ヤミとアスタを除く魔法騎士団長は各々のアジトへと帰還した。

 しかし、一人の魔法騎士団長の姿がボロボロと、魔力の粒子が消えていくと、その中から現れたのはなんと、[白夜の魔眼]の<三魔眼>が一人。

《不実》のライアだった。

 

「いやぁ。ウチ良い演技したわぁ」

 

 そんなライアは背後などを気にしながら独り言を呟いた。

 

「にしても、まさかあんなにヤバい子に転生しているとはね。こりゃ、彼がいないように仕向けた方が良さそうだね」

 

 アルトの事を聞いていたのか、そう結論づけると、空間魔法によって開かれた黒い穴へと歩を進め、その場を去った。

 

 ────────────────────────

 

「ゲルドルの件は悲しいね。一緒に戦ってきた仲間が裏切っていくというのは‥‥僕は全力で走ってきたが、たくさんの間違いを見落としてきたのかもしれない」

【そんな話しをするなら、俺一人にしろ】

 

 別室へと呼ばれた5人。

 

「先ずはアルト君の魔法騎士団の名前を決めよう。何か提案はあるかい?」

 

 ユリウスはアルトに団名に関して尋ねた。

 

「そうですね。簡単に[混沌の王龍]団でいいでしょう」

 

 そう言うと、彼は創成魔法を駆使して、自身の[紅蓮の獅子王]団のローブの色を渦巻き状にした白と黒色へと変色させ、胸にある獅子のエンブレムが互いの尻尾を加えて円を描く様に創り変えた。

 

「それじゃあ、そのローブで発注しておくよ」

 

 アルトが創り変えたローブを見て、ユリウスは団員用のローブの発注を告げた。

 

「他の団長の許可を貰えば、団員を連れて行く事も出来るよ。どうする?」

「では、マリエラとファンゼル・クルーガー、そしてドミナント・コードを連れて行かせて貰います。(約束もあるしな)」

 

 アルトが名指しした人物を聞いて頷くユリウス。

 

「それじゃあ、アルト君への要件は終わったよ」

「では、帰らせて貰います」

 

 そう言うと、アルトが空間魔法で[紅蓮の獅子王]団アジトへと両親を連れて転移した。

 




次回~新たな道のり~


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第四章~無域異界ラグヴァベイン編
新たな道のり


新入社員として仕事に追われる日々になりましたが、時間を掛けてでも投稿し続けますので、応援よろしくお願いします。

ゲルドルの裏切り以降から[黒の暴牛]団の海底洞窟までの間はオリジナルですので、本編に入るまで少々お待ちください


 大魔法騎士就任したアルトは両親を連れて[紅蓮の獅子王]団のアジトへと転移した。

 

 その際、転移して帰還したアルトの付けているローブと、彼の背後にいる異種族‥‥‥つまり、神と悪魔を見て驚く[紅蓮の獅子王]団員たちを無視しながら副団長ランドールへと接触した。

 

「アルト。後ろの彼等や君のローブはいったい‥‥」

「全てを話しますので、マリエラの入れて別室で話させて下さい」

 

 アルトの頼みにランドールは沈黙に包まれていたが、すぐさま了承し、マリエラを呼んで別室で話しをすることを決めた。

 

「‥‥わかった。あそこの部屋を使おう」

 

 ランドールが部屋を指定したので、アルトはマリエラの魔力を感知して強制的に空間転移させた。

 

「!?‥‥‥アルト、ランドール副団長。いったい何の様ですか?」

 

 マリエラは空間転移された事に最初は驚いていたが、自分の前にアルトとランドール、そして、彼女にとって初対面であるアルトの両親を睨み付けながら自分を呼んだ理由を尋ねた。

 

「マリエラ。俺は先程、クローバー王国10番目の騎士団の団長を就任した。その団にお前を勧誘したい」

「私を‥?」

 

 マリエラは唯々、純粋な疑問を抱いた。

 そんなマリエラにアルトが応えた。

 

「何、10番目の団が出来た理由は以下の通りだ」

 

 __混沌記憶交信魔法"記憶共有"__

 

 そう言うと、アルトがマルクスの記憶交信魔法を使い、先程までの記憶をマリエラとランドールに見せた。

 

「‥‥っ!?」

 

 二人は驚愕を隠しきれなかった。

 それもそうだろう。

 

 この[紅蓮の獅子王]団の団長が意識不明に陥った理由は、[白夜の魔眼]の当主リヒトにあるが、そのテロリストを王都へと手引きした者が何と[紫遠の鯱]団の団長であること、そして、アルトの出生と神々の脅威‥‥

 

「やはり、神と悪魔の力を有していたか」

「レグルス」

 

 マリエラの背後から小さな吹雪と共に現れた獅子幻獣レグルス。

 レグルスはアルトの背後にいるアルトの両親を獰猛なその瞳で睨み付ける。

 

「第3の理神(セフィラ)と悪魔に転生された元人間とはな」

【まさか‥‥五本に入る幻獣族最強角の一角、レグルス。まさか契約者が現れるとは‥‥】

【悪魔と神すらも喰らう種族か。アルトの中から見ていたが、なぜこうも危機感を感じる?】

 

 ビナーはマリエラの契約幻獣たるレグルスを見て驚愕しており、バヴェルは奇妙な悪寒が走っており、その悪寒が危機感から来るモノだと彼の経験から感づいていた。

 

 そんな彼にビナーが教えた。

 

【それは、幻獣族だからです】

【?どういう事だ?】

 

 バヴェルはどういうことかわからずビナーに再度尋ねた。

 

【幻獣族は神と悪魔を喰らい、二種族の力の耐性、二種族への強い恐怖心を与えますが、その代わりに精霊の力にとても弱く、耐性を持たないの】

「つまり、悪魔化した父さんと、神である母さんは幻獣族の強い恐怖心によって危機感を覚えたんだな」

【なるほどな】

 

 親子で幻獣族についての会話をする。

 親を持たずに15年間教会で育ったアルトにとっては新鮮な事はないだろう。

 

「しかし、洞窟内でアルトにその様な気配は感じられませんでしたが?」

「神と悪魔の力を宿そうと、混沌の魔力が幻獣族の能力を抑制していたのだろう」

【混沌は全ての原典です。つまり、幻獣族の力を見たアルトが習得していたのでしょうね】

【どちらにしろ。神の力を秘めた魔法を喰らっていたのは事実だろう】

 

 バヴェルはアルトの身体を通して、洞窟内での一件を見ていた為、レグルスの能力を見ていたのだ。

 実際に、神の力が加わった魔法を凍結させていた。

 

 よって、神と悪魔の力を宿し、行使出来るアルトにとって、幻獣族は厄介な種族とも言える。

 

「‥‥‥話を戻しませんか?」

 

 そんな中、ランドールがそう言った。

 確かに、彼等の話は先ほどまでの一件から幻獣族の話へと脱線してしまっていた。

 

「そうですね。共有した記憶の通り、10番目の団には神々の調査が含まれる。神と悪魔の力に特攻的な特性を持つ幻獣族と契約したマリエラ。それに魔導士の教育を行なっているファンゼル・クルーガーに10番目の団で魔導具開発の責任者としてドミナント・コード。そして俺の両親の計6人が10番目の団[混沌の王軍]団のメンバーだ」

 

 アルトが名指ししたメンバーが[混沌の王軍]の団員に当たる。

 

「先生たちもですか?」

「神々の調査で得た結果からドミナさんに頼んで開発を進めさせる。ファンゼルには後の新人達の戦闘教育をする事で、神々の戦いのために備えて貰う」

「‥‥先生にダイヤモンドと同じ事をさせるんですか?」

「長所は生かしてこその長所だ。それにファンゼルに頼むのは、新人団員に対する力の使い方と力の使い処に関する授業だけだ。加えて魔法騎士団としての任務も行なって貰う」

 

 アルトがそう告げるとマリエラは少しの間考えるような表情で、沈黙していた。

 

「わかりました。でも、もし先生達にそれ以外の事で強要しようとしたら、私は貴方と戦います」

 

 マリエラは約束を保護しなければアルトに敵対すると告げた。

 

「いいだろう」

 

 そういうとアルトは足下に空間魔法の魔法陣を作りだし、空間転移した。

 

 __混沌空間魔法"転移"__

 

 アルトの目の前が真っ白になった。

 一瞬の間に起きた真っ白な景色が無くなり、目の前に王都の守護を行なっている魔法騎士の強化訓練用に作られた施設の前へと転移していた。

 

「さて、行くか」

 

 そう言うと、アルトは施設内へと入っていった。

 

 ────────────────────────

 

 アルトがファンゼル達を連れてくる為に、転移した後の事だ。

 

 ランドールが部屋から出て行った直後、マリエラの意識は嘗てレグルスと契約した際の空間内へといた。

 

「‥‥レグルス。どうしたのですか?」

「お主と本格的な同化をする必要が出来た」

「どうしてですか?」

 

 マリエラはレグルスからの提案に疑問を持った。

 

「今後の戦いにて上級の神を倒すには同化する以外に討てぬ」

「洞窟内で神の力を纏ったアルトの攻撃を喰らっていましたが?」

「あの混沌は、神としての魔法を開花してないが故の」

 

 レグルスの言っている事は事実だ。

 洞窟内でアルトの攻撃を喰らっていた事があるのだが、それはアルトが破滅の神(シェヴァ)によって操られていた事と、神としての魔法属性に目覚めていた無かったからでもある。

 

 覚醒していない神の力は下級の神と変わらない。故に、レグルスの幻獣族としての力が発揮されて魔法を喰らっていたのだ。

 

「でなければ‥‥何れ訪れる戦いに勝つことはない」

 

 レグルスはそう言いきった。

 

「‥‥‥同化にはどうすれば良いんですか?」

 

 マリエラは少し考えると、すぐさま尋ねた。

 

「幻獣族と同化するには、契約者の本能を開放しなければならん」

 

 マリエラはレグルスの言葉にいまいち要領を得なかった。

 

「つまり、お主の野性的本能を目覚めさせ続けるという事だ。そこに一切の理性が通じぬ」

 

 つまり、人間としての理性を失い、獣的本能が起こるという事だ。

 

「‥‥‥少し考えさせて下さい」

 

 マリエラはそう言うと、彼女の精神が空間から消えた。

 

「それほど悠長に考えてはおれぬぞ」

 

 いない彼女に対して意味深な言葉を呟くレグルスだった。

 

 ────────────────────────

 

 所変わって、部屋から退出し、アルトの視界から共有されていた情報からアルトの部屋へとやって来ていたバヴェルとビナー。

 

【‥‥‥‥‥】

【どうかしたのか?】

 

 ビナーがレグルスと出会ってから少しばかりの間、彼女は考えふけるように黙っていた。

 

 そんな妻に対して、バヴェルが気付かぬはずもなく、彼は尋ねた。

 

【‥‥‥その‥‥】

【先の幻獣族のことか?】

【っ!どうして‥‥】

 

 ビナーはバヴェルに自分の考えを言い当てられて驚いていた。

 

【妻の考えている事ぐらい気付く】

 

 そう言い退けたバヴェル。

 そんな彼の言葉に頬を赤くして恥ずかしがるビナー。

 

【そんなことを‥‥言わないでくださいっ!!】

【すまん】

 

 ビナーは弾かしがりながら夫を否める。

 そんな彼女の気恥ずかしに気付きながらバヴェルは苦笑を漏らしながら唯々謝罪した。

 

【それで、あの幻獣がどうかしたのか?】

 

 そんな妻に改めて尋ねたバヴェル。

 

【‥‥実は、幻獣族にはもう一つ。本能的に有しているモノがあるの】

【それが、アルトにとって危険なのか?】

【アルトだけでなく、あのマリエラちゃんも‥‥】

【あの()もか】

 

 アルトだけでなく、マリエラにまでも何かが起きると言ったビナー。

 いったい、レグルスに、いや‥‥幻獣族に何があるのだろうか‥‥

 

【いったい、どのようなモノがあるんだ?】

【それは──────────】

 

 ビナーは夫にだけ真実を語った。

 

 ────────────────────────

 

 アルト達が[紅蓮の獅子王]団の元へと戻り、ランドールやマリエラに説明している際、魔法帝は呼び止めた[黒の暴牛]団長のヤミとアスタが出て行った頃にある報告を全ての団に手紙を送った。

 

 内容は10番目の新しい団[混沌の王軍]団と呼ばれるアルト・キーラを団長とした団の設立を決定した事を通達するものだった。

 その手紙を持った魔法生物たる梟が9つの団へとそれぞれ飛ばされていった。

 

 

 先ず[金色の夜明け]団では‥‥

 

 魔法騎士団本部から届けられた手紙は、団長であるウィリアム・ヴァンジャンスが受け取り、ユノとミモザ達を呼び出した。

 

「‥ヴァンジャンス団長、お呼びですか?」

 

 ユノがそう尋ねた。

 

「ユノ、ミモザ。君たちには知らせた法がいいと思ってね」

 

 ヴァンジャンスは呼び寄せた理由の前置きをした。

 

「先程魔法帝から連絡がきてね。呼んでご覧」

 

 そう言うと、彼は手に持った手紙をユノ達に渡した。

 

 ユノが代表として受け取ると、彼は手紙を読み出した。

 

「アルトさんが‥‥」

「王家の息子だとっ!!?」

 

 ミモザは右手で口元を隠し、クラウスは驚愕のあまり大声で叫んだ。

 ユノも内心で驚いていた。

 

「どうしてアルトさんは恵外界の教会に‥‥?」

 

 ミモザの疑問は正しい。

 アルトの出世の中に含まれている内容の中には記載されてはいなかった。

 

 だからこそ、ミモザは分からずにいるのだ。

 彼女だけではない。

 クラウスやユノもそうだ。

 

「しかも、バヴェル・キーラと言えば、現魔法帝が団長だった頃に多くの勝利を収めたこの国の英雄の一人」

「ヴァンジャンス様。かの英雄は確か、国王継承の前に失踪したのでは‥‥」

 

 新たな団が出来たため、[金色の夜明け]団員を呼びつけたのだ。

 そして、ヴァンジャンスに敬愛とも言える思考を持つ人物たるアレクドラが尋ねた。

 

「バヴェル様は当時、ある湖の怪現象を調べに行った際から行方を眩ました。だが、あの方は裏で戦っていたようだ。たった一人でね」

 

 ヴァンジャンスのまるで感動する様な物言いに彼を敬愛するアレクドラは快く思わなかった。

 

「それでミモザ。君に話しがある。付いて来なさい」

「は、はい!」

 

 ミモザは更にヴァンジャンスに呼ばれて彼の執務室へとやってきた。

 

「何でしょうかヴァンジャンス団長」

「魔法帝から希望するなら、彼の団に転団する者がいるなら手配すると言われてね。君はどうする?」

 

 ヴァンジャンスはそう尋ねた。

 なぜその様な事を尋ねたのかというと、彼女の魔法騎士団入りの理由を彼が知っているからだ。

 

「団長はやはり、知っているんですね」

「君の父君から聞いていたからね」

 

 ミモザが魔法騎士団に入団したのは他の入団者と似た理由によるモノもあるが、一番の理由は彼女を嘗て助けたアルトの捜索と恩への感謝とお返しの為にだった。

 

 その事をヴァンジャンスはミモザの父親であるガルフェイ・ヴァーミリオンから彼女の魔法騎士入団の理由を直接教えられていた。

 ガルフェイにとっては父親として娘にいらぬ虫がつく事を恐れているのだ。

 

「お父様からですか‥‥」

 

 ミモザは呆れた様な声色で父親が言ったという事実確認を行なった。

 そんなミモザに頷き返すヴァンジャンス。

 

「それで、どうする?」

「‥‥‥」

 

 ミモザはヴァンジャンスの尋ねに沈黙となってしまった。

 

「私は君がこの団に残る事を願っている。だが、決めるのは君だ」

 

 ヴァンジャンスは己の思いを正直に告げた。

 彼にとって自分の部下はとても大切であり、そして、自分の部下として成長していって欲しいと願っているのも彼の中にある。

 故に、彼は彼女が此処に残る事を願ってはいるが、決断はどのような時であろうと、己自身なのだ。

 

「‥‥私は、此処に残ります」

 

 ミモザの瞳には強い思いが籠もっていた。

 

「確かに私は、アルトさんを探す事も加えて魔法騎士団に入団しました。ですが、王都襲撃の際に決めたのです。今度は私も隣に建てるように強くなっていると‥‥」

 

 ミモザは自分の団に残る理由を告げた。

 王都襲撃時、アルトの実力に驚愕と感銘を持った事はあるものの、同時に嫉妬さえもした。

 彼がとても強力な実力者であり、強大な壁と天地ほどの差を持つ世界にいる事への自身の無力さに‥‥‥

 ミモザはそれをアルトや他の者のせいにする事なく、アルトの力に追いつきたい。

 逆に彼の背中を守れるほどの実力者になろうと、王都襲撃が解決後に行なわれた臨時勲章授与式にて、覚悟を決めたのだ。

 

 それを唯々黙って聞いていたヴァンジャンス。

 

「ですから‥‥‥私はこの団に残り、ヴァンジャンス団長達と共に強くなります。[金色の夜明け]団を最強にしてみせます」

 

 ミモザは右手を自身の前に出して高らかに宣言した。

 

「‥‥そうか。ならば私は、君の意見を尊重しよう」

 

 ヴァンジャンスはミモザの言葉を受け入れた。

 

「君の、団員達が強くなり、この国を守る最強の団員になる事を期待するよ」

「はい!」

 

 ヴァンジャンスがそう言うと、ミモザは返事をした。

 ミモザへの用事が終えたヴァンジャンスは彼女に業務に戻らせた。

 

「‥‥‥しかし、ユノには強くなってもらうにしても、後々、彼がいると邪魔になる。どうにかしないとね」

 

 ヴァンジャンスは不吉な発言を溢していた。

 

 ────────────────────────

 

 同じ頃、[珊瑚の孔雀]団長ドロシー・アンズワースは珍しく起きていた。

 

「フンッ!フフンッ!フフーンッ!」

 

 ドロシーはやけに機嫌が良く、目を覚ましていて機嫌の良い団長を見て驚いている団員。

 

「ドロシー団長。珍しくご機嫌がいいようですね」

 

 そう言ってきた団員にドロシーは身体をクルリと回りながら告げた。

 

「とってもドキドキする子と出会ったんだよ」

 

 そう言うとドロシーは恋する乙女の様に赤くなっていた。

 

「団長があんなに惚気るなんてな」ヒソヒソ

「いったい誰なんだろうな」ヒソヒソ

 

 ヒソヒソと話しをする団員達の声が聞こえていないドロシー。

 

「美しいっ!!あぁっ美しい!」

 

 そんな[珊瑚の孔雀]団のアジト内にて、やけに小うるさく美しいと喚く輩の声が響き、ウザったそうに感じながらも何も言わない団員達だった。

 

 ────────────────────────

 

 嘗てアルト達がやってきた強魔地帯とは別の強魔地帯にて、溢れ出す魔力生命体を相手に【灼熱腕】を使って焼き尽くしていくメレオレオナにも、アルトの一件の情報が共有されていた。

 

「ほう。アイツがバヴェル殿の息子とはな。況してや[白夜の魔眼]だけでなく神々も相手とはな。面白い、神々の力とやらを燃やし尽くしてやろう!!」

 

 戦意が滲み出ている表情を浮かべ、コキッ!コキッ!と握り拳をするために指に力を入れると、音を鳴らしていた。

 彼女はその後、実力を高めるために、更に戦い始めた。

 

 ────────────────────────

 

 どこかの洞窟内にて、何者かに変装していたライアからの報告に[白夜の魔眼]の<三魔眼>や当主リヒト、そして王都襲撃に携わっていた者達はアルトの危険さに恐怖していた。

 

「神様の子供だって~っ!!あぁ~研究した~い!実験した~い!」

「サリー、アルト・キーラの危険さがわからないのか?」

 

 神の子たるアルトの存在の危険さを感じていない様な発言をするサリーにヴァルトスは叱咤する。

 

「はぁっ!?ならソイツをさっさと殺して俺の操り人形にしてやるよ‥‥っ!!?」

 

 ラデスが自身の死霊魔法でアルトを操る事を告げるが、それにファナが恐れを与えるほどの殺気を放たれた事で、黙ってしまう。

 

「あの人を殺す‥‥‥憎い‥死んで‥‥」

 

 ファナの殺気に加えて、彼女の背後に怒りと殺意を籠もらせた火の精霊サラマンダーが洞窟での一件よりもその姿を肥大化させていた。

 

「待ってくれファナ。ラデスも悪気があって言ったわけじゃない。だけど、彼を回収するのは私達の計画が成功してからでないと不可能だ」

 

 リヒトはラデスに殺気を向けるファナを制止させると、アルトを連れていこうとしていた予定を止め、彼等の予定通りの計画を実行し、自分達の計画に不都合のないようにせねばならない。

 その為に、できるだけアルトがクローバー王国にいない状態にて計画成功の核となる部分を発動する事を決めたのだった。

 

 しかし、敵同士であるはずのファナが何故アルトの事で一層、憎悪を強めているのか。

 それはアルトが見た何者かの記憶と、ファナ達四人の秘密が表向きに明かされるまで、どうしても時間が掛ってしまうが、必ず全てを知る事になるのだった。

 




次回~結成![混沌の王軍]団~


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結成![混沌の王軍]団

 ファンゼルとドミナントを連れてくる為に、先ずファンゼルの元へとやって来たアルト。

 彼はファンゼルが魔導士育成に使用されている施設へと続く施設内の道のりを進んでいた。

 

 暗闇しか入らない施設内に、彼の目の前に一つの光が溢れていき、その光の奥から無数の人声が響いていた。

 彼がその光の出ている場所へと入っていく。

 目の前の景色が暗闇から光が差す場所へと移動した事でで、白い空間が広がっていた。

 

「────そう。そのまま心を熱くして一点に集中するように炎魔法を使うんだ」

 

 白い空間が止むと、ファンゼルの声がアルトの耳に聞こえていた。

 

「(ダイヤモンドでの経験があるとは言え‥)随分と様になっているみたいだなファンゼル」

「!アルト君。どうして君が此処に?」

 

 ファンゼルはアルトがそう呟いた声が耳に入った為、彼に視線を向けて存在を確認したのだった。

 

「まだ辞令が下りていなかったか」

「辞令?何のことだい?」

 

 ファンゼルは何の事だがわからず、首を傾げた。

 そんな彼に応えようとしたアルトだが、その必要がなくなった。

 何故なら、彼等のいる場所に空間移動を熟せる魔法動物の梟がやってきた。

 

 梟の脚には手紙を掴んでおり、その手紙を届けるためにやってきたのだ。故に、その手紙を届け先であるファンゼルへと手紙を落とすのだった。

 

 落とされた手紙がヒラリと舞っては落ちていく。

 ファンゼルが手紙を受け取ると、一瞬アルトに視線を向けた。

 アルトはアイコンタクトだけでファンゼルに手紙の方を先に見るように促した。

 促されたファンゼルは彼に頷くと、手中にある手紙の封筒を開き、黙読し始める。

 

 ファンゼルが目を早く動かしながら文を読み更けていくと、彼の表情が驚愕へと変わっていき、アルトへと視線を向けたり、手紙に戻したりと右往左往と視線を動かしていた。

 

 2分ほど手紙を読んでいたファンゼルは驚きの感情から落ち着きを取り戻したのか、手紙を折り畳むと、一息を付けてアルトへと顔を向けた。

 

「事情はわかったよ。私とドミナ、それにマリエラも同じように君の団に入る様に指示が来た。君やアスタには助けられた身だからね。できるだけ協力するよ」

 

 ファンゼルはそう言って了承した。

 

「礼を言う」

 

 アルトは感謝を告げると、手を差し伸べた。

 ファンゼルはアルトの差し伸べられた手を掴み、握手をした。

 

 僅か数秒ほどの握手は互いに手を離した事で解かれた。

 

「では、ドミナさんを連れて此処に来て下さい」

 

 アルトがそう言うと右手の人差し指にマルクスの記憶交信魔法によって得た記憶の共有を行なう事で、彼に自分達のアジトの場所を示した。

 

「俺は先に戻ってアジトを作っておく」

「わかったよ。私もドミナを連れてすぐに向かうよ」

 

 アルトの言葉にファンゼルは了承と応答を返した。

 彼の応答を受け取ったアルトは空間魔法を使って転移した。

 

 しかし、アルトはこの際、一つだけ嘘をついた。

 

 先に戻ってアジトを作るといったが、アジト建設地に最初に向かうとは一言も言っていないということに‥‥‥

 

 ────────────────────────

 

 アルトの目の前が又もや真っ白に変化するも、すぐさま真っ白から別の景色へと変化した。

 彼の目の前にはどこぞの室長用の机と椅子があり、その椅子に腰を掛ける口元と顎の丁度、間にほくろを持つ、緑色の服装に両肩に白い布を被せた様な服装を着用した男が座っていた。

 

「何者だ?」

 

 男はアルトを見るや警戒心を最大にして睨み付けていた。

 彼の一挙一動は何時でも戦闘に入れるようにしていた。

 

「貴方がダムナティオ・キーラか?」

「‥‥だとしたら?」

 

 アルトはそれに気付きながらも、無視して男の名を尋ね‥‥いや、確認を取ったのだった。

 ダムナティオは自身が目的である事を再認識し、一瞬の隙を見せぬ様に警戒しながら次なる一手を構えていた。

 

「俺はアルト・キーラ。バヴェル・キーラの嫡子だ」

「なに?」

 

 ほんの僅かな揺らぎ。

 一瞬にも等しい揺らぎの中で、彼の首筋からひっそりと記憶交信魔法による記憶供給を行なう。

 彼の脳内ではすぐさまバヴェルに起きた一件の全てを見せられ、ダムナティオは警戒という表向きな態度を取りながらも内心は困惑していた。

 

「(これは‥‥)」

「父の記憶からアンタに接触させて貰った。困惑している所悪いが、俺はアンタに頼みがあってな。記憶と共に内容を伝えておいた。頼むぞ」

 

 アルトは一方的な要件を魔法で伝えると、彼は空間魔法で彼の団のアジト先となる場所へと向かった。

 

「待て!」

 

 ダムナティオが裁きを受けさせようと己の魔法を使って止めようとするが、それよりも早くアルトが転移した為、間に合わなかった。

 彼の手には金色に輝く天秤が一つあったが、アルトが目の前から消えた事でポツリと空しく立った状態で天秤を構えていたが、すぐさま魔法を解いて、先程の件を確認するためにある者の元へと向かって行った。

 

 ────────────────────────

 

 ダムナティオが何処へと向かう前に、転移していたアルトはある場所へとやって来た。

 そこは誰の手も付いていない秘境ともいえる場所。

 

 

 

 その場所の名は‥‥‥

 

「アジトの拠点地はクローバー王国の‥‥‥強魔地帯に」

 

 純粋な魔力の圧力しかない強魔地帯だった。

 

 魔力の圧力は時として重力の圧力よりも更に濃くなる時もある。

 アルトにとってはマリエラ達に魔力の圧力による抵抗力の習得とそれによる成長の促進。

 

 それがアルトがこの場所を選んだ理由の一つだ。

 

 では他に理由があるのかと尋ねられた場合、それは後々にこの場所にアジトを選んだ理由の結果が現れるだろうからこの場では、一切記載しないでおく。

 

「さて、創造するか」

 

 アルトがそう言うと、宙へと舞い、左目を白く、右目を黒く変色させた。

 次ぎにアルトは左手を高らかに挙げてから勢い良く腕を振り下ろす。

 

 すると、アルトの目の前の景色が変化した。

 西洋風の建造物の多いクローバー異形とも言える形状の建造物が建築されていった。

 

 白く光り輝く塔と暗闇に呑み込み続ける塔が東西に分れ、それよりも遥に高く聳え立つ無数の城が一つとなった様な居城が中央に出来上がり、七色の大地が成り立ち、その大地には海や炎、森林などと七つの超自然的代物が存在していた。

 しかし、その超自然的な大地には強魔地帯の約10倍近い魔力が備わっていた。

 

 そんな大地と居城、二つの塔に対して囲む様に十二の方向にそれぞれ創り出された、

 

 創り出されたと言っても、聖騎士を思わせる人形の機械的な剛鉄の像だ。

 同時に、六つの石像があった。

 しかし、石像の背後にはそれぞれ六つの属性を秘めているかのように、それぞれルビーやダイヤモンド、サファイア、エメラルドなどといった六つの鉱石の様な紋章が秘めており、石像は両手を広げて輪を作るかのような姿勢をしていた。

 

 __混沌創成魔法"美学な創造建築(アストラステラ)"__

 

 元来、有機物のみならず無機物や時間・空間なども創造し美学的な万象へと創造したのは混沌だ。

 故に、この様に永続的な建造物を創り出す事など混沌にとっては朝飯前よりも遥に簡単と言えることなのだ。

 その混沌を持つアルトは神と悪魔の力を覚醒させた事で、混沌由来の矛盾が肯定化される力までもが手に入れやすくなった。

 

 本格的な矛盾、混沌は全ての段階に覚醒する事で始まる為、残り段階は6つであるため、魔導書を手にしてから四つまで覚醒するのに、まだ数ヶ月内での2段階の覚醒は快挙‥‥‥というよりも異常とも言えるが、混沌の所有syはにそんな物言いは意味は成さない為、諦めるしかない。

 

「さて、アジト内も創らないとな」

 

 そう言ってアルトがアジト内へと歩んだ。

 

 アジトの階層は空間を弄る事で、敵には辿り着けない状態にし、味方には即座に辿り着ける状態へと自動改変する様に設計してあった。

 家具は時間経過による老化を消す為に創っていた。

 

 一流の料理人が10人いても料理できるほどの調理室。

 一流以上の家具を創造してみせた。

 

「建築物としての構造もかなりいいな」

 

 アルトは建造物の構造を隙間無く見続けていた。

 歩を進める内に七色の大地に二つの塔なども隈なく観察し続けた。

 

 アルトが建設したこのアジトは外見的には数10km程度の範囲内にて建築されているわけなのだが、高度は中間圏と同等の高さを秘めた二つの塔と一つの城。

 七色の大地に十二の剛鉄の象と六人の石像というものしか外見的に存在しなかったが、内面的には地下10階で地上100階近くあり、合計110階の階層を二つの塔によって時間と空間に干渉し、味方には一瞬にして辿り着ける事が出来るようになっており、階層ごとに一つ一つの世界を創り出していた。

 

 "美学な創造建築":今回のように建造物などを絵画や小説のような美学的印象を秘めた状態で創り出す魔法なのだが、この魔法は未完成だ。

 混沌による真の創造魔法は永続的で無限、つまり、一つの創造に宇宙を思わせるほどの広大にして未知数なのが、混沌の創造魔法だ。

 この魔法はその為の基本とした創造魔法なのだ。

 

「これならば問題はないか」

 

 基本的な創造魔法によって建設されたアジトでも十二分と言っていい程の性能を秘めている事から、混沌の真価が計り知れぬ事が分かるだろう。

 

 しかし、混沌の力を持つアルトにとっては、一切疑問のない事であるため、誰かに常識を尋ねられても、アルトの常識は力である混沌に作用されるため、一般的な常識が通じないことがある。

 

 実際、破滅の神シェヴァを相手に理を滅ぼす魔剣を創り出した。

 現実を覆すのが魔法ならば、力の原点にして意志たる混沌は、常識が存在しても存在しないのが常識なのかも知れない。

 

 とまぁ、話が脱線してしまったが、自身の作り上げたアジトを見直したアルトがそう結論付けると、両親とマリエラ達に通信魔法を行使した。

 

『アジトができた。場所はお前達の脳内に送っておいた』

 

 通信魔法と同時に記憶交信魔法を行なった事で、会話のみならず情報の開示までも簡単に成し遂げた。

 アルトが団員となる五人へと通信を終えると、2時間ほど待った。

 

 いち早くアジトへと着いたのはバヴェルとビナーだ。

 

【これがアルトの創ったアジト‥】

【これは‥‥凄いな‥】

 

 アルトの両親は一目見ただけで、このアジトの異質性に気付きながらも、それを建築して見せた息子の想像力と創造力に舌を巻いていた。

 

【時間と空間に干渉する建築物なんて、混沌の力が強まっているみたいですね‥‥】

【‥‥息子の常識が崩れそうだな】

 

 ビナーは時間と空間に干渉する魔法建築物を見てアルトの混沌の力が強まっている事に気付いた。

 バヴェルは混沌の未知数な底のない力から来るアルトの世間的な常識からはみ出しかねない可能性に危機感を感じながらも、息子の成長を見守ることに一切の躊躇いなど彼にはなかった。

 

 そんな彼らの後に続く様にやってきたのは獅子幻獣レグルスの背に乗ってやって来たマリエラとファンゼル、ドミナントだった。

 

「着いたぞ」

 

 レグルスがそう言うと、大地に脚を付けた。

 レグルスの背から降り立ったマリエラ達は驚愕する。

 彼がアジトを創ると言ってからそう時間は経ってはいない。

 それはつまり、僅かな時間でこれ程の建築を創り出したとう事。それを為せるだけの想像力と魔法属性と膨大な魔力を有しているからこそである。

 

「すごいな」

「わぁ!‥‥どうやったらこんなに凄いのができるのよ」

 

 ファンゼルは唯々驚嘆し、ドミナントは膨大な魔力と想像力によってもたらされた創造物を見て呆れてしまっていた。

 

「無駄に凝ってますね」

「無駄とはなんだ、無駄とは」

 

 マリエラは辛辣に凝っている事を指摘した。

 凝っている‥‥そんな部分がこのアジトにあっただろうか?

 いや、あった。

 二つの塔と七色の大地に剛鉄の象と石像。

 それを創造していて凝っていないはずがないのだ。

 

 軽口のような言い争いをするマリエラとアルトだったが、ファンゼル達がニコニコとニヤニヤとも笑みを浮かべて此方を見ている事に気付き、言い争いを止めた。

 

「ンンッ!改めて‥‥此処が俺達のアジト」

 

 アルトが両手を広げて紹介した。

 

「[混沌の王軍]アジト。名を永劫の混沌城(キャメロット)だ」

 

 アジトの名を紹介し、そして自分たち、十番目の団の居住を高らかに宣言した。




次回~スペード王国の悪魔憑き~


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スペード王国の悪魔憑き

お待たせしました。

仕事もあって二ヶ月もかかってしまいました。

高評価とお気に入り登録よろしく!!!!


ー注意事項ー

主人公の名前変更:
ザウス→アルト
ライフ→ビナー
シェヴァ→ゲブラー


 [混沌の王軍]の設立とアジト・永劫の混沌城(キャメロット)の建設が完了したアルトは、団員にアジト内の説明を行なった。

 

 その後、それぞれ、熟練の魔法騎士であるバヴェルや神であるビナー、そして混沌によって出来た異空間を発生させた練習場を創り出したアルトによって戦闘力や知識、開発力を洗練していくマリエラ達だった。

 

 そんな中、強魔地帯に建設した彼等のアジトに設定した機能の一つである探知能力が反応した。

 

「‥‥‥」ピクッ

「アルト」

「マリエラか」

 

 団長室にて事務処理を行なっているアルトにお茶を入れてやってきていたマリエラが彼に話しかけていた。

 マリエラが部屋に入ってきた事に気付いているアルトは視線を向けることなく、事務処理を行ない続けた。

 

「何かがこのアジトに近づいてますね」

「感知能力が上がったようだな。時間を弄って修行しただけはある」

 

 実は上記の練習には一つだけ記していない事があった。

 彼等の修行には空間と時間が弄られ本来の時間の流れとは異なった時空間内で行なわれていたのだ。

 

「どうしますか?」

「近づいているだけならば無視するが、他に理由があってくるならば、迎撃するだけだ」

 

 アルトは手に持つ書類を机に置くと、立ち上がり魔導書を開いた。

 

 __混沌時間魔法"全智の未来"__

 

 アルトは[永劫の混沌城]付近の未来を覗いた。

 すると、彼の両の眼にとあるの人間達がこちら側へと走り続けていた。

 

 紫髪のポニーテールの20代ほどの女性と碧髪に蒼眼の男性、青髪七三分けの男性。

 そして、彼等三人が守る様に囲みながら一切の魔法を使おうとせず唯々、彼等に守られながら、走り続ける純白のロングヘアーの容姿端麗、清廉潔白と言わんばかりな儚い美少女。

 

 四人がこちらへと歩を進めていた。

 

 その背後では悪魔転生された父・バヴェルと似通った魔力が近づいていた。

 

 その中でも強大な魔力が三つあり、追われている四人の男女はその三つを除く他の魔力を次々に消していた。

 しかし、強大な三つの魔力は今のバヴェルと同等の魔力量だった。

 アルトは修行中に母・ビナーから神々と悪魔に関して詳しく尋ねた。

 

 その際にビナーは言った言葉を思い出していた。

 

【最上級の悪魔は概念に干渉し、神々は理を司る。バヴェルは消滅魔法で概念干渉などの摂理を滅ぼす事で干渉できているの。バヴェルと同等の魔力量を持ち、似た魔力波長も持つ人間には最上級悪魔に憑かれた[悪魔憑き]。現世と冥府との間にある異界の扉を十二柱の二柱が管理しているのだけど、セフィロトの樹が開けば、その神の力が干渉されやすくなるの】

 

 この事からアルトは強大な三つの魔力に関して母からの話に信憑性が更に膨れ上がった。

 

「(どうやら、三人を追ってきている三つの強大な魔力は[悪魔憑き]と考えて良いだろう。しかし‥‥‥)」

 

 同時に一つの疑問があった。

 

 この[永劫の混沌城]には魔力感知不可や視認不可などの魔法を備えていた。

 "美学の創造建築"にはアルトが魔導書に刻んだことのない性質の魔法を建築という形で実現させる事も出来る。

 つまり、魔力感知不可などの隠密系の魔法を有した建築物でもあるのだ。

 クローバー王国の魔法騎士団本部からの通達には彼が創り出した混沌獣によって通信できる様にしている為、他の団以上の摩訶不思議なアジトなのだ。

 

 にも関わらず、彼等は構わず走り続けては逃げている。

 まるでこの場所に何かがあると知っているかのように‥‥‥‥

 

 そんな中、三人の男女に守られている清廉潔白な、純白ロングヘアーの美少女がアルトの"全智の未来"による視界を覗いたのだった。

 

「(この女‥‥俺を視ているっ!?)」

 

 アルトは驚いた。

 無理もない。未来視‥‥つまり、未来で起きている事を視る力を行使しているアルトを最初から視ていると言わんばかりな視線を送ってきていた。

 あまりに驚くべき出来事を驚愕から脱せず、深く思考を巡らせるアルト。

 

「‥‥‥‥」

【どうするんだ?アルト】

 

 "全智の未来"にて視ていたアルトへと、空間を滅ぼして自由に行き来する疑似空間移動を手にしたバヴェルがやって来ていた。

 

「‥‥俺が行くとしよう。マリエラはレグルスに[永遠の混沌城]を覆うように幻獣魔法を展開させろ。父さんは母さんを守ってくれ」

【わかった】

 

 アルトは指示を出すと、バヴェルは疑似空間移動でビナーの元へと向かった。

 

「気をつけて下さい」

 

 マリエラはアルトを心配する様に告げた。

 アルトが"全智の未来"で視た美少女の存在に気付いていなくとも、彼の表情から彼を驚愕し思考を深めさせた何かがあった事だけは確実に読み取れたマリエラは、尚一層心配だったのだ。

 

「あぁ」

 

 アルトは素直にマリエラの言葉を受け止めた。

 暗殺者としての力量とコレまでの修行を含めて更に観察眼が良くなったマリエラに自身の心境を読み取られた事に気付いていた。

 故に、素直に彼女の言葉を受け入れたのだ。

 アルトにとって似た魔力波長や追われている四人の素性よりも、未来視にて視ている現在の自身に視線を向けられた事が、今までになさ過ぎたからだ。

 

 未来を変える可能性ならば、誰でも無限にある。

 しかし‥‥‥‥

 未来の者からすれば過去の者を視ただけなのだろうが、現在の者が未来の者に視られるなど、誰も見に覚えなどないだろう。

 

 そんな体験をしてしまえば、驚愕と困惑・恐怖すらも抱いてしまうだろうが、恐怖ではなく、美少女の正体について興味を抱かれてもいるアルトはある意味、「異質」と云える。

 

 そんな異質者たるアルトは、此方へと向かってくる四人の前に"転移"を使って向かった。

 

 ────────────────────────

 

 アルトが"全智の未来"で視ようとしていた時、彼が視た追われている者達はというと‥‥‥‥‥‥

 

「これでは、ジリ貧だぞ」

 

 __魔銃砲魔法"魔弾の射手"__

 

 一人の銀髪の男がそう言いながらも大地や空に、無限とも云える多くの魔法陣が周囲に展開されて、神聖な光を宿した銃弾が撃たれ続けた。

 

 強魔地帯の嵐の中で敵が視認できずとも、魔力感知による敵を感知した上での魔法攻撃。

 無限とも云える魔法陣から放たれた魔法攻撃は同じく無限とも云える骨が魔法攻撃を一手に防御してみせた。

 

 嵐から出てきた、鋭い骨先を有する無限の骨は魔法を受けた部分が破損するも自己修復していく。

 そんな骨に1度ではなく、2度3度と続けて同じ箇所に撃つことで骨を破砕する事もでき、同時に破砕された箇所の修復を不可能にしていた。

 だが、それに気付いた骨魔法の使い手は破砕箇所以外の部分から新たな骨を作っては襲い掛かり、破砕された骨に使用していた魔力量以上の魔力を注ぎ込んで襲い掛かる。

 

 そんな骨魔法も同じ行為を搦め手を交えながら行ない交戦する者。

 

「だが、我々の任を解くわけにはいかん」

 

 __神槍騎魔法"疾風怒濤の不死戦車(トロいアス・トラゴーイディア)"__

 

 魔銃砲魔法を放った者から少し前に出るように出ている碧髪に蒼眼の男が、三頭立ての戦車を呼び出した。

 不死の二頭の神馬に名馬の三頭の手綱を引いては疾風怒濤となりて、敵へと向かう。

 

 そんな相手を敵は赤黒い獣の群れを作りだしては応戦した。

 

 100を越えた獣の群れは次々に壊されるも、群れの合間に現れた赤黒い獣の手が襲った。

 

「おっとぅ!!?」

 

 紙一重で攻撃を躱した男は、戦車を仲間達の近くへと移動させて止まった。

 

「あはっ!強そうなのがいるんじゃん!」

 

 赤黒い獣の手が現れた場所から女性の声が聞こえた。

 

「無域異界ラグヴァベインの魔導士。我々、[漆黒の三極性(ダーク・トライアド)]の魔法と打ち合えるとは、冥域のみならず、神々や精霊、幻獣の力を宿して生まれるという噂は本当のようだ」

 

 姿が見えなかったが、敵の一人がまるで彼等を品定めするかのように呟く。

 そして、巨大な岩の塊を五つほど彼等に向けて音速を超えて飛ばされた。

 

 飛ばされた岩塊はポニーテールの女性が何時の間にか手にしていた西洋風の剣にて簡単に塵一つ無い程に切り裂いた。

 圧倒的な剣速と剣筋によってできる所業。

 

 それ程の実力を秘めた女剣士は冷静に剣を構えた。

 

「だが、最上位悪魔を宿す我々には敵わない」

 

 姿が見えぬ程の魔力の暴嵐から出てきたのは、三人の男女を先頭に防寒対策と言わんばかりな服装を着用した者達が10名ほど現れた。

 

「ダンテ兄。コイツらどうするの?」

「‥配下に加えるのですか?」

 

 王冠を被り、無精髭を生やし、額に十字を思わせる黒い痣が幾つもあるマントを羽織った中年男に問う右目に眼帯を付け、頭にティアラを装着した女性と左目と額に大きな黒い十字の痣をつけた青少年が尋ねた。

 この三人の共通する所はそれぞれ強大なバヴェルと同じ悪魔の魔力波長を持っている事と、ふさふさの毛皮が着いた黒マントを装着しているという事だけだ。

 

「必要なのは、彼等が護っているあの女だけだ。他は必要は無い」

「じゃあさぁ。殺してもいいよね!!」

 

 ダンテを呼ばれた男が二人の質問に答えると、女性の方がいきなり元気よく無域異界ラグヴァベインと呼ばれた魔導士の内、彼等の魔法と相対した三人が護っている人物を除いて殺す事を尋ねた。

 

「ヴァニカの好きにしなさい」

「やったぁ~~~~~」

 

 ヴァニカと呼ばれた女性はとても喜んでいた。

 

「ダンテ様。あんな雑魚共、我々に任せて下さい」

 

 そう言ってきたのはダンテやヴァニカ達の背後にいる男がしゃしゃり出る。

 男は盲目と言わんばかりに両眼に傷を負って目を瞑った状態にありながらも、一切不自由なく地形によって足下が覚束無い状態になる処か、杖などを使うことなく真っ直ぐ歩けるダンテよりも更に年老いた人物だった。

 

「はぁ~?なんでアンタなんかに‥」

 

 ヴァニカはそんな彼に苛立ちと殺意の籠もった視線を向けていた。

 そんな彼女を止めたのは彼女の兄であるダンテだった。

 

「相変わらず忠義が強いなフェドリア」

「それが我が一族の使命にして宿命‥‥」

 

 フェドリアと呼ばれた男はそう告げた。

 

「行ってくるといい」

「えぇーっ!!?ちょっとダンテ兄!私に殺せてくれるって言ったじゃん~~~~~!!」

 

 ヴァニカは目的の人物を除く人物達を殺せない事に不満の声を上げた。

 

「まぁ見てなさいヴァニカ。我々ゾクラディス兄弟に長くから使えている者の実力くらい見るのもいい。ゼノン、君はどうだい?」

 

 ダンテはもう一人の兄弟に話を振った。

 

 話を振られたゼノンと呼ばれる者は静かに語る。

 

「‥‥使える悪魔憑きの選別が出来る」

 

 ゼノンの言葉を聞いて、フェドリアの背後にいる彼等ゾクラディス兄弟の部下として使える悪魔憑きを選抜しようとしている事を知った一般兵達は、焦りながらもたった四人を倒し捕まえるだけの事だとしか考えていなかった。

 

 しかし、フェドリア以外の単調的な愚考は行動にまで影響を及ぼすかと思われたが、フェドリアが一瞥するだけで彼等は冷や汗を流し、動けぬ状態でいた。

 

「魔王の軍勢ならば、愚行を行なうな」

 

 __感情魔法"選抜の意志"__

 

 彼等の周りにいるダンテ達から悪魔憑きとして与えられた悪魔の力。

 しかし、悪魔の力を受け取れたとしても、漆黒の三極性(ダーク・トライアド)には届かない。

 

 それは冥府にいる悪魔と現世にいる人間との間には悪魔が自由に行き来できぬ扉がある。

 その扉が開かれぬ限り、悪魔は現世に現れる事が出来ず、悪魔憑き‥‥つまり、人間と契約して現世で力を行使する以外に方法がないのだ。

 そして、その扉は同時に人間と悪魔との力の経路(パス)は扉が開放しない限り、どんなに足搔いても8割までしかできない。

 つまりダンテやヴァニカも契約した悪魔の8割しか使えないという事だ。

 

 彼等ゾクラディス兄弟でも8割に至るのに苦労したのに、その部下‥‥‥いや、彼等からすればただの奴隷・雑兵程度の扱いでしかない者達から最低でも40%を越える悪魔憑きを部下に入れようとしていた。

 

 フェドリアも40%を越えた悪魔憑き。

 そして何よりもダンテの人間の本性に関して共感し、彼に心の底から服従と経緯を持っている彼は統率性のない者達の感情を支配して統率を行なった。

 

 統率された30名の40%以下の悪魔憑き達は、それぞれ風や岩・炎や水魔法を使って三人に攻撃を始めた。

 

「カルスノン!」

「わかっている!」

 

 100を越える魔法の数々に魔銃砲魔法の魔導士ことカルスノンは魔導書のページを変えて、別の魔法を行使した。

 

 __魔銃砲魔法"三千世界の暴虐連射"__

 

 カルスノンの周りに突如と具現化した三千の火縄銃。

 火縄銃の銃口には小さな魔法陣が浮かび上がり、三千を超える銃撃が放たれる。

 

 ドォンッ!ドォォォオオオオオオオッッッッッッッン!!!!

 

 三千を超える銃撃が襲い来る魔法の数々を貫くか、相殺していきそれによる爆発音が鳴り響く。

 

 魔法同士の衝突によって砂塵が舞う中、霧や雪魔法の魔導士が四人を囲う様に魔法を展開し、彼等の視界を奪ったのだ。

 視界を奪われた無域異界ラグヴァベインの魔導士三人は、護衛対象から離れようとせず、三方向に分れ、互いに背を預けながら敵の奇襲に備えた。

 

「‥‥無駄だ」

 

 フェドリアは彼等三人の動きに対処する様に新たな魔法を行使した。

 

 __感情呪符魔法"恐怖の蝕み(テラー・エクリプス)"__

 

 闇と毒を思わせる様な黒紫色に侵食し続ける禍々しい大地が彼等三人だけに当たる様に円を描く様に範囲を決めて、円の範囲を狭めていった。

 それだけでなく、霧や雪魔法による視界の錯乱までも行なわれているのだ。

 

 その中には魔力撹乱といった魔力感知を邪魔する魔法までも加わっている"恐怖の蝕み"に対して、見るからに触れてはならぬ程の悍ましさと禍々しさを秘めた大地を見たダンテの高速の岩山の塊を斬り裂いた女剣士は剣を大地へと突き刺した。

 

 __剣士魔法"絶魔の剣山"__

 

 突き刺さった剣から発せられた魔剣は、魔法の拒絶化という能力を秘めた魔剣が天から地へと降り注ぎ、山の如く連なるのだった。

 連なった魔剣に触れた魔法は例え"恐怖の蝕み"すらも拒絶していき、時間遡行する化のように消えていった。

 

「成る程‥‥‥」

「余所見してる場合か?」

 

 敵の情報を集めるために態と対抗できるような魔法や感情を支配した悪魔憑きを使って収集していた。

 しかし、それを目敏く感づいていた碧髪に蒼眼の男が輝かしく神聖さを秘めた二叉の槍を両手に持ってフェドリアに向けていた。

 

 __神槍騎魔法"死神王の二叉槍(バイデント)"__

 

 二叉の槍は全体に黒き光を帯びた。

 そんな槍を投擲するラグヴァベインの槍使いの男。

 

 投擲された"死神王の二叉槍"は黒い閃光を思わせながらフェドリアへと向かう。

 そんな攻撃にフェドリアは攻撃を躱すように動きながら、別の魔法を行使して、彼の"選抜の意志"によって操られている悪魔憑きの5名を相手の魔法の餌食とした。

 

 しかも、5名とも魔法によって防御していながらだ。

 5名はそれぞれ岩や砂金、砂鉄、鋼、金剛石などの硬度を誇る魔法を有する者達だった。

 これらの非自然系と自然系の硬度を誇る魔法属性五つによる魔法防御が複合した。

 

 __複合魔法"最硬貴金属盾(プレシャスアスピダ・マキシム)"__

 

 最高の硬度へと至った貴金属によって出来た白色の魔法盾。

 最高硬度の魔法盾VS死へと誘う神の槍。

 

 正しく矛盾となろうとしている中、矛と盾の距離は縮まり続け、"死神王の二叉槍"の矛先と"最高貴金属盾"のプレート部分が衝突しあった。

 

 ガキィンッ!!!

 

 鈍い音が鳴り響きながらも、白色と黒色の魔力色がこの場を埋め尽くした。

 荒々しい強魔地帯の魔の嵐の中に、二つの魔法が衝突した事による魔力の嵐が彼等を襲うが、ダンテ達側では80%の悪魔憑きは動じることはなく、40%以下の悪魔憑きは目を覆ったり吹き飛ばされないように抵抗していた。

 

 神槍騎魔法を行使したアキランダー・レイサウスと共に一人の女性を護っているカルスノンと女剣士シドイン・セレヴァーは護衛対象を守る様にそれぞれの魔法による防御魔法を行使して守り続けた。

 

 しかし、衝突する二つの魔法の拮抗が消え、槍が五人の悪魔憑きを貫いた。

 貫かれた悪魔憑きの背後の魔力場や強魔地帯に住まう魔法生物すらも死に絶えていた。

 

「周囲の魔力ごと死に追い遣る槍か‥‥脅威だが、既に詰みだ」

「なに‥‥?」

 

 __感情創成魔法"戦慄の舞台劇(フルスコア)"__

 

 この場に舞台劇場が生み出された。

 劇場が生み出されただけで、特にこれといった変化はなかった。

 

 あるとすれば、カルスノンの銃砲魔法の標準制度が狂い、敵の悪魔憑きの魔法射撃制度が上がり始めた。

 

「くっ‥‥!?」

「何をやっているカルスノン!」

「‥‥違う。あの男の感情魔法とやらに感覚が鈍り続けている」

 

 カルスノンに抗議を上げるアキランダーだが、先程まで一切の口を開かなかったシドインが初めて意見を告げた。

 

 __複合魔法"幻惑の落石"__

 

 岩魔法と霧魔法の複合魔法による視覚が通じない攻撃に襲われるシドイン達。

 彼等はそれぞれ防御用の魔法を自身の周囲に展開するも、彼等は"幻惑の落石"を3/10程度しか防げずじまいだった。

 

「お前達の五感すらも私の感情魔法が支配しつつある。お前達は他の悪魔憑きによる攻撃も防げず死に行け」

 

 "幻惑の落石"の猛攻による砂塵が吹き荒れる中、フェドリアがそう言った。

 彼等‥‥‥いや、フェドリアの魔法の厄介さに苦戦するシドイン達は苦渋の表情へと変わっていく。

 

 

 そんな部下達とラグヴァベインの魔導士との戦いを見ていた[漆黒の三極性]達はというと‥‥‥

 

「どうやら、思ったよりも40%の悪魔憑きはいるようだな」

 

 フェドリアを主とした彼等の戦いを見ていたダンテはそう決定づけた。

 

「そうですね」

 

 ゼノンが相槌を打った。

 例えフェドリアの感情魔法で感情の部分を勝手に弄られていようとも、弄られている悪魔憑きの同調率に変化が起こるわけではない。

 それは個々人による変化なのだ。

 故に、[漆黒の三極性]は悪魔憑き内で40%以上の力を身につけている者を自分達の直属の部下‥‥‥[漆黒の使徒]として使える存在を選んでいた。

 例え、40%で意味が無くても、彼等にとっては唯の駒に過ぎない為、彼等に悲しみなどはない。

 

 __三位一体(トリニティ)魔法"天冥三騎士の魔導領域(トリニティ・マジェスティック)"__

 

 そんな[漆黒の三極性]の事など気にも止められぬラグヴァベインの魔導士達は互いの魔法属性を、一つの瓶内に三色の水を複合(足し算)するのではなく、三色の台座に積み上げ(かけ算)した事でその威力や範囲、その能力までもが段違いである。

 銃砲魔法の攻撃力・神槍騎魔法の範囲力・剣士魔法の瞬間力。

 この三つが掛け合わさった事で行なわれた"天冥三騎士の魔導領域"はフェドリアの魔法ですら覆せぬほどの効果を秘めており、"幻惑の落石"と"戦慄の舞台劇"を破壊して周囲一帯の悪魔憑きを瀕死へと追い遣った。

 

「‥‥っ!!?」

 

 フェドリアは左腕を押さえながら憎々しい感情を籠もらせた瞳で睨み付ける。

 

「そこまでだフェドリア」

 

 新たに魔法を行使しようと考えていたフェドリアを止めたのはダンテだった。

 フェドリアはダンテの制止を受けて魔導書のに記された別の魔法の使用を止めた。

 

 フェドリアを止めたダンテは歩み始めた。

 フェドリアは王を崇める様に片膝を付け、膝を付けていない側の足の膝に負傷した左手を添えて、右手は握り拳で地に軽く着け、頭を俯かせていた。

 

「無域異界ラグヴァベインの魔導士。本来の力を発揮するにはそこにいる[混沌の姫(カオス・プリンシピッサ)]に[混沌の王(カオス・アレ)]を会わせる必要がある。だが、それは叶うことはない」

 

 ダンテはそう言うと、頭の両側から悪魔の角を生やし、背中に一対二翼の悪魔の翼を生やした。

 彼に続く様に彼の妹弟も同じ様に形状は異なるが、悪魔の角と悪魔憑き以前の‥‥‥彼等の本来の魔法の影響が出ている翼を生やしていた。

 

「我々、[漆黒の三極性]に!!!」

「あはぁ~~~~~~漸く楽しめそう!」

「‥‥全ては、スペード王国の利益のために‥‥」

 

 サイコパスな兄、ナルシストな妹、マキャベリストな弟。

 十人十色ならぬ三人三色とはこの事だろう。

 

 彼等が兄弟であろうと、三人が求めているものは一緒であろうと思考が全て同じであるわけではない。

 故に、彼等が今度、何の目的のためにラグヴァベインの[混沌の姫]を襲ったのか?その先の計画がどうであろうと、兄の傲慢さ、妹の戦闘狂、弟の矜持は覆る事はない。

 

 __重力魔法"魔王の御前"__

 

 周囲一帯を重力を掛ける魔法。

 これにより、四人のラグヴァベインは膝を付いた。

 

 __神槍騎魔法"破魔槍の大結界"__

 

 アレキサンダーの神槍騎魔法による結界が重力魔法を消去した。

 これによって彼等は自由に動けるようになったが、フェドリアの魔法が解かれたとはいえ、彼の魔法の効果を受けていた時間が少しばかり長すぎたせいで、感覚を取り戻すには未だ完全とは云えない状態の彼等にとっては重力魔法を解いたとしても、80%近くの同調率を有するゾグラティス三兄妹に対して、護衛も行ないながらの戦闘はラグヴァベインの魔導士にとってはとても不利な状況下にあることは変わりなかった。

 

 形成が確実に悪化している状況下に焦りを感じ始めた三人の魔導士。

 しかし、そんな彼等に護衛対象であるリアラは平然と、確信を持った表情で告げた。

 

「大丈夫ですよ」

「え?」

「リアラ様?」

「‥‥‥‥それはどういう‥」

 

 リアラに尋ねようとするが、彼女の発言の意味が彼等はすぐさま知る事になった。

 それはラグヴァベイン側とスペード王国側との間に突如現れた空間魔法による魔法陣から白い発光が起きると、そこにはアルトが立っていた。

 

「‥‥さて、お前達は何者だ?」

 

 アジト近くで諍いを起こしている彼等にアルトは敵対的視線を両側に向けた。

 




次回~「混沌の王」VS「漆黒の三極性」1回戦~


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「混沌の王」VS「漆黒の三極性」1回戦

この頃、お気に入り登録者数が増えないことに悩んでいます。

更なる腕を磨いて気に入られる様に頑張ります!

アンケートご協力ありがとうございます!

追加ヒロインは「メレオレオナ・ヴァーミリオン」に決定っ!!

今後は主人公とヒロイン回も入れていくつもりですので、楽しみにして下さい!


 アルトがラグヴァベインとスペード王国の魔導士達との戦闘に介入した。

 

 アルトは自身の父と同じ魔力の波長を流し、明らかに人間とは思えぬ角と翼を生やしているスペード王国を一瞥。

 次ぎに自身の中にある四つの領域の内、「天域・冥域」を感じさせる魔力を一つずつ宿しているラグヴァベインの魔導士三人にも一瞥した。

 

 アルトにとってはラグヴァベインの魔導士三人に護られている[混沌の姫]と呼ばれたリアラを、この場にいる者達の中で一番凝視していた。

 それは彼女の容姿が容姿端麗な美少女‥っという理由だけではないからだ。

 

 では何故凝視したのか?

 

 それは彼が転移する前に"全智の未来"にて見た未来にてリアラは未来視している当時のアルトに向けて、視て(・・)いたのだ。

 未来の者から視られる感覚など、アルトよりも経験が長い時間魔法の魔導士・"魔法帝"ユリウス・ノヴァクロノですら経験がない。

 

 そんな経験をしてしまったアルトはリアラに対して他の者たち以上に警戒心を抱いている。

 

(この女はいったい何者なんだ?)

 

 リアラは未来でもアルトが転移してくるまでも他の三人によって護られていた。

 にも関わらず、誰よりも危険性と警戒すべき存在として感じ取っていたアルト、だが同時に誰よりも安心感を抱かせる人物だと感じていた。

 

「‥‥‥」

 

 アルトが一瞥をしている間に、ゼノンがアルトの魔導書の柄を見ていた。

 

「‥‥あれは混沌の魔導書」

「じゃ~さ~、じゃ~さ~。アイツ捕まえた方が早いんじゃない?」

 

 ゼノンの呟きを聞いたヴァニカは早く殺したくて仕方がないと言わんばかりにアルトを捕獲する事を提案した。

 

「そうだね。ヴァニカの言った通り捕えるが、[混沌の王(カオス・アル)]が何処まで楽しませくれるか。検証しようじゃないか」

 

 ダンテがヴァニカの提案を了承するが、同時に彼の実力を測る事をしていた。

 

 __重力魔法"魔王の御前"__

 

 アルトに向けて重力を掛けた。

 アルトの周りの地面が重力でひび割れては凹み、空気が重くなったようになった。

 しかし、当のアルトは顔色変えることなく仁王立ちしていた。

 

「私の重力魔法に抗うか。中々楽しめそうじゃないか?」

 

 不敵な笑みを浮かべながらそう言うダンテ。

 しかし、アルトはダンテを睨み付けた。

 魔力を帯びた視線で‥‥‥

 

 アルトが視線を向けると彼の魔力がこの場を覆い尽くし、重力魔法が消え去った。

 

「ダンテ兄の魔法を無効化するなんて面白そうじゃ~ん」

「‥‥脅威だ」

 

 __血液魔法"紅いケダモノ"__

 __骨魔法"無間骨牙"__

 

 血液で創られた上半身の怪物を出したヴァニカ。

 自身の身体から鋭い骨を大量に生やして相手に対し攻撃してきたゼノン。

 

 そんな二人の攻撃魔法にアルトは魔法を行使した。

 

 __混沌炎魔法"無慈悲な太陽"・二輪(ツヴァイ)__

 

 二個の太陽を放出したアルトの魔法は二人の魔法を容易く蒸発・燃焼させた。

 

 __重力魔法"悪神の加圧技巧"__

 

 重力で大岩を土から浮かばせると、加圧によって大岩を西洋風の剣へと変化させた。

 

 加圧によって剣へと機構したダンテはアルトへと襲い掛かる。

 彼に続く様にヴァニカとゼノンも襲ってきた。

 

 __重力魔法"ヘビーインファイト・グラディエイター"__

 

 __血液魔法"ケダモノの紅い爪"__

 

 __骨魔法"硬骨剣"__

 

 ヴァニカは右手に"紅いケダモノ"と似た血液で出来た紅い爪が覆っていた。

 ゼノンはレイピアの様な形状をした骨の剣を創り出した。

 

 アルトは聖剣エクスカリバーを抜剣し、音速を越えた速度で三人の攻撃を全て対処して見せた。

 三方向から攻撃を、彼はエクスカリバーが聖剣となる以前までに多くの英雄達がこのエクスカリバーを使用していた。

 その使用者の中には嘗て、盲目の剣士が使っていた「無明の舞い」と呼ばれる、視認する必要もなく攻撃を防ぐという剣技を編み出した剣士の魂が、聖剣エクスカリバー内に染みついている。

 聖剣エクスカリバーを使うアルトは、アジト[永久の混沌城]三人の猛攻に対して視認するまでもなく難なく攻撃を防ぎ続けている。

 

 完全に防ぎきられている事に気付いたゼノンは悪魔憑きとしての力を発揮しようとするが、アルトは既に別の魔法を行使しており、彼の瞳に"全智の未来"と行使しており、大地に過去と未来を思わせる時計回りと反時計回りの時刻版が二つ魔法陣の様に刻まれていた。

 

 __混沌時間魔法"時間の加速化(クロック・アップ)"__

 

 アルトは自身の時間帯を加速させる事で三人の、大地に刻まれた二つの時刻版の魔法陣が、彼等三人に向けて、左右同時からの長針が重なる様に高速で動き出し、短針が十二の文字を刻み初め、長針と短針が同時に十二の文字へと指し示すと同時に、アルトは右脚を、相手の顔や首を狙う為に上段へ向けて、回し蹴りを行なった。

 

 __混沌時間魔法"表裏一体の(トゥワイス)終焉時刻(タイムブレイク)"__

 

 放たれた回し蹴りは過去と未来‥‥‥それぞれの時間帯の十二時間分の破壊力を現在へと極圧縮された破壊力がアルトが回し蹴りした方向に向けて放たれた。

 

 団扇を思わせるように、放たれた技によって出来た砂煙が形を成す。

 

 アルトは一回転する様に砂煙で姿が見えないが、ダンテ達がいる方向へと身体を向けて、左手を少し上げるようにして新たな魔法の準備をした。

 

 __混沌空間魔法"複写の波紋反撃(カウンター)"__

 

 アルトが破滅の神シェヴァの呪いで暴走していた際に使っていた魔法。

 砂塵で見えない敵の攻撃を完全に未来視にて観察・観測し、襲い来る無数の骨と血の針、そして岩石が波紋の起きた空間に侵入する事で攻撃を無効化したアルトは、すぐさまパチンッと指で音を鳴らし、波紋内にあった先程の攻撃の三種類を更に増幅してカウンターを行なった。

 

 攻撃一つ一つの規模・範囲・数量・速度・威力が増幅された。

 

 砂塵が舞い敵の見えぬその場所へ畳み掛ける反射した敵の攻撃に対して、キューブ型の空間魔法と、肉厚が集まった様な禍々しい右腕が、カウンターされた攻撃を囲い・犠牲にする事で防いで見せた。

 

「残念だ」

 

 三つの膨大な魔力によって、突風に曝されて腫れるかのように、砂塵が取り払われるとそこには右腕を化け物のように変化させたダンテがつまらなさそうに告げた。

 

 __肉体魔法"防厚腕"__

 

「確かに冥域たる時間魔法を使い、我々の魔法を反射して見せたのは素晴らしいが、それだけが我々の望む原初の魔法ではないだろう。もっと君を見せて貰おう」

 

 ダンテがそう言い終えると、アルトの左右からそれぞれヴァニカとゼノンが襲ってきていた。

 

 __血液魔法"ケダモノの斬爪"__

 __骨魔法"早蕨"__

 

 右手の"紅いケダモノの爪"から飛び出した爪形の斬撃を放つヴァニカと、左腕から質の良い強度を持つ鋭い先を持つ骨が飛び出してきており、ゼノンは左腕を突き出すようにして攻撃をした。

 

 __混沌氷魔法"過冷却の盾壁(ブリザード・ウォール)"__

 

 過冷却水によって出来た盾の様に出来た壁。

 襲い掛かる攻撃に衝突した過冷却水が突如として凍り出し、強固な壁となりて襲い来る血液魔法と骨魔法を氷付けにして凝固した。

 

「あはっ!簡単に凍らされちゃったぁ」

「‥‥驚異的な凍結速度だ」

 

 ヴァニカはアルトとの戦闘が楽しくて仕方がないと言わんばかりに凶器的な笑顔となり、ゼノンは唯々冷静に彼の力を分析していた。

 相反する様な二人の性格に何も感じないアルトだが、ゼノンを少しばかりユノと同一視しかけていた。

 

(‥‥ユノの様な奴だな)

 

 ユノが聞けば違うと言うかもしれない為、心の内にて溢すだけにしたアルト。

 

「いいよぉ!いくね?いっちゃうね!!悪魔の力、51%!」

 

 ヴァニカがそう言うと、彼女の悪魔の魔力が更に膨れ上がった。

 

(あの女は快楽主義者か‥‥)

 

 悪魔の力を強めて身勝手に襲いに掛るヴァニカを冷静に捉えながら彼女の攻撃にアルトは瞳にゲルドルを捕まえる際に使った魔法を行使した。

 

 __混沌消滅魔法"破滅の魔眼"__

 

 瞳に特異な魔法陣が浮かびあがり、その魔眼はヴァニカを完全に捕えており、彼女の血液魔法のみならず、開放した悪魔の力まで滅ぼして無効化していった。

 

 51%も開放していた悪魔の力を滅ぼされ、更には自身の血液魔法すらも無効化された彼女は、唯のヴァニカ・ゾグラディスとしての姿にされた。

 

 無効化されて驚く彼女だったが、すぐさま攻撃を行なおうと魔力を発するがアルトの"破滅の魔眼"の前に忽ち無効化された。

 前のめりにアルトへと転がりそうになるヴァニカを、アルトは左手で彼女の身体に接触する程度に当てるために、手を差し伸べた。

 彼の差し伸べた掌が彼女の豊かな山々に挟まれるように接触してしまうが、戦闘中のアルトと戦いに快楽を感じているヴァニカは羞恥心を感じていなかった。

 アルトはヴァニカに時間魔法と空間魔法を合わせた魔法で座標を固定し時間を停止させた為、逃げる事も出来ぬようにした。

 

「色々と教えて貰おうか」

「前言撤回しよう。ヴァニカを捕えるとはやるじゃないか」

 

 ヴァニカが捕えられた事にアルトの背後に移動していたダンテが両手を握り拳にして殴りつけてきた。

 

 __重力魔法"ヘビーインファイト"__

 

 移動速度・殴打に掛る負荷・威力の増加などを重力を弄るだけで可能にした肉弾戦闘用の魔法であり、先程アルトに向けて行なった"ヘビーインファイト・グラディエイター"と違うのは剣を持っての攻撃魔法か否かの話しであり、"ヘビーインファイト"の派生魔法である。

 

 しかも、ダンテの右腕は先程の"防厚腕"を左腕にも行使しているため、彼の両腕は正しく化け物と云える状態だった。

 そんな両腕による重力を支配下に置いたインファイトに襲われるアルト。

 ダンテの腕が彼を捕えようとしていた時、アルトの身体が小人並のサイズへと縮小した。

 

 ダンテやゼノン、停止中のヴァニカの肉眼では視認する事すら出来ほどのサイズに瞬時に縮小された事で、彼の"ヘビーインファイト"を軽々しく回避した。

 肉眼で見えぬならば魔力感知で戦えば良いというだけのことだが、アルトは魔力感知すらもクローバー王国の魔法騎士団長でありながら裏切ったゲルドル・ポイゾットの魔法を使って魔力感知を透過していた。

 

 __混沌弱体化魔法"少名碑古那(スクナヒコナ)"__

 

 "少名碑古那"=術者の肉体と物質を瞬時に限りなく小さく縮小・復元を宿した混沌の魔法。しかもこの魔法の利点は魔力・自然・物質由来関係なく攻撃を瞬時に縮小させる‥‥つまり弱体化させる事ができ、この魔法に次いで、とある時間×空間魔法も利用する事で更に利便性を宿していた魔法でもあるのだ。

 

 "少名碑古那"を使って己を縮小したアルトは同じ様に縮小しておいた剣魔法を行使していた。

 

 __マナゾーン・混沌剣魔法"流星群の嵐斬撃(スターバースト・ストリーム)・連撃"__

 

 嘗て父バヴェルがゲブラーを相手に行なった"流星群の嵐爆撃"__嵐のような荒々しさに、原爆の如く爆発力を秘めた、流星群のような無数の光りの突き攻撃を行なう__を、斬る攻撃へと変えた合計37回分の斬撃を連続で発動していた。

 しかも、マナゾーンの状態な為、彼等の全方位から縮小化された斬撃が(・・・・・・)37回分連続で放たれており、アルトが縮小化を復元させた事で一瞬で彼等の全方位から斬撃に囲まれた状態になった。

 

 アルトを視認できなかったダンテとゼノン、そして停止中のヴァニカは突如現れた斬撃の猛撃に驚愕する。

 

 ダンテ達はアルトからの攻撃を間近で直撃してしまい、彼等のいた場所に爆発が生じた。

 

 

 そんな彼らの戦いを護衛対象を防衛していながらも、ラグヴァベインの魔導士達はアルトを見ていた。

 

「あれが、[混沌の王(カオス・アル)]か」

「未だに神や悪魔の力を使ってすらいないとは‥‥‥」

「基礎を整えていると言うことでしょう」

「下手に実力を付けて有頂天になって無駄に力を使うよりはいいだろうな」

 

 三人はアルトに向けてそれぞれ感想を述べていた。

 彼等はアルトが神や悪魔の力を有している事だけでなく、その力を覚醒している事に気付いていた。

 それは彼等が無域異界ラグヴァベインの出身者だからだろう。

 

「やはり、来て正解でしたね」

 

 リアラの発言に三人は誰もが肯定する様に頷き返した。

 彼女達は自分達が此処へとやってくる事になった経緯を、脳裏に思い浮かべていた。




今回はアルトとゾグラディス兄弟達との対戦を入れていました。
次回からリアラ達の正体についてのオリジナル話になります。

次回~無域異界ラグヴァベイン~


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無域異界ラグヴァベイン

 時は一週間ほど前。

 クローバー王国では魔法帝率いる魔法騎士団長達と、特殊な魔法を持つアスタと調査対象でもあるアルトを呼び出し、裏切り者の団長ゲルドルの確保・尋問、アルトの調査後に神の力へと覚醒した事で、神と魔‥‥相反する力に覚醒した事が、「姫」を刺激した。

 

「お呼びでしょうか、リアラ様」

 

 城や土地の形など異形な物が多く、形が定まらぬ無域異界ラグヴァベイン内にある神性と魔性を秘めたような宮殿があり、その中に巫女姫の如き綺麗な服装を着用した上で座しているリアラがいた。

 

 そんなリアラの前に、口元に長く垂れ下がるような髭を生やした老人を呼び出していた。

 

「遂に時が来ました」

「!では‥‥」

「はい、私はこれより、彼の者を迎えに参ります」

 

 そう言ってリアラは立ち上がり、呼びつけた老人に語りながら、宮殿の入り口たる門へと歩みながら告げた。

 

「ラグヴァギルズの覚醒元である‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

「──────────[混沌の王(カオス・アル)]に‥‥私の夫に会いに行きましょう!」

 

 男女問わず魅了してみせるかの如き可憐な笑みを浮かべて‥‥‥‥

 

 ────────────────────────

 

 リアラによって告げられた言葉は颯爽と無域異界ラグヴァベインに生まれる戦士・非戦士___ラグヴァベインに広まっていき、彼等の住まう異界内では、まるで政の準備をする様に、多くの者達が数日前から何かを準備し続けていた。

 

「おい、急げよ!」

「違う!そっちじゃねぇ‥‥!!」

 

 作業を急がせる者や、何かを間違えた者に対して叱責する者などがいた。

 

「張り切っていますね」

 

 リアラは淑女たる言葉使いで、準備を続行する者達を眺めながら呟いた。

 そんな彼女の言葉に呼びつけられていたご老体が相槌を打った。

 

「仕方なきこと。ラグヴァベインに生まれし我らラグヴァギルズにとって、リアラ様と[混沌の王]様の婚姻は待ち望んだこと。全ては先代‥‥‥いえ、初代[混沌の王]により生み出されし者の宿命です」

 

 ご老体の言葉にリアラは満足そうに微笑んだ。

 

「しかし、同時に彼の存在達を警戒する必要もありますよ。ダグヴァ」

 

 しかしながら、まるで自分達のみならず、リアラの夫となる[混沌の王]にまで危機を与えようとする存在を知っているかのような発言だった。

 リアラのその言葉に、ダグヴァは威圧感を醸し出しながら閉ざされたキツネ目の薄く目開きながら、その存在に対して、並々ならぬ敵意を示していた。

 

「混沌により最初に生み出されし二種族‥‥‥ですな」

「えぇ。魔族は当然ですが‥‥この頃、神側も神以外の存在を否定し始めました。来たるべき戦いのために戦闘用ラグヴァギルズ達には未覚醒ながらも最上位の憑き者達と渡り与えるでしょう」

 

 リアラはそう言って、政の準備をする様に準備を続ける者達を見ていた視線を外して、天地がひっくり返った化のような、演習場の様な広場に向けると、そこには十数人の魔力が荒れ狂っていた。

 その広場から所々に爆発や落雷などの魔法の効果が生じていた。

 

「ですが、やはり彼の存在と戦うには覚醒が必要不可欠」

 

 そう言ってリアラは何処かから取りだしてきた一冊の魔導書を手に取る。

 その魔導書の表紙の絵柄はなんと、アルトと似通っていた。

 

「急がば回れといいます。後手に回らぬよう、細心の注意を払いましょうリアラ様」

「‥‥‥そうですね」

 

 先を急ごうとするリアラに、ダグヴァは冷静になるよう、静かに促した。

 リアラも知らずに熱くなっていたのか、彼からの注意を素直に受け取った。

 彼女はこのラグヴァベイン内では長をも束ねる者とも云える人物だ。そんな彼女が冷静さを失いかねないほどの熱い感情に燃えかねなかった理由は、彼の存在達(・・・・・)にあるのは間違いないだろう。

 

 最初に生み出された二種族。

 その言葉から察するに、恐らくあの二種族なのだろうが、それが正解であるのか、はたまた不正解であるのか、それは後々に真偽がわかるだろう。

 

「他の[長老]達はどうですか?」

 

 リアラは一度開いた目を閉じて冷静さを取り戻すと、ダグヴァへと顔を向け直しながら、彼に質問をする。

 彼女の質問に、ダグヴァは申し訳なさそうな表情に変わった。

 

「申し訳ございません、リアラ様」

 

 頭を下げて謝罪するダグヴァ。

 どうやら表情のみならず、態度ですら謝罪している事から、どうやら不穏な出来事が起きているようだ。

 

「やはり認めてくれようとはしませんか」

「あのアホ共は昔の栄光に拘る事しかできませぬ」

 

 リアラは落ち来むような呟きが木霊し、ダグヴァは己の不甲斐なさを悲観しながらも、他の長老達を貶していた。

 他の長老達が何を認めようとしないのか、そして彼等のとっての栄光とは‥‥‥

 

「そんな事を言ってはなりませんよ、ダグヴァ」

「しかし‥‥‥」

 

 リアラは他の長老達を罵倒するダグヴァを勇なめた。

 

「長老は幾度の実績によって手にしたラグヴァベインを率いる五人。しかし、私が‥‥[混沌の姫]がうまれた事で、率いし者は強制的に変わります」

 

 そう、無域異界ラグヴァベイン内に住まうラグヴァギルズ達を率いる者達___長老は実績によって、「長」の名を持つ者として選抜された五人の事をいう。

 簡単にいえば、魔法帝を選抜する様なものだ。

 

 そして、リアラはダグヴァに他の長老達はと訪ねた。

 つまり、ダグヴァも「長老」の一人であるという事なのだ。

 

 しかし、それは「混沌の姫」が生まれるまでのこと‥‥‥‥

 

 無域異界ラグヴァベインは初代「混沌の王」によって創り出され、ラグヴァギルズはラグヴァベイン内でしか誕生しない。

 新たな「混沌の王」が誕生せし時、彼の者の為に闘い、彼の者に付き従う者とならん。

 それこそが、ラグヴァギルズの掟にして絶対なる呪いとも云える。

 

 そんなラグヴァギルズを束ねる長老達は、初代「混沌の王」の死から、数百年以上も長老達によって無域異界ラグヴァベインを守護しながら、ラグヴァギルズを束ねていった。

 しかし、新たな「混沌の王」が誕生する事を知るために、初代「混沌の王」がラグヴァベイン内に施した設定(システム)が束ねし者が変わる。

 

 それこそが、「混沌の姫(カオス・プリンシピッサ)」であり、姫が生まれし時、長老達すらも束ねては、王の妃となり、全てのラグヴァギルズが宿し魔法属性に随する魔道階域を、彼等の姿なども真の‥‥本来のモノへと覚醒させる。

 その覚醒は理に順次、理に背理する。

 混沌とした、形無き矛盾した力を宿す。

 

 それが姫の役割であり、その姫がリアラなのだ。

 

「彼等はそれが許せないだけなのです」

 

 つまり、長老達は幾ら「混沌の王」の創作した設定で生まれた姫であろうと、彼等からすれば、生まれたての子供が、一切の実績無しに自分達も含めたラグヴァギルズを統治すると言われれば、不満を抱き、徐にそれを出して、協力を無視しているのだ。

 

 五人の長老の中で、ダグヴァを除く四人が協力を無視した事で、ラグヴァペイン内の統治はあまり良くない状態にあった。

 リアラやダグヴァの懸命な統治によって、リアラが物心が付いた頃よりも、マシな統治になっていた。

 

「しかし、あの頃よりも遙かに安定した治安になったのは、リアラ様のお陰」

「いえ、ダグヴァ達の助力のお陰ですよ」

 

 彼女が物心が付く前、ダグヴァを除く長老が治安放棄した頃は魑魅魍魎が跋扈するかの様な、ラグヴァギルズ同士の戦闘、利益欲しさの犯罪行為は見るのも悍ましい治安の悪さだ。

 

 

 しかも、無域異界ラグヴァベインから現世に出るためには、自然的な雷轟が発生している場所でなければ、二度と外には出られない。

 ラグヴァギルズは、命そのものが通行のチケットである為、何一つの準備無く出入りしている。

 

 そんな変わった転移門(ゲート)から現世に出て犯罪を行ない程に治安が悪かったラグヴァギルズの統治は九割から三割まで減少したのは、彼女達の努力によって得た結果だ。

 

 リアラの発言で準備をしている者達も嘗ては犯罪者だった者達も含まれている。

 リアラは夫の迎えに行く為に準備しているわけではなく、ラグヴァベインの治安を良くするとい目的も含まれていた。

 

 しかし、彼女は彼女自身で、長老達を説得する事を考えていた。

 反抗的な態度と行動を諫め、咎めなかればならないことも‥‥‥

 自身の利益を残しておこうとする欲深さが出ている長老達との蟠りは「混沌の王」を引き連れただけで解決できるわけがないことも‥‥‥

 

 故に、リアラは先ず、ある存在への対抗策だけでも準備を終えておくために、夫を迎える方向に持って行った。

 

 それこそが、今尚ラグヴァギルズを束ねるリアラの最善策なのだ。

 

 リアラとダグヴァの会話に割り込むように報告へとやってきた腰に剣の業物を修めた紫色のポニーテールの髪型をした女性が現れ、片膝を着き、頭を下げていた。

 

「何ようだシドイン」

「はっ!歓迎の準備は八割完了しましたので、そろそろお迎えに上がるべきかと」

 

 シドインはまるで、堅苦しい男の様な発言で報告と自身の考えを述べた。

 

「‥‥‥‥さて、我々の王を迎えに参りましょう」

 

 リアラは、転移門である雷轟を通して、外界を見つめていた。

 その瞳に映る光景には四つの国があり、北方は冬の地、東方は鉱山の地、西方は自然的な地。そして南方は膨大な魔力に包まれ、ハッキリとした地形が見えず、膨大な魔力が他国へも侵食しようとする様な地だった。

 

「南方の国[クローバー王国]‥‥‥王が座す[永劫の混沌城(キャメロット)]」

 

 彼女には視えていた。

 いや、彼女しか視えなかったというべきか。

 

 クローバー王国を包むほどの膨大な魔力から神すら崇める清廉潔白なる神聖な光の魔力と、魔すら畏れる暗黒よりも暗い闇の魔力が入り混じった純粋な力たる混沌が溢れる、クローバー王国へと慈しむかのような表情を浮かべて、シドインやダグヴァに告げたのだった。

 

 ────────────────────────

 

 そして、雷轟という転移門の前で、外出する装飾を着飾ったリアラと、彼女の防衛としてシドイン含む三名のラグヴァギルズが立っていた。

 

「政の用意は調えておきます」

 

 ダグヴァが頭を下げながら、彼等の帰還。

 並びに自分達の王の歓迎の準備を整えることを告げる。

 彼等の準備は殆ど最終局面にいる為、ほんの少し準備すれば終わるところにまで完成していた。

 

「よろしくお願いしますね」

 

 リアラはダグヴァ達に期待と信頼の笑みを浮かべて頼んだ。

 その笑顔にダグヴァを除く多くの老若男女たちが魅了されウットリとしていた。

 そんな中、彼女の笑顔に魅了されていないダグヴァはシドイン達に視線を向けた。

 

「シドイン、アキランダー、カルスノン。リアラ様の護衛を頼む」

『御意(はっ)!』

 

 リアラの護衛を務める三人に彼女の安否を頼んだダグヴァ。

 三人は言われるまでもないと言わんばかりな表情を浮かべては了承したのだった。

 

「それでは‥‥‥」

 

 リアラはラグヴァベインに背を向けて、転移門へと歩を進めていった。

 

「参りましょう」

『ご武運を!』

 

 リアラ達四人を見届けるダグヴァ達だった。

 

 これが、リアラ達が[混沌の王軍]アジトへと向かう事になった出来事であった。

 




次回~いざ、ラグヴァペインへ~


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会合

仕事が多忙な故、投稿がかなり遅れました。
今度は短くても投稿していこうと思いますので、宜しくお願いします。


 リアラ達がアルトと漆黒の三極性たちの戦いを見て回想に浸っている間、アルトの攻撃を受けた[漆黒の三極性]というと‥‥

 

「まさか、ヴァニカを簡単に倒すとは……」

 

 "流星群の嵐斬撃"を連続で放たれた斬撃が[漆黒の三極性]を襲った結果。

 時空を停止されたヴァニカのみが倒れている事が判明し、他の二人‥‥‥つまりダンテとゼノンの状態が分かっていなかった。

 ヴァニカは体中を斬られて血を流していて、とても平気な状態とはいえず、瀕死といっていいものだった。

 

 ヴァニカはアルトの攻撃を受けて重傷を負い、地に背中を付けて倒れていた。

 

「混沌を甘く見ていたようだ」

 

 煙が晴れると、先程以上に醜悪なまでの肉体へと変化し巨大化したダンテ。

 大量の骨で身体を内部から、外部からも纏って防御していたゼノンすらもヴァニカと同様、血を流して片膝を着いていた。

 

(肉体魔法。対抗できる魔法属性は幾つかあるが、あの重力魔法も同時に対処するとなれば‥‥)

 

 アルトはこの兄弟の中で一番に強いのはダンテだと考えている。

 しかし、同時に一番弱いとも感じていた。

 

 彼は幾度となく再生する肉体魔法を持ってしまった事と悪魔の力による重力魔法が強者たらしめているが、同時にそれらが簡単に壊されれば一番の弱者だ。

 己の力が不滅だと思い込んでいる自惚れだと……

 

「だが、私に勝つことはない」

 

 ダンテはそう言いながら、巨躯となった図体でアルトを見下ろしていた。

 

「そうでもないようだが?」

「なに?」

 

 __混沌調合魔法"完全調合終蹴撃(ジーニアス・フィニッシュ)"__

 

 身体全体を七色に輝かせたアルトは"神速の歩み"で近づいた。

 ダンテの肉体を挟み込むような科学的なグラフが現れ拘束する。右脚に七色に輝く魔力を集めた跳び蹴りがダンテに直撃する。

 

「ガッ……!?」

 

 直撃した"完全調合終蹴撃"がダンテを襲い、彼の身体に七色の波動が纏わり付く様に流出していき、彼の悪魔の力を解放した姿が少しずつ消えていき、肉体までもが最初に出会った頃の体型に戻っていた。

 

 "完全調合終脚撃"=相手が備わっている感情や耐性などを簡単に書き換えることが出来る。その中には感情がない者に対して感情を与えたり、毒性を浄化させるという方法もあるのだ。

 

 これにより、ダンテの魔法によって強く鍛え再生していた肉体は元に戻ったのだ。

 

「兄上……!?」

 

 ゼノンは突如ダンテの前に現れたアルトの放った攻撃による変化を見て、驚き声を上げてしまう。

 そんな彼へとダンテの頬を蹴っては飛ばし、衝突させた。

 

「ぐっ……!?」

「っ……」

 

 蹴り飛ばされたダンテを自身の身体を精一杯に使って受け止めるゼノンだが、蹴り飛ばされたダンテの勢いがとても強く、地に足を付き、勢いを削ろうと必死になるが、アルトがダンテにつけた勢いはその程度では収まることはなかった。

 "神速の歩み"でゼノンたちの上下左右の四方に"剛覇魔の念たる粉砕大鉄槌(ゴルゴン・ドルラ・ガデング)"を(トラップ)魔法のように設置していた。

 

 思考によって生み出された反魔法の巨大な大槌が迫りくることに、ゼノンは焦った。この魔法から魔力が消えていることに気づいたのだろう。彼の契約した悪魔の魔法属性であろうとも、触れるモノの魔力を無効化する魔法の前には無駄だからだ。故に、上下左右からの攻撃に触れられる前に、空間魔法によて出来た黒緑色の孔へと入っていった。

 

 八つの大槌が触れた事で起きた砂塵が吹き荒れる。

 アルトはそんな砂塵に目もくれず、ヴァニカが倒れている場所へと視線を向ける。

 

 その場所に突如、ゼノンが作り出した空間魔法と同じ孔が出来上がった。孔から現れたのはダンテを連れたゼノンだった。

 アルトがダンテに行った"完全調合終脚撃"によって彼の肉体魔法という毒素を浄化させて元の肉体へと変換させて、重い足蹴りを受けてしまったダンテは気を失ったのかゼノンの骨魔法によって抱えられていた。

 

「コホッ……ゴホッ……!!」

 

 瀕死であるヴァニカが、口から血の混じった咳をしながら、頭を無理して動かしていった。

 

「……アハッ!……いいね……君……私の奥がムズムズしてイキそう……これって……恋ってやつ!?」

 

 ゼノンは同様にヴァニカも回収するために空間を開いてはヴァニカを通り過ぎるように空間が走っていき、空間に呑まれたヴァニカはゼノンの展開した骨の中に移動していた。

 骨に包まれながらも、嬉々とした表情を浮かべてアルトへと視線を向け続けるヴァニカはまるでストーカーのような執念を感じ取れた。

 

「今度会うときは……必ず君を貰うね!」

「手に入れられるものならな……」

 

 そうヴァニカに告げると、ゼノンによって別の場所へと転移していく。

 彼女の言葉にアルトはそっけない態度でそう言った。

 そんな彼の言葉に、下卑たような笑みを浮かべながら、目の前から消え去っていった。

 

 三つの悪魔憑きの魔力が消えた事をアルトは警戒心を収めることなく、後ろにいるラグヴァペインと呼ばれた者達に視線を向けた。

 

 威圧を込めた視線がリアラ達の一挙一動を見逃さず、不審な動き全てに対応できると告げていた。

 まるで、喉元に切っ先を突き付けられたかのような、感覚を…………

 

 そんな感覚に襲われながらも、ただ一人……アルトへと近づいた者がいた。

 その者とは、ラグヴァペインの長にして、彼の妃として嫁ぎ、王の覚醒を促す者……「混沌の姫(カオス・プリンシピッサ)」のリアラだった。

 

 彼女はたった一歩だけ、されど一歩を歩むとそこで頭を下げた。

 あまりに綺麗なお辞儀に、ここが戦場でなければ、100人は魅了していたであろう程のお辞儀をされては、流石のアルトも表情に出すことはなくとも、内面では茫然としていた。

 

「あなた様にとって、領地内に争いを近づけようとする不審者と感じるかもしれませんが、感謝だけはお受けとりください。助けて頂きありがとうございます」

 

 彼女の謝礼に続くように、彼女の護衛役である三人の魔導士たちも、同じく頭を下げて謝罪した。

 

「謝罪するぐらいならば、お前たちの正体を語ったらどうなんだ?ましてや……先ほどの三人は全員悪魔憑きだ。そんな奴らに襲われるなど、只の希少な魔法属性持ちというだけでは説明できん」

 

 そういうとアルトは獲物を取り出しては虚偽を許さぬと魔力を放出し、覇気を向けることで、彼らに真実の回答以外の選択肢を奪い去った。

 彼らもアルトからの魔力と覇気を受けては虚偽を許せない状況にいることぐらい、簡単に察しがついていた。

 

「我々の目的は、とある人物との会合でございます」

 

 アルトの質問に答えたのはリアラではなく、碧髪の男だった。

 男が発言すると、リアラを護衛していた他の二人と共にアルトに向けて片膝をつき頭を下げて忠誠を誓うかのように俯いた。

 

「……なんのつもりだ?」

 

 突如の忠誠の誓いにアルトでも困惑はする。しかしリアラとアルトの間にて頭を下げる彼らの様子からアルトとリアラに注がれていることが一目瞭然だった。

 そのことから先程の男の言葉と、スペード王国の魔導士たちの襲撃を考えあわせたアルトは一つの結論に至った。

 それは彼女────スペード王国によるリアラの誘拐未遂。並びにラグヴァペインによるアルトとリアラの会合であった。

 

 彼らの会合を成功させようとする者と阻止する者。

 二つの勢力が国を違えて争っていたのだ。会合の成功・阻止を目論み実行するということは過去・現在・未来であっても同じように繰り返す利権の争いに似ている。

 不都合だから阻止する。

 良いと思ったから成功させると、十人十色ならぬ他国他色(たこくたじき)だ。

 

 そんな利権の争いに、第三者として介入してしまっていたことに、後になって気づかされることになったことを恥じるアルトだったが、過ぎたことに文句を言おうとは思えず、彼らの会合理由を尋ねるために、一度彼女たちをアジトへと紹介した。

 

 




次回~いざ、ラグヴァベインへ!~


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