大・ガールズバンド時代に活躍する変人たち (スターフルーツくん)
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第1章
第1話「未知との遭遇」


皆様こんにちは。そして明けましたおめでとうございます。エルモです。色々と細かい話は後にしたいので、とりあえずどうぞ。


「ここが東京か…。」

 

 時は戦国、頬の肉が壊死しそうなこの時代。仙台の大学を出たてホヤホヤの僕、Rawは本日から東京へ移り住むことになりましたー。イェーイ。本当は中退したかったが、何とか四年間頑張ったよ。頑張り過ぎたのかもしれません。

 さて、前置きはこのくらいにしといて早いとこ家に荷物を置いてくるか。と、その前に家の周りを見てみないと。近くには何があるだろう…。

 肉の香りが漂う北沢精肉店、お洒落な雰囲気が漂う羽沢珈琲店、そしてやまぶきベーカリー…。飲食店ばっかだな。しかも名字+店の種類っていう形式のネーミングの店が三つもあるし。まぁ今日はこのくらいにしといて早いところ荷物を置いて行かねば…。

 

「いだっ!!」

「ゔっ!!!」

 

 いったぁ…。何かにぶつかった気するんだけど…。ていうかぶつかった。完璧に背中からのダメージだわこれ。

 

「ごめんよ、怪我は無いかな?」

「だ、大丈夫です!」

 

 と、ここで僕は一人の少女を一瞥した。おそらく地毛であろう茶髪、胸元のリボンが愛らしい制服、まぁここまでは君たちも納得できるであろう。この少女初見の僕に最も理解できない情報はこの猫耳みたいな髪型。何?どういうこと?何をどう考えたらその髪型に行き着くの?

 

「香澄!いきなり飛び出してったら危ねぇだろ!すみません、うちの香澄が…。」

「いやいや、怪我が無いなら良いんだよ。むしろ僕の方こそちゃんと観てなくてごめんね。」

 

 保護者的な感覚で香澄という名前の少女を連れて行く少女は金髪のツインテールの髪型をしていた。お嬢様みたいな感じだな。口調はDQNよりだけど。制服を見る限りあの猫耳ヘアの子と同じ学校かな…。中学だか高校だかよくわからんが。まぁ中高生はあれだけ元気な方がいいよ。僕みたいにため息ばっかついてる人間だといけないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋に来た僕は持ち運んできた荷物をしまう。これの他にも色んなものが運び込まれてくるからね。相当きついよ。とりあえずギターとエフェクターは持ってきたから、押入れにでもしまっとこう。

 すると、僕の部屋のインターホンが鳴った。まったく、誰だよこんな時に…。

 

「はい?」

「どう?新居は住みやすいかしら?」

「冷やかしに来たのかよちゆ。」

 

 紹介しとくよ。こいつは僕と同じバンドのメンバー、珠手 ちゆ。人によってはチュチュと言った方がわかりやすいか。担当はDJ。最初からいたわけじゃなくて、途中加入のメンバー。切った方がいいと思うくらい髪長いし。本人の膝まであるよ。なんといっても一番の特徴は猫耳のヘッドホンだろう。あんな形のヘッドホン持ってる奴あいつぐらいしかいない。

 

「もうすぐ始動するわ。私の最強のバンドが…!」

「足元すくわれないことを祈るよ。」

 

 ちゆ、今年の初めからずっと言ってるのよ。最強のバンドを組んでこのガールズバンド時代を終わらせるだとか。もしそうなったらガールズバンドの中の風雲児になりそう。革命児?どっちでもいいわ。そんなの関係ねぇ!

 

「たしかにSUICIDEよりは強くはないかもしれないけれど…。でも近いうちに超えてやるわ!」

「いいねぇ。楽しみにしてるよ。さぁ、とっとと帰れ。」

「もう少しここに居させなさいよ…。」

 

 仕方なかったからしばらくちゆを僕の家に居させることにした。勘当されたってわけでもなさそうなのになぁ…。何だかなぁ…。もし帰れって一点張りしたら僕が悪者扱いだもんね。納得いかない。

 

「そもそもガールズバンド時代って何?」

「そこからなの…?」

 

 ちゆから話を聞いたけど、ガールズバンドが現在進行形で台頭してるくらいしかわからんかった。要は大海賊時代みたいなもんでしょ?

 

「まぁ別にいいや。あ、土曜日VIVA LA出ること忘れないでよ。」

「Yeah.」

 

 VIVA LAっていうのは野外フェスのこと。今度僕の所属するSUICIDEというバンドが出るんだ。と、VIVA LAの確認をちゆとしたとこであいつは去っていった。一体全体何だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、僕は風呂から上がり床に着いた。え?風呂場のシーンはって?男の入浴シーンに需要は無いでしょ。

 しかし、ここ最近どうも変なんだ。変な夢を見る。夢の中では僕は小さなステージに立っていて、オーディエンス側から見て下手側にはピンクっぽい髪の女の子が黒いベース弾いてて、上手側には金髪の女の子がVシェイプのギターを弾いている。後ろを振り向くと、若干黒髪ツインテールの身長小さめの女の子がドラム叩いてて、他の子と比べると髪の長さが短い女の子はフィドル(ヴァイオリンの別名)を弾いていた。

 この事をメンバーに話すと、「それは胡蝶の夢だ」と言われた。知ってるかな。胡蝶の夢。荘子という、老子と同じ思想を持っていた中国の思想家なのだが。いやでも全く同じというわけではないよ?荘子は世間から離れた考え方だから。

 さて、胡蝶の夢というのは荘子が蝶となって周辺を飛んでいる夢を見たという話だ。荘子が蝶となっている夢を見たのか、あるいは蝶が今の荘子となっている夢を見ているのか。それが今僕の身に起こっているんだから恐ろしいったらありゃしない。どうやら、夢の中では僕が成り代わっているその子はボーカル担当なのだそうな。僕がそのボーカルの子となっている夢を見たのか、あるいは今の僕はその子が見ている夢なのか。そんなわけないとは信じたいが…。まぁ実際にそんなバンドがいたら面白いよな。

 次の瞬間、僕の携帯が振動した。僕基本的に携帯マナーモードにしてるから音出ないのよね。メッセージを送ってきたのは赤沢だな。

 赤沢っていうのは僕と同じSUICIDEのメンバー。担当はギター。本名は赤沢 増治。ステージネームはMax。ウルトラマンマックスではない。増治って名前からとったのだそうな。

 

『アレンジできたぞ』

 

 あまりにも簡潔で事務的なメッセージだったが、それは事が上手く進んでいるという状況を意味していた。

 

『ありがとう!明日練習だから持ってきて。』

 

 赤沢にメッセージを送信し、僕は睡魔に襲われつつゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、赤沢のアレンジに歌唱パートを乗せてSUICIDEの練習はお開きとなった。すると、何者かが僕の肩を叩いた。僕は振り向いて、後方に目をやる。僕の肩を叩いたのはダメージジーンズを履いた背の高い女性だった。

 

「こんにちは、Rawさん。」

「和奏か。こんにちは。びっくりしたよ。」

 

 和奏。フルネームで和奏 レイ。バックバンドの仕事をしていて、佐藤 ますきと一緒の事あるとかないとか。ちなみに和奏はベース、佐藤はドラムだ。

 

「今日、いいですか?」

「いいよ。さっさと準備して聴かせてくれ。」

 

 僕は時々こうして和奏に指導している。指導って言っていいのかどうかはわからんがな。

 しばらくして、和奏の演奏を聴き終えた。だけどなぁ…。

 

「Rawさん、どうでしたか?」

「んー…。和奏さ、全然音楽を楽しんでないように思える。って言うか、和奏は別の方法で音楽を楽しみたいと思ってない?和奏は今自分自身の実力の半分も使いこなせてない。それが現状。お前自身が本当にやりたい事を実現させられるまでは、しばらくお預け。」

 

 みんなも聴いたらわかる。演奏に身が入ってないって。和奏のやりたい事が何なのかはわからないけど、身を入れてほしいとは思うが…。バックバンドの方を仕事だと思ってる感じがするんだよな。それはたしかにそうなんだけど、演奏する分にはその意識の持っていき方は違うんだよなぁ…。

 

「そう…ですか。」

「そうだよ。僕はこの後用事があるから。しゃあな。」

 

 この時の僕は思っていなかった。ていうか想像もしてなかった。しばらくして和奏がガールズバンド時代に革命を起こす台風の目の一員となる事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和奏との一件の後、僕はアンプを届けにCiRCLEにやってきた。CiRCLEは僕の知り合いが働いてるライブハウスだから、友達の家みたいな感じがある。

 

「ありがとうー!助かるよー!」

「別にいい。ほれ、まりな。お前が頼んでたMarshallのアンプ。中に運ぶの手伝って。」

 

 彼女の名前は月島 まりな。CiRCLEの従業員で、僕が大学のサークル活動の一環で東京に遠征に行った時にお世話になった人物だ。ただ、今も変わらない青と白の縞模様シャツに黒色の上着という服のセンスはさすがにどうかと思うが。

 

「まりなさーん!ありがとうございましたー!」

「いいえー!よかったらCiRCLEでもライブしていってよ!」

「…。」

「何でそこで黙るの!?」

 

 僕とまりながアンプを運んでいると、茶髪の女の子が現れた。灰色の制服に黄色っぽいネクタイ。この前の子とは違う学校のようだ。しかし、ギャルっぽいのに礼儀正しいなあの子は…。背負ってるのはギター?もしくはベース?長さからしておそらくベースだと思うけど…。

 

「学校終わりなのか知らんが、大変だな。ガールズバンドも。」

「そうなんだよねー!みんな毎日のように来るよ!」

 

 僕の独り言にまりなが何故か応答する。いやしなくていいから。まりなは女子高生ではないんだから。

 

「って話してる場合じゃないよ!運ぼう運ぼう!」

「わかったよ。」

 

 今日わかったのは従業員が一人しかいないCiRCLEの状況とそんな状況下でもしっかり働いてるまりなが社畜である事、そしてガールズバンドも楽じゃないってことぐらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は自宅にて一人で次のシングル楽曲の作成を行なっていた。僕はソロでも活動している。むしろそれが本職。正直何もやる気起きない…。本職だって言うのにね。あれだよ。連載中の漫画描いてる人が急にやる気無くしたみたいな感じ。ヤバいと思った方がいい。それぐらい。

 そんな不毛な事を考えていたら、大和から電話がかかってきた。大和というのは、大和 麻弥のことで、アイドルとバンドが融合されたグループ、Pastel*Paletteのドラム担当だ。機材に詳しく、僕も個人的に仲良くさせてもらってる。

 

「はい?」

『Rawさんですか?今日ですね、Galaxyというライブハウスでライブがあるんで、是非観にいきましょう!集合は四時です!では!!』

「いや待て僕行くとも言ってないんだけど…!切れた…。」

 

 何なんだろうね僕に電話してくる奴らは。みんな僕が行くって前提で話してるのがムカつく。まぁ行かなくても別にいいんだけど、大和に対してドタキャンした場合、明日奈さんに激怒されるからな。あ、明日奈さんに関しては後ほど。ここにはまだ出てきてないからね。

 

「とりあえずGalaxyとやらに行きますか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いですよ竜崎さん!こっちですこっち!」

「あっ、竜崎さーん!元気ですか?」

「元気だったら疲れてない。てか氷川も来てたんだな。」

 

 氷川というのは氷川 日菜のこと。Pastel*Paletteっていちいち言うのめんどいからパスパレって呼ぶけど、氷川はそのパスパレのギター担当。しかも大和と同じ高校で生徒会長を務めているんだ。本当に大丈夫その高校?氷川の好奇心旺盛な性格のことだから危なっかしいことにはなりかねないだろうな…。

 ちなみに竜崎というのは僕の本名ではなく、僕がノーメイクで外に出る時に使う偽名。言わば俳優名みたいなもん。

 

「あたしは今日仕事無かったから来れたんですよ!」

「ジブンもです。」

「まぁそれはわかる。ちなみに誰出るの?」

「まずはAfterglowというバンドです!」

 

 大和から言われたAfterglowというバンド名について考える。なるほど、夕焼けか。だが何故夕焼けにしたんだ?

 

「こんにちは、Afterglowです。」

 

 出てきたのは五人組の少女たち。まぁパスパレも五人組なんだけどね。あの赤メッシュの子がボーカルか。で、灰色の髪の子がギター、ピンクの髪の子がベース、濃い赤色の長髪の子がドラム、そして茶髪の子がキーボードか。ジャンルとしてはTHE・ロックって感じだな。SCANDALを彷彿とさせるようなバンドでいいね。

 で、今やった曲が“Scarlet Sky”か…。それにしてもリードギター担当してる子はテレキャスの弾き方をわかってるな。音を聴けばわかる。

 

「今の世代ってここまで進化してきてんのか…。」

 

 すげぇな。やはり高校生は侮れない。みんな今が一番パワーに満ち溢れてる時期だもんね高校生って。

 

「Galaxy、悪くないね…!」

 

 ボーカルの赤メッシュがそう言って他の四人と一緒にステージを去っていく。いやはや、正統派で中々に素晴らしかったよ。

 

「キャー!!!」

 

 と、周りの女子からの悲鳴が聞こえた。歓声と言った方がいいか。つかそんな声出してたらいつかポリープなるぞ。と思ってたら、マーチング衣装を着た三人の女子がオーディエンスに運ばれてた。そんな衣装着といてハードな音楽やんないでしょ。

 てか、今ステージ見たけど何?あの熊の着ぐるみは。未だに見たことないよ僕。熊の着ぐるみいるバンドなんて。

 

「いくわよ!ハッピー!ラッキー!!スマイル、イェーイ!!!」

 

 今流れている曲名を大和に聴いたら“えがおのオーケストラっ!”だそうな。なるほど。熊がDJ、水色の髪の子がドラム、黒崎一護ばりにオレンジ色の髪の子がベース、紫色の髪の子がギター、そして金髪の子がボーカルか。曲も明るい感じで聴いてて耳にスッと入ってくる。さっきのAfterglowというバンドとどちらがいいかって言われてもこれは甲乙つけがたい。

 そして今、『ハロー、ハッピーワールド!』なるバンドが終わった。長いからハロハピでいいよな。で、次に出るのがどうやらRoseliaというバンドらしいのだが…。ポケモンでもいたよねロゼリア。バンド名付けたやつはポケモン好きなのかな?あ、来た。ベースの子は確か前にCiRCLEで見た…。それにギターの子は氷川に似てる…。ボーカルの子に至ってはどことなくあの人の面影があるし…。何なんだ?

 

「おねーちゃーん!!」

 

 お姉ちゃん?姉妹なんだ。初めて見たけど激似よな。雰囲気と髪型だけしか差異が無いと思う。

 

「いくわよ、“LOUDER”!」

「何!?」

 

 嘘だろ…。何故あの子が湊さんにしか歌えない“LOUDER”を…?それに“LOUDER”そのものの完成度も高い…。おそらく今日まで出てきたバンドの中では彼女達がトップだろう。もしそうでないにしろ実力はかなり上位の方にいるに違いない。

 曲が終わり、Roseliaの五人が去っていく。いやー、中々刺激的なバンドだったな。あの子達見てるとモチベーションが上がる。

 

「ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパー!!!」

 

 ポピ…?え?何て?すみません皆様、状況説明の方をお願いします!

 

「こんにちはー!私達!」

「「「「「Poppin'Partyです!」」」」」

 

 なるほど。Poppin'Partyか。長いからポピパって呼ぶわ。ていうかパ行が多い!て待てよ。二人ぐらい会った事ある子が…。

 

「久しぶりのライブで緊張してます!でも、すごく嬉しいです!」

 

 赤色の変形ギターを持った猫耳の子がマイク越しに話す。あー、あの子あれだ。こないだやまぶきベーカリーの前でぶつかった子だ。あの子バンドやってたのな。

 

「うん!帰ってきたって感じ!」

 

 次に口を開いたのは上手にいる黒髪ロングの少女。背高いし、スレンダーだな。女の子は一度彼女に憧れそうだな。

 

「いやここに来たの初めてだかんな!?」

 

 続いて喋ったのはキーボード担当であろう金髪の…。ってあの子にも会った事あるな僕。どうなってんだ。っていうか初めて来たのに帰ってきたって何なのよ…。それでオーディエンス笑ってるっていうね。

 

「私達は、学校の友達同士で組んだバンドです。」

 

 ドラム担当のポニーテールの子はしっかりしてるな。初めてライブを見る人の配慮もできてて素晴らしい。

 

「リードギター、花園たえ!」

 

 急に赤色のギターの子がメンバー紹介をし始めた。ドラムの子に影響されたのかね。てか青色のストラトの子は花園か…。

 

「ベース、牛込りみ!」

 

 ピンク色のSGベースの子は牛込ね。ていうか君は弾かないんかい。

 

「ドラム、山吹 沙綾!」

 

 あのポニーテールの子がドラム担当か…。って待って。山吹ってまさかやまぶきベーカリーの…?いや、気のせいか。ていうか君も叩かないのね。

 

「キーボード、市ヶ谷 有咲!」

 

 あの金髪の子が市ヶ谷か…。前に猫耳のギタボの子と一緒に出会った子だな。何か差し入れでも買っとけばよかったわ…。

 

「ギターボーカル、戸山 香澄!この五人で、Poppin'Partyです!」

「香澄ちゃん、最初に言ったよ?」

 

 独走する戸山を牛込が制止する。ていうか彼女達はライブで漫才をやりに来てるのか。オーディエンス大爆笑だぞ。

 

「聴いてください!“Happy Happy Party”!」

 

 おお。非常に聴き応えのあるバンドだ。表現力で言ったら随一なんじゃないかな?聴いててとても爽快感を感じる。青春してるなー。

 と、こんな具合にGalaxyでのライブが終わった。後は僕のVIVA LAか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の土曜日、私、戸山 香澄はいつも通りCiRCLEでポピパのみんなと練習をしていた。

 

「こんにちは!調子はどうかな?」

「まりなさん!こんにちは!!」

 

 このCiRCLEで私達がお世話になっているスタッフの月島 まりなさんがやって来た。まりなさんにはガールズバンドパーティーの時にもいっぱい助けてもらったなぁ…。

 

「どうかしましたか?」

 

 有咲が何気なくまりなさんに問いかける。まりなさんがこうやってバンドの練習時間の最中にスタジオにやってくる事って全然無いからどうかしたかは気になるよね。

 

「実はね、私の友達がバンドやってて。今度でっかい野外フェスに出ることになったから勉強がてら楽しんできてね!」

「あ、ありがとうございます…。」

 

 まりなさんは私達に五枚分のチケットを渡して来た。いや、財布の中身大丈夫なのかなあの人…。もしや私達から取るの!?

 

「いや香澄。それは失礼だぞ。」

 

 有咲が私に語りかける。有咲読心術使えたんだ…。

 

「ありがとうございます。是非行かせていただきます。」

 

 さーやの一言で私達はフェスに行くこととなった。そしてついに私達はあのバンドと出会うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、いよいよ出番だ。メイクも済んだ事だし準備は万端。

 

「Raw!いつでも準備はいいぞ。」

 

 そうそう。一応僕たちも紹介はしとくか。Bacchusのレスポールのチューニングを終えたこいつはギター担当の赤沢 増治。まぁさっき紹介したな。ステージネームはMax。僕の同期。僕は未だにあいつの天然パーマに疑惑の目を向けてる。

 

「Rawさーん!タッチパネル式のギター何でダメなんですか!?」

 

 こいつは坂田 由美。赤沢と同じギター担当。僕の二つ下。世代的には三つ下だけど。ステージネームはyu-min。茶髪でポニーテール。あと考えなしの天才肌。

 

「前に『それSUICIDEで使えない』って言われたばっかでしょ。」

 

 Fenderのベースの手入れをしてるこいつは君島 音生。ベース担当。ステージネームはNEO。まぁそのまんまだね。由美と同期。酒が絡むと無能だけどそれを除けばある程度は完璧な男。

 

「にしても、予想以上に人集まったね。」

 

 彼女は佐久間 明日奈。ドラム担当。ステージネームはasuna。黒髪ロングの人。まぁ明日奈さんアイドルだからステージネームなぞ必要ないんだけどね。それにほら、僕一応明日奈さんの後輩だから言葉遣いには気をつけないと…。

 

「Rawがまりなに嗾けたんでしょう。」

 

 こいつは小泉 健。キーボード担当。ステージネームは1s。元野球部の影響もあって坊主。で、僕と赤沢の同期。にしてもこいつ服のセンス無さすぎなんだよ…。何だよ白の半袖Tシャツに黒のズボンって。そればっかじゃねぇか。

 

「いきましょ!これだけ多くのaudienceが待っているんだもの、すぐにでも演奏しなきゃもったいないわよ!」

 

 で、最後がちゆ。DJ担当。ステージネームはCHU^2。去年入ってきた新入り。

 

「まぁまだ待て。今が潮時ではない。あと三十秒でステージ裏にいくぞ。」

 

 みんな僕の言う通り、すぐに準備してきた。そして、ついに僕たちがステージに立つ。いやー、久々だなこの景色。嘘です。何回も見てます。

 

「Hey,guys!We are SUICIDE!」

 

 赤沢。カッコつけて英語で喋るんじゃない。次英語で喋ったら下切るぞ。

 

「今日は俺たち七人で熟成された音楽を披露したいと思います。」

 

 音生が何の恥ずかしげもなく言う。いやまず熟成された音楽って何よ。

 

「熟成…されてるか?」

 

 小泉がコンマ数秒遅れてツッコむ。いや問題は熟成されてるか否かじゃない。そもそも熟成された音楽が何かっていう定義よ。

 

「では熟成されてる音楽、聴いてください。」

 

 赤沢が小泉に続いて話す。さて、今からやる曲は“愛でした。”だ。パート分けはこちら。

 

Vo&Gt.Raw

 

Vo&Gt.Max

 

Vo&Gt.yu-min

 

Vo&Ba.NEO

 

Vo&Dr.asuna

 

Vo&Key.1s

 

Vo&DJ.CHU^2

 

 一応説明しておくかな。基本歌唱パートが誰かはこのステージネームの頭文字を置いているからそれを参考にしてくれ。また↑とか↓とかあるがそれはハモリの事。↑だったら上ハモ、↓だったら下ハモって事だ。基本的にユニゾンの場合は上記のパート分けの順に示すが、ハモリの場合は1st、2nd、3rdと順番になっているから気をつけるんだぞ。じゃあ行きますか。

 

〜愛でした。〜

 

M「それが♪」

 

M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

M「愛し♪」

 

M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

M「ココロが♪」

 

M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「求めていたもの全て♪」

 

R「その微笑み その優しさ♪」

 

R・M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「言葉にすれば一つしかない♪」

 

a・N(↓)「たしかに尖ってた 辺り構わず腹を立て

寂しいからたどれない家路

街をブラブラ漁りたて♪」

 

M・C(↑)(every day♪)

 

y・C(↑)「夢中になれなかった

目の前の楽しいことばっか

心奪われ溺れてたんだ♪」

 

N(救いようないくらい♪)

 

M「いつも何かを傷付けながら

そして自分も♪」

 

M・N(↓)「傷付いてたんだ♪」

 

R「そんな日々に光くれた

永久にこの胸の深い場所で♪」

 

R・N(↓)「微笑む人♪」

 

R・M・y・a「それが♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

R・M・y・a「愛し♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

R・M・y・a「ココロが♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「求めていたもの全て♪」

 

R・M「その微笑み その優しさ♪」

 

R・M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「言葉にすれば一つしかない♪」

 

y・a「君が♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「日々が♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「寂しさに♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「つぶれ震える夜に♪」

 

R・M「君がくれたちっちゃな灯火♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「明日の光へと変わるココロを♪」

 

R「導いてく♪」

 

1・a(↓)「繰り返す自問自答 されど辿り着けぬままに

何処へ行けば満たされるんだろう

昨日を行ったり来たり♪」

 

M・C(↑)(every night♪)

 

C・y(↑)「居場所なんて無いんだ

味方など何処にも居ないんだ

晴れてる空が曇って見えた♪」

 

N(俯く自分にLies♪)

 

M「いつも誰かを疑いながら

震える足で♪」

 

M・N(↓)「日々を渡ってた♪」

 

R「そんな孤独わかってくれた

そっと隣で肩を並べ♪」

 

R・N(↓)「寄り添う人♪」

 

R・M・y・a「それが♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

R・M・y・a「愛し♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「君でした♪」

 

R・M・y・a「ココロが♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「求めていたもの全て♪」

 

R・M「その微笑み その優しさ♪」

 

R・M・C(↑)・N(↓)・1(↓)「言葉にすれば一つしかない♪」

 

y・a「それは♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「君の♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「途方も♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「ないほど大きな力で♪」

 

R・M「美しさと 歩む術を♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「言葉なしに伝えようとする♪」

 

M「その笑顔で♪」

 

 ここで由美がブースターを踏み、ギターソロを奏でる。いや、おい。由美の奴おもちゃのレーザー銃の音を入れたギター使ってんじゃねぇか。GLAYのHISASHIさんも同じようなことやってたけど。あいつは後でお仕置き。

 

1「それが愛でした 君が愛でした

どんな時もこの胸の中に♪」

 

R「その瞳とその両手で 瞼閉じたココロの手を引く♪」

 

M・y・a「君が♪」

 

M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「日々が♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「愛でした♪」

 

R・M・y・a「寂しさに♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「つぶれ震える夜に♪」

 

R・M「君がくれたちっちゃな灯火♪」

 

R・M・y・a・C(↑)・N(↓)・1(↓)「明日の光へと変わるココロを♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「導いてく♪」

 

M・N・a・1・C「明日へと♪」

 

R(ココロを♪)

 

M・a・C・N(↓)・1(↓)「明日へと…♪」

 

 その後、何曲か披露して僕たちSUICIDEのライブは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まりなさんに渡されたチケットはVIVA LAという野外フェスのチケットで、私達Poppin'PartyはSUICIDEというバンドのステージを見た。私はSUICIDEという名前すら知らなかったが、それでも圧巻された。観客席の中にはアフグロのみんな、パスパレのみんな、ロゼリアのみんな、ハロハピのみんなが居た。

 

「有咲!凄かったよねSUICIDE!何というか、こう…。」

「キラキラドキドキした、だろ?」

「何でわかったの!?」

「お前の口癖って大体それだろ。」

 

 普段はライブしている中でガールズバンドのステージを観る事が多いけれど、今まで私達が見てきたどのバンドよりもレベルがとても高かった。「凄い」だけじゃなくて「もう一回聴きたい」って思わせられた時点で本物のバンドだと感じた。

 

「それにしても…。名だたる顔ぶれのメンバーですね。アイドルの佐久間 明日奈さんに起業家の小泉 健さん、さらにはヴィジュアル系シンガーとして前線で活躍するRawさんまで…。」

「元々SUICIDE自体本気で音楽をやりたい人たち同士で組んだバンドですからね。」

 

 紗夜先輩が口を開き、麻弥さんがそれに答える。麻弥先輩の言う通り、SUICIDEの人たちの歌と演奏には尋常じゃないほどの熱が伝わってきた。

 

「かなりレベルが高いわね。女性が男性に下ハモするなんて…。並大抵の声域ではできないことよ。あのドラムの人だって声は低くなかったのだけれど…。」

「SUICIDEメンバーは全員声域が広いからメンバー間での上ハモ下ハモは余裕なのよ。」

 

 友希那先輩の言葉に千聖先輩が反応する。確かに全員高い声も低い声も出せて誰がボーカルでもおかしくないくらいの力があった…。ただ私の心の中にはある疑問が出てきた。

 

「それにしても、そのRawさんの正体って一体どんな人なんだろう?彩先輩、分かりませんか?」

「えっ、私!?えーと、そもそもRawさんは誰にも素顔と名前を明かしたくないからヴィジュアル系の路線でいってる人なんだよね…。でも良い人だよ!」

 

 私の疑問に彩先輩が答えてくれた。良い人と聞いて安心したけど、この時はこのSUICIDEというバンドが私達と深く関わるとは思ってもいなかった。

 




ここは物語の進展はあまりないかもしれませんが、色々と仕掛けを入れているのでじっくり考察してみてください。


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第2話「ミネルヴァが舞い降りし時」

 

 

 その日から僕はずっとRoseliaという存在について考えていた。まさかあのバンドが“LOUDER”を…。しかもあの完成度で持ってくるとは…。あそこまでレベルの高いバンドだなんてな。対バンした時に良い勝負になりそうだ。

 それにしても何故あのバンドが“LOUDER”を演奏している…?あれは湊さんの…。いや、深く考えるな。とりあえず今は目の前の事に…。

 

「あれ?僕の昼食が無い!」

 

 嘘だろ…。頼んだはずのビッグマックセットが無い!!僕600円くらいをきっちり払って出したはずだぞ!?

 

「あ、ごめんごめん。お前があまりにもボーッとしてたから代わりに食べてたわ。」

 

 赤沢…!あいつか…!!仕方ない。アレで戦うとするか。

 

「お前から先に死にたいようだね。」

「ヤバいヤバい!デコピン用の指サックじゃん!!」

 

 僕のデコピン用指サックはあのGACKTさんも使っているものなので、喰らったら5針はいく。これで制裁だ。

 

「待て赤沢ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの野外フェスの翌日、僕はちゆと何故か二人で街中を歩いている。理由は知らん。急に誘われた。ライブの翌日だから身体休めたいのに…。しかも何かもうすぐでRoseliaの主催ライブが始まるそうじゃないか。湊さんから誘われたから行かなければな。

 ふと、僕の視界の隅に二人組の男を見かけた。一人は若い男。見た目的に十代から二十代、の辺りだろうか。まぁ知り合いだけど見なかったことにしたい。もう一人は完全にチンピラの格好。もはやクレヨンしんちゃんの園長先生。もしくはONE PIECEの黄猿。もしくはピコ太郎。

 

「おっぱいいかがですかー?」

「おい、そんな声量じゃ来る客も来ねぇぞ。俺を真似しろ。おっぱい!!いかがですかぁぁぁ!?」

 

 昼間からまずいものを見た。マジで何やってんだか。僕はこれを見なかったことにして通り過ぎよう。そう思い僕は歩くスピードを早める。

 

「おっ、村上さん!こんな所で何してるんですか!?」

 

 早々に声かけられた。最悪。地の文でフラグ建てて速攻で回収された。しかも本名で呼びやがって。十話ぐらいまで本名引き伸ばす予定だったのに名字バレたじゃねぇか。ふざけんな。

 

「お前こそ、真っ昼間に何してんだよ。てかそもそも大学辞めて今何やってんの?」

「まぁこうやってアルバイトをして生計を立ててるんですよ〜…。おっ、可愛いですねその子!彼女さんですか?」

「違うよ。」

 

 みんなにも一応紹介しとこう。僕と今話をしている若い男の名前は瀬良 幸仁。僕の大学の後輩。だったけど、ある日突然大学を辞めた。それ以来LINEも繋がらなかったし、SNSのアカウントも消えてた。完全に消息が絶たれたまま、数年経ったがまさかここで会うとはな。

 あ、それとちゆは彼女じゃないよ?違うよ?疑うかもしれないけど違うよ。

 

「ねぇ、彼大丈夫なのかしら?」

「大丈夫だよこいつゲイだから。」

 

 瀬良は別に女装癖とか女になりたいとかそういうの無いのよ。純粋なゲイの人。

 

「あっ、最後にこれを。」

「これは…。」

「聴けばわかります。」

 

 瀬良から渡されたのは一つのUSBメモリ。何が入っているかはわからないが、一応貰っておこう。パソコンウイルス仕込まれてても弁償させればどうにかなる。

 僕にUSBメモリを渡した瀬良はいつのまにか消えてしまっていた。てかこれ返さなくていいのかな…?

 

「What's?」

「気にするな。ね、今度はあそこ行こ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、僕は瀬良から貰ったUSBメモリをパソコンに挿した。中身が何なのかは言わないけれど、瀬良の奴、とうとうやってくれたな感がある。いずれ僕達と瀬良達が戦う日も近い。その時まで待っておこう。さらに力をつけてな。

 そんな事を考えていると急に電話が鳴った。白鷺だ。白鷺こと白鷺 千聖は氷川や大和と同じパスパレのメンバーで担当パートはベース。ボーカルの丸山とツインボーカルをなせるほどの歌唱力を誇るパスパレの大黒柱の一人だ。

 

「はい?」

『もしもし、Rawさん。唐突で申し訳ないのですが、八つ当たりしてもよろしいでしょうか?』

「やめて。丸山にやってきてよ。」

 

 よくないよ八つ当たりは。巷ではやられたらやり返すが流行ってるけど、白鷺の場合はやられてなくてもやり返すだもん。

 

「そもそも何があったのさ。」

『察してください。』

「いや、電話だけで察せるわけがないじゃん?そもそもそんなキレてるからって僕に当たり散らさないでよ…。」

『お仕置きが必要かしら?』

「やめて。」

 

 こんな不毛な言い合いしたくないんだけど…。皆さんどう思います?これパワハラだと思うんだよねぇ…。さて、続いては日大問題です。え?古い?うるせぇ知らねぇ!

 

『とりあえず、今日Rawさんの家に行って夕食を取りたいので作っといてください。では失礼します。』

「おい?お前ふざけんな!おい!!」

 

 白鷺の電話はあちらが勝手に切りやがった。マジでふざけてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕はdubというライブハウスの中で湊さんと待ち合わせをしていた。昨日白鷺のためにナポリタンを作ったせいで体がキツい。あいつ後でぶっ潰してやる。

 

「村上くん、待たせたね。」

「いえ、とんでもございません!さ、行きましょうか。」

 

 僕に声をかけてきた彼は湊 友希人さん。僕の元先輩。元先輩だけど、今でもこうして関わっている。

 

「どうですか?最近は。」

「そうだね、娘がバンド始めてその度にライブを観るのが楽しみになってきてるんだ。」

「そうなんですね〜。ちなみにそのバンドの名前は…。」

「Roselia。今ガールズバンドで一番勢いのあるバンドだよ。」

 

 湊さんの言葉からやはりRoseliaが“LOUDER”を披露したのは、いやできたのはボーカルの女の子が湊さんの娘だったからなのかと一人で納得する。“LOUDER”は湊さんにしか歌えないと思っていたが、娘さんなら話が繋がる。

 

「Roseliaですね…。覚えときます。」

 

 覚えてるっていうか見かけた事があるくらいなんだけどね。それはどうでもいいか。

 僕と湊さんは二階の客席にいる。チケット取るのが難しかったのよ。それほどRoseliaが人脈ある証拠だろうとは思うが…。

 

「タロウ!あなたどうしてここに!?」

「あ、ちゆ。やっほー。」

 

 僕が右側に視線を向けるとそこにちゆがいた。はい、十話まで本名の公開をしないつもりだったのに二話目でバレてしまいました。しかもフルネームで。最悪だよ。瀬良に会ったのが運の尽き。

 

「村上くんの知り合いかい?」

「はい、去年の終わりにSUICIDEに加入したCHU^2です。」

 

 僕は湊さんにちゆを紹介する。湊さんはいつもと変わらない柔和な笑みを浮かべていた。

 

「お似合いの二人だね。あ、俺は差し入れを楽屋に置いていくから二人とも待っててね。」

「あっ、はい。」

 

 そう言うと湊さんはどこかへ行ってしまった。にしてもRoseliaが出るまでまだ時間はあるから問題は無いんだがな。

 

「しかし、お前まで来てたとは驚きだよ。」

「まぁ、私の野望のためにね。」

 

 ちゆはそう言ってステージに視線を向けた。それにしてもちゆの野望とは一体…。僕がそんな事を考えていると、先日も現れたPoppin'Partyがステージに登場した。何だかポピパが出てくるとこっちが嬉しくなるわな。音楽に積極的に取り組む姿勢が彼女達から感じられる。

 曲は先日も披露した“Happy Happy Party”か…。

 

「どう?ちゆ。結構いいバンドだと思うんだけど…。」

「フン、どこがいいのよ。」

 

 僕がちゆに向かって言うと、ちゆはそっぽを向いた。あらら…。お気に召さなかったか。

 

「Poppin'Partyでした!ありがとうございました!」

 

 ポピパが終わり、観客席から鳴り止まぬほどの拍手と歓声が飛び交う。すると、ちょうど湊さんが戻ってきた。

 

「どうでした?娘さんの様子は。」

「うん、相変わらずだったよ。」

「それなら何よりです。」

 

 僕と湊さんがそんな会話をしている間にRoseliaがやって来た。先程よりもオーディエンスの数が増えている。Roseliaの風格が伺える数だな。

 

「早速だけどメンバー紹介、いくわよ。ギター、氷川 紗夜!」

 

 氷川というアイスグリーンの髪色の子が青色に染まったギターを弾く。あれはESPのM-IIかな?

 

「ベース、今井 リサ!」

「よろしくー!」

 

 次は今井と呼ばれる子だな。赤色のベースを持っている。てか君は弾かないんかい。

 

「ドラム、宇田川 あこ!」

 

 次は紫色の髪の子がドラムを叩く。ていうか、あんなに小柄なのによくあれほど力強いドラムが叩けるな。ドラマーとしてかなりの戦力になっている。さすが湊さんの娘だ。人を見る目が優れている。

 

「キーボード、白金 燐子!」

 

 次に紹介されたのは黒髪ロングの子。どことなく明日奈さんに似てるんだよな…。いや、強いて違いを上げるとするなら胸の大きさか…。あっちが圧倒的に勝ってる。

 

「そして我らがボーカル、湊 友希那!」

「友希那ー!!!」

 

 湊さんの娘が若干頭を下げる。てか隣がうるせぇ…。僕の左隣…。親バカめ。

 

「一曲目、いくわよ。“BLACK SHOUT”!」

 

 先日のライブで披露した曲とは違うな。一体どんな曲なのやら…。

 

友「暗い夜も♪」

 

紗・リ・あ・燐(fighting♪)

 

友「怯えずに今♪」

 

紗・リ・あ・燐(smiling♪)

 

友「信じた道♪」

 

紗・リ・あ・燐(running♪)

 

友・紗・リ・あ・燐「迷わず進もう♪」

 

友「黒でもいい♪」

 

紗・リ・あ・燐(all right♪)

 

友「白じゃなくても♪」

 

紗・リ・あ・燐(ok♪)

 

友・紗・リ・あ・燐「不条理を壊し

私は此処に今 生きているから

SHOUT!♪」

 

 ほぉ…。湊さんの曲と似た味付けをしているが、やはり湊さんの娘だ。違いが顕著に現れている。その上、コーラスの重ね方が上手い。これはこの人数集められるのも頷ける。

 そしてギターの歪みを活かした弾き方、唯一無二のサウンドだ。氷川姉のあのギターのピックアップはハムバッカーの系統だ。ハムバッカーは甘く太いサウンドが特徴だが何故あれほどの鋭いサウンドが繰り出される…?

 

紗・リ・あ・燐(BLACK♪)

 

友「不安に溢れた♪」

 

紗・リ・あ・燐(SHOUT♪)

 

友「世の中のイロハ♪」

 

紗・リ・あ・燐(BLACK♪)

 

友「苛立ちと共に♪」

 

友・紗・リ・あ・燐「自由を奪ってく♪」

 

紗・リ・あ・燐(BLACK♪)

 

友「モノクロの雨が♪」

 

紗・リ・あ・燐(SHOUT♪)

 

友「世界を隠して♪」

 

紗・リ・あ・燐(BLACK♪)

 

友「空は嘲笑い♪」

 

友・紗・リ・あ・燐「沈んだ♪」

 

友「邪魔するもの♪」

 

紗・リ・あ・燐(嫉妬♪)

 

友「振り落として♪」

 

紗・リ・あ・燐(衝動♪)

 

友「私の色♪」

 

紗・リ・あ・燐(本能♪)

 

友・紗・リ・あ・燐「取り戻したいから…!♪」

 

友「例え明日が♪」

 

紗・リ・あ・燐(missing♪)

 

友「行き止まりでも♪」

 

紗・リ・あ・燐(going♪)

 

友「自分の手で♪」

 

紗・リ・あ・燐(breaking♪)

 

友・紗・リ・あ・燐「切り開くんだ♪」

 

友「すくむ身体♪」

 

紗・リ・あ・燐(get up♪)

 

友「強く抱いて♪」

 

紗・リ・あ・燐(stacking♪)

 

友・紗・リ・あ・燐「覚悟で踏み出し

叶えたい夢 勝ち取れ今すぐに!

SHOUT!♪」

 

 いやはや、良いものを見させてもらった。ちゆも感動しているようだしな。

 

「村上くん、どうだったかな?」

 

 隣から湊さんが話しかけてきた。これは本音で言うしかあるまい。

 

「凄かったですね。あれほどのパワフルな演奏をしつつ細かいコーラスまでできるとは…。驚きでした。」

 

 僕は湊さんにそう伝える。これは本心から来たものだ。先輩だろうが後輩だろうが関係ない。僕は僕自身が良いと思ったものは積極的に取り入れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、少しお時間よろしいでしょうか。村上さん。」

 

 その日の帰り、僕は湊さんの娘に呼び出された。彼女は数年前に僕と少し関わったぐらいだ。だから僕の本名も知っている。なのに覚えてるってありがたい話だな。

 

「何だ湊。」

「本日はライブにお忙しい中、いらっしゃってくださりありがとうございました。」

「別に。湊さんに誘われたから来ただけだよ。ただ、お前の作った曲には感銘を受けたね。」

「非常にありがたいお言葉です。」

「なぁ湊。」

「何でしょうか?」

 

 僕は湊に質問をした。その答えは僕に強さとは何か、改めて考えさせるきっかけとなった。この世界は強くなければ生き残れない。弱者は誰の目にも触れずに消えていく。当然のルールなのだから。

 

 

 

 

 

 



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第3話「覚悟の先へ」

 夢を見ていた。何とも形容し難く、不思議な夢だった。これは何なのだろうか。自分でもいまいち理解ができない。おそらく僕が音楽で生きていくという決断をしなかった世界線の夢なのだろう。それだけは推測できる。そんな世界で生きれたら僕はどれだけ幸福だったのだろうか。普通の事ができて、友達もいて、他愛のない会話をして、普通に働いて、そうやって生きていければどれだけ良かっただろうか。

 だが考えてもみろ。僕自身は本当にそれでいいのか。それで僕は幸せになれるだろうか。やりたい事をやりきったと言えるだろうか。履き違えた正義感で他人を叩き、それで何の罪悪感も抱えずに生きていく。それでいいのだろうか。否、そんな暗闇に満ちた、腐った世界に染まりたくはない。ならば僕は世界をより良いものにしてみせよう。悪意に満ちた人間に虐げられる世界にならないように。そいつらが蔓延る世界にならないように。もしそれがダメでも腐った世界に唾を吐くってのも悪くはないと思う。だったらやってみせよう。僕は僕にやれる事を精一杯やるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、目が覚めると何やら頭に不思議な感触を覚えている事に気がついた。柔らかい。それにいつも使っている枕とは何か違うが…。

 

「あら、目が覚めたわね。」

「あぁ!?え!?何で!?」

 

 僕が瞼を開き、眼前の視界をあらわにすると僕の視線の先には僕の顔を覗き込むちゆの顔があった。いや、そりゃ驚くよ。起きたらいるんだもん。この視線の向け方で察したけど、僕ちゆの膝の上で寝てたんだわ。

 

「びっくりしたわね…。急に大声出さないでよ。」

「誰だって鍵を閉めたはずなのに部屋に人がいたらビビるわ。どうやって入って来たん?」

「どうやってって…。合鍵を使ったからに決まってるじゃない!いつでもタロウの側にいられるように、ね?」

「てめぇふざけんな!出禁!!出てけぇ!!!」

「Why?だってタロウ私の膝枕で気持ちよさそうに寝てたじゃない!」

 

 ちゆの発言で僕の顔は一気に紅潮し、赤色に染まる。さらにはちゆのスマホの写真フォルダにまで僕の寝顔の写真があった。現在進行形でちゆが僕に見せつけてきております。

 

「やめろ!本当にいいから!!」

「わかったわよ…。それにしても、昨日のライブすごかったわね。」

「ああ、流石だった。」

「Roseliaとは会ってきたの?」

「ああ。」

「どうだったの?」

 

 ちゆの質問に数秒答えるべきか否か考え、ようやく絞り出すように答えた。

 

「ガッカリだ。」

「What's?」

 

 ちゆはいささか訝しげな表情で僕に目をやる。そりゃそうだろう。自分が感銘を受けたバンドがガッカリだ、なんて言われれば。でもそう言わざるを得ない。それもこれも全ては昨夜に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜、僕は湊と遭遇した。そして彼女に問いかけた。

 

「お前がFWFに出るのは、お前が音楽をやるのはお前のお父さんの無念を晴らすためなのか?」

 

 僕が何故こんな質問をしたかというと、湊がどんな思いで音楽やっているのか、音楽でステージに立つ理由は何か知りたかったからだ。湊さんが一度FWFの件で挫折した事は僕も知っている。湊は覚悟を決めてステージに立っているのだろうか。

 

「ええ、そうです。父が挫折してしまったあの舞台に立つために私達Roseliaは音楽を奏でています。」

「それってどうしてもお前が成さなきゃいけない事なの?」

 

 僕がこう質問した瞬間、湊は固まった。答えを用意できていなかったのだろう。だが、僕はお構いなしに続けた。

 

「自分の無念は自分で晴らせばいい。たとえお前がFWFに出て、父親の無念を晴らしたとしたらどうなる?その先に何がある?そこまで湊さんが弱い人間だったと言うのか?」

「それは違います!私は…。」

「FWFに出たら今のお前はもう音楽とはおさらばって感じだな。それでお前のバンドのメンバーは納得してるのか?それでいいのか?湊さんのためだけじゃない、自分のために音楽をやる理由をお前はまだ見つけられていない。それが見つかってから僕のもとに来るといい。お前はまだ甘い。じゃあな。」

 

 僕は湊にそう言い放ち、踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というのが一連の流れだ。」

「なるほどね。」

 

 僕の話をちゆは理解してくれたようで首を縦に振る。するとちゆは僕の部屋を見渡し、何かを発見した。

 

「また新しくギター買ったのかしら?」

「あ、そうなのよ。僕の悪い癖なんだよな。すぐ衝動買いするの。こないだアニメの主題歌作ってくれってオファーきて。そのレコーディングするために買ったギター。」

 

 ちゆが言ってる新しいギターってEdwardsのE-LP-130CDのホワイトのことね。昔赤沢も同じギターを使ってた。すぐ壊してたけど。僕の場合アニソン作るのに加えてデザインが高貴だったから買ったって言うのもあったけどね。こないだBOSSのPower Stack買ったばっかなのにまた買ってしまうとは…。こういうところが本当に僕の良いところでもあり悪いところでもある。

 

「まったく…。程々にしなさいよ。」

「はーい。」

 

 ちゆに生返事をすると、僕は小棚を整理し始めた。引き出しには数多くのエフェクターを収納しており、その数は60以上に及ぶ。もちろん全部僕が買ったものってわけじゃない。中には誕プレで貰ったものも含まれてる。それにギターごとにどのエフェクターが相性いいかというのを考えてるから全部を持ってくるわけじゃない。それに赤沢とか由美に貸してるエフェクターもあるから、全部がここには揃っていない。

 

「それにしてもタロウの部屋って随分狭いわね。」

 

 僕の部屋を見渡したちゆが言う。いくら物を整理していると言えども物が多すぎるから必然的にスペースは奪われていくんだよ…。

 

「まぁ物が増えてく一方だからな。これでもだいぶ捨ててる方だぞ。要らない物は。」

 

 僕はちゆにそう言う。ここで問題なのはちゆに色々と物色される事だ。別にエロ本を隠してるというわけではない。僕が恐れているのは間違ってちゆがギターとかベースを破壊してしまうということだ。一本たりとも壊してはいけない。てか壊したくない。それに相手が誰であろうが他人に自分の部屋を物色されるのは僕は嫌いなんでね。

 

「さぁちゆ、そろそろ帰れ。僕は忙しいんだ。」

 

 僕はちゆにそう言い、彼女を去らせようとする。ここで僕が出かける前にちゆを去らせないとあいつ何するかわからないもんな。

 

「はぁ…。わかったわよ。帰るわ。」

「あ、あとその合鍵没収。ほら。」

「わかったって!」

 

 ちゆは不服そうだったが、素直に合鍵を僕に渡してくれた。いい子だちゆは。

 

「そういえば、私もRoseliaに会ったわよ。」

「何?」

 

 ちゆの発言に僕は少し驚いた。ちゆもRoseliaに遭遇したんだな。てか何故にRoseliaに近づいた…?もしかしてファンになったとかなのかな?

 

「まぁ僕はよくわからんけども、お前がやりたい事ならそれでいいんじゃないの?」

 

 僕はちゆにそう言い放った。今思えばこの発言は引き金というか、今後起こるとんでもない出来事への着火点に過ぎなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは僕のレーベル会社のスタジオ。ここでいつも僕たちSUICIDEは練習している。

 

「あー、いい湯加減だったなー。」

「おい赤沢、お前どこ行ってたんだ。」

 

 僕は赤沢に若干怒りを示しながら答える。そもそもいい湯加減とかここ風呂無いから!おめぇの席ねぇから!

 

「銭湯。旭湯ってとこ。」

「はぁ?」

 

 赤沢の言っている事に僕は訝しげな表情で素っ頓狂な声を出す。てか練習前に何で銭湯行ってんだよ。

 

「何かわからない事があったらロックに聞くといいぜ。」

「はぁ?」

 

 さらに赤沢がわけのわからないことを話す。僕は素っ頓狂な声を上げるしかなかった。そもそもロックって何さ、誰さ…。

 

「つかお前さっさと用意して。始めるよ。」

「あっ、はい…。」

 

 僕は赤沢と他のメンバー達と一緒に数時間ほど練習をした。で、この後のスケジュールが本来ならば真っ白なはずなんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CiRCLEにやって来た僕はRoseliaが待つスタジオへと向かった。

 

「へー!この人が竜崎さんかー!可愛い!こんにちは!アタシ、今井リサ!」

 

 今井が眩しい笑顔で僕に挨拶した。そう、今日は湊の頼みでRoseliaのアドバイザーとして来ることになったのだ。それと引き換えに僕は湊に決して僕の本名を明かすなと釘を刺しておいたから安心安全。にしても、可愛いって何ぞや。

 

「こんにちはー!宇田川 あこでーす!Roseliaでドラムやってまーす!よろしくお願いします!」

 

 紫色の髪の子、宇田川が今井に続き挨拶する。いやぁ、いい子だな。

 

「氷川 紗夜です。本日はよろしくお願いします。」

 

 次に挨拶したのは氷川姉。あれだけ鋭いギターの音を奏でていたのに礼儀正しいな。これぞギャップなるものか。

 

「白金…燐子です…。よ、よろしくお願いします…。」

 

 白金は氷川姉の後ろから挨拶する。彼女僕と同じタイプだわ。コミュ障。

 

「竜崎だ。僕からも、今日一日よろしく頼むぞ。にしても湊、何故僕を呼び出したんだ?」

 

 僕が湊に呼び出されたのは今朝。いきなりだ。空いているかもわからないというのに。呼び出された理由はまだ説明されていなかったのだ。

 

「私は昨日同じステージに立っていたPoppin'Partyに『覚悟が足りてない』と言い放ちました。そしてその後に竜崎さんが私に『お前は甘い』とおっしゃって初めて理解したんです。私に足りていないものが何かを。そして痛感しました。それに気づけていなかった私が彼女達にあれほど偉そうな事を言える立場ではない、と。私達はその答えを見つけました。それを竜崎さんに是非お伝えさせてください。“Neo-Aspect”。」

 

 湊の合図で曲が始まる。昨日あいつらが演奏した“BLACK SHOUT”よりも艶やかで洗練された曲調だ。この数時間の間に磨きをかけたというのか。いや、違う。湊は、そして湊の仲間たちは迷いを振り切ったんだ。自分達が立つ意味を作って。そう、それでこそ本物の強さだ。

 しばらくして曲が終わり、僕は思わず椅子から立ち上がり手を叩いた。

 

「見事!」

 

 五人とも安堵した様子であり、またさらなる高みへと目指そうとしている表情すらも見せていた。それが君たちの力だ、Roselia。今後もっと強くなってその力を見せてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、僕は湊と今井の三人で一緒に家路についていた。他愛のない話を通して最近のJKの流行りとかもわかったし。

 

「ようよう、姉ちゃん。今帰り?だったら俺が送っていってやるよ。」

 

 うわ出た。こういう所で出てくるんだよなぁ…。DQN一名。しかも湊目当てか…。守らなければ…。

 

「あのー、私達先を急いでるんで。それでは。」

「うるせぇ!ギャルなんかに用はねぇんだよ!!」

 

 すると、通りすがりのヤンキーは今井に拳を振り下ろした。「危ない!」と僕が今井を庇おうと試みるが、この距離からでは時間が足りない。まずい。

 

「ギャルナメんじゃねぇ!!!」

「ぐほぉ!!」

 

 刹那、あの今井がヤンキーの腹部に頭突きを入れた。あまりにも衝撃的すぎる光景に僕は開いた口が塞がらなかった。こういうのって大抵僕がヤンキー殴って二人を守ってカッコいいーって言われてハーレムなるパターンなんでしょ?ほとんどの二次創作大抵そのパターンだよ?未だかつて聞いたことないんだけどこういうパターン…。まさに阿鼻叫喚と言ったところだ。

 

「ギャルすげぇ…。」

「竜崎さん、行きましょう。」

 

 湊がこうして今井がヤンキーに頭突き喰らわせても何も驚かずに僕には平然な雰囲気でそう言うのが逆に驚き。JKってすごい。そして怖い。これが本日わかった事。



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第4話「笑顔のセカイ」

 

 

 先日のRoseliaはさらに強くなっていた。音楽的にも物理的にも。レベルが上がったのはもちろんのこと、何より輝きを増していた。迷いを断ち切っていた。あ、物理的にってのは気にしないで。昨夜の今井の事が記憶に根強く残りすぎてるんだわ…。よくないよくない…。

 と、僕が道を歩きながらそんな事を考えていると水色の髪の女の子が迷っている姿が見えた。おそらく制服的にはポピパと同じ学校の子だろう。とりあえず可哀想だし送っていってやろう。

 

「あのー、大丈夫?僕でよかったら案内するよ?」

「うぅ…。すみません…。ここまでお願いします…。」

 

 僕は水色の髪の子を連れて指定された住所へと向かう。水色髪の子は何やら顔が赤くなっていた。まぁ何となくわかる。高校生の年頃で迷子になるなんて恥ずかしい、みたいな感情なんだろうな。

 さて、着いた。けどでかい。あまりにも大きすぎる。豪邸ともいえる、いやむしろ豪邸としか言えないその家の表札には「弦巻」と書かれてあった。

 

「ここで合ってる?」

「あっ、はい…。」

 

 水色の髪の子が首を縦に振る。とりあえず目的は果たせたから僕はこれで帰るとするか…。

 

「かのーん!みんないるわよ!!」

「あっ、待たせちゃってごめんねこころちゃん!すぐ行くから!」

 

 ココロと言う名の金髪の少女が多分だがカノンという名前の水色の髪の子に駆け寄る。どうやこのココロという子、天真爛漫な様子だ。それはそれでどうなのかはわからんけど。

 

「花音、この人は誰なのかしら?」

「私をここに案内してくれた人なの。えっと、名前まだ聞いてませんでしたけども…。」

「竜崎だ。」

 

 名前を聞かれた僕はカノンという少女に対して食い気味に答える。いくらカノンやココロが顔立ちのいい子だとしても簡単に信用できない。本名を教えるわけにはいかないのだ。

 

「下の名前は何て言うのかしら?」

 

 そんな事を考えているとココロという少女が咄嗟に僕にとって一番尋ねてほしくなかった質問をした。忘れたとか言うのも変だから即興で考えるしかない。

 

「竜崎 宏海だ。」

「ヒロミね!とってもいい名前ね!!」

 

 ココロが何故か嬉しそうにはしゃぐ。あとさ、ヒロミっていう表記やめてもらっていい?家リフォームする人思い浮かべるんだけど。あと最後のセリフ、ポケモンで名前入力し終えた時に博士が言いそうなセリフなんだよね。てか言ってるよね?シリーズによるけども。

 

「じゃあ僕はこれで。」

「ちょっと待って!あなたぜんぜん笑顔じゃないわね。今もしかめっつらよ!!あたし達が笑顔にしてあげるわ!」

「は?」

 

 ココロという少女にそう言われたが、言っている意味が理解できなかった。

 

「行きましょヒロミ!」

「おい待て僕まだ心の準備が整ってねぇんだよ!!待て!!待てってば!!!」

 

 有無を言わさずにココロは僕を半ば強引に豪邸に引き摺り込んだ。マジあの金髪潰す…!

 

「いくわよ〜っ!ハッピー!ラッキー!!スマイルー!!イェーイ!!!」

 

 問答無用で始まった…。何かわちゃもちゃがどうとかそんな感じの曲やってたよ。

 曲が終わり、全員が僕の方を見る。

 

「あ、待って。みんな名乗ってもらっていいか?僕は竜崎。」

 

 僕はココロとカノンを含む五人に挨拶をする。ほら、相手に名を尋ねる時はまず自分からって言うじゃん。

 

「私は瀬田 薫。ハロハピのギター担当だよ。」

 

 紫色の髪の子が名乗る。瀬田ね。覚えた。宝塚にいそうな見た目と声してんな。あと瀬田のギター空洞があるな。セミアコかフルアコどっちだろ。後で聞いてみよ。

 

「北沢 はぐみだよっ!ハロハピでベース弾いてるんだー!」

 

 次にオレンジ色の髪の子が名乗った。うーん…。これ問題発言なのはわかってるんだけどどこぞの語尾猫の人を思い出す…。名前が出てこないのが唯一の救い。

 

「ハロハピのDJやってまーす奥沢 美咲でーす。」

 

 最後に名乗ったのは割とボーイッシュな見た目の子。無気力担当ってか。つかこの子があの熊の正体だったんだな。

 

「ヒロミ、どうだったかしら!」

 

 全員の自己紹介を終えたところで弦巻が目を輝かせる。

 

「いや、素晴らしかったよ。詩とメロディーのバランスが取れていて先入観なく楽しめた。DJがメンバーとして存在しつつもテクノっぽくなりすぎず、全体的にバランスが安定してるバンドだと思った。」

 

 僕はお世辞一切なしでそう言う。これが僕の本音。こりゃポピパとかパスパレとかとタメ張れるレベルだわ。

 

「そういえばハロハピって何のために音楽をやってんの?」

「世界を笑顔にするためよ!」

 

 僕がふと気になった疑問に弦巻が尋ねる。弦巻から話を聞いて僕はさらにそこから経緯を知った。世界を笑顔にねぇ…。聞こえはいいけどどうも引っかかる。

 

「なるほどな。可能性としては低い目的だが、できないということもまた証明されていない。実現はあり得る。それが誰かのためでもあるし自分のためでもあるということは継続する糧となるだろう。だが、物は言い様だ。」

「どういうことかしら?」

 

 弦巻が首を傾げる。喋るのが苦手ながらも僕はさらに言葉を紡ぐ。そしてそうやって脳内に言葉を巡らせている瞬間、僕は先程から感じていた違和感の正体に気づいた。

 

「世界を笑顔にするためだと言いつつも何故音楽をやる?何故音楽を選んだ?世界を笑顔にしたいんだったら方法はいくらでもある。漫才だかコントだかをやるとかマジックやるとか。一緒だよ。『お金持ちになりたい!』とか『有名になりたい!』とかと。そういうのだってそうなるための方法はいくらでもある。けど無いんだよ。音楽が入り込む余地が。何故音楽じゃなきゃダメなのか。それすらも考えずに音楽を手段としてやってる時点でもうアウトだよ。覚悟が足らなさすぎる。」

 

 僕はそう言い部屋を出て行くと、踵を返した。半分ぐらい不思議そうな顔をしていたが、まぁ気にすることはないだろ。

 え?大人気ないって?んな事知るか。たしかに何が起きても笑っていられればそれはそれで楽だよ。今よりも自由に生きられるのは確か。けど僕はそんな人間にはなりたくはないな。

 

「おーい!村上ー!」

 

 行き先も決めずにただひたすら愚直に歩いていると、向かい側から赤沢が僕に声をかけてきた。

 

「何だ赤沢。」

 

 僕は半ば呆れた状態で赤沢に話す。赤沢は走ってきたのか息を切らしている。

 

「来てくれ。」

「あ?」

 

 僕は事情も聞かされずに赤沢に僕のレーベル内に建設されているスタジオに連れられる。そこには夥しい数のハンター…、じゃなかった。黒服の女性たちがいた。おそらくはあの弦巻家のボディガード的な奴らなんだろうな。じゃなかったらこんな人数用意できない。逃走中じゃない限り。あとSUICIDEメンバーみんな揃ってた。

 

「何さ。」

「今日来てもらったのは他でもありません。SUICIDEの皆様にとある依頼をしたいのです。説明をいたしますと、こころ様がご友人の方々を笑顔にしたいとのことで是非日本一のバンドと名高いSUICIDEの皆様にお力をお貸しいただきたいのです。その謝礼金といたしまして、7億円ご用意いたしました。」

 

 そう言って黒服の女性たちがアタッシュケースを取り出し、中身を見せる。うわぁ、諭吉がいっぱい…。

 

「すげぇ…。」

「一体何したらこんなにお金が入ってくるの…?」

 

 ケースの中身を見たメンバーが一様に7億という大金に圧倒されている。それもそうだ。一度のライブで億なんて単位貰ったことないからな。

 

「これだったら出たいかなぁ俺は…。」

「それは悩むだろ…。」

 

 やはり全員気持ちが揺らいでいるようだ。そんなメンバーの様子を見て僕はすぐに決断できた。

 

「僕は出ない。出たくない。」

「え!?」

 

 その場にいた全員が僕の方を向き、驚愕の視線を向ける。僕は少々たじろいだが、すぐに平静を取り戻し理由を説明した。

 

「たしかに僕も億って単位貰えたら生活に困らないし、むしろウハウハだよ。でも僕はあんたらが説明したような私的な理由で出たいとは思わない。7億なんて大金払って僕たちに依頼するくらいなら普段行かないような高級寿司店にでも行ってきてくれ。」

 

 僕が言い切った後、しばらく沈黙が続く。その沈黙を先に破ったのは赤沢だった。赤沢の顔は迷いを振り切り、逆に清々しい表情をしていた。

 

「じゃあ俺も出ないわ。」

「私も出ません!」

「Rawさんに従いましょう。」

「うん!私も!」

「俺もだな。」

「仕方ないわね…!」

 

 赤沢に続いて他のメンバーも決断したようだ。これで総意が決まった。そして音生が謝罪し頭を下げた後に切り出した。

 

「すみませんね。Rawさんの言葉はキツかったかもしれないですけど、俺たちは悪い話だとは思ってませんから!実質ライブができるんですし。でもこれだけは覚えておいてもらいたいんです。俺たちSUICIDEっていわゆる民主主義のバンドなんですよ。Aという立場に賛成の人が四人、Bという立場に賛成の人が三人いた場合、Bの三人はAの四人に従うんです。でも誰か一人でも『これはやりたくない』って言ったらみんなそれに従うんです。そこで民主主義的なルールは崩壊しちゃうんですけど、それもルールなんです。誰か一人でも『これはやりたくない』って言った事はみんなやんないです。なので本当にごめんなさい。この話は引き受ける事はできません。」

「左様でございますか。お忙しい中大変失礼いたしました。」

 

 音生の言葉に納得したのか、黒服集団は皆踵を返した。いや、本当に音生がいて助かった。俺たちの事をきっちり言ってくれたな。

 

「Rawさんって案外お金では釣られないんですね。」

「金があっても食べ物がなきゃ意味ないだろ。」

 

 安堵している僕を由美が揶揄してくるが、僕は適当な返事で返す。その後は特に何事もなく、練習しただけで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日後、何もすることが無かったので買い物に出かけたらまた松原が迷っているのを見かけた。いや本当に何回迷うのあいつ…。地図頭に叩きこんどけよ。元々東京にいる人間が東京に来て数週間の人間に道教えてもらうとか相当だからな?

 

「あ、竜崎さん。すみませんあの…。」

「いいよ。どうせ迷子になったんでしょ?連れてくよ。」

 

 そう言って僕は松原を弦巻家に連れて行くことにした。歩いている最中、長く続いた沈黙が松原によって破られた。

 

「あの、こないだ竜崎さんが言っていた事についてなんですけど一つ竜崎さんに知っておいてもらいたい事があって…。」

「何だ。」

「こころちゃんは、こころちゃんもそうですけど私たちハロハピは音楽を手段だなんて思ってないです。竜崎さんの言っていたマジックや私たちで考えたヒーローショー、結成してからの一年間は本当に色んな事をやってきました。だけど私たちはこれで生きていきたいと思ったんです。みんな音楽に憧れてバンドをやってるんです。」

「なるほどな。だが口ではどうとでも言える。その強さをお前たちの音で証明してみせろ。」

「は、はいっ!」

 

 強さの証明をライブで披露してみせろという旨の返答をされるとは思っていなかった松原は多少動揺しながらもすぐに返事をした。そしてしばらく下世話な話をしながら路地を歩いていると弦巻家に着いた。こないだの事もあって首根っこ掴まれて追い出されるかと思ったが、すんなり通してくれた。dubみたく出禁にならないように善処するけど。

 

「来たわねヒロミ!今日はあたし達があなたを笑顔にしてあげるわ!前はぜんぜん笑ってなかったけど、今日は絶対笑顔にするわ!」

 

 弦巻がそう言うと、曲が始まった。また新しい曲…。てか熊いる…。

 

こ「お日さまが♪」

 

薫・は・花・ミ(Yeah!Yeah!)

 

こ「ぴかりんりんりん♪」

 

薫・は・花・ミ(Yeah!Yeah!)

 

こ「そっと寄りそうキミの やさしいぬくもり♪」

 

 キーはCか。いやぁ、僕にはCがキーの曲が心に刺さるのか、すごく染みる。性癖にマッチしてる。

 

こ「きもちの延長線上 もやもや…

あれ どうしよう 見ないふりをしちゃう?

ほんとは とっくに もう全部知ってるよ?

だけど動けないときもあるんだもん…♪」

 

ミ「いつでもなんでも♪」

 

薫「お見通しのウインク♪」

 

ミ「キミから受けとった♪」

 

薫「どきどきエスコート♪」

 

薫・は・花・ミ(Fight!)

 

こ「あとはボクが♪」

 

薫・は・花・ミ(Fight!)

 

こ「最後の1歩♪」

 

は「あとちょっと!♪」

 

花「もうちょっと!♪」

 

薫「頑張って!♪」

 

ミ「ふんばって!♪」

 

こ「進むんだっ!!♪」

 

薫・は・花・ミ(バンザーイ!♪)

 

こ・薫・は・花・ミ「はれやか すこやかで ほっぺた♪」

 

薫・は・花・ミ(ぷるり〜ん!♪)

 

こ・薫・は・花・ミ「ボクのお日さまが笑えば♪」

 

薫・は・花・ミ(ぴかりんりん♪)

 

こ・薫・は・花・ミ「ほろ苦い味も ニコニコに甘く

やったぁ!やったぁ!

しあわせで まんぱい!

あれ?いつの間にか もやもや♪」

 

薫・は・花・ミ(ば〜いばい!♪)

 

こ・薫・は・花・ミ「どこか飛んでっちゃったみたいだ♪」

 

薫・は・花・ミ(ひゅるりんりん♪)

 

こ・薫・は・花・ミ「よくがんばったで賞 いただきましたでしょう◎

やったぁ!やったぁ!

ボーダーレスにハッピーだ〜!♪」

 

 いやー、ガールズバンドでもここまで違うのか。ポピパやRoselia、それらとは違う曲調でここまでのレベルに引っ張り上げるのは中々至難の業だ。

 

「どうだったかしら?」

「流石だ。お前らは強いな。」

 

 僕はそう言うと椅子から立ち上がり、部屋を去った。僕はそもそも人と話すの苦手だし(特に女の子)、感情を顔に表すのも得意じゃないけれど僕の想いは伝わっているだろう。そう思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は由美と明日奈さんと音生の四人で練習をしていた。バンド練習の休憩の最中、僕は由美に呼び出された。で、今がその真っ只中。

 

「何なのさ由美。」

「Rawさん、ちゆ何かおかしくないですか?」

「えっと…。それはどういう意味?あいつ別におかしい所何も無いでしょ。」

「執拗に『ぶっ潰す!』って言ってるんですよ。しかもロゼリアがどうとか…。ポケモンにでもハマり始めたんですかね?それもそれでおかしいとはおもうんですけど…。」

 

 由美の言葉を聞いて僕の中で大きな疑問が生じ始めた。Roseliaのあの演奏にあれほど感激を受けていたちゆが何故突然Roseliaを目の敵にし始めたのだろうか。あのちゆが目を輝かせていたほどなのに。

 理由はわからなかったがこれだけは今でも言える。きっと何かよからぬ出来事が起きようとしている。近い将来必ず。

 

 

 

 



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第5話「アイドルとしての証明」

 

 

 今僕は音生と共に某Pastel*Paletteの所属事務所にいる。そこで僕は何をしているかというと…。

 

「第4回ワールドアイドルフェスティバル!?」

 

 そう。Pastel*Paletteにワールドアイドルフェスティバルのオファーをかけているところだ。僕のレーベルがワールドアイドルフェスティバルの主催者なので直々にオファーをしていると。そういうわけだね。パスパレの五人はテレビで共演する事もあって僕の正体を知っている。

 そして、オファーの内容を知った大和が声を上げて驚く。やはり一年前に結成されたばっかのパスパレでもその名は知れ渡っているのか。

 

「ああ。このフェスがどんなフェスかはお前らも重々承知しているだろう。だから説明は省くが、このフェスは現在進行形で様々なアイドルにオファーをかけている。お前らの返答次第にはなるが、最終的にどのステージでパフォーマンスするかというのは現段階では決められない。もしかしたらBRIGHTER 80'sも出るかもしれないし。」

 

 僕がパスパレの五人にフェスの概要を説明する。BRIGHTER 80'sっていうのは明日奈さんが所属しているアイドルグループの名前。80'sって書いてあるけど80年代から引き継がれているグループってわけじゃなくてつい最近できたグループなのだそう。

 

「機材系統はRawさんの所から借りられるみたいだから、前日にRawさんのスタジオ行って機材決めて調整するってのもアリだよ。」

 

 僕の説明の続きを音生が代わりにやってくれた。何余計な事してんだ。

 

「そういう事だ。オファーについて受けるかどうかを聞きたいんだが、一人足りねぇな…。」

 

 そう。今来ているのは全員ではないのだ。僕、音生、氷川、白鷺、大和、若宮。誰がいないかわかるだろ?丸山だよ。どうやらバイトらしい。仕方ないな。ただ、グループにおいて一人欠けているという事は完全に了承が得られないという事でもある。

 

「彩ちゃんには私から説明しておきますので、問題ありません。」

 

 僕の言った事を瞬時に汲み取ってくれた白鷺が咄嗟に切り出す。流石だ。気が効く。

 

「そうか。じゃあ今日は失礼するよ。」

「何か困った事があったらいつでも俺たちに連絡してね!」

 

 そう言って僕と音生はその場から去った。部屋を出た瞬間、音生から声をかけられた。

 

「Rawさん、パスパレのみんなの事は今回俺に任せてもらえませんか?」

「別にいいけど、どうかしたのか?」

「なーんかちょっと不安なんですよね。何となくですけど。」

「そんなの気にしなくていいだろ。大体、その『何となく』って言葉が僕は嫌いだし何より信用ならない。勘で物を語るな。」

 

 音生の曖昧な返答に僕は少々怒る。けど抑え込んで伝わる限りの言葉で話す。すると音生はいつもの柔和な笑みを浮かべた。

 

「確証を持つにはまず勘から、ですよ。」

「なるほどね。」

 

 僕は鼻で笑い、音生の言葉に納得する。結局この日はこれでお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕はSUICIDEの練習をしていた。場所は別にライブもないのでいつものスタジオ、メンバーは音生以外全員いる。

 

「あっ、ローくん。私のグループ、ワールドアイドルフェスティバル出る事になったからしばらくSUICIDEの練習出ないでBRIGHTER 80'sの練習に全集中する事になるけどいい?」

 

 明日奈さんが練習中にもかかわらず突然切り出した。あー、そっか。了承したんだな。

 

「別に構いません。僕と音生がオファーしたんですし。それにそっちが本業なんですからそっち優先してください。」

 

 僕は間を開けずに返答する。別にSUICIDEは本業ではない。むしろそこをゴールにされても困る。

 すると音生からメッセージが来た。メッセージにはパスパレのセトリであろう物が記載されている。

 

「おお、パスパレゆらゆらやんのか。」

「ゆらゆら?」

 

 ゆらゆらというワードに気になった由美が僕に近づく。別に携帯の画面見なくて良いだろうがよ。

 

「“ゆら・ゆらRing-Dong-Dance”。丸山と白鷺のツインボーカルの曲だが…。どうやら音生の勘は間違っていなかったようだな。」

 

 僕はスマホの電源を切り鞄にしまう。このゆらゆらという曲は音源化こそされているもののパスパレのライブでは一度も見たことがない。おそらくやるとするならばこのワールドアイドルフェスティバルが初だろう。となると、白鷺の負担が半端なくなるな。

 

「別によくね?俺たちには関係ない一バンドだ。そこまで気にする必要ないだろ。」

 

 練習中だという事を言いたいのか、小泉がそう言ってパスパレの話題をやめさせようとする。僕は小泉の物言いに少し腹が立ち、言い返す。

 

「僕のとこが主催する舞台で下手な演奏して場の温度が冷めるようなライブしてほしくないだけだよ。それにそこまで干渉する事もしないし。お前みたいにネチネチネチネチネチネチネチネチ人のやる事に口出すわけでもない。」

 

 僕は怒りを露わにしつつ、小泉を揶揄する。昔からそうだよあいつは。まったく…。

 

「まぁまぁ。そう言えばお前宛に批判の手紙来てたよ。『あなたの曲は心に刺さりませんし、技術が無さすぎです』だって。」

 

 赤沢が何故か僕に手紙を見せに来る。揶揄してるな絶対。僕は見せしめに手紙を破り捨てた。

 

「『心に刺さりません』なんてそいつの主観だろうがよ。自分の主観を他人に押し付けてる時点でもう低脳だって理解できるし、何より『技術が無さすぎ』って。まぁ赤沢とか由美とかと比べたらそうかもしれないが。僕個人ではメジャーの世界でやってるわけだから。ヒットした音楽が優れた音楽だとか技術ある音楽だとかなんて考え自体が馬鹿げてるんだよ。そもそも、聞いた事もない奴だし。臼井 武丸とか。僕の所にもそんな奴いないし。何にも成せていない人間が一丁前に評価するなんて卑怯だろうが。そういう奴が一番弱い。アーティストとしても、人間としても。そして何より求めてないのにアドバイスするな。アドバイスってよりかはただのいちゃもんだ。赤沢、手紙の送り主にそう言っといて。」

「いや、もう一度言ってくんね…?長すぎて聞き取れない…。」

 

 僕は言葉が出る限り喋り続ける。この世の全ての罵詈雑言は僕が使うために生まれたようなものだ。それほど僕は怒った時には口が回る。

 

「つか音生は何しようとしてんだか…。」

 

 僕は音生に対する不安と心配を抱えて練習に再び参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕方、俺が講師を務めているベース教室の部屋に千聖ちゃんが現れた。

 

「こんにちはNEOさん。」

「こんにちは千聖ちゃん。練習だね。ちょっと待ってて。」

 

 元々はパスパレの練習を手伝うためにコーチ的な役割をやるつもりだったけど、今日は事情が違った。千聖ちゃんが急に呼び出したためにしばらく自宅待機となったのだ。いや、千聖ちゃんが悪いってわけではないんだけどね。

 そう考えつつ俺は機材の準備をし、千聖ちゃんに指導する。

 

「パスパレのみんなとは練習しないの?」

 

 不意に俺がそう尋ねた瞬間、それまで積極的に動いていた千聖ちゃんのベースを弾く手が止まった。一体彼女は何を思っているのだろう。メンバーへの信頼度というものはないのだろうか。

 

「NEOさんも知っているとは思いますが、私達パスパレはデビューライブの時点で躓きました。最悪のスタートを切ったんです。だからこそ、私達の力で演奏するという事が大事なんです。この想いはSUICIDEの皆さん以上に強いものだと自負できます。駄目なんです。完璧でなくては。」

 

 千聖ちゃんは声の震えを抑えながら続ける。

 

「私達もSUICIDEの皆さんも同じプロの世界にいます。プロであるならば努力するのは当たり前。それにやるのはあのゆら・ゆら。私が今まで以上に頑張らなくちゃいけないんです!彩ちゃん達の足を引っ張りたくないんです…。」

 

 千聖ちゃんの目には涙が浮かんでいた。あの曲をやるのにそこまでの苦悩があったなんて知らなかった。デビューライブの事については俺も知っている。それがその想いを生んだのか…。

 

「きっと彩ちゃん達も一緒だよ。みんな千聖ちゃんと同じ不安を抱えてる。だからこそ千聖ちゃんと練習したいっていう風に思ってるんじゃないかな。完璧じゃなくていいんだよ。弱みを見せたっていいんだよ。」

「でも…。私が弱かったら…。」

「ねぇ、素直になるのってそんなに怖い事なの?それさえできずに生きていくなら千聖ちゃんにとっての自由って一体何なの?」

 

 その時、千聖ちゃんの瞼が少し大きく開かれたような気がする。何かに気づいたのだろうか。自分が弱みを見せたくない何かが。

 

「怖いというよりも、無駄なんです。嫌なんです。私のせいでみんなが練習できなくなんて。私のせいで時間が浪費されるくらいなら、誰にも気付かれずに練習したいんです。」

「案外違うと思うよ。一人でやるのと皆でやるの。昔は俺も千聖ちゃんと同じ事考えてた。『俺のせいで皆の足を引っ張りたくないから人一倍頑張らなきゃ!』って。でも違ったんだよね。いくら努力しても一人じゃ気づけない点っていうのはあるわけで。もちろん努力するに越した事はないけれど、千聖ちゃんを信頼してくれる仲間だ。互いに歩んでいくのも大事だし、自分が完璧になりすぎてしまうと相手にも完璧を求めちゃうよ。」

 

 千聖ちゃんは大きく息を吐き、肩の力を抜いて言った。

 

「それもそうですね。時間ですので今日はこれで失礼します。ありがとうございました。」

 

 そう言って千聖ちゃんは俺の言葉を挟ませる隙も与えずに手っ取り早く準備を済ませて帰っていった。千聖ちゃんなりに答えは出たのか、それはわからないけど今のわだかまりがうまく無くなってくれるといいけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、僕は大和に呼ばれドラムの調整を任されていた。大和は他のメンバーの機材の調整をやっているため、こっちに手が回らない。

 

「すみませんね。色々頼んでしまって。」

「別にいい。僕が好きでやってる事だ。」

 

 大和の謝罪に僕が答える。本人も思うところがあるんだろうな。今回のライブに関しては。昨日音生から白鷺の様子がおかしかったという旨のLINEが来たから。

 

「でもいつか身体を壊してしまいそうなんじゃないかって心配なんですよ。本業のソロやSUICIDE、そしてデ・アマローナもやってるなんて…。」

 

 大和が不安混じりに言う。ちなみにデ・アマローナというのは僕と大和が所属しているとある番組の企画で生まれた五人組バンド。ボーカル担当の声優にベース担当のお笑い芸人、さらにはキーボード担当の漫画家もいる。そのバンドでは僕がギターを、大和がドラムを担当している。本業で歌を歌ってる僕をあえてボーカルにしないところが何とも言えないセンスというかさ。

 

「お前もだろ。パスパレやりながらデのドラムもやるなんて大変だろうに。」

「いえいえ!とんでもございません…。」

 

 大和はメンバーの楽器の機材調整までしてるというのは丸山や白鷺からも聞いている。そこまでやりながらデまでやって、パスパレまでやってってもう大忙しじゃん。

 

「それに僕のこと心配するよりも白鷺の事心配した方がいいんじゃないの?今一番無茶してるのあいつだと思うけど…。」

 

 僕の口から言うべき話題ではない事はわかっている。だが気になっていたことなんだ。みんなどう思ってるのか知らないけどさ。

 

「ジブンも迷ってるんです。切り出すべきか否か。ジブン達のせいで千聖さんに迷惑をかけてしまうのではないかと…。」

「なるほどねぇ…。ご苦労様だよ。」

 

 ここで僕が「白鷺も同じ事を言っていた」などと言えば今後のパスパレを考えた際に良くない事だろう。だからあえて言わない。そんなこんなでドラムの調整が完了した。大和の方も準備ができたようだ。

 

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。WIF頑張れよ。」

「はい!ありがとうございます!」

 

 大和は深々と頭を下げ僕を見送った。道のりは険しいと思うけど仕事してきた仲だからいいライブしてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その三日後、何やかんやあってついにWIF当日となった。パスパレのステージはかなり小さい方なのだそう。そりゃ仕方ない。今回のWIFは国民的なスーパーアイドルとか普段はOK貰えないようなアイドルとかが出てくれるらしいからな。出てるメンツが豪華すぎるだけ。

 

「機材用意できました!」

「了解した。パスパレの奴らにちゃんと説明しとこう。」

 

 僕と音生は準備を進める。いよいよパスパレが来る。どれ、せっかくだからあいつらのライブを見るか。

 

彩「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

千「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

彩・千「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

彩「きみを映した きれいな姿は

“わたし”で見てた まぼろしだったの♪」

 

千「ため息泳ぐ くもり空見上げ

与えられたレールを ひとり歩く♪」

 

彩「がんばれの言葉も♪」

 

千「ねじれて届かなくて♪」

 

彩「さなぎのまま 閉じ込めた羽♪」

 

千「素直に♪」

 

彩「なれずに♪」

 

千「miss you…♪」

 

彩「miss you…♪」

 

彩・千「ちぐはぐ lonely heart

 

こころ♪」

 

日・麻・イ「揺らし♪」

 

彩・千「幕が♪」

 

日・麻・イ「ひらく♪」

 

彩・日・千・麻・イ「きみの声で♪」

 

彩「ひらり 生まれ♪」

 

千「ひらり 飛んだ♪」

 

彩「おんなじ♪」

 

千「世界♪」

 

彩「つよく♪」

 

千「今♪」

 

彩・千「息をして♪」

 

彩「真実にふれて♪」

 

千「溶けた♪」

 

彩・千「かたいヴェールも♪」

 

日・麻・イ「ひかりとなって♪」

 

彩「わたしたち♪」

 

千「ひとつに♪」

 

彩・千「美しく包んだ♪」

 

彩「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

千「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

彩・千「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ後、僕はパスパレの五人に差し入れを持っていくべく彼女達のもとへ向かった。すると、五人が一人の男に絡まれている様子が見えた。

 

「おい。お前何やってんだ。」

 

 僕は少々品のない言葉遣いで男に話しかける。男は童顔で若く、眉間に皺を寄せている。見た目的に学生と言ったところか。

 

「こいつらの単なる紛い物だよ。こいつらだけじゃない。エンターテイメントの世界のアーティストはみんなそうだ!偽物が蔓延っていて、本物は罷り通らない。おかしくないか?そんなの。」

 

 なるほど。こいつはこいつで本物のエンターテイメントを見てきたと言いたいのだな。それなら…。と、僕は考えに考え彼を去らせる方法を思いついた。

 

「じゃあ聞くけどさ、お前は一度でもステージに立った事あんのか?」

「そ、それは…。」

 

 男は少し戸惑っている様子だ。あの様子じゃステージに立った事も無いらしいな。

 

「いいか?こいつらが立ってるのは戦場だ。お前らみたいな奴らの言葉を受けて、それで傷ついて。それでも夢や目標の為に頑張って生き抜いてんだよ。こいつらがいるのはそういう世界だ。戦場にも立たずに相手に自分の理想を押し付けるのは卑怯だ。それにこいつらは弱くない。強者にいちゃもんつけられるのはさらにそれより強い者のみ。お前にその強さがあるのか?」

 

 男は歯軋りをし出した。悔しさが顔に表れているんだろうな。

 

「失せろ。」

 

 こいつを帰らせる唯一の方法。こいつの弱さを炙り出し、いづらくさせる。目には目を、歯には歯を。ってやつだな。

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

 丸山に続いて氷川、白鷺、大和、若宮が深々とお辞儀をする。

 

「礼なんて要らない。そもそも僕はお前らを信じてない。」

 

 僕は踵を返そうとするが一つ言い忘れていた事がある事に気付き立ち止まる。

 

「僕が信じているのはお前らの強さだ。それに最強なのは僕やSUICIDEじゃない。お前らみたいな一生懸命な奴だ。」

 

 五人は顔を上げる。目頭が熱くなったのか、五人の目に涙が浮かぶ。

 

「そう言えば、私も言い忘れていた事がありました。」

 

 白鷺が僕の前に出てきて、頭に一発ゲンコツを入れた。痛い。めちゃくちゃ痛い。何で?

 

「そういえばRawさん、前に私の舞台に来ていた時に寝てましたよね?演技中に見えてましたよ?」

 

 思い出した。あれは数ヶ月前の事、白鷺を除くパスパレの四人と僕で白鷺の舞台観に行ったんだよ。いやー、すっかり爆睡してたよね。僕。

 

「いや、違うんだ。あれは、そのー…。」

「お仕置きが必要かしら?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 こうして第4回ワールドアイドルフェスティバルは無事終わった。めでたくないしめでたくないし。



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第6話「悪魔の協力者」

 

 

 第4回ワールドアイドルフェスティバルを終え、しばらくの間安息の時を迎えていた。そんなある日、僕はやまぶきベーカリーにてパンを選んでいた。これが僕の今日の朝食。近所にあるのに未だに食べたことないもんな。どれ…。お、このチョココロネ美味しそう。取りますか。

 と、僕がチョココロネを取ろうとトングを向けた瞬間、不意に隣の誰かのトングとぶつかった。トング同士がぶつかり合った事を示す鉄の音で僕は隣に人がいた事を察知する。僕の隣にいた人間は牛込だった。Poppin'Partyのベース担当の…。

 ここで僕の心に迷いが生じた。SEで『ザワザワ…』ってやつ付けてほしいんだけど。今の状況を説明すると残っているチョココロネは最後の一個。つまり、どちらか一方がチョココロネを得られないという事になるのだ。仮に僕が牛込にチョココロネを譲るとしよう。それはそれで僕は紳士的と言えるだろう。だが、僕もプライドがある。相手が誰であろうがここでチョココロネを譲るわけにはいかんのだ。そもそも先にチョココロネに目をつけたのは僕。僕が先だったんだ。早い者勝ちだろう。だが、それだと牛込は不快な面持ちで店を出かねない。牛込が泣きじゃくって厄介事の原因が僕だとなすりつけられたらたまったもんじゃない。そうなると僕が取るべき選択肢はたった一つ…。

 

「最初はグー!!ジャンケンポン!!!」

 

 牛込がチョキ、僕がパーを出した事で僕の敗北が決定した。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!どうしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!クソッ!!!床がキンッキンに冷えてやがる!!!!!」

「ちょっと!!何してるの!?すみません、ちょっとここで失礼しますー。」

 

 不意に何者かが僕の背中にエルボーを喰らわせ、やまぶきベーカリーから引き摺り出した。僕が頭を上げるとそこには明日奈さんがいた。

 

「もう!何であそこでカイジのモノマネのモノマネしてるの!?」

「ややこしいです。普通にカイジのモノマネでいいじゃないですか。」

「どっちでもいいよ!!」

「どっちでもいいなら僕の方採用してくださいよ!!!」

 

 僕と明日奈さんはやまぶきベーカリーの外で他愛もない会話をする。すると、今になってある違和感を覚えた。

 

「そういえば、パン屋のあいつが来てなかったな。」

 

 そう。山吹が来ていなかったのだ。その答えはすぐそこの電柱に貼ってあったポスターに書いてあった。

 

「なるほど。この商店街で祭りやるんだな。」

「え?どれどれ?本当だ!私も行きたい!」

「聞いてません。」

 

 明日奈さんのどうでもいい願望に僕は食い気味にツッコむ。どうやらこの祭りはバンドによるパフォーマンスもあるようで、ポピパとアフグロが出演するようだ。加えて和太鼓のパフォーマンスもあるようだ。宇田川 巴と岡本 隆盛の和太鼓ステージか…。面白い。

 

「あ、そういえば僕明後日店番だったんだ。」

「その方が知らないよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校帰り、私は気になる楽器屋さんの看板を見かけた。元々そこに入る予定は無く商店街でのライブ用の機材もGalaxyで借りる予定だったけれど、Galaxyでライブするバンドがいた為に機材は借りられなくなった。さらにCiRCLEも同じような感じで結局借りられなくなった。もしかしたらここならこの危機を打破できるかもしれない、と私は淡い期待を胸にビルに入り、エレベーターに乗る。主催ライブで私やおたてが苦手な事はりみりんやさーや、有咲が受け持ってくれている。私も少しは役に立たないと。そう考えているとエレベーターが9階に着いた。エレベーターのドアが開くと、すぐそこに楽器屋さんがあった。

 

「こんにちは、何してるんですか?」

 

 私はレジに立っている男の人に話しかける。その時私は思い出した。この人、前に私とぶつかった人だ。またここで会えるとは思っていなかった。男の人は顔こそ若いけど、無愛想な表情をしている。

 

「お前はライブハウスでギターを弾いている人間に向かって『あなたは何をしているんですか?』なんて言うのか?」

「ご、ごめんなさい…。」

 

 男の人の台詞に私は狼狽えながら謝る。この人、すごく怖い人だなぁ…。

 

「せっかく来たんだ。見てくか?」

「あっ、はい!」

 

 私は男の人の気の変わりように振り回されながらも何とかついていく。男の人は名札を持っていないようで、名前がわからない。

 

「ギターとかベースがいっぱい…。しかも色んな楽器が…。」

「伊達に楽器屋名乗ってるわけじゃないの。」

 

 店内に置かれている様々な楽器に私は感動する。あの人はこれほどまでに音楽を愛してるんだ。いや、きっとこの店の大きさには収まりきらないくらいに。

 

「何が見たい?」

「あの、商店街でライブやるんですけど機材借りられなくて…。」

「別にいいよ。アンプ系統が見たいんだな。着いてこい。」

 

 私は男の人に案内されながらついて行く。男の人は扉の前で止まると鍵を取り出してロックを開けると、扉を開いた。その中には数多くのアンプが眠っていた。

 

「こんなにいっぱい…。」

「ま、物は試しだ。弾いてみろ。」

 

 私はギターケースからギターを取り出し、チューニングをする。男の人は私のギターにシールドを刺し、慣れた手つきでアンプのつまみをいじる。

 

「とりあえずはMarshallにしといた。適当でもいいから弾いてみて。」

 

 男の人の指示を受けて、私は“Happy Happy Party”のギターを弾く。けれど、男の人はもどかしい顔つきをしていた。

 

「んー。その感じだったらFenderだわ。一旦違うやつでも試してみるよ。」

 

 男の人は素早く、そして正確にアンプの電源を切ると今度は別のアンプにシールドを刺した。

 

「よし、弾け。」

 

 さっきと同じように私は“Happy Happy Party”を弾く。するとさっきまでもどかしい表情をしていた男の人の顔がパズルのピースがはまったかのようにスッキリしていた。

 

「やはりお前の演奏する曲調からいくとFenderかな。Fenderなら明るい曲調の音が映えるからな。それにしてもお前のそのギター、ランダムスターじゃないか。ESPで開発された、Gibsonのエクスプローラータイプの派生系モデルでピックアップはGrassrootsのもの。Edwardsでも似たようなのが開発されていて、あのLOUDNESSの高崎晃さんが使用している。ちゃんとしたものを手に入れようとすれば10万の桁がつく程の値段なのにどうやって手に入れた?金か?金で手に入れたのか?」

「い、いや〜…。これは買ったと言うより、貰ったというか…。」

 

 今みたいにあまりにも難しすぎる単語を並べられると頭がパンクしちゃいそうになる。しかも後半かなり早口だったから何言っているのかもわからなかった。けれどしっかり答えるべき質問には答えられたと思う。

 

「なるほどな。貰い物か。だが勘違いするな。ランダムスターは謂わゆる名器だ。名器は必ず受け継いでいかなければならない。」

「メイキは必ず受け継いでいかなければならない…。」

 

 メイキという言葉の意味はあやふやだが、私は男の人が言った事を繰り返し言う。

 

「にしてもここ、ヴィンテージ系のアンプばっか揃えてる所だからな。借りれはしないけど、弾いてみただけでも随分貴重な経験になったと思うぞ。」

「あのー、びんてーじってそんなに貴重なんですか…?」

「ギターとかアンプとかのヴィンテージものって総じて言うと、今じゃ使っちゃいけない素材を使ってるのよ。簡単に言えば同じのを二度と作れない。今作っちゃうと違う素材使わなきゃいけないし。こいつら当時で言えばそんなに価値は高くないものだよ。でも今値打ち出てかなり高額になってる。」

 

 男の人が言わんとしている事は何となくではあるけれどわかった。

 

「バンドやってんの?」

「はい!Poppin'Partyっていうバンドやってます!」

「そうか。バンドやり始めると自分のアンプ持ってきたくなるものだ。ある種バンドマンの憧れって言うかさ。ライブハウスに自分のアンプ持ってってそれで演奏してって言うのはバンドマンからしちゃ夢の話だ。まぁそれはさておき、商店街のライブがある事は僕も知っている。他のメンバーの機材はどんな感じなの?」

 

 男の人は優しく私にそう語りかける。男の人の言葉には一切の嫌味が無く、優しさから来るものなんだと感じた。そして私はポピパとアフグロの写真を見せる。

 

「ほうほう。じゃあ全員分選んでくるわ。片付けしながら待ってて。」

 

 男の人はそう言って部屋から姿を消した。私は片付けをしながら周りを見渡す。色んなロゴ、色んな種類のアンプがあって心と視線を奪われた。

 

「お待たせ。準備できたから来い。」

「は、はいっ!」

 

 私は男の人の説明を聞きながら書類に目を通す。難しい単語ばかりだから有咲に説明し直してもらおう…。

 

「って事だ。貸し出しの費用は十人で何とかまかなってくれ。当日持ってくよ。」

「ありがとうございます!では商店街のライブの日に!」

 

 そう言って私は帰ろうとしたが、一つ店員の人に聞き忘れた事があり立ち止まった。

 

「お兄さん、名前は何で言うんですか?」

「そうだな、竜崎とでも言っておこう。」

 

 男の人の口ぶりからして明らかに本名とは違う名前だと思ったけど、深く探らない事にした。

 

「竜崎さん、私達のライブ観てください!」

 

 私はそう言って有咲達のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時すでに遅しお寿司。商店街で第15回すこやかゴーゴー祭りなる物が開催されている今日この頃。あちらでは何か和太鼓のパフォーマンスをやってる。

 

「やるな隆盛!」

「宇田川氏も中々やるな。」

 

 あの二人すごいな。音に芯がある。昔僕も和太鼓を叩いていた経験があるからわかるけど、あの二人は確実に実力者。叩き方からもう違う。長い間経験を積んで叩いてなきゃあんな音出せない。どっちも。

 ちなみに今回僕はポピパとアフグロに機材を貸し出ししているため、どうしてもライブの方には間に合わなければならないのだ。それなのに…。

 

「ねぇ、私今度あそこ行きたい!」

「どうでもいい!そんな事よりも僕を解放してください!」

 

 そう、今日のゴーゴー祭りには明日奈さんも参戦しているのだ。明日奈さんは僕を見つけるなりすぐに色んな屋台に僕を連れ回した。

 

「だって一人じゃいけないし…。」

「夜中一人でトイレ行けない小学生ですかあなたは!?子供じゃないんだから単独行動してください!僕そろそろ行かなきゃならないんで!」

 

 僕は明日奈さんを振り払ってポピパとアフグロの所へ行こうとする。

 

「何で!?ほら、バーベキューやってるお店もあるよ!」

「いや何でバーベキューやってる店があるんですか!?そもそも埃被った肉食って何が美味いんですか!?」

 

 僕は暴論を使ってでも明日奈さんを振り払おうとするが、明日奈さんは一向に単独行動に出向いてくれない。すると、僕は救世主とも呼ぶべき人影を見た。

 

「あ、明日奈さんあれ氷川です。」

「え?日菜っち!?」

 

 明日奈さんはいとも簡単に氷川のもとへ行ってくれた。よし、僕もあいつらのもとへ行こう。そして何故かハロハピもいるというね。そしてようやく着きました。最初はAfterglowか。

 

「Afterglowです!最初の曲は…。」

 

 ボーカルの赤メッシュがMCで喋った途端、雨が降り出しオーディエンスが退却した。にしてもあいつらわりかし経験豊富だな。この状況下でも平静を保っている。

 

「機材一回片付けるぞ。」

 

 僕は一度機材を撤収しようとする。一番先に気づいたのは赤メッシュだ。

 

「あなた誰ですか?」

「この機材の持ち主。僕一人じゃ普段が半端ないからお前らも手伝え。」

 

 僕はアフグロの五人と共に機材を片付ける。僕の知り合いにも頼んで車も手配してもらった。

 

「いきなりの雨か。」

 

 僕が独り言で呟く。ここにいるほとんどが雨に濡れて服がずぶ濡れ。特にポピパとアフグロは衣装が濡れている。それじゃあライブのしようがない。まぁあいつらは普通にコロッケとかパンとか食ってるから何か策があるんだろうが…。

 

「雨が弱くなってる?」

 

 突如、赤メッシュがこう口にした。それを聞いた僕はテントの外に出て空を見上げる。たしかに雨は止んでいる。

 

「だが機材をどうしようか…。」

「任せて!」

 

 僕が声のする方を一瞥すると、そこには明日奈さんがいた。これはちょうどいい。強大な戦力になる。

 

「え!?あの佐久間 明日奈さんですか!?何で!?」

 

 ピンク色の髪の子が驚く。驚き過ぎて口開いてるけど。

 

「驚くのは後だ。今は明日奈さんの力を借りるしかねぇ。」

 

 僕と明日奈さんとポピパと後誰かわからん青髪の子の力を借りて機材を再びステージの場所へと運ぶことができた。何とか。その間にAfterglowはステージを拭き掃除した為、完全にライブができる状態となった。

 しばらくしてAfterglowのライブが始まった。僕はその様子を青髪の子とテントの中で見守る。今“Y.O.L.O!!!!!”という題の曲が始まってるな。

 

「ヨロってよろしくのヨロって事なのかな?」

 

 明日奈さんが何の恥ずかしげもなく言う。違うのによく自信満々に言えるよな。ある意味尊敬できる。メンタル鋼かよ。

 

「You Only Live Once.訳したら人生は一度きりって意味です。」

「そうなんだね!」

 

 さっきまでよろしくのヨロが何だとか言ってた人がよく恥じらわずにいられるよな。あの人は恥というものを知った方がいいと思う。

 そして次にポピパが現れ、“Happy Happy Party”を披露した。すると、隣にいた明日奈さんが涙を流していた。

 

「すごいね。みんな時間が無いながらにそれぞれに頑張って…。勉強も忙しいのに…。あれ、何で私泣いちゃってるのかな…?」

「年ですよ。」

 

 僕がそう言った瞬間、明日奈さんが無言で僕にコブラツイストを喰らわせてきた。本当の事を言っただけなのに何故。

 

「主催ライブ、この商店街のライブハウスGalaxyでやります!」

 

 戸山が曲を演奏し終えた後にそう言う。そうか、あいつらライブするって言ってたもんな。

 

「僕らも頑張りましょう。」

「うん!」

 

 明日奈さんは元気よく返事をするとどこかへ去っていった。そうか。あのバンドには明日奈さんをも巻き込む程の力を持っているのか。あいつらの力は未知数だ。あいつらがどこまでも行けるように僕も祈っておこう。



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第7話「革命軍からの使者」

 

 

 商店街の祭りの一件が過ぎ、僕の方もひと段落ついた今日この頃。僕はいつも通り自宅で朝食をとっている。のだが…。

 

「何でお前普通にいんの?」

 

 そう。僕の目の前にはちゆがいる。おかしいなぁ…。合鍵は没収したはずなのに…。

 

「実はこっそり…ね?」

「人前で堂々と言える事でもないし、勝手に人の鞄漁るな。海外ではそれが常識だったのか?」

 

 ちゆが人差し指を口の前で立てウインクしながら言うが、それでも僕の鞄を漁ったという事実は覆らない。そんな仕草で僕の怒りが収まるならば苦労はしない。危うく箸を折りそうになった。

 

「それにさぁ…。お前に言いたいことあるんだけど僕。慣れていないうちは作詞作曲のやり方はまぁ真似するのが妥当だと思うけど…。さすがに服装まで真似しなくていいからね?」

 

 僕がちゆの服装を見ながらそう言う。普段僕の部屋着といえばジャージなんだ。いつ汚れてもいいように。今目の前にいるちゆの服装もジャージなんだなこれがまた。青色の。しかもサイズが合ってないのか、若干腹部が見えちゃってるんだよね。今オブラートに包んだ言い方だけど実物ちゃんと実装されてるから。見て。メタいね。メタくはないか。

 

「好きでやってることだからいいのよ。」

「そ、そう…。」

「ごちそうさま。私は行くわよ。」

「何しに?」

「バンドの作曲よ。」

 

 ちゆは制服に着替えながら僕と会話する。いや待って。普通に僕の目の前で着替えないでよ。後から色々言われるの嫌だから僕は目を手で覆い隠す。

 

「何てバンドの名前なの?」

「RAISE A SUILENよ。」

「簾を上げろってか。メンバーは揃ったの?」

「まだよ。」

「何?」

 

 ちゆの一言に僕は疑問を持った。メンバー揃ってないのにもう練習しちゃって大丈夫なのか?置いてけぼりになりそうだな。あのちゆの事だから。

 

「まぁ見つかるといいな。」

 

 僕はちゆのバンドがより良いものになるようにという願いを込めてちゆにそう言った。僕はSUICIDEをやる前までずっとちゆとは違う人生を送ってきた。僕には仲間を作れなかった。全員何故か僕を拒絶する。事実だけ見れば僕は何も悪いことをしていない。だがそのうち思うようになった。僕は生きているだけで重罪なのではないかと。そう考えた途端生きるのが苦しくなった。これはSUICIDEの皆にはわからない、僕だけにしかわからない感覚だ。だからちゆにはそんな思いを一切してほしくない。些細な事で喧嘩してもいいからどうか一人にならないでほしい。まぁ僕に付き纏ってる時点であいつは一人じゃないか。そんな奴が親離れすると考えたら寂しいな。

 

「Thank you.それとタロウ。」

 

 僕は急にちゆに呼ばれ首を傾げる。

 

「あなたがどれだけ拒絶されて存在意義を否定されても私はあなたを拒絶しないし否定しない。むしろあなたを好きでいる人なんていっぱいいるわよ。あなたのファンもしかりね。」

 

 ちゆはそう言って颯爽と僕の自宅から出て行った。さっきの心の声聞こえてたのか…。てか朝食ぐらい自分の家でとってこいよ。わざわざ僕の家でとるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、僕はいつものスタジオでSUICIDEメンバーと練習していた。が、今日はちゆがいない。まぁいないはいないで寂しいよね。

 

「ねぇ、Rawさん。」

 

 僕が準備をしていると由美が突然話しかけてきた。一体何だと言うんだ…。

 

「何さ。」

「今度私の母校の花咲川学園で文化祭があるそうなんですけど、よかったら一緒に行きませんか?増兄とか健先輩とか仕事で来れないんですよ〜…。」

 

 その後も由美の話を聞いて大体分かった。文化祭の一般公開日は僕も用事とか仕事とかは無い。

 

「行くとしよう。せっかくだし。」

「本当ですか!?やったぁ!」

 

 由美が飛び跳ねながらはしゃぐ。よっぽど一人が嫌だったんだな。

 そう思いながら僕は由美のギターを一瞥する。が…。

 

「何これ?」

「あっ、これタッチパネル式のギターなんですよ!」

 

 よくそんなギター買う勇気あるよな、と言いそうになるがそれは禁句なのであえて言わないでおく。しかし高そうだな…。

 

「お前それSUICIDEで使い所ないだろ。」

「そんなぁ!?」

 

 由美がわかりやすく崩れ落ちた。そりゃほうだろ。あんなん使ってるバンドいないと思うよ?あれ持ってるのGLAYのHISASHIさんくらいだよ。

 と思ったらありました。由美のギターもう一本。

 

「お前ちゃんとしたギター持ってきてんじゃねぇか。それで練習しろよ。」

「だってタッチパネルでギター見せたかったんですもーん!」

 

 珍しく由美が子供っぽい素振りをする。あいつもう二十歳だぞ?もう大学生の奴が何やってるんだ。

 

「しかし何だよこのストラト味があるわぁ。」

「Fiesta Redって色なんですよ。」

「うわぁ、渋いねぇ。」

「いいですよね!渋くて!」

「ただしお前のペイントは除く。」

「何でですか!?」

 

 由美が今スタンドに立てかけているギターはFenderのストラト。ストラトやテレキャスの本場といえばFenderみたいな節はあるけどね。しかもこのストラト木の部分がちょっと見えてる。服で言うところのダメージジーンズみたいなの。わからない人のために検索かけやすくしとこうか。多分これFender VINTERA ROAD WORN '50s STRATOCASTER Fiesta Redってやつだから。是非検索してみてね。こんな渋いギターを使うとは…。どんなバンドの曲を練習してるんだろうな。ちなみに値段の方については不問にしていただきたい。おいそこ、散財とか言わないの。ちゃんとお金稼いでるんだからこっちは。10万は軽くいくよねこれは。それなのにあいつはこの渋い赤色ボディに白の塗料で水玉模様付け足してるから。それ以外は全部良い。たとえ改造するにしても由美のやつみたいにはしたくない。

 次は赤沢のギターを見てみる。それにしてもこのルックスがねぇ…。

 

「いいわぁStarplayer。」

「いいだろエロいだろ?この黒と金がさぁ…!」

「わかる。ゴージャスだよな。」

 

 赤沢が使ってるこのDuesenbergのStarplayerはかの林檎嬢も“群青日和”のMVで使っているセミアコースティックギター。アンプに繋がなくても楽しめるのがセミアコの良いところだよなぁ。型番というか、機種だけどDuesenberg DTV-CM-BK Starplayer TV Custom Blackという代物。これも価格についてはおよそ30万弱。誰だ今散財とか言った奴は。

 

「じゃあ始めようか。」

「待ってくださいRawさん俺のベースについても紹介してくださいよ!」

 

 音生が何故か途中から割り込む。何なんだあいつは。せっかく曲を始めようとしていたのに。

 

「俺の!Fenderの5弦ベースについてもちゃんと紹介してください!」

 

 音生が僕の耳元でうるさく騒ぐので紹介しよう。音生が持っているFender MADE IN JAPAN MODERN JAZZ BASS V Deep Ocean Metalicはまぁいわゆる5弦ベース。普通のエレキベースないしアコースティックベースは4弦なんだけども種類によっては5弦または6弦のものもあるらしい。大体メタル系とかロック系のバンドは5弦を使う傾向があるよね。オメでたい頭でなによりとかDIR EN GREYとか。でもFender系はKing Gnuとかそこら辺に向いてんだよな。

 

「でもどうする?ちゆいないんじゃやりようが…。」

「“Tokyo Rendez-Vous”でもやろうや。」

 

 ちゆ不在で悩んでいる僕に小泉が提案してくる。

 

「よし。じゃあそれやりますか。」

 

 こうして“Tokyo Rendez-Vous”をやる事が決定したので、とりあえずそれを練習する事にする。本当はちゆいたら“Vinyl”とかやりたかったんだけどね。ちなみにKing Gnuの曲はバッキング赤沢、リード由美なんだけどギターソロの時は赤沢が弾くという不思議な感じだね。

 

M「走り出す山手に飛び乗って

ぐるぐる回ってりゃ目は回る

隣のあんた顔も知らねえ

溢れかえる人で前も見えねえんだ

トーキョー♪」

 

R・N(↑)「この身一つを投げ出して

キザなセリフを投げ売って

触れてみたいの

見てみたいの♪」

 

R・N(↓)「トーキョー♪」

 

M「皆どこかを目指してひた走る

この身守るためにゃツバを飲め

って具合だよ

そんな状況

繰り返される日常の狭間で

勝った、負けた、

離れて、くっついた。

すったもんだ

ラチはあかねえな

耳塞いで、目を瞑ったなら

突っ走れよ、混沌的東京♪」

 

R・N(↑)「この身一つを投げ出して

キザなセリフを投げ売って

触れてみたいの

見てみたいの♪」

 

R・M(↓)「夜に紛れて

あなたの元へ遊びに行くよ

眠れないこの街の

無意味な空騒ぎにはうんざりさ♪」

 

R・N(↓)「トーキョー♪」

 

R・1(↓)「君とトーキョーランデブー♪」

 

M「満員電車に飛び乗って

ぐるぐる回ってりゃ目は回る♪」

 

R・1(↓)「君とトーキョーランデブー♪」

 

M「皆どこかを目指してひた走る

この身守るためにツバを飲め♪」

 

R・N(↑)「この身一つを投げ出して

キザなセリフを投げ売って

触れてみたいの 見てみたいの♪」

 

R・M(↓)「あなた塗れで

どこまででも飛んでいけそうさ

彷徨う事で

自分自身を失ってしまっても

夜に紛れて

あなたの元へ遊びに行くよ

眠れないこのー街の

無意味な空騒ぎにはうんざりさ

トーキョー♪」

 

 歌い終わった。だがどうにも気がかりだ。その正体を僕は明確に掴んでいる。わかってるんだ。

 

「やっぱりしまらねぇなぁ…。ちゆがいないと…。」

 

 今までただのうるさいDJだと思ってたけどいなくなったらこんなに寂しくなるんだなって改めて思ったわ。

 

「ローくんもうちゆちゃんの事好きになってきてるじゃん。」

 

 明日奈さんが人を舐め腐ったような、渇いた笑い方をしながら僕を揶揄してくる。ちゆがいないとしまらないだけで別にちゆの事が好きなわけじゃ…。

 

「なわけないです。」

 

 僕はとりあえず周囲が誤解しないように一言添えておく。

 

「すみません、Rawさん。」

 

 突然、僕のレーベルで働く山口さんがやってきた。何しに来たんだろう。

 

「何でございますかね?」

「実はRawさんに会いたいという方がいらっしゃっていて…。」

 

 僕は少し不安なので音生に同伴するよう頼む。基本的に温厚な音生は二つ返事でOKしてくれた。僕と音生が指定された場所まで行くとそこには和奏が立っていた。

 

「和奏か。」

「レイ!?」

 

 和奏を見た音生が珍しく驚く。普段はそんなにテンション高くなる事もないのにな。

 

「音生兄!?久しぶりだね!」

 

 和奏も音生同様に驚く。どうやらお互い知り合いだったようだな。

 

「二人はどういう関係?」

「レイが名古屋に来た時に俺と知り合ったんですよ。レイのベースを俺の親父が教えていて。レイが引っ越してすぐに離れ離れになっちゃったんですけどね。」

 

 僕の問いに音生が答える。たしかあいつのお父さんもベースの講師だったってあいつ前に言ってたな…。あいつしか言ってないから誰かわかんないと思うけど音生の事ね。

 

「それにしても和奏。何故ここに?」

「Rawさんに聞いてほしくて。聞けばわかります。」

 

 和奏から渡されたのは一つのUSBメモリ。何かこれ前にも見たよ?あれだよね?第2話の瀬良の時のやり口…。前にも見たよ?

 

「まぁとりあえず聴いてみるよ。」

 

 とりあえず聴いてみると言ったが、このとりあえずで聴いた音楽をまさかもう一度聴く事になるとは思っていなかった。それはこれから起こる全てを揺るがす引き金となるものだった。



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第8話「ようこそ!合同文化祭へ・前編 燃えたぎれ青春」

 

 

 時すでに遅しと頬の肉が壊死し、後頭部張り上げ、こそごうか医者に見せよか安田大サーカスのHIRO。というような挨拶がくっきー!さんのYouTubeであったということで、ついにやってきました。花咲川と羽丘の合同文化祭。現在廊下でございます。残念ながらちゆは今回RASのライブがあるということで来れませんでした。何やら新しいギタリストが入ったと昨日騒いでいたが…。まぁいいや。さて、今回は由美と一緒に巡っていくわけだが…。

 

「Oh!You達とこんな所で巡り会えるとはミーは何て幸運なんだ!」

「うるせぇよ。大体プライベートまでそのキャラってお前それもう職業病だぞ。」

 

 おっと言い忘れていた。こいつの名前は布施アレックス。本名ね。ハーフなのよこいつ。たしか日本とアメリカだったかな。年は23だけど僕と同い年。だって僕3月生まれの22歳だから。そして何とこいつが僕と大和の所属しているデ・アマローナのベース担当。つまりこいつの職業はお笑い芸人。今日はこの合同文化祭を盛り上げるべく呼ばれたそうな。大学の文化祭感覚かよ。

 

「あ、じゃあ何か面白い事言ってよ。」

 

 僕の無茶振りにも布施はちゃんと応えてくれる。まさに芸人の鏡。

 

「Why Japanese people!?」

 

 布施が言い放った瞬間、場が凍りついた。呆れた。完全にパクリじゃん。厚切りにしているジェイソンさんじゃん。

 

「もうダメだなこりゃ。」

「Wait!Just a moment!!今のはいきなりだったから出来なかったけど次は必ず…!」

 

 布施が全部言い切る頃には僕と由美はもう校舎の中に入っていた。ちなみに僕が今日文化祭に来たのは由美に誘われたからだけじゃなく、もう一つ大事な理由があって来たのだ。むしろそれが本当の理由というかね。

 

「あっ、由美さん!お久しぶりです!」

「ゆり!久しぶりー!!随分見ない間に背も高くなってー!!」

 

 突然何者かが由美に話しかけ、由美もそれに応答する。

 

「あっ、まだ紹介しませんでしたね!この子は牛込 ゆり!私の後輩なんです!」

 

 牛込 ゆりという名の女性は深々とお辞儀をする。申し訳ないので僕もお辞儀をし返す。髪が長く、由美とは対照的に落ち着いた雰囲気の人だな。それにしても牛込ってまさか…。

 

「お姉ちゃん!」

「りみ!こっちいたんだね!」

 

 やっぱりだわ。牛込って聞いたから道理で聞いたことある名字だと思ったんだよもう…。そういえばね、ちゆが「文化祭って何」って言ってたのよ。面倒だったから「わかりやすく言うとschool festival」って言っといたんだけどこれで説明大丈夫だったかな?

 

「りみー!りみも随分大きくなったねー!」

「えへへ、ありがとうございます。」

 

 由美が保護者的感覚で牛込妹の頭を撫でる。あいつでも普通に先輩面できたんだな。

 

「そうだ!ねぇお姉ちゃん、香澄ちゃん達の所へ行ってサプライズしに行こうよ!」

「いいね!グリグリの皆もちょうど集まってるし、呼ぼうか。」

 

 結局何だったんだあの姉妹は…。場を荒らすだけ荒らして帰っていったな。

 

「とりあえず行きましょっ!」

「あぁ。」

 

 とりあえず何かお化け屋敷とか食べ物のやつ楽しんで一日目は終わった。あー、RASのライブ行けばよかったなぁ…。でも二日目よなぁ…。そう言えば、セッションコーナーみたいなところあったのよ。1-Aの。由美とガチセッションしたらどん引かれた。あと湊のクラス行ったら…。猫カフェっ…!ダメだ、思い出すだけで腹が痛くなる…!あれ笑いすぎて過呼吸になったからキツいんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、僕は自宅に帰ると夕食を作ってそれを口に入れていく。という人間ならば当たり前の事をする。ここで君たちに確認してもらいたい事がある。僕は一人暮らし。今年から社会人一年目。今年東京に来ました。これはもう念頭にあるよね?あるよねぇ?それなのにさ、何で僕の目の前に普通にいるのかな。珠手 ちゆというお方が。

 そして何よりキュートなのが食べながら頬を膨らましてるところ。あぁー可愛いー!!!見てるだけで目の保養!!!落ち着け、僕。ここで感情が顔に出れば気持ち悪がられる。ここは一つ…。

 

「ち、ちゆー?ごめんよ?由美の方が先客で…。でも今度観に行くから!」

「今度っていつよ…。」

 

 ちゆはそう言って僕から視線を逸らし、目の前の野菜炒めを口に入れている。僕が作ったものはちゃんと食べるんだね。

 

「可愛いなぁ…。」

「なっ!?」

「え?」

 

 あれ?僕心の声漏れてた?まぁでもちゆ読心術使えるしこんなん今に始まった事でもないからいいか。

 

「ちゆの可愛さにやられたのでやらせてくれ。はい、あーん。」

「…。」

 

 無言だけどちゆが目を閉じて口を開けてくれてるので思いっきり突っ込む。まぁある程度は優しくよ。

 

「ふふっ…。」

「なっ、何よ突然…。」

 

 僕は嬉しくなってちゆの頭を撫でる。本人も満更ではないようだ。

 

「いやぁ、しばらくこうやって可愛がるような事できてなかったからなーって思ってさ。」

 

 可愛がれてたのは最初のうちだよ。でもそこからデとかバリクソンとかの活動、さらには本業のソロ活動にも専念していた為、こうやってちゆと接する機会が自然と減っていた。最近ではちゆの方でバンドを組んでいたみたいでそこでも時間が削られた。だからこうして可愛がることのできる時間に可愛がってやりたい。

 

「そうね…。」

 

 ちゆもいつのまにか刺々しい雰囲気が消え、いつもの温和な様子に戻っている。刺々しいちゆも可愛かったなぁ…。まぁ今も可愛いけど。

 

「明日も来れない罰として今日は泊まらせなさい!」

「いや無理だよ!!ベッド一つしかないし!」

「一緒に寝ればいいじゃない!」

「重さでベッド壊れるわ!」

 

 約数十分にわたる話し合いの末、結局一緒のベッドで寝る事になった。ベッドは壊れなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は羽丘の講堂にやって来た。実はこれのためなんだよね文化祭来たの。

 

「文化祭、二日目も盛り上がっていこう!」

 

 とは赤メッシュの言葉。実はこの講堂でバンドパフォーマンスが行われているのだ。これが僕が文化祭に顔を出さなければならなかった最大の理由。実はステージで出してるアンプ、あれ僕の所のやつ。この文化祭が始まる数週間前に依頼が来てたんでな。それに応じただけだ。僕は何か特別な事が無い限りここを離れられない。由美の奴は遊んでるがな…。あのアホ…。

 

「まさか竜崎さんがここに現れるとは思ってなかったなー。」

 

 氷川妹が呑気に僕に話しかける。たしかパスパレは事務所の都合で出れなかったんだな。丸山の奴出たがってたけどそうもいかないよな。

 

「僕だってここに来る事になるとは思ってなかった。何が起こるのかわからないのが世の常ってやつだな。」

 

 僕はそう言い、ステージに目をやる。Afterglowのメンバー達が精一杯音楽を奏でている。何故かやるせない気持ちになる。僕の過去がそうさせているのだろうか。だとしたらそれは忌々しい呪縛だ。忘れろ。あいつらに振り回されるような僕じゃない。忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ…。

 

「竜崎さん!おーい!」

「っ!何だ。」

 

 突然氷川妹に呼ばれた。一体忘れろと自分に呪縛をかけてからどれほどの時が経ったかわからない。

 

「ポピパちゃん達がまだ全員揃ってないんです!」

「何?」

 

 ここから、僕とガールズバンドとの関係が大いに深まる事となる。そして始まった。否、始まってしまった。ここからとある事件が始まり、とあるバンドを苦しめる事となる。この先はまだ未来の話…。



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第9話「ようこそ!合同文化祭へ・後編 さらば青春」

 

 

 前回のラブライブ!え?違う。あぁそう。ということです。そうそう、ちなみに今ポピパの花園が来てません。順番トリにしてもらったのにそれでも間に合わないって一体どういう事だ…?

 仮説を立てよう。今いるポピパメンバーは戸山、牛込、山吹、市ヶ谷の四人。いないのはギター担当の花園。ポピパの集団的な意識っていうものかな、文化祭っていう大事なイベントを花園が放っておくわけがない。だからこんな時に遠出なんて事はないと考えられる。これの他にデカいイベントがあるとするならばRASのライブ。RASのライブは今日。あのちゆの事だ。メンバーのスケジュールを無視してでも成したいことを成そうとするだろう。ちゆが新しく加入させたギタリストが花園だとするならば…。この仮説が正しい場合だと腑に落ちるが、そうじゃない場合は何が起こっているんだ?氷川妹の話を聞けば体調不良ではない事は確実だが…。

 

「お客さんに説明して待ってもらいますか?」

 

 突然白金がそう質問する。何を思ったのか、僕はついに口を開いた。

 

「ダメに決まってんだろ。いかなる理由だろうと、オーディエンスを待たせるようなバンドはダメだ。」

「っ!その言葉…!」

 

 僕のセリフを聞いた戸山と市ヶ谷が驚く。あいつらもあの人に会ったのか?まぁそれは今はどうでもいい。とりあえず時間稼ぎをしないと…。

 

「どうします?こうなったら私と出ますか?そしたら多少なりとも時間稼ぎには…。」

「部外者の僕たちが関われるわけないだろ。」

 

 いつ来たかもわからない由美と密かに話し合い、僕と由美では時間稼ぎにならない事を改めて確認する。

 

「彩ちゃんに頼んで時間稼ぎしてくる!」

「あいつができるのか?」

 

 待ってくれよ…。不安しかないわ…。あいつアドリブ苦手なんだろ?

 

「でもやるしかないです!」

 

 氷川妹と白金が裏の方から出て丸山にカンペを送る。いや、大丈夫かな…。

 

「やっぱ大丈夫じゃないじゃん…。」

 

 いやー、酷いねこれは。オチが話の最初に来てどうすんのさ…。

 

「行ってきます!」

 

 突如、青髪の子がヘッドレスのギターを持ってステージに上がっていった。あの子は確かセッションコーナーにいた…。ってえ?まさか…。

 

「羽丘一年、朝日六花です!ギターを弾きますっ!」

 

 突如朝日と名乗る少女がギターを弾き始めた。いやすげぇな…。赤沢や由美とまではいかないけれど、いい線いってる…。

 

「ちょっと竜崎さん!?何勝手に撮ってるんですか!?」

「思い出作り。後であいつにも送っとくよ。」

 

 タブレットで撮影する僕を由美が阻止しようとする。それにしてもあの朝日という奴、素晴らしきかな。

 

「行くわよ。」

「は?」

 

 突如、Roseliaの五人がステージに立つ。いや、やる気なの?てか昨日猫カフェで話した時出ないって言ってたじゃん…。あそこ担当の子達が一気に僕と由美のもとに来たせいで出禁になったけど!

 と思っているとRoseliaが演奏を始めていた。いやはや、今日もいい調子だなあいつらは…。

 

友「潤んだ予感はbye now

滴る痛みの中 雨色に染まって

大きく開いたdistance

いつの間にか落ちてゆくわ…冷たさに

 

滲んだ♪」

 

紗・リ・あ・燐(スコア♪)

 

友「探す♪」

 

紗・リ・あ・燐(答え♪)

 

友「微笑みの♪」

 

紗・リ・あ・燐(微笑みの♪)

 

友「Umbrella♪」

 

紗・リ・あ・燐(Umbrella♪)

 

友「us…包み込んで 合わさるprecious♪」

紗・リ・あ・燐(Where there is a will,there is a way.

Where there is a will…♪)

 

友「思うままBring it on down

決意の調べ♪」

 

紗・リ・あ・燐(hang in there♪)

 

友「勇気の祈りを音色に載せて♪」

 

紗・リ・あ・燐(get over♪)

 

友「約束繋ぐ指先で弾くの

いつしか♪」

 

紗・リ・あ・燐(響け♪)

 

友「貴方の横で

今はまだ無理でも♪」

 

紗・リ・あ・燐(向き合う定めよ♪)

 

友「ワタシハ ヤメナイ♪」

 

 Roseliaのステージを見た僕は次なるステップに進むため行動を移す。一応これだけの人数いれば十分か。

 

「Roseliaが演奏し終わったら撤収作業に入る。各自片付けに専念しろ。」

 

 僕がこう言い出すと、僕の言葉を聞いた市ヶ谷が真っ先に僕の前に現れた。

 

「ふざけないでください!まだ香澄とたえが…!」

「Roseliaが出てきた時点で間に合わないのは明白だろう。それに何度も言わせるな。オーディエンスを待たせるようなバンドはダメ。てめぇらの都合を見てる奴らに押し付けんな。はい、片付けだ。」

 

 僕はまずできる事から始める。それに続いてどんどん片付けに手を貸す人数も増えていく。虚しい事にな。最終的にはポピパの三人も片付けに協力した。これが全て。今あるコレがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、僕がステージの上の機材を片付けて終わるとポピパのメンバー二人がやって来た。遅い。いくら何でも遅すぎる。そこまでオーディエンスが待ってくれると思っていたら大間違いだ。

 花園は席に座り、泣き崩れた。その姿を見た僕は苛立ちを覚えた。どうしようもない怒りが。

 

「自業自得ってやつだ。泣くぐらいなら初めからこうなる原因なんか作るなって話。逆にムカつくのは結果をわかってなかったお前の方だよ。」

 

 僕がこう話しかけると、全員が僕を一瞥する。僕の言葉に間違いはあろうと、後悔はない。後でスマホのネットニュースを見たけど僕の仮説は成り立っていた。あいつらからしたら成り立ってほしくなかったモノだがな。だからだ。自分の蒔いた種の責任すら取れないようなら全て辞めてしまえばいい。

 

「そんな言い方ないじゃないですか!おたえは一生懸命頑張ったんですよ!」

 

 僕の言葉を聞いた戸山が急に怒号をあげる。怒るのは当然だろうが、どうも僕にとっては理にかなってない。

 

「頑張ったって何を?どういう風に?考えなしに行動を起こした事を頑張ったって言いたいのか?」

「考えなしって…。あなたは私達の、おたえの何を知ってるって言うんですか!?」

「こいつが遅れて来た原因。差し詰めRASのライブがあったから、ってとこだろ。これの事だ。」

 

 僕はスマホの画面を花園を除くポピパの四人に見せる。言い忘れていたが、RASのライブの様子は僕が呼び寄せたマスコミによってネットニュースにまでなっていた。その写真の中には花園も映っていた。

 

「おたえ…!」

 

 写真を見た四人は各々反応する。牛込は涙を流し、市ヶ谷は拳を握りしめる。山吹は悲壮感に満ち溢れ、戸山は唇を噛み締めている。

 

「考えがなかったわけじゃありません…。幼馴染との約束をどうしても叶えたかったんです…!それに!あそこなら、RASならポピパのために修行ができるかと…!」

 

 花園の口から語られる言葉の数々を聞いた瞬間、僕の中の何かが切れた。

 

「甘ったれんな!!!お前の都合の良い事情にあいつのバンドを巻き込むなよ!!!」

 

 僕は講堂の入り口の扉を勢いよく閉めた。それに続いて由美が講堂の扉を開けて僕についてくる。あいつらが男だったらぶん殴っていた。

 

「竜崎さ…。いや、Rawさん。あの子達のためとは言えさすがに言い過ぎですよ…。」

「あいつらの為じゃない。」

 

 あいつらは僕の言葉を聞いて厳しいと思うかもしれない。けれどそれは学校じゃ教えてくれないし、どの教科書にも載ってない。自分自身が経験で学んでいかなければならないんだ。この腐った世界で生きていくために。

 羽丘の校舎を出ると、ポピパや湊以外の生徒だろうか。屋外でキャンプファイヤーを行なっている。

 

「あっ、竜崎さん!せっかくだから竜崎さんも参加します?」

「いい。今僕は最高に気分が悪い。」

 

 僕がその場を去ろうとすると、氷川妹が声をかけた。

 

「それにしてもポピパちゃん残念でしたね。」

 

 氷川妹は呑気にポピパの事を語る。先程の事もあってか、その言動は簡単に僕の逆鱗に触れた。

 

「軽々しくあいつらの事を口にしてんじゃねぇよ。」

「え?」

 

 氷川妹はそんな返答をされると思っていなかったのか、素っ頓狂な声をあげる。

 

「てめぇが笑って語っていい話じゃねぇって事だよ。」

「待ってください!会長は何も知らないんですよ?それなのに…。」

「お前さ、知らない事を偉そうに言うなよ。知らない事は恥だと思え。」

 

 どこのバンドに所属していたわけでもない羽丘の生徒に僕は反論する。僕の様子に怒りを覚えたのか、羽丘の生徒が言い放つ。

 

「何で部外者のあなたに言われなきゃならないんですか!?それにそんなちょっとの事で…!」

 

 氷川妹を擁護していた生徒の言葉によってついに今の今まで僕の中で溜まっていた怒りが爆発した。そうだ。ポピパに向けたあれは一次災害に過ぎなかったのだ。

 

「その『ちょっとの事』じゃ済まねぇから言ってんだろうがよ!!!」

 

 僕は近くにあったゴミ箱を右足で蹴り上げる。その音の僕の怒号が響き渡ったのか、その場にいた全員の視線がこちらに集まる。おそらくあのゴミ箱使い物にならないだろうな。

 

「だから人間なんて信用できねぇんだよ…。」

 

 僕はそう言い、暗闇の方へと去っていった。校門を抜けて早く暗い夜道へと身を投じたい気分だった。

 

「し、失礼しました!」

 

 由美はそう言うと急いで僕の後を追って来た。由美を一瞥すると、由美は何か言いたげな表情だった。けれども僕に怯えているのか、一向に何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰った後、私はLINEでSUICIDEのみんなやパスパレのみんなに今日はできるだけRawさんに連絡を取らないで一人にさせておいて、という旨のメッセージを伝えた。今のRawさんが何をするのかわからない。それに今人間不信に陥ったあの人に不用意に関わったらいけない気がする。私は未だにRawさんの過去を知らない。知っていても断片的でしかない。他のメンバーのみんなの過去は知っているのに。過去に何があったかは知らないけど、いつまで塞ぎ込んでるんですか…。Rawさん。次に会う時はいつものRawさんでいてくれますよね?



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第10話「青き胡蝶の夢」

 

 

 夢。それは将来の願望を表す時にのみ使われる言葉ではない。人間が眠りについている中で見る幻想も夢という定義の中に入る。だが、本当にそれは夢なのだろうか。それが現実なのかもしれない。

 かつて中国の思想家の荘子が書いた説話である「胡蝶の夢」をご存知だろうか。荘子が夢の中で蝶になって空を飛ぶという話である。その夢を通して荘子は蝶になった夢を見ていたのか、あるいは夢から覚めた自分は蝶が見ている夢なのか。その話を通して荘子は「万物にこだわる事はすべきではない」「全てのものは広い視野で見れば全て同じである」という自身の考え方を取り入れている。

 そしてたった今、私は目が覚めた。パソコンの電源が付いており、眠る前まで私はパソコンと睨めっこをしていたのだなと推測する。そして机上の上を見渡すと、『BanG Dream!2nd Season』と特徴的なロゴで書かれた表紙の台本を見る。そこには1話から9話までの台本が記されていた。私は再び画面に目をやる。そこにはこう書かれていた。

 

『役名    出演者名    所属

戸山 香澄

花園 たえ

牛込 りみ

山吹 沙綾

市ヶ谷 有咲|

 

 私はこの画面を見るなりすぐに保存し、新しいファイルを開き、書き始めた。興味半分で書いているだけだ。すぐに消す。そして台本にこう記した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話「Daylight」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝、夢を見た。またあの夢だ。誰かもわからない少女になる夢だ。誰だよましろって…。そんな事を考えつつ、僕は小泉の運転する車の助手席で黄昏ている。

 

「聞いたぞ。派手に暴れたんだってな。」

 

 揶揄しているのか心配しているのかわからない口調で小泉が僕に語りかけてくる。

 

「別に暴れたわけじゃない。ゴミ箱を壊しただけだ。まぁ羽丘出禁になったけどな。」

 

 昨日、僕は羽丘の生徒に激怒したためにゴミ箱を蹴り飛ばしてしまったのだ。それが災いし、見事出禁となった。学校で出禁くらったのこれが初だよ。

 

「ゴミ箱蹴飛ばした事はともかくとして、それ以外はお前が悪いわけではないからな。」

 

 小泉がそう言う。ゴミ箱使い物にならなくしたのは除くんだね。まぁ壊しちゃったからね。

 

「で、そいつらは強いのか?」

 

 小泉がそう尋ねる。参った事に、僕と小泉じゃ強さの価値基準が違う。だから今僕が言えるのは…。

 

「お前が実際に見て決めろ。」

 

 キャラ紹介のところを見てもらえればわかると思うが、小泉は実力主義者。演奏力に長けていないバンドは見捨てる。っていうか見ない。強さ=正義タイプだから小泉は。

 

「そうか。話は変わるけどお前は丸くなったと思うよ。昔なんかもっとトゲがあったからな。」

 

 小泉が微笑みながらそう言う。気色悪い。過去について語るのはあまりやりたくない事ではあるが話すか。昔の僕は今よりさらに酷く、学校を「勉学に励むためだけの場所」だと考えていてクラスメイトすらも「ただただ騒ぐだけしか脳がない猿共」として見ていた。後者は否定できないにしろ、前者は違っていた。あの合同文化祭を通して。全員で何か一つの大きなものを成し遂げる。そういう経験を積んでいく場所なのだと実感した。そして、今日もそれをしに行く。場所は月ノ森女子学園。何やらお嬢様達ばっかが集まる高校だとか…。まぁ僕には無縁の高校。赤沢女だったら行けてたな月ノ森。ここで近々文化祭があるそうで、機材関係の相談を受けて僕と小泉が今そこに向かっているのだ。

 

「着いたぞ。」

 

 小泉が車を止め、僕はドアを閉める。厳粛な雰囲気、何一つ穢れのない庭、全てが月ノ森という場所がいかに艶やかかつ上品かを物語っていた。僕と小泉は気圧されつつもその敷地へと足を踏み入れた。

 月ノ森の敷地に入った僕と小泉は学園の教員に案内された。そこには五人の少女達がいた。いたのだが…。似てる。ていうか本人。僕の夢の中で出てきた奴らその人だ。

 

「あなたは…。」

 

 小泉を見た一人の少女が驚く。僕と同じ反応をしている事から彼女がましろと呼ばれる少女なのだろう。

 

「話は聞いている。機材関係の話で相談という事なのだが…。文化祭か何か?」

「はい!」

 

 五人の中で一際身長の低い少女が自身あり気に答える。彼女はたしかドラムをやっていたな…。

 

「そうか。それでは紹介しよう。僕は竜崎。機材の貸し出しについての責任者だ。」

「小泉 健だ。よろしく頼むぞ。」

 

 僕と小泉は五人に自己紹介をする。

 

「小泉 健…。あの起業家の小泉さんですね。ここに来るとは驚きでした。」

 

 比較的短髪の子が口を開く。この中では一番身長が高いかな…。まぁそれ以外はコンプラ重視で不問にしよう。小泉が後でその話しないか心配だわ…。

 

「じゃあ次はあたし達!あたしは桐ヶ谷 透子!ギター担当でーす!よろしく!」

 

 やはり。夢で見た通りだ。夢の中で僕がなった少女は彼女を透子ちゃんと呼んでいた。それにギター担当だったしな。あのVシェイプギターが出てきたらもうまずいぞ。しかし、僕個人的な感想だけどあいつ苦手だわ。ギャル系は…。

 

「Morfonicaのリーダー兼ドラム担当、二葉 つくしです!」

 

 この子がリーダーか。小さいのに。後輩かと思ってたけど同級生だったんだなーって。しかもこっちも夢で見た通り。ドラムをやっていた子だ。

 

「ベース担当の広町 七深でーす。」

 

 こっちもだ。やはりベース担当だったか。それにこいつ、只者じゃないオーラを放ってきてやがる…。

 

「Morfonicaのボーカル担当の倉田 ましろです…。」

 

 そうか。僕は夢の中でこいつに成り代わっていたのか…。もしかすると逆もあるかもしれない。小泉の名前を聞いた瞬間、誰にも気づかれない感じで驚いてたもんな。

 

「ヴァイオリンを担当しています、八潮 瑠唯です。」

 

 もう驚かんぞ。全て夢で見た通りだから。バンドではフィドルがいるのって珍しいよな。フィドルがいるバンドで知ってるのはDECAYSかな。DECAYS知ってる?DIR EN GREYってバンドのギタリストのDieさんいるんだけどそのDieさんがギターボーカルとして参加していたバンド。その中にAyasaさんって人がいてその人がフィドル担当だった。え?それ以上は禁句?何でだよ。一緒だからか?中の人が一緒だからか!?

 

「にしても、竜崎さん可愛いなぁ…。食べちゃいたいくらい…。」

「っ!?」

 

 突然桐ヶ谷が僕に近づいてきた。改めてわかった。こいつ、僕にとっての天敵だ。苦手だと思ってたのはこういう所からだったんだな。

 

「桐ヶ谷さん、竜崎さんに迷惑をかけないで。話の邪魔よ。」

「あはは、冗談だって冗談!」

 

 さすが八潮。よく桐ヶ谷を止めてくれた。それにしても二葉、いかにも「自分がそれ言いたかったのに!」って顔してるな。にしても暑い暑い…。まだ夏でもないのに。あのままだったら確実に桐ヶ谷に襲われてた。しかし、今の冗談に聞こえなかったのは気のせい…?あいつ怖い…。

 

「それじゃあ説明を始めよう。」

 

 しばらくの間、Morfonicaの五人に僕と小泉で機材に関しての説明をしていた。そしていよいよ文化祭の日が迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日言われた言葉がずっと心に残ってる。おたえの都合の良い事情でバンドが巻き込まれたなんて…。酷すぎるよ…。あの人の、竜崎さんの言ってる事は正しいと思うかもしれないけど、何かおかしい!それにその時に言ってたあいつって誰のことなの…?私は考えれば考えるほど浮かんでくる疑問を解決するためにまたあの楽器店へとやってきた。そこにはまた違う人がいた。たしかあの人は…。

 

「あれ?たしかVIVA LAでベースを弾いてた…。」

「俺のこと知ってるんだ!俺はSUICIDEのベース担当、音生だよ。」

 

 SUICIDE。その単語を聞いて思い出した。VIVA LAで演奏していたバンドの名前だ。

 

「あの!私竜崎って人に会いに来たんですけど…!」

「あー、竜崎さんね。ごめん!あの人今日いないんだよね。」

 

 この音生という人は竜崎さんとは違い、優しくて明るい性格の人みたいだ。

 

「せっかく来たんだし、SUICIDEの練習風景でも見てく?」

「いいんですか!?」

 

 私は音生さんについて行き、SUICIDEのいるスタジオへと向かった。

 扉を開けると、ギターの人二人とドラムの人がすでに入っていた。

 

「音生くん、その子誰?」

 

 ドラムの人が音生さんに私の事を尋ねてくる。あれ?たしかあの人どこかで見たような…。

 

「この子は竜崎さんに会いたいと言ってきた子だよ。」

 

 音生さんがドラムの人に言う。

 

「君、名前は?」

「戸山 香澄です!Poppin'Partyでギターボーカルをやってます!」

 

 ギターを持つ女の人の質問に私が答える。みんな優しいなぁ…。て、あの人前に文化祭来てくれた人だ!

 

「あいつは今日月ノ森ってところの文化祭の準備に行ってるからいないんだ。って音生、お前それ言った?」

「いない事は伝えましたよ。」

 

 もう一方のギターを持っている男の人が音生さんに尋ねる。

 

「あ、自己紹介まだだったな。俺は赤沢 増治。ステージネームはMax。ファッションデザイナーだ。」

 

 さっき音生さんに話しかけてた男の人が自己紹介を始めた。

 

「私は坂田 由美!yu-minってチャンネルでギター弾いてるよ!」

 

 もう一人ギターを持っている女の人が次に話しかける。たしかこの人、おたえが好きなギタリストの一人って紹介してた…。

 

「私は佐久間 明日奈だよ!ドラム担当でアイドルやってるんだー。」

 

 最後に自己紹介したのはドラムの人。思い出した。この前パスパレが出てたワールドアイドルフェスティバルでメインステージで歌って踊ってた人だ。

 

「バンドで歌やってるなら俺たちとセッションしてみるか?」

「いいんですか!?」

 

 Maxさんの誘いにのって私はSUICIDEメンバーの人達とセッションする事になった。

 

「yu-minさんのギター、たしかそれの黄色いのを蘭ちゃんが弾いてます!」

「これいいよねー。この黄色の装飾が映えてる!」

 

 yu-minさんとしばらくギターの話をして、私はSUICIDEの人達の演奏に合わせて歌う。

 

香「頭がクラクラすんだ

足元フラフラ♪」

 

香・M(↓)「小洒落たシティーポップ♪」

 

香「聴きながらブランドのバッグ

選んでるそんな未来は勘弁だ♪」

 

 VIVA LAでも聴いたけど、やっぱりSUICIDEの人達演奏がすごく上手い…!すごすぎる…。

 

香「作戦決行これは結構勝率の低い決闘

そんなの関係ないね♪」

 

香・y「理想のパズル完成させて♪」

 

香「このまま二人でばっくれて隠れて

路地のバーに潜んでMid Night

 

頭の中のフィクションがだんだん現実に姿を変えてゆくよ

 

talking 君と話がしたいぜ

夜明けよもう少し待ってくれ♪」

 

香・y(↑)「流れる霧に包まれていたいぜ♪」

 

香「talking 君の話を聞かせて

夜明けよまだ待ってくれ♪」

 

香・y(↑)「ダービーフィズの炭酸が抜けていく♪」

 

 演奏を終えた後、私はSUICIDEの人達と昼ご飯を食べることになった。

 

「そういえばさ、香澄って高校何年生?」

「二年生です!」

「そっか、じゃあ後輩の子がバンド始めてるみたいなのも見てるの?」

「はい!」

 

 私は咄嗟にyu-minさんの質問に答える。そして続けて喋った。

 

「ただ…。一年生のバンドの子達を見てると何か違和感を持っちゃうんですよね…。曲は良いと思うんですけど、みんな歌詞を聴きすぎてる感じがして…。とにかく素直すぎるんです。」

 

 私の話にみんな賛同してくれている。全員そういう経験あるのかな…。

 

「うちのボーカルと同じ事言ってるなお前。」

 

 Maxさんが口にあったものを飲み込んで口を開く。ってもう食べ終わったの…?

 

「本当ですか!?やっぱり同じ事思ってくれてる人いたんだぁ〜。そしたら私が言いたい事も当たってると思うんですよね。」

 

 私は一息ついて口を開いた。

 

「今の後輩のバンドの子達はもっと悩んでいいと思うんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月ノ森学園文化祭当日、Morfonicaの出番がまだまだ先の最中、僕は倉田に体育館裏まで呼び出された。おい誰だ、告白とか果し状とか言った奴は。蹴るぞ。用件はわかってる。次に倉田の口から発せられる言葉も。

 

「竜崎さん…。あなたRawって人ですよね…?」

 

 やはりその質問をされた。倉田も夢で僕に成り代わった。僕の反応を見ればメイクしなくとも一発でRawである事はわかる。

 

「だったら何だ。」

 

 僕は予測済みの質問に対して動揺することなく答える。

 

「私、本当はどうしたらいいかわからないんです。みんな楽器も器用にこなしてて…。そしてみんな持ってるんです。『自分がどうなりたいか』っていうビジョンを明確に。私にはそれがないんです。どうなりたいかなんてわからなくて…。私にできるのは歌と作詞だけで…。」

 

 倉田が勇気を振り絞って話してくれた事を十分に考えた上で、僕は彼女に言い放った。

 

「そういう時は悩めばいい。じっくり。」

 

 倉田はちゃんとした返答を貰えると思っていなかったのか、僕の方を見る。いやそれはそれで失礼。

 

「でも…。悩むなんて…。」

「『悩む事=美学じゃない』なんて考え方は今すぐこの場で捨てろ。」

 

 僕はすぐに続ける。

 

「お前らのような世代はさ、答えを求めすぎてる。『正解はこう!』なんて決めつけて。そんなんじゃなくていいんだよ。もっと悩んで。十年二十年かかったって良い。いずれ解決するから。」

「あ、あの…。」

 

 倉田も何か言いたげな表情をしていたので一旦話を中断する。

 

「ここにいたら答えは見つかるんですか…?」

「見つからないね。そんな簡単に答えが出るようなら悩む必要ないじゃん。だから僕も色んな所でライブしてるんだし。そういや、さっき倉田は作詞担当って言ってたな。僕も詩を描くよ。その詩の話を例に取るけど、僕の詩がボールに書かれている数字だとして、僕が1と書いたつもりでも人によっては1と解釈する奴もいるし3と解釈する奴もいる。人間が描く詩でもそういう事は起きるんだよ。だから明確じゃなくていい。たしかに自分がどうなりたいかを考えて見つけておくのは大事だけど、明確に答えを見つけようとしないでいい。もっとぼんやりでいいんだよ。そこから何かが生まれるんだから。」

 

 倉田は先程の呻吟していた表情から一変、どこか安堵した表情を浮かべていた。さっきよりも随分気が楽になったんだろうかね。

 

「ありがとうございます!私、行ってきます!私達のライブ、観ていてください!」

 

 倉田は僕に頭を下げ、更衣室のある方へと向かって行った。まったく…。ああいう奴らは素直すぎる…。

 僕は小泉とライブが行われる場所で合流し、舞台袖でMorfonicaのライブを観る。

 

ま「ぽつ、ぽつ、こぼした不安が

太陽を消して 夜を生んだ

静寂が空を飾って 無垢な想いは散ってく

 

中身が空っぽのまま 憧れで着飾っても

騒がしいだけの劣等感・・・耳障り

『いやだ 本当はただ 変わりたい 変わりたい』

願いにすがりつくように 歩く私は、

 

今 空模様♪」

 

透・七・つ・瑠(空模様♪)

 

ま「涙でも♪」

 

透・七・つ・瑠(涙でも♪)

 

ま・透・七・つ・瑠「夢を見るのは やめたくない♪」

 

ま「この私でも♪」

 

透・七・つ・瑠(私でも♪)

 

ま「許される・・・?♪」

 

透・七・つ・瑠(許される・・・?♪)

 

ま・透・七・つ・瑠「まだ何も掴めてないけど♪」

 

ま「輝きがいつか♪」

 

透・七・つ・瑠(道を照らすなら♪)

 

ま「夜明けが♪」

 

透・七・つ・瑠(来るのを♪)

 

ま・透・七・つ・瑠「ひたすら待つよ♪」

 

 技術的に見ればまだまだアマチュアだが、今後が楽しみな奴らだ。歌ってる倉田の表情も迷いを振り切っている。

 

「いいバンドだね。」

「びっくりしたわ。いるなら連絡よこせ。」

 

 布施が背後から突然現れる。一体何しに来たんだ…。

 

「ミー、新しくバンド組んだんだ。それを伝えにね。」

「そんなんLINEで言えよ。てかデの事じゃないの?」

「No.ユーも驚くよ。」

 

 布施はそう言って踵を返した。本当何しにここに来たのやら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると、普通にちゆがいた。いや、ここまで来ると普通に不法侵入だからね?

 

「何しに来たんだよ。」

 

 僕がため息をついてそう言うと急にちゆに抱きしめられた。え?何で?

 

「ねぇ…。バンドやるの辛くなったの…?」

「何の事?」

 

 ちゆが全てを話してくれた。なるほど。合同文化祭の件で由美が気遣ってくれたのか。ありがたい事だ。

 

「僕は大丈夫だ。だから心配しなくていいよ。」

 

 僕はちゆの頭を撫で、台所へ足を運んだ。ちゆはどこか物寂しげな目をしていたが、彼女の口からはそれ以上何も語られなかった。あいつは一体何を思い、何を感じているのだろうか。多分、想像はつくだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、目が覚めると俺は不思議な話を目にしていた。俺が書いた台本ではない。書いた覚えがないのだ。だが俺は不思議とその話に惹かれていた。なるほど、Morfonicaというバンドか。これは確かに面白い。だがその後の尺を考えればこの話を埋め込むには13話という話数では足らないだろう。ならば当初の予定通りに決行せざるを得ない。俺はこの話のファイルを削除し、元の10話のファイルに移動する。

 

第10話「R・I・O・T」

 

 これが本来のサブタイトルだ。それにしても随分と不思議な夢を見た。自分が蝶になり草木の生い茂る辺り一面をひらひらと飛んでいる夢だ。あれは夢だったのだろうか。それとも今の俺は蝶が見ている夢なのだろうか。その真相は…。



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第11話「暴動開始」

 

 

 RAISE A SUILEN、通称RAS。ちゆが己の目的のために組んだバンドだ。どんな目的かはわからない。ただ検討はつく。ちゆの発言からして、おそらくは打倒Roseliaといったところか。たしかにRoseliaのレベルは他よりも高い。Roseliaを超えるバンドともなれば注目度は高まるだろう。ただでさえ反響が大きかったというのにそれ以上を狙うってどれだけ欲深いんだあいつは。まあ僕が言えた事じゃないけれど。そう考えつつ、僕はパンの乗ったトレーを山吹の娘に出す。

 

「2386円になります。」

 

 僕は何度か山吹に会っているので流石に顔は覚えている。山吹も僕の顔くらいは覚えているだろう。まぁあんな言い方した相手くらいは覚えているか。僕はちょうどの金額を山吹に渡す。

 

「ちょっと表出ろ。」

 

 僕は山吹にそう言い、店を出た。十秒もかからないうちに山吹は店を出て僕の前に現れた。

 

「まぁ軽く話でもしようか。」

 

 僕と山吹はベンチに座り、僕は買ったパンを山吹に渡す。

 

「正直言ってお前らの争いなどどうでもいい。花園がどちらに行こうが関係ない。そもそも僕はバンド同士の揉め事には干渉しない主義だからな。だが、今から僕が言うことだけは覚えておけ。」

「何ですか?」

 

 僕はパンを口に含み、飲み込んだ後に山吹の問いに答える。

 

「まずお前らにも応援してくれる奴らっていうのはいて。そいつらは今回の件で『あぁ、ポピパ大丈夫かな?』『どうしちゃったのかな?』って思ってる。まずこれは考えたはずなんだよ絶対。だからそこに対してお前らがどう向き合うか。お前は花園の才能が思う存分発揮できる場所であればポピパにいなくてもって表面上は思っている。だけど、我慢が美徳でもないし今が良ければいいという話でもない。そこでお前が我慢して本当に花園がRASの方へ回ってしまったらそれこそお前らポピパを応援してくれる奴らを裏切るような行為になる。ステージに立つ側の人間は常に応援してくれる奴らの事を第一に考えてなきゃいけないんだよ。ライブだってそう。Poppin'Partyがライブをするにしてもそれは五人だけのライブじゃない。応援してくれる奴ら、お前らの曲を聴いてくれる奴ら一体となって作るものなんだ。ステージに立つ人間としての使命こそがこれ。」

 

 山吹は涙目になりながらも僕の話にしっかり耳を傾けている。僕はそれを把握し、続ける。

 

「先程僕はバンド同士の揉め事に干渉はしないと言った。だからポピパに肩を持つわけでもRASに肩を持つわけでもない。バンドにも強者と弱者はいるんだよ。強者の中にも弱者の中にも善悪はあるわけで。力を使う目的でそれが分かれるんだ。だから忘れるな。力をどう使うかはそいつら次第でもあるしお前ら次第でもある。残念だけど世の中にはそういう奴らもいるってこと。わかったならもう帰っていい。」

 

 僕はパンの袋を閉じ、家に帰るためにその場を去った。あいつならわかってくれるだろう。山ほどある問題の中で今一番自分達にとって何が大事かを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後、僕たちSUICIDEメンバーはちゆのお呼ばれでRASの主催ライブに招待された。ここで伝説が生まれようとしているのか。

 

「いやー、ついにちゆのバンドが拝めるとはねー。」

 

 由美が呑気に語る。

 

「そいつらは強いんだろうな?」

 

 小泉が対バンしたいのか、うずうずしている。変質者扱いされるし戦闘狂かお前は。

 

「楽しみだな。てかさ、お前その格好はなくね?アイドルのライブ観に来たわけじゃないんだからさ…。」

 

 赤沢が僕の方を見て答える。別に至って正常だ。ちゆの顔がプリントされたTシャツ、頭に鉢巻、鉢巻に挿している青色のペンライト二本、リュックには大量のちゆのグッズ。別にどこもおかしいところなどない。

 

「当然の事だけど?」

「そ、そうか…。」

 

 赤沢は少し辟易していた様子だが、うるせぇ!知らねぇ!ということで僕たち六人は早速会場に入った。出禁になったけど頭下げました。特別に入れてもらえました。そして今最前列でござんす。

 そしてついに登場曲と思われしSEが流れた。

 

「Ba&Vo.LAYER!」

 

 ちゆのアナウンスとともに和奏が紹介される。ってえ!?

 

「嘘だろ和奏が!?」

 

 何やら最近様子がおかしかったから変な奴だとは思ってたけどまさかこれが原因だとは思わなんだ。

 

「Gt.HANAZONO!」

 

 ここはまぁ普通だろう。ポピパの花園ね。

 

「Dr.MASKING!」

 

 ドラムとして紹介されたのは佐藤…。っては!?

 

「佐藤まで!?」

 

 嘘だろ…?佐藤はアドリブ入れすぎてただでさえ今まで組んだ奴らは全員あいつについてこれなかったのにちゆの奴、一体どうやってあいつを手懐けたんだ?にしてもリスキーなドラマーを選んできたな…。

 

「Key.PAREO!」

 

 知らない。あなただけは知らない。Who are you?って言ってる間にRAS登場。曲始まったわ。ちゆの紹介は飛ばさないで!

 

レ「Come into the world

響き渡るのは絶妙な 存在意義の concert

分厚い ruleは破り捨てて

Let's shake it down!さあ声高く

聴こえたのなら

Just follow me,and trust me♪」

 

 普通に演奏したらバラバラに聞こえるような部分でもDJによって上手くまとめられてる感があるな。しかもテクノっぽい曲調にちゃんとバンドサウンドのテイストが合わさってる。考え抜かれた曲だな。しかし何だ?脳内で某小島のよしおさんが踊ってる映像が流れてる…。

 

レ「勝利の女神から always 熱視線受けて♪」

 

レ・た・ま・令・ち「passions run R・I・O・T

passions run R・I・O・T♪」

 

レ「無敵な flavor を纏わす

さっさと白旗を振って降参しなと♪」

 

レ・た・ま・令・ち「passions run R・I・O・T

passions run R・I・O・T♪」

 

レ「無駄な争いには get tired

 

小細工は要らない 正面から go ahead

逆らえない衝撃でBang!♪」

 

レ「Don't waste your breath.」

 

 和奏がセリフを言った瞬間、会場から歓声が上がった。今のが萌えポイントみたいなのかね?

 

レ「Come into the world

降り立つ姿は 絶大な輝きの fantastic art

至高の音楽を味わえと

Let me show you 酔いしれればいい

僕らの音は 世界へと憑依する♪」

 

 何か全員カッコよかったな…。これは大ガールズバンド時代に革命を起こすと謳われても何ら不思議ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 RASのライブ後、僕はすぐさまちゆに呼び出された。そして今ちゆの目の前で土下座をしている。

 

「一体どういう事なの…!?まずこの団扇!何よ!恥ずかしいわよ!一瞬ミスするところだったじゃない!」

 

 ちゆが声を荒げる。え?どこが問題あるの?どこにも問題はないはず…。

 

「どこが問題だと言うんだ。」

「見たらわかるでしょ!何よ『チュチュ様LOVE』とか『投げキッスして』とか!」

 

 ちゆが僕の持ってきた団扇を持ちながら怒鳴る。いや、そんな怒んないでよ…。許して…。

 

「挙げ句の果てにはファーストライブの時にワタシの似顔絵入りケーキを差し入れに持ってきて!どういうつもりなの!?」

「ちゆに喜んでもらおうと思って…!」

 

 その時、ちゆの表情が一変した。不機嫌な表情からときめきの表情に変わった。「え?そこまで私の事を思ってくれたの!?」みたいな表情。ここまできたらもう確定ルートでしょう。え?どういう事かって?それは画面の前の良い子の皆には教えられないなぁ〜。それではみんな、また次回!僕はちゆとenjoyコースをしてくるぞ!それではさような…。

 

「I can kill you!」

「痛い何で!」

 

 ちゆにビンタされた。痛い。酷い。前までそんな事する子じゃなかったのに。親父にもぶたれたこと無いのに!嘘です殴られた経験はあります。まぁこれは後々語るとして。それにしても酷い。酷すぎるよちゆ…。

 

「行くわよパレオ!」

「はいチュチュ様っ!」

 

 ちゆのキーボードの子が楽屋から出て行った。今ここにいるのは僕と和奏と佐藤。

 

「ちゆに嫌われた…。」

「ドンマイですRawさん。」

「多分チュチュはRawさんの事完全に嫌ってはないんで大丈夫だと思うんですけど…。」

 

 絶望する僕を和奏と佐藤が慰めてくれてる。優しいよぉ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、布施が言っていたバンドが有名になっている事に気づいた。バンド名はHunter 5。名前の由来は不明。メンバーには名前知らない奴がいる。ギターは瀬良、ベースは布施、ドラムは岡本。おそらく宇田川と一緒に和太鼓叩いてた奴だろう。そして臼井 武丸。こいつたしかWIFに来ていた…。それがこいつらか。中々のメンバーが揃っているな。

 瀬良はどうかわからないけど布施はベース上手いし。

 

「大変だ!」

「どうした赤沢。」

 

 赤沢が急にスタジオに現れた。さっきまで自販機行ってたのにもう帰って来たのか。そして急いで走って来たのか、息が切れている。

 

「これ見ろ。」

「うん?え…?」

 

 そこにはHunter 5とパスパレとの罰ゲームをかけた対バンの結果が書かれてあり、319対181でHunter 5が勝利したという結果が書かれてあった。



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第12話「SUICIDE、見参!」

 

 

 まさかの事態が起きた。布施や瀬良の所属しているバンドのHunter 5がパスパレを破った。あのパスパレが敗れただと…?パスパレもそこまで弱くはなかったはずだ。大和と氷川がいるわけだし…。ってうん?

 

「おい赤沢、マスクここに置くなよ。不衛生だ。」

「あ、すまんすまん。」

 

 僕は改めて別の記事を見る。そこにはHunter 5に関する記事が書かれてあった。中でも瀬良はあの氷川をも上回るほどの天才だそうな。あいつそこまですごかったんだ…。

 

「あ、村上。せっかくだからこのマスクお前にやるよ。」

「マジでやめろ!イカれてるわ!一番危ないぞそれ!」

 

 僕は携帯の電源を切り、ひとまず深呼吸する。

 

「どうする?」

「どうもしない。別にどうでもいい。」

 

 赤沢の問いに僕はすぐ答える。だって考えてみれば僕やSUICIDEには一切関係のない話だし。瀬良達とパスパレが勝手に起こしたアクションの結果だろ。

 

「でもこれ、パスパレ悔しいよな…。」

「それは言えてるよ。だけど仇討ちなんていう真似はしない。」

「知ってるよそんくらい…。」

 

 赤沢はそう言い、買ってきた飲み物を口に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう花音。」

「千聖ちゃん、おはよう。」

 

 登校している最中、千聖ちゃんから声をかけられた。明らかに元気が無かった。いつもの声色より低かった。やっぱりあの対バンの結果が影響してるんだ。その事を考えると話しかけづらい。けど本当は心配で仕方がない。

 

「あっ、千聖ちゃん花音ちゃんおはよう!」

「彩ちゃん!おはよう。」

 

 彩ちゃんが後ろから私と千聖ちゃんに声をかける。彩ちゃんもどこか元気がない様子だった。三人とも何も言えないまま、しばらく沈黙が続く。

 

「ねぇ千聖ちゃん。」

 

 最近にその沈黙を破ったのは彩ちゃんだった。いつもより、いやテレビでMCをする時よりも声が震えていて聞いていて辛かった。

 

「勝負なのはわかってる。わかってるけど…。やっぱり辛いよ…。悔しいよ…。」

 

 感情が上手くコントロールできなかったのか、彩ちゃんは急に涙を流した。今外にいる事もあって嗚咽を絶えて泣いていたのは言うまでもない。

 

「彩ちゃん、私も同じよ。でも勝負の世界だから…。」

 

 千聖ちゃんはそれ以上は語らなかった。語れなかった。千聖ちゃんも泣いていたからだ。私がこんな時に出来る事。それが何かを考えた時にある一つの結論へとたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は香澄ちゃんから話を聞いて、放課後に竜崎さんのいるビルへと向かった。竜崎さんがいるであろう階に到着した私は早速部屋中を探し回り、ようやく竜崎さんを見つける事ができた。

 

「何だ。」

「SUICIDEにパスパレに勝ったHunter 5に対バンを申し込むように取りなしてください。」

「断る。あいつらが勝手に争いあって勝手に生んだ結果だろう。それに僕が関わる必要もない。って、待て。何故僕がバンドを組んでいる事を知ってる?」

「竜崎さんがたまたま男の子に色々言っているのを見たんです。WIFの時に。しかも千聖ちゃんから聞いたんですけど、どうやらSUICIDEと繋がってるようで…。」

 

 竜崎さんは思い出した様子で、「あの時か。」と零す。

 

「とにかく僕が関わる必要性が感じられないし、Hunter 5に挑む事がパスパレのために繋がるとは言えないな。わかったならさっさと帰れ。」

 

 言われるとは思った。だから私も策を講じてきた。

 

「いいんですかねぇ〜?私と千聖ちゃんってとっても仲良いんですよ?もし私が『竜崎さんに強姦された!』なんて言ったら千聖ちゃんはそっちの方を信じると思いますよ。さぁ、どうします?」

 

 私が講じた策はこれしかない。通用するという絶対の自負がある。

 

「わ、わかった!やる!やるから!まったく、末恐ろしい奴だお前は。」

 

 竜崎さんはそう言ってOKしてくれた。そしてその翌日、SUICIDEがHunter 5に挑戦状を叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SUICIDEから対バンを申し込まれた直後、Hunter 5のメンバー全員がうちのギターボーカル担当の洲崎 風魔くんによって呼び出された。風魔くんはトップクラスで歌もギターも上手。まさに天才とはこの事だ。

 

「今日呼んだのは他でもない。SUICIDEとの対バンに勝つにあたって作戦を立てた。そして現段階ではVICTORIA THE THIRDと合同でSUICIDEに挑む事が決定した。」

 

 風魔くんが言う。VICTORIA THE THIRDとはプロの世界でもかなりの実力を誇るバンドで数年前には敗れたもののあのSUICIDEに999対1001まで迫ったほどの実力者でもある。

 

「さらに今RASにオファーを申し込んでいる。」

「ちょっと待ってくださいよ!VICTORIA THE THIRDと一緒に対バンするのがただでさえSUICIDEに勝つには過剰戦力なのにRASを入れる必要なんてないっすよ!俺たちは強いっす!そこまでやる必要性が正直感じられないっす!」

「RASを加えることでSUICIDEのメンバーであるCHU^2をこっち側に加えてSUICIDEを6人にしないと勝てないのはわかるだろ!VICTORIA THE THIRDだけなら今のSUICIDEじゃあ返り討ちにしそうだし、俺たちだけだと実力で完璧に上回られる。かと言って俺たちとVICTORIA THE THIRDで挑んでもSUICIDEのことだから何とかするに違いない。それなら相手のメンバーを一人減らしてSUICIDEの戦力をダウンさせるしかないんだよ!」

 

 風魔くんの提案に抗議する僕の意見を武丸が却下する。

 

「とりあえずこれでいくんですね。そしたら、後はRASにオファーをかけるのみやな。」

 

 隆盛がやっと口を開いた。話し合いの最中に口を開いてくれてもいいのに…。

 

「あ、返事来たよ。」

 

 アレックスくんが俺たちに声をかける。

 

「どうですか?」

 

 風魔くんがアレックスくんの携帯の画面を覗き込む。

 

「ダメだったね。どうやらテンテコマイってやつらしい。」

 

 結局話し合いの末、俺たちHunter 5はVICTORIA THE THIRDと共にSUICIDEに挑む事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対バン当日、まさかのVICTORIA THE THIRDも挑むという事でとても面白くなってきた今日この頃だ。場所はこの武道館で行う。しかも今回は罰ゲーム付きだそうな。怖いねぇ。

 

「あっ、竜崎さん!奇遇ですね!」

 

 僕が声のする方に目をやると、ガールズバンドの面々がいた。ポピパ、アフグロ、パスパレ、ロゼリア、ハロハピ、モニカ、ちゆ以外のRASメンバー。そして朝日とかいう奴。にしても松原、あいつは潰す。

 

「竜崎さん。どうして…。」

「そんな事はどうでもいい。僕に構わずさっさと場所を取れ。」

「どうして私達を信じてくれないんですか!?何か隠してますよね!?」

 

 氷川姉が僕に声を荒げる。今時の女子高生は厄介だ。すぐに情報が伝わってしまう。ってのもある。最も大きな原因としてはこの前の文化祭の事だろう。予測はつく。

 

「お前らに『信じる価値』がまだ無いからだ。それ以外には何も無い。あるのは人間が醜い存在だという事実のみだ。僕が隠している事実をお前ら全員に話して、それで三十人程度の人間の誰か一人でも僕の真実をバラさないって保証できるか?できないね。お前らは個性がバラバラ。信じてもバラす奴は絶対一人いるだろうし、そんな奴を信じるなんてまっぴらごめんだ。まぁこの中の数人はその隠している真実が何かをすでに知っているんだがな。」

 

 僕はあえて彼女たちに厳しい言葉を浴びせ突き放そうとする。しかし、現実はそう簡単にはいかない。

 

「じゃあこの中の全員を信じなくてもいいです!そんなに信じられないなら今は一人でもいいです…。私達を信じてください!言葉だけじゃ伝わらないと思いますし、信頼関係を築くのは大変だってわかってるんですけど、少しは私達の事を信じてくれてもいいんじゃないですか!?私達は決して口外しませんから!」

 

 市ヶ谷が言い終わり頭を下げるとそれに続いて全員が深々と頭を下げた。別にこいつら全員を信じなくてもいいんだが、少しはその賭けに乗ってみようか。

 

「顔を上げろ。市ヶ谷、美竹、氷川姉、奥沢、二葉、RASのキーボード。お前名前は何て言う?」

「パレオです。」

「じゃあそいつら六人。僕について来い。」

 

 僕は今言った六人を連れて楽屋に向かう。楽屋に向かう最中、市ヶ谷が声をかけた。

 

「あの…。何で私達を選んだんですか?」

「お前らがあの中で比較的口が堅そうだったからだ。」

 

 比較的、ここ重要だぞ。比較的ね。

 僕は覚悟を決めて楽屋の扉を開ける。

 

「お、むら…。いや、竜崎。珍しいな人を連れてくるなんて。」

「賭けだ。無駄口を叩いてないで準備しろ。」

 

 僕は赤沢にそう言い放ち、椅子に座る。

 

「チュチュ様ー!」

「ちょっとパレオ!抱きつくのはやめなさい!」

「おいてめぇうちのちゆに何してんだ?」

 

 僕は席につき、ちゆに抱きつこうとするパレオとかいう奴を威嚇する。

 

「始めようか。」

「うん!しつれーい。」

 

 僕は専属のメイクアップアーティストに頼み、メイクを始める。

 

「竜崎という名前、偽名だったんですね。」

「別にお前らに本名を話す必要などなかろう。」

 

 僕はメイクされている最中に氷川に話しかけられたため、メイクアップアーティストに少し怒られる。

 

「しかし色んな著名人がいるな…。ファッションデザイナーの赤沢 増治にYouTubeの動画総再生数6億回超えのyu-min guitars、そしてアイドルの佐久間 明日奈に起業家の小泉 健なんて…。」

「呼び捨ては失礼だけどそれ以前に二人省いてるぞー。」

 

 市ヶ谷が驚く様子に音生がツッコむ。そうか。今のだと音生とちゆがいなかったな。

 

「赤沢さん、竜崎さんの秘密は誰が知ってるんですか?」

「パスパレ全員とその髪色派手な子を除くRASのメンバー全員、あとRoseliaのボーカルの子もそうだったし、たしかモニカのボーカルの子もそうだったよな。」

「ああ。」

 

 赤沢が氷川の質問に答え、僕が赤沢に返事をする。数十分後、顔のメイクが完了したため僕はウィッグを外した。

 

「え!?」

「あの髪カツラだったんだ…。」

 

 どうやら声を聞く限りSUICIDEメンバーとメイクしてる子以外全員驚いているようだ。まぁそりゃそうだろうな。地毛だと思ってたものがウィッグだったんだから。何故ウィッグを被っていたのか。その理由は簡単。銀色の髪の隠すため。意外と銀色の髪って目立つのよね。金髪に染めてる人と比べて人数が少ないから。そんなんしたらバレるじゃん?でも髪染めたい。じゃあどうするか。外出する時のみウィッグを被ればいい。これが最適解。

 僕は銀色の髪にワックスをつけ、髪型を整える。衣装の黒いパーカー付き上着を羽織り、ようやく市ヶ谷達のもとを向き直る。

 

「僕がRawだ。」

 

 読者のみんなは第1話から知っていたと思われるが、実は市ヶ谷達は知らなかったのだよ。だって教えてないから。

 

「これが竜崎さんの秘密でしたか…。」

「そうだ。そしてこれが全て。常に何かを疑う僕が見出した答えだ。」

 

 僕はそう言い、楽屋を出た。客が一人もいないため、辺りは閑散としている。市ヶ谷達には特別な通り道を教えたため、すぐに観客席の所へ行けるだろう。すると、Hunter 5のボーカルと出会った。もう終わったのだろう。

 

「アンタ、俺達が勝ったらどうするんだ?」

「あいつら好きにしていいよ。ただ僕は負けたら音楽の世界から引退するね。」

「はははっ!随分自信があるようですね。勝てると思ってるんですか?」

「絶対に負けないと約束したからな。」

 

 僕はそう言って彼と別れた。そして特にする事もないのでステージの裏で控える。しばらくして、SUICIDEメンバーが揃った。

 

「いいな!俺たちは俺たちの音で挑むのみ!真っ向勝負で行こう!っておい、お前ら二人!円陣やらないのか?来いよ。」

 

 僕とちゆの二人は円陣に加わらずに座っている。

 

「僕はやらない。変に緊張を解いてダラダラやるよりもある程度の緊張感を持ってライブした方が一体感を生みやすい。」

「ワタシもよ。」

 

 結局、あいつら五人だけで円陣を組み僕らはステージに立つ。これが僕たちのいつも通りってやつだな。そしてちゆのDJプレイがイントロから炸裂する。

 

「召し上がれー!!!」

 

 小泉の煽りもどきが合図となり、会場の全員がヘドバンする。おっと、パート分けを貼っていなかったな。以下の通りだ。

 

Vo&Scream Vo.Raw

 

Gt&Cho.Max

 

Gt&Cho.yu-min

 

Ba&Cho.NEO

 

Dr.asuna

 

Vo&Key.1s

 

DJ.CHU^2

 

 ちなみに途中で出てくるマークについて説明しておくと☆がデスボイスのマーク、♡が女声のマークだ。ではレッツゴー。

 

R「記憶の墓場にばら撒かれた

まるで『生命のダスト』『感動の迷宮』

積もり積もる骨に涙枯れて

薄っぺらなメモリアルと化した

『糞臭い便所こそマイホーム』

フテくされるLIFEからの迷子

猛烈球 股間にデッドボール☆」

 

R「死体蹴っ飛ばして♪」

 

1・M・y・N「ゲップだすBOMB!!♪」

 

R「ブッイキス!!

てめーら ブッイキス!!

I wanna ブッイキス!!

てめーらブッイキス!!☆」

 

1・M・y・N「ブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!♪」

 

1・(R)「餞別 VIPメンバーに

クローズアップ

ピースメーカーリング

墓穴掘るブログニート

永遠 皆ビギナー♪(♡)」

 

1・M「恨む意味はねえ

暗い悪魔フレンズを

破滅到来♪」

 

1・(R)「FRY! 這い巡るロード♪(♡)」

 

R「ブッイキス!!

てめーら ブッイキス!!

I wanna ブッイキス!!

てめーらブッイキス!!☆」

 

1・M・y・N「ブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!♪」

 

R「猛獣ドメスト

レスポールでハリケーン

安楽 幽霊 連中は別世界 亡霊

喪中のゲスト 霊魂で廃人間♡」

 

1・R(↑)「世は悲惨WORLD『見捨てれん!』♪・♡」

 

R・1(↓)「脳味噌 常に震わせて

荒々と 運命にそむく

もういっそ 俺に生まれたなら♡・♪」

 

1「君をぶっ生き返す!!♪」

 

R「至急 ニッポン 自暴自棄 抹殺

地球のカスと化すか?

いつ変わる?

至急 ニッポン 自暴自棄 抹殺

地球のカスと化すか?

いつ変わる?☆」

 

1・M・y「損LIFEから舞い上がれ迷子

惨敗から燃えたれマイソウル♪」

 

R「さあ せかすぜ ボンクラキッズ!

心臓に流し込む♪」

 

1・y・N「ロッケンBOMB!!♪」

 

R「ブッイキス!!

てめーら ブッイキス!!

I wanna ブッイキス!!

てめーらブッイキス!!☆」

 

1・M・y・N「ブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!

貴様らブッイキス!!♪」

 

R「猛獣ドメスト

レスポールでハリケーン

安楽 幽霊 連中は別世界 亡霊

喪中のゲスト 霊魂で廃人間♡」

 

1・R(↑)「世は悲惨WORLD『見捨てれん!』♪・♡」

 

R・1(↓)「脳味噌 常に震わせて

荒々と 運命にそむく

もういっそ 俺に生まれたなら♡・♪」

 

1「君をぶっ生き返す!!♪」

 

R「脳味噌 常に震わせて

荒々と 運命にそむく♡」

 

R・1(↓)「もういっそ 俺に生まれたなら♡・♪」

 

1「君をぶっ生き返す!!

君をぶっ生き返す!!♪」

 

 一曲目が終わり早速六人がMCを始める。僕は上手く喋れないから基本MCをやらない。

 

「みなさんこんにちは!SUICIDEです!」

「いわゆるSUICIDEです。」

 

 yu-minが挨拶した後にMaxが答える。てかいわゆるって何だよ。あ、ちなみに衣装はみんなバラバラ。ヴィジュアル系メイクしてるの僕だけね。

 

「みんなさぁ、今年何したい?まっすーは何したいの?いつもこの手のやつ私言ってるけど。グループとしてでもいいし、個人としてでもいいし。何かある?」

 

 明日奈さんがMaxに振る。アイドルでもMCとか煽りとかやってる分、喋る事は多いのさ。

 

「俺、もうやりたい事一個やったんですよ。今年の1月1日に冷やし中華始めました。」

 

 Maxが明日奈さんの振った話題に答える。ってちょっと待って。1月1日に冷やし中華!?

 

「はやっ!」

「早くね!?」

「はや…!」

「はやすぎじゃないすか!?」

「えぇ…?」

 

 Maxの衝撃的な発言に明日奈さん、1s、yu-min、NEO、CHU^2の順に驚く。そしてオーディエンス側から笑いの声が聞こえてくる。その笑いは本能的なものなのか、あるいは嘲笑の笑いなのか…。

 

「そもそも冷やし中華っていうか勝手に冷えてんだろそれ!!キンキンだわ!」

 

 1sがMaxにツッコむ。まぁ寒いからねその時期。

 

「始めたっていうか増兄の場合終わってないよねそれ!?」

「そう、終わらない!」

 

 yu-minのツッコミにMaxが答える。まさに年中無休とはこの事だ。コンビニ感覚…。

 

「そんな事やりたかったんですか?」

「そんな事って、俺にとってはめちゃくちゃ重要だぞ!」

 

 NEOの質問にMaxが返答する。あのー、僕ら漫才しに来たんじゃないんですよ。

 

「ていうかさ、まっすー電話番号変わった?」

「変わってないです。明日奈さんこそ変わりました?」

「変わったよ。いや変わったから電話したの!」

「あー、68…。何でしたっけ?」

「ちょっと!!!」

 

 おい!!!Max!!いや赤沢!!!お前何してんだ!!!オーディエンス側がざわついてるぞ!!ていうかみんな爆笑してる…。

 

「まずい!絞られた絞られたぞ!」

 

 1sが何故か面白がっている。いやいやお前…。

 

「頑張ってみんな!!68が入ってるよ!!まず2桁絞られたよ!」

「メモしなさい!!」

 

 yu-minとCHU^2がオーディエンスに向けて言い放つ。いや煽るな煽るな…。

 

「明日奈さんはみんなのそばにいます!頑張れ!」

「困った時はいつでも明日奈さんに相談しよう!」

 

 由美、小泉。これ以上みんなを煽るのはやめたって…。明日奈さんのライフはもう0よ!

 

「ちょっと待って…!武道館で人の電話番号バラさないでよ!武道館史上初だと思うよそれやってるの!」

 

 明日奈さんもう笑いながら怒ってるじゃん。これは赤沢が悪い。

 

「080か090どっちですか?」

「090だったはず!」

 

 ああ!音生と赤沢の奴!!ついにバラされた!!5桁バラされたぞ!!!個人情報が!!!

 

「いやMs.サクマの場合020もあるわよ。」

「ポケベルか!今時ポケベルは使ってないよ!てか持ってないよ!みんなどれだけ私のこと昔の人間だと思ってるの!?まっすーとかローくんとかと3つか4つしか変わんないよ!?」

 

 CHU^2の小ボケに明日奈さんがツッコむ。ちなみにあの二人の歳の差は現時点で12歳差。誕生日来るのは明日奈さんが先だから13歳差になるのも時間の問題。

 

「お願いです!一回だけ言ってください!」

 

 yu-minが明日奈さんに懇願する。って言ってもそんなの言わないだろ誰でも…。

 

「お願いです!お前ら言わないよな!?」

 

 1sがオーディエンスに問いかける。オーディエンスの反応を伺うとどうやら言わないみたいだ。

 

「ほら、言わないですって!言えないんですよ!」

「いや、一万何人いるんだから言ってるのと一緒でしょ!」

「大丈夫ですって!お前らイタ電しないよな?」

 

 1sの問いかけにオーディエンスはおそらくだけどイタ電しないみたいだ。

 

「ほら!みんなイタ電しませんよ!本気の悩みだけですよ!」

「いやいや、私一人で本気の悩み一万人はキツいよ!心が壊れる!」

 

 皆さん、今の1sと明日奈さんの掛け合いでわかったと思いますがそういう事だそうです。困った時や本気の悩みを相談してもらいたい時は佐久間 明日奈、佐久間 明日奈さんに相談しましょう。

 

「たしかにそれはそうですね。それじゃあ次の曲いくぞお前ら!」

 

 切り替えグダグダだな小泉の奴。まぁいいや。じゃあ次の曲、“爪爪爪”だ!

 

R「防腐レス 恥部の古傷

えぐるセレブ 騎乗位

サディスティック・ウーマン

馬並みのアレに歯立てて乾杯

 

間髪入れずに合体

100発喰らって安泰

未発達の体 見渡せば

ミミズ腫れオンパレード☆」

 

1「ねっちょりナポリタン むさぼり ニタニタ…

笑ったマリア『ガバス』がマネーや!♪」

 

R「おあずけカードキー『ひざまずき お泣き』

日々淫靡気味 歪に☆」

 

R・1・M・y・N「GO TO カオス♪」

 

1「くるぶしキメて まずバストあざむく

踏んづけてまぶす 手付かずの卵巣

性癖に感電 噛んでにわかに糸ひいて優越感

かすかに明かす♪」

 

R「即 装備 酸素☆」

 

(R)・1・M・y・N「湧きめぐらすソング(☆)♪」

 

R「即 装備 酸素☆」

 

(R)・1・M・y・N「湧きめぐらすソング(☆)♪」

 

R「聖地☆」

 

(R)・1・M・y・N「なびかす(☆)♪」

 

R「天狗☆」

 

(R)・1・M・y・N「唸りだす

オルガニズム暴君(☆)♪」

 

1「上辺 穏便 グラビアじゃ変貌

愛人追われ 俊敏Jumping!

上辺 穏便 グラビアじゃ変貌

マスコミさん格好の餌食さ♪」

 

R「食らう罵声 病んだ性

SとSの 痛み合戦

あんた奴隷 お前奴隷

放送禁止モード発生!!

合法デート 肛門DEAD

首すじ伝うロープ☆」

 

1・M「踊れ己ら HEY!FU××MAN♪」

 

1「青アザ!!

爪 爪 to many女 傷

法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

1・N(↓)「爪爪爪

腕に女 KISS♪」

 

1「汚物転がして野垂るがいい

法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

R「防腐レス 恥部の古傷

えぐるセレブ 騎乗位

未発達の体 見渡せば

ミミズ腫れオンパレード☆」

 

1「センズリ バタリアン どんぶり ビタビタ…

がなったダミアン拷問 肛門リアル♪」

 

R「おあずけカードキー『ひざまずき お泣き』

日々淫靡気味 歪に☆」

 

R・1・M・y・N「GO TO カオス♪」

 

R「I want you…want you

脳天10円支援

超ばっちい もんぺ着てまいっちんぐ

怖いの承知 シャンパンで御安心

親族 疎遠中 援助人♡」

 

R「即 装備 酸素☆」

 

(R)・1・M・y・N「湧きめぐらすソング(☆)♪」

 

R「即 装備 酸素☆」

 

(R)・1・M・y・N「湧きめぐらすソング(☆)♪」

 

R「便器☆」

 

(R)・1・M・y・N「乗り出す(☆)♪」

 

R「そっと☆」

 

(R)・1・M・y・N「産み出す

これぞ必殺丼(☆)♪」

 

1「ちょっと神々

金こと『マネー』を合算して貸せBOY

国ごと潰すか?滅ぼすか?

錬金術師 混沌の末法

値切り疑念 銀座で変装♪」

 

R「食らう罵声 病んだ性

SとSの 痛み合戦

あんた奴隷 お前奴隷

放送禁止モード発生!!

合法デート 肛門DEAD

首すじ伝うロープ☆」

 

1・M「踊れ己ら HEY!FU××MAN♪」

 

1「青アザ!!

爪 爪 to many女 傷

法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

1・N(↓)「爪爪爪

腕に女 KISS♪」

 

1「汚物転がして野垂るがいい

法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

R「俄然 感情が鉛

独り挫折 仄暗い

すべて引っ掻く その癖

誰の愛で抑制☆」

 

1・M・y・N(密室♪)

 

R「本番中は開けない☆」

 

1・M・y・N(新シーツ♪)

 

R「グッチョグチョなれ☆」

 

1・M・y・N(観察♪)

 

R「六感でロックオン☆

 

1・M・y・N(技アリ!♪)

 

R「ダーリン痛み枯れSICK☆」

 

1・R(↑)「踊れ己ら HEY!FU××MAN♪・♡」

 

1「青アザ!!♪」

 

1・N(↓)「爪 爪 too many女 傷♪」

 

1「法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

1・R(↑)「爪爪爪

腕に女 KISS♪・♡」

 

1「汚物転がして野垂るがいい

法律狂わして濡らすがいい…♪」

 

 このラストに“ルイジアナ・ボブ”をやって僕たちSUICIDEと Hunter 5の対バンは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、僕は由美と音生の三人で練習している。こないだの対バンの結果は10000対0で僕たちが余裕で勝った。そりゃそうだ。追い抜かれても努力で追い抜き返す赤沢、才能とキャリアの塊の由美、全ての技術において安定感のある音生、幅広いプレイをこなせる明日奈さん、いかに複雑な進行もこなせる小泉、DJ捌きが神なちゆ、そして僕。僕たちの前では才能は無力。他人の力にすがったって勝てないものは勝てないんだよ。

 と、そんな事を考えていると誰かが扉を開けた。大和だった。急いで来たのか、息が切れてる。何しに来たんだろうか。

 

「Rawさん!」

「何さ。」

「実はPoppin'Partyの主催ライブが6月の終わりにあるんですよ。」

「はい。で?」

「Rawさん、そのライブに是非ともサプライズゲストで出てほしいんです!」

「…は?」

 

 僕は大和からサプライズゲストでライブ出演という衝撃的なオファーを受けた。さぁ、次回どうなる僕!?

 



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第13話「切り拓かれる絆」

 

 

「僕があいつらの主催ライブに?」

 

 僕としては少々承諾し難い話だった。だって僕も暇なわけじゃないし、何せPoppin'Partyの初主催ライブだからっていう私的な事情でオファーされても困る。だから僕の回答は至ってシンプル。

 

「出ない。プロでもない素人のライブに付き合う暇は無い。」

 

 僕ははっきりと大和に告げた。そんな僕の返答を見越していたのか、大和はとんでもない爆弾を用意していた。

 

「いいんですかね?主催ライブ出てくれたらこのペンギンのぬいぐるみをプレゼントしようと思ったんですけどねぇ〜。」

 

 普通の男ならこれで引っかからないだろう。だが僕は引っかかってしまう。見ろこのペンギンの愛らしい目と短い足!こいつを我が家にお迎えするにはポピパのライブに出る必要がある…。ダメだ。そんな私的な都合で出るわけにはいかん。ここはダメだと言え。出ないと言えRaw!

 

「出る。」

 

 しまった!建前と本音が逆になってしまった!!

 

「わかりました!出るという事でスタッフさんに話は通しておきますね!」

「待て!!今のは不可抗力で…!」

 

 僕がうっかり出ると言ったせいで数秒の間に話が通ってしまった。それにしても問題は…。

 

「でもどうします?」

「そうなんだよそれがねぇ…。」

 

 音生と由美が悩み合う。そう、ポピパの主催ライブがある日は赤沢と小泉と明日奈さんが仕事ある日なのだ。ちゆはどうかわからんけど。多分「あんなお遊びバンド!」とか何とか言って出ないわな。つまりはSUICIDEとしてのパフォーマンスができないという事だ。最悪僕一人でも良いんだけど。ソロでやってるから。

 

「Raw-BANDで出ましょう!ジブンがドラム叩きますので!」

 

 大和がそう言う。Raw-BANDというのは僕がギターボーカル、由美がギター、音生がベース、明日奈さんがドラムという編成の四人組バンド。まぁ何とも安直なネーミング…。大和がサポートで入るとしたら便宜上はRaw-BANDだ。ただそれでも練習できるのは一、二回程度。時間が無いのは明白だ。だが…。

 

「それでライブ出来るならやるしかないな。大和は家に帰って“ONE”の練習を。僕たちも“ONE”の練習をしよう。」

 

 この日は大和を除く三人で“ONE”を練習し、お開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰り、僕はギターを引っ張り出した。Galaxyの機材で考えればMarshallのアンプと相性がいいギターを探す必要がある。そう考えるとレスポールか。いや、これが良い。ヴィンテージものだが。GibsonのFirebird Non-Reverse。Cherryね。デ・アマローナでも使ってるやつ。このミニハムがまた良いんだよなぁ…。大体ノンリバはピックアップ二つなんだけど。意外と鉄々しい音だからその良さを消さないエフェクターも必要になる。Marshallのヘッドのやつってリバーブ付いてたっけなぁ…。まぁそれは後で考えるか。まず歪みはBOSSのSuper Overdrive SD-1とVEMURAN Jan Rayかな。保険としてMOOERのMICRO PREAMP 002を持ってくか。次に空間系はリバーブを一応持って行っておこう。tc electronicのHOF Mini Reverbeがベストかな。あとはイコライザーかな。イコライザーだったらMXR M108S 10 Band Graphic EQがセオリーかな。まぁイコライザーは音の調整が主な役割だから何が良いとかはそこまで気にしなくていいんだけどね。あとはこのノイズマシーンだな。つまみをいじるだけでノイズを起こせるエフェクター。こういうのもある。

 後で由美にも“ONE”に関するエフェクターの選び方を言っておかないとな。アンプが大半を占めると言ってもアンプとギターだけじゃ心許ない。すると、リビングで物音がした。仮に空き巣が入ったとしても一応それなりに撃退はできるので身構えておくが…。僕は自室の扉を開け、リビングへと足音を殺しながら向かう。そこにはちゆがいた。

 

「ったく、驚かせるなよ。来たならチャイムくらい鳴らせ。」

「鳴らしたわよ!それでも出ないから勝手に入ったのよ!」

「悪い悪い。で、何?」

 

 ちゆから話を聞いた。どうやら花園がRASに入らなかったのがよほどお気に召さなかったらしい。

 

「どうしてあんな子供のお遊びに…。」

「まぁお前から見ればそうだろうなぁ。僕から見ても甘ちゃんだし、小泉の言葉を借りるなら弱い、だな。弱すぎると言っても過言ではないか。だけどさ、弱いからこそあいつらは強くなろうとしてんだよ。」

 

 僕は今まで見て来た。あいつらが色々なライブに参加し、己を高めて来たところを。そして今その頑張りをあいつらは全部ぶつけようとしている。僕は続ける。

 

「それにちゆ、RASの目標がRoseliaを潰す事だとしたらその先に何があんの?その先にあるお前の夢って何だ?」

「それは…!」

 

 ちゆは言葉が詰まり、口をつぐむ。しばらく黙り込み、ようやく口を開いた。

 

「だったらあなたの夢って何よ?」

「僕の夢ねぇ…。叶っていると思えば叶ってるし、叶ってないと思えば叶ってない。だけど僕はもう見つけている。音楽をやり続けるという夢が。僕が死んだらそれは達せられるかもしれないけど。」

 

 僕は窓の外の月を見ながら言う。ちゆの顔を見る事ができない。どんな表情か、多分想像つくから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Poppin'Partyの主催ライブ、正直子どものお遊び程度のものかと思って来てみたけど何よこれ…。認めたくはないけど感動するじゃない…。

 そう思っていると、アイドルの衣装を着たドラマーが現れた。

 

「麻弥ちゃーん!」

 

 あれがPastel*Paletteね。パレオが好きなバンド…。

 

「今回、Poppin'Partyの主催ライブを祝してあるサプライズゲストを呼んでいるんです!どうぞ!」

 

 するとMs.サカタとMr.キミジマとタロウがステージに現れた。

 

「What's!?」

 

 先程よりもすごい歓声に私はたじろぐことしかできなかった。観客から見た彼らはそれほど偉大な存在だという事を改めて認識できた。

 

「こんにちは!Raw-BANDです!今回は明日奈さんの代わりに急遽麻弥が入ってくれるという事でワクワクしてます!」

 

 Ms.サカタが笑顔でMCをする。そういえば彼女もYouTubeで喋ってはいるわね…。

 

「それでは俺たちの渾身の一曲聴いてください、“ONE”!」

 

 Mr.キミジマの合図でタロウが歌い出す。

 

R「冷たい雨に 何度も打たれ

疲れ果てても 陽はまた昇る♪」

 

 タロウのあのギター、ヴィンテージギターじゃない!どうやって手に入れたのよ!それにしても、すでに観客もメンバーも一体感が生まれてる…。カバー曲だとしてもこの曲は知ってる人と知らない人が分かれる曲なのに…。

 

R「気が付けば 一人部屋の中

いつも暗闇で 全てを塞いだ

このままもう 何もかもが壊れるなら

それでもいいかな

 

心とは無関係に 季節は巡り

なつかしく新しい 空気の中

強く信じ前に突き進む事で

全てが生まれ変わる

 

今からだ

手を伸ばせ つかみとるんだ

目を凝らして 奪いとるんだ

戦う事 恐れず心からぶつかれば

その先で 花は咲くだろう♪」

 

 歌っている途中、タロウの頬を一滴のしずくがつたった。それが涙なのか汗なのかはわからなかった。けれどそれを見たのか途中から鼻をすする音が聞こえてきた。気づけば私も涙を流していた。この歌詞がタロウの気持ちと重なっているのか、歌い方がとても悲しくて、そして強くて。聴いててタロウの事を思うと辛いけれど、いつまでも聴いていたい…。

 

R「本当は恐くて 誰より弱くて

それでもただ前に進まなければ

 

手を伸ばせ つかみとるんだ

目を凝らして 奪いとるんだ

戦う事 恐れず心からぶつかれば

その先で 花は咲くだろう♪」

 

 タロウが頭を下げた事でこの主催ライブは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポピパのライブ終了後、現在僕は自室で籠っている。はぁ…。ポピパの主催ライブ出なきゃよかった…。悪目立ちしすぎた…。めっちゃオーディエンス泣いてたな…。何かあれ見てポピパに申し訳なさを覚えちゃったわ…。後で謝らないと…。

 

「タロウ?」

 

 と、僕が頭を抱えているとちゆが現れた。あぁ、我が天使よ…。

 

「そ、その…。あのライブ良かったわよ…。」

 

 ちゆがそっぽを向いて言う。このツンデレめ…。それでも変わらない…。はぁ…。ポピパに花を持たせてあげる筈が何で…。

 

「ありがとう…。」

 

 まぁ聴いてくれたことにはお礼言わないとね。にしても何か変な匂いしてるけど…。

 

「実はワタシがあなたのために特別に料理を作ってあげたのよ!ありがたく思いなさい!」

「それなんだけど何かキッチンから不穏な匂いする…。気のせい?」

「No problem!見なさい!」

 

 ちゆが作ったのはケーキとクッキーらしい。何で甘いものなんだよ。色々あったでしょ。味噌汁とか。

 

「What!?黒い…。」

「焦げてるなこりゃ。」

 

 ちゆが肩を落とす。案の定だよ。まぁ…。ドンマイ。

 

「でもクッキーは…!Oh,no…!」

「あらら…。」

 

 ちゆがまたもや肩を落とす。ちなみに肝心のクッキーは見事に全部くっついてた。もう本当全部。ありえないと思うじゃん?ありえる。アリエール。違うそれは衣類用の洗剤だ。

 

「…。」

 

 ちゆだいぶ落ち込んでるなー…。まぁ仕方ないわな。励ましてやるか。

 

「ちゆ、初めから何でもできる人間なんていないよ。そのために人がついて色々教えないといけないんだからな。今度一緒に作ろっか!」

「タロウ…!」

 

 慰めたらちゆに抱きつかれました。苦しい。ギブ。ギブ。ギブですから。ちょっとギブって言ってるでしょ。でもこれで少しは気が楽になったかな。あ、そういえば焦げたケーキと全部くっついたクッキーは僕とちゆが美味しくいただきました。今美味しくって言ったけどぶっちゃけあんま美味しくなかった。



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第14話「夢を掴みとる力」

 

 

 

 ポピパの主催ライブから数週間後、世間では夏休みシーズンの今日この頃に我がレーベルはとある一大企画を考えていた。

 

「Super Music Festivalか…。」

 

 赤沢がそう呟く。今年、我がレーベルの発展祈願的な役割で開催されるこの企画。まぁ誰が考えたかはわからん。僕は企画通しただけだし。何はともあれライブできる機会があったらそれはそれでいい。しかもこのライブ、バンドが奏でるようなロック音楽だけでなくジャンル問わず全ての音楽を集結させた、まさに音楽の祭典なのだ。集大成とも言った方がいいか。

 

「どうするの?誰が出るかオファーしないの?」

「あのガールズバンドの連中に話してみます。今ちょうどバンド部門が六つ空いてますからね。」

 

 明日奈さんの質問に僕が答える。ちなみにRASはギターがいないから出れない。と言う事で出れるのはポピパ、アフグロ、パスパレ、ロゼリア、ハロハピ、モニカの六組だけ。

 

「えー、あいつら出すのかよ。俺あんなに弱い奴らに場が務まるとは思えんのだけど。」

「あいつらは弱くはない。お前と僕の見解の違いでもあるがな。実力だけ見ればアマチュアだがあいつらの『本気で音楽をやりたい!』って意思は本物だ。疑いようが無い。」

 

 僕は小泉にそう言い放つ。ポピパの主催ライブで十分に実感したよ。音でその思いを示す者こそ真のアーティストだ。

 

「でも大丈夫なんですか?パスパレはそういう場には慣れてるから大丈夫だと思いますけど…。」

「最悪の場合に応じてケースを考えている。だから問題はない。」

 

 僕の考える最悪の場合。それが何かは今はまだ言えない。

 

「じゃあ始めようか。お前ら案は考えて来たよな。」

 

 僕はちゆ以外の六人に確認をする。どうやら全員考えて来たようなので、全員のスケジュールを確認して行動に移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私達Poppin'Partyは学校帰りに例のスタジオに呼ばれた。そこにはアフグロのみんなもパスパレのみんなもロゼリアのみんなもハロハピのみんなもモニカのみんなもいた。さらにみんなの前に明日奈さんが座っている。これ…オーディションか何か?しかもスマホで撮影みたいなのしてるみたいだし…。

 

「みんな来たね。それじゃあ説明しよっか。まず皆は私たちSUICIDEが考えた試験を受けてもらいます。その試験に受かった人はローくんのレーベルが主催する野外フェスに出場できるの。もちろん皆高校生って事で仕方なく出てくる費用はローくん側で負担してくれるから安心して。」

 

 明日奈さんの言葉にみんなが喜んでいる。私もそう。こんな大舞台でライブできるなんて…。

 そう思っていた矢先、次の明日奈さんの言葉が私たちに驚きを与えた。

 

「ただし、このカメラで試験の様子を見てローくんが合格か不合格かを判断します。個人の単位でね。合格か不合格かとかそういうのじゃなくても誰かが何か問題を起こした時にはローくんが『この子は適正がないな』と思って容赦なく落とすらしいから。最悪の場合メンバーチェンジも考えられるから、覚悟しといてね。」

 

 明日奈さんのこの発言に今まで喜んでいた私やはぐ、おたえや他の人達は静かにして唾を飲んだ。スタジオ内に響くのはその音だけ。

 

「うんっ、素直でよろしい。」

「あ、あの…。Rawさんは?」

 

 何故か嬉しそうな明日奈さんにましろちゃんが話しかける。

 

「ローくんは今日仕事。当たり前だよ。ローくんだって無職じゃないんだから毎日毎日来れるわけないもん。」

 

 明日奈さんがそう言う。それはそっか…。Rawって人も忙しそうだもんね。

 

「最初の試験は、表現力の試験。歌でもそうだけど楽器をやるにしても表現力は大事。その表現力が魅せる演奏を作るの。見てて。」

 

 明日奈さんはそう言ってドラムを叩く。すごい…。あれだけヘドバンしながら正確に叩けてる…。

 

「まぁこんな感じだね。プロは手元見ないでもできるから。この事について一番大事なのは『こち亀の本田であれ!』ってこと。本田はわかる?わからないかな、バイク乗ったら性格変わる人。音楽やる人はみんなそうあるべきなの。音楽って自分を忘れて暴れる人ほど良いパフォーマンスを生み出せるものなの。端的に言うと楽しんだもん勝ちってところかな。一旦自分なりに楽しんだ感じ出してみて。あ、一人一人順番にね。」

 

 私たちは精一杯楽器を弾いて、歌った。それだけで今日のテストみたいなのは終わった。あー、学校の試験みたいなのじゃなくて本当によかったぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、また私たち全員が呼び出された。場所はいつものスタジオじゃなくてグラウンド場。そこにいたのは明日奈さんではなく増治さんだった。

 

「えー、俺の試験を受ける前に脱落者の発表をする。これを観ろ。」

 

 増治さんはタブレットの電源を入れてある動画を再生する。そこには多分だけどRawさんが映っていた。

 

『僕だ。まずは明日奈さんの試験を受けたお前ら、お疲れ様。今回の試験の判断基準となるのはどれだけできたかじゃなくてどれだけ暴れられたかだ。そしてその意図を汲み取れていなかった奴がいる。それが脱落者だ。丸山 彩、奥沢 美咲、倉田 ましろ。たかだか一人の人間の前であんなパフォーマンスなんじゃ無理がある。これが決定事項。それと明日奈さんがプロだからだとか言う下手な言い訳はするなよ。じゃあな。』

 

 彩先輩と美咲ちゃんとましろちゃんの不合格を伝えられた動画はこれで再生が終わった。三人ともすごく泣いてる…。これがSUICIDEのライブに出るって事…。

 

「次の試験は体力の試験だ。明日奈さんの時みたく裏のある試験じゃないから安心しろ。内容はいたって単純。このグラウンドを時計回りに五周、反時計回りに五周する事と縄跳びと丸太切りの三つだ。これはタイムを競うような競技じゃないからどんな速度で走っても構わない。ただ歩いたり途中で諦めたりしたら失格。じゃあスタートだ。」

 

 増治さんの合図でテストがスタートした。グラウンド十周も縄跳びも丸太切りも一生懸命にやったから何も覚えてないけど、合格してるといいな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、集合場所には誰か知らない人がいた。それに私は辺りを見渡しておかしい事に気づいた。いつも用意してあったスマホがない…。明日奈さんや増治さんの時はRawさんが様子を見やすいように置いてたのに…。そして二十七人全員揃ったところでその人が喋り始めた。

 

「知ってる奴もいるだろうし知らない奴もいるだろう。俺は起業家の小泉 健だ。今回の試験を受けるに前にRawからメッセージを預かっている。俺の元に来たLINEを原文のまま読ませてもらう。『赤沢の試験を受けたお前ら、お疲れ様。今回の試験、真面目にやればできただろうって奴らが大勢見受けられた。何でこんな事やらなくちゃいけないんだ?そういう風に考えているんだろうが、赤沢も考えなしに試験を課さない。内容を聞いて僕もそれを把握した。美竹 蘭、氷川 日菜、氷川 紗夜、八潮 瑠唯。以上四名は練習というものの意味を理解していない。よって不合格。』っていう具合だな。」

 

 蘭ちゃん、日菜さん、紗夜先輩、瑠唯ちゃんの不合格が決まってしまって残るは二十三人となった。次は一体何をするんだろう…。

 

「俺が知りたいのはお前らがどれほど強いか、ただそれだけだ。今からお前らの曲を流す。それをどれほどの演奏力で演奏できるか、一人ずつ試してみろ。」

 

 健さんの指示に従って私たちは一人ずつ曲を演奏した。私もそうだけどみんな必死で楽器を弾いたり、歌を歌ったりした。それをやって今日のテストは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、会場にはyu-minさんがいた。やっぱり知ってる人がいると安心するよぉ…。今度は何人残れるんだろう…。

 

「やっほー!私はyu-min!SUICIDEでギター弾いてるけど、私のチャンネルでもギター弾いてるんだ!今日はみんなに試験を受けてもらうよ!あ、それとRawさんからLINE貰ってるから読むね。『小泉の試験を受けたお前ら、お疲れ様。今回の合格不合格の判断基準だが、結論から言って僕は関わってない。小泉が判断したからだ。だから今回は小泉が判断して不合格だった奴らの名前を言おう。青葉 モカ、若宮 イヴ、桐ヶ谷 透子。だそうだ。残り半分の試験、常に全力で。』って言ってたよ。」

 

 残り二十人…。半分のテストを受けただけで十人も減らされるなんて…。もうこれ以上誰も落ちてほしくないけど…。

 

「次の試験内容はシンプル!どんなジャンルの曲でもいいから百曲のリフを弾くこと!記憶力は大事だよ!」

 

 百曲!?そんな覚えてたかな…。それにリフって何…?

 

「おたえ、リフって何?」

「イントロからAメロの間で演奏されるパートのこと。曲中に何回も繰り返し弾かれてるのがリフなの。」

 

 へぇー、リフってそういうものなんだ…。初めて知った…。

 

「これは事前に宿題で出してたはずだからできると思うなー。ボーカルの子はサビだけでいいよ。じゃあまず、有咲!やってくれる?」

「はっ、はい!」

 

 有咲から順番にリフを弾いていって、yu-minさんのテストは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次の日、いつもの会場に行ったら今度はNEOさんがいた。相変わらず笑った顔がキラキラしてる…。

 

「みんなこんにちは!SUICIDEのベース担当のNEOです!あっ、ラフでいいんだっけかな。えー、じゃあ試験を開始します!その前にみんなに言いたいことがあって。昨日の試験は不合格者いなかったそうなので、おめでとうってことだね。みんなにそれだけ先に言っておきたい。それじゃあ本題に入るよ。次の試験の内容はアドリブセッション。バンドをやる上では他のメンバーと息を合わせるのが大事だからね。キーはみんなで設定していいよ。ボーカルの子はどうしよっかなぁ…。うん、後で考えとこう。それじゃあ始めます!じゃあまずはドラムの子からいこうかな。巴ちゃん!最初で厳しいかと思うけど好きなリズムで叩いていいからね。さっそく始めようか。」

「はい!」

 

 巴ちゃんとNEOさんが演奏を始めてNEOさんのテストが始まった。そして次で最後…。一体どんなテストが待っているんだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、私たちはいつもの会場にやって来た。これで最後。Rawさんのテスト、一体どんな事をするんだろう…。

 

「僕だ。どうやら音生のテストでも不合格者は出なかった。よほど入念な準備をして来ただろうとは思うがな。それは素晴らしい事だよ。で、何でこんなにお前らに毎日毎日試験を受けさせていたかと言うと、僕の試験に時間を割いてもらうように頼んでいたからだ。それがこいつ。」

 

 そういってRawさんは歌詞が書かれた紙を出してきた。多分印刷したものだと思うけど。教科書に載ってそうなすごくいい詩…。あんまり教科書よく見ることないんだけどね。

 

「これ未発表の僕の新曲の詩。」

「え!?」

 

 Rawさんの言葉にみんな驚く。そりゃそうだよ…。いいの?これ出しちゃって…。

 

「お前らが試験を受ける資格があるかどうかのテストと言いますか、まぁ前段階ってわけではないけど。宿題って言った方いいかな。明後日ここに来るまでにこの詩のメロディ考えてきて。要は作曲だね。じゃあよろしく。」

 

 Rawさんはそう言って部屋から出て行った。いや、いいのかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日、私たちは二日前と同じ部屋に集まった。もちろんRawさんもいる。

 

「じゃあまず戸山から。」

 

 みんなも見てる。覚悟を決めないと。でも…。どうしよう…。メロディはそれなりにちゃんと考えて来たけど、そのメロディで歌ったらRawさんが思ってるような曲じゃないし、みんなをガッカリさせる。でもこれしか思い浮かばない…。

 

「すみません…。」

 

 私は一度付けたヘッドホンを外した。全然ダメだった。あの歌詞にいい加減なメロディなんてつけられない…。

 

「そういう事なんだよ。僕がお前らに言いたいのは。」

「…え?」

 

 Rawさんが急に喋り出した。みんなの驚きに構わずRawさんは続けた。

 

「世の中には作詞作曲ができなくても歌上手い奴がいる。それと反対に作詞作曲ができても歌下手くそな奴もいる。要は自分で作詞作曲する奴だけがアーティストなわけではないって事だ。歌えてたら歌えてたで合格にしても良かったんだがな。」

 

 Rawさんは私たちにそう言った。そっか、パスパレもそうだもんね。私たちもアーティストっていうことを覚えておかなきゃいけないんだ。

 

「ところで戸山、バンドメンバー以外でお前の大切な人っているか?」

 

 Rawさんが急に質問してきた。大切な人…。そう言われても…。ポピパのメンバー以外には…。いた。いた!

 

「あっちゃんです!妹の!」

 

 あっちゃんだけだとRawさんがわからなさそうだから一応妹ってつけておく。

 

「そうか。なら今電話をかけろ。」

 

 私はRawさんの言われたとおりに電話を繋ぐ。一分もしないうちに電話はつながった。

 

『もしもし?お姉ちゃん?』

「もしもしあっちゃん!実はね、あっちゃんとお話してほしい人がいるから変わるね!」

 

 私がスマホをRawさんに渡すと、Rawさんは少し緊張してた。女の子苦手なのかな?そしたら今までずっと無理してた…?

 

「もしもし、あのー、歌を歌ってます、Rawです。実はですね、今回戸山さんにお願いがあってちょっと連絡させていただいたわけなんですけども…。」

『えっ!?あっ、はい…。』

 

 電話越しでもわかる。あっちゃん緊張してる。それにRawさんも緊張してる。微笑ましいなぁ…。

 

「では、すみません。失礼します。」

『はい!失礼します…。』

「お前マジふざけんな。」

「すみません…。」

 

 Rawがあっちゃんとの電話を終わらせて、すぐに怒ってきた。怖い…。

 

「ライブするよりも一人の人間相手にする方がどっと疲れるわ。じゃあ次は花園か。こっち。」

 

 こうして私たちはRawさんに最後のテストの内容を言い渡された後、帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が過ぎていき土曜日となった。ここで戸山たちガールバンドのメンバーがあいつら自身の大切な人に向かって歌を歌う。これが最終試練。FDPの主催フェスに出るためのな。それを僕は見守ってるだけ。それしか僕にできることはない。そしてこの花咲川の屋上、借りるのに一苦労したわ。え?羽丘?僕が出禁になったの知ってるでしょ。

 

「準備はいいな。」

「はい!」

 

 僕の問いかけに戸山が元気よく答える。うん、いい顔になったものだ。

 

「Poppin'Party!戸山 香澄!!あっちゃんのために歌いまーす!!!」

 

 戸山がギターを弾きながら歌う。戸山妹は校庭からその様子を見守る。これの合格基準は戸山の場合だと、妹からその想いを認められた時合格となる。まぁそんな感じかな。ちなみに詩は僕が作ったもの。メロディは戸山たち自身に考えて来てもらったけどね。そうじゃないとこれやる意味が無い。

 

「ありがとうございました!」

 

 戸山がギターを弾いてお辞儀する。一人でやる分、よほど緊張したんだな。さぁ、果たして結果はどうなるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ当日となった。このフェスは歩いて五分の距離に行ける場所にステージを設置している。野外って言っても箱にしてる。だって騒音でちゃんと音楽聴けなきゃ嫌でしょ。

 あ、そうそう。結局このライブに出ることが決まったのはPoppin'Partyただ一組。その他も合格したんだけど、みんなメンバーチェンジしてまで出たくないって。あの湊も「Roseliaの湊 友希那として出なければ意味がない」って言ってたくらいだし。あの湊にそこまで言わしめるとは…。Roseliaがあいつにとっていかに特別な存在かわかるわ。まぁそれはいいとして。僕あいつらポピパのライブ観に行きたいわ。行かないと。

 

「こんにちは!Poppin'Partyです!」

 

 どうやら今日のために新曲を用意してきたらしいからな。どんなものなのか楽しみだわ。

 

「ここに立つまで色んな事を経験してきました。」

 

 戸山のMCが始まる。うちのは制限とかないからどういうライブにするかは自由。どこにMC挟むかも自由。まぁあいつらはいつも通りが一番か。

 

「厳しい試験を何回も受けて、その度に『私一人じゃできない事が多すぎる』『私だったら無理なのかな』なんてそう思う事もありました。でも!私一人じゃ叶えられない夢でも、この五人なら叶えられるんです!おたえ、りみりん、さーや、有咲じゃなきゃここには立てなかった!私達は五人で一つです!その思いを乗せて歌います。新曲、“イニシャル”!」

 

 ここで新譜か。僕らも新しくアレンジを加えた曲があるからな。ここで出してもらわないと困る。

 

た・り・沙・有「Initial♪」

 

香「ホンキの自分譲れなくて♪」

 

た・り・沙・有「衝動♪」

 

香「指先から Emotion!♪」

 

 なるほどね。バンド特有のロックな曲調は残しつつポピパらしさを混ぜ合わせている…。少しアフグロの要素を取り入れた“Returns”みたいな感じするな。

 

香「あの日わたしは 少女でも大人でもなく

混じりけのない眼差しで 夢だけ見てた

 

めらめらゆらゆらり 燃え滾る夜

勇気を噛み締めて 冒険に出たんだ♪」

 

た・り・沙・有「Initial♪」

 

香「初めて湧き上がったものは♪」

 

た・り・沙・有「震え♪」

 

香「体中から Emotion♪」

 

た・り・沙・有「何故に♪」

 

香「果てなき夜空に向かって

何度も同じ言葉を 叫び続けるのか?♪」

 

た・り・沙・有「ときに曖昧で見失う♪」

 

香「戸惑いがちな自分でも

“手にしたもの”は♪」

 

た・り・沙・有「今でもここに

 

イニシャルのその先へ♪」

 

香「星の鼓動 感じて♪」

 

た・り・沙・有(キミは♪)

 

香「強く掻き鳴らしている♪」

 

た・り・沙・有(今も♪)

 

香「心震わせて♪」

 

香・た・り・沙・有「ア・イ・シ・テ・イ・ル!♪」

 

 カッコよかったなーポピパ。普段は可愛いなんだけど。こうしてみるとポピパって他のどのバンドよりも振り幅広いんじゃない?

 

「あのPoppin'Partyってバンド、ユニゾン多めだね。」

 

 僕の後ろから明日奈さんが近寄り僕にそう話しかけてくる。正直さっさとライブの準備してほしい。

 

「声質が根本的な面で全員似てるものがあるんでしょうね。他のどのバンドもユニゾンが多いですが。」

 

 ちなみにうちはというと、声質が似てるメンバーはいてもユニゾンすると何か違和感あるなーって感じになるからハモリが多い。僕はリード担当だからハモることなんてそうそうないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、このライブラストのステージはいよいよ僕たちSUICIDEがやる事となる。あそこまであいつらにやらせたんだ、カッコつけないとな。

 

「いくぞお前ら!!!頭振ってバカになってけー!!!」

 

 明日奈さんがオーディエンスを煽るとドラムをバシバシ叩き始めた。これ原曲よりテンポ速いけど、明日奈さんはこれくらい速くないとダメらしい。末恐ろしい人だわ…。まぁドラムから始まるからいくら速くしてもいいんだけど。

 さぁ、いよいよ始まるぞSUICIDEのライブが!“オルガスム”!!!

 

R「わかりきった明日に怯える♪」

 

M・y・N・1(Break free!♪)

 

R「火の消えた心の壁破れずに♪」

 

M・y・N・1(Crash you!♪)

 

R「お前は求めているんだろ

刺激に抱かれた Making love

身体に布きれ装っても天国へ行けないぜ♪」

 

 まだまだ足らないな…。僕も一回煽ってみるか。MCはやらないけど。

 

「もっとてめぇらの汚ねぇ声聞かしてくれ!!!」

 

 オーディエンスからの歓声がさらに増し、その場のボルテージが一気に高まった。これは僕たちも負けてはいられない。

 

R「自惚れたあいつに縛られ♪」

 

M・y・N・1(Break free!♪)

 

R「身体を駆けめぐる血が叫ぶ♪」

 

M・y・N・1(Crash you!♪)

 

R「吐き出す言葉に爪を研ぐ

鎖に巻かれた Pleasure of mind

乾いた砂漠で踊っても

時の檻 破れないぜ

 

Get to オルガスム Get to オルガスム 身体とかせ♪」

 

M・y・N・1(Just Like Death♪)

 

R「Get to オルガスム Get to オルガスム 深く突き刺せ♪」

 

 さてさて、ここで短めに終えたところで音生と由美と赤沢の準備が完了するまでMCを小泉にやってもらうか。

 

「今、ここにはたくさんのアーティストが集って自分たちの音楽をやってる。それぞれの思いがあって、それぞれの事情があって。そしてここにいる全員が生きてここにいる。だから生きていけ。どうしようもなく生きづらい世の中だけどさ。生きていけ。今から俺たちが!ここにいて生きているお前ら全員に捧げる応援歌歌うから!聴いてけ!」

 

 よく言った小泉。普段そんな事言わないくせに。じゃあ、やりますか。“情熱Party”!ちなみにパート分けはこう。

 

Vo.Raw

 

Vo.Max

 

Vo.1s

 

Vo&Gt.yu-min

 

Vo&Ba.NEO

 

Vo&Dr.asuna

 

Vo&DJ.CHU^2

 

N・1「何度も試しても自分でしかなかった それ以上でも以下でもないよ♪」

 

M・y・C(↑)「遠くの光を目指すから大変だ♪」

 

M・y「止めどなく溢れてしまう Soul♪」

 

R・a・C(↑)「闇を切り裂いて 届けたい言葉♪」

 

R・a「声に出した時 涙になって…♪」

 

M・1(↓)(涙になって…♪)

 

R・a・C(↑)「微かに灯すようだ♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「Come on!! 情熱パーティー 奏ではじめたメロディー♪」

 

R・M・y・a・C「目の前になにひとつ 形がないにしたって♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「たぶん夢にまで ひかれた頃のままに♪」

 

R・M・y・a・C「今、浮き沈みながら どこまでも飛べるんだな♪」

 

N・1「胸が痛いほど『いつかきっと…』なんて 明日へのドアを叩いたけど♪」

 

M・y・C(↑)「開いてみても向こうから強い風が吹きこんで♪」

 

M・y「踏み出そうとその術を探すよ♪」

 

R・a・C(↑)「価値を主張した ヘナチョコの僕ら♪」

 

R・a「ここは途中だって 素直に言って…♪」

 

M・1(↓)(素直に言って…♪)

 

R・a・C(↑)「“1”からはじめようか♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「Come on!! 放熱ベイビー 君もいるべきステージ♪」

 

R・M・y・a・C「この希望の行き先に 終わりはないと歌って♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「孤軍奮闘みたいで 繋がり合う世界に♪」

 

R・M・y・a・C「問いかけた疑問なら ひたすら彷徨うもんだ♪」

 

R「白い白い羽を君にあげよう Wow〜

まだ青いとは限らない誰も知らない空 待ってるんだ♪」

 

M「Come on!! 情熱パーティー 奏ではじめたメロディー

目の前になにひとつ 形がないにしたって♪」

 

R・M「たぶん夢にまで ひかれた頃のままに

今、浮き沈みながら どこまでも飛べるんだ♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「Come on!! 放熱ベイビー 君もいるべきステージ♪」

 

R・M・y・a・C「この希望の行き先に 終わりはないと歌って♪」

 

R・M・y・a・C・N(↓)・1(↓)「くすんだ近未来を キラリ流れる星に♪」

 

R・M・y・a・C「投げかけた祈りすら 答えは心の中だ♪」

 

 ようやく終わった。僕たちのステージが。僕はいつまでこのままでいられるだろうか。一生というのはわがままだろうか。こんなのをライブ終わった後いつも考えてしまう。

 

「SUICIDEの皆さん、お疲れ様でした!」

 

 Poppin'Partyが挨拶に来てくれた。うん、礼儀正しい。

 

「私達、もっと頑張ってSUICIDEさんみたいなライブできるように頑張ります!」

 

 戸山の言葉に他四人は驚いている様子だった。SUICIDEみたいにはできないだろ、って思ってるのかな。

 

「せいぜい頑張れ。」

 

 僕はそう言ってその場を去った。何か後ろから笑い声聞こえるのは気のせいだろうか。そして、この物語がさらに続くことをこの時の僕はまだ知らなかった。



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第2章
第15話「開幕」


 

 

 あれから夏が過ぎて秋となった。村上は五大ドームツアーをやっている最中で今はいない。だからSUICIDEの練習は多くて六人でやる時が多くなった。あいつがいないと何だか調子狂うな。なんだかんだであいつもそれなりに自分の役割を果たしていたって事なんだろうな。

 SUICIDEのみんなで海にも行ったし、ハロウィンパーティーもした。でもその時も村上はいなかった。催し事とか嫌いなのかなあいつ…。あいつ基本「人間は醜い生き物」って考えてるから無理はないけどさ…。

 そうだ。うちで変わった事が一つある。由美がRASのサポートギターとして正規のギタリストが入ったんだ。いやさ、RASのギターがいないってちゆが喚いててさ。それを村上が鬱陶しく思ったのか由美をRASのサポートギターに加入させるように仕向けた。いやー、俺的にはあいつがいいんだけどさぁ…。

 

「それにしても何でRawさん私選んだんだろ?Rawさんもギターできるんだから入ってもいいのに。」

「多分自分一人が浮いた存在になるのが嫌だったんだろ。あいつはガールズバンドの中に一人だけ男がいる状況になるのが嫌だったんだと思う。」

 

 由美の独り言に俺は答える。あいつの考えてる事くらい大抵はわかるけどな…。何か複雑だわ。何かを拒絶しているようでな。

 

「そう言えば、ちゆ今日いないね。」

「ああ、今何かRASの正式なギター担当を探したいっつってオーディション的な事やってるらしいぜ。」

 

 俺が由美にそう教えると、由美は「ふーん」と言ったまま練習を再開した。ちゆも本当はいい子なんだよな。由美に迷惑かけるわけにはいかないって思ってるからこそだな。

 

「あ、由美。知ってるか?何か最近武道館でのライブをかけて色んなガールズバンドが全国各地でライブするんだってよ。」

「何て言う名前のイベントなの?」

「『BanG Dream!ガールズバンドチャレンジ』って書いてる。」

 

 ガールズバンドチャレンジ…。これまたすごい事になりそうだな。まぁ俺たちには関係のない話だけどさ、気になっちゃうよな。

 

「それ絶対ちゆのバンドも出そうだよね。」

「出ると思うよ。」

 

 その後も少し由美と駄弁って練習にありつけたのは三十分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「No!不合格よ。」

 

 今、RAISE A SUILENのギターオーディションが行われている。花ちゃんが抜けた分を埋めなければならないのだ。今こそRawさんの粋な計らいによって由美さんにサポートギターを務めてもらっているが、いつまでも由美さんに頼るわけにはいかない。

 

「さっきの子、結構良かったと思うけど…。」

「どこが!?RAISE A SUILENは最強のバンドなの!中途半端なギターはNo thank you!」

 

 私がチュチュに声をかけるけれど、チュチュはそれに反論する。すると、パレオが突然チュチュに声をかけた。

 

「RASが最強のバンドならSUICIDEはどうなるんですか?」

「…ッ!それは…。」

 

 チュチュは反論に困り、口をつぐむ。SUICIDEは結成からおよそ3、4年で音楽界の帝王とまで呼ばれるほどの実力を持ったバンド、最強じゃないわけがない。チュチュも一応はSUICIDEだけど、チュチュを除けば技術的には全てSUICIDEが格段に上。しかもボーカルのRawさんは精神的にも強い。今の私達じゃあ到底敵わない。もうすぐ開催されるガールズバンドチャレンジでグランプリを取れたら可能性はあるけれど。

 

「もちろん超えてやるわよ…!Roseliaをぶっ潰した後はSUICIDEもぶっ潰すわ!特にいつも私をコケにするタロウには一泡吹かせてやるわ!」

「前から聞きたかったけど『ぶっ潰す』って何?物騒な事はしないよね?」

「ぎゃふんと言わせてやるのよ!」

「具体的には?」

「ふふん、とっておきのステージを用意してあるの!パレオ!次の候補者を呼んできて!」

 

 パレオがチュチュに返答する。会話の流れを聞くと、どうやら今の子が最後の子だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近覚醒剤使う人増えてますよね。」

 

 突然パレオがワタシに向かって話しかけてきた。何の風の吹き回しなのかわからないわ。世間話は苦手なのよ…。最近のニュースでそういうのやってたけれど。

 

「まぁ、そうね。」

「今じゃ安値で手に入るものもありますから誰でも覚醒剤に手を染めやすいんですよね。流通が容易になって広まりやすくなって…。今の世の中怖いですね。」

 

 パレオの言う事にワタシは同調するしかなかった。彼女は事実しか言っていない。すると突然、RASでは聞いたことのない低い声が後ろから聞こえてきた。

 

「お前らも大層暇なんだな。羨ましいよ。」

「タロウ!?」

 

 ワタシが後ろを振り向くと、有線イヤホンをして立ち歩きながらタブレットを操作するタロウがいた。

 

「あなたは…!チュチュ様、Rawさんいつからいたんですか?」

「ついさっきよ。ワタシがちょっとした案件で呼び出したの。」

 

 パレオがワタシに話しかけ、ワタシはそれに答える。高圧的な態度こそ感じられないけれどどことなく近寄り難い威厳が彼の中にはあった。

 

「そんな社会に害を与えるだけのクズどもの話をしている暇があったら、もっと有意義な事に時間を使った方がいいんじゃないか?」

「あなたこそぐちぐち言わないで大人しく新聞とかニュースとか見てなさいよ。」

「んなもん大抵権力者に都合のいい情報しか発信されねぇだろ。」

 

 出たわ…。タロウがタロウたる所以の部分が…。これを見てるあなたがワタシだったらわかると思うわ、彼がどれだけ話の通じない人間かが!「ああ言えばこう言う」の究極形態みたいなところね。

 

「ちょっと、さっきからあなた何を見てるの?見せなさいよ。」

「個人情報が含まれてるから見せられない。」

「いいから見せなさい!」

 

 ワタシはタロウから貸してもらったタブレットの画面に映されている動画を見る。何か「強奪だろ!」とかツッコまれたような気がするけれど、気のせいよね。その動画でワタシが目にしたのは圧倒的な演奏ぢからでAudienceを圧倒する青髪のギタリストだった。卓越された技術、長い年月によって積み重ねられた技量にワタシはいつのまにか心を惹かれていた。認めたくはないけれど…。でも彼女なら…。彼女がいたらRASは…。

 

「Thank you タロウ!」

「うぐっ!」

 

 ワタシはタロウに抱きついた。だって!今までタエ ハナゾノの後を継げるほどの最強の音は今までに聴いてこなかった。それがここでpuzzleのピースがはまったかのようにしっくりきた。あのギターの音があれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由美のいるRASのライブを観た。俺一人で。何で村上も小泉もみんな来ねぇんだよ。仕事か?仕事なのか!?いやー、さすがRAS。演奏に無駄が無い。だけど引っかかるのが由美なんだよな。本調子じゃないのか?それともわざと…。いや、考えすぎか。ただ由美にしては妙に合わせてるような感じがある。SUICIDEでは伸び伸びやってたように見えるけどさ。

 

「Hello,everyone!We are RAISE A SUILEN!」

 

 ちゆのMCが始まり、観客が盛り上がる。あのちゆのドヤ顔マジで鼻につく…。イラっときた。

 

「ワタシ達RAISE A SUILENはBanG Dream!ガールズバンドチャレンジに出場します!」

 

 ちゆの突然の発表に観客がより一層湧き上がる。まさかちゆのバンドもガールズバンドチャレンジに出るのか…。あ、ちょっと飛ばすよ。大丈夫。ぶっ潰すとか不謹慎な事ばっか言ってるから。重要性は特に無い。

 

「ロッカ アサヒ…!あなたをスカウトする!」



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第16話「審査」

 

 

「そりゃ、ああなるわな。」

 

 先日のライブでロックの事を誘ったちゆだが、見事に断られていた。ちなみにその内容というものがロックをRASの正式なギター担当として加入させるというものだった。まぁいきなりは強引すぎかな。

 

「増兄お疲れ様!はい、コーヒー。」

「あ、由美。ありがとう。」

 

 由美が俺にコーヒーを渡してきた。後でお金由美に渡さないとな。

 コーヒーを口に入れ、流し込むと俺は由美にどうしても聞きたかった事を聞いた。

 

「なぁ由美。あのライブなんだけどさ、お前手抜いて演奏してただろ。いつもの由美ならあんな味気ないパフォーマンスはしないはずだ。」

 

 あの時の由美は気配を消すのが上手かったというか、いい意味でも悪い意味でも目立ってなかった。ギターはバンドの花形と言っても過言ではない存在なのにも関わらずだ。

 

「だってー、私が本気出しちゃったらRASのギタリスト探しはさらに難航しちゃうし跡を継ぐ子もやりづらいじゃん。」

「それはそうだけど…。」

「でもいくら私が手抜いて存在消しても断られてるんだったらそれはちゆの人徳が無いって言った方がいいよね。」

「それはさすがに言い過ぎだろ!」

 

 声を荒げる俺と少しも動じない由美の前に突然村上が現れた。

 

「物は言いようだが、由美の言うことも一理ある。由美、今までご苦労だった。」

「ありがとうございますっ!」

 

 村上が由美と少しの会話を終えると、俺の方に向き直った。

 

「由美が本気を出したらどうなるか、お前でも容易に想像はできるだろう。」

「まぁ…。そうだな…。」

 

 村上は実力的にも精神的にもかなり強い。おそらくただでさえレベルの高いメンバーの集まりのSUICIDEの中でもトップだ。

 

「由美、今のガールズバンドの連中を侮るな。奴らは僕たちの知ってるレベルをとうに超えている。」

「そこまでですか?大袈裟なような…。」

「お手並み拝見がてらveritáをガールズバンドチャレンジに参加させた。いずれ結果は出るだろう。」

 

 veritáっていうのは村上のレーベル、いや今はレコード会社になったな。そこに所属するガールズバンドの名前だ。あそこ曲者揃いだからなー。並の素人じゃ勝てないだろうな…。Roseliaぐらいだったら渡り合えると思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その帰り道、僕はとある件でちゆの元へ行くこととなっていた。五大ドームツアーを成功させた分の報酬がとんでもない破格だったので、それを少しばかり自分のために使う作業をしている。そのためにちゆの力を若干借りている状態なのだ。

 そんな事を僕が考えていると、偶然朝日と遭遇した。朝日は僕とちゆが知り合いである事を認識しているのか、どこかへ逃げようとしていた。いや、マジで何があったんだよ…。

 

「落ち着け。別に取って食うつもりないから。」

「…え?」

 

 その後、朝日から事情を色々と聞いた。ちゆが朝日をRASに入れようと羽丘にまで侵入していたことも聞いた。何してんだか…。

 

「それでてっきり僕も朝日を探しているんじゃないかという判断に至ったと…。」

「はい…。」

 

 勘違いしていたのがよほど恥ずかしかったのか、朝日の頬が赤い。

 

「言っとくけど、別に僕あいつのバンドの事情とか興味ないし本当どうでもいいんだよ。」

「え?」

 

 朝日は僕の言葉に驚き、拍子の抜けた声を上げた。僕は気にせず続ける。

 

「お前が入りたいなら入ればいいし、意地でも入りたくないならそうすればいい。お前の自由だ。僕はあいつの事情に首突っ込むほど暇じゃないしな。」

 

 僕はそう言い、朝日と別れた。朝日はどうやらGalaxyの方へ行くらしいからな。さて、早くちゆの家に行かないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問題は形だ。どこにどの部屋を置くべきか…。」

「それならここがいいんじゃないかしら?」

 

 今僕はちゆのプライベートスタジオにいる。目的はマイハウスを建てる事だ。何故かちゆがいい所を知っているというので色んなところに話を持ちかけてくれたのだ。ありがたや。

 実は僕は五大ドームツアーを終えて以来、相当な金額を手にしてしまった。どうにかしてこれを溶かしてしまいたいと考えた結果、自分の家を建てるという結論に至った。

 

「よし、じゃあ後は完成するのを待つのみだな。」

 

 するとギターを抱えた朝日と佐藤が入ってきた。何だ、ここで正式加入か。

 

「連れてきたぞ!」

「えっと…。あの…。」

 

 朝日は何が何だかわかってない様子だな。しかもRASのメンバーでもない僕がいるから余計混乱してる。

 

「ちょっと!どこ行くのよ!?」

 

 ちゆに呼び止められた僕はちゆの方を振り向く。

 

「お前らの問題だろ。ちゃんとお前らで責任取れ。僕はここまできたら要らなそうだから帰るわ。また来るけど。せいぜい頑張れ。」

 

 僕はそう言ってちゆのプライベートスタジオから出て行った。最近外冷えるなー。



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第17話「予感」

 

 

 あれから数日後、また何か色々事が進展した。時間がないから簡潔に話そう。まず、僕Rawはバイト先の先輩の頼みで瀬良とともにこのガールズバンドチャレンジの見回り役になった。もちろん単に見回りするだけじゃなく、大会が公正に行われているかも調査するんだけどな。あと、朝日がRASに加入したそうだ。どうでもいいけど。僕は僕の職務をこなすだけだし。

 そして今日はCiRCLEでveritáとポピパの対バンがあるそうだ。ガールズバンドチャレンジの一環の。ポピパは四人揃ってる。どうやら山吹が支度の関係で遅れるそうだ。ただ、ライブまでには間に合うとのこと。それにしても、何か嫌な空気するんだよなここ。

 

「Poppin'Partyただ今やってまいりましたぁ!!!」

 

 戸山、花園、牛込、市ヶ谷の四人が先にやって来た。いつにもまして戸山がうるさい…。声がデカいんだよ…。もうちょっと静かにやってくれ…。

 

「みんな!!!今日も精一杯楽しんでもらおう!!!!!」

「おー!!!!!」

 

 何か今日みんなテンション高くない?何があったの?

 

「すみません、遅くなりました!」

 

 山吹が楽屋の扉を開けて入ってきた。いや、そもそも僕がここにいる時点でダメだけどね。

 

「なぁ山吹、あいつらいつもあんな調子なの?」

「え…?いや、さすがにあそこまで熱くなってはいなかったような…。」

 

 山吹はどことなく他と比べてテンションが低いな。まさかとは思うが…。

 

「香澄、もうちょっと静かにやろっか?」

「さーや!!!こんな状況で静かにしてられるわけないよ!!!!!私の熱いハートが『戦え』って言ってるんだよ!!!!!頑張るしかないでしょ!!!!!」

 

 山吹の忠告も聞かず、戸山が完全に独走している。いや、目がヤバい。燃えてる。これはやはりあれの仕業か…。

 

「悪い山吹、ちょっと行ってくる。」

「え?ちょっと!」

 

 僕はそう言ってポピパの楽屋から立ち去っていった。おそらく原因は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあんたが元凶だな。」

 

 僕はveritáの楽屋に潜入し、一人の女性の腕を掴む。彼女は八代 藍瑠。veritáのメンバーでキーボード担当。有名な催眠術師の娘で催眠術を得意とし、中でも遠隔式催眠術が得意なのだそう。ちなみにveritáは全員僕よりも年齢が上だ。この人以外にもメンバーいるんですよ実は。まぁ彼女がリーダーだけどね。

 

「プロがやるとは思えない所業だな。そこまでしないと勝てないほどプロは落ちぶれた存在だったかね。いつからそうなったのやら…。」

「これも勝負の一環…。」

 

 藍瑠さんはそう言って被っていたフードを下ろした。イカサマするのが勝負の一環とかふざけてんのかこの人は…。犠牲が出る以上はそれ相応の態度で望んでもらいたいものだね。

 

「いいの…?今頃私達の対戦相手は…。」

「何?」

 

 僕は藍瑠さんの言葉を聞き、すぐさまポピパの楽屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕がポピパの楽屋に戻ると、全員生気を失っていた。って言うよりかは真っ白になってた。燃え尽き症候群か何かかね?

 

「おい、戸山!しっかりしろ!花園!牛込!山吹!市ヶ谷!お前らも一体どうしたんだよ!!」

「う、うーん…?あー、Rawさんこんにちはー…。さーて、いきますかー。」

 

 燃え尽き症候群って言うよりはやる気が失せてるような気がする…。今の状態でライブしたら絶対多方面からブチギレられる…。何より僕もブチギレられるわ…。それはどうでもいいんだけど。とにかくこいつらをこんな状態でライブに出すわけにはいかない。一体どうすれば…。そうだ!

 

「おいお前ら…。諦めるな!諦めるなよ!!!どうしてそこでやる気を無くしちまうんだ!!!おい!!!!!もう少し頑張ってみろよ!!!諦めたらダメだぞ!!!周りの人間を、お前らのことを応援してる人間たちの事を思ってみろよ!!!!!僕だって今こうやってガールズバンドチャレンジの手伝いやってんだぞ!!!あともうちょっとのところ!!!!!お前らならできる!!!!!!!!!」

 

 あれ?誰も何も反応しない…。この方法間違ってた?松岡修造化は最適解ではなかったということか…。

 

「仕方ないなー…。みんなー、ほどほどに頑張ろー。」

「おー…。」

 

 全員すっげぇやる気無い!!!驚くほどにやる気が失せてる!!!いやいや、遠隔式の催眠術でここまでの効果あんの…?とりあえずもっとやる気出して。

 

「いってきまーす…。」

「あ、ああ…。」

 

 何だかよくわからないままあいつらがステージに向かっていった。どうにかあいつらにヘイトがいきませんように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日の結果は609対391でveritáの勝利となった。いや、あの人たちセコい手使ったから一番多く点貰えたんだからね?本当にあんな人たちに僕ら一回負けそうになったんだろうか…。あ、悪い。昔の話だ。

 そんで、今日はdubでRASとveritáの対バンがあるそうだ。僕もそこにいる。で、また何か嫌な雰囲気がする。絶対催眠かけてるわ。

 

「おはようございます。あれ?あなた確か…。ごめんなさい、どちら様?」

 

 和奏が僕に話しかける。熱血になる催眠術の次は記憶を消す催眠術かよ…。早いところ見つけ出してRASの連中を催眠から解放してやらないと…。

 

「あれ?ここはどこでしょう?あれ?何で私はこんな服を…?」

 

 ダメだ四人とも記憶が消えてる!!!つか一人だけ何もない奴いるんだけど…。

 

「皆さーん、戻ってきてくださーい!」

「朝日、お前大丈夫なのか?」

「え?何のことですか?」

 

 仮説にしかすぎないが、どうやら朝日は催眠術が効かないようだな。

 

「とりあえずお前効いてないんならこいつらにかかってる催眠解いて。」

「えぇ!?そんなことできませんよぉ…。こうなったら…。朝日家直伝、猫だまし!」

 

 朝日が四人に対し猫だましをした事でちゆ達四人が催眠術から解放された。いやできるじゃん。

 

「あっ…。そういえば私RASだったんだ…。」

 

 刹那、和奏の記憶が戻った。あぁ、よかった…。

 

「Are you ready!?ここでワタシ達の最高の音楽を奏でるのよ!中途半端な真似だけはしないで…。ってタロウ!?何でここにいるのよ!」

「いやだからガールズバンドチャレンジの手伝いで…。」

 

 僕がちゆに事情を説明する。いちいちこれ説明しなきゃいけないのかよ…。キッツ!面倒すぎる!!

 

「チュチュ、円陣しないの?」

「No,thank you!」

 

 いつも通りだなあいつも。まぁそれがいいか。あいつらしいというか。

 

「いくわよ。」

 

 こうしてRASとveritáの対バンが始まった。結果もう言っちゃうけど、691対600でRAS勝ってた。そして今から数日後、ガールズバンドチャレンジきっての大勝負が始まろうとしていた。もちろん、みんな大好きあのバンドとあのバンドだ。誰かは次回のお楽しみに。



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第18話「決闘」

 

 今日、このdubにてついにRoseliaとRASの決闘が行われるそうだ。あまりにも生ぬるい演奏は勘弁してもらいたい。まぁRoseliaは素人というカテゴリにも関わらず意識高いからそれ相応のものに仕上げてくる。RASもRoseliaに勝とうとしているかららおそらくそれと互角かあるいはそれ以上の演奏力を発揮してくるだろうな。いずれにせよハイレベルな戦いになることは間違いない。楽しみにしている。

 しかもどうやら今回は一味違うやり方らしい。事前にdubに来た奴らが自分の好きなバンドの方にシール貼って、シールの少なかった方から先に演奏するそうだ。何とも新しい対戦形式だこと…。

 

「先輩!先輩もこれ数えてくださいよー!」

 

 今日はどうやら瀬良もいるようだ。僕は瀬良の事を無視して自らのやるべき事へと手を回す。

 

「ちょっとー!無視しないでくださいよー!!そもそもその顔どういう感情なんですか!?助けてくださーい!!!」

 

 え?無視していいのって?いいんだよ。それよりも大事な事あるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはRoseliaの楽屋。なんだが…。今ちょっとエグい状況だ。五人とも死んでる。

 ん?扉が開いた?誰だ!?

 

「ぎゃーっ!!人殺しー!!!」

「殺してねぇよ!!!あとこいつら死んでねぇから!!!勝手に殺すな!!!」

 

 どうやらRASのメンバーだったようだ。今叫んでたのは朝日。本当失礼しちゃう。あいつ二度とギター弾けなくしてやる。

 

「ん…?え、Rawさん!?まさか私達が油断してるところを襲おうと…。何て卑怯な…。」

「あのさ、お前ら僕が何かをやらかすような人間に見えんのか?見えんのなら精神科と眼科両方行く事をお勧めするよ。行きつけのトコあるから紹介できるぞ。」

 

 一体こいつらは僕を何だと思っているんだ。正体明かした途端にイジられるようになったんだけど。制約付きで正体バラした感じではあるんだけどさ、違うんだよ。そういうことじゃないんだよ。

 

「ふふ、冗談ですよ…。」

「冗談には聞こえなかったんだけど…。まぁいいや。お前ら、そろそろ始まるから準備を。」

 

 すると僕の携帯が振動し始めた。基本僕は携帯をマナーモードにしているため、音が出ない仕組みなのだ。まぁそれはどうでもいいか。で、ディスプレイには瀬良の名前が表示されていた。無視するのも悪いので一応電話に出ておく。

 

「僕だ。」

『先輩!何してるんですか!先輩がチンタラしてるからもう結果出ましたよ!!』

「はいはい。教えて。」

 

 先にライブをするバンド。そのバンドは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に演奏する事になったのはRoselia。要はRoseliaのシールの枚数が少なかったということだ。今Roseliaが“LOUDER”を披露している。

 

友「Louder…!

You're my everything♪」

 

紗・リ・あ・燐(You're my everything♪)

 

友「輝き溢れゆくあなたの音は

私の音でtry to…伝えたいの

I'm movin' on with you♪

 

紗・リ・あ・燐(movin'on with you♪)

 

友「届けたいよ全て

あなたがいたから私がいたんだよ

No more need to cryきっと♪」

 

 どうやらRoseliaは出る順番によってセトリを分けてその場合ごとに練習していたらしい。そりゃぶっ倒れるな。まぁ高校生の人間が考えそうな事だ。にしてもRoseliaは音楽に対する意識が高い。どこからそれが生まれてくるのか不思議で仕方ない。

 次はRASだ。RASは今回新曲で勝負するそうだ。前にMV公開されたあの曲かな。

 

レ「心の淵から 舌を舐めずり

暗い呪文並べて Aiming for

笑顔で凶暴さを Calm down たしなめて

仮面を取っ替え引っ換えやってる♪」

 

レ・ロ・マ・パ「Show time!」

 

チ「Hi★What happened?

常に何かのシンドロームで取ろっドロッドロ

安心?♪」

 

レ・ロ・マ・パ(NO!♪)

 

チ「平常心?♪」

 

レ・ロ・マ・パ(NO!♪)

 

チ「いつまでやってんの?おヒマなんですの?♪」

 

レ「Listen with attention…

Let's ブチ壊して♪」

 

ロ・マ・パ・チ(Countdown 3,2,1♪)

 

レ「Ready go!♪」

 

レ・ロ・マ・パ・チ「Mark my words!

何もかも 今すぐ♪」

 

レ「曝け出せ♪」

 

ロ・マ・パ・チ(EVERYBODY♪)

 

レ・ロ・マ・パ・チ「獣みたく叫べよ♪」

 

レ「You can change the world!

僕たちの歌で♪」

 

レ・ロ・マ・パ「“Welcome to US”♪」

 

チ「Let it go…Let it go…Let it go…♪」

 

ロ・マ・パ・チ(Get your gun! Let's shoot! Bang! Bang!♪)

 

レ「笑止千万 打ち砕け!♪」

 

ロ・マ・パ・チ(Get your gun! Let's shoot! Bang! Bang!♪)

 

レ「偽善者たちよ バイバイ♪」

 

 正直言うと今回の一騎打ちはぬるかった。甘すぎる。いや、正確に言うとお互い本調子じゃない。パズルが合わさってない。グループの中に和を乱してる奴が最低でも一人はいる。どっちにも。

 だが本調子じゃなくてこの勢いな、絶好調の時はどうなるんだろうか…。末恐ろしい奴らだ。こればっかりは流石に結果はわからない。お互い競り合っていたから。

 

「先輩!集計手伝ってくださいよ!」

「やかましい。僕は別のことをやる。」

「えぇ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集計の結果が出た。結果は671対620でRASの勝ちだった。ちゆと髪派手な奴が喜んでるし、会場内ではRASのコールが起こっている。

 

「先輩、どうでしたか?」

「RASの演奏力の前ではあのRoseliaでさえも負けるのか…。」

 

 今回の一騎打ちはなんというか、参考になったと同時に何とも言えない気持ちになったな。それまでその実力で多くのガールズバンドを牽引してきたRoseliaがガールズバンド時代のニューリーダーであるRASに負けたんだから。

 

「ちょっと信じられませんよねぇ…。こうもあっさり…。」

「面白いじゃあないか、あいつらが僕と対決した時こそ潰し甲斐があるというものだ。僕たちは天狗になってる奴の鼻をへし折るのが得意なんでね。」

「性格悪いなぁ…。そんなんだからどこに行っても嫌われるんですよ。」

「うるっせぇなぁ、お前はお前のやるべき仕事をやれ。」

「先輩こそ先輩のやるべき仕事をやってくださいよ!!」

 

 こうして、RASとRoseliaの一騎打ちは幕を閉じた。めでたしめでたし。いや、僕にとっては何もめでたくないわ。めでたいことが一個もないわ。それに今回僕歌ってないんだけど。



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第19話「温泉」

 

 RASとRoseliaの決闘が終了した数日後、僕は自分の家でひと段落ついていた。新居は四月頃になったら完成するという事だ。いやー、完成が待ち遠しいことよ。

 すると、僕のスマホから電話がかかってきた。ちゆだ。

 

「僕だ。」

『ちょっといいかしら?タロウに話したいことがあるの。』

「待ってろ。」

 

 僕は速攻で通話を終わらせ、外出の支度をする。今の時期寒いからな。コート着ないと。するとまた電話がかかってきた。今度は由美だ。

 

「僕だ。」

『Rawさん、何か今日温泉タダで行ける案件が来たんですけどどうですか?来ませんか?あわよくば可愛い女の子たちと混浴なんかもできちゃったりして…。』

「ガキかお前は。そもそもわざわざ遠出して風呂入りに行くことの何がいいんだよ。僕は行かない。じゃあな。」

 

 僕は再び電話を切る。この話こサブタイトル温泉なのに温泉浸かりに行かなくていいのかよと思っているそこのお前、甘いな。それは固定概念に囚われすぎだ。

 それにしても由美と電話してた時向こうで朝日が何かしら言っていたな。三時間がどうのこうのって…。

 

「ここはちゆ優先だな。」

 

 僕はそう言い、家を出た。どうせあいつも誘われているだろうけどあいつ風呂嫌いだから断るだろう。それくらい予想できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いわ!さっさとこっち来なさい!」

「何なんださっきから。」

 

 ようやくちゆのマンションに到着した僕をちゆが急かす。これ以上急かされると死ぬわ。ていうかあいつ何用で呼び出したんだよ。

 

「これ、ブラックコーヒー。」

「Thank you…」

 

 ちゆにブラックコーヒーのペットボトルを渡す。これが好きなのかどうかはわからないけど。ちゆはペットボトルの蓋を開けて中身を口に入れる。相変わらず飲む姿も愛おしい…。いやいや、何を考えているんだ僕は。

 

「Roseliaをぶっ潰した気分はどうだ?お前のプロデュースやらライブの誘いやらを散々断ってきた相手だもんなぁ。ぶっ潰せて清々するだろう。」

 

 図星なのか、ちゆは僕から視線を逸らして口をつぐむ。そんなちゆの様子に構わず僕は続ける。

 

「別にいいさ。誰もお前らのした事を咎める者はいない。僕たち人間は常に誰かを犠牲にして歩みを進めていく生き物だからな。」

 

 ちゆは何か言いたげな様子だった。ペットボトルを持つ手を握りしめ、視線を下に落としている。ちゆの言葉が出るまで僕はしばらく黙っておいた。しばし長い沈黙の後、ついにちゆが口を開いた。

 

「タロウは、ガールズバンドチャレンジがそうだと言いたいの?」

「そうだ。それこそ多数の犠牲を生み出すものだと考えていい。不特定多数のガールズバンドの中で武道館でライブできるのはたった二組。ちっぽけな規模だが犠牲は犠牲り人間ちもっては多大な犠牲かもしれないが。今RASは首位を独占している。もはや無双していると言っても過言ではない。今のままなら武道館行きは確定だろう。だが、武道館に立つということは多数の犠牲を生んだ罪を背負って立つ事でもある。それを忘れるな。」

 

 ちゆは僕の話を熱心に聞いてくれている。わかるだろう?ちゆは僕が思っている以上に懐いているみたいなんだ。だから僕は自分の人生の中で経験して教えられる事を教えることしかできない。本当はそうしないように常に清廉潔白でなくちゃならないんだよ僕は。でも過去のしがらみに絡まって抜け出せない。今の僕は本当に正しい道を歩めているのだろうか。

 

「OK.But,タロウはそうしていて辛くはないのかしら?」

「それ以上に辛い事なら今まで飽きるほど経験してきた。」

 

 ちゆは僕の言葉を聞くや否や悲しそうな顔をしていた。その悲壮感に満ちた顔で見つめられたらこっちが心苦しくなるわ。

 

「タロウは今までのガールズバンドチャレンジに出てるバンドについてどう思うの?」

「そうだな。はっきり言うとどいつもこいつも実力の半分も出しきれてない。そんな状況だな。」

 

 首位を独占しているRASもそうだ。今の状況はそうとしか思えない。今出てる奴らはもっと可能性に満ちているはずだ。

 

「正直お前らもそんな感じだな。」

「っ!ワタシのバンドを馬鹿にする気!?」

「お前らの場合は単に実力が足りないわけじゃない。力の使い方がみんなバラバラなんだよ。お前がRASと取るか、五という数字を取るかは勝手だが、力の活かし方は一緒じゃなければならない。それだけは頭に入れとけ。じゃあな。」

 

 僕はちゆの頭を撫でてマンションを去った。あいつはきっと、僕の目に映る自分らを確認したかったんだろうな。あいつの心に不安な色が見えたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると僕は由美に電話をかけた。ちょうどこの時間だ。由美に電話をかけるように伝えていた。とりあえず由美にはスパイ的な役割を申しつけていたんでね。あいつのスマホカバー手帳型だから閉じてれば基本的にバレない。

 僕は自分のマイクをオフにしてスピーカーをオンにする。

 

『ねぇ、最近みんなどう?ガールズバンドチャレンジの方は。』

 

 この声は由美の声だな。いや、切り出し方下手くそかあいつは。もっと自然に切り出せよ。

 

『そうですね…。Rawさんが上から目線ですっげームカつきます!』

「マジふざけんなあのアホが…。」

 

 市ヶ谷の奴、僕がいないのをいい事に愚痴ってやがるな。勉強しろあのアホは…。

 

『でも…。ちゃんと私たちの言葉見てるかなっていう感じはします。あの人に会ってからみんな良い方向に変わったというか…。』

 

 さっきの言葉は撤回しよう市ヶ谷。そう思ってくれていたのなら何よりだ。

 

『まぁムカつく事には変わりないんすけどね。』

「…!」

 

 危ない危ない。今一瞬携帯を叩き割りそうになった。やっぱ撤回しない。こっちだよイラついてんのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、ポピパとRASの対バンがdubにて行われた。今は出欠をとるというか、そういう確認だな。

 

「RASはキーボードのあいつがいないな。遅れるようなら遅延証明書を発行するよう手配してもらえ。」

「それが…。」

 

 ちゆから話を聞いた。どうやらRASのキーボードがいなくなったそうだ。昨日から電話も繋がらないそうだ。それがわかると僕はすぐさまRASの楽屋を飛び出し、瀬良のもとへ向かった。

 

「悪い瀬良。僕の仕事全部頼む。」

「全部!?ふざけないでくださいよぉ〜。いくら先輩でもさすがにそれは…。」

「RASのキーボードがいなくなった。遅れるっていう問題じゃない。昨日から連絡が繋がらないようで、現在進行形で安否不明だ。」



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第20話「終幕」

 

 

「え!?パレオちゃんがいなくなったんですか!?」

「ああ、僕はあいつを探しに行く。」

 

 瀬良がRASのキーボード担当の失踪に驚愕を受ける。本来ならばバンドの事はバンドの事で解決しなければならないし、個人的な観点で言ってしまえばあいつらの事情なんざ心底どうでもいい。しかし今は状況が違う。ガールズバンドチャレンジにおいて安否不明の状態のまま放っておくわけにはいかない。そういう意味での決断だ。

 

「大丈夫なんですか?どこにいるかも…。」

「安心しろ。すでに情報はつかんでいる。」

「まったく…。変なことしないように頼みますよ。」

「生存確認だけしてくるから安心しろ。余計なことはしない。」

 

 僕はすぐさま更衣室に向かい着替えると、彼女がいるであろうとある場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、夕方の時間帯に差し掛かり校長室で待っている今、RASのキーボードことパレオが僕のもとにやってきた。いつもはピンクと水色、白と黒のコントラストを活かした髪色が特徴だったが、今僕の目の前に立っているのは黒髪ツインテールで眼鏡をかけた少女だ。

 

「鳰原 令王那。ここまでたどり着くのには結構苦労したよ。手間のかかる上に散財までさせやがって。自費だからな?」

 

 何故鳰原の事がわかったかって?SNSやインターネットの普及してる世の中だ。さらに僕の情報網を駆使すればこのくらいは余裕。

 

「Rawさん、あなた一体何者なんですか…?」

「人間。それ以外には何も無い。で、お前はここまで面倒な事させるとは何のつもりだ?RASで一悶着あったとかか?」

 

 僕の質問に答えず、鳰原はただ黙ったままでいる。そしてしばらくしてから、彼女は答えた。

 

「あなたには…。関係ないですよね。」

「そう、関係ない。ここに来た目的はお前の生存確認。ただそれだけ。それ以外の事情なんかどうでもいい。お前ら自身の事なんだからお前ら自身で解決してくれ。もっとも、巻き込まれるのが一番嫌だからな。」

 

 僕はそう言って校長室を去ろうとする。鳰原はその事に驚き拍子抜けしている。実際声が出てたしな。

 

「何驚いてんだ。続けたきゃ続ければいいし、辞めたきゃ辞めればいい。お前は生きてる。生きてる限りはお前の自由だ。」

 

 鳰原に言いたいことは言ったから僕はすぐに校長室から去っていった。まぁ後はあいつらでどうにかしてくれるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パレオを迎えに行った後、私たちはまた東京へ戻っていた。あともう少しでチュチュの誕生日の12月7日。チュチュのために作った曲を早く聴かせたい。そう思っていた。

 

「ちょっと何を…ふぐっ!?」

 

 チュチュのマンションに帰る矢先、パレオを捕らえる腕が見え私たち四人はそれを追う。けれど、同じように捕まってしまい腕と足をロープで縛られた。

 

「いやー、一度に五人も捕まえられるとはな。」

「大漁大漁!」

 

 私の、私たちの視界には雰囲気からして不良である男女の集団が映っていた。

 

「で、こいつらどうすんの?」

「まぁこいつらは需要もありそうだ。穴として利用するもよし、人質にとって金を貰うもよし、サンドバッグにするのもよし。用途は何でもありだ。」

 

 私たちはもうダメかもしれない。ここで惨めな人生を送っていくのだろうか。そう思っていた矢先、どこかしらから人が殴られたときに発せられる鈍い音と悲鳴が聞こえた。

 扉を蹴って現れたのはRawさんだった。

 

「ろっ…!竜崎さん!」

 

 私は危うくRawさんと呼びそうになる。この人たちの前で彼の正体である呼び方を明かすのはまずい。

 

「ったく、クズどもの分際で時間とらせるなよ。」

「てめぇ…!よくもウチらの同胞を!!」

 

 女の人がRawさんに殴りかかろうとすると、Rawさんはそれを避けてすぐさま女の人の顔面に蹴りを入れた。

 

「お前っ…!女だぞコイツは!情けはないのかよ!」

「クズどもに情けを語られるとはな。いいか、よく聞けクズども。道踏み外してこんなくだらない事してる奴は男だろうが女だろうが関係ない。潰す。」

 

 Rawさんの放った「潰す」という言葉には明確な殺意が伝わり、助けられようとしている私たちでさえも恐怖を感じた。

 

「ふざけるのも大概にしろ!」

「でやっ!」

 

 Rawさんの背後から二人の男の人が襲いかかる。だけどその二人の男は突如乱入した瀬良さんによって倒された。

 

「おせぇよ瀬良!この人数僕一人でどうにかなると思ってんのか!」

「急ピッチでここまで来たんだからむしろ上出来な方でしょ!!あとそのセリフ偉そうに言えることでもないですよ!!」

 

 Rawさんと瀬良さんの前に私たちを連れ去った複数人の男女が立ちはだかり、乱闘が始まった。数でこそ圧倒されているものの、Rawさんと瀬良さんは無駄のない動きでどんどん相手を倒していった。すると、私の腕を縛っていた縄がほどける感覚が不意にやってきた。チュチュだ。どうやったかはわからないけれど縄がほどけたらしい。

 

「チュチュ!?一体どうやって…!」

「説明は後!逃げるわよ!」

 

 そうして逃げようとしている私たちを見たRawさんは攻撃するのを一旦止めて男女の集団に言い放った。

 

「この程度か。笑わせてくれる。クズは所詮何やっても上手くいかないからな。結局はその程度の力しか持ち合わせてないのか。ゴミの方が3Rで活用ができるからまだいい仕事してくれてるよ。」

 

 Rawさんが相手を煽ってる。おそらく自分自身に注目を集めさせて私たちを逃すためだ。じゃなければそんな無駄な行動は取らない。

 

「わざわざそこまで煽るとは…。ご苦労さん、動くなよ。動いたらコイツ殺すぞ。」

「チュチュ!」

 

 その時、チュチュが男の人に捕まって人質に取られた。Rawさんは攻撃の手を止め、膝を地面に付ける。すると、チュチュを捕まえていた男の人が手に持っていたナイフが地面に落ちた。私たちが音のする方を見ると瀬良さんが男の手首を握っていた。

 

「あのね、伊達に二人いるわけじゃないの。この為に呼び出されたんだからね俺。」

「うちのちゆに手出した罪、痛みで償え。」

 

 Rawさんはそう言ってチュチュを捕まえたリーダー格の男に蹴り技を決めた。一撃だった。Rawさんはまだ縄が解けていなかったパレオとロックの縄をほどき解放した。

 

「あ、そうだ。次コイツらに手出してみろ。その時は死を覚悟した方がいい。」

 

 Rawさんの言葉には明確な殺意がこもっていて、その場にいた全員の背筋を凍らせた。私たちを捕まえた男女のグループはRawさんの言葉を聞くや否や逃げ出し、Rawさんはため息をついた。

 

「瀬良がいてくれて助かったよ。感謝する。」

「本当ですよ。てか、どうやってここがわかったんですか?」

「そうだ、それがな…。」

 

 Rawさんはチュチュのスカートのポケットに手を突っ込み、小さな装置を取り出した。

 

「は!?それGPSじゃないですか!」

「え!?チュチュ様にGPS付けてたんですか!?怖っ!!」

 

 瀬良さんをはじめみんながRawさんに恐怖する。私も本当にGPSを人に付ける人見たことないんだけど…。いたんだ。

 

「まぁ気にするな。さっさと帰るぞ。」

 

 Rawさんはそう言ってみんなを引き連れてチュチュの家へと向かって行った。ていうか、私たちのやろうとしてる事わかってたんだ…。

 そう思っていると、隣に瀬良さんが並んできた。

 

「先程はありがとうございました。Rawさんっていつもあんな感じなんですか?」

「あー、先輩ね。いや、俺が知ってる限りだと高校生の頃ぐらいは結構優しくて居心地良いみたいな噂聞いてたんだけど、初めて会った時は今みたいな性格してて。そんなに豹変するかな…。」

「そもそもRawさん何であんなに強いんですか…?」

「あー、あの人バイトのためにテコンドーとか太極拳とか色んな武術習得してたんだよ。正直今もできるとは思ってなかったけど…。」

「え!?ていうかRawさんも瀬良さんも一体何のバイトしてたんですか?」

「うーん、いわゆる何でも屋っていうところかな。給料は時給800円。で、今回そのバイト先の上司のお願いでガールズバンドチャレンジの手伝いやってるんだけどね。」

 

 瀬良さんの話を聞いて、今も昔もRawさんは変わっていなかった。でも、今とは違うRawさんもいたという事もわかった。一体何が起こったんだろう。彼は自分の過去について一切触れたがらない。触れられたくない過去だということはわかっている。けれど、そんな彼がどうしてああなったのだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日付が変わって今は12月7日。ワタシの誕生日をパレオ達から祝われた後、タロウがワタシの家に泊まっていくと言った。普段からワタシの事を遠ざけてるタロウが一体どういう感情で言ったかはわからないけれど、泊めてあげる事にした。

 シャワーからあがったワタシは偶然タロウと遭遇した。

 

「さっきはありがとう。タロウが来てなかったらワタシ達今頃…。」

「気にするな。それが僕の責務だ。」

「責務…?」

「ああ、そしてそれが僕の信じる正義でもある。」

 

 タロウは初めてワタシと出会った時からそうだった。彼は誰かのために動く人間ではなかった。他人の気持ちを考えて行動しろ、とタロウは何度も言われてきた。けれど彼は正義のために動いていた。人は裏切るけれど、正義は裏切らないと思っていたから。

 

「いいか、ちゆ。正義というものはな、善と悪が混ざり合った存在なんだ。一方の見方をすれば善に見えるし、もう一方の見方をすれば悪になる。正義を実行するっていうのは同時に罪を犯す事でもある。人を傷つけ、その罪と向き合う者にこそ人を守れる資格がある。初めから自分の手を汚さずに何かを守ろうだなんて甘いんだよ。僕はちゆにだけはそんな嫌な思いをさせたくない。僕一人で罪を背負えればいい。」

「っ!あなただけが責められるなんておかしいじゃない!」

「安心しろ。その代わりにこの世界にいるクズ共には僕が恐怖を植え付けてやる。死ぬよりも恐ろしい恐怖をな。」

 

 その時のタロウの目は本気だった。悲しみと怒りに満ち溢れていて、正直恐ろしかった。何があったらここまで怒れるのだろうか。

 

「で、ちゆ。ちょっとお願いがあるんだけど…。」

「What's?」

 

 タロウの言ったお願い、それは一緒に寝るというものだった。いつもはワタシの事を突き放すのに今日はやけに甘えてくるわね…。ソワソワして眠れない…。

 

「タロウ…。」

 

 改めて、タロウの言っていた事を考え始めた。タロウは過去にもこんな事を言っていた。

 

「自分が傷つくのは嫌だよ。だがそれと同じぐらい他人を言葉や拳で傷つけるのは嫌いだ。不快感しかない。だから本当は誰も傷つかない世の中が一番なんだよ。」

 

 タロウがこの時言った言葉は本物だった。でも、それでもタロウは人を殴った。傷つけている。それがタロウなりの答え…。自分は手を汚して罪を背負う…。誰かが傷を負わなくて済むように…。それでもワタシはタロウが辛い思いをするのは嫌。だとしたら、ワタシに出来ることは一体…。

 

「ちゆ…。」

 

 タロウがワタシの名前を呼ぶ。おそらく寝言ね。けれど、ワタシの手を握るタロウの手は震えていた。タロウは本当は人を傷つけるのが怖いのだろうか。自分が人の心を失うかもしれないという怖さの中で、誰かを守るためにタロウは拳を奮っている。タロウはタロウなりに苦しんでる。ワタシはタロウの事を守れる力は無いけれど、寄り添う事ぐらいならできる。だってワタシは…。

 頭の中で色々考えて、ようやくワタシもある決断をする事にした。ガールズバンドチャレンジが開催されている今ならできるはず…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、俺たちSUICIDEがポピパとRoseliaとRASの面々に呼ばれた。どうや、ちゆとまりなが村上に声をかけたらしく、今までののガールズバンドチャレンジを支えてくれた人達に恩返しがしたいとの事らしい。それを「SUICIDEがサプライズゲストとして出演する」という形で表すらしい。しかもSUICIDEも加わって一緒に曲を披露するらしい。しかも、村上本人は「お前ら頑張ってるからいいよ」と俺らの了承を先に得ずに勝手に決定していた。二度とそういうのやんないでくれ…。

 で、今CiRCLEで練習しているところだ。曲は村上がみんなのためにアレンジした曲を用意していたらしいのでそこはいいんだけど…。

 

「ダメ。やり直し。ほらもう一回。」

 

 何せ村上が厳しいんだわ…。さっきから全然進んでいない。今レイのパートのところでつまづいてるんだけどさ。

 

「厳しい…。」

「あの人は昔からそういう人だから。」

 

 由美の言う通り、村上の練習はむちゃくちゃ厳しい。身体的にキツい。ただ水分補給とか休憩とかはこまめにとってくれるからそこはいいんだけど。

 

「Rawさん、一体どこがダメなんですか?」

「お前が天才であるが故のミス、とだけ言っておこう。」

 

 村上はそう言ってどこかに行ってしまった。やってる事と言ってる事がめちゃくちゃだよあいつ…。

 

「レイヤさんが天才であるが故のミス…?」

 

 ロックが村上の言葉を繰り返し、その意味を考察する。俺は何となくあいつの言いたいことがわかった。てか俺がレイにハモリやるんだからわかってなきゃダメか。

 

「もしかしたら…。レイが独壇場で立っているような歌い方してるから村上はダメって言ったのかな…。今の全部俺がレイにハモる時点で止めてたから。何だろうな…。あいつならきっと『赤沢の声に自分の歌声を委ねていない。しっかりしなきゃという意識が強すぎるせいでハモリをかき消している。』って言いそうだな。」

 

 俺の言ったことに全員が納得する。まったく、あいつはいつも言うことが難解すぎるんだよ。

 

「そっか。私が強すぎるのか…。」

 

 レイはそう言って歌声の調整に取り掛かった。さすがプロと仕事してきた人間だ。飲み込みが早い。

 

「あー、ダメだ!ごめんなさい。いや、理想っていうかイメージはわかってるんですけどそこに近づくためのステップがわからないっていうか…。」

 

 レイが珍しく悩んでるな。俺も似たような経験したよ。難しいよなこういうのって。だけど難しいからこそ面白い。

 

「それは模索するしかないわね。タロウが十分なヒントを与えてくれたのだから、ワタシ達はそれに応えるしかないわ。特にSUICIDE!ワタシもそうだけどあなた達はハモリもやるんだから精一杯支えなさいよ!」

「ちゆに言われなくてもわかってる。いちいち言わなくていいよそういうのは。」

「Why!?」

 

 これで良いのかって?いいんだよ。だってこれが俺たちの日常なんだし。

 

「もう休憩挟まなくて大丈夫か?大丈夫なら始めるぞ。」

「村上!お前どこ行ってたんだよ!」

「トイレ。」

「あー…。」

 

 トイレから戻ってきた村上が俺たちをまとめる。あいつ一番リーダー気質あるけどリーダー的な役割やりたがらないんだよなぁ…。何でだろうか…。

 

「それよりも、さっさと練習始めるぞ。時間は有限だ。」

 

 こうしてガールズバンドチャレンジを盛り上げるための最初で最後の練習が再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ、ガールズバンドチャレンジの決勝戦が始まった。あいつらが自分たちの今までの成果を発揮する日。あいつらここまでよく頑張ったよ。あいつらのパフォーマンスを見てそれをよく理解した。

 

「すごいねみんな。」

「そうですね。」

 

 僕たちも陰ながらあいつらのパフォーマンスを称賛する。そしていよいよ結果発表の時だ。

 

「グランプリ、Roselia!ベストパフォーマンス賞、RAISE A SUILEN!ベストバンド賞、Poppin'Party!」

 

 そして結果が発表された。なるほど。得票数の多い順なのか。いやー、審査員よく選んだわ。これは難しい。自分が審査員だったら選ぶのに一時間はかけると思う。それぐらい難しいもん。

 

「皆さん、今日まで本当にありがとうございました!」

 

 来た。いよいよ僕たちの出番だな。戸山のMCを合図に、僕と音緒は楽器を持って、他の三人は何も持たずに出てくる。オーディエンスは僕たちに気づくと一斉にざわつき始め、歓声をあげる。

 

「はい、皆さんご存知の通り本日はSUICIDEの皆さんと一緒に歌います!今日までこのガールズバンドチャレンジが行えたのは皆さんの温かい声援があったからこそです!本当に感謝してます!今日はその感謝の気持ちを歌に乗せて届けようと思います!」

 

 よく言った戸山。そうだ、高校生。今が一番パワーに満ち溢れている時だ。そのパワー、この武道館にもぶつけてみろ。

 

「それでは、皆さん一緒に歌いましょう!“Heavenly Psycho”!」

 

 “Heavenly Psycho”って直訳したら天国の精神病者って意味だけどこれは造語で、究極の精神という意味を持つらしい。はい、そんな僕の余計な一言でした。以上。では。

 

レ「いつも夢に 選ばれないまま 陽が登り♪」

 

レ・M(↑)「沈んでゆく 日々♪」

 

友「そこに僕の姿がなくても 世界は簡単にまわった♪」

 

香・y(↓)・a(↓)「でもこうして繋いだ手♪」

 

香「一人じゃないね♪」

 

全「胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ

泪にさえも戸惑うことなく 願いを歌う♪」

 

友・レ「ありきたりの質問に答えて 許される♪」

 

友・レ・チ(↑)・N(↑)「明日ならいらない♪」

 

り・チ「そう言ってはみだしてから♪」

 

り・チ・M(↑)「行き着く場所に限界はなくなった♪」

 

香・y(↓)・a(↓)「不安だってわかり合って♪」

 

香「笑ってたいね♪」

 

全「夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた

だから何回もためしてみるんだ 希望の歌♪」

 

香「目の前の闇を♪」

 

香・y(↓)・a(↓)「かき分けて♪」

 

香「届くまで…♪」

 

ロ「震える思いに♪」

 

ロ・R(↑)「また登る太陽♪」

 

全「胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ

泪にさえも戸惑うことなく 願いを♪」

 

友「Heavenly♪」

 

全(友)「夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた♪」

 

全「だから何回もためしてみるんだ 希望の歌♪」

 

香「Heavenly Psycho♪」

 

友「wow wow yeah♪」

 

香「Heavenly♪」

 

友「Heavenly♪」

 

レ「Heavenly♪」

 

香・友(↑)・レ(↓)「wow yeah♪」

 

全「希望の歌♪」

 

 終わった。ようやく終わった。これまで本当に長かった。まぁ別に僕は直接ガールズバンドチャレンジに出場した身ではないけれども、スタッフとして微力ながら力添えをした。

 これから先、どんな困難が待ち受けているのかわからないが、僕達大人組ができる事はこいつらが見ようとしている世界に連れて行き、その世界を見させてあげる事ぐらいだ。もし、君の近くにいる誰かが同じような景色を見ようとしているのであれば、その時は後押ししてやれ。それが今を生きる者の責務だ。さて、これから先、どんな事が起きるのやら…。



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第3章
第21話「走り始めたばかりのキミに」


第3章からは時系列バラバラな展開なので要注意でご覧ください


 

 

 ガールズバンドチャレンジから数ヶ月、湊たちは高校を卒業し、それぞれの道を歩みつつ自分たちのバンドの活動に精を出している。僕はというと、新居が完成した以外には変わりはない。去年から社会人になったし変わる事は今後ほとんどない。だが、これからはより一層気を引き締めていかないとな。

 

「Rawさーん!!!」

 

 すると僕の作業部屋のドアの向こう側から何やらやかましい声が聞こえてきた。正体はわかる。戸山だ。もうこの時点で嫌な予感しかしないけど…。

 

「何だ戸山。やかましいぞ。」

 

 戸山は今年から高校三年生。そろそろ進路も考えないといけない年だな。てかあいつ進級できたんだ。

 

「実は…。」

 

 僕は後々面倒になると思ったので戸山の話を聞く事にした。内容はこうだ。

 戸山の隣のクラス、つまり3年B組の生徒である南 麗(みなみ うらら)が妊娠していたそうなのだ。高校生にして妊娠という事実もまぁ驚く事なのだが、異変はそれから。それまで友人の多かった南が急に一人になったそうなのだ。別にいじめとか目立った噂は無いとのことだ。まぁ仲間外れなら十分いじめてると言えるけどね。

 

「なるほどねぇ…。」

「ってお前ら。いつからそこにいたんだよ。」

 

 部室のドア付近からちゆ以外のSUICIDEメンバーが入ってきている。今の話聞いてたのか。

 

「まぁ、高校生が妊娠ってそれだけで非難の的になるもんねぇ…。」

「それ高校生が妊娠したから叩いていいって免罪符にはならないだろ。」

 

 独り言を呟く由美に対して小泉が反論する。由美の言う通り高校生の妊娠は叩くのにうってつけとも言える。

 

「お願いしますRawさん、何とか麗ちゃんを助けてください!」

「そんなものはお前ら生徒同士で解決しろ。大体僕は学校の人間じゃないんだからそんな問題が本当にあるかどうかすらわからん。たかだかいちレコード会社のトップに依頼するな。解決してほしいなら警察だの弁護士だのに相談しろ。」

 

 僕はそう言って戸山を追い払おうとする。いい?これは学校内でのトラブルだ。そこに僕が入り込む必要はない。内輪揉めなら勝手にやってろって話だ。

 

「お願いしますそこを何とか…!」

「学校なんてそんなもんだよ。我慢できなければ退学すればいい。」

「そんな単純な話じゃないんですよ…。そもそも、Rawさん誰かを助けようって思わないんですか!?」

「僕は人を助けてるんじゃない、自分自身の信じた正義のもと動いているだけだ。事実確認の取れてない問題などどうでもいい。助けてほしいなら証明できるものを持ってこい。」

 

 僕はそう言って戸山を追い出した。まったく、疲れるったらありゃしない。

 

「ローくん、さすがにあの追い返し方はないんじゃない?」

「あの程度でそんな事言うのは甘えですよ甘え。僕は事実を確認しない限りは絶対に干渉しません。」

 

 明日奈さんがそう言うのできちんと返してあげる。だって僕偉いから。はぁ、ちゆに頭撫でられながら偉い偉いって褒められたい人生だった…。

 

「でも検証するに越したことはありませんね。」

 

 僕は携帯を取り、ある人物に電話をかける。今放課後の時間帯だからすぐに出てくれるとは思うが…。出なかったらまた別の奴に。

 

「僕だ。頼みたい事がある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例のブツは持ってきたか?」

「はい…。」

 

 翌日、僕は山吹を呼び出して、っていうか僕から山吹の家の近くまで行き写真のデータを見せてもらった。戸山の言っていた通り、南 麗が一人で歩いている姿を写した写真を見せてもらうと同時にある一枚のスクショも確認した。それには“キティ”と名乗るアカウントがTwitterで投稿したツイートが写っていた。僕は同時に自身のTwitterを開き、ID検索でアカウントを見つける。やはり僕の端末上にもスクショの画像と同じツイートがされている。

 

『高校生で妊娠とか馬鹿じゃないの?笑

育てられないくせに呑気にイチャコラするなって話!本当迷惑!』

 

 まぁ、そのツイートが上の通りなのだが何とも胸糞悪いツイートだよ。しかもこれ何が悪質かって鍵垢じゃないところだよ。さも同意してもらいたいですよみたいな精神が見えてるのが本当に気持ち悪い。人の見えるところでひけらかそうとするな。

 

「山吹、この南という生徒がいじめられているという噂を聞いたことは?」

「一切無いです。麗が妊娠していたっていう事は学校中に広まったんですけど…。」

「おかしい…。」

「え?」

 

 山吹の話を聞いているうちに僕は一つ、不可解な疑問を抱いた。

 

「南が妊娠した事実が広まっているなら、何故いじめられた事が噂になってないんだ?SNSにこんな書き込みしてるぐらいだ。リアルでも何か良からぬ事をしているはずなのに…。」

「たしかに…。」

「山吹、お前は若宮と共に情報を集めてくれ。僕も僕でやる事はやるが、立場上あまり派手に動けないし時間もそんなに取れない。いいな。」

「はい!わかりました!」

 

 山吹と僕がその場を去ろうとした瞬間、僕は一つ山吹に訊き忘れた質問をした。

 

「そういや山吹、この南って生徒の彼氏はどこの高校だ?」

「あー、噂で聞いたところによると聖北斗学院だそうです。」

「区内の高校随一の進学校か。」

 

 聖北斗学院。羽女を凌ぐほどの偏差値を誇る進学校。言っておくと、ペーパーテストで高得点が取れるのと頭がいいのは似て非なるものだ。よくイコールにされがちだけどな。進学校に通っているからと言って避妊に気をつけているとは限らない。まぁ進学校ってガキの中だと頭良いっていう連中の集まりだがな。そういう奴の中で粋がってるワルほど真に悪意を持った大人達に利用されやすい。

 

「これで一通り情報は揃った。後はこの情報をもとに聞き込むだけだな。ありがとう。じゃあな。」

「はい、では失礼します。」

 

 そう言って僕と山吹は今度こそ本当に解散した。さて、明日からまた忙しくなりそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は花咲川の近くの場所で3年B組の生徒を待っていた。山吹にSNSアカウントを教えてもらったおかげで顔は把握できている。名前が分からずとも、顔が把握できていれば十分だ。しかし、花咲川の制服ってわかりにくいな。羽女の制服だったらネクタイの色でわかるのに。

 すると、3年B組の生徒の一人が校門を出てきた。僕はすかさずその生徒の前に現れる。

 

「君に聞きたいことがある、南 麗の妊娠は知っているな?」

「はい、そうですよ。ていうかそれ学校中で話題になったんで知らない人なんていませんよ。」

「君はどこのクラスの生徒だ?」

「3年B組です。」

 

 事実確認が取れたところで、改めて本題に入る。

 

「3年B組か。だったら、このSNSの書き込みは知ってるよな?」

 

 僕はすかさずキティというアカウントのツイートを生徒に見せる。彼女はあり得ないほど瞬きをしつつ、その場を去ろうとした。

 

「知りません、そんなの…。」

 

 確信した。彼女は嘘をついている。やはり何かあったんだろう。妊娠が発覚した後にも何かが。

 

「人間はな、緊張している時に瞬きの回数が多くなる。それは嘘をついている時も然り。嘘を見抜かれてはいけないという緊張感から瞬きの回数が多くなるんだ。お前、誰に口封じされている?このキティってアカウントの持ち主か?」

 

 僕がそう語り出した瞬間、女子生徒は急に全身が震え出し辺りをキョロキョロと見回した。

 

「言ったら、殺されます…。」

「誰に?」

 

 僕はその女子生徒から話を聞いた。端的に言うと、何ともつまらない結論ではあったものの、さらに調べなければならない事が増えた。そしてそれは僕がこの花咲川に乗り込まなければならない事を意味していた。

 

「なるほどな…。そうだ、一つ聞き忘れていた。その南が付き合っている男の名前わかるか?」

「はい、松田 征爾っていう名前だそうです…。」

「なるほどな。わかった。ありがとう。」

 

 僕はそう言い、花咲川付近の場所から立ち去った。さて、また色々と動かないとな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、この日は仕事が休みだったため花咲川に潜入する事ができた。潜入っていう言い方は語弊を生むか。ちゃんと顔パスで通れたよ。花咲川に乗り込んだ僕は先に山吹と若宮を呼び出した。もちろん、休み時間でなおかつ移動教室のない間にだ。

 

「なぁ、本当に南がいじめられていたって噂無いのか?」

「だから、無いですよ…。驚くことに。B組みんなが無いって言ってるんですから。」

「それじゃあ確証に繋がらん。どんな些細な事でもいい。何か関連するものはないか?」

「うーん、でもいじめアンケートに書けばいい話ですからね、いじめがあれば。」

「いじめアンケート?」

 

 花咲川にいじめアンケートの存在があることを山吹から知らされた僕はこんな質問をする。

 

「南の妊娠が発覚した日っていつだ?あと、最後にいじめアンケートが行われた日は?」

「そうですね、ウララさんの妊娠の話が広まったのが四月で、最後にいじめアンケートをしたのが今月のはじめです!」

 

 若宮が僕に教える。具体的とは言い難いものの、僕が動くには十分な明確さだった。今は五月の終わりでもうすぐ六月。おそらくまだ残っているはずだ。

 僕は職員室に行くと、仮説を確証に変えるために校長に直談判した。

 

「すみません。四月もしくは五月に行われたいじめアンケートってまだありますか?3年B組の。あるなら見せてもらいたいんですけど。」

「え、えぇまだありますけど…。何のために?」

「おそらくあなた達も知らない、負の連鎖をここで断ち切るためです。」

 

 僕は校長からいじめアンケートを受け取ると、ある事に気づいた。その時、僕の仮説は確証へと変わった。なるほど、事件が雲隠れしていたのはこれが原因だったか…。

 事の真相を知った僕は校長に南 麗を呼び出させ、話を聞く事にした。

 

「あ、あの…。私…。」

「安心しろ。取って食うつもりは無いし、お前が殺される心配は無い。お前に訊きたい事がある。まず、お前をいじめている奴の名前を言ってくれ。」

「はい、菊川…安奈さん…です…。それから、菊川さんの友達のグループが…。」

 

 菊川 安奈。おそらくそいつが主犯だろうな。キティとか言う名前のアカウントもおそらくこいつだ。

 どうやら、菊川がいじめてきたのは唐突の事らしい。なんでも、南と菊川はそもそもつるんでいるグループが違かったそうだ。それなら関わる事はほとんどないか。

 

「なぁ、今回の妊娠って不慮のものなのか?」

「いえ…。征爾君と『赤ちゃん産めたらいいね』ってお互いに話してて…。」

 

 なるほど。お互い合意の上での妊娠か。だがその妊娠が理由でいじめるのは少し論理が飛躍し過ぎているような気がする…。そこが長い間引っかかっていた…。ならば…。

 

「お前も松田も妊娠する前までに、菊川 安奈の話はしていたか?」

「そ、それが…。」

 

 僕は南の話をじっくり聞いた。そしてそこからとある事実が発覚した。それがこいつを苦しめていた最たる原因というものか。そして南がいじめられていた本当の理由。何とも浅はかで、愚かなものだ。

 

「わかった。ありがとうな。家まで送ってやろう。」

 

 南はすっかり僕に心を開き、僕の余計なお節介を承諾してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南を家まで送り届けた後、僕は南から教えられた住所へ行き、松田 征爾を呼び出そうとした。が、その必要は無かった。ちょうど僕がインターホンを鳴らそうとした時に松田が帰宅した。

 

「何か用ですか…?マスコミの人ですか?言いましたよね?俺たちは合意の上でやったんだって…!」

「僕はマスコミの人間じゃない。お前に一つ訊きたい。菊川 安奈という人間がお前の恋人をいじめいている。菊川 安奈について何か知っている事はないか?」

「実は…。」

 

 松田は全てを僕に打ち明けた。これでようやく今回の事件の全容が理解できた。やはり、僕からしたらひどくつまらない結論だったがそれが事実だ。

 松田から一通り話を聞き終えると、山吹からメッセージが届いた。

 

『明日、生徒総会があるのでそこで公表しましょう。』

 

 これは僕にとって絶好の機会だった。生徒総会のように全校生徒や全教員が集まる場で事実を公表した方が話が早い。だが、リスキーだ。山吹も一か八かの賭けをしている。それでもやるしかない。どうにもならない賭けだが、どう転んでもいい。事実を公表できれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金曜日、生徒総会が開かれた。生徒会に所属している私には億劫で緊張感ある集会ではあるが、生徒会に身を置いている以上は何としても無事に終わるようにしておきたい。

 

「ただ今より、生徒総会を行います。」

「生徒総会をやるよりも、もっと取り上げなきゃいけない話題があるんじゃねぇのか?生徒会執行部さんよ!」

 

 不意に透き通った低い声が聞こえ、体育館のドアが開いた。ってRawさん!?何であの人が校内に!?

 

「ちょうどいい頃合いだ。ここで、全校生徒そして全職員にとある事件の真相を教えてやろう。逃げようとしても無駄だ。外部から鍵をかけてある。」

 

 あの人何馬鹿な事してんだよ!それに外部から鍵って…。そんなのできる人アレックスさんぐらいしかいねぇだろ。あの人MENSAの会員だからな。

 

「南 麗の妊娠発覚はお前ら知っているな。高校生で妊娠、それも自分らの高校の生徒が当事者なんだ。噂にならない筈がないよな?」

 

 Rawさんがマイクを手に取り、話し始める。南 麗ってまさか南さんの妊娠の話をする気なのか…?

 

「だが、その後に南がいじめられた事は誰も知らなかった。教職員や他学年の生徒はおろか、南と同期の3年生の生徒すらも知らなかった。理由はとある人物が『絶対に他のクラスにバラすな』と脅しをかけていたからだ。なぁ、樋口 正徳先生。」

 

 え、樋口先生が脅し!?たしかにあの人は3年B組の担任の先生だけれど、けど脅すなんて事あるのか…?あんなに優しくて人気があるのに…。

 

「樋口は南がいじめられていた事を知っていた。南本人にもその事で相談を持ちかけられていたし、いじめアンケートにもその事実が書かれた。けれど、あんたは相談を断り見て見ぬふりをした。そして何よりいじめアンケートの回答だ。あんたの書いた書類と南のノートを見て驚いたよ。まさかあんたと南の字が似ていたとはな。いじめアンケートの回答を改竄するには好都合だったというわけだ。消し切れたつもりだったんだろうけど残念だったな。お前が改竄しても南の字が書かれた跡が残ってんだよ!!」

 

 え、そうなのか!?どっちも丸文字だったのか…。ってそれはどうでもいい!嘘だろ!?先生が生徒のアンケートの回答を改竄するとかありえねぇ…。

 

「ちっ、違う…!俺は…!いじめアンケートの回答の改竄なんかしていない!第一、相談も受けていない…。」

「これを聞いても、同じ事が言えるのか?」

 

 Rawさんはそう言うとポケットからボイスレコーダーを取り出し、マイクに近づけて再生した。まさかあれって…。

 

『先生、お願いします…!助けてください…!』

『何を抜かしているんだ。馬鹿も休み休み言え。大体、君が妊娠したのが悪いんだろう。自業自得だと思いなさい。』

 

 音声を聴いた途端、周りの生徒たちがざわつき始め、樋口先生から遠ざかる。これ…。あの人本当にいじめを隠蔽しようと…。

 

「君には心底ガッカリしたよ。同じ教師として恥ずかしい。生徒に寄り添うのが、我々教師の務めなんじゃないのか?」

 

 うちの校長先生が樋口先生にそう語る。校長先生の言い分はごもっともだけど、いじめた人は別にいるのか…?

 

「さて、そろそろ本題の方に入ろうか。南をいじめた犯人、それは菊川 安奈とその周りの人間、佐々木 胡桃と安東 千尋だ。前に出てこい。言い訳しても無駄だ。SNSの書き込みもあるし、何なら証人だっている。」

 

 あの三人か…。まぁ、私自身もあの人たちに関してはあまりいい噂は聞いてなかったしな…。路上喫煙したとか万引きしたとか。何なら学校に警察来たこともあったし。

 

「佐々木と安東の二人は菊川に脅されてやったに過ぎない。だからといって罪が無いわけじゃないがな。問題は菊川だ。菊川は妊娠が発覚した途端、南をいじめた。一応言っておくと南は堕胎するつもりじゃなかった。本当に出産しようとしていた。なのにそれがいじめにまで発展するのか?自分が危害を加えられたわけてもないのに。そうじゃなかったんだ。妊娠が明らかになったと同時に、もう一つの事実も明らかになった。南が付き合っていた男、松田 征爾。お前さ、松田と付き合ってたんだろ?」

 

 え、そうなのか!?Rawさんよくそこまで調べられるよなぁ…。すげぇ…。てか菊川さんと松田って人付き合ってたのか…。

 

「そうよ…。あたしは征爾と付き合ってた。でも南が!あの泥棒女が!あたしの征爾を奪ったのよ…。挙げ句の果てには妊娠してて…。妊娠した時に南とセックスしたのが征爾だって事を初めて知って…。だから許せなかった!あたしは自分の感情に素直に従っただけよ!!それの何が悪いの!?」

「ふっ…。フッハッハッハッハッハッハッハ…!アッハッハッハッハッハッハッハッハ…!!」

 

 菊川さんが全てを話すとRawさんは甲高い笑い声を体育館中に響かせた。その笑い声は狂気に満ちていて、見てて怖い…。

 

「南が、お前から松田を奪った?違うね!松田が全部教えてくれたよ。そもそも、南が松田と付き合う前にお前は松田にフラれた。」

「違う!!あいつは絶対あたしが征爾と付き合ってた事を知っててわざと…!」

「それはお前の単なる被害妄想だ!!LINEの会話履歴も調べさせてもらったよ!松田は南に元カノがいるとは話していたが、その元カノがお前だとは一言も言ってなかった!!全部お前の勘違いだよ!!僕が何にも持たずにここに来たと思うか?」

 

 Rawさんは再びボイスレコーダーを再生し、マイクに近づけた。

 

『事実通りに話してくれ。お前と菊川は付き合っていたのか?』

『はい…。でも麗と付き合う前にきちんと別れました。本当に無理だ、って。二度と関わらないでほしい、って。でもあいつしつこくて…。』

 

 ボイスレコーダーにはRawさんと松田さんの会話が録音されていた。それを聞いた菊川さんが遠目で見てもわかるほど狼狽えている。

 

「やめて!!!やめて!!!」

「そうやって現実から逃げるのか!!!」

 

 Rawさんは素早い身のこなしで菊川さんを倒し、取り押さえる。右腕で菊川さんの首を抑えて完全に逃げられないように馬乗りになっている。そしてRawさんが菊川さんのスカートのポケットから何か見えていることに気づき、それを手に取った。

 

「自分の感情に素直になって、わざわざカッターまで持ってきていたとはな!!お前の罪がさらに増えた。銃刀法違反の現行犯だ。」

 

 Rawさんが菊川さんの所持していたカッターを没収する。あの人本当に何する気だよ…。生徒総会台無しじゃねーか…。ってそんな事言ってる場合かよ!

 

「いいか!世の中な、探そうと思えば希望も喜びも楽しみもいくらでもある!!でも現実は、お前が思っている以上に複雑で残酷なんだよ!!お前は、現実を見ることを恐れてずっと自分の居場所に甘えて、すがって、しがみついてるだけなんだよ!!!みんなそんな状態のお前を犠牲にして現実を見つめながら前に進んでいく!!だからな、お前自身が前に進むためにはお前が変わるしかないんだよ!!!」

 

 Rawさんの声が辺り一面に響き渡る。あの人の声は聞いていて悲しみが伝わってきた。口では強い言葉を使ってるけど、本当はあの人は泣いているのかもしれない。心の中で。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!」

「そうか、まだ現実から逃げるか。いいか?お前がやろうとしていた事はな、こういう事なんだよ!!!」

 

 Rawさんが左手でカッターを取り出すと、菊川さんの顔にめがけて振り下ろした。

 

「やめて!!!」

 

 誰かがそう言ったけれど、Rawさんは躊躇わなかった。数秒しても、悲鳴が聞こえない。Rawさんが刺したのは体育館の床だった。菊川さんの真横を刺したんだ。

 

「人に刃を向けられた気分はどうだ…?怖かっただろ?あいつはな、これと同じ恐怖を味わっていた。辛い、苦しい、怖い、どうしよう、学校に行きたくない、悲しい、嫌だ、助けて、誰か助けて!!あいつはそれを吐く場所すらも無かった…。それを吐いても、誰も相手にしてくれなかった。そして、お前はまた過ちを繰り返そうとしていた。恐怖を与えようとしていた。あいつの心に傷をつけようとしていた。お前の軽はずみな感情一つで!!!命が奪われるところだったんだぞ!!!そんなお前に!!!現実から逃げる資格なんてねぇんだよ!!!…罪を償うかどうかはお前が決めろ。」

 

 Rawさんは立ち上がり、菊川さんの拘束を解いた。そしてRawさんの姿が消えた後、体育館中が大騒ぎになった。あの人、とんでもねー事しでかしてくれたな…。でも良かった。最悪の事態を免れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ポピパの連中が僕を呼び出した。場所は市ヶ谷の家。という事でやって来ました。ここが市ヶ谷の家か…。デカくね?冗談抜きでジジイになったらこんな家住みたい。

 

「すご…。」

「もっとすごいのがあるんですよー!」

 

 戸山に案内され、僕は蔵に行く。蔵の中にはおそらく出品されるものであろう商品が数多く並んでいた。市ヶ谷の家って質屋だったのか…。

 

「私のランダムスターも、この蔵で見つけたんですよ!」

「ランダムスターを?そりゃまた物好きがいたものだな。」

 

 今戸山にも言ったが、ランダムスターを手放すなんて物好きな奴だ。よほど贅沢な人間なんだろうな。

 

「そしてー、この床を開けるとー…。」

「え!?すげぇ!!」

 

 床の扉が開き、階段が現れた。秘密基地みたいだな。童心にかえりそうだ…。

 

「Rawさん、この間は本当にありがとうございました。」

「こっちこそ、勝手に暴れて悪かったな。」

 

 僕は戸山に頭を下げられた。別に感謝されるような事など何もしてない。

 

「あれから麗ちゃん、すごく明るくなりました!あと菊川さんも警察に自首してきちんと取調べを受けたそうです。きっとRawさんのおかげですよ。」

「本当か?そうだったら冥利に尽きるけどな。」

 

 戸山と話しながら階段を降りると、そこはいくつもの楽器や機材が設置されている他に花園や牛込、山吹や市ヶ谷など顔馴染みのメンバーが揃っていた。

 

「これは…。」

「私達、あの時Rawさんに大切な事を教わったんです。いくら相手が憎いからって言って、復讐に走って傷つけちゃ何も変わらない。相手が間違っているという事を伝える事が大事なんだってわかりました。今日はその思いを歌に乗せて伝えます。」

 

 戸山が僕に言ってランダムスターを持つ。今やあいつがあれを持つ光景も見慣れたものだ。

 

香「果てしなく続くこの道に ひとつだけ 決めたことがあるーー♪」

 

 これは…。たしか、“走り始めたばかりのキミに”だっけか…。曲調や展開が非常に素晴らしい一曲だ。

 

有「未来 変えたいのなら 今を変えればいいだけと

キミは歌うように言うけれど 踏みだせなかったね♪」

 

た「いつかあの場所(ステージ)に キミとなら立てる気がする

ひとみの奥の強い光に今 思いがあふれだす♪」

 

香「明日に向かって歌う my song 負けないでとささやく your heart

こぼれおちた夢のひとしずくが “終わらない”と告げている♪」

 

香・た・り・沙・有「めくるめく季節ぬけだして 泣きじゃくるキミを見つめてた

今はまだ届かなくたって 終わらない音楽(キズナ) 奏でよう♪」

 

香「走り始めたばかりのキミにーー♪」

 

 あいつらもこれから迷う事はあるだろうな。だからこそ僕たち大人があいつらに進むべき道を教えてやらねばならない。それが僕たちの役目だ。次の世代を担っていくのはあいつらなんだからな。



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第22話「Easy come,Easy go!」

 

 

 とある日の夕方、僕のところにまた訪問者が現れた。本当に嫌な予感がすると思ったら…。最悪だ。上原 ひまり。戸山と同じタイプの人間だ。関わり合いになるのは構わないけど無茶振りされるのだけは勘弁だ。いや、関わり合いになるのも嫌なんだがな本当は。

 

「Rawさん!お願いがあるんですけどぉ…。」

「断る。」

「何でですか!?まだ何も言ってませんよ!!」

「言わなくてもわかる。嫌な予感がする。」

「ちょっと人助けしてほしいんですけど…。」

「断る。」

 

 ね?わかるでしょ?僕は一レコード会社のトップなのさ。加えてV系ミュージシャンなのさ。人助けが仕事じゃない。何でこうもみんな僕に頼み事をしてくるのさ。またストレスと疲労感を軽減するタイプのタブレット買ってこないと…。

 

「何でですか!?人助けですよ人助け!やった方がいいですって!!」

「人助けは僕の仕事の範囲外だ。大体そんなんお前は解決できないのかよ。」

「出来ないから言ってるんですよぉー!」

「出来ない事を偉そうに言うな。仕方ない。お情けだ、どんな内容だ?」

「よくぞ聞いてくださいました!実は…。」

 

 内容はこう。上原の所属するテニス部でいじめが起きていたのだそう。上原は三年生。ガツンと言える立場にいながらそれができないのは、いじめている相手が後輩だからだ。上原が何か言っても「私達がいじめたっていう証拠はあるんですか?」と突っ返されるらしく、困っているとのこと。

 

「先輩から後輩へのいじめはあるんですけど、後輩から先輩へのいじめって中々難しい問題なんですよ…。」

「先輩か後輩かなんて関係ない。社会でも普通に上司にパワハラする社員だっている。問題はやったかやってないか、それだけだ。」

「やってました!見たんですもん!」

「見ただけじゃ証拠にはならない。僕も行く。」

 

 これ以上上原の相手をするのは疲れる。ここは穏便に提案に乗るしかない。いじめているのが本当ならば黒だ。それに応じて策を講じなければならない。

 

「本当ですか!?ありがとうございますっ!」

「ゔっ!!」

 

 僕が渋々承諾すると上原が僕に抱きついてきた。いや、みんな胸の感触がどうこうとか言うでしょ?それ以上に上原の頭が僕の心臓ある辺りにダイレクトアタックしてきたんだけど。マジで肋折れたんじゃねぇかぐらいのダメージ。みんな気をつけろ。上原は石頭だ。それもかなり上級の。

 

「えっ、Rawさん大丈夫ですか!?」

「いてぇ…。」

 

 これは幸先悪そうです。今回も、こんな僕が色々やらかします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は一旦羽丘に乗り込まずにテニス部の活動を学校外から見ることにした。いじめられている三年生の子の名前は佐々木 千夏。で、いじめている二年生の連中が阿部 芽依、濱口 玲華、工藤 春海。上原からの情報はこの通りだ。まずはいじめられているか否かの確認。上原には見つけ次第注意するように言っておいた。もしもの場合は僕が乗り込む。論破はできなくてもいいからやめさせるようにはしとくって言ってたなあいつ。それが裏目に出なければいいんだがな…。

 

「ほらほら、さっさと片付けしてくださいよ先輩!」

「本当にノロマだわー。練習時間無駄になってるのあんたのせいだからな?」

 

 突如、塀の外からそんな話し声が聞こえてきた。こりゃあ上原も大変だな。あいつら三人とも人生台無しにしてやろうか。

 

「ちょっと!何してるの!?やめて!!」

「ひまり先輩!私達は、注意してるだけです。余計なことしないでください。」

 

 会話を聞いている限りは上原が押され気味ってところか。あいつも大変だな。

 

「大丈夫?」

「いや、いいって…。」

 

 おそらく佐々木であろう人物が上原を避ける。まぁいじめられてたら心理的に厳しいよな。

 そんな事をしばらく考えていると、上原が校門から出てきた。今日はバンドの練習もないそうなので送ってやる事にした。

 

「Rawさんって、SUICIDEのボーカルなんですよね。いいなぁ〜、だって名実共にナンバーワンで無敵で強くて…。すごいから本当に羨ましいです!」

「そんなに楽じゃない。」

「え?」

 

 上原は僕の事をすごいと言ったけど本当は違う。メタいけどこれを見てる君たちも僕らの事をチートだの何だの、文句を垂れるかと思うけど本当はそんなにすごくない。技術も表現力もあるかもしれないけど、僕には才能は無いんだよ。

 

「僕がお前くらいの歳の頃にメジャーデビューした時、大ブレイクしたわけじゃない。そこから一年間下積みが始まったんだ。苦悩が消えたわけじゃない。その翌年にSUICIDEを結成しても辛く苦しい日々の連続だった。けど頑張るしかなかったから頑張った。それだけだ。」

 

 SUICIDE自体は結成して一年後のFWFでようやく話題を集める事ができた。まぁ僕だけじゃなくて他のメンバーも一生懸命頑張ってたからな。それに明日奈さんと小泉は個人の活動にまで積極的になってSUICIDEの知名度貢献に役立っていた。

 

「そんな過去が…。」

「そりゃ僕たちにもある。それでわかった事は一つ。才能の差はそこまで大きくはないけれど、経験の差は大きい。努力の差はさらに大きく、継続の差はそれ以上に大きい。」

 

 好きこそ物の上手なれという言葉は聞いたことがあるよな。やっぱり僕ら自身音楽が好きでそれを形にしてやってるからここまでやれてるんだと思う。

 

「あ、一つ頼みたい事がある。上原、千円貸してくれないか?」

「別に良いですけど…。」

 

 僕は上原から千円札一枚を確かに受け取った。万が一の可能性もあると踏んでいるが、これは本物のようだ。

 

「ありがとう。後で返す。」

 

 僕は上原から千円を借りると、踵を返した。まぁ後で返すって言っておいたから大丈夫だ。問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、羽丘に潜入した僕は宇田川妹と朝日を呼び出した。え?どうやって入ったのって?顔パスだよ。

 

「お前らたしか阿部 芽依とその腰巾着の連中と同じクラスだったよな。」

「え、まぁそうですけど…。」

 

 朝日が少し怯えながら話す。クラスのカースト的に見てもあの三人はトップなのか。おい誰だ今僕に怯えてるとか言った奴は。後でケツ吹き矢の刑。

 

「他には?お前らの知り合いにテニス部の人間はいないか?」

「まぁ、いる事はいますけど…、、それ聞いて何するんですか…?」

「頼みたい事がある。」

 

 僕の質問を宇田川妹が質問で返す。質問を質問で返すなあーっ!!ってセリフが某奇妙な冒険であったな。懐かしい。

 そして僕は計画の内容を二人に説明した。二人とも理解力あるからすぐに頭に入れ込んでくれたよ。

 

「なるほど。でもそんな事したらあこ、友希那さんに怒られちゃいますよぉ…。」

「私もチュチュさんに怒られます…。」

「安心しろ。あいつらには後で僕から言い訳しとく。お前らは部活が押してるだのバイトが押してるだの言っとけ。少なくとも、お前らが咎められないようには善処する。」

 

 リスキーなのはこの計画が阿部とか濱口とかに全容を気づかれないようにしないといけない事だ。別にあいつらにプレッシャーかけるつもりはないけど、上手くいくか否かはあいつらの作業のスピードにかかってる。あまりにも鈍臭い真似したらもう終わりだな。ではまた明日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、私が教室に入り席に着くと一枚の封筒が入っていた。中身を確認するとそこには一枚のDVDが入っていた。

 

「お〜、ラブレターですか〜。」

「違うよ!そんなんじゃないっ!」

 

 私の様子を見に来たモカが揶揄する。三年生に進級して、私を含む。Afterglowのメンバーは全員3年A組の生徒となった。

 

「にしてもこれ、どうしようかなぁ〜…。」

 

 中身はDVDであって動画のファイルではない。DVDプレイヤーが無ければ見られない。これは家に帰ってみるしか方法がない。

 

「おっ、ひまりどうしたんだ?」

「巴!いや、別に何でもないよ?」

「そ、そうか。ならいいんだけど…。何かあったらいつでも言えよ!」

「うん!」

 

 危ない…。いきなり巴に話しかけられてビックリした…。流石にこれが何だかわからない状態でDVDを持ってるって事を言っても多分捨てられるからやめておこう、これの存在ついて話すのは…。

 早速鞄に入れようと思った私は自習用の教材を机の上に置き、授業で使う教科書を鞄から取る。

 

「あれ?ひまりいつからそんなにガリ勉になったの?」

「蘭!?い、いやだな〜!今三年生じゃん!そろそろ受験の事も考えないと、でしょ?ほら!勉強しよう!」

 

 今までで一番危なかった…。ホームルームが始まったら自習用の教材ごとDVDを入れちゃおう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私はまるで部活に集中できていなかった。客観的に見たら心ここにあらずという感じだろうか。家に帰ってDVDを見てみたけど…。まさか千夏のいじめられてる光景が撮影されたものだったなんて…。でも、これでやっと証拠を掴めた。あの三人にもはや自分を守るような盾は無い。今すぐに行こう。

 そう思ってテニス部の部室に向かっていると、またもや千夏に対するいじめが行われていた。

 

「何ですかぁ?また私達が先輩をいじめてるって言いたいんですか?」

「そうだよ!このDVDには、芽依達三人が千夏をいじめてる映像が記録されてる!ねぇ、どうしてそんな事をするの…?千夏が、三人に何かした?寄ってたかって三人でいじめなんて…。三人とも、最低の人間だよ!」

 

 私は泣きそうになるのを堪えて必死に言葉を紡ぐ。怖くないと言ったら嘘になる。千夏を連れて逃げ出したい気持ちでいっぱいだけど、戦わなくちゃいけない。

 

「はぁ…。だったらその証拠壊すしかないよね!」

 

 芽依はそう言うと私にナイフを突きつけた。でも、私は言いたい事を言った。悔いは無い。けど、蘭たちに何て言い訳しようかなぁ…。死んだら、終わりだよね…。でも、出来る限りの事はするしかない!

 

「死ねよ!!」

 

 芽依がナイフを振り翳す瞬間、私は芽依を突き飛ばした。頭を打ちつけはしなかったものの、芽依はその場に倒れ込み再び立ちあがろうとした。ナイフを再び手に取ろうとした瞬間に私は芽依の頬に平手打ちを喰らわせようとする。けれど、その手は一人の人によって止められた。

 

「Rawさん…。」

 

 Rawさんだった。彼の顔を見て、今まで我慢していた涙が溢れ出してしまった。

 

「お前がやろうとしてた事、僕が引き受ける。」

 

 Rawさんはそう言うと千夏を私に預け、芽依達と対峙した。

 

「どけよおじさん!!」

「はぁ…。行動だけじゃなくて言葉遣いまで絶望的だな。親はどんな思いでお前を育ててきたんだろうかね。顔を見てみたいもんだよ。」

「ふざけんな!!!」

 

 芽依はRawさんの発言に激怒し、彼にナイフを突きつけて突進してきた。Rawさんが左腕でガードしたから最悪の事態には至らなかったけれど、左腕からは相当な量の血が傷口から溢れていた。

 

「いってぇ…。はい、お前ら全員傷害罪の現行犯。」

「何だと!」

 

 Rawさんは三人に向き直った。本当にやるのだろうか。そう考える間もなく、芽依がナイフを刺そうとする。今度こそRawさんの心臓めがけて刺すためだろう。でもRawさんはそれ以上に素早い動きでナイフをかわし、芽依の腹部に一撃パンチを浴びせるとそのまま背負い投げで倒した。その後、ナイフを蹴飛ばし拾えないようにした。

 

「芽依!よくも!!」

 

 さらに玲華と春海がRawさんに殴りかかりに行く。Rawさんはそれを見切り、まず春海の腕を掴むと彼女の腹部に蹴りを入れ、次に玲華のパンチをかわすとカウンターとしてアッパーを喰らわせた。

 

「人生ナメすぎだよクソガキども。いじめてる時点で犯罪者。過ちを犯した奴に男も女も関係ない。殺そうとするなら潰す。それだけだ。」

 

 Rawさんはそう言って芽依に馬乗りになると彼女に平手打ちをした。おかしい。グーで殴る事もできたのに何でビンタで済ませたんだろう…。

 

「もしまた誰かいじめてみろ。今度は本気でお前らの人生滅茶苦茶にしてやる。」

 

 その時のRawさんの放った言葉にはかなりの重みがあった。言葉では表せないほどに。

 その後、部室を出て千夏を校門まで見送るとRawさんが一緒に帰ってやる、と言ってくれた。

 

「あ、あの…。さすがにあれはやりすぎだったんじゃ…。」

「クズは一度自分が傷つかなきゃわからない。あれぐらいがちょうどいいさ。それに、僕が撮影してなければ今頃佐々木 千夏は死んでたかもな。」

 

 Rawさんの言っている言葉の意味がわからずしばらく考える。考えた末にようやく意味がわかった。と同時に一つの疑問の答えがわかった。

 

「あのDVD机に入れたの、Rawさんだったんですか!?」

「ああ、そうだ。それと千円。返すよ。」

 

 先日、私がRawさんに貸した千円をようやく返された。Rawさんから聞いた話だと、あこちゃんが私に千円を返すから部室の鍵を貸して欲しいという旨の要求をした風を装って、もう一人のテニス部の子と企んで部室を開けた後六花ちゃんがカメラを設置するという…。何て面倒な作戦…。って思ったけど、後から聞いたらRawさんは「千円を上手く口実に使ってテニス部にカメラ仕掛けろ」としか言ってなかったらしい。

 

「ってそれよりも保健室行きましょ!!怪我してるじゃないですか!!」

「この程度の痛み、どうという事はない。」

「ほら痛いんじゃないですか!行きますよ!!」

 

 私はRawさんを連れて保健室へと向かった。まだ下校時刻まで時間があったため、開いていた。

 

「本当、無理な事しますよね。Rawさん。」

「僕は僕ができるだけの無理をしてるだけだ。」

「ダメですよ!Rawさんは一人じゃないんです。何かあったら私がいますからその時は遠慮なく頼ってくださいね!」

 

 私が精一杯の笑顔でそう言ってみせると、Rawさんは少しはにかんだ。普段の気難しい表情からは想像できないような表情でとても愛おしく見えた。

 

「うん、大丈夫だ。先生、ありがとうございます。行くぞ上原。」

 

 学校を出た後、Rawさんは私と一緒に家まで向かった。Rawさんなりに心配してるのかな…。

 

「大丈夫ですか?」

「何ともない。ほら着いたぞ。さっさと帰れ。」

「はい、ありがとうございます!さようなら!」

 

 Rawさんに感謝の言葉を伝えて玄関の前まで来てはみたものの、やはりRawさんの事が気になって仕方ない。そもそも何故あの人はあんな性格なのだろう。時々感情の無いロボットと話をしている気分になる。うん、決めた。こっそりRawさんを尾行してみよう。何かわかるはずだし…。

 

「うっ…!はぁ…はぁ…。」

 

 Rawさんを追って、私の目に見えたのは塀に寄り添いながら包帯を巻いた左腕を抑えて歩みを進めるRawさんの背中だった。あの場所、さっき刺された傷だ。そう思った瞬間、私はすでに行動していた。

 

「やっぱり大丈夫じゃないじゃないですか!!行きますよ!」

「おい…。帰れって言ったろ…。いいからさっさと…。」

「Rawさんのこんな姿見たら帰れませんよ!!」

 

 結果的に、Rawさんの家に入ることになった。てかすっごい広い…。一人暮らしで一軒家ってどれだけお金持ってるの…?

 

「あんまりジロジロ見るな。」

「すみません…。」

「にしても、お前あいつらに殴りかかろうとしてたよな。あれはいただけなかった。人を傷つけるっていうのはさ、嫌な感触なんだよな。僕は、他の誰かにそういう思いはしてほしくない。」

 

 そうか、だからRawさんはあの時私の分として平手打ちをしたんだ。私がやろうとしてた事を知ってたから。

 

「あと抱きつかれた時に思ったんだけどお前また重くなった?」

「…!」

「痛っ!暴力反対!!」

「女の子にそういう事を聞くのはNGなんです!!あと、暴力反対ってあなたが言える事じゃないでしょ!!」

「うるせぇなぁ、掛け声が古いくせによ!!今や時代はポピパピポパポピパパピポパだからな!!!」

「私達のバンド名でどう対応させられるんですか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、CiRCLEでAfterglowのライブが行われた。上原が誘ってくれたんだがね。まぁそれはどうでもいいか。

 ちなみに、ここに来る前に湊とちゆにどやされた。宇田川と朝日を巻き込んだ責めを負わなければいけなかったからな。謝罪みたいなもんだ。

 

「どういうつもりなのかしら…!RAISE A SUILENは最強を目指すバンドなのよ!あなた一人の事情でメンバーを巻き込むなんてありえないわ!!公私混同もいいところよ!!」

「ええ、本来音楽に使うべき時間をあなた一人の勝手な事情で無駄にした罪は重いわ。」

 

 湊とちゆには佐々木 千夏がいじめられていた事件の解決に協力させたとは言わなかった。個人のプライバシーの問題でもあるからな。だからちゃんと言い訳したよ。

 

「No pain,no gain.」

 

 二人とも急な英語に驚いてはいたけどすぐに対応してくれた。

 

「え、ええ。そうね。No pain,no gain.痛み無くして得るもの無し。ってこの場合ワタシ達痛みしか伴ってないわよ!!」

「そうよ。これじゃあ骨折り損のくたびれもうけだわ。第一…。」

「うるっせぇなぁお前らはさっきからグチグチグチグチ!!!なぁ、猫大好きポンコツその一と猫大好きポンコツそのニ!!!動けなくするぞ!!」

 

 その後に僕は去ったけど、あの二人から色々言われていたようだ。赤沢から聞いたんだけどね。

 

「え?は?ここにきてまさかの逆ギレ?タロウ…。やってることめちゃくちゃよ…。」

 

 てな具合でやってやりましたよ。そんな説明をしている間にもAfterglow登場。

 

「こんにちは、Afterglowです!早速いこう!“Easy come,Easy go!”」

 

 一曲目からいきなり飛ばしてきたな。いい具合のテンポの楽曲だ。

 

モ・ひ・巴・つ(Wow wo wow♪)

 

蘭「自分と他人は違うけど

ついついと♪」

 

モ・ひ・巴・つ(比べてしまいがち♪)

 

蘭「瞳から自分は見えない

だからさ♪」

 

モ・ひ・巴・つ(気になるものは♪)

 

蘭・モ・ひ・巴・つ「しょうがない!♪」

 

ひ「空回ってばかりでも♪」

 

モ・巴・つ(Oh,oh♪)

 

蘭「全力で答えてゆく♪」

 

モ・巴・つ(Oh,oh♪)

 

ひ「困った時はまかせてっ!♪」

 

蘭「それが 君の“いいところ”なんだ♪」

 

蘭・ひ(↓)「Easy come,Easy go!

毎日が挑戦さ 喜怒哀楽に目指してゆこう!

人を一心に思う その気持ちは

誰かの助けになるから♪」



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第23話「はなまる◎アンダンテ」

 

 

 今日は練習も仕事もないただの休日。そんな日の夜、やる事といえばプリキュアのダンスだ。これさえ出来ておけば何があっても恐れる事はない。え?作曲はどうしたって?もう配信する分は終わったよ。一日分の時間とモチベーションが有ればすぐ終わる。

 

「何してんのよ…?」

 

 おっと、失礼。ちゆにダンスを見られてた。まぁ別に恥ずかしいとは思ってないんだけど。

 

「プリキュアのダンス。」

「覚えて何になるのよ…。それより、話したい事があるわ。」

「何だ。」

 

 僕は一旦テレビの画面を停止し、ソファに座る。つかちゆの奴、僕に何の断りもなく勝手に座りやがって。お前の家じゃねぇぞここは。

 

「昨日、ヒマリ ウエハラと一緒に歩いてたけどどうしてかしら?」

「僕が怪我してたからだよ。本当は上原がいる時は我慢してたんだが、怪我のダメージに苦しんでたところを上原に見つけられた。」

 

 どういう事かって昨日の件の事ね。いじめてた奴らをボコボコにした後の話。あれ左腕刺されて痛がってただけなんだけどな。

 

「どこまでしたの?」

「い、いや…。抱きつかれはしたけど…。僕から手は出してないよ…。」

「そう…。」

 

 何だ、ちゆの奴。自分から聞いておいて。まぁ別にいいんだけど。そう思っていると、ちゆに突然引き寄せられ、唇を重ねられた。え?どうだったかってすごく柔らかかったです。はい。めっちゃ興奮しました。

 

「これは貰ってくわよ…。」

 

 ちゆは顔を赤ながらそう言った。僕の記憶が正しかったら生まれて初めて口にキスされたかもしれん。おいそこドン引くな。いくら僕が年齢=彼女いない歴の人間だからと言って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。まったく世話の焼ける奴。」

 

 数時間後、ちゆを自分のベッドに寝かせた僕はSNSを開く。すると、トレンドに丸山 彩の三文字が入っていた。不思議に思った僕が内容を見ると、ただのドラマの告知だった。丸山が出演する。気にするほどの事でもなかったとアプリを閉じようとした時、あるツイートが目に入った。しかもそれは丸山本人宛のツイートだ。

 え?それよりもちゆの唇の感触はって?それはもう。違う違う。話を戻そう。ちなみにそのツイートがこれね。

 

『演技もロクにできないし、歌も下手くそだし本当に無能ですね。』

 

 ちょっと丸山本人にはキツい事かもしれないが、明日本人に話をしてこよう。これは見逃せないな。こいつのアカウントのツイート見てるけど丸山にしつこくリプしてるな。しかもこれ立派な侮辱罪だぞ。誹謗中傷は侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪だ。誹謗中傷はまだマイルドな言い方だろうけど、立派な犯罪だからな。いじめと同じで誹謗中傷なんて言葉を使ってたら誹謗中傷は無くならないんだろうな…。明日調べてるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は明日奈さんに頼み込んで事務所に行かせてもらった。あまり簡単に通れる場所じゃないからね芸能事務所って。

 事務所の潜入に成功した後、丸山と明日奈さんとの三人で話し合いをすることにした。いや潜入って言い方よ。

 

「この『ダイレクション』ってアカウントは、お前に対して数々の悪口をSNSのリプで送っている。これは立派な侮辱罪だ。今すぐにでも裁判の準備をするべきだ。」

「待ってください!」

 

 僕が事務所の社長にこの事を伝えるために会おうとすると、丸山に止められた。

 

「何だ。」

「あ、あの…。私は大丈夫なので!私がダメダメなのがいけないんです…。それじゃあ!」

 

 丸山はそう言ってどこかへ去ってしまった。あいつ一体全体どうしたっていうんだ。

 

「ローくん…。」

「まだです。僕から言わしてみれば、結果の裏には原因がある。それを突き止めます。」

「それって…。今回の件には裏があるって事?」

「そうなりますね。」

 

 早速この件の原因を突き止めるべく、僕は明日奈さんの力を借りて情報収集をする事となった。え?丸山が良いって言うならそれで良いって?馬鹿言うな。間違った道を選んだ奴にはきちんと制裁を加えないとあいつが報われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、明日奈さんの協力を経て僕はある一つの出来事に注目した。それは丸山がヒロインとして出演してるドラマの件についてだ。今出てるやつじゃなくて過去のやつ。このドラマは一月二十五日の時点で一般人のエキストラを募集している。選考が続いた結果、撮影は二月十六日。そしてこのダイレクションのアカウントが丸山に侮辱罪に該当する言葉をリプで送り始めたのが三月六日。ちょうどエキストラを含んだ撮影がテレビ上で放送された時だ。おそらくは、このエキストラの中の誰かがダイレクションの正体…。いや待て。抽選に落ちた奴はそもそも撮影日の事を知っているのか?僕ドラマに出たことないからわかんない…。誰か教えて?SUICIDEの中でドラマに出演してるのは今のところ明日奈さんだけ。明日奈さんもしくは白鷺に尋ねるしかないな。丸山は今回の件についてあまり触れたがらないみたいだからな。てかあいつ被害者だし。

 

「どうしようか…。若宮にでも聞いてみるか。」

 

 僕は携帯電話を取り、若宮に電話をかける。思いの外早く出てくれたので助かった。

 

「僕だ。一つ質問したい事が…。」

『ごめんなさい今忙しいので無理です!』

 

 若宮はそう言ってこれまた早く通話を切った。質問の一つぐらいさせろよ…。そんな時間すら無いというのか。仕方ない。自分で調べるとしよう。あ、多分知らされないなこれは。だとするとこのダイレクションは抽選で選ばれたエキストラの誰かということか…。もしくはたまたま日にちが被った説。

 

「とりあえず明日やる事のリストでも書いとくか。」

 

 そう言って僕は紙とペンを用意し、書き始めた。ドラマの製作者に事情を聞きに行く事とダイレクションの情報を収集する事。もし抽選で選ばれたのだとしたら何故こいつは丸山に攻撃しているのか。それを調べない事には始まらない。はぁ、胃が痛くなる作業が始まりそう。まずはパスパレの事務所の社長に直談判だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、勝手に事務所の方がダイレクションってアカウントの持ち主と裁判を起こしたそうだ。アカウントの持ち主、成川 幸助は丸山のファンで彼女が出演していたドラマのエキストラに選ばれた。しかし、そのドラマの展開に不服だった&丸山の演技が不快だったとしてやったらしい。こんな事言うのもどうかとは思うけど、まぁ何ともつまらないクズだよ。

 

「いやぁ、まさかあの事務所が裁判起こすとはな。」

 

 携帯でニュースを見ていた赤沢が興味を示す。結果的にはあちら側の意思で決めさせたけれど、ほとんど僕が強引に裁判をさせるような形になってしまった。丸山は最後まで裁判沙汰になるのを嫌がっていた。僕はあいつの人格を認めている。丸山は事務所の外面がどうこうとか、そういう自分の利益や都合のために動く人間ではない。こういう犯罪絡みの問題なら尚更だ。今回は事務所に無理矢理押し切られる形で渋々合意したんだと。

 

「結局、そうではないものもあるがドラマなんてただのフィクションだ。それに不快になってるようじゃ、人間としての器が小さい。」

 

 僕はそう言い、ノートパソコンを閉じる。現実で不快になるならまだしも、実在しない架空の人物に苛立つのは虚しいだけだ。

 

「ま、相手もやったことを認めてるしオールオッケーだろ!」

「そうだと良いけどな。」

「え?」

 

 僕は嫌な予感がしていた。事があっさりと進み過ぎている。あんなにネチネチと侮辱罪にあたる行為を繰り返していた人間がこれで終わるか…?念のために丸山を見張っておこう。うん、それが一番だ。

 

「とりあえず、明日奈さんにも電話しとくか。」

 

 僕は事の事情を伝えようと明日奈さんに電話をかける。まだ仮説の段階でしかないが、引き下がり方が簡素すぎて逆に不気味だ。慰謝料取られて「はい、そうですか」で済んだらまだ良い方だが…。誤算が生じる事を願いたい。そうでなければ、最悪の事態が起こるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日間、仕事を早々に済ませた僕はGPSで気付かれないように丸山の後を追っていた。え?どうやって付けたかって?それは言わないお約束。日が沈んで時刻は夜の七時。闇に乗じて何かが起きてもおかしくはない。

 すると、丸山の横から金属バットを持ち、フードを被った男が現れ丸山を襲おうとした。僕はすぐさま男にタックルをかまし、馬乗りになって顔面にパンチを一撃くらわせた。男のフードを取ると、そいつの顔は見覚えのある男の顔であった。

 

「成川さん…!?」

 

 そう。ダイレクションのアカウントの持ち主、成川 幸助だった。やっぱりな。思った通りだ。人ってそんなコロコロ変わるような生き物じゃあないからな。

 

「何だ、侮辱罪で逮捕されて慰謝料払ってまでやりたかった事がこれか?何ともつまらねぇ真似してくれるじゃねぇか。」

「俺は…。俺はその女に教育をしただけだ!!第一SNSだって言論の自由、表現の自由じゃないか!!何故俺一人がこんな仕打ちを受けなければ…!」

「人生ナメすぎなんだよこのクズが。言論の自由だとか表現の自由だとかそんなん匿名を盾にして逃げてる奴には当てはまらないんだよ。そもそも、匿名なんて盾でも何でもないしな。」

 

 ここにきて未だに自分自身を正当化しようとする成川に僕は淡々と吐き捨てた。クズに同情する必要などない。むしろこんなくだらない事で時間を取られるこっちの身にもなればわかるだろう。

 

「Rawさん、もうこれ以上追いつめるのはやめてください…。」

「こいつは何も反省していない。」

「もう十分伝わってます…。」

 

 丸山が成川に毒を浴びせる僕を止めようとする。その様子を見た成川は訝しげな視線で丸山を見ていた。こいつは知らない。話したことがないから知らないんだろう。丸山が何を考えているか。

 

「あー、そうか。お前話したことないから知らないんだもんな。丸山がお前を起訴するのを渋っていた理由。そして丸山が何を思っていたのか。」

 

 僕はある時、丸山の考えていた事を知った。ちょうど裁判の前日の時だ。そこで僕はあるモノを見たために丸山がコイツを庇っていた理由を知った。

 

「丸山がお前を咎めるのを躊躇っていたのはな、お前の今後の人生を滅茶苦茶にしたくなかったからだ!!!」

 

 どういう事かを説明しよう。同じ事をこの場いる連中にも説明するけどな。実はダイレクションこと成川はリプでも引用リツイートでもない、自らのツイートでとあるツイートをしていた。その内容は詳しくは言えないが、丸山とスタッフしかわからない内容だった。それを知った丸山は自分が我慢する事を選んだ。仮に成川を起訴して人生を台無しにするような真似になったら、みんなに笑顔を届けるはずのアイドルの名に傷が付くと考えたんだろう。

 

「わかるか!!お前が好き勝手丸山の心を傷つけても、丸山は耐えてきた!それがどれほど辛いことか!!どれほど苦しいことか!!お前の想像力と知性が足りなかったせいだ!!」

 

 成川は事情を知ると、涙を流して頭を下げた。丸山に対して懺悔の気持ちがあるんだろうか。金属バットを手放し、うずくまっている。実に惨めだと思わないか?これが罪を犯した人間の末路だ。

 

「成川さん、あなたはいくつですか?」

「え?二十九歳ですけど…。」

 

 明日奈さんが突然、成川に質問をしてきた。年齢なんて聞いてどうすると言うんだあの人は。

 

「二十九歳、世間的には大人です。子供は自分に関係のある人間であろうとなかろうと、大人の背中を見て成長するんです。だから!自分が大人だと胸を張って言えるように、人として正しくあるべきなんじゃないでしょうか!!」

 

 明日奈さんは成川に頭を下げ、警察を呼んだ。まぁそれが妥当な判断だろうな。明日奈さんのせいで言いたいことが言えなかったけれど、僕が言いたいことはもう一つあった。世間ではこういうのを俗にアンチと呼んでいるらしいのだが、アンチなんて呼び名は誰でも気軽に使えてしまう。そういう奴の呼び名は無能でいいんだよ無能で。それに、そういう行為をしなきゃ満たされないそいつの人生には何の価値も無い。幸せな人間は誰かを傷つけたいとは思わない。そうだろう?何故なら幸せな人間は二種類いる。幸せだから人に優しくできる奴か、幸せだから人に興味がない奴か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数週間、彩ちゃんは塞ぎ込んでしまいパスパレの仕事や個人の仕事を休むようになってしまった。

 

「ローくんどう?」

「ダメです。白鷺達も連絡してるみたいですけど、繋がらなかったらしいです。」

 

 あのローくんでさえ彩ちゃんと連絡を取ることはできなかった。これ本人の前で言ったら悪いけどあんまりローくんの事は頼りたくないんだよね。だって何しでかすかわからないから…。一説によると、素行の悪かったアイドルの部屋を工事して出られなくしたって噂もあるし…。

 ってそれはどうでもいいや。そんな事より、今日音楽番組あってそれにパスパレ出る予定なんだよ!パスパレは彩ちゃんのボーカルあってこそ成り立つもの。それは他の子も同じ。だから誰一人欠けちゃいけないの。

 

「私彩ちゃんの所に行ってくる!」

「はぁ…。どうなっても知りませんよ。」

 

 私は急いで車を出して彩ちゃんの家へと向かった。彩ちゃんの家に着くと、すでに物寂しげな雰囲気が伝わってきてそれを察知した私まで悲しくなってくる。けれど、私は悲しみに来たんじゃない。彩ちゃんを立ち直らせに来たんだ。そう決意した私は彩ちゃんの部屋に入った。ちなみに鍵はかかってなかったよ。

 

「明日奈さん…。」

 

 私の目に映る彩ちゃんは部屋の隅で涙を流していた。今までの状況を考えると、自分への不甲斐なさから来ているものなのだろうか。

 

「私、これじゃダメですよね…。自分のファン一人すら幸せにできないなんて…。アイドル失格ですよね…。私、ダメなアイドルだ…。」

 

 違う、彩ちゃんは何も悪くない。彩ちゃん自身が一人で全部を抱え込もうとしてるんだ。こんな時、ローくんだったら上手くかわせるかもしれない。でも私は違う。取り柄なんて何一つないけど、私にできる精一杯をする事はできる。

 

「日菜ちゃんや千聖ちゃん、麻弥ちゃんイヴちゃんが彩ちゃんに嫌な顔一つでもした?あの子達が、彩ちゃんのこと『ダメなアイドルだ』なんて言った?」

 

 私が彩ちゃんにそう問いかけると、彩ちゃんが振り向いた。私はすぐさま続けた。

 

「彩ちゃんがどれだけ辛い思いをしても、あの四人ならきっと寄り添ってくれるよ。だって大事な仲間なんだもん。さぁ、今なら間に合うから行こ!」

「っ…はい!」

 

 私は彩ちゃんを車に乗せて現場へと向かった。急がないとギリギリの時刻になりそう…。最悪の場合、パスパレの出番が潰れるかもしれない。今は出番の前に着けることを祈るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、まいりましょう。」

「『パスパレのファンに届けたい楽曲』一位に輝きました、“はなまる◎アンダンテ”です。どうぞ。」

 

 司会の人達の合図とともにイントロが始まる。息切れした状態でどこまでやれるかはわからないし、この日のための練習もしていない。それでも一生懸命やるしかない。

 

彩「いつも照らしてくれる

お日さまが もしも消えてしまえば

ずっとつぼみのままで

ふらふらとナミダがでちゃう…♪」

 

 みんなの息のあった演奏に私の歌声が乗せられる。なんだか、みんなにリードされてるみたいな感覚…。

 

彩「大丈夫だよ 背中は

ぬくもりがわたしを

ぴったり守ってくれているから

猫背なココロ伸ばして

前むいて歩き出そう

願いが集まるその時

きみの掛け声で 飛びたつから♪」

 

 明日奈さん、本当にありがとうございました。明日奈さんが背中を押してくれたおかげでまた一歩、前に進む事ができました。さて、みんなにも謝らないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、俺と由美と明日奈さんと君島の四人は個人練習をしていた。村上と赤沢とちゆは色々あって来れないそうだ。昨日の丸山の復帰は意外だったな…。村上曰く明日奈さんが尽力してくれたとの事だが…。

 

「失礼します。」

「あっ、美歩さん!って、えぇ…?」

 

 紹介しよう。彼女は神城 美歩。普段はRawの秘書的な立ち位置でveritáのギター担当なのだが…。何であの人は日本刀を持ってきてるんだ?普通に銃刀法違反の現行犯だぞ?

 

「早速ですが、Rawさん。いや、Rawのクソ野郎はどこにいますか?小泉さんはご存知ありませんか?」

「あー…。あいつなら横浜のプログラミング教室に行きました。」

 

 本当は嘘だけど。だってあいつが今どこにいるかなんてわからないし、かと言ってわからないと言ったら俺が殺されるし…。今日はこれでさよならバイバイ。




SNSを作った人は人には言えないような「これが好き!」っていうものがあって、その「好き」を共有して同じものを好きな人と繋がるためにSNSを作ったんじゃないかなって思う今日この頃です。


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第24話「約束」

久々すぎて腕が鈍ってます。何卒ご容赦を


 

 

 大学生、今が一番楽しい時期である。ただ、そんな中で悪どいことをしようとしてる奴がいるというのもまた事実。今回はそんな奴らを懲らしめた話でもしようか。懲らしめたって言い方は語弊あるけどな。

 これは四月ぐらいの話になるかな。湊たちが大学生となった頃、よくあるのがサークルの勧誘だ。ちなみに僕は大学時代どのサークルにも入っていなかった。基本的に仲良い奴以外は人との関わりを絶っていたからな。

 

「タロちゃーん。」

「有亜か。」

 

 おっと、失礼。紹介しよう。彼女の名前は若生 有亜。言っとくがこれが本名だ。芸名は出久地 心亜。veritáのギタボ兼デ・アマローナのボーカル。本職は声優で、おっとりした天然癒しキャラから完全にクールな役まで様々な役柄を演じ切るプロだ。ちなみに彼女が声優として絶大的な人気を誇る理由はもちろんその繊細な演技力もあるが、彼女の声は俗に言う1/fゆらぎで発生されている。まさに声優界きっての逸材と言ったところだ。それと、僕とこいつは大学時代の同期でもある。けれど僕は法学部、彼女は経済学部だったから大学だとほとんど会う事は無かったな。どうやって知り合ったかって言うのは今は不問にしてくれ。

 見た目はもう童顔。149cmという低い身長のせいなのもあって小学生に間違えられる事が少なくない。僕と同い年なのに。あと背が低いのにアレが大きい。どこがとは言わない。個人の感想としては恥ずかしいから言えない。

 

「ちょっと一服しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 有亜に誘われた僕はコーヒーが入った缶を有亜に渡す。屋上に来た僕たちは数秒してから口を開いた。

 

「ごめんね、私から誘ったのに…。」

「別にいい。だが財布忘れたんじゃ世話ないな。」

「酷いよー!私だって気が利くとこあるんだよ!」

 

 自分で言うのかそれ、というツッコミを心の中にしまっておいて僕はコーヒー缶の蓋を開ける。慣れてはいるものの、やはり苦みというものは感じる。砂糖を入れてしまえば逆に甘すぎて飲めなくなるのだが。

 

「で、用件は何だ。」

「あー、そうだった。タロちゃんさ、最近何かあった?表情曇ってるけど…。」

 

 僕の周りにはこういう奴しかいない。面倒な絡み方するくせに人のことはしっかり見抜く奴が。一番厄介な奴だ。

 

「僕は今こそ日本一のバンドのボーカリストとして立っていられるが、あいつらを見ていると僕には無い光があるように思えてな。いつか僕の存在そのものが音楽の世界に不必要なものになるかもしれないと思ってな。」

「なーんだ。心配する必要はないよ。だってタロちゃん負けたことないじゃん!それに、私はわかるよ。タロちゃんにも澄んでる強い光があること。」

 

 傍から聞けば何気ない一言かもしれないけれど、有亜の言葉に僕は何度も救われた。恋人とかそういう関係ではないが僕にとって有亜は特別な存在だ。少なくとも彼女がいなかったら僕は今頃どうなっていたことか…。

 

「そうか。ありがとう。おかげで少し楽になった。」

 

 その場を去ろうとする僕を見ていた有亜の表情はどこか悲しげであった。前にあいつから言われた事がある。自分には辿り着けないほど遠い所へ行ってしまいそうだ、と。だが僕は僕の成すべき事をする。今はそれしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は一人、夜の道を歩いていた。光は灯っているものの目で見えない箇所がいくつかある。その道を歩いている中で、大学生活に中々慣れることのできない苦しさを感じていた。あぁ…。私はどうしたら…。

 そう思っていた瞬間、私のもとに強い光が照らされた。光を当てていたのはRawさんだった。

 

「知らないのが怖いか?」

「…え?」

 

 表情に出ていたのか、と私は自分の顔を触る。Rawさんはそれに構わず話を進めた。

 

「人間はな、自分の知らないものに対しては恐怖を覚える。だから知らないものに対していちいち名前を付けたがる。まぁお前の場合、それにプラスして人と上手く関われないのが重なってるけどな。」

「は、はぁ…。」

「とりあえずそんなお前にはこれをやる。」

 

 そう言ってRawさんから渡されたのはペンライトだった。何のためにペンライトを渡したのかはわからないけれど、何か裏があると感じた。でなければわざわざ直接ペンライトを渡す必要性がない。

 

「クズの目潰しぐらいはできるだろう。あ、言い忘れてたが返品は御免だぞ。」

 

 地味に理不尽な扱いをしながらも、Rawさんは柔和な瞳で私を見ていた。邪な考えや裏のある目的のためなどではなく、純粋に私のことをを考えている様子であった。

 

「あの…。何でここに…。」

「レンタルショップの帰り際にたまたまお前を見つけてな、少し煽ってみただけだ。」

 

 Rawさんのする事はいつも予測ができない。この人には謎が多すぎる。本人が話してくれないのもあるけれど、それ以前にその秘密に触れがたい空気がこの人にはあった。

 

「は、はぁ…。」

「それよりどうだ。今の調子は。」

「はい…。前よりスケジュール調整は難しくなってしまいましたがそれでもやっていけてます…。」

「そうか。まず自分の事で躓かないようにだな。」

「え?それってどういう…。」

 

 私が言い終わる前にRawさんは遠くへ行ってしまった。Rawさんの言葉が何を意味していたか、私には到底理解できなかった。あの人は一体どこまで先の未来を見据えているのだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、大学生同士での飲み会みたいなものが流行っているようだ。そっちの世界はまだ飲み会とか禁止そうだけどな。まぁそれはどうでもいいや。で、何かこの季節色々そういう問題が多発しているそうだ。ちょっと調べないといけないな。もしあいつらの中の誰かがそういう目に遭うのはまずい。僕にだって色々あるからな。

 

「どうした?いつも通り完璧だけど上の空だな。」

「まぁ、色々あるんだよ。」

 

 僕は声をかけてきた赤沢にそう答える。赤沢は優しいからな、僕は完璧だとは思えない歌い方でも褒めてくれる。

 

「友希那たちのことか?」

「ああ、計画は進めているが肝心のオモチャが見つからないな。僕に恐れをなしているオモチャが。」

 

 僕と赤沢が何を言っているか、それは不問にしてくれ。あいつらのためにも、この計画は絶対にバレてはならないものなんだ。

 

「オモチャって…。くれぐれも下手な真似はするなよ。」

「わかっている。でも壊さない保証はできないぞ。」

「そう言ってるけど俺、知ってんだからな。お前が過去にレーベルにいた問題児五人を更生させたこと。」

 

 僕の過去の話を赤沢が持ち出す。過去と言ってもそんなに昔の話じゃない。一、二年前くらいの事だ。

 

「俺はその時からすでに東京にいたからわからないけど、お前一体何があった?」

「答えたくない。これが僕の率直な気持ちだ。」

 

 答えたくない、と言えば赤沢も深くは追求しない。誰であろうとそうだろうけどね。良識のある人間なら。

 

「そうか…。でも言いたい時あったらちゃんと言うんだぞ。」

「その時があれば…な。」

 

 側から見たら重い話をしていると思われがちだが、割と重くはない。僕の過去なんてどうでもいいんだよ。消せれば。

 と、そんな事を考えている僕のところに氷川の姉の方がやってきた。何故に。

 

「紗夜どうした?やけに焦ってるけど…。」

「大変です!湊さんと今井さんが練習に来ないんです!!連絡も入っていないのでどこにいるかわからないんです…。探してください!!」

 

 声をかけた赤沢を振り切り、氷川姉は僕に助けを求めてきた。あの二人が練習に現れないというのはおかしい。今井だったら特別な事情があっても連絡はする。それをしないという事は…。ビンゴ。ここで見つかったか。

 

「氷川、赤沢。僕と一緒に来い。明日奈さん!瀬良に連絡を入れてください!由美!お前は近くにクラブがないか調べろ!」

「ラジャー!」

「了解ですっ!」

 

 僕と氷川と赤沢はすぐさま湊と今井の救出に向かう。え?救出が何のことかって?これはあくまで僕の仮説なのだが、湊と今井が失踪した原因は今世間を騒がせている連中の仕業だ。女子大学生を狙ってパーティーに誘い、騙してまで酒を飲ませて襲おうとする。何とも卑怯な手口だな。許せない。そんな弱い人間は僕が始末してやる。とは言ってるものの、相手は凶器を持っているかもわからない。そこだけ用心する。すると、僕の携帯のバイブが振動した。携帯の画面には由美の名前が書かれてある。

 

「僕だ。」

『由美です!ここの近くで今使えないクラブが一軒あるんです!!場所は…。』

 

 僕は由美から指定された場所を調べ、すぐに向かおうとする。その時、曲がり角から偶然白金が出てきた。

 

「氷川さん!?それにRawさんと赤沢さんも…。」

「よかった白金!人手は多い方が良い!ついてこい!!」

 

 僕は白金を加えて目的地に着く。が、普通に行ったら返り討ちに遭うのは目に見えている。あいつらが救出係として湊と今井を助けてやらないと。赤沢には申し訳ないけど一回殴られてもらおう。日頃の行いの贖罪の意も込めて。

 

「突撃だ。」

 

 僕は赤沢に合図を出し、赤沢に煙を撒かせる。しかも塩胡椒をふんだんに取り入れたからな。マスクを装着している僕たちは何ともないが、あいつらはダメだろうな。湊と今井も巻き添え喰らったけどまぁいいや。

 

「攻撃だ!」

 

 僕と赤沢は湊と今井を引っ捕らえた連中を穏便に暴力で倒し、残りの氷川と白金は湊と今井を救出した。

 

「これでひとまずは良いかな。」

「うーん…。」

「どうした赤沢?」

 

 湊らを誘拐した屑共を倒した後、赤沢は一人項垂れていた。一体何があってそんな考えに…。

 

「いや、作戦を遂行したにしては何か上手くいき過ぎな気がしてな…。」

「言われてみればたしかに…。」

 

 赤沢の言う通りだ。まるでこうなるべくしてこうなったような展開。何故か僕の心の中は事件を解決した爽快感よりも気味悪さの方が勝っていた。

 

「動くな!!」

 

 その嫌な予感がすぐに的中した。今僕らの足元でくたばっているこいつらの親玉的な存在が湊を捕まえ、首元にナイフを突き立てていた。動けば確実に殺されるな。

 

「友希那!」

「よせリサ!今動いたら友希那が…。」

 

 湊を助けようとする今井を赤沢が止める。僕らとあのクズの距離から考えて、湊に外傷を負わせずに救い出す事など不可能だ。だが、僕たちが助けなければ可能性はゼロじゃない。

 

「万が一のために保険をかけておいて良かったよ…。」

「何?ぐおっ!!」

 

 何が起きたか説明しよう。いたって単純。後ろから瀬良がラスボスの男に飛び蹴り喰らわせただけ。いつも遅い瀬良が遅刻して良かったと思えた唯一の瞬間だ。

 

「瀬良、よくやった。」

「ありがとうございます!じゃあご褒美に1sさんとお食事会のセッティングでも…。って聞いてます!?」

 

 僕は男からある物を取り上げて、外見を調べた。しかしそれは僕の求めていたものではなかったので適当に放り投げとく。

 

「く、くそ…。」

 

 男が動いて再びナイフを手に取ろうとした瞬間、今井が男の人差し指を九十度にへし折った。てかボキッて音聞こえたぞ…。

 

「ねぇ、友希那を危険な目に遭わせたこと…。覚悟できてるよね?」

 

 今井の目からハイライトが消えて今にも人を殺しそうな雰囲気を醸し出してる。これはまずい。止めねば。

 

「落ち着け今井!こいつを殺したら湊が悲しむぞ!」

 

 こうして、色々ありながらも無事に警察も来て事件解決となった。めでたしめでたし。いや何もめでたくないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕と赤沢はRoseliaのライブ映像を見ていた。研究のためにな。

 

「しかし、Roseliaはそれ相応の練習してるからそれ相応の実力を持っているんだろうな。」

 

 赤沢がライブ映像を観て言い放つ。まぁ、努力しないであの次元にいけるわけないからな。

 

「確かにそうだな。じゃあ再生するぞ。」

 

 僕と赤沢はこうやって曲が終わるごとにいちいち停止して研究しながら視聴していた。まぁ側から見れば面倒な事してるなぐらいにしか思われないだろうな。

 次の曲は“約束”。たしか、今井が作詞したんだっけな。

 

友「誰にも譲れない居場所があるんだと

逃げる言い訳を燃やすたび 強くなれた♪」

 

紗・リ・あ・燐(flower of life♪)

 

友「陽だまりの中で満ちる♪」

 

紗・リ・あ・燐(flower of life♪)

 

友「シロツメクサはやがて生まれ変わり♪」

 

リ「確かなものへ♪」

 

友「進む道は幸せよりも 辛い事が多いかもね

それでも♪」

 

紗・リ・あ・燐(OH♪)

 

友「いいんだよ♪」

 

紗・リ・あ・燐(OH♪)

 

友「貴方の隣にいる

約束の景色を 胸に強く息づかせて

未来へ♪」

 

リ「続く♪」

 

友「道を歩こう♪」

 

紗・あ・燐(麗しい♪)

 

リ「玉座に輝く♪」

 

紗・あ・燐(偉大な♪)

 

友「その日まで 終わらせない♪」



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第25話「せかいのっびのびトレジャー!」

色々と書き直してたおかげで大分遅れました。
大変申し訳ございません。
多少のズレは気にせずに読み進めてください。


 

 

 一月の終わり、街に買い出しに行っていた僕は偶然戸山と遭遇した。僕からは特に話す用が無かったから適当に会釈して去ろうとしたが、あっち側にはそれがあったらしい。何の用かは知らないが。

 そんなこんなで僕は近くの公園で戸山と話をしようとした。

 

「で、用件は何だ。」

「お願いです!みんなを信頼してください!」

 

 唐突にお願い事を言うとは。手っ取り早くていいが、僕にとっては難しい相談である事はあいつにもわかっているはずだ。

 

「信じるという行為は互いを知って初めて成せる行為。僕はお前らの事をよく知らない。ゲームでも情報を仕入れて攻略する必要がある。お前の願いには乗ってやるが、一つ条件がある。」

「何ですか?」

「手出しと口出しは一切無用。これだけだ。」

「わかりました!」

 

 実はこの時、ボイスレコーダーを仕込んでいた。口約束は契約書を交わすよりも軽い気持ちで出来ることだからな。言質はとっておかないと。おい誰だ今陰険だとか言った奴は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ちょうどハロハピに呼び出された僕は指導的な何かをしていた。ていうかモロ指導。ハロハピのパフォーマンスをより効率化するために腕を磨かないといけないそうで。言い出した奴もう察しがつくな。この中では一人しかいないよまともな事言う奴。

 

「これで本番はバッチリね!」

「こころんがそう言うなら大丈夫そうだね!」

 

 世界を笑顔にするという夢を持つだけでなく、自分達の向上にも努める部分は関心するな。

 世界を笑顔にする。それが彼女達の夢だと言うのは耳にタコができるほど聞かされている。だがほとんどの奴らはそれを無理だと言い張っている。そいつらは世界というスケールの大きさを理由にしているのか、或いは人間の醜さを理由にしているのか…。

 

「なぁ、お前らは世界を笑顔にするって事が無理な事だと思うか?」

 

 僕の問いかけにいち早く反応したのはハロハピのボーカル担当弦巻。まぁ一番はこいつの夢だからな。

 

「無理な事じゃないわ!難しいっていう事はわかってるけれど…。たとえ叶う確率が一パーセントだったとしてもその可能性を百パーセント信じれば叶うはずよ!」

 

 弦巻は僕の問いにそう答える。何故だろう。こいつを見ていると何かしら引っかかりを感じる。違和感というべきか。何か今後の不安材にしかならないような気がするな。

 

「どうかな。」

「え?」

「自分がヒーローみたいなものになったり、ヒーローみたいなものを作ったりすれば反発する奴が出てくる。それが人間社会だ。たとえ自分にそのつもりが無かったとしてもな。」

 

 僕ははっきりと弦巻にそう告げた。後にも言うだろうし、こんな事言ったら怒られるかもしれないけれど、僕は夢がどうのこうのとか言ってるけど弦巻の夢だけでなく全員が持ってる夢すらもどうでもいいんだよ。だって叶えさせるよりも潰す方が得意なんだから。これあいつには秘密にしてくれよ。ネタバレになっちゃうから。

 

「私はヒーローになるつもりはないわ。ただみんなを笑顔にしたいだけよ!」

「『つもり』がなくても、なるようにはなる。人間が皆同じだと思わない方がいい。誰かにとっての理想郷はまた別の誰かにとっては地獄でしかない。だが、お前はお前でいればいい。」

 

 僕は弦巻にそう言うと、部屋から立ち去った。あいつがこの世の仕組みを理解する時がきっと来る。そこが正念場だ。僕もあいつも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様〜。はい、頭出して〜。なでなでしてあげる。」

「別にいい。ていうか何でしれっと入って来てるんだ。合鍵作って渡した覚えないけど。」

 

 家に帰ると、何故か有亜がいた。ダメだ。僕は彼女のペースについていけない。振り落とされる。

 

「あ、それはね〜。二階の窓が空いてたからそこから忍び込んで…。」

「スパイ活動やめろ。仮にもお前芸能人でしょ。」

 

 僕の今の家一戸建てだよ?一体どうやったら二階に行けるんだよ。ロープか何か使った?だとしたら凄い執念なんだけど…。

 

「まったく…。それはそれとして、タロちゃんの事好きな人はいっぱいいるんだからもっと周りに頼ること!最近顔見てるとすごい疲れてるよ。」

「はいはい。わかったよ。それじゃ、僕出かけてくるから。」

 

 僕は書類をカバンにまとめて向かうべき場所へと向かう。その時、僕の携帯から着信が届いた。画面に書かれていたのは小泉の名前だ。

 

「僕だ。何?お前と弦巻達が…?はぁ、仕方ない。準備ができ次第そちらに向かう。念のために瀬良にも連絡は寄越しておく。じゃあな。」

 

 僕は通話を切り、足早に家を出ようとする。どうやら煽り運転に巻き込まれたそうだ。これから別の場所に出向かなきゃいけないのかと思うと中々にキツいものがある。

 

「あ、家の鍵は閉めとけ!危ない奴が入ってくるかもわからないからな!」

「はいはーい。あはは、タロちゃんって意外と心配性なんだね。」

「それは心配して当然だ。じゃあな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浮かない顔してるけど、村上にまた何か言われたか?」

 

 村上に連絡する数十分前、俺は弦巻達を連れてドライブをしていた。あいつらと話したら何やら面白そうな事が聞けるかもしれないと思っただけだが、予想以上に善良な奴らだった。

 

「い、いや…。特に何も無いんですけど…。」

 

 奥沢は言い淀んでいた。村上は時々正論しか吐かないからな。反論のしようがないのも無理はない。

 

「あいつは正論しか言わないからな。時折ムカつく事言うのもわかるよ。」

「あっ、メンバーの皆さんもイラついてるんですね…。」

 

 奥沢は若干苦笑いで俺の方を見る。まぁ、村上がとやかく言って真っ先に怒るのはちゆだし真っ先に反論されて何も言えなくなるのがちゆだな。

 

「この世の中、正しい事だけが大事じゃないのはわかる筈だ。それがわかる日がいつか来る。」

 

 俺がそう言うと、不意に俺の前の車が急に止まり出した。さっきから俺の前を蛇行運転していた車だ。世間一般で言うところの煽り運転の犯人だな。警察に通報すれば済む話だ。

 

「騒ぐな。俺が対応する。」

 

 車から降りた男二人は俺の車をガンガン叩く。あんまり強めにノックするなよ壊れるだろ…。

 警察に電話した後は一応村上にも対処してもらうべく電話をかけた。

 

「もしもし。小泉だけど。今俺と弦巻達が煽り運転した奴に絡まれててさ、助けてくれね?わかったわかった。じゃあ。」

 

 俺が電話を切り終わると、男達は急にドアを開け始めて俺たちを車から引き摺り出した。引き摺り出された後は近くの駐車場に連れて来られたな。人目のつきにくい場所だから何してもバレにくいところではあるかな。

 

「何なんだお前ら。」

「いやあのさ、さっきから人の運転にいちゃもんつけるなよ。ちゃんと運転してんだよ。ビービービービー迷惑だ。うるせぇし。」

 

 さっきも言ったけどこいつらの運転は蛇行運転だった。その間にちょくちょくクラクション鳴らしてたが、自覚あるなら反省しろよ。

 

「俺は間違った判断をしたとは思っていない。あんな危ない運転しといてよくもまぁそんな事が言えたもんだ。」

「やめて!喧嘩はよくないわ!ここは笑顔じゃなきゃダメよ!」

 

 すると、俺と連中のやりとりに弦巻が介入してきた。こんな時に介入しても事態がややこしくなるだけだってのに…。

 

「あ?何だお前?笑顔?笑わせるなよ!『喧嘩はダメ!笑顔で済ますのが一番!』みてぇな考えで済んでたら裁判なんて要らねぇんだよこの偽善者め!!!」

「え…?」

 

 今まで呆れ気味で言葉を返してたが、とうとう俺の堪忍袋の尾が切れた。ここは一発言ってやるとするか。

 

「あなたねぇ…!」

「ふざけんじゃねぇ!!!」

 

 奥沢の言いたかった事を邪魔するような形にはなってしまったが、まぁ仕方ない。ここは俺の言いたいことを言わせてもらおう。

 

「こいつは、この女は!弦巻 こころという人間だ!決して偽善者なんかじゃない!!たとえやっている事が偽善的だったとしてもこの世界をより善くするために行動している!それだけで十分価値があるんだ!!!」

 

 奥沢達も首を縦に振って頷いてくれている。どうやら言いたい事は同じだったようだ。

 

「偉そうに言ってくれるなぁ…。そんなら殴られても文句言えねぇよなぁ!?ゔっ…!」

「偉そうに言ってやがるのはどっちなんだか…。それなら警棒で殴られても文句言えないよな?」

 

 男が俺に殴りかかろうとした瞬間、男は地に倒れた。奴の後ろには警棒を片手に持った村上がいた。

 

「遅いぞ。」

「これでも早い方だ。ほら来たぞ。」

 

 その後、警察が来て俺たちは事情聴取を受けることになった。ていうかあいつ正当行為で済まされたのマジで謎なんだけど。あ、村上の事ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩、僕はパソコンを立ち上げビデオを再生した。ハロハピのライブの映像だ。入手した手段については不問にしてくれ。ちゃんと本人達の許可は事前に得ている。僕は彼女らのライブを見ていてますます分からなくなってきた。彼女達が目指す未来は、今見ている世界は何か。その答えはあいつらにしかわからない。今の自分はこうやってパソコンの画面を見つめるでしか理解することができない。もっとも、その理解できる部分もほんの少しでしかないが。

 

こ・花・ミ(YO!YO!YO!YO!YO!YO!)

(HEY!YO!MEN!!!)×2

 

こ・薫・は・花・ミ「オーノー!♪」

 

こ「いっぱい決めつけちゃう

やってもいない♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!)

 

こ「見てもいないのに♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!)

 

こ・薫・は・花・ミ「ユーノー?♪」

こ「全然わからないの?!

まって!まって!

それもったいない!♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「ナイ!ナイ!♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「大チャンス!♪」

 

こ「だんぜん!大歓迎じゃん♪

ふれちゃって?♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!)

 

こ「いっそう見つめちゃって?♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!)

 

こ・薫・は・花・ミ「診・断♪」

 

こ「判断味わっちゃって

おっと?おっと?

なんか感じ♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「ちゃっ・チャッ・た!?♪」

 

こ「だけどね…変わるとね♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「しんどいね♪」

 

こ「すんごいチカラが♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「いるよ!いるよ!♪」

 

こ「あたふた くじけちゃいそう♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「泣いちゃいそう!♪」

 

こ「よしよし…あと

もうちょっと! ♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!)

 

こ「もうちょっと!♪」

 

薫・は・花・ミ(YO!がんばろぉ~~~!ハイヤッ!!!けん・けん・ぱっ!ふぉ~!!!♪)

 

こ「世界は ひろいんだ!

もっとも~っと のっびのびゆこぉー!

知らなかったワクワクとか

うれしさたっくさん!!!♪」

 

薫・は・花・ミ(みつかるぅ~↑↑↑)

 

こ「だから もっとキミの新・発・見!を

おっかけにゆこぉー!

はぴはぴはっぴーわーるど!♪」

 

薫・は・花・ミ(ゆけゆけハロハピ!)

 

こ「いっちゃうモンモン!

キミの世界をひろげたい!

ハ・ロ・ハッ・ピー・タ・イ・ム☆♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「いえい!!!」

 

 これを観たって現実の何かが変わるわけでもないが、僕はあいつらの事をもっと知る必要がある。ハロハピの人間だけじゃなく、全員。この世界がどういう世界か、それをある程度認識しているからこそあいつらには強くあってほしい。

 

「Raw…!あなたとうとうやってくれましたね!!」

「いやちょっと待ってよ!いい感じに締めくくらせて!!」

 

 すると突然神城が甲冑着て、日本刀持ってやってきた。普通に銃刀法違反だよ?

 

「あなたはここで粛清します!!!」

「ちょっと待ってこんなこち亀的な終わり方嫌だ!!誰か助けて!!!」




みんなの事を信頼できてないRawさん、いつか彼女達の事を信頼できる日は来るのでしょうか…。


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第26話「flame of hope」

色々書き直しました。
今回はいたって平和な回です。
では、どうぞ。
あと書き忘れかけてましたが、第3章のこの形式もう一周ぐらいやります。今になってアイデアが浮かんできて、当初の予定では収拾つかなくなってきてるので…。


 

 

 俺、赤沢 増治は今つくしとファミレスにいる。女の子と二人でご飯は問題ではないのかって思われそうだが大丈夫。今は昼だ。え?問題じゃないでしょ。

 

「Maxさん…。リーダーって何でしょうね…。」

「どうしたつくし?らしくないぞ?」

 

 知らない人はいないと信じたいけど、もしものためだから一応言っておく。つくしはMorfonicaのリーダーなんだ。クラスでも学級委員長を務めるほどだからしっかりしてる、ように見られたいんだろうな…。

 

「リーダーってもっとこう、一緒に頑張りながら皆を引っ張っていく感じだと思っていたのですが…。」

「ですが?」

「何かみんな私に対して酷いんですよ!リーダーなのにずっといじってきて、その上雑用まで押し付けられて!これがリーダーというものなのでしょうか…。」

「まぁ基本威厳のある奴じゃない限り、リーダーはクズ扱いされて当然だからな。」

 

 俺の知ってる限りだと、Roseliaの友希那とハロハピのこころはそういう威厳ある人間の部類だな。香澄とひまりと彩とつくしとちゆは…。ごめん。

 

「何ですかそれ!?あれ?でもSUICIDEってリーダーいないですよね?」

「ああ、うちも過去にリーダー決めた事あるんだよ。まぁリーダー制度はすぐ廃止になったけど。」

「え、誰ですか!?」

「音生。」

「あっ、はい…。」

 

 何か俺が音生って言ったらつくしのテンションがだだ下がりしたんだけど…。何かしたかな…。音生だからかな…。

 

「ま、まぁ詳しい事は音生に聞きなよ。何かわかるかもよ?」

「わ、わかりました!」

 

 その後、俺とつくしはお会計を済ませて店を後にした。いや、やっぱり音生だと頼りなかったか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「由美さん、この後どこ行きましょうか?行きたい場所とかはありますか?」

「んー、クレープ屋さんに行こっかな!」

 

 私ことyu-minはましろちゃん、透子ちゃんと一緒にお買い物をしていた。まぁ気分転換にと思って、ね?今日は私自身も何も予定が無かったから遊べたけどRawさんに呼ばれてたらどうなってたことか…。

 

「んー…。」

「透子ちゃんどうしたの?何か悩み事でもあるの?」

「シロ聞いてよー!それに由美さんも!Rawさんがあたしのこと全っ然名前で呼んでくんないの!」

 

 透子ちゃんが私とましろちゃんに対して悩みを打ち明ける。何ともまぁ可愛らしい悩み…。私は由美って名前で呼ばれてるからいいけどね。Rawさん最初恥ずかしがりながら名前で呼べずにいて、後ろ向いたら私の名前呼べたの。可愛いと言えばいいのか、意気地なしと言えばいいのか…。

 

「Rawさんが名前で呼んでくれたらあたしも名前で呼ぶのに…。『太郎、大好きだよ』って!あははは!」

「それ完全に透子ちゃんがRawさんのことからかって遊びたいだけだよね?」

 

 透子ちゃんの話を聞いていたらどうもRawさんをからかいたいようにしか思えないんだけど。遊びにしてはRawさんには刺激が強すぎるから悪意百パーセントの悪戯ではあるんだけどねぇ…。

 

「なーんでRawさんって人の事を名前で呼ばないんでしょうかね…。」

「多分ね、Rawさんなりのやり方なんだと思うよ。不器用すぎるけど。Rawさんって、色々黒い噂流されてるけどああ見えて誰かの事しか頭にないの。どうやったらあの人を救えるんだろう、何があの人の支えになるかな、とか。でも何でかな、Rawさん自身はそれを否定したがる。」

 

 私はRawさんがどういう人か、ちょっとだけ二人に語る。せっかくだからこれも言っちゃおうか。本当の事なんだし。

 

「そう言えばさ、SUICIDEって日本一のバンドって称されてるじゃん。」

「まぁ、はい。そうですね。世間的には。」

「実はね、日本一になろうって決めたのはRawさんじゃなくて私達六人なの。Rawさんはそれに乗っかったってだけで、本当はRawさん勝負事とか嫌いなんだよね。」

「え!?」

 

 みんな驚くよねー。まぁそりゃそうだもん。世界一になろうと固執してるように見える人が実はそのための道のりである勝負事を嫌ってるなんて。

 

「でも私、よくわかんないんだよね。暴力と勝負が嫌い。これはRawさんなりの答えなのか、それとも色んなものに縛られてそこから導き出した答えなのか。私的には前者を望むんだけどね。」

「きっと、そうだと思いますよ。Rawさんの願いは私にもなんとなくわかります。」

「あたしも!」

 

 ましろちゃんと透子ちゃんは私の話を一通り聞いた後、Rawさんの本当の想いを信じると言った。私も信じたい。いや、信じなくちゃいけない。Rawさんの本当を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音生さん!リーダーになるための心構えって何ですか!?」

「え、えぇ…?」

 

 つくしちゃんに突然呼び止められたかと思ったら、唐突にそんな質問をされた。いやー、たしかに一時期リーダーやってたけどなぁ…。

 

「んー…。何だろう、やっぱり経験、じゃないかな。」

「経験…ですか?」

 

 一度はリーダーに近いポジションを担当した身だからこそ言える事をつくしちゃんに一応教えとく。何を知りたいかは知らないけど…。

 

「うん。頼れる人になる為には色んな引き出しを持っておく事が大切なんだ。そしたら誰かに頼られても困らない。」

「なるほど…。頼りないと思ってたけど、音生さんに相談して正解でした!ありがとうございました!」

 

 何か今すごい失礼な事言われた気がするけど…。年上なのに…。でもつくしちゃんの疑問が解消されたならそれでいっか。

 

「あ、そうそう。そういう話だったらRawさんに聞いてみるのもいいかもしれないよ。Rawさんは頼りになる人だからね。」

「Rawさんかぁ…。怖いから苦手なんですよね。」

「あはは…。最初のうちはそうかもしれないけど、話してくうちに段々心開くと思うよ。」

 

 俺はRawさんに怯えてるつくしちゃんにアドバイスしてあげる。思い返してみればRawさんとつくしちゃんのペアって見たことないな…。一回も。まぁ、Rawさんはロリコン(冗談)だから変な気起こさなければいいけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって今僕仕事部屋にいるのだが、神城(あの馬鹿)が鉄格子で閉じ込めたせいで部屋から出られないんだよ今!!!唐突で悪いが!!トイレは行けるから大丈夫なんだが…。

 

「あのー、すいませーん。Rawさーん?」

 

 すると、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。誰だ?多分声的に二葉かとは思うが…。確認してみないとわからないな。このドア、誰が来たか確認できるように改造されてあるようだ。まったく…。確認してみたら二葉だった。

 

「二葉か。何の用だ。」

「あの、みんなに頼られるリーダーになるためにはどうしたらいいかなって…。」

「僕の今の状況を見ろ。この状況でそんな事聞く奴いる?」

 

 僕が今プチ監禁されてるのを認識しているのかこいつは。てかプチ監禁って何だよ。プチって付けても物騒な事に変わりないし。今世紀最大日常生活不必要単語ベストオブザトップ金賞受賞だわ。

 

「あ、すいません。迷惑、でしたよね…。」

「はぁ…。まぁいい。話ぐらいは聞いてやろう。」

 

 二葉が涙目でこちらを見つめてくるので仕方なく話を聞くことにした。この状況を誰かに見られてたら僕が悪者って誤解されるからな。

 そして二葉は丁寧に話してくれた。メンバーが自分を頼ってくれなくて自分は本当にリーダーが務まっているのか悩んでいること、学級委員長を務めているが皆をまとめられているのか不安なこと、他のメンバーがコラボキャンペーンで仕事してる中自分だけDASH村の畑仕事ばかりしていること。すまん、最後のは嘘。てか冗談。

 だがコラボキャンペーンに関しては確かに言いたい事があるそう。たしかにああいうのってモニカじゃ倉田と桐ヶ谷の起用率高めだもんなぁ…。公式様、二葉にお仕事を。ていうか二葉も一、二回ぐらいはやってると思うが…。

 

「なるほどな…。だから理想のリーダーになる為に、何が必要かって話だな。まず極端な話、リーダーは替えが効くから。」

「え?」

 

 二葉は僕の答えに対して素っ頓狂な声をあげる。まぁそりゃそうだろうな。こんな答え出されたら。

 

「考えてみろ。SUICIDEのメインボーカルである僕でさえいなくても代わりは効く。僕がいない時あいつらがボーカルやる時あるからな。だから、リーダーとかメンバーとか、肩書きに縛られる必要はないと思うぞ。気楽にかつありのままでいいんだ。」

 

 僕は自分の思っている事をそのまま二葉にぶつける。本人がどんな反応をしてるかは見えづらくてわからないけど。

 

「あ、赤沢からLINE来てたわ。あー、あいつも二葉の事で相談してたんだな。あと音生も。今僕が言った事はあいつらとは違うかもしれないけど、引き出しをいっぱい持っておけ。その時その時で参考になるかもしれない。」

「わ、わかりました…!」

 

 何かノートかメモ帳かどっちかわかんないけど、紙に筆を走らせている音が聞こえる。ドアの向こう側には二葉しかいないから多分二葉。

 

「てか、ここはお前も気をつけた方いいぞ。変な客人いっぱい来るから。布施が自作のLINEスタンプ販促しに来たり、花園がドアの近くでヤゴ飼おうとしてたり…。あと松原からはこんなもの渡された。」

「大体Rawさんが恨み買ってる人達じゃないですか…。自業自得なんですから少しは自覚してください…。って痛っ!」

 

 僕が松原から貰ったボールペンの上の部分を二葉が押すと、電流が流れた。これこそ弦巻家が開発した“クラゲペン”だそうです。本当にふざけんな。あと僕はあいつらの恨み買ってないからな?大体逆恨みです逆恨み。

 

「ちょっと待ってよ二葉。僕は何も悪いことしてないじゃないか。それなのに何でグルメスパイザーで粉砕された菓子かけられなきゃいけないんだ。」

「罰です罰!!!」

 

 罰?罰のためにわざわざ千兆円とかいう国家予算以上の大金積まなきゃ買えない菓子粉砕器持ってきたの?とんでもない執念だな。いや、流石お嬢様と言うべきか。

 

「そんな罰の受け方嫌だわ。はぁ…。なんだかお前らしい悩みで安心したよこっちは。」

「私らしい悩み…?って、うわっ!あなた誰ですか!?」

 

 僕がそんな事を言うと、二葉の近くに誰かが来たようだ。おそらくあいつかな。

 なんて事を考えているとドアが開いた。間違いない。頼んでいたものを持ってきてくれた。やはりあいつに違いない。

 

「手間かけさせて悪かったな閑無。」

「いいよ〜。ムーくんのためだもん。」

 

 紹介しよう。彼女は若生 閑無。たしか第24話で若生 有亜ってキャラ出てたでしょ?その有亜の双子の妹が閑無。同じ双子の氷川姉妹に例えてみるか。有亜が氷川姉の紗夜たとすると、閑無は氷川妹の日菜。まぁこんな例えなんてなくとも賢明な読者の諸君なら理解できるだろう。

 ちなみに彼女、普段は潮花 春乃という名義で作家をやっている。なんでもジョジョが好きでそのキャラ(ジョルノ・ジョバァーナ)からイマジネーションを得た名義だとか…。ってそれは別にいいや今は。

 

「ふぃー、ようやく出られた。」

「あのー、それは…?」

「ああ、これ?何でも開けられる鍵。布施に頼んで作ってもらったんだ。」

 

 布施はすげぇよな。何でもできる。ん?誰だ今そんな無理な事押し付けてるから恨み買うんだよって思った奴。怒らないから前出てきて。

 

「ムーくんも人使いが荒いよねぇ。怒られるよ?」

「いつもの事だ。じゃあ、僕は屋上に行くとするか。」

 

 実はこのビルの屋上、木が一本生えてる。で、そこに芝生敷いてる。最高のサボりスポットだ。訂正、最高のお休みスポット。じゃあ、今日はこれでお終い。

 ここからは短編番組、モニカのうたをお送りいたします。

 

「勝手にサボって変な番組の放送を始めないでください!!!」

「危ねっ!!廊下で日本刀振り回すなよ!!!銃刀法違反の現行犯で訴えるぞ!!!」

 

 大変お見苦しいところをお見せして大変申し訳ございませんでした。では最後にミニコーナーをお楽しみください。“金色のプレリュード”。

 

ま「逃げないその瞳が 明日を切り開くよ

どんなときも♪」

 

透・七・つ・瑠(ここで♪)

 

ま「いつも笑顔のままで

 

心は チカチカ 熱い炎に縁取られて

やがて身体中を 激しくなぞっていった

止まれない もう止まらないよ

世界は微笑みながら

私を 受け止める準備をして♪」

 

透・七・つ・瑠(Wow wo wow♪)

 

ま「傷つき 倒れそうになるほど 強く♪」

 

透・七・つ・瑠(Wow wo wow♪)

 

ま「諦めない気持ちが はじけるんだ

 

私自身 味方に

力強く♪」

 

透・七・つ・瑠(声を♪)

 

ま「響かせてゆけ…!

 

燃え盛る想い 今 悔しさを源に

描きだした♪」

 

透・七・つ・瑠(熱い♪)

 

ま「願い駆け出してゆこう

かたちの違うものが 触れるたびに生まれた

カケラを重ね合わせて たった一つだけの♪」

 

透・七・つ・瑠(私だけの夢を♪)

 

ま「連れてゆくよ 望む方まで♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、僕は自宅のベッドから起きる。今日は休日だったので、携帯の時刻は午前九時に差し掛かっている。まぁいつも通りだな。いつも通りすぎて逆に怖いけど…。

 

「…え?」

「あっ…。」

 

 そんなこんなで目を覚ましていると、何か見たことのない、白いワンピースを着た幼女が僕の目の前にいた。人間にしては勿体ない美貌ではあるが、こんな時僕が口から出る言葉は一つ…。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!不審者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 果たしてこの少女は何者なのか、そしてそれを知った僕の運命や如何に…。次回に続く。




次回、とんでもない事が起こります。


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第27話「UNSTOPPABLE」

急展開&急展開です。よしなに


 

 

 いつからだろうか。奇妙な夢を見るという現象は物心ついた時から僕の身に起こっていた。何故そうなるのだろうか。僕の周りには奇妙な出来事しか起きない。朝、起きても虚しい気分にしかならない。そうやって毎日毎日運命という決められたレールの上で生きていくのか…。

 なーんて思ってたらさ、偶然見つけてしまったんだよね。天使。もう一度言う。悪魔じゃなくて天使。いやどっちも人間が見てはいけないものには変わりないが…。五月の終わりに見るようなもんじゃない。そうか、叫んだ後気絶してたのか自分。

 

「どちら様?」

「あら、気がついたのね。」

 

 天使と思しき少女は僕にそう語りかける。薄い黄色の長髪に純白のワンピース、そしてどこまでも透き通った白い肌。そんで幼女ときたもんだ。普通の人なら惚れてるね。

 

「いや質問に答えろ。誰だ?」

「私はピコ。世天使よ。」

「世天使とかいう単語自体聞いた事ないし、そもそも天使だと言うのにそんなダサい名前付けられたお前が不憫で仕方がない。」

 

 だってみんな考えてみ?ピコだよピコ。天使にあるまじきネーミングセンスだと思わないか?この子の名前付けた奴の顔一度見てみたいくらいだ。

 

「貴方の名前よりは、はるかにマシだと思ってるわよ。それと天使を見たというのに随分と落ち着いてるわね。」

「人の名前さりげなくディスってんじゃねぇ。それに僕の周りには何の脈絡もなく奇行に走る連中が大勢いる。ファンタジーごときじゃ驚かん。」

 

 こいつ、僕の名前を侮辱しやがったな。可愛い天使だったら何してもいいって自惚れてるタイプか?一回顔面グーパンしてやらないと気が済まないわこのメスガキ。

 

「誰がメスガキですって?」

「心の声を読むな。てか気になったんだが、世天使とは一体?」

「ああ、貴方は聞いたことがないのね。世天使は様々な世界を創造し、世界を破壊せんとする者と守ろうとする者を存在させる事で世界を統治するイレギュラーな役割を果たす天使。私はたまたまこの世界に来て、怪我を負って、そこを貴方に助けられた。でも実体を保てずにいたから私はずっと貴方の身体の中に住み着いていたの。」

「お前にそんな役割が…。てかそれ夢じゃなかったんだ。いや待て、まず許可無く勝手に人の身体の中に居座るのやめてもらっていい?」

 

 自惚れが過ぎるわこいつ。本当に天使なのか疑うレベルなんだが。あいつの実体が戻ったらぶっ潰してやる。

 

「貴方は本当に懲りな…。あっ。」

「これは…。天使がよく持ってる弓矢か?」

 

 ピコが唐突に天使の弓矢を落とした。本当唐突に。みんな恋のキューピッドって言ったら何を想像する?多分天使がハート型の弓矢持ってる図を想像するだろうけど。え?そんなメルヘンな想像してるの僕だけ?ふざけんな。これ以上僕のキャラを壊すな。

 

「え、ええ…。仕方ないわね…。実は、世天使の役割は世界を統治する事だけじゃない。“世界書”と呼ばれる書物に従って生物の生命を天界或いは冥界に送ったり、恋愛を成就させたり、生命を宿させたり、色々するの。」

「それってつまり…。僕たちの世界は全て天使の手の中…。僕たちの幸福も全てお前ら天使から与えられたものだったって言うのか…?」

 

 僕はこれほどまでに絶望した事が無かった。仲間がいる事、自分を愛する者がいる事、音楽を仕事にして活躍できている事、それら全てが僕の力では無くて天使から与えられたものだったのだ。

 

「そうよ。これがわかったらあまり天使に楯突かないことね。」

 

 ピコはそう言うと、姿を消した。僕は操り人形となって生きてきた事実にただ呆然とするしかなかった。否、できなかった。人間の力じゃどうしようもない事象が明らかにされたんだ。自分はもうどうしていいかわからくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日奈さん、どうでしたか…?」

「うん、いい感じだったよ。今の感覚を忘れずにもう一回やってみて。」

 

 まもなく正午になる頃の午前中、今日の仕事は休みだったけど、私はRoseliaの練習を指導していた。今はりんりんに対して曲の完成度の評価をしてたところ。元々ローくんがやる予定だったんだけど、今日は体調不良らしくて代わりに私がやってるんだよね。そのお礼として今度パンケーキ奢ってくれるみたいだから、これさえ終われば後はパンケーキ…!

 

「じゃあ、いきまーす。」

 

 あこちゃんのカウントでRoseliaのみんなは演奏を開始する。すると、五人の演奏によってとんでもない音圧が生まれた。今までのRoseliaの中で最高峰の演奏、まるでRoseliaという一つの楽器みたいな、そんな演奏だった。多分みんなも…。

 

「すごい…。すごいよこれ!」

「ええ、この今までに感じた事のない一体感…。これは一体…?」

 

 子供のように燥ぐリサちゃんに紗夜ちゃんも同意する。みんな得られたみたいだから喋っちゃおうか。本当は妄りに教えるの禁止なんだけど。

 

「みんな、ちょっと聞いて。今みんなの間で生まれた一体感は“共鳴”って呼ばれるもの。メンバー全員の力、技、心が一つになって初めて成せるものなの。この“共鳴”はSUICIDEは勿論、他のメジャーで活躍しているバンドなら全員会得してる。」

「そんな現象があるのですね。ではもう一度ご指導のほどをお願いいたします。今の感覚をいつでも引き出せなければ意味が無いんです。」

 

 ゆっきーは熱心な眼差しを私に向ける。私もこの目が持つ期待に応えなければならない。その覚悟でやってるんだから。

 

「いいよ。ここからはスパルタ指導でいくからね!覚悟しててよ!」

 

 私の指導はどんどんヒートアップし、時刻はあっという間に午後の六時を過ぎていた。いやー、やらかしちゃったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、ふー…。はむ…。あちっ!」

「あはは、あこちゃんこういう所あまり行かないの?」

「んー、あこは普段Roseliaの皆でファミレス行きますからねー。中々こういう所には…。」

 

 Roseliaの練習終わり、私こと佐久間 明日奈はあこちゃんを連れてラーメン屋さんに来ている。え?店名は何かって?皆なら一度は聞いたことのある濃厚とんこつ豚無双ってラーメン屋さん。

 しかしまぁ、大変だったよ。色々と。お冷のコップには水垢付いてるし、スープには虫入ってるし、麺の中には髪の毛入ってるし。それも私のだけ。あこちゃんには何故か待遇良い。かく言う私は誠意のチャーシューを齧りながら今別のラーメン待ち。相当頭に来たから店主さんが土下座してる動画をサブチャンネルにアップしようとしたけど、あこちゃんに止められちゃったよ。

 

「どう?最近は。」

「最近は皆Roseliaとして演奏する事自体を楽しんでるように思えるんです。あこもそうです。友希那さんに憧れて、Roseliaのドラマーになって、いつの間にかこんなにも遠い所まで来て…。お姉ちゃんに憧れてドラムを始めたんですが、ここまで来れた事には何か感慨深いものがあるんです。」

 

 あこちゃんがラーメンを啜りながらしみじみと語ってくれた。そんな事を思ってたんだね…。と、私が思っている最中もあこちゃんは私のチャーシューをチラ見しながら話を続ける。欲しいのかな。やらないけど。

 

「友希那さん、FWFに出るのが夢だったんです。でもそれはいつしか、何でかはわからないけどあこ達五人の夢になっていって…!」

「それだよ。」

 

 私はRoseliaの実力の本質を見抜き、待ったをかけた。なるほど。それが理由だったんだね。

 

「確かに、バンドにとって技術力や表現力は大事。でもね、一番大事なのは団結力。バンドとして輝き続けるには団結力は必要不可欠。」

 

 これはローくんから教わっただけじゃなくて私が経験して見つけた答え。私なりの答え。その答えはあこちゃん達にとっての答えではないけど、ヒントにはなれると思う。そう信じて私は話を続けた。

 

「あこちゃん達には一つのゴールがある。でもゴールは一つだけじゃない。ゴールしてはまたスタートして、それをずっとやっていく。今のみんななら大丈夫だよ。みんなは一つ。」

「そ、そうなんですね!そしたらあこ、もっとRoseliaらしいドラムをできるように頑張らなきゃ…!」

「あ、ごめん。一つ勘違いしないでほしいんだ。団結は必ずしも個性を削ぎ落とさなきゃいけないって事じゃないの。バラバラなパズルのピースを埋め合わせて、一つになる。それこそが団結だよ!」

「団結…。」

 

 あこちゃんがようやく団結の本当の意味を理解してくれたところで私が注文した濃厚無双ラーメン海苔トッピングが来た。今度こそ大丈夫だと思いたいよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Stop!!全然グルーヴが重なってないわ!!もう一度よ!」

 

 今日はRASの練習、だけれど今日のチュチュはいつもより張り切っている。正確には焦ってる。仕方ないのかもしれない。昨日Roseliaが“共鳴”を身につけたって聞いたから。RASこそ最強のバンドだと豪語するチュチュにとって“共鳴”は必要不可欠な要素。

 

「チュチュ、ここら辺で休憩にしない?ますきもロックもパレオも疲れ切ってるし。」

「そうね。一旦休憩にしましょう。」

 

 私の要望を聞き入れたチュチュは休憩を挟んでくれた。ちょっとの焦りが今後の活動に大きな影響を及ぼす。それを皆理解していた。

 

「さぁ、もう一回やるわよ。」

 

 チュチュが手を叩いたところで再び練習が始まった。ここにきて練習の質と量、どちらもハードになってきている。

 

「さっきよりは良くなってきているんじゃないかしら?けれど何かが足りないわね。一体何が足りてないと言うの…?」

「なぁチュチュ、そんなに気張る事ねぇだろ。もう少し長い目で見てみても…。」

「ダメよ!!!最強のバンドとして、何としても“共鳴”は会得しなければ…!」

「最強のバンドは今の時点じゃSUICIDEだろ。」

「ぐっ、それは…!」

 

 ますきの反論にチュチュが言い淀む。ますきの言う通り、私達なりのペースで歩んでもいいんじゃないかとは思う。けど、Roseliaに負けてられないっていうチュチュの気持ちもわかる。

 

「とにかく!!何が何でもやらなきゃいけないの!!あんた達このままで悔しくないの!?」

「落ち着け。今焦っててもしょうがないだろ。」

「っ…!もういい!!」

 

 そう叫んだチュチュは足速に去っていった。私達には止める事はできなかった。リサさんから聞いた。バンドにとって最も必要なのは団結力。それを教えようとしても止められなかった。何かが私達の足枷になっていた。一体何が足りてないんだろう…。

 私達がしばらくそこに悩んでいると、小泉さんと瀬良さんがやって来た。

 

「どうも。って、ん?ちゆの奴はどうした?」

「それが…。」

 

 私達は小泉さんと瀬良さんに全てを話した。瀬良さんはチュチュの事についてそこまで深く知らなかったから微妙な顔をしていたけれど、小泉さんは納得してくれた。

 

「失踪って…。ダイナミック何ちゃらってアニメじゃねぇんだからよ…。フフッ、まぁ焦る気持ちもあるよな。同じグループにいるからわかるんだ。ちゆの奴、普段は意地張ってるけどああ見えて村上と同じくらい繊細なんだよな。」

「Rawさんと?」

「ああ。影響を受けた、とかじゃなくてあいつら二人は似た者同士なんだよ。だから波長が合う。」

 

 確かにチュチュとRawさんにはどこか同じモノを感じる。雰囲気でもないし、性格でもないし、ましてや生活パターンでもない。今あげた点についてはどれも正反対。だったらどうしてあの二人が似てるって思えるんだろう…?

 

「『何であの二人が似てるのか?』って顔してるね。答えは簡単だよ。村上先輩も、チュチュちゃんも、正反対だからこそ似てるんだよ。」

 

 正反対だからこそ似てる…?瀬良さんの言ってる事の意味は何だろう…。

 

「正反対の物ってさ、意味合い的には逆だけど立ち位置は一緒。まぁ平たく言えば本質が同じなんだよ。」

「本質が…同じ……?」

「そう。何かあの二人に共通する部分があるんじゃないかな。少なくとも俺はそう思う。」

 

 少しずつ瀬良さんの言葉の意味が見えてきた。そうか。そうだったんだ。だからチュチュはあれだけRawさんを慕ってたんだ。他の誰よりも。

 

「よし、せっかく来たんだしまたちゆにギャーギャー言われないように面倒見てやる。瀬良、悪いけどギターとベースとドラム見てやってくんね?俺キーボードとボーカル見るわ。」

「あっ!小泉さんズルいですよそういうの!」

 

 瀬良さんはRawさんと同様人使いの荒い小泉さんにため息をつく。すると、瀬良さんが物珍しそうにロックの顔を見つめてる。いやあれ客観的に見たらただの変態なんだけど…。あっ、でもRawさんから聞いたけど瀬良さんは異性に手を出すような事は絶対にしないらしいから大丈夫…なのかな?

 

「六花ちゃん…。随分と前にどこかで一回会わなかった?俺の見間違いだったら悪いんだけど。」

「えっ…。いや、あの……。ごめんなさい!瀬良さんとは助けてもらった時が初対面で…。」

 

 今のロックの顔、何か後ろめたいような表情だった…。何か瀬良さんに隠し事をしてるのかな?瀬良さんには言えないような事情とか…。

 

「おーい。練習やるぞー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方頃、僕は一人部屋に籠もって脱力感に浸っていた。あの天使から告げられた言葉が今でも心に残ってる。僕だけじゃない。赤沢も、由美も、音生も、明日奈さんも、小泉も、ちゆも。そして戸山達全員の幸福も全て与えられたものだった。僕達人間は一体何のために生まれてきたんだ…。天使達の操り人形になる為に生まれてきたのか…?できることなら全員にこの事実を話して助けたい。けれど、誰もこんな話信じないだろう。天使なんてものが絡んでる時点でもう信頼なんてない。自分自身が選んだものなど何一つない。与えられた幸せを噛み締めながら生きて、僕の人生は一体誰のものだったんだ…。

 そんな事を考えていると、急にインターホンが鳴った。こんな時間に来客なんて珍しいな。誰だろうか。なんて思ってドアを開けてみたらちゆがいた。泣いていたのか、目は赤くなっており頬には涙を伝った跡がある。

 

「ちゆ…。」

「少しだけここに居させて。」

 

 家の前で立たせているのも悪いので、ちゆの要望に応える事にした。今は僕が野菜炒めを作ってる。僕が。大事な事なので二回言ったぞ。そしてちゆの話を聞いたわけだが、なるほど。メンバーとのズレか。ちなみに“共鳴”を普及したの僕。もう一度言う。プロのバンドが活躍するのに必要な“共鳴”を見つけ出して広めたのは僕。何度でも言うぞ。大事な事だし。

 

「まぁ、実際のところ“共鳴”が使えるレベルまで持ってくるのは難しいからな。Roseliaができるようになって驚くのも無理はない。」

 

 本当は遅かれ早かれRoseliaは“共鳴”を習得するんじゃないかってタカを括ってたけど。案の定、Roseliaの方が一歩先だったか。

 

「そうよ!本当に嫌になる…。でも一番嫌なのはワタシ。いつもわがままでメンバーを振り回してばかりで…。こんな時に限ってタロウに頼って…。」

 

 ちゆはちゆなりに思うところがあったんだな。僕も自覚してる。ちゆが頼れる存在の一人、それが自分だと。でも僕自身も決心してたからな。戸山達には悪意に立ち向かえるほど強い人間になってほしいという気持ちがあったが、ちゆは別だった。ちゆにはそれなりの課題を出すつもりだった。まぁいずれ出すけどね。

 

「タロウは、どうしたのかしら?Ms.サクマから聞いたけれど、Roseliaの練習の監督をしなかったらしいじゃない。」

「なぁちゆ、もし今の幸せが全て与えられたものだって言われたらどうする?」

「何よ、急に。そうね…。難しい話だけれどそれでもワタシは自分のやりたい音楽をやるわ。壁があるならぶっ潰す、それだけの事よ。だからタロウも、タロウだけの音を奏でなさい。」

 

 自分のやりたい事をやる、壁があるならぶっ潰す、自分だけのメロディを奏でる…。それら全てが僕の耳に入ってきた途端、全てが見えた。僕が見つけた人生最高の答え。今最高の気分だ。

 

「我、至りて…。」

 

 文字通り、至った。至る事ができた。ようやく見つかったよ…。

 

「タロウ…?」

「ちゆ、悪りぃけど明日付き合ってくんね?」

「え…?What's?」

 

 いつもとは違う僕の口調にちゆは戸惑う。そりゃそうだ。今の僕はもう前までの僕とは違う。檻に閉じこもってそれで満足していた自分とは。そしてやんなきゃいけない事もできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。遅いわね…。ワタシが早く来すぎたのかしら…。」

 

 翌日、ワタシはタロウに言われて空港で待っていた。一体何をしようと言うのかしら…。空港に行くということはおそらく東京から出るという事になるけど…。

 

「お待たー。」

「遅いわよ!一体いつまで待たせ…え?」

 

 ワタシが後ろを振り向くとそこには黒色のTシャツの上から青色のスカジャンを着ていて、イヤリングを付け、サングラスをかけていたタロウがいた。

 前はそこまでではなかったけれど、かなり煩悩まみれじゃないかしら…?

 

「どした?」

「いや、あの…。そのイヤリングとかサングラスは何なの?」

「あー、これ?昨日からこういうの付けないと日常生活も無理でさ。はぁ、しんど。マジガン萎え。」

 

 タロウ、どうしたのかしら…。昨日まではこんな事言うタイプの人ではなかったはずだけれど…。

 

「まぁいいわ。で、このワタシを連れてどこへ行こうと言うの?」

「どこへって…。ジモるだけよ。あ、でもソクサリするから大丈夫。」

「What's?」

 

 ここに関しては何が言いたいのかさっぱりわからないわ。一体何をしようとしてるのかしら…。

 

「人目につかない場所無いかなー…。まぁ、ここでいっか。ちょっとついてきて。」

「Yeah…」

 

 すると、タロウの目の前にドアが出てきてそれが開いた。何も無い場所なのにどうやって?

 

「ちょっと待ちなさい。空港まで来て移動手段それなの?」

「どうせならバイブス上がる方が良いじゃん。来な。怖いところには行かないよ。」

 

 タロウにそう言われるがまま連れて来られたのは…。Where is here?少なくとも東京では無さそうね…。

 

「タロウ、どこよここは…。」

「宮城県。寄りたい所があってね。」

 

 タロウはワタシを連れてどんどん歩いていく。空は雲ひとつない青空で、耳についたアクセサリーの付いたイヤリングがよく輝いている。タロウはこんな日に一体何をしようと…。

 

「今日が月命日、だからな。」

「これは…。」

 

 しばらくしてからたどり着いた場所は数々の墓標が立ち並んだ丘だった。ワタシとタロウの目の前にある墓石には上川家之墓という文字が彫られている。タロウは線香に火を灯して黙祷を捧げた。

 

「…ワタシも手を合わせて良いかしら?」

「うん、きっとアイツも喜ぶと思う。」

 

 ワタシはここに眠る人の事を知らないけれど、タロウを知る身として黙祷を捧げた。しばらくして、タロウが口を開いた。

 

「アイツさ、無茶苦茶強かったんだよ。女だけど、どんな状況でも屈せずに立ち向かう。弱虫って言葉が一番似合わない存在だった。だけど、一度だけアイツは僕に弱音を吐いた。『時々私は自分じゃない誰かに突き動かされる時がある。そう考えてみると、本当に自分の手で選んだものは何なのだろうか。私の人生は誰のものなんだろうか。』ってね。僕は何もできなかった。それだけが心残りだった。でも今は違う。今なら何か変えられる。」

 

 タロウはワタシの方を振り向くと、微笑んでみせた。でもその表情はどこか悲しげだった。そんなタロウの顔を見てると、何もできない自分が情けなくなる。

 

「もー、男の子がそんな顔しないの!女の子を悲しませちゃダメでしょ。」

「ひいっ!?」

 

 な、What's!?墓の前から何か出てきたけど…。幽霊…?

 

「安心しな。人間の魂だから。」

 

 タロウ、この状況でよく怖がらないわね…。あ、確かタロウは幽霊は平気だって言ってたわね。苦手なものは虫と注射だったかしら…。

 

「ごめん。生きてた間に何もできなくて。」

「いいのいいの。こっちこそ、先に死んじゃってごめんね。ていうか、そんなしんみりした顔をダメだよ!生きてる君には幸せになってもらわないとね。私は別に大丈夫だから…。」

「本当にそれでいいの?」

 

 タロウがそう言った瞬間、女の人は急に黙り込んだ。それよりも、幽霊なのに声の調子が明るすぎないかしら?

 

「私は…。出来る事なら、この世界の全てをこの目で確かめたい。でも、私は今ここに縛り付けられてて移動することなんてとても…。」

「おいで。僕が見せる。」

「…ふふっ。太郎って本当に馬鹿だね。」

「今だけは馬鹿で構わないよ。」

 

 タロウは女の人に手を差し出し、女の人はタロウの手をとると小さな光に変わった。一体何をしようというの…?ってまた別の場所に移動するの?

 

「咲希…。見たかったその景色を見ておいで。」

 

 タロウは見晴らしの良い場所に移動すると、手のひらの上の光を放った。あれがサキという人の魂なのかしら…。もしそうだとすると、タロウはあの人の願いを叶えたことに…。

 

「あなた何をしているの!?」

「っ!?」

 

 ビックリしたわね…。今度は一体何って、What's!?タロウの背後から何かいる…。また幽霊なの…?

 

「あ、驚かせてごめんね。コイツ、世天使のピコ。おいピコ、いきなり出てきて驚かすなよ。」

 

 よかった、天使なのね…。そもそもピコという名前、ネーミングセンスが酷くないかしら?ワタシも天使にはそこまで詳しくはないけれど、聞いた事のある名前だともっとExcellentな名前だったわよ。

 

「それよりも!!あなた自分が何をしたかわかっているの!?アレはあのままにしておいてよかったの!!!天使が天界へ運ぶためにわざわざ縛り付けておいたものをあなたは…!」

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ。」

 

 タロウの言葉でピコという天使は黙った。ワタシもタロウの圧が怖すぎて声も出なかったわ。It's awesome.

 

「咲希はお前らの救いなんざ求めてなかった。そもそも、お前ら天使は何故僕達に決められた運命を与えるんだ?」

「簡単よ。それが神々の意思だから。神が世界を治めるためには人間に定められた人生や運命を歩ませる事が必要なの。」

 

 What's?どういう事?まるで話が見えてこない…。scaleが大きすぎる…。

 

「あっ、そ。じゃあ敢えて言うわ。僕はお前らが大嫌いだ。神だとか天使だとか関係なく、己の幸せのために他者を傷つけたり運命を押し付けたりするような奴が。」

 

 タロウ、正気なの!?その言葉、本気で天使に喧嘩売ってるわね…。目の前にいるから信じる他ないけれど。

 

「運命も、幸福も、自分の手で掴むもんだから。」

 

 運命も幸福も自分の手で掴む…。答えが見えてきたわ。RAISE A SUILENが進化するためのヒントが…!

 

「そう、ならどうなっても知らないわよ。と言ってももう遅いけれど。昨日、天界にかけあってあなたを天使の定めた運命から除外させたわ。あなたは人から“極”へとなった。神や仏のような存在だけれど、単純に言ってしまえば天使や神々に対する、一生続く反抗期ね。」

 

 天使や神々に対する反抗期って…。反抗期にしてはスケールが大きすぎないかしら?

 

「ハハッ、良い響きじゃん。反抗期。ただ覚えておけ。僕が何者であるか、それを決められるのはただ一人…。僕だけだ。」

 

 タロウはそう言ってワタシを連れて東京に戻った。思い返してみれば、あのピコって天使がやった事も相当マズくないかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瀬良ー、小泉ー。準備できた?」

「おう。まりなに頼み込んで準備してもらったぞ。」

「先輩、どうしたんすか?その服装とかアクセサリーとか…。」

 

 村上が戻ってきた。てか、随分見ない間に急にチャラチャラし出したな。イメチェンか何かか?にしても、村上あいつ服装と言いサングラスと言いイヤリングと言い、何から何までガラ悪いな。田舎のヤンキーかよ。

 

「太郎くんお疲れー。いやー、しかし太郎くんがRASのためにライブの準備してくれだなんて驚い…。」

「ごめんお前誰?」

 

 村上あいつ何言ってんの!?まりなだぞまりな!まぁ俺も少し忘れてたけど!

 

「太郎くんいい度胸してるね…。」

「ごめんごめん今思い出したまりなだまりな!思い出したからギブ!ギブ!!」

 

 あいつら、ライブ前だと言うのにここでイチャイチャするんじゃない。まったく…。

 

「おい、村上。まりな。始まるぞ。」

「りょ。」

「オッケー!」

 

 こうしてRASのライブが始まった。曲は“UNSTOPPABLE”だ。“共鳴”を会得するにはうってつけなんじゃないか?割とこの曲の安定感は高いようだが…。

 

レ「答えは そう…inside of me

But…But…だけど“UNSTOPPABLE”

I・MY・満たして欲しいと せがみだす

答えは もう…inside of me

But…But…だけど“UNSTOPPABLE”

I・MY・満たして欲しいと せがみだす

S O M E B O D Y H E L P♪」

 

 これは…!この一体感は…。間違いない…。紛れもなく“共鳴”だ!RASもとうとう“共鳴”を支えるようになったんだな!

 

レ「喉が渇いて仕方ないようで 生まれた虚無感

日々を過剰に期待し過ぎ…拗ねた背中♪」

 

ロ・マ・パ・チュ(Hurry up♪)

 

レ「『Don't let me down.』といつも♪」

 

ロ・マ・パ・チュ(Hurry up♪)

 

レ「自分を追い詰めて 口を塞ぎ呼吸困難

Be caught in a trap♪」

 

 さぁ、いよいよサビだ。この調子ならいけるはずだ。

 

レ「ウザったいとジレったいが甘えて

Just 承認欲求 every day 止まらない

僕と僕は共犯者さ

偽物と踊れ踊れ♪」

 

ロ・マ・パ・チュ(Lullaby♪)

 

レ「迷いと不安が舌を出して

コチラを指さし嘲(あざけ)る

Are you enjoying?Are you excited?

…Yes?そう見えるの?

じゃあ…それでいい♪」

 

 最高。ただそれだけしかなかった。圧倒的な団結力。これぞ“共鳴”を得たものだけが辿り着ける境地だ。

 

「すごーい!」

「ブラボー!」

 

 てかいつのまに由美や音生達SUICIDEメンバーも来てたのか。村上も柔和な笑みを浮かべて拍手を送っている。このライブは間違いなく成功だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、何だったんだろうな。RASが共鳴を使えるようになった要因って。」

 

 突如として赤沢が呟いた。まぁ、ちゆ達のあの上達っぷりを見ればわかるよな。

 

「答えは簡単だよ。自ずと高みへと至る向上心、それが一体化したって話だ。」

 

 僕は赤沢にそう教える。すると、僕達のもとに神城が現れた。一体どうしたというのだろうか。また僕を殺しに来たのか?

 

「Rawさん!探しましたよ。今大変な事が起きてます。」

「どしたオチ要因の神城。」

「殺しますよ?」

 

 神城それ脅迫罪だからね?やっぱ殺しに来たんじゃん。おー怖い怖い。

 

「実は…。泣いてる女の子を見つけまして…。私も一人の人間ですので我慢できずつい拾ってきて…。」

「拾ってきてじゃねぇよ返してこい。」

「ですが、その女の子は『Rawさんに会いたい』と言っているのです。」

 

 なるほど。そう来たか。まぁ顔を見せる程度なら問題は無いか。そうと決まれば答えは簡単だな。

 

「案内してちょ。」

「さっきから何なんですかその口調は…。」

 

 最近よく言われるんだよ。口調と性格が変わりすぎだって。まぁ、至っちゃったからしゃーない部分はあるけどね。

 

「ここです。」

「どもども。じゃあ…。」

 

 っ!?何だこれ…。数秒後の未来が見える…。そしてこの未来は……。どうやら、思ってた以上にハードな未来だな。こんなにドア開くの億劫になった事ないよ。

 

「何してんだ開けろ!」

「うわっ、おい赤沢!」

 

 赤沢のせいでドア開けられたわ最悪…。ガン萎えなんだけどこの場の空気どうするよ…。もちろん、女の子はいたよ。僕がよーく知ってる子がね…。黒色が濃いダークブラウンの髪色に青い瞳、その美貌に僕以外の全員は顔を赤らめて下を向いている。まぁ僕からしたらまだ可愛く思えるんだがね。いや、待って。お前ら照れてる場合かよ!!こっちは超気まずいんだけど!!!

 

「お兄ちゃん…?」

「ひ、久しぶり…。です…。はは……。」

 

 お兄ちゃん、なんて言ってるけど僕とこの子は本当の兄妹じゃない。かと言って赤の他人と割り切れる関係でもない。

 

「なぁ村上、誰だあの子?」

「あ、それはだな…。」

 

 小泉さぁ、そんな急かしてこないでよ。もう驚きと気まずさで言葉も出ないんだけど。

 

「あ、あのさお兄ちゃん。ウチのこと覚えとる?…じゃなくて、覚えてる?」

 

 ソファに座っている女の子は急に僕に尋ねてきた。え?覚えてないだろって?失敬な。覚えてるっての。でも一旦ワンクッションおかせて。

 

「方言が抜けないところは変わってないなぁ、華楽(かぐら)は。」

「覚えててくれとったんや!」

 

 女の子こと神楽の暗い顔が一気に晴れ、周りに花が咲いているかのように笑顔になった。やっぱり笑うと幼く見える…。

 

「Rawさん、知り合いですか?」

 

 由美も僕と華楽の関係を知ろうとしている。別にそんなズブズブな関係でもないんだけど…。

 

「この子は大堂 華楽。僕の…。実のいとこだ。」




次回も更に驚きの展開があるのでお見逃しなく


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第28話「Ambitious Meteor」

 

 

 赤沢、由美、音生、明日奈さん、小泉、ちゆの六人は開いた口が塞がらず、ただ驚く事しかできなかった。けど、何をそんなに驚く必要があんのかな。他の奴らからしたら華楽(かぐら)は僕の従妹ってだけなんだけど。

 

「なぁ村上、これは一体どういう事だ?こんなにも可愛いいとこがいるなんて聞いてないぞ…?」

「あ、あー…。ま、まぁちょっと皆座って座って!説明立てて話すから…。」

 

 あんまり突っかかってくるな赤沢。正直言って僕が一番驚いてるよ。だって宮崎に居たかと思ってた従妹が今ここにいるんだから。

 僕はとりあえず六人を座らせる事にした。で、華楽に諸々の事を語っておいた。僕の職業だったり、今どうしてるかだったり。

 

「やっぱり、お兄ちゃんがRawやったっちゃ!ふふ、嬉しか〜。お兄ちゃんは地元の誇りたい。」

 

 この感じ、随分と前を思い出すなぁ。随分前と言っても十年も経ってないぐらいだけど。僕の従妹という事を念頭においても可愛すぎる。

 

「あの、あの子がRawさんのいとこさんなんですか?可愛すぎません?」

「お前にはやらねぇよ。」

 

 音生の奴、突然声をかけてきたかと思えばそんな事かよ。まぁ誰にも渡す気は無いけど。

 

「も〜、急に余所余所しくなって〜。びっくりしたばい。」

「ごめんね。会えなくなっちゃって。」

 

 そう。僕が華楽と会った時から気まずさを感じてた原因がこれ。年末年始ってよく親戚の人たちとか家族とかと過ごすじゃん?まぁ僕と僕の家族も年末年始は故郷に帰ってたんだけど、華楽とはそこで知り合ったかな。でも音楽やり始めてから六年間ぐらい故郷に帰ってなかったわ。ちなみに僕の故郷ってのは宮崎県。まぁ一旦謝っておくとして…。神城に言っておかなければな。

 

「神城。」

「何ですか?」

「ありがとうね。」

 

 多くは語らない。神城も多分わかってる。神城が放っておかずにここに連れてきてくれたから華楽は安心している。え?どうしてわかるのかって?それはまた後で説明する。

 

「けど、何で華楽が東京(ここ)に?」

「実は、ウチのパパ…。父親の仕事の都合で東京に来てたんよ。で、高校も都内の所に通ってるわけなんやけど…。」

 

 華楽は「けど」と言い出した途端に視線を下に落とした。今勝手に未来見えるからもうわかったんだけど、どうやら華楽の両親であり僕にとっての叔父さん叔母さんがまた転勤するみたいでここを離れなくちゃならないらしい。

 

「けど、父親の仕事の都合でまた転勤せんといかんようになって…。」

 

 やっぱりか。だが、ここで重要なのは華楽の本音だ。さすがに目で見るだけじゃ本音はわからない。漠然とした感情しかわからない。仕方ないな。ここは僕の能力の一つをお見せする時かな。

 

「ねぇ、お前ら何も喋んないで。あと何も考えないで。」

「え?何で…。」

「いいから早く。」

 

 僕は華楽以外の全員を心身ともに黙らせると、両耳に付いているイヤリングを外した。もうお気づきかな?ちゃけばこのイヤリング、お洒落のために付けてるわけじゃないんだよね。このイヤリングは僕の聴力を制御するために付けてるってわけ。

 じゃあイヤリングを外したらどうなるのか。遠くの声も聞こえるだけでなく近くの人間の心の声も聴くことができる。では、改めて華楽の内心をさりげなく聴いてみるか。ご安心を今許可はいただきました。

 

「…今ならわがままくらい許されると思うけどな。」

 

 僕は一言、そう呟いた。どういう意味かって…。そのまんまの意味なんだけど。

 

「ごめん。後は僕に任せてくれないかな?明日、バンドの練習は行けるんでヨロ。」

「Yeah.問題無いわ。じゃあ、後はタロウに任せましょう。」

「お前が仕切るな。」

 

 ちゆが僕に自信あり気な様子で言うと、小泉に注意されていた。少しはリーダー気取りさせてやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーベルでの急な会合をお開きにした後、僕は家に華楽を入れた。本人も今日は家に帰りたくないって言ってるから少しだけ居させるくらいなら良いだろう。

 

「ここがお兄ちゃんのお家かー。思ったよりも片付いとるね。」

「華楽の想像だと僕どんだけ散らかしてたか気になるんだけど…。」

 

 昔から変わってないなこういうところも。まぁ嫌いじゃないけど。

 

「そう言えば華楽って高校何年生?」

「あー、言ってなかったね。ウチは今高校三年生やけん。」

 

 なるほど。LJKか。となると戸山とか市ヶ谷とかとタメか…。あ、てか気づかなかった?華楽の方言色々混じってるの。さっきの会話からもわかると思うけど華楽の両親って転勤族でよく引っ越しさせられてたらしいんだ。で、結果的に九州地方の県全部回ったそうな。だから華楽もその土地の方言に影響されまくったみたいだ。

 

「てか、お兄ちゃん随分雰囲気変わったばい。前は付けてなかったサングラスとかイヤリングとか付け始めて〜。」

「ま、まぁこっちも色々あってな…。」

 

 危ねー…。いきなり答えにくいところを質問してくるな。そのうち僕の知り合いと遭遇しそうで怖いよ。華楽って意外と嫉妬しやすいから僕との関係性を問い詰められた時が一番危ない。

 

「お兄ちゃんどしたん?顔色悪そうやけど。あっ!まさか、えっちな本とか隠したりしとーと?」

「してないよ。嘘だと思うなら探してみな。」

 

 正確に言ったら隠してないって言うより隠せない、だな。この家結構頻繁に誰かが出入りするから、ってかそれも全員僕の知り合いだけど。そういう意味ではまた別の気まずさが…。

 

「まぁ、せっかく来たんだしシャワーでも浴びてゆっくりしな。ご飯は僕が作っとくから心配しないで。」

「で、でも…。」

「ずっと会うことができなかったから、これくらいの事はする。てか僕がやりたいんだよ。」

 

 僕はそう言いつつ、台所に立って料理を始めた。それを見て華楽も申し訳なさそうに風呂場に向かう。野菜炒めでも作っとこうかな。それかビーフストロガノフ?いや面倒だから味噌汁と卵焼き、焼き魚にしておくか。

 そうして料理を開始してから数分経った後、僕の携帯から電話がかかってきた。画面には瀬田の名前が映されていた。無視はできないから出ておこう。

 

「うぃっすー。」

「やぁ、Rawさん。少しだけ時間をいただけませんか?実は、私達ガールズバンドの中である試みをしようと思っていたんです。それが“ガールズバンドパーティー”というライブでして、私達が年に一度行なっているライブなんです。今年はてんてこまいな状況でもあったので開催の時期は遅れましたが、六月の終わりにやる予定ではいるんです。特に、今年はMorfonicaとRASの二組も出演するので例年よりも盛り上がるんじゃないかと思います。」

 

 …………………。仕方ないな。瀬田には申し訳ないけどほんのちょっと言いたい事言わせてもらうか。

 

「ごめん、話長すぎて全然聴いてなかったわ。一言で説明、ヨロ。」

「おっと、これは失礼しました。先程話した“ガールズバンドパーティー”、SUICIDEさんも是非出演していただけませんか?」

「…多分あいつらは出たいんじゃない?まぁ僕はまだ決めらんないけど。」

「そうですか。では、気が向いたらご連絡ください。」

「りょ。」

 

 僕はそう言って電話を切った。え?何で瀬田があんなに敬語なのかって?まぁ今の僕神や仏みたいなもんだからね。そこら辺あいつらにも浸透してないわけじゃないと思うけど。多分ちゆが口を滑らせたんだろうね。

 

「まぁ話だけは明日持ち込んでみるか…。」

 

 この話、あいつらにとっても損では無いはず。説明しておく価値はあるかもわからん。けど、こっち一週間後にWacken控えてんだよなぁ。

 ちなみにWackenって言うのは海外で最も勢いのあるフェスで、選び抜かれたバンドしか出演できない。どのくらいかって言うと、多少腕っぷしのある海外のバンドでも出演が難しい、というよりできないレベル。言わば実力至上主義が具現化したようなフェスだな。僕はそれにSUICIDEとして出る。その練習もあるのに、一ヶ月でガールズバンドパーティーの練習か…。そう考えるとドルハー高すぎるな。あ、ドルハーってのはハードルのことね。Wackenに出るって事は日本のバンドの代表として出る事を意味する。他のイベントと比べて重みが違うのよね。

 まず、ガルパに出るとしたらちょっと柔らかい演奏した方が良いんだよな。そうしたらあいつら立てられるし。なんてったってイベントの名前にガールズバンドってついてるくらいだし。うーん…。よし、決めた。

 

「お兄ちゃん、お風呂ご馳走様ー。」

「あ、丁度良かった。ご飯できたからたくさん食べなよ。」

 

 僕は風呂から上がった華楽に声をかける。半袖の白Tシャツに半ズボン。僕がグラサンかけてなかったら間違いなく殺しに来てたぞ。

 

「あのさ、お兄ちゃん…。もう少しだけ、ここに居ても…良か?」

「準備ならできてる。今日だけね。」

「え?いつの間に?」

 

 多分華楽は分かってないだろうけど、あの子の大体の事情は分かったよ。従兄としてやるべきことはやらないとな。

 ただ問題は有亜とか閑無とかちゆとかと遭遇する事なんだよ…。室内で会ったらえらいことに…。

 

「本当に大事なのは自分がどうしたいか、だよ?お兄ちゃんは何でもお見通しだからね〜。」

「お兄ちゃん…。」

 

 華楽の魂の色が少し赤くなった。若干照れてる、のかな…。ヤバい感情を当てるの共感覚だと自信ない。やっぱ心の声聞かないとダメだわ。視覚にばっか頼ってちゃダメだね。

 

「華楽の分もテーブルの上に置いてあるから。一緒に食べよ。」

「うん!」

 

 その後、僕と華楽は共に食事を済ませた。ちなみに華楽の分の部屋は空いていたのでそこを使ってもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、Wackenでやる曲どうする?」

 

 翌日の練習、不意に赤沢がそう尋ねてきた。実際まだセトリ決めてませんでした。一週間後にフェスなのに。

 

「んー、これにしよっか。一週間もありゃ足りるっしょ。お前ら譜面は頭に叩き込んでるからわかると思うけど。」

 

 僕はメンバーにWackenでやる曲二曲を提示した。六人全員微妙な顔つきをしていた。まぁ実際は見えないけど。僕の視点で言えば「これでいけるのか」という不安な色を持っていた、かな。

 そりゃそうだ。何せこの二つの曲、アレンジは僕がやったんだけどあまりにも時代を先取りし過ぎていたために封印していた楽曲だったんだ。でもWackenでやるには十分なアレンジだろう。

 

「仕方ない。やるか。」

 

 小泉の一言でその場の空気が引き締まった。やっぱりなんだかんだで小泉もいなくちゃダメだな。

 

「それじゃ、始めるか。明日奈さん。」

「オッケー。ワン、ツー!」

 

 明日奈さんのカウントで演奏が始まる。しかし、練習の成果は僕達の予想をいとも簡単に裏切った。

 

「おかしいな…。」

「何か足りてませんよね?何が足りないんだろう…。」

 

 今日は特段誰かが休んでるというわけではないし、コンディション的には全員万全。なんだが…。

 

「とりあえず録音しておきましょう。これで誰が合ってないかよくわかるんで。」

 

 今度は音生が携帯の録音機能を使って演奏の音を録音しようとする。僕ら基本演奏に集中してて傍から聞いた音なんて全然わかんないの。

 

「じゃあもう一回。」

 

 僕の合図で全員、演奏を始める。その後音生の携帯の端末の演奏を聴いてみる。

 

「これは…。」

「え…?」

「なるほど…ね。」

 

 今ハッキリとわかった。誰がズレてるのか。何故歯車は噛み合わないのか。

 

「僕か…。」

 

 そう。噛み合ってないのは僕の方だった。と言うより、むしろ僕以外の六人全員は息があっていた。実際間奏では六人の息がピッタリ合っている。

 

「そういう事、か。」

 

 思い返してみれば、僕達がこれまでやってこれたのは“共鳴”の力が大きかった。もちろん七人全員の技量とキャリアもあってこそだったけど。

 けれど、僕が覚醒した影響で段々とズレ始めていってた。と言うより、僕という歯車の形が変わり始めたせいで僕は六人と息が合わなくなっている。どうにかしたい。けどどうにもならない。もう立ち止まれない。もう、戻れないんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、Rawさんが音信不通!?」

「あぁ、そうなんだ。村上の従妹も所在がわからないって言っててな。何か知らないか?」

 

 Rawさんの行方がわからなくなったと赤沢さんから言われた。SUICIDEの練習の翌日に七人で改めてWackenについての打ち合わせをする予定みたいだったんだけど、今日になってRawさんが失踪した。

 

「いえ、何も…。って、Rawさんの身に何かあったんですか?」

「わかんねぇ。強いて言うなら、“共鳴”が使えなくなったってことかな。」

「きょうめい?」

「プロのバンドなら使えて当たり前の技。“共鳴”は団結力の強さがものを言うが、急にチャラチャラし始めた時からあいつおかしいんだよな…。何かあったのか?」

 

 赤沢さんはそう言って電話をかけ始めた。早く見つかると良いけれど…。

 

「でも、ショックだよね。今まで出来たことが出来なくなるって。」

 

 私の後ろにいたさーやが突然口を開いた。さーやの言う通りだ。私は何度練習しても出来ない、なんて事はあったけど今まで出来た事が出来なくなった事は一度もない。それって、何度やっても出来ない事よりも遥かに辛い事なのかも…。

 

「うん、そんなの私でも辛いよ。」

 

 どれだけ練習しても自分が一番出来てない。そんな現実を目の当たりにした時は本当にショックだった。しばらく歌えなくなるくらい。あの時は有咲やりみりん、おたえ、さーやの四人がいたから私は暗闇を抜け出せた。Rawさんもきっとそれよりも深い深い暗闇の中にいるかもしれない。けど、Rawさんに会ったところで私は何て声をかけたらいいんだろう…。

 

「やっぱ、Rawさんと香澄ってちょっと似てるよな。」

「私と…。Rawさんが?」

 

 不意に有咲がそんな事を言ってきた。何で似てると思ったんだろう。そこまで似てないと思うけど…。今のRawさんは特に。

 

「何か、お前もRawさんも自分の生きたいように生きてる感じがするんだ。どんなにぶっ飛んだ考えでも必ず実現させてみせる。そんなもんかな。ただ一つ違う点があるとするなら、“仲間”と“孤独”かな。お前は、色々と面倒事をウチらに押し付けて色んな事を実現させてるじゃねーか。要はウチらがいないとお前はダメダメって事だ。」

「有咲急に酷くない?」

 

 似てる似てないの話から飛躍して有咲が私をディスり始めた…。私一応リーダーなのに…。泣きそう。

 

「でもRawさんは違う。あの人って、性格的に強すぎるんだ。誰にも甘えずに生きてる。結局やるのも一人。考えるのも一人。何と言うか、強すぎるが故の孤独ってやつかな。」

 

 そうだ…。ずっとRawさんに対して引っかかっていたもの。それが孤独。私には仲間がいるけれど、Rawさんの本業ソロミュージシャン。SUICIDEはゴールじゃないんだもんね。

 

「私達もRawさんを探そう!」

「はぁ?お前何言って…!」

「放っておくわけにはいかないよ!今の音楽業界にはRawさんが必要だもん!私も、Rawさんを必要としてる!」

 

 今まで色々な事があったけど、Rawさんはいつも誰かを照らしてくれる。まさに夜空に輝く星みたいな存在なんだ。

 

「まずは蘭ちゃんや友希那さん達にかけあってみよう。何かわかるかもしれないよ。」

「うん、猫探しと人探しならこの名探偵おたえに任せて。」

 

 りみりんとおたえもやる気になってくれてる。けどおたえ、Rawさんを探すのに猫探しのスキルは要らないよ…。

 

「おたえ、お前は逆コナンだろ。けど人脈を辿るのはアリかもな。手がかりが掴めるかもしれない。」

 

 有咲の気合いもいつになく増している。だって今のツッコミもキレッキレだもん。

 

「よしっ、そうと決まればみんなでやるぞー!」

「おー!」

 

 さーやが私達をまとめて、いよいよRawさん探しが始まった。結果から言うと見つからなかったけど、Rawさんがどれだけみんなにとって特別な存在かを知れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日後、CiRCLEでRawさんを待っていたけど、Rawさんとはまだ連絡がとれないでいた。一体何処へ行っちゃったんだろう…。

 

「香澄!大丈夫よ、信じましょう!太郎を!」

「うん、そうだよね。Rawさんはきっと戻ってくる!」

 

 こころんの言葉を受けて私達はRawさんを待つ。けれど、夕方頃になってもRawさんが戻ってきたという連絡は無かった。

 

「タロウ…。どうしたっていうのよ…。」

 

 チュチュちゃんが珍しく泣いてる。そうだよね。Rawさんを一番慕ってたのはチュチュちゃんだもんね。辛くないわけがないもんね。

 

「何か、何か出来る事なら私達が支えてあげたのに…。」

 

 ひまりちゃんもRawさんの事を思って泣いている。Rawさんと仲良くしてたこともあったもんね。

 

「まさか、あたし達に内緒で死んじゃったんじゃ…。」

 

 透子ちゃんが目に涙を浮かべながらそう言う。そんなわけない。そう信じたい。でも、どうして。何で戻ってこないの…?まさか本当に…?

 

「人を勝手に殺すと婚期が遅れるぞ桐ヶ谷。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 次の瞬間、突如としてRawさんが天井から出てきた。いや、どこから出てきてるの…?ていうかあの体勢、頭に血が上らないのかな…?とにかくホントにびっくりするからやめて…。あとRawさんあんな所から来たらまりなさんに怒られそう…。あっ、私達は窓ガラス割ったけど怒られなかったから別にいっか!

 

「よっと。いやぁ、心配かけてメンゴメンゴ。親戚がらみの問題の対応しててさ、それが思いの外時間かかっちゃって。」

「いや、それよりも天井裏から出てくるのと聞いたことのない説で人の婚期遅らせようとするのやめてもらっていいですか?」

 

 親戚の問題を解決してたんだ。なんて人騒がせな…。ていうか、Rawさんを勝手に殺したら婚期が遅れるらしいからやめておこう…。

 

「まぁまぁ。それよりブラックサンダーいる?」

「要らないですよ。」

「あっ、そう。」

 

 Rawさんはそう言ってブラックサンダーを一個丸ごと食べた。あの量のブラックサンダーよく買ってきたよね…。カゴいっぱい入ってるよ…。

 

「それはそうと、丸山。はいこれ。みんなに配って。」

「これは…。ペンライト?ですか?」

「そっそっそ。」

 

 Rawさんは何故かペンライトを配ってる。一体何のために…?

 

「実はWackenさ、テレビで中継されるらしいから観るんならそれ持って観てねって感じ。さすがに全員に海外行けなんて言えないし。」

「え?Rawさんが全額出してくれるんじゃないんですか?」

「図々しいぞてめぇ。」

 

 何か怒られちゃった…。大人は全額出してくれるって教えられたけど…。ダメだったかな…?

 

「んじゃ、そういう事で後はヨロ。」

 

 そう言ってRawさんはまた天井裏へと消えていった。いや、よくよく考え直してみたけど絶対まりなさんに怒られるよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は僕ことRawの視点で話してこうかな。遡る事三日前、僕は家に帰ってある二つのことについて悩まされた。

 まず一つ。“共鳴”が使えなくなった事。そしてもう一つ。華楽の件。実は華楽、親が引っ越す事が嫌なんだ。本音は東京を離れたくない、と。

 その二日後、つまり僕が失踪したと騒がれた時だね。僕そん時宮崎にいたんだよ。僕の叔父さんと叔母さん、まぁ華楽の両親を説得した後に引っ越しの手伝いしてたから。口で説得するのは僕じゃないよ?僕は存在で説得しに来たんだから。どういう意味かって?まぁ見てみて。

 

「それで、華楽。話と言うのは…。」

「ウチ、東京を離れたくなか!」

 

 華楽がやっと本音を口にしてくれた。これが正しい選択とは言えないのは本人も重々承知だけど、生きたいように生きる志を忘れちゃいけない。自分の意思を持って初めて人は人となれる。

 

「それを、父さん母さんが許すと思ってるのか?」

「馬鹿な事言ってるのはわかっちょる。でも、せっかくできた友達と離れたくない!転校ばかりでできなかった友達ができた…。だから…。」

「それは父さん母さんと離れるということだぞ。お前はその後をどうすると言うんだ。」

 

 叔父さんが華楽の対応をする。予想通り許してはくれないか。案の定だけど僕の出番だな。

 

「僕が華楽ちゃんを守ります。」

「太郎君…。」

「華楽ちゃんがどんなに危険な目に遭ったとしても、どんなに辛いことがあったとしても、必ず僕が守ってみせます。」

 

 僕が華楽を守るということ。まぁ、早い話が僕の家に華楽を住まわせるという事だね。僕の目を見てるのかは知らんけど、叔父さんも僕の言葉の意味を理解した節ではあるようだね。

 

「だが…。」

「まぁまぁいいじゃないあなた。それに、太郎君みたいな子だったら華楽も安心ね。」

 

 とここで華楽の母、僕の叔母さんが了承してくれた。血縁関係で言えばこの人が僕の父の妹なんだよね。

 

「うむ…。仕方あるまい。華楽の我儘を許そう。」

「ありがとうパパ、ママ!」

「ご理解ご協力の程感謝いたします。」

 

 叔父さん叔母さんの同意してくれた。僕と華楽は同時に頭を下げると、早速引っ越しの準備に取り掛かった。僕の家は空き部屋がいくつかあるため、すぐに終わった。まぁ一番しんどかったのは世天使の力使いまくったことかな。引っ越し業者に頼むよりもお金はかからずに済んだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよWackenの日がやってきた。Rawさん達の勇姿を私達ポピパだけじゃなくて他のバンドの皆も一緒に見ている。

 

「あっ、SUICIDEが出てきた!」

 

 テレビにSUICIDEが映っていよいよライブが始まる。Rawさんがギターを持ってるって事は全員ボーカルの曲…!?

 

「始まるわよ…。」

 

 友希那さんが全員にそう言い出した瞬間、演奏が始まった。技術的に上手いんだけど、それだけじゃなくて表現力も画面越しに伝わってくる。これが日本一のバンド、“共鳴”が使えなくても凄すぎる…。

 

R「夜明け前 吹き荒れた風は何の前触れ?

嘘で固めたハートはがれ落ちてく♪」

 

y・N(↓)「泣かないと約束したのに止まらないスコール♪」

 

y「君の声が不意に聞こえたせいさ♪」

 

1・C・R(↑)「見つからないものばかりが増えていっても

この想いは失くしていないよ♪」

 

R・y・a・M(↓)「降り出した流星群に願いを積んで 君の明日へ放つ

『いつかまた会える』って言わないよ♪」

 

R・y「振り向かず行けるように♪」

 

R・y・a・M(↓)「ずっと叶えたかったその未来って今夜かもしれない

つながった手を 今強く握った♪」

 

R・y「同じ空の下♪」

 

R「もし世界が色を変えて

帰り道がわからなくても♪」

 

R・y(↓)「行かなくちゃ♪」

 

 ここで赤沢さんことMaxさんのギターソロが始まる。終盤には由美さん、SUICIDEのyu-minさんがギターでハモリにいってる。息もピッタリ。これが“共鳴”なんだ…。

 

R「降り出した流星群に願いを積んで 君の明日へ放つ♪」

 

y「どんな離れてたって感じ合える♪」

 

R・y「絆が僕らにはあるさ♪」

 

R・y・a・M(↓)「もっと強くなれる 信じてる 奇跡だって起こせる

つながった手を 今そっと離した♪」

 

R・y「同じ空の下

君はひとりじゃない♪」

 

 やっぱりRawさんとyu-minさんのユニゾン好きだなぁ。ていうか、Rawさんよくこの曲を原曲キーで歌えるよね。

 と思っている間に次の曲が始まった。今度は爽やかな感じの曲だ。疾走感あふれる一曲で聞いてるだけでリフレッシュできそうな気分…。

 

「はっ!あれは!あややとぅーやー!!」

「何その変な単語…。」

 

 誰か有咲の言ってる事わかる人教えて…。あややとぅーやーって何…?私の言葉よりもわかんない…。

 

R「たとえて言えばロング・トレイン

風切り裂いて走るように

未来に向かってまっしぐら♪」

 

R・N「突き進めば希望(のぞみ)はかなう

立ち止まらない 振り返らない

やるべきことをやるだけさ♪」

 

N・1(↓)「逢いたくて逢いたくて♪」

 

N「たまらないから旅に出た♪」

 

R・1(↓)「逢いたい人は君だけど♪」

 

R「君なんだけどそれだけじゃない♪」

 

N・1(↓)「知らない街で

出逢いたい♪」

 

R・N「真実(ほんと)の自分と♪」

 

M(I get a true love♪)

 

R・N(↓)・1(↓) 「Be ambitious!♪」

 

R「我が友よ 冒険者よ♪」

 

R・N(↓)・1(↓) 「Be ambitious!♪」

 

R「旅立つ人よ

勇者であれ♪」

 

R・N(↓)・1(↓)「Be ambitious!♪」

 

N「Be ambitious!

我が友よ 冒険者よ♪」

 

R「Be ambitious!

旅立つ人よ♪」

 

N「勇者であれ♪」

 

R「勇者であれ♪」

 

1・y(↑)・C(↑)「Fu Fu Fu♪」

 

a(I get a true love♪)

 

R・N(↓)・1(↓) 「Be ambitious!♪」

 

R「我が友よ 冒険者よ♪」

 

R・N(↓)・1(↓) 「Be ambitious!♪」

 

R「旅立つ人に

栄光あれ♪」

 

R・N(↓)・1(↓)「Be ambitious!♪」

 

 本当に凄かった。これは世界一のバンドって言われる日も近いかもしれない。なんなら今呼ばれてもおかしくはない。それぐらいのドキドキがSUICIDEの演奏の中にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ終わり、僕達は楽屋で互いを労っていた。とにかく全員頑張ったことには変わりない。他にも何曲かやったけど、全員嫌な顔せずについてきてくれた。本当に良かった。

 

「なぁ。実は僕、話があるんだわ。」

「お?どうした?例の可愛いいとこちゃんと恋人にでもなったか!」

 

 突然切り出したにも関わらず赤沢が揶揄ってくる。そういうところ嫌いじゃないよ。でも話と言うのはそんなんじゃない。それは僕達七人に関わることで、今後の音楽業界に関わることで…。

 

「SUICIDEの活動は…。ここで一旦閉じよう。」

 

 遂に僕は本心を口にした。自分で言っといてなんだけど、これどうなるよ…。続きはまた次回。




第3章をもう一周したら最終章に入ります
最終章の続きは書く予定ではありますが、そこは色々終わってからにしたいと思います。
あと今回の使用機材名称も一応参考程度に載せておきます

Raw→Squier Classic Vibe 50s Telecaster White Blonde

Max→ Grass Roots G-LP-65C FM See Thru Pink

yu-min→ Paul Reed Smith SE CUSTOM 24 Sapphire(改造済)

NEO→YAMAHA TRBX305 FTB

asuna→PEARL CRB525FP/C/730

1s→CASIO Casiotone CT-S200 RD
Roland GO:KEYS GO-61K
KORG wavestate シンセサイザー

CHU^2→RASのやつ


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第29話「FIRE BIRD」

今後の展開を踏まえて路線を少し変えていきたいと思います
まあ今後の展開と言っても別の小説と色々合わせての展開なのですが…
それは気にせず本編どぞ


 

 季節はもう六月。中高生が衣替えをし始める時期にとんでもないニュースが舞い込んだ。SUICIDEの活動休止。音楽業界はとんでもない騒ぎを起こした。

 

「彩ちゃん、さっきからずっとそのニュースばかり見てるわね。」

「うん、なんだか寂しいなって。」

 

 千聖ちゃんの言う“そのニュース”とはSUICIDEの活動休止だった。SUICIDEはWackenでのライブの後、今年の大晦日に活動休止することが決まった。最初に活動休止の話題を持ち出したのはRawさんだったみたい。一番はやっぱり“共鳴”を使えなくなった事なのかな…。

 

「解散しないわけではないから、少しの間の辛抱よ。本人達も復活はあると明言してるわけだから。」

 

 とは言え、Rawさん達の事だから本当に解散しかねないことだってある。あの人達はいつも突拍子もない事をしてきたから。

 

「信じましょう。SUICIDEを。」

「うん、そうだね。絶対戻ってくるよね!」

 

 千聖ちゃんの言葉が私に響いた。一番は信じること。そして待つこと。またSUICIDEが笑顔でライブをやってくれる日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も一仕事終えた。あ、どーも。こないだSUICIDEの活動休止を持ちかけた人でーす。ちょっと本題に入る前にあの後どうなったかをご説明。まぁまず見てちょ。

 

「一旦閉じるってどういう事ですか!?世界一のバンドになれるんですよ!!」

 

 いつもは元気な由美が珍しく憤慨してた。音生の運転にイラついてる時もあったけど、この時はだいぶマジだったね。他のメンバーも険しい顔つきで僕を睨んでたし。そこで僕は説明した。

 

「ここまで、何年間ぐらいだろ。僕が十九歳の時から始まったから…。四年間か。SUICIDEは言わば副業みたいなものなんだ。てか副業だけど。それぞれが自分の暖簾を掲げて活躍している中でやれる場所であって。けれどそのSUICIDEが段々自分の中で足枷になってきてた。副業ってシステムはそういう二面性があるって事はわかってたけど。だから、決めたんだ。ここらで一旦SUICIDEを畳んでそれぞれが往きたい道を歩んでもいいんじゃないのかなって。」

 

 僕の言葉にそれぞれが複雑な想いを抱いてた。わかるんだ。僕は共感覚を使えて、色付きメガネをかけている間はその人の表情は見えないけど魂の色ぐらいはわかる。その人がどんな感情を持っているのか、なんて。六人全員違う感情を抱いてる。赤沢は納得、由美はそれでもまだ怒って、音生は悲しんでる、明日奈さんはショックを受けてて、小泉は特に気にしてない。肝心のちゆは戸惑ってた。何に対してかは知らないけど。

 

「だから、この場所からは一旦離れたい。」

 

 僕の意思は揺るがない。誰かに言われたからやっぱり活動休止を取りやめる、なんて事はしたくない。だって僕がそうしたいんだから。みんなが活動休止したくない、止まりたくない気持ちはわかる。なら、六人でやってくれればいい。僕がいなくてもSUICIDEは成り立つんだから。

 とまぁ、こんな感じで色々話し合いとか進めて今年の大晦日には活動休止しようという結論になった。とは言えその時までの流れから見ると僕は自分が思っている以上に弱い人間だったみたいだね。

 

「情けないな…。」

 

 あれだけ人には偉そうな事説いておきながら自分は弱気になる。本当はわかってるんだよ。自分が世界一のバンドのボーカルになんてなれないことは。自分にできる事は他の人間にもできるけど他の人間にできる事が自分にはできない。本当は誰よりも弱いんだよ。自分という存在は。人間じゃないから敢えて人間とは言わないけど。

 

「ん?雨か…。予報には無かったのにな。」

 

 そんな事を思ってると突然雨が降ってきた。すっげぇ強いな。土砂降りぐらいはあるよ。今から帰るって時に。まぁ、折り畳み傘は常備してるから良いんだけど。って、え?

 

「あれは…。」

 

 僕が帰ろうとしてた最中、偶然湊を発見した。その時の湊の魂の色は信じられないほど濁ってた。悲壮、拒絶、後悔、無念、憤怒、そして嫌悪。以前の僕ならほっといてただろうけど、面倒な事に今の僕は性格上そういうの放っておけないんだわ。

 

「はいこれ傘。」

「Rawさん…?」

「んだよ差し出されるまで気づかなかったのかよ。まぁいいや、明日返してよ。じゃね。」

 

 僕は湊に自分の持っていた折り畳み傘を差し出すと、踵を返した。その後はもちろん濡れたね。折り畳み傘二つも持ってなかったし濡れるもんは濡れる。いくら極とは言え未来から来た猫型ロボットみたいなことができるわけないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香「暗い夜も♪」

 

紗・リ・あ・燐(fighting♪)

 

香「怯えずに今♪」

 

紗・リ・あ・燐 (smiling♪)

 

香「信じた道♪」

 

紗・リ・あ・燐 (running♪)

 

香「迷わず進もう 黒でもいい♪」

 

紗・リ・あ・燐 (all right♪)

 

香「白じゃなくても♪」

 

紗・リ・あ・燐 (ok♪)

 

香澄「不条理を壊し

私は此処に今 生きているから♪」

 

香・紗・リ・あ・燐 (SHOUT!♪)

 

紗・リ・あ・燐 (BLACK SHOUT♪)

 

紗・リ・あ・燐 (BLACK♪)

 

香「不安に溢れた♪」

 

紗・リ・あ・燐 (SHOUT♪)

 

香「世の中のイロハ♪」

 

紗・リ・あ・燐 (BLACK♪)

 

香「苛立ちと共に♪」

 

香・紗・リ・あ・燐「自由を奪ってく♪」

 

紗・リ・あ・燐 (BLACK♪)

 

香「モノクロの雨が♪」

 

紗・リ・あ・燐 (SHOUT♪)

 

香「世界を隠して♪」

 

紗・リ・あ・燐 (BLACK♪)

 

香「空は嘲笑い沈んだ

邪魔するもの♪」

 

紗・リ・あ・燐(嫉妬♪)

 

香「振り落として♪」

 

紗・リ・あ・燐(衝動♪)

 

香「私の色♪」

 

紗・リ・あ・燐(本能♪)

 

香「取り戻したいから...!

例え明日が♪」

 

紗・リ・あ・燐 (missing♪)

 

香「行き止まりでも♪」

 

紗・リ・あ・燐 (going♪)

 

香「自分の手で♪」

 

紗・リ・あ・燐 (breaking♪)

 

香・紗・リ・あ・燐「切り開くんだ♪」

 

香「すくむ身体♪」

 

紗・リ・あ・燐 (get up♪)

 

香「強く抱いて♪」

 

紗・リ・あ・燐 (stacking♪)

 

香「覚悟で踏み出し

叶えたい夢 勝ち取れ今すぐに!

SHOUT!♪」

 

 土曜日の午後、私は紗夜先輩に呼ばれてRoseliaの練習に参加することになった。肝心のRoseliaのボーカルの友希那先輩は今日来れなくて、その代わりに私がボーカルとして参加した。でもライブに出るわけじゃない。あくまでも練習の代わりのボーカルとして。実際、紗夜先輩達もボーカルがいなきゃ、また友希那先輩と一緒に練習しようってなる時に困るだろうって思ってたみたい。にしても、何で私だったのか不思議…。

 

「戸山さん、いきなり頼み込んでしまってすみませんでしたね。湊さんが体調不良ですので、しばらくはまたお願いしてしまうかもしれませんが大丈夫でしょうか?」

「はい!全然大丈夫です!」

 

 紗夜先輩が、“BLACK SHOUT”を歌い終えて休憩している私に声をかける。紗夜先輩、厳しいけどすごく優しいんだよねー。

 

「にしても、香澄大丈夫?文化祭の準備もあるのに…。」

「大丈夫です!私には支えてくれる友達がいるので!」

 

 そう。おたえにりみりん、さーやに有咲。私には皆がついてる。皆がいる限り文化祭もきっと成功する。

 

「それにしても歌ってる時のかすみ、友希那さんに似てるわけではなかったけどちょーカッコよかったよ!まるで、ディ…。」

「あこちゃんそれ以上はダメ!」

 

 ん?燐子先輩があこの口を塞いでたけど、何を言いたかったのかな…。Dから始まる新世界的な何か…?とりあえず何かピキピキしてきちゃったなぁ。

 

「まぁ文化祭前にはどうにかして友希那と出るから大丈夫だよ!去年出れなかった事もあるのか、今年はやけにポピパの出番を待ってる人多いし。」

 

 リサさんの言う通り、近々花咲川の文化祭がある。去年は色々あって出れなかったけど、今年こそは絶対に出る。

 

「それにしても、本当に大丈夫なのですか?新曲の練習もあるでしょうし…。」

「はい!何とか、ですが効率よく練習できてます!」

 

 この間小泉さんから効果的な練習方法を教えてもらった。小泉さんはすごく頭の良い人だから説明もわかりやすかった。

 

「そっか、それなら良かった。私達も自分のやるべき事をしよ!」

「ええ。そうですね。」

 

 リサさんの提案に紗夜先輩が応答する。実はRoseliaも文化祭と近い日にライブをする。でも最近友希那先輩が来れていないらしい。何でだろう…。何かあったのかな…?私も歌えなくなるような事はあった。何が友希那先輩の枷になってるんだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ピコ。何これ?一気に非現実的な雰囲気出てきたんだけど…。」

 

 家に帰るや否や、僕はピコから変なブツを渡された。待って、ブツって言ってるけど決して怪しい物ではないからね?何か、黒くて長い棒の上にスピーカーが付いててその上に二叉の金具が付いている。刃物かと思ったけど先端は鋭利じゃないし、そもそも何かを刺したり切ったりするものでもない。うーん…。連想してみたけど、これ音叉かな?

 

「そう、音叉よ。そしてこれは神器、言わば神の武器なの。私が貴方の為に作ったから貴方のものよ。好きなように使いなさい。」

「いやお前すげぇ…。てか何てもん渡してんだよ…。」

 

 何?コイツは僕に戦えって言うの?冗談じゃない。第一、僕は殴り合いとか殺し合いとか好きじゃないんだよ。そういう事をしてこなかったわけじゃないけど何回やってもあの感触は好きになれない。

 

「これは“変化音叉(へんげおんさ)音極聖天瓏角(おんきょくしょうてんろうかく)よ。音叉の部分、天辺の金具を色々な物質に打ち付ける事でスピーカーから旋律(メロディ)が奏でられるの。そしてこの変化音叉・音極聖天瓏角はそのメロディに応じた武器に変化する。つまり、全世界に存在する物質の数だけこの神器は形を変えられる。」

「えーと…。あー、ちょっと最初っから説明してもらっていい?」

 

 こういう大事な事にはメモを取らないとな。何せ使うの僕だし。メモ取らないと忘れそう。ていうか名前長すぎんだよ。略せ。

 

「で、この音極聖天瓏角だっけ?どうするの?さすがに何も知らない華楽が見つけて持ち出したりしたら危険だし、かと言ってこれ外に持ち出すのも周りの注目を集めるし…。」

「それなら心配無用よ。」

 

 ピコはそう言ってダイヤモンドを取り出した。どこから持ってきたんだよそれ…。で、ピコがダイヤモンドに音極聖天瓏角を打ち付けると、音極聖天瓏角はネックレスへと変化した。

 

「へぇ、なるほど。これはいいや。」

「この状態ならいつでもどこでも使えるわ。」

 

 これなら肌身離さず持ち歩くことができる。紛失する心配も無い。いや元の形状だったら尚更だけど。

 

「お兄ちゃん、どうかした?」

「あ、いや何でもないよー。」

 

 やべぇやべぇ。華楽に気づかれるところだった。こんな危険な物持ってるって知られたらどうなるかわかったもんじゃない。第一こんな事に巻き込みたくないし。

 

「それにしても、随分とまたチャラくなったわね。」

「ほぼお前の好みだろ。僕は好きでこんな格好してるわけじゃないっつーの。」

 

 当たり前でしょ。今の僕の見た目から無理矢理服装合わせにいってるからね。もはや田舎のヤンキーだよ。

 

「さぁ、早速使ってみましょう。場所はどこにする?」

「いやこれを?神の武器なんて使ったらとんでもない事になるんじゃ?」

「そうよ。だから壊してもいい場所を探すのよ。」

「この世界にそんな場所ねぇから。ならどっか壊しても良い星連れてってよ。」

「しょうがないわね。それなら破壊予定の惑星があるからそこへ行きましょう。大丈夫よ。地球とほぼ同じ重力で宇宙服無しでも生きていけるわ。」

「あっそ。じゃあ連れてって。」

 

 そこから数分間ぐらいかな。破壊予定の星で色々やった後家に戻ってきた。一言で言ったら、死ぬかと思った。あり得ない。マジないわ。本当に阿鼻叫喚だよ。こんな物騒なもんあんまり使いたくないんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜…。ようやく終わった…。っておたえ!お前も少しは何か手伝えよ!」

「ん?手伝ってるよ?お菓子の消費。」

「それは手伝いとは言わねぇ!!てか人んちのお菓子をよくそんなに頬張れるな!一緒にこの書類まとめろ!」

 

 Roseliaの練習があった翌日、いつも通り有咲がおたえに怒ってる…。ん?何で私は怒られないのかって?私はRoseliaの練習もあるから。あんなにレベルの高いバンドと一緒にやるなら私もレベルアップしなくちゃ…!

 

「おたえ、りみりんと一緒に曲作りの手伝いしておいて。私と有咲は文化祭の書類の提出、香澄はRoseliaの練習があるんだけど…。ねぇ香澄、友希那先輩大丈夫なのかな…?」

 

 さーやは心配そうな表情で私を見る。去年は色々あって全員揃ってライブすることができなかった。その事を心配してるのかも。

 

「大丈夫だよ!友希那先輩は何も言わずにRoseliaを捨てていくような人じゃない!」

「にしても、そんな連日練習に来ないなんて事あるか?」

 

 たしかに友希那先輩は音楽にストイックでそれを投げ出すような真似はしない。けど、今Roseliaの練習に来ていないって事は…。やっぱり何かあったのかも…。

 

「でも、それも友希那先輩が話してくれないとわからないよね。」

 

 りみりんの言う通り、バンドの事はバンドの間で解決するしか方法がない。私達がそうだったみたいに。

 

「よし、じゃあ気分転換に買い物でもしよう。」

「何でそうなるんだよ…。」

「いーね!賛成!」

 

 私が賛成するとりみりんとさーやも無言で手を挙げた。多分私と同じ意見だね。

 

「しょうがないな。お前らだけじゃ不安だから一緒についてってやるよ。言っとくけど、別に一人が寂しいわけじゃないからな!お前らってそうやってすぐ茶化すから…。」

 

 有咲ー?私達まだ何も言ってないよ?ていうか後半声小さすぎて何言ってるかわかんなかった…。独り言だとしてももう少しボリュームあってもいいんじゃない?

 

「よーし、そうと決まればショッピングに行こー!」

「おー!!」

 

 その後、私達はショッピングの場所として隣町のモールまで出かけた。今はまだお昼だから大丈夫。夕方ぐらいまでは練習ができるし、さーやと有咲もその頃になったら書類を書き終えられるみたいだし。

 

「そう言えば、文化祭で衣装に付けるアクセサリーとかまだ決めてなかったね。」

「たしかにね。まずはそっちを見よっか。」

 

 りみりんとさーやの提案でまずアクセサリーを見る事になった。んー、でもどのデザインも可愛すぎて迷う…。

 

「そうだなぁ…。これとかどう?…ん?地震?」

 

 私がアクセサリーを手に取った瞬間、突然辺りが揺れ始めた。揺れは時間が経つに連れ大きくなっていって、終いにはお店の商品全部が地面に落ちた。

 

「なっ、何だこの揺れ!地震か!?」

「ねぇみんな見てあれ!」

 

 おたえに言われて私達は窓ガラスから外を見渡す。外にはこの世に存在するとは思えない、ビル一個分の大きさぐらいある怪物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん!どうかしら?増治にピッタリだと思うわ!」

「お前ら本当に何でも作るよな…。」

 

 俺こと赤沢 増治は今、信じられないものを目にしてる。ジェット機?にしてはデザイン凝ってるな。戦闘機って言った方が正確かもしれない…。

 

「あー、これはハッピージェッタンって言ってゴレンジャーにハマったこころが黒服の人達に頼み込んで開発したものなんです。でも操縦する人に困っちゃって…。そこで赤沢さんに操縦していただけないかと…。」

「戦闘機なんていつ使うんだよ…。」

 

 美咲が俺に説明してくるけど、ぶっちゃけ使い所がよくわかんない。てかさっきのやつこれの検査だったのか…。あ、さっき俺運転のシミュレーションやったんだよ。戦闘機の運転。なるほどこれの…。いや、たしかに免許は持ってるけど…。

 

「戦闘機という括りですが、別に戦争につかうためのものではありませんよ。雲を噴射させて飛行機雲を作ったり、花火を打ち上げたり、子供達が笑顔になるように作ったものなんです。」

 

 薫が困惑している俺に説明してくれた。なるほどな。だからゴレンジャーみたいなヒーローものから着想を得たわけか。あいつのやることなす事全部みんなの笑顔のため、だもんな。

 

「こころ様!大変です!街で巨大な怪物が暴れています!」

 

 すると、黒服のスーツにサングラスをかけた女の人達が部屋に入ってきた。いやいや、そんな馬鹿な話が…。

 

「こちらをご覧ください。」

「あるじゃん…。」

 

 いや、いくら何でもあれデカすぎない?ビル三十階建てぐらいの高さはあるよあれ。ハッピージェッタンで対抗できたとしても気休めぐらいにしか…。

 

「大丈夫よ!私達は逃げない!増治!ハッピージェッタンの出番よ!」

「は、はぁ…。」

 

 仕方ない。比較的裕福な家柄の生まれである俺が言えた事じゃないけどお嬢様ってのはわがままだからな。一回言ったらそれ以降は聞かない。

 

「ハッピージェッタン、発進。ゴー!」

 

 ハロハピメンバーの合図で天井が開く。そのタイミングを見て俺はハッピージェッタンを発進させた。いやぁ、中々良い乗り心地だ。怪物さんよ、試運転に付き合ってもらうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼頃、僕はとある雑誌のインタビューをしたことからその雑誌の表紙を飾る事になった。別に僕表紙飾れるほどの見た目じゃないけどねぇ…。みんなは社交辞令で褒めてくれるけど。

 

「これでどうでしょうか?」

「あー、いんじゃね?それでいこ。」

 

 けどカメラマンが全然写真に納得いかないのさ。もうかれこれ三時間ぐらい経ってるよ。今ちょうど撮影な終わったところなんだけど、いまいち達成感が無いっていうか…。まぁこんな事言ったら失礼か。

 

「大変です!!外に巨大な怪物が現れました!避難勧告が出てます!!逃げてください!」

 

 巨大な怪物?巨人かな?何だかよくわからないけど、行くしかないか。多分だけど僕を除いたらこの世界でまともに怪物と戦える奴いないんじゃね?

 

「で、外出たのはいいけど…。相当な化け物だなありゃ。」

 

 僕が外に出ると…。何とも言えない化け物がいたよ。体は全身真っ黒。顔の部分だけ白。言うならば、千と千尋に出てくるカエル飲み込んだカオナシみたいな体型してる。いやあれよりも体長デカいけど。鼻は高く、右目はトランプのスペードの形で黒色、左目はトランプのハートの形で赤色…。にしても、人をどんどん食ってくな。こりゃまずい。人間の武器はほとんど通じないらしいな。

 で、その怪物を足止めしてるのか知らんけど空には変な戦闘機を運転してる赤沢、地上には光線銃を発射してる布施と瀬良がいた。

 

「ヴィジュアルボーイ!何してるんださっさと逃げて!」

「お気遣いどうも布施。けど逃げるのはお前らの方だ。」

 

 久々の登場でまた新しい発明したな布施。新型の光線銃か。特許権とか大丈夫そ?ってそんな呑気な事言ってる場合じゃないな。あ、ちなみにヴィジュアルボーイとかいう特殊な呼び名は僕のことね。ほら、一応僕ヴィジュアル系の音楽家だから。

 

「先輩!逃げてください!ここは俺とアレックスさんと増治さんで対応しますから…!」

「お前も逃げろ瀬良。死にたくないならとっとと、ね?」

 

 瀬良と布施は仕方なく退散した。もちろん赤沢に連絡いれてね。

 

「あれは…。JOKER…!?」

「JOKER?名前までトランプか。」

「JOKERはその昔人々に恐れられた巨大な魔物よ。私はあの怪物を封じるためにこの世界にやって来た。そして右目は闘志、左目は愛情を司っているの。昔は左目が空洞だったけど今は埋まってる…。まさか誰かが愛を…!」

「んなもんで埋まるのか。人間の想いを知り尽くしている分、中々に厄介な奴だな。」

 

 正直これを()るのはハードワーク。何せデカい怪物だからな。でもハッキリしてる事がある。おそらく愛情を注ぎ込んだ奴は何も知らない。好きであんなデカブツ蘇らせようなんて奴いないし、JOKERの伝説もマイナーすぎる。と言ってもピコがどうにかしてくれたから誰も知らない程度で済んだけど。昔以上に強くなってるなら封印せずに倒した方がいい。問題はあいつ自身をどうにかするかって問題だけど…。

 

「ピコ、力を貸せ。」

「ええ、もちろんよ。貴方はどうする気なの?」

「デカブツにはデカブツで対抗だ。」

 

 こっちも色々試したからな。使い方はバッチリだ。さて、この変化音叉・音極聖天瓏角を地面に打ち付けて…。よし、スピーカーから音が流れた。大地の旋律か。何とも豪快だな。使い方はこれで合ってたはず。あとは時間の問題。ほら、これで完成。ハンマーだ。しかしこのハンマーもデカイな。自分の身長よりも少し高いぞ。仕方ない。引きずって進むか。

 

「太郎、あまり引き摺らないで。」

「仕方ないじゃん重いんだから。」

 

 これわざわざ担げって言うの?ふざけんなただでさえ重いのに。無茶言うな。

 

「貴方の力なら持てるはずよ。」

「あっそ。じゃああいつを吹き飛ばす時ね。おけ?少しでもタイミングがズレたら終わりだぞ。」

「仕方ないわね。任せて。」

 

 作戦は至って単純。僕がこのハンマーを使ってあのJOKERとか言う化け物を吹き飛ばす。吹き飛ばしたJOKERはピコが宇宙空間に放ってくれる。しばらくすりゃブラックホールの餌になる。まぁ僕の持ってる神器はブラックホールに変化する事もできるけど、ここで使ったら街ごと吸い込んじまう。今回は使えないな。

 

「グオォォォォォォォォォオ!!!!!」

 

 JOKERが僕を見つけて凄まじい咆哮をあげる。威嚇のつもりか。ならこっちも全身全霊でぶっ潰す。ハンマーを持って、上半身を限界まで捻る。だが体の軸はブレないように。下半身で体勢を作る。この技は僕が作った技であり、別の技を使う。その技はシステマ。実在する拳法の名前で攻撃する側が攻撃を当てる瞬間に力を入れる。その間は脱力する。力をいれなくてもこのハンマーを持ち上げられる“点”は見つかった。後は未来視でJOKERの攻撃を待つのみ。

 

「グゴォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 JOKERが口を開いた。その瞬間、僕は地面を操りJOKERの口を閉じる。このハンマーは地面の性質を持ってる。だから地面を操る事ぐらいは簡単だ。タイミングは今。落ち着いて放て。

 

「はっ!!!」

 

 僕は野球のバッティングの要領で捻った上半身を素早く回転させ、ハンマーをJOKERに当てた。顔面に直撃した攻撃はJOKERの鼻や歯だけでなく背骨まで粉々に砕いた。背骨さえ砕けば後は放っておいても大丈夫だ。

 

「ピコ!」

「ええ。」

 

 赤黒い血に塗れたJOKERはピコの作り出したドアに閉じ込められた。もうこれで出てくることはないだろ。

 あ、ちなみに後の話になるけど僕のこのハンマーは“皦厳大槌(きょうげんおおづち)”、JOKERを吹き飛ばした技の名前は“地撃(じげき)剛天大槌(ごうてんおおづち)”と呼ばれる事になったそうな。まぁ技の名前なんて有ろうが無かろうが関係ない。僕のした事は殺し。相手が人間だろうが怪物だろうが、目的がなんであろうが殺した事には変わりない。正直こんな嫌な感触を味わいたくなかった。けれど他に方法が無かった。こういう命が危険にさらされる状況ではジレンマってのは付き物だな。

 

「やっぱ圏外か。」

 

 僕はチラッと携帯を見る。案の定誰とも連絡が取れない。公衆電話もぶっ壊れてる。これじゃあ知ってる奴らの安否も確認できない。全員どこに逃げたのかもさっぱりわからない。避難所の場所すらも知らない。ヤバい。別の意味でピンチになった。迷子になった…。

 

「私の力を使いましょう。天使なら電波を生み出すことくらい可能よ。少なくとも貴方の携帯は復活するわ。」

「天使って本当に何でもできるな…。てかそれ絶対電波法に引っかかるでしょ。あと、僕の携帯だけ復活させても意味ないよ。」

 

 多分今全員の電話繋がらないと思われる。そんな状態で電話しても意味は無いね。

 

「それなら貴方の聴力を使えばいいわね。」

「えー、面倒…。」

 

 ぶっちゃけあれやるとその後すぐ耳が痛くなるんだよ。それでも三分ぐらいはどうにかいけるけど。

 

「しゃーなし、か。」

 

 僕は両耳のイヤリングを外して改めて声のする方を探る。落ち着け。音を調べてどんな音なのか、推測するんだ。どのぐらいの範囲聞こえるかなんてのはわかんないけどやるしかない。 

 と思ってたら早速聞こえた。足音だ。この地面と擦れ合ってる音の正体は…。靴底。間違いない。人間。しかもそいつは息を切らしてて、心臓の鼓動も速くなってる。おそらくアイツが出てきたせいだな。そのせいで混乱してる。心臓の鼓動が聞こえるって事は…。ここから近い距離に誰かいる。誰だ?

 

「ここ危ないよー。さっさと逃げ…。」

 

 音のする方に行ったらいたよ。人が。それも僕がよーく知ってる人。

 

「湊…。」

 

 そう。友希那の方の湊。今あいつの服装とかどうなってるかわからんけど、わかってる事は一つ。あいつの感情の中に罪悪感がある事。おそらくあの化け物を蘇らせたのは湊だな。それも何も知らずに。ある意味、湊も被害者だってわけだな。

 

「Rawさん…。ごめんなさい…!ごめんなさい…!!」

 

 まぁ、こう泣きつかれてそのままってのも話が進まないから厄介だな。単刀直入に確認するか?

 

「あの変な化け物の封印解いたのはお前だな?」

 

 僕の問いに湊は口を噤んで首を縦に振る。いくらシルエットの状態で見ているとはいえ、頷くぐらいの動作は確認できる。

 

「アレは…。」

「心配ないよ。アイツなら僕が倒した。」

「すみませんでした…。」

 

 湊もわかってるだろうけど、アイツを倒したからと言って「それはよかったね」なんて言えるわけではない。周りのビルは悉く壊れてる上に辺りは血の匂いが漂っている。怪我人や死人も出てるこんな状況の何が良いのか、なんて言えない。

 

「友希那!!!」

 

 そんな中、声が聞こえてきた。今井の声だ。まぁこっちに駆け寄ってくる足音でわかってたんだけど。

 

「リサ…。」

「アイツを復活させた責めは負う必要があるから話した方が良いと思うよ、僕は。」

 

 たとえアイツの存在を知らなかったとしてもそれで罪が消えるわけじゃない。でも、湊が何かを引きずっていた状態だったからこそアレは復活した。

 今回の事で皆わかったと思うけど、自己解決が必ずしも最適解とは限らない。誰かに頼る事は決して弱い事じゃないんだ。むしろ己の弱さを他人に曝け出す強さすらも性質として同居する。だから誰かを頼る事は一概に恥ずかしい事とは言えないし、誰にも頼らない事が一概に良い事であるとも言えない。

 

「私…!私は…!!」

「大丈夫だよ、心配しないで。」

 

 今井は湊を抱きしめて背中をさする。怖かったろうな。湊も今井も。まぁぶっちゃけ一番怖かったのは自分だけどね!一瞬食われるかと思ったわ!

 

「皆さーん!もう大丈夫ですよー!」

「戸山…?」

 

 次の瞬間、戸山達ガールズバンドの面々が市民を連れて来た。即席のボランティアか何かか。ああやって主体的に動けるなんてすげぇな。だからバンドやってる時でもそうでない時でも輝いて見えんのか。

 

「あっ、Rawさん!Rawさんが倒してくれたんですか?」

 

 戸山め。何て質問をするんだ。ここで僕がYesと言ったら今後まともに仕事できなくなる…。あんな化け物倒したって知られたら絶対変な調査とかされそう。

 

「え?あれってRawじゃないか?」

「嘘でしょ!?あのヴィジュアル系音楽クリエイターの!?」

 

 いやいやめちゃくちゃ人集まってきてんじゃん。リアルガチで困ってるんだけど。あっ、考えてみたらシンプルだったな。答えは簡単。嘘つこう。

 

「いや、違うけど?」

「嘘ですよね?先輩が来てからもうあの化け物消えてましたもん。」

 

 瀬良。てめぇ私刑な。何余計な事喋ってんだ。ここじゃあ本当の事言わなくていいんだよ…。あの野郎…。

 

「ただの音楽作家が!?」

「すげぇ!!」

「ありがとうございますありがとうございます…!」

 

 まぁお褒めの言葉を貰えること自体は悪い気分じゃない。でも光あれば影ありってのもまた事実で…。

 

「ふざけんなよ…。街壊滅的じゃねぇか…。」

「私達の家を返せ!」

「もうちょっと壊さずに殺処分してくれなかったの?」

 

 こう言う連中がいるのもまた事実。それが人間だからな。それにしても随分と厚かましい奴らだな。僕が暴力嫌いでよかったね。もし僕が戦闘狂だったら数秒前に音極聖天瓏角でぶっ潰してたんだけど。

 

「やめて!!Rawさんは何も悪くない!悪いのは…あの化け物を蘇らせた私…。」

 

 湊が咄嗟に僕を庇った。こうなったのはあの化け物がビルや人をぶっ壊したせいだ。とは言え、決して人に害を与えないと保証できる猛獣に僕は会った事ないが…。にしてもかなりざわついてるな。そりゃそうか。湊も大分有名になってたからな。特にあの湊さんの娘であり、Roseliaのボーカル担当であれば知名度は相当なものだ。

 

「ふざけるな!あんたのせいで私達の街が壊れたのよ!!あんたさえ…!!あんたさえいなければ私達がここまで苦しむ事も無かった!!!」

「ナメやがって!!歌姫と言われたからって調子に乗るな!!!」

「とことん最低だわ!!!」

「…言いたいことはそれだけ?」

 

 僕は神とか天使とか、善とか悪とか関係ない。単純に、自分の欲望を満たすために他人を傷つける奴や他人の人生において「そうしなきゃいけない」なんて運命を押し付ける奴が大っ嫌いなんだよ。

 

「はぁ?あんたねぇ、この子のせいで私達は…!」

「そうだ!こんな奴は人類の敵だ!!」

「あんたあの化け物を殺したんだろ?ならその力であの女も殺せ!!」

「はぁ…。蘇らせたとは言え何も知らなかった赤の他人にそこまで非難できる辺り、よっぽど清廉潔白な人生を生きてきたんだろうね。」

 

 僕はそう言った瞬間、近くにあった瓦礫の山を散乱させて誰でも握れるぐらいのサイズに砕いた。もちろん神器でね。

 たしかに今回の事で湊にも責任はある。けどさ、だからと言って寄ってたかって非難するのは違う。

 

「こん中で、『自分は生まれてからずっと何も悪いことをせずに生きてきました』って自信持って言える奴だけこの瓦礫を湊に投げていいよ。」

 

 え?そんな事言って大丈夫なのかって?安心しな。こいつら全員のとる行動はもうわかってる。何なら未来視で見える。

 

「え…?」

 

 ほら、帰っていった。それもだいぶ歳とってる人から順に。湊と今井は驚いてるけど。わかってるでしょ?この世の中で生まれてから今までの間で悪いことしなかった人間なんていないもん。それは歳とればとるほど積み重なっていくものでね。多分それの罪滅ぼし的な事はしたんだろうけど、贖罪したからと言ってやった事が消えるわけじゃないの。

 

「大丈夫。誰も湊に瓦礫を投げつける奴はいない。僕も投げつけない。でも、責任はあると思うんだよね。だから明日一緒に街の復興の手伝いしよう。」

「…はい。でも…。さっきの人の言う通りです。私は…自分が思ってるほど強くはないです…。この世の中にいなくても誰も…。」

 

 湊がそう言った瞬間、今井が彼女を抱きしめた。今井の魂が青く染まってる。これは、悲しみの色かな。声的にもおそらく泣いているんだろう。

 

「そんな事言わないで!!!友希那が何したとしても、友希那は友希那だって事実は変わらない!!今は自分の嫌な所しか見えなくても、アタシは友希那の良い所もちゃんとあるの知ってるから!!!」

 

 今井、良いこと言うじゃん。こういうの見ると人間もまだまだ捨てたもんじゃないなって思える。まぁ、僕もう人間じゃないんだけどね!

 

「今井の言う通りだよ湊。自分を、愛するんだよ。」

 

 湊は多分涙ながらに僕を見ている。多分。この色付きメガネ外せないからわからんけど。もし泣いてなかったら悲しいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕と湊は早速街の復興作業に勤しんだ。僕にも街を破壊した可能性があるかもしれないからな。そこはやっておかねば。

 

「Rawさん、手伝いますよー。」

「戸山さん…?」

 

 突然現れた戸山に湊が驚く。しくじったわ。湊に戸山達が来るの伝え忘れてた。彼女達も手伝うらしいから優しい優しい僕が承諾したってわけ。

 

「お兄ちゃん、ウチにも手伝わせてほしいっちゃが。」

「華楽!助かるよ。」

 

 その後も知ってる奴らがどんどん手伝ってくれたから本当に助かった。まぁ七割は弦巻家の黒スーツの人達のおかげ。あの人達すごい有能。残りの二割は僕。めっちゃ働いたよ。ちなみに今日、Roseliaは来てない。それもそのはず。

 実は戸山や華楽達を呼んだのには、街の復興作業を早く進める事も理由に含まれていたんだけど、それとは別にもう一つ理由がある。それはRoseliaだけで集まれる環境を作ること。湊が隠していたことを打ち明けられるような状況にする事が最大の理由だった。じゃあ後はあいつらに託すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友希那に言われて連れてこられたのは、お墓の前だった。墓石に掘られた名字を見ても知らない名字だったけど、誰のお墓なんだろう…。

 

「ここには、私が約束した人がいたの。」

 

 友希那は手を合わせて黙祷を捧げると、ぽつりと私達に語りかけた。友希那が約束した人って…。

 

「小さな男の子だったわ。その子は難病で、Roseliaのライブを見たいと言っていたわ。『大きくなったらRoseliaみたいなすごいバンドのメンバーとして活躍したい!』と、私に言ってくれたわ。そしてお互いのスケジュールが空いたその日にライブをするはずだった。でも…。容体が急変して、ライブをするはずだったその子は亡くなってしまった。」

 

 そうだったんだ。わかった。あの日だ。Roseliaが友希那の勢いに私達がついていけなかったあの時。そして友希那がずっと練習に現れなかったのはその病気の男の子の願いを叶えてあげられなかったことへの後悔。たしかにショックだよ…。

 

「あ、あの…。友希那さんとその男の子はどうやって知り合ったんですか…?」

「親戚のお見舞いに行ったときに見つかったのよ。『Roseliaの湊 友希那だ!』って。」

 

 燐子の質問に友希那が答える。なるほど、そんな経緯があったなんてね…。Rawさんの言うことが本当だとしたらあの怪物を生み出したのも、その男の子に対する愛情だったってことなんだね…。

 

「本当にごめんなさい。私のした事はどれだけ謝っても許される事じゃない。けれど、こんな私でも歌うことを許されるのなら、私は歌いたい。あの子の分まで。」

 

 友希那…。それが友希那の望みなら叶えてあげたい。極っていう神様みたいな存在のRawさんだったらできるかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、Roseliaです。」

 

 湊達Roseliaがデカい会場でライブをしている。東京ドームとか武道館とかぐらいではないけど、そこそこ人が集まるところ。具体的な数値を出すなら五千人ぐらい入るとこかな。今日もそのぐらい来てる。

 ちなみにここでライブをしてるのは僕がやらせてる。それだけ。ちなみに僕は動画撮影に勤しんでる。これも湊の望みを叶えるため、だもんな。そのためなら天使の言うことも無視する。

 

「…ありがとう。Roseliaの皆が、私達を応援してくれる人達がいたからこそ、私はまたここに立てた。誰に思いを伝えるのか、誰に向けた声なのか。答えはすぐに出ないかもしれないけれど、答えが見つかるまで私は歌い続ける。」

 

 そう言って湊はマイクに手をかけ、白金がキーボードを弾く準備をした。

 

友「空がどんな高くても

羽根が千切れ散っても

翔び立つこと恐れずに

焦がせ不死なる絆♪」

 

友・紗・リ・あ・燐「Fly to the sky…Fire bird!♪」

 

友「潰えぬ夢へ 燃え上がれ」

 

(Burning up♪)

 

紗・リ・あ・燐(Lala, lalala, Lala, lalala,♪)

 

友「暗闇での絶望も

どうか怖がらないで

貴方の胸いつだって

灯す夢があるから

 

決断への♪」

 

紗・リ・あ・燐 「運命(さだめ)に♪」

 

友「慟哭した♪」

 

紗・リ・あ・燐「現実♪」

 

友「だけどそれは♪」

 

紗・リ・あ・燐「愛故(あいゆえ)の♪」

 

友希那「背負う未来-つばさ-だと…!♪」

 

紗・リ・あ・燐(Lala, lalala, Lala, lalala,)

 

友・紗・リ・あ・燐「飛べよ鵬翼(ほうよく)のヴァイオレット

火の鳥のように♪」

 

友「We are…何度も歌い

強くなった♪」

 

紗・リ・あ・燐「夢は負けない♪」

 

友・紗・リ・あ・燐「貴方を連れて行きたいんだ

絶世の天へ♪」

 

友「ゼロ距離で抱き締め合い

神話に記そう♪」

 

紗・リ・あ・燐「この音の風で♪」

 

友「そして新世界へ♪」

 

紗・リ・あ・燐(Burning up♪)

 

友・紗・リ・あ・燐(Lala, lalala, Lala, lalala,♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕はこのライブ映像をあの少年に見せに天界まで行ってきた。Roseliaのライブ見たいって言ってたらしいからな。天界に連れてくることは難しいけどこれぐらいだったら別に文句は無いだろあいつらも。あいつらってしか言ってないから誰だかわかんないと思うけど…。天使達ね!一応今は僕の方が位上だからタメ口言ってもオッケー。

 

「Rawさん…!あの子は…。」

「ん、元気にしてたよ。それどころか『俺も友希那さんを見習って天国で一番すごいボーカリストになるんだ!』ってさ。」

「そう…。Rawさん、ありがとうございました。」

 

 まぁ、お礼を言われて悪い気はしないな。誰だってそうでしょ。

 

「それにしても…。あんな化け物って本当にいるんだ…。」

「宇田川、あり得ない事が起こるのが現実だ。自分で常識を作ってたらそこから先は何も見えなくなる。」

 

 この世界じゃイエス・キリストが神の子として実在したって事が証明されてるからな。もはや何が起きても不思議じゃないんだわ。

 

「Rawさんすみません、電話が…。」

「どうぞ。」

 

 今井の携帯が突然なって、今井はそれに対応する。あいつも交友関係広くて人付き合い大変そうだな。声荒げてるけど、何かあったのか?

 

「大変だよ!Afterglowが全員いなくなったって!!」

「…は?」

 

 この時僕はまだ予想だにしていなかった。生涯一番面倒な事件に巻き込まれることに…。




10000文字以上書いてた自分を褒めたい
香澄ちゃんの“BLACK SHOUT”書けたから次はパスパレの“Y.O.L.O!!!!”でも書いてみましょうか


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第30話「That Is How I Roll!」

最終章までもうちょっとなんで急ぎめに更新したいと思います


 

 んーと、前回までのあらすじを言うとしたら、今度はAfterglowが全員いなくなったって感じ?今ポピパとSUICIDEの面々が捜索してるらしいけど。実際僕も探しはしたいんだけどさ、ドラゴンボールの気を感じて探すみたいな能力ないから無理なのよ。

 

「つか、バンドメンバー誰かしらいなくなんのやめてくんねぇかなぁ…。」

 

 かのダイナミック何ちゃらってアニメもそうだったけどメンバーが一回失踪して他のメンバーが探すって展開何なんだろう。まぁ僕が言えた事じゃないけど。

 

「悩み事ですか?」

 

 突然、妹の方の氷川が僕の顔を覗き込んできた。未来視で見えたから突然なわけでもなかったけど。それにしても面倒な奴に絡まれたもんだ。

 

「話ぐらいは聞いてるだろお前も。」

「あー、蘭ちゃん達がいなくなった事ですね!」

 

 随分と他人事みたいに話すな。特にパスパレは楽曲提供してもらってるんだからもはや他人っては割り切れないでしょ。とは言え、パスパレは芸能人だからそんな時間割けるわけないか…。いやそれ僕も一緒じゃん。

 

「お前も暇あったら探しなよ。パスパレは“Y.O.L.O!!!!”貰ってるんだから。」

「はいはーい!」

 

 んー。Afterglowねぇ。彼女達のバンドの名前を知ってからもう二年になるかな。まぁ面倒だから回想は無しで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕方をすぎ、山奥のコテージでリサさんに夕食を作ってもらっている。あたし達にもプライドがあるとは言え、やり過ぎたかな…。

 

「そう言えばさ、Afterglowもプロの世界でやりたいって気持ちはあるの?」

「んー、どうでしょうかね。プロの世界ってよくわからないですし。Afterglowにとって一番大事なのは五人で自分達のやりたい音楽をやる事なので、それができなければプロの世界でやっていかなくても良いかなって思います。」

 

 リサさんの質問にひまりが答える。あたし達四人もひまりの意見に賛成。音楽の業績なんてどうでもいい。けど、あたし達の音楽に対するプライドは誰にも譲れない。

 

「そっか。でも結局のところ、答えは自分達で導き出すしかないんだよねこういうのって。あ、食べた食器ぐらいは自分達で洗っといてね。それじゃあ、ご馳走様。」

 

 リサさんはそう言ってコテージから姿を消した。色々と迷惑かけちゃったな…。後で謝っておかないと。

 

「はぁ〜、美味しかった〜!」

「ひーちゃん二杯もおかわりしてたもんね〜。そんなに食べてたらリバウンドするよ〜。」

「もぉ〜モカ!私が一番わかってる事を口に出さないでよー!」

 

 モカもひまりも相変わらず緊張感無さすぎ…。でもそれがあたし達の()()()()()でもある。

 

「蘭、どうかしたか?」

「いや、何でもないよ。」

 

 巴に声をかけられたけど、そんなおかしい顔してたかな…。別に普通に考え事をしてただけなんだけど…。

 

「そう言えばさ、Rawさんがなんか凄い存在になったって話聞いたか?」

「…うん。」

 

 Rawさんの事か…。なんだかスケールの大きい話になってきてよくわからないんだよね。本人もよくわからないまま突き進んでるからそれが一層不安なのかも。

 

「それにしてもここにきてのSUICIDE活動休止は大きいね。」

「うん、小泉さんや由美さんは『SUICIDEの活動が終わった後もしかしたらガールズバンドの勢いが更に増すかもしれない』って言ってたぐらいだし。」

「今まで世界の音楽を中心にしてたSUICIDEが活動休止になる事でガールズバンドが更に活躍するかもしれないって…。なんか複雑だね。」

 

 つぐみの言う通り、何を思えばいいのかわからない。きっと本人達は「気にするな」って言いそうだけど。SUICIDEの活動休止にあたってRawさんは自分の音楽活動や芸能活動を全部休止、他のメンバーの人達は皆それぞれの本職に専念する事が決まってる。でもRawさん仕事を全部休んで何をする気なんだろう…。

 

「あっ!蘭ちゃん達こんな所にいたんだ!!」

「…っ!香澄…!」

 

 もう見つかった…。思ってたよりも早かった。荷物をまとめてないからすぐには出て行けない…。最終手段だけど仕方ない。こうなったら…。

 

「巴!」

「…いいのか蘭?」

「手段なんか選んでられないよ。」

「悪いな香澄。ほんの少しだけ大人しくしててくれ。」

 

 巴が香澄を捕まえて手足の動きを取れないようにする。巴から借りたバトル漫画だと手足を封じて相手の動きを取れなくしていた。香澄、ごめん。これが終わったら解放してあげるから…!

 

「はーい、そこまで。」

 

 次の瞬間、リビングの窓からRawさんが特殊な形の拳銃を持って現れた。って、女子高生相手になんてものを…。

 

「宇田川姉、戸山を離しな。」

「…嫌だって言ったらどうします?」

「あっそ。」

 

 Rawさんはそう言った次の瞬間、拳銃の引き金を引いた。弾丸はテーブルの上のグラスに命中してグラスの中にあった飲み物がテーブルに飛び散る。

 

「正直やりたくはなかったんだけど…。撃つ時は、撃つよ?」

 

 あたし達は仕方なく香澄を離した。その後Rawさんの指示に従って全部話した。Rawさんは特に表情を変える事なく話を聞いていた…。かもしれない。たまに話聞いてないような表情になってたし。

 

「あたし達が話せることはこれが全てです。」

「…なるほどねぇ。まぁいいや。お前らの居場所は喋らないよ。もちろん戸山も喋るなよ。」

「え!?」

 

 何その宣言…。何か逆にRawさんが怪しく見えてきたんだけど…。

 

「それ、後で弁償するね。」

「あはは、お邪魔しましたー。」

 

 Rawさんは香澄と一緒に森の奥へと消えて行った。見た目が変になってから、もうやりたい放題すぎでしょあの人…。いや人じゃないけど。

 

「あの覇気凄かったよぉ〜…。Rawさん本当に怖い…。」

「あれが極か〜。次の漫画オーディションの題材にしない〜?」

「私達が漫画に手を付けると色々混ざって収拾つかなくなるでしょ。」

 

 ひまりの言う通り。あの時考えただけでも散々なストーリーになったもんね。出来は悪くは…。あったかもしれない。

 

「でも、物語にしておくのはいいんじゃないかな?Rawさんは善も悪も関係なく、ただ自分の生きたいように生きてる。だから私達にも輝いて見えるのかも…。」

「つぐみ…。うん、この騒動が終わったら皆で面白い漫画でも書いて、曲にしよう!それじゃあみんな、えいえいおー!」

 

 ひまりの「えいえいおー」は沈黙を意味するから言わない。何があろうとも。ダチョウ倶楽部の「押すなよ」と押す事がイコール関係になってるくらいもうそれはお約束。

 

「何で誰もやってくれないのー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないじゃないですかー!いきなり拳銃発砲するなんて!」

「ごめんごめん。」

 

 Rawさんは謝ってるけど、なーんか反省の色が見えないって言うか…。とにかく何で平然としてるんだろ…。

 

「そもそも蘭ちゃん達は私を捕まえて何をする気だったんだろう…。」

「答えは簡単。単なる口封じ。事が済めばお前を解放する気だったはずだよ。」

「でも、捕まえなくても口封じはできたはずですよね?」

「そりゃ多分あいつらの中じゃ『戸山 香澄は口が軽い』っていう認識なんだろ。」

「ひどい!!」

 

 やっぱり反省してないこの人!もう人じゃないけど!私だって秘密にはできるよ!…多分。

 

「ってそうじゃなくて!良いんですかRawさん!蘭ちゃん達を見逃して!!」

最初(はな)っから素直に腹割って話せるんなら意固地にもならないし、こんな大事にもなってないよ。すぐに仲裁する事が良いなんてのは限らない。あいつらが頭冷やすまで待ちな。喋ったら、わかってるよな?」

 

 Rawさん急に怖くなったんだけど!?最後のセリフ絶対脅迫だよね?前半まで納得のいく事言ってたけど…。最後で台無し。

 

「でも、蘭ちゃん達も前を向いて頑張ればいつか報われますよ!そう信じてます、私は!」

「…はぁ。何J-POPの歌詞みたいなこと言ってんのさ。」

 

 え?違うの?ていうか、私は歌詞こそ書くけどJ-POPじゃないんですよRawさん…。

 

「前ばっか向いてたら真下にある石には気づかない。かと言って下ばかり向いてたら前にある障害物に気づかない。全方位を見渡す事が大事なんだ。どの方向を向けば良いかなんて正解はない。仮に全方位見渡してつまづいたとしたら、それはそいつ自身が乗り越えなきゃいけない壁だよ。」

 

 た、たしかに…。それは言えてる…。Afterglowも、乗り越えなきゃいけない壁にぶつかった。それは蘭ちゃんの話からわかったことだし。私やRawさんじゃどうすることもできないから敢えて見逃したのも理由なのかも…。

 

「…ん?って、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 な、何これ!?人…?人だよね?明らかに人の感触だもん…。って音生さん!?何でこんな所で寝転んでるの!?

 

「『何でこんな所で寝転んでるの』って言いたそうな顔してるね。音生は僕が気絶させた。美竹達の心臓の音を感知した方向に音生が行こうとしてたから峰打ちで寝かせてやっただけだよ。」

 

 いや、Rawさん音生さんと同じバンドのメンバーですよね?何でメンバーに対してそんな酷い仕打ちができるんだろうこの人は…。本当に暴力と勝負事が嫌いなのか疑うレベル…。

 

「あれ?そう言えばRawさんって何で蘭ちゃん達の心臓の音を感知できたんですか?」

「しばらくの間イヤリング外してたからね。両耳のイヤリングを外せば僕の聴力は人間以上のものになる。と言っても、聴力を解放した状態じゃ三分間が限度だから多用はできないけど。だから普段はこういう特殊なイヤリング付けて力を制限してるのよ。」

 

 そうなんだ…。興味本位だけど、イヤリング外した状態でRawさんに黒板を爪で引っ掻く音聞かせたらどうなるんだろう…。

 

「戸山、今お前変な事考えてなかった?」

「い、いえ!気のせいですよ気のせい!」

「まぁいいや…。おい音生、起きろ。んな所で寝んな。」

 

 寝るなってRawさんが音生さんを気絶させたんじゃないですか…。嫌でも寝ますよそれは…。

 

「ん、ん〜…。あれ?Rawさん?それに香澄ちゃんも…。こんな所で何して…。ってそれよりも!Afterglowは見つかったんですか!?」

「ここら辺にはいなかった。別の場所を探すしかないな。」

 

 ほ、本当にRawさんは蘭ちゃん達の事は隠しておくつもりなんだ…。私も余計な事は言わないようにしないと…。うぅ、プレッシャーが…。

 

「…。」

「Rawさん?」

「あぁ、いや悪い悪い。行こうか。」

 

 Rawさん急に辺りをキョロキョロ見回してどうしたんだろう?まさかお化け!?

 

「ごめん、音生先に戸山を連れて行ってて。」

「はい、わかりました!香澄ちゃん、行こう。」

 

 こうして、私は音生さんと一緒に山を降りた。それにしてもRawさんは一体何を…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、音生も戸山もいなくなった。音極聖天瓏角が変化した拳銃も持ってる。ちなみに、拳銃に変化させるのに必要な物質は水。ここの近くに水があって良かったよ。さてと…。何か東南百メートル先の辺りで音がしたんだよね。枯葉を踏む音。場合によっては美竹達が危険な目に遭う可能性もある。調査しないと。

 

「あれは…。」

 

 ようやく姿を確認できた。間違いない。あのシルエット。あれは…。

 

「熊さんだー!!!可愛いぃぃぃぃぃ!!!」

 

 野生の熊さんでした。いやー、それにしてもあのもふもふ具合どうなってんだろ…。触りたいけど熊さんに悪いからな、やめておこう。にしても、熊さんが出てきたら美竹達が怖がるから出来るだけ遠ざけておこう。熊さんは可愛いから頭を垂れて拝みなさい。

 

「ここにいたのですか。」

「うわっ!?えぇ…。え?戸山?帰ったはずじゃ…。」

 

 いや違う。戸山の魂の片鱗が見えるだけで今目の前にいる奴は戸山じゃない。声色こそあいつだけど。だとしたらこいつは一体誰だ?戸山に似てるってだけの話なのか?サングラス外せないからわかんないけど…。おそらく、いや絶対あの肉体()は戸山のものだ。ピコが僕の身体を借りてるようなもんか?それと同じ感じで誰かが戸山の身体を借りてるみたいな…?

 

「お前は誰だ?」

「オレの中のオレ♪」

「陰に隠れた。」

「その姿見せろ♪」

「って、歌うな!!!」

 

 コイツは何急に“Armour Zone”を歌い出してんだ。こんな茶番劇クレヨンしんちゃんぐらいしか無いよ…。いやクレヨンしんちゃんでももうちょっとマシな事してたわ。

 

「まず、お前は誰?」

「私はただの案内人です。単刀直入に言うと、極となった貴方はこの世界から消える必要があります。」

「え?」

 

 嘘でしょ?僕ここで死ぬの?いやそんな呆気ない死に方嫌なんですけど!心の準備させてよ!!

 

「少々勘違いをしているようですね。この世界とは別に十六の世界があります。しかもそれはそれぞれが独立した世界。貴方はその世界を旅しなければなりません。」

「この世界を旅立たなきゃいけないって事か…。」

 

 早とちりしてたな。独立した世界って事は並行世界の類では無さそうだな。この世界に存在する人間が存在しない世界。てか嫌なんだけど。見ず知らずの奴の言うこと聞くの。納得いかない。けど、どうにもひっかかかる事があるからちょっと聞いてみるか。

 

「その旅の目的は?」

「来たるべき日に備えて世界を救うためです。貴方がそれを今知る必要はありません。それでは、今からおよそ一年後に。」

「え?ちょっと、おい!」

 

 戸山の身体を借りてた謎の魂は何処かへ消えていった。何を言いたいんだろうか、あいつは。来たるべき日ねぇ…。ちょうどSUICIDEも活動休止になる時かな。

 にしても、この世界から旅立たなきゃなんないのかぁ…。しんどすぎて行きたくねぇ…。色々あったけどなんやかんやうるさい奴らが周りにいたからここんとこ悪くないなと思てたんだけど…。しゃーないか。あの変な奴の言う通りに動くのは嫌だが、世界がピンチなら放っておけないからね。でももうちょっと考えとくか。さて、僕も帰りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日後、僕のありとあらゆるコネを使って色々な調査をする事に成功しましたー。わーい。僕のコネ次第でこの小説ご都合主義にする事だって出来るんだぞって事で、早速調査開始。

 まずはパソコンを使って色々とAfterglowに関する情報を探ってみる。近頃Afterglowはメジャーデビューの話を貰ってたみたいだからね、おそらくこの音楽事務所に何かヒントがあるはず。瀬良の音楽事務所はAfterglowとは関わってなかった。まぁあいつらがこの音楽事務所に関わってたってのも噂程度だけど…。それでも火の無いところに煙は立たないからね、真偽を確認して調べる。

 

「えーと…。ん?これは…。」

 

 なるほどね。そういう経緯があっての事だったか。まぁ、知ったところで僕が何かできるのかと言われれば何もできないって答えるしかないけど。そりゃ当事者以外全員そう。

 

「タロちゃん何してるのー?」

「あぁ、いや。ちょっとね。って何でここにいるんだ有亜。」

 

 有亜と出くわしましたはい。前からずっと気になってたんだけど有亜って僕のことタロちゃんって呼ぶよね?どういう意図でそう呼んでるのか気になるんだけど…。

 

「いやー、頼まれごとがあってね。そんなことより何調べてたの?Afterglowのこと?」

「何でもお見通しなら聞くな…。」

 

 有亜は一体どこまでわかっているのやら…。その内危ないゾーンまで突っ込んできそう。

 

「やっぱり〜。タロちゃんってすぐ人を放っておかないもんね。」

「そこだけは変わんない、か…。」

 

 そっか。いくら覚醒したとは言え、僕自身の性格はそこまで変わんないか。口調とか見た目とか変わっても自分がやってる事は変わらない…。

 

「あのさ、有亜。僕あと一年したら旅に出るんだ。」

「その言い方何かのフラグっぽいね。」

「いやそんな簡単には死なないから…。」

 

 フラグ発言しただけで殺されたり死んだりするようなタマじゃないわ僕は。何ならもうフラグなんてぶっ壊す。それと有亜、言霊って知ってる?

 

「それは置いといて…。で、何かわかったの?」

「お前が置いとくのかよ…。まぁ、わかったところで僕らがどうこうできる問題じゃないだ、うけど。」

 

 今回はとにかく話が大きいからね。下手に関われない。僕はただ面倒だからって言うのが理由。けどこのまま放っておけるわけでもない。僕達大人が手出しできなくなったら誰があいつらを助けてやれるんだよ。

 

「はぁ…。それはそうと、聞いたよ?すっごくデカい怪物をやっつけたんだってね。」

「まぁね。」

「ごめんね。やっぱり…。その、嫌だったよね。」

 

 そりゃそうだ。誰だってあんな死と隣り合わせの場所になんか立ちたくない。僕はそれよりも何かを傷つける方が嫌だけどね。

 

「私にはこんな事しかできないけど、慰めさせて。」

「うっ…。」

 

 有亜はそう言うと僕を抱きしめた。甘い匂いと柔らかな心地よさに包まれる。いっそこのまま身を委ねてしまおうか。いや、やっぱりやめようか。

 

「心配かけてごめん。でも僕は大丈夫だから!そんじゃ。」

 

 結局のところ、今の僕には後者しか無かった。作り笑いをして誰かに迷惑をかけまいと自分だけで遠い場所へ行くしか無かった。ホント、僕はどんな顔で笑ってたっけなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。何で俺がお前と…。」

「それは私のセリフです!何で私が小泉さんと…。」

 

 今度は俺、小泉視点から話をしていこう。昨日突然村上からLINEが来てな、「白鷺と一緒に指定した音楽事務所に行ってきてほしい」って依頼してきた。何でよりにもよって白鷺となんだ…。

 

「『女優、白鷺 千聖の力で何とかできるだろうからやれ』だなんて…。私にそこまでの権力ありませんよ!Rawさんも本当に人使いが荒いですね。」

「そこに関しては俺も同意見だ。」

 

 たしかに村上は人使いが荒い。荒すぎる。ただ、事情は全部聞いた。どうにもできない問題ならどうにかできる状態にまで持ってこさせればいい。本当強引だな、あいつは。

 

「それにしても、中々面倒な事になりましたね。」

「確かにな。」

 

 そう。今回の揉め事、実は音楽事務所絡みのデカい案件なんだよ。サラッと言っちゃうけどAfterglowのメジャーデビューが前に決まってな、もちろんCDを発売する事になった。しかし、ディレクターとメンバーとの間で揉め事が起きてな。端的に言うとAfterglowの音楽の路線変更なんだ。「メジャーデビューしたいなら曲作り直せ!」的な事を散々言われたらしくてな、やさぐれたアフグロ達がとった手段が失踪らしい。

 

「まさか失踪とはなぁ…。」

「彼女達らしいと言えばらしいですが…。困ったものですね。」

「失踪するならするで後始末ぐらいはしておいてほしいものだが…。」

 

 そう。今回俺達のやる目的は簡単に言ったら謝罪。村上曰く「事態が大事になる前にケリつけときたい」だそうな。何言ってんだかなあいつ。

 

「その辺はRawさんがどうにかしてくれるそうですから安心してやるべき事をやりましょう。」

「ああ。てかお前が仕切るな。」

 

 さて、白鷺に顔面ボコボコにされたので事務所に入るのに大分時間かかった。顔直すのに数十分かかったぞ。

 

「初めまして。小泉 健です。」

「初めまして。お話はお伺いしておりました。さあ、こちらへ。」

 

 とまぁ、事務所の社員と事務的な挨拶をかわした数分後に例のディレクターがやってきた。名刺を差し出された時に村上から聞いていた名前と一致したから間違いない。彼がAfterglowのディレクターだ。

 

「で?何でしょうか、話とは。」

「先日そちらでお世話になったAfterglowの事で少しお話したい事がございまして…。」

 

 俺と白鷺はどうにかしてディレクターを説得した。Afterglowのメンバー達に会ってくれないか、と。もちろんすぐには了承してくれなかったな。でも粘りに粘った上に頭下げたからどうにか承諾してもらえた。本当にありがたいな。

 

「ようやく終わった…。あー、何十分かかったんだ一体…。と言うよりも村上の奴、人に雑用を押し付けやがって…。いくらバンドメンバーだとしてもそこまでの義理はねぇよ。」

 

 俺は今まで溜まってた愚痴を湯水のように吐き出した。正直自分でも少し驚くほどだ。

 

「明日…ですね。」

「ああ。」

 

 そう。Afterglowとさっき俺達が会ったディレクターは明日対面する。まぁそこには俺と白鷺と村上も同席するわけだが。

 

「では、私はここで失礼します。」

「ああ、気をつけて帰れよ。」

 

 明日は何も無いことを祈る。そう思っていたが、現実は中々上手くいかないものだとこの時はまだ知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、小泉と白鷺が頑張ってくれたおかげでとうとう事態が解決する時が来た。だがただ謝るだけで終わったら初めからこんな事にはなってない。僕自身もAfterglowの説得には苦労したからね。もうひと波乱、もしくはふた波乱ありそう。

 

「…。」

 

 で、この変な会合を開始してから数十分。どっちも口開かんのよ。このいかにも気まずい空気やめてくんねぇかなぁ…。面倒なのよ。

 

「先日はどうも、すみませんでした!」

 

 先に頭を下げたのは宇田川姉だった。ここに隠れるまでに辛いこともあったろうな。本人はそんなのもプライドも捨てて頭を下げてる。強い証拠だよ。

 

「はぁ…。今頃自分らのやってきたことの愚かさに気づいたの?ガキだね。」

 

 突如、ディレクターが信じられない言葉を発した。正直いい大人がこんな事言うなんて情けないね。小泉と白鷺も予想してなかったらびっくりしてるよ。人の心無いのかこのディレクターは。

 

「巴が謝ったのにその態度は何なんですか!?私達はこのままじゃいけないと思って貴方に会う決断をしたのに…。」

 

 美竹がディレクターの態度に憤慨し、抗議する。たしかに今でも意固地になってるのはよろしい態度とは言えんよなぁ…。後で巻き込まれても知らないよ僕は。

 

「そもそもこんな事になっているのは君達のせいだろう。人のせいにするんじゃないよ。」

 

 ディレクターはそんな美竹の悲痛な訴えを鼻で笑って一蹴した。今回ばかりはアンタにも非があると思うぞ…。

 

「蘭〜、落ち着いて…。」

「そうだよ、蘭ちゃん…。ディレクターさん、今の言葉を撤回してください!」

 

 苛立つ美竹を青葉と羽沢が宥めようとする。けれど現実はそう思い通りには運ばない。もう未来が見えた。

 

「もうそろそろ帰っていいかな?こっちは君達の遊び相手してる場合じゃないんだよ。」

 

 ディレクターがそう言った次の瞬間、美竹の周りから負のオーラが放たれて変な化け物が出てきた。やっぱピコから聞かされてたとおりだったわ…。

 

「な、何なんだ…!」

「蘭…!?」

 

 皆が次々に驚いてる。仕方ない。何の説明も無しに人から化け物が出てくるなんてあるわけない。ちょっと僕の口から説明しよう。

 

「あれは“ビヨルネ”。単純に言ったら人間の悪意の結晶ってとこ。結晶とは言え肉体もあるし化け物には変わりないけどね。」

「そんな事はどうでもいいから君、早くあの化け物をなんとかしたまえ!」

 

 ディレクターが腰を抜かして僕に頼む。僕にものを頼むならさっきの発言撤回してもらいたいところだが、今はそんな場合じゃないな。後で取り付けておこう。

 

「あんたの頼みを聞く義理なんて無ぇけど、あいつを野放しにしておくわけにもいかないしな。しゃーない。僕があいつをどうにかしたら僕のお願い聞いてよ。」

 

 ディレクターは腰を抜かしたまま、黙って首を勢いよく縦に振る。さてと、準備が整ったところでやりますか。幸い、音極聖天瓏角を銃に変化させといて良かったよ。

 

「ハッ!」

 

 僕は引き金を引いてビヨルネにダメージを与えようとする。残念ながら外れたけど。それにしても、ここじゃ場所も狭いし美竹達がいるから迂闊には攻撃できない。かと言って外に出られたら森林に隠れて位置を特定出来なくなる。よし、後者を妥協しよう。

 僕はそう決めた後、ビヨルネを窓側まで追い込んでそのまま逃した。

 

「村上何を逃してるんだ!追えよ!!」

「いや、あいつのスピードは目で追える。そう遠くまで行かなけりゃ問題ゼロ。」

 

 僕は外に出ると辺りを見渡す。案の定、木々が入り組んでて場所がわからないな。けどこのまま放っておく僕でもない。

 

「上原。ごめんこれ持ってて。」

「あっ、はい!」

 

 僕は上原の手の平の上にイヤリングとサングラスを置く。これで準備は完了だ。まさかまたこれを使うハメになるとはな。前にも話したかは忘れたけど僕のサングラスは視覚を、イヤリングは聴覚をそれぞれ制限する機能を持っている。制限していた視覚、聴覚を最大限まで解放できる。この状態で戦える時間は一分間だけどね。その後は普通に気絶する。

 落ち着いて感覚を研ぎ澄ませ。そうすれば必ずあいつを追える。よし、きた。正面から十時の方向に地面を踏む音が速いテンポで聞こえる。間違いない。走ってる音だ。音の重さからおそらくあいつ。今がそのタイミングだ。

 

「太郎、今よ!」

 

 僕は拳銃の光っている部分に手を翳し、音が聞こえた方向に向かって引き金を引いた。この技はいくら走るスピードが速くても無駄だ。何せ自動追跡だからね。走っても走ってもどこまでも追ってくるよ。

 

「ギイヤァァァァァァァァァァァァァァァァ…!!!」

 

 怪物の断末魔と思しき叫び声が聞こえた。走る音ももう聞こえない。あいつの心臓の音もね。これで終わった。

 

「何でこうなったのか、きちんと考えなよ。あと、さっきの言葉撤回しなね。宇田川達は自分達の大切なものを守るためにプライドを捨てた。大人のアンタが意地張っててどうすんだよ。」

 

 僕は上原に預けてたサングラスとイヤリングを再び付けるとディレクターにそう言った。ディレクターはまだ腰が抜けた状態で美竹達に謝罪した。何はともあれ解決して良かったよ。あと最近こういうの増えすぎなんだよ。何が起こってるのか教えてくれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、Afterglowのワンマンライブはいつ見ても圧巻だな。」

「それな。」

 

 後日、僕は小泉と白鷺と一緒にAfterglowのライブを観に来ている。つかアフロのメンバー全員から招待されたんだけどね。

 

「そろそろ始まるかな。」

 

 さてと、そんなお喋りは一旦置いておこう。もうすぐAfterglowのライブが始まる。この曲は“That Is How I Roll!”か。中々良い選曲をするな。

 

蘭「なんでも言うコト聞く

イイ子ちゃんはいらない

従う♪」

 

モ・ひ・巴・つ(従う♪)

 

蘭「必要ないから

猫なで声 蹴散らせ

マネなんかしなくていい

そんな世の中 捨てちゃって

“僕”を生きる

 

身勝手な言葉を浴びて

不満を抱え込み

過ぎる日々に

ウジウジしてたら

地面に這いつくばって

何も見えずにダメになる

Why, don't you know?

 

Cry,Cry out!

Cry,Cry out!

不器用でも

足掻いて進んで

一ミリも無駄なんてない

足跡残すから♪」

 

モ・ひ・巴・つ(そうさ♪)

 

蘭「Cry out!

Cry,Cry out!

とにかくこの先を信じて

僕は僕(僕で)

君は君(君で)

生きよう

say!“That is how I roll!”♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アフグロのワンマン、中々に良かったな村上。」

 

 ライブを見終えた小泉が僕に話しかけてくる。だが、それに気づかないほど僕は考え事に集中していた。何故最近になって怪物騒ぎが起き始めた?非現実的な現象が最近次々に起き始めてる。これは一体…。

 

「おい、村上!」

「わかったよ小泉。うるっせぇなぁ。良かったね良かったね。」

 

 僕は生返事で小泉に返答する。それよりも。まずこんな怪物達がポンポン出続けてたら僕も余裕が無くなるかもな。あいつらを守りきれなくなる。仲間を増やすか…。いや、無理だ。現状じゃああんな連中を相手にできるのは僕しかいない。やっぱ一人だな。進むのも一人。闘るのも一人。僕に残された道はこれしか無い。この世界を、旅立とう。




次はどのバンドが来るのでしょうか…


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第31話「キミがいなくちゃっ!」

これ本当は水曜日あたりに出す予定だったんですが携帯修理に出しててしばらく投稿できませんでした…
多分これが年内最後の投稿になるかと思われます(そうじゃなかったらすいません)。


 

 

 夏。世間はもう夏ですよ皆さん。こんな時さ、皆何する?海行く?バーベキューする?プチ花火大会やる?夏祭り行く?たとえ季節が夏になろうとも僕のやる事は変わらない。そう…。

 

「お兄ちゃん!!クーラー付けてお菓子食べてばっかじゃいかんばい!お客さん来とーのに!」

 

 おっと、華楽に怒られた。部屋に籠るのは一流の引きこもりの嗜みなのよ。夏はクーラーを効かせて部屋でゴロゴロ。冬は炬燵に入ってゴロゴロ。家から出てやる事なんてほとんど無いよ僕は。

 

「はいはい。で、お客さんってのは?」

「ちゆちゃん。」

 

 危ねぇ危ねぇ。口の中のお菓子吹き出しそうになったわ。あいつが正攻法で攻め込んでくるだけで驚くなんて僕もまだまだ甘いな。

 

「とりあえず出ましょうか…。」

 

 僕は家の鍵を開けてちゆを迎え入れる。特に言うべき事はない。強いて言うならいつも通り制服で登場って感じ。

 

「今日はどうしたのさ。」

 

 ちゆは何食わぬ顔でビーフジャーキーを口にする。つかさ、前からずっと気になってたんだけどワイン入れるグラスにビーフジャーキー入れるの何なの?あれってそういう用途なの?

 

「カスミ・トヤマから連絡があったわ。タロウ、あなたはこの世界を滅ぼすつもりなの?」

「はい?」

 

 突然ちゆが口を開いた。しかもその内容が耳を疑うものでねぇ…。思わず聞き返しちゃったわ。ちゆ自身も何かこう、「自分だって信じられないよ!」って言いたそうな魂の色してるよ。

 

異世界融合壊滅現象(ラグナロク)の結末の事ね。実際どうやって夢で見たのかは謎だけれど…。」

 

 突然僕の体からピコが魂だけの状態で現れて言った。一体こいつはいつまで僕の体にいるつもりなんだ。実体得るのにどんぐらい時間かかってんだよ。

 

「その、ラグナロクって何だ?北欧神話のあれしか思い浮かばないけど…。」

「ラグナロクというのは、性質の異なる二つ以上の世界が融合してその世界が壊れるという現象よ。というのも、世界は安寧を維持するだけで相当なエナジーを必要とするからそれで限界なの。もしそこに別の世界が現れて合体すれば…。世界は崩壊する。そしてその崩壊した世界を救うには元凶となるそれぞれの世界の戦士達を倒さなければならない。その戦士達を倒すのが…。太郎、極である貴方の役目なの。」

 

 ピコがラグナロクについて詳しく解説してくれた。なるほどね。まぁ大体わかったわ。それにしても戸山がそんな夢を見たなんてねぇ…。ってそれよりも話はそこじゃないんだよな。いや、戸山の夢の事も重要だけど。

 

「変な言いがかりはやめてちゆちゃん!!!お兄ちゃんがそんな事するはずなかろ!?」

「ワタシだって信じたくないわよ!!!第一、夢だなんてそんな幻想的なものを信じられるわけないじゃない…。」

 

 華楽とちゆが言い合いになってしまったね。どうする事もできない自分を恥じるしかないね。まったく。多分、戸山もそうなんだろうね。あいつも僕の力に反対する人間かもしれない。

 確かに僕は至って極になってから驚異的な力を得た。そしてその力を讃えて神同然に扱う奴までいる。けど、それと同時に僕のこの強大すぎる力を恐れる人間がいる事もまた事実。もしかしたら、僕はこの世界にいるべき存在ではないのかもな。いや、おそらくこの力を持った以上僕はどこの世界にいても生きていけない。必ず迫害されるね。

 

「どっちにしろそんなん水掛け論だから話す必要はないよ。どうせ僕はこの世界からいなくならなきゃいけないんだし。」

 

 僕はそう言って自分の部屋へと戻った。別に話す事はもう無い。ていうか話せる話題が無い。部屋から一歩も出ないんだもん自分!それにあんな重たすぎる空気の中にずっといられんわ!

 てかさ、ここ最近怪物が出てきまくってるの何なのかしら?ハロウィンまでまだ時間あるんだけど。

 

「それはおそらく、何者かが貴方を試してるのね?」

「試してる?」

 

 またピコがさっきと同じような感じで出てきた。その都度その都度出てくるなんて本人疲れないのかしらね。

 

「JOKERやビヨルネは元々この世界に伝承される怪物ではないの。それが何らかの形によってこの世界に呼び出された。」

「つまり…。お前と同じ能力を持った奴が他にもいるって事か?だとしたらあいつしか考えらんねぇ…。」

 

 そう、それが戸山の体に憑依していたあいつ。名前わかんないから名指しできないけど。あいつとしか言えないけど。だとしたら迷惑な話だな。僕には攻撃してきてもいいけど、いや本当は嫌だけど。世界単位で巻き込むのやめてくんねぇかな。

 

「にしても、そんな事する目的がわからんのだが。」

「おそらく、貴方に一刻も早くこの世界から出て行ってほしいという意思の現れなのかもしれないわね。」

 

 ピコが淡々と説明する。つか何だそれ。つくづく迷惑な話だな。

 

「あいつの言う通りにするのは嫌だが、この世界はもう少し強くなった方がいいかもな。少なくとも、僕がいなくてもいいようになればって感じだけど。」

 

 僕がこの世界からいなくなればこの迷惑な問題は片付けられる。その後の問題はこの世界の人間達でどうにかしてほしいんだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。何処か知らない荒野に立っているところから始まる夢。服も肌も、砂埃が付いて汚れている。そしてここからが悪夢の始まりだった。私が知らない人達が、私が会った事のない人達が剣とか銃とかの武器を持って一つの標的に攻撃を仕掛ける。全員その事に夢中になっていて、私の事は気にも留めていなかった。夢だから仕方ないのかもしれないけど…。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 すると上の方から大量の光の弾が飛んできて、雨のように降り注いだ。その光弾のせいでたくさんの人が倒れて、動かなくなった。戦士であった人達の命を奪った元凶は地面を歩いていた。姿形こそ人間だけど、その力は神や仏と同じだった。

 彼は人間だった。人間だったけど、覚醒して人間をやめた。私はさっきまで生きていた彼らの亡骸を踏まずに歩いていく彼を見た。

 

「Raw…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 私がRawさんの名前を呼ぶと、夢は終わった。またこの夢だ…。最近いつもこの夢に悩まされてる…。

 

「お姉ちゃーん?急がないと学校遅刻しちゃうよ?」

「あっ、はーい!」

 

 あっちゃんが声をかけてくれた事ですぐ正気に戻れた。どうしてこんな夢ばかり見るんだろう…。

 

「お姉ちゃん?」

「な、何でもないよ。さ、行こう!」

 

 気のせいだよ気のせい。Rawさんが世界を滅ぼすなんて絶対に何かの間違いだよ…。絶対に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほとんどの学校が放課後の時間を迎える夕方頃、最近とんでもない兵器を作った方々がまた何やら企んでいるようで…。

 

「何か…。本当に何度もすみませんうちのこころが…。」

「こっちこそうちの赤沢がごめんよ…。」

 

 僕と奥沢は互いにメンバーの事で謝る。迷惑かけてしまってる、なんて思ってるのはどっちも一緒か。実は今弦巻財閥が作ったハッピージェッタンという例のジェット機の練習に赤沢が付き合ってるらしく、屋外で赤沢が運転してる。

 

「あ、そうそう。奥沢に一応これ渡しとくわ。」

「これ…。何ですか?」

 

 僕が奥沢に渡したのはちょっとゴツい感じの指輪五つ。本当はアレを渡したかったけど軽犯罪法に違反しちゃうからね。これぐらいだったら代わり程度にはなるっしょ。

 

「本当に自分がどうにかしなきゃいけないと思った時にそれを利き手の指にはめな。」

「は、はぁ…?」

 

 奥沢は何を言っているのかわからないと言わんばかりの表情をしている。まぁそりゃそうか。僕がいなくなるかもしれない事はまだ華楽と有亜と閑無とちゆぐらいにしか話してないもんな。まだ決定事項じゃないから何とも言えないけど。

 

「いけー!ハッピージェッタン!」

 

 あれが噂のハッピージェッタンか。確かゴレンジャーにハマった弦巻が作ったとか作ってないとか…。バリブルーンを彷彿とさせるなあの見た目。今四十五作品目の記念作品やってるもんね。現代版ゴレンジャーみたいなザ・ハイスクールヒーローズもやってたし。けど今つべで配信されてるのジャッカー電撃隊なんだよね。一応言っておくとゴレンジャーとジャッカーは原作石ノ森大先生だけどそれ以降は八手先生。

 

「てかあれを作れるほどの資産があるって弦巻家のご主人は一体どんな仕事やってんだ…。」

「でも私達はこころと一緒にいるせいで慣れちゃいましたからねぇ。この間なんか薫さんのために近くの空き地に演劇用のホール建ててましたし、あと二年ぐらい前にははぐみのためにバッティングセンター建ててましたし。」

 

 奥沢が弦巻の偉業を淡々と語る。てか弦巻家、そんなポンポン建物建てていいのかよ…。俗に言う三バカも十分えげつないけどその三人とやってて普通にしてられる松原と奥沢もえげつないよ。

 

「おーい!村上ー!これすげぇぞ!!」

 

 突然赤沢がテーブルに置いてあったスピーカー越しに僕に話しかけてくる。本当子供みたいに燥ぐなあいつ。てか通話機能もあるんだ。

 

「そですねー。凄いねー。」

 

 僕は棒読みと悟られない程度にイントネーションを変えて赤沢の言葉に生返事で返す。まぁあいつは陽気だけど。

 

「こんな事言ったら失礼ですけど、赤沢さんもかなりぶっ飛んでますよね。」

「あいつも弦巻と同じで裕福な家柄の生まれだからねぇ。」

 

 これはガチ。赤沢の父親は事業をやってて地元じゃ知らない人がいないまであるぐらいの有名な人なのよ。その息子があいつ。今ジェット機操縦してるあいつ。

 

「なるほど…。それは知りませんでした。」

「地元でしか知らない話だし知らなくて当然。それにあいつ、弦巻と同じなんだよな。」

 

 奥沢にどういう意味かと聞かれたけど本人はわかってるだろうと思うので敢えて聞かない事にした。で、その後も赤沢はジェット機を乗り回して本日の所はお開きとなった。マジで僕を呼んだ意味なんだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺とハロハピのみんなはちょっとしたパトロールをする事になった。ほら、最近怪物騒ぎも増えてる事だし見つければ神の武器を持った村上がどうにか対応してくれるし。

 

「なぁこころ、銀行寄っていいか?」

「もちろんよ増治!でもどうしたの?」

「ああいう所って色々起きやすいからな。確かめておきたいんだ。」

 

 そう言って俺たちは銀行に入店した。実際のところ、ちょっと俺やりたい事あったからね。すると思わぬ人物と遭遇する羽目になった。俺だけじゃなくこころ達もよく知ってる人物が…。

 

「燐子!奇遇だな、どうしてここに?」

「あっ、赤沢さん…!少し用事がありまして…。」

 

 燐子が視線を逸らしながら俺たちに話す。そういえば燐子って人見知りなのか?こうしてみると村上に似てるんだよな人見知りな要素が…。

 

「そっか。邪魔して悪かったな。」

「またね、燐子ちゃん。」

 

 俺と花音は燐子に手を振って別れようとした…。その時だった。悪夢が始まったのは。

 

「動くな!死にたくなけりゃ全員手を挙げろ!!」

 

 突然強盗と思しき奴らが拳銃を突き出して脅迫してきた。顔は目と口と鼻の部分が空いてるフェイスマスクで覆われてて顔の特徴が判別できない。てかむしろそれが変な不気味さに拍車をかけてるまであるぞ。

 ご丁寧にシェルターまでおろしやがって…。こんなバレバレの銀行強盗やるなんて中々にイカれてるな。

 

「燐子、こころ、薫、はぐみ、花音、美咲。お前らは自分を守れ。俺の事は心配するな。」

「心配するなって…。まっすーさん何するんですか…!?」

 

 俺が囁き声でそう言うと、真っ先にはぐみが返してくれた。俺の身を案じてくれる事自体はありがたいけど、今一番大事なのはこころ達の命だ。俺が責任持って止めないと…。

 

「おい、さっさと金を出せ!」

 

 強盗が受付の方を向いた。よし、今ならどうにか止められるはずだ…!このまま一気に突っ込んで…!

 

「残念。」

「うっ!」

 

 突如として俺は後ろにいたもう一人の強盗に気づかなかったせいで左足を狙撃された。俺の左足の自由が奪われた事で状況はますます剣呑な雰囲気になる。

 

「おいおい、てめぇ何勝手に動いてんだ?」

「ぐっ…!」

 

 しくじった…。これじゃあこころ達を守るどころか足を引っ張ってんじゃんか…。一体どうすればこの状況を止められるんだ…。こころ達は怖がって泣いてる。せめてあいつらの笑ってる顔だけは守らないと…!

 

「死ね。」

 

 ああ、俺ここで終わるんだな。死ぬってこういう事なのかな。村上、小泉、由美、音生、明日奈さん、ちゆ。今までありがとう。そして勝手に死ぬことになってごめんな…。

 

「何っ!?」

 

 すると、突然強盗二人の拳銃が二丁とも粉砕した。しかもシェルターには二つ穴が空いている。穴の空き方からして外部から空けられたとしか思えない。

 

「くそがぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺の目の前にいる強盗がナイフを振り下ろそうとした瞬間、突然光が強盗の目前を眩ました。俺が光の筋道を辿ると、燐子がペンライトを向けている光景が見えた。あれってたしか村上から貰ったって言ってたやつだよな…。

 

「やあっ!」

「うぐっ!」

 

 ほんで驚く展開はまだまだ続く。美咲が強盗の男の頭部を右手で殴ったのだ。右手の指五本全部、何か指輪みたいなのがはめられてる。結婚指輪とかそんなんじゃなくて、攻撃に特化してる感じの。

 

「こ、こうなったらここにいる奴ら全員…!」

「とうっ、正義のヒーロー、ミッシェル参上!」

 

 さらに次の瞬間、フィルターを壊してミッシェルが現れた。え?ちょっと待って。たしかミッシェルって美咲だったよね?だとしたら目の前にいるミッシェルは誰…?声が低いから男だとは思うんだ。

 

「だ、誰だ!?」

「といやっ!」

「ぐほっ…!」

 

 ミッシェルはすかさず攻撃を強盗に浴びせた。一発KOだった。まさに圧勝。ミッシェルって格闘タイプだったのか…。ポケモンに混ざってても疑わないかもしれねぇ。

 

「えーと…。ひとまずこれで解決って事でいいんですかね…?」

「なに、こうしてミッシェルが終わらせてくれたんだ。後の事は警察に任せておこう、花音。」

 

 花音の問いに薫が答える。とりあえずはこれでめでたしめでたしって事かな。にしても、さっき拳銃を壊したの一体誰だったんだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言わんで良いと?お兄ちゃんがMaxさん達助けたんやろ?」

 

 家に帰った後、突然華楽にそう言われた。確かにシェルターごと銀行強盗の拳銃ぶっ壊したのは自分。

 ちなみに突然やってきたミッシェルの正体は瀬良。たまたま通りかかった銀行、昼間からシェルターおろしてっからおかしいなと思ったんだよ。聴力を解放して聞いたら案の定。

 

「誰が助けたかなんてどうでもいいっしょ。それよりも全員命に別状が無かった事が幸いだよ。」

「お兄ちゃん…。」

 

 華楽が嬉しそうにこっちを見る。けど今回の事で反省点があるなら、赤沢の左足を怪我させちゃった事かな。僕がもっと早めに準備を済ませてればこんな事にはならなかっただろうし。

 

「でも力貸すのは今回だけだよ。こういうのは人間だけで解決してかなきゃいけない問題なんだからさ。」

 

 僕はそう言って自分の部屋へと戻った。まぁその後に華楽に無理矢理引き摺り出されて甘えられたのは言うまでもないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、弦巻達から招待状が送られてきた。どうやらSUICIDE全員に送られてきたらしく、みんな揃ってる。めちゃくちゃ気まずかったけどね!最初は手品とかマジックとか見てる人が飽きないような工夫が施されてた。あとミュージカルとか。ほんでいよいよラストの曲となった。これってライブなのかね?

 

「それじゃあ行くわよーっ!ハッピー!ラッキー!スマイルー!」

「イェェェェェェェェェイ!!!」

 

 赤沢、音生、小泉、由美、明日奈さんがサンシャイン池崎に負けないレベルの大声でコール&レスポンスをする。全くもって可愛くないねあの返しは。あのイェーイは。本家の良さを全部殺してる。僕とちゆは着席したまま。あんな大声出せる元気欲しいよ。いや嘘です。やっぱり要りません。

 

こ「キミがいなくちゃっ!

はじまらないも~ん!!!!!

 

アドリブな毎日を キミと過ごすトキメキ♪」

 

花「春夏秋冬それぞれに胸が♪」

 

こ・花「キュン!と跳ねだす♪」

 

は「“もっと”愛をつめて♪」

 

ミ「“ぎゅっと”ハグで歌おう♪」

 

は「ぽっかぽかソングに♪」

 

ミ「包まれて♪」

 

は・ミ「うれしいな!♪」

 

薫「かけがえのないみんなでつくる このカタチは♪」

 

こ「ひとりだって♪」

 

薫・は・花・ミ(ハッピー!)

 

こ「欠けちゃダメだ!♪」

 

薫・は・花・ミ(ハッピー!)

 

こ「キミがいなくちゃっ!!♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「きずなキラキラ ボクらをつないで

ちょうちょ結びで飛んでく~!

向かう場所は きっとハッピーだっ♪」

 

薫・は・花・ミ(にっぱにっぱ!)

 

こ「えがおの花びら♪」

 

薫・は・花・ミ(にっぱにっぱ!)

 

こ「世界へ舞いあがれ!♪」

 

こ・薫・は・花・ミ「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!!♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、突然チュチュ様から連絡が入ってRASのメンバーが全員揃えられた。今日は練習の無い日だとチュチュ様から聞いたのですが…。一体何でしょうかね?

 

「遂に来たわ…!いよいよワタシ達RASの羽ばたく日が来たわ!」

「羽ばたく…?」

 

 私だけじゃなくてレイヤさん達もみんな首を傾げてる。果たしてチュチュ様の言う羽ばたく日とは一体何でしょうか…?続きは次回!




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第32話「!NVADE SHOW!」

多分本当にこれで年内最後の投稿になるかと思います
もう少しで第3章も終わりですので平和な回を作ってみました
ある種は平和ではないですが…
前置きはこのくらいにしといて本編をどうぞ


 ハロハピのライブの翌日、何故か俺たちはRASに誘われて海に行く事になった。しかもポピパのみんなもいるんだよな。わからなくはないんだよ。ポピパとRASが明日対バンで、ますきの提案でその親睦会をやる事になってそれが今だとか…。いや待て、もしかして俺たちSUICIDEは単なるドライバーとして呼ばれたのか…?そしたら村上呼べば良かったのに。あいつは俺たちのドライバーだぞ。

 

「にしても何でRawさんは来てないんでしょうかね?」

「確かあいつ『靴に砂入るのが嫌だ』って理由で浜辺とか海行かないみたいだしな。」

 

 りみの質問に小泉が答える。え?靴に砂入るのが嫌ってそんな理由で今日来なかったの?せっかくJKの水着が見れるっていうのに残念だなぁあいつ。

 

「なんか、華楽ちゃんと一緒にドラえもんの映画観に行くって言ってませんでした?」

「はぁ!?」

 

 そうだ。思い出した思い出した。あいつ人付き合いよりも自分の用事を優先するタイプだったわ。こないだも千聖が新しい舞台に出演するから観に行こうって誘ったけど「Fateの映画の方観たいからまた後日」って断られた。

 

「すみません、関係ない話になっちゃうんですけど…。前の車すごいガタついてないですか?」

 

 有咲に言われて全員が前方の車を見る。ああ、あれ確か音生が運転してる車だっけか。あいつペーパードライバーだからなぁ。しかも助手席が由美っていう最悪のパターン。あーあ…。

 

「気にするな。それよりも、今日は目一杯楽しむぞ!」

「おー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、海ってのはいつ見ても壮観だな!」

「ですねー。」

 

 赤沢さんの言葉に俺は賛同する。海なんて来たのいつぶりだろう…。この壮大な青さ、陽の光の浴びてキラキラ光る潮水。今日は絶好の海水浴日和だなぁ。

 それにポピパのみんなもRASのみんなももう水着に着替えてるけど…。みんな良いなぁ。

 

「音生兄。どう…?」

 

 するとそんな俺の目の前に水着姿のレイが近寄ってきた。大人の女性にもにも負けないぐらいのスタイルを誇ってたレイだけど今彼女が着てる水着はそれを更に強調させている。

 

「あれあれ?音生兄顔真っ赤になってる?ふふっ、可愛いなぁ…。」

「おっ、大人をからかうなよ!」

 

 レイはいっつもそうやって俺を揶揄ってくる…。昔っからいつもそうだったけど。

 

「あ、そうだ!せっかく海があるんだから水切りやろうっと!」

「もう…。音生兄はいつもそうやって誤魔化す…。でも音生兄のそういうところ、私は好きなんだけどな。」

 

 レイが何か言った気がするけどなんだろう。あまりよく聞こえなかったよ。俺はレイが何を言ったのか気にしながら足元にあった石を投げた。考え事をしてた割には五連チャンいけた。

 

「もう一回投げてみるか。よし!」

 

 水切りって最高記録九十一連出せた人いるらしいんだって。でもギネスには載ってないみたいなんだ。ちなみに元の資料はWikipediaだよ。そうと決まれば俺もやってみよう…!

 とその時、急に赤沢さんが走り出して海辺に突っ込んでいった。ていうか全身ダイブ…。ずぶ濡れじゃん…。

 

「え、え?」

「どういうお笑い!?」

 

 由美も小泉さんもみんな驚いてる。そりゃそうだよ。何の脈絡も無くずぶ濡れになるんだもん…。

 

「Maxさん凄いですね。私も!」

「何でお前まで突っ込もうとするんだよ!!」

 

 水着に着替えたたえちゃんが赤沢さんの真似をして海にダイブする。そんなたえちゃんを見た有咲ちゃんはいつもの如く自慢のツッコミを披露する。にしても、有咲ちゃんって凄いデカいんだなぁ…。どこがとは言わない。

 

「コラ音生兄、どこ見てるの?」

「ご、ごめんって…。」

 

 そんな俺にレイが頬を膨らませてこちらを見てきた。普段はクールだけど、いざとなると可愛すぎる…。

 

「おーい、音生ー!早くしないと置いてくぞー!」

「あっ、はーい!じゃあ行こっか。レイ。」

「うん。」

 

 俺とレイは赤沢さん達の呼ぶ方まで駆け寄った。足が砂浜を踏む音、赤沢さん達が水遊びをして跳ねる水の音、何かこれだけでも曲作れそうだなー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、嬉しか〜。ウチ、お兄ちゃんと映画行けるなんて思っとらんかったけん。お兄ちゃん、デートに誘ってくれてありがと!」

「大袈裟だよ。従兄なんだし、これぐらいの事はさせてよ。」

 

 華楽が嬉しそうな色で僕に話しかけてくる。デートですか…。男女二人きりでお出かけする事がデートならこれがそうだね。あ、そうだそうだ。前も言ったかわからないけど大事な事だからもっかい言っとくか。

 僕の付けてるサングラスは人間を視界に映さない仕組みなの。でも僕は共感覚で魂の色が見えてるから誰がどこにいるかって判別はできる。言うなればみんなが見てる人の見た目が水風船の外見だとすれば、僕が見てる人の見た目は水風船の中に入ってる水ってとこ。だからどんな表情してるかはわからないの。

 

「ドラえもん可愛かったなぁ…。」

「お兄ちゃん、ウチの事は…。」

 

 この華楽という従妹、卑怯な奴だ。ズルすぎる。あんなに切なそうな目で見られたら華楽も可愛いよって答えるしかないじゃん。

 

「もちろん、華楽も可愛いよ〜。」

「ふふっ、ありがとありがと〜。」

 

 ほら、可愛らしい。映画も見終わった事だし、次はどこに行こうかね…。こういうのってプラン立てとくのがセオリーなんだろうけどすっかり忘れてたわ…。

 

「あっ、ムーくんだ!やっほー!」

「こんにちはー!」

 

 すると、テニスコートから聞き覚えのある声が聞こえてきた。上原、奥沢、閑無の三人だな。たしか上原と奥沢はテニス部らしいな。だったら普通にテニスしてても不思議じゃないか。

 

「むっ…。」

 

 すると突然華楽の感情が不機嫌に変わった。これは…嫉妬に近いのかな?いや、多分嫉妬。百パー。僕を見る視線を感じるもの。

 

「あっ、そうだ!ムーくんも華楽ちゃんも、せっかくだからテニスしない?楽しいよ!」

 

 閑無が僕達二人をテニスに誘う。んー、悪くない誘いだけど今はデート中だしねぇ…。華楽が何て言うかによるけど。

 

「どうするお兄ちゃん?」

 

 華楽が僕に問いかける。華楽自身はやる気が無いわけじゃないようだけど、いいのかね。いや、ここでテニスやって華楽とペア組めればそれでいいか。

 

「おっけおっけ。じゃあやろうか。」

 

 テニスをする事になったのはいいものの、僕は上原と組んで華楽は奥沢と組む事になった。くじ引きだからね。しゃーなし。大人気ないけどちょっと本気出しますか。

 あ、ちなみにこっちのペアの前陣は僕で後陣は上原。向こうは前衛華楽で後衛奥沢。ちなみに閑無は審判。

 

「いきますよー。えいっ!」

 

 奥沢がサーブを出した瞬間、僕はすぐさま高速移動で素早くレシーブした。僕の返球したボールはあり得ない速度でテニスコートを駆け抜け、こちら側に得点を与えた。そのあまりの速度に華楽も奥沢も唖然としている。

 僕のこの俊敏体は身体中の無駄な力を削ぎ落として脚力だけに全てを集中させる事で圧倒的な瞬発力と跳躍力を生み出す。ただしいつもよりパワーが落ちるのが難点だけどね。

 

「お兄ちゃん大人気ないけん!もうちょっと手加減して!」

「大人の役目はいつもこんな感じよ。さぁ、まだまだこれから!」

 

 その後も僕はどんどんレシーブとサーブで点数を重ねていく。しかし、あの二人も馬鹿ではなかったようですぐ対策を練られたわ。

 途中、わざと長いサーブを出して後衛の上原を攻める戦法で仕掛けてきた。この戦法のせいで点数の差はどんどん縮まり、同点となった。

 

「やるねぇ。よし、もう一丁!」

 

 これで同点。どっちかがリードする展開になった。このターンはあっちがサーブだな。奥沢がサーブを打ち、上原がレシーブをする。その球を華楽が誤って前方に返してくれた事でチャンスが生まれた。

 

「今だ!!!」

 

 僕が全身全霊のレシーブを打とうと勢いよくラケットを後方に振った瞬間、今までに味わったことのない感触を味わった。テニスボール?いや、違うよな。何だろ。

 

「あ。」

「あ。」

「あ。」

「え?あ…。」

 

 僕が後ろを振り返って見てみると、僕のラケットが上原の顔面にクリーンヒットしていた。全然位置わかんなかった…。いくらパワーが落ちてるとはいえ、遠心力も込みだから多分痛いはず…。ごめん上原。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む〜…!」

 

 気まずい。非常に気まずい。案の定先程の一件を上原は許してくれず、僕はランチを奢る事で彼女の怒りを鎮めようとしたのだが…。

 まず量が常軌を逸してる。あいつダイエット中じゃなかったの?

 そんでまだ怒って僕を睨んでるし。怒ってるのがわかるのは魂の色でわかるし、睨んでるってわかるのは上原の視線を感じるから。

 

「Rawさんが如何に私の事を無下にしてるかよーくわかりましたよ…!」

「あ、あのー…。あの時はテニスボールを返球する事に夢中で…。すみません、私の確認不足でした。はい。」

 

 さっきからずっとこうだよ。僕が釈明しようとすれば上原が言い訳と見做して威圧してくる。怖い。許して。

 

「てか上原、量多いけど大丈夫?あんまり食べすぎると太…。いっ!?」

 

 いったぁ…。足踏まれた…。角度的に多分奥沢だわ。あいつ、何食わぬ顔でしれっと足が踏みやがって…。この借りは数十倍にして返してやる…!必ずな…!!

 

「せっかくですし、Rawさんと華楽ちゃんも一緒に食べませんか?」

 

 不意に奥沢がそんな事を尋ねてきた。今さっき足を踏んづけた奴が急に何を言ってんだろ。別にここは正直に答えてもいいところだな。

 

「さっき食べてきたから問題無しよ。」

「あ、ウチも。」

 

 映画見る前にちょっとファミレスに寄ってったからね。僕達そこまで空腹なわけじゃないんだわ。

 

「あのー、すいません。Afterglowの上原 ひまりさんですか?よろしければサインを…。」

「え!?本当ですか!?ありがとうございますぅ…!」

 

 上原は突如女の子のファンからサインを求められると、それまで三角にしてた目を丸くして数秒でサインを書き終えた。多分めちゃくちゃ考え込んでたんだろうねあのサイン。チラッと見えたけどマジでそんな感じしたよ。多分あれは徹夜した末にようやく生み出せたサインなのかな。ホントにそんなデザイン。うん。

 

「上原も随分と有名人になったものだね。」

「いやぁ、それほどでも…。」

 

 自分のサインを求められたのが余程嬉しかったのか、上原は先程よりも随分緩みきった表情で笑い、頬を指で掻く素振りをする。僕はいつものようにメイクしてないからRawだとバレないし、奥沢は普段がミッシェルだから絶対にバレないし、華楽はそもそも音楽方面に関わってない。言い忘れてたけど閑無は出版社の人から電話があったらしく、用件を済ませるために会いに行ってたから今はここにいない。

 

「んじゃ、僕達は帰るね。華楽、行こ。」

「あっ、うん。じゃあまたね。」

 

 その後、上原達と何もする事が無くなったので僕と華楽はあと一ヶ所だけ行きたい所行って帰ることにした。確か近くで花火のショーがあるらしいからね。見てみるか。なんかロマンチックだし。おい誰だ今笑った奴。今なら半殺しで済ませてやるから出てこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー!すっごーい!見て有咲!広いよ!!」

「広いのは見たらわかるわ!けど、確かにそうだな。」

 

 海で遊びきった私達は温泉に入った後、旅館で一泊する事になった。にしてもチュチュの奴、こんなにすげぇ旅館予約してたのか。どんだけ金持ちなんだよ…。

 

「って香澄!おたえ!りみ!お前ら布団にダイブすんじゃねー!!滅茶苦茶になってんだろ!」

 

 まったく、コイツらって奴は…。この部屋、どうやら六人部屋らしく、籤引きで私達ポピパとレイヤが同じ部屋になった。

 もう夜遅いし、寝るか。明後日はリハーサルも控えてるし。それに海で遊びきって疲れた。

 

「ねぇねぇ、この際だからみんな語ろうよ。」

 

 全員が布団に入った途端、りみが突然切り出してきた。てか語ろうよって何をだよ…。

 

「えー、語らないで寝ようぜ。」

 

 私も早く寝たいしな。コイツらに語ってる暇は与えたくないんだよ…。じゃなかったら何をし始めるかわかんねーからな。

 

「あっつ〜い…。香澄ちゃん、私の布団剥いでくれん?」

「う、うん…?」

 

 りみがそう言い出した。まぁ、今の季節夏だしな。暑いのも無理はない。そして急に関西弁になってる…。可愛い。

 

「じゃあ、いくよ…。って、りみりん!?」

「うわぁ…。」

 

 香澄がりみの布団を剥ぐと、りみの寝巻きの浴衣の下の方がはだけてた。しかもTバック穿いてるし…。何やってんだりみの奴。

 

「またそのお気にのパンツなんだね、りみ。」

 

 突然おたえが口を挟んでくる。え、りみが今穿いてるのお気に入りのやつなのかよ…。あれが!?あのTバックが!?

 

「市ヶ谷さん、電気消して。」

 

 レイヤに言われて私は部屋の電気を消した。はぁ〜、これでようやく寝れる…。

 

「絶対に喋らないようにね。」

 

 りみも皆に釘を刺してるけど、一番この中で何しでかすかわかんねぇんだよな。そういう意味では怖いんだよ。

 

「おやすみー。」

 

 私は電気のスイッチを切って、部屋を真っ暗にする。みんなでお泊まりなんて…。本当にいつぶりだっけか…。べっ、別に嬉しくなんて…!

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…!」

 

 って、誰だこのいびき!!!わざとらし過ぎるだろ!!音の方向からしてあいつだな、りみだな!!こんな時にふざけやがって!!何でよりによってお前なんだ!!!

 

「うるさいよりみりんもう〜!頼むから寝て…。」

 

 私の代わりに沙綾がりみに注意する。あー、沙綾が言ってくれて助かった…。私の他にもしっかりした奴がいたことが何よりの救いだよ。私一人じゃこの問題児三人の対応ができなかったからな。

 

「ウフフフフフフ…。」

「うるさいよりみりん!」

 

 全然親睦会って感じじゃねー!そもそもこいつら本当に親睦会だってわかってんのか!?完全に修学旅行気分だろ!!!しっかし、りみの奴もよっぽどだな。あの香澄に言われるなんて…。仕方ねぇ。

 

「うるせぇよ!」

 

 私は一旦電気をつけると香澄と二人で枕を使ってりみを叩く。何でこんな夜中になって急にテンション上がってんだよ。あんなに赤沢さん達に水着姿見られるの嫌がってたくせに。

 

「ねぇ、香澄ちゃん有咲ちゃん!失礼すぎない!?」

「りみはもう喋んな!!」

 

 まったく…。何芝居ぶっこいてんだりみは。ていうか本当にどうした?今日何かあったっけか?

 

「はぁ…。消したら喋んなよ。」

 

 私はそう言って再び電気を消した。辺り一面が真っ暗になってようやく寝る準備ができる。

 

「あー、疲れた…。」

 

 今日は散々身体動かしたからな。ゆっくり休んで明日に備えよう。

 

「ズーッ!!」

 

 本当に誰だよこの音!!!ティッシュで鼻かんだような音出しやがって!!せっかく人が寝ようとしてた時に!!

 

「ハッハッハッハッハッ…!ハッハッハッハッハッハッハッ…!」

 

 この笑い声あいつだな!りみだな!!またやりやがって!!しんどいけど、一回言っておくか…。

 

「いい加減にしろお前!!」

 

 頼むよりみ。こうやっていちいち電気つけて言いたくないんだよ自分だって…。

 

「どうしたの有咲ちゃん騒がしいなぁ…。」

「どうしたの、じゃねぇよ!何笑ってんだよ!」

「何回も起こさないでよ〜…。」

「お前こそ何回も騒音立てんな!ぜってー寝ろよ!!そしてレイヤ笑ってんじゃねぇよ!!」

 

 これで沙綾まで暴走し始めたら私一人じゃ手に負えねーぞ…。香澄とおたえがおとなしいのが唯一の救いだけどさ…。

 

「ぜってー寝ろよ!」

 

 私はもう一度電気を消して布団に潜り込む。今度こそ何も起こらないように祈らないとな…。じゃないと修学旅行気分のコイツらが何しでかすか…。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!痛いよ!!!」

「うーん…。うるさいよ香澄…。」

 

 またかよ!!!しかも今度は香澄…。案の定来たわ…。それにしても、一体何が起こってんだ!?あまりに突然の事だったからおたえも目覚ましてるし…。いやさっきまでの状況で寝れる方がヤバいだろ…。ってそんな事考えてる暇あるか!とにかく電気をつけて何が起きてるのか確認しないと…!

 

「って何してんだ!!!」

 

 電気をつけて確認してみると、今度はレイヤが香澄にボストンクラブをかけてた。香澄の両足が思いっきり上方向に引っ張られてて、見てるこっちが痛くなるわ。てかお前が技かけるのかよレイヤ!

 

「何やってんだよレイヤ!!」

「あはは、寝れないんだよね興奮して。」

 

 どんな性癖してんだコイツは…。しかもその対象がおたえじゃなくて香澄ってところがまた妙にリアリティあるんだよ…。言っとくけど香澄は私のだからな!

 

「しっかりしろよ、まったく…。じゃあ寝るぞ。おやすみ。」

 

 私はまた電気を消して今度こそ眠ろうとする。お前ら本当に頼むぞ。こっちは寝たくて仕方ないんだよ。今だって眠いし…。

 

「痛い痛い痛い痛い、痛いよレイさん!!」

「なんだよ!!!」

 

 またかよレイヤ!!また香澄に技かけてんのか!!あー、もう仕方ねぇもっかい電気つけねぇと…!

 

「ってはぁ!?」

 

 電気をつけてみたらまたやってたわ。しかも今度はレイヤだけじゃなくて沙綾まで技かけてるし…。りみに。レイヤは香澄に卍固めを、沙綾はりみにアルゼンチン・バックブリッカーをかけていた。ああ、もう沙綾までこうなったか…。もう止められねーぞこれ以上は…。

 

「痛い痛い痛い痛い!!!下ろして沙綾ちゃん!!」

 

 コイツら…!人が何も言わないのを良いことに好き勝手暴れやがって…!ここは一発言っておかないとダメだな!

 

「おい、おいお前ら!!いい加減にしろよ!!明日朝早いんだよ!」

「何だかんだ言って一番有咲がうるさいよね。」

「ふざけんな!!!お前らが騒ぐからだろ!!」

 

 香澄の奴…!!好き放題言いやがって…!後で帰ったら覚えてろよ!!

 

「次騒いだらぶっ飛ばすからな。」

 

 私はそう言って電気を消した。いや待て、コイツらの事だ。また暴れ出すに違いない。ここはコイツらが暴れられないように早めに電気をつけてみるか。

 

「何やってんだお前ら!!」

 

 またかよ!!全員布団から出てたからもう確信犯だな!!てか便乗しておたえまで混じってんじゃねーよ!!!

 

「嫌だな〜有咲。寝返りだよ寝返り!」

「どんな寝返りだよ!」

 

 思いっきり立ってたじゃねーか!そっからの寝方は一体何なんだ!!そんな言い訳が通用すると思うなよ香澄!!

 

「あとお前は何で汗かいてんだ!」

 

 レイヤって汗かきでもないから汗はかかないだろ。それにこの部屋クーラーも効いてるし…。絶対何かしようとしてただろ。

 

「おやすみ。」

 

 私はまた電気を消して布団に潜り込んだ。もうやめてくれ。お願いだからもうやめてくれ。私一人じゃこの状況を処理しきれねーんだよ…。頼むから寝かしてくれ。

 

「痛い!」

「痛い痛い!!」

「おたえ背骨が!!!」

 

 またかよコイツらは!!しかも全員の声聞こえるからもうアウトだな!!今度は何をしてんだ!!

 

「何やってんだよ!!」

 

 電気をつけて見てみたら…。ピラミッドかよ!!一番下はレイヤと沙綾で真ん中は香澄とりみで一番上はおたえ…。って何で比較的背の高いおたえが一番上なんだよ!って事で、私達が眠れたのは最初に部屋に到着してから二時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか上の方から声が聞こえてきませんでした?」

 

 みんなでトランプをしていると、突然パーちゃんがそう言ってきた。待って、怖いこと言わないでよ…。幽霊じゃないよね?

 

「あ?気のせいだろ。ほら、ロイヤルストレートフラッシュ。」

「あぁっ!まっすーさんはいつも強いですね〜。」

 

 今この部屋では私と由美ちゃんに加えてますきちゃん、パーちゃん、ロックちゃん、ちゆちゃんの四人もいる。つまり合計で六人。ん?ちょっと待って。上の階の部屋ってもしかして…。

 

「たしかここのすぐ上の部屋ってポピパさんとレイヤさんの部屋じゃありませんでしたっけ?」

 

 それだ!!!あの人選だと騒がしくなりそうなのも頷けるし…。納得はできるけど有咲ちゃんとか沙綾ちゃん、レイレイもいるしそんなに騒がしくなる感じはしないと思うけどなぁ。でも…。

 

「ねぇ由美ちゃん、何か嫌な予感しない?上の階。」

「たしかにそうですねぇ…。いや、嫌な予感しかしないのは確かなんだけど…。」

 

 由美ちゃんまでそう言い始めた。これは何かとんでもない事が起きそう…。勘で言っちゃうけど、頑張れ有咲ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、僕と由美と音生はまりなに頼まれて今日行われるポピパとRASの対バンの手伝いをしていた。まりなの奴、こっちもそんなに暇じゃないんだよ。それをわかってんのかあいつは。今日有給使ってたからいいものの。

 

「んー、それにしてもこれどうしよっか…。」

「どうしたんですかまりなさん?って、デカっ!」

 

 少し休んでる間、ドアの向こう側から由美とまりなの声が聞こえた。一体何を見つけたっていうんだ…。

 

「あ、Rawさん。実はこの木材を壊したくて…。」

「うわぁお。」

 

 これまた随分と大きい事。縦横半径三十センチの太さはあるぞこの木材。しかも長いし。硬そうだし。これ刃物通じるか…?てか何でこんなもんがライブハウスに置いてあんだよ。

 

「太郎くん、これどうにかできない?チェーンソーも刃の部分が壊れちゃって…。」

「硬すぎだろ。」

 

 どんだけ硬いんだよこの木材。あとまりな。チェーンソー持つのやめて。お前が持つとホラーにしかならないんだよ。ここは僕の神器で解決する他ないな。

 

「しょうがないな。まりな、腕出して。」

「えっ、ああ、うん…。」

 

 僕は音極聖天瓏角をまりなの腕に軽く打ちつける。すると音極聖天瓏角は一つの武器に変化し、僕は持ち手を引っ張って武器を分離する。これは棍棒だね。しかも分離したから二つになった。人間のメロディだとこんな感じになるのか。太さはそこそこあるけどこの木材ほどじゃない。それに棍棒についてる棘もそこまで鋭利ではない。

 

「じゃあこれを…。」

 

 僕は右手の棍棒を木材めがけて思い切り振り下ろした。見事に木材が真っ二つになったよ。逆にこれで棍棒の方が折れてたらビックリするけどね。

 

「こんなもんだろ。持ってって。」

「はーい。」

 

 由美と音生とまりなは僕の指示通りに木材を持っていく。って何でいつの間に僕が指示する側になってんだ。逆だろ、なぁまりな。

 

「太郎くん、由美ちゃん、音生くんありがとう!これでライブ前の準備はバッチリだからあとはライブ観てていいよ!」

「観てていいよって僕達はチケット払った側なんですけど。」

 

 一応言っとくとこれ良く言えばボランティアみたいな感じだからね。いやボランティアって感じでもないな。だから悪く言うけど、実質タダ働き。タダで働いて得られるモノっていうのもないしやってて意味あるのかこれ。まりなが好きな奴向けだよ明らかに。

 

「Rawさーん!ライブ始まりますよー!」

「どれ、行きますか。」

 

 試しに行っておきましょうかね。RASもRASで大事な発表あるみたいだし。どれどれ…。ああ、今からポピパ始まるところなのね。ポピパも聞いてみますか。

 

香・た・り・沙・有「晴れあがれ 今 Breakthrough
そう 前だけ見つめ
キミが見つけた夢を
大空に放て!♪」



 

香「息が詰まる Frustration
目が醒めるような
ホンキの愛情
友情ここにある!♪」



 

た「明日は明日の風が吹くんだ♪」

 


り「今日は今日をやりきって♪」

 


た「Show your face!♪」

 

り「Start your race!♪」

 


た・り「世界へ響かせろ!♪」



 

香・沙・有(今すぐに♪)

 

た・り「Now♪」

 

香・沙・有(今ここで♪)

 

た・り「Now♪」

 


香・沙・有(今のうち♪)

 

た・り「Now♪」

 

香・沙・有(今じゃなきゃ♪)

 


た・り「Now!♪」



 

沙「縛られてた過去なんて♪」

 

香・た・り(忘れて♪)

 


有「退屈だった日々 越えて♪」

 

香・た・り(走れ♪)

 


沙・有「愛こそ無敵だ All out!♪」



 

香・た・り・沙・有「駆け抜ける 今 Breakthrough
そう 笑顔全開!
キミがつかんだ音を
全力で放て!
未来のドアを Knocking
想像の彼方へ♪」

香「熱くならなきゃ損さ 人生!
遮二無二 今日を生きてこ!
全身全霊
今を♪」

 

た・り・沙・有(突き抜けよう♪)



 

香「無理難題 無茶振りMission
何が来てもへっちゃらさ
頂上戦場
下剋上!♪」

 


た「何のために生きるかなんて♪」

 


り「そんなの言わせないでよ♪」

 


た「Rockin' you!♪」

 

り「Love so sweet!♪」

 


た・り「愛に身をまかせて♪」

 



香・沙・有(キミのため♪)

 

た・り「You♪」

 

香・沙・有(キミだけを♪)

 

た・り「You♪」

 


香・沙・有(キミとなら♪)

 

た・り「You♪」

 

香・沙・有(キミじゃなきゃ♪)

 


た・り「You!♪」



 

沙「熱狂の真ん中に立って♪」

 

香・た・り(ぐるりと♪)

 


有「世界を眺めてみよう♪」

 

香・た・り(ほんと♪)

 


沙・有「愛こそ素敵さ No Doubt!♪」



 

香・た・り・沙・有「伸びあがれ 今 Breakthrough
もう迷うことない
キミが出会った声を
合わせて放とう!(放て!)
声の連鎖は Knocking
衝撃の彼方へ♪」

 


香「ありのままの気持ちで 一生
心躍らせ続けて
正々堂々
キミを♪」

 

た・り・沙・有(突き抜けよう♪)

 


香「夢を♪」

 

た・り・沙・有(駆け抜けよう♪)

 



香・た・り・沙・有「ずっと追いかけてた
ずっと言いたかった
答は風のなかで(揺れる)
あの突破口へ(行こう)

晴れあがれ 今 Breakthrough
そう 前だけ見つめ
キミが見つけた夢を
青空に放て!
未来のドアを Knocking
想像の彼方へ♪」

 


香「熱くならなきゃ損さ 人生!
遮二無二 今日を生きてこ!
完全燃焼
今を♪」

 

た・り・沙・有(突き抜けよう♪)

 


香「愛を♪」

 

た・り・沙・有(打ち上げよう♪)

 

 うん。前と比べて格段にレベルが上がってるな。一回聴いただけでもそれがハッキリとわかる。さて、次はRASだな。一体どんな感じになるんだろうね。

 

レ「Beep…Beep…Beep…Beep…Beep…Beep…

Ladies & Gentlemen! 準備はOK???

Beep…Beep…Beep…Beep…Beep…Beep…

逃げようとしたって もうもう遅い

僕らの歌で Target lock-on!!

It's alright! 身を任せろよ♪」

 

チ「Don't worry! Darling, darling♪

I'll take you! Happy ending!!♪」

 

レ・パ(↓)・チ(↓)「最高・最上・最強のOur Music!!♪」

 

レ・ロ(↑)・パ(↓)・チ(↓)「敵ナシ、向かうトコ全部♪」

 

レ「GAN!! GAN!! GAN!!♪」

 

レ・パ(↓)・チ(↑)「手加減しない侵略モードでFight!!♪」

 

レ「タマシイ奪われる衝撃に備えろ!♪」

 

レ「襲・来・来・来・来 Into the mind!!♪」

 

パ・チ(RAI!! RAI!! RAI!!)

 

レ「全人類Capture!!!♪」

 

パ・チ(RAI!! RAI!! R・A・S!!!)

 

レ・パ(↓)・チ(↓)「浴びろ 浴びろ 僕らの音楽を♪」

 

レ「襲・来・来・来・来 Into the world!!

 

パ・チ(RAI!! RAI!! RAI!!)

 

レ「喰らい尽くせ 地球!♪」

 

(RAI!! RAI!! R・A・S!!!)

 

レ・ロ(↑)「細胞から生まれ変われ♪」

 

チ「Oh, Yes!! テンションは上々!

新時代Openで常勝!♪」

 

レ「世界は僕らのモノさ Keep in touch!!!♪」

 

 うんうん。こちらもポピパに負けないくらいの熱量だったわ。カッコいい。

 とまぁそんなこんなでライブ終了したと言う事で、まりながMC的な感じでステージに上がってきた。思ったんだけどまりなって何か優しい叔母さん的なポジションじゃない?そんな感じする。

 

「みんなお疲れ様〜。すっごく良かったよ!最後に、RAISE A SUILENのみんなからお知らせがあるみたいだから聞いてね!」

 

 まりなの進行でRASが重大発表をする事になった。グループのリーダーであるちゆが咳払いをしてその内容を口にする。てかまりな意外と進行いけるな…。

 

「単刀直入に言います、ワタシ達RAISE A SUILENは来月にメジャーデビューする事になりました!」

 

 由美や音生、まりなはおろか会場の全員も驚いてた。ちなみに僕は知ってた。だってあいつらの所属するレーベル僕のところだもん。さてさて、ポピパはここからどう動くのやらね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、猫ちゃんだー!待てー!」

 

 翌日、僕は見てはいけないものを見てしまった。赤沢の姿だ。いや、本人に見つかられると面倒なのはあるのよ。一番はね、今のあいつの状況。あいつがニャンちゃんだと思って追いかけてるの、カラスなんだよね。とうとうあいつ本気で狂い始めたよ。昔から天然な様子はあったんだけど。

 

「Raw様ですね?今からお時間をいただけませんか?」

「…お前、あの時のあいつか。」

 

 また来たよ。こないだ森を歩いてたらいた戸山の身体を乗っ取ってた魂。そんな奴がまた何の用でここに来たんだ?戸山の身体を乗っ取ってまで。まぁいいや。僕もこいつに確認しておきたい事がある。

 

「連日の怪物騒ぎ、あれはお前の仕業だな?」

「はい。」

 

 こいつ…。否定する事なく食い気味に返しやがったな。あれで苦しんだ人間大勢いるってのにさぁ…。

 

「用件は何?死にに来た?」

 

 僕は目の前のヤツに向かって威嚇がてら殺気を放つ。事の次第によってはここでこいつをぶっ潰す事もできるけどな。

 

「違います。そんな怖い顔をしないでください。そうですね…。大変恐縮ですが…。んん、この前十六の世界を旅してほしいと言ったのですが、実はあと三つほど世界を旅していただければと思いまして…。」

 

 ヤツは僕にそんな要求をしてきた。そんな事言われたらどう返すかわかるよね?僕の返事はこう。

 

「追加注文してくんじゃねぇよ図々しいなぁ!!!!!!一回で頼め一回で!!!!!」

 

 答えはこれでした。僕のこの世でゲボ吐くほど嫌いな物事ランキング第八位は追加注文。

 

「今決めた!!ぜってぇ行かねぇ!!!ぜってぇ行かねぇからな!!!」

 

 今日気分悪いから今回はこれで終わろう。ね?良いよね?




今回も読んでくださりありがとうございました
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以上、エルモでした


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第33話「パスパレ、大ピンチ!」

えーと、まずあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。これを活動報告で言い忘れてた…。すみません。
では本編の方をどうぞ。


 

彩「考えたことなかった 外の景色の姿を♪」

 

日「あたしたちだけの♪」

 

千「世界しか知らなくて♪」

 

彩「触れた大きさから ちっぽけさは目立つけれど♪」

 

麻「それは♪」

 

イ「それだ!♪」

 

麻「サイズで♪」

 

イ「図るな♪」

 

麻・イ「己の人生!♪」

 

日・千・麻・イ「いつもの夕焼け空に♪」

 

彩「新しく彩る 紺碧のカーテン鮮やかで♪」

 

後悔はしないように 向き合う 熱いこの気持ち

君という名の 空の色が

 

彩「教えてくれた

 

Hey, “Y.O.L.O!!!!!”♪」

 

彩・日・千・麻・イ「壁の高さなんて関係ないよ

乗り越えたジジツが大事さ♪」

 

彩「この場所に5人でいること♪」

 

彩・日・千・麻・イ「かけがえないことで♪」

 

彩「Hey, “Y.O.L.O!!!!!”♪」

 

彩・日・千・麻・イ「自分を貫き らしく光れ!

輝きは何よりも綺麗…♪」

 

彩「絶対 大丈夫だよ やれるさ♪」

 

日・千・麻・イ 「Yes, sir!♪」

 

彩「絶対 大丈夫だよ やれるさ♪」

 

日・千・麻・イ 「Yes, sir!♪」

 

彩・日・千・麻・イ「美しき夜空の 一番星 探しにゆこう♪」

 

「はい、オッケーです!」

「ありがとうございました!!」

 

 スタッフの方からのオッケーが出て、音楽番組の仕事を終える。あとはバラエティにドキュメンタリー、雑誌のインタビュー…。あれ?何だか身体から力が…。

 

「彩ちゃん!?しっかりして!」

「どなたか彩ちゃんを運んでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それで彩ちゃんは倒れたってわけだね…。」

 

 ここには私こと由美と明日奈さんと健先輩が来ている。彩ちゃんは昨日突然音楽番組で倒れて、今こうやって病院のベッドで寝てる。原因不明の高熱で、体温計で測ってみたら四十度近くもあるらしい。

 

「これ、来週の音楽番組無理かな…。」

 

 明日奈さんがそう呟く。今のところ、東京でも大きめのこの病院でも対処療法しかできないみたいだし…。このままだと本当に彩ちゃんが…。

 

「由美、明日奈さん。今白鷺から連絡が入ったんですが、どうやら日菜も高熱を出して倒れたそうです。」

 

 突如として、千聖ちゃんとの通話を終えた小泉先輩からそう告げられた。先輩によると彩ちゃんほどの高熱ではないにしろ、それでも三十九度前後だったみたい。嘘でしょ、これじゃあパスパレは…。

 

「いや、まだ手はあるよ由美ちゃん。」

「え?」

「代役を探そう。大丈夫、良い人を知ってるから!」

 

 明日奈さん大丈夫かな…。まああの人アイドルだからそれなりの人脈はあると思うけど…。てかこんな時にRawさんは何してるの!?いっつも肝心な時にいないんだから…。

 

「由美、どうやら俺たちの出番のようだな。」

「そうですね。」

 

 そう。実は私と小泉先輩はグループ内でも特に辛口評論家のコンビとして知られている。もしもの時には私達二人で審査をする必要があるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、集めてきたよー…。」

 

 明日奈さんが人を集めてきてくれたのは良いものの…。紗夜ちゃんじゃん!まさか日菜ちゃんの代役として紗夜ちゃん出すつもり!?いや、バレるでしょ…。

 

「残りはボーカルの子だね…。一応この三人を連れてきたよ。」

 

 明日奈さんが連れて来たのは香澄ちゃん、こころちゃん、ましろちゃんの三人だった。いや、この三人で本当に大丈夫?

 

「ボーカルの人選は悩んだよ結構。」

 

 いや嘘でしょ。どう考えても声質近い人で選んだでしょ。たしかに蘭ちゃん、友希那ちゃん、レイちゃんの三人は声質的にパスパレの曲は合わないからねぇ…。声質だけで言ったら蘭ちゃんは、“Y.O.L.O!!!!!”だけってなればまだ大丈夫なんだけどね。他の曲となるとどうしても親和性がねぇ…。

 

「じゃあまずは香澄ちゃんからいこうかな。」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 一応私と小泉先輩が審査員となってオーディションを行う。え?こんな感じで大丈夫?一刻を争う事態じゃなかったっけ?あ、まだ一週間もあるんだった。ていうかさ、みどりの窓口って色々切符買えるんだね!私てっきりみどりの窓口ってグリーン車の切符しか買えないと思ってたよ。それ口にしたらSUICIDEの皆から一斉に「違う!」って言われたけど。ちなみに課題曲は“しゅわりん☆どり〜みん”だよ。

 

香「しゅわしゅわ はじけたキモチの名前 教えてよきみは知ってる?しゅわしゅわ!

どり☆どり~みん yeah!♪」

 

 歌い出しはいいね。さすがガールズバンドチャレンジに出ただけ実力はあるね。…って、え?何?何か曲調変わってない?これ“しゅわりん☆どり〜みん”だったよね?

 

香「下を向いて歩いていても 星のかけら見つけたら

きっと…♪」

「ストップ!ストップ!」

 

 これどう考えてもポピパの曲じゃん。私聞いた事あるよこの曲。“Yes!BanG_Dream”でしょ。歌った瞬間にわかったよ。

 

「何で急にポピパの曲を歌おうとするの?」

「ごめんなさい…。でもどうしてもやりたかったんですぅ!」

「「帰れ!!!」」

 

 もう大丈夫じゃなくなってきた。先行きが不安になってきたよこのオーディション…。最初からもうアウトだもん。

 

「じゃあ次、ましろちゃん。」

「は、はい…。」

 

 最初からもう怪しいなぁ。本当にやれるのかな?すっごい顔赤いけど。熱でも出てるのかな?

 

「じゃあ始めてくれ。」

「く、くく、く、く、倉田ましろです…。よろしくお願いします。」

 

 小泉先輩の合図とともに香澄ちゃんの時と同じ曲が流れてくる。ましろちゃんすっごいかんでるけど大丈夫じゃないでしょ。視線も明らかに下向いてるし。

 

「…。」

「え!?声ちっちゃ!」

 

 マイクに音が乗ってるからかろうじて歌ってるのはわかる。わかるけど、何て歌ってるか全然聞こえない!!か細すぎる!!

 

「え?え?ちょっと待って。モニカでボーカルやってるんだよね?何でそんな声ちっちゃいの?」

「す、すいません…。この衣装でステージに立ってテレビに出る事を考えたらつい…。」

「今更すぎない!?」

 

 たしかにパスパレの衣装ってちょっとキャピキャピしてるし、観る人もそれまでよりずっと増えるけど…。ってそんだけじゃん!何も大した問題じゃないし!

 

「はい、次!」

 

 とりあえず最後のこころちゃんに全部かけるしかないね。一縷の望みが全部こころちゃんに託されてるんだから、是非とも頑張ってほしいな。

 

「yu-minさん!健さん!ちょっと良いですか?」

 

 突然香澄ちゃんが私達に話しかけてきた。香澄ちゃんのオーディションは終わったのに一体何の用が…?

 

「こんな事しなくても、Rawさんを女装させれば良いんじゃないですか?あの人はテレビ慣れしてますし、見た目も中性的だからいけると思うんですけど…。」

 

 あー…。そこツッコんじゃうか〜…。Rawさん本人としては一番触れられたくない部分だねそこは。

 

「あの〜…。先輩、これは話していいんですかね?」

「構わん。村上になら俺の口から説明しておく。」

 

 よし、小泉先輩から許可を取れた事だし早速話していこうかな。

 

「えっとね、随分前にSUICIDEのライブでどんなライブ演出をしようか話しててその時に誰かがふざけて『Rawさんを女装させよう!』って言い出して、その時にRaw渋々承諾して女装してくれたんだけど、あまりにも可愛すぎなのと綺麗すぎなのが混ざっちゃってライブに来てたお客さん皆惚れさせちゃったの。老若男女関係なく。その後、ライブ後に取り巻かれた事がトラウマになって二度とやりたくないって…。」

「えぇ…?」

 

 まぁまず女の子のメンバーがいるのにボーカルを女装させようとする事自体がそもそもおかしいんだけどね。後でその事を尋ねてもみんな「自分は発言してない」って言うし。Rawさん本人は女装のオファーを四十七回も断ってたから絶対発言してないだろうし、ちゆちゃんはそもそもその時はまだいなかったから違うし。

 

「あ、話逸れちゃったね。じゃあ次はこころちゃんね!」

「わかったわ!私に任せて!」

 

 すると、小泉先輩の携帯から着信がかかってきた。先輩ってば、携帯の電源を切らないどころかマナーモードにすらしてないってどういう事なの…?

 

「もしもし。うん、どうした?何!?」

 

 何やら小泉先輩が驚いてるみたい。一体何があったんだろう…?

 

「おい、丸山が復活したらしいぞ。」

「え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は数分前にまで遡る。私と麻弥ちゃんとイヴちゃんは彩ちゃんの容体が悪化したことを聞いてすぐさま病室に駆け込んできた。

 

「先生!彩ちゃんの様子はどうですか!?」

「今のところ、かなり体温が上がっています。しかも原因不明となると私達ではどうする事もできません…。」

「そんな…!」

 

 そんなの絶対に嫌よ。私は嫌。こんな形で、まだPastel*Palettesとしてのみんなの夢を叶えられていない状況で、彩ちゃんとお別れなんてしたくない。

 

「ち、さと、ちゃん…。麻弥ちゃん、イヴちゃん…。」

「彩ちゃん…?」

 

 彩ちゃんは私の手を両手で弱々しく握った。強く握りしめたら壊れてしまいそうだけれど、温もりは確かにある。

 

「ごめ、んね…。私、もう、ダメみたい…。」

「何言ってるの!!私達はこれからじゃない!!!私はまだみんなと一緒に叶えたい夢がある!!その景色を五人一緒に見たい!!だからお願い!!死なないで!!」

「そうですよ!!日菜さんの言動に振り回されたり、千聖さんの舞台を観て泣いたり、彩さんが白目になって奇声を上げながらもながらも大嫌いなタコを一生懸命食べてるVTRを観て笑い合ったり!!そんな他愛のない日々をまた過ごしていきたいんです!!」

「はい!アヤさんは絶対にいなきゃいけない存在なんです!!アヤさんが私達をここまで連れてきてくれたんです!!アヤさんの代わりなんて誰にも務まりません!!」

 

 涙が頬を伝う感触を無視して私達は彩ちゃんに必死に訴える。そんな涙でぐしゃぐしゃに歪んだ私の顔の輪郭を彩ちゃんはその指先でなぞった。

 

「ありがとう…。みんな、大好き…だよ…。」

 

 彩ちゃんの力が尽きようとした次の瞬間、誰かが彩ちゃんの腕に何かを打った。この装置は…何かしら?注射器ではないみたいだし…。

 

「ギリギリセーフってところかな。」

「ろっ、Rawさん!?」

 

 予想外の人物の登場に私達は驚く。前からいないなと思ってたら、いきなり登場した…。

 

「おいおい、主役の登場に盛り上がりすぎだっての。」

「えっ?うわぁ、すごい!熱が引いてきた!」

 

 するとRawさんから不思議な物質を送り込まれた彩ちゃんの身体が回復した。って、え?一体何がどうなっているの?

 

「何ですかそれ!?そもそもRawさん今さっき何を…。まさか彩さんの病気を治したんですか!?」

「治してはないよ。そもそも病気や怪我の回復能力は持ってないし。ただワクチン作るぐらいならどうにかできないかなと思って。病気の原因は渾沌って妖怪がばら撒いたウィルスが原因だった。」

 

 渾沌。聞いた事がある。確か中国神話に出てくる悪い存在で四凶と呼ばれる存在だったような…。って何でこんなに詳しいのかしら私は…。そもそも渾沌にそんな力あったのかしら…?

 

「で、ピコの力も借りてその渾沌の血液からワクチンを作った。注射器じゃなくてワクチン用の装置も作ったから痛み自体は無いはずだけどね。しばらく安静にしときな。」

 

 Rawさんはそう言って病室から去っていった。本当にあの人は気まぐれね…。いや、まだ終わりじゃないわ。

 

「あの、Rawさん。日菜ちゃんの容体はどうなのでしょうか…?」

「知らないよあいつただの風邪なんだから!三日四日経てば治るでしょそのうち。」

 

 え…?日菜ちゃんはただの風邪…?そういえば昨日日菜ちゃんが「私の出演するドラマで雨の中、恋人と会話するシーンがあったんだけど私のアドリブに相手の役者さんがついてこれなくて一時間ぐらい撮影した」って言ってたわね。しかもその時の天候が雨じゃなかったから放水してた事も話してくれてたわね…。そう考えると納得だわ…。

 

「まぁ、何はともあれ一応は万事解決っしょ。」

 

 Rawさんは今度こそ病室から姿を消した。普段はいい加減なのにいざという時は頼りになるの、ズルいわね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間後、パスパレの五人が音楽番組に出演した。ちなみにその音楽番組、僕もいる。先日新しいシングルを発売したんでそれを披露しようとね。ちなみにタイトルは“涅槃”。夢の中で作った一曲。もはや職業病だよねこれ。

 

「続いてはPastel*Palettesの皆さんですよろしくお願いしますー。」

「よろしくお願いします!」

「ブシドー!」

 

 パスパレの四人が挨拶する。残念ながら氷川妹の方はまだ風邪が治らないらしいので代理で姉の方が出演してる。喋らなければバレないとでも思ってんのか。

 

「丸山さん、たしかRawさんに質問したい事があるんですよね?」

 

 パフォーマンス前のトークで女性キャスターが丸山に話を振る。あいつに話振って大丈夫か?病み上がりだからカミカミにならない事祈るけど…。

 

「あの、Rawさんはちゃんと服着てきましたか?」

 

 おおっとぉ〜…。これは予想外の質問だった。噛むかなと思ってたけどとんでもなさが斜め上だった。

 

「いや、あの、いや…。さすがに全裸では来ないよ?」

 

 このおかしな質疑応答にMCの人だけじゃなくてゲストの人達も笑ってたんだから黒歴史確定だよ。そんでトークも進んだところでいよいよパスパレがパフォーマンスを開始するみたいだ。

 

「さぁ、それでは参りましょう。」

「Pastel*Palettesで“TITLE IDOL”です。どうぞ。」

 

 この曲できましたか。SNSでは丸山の心配をする声が多く上がってる。かく言う僕も心配してる派なんだけど。さて、一体どんなパフォーマンスをしてくれるのやら。

 

千・麻・イ(ひとつ ひとつと♪)

 

彩「物語は進むよ♪」

 

千・麻・イ(終わりのない♪)

 

彩「このタイトルには

たくさんの夢が 息づいてる♪」

 

千・麻・イ(ひとつ ひとつと♪)

 

彩「ページをめくるたびに♪」

 

千・麻・イ(わたしたちは♪)

 

彩「どんどん まぶしく

鮮やかに 綴られていったんだ♪」

 

千・麻・イ(いつだって 背中をポンっ!ポンっ!♪)

 

彩「みんなが 押してくれたね♪」

 

千・麻・イ(足が震えても♪)

 

彩「勇気が ドンっ☆ ドンっ☆

だから歩けたんだ♪」

 

千・麻・イ(ぬくもりは いつも傍に♪)

 

彩「夢を追いかけて

夢を与え続けてゆくんだ♪」

 

千・麻・イ(これからも♪)

 

彩「わたし達は『アイドル』!

絶対にあきらめない めげない どんな時も

この気持ち♪」

 

千・麻・イ(お墨付きだからねっ♪)

 

彩「大丈夫!♪」

 

千・麻・イ(らしく 楽しくゆこう♪)

 

彩「またひとつ 生まれるお話

…I believe forever,forever♪」




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もう物語がクライマックスを迎えそうだって時にゼンカイジャーのマジーヌたんの可愛さに気づく私氏


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第34話「ハーモニー・デイ」

こんばんは、エルモです!
一週間も経たないうちに最新話更新できたという事で、今後更新のスパンを短くしていければなという所存でございます
では本編の方をどうぞ


 

 

「んー…。」

 

 最近悩む事が多くなった。特に僕の周りの人間関係について。さて、今回はそれを話していければなと思ってる。前回僕の出番があまりにも少なかったから今回は多めに出てきて出番を増やしてやるんだから。At a kind a color.

 

「まずは変なスキンシップが多い有亜と閑無と桐ヶ谷から尋ねてみるか。気分で最初は桐ヶ谷から。」

 

 あ、言い忘れてたけど最近の僕の悩みって言うのは色んな人から少し距離置かれてる事。特に僕の周りの子達はそれまでよく関わってたのにこの頃距離を取られ始めた。それまでと何かが変わるってのは僕的に気持ち悪いからなんとかしたいのよ。華楽とちゆと弦巻は普段通りだからノーカン。こんな事で悩んでても仕方ない。ニュースでも見るかな。

 

「続いてのニュースです。今日未明、都内で新たにナイトメア現象の被害者が一名判明しました。」

 

 テレビからニュースキャスターがそんな記事を読む声が流れた。とりあえずナイトメア現象について調べてみるか。どれどれ…。なるほど。ナイトメア現象っていうのは人間が悪夢にうなされて目覚めない現象の事か。ん?新たに…。一名…。まだ被害者はいるのか。今調べてみたけど数千人もいるのか。こういうのも減らないね最近。仕方ない。今回はこの事件を調べてみますか。

 

「お兄ちゃん大変!ましろちゃん達が…!」

 

 華楽がノック無しで僕の部屋に入ってくるなりそう言った。みんなもうちょい僕のプライバシー権たるものを認めてよ。まぁいいや。とりあえず行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね…。」

 

 事情はある程度わかった。どうやら倉田含むMorfonicaの五人がナイトメア現象の被害者となったわけだ。原因不明ともなればどうする事もできない。

 

「Rawさん、解決方法は無いんですか!?」

「僕も今日初めて知ったから対応の仕方は知らんよ。」

 

 戸山が僕にそう尋ねてくる。答えられたら答えたいんだけど、その答えが最初からわかればこっちも苦労してないのよ。

 

「だったらタロウの中にいる天使に聞けばわかるんじゃないかしら?」

 

 突然ちゆが提案してきた。たしかにピコに聞けば解決の糸口はわかるかもしれない。早速聞いてみるか。おい、さっさと出てこい。

 

「静かにしてちょうだい。」

「七輪で肉焼いてんじゃねぇよ。」

 

 一体その七輪はどこから取ってきたんだよ。あ、僕の体内から取り出したに違いないと思ってるそこの君。僕の先週の献立の中に焼肉は入ってないからね。てか七輪での焼肉なんて食べた事ないし…。

 

「はむはむ…。」

「うん、肉をタレにつけて…。白米と一緒に食ってんじゃねぇよ。」

 

 随分と呑気だなこいつは。人命がかかってるって言うのに。身体を宿として貸してるんだからちったぁ言うこと聞けこのダメ天使。

 

「話はある程度わかっているわ。もぐもぐ…。」

「まずその焼肉食う手を止めろ。」

 

 ねぇみんな、みんなはこいつに一体何言ったら応じてくれると思う?僕もうコイツにかける言葉が見つからないよ…。

 

「太郎、貴方が世界を救う旅に出ると言うなら教えてあげるわ。」

「条件最悪。」

 

 こちとらもう絶対行かないって決めてるのにさぁ…。何それ。何でコイツはあんな不毛な旅に出る事に積極的なの?もうこれさぁ、パワハラだと思うんだよね。

 

「やってくださいよRawさん!別にRawさん一人旅に出ても私達は構わないんですから!」

「それはそれで酷くない?」

 

 本当ひでぇわ氷川妹。いくらこないだお見舞いに豆腐持ってってニヤニヤしてたからっていって逆恨みも良いところだわ。

 

「わかったよやるよ。で、方法は何?」

「まずはかくかくしかじかで…。」

 

 面倒だからここら辺の説明は一旦端折るよ。僕のやる事を見てればわかるんだから。しかし、僕も初めてやるんだ。本当に上手くいくかどうか疑問だね。

 

「よし、行きますか。」

 

 まずは五人の頭上に紋様を描く。特に紋様の種類は何でも良いらしい。そこから扉を出現させて入る。うん、シンプル!ちなみにこれ、条件があってやる奴が人以外じゃないとダメらしい。だからあの子達がやろうってなっても本末転倒よね。

 

「Rawさん気をつけてください!」

「ましろ達を絶対に助けてくださいね!」

 

 鳰原と宇田川妹の言葉を聞いて僕は夢世界へと向かった。なんだかんだで素直じゃないんだなあいつらも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉の向こうには絵本で出てきそうなファンタジー感満載の空間が広がっていた。ぐにゃぐにゃに曲がってる木とか絶対に食べたらダメそうなキノコとか。ピコの話によれば夢世界は一つの世界として統合されているらしいからここを壊せば全員夢から醒めるらしいが…。元凶を見つけない事には始まらないな。

 

「しかし、これまた面倒な場所だね。こんな所で戦ったら部が悪そうだわさ。」

 

 僕の周辺には木々が生い茂ってる。周りに障害物があると未来視で攻撃を避けられる範囲も限定されてしまう。逃げ恥晒してでもここでの戦闘は何としてでも控えたい。まぁ相手が弱かったら不足は無いけどさ。

 

「おや、客人か…。君のような者を眠らせた覚えはないのだが…。」

「…誰だ?」

 

 僕は木の上に立つ異形の存在に目をやる。翼と尻尾が生えているが、それ以外は人間とは遜色ない。

 

「太郎、あれはインキュバスよ。」

「なるほどね。あれが全ての元凶ってわけだ。」

 

 大方理解したわ。それにしてもインキュバスねぇ。名前は聞いたことあるけど実際見るのは初めてだわ…。

 

「出会って早々悪いんだけどさ、こっちにも色々あるからお前と闘らなきゃいけないの。お前が話し合いに応じてくれるなら別だけどね。」

 

 コイツが話し合いに応じてくれるんなら最初からこんな事してないか。だったらやるしかない。

 

「ええ、話し合いなどする気は元からございません。そんなものがあればこのような事をやっておりませんのでね。」

「あっそ。じゃあ僕は勝手にさせてもらうよ。」

 

 僕は音極聖天瓏角を木の幹に打ち付けた。さて、ここで問題!音極聖天瓏角を木に打ち付けるとどうなるでしょう?正解はCMの後で…。ってCM挟まないんだっけ。誰かガルパのCM挟めよ!!!アプリ版でもSwitch版でもいいから!!あとブシロード系列のカードゲームの類のCM!!間が持たない!!地上波のテレビだったら完全に放送事故になってるわ!!…さて、そろそろ正解発表に行きますかね。正解は…!

 

「ほう、面白い武器ですね。斧に変形するとは…。」

 

 正解は斧でしたー。わかった?わかった人いたら感想欄で「わかりましたー!」って言ってね?ね?

 

「ふっ!ほう…。今のを避けましたか。」

 

 インキュバスの攻撃くらいなら未来視で躱せる。実際大した事ないスピードだし。てか元々インキュバス自体が戦闘向きのスペックを持たないからね。

 

「よし、逃げよう。」

 

 僕はそう言うと、森の中へと身を隠した。そういえば音極聖天瓏角の真の力を思い出したからそれを使う事にしよう。

 

「逃げる気ですか。ですが反逆者は逃すわけにはいきませんよ。」

 

 よし、条件ばっちし。岩で行き止まり。辺りには木々が生えてる。環境条件はオッケー。後は僕の腕次第。

 

「さてと、もう鬼ごっこは終わりだよ。あ、せっかくだからさあ、ちょっとだけ長いお話につきあってくんない?」

 

 インキュバスは腕を組みながら首を傾げる。疑問だらけの相手に対して僕は左手の人差し指で上方を指しながら喋る。

 

「僕のこの武器、音極聖天瓏角って言ってさぁ、先端の音叉の部分で打ち付けた物質の性質に呼応して色んな武器になれるのよ。」

「そうでしょうね。先程貴方はそれを木に打ち付けていました。木ならば斧、と…。その武器はそういう能力を持つわけですね?」

「そそ、でもさぁ…。これってそれだけじゃないんだよねぇ。音極聖天瓏角の一番えげつない点はさぁ…。打ち付けた物質の神となっちゃうところなんだよね。つ〜ま〜り〜、僕の持ってるこの斧…。木々を支配できるの。これで終わりだ。」

 

 僕がそう言って斧に向けて意思を送ると、木の枝がインキュバスの手足を拘束した。これでコイツは逃げられない。長引かせるのも厄介だからここでおわらせる。

 

「っ…!」

「すまないな。」

 

 僕は斧を振ってインキュバスの首を刎ねた。嫌いなものランキング第一位、それが争い事。争いが起きればこうなるのは常。だから嫌いなんだよ。それにしてもインキュバスの奴、死ぬ間際に笑ってたのが不思議だよな。普通あんな状況じゃ笑えないはずなのに…。

 

「…待て。変だな。」

 

 ってそうこう考えてる場合じゃなかったわ。倉田達を助けに行かないと…。いやそれ以前におかしい。ピコの話によれば大元を、つまりインキュバスを倒せば夢世界も消滅し、倉田達も助かるはずなんだが…。まさか、まだ他に何かある?元凶はインキュバスじゃなかった?考えられる線がありすぎる…。いずれにせよインキュバスが笑ってたのが気になるな。

 

「とりあえず倉田達を探そう。ピコ。手伝え。」

「ええ。わかったわ。」

 

 僕はピコの助力を経て倉田達を探す事にした。今ここで僕の能力を使うわけにはいかない。体力の消耗があるからね。何かあった時のために少しでも体力を温存しておきたいんだわ。

 

「あれは…!」

 

 ようやく見つけた。倉田達だ。どうやら檻に閉じ込められてるみたいだな。助け出してやらないと…。

 

「来ちゃダメです!」

「何?」

 

 突如、僕の未来視で勝手に未来が見えた。インキュバスだ。なるほどね。同士がいたってわけか。あー、クソ!何で今まで疑問に思わなかったんだ自分は!普通だったら流石のインキュバスでも一匹で何千人の単位の人間を眠らせる事なんてできるはずないもんな。発生してからのスパンも短すぎるし。二匹いるんなら納得。いや待て。ここまで来ると複数いるかもしれないな。

 

「あー、君かぁ。兄さん殺したの。残念だけどぉ、僕は兄さんのように甘くはないからね?」

「お前の感想なんか聞いてないよ。」 

 

 コイツらのやる事成す事で迷惑被ってる奴がいるから話が変わってるだけなんだけど、本当はコイツら如きちっとも興味ないの。やってる事の意図がわからんし。

 

「待ってください!お願いします!私はどうなってもいい、だから透子ちゃん、七深ちゃん、つくしちゃん、瑠唯さん、Rawさんの五人は見逃してください!」

「何言ってんだよシロ!そんなんで助けてもらっても嬉しくねーよ!!」

 

 桐ヶ谷の言う通りだね。自己犠牲は善い行いとは言えない。命のトレードって事象が介入してるか否かの違いだけでやってる事は自殺と何も変わらない。

 

「ふーん、いい根性してるじゃん。じゃあチャンスをあげよう。僕の出す課題にクリアできたらみんな解放してあげる。」

「本当ですか!?」

 

 インキュバスの特性は知らないけど、これほど信頼できない言葉は無いな。それか無理難題を出してくるか。

 

「ダメだよましろちゃん!そんなの売り言葉に買い言葉でしかないよ!」

 

 二葉も不信感に駆られて声を上げてる。本当コイツ、どこまで人をおちょくる気なんだ…。

 

「そうだなぁ…。じゃあ、宇多田ヒカルのモノマネしてみてよ。」

「意外とハードル低かった!!」

 

 コイツ…。どんな無理難題を課してくるかと思えば…。そんなのでいいの?いや、逆にこれはモノマネを利用して全員殺すって算段なんじゃ…。ここは倉田にかけるしかない。倉田のあの顔、自信に満ちてるな。

 

「え〜っとねぇ…。ウチはさぁ…。もーちょっと、上手くやれたら良かったんじゃねって思うんだよねぇ…。」

「…誰!?」

 

 いやちょっと待って。思わずツッコんじゃったけどちょっと待って。モノマネっていう概念って何だっけ?なんかこう、似てる似てない以前の問題だよこれ。まさか倉田、宇多田ヒカルさん知らないの?嘘でしょ!?あんな顔しといて!?

 

「うーん…。じゃあ次はえなりかずきやってみてよ。」

 

 今度はえなりかずきさんか…。その前にちょっと待って。桐ヶ谷達さっきの宇多田ヒカルさんのモノマネで抱腹絶倒してるから。あの八潮でさえも端っこ向いて笑ってるじゃん。

 

「ねぇそこ何やってんの?もうちょっとしっかり風呂入んなよ〜。」

「だから誰だよ!!」

 

 またか。本物は絶対そんな事言わないでしょ。どれもこれも想像の斜め上、いや斜め下のモノマネばっかしてくるな。いやモノマネかどうかも怪しいけど。

 

「うーん…。じゃあ最後はQUEENで。」

「くい…?」

「QUEENだ。」

 

 おお。QUEENか。僕の好きなバンド。良い曲色々あるのよね。さて、どんな曲でモノマネするのやら…。てかさっきからコイツのチョイス謎すぎるんだけど。

 

「私は…。王様の奥さんのクイーンです。」

 

 ちょっ…。これは予想外だった。“Bohemian Rhapsody”とか“We will rock you”とかみたいに有名な曲でも来るのかなって思ってたらすごいあり得ない角度から来た。ちょっと待って。笑いすぎて立てない。これはあまりにも酷すぎる。倉田想像力と創造力だけは一流だわさ本当に。

 

「ま、待って…。無理…。」

「お前もかよ!!!」

 

 コイツも笑いすぎて立てなくなってるし。逆に倉田何なら知ってるのか不思議なんだけど…。

 

「ぐうっ…!おのれ…!こうなったら実力で君達を潰すしかないようだね!」

「導入雑すぎない?」

 

 この圧倒的に自然な流れを描く事を放置したかのような導入の仕方は何だ?自分こういうのを度々見てるけど…。

 

「まぁいいや。にしても、今日はちょうどいい風の強さだな。本当に、ツイてるかもね。」

 

 僕は音極聖天瓏角を自分の右手に持ち、それを持ったまま右側に立てる。すると、風に反応した音極聖天瓏角が形状を変え、剣となった。刀身は普通の剣と比べて長くない。むしろ短いまである。刀身と柄の間にはスピーカーが付けられてる。中器型の剣、とでも言うべきかな。

 

「…。」

「…。」

 

 お互いに沈黙が続くこと数十分。先に動き出したのはインキュバスの方だった。インキュバスは右手の爪で僕に攻撃を仕掛けてきたが、いかんせん遅い。こんなのは未来視で避けられる。

 

「でやあっ!」

「…。」

 

 案の定、すぐ躱せた。次はこっちの番だ。剣でインキュバスの首を斬る。悪夢はさっさと終わらせようかね。

 

「あら…。」

 

 僕が剣でインキュバスの首を突こうとした瞬間、奴は後ろへと飛んだ。やっぱそう簡単にいくわけないか…。すばしっこいのは褒めてあげたいところだけど。

 

「こっちも引き下がるわけにはいかないからね、さっさと終わらせようか。」

「こっちも、君との戦いを終わらせて人間達を眠らせる。そして地上界(ミズガルズ)は僕達の種族のものにする!」

 

 なるほどね。それが目的か。ならいっその事殺してしまえば早いのにな。それをしないってのもコイツらの性根の悪さが出てる証拠だな。とことん苦しめてから殺そうとしてるんだもんな。

 

「もっと速くしてみるか…。」

 

 身体がしんどいからやるの控えてたけど仕方ないか。この前テニスでやった時と同じように俊敏体で戦おう。戦闘には不向きかと思ってたけど、今はこれだけが頼りだ。

 

「なっ…!」

 

 僕がちょっと攻撃のスピードを上げると、インキュバスは全然ついてこれなくなった。よし、今がチャンスだ。

 

「はっ!!」

 

 僕は隙ができたインキュバスの首に剣を刺し、そのまま右に向かって斬った。これでもう一匹のインキュバスを倒す事ができた。そして倉田達の閉じ込められてる檻を切断して、五人を逃す。

 

「急ぎなね。もうすぐでここ崩壊するから。」

「えっ!?ちょっとそれ先に行ってくださいよ〜。」

「普通に考えたら当たり前だろ。てか広町、僕が檻斬る前に針金使って錠前開けるな。」

「えっ?これが普通じゃないんですか?」

「そんなんやるのって大概空き巣だからね?現実では余程の事が無い限り控えてね。」

 

 最近思うんだけど広町って謎だよね。こないだなんかIKEAの壊れない椅子桐ヶ谷と一緒にぶっ壊してたもんな。

 

「いいじゃんRawさん〜。結果オーライじゃん?」

「結果論で物を語るんじゃないよ。さてと、悪いけどこっからは荒療治になるけど我慢しなね。」

 

 ようやく夢世界の崩壊が始まった。ヤバいヤバい。急がないと

 僕はこの世界に入った時に使った扉の前に来ると、扉を無理矢理こじ開けた。てか蹴って壊した。なんか鍵かかってたし。

 

「じゃあまずは倉田から。」

「え?え、ちょっと!?Rawさぁぁぁん!?」

 

 僕は倉田を片腕で抱えると、そのまま扉の向こう側に突っ込んだ。足の方から。そんで無理矢理頭捩じ込んでと…。よし、これで元の世界に帰れたはず。人間がこれやっちゃうと水の中に潜ってる感触になるけどそれも一瞬だから大丈夫。

 

「え、ちょっと待ってください?今みたいなのをやるんですか?」

「ん?何言ってんの?そうなんだけど。」

 

 二葉の奴一体何言ってんだか。ここから出るにはこの方法しかないってのに。

 

「じゃ、次は誰から行く?あ、二葉がいいか。ちょっと息止めきなね…。」

「ちょっ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれを何回かやってようやく全員現実世界に戻れた。ニュースを見たら他の被害者も戻れたらしいが、誰がどうやって戻らせたんだろうかね…?僕もそこら辺はよくわからない。と、そんな事をCiRCLEでのライブを観て考えてる。

 

「久しぶり、ですかね。俺のこと、覚えてますよね?」

 

 そんな事を考えている僕の所に変な男が来た。うーん、どこかで見たことあるようなないような…。サングラス付けてるから身なりすらわからないというね。この不便さよ。女湯に入ったとしても外見が見えるわけじゃないから損するだけなの。いや、僕は女湯に入った事はないよ?念のために言っとくけど。

 

「ごめん君誰?」

 

 だって本当に知らないんだもん。覚えてる覚えてないっていう問題じゃなくて。誰かこの方についてご存知ない?

 

「まさか本当に忘れているとはね…。俺ですよ、Hunter5のボーカルの洲崎 風魔です。」

 

 ん?んん…。んー?ちょっと待って…。いたっけ?そんな奴。そんな名前の奴僕の記憶リストに載ってないんだけど。てかそもそもそんなバンドの名前聞いた覚え無いんだけど。

 

「うん、全然知らない。」

「それアンタが勝手に忘れてるだけでしょうが…。まったく、貴方は俺に感謝すべきだと思いますよ?俺が代わりにナイトメア現象の他の被害者を助けたんですから。」

 

 え?コイツが?んん?どういう事?ナイトメア現象の被害に遭った人間達を助け出すためには少なくとも異世界を渡れる能力が必要なはずだ。それなのにコイツはどうやって…。

 

「いずれわかる時がきますよ。俺の実力と一緒にね。」

 

 うわぁ…。よくわからない変な奴って印象に加えてうざったい奴っていう印象がプラスされた…。僕ああいうのとは絶対仲良くなれないわ。まぁいいや。それより今はモニカのライブを見ようかな。

 

ま「いつかの喜びに ときめいて

 

新たな始まりへ 足を踏み出した

隣であなたが頷いて♪」

 

透・七・つ・瑠(また一歩♪)

 

ま「行き交う星々に 気持ちを弾ませ♪」

 

透・七・つ・瑠(Ah...♪)

 

ま「キラキラと音色をまとう

 

心に差し込んだ 未来がほら

背中に羽をさずけたの

 

不安も一緒に 手と手でつないで

分け合うなら♪」

 

透・七・つ・瑠(何も♪)

 

ま「怖く♪」

 

透・七・つ・瑠(ないよ♪)

 

ま「愛しきフシギ

どんなに足が震えていたって

ひとつ♪」

 

透・七・つ・瑠(ふたつ♪)

 

ま「みっつ♪」

 

透・七・つ・瑠(よっつ♪)

 

ま「ゆっくりでも♪」

 

透・七・つ・瑠(進めるんだ♪)

 

ま「光の先は その日を待ってる

 

きっと大丈夫♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう〜…。次のライブに向けての演奏、段々形になってきてるね!」

「ああ、後は実践してどこまで通用するかだな。」

 

 夕方、私達Poppin'Partyは次の文化祭ライブで披露する曲の練習をしていた。こうやってライブをするのはRASの時以来だなー。しかも今回は文化祭。去年できなかった分まで頑張らないと…!

 

「さてと、もう遅い時間になっちゃったね。私達はそろそろ帰るね。お疲れ様〜。」

「お疲れ〜。せっかくだから門の方まで見送るぞ。」

 

 有咲も階段を登って私達四人を見送ろうとした次の瞬間、りみりんが足を滑らせて後転した。その拍子にさーや、おたえ、私、有咲の順に巻き込まれていった。

 

「いってて…。みんな、大丈夫?」

「大丈夫じゃねー!って、あれ?何で私がそこにいるんだよ!?」

 

 え?りみりん?りみりんってそんなに有咲っぽい口調だったっけ?

 

「うーん…。いてて、あれ?なんか手が小さい…?」

「え!?」

 

 あれ?おかしい…。何で私が私の目の前にいるの?ここに鏡なんて無いのに…。となると、もしかして私達…。

 

「入れ替わっちゃったー!?」




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次回はちょっと内容に自信ある


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第35話「1000回潤んだ空」

二週間とちょっとぶりに更新


 

 

「ひえぇ…。どうしよう…。私が有咲?」

 

 う、嘘でしょ…?みんなが入れ替わっちゃった…?なんだかこれ…。すっごく面白そう!!

 

「おい、どうする?」

「とりあえずRawさんを呼ぼう。今のこの状況について何かわかるかもしれないからね。」

 

 さーやは携帯からRawさんを呼び出した。私は別にこのままでも良いのになー。何も困る事はないし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大体話は分かった。五人一斉に強い衝撃を受けた事が原因で魂が入れ替わったと。僕からしたら入れ替わったところで大して変わらんのよね。外見が見れないから。で、要を言うとこういう事だな。

 

市ヶ谷 有咲(戸山 香澄)

 

戸山 香澄(花園 たえ)

 

山吹 沙綾(牛込 りみ)

 

花園 たえ (山吹 沙綾)

 

牛込 りみ(市ヶ谷 有咲)

 

 しかしまぁ途轍もなく面倒な入れ替わり方したもんだな。特に中身戸山の市ヶ谷。後で本人が絶対苦労するやつだよこれ。それに何だろう、この入れ替わり方すっげぇ嫌な予感するんだよなぁ…。

 

「とりあえず、五人が同時に強い衝撃を受けたせいでこうなってるんだ。ここはひとまずこれで…。」

「ちょっ、ちょっと待ってください!そんなハンマーで衝撃を与えようとしないでくださいよ!!確実に死にます!!」

「てかここ私の家だしそんなデカいモン振り回すな!!!」

 

 何かハンマーを使って解決しようとしたら山吹と市ヶ谷に止められたんだけど。てか市ヶ谷今普通にタメ口だったよね?みんな今の市ヶ谷の横暴見た?見たよね?

 

「んー、悪いけど僕にはどうする事もできないね。入れ替わった精神を元に戻す能力なんて持ってないもん。」

「はぁ!?」

 

 何か正直に話したら嫌な声出されたんだけど。もしかしなくても心の声が聞こえるよ。「うわこいつどんだけ無能なんだよ」って声が。本当嫌になっちゃうよ。できない事をできないって言って何が悪いのさ。ブラック企業かここは。

 

「僕に出来る事は何もないから、明日はそれで一日中過ごしときなね。」

 

 僕はそう言って市ヶ谷家の蔵を出た。しかし、ここの蔵すごいな。秘密基地じゃんもう。これはちゆが歓喜したのも頷ける。え?違かった?あー、たしかちゆが目を光らせてたのって機材の方だっけか。本人から聞いた話だったから記憶があやふやなのよね。まぁどうでもいいか。さて、帰って来月の分の曲作りでもやりますかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私こと牛込 りみはやまぶきベーカリーで接客をしていた。あれからメンバーの皆と話し合って、元の外見のメンバーになりきる事になった。Rawさんは信じてくれたからまだいいとしても普通に考えれば見た目と中身が入れ替わったなんて言っても信じてはくれないだろうから、それなら成り切った方が良いという結論が出た。

 とは言え、緊張するなぁ…。いつもは買う側として来るからなぁ。接客業はいけるかな。うん、ウチなら大丈夫!

 

「いらっしゃいませ〜。」

「あ、沙綾〜。やっほ〜。」

 

 い、いきなり只者じゃない人が来た…。モカちゃんだ…。これは普通に対応しても良さそうなのかな…?

 

「ほーほー、ポピパのみんなをイメージしたパンですか。」

「う、うん!みんなのイメージに沿ったパンを作ってみたいねって話してたらうちのお父さんが張り切って作ってくれて…。」

 

 沙綾ちゃんの話し方ってこれで合ってるんかなぁ…。うわぁ〜ん!他の人って成りきるって難しい〜!!

 

「じゃあこのストロベリーチョココロネを五つくださ〜い。」

「え、ほんまに!?めっちゃ嬉しい!!」

「え?」

「あっ…。」

 

 しまった…。私のパンを買ってもらえるのが嬉しすぎて思わず関西弁が出ちゃった…。これは取り返しのつかない事態になっちゃった…。しかも相手はあのモカちゃん。モカちゃんの洞察力だったら今のを見過ごしてるわけないよね…?

 

「むむむ…。沙綾、今のは…。」

「い、今のは何でもないよ!?ほ、ほらほら!早くしないと中のチョコが溶けちゃうよ?早く早く!」

「おー、そうだった。じゃあお会計お願い〜。」

 

 危ない危ない…。どうにか注意をパンの方に逸らす事ができた…。あのままだったら何を尋ねられてたかわからない…。あ、次のお客さんだ!

 

「いらっしゃいませ〜。」

「あっ、沙綾ちゃん。こんにちは〜。」

 

 今度はRawさんの従妹の華楽ちゃんが来た。あの紺色のスカートと赤いリボン…。たしか隣町の紫川高校の制服だね。それにしても、華楽ちゃん可愛いなぁ。Rawさんの従妹だけあってすっごく可愛い。それにブラウスの上に着てるピンクのカーディガンも可愛いなぁ。

 はっ!いけないいけない。さっきから華楽ちゃんを見て可愛いしか言ってない…。でもこんなに可愛い華楽ちゃんと一緒に住んでるRawさん羨ましいよ。

 

「ん〜、どれにしよっかなぁ〜。」

「華楽ちゃん、何悩んでるの?」

「え?沙綾ちゃん、ウチのことちゃん付けしてくれた?」

 

 え?あっ、そうだった!私はりみりんって呼ばれてるから気づかなかったけど沙綾ちゃんって先輩以外は基本呼び捨てだった!ここに来てまたしくじっちゃった〜!沙綾ちゃん助けてー!!

 

「ん〜、まあいっか。あ、それよりも沙綾ちゃん。お兄ちゃんの好きなパンの種類ってどんなのが良いと?じゃなくて…。良いの、かな?」

 

 ほ、方言が出てる…。可愛い…。天使や…。天使がここにいる…。

 

「そ、そうだね〜…。Rawさんは最近お菓子食べてるから卵蒸しパンとかチョココロネとか甘いものが好きなんじゃないかな?」

「たしかに!ありがと沙綾ちゃん!あ〜、早くお兄ちゃんの喜ぶ顔見たか〜。」

 

 こうして見てみると、Rawさんってすごく幸せ者なんだなぁ。こんな可愛い従妹に尽くしてもらえるって。一体前世でどんな徳を積んだらこんな事になるんだろう…。

 

「じゃあ卵蒸しパンとチョココロネを二つずつくださーい。」

「ありがとうねー。」

 

 ふぅ…。これで何とか終わった…。それにしても、大変だなぁ接客するのも。沙綾ちゃんはこれをずっとやってるんだからすごいよ…。沙綾ちゃんになってみてそれが改めてわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、確かここだったかな…。」

 

 おたえになった私、山吹 沙綾は元々おたえがスケジュールとして入れていたスタジオのバイトに来ていた。にしても、いつも行き慣れてない場所に来たから少し疲れちゃったな…。

 

「あら、たえちゃん。」

「千聖先輩!奇遇ですね。」

 

 パスパレの千聖先輩が入ってきた。今日は一人で練習なのかな?バンドとしてのレッスンもやってるのに個人練習もするなんて本当は努力家だったんだね…。

 

「奇遇…?私いつもここで練習してるし、その度にたえちゃんと遭遇するのだけれど…。」

「あっ…。」

 

 しまった…。思わず山吹 沙綾としての言葉が出ちゃった…。ここは上手く誤魔化さないと…。

 

「い、いや〜…。It's goodって言ったつもりなんですけど、噛んじゃって…。あはは…。」

「ふ〜ん…。」

 

 すっごい見られてる…。しまった…。裏目に出た……。誤魔化すどころか益々怪しまれてる…。

 

「今の言い訳が通用すると思ってるあたり、いつものたえちゃんのようね。」

 

 千聖先輩のおたえ像ってどうなってるの?今すごい失礼な事言われたんだけど…。まぁ軽いコントでもやってれば怪しまれずに済むかも…。

 

「あ、それよりもたえちゃん。料金はこの二時間練習のチケットでよろしく頼むわ。それと、スピーカーとPAの操作をお願い。あと、部屋の冷房の温度を二十五度ぐらいに設定してジュースを持ってきてちょうだい。お金なら後で払うから。」

 

 うわー…。注文多い…。モカでもそこまではやらないよ?まさに女王様って感じだなーあれは…。

 

「どうしたの?いつもならやってくれるのに。」

「は、はーい…。すぐにやりまーす…。」

 

 いつもっておたえ普段からこれをやってるの!?しかもこれに加えてあと二つも練習スタジオとかライブハウスとかのバイト入れてるし…。普段は抜けてるけど、意外と頼りになるんだね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「市ヶ谷先輩、この書類お願いしまーす。」

「はいはぁ…。じゃなかった、おう。わかった。」

 

 うぅ〜…。今日は有咲が生徒会の仕事あるって言ってた日だったけど…。こんなに大変だなんて思わなかった〜!!おまけに有咲になりきらなきゃいけないなんて…。

 

「市ヶ谷さん、この書類もお願い。」

「有咲ちゃん、これもよろしくね。」

 

 えぇ…?ちょっと待って、何この書類の量…。ちょっと待ってよ、そこの人達!私がキラキラドキドキしない事(事務的な作業)が苦手って知らないの!?あ、そう言えば私有咲だったんだ。うわぁぁぁん!!これじゃあ帰れないよ〜!!

 

「やっほーあーちゃん!!」

「アリサさん、助太刀に参りました!」

 

 え!?はぐにイヴちゃん!どうしてこんな所に!?ていうか助太刀って…!

 

「先程Rawさんから連絡があって、『市ヶ谷は今日生徒会の仕事が多くて大変らしいから手伝って』と言われました!なのでハグミさんと共にお手伝いさせてください!」

「えぇ…?」

 

 Rawさんすご…。私が初めから生徒会の仕事に苦戦する事を見越してわざわざ加勢を呼んだの…?って、ちょっと待って!自分自身にわかるように改めて解釈したら何かイライラムカムカしてきちゃったなぁ…!

 

「とりあえずやろうよあーちゃん!」

「お、おう。そうだな。」

 

 危ない危ない…。何とかキャラを保てた。ねぇ、これはセーフで良いよね?これは絶対セーフだよね!?

 

「ではハグミさんはこの量をお願いします。アリサさんは若干少なめで、私は多めに手伝います!何かわからない事があれば教えてください!」

 

 それから下校時間間近になるまで私はイヴちゃんとはぐと一緒に生徒会の仕事に取り組んでいた。それにしても、有咲はいつもこんなのを終わらせてバンド練習に励んでるんだ。有咲がどれだけすごいか、わかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

「…。」

 

 会話が弾まねぇ…。りみの姉のゆりさんと一緒に食事してるのはいいものの、何を話していいかわかんなくて困る…。そもそも私、コミュニケーション取るのあんまり上手くねーんだよ…。てかゆりさん帰ってきてたのか…。まぁこの時期になると実家に帰る人が大勢いるからな。

 

「お、お姉ちゃん。最近学校はどう?」

「うん、とても充実してるよ。りみこそ、寂しい思いしてない?」

「大丈夫だよ。私にはポピパのみんながいるから。」

 

 返答としてはこんな感じでオッケーかな。後は適当に会話のキャッチボールを済ませてりみの部屋に籠もるとするか…。っておい!たしかりみの寝室ってゆりさんと同じだったよな?それってつまり私が私でいられる時間が無いってことか…?

 

「ん?どうしたのりみ?」

「あ?うん。何でも無いよ…。」

 

 くっ…。会話に困る…。この沈黙が気まずいまであるしな…。良くない兆候だぞこれ。コミュニケーション取れない人がよく感じやすい雰囲気だなこりゃ。それに尺も稼がないといけないし…。私一人で何とかしないと…。

 

「あのー、そのー…。何か最近面白かった話とかある?」

 

 キター!私史上一番の質問じゃねーかこれ!?もしゆりさんが面白い話を語り続けてくれれば場の雰囲気が和むし、会話に困る事もない。沈黙が流れる事もない。一石二鳥ならぬ一石三鳥だな!

 

「んー…。面白い話ねぇ…。特にないかな!」

「あっ、うん…。そう…。」

 

 ダメか…。まぁ人生ってそう簡単に事が上手く運ぶはずがないもんな…。こんな時あいつなら、りみならどうしてたんだろうな。

 

「りみの方はどう?文化祭の準備、進んでる?」

「え?うん、まぁ…。」

 

 そうだった。この騒動で忘れかけてたけど、文化祭の準備もあるんだったな。それまでにはこの一件を終わらせないと…。

 

「もし良かったらお姉ちゃんが手伝ってあげる?」

「え?何を…?」

「『何を』って…。昨日話してた文化祭の衣装のお手伝いよ。文化祭の書類の提出にPVの編集、それに文化祭の演出についても考えてたみたいだし…。私に出来る事といえばこれくらいだから。さっ、ご飯食べ終わったら一緒にやろう!」

 

 りみの奴、そんなに負担のかかる仕事してたのか…。今年は妙に仕事が軽いと思ってたら…。よし、元に戻ったらりみを手伝ってやるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、お風呂あがったよ。」

「はーい。今行くねー。」

 

 さっきからあれこれ試行錯誤してみてはいるものの、わからない…。元に戻ってはみせるけど、もしかしたら文化祭前までには間に合わないかもしれない。だったら今のうちに文化祭用の曲を作らないと…。やってなかったらやってなかったで怪しまれそうだし、香澄に電話しても怪しまれそうだし。そこはお風呂に入りながら考えようかな。

 

「ん〜…。香澄はどうやって作ってたんだっけ…。」

 

 いつもだったら香澄の言葉を有咲とか沙綾が上手い具合に落とし込んでくれるから良いんだけど…。私も作詞作曲はできるけど、香澄の世界観で仕上げないとダメだ。これは絶対に。

 

「うーん…。そうは言っても中々難しい…。」

 

 香澄の世界観…。抽象的すぎて全然わからない…。これだったら花園ランドの方が全然わかりやすい。とりあえず早くお風呂から上がって今までの曲の歌詞をまとめて見よう。そうすれば何かそれっぽいものが作れるかもしれない。作曲はりみりんに任せるとして…。

 

「えーと…。歌詞ノートはこれだったかな…。」

 

 お風呂から上がった私は歌詞ノートを探した。探してる最中に今日の日記とかお蔵入りノートとかいうものを見つけたけど、フォントが歪んでて怪しさ全開だったから見るのはやめておこう。香澄も人の子だから仕方ないよね。

 

「っ…!これだ!」

 

 紆余曲折はあったけどようやく歌詞ノートを見つけた。間違いなく本物だね。“Happy Happy Party!”とか“Dreamers Go!”とかの歌詞全部が書かれてる。ここにプロットみたいなのが書かれてれば良いんだけど…。

 

「…すごい……。」

 

 最後から数えて何ページぐらいかに歌詞のプロットが書かれてた。でも簡単に書いたものじゃない。

 これじゃないあれじゃないって試行錯誤しながら歌詞を考えてる様子が見るだけでわかる。上からバツ印を付けられた歌詞の一部、気持ちを表すために上手く表現された言葉、これを何回も繰り返しながら香澄は歌詞を書いてるんだ。私も香澄みたいな世界観を描けるように頑張らなくちゃ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やってきました文化祭。今年は合同じゃないから花咲川の体育館にいる。ちなみにAfterglowと朝日、戸山妹、宇田川妹、佐藤の九人は模試、由美とちゆ以外のSUICIDEメンバー、若宮以外のパスパレメンバーはみんな仕事。かくいう僕も昨日仕事だったんだけどね。その情報はどうでもいいか。それと今日は華楽、有亜、閑無、瀬良の四人もついてきてるよ。

 

「いやー、楽しみだなー!ポピパのライブ!一年前の分まで暴れちゃえー!!」

「花ちゃんの団扇、皆さんの分まで持ってきたのでよかったら使ってください。」

 

 由美と和奏はもうはしゃいでるよ。それと和奏、花園の団扇だけ持ってきても仕方ないのよ。それじゃあ花園がセンターみたいになってるじゃん。ポピパは五人でポピパなんだから。

 

「いえ、結構です。私は香澄さんの団扇とタオルとペンライトを持ってきてるので!」

「他担拒否勢かお前は。」

 

 倉田も倉田で用意周到だな。和奏よりも持ち物多いじゃん。もはやポピパのライブを観るためだけにこの文化祭に来たって言っても過言じゃないね。

 

「もうそろそろ始まるようですね。」

 

 氷川姉が口を開いた瞬間、体育館の電気が消えた。それまで光ってたパイプ椅子の光沢も急に消え、五人の声が聞こえる。

 

「ポピパ、ピポパ、ポピパパピポパー!!!」

 

 いつも思うんだけどあの口上言いづらいよね。あれを綺麗に発音できる人いたら会ってみたい。

 

「こんにちは、Poppin'Partyです!」

 

 あの五人が遂にステージ上に現れた。ちなみに、事件が起きた翌日に五人はまた階段で転倒して元に戻った。だから今日ライブする分には無問題。それにしてもあいつらは入れ替わってもよく頑張ったな。それどころか入れ替わった事自体が吉のように思える体験をしたようだし。入れ替わる事でお互いの大変さを理解し、改めて尊敬し合う。良いお話だよ。

 

「私達ポピパは結成から二年経ちます!今回はその想いを全力でぶつけたいと思います!!」

 

 香澄のMCに体育館にいる観客が盛り上がる。うちにも二名うるさいのがいるけどね。いや、三名か。あ、最初の一曲目だ。“1000回潤んだ空”か。

 

香・り(↓)「素顔の自分見せないようにしてた

制服の袖キュッと握って笑った

 

『おはよ』って今日も上手く言えるのかな?

深呼吸...!玄関のドアを開いて

いつもの通学路へと

 

ねぇ...そんな日のよく晴れた風の下で聴こえたんだ♪」

 

た・沙・有「Listen to song♪」

 

香・り(↓)「自分が無くしてしまったナニカの欠片の歌が ♪」

 

た・沙・有 「Listen to song♪」

 

香・り(↓)「戻らないと決めた時計の針が溶けてゆく

「仲間だね」と手を取る人がいる

ダメだよまだ泣いちゃ...!♪」

 

香「始まってない♪」

 

香・り(↓)「やっぱ誤魔化せないよこの想い 1,000回潤んだ空だってさ

でも...それでも昇る 朝日の向こう側に

大好きを叫びたいよ...!♪」

 

香・り(↓)「雲の日でも太陽が好きだった

どんなに陰ってても温もりは優しく

 

晴れた日には進む道を照らすよ

私も...そうなりたかったんだと知ったの

ホントの 強さを知りたい

 

ねぇ…踏み出せないこんな私でも夢見ていいのかな?♪」

 

た・沙・有「Yes,it's “BanG Dream!”♪」

 

香・り(↓)勇気すら握ることもまだ出来ない私でも...?

 

た・沙・有 「Yes,it's “BanG Dream!”♪」

 

香・り(↓)「そしたらね『それが君らしさであるんだよ』と

『たりないトコは半分こだね』と?ズルイよそんなのは♪」

 

香「我慢してたのに♪」

 

香・り(↓)「夢は夢じゃないと歌う旅

青春を全部捧げていい

さあ...そしたら昇る 一直線の光だ

みんな色の光だ!

 

放課後から 私たちの時間

リボンを緩めたら ミュージックのスタート♪」




次回は超長いです


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第36話「たまにはバンドらしい事しろ!!」

今回はまったりした回をやります
流石に六生(作者同じの別作品)みたいなのばかり書いてるとこっちもストレス溜まるので…
ということでほのぼのとバンド活動をやらせていきたいと思います。どうぞ


 

 

「はぁ…。」

 

 来月分のレコーディングを済ませたところで僕は勉強机に突っ伏した。これってDTMerあるあるだと思うんだけど、パソコンとかスマホとかで音楽制作する時って大体小学生の頃から使ってる勉強机使うよね。

 

「ん…。しまった、もう中身無かったわ。どれ、下に行くか。」

 

 僕はそれまで飲んでいた緑茶を切らしたので二階の自室を出て一階のキッチンに行くことにした。本当は飲み物なら何でも良いんだけど、緑茶の方が飲んでて安心するからね。ってちょっと待てよ。何かリビングの方からすっげぇ聞き覚えのある音が聞こえるんだけど…。

 

R・C(↓)「大地を蹴り進め

un deux 粉夢で満たす

わずかな命 この瞬間に散らす♪」

 

 うわ…。“Un deux”歌ってる時の自分の声じゃん…。そんで忘れてた。SUICIDEの事。理由は主に二つ。一つ目は最近忙しすぎて本業の方にしか手をつけてなかったから。そしてもう一つ。洲崎(あいつ)戸山に取り憑いてた奴(あいつ)のせい。

 “神と神”みたいにタイトル作れそうだよな。“あいつとあいつ”。うーん、興行収入ゼロ。杏寿郎はおろか千と千尋すらも超えられそうにない。てかゼロじゃ超えられない。そう考えると“ぐりとぐら”って割と天才的なタイトルだよね。

 

「あ、お兄ちゃん。うーん…。やっぱりメイクしてないお兄ちゃんの方が素敵ばい。その方が特別感あるし。」

「…さいですか。」

 

 何だろう、華楽のこの溢れ出る彼女感。いや彼女じゃなくて従妹なんだけど。って何を僕は一人でツッコんでるんだ。こんなん寂しすぎない?

 

「あ、お兄ちゃん。さっき赤沢さんから電話あったとよ。お兄ちゃんに来てほしいって。場所はちゆちゃんの家で…。」

「うん、わかった。ありがとう。」

 

 あの野郎…!僕の連絡先知ってるくせして何華楽に電話かけてんだ…!!今度会ったら二度とこんな事できないように叩きのめす!!!けどここは華楽の前、この溢れ出る怒りを抑えないと…。

 しかし、何だって僕を呼び出したんだ?赤沢が電話を寄越してきたという事は多分SUICIDE絡みの案件なんだろうけど…。そこはとりあえず行ってみてから詳しい内容を聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…?しまった…。」

 

 しまった。完全にやらかした。ねぇ聞いて。ちゆのマンションってオートロック式なんだよ。部屋番号入れて本人が開けてくれるやつ。肝心の部屋番号忘れた…。表札無いからわかんね…。どうしようか。とりあえず屋上って事はわかってる。なら無問題か。跳べばいいんだもん。したら一旦外に出るか。

 

「なるほどねぇ…。」

 

 高さ把握。けど、この高さじゃノーモーションでひとっ飛びできないな。仕方ない。助走ありで行くしかないね。では行きますか。

 よし、助走は完璧。後は跳ぶだけ。ビルにぶつかる直前でジャンプ。タイミング良し。ジャンプ力も良い。これなら余裕で屋上に行ける。

 

「あ、ヤバい。」

 

 しまった。ひとっ飛びできたは良いものの着地する場所が悪すぎる。プールの中に突っ込むわこれ。しょうがない。落ちる直前で開いてる窓にバッグ投げよう。小泉は元野球部だから平気そうだな。

 

「小泉パス!!!」

「ん?あぁ!?」

 

 僕は小泉に向かってバッグを投げるとそのままプールの中にダイブした。一応言っとくとね、僕泳げないの。小中高とプールの授業サボタージュしてたから。あっ、このプール深いッ!!ッッボボボボボボボボッ!ボゥホゥ!ブオオオオバオウッバ!だずげでッ!!流されっ、ちゃボボボボボ!このプール…深いから、深いッ!ボボボボボボボボォ!

 って何やかんややってたら由美と小泉が助けてくれた。あと一歩で溺死するところだった。危ねぇ危ねぇ。

 

「何してるのよ…。」

「いやぁ、部屋番忘れたから跳んでこうかなって…。」

「部屋の番号くらい覚えときなさいよ!!紙渡すから覚えておいて!」

 

 怒られちゃったよ。そこはまぁ別に良いよ。覚えてなかった僕に責めがあるわけだし。問題はそこじゃない。僕が今一番怒ってるのは…。

 

「もぉ〜、お兄ちゃん大丈夫?ウチが温めちゃるけんね。」

 

 そう。華楽を呼び出した事。僕の持ってきた服は全部ずぶ濡れになって今洗濯して乾かしてもらってる。そうなると着替えが問題になる。で、華楽に取ってきてもらって今こうして全身をタオルで包んでもらってるわけなんだけど…。

 

「おい、お前ら色々言い繕ってるけど結局は華楽と電話したいだけなんじゃねぇのか?最近家の固定電話にかけてばっかだしさぁ…!」

 

 そう。ちゆ以外のメンバーは何故か華楽に電話をかけたがる。そのせいで僕にも華楽にも迷惑がかかってる状態なのね。言っとくけどてめぇらにうちの華楽はやらん。これは従兄としての言葉。

 

「わかったわかったよ村上。そんなムキにならないで?ね?」

 

 爆発寸前までストレスが溜まった状態で赤沢の必死の言い訳を聞いて堪えた僕は偉いよね?もう少しクソみたいな言い訳してたら半殺しにしてたとこだったよ。

 

「お、お兄ちゃん…?何か殺気が見えるんやけど…。」

「あら、そう。失礼。」

 

 そんなあからさまだったかな。それはミスしたね。さてと、ちゆ以外のメンバーは全員八つ裂きの刑に処すとして問題は今後のSUICIDEの事よね。多分それで呼ばれてると思うし。

 

「で、どうしようかね。俺たち自身もそこまで割ける時間があるほど暇なわけじゃないし。」

 

 赤沢の言ってる事はご最も。けどSUICIDEが活動休止をするって世間に言ってる以上、これまでとは違う取り組みをしなきゃいけない。

 

「じゃあまずまとめますか。ちゆ、ホワイトボードとペン一式借りるね。まず大前提としては応援してくれる人達の時間を増やすという事が挙げられるよね。次に具体的にどんな事をすべきかっていうのを考えよう。まぁまずは計画からなんだけどね。」

 

 何かしらの案を出す時に僕達が念頭に置いてるのは敢えて何も考えない事。実現性とか予算とかそういうのを考えない事。そうすれば今までに無い画期的な案を生み出せる。

 特に土台となる応援してくれる人達との時間を増やすというのはライブをする事はもちろん、サイン会や各メンバーでのイベントの参加など様々な選択肢がある。けどそこからどうするかよね。

 

「はいはーい!Rawさんがライブ中熱湯の上で綱渡りするっていうのはどうですか?」

 

 まずは由美からの提案。なるほど、議論次第で採用されるかもわからないから一応書いておこう。

 

「私はローくんがライブで熱々おでんに挑戦するのが良いと思う!」

 

 続いて明日奈さん。言わんとしてる事は理解した。それが応援してくれる人達との時間を増やす事にどう繋がるのかはわからないけど。

 

「俺はRawさんがライブで蛇と戯れるといいんじゃないかと思います。」

 

 はいはい。今度は音生ですか。まぁ一応これも書いとくか。いやダメだよ。僕蛇触れないんだよ。

 

「私はタロウが…。」

「待て。お前ら何で僕にばっか体張らせようとするの?」

 

 さっきから黙って聞いてればどれもこれも僕が体張るだけで何も得しないやつじゃん。特段笑いをとりたいわけでもないのに。お笑い芸人でもないのに。

 

「とにかく、今はライブの内容は別なの。どうすれば応援してくれる人達との時間を増やせるかって話だよ。」

 

 まぁ選択肢は限られてると言えば限られてるんだけどね。問題は何をするかだよ。何をするか。

 

「有名どころのフェスに出たり、色々なジャンルのクリエイターとコラボするのもありなのでは?」

「まぁそれが一番無難かな。入れとくね。」

 

 小泉が建設的な意見を言ってくれたところで今日の議論はひとまず終了した。とりあえずみんなさ、ボーカルの僕に無理難題を押し付けるのはやめようね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日がRawさん達の全国ツアー初日かー。楽しみですなー。」

「それにしても人選が謎ね…。」

 

 私、白鷺 千聖は今北海道に来ている。パスパレの仕事は一週間後にあるから、今日はお休み。お休みの日に出かけないのも困るからせっかくだからSUICIDEの全国ツアーを見に来ているわ。それにしても関係者席をステージの一番前にするなんて…。あの人達は本当にやる事なす事無茶苦茶ね…。

 さっき人選の事について言及したけれど、今日は私以外に有咲ちゃん、モカちゃん、あこちゃん、こころちゃんの五人が来ているわ。一体何を基準にした人選なのかしら…。

 

「Rawさんから聞いたんだけど今日は特別な感じでライブするみたいだよ!」

「そうなのね!どんなライブになるのか楽しみだわ!」

 

 おそらくまた良からぬ事を考えてるわ…。幾度となくライブハウスを出禁にされてるのにドームとかスタジアムとかは出禁にされないのが不思議ね…。

 

「あ、出て来ましたよ。」

 

 有咲ちゃんが教えてくれたおかげでSUICIDEのライブが始まるのに気づいた。登場する時のSEが流れて会場のボルテージも上がる。まずはメンバー六人が来たわね。観客も大盛り上がりしてるみたいだし、個人個人に人気があるみたいね。それにしてもRawさんは何をしてるのかしら…?

 

「あっ、Rawさんだー!」

「…は?」

 

 Rawさんあの人何をしてるの…?いや、普段やってるヴィジュアル系のメイクは大丈夫よ。あの人がやってるメイクは一昔前のヴィジュアルバンドのコテコテ系だからそこは見慣れてるわ。問題は衣装よ。何で衣装の上にエプロン着てるのよ!!おまけにパフォーマンスマイクまで!あれ使ってるのジャニーズぐらいしかいないわよ!ダンスでもするのかしら…。それにRawさんの前に何やら怪しい机が置いてあるし…。こんなライブ見た事ないわよ。

 

「この曲…。“Rusty Nail”ですねー。」

「ええ、そうね。」

 

 モカちゃんの言う通り、1sさんのキーボードから流れるこの音程と音色は間違いなくX JAPANの“Rusty Nail”ね。それにしてもRawさん、序盤からかなり焦ってるわね。貝割れ大根を切るスピード速すぎないかしら?たしか料理の腕前はSUICIDEでも一番らしいから大丈夫だと思うけど…。貝割れ大根どころか手も切りそうね。

 

R「記憶のかけらに描いた 薔薇を見つめて♪」

 

 え!?料理しながら歌うの!?これライブというよりもただRawさんの料理風景見せられてるだけなんじゃないかしら…。

 

R「跡切れた想い出重ねる 変わらない夢に

Oh Rusty Nail♪」

 

R・1(↓)「どれだけ涙を流せば

貴方を忘れられるだろう

Just tell me my life

何処まで歩いてみても♪」

 

 サビに入った途端に何で大根の桂剥きを始めるのかしら…。曲が派手だから尚更地味に見えるけれど、あの曲を原曲キーで歌いながら大根の桂剥きをできるのは素直にすごいと言えるわね。

 

R「涙で明日が見えない♪」

 

 Rawさん間奏に入った瞬間やけに急ぐわね。そういうのはもうちょっと計画立ててやるものよ…。まるで長距離走で手抜いてるのがバレたみたいな動きね。

 

R「序章に終わった週末の傷 忘れて

流れる時代に抱かれても 胸に突き刺さる

Oh Rusty Nail♪」

 

R・1(↓)「どれだけ涙を流せば

貴方を忘れられるだろう

美しく色褪せて眠る薔薇を♪」

 

R「貴方の心に咲かせて♪」

 

 段々料理が出来上がってきたわね。大根の桂剥きも全部終わったようだし、ここから一体どんな料理が出来上がるのかしら?

 

R「素顔のままで生きて 行ければきっと

瞳に映る夜は 輝く夢だけ残して

朝を迎える 孤独を忘れて

赤い手首を 抱きしめて泣いた

夜を終わらせて♪」

 

R・1(↑)「記憶の扉を閉ざしたままで♪」

 

R「震えて♪」

 

R・1(↑)「跡切れた 想いを重ねる 青い唇に♪」

 

R「Oh Rusty Nail♪」

 

R・1(↓)「どれだけ涙を流せば

貴方を忘れられるだろう

Just tell me my life

何処まで歩いてみても♪」

 

R「涙で明日が見えない♪」

 

 どうやら一皿目の調理が終わったみたいね。それにしてもどんな思考回路をしたらライブしながら料理するって発想に行き着くのかしら…。

 

R「苦しくて心を飾った…今も

あなたを忘れられなくて♪」

 

 その後、Rawさんお手製の大根とホタテのサラダをSUICIDEのメンバーが食レポするという事になったみたいだけど、今日一日ずっとこれをやる気かしら…。まさか、ね?

 

「うん!美味しいです!」

「ええ、この大根がこう…。人参みたいな食感ね…。」

 

 うーん…。音生さんとチュチュちゃんの食レポ、ダメね…。他のメンバーの人達は普通に食事を楽しんでるようだし…。これは後でSUICIDEメンバーの誰かが言ってた話なのだけれど、このライブ後のチュチュちゃんの反省ノートに「ライブ終了後、タロウに諭されるかのように言われた。『食レポにおいて食べ物を食べ物で喩えるのは一番やっちゃいけない事なんだよ。』と。」って書かれてあったらしいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度はこのアリーナでライブをするんだねー。広いなぁ。」

 

 SUICIDEが北海道でライブをした数日後、今度はこの宮城のアリーナでライブをするらしい。今日私と一緒にSUICIDEのライブを観るのは巴と紗夜先輩と薫さんとつくし。本当は彩先輩も来る予定だったんだけどこの日は仕事で来れないらしかった。

 

「沙綾、SUICIDEの人達今日はちゃんとやってくれるのか?」

「さぁ…。私もそこまでは…。」

 

 先週のライブの様子は全部有咲から聞いた。ライブ中に料理始めるって何を考えてるの…?それでよく出禁にならないよね。

 

「それにしても、ステージの雰囲気怪しげじゃないですか?」

 

 つくしの言う通り、ステージは薔薇のブーケや白い門が設置されてる。普段のSUICIDEならここまで凝った道具を用意しない。ステージの飾り付け自体はやってたみたいだけど。

 

「静かに。もうそろそろ始まりますよ。」

 

 紗夜先輩が腕時計を見て教えてくれた。ステージ上に青色の光が弱く照らされて、辺りの雰囲気がより一層ダークになる。

 

「あははははっ…!もー、ザミオったらー!」

「こらリシュー、危ないぞ。こっちおいで。」

 

 え…?誰?ヴィジュアル系メイクしてるから全然わかんない…。Rawさんの声ではない事は確かだけど…。いや本当に誰?

 

「あれは…。ライブの中で演劇を?」

 

 薫さんの言う通り、あれは演劇だ。ライブの中で演劇をやるなんて、ミュージカルでもやるのかな?

 そんな事を考えながら観てたら物語が終盤になっていった。それと同時に血を流しているリシューとそんな彼女を抱えているザミオに合わせてオルゴールのメロディがスピーカーから流れてきた。薫さんの言葉を借りると儚く、切ないメロディ。

 するとオルゴールのメロディから一変、短めのギターソロから一気にバンドサウンドが流れ込んできた。しかも全員ヴィジュアル系メイクしてるから誰が誰だかわからない…。かろうじて持ってる楽器でわかるけど…。ドラムとキーボードがいない…。って事はあの二人1sさんと明日奈さん!?全然気づかなかった…。

 

R「さあ目を開けて僕を見てよ

ほらまだ温もりさえ 僕の手の平に抱かれている現実は

もう痛みも無い中で

貴女は何を現在も想っているの♪」

 

 この曲…。何?誰の曲?SUICIDEだから何かしらのアーティストの、それもヴィジュアル系バンドのカバーだって事はかろうじてわかるんだけどどのバンドかまでは…。

 

R「この背中を包む夜と闇に絵を描く僕は 時間という名の支配者に操られて♪」

 

 あ、さっきの演劇ってもしかしてこの曲の内容を基に作られたお話なの?なるほどね、確かにこの試みは良いね。

 

R「大空に浮かべた思い出の中で 踊る二人を見つめ泣いていた

最後までさよならさえ言えずこの場所で 眠りに落ちた貴女を抱いていたくて♪」

 

 ちょっと待って。劇中で普通に死んでた素振りしてたリシュー、生き返ってるよ?普通にドラム叩いてるし。こんなリアリティを眼中に入れてない演劇大丈夫?

 

R「揺れながら足を浮かせ…

 

この痛みを増す夜に同じ言葉を繰り返し 揺れながら空に足を浮かせて♪」

 

 ん?何かおかしい…。そうだ。ドラムやキーボード、DJはともかくとして、そもそもギターやベースって手袋しながら弾けないよね。それもあんなに難しい曲弾きながら。となると、敢えて弾いてない?まさかの歌以外当てフリ?

 

R「大空に浮かべた思い出の中で 踊る二人は今も微笑んで

長い夜の終わりを告げるこの腕で 眠りに落ちた貴女を抱いていたくて♪」

 

 それにしてもこの曲長い…。あんなに弾いたフリしたり踊ったりするの大変そう…。それもあんなに動きづらそうな衣装着ながら。

 

R「揺れながら足を浮かせ…

 

揺れながら空に身を寄せて…♪」

 

 ようやく一曲目が終わって何が始まるかわからない状態の中、Rawさんは机とノートパソコンを持ってきた。急にステージの雰囲気に似合わないもの持ってきたけど、何する気なんだろう…。

 

「あっ、Rawさん!お疲れ様です!」

「やっほー、丸山ー。」

 

 彩先輩!そうだ、確かRawさんと彩先輩は“火曜日の男女達”って番組をやってるんだった。形式的には月曜から夜ふかしに近い形の番組。それにしても、よりにもよってこの二人がMCになるなんて誰も思わなかったよね…。

 それはそうと、すごいね。こうやってオンラインでも番組に参加するって。Rawさんの仕事に対する情熱を感じる。

 

「私も行きたかったですー!SUICIDEのライブ!」

「まぁそっちはそっちで頑張って。ちなみに今ね、東北でツアーやってるよ。次は中部の方行く。」

「いいなぁ〜、変わってくださいよー!」

「嫌だよ。」

 

 この掛け合いが見れるだけで何か感激だなぁ。収録現場を目の当たりにしてる感じがして。でもライブ衣装のまま収録してるRawさんがちょっとシュール…。

 

「そういえばさ丸山、ずんだ餅って食べたことある?あのー、餅の周りの餡子が枝豆でできてるの。食べたことある?」

「へぇ〜、うーん…。あるとは思うんですけど、そこまで印象には残ってないです。」

「あっそ。わかった。じゃあお前には食わせない。」

「え、何でですか!?食べたことないんですから教えてくれてもいいじゃないですか!」

「いや、なんかもうそういうのが…。」

「知りたいんだから教えてくれてもいいじゃないですかそんな…!」

「だからさっき教えたじゃん。なのに冷たい感じだったじゃんお前。ずんだ餅に対して…。」

「わかってますわかってます。だから一から説明してくれたら…。」

「それなのに冷たかったじゃんお前は!」

 

 うわぁ…。いつもテレビで観てるのと同じ空気感だ…。このどうしようもなくどうでもいい話題で全力で議論できる二人の空気感だ…。

 

「だから言ったじゃん!!」

「枝豆じゃないですか!!枝豆まで言ったらその先言ってくださいよ!!」

「言ったじゃんよ何だよてめぇ!!!」

「枝豆を餅の周りに…!」

「枝豆を潰して餡子にしてあんだよ!!!!!」

「はいはい!!!」

「緑色の餡になってんだよ!!!!!」

「わかってます!!緑のお餅なんですよね!?」

「緑の餅って簡単に言うなよ!!!」

 

 Rawさんもこうなると止まらないね…。にしても、彩先輩があんなに負けじと頑張ってる姿久々に見た…。音楽番組でパスパレの妹分のアイドルが出た時以来かも。

 

「枝豆が入ってるんですよね!!」

「豆が入ってるんじゃないんだよお前すり潰してあんだよ!!!それでこう…。ああ、もう!見たことないのかお前は!!!」

「ないですね!」

「ぜってぇ東北に入るなもう!!」

「絶対食べますからね!」

 

 はぁ…。やっと終わった。みんな爆笑してたよ。まぁ、私もだけど。あー、表情筋と腹筋が痛い…。

 

「ずんだ餅食べてから…!」

「ああ、じゃあ京歩譲ってずんだ餅はいいよ!でもずんだシェイクは飲むな!!」

「何でですか!!!ずんだ餅食べたらずんだシェイクもいきますよ!!」

「あとこれからお前、萩の月も食うな!!!」

「萩の月も食べますよ!!!」

 

 うん、なんだろうこの会話。これわざわざライブ会場で聞く意味あったのかな?ていうかパソコン使ってまでトークする意味あったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は中部でライブかぁ〜、今度は一体どんなライブするんやろなぁ。」

 

 東北のライブから数日後、今日はSUICIDEが私の故郷の岐阜でライブをする。何でも今回は珍しく野外のフェスだから普段よりも人が集まってる…。でも大丈夫!今日はあのたえ先輩に加えて蘭先輩、日菜先輩、燐子先輩、ましろちゃんがいる。このメンバーでら心強い…!

 

「今日は快晴だねー!最高のライブ日和って感じ!」

 

 そう。今日は野外ライブにうってつけの雲一つない快晴。予報では降水確率がかなり低いらしい。日菜先輩の言う通り、まさに絶好のライブ日和や!

 

「でも、今回はどうなるんでしょうか…?前々回は料理を、前回は演劇をやりましたが今回はどんなパフォーマンスが…。」

 

 燐子先輩の言う通り、たしかにそうやった。でも今回は野外だからどうなるかわからない。SUICIDEの事だから普通にやるわけないのは確実やし…。

 

「あ、カウントダウン…。もう少しで始まるみたいです!」

 

 本当だ!チュチュさんを含めてみんな出てきた!特にMaxさんのギター、でらカッコいい…!

 

R「切りとったメロディー繰り返した 忘れないように

言葉よりも大切なもの ここにはあるから♪」

 

R・N・C「無理して笑うには理由がなさすぎて 強い風の中だ♪」

 

R・M・y「引き裂かれたまま路上にちらばった いびつな夢の欠片♪」

 

R・a・1「冷めたフリしても伝わる愛で どんな歌をうたうんだろう

さぁ行こうOur life♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「透きとおったメロディー胸にひめた 無くさないように

言葉よりも大切なもの ここにはあるから♪」

 

R・M・y・N・a・1「Wow wow wow wow~♪」

 

C(Wo ho!Come on! Everybody Stand up!!)

 

R・M・y・N・a・1「Wow wow wow wow~♪」

 

C(Wo ho!Say yeah!)

 

C「Yes,yes!You know the dare or not!」

 

C「例えばの話 旋律奏でて

あの時の朝日 仕舞って二人は離れて

『またね』って 言葉を残して別れていっても

確かな この夏だけは君と共に♪」

 

R・M・y・N・a・1「疑うことなく旅する雲が 素晴らしい今日も♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「あなたよりも大きな愛は♪」

 

N・1・C「どこにもないんだよ♪」

 

R・M・y・a「切りとったメロディー♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「繰り返した 忘れないように

言葉よりも大切だから あなたに届けた♪」

 

R・M・y・N・a・1「Wow wow wow wow~♪」

 

C(Wo ho!Come on! Everybody Stand up!!)

 

R・M・y・N・a・1「Wow wow wow wow~♪」

 

C(Wo ho!Say yeah!)

 

 その後、普通に何曲かパフォーマンスをやってSUICIDEの岐阜でのライブはここで幕を閉じた…。え?これだけ?結構あっさりと終わった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ〜、すっごい人やね〜!」

 

 岐阜でのライブから数日後の大阪でのライブ、りみがものすごいはしゃいでる…。でも大阪なんて初めて来たんだし浮かれても仕方ないよね!ちなみに今日はりみと私の他にも麻弥先輩とリサ先輩と透子ちゃんが来てるよ!

 

「今日は何をするんでしょうかね?おそらく二連続で普通のライブをするとは考えられませんし…。」

 

 確かに!料理、演劇と来て岐阜でのライブは普通にやってたもんな…。次は何がくるんだろう?

 

「あ、みんなライブが始まるよ!見よう見よう!」

 

 カウントダウンが始まってリサ先輩がみんなに呼びかけた。思うんだけどリサ先輩って皆から好かれてるよね。私も蘭達から人徳があるって認められれば一緒に「えいえいおー!」って乗り気でやってもらえるのかなぁ…。あ!SUICIDEが出てきた!

 

「え?楽器持ってなくね…?まさかダンス!?」

 

 え!?ダンス!?バンドなのにダンスやるの!?しかもこの曲、“ブリュレ”だ!SUICIDEのライブでは定番の曲をダンスで踊るんだ…。バンドって一体何なんだろ。

 

M「心配性の悪魔が 消極的な僕らに苛立ってるみたいだ

薄暗い夕暮れの小部屋 今日こそはゆっくり話しましょう♪」

 

R「きっと牽制してるんだ♪」

 

R・N(↓)「どこか謙遜してるんだ♪」

 

R「ぎこちない歯車♪」

 

R・N(↓)「手を差し伸べたらどうなるんだ? 時間の限り考えましょう♪」

 

y・1「ザラメ糖を焦がしたクレームブリュレ♪」

 

y・1・N(↑)「甘いカラ 破って♪」

 

a・C「その中にある♪」

 

a・C・N(↑)「柔かいのを♪」

 

a・C「ひとさじ分けて欲しい♪」

 

a・C・N(↓)「デカい期待 抱いてたいなぁ♪」

 

M・C・N(↓)・1(↓)「君を知り尽くしたくて 時折 傷つけちゃって

そっから何か学んで♪」

 

M・C「生まれる愛情♪」

 

R・y・a・N(↓)・1(↓)「許して すべて分かりたい その線を超えてしまいたい

覗き見してしまったような♪」

 

R・y・a「気持ちに♪」

 

R・y・a・N(↓)・1(↓)「なりたい♪」

 

R「心♪」

 

R・1(↓)「触れるたびに揺れる♪」

 

M「言葉の奥で♪」

 

M・N(↑)「はにかむ ためらう

赤く染まるブリュレ♪」

 

 間奏に入ったけどダンスの一体感がすごい…。特にRawさんと赤沢さんとyu-minさん上手い…。Rawさんは余計な力の入ってないしなやかなダンスで、赤沢さんはザ・上手い人って感じでyu-minさんは軽やかで元気そうなのと楽しそうなのが伝わってくる。

 

1「いろんなアングルで眺めてたいや

皿の隅々まで♪」

 

C「どんな予想外の味だって喜んで平らげます♪」

 

1・C・N(↓)「デカい期待 抱いてたいなぁ♪」

 

M・C・N(↓)・1(↓)「君を知り尽くしたくて 時折 傷つけちゃって

そっから何か学んで♪」

 

M・C「生まれる愛情♪」

 

R・y・a・N(↓)・1(↓)「許して すべて分かりたい その線を超えてしまいたい

覗き見してしまったような♪」

 

R・y・a「気持ちになりたい♪」

 

M・C・N(↓)・1(↓)「君に捧げたくなって 至れり尽くせりやって

余計に世話焼いちゃって♪」

 

M・C・N(↓)・1(↓)「悩める純情♪」

 

R・y・a・N(↓)・1(↓)「ひっそりのめり込まれたい ほんのり煙たがられたい

“目障りだけど気になる♪」

 

R・y・a「アイツ”に♪」

 

R・y・a・N(↓)・1(↓)「なりたい♪」

 

R「心♪」

 

R・1(↓)「触れるたびに揺れる♪」

 

M「言葉の奥で♪」

 

M・N(↑)「はにかむ ためらう

赤く染まるブリュレ

 

思いがけずブリュレ♪」

 

 その後は普通にバンドでのパフォーマンスをやってライブは終わった。今更だけどSUICIDEの人達ってダンスもできたんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度はこの高知で太郎君達がライブをするらしいから有給使って観に来ちゃった…。情けない大人だなんて思われてもいい、だって観に行きたかったんだもんライブ!それに今日はつぐみちゃんとイヴちゃんと友希那ちゃんと花音ちゃんと七深ちゃんとパレオちゃんも来てるんだし、より楽しくなりそうな予感するよね!

 

「チュチュ様ー!!!」

「すごい迫力…!これが応援する人にとっての普通…。頑張れyu-minさーん!!!」

 

 おお、二人ともすごい熱気だね…。これはお姉さんも負けてられないね…!ん?誰?今お姉さんじゃなくておばさんだろって思った人。怒らないから正直に言ってごらん?

 

「…。」

 

 友希那ちゃんすごいなぁ…。こんなに騒がしいのに平然としてる…。きっと普段もこんな風にクールな感じなんだろうなぁ。

 

「皆さん!Rawさん達が出てきましたよ!」

 

 あっといけないいけない。イヴちゃんに言われなかったら気づかなかったよ。パレオちゃんと七深ちゃんに気圧されてた…。よし、私も負けないよ!

 

「こんにちはSUICIDEです!!早速いきましょう、“哀紫電一閃”!」

 

 おお、イントロカッコいい…!そして相変わらず太郎君は喋らずに増治君に喋らせるんだね…。

 

R「何ちょっと 泣いちゃって

滅入っちゃって 生きちゃって

逢魔が時に遠くに

イっちゃって

縁も 上っ面見りゃ ドヤってる

優劣決めやと ドヤってる♪」

 

M・1(↓)「所詮・有象・無象

理想の姿 走馬灯の様

誰ガ為に削り 桶屋の微笑

絶命の確率 カオス理論♪」

 

R「今 万感の思い込める 拳鳴る♪」

 

R・M(↑)「嗚呼 もう 武者震わせてる 髑髏♪」

 

R「今 万感の思い込めて 願い成る

阿修羅道 明記 さらば少年の日よ

 

愛 曇華一現は♪」

 

R・M「違うって 悲嘆防止♪」

 

R「余命 変わりゃんせ 今日♪」

 

M(今日 誓って 悲嘆防止♪)

 

R「哀 紫電一閃 人間は♪」

 

R・M「誓うって 悲嘆防止♪」

 

R「余命 変わりゃんせ 今日♪」

 

M(今日 誓って 悲嘆防止♪)

 

R「生 変わりゃんせ 今日♪」

 

M「火事と喧嘩は江戸の華♪」

 

y・N・1・C(柄!)

 

R「会稽の恥を雪ぐのなら♪」

 

y・N・1・C(柄!)

 

R・M(↓)「七転八倒 刻んだ性♪」

 

y・N・1・C(柄!)

 

R・M(↓)「火傷火に懲りず進むただ♪」

 

y・N・1・C(柄!)

 

R・M(↑)「鼓動は加速 限界へ挑む

牙を研ぐ者 十鬼は来た♪」

 

R「今 万感の思い込めて 願い成る

阿修羅道 明記 されど 饒舌の心臓♪」

 

 すっごいカッコいい…!いつもふざけてるSUICIDEとは全然違う…!普段からこんな風にやってればいいのに…。あ、普段はこんな感じなのかな?いや、でもこないだは“Rusty Nail”歌いながら料理作ってたし、わりかしふざけてる…?

 

R「愛 曇華一現は 違うって 悲嘆防止

余命 変わりゃんせ 今日

哀 紫電一閃 人間は 誓うって 悲嘆防止

余命 変わりゃんせ

 

愛 曇華一現は♪」

 

R・M「違うって 悲嘆防止♪」

 

R「余命 変わりゃんせ 今日♪」

 

M(今日 誓って 悲嘆防止♪)

 

R「哀 紫電一閃 人間は♪」

 

R・M「誓うって 悲嘆防止♪」

 

R「余命 変わりゃんせ 今日♪」

 

M(今日 誓って 悲嘆防止♪)

 

R「今日せんのかい 狂信のダイブ

猛然向かう理由

知り 生 変わりゃんせ 今日♪」

 

 いやー、本当にカッコよかった。それしか言えない。ライブ全部見てきたけどそれしか言葉が出ない。

 

「つぐみちゃん、帰ったらお茶でも飲もっか。」

「はい、そうですね!あ、そうだ!どうせならSUICIDEのライブお疲れパーティーをしましょう!」

「賛成です!ブシもお互いを労う事は大事ですからね。」

 

 よーし、じゃあお姉さんも会場の準備張り切っちゃおうかなー!ねぇ?誰?今おばさんって言った人。今度こそこっちに来てごらん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SUICIDE最後のライブは福岡の博多で行われることとなった。ツアー最終日だけあってすこい人達…。私は音生兄とチュチュをたくさん見れればそれで良し。今日は香澄ちゃんに妹さん、そして美咲ちゃんと瑠唯ちゃんとますきも一緒。ちなみにライブの方は前半が終了して今から後半に差し掛かってる状態かな。それにしても音生兄カッコよかったなー。

 

「いやー、楽しかったー!充実してたね!」

「お姉ちゃん、まだライブ終わってないよ…。」

 

 たしかに前半でも満足できるぐらい楽しかった。後半はこれよりもさらにハードルが高く設定されてるに違いないけど、一体どんなライブをするんだろう?

 

「またテーブル置いてるし…。嫌な予感…。」

「今度は一体何をするつもりなのかしら。」

 

 あ、本当だ。またライブ中に料理でもするのかな?サビで大根の桂剥き始めたりして。そんな事思ってる間にイントロが始まった。ドラムのカウントから入った後、全ての楽器がなだれ込む。

 

「この曲はたしか“鴨川等間隔”だったか?」

「うん、そうだね。」

 

 Rawさんが出てきた。今度はエプロン付けてないね。でも椅子に座ってテーブルの上で何かやってるね。

 

R「免許更新の待ち時間 硬いパイプ椅子に尻を冷やした

売店でヤンマガ買って 知らない漫画を読んだ

友達は皆それぞれの 友達と遊びに行ってんだろうし

誘えるやつも塩田くらいか アイツはいいや また今度飲みに行こう

 

久しぶりに服でも買うかな 1人で通りを行ったり来たり

無意識にまたネイビーブルーを手に取り無難を求めちまうぜ♪」

 

M・1(世間の目ばかり気にしちまうぜ♪)

 

R「鴨川等間隔 寄り添う恋人達の心理的距離

風になびく髪を耳にかける仕草だけは許してやろう

鴨川等間隔 橋の上 見下ろしながら見下される

十六文キックでカミから順に蹴落としたりたい気分だぜ♪」

 

 わかった!編み物だ!人が多い上にちょっと遠いからよく見えないけどあの手つきは絶対編み物。え、ちょっと待って。この時期に編み物?まだ早いよRawさん…。

 

R「徹夜でゲームのサクリファイス 明日まで吐気はとれんだろうな

コンビニで天むす買って 食べるや否やモドした

友達は皆それぞれの 新しい道を歩んでんだろうし

在学生は塩田と俺か アイツはいいな 家を継ぎゃいいもんな

 

久しぶりに実家帰るかな 奈良線のホームは何処だっけ

無意識にまたPSPを起動しレベルを上げてしまうぜ♪」

 

M・1(上げたら上げたで寂しくなんぜ♪)

 

R「木津川BBQ レジャーソウル テニスサークルのジャージ纏う

砂利に足を取られ 腕絡めたあざとさは許しはしない

木津川BBQ はしゃぎ合う男女の輪には入れない

垂直落下式DDTをBBQ狂いに見舞え

しかも砂利の上♪」

 

 Rawさんって器用すぎない?もう完成しかけてるけど。いや、それよりも気になるのは急いでる時と落ち着いてる時の差が激しいこと。持久走でサボってるのがバレた高校生みたい。

 

R「別にどうしてほしいわけじゃない

ただそれくらいの許容や容赦を

保てる心を育みたいぜ♪」

 

M・1(幹から腐った訳では無いぜ♪)

 

R「鴨川等間隔 寄り添う恋人達の心理的距離

風になびく髪を耳にかける仕草だけは許してやろう

鴨川等間隔 橋の上 見下ろしながら見下される

十六文キックでカミから順に蹴落としたりたい気分だぜ♪」

 

 ギリギリ完成したみたいだね。ヘアバンド作ってたんだ。とても焦ってたとは思えない仕上がりになっててすごい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく終わりましたわよ。しんどかった〜。ちなみに各地方の滞在日数は三泊四日。一日目は移動日、二日目は前日のリハーサル、三日目はライブ、四日目は観光&移動日。スケジュールカッツカツだったわさ。それにこっちの負担がデカすぎた。誰だよ最初に大根の桂剥きやろうって言い出した奴。あれが一番しんどかったわ。

 

「ここが羽沢珈琲店で合ってるっけ?」

「うん。たしか小泉と音生が椅子壊した場所だからここで合ってる。」

 

 実は小泉と音生がふざけてここの椅子ぶっ壊したんだよね。まぁ後で弁償したらしいんだけど。ハメ外さないでほしいわね。

 

「じゃあ入りましょー!」

「はいはーい。」

 

 僕はドアノブに手をかけ、扉を開く。すると一斉にクラッカーの音が鳴り響き、僕を含めて全員動揺する。マジで一瞬爆発が起こったかと思ったわ。

 

「皆さん、お疲れ様でした!!!」

 

 …え?え?お疲れ様?誰の?誰による?誰のための?あら、書いてあったわ。「SUICIDEの皆さん、ライブお疲れ様でした!」って。

 

「チュチュ様カッコよかったですー!」

「とっ、当然でしょう!」

 

 いやはや、みんな楽しそうでなにより。てかあいつら今日のこのパーティーのために色々準備してくれてたのか…。その事に関しては後でお返ししないとね。

 

「ほら、Rawさんも早く!」

「ああ、うん。」

 

 まぁ細かい事は今は気にしないでおこう。さて、残るはガールズバンドパーティーだな。SUICIDEはまだまだ終わらないよ。




次回でいよいよ第3章終わります
その次はいよいよ最終章となります


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第37話「Yes!BanG_Dream」

第3章完結…


 

 遂にこの日がやって来た。えーと、たしかガールズバンドパーティーだっけ?そんな名前だったっけたしか。え?違う?あら、ごめんね。失礼。今日はガールズバンドパーティー開催の前日だった。と言っても何もしないわけじゃなくて各バンドが使う機材を運んだり、リハーサルをやったりと入念な準備を要する。まぁ自分らSUICIDEも出るわけだし。

 ちなみにCiRCLEのカッツカツな経済事情も踏まえてSUICIDEは楽器の本数を最大限に減らした状態で出ることになったよ。と言っても赤沢と小泉がボーカルとコーラスに回るってだけの話だけど。

 

「そう言えばSUICIDEはここのアンプでも大丈夫?」

「それを僕に聞くんじゃなくて由美とか音生に聞けよ万年ボーダー女。」

「太郎君…?」

「残念だったな、お前に技をかけられるほどこっちもヤワじゃないのよ。」

 

 もうこいつと戯れ合うのはうんざり。未だにそんな事してたらウチの従妹から嫉妬満載の眼差しを向けられるし。

 それとまだ言ってないかもしれんけど僕今二十三歳なのよ。二十代に突っ込んでるわけだから内心平穏が欲しいのさ。だから日常のちょっとした事でイライラしたくないの。主にこの万年ボーダー女とかあのキザクソ野郎とか。人に変なあだ名付けすぎて名前忘れたよ。白鷺だったら火曜日によくやってるサスペンスドラマに結構な頻度で主演やってるから“火サス人”。丸山だったら“実力不足”。トークの面で。

 

「Rawさーん!さっきRawさんが頼んでたもの、準備できましたよ!」

「はいはーい。」

 

 僕は万年ボーダー女ことまりなをすぐに投げ飛ばし、何事も無かったかのように装い二葉のもとへ駆け寄る。これこそがプロフェッショナルの嗜み。てかこの数秒間でやっと名前思い出せた。この現象に名前を付けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りの準備とリハーサルは終わらせた。にしてもすっかり日が落ちたね。何かに打ち込んでたら時間が結構経ってたって事あるよね。そんな事もあるものだね世の中ってのは。てか家に帰って携帯見てみたら十数人くらいの友達からLINE来てたんだけど。全部明日のライブ観に来るねみたいなの。初めてだよこんなLINE来たの。友達少なかったからね。まぁこれでも多いね。

 

「お兄ちゃ〜ん。ウチもライブ観に行ってよか?」

「どうぞ〜。」

 

 もちろんうちの華楽も観に来てくれる。あー、明日ライブなのに今緊張してきた…。ライブの事で緊張したの初めてかもしれんわ。

 

「速報です。本日午後十一時頃、都内を謎の団体が占領したとの情報が入りました。」

 

 うーむ。こういうのも減らないね最近。僕には関係ない事だけどちょこっと様子見てくるか。ちょっとだけね。見たら行ってすぐ帰ってくる。

 

「お兄ちゃん、今出かけるのは危ないったい。ここにいた方が…。」

「大丈夫。すぐ帰ってくるよ。」

 

 別に見てきてどうこうするわけじゃない。けど人間だけでどこまでやれるのかは見ておきたい。ニュースだと連中は武装してるみたいだしね。別に僕がやろうと思えば瞬で解決するけどそれじゃあ根本的解決には至らないし。状況次第では突っかかろうかな。

 

「じゃあ行ってくるね。絶対帰ってくるから。」

「うん、気をつけて!」

 

 明日から大事なライブなのにこれはちょっと最悪だな。あの手の連中のせいでこっちのライブが台無しになったんじゃたまったもんじゃないし。まぁ誰か同じ人間が対処してほしいけど。

 

「ここだったっけか…。」

 

 んー?おかしいなぁ…。ニュースで映ってた所に来てみたけど辺り一面に人気が無い…。いくら何でもこりゃおかしい。さっきあんだけワーワー騒いでたのに。

 

「仕方ないか。ちょっと聴いてみとっと。」

 

 僕は両耳のイヤリングを外して遠くの声や音を聞く。何か聞こえる。大勢の人間が動揺する声、そしてこのパチパチ言ってる音は…。火の音かな?これから何か起こるのかな?いずれにしてもここには人気が無い。建物飛び越えて行っても何も問題は無いはず。

 

「場所はこの方向からまっすぐでいいから…。うん、行こうか。」

 

 さっきは慎重に行こうとしてゆっくり歩いて行きすぎたけど今度は最速で行きますか。サングラスは外してないから遠くに何があるかは見えないけど。ではレッツゴー。

 

「…っ!あれは…!」

 

 僕はようやく音のなっていた場所へと到着した。そこには華楽が何らかの台の上で手足を縛られていた。おそらくは生贄だろうね。他の人間達は教団が武器を持ってるせいで下手に手出しはできない。けど行くしかない。

 

「待って、太郎。生贄が用意されているという事はその生贄を食らう存在が控えているという事よ。迂闊に手を出すのは危険だわ。もしそれが神だったら…。」

 

 ピコが内側から僕に語りかけてくる。けど問題無い。例え神を敵に回そうともね。むしろそんな神ならこっちから願い下げだよ。

 てか戸山達や瀬良達もいるな。エンターテイメントショーみたいな感じになってるのは嫌だけどライブ前にひと暴れしてきますか。

 

「心配すんなピコ。何のためにこの力があると思ってんの。僕は常に奇跡のその先を生きてる。それじゃあ行きま…。あ、待って。その前にやる事が…。」

 

 僕はピコに対してある事を頼み込んだ。ピコも実体化程度はできるみたいだからそのくらいのお願いはできるはずだけど…。失敗してくれるなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ…。どうしよう…。いつの間にか華楽ちゃんが生贄になって…。Rawさん、お願い!早く来て!

 

「お姉ちゃん…。」

「大丈夫だよ、あっちゃん。すぐに助けが来るからね。」

「口を慎め愚民が!」

 

 大丈夫。私は信じてる。Rawさんは絶対ここにやって来る。必ず現れる。あの人は誰かのピンチを放っておくような人じゃない。今までだってそうだったから。

 

「おい貴様。そこから動いたら神の逆鱗に触れるぞ。覚えておけ。」

 

 華楽ちゃんごめん…。華楽ちゃんの代わりになれなくて…。

 

「平民よ、神に頭を垂れろ。さすれば神は貴様らが初めより持つ生きる意味を与えてくれる。それこそが神の導きなのだ。」

「残念ながら、人間は生きる意味なんて持ってないよ。」

 

 その声、誰?まさかRawさん!?こんな状況でもメイクしてきたんだ…。いや、それはそうなるよね。流石にメイクしてない状態でこんなに大勢の人達の前には出てこれないもんね!

 

「何をしている!!神の御前だぞ!!!」

「あれ?さっきの言葉忘れちゃった?だったらもう一回言うよ。人間、いやそれ以前に生物は生きる意味を持ってないって言ったのよ。」

「何だと?」

 

 え?Rawさんさっきから何を言ってるんだろう…。聞き間違いなら私が悪いけどRawさん今生きる意味は持ってないって言わなかった?

 

「生きる意味ってさ、いくら探しても答えは無いの。そもそもそんなもん背負って生まれてくるのは物語の主人公ぐらいだよ。生きる意味なんて無くても人間は各々でその答えを創り出す事ができる。とどのつまり、お前らの言う神の導きは必要ないって事。それを無視して最初っから自分は生きる意味を持って生まれてきたと思ってたなら自惚れが過ぎるけどね。」

 

 うわぁ…。色々無茶苦茶なこと言ってる…。でもRawさんと口喧嘩したら勝てる自信がない…。

 

「お兄ちゃん…。」

「心配かけたね。でももう大丈夫。」

 

 Rawさん腕の力すごい!片腕で華楽ちゃんを抱きかかえちゃった…。もう片方の手で武器持ってるけど…。名前何だっけ…。たしか長い名前だったような…。これ言ったらRawさんに怒られそうだからこれ以上はやめておこっと。

 

「何をしている!!神の怒りを買おうと言うのか!!」

「そう。神だろうが何だろうが潰す。それが僕のやりたい事だからね。」

「そんな理由で神と戦うのか!?」

「うん。」

 

 え!?あの人何て事言ってるの!?いや人じゃないけど…。でも無茶苦茶な事言ってない!?あ、それはどっちもか。

 

「人は皆、“自分だけの世界”というレンズを持ってる。そのレンズで物を見ようとしたら現実そのものが歪む。結果、歪んだ正義やら何やらが生まれるのよね。だからこそ、人は“自分だけの世界”から脱却してそこに無い新たなものを探し求めるんだ。“自分だけの世界”では見つけることのできなかったものを…。世間一般ではそれを“旅”と言うらしい。だから決めた!僕はこの世界を旅立つ!」

 

 え!?なんかその話行かないって言ってなかった!?えー…。本当に自分勝手な人…。でもそれがRawさんなんだけどね!

 

「あ、あ…。」

「神がお怒りになっておる…。」

 

 え…?あれが神様!?絶対違うよ!あれでっかいワニだよ!!いやもはやワニじゃなくて恐竜って言ってもいい!!それぐらい体長が大きい!!

 

「戸山、山吹。華楽を頼む。僕はこのワニを潰す。」

 

 本当にやる気なのかな…。なんて思ってたらいきなりRawさんは持ってる武器を柱の上で燃えてた火に当てた。たしかあれってあの音叉みたいな部分に当てたものに反応して色んな武器になれるんじゃなかったけ?合ってたら褒めて褒めて!

 

「へぇ。火に当てたら七支刀になるんだ。おいそこのワニ、お前に通じるかわかんないけどさ、こんな不毛な犠牲は要らない。僕が終わらせてみせる。」

「か、神に対して何てことを…。」

 

 うん、諦めた方がいいと思う。だってそれがRawさんだから。Rawさんって普段からそんな人だから。

 

「さてと、お前らは逃げてな。必ず帰ってくる。」

 

 Rawさんが私達に向けて放った言葉はそれだけだった。それだけでも力強く、そして温かく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後、もう日が昇ってきた頃に俺は目を覚ました。昨日は何をしてたんだっけか…。そうだ。村上がデカいワニと戦うって言ったっきり全然覚えてねぇや…。あの時は無我夢中で…。ていうか村上はどうしたんだよ!あいつはここにはいない…。まさか…。いや、あいつに限ってそんな事はあるわけない!

 

「んん…。ここは…。CiRCLE?そうだ!あの後どうなったんだっけ!?あっ、Maxさんおはようございます…。」

 

 そんな中、美咲が目を覚ました。美咲の声に応じるかの如く他の子達も目を覚まし始めた。ここにいるほとんどがまだ重たい瞼を擦ってゆっくりと目を覚ます中、ちゆと華楽ちゃんだけは別だった。

 

「タロウは!?タロウはどうなったの!?」

「お兄ちゃんはどこに行ったんですか!?」

「…わからない。」

 

 ちゆと華楽ちゃんに問い詰められたけど俺はそう答えるしかなかった。あいつは言った。必ず帰ってくると。だからそれを信じるしかない。でもここまで帰ってこないとなると…。やっぱりあいつは…。

 

「朝っぱらからガタガタやかましいよ…。」

「お兄ちゃん!!」

「タロウ!」

「え!?」

 

 いきなり村上が部屋にいた全員が驚く。そりゃびっくりだよ。服は埃も血も一切ついてないし、傷ひとつ見当たらない。けど何かすげぇ具合悪そうだな…。見たらわかるけど顔色やばいよ。血の気引いてる。

 

「どうしたどうした?」

「いやあのさ…。あのワニは二、三時間ぐらいで潰せたのよ…。で終わった後さ…。その場にいた人達にめちゃくちゃ讃えられてさ…。それまでワニを崇めてた連中も含めて……。そんでみんなして僕の像を作ろうとしてたんだけどあまりにも今のヴィジュアルとかけ離れすぎてて『自分いる意味ねぇじゃん!』って思って逃げ出してきたってわけ……。ダメだ眠い寝かせて…。」

 

 寝た!!!単に寝てなかっただけなのかよこいつ!!いやまぁお疲れ様なんだけどさ…。これ別の意味で苦しめられたんじゃないか?

 

「それにしても、可愛いなぁお兄ちゃん…。」

「ちょっと!ワタシが寝かせてあげるのよ!」

「どっちでもいいから寝かせてやれ!!本人一睡もしてないんだから!」

 

 有咲ナイスツッコミ。多分この状況は俺一人じゃ捌ききれなかったかもしれないからな。助かる。

 

「さてと、そんなRawさんの寝顔にイタズラしちゃおっかな〜…。」

「賛成賛成!」

「おい、そんな事したら本人に怒られるぞ!!」

 

 有咲って本当に便利だよなぁ。放っといても自分からツッコミしてくれるからいつも助かってる。

 

「ていうか赤沢さん!アンタはのんびりしてないで手伝え!!」

「わかったよ。」

 

 あらら。怒られちまったよ。まぁいいか。村上が頑張ってくれたんだから俺たちはライブの最後の準備をしておくか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで寝てたら時刻は夕方を過ぎてた。マジで…?ライブ開始まであと三十分じゃん。自分まだご飯も食べてないしメイク落としてないんだけど。いや、メイクはもうどうしようもないから良しとして、速攻で風呂入ってこよう。いや浴槽に浸かるのは無理だからシャワーにしてご飯はコンビニのおにぎりにして…。やる事いっぱいだな!でも出番はまだ先なのでちょっとばかし見れなくても無問題。いややっぱり問題あるわ。いやでも楽屋のテレビでライブは観れるからそっちで見るか。まずは家に帰ってメイク落としてシャワーを浴びる。これが最適なルートかな。みんないないし今がチャンス。では行ってきます。

 

「はぁ…。疲れた…。」

 

 数十分経って、CiRCLEに戻ってまいりました。全速力で家からCiRCLEを往復するのは疲れるね。またメイクしてるけど、一度メイクを落としてからメイクし直すって面倒ね。

 

「おっ、目が覚めました?」

 

 と思ってたら楽屋に入ってきた音生が突然声をかけてきた。まぁ当然と言えば当然なんだけど。

 

「今ちょうど円陣終わっちゃったんですけど、もう一回やります?」

「いいよ。誰か一人のために足並み揃えるの面倒じゃん。」

「あはは…。それはそれとして、もうすぐライブ始まりますよ。」

「はーい。」

 

 僕は楽屋のテレビをつけて様子を見る。このガールズバンドパーティーはポピパ、アフロ、パスパレ、ロゼ、ハロハピ、モニカ、RASの順番でやっていく。で、我々はゲスト的な扱いだから一番最後。その後全員で合唱。ごめん違う。スペシャルバンド作ってライブやるみたい。ボーカルはSUICIDEと全バンドのボーカル担当者、バッキングギターは由美、リードギターは朝日、ベースは広町、ドラムは宇田川姉、キーボードは市ヶ谷、DJはミッシェル。どんな人選なのかよくわからん。何はともあれまず最初はポピパね。見てみましょうか。

 

香・た・り・沙・有「たとえ どんなに夢が遠くたって

あきらめないとキミは言った

輝く朝日に誓ってる『前へススメ!』

キミらしく駆けぬけて!♪」

 

り「好きで好きでたまらないよ 今すぐ扉あけたいよ

でも踏みだせないのはなぜ…♪」

 

た「だけど三つのコードから キミと一つになれたよね

もう 夢はみんなのもの この心ふるわせたい♪」

 

沙「星に願いをかけてはしゃいだ あの夜空は続いていく♪」

 

有「正直になれそうな自分に キミが微笑んだ♪」

 

香「そうだ どんなに今がつらくたって

何もうまくいかなくたって

積み重ねたもの忘れない『前へススメ!』

全身全霊ただ前進! 一心不乱に精一杯!

果てしなくても 遠くても!

 

見渡す限りに揺れる輝きが 待っている場所を

夢見ている 夢見ている♪」

 

「ありがとうございましたー!」

 

 その後二曲やってポピパはステージを後にした…。って待て!!!あいつら三曲も演奏できんの!?こっち二曲だけなんですけど!!せっかくメイク気合い入れたのに待遇の差酷くない!?これはあの万年ボーダー女に抗議案件。

 

蘭「絆と共に 咲くはサザンカ♪」

 

モ・ひ・巴・つ(Oh, oh いつもの場所で

Oh, oh いつものメンバーで♪)

 

蘭「見失うから 変わらないでと

自分勝手な気持ちが♪」

 

モ・ひ・巴・つ(Oh-♪)

 

蘭「君の背中を♪」

 

モ・ひ・巴・つ(Oh-♪)

 

蘭「追いかけられない

嫌だ こんなあたし…

 

本当の♪」

 

ひ・巴・つ(声が)

 

蘭「届いたとき♪」

 

モ「心は♪」

 

ひ・巴・つ(熱く♪)

 

モ「答えたんだ♪」

 

蘭「不安も♪」

 

モ「焦りさえ♪」

 

蘭「溶けては♪」

 

モ「なくなって♪」

 

蘭・モ(↓)「『いつも通り』はどこだ?♪」

 

蘭「こんな♪」

 

モ「あたしは♪」

 

蘭・モ「あたしじゃない♪」

 

蘭「あの日 全てが始まってたんだね♪」

 

モ・ひ・巴・つ(今の運命が♪)

 

蘭「サザンカと共に

偽りのない あたしの『カッコイイ』♪」

 

モ・ひ・巴・つ(姿、声で♪)

 

蘭「いつも通りでいよう

『これからもよろしく~。』♪」

 

モ・ひ・巴・つ(Oh, oh いつもの場所で

Oh, oh いつものメンバーで♪)

 

「いいね、CiRCLE!」

 

 あら、アフロが演奏してたわ。いつもと変わらずカッコいいね。これは本心で言ってるよ。適当に言ってるんじゃなくて。さてと、次はパスパレか。

 

「こんにちはー!Pastel*Palettesでーす!…盛り上がっていきましょう!」

 

 これはあれだな。事前に言うこと考えてきたけど直前になって緊張かパニックで記憶がすっ飛んで何も思い出せなくなって一番無難な事言ってその場を切り抜けるけど後で後悔するパターン。丸山だから、で全てが腑に落ちるしそうなる未来が目に見えてる。

 

彩「『応答せよっ 可愛さよ!』

か弱く揺れてるだけの乙女心じゃないんだ 常に♪」

 

日・千・麻・イ(go! go! go! go for it!♪)

 

彩「目まぐるしい毎日に 振り落とされないように

努力×努力で立ち向かう 強さにあふれてる

 

汗となみだ 声にカスタマイズ!♪」

 

日・千・麻・イ(きらーん!♪)

 

彩「ヒミツちょっとあってもいいでしょ?♪」

 

日・千・麻・イ(1,2,3,4!♪)

 

彩「きゅ~てぃ&まいてぃ flowering ring*

わたしを咲かせて♪」

 

日・千・麻・イ(パパッ♪)

 

日・千「とびきりの♪」

 

麻・イ(パパッ♪)

 

麻・イ「かがやき♪」

 

日・千(パパッ♪)

 

彩「きみにあげるんだ!♪」

 

日・千・麻・イ (love! love! love! love!♪)

 

彩「きゅ~てぃ&まいてぃ flowering ring*

女の子真っ盛りの♪」

 

日・千・(100点♪)

 

麻・イ(満開♪)

 

彩「笑顔で

今日も♪」

 

日・千・麻・イ(パッ♪)

 

彩「明日も♪」

 

日・千・麻・イ(パッ♪)

 

彩「逢いにゆくから♪」

 

日・千・麻・イ(*パスパレ満開*

パッパッパパッ! ジャーン♪)

 

 んー、最初のMCは微妙だったけど演奏は良かった。それが丸山クオリティだと言われても納得はできる。納得はね。次はRoseliaかね。最後でもおかしくはないけど。

 

「こんばんは。Roseliaです。あなた達、ロジェリアに全てをかける覚悟はあっ、ある?」

 

 噛んだ。噛んだよあの人。しかも二回。どうした?今日全体的に見てMCボロボロじゃない?何があったの?

 

「いくわよ。」

「いやそれはおかしい!!!」

 

 今井達の言う通り。思えば湊ってアホよね。何かしら失敗したとしても「いくわよ。」でリカバリーできると思ってるんだもん。

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…♪)

 

友「波音は陰を流して♪」

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…♪)

 

友「暖かな両手を握るよ♪」

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…)

 

友「陽炎に映した 曇りなき希望は♪」

 

紗・リ・あ・燐(無限に華咲く♪)

 

友「Close to me…star mine

打ち上げるわ♪」

 

友「蒼色(えが)く♪」

 

紗・リ・あ・燐(Fly high!♪)

 

友「コントレイルを♪」

 

紗・リ・あ・燐(Fly high!♪)

 

友「優しさでなぞれば生まれた

思い出すべて♪」

 

紗・リ・あ・燐(Fly high!♪)

 

友「素顔で感じては♪」

 

紗・リ・あ・燐(Fly high!♪)

 

友「私たち またひとつ繋がる

 

Let's start it now!ah…♪」

 

紗・リ・あ・燐(もっと素直に、もっと正直に♪)

 

友「Find a way out!♪」

 

紗・リ・あ・燐(もっと素直に、もっと正直に♪)

 

あ「目が眩むほどに強く♪」

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…♪)

 

友「灼熱に期待がふるえ♪」

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…♪)

 

友「至極美しく鳴る音色(おと) ♪」

 

紗・リ・あ・燐(We carry on…♪)

 

友「独りでは知らない 旋律を与え♪」

 

紗・リ・あ・燐(心にヒカリが♪)

 

友「Close to me…star mine

弾けだした♪」

 

 まぁまぁ…。演奏はとても良かったよ。ただ最初のMCが面白すぎて頭から離れないんだ。誰かこの症状を治してくれ。てか丸山と言い湊と言い、MC失敗する奴が悪いんだよ。

 

「みんなー!こんばんはー!ハッピー!!ラッキー!!スマイルー!!」

「イェーイ!!!」

 

 こちらは教育番組を始めたのかな?まぁそれはいいか。さっさと始めちゃってください。この手の子達はMC失敗しないってわかってるんで。いや、多分こういう子達だから失敗しないんじゃ?弦巻も戸山も何かしら考えてそれを暗記してくるってタイプではないでしょ。心からの言葉は噛まないからね。

 

薫・は・花・ミ(ハロー、スマイル♪)

 

こ「出会い そして今日までに♪」

 

薫・は・花・ミ(ハロー、スマイル♪)

 

こ「もらった いろ~んな♪」

 

薫・は・花・ミ(ハロー、スマイル♪)

 

こ「笑顔は ボクのハートを♪」

 

薫・は・花・ミ(ハロー、スマイル♪)

 

こ「強く 大きくしたんだ♪」

 

(やさしくて♪)

 

こ「とっても大事な♪」

 

薫・は・花・ミ(あたたかい♪)

 

こ「おくりものねっ♪」

 

花「キミからボクへ にこっ☆んにちわっ!♪」

 

は「ボクからキミへ にこっ☆んにちわっ!♪」

 

薫「キミからボクへ にこっ☆んにちわっ!♪」

 

ミ「ボクからキミへ にこっ☆んにちわっ!♪」

 

こ「その先につながる♪」

 

薫・は・花・ミ(すべての人へ♪)

 

こ「“ありがとう”の笑顔を届けたいのっ!」

 

薫・は・花・ミ(わ~っと! ハッピー!!♪)

 

こ「にこにこねくと! 世界一周へパレードっ!♪」

 

薫・は・花・ミ(わ~っと! ハッピー!!♪)

 

こ「つながってゆく よろこび

あふれ出すのは♪」

 

薫・は・花・ミ(新たな♪)

 

こ「きもちのカタチ♪」

 

薫・は・花・ミ(どきどき♪)

 

こ「またひとつ 生まれたのは… え・が・お!♪」

 

 ハロハピも奥が深いねぇ。また新境地を開拓したみたいね。にしてもこの曲、難しそうだわ。演奏も歌唱も。特に各自のソロパートはタイミングを正確に理解してないと大火傷するね。

 

「こっ、こんばんは!Morfonicaです!今日はいつもより大勢の人がいますね…。んーと…。そのー…。」

 

 あぁ…。緊張してるわこれ…。そしてコミュ障がやりがちな会話の行き詰まりをやっちゃってるわ。もうさっきの湊みたいな感じで流しちゃっていいからさっさとやったれ。

 

ま「出会いが告げた すべての始まりを

芽吹く思いに 扉はひらく

 

ゆっくりと進んでゆこう 足跡重ね

雨の夜 虹の朝へと

何一つ疑わずに 信じるままに

目の前の光 追いかけて

 

恐れずに♪」

 

透・七・つ・瑠(見つめよう♪)

 

ま「悲しまず♪」

 

透・七・つ・瑠(答えよう♪)

 

ま「つらくても♪」

 

透・七・つ・瑠(離さずに♪)

 

ま「この心で 初めてをたくさん

感じたいから

 

あたりまえなんてないんだね いつだって

痛みの中で 大事さを知る

ひとしずく 揺らいだ水面が見せた

新たな世界を 強く抱きしめて

後悔せずに 今日も生きてゆく♪」

 

 うん。なんとかやりきってくれたみたいね。ちゃんとできたみたいで何より。ちなみに今回うちのMC担当は小泉だから今のうちにお祓いしとかないと。くわばらくわばら。

 

「Rawさーん、そろそろ行きますよー。」

「はいはいただいまー。」

 

 次はRASでちゆがそのまま連チャンで残る。出てきて戻ってを繰り返すの恥ずかしそうよね。僕だったら絶対にやりたくはないけど。と言いつつ始まったわね。

 

チ「ライブに来てるリア充の皆様。Please, choose! HELL! or HELL?」

 

チ「HELL! or HELL? Which do you(like?)

HELL! or HELL? Which do you(like?)

 

レ「僕らをみ~~~んな

敵に回した覚悟はあるか?♪」

 

ロ・パ(It serves you right!!!)

 

チ「時代錯誤のBrain men

弱いワンちゃん 良く鳴くワン♪ワン♪ワン♪」

 

レ「HELL! or HELL? どちらが欲しい?♪」

 

チ「『It's too late to be sorry!!!』♪」

 

ロ・パ・チ(You! I'll never die! I'll never die! I'll never die!♪)

 

レ「Hey! Come on!!!♪」

 

ロ・パ・チ (You! I'll never die! I'll never die! I'll never die!♪)

 

レ「このコトバ 最期まで焼き付けておけ

今に後悔せよ♪」

 

チ「Not afraid. 」

 

ロ・パ(I'm ready.)

 

レ「You shut up!!!

大切なもんこそ♪」

 

ロ・パ・チ(Wow wow♪)

 

レ「死んでも曲げはしないから♪」

 

ロ・パ・チ(売られた喧嘩は♪)

 

ロ・パ・チ「Oi!!! Oi!!!♪」

 

チ「買っちゃうぞっ♪」

 

レ「図に乗れば堕ちてゆく♪」

 

ロ・パ・チ(Wow wow♪)

 

レ「この世の定めを知れよ♪」

 

ロ・パ・チ(因果応報♪)

 

レ「仕方ない★ 報いを今♪」

 

チ「Please, choose! HELL! or HELL?♪」

 

 うん。見事に笑わされた。あの最初の歌詞ってそんな風に使えるんだなー。汎用性高すぎ高杉君。あ、次は僕らの番だった。まずは照明を落として小泉だけに照らさせよう。

 

「こんばんは、夜の呪術高専!1sです。SUICIDEなんと、ガールズバンドパーティーに!スペシャルゲスト枠で出演決定です!うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 あ、このMCはお気になさらず。元のバンドがよくやってる口上らしいのでオマージュしたのよ。どっちかって言うとバンド練習じゃなくてこの口上の方に時間取ったよ。

 

「それでは、お聞きください。歌はもちろん!仮面ライダー!いてっ…。」

「はいどうもこんばんはぁぁぁ!!!」

 

 僕が小泉の頭をスリッパで叩いたところで由美がギターで力強いパワーコードを鳴らす。そう。皆さんご存知あの曲。ちなみにパートがどんなもんか貼っておくわね。

 

Vo.Raw

 

Cho.Max

 

Cho.1s

 

Gt.yu-min

 

Ba.NEO

 

Dr.asuna

 

DJ.CHU^2

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R・M・1「あんあんあん あんああんあん…♪」

 

R「AHサタディナイト♪」

 

R「こんばんはー!!今日は一生懸命歌う事ができまーすよろしくお願いしまーす!」

 

R「今日はウキウキ初デート♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「月収10万以下だけど♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「君にジュースを買ってあげる

時々暴力ふるうけど♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「たまにジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「食事は君が払いなよ!!」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「僕はジュースを買ってあげる

 

恋ってやっぱり ギブ&テイク

求めてばかりじゃ切ないね

 

だ・か・ら

君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Wow!Wow!)

 

R「僕のジュースを半分あげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君に たまに 僕のジュースを あげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「駅のホームで待ち合わせ♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「君のカバンを持ってあげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「座席は僕に譲りなよ!何座ってんだよ!」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「僕はカバンを持ってあげる

エレベーターに乗るときは

僕がボタンを押してあげる♪」

 

R「そのかわり、家賃とか光熱費は全部君が払ってよ!お願いしますよ!ごめんなさい!」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「僕がボタンを押してあげる

 

恋って当然 フィフティフィフティ

君に負担をかけないよ

 

だ・か・ら

君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Wow!Wow!)

 

R「僕のジュースを半分あげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君に たまに 僕のジュースを あげる♪」

 

R「さぁ、君にジュースを買ってあげられる時間が到来したんだよ!この中の誰か一人にジュースを買ってあげるね!んー、じゃあマスクをしてるそこの君!何が良い?コーラが良い?ファンタが良い?サスケが良い?女の子だったらぁ〜、ミルクティーが良いよねー!あはははっ!あっ、大丈夫大丈夫!こないだSuicaにいっぱいチャージしたから大丈夫!Suicaにいっぱ…。あれぇー?あれこれあれ…。これ、この自販機、これSuicaに対応してないじゃーんこれ…。……………。また今度ね!な!!」

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君にジュースを買ってあげる♪」

 

M・1(Wow!Wow!)

 

R「僕のジュースを半分あげる♪」

 

M・1(Yeah!Yeah!)

 

R「君に たまに 僕のジュースを あげる♪」

 

M・1(あんあんあん あんああんあん…♪)

 

R「Hey!」

 

R・M・1「あんあんあん あんああんあん…♪」

 

「감사합니다.」

 

 僕はそう言って一旦ステージから去っていった。ちなみにこのセリフの意味は調べれば出てくるから調べてね。あと何も隠さなくてもこの曲で僕かなり無理してる。無理していつもと違うキャラやって暴れ回ってる。

 さてと、二曲目も終わったからいよいよ最後の演奏になったわね。オーディエンスからのアンコールが一つの音のようにCiRCLE全体に響いてるあたり、相当上出来だったんじゃない?楽器隊の調整も済んだところでいよいよラスト。では登壇しましょ。

 

「皆さん、アンコールありがとうございます!次でホントのホントに最後の曲になってしまいますが、最後は皆さん一緒に歌いましょう!

 

 この曲はポピパの曲なんだけどライブの三日前にSUICIDEが一丸となってアレンジを加えた力作。評判の程は試してないからわからんけど。始めましょうか。

 

R「さあ、飛びだそう! 明日のドア ノックして解き放つ 無敵で最強のうた!

In the name of BanG_Dream!♪」

 

M・y・N・a・1・C(BanG_Dream!♪)

 

R「Yes! BanG_Dream!♪」

 

M・y・N・a・1・C(BanG_Dream!♪)

 

R「下を向いて歩いていても 星のかけら見つけたら

きっと♪」

 

y(きっと♪)

 

R「いつか♪」

 

a(いつか♪)

 

R・y・a「キミに会いにいけるね♪」

 

M「授業中の窓の向こうに♪」

 

C「雲の切れ間まぶしい♪」

 

M「きっと♪」

 

N(きっと♪)

 

C「もっと♪」

 

1(もっと♪)

 

M・N・1・C「晴れた空に会えるね♪」

 

R・C・M(↓)「SHINE!♪」

 

y「いつか出会える夢を信じて♪」

 

a「ときどきドキドキときめいてる♪」

 

1「ただ胸に秘めている♪」

 

N「あふれる思いを♪」

 

R・y・a「踏みだすキミを待ち続けてる♪」

 

M・N・1・C「ときどきドキドキときめいてる♪」

 

R「catch up!♪」

 

M・y・N・a・1・C 「my wish!♪」

 

R「jump out!♪」

 

M・y・N・a・1・C 「your wish!♪」

 

R「fly high! 勇気だして♪」

 

R・y・a・C・N(↓)・M(↓)・1(↓)「さあ、飛びだそう 明日のドア ノックして

解き放つ 無敵で最強のうたを!

キミだけの ホントの声きかせて

夢とキミが出会う メロディ♪

In the name of BanG_Dream!

Yes! BanG_Dream!♪」

 

香「上を向いて歩いてみたら あの夏を思いだす

きっと♪」

 

彩(きっと♪)

 

香「いつか♪」

 

ま(いつか♪)

 

香・彩・ま「キミと走りだせるね♪」

 

蘭「教室の机の上に♪」

 

こ「刻まれたキミの夢♪」

 

蘭「きっと♪」

 

友(きっと♪)

 

こ「ずっと♪」

 

レ(ずっと♪)

 

蘭・友・こ・レ「遠くて眩しいから♪」

 

香・こ・蘭(↓)「FINE!♪」

 

彩「交わした約束が呼んでいる♪」

 

ま「ドキドキステキにときめいてる♪」

 

蘭「驚かせてもいいかな?♪」

 

友「そろそろいいのかな?♪」

 

香・彩・ま「きらきら輝くキミを見てる♪」

 

蘭・友・こ・レ「ステキなドキドキがとまらない♪」

 

香「catch up!♪」

 

蘭・彩・友・こ・ま・レ「my wish!♪」

 

香「jump out!♪」

 

蘭・彩・友・こ・ま・レ 「your wish!♪」

 

香「fly high! 熱くなれる♪」

 

香・蘭・彩・友・こ・ま・レ「ねえ、飛びたとう 明日の空 めがけて

解き放つ 無敵に最高のうたを!

まっすぐに ホントの声きかせて

夢と歌を結ぶ メロディ♪

In the name of BanG_Dream!

Yes! BanG_Dream!♪」

 

香・彩・ま「今、夢を撃ち抜く瞬間に♪」

 

R・y・a「ドキドキときめくキミを見てる♪」

 

M・N・1・C「輝きとキラメキを♪」

 

蘭・友・こ・レ「その手に抱きしめ♪」

 

R・y・a・香・彩・ま「こんな日が来ること わかってた♪」

 

M・N・1・C・蘭・友・こ・レ「ドキドキときめくキミはいつか♪」

 

R・香「catch up!♪」

 

M・y・N・a・1・C・蘭・彩・友・こ・ま・レ 「my wish!♪」

 

R・香「jump out!♪」

 

M・y・N・a・1・C・蘭・彩・友・こ・ま・レ 「your wish!♪」

 

R・香「fly high! 強くなれる♪」

 

R・y・a・C・香・蘭・彩・友・こ・ま・レ ・N(↓)・M(↓)・1(↓)「さあ、飛びだそう 明日のドア ノックして

解き放つ 無敵で最強のうたを!

キミだけに ホントの声きかせたい

夢とキミを繋ぐ メロディ♪

In the name of BanG_Dream!

Yes! BanG_Dream!♪」

 

 観客席側から拍手喝采が飛び交い、ぬいぐるみが投げられる。スケートかよ。とりあえずWinnie the Poohは僕のね。

 

「香澄ー!」

「蘭ー!」

「彩ちゃーん!」

「友希那さん!」

「こころ!」

「ましろちゃーん!」

「レイヤ!!」

 

 するとステージの傍から何もせずじっと見ていた他のバンドメンバーのみんながいきなり抱きついてきた。びっくりしたので僕は避ける事にする。後はお若い皆さん方でやってくれって事で、僕はステージから去りまーす。

 

「ふう…。」

 

 僕はふと思いつきでそれまでかけていた色付きメガネを外した。これ人間の外見を移さなくする役割を持ってるって事は前々から話してたけど、何でその役割があるかっていうと僕自身が人を避けてきたから。信じてなかったから。嫌ってたから。色々理由はある。

 だからサングラスを外さないで心を開いた人間以外の人を見ると僕自身がパニックを起こすらしい。ピコから聞いた話なんだけどね。

 でも僕はあいつらを見ても何も異変を感じなかった。自分自身の変化に気づいた僕はようやく心の底から笑う事ができた。皆の理想像のRawとしてではなく、村上 太郎として。




次回最終章スタートです


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最終章
第38話「Maxのゴシップ」


実は最終話まで残り10話切ってる


 

 

 世間はもう冬ですよ皆様方。そう、僕だよ。Rawだよ!ちなみに秋は何してたかって言うと世界一周ツアー。今はそれが終わって帰国してから十日ぐらい。洗濯物やら部屋の掃除やらで追われてる毎日だよ。ついでに毎日華楽からはベタベタくっつかれてる。もはや娘を見てる感覚だよね。と言ってると携帯に着信が入った。誰が電話かけてるのかね…。若宮か。一応出ますか。

 

「はい。」

「もしもし、Rawさんですか?」

「僕の携帯だから僕だよね。で、どうした?」

「実は三日後にフィンランドから友達が来るのでサプライズをしたいなと思っているのですが、是非SUICIDEの皆さんに手伝っていただけないかなと…。友達がSUICIDEの大ファンなんです!」

 

 んー、どうしよっかなー。仕事じゃないから別にやらなくてもいい話なんだけど仕方ない。やりますか。

 

「条件付きでならいいよ。」

「ありがとうございます!」

 

 とりあえず僕にとって有利な条件は取り付けとく。世の中対価となり得る信頼があって初めて成り立つからね。てか若宮あいつ、一方的に電話切りやがった。まぁそれ以上話す事は何も無いから別にいいんだけど。

 

「お兄ちゃーん、お風呂沸いたよー。」

「はいはいただいまー。」

 

 けど僕はこの時まだ予想していなかった。ていうか想像もしていなかった。この若宮の計画が想像を絶するほど過酷なものだという事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、僕と音生と若宮は近くに川がある歩道の所まで来ていた。今日は雨が降っているということで、ただでさえ季節のせいで低い気温が一段と低くなってる。ちなみに傘を持ってる僕達の目の前には電車用の線路が橋の形で設置されている。今日はこの線路の下でビデオの撮影を行なっていくわけなのだが…。

 

「寒い!!!眠い!!!」

 

 さっき翌朝って言ったけど今午前五時なのよ。起きたの朝の四時。寒いよね。加えて今の僕の服装。顔はいつもパフォーマンスする時みたくメイクをしてるけど服装がさ、普通侍が着るような生地の薄い小袖と羽織袴なのよね。本当はヒートテック着てきたかったんだけど若宮からNG出された。

 

「てかさ、ビデオっつってもこれ何のビデオの撮影なのよ。いやそれよりも他はどうしたの?」

「小泉さんと由美はリサちゃんとますきちゃんと沙綾ちゃんとつぐみちゃんと同じ炊事担当で、赤沢さんとちゆが他の子達と一緒にパーティールームを製作してます。ちなみに明日奈さんは今日来れなかったそうです。」

 

 まだ説明してなかったっけ。今回若宮の友達の歓迎パーティーを開催するにあたってメンバーが分かれてて、炊事担当がパーティーに出すメニューの買い出し、考案、調理する。早すぎじゃないかって思われるかもだけど全員やったことのない料理に挑戦するみたいだから普通に一日じゃ習得できないそう。むしろ小泉という炊事担当に一番要らないというかいちゃいけない存在がいる事で余計に時間が足らないという状況が発生してる。あいつ料理は目玉焼きとかベーコン焼いたのぐらいしかやったことないって言ってたっけ。

 次にパーティールーム担当は文字通りパーティールームのの飾り付けと製作をやってるんだけど、これもやるにあたっね一日じゃ足らないそう。何せ飾り付けの小道具は一から手作り、市販のものを使うにしてもアレンジして使うという何とも面倒な係。けどファッションデザイナーの赤沢がいるからどんなデコレーションにするかがおおよそ決まってるらしい。後は小道具の作成と飾り付けだとか。ちなみにちゆの他には炊事班と撮影班以外のガールズバンドメンバーが赤沢と一緒に作業してくれてる。

 最後にこのビデオ撮影班なんだけど、カメラが若宮と桐ヶ谷、監督が音生、演出の考案が明日奈さん、その演出をもとに大和が編集する。その他にも美術スタッフに広町、音声担当に鳰原、照明担当に上原、サウンドクリエイターに奥沢、アシスタントに花園を迎えて撮影に挑む。実はビデオ担当は編集の都合もあるので今日一日で撮影を全て終わらせる必要がある。要するに時間足らない。あと、大和と奥沢は編集担当だから今回は外に出ずに作業を行う。

 

「もうすぐ撮影スタッフと合流します!」

「ああ、そう…。って音生?何これ?」

 

 不意に音生から何か被せられた。待って。これ誰の?疑問が浮かびすぎてそれ以上の情報が…。

 

「あ、これRawさん用のジャンパーです。撮影待ちに使ってください。」

「てめぇこれあるんなら最初から用意しろよこの野郎!!!」

 

 本当に扱いが酷いんだけど。主演だからああしろこうしろとは言わないけど流石にこれは扱いが酷すぎる。一旦抗議したい。

 

「おーい!Rawさーん!」

「あぁ、着いた…。てか近くじゃん…。」

 

 線路橋の下にいたよ。撮影スタッフ全員。わざわざこっちと集合場所別にしなくても良かったじゃん…。

 

「ビデオって言っても何やんの?MV?」

「はい、まず“(ほむら)”のMVを友達のために作りたいとイヴ先輩が仰ってました。」

「あー、列車のね。」

 

 広町が教えてくれたけど“炎”か。曲は鬼滅で服装はBLEACHて…。いや、BLEACHの方がまだ温かそうだった。てか本家の衣装全然違かったと思うんだけど。記憶違いじゃないよね?あと待って。まずって言ってたけど他にもMV作るの?

 

「はい、じゃあ今から最後のシーンの撮影入りまーす。」

「今から!?」

 

 待って。もう嫌な予感しかしないんだけど。君島組大丈夫?こんな奴を監督にして大丈夫なの?阿鼻叫喚なんだけど。

 

「じゃあRawさん、このスケボーに乗ってねー!」

「え?」

 

 ちょ待てよ。何で侍がスケボーに乗るわけ?そこは普通馬でしょ。多分もクソもないけど公道じゃ無理だね。

 

「私有地の中でやればいいじゃん。それこそ瀬田なら良いところ紹介してもらえそうだし。」

「撮影のアポ取れませんでした!いや、取ってませんでした!それに時間がありません!」

 

 うん、若宮君。正直でよろしい。その潔さに免じて拳骨一発で許してあげるね。これぐらいは許容範囲よね。

 

「うーん…。本当は朝日をバックに撮影したいんだけど…。CGでどうにかならないかな?」

「ざけんな。」

 

 CGの制作費ってってどんだけ金かかるかわかる?あれ十秒くらいのシーンでも十万の桁はいくぞ。

 

「はぁ、仕方ない。とりあえず時間も無いからさっさと撮影しましょ。うぅ…寒…。」

 

 僕は花園にジャンパーを渡し、桐ヶ谷からスケボーを受け取る。

 

「それではシーン一。よーい、アクション!」

 

 音生の指示で僕は地面を蹴ってスケボーを走らせる。このスケボー、四輪でよかった。二輪だったら確実に時間大幅に割いてた。

 

「はいカット!OKです!」

「あっ、そう…。」

 

 個人的には「どこが!?」とツッコみたくなるような出来だけど言ったら言ったで余計に時間取りそうなので言わないでおく。世の中言わなくていい事だってあるもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は近くのコテージを借りて撮影する。本当にこれで大丈夫なのかという不安はあるけどね。現場において監督の指示は絶対だから口にしないでおく。

 

「はい、次は最初のシーンの撮影をしたいと思います。」

「ああ、そう。」

 

 何かもうどうでも良くなってきた。ただ一つだけ言わせてもらいたい。今ならまだ間に合うからキャスト交代しろ。

 

「まずRawさん、目を閉じた状態で正座してもらって…。でその後立ち上がってこの刀で素振りの練習をしてください。」

「はーい。」

 

 もう使われ放題じゃん自分。主演なのに。何の罪に対する罰ですかこれ。

 

「それでは…。よーい、アクション!」

 

 カメラが回ってしまったので音生の言われた通りにする。タイミング、スピード、両方とも完璧だと思う。

 

「はい、カット!うん、OK!」

 

 はー、やっと終わった。これからまだまだあるもんね。あれって曲の時間何分ぐらいなんだろ。音楽番組でちょろっと聴いたことはあるけどフルで聞いたことはない。てかあっても記憶に無い。

 

「えーと、まず“炎”の撮影ワンクッションおいて…。次に二曲目の“もういちど ルミナス”の撮影をしたいと思います!」

「お前ふざけんな。」

 

 パスパレの曲なのは別にいいのよ。けど主演自分なのよ。何やられるかわかんないんだけど。まさかまた女装やれって言う気?あれやった後どんだけ過酷な目に遭ったかわからないだろあいつ。

 

「ただしRawさん一人だと心許ないんでイヴちゃんもMVに入ってもらいます!透子ちゃん、イヴちゃんの代わりにカメラマンを。」

「はい!」

「わかりましたー!」

「その言い方腹立つな。」

 

 カメラ担当二人用意したのはこれのためだったのね。じゃあ最初から若宮に全部やらせれば良かったじゃん。

 

「で、後の曲は何かあるの?またあるならもう懲り懲りだよ。」

「あります。最後の一曲はSUICIDEの“SHAKE”ですね。」

「選曲のセンスどうなってんだ。」

「イヴちゃんのお友達がカラオケでよく歌う歌をリストアップしたんですけど…。」

「選曲のセンスどうなってんだそいつ。」

 

 “SHAKE”ってわりかし年代古めなのよね。原曲わかる人いるのかな…。いると信じよう。てかいるはず。ちなみにSUICIDE版のイントロのプルーハーは僕のパート。

 

「じゃあイヴちゃんとRawさんは専用の衣装に着替えてください。」

「はい!Rawさん、共に頑張りましょう!一蓮托生です!」

「ふざけんな!!!僕はやるとは言ってねぇぞ!!!おい若宮連れてくな!!嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、若宮と僕はパスパレっぽい衣装で登場した。僕はそれに合わせてメイクを変えたんだけど、マジでこれだけはやりたくなかった…。とりま音生はパーティーが終わったら私刑執行。

 

「Rawさん可愛い…。」

「今だけなので写真撮らせてください!!」

「むむむ、これは広町さんも新境地を開拓しそう…。」

「おい、桐ヶ谷も広町も何言ってんだ。てか上原お前事後承諾すんな。」

 

 自分で言うのもなんだけど僕あまり鍛えてないのよね。かといって贅肉ついてるわけでもないし。どっちかって言ったら花園みたいにスレンダーな方なのよね。イヤリングとサングラス付けててもこれだから嫌になっちゃう。むしろこれがマイナス要素として機能してくれればどれほど良かったことか。

 

「じゃあまずは“もういちど ルミナス”のAメロ部分から撮っていこうと思います!」

「随分中途半端なところから撮るな…。まぁいいや。んで何すんの?」

「まずこのパーカー付きの白衣を着ていただいて外の方を歩いてもらっていいですか?」

「今着替える必要なかったじゃんよ!!!」

 

 いやこんなさ、ミニではないけどスカート履いてるの見られたら即死案件なんだけど。何で今着替えさせようとした?見えないじゃん全体像。今着替えなくてもよかったじゃん。

 

「一旦外出ましょうか。」

 

 僕達は音生の指示通り外に出る。外は雨こそ止んだものの雨雲が未だに空を覆っている。地面には雑草が生えており、快晴だったら良い遊び場になってたんだろうなと想像する。それはそうとこれ終わったら二度と君島組には参加しないからね。

 

「それでは。よーい、アクション!」

 

 僕は若宮のスピードに合わせてゆっくりと歩みを進める。当の若宮は髪をフードで隠している上に白色の布マスクをしているため誰が誰だかわからない。

 

「カット!OKです!」

 

 やっと終わってくれたか。このムービーの構想本当に大丈夫なの?やってる限りパスパレ感ゼロなんだけど。

 

「一回確認します?」

「大丈夫。正直完成したムービーも観たくないもん。」

 

 その後も何かよくわからないシーンを撮り続けられて遂にサビのパートを撮影するまでになった。ちなみにその後白衣は没収された。許すまじ君島 音生。

 

「今からサビの撮影なんですけど、Rawさんが手ぶらで歌ってイヴちゃんがショルキー持ってコーラスで参加してくださーい。」

「さっきから思ってたけどこれ完全にaccessじゃねぇか!!道理でパスパレ感ゼロだと思ったよ!」

 

 accessってみんな知ってるかな。今とは年代が大分かけ離れてるけど。誰がわかんだよ。つかターゲットはどこの層だよ。若宮の友達これ見せられてわかるのかね。

 

「パレオちゃん、俺が『よーい、アクション!』って言ったら“もういちど ルミナス”を流してね。たえちゃんはそれと同時に扇風機のスイッチを入れてね。」

「はい!イヴちゃんのためなら!」

「わかりました。やります!」

「それではいきまーす。よーい、アクション!」

 

 “もういちど ルミナス”のサビが流れ、僕はそれに乗せて口パクで歌う。けどそれと同時に扇風機の風が僕と若宮の上半身に直撃する。こんな真冬に扇風機付けてんじゃねぇよ。せめて暖房つけろ。

 

「はいカット!」

「寒い!!!」

 

 僕と若宮は揃って近くのストーブで暖を取る。今の季節冬だよ?夏じゃないのに扇風機付けられたらたまったもんじゃない。

 

「次にイントロから歌い出しまでを撮っていこうと思うんですがここはもうスケボーで。」

「スケボー好きだなお前!!!」

 

 もう嫌だ。こいつにツッコむの疲れた。後さ、誰だよ僕と若宮にアイスコーヒー渡した奴。気持ちはありがたいんだけど季節考えてほしかったよ。我お汁粉を欲す。一番は自販機で売ってある缶の。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「さ、寒いです…!」

 

 僕と若宮はアイドル衣装のまま外に出る。季節は冬。外は雨。このダブルコンボに見舞われたらどんだけ寒いかってのは想像つくよね。しかも袖が半袖だから超寒い。何も言えねぇ。

 

「それでは…。よーい、アクション!」

 

 とりあえず音生の言われた通りにやっておこう。スケボーで走ってるフリをしながら若宮と合流。ここはゆっくりでやらなきゃいけないらしい。最初の数秒はコマ撮りらしいから。

 

「カット!という事で“もういちど ルミナス”、埋まりました!」

「みんなお疲れ。」

 

 ようやく終わったー。あ、一応言っとくと埋まるって全カットの撮影が終わったって事ね。そこはわからない人もいるかもしれないから一応説明しとく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはDIY専門店、ワタシとMr.アカザワとトモエ ウダガワはここで必死にお立ち台を作る作業をしていた。このパーティーはイヴ ワカミヤが司会を進行するらしく、そのためにこのお立ち台を作る必要が出てきた。けれど思ってたより時間が無いわね…。一体誰よこの担当にしたのは!

 

「さてと、ペース上げてくぞ。」

「はい!」

「わかったわ。」

 

 他のメンバーが装飾やら炊事やら撮影やらでいないけど、もうちょっと人手をここに集中させた方が良かったんじゃないかしら?明らかに労力に対して人数が見合ってないわよ。

 

「そういやさ、ちゆ。お前村上のことどう思ってる?」

「どう思ってるって…。素直に言っても凄いとは思うわ。」

「本当はあいつの事好きなんじゃないの?」

「なっ!?」

 

 まったく…!何を言ってるのかしら…。そんな事あ、あるわけないじゃない…。

 

「え、そうなのか!?」

「違っ…!いや、違くはないと言うか…。」

「チュチュ焦りすぎてキャラがおかしくなってきてるぞ。」

 

 トモエ ウダガワにまでこんな事を言われるなんて…。ワタシとした事が一生の不覚だわ…。今度対バンでAfterglowをぶっ潰してやるんだから覚悟しておきなさい!

 

「否定は…しないわ。ただタロウがどんな決断をするか。それを待つだけよ。」

「あら、そう…。」

 

 こればかりは仕方がないもの。でも、負けはしない。いざ戦うとなったら絶対に勝つわ。今までもそうだったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今から“炎”の撮影に戻っていくわけなんですけど今度はサビ前までの撮影をしたいと思います。次は…。」

「ちょ待てよ。“炎”のMVなのに何でカレー作る必要があんの?」

「ちょっち何言ってるかわかりません。」

「何でわかんねぇんだよ。」

 

 また侍服に着替えた僕は再び“炎”の撮影をする事になってるけどさっきのやりとり見たらわかる通り今度はカレーを作るそう。いよいよもって方向性がわからなくなってきた。

 

「たしかに『ん?』ってなるかもしれないんですけどだからこそ世界観が輝くのであって…。」

「その『ん?』ってのは最初からずっとだよ!!!」

 

 今頃気づいたのかこいつ。自分の世界観がどんだけヤバいかをいい加減気づいたらどうなの?これいちいち説明しなきゃなんないこと?酒飲んでもないバージョンのこいつも面倒だな。

 

「まず包丁を顔の前まで持ってきて…。」

「待って。それ普通に危ないから。普通に作らせて。」

「はい…。」

 

 ようやく僕の威厳に萎縮したのか、僕の意見を聞いてくれるようになった。そんなこんなで普通にカレーを作って出来上がり。

 

「Rawさんはそれ後で食べてくださいね。撮りますから。」

「いただきまーす!」

「ん〜、おいひぃ〜!」

「お前らふざけんな。」

 

 撮影スタッフと主演の待遇の差酷すぎない?あいつらタダで食べてるようなもんじゃん。それにこの中で一番楽してる音生が色々と指示してんのがイライラする。

 そんでその後僕も自分の作ったカレーを食べた。百点満点中八十六点ってところだね。これじゃあまだ華楽を唸らせるようなものに仕上がってない。

 

「という事で“炎”オールアップです!」

「お疲れ様ー。」

 

 という事で次に撮影する曲は“SHAKE”。元ネタはあの国民的アイドルグループ。敢えて名前は出さないでおく。

 

「次の曲なんですけど、場所変えて撮るんですよ。」

「それってロケ場所変えて撮るって事ですか?」

「そうそう。」

 

 桐ヶ谷の質問に音生が答える。思ったけど桐ヶ谷ってコミュ力高いよね。その点は尊敬できる。

 

「じゃあ移動しましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…。」

「ここは…!ハンネが大好きなお店ですね!」

 

 どこかと思ったら天麩羅屋さんじゃねぇか。怒られない?てか変質者扱いされない?そんでいつも通りのメイクをしてもらったよ。こっちの方がしっくりくるけど絶対肌荒れる。今日一日で何回メイクして落としてまたメイクしてを繰り返したよ。

 

「何ですかこの怖そうな店は…。」

「は?」

 

 何言ってんだ花園。漢字読めないのか。天麩羅だぞ天麩羅。蕎麦とか饂飩とかに入ってるあの。あと天丼の上にも乗ってるよね。タレをたっぷりとかけた白いご飯の上に。天丼食べたくなってきた。帰ったら天丼パーティーだね。

 

「別の意味で言ったらお前も天麩羅だけどな…。」

「どういう事ですか?」

 

 放っておこう。もはやそれしかない。夢の花園ランドにはこれ以上付き合ってられない。アシスタントなのにえらく前に出るよね花園。存在感というか。もう花園の扱いは固定してるよ。

 

「じゃあここでイヴちゃんもサプライズ出演してもらって…。後は他のメンバーに出演交渉するだけだね。」

 

 音生がテレビ電話形式でSUICIDEのグループチャットでグループ通話を行う。するとビデオ通話にした瞬間、とんでもない光景が見えた。

 

「ちょっと小泉先輩!何やってるんですか!あーあーあーあー!もう代わってください!!電話ですよ!!」

「もしもしー?あ、ちょっと巴手止めてもらっていい?」

 

 うん。チラッと見えてたけど小泉明らかに暴走してたよね。調理場に立つとあそこまで使えなくなるのは驚きだよ。

 

「音生、ちょっと貸して。赤沢、小泉。今僕達MVの撮影やってるんだけどさ。ちゆと由美と一緒に踊ってくんない?最後の曲全員で出演するって事になってるから。あとスピーカーオンにしてもらっていい?」

 

 赤沢と小泉は僕に言われた通り、携帯のスピーカーをオンにしてその場にいる全員に聞こえるようにする。一応僕もやっとこうかな。

 

「炊事担当は撮影中小泉と由美いなくなるけど人数増やしたり減らしたりせずそのままで進めていって。装飾担当、ってか宇田川姉は赤沢とちゆの代わりに和奏と朝日と氷川姉妹を連れてきて。」

 

 僕は赤沢サイドと小泉サイドからの承諾を貰えたところで通話を終わらせた。さてと、ビデオ撮影で何をやるかはグループLINEで送った事だし待ちますか。あ、そうだ。ちょっと伝えたい事あったから言っておこうかね。別の方に。

 

「もしもしー。」

「はい、もしもし。」

「あのさ、今から編集してもらう事ってできる?」

「はい、今日はこの後何も予定が無いのでそのまま家に帰るだけです!」

「あー、良かった。じゃあさ、今撮ったビデオ二曲を編集してもらいたいの。“炎”と“もういちど ルミナス”。今どこにいるか教えてもらったらデータ持ってそっちに行くわ。」

「わかりました!ちょっと待ってくださいね。えーと…。」

 

 お察しの通り電話の相手は大和。場所は教えてもらった。ここからだと近い方だね。全速力で行きますか。

 

「OKわかった。じゃねー。あ、桐ヶ谷。さっき撮ったビデオのデータ渡してくんない?大和の所へ持ってくよ。」

「おっ、了解しましたー!」

 

 僕は電話を切ると桐ヶ谷に頼んでデータを貰って急いで大和の方へと向かった。行ってみて一言。往復ってのも楽じゃないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日後、ついに若宮の友達を出迎えるパーティーをする事となった。けど僕達SUICIDEはまだまだ出番が後になるけど先に家に入ってなきゃいけないからちょっと早めに家を出ようか。

 

「さてと、ジュース買ってこうかな…。ん?」

 

 すると僕は見覚えのある天パのシルエットを見かけた。間違いない。あれは赤沢だ。あんな目立つ髪型してる奴は他にいない。何してんだろ…。

 

「え…?」

 

 最初見た時は本当にびっくりしたよ。声を殺した自分を褒めたいぐらい。何を見たかって言うと、赤沢が知らない女の子とキスしてた。誰かはわからん。見た目を見てないから。

 

「まぁ…。いいか。」

 

 何か引っかかるところはあるけどいいや。とりあえず目的地へとレッツゴー。ちなみにそんな早く行って何をするのかというとリハーサル。ちゃんとビデオが流れるかとか。それを我々SUICIDE組が二階で最終チェックを行うってわけ。とかなんとか言ってる間に着きましたー。わーい。

 

「SUICIDE全員揃った?」

「赤沢さんがまだです。」

 

 あぁ…。やっぱり来てないのね。まぁあのシーンを見たらちょっと複雑な気持ちになるわね。自分的には。

 

「うぃっすー。」

「おー、赤沢お疲れ。」

 

 ここは敢えて無難な対応で何も知らないフリを突き通す。それが一番。下手に見たものを話して事を大袈裟にしちゃ悪いからね。

 

「パーティーはいつから始まる?」

「あと五分後ですね。」

 

 僕からしたらあんなビデオで喜んでくれるかどうかが疑問だけどね。それに炊事担当も炊事担当で危ういし…。装飾担当は人手多かったし大丈夫っしょ。

 

「来た来た!イヴちゃんとお友達かな?」

「っ!?」

 

 危ねぇ…。また声出そうになった…。この子あれじゃん!さっき赤沢とキスしてた子じゃん!そんな事ある?てかリハーサルできなかったな。残念。

 

「おっ、パーティー始まりましたよ!」

 

 まずは乾杯の儀だね。ちなみに只今の時刻はお昼過ぎ。みんなが炊事担当の人たちが作った美味しい料理を食べてる最中、僕達はコンビニ弁当。ちなみにちゆはあっち側だから現在六人でコンビニ弁当食べてます。待遇の差が酷すぎる。ぴえん。

 その次は隠し芸大会かな?それぞれが隠し芸を披露してるみたいね。花園の兎のモノマネはもう見飽きたからスキップ。

 

「あ、MVの鑑賞会ですよ!まずは“もういちど ルミナス”の…。」

「やめろ見たくない。」

 

 マジであれは黒歴史。誰が何を言おうと絶対見ないし肯定したくない。もうここにずっと隠れてるわ。

 

「この子誰?」

「ちょー可愛い…!」

 

 あー。あー。聞こえない。全然聞こえない。やめろ。やめてくれ。黒歴史を掘り起こさないでくれ。

 

「Rawさん良かったじゃないですか。褒められてますよ。」

「見たくないもんは見たくないんだ。」

 

 あれを見させようとするこの人達の神経よね。僕は涙してるよ。心の中で。

 

「ローくん、ビデオ終わったよー。」

「はいはい。」

 

 ビデオが終わったということで、最後はSUICIDEの六人がサプライズ登場するという流れになったわね。じゃあ一階に参りましょうか。

 

「今日は来てくれてありがとうございます、ハンネさん!今回日本に来てくれたハンネさんのためにサプライズゲストが来てくれています!どうぞ!!」

 

 二葉の進行を合図についに我々SUICIDE六人が若宮の友達の前に登場する。本人は驚きの表情。

 

「あっ、初めまして!イヴの友達のハンネと申します。」

 

 へぇ、アンタもハンネって言うんだ?ごめんなさいちょっとふざけてしまいました。これ一回やってみたかったの。自分はハンネじゃないけどね。

 

「ハンネちゃん、今日は楽しんでもらえたかな?」

「はい!皆さんのおかげで素敵な一日になりました!」

 

 由美の質問にハンネちゃんが答える。楽しんでもらえたなら何より。こっちも身体張って準備した甲斐があったってもんだわ。良かった良かった。

 

「あの…!あの!」

 

 すると突然赤沢が声を震わせて手を上げた。あの光景を見ちゃったからこれからあいつが何を言うかは想像できる。だから驚く必要も無い。

 

「ハンネ!来年、俺と結婚しましょう!」

「えぇ!?」

 

 ほらやっぱり。後はハンネちゃんの返事を待つだけだね。あんな事してたら返事は予測できるけど。

 

「はいっ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!おめでとう!!!!!」

 

 プロポーズのオッケー、いただきました。おめでとう。おめでとう。おめでとう。来年の結婚式は行けないけど二人の将来の幸せを祈ろう。赤沢は子供欲しいって言ってたからね。どんな家庭になるのか楽しみだね。

 

「それじゃあみんな、二人の未来を祝して!」

「かんぱーい!」

 

 こうして若宮の友達を出迎えるパーティーは幕を閉じた。てか夜ご飯どうしよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ってから僕は活動休止前最後のシングルを出すことにした。タイトルは秘密。レコーディングもバッチリだから後は発売するだけ。それで何もやる事が無くなったかと言われればそうではないけどね。だってSUICIDE活動休止前最後のライブがあるもん。そこにも力を入れなきゃ。

 

「あー、やる事たくさん。まぁ全部自分がやりたくてやってることなんだけどね。ん…?」

 

 階段を降りながらぼやいていた僕の眼前に華楽がテーブルに突っ伏して寝ている光景が映った。何をしてたのかはわからないけど多分高校のお勉強でしょ。

 

「よっと…。」

 

 まったくもう、こんな所で寝てたら風邪引くよ。朝五時から雨が降ってる冬場で薄着の侍の服装着てた僕が言うんだから間違いない。改めて思い返してみると罰ゲームか何かだと思うわ。

 

「さてと、これで完了っと。お休み。」

 

 華楽とお話できなかったのは残念だけど明日は一緒に付き添うかね。うん、それが一番いい。あと赤沢とハンネちゃんにあげるお菓子も買おっかな。でもそれはまた明日かな。




最終章を投稿したという事でTwitterでとあるお知らせを掲載しております

詳しくはこちらから
↓↓↓
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第39話「天才と天災」

これと最終回含めてあと5話で大ガ変終わります
是非最後までお付き合いくださいませ


 

 

「三人とも、何故今日遅刻したのか説明してください。」

 

 はい、只今僕は神城から怒られています。理由は単純。遅刻したから。だって仕方ないじゃん!道に迷ってる子供を目的地まで案内したんだから!

 

「貴方は?」

「電車が遅れて予定していた到着時刻に着かなかったので遅刻しました。」

「よし。」

 

 いや「よし」じゃねぇよ。ていうかあいつもあいつだよ。遅れたなら遅延証明書出せ。リアルで嘘なんていくらでもつけるぞ。

 

「貴方は?」

「寝坊しました。」

「よし。」

 

 だから「よし」じゃねぇって!何で寝坊したのをオッケーにすんの!?普通にダメでしょ!怒られてもおかしくないぞ!

 

「Rawさんは何故遅刻してきたのかしら?」

「道に迷ってる子供がいたからその子を目的地まで連れて…。ゔっ!?」

 

 いった!!!ビンタされたんだけど!!普通に逆パワハラじゃん!!監視カメラ見てた!?見てたよね今の横暴!!

 

「いや待ってよ!!何すんの!?」

「当然の結果です。」

「当然の結果も何も人助けしただけなんだけど…!うぐっ!」

「ついてきてください。」

 

 ちょっと待って!服引っ張らないで!服が伸びる!!やめて!!HA☆NA☆SE!!!やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい…。」

「よしよし。」

 

 家の中でノンアルコールビールを飲んで嘆いてるよ。そんで華楽から頭撫でられてる。みんな最近自分の扱い雑すぎない?ストライキ起こすよ?このssから降りるよ?

 いやぁさぁ、こうやってさぁ、困ってる人を助けたって正直に言ったらビンタされるわけでしょ?僕これもう逆パワハラだと思うんだよねぇ。ていうか実際逆パワハラなんだけど。

 

「一回みんな僕の扱い考え直した方いいよ。本当に。何を思ってるんだろ。」

「…。」

「華楽?」

「あっ、ごめんごめん!にしてもお兄ちゃん、何だかあいらしか〜。このままずっと一緒にいれないかな…。」

「ん?」

「あぁ、いやいや!なんでもなかよ!」

 

 変ね。みんなしてなんか急にソワソワし出すんだもの。心当たりはあるっちゃあるけど。それを僕がどうするか否かだよね。答えが出なくて悩んでるのは事実。

 

「そう言えばねお兄ちゃん、お母さんから聞いたんやけど私達に再従姉妹がいるんやって。」

「えー、そうなの?」

「うん、ましろちゃんなんよ。」

「ふーん…。え!?」

 

 ちょ待てよ。サラッと流しかけたけどスルーできない事実じゃない?何でこんな終盤になるまで教えてくんなかったのさ。

 

「言っとくけど、ホントやけんね。」

「あっ、はい…。」

 

 そんな事教えられても僕にどうしろって言うんだ…。この後の展開なんて何も無いと思うんだけど…。と思ってたら携帯が鳴った。電話だね。相手は…。由美か。

 

「はい?」

「もしもし。あのお話したい事があるんで近くのカフェで待ち合わせません?」

「…うん、いいけど。何かあったの?」

「そこは後で話します。」

 

 何だよ。由美の奴。今教えてくれてもいいじゃん。まぁいっか。とりあえず近くのカフェっつったらあそこだから行ってきますか。言っとくけど羽沢珈琲店ではないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いなぁ。」

 

 唐突だけど女子の「ごめん、待った?」って予定の集合時刻から何分後ぐらいがベストだと思う?大抵十五分じゃない?僕さ、一時間以上待たされてんの。これもうストレス溜まるよね。

 

「すみません遅くなりましたー!」

「ナメてんの?」

 

 僕年上なんだよね。いくら異性とは言え後輩だしここまで待った僕の寛容さを誰か褒めてよ。これで色々不遇な目に遭うんだからね?間違っても「Rawになりたい」とか思わない方がいいよ?

 

「で、用件の方をまだ聞いてなかったけど何?」

「私をRawさんのレーベルに所属させてください!」

 

 おいおい。それかいな。んー、そうしてあげたいのは山々なんだけどねぇ…。色々と問題ってのもあるからねぇ。前に大学卒業したらやりたい事が何か聞いたけど、そのまま音楽の世界に身を投じるわけね。まぁあとちょっとで僕いなくなるわけなんだけど。

 

「流石にコネで所属させられはしないよ。他から見て所属させようとしても納得してもらえる形を示さないと。」

「とは言っても具体的に何をしたら…。」

「試しにこれに出てみては?」

 

 そう言って僕が出した画面に映っていたのはギターの公式コンテスト。ってかコンクール。どうやら有名なギターメーカーが主催するようで、今も出場者を応募しているみたい。

 

「エントリーの締切いつですか?」

「んー、二日後かな。コンクールは来週。これで入賞できたらうちのとこに所属させよう。」

「ホントですか!?じゃあ精一杯頑張りますね!」

 

 こうして由美の怒涛のギター猛練習の日々が始まった。ちゃんとうちのところも手伝ってほしいけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日目。この日僕は地方にロケをしに行くため現在進行形で新幹線に乗ってるわけなんだけど、由美の練習の様子が動画サイトにアップされてる。アップされてるってのは語弊があったかな。正しくは生配信。これを毎日やるわけだからすごいよね。たしかあいつ一人暮らしだったはずだから親が呼ばれるような事態もないはず。あ、インターホンはあるか。

 ってよく見てみたけどここ練習スタジオじゃん。それも白鷺御用達の。ここなら思いっきりアンプの音鳴らせるから問題無いね。

 ちなみにこのコンクール、予選があるんだけどあの由美だからね。当たり前の如く受かったそう。

 

「ふぅ、もうちょっと音の繋ぎをクリアにしてみよっかな…。」

 

 由美も奮闘してるね。今弾いてるストラトのギター、かなり鉄っぽい音が鳴ってるね。レタスの歯ごたえみたくシャキシャキしてる。歪みもちょうどいい設定にしてあるからギターとアンプ本来の音色を壊さずにいる。

 ちなみに今回、ギターの技術だけじゃなくてギターの音作りも評価されるわけだから下手にエフェクター選んだら命取り。

 

「どう?」

 

 コメント欄には最高とかyu-minしか勝たんとかそんな感じのコメントが多数寄せられた。確かに由美は着実にレベルアップしてる。けど何かが足らんのよね。わかる?赤沢の方が技量的には由美よりレベル低いんだけど、赤沢と比べると由美には何かが足らない。元々比べる事じゃないんだけどね。

 あと僕この配信イヤホンで聴いてるから音漏れの心配無いのよね。よって何も迷惑かけてる事はない。

 

「見てくれたみんな、ありがとねー!明日も配信するよ!」

 

 明日は確か仕事が休みだったかな…。さすがに地方を跨いでの移動は疲れるからバンド練習は休ませてもらおうかな。それはそれとして、まずは仕事頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目。今日も今日とて由美の配信を観てる。コンクールの提案したのは僕なんだから僕にもその責任はある。しっかりと見届けないと。

 

「じゃあ、行きますー。」

「おぉ、頑張れ!」

 

 後ろでは赤沢が応援してる。あっ、そうだった。今日はバンド練習だったけど僕休んだんだった。埋め合わせはしっかりしておかないとね。ネットと頭を駆使して。

 とか何とか心の中で呟いてたらギターの音が鳴った。何とも言えない不思議な音色だけどどこか幻想的でいて美しい。空間系はおそらくリバーブを使ってる。それでいて歪みはほとんどかかってない。多分これバラード曲だね。由美はあらゆるジャンルの楽曲を幅広くこなせるオールラウンダーだからこのくらいはできて当然だけど。

 

「あとは…。この曲も練習しておこっかな。」

 

 次の曲は軽い歪みがかかったギターのソロから始まった。その後はコンプで音が整えられたカッティングでコードを弾いてる。もしかしなくてもこれはジャズ調。ギターの音色がグルーブにマッチしてる。

 

「どれ、僕もコメントしてみるか。」

 

 僕はノートパソコンのキーボードをカタカタと鳴らし、コメントを送信する。特に何の変哲も無いただの絵文字よ。拍手してるだけの絵文字。ぶっちゃけ言うとこれ以外に何送ればいいかわかんなかった…。

 

「あっ、Rawさん!コメントありがとうございますー!」

 

 コメントが由美に届いたみたいね。まぁ当然っちゃ当然か。これで由美からブロックされてたら僕泣いてた。だって何もしてないんだもん。トトロいたもん。

 

「あー、先輩も!コメントありがとうございます!」

 

 なんだよ。小泉も観てたのか。「頑張れ」だって。あいつらしいね。明日も練習はあるみたいだから明日こそは参加しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日目。この日は由美をはじめ、小泉と音生とちゆと一緒にバンド練習に励んでいた。とは言え明日奈さんがいないからいまいち迫力に欠けるけど。

 

「配信やるんでちょっと静かにしててくださいねー。」

「オッケー。」

 

 小泉達は足早にスタジオから去り、数秒遅れて僕もスタジオを後にする。昨日どんな感じかわかんなかったからちょっと遅れたよ。

 

「ほっといて大丈夫なの?」

「心配要らないですよ。だってあの由美ですから。」

 

 僕が三人に声をかけると音生がそう答えた。ちっ、音生のくせに妙に説得力ある事言うな。でもそれがあいつがあいつである所以なんだけどね。いや、多分音生自身じゃなくて「由美だから」っていうワードがそうさせてんだろうな。

 

「それに、今の由美は練習の鬼だしな。迂闊には近づけない。」

「それね。」

 

 確かに配信観てた時、由美のギター弾いてる表情何度か見たけど必死そのものだったよ。てか配信も時間が長すぎるのよ。某ピアニストレベルとは言わないけど。普通に華楽と昼ご飯食べてその後また動画サイト開いたらまだやってたんだもん。僕だったら無理よ。

 

「いくら入賞するための練習とは言え、今のMs.サカタは焦りすぎだわ。あれはいつ壊れてもおかしくない状態よ。昨日ワタシが止めようとしたけれど、無理だったわ。」

 

 まぁそりゃそうだわな。ここに来て体調崩すなんて事、由美はしないようにしてるはずだからそれは無いと思いたいけど。

 

「だから邪魔するくらいならせめて見守っててあげようって事になったんだ。」

 

 んー、気持ちはわからなくはない。けどそれ根本的な解決に至ってないのよね。こいつらがこのままでいいって言うなら自分は何も言わないけど。

 

「悪いけど、一旦ここからは距離を置かせてもらうよ。僕は僕なりにやりたいことをやる。」

「え?ちょっと、おい!」

 

 僕はその後、練習スタジオに置いてあった荷物をまとめて帰った。んー、何て言うか実際の様子を目の当たりにしてみると全員馬鹿げてるね。もはやテンプレよねこういうの。明日ちょっと個人的に由美に会いに行きますか。電話でも良いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四日目の朝。僕は由美に電話をかけた。多分出ないかもしれないけど。今ならまだ間に合うかもしれない。そんな可能性に縋ってる僕も馬鹿げてる。案外そんなものなのかもね。

 

「もしもし?」

「僕だ。今日でもいい。これ以上長ったらしい配信はしない方がいいよ。」

 

 由美の練習量は絶大。どんなに時間が無い日でも必ず十時間以上はギターを弾き上げる。昨日のアーカイブの時間数なんて半日以上だったからね。

 

「お断りです!私、観たんです。これまでのコンクールの優勝者の動画。どれも凄くて、私じゃまだまだだからもっとレベルを上げないと…!だからごめんなさい!」

「気持ちはわかる。けどさ、何もギター触ることだけが練習じゃ…。チッ、切られた。」

 

 由美の奴、通話を切りやがって。本当に人の話聞くのが苦手だなあいつは。何をやってんだか。とりあえずご飯食べたら冷やかし程度に配信観ますか。

 と言って数時間後、ちゃんと観てるよ配信。今機材の準備中みたいでいつも通りあいつの動画で使われてるサムネイルが画面に映し出されてる。

 

「今日も配信していくよー!」

 

 今のあいつを見てて痛々しい部分はあるけどそこには目を瞑らなきゃいけないのかね。そういう優しさもあるのかな。

 なんて思って聴いてみたらすっごい酷かった。なんかもう音と曲の歯車が合ってなさすぎて違和感がある。それに今まで出来てた技術も今日は下手になってるし全体的に曲のテンポに乗っかれてない。一体どうしたってんだ。

 

「お兄ちゃんどうしたん?あっ!今日もyu-minさんだけ観てる!」

「いや違うのよちょっと話聞いてもろて。」

 

 変な誤解が生まれる前に僕は一連の流れを全部華楽に話した。もちろん僕が由美に対して抱いてる違和感も込みで。華楽いい子だからすぐ理解してくれたよ。

 

「うーん、それはスランプたい。」

「やっぱりね。」

 

 ここにきてスランプか。それは厳しいね。だってコンクールまであと三日だもん。それまでにどうやってスランプを解決できるのかがカギだよね。

 

「で、どうするん?」

「しばらく様子見する。」

 

 スランプに突っ込むとそこから抜け出すのは難しいからね。あとは本人の行動次第だけどね。僕もやる事はやりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由美がスランプに抜け出せないままとうとうコンクールの前日にまで日が経ってしまったということで、今回はこちらにお邪魔しております。市ヶ谷家の蔵の地下。防音設備もバッチリな優良物件。

 

「で、話って何ですか?」

 

 山吹が僕に質問する。そういえば今僕はこの五人の演奏を聴いてただけで用件は何も話してなかったね。口を開きますか。

 

「みんなってさ、スランプになったことある?由美が二日前にスランプに陥ってそっから今日までずっと直ってないんだけど。」

 

 五人は一様に考える人さながらのポーズをとって考えてる。ってか視線が上向いてるよね。今共感覚で見てるけど悩みの色は一切出てない。となると、多分過去の何かしらの出来事を思い出してるのでは?

 

「私達も似たような経験あります!SPACEのオーディションの時に私、声が出なくなっちゃって…。」

 

 戸山が答えてくれた。由美の現状と似てるわね。どっちも大事なイベントの前にスランプになったって点が。となると、解決法もそれに似たような事をすれば上手くいくんじゃ…?

 

「その後はどうなったの?」

「私達四人がサビ以外の歌のパートを分けたんです。自分がいる場所、そして周りがどう見えてるか。大事なのはそこだと思います。」

 

 周りがどう見えてるか…。そうか、そこか!よくわかった。これまで僕が感じてた想いにようやく気づけた。

 

「ありがとう市ヶ谷!それと他の四人もありがとう!行ってくる!!」

 

 僕はそう言って蔵から飛び出した。余談なんだけど市ヶ谷のとこの蔵にさ、使い古した箪笥が置いてあるのよ。そこに左手ぶつけた。痛い。痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。はぁ…。」

「遅いですよRawさん!」

 

 走ってスタジオまで来たけどセーフ寄りのアウト、つまりアウトで音生に怒られた。何なら開き直って歩いてくるんだった。え?全速力で走ればすぐ着くだろって?そんな事したら身バレに繋がりかねないし即座にネットニュースになるわ。

 

「練習の前に話しておきたい事あるわ。ちょっとホワイトボードとペン持ってくる。」

「え?おい村上!」

 

 他のメンバーの呼び止めを聞かずにホワイトボードとペンを持ってきた僕はその場にいた全員を用意していた椅子に座らせた。

 

「時に由美、お前は何を目指してる?」

「それはもちろん、コンクール金賞だけです!」

「そのせいで大事なものまで見落としてるんじゃない?」

「え?」

「とりあえず由美と明日奈さん、立って。」

 

 僕は由美と明日奈さんに立ってもらい、お互い真正面に向き合うように指示した。ここまでやっても全員首を傾げてるね。

 

「由美、明日奈さんに近づいて。」

「は、はい…。」

「おぉ、近い近い。」

 

 もはや二人の距離三十センチも無いね。てか十センチも無いと思う。定規ここには無いからわからんけど。

 

「由美、明日奈さんは見える?」

「はい、見えます。」

「よく見える?」

「よく…?いえ、ぼんやりとしか…。」

 

 僕はボードに由美のイラストを描いた。イラストと言っても丸の中に由美の由の字を入れただけのものだけど。で、その隣に金の文字が入った丸を並べて…。と、よし出来上がり。

 

「これが今の由美の状態。人ってさ、大事なものを得ようとそこに向かって近づくわけだけど近づきすぎるとよくわからなくなるわけ。つまり、適切な距離感を持つことが大事なんだよ。逆に近づけば近づくほど周りも自分も、挙げ句の果てには近づこうとしてるモノすらも見えなくなる。手を伸ばせば届くぐらいの距離感で、いいんじゃないの?」

 

 ここでようやく全員納得してくれた。ようやくだよ!本当だったら途中の段階で理解してくれてもおかしくなかったんだよ!

 

「Rawさん…。ここからどうするかは由美次第。自分の行動と気持ち次第で現状は打破できるからね。」

 

 僕はそう言って一人で勝手に練習の準備を始めていた。何が言いたいかって、由美。応援してるよ。ってことだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、いよいよ始まったね。ギターのコンクール。今回は中々の強豪が揃ってると聞くね。だからこそ由美には負けてほしくない。あ、そうそう。由美昨日スランプから脱せたよ。やっぱりセッションって大事だね。まぁ僕は例の如く“共鳴”使えなかったけど。

 

「いよいよ始まるわね…。」

「うん。」

 

 このコンクールの形式はエントリーした選手達が自分達で用意した曲を弾いてそれを審査員が審査するという形になってる。その後、残った上位三名で決勝戦を行うという形。

 そんでいよいよもってコンクールの幕開けというわけだが…。僕らも由美の武運を祈ってる。

 

「エントリーナンバー一番、瀬良 幸仁。」

 

 はっ!?あいつ…!マジで何しに来たんだよ!!!ここにきて本当に厄介な奴が出てきたな…。これは一筋縄ではいかないね。しかも上手いし。前よりレベル上がってらぁ。

 

「まさかの瀬良か…。」

「これは難しいよねぇ…。」

 

 小泉と明日奈さんでも悩ましげな表情をしてる。これはかなり厳しい戦いになりそう。あ、その後の人達は別にそんなでもなかった。

 

「エントリーナンバー七番、坂田 由美。」

「きた!!」

 

 ようやくきました我らが由美。頑張って瀬良を越えてやれ。あいつの点数九十六点だったからいけるはず。

 うん、良い。今までで一番良い。これならいけるはず…。

 

「由美ちゃん良かったよー!」

「ブラボー!」

「It's awesome!」

 

 僕の近くの席の奴らが騒がしい&やかましいのはほっといてと、点数は如何程に…。

 

「九十五点!?」

「惜しい…。」

 

 瀬良に一点差で負けた…。これで暫定二位か。でもまだ決勝戦がある。そこで挽回できれば無問題。ここも後の子達はトップスリーに入れなかった。

 

「エントリーナンバー十三番、朝日 六花。」

「え!?」

 

 マジかよ…。ここにきて朝日か。朝日も朝日で強敵だからなぁ。それに問題はちゆがどっちを応援したらいいかわからない状態に陥ってるという事だけど、お前それ前から知ってただろ。

 

「上手いねぇ。」

「そうね。」

 

 朝日も朝日で上手くなってる。何をどれほど練習したらここまで強くなれるんだよ…。やっぱ侮れないもんだね。

 その後、朝日の記録が出た。記録は瀬良とタイの九十六点。決勝戦は由美、瀬良、朝日の三人の対決となった。辛くも決勝戦に駒を進める事ができたけどこっからだぞ。勝負は。

 

「ひとまず決勝戦には行けましたね。」

「ここからますます厳しくなるな。」

 

 赤沢の言う通り。由美は決勝戦のためにパワーのある曲で勝負する気だろうけどそれは朝日も瀬良も同じ。

 

「まずはエントリーナンバー一番、瀬良 幸仁。」

 

 なるほどね。点数高い順から演奏していくわけね。タイの場合はエントリーナンバーの数字が若い方からってことか。

 瀬良はバラードか。美しい中にもかなりの上等な技術を入れてきてる。激しさと美しさを合体させた感じだな。

 

「続いてエントリーナンバー十三番、朝日 六花。」

 

 朝日はゴリゴリのロックだな。ロック、っていうかRASでやってるようなダンスミュージックがベースとなったロック。これはちゆも大歓喜。

 

「良かったじゃん、ちゆちゃん。」

「そ、そうね…。」

 

 悟られまいと顔逸らしてるけど耳まで赤いから赤面してんのバレバレだよ、ちゆ。さてと、最後はいよいようちのギタリストだね。

 

「最後はエントリーナンバー七番、坂田 由美。」

 

 とうとうきたよ。決勝戦最後の演奏。大トリだけど果たしてどんな曲調で演奏するのやら…。

 

「んー?これは…。」

「なるほど。」

 

 他の五人は何が何だかよくわからないと感じてるけど僕はわかった。ちなみにこれはマウントじゃないよ。

 これは多分いくつかのクラシックの曲をサンプリングしたんだろうね。テクニックはさることながら楽曲の展開が目まぐるしく変わるから次の音がイマイチ読み取れない。けど全員が懐かしさを感じているのか一体感が生まれてる。

 

「ナイス!!」

「良かったよー!!!」

 

 確かに良かった。由美の真骨頂を見たような気がする。多分。確信は無いけど。それはおいといて…。決勝戦が終わったということでいよいよ結果発表の時間だね。ある程度時間も経った事だしいよいよ発表されるのでは。

 

「それでは、第三十六回ギターコンクール優勝者は!!」

 

 頼む。きてくれ。由美きてくれ。あいつの名前呼んでくれ。頼んますよ審査員。これで名前呼ばなかったらわかってるよね?

 

「エントリーナンバー七番、坂田 由美!」

 

 よしきた!!!金賞おめでとう!!!今までよく頑張った!!これでうちに入れるね。

 

「由美ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「やったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 さてと、僕がこの声に出さずにはいられない喜びを我慢してガッツポーズで妥協したのに対してこの五人は某ハッピーセットの如く奇声をあげているという事実に僕は腹が立ってるよ。

 ちなみに準優勝は瀬良だそう。何はともあれ瀬良も朝日もお疲れ様。

 

「イェイ!」

 

 由美は僕らと視線が合うとこっちに向かってピースサインを送った。あの子もまた一歩、新しい道を踏み出したようだね。




次回から展開が変わります
残り話数少ないけど!


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第40話「コスモスの集い」

しばらく他の作品の更新止めてこっちに全力全開を注ぎます


 

 

 その日の午後、事件は起こった。事の発端はちゆと有亜と閑無が家に遊びに来てから。この三人って基本何があるわけでもないのに事前許可も取らずに家に押しかけてくるんだもん。もう諦めてるよ僕は。まぁ世間的には冬休みのシーズンだから仕方ないで割り切ってる部分はあるけども。

 

「はい、じゃあこれは?」

「え、えぇ…?えーと…。“変態少女は笑わない”…?」

「全然違う!“変態王子と黒髪少女”だよ!一体全体何と間違えたの!?」

 

 えぇ…。ちょっと待って。そんなタイトルじゃないっけ…。ちなみに今やってるのは少女漫画のタイトル当てゲーム。僕が少女漫画のタイトル覚えるのが苦手なのをいいことになにやりやがってんだこの双子は。

 

「タロウにこんな弱点があったのね。」

「これはいじりがいがあるけんね〜。」

「知られたくなかったんだけど…。」

 

 クソが。こんな事でいじられるなんて思ってもなかった…。テレビでもいじられた事ないのに!

 

「んー、まずムーくんは少女漫画道を極めるといいよ。」

「何その道…。」

 

 すると我が家のインターホンが鳴った。こんな時間に誰だよ。もう夕方だよ夕方。陽が落ちてるよ。

 

「はい…。おぉ、桐ヶ谷じゃん。ん?ちょっと待て。その傷どうした?」

「…何でもない。」

 

 訪問者は桐ヶ谷でした。けど頬に傷がついてるしいつもみたいな明るさもないし。今日の桐ヶ谷おかしいぞ。ひとまず傷の手当てせねば…。

 

「よし、これで完了っと…。」

「透子ちゃん、何かあったの?」

「…別に。」

 

 さっき僕が聞いた時と同じだ。答えようとしない。答えたとしても判然としない答えしか返ってこない。どう対応すればいいんだか。

 と思ってたらまたインターホン鳴ったよ。今度は一体誰なの?

 

「はい…。」

「お願いします。しばらくここに泊まらせてください。」

「は?」

 

 そう僕に頼み込んできたのはまさかの湊だった。聞くところによると冬休みにも関わらず学校のレポートが未だに白紙の状態で、このままではいけないと思い僕の家に来たらしい。意気込みは良いんだけど僕の家は図書館じゃないんだよ。

 

「まぁまぁお兄ちゃん。友希那さん、せっかくですから上がっていってください。」

「ちょいー!?」

 

 華楽。頼むから勝手に許可をおろさないで。これ以上人入れると僕の家がジャパリパーク状態になる。

 

「はぁ…。さすがにもうこれ以上人は入ってこないよな…。」

 

 と思ってたらまたインターホン鳴ったし。今度は誰だよ。ドアを開けて〜。あっ、花園か。

 

「私です。」

「何しに来たの?」

「遊びとお泊まりで…。」

「帰れ。」

 

 やっぱりネタ枠だわこいつ。何をどうとってもネタ枠にしかならん。うち宿屋じゃないんで…。

 

「全然大丈夫やけん、お兄ちゃんも女の子がたくさんいたら嬉しかろ?あっ、でもお兄ちゃんはうちのも…。」

「ごめん華楽一人で勝手に話を進めないでもらえる?」

 

 さっきから華楽自分に喋るターンを与えてくれないんだけど。だからあえて言わせて。僕のターンだ。

 ほらまた。やっぱり鳴ったよインターホンが。本日何度目?もう数えるの嫌なんですけど。そんで今度は一体誰なのよ。

 

「はい。」

「あっ、Rawさんだー!こんばんはー!ってあぁ、ちょっと!ドア閉めないでくださいよ!!」

 

 僕の見間違いだったようだね。上原がそこにいたと思ったんだけどいなかったみたい。とりあえずは一安心。

 

「見間違いじゃないです!!ちゃんといます!上原 ひまりがここに!」

「何しに来たのよ。」

「冬休みの宿題終わってないのでお泊まりで勉強に…。」

「帰れ。」

 

 何度も言うけどさ、うちは宿屋でも塾でもないの。冬休みの課題やらレポートやらは家でもできるじゃん。わざわざ僕の家じゃなくても。

 

「まぁまぁ。もうここまできたら同じたい。」

「えぇ…?」

 

 華楽までおかしな事を言い始めた…。誰か助けて。市ヶ谷。桐ヶ谷以外の誰か一人誰でもいいから引き取ってくれ。

 

「Rawさん酷いですよ!こんな寒空の下美少女を放っておくなんて!」

「お前が勝手に家飛び出して訪問してきたんだろうがよ。あと美少女ってよく自分で言えるな。その自己肯定感ある意味羨ましいわ。」

 

 上原ってこんなキャラだったっけと思いながら夕飯を作る準備をする。華楽の作るご飯も美味しいけど華楽が僕の作る料理美味しい美味しい言って食べてくれるから張り切ってるんだわ。変だよね。

 と思ったらまたインターホン鳴ったよ。もうこれで何回目?もう嫌なんですけど。これ以上入れたくないんですけど。

 

「こんばんは〜。」

 

 松原だった。何なんだよマジで。こいつこんばんはしか言ってないじゃん。用件言え用件を。

 

「あっ、あたしが呼んだの!だからRawさん、入れて?」

「桐ヶ谷お前ふざけんなよ!!!僕にとって一番の招かれざる客なんだけど!!!」

 

 もうこれで来ない?来ないよね?来ないなら来ないでもう鍵閉める!ここは鎖国!決定!

 

「もうすでに疲れた…。先に誰か風呂入ってきて。あ、ご飯出来るまでそんなに時間かからないから二人一組で入ってきて。もう沸かしてあるから。」

 

 もうちゃっちゃと入ってきてほしいんだわ。じゃないと絶対時間倍以上かかるから。それにスペースが無いし。僕は先にやりたい用事があるから後回しにする。急遽できた用事なんだけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは都内の練習スタジオ。俺はRoseliaの手伝いとしてキーボードを演奏していた。なんでも今日は白金が体調を崩して休んだみたいだからな。その代打で呼ばれたってわけだ。

 

「お忙しい中ありがとうございます。」

「気にするな。そういえば、湊は?」

「湊さんは冬休みの課題が終わっていないのでしばらくの間練習には出させません。」

 

 紗夜もいい判断をする。確かに出してはいけないな。俺達も音生と明日奈さんの勉強の手伝いした事あったからな。

 

「それにしても、小泉さんはどうしてキーボーディストになろうと思ったんですか?」

「うーん、俺は高校生の頃にいじめられててな。学校にもほとんど行けなくて時間を無駄にしたんだ。正直死にたかったんだ。というか死のうと思ってた。けどな、綺麗な夕焼けを見て何か死のうとかどうとかどうでもよくなったんだ。だから死ぬまではやりたい事を全力でやろうと思ってる。その一つがキーボードってだけの話だ。」

 

 俺はあこから質問されたので自分語りを始める。この事を知ってるのは村上くらいかな。あいつとは中二から高二まで同じクラスだったからな。

 

「大変!見てください!」

 

 すると今井が俺達に携帯を見せてきた。ネットニュースの画面だな。どれどれ…。ほう、街で黒い化け物が女性を人質としてとってるのか。

 

「待ってください!どこへ行くんですか!?」

「事件を解決しに行く。」

「無茶ですよ!!Rawさんを呼びましょう!」

「…ヒーロー。それも俺を救ってくれた存在だ。村上は言った。『この世界を旅立つ』と。だからあいつがいなくとも俺達がこの世界を守るしかないだろ!」

 

 俺はそう言って現場へと向かった。見てろよ村上。今こそ俺がヒーローになる時だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯ができた。さすがに僕と華楽含めて十人分のご飯を作るのは面倒すぎる。負担が五倍になった。しんどい。

 

「Rawさん、お風呂ありがとうございました。」

「気にすんな。」

 

 松原に礼を言われたけど別に礼を言われるような事はしてないの。料理もあとちょっと煮込めば完成する。ちなみに風呂は僕以外全員入ったみたいだね。

 

「Rawさん美少女の残り湯楽しもうとか変な事考えてません?」

「お前そういう妄想好きだな。あいにく僕にそんなマニアックな趣味は無いよ。」

 

 本当に桐ヶ谷って僕を何だと思ってんだろ。ヴィジュアル系ミュージシャンとしての威厳が成り立たなくなってるんですけど。

 

「お兄ちゃん大変!これ見て!」

 

 不意にテレビを観ていた華楽が僕を呼ぶ。ん?何だこれ?黒色の化け物が女の人を捕まえてる…。にしてもこいつ、ヴェノムに似てるなぁ。

 それに連絡通路の屋根の部分が洪水になってプールみたくなってる。昨日雨降ってたしなぁ。それに西側に建物あるし。これ建物で囲まれてたら日照権問題直撃してたかもね。いやそもそもこんな建物あったっけ?

 

「あっ!蜘蛛の糸が!」

 

 蜘蛛の糸?あ、本当だ。蜘蛛の糸という名のロープだ。ロープってかネットか。バレーボールの試合で使われるネットをもうちょっと長くしたやつ。上原は着眼点九十点。てかテレビよくよく見たら音生いるじゃん。

 

「Help me,Spiderman!」

 

 え?やっぱりいるの?あれ本当に蜘蛛の糸なの?まさか本物が出てくるのか…?本家出てくるのか!?

 

「スパイダー!!!スパイダースパイダースパイダースパイダースパイダー!!スパイダースパイダースパイダースパイダー!!」

 

 んー?何だ?本当にスパイダーマン?いや、これはスパイダーマッ!妙にコスプレ感満載のスパイダーマッだな。

 

「頼むぞスパイダー!」

「私が、助けてやろう。」

「日本語だぞ。」

 

 音生の言葉に何で日本語で反応すんだよ。本家スパイダーマンはアメリカだよ。んで英語。吹き替え無いのに日本語喋ってOKなの?これはスパイダーマッ的にはどうなの?

 

「スパイダー、ジャンプ!」

 

 ジャンプって言っといて綺麗に着地できてないじゃん。思いっきり頭から着地したじゃん。尻突き上げて着地してるじゃん。それ自分が放った糸でしょ?

 

「待っていろ!今すぐに行く!」

 

 あー、不穏だなー。さっきからネットすごい揺れてるし。足場安定してなさすぎでしょ。

 

「Just moment!」

 

 ここはもう本家ならササっと行ってほしいところだけど、このスパイダーマッなら仕方ない……のかな?

 

「危ない危ない!」

 

 あ、スパイダーマッ落ちた。華楽の言う通り本当危ないよ。ネットが反転してそのまま着水したんだから。

 

「スパイダーマン一人撃沈ね。」

「うわっ、危ねー!」

 

 いやダメでしょ。スパイダーマッ顔出しちゃ。てか小泉じゃん。あいつ何してんの?顔出すの早すぎない?

 

「ヤバいヤバいヤバい!!本当に息ができなかった!!」

 

 そりゃそうだ。マスクつけたまま着水とかマジで危ないよ。呼吸できないから。てかこれみんな笑ってるんだけど。本来は笑っちゃいけないのに。まぁかくいう僕も笑っちゃってるけど。

 

「息ができねー、これ!危ねぇ危ねぇ!」

 

 うん、そっから上がっていって…。急げスパイダーマッ!早く早く!ちゃちゃっと!

 

「お前スタンバイするな!」

 

 そっからやるの!?別にバラエティ番組じゃないんだからそっからやらなくてもいいじゃん…。

 

「Spiderman!Help me!」

 

 捕まってる女の人もよくノってくれるな。どっからそんな気力出てくるのか教えてほしいぐらいなんだけど。

 

「スパイダー!」

「スパイダーもうちょっと粘りよく!スパイダー顔出てるよ!」

 

 あのスパイダーマッもとい小泉もう顔隠す気ねぇだろ。何やってんだ。そんで深呼吸してマスクの上から口の形出ちゃってるし。

 

「スパイダー、ジャンプ!」

「鈍いわね。」

 

 またさっきと同じ着地の仕方。鈍臭い湊にまで鈍いって言われてるし。もうちょっとスムーズに行けない?

 

「待っていろ!今助ける!」

 

 早くして。そのままだとやられるから。もっとスピーディーに行こうよ。スピーディーにスピーディーに。

 

「スパイダーこっち見て!」

 

 音生がカメラを構えてスパイダーマッを撮る。本人もノリノリだな…。ってそれどころじゃねぇだろ!要望に応えてる場合じゃねぇよスパイダー!

 でもあともう少し!いけるいける!このままだったらいける!

 

「スパイダー何やってんの?」

 

 何か突然マスクの口元の部分を前後に動かし始めたんだけど?何してんの?もしかして空気取り込んでんの?あ、また落ちた。

 

「うぁ、危ねぇ!危ねぇー!ゔぉっ、空気が!エアーが!あの、もうちょっと粘りたかったんで、もう一回やります。スパイダー!」

 

 もうあれ似せようとすらしてないでしょ。もはやどこからツッコんでいいのかわかんない。市ヶ谷なら最適解わかるかもしれないけど。

 

「鼻から何か出てません?」

「マスクの糸切れたんでしょ。」

 

 二度にわたる着水のダメージがコスプレの衣装にも響いてるじゃん。やっぱりコスプレだとどうしても限界があるもんね。

 

「スパイダー!」

「だから鼻から何か出てるわよ!」

 

 色んな並行世界にスパイダーマンはいるみたいだけど間違いなくこいつは一番弱い。そんで一番面白い。あのちゆにツッコまれてるんだもんな。

 

「Just moment!」

 

 さすがに三度目だから着地のコツも慣れてきたみたいだね。さっきよりも着地が上達してきてる。スノボかよ。

 

「頑張って!」

「今行く!」

 

 いいよいいよ。さっきより揺れも小さくやってる。こうして見てみると何事も練習なんだね。うん、いい。ペースいいよ。鼻から糸出てるけど。

 

「また何かファサファサやってる…。」

「あれ何?」

「スパイダー、エアー!」

 

 スパイダージャンプの次はスパイダーエアーか。マスクをつけたまま口元を前後に動かすことで空気を確保する技。見たことねぇよそんな技。

 

「あっ、ヤバいヤバい!」

「あーっ!」

 

 危なっ!なんとかネットに捕まってるおかげで助かってるけど…。手放したら落ちるよ。手足でどうにか持ち堪えてるみたいだけどそこからいけないかな。

 

「いけスパイダー!そっからだよ!」

「あっ、ブラックスパイダーが!」

 

 ヴェノムっぽい奴がスパイダーマッに向かって何かを投げてきた。自分ヴェノム見たことないけどあいつそんなしょぼい攻撃するの?

 

「スパイダー、ジャーンプ!」

 

 おっ、いい!いいよ!左足かかった!そっからだ!行け行け!右足も…!

 

「足つった…!」

 

 あー、また落ちた。ダメだこれは。まぁパチモンだから多少仕方ない部分はあるけど。全国放送のニュース番組で流れてるんだからもうちょっとカッコいいとこ見せてよ。にしてもどうすんだろうな、これ。

 

「Help me,Neo!」

 

 え?嘘でしょ?僕の聞き間違いじゃなかったらなんだけど、今あの人「Help me,Neo!」って言わなかった?

 

「Help me,Neo!」

 

 ほら。やっぱり言ってた。聞き間違いじゃなかったから一安心。音生、出番だよ。

 

「ヘルプミー、ネオ!」

「小泉お前何やってんだよ!!!」

「ヘルプミー、ネオ!」

「顔出しすぎだよお前!!!」

 

 あのパチモンスパイダーマッはほっといてと…。いけ、音生!変身しろ変身!スパイダーネオの登場だ!

 

「スパイダースパイダー!スパイダー!スパイダー!」

 

 うん、何も変わってない。普段通りの君島 音生だわ。あいつ顔出してんのによくできるな。そんなんで本当に助けられんのか疑問なんだけど…。

 

「俺が本物のスパイダー、見せてやる!」

 

 スパイダーマッとは違って探り探りでやってるなあいつ。よく言えば慎重、悪く言えばビビってる。もう石橋を叩いてる状態だね。

 

「ゔわぁおっ!」

 

 何だ今の気持ち悪い裏声。そんなんいいから頑張ってほしいんだけど。しっかりしてくれ。SUICIDEのベーシストだろお前。

 

「俺が本物のスパイダーだ…!」

 

 あっ、でも初めてやってるのにテンポいい。すごいな。そんで余裕の現れなのか靴まで脱ぎ始めた。

 あとお前何だよスパイダー。スパイダーマッ。暇になってスイスイ泳ぎ始めてんじゃねぇか。

 

「音生さんいいですね!」

「そのまま行っちゃえ!」

「これ…!靴脱いで失敗!足がすっごい痛い!!足が痛い!!」

 

 じゃあ何で脱いだんだよ!!流石に靴脱いだ状態でネット渡ったらどうなるかって結果を予測できないのは馬鹿すぎん?けどあと半分だ。このままだったらいけるいける。

 

「危ない危ない!!」

「わぁっ!!!」

 

 おぉ、危ない…。音生の奴、走ったせいでバランスが崩れて落ちそうになってる。けど手足がまだネットを掴んでるからそこからもっかい這い上がれるチャンスはある。

 

「音生さん立ち直って!」

「ダメだ…!」

 

 音生力強いな。ネットと身体の距離が近くなった。いいよいいよ。そのままだったら行ける。巻き返せる。

 

「Help me,Neo!」

「足が抜けないっ…!足が抜けない!靴脱いだの失敗!」

 

 あーあー。右足がネットに絡まってるわ。あ、これは抜けたみたいね。よし、巻き返せるよ。いけ!

 

「あー!!!落ちたくない!!!」

 

 だいじょばないでしょこれ。頭地面の方にいってるよ。ほっといたら頭に血がのぼるね。あと落ちたくないって言ってるけど髪の毛もう浸かっちゃってるし。

 

「あっ!!!」

 

 落ちた。案の定水に落ちた。こりゃもう大したニュースにならんわな。強いて言うなら小泉と音生がSNSでボロクソに言われる未来しか見えない。にしてもたくさん笑ったせいで表情筋と腹筋が痛い。コメディアンじゃんあいつら。

 

「もうご飯食べよ。」

 

 ご飯食べないとやってらんないわこりゃ。僕がいなくてもいいようにしなきゃいけないのにこれじゃ幸先が思いやられるわ。お先真っ暗。ていうか前途多難。

 

「ん〜、おいひい〜!」

「撮影の時も思ったんですけどやっぱりRawさん料理上手ですよね。」

 

 うん、好評みたいね。ちなみに今日は鯖の味噌煮と湯豆腐と味噌汁とその他諸々を作ったよ。鯖の味噌煮を作りたかったからそれをペースにして和食でやってみた。

 

「当たり前だよ。伊達に一人暮らししてたわけじゃねぇっての。よし、今夜はみんな泊まるという事で、後で食費と宿泊費を頂戴するとしましょうかね…。って待て。おい、何そそくさと食べ終わって片付けてんだ。おい!お前ら何だ今になってその急なチームワークは!おい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いい?いくよ。最初はグー!ジャンケン、ポン!」

 

 結果、僕と桐ヶ谷はパー。それ以外はチョキを出した。それが何を意味するか。その後を見てみればわかる。僕と桐ヶ谷は食器洗い。他は各々好きなことをする事となった。ただ湊と松原は別。湊はまだ終わってないレポートの完成を進め、松原がそれを手伝うって感じ。あとは知らん。

 

「桐ヶ谷…。」

「何すか?」

「今度からこれあみだ制にしよ。」

「それな!」

 

 一応言っとくとあみだ制ってのは阿弥陀籤でやるって事ね。流石にジャンケンじゃ勝てないかもしれね。だって僕の共感覚は相手の感情を色で知る能力で相手の心の中を読む能力じゃないもん。どうしても相手の心の中読むならイヤリング外す必要あるけどそれやったら不正がバレる。

 

「Rawさん。」

「ん?」

「実はこの傷、友達と喧嘩した時にできちゃったんです。」

 

 突然桐ヶ谷が顔の傷の事を僕に打ち明けてくれた。せっかく勇気を出して語ってくれたんだし黙って聞こう。

 

「友達がさ、シロの悪口言ってた。それにカッとなってあたしが注意したら今度は怒りの矛先があたしに向いてさ、それがエスカレートしてこうなったんだ。」

 

 うん、なるほどね。そういう経緯があったなんてね。ここで僕が何かを言って解決するかって言われたらそれはないけど、桐ヶ谷を守る事ぐらいはできる。

 

「桐ヶ谷はさ、周りを巻き込む事がしょっちゅうあるけどそれが桐ヶ谷の良いところでも悪いところでもあるんだよ。さっきその傷について質問した時に桐ヶ谷隠し通そうとしてたけど、もしかしたらその件を一人で解決しようと思ってた?」

「それは…!」

「そんな時こそ周りを頼りなよ。倉田とか広町、二葉に八潮。松原とか花園とか先輩もいっぱいいるし、大人の僕もいる。迷惑かけちゃいけないなんて事、ないんだよ。」

 

 正直何言ったらいいか、何を言えば正解かなんてわかんない。けど僕がかけることのできる精一杯の言葉はかけた。悔いは無いよ。

 

「ははっ、何かRawさんに全部話したらスッキリした!ありがとうございます!」

 

 いつもの笑顔の桐ヶ谷に戻った。暗い顔してるよりもそっちの方が絶対いいよ。僕だけじゃなくてみんなもそう思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー!すごーい!」

「これ…二段ベッドですか!?しかも二つ…。」

 

 そう。これが僕が風呂を後回しにしてまでやってた用事の正体。この二段ベッドは組み立ても簡単も楽なタイプ。結構ギチギチに固めたから二人一緒に寝ても無問題なはず。

 一つの部屋に二つも詰め込みましたよ。てか空き部屋広いとことっといてたから助かったわ。

 

「ベッド数が足らないから一つのベッドに二人で寝てね。華楽は今日の寝床心配しなくていいからね。」

「うん!」

 

 夜遅いしもう寝たいところだけどそういえば僕はまだお風呂に入ってなかったから入ってこよっと。眠気はあるけど風呂入んないで寝るのは嫌だから。

 そういえば僕この前テレビ観てたら赤沢が僕の部屋の事「サイコパスかと思うほど綺麗」って言ってたんだけどどうも腑に落ちないの。部屋綺麗にしてるだけでサイコパス呼ばわりはおかしくない?

 

「じゃあ有亜と閑無、湊とちゆ、花園と上原、松原と桐ヶ谷のペアで寝て。」

「そんなのおかしいです!Rawさんと華楽ちゃんだけ優遇してるなんて!断固反対!」

「お前この家の住人じゃないじゃん。」

 

 ここは当然の帰結だと思うんだけどなぁ僕的には。まぁそれはどうでもいいや。

 

「明日に向けてさっさと寝なね。お休み。」

 

 僕はそう言ってみんなが各々のベッドに入るよう促した。その明日というのが波乱の幕開けになる事も知らずに…。




今週中には終わらせたいけどそれが無理なのは私が一番よくわかってるので極力全力全開で終わらせたいと思います
日曜日投稿できれば良い方


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第41話「波乱続きの中での決着」

今日から三日連続の投稿


 

 

「で…。あれは何をやってるのかな?」

「さぁ…。」

 

 村上 太郎ことRawでございまーす。ちょっと朝から華楽とちゆに正座させてる。僕はその真正面で仁王立ちしてるわけだけど。理由は至って単純。この二人は無断で僕のベッドに侵入してきた。以上。閉廷。

 

「何か言うことは?」

「ごめんなさい…。」

「わかればよし。さて、朝ご飯を食べよう。」

 

 これ以上二人に対して何か言っても解決するわけじゃないから何も言わないことにする。流石にまたやってきたら叱るけど。

 

「あ、タロちゃん。今朝のニュース見た?」

「見たよ。携帯でだけど。あれはショッキングだったね。」

 

 僕の言ってるニュースというのは明日奈さんが今所属してるアイドルグループを脱退、事務所も退所するというものらしい。今後はタレントとして活動していく方針らしいしSUICIDEの脱退はしないつもりらしいけど。にしても一体どういう心境からなのかね。

 

「明日奈さんも明日奈さんなりに色々ありますもんね。」

「けれどもう歳だから仕方ない部分はあるわね。」

 

 えーと、今明日奈さんいくつだっけ。二十六かな?そしたらちゆの言う通り本人的にはもう潮時だって感じる時なのかもね。

 

「あっ、そういえば僕仕事だった!じゃあ行ってきまーす!」

 

 ヤバいヤバい。時間ギリギリだった。アウトよりだと思わせておいてセーフよりのセーフ。つまりセーフ。んー、僕がいない間に家散らかってないといいけどなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Rawさんが仕事に行った後、あたしとひまりさんは食器を洗ってた。またあたしが皿洗いかぁ…。そういう運命なのかな。

 

「ひまりさんって好きな人とかいないんですか?」

「うーん…。今のところは特にいないかな!今はバンドに集中したい時期でもあるから。そういう透子ちゃんは好きな人いるの?Rawさん?」

「なっ、何を言ってんですか!そんなわけ…!」

「うわー、ここまでわかりやすい動揺は初めて見た。」

 

 悔しいけど図星…。あれだけ脚光を浴びてるのに誰にも媚びずに、天狗にならずに頑張ってるんだからそりゃ好きになるよ。

 

「けど、諦めたんです。Rawさんは好きな人がいる。Rawさんの本命はあたしじゃない。だから…。」

「うんうん、それが恋だよ。その感覚はいつまでも忘れないようにね。」

「…ひまりさんは恋を語れるほどの経験をしてきたんですか?」

「わっ、私にもそのぐらいの事はあるよー!さーて、食器片付けよっと〜。」

 

 話し方でわかる。この人そこまで恋愛してない感じだ。今動揺して誤魔化したのが何よりの証拠。

 

「でもそうやって無我夢中になれる事っていいと思うよ。だって好きな人って理屈で作るものじゃないんだもん。」

「…っ!」

 

 好きな人は理屈で作るものじゃない…。確かにそう。恋愛経験の無いひまりさんだけど言ってることは正しい。Rawさんを初めて見た時がそうだった。

 

「ひまりさん、ありがとうございます!あたしはあたしのできる事をやります!」

 

 ようやく見つかった。あたしがRawさんのためにしてやれる事。それはきっと…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今バラエティ番組の収録に来てる。そんでいきなり変な事やらされてる。何かって言うと、リアルターザン。上にある鉄棒にロープを投げて引っかけて向こう岸まで渡るチャレンジ。落ちたら着水。昨日のスパイダーマッと同じ末路を辿る。

 にしても失敗したら嫌だなこれ。オンエアされるわけなんだから同居人達にはカッコ悪いとこ見せらんねぇわ。

 

「じゃあまずはRawさんの挑戦でーす。」

 

 スタッフの合図で僕は早速やってみる。まずはロープをあの鉄棒めがけて投げてと…。あっ、ヤバ。引っかかりが浅かった。でもやるしかない。

 

「うおっ!」

 

 危ねぇ…。ギリギリクリア!ただカッコよさの面で見ると少し見苦しい部分はあったかもね。

 

「続いてNEOさんの挑戦でーす。」

 

 今度は音生がロープを鉄棒めがけて投げる。あら、そっちはいい感じに引っ掛かってるじゃん。後はそれ使って渡るだけだよ。

 

「あぁっ!!」

 

 また落ちた。ホントあいつ昨日のも含めて一体何回水に落ちる気なんだよ。

 

「そのロープだったら僕すんなり行けたよ。あなたの力が無いだけ。」

「じゃああなただったらできるんですね?」

「うん。できるできる。」

「ならやってみてくださいよ。」

 

 僕は音生のロープを借りてやってみる。引っかかりが強い分、さっきよりはまだ余裕持っていける。せーの…。ほら、渡れた。

 

「よし。」

「え、何で!?」

 

 ちゃんと行けましたわよ。僕にかかればこのくらいは余裕のよっちゃん。さぁ、音生やってみろ。

 

「どこ持ってました?」

「もうちょっと下。」

 

 音生が遂に飛んだ。あ、やっぱ落ちた。もうこれはダメだな。あいつは多分そういう目に遭う運命なんだろうね。僕まで災難に遭ったら大変だ。くわばらくわばら。

 とここで突然休憩を挟む事になったので僕は緑茶を飲みに行こう。冷えた緑茶は心身を落ち着かせるからね。

 

「お疲れ様です、Rawさん。」

「あぁ、音生もお疲れ。はいコレ。」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 僕は音生にコーラ味のチュッパチャプスを渡した。わかる人はわかると思うけどこれ美味しいからね。

 

「昨日の観てたよ。」

「あっ!あはは…。」

「まず何であんな無茶したわけ?」

「実は俺の父親もベースの講師だったんです。」

 

 へぇ、そんな家系だったんだ。それは初耳。思えば僕らって忙しいのを言い訳にしてお互いの事をよく知らないまま今日まで来たよなぁ。それは心残りだわ。

 

「両親が離婚して俺の親権持った親父が俺のこと一生懸命育ててくれて。高校卒業してから親父は亡くなっちゃったんですけど今の俺があるのは親父のおかげなんです。自分じゃない誰かと真剣に向き合う。それが親父から学んだ生き方なんです。」

 

 ふーん。普段ふざけてばっかのこいつにそんなシリアスな事情があったとはね。でもんな事を笑って語れるあたり、精神的には十分強いんだろうね。

 

「そっか。色々と勉強になったよ。ありがと。」

 

 音生の教訓をそっくりそのまま反映させるわけではないけど、参考にはしようかな。今後後悔しないための指針になるかもわからないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ…。やっと終わったわね。タロウが私とミナト ユキナに音楽機材を触っていいって許可を出してくれたおかげでミナト ユキナとDTM対決ができるわ!

 これで一番最強の作曲家がワタシだって証明できるわ…!ただミナト ユキナにも許可を出したのは気に入らないけれど…。

 

「珍しいわね、貴女がこの手の楽曲を作るなんて。」

「当然よ!ワタシは貴女よりも技量が多いの。このくらいは余裕でこなせるわ!」

 

 そう。なんと言ってもワタシはガールズバンド最強のバンド、RAISE A SUILENのリーダーなのよ!できて当然のレベルだわ。

 

「そこまでRawさんに振り向いてもらいたいのかしら?」

「なっ、何でそこでタロウが出てくるのよ!」

 

 藪から棒に何を聞いてるのよミナト ユキナ!貴女との勝負とタロウは全く関係ないでしょ!?まさかミナト ユキナも…!

 

「話には聞いてたけどやっぱり図星みたいね。」

「貴女カマかけたのね!」

 

 Wait.今ミナト ユキナ、話には聞いてたけどって言ったわよね?その話のsource一体どこなのよ!!

 

「赤沢さんから聞いたわ。」

「おのれマスジ アカザワ!!!」

 

 やっぱりそこから漏洩してたのね!次会った時は覚悟しておきなさい!!Oh…少しキャラが崩れかけたわね。ここで軌道修正しておこうかしら。

 

「貴女、Rawさんに全てを捧げる覚悟はある?」

「急に変な構文ねじ込んでくるのやめなさいよ!」

「Rawさんガチ恋派のお客様一名ご来店です。」

「派閥で呼ぶな!」

「よし、合格ね。」

「今の会話で一体何をjudgeしてたわけ!?」

 

 もうミナト ユキナの相手をするのは疲れたわ…。さっきから何一つ有意義な会話ができてない状態ね…。

 

「Rawさんはここから離れるつもりよ。貴女はその覚悟を決めたということね。」

「っ!!」

 

 確かにそうだったわね。タロウがそう言ってたもの。その答えをいつまでも出せずに悩んでるワタシじゃないわ。ワタシがそんな風になったら誰がRASを引っ張っていくと言うの?

 

「ええ、勿論よ。」

「そう、ならその答えを明かす日を楽しみにしてるわ。」

 

 そう言ってミナト ユキナは部屋から去っていった…。ってちょっと待って!それ今聞かないの!?どういう事なのミナト ユキナ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー…。」

 

 さっきから華楽ちゃん迷ってる…。一体何を迷ってるんだろう…。ちょっと相談してみようかな。私にできる事はちょっとしかないけれど…。

 

「華楽ちゃん、どうしたの?」

「あっ、花音さん。実は…。」

 

 華楽ちゃんが話してくれた。どうやらRawさんにサプライズがしたいみたい。そういえばクリスマスも近いね。明日にはもうクリスマス・イブだし。でもそのサプライズをどうするかで悩んでるんだって。

 

「うーん、そうだなぁ…。一足早いけど今までお疲れ様って名目でケーキを作るのはどうかな?」

「賛成です!でもケーキは作ったことなくて…。今からでも間に合いますかね?」

「その事については私から有亜さん達に説明しておくね。Rawさんに悟られないように邪魔しておくから間に合わなくても心配ないよ。」

「…はい!」

「でも何でサプライズしようって考えたの?」

 

 華楽ちゃんは少し唸った後にしばらく黙って一分後ぐらいにようやく答えてくれた。

 

「これ、言おうか迷ってたんですけど…。」

 

 うんうん。そういう事情があったんだね。それなら協力しないわけにはいかないね。

 

「わかった!ケーキ作り、私も手伝うよ!」

「花音さん…。ありがとうございます〜!」

 

 華楽ちゃん本当に可愛いなぁ。戸籍改竄してでも妹にしたいくらい可愛い…。ん?何でもないよ?ただ華楽ちゃんが可愛いなって思っただけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ…。やっと仕事終わった…。いつもの如く疲れたよ。形式的にはSUICIDEの活休ライブは三日後。それで年内仕事納めって感じ。

 活動休止は大晦日にやる予定だけど年末年始は仕事せずに家でのんびり暮らしたい。そんな事を思ってる。ていうか年末年始は最初に紅白出た時を除けば仕事してない。

 

「お帰りなさーい!」

「あら、悪りぃな。ご飯作ろうと思ってたけどもう作ってくれてたのね。ありがとう。遅くなっちゃってごめんね。」

 

 もうちょっと仕事早く終わらせて帰ってくるべきだったねこりゃ。僕のスケジュール管理不足だわ。

 

「じゃーん!お兄ちゃん、お疲れ様ー!」

 

 全員がクラッカーを鳴らしてるけど、何?一体何がどうなってるの?僕何かやったっけ?待ってこれドッキリ?ケーキまで用意してある…。しかも生クリーム苦手な僕のためにレアチーズケーキ…。うぅ、この思いやりのつまった配慮に泣きそう…。

 

「お兄ちゃん、実は…。」

「タロウ、話があるわ。」

 

 うん?ちゆから話とは珍しい。いや珍しくもないかな?この何とも言えない微妙なラインがもどかしい。一体何ぞ?

 

「ワタシは貴方の事が好きよ。」

「あっ、はい…。」

「貴方と共に生きていく、それは貴方と一緒にこの世界を旅立つという事。けれどワタシは、RAISE A SUILENのみんながいる。ミナト ユキナがいる。ガールズバンドのみんながいる。そしてSUICIDEのみんながいる。だからワタシはこの世界からは離れたくないわ。今まで散々振り回してきておいて、勝手な我儘かもしれないけど許して…。」

 

 ちゆ…。こんな事言うなんて本当は勇気がいるだろうに…。背丈は小さいのに心の中にある勇気は大きいね。

 

「自分のやりたい事をやる。それが一番。そう教えてくれたのはちゆでしょ?」

 

 ちゆは涙を流して笑ってた。誰が悪いとかじゃない。運命とかそういうの盲信するタイプじゃないけど、こうなってしまったのは必然なのかもしれない。

 いつだってちゆは頑張ってきたもんね。SUICIDEのメンバーとして認められるために一緒に頑張ったこともあった。思えば今の僕があるのもちゆのおかげなんだよね。こうして立ち直れたのも。

 

「カグラ!次は貴女の番よ!」

 

 え?また?下手したら“またしても何も知らないRawさん二十三歳”って出てくる可能性あるけどそれは如何に…。

 

「お兄ちゃん、うちもちゆちゃんと気持ちは一緒やけん。勿論この世界から離れなきゃいけない事はわかってる。でも、うちはお兄ちゃんの存在があったからここまで頑張ってこれたんよ。だからついてく。どこまでも。」

 

 華楽の事は叔父さんと叔母さんから聞いてた。一時期しんどい時期があってその時に僕の曲を聴いて今日まで頑張ってきた事。小さい頃に僕と一緒に遊んだ事。そしてあの高原で婚約をした事。全部覚えてる。ごめん一個目はその場にいなかったから記憶にない。

 僕も答えを出さなきゃいけない。僕の返答次第で華楽の人生を変えられる。だから正直迷ってる。でも決めなきゃいけない。

 

「僕でよかったら…。」

「本当!?嬉しかっ…!」

「ふふっ、やっぱりRawさんは華楽さんの事が好きだったんじゃん…。よーし、何はともあれ景気づけにかんぱーい!」

 

 いや桐ヶ谷お前が仕切るんかい!それに今のセリフの意味どういう事?ちょっと!誰か説明して!おいちょ待てよ!このまま終わるの!?次回ある?あぁ、じゃあ次回。




諸々の都合を考慮して書くというのは中々難しいわね


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第42話「みんなでライブの準備をしよう!」

第42話投稿!
とにかく本編の方をどうぞ!


 

 時は十二月二十五日。世間的にはクリスマス。そんな中でも我々SUICIDEは準備するわけだよ。明日のライブに備えて。今回はテレビの地上波を借りてのライブになるから普通のライブほどの時間は取れないけど、どうにか無茶言って三曲ぐらいは披露できる事になった。勿論全部フルで。

 

「これで準備は万端か?」

「はい、多分大丈夫だと思います。」

 

 あっちは小泉と音生が明日使う機材の準備してるね。あの二人もなんだかんだで仲良かったよね。

 

「おいちゆ!早くそっち持ってろ!」

「危ない危ない!あー!はい戦犯。」

「Why!?何でそこまで言われなきゃならないのよ!」

 

 あっちもあっちで楽しそう。赤沢と由美とちゆ。もうこの流れはテンプレすぎて見逃すところだった。うちらじゃ日常茶飯事だからね。

 

「ローくん。」

「あぁ、明日奈さん。あのー、答えられたらで構わないんすけどアイドル卒業する理由って教えてもらえませんかね?」

「別に良いよ。そこまで大した事は無いし。」

 

 あっ、いいんだ。卒業ってもっとシリアスなもんかと思ってたけどそうでもないんだ。事務所で言うところの円満退社みたいな感じ?アイドル詳しくないからよくわかんないけど。

 

「まぁ、特に理由らしい理由は無いんだよね。今の環境に甘えず自分のやりたい事をやる。それをやりたくなっただけだよ。それに卒業してもアイドルは集まれる。『みんなでまたやろう。』みたいなノリでいいんだよ。離れていても絆は切れないから。」

 

 離れていても絆は切れない…か。だからこそ明日奈さんはSUICIDEの活動休止に対しても真っ直ぐに向き合えてたんだな。

 

「なんか、本当にありがとうございます。」

「ううん、全然いいよ。ライブ、成功させようね!」

 

 ライブと言っていいのかはわからんけど…。明日奈さんのその気持ちは僕も同じ。いや、僕達って言った方が正しいか。

 

「ほら、私達もお手伝いするよ!」

「はーい。」

 

 ちゆが何かやらかしたみたいで赤沢サイドがゴタゴタしてるみたいだからそっちから先に手伝うか。うちのメンバー器用な奴が少ないからなぁ。少ないってか僕ぐらいしかいない。自分が言うのもなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、主に僕が頑張ったおかげで当初の予定より早めに仕事を終わらせる事ができた。誰か僕にMVPの賞をください。翼とか風船とかは要らないから。

 ああ、そうそう。今何をしようとしているのかというと、CiRCLEにテレビを付けてたの。ここ予算カッツカツらしいから僕がお金を出して、いや貸してテレビを買った。CiRCLEは僕に感謝してほしいぐらいなんだよね。

 

「太郎くん、そう言えば話したい事があったんだけど今大丈夫。」

「ああ、うん。」

 

 あぁ、まりなね。でも突然何だって僕に話しかけてきた?僕とあいつ話すこと何も無いよ?ただ知り合いってだけで。

 

「実はね、太郎くんってエゴサしないって言ってたからわからないかもしれないけど太郎のとSUICIDEのCDとデジタル曲の購買運動が五日後まで行われてるの。」

「え!?」

 

 マジで…?そんな事があったの?いや、誰かわかんないけど頑張ってくれたみんな本当にありがとうね。

 てか銀行の口座に何だかよくわからないお金が入ってたと思ったらそういう事かぁ…。腑に落ちた。

 

「そっか…。何か恩返しできないかな。」

「現実的に考えると音楽で届けるしかないよねー。」

「やっぱそうよなぁ。」

 

 個人的には自分のやりたい事やってそれで恩返しできるとは思ってない。けどそれしか方法が思いつかない。んー、悔しいなぁ。

 

「勘違いしないでほしいのは、みんなは決して太郎くんにそれ以上の対価を求めてるわけじゃないって事だよ。みんなは太郎くんの声が聴きたいの。」

「僕の声を?」

「うん。太郎くんはみんなに温かい贈り物を与えてる。音楽で色んな人の心に寄り添ったと思ったら、また別の方法でもうここまで来た。だからゆっくり休んで。」

 

 なんだ。たまには良い事言うじゃんまりな。たまには。正直今日までただの万年ボーダー女かと思ってたけど、案外人間味あるね。

 

「サンキュー。おかげで真っ直ぐに向き合える。」

 

 僕はそう言って急いでCiRCLEから去った。早く家に帰って伝えたい言葉をまとめないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事が終わって家に帰ろうとした時、俺はふとある人達にお礼がしたくなった。そう、ポピパとRoseliaとRASのメンバーだ。

 

「あっ、赤沢さん!こんばんは!」

「おう、お待たせ。」

 

 待ち合わせ場所はCiRCLEのステージ。途中村上っぽい奴と遭遇した気がするんだけど気のせいか?気のせいだな。まぁそれはそれとして。本題に入りますか。

 

「みんな、ガールズバンドチャレンジの時は本っ当にありがとう!」

 

 俺達SUICIDEはガールズバンドチャレンジの時にゲスト出演させてもらった。それも武道館でのライブという、一番美味しいところ。

 

「別に気にしなくていいのよ。」

「チュチュが言うセリフじゃねぇんだよな、それ。」

「What's!?もう一回言ってみなさいマスキング!」

 

 ははっ、また始まった。まぁこれがあいつらにとっての普通であり日常でもあるのかもな。それがどれだけ尊いか、今はよくわかる。

 

「あ、あとポピパとRASは合宿の時も誘ってくれてありがとう!」

「赤沢さんこそ、今まで素敵なギターの音色を奏でてくれてありがとうございました。」

 

 突然、たえからそう言われた。ちょっと待って。俺は由美と比べると別にそこまでギターは上手くないし、そもそも本業はファッションデザイナーだし…。

 

「私はRawさんに救われた。そして赤沢さんにも助けられた。Rawさんと赤沢さんだけじゃない。SUICIDEの皆さんが私達を支えてくれたおかげで迷う事なくステージに立ててます。いつか肩を並べて歌う時が来るまで、私達も精進します。」

「貴方がいたから、私達も頑張る事ができたんです。SUICIDEは日本の宝、そして赤沢さん。貴方はその一員なんです。」

 

 友希那と紗夜の言葉に俺は感動した。あー、俺今日までSUICIDEやってきて本当によかった!それが強く思えたのは今日が初めてだ。

 

「赤沢さん、チュチュちゃん。明日はずっと応援してるね!」

「おう!」

「任せなさい!」

 

 さーて、俺もみんなには負けてらんねぇな!明日は見てくれるみんなの分まで目一杯張り切るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中、俺と由美と音生と明日奈さんは今後をどうするかについて居酒屋で話し合っていた。明日の音楽番組は夜の九時ぐらいに配信されてる予定だから今飲んでも無問題。むしろ今飲まなきゃいけない。

 

「ねぇ、みんなこれからどうする?新しい事始める?」

 

 不意にそんな話題を明日奈さんから振られた。もはや職業病を疑うよな。プライベートの飲み会でもこんなテレビ番組の真似事やってるなんて。

 

「私は始めますよ!ソロギタリストとして、世界各国を回る!それが夢です。」

 

 そういえば由美はこないだのギターコンテストで優勝したからな。今のあいつなら実現できそうな夢、いや目標だな。

 

「音生君は?」

「んー、俺はいつも通りベースの講師をやってますかね。SUICIDEのいなくなった空白の時間はSUICIDEでしか埋められない。俺の中ではそうなってるんです。だからこそバンド活動の代わりに何か新しい事をする予定はありません。」

 

 音生は何もしないタイプか。そもそも音生は普段こそおちゃらけてるけど本質は真面目できちんと目の前の物事について熟考してる奴だからな。自分の足だけで何かを切り開いていけるだろう。

 

「健君は?」

「んー、そうっすねぇ…。俺は今自分のやってる事をもっと拡大していくつもりです。何かこう、まだ未開拓の領域に片足を突っ込んでみたいというのはあって。どこを開拓しようかはまだ決めてないんですけどね。それがSUICIDEの代わりになるのかどうかはわかりませんが、気持ちはハーフアンドハーフってところですかね。」

 

 正直言うとまだ具体的な事は決めてない。おそらく村上も同じだと思う。俺とあいつは同類な部分あるからな。

 

「そういう明日奈さんはどうするんですか?」

「私はここら辺でタレントとして活躍していきたいと思ってたからタレントとしてやってくよ。卒業するならもう二十代後半になるかなって決めてたから。」

 

 あー、そうか。明日奈さんはこの間アイドルグループの卒業を発表したからな。正式に卒業するのは三月一日らしいが。

 

「まっすーもちゆちゃんも、やりたい事をやるのかな。」

「いずれにしろ、今後の皆の活躍を祈りましょう。乾杯。」

「乾杯!」

 

 俺の音頭で乾杯が始まった。さてと、明日の事も考えて程々にしないとな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついにこの日がやってきた。SUICIDEの活動休止ライブ。一曲目はガールズバンドチャレンジでもやった“Heavenly Psycho”。あ、楽器のパート分けを出しとくわね。

 

Vo&A.Gt.Raw

 

Vo&E.Gt.Max

 

Vo.&E.Gt.yu-min

 

Vo&Ba.NEO

 

Vo&Dr.asuna

 

Vo&Key.1s

 

Vo&DJ.CHU^2

 

R「いつも夢に 選ばれないまま 陽が登り 沈んでゆく 日々♪」

 

M「そこに僕の姿がなくても 世界は簡単にまわった♪」

 

N「でもこうして繋いだ手 ひとりじゃないね♪」

 

1「胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ♪」

 

C「泪にさえも戸惑うことなく 願いを歌う♪」

 

y「ありきたりの質問に答えて 許される明日ならいらない♪」

 

a「そう言ってはみ出してから 行き着く場所に限界はなくなった♪」

 

R「不安だってわかり合って 笑ってたいね♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた

だから何回もためしてみるんだ 希望の歌♪」

 

R「目の前の闇を♪」

 

R・M(↓)「かき分けて♪」

 

R「届くまで…♪」

 

 ここで赤沢がギターソロを弾く。後半と比べれば大した難易度ではないからここは余裕でクリアしていく。

 後半は由美にバトンタッチ。純粋な実力が試されるようなギターソロだから油断してたら痛い目見るよ。

 

1「震える思いに♪」

 

1・R(↑)「また登る太陽♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「胸にHeavenly Psycho 今は未来に向かう道の途中だ

泪にさえも戸惑うことなく♪」

 

M「願いを歌う♪」

 

R・y・N・a・1・C「夢にHeavenly Psycho 叫んだ声だけが空に響いた♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「だから何回もためしてみるんだ♪」

 

y・N・a・1・C「希望の歌♪」

 

R「Heavenly Psycho Wow Wow♪」

 

M「Uh…Wow wow yeah♪」

 

R「Heavenly♪」

 

M「Heavenly♪」

 

R「Heavenly♪」

 

R・M(↑)「Wow yeah♪」

 

R・y・N・a・1・C・M(↑)「希望の歌♪」

 

 さてと、次の歌次の歌。この曲は演奏せずにただ歌うだけ。そんな曲。だってリズム隊が苦労するんだもの。最後はみんなで歌いたいし。

 

C「Come on everybody!」

 

R・y・N・a・1・M(↓)「Yeah yeah yeah♪」

 

C「Sing one more!」

 

R・y・N・a・1・M(↓)「Yeah yeah yeah♪」

 

C「日本全国ご唱和ください。」

 

R・y・N・a・1・M(↓)「Yeah yeah yeah♪」

 

R・a・C「向かい風の中で 嘆いてるよりも

上手く行く事を想像すれば いつの日か変わる時がくる♪」

 

y・N・1・M(↓)「夢中で生きてたら♪」

 

M・y・N・1「何気ないことで

愛が傷ついて ためらいながら 何度も立ち上がるよ♪」

 

R・a・C「思い出の後先を 考えたら 寂しすぎるね♪」

 

M・y・N・1「騒がしい未来が向こうで きっと待ってるから♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「走り出せ 走り出せ 明日を迎えに行こう

君だけの音を聞かせてよ 全部感じてるよ

止めないで 止めないで 今を動かす気持ち

どんなに小さなつぼみでも 一つだけのHappiness♪」

 

M・y・N・1「涙の気持ちさえ 言葉に出来ない♪」

 

R・a・C「幸せの虹は 何色なんて 気にしなくていいから♪」

 

M・y・N・1「答えを見つけようと 思い出また積み重ねてる♪」

 

R・a・C「ここから新しい場所へ 何も恐れないで♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「遠くまで 遠くまで どこまでも続く道

君だけの声を聞かせてよ ずっとそばにいるよ

止めないで 止めないで ずっと信じる気持ち

今は名もないつぼみだけど 一つだけのHappiness

 

走り出せ 走り出せ 明日を迎えに行こう

君だけの音を聞かせてよ 全部感じてるよ

止めないで 止めないで 今を動かす気持ち

どんなに小さなつぼみでも 一つだけのHappiness♪」

 

R・M・y・a・1・C・N(↑) 「Yeah yeah yeah…♪」

 

 やっと二曲目が終わり、僕らは再びギターやベースなどの機材が置かれているステージに再び立つ。最後の曲はSUICIDEみんなでアレンジを考えた曲。だから自信ある。力作。ちなみにパート分けは一曲目と同じ。

 

「ここで、Rawさんからみんなに伝えたいことがあるそうでーす!Rawさん!」

 

 僕は由美のMCに従ってマイクを自分の口元に持ってくる。今までこんな動作ライブのMCではやったことなかったな。ほら、複数人で活動してると絶対一人は喋んなくていい奴が出てくるじゃん?それが僕。

 

「えー、普段自分のニュース見ない僕でも知り合いから聞いて耳にしました。応援してくださる全ての方々が僕とSUICIDEのCDの購買運動をしてくださった事。改めてこの場を借りて言わせてください。本当にありがとうございました!」

 

 僕は一旦そこで区切って深々と頭を下げた。すると、僕の隣でメンバー全員が同じように頭を下げた。本当にこいつらは…。

 

「頭を下げてこうやって感謝の言葉並べたって皆さんの想いのつまった行動には及びません。でも自分の言葉で想いを伝えたいんです。なので少しだけ、ご清聴ください。あっ、チャンネルはそのままで!」

 

 話すと長くなりそうだからタイミングがあればここで適当に喋って区切るね。まぁ話は長々と続けるけど。

 

「活動休止を発表してからもう何ヶ月ですかね?夏頃に発表したから四、五ヶ月ですか。活動休止を発表してから今日まで、内心本当に怯えてました。SUICIDEが、僕が今音楽の世界から離れる事。それが何を意味するか、どんな影響を与えるかっていうのは僕自身も自覚していた事です。辛い事も苦しい事もありました。でも僕以上に苦しんだのは他でもない、SUICIDEのメンバーです。一番近くで僕と一緒にやってきたんですから。

で、何で怯えてたのかって言ったら、僕の選択次第で周りの環境も人生もいくらでも変えられる状態が既に出来上がってたからなんです。僕は今までの人生の中で自分が成してきた行動、決断、選択、発言。それら全部が正しいだなんて思ってない。論理的に突き詰めていけば正しいか否かで判断できるような物事もあるけど人生なんてそんな二元論みたいなもんじゃない。必ずしも正しさが正解に直結するわけじゃないから。だからこそある物事に対して何をどう選択したら正解なのかってのはずっとわからなくて。ハッキリした答えも出せないまま選択する毎日が怖かった。

結局、バンドが活動休止する理由なんて十把一絡げにはできないんですよね。誰か一人がバンドに対して距離置きたいなって思ってても、裏にはそう思わせるような事があるかもしれない。だから誰が悪いとか一概には言えない。我々だって理由は違えど誰が悪いわけでもない。誰も悪くない。だから全部終わっていざ『活動休止!』ってなったらそっとしといてあげたいなと。お疲れ様って気持ちも含めて、労いの気持ちも含めてそうしたいと思っております。

そして、何よりSUICIDEを応援してくださっている皆さん。CDとかデジタル曲とかの購買運動、活動休止前最後のアルバムの視聴、SUICIDEのイベントに来てくれた事、僕達に対してメッセージをくれた事。全部僕達に届いてます。そして響いてます。いつもだったら『ありがとうございます…。』って照れて終わるところですが、皆さんの純粋な想いを受け止めなくちゃいけないなと。自分の都合ばっか言い訳にして逃げてる場合じゃねぇなと。

そういう状況だからこそもっと言わなくちゃいけない事があったと思います。応援してくださっている皆さんだけでなく、こんな僕と一緒に歩んできてくれたSUICIDEのメンバー、スタッフの皆さん。支えてくれた友達。一言で済ませるのは嫌だけどもうここまで来たからそうも言ってられない。来年はゆっくり進んでいきます。性格上、いい加減なんでこれからいっぱい遠回りする事はあると思う。

来年は具体的に何をやっていくかなんてまだ決めてないしわからない。僕のレーベルで頑張ってる子達は今大丈夫かな?僕がいなくてもちゃんとやれる?心の端っこでそう思ってます。最後に、僕のわがままを聴いてください。SUICIDEで披露する最後の曲。僕の判断で決めました。正解か否か、そんなの考えるつもりもない。最後なんで声大きくしますね。Max!yu-min!NEO!明日奈さん!1s!CHU^2!SUICIDE!みんなまたね!」

 

 いよいよ最後の曲となった。いつもやってないかもしれないけれど曲紹介はするつもりなしでいきます。

 

R・M・y・N・a・1・C(↑)「笑顔抱きしめ 悲しみすべて

街の中から消してしまえ

晴れわたる空 昇ってゆこうよ

世界中がしあわせになれ!♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「なぜか最近“ツイてない”と思ったら

一度じっくり鏡を(のぞ)くといいね

 

マイナスの事柄(こと)ばかり 考えていると

いいことない 顔つき暗いぜ♪」

 

R・M・y・N・a・1・C(↑)「笑顔抱きしめ ココロに活力(ちから)

腹の底から笑いとばせ

女神がくれた 最高の贈り物

生まれつきの笑顔に戻れ!♪」

 

R・M・y・N・a・1・C「みんな出来れば 楽してズルもしたいさ

だけど便利な近道なんかはなくて…

 

小さくまとまっても 面白くないし

揺れる心 (きた)えられないぜ♪」

 

R・M・y・N・a・1・C(↑)「笑顔抱きしめ カラダに活力(ちから)

辛いことなら(はじ)きとばせ

君が微笑(わら)えば 周囲(まわり)の人だって

いつの間にか しあわせになる♪」

 

R「山程ムカつくこと 毎日あるけど

腐ってたら もうそこで終わり…♪」

 

R・M・y・N・a・1・C(↑)「笑顔抱きしめ ココロに活力(ちから)

腹の底から笑いとばせ

女神がくれた 最高の贈り物

生まれつきの笑顔に戻れ!

 

笑顔抱きしめ 悲しみすべて

街の中から消してしまえ

晴れわたる空 昇ってゆこうよ

世界中がしあわせになれ!♪」

 

 これでSUICIDEの活動休止ライブが終わった。あんまり喋るタイプじゃなかったから拙い言葉になるけど、みんな今までありがとう。




個人的にはバンドにとっての最終回がこの第42話かなと思っております
次回、最終回です
最後まで応援よろしくお願いします


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最終話「さよなら世界」

最終回じゃ!いざスタート!


 

「もう行っちゃうんですね。」

「うん。」

 

 僕は市ヶ谷の蔵に来てる。練習中のポピパの面々に今までのお礼を言いにね。このタイミングで行かないと絶対五人集まらないと思うから。

 

「うっ…。寂しいです…。」

「泣くなよ牛込。いつになるかわからないけど絶対に帰ってくるから。」

 

 そっちが泣いてどうすんのよ。僕はお礼を言いに来ただけでお別れを言いに来たわけじゃねぇってのに。

 

「帰って来るのいつ頃になりそうですか?」

「うーん、わかんない。多分一年以上はかかると思う。」

 

 山吹に尋ねられたので僕はそう答える。正直十九も世界を巡るなんて面倒な事やった事ないし、確実に時間がかかるとしか言いようがない。それを具体的な数字で表せと言われたらわからんけど。

 

「あの!私達からのプレゼントです!まずは私のから受け取ってください!」

「戸山…。」

 

 戸山が渡してきたのは自身のイメージカラーでもある赤色のピックだった。ピックに傷一つついてないのを見ると、僕に渡すためだけに買ったみたいね。

 

「私からはこれを…。」

「花園…。」

 

 花園から貰ったのはウサギの寝巻き。え、待って。可愛いけど。僕に着ろって事?放送事故にならない?後で華楽に渡しますか…。え?二つ?

 

「私はこれを…。」

「山吹…。」

 

 山吹がくれたのはヘアアクセ。良いじゃない。最近は男でもヘアアクセしてるし。一回花園を挟んだ意味何だったんだ。

 

「わ、わた、私からはこれをっ…!」

「牛込…。一旦落ち着こ。」

 

 牛込も大変だな。泣いたり動揺したり。情緒どうなってんだ。って思いながら渡されたのはチョココロネの寝袋。おいちょ待てよ。これいつ使えばいいの?

 

「私からはこれをプレゼントします。べっ、別に寂しくなんかないですから…!」

「市ヶ谷、僕まだ何も言ってないよ。」

 

 市ヶ谷から渡されたのは一冊の本。一応本は読むタイプだけど…。何てタイトルの本なんだろ。

 

「それは大好きな歌を馬鹿にされて自分を表に出せなくなった主人公が色々な出会いを経て音楽(きずな)を紡いでいく物語です。何故かはよくわからないんですけど、私この物語が大好きなんです。」

「へぇ…。」

 

 そんな本があったんだ。そういえば本屋に足を運ぶ事最近少なくなってたな。最後にもう一回だけ行ってみますか。

 

「Poppin'Party。本当にありがとう。五人だけの輝きをいつまでも持っててね。」

「はい!」

 

 さてと、ポピパに挨拶するのは終わった。次なるバンドは…。あー、面倒だな。まぁいいや。建物の屋上渡っていきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな方法で来てるんですか!!」

「だって真正面から学校に行って『屋上行かせてください』って言っても通してくれるかわかんないじゃん。」

 

 次にやってきたのは羽丘の屋上。疲れたよマジで。一体どんくらい建物の屋上飛び越えてきたっけな…。数えてないや。

 

「はぁ…。まぁそれがRawさんみたいなところはあるからなぁ。あっ、そうだ!Rawさんに渡したいものがあるんだった!はい!」

「上原…。これは…。」

 

 上原から渡されたものはアクセサリー。これはタコかな?多分家の鍵とか携帯とかに付ける系のアクセサリーだね。嬉しい限りだわ。

 

「私からのプレゼントです、受け取ってください!」

「羽沢…。」

 

 羽沢から渡されたのはマグカップ。僕の名前がローマ字で入ってるのを見る限り、これ市販のじゃなくて手作りだ。なんて粋な…。

 

「私はこれを差し上げましょ〜。」

「青葉…。」

 

 青葉からは何かよくわからないものを渡された。んー?ちょっと待って。何これ?一回見ただけじゃわかんない…。

 

「置物なのです〜。お部屋のインテリアに是非〜。」

「これ何て言うやつ?」

「ババンボ様です〜。」

 

 ババンボ様…。ババンボ様…。うん、聞いたことも見たこともない。お初お目にかかる奴。ババンボ様自体何か知らんけど。

 

「アタシからはこれを!」

「宇田川…。」

 

 宇田川姉からプレゼントされたのは多分だけど和太鼓のバチ。ちょっと待って。これ一体いつ使えばいいの?

 

「あたしはこれを…。はい。」

「美竹…。これ、コスモスの花か。」

 

 いいなぁ。コスモス。故郷の高原を思い出す。小さい頃お爺ちゃんとお婆ちゃんとよく行ったなぁ。

 

「Rawさん!今までありがとうございました!向こうに行っても頑張ってください!!」

 

 五人とも一斉に深々と頭を下げた。僕は感謝されるような事を何もしてないよ。強いて言うなら昨日みんなに手作りのお菓子あげたぐらい。

 

「僕の方こそ感謝するよAfterglow。ありがとね。」

 

 僕はそう言って屋上から飛び降りた。飛び降りたの裏側だったからセーフ。バレなかったし。それにしても、今日は夕焼けが一段と綺麗だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ〜ん!!」

 

 その反応はさっきの牛込のでもう見たよ丸山。二度も同じ反応を見たいかって言われたらそうでもないの。かと言って全員がお通夜みたいな雰囲気だったり笑って送り出すみたいな雰囲気だったりしたら頭おかしくなりそうだから別に気にしない。

 

「あーあ、彩ちゃんせっかくプレゼントを渡す練習してたのに。じゃああたしからね!はいっ!」

「偽Roselia…じゃなかった。氷川…。」

 

 氷川妹からプレゼントされたのはアロマ。匂いからして薔薇系統のやつかな?羽沢と同じくらい粋な計らいしてくれる…。

 

「私はこれを…。」

「白鷺…。」

 

 白鷺がくれたのはマニキュア。色からして黒色かな?黒だと男の僕でも気軽に使えるけど、そこは白鷺の心遣いが表れてるね。普段があんなんなだけに白鷺の心の温かさがより一層沁みるよ…。

 

「ジブンはこれっす!何をあげればいいか思いつかなかったんですが

「大和…。」

 

 大和がくれたのは電池を入れれば電源が入るミニアンプ。花園が路上ライブで使ってたやつって言えばわかるかな。あれ。

 

「私はこれをプレゼントします!ブシドーの極意です!」

「若宮…。」

 

 若宮は武士が活躍しそうなタイトルの本をプレゼントした。裏側に書いてあるあらすじからして絶対武士出てくるやつだ。読んでみるよ。

 

「ぐすっ…。私はこれを!」

「丸山…。」

 

 丸山がプレゼントしてきたのはサングラスだった。いつもは丸山のセンス壊滅的だけどこのサングラスに関しては良いと思う。自分で言うのもなんだけど僕に似合ってるんじゃねまである。

 

「Rawさん、お世話になりました。」

「僕も世話になったし、お互い様だよ。ありがとうPastel*Palettes。いつかまた共演しよう。またね。」

 

 僕は事を済ませるとパスパレの事務所の練習部屋から去った。さてさて、お次はどこから行こうかな…。何ならこっから一番近いところから行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Rawさん、ありがとうございました。父にはよろしく言っておきます。」

「うん、助かるよ湊。」

 

 次にやって来たのはCiRCLEの練習スタジオの一室。ここでRoseliaが練習してるという情報をまりなから聞きつけてお礼を言いに来た。

 

「Rawさーん!これ受け取ってくださーい!」

「宇田川…。」

 

 もはやポケモンバトルで負けた時に何かしらのアイテムあげるトレーナーのテンションだよね宇田川妹。貰ったのは…杖?宇田川妹が使ったら似合いそうだけど本当に受け取っちゃっていいの?

 

「わ、私からはこれを…。」

「白金…。うわ、すげぇ!」

 

 白金からは青薔薇の刺繍が入った黒色のジャケットを貰った。たしか白金は裁縫が得意だったはず。それに青薔薇はRoseliaのアイデンティティのようなもん。それを貰っていいのかな…。

 

「Rawさーん、改めてお疲れ様でした!」

「今井…。」

 

 今井が渡してくれたのは黒色の手袋。そういえば今井は編み物が趣味だって聞いたけどまさか貰えるとは思ってなかった。嬉しい。

 

「Rawさん。十八歳の頃から五年間、本当にお疲れ様でした。」

「氷川…。」

 

 氷川姉が渡してきたのはスノードーム。中にはRoseliaの五人らしい人形がいる。これまた完成度が高いけど貰っていいのん…?

 

「私はこれを。別の場所での活躍も楽しみにしています。」

「湊…。お父さんにもよろしく言っといてね。」

 

 湊が渡したのは青薔薇。白金がプレゼントしたジャケットにも刺繍として取り入れられてるけど元はRoseliaのシンボル。Roseliaと言ったらこれ。

 

「ではRawさん。お元気で。」

「うん。超一流のバンドになってからまた会おうね。」

 

 さてと、これでRoseliaへの挨拶は終わった。次はどのバンドにしよっかな。ここから一番近いと…。あのバンドがもしかしたらあそこにいるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も行ってみたいわ!色んな世界があるんでしょ?」

「まぁまずお前らはここの世界の全ての人間を笑顔にして、どうぞ。」

 

 公園に行くと予定通りハロハピが待っていた。僕が連絡してこの子達に待っててもらってただけなんだけどね。

 

「あはは…。最後まで騒がしくてすみません…。」

「いいよいいよ。それがハロハピなんだからさ。」

「これからの旅のお守り、渡しておきますね。どうぞ。」

「これは…。」

 

 奥沢が僕に渡してきたのは羊毛フェルトで作られた僕と華楽の人形。すごい完成度だ。奥沢は趣味で羊毛フェルトやってるって聞いたから納得のクオリティ。

 

「わ、私はこれを…。」

「松原…。」

 

 松原が渡したのはクラゲの羊毛フェルト。しかし何とまぁクオリティの高いこと。特にこの曲線の部分。

 

「頑張り屋のRawさんにはこれをあげるね!」

「北沢…。」

 

 北沢は自身のサインが入ったボールを僕にプレゼントした。そういえば北沢はここら辺のソフトボールチームのキャプテンだったな。全部終わったら観に行くか。試合。

 

「儚い…。実に儚いプレゼントと君にあげよう。どうですか?ときめきましたか?」

「最初っからちゃんと渡してほしかったし、やるんならもっと会話らしい会話をしてほしかった。けどプレゼントありがとう、瀬田。」

 

 瀬田が渡してきたのは棒哲学者の書いた哲学書。センス良いじゃん。哲学は好きだからありがたく読ませてもらうよ。

 

「最後に私からは旅のお供にこれをプレゼントするわ!」

「おいちょっと待てよ!!!いくら何でも船はスケールがデカすぎる!!!それに免許持ってないから運転できないし!!」

 

 その後弦巻を死に物狂いで説得してようやくプレゼントらしいプレゼントを貰った。ハロハピのCD。もちろんフルMV付きの。

 いやー、何回会ってもこいつらはぶっ飛んでる。その印象が全然変わらないの逆に凄いよ。

 

「さよなら太郎!また会いましょう!」

「あぁ、いつかね。絶対帰ってくるよ。」

 

 よし、ハロハピへの挨拶は終了っと。残るはあと三組…。でもなぁ、一組は遠いしなぁ。先にこっちから行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チュチュ様!来ましたよ!」

「タロウ!!待ってたわ!今日はちゃんと入ってきたみたいね。」

「また屋上まで飛んできたら怒られると思ったので。」

 

 今日はちゃんと玄関から入ったよ。こないだみたいな入り方したらまたちゆから怒られそうだからね。てか確実に怒る。

 

「Rawさん、今までありがとうございました。ほんのお気持ちですが…。」

「あぁ、嬉しいよ。ありがとう。」

「あ、それと私音生兄とお付き合いさせていただくことになりました。よろしくお願いします。」

「あっそう…。はぁ!?」

 

 おいちょ待てよ。黒色のリストバンドは嬉しいけどそれ以上にそっちが付き合ってるっていう事実に対する驚きの方が強いんだけど。和奏の奴、最終回でいきなり衝撃の事実ぶっこんできやがった…。

 

「Rawさん、私からはこれを…。」

「あぁ、うん。ありがとう朝日。」

 

 ふぅ。朝日がネックレスくれたおかげで。なんとか落ち着きを取り戻せた。本当ありがとね朝日。

 

「Rawさん、私からはこれを。今度一緒に行きましょう!」

「おぉ、うん。待っててね。佐藤。」

 

 佐藤からは自身が働いてる職場、ラーメン銀河の引換券みたいなのを貰った。二枚分。華楽と一緒に行かせてもらうね。

 

「Rawさ〜ん、私からはこれを差し上げます!」

「鳰原…。」

 

 鳰原からはペンライト二本プレゼントされた。今色切り替えてみたけど…。色からして一本は絶対パスパレ用のやつだよね。これは…。多分これ色の順番からしてRAS用のやつじゃねぇかな…。要するに自分達のライブとパスパレのライブ行けってこと?自信ないけど。

 

「タロウ。これ…。」

「ありがとう、ちゆ。今日まで本当にお疲れ様。」

 

 ちゆからはお揃いの猫耳ヘッドホンを貰った。お揃いのもの持ってるって何かテンション上がるよね。

 

「タロウ!貴方が帰ってくる時はワタシ達RAISE A SUILENが必ず音楽界の覇権を握っているわ!楽しみに待っていなさい!」

「あぁ、楽しみに待ってるよ。これからの幸運を祈ってるよ、RAISE A SUILEN。」

 

 よし、あと二組。一組はバンドじゃないけど。時間が無いからちょっと頑張って飛ばして行きますか。

 

「タロウ!そこから飛び降りちゃダメよ!」

「ダメか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某アトリエにようやく着いた…。はぁ…はぁ…。こんな走ったの久しぶりなんですけど…。肺が壊れる…。

 

「Rawさん!待ってました!さぁ、どうぞこちらへ。」

「二葉…。あのー、気持ちはさぁ…。嬉しいんだけど…。はぁ…はぁ…。一旦休ませてくんね…?」

 

 しばらくして体力も戻ってきた頃、二葉に招かれて椅子に座った。流れはわかってるんだけど…。黙ってた方がいいやつ?

 

「えー、それでは改めまして。Rawさん。これまで本当にありがとうございました!私から、お礼の気持ちを込めて…。」

「ありがとう、二葉。」

 

 二葉からヘアアイロンを受け取った。流石お嬢様。プレゼントが強い…。さっき船渡されそうになったけどね。タイタニック号レベルの大きさのやつ。

 

「Rawさーん。私からはこれをプレゼントしますー。タイトルは“あの愛に誓って”です。」

「あぁ、ありがとう広町。」

 

 広町からは絵を貰った。どうやら端っこのサインを見る限りこれは広町自身が描いたものだと思う。にしてもこのコスモス、懐かしいなぁ。本日二度目であの高原を思い出した。

 

「Rawさん、私からはこれを贈ります。」

「倉田…。これって…。」

 

 これはマフラーだね。今井がくれた手袋と合わせれば冬は快適。確実。間違いなし。

 

「私はこちらを差し上げます。何をプレゼントとして贈れば良いか、最後まで悩んでしまいました。すみません。」

「いいんだよ。気持ちだけでも嬉しいから。」

 

 八潮がくれたのはビジネス書。旅に直結するかと言われたらそうとは限らないけど案外ここに書かれてある考え方が役立つ事もあるかもしれないと考えると便利な本。

 

「あっ、あたしはこれを…!」

「うん。ありがとね桐ヶ谷。」

 

 桐ヶ谷からはミサンガを貰った。モニカのメンバーの色だけじゃなくて様々な色が取り入れられてる。カラフルで幻想的。

 

「ふふっ、恥ずかしがってるね〜。元はプレゼント渡そうって提案したのは透子ちゃんなんだよねー。」

「ちょっ、ななみ!言うなし!」

 

 えっ、そうなんだ。やけにみんな僕に色んなものプレゼントしてくるなーって思ってたらそういう事だったんか。初耳。

 

「桐ヶ谷、ありがとう!このお返しは絶対する!」

 

 こっちの世界に帰ってきてからの約束が増えたな。覚えておかないと怒られる。

 

「Rawさん、ありがとうございました!私達もいつか羽ばたいてみせます!」

「うん、楽しみにしながら待ってるよ。じゃあ、またね。」

 

 こうしてMorfonicaのみんなともお別れとなった。これで終わり?いや、あとまだ一組いる。僕がバンドメンバーを除いてお世話になった三人。そして腐れ縁の三人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ。瀬良、有亜、閑無。」

「先輩!遅いですよ!」

 

 最後は瀬良と有亜と閑無の三人。なんだかんだ言ってこの三人は本当に感謝してもしきれないほど世話になった。

 やってきたのは近くの公園。もうすっかり日が暮れて子供達も帰ってる。公園には僕を含めて四人しかいない。

 

「うっ…。タロちゃん…。」

「泣くなよ有亜。もう二度と会えないわけじゃないんだから。僕は絶対ここに戻ってくる。」

「うんっ…!」

 

 みんな泣くなー。僕を支えとして生きてくれてるって証拠なのかもね。それはそれで嬉しいし僕もどれだけの人間を支えたりしてるかって自覚にはなるから。

 

「ムーくんも罪な男だねぇ〜。」

「僕は何もしてないんですけど…。」

「まぁそれはそれとして、私とも約束してくれる?」

 

 僕は閑無とも小指を繋いだ。指切りげんまんでよくやるやつだね。懐かしい。またやってみようかな。たまには童心にかえって。

 

「俺もやりたいです。」

「そう。じゃあ瀬良とも約束。」

 

 今まで抱えきれないほどの約束の数、重ねてきたなぁ。うん、もう決めてる。絶対無事に戻ってこよう。みんなが笑って出迎えてくれる事が一番良いもんな。あいつらにとっても僕にとっても。

 

「元気でね!」

「そっちも!気をつけろよー!」

 

 さてと、もう日が落ちた事だしそろそろ家に帰ろっかなー。早く帰らないとめちゃくちゃ怒られるからね。うちの従妹に。じゃあ帰りますか。帰りを待ってる人と場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんお帰りー。」

「ただいま、華楽。」

 

 我が家には華楽という最高の癒しがいる。お帰りって言ってくれる人がいる事がどれだけ幸せな事か、気づけた。これも僕が人を、愛を知らなければわからなかったと思う。

 

「そういえばね、お兄ちゃん宛てに何か届いてたとよ。こげん大きかものなんやけど…。」

「んん…?これは…。」

 

 僕はダンボールを開けて中身を見てみる。ダンボールの中には絵を飾る額縁と一眼レフカメラとフォトプリンターが入っていた。

 

「カメラはいいとして、額縁はどうすればいいんだろ…。」

 

 額縁の中には何も入ってる気配は無い。ただの白い紙が入ってるだけ。しかも取れないし。広町の絵はもう額縁に入ってるから多分モニカからじゃない。

 

「とりあえず、壁に飾っておいたらどうかしら?」

「最終章なのに今回が最終章内で最初で最後の登場になるピコさん、今のお気持ちはいかがですか?」

「馬鹿にしてるの?」

 

 うん、してる。ガッツリしてる。だって第三章ではあんだけイキってたのに最終章になった途端いきなり出番減らされてるんだもん。そりゃ面白くないわけがない。

 

「貴方、今まで戦いを通して何を学んできたの?」

「何も学んだことはないよ。強いて言うなら戦いは嫌いって事ぐらい。まぁそんな事やるまでもなく分かりきってた事なんだけどさ。」

「強さを求める事、それは即ち世界を守る事でもあるの。第一、貴方は…。」

 

 ピコが額縁に触れると急に絵が浮かんできた。機械で作られた感半端ないデカい怪物に向かって何人かのモノトーン調の制服を着た少女達が武器を持って攻撃してる絵。

 それにこの武器、さっき会った松山 伽奈芽が使ってた武器と一緒じゃね…?もしかしたらここの世界に行けばあいつとも遭遇できるって事か!

 

「これ…。それならこれを撮るってことじゃね?」

 

 僕は額縁と一緒にダンボールの中に入ってたフォトプリンターで絵を撮る。すると、印刷された写真には全く違うものが写っていた。これは…。神社?

 

「なるほど、最初はここに行けってわけか…。」

 

 こうして、僕の長い長い旅路が始まった。この物語は終わりじゃない。ただ始まりが終わっただけなんだ。つまり、今から物語の始まりが終わって更なるステージへと進むって事なんだ。いいじゃんよ、やってやろうか。見てろよ、全世界!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大・ガールズバンド時代に活躍する変人たち 完




 はい、ということで“大・ガールズバンド時代に活躍する変人たち”を最後までご覧いただきありがとうございました。1年と1ヶ月、ここまで長い道のりでした。紆余曲折ありながらも無事完結できた事は非常に良い事だなと実感しております。途中でやめようと思ったことは何度かありましたが、この先の展開でこの小説をどう繋げていくかという事が明確化したのでそれをモチベに頑張ることができました。
 さて、唐突ですがここで皆様に三点ほどお知らせがございます。ここら辺は気になってる方もいるかもしれないので書いておきますね。

①今後の執筆活動について
→今後は他作品の二次創作をやっていこうと考えています。既に新作の情報も公開しているのでTwitterを是非チェックしてください。あと他にも色々な作品を投稿しているので楽しんでください。

②バンドリ原作のss投稿をやるか否か
→これは正直50:50です。そしてどっちも1〜99の可能性があります。0か100か問題ではないので絶対ではありません。つまりは「書かないわけではないかもしれないし、書くわけでもないかもしれない」というのが現状です。仮に書くとしてもこの作品とは違うキャラ、違う展開になるとは思います。

③完結したが大ガ変の投稿は今後していくのか
→時間があればやっていこうと思います。ただ確実に時間がかかると思いますので気長に待っていただけると幸いです。お気に入り登録はそのままで!

 最後に。これ以上思い浮かぶ言葉がないけど、最低限の言葉で伝えたい事を。大ガ変を盛り上げてくれた登場キャラのみんな、本当にありがとう!そして画面の前の皆様方、ご愛読ありがとうございました!


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