"Stay, Heaven's Blade" Fate said.  “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” (haru970)
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本編
第1話 始まりは泥と火の海から


文才の無さ故。拙い文章など出てくるかもしれません。

が、頑張ります!

ではでは、お楽しみください。


 静かさが残る夜の公園にフワリと一人の人影が突然、前触れもなく空から降り立つ。

 

 金髪に碧眼、小柄な体と整った顔にフリルドレスを着た十代前半のその子は暗い周りを見る。

 

 人が一人も出ていない公園、そして街灯の明かり。

 

「………よし! 潜入成功!」

 

 そして高らかに少女は笑いながら思う。

 

『何だ、()()()()()()()()()()()()』と。

 

 そう思いながら近くに『ある建物』へと音もなく、地面すれすれでホバークラフトのように進んでいった。

 

 ピリピリした空気やボロボロの、まるで()()()()()()()()()()()を無視し、落ちていた看板を通りながら見た。

 

()()市民会館建設場』。

 

「(よし、後は────ほぉ?)」

 

 周りの空気に()()が集結するのを感じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()少女は思った、『ナイスタイミング』と。

 

 だが次に起こった事によりその感心した気持ちは驚愕へと変わる。

 

 何故なら────

 

「────しまった! 『余波』の方向が────?!」

 

 ────光の壁と呼べるものが彼女に急接近し、その体を包み込むながら焼いたからだ。

 

「(不味い! これは想定外、早く一時撤退────?!)」

 

 そこで意識は途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【深刻なエラーが発生しました。 プロトコール(手順)に従い再起動を試みます。】

 

「(…………………)」

 

【エラーが発生しました。 生体活動の停止を確認しました。 プロトコール(手順)に従い蘇生を試みます。 エラー発生。 現在の破損状況での蘇生は危険と確認しました。 プロトコール(手順)に従い部位破損の修復を行います。】

 

「(…………………)」

 

【エラーが発生しました。 部位破損修復の材料が足りません。 プロトコール(手順)に従い材料のサーチ(検索)中…………サーチ(検索)中…………サーチ(検索)中…………サーチ(検索)中…………】

 

「(…………………)」

 

サーチ(検索)中…………エラーが発生しました。エラーが発生しました。エラーが発生しました。エラー発生しました。エラー発生しましタ。エラー発生しタ。エラー発生。エラー。エラー。エラーエラーエラーエラエラエラエエエエエエエエエエエエ】

 

「(…………………)」

 

 

【深刻ナエラーが発生。 材料が見つカラナい為、プロトコール(手順)に従い再構築を試みマス………………成功しまシタ。 深刻ナエラー発生。 現在の状態での覚醒は危険と確認シマした。 プロトコール(手順)にシタガイ〇〇〇くぁwせdrftgyふじこlp】

 

 ___________

 

 %$(*-311視点

 ___________

 

 めを あけ る。

 

 まわりは ほのお。

 

 ほのお。ほのお。ほのお。

 

 あかい、ほのお。

 

【視覚確認、良好。】

 

 あつい。あつい。あつい。

 

 これ は なに?

 

 いたい?

 

 いたい いたい いたい。

 

【触覚確認、良好。】

 

「………ケホッ! ケホッ…ケホッ!」

 

 むせる。 てつの においが あじが する。

 

【嗅覚と味覚確認、良好。】

 

「う………」

 

 仰向けに倒れていたのか炎の向こうの夜空がチラチラと見えた彼女は痛む体を起こし、立つ。

 

 そして自分は火の海と化した何処かにいる事を()()する。

 

【知的機能確認、良好。 ()()()()()

 

 そして彼女は問う。

 

『コレはなに?』と。

 

 見る限りは破壊、蹂躙されたものの跡。

 

 何も目的も、考えも無く、おぼつかない足取りで歩く。

 

 足の裏にチクチクと、小石や()()()()で痛むがそのまま歩く。

 

 その間に()()()()()()()()()()

 

『────────────────────────』

 

 だがそれの誰もが叫んでいるのか、泣いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、哀しんでいるのか、喜んでいるのか、吠えているのか………………幾度とない数々の()がして()()()()()()()()()()()()()()()。 

 雑音も良いところのような()だった。

 

 やがて一人の子供が同じように歩き、フラフラと仰向けで倒れたのを見つけ、歩く。

 

 だが最後の最後で彼女は力尽き、前のめりに倒れ始める。

 

 ガシッ!

 

 完全に倒れる前に誰かの腕が支える。

 

────(生きてる)? ────(生きてる)………────(生きてる)! ────(良かった)…………────(ありがとう)………────(僕は)……────(救えたんだ)…………────(救われたんだ)…………………」

 

「…………(なにを して いるの?)」

 

【現地言語を観測。 エラー発生。 データ不足、サラなるサンプルが必要デス】

 

 そこでまた彼女の意識は途切れる。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 彼女が次に目を覚ますと、そこは心地よいベッドの上だった。

 

 終点がようやく合った目で周りを見ると気付いた近くの看護師の人が何かを言ってくる。

 

 が、未だに()()()()()()()()()()()()()()

 看護師の人は喋るのをやめて、部屋を出る。

 

 

 更に時間が過ぎていき、ようやく彼女は手を天井へと上げる。

 

 そこは、雪のように真っ白い肌をした手と腕だった。

 

 そして急に下半身の、ちょうどお腹の下を襲ってくる圧迫感。

 

【体の尿意を確認、排水を推薦。】

 

 彼女はベッドからフラフラと部屋を出る。

 

 後ろから()()が聞こえるが彼女はとにかくこの圧迫感が不愉快でフラフラしながらボンヤリと()()()()()()()()()()へと行き────

 

「────あら、そっちじゃないわよ? ほら、女の子はここよ────」

 

 ────近くの看護師さんは彼女の手を取り、女子トイレに放り込み、扉を閉めてしめた。

 

 ここがどんな場所かは()()()()が、やるべき事は()()()()()

 

 用を足した彼女は手を洗う時自分の姿を初めて確認する。

 

 白い肌に金髪碧眼の()()()()ほどの少女が鏡の中から見返していた。

 

 パチクリとまばたきを何回かした後、トイレを出て、看護師に元居た部屋へと連れていかれ、ベッドに寝かされる。

 

 だが看護師が部屋を出ると、すぐさま彼女は立ち上がり窓を開けて外を見る。

 

 そこには街並みと、青い海が見えた。

 

 その間【  】の声が色々と何か()()()()()()()、頭痛から彼女は顔をしかめる。

 

「────おい! いい加減に俺を無視することはやめろ!」

 

 ()()()言葉が分かる。

 

 彼女は声の持ち主の方へと顔の向きを変える。

 

「何してんだ?」

 

 そこには赤みがかった茶髪の少年が話し掛けてきていた。

 

「………………………?!?! う……あ…………あぁぁぁぁ」

 

 少年を見た瞬間、さっき止まった無数の【  】の声が聞こえ始め、彼女がまた苦しみだして頭を抱える。

 

 声は男か女、はたまた子供か()でさえか分からない。

 

「お、おい! 大丈夫か?!」

 

 少年がベッドから降りて、彼女の手を取ると────

 

「────あ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 彼女が叫び、少年の手を振りほどき、頭を両手で抱えて激しく頭を振る。

 

 何故ならさっき少年が彼女の手を取った瞬間、【  】声が今までのない比で()()()()だけでなく、景色などで彼女の思考を攻めた。

 

【身体は剣で出来ているこの体は、無限の剣で出来ていた間違っていなかったって信じているそれじゃあ、俺達は別人だ、俺は後悔だけはしない、だから、俺はお前とは違うそうだ。俺は切嗣と同じだ。恨むのなら、────は俺を恨んでいい。もう泣くな。よくわかったから。だから、俺が守る。どんなことになっても、俺が守るよ。俺の為だけの正義の味方になる信頼して、いいんだなおしおきだ。きついのいくから、歯を食いしばれ失せろ。お前が存たままだと、二度と笑えないだめでござる。今日は断食するでござる

 ついて来れるか、じゃねえ てめえの方こそ、ついてきやがれLäßtそうだ。だからこそ、守らないと。俺の前でだけ笑えた少女。 未来のない体で、俺を守ると言った彼女が俺以外の前でも、いつか、強く笑えるように────】

 

「お、おい?!」

 

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 彼女は力の限り暴れて、自分の中から【  】の声を無くそうとする。 この騒動に気が付いた医者と看護師数人係で彼女を拘束し、鎮痛剤を打つ。

 

 やがて薬に効果が出たのか、彼女の瞼は重くなり、完璧に閉じる前に最後の一言が頭の中で()()()()で響く。

 

【────俺がなってやるよ、代わりに。 正義の味方って奴にさ】

 

「(せいぎ の みかたって なに?)」

 

 彼女の意識が途切れる前にそう思った。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 彼女は声で次に目を覚ました。

 

「おや、起こしてしまったかい?」

 

 彼女が眠りから覚めたのを気付いた男は草臥れている背広を着た無精ヒゲのおじさんだった。

 少年との話がちょうど終わったのか、彼は少女のベッドの横に移動した。

 

「…………………」

 

「こんにちは、僕の言っている事が分かるかい?」

 

「………………はい」

 

 彼女はようやく返事をしたことに背広のおじさんははにかむ。

 

「君の、名前を教えてくれないかな?」

 

「…………………」

 

 彼女はただ視線を返す。

 

「ああ、ごめんね。 まずは僕から。 初めまして、僕の名は────

 

 

 

 

 

 

 ────切嗣。『衛宮切嗣』というんだ」

 

「エミヤ………キリツグ?」

 

「そう。 君の名前は?」

 

「(なまえ?)」

 

 彼女が考え込むこと数分。

 

「…………『()()』」

 

「ッ」

 

「『さんごう』? お前、変な名前だな!」

 

 衛宮切嗣はバツが悪そうに顔をしかめ、少年は馬鹿にしたように笑う。

 

 彼女が『三号』と名乗った理由は彼女自身も知らず、ただそう言うのがしっくりきただけだった。

 

「………それは………『アインツベルン』の………『個体名』か?」

 

「あいんつ………べるん…………こたい………めい?」

 

 彼女は表情を変えず、ただオウム返しに切嗣に疑問形で声を返す。

 

「…………そうか」

 

 そこから切嗣は色々と質問を続けるが彼女はただ首を横に振るだけで、正に『何も分からない』状態だった。

 

 次第に日が沈みかかり、月が出る時間になったところで切嗣は提案をした。

 

「ねえ君、僕の養子にならないかい?」

 

「…………ようし?」

 

「うん。 話をして見たところ、君には肉親はおろか、自分の事も分からない。 だから、分かるまで僕が君の面倒を見ようって話だ」

 

「……………」

 

 彼女はコクリと首を縦に動かした。

 

 少しだけこのおじさんと話してみたけど他の人達と違い【  】の声が()()()()()()()()

 

「そうかい。よかった。 ところで、『三号』という名前は好きかい?」

 

「『三号』………私の………わからない…………」

 

「じゃあ、僕が付けて良いかな?」

 

「???」

 

「そうだね………………」

 

 切嗣は考え始め部屋の中を見渡し、窓の外を見ると閃いたのか彼女を見る。

 

「君の名前は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『三月』、何てのはどうだい?」

 

「………………『みつき』?」

 

「お、何かこいつにぴったりだな」

 

()()もそう思うかい?」

 

 少年が────『士郎』が切嗣に同意するのを彼女は────『三月』はまたコクリと頷く。

 

 別に彼女がこれを拒否する理由はなかった。

 

「うん。 じゃあ、少し遅くなったけど家に行こうか?」

 

 切嗣は嬉しそうに頬を綻ばせて二人の手を握り、部屋の外を三人で出た。

 




こんにちわ。

作者の────え?これもうあらすじでやった?

あ、ほんとだ。

えー、読んでくれて誠にありがとうございます。

Fate Stay/night, Fate Unlimited Blade Works, Fate Heaven's Feelとマラソン並みにアニメと映画、そして漫画を読んでおさらいをしています。

え?仕事の方は大丈夫かって? サアドウデショウカ…………

このご時世、大丈夫な訳ないでしょうはっはっは。

ちなみに自分の仕事にお正月とかは関係ないです(大分楽にはなりますが)。

ですが書くのは楽しいので止まれません。


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第2話 Welcome to 冬木市

次話です


 ___________

 

 衛宮切嗣 視点

 ___________

 

 

『不思議な子だ』。

 

 それが衛宮切嗣の第一印象だった。

 

 その小さな体と、無気力な表情はどこかかつて会ったばかりの『彼女』を切嗣に連想させていた。

 

 ただ『彼女』と違い、『外部の世界を怖がっている』事。 現に『三月』は道中ずっと切嗣の後ろで隠れるようにひっしりとついてきながら、小鹿のように震えていた。

 

 いや、『外部の世界を怖がっている』という事ではなく極端に他者との『触れ合いが怖い』のだろう。

 

 切嗣以外の者が三月の手を取ろうとすると、怯えている顔と共にその場からすぐに逃げようとする。 なので手続きや移動中三月はずっと切嗣から離れなかった。

 

 そして町の北寄りにある純和風建築の屋敷で、『調べものがある』と切嗣は言い、三月を説得して居間に置いて蔵からトランクを持ち出し居間へと戻ると中から子供二人分の声が聞こえてきた。

 

「怖がる気持ちは分かる。忘れろって言って、忘れられるもんじゃないってのも分かるさ。 けど、いつまでも震えながら現実逃避してたって仕方が無いだろ? ……まあ、困ったことがあったら何でも言えよ。一応……家族になるわけだし」

 

「…かぞく?」

 

「いや、だって俺達二人とも養子になるわけだし」

 

「かぞく……………」

 

「じゃあ、考えといてくれ」

 

 士郎が居間から出て、入れ替わりに入ってきた切嗣が声を掛けた。

 

「ごめんね。 士郎に先を越されたけど僕達は家族だ。だから、何でも相談して欲しい。僕に出来る事があれば、何でも言ってくれ」

 

 三月はただ静かに切嗣の目を見る。 長い沈黙が続くのならと思い、トランクを開けようとする切嗣に三月の次に言う言葉で止まる。

 

「……………………………………こえが、きこえる」

 

「『こえ』、かい?」

 

「おとこのひと、おんなのひと、こども、あかちゃん、いぬやねこ。 みんな、みーんななにかさけんでいるの」

 

「…………………」

 

()()()()()()もっとうるさくなる」

 

 一旦止めた手を切嗣は動かし、ちゃぶ台の上に置いて行く。

 その数々の器具や無機物を見て三月はキョトンとする。

 

「?」

 

「質問ばかりでごめんね? でも、もうちょっと付き合って欲しい」

 

 

 ___________

 

 士郎 視点

 ___________

 

 

『人形みたいに綺麗な子だ』。

 

 それが衛宮士郎の印象だった。

 

 自分とは歳が一緒位の筈なのに、手足は細く、金髪と白に近い肌と寝ている顔も整って『コレは等身大の人形だ』と言われても全く疑問に感じない程だった。

 

 そして目を開けると、そこにはサファイアのような青い眼が周りを見回した。

 

 本当に、まるで人形の硝子の目みたいだった。

 目が一瞬合った時にはドキリとした。

 

 ただいざ起きると不可解な行動をしたり、急に叫んだり、震えたりと忙しい奴だったと、そして────

 

『────ああ、こいつも俺のように“アレ”を生き残ったんだな────』

 

 ────と士郎は思った

 

 そして彼は彼なりに気遣いをした後、切嗣が何か色々と三月と話し込んでいる間に士郎は屋敷を探検して、寝ようとすると隣の部屋からうなされる声が聞こえて、士郎が中を見ると布団の上で毛布の中で丸まり『カタツムリ状態』で震えている三月がいた。

 

「う…………うぅぅぅ……………」

 

「おい」

 

 ビクっと三月の体が反応して、毛布の下から彼女がジッと士郎を見る。

 

「大丈夫じゃなかったら俺達を頼っていいんだぞ?」

 

「………………」

 

 それでもただジッと見ているだけの三月に士郎はイラついたのか、照れていたのか視線を外しながら頭をかく。

 

「じいさんも大人だし、お…………俺もお前の『お兄ちゃん』だからな」

 

「………お…………にい……ちゃん?」

 

「ああ。 俺達は家族で…………俺が先に養子になったからお前より『上』だろ?」

 

『先に引き取られたから自分の方が上』。

 大人からしてみればなんとまあ、子供らしい考えというか、何というか。

 

 ただ、これは士郎なりの気遣いの一つだった。

 

 何せ彼の前にいる少女は『何も知らない』。

 自分の家族、親戚、故郷、好きなもの、嫌いなものも自分の名前も。

 

 士郎も同じくあの大火災を生き残ったが彼にはまだそれより以前の『記憶』がある。

 それに対して三月は『無い』。

 

「………………じゃ、じゃあな。 おやすみ」

 

 まだずっと見られるのは恥ずかしいのか士郎は踵を返して自分の部屋に帰ろうとすると、服が引っ張られる。

 

「え?」

 

 士郎が後ろを振り向くと、三月が彼のシャツを後ろから摘まんでいた。

 

「……………」

 

「な、なんだ?」

 

「いっしょに……………」

 

「……………ちぇ。しょうがねえな、『妹』の頼みだからな。これは」

 

 そう言い三月と一緒に添い寝する(渋々していると演技をしながら自分が照れているのを隠す為に)。

 

「………………あったかい」

 

「そういうお前は冷たいな」

 

 三月は背中同士を当てている士郎の温もりを。

 士郎は三月の冷えている背中を。

 

 そうして夜が更けていく中、切嗣は久しぶりにタバコを吸いながら夜空を見ながら考える。

 

「(………『アレ』は………()()?………いや彼女(三月)はアイリ達と『よく似ている』が『根本的に違う』………何なんだ? この事を知っていたら僕は魔術をもっと……いや、もしかして彼女(三月)をドイツのアハト爺に引き渡せばあるいは────)────ッ」

 

 そう考えたところで切嗣の胸がズキリと痛む。

 

「………何を考えているんだ、僕は。 それは『人間(ヒト)』のやる事じゃない筈だ」

 

 タバコがフィルターだけになり、彼は携帯灰皿に捨てて夜空をぼんやりとただ静かに見続けた。

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 その日から何となく考えがまとまったのか、かなり落ち着いた。

 次の日からの私にキリツグとシロウは動揺していた姿に少し……何と言うのだろう?

 ……胸がポカポカした。

 

 未だに【  】の声は聞こえてくるけど、うるさくは無くなった。

 せいぜいがひそひそ話程度だ。

 

 これも()()()()のおかげだ。

 

 お兄ちゃん(士郎)は切嗣を『じいさん』と呼び、私は『おじさん』と呼ぶ事にした。

 

 そして同じ『小学校』を通うことになり、切嗣が言うには隣の藤村家のお世話になったらしい。

 

「三月ー、味噌を出してくれないかー?」

 

「白と赤味噌どっちー?」

 

「両方」

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「お、サンキュー」

 

 ちなみに今はお兄ちゃん(士郎)と二人で料理している。

 

 最初は料理ができないからおじさん(切嗣)は外食などしていたけど流石に栄養が、とかお兄ちゃんが言い始めてから私たち二人で美味しいものを作っておじさんを喜ばせようって事から始まった。

 

「三月、洗濯物を見てくれるか?」

 

「うん」

 

 後洗濯。 お兄ちゃんとおじさんは洗濯機の使い方が不得手………とか言うレベルではなく、単純にお兄ちゃんは使い方が分からず、おじさんは適当すぎる。

 

 流石に黒い靴下と白いシャツを一緒に洗濯するのは無いと思う。

 

 そしてこれにも私はびっくり、何と洗濯機の使い方を手探りで説明書を手に取って読むと【   】の声のようにするりと情報が頭の中に浮かんできて、すごく助かった。

 

 そこからは私が洗濯して、他の二人と一緒に洗濯物を干す。

 この時も胸が干した布団みたいにポカポカしたのをよく覚えている。

 

「ふわぁ、おはよう」

 

「おはよう、おじさん」

 

「おはよう、じいさん」

 

 丁度洗濯具合の確認から居間に帰ってくると欠伸混じりにおじさんが着物姿で入って来る。

 

 最初に見た背広姿よりこっちの方が良いと言ったら苦笑いをしながら頭を撫でた。

 

「二人共、学校の宿題はやったのかい?」

 

「当たり前だろ。ちゃ~んと、終わらせたぜ。 な、三月?」

 

「う、うん」

 

「?」

 

 胸を張りながら元気に返事をするお兄ちゃんと違って遠慮するような態度の私を見ておじさんは「?」を上げる顔をする。

 

 それはそうかもしれない。 だって言えないじゃん。

 

 

 

()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()』って。

 

 

 そう、ことごとく私は()()()()()ものを知ろうと思えば()()してしまう。

 

 あまりモノを知らない私でもこれは異常だとわかる。

 だから何とかその場、その場で納得がいくような説明をする。

 

 でも『天才』呼ばわりはちょっと………………

 

「そう言えば、お隣の大河ちゃん。今度の週末、剣道の大会に出るそうだよ」

 

「へー」

 

「すごいね」

 

『大河ちゃん』、もとい『藤村大河』。 お隣の人の娘さんでまだ会った回数は片手で数えるくらいだけど、おじさんとは結構会っているみたい。

 

「僕らに応援に来て欲しいそうだよ」

 

「そうなんだ、じゃあ弁当を多めに作らないとな!」

 

「はは、そういう士郎は、予定は無いんだね。 三月は?」

 

「無いけど」

 

「じゃあ、決まりだね」

 

「でも剣道かー」

 

「ねえおじさん、週末の大会までここの道場を貸したら? 学校と部活の後でも練習とか出来るように」

 

「ああ、それはいい考えかもしれないね。 後で会った時にでも提案してみるよ、三月」

 

 おじさんの顔がニコリと笑いを私に向けると、何故か胸の奥がチクリとした。




と言う訳でもう少しで『藤村大河』の出番です。

今更だけど彼女のポ二ーテール姿は魅力的ですね。


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第3話 『家族』である故の苦難

1/6/21 追記:誤字報告ありがとうございます!


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 その次の日の夕方、私とお兄ちゃんが揃ってランドセルを背負いながら帰ってくると、道場で奇声が上がっていた。

 覗いてみると、驚いた事におじさんも剣道着を着ていて相手をしていた。

 

「メェェェェェン!!」

 

「ドオォォォォ!!」

 

 バシィン!

 

 そして謎の掛け声と共に二人が持つ竹刀がぶつかり合う。

 

【戦闘技術を確認。 ()()備え付け(インスト-ルし)マス】

 

「?!」

 

 急に【  】の声が頭の中に響きながら、対峙している大河とおじさんの姿が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 大河を攻撃/に攻撃される切嗣。

 大河の攻撃を弾く/躱す切嗣。

 切嗣の反撃に横に飛ぶ/正面から受け止める/受け流す大河。

 

 などなどの景色が()()()()()()()()()()()()()

 

「すげぇ」

 

 時間にしてみれば一瞬だったのかもしれない。 隣のお兄ちゃんの声でハッとした私の前には【  】の声が聞こえる寸前の光景だった。

 

 私はまだ若干混乱している頭を振り、お兄ちゃんと一緒に夕飯の準備に取り掛かる。 何せ大河は大食いの上に運動後。

 

 ただ、私の足取りはどこか危なっかしかったのか、お兄ちゃんが「具合悪そうだから休んどけ」って言われた。

 

「今日は商店街の魚屋さんが、美味しそうな鮭をサービスしてくれたからこれを焼いて足していいか?」

 

「うん、別に使う予定は無いよ」

 

「うわー! 美味しそうー!」

 

 入って来てテーブルの上の献立を見て今もポニーテールが頭の後ろで犬の尻尾みたいにブンブンと揺れ、瞳をキラキラしながら大興奮する藤村大河。

 

「もう、切嗣さんに道場を貸してもらえるって聞いただけで有頂天だったのに稽古までつけてもらって…………その上こんなに美味しい御飯まで! もう、幸せ! ……いっそ、この家の者になろうかな~?」

 

 そういいながら大河は切嗣の方を上目遣いで見ているのに対して切嗣は「ハハハ」と笑いながらあしらう。

 

 …………………………………………何だか胸がチクチクする。

 

「なあ、爺さん」

 

「ん? なんだい、士郎?」

 

「俺も剣道やりたい」

 

「ああ、いいよ。 ちゃんと士郎の剣道着と竹刀を用意してあるんだ。 三月の分もね。 もし良かったらで、なんだけど」

 

「え?」

 

 私は目を見開き、お兄ちゃんの方を見る。

 

「……………うん。 やってみる」

 

 そしてキラキラとした目をしているお兄ちゃんの顔に、胸がポカポカするので私もやってみようと思った。

 

 その後おじさんに一本入れてしまったのが意外だったのか、何故か私は大河の相手をさせられた。

 何だろう? ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのに。

 

 ただ興奮しながら「この子は天才…いえ神童よ、切嗣さん!」とおじさんに迫っていた大河はキラキラしていた。

 でもお腹が空くから()()()()()()()()()()

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

「……………」

 

 小学校での三月はお弁当を食べながら周りを見る。

 

 少女達は小学生なのに誰が誰を好きで、誰が誰を嫌いとかがハッキリしていて、派閥も存在している。

 化粧がどうとか、最近のアイドルはどうだとか、三月にはついて行けなかった話題ばかり。

 

 士郎はあっさりとクラスに溶け込む事が出来たのに対して、三月はそう出来なかった。

 彼女の人見知りが以前よりかなり軽減されたというものの、完全ではなく、どこかビクビクとしているのも理由の一つだった。

 もう一つとしては、彼女の見た目が周りと比べてあまりにも完璧過ぎて男子は声がかけづらいらしく、女子からは妬みなどの対象になり壁を作られ、距離を取られていた。

 

 これを見ていた士郎は────

 

 

 

 

 

「────なあ、藤姉。 友達って、どうやって作るんだ?」

 

「……………へ?」

 

 剣道大会で圧勝してからも、変わらず衛宮家の道場で稽古に勤しんでいる大河に士郎は問いかける。

 

 士郎は見かねて三月を自分の知人達との仲間に入れようとしているが、他の子達があからさまに嫌そうな表情を浮かべたり、腫物や壊れやすいものを扱うかのような態度を取っていた。

 

 「(確かにあいつら(知人ら)と会って間もないのに「昨日よりはいい日だと思う」とか「あれは気にしない方が良いよ」とか変な事を三月は言うし、その度に知人達はビックリしたり嫌な顔とかするけどさ)」

 

「う~ん、そうねえ…………三月ちゃんはどんな子とお友達になりたいのかな? 後、どんな事が好きなのかな?」

 

「え?」

 

 士郎はそこで気付く。 三月の事を未だにほぼ何も知らない事を。

 

 確かに会った当初と比べれば良く喋れるようになったし(士郎の口調に似てきているのは気のせいだ、ウン)、家では以前のようにただボーっとしているわけでもなく剣道の修行とかにも付き合ってくれている。

 

 だが結局は全て衛宮家での話。 ましてや必ず自分か藤姉かじいさん(切嗣)と一緒に常にいる。

 

 三月が自分一人になった所をほとんど見ていない上、自分から行動するのを見た事が無い。

 

「うーん、どうだろう」

 

「ねー、ちょっと難しいよねー。先ずはそこからだと思うの。 三月ちゃんがまずどんな人とお友達になりたいかを分かって、その次にそのお友達はどんな人と友達になりたいかを考えてみるの」

 

「うーん………」

 

 そのようなやり取りをしている間、三月は台所で下ごしらえをしながらテレビを見ていた。

 

 ザクザクザクザクザクザク。

 

「────では次のニュースです────」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 普通はとても危なくて誰もしようとも思えない事を三月は平然とやっていた。

 

 この様に並行思考と行動が出来ると知ったのは先日、切嗣や士郎や大河や藤村組の人達といった大勢の人達の好物や弁当等を用意する時に『全部同時に出来たら時間を短縮出来るか?』とふと思い、やってみたら意外と出来てしまった。

 

 こう、まるで自分が何人もいるかのように思えて、考えて、行動してしまうのだ(何度も誤作動で怪我をしたのは皆には秘密にしている)。

 

 そこからは手探りで試してみるのが時間潰しに繋がり、今では家事全般の上現在のニュースや世間の話題をほぼ同時に一人で出来るようになっていた(タイミングさえ間違えなければ)。

 

 と言うか、してしまう。

 何せ【  】の声も並行思考で自動処理出来る事に繋がったのは良いが、まだまだ『()()』として聞こえてくる上にあまりにも情報が多いときはダム崩壊の水のようにそれらが一斉に押し寄せてくる。

 

 けど、それが無ければ後でログ(記録)として『検索』と『観覧』出来るのは大きい。

 これの応用で以前『知りたいと思って手にしたモノ』の『理解』を抑えられるようになった。

 

「やあ、三月。 精が出るね」

 

 居間に入ってきた切嗣はどこかから帰って来たばかりなのか、前に見た背広姿だった。

 彼の顔は以前に増してやつれていて、痩せ衰えていた。

 

「お帰りなさい、おじさん」

 

「ああ、ただいま」

 

 何故かこの人(切嗣)のこのような顔で陽気な笑みを浮かべるのを見ていると三月の胸がザワザワとして嫌な気分になり────

 

 

 

 

 

 ────この人が死へ近づいていくのを()()していた。

 

 何故かは分からないし、彼女は知りたいとも思わなかった。

 が、切嗣が何回か何処かへ出掛ける事を三月は()()()()()()()

 

 以前洗濯物を士郎に任せていたら、手違いで三月の既に洗濯してあった服まで回してしまったのだ。

 しかも発覚したのは士郎が「洗濯を回すから洗い物出してくれ」と言い、彼女が自分の部屋のドアからパジャマを渡した後、替えの服を着ようと思った時に気付いた。

 

 替えの服が無いと、パンツ姿のまま居間に入ってきた時は切嗣と士郎も動揺した。

 

 三月は別段気にしていなかったので「今日はこれでもいい」と言ったが二人に断固反対されたので三月は衛宮邸のタンスなどををあさり、女性物を()()()()()()の中で見つけてそれに着替え終わり居間に入ると────

 

「────ぁ────」

 

「わぁ…………」

 

 ────切嗣が持っていたお茶を落としてお兄ちゃんと共に口をあんぐりと開けていた。

 

「大丈夫、()()()()?」

 

 何故自分は『おじさん』ではなく『キリツグ』と言ったのかは三月自身にも分からなかった。

 あえて言うのなら、ただ彼女の着ていた服から『()()()()()』という感情で()()されたからか。

 

 この()()()()()()()()()()()()()()()()のどこからそんな感情が出てくるのだろうか、と思う三月。

 

 だが切嗣は落としたお茶などどうでも良く、気付けば泣きながら三月を抱きしめていた。

 

「う…………ううぅぅぅぅ……アイリ…………イリヤッ!」

 

「じ、じいさん?」

 

 士郎は初めて見る切嗣に戸惑い、三月は何が起きたのか分からず、とりあえず慰めようと思い、切嗣の背中を撫でると様々な声と景色と()()が頭の中で流れる。

 

 それはある男が辿った人生で────

 

 

 

 

 

 

 

 ────未だに後悔を続ける者の悲惨と悲哀に満ちた物語だった。

 

 その同じ日に切嗣は「少し海外に用事がある」と言い、蔵で支度しているところを三月が目撃して、「手伝う」と言ったところを作業中の切嗣に断れた。

 

 だが切嗣の必死になっている姿に三月は意外に食らいつき、切嗣は思わずイラついた声で彼女に叫ぶ。

 

「君まで失いたくないんだ、()()()ッ!」と。

 

 ビックリして、怯える様子の三月に切嗣は自分が叫んだ事に気付き、やるせない表情で三月にひたすら謝りながら最後に出かける前に一言お願いをした。

 

「もう、()()()を着ないでくれ」と。

 

 そこから切嗣は何度も出掛けるようになり、帰ってくる度に身体は弱って行き、やがて立って歩く事もやっとの事で短時間でしか出来ないようになった。

 

 段々と彼が帰って来た後の彼の荷物などの整理を三月が自発的にやり始め、彼がそれを咎める声も弱々しくなっていった。

 

「じいさん、お帰り」

 

 唇を尖らせ、お兄ちゃんはおじさんに魔術の事で愚痴を零していた。

 

 おじさんが初めて海外から帰ってきて、お兄ちゃんが『魔法使い』のおじさんに魔術を教えてくれと迫った。

 最初は断り続けていたけど、お兄ちゃんの熱心な言葉に折れて、今ではおじさんが片手間に教えてくれている。

 

 お兄ちゃんの魔術は()()()()()()()()()らしい。

 

 ()()()()()は何処となく私に似ていたところを聞いたとき、私の顔が若干『笑顔』になっていたらしい。

 

 自覚は全く無いが。

 

 私はと言えば初めてここに着いた時におじさんが器具などのモノを使うと、私は()()()()()()()()()()()()()()()()との事。

 

 あとおじさんが使える魔術を一通り見聞きした後、私が()()()()()その場で()()してしまい、おじさんの目玉が飛び出しかけた。

 

 「このような芸当は不可能」とか「自然の理を外れている」とかブツブツと独り言を言っていたが私に聞かれても困る。

 

『やってみよう』と思ったら『出来た』のだから。

 

 あと【  】の声とかの事でも色々とおじさんと相談して試してみたところ、ある程度は自分の意志とかで軽減出来る事が分かった。

 おじさんを触っても【  】は無反応だったけど、それは有機物だけに限らず無機物の者も反応する事が分かったのは幸いだった。

 

 通りで何も触っていないのに【  】の声が聞こえて来る訳だ。

 

 最後に『起源弾』って何?と聞いたら固まりすぎて、その時タバコを持っていた指を火傷してしまった。

 だって、子供に『銃の弾丸』なんて物を握らせるのはどうかと思う。

 しかもそれがおじさん特有の魔術礼装だったのを聞いて、私が今度はビックリした。

 

 とりあえずお兄ちゃんには悪いけど自分の事は秘密にして、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに成長させる方針でおじさんは行くみたい。

『君みたいな子は恐らく何百万、いや何千万に一人の才能だ。比べられたりしたら士郎がいじけてしまうも知れないからね』と言ったので、私はお兄ちゃんの成長具合に合わせている。「これも練習になるしね」とおじさんも言っていたし。

 

「お兄ちゃんのごはん、テーブルの上にあるから」

 

「お、サンキュー」

 

 お兄ちゃんがダイニングへと移動し、おじさんが不意に私のいるキッチンまで来て、私にしか聞こえない小声で話しかけてくる。

 

「ごめんね、三月…………もしかすると、君は気付いているかも知れないけど────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────僕はもう、長くは無い」

 

 三月はいつもの表情を変えず、ただ頷いた。

 

「私に出来る事はある?」

 

「士郎の事を頼む。 彼は、僕から見ても少し危なっかしい所があるからね」

 

「恐らく原因の本人にそう言われても困る」

 

「ハハハ、手厳しいな」

 

 お兄ちゃんはおじさんに憧れている。崇拝しているといっても過言ではない。

 弱い者虐めをしている者がいれば例え上級生や中学生に高校生、果ては大人だろうと喧嘩を挑みに行く。

 

「でも出来る事はする」

 

「ああ、ありがとう。 でも……………僕は彼が考えているような大人じゃないんだ」

 

 これも()()()()()

 普通の家庭環境、ましてやこの国の『日本』に『銃』など必要ない。

 私が『あの服を着た日』からおじさんは時々私に話をしに来る。

 

 他の誰にも聞かせたくないようなものを。

 

「僕は、本当は彼に謝らなくてはならないんだ。 彼が家族達を失ったのは僕の所為なんだ。 あの大火災の原因は僕にある。 全部………全部、僕が悪かったんだ」

 

 おじさんは()()泣きながら膝を床に着き、私は()()()()()()()彼の頭を撫で、()()()()()()()()()

 

「うん、()()()()は頑張っているよ。 ()()()()()()()()()()

 

「グスッ………がれ()は…………ぼぐ()を………恨む権利がある」

 

「それは無いよ、()()()()

 

「み……つき?」

 

「お兄ちゃんは恨む事は絶対に無い。感謝はすれど、恨むことは無い。 私は………まだまだ何も良く分からない。 だけどこの思いを『表現しなくてはならない』とすれば………『ポカポカしている』と思う。 これはお兄ちゃんも感じている筈」

 

「ッ…………………ありがとう…………三月」

 

 おじさんは涙を袖で拭き取り、急に真剣な顔で私を見る。

 

「………何?」

 

「何時か、君より白い髪で………赤目の女の子が来るかも知れないし、来ないかも知れない」

 

「???」

 

「多分、会ったとしても友好的な対面はないと思う…………でも、もし会えたのなら………………どんなに酷い対面でも、どうか……………嫌わないで上げて欲しい。 彼女は…………僕の犯した大きな罪の一つなんだ」

 

「分かった」

 

 あっさりと三月は頷き、切嗣は一瞬目を見開き、いつもの穏やかな笑みに戻る。

 

「本当に…………ありがとう、三月」

 

 どこか諦めたような、少しだけ安心したような声で切嗣は感謝の言葉を告げる。

 

 元より身寄りも無く、自分の事さえ何も分からない上、優秀な魔術師で切嗣の魔術を見よう見真似で行使出来るような、怪しい所満点の三月をほぼ無条件で引き取り、世話をしてくれた彼の頼みを三月が聞くのは簡単だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 それから数日後、月の綺麗な晩に三人で軒先に腰掛けて話をしていた。

 

「ええええぇぇぇ?! そんな理由で名前を『三月』にしたのか、じいさん?!」

 

 何と、彼が『三月』という名前は当時、夜になりつつある夜空に浮かんでいた『三日月』から取っていた事が判明した。

 

「うん、僕も自分のネーミングセンスの酷さは分かっているつもりだよ。 ごめんね、三月?」

 

「ううん、私は…………この名前を…………嫌ってはいないよ」

 

「そうか…………」

 

 そこから自然と静かになり数分、お兄ちゃんはおじさんの昔話を聞いた。

 

「……子供の頃、僕は正義の味方に憧れていたんだ」

 

「………おじさん?」

 

 不意に雰囲気が変わったおじさんの手を掴むと、酷く冷えていて生気が感じられないのに目を見開く。

 まるで壊死した木の枝みたいな感じがしていた。

 

 切嗣は三月に一瞬向き、弱々しく微笑んでから、士郎の方へと向き返す。

 

「なんだよそれ? 『憧れていた』って、諦めちまったのかよ?!」

 

「うん。 『正義の味方(ヒーロー)』ってのは期間限定でね、大人が名乗るのが難しくなるんだ。 それに気が付いたのはごく最近なんだ」

 

 ────何で。

 

 三月は胸の奥がザワザワとする感じが膨れ上がった。

 

「ふぅん………それじゃしょうがないな。 でもしょうがないから────」

 

 ────()()

 

「────()()()()()()()()()()()()。 じいさんは『大人』だから、もう無理かも知れないけど……俺なら大丈夫だろ────!」

 

 切嗣を掴む三月の手に力が入る。

 

「────だからじいさんの夢は、俺に任せろ!」

 

「そうか………安心、した」

 

 そう言い残し、切嗣は座りながら静かに目を閉じる。

 

 ────ケリィはさ、どんな大人になりたいの?

 ────僕はね、正義の味方になりたいんだ

 

 不意に()()()()少女とおじさんの声が三月には聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ────衛宮切嗣、享年34歳で息を引き取った。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

多くの人が大いに泣いた。

 

お兄ちゃんただ一人を除いて誰もが皆、豪勢に泣いた。

 

『悲しみ』という感情に皆が浸ってそれが場に溢れて更に皆をもっと泣かせていた。

 

そうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、そうでなければ私の涙腺に重大な状態異常が発生している(が壊れている)と言う事だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 『()()()()』を()()しましタ】




余談ですが、切嗣のネーミングセンスが酷いと設定してあるのは自分がFate/Zeroで久宇舞弥を聞いた時、「え? もしかして『ひさう………………ま、いいや』から取ったのか?」と思ったからです。

もし楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!


あと、もう一つの作品の“バカンス”でのケイネスへ合掌。


え? “バカンス”みたいな後書きコントですか? まあ、もし皆さんが良ければこれから入れますが…

と言う訳でアンケートにご協力をお願いします!


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第4話 カラスがガーガー鳴いて…………いなかった!

ここからどんどん時空とかが加速して行きます。

あと、ワカメたちの登場です。

1/14/21 追記: この話から『信二』から『慎二』に修正していきます。 誤字報告ありがとうございます宇宙戦争さん!


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 おじさんのお葬式から数年、中学に上がった私達の周りには色々と変化が起きた。

 

 まず、私は出来るだけ『明るく、接しやすい子』に()()()

 

 周りを笑顔に出来、笑えるように色々な知識や情報、髪型やファッションに至るまでメディアなどから『()()』して、()()()()()

 色々な事を試した結果、『これ』が一番他者と付き合いやすい様子だった。

 結果、『友』と呼べる者はいないが、大勢には『顔見知り』程度にはなった………と思う。

 

 おじさんが亡くなった『あの日』の感覚は不愉快極まりなかった。

 

 後、お兄ちゃんとは別々のクラスになってしまい、お兄ちゃんはすっかり大人びた落ち着きを身に着けていた。

 そして彼の頼み事に対して拒否しない性格を良い事に、周囲から便利屋扱いされてしまっていた。

 

 当時それを知り合いの女子生徒から聞いた時は胸がムカムカとして、頭の温度が上昇した(これが後に『血が頭に上る』という現象かとも『理解』した)。

 未だに私と彼が全くと言って良いほど似ていないので皆、私達が義兄妹なのをよく忘れる。

 

 が、その先でお兄ちゃんは嬉しくなりながら私に話した。

 

『間桐慎二』との出会いの事を。

 

 その日、お兄ちゃんは文化祭の準備を押し付けられていた。 お兄ちゃんはちゃんと自分の仕事をこなしていたのに皆、ただ『遊びに行きたいから』という理由でクラスメイト達が大物作りの仕事を彼一人に丸投げにした。

 

 最初はその『間桐慎二』が手伝ったのかと聞いたが、そんな事はしていなかった。

 彼はただずっとお兄ちゃんが作業するのを見ていたらしい。

 そして文句を言っていた。 

 

 彼はお兄ちゃんが断れない性格の事を気に入らなかったみたいだけど、完成した品をを見たら彼はこう言ったそうだ────

 

「────あの出来は正に完璧だった。嫌々やっていたら、あんな物は作れないよ。正直、押しに弱い軟弱者だと思っていたけど、考えを改めさせられたよ」

 

 それからお兄ちゃんとよくつるむようになり、早くも『親友』となった。

 

『間桐慎二』の事は噂だけは聞いていて、あまり他者とは関わらない人だったようだけど、お兄ちゃん(衛宮士郎)は別だったみたい。

 

 衛宮邸にも良く来る事になって私も彼と顔を合わせるようになり、彼は意外と噂で聞くより『良い人』のように思えた。

 

 別に話しをする訳でもなく、学外で会う時はせいぜい会釈をする程度。しかも、私からの一方通行。お兄ちゃんがいる時にちょっっっっっと話に混ぜてもらえる程。 しかもお兄ちゃんが混ぜようとする時だけ。

 

 それだけでも、『間桐慎二』は『良い人間(ヒト)』と推測できた。 

 何せ話や情報を総合すると彼には『裏』などなく、良くも悪くもまっすぐなほど『表』しかない。

 

 そしてそんな彼が事前連絡もないのに急に衛宮邸に押し掛けてきた。

 

 最初「士郎ならいませんよ」と言ったのだが「それでもかまわない」と言われて(自分で)上がってきた。

 

 変だな、いつものなら「そうか、邪魔したな」で終わるのに。

 

 勝手にお邪魔して何かと思ったが、お兄ちゃんの友人なので取り敢えず彼の話に相槌をしている。

 

「────ところで三月」

 

「はい?」

 

 多分『衛宮』と呼んだらお兄ちゃんと被る事になるだろうからそう言ったと思うけど………

 急に何だろう?

 

「衛宮って誰か好きな子とかいるのか?」

 

 ……………………………何その激突な質問は?

 

「えーと?」

 

「いや、君の顔は男性女性との間では結構広いからな、そのような事も知っているんじゃないかなって」

 

 まあ、確かに努力の末に『顔見知り』は多くなったし、情報源も広くなったけど………

 やはり食べ物の力は偉大だ。 おじさんが亡くなった後から弁当箱を二段にして、おかずを他の人達に分ける作戦は思ったより効果的だった。

 

「それに学校で『月の女神』って呼ばれているお前の周りにいる女子の誰かが衛宮の興味を引くと思ったんだが…………」

 

 なんだ、それ?

 私は初耳やぞ?

 これは後で聞く必要があるな。

『月の女神』って何だ?

 

「えーと、聞いた事ない…かな?」

 

「ふーん、やっぱりな。 アイツもお前も男女の色恋には疎い感じだしな」

 

 確かに色恋には疎い。

 ()()()()()のだから。

 

「ただいまー、ってあれ? 慎二?」

 

「遅いぞ衛宮! まったく……茶は旨かったが正直待ちくたびれちゃったぜ?」

 

「いや、慎二が来ているとか予想外だし────」

 

「────うるさいな! 休日や学校後は僕がいつ来ても良いように自宅に待機しておけよ! 人に何も頼まれなかったら他に大した用事も無いような奴だろ?」

 

「………それは理不尽すぎないか?」

 

 私もそう思う。

 

「そうだ衛宮、暇なお前達を我が家へ招待してやるよ。 ついでに僕の妹にも合わせてやるよ」

 

「急だな、おい」

 

「ところで三月、ガイスバーガーマーチを頼む」

 

「無視かよ…って、毎度の事ながら何でお前が人の妹を当然のようにコック扱いしてるんだよ?!」

 

「分かったわ」

 

「…………三月は三月でそんな簡単に了承するなよ」

 

 お兄ちゃんに言われたくない。

 

 別に慎二がこのようにご飯を注文するのは初めてではない。

 ただある日、私とお兄ちゃんが自身の弁当を自作していると聞いた日から何かと私に世界各地の料理を注文するようになった(二段弁当箱にしたのでレパートリーは自然と増えていたし)。

 

 私は料理のレシピを『()()』する。

 確かドイツのシュトゥットガルト州内のシチューだったっけ?

『ヨーロッパの食べ物紹介』で出てきたような…………

 ()()()、番組の16:48のこれだ。

 でも丁度家に食材が無いものもある…………

 

「じゃあちょっと食材買いに出掛けてくるね、()()()()()

 

「ああ、いっ────」

 

「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

「うわ、慎二?! 大丈夫か?!」

 

 何故か急に慎二が口に含んでいたお茶を盛大にぶちまけて、お兄ちゃんは慌てていた。

 二人に留守を任せて私は町へと出ようと玄関で靴を履いていたら中から慎二の叫び声が聞こえた。

 

「お、お、お、お、お、『お兄ちゃん』だとぉぉぉぉぉぉ?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ああ、そう言えば慎二の前で『お兄ちゃん』と呼ぶのはこれが初めてだったな。 いつも何かとそう呼ぶタイミングなかったし。

 

 …………………………でもそのあと彼の言った『イケる』との一言は何の話だろう?

 

 

 

 そして商店街に入ると、ふと私は気付く。

 

「…………あれ? 『間桐慎二』に『妹』なんていたの?」

 

 そう、今まで『間桐慎二』に『妹』がいるなど聞いた事もなかったのだ。

 

 歩きながら『()()』すると確かに『間桐桜』と言う名前を見つけるがそれ以上の情報はコレといって何もなかった。

 

「…………………フ~ム、これはこれでナゾナゾね~」

 

 私は内心ウキウキしながら商店街を回り、この頃見ている探偵モノにハマっているのが影響したのか、あるアニソンを鼻声で歌いながら食材を買った。

 『一つの真実』の方じゃなくて、『混乱した記憶』をオープニングにしている方だ。

 じっちゃん(おじさん)の名に懸けて全力を出そう。

 

 そしてガイスバーガーマーチどころか、ドイツのフルコースディナーを作り、慎二を見返した。

 数々のおかずを前にタジタジになった慎二を更にからかう為に長くなった金髪をポニーテールにしたままエッヘン!とエプロンを着けたまま胸を張った瞬間、吹き出しそうな慎二が顔を逸らす。

 

 ガツガツ食べるのは構わないけど二人共(お兄ちゃんと慎二が)(明らかに)無理して食べようとしなくても良いのに………

 ラップして、また次の日に食べたら良いと言ったら────

 

「「────(三月の手料理に)そんな勿体ない事できるかッッ!!!!」」

 

 と何故か二人共叫んだ。

 

 ………………………なんでさ?

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれから数日後、慎二が私とお兄ちゃんを間桐邸に招待してくれました。

 恐らく完全な善意から招待したと思うのだけど……………

 

「ようこそ、我が家へ。衛宮に三月」

 

 私はナゾナゾにウキウキしていたと言ったな?

 前言撤回をしよう。

 

【警告。 異常地帯を感知しました。 身の危険、大。直ちに撤退を推薦シマス】

 

 

 今すぐ滅茶苦茶帰りたい。

 

 

 え、何このバイ〇ハザード感は?

 

 いやゲームをプレイするんじゃなくて、まるで私がゲームの中に放り込まれてアー〇レイ山の洋館の前に立たされている感覚が一番しっくりくるか。

 

 あとさっきから【  】の声がビンッビンッにさっきから引っ切り無しに警告してくるんだが。

 てか『異常地帯』って何? バミューダトライアングルに私、今から突入するの?

 ……………生きて帰って来れるかな、私?

 

【告。現在の状態での生存率は────】

 

 ────うわー、聞きたくないなー。

 

 そんなこんなで私達は間桐邸の中に入った。

 

 ………ああ、ご心配なく。

 カラスはガーガー鳴いていませんでしたし、犬もバウバウ吠えていませんでした。

 鳴いて(吠えて)いたらもうサバイバルホラーどころか、ホラー映画並みにお兄ちゃんを引きずってでも全力疾走で逃げている自信があったよ。

 

 鳴いて(吠えて)欲しかったよ、トホホ。

 

「妹の桜は居間にいる。 僕から見ても可愛いからな、きっと三月と気が合う筈だ」

 

 何言っているんだ、このアホワカメ?

 まるで『可愛い者同士』イコール『仲良し』と本気で思っているのか?

 乾燥してんのか?

 いや、この屋敷内ジメジメしているからあり得ないな。

 あ~、全身鳥肌が総立ちするし、膝も笑っているー。

 

「衛宮、いいゲームを見つけたんだ。 僕の部屋で遊ぼうぜ」

 

「おう!」

 

『おう!』じゃないよお兄ちゃんッッッ?!?!?!

 妹をこんなところで一人にする気?!

 

「ほら、こっちだ」

 

 慎二がさらに奥に入り、お兄ちゃんも歩くと、私はヒシっと昔みたいにお兄ちゃんの背中に引っ付く(隠れる)

 

「? どうした三月?」

 

「あ、いや、その~」

 

「ああ! 慎二の妹に会うのに緊張しているのか! 大丈夫だって。きっと、慎二の奴みたいにズケズケと物を言ってくると思うから緊張している暇なんて無くなるさ」

 

 ………………うん、緊張は緊張だけど度が全然違うよお兄ちゃん。

 

「桜! 紹介するよ。 こっちが衛宮で、そっちが三月だ」

 

 …………あー、慎二君? 私が見ているのは蝋人形か何かかな?

 

 そこにいた『ソレ』には『()()()()()()()()()』。

 

「ハハ、こいつ無愛想なんだ」

 

 ぺシッ。

 

 慎二が桜の頭を叩き、桜は慎二を光の無い虚無の瞳で見つめながら感情のない声を上げた。

 

「…………いたい」

 

「じゃあ、もっと愛想良くしろよ!」

 

 ………………何だろう、胸の奥がザワザワしてチクチクして若干ポカポカして…………

 こんなの初めてだ。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 

「じゃあ男子は男子で、女子は女子で別れようぜ! 行こうぜ衛宮!」

 

「ああ!」

 

 うぉい?! ちょっと待ていぃぃぃぃぃ?!

 

 声に出す前に二人は階段を上がり、私の手は上げたまま宙ぶらりんになっていた。

 

「………えーと?」

 

 未だにのっぺりとした顔の桜に私は振り向かう。

 

「初めまして。 『衛宮』三月です」

 

「……初めまして。 間桐桜です」

 

 ………ん? さっき私が『衛宮』って言った時に目が揺らいだような……

 気の所為かな?

 良し。 『明るく、接しやすい子』モード、全開!

 

「ねえ、趣味は何?」

「ありません」

「好きな事は?」

「ありません」

「嫌いな事は?」

「…ありません」

 

 お? 少し言い淀った?

 でも『好きな事』は即答で『嫌いな事』はあるって………

 

 しかも明らかに年下のこんな子が…………

 

「ね、ねえ? 部屋でテレビでも一緒に見よっか?」

「無いです」

「無いんかい?!」

 

 桜の体がビクッとする。

 

 あ、やば。 思わず『ガサツ』と『ツッコミ』が同時発動してた。

 今は『待機』っと。

 

「ご、ごめんね急に大きな声出しちゃって? あ、あははは~」

「………………………………」

 

 『私』にどないせいっちゅうねん?!

 

 頑張れ『明るく、接しやすい子』。

 

 黙らっしゃい『クールな子』!

 

 寧ろこのまま質問攻めにすればいいのでは?

 

 それだぁぁぁぁ! ナイスだ、『理性的な子』!

 

「アイスブレーカー、ファイアースターター!」

「………………………………………………………」

「……………………………………コホン、親友との一番の思い出は何ですか?」

「ありません」

「今まで誰かにした一番悪かった悪戯は何ですか?」

「した事ありません」

「お気に入りの服は何ですか?」

「ありません」

「好きなお菓子は?」

「ありません」

「土曜日の朝、起きたときに最初にすることは何ですか?」

「呼吸をします」

 

 おぅふ。

 これは……

 普通のゲームのハードモードどころか、『NINJA GAID〇〇(ニンジャ ガイデ〇)』のハートモードをクリアした時のレベルの難問だ。

 

 ハイそこマニアックゲーマーなんて言わなーい。

 これも立派とした話題共通情報ですー。

 




と言う訳で三月はかなりのアニメファンとゲーマーと料理人になってしまいました(笑)。

「型月の世界にこんなゲームとかあるの?」と思うかも知れませんが、まあ魔術協会とかが意図的に「そういうのは架空の存在」で秘匿に一枚噛んでいるという事で。

評価やお気に入り登録、気に入っていただけたのならのならぜひお願いします!


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第5話 雨の中のワカメと雨も滴る良い女……………の子

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 

 それから数時間後………

 

 三月は間桐邸から無事生還(?)し、士郎と帰り道を歩いていた。

 

「どうだ? あの桜って子と友達になれたか?」

 

「………色々と『重い』よ。(この数時間、完全に目が死んでいる人の抜け殻みたいな子なんて私、()()()()()()()()()のですが)」

 

『政治家は無理難題を仰る』とはよく言ったものだ。

 

「(はい、『アニオタ』は『待機』ね)」

 

「ハァ、そうか………」

 

 ため息混じりにそう言う士郎。

 

「え? 何その失望感混じりの『ハァ、そうか』は?」

 

「いや、その……慎二がさ、期待していたみたいで」

 

「期待?」

 

「うん」

 

『機体』って…………あのフルアーマーガン〇ム並の装甲は純度百パーセントのガ〇ダリウム合金やぞ? ちっとやそっとの攻撃(攻め)では────

 

「(────はい、『アニオタ』はしばらく『封印』ね!)」

 

 士郎曰く、慎二は桜を心配しての行動だったらしい。

 家でも学校でも暗く、変わらない表情のまま、いつも俯いている桜を何とか元気づけてあげようとしていたようで、悩んでいたのを士郎が聞き、『昔の三月』を連想したらしく、『今の三月』を見てきた彼の推薦で三月と会わせる案が出た。

 

 慎二は「へー、あの『月の女神』がねー」と言いながらも、三月の『学校での人となり』を知っている彼はこれを名案と受けて即行動に移ったとか。

 

「(成程。私を矢面に立たせたのが、まさかのお兄ちゃんだったなんて………………)」

 

 ちなみに『月の女神』なんて二つ名が三月に付いた理由は見た目(白い肌)と近寄りがたい雰囲気(普段の静かな態度と落ち着いている様)に反していざ話してみるとかなり接しやすく、博識で色んな事の質問に対して答えが返ってくるが積極的に自分から人と関わらないからとか、まるで宇宙に浮いている月に着陸(ムーンランディング)したような感じだとか。

 

「(まあ…桜の事は分かったし、慎二が心配しているのは分かった。)そっか……じゃあ、あそこ(間桐邸)より、今度からはウチ(衛宮邸)に招待して良い?」

 

「ああ、慎二も喜ぶだろうしな」

 

「(何でお兄ちゃんは私を見ながらニヤニヤしているんだろう? というかこれって桜の為なのに、なんで慎二の名前が? ………………ああ、私達が桜の為に色々している事が嬉しいって事か)」

 

 三月は取り敢えずその日の食材は激辛麻婆豆腐のみに限定して士郎を許す事にした。

 

 合掌。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれから一年ちょっとの時が過ぎ、衛宮邸に慎二と桜がよく来るようになった。

 口では『仕方なく来てやった』など言うが、こっそり三月と大河と桜のやり取りを覗いているのは三人とも気付いていた。

 そしてようやく一年が過ぎる頃に桜が初めて笑った。

 『笑う』と言うよりは口の端っこがすこ~し吊り上がった程度だが。

 その時の皆の大口を開けた間抜け面は三月は忘れられようがなかった。

 

「桜がッ! 笑ったー!!!」

 

 そして一番に歓声を上げながらガッツポーズをしていたのが慎二だという事も忘れられない。

 

 「(フハハハハハ! 如何に純度百パーセントのガンダリ〇ム合金といえども、至近距離からそう何度も二連装攻撃(三月+大河)は防げまい!)」

 

 そこから桜は更に変化していった。

 何事にも無関心だった彼女が三月か大河、または士郎の後をつくようになった。

 

 このトコトコ歩いて付いて来るのはどこか生まれたてのヒヨコを見ているようで、三月の胸はポカポカした。

 

 あと、一方通行だった会話も桜はある程度出来るようになった。 

 なったというか…………

 衛宮家の三人自体が話題になるのだが…………

 

「(ま、まあ『友好関係』で『話題』は必要だからね! うん!)と言う訳でお兄ちゃん、ポテト頼んだー」

 

「何が『と言う訳で』は知らないが頼まれたー。 ホワイトソースは良い匂いするなー」

 

「ねー。 チーズ多めにしようー」

 

 三月と士郎がエプロンをしながらグラタンの用意をしているのを外野は見守る。

 

「ああ、いつ見ても良い……僕は今、歓喜に満たされているッ!」

 

「そうねー、あの二人の料理すっっっっっっっごい美味しんだから!」

 

「……………はい、あたたかいです」

 

「僕も美味しいと思うがそれじゃない……………じゃなくて!」

 

 

「(通常運転の大河とワカメは放っておくとして────)」

 

 最初はこの光景を見た桜はどこか理解出来なかったような感じで眉間にシワを寄せていたが、今ではすっかり楽しく(?)頭を傾げて他の二人と待てるようになった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 そしてジメジメする雨の日、()()慎二が傘を差しもせず、びしょ濡れになりながら衛宮家に突然来ていた。

 

 三月は最初、『乾燥したワカメを濡らしていた』と思っていたが、彼の形相が余りにもよく『()()()()()』悲しみで、震える声で困惑している三月と士郎達に喋り始めた。

 

「分からない、僕は…………どうしたら…どうしたら良いのか分からないッッ!」

 

 彼は泣いていた。 声と体を震わせながら。 ビックリしながらも士郎達は優しく声をかける。

 

「お、おい慎二…何かあったのか?」

 

「…………………ああ。 あったさ。 僕は、知らなかった。 知らなかったんだ! 今までずっと………ずっとずっとずっと、アイツは────!」

 

 慎二がギリッと歯を噛みしめて、床を拳で殴る。

 

「────アイツは! 僕を! 哀れんでいたんだ! 嘲笑っていたんだ! 何も知らない僕を!」

 

「えっと…………『アイツ』って誰?」

 

「ッ」

 

 慎二は一瞬何かを怒りのまま叫ぼうとして、言葉を飲み込んで三月を睨んだ。

 

 そんな彼の顔が、どこか痛々しくて、三月は自信の胸がチクチクした感覚を感じていた。

 

「ねえ、私達にはなsh────」

 

 バキッ!

 

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 

 三月は慎二の方へと近づき、心配した声をかけると視界は次のとたん、玄関の天井を見ていた。

 

「…………………?」

 

 そして頬にじわじわと痛みを感じ始め、ジワリと三月の口の中で()()()()()()()()()()()()

 

【告。 頭部への損傷、軽微。 プロトコール(手順)に従い、修理を行いますか?】

 

「…………(ああ、これが『殴られた』痛みか)」

 

「…………は………はは……………ハハハハハハハハ!」

 

 未だに微動だにしない三月に慎二の笑う(泣く)声が聞こえる。

 

「慎二ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 バキッ!

 

「グフゥ!」

 

 士郎の怒り(哀しみ)の籠った声が鈍い音と共に響き、慎二が息を素早く吐き出す。三月は起き上がって雨の中で慎二の胸倉を掴み、もう一度拳を振るおうとする士郎が見えた。

 

 ────()()

 

「────ッ! 待って!」

 

 ────()()()()()()()()()()

 

 二人が三月の声に反応してこっちを見ると同時に、彼女は立ち、そのまま出ようとして雨の中で倒れる。

 

「ッ! 三月!」

 

 士郎は慎二を離してすぐに三月の元に来て、体を支える。

 そして慎二は────

 

 

 

 

 

 

 

 ────泣いていた(笑っていた)

 

「ハ、ハハハハハ! ザマァないぜ! 僕を、僕を嘲笑うからこうなるんだ!」

 

「慎二! いい加減に────」

 

 三月は手で士郎を制して、慎二の目を見た。

 

「………私は、貴方を嘲笑った事など一度もありません」

 

「ッ! う、嘘だ! 僕は知っているんだからな! お前は、僕の苦しむ姿を…………空回りする姿を内心笑っていたのを! 何が『月の女神』だ! お前は『悪魔』だ!」

 

 慎二の言った言葉に三月の胸がズキリと頬以上に痛むのを感じながらも言葉を続けた。

 

「そんなことは一度たりともありません! 私は………貴方の────

 

 

 

 

 

 

 

 ────まっすぐな、一途な生き方を誇りに思っています! 決して! 決してあなたを嘲笑うなどと考えた事はありません!」

 

 三月のかつてない叫びを聞いた慎二と士郎両方は目を見開き、慎二の笑い顔が更に引きつる。

 

「あ、ああああ……僕は………ぼ、く、は────」

 

「慎二?」

 

 慎二が笑いながら(泣きながら)、泥だらけのまま衛宮邸から走りだす。

 

「(これで、良かったのかな? ちゃんと伝わったかな?)」

 

 若干の不安を残し、三月は気を失った。

 

 ___________

 

 士郎 視点

 ___________

 

 

「(三月()が殴られた。

 誰に?

 慎二(親友)に。)」

 

 気が付けば士郎は怒りに身を任せて、慎二を殴った後だった。

 

「ハ、ハハハハハ! ザマァないぜ! 僕を、僕を嘲笑うからこうなるんだ!」

 

 だが慎二は笑った。

 

「(()()()()()())」

 

 士郎が慎二の胸蔵を掴みながらもう一度殴る前に三月が俺を止める。

 

「………私は、貴方を嘲笑った事など一度もありません」

 

「(三月?)」

 

「ッ! う、嘘だ! 僕は知っているんだからな! お前は、僕の苦しむ姿を…………空回りする姿を内心笑っていたのを! 何が『月の女神』だ! お前は『悪魔』だ!」

 

「(『悪魔』だと?

 三月が?

 ふざけるな!)」

 

 

 そう士郎が叫ぶ寸前に三月()の次の言葉でグッと堪える。

 

「そんなことは一度たりともありません! 私は………貴方のまっすぐな、一途な生き方を誇りに思っています! 決して! 決してあなたを嘲笑うなど考えた事もありません!」

 

 これに士郎はハッと気付く。

 慎二の顔が、未だに()()()()()()()()()()()()事に。

 そして驚いた、三月が()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、ああああ……僕は………ぼ、く、は────」

 

 慎二が衛宮邸から飛び出して、三月が気を失った。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『こちら藤村組。 只今電話に出られませんので発信音の────』

 

 ────がちゃり。

 

「…………ハァ」

 

 士郎は電話を切り、横になった三月()を見る。

 泥だらけで苦しそうに息をする彼女を。

 寒い季節の中雨に当たった所為か、息遣いが荒く、汗を拭きだしながら苦しんでいた。

 

 三月の身体は昔から弱く、突然体調不良になる事も小学生の頃は良くあったが、中学に上がって最近までは収まってきていたというのはただ単に三月が無理をしなかっただけらしい。

 

 そして士郎も寒気を感じ始めていたので、三月を知人の女性に任せ、風呂に入らせた後に自身も入る予定だったが……今になって知っている女性の人達と連絡が付かなかった。

 

「………クソ!」

 

 歯がゆさで士郎は壁を殴り、拳に再度痛みが走る。

 

「(………そういえば慎二を殴ってしまったな。俺を恨んでいるだろうか?)……………」

 

 苦しんでいる三月を再度見て過去を思い出す。

 

 士郎から見た『昔の三月』はどこかオドオドしていた為、一緒に手を繋いで出掛けたり、一緒に(背中を合わせて)布団で寝たり……………一緒に風呂にも入っていた事もあるが、それも全て中学に入る前だ。

 

 『お兄ちゃん』呼びは未だに続いているが、まるで()()と思えるほどに中学に入ってから三月は本当に見違えるように()()()()

 

 衛宮邸で士郎と二人の時だけの場合は甘えてくるが。

 

「(…………………よし、現実逃避はこれぐらいにしよう。 ここには泥だらけで汚れて、体が濡れて冷え切った三月がいる。 そして今そばには俺しかいない。 覚悟を決めるんだ! 衛宮士郎!)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥー」

 

 士郎は湯船に浸かいながら溜息を出した。

 ちなみに三月の体は(目隠しをしながら)布とお湯で拭き、彼のジャージに着替えさせてから新しい布団と毛布で寝かせた。

 

 三月のパジャマ…と思ったが、仮にも女性の部屋の中に入ってまでタンスを開ける勇気は無かったそうだ。

 

 体を拭く、その時チラリと目隠しがズレ────

 

雑念退散雑念退散雑念退散雑念退散雑念退散ッッッッ!!!」

 

 士郎は顔にお湯をバシャバシャと乱暴に洗って、他の事に気を逸らす事にした。

 

 でも着替えさせた時の感触、やわら────

 

「────うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

 湯船から出て、冷た~い水を頭からかぶり、()を冷やす。

 三月の下着?

 

 士郎は脱がせなかったので、起きた三月は若干不満そうになったのは後の事となる。

 

 

 

 そして結局この日から慎二も桜も衛宮邸に遊びに来る事は無くなり、彼らと知り合う前の状態に逆戻りしてしまった。

 

 いや、寧ろ慎二が来なくなった分更に悪化したと言うべきか。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 バシィン!

 

「あいた!!」

 

 三月は鋭い音と共に手が痛み、顔をしかめる。

 

「うーん、やっぱり三月ちゃんは筋力が弱いかな? 力はあるけど、あまり長持ちしないし…やっぱりもう少し体を作る所から始めようか。 それまではゴム弓を引くのは控えめにした方が良いかも」

 

「でも、美綴には話ているでしょ? 私はずっと『()()()』って」

 

「もう! 今更知らない中じゃないんだから『綾子』って呼びなよ、『月の天使』さん?」

 

「う゛。 ま、まだ成長中だからね、『主将』! これでも二段弁当箱()()()毎日食べているんだから!」

 

「はいはい、そういう事にしておくね…………それにしても、アンタが羨ましいよ、あれだけ食べても太らないなんて…」

 

『美綴綾子』。 穂群原学園の生徒。

 

 そして三月の『()()()』が所属している弓道部の主将だ。

 

 あの『雨の日』から気を失った三月が起きた後、『お兄ちゃん』と呼ぶより『()()()』と呼んでくれと士郎が彼女に頼んだ。

 と言っても、外などでは『士郎』と呼ぶようになってしまったが(視線が痛かったらしい)。

 

 特に嫌がる理由もないので三月は了承し、そして高校に上がってからは士郎と一緒に弓道部に入り、()()慎二に再開した時、二人はすごく驚き、彼ら二人を見るのが辛かったのか、最初の頃に再開した慎二は部活動をサボっていたり、仮病で姿を見せなかったなりなどしていたが『美綴綾子』がある日、校門からコソコソと出ようとした慎二を(物理的に)無理矢理弓道場まで引きずって来て、(物理的に)無理矢理挨拶をさせた。

 

 今では昔のように…………とまでは行かないが、それなりに士郎とは話せる仲には戻った様かに見えた。

 

 あと、『月の天使』の二つ名に関しては彼女の体格が関係してくる。

 

 何故か中学に上がった辺りから身体がほぼ成長しなくなったのだ。

 周りの人達の身長や()()()()等がグングン伸びる中、三月はそのままなので、体格が『女神』から『天使』に下がったらしい。

 

 気にしていた三月はありとあらゆる行動で何とか改善しようとしたが…………未だにあまり変化は何処にも表れていなかった。

 

「ハァ…(牛乳飲んだり、鉄棒にぶら下がったり、兄さんの陸上部の真似までしたのに……………いや基礎体力は上がったよ? でも体は成長してくれなかったよ。食欲はそれに伴い増える一方だし……()()で他人の前で自己強化を頻繁にする訳にはいかないし……)」

 

 三月にとってはトホホのホである。

 

 そこで士郎が弓道部を進めて、何で加入したかの理由をある日三月が言うと────

 

「────ええええ? 成長した三月なんて『三月』じゃないよー?! 今のままでいてよー!」

 

「そうよー! 何で私達が弓道部にいると思てんの?!」

 

「むしろお持ち帰りしたい。 ハァハァハァ」

 

 ────などと他の部員から言われ、御覧の通り弓道部()よりは弓道部()()()()()になっていた(最後の二人は美綴に怒られて反省は一応したらしい)。

 

 三月的にはまあ、内心複雑ではあったが悪い気はしなかった。

 

「何だ何だぁ? まーだゴム弓を卒業出来ていないのかよ、三月ぃ?」

 

 何時ものニタニタとした笑顔で慎二が三月たちに言い寄る。

 

「や、弓持てば一応引けるけど、長時間するのは危なっかしいって綾子が言ってさ」

 

「は! 兄が『お人よし』なら、妹は『言いなり』か?」

 

 そして何かと多い慎二からの『文句』と取り巻きの女の子達がクスクスと笑う。

 

 これも多分、慎二なりの気遣いなんだなーと思う三月。

 

「(ただ、彼の取り巻きガールズの反応と態度がその印象をずらしてしまうから、他人からは『嫌な奴』になってしまうけど。)お気遣いありがとう、慎二()

 

「あ……う………………チッ!」

 

 三月がいつもの通りに笑顔(営業スマイル)でそう答えると慎二がタジタジしながら舌打ちをして道場の別の方へと歩き、美綴がジト目で見る。

 

「アンタ、分かっていてやってんの? それ?」

 

「????? 何を?」

 

「……………ハァー、流石『月の天使』様ねー。 これで衛宮のように弓()百発百中だったら『月のアルテミス』に改名できるのになー」

 

「なんでさ?」

 

 だが『この時も』長くは続かなかった。

 

 この後の週間後、士郎がバイト先で肩に火傷を負い、慎二が「火傷の痕のある奴が礼射をするのは見苦しいのでは?」と指摘した事を士郎は真に受け取ったのか、彼は弓道部を辞退する事となる。

 

 元々体作りの為に三月も弓道部に入っていたので、彼女も辞めると宣言した時は皆からの反応に胸が変な感じだったのが三月にとっては印象的だった。

 

 だが流石に宣言をした同じ日に他の部活からの誘いが来るとは思わなかったので、次の日から一応『弓道部の助っ人』みたいなポジションと、『時間があったら来る』と、美綴に条件を付けた。

 

「(まあ、片手を使えない兄さんの面倒を見るからその様な時間は当分無いと思うけど)」

 

 そう思い、『あの時』のように雨が降る日────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『間桐桜』が衛宮邸に()()()訪問して来た。

 

 

 以前の死んだ目と感情の無い状態で。

 

 傘も差さない彼女を見ると、何時かの慎二の事を二人は思い出しすぐに彼女を中へと招き、取り敢えず体が冷えないようにお風呂に入れて、彼女は三月の……………ではなく、士郎のジャージに着替えさせた。

 

「(悔しくないわよ。 悔しくないんだから! 桜に私の服のサイズが合わないなんて~!)」

 

 そして士郎の調子を見に来た藤村先生に士郎のジャージを着た姿の桜を見て、士郎に迫って盛大に怒った。

 

「(いや、何が『三月ちゃんと言うモノがありながら!』なのかが分からないよ、藤姉。)」

 

 その日は何とか怒るタイガー(大河)をなだめてから桜を見送った。

 

 だが桜は来る日も来る日も、平日も休日も、晴天も雨の中でも関係なく訪問しに来た。

 

「(う~ん…………『私』から見た彼女は何か『自分から訪問』をしているんじゃなくて、『訪問させられている』感じがするから、慎二の気遣い………なのかな?)」

 

 このままでは埒が明かないと悟ったのか、三月と士郎は桜を招き入れ、その日から家の家事などを手伝わせた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 更に一年が過ぎ、三月と士郎の二人は晴れて穂群原学園の高校二年生になり、桜は一年生の、彼らの後輩となった。

 

 そして彼女()はその一年の間に徐々にかつて以上に感情を見せ始め、『人の抜け殻』から『人』へとすくすく成長していき、今では立派に毎日衛宮邸の家事を手伝ってくれて、そのおかげで士郎は以前よりもっとバイトを増やし、土蔵で『修行』する時間などが出来た。

 

 勿論、魔術を知らない桜に隠れながらだが、あまり進歩は捗っていなく、三月も直接助けたいが、以前切嗣に言われたのだ。「君は(三月)は有能すぎる」らしく、「他の人に悪影響を及ばせかねないから極力他の人には秘密にして、助言をするのは口頭で」、と。

 

 ただあまりにも進歩が無く、士郎は「自分には才能ないかもな」と苦笑いをしていたが、三月に言わせてみれば、士郎の魔術は『強化』ではなく別の『何』かと感じた。

 彼女自身、正式に魔術を一から習ったわけでは無いのでこれを単なる『違和感』として認識を処理していた。

 

 後、三月は何気に薬や包帯の使い方が更に上達した。 弓道部の頃から他人の怪我などの治療や、桜が何時の日か家で家事をしている時に怪我をしているのを見て手当をするようになった。

 

 桜は「先輩(士郎)に何も言わないで」と言って来るが、明らかに殴られたりされた跡に三月は酷く動揺し、モヤモヤとした気分で桜の意思を尊重していた。

 毎度必ず「どうしたの?」や「誰なの?」と三月は訊くが桜は何も言ってくれないので、ただ静かに怪我を見た都度に手当を施す。

 

 話が少し逸れたが、桜は今では衛宮家の家事全般を自分から担おうとしているので、三月にも時間が出来た。

 ただ、何故か彼女が士郎の様子を見に行くと桜もついてくるので士郎の邪魔にしかならない。

 なので見に行けない代わりに普段は新聞や本を読んだりなどをしている(『知ろう』と思わず単純に読んでいるだけ)。

 

 そして剣道の素振りなどし始めたら何処で聞きつけたのか未だに突っかかって来る大河に試合を申し込まれるので三月は控えている。

 

「あ~ん! 士郎も私と試合するの嫌だって言うし、私はどうすればいいの~?!」

 

 と嘆く大河だった。

 

 ちなみに今三月は『理論書』と呼ばれている物などを読み始めて、家だけでなく、教室で休憩時間の合間(二段弁当を一人で食べた後)に続きを読み続けている最中に話しかけられた。

 

「そう言えば三月って『ミス・パーフェクト』と会った事ある?」

 

「………………………????」

 

「え、三月は知らないの?!」

 

「やーね、三月には多分眼中にないのよ。 チャームポイントも方向性が違うし」

 

「う~ん?(そんなんじゃなくて、ただ興味が湧かないだけなのだけど…)」

 

「私達の学校はいいなー、文武両道の美人と小さくて可愛い子がいて……この二人が────おっとヨダレが……」

 

 いつも三月の周りに来る女子生徒たちが『ミス・パーフェクト』と呼ばれる人と彼女を比べ始める。

 曰く彼女と似ている部分があるのだとかないとか。

 

「(……てか最後の奴、『小さくて』の一言は余計だ! せめて『小柄な』と言え!)」

 

 そして士郎は未だに『人助け』を積極的にしていて、時には朝早くから登校して夜遅くまで帰って来ない。

 過ぎる日々に度が上がって行くような気がするのは三月だけでなく、大河が彼女と心配する桜の分まで説教はしてくれるが効果は無かった。

 

 ただ三月の胸がこの頃余計にザワザワし、ニュースで見る殺人事件やガス漏れに()()()()()事件等を見て『()()()』が更にそれを引き立てた。

 

「(…………物騒だ。 これからは()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 そう思った次の日、三月と士郎は久しぶりに弓道部にいた。




時空的に前半は士郎も慎二も三月も中学生で、桜はギリ小学生の感じです。

『士郎と慎二は同じ中学だったのかな?』と思う方もいますでしょうが………まあ、そこは独自解釈+小学生辺りから噂になり始めた三月という要因があったという事からコンタクトを慎二が取ったという感じです。

あと士郎の胃は無事に激辛麻婆豆腐を乗り越えました(『アレ』レベル程ではないので)。

そしていよいよ次話から原作スタートです!

ちゃんと書けれるか心配です(汗。

評価やお気に入り登録、気に入っていただけたのならのならぜひお願いします!

書く燃料とやる気が湧いてきますので!


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第6話 [That] Fated Night

すみません、少し長くなってしまいました。 許してください(汗

タイトルの意味は“[あの]運命の夜”です。


 ___________

 

 三月、士郎 視点

 ___________

 

 

「士郎………………人助けは良い事なのは理解しますが、何も所属していない弓道部の後片付けまでしなくても良いと思うけど…」

 

「まあ、頼まれたものはしょうがないだろ? それに三月と一緒ならすぐ終わるさ」

 

「士郎が、そう言うのなら…」

 

 そう、もう所属していない弓道部の後片付けを慎二が士郎に頼んだのだ。

 何だか新しく入ってきた新人達に慎二が無理難題を押し付けて、彼らのやる気をへし折ったらしく、人手が足りないそうで、これには流石の三月もムッとしたから士郎を手伝い始めたら、その時にまだ弓道部に残っていた男子達が彼女に言い寄ってきた。

 

「よう、三月! 後片付けなんかは衛宮に任せて、俺達とゲーセンかカラオケに行こうぜ!」

 

「御免なさいね。 ()()()の手伝いをした後でならいいと思いますけど…………ね、()()()?」

 

 普通、士郎の事を学校や衛宮邸外で『士郎』と呼んでいる三月だけに『兄さん』を強調しながらこうやって話題を(士郎)に向けると大抵の相手は呆気に取られるか、顔が引きついて諦めるかの二択だった。

 

「(…………同じ『衛宮』なのにこうも忘れるってどうなのよ? 前にも道場で女子三人に兄さんが『ワカメ』、もとい『間桐慎二』、と思われて襲い掛かりそうになるし、よくこの学園の生徒には物覚えの悪い人達が平気で部活をやっていけるなー…仕方ないか、穂群原学園は『文』より『武』に重みを置いているようだし…)」

 

三月は拭いていた布を絞り、作業を続ける。

 

「(というかあの褐色肌の『蒔寺楓』、やっぱり陸上部だったんだ。 かなりキレの良い『棒術』だったからメインの部活は武術方面かと思ったけど………でも突然襲ってきたのには胸がムカムカしたので、私が兄さんの妹として名乗り出た時に三人とも口が開きっぱなしになったのには少し胸が躍ったなー。 特に『衛宮三月です、いつも陸上部員の()()()には良くされています』と言ったら『蒔寺楓』は土下座をしてきた(『良くされている』と言ってもたまに顔を出す度にお菓子とか飴をくれる程度にだけど)。あと、兄さんが『穂群原のブラウニー』と呼ばれるのは………なんか………胸がこそばゆいかな? ただそれも白い髪の『氷室鐘』が学園近くの殺人事件の事を話している間に兄さんの目が変わったからプラマイゼロになったけど、結局)」

 

 三月は床拭きをしながら取り敢えず、今はちゃっちゃっと片づけを終わらせて早く学校から出たい気分でいっぱいだった。

 今も薬で我慢はしているが、この頃()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので用事がなければすぐに帰っている。

 弓道部を辞めて自宅部になり、他の部活などに顔を出す日以外から何も変わっていないが。

 

 そう思い、床を拭いている士郎の手を三月が見ると────

 

「────ッ。 兄さん、その手の()は何ですか?」

 

 士郎の手の甲に痣みたいな模様を見た三月は息を吸い込み、尋ねた。

 

「ああ、これか? 今朝も桜に聞かれたけど分からないんだよな。 どこにもぶつけていない筈なんだけど………」

 

「そ、そうなの…………(ああ、今日そう言えば桜が珍しく皿を割っていたっけ。 それが理由か。いや~ビックリしたよ、居間で大河の相手をしていたら急に「バリィン!」て音がしたし。 桜には「お皿の事は気にしないで」と言ったけど全然元気がなかったし…………あれ? そう言えば桜って珍しく私にお願いしていたな、「学校が終わったら先輩(兄さん)を出来るだけ早く家に帰らせて」って────)」

 

 ────ギィン!

 

 突然日の落ちた頃に弓道部の道場に響いた金属音に三月の考え事が横切られる。

 

 ギィン、ガァン、ガキン! ガァン!

 

 金属と金属がぶつかり合う音に二人は釣られ、道場を出る。

 

 そこには赤と青の男性が、武器を持ちながら衝突していた。

 

「何だ…あいつら?」

 

 士郎が見入るように目の前に独り言を漏らす。

 

「う………あ…………」

 

 三月も息を漏らす。

 だが士郎と違い『関心』からではなく『痛み』で。

 

 何故なら、今かつてない量の『情報』が『自動処理』出来ない程、言語化も出来ないほどに【  】の声や半透明のイメージなどが三月の頭の中に入って来る。

 

 以前の切嗣と大河の修行など比べようもない。

 

 比べれものがあるとしたら彼女が以前、試しにアクション映画を視た時に主人公達が様々な拳法を使う時、『理解しよう』としたら自分自身の頭にそれが直接叩き込まれるような感じがして、その日は熱を出して寝込んだ程。

 あの時の情報がDVD一枚分と例えるとしたら、今度はDVD二、三枚分の量だった。

 

 さっきから抑え込んでいた頭痛に眩暈に吐き気がぶり返し、彼女の体が倒れそうになる。

 

「ッ! 三月!」

 

 兄さんが倒れる三月の身体を受け止め、恐怖からその場を逃げる。

 

 ___________

 

 士郎、三月、??? 視点

 ___________

 

 

 士郎が三月を抱えながら校内を走る。

 先程から感じる恐怖が士郎を焦らせる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ!(逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!)」

 

 士郎は走る。

 

 走る。

 走る。

 走る。

 

 ただひたすら走る。

 

「────ッ! ブハァ!」

 

 遂に肺が欲する空気に息が追い付かず、士郎は盛大に息を吐きだして、足がもつれて転ぶ。

 転んだはずみで三月が先の廊下へと落ち、士郎は後ろからの足音に振り返るが、誰もいな────

 

「────よう」

 

「ッ?!」

 

 そして真後ろから声がして、士郎が再度振り返ると────

 

「────ぁ?」

 

 気が付けば、青いタイツのような服を着た男性の赤い槍に心臓を貫かれていた。

 

「運がなかったな、坊主」

 

 槍が引き抜かれ、士郎が倒れるのを三月が体を起こして見ていた。

 

「お…兄ちゃん? え? お兄ちゃ────」

 

 ────三月は青いタイツの男を無視して士郎の元へと校内の通路の床を這い、そして青いタイツの男は彼女の心臓も後ろから貫く。

 

「────ぁ…」

 

 三月は士郎を自身の身体で覆うように、彼の上に倒れ、青いタイツの男はただ静かに見下ろす。

 

「『死人に口なし』ってな。 嫌な仕事させてくれるぜ……ったく、いけ好かないマスターだこと………」

 

 そう言い残し、タイツ男はその場から文字通り溶けるかのように消えて、別の誰かの足音が廊下に響く。

 

「………(俺は………死ぬのか?)」

 

「心臓をやられていちゃ助からない………え?! な、何で?! やめてよね?!」

 

「(正義の味方になれず…………誰も救えず………守れずに…死ぬのか?)」

 

「(…………冷たい。背中が…………胸が………痛い)」

 

【注。 背部、及び胸部‎に深刻な生体ダメージを感知。 プロトコール(手順)に従い、迅速な修理を行います。】

 

「(『修理』? これって『修理』()()()の?)」

 

「なんだって、あんた達二人が…………こんな日に…………こんな時間に……私は………………私は、あの子になんて言えば良いの?!  ……私……いいえ、まだ…………手はある!」

 

【〇□を確認しましタ。 『()()』を開始シマす】

 

「(ああ、これは────)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 先に気が付いた士郎は苦しみながらも起き上がり、近くにあった赤いペンダントのような物をポケットにしまい込み、よろよろと同じく起きた三月に肩を貸しながら学校を後にする。

 

 道中、二人は人っ子一人も見えない夜道を歩き、衛宮邸の中へと転がり込む。

 

「…………痛いです、兄さん」

 

「……ごめん、でも……あれは何だったんだ?」

 

「夢……ではないですね、制服に穴も開いているし、血が付いている……洗い落とせるかな?」

 

「ハハ………三月は少し変わったと思っていたけど、全然だな」

 

「??????」

 

「未だにマイペースだと言う所とかさ…………なあ………俺達、殺されたんだよな?」

 

「………うん、多分」

 

「だけど……俺達は生きている。 誰かが後から来たんだと思う……誰だったんだろう? 礼ぐらい言わせて欲しかっ────」

 

 ────カランコロン────

 

「────兄さんッ!」

 

 (簡易結界)の音がすると、三月が士郎にタックルをかませて、先程の青タイツの男が天井から床の畳に槍を突き刺す。

 

 士郎と三月の二人が転がり、近くに落ちた丸めたままのポスターを一本ずつ、()のよう士郎と三月が構えた。

 

「ハァ………つくづく運の無え奴らだ。この俺が一日に同じ人間達を二度殺す羽目になるとはねえ」

 

「トレース、オン。構成材質、補強!」

 

()()()、開始!」

 

 士郎はポスターに強化を施し鉄のように、三月はポスターの()()()()()()()()()()、ダイヤモンド並みの硬さに。

 これを見た槍を持ったがニヤリと笑う。

 

「へえ? 微弱だが魔力を感じる。 魔術師か。『心臓を穿たれて生きている』ってのはそういう事か」

 

「(こいつ、()()!)」

 

 さっきから何度も脳内で様々なパターンや想定を三月はしているが、逃げようと何処を何しても結果は二人とも殺される末路のイメージしか浮かび上がらない。 そんな彼女は────

 

「────はあぁぁぁぁ────!」

 

「────へぇ?」

 

 三月は自分が時間を稼げばいいと思い、二人共死ぬのではなく、一人が生きる為にもう一人が死ぬ。

 正に()()()()()()()()()

 

【戦闘を確認。 武器の特徴により『剣道』及び『剣術』を備え付け(インストールし)、最適化ヲ開始】

 

『士郎の事を頼む』

 

 かつて、切嗣が亡くなる前に三月に頼んだこの一言が彼女を今動かしていた。

 

 槍の持った青いタイツの男は三月が戸惑い無く向かってくるのが意外だったのか、彼は笑みを上げながら槍で対応する。

 

「いいねえ、そうなくっちゃな! ()()()()かかって来やがれ!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォ!」

 

 ただここで三月にとって誤算だったのは『衛宮士郎』の『正義の味方』への執念だった。

 確かに二人とも倒れるより、一人が生き残った方が良い。

 

 だが果たして『正義の味方(ヒーロー)』はそんな事をするだろうか?

 

 否。 『正義の味方(ヒーロー)』は救おうとする、()()()()

 

 青タイツの男の相手を試みる三月と士郎。 初めての命を懸けた共闘の筈が共に生きてきた年月の長さのが幸いしたのか、はたまた二人とも同じ剣道の師をもったのが功を表せたのか、士郎が青タイツの男に切り込み、三月が防御をフォローする。

 

「ハッ! 人間にしちゃあやる────ねえ!」

 

 だが青タイツ男の圧倒的技量の前に数秒足らずで二人は中庭に吹き飛ばされて、手に持っていたポスターは二つともへし折れていた。

 

 二人は命からがら土蔵へと逃げ込むが、すぐ青タイツの男に追いつかれる。

 

「もしかして、お前達のどちらかが()()()だったのかもな。 じゃ、死ねや」

 

「ふざけるな! 助けてもらったからには、簡単には死ねない!」

 

「あ?」

 

 士郎が青タイツの男に叫んでいる間に三月は()()()()()()()を目で探す。

 

「(おじさんのトランクは何処────?!)」

 

「俺は生きて義務を果たさなければいけない! こんなところで意味もなく、平気で人を殺す…お前みたいな奴なんかに────!」

 

「ッ」

 

 ズキリと三月の胸が痛み、風と光が場に荒れ狂い、青タイツの男の驚く声が響く。

 

「七人目のサーヴァントだと?!」

 

「問おう────」

 

 青い衣装の上から銀色の鎧を身に纏い、黄金の髪を持つ少女はその凛とした翡翠の瞳を士郎達に向けて、言葉を述べた。

 

「────貴方が私のマスターか?」

 

「「……………マスター?」」

 

 突然の出来事にただオウム返しをする三月を士郎に黄金の髪を持つ少女は言葉を続けた。

 

「……サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した。 これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。 ここに契約は完了した。 マスター、指示を」

 

 二人は呆気にとられている間、少女が何かに気付いたように後ろを振り返り、蔵から飛び出して、先程の青タイツ男と戦っていた。

 

【告。『西洋剣術』を確認、()()シマス】

 

「ッ!」

 

 今日だけで何度目か分からない『自動処理』仕切れない情報に三月はまた頭痛がするが、士郎はただただ戦っている少女を見ていた。

 

 火花が散り、地面が抉れ、常人ではありえない跳躍を双方が為し、二つの影が交差しながら衝突する。

 それは、すこし前に見た赤い男と青タイツ男の戦闘に近かった。 が、あろうことか、少女の方が男をじりじりと追い込んでいた。

 

 それは単なる技術の差、あるいは力、もしくは他の要因もあったのかも知れないが、決定的な違いに、少女の武器は『見えない』。

『見えない武器』というのは厄介なもので、間合いが掴めず、軌跡も読みづらい。

 

「どうした、ランサー? 止まっていては槍兵の名が泣こう」

 

 青タイツの男────ランサーと呼ばれた男は忌々しげに少女を睨みつける。

 

「その前に一つ聞かせろ。貴様の得物(武器)……………それは剣か?」

 

「さぁ、どうだろう? 斧、槍、いや……もしや弓と言う事もあるやも知れぬぞ?」

 

「ぬかせ、セイバー…………なあ、お互い初見だしよ。 ここら辺で『分け』って気はねえか?」

 

「断る。 貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

 ランサーは溜息を出しながら、赤い槍を構えると、槍の放つ禍々しさが増大する。

 

「そうかよ…『その心臓もらい受ける! 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!』」

 

 一瞬だった。

 

 槍がセイバーに当たったと思ったランサーは怒りを露にして────

 

「────()()()()、セイバー。 我が必殺の一撃を」

 

「グッ…今のは因果の逆転…それにその槍術…御身はアイルランドの光の御子か」

 

「は、名が知れているのも考えもんだぜ…うちの雇い主は臆病でな、『帰ってこい』なんて吐かしやがる」

 

「逃げるのか?!」

 

「ああ、逃げるさ。 元々様子見だけだったしな。 次会う時は決死の覚悟を抱いてこいや」

 

「待て、ランサー!!!」

 

 左腕の付け根に傷を受けたセイバーはランサーを追おうとすると────

 

「────うわ、ちょっと待て!」

 

「な?! マスター、何をする?!」

 

 我に返った士郎がセイバーを後ろから羽交い締めにして止め、これに対してセイバーが目見開きながら驚き、三月が遠い眼をしながら見る。

 

「(うわー、懐かしいなー。 前に兄さんが外でボコボコにされて帰って来た時に私がムカムカしていたら、ああいう風に兄さんに止められたなー)」

 

 暴れるセイバーから士郎が降り落とされ、セイバーが士郎を睨む。

 

「マスター! 何故止めたのですか?!」

 

「落ち着けって! お前は一体何なんだ?!」

 

「(うんうん、私もそこが聞きたかったのよ)」

 

「? 見た通り、セイバーのサーヴァントですが? ですので、セイバーと呼んで下さい」

 

「「(それ答えになっていねえよ!)」」

 

 内心ツッコミから先に意識が帰って来たのは士郎だった。

 

「あー、俺は士郎。『衛宮』士郎だ」

 

「衛宮? (まさか………)」

 

「あ、私は────」

 

「────ッ!」

 

 セイバーは三月を見た瞬間、驚きの顔になる。

 

「あ、貴方は…」

 

「え? (………何その顔?)」

 

「あ、ああ。 こいつは『衛宮三月』。 俺の義妹だ」

 

「…………そうですか、初めまして。(やはりそうそう都合良く召喚はされないか…)」

 

「あ、ハイ。 初めまして、セイバー」

 

「して、どちらが私のマスターなのですか?」

 

「「え?」」

 

「どちらかに『令呪』がある筈なのですが」

 

「その、『令呪』って何だ?」

 

「あ! 兄さん、手の痣が!」

 

 士郎はさっき痛かった手の甲を見ると、痣が何かの模様に代わっていた。

 

「成程、では貴方が私のマスターですね。 ですが貴方は正規のマスターではない。 ですがマスターはマスターです」

 

「(ちょ、何この子? ……『ズンズンとゴーイングマイウェイのスタイルで我先にと行きながら他者の手を無理矢理引っ張るタイプの子』と見た)」

 

 士郎の愛称が『マスター』から『シロウ』に変わった時、三月の胸がチクリとしたのを感じる。

 

「ところでシロウ、傷の治療を────」

 

「────え? 悪いけど…俺、そんな難しい魔術は────」

 

「────あ、私出来ると思う」

 

「「え?」」

 

 セイバーと士郎が三月の方を見ると、彼女がセイバーの近くに行き、掌から光を発するとセイバーの肩の傷がみるみると塞がって行く。

 

「「…………」」

 

「はい、これで良いと思うけど……どうかな?(初めて()()相手に使ったけど……()()()()()()()()()())」

 

「……ありがとうございます、治癒は効いています。(やはり、似ている…)」

 

「よかった。(ホ。 効いて良かった。流石に猫や犬と()()は違うからね)」

 

「ところで三月殿()はどこで治癒術を学んだのですか?」

 

「へ? (ど、殿()ぉ?) あ、ああ。 これはちょっと独学で…」

 

 これは以前、桜の怪我などの頻度が上がった時に昔のように「出来るかな?」と思い、こっそりと近所の犬や猫に鳥など傷ついた生物に何度も試行錯誤を重ねてようやく編み出した魔術の一つだった。

 これのおかげでその動物達になつかれ、それに気付かず学校へ登校し、校門前の教師に「ペットは家に置いてきなさい」と笑われながら三月が後ろを向くとブレーメンの音楽隊のように犬や猫が大人しく三月の後を付いて来ていた。

 この動物達を散らせる事に苦労した三月は一時的にだが二つ名が『ハーメルンの笛吹き天使』になって、からかわれていた。

 

「そうですか」

 

 納得したのか、セイバーは追及しなかった。

 だがこれを見た士郎は内心驚いていた。

 

 彼の知っている範囲内では三月の魔術は自分と似た『解析』と『強化』と思っていた上に同レベル程の筈だった。

 さっきのポスターの強化時は意識がハッキリしていなかったので気付いていなかったが、いざ少し落ち着いてもう一度見返してみたらどうだ?

 

『解析』と『再構築』、そして『治癒』。

 だが士郎の記憶によると切嗣は『治癒』を知っていなかった筈だ。

 何せ自分もそう言うのを知っていたら教えてくれと頼んだが、切嗣は『自分にその素質が無いから教えられない』と答えていたからだ。

 

 「では何故、何処で三月は知った?」と言うような質問ばかりが士郎の頭の中をグルグルと回るが、彼はそれらを全て一先ず置くと────

 

「────外に敵が二人います、迎撃に────」

 

「────ちょっと待てって、セイバー! こっちは何も分からないんだ、少しは説明してくれ!」

 

「敵はもうそこまで迫ってきています────」

 

 セイバーが塀を飛び越える。

 

「…………ああ、もう! 何なんだよアイツ?!」

 

「兄さん、私はセイバーを追うわ!」

 

「え?! おいちょっと三月────」

 

 そして三月も頭痛を我慢して、自身の足腰を強化して塀を超えて、士郎が頭を掻きむしりながら玄関へと走る。

 

「待って、セイバー! そこの赤い人も待って下さい!ってあれ? 貴方は────」

 

「止めないで下さい三月殿、今なら仕留めれます!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ま、待って…くれ…セイバー」

 

 士郎が息を切らせながら言うと、()()()()()()()()が答える。

 

「あら、これは意外ね。 取り敢えずこんばんは、衛宮君に三月」

 

 そこには赤をモチーフにした独自の服を着ていた穂群原学園で『ミス・パーフェクト』と呼ばれていた『遠坂凛』がセイバーと対峙している赤い男の後ろで立っていた。

 

 

 ___________

 

 士郎、三月、凛 視点

 ___________

 

 

 遠坂凛を衛宮邸に上げると、彼女は目についた割れたガラスなどを瞬く間に直して行き、士郎と三月が生身でランサーと対峙していた事に驚愕した。

 

「うわー、それは無いわー。 普通は瞬殺よ? 分かる? 瞬殺」

 

「仕方ないだろ、突然襲って来たんだから。 でも流石遠坂だな、立派な魔術師だ。 ガラスの修理とかなんて俺には無理だ」

 

「ハァ~? アンタだって魔術師でしょうが? これなんて初歩の初歩よ?」

 

「へー」

 

「いや、俺達は『基本』とか知らないからさ」

 

 凛の肩をガクリと項垂れてブツブツと独り言の文句を言う中、三月は必死に彼らのやり取りを見ていた。

 

 何せさっきからずっとセイバーと赤い男が彼女の事を見ているのだから尋常ではないプレッシャーが彼女を襲い、冷や汗を掻かせていた。

 

「(えー? 何で何で何で何でー? 何でお二人さん私を見ているの? 私何かしたっけ?)」

 

 居間に入り、凛と士郎(そして彼の後ろにセイバー)が座り、三月がお茶を入れようとすると、手がさっきの赤い人の手と重なる。

 

「あ、すみません」

 

「…………」

 

 赤い人は何も言わずにただ延々とお茶の準備をして、それが終わり次第すぐに消えた。

 

「…あー、ありがとうございます?」

 

『……別に感謝の言葉などいらないさ』

 

「はへほっはっ?!」

 

 何処からともなく帰って来た返事に三月はびっくりして変な声を出す。

 

「ちょっとアーチャー! その子に何か変な事していないでしょうね!」

 

「「…変な事って?」」

 

 聞き返す士郎と三月に凛が頭を抱えそうになる。

 が、一旦落ち着きが戻ると彼女は色々と話し始めた。

 

『マスター』の証として『聖痕(令呪)』を持っている事。

『サーヴァント』も自分の意志があり、『令呪』が『サーヴァント』を制御する絶対命令権である事。

 そして『聖杯戦争』と呼ばれる魔術師の殺し合いの儀式と『聖杯』という儀式達成の報酬。

 

 最初、士郎と三月も信じられそうになかったが、凛に今日だけで何があったのかを言われ納得せざるを得なかった。 『事実は小説よりも奇なり』のことわざを実感した感覚だった。

 

 そして凛自身、マスターであると。

 サーヴァントは『使い魔』であると同時に英雄と呼ばれる過去の人達や架空の人物が元になる時もあると。

 

「(成程………じゃあ、あのランサーって人はセイバーに『アイルランドの光の御子』と呼ばれていたから…………えーと…『在った』、これね。『クー・フーリン』、か……って、本当に大物じゃない?! それにあのヒョロンとした髪の毛、な~んか気になるな~)」

 

 サーヴァントの『霊体』と『実体化』。

 そして今は凛のサーヴァントのアーチャーが周りの警戒をしている事を告げる。 何故なら既に聖杯戦争が始まっている上、士郎がマスターだと少なくとも一つの運営に分かってしまったから。

 

 この時、セイバーは極僅かに不満に聞こえるような事を言う。 士郎から魔力の補給が無いと。

 これには凛もビックリした。 明らかなデメリットを自分からさらけ出したようなものだ。 車で例えるとガソリンスタンドからガスの補給が無いような状態でエンジンを走らせているに近い。

 だがこれはセイバーがただ単に自分のマスターである士郎に危機感を持たせる為であった。

 凛は更に愚痴を零し始め、「何でこんな奴がセイバーなんかを引き当てるの?!」などと、学校ではありえない姿と言動を発する凛に三月と士郎はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 

 内心、三月は笑いそうになるのをこらえていたが、士郎から小声で自分に言葉が来てそれが無駄に終わった。

 

あいつ()の性格、どこか問題がある気がしてきたのは俺だけか?」

 

 笑い出すのを抑える為に唇を噛みながら三月はゆっくり頷いた。

『明るくて接しやすい子』の三月は内心爆笑していた。

 これは()も同じような状態だった(度合いが違うだけで)。

 

 そしてセイバーが過去の存在からして現代の事は良く分からないかも知れないと心配した士郎に、セイバーからある人にして見たら爆弾のような宣言が出てきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ですから、この時代の事も良く()()()()()()

 

「…………(え?)」

 

 三月がドキリとする。

 彼女にはこの様な事が割と身近に感じたからだ。

 

「それに、この時代に呼び出されたのも一度ではありませんから」

 

「(つまり、さっきの彼女の反応からすると……………『私』に『見覚えがあるかも』という事?)」

 

 最後に、士郎は聖杯戦争についてもっと詳しい話を聞く為に凛と共に隣の町にある協会へ行く事となる。

 

 セイバーは霊体化が出来ないらしく、季節外れだが大きめのレインコートで体を覆い、士郎は傷と血が付いた制服から着替える。

 

 三月も自室で着替え始め、上着とインナーシャツを脱ぐと鏡の中を見て溜息をしながら()()()()()()()()()()()()()を見ながら、手でそれを触る。

 

「…………(やっぱり、これって『()()』って奴……かな? という事は私も『()()()()』なの?)」

 

 三月はただ静かに鏡の中の自分を見て、数秒後には着替えを動きやすい服装へと再開する。

 

 そして着替え終わった三月を見た士郎が不安そうに声を上げる。

 

「あー、三月? それでいいのか?」

 

「だってこれが動きやすいんだもん」

 

 三月が制服から着替えたのは季節の割に軽装な灰色のフッド付きパーカーに青い短パン、そして黒のタイツとニーハイブーツ、そして肩にかけたポシェット。

 そして今では腰に届くか届かない程長くなった金髪を編んで、パーカーのフッドの中に丸めたまま入れていた。

 

 知らない人から見ればどこからどう見ても『子供が近所を一周するお散歩状態』だった。

 

「だからってこんなに寒い夜遅くにはどうかと思うんだが………遠坂はどうなんだ?」

 

「うぇ?! そこで私に振るの?!」

 

「だから今から隣町に行くだろ? 冷えないか、あの格好だけじゃ?」

 

「あ、そこはコアラの子供みたいに『ヒシッ!』って()()()()()に引っ付いて────」

 

「────おい、それは無いd────」

 

「────ウグッ?! ゲホッゲホッゲホッ!」

 

 そこで三月が士郎の事を『お兄ちゃん』と呼んだところでお茶を飲んでいた凛がむせて、咳をした。

 

「お、おい遠坂? だいjy────」

 

「────ちょっと、今のって衛宮君の趣味なの?」

 

「へ? 何が?」

 

「いえ、何でもないわ………………………………まさか衛宮君にこんな…………紳士系男子どころか、まさかの『お兄ちゃん』呼びフェチ持ちだなんて────」

 

「────お~い、遠坂?」

 

 ブツブツと一人事を始める凛を士郎が現実に呼び戻し、隣町の新都郊外の丘の上にある教会を目指し出発する。

 

 ちなみに『コアラ抱き』を士郎に拒否されてブーブー言う三月は士郎の厚めのジャケット(丈が長く、袖が多少ブカブカのサイズ)を一つ借りて満足していた。

 彼女曰く、自分のサイズの服の多くは『機能よりファッション』向けらしく、寒さを防ぐためには何重にも着こまないとダメらしく、それなら士郎の男性ものを一つ借りた方が良いという話で決まった。

 決して(三月の合うサイズの服が)子供っぽいからという理由などではない。

 

 あと『お兄ちゃん』呼びは再度士郎の頼みで封印され、凛の誤解は一応解けているかのように思えた(何の誤解かは知らないが、凛が士郎を見る目がそれまで厳しかった)。

 

「♪~」

 

「おい三月、かなりご機嫌だな?」

 

「だって兄────『士郎』とこうやって外出掛けるのなんて久しぶりだもん」

 

 そう、こうやって三月と士郎が買い物以外で外へ出かけるのは下手をすると小学校以来なのだ(士郎が何時も学校に居残りやバイトをしている為、そして家では最近桜か大河がいる為、なかなか二人だけの時間が取れなかった)。

 そして三月はその頃を懐かしむように鼻歌と共に笑顔になっていた。

 士郎も口では文句を言っているが…満更でもないのか、内心安心したのか、それかただ面倒くさいのか、ずっと三月のやりたいようにやらせている。

 

「ハイハイ、手も昔みたいに繋ごうか?」

 

「うん♪」

 

「いやいや、今のは流石に冗談のつもりだったんだが」

 

「なーんだ、士郎のケチ」

 

「……………私が何でこれに付き合わないといけないのかしら?」

 

「ん? 何か言ったか遠坂?」

 

「な、何でもないわよ! ほら、キリキリ行くわよ!」

 

 新都への移動中、セイバーが凛へと問う。 何故士郎はセイバーが戦うのに遠慮していたのかと。

 これに対して凛はジト目で士郎の方を見ながら、彼は「恐らくマスターやサーヴァントや魔術師など関係なく、それは彼が『士郎だから』だ」と説明する。

 セイバーと士郎と三月には全く答えになっていないが、凛にはそれで充分と判断したのかそれ以上何も言わずただ歩く。




遂に「心臓串刺しの夜」に突入しました。

桜が家事をし始めたので三月と士郎が交代制で朝と昼の大河の相手をよくしています。

あと三月は各部活に顔ぐらいは出していますが、積極的に行っている訳ではないので部員全員が彼女の顔を知っている訳ではありません(基本的に三月は帰宅組所属ですので)。

楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!


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第7話 袖すり合うも他生の縁

10/24/21 21:54
誤字修正しました、ありがとうございます宇宙戦争さん!


 ___________

 

 三月、セイバー 視点

 ___________

 

 

「あー、冷えるねー。寒いねー」

 

「…………」

 

「セイバーは寒くないの?」

 

「私はあらゆる戦場にいましたのでこれ位は平気です」

 

 セイバーは何故か頑なに教会の中へと同行せず、三月は「まーた何かバ〇オハザード感どころかサイレント〇ル感がビンビン来ているからパス」と(凛には)意味不明な事を言い、結局教会内には士郎と凛だけが行く事になった。

 

「三月殿は────」

 

「────『殿』は勘弁して、むず痒い」

 

「では、三月は『アインツベルン』という名に覚えはありませんか?」

 

「(『アインツベルン』? …………はて? 何処かで聞いたような…………)……うーん?」

 

「では、『キリツグ』には?」

 

「あ! 『衛宮切嗣』? おじさんの事? うん、知っているよ? てか、おじさん(切嗣)が私達の親代わりなんだけど?」

 

「……………(キリツグ、貴方は…)」

 

「?」

 

 急にセイバーが黙り込み、三月が頭を傾げて彼女の目がセイバーの頭へと行く。

 

「そう言えばセイバーの髪の毛ってサラサラだねー。 それってシニヨンだっけ? それも可愛いけど髪を下したセイバーも見たいなー、ツインテとか」

 

「そんな事より早く聖杯戦争に勝ち、願いを叶えたいです」

 

「『そんな事より』だって?! セイバーはもとが良いんだから、もっと────」

 

「────あんた達、何やってるの?」

 

 凛の呆れた声が教会の門で待っていた二人にかかる。

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

『何でも望みが叶う願望気』。

 それが聖杯。

 そのための聖杯戦争。

 そして士郎はその聖杯戦争を総括に終わらせ、人が命を落とす前に自分の勝利で終わらせる事をセイバーに宣言する。

 そして聖杯へかける願いの話に変わった。

 

「私なら体の成長を願うかな?」

 

「ハァ?」

 

 衛宮邸に帰る中、三月の何気ない一言で凛がさらに呆れたような声を出す。

 

「や、だってさ。 信じられる? 私って小学生からほとんど身長とか変わってないのよ?」

 

「そんな事を言ったら俺なんてまだ167㎝だぞ? 男子にしたら低い────」

 

「────へー?ほー?ふーん? 悪かったわねー。 140㎝の私が文句言って。 どうせ140㎝の私は遠坂さんに()()敵いませんよーだ」

 

「あんた達ふざけているの? 聖杯をそんな事に使って…………」

 

「え? じゃあ遠坂さんは何を願うの? 身長も胸も顔も良いから…お金とか?」

 

「あ、それも良いわね────じゃなくて! いい? 聖杯は魔術の神秘に匹敵する代物なのよ? それをそんな気軽に────!」

 

「────そんなに怒るとシワが増えるわよ、凛。 こんばんは、『()()()()()』。 会うのは二度目だね?」

 

 士郎達に声をかけたのは雪のように白い髪と、血のように赤い瞳の愛らしい少女と彼女の後ろに立っていた浅黒い肌の巨人が禍々しい殺意を放ちながら彼らを正面から見つめていた。

 

「私の名前は()()()スフィール。イリヤスフィール・フォン・()()()()()()()。 ずっと、こうして貴方に会える日を待っていたわ」

 

「ッ?! ガッ────」

 

 イリヤスフィールの言った事に引っ掛かりを感じると同時に三月は頭を抱え、股を地面に付き、士郎が駆け寄る。

 

「三月?!」

 

「い、()()?! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 頭が………痛いぃぃぃぃぃ?!」

 

 三月は今日で何回目も分からない頭痛に顔をしかめ、目を閉じ、あまりの痛みから涙が流れる。

 まるで内側から何かが力ずくで出ようとしているかのようだった。

 

「……ふーん、()()()()()()()()。 やりなさい、バーサーカー」

 

「■■■■■!!!」

 

「ッ! ハアアァァァァ!」

 

「アーチャー、距離を取って援護射撃!」

 

 セイバーはレインコートを脱ぎ捨てて咆哮を上げ、迫り来るバーサーカーに真っ向から立ち向かい、アーチャーは援護射撃に移行する為に距離を取りながら矢を射る。

 

「アハハハ! 彼女は死ににくいからまず四肢をもいでから犯しなさーい♪」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 士郎は肩で荒く息をする今日二度目の発作で苦しむ三月を支えながら目の前の戦い………と呼ぶには遠い、バーサーカーとの闘いを見ていた。

 

 セイバーが攻撃を流し、アーチャーの矢をバーサーカーが払い落し、凛が魔術で搦め手で場を有利にしようとするが────

 

「────あいつ、なんて化け物なの?!」

 

 士郎は凛の切羽詰まった声からも、自分も本能で感じていた。

 

()()()()()()()()()()』だと。

 

 先程セイバーとアーチャー、そして凛まで強力な一撃を入れた筈なのに、傷一つ無いどころか動きが加速する一方のバーサーカー。

 

「にい………さん…………」

 

 士郎は自分の力の無さに歯をギリッと噛む。

 

「そうね、セイバー達はバーサーカーに任せて、こっちはこっちで用事を済ますとしましょうかしら?」

 

「ッ! 衛宮君、避けて!」

 

「え────?」

 

 凛が叫び、士郎達の身体を押す。 途端に凛の身体に細い糸のような物が手足と首に巻き付き、拘束し、首を絞め始める。

 

「グ…………かはぁ!」

 

「遠坂!」

 

「フーン。 意外ね、凛。 でも貴方にまだ用は────」

 

「────Shape(形骸よ、)…ist…Leben(生命を宿せ)────」

 

「────え?」

 

 笑っていたイリヤの顔が弱々しい声に顔を驚きに変えて、()()()()()()()()()()()()()なようなものが宙を舞い、凛を拘束していた周りの糸を切る。

 

「ケホッ! (これは『錬金術』ッ?!)」

 

「何? 何なの、貴方は?! 何で貴方が()()を知っているの?!」

 

 戦いが始まって以来、余裕の表情を初めて変え、不愉快さを露にするイリヤスフィールが叫ぶ。

 糸で作られたレイピアは宙を浮遊して、士郎の前へと飛ぶ。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…もう………やめて………()()()────」

 

「────三月?」

 

「────だ、黙りなさい!」

 

 息使いが荒く、声も絶え絶えな状態で士郎によってまだ立っている三月のそばの、糸のレイピアが待機するかのようにジッとする。

 

()()は、貴方を────」

 

「(────じいさん────?)」

 

「ッ! うるさい! うるさいうるさいうるさーい!!!」

 

 イリヤスフィールが自分の髪の毛を十本程抜き、()()()()()に変形させてから士郎に背負われている三月へと次々に飛ばす。

 

「消えなさい! 私の前から、消えなさい!」

 

「ク!」

 

 大量の汗を掻く三月の前にレイピアがクルクルと回り、飛んでくるエペの軌道を火花を飛ばしながら僅かに逸らし、エペは士郎と三月の横を通る。

 だがエペの数が七本目となる時にはレイピアの形状はボロボロになり、エペとの衝撃で砕け散る。

 

「…ぁ」

 

 エペがそのままの勢いで三月の顔へと飛来して、イリヤスフィールは安心したように怒った顔を緩める。

 

「────()()()()()()()()()

 

「────ぇ?」

 

「────三月ぃぃぃぃ!」

 

 三月が目を閉じて、彼女の口調と諦めたような声で呆気に取られるイリヤ、そして士郎の叫ぶ声。

 

 そして三月の視界が赤く染まる。

 

「………………………………………………………え?」

 

 彼女を突き放してワザと前に立ちはだかった士郎に、飛んできたエペが彼の腹部に突き刺さった。

 

「ゴハァ」

 

 士郎が吐血して、地面へと倒れのを三月がただ見る。

 

「………………兄さん?」

 

「衛宮君?!」

 

「…………………………何よ、これ? 何なの………………………不愉快! 帰る!」

 

 最初は困惑し、そして次に見た目通りの姿のまま駄々をこねてイリヤスフィールは怒り、そばまで戻ってきたバーサーカーに抱えられ、バーサーカーがその場から飛翔して消える。

 

「シロウ!」

 

 酷くやられているセイバーは自分の傷を物ともせずに士郎のそばへと駆けると、士郎を揺すっている三月を見る凛がいた。

 

「三月、衛宮君から離れて頂戴、診れないわ」

 

「ねえ、起きて兄さん。 こんなところで寝たら風邪を引くよ?」

 

「貴方ね────ッ!」

 

 凛が痺れを切らして三月の肩に捕まると、三月の首がグリンと凛の方へと機械的に向き、そこで三月の表情を見た凛は息を吸い込み、背中にゾクッと寒気が走る。

 

「ねえ、遠坂さん。 兄さんが起きてくれないの」

 

 そこには口が笑っているだけで、光の無い眼が瞳孔を開き、生気が全く感じられない顔のした三月が凛を見返していた。 

 この状態を見たセイバーでさえ息を吸い込む程の異様さだった。

 

「ねえ、どうしよう? 起きないの。 兄さんは寝坊なんかしないのに」

 

 凛が士郎の傷口を見ると、傷が独りでに塞がっていくのを確認してから脈と呼吸を確認する。

 

「………平気よ、気を失っているみたい」

 

「…………そっか。 そうよね。 よk────」

 

 三月が喋り終わる前に気を失い、崩れ落ちる。

 

「………あー、もうー! 何なのよ、もう! まったく……………アーチャー! セイバーと一緒にこの二人を抱えて────!」

 

「ッ…あれ、遠坂?」

 

 そこで士郎が起きると、ボンヤリとしている意識でボロボロの周りを見渡す。

 

「あの子とバーサーカーは?」

 

「衛宮君、説明する前に私から一つ言わせて」

 

「な、何だ遠坂? 急に真剣な顔になって?」

 

「三月の前で絶対にあんな事をしないで」

 

「『あんな事』って………何だよ?」

 

「……衛宮君、最後に何を覚えている?」

 

「何って……何か糸で作られた物同士がぶつかり合ったところ………かな?」

 

 そこで凛が士郎に何があったのか説明する。

 まず、凛が士郎達を押しのけてイリヤスフィールの魔術に捕まり、糸状のレイピアがそれを切る。

 そしてこれを見たイリヤスフィールは次々と自分の糸状のエペを飛ばし、三月に刺さりそうなのを士郎自らが間に入り、代わりに刺された。

 

「ハァ?! 俺がか?! つっても覚えてもいねえし、傷も無いぞ……」

 

「貴方の腹部あたりにぽっかりと服に空いた穴に手を置いてもう一度聞いて見なさいよ。 傷は何かひとりでに治ったわ。 意外ね、衛宮君にそのような魔術が使えたなんて」

 

「え? 俺がか? 前にも言ったように俺にはそんな才能は無いぞ」

 

「なら…………考えられるのはセイバーから何らかの恩恵がある事ね、そんな話聞いた事も無いけど」

 

「…………そうか。 遠坂がそう言うんだったらそうなんだよな」

 

「シロウは身を挺して義妹を守ったのですね。 行動自体は問題ありですが誇り高い行為です」

 

「フ、私にしてみれば愚か者がする行為だがな」

 

 そこに姿を消していたアーチャーが姿を現し、士郎を見下す。

 

「今のは聞き捨てなりませんね、アーチャー────」

 

「────もし彼がそのまま死んでいたらお前も消えるのだぞ、セイバー? その上、後に残されて哀しむ者が少なくとも一人はいる。これが愚か者のする事でなければ何なのだ?」

 

 アーチャーの身も蓋もない言い方に士郎がムッとする。

 

「そりゃあ、俺のしたことは褒められた事じゃないけどさ……」

 

「悔やんでいるのなら力をつける事だな。 さもなくば聖杯戦争からとっとと身を引け」

 

 そう言い残し、アーチャーは消える。

 

「…ま、アイツの言い方はアレだけど的を射ているわ。 衛宮君がさっき経験したように力のないものが戦闘に巻き込まれたらは死ぬわ。 戦えなければ策を練るなり、逃げるなりしてサーヴァントを使い、勝つ。 それに、サーヴァントは強力だけどそれはマスターがいる前提。 それが聖杯戦争よ。 今のあなたは半人前………いえ、なまじ魔術を中途半端に知っているからこそ半人前以下よ。 私に言わせてみれば、貴方よりよっぽど妹さんの方がマスターとしては優良物件ね。 ま、令呪とセイバーを誰かに引き継がせるなら私が貰うけど?」

 

「ハァ? そんな事する訳がないだろ?! 俺はセイバーと約束したばかりなんだ! お前に引き継ぐって事は約束を俺から放棄するのと同じだ!」

 

「シロウ………」

 

「けど、何で遠坂は俺にいろいろしてくれているんだ?」

 

「当り前じゃない。 私からしてみれば衛宮君は隙だらけで何時でも誰からでも狙われやすい状態なんだから。 一応、遠坂家の当主として最低限のルールや基本を知ってから同じ土俵に立つ前に誰かが脱落するなんて私のポリシーに反するわ」

 

「そうか。 ありがとうな、遠坂。 お前はやっぱ良いやつだよ」

 

「んな?! わ、私は当然の事をやったまでよ?! べ、別に礼を言われる事じゃないわ! と、とにかく! 明日から貴方と私は敵同士なのだから覚悟しておきなさい!」

 

 呆気に取られ、赤くなった凛はそう言い残し、その場から素早く離れる。

 

「…………シロウ」

 

「ああ、行こうかセイバー。 三月は俺が背負って帰るから、周りの警戒をしてくれないか?」

 

「承知しました」

 

 士郎は三月が借りていた上着で破れたシャツを隠して三月を背負い、セイバーはレインコートで自分を覆い、衛宮邸を目指す。

 

「そういえば、セイバーの傷は大丈夫なのか?」

 

「一応は。 ですが完璧とは程遠いです。 できれば三月の治癒を受けたいのですが…流石に気を失った彼女をその為だけに起こすのは悪いかと」

 

「ああ、三月は心配性だからな。 けど、()()()()()()()()()()()()とはな………余程のショックを受けたんだろうな」

 

「…………ッ」

 

 セイバーは士郎に言えなかった。

 三月の先程の()()の事を。

 余りにも自分達の知っている()()からかけ離れていて、話題に出し辛かったのだ。

 

「けどあの『アインツベルン』って子…あんな小さな子供まで聖杯戦争に参加しているとは────」

 

「────シロウ、誰かが近くで魔術を使っています。 指示を」

 

 一瞬さっきの死闘を思い出す士郎、だが相手がバーサーカーやランサーではない事をセイバーから聞き、様子だけでも見に行こうと移動を開始する。

 

 そして、士郎はどこかで感じた事のある空気を不思議に思いながら────

 

「────へぇ、驚いたな。 まさか、あの『衛宮』がマスターになっているとはね。 それに都合よくサーヴァントも連れている」

 

 そこに現れたのは『間桐慎二』とバイザーを掛け、黒を基調としたボディコン服を着た紫色の髪の毛の長身の女性が立っていた。

 

『美綴綾子』を腕に抱きながら。

 

「美綴?! 慎二、お前まさか……聖杯戦争に────?!」

 

「────ああ、安心しろよ衛宮。 こいつが僕に付きまとっていたから眠らせているだけだ。 何もしちゃあいない。 ところでさぁ、僕と手を組まないか?」

 

「何?」

 

「僕が聖杯にかけたい願いは『魔術師として認められる』事。 そしてお前の事だから聖杯に願いなんて無いんだろう? それにあったとしても、僕にはあまり問題は無い。 聖杯戦争で生き残ればそれでも『認められる事』にはなるんだしさ。 後はサーヴァントの願いだけど………それはそれで他のマスターやサーヴァントを殺した後で彼らに決着を付けさせればいい。 どうだい? 悪くないだろう?」

 

「………何でだ、慎二? 俺なんかより遠坂とかの方が良いんじゃないか?」

 

「ああ、アイツにも話を持ち掛けたけどキッパリと断られたよ。 確かにお前はアイツに比べるまでもない素人だ。 だけど僕と君t────『君』との中だから提案しているんだ」

 

「…………ごめん、慎二。 今は答えられない…考えさせてくれ」

 

「ま、それが普通の返事だな」

 

「ただ一つだけ聞かせてくれ慎二、()()()一般人を巻き込んでいるか?」

 

「いいや、()()()()そんな事をしない」

 

「そうか、悪いな」

 

「フン、分かったのならとっとと行けよ。 風邪を引いてしまうぞ?」

 

「ああ。 セイバー、悪いが美綴を抱えてくれないか?」

 

「……承知」

 

 セイバーが綾子を片手で抱え、士郎の後を歩く。

 

「…………ここであのサーヴァントを倒さないのですか?」

 

 バイザーを掛けた女性が慎二に問いかける。

 

「『倒せ』と命じたら倒せれるのか?」

 

「………………………難しいでしょうね」

 

「だろ? だから爺さんの言ったようにまずは力を蓄える。 だが僕のやり方でだ。 罪の無い奴らは巻き込まないが、その他はオーケーだ。 ()()()()の探索を続けるぞ、ライダー」

 

「……………はい」

 

 ライダーと呼ばれた女性のサーヴァントは少々不服なトーンの入った返事をし、慎二は苦笑いを浮かべた。

 

「それに、今のアイツ(衛宮)には気を失っている二人を守りながら戦うのは難しい。 今襲い掛かれば、『衛宮』はそんな不意打ち行動みたいな卑怯な手が嫌いな節があるからな。 仕留めるなら確実に邪魔が入らない所だ。 行くぞ、ライダー」

 

 慎二とライダーは夜の街の中へと消え、士郎達は衛宮邸へと再度向かい始め、セイバーもまた士郎に慎二のサーヴァント今倒さないのかと問う。

 

「いや、今の俺達には気を失っているこの二人を守りながら戦うのは難しいんじゃないか? 下手をすれば美綴か三月を巻き込んでしまう可能性がある。 慎二は表面じゃ『気にしない』とか言うかも知れないが、アイツは内心泣くだろうしさ。 言動と違って根は優しい奴だからな。 もし戦うとしたら、他人が巻き込まれない所を選ぶだろ」

 

「…………」

 

 ここに意外と考え方が同じようで、微妙にズレていた親友同士がいた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「三月……………三月」

 

「…………ん」

 

 三月が身をよじり、目を開けると見慣れた天井と士郎の顔が目に入った。

 

「あれ? 私……いつ家に?」

 

「ああ、起こしてすまない三月。 でも美綴の様子が────」

 

「────綾子が?」

 

 三月は起き上がり、隣の部屋で苦しむ綾子を見て血相を変える。

 

「え?! 何これ? どういう事?! え? 呪詛? ううん、これは残滓?」

 

「やっぱり三月には分かるか」

 

「あ」

 

 三月がジト目で見ている士郎を見て、三月は目を逸らしながら笑う。

 

「あ、あはは~」

 

「今は聞かないでおく。 だからお前から話すのを待つ。 でも今は美綴の事を診てくれるか? 最初は遠坂かあのエセ神父に頼ろうかと思ったんだがセイバーがやめておけって」

 

「セイバーが?」

 

「はい、仮にも他の運営のマスターと得体の知れないものに借りを作るのはどうかと」

 

「…………な、何か複雑だけど………やってみるわ」

 

 そう言い三月は美綴の首に痣のようなものがあるのを見て、それが胸へと続き、もっとよく見る為に美綴の制服の上着とシャツを脱がせ────

 

「────うおわ?! お、俺! 部屋の外に出ているから!」

 

 ────士郎が急に赤くなりながら、部屋を退室するとセイバーが後を追う。

 

「???」

 

 三月は何故士郎の態度が急に変わったのか分からず、そのまま美綴の治療を再開する。

 

「あら、以外と可愛いブラ」

 

 他意は無く三月は治療を続ける。

 

「83㎝か…………良いな~」

 

 ………………………………他意は()()無く三月は治療を続ける。




作者:楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!あと最近またHeaven's Feel Iの映画見たけど、イリヤって初登場の時のセリフエグイな。

ラケール:もうあれって『ヤンデレ』と言うよりは『病んでいる』じゃないの?

マイケル:女って怖ええええ!

三月(バカンス体):でも無理も無いと思うわ

マイケル:ちなみに最後の『美綴』って奴のブラの色は?

三月(バカンス体):ピンクのフリフリした奴

ラケール:アホかあんた達?!


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第8話 虎口を脱し、竜穴に入る

いつもご感想ありがとうございます!

長めの第八話です!


 

 ___________

 

 アーチャー運営 視点

 ___________

 

「ここも同じのようね」

 

 遠坂凛は士郎と離れ、新都の()()()()事件を調査していた。

 確かにガスはガスだが、()()()()()()()()()()()()だった。

 

「しかも霊力がすべて柳洞寺へ向かっているとなると、いきなり『当たり』を()()()()引いたかしら?」

 

 これだけの条件で『サーヴァント』と決めつけるのは早計かもしれない。

 

 凛が骨で出来たゴーレム達を撃退し、その出来の良さが現代の魔術師に無理な物でなければ。

 

「相手はキャスターか…………」

 

『どうするのだ、凛? 相手は恐らく用意周到なタイプと見た。手強いぞ』

 

「………アーチャー、狙撃は可能かしら?」

 

『無理………とは言えないが、場所が高所なだけに大雑把な範囲攻撃になるが……それでは君が攻撃を許さないだろう?』

 

「ええ、やるなら確実に、かつ正確に………なら、柳洞寺へ直接行かないとダメか…………」

 

 凛は忌々しく、ビルの窓の外にある、離れた円蔵山中腹に立つ寺院らしい場所を睨む。

 

『凛、セイバーのマスターはまだ泳がすのか?』

 

「…そうね、今はそれより先に片付けないといけない案件が山積みだから」

 

『だが奴から令呪、またはセイバーを得ればかなり優位になるぞ? それこそ柳洞寺のキャスターなど障害にならない程のメリットが』

 

「あんな奴、いつでも片手間でやれるわ。 寧ろアイツ相手にこちらの手が他の運営にバレる方のデメリットが大きいわ」

 

『だがもし、奴が聖杯戦争の何たるかを未だに理解せずにノコノコと君の前に立った場合はどうする?』

 

「…………………」

 

 凛は黙り、お線香を場内から換気する為に開けた窓からの風が彼女の髪の毛をなびかせる。

 

『凛?』

 

「………その時は、倒すわ。 そんな無鉄砲な奴、鬱陶しくて敵わないわ」

 

 

 凛は何とも言えない表情でアーチャーに答えながら街の夜の様子を見る。

 

 

 ___________

 

 バーサーカー運営 視点

 ___________

 

 

 景色と場所が変わり、冬木市の外れにある森の奥にある古城の内部へと移る。

 

 そこではバーサーカーのマスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがむしゃくしゃしながらベッドの上で爪を噛んでいた。

 

 彼女の心は揺らんでいた、いやどちらかと言うと荒れていた。

 

 彼女の両親は前回の聖杯戦争の参加者で、聖杯を手に入れるあと一歩と言うところまで勝ち残ったが、最後の最後で『聖杯を壊す』と言う行為を行い、『聖杯を持ち帰る』というアインツベルン家との契約を破るだけどころか、『絶対に帰って来て迎えに来る』と娘であるイリヤスフィールとの約束を裏切ってまで()()()()と日本で生き残ったのだと()()が上がっていた。

 

 あれから数年経ち、この聖杯戦争にマスターとして選ばれたイリヤスフィールはバーサーカーを召喚して、日本へと飛び出た。 既に両親は亡くなってはいると情報があったが彼女には関係なかった。

 

 何故なら前回の聖杯戦争後、両親の()()()()()()()()()を取っていたからだ。 ならば復讐するべき本人がいなければ、その子供に償いをさせば良い。

 余りにも無邪気で、子供っぽい考え方だった。

 

 だがいざ相対してみると一人どころか()()も養子にしていて、一人に至っては()()()()()()()

 

 以前から燻ぶっていた怒りが爆発し、当初の計画していた『相手をゆっくりといたぶる』を怒りから瞬時に『()()()()()()()をもう一人の目の前でなぶり殺しにした後にいたぶる』に変えた。

 

 ただ途中でうるさい虫(遠坂凛)が邪魔して、駆除(殺す)前に『ソレ』が起こった。

 自分の()()()()()()()()()使()()()()()のだ、よりにもよって()()が。

 しかも自分の死んだ両親のように愛称の『()()()』と声を掛けながら。

 

 怒っていた上に不愉快極まりないこの出来事で彼女は文字通り激怒した。 怒りに任せて本来の魔術師としての余裕や格下の筈の彼らを見下す事や戦術すら忘れ、ただ眼前のモノを消し去りたかった。

 

 だがようやく牙が届いたと思ったら、今度は半人前の一般人とさほど変わらないもう一人の養子がその攻撃を庇い、倒れた。

 これでイリヤスフィールは呆気に取られる以上に、混乱した。 何故そんな事を出来たのと。

 

 何故『()()()』の()()が?

 

 何故? 

 

 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故?

 

「…………セラ。リズ。」

 

 そこにイリヤスフィールは誰かを呼び、すぐに彼女と同じような雪のように白い髪と、血のように赤い瞳をした、仏頂面をした成人女性二人が給仕の服を身に纏い現れる。

 

「はい、何でしょうかお嬢様?」

 

「『衛宮士郎』と……………『衛宮三月』に関して情報が欲しいわ」

 

「ですが、以前入手した資料はそれほど古くはない筈ですが────」

 

「────『衛宮三月』は『天使の詩(エルゲンリート)』を使用して来たわ」

 

「なっ?!」

 

「???」

 

 これにはセラとリズと呼ばれた二人が目を見開き、セラは明らかに動揺を顔と声に出し、リズは目に未だに光が籠っていないが口を半開きにしていた。

 

「そんな………それは………アインツベルンの、お嬢様特有の魔術の筈!」

 

「セラ、私もビックリしたわ。 しかも、髪の毛じゃなくて()を使って来たのよ?」

 

「そ、それは…………まさか、()()の…………」

 

「イリヤはリズ達にどうして欲しいの?」

 

「リーゼリット! 貴方は毎回お嬢様の名をそのように────!」

 

 リズ────リーゼリットと呼ばれた無表情&人形らしき目をした給仕の彼女は主のイリヤを愛称で呼ぶ事にセラは異を唱えていたが、イリヤは気にしていない模様だった。

 

「どうもして欲しいんじゃ無くて、興味が湧いたの。 何故彼女が『天使の詩(エルゲンリート)』を知っていて、使えたか知りたいの。 それに…………………」

 

「それに?」

 

「リーゼリット!」

 

「………ううん、今は取り敢えずそれが知りたいだけ。 もしかする他にも分かっていない事があるのかも知れないし」

 

「分かりました、お嬢様」

 

「イリヤがそう言うのなら」

 

 セラとリズが部屋を出ると、イリヤは体育座りになり、抱えた膝に頭を乗せながら考える。

 

「………………それに、『あの子の言っていた続きが聞きたい』、なんて言ってもセラ達は多分理解してくれないわ」

 

()()は、貴方を────≫

 

「(────私を、何?)」

 

 荒れていた心を落ち着かせるように、先日の出来事らを頭の中で何度も自分を冷静にしながら、思い返していた。

 

 

 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 

「士郎。 説明しなさい」

 

「や、だから誤解だってふj────」

 

「────三月ちゃんは黙ってて。 で? 士郎?」

 

 時は次の朝で場所は衛宮邸。

 

 士郎は正座をさせられて、目の前に竹刀を片手に持っている大河が怒っている形相と組んだ腕で彼を睨んでいた。 横ではオロオロしている桜、気まずい美綴、そして冷や汗を流している三月がいた。

 

「(どうしてこうなったのさ?!)」

 

 美綴を治療した後、三月は安定した彼女のそばにいる事に決めた(彼女が起きて混乱を避ける為に、他意はない)。 その間、士郎はセイバーから聞かされていた。

 第四次聖杯戦争の事を。

 そして────

 

 

 

 

 

 

 ────彼女の知っている『衛宮切嗣』と言う名の男の事を。

 彼が『アインツベルン』という一族に雇われていた事も。

 そこで『妻』を娶って、『子』を成した事も。

 その子供の名は『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』。

 

 先程対峙したバーサーカーのマスターと同じ名だった。

 

 そして、『衛宮切嗣』が最後には聖杯を手に入れることが出来た位置にいたのに自ら手放して、あまつさえ令呪全て使ってまでセイバーに聖杯の破壊を命じた事も士郎に伝えていた、一切の私情などなく。

 

 セイバー自身、シロウ達の言動から推測できるキリツグと、先程会ったばかりのイリヤスフィールが自分の知っているキリツグとイリヤが同一人物かどうかは自信がなかった。

 

 何故ならセイバー自身が知っているイリヤと対峙した『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』はあまりにも性格も態度も違った。

 なのでもしかするとさっき会った彼女はイリヤをベースにした『アインツベルン』の人造人間────『ホムンクルス』の可能性があるかも知れないと思っていた。

 キリツグに至っては、何故あのような目的の為ならば手段を選ばない男がアインツベルンとの契約を破ってまで聖杯を破壊したのかが理解出来なかった。

 

 勿論、士郎もセイバーの話を一応聞いてはいたが、とてもじゃないが自分の知っているじいさん(切嗣)からは程遠い人物像と言動だったので、にわかにセイバーの話が信じられなかった。

 

 だが参考程度に士郎は受け取り、自分がやるべき事は変わらないとセイバーに伝えた。

 そこで疲れが一気に押し寄せたのか、過労がピークまで達したのか、士郎は気を失うように座りながら寝てしまった。

 

 その次の日の朝、起きて想像通り混乱していた美綴を三月が「衛宮邸の近くの道端で気を失っているところを保護した」と説明した。

 朝起きた士郎はいつの間にか自分の部屋で寝ていて、昨日の出来事を夢かと思い始め、過労からかボーっとしながら布団から出て、その頃には朝の支度を済ませた美綴が(来客用の着物や日用品を使って)三月と朝食を取っている所に桜と大河が家に入り、タイミングの悪い事に士郎もそこへ来た。

 これを見た大河は瞬時に竹刀を近くから取り出し、士郎へと詰め寄せて説明(弁明)を求めていた。

 

「だから言っただろ?! 『美綴が気を失っているところを三月と見つけた』って! そりゃあ、連絡していなかったのは悪いけどさ、夜遅くに連絡は迷惑かと思ったんだよ!」

 

「ほー? じゃあ士郎達はそんな夜遅くに何をしていたのかなー?」

 

「「(うげ。 考えてなかった)」」

 

 士郎と三月は目を合わせる。

 

『これどうすんのさ?!』

『誤魔化すのは無理、でも真実は言えない』

『だからどうすんのさ?!』

『士郎!君に決めた!』

『なんでさ?!』

 

 このアイコンタクトの会話にかかった時間は一瞬、だが思わぬ助け舟がそこで出てくれた。

 

「あーと…それ、私の所為なんです、藤村先生」

 

「「(美綴?/綾子?)」」

 

「へ? どういう事、美綴さん?」

 

 これが意外な事は大河も同じだった。 『美綴綾子』と言う女性とは男勝りで有名だが決して夜遊びなどをするようなタイプでは無かったからだ。 寧ろ彼女は積極的にそんな行動をする者達を止める側だった。

 

「実は私、ちょっとウチの生徒たちがなんか変な奴らに絡まれていたのを見て、私が首を突っ込んだんだ。 その時イザコザがあって、ウチの生徒たちが逃げている間に気を失って、どっか連れていかれるその所にし────『衛宮達』が私を助けてくれたんだ」

 

「へ? そうだったの士郎、三月ちゃん?」

 

「う、うん。 何時も見る藤n────藤村先生の『知り合い』達ではなかったのですが、同じ雰囲気を出していました。 だから彼らはもしかすると誘拐の罪を擦り付けようとしていたんじゃないでしょうか? (これで行けるか?!)」

 

「なぁぁぁぁぁぁんですってぇぇぇぇぇぇぇ?! 何処の(もん)じゃそいつらぁぁぁぁ?! ウチら(藤村組)に喧嘩売ろうってなんざ、ふてぇ野郎共だ! 血祭りにあげらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 大河の突然な豹変ぶりに美綴どころか桜までも目を見開きながらパチクリとしていた。

 そして内心ホッとする士郎と三月。

 更に三月は内心、これからいる筈のない『敵』に総動員される藤村組全員の行動が無駄骨になる事を謝っていた。

 

「(ゴメンね藤村組の皆、マジで)」

 

「こんな悠長な事しちゃいられねー! すぐに爺さんに言いつけて(わけ)(もん)を総動員、緊急招集だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 大河は竹刀を持ったまま、沸騰した怒りのまま衛宮邸を全力疾走で後にした。

 

 外から聞こえてくる竹刀の音と大河の「そこをどきやがれボケぇぇぇぇぇ!」と門番を務めている男性達の断末魔の「お、お嬢?! その竹刀は────ぎゃあああああああ?!」はきっと空耳だろう。

 

 ウン、ソウニチガイナイ。

 

「(ほんっとうにゴメン、藤村組! 今度出来たら、皆が大好きなぼたん鍋&カルビパーティーにするから!)」

 

「……あー、ありがとうな美綴。 マジで助かった」

 

「あ、ああ。 安いもんさ。 けど……さっきのあれは何だったんだ?」

 

「藤姉って()()()()になるとたまに暴走するだろ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん、だから気にしないで綾子」

 

「私、あんな先生を初めて見ました」

 

「さ、桜も初めてかよ」

 

「ま、まあ…ここ数年、俺も見ていないからなー」

 

「見るとしたら相撲を見る時……とかかな? (あとさっきみたいに興奮した時とか?)」

 

 その後、美綴は自分の家に帰る前に士郎と三月にまた礼を言いながら手を振り、朝の住宅街へと消える。

 

「…………ねえ士郎。私、今もう一件の()()を思い出したんだけど」

 

「………奇遇だな三月、俺もだ」

 

 そして二人は溜息を出して次の難問と大河が戻ってきた時の騒動に備える。

 一難去ってまた一難である。

 

「どうしたのですか、シロウ?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 今はまだ朝が訪れたばかりの衛宮邸。美綴が自分の家に帰りまだ間も経っていない時。

 ここには()が二人の男女を恐怖に陥れていた。

 

「で? 士郎は()()女の子を連れ込んでいたわけ?」

 

「ま、またって事は無いd────」

 

「────三月ちゃんは良いわ、義妹だもの。 桜ちゃんもまあ、未だに教師的にはアウトだけど健全な関係だからまだ良しとする。 でも事情があったからとは言え、昨日は美綴さんでしょ? そして今度は金髪外人だとぉぉぉぉ?! 独り身たちをなめとんのかゴラァァァァァ?!

 

「(うっわ。藤姉、完全にあっち(極道)モードじゃねえか?!)」

 

「い、いやこれにも事情が────」

 

────ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ン?!

 

「ひっ」

 

 三月へガンを飛ばす大河にセイバーが口を開ける。

 

「『藤村大河』、と言いましたね? 私の名はセイバー。 昔切嗣にお世話になった者です」

 

「へ? 切嗣さんの?」

 

「ハイ。 以前、彼は日本に住んでいたとの事で訪ねて来たのですが…」

 

「………そうなの、士郎?」

 

「あ、ああ。 彼女はじいさんの知り合いで、じいさんを頼りにしてここに来たんだ」

 

「そうなんだ。 な~んだ、それならもっと早くに言ってよー! 切嗣さんって昔は海外にしょっちゅう行っていたから、それも不思議な話じゃないわー!」

 

「「(いや、俺に/兄さんに説明させてくれなかったのはアンタでしょうが)」」

 

「へー、切嗣さんがこんな可愛い子をねー。 へー、ほーん、ふーん。 成程ねー」

 

 ちなみに今のセイバーは甲冑の下にある青いドレス姿だった。

 

「ああ、だから今日からウチで暮らすから仲良くしてくれ」

 

 ピシッと場の空気が凍るのをそこに居た誰もが感じた(士郎本人以外が)。

 

「「うえぇぇぇぇぇぇ?!」」

 

 大河と桜がこれに対して素っ頓狂な声を上げる。

 

「………(兄さんのバカ! アホ! マヌケ! そんな言い方じゃダメでしょうがぁぁぁぁ?!)」

 

 そして大河がまたもや士郎の胸倉を掴み、立たせる。

 

「士郎は毎度毎度毎度毎度毎度! 一体何人の女の子を誑かせば気が済むのよ?! お姉ちゃんは士郎をそんな子に育てた覚えはありませんよ?!」

 

「え? え? え? 先輩?」

 

「(まあ、本当の事を言えば私達二人がおじさんの死後藤姉の面倒を見てたんだけど……余計話しがこじれるからここは黙っとこ)」

 

「お、落ち着けって藤姉! そんなんじゃないから!」

 

「でもでもでも! 『ここで住む』って事は、士郎ってばこの誠羽亜(セイバー)ちゃんと同居するって事でしょう?!」

 

「そうなんですか、先輩?!」

 

「(……今何か大河が面白い事言ったような気がする…………タイミング的にまだかな?)」

 

「そんなんじゃないってば! セイバーが滞在するのはほんのちょっとの間だけだ! それにじいさんを訪ねてはるばる来たってのにここで門前返しにする訳にはいかないだろ?!」

 

「(そこだぁぁぁぁ!)そうです、藤n────藤村先生に桜。 その前に彼女の荷物は不手際の所為でまだ届かないし、変な奴らには絡まれては手荷物を無くすし、迷っていた所に私と士郎と一緒に綾子を助けたりして、いざ衛宮邸に着いたと思ったら頼りにしていたおじさんは既に亡くなっていた。 そこで『今衛宮家にいるのはおじさん(切嗣)ではなく、その養子の兄妹二人だけだから駄目』って言うんですか?」

 

「ウグッ………た、確かに切嗣さんを頼って来たそんな子を無碍には出来ないけど………………………う~~~~~~~~~~~~~ん…………………」

 

「それに部屋も布団も余ってはいるんだし、そこまで心配なら三月の隣の部屋でも良いじゃないか?」

 

「う~~~~~~~~~~~~~ん…………………まあ…………………………………………良いんじゃない?」

 

「ええええぇぇぇ?! せ、先生?!」

 

「ありがとう藤姉! 大好き!」

 

「はう♡」

 

 満面の笑みで抱き付いて来る三月にだらけ始める大河の顔に毒気を抜かれた空気が場を漂う。

 

 その後、大河は桜と話す事があるという事で士郎と三月に今日のご飯の用意などを頼んだ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その日は士郎と三月の二人が腕によりをかけて、皆の好物の大量オンパレードの昼ご飯と晩御飯を作っていた。

 普通ならワイワイと騒ぐ大河だったが食べる間一言も何も言わず、ただ延々と昼ご飯を食べていた。

 そして大河と桜は昼ご飯を食べ終えると、どこかで用事があるのか、二人で出かけた。 その間、セイバーは青いドレスから来客用の着物に着替え、衛宮邸内の警戒をし、晩御飯の準備と支度をする士郎達。

 帰って来た大河と桜は何か買って来たのか、デパートのショッピングバッグ等を持って来て、セイバーの為に日用品などを買ってくれていた。

 ただ荷物の半分ほどだけがセイバーの為だったの対して疑問を一瞬浮かべた士郎達だがあえて何も言わず、丁度時間的にもタイミング的にも良かったので晩御飯の支度をして皆食べ始める。

 そしてまた一言も誰も何も言わず、ただ延々と食べていた。

 

「「(物静かな藤姉が怖いッ!)」」

 

 時計の針が9時頃を指し始めようとした時、まだゴロゴロしている大河を不意に士郎はお茶を飲みながら見ていた。

 何時もなら桜の見送りを言い出す彼女がまだ動かない事に。

 とはいえ、この頃物騒なので桜には泊まって貰うか士郎は一瞬迷った。

 が、桜の安全第一の為、彼は大河に声をかける。

 

「藤姉? そろそろ桜を見送らなくて良いのか? もし問題があるようなら桜をここに泊めてもいいか?」

 

 一瞬士郎が何を言ったのか分からない桜の目が遅れて見開き、士郎を見る。

 

「……………………え、先輩? ど、どうして私が泊まる前提なんですか?」

 

「あ、ちょうど良い話ね。 今日から私もここに泊まるからヨロ~」

 

「ブッ?! いや、桜は良いとして! 何で藤姉まで?!」

 

 飲みかけのお茶を危うく吹き出しそうになる士郎、そして未だに何を言われたのか良く分からない桜。

 

「え? せ、先輩? そ、それはどう言う────?」

 

「────あ、ああ。違うぞ桜。 この頃物騒だろ? その上、慎二も最近は忙しいらしいし、家にあまりいないと思ったんだ。 桜を迎えに来ないからさ。 だから実はと言うと、前から余分に日用品とかは常に備えてあるんだ。 このぐらい遅い時間だと、夜遅く家に歩いて着くよりはもう泊って行かないか?」

 

「え、で、でも………私………」

 

「あ、桜ちゃんの家には今日の昼にもう連絡と許可取ってあるから~」

 

「ええええぇぇぇ?! せ、せ、せ、先生?! で、でも服とか………」

 

「今日買ったのとかがあるじゃない~?」

 

「ま、まさか藤姉…」

 

「フフン、そのまさかよ三月ちゃん。 私だって時にはやるんだから! 『備えあれば患いなし』よ!」

 

「「ええぇぇぇ?!」」

 

「(あー、この流れはアカン。 何いうても止まれへんな、この藤姉は)」

 

 大河の強引さを心中悟った三月だった。

 

「それに~、『部屋も布団も余ってる』んでしょ~? 誠羽亜(セイバー)ちゃんも私と一緒で良いわよね~?」

 

 セイバーは視線でメッセージを士郎を送る、「本当にこれでよいのですか?」と。

 士郎は「諦めてくれ、セイバー」と返す。

 

 だが桜は未だに困っているのか、オロオロとした末に部屋の用意などをして来ると言い、余程テンパっているのかまだ閉まっているドアに頭をぶつけたり、何もない所で転びそうなどしたりして見かねたセイバーが桜に付き添う。

 

 この一連の出来事を見ていた大河はニマニマと笑顔になりながら士郎を見る。

 

「士郎~? 今の桜ちゃんに対しての『泊めてもいいか』って、もしかして彼女()に誤解させたくなかったとかかな~?」

 

「ハァ? 何でそうなるんだよ?」

 

「(あ、あの顔は藤姉がなんか悪巧みしてる時だ)」

 

 これをのほほ~んと見ながら自分のお茶を入れて飲む三月を大河はチラッと見てから話を再開する。

 

「ふ~ん、そっか~。 そうなんだ~。士郎も男の子だものね~」

 

「だから何の事だよ藤姉?」

 

「ズズズズ────(性別と桜に何の関係が────?)」

 

「────桜ちゃんってさ~、E-カップなんだって~────」

 

「────ブフゥ?! ゲホ! ゲホッゲホゲホ!」

 

 三月が盛大にお茶を吹き出す。

 士郎は呆れた顔と共に肩をガクリとしながら大河を困った目で見る。

 

「な、何を言っているんですかね。 この『自称保護者』は」

 

 だがその空気も束の間で、セイバーが早足で戻り、桜が倒れたと皆に伝えてきた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その日の夜遅く、三月は桜の部屋を静かに訪れた。

 彼女が急に倒れた事が気になり、自分に何か出来ないかと思ったからだ。

 

 桜の身を案じた士郎も看病すると言ったが桜が頑なに断り、ただ急な事ばかりが続いて眩暈がしたと士郎経由で皆に伝わっていた。

 

 だが桜の寝ている部屋に入った瞬間、三月を強烈な()()()が襲った。

 

「???(何だろう、これ? …………長い間使っていない空調からの匂いかな?)」

 

 そう思いながら壁で作動している暖房機を見ながら桜のそばに行き、手をかざすと────

 

 

 

 

 

 

 

「────何をしているのですか?」

 

「ピャッ?!」

 

 急に背後から女の人の声がして三月はビクッとする。

 

「動かないで下さい。 もう一度聞きます。 何をしているのですか?」

 

「あ、えっと、桜が心配で何かしてあげられないかと────」

 

「────ゆっくりと振り返りなさい」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

 三月は噛みながらも指示された通りに振り返ると、そこに()()()()()()()()()()()()()()がいて三月を見下ろしていた。

 

 そして三月は彼女を見上げて────

 

 

 

 

 

「────ふわぁ、()()()()()

 

「ッ」

 

 何も考えずに三月から出た第一の言葉が『()()()』だった。

 ()()の考え方を持つ者ならライダーのような長身でスタイル抜群でボディコン服の女性は『可愛い』より『美人』、『綺麗』、あるいは『セクシー』や『色っぽい』等がすぐ頭に来るような見た目だった。

 

 だが三月は()()とは違い、見た目だけでモノを判断したりなどしなかった。

 彼女はただ、ライダーが三月に声をかけたのは「(桜に)何をしているのですか?」と桜の身を案じた言葉と「ゆっくりと振り返なさい」は三月の確認の為、と取っていた。

 

 少し余談だが慎二の事を『良い人』などと感じていたのもこの考え方のおかげであり、これがあったから会う人達に対して自身の行動や言動などを調整し、外や学校での『顔見知り』の人達は増えていった。

 

 そして未だに自分をキラキラとした目で見る三月にライダーは数秒ほどの沈黙後に口を開けた。

 

「………貴方は私が怖くはないのですか?」

 

「へ? ()()?」

 

 これもまた常人からしたら()()()三月ならではの回答だった。

 何せ三月にとってはほぼ()()()であってライダーの事は『()()()()』。

 

「…………」

 

「あ、私『衛宮三月』と言います」

 

 まだ寝ている桜に遠慮して三月はいつもより下げたボリュームで頭をペコリと下げながら話しかける。

 

「……立ち去りなさい」

 

 が、ライダーはそう短く言った後にその場から消える。

 

「……また会えるかな?」

 

 頭を傾げながらそう言い残し、三月は部屋を出て自室へと鼻歌をしながら向かい、就寝する。

 

 その間、衛宮士郎は夢を見ていた。

 

 彼にとっては良く見知っている場所で、酷く()()()()()で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────女性との性行為をしていた。

 

 士郎は()()()()()()()()

 その髪も、声も、体も、何もかもを()()()()()

 

 だけど士郎はふと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(()()()()()()()()()()()?)」と。

 

 何故ならその夢の中の彼女は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()




作者:はい、と言う訳で場を振り回すタイガーこと藤村大河でした。

マイケル:なーんか誰かを連想するなー

三月(バカンス体):んあ?

ラケール:てか、この『藤村組』って?

作者:自分も忘れそうですが、藤村組は冬木市ではかなりの力を待っている組故、他の外からの組からちょっかいを出されても可笑しくないので三月はそれを逆手に取りました。あとセイバーの士郎への『第四次聖杯戦争カミングアウト』も発生。
原作では半信半疑の上、言うタイミングを伺っていたけどミスった、などありましたが士郎と三月のやり取りなどに思う事があったようです。

ラケール:成程なー

マイケル:へー

作者:あと言峰神父の美綴治療シーンは発生していません。 慎二が原作と若干キャラ違うので美綴は本当に眠らされてただけ。士郎と言峰にブラ見られなくて良かったね美綴。

チエ:そんなに気にする事か?

三月(バカンス体)/ラケール:うん、する

作者:ちなみに士郎が気を失ったのはただ他のマスター達と違って、彼は精神的にほぼ一般人に近いので、今の時点で徹夜はしにくいという感じです。あと色々と一日に巻き込まれているのでストレス半端ないです。

マイケル:で?最後の『アレ』は何だ?

作者:最後の方は『あの』シーンのイメージです。 漫画で言えば16、7話当たりだったと思います。

マイケル:………本を貸してくれ。 後で確認せねば。

作者:では次話で会いましょう! 是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! あとそろそろストックがやっべえです………

ラケール:んじゃ。 私達はコタツでミカン食べているからヨロ~

チエ:私はゼンザイの方が良いのだが…

三月(バカンス体):私は汁多め派!

マイケル:餅が多め派だな俺は

作者:…………え?これって自分が買ってくるの?


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第9話 セーフ? アウト?

 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 士郎は朝日で目を覚まし、さっきまでナニかをしながら揉んでいた手が天井へと向けていたのを目で追いながら見る。

 

 内容はさっぱり覚えていないが────

 

「────ッ(ヤバイ奴か、これ?!)」

 

 本能的にナニがあったのかはわかっていた。 彼も普通の男性、しかも思春期真っ只中。

 

 ただ人一倍は気を使っているのだ。

 

 何せ洗濯は今は女性がほとんど担っている状態。

 失態など犯せば彼女らも勿論、士郎自身も気まずい事この上ない。

 というか恥ずかしさで死ねる自信はあった。

 

 彼は布団をバっとめくり、下半身を確認する。

 

「…………セーフ(安全)だ」

 

「ハイ。敵は確認していません、シロウ」

 

「ああ、セイバー。 そっちじゃな────あああぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 士郎の半分寝ぼけていた頭がフル作動して、横で正座していたセイバーから毛布と一緒に後ずさっていた。

 

「せせせセイバー?! 何でここに?!」

 

「シロウ、私に宛がわれたあの部屋はここから離れすぎています。 ここの結界は優秀ですが、ただ()()()()()()()()()だけをするものです。 私達は同室で休むべきです」

 

「え゛。(それ無理、俺が精神的に持たないッ!)」

 

 士郎がジト目でセイバーを見ていると桜の声が部屋の外からしてきた。

 

「せんぱーい? 大丈夫ですかー?」

 

「士郎ー、藤姉はもう先に出たよー? 早くしないと遅刻するわよー?」

 

「あれ、もうそんな時間か」

 

「シロウ? 彼女らは何の事を言っているのですか?」

 

「あ。ああ、今日は学校なんだ」

 

「……………………………はい?」

 

 セイバーの目が細めていき、士郎を冷た~い目で見る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎、桜、そして今日は髪をツインテにした三月が通学路を横並びで歩くと、力強い風が吹く。

 

「うー、さっぶい!」

 

「ハイ三月さん、手袋です」

 

「うおー! ありがとう桜! 通りで何か忘れていたと思っていたんだー!」

 

「ふわぁ~」

 

「先輩? どうしたんですか、朝から欠伸を出すなんて珍しいですね?」

 

「あ、ああ。ちょっと中途半端な起き方をしてな」

 

「この頃冷えるからねー、私も冷え性じゃなかったらグッスリ寝られるんだけどな~」

 

「三月のは体質だろ? 仕方ないって」

 

「はぁ、士郎は良いよ。 寒さで夜遅くに起きたりなんてしないから」

 

 結局学校へはいつも通り登校する事になった。 セイバーも最初は異を唱えていたが、魔術師の戦いは基本人の目に触れない夜や人が来ない場所で行うもの。 日中や人目が密集する学校が戦いの場になる筈がないと士郎は押し切った。

 

 ただセイバーの言う事も一理あり、士郎は明日の朝からこそセイバーに稽古をつけてくれと頼んだ。 これで────

 

「────どうしたんですか、先輩?」

 

「何でもないよ桜。 ただの考え事だ」

 

 そのまま三人は学校へ登校して、士郎達はまず桜と離れ、階段を上る。

 その時にふと三月は思う、「あれ? 何時もの吐き気とか眩暈とか頭痛が何時もより酷くない?」と。

 

 そして────

 

「────ンゲッ

 

 士郎と三月の姿を見て、カエルが潰れたような声を遠坂凛が短く上げた。

 

「よ、遠坂おはよう」

 

「おはようございます、遠坂さん」

 

 未だに「マジか?」または「アホか?」の表情で驚愕する凛。

 それに対して何時も通りの挨拶をする士郎と三月は凛の表情に「どうしたんだろう?」と思う。

 

「…大丈夫か、遠坂?」

 

「あの、具合が良くないようでしたらお薬ありますけど?」

 

 凛は何も返事をせず、苛ついた顔をしながら踵を返して反対方向に通路を歩く。

 

「………私の顔にご飯粒付いてないわよね?」

 

「ああ、ない。 俺の顔にもパンのカスとかないよな?」

 

「うん、ない」

 

「「……………………何だったんだろう????」」

 

 そして周りの生徒達も休みに羽を伸ばし過ぎたのか、何人かが欠伸を出したり、ウトウトして眠気が抜き取れていない足取りで挨拶をする。

 

 その日、お昼の休憩時間に弁当箱を開けると士郎はびっくりする事になる。

 

 何と中に入っていたのが全てお腹に重い物ばかりだった。

 

「鶏肉のステーキの上に溶けたチーズと五目御飯とその他のおかず…………食べきれるかな、俺?」

 

 同時刻、別の教室では三段弁当箱を軽々と一人で完食する三月の姿があった。

 昔から大食いの彼女が二段から三段箱にグレードアップしたのを見た周りの人達は「あの量のモノは一体どこに行くのだろう」と思っていたそうだ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして時は放課後の下校時間となり、三月がまだ生徒会室にいる士郎を呆れた目で見ていた。

 

「士郎。 何をしているの?」

 

「みりゃあ分かるだろ? 各部活の暖房設備修理だ」

 

「………もう私は口を挟まないけどほどほどにね? 私は商店街に寄ってから帰るから」

 

「ああ、すま────ん? 商店街?」

 

「うん、食材をね。 人が増えたし、安売りをしているものがあるから少し多めに」

 

「分かった、気をつけて早く帰るんだぞ?」

 

「うん、ありがとう」

 

 三月はそう言い残し、士郎は暖房機の修理へと戻り、気が付けば夕焼けの光が生徒会室を満たしていた。

 

「ヤバ、もうすぐ夜だ」

 

 下校するために学校の校門に降りようとすると、上の階段から遠坂凛が腕を組みながら士郎を見下していた。

 

「あれ、遠坂? 何してるんだ、早く帰らないと────」

 

「────呑気なものね、呆れを通り越して怒りにまで達したわ。 貴方、自分の立場を理解しているのかしら?」

 

「ハァ? お前、何言って────ッ! 魔術刻印?!」

 

 凛は左腕の袖をたくし上げると、緑色の線のした模様が浮かび上がる。

 

 『魔術刻印』。 魔術師の家系が持つ、『積み上げた遺産』とも呼べる血統の歴史(研鑽)を具現し、固定化した代物。 数代に渡る魔術の家系で、優秀な血筋であるほど複雑化して行く『模様』はその魔術師の家の結晶。 そして大抵の場合、魔力を通すだけで魔術をワンアクションで行使出来る、一般人的に言えば『常に弾倉に弾丸が装填されているダブルアクション銃』に近い。

 

「お前正気か?! 夜になりかけとはいえ、学校だぞ?! 聖杯戦争中、マスターは人の目に触れない所で戦うんだろ?!」

 

「じゃあ聞くけど、貴方の言う『人の目』は今どこなのかしら?」

 

 士郎がハッとして辺りを見渡すと、周りに人影が無い事に気付く。 学校は最近の事件などの影響で部活は全て中止になり、普段は遅くまでいる筈の警備員や管理人もこの頃は下校時間の数時間後になったら家から学校に来て、一回り確認した後に学校の戸締りをすると言う、かなり消極的な業務に変わっていた。

 

「な、遠坂…お前、まさか────」

 

「────『ガンド』って知っているかしら? 北極に伝わる呪いで、相手を指差す事で体調を悪くして病気にするという、一種の呪術。 ただし、私の場合は()()()()威力があるから打ち所が悪ければ────()()()()、衛宮君」

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 

「う~ん」

 

 三月はその時悩んでいた。

 

 するべきか、するべきではないのか。

 

 二つに一つ。

 

 自分との戦いが────

 

「決めた! おねえさ~ん! そこのケーキ下さ~い!」

 

 ────始まる前に終わった。

 

 三月はホクホク顔で買ったばかりのロールケーキのバッグを腕からぶら下げながらご機嫌に歩いていた。

 

「(買っちゃった、買っちゃった~♪ でも仕方ないよね? バーゲンだったんだし。でかいし。サービスされた食材の分お金浮いてたし)」

 

 既に両手には数々の食材が入っているショッピングバッグを持っていて、そこにケーキが更に足された。

 

 だが楽しそうに歩いている三月の背後から影が落ち、これに気付いた三月は振り向かえると────

 

「へ?」

 

 ────誰かの手が自分の首に目掛けて飛んで来た。 

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

「リーゼリット! 貴方、どこに行────いぃぃぃぃ?!」

 

 不機嫌そうな声が次第にビックリしたようになるセラ。

 

「セラ? どうしたの、そんなに慌────わわわわ?!」

 

 不思議そうな声が次第にセラと同じようにビックリする声に変わるイリヤスフィール。

 

「持ってきた」 ←棒読み

 

 相変わらず感情の籠っていない声と顔で答えるリーゼリット。

 

「あ、どもー。持ってこられた衛宮三月で~す」

 

 そしてリーゼリットに首の根っこを体と買った食材ごと持ち上げられて、手足を宙ぶらりんにしている三月がビックリしているイリヤスフィール達に挨拶をする。

 正に『首根っこで持ち上げられた子猫』状態のようだった(持ち上げられていたのは毛皮ではなく上着だが)。

 

「リーゼリット! ここ、こ、こ、こ、こ────?!」

 

「────ニワトリのコケコッコ?」

 

 三月のジョークで彼女をセラは睨んだ。

 

「違います! これは一体どういう事です?!」

 

「見つけたから拾って来た」 ←棒読み

 

「はい、確かに(物理的に)拾われました~」

 

「貴方は貴女で少しは危機感を持ったらどうなのですか?!」

 

「え~? そんな事言われてもな~」

 

「セラ、うるさい。近所迷惑」 ←棒読み

 

「私も同感」

 

「フ、お前は分かっているな」 ←棒読み&変わっていない表情

 

「貴方もね」

 

 そして見詰め合う三月とリーゼリット。

 ここに奇妙な出会いが────

 

「────わぁ、リズが私たち以外と仲良くなるの初めて見たわ!」

 

「お、お嬢様…それはいかがなものかと…………ハァー」

 

「セラ、溜息良くない。 幸せが逃げる」 ←棒読み

 

「あとシワも増えるって聞いたよ~?」

 

「だ・れ・の・せ・い・で・す・か?!」

 

「…………アハハハハハ!」

 

 …………ここに奇妙な出会いが一つ、それもほぼタイミングと偶然が完璧に一致していなければならない状態でそれは成った。

 

 まず、イリヤスフィール達がいるアインツベルン城には必要なものが一通り揃っているので町へ出る必要はほぼ無いと言っていい。

 そして主からの『我儘』か『気まぐれ』が無ければリーゼリットは拠点から動く事は無い、何せ彼女は一日に『活動時間制限』があるのだから。

 

 次に、出掛けるとしてもほとんどの場合、イリヤスフィール単体か、セラとリーゼリットのどちらかになる。 このように三人で出かけるのは余程の事が無い限りか、主人であるイリヤスフィールが頼む(命令)以外ない。 そうだとしても並大抵の場合、世話係のセラが反対している。

 

 そして最後に、イリヤスフィールは余程の事でなければ興味を示さない。 彼女はあの遠坂凛やセイバーでさえ『駆除すべきお邪魔虫』としてしか認識していない。

 

 だがこれらがすべて、偶然に偶然を重ねたような出会いがあった。

 後になって、これが『運命』との出会いと考えられるような出来事の一つだった。

 

「あのー、降ろしてくれませんかね? いい加減、上着が伸びちゃうと思うので」

 

 リーゼリットがパッと手を離して、三月が地面に着地する。

 

「うわわわわ!」

 

 だが突然の事と持ち物の重さで後ろへと自然に倒れ始めて、頭の上を何かポヨポヨしたものが当たって、リーゼリットの腕が三月を支える。

 

「大丈夫?」 ←棒読み

 

「あ、ありがとう」

 

「そう」 ←棒読み

 

「あ、お詫びにこのケーキはいかが? 皆さんで楽しめるサイズだと思います」

 

「お前、良い奴だな」 ←棒読み

 

 未だに笑うイリヤスフィールとは反面に、セラはずっと頭を抱えていた。

 だが途端にイリヤスフィールが笑うのをやめて、真剣な顔で三月を見る。

 

「ねえ、少しお話をしないかしら?」

 

 場の空気がイリヤスフィールの出す殺気にピリッとして、その場にいたセラとはリ-ゼリットは体を瞬時に何時でも戦闘態勢に入る。

 

「??? 良いよ? ウチ(衛宮邸)に来る?」

 

 この三月の言葉にセラが思わずズッコケ、リーゼリットはイリヤスフィールの殺気が薄れると同時に態勢を解く。

 

「セラ、大丈夫?」 ←棒読み

 

「私の二年間内で一番精神的に疲れて来る日だわ」

 

 結局場所は近くの公園と移り、リーゼリットが周りの警戒、セラが人払いと簡易認識阻害の結界を張った。

 

「はー、凄いなー」

 

【告。 『アインツベルンの結界術』を解析、()()シマす】

 

「ハァ~、何だかな~」

 

 三月はベンチにイリヤスフィールと座りながら溜息を出し、イリヤスフィールはその溜息を(セラと三月の)実力の差からだと思い、ドヤ顔で(無い?)胸を張った。

 

「フフン。セラはそこら辺のお粗末な魔術師なんかとはケタが違うわ────でもそれは貴女にも言える事ではなくて?」

 

 そう言い、イリヤスフィールは一本の髪の毛を『小鳥』に変えて肩に乗せる。

 

「あ、凄い! アオガラ? 可愛い~♡」

 

 三月は制服のカバンに手を入れて裁縫中のモノから毛糸を一本取り、それを鷲に変えてから頭に乗せる。

 

「う~ん、どうしても鷲になるな~」

 

「……やっぱりね。 それは本来、アインツベルン家で()()()()が使っていた魔術よ」

 

 イリヤスフィールが魔術を解き、三月も同じくしてから、毛糸をカバンに入れ戻す。

 

「ん? 先代?」

 

「そう、()()()スフィール・フォン・アインツベルンという名よ、聞き覚えはあるかしら?」

 

「んん~~~~? (()()()スフィール? ん~、どこかで………………あ。 この子もしかしておじさんが言っていた────?)」

 

【────告。 検索結果に出マシた。】

 

≪何時か、君より白い髪で………赤目の女の子が来るかも知れないし、来ないかも知れない。 多分、会ったとしても友好的な対面はないと思う…………でも、もし会えたのなら………………どんなに酷い対面でも、どうか……………嫌わないで上げて欲しい。 彼女は…………僕の犯した大きな罪の一つなんだ。≫

 

「(ああ、そうだった! え? じゃあおじさんは────?)」

 

「────貴方はどうしてその魔術を使えるの? 貴方は………貴方はアイリスフィールと『衛宮』とはどんな関係なの? 教えて頂戴」

 

「う~ん、何処から始めようか…………」

 

 三月は腕を組みながら唸る。

 

「さ~て、何処から話そうか?」と三月は考えながら、情報を整理する。

 

「(バーサーカーという規格外のサーヴァントを持って()()()今判明している運営の中でトップの戦闘能力を持つサーヴァント。 イリヤスフィール自身もかなりの魔術師で、大層な名前から推測して代々続いている一族の聖杯戦争の代理として日本へ来ている………筈。

 ここで『実は私も優秀な魔術師で、色んな魔術が使えます』と言ったなら………………………………何か嫌な予感がするからパス。あ、ちなみに嘘を付くとかはぐらかすのは論外ね。 多分だけど即殺されるから…………う~~~ん)」

 

 ならばと思い、三月がとった行動は────

 

「────おじさんが………『衛宮切嗣』が私に教えてくれたの」

 

「…………え?」

 

「私が小さい頃にね、身を守る為に()()()()()の。 最初彼は嫌がっていたわ、『それの所為で身近な人達を苦しめた』って」

 

「…………」

 

 イリヤスフィールはただ静かに三月の次の言葉を待つ。

 無表情のままで。

 

「それでも私は彼にずっと頼んでね? 彼が私の魔術の素質を診ると『錬金術』に向いていたのを見たら、彼は嘆きながら泣いたわ。 『神様、何で僕を未だに苦しめるのだ』って。 それから聞いたんだけど、おじさんは年に何回も海外に出て、私は一度彼に訊いたの。 『何処に行くの?』って。 そしたら彼はこう言ったわ、『僕はせめて、この約束を守りたい』って。(こういう時は()()嘘にするんじゃなくて、真実と嘘をコンクリートミキサーにぶち込んだ様に混ぜて話すに限るわ)」

 

 確かに三月は『錬金術』()教わったから嘘ではなく、切嗣が海外に出てから帰って来て泣いていたのも嘘ではなかった。

 

 そこから三月は掻い摘んでイリヤスフィールに色々と話した。

 切嗣はずっと前回の聖杯戦争からの呪いを受けた体を引きずりながら苦しみ、悔やみながら『家族』を迎えに出たのに、相手のところが『契約違反』とみなして門前払いを何度も食らった事を。

 

「(これはおじさんの言っていた事と、兄さんがセイバーから得た情報を掻き混ぜた想像なので良い線は行っている………筈)」

 

 切嗣が毎回海外に出て、呪いに体と精神共々食われ、身を文字通り犠牲にしながら帰ってくる度に部屋に籠って泣いていた事を。『ごめん、イリヤ』って何度も何度も繰り返しながら。

 

「(これは本当。 あの時、様子を見に行った私に感謝ね)」

 

「嘘」

 

 イリヤスフィールが三月の話を『嘘』と感情を表に出さずに即否定した。

 

「(デスヨネー。だがこれも想定済み。だから────)────じゃあ、()()()()()? 『()()()()()?」

 

「え?」

 

 ここで初めてイリヤスフィールの顔に変化が応じ、目を少し見開く。

 

「(まあ、無理もないか。)えっと、これは『遠見』とか『憑依』の魔術の応用なんだけど…………私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。 そしてそれを()()()()()()()

 

「そんな………嘘。聞いた事も無いわ、そんな魔術」

 

「(ハイ、()()()というか大博打なんだけど。多分こうでもしないとイリヤスフィールは納得しないでしょ。)もし私を信じられないんだったらあの二人に私を見張って貰って、イリヤスフィールに異変が起きた瞬間に私の首を刎ねて貰っても良いわ」

 

 三月が出た博打は『自分が理解しよう』と思い、その通りに成った事を逆に『情報を他者に見せる』という、普段(と言うか常識)とは違う形でイリヤスフィールを説得するという賭けに出た。

 勿論そんな事はした事が無いし、試した事も無い。 ましてや()()()()()

 

 ただ三月は以前、切嗣の魔術を「『やってみよう』と思ったら『出来た』」現象が今度も働いてくれるのを心底祈っていた。

 

「(でももし…………もしこの人達を『敵』から『仲間』………まで行かなくても、せめて『敵対者』でなくなるのなら兄さんの生存に繋げれる………………筈。)」

 

「いいわ、その挑発乗ってみようじゃない。 セラ、リズ────」

 

 イリヤスフィールがメイドの二人を呼び、事情を説明する。

 

「お嬢様! 危険すぎます! それならば私かリーゼリットを先に────!」

 

「────私もしたいのは山々なんだけど、これは亡くなった人に余程親しい人でないと拒絶反応を起こして術が失敗するの。(ちゃんと出来るかどうか云々の前に、お前に見せれたとしても無駄なんだよ!)」

 

「聞いた通りよセラ。 それに…………私は知りたい」

 

「お嬢様…………」

 

「セラ、安心して」 ←棒読み

 

「リーゼリット?」

 

「最近手刀でガラスの瓶数本を斬れるようになったから人間の首を刎ねるのは出来る筈」 ←棒読み

 

「こわっ?! リーゼリットさん怖い!」

 

「エッヘン」 ←棒読み

 

「ハァ……………分かりました。 そこの貴方! 変な事をお嬢様にしないよう私がお嬢様の状態を管理します! 覚悟なさい!」

 

「あ、うん。 別にいいよ。 じゃあ、まずは額を合わせてから始めるわ。(ウオォォォ! 頼みます、イリヤスフィールにおじさんの事を~!私から~!見せれるように~!)」

 

 そして三月は『衛宮切嗣』を()()()()()、イリヤスフィールの()()が三月の()()に釣れられて来るのを()()()()()()()

 

「(おお?! 何か行ける感じじゃん? よっしゃあ!)」

 

『何、これ? 真っ暗…』

 

 イリヤスフィールの声が()()の頭の中で響く。

 

『もうちょっと待ってね。 後少しで────』

 

【────『衛宮切嗣』が検索結果に出ました。 『()()』しマス】

 

 闇の中に景色が映り────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()は夜空の下で、優しく微笑む『彼女』に見惚れていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」




作者:後半の文章から何が起きているのかお分かりになられる方はいますでしょうか?

マイケル:え?何で?

作者:自分の非才が怖いから…で? 何で皆さんコタツに入ったまま寝てるの? 人が買って来たってのに………

マイケル:何かさみーから、外

作者:こっちはこっちでストック切れたってのに……呑気なものだ

マリケル:つうー訳で、『お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです』。だろ?

作者:ここから投稿遅くなるかもしれませんが、短くても良いのなら出来ると思う………仕事が~~~~!


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第10話 Down the Hole We Go

===================================================
くるくるくるくる回る歯車。

狂いは無く、回る、回る、回る。

その中に一つの歯車が足される。

既に回る歯車達は果たしてこの新しい歯車に回転を合わせるのか否か?

それは『運命』のみぞ知る。
===================================================

前半の文章はイリヤの思考(?)メインです。



 ___________

 

 イリヤスフィール 視点

 ___________

 

 私の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。 聖杯戦争の為だけに鍛え上げられ、第五次聖杯戦争におけるバーサーカーのマスター。

 

 とは表の事情と建前。 

 本当は約束を破って私を迎えに来なかったキリツグに仕返しをする為に私は日本という極東の島国に私自らが来た。

 

 そこでキリツグはもう死んでいて、彼には養子がいた事を知っていた私は深い怒りと………………興味を持った。

 何せ血は繋がってはいないけど私の『家族』に当たる人達になる。

 私の……………

 

『お兄ちゃん』には冬木市に着いて割とすぐに会えた。

 だけど余りにも無防備だったから忠告はしておいたけど理解していなかったみたい。

 まるで何も聞いていないかのように。

 

 次に会った時には少し驚いた。

 何せ()()セイバーを召喚していたのだから。

 キリツグと()()サーヴァント。

 

()()()()()()()。』 

 それを考えただけで胸が高鳴り、ゾクゾクしたわ。

 

 でも()()()は少し違った。 すごく体調が悪く見えて、今にでも死んじゃうような、弱そうな奴。

 

 ()()()()()()()

 

 許せない。

 許せなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何で?! 

 

 何で何で何で何で何で何で何で何で?!

 何で()()()()()()()()()使()()の?! 何で()()()()()()()()()()()()()の?!

 何で?!

 

 不愉快だった。

 消えて欲しかった。

 

 そして()()を庇う『お兄ちゃん』。

 

 分からない。

 分からない分からない分からない分からない分からない。

 

 分からない事だらけ。

 

 そう思い、再度リズとセラ達に『衛宮士郎』と『衛宮三月』の情報を集めるように言った。

 何か見落とした事があるのか?

 何か私の知らない事があったのか?

 何か。

 何か何か何か何か何か何か。

 

 そして次に会ったと思ったらリズが『衛宮三月』を()()()()()()()()()、『衛宮三月』は危機感を持っていなくてセラに怒られて、リズが意外と私と話すときみたいになって……………

 

 不思議だった。

 不思議でしょうがなかった。

 思わず笑ったほどに。

 だって可笑しかったのだから、色々と。

 

 知りたくなって。 話をして────

 

 

 ────私はムカムカした。

 

 私の聞いた事が無いキリツグの話。

 私を何度も迎えに来たらしい。

 信じられなかった。

 「嘘」と思わず声に出して否定した。

 私はそんな事を一度たりとも聞いていないからだ。

 

 そうしたら────

 

「じゃあ、一緒に視る? 『衛宮切嗣』を?」

 

 ────と答えが返って来た。

 

 何の事か分からなかった。

『遠見』とか『憑依』の魔術の応用?

『亡くなった人に余程親しい人でないと拒絶反応を起こして術が失敗する』?

 

 いいわ、敢えて私達アインツベルンが得意とする魔術で私に何かをしようと言うの?

 しかも首を刎ねても良いですって?

 上等よ、()()の貴方の首を生きたまま部屋に飾ってやる!

 

 そこで過保護なセラを説得して、私は()()の言うとおりにして…

 

 

 

 暗かった。 周りは見渡す限りの闇。 上も下も、右も左も、自分の手足さえも見えなくて体の感覚が無くて、まるで『私』しか存在しないような、暗くて寒くて酷く寂しい深海の中にいるような……

 その様な場所に、光が現れて私を包んで────

 

 

 ___________

 

 イリヤスフィール(?) 視点

 ___________

 

 

 ────()は『キリツグ(衛宮切嗣)』だった。

 

 アリマゴ島(知らない場所)(キリツグのお父さん)と言う『(元凶)』を殺した。 でないともっと犠牲者が出るから。

 

 育ての女性(知らない女性)に出会って一緒に暮らして学んだ。 魔術師達のような者の所為で、世界中に『アリマゴ島』が起きていた事を。

 

 ナタリア(育ての女性)を殺した。 大を生かす為に小を捨てた。()()()()()()()()()()()()()。 それだけだ。 

 

 ()は死ぬ理由の無い者達()を理不尽な死から救うため、死ぬしかない誰か()を殺した。

 

 それのどこが間違っているというのか? それが「正義(正当化)」でなくて何だというのか?

 

 ()は殺した。

 殺して殺して殺して殺しまくった。 来る日も来る日も、相手が誰であろうと『悪』がいれば()は殺した。

 

 そしてイリヤ()が生まれた。

 幸せだったと同様に悲しかった。

 全てを救う為に全てを捨てる事を決意したはずなのに、(お母様)()を本当に心から愛してしまったから。

 

 そして()は心を殺し、(マスター)を殺し、『理想』の為に(お母様)をも捨てて聖杯を手に入れて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────絶望した。

 

 聖杯は()()()()()。 『破壊』でしか望み()は叶えられない。 望みを掛けなくても()()()は『破壊』と死をまき散らし始めようとしていた。

 ならば()の取る行動は一つ。

 

「第三の令呪を以て、重ねて命ずる────!」

 

「────やめろぉぉぉぉ────!!!!!」

 

 ()の決意に反して、『彼女』は悲痛な声で叫んだ。

 

「やめてくれ」と。「何故」と。 今まで見せた事のない色々な感情を露にしながら。

 

 時間があれば話は別だが、今は一刻を争う。

 

 もう既に良くない()が溢れ始めている。

 

 ごめん、アイリ。 君の決意を無駄にして。

 

 ごめん、イリヤ。 君のお母さんを殺してしまって。

 

 ごめん、舞弥。 君の期待に応えられなくて。

 

 ごめん。

 

 ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。

 

 ()は何度も心の中で謝りながら、嫌がる『彼女』に命じた。

 

「────()()()()、聖杯を破壊しろ!」

 

「ッ────ウワァァァァァァァァァァァァァ────!!!!!」

 

 そして()は死に至る呪いを受けた。

 体の痛みに慣れたつもりだがこれは別格だ。

 

 町は燃えた。

 いつか見た紛争地帯などに等しい。まさかこんな光景を『日本』で見るとは思わなかった。

 

 人が大勢死んだ。

 男も女も子供もみんな黒焦げに焼け、灰になる寸前。 手に取れば原形を留めずに塵へと崩れ去った。

 

 ()は結局、何一つ救えなかった。

 ()の所為だ。

 ごめん。

 

 いや、訂正しよう。

 

 若い子供二人を見つけた。

 まだ生きていた。

 生き地獄の中を。

 ()が作ってしまった地獄の中を。

 

 

 

 ああ、生きてくれてありがとう。

 

 

 

 

 そこから断片的に()(感じ)た。

 

 ボロボロになって行く身体に鞭を打って、イリヤを迎えに養子の二人に「旅行」と偽り、ドイツのアインツベルン城を訪問するが彼らを裏切った()を森の結界は決して通さず、娘のイリヤ()との再会は二度と叶わず、時が過ぎる度に弱っていく様を、視界と共に精神が徐々にぼやけていった。

 

 そして最後にほとんど何も見えない状態で声が聞こえる。

 キリツグの声を。

 

 

 

「僕はね、正義の味方(ヒーロー)になりたかったんだ」

 

 

 

 ___________

 

 イリヤスフィール、三月 視点

 ___________

 

 

「…………………」

 

 イリヤスフィールが気付いて目を開けると、冬木市の公園のベンチで三月と額を合わせた状態のままのよう……だった。

 

 何せ周りが未だにぼやけていて、音もどこかノイズ交じりに聞こえた。

 まるで、深い水中の中にいるような感覚でイリヤスフィールには感じた。

 

「お嬢様?! ご無事ですか?」

 

 徐々に視界と聴覚が元に戻り、セラの焦った声と顔がイリヤスフィールには見え初めた。

 

「お嬢様?!」

 

「………あれ? セラ? 私………」

 

 イリヤスフィールは寝ぼけているような感じで心配して顔を覗くセラを見る。

 

「急に黙り込み、さっきから声をかけていたのに返事をしなかったものですから心配していたのですよ?!」

 

「私……………………あれからどの位の時間が経ったの?」

 

 何せ断片的にとは言え、イリヤスフィールは男一人の半生を()()したのだ。 

 

 数時間後だったとしても不思議ではない。

 

「何を言っているのですか? ()()()()()()()()で、私がお嬢様の状態を確認しようと声をかけたところ、返事が無かったのでリーゼリットがソワソワし始めたのが今ですが?」

 

「え?」

 

 イリヤスフィールは周りを見て、公園に設置してある時計を見ると針は動いていなかったように見えた。

 

「そう………ほとんど時間は経っていないのね」

 

 イリヤスフィールは視線を半開きで、焦点の合っていない三月の目を見て一瞬寒気が思わず走った。

 光の無い目の奥が────

 

「────ハッ?! あ、あれ? 終わった?」

 

 パチクリとしながら三月は?マークを頭から発する。

 

「…………ええ、そうみたい。 気が付かなかったの?(今のは()()()()()?)」

 

「いや~、これってかなり特殊でさー。(よっしゃあ! 上手くいったっぽい! ()()()()()()()()()()けど…)」

 

「そう………何で私に()()()()を見せたの?」

 

「へ? 『なんで』って………………………………強いて言うのだったら『おじさんの事を知って貰いたかったから』、かな?」

 

「………………………………セラ、リズ。 帰るわよ」

 

「ぅえ? お嬢様?」

 

「分かった」 ←棒読み

 

 イリヤスフィールが立って、帰るのをメイドの二人に宣言すると三月は声をかける。

 

「あ、イリヤスフィール────」

 

「────イリヤで良い」

 

「あ、じゃあイリヤで。 おじさんのお墓参りに実は近い内に行くつもりなんだけど、一緒にどう? 例えば明日とか」

 

「………………………考えておく」

 

 振り返らずにイリヤスフィール────イリヤ達は公園を後にし始める。

 

「ここで待ってるからー!」

 

 三月はベンチから降りてイリヤ達に言う、が彼女は振り向きもせず場を後にした。

 セラはイラついたような視線を三月に送り、リーゼリットは三月へ振り返って手を振った。

 

「…………やっぱり………………駄目だったのかな? ……………ハァ~、緊張した」

 

 三月がため息混じりにトボトボと帰宅し始めると金髪の青年に道ですれ違う。

 

 一瞬見惚れたのは別に金髪で整った顔の所為ではなく、血のような赤い眼が珍しかった。

 

「ほう? 貴様、()()()()

 

 そして急に上から目線バリバリで三月に話しかけた。

 

「………ハイ?」

 

「『奇を衒う』のは程々にしておけよ────()()()()()()()()()()

 

「?????」

 

 一瞬立ち止まった青年は歩き出すと三月は頭を傾げていた。

 最後の方、金髪青年は何か言っていたような気がしたが吹いた風に遮られたのか、三月は上手く聞き取れなかったようだ。

 

「変なの…………あ! 食材が時間的にヤバイ!」

 

 三月はいそいそと帰るのだった。

 

 イリヤは帰りの車の中でただ静かに窓の外をボ~っと無表情に見ていた。

 

 普段なら車を運転したがる彼女が「帰りはリズに任せても良い?」と言い、メイドの二人はそれなりにビックリした。

 そして帰り道の間、不自然な程に黙り込むイリヤに、セラやあのリズでさえ不安を感じ、何とか会話をしようとしてもイリヤからは茫然とした生返事しか返ってこなかった。

 

「………………………ねえ、セラ? ちょっと、ぎゅ~って抱きしめてもらっても良いかな?」

 

「ッ! も、もちろんですともお嬢様! ささ、こちらへ!」

 

 ここでやっとイリヤらしい仕草をした事に対して、いつもは甘やかすのに躊躇うセラはホッとした笑顔でイリヤを躊躇無く抱く。

 

「………………………………………………ウェ………ヒグッ…………ヒッ…………グスッ…………ウェェ…………………………」

 

 セラを力いっぱいに抱きしめ返して、顔を深く埋めたイリヤは声を殺し、すすり泣いていた。

 

 アインツベルン城の帰りの道をずっと、セラを強く抱きしめながら泣いた。

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 そして今、衛宮邸に腕を組みながら仁王立ちをしている三月とセイバーの二人の前にボロボロの士郎は正座していて、横で見ている凛からすればなんともシュールな絵図だった。

 

「「で? 申し開きはあるの/ですか、兄さん/シロウ?」」

 

「め、面目ない……………」

 

 士郎は帰って来るなり、ボロボロになっていた制服と腕の傷でただ事では無いと悟った三月はそのまま玄関で彼に正座をさせてセイバーを呼んだ。

 

 そして士郎は一緒に来た凛と共に事情を説明された。

 

 学校にほとんど人がいない状態でマスターの自覚がない士郎にイラついた凛が襲い、あと少しと言ったところで僅かに残っていた生徒の一人が悲鳴を上げてライダーに迫られていたのを見た士郎は生徒を凛に任して、ライダーの後を追って交戦、そして危ない所を凛に助けられ、帰り道がてら凛と士郎のマスター達は当面の間、敵対せずにお互いをフォローするとの事で収まった。

 

「なぜ令呪を使い、私を呼ばなかったのですかシロウ?!」

 

「いや、最初は優戦してはいたんだ。 ライダーはどこか、俺を本気にしていなかったというか、アーチャーやランサーと比べて迫力が無かったと言うか……………」

 

 士郎は黙っていた、()()()()()()()()()()()()である事を。 日頃から遠坂凛と間桐慎二の性格を考えて、士郎を襲ったのが()()()ライダーだという事が判明したら凛が何をするか分からない。

 

 最悪自分の時の場合みたいに問答無用で襲い掛かってしまうかも知れない。

 この考えから士郎は慎二=ライダーのマスターとは凛には言っていなかった。

 

「あのね衛宮君、サーヴァントは契約したマスターの魔力を糧にして存在し続けているの。 マスターの貴方が死んだら、セイバーも消えるんだから元も子もないでしょうが?!」

 

「でもそういう遠坂も俺を『殺す』よりは『マスターの任から退散させる』って動きだったじゃないか?」

 

「そうなのですか、リン?」

 

「それはまあ…余りにも衛宮君が格下だから………言うなれば『心の贅肉』よ」

 

「『心の贅肉』? 遠坂が太っているという事か?」

 

 ピシリと空気が凍って、温度が下がったような感じがして、青筋がピクピクと凛のこめかみに浮かび上がる。

 

「衛宮く────」

 

「────に・い・さ・ん?

 

 そしてそれを横からピシャリと遮る、冷たい三月の声に士郎は固まる。

 

「な、なんd────」

 

 バシィィィィン!

 

 三月がどこからか出したハリセンを大きく振りかぶった後で士郎の頬を横から叩き、士郎の身体はそのままの勢いで横に倒れてから彼は痛みにその場で転びまわりながら顔を手で覆い、唸る。

 

「オオオオオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥ────」 

 

────女性に何て事を言うのよ兄さん?! 今はボケかましてる場面じゃないしそれにワザとだったら尚更質が悪いでしょうがオラァァァァァ?!

 

 三月はかつてないほどの怒りを露にして転がり回る士郎を叱っていた。

 彼女がこれ程怒ったのはいつ頃か士郎が小学校から帰っている途中、「正義感が気に食わない」とボコボコに仕返しされ帰って来た時以来だった(士郎に羽交い締めされ、動きを止められた時はこの時だった)。

 この時の三月を見た大河は後で士郎に謝っていたとか、「お爺ちゃんの者の奴らにはよ~く私から言っておくから!」なんとか。

 

 この三月を見た凛は────

 

「(────あ、何かこの子に親近感が湧くわ)」

 

 セイバーは────

 

「(────今のは腕、手首、腰と足。 そのどれをも使い、効率的に衝撃が生じるような、良い振りかぶりの仕方でした。 やはり彼女も武術の心得を持っていたのですね)」

 

 アーチャーは衛宮邸の屋根の上に座りながら片手で頬を覆い、退屈そうな顔で周りの警戒を静かに続けていた。

 

 そして後に衛宮邸でお邪魔していた凛を見た桜は酷く混乱した。 三月同様、桜は食材を買っていたので帰りが遅くなっていたらしい。

 

 そして結局その夜、凛が遅くまでご厄介になったのに対抗する為か、桜はまた泊まる事を決めた。

 前回の大河の間桐家への連絡は『度々桜が衛宮邸で泊まるかも知れない』と含めていたからこそ可能だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして深夜近くの時、三月は静かに桜部屋に入り、寝ている桜の身体に手をかざし────

 

「────また貴方ですか」

 

「あ。こんばんは」

 

 またもライダーに声を掛けられ、止められる三月。 ただ三月は予想していたのか、今度はビックリせずに対応する。

 

「それと簡易防音結界を張ったから余程の事が無い限り声は漏れないと思うよ。(アインツベルンの結界魔術、使えて良かった)」

 

「…………貴方には危機感と言うモノが無いのですか? 例えば────」

 

 ライダーは一瞬の内に三月の背後を取り、鎖付きの短剣を彼女の首筋に刃を立てる。

 

「────この様に貴方を人質にしてセイバーのマスターに自害をさせるか、セイバーを操れるようにするか…など」

 

「うーん……………危機感と言うか、貴方のような方が理由も無くそのような事をするとは思いませんから。あと、礼を言いたいんだけど」

 

「礼? 可笑しな事を言うのですね貴方は。 何に対しての礼でしょうか?」

 

「士郎を……『兄さん』を本気で殺そうとしないでくれてありがとうございます」

 

「………どうして、そう思いになったか聞いても?」

 

「あー、兄さんからの説明から推測しているんだけど………貴方がもし本気で殺そうとしていたのなら、きっと五体満足ではなかったと思うし。あと慎二に伝えてくれる? 多分、桜の事を心配して貴方をここに送って来ているんでしょう────?」

 

 プツリとする音と共に三月の首筋に小さな傷が出来、血がゆっくりと首を滴る。

 

「────ここから立ち去りなさい。 次は────」

 

「────あ。それに前は言いそびれたけど、私は可愛い貴方と『友達』に────ぁ」

 

 ライダーが三月の首に口を立てて血を出来ていた傷から吸い始めると三月は黙りこんだ。

 

 時が静かに過ぎ、唾と血混じりでネッチャリとしたライダーの口が三月の首から離れ、唇に付いた血を舐めとる。

 

「このような私と、『友達』? ふざけているのですか?」

 

「ううん、本気。 で、桜を診ても良いかな?」

 

「何故そうなるのです」

 

「や、だって血を吸ったじゃん。それ位はしても良いんじゃないの? それに何か…………()()()()がするのよ。 だからね、心配するの」

 

 三月がまた桜に向かい、手を翳すと優しい光が部屋を灯す。

 

「そう言えば桜ってよく眠るわね。 『寝る子は育つ』って言うけど、まさか桜の秘密はそれじゃないでしょうね────ん?」

 

 三月の顔がほんわかとしたモノから、困惑したモノへと変わる。

 

「(何これ? この〇イオハザード感、何処かで………それに()()()()()()()()()()()? もしかして……………寄生虫か何か? ()()()()の正体はこれ? だったら取り出さないと────)」

 

 三月が力を込めた瞬間、何か黒い影のような物が無数に床を伝って、桜の体中から三月を目掛けて飛び出て────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────三月の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 プロトコールに従い────】

 

 

 

 ___________

 

 士郎、セイバー 視点

 ___________

 

 

 土蔵で寝ていた士郎は夢を見た。

 冬木市の道。

 

 船の上の景色。

 

 階段を上る。

 

 船から降りて────

 

 ────気が付くと、士郎は柳洞寺の敷地内で立っていた。

 

「…………あれ? ここは柳洞寺の庭? 何でここに…………」

 

「ようこそ、セイバーのマスター」

 

 士郎は紫をメインカラーとしたローブの女性に声を掛けられる。

 

「私はキャスターのサーヴァント。 貴方をここに来るように糸を使って体を操ったの。 単刀直入に言うわ、令呪とセイバーを私に渡しなさい。私の方が両方とも有効活用できるわ」

 

 士郎はその女性────キャスターの『提案』に驚愕し、怒りを露にした。

 

「そんな事、する訳が────!」

 

「────ああ、ごめんなさい。 既に貴方には拒否権は無いのよ?」

 

「な────ガアァァァァァァ?!」

 

 キャスターの魔術行使に無理矢理体を動かされ、苦しむ士郎が叫ぶ。

 無数の矢が辺りを埋め尽くし、キャスターを襲う。

 

「貴様は、アーチャー!」

 

「エミヤシロウ、このまま逃げろ…と言いたい所だが逆に動かない方が良い。 少し荒事になるからな」

 

 途端にアーチャーとキャスターが衝突して、士郎は見て感じる。 キャスターの魔術師として格上の戦いを、アーチャーのアーチャーらしからぬ接近戦。

 

 後に士郎は窮地をアーチャーに救われ、二人は「馬鹿」の言い合いをする。

 キャスターが呆気に取られるほどのコントだった。

 

 

 そして衛宮士郎は目撃する。

 アーチャーの『偽・螺旋剣(カラドボルグII)』を。

 

 キャスターはボロボロになりつつも、一命を取り留めていた。

 アーチャーが止めを刺さず、ただ衛宮士郎を目的としていたとの宣言にキャスターは笑った。

 

「そこの坊や(士郎)は無関係の人間を糧にする私のようなサーヴァントが許せない、そして貴方(アーチャー)は無意味な殺戮は好まない。 似た者同士ね、貴方たち」

 

 これにムッとするアーチャーと士郎は反論する。

 

「誰がこんな奴と一緒なもんか!」

「同感だ。平和主義者であることは認めるが、根本が大きく異なる」

「どこが平和主義者だ、お前?!」

 

 この二度目のやり取りにキャスターはまた笑い、交渉を持ち掛ける。

 

「気に入ったわ、貴方達は力もその在り方も稀少よ? 私と手を組みなさい。私にはこの戦いを終わらせる用意が出来つつある」

 

「「断る」」

 

 同時に断った士郎がアーチャーを睨み、アーチャーは見返しながら舌打ちをする。

 

「あらそう。 残念ね」

 

 キャスターのローブが翼のように広がり、宙へと舞い、士郎とアーチャーを見下す。

 

「私をこのまま見逃すの、アーチャー? 貴方のマスターは町の事件絡みで私を追っていると言うのに?」

 

「もとより私は独断でここに来た、それに個人的に貴様を討つ気はない。 ここは痛み分けという事で」

 

「なッ?! おいアーチャー!」

 

「フフフ、本当に残念………坊や」

 

 キャスターが不意に声を士郎にかける。

 

「な、何だよ?!」

 

「気に入ったから一つ忠告をしてあげるわ。 ()()貴方では余りにも未熟よ。 ()()()()()()()ね」

 

 キャスターが紫色の光となり、夜空へと溶けて行く。

 

「……何でキャスターを見逃した、アーチャー? あいつは町の事件と関係しているんだろ?!」

 

「そんな事、私には預かり知らぬ事だ。むしろ奴にはこのまま続けてもらいたいくらいだ」

 

「何だと?!」

 

「キャスターは人々から生気を吸い上げ、その力で恐らくこの聖杯戦争で一番の妨害のバーサーカーを危険視している。 となると倒すか無力化するのは先ずバーサーカーの筈だ。 私達はその後でキャスターを倒せばいい。 仮に標的がバーサーカーで無かった場合、その時に打ち倒せば良い事だ」

 

「そんな戦い方、お前のマスターの遠坂なら絶対に了承しない!」

 

「そうだな。 キャスターに手早く事を済ませて欲しいものだ。 人間など結局は死ぬ生き物だ。 誰にどう殺されようが、結果的には変わるまい。 ならば最小限の犠牲で、最大限の効果を発揮すれば良い」

 

 士郎はそんな事を言うアーチャーを睨み、アーチャーは無表情に士郎を見て、如何に士郎が持つ理想が「理想」でしかありえない事を。

 

 これに対して士郎は反論する、「やって見なくては分からない」と。

 

 こうして、夜の寺で二人の男が『議論』をする。

 

 一人は理想論を掲げ、もう一人は現実的で確実な言葉を並べる。




作者:ちょっと読み返したけどFate/Zeroの“バカンス”より台詞多いなー。すみません………仕事の合間にストック頑張ります。 はい…てか昼寝するならベッドで寝ろ!

マイケル/ラケール/三月(バカンス体):んあー、面倒くさいー

チエ:お茶が旨い

作者:ガッデム!


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第11話 籠鳥雲を恋う

またも少し長めです。


 ___________

 

 セイバー 視点

 ___________

 

 時をほぼ同じにして、場所は柳洞寺の山門へと変わり、そこでは激しい金属音が響いていた。

 

 士郎の姿が無く、柳洞寺にてマスター(士郎)のパスを察知し、追ったセイバーは紺色の陣羽織に長大な太刀を構えた、耽美な青年剣士と対峙していた。

 彼は自分の事を『アサシンの佐々木小次郎』と名乗り、セイバーを少なくとも剣術では凌駕していた動きで彼女を翻弄していた。

 

「くッ!」

 

「む。 上は上で思惑通りとはいかぬらしい。 主の危険故、手の内を隠す余裕はなくなった」

 

 アサシンは階段を下りて、セイバーと同じ場所へと立つ。

 

「頭上の有利を捨てて、何のつもりだアサシン」

 

「何、無名とは言え剣に捧げた我が人生だ。 未だに死力を尽くせぬのならその手の内を隠す信念────力付くで抉じ開けようか

 

 アサシンのひょうひょうとした、昼行灯のような怠惰は一気に真剣な物へと変わり、セイバーは直感で悟る。

 

 ()()()()()()()()()()、と。

 

「『秘剣、燕返し』!」

 

 セイバーは()()()()()()()()()()()()()()を(無傷ではないとは言え)凌いだ。

 

「我が秘剣を凌ぐとは、いやはや大したものよ」

 

「今のが宝具か、アサシン?!」

 

「そのような大した物ではない。 偶さか燕を斬ろうと思いつき、身に付いただけのものだ。 線にすぎぬ我が太刀では 空を飛ぶ燕は捕らえられんが、その線も二、三本なら話は違う」

 

 アサシンは話を懐かしむような声で話を続ける。

 

「しかし連中はやはり素早くてな。 事を成したければ、一呼吸のうちに重ねなければならなかったが…そのような真似は人の技ではない。 だが、生憎と他にやることもなかったのでな。一念鬼神に通じるというヤツだ。 気が付けばこの通り、()()()()に斬撃を繰り出せるようになった」

 

 これに対してセイバーは内心苛立ちを感じる。

 

 何故ならアサシンが言ったように確かにただの斬撃ではあった。

 あったが()()()()などではなく、アサシンが繰り出した斬撃は()()()()にあった。

 それは『魔術』のレベルの芸当ではなく、『魔法』の空域に達していて、『次元屈折現象』に酷似していた。

 

 アサシンはただの剣技のみで『魔法』という現象に酷似した技を『宝具』の域に達していた。

 

「黙れ! 俺はお前なんかとは違う!」

 

 不意に頭上から士郎の叫ぶ声がセイバー達に届く。

 

「シロウ?」

 

「ふむ?」

 

「俺は勝つ為に! 結果の為に! お前みたいな奴なんかに周りを犠牲にするなんて絶対にするものか────グア!」

 

 そして体に新しい切り傷を負った士郎が階段に投げ出されて落ちる。

 

「シロウ!」

 

 セイバーはすぐに階段を上り士郎の元へと行き、体を支える。 アサシンはこれをただ見ていた。

 

「ぐ…………」

 

「しぶといな、エミヤシロウ」

 

「アーチャー?! 何故ここに?!」

 

「何、簡単な事だセイバー。 アーチャーは根本的には狩人や弓兵、狙った非力な獲物がノコノコと目の前に出て来たところを見逃すほど甘くはない。 それにマスター達同士が『当面の間は敵対しない』という事にサーヴァントは入っていなかったと思うが?」

 

「貴様!」

 

「アーチャー………町の人間に危険が迫っていると分かっていて、見捨てるのか?!」

 

「英霊とて全ての人間を救うことは不可能だ。 誰かを救うということは、誰かを助けないということなんだ。 無関係な人間を巻き込みたくないと言ったな? ならば認めろ、一人も殺さないなどという方法では結局誰も救えない末路だけが待っている。 そして自分の為ではなく誰かの為に戦うなどただの偽善だ。 エミヤシロウ、貴様の望むものは勝利ではなく平和だと言っていたが、そんなモノはこの世の何処にもありはしない」

 

「アーチャー……貴方は………」

 

 そこで今まで黙っていたアサシンが間に入り、アーチャーを見る。

 

「横槍は入れたくはなかったのだがな、一応ここの門番としているからにはそうもいかん」

 

「何が言いたい、サムライ?」

 

「何、立ち去るのか否か聞いておきたいだけよ。 そして立ち去るなら女狐目が返って来る前に早々にする事だな」

 

「アサシン………」

 

「今宵はここまでだセイバー。 見たところ、其方のマスターはまだ意識はあるが傷は深い」

 

「アサシン………何故?」

 

「何、門番故にここは酷く退屈でな。 良い好敵手と出会うなど私にとってこれ以上の事は無い」

 

「感謝する────」

 

 セイバーがアサシンに感謝の言葉を贈ると同時に、アーチャーが士郎を切りつけるのをアサシンは刀で流していた。

 

「邪魔をするつもりか、サムライ?」

 

「私はここの門番、そして行きと帰りの者たちに対して義務があり、セイバー達は立ち去る事を決めた。 貴様がその邪魔とするのなら、それを止めるだけの事」

 

「フン、キャスターの手駒風情が」

 

「貴様こそな。 あの女狐めの肝を冷やそうと見逃したというのに、我が身可愛さで逃げ帰るとは失望した────!!!」

 

 そこでアサシンとアーチャーの激しい衝突に見入りながら体をセイバーに支えられる士郎は体を引きずりながらその場を後にした。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 そこはキィキィというモノがひしめく、暗くてジメジメしたところだった。

 何処にも自然な光源は無く、不気味な緑色の光を体内から発する()()で天井も壁も床も覆っていた。

 そこで不意に老人の声が響く。

 

「おおお!」

 

 この喜ぶ声の持ち主は間桐臓硯。 本名は「マキリ・ゾォルケン」で、元々は日本人ではなくロシア系の出身の魔術師であったが日本に根を下ろし、以降は現在の名の「間桐」に変えているマキリ家の500年前の当主であり、戸籍上では鶴野と雁夜兄弟の父、桜と慎二の祖父に当たる。

 そして陰ながらに間桐家の当主を担っている。

 

 魔術の力で肉体を人のものから蟲に置き換える事で数百年も延命を重ね、既に「人ならざる者」と成り果て生き続けてきた文字通りの「人外」。

 200年前の御三家の遠坂、間桐、そしてアインツベルンによる聖杯戦争の立ち上げにも実際に参加して立ち会っており、サーヴァントと令呪のシステムを考案したのも彼である。

 それも全ては『悪の根絶』後の『理想郷』を創立する尊い夢の為だったが、自らの身体に施した延命の処置が200年と言う年月を経て現在では目的と手段が逆転し、自身が生き延びる事に固執する「不老不死」を求めるモノに変わってしまっていた。

 

 言うなれば長すぎた時が彼の夢を歪めてしまったのだ。

 

「素晴らしい! 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしいィィィィィィィ! 待った甲斐があるとは良く言ったモノよのぅ! クカカカ!」

 

 そして男か女、果ては大人か子供かも分からないような、様々な声帯が混じりあった声がどこからともなく答える。

 

「気に入って貰えた? でも完全には程遠くてね────」

 

「────わかっておる。 此度の聖杯戦争は予期せぬ時期に起きた事もあり、慎二()も使い物にならんと思い、見送るつもりだったが気が変わった」

 

「では手はず通りにお願いします」

 

「うむ。 今度はこちらが取引に応じよう。 カカ、ようやく……………ようやくじゃ。 不老不死はもう、すぐそこまで来ておるのだ! クカカカカカカカカカカ!」

 

 

 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 

 昨日の夜、アーチャーに付けられた傷はまたみるみると見ている内に塞がって治っていき、衛宮邸に着く頃には完治していた。 

 不気味ながらも、いろいろあって十分な休息も取れなかった士郎は次の日の稽古の為に体を休み、セイバーに今度こそ何かあったら令呪を躊躇無く使う事を自身に誓った。

 

 朝早くに起きた士郎はセイバーに自分が以前頼んだ実戦形式の稽古を付けて貰っていた。 

 

 そしてすぐに圧倒的に戦闘技術が足りない事が判明した。

 

 これは当たり前のこと。 士郎は一応三月と共に稀に剣道は続けていたが、ましてや殺気などの尋常ではないプレッシャーや魔術が絡む文字通りの死闘とは程遠い生活をして来た。 だがバーサーカーの時にも、昨日にも感じた無力さが士郎を焦らしていた。

 いざという時に防御もロクに出来ないのであれば誰も守れないからだ。

 

 そこでセイバーが意外な人物を誘う。

 

「へ? 私?」

 

「はい、三月は大河のように武術をある程度心得ているかと思ったのですが」

 

「あー、うん。 確かに剣道やっていたけど…………何で私? セイバー滅茶苦茶強いじゃん」

 

「失礼ながら、私は他人に教授した試しが無いので実戦形式になるのですが、シロウは戦闘で使える型と言う型も無いので、基本から学ばした方が良いかと。それに二人の自衛能力が上達するのは時間稼ぎにも繋がる筈」

 

「う~~~ん」

 

「俺からも頼むよ、三月」

 

「士郎?」

 

「三月は体を使う運動とかはあまり好きじゃないのは分かっている。 でも昔からお前は『天才だ』、『神童だ』っていう藤姉達の事を真に受けるんだったら、これ以上ない師が俺には二人いるように思えるんだ」

 

「『神童』? それは真ですかシロウ?」

 

「え? ちょ、なに────」

 

「────ああ。それに子供の頃、三月はじいさんに一本入れたんだぜ?」

 

「キリツグに?! しかも子供の頃?!」

 

「ちょ、私の話を────」

 

「三月、試合をお願いします! 力量を確かめるにもそれが良いかと!」

 

 セイバーが何時の間にか『戦士の目』から『新しい玩具を見つけた子供の目』で期待に満ちていた。

 

「…………ど、どういう事なの~これ~?」

 

 私服に着替えたセイバーと半分諦めた三月が対峙する。

 

「では、良いですか三月?」

 

 ピリピリとした空気が辺りを埋め尽くし、士郎は戦場の緊張感に包まれ、三月も構え────

 

「────あ、ちょっと待ってセイバー」

 

 セイバーと士郎が三月の日常ペースの声にガクリと肩を落とす間、三月は防具を脱ぎ取り、私服姿となる。

 

「よーし! バッチコーイ!」

 

「み、三月…何で防具取ったんだ?」

 

「いやー、これって実戦形式でしょ? だったら想定が『とつぜん てきに おそわれた』とかになるじゃん」

 

「そうですか、では遠慮なく────!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「おはよう桜」

 

「おはようございます、先輩」

 

 士郎の声が朝ごはんの用意をしていた桜に聞こえ、桜は返事をする。

 

「さ~く~ら~お~は~」

 

「ハイ、三月先輩もおはようご────ッ?!」

 

 そして何時もとは違う三月の声に振り返りと、グッタリとしながら元気のない三月を背中に乗せた士郎を見てびっくりする。

 

「────おはようございます、桜」

 

「え? セイバーさん、三月先輩はどうしたんですか?!」

 

「も、もうダメ…………ゴメン、桜…………」

 

「え?! 三月先輩?!」

 

「私……私…」

 

 

 

 

 

 

 グゥ~~~~~~~~~~~~~~~~。

 

 ビックリする桜に返事したのは誰かの胃が豪勢に鳴る音だった。

 

「あー、三月がお腹が空き過ぎて…な」

 

 そして────

 

「桜ちゃん! 特盛おかわり!」

 

 ────そこは三月がご飯を自分の口に込めてすぐにおかわりをキョトンとした桜に頼む姿と、士郎が苦笑いを浮かべていた。

 

「あ、はい」

 

「み、三月。 何時もよく食べるのは良いとして、今日はどうした?」

 

 もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅと食べ続ける三月。

 いわゆる「口に食べ物を詰め込むハムスター」状態だった。

 

「だって────もっきゅもっきゅ────久しぶりに────もっきゅもっきゅ────剣道、朝から────もっきゅもっきゅ────したんだから! 褒めても────もっきゅもっきゅもっきゅ────良いぐらい!」

 

 ゴクゴクとお茶を飲んで喉に詰まりそうなものを流し込み、また食べ始める。

 

「弓道部の朝練とかの時はどうしていたんだ?」

 

「菓子パン三つ」

 

「「朝から?!」」

 

 三月の『菓子パン三つ』の答えに驚く士郎と桜。 そしてこれをじっと見ていたのはセイバーだった。

 

「………桜、私もおかわりです」

 

「え?」

 

「ちょ、セイバーまで?!」

 

 そしてその朝炊いたご飯は無事(?)二人の大食いモンスターによって蹂躙された。

 朝の内に。

 

「……………………………バ、バイト増やして貯金していて良かった」

 

 ホクホク顔でお茶を飲む三月とセイバーを見ながら独り言を言う士郎だった。

 

 朝の実戦形式の稽古については、三月が最初割と善戦していたものの、途中で動きが鈍くなり、瞬く間にセイバーに(ボコボコに)やられた。

 

 理由は至極単純。

 三月の身体が動きに付いて行けなかっただけの事。

 

 技術が幾ら有っても、身体がソレを活用出来なければ意味が無い。

 時々忘れそうになるが、三月はそもそも体作りの為に以前から士郎に付き合っていたのだ。 陸上部並みの走り込み然り、弓道部然り。

 そして朝早くから過激に動いたのが良くなかったのか、お腹を空かせ、三月は目を回しながら(セイバーにボコボコにやられながら)道場で倒れた。

 

 セイバー曰く「三月は大変素晴らしいモノを秘めています。ですが、まずは体作りからですね」、と暖かい眼で見られ、士郎は「ああ、短距離走特化した陸上部員みたいな感じか」、と同情の目で見た。

 

 三月はこの視線に対してヤケ食い+空腹を満たす為にたらふくご飯を食べた。

 

「よぉーし! おっ昼♪ おっ昼♪」

 

 そしてその日の学校でのお昼休み、ウキウキしながら三段弁当箱を開けようとする三月。

 

「三月ちゃんホント小さいのに体のどこにこれ全部なくなるの?」

 

「うっさいよそこ! 『成長中』と言いたまえチミィ~!」

 

「ハハァ! …で? 今回のおかずは世界のどこの────?」

 

 教室の扉がガラガラと空く音がして、ドア付近にいた生徒達から次第に教室が静かになる。

 

「あら、三月。やっと見つけたわ。 ちょっと一緒にお昼をしないかしら?」

 

「???」

 

 三月が弁当箱を再度開けようとしたところに、自分のクラスに遠坂凛が現れてお昼を誘われた。

 

 これに対してヒソヒソ話で情報が一気に広がり、「遂にあの『ミス・パーフェクト』から『月の天使』と接触した~!」との事だった。

 

 士郎も自分の弁当を食べようと何時もの生徒会室へ移動する為にドアへ向かうと、ドア付近辺りに食堂組が何故か戸惑い、人だかりを作っていた。

 

「おう、お前らどうしたんだ? 食堂に行かないのか?」

 

 そこに士郎の近くにいた生徒が答える。

 

「いやオレ達も行きたいのは山々なんだが、珍しい光景を見ている途中でな?」

 

「珍しい光景?」

 

 士郎が廊下の方へ出ようとすると同じ生徒が事情を説明する。

 

「ほれ見てみろ。 我が学園内でも指折りの女性の二人がおるでござ────」

 

 そこではどこか遠慮しているのか、どうしたら良いのか分からなくて慌てている遠坂凛を無理矢理引っ張ろうとする三月がいた。

 ただ体格差によって無駄に終わっているので、脳内フィルターを使うと『お姉ちゃんを引っ張る妹』絵図になっていた。

 

「────だ、だからここで待っていれば何時か出て────!」

 

「────そんなん! 言っていたら! 何時まで経っても! ぐぎぎぎ────!」

 

「────あれ? おーい! 三月ー!」

 

 士郎は何事もないように凛を説得しようとしている三月に声をかけると周りの人達がギョっと目を見開く。

 

「「「「「(衛宮が行ったー?!)」」」」」」、と思った男子生徒たち。

 

「「「「「(うわ! 衛宮君、大胆~!)」」」」」」、と思った女性生徒たち。

 

 だが彼らは知らない。

 

 更なる爆弾宣言が待っていた事に。

 

「あ、やっと出て来た。 ()()()()、ヤッホー!」

 

「「「「「「「()()()ッッッッ?!」」」」」」」

 

 何を隠そう、普段三月が食べ終わる頃には自分のクラスから出ずに昼休みが終わってしまうのだ!

 

 と言うか終わらせてしまう。

 無理もない、完食出来るとは言え、口自体が小さいので食べるスピードが知れている。

 

 なので彼女がおかずを誰にもあげずにただ静かにご飯を食べている時は「ノータッチ状態」になるのが暗黙のルール。 話しかけて良いのはおかずを分ける時、または食べ終わった時だけにしている。

 

 これを覆せると言えば余程の人物でない限り不可能(例えば教師とか)。

 以上の事により殆どの生徒は未だに士郎の『衛宮』が三月の『衛宮』と同じなのを知る生徒は少ない。

 何せ士郎は士郎で生徒会室にすぐさま行って弁当を食べているのだから『衛宮士郎』=『衛宮三月の兄』とは結び辛い。

 

 今日までは。

 

「あれ? 遠坂まで? 余計に珍しいな」

 

「ほら、遠坂さん!」

 

 三月が凛の後ろに回り、押そうとする。

 

「ウェ?! そこで私ぃぃぃ?! あ、え、衛宮君、三月っていつもこうなの?!」

 

「え? そうだけど?」

 

「あー! もうー! 休憩時間無くなるから行くわよ二人とも!」

 

 三月が二人の手を引っ張ろうとして(体格差で)失敗するが士郎も凛も目を合わせ、観念したように歩き出す。

 

「「「「「「「(あの『月の天使』が『()()()』って…………)」」」」」」」

 

 と驚愕しながらも、「やはりご飯を食べている三月は『ノータッチ状態』だな」と再確認する。

 

 先頭で歩く凛と三月、そして後から付いて来る士郎はどこの通路へ行っても誰もが止まり、視線を集める。

 無理もない。 『ミス・パーフェクト』と『月の天使』が一緒にいるだけでも珍しいのにそこに『学園の便利屋』と有名な士郎までいた。

 

「おい、遠坂。 どこに行くんだよ?」

 

 そして『学園の便利屋』が気軽に『ミス・パーフェクト』に話しかけていた。

 

「お昼なんだから、昼食を取りに行くに決まってるでしょう?」

 

「駄目だよ遠坂さん、そんなんじゃ伝わらないって」

 

「じゃ、じゃあどうしたら良いの?」

 

「『オウ、衛宮ンとこの小僧。(つら)ぁちったぁ貸せや』とか?」

 

「それ、藤姉に聞こえていたら竹刀が飛んでくるぞ……取り敢えずここまで来れば屋上だろ?」

 

「あ、ナイスよ士郎! 良く分かったね」

 

「もう階段までくりゃあ俺でも分かるさ」

 

「ね? こんな風に誘えばいいのよ、遠坂さん」

 

「な、なんだか釈然としないわ」

 

 屋上に上がった三人のうち一人はすぐさま弁当箱を開けて、猛スピードで食べ始める。

 

「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!」

 

「え、衛宮君? あれって大丈夫なのかしら? 喉詰まらないのかしら?」

 

「まあ、俺も最近見ていないが、中学からずっと二段箱だぞ?」

 

「一人で?! しかも今は三段箱よ?!」

 

「ああ、そうだな」

 

「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ!」

 

「『そうだな』って、衛宮君の分も入っていなくて?!」

 

「だからそうだってさっきから言ってんだろ?」

 

「ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!」

 

「で、遠坂は何で俺達を誘いに来たんだ?」

 

「え? な、何で────?」

 

「フゥー、次の段を────」

 

「嘘?! 早?! もう?!」

 

アイツ(三月)は後にすればいいから」

 

「あ、ああ。 その………昨日の事を衛宮君に謝りたくて………アーチャーに襲われてごめんね? アーチャーには令呪を使ってまでもこの敵対しない状態を取り敢えずキープしたい事を伝えたわ。 当面はね」

 

「それは…………遠坂は悪くはない。それに俺も認めたくないが、あいつ(アーチャー)がいなければ俺はセイバーと令呪を奪われていた。 下手すりゃ命もだ」

 

「でも、彼のマスターとして責任は私にあるわ」

 

「遠坂がそう言うんだったらそれで良い…であいつ(アーチャー)は?」

 

「……家に置いてきた」

 

「ゴクゴクゴクゴクゴク……ぷはー! ごちそうさまでした!」

 

「「早いよ!」」

 

「え?」

 

 士郎達がまだ自分たちの弁当をようやく半分食べ終わったところに三月は完食した上に全てを胃に流し込むように500mlのペットボトルのお茶を飲み干した。

 

「呆れた………この子、本当に面白い性格しているのね」

 

「そういう遠坂だって」

 

「ウッ」

 

「それで、遠坂さんは私に何を聞きたいの?」

 

 そう言い、三月はチョココルネの封を開けて食べ始める。

 

「ハムハムハムハム」

 

「ちょ、そのチョココルネはどこから出て来たのよ?」

 

「デザート袋」

 

 そう言い、三月は弁当箱とは違う袋を指さした。

 

「…………ま、まあいいわ。 三月。 貴方は先日、『アインツベルン』と酷似した魔術を使ったわね? あれはどういう事?」

 

 それは初めてバーサーカーとそのマスターと対峙した夜、凛を助けた魔術の追求だった。 彼女はその事を忘れた訳では無く、ただ聞くタイミングを見計らっていた。

 彼女から見たところ、士郎はその事を知らずに一緒に生きて来たと言う感じに取れた。

 これは同じ『衛宮』と言う名字から普通、部外者である凛が言う立場では無いし、追及するべきではない事情かも知れない。

 だが、今は聖杯戦争。 そして『衛宮士郎』はマスター。

 

 ならば『衛宮三月』は何だ?

 これを凛は知りたかった。

 

「ああ、あれ? おじさんから習った」

 

「は? (そ、そんな? あっさりと……)」

 

「おい、俺はそんなの聞いていないぞ?!」

 

「まあ、おじさんが『秘密にしろ』って言っていたから。 それに今まで言う必要なかったし」

 

「(『おじさん』? いえ、それより今は────)────じゃあ参考までに聞くけど、貴方が使える魔術は何?」

 

「えーと、遠坂さん? それはちょっと言いにくいと言うか────」

 

「────何だったら衛宮君と貴方に同盟を正式に組んでも良いわよ。 貴方、私から見たら衛宮君より腕は立つでしょ?」

 

「ッ。 悪かったな、遠坂」

 

「あ、じゃあそれで良いわ。 私が使えるのは『治癒』、『解析』、『強化』、『錬金術』、『再構築』────」

 

「────え、ちょっと待って。 最後のは、何て?」

 

「『再構築』」

 

「……………………………………私……聞いた事無いんだけど」

 

「「え?」」

 

 三月と士郎が驚く。

 何せ切嗣曰、『再構築』は『強化』の分点の一つと二人に説明していたからだ。

 

 別に切嗣は間違っていなかったが、三月が使う『再構築』はどちらかと言うと『錬金術』と『強化』を混ぜたような()()であり、()()()()()()()には当てはまらない。

 ただ切嗣は()()()魔術師よりは柔軟な考えが出来たので、名称として彼自身が『再構築』と呼んでいた。

 

「……そ、それで『再構築』ではどんな事が出来るのかしら?」

 

「ん~、例えばこのプラスチックバッグをプラスチックスプーンに変えたり、このナプキンに含まれている炭素の原子構造をダイアモンド並みに変えるとか……って、どうしたの遠坂さん?」

 

 三月が見ると凛は頭を抱えていた。

 

「…………あのね、一応言っておくけど前者の例えは立派な『錬金術』よ。 でも後者は『強化』の範囲を超えているわ」

 

「「え? そうなの(か)?」」

 

「良い? 衛宮君に三月、そもそも────」

 

 凛の言葉が昼の休み時間の終了のチャイムに遮られる。 これを聞いた三月と士郎は立ち上がって教室に戻ろうとするが凛が「たまには良いじゃない?」といい、魔術の話を続ける。

 

 そしてそこで如何に自分が()()()として並外れているのを三月は理解し始めた。

 やはり切嗣が言ったように秘匿したのは正解だったと痛感し、凛と士郎の話を静かに(菓子パンを食べながら)聞いた。

 

 三月は自分が使えるのが『治癒』、『解析』、『強化』、『錬金術』、『再構築』などというモノに対し、凛は簡単な力の蓄積、流動変化、色々なものに魔力を転換して保存しておく事が出来、士郎は『()()』のみ。

 

 これだけでなく、三月は昨日イリヤに使った()()や『結界術』なども使えるので三月自身、少し自分の事を久しぶりに不思議に思った。

 先程凛が言ったように、三月の『再構築』は『錬金術』に似ているが原子構造を変える事はその物質の本質を変えることに等しい。 本来の『強化』ならばナプキンは『紙』としての能力が強化される。 だが三月の『再構築』の場合、見た目は紙だが炭素の部分がダイアモンドに変わってしまっている。

 

 余談だが凛には喉から手が出るほどの魔術だった。何せ彼女の魔術は宝石などに魔力を備蓄し、ストックする事に長けている。 だが媒体が高価なもので使い捨てである為予算が嵩張って……………いや、今は遠坂家の経済難の事は置いておく事にしよう。

 

「────それにしても、ライダーのマスターは誰なのかしら?」

 

 と、突然ボソリと言う凛。 士郎はこれについて追及すると、どうやらキャスターの事件を調べていく内に、キャスターが洗脳した『裏』の人間、いわゆる『裏社会』の人達を始末してくれているおかげで、キャスターの動きが表沙汰になるまでの影響を施し、これのおかげで凛は若干対処がしやすくなっていた。

 

 優秀な魔術師とは言え、洗脳されている『普通の人間』を相手にするのは多少気が引くみたいで今まではアーチャーと共に対処していた。が、この所、そのような人間が既に何者かによって始末されていてキャスターの動きに乱れが生じていた。

 

 なので聖杯戦争の事は別に置いて、遠坂家として礼の一つを言いたかったのだ。

 

「あ、それ多分慎二だぞ」

 

「……………………………………………………………は?

 

 凛の表情は心底いっや~~~~~~~~~~な顔へと変化した。

 

 士郎はここぞとばかりに凛と三月に話した。

 エセ神父から聖杯戦争の説明があったあの夜、凛と別れてから慎二とライダーに会った事を。

 

「………衛宮君、ちょ~~~~っと正座してくれる?」

 

「え?」

 

 凛の問い詰めに士郎は説明した。 しようとした。

 先日、ライダーに襲われたのは何か理由がある筈だと。

 

 三月は三月で士郎から説明があったものの、士郎の行動原理は理解していた。 何せ凛ならば躊躇なく慎二を襲いかねないからだ。

 そこで三月は何か気付いたかの様に(三つ目の菓子パンを食べ終わった後)、未だに続く尋問に横から言葉を挟んだ。

 

「ねえ、もしかして慎二君は遠坂さんみたいに士郎にマスターとしての自覚を持たせたかったんじゃないかな? だって話を聞いたところ、ライダーは手加減していたんでしょ?」

 

「あ、慎二ならあり得るかも」

 

「え゛? あの『間桐』よ? 『慎二?」

 

「まあ、アイツは昔から素直じゃないからな」

 

「うんうん、良く皆に間違われるけど彼は説明不足なだけだから」

 

「…………貴方たち、意外とアイツの事を高くかっているのね。 でもアイツはマスターじゃないわよ。 そもそも魔術師でもないわ」

 

「「え?」」

 

 これに士郎と三月はビックリする。 凛いわく、『間桐』は魔道の家としては廃れていて彼女の父親によれば魔術師としての血脈は既に途絶えているとの事。

 

 そこで凛は士郎に持ちかける、キャスターと門番を務めているアサシン達の打倒を。

 この話を聞き、士郎はアーチャーの言った言葉が頭をよぎる。

 

『誰かを救うということは、誰かを助けないということだ。 無関係な人間を巻き込みたくないと貴様は言ったな? ならば認めろ。一人も殺さないなどという方法では結局誰も救えないという事を。そして自分の為ではなく誰かの為に戦うなど………………ただの偽善だ』。

 

 三月はと言うと、午後に行く切嗣のお墓参りには何を持って行けばいいのか迷っていた。




作者:な、何とか投稿できたどー!

三月(バカンス体):おー、しかもちょっと長めじゃん

作者:是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! では拙者ベッドにバタンキューしてくるでごじゃりゅ

マイケル:仕事の徹夜明けに無理したからだよ

ラケール:何か言語可笑しくなっていないかしら?


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第12話 血涙を絞る少女達、そして夢は逆夢

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 学校が終わり、三月は商店街で買い物をした後、前日イリヤ達と会った公園のベンチで足をブラブラしながら待っていた。

 

「♪~」

 

 そして今回歌っていたのはとあるアニメのOVAでインサート曲として出て来た、「Watching You」だった。

 

「『You're lookin' for how they live~、その痛みを分かちあい~』(あのテーマと雪が降るシーンは良かったな~)」

 

バアー!

 

ハピャア?!

 

 突然後ろから声を掛けられながら、肩を掴まれた三月は心臓が口から出そうな感覚で素っ頓狂な声を出すと、後ろから笑い声が聞こえた。

 

「アハハハ! 何、『ハピャア』って?」

 

「ちょ、ま、まって! い、今のは駄目でしょうがイリヤ?!」

 

 未だにドキドキとうるさく鼓動する心臓に手を当てて、未だに笑うイリヤへと振り向く三月。

 

「ってあれ? 他の二人は?」

 

「車で待っているわ。 さ、行きましょ」

 

 イリヤを先頭に三月が付いていくとメルセデス・ベンツ・GクラスのW463型の外に待機していたセラとリズが見えた。

 

「おー、昨日ぶり~。 こんちゃーす」

 

 三月が片手をあげながら挨拶するとセラはムッとした顔を出すが何も言わなかった。

 

「……こんちゃーす」 ←棒読み

 

 リーゼリットの方は多少躊躇いしつつも、三月を真似て挨拶を返す。

 そしてお約束と言うばかりに『キッ!』と睨むセラ。

 

「あ、こちらはお世話になりますのでお詫びのケーキとクッキーです」

 

「……………ありがとうございます」

 

「うん。 昨日のロールケーキは美味しかった」 ←棒読み&わずかなホクホク笑み

 

「わぁ。(リーゼリットさんの微笑み顔、ゲットだぜー!)」

 

「…何?」 ←棒読み

 

「ううん、何でもない」

 

「それじゃあ、行きましょう。 三月はどこか知っている?」

 

「あ、うん。 柳洞寺の裏手の霊園」

 

 これを聞くとセラは体を固くしてイリヤに向く。

 

「お嬢様、私は反対です。 あのような場所に────」

 

「────そう。リズ、運転をお願いね」

 

「分かった」 ←棒読み

 

 イリヤはセラの言葉を最後まで聞かずにメルセデスに乗り、セラは観念したかのように溜息を出し、イリヤの後に車に乗る。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 そして柳洞寺へと続く石の階段を前に車が止まり、三月とイリヤが車から降りる。

 

「お嬢様、やはり我々もご一緒させてください」

 

「リズは車を待機していて。 セラはリズが変な事しないように。 恐らく何もないと思うけど念の為にね」

 

「念の為?」

 

「……ここには『魔女』がいるの。 私達が何もしなければ何もないと思うけど、一応ね」

 

「ふ~ん。 じゃあ、いこっか。」

 

 三月は鼻歌を再開しながら、ショッピングバッグを持ちながら階段を上り始め、イリヤはその後を追う。

 

 そして山にある柳洞寺の山門では────

 

「────あ、お疲れ様です! 先日は兄がお世話になりました! こちら、お詫びの品です」

 

 三月はセイバーに『アサシンの佐々木小次郎』と名乗っていた青年剣士に保温の効いた熱燗と弁当セットの袋を渡していた。

 

「おお! これはかたじけない。 だがはて、『兄』とは?」

 

「ああ、赤がかかった髪の毛の青年です」

 

「何と! あの者にかような可憐な妹がいたとは!」

 

 そして何故か上機嫌なアサシンと三月が仲良く話し始めた。 これを見ていたイリヤは困惑しながらも黙って距離を取っていた。

 

「して、今日は何用かな? 見た所、面妖な主に似たものを連れて来ているようだが?」

 

「あ、今日は親のお墓参りに来ただけです」

 

「…………何?」

 

 流石のこれにはアサシンも戸惑い、三月を疑いの目で見る。

 

「あれ? 駄目、ですか?」

 

 不安そうになる三月に対してアサシンはイリヤの方も見るが────

 

「────まあ、良いだろう。 まだ夜ではないとしても、用件を終えた後は早々に立ち去るがよい。 でなければ何も保証は出来ん」

 

「ありがとうございます! と言う訳で行こう、イリヤ!」

 

 三月はいそいそと座りながら熱燗と弁当を取り出すアサシンに頭を下げ、イリヤと共に柳洞寺の裏手の霊園へと歩きだす。

 

「ねえ、三月。 さっきのは何だったの? もしかしてサーヴァント?」

 

「ん? ああ、うん。 そうだと思う」

 

「…………………へ?」

 

 イリヤはビックリしながら振り返り、ご機嫌なアサシンが弁当を食べながら熱燗を飲んでいる山門の方を見てみるが、三月から離れすぎないようにすぐに彼女の後を追う。

 

「その、良いの? 襲ってこないのかしら?」

 

「ん? 何で?」

 

「だって最後のサーヴァントはアサシンの筈、なら────」

 

「────ああ、大丈夫だと思う。 彼は義理堅いらしいから。(セイバーから聞いた兄さん曰くだけど)」

 

 そして三月とイリヤは柳洞寺の裏手にある墓地へとやって来た。 イリヤは目の前に在る墓石に刻まれた文字を見たまま動かず、三月はただ彼女を見守る。

 

 ここは何年も前から何度も三月が墓参りに来た()()()()()の前だった。

 

『衛宮家之墓』

 

 イリヤはただ真っ直ぐ、無表情に墓石を見ていた。 時が止まったかのように動かず、世界から彼女だけが切り取られた光景がそこにあった。

 

 数秒か数分、あるいは数時間にも感じられるような、周りの音は何もなく、ただただ静かな時間だけが過ぎていった。

 

「…………お墓を綺麗にして、お供え物をするわね」

 

 三月は未だに微動だにしないイリヤの横を通り、布を出して墓石を拭き、買ってきたお供え物を置く。

 缶コーヒーに菓子パン、そして野菜ジュースとタバコだった。

 タバコは藤村組経由で切嗣が吸っていた物を昔から取り寄せていた物の一つで、先程アサシンに渡した熱燗もお供え物と称して昔から良く行っている酒屋さんで買ったものだった。

 

 ライターの炎でお線香に火を点け、タバコの一本にも火を点けた後、手でお線香から炎を消し、タバコと共に供える三月はイリヤの方を見るが、一向に動いていなく、視線も未だに墓石を見つめていた。

 

 三月がイリヤの隣で手を合わすと、ここで初めてイリヤが動き、三月同様手を合わせた。 三月が目を閉じると風が優しく過ぎ去って、お線香の匂いと共に切嗣が吸っていたタバコの匂いも来て、三月は一瞬懐かしい気持ちになり、これはイリヤも同じだったらしい。

 

「…………グスッ……………スン……………」

 

 三月は隣から来るすすりながら泣くイリヤに声をかけた。

 

「…………私的には、おじさんはイリヤとやっと会えて嬉しがっていると思うよ? イリヤの考えも声に出してみたらどうかな?」

 

「…………………キリ…………………ツグ……………………」

 

 そこからイリヤはポツリポツリと切嗣への、生前にかけたかった言葉を言い、最後はダムが崩壊したような勢いで涙を流しながら嘆いていた。

 

『キリツグの嘘つき』。

 

『どうして自分に会う前に死んじゃったの』。

 

『また会いたかったよキリツグ』。

 

『キリツグが嘘つきでも良いからもう一度会いたい』。

 

『もう一度一緒に雪ダルマを作りたい』。

 

『もう一度一緒に笑いたい』。

 

『もう一度一緒に雪の中を散歩したい』

 

 

 等を延々と震える声で次々と言い、最後に────

 

 

 

 

 

 

『我儘な子でごめんなさい、パパ』

 

 

 

 

 

 ────と言った後、イリヤはただ泣いた。

 

 気が付けば何時の間にか三月の目からも涙が流れていて、これに三月自身も驚いた。

 

 何せ最後にこうなったのは切嗣の葬式以来だったのだから。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 冬の曇り空の下、暫くの間涙を流すイリヤ達が泣き止んだのは辺りがこんがりと赤がかかった夕焼けから黒のかかった赤の、夜になる寸前頃だった。

 

 柳洞寺の山門へと戻る二人は手を繋いでいた。 

 

 イリヤが頼んだのだ、「せめて、階段を下りるまで手を繋いで欲しいと」。

 

 山門を通りながら空になった弁当箱などをアサシンのいる場所から三月が回収すると、イリヤが彼にペコリと頭を下げた事にアサシンは目を一瞬呆気に取られるが、優しく微笑んだ。

 

 階段を下りる道も二人は一言も喋らず、ただ手を繋いで歩いていく。

 

「…ねえ」

 

「うん?」

 

「貴方は………『()』?」

 

 不意に中段辺りで足を止め、イリヤが三月に問いかける。

 

「えーと、『()』って…何?」

 

「………………」

 

 イリヤはただ静かに三月を階段から見下ろし、ジッと三月の目を見ていた。

 その間に三月は考える。

 

「(『()』、か…………)」

 

 今日の昼、遠坂凛の話から推測すると自分が行使、会得できる()()は規格外も良いところに思えた。

 それに世の中には『人間(ヒト)』以外の種が存在する事も切嗣から聞いた事もある。

 

『吸血鬼』、『使徒』、『真祖』、『精霊』、その他。

 

 そしてこれまでの出来事を考えると、恐らく自分はセイバーが言っていた『アインツベルン』が造るような『()()()()』が一番当てはまると三月は思い始めていた。

 

 ただ三月は「それがどうした?」と思い、今まで生きてきた。

 

 何故ならもしそうだったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一度は死にかけた命、恩人に恩を返す為に使えればそれで良い。

 ならば────

 

「────私は『衛宮三月』。 それ以外なんでもないわ」

 

 三月はイリヤの目を真っ直ぐ見返しながらそう答え、数秒後にイリヤは溜息を出す。

 

「そう、ならいいわ。 でも、ちょっと悔しいかな」

 

「え? 何が?」

 

「だって貴方、私の魔眼に対して無防備と思わせるよう感じがするのに、何のリアクションも無いんだもの」

 

「え゛? ちょ、『魔眼』って────」

 

「────私のは耐性のない者を注視するだけで拘束可能な、簡単な奴よ」

 

「そ、そうなんだ。(ホ、何か『右手から竜が出てくるー』な奴じゃないのか)」

 

「さ、セラ達が待っているわ」

 

 イリヤは階段を下り、三月を通ると────

 

「(ありがとう)」

 

 ────とイリヤの声がしたような気が三月にはした。

 

 その後ケーキのクリームとチョコチップクッキーの後が頬っぺたに若干付いているセラ達とイリヤ達が合流して、分かれる前にイリヤが三月に伝言を頼む。

 

 士郎や三月、セイバー達がアインツベルン城に来たいのであれば、客人として何時でも迎えると。

 

「えと、遠坂さんは?」

 

「どっちでも良いわ、でも条件はアナタかシロウが必ずいる事よ」

 

「ええ、伝えるわ。 何か欲しいものでもある?」

 

「リズはケーキ1ホール、セラはクッキー」 ←棒読み

 

「ちょ、リーゼリット?!」

 

「あ、じゃあ私もケーキ!」

 

「お嬢様まで……………」

 

「分かった」

 

「貴方も貴女で、そんな簡単に了承しないで下さいよ………」

 

 三月は運転をするイリヤを見送り、手を振る。

 

「(おお、あれは慣性ドリフト! すごーい)」

 

 そう思い、夜になってきた道を歩く。

 

「うう~~~! さっぶ! それに何か頭痛と吐き気もする……風邪かな?」

 

 そう独り言を言いながら手袋をして急いで帰る事にした三月はある男と会う。

 

「あ! 葛木先生、お疲れ様です!」

 

「三月か」

 

 葛木宗一郎、穂群原学園の教師で遠坂凛のクラスの担任でもある彼は何かと藤村大河と三月に縁があった男。

 

 縁と言っても、大河が何かと彼に助けを求めたり一緒に居ようとする。

 

 そして三月とは意外と彼が頼みごとをする時も多く、昼休みのごはん中の三月に声を掛けられる例外の一人だった。

 彼は口数が少ないが必要な事は言う性格な為、三月も彼と持っている『』ビジネス関係を割と気に入っていた。

 

「こんな時間遅くにどうした?」

 

「あ、お墓参りに少し」

 

「そうか。 この頃は物騒だ、早く帰ると良い」

 

「は~い」

 

 三月と葛木宗一郎が別れて、夜道をそれぞれ歩く。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その夜、三月は夢を見た。

 

 そこはどこかの荒原で、彼女一人が大きな道の交差点を一人でポツンと立っていた。

 

 周りは静かで、風も無く、人が住んでいたと言う痕跡も見当たらない、色も無い灰色の世界。

 

 その中で立っている三月は不思議と寂しくは思わなかった。

 

 あったのはたった一つの思いだけ。

 

「(ああ、()()())」

 

 と、なんともドライな感じがした。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 次の日の朝、三月は学園の屋上でまたお昼ご飯を食べていた。

 

「お、おい衛宮。 み、三月はいつもあの位の量を食べているのか?」

 

「あれ? 慎二に言わなかったっけ? 昔から三月は大食いだぞ?」

 

「あー、私の反応を思い出すわー」

 

 そして今度は慎二が加わっていた。

 

 事は慎二がライダーのマスターだと先日士郎が言ってから始まった。

 これに対して遠坂凛が律義に礼を言いたいとの事で士郎が三月に頼んだのだ、「慎二を屋上まで誘って欲しい」と。 

 そして士郎は三月に「慎二を誘ってくれ」と頼んだ。

 

「え? 何で私が?」

 

「その方が慎二本人、喜んで来るからだよ」

 

 ニヤニヤとした士郎を思いだしながら三月が慎二を誘うと、彼の取り巻きガールズが嫌な物を見るかのような視線を出すが────

 

「────ぅぃえ?! ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ────?!」

 

「────上手く着火しないライターの真似?」

 

「ちゃぐ!」

 

 慎二が噛み、真っ赤になりながら言い直す。

 

「ち、違うぞ。 よ、よろけべ(よろこべ)よ三月。 ぼ、僕と一緒に食事するこひょ(こと)を光栄に思えよ!」

 

「あ、うん。 ハイ。 じゃあ、屋上行こうか」

 

「お、お、お、おおおおお屋上?!」

 

「(何赤くなってんのこのワカメ? 私、海苔は間に合ってるんだけど…)」

 

 何処かギクシャクした動きで付いて来る慎二はただ目の前の三月の揺れるポニーテールを見ていた。

 

 そして屋上に着くと────

 

「────何で衛宮がここにいるんだよッ?!?!?!

 

「────お、やっぱり早かったな三月」

 

 士郎の姿を見た瞬間、不機嫌になる慎二。

 

「まあまあ、私の弁当分けてあげるからさ」

 

「ああ、やはり良い────じゃなくて貢げる事に感謝しろよ!」

 

「あ、だから今日は四段弁当箱だったんだな三月?」

 

 慎二は三月から弁当箱の一段を取り、食べ始めると士郎は周りを見て何故か隠れている凛に声をかける。

 

「おーい遠坂! 何端っこで隠れているんだよ! 慎二来たぞー」

 

「ブゥグォアアアアアアアアにぃぃぃぃぃぃ?!」

 

 突然食べている物を噴き出しそうになる慎二は無理をして耐えているのか、変な叫び声が上がる。

 そして不機嫌そうな凛が不機嫌な慎二の前に出る。

 

「な、何で遠坂が?! ……あ!」

 

 そして慎二は何かに気付いたのか三月の方を(正確には三段弁当箱を)チラッと見てニタニタと笑う。

 

「成程ね~、あの遠坂も三月に弁当を分けて貰っているのか~。 流石経済難の遠坂家────」

 

「────違うからハッキリ言うわ。 気味が悪い『間桐』に言われたくないわ」

 

「何だと!」

 

「何よ!」

 

 立ち上がる慎二に凛が迫って────

 

「二人とも食べないの? モグモグモグモグ」

 

 のほほ~んとした声で三月が凛と慎二に話しかけると二人は渋々とは座り、食べ始める。

 丁度凛、士郎、三月、慎二の並びで皆それぞれの弁当を食べ始め、慎二が士郎と凛が自分の弁当を持って来ている事に気付く。

 

「??? お前ら、三月から弁当箱貰わないのか?」

 

「? 三月は何時もあの位は食べているぞ?」

 

「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」

 

 そして以上の状況へと至る。

 丁度三月が一段目を食べ終えて、二段目の半分まで食べたところだ。

 

「お、おい衛宮。 み、三月はいつもあの位の量を食べているのか?」

 

「あれ? 慎二に言わなかったっけ? 昔から三月は大食いだぞ?」

 

「あー、私の反応を思い出すわー」

 

「ハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグ」

 

 静かに弁当を食べる三人+食物を口に掻き込める約一名。

 

「…………で? 遠坂は何でここにいるのさ? もしかして僕と共闘する気になったのかい?」

 

「誰が────?!」

 

「────ああ、何か遠坂がお礼したいんだって」

 

「はぇ?」

 

「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ」

 

 慎二は士郎の言葉で呆気に取られ変な声を出し、凛は気まずそうに視線を逸らし、三月は未だに弁当を食べる。

 そして士郎が慎二に確認を取り始める。

 この頃ライダーと共に夜の街で犯罪者の人達を討伐していないか?と。

 

 これを聞くと慎二は得意げそうに髪を弄りながら肯定する。

 

「(何でこっち見てんのかな、ワカメ。 今三段目食べて────まさか一段だけじゃ足りなかったとか?!)」

 

 肯定する慎二に士郎が言う、「そのおかげで遠坂は柳洞寺にいるキャスターを突き止めて、妨害に出ている」と。

 そして慎二の行っている事がソレの助けになっていた事も。

 

「へー、あの遠坂が僕にお礼をねー」

 

 ニタニタとした笑いの上にネッチャリとした視線が凛を襲い、彼女は自分の身体を抱きしめながら士郎の後ろに隠れる。

 

「な、何よ! 御三家の、遠坂の当主として当然の事よ!」

 

「んん~~~~? その『礼』がまだなんだけどね~」

 

「うッ」

 

 凛が目を逸らす、慎二の笑いがさらにデカくなる。

 

 が、ここで三月の三段目を食べ終わったところで菓子パンを食べ始める事に慎二は驚愕した。

 さらにチャイムが鳴ったのに微動だにしない三人にも。 

 慎二は教室に戻るため、立ち上がるとここで三月が慎二の制服を引っ張り、彼が座っていた場所に手をパタパタとして、慎二は座りなおした。

 

「って、まだ食べるのかよお前は?! そもそもその量はどこに消えているんだ?! 質量保存の法則に喧嘩を売ってんのか?!」

 

「えー? だってお腹空いているんだもん。 あ、もしかして欲しかった? ワカメ入りご飯パンあるけど?」

 

「あ、じゃあ貰っておこうか」

 

 そして上機嫌になる慎二を見た凛がコソコソと士郎に話す。

 

「ねえ衛宮君。 慎二っていつもこうなの?」

 

「三月限定だな」

 

「ふ~~~ん?」

 

「おい遠坂、慎二をあまり弄るなよ。 気持ちは分かるけどさ」

 

 ここで初めてニヤニヤし始める凛に対して士郎は釘を打つ。

 

「ちなみに何で衛宮達と遠坂がここにいるんだ?」

 

「あ、そうだよ遠坂。 何でだ?」

 

「モムモムモムモムモムモムモムモムモム」

 

「そうね、ライダーのマスターに礼をするのは良いとして────」

 

「────おい! 良くないぞ────!!!」

 

「────ハイ慎二、卵サンド────」

 

「────あ、ありがとう────じゃなくて!」

 

「えい♪」

 

「もが?! …………………モグモグ」

 

 三月は話を進める為に慎二の開いた口に無理矢理卵サンドを捻じ込み、目配せで凛に合図を送る。

 そしてその間、実に幸せそうな慎二の表情に多少(?)苛つきながらも説明する凛はそこに居る皆に提案をする。

 キャスターとアサシンの打倒を。

 

 冬木市の管理者(セカンドオーナー)としてキャスターの行為とルール違反は見過ごせないと。

 

「お、おい遠坂」

 

「何よ慎二? まさか文句がある訳ないでしょうね」

 

 更に苛ついた声で凛が返事をすると慎二は三月の方を一瞬見て、凛は理解する。

 

「ああ、その子なら大丈夫よ。 下手したら私までは及ばないけど、かなり良い線行くわよ? 何処かの誰かさんよりわね」

 

「なッ?!」

 

 慎二がビックリしながら幸せそうに五つ目の菓子パンのチョコチップメロンパンを食べている三月を見る。

 

「ま、それはあくまで魔術師としての話ね。 サーヴァントがドンパチするところに本格的に関わったら一溜りも無いわ」

 

「…………………」

 

「だから提案しているの。 キャスターとアサシンを打倒するまでは一時休戦を」

 

「遠坂、バーサーカーは後回しで良いのか?」

 

「そうね、バーサーカーは脅威だけどキャスターと違ってちゃんと聖杯戦争のルールは従っているわ」

 

「僕としては先にバーサーカーを────」

 

「────ダメだ」

 

 ここで今まで黙っていた士郎が強くキャスターを後回しにするのに強く拒否したのに凛と慎二、そして三月は驚きに目を見開く。

 

「「「衛宮君?/衛宮?/士郎?」」」

 

「アイツは……キャスターは冬木の町中から生気を吸っている。 今はまだ犠牲者は出ていない。 けど、何時かは出てしまう。 なら、早くて手を打った方が良い」

 

「衛宮…お前……」

 

「(兄さん……)」

 

「………ま、と言う訳でこの提案よ。 別に争うなとは言わないけど────」

 

「────いや、僕も賛成しよう」

 

「「慎二?」」

 

 今度は凛と士郎がビックリした。 何せさっきまでキャスター打倒にはあまり気乗りしていなかったように見えたからだ。

 

「生気を吸っていたのは知っていた。 けどそれが遠坂の言うような規模なら…」

 

「(え? 何でワカメはこっちをチラッと見たの? このアンパンあげないわよ?)」

 

「どういう心境の変わり? さっきまでバーサーカーを打つ気だったのに」

 

「何、少し興味があるだけさ。 キャスターと言う魔術師にね────ッ」

 

 慎二が顔をしかめて、苛ついたような声を突然出す。

 

「あああ?! 何叫んでいるんだよライダー?!」

 

 そして学園は突然、雲の影に入ったかのように辺りは暗くなる。

 

「な、何だこれは?!」

 

「慎二! 貴方、結界を発動したわね?!」

 

「慎二、お前…」

 

 凛が怒りながら慎二に迫って彼の胸倉を掴み無理矢理立たせ、士郎は「信じられない」といった顔で彼を見る。

 

「し、知らない! ぼ、僕は知らない!」

 

 何故凛と士郎が慎二を攻めているかと言うと先日、凛が士郎を襲った後日、二人は学校に結界の呪刻が設置されていたのを発見して、次々と消していたのを慎二に注意された。

 一応「保険の為の結界」と称した慎二の事を凛は全く信用していなかったが、慎二は確かに範囲が巨大だったのを認めて規模を小さくすると言い、次の日から結界の呪刻が確かに「攻撃的」から「防衛戦」向けの規模に変わったのを確認した。

 

「ほ、本当なんだ! あの日に僕はちゃんとライダーに変えさせたんだ! こ、こんな────」

 

 そこでドサリとした音がし、三人が見ると三月が悪い顔色をしながら震え、歯をがちがちと音を鳴らしながら自分の体を抱きしめながら気を失っているのを見た。

 




作者:お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!

三月(バカンス体):後書き今回は短いわね?!

作者:次の話を書かなきゃあならんのだ! ウオオオオオオ!

チエ:あ奴め、意外と楽しんでいるな

マイケル:え゛? あれでか?

ラケール:まあ、笑ってはいるけど…………

作者:フ、フヒ。 フヒヒャハハハハハハハハハ!


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第13話 怒れる拳、笑顔に当たらず

今回キリの良い所+ストック切れまでなのでまた少し短めです。

すみません…

何時も感想ありがとうございますハクア・ルークベルト! とても励みになります!

誤字報告ありがとうございます宇宙戦争さん! いや~、まさか慎二の名前を間違えるとは恥ずかしいです………一応今までの話は全て直しましたと思います!


 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、間桐慎二 視点

 ___________

 

 地面に倒れた三月の身体を凛が起こし、診る。

 

「お、おい三月は大丈夫なのか遠坂?!」

 

「前から体は弱かったけど、ここまで酷いのは────」

 

「────正直あまり良くないわね。 体が冷え切っているのに、脈が早い。 それに、魔力も……このままだとヤバイわ。慎二! この結界は貴方のモノじゃないのよね?!」

 

「そ、そうだ! これは学園全部覆っているが、僕のは本校舎だけの筈だ!」

 

「ならば、考えられるのは────ああ、もう! 先ずはこの子(三月)ね! 衛宮君! この子を背負いながら魔力を常時発動、少しでも魔力をこの子に流すように! 慎二はライダーを呼んで!」

 

「わ、わかった!」

 

「よ、よし! ライダー、来────!」

 

「────マスター、これは────?」

 

「────おわああああああ?!」

 

 突然現れたライダーに慎二は尻餅をつきながら叫び、士郎が三月を背負いながら身構える。

 

「単刀直入に訊くわライダー、この結界は貴方の仕業?」

 

「……………」

 

「ラ、ライダー! 答えてくれ!」

 

「違います」

 

「そう。 でも見た所、結界の拠点が以前の呪刻の場所なのだけど?」

 

 ライダーは慎二と士郎の方を一瞬向き、凛の問いに答える。

 

「…確かに以前設置した呪刻が発動しています。 ですが、これは恐らく他の誰かが発動したモノかと」

 

「ハ、ハァ?! ど、どう言う事だライダー?!」

 

「成程ね、じゃあこれはライダーの結界を利用した別の何かよ」

 

「ハイ、ですので私やマスターは弱体化の対象外となっているのもその所為でしょう」

 

「ハァ…ハァ…」

 

 士郎の頭のすぐ横で浅く息をして弱っている三月を見ているかのように思えるライダーの視線に士郎は身構えたまま睨む。

 

「お前の結界を利用しているのなら、お前に解除も可能な筈だろ?!」

 

「いいえ衛宮君、恐らくこれはキャスターの仕業。 そして彼女ほどの魔術師がそんな穴を術式に空けたままにする訳が無いわ。 でも利用しているから効果と解除条件は似ている筈よ。 それを教えて、ライダー。 でないとこのままじゃここの生徒全員いずれ死んでしまうわ」

 

「「な?!」」

 

「…………」

 

 士郎と慎二は驚きの声を上げ、ライダーはただ黙っていた。

 

「どういう事だライダー! お前に命じたのはそんな危険な────!」

 

「────待って慎二。 これも私の推測だけどこの結界は本来のモノより強化されていると思うわ」

 

「いいから解除条件を言ってくれ! このままじゃ三月が危ない!」

 

 士郎が痺れを切らしたのか苛立ちから話を遮る。

 

「………元となった結界の名は『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』。 内部の人間と地形を溶解し────」

 

「────な?! ライダー、おま────!」

 

「────魔力として使用者に還元する結界を張る対軍宝具。 ですがこれは宝具では無いので恐らくは内部の人間を魔力に変換しているだけみたいですね」

 

「じゃあ早い話が『巨大生物の胃の中』ってところね。 で、核となる呪刻は?」

 

「…………………」

 

「そ、それは位置が動いていなければ一階の化学教室の筈だ!」

 

「おい、遠坂! 三月はどうなんだ?! さっきから魔力を流しているが何も変わらないぞ!」

 

「やっぱり衛宮君じゃ…………でも私の両手が塞がって…………」

 

「えええい! 令呪を以って命ずる! 『セイバー、来い!』」

 

「え?!」

 

「な?! 衛宮?!」

 

 士郎のそばに光が輝き、甲冑姿のセイバーが現れ、士郎は掻い摘んでセイバーに結界の事を説明し、ライダーと慎二は今敵ではない事を宣言した。

 

「シロウが、そう言うのなら……」

 

「驚いた、今度は躊躇無しで令呪を衛宮君が使うなんて………」

 

「当り前だ、こんな局面で出し惜しみなんてしてられるか。 三月もだがここには桜も、藤姉達もいるんだ! (それに、正義の味方(ヒーロー)なら尚更だ!)」

 

「ッ。 ライダー、聞いた通りだ。 セイバーと一緒に一階の化学教室で結界を解除するぞ」

 

「分かりました」

 

「遠坂、それでいいか?」

 

「うぇ? え、ええ」

 

 何時も以上に切羽詰まった状況の中で延々と行動を起こす士郎に凛が驚く。

 

「しっかりしてくれ遠坂! ガンドで雑魚を蹴散らして、デカい奴らはセイバー達に任せよう! 慎二、俺のそばにいてくれ」

 

「衛宮のくせに僕に指図するな!」

 

「いざとなったら三月を頼む、慎二」

 

「…………ハ! 頼まれてやるよ! おら、行くぞ凡骨共! 僕に続け!」

 

「貴方こそ私に指図するな、このワカメ!」

 

「ワカメって言うな!」

 

 そして四人+二騎のサーヴァントは校内の通路を塞ぐ竜牙兵を蹴散らして行った。

 

 行ったが────

 

「数が多すぎるわよ、まったく!」

 

 ────一体壊せば二体がその穴を埋めるかのように、文字通りウジャウジャと、次から次へと竜牙兵が前後から迫る。

 

 殿を務めるライダーを凛が援護し、セイバーは大振りな剣さばきで前を投げ払い、打ち漏らしを士郎が片手で強化した棒で粉砕していた。

 さっきからこの状態が続き、凛が苛つき始め────

 

「────もうあったま来た! 慎二! 私が道を開けるからその隙にライダーと一緒にこの結界を壊して!」

 

「な、僕に指図────!」

 

「慎二! ライダークラスは機動力に長けているんだろ?! 頼む! ここは俺と遠坂が暴れまくる! ()()()()()()()()()()!」

 

「え、えみ────」

 

 返事を待たずに、凛は宝石を何個か投擲して手榴弾のような爆発が起きる。

 

「────マスター、行きますよ!」

 

「おわあああああああ! ラ、ライダー~~~~~!」

 

 何時になく気合の入っているライダーが慎二を(物理的に)引きずりながら通路を駆け抜ける。

 

「(頼むぞ、慎二!)」

 

「(まさかあのワカメの為に宝石を使う羽目になるなんて! 金庫の中身が………いや、今はここを切り抜けないと!)」

 

 

 ___________

 

 間桐慎二、ライダー 視点

 ___________

 

 

「ふひゃああああああああ?!」

 

「……………………(まったく、何故私が)」

 

 勿論慎二は慎二で、まるでF1レーサーの車体に首の根っこから体を後方に引っ張られている感覚に恐怖から叫んでいたのは誰もが理解できよう。

 ただその素っ頓狂な声を上げる慎二に対してライダーは内心苛ついていた(自分の所為だとは微塵も思っていない)。

 

 そのまま(乱暴に)慎二を引きずったまま、一階の化学教室の扉を(ライダーが投げた慎二が)体当たりで壊し、中へと突入する。

 

「あら、意外ねライダー」

 

 そこには愉快そうなキャスターの姿がいて、ライダー達へと振り返った。

 

「キャ、キャ、キャスター本体だと?!」

 

 体を起き上げた慎二がキャスターを見ると後ずさる。

 

「ちょうど良いわ、戦うのはやめないかしら? 貴方、魔術師になりたいのでしょう? 私は貴方の魔術回路を『()()()()』事が出来るわ」

 

「戯言を────」

 

「────『待て』、ライダー!」

 

「ッ」

 

 腰を低くしたライダーを慎二が制し、ライダーの動きが急に止まる。

 

「どういう事だ、キャスター?」

 

「ふふ、賢明ね。 貴方は魔術の家系で、『魔術回路は完全に失われている』と言われていた()()よ」

 

()()…だと? 何が言いたい!」

 

「貴方の()()()()()()()()()()だけの事。 古来の時代ではこれを『魔路昏睡』と呼んでいたわ。 要するにその者の回路が生まれつき閉じたままで、自己の意志やちょっとの刺激では起きる事は無い。 だけど私なら()()()()()。 どうかしら?」

 

「…………何が条件だ?」

 

「簡単な事よ、ただ()()()()()()()()()()だけよ」

 

「………………………」

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛 視点

 ___________

 

 

「まだか、慎二!」

 

「衛宮君、やっぱり慎二は────!」

 

「────いや、後もう少し粘れば────!」

 

 ライダーが抜けた事で士郎、凛、セイバーは苦戦していた。

 ()()ならこの()()()で乗り越えられるような局面。 

 だが()()と違い、衛宮士郎は自ら前線で活動できず、背中の子を守りながら消極的に戦っている。

 ()()と違い、遠坂凛は先程慎二達に道を開ける為に宝石たちをいつもより使い、魔力もいつも以上に消費していた。

 そして()()と違い、セイバーはこの三人を守る為に前後を行き来していた。

 

「────シロウ! やはり先程からライダーは動いていません! 彼らは────!」

 

「────言うな、セイバー!」

 

 怒りの籠った声で士郎がセイバーを黙らせる。

 

「で、でも衛宮君────!」

 

「アイツは、慎二は捻くれた奴だけどやる時はやる奴だ!」

 

「ウ……………お……にい………ちゃ……………」

 

「どりゃあああ! (早くしてくれ、慎二!)」

 

 士郎自身焦りながら来る敵を粉砕していく。

 

 ___________

 

 間桐慎二、ライダー 視点

 ___________

 

 

「アッハッハッハッハッハ! 傑作よ、これは! あの坊や、私の『提案』を受けなかっただけにこんな事になっているなんて思ってもいないでしょうね!」

 

 キャスターが『遠見』を施した床の水溜まり経由で士郎達の事を見聞きしていた。

 それは彼女の後ろで壁に背中を預けている慎二と、そばで立っているライダーも同じだった。

 

「へー? 衛宮にも声をかけていたのか?」

 

「ええ、セイバーと令呪を私に寄越せと言ったのよ。 でも今更()()()()()()()()()()わ」

 

「ん? どういう事だ?」

 

「だって、そんな物よりもっと価値のあるモノが見つかったんですもの」

 

「……………それがこの結界か? よっと────」

 

 慎二は近くの冷蔵庫の中から缶を数本取り出すと、数本が床に落ちて中身が零れると慎二は舌打ちをする。

 

「チッ、勿体ない事をした………一つどうだい?」

 

 そう言いながら慎二は一つの缶を開けて、飲み始める。

 

「ップハー! 炭酸飲料、最高だな!」

 

「遠慮しておくわ。 後もう少しで終わるし、貴方の『魔路昏睡』の治療準備も出来るわ」

 

「へー、もしかしてこの結界で得た魔力を使うのかい?」

 

「あら、意外と鋭いわね」

 

「伊達に魔導書など漁っていなかったさ。 となると、この結界で得た魔力量は凄いんだろうね」

 

「ええ、()()柳洞寺なんて目じゃない程ね」

 

「そうかい…………ところでさー、僕、思っていたんだよねー。 この結界、いつまで張っているのかな?」

 

「そうね、少なくとものあの坊やと小娘が干からびるまでになるわね」

 

「へー…………それにさー、僕って()()()()()()()んだよね」

 

 慎二の言葉に違和感を持ち、キャスターは彼を横目で見る。

 

「何を今更────」

 

「────だからさー、さっきも言った様に本を漁っていたんだよねー」

 

 ニタニタとした笑みを浮かべる慎二にキャスターは憎悪がぐつぐつと煮え始めるのを無理矢理心の奥に押し込めた。

 ()()()と同じ顔だった。

 かつての()()()()()()()()が悪巧みをする時のような────

 

「────面白いよねー、『錬金術』ってさー」

 

「だから何を────ッ?!」

 

 そこでキャスターは気付く。

 

 床に広がる液体と()()()()()()()が────

 

「────やれ、ライダー」

 

 ライダーは素早く短剣を投げ、床の液体に飛び散った火花が合図になったように、液体全体が着火し、すぐさまキャスターへと燃え移る。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「おーおーおー、やっぱりよく燃えるね。 『()()()()の火』だけに」

 

『ギリシャの火』。 かつての東ローマ帝国で使用された焼夷兵器で、海戦において典型的にこの兵器が使用されたと伝えられている。 水上に浮いている間ずっと燃え続けて多大な効果を上げたと言われている『()()』の兵器を元に人工的に作られた『表』の兵器。

 

「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ギ、ザ、マ゛────」

 

「苦労したよ、これを作るのに。 元々は使う相手が違うけど、いい試行実験になったよ。 僕ってさー、お前みたいな奴が大の嫌いなんだよね」

 

 キャスターは火の中でもがき、苦しむ。 水など使えば状況は悪化し、これは『表』の『ギリシャの火』ではなく、『裏』の『ギリシャの火』に近い素質を持っていたのもさっきの()()で彼女は知っていた。

 

『表』の『ギリシャの火』は水さえあれば燃え続ける。 

 では『裏』の『ギリシャの火』はどうだろうか?

 

「う~ん、やっぱりいいね。 燃える『魔力』ってのは」

 

 そう。 『裏』の『ギリシャの火』の糧は『水分』と『大気』ではなく、『魔力』と『大気』で燃え続ける。

 神代で『水さえあれば燃え続ける火』などのような芸当は()()()()止まり。 水さえ無くせば終わってしまうのだから。

 

 では()()そのものを燃やせばどうだろうか? 神代は魔力と神秘に溢れていた時代、余程の事情でなければ誰もが魔力に満ちていて、『裏』の『ギリシャの火』はこの事実を逆手に取っていた。

 

「ハハハ! どうだいキャスター?! 『魔女狩り』に会っている気分は?!」

 

「グアアアアア! ナ、ゼ────」

 

「『何故』? な~に、簡単な事さ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────貴様は僕を怒らせた

 

 ヘラヘラと笑っていた慎二が静かな怒りを持つ者の形相へと変わり、キャスターを見る。

 

「お前は僕の大切なモノ達を亡き者にしようとした。 それは万死に値する。 こんな僕を信じ切る、馬鹿たちをな────」

 

「────マスター!」

 

 ライダーが急に慎二を掴んで投げると、何者かの打撃で彼女の肋骨がメキメキとヒビが入る音を立てて、身が慎二近くに投げ出される。

 

 シュバー!!!っとする音が聞こえ、辺り一面が白い粉状のモノで満たされる。

 消火器の消火剤、炭酸水素ナトリウムが場の空気を一時的に吸い取り、火が収まっていく。

 

「ラ、ライダー?! ケホッケホ!」

 

「無事か、キャスター」

 

「も、申し訳ありません」

 

 慎二は咳をしながら男の声とキャスターの声が聞こえる方向を見る。

 

「引くぞ────」

 

「────ですが────」

 

「────気は逃した、引くぞ」

 

 そこで慎二が見たのは転移魔術で消えて行くキャスターと────

 

 

 

 

 

 ────教師である、葛木宗一郎の姿だった。

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、三月 視点

 ___________

 

 あの後キャスターが姿を消したあと、結界は崩壊し、救急車や警察達が殺到して来て、衰弱していた生徒や教師達の治療と事情聴取を始めていた。

 

「スゥー…………スゥー…………スゥー…………」

 

 場所は校舎近くの森の中に移り、背中で静かに寝息をしている三月を見ていた士郎は慎二の話に戻った。

 

 キャスターのマスターは自分が何とかすると。

 

 勿論、士郎と凛は反対した。 そしてもしキャスターのマスターを知っているのなら教えてくれと。

 

 だが慎二は断った。

 かつてないほどの怒りを露にしながら「僕にやらせろよ」と言った彼に、あの士郎でさえ狼狽えるほどに。

 

 そして凛は士郎を褒める、「よくあんな状況で頭が回るわね」と。 「自分だったら倒れている生徒達とかで頭が回らなかった」と。

 

「ああ。 俺、死体を見るのは慣れているからさ」

 

 士郎のこの一言で凛、慎二、セイバーはビックリする。 何故なら士郎の表情がまるで()()()()()()()()()を言う感じで顔色一つ変えていなかったのだ。

 

 これにはどう声を掛ければ良いのか分からなかった凛と慎二達と別れ、士郎は三月を何時かのように背中に負ぶって衛宮邸へとセイバーと共に帰った。

 帰り道すがら、セイバーは未だに士郎に迫っていた。

 

「やはり自分がシロウの部屋で寝た方が良い、今の部屋ではシロウが危ない」

 

「なんでさ?! 駄目だ! (危ないけど、()()()の意味で俺が危ない!)」

 

 結局は士郎の隣の部屋に落ち着いた(と言うか士郎が無理矢理落ち着かせた)。

 その夜、士郎はやはり意識して眠れなかったが。

 




三月(バカンス体):ええ、今回作者の調子が悪いのでコントはほぼ無しです。 申し訳ありません

雁夜(バカンス体):お前が畏まっているのって鳥肌立つな

三月(バカンス体):うっさいよそこ! お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! よろしくお願いします!


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第14話 一場の春夢(前編)

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くるくるくるくる回る歯車達。

狂いは無く、回っていた。

その中に一つの歯車が足され、歯車達の回転がズレ始める。

既に回る歯車達は果たしてこの新しい回転について行けるのか?

それはまた、『運命』のみぞ知る事である。
===================================================

ガバ飲みブラックコーヒーと胃薬で何とか間に合わせました!

日曜日が恋しい…

後久しぶりにイメソン訊きながら書きました(シャッフル&ループ設定可)。


 ___________

 

 士郎、三月 視点

 ___________

 

 そしてその次の日の朝、いち早く昨日の夜に退院した大河は士郎とセイバー、そして同じく早く退院した桜に愚痴を零していた。 「自分も患者の筈なのに『健康体の模範そのものですから献血してみて行ったらどうですか?』ってどういう事よ?!」と。

 

 昨日の出来事があったというもの、学校は閉鎖されずに次の日には普通に開いていたので、皆学校へは登校する準備をしてから朝御飯を食べている最中に大河は愚痴をしていた。

 

 それに苦笑いを浮かべる士郎は大河の隣にいた三月を見る。

 昨日病院で見て貰ったら?と提案したところ、三月は頑なに断り「家でお腹一杯にご飯を食べてグッスリ寝たらきっと治る」と言い、今に至る。

 確かに顔色は多少良くなったものの、何処か元気が無いように見えた。

 

 それは大河と桜も気付いた様子で、いつも以上に彼女に気を使っていて、ワザと元気に二人は振舞っていた。

 

 三月はと言うと────

 

「…………………(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛、だーるーいー。 ねーむーたーいー。 頭もボ~っとするー。 変な夢も()()見るし最悪~。 休みた~い)」

 

 ────と寝ぼけながら考えていた。 

 

 今回の夢は誰もいない廃墟を延々と歩生きながら「(()()())」と考えていた物だった。

 

 そして昨日寝る時に髪の毛を三つ網ポニーテールにしたまま寝ていたので、今日の朝解いたら立派な金髪ウェーブにあら不思議。

 

「…………………ハァー…(あ~、もうこのままでいいや~)」

 

 そう鏡の前で思いながら髪型を軽く整えて、三月は士郎達と共に登校すると視線を集めていた。

 何せ三月は基本的にストレートをベースにしたヘアスタイルを今まで衛宮邸の外ではほとんどしていた。

 

 だが今日はいつもと違う儚げな表情(疲れ気味+憂鬱な気持ち)と落ち着き(体のダルさ)のおかげで『お嬢様』っぽい雰囲気が増していた。

 ただここで遠坂凛がお構いなしに二人に話があると言い、校舎裏の方へと引っ張り、『柳洞一成』がキャスターのマスターとして怪しいと言い、そこで士郎が言いだした。

 

「────なら俺達が確かめてやるよ」

 

「え゛? (俺()って、私も入っているの? 昼休みが…)」

 

 三月はその日珍しく昼休み中、仮眠を取ろうか考えていた。 余談で年に一度あるかないかの頻度だが、その寝顔は貴重で学園の『裏マーケット』ではその写真は高く売れるのだそうだ。

 

「なぁ、三月?」

 

「…………あー。 ウン。 ハイ、ソウデスネー。 (さようなら、私の昼休み…ハァ~)」

 

「で、どうやって確かめるのよ? 衛宮君の事だから、『おーい、一成。おまえマスターか?』なんてストレートに問い質す訳じゃないでしようね?」

 

「安心しろ遠坂、そんな事しなくてもマスターかどうか確かめる方法ならある!」

 

「…………ま、いいわ。 衛宮君なら嘘を付かないでしょうし。 と言うか付けないし」

 

「と言う訳で三月、今日の昼は生徒会室で────」

 

「────あー。 ウン。 ハイ、ソウデスネー」

 

 そしてその日、三月は何時もと違う雰囲気と言動で注目される中、士郎は「妹を紹介してくれ!」と迫る男子&女子生徒に隙あらば殺到してきて絡まれた。

 先日の「兄さん」宣言とその日の登校した様子の効果である。

 

 これまでも「妹を紹介してくれ!」と士郎に迫った人たちはいたが、今回は何時もより大勢の上にほぼ全員の目が(何故か)血走っていたので純粋に士郎は引いた。

 

「なんでさ?!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてその昼休み、三月は生徒会室にある二つのドアの内の一つの前に立っていた。

 

『柳洞一成』。 穂群原学園の生徒会長であり、柳洞寺の住職を代々務めている柳洞家の次男で、寺育ちらしい独特の口調を使い容姿端麗、頭脳明晰とくる実直で真面目な好青年だが堅物で遊びのない性格。 

 ただ筋さえ通れば融通が利くところもある人物で、猫を被っていた凛の本質を見抜くなど、鋭い洞察力の持ち主でもある。

 

 三月との接点があるとすれば、それは同じく柳洞寺に住んでいる葛木先生と顔をよく合わせ、葛木先生の頼み事を聞く時などだった。

 ただ直接言葉を交わした事は少ないので、三月からすれば『……………………………………………………………………ああ! 生徒会のメガネ!』程度の認識であった。

 

 もしこれを一成本人が聞けば外見と中身同時に落ち込むだろう。

 

 何せ彼自らが苦手なものは「女性」と挙げているが、これは女性特有の強かさやねちっこさ、小悪魔な部分を忌諱しているためであり、さっぱりした性格の持ち主に対しては特に悪印象は抱いていないし、場合によって好意に思える事もある。

 

 そしては三月その例外に当てはまっていた

。 

 色々な人に対して言葉や行動を若干変える三月だが、以上の『女性の強かさやねちっこさ、小悪魔な部分』と言う『裏』などの部分が三月からは感じ取れなかったので、一成は意外と普通に接する事が出来た。

 

 それこそ『顔見知り以上、友達未満』と言った具合に、と一成は思っている。

 

 そんな彼女が用事もないのに士郎と一緒に生徒会室に来た為、一成は内心ビックリしたが、三月は四段弁当箱のおかずを分けに来たという事で彼の期待は滝登り具合だった。

 何しろ士郎の料理は旨いのだから(三月の手作りとはまだ知らされていない)。

 

 後はいつもと違う三月の髪型に何か感じたからかも知れない。

 

 カチリ。

 

「???」

 

 ただ何故か三月は二つの出入り口の内、一成に一番近い一つに鍵をかけ、そこを封鎖するかのように立っていた。

 

 そして士郎はもう一つのドアに鍵をかけた。

 

「…………衛宮?」

 

「…(あー、早く終わらないかなー。 兄さん曰く『ただもう一つのドアに鍵をかけて立っていれば後は俺がやる』って言っていたけど………)」

 

「一成………………何も聞かずに裸になれ

 

 三月の目は見開き、今日で一番頭が覚醒した。驚きで。

 

「…………………………へ?」

 

 一成はと言うと────

 

「────な なんですとー?! 正気か、貴様! あ、あれか?! 新手の押し問答か?! そもさんなのかッ────?!?!」

 

 ────()()()()を感じ、三月の方をチラッと見る。

 そして彼女も心底ビックリしている顔に一成は更に焦っていた。

 

「そ、それに貴様!こ、ここ、ここには女子がいるのだぞ?!」

 

「そう、せっぱせっぱ。 てか三月は俺が呼んだ

 

「んなっ?! き、貴様よもや()()()()()()()()()()とは?!」

 

「あ? ああ、大丈夫だ一成。 三月は義妹だ」

 

尚更悪いわ、戯け! ま、まさか! こ、これは義妹の趣味ではあるまいな?!」

 

「へ?! (え? 何? どういう事? てかお兄ちゃん、何を────?)」

 

「────そんな事はどうでもいいから脱げ、一成!」

 

ひゃあぁぁぁぁぁぁぁ?! お、おおおおおおおおお兄ちゃん?!」

 

 士郎が一成に迫り、飛び掛かった瞬間、三月は顔を両手で覆う。

 指の隙間から事を見ながら。

 

「やめぬか、戯け! 貴様それでも武家の息子かぁぁぁぁ?!」

 

「良いから脱げって!」

 

「………………………………………………(ふわぁ、柳洞さんの身体って……男の人って鍛えると、ああいう風になるんだー)」

 

 ポーっとしながら一瞬、その場に見惚れた三月だった。

 

 デュフフ。 まさかこのような場面に出くわすとは! しかも兄者が『攻め』で学友が『受け』────

 

「(────良く分からないけどヤな予感がするので『腐女子』は再度『封印』ッッッッッッ!!!!)」

 

 そして他人から見れば士郎が文字通り、一成に追いはぎ行為を行っているかのような状況が過ぎていった。

 

 最後に上半身と下半身と共に身に纏う物が無くなった一成はただ赤くなり、床に座りながら自身の身体を出来るだけ隠す。

 

「良かった、良かった! いや~、本当に良かった!」

 

 上機嫌な士郎がホッとした顔で満面の笑みで笑う。

 

「何が良いものか! こ、こんな辱めを受けて何もないとはどういう事だ?!」

 

 そしてブチギレ寸前の一成が叫ぶ。

 

「あ、ああそうだな。 三月、弁当渡してくれるか?」

 

「いらんわ、この馬鹿者! 大体────」

 

 一成が三月の方を見ると、彼女は顔を両手で覆っていて、耳まで赤くなっていて、ドアを向きながら俯いていた。

 

「……………………」

 

「み、三月?」

 

「……………………………お、終わった二人共?」

 

「ああ、終わったぞ。 だから弁当を一成に渡してくれ」

 

「あ、うん。 ど、どうぞ…柳洞さん…」

 

 三月が顔から手を離し、弁当箱の一段をいそいそと服を着直す一成に渡す。

 

 彼女の顔は『心ここに在らず』と言った感じと共に視線を合わせず、茹蛸みたいに真っ赤になっていて、この状態の三月を見た一成も顔を更に赤くしながら視線を逸らし、弁当箱を受け取る。

 

「あ、ああ。 か、かたじけない」

 

「いや、わりぃ三月」

 

「衛宮。 悪い事をしたと思うのなら、一体どういう事なのか俺に理由を説明してもらおうか?!」

 

「いや、詳しくは言えないがどう~しても調べたい事があったんだ」

 

「それで裸にされたのか俺は?!」

 

「ご、ごめんなさい柳洞さん!」

 

「「三月?」」

 

「じ、実は昨日のガス事件の影響で変な痣が浮き出た人達もいるみたいで、それで兄さんは心配していたんです! お寺の人なので尚更……………その……………ごめんなさい!」

 

 そこで三月は頭を一成に深く下げた。

 

「…………い、いや頭を上げてくれ。 もしそうならそうと前もって説明さえしてくれれば良かったものを」

 

「その………兄さんは昔からたまに暴走するのを柳洞さんならご存じだと思いますが」

 

「おい、おr────ッ」

 

 反論しようとした士郎に「ギッ!」とした睨みで三月が黙らせる。

 

「まあ、確かに衛宮は時々その節があるからな…………」

 

「ごめんなさい柳洞さん、後もう一つ聞いてもいいでしょうか? 今日は葛木先生を見なかったのですけど………もしかして昨日の影響でしょうか?」

 

「ああ、そう言えば三月は宗一郎兄とは顔を何度か合わせていたな」

 

「ん? どういう事だ三月? 何で葛木先生の事を一成に訪ねているんだ?」

 

「あれ? 衛宮には話していなかったか? 数年前から宗一郎兄とは柳洞寺で一緒に住んでいるぞ?」

 

「な?! それ本当か、一成?!」

 

「あ、ああ。 あと、三月の質問だが昨日とは別件で、柳洞寺にてお世話になっている宗一郎兄の婚約者が料理中、()()()()()()らしくてな。 看病を…って、どうした衛宮?」

 

 この事を聞いた士郎は何か考え込むような表情になっていた。

 

 あと、三月の弁当を食べた一成は感激で泣いたそうだ。

 何せお腹に重い肉、肉、肉。

 肉系ばかりの弁当だったのだ。

 

 隣で三月が楽しそうにギッシリと同じようなおかずが入っていた三段弁当箱をパクパクと一人で完食したのは関係が無い………………………………………………筈。

 

 あまり。

 と言うかもしかすると泣いたのは士郎の手作りでは無く、三月の手作りだったと後から知ったからかも知れない。

 

 もしくは金髪とは言え今まで見た事のないような、珍しく『大和撫子似』の三月を見たからかも知れない(普段とは違う仕草や行動など)。

 

 ともあれ、次に学園で『裏マーケット』が開催された時にマスクとサングラスをかけた青い髪の毛の男子の新人がいて、ぎこちない言動で三月関連のグッズを探していたとか、『三月の弁当箱』などといった、超スーパー激レアな代物を持ってきたその新人が弁当箱の買い値を聞いた瞬間、その場でよろけて倒れそうになったとかなんとか。

 

 その日の学校帰りに、凛に一成の事を報告しようとした士郎と三月は凛が既に下校した事に驚きつつも、取り敢えず明日学校で伝える事にした。

 

 その帰り道、三月は覚醒したままの頭で士郎に伝える。

 イリヤの伝言を。

 

「ハァ?! お、お前()イリヤと会っていたのか?!」

 

「『()』って、士郎も会っていたの?」

 

「あ、ああ。 何度か、な。 そこで森の中にあるアインツベルン城も前に『見せて』貰ったんだ」

 

「へー、お城かー。 何か楽しそうだな~。 それはそうとイリヤが私達二人が『来ても良い』って言っていたから────」

 

「────ん? 遠坂?」

 

 士郎の視線を辿ると凛が先の道で物陰から誰かを尾行していたのが見えた。

 士郎達は凛のそばまで来ると声をかける。

 

「お~い、とおs────」

 

「────黙って!」

 

 小声かつキツイ言い方で凛は士郎と三月を歩道から物陰の中へと引っ張る。

 

「ん?」

 

 凛が尾行していたと思われる金髪青年が振り返り、これを見た凛は士郎達を更に物陰の奥へと押す。

 

「ちょ、遠坂さ────ムギュッ」

 

「少し黙ってて」

 

 丁度ビルの壁、士郎、三月、凛の順で物陰に隠れる三人に気付かなかったように金髪青年は歩みを再開する。

 

「ど、どうしたんだ遠坂? あの金髪が気になるのか?」

 

「あの人、この頃ずっと間桐邸を彷徨ついているの」

 

「もがもがもがもがもが」

 

「ずっとって────?」

 

「────ここほぼ毎日よ。 ほら、移動するわよえみ────いぃぃぃぃぃ?! な、何で衛宮君がここに?!」

 

「…………………」

 

「何でって、遠坂が見えたからさ。 一成と、葛木先生の事で話があったのにもう学校を出たって言うから」

 

「…………………………………………………」

 

「え? も、もう分かったの?! ってあれ、三月は────?」

 

「そう言えばさっきから────」

 

 士郎と凛が自分達の間を見ると二人の身体にギュウギュウ攻めに会い、顔が空気の無さから紫色に変わりつつあった。

 すぐ二人は離れると三月は大きく息を出して、新鮮な空気を吸う。

 

「────ブハァ! スーハースーハースー! …し、死ぬかと思った………」

 

「ご、ごめんなさいね三月」

 

「す、すまない。大丈夫か?」

 

「つ、漬物の気分だったよ」

 

「「え?」」

 

「重石とお味噌の間の野菜────」

 

「「────あ」」

 

 ここで士郎と凛は何となく分かった。士郎=()()()()、と凛=()()()()()()

 

「ほ、ほら! 行くわよ、二人とも!」

 

 ズカズカと赤くなりながら先を歩いて行く凛に、何となく気になった士郎と三月は付いて行き、三人は間桐邸の近くまで来ていた。

 

「てか金髪って珍しいな、三月以外で」

 

「うん、そうね」

 

「ふーん、そうなの? (先日会ったような気がするけど………)」

 

 金髪青年は数分ほど間桐邸を見ると来た道を戻り、士郎達はまた隠れる。

 コツコツとした足音が通り過ぎた後、士郎は凛に一成の事を話し始める。

 

「結論から言うと、一成はマスターじゃない」

 

「へー? かなりの自信ね、どうやって調べたの?」

 

「服を()()脱がせて、体のどこかに令呪があるかどうか確かめただけだ。 な、三月?」

 

「………………………………………………………………ぅえ゛

 

 凛が何とも言えない顔になりながら目を見開き、三月の方を見ると三月はまた顔を両手で覆い俯いて、赤くなりながら士郎の言葉に頷いた。

 

「………………………………衛宮君、三月に手伝わせたの?」

 

「手伝わせたと言ってもドアの封鎖を頼んだ()()だぞ? 『鍵をかけてドアの前に立っていろ』って」

 

「………………え、え、衛宮君って…………」

 

「ん????」

 

 顔を引きつらせる凛に対して士郎は話を続ける。

 

「あと遠坂に確認したいんだが、葛木先生は今日見たか?」

 

「え? そう言えば、今日は休んでいるって聞いたわ。 彼がどうかしたの?」

 

「一成から聞いたんだ。 葛木先生は数年前から一成とは柳洞寺で一緒に住んでいて、今日は葛木先生の婚約者が料理中、火傷を負ったから柳洞寺で看病をしているって」

 

「ッ! そ、それってまさか?! 葛木先生が、キャスターのマスター?! でも、そんな事…………」

 

「ああ。だから遠坂、今夜は世話になってくれないか?」

 

「………………………………………………………………………………………………………え?」

 

 これを聞いた凛がキョトンとした数秒後に「信じられない」と言った表情で顔を赤くしながら声を出した。

 

「え、え、え、え、衛宮君? そ、それって…」

 

「??? 俺は今夜、セイバー達と共に柳洞寺で弱っているキャスターとアサシンの襲撃を提案したつもりなんだが…………都合、悪かったか?」

 

「……な、な、な、な、な~んだ! そ、そうだったの~! も、もちろんそうなのよね~! オ、オホホホホ!」

 

 不自然に笑う凛を?マークで見る士郎と三月たちは今夜の為にセイバーとアーチャーに話をつける為に各自の家に戻り、その夜柳洞寺の階段の前で合流する事となった。

 

「(何で遠坂さん最後の方赤くなっていたんだろう?)」

 

 着替えながらそう思う三月だった。

 

 ___________

 

 キャスター運営 視点

 ___________

 

 

 そう時間も過ぎていない夜が更けた円蔵山の柳洞寺にて、葛木宗一郎はキャスターの帰りを待っていた。

 前日、慎二に『ギリシャの火』を付けられたキャスターは傷を癒す為、貯めていた魔力を使い、補充と霊脈の確保の為に新都へと飛んでいた。

 この頃遠坂凛と間桐慎二の二人の独自の行動でキャスターの予定は狂いつつあった。 本来なら目的を果たす為に新都までわざわざ出向かなくても良かったのだが最近の出来事などがキャスターを焦らせていた。

 

()()()()()()()()()()()()』。

 

 なのでリスクはあるものの、新都へすぐ向かい、霊脈の保持をしなければなくなったのでキャスターは自信のマスターである葛木宗一郎に今日は学園に行かないように言い、

ありったけの魔術防御や補助に結界などで柳洞寺を要塞化して、

寺にいる坊主達に暗示をかけて、『()()()()()()()()()()()()()()』という生きた盾達にした後、

キャスターはアサシンに令呪を使い、『何人たりとも自分の許可なく()()柳洞寺に入れるな』、

とガチガチの防御を施した後、最後に葛木宗一郎にはキャスターに異変がすぐ分かるような瓶を彼に渡した。 

 

 瓶の中身は特殊な魔術の籠った液体で、瓶が割れて床に液体が溜まるとキャスターを強制的にそこへ転移させるという限りなく『魔法』に近い代物だった。

 門番を務めているアサシンに良く言い聞かせた後、キャスターは新都へ向かった。

 

 

『アサシン』。 彼は日本において最も名の知れた剣士の一人の「佐々木小次郎」────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ではない。 彼は「佐々木小次郎」という英霊を形作る上で、「佐々木小次郎の伝承」に最も条件の当て嵌まる()()()()()の亡霊が選ばれただけの事。

 なのでセイバーと対峙した時、自分を「ただの無名」と語っていたのは本心からであった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()』が彼のような異例、否、()()()()()を可能としていた。

 

 そして()()()()()である彼の願いは「強者との真剣勝負」。 「我が秘剣、どこまで通じるか試さずして何が剣士と言えようか。」

 

 ただそれだけだった。

 

 ただそれだけであったのに────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────カランとドライな音が夜に響く。

 

 金属と石がぶつかる音。

 

 アサシンが自身の得物の「物干し竿(長大な太刀)」を手放して落とした音。

 

「よもや………蛇蝎磨羯(だかつまかつ)の類とは…………」

 

 ボタボタと設置された堆積岩の道に血が落ちる。

 アサシンの口から流れ出る血だった。

 

 アサシンは令呪の補助もあった事により、いつもよりも気配などが敏感に察知でき、()()()()()()()来ていたのを警戒し刀を抜刀していた。

 

 だが彼もまさか()()()()()()()()()()()()()()()()()などと言う行動を仕掛けてくるのは夢にも思っていなかった。

 

 アサシンは膝をつき、彼の身体の中心が爆散すると中から血を浴びた黒いローブを纏い、特徴的な髑髏を模した白色の仮面を装着した人型のナニかが現れ、何処とも分からない所から老人の声が響く。

 

『クカカ、元気が良いのぉ』

 

 どこか可笑しそうに笑っていたアサシンの無残な体が仰向けに地面に落ち、ゆっくりと()()()へと消えて行く。

 

「(ああ、何とも…短く、儚い夢であった……すまぬ、セイバー。 再戦は………果たせぬようだ………だが………最後に可憐な……………………女性達と会って……………良かっ…………………た………………………)」

 

後に残ったのは先日、その可憐な女性の一人に貰った、懐に入れていた熱燗の徳利(とっくり)セットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 『()()()()()()()()()』を()()シマしタ】




マイケル:アサシーン?!

ラケール:この人でなし!

作者:自分だって嫌だよ! アサシン好きだし! しかも最後の方のイメソンがプロメアのΛsʜᴇsだったし! 俺は悪くない! (逆ギレ

三月(バカンス体):あー、逃げた方が良いかも

作者:え?

チエ:貴様………そこへなおれ!

作者:ヤバ、抜刀までしている────イヤァァァァァァァ?! ヤメテ!ヤメテ!死んじゃうぅぅぅぅぅ!

三月(バカンス体):えー、只今作者が命懸けでチーちゃんから逃げているので今回のコントはここまでです。 楽しんで頂ければお気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!


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第15話 一場の春夢(後編)

この話を書いている時、前話の後編からのプロメアのΛsʜᴇsからイメソンがひぐらしとかうみねこ系になっていました………ハイ……………


 ___________

 

 キャスター運営 視点

 ___________

 

 円蔵山の柳洞寺で、葛木宗一郎は何かに気付いたかのように山門の方へと視線を素早く移す。

 

「宗一郎兄?」

 

 一成が彼の動きに気付き、宗一郎はそこにいた一成と他の者達に部屋を出るなとくぎを刺してから出ていった。

 

 

 場は変わり、魔力の温存をする為に空を舞いながら焦るキャスターへと変わる。

 

 新都での細工を終えてから魔力を温存しつつ、最高速度で柳洞寺へと戻る途中だった。

 

 さて、キャスターが施した柳洞寺の魔術的拠点防御のおさらいをここでしようと思う。

 

 • ありったけの魔術防御や補助に結界などで柳洞寺を要塞化。

 

 • 寺にいる坊主達に暗示をかけて、『()()()()()()()()()()()()()()』という生きた盾達に

 

 • キャスターはアサシンに令呪を使い、『何人たりとも自分の許可なく()()柳洞寺に入れるな』

 

 • 葛木宗一郎本人には液体の入った瓶が割れて床に液体が溜まるとキャスターを強制的にそこへ転移させる『魔法』に近い代物

 

 以上の事を部外者から見ればマスターから一時的に隣町への遠出で離れるとは言え、オーバーキル気味かも知れない。

 が、魔術師としてはこれ以上の無い()()()魔術的防御処置で、どれだけキャスターが優れた魔術師か見せていた。

 キャスターがここまでする事には理由があり、その理由が「何とも()()()()()()()()ものだ」と第三者の魔術師が嘆きながら卒倒していただろう。

 

 何故ならキャスターは以上の処置を全て『愛』からしていたのだから。

 

『キャスター』。 その正体、真名はギリシャ神話におけるコルキスの王女の「裏切りの魔女メディア」である。

 

 元々は故郷のコルキスで家族と国民に愛され平和に暮らす箱入り王女であった。しかしイアソン(船長)率いる()()()()()一行の上陸により、女神アフロディテの呪いによってイアソンに妄信的な恋をさせられた幼きキャスターは追っ手を退けるために自らの肉親の弟を文字通りバラバラに殺害し、アルゴー船に乗り込む事となった。

 

 その後もイアソンに言われるがままで、己の魔術で多くの非道を働き、英雄や人間達両方から「裏切りの魔女」として非難、中傷を受けていく。

 しかもそこまでしてイアソン(船長)に尽くすものの、彼はメディアを一度も労わることなく、最終的にイアソン(船長)に裏切られ、捨てられた。

 

 呪いにより正気を失った状態で非道を働かされた末に、全てを失うことになったキャスターは正真正銘の『魔女』へと堕ち、その後はイアソンに復讐を誓ったが、その復讐は終ぞ叶わなかった。

 

 ただ箱入り王女だったため、本来は清純な女性で根はきちんとした良識と道徳を持つ『お嬢様』。 今回の聖杯戦争に召喚され、聖杯にかけたい願いは至極純粋な「自分の愛した故郷(コルキス)に帰ること」だった。

 

 今回の第五次聖杯戦争に参加する予定の魔術師によってキャスターは聖杯戦争開幕前の早い段階で召喚されたが、「自身を召喚したマスターが魔術師としてサーヴァントに嫉妬する」という異例の事態に陥る。

 またキャスター自身もそのマスターの考え方がかつてのイアソン(船長)に似ていたので反感を抱いたため、マスターの意に反する行動を取り、激怒の中で令呪を全て消費させ自由の身となると、直ぐさまマスターを殺害した。

 

 そこに残ったのはマスターを無くしたサーヴァントだった。

 

 キャスターは魔術師としては最優に近いが、所詮はサーヴァント(使い魔)。 自分の存在を保つ魔力を提供してくれる依り代を失ったことで消滅するしかない彼女を、()()()()()()雨の中で出会った葛木宗一郎に拾われ、()()冬木市最大の霊脈である柳洞寺に連れ込まれたことにより、キャスターはその身を保つ事が出来た。

 その後、葛木宗一郎がマスターの役割を引き継ぎその後の行動は全て彼の為であった。

 

 自分を『魔女』や『魔術師』など見ていなく、ただの一人として彼女を見た葛木宗一郎を。

 

 そしてキャスターは真の『愛』を知った。

 ()()()()()()()

 

 遥か過去に真の愛と思っていた『贋作(呪い)』ではなく、『本物』を。

 

 それを知った今の彼女の願いは「自分の愛した故郷(コルキス)に帰ること」から、「自分の愛する(マスター)と共に生きること」だった。

 

 キャスターの願いはそれはそれは、何とも尊く、純粋で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────儚い夢であった。

 

 

 

 予定より早く作業が終わったキャスターの心は若干上機嫌で自分の召喚した番犬、もといアサシン、に労いの言葉を一つでもかけようかと思わせる程までだった。

 

 かつて遥か昔のイアソン(船長)と今の自分(メディア)は違うのだから。

 

 だがいざ山門に降り立つとあの癇に障る小言を必ず言うサムライはどこにも見当たらなかった。

 

「アサシン、出てきなさい!」

 

 いつもの声の答えが返って来ず、キャスターは更に苛ついた。

 

 せっかく自分が来てやって、労いの声までかけようというのに。

 

「ッ。 アサシン!」 

 

 強い風が吹き「カチャリ」とした乾いた音にキャスターの視線は釣られる。

 そこにあったのは────

 

「(────確かあれは先日貰った酒器だったかしら?)」

 

 最近墓参りに来たイリヤと三月の事はキャスターも視ていた。

 

 何せこの聖杯戦争で愛する宗一郎様に次ぐ興味を引くもの達。

 

 最初はどう捕獲しようかと悩んだキャスターだが、三月の言動などが余りにも幼い『自分』を見ているかのようでキャスターは戸惑い、もう少し様子を見てみる事にした。

 

 するとどうだろうか?

 サーヴァントであるアサシンを警戒する所か彼に労いの言葉とお土産を渡し、来た理由は「親のお墓参り」。

 

 そして涙を零すイリヤと彼女自身の父へと向けた言葉。

 共に涙を流す三月。

 

 思わずこれをずっと『遠見』で見て聞いていたキャスター自身も心が揺れ、貰い泣きをしていた。

 

 自分と自分の終ぞ会えなかった家族をイリヤ達と『親』を重ねてしまって、心の中で「よかったね」と言葉をキャスターが彼女らに送っていた。

 

 そうこうしている内に、キャスターは三月とイリヤをそのまま見逃してしまった(正確には見逃したのだが)。

 

 メディアに課せられた『運命』の反動によって冷酷、残忍、目的のためには手段を選ばず、奸計を得意とする正真正銘の「悪女」と()()()()()()()キャスター。

 

 必要とあらば非道な手段も辞さないものの、その一方で根は純真で不要ならばそうした手は控え、現にキャスターの行動に死者は一人も出ていなく、魔力の貯め方は彼女ほどの魔術師にしては非常に()()()()()のもその証拠だった。

 彼女がその気があれば冬木市は瞬く間に死都に変わり、魔力は()()の為には十分程に貯まる。 が、彼女はそれを最後の手段としていた。

 

「(あの憎たらしいまでに恩に義理堅い堅物が何故この様に酒器を?)」

 

 そこでキャスターは気付く。

 柳洞寺の()()に。

 冬だと言うのに()()()()()()()()()()()、柳洞寺自体からは()()()()()()()()()

 

「ッ! 宗一郎様!」

 

 キャスターはすぐに柳洞寺の本堂の中へと突入した。

 ()()()()()()()の自分の工房へと辿り着くと、目が虚ろな葛木宗一郎と寺の坊主達が彼女に襲い掛かった。

 

「小細工を!」

 

 キャスターは以前、士郎に使った糸の魔術で全員の身を拘束し、坊主たちの意識だけを刈り取り、宗一郎を診始める。

 

「…………(ホ、脳も心臓も動いていて破壊されてはいない。 この侵食しているのは……魔蟲(まちゅう)の類ね。)………成程、そういう事。 ふふ、魔術に耐性の無いマスターを操るのは簡単な事でしょうね。 でもこれだけでこのキャスターである私を出し抜けると思って?」

 

 そこでキャスターは自身の()()()()()()を取り出し、()()()()()()()()()()()()()()

 

 キャスターの宝具、『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

 それは「裏切りの魔女」としての伝説が象徴として具現化した宝具。攻撃力は普通のナイフと同程度しかないが、「あらゆる魔術を解除する」という特性を持つ最強の対魔術宝具で、令呪の契約をも打ち消すほどの能力を持つ。 

 

 あらゆる魔術に対してのほぼ絶対的な『チートアイテム』である。 

 

 何故彼女が宗一郎にこれを使用したかと言うと、彼を操っている魔蟲(まちゅう)のコントロールと侵食を食い止め、解除する為である。

 

 本来の『魔術師』の彼女ならばこんな短気な行動に出る事はまずない。

 というかあり得ない。

 彼女ほどの魔術師であればまずは状況の把握と正常化、或いはこれを行った侵入者の排除か宗一郎の無力化と共にこの場を離脱、といった行動が王道。

 

 だが『愛』と言う感情が彼女を『魔術師』としてではなく、愛する者の心配をする『女性』へと変えていた。

 故にキャスターは躊躇なく宗一郎を呪縛から解放する為に刺した。

 

 ()()()()()()()

 

 パァン!

 

「……………………………………………………え?」

 

 ()()が破裂する音と共にキャスターの視界は真っ赤に染まった。

 

 ()()が力なくキャスターの前にドサリと倒れた。

 

 ()()が口を動かし、()()を呼んだ。

 

「……キャ……………ス……………………………ター…………………………」

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────

 

「────あ………………ああ…………ああああああああああ! …………宗………………一郎……………………様………………………」

 

「シロウ、こちらにキャスターが────!」

 

「なッ?! こ、これは何?! 衛宮君、近すぎないで!」

 

「あれは……葛木先生?! ッ! セイバー! あの短刀に触れるな! あれは()()()()ものだ!」

 

「セイバー、凛。 あれは魔術破りだ。 如何なる魔術をも無効化するシロモノだ」

 

「アーチャー、アレを知っているの?!」

 

「多少、な。 成程、キャスターは『裏切りの魔女』だったか。ならばあの死体は彼女の────」

 

 キャスターの耳がとらえる。 

 五月蠅い外野を。

 

 キャスターの目がここで見る。

 自分の()()()()()を。

 

「……………ウフ……………アハハ………………アハハハハハハハ! 私が?! 宗一郎様を?! ()()()ですって?! アハ、アッハハハハハハハ!!!」

 

 そしてキャスターは、『彼女』は『愛』故に狂った。

 

 ()()狂ってしまった。

 

「そうね! そうよね! もしこうなるのだったらその方が良かったわね! どうせ私は『裏切りの魔女』のメディアですものね! アハハハハハハハ!」

 

 絶望。

 恐怖。

 不安。

 その他の負の感情がキャスターの心を埋め尽くしていた。

「全ては結局無駄だったのね」と────

 

「────ならば壊してしまおうかしら! この茶番のような世界を────!」

 

 ────キャスターはそう思いながら、壊れた。

 

 そして力の限り、怒りの限り、悲しみにまみれながら自分自身の全てを『世界』へとぶつけた。

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 時間は丁度キャスターが新都から戻る途中まで遡る。

 

 円蔵山の柳洞寺まで続く階段の前で士郎、三月、セイバー組は凛、アーチャー組と合流した。

 

「アーチャー、道はどう?」

 

「問題ない。 だが、何か()()()()()()()()()()()()()

 

「? それってどういう事?」

 

「『どう』と言われてもな、説明しがたい。 言うなれば『直感』に似たものだ」

 

「ハァ?」

 

「シロウ、彼の言う通り私も何かを感じます……三月、大丈夫ですか? やはり顔色が優れないようですが?」

 

「…………え? あ、うん。 大丈夫………」

 

 そこでの三月は以前の私服姿で、顔色が何時もより青白くなっていた。

 

 衛宮邸を出る前までは何時も通りの三月だったが、柳洞寺のある円蔵山へ近づけば近づくほどに彼女の体調は明らかに悪くなる一方だった。 これを見た士郎は最初、彼女に衛宮邸で留守番をするようにと言ったが三月は断り続けた。

 

 無理でも彼女を家に戻そうとしてもこっそりと士郎達の後を追うのをセイバーが士郎に言うと彼は仕方なく三月に同行させた。

 こっそりと離れて後を付けられるよりも、そばの方が安心するからだ。

 

 三月が「クッ! フルーツが入っていたダンボールさえあれば!」と言っていたが、三月の小声の独り言でしかも聞いたのがセイバーだけだったので何を言っているのかセイバーは分からなかった。「そもそも彼女(三月)は何故ダンボール箱で尾行に気付かないと思ったのか?」とセイバーが思ったほどだった。

 

 三月自身、体調で言えば胸の内がザワザワする程度だったので、まさか自分の顔色までが悪くなっていたのは思っていなかった。

 

【告。 『()()()()()()()()()』を()()シマしタ】

 

「えッ?! きゃあ────ヘブッ!」

 

 三月が久しく聞いていない【  】の声と共に突然の胸の高鳴りから驚き、足が滑って前に転ぶ。

 彼女は目を回しながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「ちょ、三月大丈夫?」

 

「やっぱり、帰った方が…」

 

ら、らいじょうぶ(だ、だいじょうぶ)! ちょっほこけはらけ(ちょっとこけただけ)!」

 

 三月は痛む鼻を抑えながら階段を(恥ずかしさから)駆け上がる。

 

 そしてアサシンの襲撃を警戒しつつも山門へと駆け抜ける士郎達は不思議に思った。

 

「遠坂、なんか変だぞ」

 

「ええ、分かっているわ」

 

「あのサムライ、()()()()()()()?」

 

 アーチャーとセイバーが山門を抜けて彼の言う通り、アサシンの姿も気配さえもどこにもなかった。

 

 あったのは地面に落ちていた徳利セットだけだった。

 

「まさか奴め、飲んでそこら辺を酔いながら彷徨ってはいまいな」

 

「アーチャー、彼はそんな愚行を犯すような者ではありません!」

 

「そうよ! あの人が貰い物をポイ捨てする訳が無いわ!」

 

 若干不愉快になったセイバーにプンプンと怒る三月たちの言葉にアーチャーはニヒルな笑みを浮かべる。

 

「フ、軽い冗談のつもりだったんだが」

 

「てか、ここに来てアサシンに物をあげるってどういう神経しているのこの子? って、衛宮君の妹だからか」

 

「ちょ、その言い分は無いだろ遠坂?! でも遠坂の言う通り、何で三月はここに来たんだ? キャスターの根城なのに。 下手したら────」

 

「────イリヤと墓参りに来ていた、おじさんのね」

 

「じいさんの? それにイリヤって────」

 

「────話はそこまでよ皆。 異常事態よ」

 

 そこで柳洞寺内に入ると、彼らを待っていたのは完璧な沈黙だった。

 人の声や物の動く音など一切聞こえなかった。

 

 今までの山は()()()()()()()()()()()()

 

「…妙だな」

 

「何がです、アーチャー?」

 

「先日来た時には様々な魔術的結界などが施されていて、魔力が留まっていた。 だが今は違う。 まるで()()()()()になった工房のようだ」

 

「まさか、キャスターの奴……ここから引き払うんじゃ────」

 

「────ッ! 兄さん、遠坂さん!」

 

 三月が周り角から声をかけて、他の皆が見るそこには気を失っていた一成などの人がいた。

 

「どうだ、遠坂? 町と同じ状態か?」

 

「…………ええ、()()()

 

「そ、そんな…………じゃあ柳洞さんや、ここにいた人達は────?」

 

「シロウ、こちらにキャスターが────!」

 

 周りの状況を見る為に高い対魔力値を持ったセイバーが他の皆を呼ぶ。

 そこは柳洞寺の本堂で、部屋の中にいたのは数人の気を失った坊主と────

 

「なッ?! こ、これは何?!」

 

「ッ」

 

「衛宮君、近すぎないで!」

 

 士郎の耳朶(じだ)に凛の声は届いていない。

 響くのは心の像の鼓動だけ。

 ドクン、ドクン、ドクン、とうるさく。

 

「あれは……葛木先生?! 」

 

 中の状況を見た三月は息を短く吸い込み、士郎は思わず中へと駆け出しそうなのを凛が物理的に制止した。

 

 ────真っ赤な血溜まりの中で横たわっている葛木宗一郎と、手に血が付いていた歪な短刀を持ったキャスターの姿。

 

「ッ!」

 

 ナイフを見た瞬間、酷い頭痛が士郎と三月を襲い、士郎は()()()()で「()()()()()()」と理解した。

 

「セイバー! あの短刀に触れるな! あれは()()()()ものだ!」

 

「セイバー、凛。 あれは魔術破りだ。 如何なる魔術をも無効化するシロモノだ」

 

 セイバーと共に前に出るアーチャーが二人に声をかける。

 

「アーチャー、アレを知っているの?!」

 

「多少、な。 成程、キャスターは『裏切りの魔女』だったか。ならばあの死体は彼女の────」

 

「……………ウフ……………アハハ………………アハハハハハハハ! 私が?! 宗一郎様を?! ()()()ですって?! アハ、アッハハハハハハハ!!!」

 

 そしてキャスターは突然笑い始めた。

 

「そうね! そうよね! もしこうなるのだったらその方が良かったわね! どうせ私は『裏切りの魔女』のメディアですものね! アハハハハハハハ!」

 

「キャスター、貴様! 自身のマスターを────!」

 

「『メディア』ですって?! 神代の魔術師で、技量は最高位の奴じゃない?!」

 

「あれ? あの()…………何で────?」

 

 キャスターの笑い声と床で倒れている彼女のマスターであった宗一郎で怒る士郎。

 相手が()()『メディア』と聞いて驚愕する凛。

 そして何故か可哀そうなモノを見るような目でキャスターを見る三月だった。

 

「────ならば壊してしまおうかしら! この茶番のような世界を────!」

 

「────シロウ、三月!」

 

「────凛!」

 

 セイバーとアーチャーがほぼ同時に声を出し、士郎達をその場から連れて離れると辺りは様々な、地形を変えるほどの魔術が何十発と解き放たれていた。

 

「アッハッハッハ! アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 キャスターはただただ高らかに笑いながら周りとセイバー運営とアーチャー運営達に攻撃を次々と放つ。

 

 だが────

 

「────キャスターァァァァァァ!」

 

「何?!」

 

 セイバーが何もせずとも魔術は独りでに弾かれて行く。

 

 サーヴァントを比べやすく、個々の能力にランク値を付け加えるとしよう。

 

 キャスターは魔術師にとって必要なスキルはすべてAランク。 神話や伝承においてなんの偉業も成し遂げていないが、魔術師としての技量は最高位とも言える(凛がそう言ったように)。

 

 しかし、対するセイバーの対魔力スキルは同じAランク。 つまりこれを持つセイバーにキャスターは魔術の攻撃で傷一つ付ける事が出来ない。

 

「あ────!」

 

 そして新たな術を練る間もなく、キャスターはセイバーに決して浅くは無い傷を付けられる。

 キャスターは地面に落ちながら、宗一郎の遺体を見て涙を流す。

 

「そう………いち………ろう…………………さ………………ま……」

 

 徐々に体が薄くなってゆくキャスターは身を地面によじりながら、宗一郎の遺体へと向かうが、途中で力尽きて()()()へと消える。

 この一連の出来事を見ていた士郎達はそのままセイバーを見た。

 何せ彼女が活躍するのを見たのは今回が初めて。 その他の場合が場合だけにそんな余裕が無かった。

 

「ス、スゲエ」

 

「…………………」

 

「………やっぱりセイバーは強いわね」

 

「悪かったな、凛。 自分は冴えない英霊でな」

 

「シロウ、寺の者達は?」

 

「この惨状では生存者は望み薄だが?」

 

「それでも俺は探す。 アンタがやりたくないのなら邪魔だけはするな!」

 

 アーチャーを睨む士郎、そしてそれを受け流すアーチャー。

 

「もう、あの二人何なの? …………三月?」

 

 士郎とアーチャーのやり取りが殺気満ちたもの………と言うよりは士郎が何か張り合おうとしているのに呆れる凛。 何せ対するは英霊、普通の人間が叶う訳が無い。

 

 その凛が三月の様子がおかしいのを感じ、彼女を見ると────

 

「────ちょ、三月! 貴方、大丈夫なの?!」

 

 ────三月が物凄く汗を掻きながら、深く息をして、体を近くの柱に寄りかけていた。

 

「………だい…………じょ………………ちょっと…………体…………熱────」

 

 三月の身体がペタリと床に落ちて、彼女は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 『()()()()』を()()シマシタ】




マイケル:キャスターーーーー?!?!?!?!?!

ラケール:この人でなしぃぃぃぃぃぃ!!!!!

作者:シクシクシクシクシクシクシクシクシク、サントラが悪いんや

三月(バカンス体):うわー、これはちょっと…………あーアカン、目が滲む

チエ:目薬いるか?

作者/三月(バカンス体):ちゃうやろ?!

ラケール:……………えーと、お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! すっごく励みになります!

雁夜(バカンス体):うわー、これは嫌だなー。 と言うか三月って身体弱いな

三月(バカンス体):………(汗&目逸らし


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第16話 気に病むヒトの子等

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歯車達の回転がズレ始める。

このズレについて行けない歯車は無くなって行く。

くるくるくるくる回る歯車達。

無くなる歯車達無しで回る歯車達はどうなるのか?

それははたまた、『運命』のみぞ知る。
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ではお楽しむ下さい!


 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 キャスターが消え、士郎の提案で生存者を探そうと行動に出る直前に三月が倒れて、士郎が三月の状態を見る。

 

「三月?! これは………()()()()か?!」

 

 三月は深く息をしながら、酷い熱を出していた。

 

「待って下さいシロウ、それはどういう事ですか?」

 

「この子、昔からこういう事があるの? 私はそんなの聞いた事ないけど」

 

「あ、ああ。 中学に上がるまで、昔は結構このように突然熱を出していたんだ。 中学からは最近までこんな事無かったんだけど…………」

 

「衛宮君、彼女を医者に見せたのかしら?」

 

「あ、ああ。 最初の頃はじいさんが何回か、な。 で、薬を出してもらっていた」

 

「その薬は?」

 

「場所を変えていなければ家の薬箱の筈だ」

 

「分かったわ、じゃあアーチャーと私は彼女を衛宮君の家まで連れ戻してエセ神父に連絡を入れるわ。 その間衛宮君たちは生存者を探してちょうだい」

 

「な、それだったら俺が三月を家に────」

 

「私達の方が素早く行動出来るし、アーチャーの索敵で敵の撃破も回避もしやすいわ。 それにここには昔から山自体に施された結界がまだある。 いざとなればセイバーに帰り道一点突破はアーチャーより彼女の方が向いているわ────それにアーチャーは生存者を探すのにあまり気乗りしていない見たいだしね」

 

 最後の言葉を凛は士郎の近くに行き小声で伝えると、士郎が観念したように彼女を見る。

 

「………分かった。 じゃあ三月を頼むぞ、遠坂」

 

「貸し一つよ、衛宮君。 行くわよ、アーチャー!」

 

「やれやれ、今に始まった事ではないが君の我儘っぷりには骨が折れるよ」

 

 ア-チャーは肩をすくめ、そこで凛たちは三月を連れて衛宮邸へと移動をし始める。

 

 その後、士郎とセイバーは驚く事に柳洞寺の敷地の端で気を失った一成や寺の坊主達などが一か所に集められていたのにびっくりした。

 

「これは、一体どういう事だ?」

 

「成程…………こういう事だったのですね、キャスター」

 

 セイバーが何かに築いたかのような一言に士郎は彼女に問う。

 

「どうしたんだ、セイバー?」

 

「実は先程キャスターと対峙した時に最初の魔術行使の際に魔術が放たれていなかったのです。 最初は動揺などからの行使失敗、または大きな魔術の布石だと思ったのですがそのようなものを使ってきませんでした。 ですので、考えにくいのですが…………」

 

「まさか、キャスターが皆を動かしたって言うのか?」

 

「…………はい。 今更なのですが、彼女は魔術を最初の一撃こそはシロウやリン達を狙っていたものの、その後は全て私とアーチャー目掛けて撃たれたものでした。 その時は脅威である私達の排除を優先したと思ったのですが………」

 

「………『もしかしてキャスターが躊躇していた』、か」

 

「………………………………はい」

 

 シロウとセイバーは眠っている生存者達から視線を宗一郎の遺体のある本堂へと変えた。

 

『もしかしてキャスターが生存者達を戦いに巻き込まれないように動かした』。

『もしかしてキャスターはマスター達(士郎や凛)を本気で狙っていなかった』。

『もしかしてキャスターが躊躇していた』。

 

 等の考えが二人の頭を過ぎった。

 

 だが考えても真意は分からない。

 

 どんなに堕ちてもキャスターはキャスター、『裏切りの魔女』で『コルキスの王女』。

 

 そしてそれを知っている者達は()()()()のだから。

 

 ___________

 

 アーチャー運営 視点

 ___________

 

 アーチャーと凛は素早く円蔵山の麓まで降り、近くの公衆電話を使って新都の境界にいる言峰綺礼に連絡を入れて、再度移動を開始する中、三月を背負い移動をする凛はアーチャーに話しかける。

 

「………ねえアーチャー、少し聞いていいかしら?」

 

『何だ、凛?』

 

「貴方、衛宮君に何か恨みでもあるの?」

 

『………そうだな、彼の考え方に苛つくのは君も同じかと思ったんだが?』

 

「ングッ…………痛い所を突かれるわ、貴方と話していると。 ま、気持ちは分からないでもないけど………」

 

『“けど”、なんだ?』

 

「嫌いになれないかな? 何と言うか…ちょっと『理想的』っていうか、『子供』っぽいっていうか……………そういうところとかが気になるわね」

 

『…………………………………………』

 

「??? どうしたのアーチャー? 珍しいわね、貴方が黙り込むなんて」

 

『何、そのような考え方で奴の事を思っていただけだ。 だがやはり好きにはなれん。 それに本題に入ってみたらどうだ、凛?』

 

「『本題』って、何の事?」

 

『とぼけても無駄だ。 君がこの様に話の話題を私に振るという事は、何か尋ねにくい事を私に訊きたい時だろう?』

 

「流石私の召喚したサーヴァントね。 もうそこまで理解しちゃっているか。 じゃあ聞くけど、()()()()()()()?」

 

 凛は道を歩きながら、体温がこの冬の夜の中でも感じ取れるほど熱を出して、背中にいる三月を見る。

 

『“どう思う”、とは?』

 

「この子、性格や姿は違うけど何処となく『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』に似ていると思っているのは私だけかしら?」

 

『つまり“ホムンクルス”だと?』 

 

「もしくはそれに酷似した『何か』よ」

 

 衛宮邸に着き、扉を開けると────

 

「────あ、お帰りなさいせんp────え?」

 

「あら、こんばんは桜。 三月が具合悪いみたいで連れ帰ったのだけど、薬箱を持って来てもらえないかしら?」

 

「え? え? え?」

 

 戸惑う桜をお構いなしに衛宮邸に凛は上がり、三月を近くの部屋に連れ込み、部屋の布団などを探している凛に桜が薬箱ごと持ってきた。

 

「取り敢えず、全て持って来ましたけど────」

 

「────ありがとう、お水を持って来てもらえるかしら? 私は薬を探すわ」

 

「三月先輩、病気なんですか?」

 

「んー……衛宮君曰く、昔あった発作のような物がぶり返したみたいね」

 

「え?」

 

 凛の発言に対して呆気に取られる桜は目を見開き、汗を掻きながら息をする三月を見下ろす。

 

「私………知らなかったです」

 

「まあ、元々小学生の頃は結構こういうのあったみたいよ? 衛宮君から聞いた話だけど」

 

「……………あの、先輩は?」

 

「何か気になる事があるから調べるって言っていたわ。 お水、まだかしら?」

 

「あ。 い、今持って来ます!」

 

 桜が立ち上がり、キッチンの方へと早歩きで向かうとアーチャーが薬箱の中身を漁っている凛の名を呼ぶ。

 

『……凛』

 

「何?」

 

『……さっきの話の続きだが、君の言う通りそこに居るものは私から見ても“アインツベルン”の娘と似ている』

 

「……………そっか」

 

『だが似ているというだけで、在り方の系統は違うように感じる。 恐らくは“アインツベルン”とは違う出所だろう。 推測に過ぎないがね』

 

「なら別の魔術師一族の産物…………か」

 

『そうだな、そうかも…………知れん………』

 

「あら、貴方にしては歯切れが悪いわね? 何か思う所があるの?」

 

『いや、何でもないさ』

 

 そこで凛はアーチャーの気配が遠くなるのをなるのを感じた。

 恐らくは警戒に屋根の方へ行ったのだろう。

 

「変な奴…………………ッ?! これは………………」

 

 そこで凛が見つけたのは錠剤が瓶の中に入っていた物。

 それを見て、凛の顔は厳しくなり、睨む。

 

「お水をお持ち────ッ。 と、遠坂先輩?」

 

 桜が凛の表情を見て、恐怖から言葉を言いよどむとこれに築いた凛は表情を解いて、安心させるかのように桜に笑顔を向ける。

 

「あらごめんなさい、少し考え事を────」

 

「────アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 そこで三月が突然叫びだして凛を遮る。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

「……………ん?」

 

 三月が気付くとそこはどこかの平原で、自分は立っていた。 

 

「…………こんな場所、冬木にあったかk────?」

 

 シュボボボボボボーン!

 

 何処か乾いたような、水中の中で銃声を聞くような音が次々と聞こえると同時に三月は痛みを体中感じる。

 

「ぁ……………ぇ……………?」

 

 自分の身体を見ると所々穴が開いており、赤い染みが服に広がって行く。

 

「(私…………さっきのは…………?)」

 

 彼女がの視界は地面に向かって落ちて行き、体が倒れると後ろから数人の人の声が聞こえてきた。

 

「We got her! We got the witch────!」

 

 そこで視界の横で見えたのは数人の男や女たちで、服装はボロボロで彼ら自身も小綺麗とはお世辞にも言えないような状態だった。

 そして手にはマスケット銃、16世紀から19世紀辺りまで使われていた前装式銃に似た物や、西洋の熊手(ピッチフォーク)、鎌などの物をもって、怒りと錯乱と恐怖の形相で三月を見下ろしていた。

 

「────Don’t let her speak────!」

 

「────Get the torch here now────! 」

 

「………………ッ……………コポォ」

 

「まって」と言いたい三月の喉からは空気が液体()を通る音だけだった。

 何が何だか分からないので、周りを見ようと体を動かそうとすると、周りの人達はビックリしながらさらに叫ぶ。

 

「────She’s moving────!」

 

「────Use the bayonets and pitchforks────!」

 

 グサグサグサグサグサグサ!

 

「────ァガアアアアアア?!」

 

 三月は喉に引っ掛かっている液体ごと声を出して叫んだ。

 それはそうだろう。

 

 周りの人達が突然マスケット銃の先端に装着されている銃剣や西洋の熊手(ピッチフォーク)で彼女の身体のあらゆる所を貫き、文字通り地面に無理矢理固定し、痛みに三月の視界が涙でぼやけ、声にならない叫びを出来るだけ続ける。

 

 少しでも痛みから思考を逸らす為。

 

「────!!!(痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ! 何で?! どうして────?!)」

 

 三月は突然ぬるい液体が体に振り注ぐのを匂いで感じた。

 

「────! ────!!!(何これ? お酒? なん────?)」

 

 そして三月の身体が突然熱くなり、視界がオレンジと真っ赤が混ざった色へと変わる。

 

 火を付けられたのだ。

 

「(熱い熱い熱い熱い熱い熱いアツイアツイアツイアツイィィィィィィィィィィ!!!)」

 

 さっきまで血で潤っていた喉はカラカラになり、息をしようとする度に肺が焼け、皮膚が燃えていく。 動いて火を消そうにも四肢や体は標本みたいに地面に釘付けられ、出来る事と言えば周りの人だかりを燃える炎の間から見るだけ。

 

 そこで見たのは三月をあらゆる顔の人達だったが、一つだけ共通していた。

 

 

 

 

 

 

 それは『喜び』や『安心』の感情だった。

 

「(何で? 何で何で何で何で何でナンデナンデナンデナンデナンデ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いアツイアツイ痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイィィィィィィィィィィアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ────!!!)────アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 ___________

 

 凛、桜、三月 視点

 ___________

 

 

 三月が叫びながら目を覚まし、自分の身体を抱きしめながら起き上がるとビックリした凛と桜が彼女に声をかける。

 

「み、三月?!/三月先輩?!」

 

 だが二人の声が聞こえていないのか、聞く余裕が無いのか、三月は震え、深呼吸をしながらただ真っ直ぐ前を焦点の合っていない目で見ていて、聞いた事のない言葉で何かをブツブツと言っていた。

 

「57ɼ68¢Ͷ617¡4¤776ȢͶ17¢3ɼ7ΏͶ468¡617¤44ȢͶ¢96ɼ46f6e2ɼͶ774756eͶ¢6ɼ46Ͷ5Ȣ727Ͷɼ374616¡eͶ4Ȣ776¢ͶΏ86174ɼ27Ͷ7Ȣ3676fͶ6ɼ96eΏͶ¢676¤fͶ6eɼ7¡7686Ȣf776ɼ5¢7ͶȢ2ɼ65746Ͷ¤8ɼ6f7Ȣ36¡5ɼ2Ͷ070¤6ɼ¢56ΏͶɼȢf706c65¡77Ȣ68ɼ7Ͷ9646Ȣ9¢647Ͷ4686ɼȢ57Ͷ¡961747ȢͶ¢4616ɼͶ3Ȣ6Ͷb¡65¤6dɼ¢6Ͷ275ȢͶ726ɼe6dͶ6¡57ɼ7Ͷ68¢7Ȣ¤9Ͷ77ɼ6879Ͷ7ɼ768¢79Ͷ7ɼ768797Ͷ7¢ɼ68ͶΏ79ɼ77¢68ɼ79776¤Ώ8ɼ79────」

 

 そこで桜が急に三月の頭を抱いて、撫でながら優しく声をかける。

 

「────大丈夫、大丈夫ですよ」

 

 かつての自分に三月がしてくれた様に。*1

 あの頃の桜は間桐邸で魔術の鍛練に疲弊していながら、兄である慎二に衛宮邸での暖かさを一度体験し、衛宮邸に行くのを禁止され、士郎が怪我をした口実でまた「衛宮邸に通い続け」と命令されて、間桐邸と衛宮邸を行き来する時に何度も思わず体が酷く震えた。

 その度に三月がこうやって桜を落ち着かせたのを今でも覚えている。

 

 そうすると三月は震えるのをやめ、寝息が聞こえてきた。

 

 三月を寝かせた後、熱があるものの今更彼女を起こしてまで薬を飲ませるのは忍びないので薬とお水を近くに置き、桜と凛が部屋を出て、気まずい静寂が二人の間に流れる。

 

「「…………………」」

 

 そのまま二人は衛宮邸の廊下を歩き、この沈黙を先に破ったのは凛だった。

 

「でも意外ね、桜がああいう事を咄嗟にするなんてね」

 

「あ……その………昔、三月先輩にしてもらった事があったので…………」

 

「ッ…………………」

 

 桜の言葉に凛はどこか複雑な顔を桜が見えない所で浮かべ、玄関へと着くと丁度士郎とセイバーが帰って来た時だった。

 

「ただいまー」

 

「あ、お帰りなさい先輩にセイバーさん。 ごはん、温めてきますね」

 

「ああ、ありがとう桜」

 

 桜がパタパタと家の奥に消える間、凛は靴を履きなおした。

 

「じゃ、お邪魔したわね衛宮君」

 

「あれ? 遠坂はもう出るのか?」

 

「ええ、三月も今は寝ちゃっているし…………調べたい事もあるし」

 

「調べたい事?」

 

「こっちの話。 あと、生存者は見つかったかしら?」

 

「…………………それが────」

 

 士郎とセイバーが目を見合わせ、凛に柳洞寺の生存者が思ったほど多く、恐らくはほぼ全員気を失っていたとの事を説明した。

 これには凛も驚き、何故キャスターほどの『魔術師』がそんな()()を犯したのか思わせた。

 そう思いながらも柳洞寺の事を言峰に任して、明日また学校で会おうと話し合っている内に、士郎は思った。

 

「そう言えば慎二達はどうしたんだろう?」

 

「さあ? 彼も準備中なのをキャスターが察知して今日のように引き払う準備をしていたとか?」

 

「でも、これで事件は減る筈だ。 そうだろ、遠坂?」

 

「ええ、冬木の管理者(セカンドオーナー)として礼を言うわ。 じゃ、また明日。 おやすみなさい、衛宮君」

 

「ああ。 お休み、遠坂」

 

 凛はその夜、遠坂邸に戻るとポケットの中から衛宮邸で見つけた錠剤を何個か出し、それに昔父親(時臣)が使っていた器具などで調べた。

 その結果、彼女は信じられない物を見ているかの表情に顔が染まった。

 

「………………何よ、()()?」

 

 凛は思わず声を出すほど「得体の知れないモノの塊」を視ていたのだった。

 

 

 

 

 士郎は衛宮邸にて、セイバー達と一緒に晩御飯を食べていた。

 

「…………先輩? 大丈夫ですか?」

 

「ん?」

 

「その、何時もより難しい顔をしているもので……」

 

「あ、ああ。 ちょっと、な。 (まさか桜に『キャスターの事が気になっていた』とは言えないしな)」

 

「………そう言えば遠坂さんともこの頃仲が良いんですね?」

 

「まあ、割とこの頃会う機会が増えて、自然にな。 どうしたんだ桜? 浮かない顔をして?」

 

「……私はあまり…………その…………」

 

「???」

 

 モジモジと、何かを言いにくそうな桜を士郎はただ見ながらご飯を食べていた。

 

≪自分の為ではなく誰かの為に戦うなどただの偽善だ。 エミヤシロウ、貴様の望むものは勝利ではなく平和だと言っていたが、そんなモノはこの世の何処にもありはしない≫

 

 あの夜から、アーチャーの言葉が頭から離れず、夜は遅くまで起きていて、今日も天井を見ていた。

 ()()()()()()()()()

 

「アイツの考えは駄目だ」と思っていた。

 何が「諦めろ」だ。

 何が「絵空事」だ。

 

≪英霊とて全ての人間を救うことは不可能だ≫。 

 セイバー達を見ると嫌でも分かりそうになる。

 

≪誰かを救うということは、誰かを助けないということなんだ≫。

 本当にそうだろうか? 方法はある筈だ。 それが力か時間か何かの要因不足故からではないだろうか?

 

『そんなものはやってみなくては分からない』。 これが士郎の考えていた思考だった。

 

 だがこの頃、彼は『正義の味方(ヒーロー)』と言う、切嗣に()()()()夢の事を考えていた。

 

『やってみなくては分からない』。 でもそのやり方が『分からない』。

 

 これが士郎を悩ませていた。

 さっき思った様に何かの要因不足の筈なのだが、一向に糸口が見えない。

 この聖杯戦争で、『何かを掴めるかも知れない』という希望も未だに実っていないように士郎は思えた。

 

 その様な考えがグルグルと士郎の頭を回り、彼は眠りに落ちた。

 

 そして就寝した士郎は夢を見た。

 それはアーチャーとアサシンの戦いだった。

 

「…………」

 

 アーチャーの人柄は嫌いだが、白と黒の短剣を使うその技術はどこか()()()()()()があった。

 今まで士郎はこの事を考えないようにしたが、今日の夢で確かに見たのだ。

 

 戦いの最中に、士郎を見下すような視線をアーチャーが時折送っていたのを。

 まるで『貴様に付いて来れるか?』と言っているような────

 

「(────やってやる。やってやるさ!)」

 

 何事も始めなければ見えてくる道も見えない。

 

 そんな考えで士郎は深い眠りに落ちた。

 

 

 三月はその夜眠り続け、夢を見ていた。

 何時もとは違う夢。

 さっきとも違う夢。

 自分は素振りをしていた。

 

 そこは()()()()()()で、今は()()()()()()()()()()()()()()()()()を手に、ただただ素振りを続けた。

 そして春が夏に、夏が秋に、秋が冬に、そして冬がまた春にと延々と四季が変わってゆく。

 最後に刀の素振りを続けて手がシワだらけになっていった日に、やっとあの()()()()()()()()()()

 悔いがあるとすれば────

 

 

 

 ___________

 

 士郎、三月 視点

 ___________

 

 

 次の日の朝、セイバーとの稽古を士郎と三月は行っていた。 そこでは士郎が何時もの竹刀ではなく、()()()()()()()()()()()に使っていた。 本来より短い竹刀だがその分軽くて小回りを利かせていた。

 

 それはまるで────

 

「────アーチャーの戦い方ですか」

 

「ああ、別にセイバーの戦い方が悪いとかじゃない。 だけど今は好き嫌いなんて言っている場合じゃない」

 

「へー。 確かに今日の兄さんは何時もよりもっていますね」

 

「確かに、一刀でも以前より動きに無駄が無くなってきました。 ですがそれは三月にも言える事です。 まさかあれほど上達しているとは思ってもいませんでした」

 

 先程までセイバーと打ち合っていたというのに、三月は少々の汗を掻くだけでかなりの進歩を見せていた。

 

「あ、やっぱりそう思う? 何かグッッッッッスリ寝たような気分でもう今かつてないくらい最高なの! 『ハイ』ってやつよぉぉぉぉぉぉ!」

 

「…………最後のは何だ、三月?」

 

「表現の表し方?」

 

「何で疑問形なのさ?」

 

 そこでセイバーがプイっと顔を士郎から逸らしながら頬をぷっくりと膨らませていた。

 

「ミツキは私の剣技を使い、シロウがアーチャーですか」

 

「わぁ、可愛い~(ってあれ? もしかしてセイバーって、妬いているの? 兄さんが自分ではなく、アーチャーを見本にしているのを? それとも────?)」

 

「────あ! べ、別に俺はセイバーを蔑ろにしている訳じゃ────!」

 

「────いえ、シロウが彼の戦い方が合うと思っているであれば、私からは何も」

 

 そう言い残し、セイバーは道場を後にして、士郎は三月を見る。

 

「………セイバー、怒っていたよな?」

 

「どっちかと言うと『不満』? 『不服』?」

 

「あちゃあ~、やっぱりそうか……三月がそう言うのなら、そうなんだよな」

 

「セイバーはアホ毛を見ると良いよ、兄さん」

 

「へ? あ、アホ毛?」

 

「彼女の感情を映してくれるから」

 

 そして三月が士郎と同じく素振り用の竹刀を二つ出し、構える。

 

「あれ、三月? その構えは────」

 

「────私も興味があるから、ね? それにさっきも言った様に気分最高の感じなの! まだまだ動けるわよ~? 私は」

 

 そして士郎は二かッと笑い、二人共稽古を再開する。 

 一人はアーチャーの戦い方を()()ながら。

 もう片方はアーチャーの動きに沿()()ながら。

 

 このおかげで士郎の腕はかなり上達した。 目の前にまるで小柄のアーチャーと対峙しているかのようだったので見本としてはこれ以上ない事もあった上に何故かすんなりと()()()()()()()()()()()()()()()、体がそれを()()()()のだ。

 ちなみに今日の三月はストレートに戻した髪を簡単に頭の後ろで畳んで、バレッタで留めていたので激しく動いても後ろ髪が邪魔になる事は無かった。

 

 三月としては何とか自分の身体能力のみに見合った戦い方を探していた。 いくら魔術が良くても、セイバーのように対魔力を持った相手やそれが通用しない状況の時の為に。

 一応その他の手を三月は()()しているが、出来ればソレには頼りたくなかった。

 

 そして手応えはあった。 セイバーの剣筋は同じ小柄の体格で真似しやすいのだが如何せん、一撃一撃に入れる腕力が足りていなかった。 これは魔力で『強化』を施せばある程度解消出来るが、三月はそれ以外の戦い方を探していた。

 

 アーチャーの使う二刀流スタイルはセイバーとは違い正面からのぶつかり合いを主流としていなく、あまり腕力を必要としない相手の攻撃の捌き方を中心に、カウンターや足腰を駆使するヒット&アウェイ系だった。

 

 ただやはり元から身体能力があまり高くない三月に長時間の戦いは向いていなかったので最後の方はやはり『強化』を自身に使い、双方に有意義な稽古は終わった。

 

 そして朝ご飯を食べている間、凛から士郎への電話があり一成達の状態が伝われる。

 葛木宗一郎以外の者たちは全員衰弱していたか、昏睡状態に陥っていて死者は一人もいなかったと。 これにホッとしている士郎とは別に、ダイニングでは────

 

「────ごちそうさまでした」

 

「……………………え?」

 

 三月の食事が終わった宣言で桜はお釜の開ける手を止めた。

 ()()()()()だというのに三月は食事を終えていたという事に桜は目を見開く。

 普通なら後二、三杯は食べるのにと思いながら三月に確認を取ると、どうもお腹が空いていないとの事。

 

 あまり三月の事を知らないセイバーからすれば「ふーん?」と思いながらバクバクと食べ続けていたが、桜は多少ショックを受けながら今日の朝御飯に何か問題があるかどうかを彼女に聞いていた。

 が、本当にお腹が空いていないだけとの事だった。

 

「や、すまないな。 食事中に席を立って………ってどうした、桜?」

 

「それが、三月先輩がもう食べ終わったんですよ」

 

「え? 俺ってそんなに長く電話に出ていたっけ?」

 

「士郎、流石にそれはちょっと傷つくんだけど」

 

「先輩、私も同感です」

 

「モグモグモグ」

 

「でも大丈夫なのか? 昨日の事もあったし、今日の朝も────」

 

「────それが本当に不思議なくらい調子良いのよ。 さてと、ちょろ~んと土蔵に籠ってくるね~! ♪~」

 

 そう言いながら三月はご機嫌のまま居間を出て、桜に今日はセイバーと用事があるので留守と三月を頼むと士郎は言い残し、衛宮邸を後にした。

 

 歩いている途中、セイバーと柳洞寺の昏睡状態の人達の事を話しと、キャスターがいなくなった今、その人達は時期に目を覚ますだろうとセイバーは言っていた。

 

 ただ士郎は安心しながら心の中では悔しかった。

 あの死体(葛木宗一郎)は助けられなかった、と。

 恐らく彼は『行方不明者』として生死不明のまま人々の記憶から忘れられるのだろう、と。

 キャスターの件もどこか違和感がある、と。

 

 そしてそれらを考えれば考えるほど、とてもやるせない気持ちに士郎は染まって行く。

 

*1
第5話“雨の中のワカメと雨も滴る良い女”




マイケル:何か………しっくりこないな

作者:スマヌ………

ラケール:てか三月って本当に身体弱いのね?

三月(バカンス体):ま、まあね~ (汗汗汗

雁夜(バカンス体):それにしては、俺とはかなり張り合っていたじゃねえか

作者:まあ…これは前日譚ですし、一応

雁夜(バカンス体):……え? という事はこれ全部俺と会う前って事か? え? え? え?

三月(バカンス体):では次話で会いましょう! お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです

雁夜(バカンス体):待てこら、説明しろや!  説明しろお前ら!


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第17話 Boy Visits Girl

===================================================
『運命』と言う精密機械の歯車達。

ズレが生じた今、『運命』の役割は変わるか否か。

くるくるくるくる回る歯車達。

歯車達が『運命』を認識するとどうなる?
===================================================

若干長くなりました。

自分の非才が怖いです………


 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 

「あら衛宮君、早かったわね」

 

 士郎が着いたのは冬木市にある公園だった。 かつてあった辺りのビルは十年前の火災でほとんど焼け落ち、公園に変換された今の日中でも人気はあまりなく、どこか人や生物を寄せ付けない雰囲気だった。

 

「どうしたんだ、遠坂? わざわざ俺達だけに聞かせたい事って?」

 

「じゃあ聞くけど、貴方と三月はどういう関係?」

 

 これに対して士郎は困惑する。

 

「???? 『どう』って、義妹だけど?」

 

「じゃあもうちょっと回りくどくない聞き方をするわ。 貴方と彼女と貴方達の親はどうやって会ったの? 彼女と貴方が義兄妹なのは見れば分かるわ、でも経歴は?」

 

「何だ、そんな事か。 ()()()()()()()()()、ちょっと長くなるから座らないか?」

 

 ベンチに座った後、士郎は凛に説明し始める。

 

 自分と三月は十年前の火災からの孤児同士で、衛宮切嗣が二人の後継人になり、住処と戸籍を提供し、世話をしてくれたと。

 

「そう…………何だ。 ごめんね、そんな事聞いて……」

 

「いや、別に構わないさ。 別に不満があった訳でも無いし、その前の事はほとんど覚えていない俺や三月でも生きて来たんだ」

 

「それって……『記憶喪失』って事?」

 

「『解離性健忘』。 確かに『記憶喪失』の類だが、俺の場合はまだ覚えているモノもあった。 だけど三月の場合、余程のショックだったのか()()()()()()()()()()。 それこそ言葉とかもな。 だから最初の頃は苦労したよ。 俺も、藤姉も、じいさんも」

 

「そうなの? 彼女を見たら想像しにくいけど…」

 

「ああ。 最初は何にでも怖がっていて、必ず俺か藤姉かじいさんにピッタリくっついて行動したり、オドオドしていた。 表情もほとんど変わらなかったし、自分からは何も言わないとか、色々な」

 

「ッ………御免ね、衛宮君。 話しを途中で止めて。 でも私にそんな事喋っていいの? 自分の事だけならともかく………」

 

「良いさ、それは。 それに三月なら多分笑いながら『あ、そんな事もあったな~。 ハッハッハ』とか言うさ、きっと。 話を続けるけど────」

 

 そして士郎は衛宮切嗣の話をする。

 彼から魔術を習っていた事を────

 

「────待った。 じゃあ何? 彼は魔術刻印を二人に継がせなかった訳?」

 

「ん? ああ、継がせなかった。 じいさんは俺達に魔術とは無縁の人生を生きて欲しかったんだと思う。 最初は俺達がどれだけ頼んでも首を縦に振るまでかなり時間がかかった」

 

「それは…………彼は本当に魔術師なの?」

 

 凛からしてみれば、衛宮切嗣は魔術師としては失格者のように感じた。

 彼の言動が余りにも異質で、それは衛宮邸の結界も見れば分かる事だった。

 本来結界とは住人を守るか、他者を拒む者、或いは何かの阻害。

 だが衛宮邸は『招かれざる者に反応する』()()の結界だった。

 

「リン、私の話を聞いてもらえますか?」

 

「「セイバー?」」

 

「シロウ、リンに()()の事を話しても宜しいでしょうか?」

 

「??? ()()?」

 

 凛は『前回』と言う単語を不思議に思い、士郎は頷いた。

 そしてセイバーは掻い摘んで話す。

 自分の知っている()()の第四次聖杯戦争の事を。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 セイバーの話が終わり、凛は複雑な顔をしていた。

 

 ()()ならセイバーは士郎、ましてや凛に第四次聖杯戦争の事を話してはいなかった。

 だが()()とは既に事と事情が違っていて、セイバーからすれば凛は優秀な魔術師。

 ならば第四次聖杯戦争の事を魔術師らしく、論理的に分析してくれると信じた結果で彼女に話した。

 

「そう…………だったの………でもおかしいわ。 もしその聖杯戦争が以前のものだとしたら、本来のサーヴァントは再召喚されたとしても記憶は引き継がない筈よ?」

 

 ここは士郎も疑問に思っていた。

 前回のセイバーの説明ではこの事に触れていなかった。

 と言うか今まで知ろうとは思わなかった。

 ただ単に「セイバーは聖杯戦争の経験者なんだな、頼もしいや」程度に思っていたが、凛が言った事で気付いた。

 

 聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは保存されてある『本体』の『コピー』の筈。

 つまり召喚される度に新しい『コピー』が呼ばれる筈なのだ。

 

「……私は特殊なケースです。 恐らくは私が生前に『世界』と契約した為、私は聖杯戦争で勝てなかった場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「な?!」」

 

 これに士郎と凛両方がビックリする。

 

 つまりセイバーは聖杯戦争に召喚される度に聖杯を得なければ繰り返す事になるのだから。

 自分が死ぬ前の瞬間を。

 

「それとシロウ……………私は……………謝らなければなりません。 十年前のあの日、私は……………私はここの地にて、『あの火災』を────」

 

 ────セイバーの声はどこか何時もの彼女と違った。

 まるで目の前には英霊ではなく、人g────

 

「────やめてくれ、セイバー。 もし……もしもじいさんがお前に令呪を使ったとしたら何か理由がある筈なんだ…………」

 

「……衛宮君、一旦貴方の家に寄ってからアインツベルン城に行きましょう。 話の続きは歩きながらするわ」

 

 凛は突然立ち上がる、士郎を無理矢理立たせる。

 

「アインツベルン城に? 急にどうしたんだよ、遠坂?」

 

「もしセイバーの言った聖杯戦争が前回の聖杯戦争で、その時に異常があったのなら今回もあるかもしれない。 そして聖杯に異常があるかどうかの話、アインツベルンなら調べられる筈よ。 あと、衛宮君には話しておくわ。 今日新たな昏睡状態と行方不明者が数人、新たに出たわ」

 

「な?! でも、キャスターはもう────!」

 

「────つまり今日のは彼女以外が原因という事よ。 それにキャスターの件では色々と考えないといけない事があるのよ。 衛宮君は違和感とかないかしら?」

 

 士郎は黙り込んだ、それこそ自分が昨夜考えていたような事だったからだ。

 

「あと、もしさっきのセイバーの話が本当なら、この聖杯戦争はお父様から色々聞いたのとは違う上に通常のとも違うケースも十分あり得るわ。 キャスターはもういないけれど、敵対しないのをアインツベルンとの話が終わってからまで延長しないかしら?」

 

「俺は別に問題は無いが、セイバーはどうだ?」

 

「確かに聖杯に何らかの異常があるのだとすれば、アインツベルンと話を付けた方が良いでしょう。 聖杯に願いをするとしても、聖杯自体の機能に異常が来ていればまずそちらに対処をしなければなりません。 (やはりキリツグ、貴方は説明不足です! アイリスフィールにも、イリヤスフィールにも、私にも! 何故説明せずにあの時令呪を使ったのですか、キリツグ?!)」

 

「アーチャーもそれでいいかしら? これは聖杯戦争が根本から歪んでいる可能性があるわ。 ならば律義に歪んだ儀式を進める事に私は反対よ」

 

『もし私が“反対だ”と言っても、それこそ今回は令呪を使う気なのだろう? ならばそれは取って置け、凛。 だが一応忠告はして置こう。 力のない者との協力はデメリットが大きいぞ? それを忘れるな』

 

「忠告ありがとう。 士郎、最後に貴方の義妹………三月の事なのだけれど…」

 

 凛は小さなガラスの小瓶に入っている錠剤を士郎に見せる。

 

「これが、彼女が摂取していた薬で間違いないかしら?」

 

「あ、ああ。 ってか三月から聞いていないのか? 良く分かったな?」

 

「当り前よ、これは────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 セイバーとアーチャーは(恥ずかしがる)士郎と(なんともない)凛を抱えながらアインツベルンの森を駆け抜けていた。

 

「────きゃあぁぁぁ♪ 早~い♪ 景色が変わるのはや~い♪」

 

 そして三月はセイバーの首に手を回し、腰に足を回し、背中に『コアラ抱き』をしていた。 勿論手足は『強化』済み。

 

「この子、衛宮君みたいね」

 

「どういう事だよ、遠坂?」

 

「そのままの意味よ?」

 

「人の事をまるで能天気の様に────」

 

「────あら、違ったのかしら? 無防備で『のほほん』とした態度で私に襲われただ・れ・か・さ・ん?」

 

「グッ」

 

「それにしてもミツキは大丈夫なのですか?」

 

「ほぇ? どゆこと?」

 

「いつもなら体の調子が────」

 

「────まあそうなんだけど、今日は絶好調よ!」

 

 セイバーが心配するのは無理も無かった。 あの後、凛と共に士郎達が衛宮邸に戻ったら三月が何やらお守り(魔術礼装)を作っていたのだ。

 

 人数分を。

 

 三月は三月で先日得た結界術などの魔術の応用や工夫に付与の試行錯誤で作ったのだが………………

 

「(どないしよ、これ?)」

 

 三月が自分の前を見るとお守り(魔術礼装)が他のお守り(魔術礼装)のパーツとして組み込まれている物体達がトランプカードのパッケージ状で出来上がっていた。

 

「(…………やっぱりこれって規格外よね。どう考えても)」

 

 そのお守りは某ゲーム風に呼ぶのなら『パッシブスキル』を追加する装備。

 

 とはいえ欠点と言えばそれらは所詮魔術礼装なので、魔力が無くなればただの物置以下。 そして効果は『()()()()()の無効化』という物。 これは(三月の理論上)軽い食中毒からオオベッコウバチの毒までのような毒に効く(筈)。

 

 今の三月は今までにないような気分で、前からして見たかった事を次から次へとしてみた結果の一つがこれだった。

 

 あと士郎と凛がアインツベルン城に向かうと伝えると糸状の鷲の足に書いた手紙を取り付けて、先行させていたりと色々やっていた。

 

 そして移動前に三月はお守り(魔術礼装)を家にいた桜、帰って来た士郎と凛に渡した。

 

「何だこれ? トランプカードの箱か?」

 

「え、衛宮君…これ、凄く精密な魔術礼装なのだけれど…これって貴方たちの親の『衛宮切嗣』が作ったものかしら? (これならば彼の異質性が多少説明されるわ)」

 

「あ! ウン! そう! そうなの! 何かこの頃物騒だからさ! (その手があったかー! って、今遠坂さんがおじさんの名前を言った時に違和感あったな。 何だろう?)」

 

「へー、じいさんがねー…………って遠坂? 大丈夫か?」

 

 士郎が見る凛はブツブツと独り言と受け取った魔術礼装を睨んでいた。

 

「ですがよろしかったのですか、ミツキ? そのようなものを凛に渡して?」

 

「あ、大丈夫よセイバー。 桜にも渡したから」

 

「いえ、そういう意味では────」

 

 ────その時、糸状の鷲とアオガラが三月の前に降り立った。

 

 それは御三家アインツベルンの聖杯戦争代表からの正式な招待状だった。

 ()()()()()()の。

 

「あれ? ここに遠坂の名前が無いぞ?」

 

「ん~??? 私、確かにイーちゃんに三人の名前書いた筈なんだけど」

 

「………三月、その『イーちゃん』って……まさか」

 

「??? イリヤの事だけど?」

 

「…………アイツ(イリヤスフィール)、ワザと書かなかったわね」

 

「「???」」

 

「上等じゃない! これなら否が応でも行ってやろうじゃない!」

 

 何故かヒートアップする凛を士郎と三月は?マークを浮かべながらアインツベルン城に向かった。

 

 ___________

 

 間桐桜 視点

 ___________

 

 

『頼れるお姉ちゃん』。 

 

 それが間桐桜の、三月に対しての印象だった。

 昔に兄さん(慎二)が連れて来た友人の妹。

 

≪初めまして。 『衛宮』三月です≫

 

 そして彼女は()()だった。

 

 初めて会った時、明らかに『衛宮の兄君』と容姿が違った。

 その事を理解した桜の挨拶はワンテンポ遅れた。

 

≪……初めまして。 間桐桜です≫

 

 そこから『衛宮』三月は何かの話題を探すように幼い桜に色々な話をしてきて、時間が経ち、衛宮邸で桜の顔が引きついた時その場にいた者達の嬉しい気持ちで死んでいた心に温かさがやっと戻り始めた時に────

 

 

 

 

 

 

 ────兄さん(慎二)にバレた。

 桜が間桐家の正式な後継者として()()()()()()()のを。

 その日から慎二は変わった。

 彼が桜を衛宮邸に連れていく事はもう無くなり、態度も急変した。

 以前では何処か気にかけていたのも、「勝手にしろ」と放置するようになった。

 

 そして桜が中学の時、ある()()が目についた。

 その()()は何度も何度も跳べもしない高跳びをひたすら跳ぼうとしていた。

 

 その()()は本当に()()()()に、何度も何度もチャレンジしていた。

 これを見ていた桜は久しぶりに何とも言えない気持ちになり、二人に言葉を心の中で送った。

 

『諦めろ』、『やめてしまえ』、と。 ただただ心の中で言いながら二人を見ていた。

 

 だが時間が経てば経つほど、桜の気持ちは大きくなっていった。

 

 何故ならその兄妹は()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 気が付けば桜は涙を流しながら、その場を去った。

 そして辛い時にはこの暖かい風景を思い浮かべて、まるで自分がその輪の中にいているような事を妄想していた。

 

 それから時間が経ち、ある時()()()が桜に命令した。

 

「衛宮の所に通い、何としてでも自分をそこに居させろ」と。

 

 桜は嬉しい反面、恐ろしかった。 麻痺していた心が動くほどに。

 ()()()()()()()()()()()

 

 あのような顔は、桜が知る限り自分の調()()などでしか浮かべない類のものだった。

 

 あの二人に会えることは内心嬉しい、だけど同時に()()()の命令だったのが恐ろしかった。

 あの二人を巻き込みたくなかったが、自分に従う以外の選択肢はない。

 そして出掛ける前に兄さん(慎二)が入り口で立っていて、何かをされる覚悟をしながらも、桜は横を歩き通ろうとすると兄さん(慎二)が抱き着き、桜の耳元で囁いた。

 

「あの二人は良い奴らだ。 怖くなったら()の方にこうやってして貰え。 ()()()の感じがするからな」

 

 ただそう言い、兄さん(慎二)が桜から離れ、何事も無かったように自分の部屋に籠った。

 桜には不思議な事でしかなかった。

 何時もなら自分が兄さん(慎二)()()と彼に殴られたり、蹴られたりはしたが、今の様に優しく抱くのは彼女が覚えている中で初めての出来事だった。

 

 そしてその日から桜は何度も衛宮邸に通い、何時か夢にまで見た輪の中にいた。

 それは想像以上に暖かく、心地が良いもので、自身の体が間桐邸と衛宮邸の温度差や過去の事を思い出しながら震えると、衛宮家の妹君が優しく声を掛けながら体を抱きしめる。

 

 兄さん(慎二)に言われた通り、こうして貰えるとかつての()()()と同じように暖かかった。

 更に時が経つと、衛宮家の兄君から合いかぎを渡され、兄妹二人から笑顔を向けられ『いつ来ても良い、()()()()()()()()』と言われた日の桜は帰り道中、恥む事無くただひたすら合鍵を胸の近くで抱き、泣きながら歩いていた。

 

 それから更に時が経ち桜は知った、聖杯戦争の事を。

 そして、自分の大好きな先輩が()()()()対象となるのを。

 桜は恐怖した。

 絶望した。

 自分の所為で兄妹二人に迷惑が掛かってしまうと泣いた。

 

 その時、珍しく兄さん(慎二)が自分の部屋を訪ねた。

「提案がある」と。

 

 それからは(桜が見えている範囲でだが)どうやら聖杯戦争で兄さん(慎二)は『先輩』に危害を加えるどころか、別の方法で聖杯戦争で勝とうとしていたようだった。

 そしてそれは正解に近い。 

 何しろ兄さん(慎二)から()()()()()()()話なのだから。

 衛宮邸で。

 

「いや~。苦労したけど…何とかなりそうだよ、桜」

 

 ここは衛宮邸の居間。 衛宮家の二人はどうやら遠坂先輩と出掛けたようで、それを確認した兄さん(慎二)がお邪魔してきた。

 

「お疲れ様です、兄さん」

 

 桜がお茶を入れると、慎二は嬉しそうに飲みながら出された菓子を食べていた(三月手作り苺タルト)。

 

「ライダーもどうですか?」

 

「いえ、私は大丈夫です桜」

 

 部屋の隅で立っていたのはライダー。 索敵能力は高くは無いが、人間よりは優れているので衛宮家やセイバー、遠坂凛やアーチャーの警戒をしていた。

 

 間桐慎二は衛宮邸に桜一人になると時折、こうしてお邪魔してきてはお茶や菓子を楽しみ、桜に愚痴などを零していた。

 聖杯戦争開始直後に慎二の態度は昔みたいになっていったのに桜は内心嬉しかった。

 

「それで、どうですか兄さん?」

 

「ああ、最初は大変だったさ。 何せ僕は正式のマスターではない上にライダーの弱体化を補うなんて普通の奴なら無理さ。 でもこの僕にかかればどうって事は無い。 それと桜────」

 

 急に慎二が何時ものヘラヘラした顔から真剣なものに変わる。

 

「────体の調子はどうだ?」

 

 桜は赤くなりながら慎二から目を逸らした。

 

 無理もない。 たとえ慎二が心配から()()質問をしていたとしても、それに答えるのは女性としてこの上ない恥ずかしい気分。 何故なら間桐で受けた調()()の所為で魔力は高まったが、性欲を通常以上に増進させられ、それをどうにか一人で解消していた苦労を慎二は知っていた。

 

 と言うか最初の頃、桜は()()()に言われ慎二に迫っていた。

「それ位の才能しかない」と言い。

 

 その所為で暴行じみた行動にも桜は会っていたが、それを見つけたのが先輩(士郎)で無く三月だったのが桜にしてはせめてもの救いだった。 

 もし先輩(士郎)が知ればどうなっていたかと思うと桜の身体が震える。

 

「………………」

 

「言いたくないのは分かる。 だけど()()()が言うにはため込めば、ため込む程反動が酷くなるって言っていた。 だから────」

 

「────大丈夫です、マスター」

 

 そこでずっと黙っていたライダーが慎二に答える。

 

「??? どういう事だ、ライダー?」

 

「時々様子を見に来ていましたが、桜の状態は以前より安定しているかのように見えます」

 

「ッ?!?! そ、それは?! よ、良かったじゃないか、桜!」

 

 慎二は心から安心したような笑顔に一瞬なり、それに気付いたのかすぐに顔を逸らしながら言い直す。

 

「よ、良かったな、桜。 で、でもどうしてなんだ? 何か変わったのか?」

 

「…………………………」

 

「ライダー?」

 

 ここでライダーが顔を逸らし、何か後ろめたい事を隠しているかのような雰囲気に桜が気付く。

 昔の自分のようだったから分かる空気だった。

 

「………いえ。 何でもありません」

 

「…………そうだな、桜の調子が良いのならそれでいい」

 

「兄さん…」

 

「後もう少しだ桜。 もう少しなんだ…………これが終わったら僕達は……………()()()()()()()()()()

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、バーサーカー運営 視点

 ___________

 

『アインツベルンの森』。

 冬木市から西へ外れたところにある森でアインツベルンが管理する結界に覆われており、魔力と気配を遮断しない限りすぐに見つかり、迷いの森としての機能もあるので毎年に迷い込んだ人が何人か消息を絶っている。

 突然凛が立ち止まり、士郎と三月に先を歩いてくれと頼み、二人はそうすると────

 

 ビリッ!

 

「────のわ?!」

 

「────わきゃ?!」

 

「プッ。 『のわ』に『わきゃ』って何、二人とも?」

 

 その森の結界を通った瞬間士郎と三月は溜まった静電気に似たビリっとした感覚が体を走り、声を上げると凛が吹き出しそうになる。

 

「わ、笑い事じゃないぞ遠坂! い、今のは何だ?」

 

「あ、多分これって『結界』って奴なんじゃないかな?」

 

「その通りよ三月」

 

「………でも俺達、招待されているんじゃなかったのか? それに家のとは訳が違うぞ?」

 

「これが普通の結界よ、衛宮君。 寧ろ衛宮邸のは優しすぎるくらいよ────」

 

 ────そこで凛が通ろうとすると────

 

 バリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!

 

「────ウギャアァァァァァァァ?!」

 

 普段の彼女………と言うか女性から聞くような叫び声とは言い辛いものと共に凛の身体に高圧電流に似た物が流れ、何某ギャグアニメみたいに彼女の骨格が浮き出たような幻覚が士郎と三月達には見えるようだった。

 

 プスプスとした音と体から湯気が出ながらヨロヨロと士郎達のいるところに歩いた凛のツインテールの髪の毛は立派にボワッと広がっていた。

 

「……(あ、どこぞのミッ〇ーマウスの耳みたいだ…………それともダ〇ボかな~?)」

 

「………………」

 

「と、遠坂?」

 

「……………………………やってくれるじゃない、あのクソガキャァ! 今笑ったの確かに聞こえたんだからねー!」 

 

 怒りながら叫ぶ凛の最後の「ねー!」が森の中で鼓動し、場所はアインツベルン城でとある部屋へと移る。

 

 そこには『遠見』の水晶玉経由で士郎達側の出来事を見ていたイリヤが笑っていた。

 

「アハハハハハハハハハ! 引っかかった、引っかかった! リンのような奴でも、こうすれば面白いわ!」

 

「うん、確かに面白い」 ←棒読み

 

「お嬢様。 あの二人は良いとして、三人目は如何なされますか?」

 

「勿論、楽しむ為────じゃなくて玩具────ン゛ン゛ッ! 勿論彼女が相応しいか『試す』のよ。 セラ、リズ。 客間の準備を」

 

「ジー」

 

「??? どうしたのですか、リーゼリット?」

 

 リーゼリットが水晶玉の中を見ていたのを、セラは声をかける。

 

「イリヤ、ケーキとかはあのリュックの中?」

 

「うん、そうだと思う」

 

「ホクホク。 楽しみ」 ←棒読み&僅かなホクホク顔の微笑み

 

「うん、私も!」

 

 そこには三月が何時ものポシェットと更に背中に背負っているリュックサックが水晶玉によって映されていた。

 

「………ず、頭痛薬の残りが…………」

 

 そして部屋では目を光らせているイリヤとリーゼリットとは反面にドヨ~ンとした疲れるセラの姿が。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「皆さまアインツベルン城へようこそ。 城主のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。 歓迎するわ」

 

「アインツベルン城にお招き頂きありがとうございます。 日頃のお心遣い、心より感謝申し上げます。 私は衛宮三月と言います。 しがない者ですが宜しくお願い致します」

 

 イリヤはスカートの裾をちょこんと持ち上げて一礼し、これに対して三月は短パンの裾をあげて、同じように一礼する。

 

 このやり取りに呆気に取られる士郎に表情の変わらないセラとリーゼリット。

 そして普段ならこのような場面で真っ先に反応する筈の凛がボロボロで、まだ落ち着かないイリヤへの苛立ちを御していた。

 

「「……………プッ」」

 

 そこでイリヤと三月が同時に吹き出し、共に笑い始める。

 

「今のな~に、『イーちゃん』?」

 

「『ミーちゃん』こそ急に畏まって」

 

「だって~」

 

「「ねー!♡」」

 

 意気投合する少女二人であった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてリーゼリットとイリヤが睨んでいた通り、三月のリュックの中からロールケーキ2ホールと三段箱クッキーセットがお土産として出て来て、一つの客間で皆はお茶をしていた。

 

「ところでイリヤ、何で俺と三月の場合罠が発動しなくて遠坂に反応したんだ?」

 

「ああ。 それは彼女がここに来る辿り着くに相応しいかどうか試していたのよ」

 

「「え」」

 

「ングッ(いえ、ここは我慢よ遠坂凛。 『何時如何なる時も常に余裕を持って優雅たれ』。 お父様を思い出すのよ!)」

 

 士郎と三月の動きが一瞬止まりイリヤを見るが、彼女はどこ吹く風のように振舞っていた。

 凛はと言うと今にでもイリヤに飛び掛かりそうな心を精神で御していた。

 

「それで? 皆がここまで来たのには理由がある筈よ? 用件は何かしら?」

 

「じゃあ聞くわね────」

 

 そこで凛はイリヤに今回の聖杯戦争の不可解な部分や前回の第四次聖杯戦争の説明をし始める間、士郎はケーキとお茶を楽しむ三月を見ながら今日の朝、凛に話された事を思い出す。

 

『三月は人間(ヒト)ではない』。

 

 三月が昔摂取していた薬の全てを調べられなかったとはいえ、凛が判明出来た部分だけでも魔力を含んだ強力な治癒薬で、()()であれば一粒服用しただけで即死に至る程の劇薬だった。

 

 そんな薬を三月が平気に服用していたのを見ていた士郎はかなり動揺したが、最近の三月を見た彼は少し納得した部分もあった。

 そして凛に士郎は忠告を受けた。

 

「三月には注意、警戒しろ」と。

 

 この世界では人ならざる者達が人と接触するのは例外中の例外以外では人に何か求めているか、奪うかの二択。 

 前者であれば選択や対策の余地があるが、後者の場合で人ならざる者が強者であれば────

 

「────忠告ありがとう遠坂。 でも三月は三月だ」

 

 と、忠告&脅し中の凛に対して士郎は言った。

 

「それがどうした?」と言う態度で。

 

 彼からすれば三月は昔から一緒に住んでいる義妹で、所々()()()()()時もあるが面倒見のいい子で努力家。

 

「呆れた……じゃあ何、衛宮君? もし彼女が『血を寄越せ』とか『臓器が食べたい』とか言ってきたら『ハイどうぞ』と言う訳?」

 

「そんな事は無い」

 

「ホ。 良かった、そこは割と────」

 

「────まず『どの位欲しい?』とは聞くし、臓器に関しては『代用になれるモノはあるか?』と聞くさ」

 

「………………………………………………………………」

 

 そこから凛は何か諦めたみたいに衛宮邸に戻り、三月からお守りを受け取り、アインツベルン城の今の状況に至る。

 

 ちなみにセイバーとアーチャーは部屋の端で立っていた。

 丁度凛が説明し終わったところらしく、イリヤは何か考えているようだった。

 

「……………そうね、もし聖杯に異常があるのなら律義に聖杯戦争を続けている場合じゃないわ。 でも調べるにはサーヴァントを何騎か消滅させるかもう少し時間が経ってからじゃないと出来ないわ」

 

「??? それは大丈夫じゃないかしら? 現に()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから」

 

 凛の言葉にイリヤは若干反応し、イリヤは彼女を見る。

 

「リン、それは本当?」

 

「え? ええそうよ。 アサシンはともかく、キャスターは衛宮君と私が見ていたし」

 

「…………………」

 

 イリヤが疑うような目で凛を見ると士郎が反応した。

 

「待ってくれイリヤ、遠坂の言った様にキャスターは消えた。どうして疑うんだ?」

 

「……………………」

 

「? イーちゃん?」

 

 イリヤが黙り込み、三月が彼女の表情に築き、声をかける。

 

 何時もの『悲しみ』ではなく、あれは『諦め』だった。

 

「それは………()()()()だからよ」




作者:『イーちゃん』ってなんやねん?!

三月(バカンス体):え? 可愛くない?

作者:いやそこはもう普通に“イリヤ”でええやろ?!

三月(バカンス体):そんなのつまんないわよ。 ね、チーちゃん?

チエ:ん? 呼んだか?

作者:頭痛い…

マイケル:どうだラケール? 碁なら勝てそうか?

ラケール:無・りッ!

ライダー(バカンス体):グワッハッハ! よもやこの様にいろんな盤上遊戯があるとは思わなんだ! お、何時ものつまみがあるではないか! バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!

作者:ちょ?! またか! ていうか俺のおかきがー?!

チエ:征服王、これを呼んでくれ

ライダー(バカンス体):む? 何々…………『お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです』、だとぉ? 何だこれは?

作者:後ストック切れました。 間に合うかどうかわかりませんが次話頑張ります

ライダー(バカンス体):おい! 余を無視するでない!


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第18話 ポロリもあるヨ! (ありません)

作者:うをおおお! セーフゥゥゥ!

三月(バカンス体):前書きでコント?!

作者:時間が無いんや、ちょい短くてもはよ投稿せなあかんねん! こんなに連続でした記録をキープしたいねん!

チエ: 『ではお楽しみください。 エヘ☆』

作者+三月(バカンス体):FOOOOOOOOOOOO!!! チエの営業スマイルいただきぃぃぃ!!!

チエ:この阿呆共め


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 士郎、凛、三月達とセイバー、アーチャーは静かな夜の中でアインツベルン城から冬木に戻る森を歩きながら、イリヤの言った事を思い出していた。

 

≪それは()()()()だからよ≫

 

 それからイリヤはそこに居た者達に自分と、『アインツベルン』の事を話した。

 自分がホムンクルスと人間(ヒト)の混血でありながら、『聖杯の器』だと。

 そしてサーヴァントが倒され、魔力が満ちていく度に『器』は満たされ、『聖杯』は実体化する事も。

『器』の機能が増す度に『イリヤ』と言う()()()()()()()()されることも。

 

 これを聞いた士郎達は酷く落ち込んだ。 何せイリヤのような幼い子はそれを悲しむ事無く、ただ平然と喋っていたからだ。

 セイバーに至っては拳を更に強く握り、血が鎧ににじみ出るほどだった。 かつて自分が仕えていた姫君、『アイリスフィール』と目の前の『イリヤ』を連想して。

 

 アーチャーはただ腕を組みながら眼を静かに閉じ、何時もの表情だったので話が聞こえていたのかどうかわからなかった。

 

 ただこの性質上や、アインツベルンの事情などを何故イリヤが説明したかと言うと、彼女は違和感を感じていたから。 士郎達の言うようにアサシンとキャスターが()()したのならば彼女の中の聖杯は満たされて行く筈。

 だのにイリヤ(聖杯)は何も感じていなかった。

 ならば、()()()()()()()()()()()()

 

 これがイリヤをアインツベルンの機密事項を部外者である凛達に話させる程の異常な事だった。

 そして一時的にだがイリヤも聖杯戦争を中断し、この異常事態の調査に取り掛かる事を士郎達に伝えた。

 ただ資料や報告などの整理があるので改めて何か分かり次第、士郎達に連絡をいれると言い、その日は分かれる事になった。

 連絡係としてイリヤか三月の『天使の詩(エルゲンリート)』、または遠坂邸に置いてある連絡用の魔術道具、そして電話等を使う事にした。

 

 電話がアインツベルン城に設置してあるのに凛はビックリした。

 しかも携帯電話で、フリップフォンタイプをイリヤがドヤ顔をしながら説明したのを士郎は苦笑いで相槌を打ちながら、凛は『気にしていない』と言う態度を意識しながら取り、そして三月は────

 

「士郎! 私も欲しい!」

 

「無茶言うな!」

 

「…………駄目?」

 

 と、三月に上目遣い+潤んだ目で見られた士郎は咄嗟に顔と目を逸らしながら震える声で念押しに「駄目だ!」と言った。

 若干膨れながらも三月はその後もイリヤと他愛ない話をして、士郎と凛を巻き込み、時は過ぎていった。

 

 そして夜になり、三月が厨房を(ほぼ無理矢理に)借り、カレーを振舞うと言い(監視と言う名のお手伝いさんのリーゼリットを連れて)部屋を出ると凛はイリヤに自分が感じていた三月の疑惑を話した。

 

「フーン、リンって意外と小心者なのね」

 

「んなっ?! 人が親切で言っていると言うのに────」

 

「────私だってそんな事、とっくの前に気付いていたわ」

 

「「え?」」

 

 これに士郎と凛が驚く。

 

「だってそうでしょ? そんな事に気付かないなんて、余程のお馬鹿さんか鈍感か三流だけだもの。 で、私は聞いたの、『貴方は“何”?』って。 すると彼女はこう私に言ったわ」

 

≪私は『衛宮三月』。 それ以外なんでもないわ≫

 

 それを聞いた士郎は納得したような表情を浮かべながら「三月ならそう言うと思った」と声に出し、凛は「それ答えになっているのかしら?」とツッこむ。

 

「やっぱりリンは頭が固いわね。 つまり彼女は『何がどうあってもシロウの兄妹』とハッキリと言った事は、少なくとも心がまだ人間(ヒト)という事よ」

 

 それはそうだろう。 この世界の人外は人間(ヒト)を(良くて)ただの家畜として見ている事が多い。

 つまり自分(人間)達と同じ目線で物事を取り、感じるのはほとんどの場合いない(異例外を除いて)。

 

 その夜、三月達が作ったカレーライスに皆感動した。

 ふんだんに使われたダイス状の牛肉。

 一口に収まるサイズのほっこりとしたポテト。

 様々な形(星、月、等々)をした、甘みのあるニンジン。

 切り刻んだトマトとセロリに隠し味のココアパウダー、ハチミツ、おろしたリンゴ、醤油等々。

 そしてカレーはブロック状のルーとカレーパウダーや何種類かのスパイスが混ざったもの。

 

 強いて呼ぶのなら『本気で凝った家庭のカレー』だった。

 

 ちなみに嬉しく食べる皆(特にイリヤ)を見てセラはレシピを三月に貰いたいと言い、彼女を手伝ったリ-ゼリットが「自分が分かる」と言った時、セラは珍しく「でかしたわリーゼリットッッッ!」と褒め称えていたそうだ。

 

 後でカレーを食べたセラとリーゼリットも楽しみ、またもセラがリーゼリットを褒めるのをイリヤが見たそうな。

 

 そして時を現在に戻すと、士郎、凛、三月、そして霊体化出来ないセイバーは静かに夜の冬木を歩き、深山町に辿り着くと凛が声を出す。

 

「今日はここまでね。 衛宮君、()()()()()帰ってね?」

 

「遠坂?」

 

「あ、おやすみなさい遠坂さん!」

 

「ッ………三月もね」

 

 歯切れの悪いような返事で凛は遠坂邸へと向かう背中に三月そのまま手を振る間、士郎は凛が「何であのような言い方をしたのだろう」と考え、すぐに答えに辿り着いた。

 

 恐らく凛が言っていた()()()()()は「()()に気を付けて」の意味だったと。

 

「………」

 

「ん? どうしたの、兄さん?」

 

 士郎の視線に気付いた三月がキョトンとした顔で、頭を横に傾けながら士郎に聞くと、士郎が笑いながら三月の頭を撫でる。

 

「わぷ」

 

「……いや、『今日のカレー旨かったな』って思っていただけだ」

 

「はい、大変美味でした」

 

「あ、やっぱり? 今日はちょ~っと本気を出してみたの♪ (よっしゃあ! ビックリコップス作戦は成功だぁ!)」

 

「そうか。 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「へ? 『アーチャー』って────?」

 

『────少し見直したよ、エミヤシロウ。 霊体を感じ取れる程度には心得が出来たか』

 

 そこに士郎達の後ろにアーチャーが声と共に現れ、前を歩きだす。 衛宮邸の方向へと。

 

「あ、先程ぶりで~す」

 

 呑気に声をかける三月をアーチャーは首を若干だけ回して、横目で見ながらセイバーは彼と士郎の間に入った。

 

「シロウ、下がっていてください」

 

「これはあの夜の続きか? やる気だっていうなら相手になってやる! 俺だって魔術師の端くれだ!」

 

「シロウ!」

 

()()()見送れという凛の指示には従うさ。 それに己惚れるなよ、エミヤシロウ。 血の匂いがしない魔術師など半人前以下だ。 聖杯戦争のマスターでありたいと言うのなら尚更だ。 成果のためには冷血になるのが魔術師。 その点では遠坂凛はやや甘い所はまだあるが、心構えは立派だ。 彼女を見習うことをおススメする」

 

「じゃあ良かったな、遠坂がマスターで。 聖杯を手に入れるのがその分近いじゃないか」

 

 そこでふと士郎と三月は思う、アーチャーの願いは何だろう?と。

 だが士郎がセイバーに聞いてもただ「自分の悔いを直したい」と言うだけで詳細は言ってくれなかったので恐らくアーチャーは同じだろうと思い、士郎は聞かなかった。

 

「ねえ、アーチャーさんの願いって何?」

 

 だがここには三月と言う、常人から()()()()()者が躊躇なくアーチャーに聞いた。

 

「…………フン、悪質な宝箱なぞ、他の奴にくれてやる」

 

「??? (『悪質な宝箱』?)」

 

「何だと?」

 

 アーチャーの答えに三月は?マークを浮かべ、セイバーは目を細めながらアーチャーを睨み、士郎は驚きながら更に聞く。

 聞かずにはいられなかった。

 

「いらないって、サーヴァントは叶えられなかった願いを叶える為にこの戦いに参加しているんだろう?!」

 

「ハ、何を言うかと思えば。 いいか、エミヤシロウ? 私達サーヴァントに()()()()などない。 自らの意志で呼び出しに応じる物好きなぞ、そこのセイバーぐらいだろうよ。 英霊なぞ使い捨ての道具。 他者の意志によって呼び出される者達だ。そんなサーヴァントが心の底から人間(ヒト)の助けになりたがっていると本気で信じているのかね?」

 

「…………」

 

「でも……………それは…………」

 

 黙り込む士郎と、何か言いたそうな三月にアーチャーは言葉を続ける。

 

「いいか? 英霊とは()()にすぎない。 不都合があれば呼び出され、後始末をして消えるだけの、な。 自由意志を剥奪され、未来永劫、人間の為に働き続ける単なる便()()()。 それが英霊と呼ばれる、都合のいい存在達だ」

 

「なッ?! アーチャー、貴方は………それはあまりにも………」

 

「…………」

 

 今度はセイバーが反論の声をあげ、三月が黙り込む。

 

「何が装置だ! セイバーは違う! やりたくない事は突っぱねるし、自分の意見もバンバンと言って来るし、嫌な事や嬉しい事があったら顔に出るし、何処からどう見て一人の人間だ! それに、召喚されてからの選択肢だってある筈だ!」

 

「シ、シロウ…」

 

 士郎の言葉を聞き、セイバーは頬を僅かに赤める。

 

「確かに()()()()()()という殻を与えられた()()はその時点で()()()()()を取り戻せる。 だがそれはかつての執念や無念と共にだ」

 

「「無念?」」

 

「ッ………………」

 

 士郎と三月が同時に声を出し、セイバーは何とも言えない表情に一瞬なる。

 

「想像でもしてみろ。 自身の思いを遂げられず死んでも、死してなお人間共のいいように呼び出される者達の感情を。 それもこれも、『聖杯』などと言う物を求めるが故だろうがな」

 

「でも………先程アーチャーさんは『そんな物くれてやる』と言っていましたね?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。 私は望みを叶えて死んでから英霊となった。 故に()()()()()()()()()()

 

「そんな………そんな事って………」

 

「三月?」

 

「さて、お喋りはここまでにしようか。 私もお前達も暇なわけでは無いのだろう?」

 

 三月が言い続ける前に、アーチャーは姿を消す。

 セイバーが周りを見ると衛宮邸の近くの道と知り、警戒を続けながら声を士郎達にかける。

 

「あまりアーチャーの事を気に病まないで下さい、シロウ。 彼の言い分は極端すぎま────ミツキ!」

 

 セイバーが前方に歩きながら言葉の途中で振り返ると、黒いローブをまとい、髑髏を模した白色の仮面をした()()()()()()が左手の短剣を電柱柱の上から既に三月へと投擲した後だった。

 

「へ?」

 

 三月がセイバーの言葉、表情と視線に気付き振り向かえると既に短剣が迫っていた。

 

「(あ、これヤバイ。 ()()()()()()()()())」

 

「三月ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 気付いた士郎も叫びながら手を盾にするように前に腕を出すがそこで彼は悟った。

「距離があと少し足りない」と。

 

 そこで彼は考えた。

 必死に考えた、時間が遅くなるかのような幻覚だった。

「どうすれば守れる」と。

 

 そこで士郎は思った。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と。

 

「(何かないか?! 何か何か何か何か何か! ()()()()()()()()()!)」

 

 そこで士郎の脳裏を過ぎったのは先程まで喋っていたアーチャーの双剣だった。

 

「(トレース、オン!)」

 

 士郎がそう考え、念じた瞬間、途方もない程の痛みと熱が彼の体中を駆け巡り、彼の手の内が光る。

 

 ガキィィン!

 

「ギッ?!」

 

「なッ?!」

 

「ほへ?」

 

 金属と金属が激しくぶつかる音が士郎の手の中の何かで髑髏の仮面をしたサーヴァントの短剣の軌道がずらして三月の頬を擦り通る。

 髑髏の仮面をしたサーヴァントが舌打ちにも似た声を出し、セイバーが驚きの声を上げ、三月は状況に追い付いていないかのような腑抜けた、意味不明の声を出した。

 

「ギギッ!」

 

「待て貴様!」

 

 セイバーが待ったの声をかけるも髑髏の仮面をしたサーヴァントはすぐさま闇の中へと消えて、士郎は安心の息を出しながら手の中の物を手放した。

 

「ま、間に合った…………」

 

「に、兄さん……あ、ありが────え?!」

 

 三月が士郎に再度振り返ると、士郎は彼女の体を覆うかのように寄りかかり、そのまま倒れる。

 体格差で三月は士郎の下敷きになるような事に三月は驚いた声を上げる。

 

「……………(え、えー? な、何これー?)」

 

【告。 心拍数急激上昇。 安定さセマスか?】

 

「………お、お、お兄ちゃん?(えー? ちょっとちょっとちょっとー? 何何何何何ー?)」

 

【再度告。 心拍数、更に上昇。 安定さセますカ?】

 

 三月の耳朶には某漫画で出てくるような「ドドドドドドドドド」効果音が鳴り響いていた。

 

「う゛………」

 

「お兄ちゃん?!」

 

「シロウ?!」

 

 士郎の苦しそうな声でセイバーと三月は士郎の体を起こし、三月が手を翳し、優しい光が辺りを照らす。

 

「ミツキ、どうですか?」

 

「『どう』と聞かれても……怪我は無いみたいけど…」

 

 そこでホッとするセイバーは士郎の身体を支えながら衛宮邸へと再度歩みを続けた。

 

「さっきのはサーヴァントでした」

 

「へ? で、でも、クラスは? だって、聖杯戦争に呼ばれるのは七騎の筈で…」

 

「あれは恐らく『アサシン』…………」

 

「え?! でもでも、アサシンはあのお侍さんの筈だよね?!」

 

「ええ、ですから不可解なのです。 帰ったらリンかイリヤスフィールに連絡をする事を推薦します」

 

 そして衛宮邸に変えるなりぐったりした士郎を見た桜は気を失いそうな勢いで倒れかけ、三月がまた体を支えようとして下敷きとなった。

 ただ士郎の時と違い()()()()()()()()()のでそれ程苦にはならなかったし、心拍数も極端に上がる事は無かった。

 

 

 その夜、士郎は突然目が覚めて起きた。

 

「………(あれ? 俺の部屋の天井? いつ、俺は────)ッ?! グッ…………オワァァァ?!」

 

 とてつもない痛みと体の熱さに目を覚ましたのだった。

 このおかげで意識は一気に覚醒し、深夜だと分かった彼は迷惑にならないように枕を噛みながら、くぐもった叫びを夜ずっとあげ続ける。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次の朝、士郎は気が付くと何時の間にか寝ていた(と言うか気を失った)らしく、かなり体が動いたのか毛布と布団が滅茶苦茶だった。

 だが痛みは引いていたのには感謝していた。

 

 隣のセイバーの様子を見る為に静かに立ち上がろうとして────

 

「あれ?」

 

 ────ドサリと、士郎は尻餅をつく。

 

「……??? (おかしいな、()()()()()()()()?)」

 

 そう思いながら隣の部屋で誰かが起きる気配を士郎は感じて、起きたセイバーと話そうと開いた襖を見ると────

 

「ああ、おは────よぉわぁぁぁぁぁ?!」

 

 士郎は咄嗟の事に目を瞑りながら顔を逸らす。

 

「???」

 

 そこにはパジャマが(はだ)けた三月がトロ~ンと、明らかに意識が起きていない顔で士郎の部屋を覗き込もうとしていた。 彼女の上半身の白い肌が見えた。

 

 そしてブラをしていなかった。

 

 ブラヲシテイナカッタ。

 

 ブラをしていなかった。

 

 胸の膨らm────

 

「────み、み、み、み、三月! 前! 前! 前!

 

「???????」

 

「ん………シロウ? どうしたのですか? あれ? ミツキ、何時の間にそちらへ?」

 

 士郎の声で起きたセイバーは三月がいたと思われる、士郎の部屋とは反対側にある布団を見て、士郎の方を見る。

 

「セ、セ、セイバー! 襖を閉めてくれ!」

 

「??? 分かりましたシロウ」

 

 パタンと閉まる襖の音に士郎はやっと溜息を出し、自分の手足を見る。

 そこで拳を作ったり、足を動かすなどすると、行動がぎごちないように見えた。

 

「…………何なんだ? 一体?」

 

 士郎はだるい体に鞭を打ちながら朝御飯の準備をしようとキッチンに立って────

 

「クッ」

 

 ────うまく動かない体に苦戦していた。

 

「あ、おはようございます先輩」

 

「あ、ああ。 おはよう桜」

 

「おはようございます、シロウに桜」

 

「おはよう、セイバー」

 

「おはようございます、セイバーさん」

 

「ふわぁ~、おはよう~」

 

「ッ! お、おはよう三月」

 

 眠たそうな三月の声に士郎は顔をプイっと逸らしながら挨拶し返す。

 

「????」

 

 三月(本日はツインテールスタイル)は?マークを上げながら朝御飯の用意を士郎と桜と共にしたが、士郎の動きが何時もより違う事に他の二人が気付き、士郎には居間で休んでくれと言われた。

 

 その朝もずっと士郎の行動に違和感を持った他の皆に聞かれるが、士郎はただ「体がだるい」とだけ言い、あまり三月の方を直視できなかった。

 

 そしてそのまま学校に登校している間もフラフラしていた士郎を心配した桜と三月だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その日、士郎の状態を見かねた三月は凛を探し────

 

「────衛宮君の調子が悪い?」

 

「うん。 何か朝から動きがぎごちなくて、私を見るのを躊躇しているというか、見ないようにしているというか」

 

「………………ふ~ん?」

 

 凛が何か面白くなさそうな表情で三月を見る。 が、無反応の三月に飽きたのか、溜息を出し中ながら次の質問をする。

 

「で、昨日は何かあったのかしら?」

 

 と凛が声を変えず聞きながらジュースを飲み────

 

「アサシンに殺されかけた」

 

 ────三月が何もないかのように答えた。

 

「ブフゥ?! ゲホッゲホッゲホ!」

 

 凛は飲んでいたジュースを(とうとう)吹き出してむせて、三月は何事も無かったようにハンカチを貸す。

 

「ちょちょちょちょ────!」

 

「────上手く点かないストーブの真似?」

 

「ちっがーう! どうしてそんな大事な事をもっと早く言わないのよ?!」

 

「え? だって失敗したし。 あ! この場合は襲われたって言うんだっけ?」

 

 凛は頭を抱え、数秒後三月に説明を求める。

 三月出来るだけアーチャーと別れた後の事を凛に言った。

 

 自分に短剣が投げられ、当たる直前に士郎が短剣を()()、それを弾いたと。

 

「…………遠坂さん?」

 

 またもや頭を抱える凛に三月が声をかける。

 

「…………三月、衛宮君って『強化』以外に魔術が使えたのかしら?」

 

「さあ???」

 

「さ、『さあ』って………」

 

「士郎はあまり魔術の事を話したがらないから。 『自分には才能が無い』って、前に低い自己評価宣言していたから励ましていたけど」

 

「………今日の昼、少し衛宮邸にお邪魔するわね」

 

「へ?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ただいまー」

 

 昼ご飯の準備をしていた士郎が玄関に出る。

 

「ああ、お帰り三月…………に遠坂?」

 

 三月と共に衛宮邸に来た凛に士郎は困惑する。

 そして凛が笑っているのに何故か怒っているような雰囲気に彼は更に困惑する。

 

「衛宮君、ちょ~っと良いかしら?」

 

「え? おい遠坂何────」

 

 ドォン!

 

 凛が所謂『壁ドン』を士郎にし、青筋をこめかみに浮かべながら笑う。

 

「『オウ、衛宮ンとこの小僧。(つら)ぁちったぁ貸せや*1

 

 パチパチパチパチと見事な壁ドン+ドスの効いた声に拍手する三月。

 

「おおお~」

 

「……………………………………………………………ハイ」

 

 ちなみに桜は買い出しに出ていて衛宮邸に今はいない。

*1
第11話にて、三月の()()()()()より




ライダー(バカンス体):オウ、ここが噂の場所だ坊主!

ウェイバー(バカンス体):な、何なんだよここはライダー?!

ラケール:敢えて聞くけど、あんたブラしてないわけ?!

三月(バカンス体):…………………(汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗

チエ:私はサラシだが?

ウェイバー(バカンス体):……………………ライダー! 次からもここに連れて来てくれ!

ライダー(バカンス体):それは良いが、鼻血を先にどうにかせい


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第19話 月下美人(達)

仕事が珍しく何時もより早く終わったので投稿出来ました、そして長めです!


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 居間にて士郎は正座を凛にされていた。

 三月は凛の怒りが少しでも収まるならと思い、高級な方のお茶と茶菓子の用意をいそいそとしていた。

 

で? 昨日アサシンに襲われたと聞いたのだけど?

 

「あ、ああそうだな────」

 

「────『ああそうだな』じゃ! ないわよ!」

 

「で、でも失敗に終わったんだし、これからはより警戒────」

 

「────そういう問題じゃない!」

 

「リン、気持ちは大変良く分かりますが落ち着いてください」

 

「遠坂さん、遠坂さん! 落ち着いて! ほら、ほら! 高級な方のお茶葉を使いました!! それに茶菓子も!」

 

「ハッ?! そ、そうね。 一瞬我を忘れたわ。 お父様を思い出すのよ、『常に余裕を持って優雅たれ』。 優雅たれ優雅たれ優雅たれ優雅たれ優雅たれ────」

 

 最後の方をぼそぼそと深呼吸をして、お茶を啜りながら凛は独り言を続けてから士郎をもう一度見た。

 

「で? 本当にアサシンだったの?」

 

「えっと、実は…俺は見ていないんだ」

 

「見たのは私です、リン。 そして()()と特徴が合っていました」

 

「という事はアサシンが()()()された? でもそんなのって────いいえ、元々この聖杯戦争には不可解な事が多い、『そういう事もあり得る』と考えた方が良いわね。 何せ、アーチャーの言っていた『サーヴァントによるサーヴァント召喚』もあったくらいだし。 それはそれとして衛宮君、体の調子が悪いんですって?」

 

「あれ? 俺、遠坂に話したっけ?」

 

「三月が相談しに来たのよ。 それにあんた、昨日何かしたでしょ? 『強化』以外に」

 

 士郎がジト目で三月を見ると『ごっめ~ん☆』と言うような困った顔をし、手を合わせ、士郎に頭を下げていた。

 士郎は朝の出来事を思い出し、顔を赤くして三月から目を逸らして凛に答える。

 

「ッ………『投影』だよ。 昨日は短剣を『投影』したんだ」

 

「~~~~~」

 

 凛は冷めた視線と「こいつ、マジか?呆れた」といった表情で唸り声を出す。

 

「わ、悪い! 前回遠坂に話していなかったのは今回が初めて成功した例だからなんだ!」

 

「へ? でも、『投影』は初めてじゃないんでしょ?」

 

「あ、ああ。 でも外見が似ているだけで、中身は空洞………と言うか空っぽなんだ。 だからじいさんは“『投影』はやめて『強化』に集中しろ、その方が使えるから”って言ってたんだ」

 

「うん、そうね。 私も同じ事を言っていたわ………ところで衛宮君、その姿という事はお昼の用意中かしら? 時間も時間だし、ご一緒するわ」

 

「え、な、おい、ちょっと────」

 

「────良いじゃない兄さん。 たまには桜達以外と一緒に食べましょうよ」

 

「三月?」 

 

 士郎は三月の目を見ると────

 

『遠坂さんの機嫌を直す為に協力しなさい!』

『何でそうなるのさ?!』

『このまま返そうとしたら絶っっっっっっっっっっっ対兄さんが後悔するような事になるわ! 主にネチネチとした仕返しを!』

『うげ、それはそれでメンドイ』

『もう一人分の食事で済むのなら安いでしょ?!』

 

 アイコンタクトは一瞬、そして決断(?)も一瞬。

『触らぬ小悪魔に祟りなし』。

 

「……ま、今更もう一人分増やしても大差ないか」

 

「私も手伝うから! と言うか桜なかなか帰って来ないね?」

 

「ん? ああ、今日は遠出するって言っていたから昼は別々だ」

 

「ふーん?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてお昼ご飯の後、士郎達は未だに続く昏睡者と行方不明者事件の事に話し合っていた。

 

 状況の整理と、今後の方針について。

 

「キャスターがいないのにこの事件が続くという事は、彼女以外にこれらを行っていた。 今の状況で考えられるのはキャスターのしようとしていた事を誰かが引き継いだ。 または何か別の理由でしている。 聖杯戦争と関係しているか否かはまだ不明だけどほぼ関係しているわね、タイミング的に」

 

「そうだな………魔術でこんな事をするのは確か足りない魔力を補う為だろ?」

 

「そうね。 それが単なる『貯蔵』か、『行使』の為かはまだ分からないけどこの事件すべてがそれと関わっているのなら厄介な事に変わりは無いわ」

 

「事件は全部夜の間に起きているんだっけ?」

 

「ええ、だから私とアーチャーは夜の巡回に回っているのだけど………」

 

「あ、そう言えば慎二君に声をかけたら?」

 

「ああ! そう言えば慎二達も夜、遠坂みたいな事をしているんだっけ? アイツにも協力して貰おう」

 

「え゛」

 

「??? どうしたの、遠坂さん? 何か物凄い顔になっているけど」

 

「いや、相も変わらずあのワカメの事を高くかっているなーって…」

 

「それほどアイツの事嫌いなのか?」

 

「嫌いと言うか、苦手と言うか………………」

 

「………わかった、取り敢えず俺とセイバーも明日からは夜の巡回に回る事にしよう。 もし事件の犯人らしき奴がいたら対処するか、互いを呼ぶかにして。 そして慎二に会ったらこの事を伝えるってどうだ?」

 

「そ、それなら…………まあ良いかな?」

 

「あ。 士郎、私は? やっぱりコアラ抱き?」

 

「え? 何でそうなるのさ? そもそも三月には────」

 

「────一緒に連れた方が良いわよ? 昨日のサーヴァントを『アサシン』と仮定して、一度狙われたのならばまだ狙われている可能性大よ。 同じサーヴァントの近くにいた方が良いわ。 それにある程度衛宮君よりは魔術が使える三月がいた方が戦略的に有利よ」

 

「よし。 じゃあ時間も時間だし、晩御飯の用意を」

 

 士郎はチラチラと凛の方を見る。

 

「時間も遅くなって来ているようだし、晩御飯の用意を」

 

 士郎はまたチラチラと凛の方を見る。 が、彼女は依然と動く気配が無い。

 

「(あ、ヤな予感)」

 

「あら、私にお気になさらずに衛宮君。 と言うか手伝いましょうか?」

 

「ちょ、どういう事だ?」

 

「もうお昼もご馳走になったし、この時間だから晩御飯もご一緒してもあまり変わらないじゃない?」

 

「いやだから…………後で桜が帰って来て、その上に藤姉が来る予定だからな? 二人の説得は遠坂がやれよ?」

 

「あら、そんなの想定内よ?」

 

「兄さん」

 

 士郎は声をかけた三月の方を期待の目で見る。

 もしかしてこの状況の打破を────

 

「────胃薬持ってくるわ」

 

 そしてガクリと肩が落ちる+胃が痛くなる士郎に三月が胃薬を持ってきて、晩御飯の用意を手伝う。

 そして玄関が開く音に、凛が迎えに行くと────

 

「ただいまー……あ、誰かの靴────え? と、遠坂…先輩?」

 

「あら、お帰りなさい桜。 バッグ持つの、手伝いましょうか?」

 

「な、何で…………」

 

 玄関から聞こえてくる桜の痛々しい声に士郎は胃を手で押さえる。

 

「三月……俺また胃が痛くなってきた」

 

「兄さん、私が用意しておくから休んでいたらどう?」

 

「…わりぃな、三月。 お言葉に甘えるよ」

 

 そして居間で休む士郎は時折三月の方を見ると、彼女の背中姿で金髪のツインテールがキッチンでユラユラ動いていたのをボーっと見る。

 

 ガタン!

 

 ダイニングの襖を勢いよく開けながら士郎に桜は迫る。

 

「あ、あの、先輩?! 遠坂先輩が────」

 

「────あ、ああ。 おかえり桜。 遠坂は俺の体調が悪いって三月から聞いたんだ」

 

「ええ。 そういう事で、今日の晩御飯は私もご一緒するわ」

 

 桜は納得しているような、納得していないような顔で士郎、凛、三月、士郎、と視線を動かしていた。

 

「あ! で、でも今日は藤村先生も────」

 

「────たっだいま~!」

 

「あら、『噂をすれば何とやら』っていうのかしら?」

 

 三月が鍋をダイニングのちゃぶ台に乗せるというタイミングでご機嫌な大河がそこに姿を現す。

 

「お帰り藤姉~」

 

「は~い、三月ちゃん! 今日のメニューは何~?」

 

「お帰り藤姉、今夜は鍋だよ」

 

「うおっほー! やった~! 士郎最高~!」

 

「お、お帰りなさい…藤村先生」

 

「うん、桜ちゃんは今日も可愛いな~」

 

「お邪魔しています、藤村先生」

 

「ええ、遠坂さ……ん………も?」

 

 座った大河がギギギギギと言う効果音を出すような動きで首を回し、ぎごちなく凛の方を見る。

 

「……………」

 

 またもギギギギギと言う効果音が出そうな首の回し方で今度は士郎の方へと向く。

 

「………………………………し・ろ・う?

 

「は、話せばわかる藤姉!」

 

「士郎はもう毎度毎度毎度────!」

 

「────藤村先生、それを続ける前に。 無礼を承知で申し上げるのですが、今日は夕飯をご馳走になっているだけなのですが? 藤村先生こそ、衛宮君の家にチャイムも無しに上がるのは教師としてどうかと」

 

「わ、わ、私は…私はこの家の監督役なんです! 士郎とみt────衛宮君達のお父さんから任されているんですから、家族も同然なの!」

 

「そうなんですか。 あと先生? 呼びにくいのでしたら無理をなさらずに。 別に先生が衛宮君をどう呼ぼうと私には関係ありませんから」

 

「……………………………………………………えー、遠坂さん? も、もしかして桜ちゃんや三月ちゃん達から()()聞いています~?」

 

「先生のご想像にお任せします♡」

 

 狼狽え始める大河に対して、凛はニッコリと、実にいい笑顔と共に大河に答えた。

 そして桜を見る大河に、桜はブンブンと首を力強く横に振り、次に大河は三月を見た。

 

 そして三月の目は泳いでいたのだった。

 

『三月ちゃん、後でお話があります』

『自分は無実です!』

だまらっしゃい、後で面貸せやゴラァァァァ!

『ひぃぃぃぃん!』

 と言うアイコンタクト会話が三月と大河の間に流れた。

 

 そして夕食後、少なくとも皿洗いはしたいと言う士郎が皿を割る。 このような事は大河もビックリで、「もしかして遠坂さんと言う部外者がいるから緊張しているのでは?」と挑発的に大河が凛に向けて言った。 そして見かねていた凛が変わると言い、士郎と桜は断るが凛は「ご馳走になったのだし、せめてこれ位はしたい」という事で話は終わった。

 

 その後、三月がガミガミと大河に説教を受けている間に士郎は風呂から暗い、月光で照らされた廊下に出ると庭の近くで外の雪を見ていた凛の姿があった。

 

 やはり『ミス・パーフェクト』の二つ名は伊達ではなく、士郎は思わずその姿に見惚れていた。

 そして()()()()()()に視線が行きそうになり、目を閉じて頭を振った。

 

「(何なんだ今日は? 今までこういう風に考えた事なかったのに…………やっぱり朝の()()で意識したのか?)」

 

「? あら衛宮君。 そろそろ帰ろうかと思っていたんだけど……少し話をしないかしら?」

 

 そこで士郎と凛は話す。

 魔術師として育った凛。

 一般人として育った士郎。

 

「自分は快楽主義者」で楽しくなければやらない、と主張する凛。

「自分はじいさんのような『正義の味方(ヒーロー)』を目指していた」と自分の夢を凛に話した士郎。

 

 そして彼にとって魔術は『楽しい』ではなく『正義の味方(ヒーロー)』になる『手段』として見ていた事を凛は知る。

 そして彼女は驚愕する。

 

「じゃ、じゃあ何?! 貴方は自分の為に魔術を習ったんじゃ無いの?!」

 

「え? あ、いや、自分の為じゃないのか結局これって? 誰かの為になれれば、俺だって嬉しいんだから」

 

「……衛宮君、良い? それは『嬉しい』であって『楽しい』とは違うのよ? 貴方自身は『楽しい』って思った事とか無いの?」

 

「…………」

 

 士郎は考える。 深く考える。 

 自分(士郎)が『楽しい』…………

 それは………

 

『考えては駄目だ』と子供の頃は思っていた。

 

 あんなに大勢の人が死んで、自分だけが楽しんで生きるなんて、虫の良すぎる話と思っていた。

 でも今いざとなって、面と向かい、そう聞かれると……………

 

「…………分からない。 分からないよ、遠坂。 俺に、そんな資格はあるのか?」

 

「衛宮君…………………………………………あーもうー! どうして()()()はこうも似ているのよー!」

 

「と、遠坂?」

 

「『似てる、似てる』とは思っていたけど、ここまで来るともう『同じ』よ! 見ているこっちが痛いわ!」

 

 そう言い残し、凛はドスドスと何処に行く。

 困惑し続ける士郎を残して。

 

「???」

 

 その後、士郎は何時も通り、夜の訓練に励んでいた。 『強化』の最適化と速度上昇を。

 ただ、三月が以前にも言った通り進歩は前から芳しくなかった上に、今夜は体の動きが鈍かったので『強化』をする物体を持つ事もままならなかったほどに。

 

「シロウ、今夜も魔術の鍛錬ですか?」

 

 そこにセイバーが現れた。

 

「まあ、欠かさずやれって言うのがじいさんの教えだったからな。 というか教えてくれたのはそれだけだったから…」

 

「何? では、キリツグは魔術師としての知識も在り方も教授されてはいないのですか?」

 

「ああ、本人は言っていた。『自分は魔術師らしくない』って。 ほんと、初めて会った時は『頼れる大人』の雰囲気が不思議なくらい子供っぽい部分があった。 『楽しむ時は思いっきり楽しめ』なんて言って、子供みたいにはしゃいでいたし………でも、自由で全然魔術師っぽくなくても……俺にとってはじいさんこそが本当の『魔法使い』だったんだ………うん、言葉にするなら『憧れていた』かな?」

 

「シロウ、貴方の身体の調子は?」

 

「………やっぱり気になる程、か。 恐らく、昨夜の『投影』の反動だと思う」

 

 土蔵の入り口にアーチャーが現れ、セイバーはすぐに自分を彼と士郎の間に入れ、警戒する。

 

「『投影』をしたと凛から聞いてはいたが、やはりそうか」

 

「何用だ、アーチャー? 我らはまだ不可侵の条約を結んでいる筈」

 

「凛に頼まれ事をされて帰って来たら話し声が聞こえたものでな」

 

「用件はなんだよ、アーチャー。 お前の事だから『話し声が聞こえて来たからただ挨拶しに来た』って訳でもないんだろう?」

 

「珍しく話が早いな。 何、力になれるかもしれんだけの事。 感覚が鈍く、胴体感覚が動く度にずれているのだろう?」

 

 アーチャーが士郎へと歩くが、セイバーは微動だにせず、警告を出す。

 

「止まれ、アーチャー。それ以上進むのならば相応の覚悟をしてもらおう」

 

「良い、セイバー。 もしこいつが俺に害を成すのならワザワザ声何か掛けたりしないさ」

 

「フ、つくづく今日は珍しく話が早いな。 何かあったのか?」

 

 一瞬今日の朝の三月と、さっき会った凛の姿達が脳裏を過ぎる。

 

「な、何でもない!」

 

「??? さて、背中を見せて貰えないだろうか?」

 

 士郎はシャツを脱ぐと、アーチャーは自分の手を士郎の背中に合わせる。

 

「ほう、やはりしぶとい奴だな。 壊死していると思ったが、単に閉じていたものを開いただけか。 お前の状態は一時的なものだ」

 

「グッ…閉じていたものが…開いた?」

 

「要するに、本来使われる筈の回路がお前の中で今までずっと眠っていて、放棄されていたのだ。そしてその回路に全開で魔力を通した結果、回路そのものが驚いている状態。 これでお前の回路は現役に戻った、という事だ。 フン!」

 

「ウグッ?!」

 

 アーチャーが魔力を士郎に流すと、緑色の線みたいな模様が一時的に士郎の身体を巡り、消える。

 

 アーチャーは「自分の仕事は終わった」と言うかのように土蔵を後にしようとする。

 

「数日もすれば回復するだろう。 そして体が万全に動ける頃には以前よりは幾分マシな魔術師になっているだろうさ」

 

「………詳しいのですね、アーチャー」

 

 セイバーの言葉にアーチャーが歩みを止める。

 

「似たような経験が私自身にあって、な。 初めは片腕を持っていかれそうになった」

 

「アーチャー…………」

 

「礼は…………言わねえぞ…………」

 

「それこそこちらにとってはいい迷惑だ…………エミヤシロウ、お前の『理想』は何だ?」

 

「アーチャー?」

 

「……………」

 

「……いや、良い。 忘れてくれ」

 

「待て、アーチャー! お前は…お前は何の為に戦っているんだ?」

 

 そのまま歩こうとしたアーチャーが振り返らずにまた止まる。

 

「お前は『願いは無い』と言った、でもこの聖杯戦争に召喚された。 だったら────!」

 

「────知れた事。 私の戦う意義はただ己の為のみ。 そういうお前はどうだ、エミヤシロウ?」

 

「…俺の…」

 

「お前の欲望が『誰も傷つけない』という『理想』であるのなら勝手にしろ。 ただしそれが本当に『お前自身』の欲望ならばな。 自分の意志で戦うのならその罪も罰も全て自分が生み出したもので、背負う事すら『理想』の内だ」

 

「俺自身の…………」

 

「だがそれが借り物の意志……『欲望』であるのなら、お前の唱える『理想』は『空想』に堕ちるだろう。 どんな戦いには理由がいる。 だがそれは『理想』であってはならない、決して。 何故ならその為に戦うのなら救えるのは『理想』だけだ、そしてそこに『人』を助ける道はない。 戦う意義とは『何かを助けたい』という『願望』だ」

 

 ここで初めてアーチャーは士郎に振りかえり、彼の目は士郎の目を見る。

 

「少なくともお前にとってはそうだろう、エミヤシロウ? だが『他者による救い』は『救い』ではない。 そんなものは金貨と同じで、使えば持ち手が変わるようなだけだ。 確かに誰かを救うなどという望みは達成出来るだろう。 だがそこに『お前自身を救う』という望みが無い。 よってお前はお前のものでない、『借り物の理想』を抱いては死ぬまでその行為を繰り返す。 だから『無意味』なんだ、お前の『理想』は。 人助けの果てには何もない。 結局他人も自分も救えない、偽りのような人生が待っているだけだ。 そんな者には理想を抱きながら溺死する末路が待っている」

 

 アーチャーは今度こそ土蔵を後にし、姿を消し、士郎は拳を強く握る。

 

「……………そんなの…」

 

「シロウ?」

 

「そんなの、結局()()()()()()()からじゃないのか?!」

 

 士郎は半分八つ当たりのように叫び、半分はアーチャーの指摘した「借り物の理想」こそ『要因不足』の一つと彼は感じ始めた。

 

 そしてこの後、凛も衛宮邸に泊まる事になったと知る士郎。

 

「何でさ?! というか何時の間にそんな話になったのさ?!」

 

 そこには凛が私服姿で腕を組み、勝ち誇ったような顔で士郎を見ていた。

 ドヤ顔とも言う。

 

「アーチャーに宿泊道具一式を持ってこさせたの。それに藤村先生の許可もちゃんと貰ってあるから」

 

「え? ちょ、待てって────」

 

「────私は右の客間を借りるわ~」

 

 肩をがっくりと落とす士郎。

 そして二人からは見えない周り角では不服そうな桜がこの会話を聞いていた。

 彼女は拳を胸近くで握り締めながらその場を後にした。

 

 三月は流石に疲れが感じ始めていたのか就寝する用意を既に始めて、士郎は今夜の魔術の鍛錬を続けるのはやめた方が良いと感じたのか、土蔵で修理していたストーブを地味に魔術無しで取り掛かっていた。

 

≪私の戦う意義はただ己の為のみだ。 そういうお前はどうだ、エミヤシロウ?≫

 

 未だに士郎の頭をグルグルと回るアーチャーの言葉を一旦忘れようと始めたストーブ修理だが、逆に土蔵だった為考えさせられる士郎。

 

≪お前はお前のものでない、『借り物の理想』を抱いては死ぬまでその行為を繰り返す。 だから『無意味』なんだ、お前の『理想』は。 人助けの果てには何もない。 結局他人も自分も救えない、偽りのような人生が待っているだけだ。 そんな者には理想を抱きながら溺死する末路が待っている≫

 

 これにより彼は更に集中してストーブを何とか修理する事に成功し、試していた所に閉まっていた土蔵の扉に誰かがノックをする。

 

 コンコン。

 

「(あれ? 三月かな?)はい?」

 

 士郎がそう思い、土蔵の扉を開けると────

 

「あ、先輩。 まだ起きていますか?」

 

 ────そこには何時もの制服姿の桜…………ではなく私服の桜が立っていて、白をメインカラーとした服が雪が降る闇夜の中で輝いている月のような景色に士郎はドキリとした。

 

「ぁ…」

 

「? 先輩?」

 

「あ、ああ。 すまない桜。 寒いから中に入ってくれ。(な、何なんだ本当に今日は? 桜が制服じゃない服を着て、土蔵にいる……それだけなのに……)」

 

≪桜ちゃんってさ~、E-カップなんだって~!≫

 

 桜が中に入り、士郎は雑念(大河)を脳内から追い払いながら扉を閉めると、ストーブから暖かい空気が土蔵中を満たし始める。

 

「あ、そのストーブ直ったんですね?」

 

「ッ! あ、ああ。 最初はもうボロボロすぎて三月と俺が二人掛かりで直していたんだけど、三月が危なっかしくて途中からは俺一人で続けたんだ」

 

「三月先輩が『危なっかしい』、ですか?」

 

「ああ、何というか………自分の事を蔑ろにするような事をし始めていたんだ。 こう、『一度何かすると決めたらやる』って感じでさ」

 

「…………三月先輩()頑固だったんですね」

 

「『()』って…もしかして俺か?」

 

「そうですよ? 物分かりが良いようで、実は()()()()なんですよ? それこそ……………それこそ私みたいな引っ込み思案を無理矢理引っ張るような……」

 

「あー、確かに。 三月が色々とすまなかったな、桜」

 

「あら、私は三月先輩だけではなく先輩の事も言っていたんですけど?」

 

「え? 最後の方もか?」

 

「そうですよ?」

 

 桜がクスクスと笑う、士郎は恥ずかしそうに苦笑いする。

 

「………私、昔は『本当の気持ち』を言わなければ周りは全部上手く行くと、思っていたんです。 でも…………先輩達のおかげで少し勇気をもらって頑張れたんです」

 

「桜?」

 

「先輩……………藤村先生に昔聞いた事なんですけど………三月先輩だけじゃなくて、先輩も養子なんですよね? この家に他所から引き取られて……」

 

「? そうだけど?」

 

「その…………先輩………………()は気にしていないんですか? 知らない家に貰われて、嫌な事もあったんじゃないですか?」

 

「………………『解離性健忘』」

 

 聞きなれない単語に桜は顔を士郎に向け、キョトンとする。

 

「か、かいり…?」

 

「『解離性健忘』。医者が言うには『記憶喪失』の類だそうだ」

 

 桜の目が見開いて士郎の顔から視線が外されず、ただ彼を見ていた。

 

「そ、それは────」

 

「────俺の場合はまだ覚えているモノもあったけど三月の場合、当時()()()()()()()()()()んだ。 自分が誰かも、肉親も、友人も、思い出も、言葉とか何もかもな」

 

「……………わ、私………知らなかった………です…………」

 

「まあ、言いふらす事でもないからな」

 

「でも…………その…………()()()()()()()()()?」

 

「ん? この家の事か?」

 

「…………………はい」

 

「(あれ、これって遠坂にも聞かれたな?) そうだな………………分からない。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。 だけど俺はじいさんのようになりたい」

 

「……………正義の味方(ヒーロー)、ですね」

 

「ああ…………子供っぽいかな?」

 

「いいえ、私には………『かっこいい』ですよ?」

 

 それから二人は黙り込み、桜がまた口を開ける。

 

「もう一つ、訊いていいですか先輩?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「先輩は……皆の幸せの為に自分の知っている誰かが大怪我したりして、それが無ければ皆が不幸になるとしたらどう思いますか?」

 

「俺は怒る」

 

 士郎がほぼ即答して、話を続ける。

 

「それで皆が幸せになるのは嘘だ。 だって、少なくとも『俺』は不幸だ」

 

「え。 で、でもそうしなければ────」

 

「────なら他の方法を探すまでだ」

 

「…………それでも…………方法が無かったら?」

 

「だったらそうさせない為に頑張るだけだ」

 

「先輩?」

 

 士郎が多少の苛立ちを込めた声に桜が気になり声をかけるが、士郎はただスト-ブを見ていた。

 

「自分の出来る事を全部やって、頑張れば必ず方法はある筈なんだ。(そうだ、諦めたらそこで全部終わりなんだ! だったらそうなら無い様に立ち回るだけだ! 『正義の味方(ヒーロー)』だってそうだ!)」

 

「先輩……………」

 

 ストーブを力強く睨む士郎を桜はどこか切ない表情で沈んでいたのを士郎は気付かなかった。

 

「………(ああ、やっぱり()()はそう言うんですね)」

 

 そのまま静かな時間が通り、流石に夜遅くなってきたので桜は何時もの様に衛宮邸に泊まり、士郎は自分の部屋に戻り就寝する前にセイバーに声をかける。

 

「セイバー、いるか?」

 

 襖を士郎が開けるとそこには二の布団があり、ババ抜きをセイバーとしていたパジャマ姿の三月がいた。

 

「あ、兄さんヤッホー」

 

「お疲れ様です、シロウ。 どうしたのですか?」

 

 項垂れる士郎をセイバーが心配する。

 

「…………何で三月がここに? というか今朝もそうだったな?」

 

「ああ、うん。セイバーがこうした方が良いって」

 

「…………何でか聞いていいかセイバー? 朝はビックリしたぞ?」

 

「ハイ。 アサシン…またはそれに類する程の気配を遮断する敵がまだいると分かった以上、マスタであるシロウと一度は狙われたミツキも守らねばならないと思っての事で、私が彼女に提案しました。 伝えるのが遅れて申し訳ない、シロウ」

 

「そ、そうか。(今朝のはセイバーの所為だったのか…………)」

 

「ごめんねセイバー、私って寝相悪かったでしょ?」

 

「…(いや、あれは『悪い』どころじゃなかった気がする)」

 

「いえ、気にする事はありませんミツキ。 寧ろ健康の証と思っていますので」

 

「……(確かに前よりは健康的な肌────じゃなくて!)こ、今度からは先に言ってくれないかな?!」

 

「ハイ、もちろんですシロウ」

 

「じゃあお休み、兄さん!」

 

 そしてその夜、隣でキャッキャッと騒ぐ三月の声が気になって士郎はその夜も寝るのが遅くなったが不思議とその間アーチャーの言葉が頭に浮かび来なかった。

 




作者:ほなお休み

ウェイバー(バカンス体):な?! ちょ、ちょっと待ってくれよ!

作者:うるさいぞ『もやし』! 眠いねん!

三月(バカンス体):あー、『あの子』に会えないからムカついてるんでしょ? ウェイバー君は

ウェイバー(バカンス体):ち、違うからな!

作者/三月(バカンス体):ハイハイ

ウェイバー(バカンス体):バカにしやがって! バカにしやがって!


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第20話 夢と低血圧と中華と『お姉ちゃん』

お待たせしました。20話目です。


 ___________

 

 アーチャー運営 視点

 ___________

 

 凛はその夜、衛宮邸の結界が優秀な割に明確な外敵に対して余りにもお粗末だったのを、「せめて自分の借りている部屋は」と思い、新たに結界を施している最中にアーチャーから連絡が入った。

 

『凛、いつまで遊んでいるつもりだ?』

 

「あら? 魔術師たるもの、自分の身を守る結界ぐらい────」

 

『────そうではなくて今の状況の事だ。 他の者と協力関係になる事自体は悪くない。 だが君の場合、選んだ手段と工房場所が悪すぎる』

 

「前にも言ったけれど、衛宮君なら何があっても裏切らないと思うし、裏切ったとしても程度が知れているわ。 私の能力範囲内で充分対処可能よ。 それに場所に関してはあの()()がいるもの、出来るだけ近くに居れば────」

 

『────そうかな? ここには“()()”が有るのが大体の理由かと思ったのだが、見当違いか?』

 

 ピクリと凛の作業する手が一瞬止まる。

 

『魔術師の君の事だ。 “()()”を解析し、応用出来れば君の立場はかなり有利になるのではないか?』

 

「………そうね。 興味が無いと言ったら嘘になるわ。 でもまずは遠坂の当主としてこの異常な聖杯戦争を調べるのと起こっている事件を止めるのが先よ。 幸い、キャスターという()()()魔術師は排除できた。 あと、アーチャー────」

 

 凛が作業を再開する。

 

「────()()()()()』呼ばわりしないで頂戴」

 

『私は治癒薬の方を話していたつもりだが、はて?』

 

 のらりくらりと答え続けるアーチャーに凛は嫌味たっぷりの声で答えた。

 

「どうだか。 貴方が言うと、どちらにも聞こえくるわ……………………………アーチャー?」

 

 アーチャーから予想していた答えが返ってこない事に凛は頭を傾げる。

 だがそんな日もあるだろうと思った凛は結界の作業を終えて、就寝する。

 

 ___________

 

 衛宮三月 視点

 ___________

 

 三月は夢を見た。

 何時もの、自分一人だけがいる景色ではなく。

 何時もの、自分が何度も酷い目に会う経験ではなく。

 今回は、少し違った。

 

 『体は────で出来ている』。

 

 知らない声で復唱していて、知らない場所で、知らない人達が死んでいった。

 それはどこかかつてのおじさん(切嗣)の見た風景のようだった。

 

 今では遠い、遠い記憶。 胸の奥に閉まった記憶が呼び起されたのかと三月は思った。

 だが場所も時代もその人達の装備さえも関連性は無く、バラバラで、終わりが来るとすぐさま次の場に()()

 その有様が余りにも機械的で、どこか()()()さえ覚えた。

 

 だがそう思った瞬間、ザワリ付くような感覚に三月は目を覚まし、()()()()()に寝相の悪さで布団から出ていて部屋の端の壁側に横たわっていた。

 

「…………………………さぶ!」

 

 そして寒さで一気に意識は覚醒していた。

 せめてもの救いは今回パジャマが開けていなかった事か。

 

 ___________

 

 衛宮士郎 視点

 ___________

 

 

 士郎は夢を見ていた。

 自分はどこかの緑に満ちた平原で立っていて、目の前には不毛な地が続いていた。

 それはまるで極端に世界自体に『線』が引かれて、自分がいるのは『生きている地』で線の『向こう側』が『死んでいる地』のようだった。

 

 後ろに気配がすると思い振り返ると、そこには自分の知っている友人達や知り合いの姿があった。 自分は何でこんなところに立っているのだろうと思う中、不毛な地の方へと再度視線を送るとそこには自分の()()()()()人の後ろ姿があってその地を一人で歩いていた、士郎は手を伸ばし────

 

 

 ────士郎は目を覚ました。

 

「…………何だったんだろう?」

 

「…………………………さぶ!」

 

 隣の部屋から三月の声が聞こえて、士郎は体を起こした。

 

「…………三月?」

 

 襖が開いて、士郎は先日の姿を思い出して顔を逸らし、襖がまた閉まる音がした。

 

「おはよう、兄さん。 って、何でこっち向かないの?」

 

「……………この間、お前の寝相凄かったぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれ? そうだっけ? ………でも今回は大丈夫よ?」

 

 そして士郎は思い出す。

 

「その…………………三月って…………」

 

「うん?」

 

「下着履いていないのか?」とは言えなかった。

 

「じゃあ、私先に出ているね。 時間になったら道場に行くから」

 

 三月の気配が士郎の部屋を出ていくと、彼はセイバーがまだ眠っているのを確認した後、何時もの朝が────

 

「────ほら遠坂さん! シャンとして!」

 

「ん~~~~~~~~~後…………五分…………」

 

 訂正。何時もの朝では無かった。

 リボンのしていない黒髪がぼさぼさしていて、明らかに寝起きに状態の凛を三月が支えていた。

 

「あの………私は朝御飯の用意をして置きますから」

 

「助かる~! 桜ちゃんほんっと良い子になったわ~♪」

 

「いえ、これも先輩達のおかげですから」

 

「んあ~~~~~~~~~~」

 

 未だに全然意識の覚醒していない凛を連れて次々と朝の支度をさせる三月に桜が苦笑いを浮かべていた。

 

「おはよう桜、すまないな朝から色々と」

 

「いえ。 私は…大丈夫です」

 

 聖杯戦争が活発的に行われていないとは言え、アサシン(またはそれに類する者が健在の事)や、初日からほぼ姿を見せていないランサーなどの不確定要素がまだあるなか、稽古は継続していた。

 夜の予定してある巡回もあるので自衛手段と戦いの中で冷静な考えが出来るように。

 そしてその朝の稽古にセイバーが士郎達を褒めていた。

 

「二人共には驚きました。 まさか数日の間にこれだけ腕を上げるとは」

 

「え? そうか?」

 

「はい。 昨日の稽古より数段腕が上がっていたので思わず少し本気を出しそうになったくらいです」

 

「あ、じゃあやっぱりあの『ブワッ!』ってした風の流れはセイバーなの?」

 

「はい。 あれは内側に貯めてある魔力を一気に放出し、一時的に自分の能力を上げる手段です」

 

「あ、じゃあ『プチ瞬間激強化』みたいな?」

 

「な、何か三月の思い浮かぶネーミングセンスって安直だな」

 

「それはおじさん(切嗣)の所為と思って」

 

「ですが三月、本当に身体の様子は大丈夫ですか? 私が言うのも何ですが、無理はしていませんか?」

 

「だーいじょうぶだって! もうほんと全然調子が良いから! 何なら第二回戦行っても良いくらい!」

 

「ほう?」

 

 三月の宣言に目を細めるセイバー。

 そして再開される二回戦────

 

「────でやぁぁぁぁ!」

 

「フン!」

 

 ドォン、ドォンと重い音が道場から響き、飛ぶ風圧に道場の窓と扉はガタガタ音を立てて、士郎の髪の毛は揺らいでいた。

 

「(あー、何かセイバーが二人いるみたいだー)」

 

 若干現実逃避をし始める士郎の目の前には金髪の少女(?)が二人激しい攻防を交えていた。

 竹刀とは思えないほど重い一撃を両方が繰り出し、笑いながら。

 

「流石セイバー! 凛が羨ましがる訳ね!」

 

「ミツキこそ! 良く私の剣筋をここまで再現しています!」

 

「実際には流している方が多いんだけど、ねッッ!!!」

 

 流石に場所を二人は意識をしているのか、道場自体は傷ついていない。

 だが────

 

 バキィ!

 

「「────あ」」

 

 セイバーと三月が同時に声を出して、手の中の()()()()()()()を見る。

 

「あちゃ~、遂にやっちゃったか」

 

「ご、ごめん兄さん!」

 

 士郎に体が申し訳なさそうに畏まり、顔がショボショボし始める三月。

 

「申し訳ないです、シロウ」

 

 そして同じく申し訳なさそうに頭を下げるセイバー、そして前回三月が言った様にヘナヘナと項垂れるセイバーのアホ毛が彼女の心境を表していた。

 

「い、いや良いんだよ。 竹刀なんてまだあるし、買えば良いからさ」

 

「み、皆さ~ん。 あ、朝御飯の用意が出来ました」

 

 道場の外から来た桜の声にセイバーのアホ毛はピンッ!と跳ね上がったブンブンと元気よく動く。

 

「では本日の稽古はここまででどうでしょうか、シロウ?」

 

「あ、ああ。 先に行ってくれセイバー。 三月と相談したい事があるから、皆には先に食べててくれって言ってくれ」

 

「そうですか。 ではそのように皆に伝えてきます」

 

 セイバーが道場の後をすると彼は竹刀の片付けをしていた三月に声をかけた。

 

「三月、少し相談に乗ってくれるか?」

 

「んー? なーにー、兄さん?」

 

「朝御飯の後、俺の鍛錬に付き合ってくれないか?」

 

「セイバーじゃなくて?」

 

「ああ、そっちの鍛錬じゃなくて────」

 

 士郎の頼みを(何時もの様に)受けて即答する三月と彼はその後久しく嗅いでいない香辛料に頭を傾げる。

 

「あれ? 何の匂いだこれ?」

 

「…………ラー油?」

 

 ダイニングの方に行くと何か勝ち誇ったような凛がドヤ顔で立っていた。

 

 そしてテーブルの上にはありとあらゆる中華料理。

 

「さあ! たーんと召し上がりなさい!」

 

「これ………遠坂が作ったのか?」

 

「は、はい………」

 

「そうよ! 先ずは────」

 

 士郎がどこか落ち込んでいるような桜に聞くと肯定の答えが来て、凛が士郎に作ったものの説明し始める。

 そして桜の様子に気付いた三月は何か彼女に耳打ちをしていた。

 

「え?! で、でも」

「いいじゃん! ちょっとした仕返しよ! 良い────

 ?」

 

 凛の後ろで話していた二人に気付いた士郎だが未だに喋り続ける凛。

 そして────

 

「あ、ありがとうございます、姉さん」

 

「ウェ?!」

 

 突然後ろから抱いて来る桜に戸惑う凛は必死にニヤつく顔を止めようとしていた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん♡!」

 

「ハウ?! ♡」

 

 そして二撃目の三月が抱きつき、元気よく声をかけると凛の抵抗が空しく敗れる。

 

「どう皆? 遠坂さんのにやけ顔?」

 

 三月の注目で皆が見た凛の顔が『ミス・パーフェクト』や普段見る彼女からは程遠いだらけ顔があった。

 

「「「…………………ブフゥー?!」」」

 

「……………ハッ?!」

 

 凛のあられもないだらけ顔に士郎、桜、セイバーまでもが吹き出し、これによって凛は現実に戻る。

 

「(フ、如何に強固なATフィールド(絶対不可侵領域)とは言え────)────アガッ?!」

 

 三月の頭が凛の両手に摑まれ、ニッコリとした凛の顔が三月の顔に迫った。

 

「三月ちゃん、ちょ~っとあっちで話し合いまそうか? ♡」

 

「きょ、きょ、拒否権────」

 

「────なんて無いに決まっているじゃない♡」

 

 凛はそのまま三月を(体を頭から持ち上げられて)ダイニングの外に連行される。

 

『……………ぎぃぃぃやあああぁぁぁぁ!』

 

「じゃ、じゃあ冷める前に食べようか?」

 

「そ、そうですね」

 

「ハイ」

 

 苦笑いを浮かべながら士郎がご飯を食べ始め、桜とセイバーも同じくする。

 

 以前三月が作った激辛麻婆豆腐の印象があったが驚く程凛の中華料理は美味で、味わいが楽しめた。

 帰って来た凛は肌のツヤが良くなっており、逆に三月は若干ゲッソリしていたが料理を食べ始めると何時もの(?)調子に戻った。

 

 ___________

 

 衛宮士郎、三月 視点

 ___________

 

 そしてその後、三月と士郎が薄暗い土蔵で何かをしていた。

 

「じゃあもう一度行くわよ?」

 

「ああ」

 

 土蔵の中が一瞬光、三月の手の中には()()()()()()()()が握られていた。

 それを士郎が手に取るとずっしりとした重さが帰って来た。

 

「やっぱり俺のとは違うな」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ、俺のは()()()()()()()

 

 士郎は自分と三月の『投影』を比べていた。

 今朝の稽古の最後士郎には珍しく、三月に「魔術の鍛錬に付き合ってくれ」と頼んでいた。

 三月は一瞬「どうしたものか」と考えたが士郎が大抵の場合こういう風に面と向かって頼むときの彼は『余裕が無い時のみ』と()()していたので(躊躇なく)承った。

 

 そして朝ご飯の後、土蔵に籠ると言った士郎が同時に凛や桜に「邪魔しないでくれ」と頭を下げた時、桜はすぐに同意したが凛は不服だった。

 

 それでも士郎は三月と土蔵に入り、セイバーに見張りを頼んだ。

 ちなみにそのセイバーは報酬として三月特製手作りビスケットをポリポリと食べていた。

 なおアホ毛はミョンミョン動いていたのでかなり気に入っていたのは誰にでも分かっていた。

 

 土蔵の中で士郎は恐らく三月は『投影』も使えると思い、「アーチャーの双剣を『投影』して見てくれ」と頼むと案の定、三月は士郎が思った通り『投影』をした。

 三月は先日見た士郎とアーチャーの剣の()()()を【  】のログ(記録)を検索すると割とすぐに『投影魔術』が出てきて、行使した。

 

 そして不思議な感覚に三月が包まれた。 それは以前どの魔術を行使した時でも感じた事のない既視感に似ていた。

 以上が事の出来事の順番である。

 

「あ、待って兄さん。 体の調子はまだ万全じゃないんでしょう?」

 

 士郎が『投影』しようとするのを三月が止めた。

 

「まあ、体の痺れは引いたし今は意外と体の調子が良いんだ。 一回ぐらいは良いだろ。 『トレース、オン!』」

 

 そして士郎の手には双剣の内一つの片割れが表現されていた。 それを士郎はよく見ると溜息を出し、三月に手渡す。

 

 姿形はひどく似ていて、ほぼ同じ。だが敢えて言うのならやはり士郎が言うように()()が違った。

 

「うーん……………何だろう? 『何が違う』って聞かれたら困る」

 

「だろ? 何かが違うんだ………やっぱり俺には────」

 

「────そんな事ない。 兄さんは昔から自分を過小評価し過ぎ。 弓何かは兄さんほど上手く射てる人はいない、私も含めてね」

 

「でもあれは……違うんだ」

 

「違う????」

 

「あれは、魔術の鍛錬の応用だ。 弓道で自分を()()()、自分を『無』にするんだ」

 

「自分を…………()()?」

 

 三月の胸がざわつき始めたが、彼女はそれを振り払うかのように士郎の作り出した短剣を両手で握る。

 

「私になら…もしかすると()()()かも知れない」

 

「三月?」

 

「…………」

 

 三月はただ眼を閉じて集中する。 長年()()して使っていないモノを。

 

【…………………告。 『干将・莫耶』の模造品が魔力不足にて更に劣るコピー版】

 

「キタキタキタァァ! これだぁぁぁ!」

 

「うわ?! な、何だ三月?! どうしたんだ!」

 

 びっくりする士郎に三月は二カッと笑いながら言う。

 

「兄さんはただの魔力不足なんだって!」

 

「………………ハァ?」

 

「これなら遠坂さんに相談すれば何とかなるかも知れない!」

 

 三月の言葉で気付いた士郎は徐々に笑顔になり、三月を抱きしめた。

 

「わ?! わ?! わ?!

 

「でかした三月! 流石だ! これで俺も()()()()()()()()()()!!!」

 

【告。 心拍数上昇。 安定サセマすか?】

 

「あー、お兄ちゃん? ちょ~っと近い。かな?」

 

「ん? うおわ?! す、すまん!」

 

 士郎はすぐに三月を手放して、振り返る。

 だがさっき抱きついた時の、一つの違和感が彼の脳裏を過ぎった。

 

「…………そう言えば三月ってブラしていなかったな」

 

「え? してるよ、私?」

 

 サァーっと血の気が引く士郎の顔は暗い土蔵でもハッキリと分かるくらい青くなっていた。

 

「……………お、俺………もしかして声に出していた?」

 

「ん? まあ厳密に言うと────」

 

 そして別に何でも無い様に延々と言葉を続け、士郎の後ろではシュルシュルと布の擦る音とかが聞こえた。

 

「────これはブラじゃなくてk────」

 

「────そこまでの説明はしなくて良いから!」

 

「????」

 

 三月はただ?マークを飛ばすだけだったのだ。

 

 それから糸状のアオガラが二人のいた土蔵に降り立った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 太陽が落ち始めた頃に士郎達はアインツベルンの森までタクシーで近づき、森を歩いていた。

 

 朝、イリヤから連絡がありアインツベルン城に来て欲しいと。 ただ時間もあり、霊体化出来ないセイバーも居た為、いつも以上に時間を要していた。

 前回みたいにサーヴァントに支えられ高速で移動するならそこまで時間はかからない。 が、少なくとも人目が付く可能性の午前で派手な動きは出来なかった。

 もし魔術の秘匿が出来なかった場合、聖杯戦争中であれ魔術協会がすぐに『秘匿』と言う名目上の武力で攻め込み、聖杯戦争関係者全員を殺すかホルマリン漬けにされて標本にされるだろう。

 文字通りの『証拠隠滅』と『確保』である。

 

「怖っ?! 魔術協会怖い!」

 

 これを愚痴っていた三月に説明した凛はジト目で彼女を見る。

 

「当り前よ。 だからマスターは人目の付かない所で戦うのよ」

 

「そうだったのか。 てか、流石に今回は結界や罠に遠坂が巻き込まれる事は無い筈だよな?」

 

「……………………………………」

 

「な、無い筈だよな?」

 

「……………………………………」

 

「遠坂さん?」

 

『何故黙る凛? 正直に“あの娘ならやりかねない”と言えば良いだろうに』

 

「うっさいアーチャー!」

 

『それより凛、気を付けろ。 結界に異常がきているらしい』

 

「え?」

 

「そうなの、アーチャーさん?」

 

 聞く三月をアーチャーは答えず、ただ話し続ける。

 

『先程結界の境界線を越えたがピクリとも反応していない』

 

「そう言えば………」

 

 アーチャーが突然姿を現し、すでに双剣を両手に構えていた。

 

「セイバー、剣を構えろ」

 

 セイバーが私服姿から甲冑に変え、アーチャーとは反対の方向を警戒していた。

 

「方向が上手く読めません、恐らくはアサシン…………」

 

「……凛、ここは私に任せていけ」

 

「アーチャー?」

 

「私はこの中で囮に適している、違うか? それとも────」

 

「(何であいつ、こっちを見ているんだ?)」

 

「────()()()()を囮にするかね?」

 

「癪に障る言い方。 いい、アーチャー? 深追いはしなくて良いわ。 私達の目的を見失わないで」

 

「勿論だとも。 走れ!」

 

 アーチャーは双剣をそれぞれ別の方向に投げ、迫って来ていた黒い短剣(ダーク)を叩き落とすと同時に凛達は走り始めた。

 

 残されたアーチャーは双剣を再び両手で握ると笑いながら襲撃者に声をかけた。

 

「標的を追わなくて良いのかな? 余裕を持っているのかな? それとも追えないのかな?」

 

「………………………」

 

 帰って来る沈黙にアーチャーは軽く舌打ちをしながら気配を感じ捉え始めた。

 彼の認識ではアサシンは()()()()()()のではなく()()()()()()()

 つまりアーチャーが囮を買って出たように、襲撃者も囮、『足止め』だった。

 

「(ならば早急に終わらせる!)」

 

 アーチャーは弓を出して歪な剣に似た矢を次々と放ち、周りの木の上部分を吹き飛ばし始めた。

 周りの遮蔽物の除去と同時に敵を炙り出す為の行動に彼は出た。




マイケル:ちょっと待てい!

作者:ヒッ?! な、何ですか?

マイケル:この『凛』ってこの顔、誰も写真を撮らなかったのか?!

ラケール:ちょ、マイケル。 時代を考えなさいよ。 携帯自体が珍しいのに…

マイケル: あ? 『携帯』? 『スマホ』じゃなくて?

三月(バカンス体):あ~、そこからか。 『携帯』は殆どの場合電話機能しかないわよ?

マイケル:なんですと? …………………そんな時代があったのか?

チエ:何を言っている? 『電話』さえ無かったぞ、私の場合

マイケル/ラケール:え゛

作者:う~ん、懐かしきノキアの電話時代!

マイケル:そんな時代に俺は住みたくねえ!

作者:………………………

マイケル:おい!やめろ! にやけるな! 俺を見るな!

作者:………………………

三月(バカンス体):ちょ?! 今度は私を見ないでよ?!

作者:どうしよかな~


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第21話 ばーさーかーはさいきょうなんだ!

===================================================
『運命』を認識したある歯車は黙視した。

ズレが生じた今こそ『楽しい』と。

未だにくるくるくるくる回る歯車達。

歯車達の『運命』や如何に?
===================================================


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛 視点

 ___________

 

 士郎、三月、セイバー、凛が走り、城が見えた所で後方から爆発音にも似た音が聞こえて来た。

 

「後ろはアーチャーに任せて、私達はイリヤスフィールと合流するわよ!」

 

「分かった! セイバーは三月を────」

 

 士郎の言葉が、突然横に飛翔しながら剣を振るうセイバーの動きに遮られる。

 セイバーの剣が()()()()()()を弾き飛ばすと、鎖のジャラジャラとする音が聞こえた。

 

「この武器、ライダーか!」

 

「慎二のサーヴァントが何で?!」

 

「……忘れたかしら衛宮君、休戦はあくまで『キャスターとアサシンを打倒するまで』。アサシンはともかく、メインのキャスターがいなくなった今無効になっているわ」

 

『……驚きましたね。 聞いていた話よりもっと熱い方と想定していましたが、そのように冷静に考えられるのですね』

 

「あら、褒めても何も出てこないわよ、ライダー? 精々ガンドの乱れ撃ちぐらいね」

 

「あ、久しぶりでーす」

 

「「「三月?!/ミツキ?!」」」

 

 三月の何時ものマイペースでのほほ~んとした姿をまだ見せていないライダーへの挨拶で士郎、凛、セイバーは驚愕する。

 

『………………』

 

「貴方、何呑気に挨拶なんかしているの?!」

 

「そうだぞ三月! 時と場合を考えろ!」

 

「え? でもでも、あんなにかw────」

 

『────私の受けた命令はサーヴァントの足止めです』

 

「「…………へ?」」

 

 ポカンとする士郎と三月に凛はセイバーを見る。

 

「だ、そうよセイバー?」

 

「分かりました。 ではリン達は先を」

 

「ええ。行くわよ、衛宮君!三月!」

 

 凛が他の二人を引っ張り、セイバーはその場に残る。

 

「ありがとうございます、ライダー」

 

『…………何の事です? 私の獲物は貴方────』

 

「────ですが無用な足止めをあの三人にせずに済みました」

 

『もう勝った気でいるのですね…………では────』

 

 

 

 

 先頭を走る凛に士郎は声をかける。

 

「遠坂、あれは一体何だったんだ?!」

 

「多分だけどライダーはサーヴァントの足止めを命令されているのを遠回りに私達に伝えたかったのよ! それを理解した私セイバーはとっとと決断しただけ!」

 

「それって、ライダーは俺達を見逃したかったという事か?」

 

「多分ね! (それだけじゃないと思うけど…………あのタイミングの事を考えれば────)」

 

 アインツベルン城の城壁に着いて、いざ中へ入ろうとすると途端に中から様々な武具が飛び出て城は瞬く間に穴だらけになっていく。

 

「イリヤ?!」

 

「チッ、敵はもう既に中に入っているなんて!」

 

「イーちゃん!!!」

 

 士郎達三人はボロボロになっていくアインツベルン城の中へと突撃する。

 

 ___________

 

 バーサーカー運営 視点

 ___________

 

 

 時間はその日の昼頃へと戻る。

 イリヤスフィール達は過去の聖杯戦争の書類を漁り、同じような異常事態、または通常から外れている文章などを探していた。

 

 そこで見つけたのは第一次から前回の第四次聖杯戦争の結末などだった。

 第一次では明確なルールなど無かったものの参加者たちは純粋に聖杯の降臨を目指していたので何事も無く聖杯は出現した。 だがいざ完成した聖杯が降臨するとルールが想定されていない上に令呪のシステムの無かった為に冬木市は混沌へと変わり、聖杯は自然に経過時間によって消滅した。

 

 第二次では先の聖杯戦争の教訓からサーヴァントを御する令呪のシステムが第一次の生き残りの一人、マキリ・ゾォルケンが提案し、採用する事となったが聖杯戦争は結局失敗に終わる。 新しい令呪のシステムをよく理解していなかった為、令呪を三画すべて使用するなど、サーヴァントを強要するなどと言居た行為が犯され、サーヴァントの反逆などが出てきて聖杯戦争どころではなかった。

 

 第三次ではさらにルールが細かく決められ繰り広げらるものの、第二次世界大戦直後だった為に、当時の大日本帝国にとって重要な港町の一つであった冬木市の屯駐地の帝国軍とナチスが町の異常に気付き戒厳令を宣言、そして介入した。 これにより魔術協会と聖堂教会と共に後に介入し、そして聖堂教会から監督役を配置する事で折り合いをつける事となる。

 

 ここでイリヤには違和感が出た。

 

 第三次聖杯戦争はこれだけ細かく資料などがあるのに、アインツベルン(聖杯の器提供者)の書類にはただ『聖杯の器が途中で戦闘に巻き込まれ破壊され、聖杯戦争は無効となった』とだけあった。

 

 各運営のサーヴァントの情報や推測、長所短所の推測などがあるのに第三次に至っては()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような報告書だった。

 

 だがこれはシステム上()()()()()。 何故なら聖杯を降臨させる聖杯戦争システム設立当初には「七人のマスターと七騎のサーヴァントを用意、優先的に御三家からマスターを選択し、他四名が選択される」となっている筈。

 

 では第三次にアインツベルンは()()召喚した?

 

 少なくとも「聖杯の器」の報告書があったという事はアインツベルンは参戦していた筈。

 

 そして遂に第四次聖杯戦争、衛宮切嗣が「聖杯の器」の護衛役と共にマスターとしてアインツベルンに雇われる。

 最後には聖杯を手に入れられる一歩手前で衛宮切嗣は聖杯を手放し、()()()()()()()()()()()()

 そう報告書や書類には書いてあるが、イリヤは以前に三月から話を聞かされ、衛宮切嗣を()()()()事により、衛宮切嗣の()()()の原理や聖杯戦争中の行動をある程度解釈できた。 

 そして彼の降臨した聖杯に対しての圧倒的()()()()の決意。

 これを十年前、冬木市に大きな爪痕を残している「冬木大火災」を照合すると────

 

「セラ、リズ。 アハト翁に大至急連絡を取って。 『第三次聖杯戦争に()()()()()()のか聞くまで聖杯戦争は中断する』、と」

 

 これを聞いたセラは目を見開く。

 目の前のイリヤがアインツベルン当主に愚痴どころか、「苦情」を出すと言ったのだ。

 それも「役割」に対してストライキレベルの。

 

「お、お嬢様?! お気は確かですか?!」

 

「本気よ、セラ。 貴方がやらないのなら私がやる。 こんな状況で聖杯戦争を続けるなんて馬鹿げているわ。 もしかしたら……いえ……とにかく、連絡を送って」

 

 イリヤはささっと何かを紙に書いてから立ち上がり、近くの窓を開けて髪の毛から作った糸状のアオガラにその紙を括り付けると糸状のアオガラは飛び立つ。

 

「セラがやらないのなら私が送る」 ←棒読み

 

「リーゼリット?! 貴方まで!」

 

「イリヤは本気で怒っている。 激おこぷんぷん丸」 ←棒読み

 

「…………何ですか、それは?」

 

「三月曰く『すごく笑えるくらい怒っている』という事」 ←棒読み

 

「クッ、()()あの娘ですか?!」

 

 三月の事を思い出したセラの頭に半分反射神経のように痛みが走り、彼女は顔をしかめる。

 何せ三月と会ってからのイリヤはともかく、リーゼリットもかなりの影響を受けていた。

 自我の希薄な筈の彼女は三月と会ってから生気と言うか、未発達だが『感情』さえも芽生え始めていたかのように思えた。

 

『リーゼリット』。 アインツベルンの『ホムンクルス』に()()()()。 本来は聖杯として作られたが「失敗作」と印を押され、廃棄処分だった運命を「イリヤの侍女」の役割に収まり延命。 ただ元々人間性などを持たせる事を前提にしていなかった為、『ホムンクルス』として機能などの欠陥が目につくほどで、以上に並べた「希薄な自我」も「イリヤ」と言うアインツベルン最高傑作の副産物だった。

 

 始めはリーゼリットの変化はイリヤの変化に由来していたとセラは思っていたが時間が経つにつれ、イリヤとは()()と感じた。

 

 天真爛漫かつ計画的なイリヤに対して、以前のリーゼリットは良く言えば「マイペース」。 悪く言えば「イリヤイエスウーマン」。

 

 その様なリーゼリットが自分から「ケーキが欲しい」や、「今日のイリヤにはこっちの服の方が似合うと思う」等々の『意見』を出し始めていた。

 この変化に純粋に喜ぶイリヤと違い、セラは三月の事を危険視していた。

 

「あれだけアインツベルンの『ホムンクルス』に(しかも失敗作に)()()()()()()()()()()()()()()()は何だ?」と思わせるほどに。

 しかも主のイリヤは彼女が(自分達が言うのも何だが)人間(ヒト)ではない事に気付きながらも気軽に会おうとしている。

 

 イリヤが良く三月や士郎の事を良く話すのが面白くないのは(あまり)セラには関係が無い(筈)。

 

「お嬢様。 重ねて申し上げますが少年の方はともかく、彼の妹君の方は危険です。 距離をもう少し取った方が────」

 

「────セラ、たまにはイリヤのさせたいようにさせた方が発散になる」 ←棒読み

 

「ほらー! リズもこう言っているんだし! 少しくらいいいじゃない!」

 

「………(あの娘、どうにかしないと)」

 

「それはそうとリズは次彼女が来たときは何のケーキだと思う?」

 

「シフォンケーキが良い」 ←棒読み

 

「ええ~? 私はチョコフォンデュ!」

 

「どちらでもワクワクする」 ←棒読み

 

「(………本当にどうにかしないと私が持たないわ!)」

 

「ズンッ」とした、お腹に来るような感覚が三人を襲い、彼女らは即座に同じ方向を向く。

 

「お嬢様────」

 

「────招かれざる客が来たみたいね。 リズ、武装を用意して。 セラは索敵の遠見を────」

 

 ここにいた誰もが想像していなかったであろう、()()の対決に幕が上がる事を。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『遠見』の向こうでは金髪の青年がアインツベルンの森を()()()()()()()

 

「これは?!」

 

 しかしただの森とは訳が違うアインツベルンの森を金髪青年は平然と歩き、罠などをことごとく破るどころか無視していたかのように見えた。

 発動はしているのだが攻撃が当たる前に()()に対処されていた。

 

 そして青年は『遠見』しているセラを睨むかのように見て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「きゃあ?!」

 

 水晶玉は砕け、槍はそのまま部屋の壁に突き刺さって数秒後に光の因子になってから消える。

 

「セラ、大丈夫?!」

 

「わ、私は大丈夫ですお嬢様。 私とリーゼリットが時間を稼ぎます。 ですから────」

 

 さっきの「ズンッ」とした感覚が数回三人を襲い、破られた結界に再度負担がかかるのを彼女らは感じる。

 

「新手────」

 

 リーゼリットは近くに立てていたハルバードを手に取る。

 

「イリヤとセラは…………私が守る」

 

 そこには何時もの「棒読みトーン」ではなく、しっかりとした覚悟の籠っていた声で、イリヤとセラは驚く。

 

「リーゼリット、貴方────」

 

「だから、逃げて」

 

「………嫌だ」

 

「お嬢様?」

 

 かすかに笑うリーゼリットがイリヤに逃げてと言い、イリヤはそれに異を唱える。

 

「………さっき、シロウ達に連絡を送った。 だから、私達はここにいるべきよ! 三人で皆を迎えるの! それに…………バーサーカーが守ってくれる!」

 

 ドゴォン!

 

 イリヤが喋り終わると外から大きな音がした。

 まるで壁が粉砕されたような音だった。

 

「では、この無礼なお客…………いえ、『賊』を城主としてもてなしましょう! 行くわよ、セラ!リズ!」

 

 城の庭園にイリヤ達が着くと、そこには先程水晶玉で見た金髪の青年が屋根の上から懐かしそうな目で下にある庭園を見ながら座っていた。

 

「十年の時を経ても変わらぬ、か」

 

 イリヤ達はこの青年の放つ空気だけで本能的に感じていた。

 ()()()()()()()()()()と。

 

「イリヤ。 セラ。 逃げて────」

 

「む?」

 

 青年が初めてイリヤ達に築いたかのように見て、笑顔になった。

 イリヤ達には恐怖の元でしかない笑顔であったが。

 そしてセラとリーゼリット、そしてイリヤに対して言葉を送る。

 

「何かと思えばホムンクルスか。 悪くない出来のようだ、人型でありながら自然の嬰児として成立している。 余程良い鋳型で作られたのだろうよ……ん? ほう、そこのお前が聖杯の器を持つ人形か? ホムンクルスと人間の混ざりものとは…………ハ、また酔狂なものを作ったな」

 

「何と言う血なまぐさい男────!」

 

 セラの苦し紛れのような文句に青年はただ笑う。

 

「何、そう怯えるな。 その畏怖をもって我への不敬を免罪とする。 そこな二人の召使、命が惜しくば疾く失せよ。 十秒の猶予を与えてやる」

 

「その言葉は聞けませんね。 お嬢様を外敵からお守りするのが我ら二人の役割!」

 

「それにイリヤを置いて逃げるなんて死んだ方がマシ」 ←棒読み

 

「セラ、リズ………」

 

「フ、魔術師共も学ばぬな。 ()()に人の心をつけるなど…………所詮人間共では、お前たちの純粋さに報いられんと言うのに────」

 

「────ッ! バーサーカー!」

 

 青年の周りの空気に歪みが生じると、イリヤはほぼ本能的にバーサーカーを霊体化から呼び出す。 すると空気の揺らぎからあらゆる武具が放出され、正面に立ったバーサーカーによって払い落とされる。

 

「バーサーカー、私()を守って!」

 

「お嬢様?!/イリヤ?」

 

「三人で…………皆でシロウ達を迎えるの!」

 

 青年の笑顔は更に大きくなり、彼が屋根の上で立ち上がる。

 

「だそうだ。 では来るがいい、大英雄! 貴様が相手ならば我の倦怠も晴れるかも知れぬというもの!」 

 

「■■■■■■!」

 

 バーサーカーが答えるように咆哮を上げる。

 

「神話の戦い、ここに再現するとしようではないか!」

 

 青年の周りから様々な武具が飛べ出てバーサーカーへと飛来する。これらをバーサーカーは払い落とす事無く、自らの巨体を盾代わりに使って後ろの三人を体で守る。

 

「……ほう? ではこれはどうか!」

 

 次に放たれた武具をバーサーカーは払い落とす事に取り掛かるが、量が多かった為、今回はバーサーカーの身体に次々と突き刺さり始め、武具は光の因子になり消滅する。

 そしてまだ健在であるバーサーカーを青年は面白そうに見ていた。

 

「よもや、死から蘇る者がいようとはな。 成程、貴様の人生や逸話を宝具として昇華したものか。その様な宝具()()は我の手にはない。 業腹だが、貴様には最上級の武具しか通じぬらしいな」

 

 ここで青年は屋根から庭園に飛び降りるとイリヤはセラとリズに小声で喋る。

 

「セラ、リズ。 シロウ達をここに連れて着て頂戴」

 

「お嬢様を置いて────!」

 

「────セラ。 私たちは邪魔、行くよ」

 

「え?! ちょ、ちょっとリーゼリット降ろしなさ────ああああああああ?!」

 

 リーゼリットはセラを担ぎ、無理矢理その場から猛スピードで連れ去る。

 

「…………あの二人を見逃すの?」

 

 そしてイリヤは青年に挑発的に言う。

 

「もとより俺は退()()()()()の為にここに来た。 それだけだ」

 

 イリヤはギリっと奥歯を噛む。

 

退()()()()()』。

 

 この青年は自分のバーサーカーとの戦いをそう呼んだのだ。

 それを────

 

「────曰く、()()()()()は十二の難行を乗り越えてその末に神の座に迎えられたという」

 

 イリヤの身体がビクリとする。

 何故ならこの青年は先の出来事でバーサーカーの真名を当てていながらも素振りや態度を全く変えていなかったからだ。

 

『バーサーカー』。 真名はギリシャ神話の大英雄ヘラクレス。 彼は主神ゼウスと人間の娘との間に生まれた半神半人の英雄で、かのアルゴノーツとしての航海、巨人族とオリンポスの神々との戦いなど数多の冒険を繰り広げ。

 

 余談だがキャスターであったメディアは同じアルゴー号の乗組員であった為彼とは面識はあり、この聖杯戦争での第一の声は────

 

「────あの肉ダルマ(ヘラクレス)がバーサーカーですって?! イィィィィヤァァァァァァァァァァ────!!!」

 

────と頭を抱えながら絶叫し、床をゴロゴロと転がっていたとかなんとか(そして後日キャスターは自身の番犬(佐々木小次郎)にこの事でからかわれた)。

 

 そんな大英雄を前にこの青年は関心や怯むどころか、()()を見つけたように面白く笑った。

 

「その所業と苦難の乗り越え、まさに不撓不屈。 人間の忍耐の肖像そのもの! だがこの通り、我は英雄殺しの武器は有り余っている。子守りはそこまでにしておけ、ヘラクレス。 さもなくば貴様の試練()、全てをここで使い果たす事になるぞ!」

 

「バーサーカーは誰にも負けない……………私達は世界で……………一番強いんだからぁ!」

 

 イリヤの言葉に自分も入れたのはその小さな方に乗っている期待という言葉から。

 

 イリヤはアインツベルンが千年の生産を継げて完成した「最高傑作」。

 もうこれ以上の無い、一族の技術の結晶であり到達点。

 

 だがイリヤは知った。知ってしまった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして「最高傑作」である為に、その捨て場に出くわしたイリヤは破棄されたホムンクルス達の残留思念達を拾い上げ、知ってしまった。

 

 自分(イリヤ)の後継機は存在しない。 存在しあり得ないと。

 

 イリヤはこの時今よりまだ幼く、ひどく混乱しながら悲しんだ。

 何故なら自分(イリヤ)が失敗すれば『ホムンクルス製造』と言う()()に意味は無く、アインツベルンは時代遅れの技術に千年も費やした(命を無駄にした)という事実だけが残るからだ。

 

 それを知り、理解したイリヤは覚悟を決めたつもりだった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と。

()()()()()()()()()()()()()」と。

 自分(イリヤ)そうでなければならない、と。

 

 以上、士郎達が城の近くまで接近するまでの出来事だった。

 

 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、バーサーカー運営 視点

 ___________

 

 ボロボロになっていくアインツベルン城に士郎達は正面の入り口の前に出るとセラ(グロッキー状態)を担いだリーゼリットに会う。

 

「あ、こんちゃーす」 ←棒読み

 

「こんちゃーす、リーちゃん!」

 

 それは何時かの挨拶*1を、三月とリーゼリットは交わしていた。

 

「衛宮君」

 

「ああ、流石の俺もこれは駄目だと思う」

 

「こっち来て。 イリヤが戦っている」 ←棒読み

 

「分かった」

 

 答える三月がリーゼリットの後を走り、士郎も同じようにしようとすると凛が彼の肩を掴む。

 

「???」

 

「衛宮君、良い? 誰かを助けるなんて、まず自分を助けてから考える事よ。 自分第一よ。 例えそれが………身内の者だったとしてもよ」

 

 凛は何処か悔しそうな顔を作りながら唇を噛み、左腕を右腕でぎゅっと力強く掴む。

 

「遠坂?」

 

「…………追うわよ、衛宮君!」

 

 士郎と凛は三月の徒歩に合わせていたリーゼリット達に追い付き、入り口付近に着くと、何かを体で守りように丸まっていたヘラクレスが串刺しされた後なのか、体中に穴が開いていて、血を流していた。

 

「(アイツ、桜の家を彷徨ついていた奴か?!)」

 

「(まさか、アイツもサーヴァントだったって言う訳?! あり得ないわ!)」

 

「(イーちゃん!!!)」

 

 士郎、凛、そして三月は目の前の出来事はあまりにも現実離れしていたのに思考だけが動いていた。

 以前あのセイバーとアーチャー、そして凛も参戦していたのに三人を翻弄していたバーサーカーとイリヤが今回は一方的にやられていたのだ。 たった一人の青年に。

 

「貴様の敗北は決定した、ヘラクレス。 どうあれ死ぬのなら最後に()()を捨てろ。 全力の貴様ならまだ我を仕留める余地があるぞ?」

 

「■■■■■■!」

 

 ヘラクレスはイリヤの前に立ち、咆哮を上げる。

 

「では主ともども死ぬがいい!」

 

 青年の周りの空気がゆがむとリーゼリットはセラと持っていたハルバードを捨ててイリヤへと走り、これに気付いたイリヤと三月が同時に声を出す。

 

「リズ?!/リーちゃん?!」

 

「イリヤは、守る!」

 

「フン、やはり人形は所詮人形か」

 

「■■■■■■!」

 

「バーサーカー?!」

 

「何?」

 

 青年は初めて表情を若干崩す。 ヘラクレスがイリヤを掴み、リーゼリットへと()()()のだ。

 

 本来、バーサーカークラスのサーヴァントは大幅な全ステータスブーストを得る代わりに「理性が失われる」、「一部の能力が劣化、または使用不能になる」、「魔力消費量が膨大になる」などというデメリットが多く、並のマスターであればに、三回の出陣が限界な程の暴れ馬クラス。

 

 というのにヘラクレスはイリヤを()()()()()()()()と言う、バーサーカーでは考えられない行動を取った。

 

 その間にも彼は様々な武具に串刺しにされていく。

 

「バーサーカー!」

 

「イリヤ、近づくのは駄目」

 

 イリヤをキャッチしたリーゼリットは腕の中でもがき、涙を流す少女をしっかりと掴んでいた。

 

「イリヤ!/イリヤスフィール!」

 

 士郎と凛もリーゼリットの近くに走ろうとするが────

 

「────ふん」

 

 青年が鼻で笑い、一つの出した剣を手に取って振るうとリーゼリットと彼女が抱えていたイリヤが引き寄せられたかのように彼の前へと移動していた。

 

「「「「え────」」」」

 

「────邪魔だ、人形」

 

 ザシュ!

 

 青年がまた剣を振るい、二本の腕が宙を舞う。

 

「リズ?!」

 

「イリヤ、逃げて」

 

 リーゼリットは青年が剣を振るう前にイリヤを後ろへと投げると彼女の腕が両方とも切断されていた。

 

「イリヤ!」

 

「衛宮君、あそこに行ったら死ぬわよ!」

 

 駆け出そうとする士郎を凛は物理的に止める。

 

「■■■■■■!」

 

 ヘラクレスが青年へと突進し、武具が次々と飛来し、文字通りヘラクレスは串刺しにされながら青年はまた剣をイリヤの方向に振るおうとしていた。

 

■■■■■■!

 

 そしてハリネズミ状態になったヘラクレスは股を着きながら鎖に拘束され、剣を振るった青年の前にイリヤは落ちていた。

 

「フン、早々に主を見捨てておけば勝ち目はある事を捨てるとは。 同じ半神として期待していたがよもやそこまで阿呆とはな」

 

「あ………あ…………バーサーカー! 『引き千切りなさい!』」

 

■■■■■■!

 

 イリヤの身体が一瞬赤く光り、令呪が使用されたのを語る。

 だがバーサーカーは鎖に拘束されたままだった。

 

「どうして?! どうして、バーサーカー?!」

 

「無駄だ人形。 それは天の鎖。 この鎖に繋がれたものは神であろうと逃れる事はできん。 寧ろこの男の様に神性が高いほど効果がある。 そんな鎖が令呪による足掻きなど許すものか」

 

 そして駄目押しというばかりに巨大なハープーンでヘラクレスの脳天をぶち抜き、その返り血が未だにショック真っ最中のイリヤに降り注ぎ、ヘラクレスの目が死んでゆく。

 

「バー…………サーカー?」

 

「な、何なんだあの男…圧倒的じゃないか?!」

 

「何なの、何なのよアレは?! 本当にサーヴァントなの?! 規格外も規格外なのだわ?!」

 

「イリ………ヤ………に………げて…………」

 

 唖然とする士郎に驚愕する凛、そして床ではリーゼリットが肘から先の無い腕の体でイリヤの方へと這いつくばりながらも動こうとしていた。

 

 イリヤは信じられない光景を見ているかのように目を見開いたままバーサーカーのそばにより、彼の身体を小さな腕で揺すっていた。

 

「…………やだ…………やだよ、バーサーカー…………バーサーカー!!! ハッ?!」

 

 イリヤが青年の方を見ると、彼は剣を振るう途中だった。

 

「イリヤァァァァ! 離せぇぇ遠坂ァァァァ!!!」

 

 そこに一人の声が静かに上がる。

 

固有時制御(タイムアルター)四重加速(スクエアアクセル)

 

*1
第12話より




マイケル:バーサーカーが死んだ!

ラケール:この人でなし!

作者:と言う訳で『最古のガキ大将』が出てきました

マイケル:と言うか何なのこいつ?! 出鱈目過ぎない?! 何この剣を振っただけで強制移動って?!

作者:そこはもう盛りに盛った『チートキャラ』でして。ハイ。 こう、『間合いを斬る』的な?

ウェイバー(バカンス体):うわぁぁぁぁぁ!!! 最悪じゃないかぁぁぁぁぁぁぁ?!

ライダー(バカンス体):おお! 別の世界で余を殺した男か! しかしこれはまた………『暇つぶし』とは………そこは坊主みたいに『びでおげーむ』で済ませぬか、あの金ぴかは?!

チエ:………………

ウェイバー(バカンス体):あ、チエさん!

三月(バカンス体):今話しかけない方が良い。彼女、今凄い悪い気分だから。


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第22話 弓を使わないアーチャー

拙い文章が所々あるかも知れません、すみません。

後にもう一度読みながら直す予定ですが内容は変わらない筈です。

誤字など以外に何か変わる事などがあればこの前書きと次話の前書きにてお知らせします。


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、バーサーカー運営 視点

 ___________

 

固有時制御(タイムアルター)四重加速(スクエアアクセル)

 

 その声が士郎と凛に聞こえ、目の前のイリヤは文字通りブレた後に消えた。

 

固有時制御(タイムアルター)』。 それはかつて衛宮切嗣の父の衛宮家四代目継承者の衛宮矩賢という稀代の天才が魔術協会から封印指定されるまでに至った小因果の時間操作に特化した家伝の魔術を衛宮切嗣がさらに改良し、『体内』に限定したうえで戦闘特化させた。

 何某ゲーム負風で言うと『ヘイスト』がしっくりと来るだろうか。

 

「ほう、体内展開した固有結界とはまた珍妙なモノだ」

 

 青年は笑顔を崩さずに部屋の端を見るとイリヤを両手で所謂お姫様抱っこで支え、片膝を床に着いていた。

 

()()()()()()()()

 

「………ミツキ?」

 

 三月はイリヤをおろしてから頭を垂れ、声を続ける。

 

 【告!!! 即座に撤退を再度────】

 

「(────うるさい! ()())」

 

 三月は先程から【  】の声から来る、今までにない警告を無理矢理ねじ伏せていた。

 

「お初にお目にかかります。 王よ」

 

 三月の最初の行動にビックリした士郎、凛とイリヤが更にビックリした視線を送る。

 

「フン、今更挨拶をされてもな……だが我は寛大故、その敬意を表してやろうではないか」

 

「……………」

 

 三月は何も言わずにただただ吐き気と頭痛に眩暈、喉から出ようとする物を無理矢理捻じ込みながら思考をフル回転していた。

 

「次はどうする?」とだけ考えていた。

 

 先程の『固有時制御』は昔、切嗣に引き取られて間もない頃彼が魔術師として三月の事を診ようとした時に彼女が会得した魔術の一つだった*1

 

 そして先程この青年の周りから飛び出していた武具から発する【  】の声の情報量に三月はさっきから気を失いそうなのを必死に我慢していた。

 何せ一つ一つが神話やお伽話などに出て来る武器その物やその原点になった物ばかり。

 情報量は未だかつてない程で、三月は自分の脳が焼きついて頭が燃えるかと錯覚したほどだった。

 そして両腕を切り落とされたリーゼリットとイリヤの悲痛の叫びに朦朧としていた意識が目覚めて、虎の子の『固有時制御』を発動している間に何度も脳中でシミュレーションを行っていた。

 

 そして今取っているこの行動以外すべてはこの青年に少なくとも自分と士郎とイリヤが串刺しにされ、殺される末路しか浮かんでこなかった。

 

『数多の武具の保有者』。

『面貌に溢れんばかりのオーラ』。

『圧倒的強者』。

 以上の事からだけでも目の前の青年が何処の『支配者』である事は明白。

 

 そしてその様な者は(三月推測ではあるが)堂々と物を言いかつ最大の敬意をもって接すれば興味を持つ。

 

 だが思考はそこまでで三月の脳内達は『どないしよ』や『えらいこっちゃ』状態。

 今はただ昔の王や皇帝の謁見などの情報を漁っていたり、最大限の礼儀作法を駆使して時間稼ぎをしていた。

 

「…………………」

 

 三月は青年の許したかのような態度に頭を上げず、ただ頭を下げたままだった。

 礼を尽くし、目の前の者から許可が出るまでは決して声を出さない。

 

 この未だに切羽詰まった空気と威圧感に他の者達はただ息を潜めていた。

 

「………そこそこ芸達者のようだな。 面白いぞ? 許す、面を上げよ」

 

「勿体無きお言葉、感謝致します」

 

 三月は初めて頭を上げると青年は頭を傾げる。

 

「ほう? 先日会った時もそう思ったがやはり貴様は()()()。 故に我の所有する槍に触れる事を光栄に思え」

 

 青年が方手を上げて空気が揺らめき、一つの槍が姿を現す。

 

「(ヤバい! もう少し時間を────!)────発言を申してもよろしいでしょうか、王よ?」

 

「話せ」

 

「ありがとうございます。 かの王は何故このような事を自ら行うのでしょうか?」

 

「何、簡単な話だ。 今の我の家臣共では話にならんのでな、当世で言う所の()()だ」

 

「(考えろ! 考えろ考えろ考えろ考えろ! 今私達が生き延び────!)」

 

「────ここまで我を享受した礼だ。 褒美を受けよ」

 

「ッ」

 

「「「ミツキ!/三月!」」」

 

 三月は自分の後ろの空気が動いたと思い、振り向こうとした瞬間何かが彼女の背中目掛けて飛来するのを横目で見た。

 

「(固有時制御(タイムアルター)二重加速(ダブルアクセル)!)」

 

 三月は反射的に『固有時制御』を行使して横の飛んでその大剣を躱して内心ホッとする。

 

「(ホ! 体が小っちゃくてよk────ハッ?! 私は何を────)────イリヤ?!」

 

「────」

 

 三月がイリヤの方を見ると青年は何時の間にかイリヤの胸を手で抉って何かを取り出していた。

 

「────ぇ」

 

「「セイバー!/アーチャー!」」

 

 そして血を胸から吹き出しながら倒れるイリヤを真っ白になった頭で見る三月と、怒りの籠った士郎と凛の声が響く。

 

「「『来い!』」」

 

 青年は手の中で鼓動する()()()から視線を動かし、令呪によって現れた二騎のサーヴァント達を面白おかしく見る。

 

「ッ! 貴様は、まさか?!」

 

「奴を知っているのか、セイバー?」

 

「ほう! これはなんとまあ、久しい顔だ! 十年ぶりだな、セイバー?」

 

 壁が破壊された一つの穴へと青年は歩く。

 

「逃げるのか貴様?!」

 

「勘違いするな。 我の用が済んだ故、()()()()()()()と言うのだ。 だが次こそお前を我の者にしてやるぞ、セイバー」

 

 青年は笑いながらその場を後にするとセイバーとアーチャーの視線は横たわっているイリヤの胸を手で押さえていた三月の方へと向ける。

 

「イリヤスフィール…」

 

「アレはもう駄目だな、心臓をやられている。 もう…助からんだろう」

 

「三月! イリヤ! 遠坂、何とかならないのか?!」

 

「馬鹿言わないで! 貴方の時とは違うのよ?!」

 

「イリヤ! イリヤ、イリヤ、イリヤ!」

 

 士郎は凛に何か出来ないかと悲願するが、凛の言った通り士郎の場合心臓は破壊されたが修復可能の状態だった。

 だがイリヤの場合、心臓自体が抉り出されていた。 治療以前に修復する心臓自体が無くなっていた。

 

 そして三月は未だにただイリヤの名前を何度も呼びながら、昔切嗣が亡くなったあの夜を思い出していた。

 

「イリヤ、目を閉じるな! 閉じないでくれ!」

 

「ん………一体、何が────お嬢様?! リーゼリット?!」

 

 士郎達の叫びで気を失っていたセラが目を覚まし、アインツベルン城の惨状の目に混乱しながらも、イリヤとリーゼリットの容態で完全に目が覚める。

 

「(何とかならないの?! 何とか────?!)」

 

【……………告。 修復に部品を要シマス】

 

「え? どういう事?」

 

【修復可能デス。 が、部品を要シマス】

 

「………………」

 

「三月? どうしたの?」

 

 三月は周りの人達を見、虫の息である近くのリーゼリットを見る。

 

【修理に部品を要シマス】

 

「………リーゼリットさん、イリヤを助けたい」

 

「……う……ん…………良い………………よ………………」

 

 リーゼリットは絶え絶えの息で三月に若干微笑みながら答える。

 

「リーゼリット?! 貴方、何を────?!」

 

「ッ……ありがとう」

 

 三月の手が光り、その輝きは部屋全体を白く変える程だった。

 

「何ですか、これは?!」

 

「何、この光?!」

 

「うおわ、眩しい!」

 

「クッ!」

 

 セラや凛、士郎とセイバーが声を出し、目を圧倒的な光源から守る。

 

 数分後、光りが徐々に静まっていき横たわっていたイリヤの胸の傷は塞がっていたかのように見えた。

 これを見た三月は────

 

「ッ! や────った~?」

 

 ────元気良く勢いの付いた万歳をした瞬間、力が体に入らずそのまま受け身も取れずにその場で倒れた。

 

「衛宮君、三月を! 私はイリヤスフィールを診るわ! セイバーとアーチャーは周りの警戒を!」

 

「わ、分かった!」

 

「ッ! 分かりました!」

 

 凛はイリヤの傷などを────

 

「────え? (何これ?どうなっているの?)」

 

 凛が見た所、服だけがボロボロで下の肌やイリヤの身体は不自然な程健康に見えた。

 

 そして士郎は倒れた三月を抱き上げて────

 

「────お、おい三月! 大丈夫か?!」

 

「うん。 大丈夫じゃない」

 

「え?! ど、どこが調子が悪いんだ?!」

 

「……………体中痛いし、力入らないし、吐き気はするし、眩暈はするしで………もういい加減寝たいから寝る」

 

「そ、そうか」

 

 セイバーは未だ微動だにしないアーチャーを不思議に見ていた。

 何時も余裕と言うか、物事を冷静に見ている彼が目を見開いたまま立っていたのだった。

 

「………アーチャー?」

 

「……………………」

 

「衛宮君、そっちはどう?」

 

「あ、ああ。 取り敢えずは大丈夫。 だと思う」

 

「『だと思う』? どういう事?」

 

「何か体中が痛くて気持ち悪いみたいだ」

 

「………そう。 こちらも大丈夫みたいよ。 イリヤスフィールはただ眠っているみたい」

 

「ああ、お嬢様! 良かったです! …………ハッ?! リーゼリットは?!」

 

 最後に泣いていたセラがホッとすると周りを見る。

 あそこまでになったリ-ゼリットが見当たらないのだ。

 そして床にあった彼女の服はまるで()()()()が消え失せてしまったかのようだった。

 

「リーゼリット、どこなのです?! リーゼリット!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 結局リーゼリットは見つからず、士郎達はイリヤをボロボロになったアインツベルン城に残すのは得策ではないとセラに言い聞かせ、衛宮邸へと連れていく事となった。

 

 森の中で士郎は三月を背中に負ぶって、セラはイリヤを。

 そして何故か凛がイリヤとセラの荷物が入ったトランクを。

 

「ちょっと! 何で私が荷物を持つのよ?!」

 

 これに対してセラがムッとした顔で凛へと振り向く。

 

「何を今更。 サーヴァントを失った我々を守れるのは同じサーヴァント。 そしてそこの少年は妹君を背負い、私はお嬢様を。 ならば自然と荷物を運ぶのは貴方ではなくて?」

 

「遠坂、俺が変わろうか?」

 

「…………ハァー、良いわよ。 三月を背負っておきなさい。 その代わりに、セイバーはあのサーヴァントの事を知っているんでしょう? 話してくれないかしら?」

 

「……………」

 

 あの金髪青年が現れた時からセイバーは浮かない表情だったので士郎も気になっていたが、無理矢理に聞く事も躊躇していた。

 

≪久しい顔だ! 十年ぶりだな、セイバー?≫

 

 そう青年は言っていた。

 

「…………奴は前回の………第四次聖杯戦争のアーチャーでした」

 

「な?!」

 

「そ、それじゃあ何? 十年前のサーヴァントだっていう事セイバー?!」

 

 セイバーはただコクリと驚きを隠さない士郎達に頷いた。

 

「そ、そのような事はあり得ません! サーヴァントは聖杯の援助無しでこの世に居続けるのは至難の業!」

 

 セラが眠っているイリヤを背負っているのにも関わらず声を上げて抗議するが、凛が答える。

 

「だけどそれも不可能事では無い……でしょう?」

 

「確かに、理論的にはそうですが…………」

 

「どういう事ですか、リン?」

 

「…………………」

 

 セイバーの問いに凛はただ黙るがそこでアーチャーの声がグループに聞こえてくる。

 

『察しが悪いなセイバー。 それとも考えないようにしていたか? サーヴァントは依り代と魔力のセットさえあれば存在し続けられる使い魔だ』

 

 アーチャーの説明で何かに気付いた士郎は足を止める。

 

「…………まさか」

 

『そのまさかさ、エミヤシロウ。 “魂食い”だよ』

 

「つまり町の仕業はアイツって事か?!」

 

「…………ええ、盲点だったわ。 最近になって行方不明者や昏睡事件の数がなどが急増加して話題になっていたけれどこの十年、確かに行方不明者などが出ていたわ」

 

「ま、マジか………あれ? でも俺この町に住んでたけど、そんな話は最近まで聞いた事が無いぞ?」

 

「当たり前よ。 行方不明になったのは犯罪者とかホームレス。 消えても誰も気にしない奴らばかりよ」

 

 凛の冷たいような言い方に士郎は足を止めたまま唖然と立ち尽くす。

 

『どうだエミヤシロウ? これでもまだ貴様はほざくか?』

 

「…………アーチャー?」

 

「………俺が………知っていれば────」

 

『────お前が知った所で死体が一つ増えていただけだ』

 

「だからと言って何もしない訳にもいかない!」

 

『それはどうしてだ?』

 

「何だと?」

 

『言葉通りの意味だ、エミヤシロウ。 お前は周りの人間を救うと言ってはいたが、現にそこの小娘も救えなかった。 その点ではお前の義妹の方が立派だったな』

 

「黙れ」

 

『どうした? 真実だろう? それとも────』

 

「黙れ!」

 

「アーチャー! いい加減にして! 今はこんな事をしている場合じゃないわ! 衛宮君も落ち着いて!」

 

『“こんな事”? 今だから言っているのだ。 このバカには……………凛、君は聖杯戦争を続ける気は無いと言ったな?』

 

「え? も、もちろん今の状況では無いわ」

 

『そうか』

 

 それ以来、アーチャーは黙り込み、士郎はイライラしていた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あの、先輩? その方達は何方ですか?」

 

 衛宮邸に戻るとイリヤを背負ったセラを見てキョトンとする。

 

「ああ、桜。 丁度良かった、この人達は────」

 

「────貴方がこの少年のご婦人ですか?」

 

「んな?!」

 

「え?」

 

 セラの言葉に固まる桜とビックリする士郎。

 

「あらおめでとう衛宮君」

 

 そして悪戯っぽく笑う凛に更に赤くなる士郎。

 

「ち、違う! 桜は家事を手伝いに来ているだけだ!」

 

 不定をした士郎に桜はしゅんとし、これを見た凛が恨めしそうに士郎を睨む。が、彼はセラの方を向いているためこれらに気付く事はなかった。

 

「あら、これは失礼しました。 私の名はセラと申します。 今背中でお眠りになられているのは我が主のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」

 

 そしてシレっとするセラの話の流し方に一瞬戸惑う桜だった。

 

「あ、えっと…間桐桜です」

 

「と、とにかく! 彼女達のsh────屋敷がちょっと大変な事になって少しの間だけここに世話になるから!」

 

「「え」」

 

 桜と凛が同時に声を出して、セラが士郎を睨む。

 

「と、取り敢えず部屋の用意とかしてもらえるか? 来る途中三月とイリヤが疲れちゃって」

 

「は、はい…………わかり………ました」

 

 パタパタと衛宮邸の中へと消える桜の気配が遠くになってからセラが口を開ける。

 

「一体これはどういう事ですか?」

 

「あ、いや。 別に深い意味は無くて────」

 

「────ではなぜ勝手にお決まりなられるのです? それにここはあまりにも無防備すぎます。 確かに優秀な結界ですが────」

 

「────ここで良いの、セラ」

 

 イリヤの声にセラがビックリしながらホッとする。

 

「お嬢様! 良かった、意識が戻られたのですね。 ではこのような粗末な場所から────」

 

「────ううん。 ここが良い。 ここに居させてくれる、シロウ?」

 

「な、ですがお嬢様。 ここはあまりにも無防備すぎます!」

 

「セラと私が頑張れば少しマシになるわ……それにマスターでなくなった私にセラは聖杯戦争を私達だけで続けさせると言うのかしら?」

 

「………………」

 

「シロウ。 リン。 話はミツキが起きてからにしましょう……………セイバー」

 

 呼ばれたセイバーは体を若干固くなる。

 

「………何でしょうか?」

 

「少し遅いけど、キリツグが貴方にさせた事は間違っていないと思うわ。 だから気にしないで」

 

「ッ…………ありがとう…………ございます」

 

 

 眠っている三月は夢を見ていた。

 見ていたと言っても周りには何もない平原と、様々な色の花畑の中に立っていただけだが。

 

「(これはまた久しぶりに平和な夢だなー)」

 

 そうボンヤリと三月は考えていた所に声何処からとも聞こえてきた。

 

『ありがとう。 イリヤを助けてくれて』

 

「……………ん? リーちゃん?」

 

 声の主に三月は覚えがあり、彼女のあだ名(命名者は自分)を口にした。

 

 『私は後悔していない。 イリヤが死んだら私も死ぬ。 でも私はイリヤの中で生き続けられる』

 

「え、ちょっとまってリーちゃん。今なんて?」

 

 段々と聞きにくくなった声に三月の胸はザワザワし始めていた。

 

 『胸がどきどきした。 これは…………そう、“楽しかった”と言うのね。 さようなら。 イリヤとセラにもよろしく』

 

「ま、待ってリーちゃん!」

 

 『後、セラに謝っておいて。セラが楽しみにしていたクッキーをコッソリ食べちゃったから』

 

「リーちゃん!」

 

 気付けば三月は布団の中で泣いていた。 そして自分の上には知っている天井。

 

「………あれ、私は何時自分の部屋に………と言うか夢だった?」

 

「あら、お目覚めのようね」

 

「…遠坂さん?」

 

 三月は寝ながら横にいる凛に気付くと、凛は三月が倒れた後の事の説明をし始める。

 

 士郎達はアインツベルン城から衛宮邸に移動中、セイバーとアーチャーの相手をしていたサーヴァント達は未だに健在という報告。 イリヤとセラは住んでいた住居に問題が出来て、知り合いである凛を頼ったところ衛宮邸を薦められ、少しの間お世話になると言う事を桜と大河に話したと。

 

「そっか、イーちゃん無事だったんだ。 良かった」

 

 ホッと息をする三月を凛が眼を細む。

 

「ええ、無事よ。 ()()のおかげで」

 

「遠坂さん?」

 

 トーンが変わった凛に対して三月は?マークを浮かべながら疑問形で彼女の名を呼ぶ。

 

「貴方は…………いいえ、これは後で聞くわ。 それより今はイリヤスフィールの話を聞きに行きましょう。 立てるかしら?」

 

「…………無理。 体が全然動かない」

 

「そう、なら肩を貸してあげる…………わ?」

 

 三月に肩を貸して彼女を立たせる凛は何か呆気に取られたような声を一瞬出す。

 

「??? どうしたの、遠坂さん?」

 

「三月、貴方………ううん、何でもないわ」

 

「じゃあ、お世話になりまーす」

 

 凛が三月を支えて(と言うか凛がほぼ立たせながら)まだ起きて居間にいる士郎、セイバー、(服を着替えた)イリヤスフィールとセラの所へと着く。

 

「おー、みんな元気―? 私は元気じゃなーい」

 

 あっけらかんとした、マイペースな口調で言う三月に、そこに居た者達はそれぞれ複雑な表情を浮かべていた。

 

「ま、まあそこまで言えるのなら疲れているだけじゃないか?」

 

「ミツキ、体調が優れないのでしたまた後日に改めますか?」

 

「そうよミーちゃん、無理は良くないよ?」

 

「…………そうですね。 今の貴方にきちんとお嬢様の事で感謝しようにも迷惑に終わるだけなようですし」

 

「いや~、照れるな~…………でも体が動かないってだけで意識は結構はっきりしているから良いよ~」

 

「「「「良くない!/良くありません!」」」」

 

 そこに居た人達のツッコミが一斉にハモリ、三月はただ笑う。

 

「…………彼女が良いと言っているからとっとと始めるわよ。 アーチャー、桜はもう寝たかしら?」

 

『ああ、グッスリとな。 余程疲れたと見える』

 

「何か変化が起きた時に伝えて頂戴。 イリヤスフィール────」

 

「────イリヤで良いわ、リン。 じゃあ、話す前に────」

 

 イリヤが立ち上がり、一礼する。

 

「アインツベルン城の城主として礼を言うわ、エミヤシロウにエミヤミツキ。 助けてくれてありがとう」

 

「あ、ああ。気にするなイリヤ」

 

「そうよ~? 寧ろ遅れた事にごめんね~」

 

 凛が士郎の横に座らせた三月の身体が重力によって彼の肩に寄りかかる。

 

「み、ミツキ?」

 

「これは~………不可抗力で~………意識ははっきりしているけど~………超ダルイ感じなの~」

 

「そ、そうか」

 

「そう、なら仕方ないわね。 今回だけ許すわミーちゃん」

 

「いや~アハハハ~。 寛大な処置に感謝で~す」

 

 コホンと咳払いをしたセラを合図にイリヤは他の皆に説明をし始める。

 

 アインツベルン城で調査した第一次、二次、三次、そして第四次聖杯戦争の書類や経歴を。

 

 そしてその後自分が第三次聖杯戦争に持った違和感について。

 

 その間に三月は目を細めながら眠気に抗い、懐かしい気分に陥っていた。

 

「(あ~、お兄ちゃんの匂いだ~。 懐かしいな~。 何かタンポポのあのフワフワしたような気分になるな~。 スーハースーハー思わずしちゃうよ~)」

 

 士郎はと言えば体が寄りかかってきた三月からの甘いミントのような独自の匂いや、すぐ頭の横から彼の耳や頬に当たる三月の息遣いなどを思わず意識していて胸がドキドキしっぱなしだった。

*1
第3話より




ウェイバー(バカンス体):おい、アイツらがいないぞ?! どういう事だライダー?!

ライダー(バカンス体):うーむ、留守か。 まあ、そういう事もあるという事だ坊主! 花束を渡すのは次にせい!

ウェイバー(バカンス体):な?! ち、違うからなライダー! ただ近くに寄った時に外に花を売っていた奴がいて────!

ライダー(バカンス体):(こりゃあ、少し長引くな)


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第23話 「兄妹」と「姉妹機」と「姉妹」

自分の文才(の無さ)が怖いです………
ちゃんと伝わるのかが心配です、ハイ………


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤスフィール運営 視点

 ___________

 

 士郎達にイリヤが第一次から第四次聖杯戦争をアインツベルン城で調べた物を話す中、セラはお茶と茶菓子の用意に苦戦していた。

 

 何せホムンクルスとイリヤの侍女としてプライドの高い彼女は主の為にと行動をしたは良いが如何せん、他人の家でしかもアインツベルン城とは違い洋式の分別ではなく和式。そして同じくプライドの高い彼女は家に詳しい士郎や三月には聞けなかった。

 

 これを見た士郎と三月は一瞬だけ見つめ合い、()()()()()()()()()を急に始める。

 

「あー、そう言えばこの前買った紅茶の葉っぱは上の右端から二個目の棚だっけ?」

 

「そだよー、んで私がこの間作ったタルトが左の冷蔵庫の中にあった筈だよー」

 

「紅茶にもうちょっと高級感出したい時のメープルシロップは何処だっけー?」

 

「左の下の棚だよー」

 

 などと話し始めた二人の声を聞いたセラの耳はピクピクと反応して、何も言わずにさっさと紅茶とタルトを人数分用意し始める(食器などはさっきワタワタしていた時に見つかっていた)。

 士郎と三月は自分達の思惑が成功したのにニカッと笑いあい、他の人達が黙り込んだのに気付く。

 

 セイバーの表情は変わっていなかったがアホ毛がミョンミョンと期待で激しく動き、

 イリヤは若干プクーっと不満に頬を膨らせながら「私だって!」とブツブツ独り言を言い、

 凛はニヤニヤとイリヤの反応を見ながら面白がっていた。

 

「……………えーと、どうした皆?」

 

「イーちゃん、どうしたの?」

 

 イリヤがプイっと二人から顔を逸らす。

 

「べっつに~?」

 

 凛はにっこりと笑顔を送りながらイリヤに声をかける。

 

「イリヤ、話の途中なのだけれど? どうしたのかしら?」

 

「「遠坂?/遠坂さん?」」

 

 タルトや紅茶をセラが持って来て、イリヤは(タルトと紅茶を一時楽しんだ後に)話を続ける。

 ちなみに感謝した三月はセラにこの間買った駄菓子の味見を頼んだ。

 

「そうですね。 味見ですものね」

 

「そうそう。イリヤの口に合うかどうか分からないからさ」

 

「では仕方ありませんねッ!」

 

 嫌々言っていた割にはセラの口はムズムズと笑い顔になっていたそうだ。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 イリヤの長い話が終わり、タルトの後に出て来た数々の駄菓子ミックスを食べていた。

 これを出したセラは大層ツヤの良い肌で「お嬢様、味見は完璧ですよ!」と言ったとか。

 

「成程ね、第三次に()()起きたと考えるのが妥当ね」

 

「でもそんなに長く聖杯戦争は続いていたのか………」

 

「士郎」

 

「ああ、悪い」

 

「モグモグモグ」

 

 士郎が文字通り動けない三月に次々と食べさせたり、紅茶を飲ませたりしていた。

 

「………ミーちゃん、本当に動けないのかしら? フリとかじゃなくて?」

 

「フリじゃないフリじゃない、本気の本気。 何なら私の手作りマカロンにかけても良い」

 

 ジト目で睨むイリヤに三月が答えるとイリヤ、凛、そしてセイバーの目が一瞬だけ光ったような錯覚に士郎は目を擦る。

 

「あ、あれ?」

 

「どうしたのシロウ?」

 

「いや、何か皆の目が────」

 

「────あら衛宮君、貴方の後ろにあるストーブを()()()()動かしてくれないかしら?」

 

「ん? いいぞ」

 

「あ、兄さんちょっと待────」

 

 三月が言い終わる前に士郎が動くと彼女の頭はそのまま床に落ちる。

 

 ゴンッ!

 

「あいた?!」

 

「あああ、三月すまない! 大丈夫か?!」

 

「い゛、い゛だい゛よぉ~」

 

 涙目になる三月とアタワタする士郎。

 そして咄嗟にとは言え「手作りマカロン」という悪魔(?)の囁きに負けていたイリヤと凛は気まずそうに声をかける。

 

「だ、大丈夫イーちゃん?」

 

「あの………氷持って来ましょうか?」

 

「グスッ…………それも良いけど、『()()()()()()()んだけど………」

 

「「え」」

 

「ハッ?」

 

 三月の言葉の意味に気付いたのか、イリヤと凛が互いを見て士郎は?マークを飛ばしていた。

 

「『遠方』って…動けない体でどこに行こうってんだ?」

 

「あー、衛宮君? それはちょっと違うわ」

 

「セラ、お願いできるかしら?」

 

「………………お嬢様がそう仰るのなら」

 

 セラがもの凄く嫌な顔をしながら三月を乱暴に担ぎ、今を出る。

 

『あ!ちょ!揺らさないで!!!』

 

 外から三月の声が響き、遠くなってから凛は口を開ける。

 

「さて、彼女の事を少し話しましょうか?」

 

「話すって…イリヤの城で先日話したばかりじゃないか」

 

「シロウ、あの子は私から見ても異常よ」

 

「イリヤ?」

 

「私は心臓を………『聖杯』をあのサーヴァントに取られたわ。 それは間違いない事よ。 でも私は『生きている』」

 

「え? でも遠坂は────」

 

「────城でも言ったけど、貴方の場合心臓に傷があって私はそれを修復しただけよ。 でもイリヤの場合修復する物が無かった」

 

「恐らくだけど、アレはリズを使()()()と思うの………あ、リズって言うのはもう一人の侍女の事よ。見当たらなかったのは、多分…………」

 

「そうなのか………」

 

「リン、あのサーヴァントについてですが────」

 

「────後ね、少し見せたいものがあるの」

 

 そう言い、凛は立ち上がる。

 

「見せたいものって、何だ遠坂?」

 

「衛宮君、貴方は三月の部屋を見た事あるかしら?」

 

「え? ないけど…………それがどうかしたのか?」

 

「ついて来て、イリヤとセイバーも」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ありがとう、セラさん!」

 

「…………」

 

 セラは何も言わずにただ三月を担ぎ、皆がいる筈の居間に戻る。 襖を開けるとそこの空気はどこか重く、通夜のような雰囲気が漂っていた。

 

「あれ? どうしたの皆?」

 

 三月の声に士郎、凛、イリヤとセイバーはビクリとする。 そして最初に口を開けたのはイリヤだった。

 

「お、お帰りなさい! ミーちゃんの事ありがとう、セラ!」

 

「あ、え? は、はぁ?」

 

 明らかに何か後ろめたい事をしていたような感じのイリヤ(そして不慣れな褒め方)に少し戸惑うセラは三月を士郎の横に下ろして部屋の端に立つ。

 

「えへへ~、ただいま~」

 

「あ、ああ! お帰り!」

 

「???」

 

 士郎もどこか無理をしているところがあるのか、ぎこちない言い方に三月はキョトンとする。

 

「………それでセイバー、話してもらえるかしら? あのサーヴァントの事を」

 

「……はい」

 

 セイバーは先の青年が第四次聖杯戦争のアーチャーである事を説明し始め────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────彼の元マスターが「遠坂時臣」だったと言うとそこに居た全員の視線が凛へと注がれる。

 凛はただ眼を見開いて、『信じられない』と言った顔でただ前を見ていた。

 

「アイツが………お父様の…………サーヴァントだった?」

 

「と、遠坂?」

 

「ハイ。 そして、彼は以前の聖杯戦争でも実力は飛び抜けていました。 前回の戦でキリツグはあのサーヴァントを一番警戒していました────」

 

 セイバーの言葉は既に凛には届いていなかった。

 彼女の目の前は今より視点が低く、雨の日だった。

 

 目の前には凛の父親、遠坂時臣の墓石で様々な人たちと巡礼していた。

 後ろからはエセ神父(言峰綺礼)が神父として掛ける言葉。

 左腕にはジンジンと熱い痛みが走る。

 魔術刻印の移植された腕が疼く。

 だが、凛は決して弱みを見せない。

「自分が新たな遠坂家の当主なのだから」と自分に言い聞かせる。

 

 エセ神父(言峰綺礼)が何か言葉をかけてくるが、そんなものどうでも良い。

 父が優秀なのを凛は知っている。

 

「そろそろ、お母上を連れてきてはどうかね?」

 

「ええ…そうする」

 

 幼い凛はぶっきらぼうにエセ神父(言峰綺礼)から車椅子に乗った自分の母親、遠坂葵に振り返る。

 

「さあお母様、お父様に最後のお別れを言おうね?」

 

「まあ、今日は誰かのお葬式なの?」

 

「ええ………お父様が………死んだのよ」

 

「あらまあ、それは大変。 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ」

 

 車椅子を押し始める凛はキュッと唇を噛むが、母の言葉は続く。

 遠坂葵の死んだ目がボンヤリとただ前を見る。

 

「ねえ凛、()()()()()()()()()()()()()

 

 幼い凛は頭を俯き、目が前髪に隠れ、彼女の身体が震え始める。

 

「私も支度しなくちゃいけないのに………ほら、時臣さん。 ネクタイが曲がっていますよ?」

 

「ッ…………ウッ…………」

 

 凛の足取りはヨロヨロとし始めると────

 

「────()()()()()()()()

 

「ッ!」

 

 凛は顔を上げる。 その顔はさっきまで静かに泣いていて、目は真っ赤だった。

()()()()()()()()()()()()()()()」。 凛はそう思いながら極僅かな希望と期待で遠坂葵を見る────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……ぁ………」

 

 凛は両手を車椅子から離し、口を覆い、上がってくる吐き気に涙を流しながらも静かに耐える。

 

 凛の母親の遠坂葵は聖杯戦争に巻き込まれ、酸素欠乏症によって脳に重大な障害を負いながらも一命を取り留めたが、精神が崩壊してしまっていた。

 彼女の心は既に現実世界から切り離され、夫の時臣が健在で()()()()()()()()がまだ家族であった頃の時間で止まり、生きながら幸せだった時代の『夢』の虜となり幻想の日々を彷徨い続けた末に病没した。

 

 この時、遠坂凛は十代の歳になる寸前だった。

 

「…………………」

 

 「遠坂? 遠坂?! 遠坂!」

 

 「ちょっと、リン?!」

 

 「遠坂さん!」

 

「………………………あ、あれ?」

 

 凛が記憶から()()に戻ると心配で彼女の顔を覗き込むのに気付く。

 

「あ、あらやだごめんなさい。 ちょっと思い出に浸っていただけよ。 私は大丈夫だから────」

 

「────嘘言うな遠坂! 無事な奴の顔色が土色になるものか!」

 

「……………え?」

 

 凛は気付いてはいないが、彼女の顔色は青を通り越して土気色だった。

『遠坂家の当主』で『ミス・パーフェクト』はおろか、『何時もの遠坂凛』でさえそこにはいなかった。

 

 そこに居たのはボロボロの精神の母の看病で同じく精神を擦り減らしていた『遠坂凛』だった。

 

「あ…………ご、ごめんなさい!」

 

 凛は立ち上がると、早足で居間を出た。

 そして三月は見た。

 彼女が最後居間を出る直前に声を殺しながら泣いていたのを。

 

「兄さん、遠坂さんを追いかけて」

 

「み、三月? どうしたんだよ? それに、今の遠s────」

 

「────早く追いかけないと肩を噛むわよ。 首と口は動くんだからね。 十秒。 九、八、七」

 

「ハァ?! ちょ、ちょっと────?!」

 

「────六、五、四、三────」

 

「────わ、分かった! イリヤ、セイバー! すまない! 詳しい話は後で!」

 

「…………うん、分かった」

 

「ではシロウ、またあとで」

 

 士郎は三月を居間のちゃぶ台に寝かせると凛の後を追う。

 

「………ごめんねイーちゃん?」

 

「ううん。 リンがあんなになるなんて思わなかった。 でも、どうしてシロウを追いかけさせたの?」

 

「………遠坂さんは()()()()()。 それに……士郎は話しやすいからね。 あ、それとリーちゃんから二人宛の伝言。 『楽しかった、さようなら』」

 

「「え?」」

 

「あと、『セラが楽しみにしていたクッキーをコッソリ食べちゃった。ごめん』だって」

 

「リズ……リズの……分からず屋…………」

 

「リーゼリット……貴方は本当に………どこまで人に迷惑を! う………ううう………」

 

 泣くイリヤとセラにティッシュ箱を取ろうと三月はするが未だに首だけしか動かなった。

 

「…………御免ね二人とも? リーちゃんをその………()()()使()()()()()()?」

 

「グスッ………ううん…良いの、三月…………あれって、『錬金術』だったんでしょ?」

 

「ん~、私は『再構築』って呼んでいるけどね? それに、リーちゃんも『良いよ』って言ってたから。 それ以外方法が無かった」

 

「でも、どうして私を命懸けで救ったの? 私が…………私が『アインツベルン』だから? それとも………」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………そっか。 ありがとう、ミーちゃん」

 

「ええ、お嬢様の命を救ってくれて………誠にありがとうございます」

 

「どういたしまして、イーちゃん。 セラさん」

 

 三月はニカっと二人に向かって笑った。

 

 そしてこの一連の出来事を見ていたセイバーは何とも言えない気持ちが胸の中で燻ぶっていた。

 

 

 

 士郎は凛が借りている客間の前で足を止めた。

 何故なら中からすすり泣く声が聞こえて来たからだ。

 ()()遠坂凛が泣いていると分かった士郎はやるせない気持ちでただ静かに凛が泣き止むまで待つ事に────

 

「────何の用かしら?」

 

 士郎の身体がビクついた。 まさか気が付かれているとは思わなかった。

 

「あ、あー遠坂? その………入るぞ」

 

「取り敢えずそのまま立っているのも」と思った士郎はドアノブに手をかける。

 

「え、衛宮君?! え?! ちょ、ちょっと待って!」

 

「分かった」

 

 そう言い、士郎が扉の前で待つ事数秒間。

 

「…………入って良いわよ」

 

 士郎は入って様変わりした客間を見る。

 明らかに「魔術師の工房」と言う雰囲気の器具などが一か所にあり、もう一か所には小道具などが置いてあった。

 

「な、何よ。 そんなに人の部屋が珍しい? キョロキョロするより座ったら?」

 

「まあ、な。 少し前まではただの客間だったからな。 よっこらっせっと」

 

 凛の目は腫れていたが取り敢えず涙はもう流していなかったようで士郎は椅子に座りながらホッとする。

 

「で? 衛宮君は何でここに?」

 

「え? あ、ちょっと…な」

 

「もしかして三月かしら?」

 

「う」

 

「って図星か………本当呆れた。 衛宮君より頑固かも知れないわね、流石『兄妹』って所かしら……」

 

「はは、桜にも言われたよそれ」

 

「……そう……あの子が……ねえ衛宮君。 何で三月は貴方に私を追うように言ったのかしらねえ?」

 

「え?」

 

「こんな嫌な性格している女の子をさ」

 

「『嫌な性格』って、どこが?」

 

「………前に少し、衛宮君に私の事を話した事があるわよね?」

 

 遠坂凛はポツリポツリと自分の家庭の事を掻い摘んで士郎に話す。

 父は前回の聖杯戦争で死んで、母は狂ってしまい、遠坂邸では自分一人で生きて来たと。

 

「でもね………言ってない事があるんだ………ねえ、衛宮君と三月はここの養子なんだよね?」

 

「あ、ああ」

 

「前にその、訊きそびれたんだけど……もし………もしもよ? 本人の意思とは関係なく、余所の家に養子にやられたその子はどういう気持ちで育つのかな?」

 

「どうって………そんなの貰われた先の家に左右されるだろ? でもどうしたんだ急に?」

 

「衛宮君達の立ち入った話も結構あの時公園で聞いたから」*1

 

 凛が黙り込み何か迷っているかのように目が泳ぎ、士郎はただ静かに待つ。

 

「わ、私ね…………遠坂家に子供は実は私一人だけじゃなくてね────」

 

「────な?! どうしてもっと早く言わないんだ?! 今すぐ遠坂の所に行って────!」

 

「ち、違うの!」

 

 凛の言葉で士郎はてっきり遠坂邸でもう一人の子が一人で待っていると思った彼は立ち上がり、それを凛が制止する。

 

「そ、その……………その子はね────

 

 

 

 

 

 

 

 ────『()()()()()()

 

「……………え?」

 

 一瞬何を言われたのか分からない士郎はただ「え?」としか返せなかった。

 

「そりゃあ………凄い偶然だな」

 

 何故なら別の部屋で寝ている士郎の後輩の名も『桜』だった。

 

「それでね…………『桜』はね……………『間桐家』の養子に────」

 

 士郎の耳朶に自分の心臓と「キィーン」とした音だけが聞こえ始めた。

 彼の思考はまた一瞬止まり、凛の顔を見た。

 彼女の顔は酷く苦しみと不安に歪んでいた。

 

「その………お父様がね、『間桐家』の養子に『遠坂桜』を………()()したの………『間桐の血筋が途絶えない為に』って……そんな事を、私は『仕方ない』って思って! でも……でも! 今の幸せそうな桜を見たら私………どう接したら良いのか分からなくて! だから私は『学校の私』を演じて……………『聖杯戦争のマスター』として…………『魔術師』として…………ただ逃げていた………」

 

「遠坂…………」

 

 そこで凛は士郎に笑いながら涙を目に浮かばせながら喋り続ける。

 

「でもね………さっきのセイバーの話で…………私、ちょっと()()()()()()

 

「………前に、言ったっけ? 三月が()()()()()()って」

 

「??? え、ええ」

 

「最初俺は………彼女がちょっと苦手だったんだ」

 

「…………え?」

 

 凛が信じられないと言った顔で照れている士郎を見た。

 

 彼曰く、三月の最初の印象は『綺麗な子』が『不可解な行動をする子』に変わり、その日はずっと震えていた。

 そんな彼女の「兄」と士郎は自称して色々世話をしている内に彼は気付いた。

 

「三月が優秀過ぎる」と。

 例えば説明書をチラッと見ただけでその機械等の使い方が分かったり、一回見た番組や新聞の内容を把握していたりと、()()()()()()なら考えられない様な事を三月は平然とやっていった。

 三月が()()()()()()子だったのに瞬く間に「兄」と自称している自分が三月に勝っている要素と言えば人とのコミュニケーションスキルと体を使う作業位だった。

 しかも後者に至っては単に三月の体力が追い付かないだけだったので「何時かはこれも追い抜かされる」と士郎は思っていた。

 

 だが衛宮切嗣の死で三月の性格が一変し、徐々に今の三月に収まった。

 

「衛宮君…どうしてそんな事を?」

 

「まあ、遠坂の愚痴を聞いたのに、俺の愚痴を聞かないってのは()()()()()()()…だろ?」

 

 それはかつて、凛が士郎に言った言葉に似ていた。*2

 

「………ハハ、何よそれ」

 

「ま、まあ。 取り敢えず、桜に遠坂は何がしたい?」

 

「……こう面と向かって聞かれると色々ありすぎて………と言うか、今更姉妹の様になんて……私がどの面下げて────」

 

「────じゃあ先ずは、さっき遠坂が俺に言った事を、桜に言う事だな」

 

「…………え?」

 

 そして士郎は驚愕する凛に更に言葉をかけ、話が終わる頃には深夜遅くになり、その夜はお開きとなった。

*1
第17話より

*2
第7話より




マイケル:え?ちょ、マジか

ラケール:エグッ?!

チエ:真実とはいつも残酷だ

三月(バカンス体):♪~

ラケール:あ! この曲知っている! ♪~

マイケル:あ~、ナントカ『テーゼ』って奴だっけ? ダウナー系の

ウェイバー(バカンス体):あ! チ、チ、チ、チエさん!

チエ:ん? ウェイバーか。 久しいな

ウェイバー(バカンス体):こ、こ、こ、こ、これを!

チエ:花? 

ウェイバー(バカンス体):よ、よよ、良かったら! う、う、受けとって欲しい!

チエ:良い香りだな、貰おう

ウェイバー(バカンス体):ッ?! や、やったぞー! 見、見たかライダー?! 僕だってやれるんだ!

ラケール:アイツ、意味わかって無くね?

三月(バカンス体):……次あの曲行こうか? ハーモニカ持っている?

ラケール:…………あんたもエグイわね。それって「Alone in the Wind」でしょ

三月(バカンス体):『しかたないだろ~♪大人になるんなら~♪』

ラケール:いくら何でもエグ過ぎよ?!

作者:自分もそう思う。 あともう一つメタ的に言わせますと投稿する文章が短くなったりするかもしれません…仕事との両立は難しいですが頑張ります。 書くのは楽しいですしやめるつもりなど毛頭ありません。 ただこんな自分の物を読んでくれている方達には誠に申し訳ないかぎりです。 皆さんもお出かけになる際にはお気を付けて下さい………


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第24話 手探りでの探し物

前話での誤字報告ありがとうございます、ハクア・ルークベルトさん!
(多分全部)修正できました(と思います)!


今回も短くて遅れてしまいました、すみません………


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤスフィール運営 視点

 ___________

 

 次の日の朝、暴食家の姿があった。

 

「バクバクバクバクバクバクバクバク!」

 

「ねえ、シロウ………喉に詰まらないかしら、あれ?」

 

「いや? 三月は昔から大食いだぞ?」

 

「「(あー懐かしい)」」

 

 ご飯とおかずをバクバクと食べる三月を見ていたイリヤは心配して士郎に聞き、彼は何時もの様に返事をすると凛と桜が同じ事を考える。

 

 三月が次の日起きたのは眠気が覚めたからではなく、お腹のグゥグゥ鳴く音からだった。

 最初はセイバーかと思ったが、セイバーとイリヤも音で目が覚めたのか三月を見ていた。

 

 ちなみにイリヤはセラの猛反対を押し切って三月と添い寝する我儘を押し通した。

 ただイリヤにとって誤算だったのは三月がセイバーと同じ部屋で寝ていた事か?

 これを知ったイリヤは最初物凄く戸惑っていたが、隣の部屋が士郎の部屋と知った瞬間手の平を返すかのような振る舞いだった。

 

「あ、三月先輩? 次も特盛ですか?」

 

 三月が頬張りながらお茶碗ではなく丼を桜に私ながらコクコクと首を縦に振る。

 

「ねえリン? 本当に大丈夫なの、アレ?」

 

「まだマシな方よ」

 

「え」

 

 次の丼を頬張り始める三月を見たイリヤは凛の反応に驚愕する間、士郎は昨日の事を思い出しながら三月を見た。

 昨日士郎、イリヤ、セイバーが凛に連れられた部屋にはタンス一つ以外()()()()()()

 正に空っぽの和式の部屋。

 長年誰も住んで居ない空き部屋。

 

「??? リン、三月の部屋を見せると言いましたがここは空き部屋なのでは?」

 

「………違う。 違うんだセイバー」

 

「シロウ?」

 

 声を出しながら固まった士郎を見たイリヤが心配で彼を呼ぶ。

 

「違うんだセイバー………ここが、()()()()()()()()

 

『部屋は心境の表し』。

 そう皆は子供の頃や今になっても聞いた事があるだろうか?

 全体的な表現としては間違っていないとも当たっていない場合もある。

 だが誰かが住んでいる部屋に()()()()のは異常ではないだろうか?

 

 士郎自身、部屋にあまり物は置いてはいないタイプだが少なくとも机や時計に小道具箱や雑誌とかを置く本棚ぐらいはある。

 凛や桜も一時的な泊りがけとは言え、何らかの私物を部屋に持って来ている。

 それが魔術道具やぬいぐるみや家の枕などなど。

 

「ええ、そうよ。 ()()が三月の部屋。  そしてタンスの中には衣類と学校の制服とカバンと鏡一つ。 ()()()()()

 

「そんな………」

 

「私も驚いたわ。 昨日衛宮君に連れて来られた部屋がこんな状態だったもの。 最初は『悪趣味な悪戯か』と疑った。タンスの中で三月のカバンや学生手帳を見つけるまではね」

 

 士郎は()()()三月の部屋の中に足を踏み入れる。

 一言でその部屋を現すのなら「空虚感」。

 

「ですがリン……信じられません! この部屋は………あまりにも………」

 

「ええ。 刑務所の独房の方が物を置いてあるわ。 私は思わずぞっとしたわ。 必要最低限の物しか置いていないと言うのも遠慮したいぐらいにね」

 

「シロウは………知らなかったの?」

 

「…………………」

 

 イリヤの問いに答えない士郎はただこの部屋を見ていた。

 

「その様子だと衛宮君も知らなかったみたいね……あと、ショック中の三人に追い打ちをかけたい訳じゃないけど、士郎は三月が『軽い』って感じてはいなかったかしら?」

 

「え?」

 

「イリヤ、少し衛宮君に背負って貰われないかしら?」

 

「いいけど…リン何が言いたいの?」

 

「なッ?!」

 

「シロウ?」

 

 イリヤを士郎が背中に乗せた瞬間、彼の表情が強場る。

 ()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()

 

「………イリヤの方がおm────」

 

「────待った。 衛宮君、この状況でも流石にそれは無いわ。 でも三人に私が言いたい事は分かったかしら?」

 

「「「……………」」」

 

 イリヤはこれが何を意味するのか考え、このような事に直結するのは「自分を瀕死の状態から救った」事だった。

 

 セイバーは以前「コアラ抱き」をされた時、三月が軽いと思ったのは自分がサーヴァントであるからと思っていた。

 

 士郎もセイバー同様だったがそれは自分が余り他の者を背負ったりした事があまりなかっただけで、三月を標準としていた。

 

 そして凛にはこの事が心底恐ろしかった。 三月が人間(ヒト)では無いのはほぼ確定していたが先日のイリヤの「少なくとも心がまだ人間(ヒト)という事」で一時は納得した。*1

 

 だがこの部屋の有様を見た凛は再度考えさせられ、ある一つの可能性が出た。

「もしかして三月には執着しているモノが無い?」、と。

 これは普通の人間でも異常だ。

 ましてやそれが人外ともなると。

 

「成程ね………リンが言いたい事が分かったわ」

 

「ええ、これは由々しき事態です」

 

「どういう……事だ?」

 

 未だにショックを受けている士郎はそこまで考える余裕が無く、ただ聞いた。

 

「衛宮君。 例えば………例えばの話よ? 未知数の力を持った()()が、何の執着も無く、ある日に『そうだ、何かしよう』と思って行動する。 果たしてどんな想像が浮かんで来るかしら?」

 

『暴君』。

 

 その一言が士郎の頭を過ぎり、これはイリヤやセイバーも同じようだった。

 

「それは、ただの自由気ままに生きる暴君の一歩手前ではないですか?!」

 

 何せセイバーはそのままの事を言ったのだから。

 

「ええそうよ。 皆はこれで分かったかしら? その事を私は恐れていたのよ」

 

「「「………………」」」

 

 皆が黙り込み、次の言葉を見つけようとする。

 だが上手い言葉が出ず、ただ静かに時は流れ、凛は口を開ける。

 

「衛宮君は、ずっと三月と住んでいたんでしょ? 何かないかしら?」

 

「何かって………何だ?」

 

彼女(三月)自身が何か興味などを持った事は無いかしら? 家事など以外で」

 

 凛はこう考えて士郎に聞いていた。

「もしかしたら衛宮君なら何か知っているかも知れない」または「何か三月が興味の事を分かればもっと色んなモノも探せるかも知れない」。

 

 自分第一で考えていると凛は思って行動しているが、これには若干無意識にかつて聞いた事がある幼い頃の『間桐桜』の噂等も関与していた。

 

『間桐慎二の妹』。

『人形の様に変わらない表情で兄の間桐慎二とは対照的な妹』。

『何時も暗く、俯いている間桐の妹君』。

 等々の噂を凛は幼い頃から聞いていた。

 

「…………分からない」

 

 士郎の答えは凛達が欲しがっていた答えとは程遠かった。

 

「え? で、でも一緒に住んでいるんでしょ?」

 

「そう言われてもな………」

 

 そこで士郎は凛たちに説明する。

 

 確かに小学生から一緒に住んではいるが、その頃の三月は今とは程遠い性格をしていて中々クラスに溶け込めずに居た。

 そして彼女に変化あったのは衛宮切嗣の死からで、三月はもっと他の人達の接し方を探すかのように努力をした。

 勉強ができる子達には知的に、オシャレの好きな子達には今風や次のビッグファッションウェーブの予測など、いつも同じおかずの弁当に不満を持っている子達には世界中のおかずを分ける等々。

 

 そして中学生に上がると士郎と三月はクラスが別々になり更に一緒にいる時間が無くなった。 一緒にいる時などは体作りや食材の買い物がメインとなり、更に時間が経つと────

 

「────あ」

 

 何かに気付いたかのように士郎はハッとする。

 

「どうしたの、シロウ?」

 

「そう言えば、桜なら知っているかも知れないと思って。 二人とも女性だからさ、結構一緒にいる時間が長いんだ。 それになんだかんだ言って昔の桜は三月の似ていたからさ」

 

「ッ」

 

「リン、どうかしましたか?」

 

「何でも…ないわ」

 

 結局その夜、次の日に士郎達は三月と桜にそれとなく聞く事にしたがこの後、イリヤの心臓を抉り取ったのが十年前の、凛の父親遠坂時臣のサーヴァントと判明した事に凛が動揺してその場から去ったのだが。

 

「ん~~~!!! 漬物美味しい~~~!」

 

 そして今日の朝、三月は以前同様の暴食ぶりを発揮していた。

 

 この三月を見ていたイリヤは不思議に思っていた。

「本当にこんな子があの部屋の主なのか?」と。

 

「ねえミーちゃん?」

 

「ん~? 何、イーちゃん?」

 

「ミーちゃんって何か欲しいものとかある?」

 

「「「(イリヤがいったー?!)」」」

 

 イリヤのそれとなくかつ直球じみた質問に士郎、凛、そしてセイバーがモキュモキュと食べる三月を見る。

 

「ん~? じゃあイーちゃんの沢庵一つ貰っていい?」

 

「いいよ────じゃなくて! あ?!」

 

「ポリポリポリポリポリ」

 

 ガクリと肩を落とす士郎、凛、そしてセイバー。

 

「そ、そうじゃなくて。それ以外の物。 ほ、ほら服とかぬいぐるみとか」

 

「ん~???? んー……………」

 

 口をモグモグとしながら目を閉じる三月に士郎達はゴクリと────

 

「────あ! そういえば小麦粉が減っていた!」

 

「「「……………」」」

 

 朝御飯の後、皿洗いを手伝うと言った三月に病み上がりという事で凛に代わってもらい、お茶を飲みながらテレビを見ていたがセイバーに稽古に誘われた。

 

「え? 士郎はともかく、何でイーちゃんもここにいるの?」

 

「あら? いけないかしらミーちゃん?」

 

「そう言えば、ミツキはこの稽古の事を楽しく感じていますか?」

 

「「(今度はセイバーが行ったー?!)」」

 

「え? ん~????」

 

 三月が首を横へ傾げる。

 

「んー…………まあ、体作りとしての運動と自衛手段としてかな?」

 

「では、体を動かすのは嫌いでは無いと?」

 

「え? まあ…………お腹空くから動くのは好きじゃないけど、死んだりするのはもっと嫌いで……………あ!」

 

「「「?!」」」

 

「やっと何か来たか?!」と思った三人。

 

「昨日マカロンを皆に出すのを忘れてた! 後で出すね」

 

「では稽古の後に楽しみましょう」

 

 セイバーは嬉しい顔をする反面、アホ毛がへなへなとしなれていくのを士郎は見た。

 

 その間キッチンでは気まずい空気が凛と桜の間に出来ていた。

 

「「………………………………」」

 

 これによって桜は何時もよりビクビクしていたのを凛は気付いていた。

 

「ね、ねえ? さ、桜?」

 

 本来なら勇気を持った桜が凛へのアプローチを心試す場面だが、昨夜士郎と話し合った凛が先に桜へ歩もうとした。

 ただ桜もこれを予期していなかったので身体と声を固くしながら答えた。

 

「は、はい?」

 

「……あー……うー………」

 

「???」

 

 全く『遠坂凛』らしくない感じの凛に桜は?マークを出しながら凛から続きの言葉を待つ。

 

「その………私の事、嫌いでしょ?」

 

「………………………え?」

 

 桜にとってそれは全く夢にも思ってもいない話の始まりだった。

 

「だって……知らなかったとは言え、お父様が『これは必要な事だ』って言い聞かせていたとしても、()()になった私は貴方に会えた筈なのに、会うのが怖かった────」

 

 そこからポツリポツリと、ぎごちない言葉遣いで桜に次々と話していった。

 

 ()()ならこれらの言葉は『遠坂家当主』、または『魔術師の遠坂凛』として心を固く閉ざしながら桜に接していた。

 現在そこに居たのはただの()()()が色濃く出ていた、『遠坂凛』と言う一人の女性だった。

 その上()()桜がこのような事を聞く状況は既に全てが手遅れになり、桜はただの命乞いや言い訳としか取っていなかった。

 だが幼い頃に慎二が士郎や三月を桜に()()より早く引き合わせた、慎二が()()程捻くれていなかった、などの要因が桜の助けとなっていた。

 

 ()()()()()()とは違う事が今起きていた。

 色々な過去の出来事がまたも『運命』を変えていった瞬間の一つだった。

 

 

 

 道場では以前までとは違う雰囲気が漂っていた。

 

 それは士郎にはまだ数回しか経験した事の無い「殺気」だった。

 彼の顔に湧き出てくる汗とは対照的にイリヤはただ眼前の場面を涼しく見ていた。

 

 その二人の前にはセイバーと三月が互いに竹刀を構えながら睨んでいた。

 

「「………………」」

 

 ヒュッとした音が聞こえるとセイバーの姿が消え、一瞬の時間差後に爆音に似た何かが士郎たちに聞こえ────

 

 

 

 バキィン!

 

 

 

「「────あ」」

 

 

 部屋の反対側に何時の間にか立っていたセイバーと尻餅を付いた三月が手の中で握っていた()()()()()()を見る。

 

「またk────」

 

「────いや~ん! お兄ちゃんイリヤ怖~い♡」

 

 イリヤが士郎に横から抱き着き、士郎が苦笑いする。

 

 何故ならイリヤの口は笑っていたが、目をそうではなかったからだ。

 

「ごめん士郎────」

 

「すみませんシロウ────」

 

「い、いや良いって。 後片付けは俺がやるから先に着替えてきな」

 

「ホイホ~イ」

 

 三月が何時ものノリで手を振りながら道場を後にした後、イリヤがセイバーを見る。

 

「………セイバー、どう思う?」

 

「彼女は異常です、イリヤ」

 

「………だな。 昔から『神童』、『天才』とか言われていたから、俺もてっきりそうかなと思っていたが…………」

 

 先程のセイバーは現在の()()の動きで三月に斬りかかり、三月は力押しには負けたが()()()()()()()

 

 これが人同士であれば何も問題ない。

 が、セイバーは英霊。 人々に祀り上げられた存在。

 そのような存在と張り合えるような高校二年生がこの世界にいるだろうか?

 

『三月は人間(ヒト)ではない』。

 もし凛が恐れているような事があればとイリヤと凛は見極めたかった。

 そして結果はほぼ最悪の想定に近かった。

 これを見たイリヤは何とか三月と『敵対』するのだけは阻止する事を考える。

 

 半面、士郎は内心焦った。

 凛に話していた事が現実になりつつあった。

 自分より優秀な三月を目の前に、『自分は何が出来るのだろう?』と思い始めていた。

 

『正義の味方』。()()()()()()()()

 

 最初は何かが自分に足りないと士郎は思っていた。

 だが三月を見ているとどうも違うような気が最近はしていた。

 確かに三月は強い、見違えるほどに。

 確かに彼女は博識、思わず()()()()()()()()かのように。

 だが彼女は果たして『正義の味方』になれるだろうか?

 

「『正義の味方』って、何なんだろうな」

 

「「シロウ?」」

 

 シロウの独り言を聞き取れなかったセイバーとイリヤが彼の名を呼ぶ、が士郎はただ立ち上がって後片付けをしながら考える。

 

「果たして自分の思っている『正義の味方』とは?」と。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「こ、こうかしら?」

 

「はい。 でももう少しお水が透き通る位までお米は洗ったほうが良いですよね、姉さん」

 

「えっと、ナニコレ?」

 

 三月が戻ってきた居間の隣にあるキッチンには凛にお米の洗い方を教えていた。

 しかも桜が凛の事を「姉さん」と呼びながら。

 

「あ、三月先輩お疲れ様です。 今ちょっと遠────『姉さん』に和食に合うお米の洗い方を教えているんですけど良いですか?」

 

「良いんじゃない?」

 

「え? さ、桜? どういう事?」

 

「あれ? 遠────『姉さん』に言いませんでしたっけ? 私に料理を教えたのは先輩達ですよ? 途中からは三月先輩メインになりましたけど」

 

「え゛………も、もしかして家事とかも全部?」

 

「そうですよ? 三月先輩って凄いんですから!」

 

「いや~、それほどでも~? 見ていた番組とか雑誌とか料理の本とかを参考にしているだけなんだけどね~?」

 

「…………………」

 

「ん? どしたの遠坂さん? というか桜、『姉さん』って何?」

 

「あ、えと、その────」

 

 アタフタしながらも三月に桜は問いをはぐらかし、家事のコツとかのおさらいを三月に頼んでいる間、凛は思っていた。

 

「(三月の目的は、何? 血? 魔力? 人間? いったい何?)」

 

 未だに三月の行動の原理が読めなかった。

 

『自分と似ている子』。

 

 それが遠坂凛という少女が中学生の頃に聞いた噂だった。

 曰く凛と同じく博識。

 曰く凛と似ていて近寄りがたいけど、接してみると話しやすい。

 曰く凛みたいに見た目も整っている。

 

『似ている』、『似ている』、『似ている』、『似ている』。

 それが周りからの噂だった。

 

「(もう、何なのよ?! それ程似ているって言うのなら見てやろうじゃないの?!)」

 

『凛が似ている』であって『その子が凛に似ている』ではなかったのに凛は苛ついた。

 そして猫を被りながらも、他校の中学校に見学に行き、目的の少女を自身の目で見るのは夕方となっていた。

 

 そこで凛が見たのは『衛宮三月』という小柄な金髪少女と、赤がかかった髪の毛の少年が交代で何度も何度も跳べもしない高跳びをひたすら跳ぼうと赤い夕日の中でしていた。

 

「(ふーん、確かに見た目はいいけど聞くほどより賢くないわね。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

 凛が見ている間に彼女は二人のお互いに対しての親しい態度に気付いた。

 

「(え、何? もしかしてあの三月って子の彼氏? うっわ、ありえないわー。 あんな凡骨、どこが良いのよ?)」

 

 少年が三月の彼氏と思い、『まさか彼氏持ちだから凛が三月に似ていると言われていたのか?』と言う思考に凛はさらにイライラする。

 

 だが時間が過ぎていき、凛はある事に気付く。

 

 二人の接し方は好意を寄せあっている男女や恋人のそれなどでは無く、互いを()()として意識したものではなく、()()()()のものだった。

 凛も、かつてはそう接せる姉妹がいたから分かる事だった。

 

 二人は楽しそうに何度も何度もチャレンジし、失敗しても笑いあい、お互いを励ましていたことに凛は衝撃を受けた。

 

「(失敗しているのに、笑う? 何度でも挑む? 励ます? それが…………『楽しい』ですって?)」

 

 それは今までの『遠坂家当主』の考え方からは程遠い考え方だった。

『無駄な事に時間を割くな』。

『魔術師は時に冷酷でなければ何もなせない』。

身内()他家(間桐)に引き渡されたのは交渉(遠坂家)にとって必要不可欠な事だ』。

 

 気が付けば、凛はずっと二人が高跳びにチャレンジしていたのを終わるまでずっと見ていた。 そして自分の家の遠坂邸に帰ると、凛はモヤモヤとした気持ちになりながら就寝したのをよく覚えている。

 

 その気持ちの所為で「桜はどうしているのかな?」と思い、次の日から毎日『間桐桜』の事を聞き回り始める事となり、ショックを受ける。

 

 昔、良く共に笑いあっていた『遠坂桜』は微塵も見当たらず、()()()()()()()()()()ような『間桐桜』だけの姿がそこにあった。

 

*1
第18話より




作者:ハイ、と言う訳で凛も二人の高跳びチャレンジ見ていました

雁夜(バカンス体):おいちょっと待てお前。 前半どういう事だ?

作者:菲才ですみません!

雁夜(バカンス体):そっちじゃねえ! 何だよこれ?! 空っぽの部屋とかって“アイツ”に似合わねえぞ?! というか怖えよ!

作者:もしかして心配していらっしゃる?

雁夜(バカンス体):ち、ちげえよ!

作者:……原作でもその疑いがありましたけど、もしかして雁夜ってようj────

雁夜(バカンス体):────吹き飛ばすぞテメェ?

作者:すみませんでしたッッッッ!!! と言うかアンタch────

雁夜(バカンス体):────死ね

作者:ヤメテ!ヤメテ! せめてこれだけ言わせて! お気に入りや評価、感想等あると嬉しいです! 何卒宜しくお願い致します!


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第25話 「ずれ」の捉え方

===================================================
『時』はただ動きだす、『運命』と歯車達同様に。

くるくる回る歯車達はこのまま回るのか否か?

変わった運命は変わったままどのような結末を迎えるのか?

回転の狂われた歯車の『運命』や如何に?
===================================================


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤスフィール運営 視点

 ___________

 

 その日の昼ごはんは所々歪な和食系中華だった。

 

「…………これって和食系中華?」

 

「ち、違うわよ! 和食よ?! ね、桜? 確かに中華っぽく出ちゃったけど…」

 

 三月の疑いの目+声で半ギレになる凛が桜に同意の言を求める。

 

「は、はい。 そうですね、姉さん」

 

 たが桜はただ苦笑いするだけで完全な同意はしなかった。

 

「ウ……え、衛宮君から見てからどうかしら?」

 

「ん? 旨そうだなと思うけど?」

 

「でしょう?! 分かってるじゃない衛宮君!」

 

「でも何か『初めは中華を作り始めたけど気が変わって和食にした』無理感が出ている」

 

「ングッ」

 

 士郎の言葉に一瞬安心した凛だが三月の全く悪気の無いツッコミでその笑顔がヒキつく。

 

「多分リンの事だから気ままに料理し始めたら何時もの癖で()()()()調理し始めたんじゃない」

 

「ええ、お嬢様の言う通りです」

 

「カハァ?!」

 

 イリヤとセラのトドメの二連撃に凛の笑顔は崩れる手と膝を床につける。

 結局セラはイリヤの侍女+世話係と言う事で衛宮邸に二人が止まっている間、家事などの手伝いをする事となった。

 最初はブツブツと不満そうにやっていたので三月がこっそりと「主の為の毒見」という名目で買ってあった駄菓子などをほぼ全て貰う事に。

 基本的に駄菓子類は来客用の為に買ったものだが何故か手作りの方が圧倒的に減っていたので衛宮邸ではずっと持て余していた。

 

 三月の「美人北欧系成人女性ツンデレのホクホク顔ゲットだぜー!」宣言も聞こえていなかったほどその時のセラは浮かれていたらしい。

 

「モグモグ…………あ、やっぱり美味しい! さすが遠坂さん♡」

 

 だが三月の満面の笑顔と「美味しい」と「さすが遠坂さん」宣言によって少し凛の心が救われた事実を彼女は胸の奥にしまった。

 

 更に「昨日と稽古の汗を流す」と言い残し、居間を後にした三月は服を脱ぐ途中、鏡を見て一瞬動きを止めた。

 

「??? 『()()()()()()()?」

 

 三月の胸には前より着替え中に鏡の中で見た痣模様が以前よりハッキリと映り、若干大きくなっていたかに見えた。

 

「(『()()』って変わるものなのかな?)」

 

 三月が一通り頭と体を洗い、お風呂に入っている間彼女はボンヤリと天井を見ながら気の抜けた声を出し、今日の朝の事を考えていた。

 

「フニャ~…………(うーん、やっぱりこの()()()()()()()()()()()()』ってのは便利ね~)」

 

 今朝三月がセイバーの斬りかかりに対応できたのは超人的な反応速度からではなかった。

 

 単純に三月には事前に行動が()()()()()()

 

 これは以前切嗣と大河が稽古をしていた時視た現象の応用で、集中さえすれば行動がある程度視える。

 

 なので三月はセイバーが打ち込んでくるであろう一撃の軌道に竹刀を構えただけなのだが………まさか竹刀が壊れるほどの勢いで来るとは思わなかった。

 

「やっぱ視るだけじゃ駄目か~」

 

 

 同時刻の頃、桜に士郎たちは三月の趣味とか興味の引くものを聞いていた。

 が、結果はあまり芳しくなかった。

 

「趣味や興味を言われましても……私達がほとんど喋る事と言えば家事や料理ですし」

 

「それ以外の物とか無いの?」

 

「う~~~ん…………」

 

「あ、じゃあ苦手な物とか嫌いな物とかってあるかしら?」

 

「え? どうしたんですか皆さんいきなり?」

 

「「あー、そのー」」

 

 士郎と凛が言い淀み、イリヤが溜息を出しながら代わりに答える。

 

「ミーちゃんに私がお礼したくてお兄ちゃんとリンに相談したんだけど良く分からなくて!」

 

「あら、そうだったんですか? 嫌いや苦手なもの…………確か…………」

 

「「「あるの?!/あるのですか?!/あるのか?!」」」

 

 凛とイリヤ、セイバー、そして士郎の迫り込むような勢いに桜の体は「ビクゥ!」とする(桜の髪の毛が一瞬「ブワッ!」とするほど)。

 猫であるなら天井に張り付くような勢いと言えば分かりやすい例えだろうか?

 

「えっと……幼い頃、三月先輩とお買い物でお出かけになられた時にその………帰り道の道路照明灯が壊れていて私は迂回しようかどうしようか迷っていたんですよ………その時は暗闇が()()苦手でして」 

 

「…………………」

 

 桜の表情が一瞬暗くなるのを凛は見逃さず、凛は気まずそうに唇を噛む。

 

「でも、三月先輩は臆する事無くただ暗闇の中を突き進もうとしたんですよ」

 

「え? こう、止まらずとも何も?」

 

「はい。 びっくりしましたよ。 そして急いで三月先輩の事を思わず抱き着きながら聞いたんですよ、『怖くないんですか?』って」

 

「そ、それで? どうだったのサクラ?」

 

 何故か怪談じみた空気になっているのに桜は若干(?)楽しみを得ていたのを他の皆に気取られないようにしていた。

 

「そしたら三月先輩は顔色一つ私の方を見て『ああ、ごめんなさい。 桜()怖かった? 私、そういうのって良く()()()()()から。 次からは気を付けるね?』と」

 

「「「「……………………」」」」

 

 士郎達には思う所などがあるのか、黙り込み、桜は気まずくなりモジモジとしていた。

 

「…………あ、あのー?」

 

 凛が突然桜の肩をガッシリと掴む。

 

「桜、他には何か無かったかしら?」

 

「え? ね、姉さん?」

 

「お願い、桜」

 

「ハ、ハイ………えっと……同じように出かけていた時、車か何かに轢かれた猫が道路の隅にあって、三月先輩は()()()()()()()()()近くのゴミ箱に()()()んです」

 

「ウゲッ、それは……………ちょっと」

 

「え? そうですか? 手はちゃんとその後三月先輩は洗いましたよ?」

 

 更に顔色が悪くなる凛に桜の背中がゾクゾクしたのを桜は胸奥深く埋める事に決めた。

 凛の表情を脳内記憶に焼き付けて。

 

 それから桜は更に先程のような、三月の常人からすれば()()()言動を話し始める。

 

「瀕死の犬は助けようと必死になり、自分の服が汚れるのを恐れず近くの獣医に持って行った」。

「コケて膝に怪我をした見知らぬ子供の看病をした」。

「道ですすり泣く少女を素通りした」。

「親からはぐれて泣いていた子供をあやし、親を一緒に探した」。

「探偵ドラマや映画は退屈そうな表情で観るが逆に政治家達が出る議論などは面白そうに笑っていた」。

 

 等々といった具合だった。

 

 そこに士郎が入り、二人の言い分を凛とイリヤが聞いていった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ねえ、桜はどうする?」

 

「……………え?」

 

 三月が風呂から出て皆が静かに居間で寛いでいると三月は居間から凛と桜の声が聞こえてきた。

 

「(何だろう?)」

 

「今日も衛宮君の家に泊まるのかしら?」

 

「えっと……」

 

「俺は別に構わないぞ? 藤姉も、多分まだ学校での事で忙しいしさ」

 

「(あ、成程。 葛木先生絡みでまだ帰り遅いのか藤姉)」

 

「で、でも────」

 

「と言うか留守を頼んでくれるか?」

 

「………………………え?」

 

「いやこの頃物騒だろ? 俺はちょっと見回りをするだけさ」

 

「……………………セ・ン・パ・イ?

 

「うぃえ?! な、何で私ぃぃ?!」

 

 三月がタイミングを計らったかのように居間に入ると怖~い笑顔をした桜が青ざめる凛を見ていた。

 ちなみにイリヤは桜に弄られる凛が楽しくて静かに紅茶とお菓子をポリポリと食べていた。

 

「えっと……………どゆ事、これ?」

 

 

 ___________

 

 間桐慎二 視点

 ___________

 

 

「ど、どういう事ですか?! 爺さ────お爺様?!」

 

 同じ日に同じ問いだが場所は変わり、冬木市のとある()()()に変わる。

 

「何、簡単な事じゃよ。 儂は()()を手に入れればその他に文句は無い」

 

「けど、それがどうして()()()を倒す理由になるのですか?!」

 

 間桐慎二は青くなりつつある顔色で、前に立っている臓硯に何か乞うような声を上げていた。

 

『桜()を巻き込みたくなければマスターとなり、魔力を間桐邸に捧げろ。 それで事は済む』。

 

 これが聖杯戦争直前に慎二が受けた頼み(命令)で、それをせっせと今までずっと励んでいた(留守の衛宮邸で時々休憩を挟みながら)。

 臓硯は例としては広範囲の魂食いなどを進めたが慎二は()()()()()()()()()()()()()()()()を優先的に贄として狙っていた。

 大抵の場合、そのような奴らの周りにも()()がいるからだ。

 要するに一匹叩けば30はいると言う様な芋づる式で()がわんさか出てくる。

 

 そしてついさっき、臓硯が慎二に言って来たのだ。

 

『魔力も順調に溜まりつつあるので頃合いかも知れん。 ()()()()()()()()()()』と。

 

 これに慎二は震えた。 間桐家の()当主の臓硯がこの聖杯戦争で誰かを明白に()()()()()と言ったのだ。

 そして慎二の知る限りでも臓硯は念には念を入れるタイプで宣言した事は()()成功する。

 

「何もお主がやれとは言っておらんだろう?」

 

『だからお前はそのままで良い』。

 

 最後の方はそう慎二に聞こえていた。

 まるで()()()()()()()()()()()()な言い方で。 

 

「え、あ、でも」

 

 それでもまだ何か言いたい事を探していた様子の慎二に臓硯は目を細めた。

 

「ほう? ()()()頼みでキャスターを始末して、()()()()()()()このご老体では不満と?」

 

 慎二の身体がビクリと反応する。

 実はキャスターがライダーの結界を利用して慎二がどうキャスターのいる場所にどう攻め込むかブツブツ言っていた独り言を臓硯が()()()()()聞き、声を慎二にかけた。

 

『キャスターは儂に任せろ。 お前はそのままライダーと魔力を回収しておけい』

 

 慎二がその夜、間桐邸に戻ると何時もよりおぞましい空気に満ちた間桐邸にアサシンを連れて()()()()()臓硯がいた。

 

『良い拾いものが出来た』と()()で臓硯を見た慎二は思わず体の震えが止まらなかったほどだった。

 

「お、お爺様。 ど、何処で彼らと事を構えるつもりなのでしょうか?」

 

「む? なんじゃお主、やはり手伝いたいのか?」

 

 ニィーっとおぞましく笑う臓硯に慎二は全力で否定した。

 

「い、いえいえいえいえいえいえいえ! お爺様の邪魔になりたくないだけです! 巻き込まれたら、僕は一溜まりも無いですから!」

 

「…………フン、良かろう。 それにもうここまで来れば儂だけでも────

 

「え?」

 

 最後のぼそぼそとした臓硯の言った事がイマイチ聞こえなかった慎二に臓硯は大体の場所を伝える事だけにした。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその地下室の影からしっかりと彼の言った事を全て分かったモノがいたのを慎二やライダー、臓硯や彼のアサシンでさえ気付かなかった。

 

「(フフフ。 大丈夫だよ()()()()()。 聞いちゃったからさ、君にはちょ~っとお灸をすえないとね~♪)」

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 その夜、出掛けようとした士郎、三月、セイバーは話し声を玄関の方から聞こえてきた。

 

「────」

「────!」

「────?」

「────」

 

 声だけしか聞こえなかったが、二人の女性と士郎は聞き取り、通路の角を曲がると玄関には予想通りの二人がピタリと話を止める。

 

「あら衛宮君、遅かったわね」

 

「あ、先………輩………」

 

 そこには私服姿の凛と、桜がいた。

 

「どうしたんだ二人とも?」

 

 士郎の問いに、表情の沈む桜と答える凛。

 

「桜が『衛宮君(先輩)に危ない事を強要するな』って言って来てね、私は『寧ろ心配で付いて行っている』と説明していたのよ。 衛宮君って頑固だからさ」

 

「そうなのか、桜?」

 

「……………はい」

 

 桜の更に沈む顔に士郎は安心させるように、張り切りながら言葉を続ける。

 

「大丈夫だって桜! ちょっと夜の様子を見に行くだけだ。 それに、遠坂って頼りになるからさ!」

 

「え?」

 

 目を見開き、士郎を見る桜。 その顔を見た三月は────

 

「────(ん? あれって、『失望』?『恐怖』???? 何だろう?)」

 

「だから俺達が安心して帰って来れるように留守を頼む、桜!」

 

「ぁ……………は……………い」

 

「ハァー……………桜、これだけは信じて頂戴。 これは衛宮君が望んで出て行っていて、私達はこのバカが暴走して無茶しないように見張る為に付いて行っているの」

 

「………遠坂、何か怒っていないか?」

 

「うっさい、バカ! とっとと行くわよ!」

 

「お、おい待てよ遠坂!」

 

 ズカズカと玄関を出ながらコートを羽織る凛を士郎が急いで靴を履き、セイバーと共に曇るつつある夜の中で後を追う。

 三月も同じくブーツを履こうとすると桜が三月の腕を強く掴んだのに三月はビックリする。

 

「??? 桜?」

 

 そして泣きそうな顔と、悲痛の満ちた声で桜は心苦しく口を開ける。

 

「三月先輩…………先輩を……先輩()()()()()

 

()()()()()()

 

 殆ど即答した三月に桜は一瞬呆気に取られそうになるが、桜はすぐに頭を三月に深く下げた。

 

「ッ………お願い………します………」

 

 それはかつての切嗣の頼みと三月の受け答えの状況にどことなく似ていた。*1

 

 三月を見送る桜の表情は居間に帰って来ても暗かった。

 

「大丈夫よ、サクラ」

 

「えっと…イリヤスフィールさん?」

 

「イリヤで良い。 留守を任されたからにはどっしりと構えましょう?」

 

「…………でも…………私は……………」

 

「お兄ちゃんの事が心配?」

 

「え? ………『お兄ちゃん』って────?」

 

「────私の母親の名前はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。 そして、父親の名は────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして空がさらに暗くなった町を士郎達は歩きながら話していた。

 

「なあ、三月? お前怖い物とか無いかな?」

 

「んえ? 何か激突だね」

 

「まあ、暗闇が怖いとか無いかなって」

 

「(衛宮君、いくらなんでどっ直球過ぎるわよ)」

 

「ええと、桜がさ」

 

「え? 桜が?」

 

「あ、ああ。 少し前に三月が怖いもの無しみたいな話をしていたからさ」

 

「いや、別に暗闇が怖いなんて事は無いけど」

 

「そっか」

 

「じゃあさ、グロいモノとかはどう? 例えば死体とか」

 

「え? ん~? どうだろう? ()()()()()()()()()()

 

「「「え?」」」

 

「え? 何その反応? だって()()じゃないかな?」

 

「「…………」」

 

 凛とセイバーが黙り込み、士郎が次の問いをし始めた。

 その日の昼、桜から話を聞いた皆はこっそりと互いに三月に確認を取ろうとする事に決めた、彼女の行動原理を。

 

 そして以下の返事が返ってきた。

 

「え? あああの死にそうだった犬ね。 だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃん?」

 

 これに士郎達は共感できた。

 

「え? 膝を怪我した男の子? よく知っているね~、あの子が泣こうとしないからちょっと()()()したかったの。 もし泣いたとしても消毒液の所為に出来るでしょ?」

 

「(何だ、意外と普通じゃない)」

 

 そう凛も思い始めていた頃だった。

 

「じゃあさ、すすり泣く少女を無視したのは?」

 

「え? ()()()()()()()()()()()わよあの子?」

 

「「「????」」」

 

「だってあの子、ただの『かまってちゃん』でウソ泣きしていただけだし? 言動、表情、泣き方と声の使い方が()()()()()()()()()()()()()()()()の。 あの子、女優を目指せるわよ」

 

「………で、では迷子の子供の親を探す事はどうなのでしょうかミツキ?」

 

「別に良いと思う。 それが本当に迷子で、事情があって親か子供が意図的に置いて行かなければ良いんじゃない?」

 

 三月の段々と()()()説明にさすがの士郎も違和感を覚え始めていた。

「それは違うんじゃないか?」と。

 

「そういう見方もあるわね。 あ! そういえば三月って探偵ものとか好きそうね! 何かおススメとかあるかしら?」

 

「え゛? ()()()()()()()()()()()()わよと遠坂さん」

 

「え? 何で?」

 

「だって()()()()()じゃん。 あんなネタバレだらけの番組に何で皆ワァワァ騒ぐのかが分からない。 あんなのすぐに分かっちゃうじゃん」

 

「そ、そうか? その割には議論とかは面白く無さそうじゃないか?」

 

「えー?! 士郎こそ何言っているのよ! あんなに良い()()()がタダで観られるのよ?! ()()()じゃん!」

 

「ちゃ、『茶番劇』ぃ?」

 

「ふわ~、今日は降るのかな~? 雪かな? 寒いし」

 

 三月が空を見ながらセイバーの隣で独り言を出す。

 

「……………そうね」

 

 凛が士郎の近くに行き、身体を寄り添うかのように近付づく。

 

「と、遠坂?!」

 

黙って聞きなさい。 見張られているわ

 

 凛がセイバーの方を見ると彼女は頷き、同じく三月にこの事を伝える。

 そして皆が冬木中央公園の開けた一部に出ると凛が口を開ける。

 

「姿を現したらどうかしら、間桐のご老公?」

 

 誰にでも向けていない凛の問いに、士郎達の前に大勢の蟲「キィキィ」と鳴き声を出しながら集結し、一人の老人がその中から姿を現す。

 

「ほう、流石は遠坂の娘。 優秀よのぅ」

 

 先程アーチャーから凛に連絡が入ったのだ。

「誰かの蟲に見られている」と。

 

 この何者かを釣る為に凛達は敢えて人気が無く、開けた場所に歩き出ていた。

 勿論、アーチャーが『蟲』といった時点で間桐臓硯と当たりを付けていたので半分ブラフのつもりで凛は彼の名前を言った。

 

「あ、アンタは間桐臓硯?!」

 

 士郎の驚く声で今まで「誰このお爺ちゃん?」と?マークを出しっ放しの三月が聞く。

 

「『間桐臓硯』って、慎二君や桜の………えっと、誰?」

 

「フム、こうして会うのは初めてか」

 

「あ、ああ。 俺も前に桜を見送りした時に一度だけ会ったから詳しくはないが、慎二達の祖父だそうだ」

 

「ええ。 そして『間桐』の中で()()魔術が使える正真正銘の()()()よ」

 

「クカカ。 この老いぼれに何を期待しておる? 儂はただの死にぞこないじゃ」

 

「で? その『老いぼれ』が何で私達の監視をしていたのかしら? 恐らくは慎二絡みでしょうけど」

 

「成程。 あのご老体が間桐家のメイガス(魔術師)ならば、ライダーのマスターに加勢し、聖杯戦争を有利に進める筈」

 

「ハッハッハ、確かに()()絡みだが的を射ておらんな。 何、ただ可愛い可愛い甥の()()()が気になっただけよ」

 

 一瞬だけ笑っている間桐臓硯の視線が三月を見た瞬間、彼女の背筋に冷たい感覚と身体が思わず「ゾクリッ!」と震え、咄嗟に士郎の後ろに隠れる。

 

 グループの前にアーチャーが突然現れ、セイバーが士郎の隣に立ちながら甲冑姿に変わり、警戒を続ける。

 

「ほう、変わった風習だな。 自分の甥の学友達を()()()()為だけに()()も放つとはな」

 

『アーチャー、動きを見せたら牽制。 仕掛けてくるようなら即座に戦闘開始よ』

 

『分かっている、凛。 君も気を付けろ。 このご老体、油断ならない相手だぞ』

 

()()、じゃと? ハ、これはただの挨拶じゃよ」

 

 カツーン!

 

 臓硯は笑いながら持っていた杖を地面に叩くと耳を劈くような音が発され、異様な空気が場に満ちていく。

 

()()とはこう言う物じゃよ」

 

 この空気は士郎や三月、ましてや凛でさえ初めて経験するような、まるで自身の身体が地面に上から押しつぶされるような感覚から股を着きそうになった。

 それは「今から殺す」と言った生ぬるい物ではなく、「もう既に死んでいる」と錯覚させるぐらい異質なものだった。

 

「あ…………グッ……」

 

「おも………たい…………」

 

「シロウ、ミツキ?!」

 

「なん…なのよ……これ……」

 

「慌てるな、セイバー。 これは呪詛の類、気を失わなければどうという事は無い」

 

「ほう? 一瞬で見破るとは。 そこなサーヴァントはかなりの場数を踏んでいると見た、クカカ」

 

「黙れ、妖物」

 

 フッとすると場の空気が正常に戻り、士郎達はよろめきながらも立ち上がり、一足先に回復した凛が口を先に開く。

 

「………それで間桐最後の魔術師の貴方がどうして夜分遅く、こうして出迎えたのかしら?」

 

「何、簡単な事じゃよ────」

 

 臓硯はニィーと笑う。

 

「────お前達にはここで()退()して貰う」

 

 アーチャーがすぐさま動き、セイバーは空中を薙ぎ払うかのように見えない剣を振るう。

 

 ガキキキキィン!

 

 金属音と共に士郎達の周りに黒く塗りつぶされた短剣が落ちる。

 

「これは、先日の?!」

 

「黒く塗りつぶした短剣(ダーク)! やはりアサシンか!」

 

「フム、流石はセイバー」

 

 セイバー叫びに未だに笑う臓硯は面白いものを見るかのように言う。 そして突進してくるアーチャーの前に突然数十名の人達がゾロゾロと現れ、彼は目を細める。

 

死霊魔術師(ネクロマンサー)の真似事か」

 

「え?」

 

 士郎達がその()()を見るとボロボロの服の下の肌は腐りかけ、生気が全く感じられず、目が虚ろの上に動きがぎこちなかった。

 所謂『ゾンビ』だった。

 

「左様。 お主等サーヴァントに魔術は聞かぬ故、他の方法を取るとしよう────」

 

「────ッ! 皆しゃがめ!」

 

 アーチャーが叫ぶと同時に、現れた死人達は手の中の物を構える。

 

「え?!」

 

「アレは?!」

 

「うぃえ?! 旧ロメロタイプじゃないの?!」

 

 驚く凛と士郎、そして別の理由で驚く三月。

 何せゾンビ達はそれぞれ『銃』を構えて、引き金を引いていたのだから。

 

 ダダダダダダダダ!

 

 文字通りマスター達である士郎達を狙った銃弾の雨の中、アーチャーが次々とゾンビ達を斬り伏せて、セイバーは士郎達の前に出て弾を見えない剣で弾いていた。

 

「さて────」

 

「────フン!」

 

 ゾンビ達を斬り終わったアーチャーはすぐに臓硯の首を刎ねる。

 だが臓硯の身体は蟲の群れへと変わり、同時に動かぬ死体と戻ったゾンビ達の身体が爆発し始め、辺りは土煙と死臭に包まれる。

 

「奴はまだ近くにいる!」

 

 アーチャーの叫びにセイバーは後ろにいる士郎達の周りを気にかけ────

 

「────シロウ!」

 

「え?」

 

 セイバーが煙の向こうで見たのは士郎の頭上に群れた黒い()()()()

 そしてその塊が臓硯の形を取っていた。

 

 無数の蟲が土煙に、翅の音は爆発音に紛れて集まったのだ。

 

 そこで三月の声が響く。

 

「────汚物は消毒だぁぁぁぁ!!!」

 

*1
第三話より




作者:ストックがずっと切れるか切れないかの状態が続いていましたが今回で切れました。 明日の投稿も頑張りますが保証しかねます…

マイケル:と言うかゾンビ? マジ? 何だこの『ロメロ』って?

三月(バカンス体)/ラケール:アンタ知らないの?!

マイケル:ちょ、近い近い近い近い!

作者:頭痛薬飲んで寝る。

雁夜(バカンス体):最後のあれ、何だ?

三月(バカンス体)/ラケール:一人のモブ役の五秒間グローリー

雁夜(バカンス体):え?

三月(バカンス体)/ラケール:しかも火炎放射の

雁夜(バカンス体):意味分かんねえよ!

チエ:慣れろ、雁夜

作者:もし楽しんでいただけたのならお気に入りや評価、感想等あると励みになります。 宜しくお願いします!


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第26話 「汚物は消毒すべきだ」

遅くなりました、26話です。



毎日投稿するのはちょっと疲れるねパトラッシュ?


と言う訳でアンケートを取りたいと思います、ご協力お願いします!


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 

「────汚物は消毒だぁぁぁぁ!!!」

 

「ぬぅぅぅ?!」

 

 臓硯は三月の手から出た炎から逃げるようにまた蟲に戻り、虫達が拡散する。

 凛は一瞬、自分の父の魔術と連想する。

 

「って、三月! 火傷していないか?!」

 

 という士郎の声で三月の手の中にはライター(お墓参りに使った物と同じ)と催涙スプレー缶(ミニチュア)だった。

 

「まあ、唾付けとけば大丈夫でしょ?」

 

 セイバーが三月を押して迫って来ていた短剣(ダーク)を払い落とそうとするが、先程の三月の即席火炎放射という光源で虹彩が少し縮み、何本かの短剣(ダーク)が後ろにいる士郎達へと迫る。

 

「『トレース、オン!』」

 

 士郎は一歩前に出て短剣を『投影』した双剣で払い落とし────

 

「『ガンド』!」

 

 ────凛がガンドで漏れを撃ち落とし────

 

「行っけー、プチイ〇コム達!」

 

 ────三月はイリヤが以前、三月の前で使った『天使の詩』の髪の毛状の鷲達で士郎と凛の周りを守った。

 

「まさかこれで終わりの訳ないわよね、臓硯!」

 

 凛の挑発のような言葉に臓硯の声はただ暗闇の中で響く。

 

『フッフッフ、流石は遠坂と()()の子達よ────』

 

 急に臓硯の言葉の終わりと同時にアーチャーが凛の首近くを切り払い、彼女を突然退去させる。

 

「ちょ、アーチャー?!」

 

「虫と上空だ、バカ共!」

 

 士郎、三月は上を見る前に反射的に首から来た、針に刺されたような痛みに手を上げると虫の死骸が掌にくっついていた。

 

「うわ! 汚い!」

 

「虫? 蚊か何かか? (でも今アーチャーが────)」

 

 半面、セイバーの顔は青ざめながら士郎と三月を担ぎ、アーチャーのようにその場を離れようとした瞬間空から数多の武具などが文字通り雨のように降って来た。

 

「二人とも摑まっていて下さい!」

 

「おわ?!」

 

「きゃあ!」

 

 セイバーは風王鉄槌(ストライク・エア)と魔力放出を同時に発動し、普段よりも更に素早くその場を離脱し、後ろからガラスの割れるような音が三月の破壊された『天使の詩』から来ていた。

 

 だがアーチャーより一足遅かった為セイバーと彼女が担いでいる士郎と三月の周りに爆発が起きる。

 

 更に無数の短剣(ダーク)が針の穴を通すかのような神業でセイバーたちを襲い、彼女は回避するのに更に爆発に巻き込まれていた(両手が士郎と三月で塞がっている為)。

 

 武具が落ちていない、開けた場所の周りにある林まで着くとセイバーが倒れ込むように落ちて、士郎達は投げ飛ばされる。

 

「ぶわ! クソ、あの前回のアーチャーは出鱈目過ぎる! ……大丈夫か、二人とも?」

 

「「……………………………」」

 

 地面では苦しそうに顔をしかめる三月と────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────深い傷を背中に負い、三月同様に苦しむセイバーがいた。

 爆発などからセイバーが敢えて士郎の『盾』となったのだ。

 

「………ぁ」

 

 士郎は短い息を吸う。

 士郎は()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 

≪誰かを救うということは、誰かを助けないということなんだ。≫

 

「(うるさい)」

 

≪ならば認めろ、一人も殺さないなどという方法では結局誰も救えない末路だけが待っている。≫

 

「(うるさい!)」

 

≪英霊とて全ての人間を救うことは不可能だ。≫

 

「ッ」

 

「シロウ……ご無事………ですか?」

 

 セイバーが見た士郎の顔は何時もの彼とは程遠い、悔しそうな表情だった。

 

 

 ___________

 

 間桐臓硯 視点

 ___________

 

 人外とは言え人型である以上、その()と同様か同じような物理法則制限などがある。

 そして間桐臓硯の場合、彼の体は蟲で出来ていた。

 

「(おのれ、時臣め! 死して尚、儂の手を煩わせておってからに!)」

 

 彼は若干焦っていた。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、()()としては臓硯が陽動をかけ、遠坂凛と彼女のサーヴァント共々殺すつもりだった(そして臓硯は死体を二つ得る)。

 

 ただ攻撃が聞いていたものより遥かに広範囲だったので、臓硯の内包していた何割かの蟲も巻き込まれた上に『衛宮兄妹』がまさかあそこまで魔術を駆使出来るとは()()()()()()

 そして()()遠坂時臣の娘が魔術師として劣っている筈の『衛宮兄妹』を()として利用するスタンスを取らず、()()の手を取るとは予想外だった。

 

 実を言うと臓硯の想定していた考えも凛自身の頭を過ぎったが、もしその行動に出て勝てたとしても、良くて臓硯とアサシンの撃破の代わりに衛宮兄妹運営達との関係が痛みこれから先の戦いなどが不利になる(自分が負けるとは思っていない)。

 そして悪くて臓硯とアサシンを撃破出来ず、衛宮兄妹運営達との停戦協定が無くなってしまう。

 この二つの損得の末、凛は先程の()()としての行動をとった。

 

 とは言え間桐臓硯は500年も生きた人外。 こんな予想外の状態でも余程の事が無い限り、大事には至らないし警戒さえしておけば後れを取る事も無い。

 

 それに間桐邸にさえ戻れば蟲の補充は幾らでもある。

 

 こう考えると先程の戦闘にデメリットしかない様に聞こえるが、間桐臓硯には収穫もあった。

 

『(あの小娘、確かに色々と厄介だが考え方が()()()()()()()。ならばやりようは幾らでもある。 そして手に入れれば桜よりも────)────なっ?!』

 

 臓硯は急に立ち止まる。 立ち止まると言っても意識を『憑依』させた蟲の進行が強制的に止まっただけなのだが。

 

『(な、何じゃ?! ま、全く動けぬ!)』

 

『やあ()()()()()、最近はどうだい?』

 

『ッ?!』

 

 男か女、果ては大人か子供かも分からないような、様々な声帯が混じりあった声がどこからともなく臓硯の考えている事に答えるかのように響いた。

 

『“久しぶり”、と言った方が良いのかな?』

 

『………何故、あなた様がここに?』

 

 それは()()()()()()()だった。

 

『嫌な事を小耳に挟んでね、“時”と“状況”を無断で先行する悪~い虫がいるとか』

 

『はぁ、存じ上げませんが。(クッ、さっきの仕業はこ奴か!)』 

 

 臓硯は必死に考え、久しく感じていなかった『焦り』を思考の奥底に放り込んだ。

 

 ここで()()()()()()()

 

「自分の追い求めていた不死がもうそこまで来ていたからこそ、『順序』を自分の判断で早めたと言うのにそれがこうも簡単に捻じ曲げられ自分の仇になるとは!」と思いながらもある筈の無い話し相手の視線は鋭く、問答を間違えれば今にも殺されそうな空気だった。

 

『まあ、そう構えないでくれよ。 私達は()()()ではないか? 失敗の一つや二つ、いつも言っている様に誰にでもある、()であればね。 それに君と君の孫の働きぶりは実に良い』

 

『………ありがとうございます』

 

『ただねえ、()()()()()────』

 

「ズンッ!」と空気自体が重く、息苦しくなるような場に臓硯は掻く筈の無い汗が噴き出すような錯覚に落ちそうだった。

 

『────()()()()()()()()()()()?』

 

『…いえ、儂は…何も………』

 

『そっか。 じゃあ私()許そう』

 

 フッと空気が軽くなり、臓硯は内心ホッとする。

 

『まあ、もう少しだけ待ってよ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────後は時間の問題だからさ♪』

 

 間桐臓硯は周りの気配を出来るだけ隠密に探り、何も無い事にもう少し安心し、間桐邸の門の前に人となり、立っていた。

 

「(だが油断ならん。 もう既に儂を消しても良い位まで進んでおる、本体と()()の確保をせねば!)」

 

 間桐臓硯が急いで家の中に入り、蟲蔵の扉を開けようとすると────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────間桐邸は地獄と化した。

 

 この間桐家が地獄で無い事など、間桐臓硯がいる限り住人達にとって一度たりとてなかった。

 

 しかし、今日のそれはいつもとベクトルが全く違う。 

 

 それは衝撃波だった。

 

 あらゆる家具や壁が吹き飛び、当然臓硯の体も衝撃を躱す為に蟲の群れへと還る。半ば砕かれた家は、残りの部分から崩れ落ち初め、建物全体がきしむ。

 

『(な、何じゃ?! い、一体何が?!)』

 

 間桐邸は燃えていた。 そして臓硯は急いで蟲蔵に向かった。

 燃えている間桐邸は所詮地上にただ置いてあるのは臓硯が用意したカモフラージュ。

 彼にとっての()()は蟲蔵である。 それさえあれば彼は────

 

『────あ、ああああ! 燃えている! わ、儂の可愛い虫達が! も、燃えているぅぅぅ?!?!』

 

 もはや彼に信仰などほどんど残っていなかったが、その場に誰かがいたとすれば「まるで神罰が下ったかのような光景だ」と思うだろう。

 

 そしてあながち間違っていないのが怖いかも知れない。

 

「流石虫だけに、良く燃えるではないか」

 

『き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 その火の海になりつつの蟲蔵で立っていたのは黄金の髪に紅の瞳。 何時の日か三月を「()()()」と称し、「()()」の花摘みの代わりにとイリヤの心臓を抉り取った青年がいた。

 

 この煉獄の中にありながら、汗一つ垂らしていない彼を臓硯は()()()()()

 何せ十年前の第四次聖杯戦争、遠坂時臣が当時何のサーヴァントを呼ぼうとしていたのかは取り寄せた聖遺物を確認すれば一目瞭然。

 そしてそのサーヴァントが()()()誰にも制御など出来ぬ事も理解した。

 それも要因の一つとして臓硯は前回の聖杯戦争を諦めていた。

 間桐雁夜をバーサーカーのマスターとして参加させたのは単なる「楽しみ」の「道化」役、「気紛れ」として。

 

「随分と風通しが良くなったぞ? 匂いはまあ、何れ塵となって消えて行くだろう」

 

()()()()()()()! 何故だ?!』

 

『英雄王ギルガメッシュ』。 十年前、遠坂時臣のサーヴァントだった者は「人類最古の英雄」とも呼ばれ、かつてこの世界の()()を統べ、贅と快楽とを貪り尽くし、()()の宝を所有した王であり、強烈な自我の持ち主。

 

 そして第四次聖杯戦争の実質的な「勝者」でもあった。

 

 本来の臓硯ならば彼の機嫌を損ねないようにあしらうが、混乱と動揺が彼の思考を鈍らせていた。

 

『我々は()()()ではなかったのか?! ま、まさかこれは()()()の────?!』

 

「────勘違いをするな。 歳で頭が耄碌したか? たかだか500年生きただけと言うのに。 これは我の『散歩』だ」

 

()()」。 マキリ家から間桐家の数百年作り上げた魔術工房と臓硯が大切に育て上げた虫達が崩れ燃えていくのが「()()」と聞いた臓硯は激怒した。

 

()()? ()()じゃと?! 間桐家の! 儂の悲願を────!』

 

「────まあ分らんでもない。 快楽を求めるのは()の証だ」

 

『ならば何故────?!』

 

「────『何故』だと? 我は豪勢なモノを許す。 装飾華美などもっとも愛でるべきものだ」

 

 これは人外になった臓硯も共感できる、何せ今は燃えているが彼の蟲がそれに値していた。

 

「だが我は()()()()()に与える意義などない。 臓硯よ、我は昔十人の奴隷を選び、その中でいなくとも良い者を殺そうとした事がある。 どうなったと思う?」

 

 臓硯は必死に生き残っていた蟲を安全な場所へと誘導しながら出来るだけ時間稼ぎを考えていた。

 未だに自分に攻撃が来ないのはギルガメッシュの気紛れにすぎない。

 

『………どうだろうか。 その者達の生い立ちや家族、社会への利益などの配慮────』

 

「────そこだ、臓硯。 一人も殺せなかったのだよ。 いかな人足とは言え、()()()()などいなかったのだ。 かつての我の世界には」

 

 臓硯は内心舌打ちを打ちながら、冷静に戻りつつ、次の手を考えていた。

 

「だが今この世界には()()が溢れているではないか! 十人どころか、何千、何万といった人間を選んだ所で殺せない人間など出てきまい! それに多いと言う事はそれだけで気色が悪い。 臓硯、貴様は我の物に許可なく手に掛けようとしたな?」

 

 ギルガメッシュが笑いながら臓硯の蟲を睨む。

 

『な、何の事だ?! 儂は────!』

 

「────貴様は()を犯した。 ならば()である我が裁く必要がある。 ただそれだけだ」

 

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 ある程度セイバーの自己治療が進み、歩けるようになる間に別の方向に離脱したアーチャー運営が士郎達を見つけた。

 

「衛宮君! 三月! セイバー! 皆無事かしら?!」

 

「遠坂! 三月の様子が変なんだ!」

 

 凛が三月の状態を見ると以前、学校でキャスターが結界を発動した時と同じような症状が出ていた。

 

「学校の時と同じ? いえ、今のこれが更に容赦無いように見えるわ。 結界が無いのにどうして────?」

 

「凛、少しいいか? 彼女の首を見ろ」

 

「アーチャー? ………何、これ?」

 

 士郎が三月の首を見ると、以前イリヤとバーサーカーに会った夜の帰りに慎二が眠らせた美綴と似た痣が出来ていた。

 

「これは、美綴の時の?」

 

「美綴? どういう事、衛宮君?」

 

「あ、ああ。話が長くなるんだが────」

 

「────取り敢えず、移動しましょう。 今ここでは襲撃されては我々が不利です────クッ!」

 

 セイバーが気丈に振舞おうと立ち上がるが、痛みに顔しかめ、体がよろける。

 

「無理をするなセイバー! お前の背中、ズタズタだったんだぞ………」

 

「なら私がお前の妹君を担ごうか?」

 

気安く三月に触るな

 

「…………………………………ハ」

 

 アーチャーの提案に士郎がきつい警告をアーチャーに出すと彼は呆れた顔をしながら士郎を鼻で笑う。

 

「な、何だよ?! 文句あんのか?!」

 

「……………いや、少々思う所があってな。 ここまでのバカとはオレも呆れたよ」

 

「な?! バカとは何だ、この馬鹿!」

 

「何だと?!」

 

「シロウ! アーチャーも! まずは移動を開始してからにして下さい!」

 

「「チッ」」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎は三月を背負い、凛はセイバーに肩を貸し、アーチャーは霊体化したまま周りの警戒をする。

 その間に士郎は美綴の件に関して凛に話し、その時の美綴を診たのも三月だったと言い出し、「遠坂なら何かできるのではないか?」と聞いた。

 

「別に私が診ても良いけど、変に()()したくないのが本音ね。 イリヤスフィール達と一緒なら彼女の知識とかも当てに出来るわ」

 

 これに凛は半分本音と嘘を掻き混ぜていた。 凛が診ても呪詛の類らしいので治療は多分出来る自信があった、リスクは十分あるが。

 だがこれは三月をイリヤ達と一緒に調()()できる機会でもあった。

 

 つい先日、士郎と桜に「自分の性格が嫌い」とカミングアウトしただけに心は揺らいでいた。 だが安全第一の元、凛は敢えて「悪役」は自分がなろうと一人で決めていた。

 

「そう言えば学校の時とは違って衛宮君、魔術師としての魔力が各段階違うわね。 一体何をしたの?」

 

「あ、ああ。『投影』をして、()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「………………………………………………………」

 

「と、遠坂?」

 

 凛はまたもや頭を抱えそうな勢いと、「またか?! こいつめ!」といった目で士郎を見る。

 

「…………衛宮君達といると私の『魔術師』としての常識が日々塗り替えられるわ」

 

「え? そうか?」

 

「そうよ! 魔術回路ってのはね、減るのは簡単だけど増えるのは普段難しいのよ?! 普通はモノスッゴイ苦痛を耐えて手術をやったり移植したりとか!」

 

「へー、魔術ってやっぱ凄いんだなー」

 

 三月がこのセリフを聞いてツッコむ余裕があったのなら「違う兄さん! そこは 『魔術の力ってスゲェ!』って言うのよ! 小太りで細目なら尚更良い!」と言っていたに違いない。

 マサラタ〇ンではなくてここは冬木市だが。

 ただ当の本人は衰弱していく様子だったので余裕などは無かった。

 

「あなたね、どうして私と衛宮君が平気なのか知っている?! 貴方も刺されたらしいわよ、三月と同じようなモノを……アーチャーは私の方を阻止したけど」

 

「そうなのか?」

 

「呆れた、本当に気付いていないなんて……」

 

「でも俺、何とも無いぞ?」

 

 凛は片手でトランプカード箱状の物を取り出した。

 それは三月が士郎、凛、桜達に渡した魔術礼装だった(あと仲間外れにするのは嫌だったのでイリヤとセラにも三月は動ける次の日に渡していた)。

 

「………恐らくこれよ………そしてこれ、とんでもない代物よ? 貴方の………貴方()()()が作った物なんですって?」

 

「そう三月が言っていたな」

 

「これ、三月は『毒あるモノを無効化する』って言っていたけど違うわ。 恐らくこれは『浸食を無効化』するわ」

 

「??????」

 

 そしてイマイチ付いて行けない士郎に凛は苛つきそうになるのを抑え、説明する。

 呪詛は今の時代でいう所のウィルスで、他生物の細胞を利用して自己を複製させる。

 ただこの場合は他生物の魔力を利用している。

 

 本来ならある程度の魔術師であれば魔力を体中に流しておけば対処は出来る(魔力があればの話だが)。

 ただ三月のように急に具合が悪くなるのは普通、何の対処も無意識な防御も出来ない一般人の様子だった。

 

「でも、俺が言うのもなんだけど三月は魔術師として結構いい方なんじゃないのか?」

 

「まあ、『野良』としてはマシな方ね」

 

 凛が「野良」と言った瞬間、士郎の頭に猫耳+尻尾コスをした三月が過ぎった。

 

「…………(何か普通にハロウィンでするような勢いだ)」

 

「??? どうしたの衛宮君?」

 

 そして凛が覗き込み、今度は凛が猫耳+尻尾コスしている所を────

 

「────ブフ!」

 

「え? ちょ、ちょっとどうしたの急に?」

 

「い、いやちょっと……お、思い出して……」

 

「ハァ?」

 

 余りにも妄想が似合い過ぎた事に噴き出した士郎は急いで衛宮邸に帰る事にした。




作者:と言う事でギル君でした。(必死に読み直しをしている途中

ラケール:と言うか私、なんかダ・〇ーンの〇ーボス感を感じていたんだけど………

作者:あ、よくわかりましたね

三月(バカンス体):あー、懐かしいな~

ラケール:ね~

チエ:特にあの星史とか言う小僧が我々に付き纏った時は大変だったな

三月(バカンス体):ほんとね~、良い子なんだけどね~

チエ:私の髪の毛を引っ張った時は驚いた

ラケール:え゛

作者:もし楽しんでいただけたのなら何卒! 何卒、お気に入りや評価、感想等あると励みになります! 宜しくお願いします!


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第27話 (周囲の)悪意によって歪んでゆく(筈の)被害者達

アンーケートのご協力ありがとうございます。 これほど早く返答がきてすごく感動しました。誠にありがとうございます。



遅れた上に短くて申し訳ありません。

1/31/21追記:読み直して一部修正しました。 主に後編でイリヤが殺気を桜と慎二に飛ばしていたところやライダーの説明部分です。


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営 視点

 ___________

 

 

 士郎達が衛宮邸に戻り、塀の隣を歩いているとセイバーが急に立ち止まり、アーチャーが実体化する。

 

「セイバー」

 

「はい、一体だけ感じます。 足手まといにはなりません」

 

「アーチャー、()は何処かしら?」

 

「な、もしかして────」

 

「────サーヴァントだ。 この感じからすると居間辺りか?」

 

 士郎達が玄関を潜ると中からトーンの高い悲鳴(?)の様な声が聞こえていた。

 

「ヒィィィィィィ?!」

 

 急いで居間の方へとドタドタと(士郎は三月を背負いながら)皆が居間に突入するとそこには数多の髪の毛状の鳥に囲まれている慎二が腰を抜かしながら顔を恐怖に染めながら冷や汗を流し、イリヤはモグモグとチョコタルトを食べていて、ライダーは桜の隣で座っていてその桜は気まずそうな表情で下に俯き、セラは呆れたような顔尚且つ頭が痛いのか何時もよりも顔が固かった。

 

 以上のカオス的な場面に出くわした士郎達の思考は一瞬止まった。

 

「あ、お帰りなさ────ッ?! せ、先輩達どうしたんですか?! ボロボロじゃないですか!」

 

「あ、ミーちゃんどうしたの?!」

 

「「と言うかこの状況を説明して」」

 

 士郎と凛が同時に聞き、セイバーは不可解な顔を未だにしながら冷静(?)に座っているライダーを見ていた。

 

 

 ___________

 

 ライダー運営 視点

 ___________

 

 時はその夜、士郎達が臓硯と対峙する前まで戻る。

 

 慎二とライダーはまたもや裏世界の()()を終えたところで間桐邸に戻る途中だった。

 そして不意にライダーから慎二に話しかけた。

 

『…………マスター、今日も妹君の所へ寄るのですか?』

 

「いや、アインツベルンのマスターと召使が今は居るらしい。 衛宮の事を考えたら『保護した』と言う所か」

 

『そうですか』

 

 ()()とは違い、慎二はそれ程捻くれてはいなく、桜の虐待も(それ程)していなかった。

 この上、慎二は直接言って来てはいないがライダーは知っていた。

 今までの行動が全て()()()妹の桜を助け、彼女を危ない戦い(事柄)から遠ざける為だと。

 

 ()()ならこの二人の性格はズレていて、相容れない者同士の筈だった。

 だが()()とは違う事がこのズレを緩和し、互いに「桜」と言う大切な人物の助けをしたいという明らかな動機がこの二人の行動を円滑にしていた。

 

『ライダー』。 真名を『メドゥーサ』と言い、ゴルゴン3姉妹の末妹にしてギリシャ神話で登場し、勇者ペルセウスによって退治された()()として有名である。

 

 が、彼女の生い立ちを知る者は少なく、更にメドゥーサがギリシャの神々によって一方的に運命を歪められたのは広く知られていない。

 

 メドゥーサは生前、ポセイドンの一方的な求愛を断ったが為に神々達に迫害され、()()になる呪いをかけられ、『形のない島』へと追いやられる。 その後は付いてきてくれた姉たちと静かに暮らそうとした。

 

 だが武勲と()の寵愛を求め、「我こそは!」という猛者達が次々と島にやってくる。

 ()()退治の大義名分の下にメドゥーサと彼女の姉妹たちを殺す為に。

 そのような猛者達から姉達を守る為に撃退している内に、メドゥーサの姿と性質は徐々にだが真に呪われし()()へと変化して行き、ついには守るべき存在の筈だった姉たちでさえ認識できなくなり、その存在と後から来る者達を捕食し続けた。

 

 勇者ペルセウスによって退治されるまでずっと。

 

 この様な、まさに「悲劇のヒロインが怪物へと成った」のがライダー、真名メドゥーサであり、正式な英雄ではなく、「反英雄」とも呼べる者だった。

 

 そんな彼女が召喚されて初めて見た間桐邸の状況、慎二と桜、そして臓硯を自分の生前と連想させていた。

 

 間桐邸と言う「世界」の「神」、臓硯によって苦悩する慎二と精神だけでなく物理的にも苦しむ桜と言う「兄妹」をメドゥーサは自分の姉妹達を。

 

 ()()ならそんな事を知らず気にせずの慎二がサーヴァントをただの「使い魔(魔術師の道具)」として見ていたのも要因の一つで、慎二の命令を()()()()遂行していたのを彼女なりに()()()()やる気を出して魔力を間桐邸に持ち帰っていた。

 

 そして時々桜だけが居た衛宮邸で休憩を挟むのもライダーは内心嬉しかった(主に桜と慎二の仲が良いであって可愛いか手作り菓子は()()()関係していない…………筈。)

 

 慎二とライダーが間桐邸に入ろうとすると────

 

『────マスター、サーヴァントです』

 

「ここの者か?」

 

 慎二が後ろからの声に反応して振り返ると、そこには臓硯(お爺様)()()が立っていた。

 

「これは王よ、お爺様をお会いにわざわざ来られたのでしょうか?」

 

 ()()なら「サーヴァント=使い魔(魔術師の道具)」の考え方をした慎二は相手がギルガメッシュだとしても「所詮は使い魔(魔術師の道具)」としか彼らサーヴァントを見ていなかった。

 

 だが()の彼はそんな極端な偏見を持たず、サーヴァントをちゃんとした「個体」として見ていた。

 

 まあ、ただ単に臓硯(お爺様)()()として慎二達に紹介され、「ちゃんと敬意を払えなければ首が物理的に飛ぶぞ」と言われたのも大きいが。

 

「あの老体か。 確かに、奴絡みだが………貴様はシンジとか言ったな?」

 

「はッ。覚えて貰い、光栄です」

 

「この屋敷、少々荒事になる。 十分待つ」

 

 慎二はゾクリと冷たい感覚が背中を走り、彼は間桐邸の中に走り込む。

 

「ライダー! 桜の物を集めてくれ!」

 

 ライダーが実体化し、慎二は自分の部屋の物を次から次へと旅行トランクやバッグ等に放り込む。

 魔道具や錬金術の本、液体の瓶や材料の入った箱。

 

 そして十分経とうとする時、ライダーと慎二の両手はトランクやリュックにカバン等で塞がっており、ギルガメッシュの周りに空気の歪が無数に既に出来ていた。

 

「五、四、三────」

 

 ギルガメッシュの声を聞いたライダーはその長い髪を束ねてそれらに蛇の形を取らせ、蛇となった髪で床に置いてあったカバン等を持ち、慎二を乱暴に担ぎながら近くの窓を破ると無数の武具が間桐邸を粉砕し始めた。

 

「うわぁぁぁぁぁ?!」

 

 そこからライダーは叫ぶ慎二を無視して考えた。 「次はどうする?」と。

 無論、桜の安否がライダーにとっては最優先だった。 慎二はオマケ。

 なら桜のいる場所に行けば良いと思った。

 そこにはちょうど良く、バーサーカーのマスターだったイリヤスフィール(魔力タンク)()()

 確かに彼女は優秀な魔術師、だがサーヴァントであるライダーなら何も()()()()()

 

 ふとそう考えていると急に衛宮邸で以前聞いた少女の声がライダーに聞こえた。

 

 

≪ふわぁ、可愛いなー≫

 

 その声の持ち主は暗い部屋の中で自分を怖がるどころか、期待の目を向けていたので「自分が怖くないのか?」と聞いた。

 

≪へ? 何で?≫

 

 数ある言葉を慎二と共に贄を探す時に()()としてライダーは色んな言葉をかけられ、表現されたが「可愛い」や「()()()()」とは一度たりともなかった。 生前も含めて()()からしか聞いたことが無い言葉。

 

 かつて「形の無い島」で静かに暮らしていた姉達の言葉と一緒だった。

 

「…………………………」

 

「な?! さ、サーヴァント?! な、舐めないで下さい! 私だってアインツベルンの────!」

 

 そしてライダーは考えている内に衛宮邸に何時の間にか着いて、騒動を聞き、玄関に出てきたセラに驚かれながらも魔術を行使する事にライダーは一瞬反応が遅れた(考えに耽っていた為)。

 

『セラ』。 アインツベルンの『ホムンクルス』でイリヤの教育係と世話係を兼ねているメイド。 ホムンクルスだけあって優秀な魔術回路を持ち、イリヤの教育係だけあって魔術師としても優秀。

 

「────ああ違いました! これではなくて────!」

 

 もしここでセラが攻撃的な魔術を行使すれば如何に思いに耽っていたライダーと言えどもかつての猛者共を葬った反英雄。 反射神経のみでセラの首を跳ねるのは造作もない事。

 ただセラはリーゼリットと違い、ホムンクルスとしては珍しく暴力に対して耐性がない為戦闘には不向きであったのがライダーと、セラ自身に幸いしていた。

 

 まあ要するにセラは「おっちょこちょい」で、争いごとになるとテンパって実力が出せなくなるのだ。

 

「セラさん、どうかしたんd────ライダー?! そ、それに兄さんまで?」

 

「セラ、さっきの────ライダー?!」

 

「桜、事情が変わりました」

 

 玄関のごたごたを聞いて調査に出たセラがなかなか帰ってこないので様子を見に来た桜が驚き、イリヤは瞬時に魔術を使い、セラを引かせ、数匹の髪状の鳥が周りを飛び回る。

 

「ま、待ってイリヤさん!」

 

 桜がライダー達とイリヤ達の間に入ったのにライダー、慎二、イリヤは全員びっくりした。

 基本的には穏やかで控えめで怖がりの桜が自らが危険な場面に立ったのに。

 

 そこから桜と慎二はイリヤに話し始めた。

 聖杯戦争で間桐家は臓硯の方針の元で魔力を備蓄する事を()()()から()()()()()()

 そして本来ならマスターとして選ばれた()がそれを行うのを慎二が良しとせず、彼女の代わりにやると臓硯に言い────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────臓硯は『魔力も順調に溜まりつつあるので頃合いかも知れん。 ()()()()()()()()()()』と言った事も。

 

 ガタッ!

 

 イリヤが急に真剣な顔になり、ちゃぶ台が酷く揺れて上に置いてあったお皿などが音を出すほどの勢いで立ち上がった。

 

 このようなイリヤを始めてみる桜と、このように小さな子がこれ程の殺気を出せることに内心驚いたライダーにイリヤはもっと詳しい話とチョコタルトをセラに要求した。

 

 勿論そのチョコタルトが()()()と慎二が聞いた瞬間、彼も要求したがイリヤの()()()()()()によって却下された。

 

 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤ運営、ライダー運営 視点

 ___________

 

 三月の具合を診ると言った凛、イリヤ、セラ、そして一応の護衛としてセイバーが凛の部屋に行き、居間には士郎、慎二、桜、ライダー、そしてライダーの監視役としてアーチャーがいた。

 

 そして慎二は何時もの様子はなく、彼にしては珍しい貧乏揺すりをしていた。

 

 最初こそニマニマと笑いながら士郎達を小馬鹿にしてはいたもの、三月の状態を見た瞬間すぐに顔が真剣になり、彼は聞いた。

 

()()()()()()()()?」と。

 

 突然慎二の豹変ぶりに呆気にとられていた凛の代わりの答えるアーチャーの言葉に慎二は廊下にまだ置いてあったトランクを開け、アーチャーが制止する前に一つの瓶を士郎たちに見せて彼らに言う。

 

()()()()()()()()()使()()()()()」と。

 

 慎二は慎重に、慎重に臓硯に勘付かれないようにさまざまな錬金術の実験の中で一部だけのアレンジをしながら何度も何度も研究の中に更に隠した研究を重ねていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()を。

 

 慎二が桜の事を気付いてから彼は魔導書などの勉強に没頭した。 桜はこの頃を「兄に放置された」と思っていたが全て慎二の言動は桜の為だった。*1

 

≪私は貴方の真っすぐな、一途な生き方を誇りに思っています!≫

 

 そして彼の行動はとある女性の影響を色濃く受けていた。

 

 ある日、間桐慎二は知ってしまった。

「自分は要らない存在」だと感じていた事に。

 どれだけ魔導書を読み、魔術を行使しようとしても失敗する。

 唯一の成功例は『錬金術』。

 だがそれでも自分の父や祖父は目向きもしてくれないどころか自分を「邪魔者」として嫌悪していたかのようだった。

 

「間桐家の長男である自分が正当な時期間桐家当主」。

 

 そう信じ込んでいた。 信じ込んでいたが故に「自分は要らない、嫌悪される存在」と感じていた事に酷く心を痛め、更に自分が初めて「親友」と呼べる『衛宮士郎』と会う為に衛宮邸と言う心が安らぐ場所とのギャップで彼はある日、衛宮邸の帰り道すがらに人がいない所でひっそりと留め込んでいたストレスの所為で木の陰で一人泣いていた。

 

≪よしよし、大丈夫だよ()()。≫

 

 訂正。 慎二が気付くと自分が隠れていた木の上から飛び降りてきた少女が彼の頭を抱き、優しく頭を撫でながら声をかけていた。

 

 それは、慎二にとっては遠い、遥か遠い過去に一度、たった一度だけ感じた「女性の温もり」だった。

 

 そしてその日からだろうか、その少女を意識し始めたのは?

 

 その日まで慎二にとって女性は(妹以外)全員()()()()としてしか見ていなく、気にも留めていなかった。

 だが時が経つほど彼は彼女の事が気になり、このような事は妹でさえ感じた事が無く、慎二は知りたくなった。

 そこである日、『衛宮士郎』に自分の妹の事を相談すると、親友はこう言った来た。

 

「何だ、()()()()()()()()()()()()()()()*2

 

 慎二はこれをチャンスと思い、二人を間桐邸に招待する事にした。

 そこからは士郎や三月から見た通り、徐々にだが桜は人間性を取り戻しつつあった。

 

 あの雨の日、慎二が真実を知るまでは。

 

 慎二が次期当主ではなく、桜が次期後継者。 慎二は自分の父や祖父からすれば()()()()()()()()()だったと。

 

 そして彼はがむしゃらにただ走り、気が付くと衛宮邸にて士郎達に助けを求めていたが、慎二は差し出された助けの手を振り払うどころか、自分が気になっていた少女を殴ってしまった。

 このように少女を慎二は殴ったのに、その後慎二に気遣う様な振る舞いと彼女の言葉が慎二の心をまたもや酷く動揺させた。

 

慎二(自分)を誇りに思う」。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()」。

 

 これのお陰で慎二は大いに救われ、より一層自分ができる『錬金術』に励んでいた。

 

 そんな彼を救ってくれた少女がよりにもよって自分の祖父(クソ爺)の蟲に刺され、苦しんでいた。

 

 桜のように。

 

 本来なら桜の為にと思い、作っていた薬達がまさかこのように役立つとは思っていなく、慎二はかなり焦り、自分の調合し、渡した試作品に不安を持ち始めていた。

 

 この様子の慎二を見た士郎と桜はどう接したら良いのか分からなかった。

 あのズケズケと物をハッキリと言う慎二がここにいるのに()()()()()()のは二人にとって初めての事だった。

 昔から士郎は知っていた、慎二が三月に好意を寄せていたのを。

 しかもそれが何時も学園での女子に向けるような、薄っぺらい好意ではなかった事も。

 

「………三月の事が心配か、慎二?」

 

 だから士郎は取り敢えず慎二に話をさせたかった。 

 人は普段している事を止めるとストレスが高まり、慎二の場合は暴力的になるのを士郎は昔見て経験した。

 そして恐らく三月のあの様子に慎二が動揺し、何時もの調子が出ない事もあったので三月を話題に出した。

 

「…………………当たり前だ」

 

 ようやく慎二は口を開けると、そこには余裕を持ちながらプライドの高い『間桐慎二』ではなく、ただの『慎二』がいた。

 

「私もです、兄さん…………」

 

 これに便乗するかのように桜も口を開けた。

 

「…………聞かないのか? 俺と………桜の事を」

 

「ッ」

 

 慎二の言葉で桜はギュッと手を胸の近くで握り、二人は士郎の方を見る。

 

「…………いいさ、二人が話してくれるまで待つ……………ありがとうな、慎二」

 

「え?」

 

「先輩?」

 

 慎二と桜は士郎に根掘り葉掘り聞かれるのを覚悟していた。

 だが以外に帰ってきたのは「お礼」だった。

 

「ありがとう、慎二。 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ…………衛宮は馬鹿だな! 居間の掃除ぐらいちゃんとしろよな! 埃が目に入ってしみるじゃないか!」

 

 顔が俯き、肩が震えながら慎二はそう叫び、心の中で思った。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが彼にとって人前で、妹の前で泣くほどの衝撃を与えていた。

 

「兄さん…………もう、話しましょう? いいよね、ライダー?」

 

「桜がそう言うのなら」

 

「……………そう………………だな………………………」

 

 襖がスーッと開けられ、顔が真っ青になっていた凛とセラ、複雑な顔をしたイリヤが居間に戻ってきて、慎二はゴシゴシと自分の目を袖で乱暴に拭いた。

 

「ど、どうだ?! 薬は効いたか?!」

 

「…………ええ、流石は腐っても間桐ね」

 

 凛はヨロヨロとして座り、イリヤも座るとセラが未だに震える手でお茶の用意をしていた。

 

「ど、どうしたんだ遠坂? 顔が真っ青だぞ? それにセイバーはどうしたんだ?」

 

「………………………姉さん?」

 

 心配する士郎と桜の声に凛は反応せず、ただぼーっと前を見ていた。

 

「凛、君が話せないのなら私が代わりに話すが?」

 

「…………そうね、お願いアーチャー……今はちょっと…………」

 

 凛が頭を抱え、イリヤは複雑な顔のまま士郎を見た。

 

「シロウ、そこの二人は信用出来るかしら?」

 

「当たり前だ、俺の親友と家族だぞ?」

 

「衛宮…………」

 

「先輩…………」

 

「…………ほんと、シロウは甘いんだから。 でも、私はそう言うところが好きだよ♡」

 

 そこでまずイリヤは慎二に向けていた殺気を緩め、慎二たちから聞いた話を再度聞きなおし、詳しく説明させる。

*1
第17話より

*2
第4話より




作者:起きた後にもう一度読み直しをするつもりですが、大幅なストーリーの改善などは無い筈です。

三月(バカンス体):と言うかはよ寝に行け、徹夜通しだったんだから

作者:拙い文章等々あると思いますが、大目に見て貰えますと助かります。

三月(バカンス体):お気に入りや評価、感想等あると嬉しいです。 宜しくお願いします!


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第28話 The Unknown Scares Us All

ま、間に合いました~!
え?あっていない?
そ、そんな~~~~…


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤ運営、ライダー運営 視点

 ___________

 

 慎二と桜、あとライダーが時々横から付け加える情報は士郎と桜の実姉の凛には衝撃的な内容ばかりだった。

 

 慎二に魔術回路はあるが発動できない状態なので魔術は『錬金術』しか出来ない。

 桜は魔術師であり、今回の聖杯戦争のライダーのマスターでもある。

 だが聖杯戦争と言う殺し合いに関わりたくない桜の代わりに慎二が令呪の()()を使ってライダーの疑似マスターになり、聖杯戦争中は()()()から間桐運営は魔力の備蓄を任され、慎二はこの行為に全力を注いでいた。

 

 そうしなければ桜が()()()()()()()()()()()()()()()を受けるからだ、昔のように毎日ではないにしても、慎二は苦しむ桜が嫌だった。

 

 バキッ!

 

 セラミックの割れる音が凛の持っていたコップから発し、セラと彼女はいそいそと割れたコップの後片付けをした。

 

 無理もなかった。 

 まさか自分の妹が養子に出された後の()()()()()()()()()()様子がまさか父の時臣の急で冷酷な『魔術師』としての判断で他家の養子に出されたからではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まさか養子に出された先で、毎日『魔術の訓練』と称した拷問じみた虐待を受けていた事を誰が思うだろうか? 自分の尊敬しているお父様ならそんな事を見過ごすのだろうか? 自分の父、時臣はこれらを知っていて敢えて何も自分に言わなかったのだろうか?

 さっき三月の検査を終えて気分の悪い凛の心境はグチャグチャだった。

 

 士郎はと言うとこんなに身近な家族が苦しんでいて、自分はその様子を見ていた筈なのに気付かなかった事に自分に静かに腹を立てていた。

「どうして気付かなかった?」

「どうして自分はもっとよく慎二と桜を見ていなかった?」

「どうして二人は自分に相談してこなかった?」

「どうして」、「どうして」、「どうして」、「どうして」。

 

 そして先程までイリヤが慎二に殺気を放っていたのはその様な()()()()ではなく、慎二の『錬金術』の腕からだった。

 忘れがちだがアインツベルンは元々『遠見』や『憑依』に『錬金術』に長けている一族。

 だが正当な『魔術師』ではない慎二が『錬金術』に関しては自分とドッコイドッコイの実力を先の薬から知り、多少だが『嫉妬』を慎二に感じていた。

 こんな、()()()()脅しただけで腰を抜かしたり、ビクビクする小物が………

 自分が()()()()である筈なのに、こんな極東で魔術回路も発動できない『野良魔術師』以下の者が…………

 

 イリヤの感じていた事はセラも同一だった。 しかも自分はなまじイリヤの「教育係」だったので慎二の『錬金術』が如何に異常だったのか更に感じていた。

 それはもう「天才」と言うレベルではなく、「鬼才」とも言えた。

 だがイラつく半面、セラは一瞬思った。

「これはお嬢様にとって良い刺激になるのでは?」と。

 身近に自分の才能と同等か(一部だけとは言え)それ以上の人物を置けばお嬢様も上進するのでは?

 

 そこで慎二は士郎達に伝えた、臓硯は『魔力も順調に溜まりつつあるので頃合いかも知れん。 ()()()()()()()()()()』と宣言した事を。

 

 そしてそこからは慎二は臓硯の同盟者の一人であろう()()()()()()()の事を話し始め────

 

「────まて、今()()()()()()()と言ったか?」

 

 アーチャーが珍しく会話を遮った。

 

「あ、ああそうだ。 爺さんが任された『魔力を集める』というのはそいつから聞いたんだ」

 

「成程な……通りで奴はあれだけの武具を保有している訳だ」

 

「どういう事だ、アーチャー?」

 

「少しは自分で考えろ、エミヤシロウ。 と言ってもそこまで私は意地が悪くない────」

 

「「「(どうだか)」」」

 

 内心ツッコミを入れられるアーチャーはジト目に気付かずそのまま説明する。

 

「────奴が『英雄王ギルガメッシュ』と仮定し、アーチャーである事から推測できる事は彼の()()()()が関わってくる。 彼はかつての世の全てを統べ、贅と快楽とを貪り尽くし、そして一番厄介なのが()()()()()()()()()()と言う事だ。 とその前に────」

 

 アーチャーが慎二達を睨む。

 

「────君たちがここにいるのは彼やあの妖物の差し金の陽動か?」

 

「違います」

 

 そこでライダーが口を開け、事情を説明する。

 恐らく凛達が臓硯の襲撃に合った後、ギルガメッシュは間桐邸を破壊しに来ていたのを慎二とライダーはバッタリと会い、十分の余裕で荷物などを出来るだけまとめ、時間ジャストに間桐邸は破壊された。

 

「ですので私達は現在住居無しの状態です」

 

「成程な、これからお前達はどうするつもりだ? 聖杯戦争を続けるのか?」

 

「どうするのかは桜に私は一任しています。 マスターはどうなされるのですか?」

 

「………僕は桜と………………ゴニョゴニョが無事でいればもう良い」

 

「え? 今真ん中の方、何て言ったんだ?」

 

「『三月が無事で良い』とマスターは言いました」

 

「グッ?! ラ、ライダー?!」

 

「ふ~~~ん? 慎二、あんた()()()()()があったとはね~」

 

「え? やっぱりそうなんですか兄さん?」

 

「セラ、この男はの刑は()()で良いかしら?」

 

「ではお嬢様、手術用器具の用意をして来ます」

 

 少し調子を取り戻した凛が慌てる慎二をからかい、全く悪気の無い問いを桜が投げ、真顔になったイリヤとセラが(男性にとっての)死刑宣告をする。

 

「な?!ちょ?!ま、待て!」

 

「もういい加減はっきりしたらどうだ慎二?」

 

「え、衛宮まで?!」

 

「俺でもお前が三月の事が()()()()ぐらいわかっているさ。 むしろどうして三月が気付かないのかが分からなかったけどさ」

 

「「「「(()()()()レベルじゃないと思うだけどなー)」」」」

 

 慎二がみるみると赤くなりアタフタと手で不定する。

 

「ち、違う! そ、そんな風に俺は彼女の事を思っていないからな?! 勘違いだからなお前ら?!」

 

 明らかに怪しい慎二を士郎、凛、桜、イリヤはジッと見て、凛が彼に聞く。

 

「じゃあ何よ? 明らかにあなた、三月の事となると嬉しくなったり、気にしたりするじゃない?」

 

「ウッ」

 

「そうですよ兄さん、私が先輩の話をする時は興味無さそうにそっけなく振舞っていますけど三月先輩の事となると明らかにソワソワし始めるじゃないですか?」

 

「そ、それは…」

 

「そうだぞ慎二、付き合うってんなら俺は別に止めはしないぞ」

 

だ、だから違うって言っているだろうがお前ら?!

 

 士郎の宣言を最後に慎二は立ち上がり、周りの人達を睨む。

 

「三月は俺にとってか────んぐ!」

 

 慎二は思わず叫びそうな言葉を飲み込みながら座りなおす(顔を俯いたまま)。

 

「「「「『か』?」」」」

 

「と、とりあえず! 話を戻すぞ! ぼ、僕は別に聖杯なんかいらない!」

 

「ふむ、そちらのお嬢さんはどうかね?」

 

 アーチャーが話題を桜に振る。

 

「わ、私は…………その……………()()()()()()です」

 

 アーチャーのジッとした視線に桜は視線を逸らしながらモジモジとする。

 

「…………嘘ではないようだな。 では『英雄王ギルガメッシュ』と仮定し、彼が()()()()()()()()()()と言うのがどれほど厄介かここにいる者達はわかるかね?」

 

 アーチャーの漠然とし過ぎた問いに誰も声を上げず、凛が溜息を出す。

 

「つまり、彼はあらゆる神話や伝承の元になった原典や宝具の元になった武器を持っていてもおかしくはない。 奴の宝具は『武器』そのものではなく、生前に集めた財宝を収納した『倉』こそが奴の宝具だろう」

 

「「「「な?!」」」」

 

 そこにいた誰もが驚愕する。 そしてイリヤも渋々と理解した。

 彼女のバーサーカーが敵わないのもその過程が視界だとすれば当然の結果とも言える。

 もしアーチャーの推測通りにギルガメッシュがすべての宝具の原型を持つのなら、その英霊の弱点となるものをその倉から撃ち放てば良いだけの事だからだ。

 

 バーサーカーが何回も死から蘇るのなら『不死殺し』の武具を何度も叩き込めば良い。

 ライダーなら彼女の直接の死因になったハルペーやその原型を。

 そしてギルガメッシュは今現在負傷しているが最優とされているセイバーとは顔見知りなので恐らく彼女の弱点になるモノも知っている。

 そして元からマスター狙いを生業としているアサシンクラスに彼が後れを取るとは考えづらい。

 となると────

 

『────アーチャー』

 

『どうした、凛?』

 

『もう一度聞くわ。()()()()()()()()()の?』

 

 それは凛がアーチャーに向けて発した念話だった。

 以前、凛がセイバーを()()()()で召喚しようと自分の魔力が一番高まる時期に召喚を済ませたが、()()()()によって時期がずれてアーチャーを呼んだ。

 

 しかもそのアーチャーは生意気な態度で凛を子ども扱いした上に何もできないような馬鹿にしていた口調から、凛はカッとなり「絶対服従」の令呪を使った。

 その後、凛が一流の魔術師の才能があるのを分かったアーチャーは凛にさらけ出す。

「記憶に混乱が見られる、名前や素性がどうも曖昧だ」と。

 

 つまりは「記憶喪失」。

 

 当初、凛はこれをデメリットではなく「他の誰もアーチャーの正体が分からない」と取っていたがこのように大半のマスター達と交流を持つことは想定していなかった。

 だが相手はギルガメッシュという、反則に反則を重ねたような英霊。

 ならばもう四の五の言っている場合ではなく、アーチャーの正体が分からなければ良い作戦の立てようが無い。

 

『すまんが、未だに靄が掛かっている状態でな。 だが君が睨んだとおり、私はセイバーと面識があるみたいだ。彼女の事を()()()()()

 

 これは以前、凛とアーチャーが士郎と三月を襲うであろうランサーを止める為に衛宮邸に着き、セイバーが突然打って出た時のアーチャーの行動に違和感があったからだ。*1

 その時の彼は初めてセイバーを見た時、ほんの一瞬動きを止めた。

「不意打ちだったからな、凛と同じく、予想外の展開には弱い」とアーチャーははぐらしたがランサー同様に敏捷を頼りにスピードを生かした戦い方をする弓兵が不意打ちとは言え、()()()()()()()()()だろうか?

 

 答えは否。

 

『だがあちらは私を知らないようだから、あまり深い関係ではなかったようだ』

 

『…………そう』

 

『だがそう悲観する事も無い。()()()()()()()

 

「うぃえ?!」

 

「??? どうしたんだ遠坂?」

 

「う、ううん! 何でもないわ!」

 

「ではギルガメッシュの話は一先ずここまででおいて、アレ────いや失礼、『三月』と言う()()()()()()()()()()の話をしようと思うが」

 

 ここで士郎、慎二、桜が混乱するような顔を作る。

 

「ちょっと待て、アーチャー。今のは幾らなんでも聞き捨てならないぞ?」

 

「衛宮の言う通りだ、しっかりと説明して貰おうじゃないか?」

 

()()()()()ってどういう事ですか?」

 

「そのままの意味よ」

 

 イリヤが出されてお茶を飲みながらそう答える。

 

「あ、イリヤ………()()

 

「イリヤで良いわ、サクラ。 シロウやリン達にはある程度説明しているからもう一度初めから説明するわ」

 

 そこからイリヤは以前、アインツベルン城で凛と士郎に話した内容と、今朝のセイバーとの稽古の事もおさらいと共に慎二と桜にも話す。*2

 

 これに慎二と桜の二人は黙ったまま互いを見る。

 まさか自分達の知っている三月が人間(ヒト)ではない。 それ所か魔術師としても、サーヴァントの斬りかかりに()()()()()など規格外。

 

 三月がここに居れば「いや、あれはただ軌跡が視えていただけだから」と言い、場は更に混乱していただろう。

 

 そして先程イリヤと凛、そしてセラの助けで三月を検査したところ────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()

 

「ハァ? あの遠坂とアインツベルンが『分かりません』と来たか」

 

「に、兄さん!」

 

「お嬢様を侮辱するとは貴方、死にたいようですね」

 

「別に良いわ、セラ。ワカメが揺れているだけだもの」

 

だからワカメって呼ぶな!

 

「遠坂にイリヤ。 それはどういう事なんだ?」

 

「どうもこうもないわよ衛宮君。 彼女は明らかに人外。 かと思いきや人間(ヒト)としての体や臓器、血肉がちゃんと全部ある────」

 

 そこから凛とイリヤは話し始めた。

 三月が人外と仮定して様々な検査をしたが精霊、真祖、使徒等々の現時点で判明しているあらゆる種と何処か似通った部分や特徴はあったが明らかに違う個所なども出た為、故に()()()()()()()()()

 

 だがこれはある一つの結論を新たに生み出した。

「今までの人外に対しての観測や常識が当てはまらない()()」と。

 

「つまり今ここにいる人達は全く未知のモノと関わっていると言う事よ」

 

「ええ、そしてこんな事は神秘などが薄まった今では本来()()()()()()よ」

 

「??? どういう事だ?」

 

「前に言った魔術協会もだけど、三月の存在彼らか聖堂教会にバレたら即封印指定どころか、()()()()ものよ、こんな訳の分からないもn────子。 どう? これで分かったかしら、私の悩みが?」

 

「「「「……………………」」」」

 

 改めて三月と言う者がどれだけ訳の分からないものを知らされた皆は黙る。

 アーチャー以外。

 

「凛、あの『三月』と言うのは()()しないのか?」

 

 ガタッ!

 

 士郎と慎二が同時に立ち上がり、アーチャーに迫る。

 

「「もういっぺん言ってみろこの野郎!」」

 

 親友同士、息はぴったりだった。

 そしてこれに臆する事も無く、ただ呆れた顔で彼らを見下す。

 

「お前達、事の重大さを分かっていないのか? もし『三月』が暴走などしてみろ? 聖杯戦争どころか『日本』と言う国が阿鼻叫喚と化すかもしれないのだぞ? それに比べ、体の解剖など、安いモノだろうに────」

 

「────アーチャー、『黙りなさい』」

 

「ッ…………ならば聖杯の異常はどうする?」

 

 凛の命令で一瞬黙るアーチャーだったが次の問題に取り掛かった。

 

「…………あの金髪(ギルガメッシュ)が持っているわ」

 

「成程。では奴から聖杯を取り戻し、それの発動を阻止せねばならんな……」

 

「どちらにせよ、ギルガメッシュとの対決になるわね…………」

 

「いや、待ってくれ遠坂」

 

「慎二?」

 

「もし僕達が彼と交渉できる材料などあれば戦う必要はないと思うんだ」

 

「じゃあ聞くけどワカメさん、私達にそんなモノがあるように見えるかしら?」

 

 そしてイリヤまで「ワカメ」呼びになる慎二はこの時点で密着してしまったあだ名と彼の提案をへし折る言葉に項垂れた。

 

 セラがまだ震える声でイリヤと凛に小声で話しかけた。

 

お嬢様と………リン。 ()()()は伝えなくても宜しいのでしょうか?

 

 凛とイリヤは互いを見て────

 

「「────後から一人一人に話す」」

 

 とだけ彼女らは言ったのだ。

 それはそうだ、聞く人によれば卒倒する、気絶する、動揺する、説明出来ないものを「もっと詳しく説明しろ!」と言う様な情報だ。

 気を見計らって個人個人に伝えた方が混乱も時間少なくて済む。

*1
第6話より

*2
第18話と第24話より




作者:ではやっと休暇なのでストック作ろうと思います!

三月(バカンス体):ガンバレ、ガンバレ!

作者:三月に言われても…………

三月(バカンス体):と言うか短くない?

作者:シャラップ! いいキリで止めたんや!

チエ:『それでも楽しんで頂けたらお気に入りや評価、感想等あると嬉しいです! 宜しくお願いしますピョン!』…………本当にこれをウサギ耳バニー姿で言うと効果があるのか? ………おい二人とも、鼻血を出しながら倒れていないで答えろ

雁夜(バカンス体):ち、チエさん?! 何ですかその姿は?!

チエ:む、雁夜か。 何だ、私に似合わんか?

雁夜(バカンス体):ディ・モールト、ベネ!

チエ:??? いたりあ語? 何が『非常に良い』のだ?


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第29話 人外、怪物、怪獣、そして好きなモノ

お待たせしました! 29話目です!

読んでくれてありがとうございます!

ちょっとこれからが怖いです…………ハイ…………


 ___________

 

 セイバー運営、アーチャー運営、イリヤ運営、ライダー運営 視点

 ___________

 

 

「え? 私の好きなもの?」

 

 その後一時間ほどで目を覚まし、晩御飯を食べている間三月に士郎が聞いた、「好きなものはあるか」と。

 以前の、三月の執着するもの(または行動原理)を探っていた。

 

「ああ、なんでも────」

 

「────そんなの士郎に決まってるじゃん」

 

「「「「「ブフ」」」」」

 

「へ」

 

 それを聞いた瞬間その場にいた何人かが飲んでいた味噌汁やおかずを噴き出すか吹き出しそうになった。

 士郎はと言うとポカンとした顔と気の抜けた声を出していた。

 

 三月はと言うと皆のリアクションの訳を分からずただ晩御飯を食べながら「何分かり切ったことを」と言う様な顔をしていた。

 

 ちなみに目を覚ました三月には「聖杯戦争の所為で家がボロボロになった間桐邸から衛宮邸に慎二と桜が泊まる」と説明したら「じゃあ今夜はパーティーね! やった♪」と三月が笑顔でセイバーの手当てをしながらはしゃいだ。

 

「じゃ、じゃあ僕の事は?!」

 

 そして盛大に噴き出した味噌汁の付いていた顔を拭き、慎二が次に聞く。

 

「勿論慎二君()好きだよ────?」

 

「え」

 

 三月は慎二の顔に急に迫り、彼の髪の毛に付いた味噌汁からの引っ付いていたワカメを摘み取り、言葉をそのまま続けた。

 耳まで赤くなって固まった慎二を残して。

 

「私は士郎や藤姉、慎二に桜に凛にイリヤにセラにセイバーにアーチャーにライダーに────」

 

 そこから三月は身の回りの人達やサーヴァント、藤村組や学園に商店街の人達の名前を一人一人名乗り上げて行く。

 

「────に渡辺さんに田次郎さんに土井さん達も私はみーんな好きだよ?」

 

「…………じゃあ私が()()と付き合うと言ったならどうかしら?」

 

「「「「遠坂?!/遠坂先輩?!/リン?!」」」」

 

 凛の言葉にびっくりする士郎本人に慎二、桜、そしてイリヤ。

 

「んー…お赤飯の用意、家に在ったっけ?」

 

「……………じゃあ貴方が誰かと付き合うとしたら、誰にする?」

 

 これにピクリとその場にいた皆が反応する。

 

「付き合うって………私が?」

 

「そうよ。 三月が」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ポリポリポリポリポリポリポリポリ」

 

 長~~~~い沈黙の後に三月は漬物を食べながら考えているように見えた。

 

 だが数分経った後でも返事が来ない事に慎二は痺れを切らし、また三月に聞いた。

 

「で、どうなんだ?」

 

「ん? ()()()()()

 

「「「「「え?」」」」」

 

 三月の答えに頭を悩ませる士郎、凛、慎二、桜とイリヤだった(色々な理由で)。

 

 そしてその夜、凛とイリヤは三月がお風呂に入っている間に一人一人に三月のまだ伝えていない事を言うために回る。

 それは土蔵でセイバーが見ている所で魔術の鍛錬をしている士郎もその一人だった。

 

「ん? 遠坂か? ああ、丁度良かった、これをずっと遠坂に確認したかったんだ────」

 

「────ッ?! え、衛宮君?! どうしてそれを?!」

 

 士郎がポケットから出したのは三角の形をした大きな赤い宝石の付いたペンダントだった。

 数日前に士郎達がランサーによって心臓を貫かれた時に、士郎がそれを見つけてそのまま持って帰った物だった。*1

 

「あ、これってやっぱり遠坂のだったんだ。 ずっと宝石とかで魔術を使っていたからそうかなと思っていたけど………ありがとう遠坂、俺達を学校で救ってくれて」

 

 それは凛にとっては士郎が初めて心からの笑いをしていたかのように見え、彼女は顔がにやけるのを必死我慢しながら気まずそうに逸らす。

 

「ふ-ん? リンってば見かけによらず、そういうところもあるんだね?」

 

「あれ、イリヤ? 二人してどうしたんだ?」

 

 士郎はペンダントを何時も入れているポケットの中に戻すと、目が泳いでいた凛は土蔵のある一か所に目が行く。

 

「………………()()、何かしら衛宮君?」

 

「それって全部、『投影』魔術?」

 

 凛とイリヤが数多に土蔵の床の一か所に転がっている包丁や短剣にナイフ等の刃物の類がある場所を見ていた。

 

「ああ、体の調子が良くなっていたからどうすれば実戦に使えるか色々試していたんだ」

 

「私から見てもシロウは『投影』を始めてからメイガス(魔術師)の腕が上がっていますが、お二人にはどうでしょうか?」

 

「…………その前に衛宮君とセイバーにはまだ話す事があるのよ。三月の事で」

 

「え?」

 

「あれ以外に……ですか」

 

 セイバーも三月の看病と言う名目の監視から解放された後、士郎が三月の事で凛達が新たに分かった事を彼女に説明した。

 だがここに来てまだ話があるとは士郎もセイバーも思っていなかった。

 

「ええ。 シロウにセイバー、ちょっと魔力を流すからびっくりしないでね?」

 

 イリヤが言い終わると、彼女の体中にまがまがしいまでの数の赤い線が浮かび上がり、士郎はそれの正体を分かった瞬間微かに息を呑んだ。

 

「イリヤスフィール………それは────」

 

「────ええ、セイバー。これは令呪ではなくて私自身の魔術回路よ」

 

 セイバーの心苦しい顔にイリヤの涼しい顔。

 これを見た士郎は以前、凛から聞いたことを思い出させていた。

 

≪魔術回路ってのはね、減るのは簡単だけど増えるのは普段難しいのよ?! 普通はモノスッゴイ苦痛を耐えて手術をやったり移植したりとか!≫*2

 

「私の体の七割ほど魔術回路で占めているわ」

 

「………………そして憎たらしい程に魔術師としては私より上ね」

 

「遠坂よりもか、凄いな」

 

 フフン!とドヤ顔をしながら胸を張るイリヤに凛は嫌~~~な顔を上げるが話を続ける。

 

「じゃあ単刀直入に言うわ。 イリヤが怪物としたら、()()()()()()()()()()よ。 彼女の体自体が()()()()()()()()()みたいなものよ」

 

 それはイリヤからしても異常なものだった。 

 そんな事になれば人体が内部崩壊してもおかしくない状態で三月の体は成り立っていた。

 

「後、彼女に()()()()らしきモノがあったわ」

 

「な?!」

 

 これには流石の士郎の顔も強ばる。 

 以前並べた通り魔術刻印は魔術師の家系が持つ、『積み上げた遺産』でそれが多い程であればあるほど大きくなる。*3

 

 そんなモノを三月が持っていた事は士郎にとっては寝耳に水だった。

 

「そんな馬鹿な! 三月にそんなものは無い筈だ!」

 

「でも実際にはあった、ちょうど胸の辺りにね」

 

「シロウ、キリツグは魔術刻印を受け継がせてはいないのよね確か?」

 

「あ、ああ。 最後までずっと断っていたよ。(『胸の辺り』って………小さい頃は無かった様な気がするんだが)」

 

「……そう」

 

「士郎、一応可能性として言うわね? 魔術刻印は代々造り上げられるもの以外にも、幻想種や魔術礼装の欠片の一部などを核としても成り立つものだわ」

 

「つまり……………ミーちゃんの体に()()がある可能性ね」

 

「それにそうだとしたら彼女の服用していた薬も納得いくわ。 こんな彼女みたいな無茶に人体が耐えられるなんて()()以外の何でもないわ」

 

「……………………………………」

 

 士郎は今聞いた情報と自分の知っている三月を考えていた。

 だがこの数日間、彼女のやった事と周りの人達を比べると確かに三月は異常に思っていたが、少なくとも魔術刻印に関しては切嗣が亡くなった後からも()()()()()

 

 こう、一緒に風呂に入ったりした時にジロジロ見た訳では無いが何せ三月は全然隠すそぶりも無かったので不可抗力と言うか幼い頃の無邪気さと言うか「着替えを手伝って」とせがまれる時に目に入ってしまうというか────

 

「(────って、俺は一体誰に言い訳をしているんだ????)」

 

「アーチャー、ここでなら話せるかしら?」

 

 そこでアーチャーが実体化し、土蔵の中へと入る。

 

「ようやくか」

 

「アーチャー、何故あなたがここに?」

 

 セイバーが立ち上がり、何があってもいいように体制をとる。

 アーチャーがここにいたのは先程、彼がギルガメッシュに対して「()()()()()()()」と言う宣言だった。

 

「では聞こうエミヤシロウ。 貴様に()()()()()()()()()()()()?」

 

「え? アーチャー?」

 

 凛は驚く。 いつも冷静沈着のアーチャーが、聖杯戦争が始まって以来()()()を持って喋った事に。

 そして士郎は何時もの様にアーチャーに対してのイラつきが出た。

 

「そんなの、捨てられるか! 俺は………俺は()()()()()()()()()()()()!」

 

「シロウ?」

 

「それは何故だ?」

 

「俺は…俺は十年前に助けられただんだ。 じいさん(切嗣)に。」

 

「そして貴様はその時、何かを要求されたのかな?」

 

 士郎が床から立ってアーチャーを睨む。

 

「じいさんは………切嗣は俺を助けてくれただけだ! ()()()()()()()()()()()()()! ただ、切嗣は嬉しそうだったから………その姿に憧れた」

 

「ほう? それで?」

 

「俺は助けられて、その感情しか浮かばなかった。 俺はそういう者になりたかった。 だから……………この()があるのなら! ()()()()()()()()()()()()()()()に今度こそ、()()()()()()()()()()()()()()()んだって…そう思ったんだ」

 

「衛宮君………」

 

「俺の望みはそれだけだ。 そうじゃないと…………()()()()()()()()()()()()()()んだ!」

 

「だったら貴様自身はどうする? そこに()()()()の救いはあるのか?」

 

「違う。 だって、『誰かの為になりたい』っていう思いが間違いの筈がないんだからな!」

 

「全く話にならんな。 貴様は以前『何かが足りないからじゃないのか?』とほざいたな」*4

 

「そうだ!」

 

「だったらいい直してやろう。 貴様に足りないのは確固たる『夢』だ」

 

「アーチャー! これのどこがギルガメッシュの対抗手段なのよ?!」

 

「アーチャー、お前は俺に何が言いたい?」

 

「衛宮君?」

 

「もう一度聞くぞ。 エミヤシロウ、貴様にとっての『正義の味方』とは何だ?」

 

「何だって? そ、そんなの………………」

 

 士郎はここで以前自分が考えていた定義を思い出していた。

「『正義の味方』は皆の命を救う」。

「『正義の味方』は出し惜しみなどしない」。

「誰かを救うという事は、他の誰かを救わないという事」。

 

 だが今まで『やってみなくては分からない』や『要因不足』だと感じていた事も、どこかで自分でも違和感を感じ初めていた。

 そして少し前までは『何事も始めなければ見えてくる道も見えない』事も三月と言う、()()()()()()()()()()を見ていても違うように思えてきた。

 

 だが諦めたらそこで全て終わる、故に今更引き返さない。

 

「もし、貴様が未だに『()()()()()を救う』と思っているのならそれは間違いだ」

 

 アーチャーがその言葉を最後に土蔵から出る。

 

「エミヤシロウ、アインツベルン城で待っている。 お前は自分が間違っていないと思っているのならそこに来い。 正しセイバーが一緒なのが条件だ」

 

「ま、待ちなさい、アーチャー! 何を勝手な事をしているの?! 私が────ッ!」

 

 アーチャーが何かで自分の胸を貫くと凛の手の甲に鋭い痛みを感じ、それが彼女の言葉を遮る。

 

「アーチャー! 貴方は今一体何を────?!」

 

「エミヤシロウ、明日まで待つ。 ()()()()()()()()()()()()

 

 アーチャーはそのまま土蔵を出て、衛宮邸を後にし、セイバーは土蔵の外に出ると彼が衛宮邸の塀を超えるのを見た。

 

「リン、大丈夫ですか?」

 

「嘘、どうして……どうやって?」

 

「リン?」

 

「アーチャーとのパスが………消えて────」

 

「────先輩!」

 

 外から桜の声が聞こえ、彼女の言った事で士郎は次の日アインツベルン城を目指す事になる。

 

 

 ___________

 

 一寸の虫にも五分の魂 視点

 ___________

 

「キ…キィ……」

 

「ギギギギギギギギギギギギッ────!」

 

 一匹の虫が鳴き、周りの蟲達がすぐさま弱っていた虫を食い破る。

 

 その蟲達は冷たい冬の中、数が減っていた。

 

 その蟲達等は身を薄めて、分散し、他の虫や動物の屍肉を漁って一時の命を取り敢えず凌ごうとする。

 

 慎重に、慎重に。

 何者にも気付かれぬように。

 決して、決して派手な行動は起こさぬ様に、細心の注意を払いながら。

 

 (間桐臓硯)は死にかけていた。

 500年間もの間の()()、このように死の淵に立たされてこれほどの屈辱を感じたのは初めての事だった。

 

 力も工房も圧倒的な力に蹂躙され、光を恐れて這いずる。

 

 これも全てあの忌まわしきサーヴァント、ギルガメッシュの所為だ。

 ()()のたった一瞬の気まぐれが全てを瞬く間に砕き去って行った。

 魔術工房は物理的に半壊され、内包していた蟲も9割死滅させられた。

 アサシンが機転を利かせて臓硯の残った身柄を匿って間桐邸を離脱していなければそこで終わり、アサシンが自らの体を差し出していなければ臓硯は既に生き途絶えていただろう。

 だが今の臓硯には人の姿を維持する力さえも無い。 

 それどころか早く食せ(人間を食わ)ねば、自分という魂が滅んでしまうのもそう未来の話ではなくなった。

 

 普段であれば、その辺の人間達を取って食らってしまっても問題は起きない。 

 だが()()()()()()()()()

 

 聖杯戦争が始まって以来、臓硯は間桐家に持ちうる力で悲願の為にひたすら魔力をため込んでいた、()()()()()で。

 その()()()は冬木市の()()を欲している。 派手な真似をして、それでまた目を付けられれば今度こそ一巻の終わりだ。 これは、隠蔽を上手く行えようが行えまいが関係ない。

 もし隠蔽が下手であれば、魔術の秘匿を蔑ろにするとして情報が魔術協会に行き、早々に処分対象と指定されるだろう。

 上手く隠蔽を行おうとしても、今の状態の臓硯で完璧なものは無理だ。 それなりに上手くやれたとしても、年々増加している行方不明者や昏睡者を知って真実の勘づいている魔術師であれば確実に感知し、発見するか魔術協会などの組織に連絡が行くだろう。 あの遠坂の娘も優秀だがそれは日本国内、時計塔や彼らの様な魔術師は保養に冬木市にも来ている(極東である割に霊脈が強いので)。

 

 臓硯の現状は殆ど詰みに近かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、それは決してあってはならない事だ。

 

『(おのれ……時臣の小僧めが。 見栄を張って不相応にも余計なものを召喚しおってからに! そのツケが儂に回って来ているではないか?!)』

 

 毎秒ごとに臓硯の魔力が穴の開いたペットボトルのように、漏れるように零れていく。それに乗って、少しずつ命も失われていった。 その命の危険が、臓硯を焦燥に駆り立てて彼の思考を更に焦らした。

 

『(い、嫌だ……死に……死にとうない……)』

 

 臓硯はもう一人の()()()の所へと向かっていた。

 慎重に、慎重に。

 

『ギ………ギギ……………』

 

 体が錆び付くかのように、動きがどんどんと鈍くなる。 

 また、魔力が減っていった。

 また更に蟲を()()させねば。

 

 もはやそれは、ただの妄執の塊でしかなくなっていた。積み上げて来たモノの損失の事実がさらに彼を追い詰める。

 

 だからこそ、臓硯は微かな希望にも縋る。

 そしてそれを知る事が出来たのは単純に運とタイミングが良かっただけだった。

 気付かれなかったのは、それほど弱っていたからだったが。

 

 それは遠坂の娘のサーヴァントのアーチャーと、衛宮の小僧達がしていた会話。

 

 臓硯は常に蟲を使って衛宮邸を監視していた。  

 それは今でも変わらず、()()()()()()()

 

 衛宮の小僧にセイバーと遠坂の娘がアーチャーを追って、明日アインツベルン城を目指すそうだ。

 つまり衛宮邸には桜とライダー、アインツベルンの聖杯の()()()()が残される事になる。

 

『(天はまだ儂を見放してはおらぬ!)』

 

 ギルガメッシュは知っているかも知れないし、敢えて知っていたとしてもワザと()()だけを取ったのかもしれぬ。

 だが200年前に聖杯戦争を立ち上げた張本人の一人として臓硯は()()()()()

 

『アインツベルン製の聖杯は心臓と魔術回路のセットになっている』と。

 

 つまり心臓だけを取っても聖杯は真に降臨しない。

 ただ残るのは暴走した魔術儀式の成れの果てである。

 

 ()()()()()に着くとチャリチャリとした金属音がする。

 ()()()()()()が発していた音だった。

 

「これはこれは間桐のご老体。 久しいですな」

 

 臓硯は急いで()()だけでも人型に戻る。

 

「うむ。 久しいな、()()()()よ」

 

『言峰綺礼』。 遠坂凛曰く「エセ神父」。 そして第五次聖杯戦争の監督者であり、今はもう広く知られていないが第四次聖杯戦争の参加者で、生き残りでもあった。

 

「かなり手酷くやられたようですな」

 

「ふん、()()()()()()()である貴様に言われてもな」

 

「いえ、少々勘違いされておりますが()()のは私の()()()です」

 

「その割には、貴様の頼み事には耳を貸すようだが?」

 

「耳を貸すのと聞くのとは明確な違いがあります。 して、こんな夜分遅くに何の御用ですかな? 協会は迷う者は拒みませんが今は聖杯戦争中、ここは中立地点ですので」

 

「では御託を無しにしようではないか。 お主、聖杯の降臨に興味はあるかね?」

 

 ここで僅かな笑みを浮かべていた綺礼の顔がスンと無表情に変わる。

 

「成程、ギルガメッシュが怒っていたのはその事か。 間桐のご老体、貴方は()()で事を成そうとしたのですね」

 

 ちなみに今更だがこの男、言峰綺礼は()()ギルガメッシュの()()()()でもある。

 

「フッフッフ、もうここまでくれば後は魔力の問題と思い、先走ったのは確かに儂の独断じゃが事を思ってからの行動じゃ。 ここで一つ、良い情報をお主に提供したいと思ってな」

 

「間桐のご老体よ、何故私が貴方の様な者を助けるリスクを犯すと思うのですか? 聖杯はギルガメッシュが────」

 

「────それは()の事じゃろうて。 それだけでは()()()()は降臨せぬ」

 

 僅かに、極僅かに綺礼の目が泳ぐのを臓硯は見逃さず、「やはりな」と思い、にやけるのを必死に胸奥へと押しとどめた。

 

「儂はその情報を提供する代わりに、ほんの少し()を貰う。 何、少しばかりこの姿を維持するだけの微々たる量じゃ。支障をきたす事は無い。 後はお主の監視の下、事が起きるまでひっそりとこの老体を休めるとしよう」

 

「……先も言ったように、ギルガメッシュは私の頼みを聞いてはくれますがそれに従うとは限りませんぞ?」

 

「結構、結構。 儂は()()さえ手に入れれば良い」

 

「では()()に来てもらえますかな?」

 

 臓硯は蟲の姿に戻り、綺礼の後を追う。

 

『(まだじゃ! まだ儂は終わらぬぞ! クカカカカ!)』

 

 そして彼が歓喜に浸っている間、彼は目の前の綺礼がニヤリと笑っているのに気付かなかった。

 

「(全く、末恐ろしいものだ。 ここまで()()()()()()に事が運ぶとはな。 フフフフフ! 面白い!)」

 

 内心愉快さに笑う二人であった。

 理由はそれぞれ違うが。

*1
第6話より

*2
第26話後半より

*3
第9話

*4
第19話より




マイケル:最後の方こわ?!

ラケール:と言うかこの士郎って子、どことなく誰かさんに似ているわね

マイケル:え? そうか? (超オオボケ

作者:お前だよ!

三月(バカンス体):デデーン! 『マイケル~、タイキック~!』

マイケル:え、何、ちょ、待てい?!

チエ:尻を出せ

マイケル:ちょ、俺Mじゃ────あぎゃあああああああ?!?!?!

作者:お気に入りや評価、感想等あると励みになります! 何卒宜しくお願い致します!


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第30話 アーチャーと言う男(前編)

ヒサイコワい、ヒサイコワい。 ブルブルブル。

ちなみに今回のイメソンはやはりUBWサントラの「Archer」で、0.5テンポスピードで聞いていました。


 ___________

 

 衛宮三月 視点

 ___________

 

 三月は夢を見ていた。

 その夢の中ではまるで自分が幽霊になったかのようにフワフワと浮遊感を持ちながら舞っていた。

 

「(おー! すげぇ~、ピーター〇ンじゃん!)」

 

 そして景色が見えた。

 かつて自分が見ていた夢とそれはどこか似ていた。*1

 

「(何だ。 ()()())」

 

 明確な違いがあるとすれば、それは集中的に一人の男が()()()を義務付けられ、任されてボロボロになって行く様を見ていった事か。

 

 『体は────で出来ている』

 

 以前聞いたような言葉に不思議な感覚が沸いた。

 ただし前回より今回はもっとハッキリと聞こえた。

 だがその言葉の後に続くのはある男の成れの果てだった。

 

「(()()()()()さん……………)」

 

 そして景色が様変わりし、今度は目覚めた凛がアーチャーと話す。

 どうやらさっき見ていたのは凛自身が見ていたもので、これはバーサーカーと対峙した夜の事みたいだった。

 あの激戦の後、凛は流石に消耗して疲れ切ったのか、近くの公園で一眠りしてアーチャーが警護を務めていたらしい。

 律儀にもアーチャーは厚手のコートを『()()』して仮眠する凛に被せていた。

 

「(あー! ブカブカコート! 温そうだな~)」

 

 そしてそこで凛とアーチャーのコント(?)が始まり、普段見ない微笑ましい出来事に三月は笑う。

 

≪ねえアーチャー? 自分のやって来た事を後悔したって考えた事ある? 私はできれば最後までしたくないけど、それってきっと難しいんでしょうね。 私が考えている以上に≫

 

≪…………出来る者もいれば出来ない者もいる。 凛。 鮮やかな人間と言うものは、人より眩しいものを言う。 そういった手合にはな、歯を食いしばる時など無いんだよ。 そして君は間違いなくその手合だ。 『遠坂凛』と言う人間は、支えさえあれば最後まであっさりと自分の道を信じられて生きていけるさ≫

 

≪じゃあ貴方は最後まで、自分が正しいって信じられるのかしら?≫

 

≪………………………その質問は無意味だな。 忘れたのか、マスター? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこでまた場面が変わり、今度は現代の何処かの工場のような場所に────

 

「(────あれ? ここって原子力発電所?)」

 

 何故三月はここが何処かの原子力発電所と分かったのはテレビやドキュメンタリーで似たような構造のした場所を以前見ていたからだ。

 

 そしてそこにはボロボロになりながらも、体に鞭を打って引きずっていた()()()がいた。

 

「(うわ! 兄さん凄い傷! え? あれって……撃たれた跡?!)」

 

 そしてその夢の中の士郎は倒れそうになると、目の前に魔力の塊のようなものと話していた。

 

「………それで………………誰も泣かずに済むのなら………………()()()()

 

 何かと契約を成して、少年は幾度の危機に応じてその場へと跳び、元凶達を()()()

 それが救いに繋がると信じて。

 

 そして次の元凶に行き、また()()()

 ()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして遂には青年になった少年は()()()()世間(ヒト)に問われ、救った者達によって処刑()された。

 だが契約中だった以上、その者は死んでもただ現世に呼び戻し続けられ、()()()()()

 

 青年は殺し続き、殺され続け、身も心も更にボロボロになって行く。

 

 かつては眩しかった心境も酷く空気がよどみ、緑の草は荒地へと変化していった。

 それでも青年は信じ続け、他人の為に武器を手に取ってそれが限界に来ると地面に突き刺し、次の武器を使い始めた。

 

 だが結局最後に自分自身には何も残らず、他人の為に戦い続けた男が手に入れた歩みの果てが様々な剣が突き刺さった丘の上に自分がただ一人。 体中から血を流して死んでもただ次の()()()()()()が待っているだけ。

 

 やがて青年の心境も動かなくなり、「役目」は「義務」へと真に変わり、青年は機械化していった。

 

 

 

 

 三月が目を開けると目の前には────

 

 

 

 

「────知らない天井だ」

 

「三月?! だ、大丈夫か?! ど、どこか痛むのか?!」

 

 そしてすぐそばには心配していた慎二がいた。

 

「あ、慎二だ~…ってあれ? ここは?」

 

 三月が身を起こし、周りを見ると仮眠を取っていたかのようなアーチャーがキツイ目で三月を見ていた。

 

「あ、アーチャーさん。おはようございます」

 

「何故君は泣いている?」

 

「え?」

 

 三月が手で顔を触ると確かに涙を流していたような跡があった。

 

「………分からない」

 

 グゥ~~~~~~~~~~~。

 

「あ、もしかしてお腹空いたからかも?」

 

「ッ! ま、待ってくれ! 僕が何か探してくるよ!」

 

 慎二が立ち上がって物置か小屋らしき建物から走り出る。

 

「…………」

 

「どうしたの、アーチャーさん?」

 

「君は随分と肝が据わっているな。 それとも状況を理解していないのかな? 君は拉致され、明らかに違う場所に移されているというのに」

 

「へー」

 

 三月の気の抜けた答えにアーチャーの毒気が若干抜かれたかのような空気になる。

 

「もう一度聞く、何故泣いていた?」

 

「夢を見ていた」

 

 そこで三月は先程の夢をアーチャーに話し始めると、彼の顔がみるみると険しいモノへと変わる。

 

「…………妙だな。 マスターとサーヴァントは時折パスを通してマスターはサーヴァントの記憶を見ると言うが……………もしかして、君は相当霊やその類などに余程敏感なのかもしれんな」

 

「サーヴァントも夢を見るんですか?」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「へー、そうなんですか? あ、そう言えば、さっき『拉致』と言いましたけど、誰が拉致されたんですか?」

 

「君だが?」

 

「誰に?」

 

「私に」

 

「へー…………………………何で???」

 

 ?マークを出すマイペースな三月に、アーチャー溜息を出す。

 

「私は知りたいのだよ。 そのために君を利用した。 幼い君に、こんな事もどうかと思うが────」

 

「────幼いってどういう意味?」

 

「…………女性に無礼で承知の上だが見たところ、君はイリヤ嬢とそんなに体格が変わらないからな。 十歳かそこそこの年齢だろう?」

 

「え゛? えーと……………私、兄さんと同い年なんだけど?」

 

「?????? 飛び級………ではなかったのか?」

 

「全部断った」

 

 三月ほどの子ならば学校で飛び級もおかしくない話だが、彼女は過去にそれらの誘いを全て断っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と思い。

 

「…………………まいったな、やはり()()は似ている」

 

 アーチャーが「お手上げだ」と言ったような感じで苦笑いをする。

 

「ねえアーチャーさん? 無理、していないかな?」

 

 これを聞いたアーチャーの表情は固くなり、三月を睨む。

 

「どういう意味かね?」

 

「何か、最初見た時からずっと張り詰めている様子だったから……心配で……」

 

「……別に…………………本当に………()()は似ている

 

「???」

 

 アーチャーが何か小声で言うが、三月には聞こえなかった。

 

「ねえ、さっきアーチャーさんは『知りたい』って言ったわね? それって何?」

 

「………言っても良いが、一つだけ条件がある」

 

「何?」

 

()()()()()()()()()()()

 

「これって兄さんの為になる事?」

 

「……………ああ、()()()()()()()()()()

 

「うん、()()()()

 

「…………………………………私とエミヤシロウはこれから戦う。 奴の方は知らんが、少なくとも私は全身全霊で彼を()()するつもりで相手をする」

 

「そっか」

 

 三月の短い答えと予想していた説明を求める言葉が無いのにアーチャーは顔をしかめる。

 

「……………それだけか?」

 

「うん。 だって、貴方は()()()だから」

 

「…………ハッハッハッハッハッハ!」

 

「???」

 

 一瞬呆気にとられたアーチャーがかつてない高笑いを出して三月に問う。

 

「何を言うかと思えば、私のどこが()()()なのだ?」

 

「だって、私を拉致する為にわざわざ慎二君に頼んで、彼に私を衛宮邸の外まで誘う必要は無いでしょ? そのまま貴方が不意打ちをかけて皆が混乱している間に私を拉致すれば良い」

 

 三月は今パジャマではなく私服姿だった。 昨日風呂から出てセイバーとイリヤ達と何かパーティーゲームでもしようとしたところに慎二が「ちょっと話がある」と言って彼女を衛宮邸の外まで連れ出しところでアーチャーが彼女の意識を刈り取り、アーチャーが三月と慎二両方を担いでアインツベルン城まで連れて行った。

 

 余談だがアーチャーは慎二を脅したのに、三月だけを連れ去ろうとした瞬間慎二が頑なに「自分も彼女の連れ去られる場所に連れて行け!」と言って来たのでアーチャーが彼も連れ去った。

 

「それは勘違いと言うものだ。 その方が合理的にかつ、実質な人質が二人に増える」

 

「それにしても私と慎二が拘束されていないのは何故?」

 

「君を拘束しようと思えばそれなりに魔力を消費しなければいけなくなるし、たとえそうしたとしても本当に君を拘束出来るか分からないからな。 ならば慎二と言う小僧を君に対しての人質に取った方が合理的だ。 彼を拘束しなかったのは、彼には何も出来ないからだ」

 

 そう、アーチャーの言うのは確かに理にかなって、合理的な言い分。

 ただ一つの事を除けばだが。

 

「それにしては彼の気配を察知し続けるんじゃなくて、私に神経を集中しているみたいだけど?」

 

「…………………………本当に、鈍感なのか鋭いのか分からなくなるよ」

 

 グゥ~~~~~~~~~~~。

 

 三月のお腹がまた鳴り、アーチャーが近くの袋からラップされたおにぎりを何個かと水のペットボトルを三月に渡す。

 

「ほら、少ないとは思うが────」

 

「────バクバクバクバクバクバクバクバクバクバク! ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク! ごちそうさまでした」

 

早いよ?!

 

「え?」

 

 ものの数秒で全てのおにぎりを平らげる三月にアーチャーは彼らしくない言葉とツッコミを発した事に三月は頭を傾げ、アーチャーは顔を逸らす。

 

「あ、いや、すまない………食べ終えるのが意外と早くてな」

 

「ごめん。 今滅茶苦茶お腹空いていたから」

 

「らしいな。 ほら、これも一応手渡しておくぞ」

 

「おー、私が昔呑んでいた薬。 ありがとう♪」

 

 さっきから調子が狂うアーチャーに三月はそれを知らずのまま笑顔を向ける。

 そこに息を切らしながら袋を持っていた慎二が現れた。

 

「あ、アーチャー! 彼らが来たぞ! 三月、ここにソーセージとチーズやリンゴなどを────」

 

「────あ、じゃあそれも持って行くから付いて来て、慎二君」

 

「あ、ああ…………て、え?」

 

「……………付いてくるのか?」

 

 その場を離れようとしたアーチャーの後をトテトテと付いて来ようとした三月が?マークを頭から飛ばす。

 

「ダメ????」

 

「…………さっきの条件さえ守ってくれればな」

 

()()()()

 

「お、おい! 条件って、何の事だよ?!」

 

「アーチャーの『邪魔をしない』っていう条件」

 

 後を付いてくる慎二に三月が答え、三人は物置から出てアインツベルン城の中へと入る。

 

 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛 視点

 ___________

 

 士郎、セイバー、そして凛はアインツベルン城に向かっていた。

 

 昨日、桜が兄の信二から士郎宛の置きメモを部屋で見つけたのだ。

 

「三月はアーチャーに連れて行かれる」と。

 

 そこで三月と慎二が衛宮邸にいない事を確認して、明日の明朝にアインツベルン城にアーチャーに指定された士郎とセイバー、そして凛が行く事となる。

 

 最初は全員で行こうとイリヤが言っていたが流石に団体ともなると移動速度が遅くなり、あまり無い時間を更に割いてしまう。

 そこで凛が士郎とセイバー以外に今衛宮邸にいる人員で自分が士郎達と行くと言い、行きたがっていたイリヤを凛が(珍しく)言い負かす。

 

「私のサーヴァントの失態だから私が責任を取るわ。 それに悪いけどイリヤの体格と能力を考えれば遠征や攻撃より拠点防御に向いているから衛宮邸を任す」と。

 

 イリヤは不満そうにだが了承し、桜は目撃した。

 ()()()が行われたのを。

 

 凛が渋々と自分の分のマカロンとカスタードプリンとエクレア全てをイリヤに譲り、それでイリヤが手を打ったのを。

 

 余談だが、衛宮邸ではいつの間にか女性軍の間で通貨となっていた手作りの菓子が保管されている冷蔵庫は以前三月に買収(?)されたセラによって結界が何重にも張られ、イリヤでも手こずるような、規模が小さい要塞と化していた。

 

 衛宮邸の拠点防御はイリヤ、セラ、桜とライダーに任せ、士郎達がアーチャーから三月と慎二の奪還を試みる。

 

 後、凛自身には何か思惑があるみたいなのもイリヤは気付いていたので凛の分の菓子で手を打ったのもその理由の一つだった。

 

 道中、士郎達は黙っていたが凛が口を開ける。

 

「ねえ、衛宮君。 昨日見せたペンダントだけど────衛宮君?」

 

「……………ん? ああ、すまない遠坂。 どうしたんだ?」

 

 未だに考え事に耽っていた士郎は凛の声に少し遅れて反応する。

 

「昨日のペンダントなんだけど、貴方はあの夜からずっと持っていたのかしら?」

 

「ああ。 まあ、お守り変わりだよ」

 

 そこで凛は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な?! と、遠坂いつの間に?!」

 

 士郎が自分のポケットに手を入れて()()()()()()()()

 

「……………え?」

 

「やっぱり、ね」

 

 士郎が歩みを止めて、凛と士郎達が手にあるペンダントを見比べ、()()()()()()

 と言うか、その二つは()()()()だった。

 

「同じだ……………」

 

「リン、これは一体どういう事ですか? 何故貴方がこのペンダントを?」

 

 士郎の言葉にセイバーは凛に聞くと、凛は何かを考えて頭を上げる。

 

「衛宮君。セイバー。 私の手にあるこれは()()()()()()()()()()()()()よ」

 

「……………え?」

 

「私はてっきりアーチャーが学校に戻って拾ったのかと思っていたけど…………」

 

「………遠坂?」

 

 そこで凛は今までの情報と()()()()()()()()()()()()()を思い返していた。

 そこで彼女は一つの仮定によって結論を見出し、士郎を見た。

 

「まさか………アイツ………」

 

「…………なあ、遠坂。 俺、思ったんだけど………英霊を記録する『座』って────」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎達はアインツベルン城に入るとアーチャーが階段の上で座っていた。

 

「早い到着だな、衛宮士郎。 もう少しウジウジしているかと思ったが、違って何よりだ」

 

「三月は何処、アーチャー?」

 

「心配するな凛、あそこだ」

 

 アーチャーが広い玄関の横にある二階のバルコニーの一角に指さすと床に座りながらモグモグと口を動かしながら手を振っている三月と隣に寝不足の慎二がいた。

 士郎達からは見えないがブルーシートを敷いており、ピクニックの様な感じがした。

 これに士郎がホッとして、凛が呆れる。

 

「何、私の用事が終わるまでお前達が手を出さなければ私も何もしない」

 

「アーチャー、貴方は一体何がしたいの?」

 

「その前に一つ。 衛宮士郎に凛……私に何か聞きたい事があるのではないかな?」

 

「そうだな。 ここに来る途中、遠坂がペンダントをもう一つ見せたよ。 ()()()()()()()()()()をな」

 

「……それで?」

 

「それでようやく遠坂に言われて気づいたんだ。 あのペンダントが二つある筈が無いと。 あれは────」

 

「────そうだ。 あれは命を救われた()()が生涯持ち続けたもので、遠坂凛の父の遠坂時臣が娘に残した遺品の一つでこの世界に()()()()()()()だ」

 

「アーチャー、やはり貴方は────!」

 

 セイバーの言葉を遮ってアーチャーは喋り始める。

 

「────英霊の召喚には触媒が必要とされているが必ずしもそうでは無い。 遠坂凛は呼び出す為の触媒がなかったと思い込み、故に彼女は呼び出したサーヴァントには何の縁も無いと思い込んだ。だが()()に呼び出される英霊などいない。 何故なら召喚者と英霊には必ず縁がある」

 

 アーチャーが立ち上がり、階段をゆっくりと下る。

 

「英霊を記録する『座』に時間の観念は無い。 それはセイバーの一件でも理解は出来るだろう? 過去も未来も関係無く、英霊となれば等しく扱われる。 つまり────」

 

 アーチャーが士郎達のいる一階に下りて、士郎を真っすぐと見る。

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言う事だ。 出来れば、凛がここにいなければオレとしては都合が良かったのだが………」

 

「おあいにくさま! 暴走した()()()()()()()()()を他人任せにするほど私は日和っていないわ!」

 

 凛がキッとアーチャーを睨むのに対してアーチャーはその視線を受け流し、士郎は「やっぱり」と何処か納得したような顔をする。

 

「それに貴方、どうあっても衛宮君を殺すって言うつもりよね?!」

 

「フン、その様な甘い男は今の内に消えた方が良いだけだ」

 

「アーチャー!」

 

「待ってセイバー。 私に話させて頂戴」

 

「頼む、セイバー」

 

「………分かりました」

 

「アーチャー、確かに衛宮君が甘いって事は言われなくても周知の事実よ────」

 

「────おい遠坂、それはいくら俺でも無い────」

 

────シロウ、本当の事なので今は黙っていて下さい

 

「…………………」

 

「ありがとう、セイバー………そんな衛宮君でも『ああでなくちゃいけない』って思えて、『ああ言う奴も居ても良いんだ』って()()救われている!」

 

「と、遠坂?」

 

「けど、アンタ自身はどうなの? アンタは『身勝手な理想論を振りかざすのは間違っている』って思うわけ?!」

 

「遠坂、何を────?」

 

「────何度も何度も他人の為に戦って! 何度も何度も裏切られて! 何度も何度もつまらない後始末をさせられて、それで『人間(ヒト)』ってモノに愛想が尽きたっていうの?!」

 

 それは凛の心からの叫びだった。

 

「…………成程、君()そこまで視ていたとは予想外だったよ」

 

 凛は先程の三月の様にアーチャーの記憶を召喚当初から時々見ていて、今まで感じていた事が今一気に押し寄せてきていた。

 心がムカムカして、心底腹が立って、悔しかったのだ。

 

 アーチャーは誰かの為になろうと、ずっと道を歩んで最後でさえも「それで人々を救えるのなら」と死後さえも手放した。

 

「では君の言葉に少々付け加えようか? オレはこう思った、『生前は力が足りなくて救えなかったが、英霊としてならあらゆる悲劇を打破出来る』と信じて死後の安らぎを売り渡した。 聞き覚えが無いかね、セイバー?」

 

「そんな?! それではまるで────」

 

「────そうだ、セイバー。お前の様に、オレはもっと多くの何万人という命が救えると信じ切って戦った。 だが、最後の最後に唯一信じた理想にさえ……………オレは裏切られた。『トレース、オン』」

 

 アーチャーの両手に双剣が現れ、セイバーが身構える。

 

「衛宮士郎! 私はお前に()()()()を申し込む! 受けて立つか?!」

*1
第12話と第20話より




作者:ハイ、と言う訳でここまで来ました

チエ:ほう、一騎打ちとは。このアーチャーも見所がある

三月(バカンス体)/ラケール:そうかな?

マイケル:まあ…………分からんでもない……………かも知れない

作者:お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! すごく励みになります!


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第31話 アーチャーと言う男(中編)

短くてすみません、時間があまりこっちに取れなかったです……


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、三月 視点

 ___________

 

「衛宮士郎! 私はお前に()()()()を申し込む! 受けて立つか?!」

 

「「な?!」」

 

 これには凛とセイバーがびっくりする。

 

 まさか()()アーチャーが「一騎打ち」などと騎士道精神めいた事を言うとは考えもしなかった。

 

「ああ、受けてやるさ!」

 

 そして即答して了承する士郎にもびっくりした。

 

「衛宮君?!/シロウ?!」

 

「やらせてくれ、遠坂にセイバー」

 

「おい衛宮?! 正気かお前!」

 

「頼みよ、慎二」

 

「み、三月も何か言えよ?!」

 

 そこで凛達は食べ終わった三月が階段の所で座っているのを見る。

 

「ミツキ! 貴方はこれで良いのですか?!」

 

「うん」

 

 三月の答えに顔が引きつる凛。

 

「う、『うん』って…………貴方ねえ?! これで衛宮君が死んだらどうするのよ?!」

 

「遠坂さんとセイバーと慎二君達は()()()()()()()()()()?」

 

「「「?!」」」

 

 アーチャーがキザな笑いを正面にいる凛とセイバーに向ける。

 

「と、言う事だ。 良かったな、衛宮士郎。 お前を心底信じきっている者が少なくともここには一人いる」

 

「………わかりました」

 

「セイバー?!」

 

「ですが一つ……いえ、二つほどだけ聞かせてください。 アーチャー、貴方はエミヤシロウと言う人間が英霊になった者ですね?」

 

「そうだ」

 

「貴方はシロウの理想の姿の筈、何故その理想が自信を殺したいのです?」

 

「オレはなセイバー、君の様に自らの光だけで英雄になった者じゃない。 さっきも言ったが『死後の自分』を売り渡す事で英霊になった『守護者』だ」

 

「「『守護者』?」」

 

 士郎と凛の疑問にアーチャーが答える。

 

「『守護者』は死後、抑止力となって()()()()()者………とは表側の単なる綺麗事だ。 実際には『掃除屋』、単なる霊長の抑止力として世界のバランスを崩す者の始末を任された存在だ。 この様にオレは『()()()()()』になった訳だが……オレはそれが間違いだと()()()()()。 こんな人生に何の価値も無く、後悔しかなかったよ。 来る日も来る日も殺し尽くした。 人命なぞ、もうどうでもよくなるぐらい殺して、殺した人間の数千倍の人々を救った」

 

「アーチャー、それは────」

 

「────君になら分かるだろう、セイバー? 誰よりも過去を…………過去の『選定』をやり直したいと願っている君、かの『アーサー・ペンドラゴン』なら?」

 

「「「「「?!」」」」」

 

 士郎、凛、セイバー、そして慎二が全員セイバーの真名宣言に驚く。

 

「何だ? 彼女から聞いていなかったのか、何故こんな不毛な殺し合いに身を投じてまで 聖杯を欲するのかを」

 

「…………シロウ、私は…………私はある選択を()()()()()にしたかった………初めは歴史を変えると思い、聖杯を求めたのですが………今では………私は『王』になるべきではなかったと…………」

 

「それを人は『後悔』と呼ぶのだ、衛宮士郎。 お前はまだ『すべての人間を救う』とほざくか? そんな事は不可能だ。『大を救う為に少の人間を見殺しにする』。 多くの人間を救うと言うのが『正義の味方』なんだろう? だから、『誰も死なさないように』と願ったまま大勢の為に一人には死んでもらい、『誰も悲しませないように』と口にしながらその陰で何人かの人間には『絶望』を抱かせた。 それがこのオレ、『英霊エミヤ』だ」

 

「…………何で…………こんな事を………俺に………」

 

「………………生前、オレは『エミヤシロウ』で…………『衛宮切嗣』の()()の養子だったからだ」

 

「………………………………」

 

 アーチャーと士郎はチラリと三月を見たが、彼女の顔に表情はなかった。

 

「オレの人生に『エミヤミツキ』と言う少女は()()()()()()()。 だからと思い、今までは様子を見ていたが…………………ガッカリしたよ」

 

「何だって?」

 

「今のお前ではまた『守護者』になるのが容易に想像出来る。 いいか? 『守護者』は『人』など救わない。 『守護者』がする事はただ既に起きてしまった事や作られてしまった『人間の業』をその力で無にするだけの存在だ。 霊長の世に害を与えるであろう人々を『善悪』の区別なく処理する大量殺戮者」

 

「アーチャー……………」

 

「故に俺は考えた、『どうすれば消える事が出来るのか?』と。 もしオレが消えられるとしたら、それは英雄となる筈の前だった人間を殺してしまえばその英雄は誕生しない」

 

「それは無駄です、アーチャー。 貴方は既に『守護者』として我々の目の前に存在し、時間の輪から外れているのです! 今のシロウを消滅させたところで、あなた自身は消えない!」

 

「かもしれん。 だが可能性はゼロではない。 ならば試すまでだ」

 

「……………お前は………俺を認められないんだな…………俺が、『未来の俺がお前だ』って事を認めない様に」

 

「そうだ」

 

「なら尚更この戦い、俺は引き下がる訳には行かない……それに……俺は三月達を連れて帰ると約束したんだ! 彼女らの帰りを待っている人達がいるんだ! 『トレース、オン』!」

 

 士郎の両手にアーチャーと同じような双剣が現れる。

 

「そうか…『I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)』」

 

 アーチャーを中心に風が舞い上がり始め、士郎は身構える。

 

「『Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子) I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗)────』」

 

「ウ、ウゥゥゥ?! ────────────────────────────────────────────────?!?!?! (イ、イ゛ダイ?! イ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイイ゛ダイ!!!!!!)」

 

「三月?! お、おいどうしたんだよ?!」

 

 三月が酷い頭痛で頭を抱え、声にならない叫びを内心しながらフラフラしている所を慎二に支えられる間にアーチャーの詠唱が終わる。

 

「『So as I pray, Unlimited Blade Works(その体は、きっと剣で出来ていた)』!」

 

 風と共に眩い光がそこにいた皆に瞼を閉じさせる。

 ゆっくりと光が収まり、皆が目を開けると無数のピンからキリまである状態の剣などが荒野の様な地面に突き刺さっていて、空には無数にゆっくりと機械的に動く歯車達があった。

 三月は遠くなる気を無理矢理に引き止め、荒い息をしながら慎二の腕を力強く掴んで自身を立たせながら久しぶりにアーチャーに渡された昔呑んでいた薬を服用した。

 

「グッ………フゥ、フゥ、フゥ…」

 

 三月が服用するとやはり効き目が早く、頭痛が引いていくのと、体の調子が良くなるのを実感した。

 

【告。 ■■■■条件を満たしマシタ】

 

「こ、固有結界ですって?!」

 

「知っているのですか、リン?」

 

「禁術の中の禁術、心象世界を具現化して現実を侵食する大禁呪………」

 

「では、アーチャーの宝具は────!」

 

「────私には生前、聖剣も魔剣もそのような類の物を持っていなかったからな…………オレが持ち得るのはこの世界だけだ。 これがオレの宝具、『無限の剣製(Unlimited Blade Works)』。 武器であるのならば、オレはオリジナルを見るだけで複製し、貯蔵し、引き出せる。 それが『英霊エミヤ』としての能力だ」

 

「アーチャー………あんた、まさか………」

 

「さて、試してみるかセイバー?」

 

「何をです?」

 

「何、お前の聖剣を確実に複製してみせようと言っているのだ」

 

「な、そんな事が『投影』で可能なのですか?!」

 

「こちらも()()()()()にした『投影』だが、()()()()()()()()()。 相打ち程度に()()()持って行けるだろう。 だがこれは一騎打ちの為の場を用意しただけだからな、お前にその気が無いのならお前と争うつもりは無い」

 

「アーチャー…………」

 

「来い、衛宮士郎。 オレはお前を殺す。 もし自分が間違っていないと思うのなら、貴様の成れの果てのオレを倒してみせろ!」

 

「ウオォォォォォォ!」

 

 士郎がアーチャーに走り、(自分)との戦いが始まる。

 

 ___________

 

 衛宮士郎、エミヤシロウ 視点

 ___________

 

 

 けたたましい金属音が響く。

 ジャリッとした荒野で踏ん張る音が其処彼処でする。

 少年と青年の二人の雄叫びが時折聞こえてくる。

 

 歯がゆい気持ちで凛、セイバー、慎二は彼らの中心で斬り合おうとする二人を見ていた。

 三月も視ていた。

 ()()()()()()()()()()()()()姿()()

 

 アーチャーは初手では油断していた。 だが戦いが始まってすぐに彼は本気を出し、内心焦っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「ヌッ! (馬鹿な、何故奴がこんなに強くなっている?!)」

 

 アーチャーがチラリと三月を見る。

 

「(やはり彼女の存在が関係しているのか。 末恐ろしい存在だよ、君は!)」

 

 アーチャー(エミヤシロウ)は生前努力を積み重ねていた。

『今度こそ救う為に』と。

 

 彼が『無限の剣製(Unlimited Blade Works)』を初めて使い始めて10年、ただひたすらに修行を重ねて基礎を埋めて、そこから更に10年かけて使いこなせるようになった。

 つまり合計20年間ほどの時を使い、アーチャーは『投影』と『無限の剣製(Unlimited Blade Works)』を今のレベルに持ってこられた。

 

 だが目の前の少年はどうだ?

 

「(思わず笑ってしまう様なレベルだよ、全く!)」

 

 アーチャーの前にいる士郎は魔力量や実戦経験がアーチャーと比べて圧倒的に不足しているものの、『投影』の早さと『双剣術』に関してはアーチャーとやや下…いや、ほぼ互角だった。

 つまり悔しくもアーチャーの修行に費やした時間の何割かを吹き飛ばしたような感じだった。

 

「チィ!!! (ふざけるな! これでは()()()()()!)」

 

 アーチャーは力任せに士郎の魔力不足の『投影』を次々と壊していき、傷を負わせていった。

 丸腰では話にはならないので士郎はいち早く『投影』しなおし、それをする度に魔力がごっそりと持って行かれ、体の傷が軋む。

 

「(このままじゃ駄目だ! 俺とアイツとでは能力とかが元から違う! もっと効率よく『投影』を────!)」

 

 そこで士郎は目の前に()()()()()かのように錯覚する。

 

「(そうだ! 真っ向から挑んで勝てないならば!) ハァァァァァ!」

 

「む?!」

 

 士郎の戦闘スタイルが変わって行き、アーチャーは持ち前の戦闘経験で対応する。

 

「!!! あの剣筋は?!」

 

「何、何なのセイバー?!」

 

「(なるほど、考えたものだな。 力と魔力量でオレに敵わないと悟った瞬間、攻撃を()()()()()()()とはな!)」

 

「(力と力のぶつかりあいを最小限に! 敵の攻撃後の隙にカウンターで相手の隙を更に作る!)」

 

 士郎の戦闘スタイルがアーチャーのより更に攻撃を受け流し、捌くタイプになる。

 かつて彼と三月が稽古をした日の、()()のスタイルだった。*1

 

「お兄ちゃん………」

 

「ならこれはどうだ!」

 

 アーチャーが士郎から少し離れ、彼の周りに剣が出来上がり、それらが士郎へと飛来する。

 

「クッ!(『トレース、オン』!)」

 

 飛んでくる剣を弾きながらそれらを士郎が『解析』する。

 

 そして次に同じような剣がアーチャーから放たれると、士郎はそれらを()()()アーチャーに接近戦をまた挑む。

 

「何?! (馬鹿な?! もう軌道を見切ってきただと?!)」

 

「ウオォォォォ!(剣の『解析』すればどの様に飛んで来るのか()()()!)」

 

 それは一つ一つの剣の僅かな特徴や重量のバランスなどを『解析』して取るであろう()()()()と言った、アーチャーでさえ数多の戦闘経験からと持ち前の洞察力で導くような()()

 

 このような斬りあいがアーチャーと士郎の二人の間で長く続き、その間にも士郎は成長していった。

 

「貴様! 何処でこの剣筋を覚えた?!」

 

「お前自身が言った筈だ! 俺には『衛宮三月』がいる! それにここには俺の相棒が、憧れが、親友達がいる! そんな奴らの前でかっこつけたいと思うのは悪いか?!」

 

 そう啖呵を切った士郎だがやはり自分よりはるかに修羅場を『英雄』、『守護者』、『英霊』として潜り抜けたアーチャーに徐々に追い詰められ、士郎は息を荒くしながら膝が地面に着く。

 

「これで分かったか? お前は俺に────」

 

「────『やってみなければ分からない!』」

 

「フン、結局お前はオレと言う事だな。 敵わないと知って尚、ここに現れる愚かさ。 生涯くだらぬ『理想』に囚われて、自らの意図を持ってなかった()()()。 それが………自分の正体だと理解したか?」

 

「ッ」

 

「ただ『救いたいから救う』など、そもそも感情として間違っている。 『人間(ヒト)』として故障しているお前は、初めからあってはならない『偽物』だった。 そんなものに生きている価値はない」

 

「…………三月?」

 

 慎二は隣で自分を抱いている三月に声をかけるが答えは返って来ず、三月はただアーチャーと士郎を見続けていた。

 

「オレはお前の『理想』だ」

 

「うるさい!」

 

 士郎が立ち上がり、更にボロボロになった双剣を『投影』で新しいものに変えて、アーチャーにただ斬りかかる。

 

「ウオォォォォ!」

 

 そこには先程までの技術を使っていた士郎の姿は無く、ただ斬りかかる士郎がいた。

 そしてアーチャーは涼しくこれを真っ向から受け止め、膠着状態になった剣達からはギリギリと音と火花が飛ぶ。

 

「決して敵いはしないと理解出来ている筈だが………お前は本当に『正義の味方』になりたいと思っているのか?」

 

「俺は『なりたい』んじゃなくて、絶対に『なるんだ』よ!」

 

 ギリッと士郎が歯を噛み締めて、膠着状態を無理やり解除する。

 だがアーチャーがまた膠着状態へと戻す。

 

「そうだ。『絶対にならなければならない』。 それが衛宮士郎にとって()()の感情だからだ。 例えそれが自身の内から表れたものでないとしてもな」

 

「ッ!」

 

 士郎の体が僅かにビクリと反応する。

 

「その様子では感づいてはいたようだな。 オレの記憶はおぼろげで、かつての記憶で覚えているものなどほとんど無い。 だが、それでもオレは()()()()だけは覚えている────」

 

 アーチャーの『あの光景』と言った言葉で士郎と三月の二人の前に10年前の景色と場が蘇る。

 

『冬木市大火災』。

 炎の海の中で充満し、焼け焦げた死臭。

 士郎はそんな絶望的な状況の中で助けを請い、叶えられた時の感情を思い出す。

 そして「衛宮切嗣」という男が自分()を助け出した時に見せた安堵の顔を。

 

「それが()()()()()だ。 助けられた事への感謝は後から生じたもの。お前はただ、お前を助けた顔があまりにも幸せそうだった衛宮切嗣(正義の味方)に憧れ、自分もそうなりたいと思っただけだ!」

 

 今度はアーチャーが膠着状態を外し、士郎を蹴る。

 士郎はボキボキと何かが折れる音を耳朶で聞こえながら咳をし、咳をする度に唾液と血が混ざっていた液体が吐き出されていた。

 

「アーチャー…………」

 

 凛の声にアーチャーは一瞬だけ彼女の方を見た。

 

「ゲホ! ゲホッゲホッゲホ! (そうだ…………()()()救われたのは俺の方じゃない。 誰一人生存者のいないような大火災。 助かる筈のない子供()と、いる筈の無い生存者を見つけた男………この二つの内、どちらが奇跡だったかと言えば────)」

 

「────子が親に憧れるのは別に変な話ではない。 だが養父の奴(衛宮切嗣)は少なくともお前には()()を残した。 そしてお前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 お前のその『理想』はただの借り物。 『衛宮切嗣』が取りこぼした『理想』で、『衛宮切嗣』が正しいと信じたものをお前はただ真似ているに過ぎない」

 

「そ、それは………違────」

 

「────違わないさ。 『正義の味方』? 笑わせるなよ。 『誰かの為になる』とそう繰り返し続けたお前の想いは決して自ら生み出したモノではない。 そんな存在が他人の助けになるなどと、思い上がりも甚だしい!」

 

 アーチャーは力尽くで構える士郎の双剣をまた壊し、その勢いのまま士郎の足を刺した。

 

「グォアァァァァァ?!」

 

「「「シロウ!/衛宮君!/衛宮!」」」

 

「ッ」

 

 セイバー、凛、そして慎二が士郎の名を呼び、三月は息を短く呑む。

 

「アーチャー…………お前────」

 

「そうだ! ()()()『誰かを助けたい』と言う願いが『綺麗』だったから憧れた! 故に、()()からこぼれ落ちた気持ちなど…無い!」

 

 アーチャーが怒りを露わにして士郎に斬りかかり、その度に士郎の『投影』した双剣は壊れてはまた『投影』して迎え撃ち、徐々に真正面から追い詰められる。

 

「これを『偽善』と言わず、何というか?!」

 

「グゥゥ?!」

 

「この身は『誰かの為にならなければ』と! 強迫観念に突き動かされて来た! 傲慢にも走り続けた!」

 

「ヌグアアアァァァ!」

 

「だが所詮は『偽物』だ! そんな『偽善』では何も救えん! いや、元より()を救うべきかも定まらん!」

 

 アーチャーの言葉に気を取られた士郎の腹にグサリとアーチャーの短剣が刺さる。

 

「ガッ?!」

 

()()!」

 

 士郎が痛みに顔をしかめ、閉じそうになる瞼を気力と三月の声で何とかその衝動を抑える。

 アーチャーが片手から短剣を消して士郎の頭を無理やり自分へと向けさせる。

 

「オレを見ろ、『衛宮士郎』! 走り続けた結果が『コレ』だ! 初めから救う術を()()()! 救う()()を持たず! 醜悪な正義の体現者がお前の成れの果てと知れ! その『理想』は破綻している! 『自身より他人が大切だ』という考え、『誰もが幸せであって欲しい』という願いなど空想の御伽噺に過ぎんのだ!」

 

 士郎の足から力が抜けて、アーチャーは士郎の頭を離して彼の顔を蹴り飛ばす。

 

「そんなものが夢でしか生きられないのであれば────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その『理想()』を抱いたまま溺死しろ! 衛宮士郎!

 

*1
第16話後編より




作者:お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!

ウェイバー(バカンス体):えー?! また短いのかよ?!

チエ:気にするなウェイバー。 奴もかなり疲れているのだ

ライダー(バカンス体):そうだぞ坊主! 時には休む事も大事だと“しーえむ”で言っているではないか! 

チエ:確か…『大切ですよ、無理しない勇気』とかだったな?

ライダー(バカンス体):おお! それだ!

ウェイバー(バカンス体):頼りになるのか、それ?

ライダー(バカンス体):知らん! だが響きが良いではないか!

ウェイバー(バカンス体):そんなんだから内部崩壊するんじゃないか、お前の国は………


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第32話 アーチャーと言う男(後編)

_l ̄l●lll


 ___________

 

 衛宮士郎、エミヤシロウ 視点

 ___________

 

 士郎の足から力が抜けて、アーチャーは士郎の頭を離して彼の顔を蹴り飛ばす。

 

「そんなものが夢でしか生きられないのであれば! その『理想()』を抱いたまま溺死しろ! 衛宮士郎!」

 

 士郎の力の入っていない体が荒野の地面をゴロゴロと転がり、数メートル先で止まると彼はほぼセイバーと三月の稽古からの反復で立ち上がろうとして、体の傷から血が噴き出しながらも何とか膝を着き、()()()()()()

 

 士郎は遅く、長い息を吐き出しながら麻痺していく体の感覚と思考でアーチャーの言い分を自身の中で思い返していた。

 

「ハァ…………ハァ…………ハァ…………」

 

 士郎の目の前が霞み、出血多量からの幻覚か()()()()()()()

 

 それは断片的にアーチャーの記憶か、以前三月と一緒に衛宮邸の居間で魅入った紛争地帯に関してのニュースかドキュメンタリーの場面などか、士郎には見分けが付かなかった。

 ただハッキリとした事は、自分の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その背中は何処か力強く、大きく見えた。

 だけど何処か寂しそうで……………

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 それは士郎が思わず声を出す程の違和感(喪失感)を与えていた。

 

「アンタは、多くのモノを失ったように見えるな」

 

 目の前の()()に成ったばかりの存在が振り向かずに答えた。

 

「それは違う。 私は()()()()()()()()意地を張ったから、ここにいる。 ()()()()()()()()()()。 お前()はどうなのだ?」

 

「え?」

 

 士郎は隣を見ると、幼い三月が彼の袖をギュッと掴んでいた。

 それはまだオドオドと『()()()()』と言う言葉が控えめな表現の頃だった、かつての少女。

 

 小鹿の様にプルプルと震えている彼女は士郎を見上げていた。

 

「……………()()()()()()?」

 

「(そうか、俺は……)」

 

「…………?」

 

「…………(『兄』、か…………)」

 

≪おい、大丈夫じゃなかったら俺達を頼っていいんだぞ? じいさん(切嗣)も大人だし、俺もお前の『()()()()()』だからな。 俺達は()()で、俺が先に養子になったからお前より『上』だろ?≫*1

 

 彼は自分を彼女の『兄』と言った。

『彼女の為に』と思ったからこそと、ずっと自分に言い聞かせながら。

 だが、「果たしてそうだろうか?」と言う疑問が士郎の中に最近芽生えていた。

 そしてそれはアーチャーとの闘いの中である事に気付いた。

 

「俺は………あの日()()()()()()んだ。(そうだ、俺はあの地獄の中で、父さんや母さん、友達や人見知りも家も何もかも全部失ったけど、俺の方はまだそれらを()()()()()。 けど、彼女は────)」

 

「────お前は認めるのか?」

 

「………………ああ、認めるさ…………でも、俺はその同じ日に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 士郎は歩き始めて、前に立ち止まっていた()()を横道る。

 足取りがおぼつなく、幼く小さな手をした三月の手を取りながら彼らの前にある丘の頂上を一緒に目指した。

 

 その時に背後から()()が声をかけた。

 

「その先は()()にも分からない道だ。 この先、どうなるか分からないぞ?」

 

「…………………」

 

「???」

 

 士郎は一瞬立ち止まり、隣でキョトンとした幼い三月を見て、彼女に微笑んでから歩みを再開する。

 

「それが茨の道でも、暗闇の道でも、未知の先でも…………俺()なら乗り越えてみせるさ」

 

「じゃあ士郎は『正義の味方』を捨てるのかい?」

 

「ッ」

 

 士郎がその()()()()声で思わず振り返りそうになるが、何とか自分を止める。

 見てしまったら「()()逆戻りするのでは無いか?」と言う気持ちから。

 

「…………………捨てないさ。 でも……………多分だけど()()の言っていた『正義の味方』とも違うと思う」

 

「…………そうかい………そうだね………僕の時とは()()()()()()()()し、結局は()()()()()()()()()()()

 

「ああ。 だから行って来るよ、親父(切嗣)

 

「行ってらっしゃい、息子よ(士郎)

 

 士郎達が丘の頂上に着くと、そこには一本の剣が地面に刺さっていた。

 士郎が三月の手を握っていない片手でそれを引き抜こうとしても片手である為、上手く力が入らなかった。

 

「仕方ないな~。 じゃあ『1、2の3』で引くよ、()()!」

 

「ああ!」

 

 隣から自分の()()()()()()()()()の元気良い声が聞こえ、これに士郎の胸が温かくなった。

 

「「1!」」

 

 士郎の隣から少女の手が地面に刺さっていた剣のグリップをガッチリと掴む。

 

「「2の────!」」

 

 二人の両手にギュッと力が同時に入り、剣のグリップと、お互いの手を握る。

 

「「────3!」」

 

 息が合った行動に剣が抜かれると、曇っていた空が割れて優しい陽光が差し込み、

 炎が荒れ狂う荒野が剣の抜かれた場所から徐々に豊かな緑色の草が生え始め、

 色とりどりの花が咲いて瞬く間にそよ風に揺れる花畑が士郎の周りに広がり始めた。

 

 その景色は眩しく、()()()、士郎は思わず瞼を閉じてまた開けると何時の間にかアーチャーと相対していた場に戻っていた。

 

 士郎の体の痛みは引いていて、傷口はもう既に閉じ始めていたのを見たアーチャーは小声で舌打ちを打った。

 

 「チッ。時間をかけ過ぎだ、戯け」

 

「衛宮の傷が塞がって行くだと?! 何だよそりゃ?! ゾンビかよ?!」

 

「(ははは、そりゃあ無いだろ慎二)」

 

「シロウ! 立って下さい!」

 

「(ああ、分かっているセイバー。 せっかく稽古とかを付けて貰ったんだ。 それに比べればこんなの………………)」

 

「衛宮君、立って! 一発アーチャーに入れないと私がアンタをぶっ飛ばすわよ!」

 

「(分かっているよ遠坂。 ここまで来て倒れるのもお前にも殴られるつもりも無いさ)」

 

()()

 

「(…………三月)」

 

()()()()()

 

「(……………………………そっか。 そんな声かけられちゃあ、意地でも立たないとな!)」

 

 士郎が立ち上がると、アーチャーは彼の傷がほぼ完治しているのを確認した。

 

「…………(切嗣が彼の命を救う為に埋め込んだ聖遺物。 やはり、恐るべしだな彼女の鞘(アヴァロン)は)」

 

「『体は────」

 

「────ッ?! (まさか?!)」

 

「剣で────!」

 

「フンッ! (さすがにここまでは予想外だ!)」

 

 アーチャーが双剣を士郎に目掛けて投げる。

 

「────出来ている!』」

 

 士郎の両手に現れたのはアーチャーの双剣の『干将・莫耶』に()()()()()()だった。

 それはまるで()()を求める、翼のような形をしていた。

 

 士郎は両手の中にある双剣を振るい、アーチャーの投げた短剣がバキバキと音を立てながら割れる。

 

「俺は……ここで立ち止まれない!」

 

「………ようやくか。 だが私とお前の実力差は未だに歴然だ」

 

「…………」

 

「それを骨の髄まで理解出来た筈だが………まだ足搔くか?」

 

 士郎が笑みを浮かべながらアーチャーを見る。

 

「理解したさ…………けど…………………『それがどうした』?」*2

 

「……何?」

 

「聞こえなかったか? 『それがどうした』と言ったんだ。 確かに、お前に言っている事は正論だ。 それに強い。 でも………………『それがどうした』?!」

 

 士郎はまるで「仕切り直しだオラァ!」と言う様な勢いでアーチャーに傷を負わせていった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎の啖呵から更に30分ほど経ち、未だに彼とアーチャーの戦いは続いていた。

 勿論この間、士郎自身も無傷ではなかった。

 寧ろアーチャーよりも深刻だ。

 

 彼がまだ生きているのはひとえにアーチャーが言っていた『彼女の鞘(アヴァロン)』のお陰だった。

 

アヴァロン(全て遠き理想郷)』。 それは本来、セイバーである『アーサー・ペンドラゴン』の持っている宝具、『エクスカリバー(約束された勝利の剣)』と対を成すもう一つの宝具だった。 そして効果は「セイバー(アーサー)の魔力に呼応し、持ち主に()()()()()()の治癒能力をもたらす」と言われている。

 

 つまり何某ゲーム風に言うと「パッシブリジェネレーション」と言ったところの()()が士郎の中に埋め込まれていた。

 

 士郎の羽をモチーフにしたような双剣は最初の内は次から次へとアーチャーの双剣を壊していった、先程アーチャーが士郎にしていたかのように。

 

 だがやはりアーチャーが長年『守護者』としての『英霊』をやっている年月は伊達ではなく、徐々に士郎の形成が不利になってゆき、これにつれアーチャーが明らかに()()()になって行く。

 

「くだらん……………くだらん、くだらん、くだらん!!! もはや見るに耐えん! 愚昧ここに極まったな、衛宮士郎! 『それがどうした』だと?! 子供か、貴様は?! これならばまだ衛宮切嗣の言っていた『正義の味方』の方がマシだ!」

 

「なら、お前の担げる『正義』は何だ?!」

 

「『正義』とは『秩序』を示すものだ! そして全体の救いと個人の救いの二つは別のモノだ!その二つは()()()()()()()()! オレは正しい救いを求めれば求めるほど、自己矛盾に食い尽くされ、ただの殺し屋に成り下がった! それが分からないのなら、その『思想』ごと砕け散れ! 何も成し得ないまま燃え尽きて死ね! そうすればオレの様な『間違い』も誕生も存在もしなくなる!」

 

「それは()()の言い分だ!」

 

「それが()()()『正義』だ!」

 

 そこで両者はまた激しい攻防を繰り広げる。

 士郎は攻撃を受け流しながらカウンターを狙い、アーチャーはヒット&アウェイで士郎を殺そうとする。

 

「グッ!」

 

 アーチャーは自身の存在は気薄になって行くのを本能で感じる。

 とうとう自身の存在を保つ魔力が無くなって来たのだ。

 

 本来、サーヴァントはマスターを失った短い時間の後に消滅する。

 これは現世の依り代を無くし、存在を維持する魔力が尽きた事を意味する。

 だが稀に『単独行動』と言ったスキルを持つサーヴァントがいて、これはマスターからの魔力供給が断たれてもしばらくは自立できるスキル。

 

 これがあればマスター無しでもある程度は自分を保てるが、限度がありそれがアーチャーに迫って来ていた。

 

「(こいつは、()()?!)」

 

 アーチャーが士郎を突き放し、彼をまた蹴り飛ばす。

 が、士郎は立ち上がり、また接近戦をアーチャーに挑む。

 

「(こいつは本当に()()()()なのか?! 何故()()()()()()()()()()()?! 何故()()()()?!)」

 

「ウオォォォ!」

 

「ッ! (こいつは『勝てぬ』と………『意味が無い』と思って尚、オレに挑み続けるその姿は………やはり()()()! ()()()! それこそが()()()()()に他ならないと何故気付かない?!)」

 

 アーチャーがまたもや士郎を無理矢理引きはがすと、今度は士郎の双剣の刃が壊れ初め、残ったのはボロボロでヒビが入った双剣だけ。

 

「(……………限界が来たか。) 皮肉だな衛宮士郎。 気力より先に魔力が尽きたか。 お前に残された武器はそれだけだ」

 

 アーチャーが更に宙に数本の剣を『投影』する。

 

「(少し…………極僅かに残念だよ、衛宮士郎(エミヤシロウ)。) どうあれ、『衛宮士郎(エミヤシロウ)』の戦いはこれで終わりだ!」

 

「さっき………お前の言った事は確かに正論だ………()()()()ならお前を正しいと感じて、同意もしていたかも知れない………だけど…………それでも………『誰もが幸せであって欲しい』と言う願いを、俺は『美しい』と感じたんだ。 そしてその感情は、限りなく()()の筈だ」

 

「グッ」

 

 アーチャーは士郎の言葉で()()()()()()()()()()の景色が頭を過ぎった。

 

「『誰かを助けると言う事は誰かを助けないと言う事』なら………俺は………『俺の周りの人達を守る』! それが俺の『正義』で! それは……『間違いじゃない筈』なんだ!」

 

 そう士郎が宣言した瞬間、彼の足元から緑の草と花が生え、彼の周りに曇った空から陽光の光が差し込む。

 

 それは何処か、幻想的な、()()のようで────

 

「クッ?! (何だ、()()()?!)」

 

 ────アーチャーの頭に年若く幼い自分が、

 

 

 

 

 やつれながら痩せ衰えていた着物を着た男性と、

 

 

 

 

 月の綺麗な晩に()()で軒先に腰掛けて話を────

 

────ッ! 消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 酷い頭痛に顔をしかめながらアーチャーは士郎に向けて剣を放つ。

 まるで脳裏と眼前の物を共に消し去りたい様な勢いで。

 

 そして士郎が走る一歩一歩ごとに、彼の踏んだ地面のから鮮やかな色の花達と緑の草が生えて行き、陽光が曇った雲から所々差し込む。

 

「いけぇぇぇぇ! 衛宮ぁぁぁぁぁ!」

 

「(────い!)」

 

 士郎は残された双剣の刃の部分で真正面から斬り落としながらアーチャーに突進していく。

 

「シロウ!」

 

「(────かない!)」

 

 一つの双剣の刃が崩れ落ちて、士郎はもう片方で斬り落とし始める。

 

「消えろ、消えろ、消えろぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

「────なんかいない!」

 

「衛宮君、いっけぇぇぇぇぇ!」

 

 もう片方の剣もボロボロになって行きながらも士郎はそのまま走る。

 

()()!」

 

 「俺は、間違ってなんかいないんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 最後にアーチャーが放った大剣達を払い落とすとついに士郎の羽の様な双剣に限界が来たのか両方とも粉々に砕け散り、士郎は丸腰ながらもアーチャーに向かってがむしゃらに走り、アーチャーのおぼろげな灰色の記憶の一部が脳裏に蘇る。

 

 

 

 

 

≪オレが代わりになってやるよ! 任せろって。 じいさんの夢は、オレが────!≫

 

 

 

 

 アーチャーは双剣を握っている両手に力を入れた。

 

 

 

 

 そして彼は見る。

 

 

 

 

 士郎の顔が『それがどうした』と笑い飛ばそうとしながらも、自分が不安に押し潰されそうな顔をしていた。

 それは何処か()()()()()()からではなく、

 ()()()()()ががむしゃらに()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、

 

 

 人間(ヒト)(表情)だった。

 

 

 

 

 そしてアーチャーは思う。

 

 

 

 

「ああ、オレも()()()()()()()()()、そんな表情()を過去にしていたのかもな」、と。

 

 

 

 

 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、間桐慎二 視点

 ___________

 

 士郎、凛、三月、セイバー、慎二たちが気付くとボロボロのアインツベルン城に戻っていた。

 

「ここは……アインツベルン城?」

 

「その………ようですね」

 

「……………まったく。 お前には驚かされてばかりだな、衛宮士郎。 まさか()()()()()()()()()()とは流石に思わなかったぞ」

 

「………………俺だって、お前を殴り倒せるとは思わなかったさ」

 

 凛達の前には床に仰向けになりながら笑い、頬に殴られた跡があるアーチャーと、息の荒い士郎が流石に過労が追いついたのか、尻餅を付いて呆然とした顔でアーチャーを見ていた。

 

「………何故私を刺さなかった、衛宮士郎」

 

「単なる魔力切れだ。 それに今のは、遠坂に頼まれた一発だ」

 

「………私の運も、まだ捨てたものでは無いな」

 

「……………俺の勝ちだ、あーch────」

 

 ドゴォン!

 

「────ウゴォ?!」

 

 何かが二階から士郎目掛けて飛び降りてそのままの勢いで彼は横に倒れる。

 俗に言う、プロレスのプランチャに似ていた。

 

「士郎、大丈夫?! 意識ある?! アーチャーさんも、私の指は何本に見える?!」

 

 士郎の上半身を持ち上げてゆすり続け、アーチャーの事も心配していて指を二つ彼に向って上げる。

 

「……………それはピースサインのつもりかね?」

 

 何時もの調子が出たのか、アーチャーが立ち上がりながら皮肉めいた言葉を返す。

 

 そして三月のお陰で士郎は白めになりながらも声を出す。

 

「……………ほ」

 

「『ほ』?」

 

「………………星が」

 

「『星が』?」

 

「星が、見えたスター……………ガクリッ」

 

「士郎、ダジャレ言っている場合じゃないでしょう?!?! 面白いのは認めるけどさ?!」

 

 三月がそのまま士郎の体をガクガクと揺すり、士郎の顔色は更に青くなっていく。

 

「全く………本当に、君にはどうしたものか………」

 

「み、三月! それ以上したら衛宮が本気でヤバい!」

 

 慎二が士郎から三月を手放せて、彼に肩を貸す。

 

「ありがとう、慎二…………」

 

「何さ、これぐらい。 帰ったら二人の旨い飯を僕にたらふく奢れよ?」

 

 その間、立ち上がったボロボロのアーチャーを凛が見上げていた。

 

「どうしたのかね、凛? 私を殴らないのか?」

 

「もう良いわよ、衛宮君が一発入れてくれたし。 それより()()()()()の三文芝居はもう終わりな訳?」

 

「フ、君にそんな事を言われるとはな」

 

「貴方ね、私が何年世間を相手に猫を被っていると思っているのよ?」

 

「そうかね? 私はてっきり君がカマをかけたのかと思ったので逆にカマをかけただけだが? まあ君が猫を被っているなど今更────」

 

────よしやっぱり一発ぶん殴ってから続きをするわ。 歯ぁ食いしばれ!

 

 凛の拳をアーチャーが躱す。

 

「この! ジッとしてなさい!」

 

「やれやれ…(やはり()()()()()()()()()()()()()()な)」

 

「アーチャーさん!」

 

「ん? 何だね?」

 

 凛の拳を躱し続けるアーチャーに対してぺこりと頭を三月が下げる。

 

「ありがとうございます!」

 

「…………私は別に何もしていないが? (本当に、君は鋭いな………全く………)」

 

「え? (あれ? でもアーチャーさんはワザと────?)」

 

「────ッ! アーチャー!」

 

 セイバーが何かに気付き剣を構え────

 

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!」

 

 ────アーチャーが展開した光の盾が士郎、慎二、三月を数々の武具から守り、アーチャーは凛を体で庇うかのように前に出て何本かの剣や槍などが彼の体に突き刺さる。

 

「グゥ!」

 

「「「アーチャー!/アーチャーさん!」」」

 

 士郎と凛と三月が彼の名を叫ぶと二階の通路から愉快そうなギルガメッシュが歩き出る。

 

「流石は雑種、我の『散歩コース』と分かっていながらもこうもズカズカと断りも無しに土足で踏み荒らすとは………だが面白い茶番だったぞ? そこは褒めてやろうではないか」

 

「ギルガメッシュ!」

 

「ええええ?! お、お、王よ、何故ここに?!」

 

「ん? ああ、海を漂うワカメではないか。 ここは我の『散歩コース』とやらだぞ? しかしまあ、面白いと言っても贋作者(フェイカー)共の独り相撲では、な」

 

 ギルガメッシュの後ろに数々の武具が宙の歪にて姿を現す。

 

 アーチャーは凛の方をチラリと見て口を動かす。

 

「────────」

 

「………………ぇ?」

 

 そう凛が呟いた瞬間、アーチャー双剣の一つを『投影』して姿が消え、ギルガメッシュの横へと表れて斬りかかった。

 

「ちょこざいな」

 

 だがギルガメッシュは慌てる事無く、眉毛を動かす事も無く用意していた武具がアーチャーを更に串刺しにして爆発が起きる。

 

「「「アーチャー?!」」」

 

 爆風の中、何かが飛び出て凛の足元に突き刺さり彼女は見た。

 

 それはボロボロになり、()()()()()()のアーチャーがさっき『投影』したばかりの短剣の刃の部分だった。

 

*1
第2話前半より

*2
第12話前半と第17話後半より




作者:_l ̄l●lll

チエ:よし、そのまま動くな

三月(バカンス体):ぎゃああああ! 首跳ねるのはヤメテー!

マイケル:いやこれは俺も腹が立つぞ

ラケール:と言うかこれって私達にも起き得る事よね?

作者:_l ̄l●lll

チエ:……………そうだな

作者:え?許して────?

チエ:『自害しろ、作者』

作者:ガフッ?! (血吐き&痙攣

雁夜(バカンス体):やっぱりギルガメッシュって怖えええ! 「ファ〇ク、ユー」言わなくて正解だったぜ!

三月(バカンス体):え?そんな事を言おうとしたの? バカだなー!

雁夜(バカンス体):お前だよ! 俺にそう吹き込もうとしたのは!

三月(バカンス体):♪~

桜(バカンス体):あ~、口笛上手~い! ♪~

ラケール: …………♪

チエ:ん? これは確か『荒野へ』では無かったか?

雁夜(バカンス体):何、それ? 聞いた事無いぞ?

チエ:『びでおげーむ』なるモノの『おーぷにんぐ』と三月は言っていたな

雁夜(バカンス体):面白いのか?

チエ:『びでおげーむ』はウェイバーかライダーに聞け


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第33話 さいこのガキ大将(前編)

題名はダジャレのつもりです(“最古”と“サイコ”)

……………すみません、疲れているもので…

ではお楽しみください!


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、間桐慎二 視点

 ___________

 

………アー………チャー?

 

「まさか(フェイカー)が最後の最後まで『他人を救おう』とは、大した道化よな」

 

 だがそれも束の間、アーチャーの持っていた刃の欠けた短剣は光の粒子となり消え去って、凛は三月達の声が聞こえる。

 

「うわ?! ぎr────ぐへ?!」

 

「ちょちょちょ────ガハ?!」

 

 凛がハッと見上げるとギルガメッシュは以前出した剣で三月と慎二を士郎から()()()()()、意識を刈り取っていた。

 

「三月! 慎二!」

 

「ギルガメッシュ! 貴方は二人で一体何をしようと言うのです?!」

 

 士郎達の中でも運動神経抜群のセイバーならギルガメッシュが剣を振るうよりもいち早く反応出来ていた筈。

 だが彼女は彼の持っていた剣がどのような物か知らなかったので一瞬判断が遅れた。

 そしてその過ちの所為でギルガメッシュは人質を二人(?)入手してしまった。

 

「ん? 分からぬか、セイバー? 我は()()()()()()()だけだ」

 

「「「?!」」」

 

『願いを叶えたい』。 それはサーヴァントにとって────

 

「貴方は聖杯を求め、手に入れると言うのですか?!」

 

「セイバーよ、たった10年だぞ? もう忘れたのか? 以前言った様にあれは元より()()()()。 それに()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ?! う、嘘よ! だって、聖杯戦争はまだ────!」

 

「────時臣は貴様に何も伝えていなかったと見る」

 

「…………ぇ?」

 

 ここで凛がまた()()()()お父様(時臣)を匂わせる言動にビクリとする。

「今度は何を明かされるの?」と半分好奇心、半分ザワザワとした恐怖の心境で。

 

「『聖杯を呼ぶ為の儀式』なぞくだらぬ戯言よ。 『七人のマスターによる生存競争』? 『最後の一人となったマスターのみが聖杯を得る儀式』だと? そんなものは隠れ蓑にすぎんと言うのに」

 

「ギルガメッシュ、貴方は聖杯が何であるか知っているのですか?」

 

「やれやれ、バカな女とは思っていたが…………良いか? 魔術師共は毎回、聖杯を用意してから七人のサーヴァントを呼んだ。 奴らが必要としたものは聖杯そのものではなく、その()()だ。 魔術師共は『聖杯』を作りはしたがその中身を()()()()()()()()。 故にまずはその()()となるべきものを召喚したのさ。 事情を知らぬマスター共々サーヴァント達を謀ってな」

 

「そんな………まさか…………」

 

 ギルガメッシュがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ほう? 理解が早いな、遠坂の娘よ。 そうだ、聖杯を()()()()()()()()満たす最高純度の到底使い切れぬ魔力の魂こそが、奴らが求めた聖杯なのさ。 だが我はそんなものに興味は無い。 我の願いは『この時代の人間の一掃』だ」

 

「「な?!」」

 

「お、お前! 正気か?!」

 

「この世界は楽しい。 が、同様に度し難いものだ。 凡百の雑種が生を謳歌するなど 『王』に対する冒涜に過ぎん」

 

「…………まさか?! 貴方は『聖杯』の異常の事を────?!」

 

「────やっとお前も理解したか、セイバー。 そう、10年前の大火災は『聖杯』から零れ落ちた一部の()()が炎となって街を焼き払ったに過ぎない。 なら一部だけでなく全てが出たとしたらどうだ?」

 

「そんな事をすれば人間が種として途絶えてしまうではないか、ギルガメッシュ!」

 

「ならば是非も無し。 自らが犯した罪で死に絶えるのならば生きる価値などあるまいて。 我が欲しいものは有象無象では無く、地獄の中ですら生き延びられる者こそ支配される価値があると見る。 その点で言えば前回は落第だったぞ? あの程度の炎で死に絶えるなど、今の人間は余りにも弱すぎる」

 

「アンタが欲しているのは『聖杯』で、イリヤの心臓の『聖杯』はもう手に入れた筈。 ならその二人をどうしようって訳?!」

 

「理解が早いと先程評したが撤回しよう、遠坂の娘。 『聖杯』の起動には莫大な魔力が必要でな。 そこはそれ、自己で補えなければ他人から奪うのが世の摂理。 幾らでも手はあるが、()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「何だと?! どういう事だ?!」

 

「言葉通りの意味だ。 少々興が欲しくてな、退屈しのぎと言う奴よ」

 

 ギルガメッシュが三月と慎二を担ぎ、士郎達へ言葉をただ続ける。

 

「我は今から『聖杯』を起動させる、柳洞寺でな。 もっとも、()()聖杯は急造の欠陥品だ。 こいつは十年前より質が悪いぞぉ?」

 

「「「?!」」」

 

「来るなら来い。 そこで我らの決着もつけようではないか、セイバー。 フハハハハハハハハハ!」

 

「待て、お前────!」

 

「────()には気をつけろよ?」

 

 様々な武具がギルガメッシュの言った様に雨みたいな憩いで落ちる場を後にして、彼はそこから去る。

 

 土煙が収まるとセイバーが叩き落し、凛が切り札の宝石達を使って結界を張っていた。

 

「………リン、シロウは?」

 

「俺は大丈夫だ……けど、三月達が────」

 

「────ええ、時間が更に無くなったわ。 あの『金髪』……じゃあ三月と被るから『金ピカ』が慎二の言った様に臓硯の『同盟者』としたら、これまでの昏睡者や行方不明者の魂を『聖杯』の実体化に使ってもおかしくない…………それに…………」

 

「それに………何だ?」

 

「いえ、もうここまで来たら文句を言っていられないわ。ここにあるモノを拝借して、今は自分達の手当てなどを済ましてすぐ移動を開始しましょう。 柳洞寺ならば一度衛宮君や私の家によるより直接ここから向かった方が早いわ。(アーチャー、まさか貴方はこの状況を見通して()()()()()()()()()を衛宮君に付けさせていたの?)」

 

 凛は速足で歩きながら先程のアーチャーの言葉を思い出す。

 

()()お前達に任せる』

 

 それは死にゆく者の言葉ではなく『バトンタッチ』をする者の言い分だった。

 

 確かにアーチャーが『未来の士郎』の可能性ならば理論的に()()()()()()()()()()()

 だが(アーチャー)とは違い、士郎は技術的にはともかく圧倒的に魔力が足りない。

 ならアーチャーはどうやってそれを士郎に克服させるつもりだったのだ?

 

 アーチャーは運任せなどに頼るような者では無い。

 何処かにヒントがある筈。

 

 凛はそう思い、セイバーは士郎の体から鉄の破片などを取り出しながら手当てをし、士郎は近くに置いてある保存食などを次から次へと食べていた、少しでも体力と魔力を戻す為に。

 

 凛はポケットの中に手を入れて、ペンダントを出す。

 

「…………やっぱり魔力は貯蔵されていないか………」

 

 それは士郎の持っていた方ではなく、アーチャーから渡された方だった。

 もしやと思い、凛がそれを取り出して魔力を感知しようとするが、ペンダントの魔力は枯渇したままだった。

 

 後は────

 

「────ッ!」

 

 凛は()()を取り出して、士郎を見る。

 

「…………衛宮君、貴方の『投影』は()()()()()()()と確かに三月は言っていたのよね?」

 

「…ああ」

 

「…………衛宮君…………申し訳ないのだけど、貴方は命を賭ける覚悟はあるかしら?」

 

「それが三月達を守る為ならば、賭けるさ」

 

「シロウ?!」

 

「………………………………………ハ?」

 

 凛がジト目で未だにむしゃむしゃと食べる士郎を見る。

 

「………衛宮君? こういう場合、もう少し相手に詳しい説明を聞いて頂戴な?」

 

「三月と慎二が危ないんだ。 命を懸けるなんて安い物だ……アイツに言った通り、俺は俺の周りの者達を守る。 俺はどうすれば良いんだ、遠坂? …………って遠坂? どうしたんだ?」

 

 そこには涙腺が緩くなり、凛の目に涙が留まっていた。

 

「馬鹿! アンタもアーチャーも結局、頑固者で馬鹿同士ね?!」

 

 先程の士郎の言葉で凛はアーチャーを彼の上に連想してしまった。

 そしてアーチャーの結末も。

 

「もう一度言うわよ衛宮君?! まずは自分が第一よ! それが約束出来なかったら私一人でもギルガメッシュをぶっ倒すんだから!」

 

「お、落ち着け遠坂!」

 

「リン、聖杯はどうするのですか?」

 

「………アイツが言った様に十年前の大火災が()()()()()って言うのならそんな物、あっては駄目だわ」

 

「では────」

 

「────壊すんだな遠坂、聖杯を」

 

「ええ」

 

「ですが、リンは良いのですか? 聖杯を得るのは遠坂家の悲願では?」

 

「………そういうセイバーこそどうなの?」

 

「以前アーチャーは言っていました、聖杯は『悪質な宝箱』と。 今なら彼の言おうとした事が真に分かるような気がします」

 

「そっか……………私は初めから叶えたい望みがあった訳じゃないし、壊すのならそれはそれですっきりするわ。 それに私自身は『聖杯の為』じゃなくて『勝つ為』に聖杯戦争に参加したんだし………『聖杯』を得るなんて私にとっては次いでよ、次いで」

 

「何か………『さっぱり』しているな、遠坂」

 

「でなきゃやってられないわよ、こんな事。と言うか半分はあんた達兄妹の所為なんだけど、ブツブツブツブツブツ

 

「え? 最後なんか言ったか遠坂?」

 

「な、何でも無いわよ! じゃ、じゃあ作戦会議、移動しながら始めるわよ!」

 

 凛のゴニョゴニョした独り言(愚痴?)を聞こうとした士郎に凛は誤魔化すように話題を変えた。

 

 ___________

 

 衛宮三月 視点

 ___________

 

 

 三月はまた夢を見ていて、以前のアーチャーの時のように浮遊感があり、飛んでいた。

 

 それは太古の景色で、まだ世界に緑が溢れていた時代のようだった。

 

「(あー、何かホッとするなー………羊羹とお茶が欲しい~よ~)」

 

 人間(ヒト)、魔物や魔獣、そして神。

 

 それらが跋扈していた時代のような風景に三月はとてもとても────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()気分に何故かなった。

 

「(う~ん、平和だね~)」

 

 その時、一つの都市にあるジッグラトを見つけてそこへ三月は向かった。

 

 その中に大きな見晴らしの良いバルコニーから入ろうとすると────

 

────貴様、許しも無く我の中を見るのも大概にせよ

 

「うきゃあああああああ?!」

 

 ドスの効いた、耳に来る怒りに満ちた声で三月はガバっと起き────

 

「あわわわわ────プゲ?!」

 

 ドサリ!

 

 ────上がろうとして体がぐるぐる巻きに縛られていたので見受けの体制も取れず、横に倒れて頭を打つ。

 

「いたたたたた…………鎖?」

 

 三月が痛みに顔をしかめた後、周りと自分の体を見るとどこかの森の中で鎖によって体が拘束されて横になっているのに気付く。

 

「フン、ここには我しかいない。 何時まで()()をしているつもりだ?」

 

「ん? 『みつきは はねる をつかった』!」

 

 ジャラ!ジャラ!ジャラ!

 

 三月の後ろからギルガメッシュの声がしたので、三月は頭と首、そして体が跳ねながら回転する。 そしてそれをする度に鎖のジャラジャラする音が辺りに響く。

 正にコイ〇ングの()()だった。

 

「………………………」

 

 そこにはイラついているのか、呆れているのか、近くの倒れた木の上に座って退屈そうな表情で三月を見るギルガメッシュがいた。

 

「…………………『しかしこうかはなかった』」

 

「『奇を衒う』のは程々にしておけよと以前、我は言った筈だがな? …………まあ良い、さっさと済ませるか」

 

 ギルガメッシュが立ち上がって空中の歪みから一つの黒い槍を取り出し、三月の方へと歩く。

 

「あの~? それの刃がなんか私に向けr────」

 

 グサッ!

 

「────────────────────ッッッッッッッあ?!?!?!」

 

 三月の体に突き刺さり、今まで感じた事の無い痛みと気持ち悪さが体中を走り、すぐに意識を失いつつ、体が激しく痙攣する。

 

 その間、槍の柄の部分がどんどんと黒から青へと変色し、まるで生きているかのように脈を打ち始める。

 

「ほう、流石だ」

 

 数秒後、ギルガメッシュは真っ蒼になった槍を三月から引き抜き興味深そうにそれを見て、未だに意識がなく、地面で僅かに痙攣し続ける三月を後にする。

 

「聞こえぬとは思うが、やはり貴様は()()()。 事が終わりセイバーと貴様を手に入れれば、『()()()』で我は退屈はしないだろうよ」

 

 ギルガメッシュはかなりご機嫌な態度で三月を後にして、その場を去る。

 

「…………………………………………………………………………」

 

 グゥ~~~~~~~~~~~。

 

 そして三月のお腹が鳴る音が辺りに響くのであった。

 

 

 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛 視点

 ___________

 

 士郎、凛、セイバー達は柳洞寺へと向かう為に山の中を上がっていた。

 以前の騒動で円蔵山の結界はかなり乱れていたのでその中でもサーヴァントが行動出来る道を歩いていた。

 

「衛宮君、体の調子はどう?」

 

 凛が心配そうに士郎の方へと見ると、彼はダラダラと汗を掻いていた。

 冬の夜の中で。

 

「大……丈夫だ、遠坂。 少し……息苦しい……ぐらいだ。 気を付けないと………()()()()()()()使()()()()()()………ッ………」

 

「シロウ………」

 

 凛達の作戦は至って単純だった。

 

 柳洞寺にある『聖杯』に山の中を登山し、セイバーの宝具で消し去る……………

 

 と思わせてギルガメッシュを打つ。

 

 だがそう簡単に奇襲をさせるようなのはいくらの彼でも無い筈なので彼の注意を引き、セイバーが不意打ちをかける。

 

 これは最初セイバーも反論するのかと凛は内心ドキドキして遠回りの言い方をしたのだが、意外とセイバーは了承したのだ。

 

「自分が現状の状態で宝具を撃てるのは二回、良くて三回」だと。

 

 これならば二回を目安に一回はギルガメッシュ、二回目は『聖杯の器』の破壊という作戦になるのだが…………………

 

≪衛宮君。申し訳ないのだけど、貴方は命を賭ける覚悟はあるかしら?≫

 

 先程の凛の提案で士郎は使()()()()()()()()()()()()()を得る事が()()()()()()()()()という賭けに出た。

 

 これによってセイバーが『宝具を撃てるのは二回、良くて三回』から、『士郎の人体が耐えられる間、何回でも撃てる』といった具合に変わった。

 

 これは()()()()()を持ち、かつ魔力をほぼ全て使い切った状態で、もし凛の推測があっていれば『固有結界』を使える士郎だからこそ取れた手段。

 

 それは────

 

「(体の奥からマグマが溢れ出ているかのようだし、頭がボ~っとするし、気を付けないと体と魔術回路がウズウズして独りでに暴れそうだ! 三月が小さい頃、こんな薬に頼らないと生きて行けなかったのを知らなかった自分が………許せない!)」

 

 ────『三月の薬』の服用だった。

 

 以前凛とイリヤが解析しようとした結果、全て分かった事では無いが少なくとも莫大な魔力を()()()()()であると同時に()()()()()()であった事が判明した。

 

 彼女達の見立てでは錠剤であるものの、あまりにも一気に魔力が増えるので人体の崩壊を防ぐ為に強力な治療薬の()()も据えた、何某風に言う「MP全快薬」がしっくりくるだろうか?

 

 あと凛にセイバー、士郎自身でさえ気付いてはいないが、士郎の「自己治癒力(体内アヴァロン)」もあって初めて成立した()()であった。

 

「そのような爆弾を、衛宮君に背負わせる私は…………ほんと、自分が嫌いになるわ」

 

「遠坂の………所為じゃない……効率…………だ…………ぁ!」

 

 士郎が倒れそうになり、近くの凛が彼を支える。

 初め、凛は自分が薬を服用しようかと思ったが遠坂家の魔術は宝石などの貴重なものなどを媒体にするので基本的に効率の良い魔術()()使っていなかった。

 

 車で例えるのならエコ車に普段より数十倍デカいガスタンクを追加で詰めるようなもの。

 長期間の走りは問題ないが今すぐ必要なのは高い威力が出るような、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 それに、どちらかと言うとセイバーのマスターである士郎が服用すれば自身とセイバーの使える魔力が増える方が戦力の上昇に繋がる。

 

 1を10にではなく、1.1を11にした方が()()()()()

 その上、イリヤから聞いた話も照合すると恐らくだが『聖杯の器』の核として使われるのは『魔術師』ではない慎二。

 

 その方が、自身(聖杯)を御できずに暴走しやすいからだ。

 つまり三月は()()()として使()()()()()

 これも士郎自らがリスクを背負う要因となった事に凛は彼の心配する半面、自分へのリスクが減少した事に自己嫌悪をしていた。

 

「(本当に、自分が嫌いになるわ…………でも、これで何とか行ける筈! セイバーの宝具、私の秘蔵の宝石達と魔術師としての腕、そして衛宮君の『投影』と…………まだ使えるかわからない『固有結界』は無い物としてもあの『金ピカ』と腐りきった『聖杯』の破壊ぐらい────)」

 

 その時、凛は久しぶりに前向きに物を考えていた。

 

『キキ』

 

 突然()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ! シロウ、リン! ハァァァァァ!」

 

 セイバーが力任せに剣を振るうと地面を抉り、その上を走っていた蟲共々吹き飛ばし、返しの剣で短剣(ダーク)達を落とす。

 

「これは、臓硯と()()()()?!」

 

「二人とも先に行ってください! ここは私が食い止めます────!」

 

「────わかった! 合図を送ったら戦闘離脱するか、しながら宝具をぶっ放して!」

 

「遠坂、飛ぶぞ!」

 

「うぃえ衛宮く────きゃああああああああ?!」

 

 士郎が凛の手を取ると同時に()()体の中の衝動を解き放つとそれは一流の『強化』を施した一歩に近かった。

 これに度肝を抜かれそうになった凛に悲鳴がすぐさまセイバーからは聞こえなくなっていく。

 これは別に距離が開けたからではなく、蟲達の音が更に騒がしくなったからだ。




マイケル:くそ爺が生きていただとぉぉぉぉぉぉ?!

ラケール:というかこの「士郎」って子大丈夫なのかな?

ウェイバー(バカンス体):あれ?作者は?

チエ:「死ね」と命じたからな

三月(バカンス体):多分明日には復活するでしょ

ライダー(バカンス体):何だそのけったいな復活の仕方は?

チエ:一度だけ殺したからな

ウェイバー(バカンス体):…………まあいいや。 チエさん! 次はこの論文を読んでくださいますか?!

チエ:ああ、いいぞ

ウェイバー(バカンス体): ッッッッッ!!!! (ガッツポーズ

ライダー(バカンス体):ううううむ、こういう坊主を見ると────

三月(バカンス体)「ほっこりするのぉ」、でしょ?

ライダー(バカンス体):ハッハッハ! まったく持ってその通りだわい!

雁夜(バカンス体):そろそろもっと大きいコタツが欲しいな


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第34話 さいこのガキ大将(後編)

注、少し長くなってしまいました。

楽しんで読んでくれると幸いです。

ちなみに中編辺りに自分か聞いていたイメソンは川井憲次Ver.2の方です


 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛 視点

 ___________

 

 二人は息を切らせながら柳洞寺の池に着くと────

 

「────ほう? セイバーも連れずにその不出来な顔を見せるとはな、贋作者(フェイカー)

 

 池の中の異界の塊のようなグロテスクな物を池岸から見ていたギルガメッシュが士郎と凛に振り返った。

 

「ギル…………ガメッシュ」

 

「『王』を付けんか、不敬者めが」

 

「あれが……『聖杯の器』?」

 

「おっと、そうだ。 これは返すぞ────?」

 

 ギルガメッシュが手に持っていた物を士郎達に投げると、凛はそれが何だったのか見えて、それを拾い上げる。

 それは小さなトランプカード箱状の魔術礼装だった。

 以前に三月が「体の調子が良い」と言って人数分作り、身近な者達にあげていた物だった。*1

 

「誰が製作者かは知らぬがかなり腕が良い。 何せ『聖杯の器』の()()をあのワカメから弾ける程だったからな。 まあ………貴様らをただ殺すだけでは芸がないのでな、ここまで辿り着いたその生に僅かばかりの猶予をやろう」

 

「…………猶予ですって?」

 

「聖杯も見届ける者が我だけでは寂しかろう? この行く末を共に見届けると言うのなら雑種と言えど、その生にも意味があるでは無いか」

 

「…………貴方は、人類の大量虐殺なんて本気で考えている訳?」

 

 ギルガメッシュがピクリと反応する。

 

「小娘が。 殺される程度の覚悟で我に問いを投げるとはな…恐ろしく『()()()()()()()()()()()()』とは良く言ったものよな。 だが、それこそが答えだ娘。 このように有象無象の()()が跋扈する今の時代はあまりに醜い。 かつての我の世には 無駄なものなどなかった。 奴隷であろうと、家畜であろうと、魔の類であろうと、全てに役割はあり意味はあった」

 

「今の世の中じゃあお前は『駄目だ』と言いたいのか?」

 

「今の世の中を見ろ。 役割も価値も席も全てが埋まってしまって、種が『雑種』から『寄生動物』に変わろうとしているではないか! そんなもの達を我が手ずから間引いてやろうというのだ。10年前は数百人足らずだったが、此度はこの世の全てに災厄が降りかかり、余分なものが淘汰された後、どれほどの『人間(ヒト)』が生き延びるか、我には楽しみでしかない」

 

「この………とち狂った変態野郎が────」

 

「────衛宮君。 私が()()の核になっている慎二を取り出しに行くわ。 あんなんでも……桜達を助けようとしていたし」

 

 凛は聖杯戦争中に三月が慎二を屋上まで誘うまでの印象は最悪だった。

 それこそ間桐家の魔術系統と彼と桜の噂しか知らなかった『女性に対してクソみたいなヘラヘラ笑うお調子者のチャラ男』としか認識していなかった。

 

 だがこの間、学園の屋上から彼の言動を見た凛は少しだけ理解した。*2

 

「ああ、こいつも素直じゃないだけなんだな」と。

 

 これは(自分は決して認めないが)ある意味捻くれた性格の者同士だからこそくる「同族嫌悪」から自分と慎二の互いにイラつく要素だったと最近になって感じた。

 

 そんな彼が桜達をひたすら助けようとしていたのを桜本人から聞き、慎二に対しての考えを改めていた。

 

 凛が池岸に近寄り、中のドロドロになった液体を見ながら覚悟を決めるとギルガメッシュは鋭い目で彼女を睨んだ。

 

「この受肉した呪いの中を進む決死の覚悟か、魅せるが…………我の前から去る事を誰が許した?」

 

 ギルガメッシュから数本の武具が突然、凛へと飛来する。

 

「『トレース、オン』!」

 

 士郎の両手に双剣が現れ、ギルガメッシュの放った武具を弾く。

 

「お前の相手は、俺だ!」

 

「衛宮君────」

 

「────()()()()()()()()。慎二達を頼む」

 

「ッ…………分かった」

 

 凛が持ってきた宝石を一つ飲み、三月から貰った魔術礼装に魔力を流しながら池の中に充満した泥の中に足を踏み入れる。

 

 するとどうだろうか? 泥が独りでに凛を避けるかのように引き下がる。

 かのモーゼスの伝承みたいに。

 

「(ほんと…状況が状況じゃなかったら、こんな神話めいた場面に私が直面している事に感動しているところなのに────!)」

 

「ほう? 中々やるではないか、あの小娘。 決めたぞ、奴は────」

 

「────遠坂に手を出すな!」

 

 ギルガメッシュは自分の言葉を遮った士郎を鼻で笑う。

 

「フン、貴様なぞセイバーを迎える前の余興だ。 だがそこまで死にたいとは………その身をもって真偽の違いを知るがいい、贋作者(フェイカー)!」

 

 士郎はギルガメッシュが放つ武具を受けなしながら思う。

 

「アーチャーとの戦いをなんとなく思いださせる」と。

 

 そう思いながらも士郎は抹消面からギルガメッシュの武具を弾き落とすのではなく、時には受け流し、時には躱すといった、芸術めいた動きを見せていて、闘いの場所はボロボロの柳洞寺の敷地内へと変わった。

 士郎の動きがギルガメッシュは大層気に入ったらしく、彼がバテ始めていた士郎に宣言していた。

 

「存外に面白いぞ、贋作者(フェイカー)! 故に一分の休憩を挟んでやろう! 光栄に思えよ? この時代、退屈と思っていた矢先に貴様らの様な者達が我の前に現れようとはな! フハハハハハ!」

 

 士郎は荒い息を何とか深呼吸に切り替え、出来るだけ新鮮な酸素を取り込もうとする。

『いくら技術があっても、体が付いて来なければ意味がない』。

 それは三月がこの前セイバーと初めて稽古を始めた頃に感じていた事を士郎は今感じていた。*3

 その間ギルガメッシュは面白そうに池の方を見ると、空にはぽっかりと()のようなものが出来ていて、そこから池の中にあったような()が溢れていた。

 

「小僧、あれが何か分かるか? 聖杯が汲む願いだ。 ()()人間の悪性そのものだ」

 

 士郎がチラリと見ると先程見たものより更に大きな穴が空に出来上がり、冬木市の様々な場所から光の『魂』みたいなモノが飛来し、穴に入り、おぞましいほどの空気と共に『泥』が辺りに溢れ出ていた。

 

「『あらゆる願いを叶える願望機』。 それは『全てのあらゆる苦しみから解放される』のではなく、『全ての苦しみを克服する為』にお前達は『聖杯』を作り上げた。 平等も平和も幸福も同じ事、『肉体』と言う『皮』に囚われたお前達では永遠に満たされる事は無い。 世界を変革する程の強い欲望なぞ、人間の悪性をおいて他に無い。 そしてその手段は自滅となり、あの『聖杯』の在り方こそがこの時代に即した願望機だ」

 

 ギルガメッシュの宣言した一分はとうに過ぎていたが、彼は気付かなかったのか敢えて自分の言葉を士郎に言いたかったのか、ただ喋っていた。

 

「だから喜べ、雑種。あとは時間の問題であるが故に我は本気にならん。 本気になった時点で我の敗北よ」

 

(ギルガメッシュ)はお前達に任せる≫

 

 凛から移動中に伝えられたアーチャー(エミヤシロウ)の言い残した言葉が士郎の頭をよぎった。

 

「(あの野郎、俺にどうしろと言うんだ?! 待てよ────)」

 

 その時、ギルガメッシュの『武具を放つ』戦い方をアーチャーがアインツベルン城でやっていたのを思いだし────

 

「────『トレース、オン』!」

 

 士郎はギルガメッシュの周りにある空気の歪みから出ている武具を片っ端から『解析』し始める。

 

「ほう? 視界にある全てを見様見真似とは、つくづく面白い」

 

「『憑依経験、共感終了! 工程完了! 全投影、待機!』」

 

 士郎の周りにギルガメッシュの周りにある武具と同じようなものが作り出され、彼は自身の体が軋むのを感じる。

 

 魔力はあれど、体は人間(ヒト)のまま。 アーチャーのように『英霊』ではない。

 

「(『だがそれがどうした』?!)」

 

「では採点だ、贋作者(フェイカー)

 

 ギルガメッシュと士郎が互いの武具を放ち、辺りに爆発が連打する。

 

「ほう? ガラス細工にしてはよく持つではないか! その猿真似、どこまで持つかな? フハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 士郎の体が更に軋み、彼とギルガメッシュの「撃ち合い」を続行した。

 

 

 その間の凛はと言うと、気持ちが悪くなる一方のその場所からさっさと『逃げ出したい』と叫び続ける本能を『慎二を救い出す』という理性で押さえつけていた。

 

「気持ち悪いのよ! このワカメみたいなウゾウゾとしたヤツ! そういうのはアイツの髪の毛だけで十分よ!」

 

 それは皮肉なのか、血肉で出来たワカメのようなモノが無数に生えていて、凛に近づいては離れるのをずっと繰り返していた。

 

 凛が血肉の塊を登り(ちなみに感触は生の肉を掴む様な、ヌルっとした生々しいモノだった)、頂上に慎二を見つけた。

 

 慎二の顔は苦しそうで、大量の汗を掻きながら、肉の中に半分埋まっていたような姿だった。

 

「こんのぉ!」

 

 凛が慎二のはみ出ていた腕を力ずくに引っ張り、彼の体がズルリと出る。

 所々皮膚の色が変化していて、赤く腫れていた。

 

 『■■■■■!』

 

 その瞬間、お腹に響くような唸り声に近い何かが辺りを埋め尽くし、無数の手みたいな物が凛と慎二に近付いては何かに怯える様に戸惑い、退く。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ほとほと愚考よな! 我に勝ち得ないと考え、『聖杯』だけでも取り外す判断は正しい!」

 

 ギルガメッシュはさっきと同じように心底面白そうに藻掻く士郎に喋りかける。

 

「だがあの男を『救う』とはな。それならば殺してしまえば良かろう? 聖杯を止めたいのであれば始末する事こそ確実の筈。 だと言うのにまだ『救おう』というその判断、まさに今の貴様ら雑種の具現よな」

 

 『■■■■■!』

 

「ん?」

 

 ギルガメッシュが池の方を見ると影のようなモノが彼と士郎のいる場所へと向かっていたのに舌打ちをする。

 

「核を失って代わりを求めるか────」

 

 ────ギルガメッシュの周りにある歪みが一つに絞られ、彼は赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なるような()()()みたいな物を手に取っていた。

 そしてこの物体を見た士郎は思う。

 

()()()()()?」と。

 

 何しろ『解析』が()()()()

 

 彼が魔術を切嗣から習い7,8年程になるが、今まで『解析』出来なかったモノは()()

 

 そう思うのも束の間、暴風か荒れ狂い、迫って来た影もろともボロボロになっていた柳洞寺を更に壊しながら士郎は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「最っっっっっっっ悪ね、これ」

 

 凛は慎二を支えながら周りの文字通り「肉の壁」を睨む。

 

「どうあっても『格』が欲しいわけね」

 

 まるで先程の暴風に反応するかのように凛達の周りにこの『壁』が出来上がった。

 獲物を捕食する為に閉じたハエトリグサのように。

 そしてその例えは凛も思いつき、彼女を少し焦らした。

 

「(こっちの魔力が尽きるまでの根競べ…………という生易しいもんじゃないわね)」

 

 凛が息を浅くしながら考える。

 これは別に焦りからの息遣いではなく、先程から空気が薄くなっていく為である。

 

 本来、魔術師は無意識でも自身を守る為に魔力を常時体中に流し、外部からの干渉から身を守る。

 それは勿論その年でかなりの天才である凛も同じだが、相手が『聖杯』ともなると意味がない。

 

「ハァ………ハァ………ハァ………(不味いわね……このまま気を失ったりしたら……『聖杯』に二人とも取り込まれる……)」

 

 凛は宝石を取り出し、壁に向かって放とうとして────

 

「『ガンド』!」

 

 ────止めて、逆に自分のワンアクション魔術の最大出力に宝石から自分の体に流れてくる魔力上乗せをしながら前へと()()()

 

 正確には凛がこじ開けた穴に向かって『強化』を施した体でジャンプした。

 

 その外では今しがた追いついたセイバーは凛が息を切らせながら慎二と共に池岸に落ちて転ぶのを見てすぐに駆け寄って。

 

「リン! ギルガメッシュは────?!」

 

 『■■■■■!』

 

「セイバー、先に『アレ』を壊して!」

 

 セイバーは池の塊を見ると徐々に何かの形を模って行くのを見てすぐに宝具を撃つ用意に入った。

 

「『この灯りは星の希望。地を照らす命の証! 見るが良い! “約束された勝利の剣(エクスカリバー)”』!!!」

 

 セイバーから放たれた宝具が起動しつつある『聖杯』に直撃し、幻想的な景色が見えて、それはまるでセイバーの中での未練を彼女が断ち切る様な場面だった。

 

 

 

 

 

 時はほんの少しだけ遡り、ギルガメッシュが先程取り出した()()()をしまい、立ち上がろうとする士郎をボロボロの柳洞寺の屋根の上から見下ろしていた。

 

「どうした? この我をどうにかするのではないのか? 立て、雑種」

 

「言われ…………なくても!」

 

「ククク、しかし驚いたぞ。 これでは()()()()と言いたいところだが、それ以上に面白い。 以前聞いた『正義の味方』や『誰も傷つかない世界』などの世迷言を吐くのなら吐き気が出て早々に貴様を葬っていただろうよ」

 

「何………を────?」

 

「────いやなに。 我にとって『今の時代の人間』とは犠牲や損失がなくては生を謳歌出来ぬ、獣の名だ。 『平等』という飾り事は闇を直視できぬ弱者の戯言、醜さを覆い隠すだけの言い訳にすぎん、と言う事だ」

 

 これを聞いていた士郎は心の何処かで納得していた。

「腐ってもギルガメッシュは英霊だ」と。

 

 確かに以前の自分の中は空っぽで、以前までの想いは「誰かを救う誰かの姿を見て真似ただけの借り物(飾り物)」だった。

 誰もが()()()()()()あの光景で、あの時()()()()()()()()()()と思うと、「人間なんてそんなモノだ」と納得していたような気がする。

 

 でも────

 

「(────それは、俺の『正義』じゃない)」

 

 士郎が立ち上がるとギルガメッシュの顔がにやける。

 

「ん? 出し惜しんだとはいえ、『乖離剣エア』の風圧に触れた筈だが────」

 

「────そんなに山ほど宝具を持っておいて、今更出し惜しむモノがあるのかよ」

 

「あれは覇者にのみ許されしモノだ。 本来、貴様などの様な者に拝謁する権利すら持たん」

 

 士郎は立ち上がり、下りてきたギルガメッシュを見る。

 

「しかしまあ、そろそろ飽きてきた。 早々に消し去るとしよう。 貴様の様な、()()()()()にする者の行為など、ただの偽りに過ぎぬ」

 

「『偽善者』、か………………確かに、それは俺に当てはまっていた言葉なんだと思う」

 

≪この身は『誰かの為にならなければ』と! 強迫観念に突き動かされて来た! 傲慢にも走り続けた! だが所詮は『偽物』だ! そんな『偽善』では何も救えん! いや、元より()を救うべきかも定まらん!≫

 

 それは()()であって、()()ではない者の言葉だった。

 

「ん?」

 

 士郎の様子が変わった事に眉毛がピクリと反応するギルガメッシュ。

 

「勘違いしていたんだ、俺は色々と。 そしてそれならば『無限の剣製(Unlimited Blade Works)』にも()()()()()()()()()()()()

 

「…………さっきから何を────」

 

「『体は()()で出来ている!

 血潮は()()で心は()()

 幾度の戦場を()()超えて不敗』────」

 

 士郎が詠唱し始め、ギルガメッシュが宝具を放つと士郎は先程みたいに迎撃するのではなく、アーチャーが使った『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を展開した。

 

 士郎は自分の体が更に軋み、頭痛に似た痛みを頭に感じるが詠唱は破棄せずにただ続ける。

 

「『────ただ一度の()()もなく、ただ一度の()()も無し。

 担い手はここに、()()の丘で自身を鍛つ!

 ならば我が生涯に意味はあり、この体は“無限の()()”で出来ていた』!」

 

 そこには、以前士郎がアーチャーとの対峙中に生死を彷徨っていた時に見た景色の延長があった。*4

 

 違いがあるとすれば見渡す限りの草原に花畑、優しい陽光とそよ風に今まで数々の士郎が解析した武具が新品同然の状態で地面に刺さりながらもツタなどがそれらに絡まっていた。

 

 そして最大の違いと言えば────

 

「ほう、固有結界とは────なッ?! 貴様、()()()()()()()?!」

 

「あら、驚く事は無いんじゃない?? 固有結界は()()()()()()ものじゃなかったっけ? なら、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「三月………なのか?」

 

 士郎の隣にはいつか見た髪の毛をバレッタで上げた動きやすいヘアースタイルとワンピースドレス姿の三月(?)が立っていた。

 

「ん~、()()? 私は私であっても私じゃない…………かな? まあ、貴方の『心の中の私』って思えば良いかな?」

 

「そうか」

 

「あり得ん、こんな事は……」

 

「ありゃ。お客さん、結構頭に来てらっしゃる?」

 

 ギルガメッシュは初めて「優越感」などと言った見下したモノから「不快感」に近い何かが籠った感情を乗せた言葉を吐く。

 

「断じてあり得んッッ!!!」

 

()()!」

 

「ああ!」

 

 ギリガメッシュが武具を放つ寸前に、士郎達の周りから()()武具が飛び出て、ギルガメッシュの攻撃を()()()()

 

「なッ?! 馬鹿な! 贋作如きが────?!」

 

「────なあ、一つ聞きたいんだが────?」

 

「────『偽物』と『本物』って何が違うのかしら?」

 

 初めて驚愕の表情をするギルガメッシュに士郎と三月(?)が問いを掛けると、ギルガメッシュは明らかに不機嫌に顔をしかめる。

 

「何を────」

 

「────だってそうだろ────?」

 

「────『人の定義は所詮、多数決』。 結局は多い方の…………つまり『本物』と「偽物』、どちらなのかは個人の主観とその時点における多数派の観点に拠る」

 

「だから貴様らは何の事を────!!!」

 

「ここに()()()()が『()()』と思う人、手を挙げて。 ハイ」

 

 士郎と三月が手を挙げると同時に今度は士郎が()()をあげながらギルガメッシュに問いを掛ける。

 

「と言う訳だ、英雄王。 武器の貯蔵は充分か?」

 

「~~~~~~~~!!! 貴様ら如きが! 思い上がるなよ!」

 

 怒りを露わにするギルガメッシュに士郎と三月(?)が襲い掛かる。

 

 ギルガメッシュが放つ武器を士郎と三月(?)が()()()()を手に取りながら()()()()()()

 

「チッ! 小癪な────!」

 

 次第にギルガメッシュの苛つきを具現化したかのように、更に武器が放たれようとした時に、舞い上がっていた土煙の中から士郎と三月(?)が彼目掛けて飛び出して剣を振るう。

 ギルガメッシュは近くの剣を取り、二人の一撃を()()()()()

 

「馬鹿な?! この我が、貴様らなんぞに────!」

 

「確かにお前は強い! 並大抵のサーヴァントが相手ならお前は確かに最強さ!」

 

「でもね、『最強』だからと言って『最優』とは限らないわ!」

 

「だが今のお前は『王』であって『戦士』じゃない!」

 

「ッ! 戯言を────!」

 

「────それに家臣もいない、()()の『王』がなんぼのもんじゃーい!!!」

 

 さっきまでギリギリとした剣同士の歯軋りが次第に何かがヒビ割れて行く音へと変わり────

 

 

 

 

 

 

 ────ギルガメッシュ達が持っていた剣が割れる。

 

「おのれ!」

 

 武具が割れる。

 

おのれ!

 

 更に割れて行く。割れる、割れる、割れる、割れる、割れる、割れる。

 

「おのれ!おのれ!おのれ!おのれぇぇぇぇぇい!!!

 

 割れて、割れて、割れて、割れて、壊れていく武器達と士郎の軋む体と彼の隣で戦う少女。

 ギルガメッシュの苛立ちが次第に激怒へと変わり、これと一緒に士郎は自身の関節、筋肉と脳が悲鳴を上げるのを無理矢理に無視しながらただ眼前の敵を倒す事に集中する。

 

 そして────

 

「なっ?!」

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これを見たギルガメッシュは思わずヘラクレスを葬ったような最上級の武器を自分近くに飛ばし、士郎達を無理やり自分から引きはがした事にギルガメッシュは彼らと自分自身にブチ切れた。

 

「貴様らに…本気を出すとは何たる屈辱! 死ねぇぇぇい!」

 

 今までにない数の武器をギルガメッシュが放ち、士郎達の周りの武器の追撃が追い付かなくなる。

 

()()!」

 

「行くぞ、()()!」

 

 二人は武器を両手に取り、撃ち漏れる武器を薙ぎ払い、背中を互いに預ける二人の姿にギルガメッシュはさらに数を増やし、自分の在庫の出し惜しみをそこでやめた。

 

 大気の歪みの数、ざっと数百。

 それらが全て不死殺しや竜殺しの類の、ギルガメッシュの保有する最大級の武器達があられのように、一斉に士郎達に飛来して大爆発が起きる。

 

 だが────

 

「────馬鹿な?! こんな事が────!」

 

 ────ギルガメッシュは恨めしそうに上を見ると、無数の花弁が舞う中と共に、三月(?)を抱えながら上へとジャンプした士郎達の姿があった。

 

 あの一瞬の中、三月(?)が『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を展開し士郎が彼女を抱え上空へと離脱した。

 

 その二人の姿は何処か痛々しかった。

 

 少女の方は顔色と肌が更に青白く()()()()かのように、士郎の方は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────髪の毛の色と肌が変質し始めていた。

 

 赤がかかった髪の毛に白と灰色が混じり、皮膚は所々()()したかのように色が濃くなっていた。

 

うおぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 ギルガメッシュが宝具を撃ち始め、士郎は三月の手を取り、二人の空いた手には翼をモチーフにした双剣が一本ずつ現れ、二人はギルガメッシュの武器達を払い落としながら彼へと落下する。

 

「…………………チィ!」

 

 最後の最後まで躊躇っていたギルガメッシュはついに『乖離剣エア』の柄を手に取り、三月(?)は着地した瞬間に士郎を手放し、彼の背中を押した。

 

ギルガメッシュゥゥゥゥゥゥゥ

 

 士郎はギルガメッシュが取り出し始めた『乖離剣エア』を全力で斬りつけ、ギルガメッシュの腕はミチミチと生臭い音を立てながら肘の先から強引に引き千切られる。

 

贋作者(フェイカー)なんぞにぃぃぃぃ?!」

 

「────終わりだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 今まさに士郎が返しの刃で距離を取ろうとするギルガメッシュの胴体を真っ二つにするところで不穏な音が彼の耳朶に響く。

 

 ブツリ。

 

「────ぁ」

 

 瞬く間に士郎の全身から力が抜けて、彼は地面に倒れ、辺りは元にいた柳洞寺の場へと戻っていた。

 時は丁度、セイバーが宝具を聖杯に直撃させた直後だった。

 

「な…………あ……………………が………………?(な、何だ? どうなったんだ?)」

 

 混乱しながら倒れている士郎を距離を取ったギルガメッシュが息を切らせながら睨む。

 

 士郎はまだ気付いていないが、単純に薬の治癒力が切れて、負担が再生より上回っただけだった。

 そして彼が未だに意識があるのはそれ程彼が高ぶっていた上に『アヴァロン』が体の痛みなどを()()()()()()()に押し止めていただけ。

 

「グッ……………」

 

 それでも立ち上がろうと士郎はして、自分の体に鞭を撃ち、更に悲鳴を上げる体を無理やり動かした。

 

「貴様も()()()だったとはな、満足して死ね────」

 

 ゴオォォォォォォ!

 

 ギルガメッシュがトドメを刺そうとした瞬間、嵐に似た風が吹きまわり────

 

 

 

 

 

 

 ────()()を取り込もうとした。

 

「ぐあああああああ?!」

 

「フハハハハハ! なんともまあ、傑作よな! 『聖杯』が我より貴様を取り込もうとするとはな! 人間の悪性そのものに取り込まれて死ね!」

 

「ギ………ルガ……メッシュゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 士郎は踏ん張り、何とか吸い込まれるのを抗おうとするが肝に体はほとんど動かなくなり、あと数分もすれば『アヴァロン』で回復して逃げ切れたであろう『穴』に引きずられ、逃げていくギルガメッシュの名を叫びながら取り込まれた。

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュは顔をしかめながら円蔵山の中の森をヨロヨロと歩き、血がボタボタと地面に落ちて行った。

 

 別に彼は『痛み』から顔をしかめていなかった。

 

「何たる醜態! この我が! あんな………あんな奴を見抜けぬとは!」

 

 それは今まで味わった事の無い屈辱に対しての自己嫌悪に近かった。

 

「だが………まあいい。 後は()()を回収して事の成り行きを────ッ?!」

 

 ギルガメッシュは目の前のモノ歩みを止める。

 

「貴様………よもや?!」

 

 その顔は驚愕だった。

 

 そして目の前には────

 

 グゥ~~~~~~~~~~~。

 

 お腹の音を盛大に鳴らせながら()()()()()三月がいた。

 ただしその少女の顔に表情や感情は全く無く、その光の無い眼はただ『虚無』を映し、かつてのイリヤが本能的に『恐怖』を感じさせていた眼だった。*5

 

 「お  な  か  す  い  た」

 

「貴様、『天の鎖』までも────?!」

 

 バリッ!

 

 

 バキッ!

 

 

 ボリッ!

 

 

 ……………ゴクンッ。

 

 

 「ゴ  チ  ソ  ウ  サ  マ  デ  シ  タ」

 

 肉と骨が潰れる音の後に三月はフラフラ~っとおぼつかない足つきでその場から消え、ギルガメッシュがいた場所には()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 『()()()()()()()』を()()シマシタ】

 

*1
第17話より

*2
第12話前半より

*3
第12話後半より

*4
第32話前半より

*5
第10話より




雁夜(バカンス体):なっげーな、オイ?!

作者:納得のいく、切りの良いところが無かったので………なので次話が少し短くなってしまうかもしれません…………いえ、これより短いでしょう

三月(バカンス体):まあ、頑張ったから良いんじゃない?

作者:さて、久しぶりにこれ言えますね。コホン。 楽しんで頂けたらお気に入りや評価、感想等あると嬉しいです! 宜しくお願いしめっしゅ!

雁夜(バカンス体):最後噛んだな

三月(バカンス体):噛んだね

作者:いあああああああ!!! 恥ずかしいいいいいいい!!! 『Subnautica』プレイして没頭してくるぅぅぅぅぅ!


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第35話 正義の味方、Retry

お待たせしました!

誤字などがあれば申し訳ありません!


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、間桐慎二 視点

 ___________

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ! 吸い込まれてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 士郎は文字道理、地べたに這いつくばるようにして『聖杯の穴』に抗う。

 

「ここまで来て、これは無いだろうがぁぁぁぁ!」

 

「衛宮君、そのまま動かないで!」

 

「ッ?!」

 

 突然凛の声が聞こえると士郎はそのままジリジリ動いていたのをピタリと止めると()()()()()()士郎の体が『穴』から遠ざかる。

 

「(これは、蟻?)」

 

 正確には地面自体が動いているのではなく、地面から湧き出た様々の種類の蟻達が一斉に士郎の体を支え上げて、動く歩道のように一つの()()として行動していた。

 

「今よ、セイバー!」

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」

 

 真名解放無しでの宝具が弱まった『穴』に直撃する。

 

 『■■■■■!

 

 以前より聞いた地鳴りのような響きが弱弱しくなって行き、渦巻きじみた吸引力も次第に弱まっていく。

 

 辺りが段々と静まり返り、士郎にセイバーと慎二を背負った凛が彼へと駆け寄った。

 

「シロウ!」

 

「あいででででで! セ、セイバー…出来ればもうちょっと寝かしてくれ。 体中、筋肉痛みたいに痛いんだ」

 

「衛宮君、そんな事よりその………髪の毛と皮膚の色────」

 

 凛が注目したように、士郎の髪の毛は部分的に白く変わり、肌も所々昔火傷を負ったかのように肌黒くなっていた。

 それは、アーチャーの様な────

 

「────それより辺りを警戒してくれ遠坂。 ギルガメッシュを逃がした」

 

「……………ハッ! 何て体たらくだよ、衛宮?」

 

「慎二………なのか?」

 

 セイバーに体を起こさせられた士郎は慎二を見て驚く。

 

 彼の青色だった髪の毛が一面真っ白になっていた。

 

「間桐君、貴方も人の事を言えないわ。 いくら()()()()()使()()()()()()()()()からって衛宮君を助けようとして貴方自身が死んだら元も子もないじゃない!」

 

「…………そうだな、遠坂の言う通りだ」

 

 凛の言葉に珍しく慎二は弱弱しく同意し、これによって凛はさらにイライラする。

 

 別にこれは慎二が本当にそう思っている訳ではなく、人生初の魔術行使で身も精神もヘトヘトだったからである。

 

『魔路昏睡』。 これはかつてキャスターが慎二に言っていた病名で、別にその場の嘘ではなかった。 *1

 そして幸か不幸か、『聖杯の器』にされかけた慎二の眠っていた魔術回路は『器』とする為に強引に起こされた。

 ただこれは前に士郎が久しぶりに『投影』した時みたいに体が満足に動かない状態で、しかも回路は起きたばかりなのに士郎の身が危険と見れば即座に魔術を発動して、地面にいる蟻達を操り、彼を助けようとした。

 

「まったく、何でこうも自分を第一に考えない奴らが私の周りにわんさか居るのよ、全くも~~~~~~!!!」

 

「「すまない、遠坂」」

 

「ハモるな!」

 

「リン、彼達を頼めますか? 私は三月を────」

 

「────()()()!」

 

 三月の声が聞こえ、士郎達が振り返ると駆け寄ってくるボロボロの三月が見えた。

 

「「三月!」」

 

「よかった、無事だったのね。でもよくあの金ピカから逃げたわね?」

 

「まあ刺された後は何か興味なくなったみたいだから」

 

「ちょ?! 大丈夫なのか?!」

 

「へ? うん────」

 

 三月がボロボロのパーカーと上着をめくって露わになった右の脇腹を指す。

 

「ほらね? 跡も何も残って────ってどうしたの男子達?」

 

 士郎と慎二は顔を真っ赤にしながら逸らしていた。

 

「三月…………今更だけどアンタはマイペースだけじゃなくて筋金入りの天然ね」

 

「へ? ……………あ、そっか! 今はキャミソールしてないんだっけ。 いや~、まさか風呂上りに拉致されるとは思わなかったからさ~」

 

「「「…………………………」」」

 

 あっけらかんとする三月に黙り込むグループ。

 

「コホン………け、けど体は本当に大丈夫なのか? 服が────」

 

「ん~、何か刺された後、次に気が付いたら地面に寝ころんでいたのよね~。 なんかポイ捨てされたような感じ?」

 

「…………もしかするとギルガメッシュは『同盟者』の方達に戻ったかもしれませんね」

 

「だとすると、早く衛宮邸に戻るわよ。 ()()()が失敗した以上、イリヤが次に狙われるかもしれない」

 

「「な?!」」

 

「え? イーちゃんが?! って、どういう事?」

 

「動きながら説明するわ、セイバーは衛宮君を────」

 

「あ、私が背負うわ。 もし何かあったらセイバーが対応出来るように」

 

「…………………良いわ、でも()()()()()()()()()()()()()()。 いいわね?」

 

「うん」

 

 凛は渋々と士郎を三月に背負う方針を────

 

「お、おい! 何勝手に話を────わわわ!」

 

 士郎は自分より小柄な三月に背負われるのに抵抗を感じ、立とうとするが倒れ始める。

 

「兄さん!/シロウ!」

 

 そして慌てて彼を支える三月とセイバーの姿に慎二は恨めしそうな独り言を零す。

 

衛宮ッッッッ!

 

「気持ちは分からないでもないけど、私としては別のあなたをここに置いて行っても良いのよ?」

 

 

 ニッコリと、静かに起こる凛に対して慎二は小さな声(?)を出す。

 

 そうして士郎達は一日ぶりの衛宮邸へと向かいながら、士郎達は情報を共有する。

 

「ありがとうね兄さん、私たちの為に」

 

「ハ! こんなお人好しにそんな言葉、勿体な────!」

 

「────ほら、慎二君も照れ隠しの何時もの態度も出ているし」

 

「んな?!」

 

「ああ、俺もこれは知っている。 あとすまないな慎二。 お前、本当は()()()に来たかったんだろ?」

 

「ちゃぐ!」

 

「??????」

 

 ニマニマとしながら慎二をからかう士郎に言葉を噛む慎二、そして?マークをただ出す三月に呆れる凛を見たセイバーは微笑んでいた。

 

 だが────

 

「皆、気を付けて」

 

「遠坂さん?」

 

「……」

 

 衛宮邸にまもなく着く距離の道中でセイバーが黙って私服から甲冑姿に戻る。

 

「魔力の残滓…………セイバー、先行してくれるかしら?」

 

「リン、結界の様子は?」

 

「機能していないわね、それに………いえ、先ずは見ましょう」

 

 そして士郎達は緊張しながら衛宮邸に────

 

「な、何だこれ?」

 

 ────そこは戦場か何かのように荒らされて、塀が何故まだ立っていたのかが不思議なほどの様子だった。

 

「イリヤ! セラ!」

 

「桜! ライダー! 返事をしてくれ!」

 

「ちょっと二人とも!」

 

 士郎を背負っていた三月が凛の静止の声を無視して中へと突入する。

 

 至る所には大きな穴や何が引っ掻いた後や動かぬ糸状の鳥が死骸みたいに転がっていた。

 

「皆!」

 

 三月が足を使って居間に入ると────

 

「セ……………ラ?」

 

 ────左の脇腹をほとんど抉れ、体が壁に寄り掛かりながら血だまりの中で静かに目を閉じたセラがいた。

 

「死んで………いるのか?」

 

「兄さん、立てる?」

 

「な、何とk────いで」

 

 三月が士郎を下ろし、立とうとした士郎は尻餅をつく。

 

「少しの間我慢していて、彼女を診る」

 

 後から来たセイバー達が中の惨状を見ている間、三月はセラの傷口などを診ていく。

 

「………(凄い抉り方、まるで無理矢理身体の部分を千切った────)────あちゃばがはえはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 そこでセラの左目が見開き、三月は言語にならない叫びをあげる。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 餓死状態のセラの処置を凛と三月が行っている間、セイバーは少しでも回復出来るように彼女らと士郎達の警戒をする。

 結界がない衛宮邸は以前より遥かに敵からの襲撃に弱くなった今、本心ではセイバーと凛は別の拠点に移動したかったのだがセラの怪我があまりに酷く、すぐにでも治癒しなければ何時死んでもおかしくない状態だった。

 

 そして何とかセラの怪我を治療し終わった頃には士郎と慎二も自分で立って歩けるほど回復していて、彼女が衛宮邸で何が起きたのか説明し始めるが、極端に言うと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────桜とライダーが不意打ちをかけてイリヤを連れ去った。

 

 ___________

 

 イリヤ 視点

 ___________

 

 

 時は丁度士郎とギルガメッシュの戦いが終わろうとする時、イリヤは痛みに意識が気付いた。

 

「ぅ……」

 

 痛い。ただひたすらに痛い。

 

 どこがとかではなく、全身余すところなく、ただ『痛い』。

 それをイリヤが自覚したのは自分が目を覚ましたという事実よりも前だった。

 

「な、に…が────」

 

 ────起きたの?

 

 そう言おうとして、体の苦痛より酷い頭痛に遮断される。

 身を起こそうと身動ぐ。 が、それすらも様々な痛みの前に断念せざるを得ない。

 とにかく、『自分』という構成物質全てが痛めつけるべく動いているようにイリヤは感じた。

 

 別に痛みに慣れている訳ではない。寧ろただ体も心も小さく丸めて、小さな頃のように目を閉じて精神の中に閉じこもってしまえばいい。そうすれば、自分は苦痛を忘れられなくとも、苦痛はその内に自分を忘れて去って行く。 一度か二度ふと、「消えていった苦痛はどこに行くのだろう?」と考えた事もある。

 

 けどあの日、自分がアインツベルンの最高傑作と知った日からはそんな()()()()()言動はパッタリとやめて生きて来た。

 それは、来るべき聖杯────

 

「(────そうだわ、今は聖杯戦争中。 こんな風にマゴマゴしている場合じゃ…………ない)」

 

『聖杯戦争』という、文字通り自分の命を使い切る大イベントの真っ最中に少しずつ、思考力が戻って来たのは頭痛が引いてきたからでもある。

 生憎と全身の痛みはしっかり残っていてとても動かす気になれなかったが。

 

「(そうだわ。確かミーちゃんの部屋があまりに殺風景だからセラが苗を買って来て、士郎達が帰って来た時の為に晩御飯をご馳走の用意している間に、セラが────)」

 

 ────イリヤは思い返していた。 自分は士郎の部屋を漁って……………ではなく、チェック……………………ではなく、取り敢えず彼の部屋をジロジロと見ていた。

 

 その時に居間の方から大きく、派手な音と共にイリヤはほぼ反射的に自分の周りに数匹の『シュトルヒリッター』を展開しながら居間の方へ走り、そこにいたのは満身創痍のセラと、何処かぎごちない動きをする()だった。

 

 そこでイリヤの記憶は途切れ、、最後に見た紫色の髪の毛で恐らくはライダーに背後を取られ気絶させられたのだろうと推測し、イリヤは目を何とか開ける。

 

 彼女の視界に映る光景は、一言で言えば「殺風景」。 廃墟のような薄汚さはなく、人が頻繁に利用するような生活感もあまりなかった。 ただあまり使()()()()()()()()()、というだけにイリヤはその隅にある台の上にいた。

 

「(ここは………()()? いえ、それよりも『聖杯』が無くなった私を生かす理由なんて無────いえ、もし誰かが私の魔術回路が『聖杯』とのセットになっていると知っていれば…………マズイわ。) ………ッ!」

 

 イリヤは肘を叩き付けるようにして、寝返る事に成功させる。

 そして広がる視界に体が冷たくなっていくような、まさに「肝を冷やした」状態だった。

 

 それは別にカソックを着た男の所為でもなかった、何せ男は寝返りをしたイリヤに身じろぎ一つしていなかったので気付いたとも思えなかった。

 

 イリヤが「肝を冷やした」のはその男の手に持っていた()()()()を見たからだ。

 それを見た瞬間、イリヤの胸が痛くなり、心臓が抉られた記憶が蘇りそうになったが、聞こえて来た声によってそれは遮られた。

 

『おおおぉぉぉぉ! 正に“聖杯”! 200有余年、ようやっとここに!』

 

 それはイリヤが聞いた事の無い声だった。

 そしてカソックを着ている男から発されたものでもなかった。

 イリヤの体の痛みはかなり引いていたので体を動かし、台の上になんとか座った。

 

『綺麗だのぅ…………儂にそれを使わせてくれ! それは儂の────!!!』

 

「────触れたければ触れれば良い、()()のご老体。 だがその時が貴方の最後だ。 と、ご理解いただけると」

 

『ぬ、ぐぅ……相変わらず生意気な口を……』

 

『間桐のご老体』。 そう聞いたイリヤはこの声も持ち主が以前に資料を見た『間桐臓硯』だと繋がった。

 それは少し注意すれば彼の言葉の他に小さな何かがうごめくような音。 そして床には無数の蟲が群れを成していた。

 それが魔術に関するものだとしても、あまりにも「悪趣味」などというレベルを超越していてもっと深い澱の、()が決して触れてはいけない領域に達していた。

 

「…………それが『聖杯』なのね」

 

 イリヤの声にカソックを着た男が初めて彼女が起き上がったのを認識する。

 

「これはこれは、目を覚ましたかアインツベルンの申し子よ」

 

 暗く感情の見えない瞳がイリヤを見る。

 

「あなたが言峰綺礼かしら?」

 

「如何にも」

 

「…………………まさか聖堂協会の管理者がグルだったとはね、盲点だったわ」

 

「別に何もおかしくはない。 人間は見たいものだけを見て、他は見て見ぬ振りをする。 さて、君が目覚めるのは少々予定外だが…………はて、どうしたものか」

 

 どうでも良い事を、どうでもよさげに悩んでいるような調子で、カソックの男────言峰綺礼は顎に手を当てた。

 その仕草すらも、どうでも良さそうな感じで。

 

「やめておきなさい。 今の『聖杯』に異常があるわ。 それは使うべきではないものよ」

 

『それはもうお前さんの気にする事では無いのじゃよ、お嬢さん』

 

『キキキキッ!』

 

 小さな鳴き声を発した蟲達にイリヤの体がぞわりと震え、蟲の群れがイリヤの乗っている台の周りを囲む。

 

『この小僧は用済みのお主を逃がすつもりであったようだが……しかし儂としてはまだ少々都合が悪くての、丁度()を空かせておったのじゃ。 と言う訳でじゃ。アインツベルンのお嬢さんや、申し訳ないんじゃが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────儂の()になっておくれ』

 

『ギギギギッ!』

 

 けたたましいほどの蟲達の鳴き声が辺りに響くと同時にイリヤは魔術を行使────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()

 

「え、あれ、どうして────?」

 

「────魔力を間桐の娘同様に吸い取れらたからね、当分の間魔術は行使が出来ない」

 

 綺礼の言葉にイリヤはハッとしたように気付く。

 協会の部屋の端にゲッソリとして気を失い、生気がなく、髪の毛を真っ白にした桜の姿に。

 

「ヒッ?!」

 

ギギギギギギギギギギッ!!!!

 

 イリヤの恐怖に反応するかのようにまた蟲達が鳴く。全ての虫が一斉に、実に嬉しそうに鳴きだした。

 

「あ…………あ…………あああ────」

 

 イリヤは思わず悲鳴が漏れそうになるのを止めていた。 醜悪な蟲達がぞわぞわと迫ってくる中で逃げようと体に力を入れるが、上手く動かなかった。

 魔力の枯渇に、()()()()()()()()()にすくみ上がって、動かぬ体。

 

「なあに、案ずる事は無い。 残りの世話は、『聖杯』も含めて、全て儂が請け負ってやるからのぅ。 ただ少しばかり……そうさな、2、3時間ほどじゃろうか? 女として生まれてきた事を後悔し続ける、その程度よ。 ああ、皮も衛宮の者共にも奇襲を仕掛けるのに絶好の素材よのぅ。 うむ、()()()有効活用してやろうではないか。 クカカカカカカカ────!!!」

 

 止まらぬ老人の声と彼の笑い声。

 歯がガチガチと鳴るイリヤ。

 命乞いをしなかったのは、上手く声を出せなかったから。

 緊張と恐怖がどんな言葉の発声もさせなかったというだけ。

 出来たのであれば、きっと大きな絶叫を上げて泣きじゃくっていたであろう。

 

『ぬっ? こ奴もか、小癪な!』

 

 蟲達の進軍が突然止まり、イリヤは一瞬誰かが助けに来たのかと思い周りを見る。

 がそのような事は無く、ただポケットの中から魔力の流れを感じた。

 

「(これは………ミーちゃんの────)」

 

 それは人生初の『家族』からの物体的プレゼント。

 もちろんそれ以前にコッソリと士郎に会い、タイ焼きなど奢って貰ったが残る「モノ」を受け取ったのは三月が初めてだったのだ。

 その様なモノをイリヤは肌身離さずずっと持っていた。

 そしてそれが臓硯を一時的にだが止めていた。

 

 だがそれも束の間、魔術礼装は魔力がなければ発動しない。

 トランプカードの箱状にそんなに魔力が続く訳がない。

 そもそもそれは持ち主が自身の魔力を流すのを前提に作られていた試作品、もう間もなく魔力が切れるのをイリヤは感じ、自分の体を抱きしめて目を閉じた。

 

「(バーサーカー────)」

 

 イリヤは久しぶりに内心、助けを求めた。

 最後にしたのは、あの雪の日にドイツのアインツベルン城の最終試験として身一つで山の中に放り出され、バーサーカーが自らの意思で助けにくれた時。

 だがその頼みの綱の彼はもういない。

 

「(誰か────!)」

 

『よぉし、その鬱陶しい結界も弱まって来たのう。 クカカカ!』

 

「誰か、助けて! ミーちゃん! お兄ちゃん!

 

 イリヤは涙を流し、声を出しながらただひたすら祈った。

 

「誰か助けて」と。

 

 家族の縁でどうにか自分の祈りが三月や士郎に通じる事を。

 

 祈っている自分がそれらは届かないのも、聞かれないのも内心では理解しながらもただ祈った。

 

 もし、こんな事を聞こえて、颯爽と登場するならば────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それは正しく『正義の味方(ヒーロー)』でないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()。 ()()()()()()()()()()()()()()()()────」

 

 協会の屋根が壊れるとほぼ同時に無数の武器がイリヤの周りに落ち、蟲達を吹き飛ばす。

 

「────汚物は正しく消毒すべきモノだとな!」

 

 目を開けて、上からくる声の方をイリヤが見る。

 

 そこには月と星空をバックに、ボロボロになりながらも笑う正義の味方(アーチャー)がいた。

*1
第13話より




作者:シンカイコワイシンカイコワイシンカイコワイシンカイコワイシンカイコワイ

マイケル:ちょ、どうしたんだよ?!

三月(バカンス体):今日、なんかデッカイ怪物に潜水艦ごと食われたって

ラケール:ふぁ?! そりゃ怖いわ!

チエ:そうか? 中から食いちぎれば良いのではないか?

マイケル/ラケール:………………………………………………「脳筋」?

チエ:三月、「脳筋」とは何だ? ……………ん? どこかに行ったのか?

マイケル/ラケール:(逃げやがった!)

三月(バカンス体):楽しんで頂けたらお気に入りや評価、感想等あると嬉しいです! 宜しくお願いします!


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第36話 人外と破綻者

 ___________

 

 イリヤ、アーチャー 視点

 ___________

 

 

 緊張と恐怖が希望を見た瞬間、イリヤは叫んだ。

 

「アーチャー!!!」

 

『ぬぅぅぅぅ! またも貴様か?!』

 

 そしてアーチャーは部屋の端にいた桜を担ぎ、イリヤの方へと飛び移る。

 ()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 

『な?! 貴様、いつの間に?!』

 

「私は別に仮面もタキシードも着けていないからな、律義に特撮などの『正義の味方(ヒーロー)』みたいに何も正面切っての行動する通りもない」

 

「ほう、『幻術』を使うアーチャーとは、何と多才なことだ」

 

 もし三月がここに居ればツッコンでいただろう。

「せめて薔薇系の剣を投げて!」とか。

 もしくは「古いよ?! ネタ古いよ?!」と言った所か?

 

「アーチャー、アーチャーアーチャー!

 

 イリヤはヒシッとアーチャーを抱きながら安心から涙を流し、彼は優しく震える彼女の頭を撫でる。

 

「黒幕である貴様たちにそのように言葉をかけられてもな。 それに私を褒めてもせいぜいが矢が飛び出るだけだぞ? 貴様の顔面にな、言峰綺礼。 (間に合って………良かった)」

 

「フフ、怖い怖い」

 

 声も表情も何一つ変わらない綺礼と違って臓硯は苛立ちと怒りを全く隠さなかった、この不可解な状況に。

 

『しかし貴様のその状態、何時消えてもおかしくはないのにどうやって────?!』

 

「何、()()に活を入れたどこぞのバカがいたモノでね。 『()()()()()()()()()()()()()()』と思っただけさ。 待たせたね、イリヤ。 大丈夫か?」

 

「ッ!!! うん! うんッ!!!

 

「良かった。 (()()()()、オレは────!)」

 

「────ランサーはどうした?」

 

「貴様の番犬なら()()を外した瞬間、何処かへ飛んで行ったさ。 余程貴様の事が嫌いだったらしいな」

 

『何と使えぬ英霊じゃ! いや、それ以前に貴様、どうやって令呪の契約を解除した?! キャスターでもない貴様が! いや、そもそも何故儂らの事を────?!』

 

「────知れた事。 強いて言うのであれば影でこそこそと謀りを進められると背中がムズムズする性質でね。(伊達に『守護者』をやっていなかったという事か。 まさかそれに感謝する日が来るとはな)」

 

 アーチャーのそれはある種の『直感』に近かった。 『守護者』である彼はその地の異変に敏感で、凛と冬木の町の見回りなどをしている間に激しい違和感を持ち始めた。

 それは「自分がこの街を知っている」というものだった。

 以前の機械化したアーチャーはただただ延々と『守護者』の役割を果たし、今回もそうだと思っていた。

 だが時が進むごとにつれ、彼はその街に見覚えが湧き、少しだけ灰色の記憶が蘇った。

 自分がかつて()()()()()()()と気付いた。

 更に凛が就寝した夜や彼女が学園に登校に同行する度に様々な記憶が蘇った。

 それは断片的にではあるが、()()()()()()()の中で自分の『()()()()()()』が固定さ(歪めら)れた出来事でもあった。

 故に彼は当初の目的を果たそうとした、「自分(エミヤシロウ)という存在を消す為に自分(衛宮士郎)を殺す」。

 

 だがここには明確に自分とは違う存在がいた。

 それは「衛宮三月」と言う()だった。

 故に彼は様子を見る事にし、事の成り行きを見守っていた。

 そして自分が()()()()()出来事とはあまりにも色々なモノがかけ離れていた。

 

「マトウシンジ」があまり捻くれて諦めていなく、未だに義妹思いで、腐らずに『錬金術』に励んで、サクラに暴力を必要以上に振るっていなかった。

 

「マトウサクラ」が兄の事をあまり苦手とせず、彼の事をちゃんと見て、自己としての芯が強かった。

 

「トオサカリン」の考えが更に柔軟で周りを意識していて、他者や親族のサクラとの「魔術師と一般人」の壁と「天才と凡人」の壁を自らの手で壊し、他の者と共に怖からず歩もうとしていた。

 

「イリヤスフィール」は「衛宮切嗣」の行動をある程度理解し、エミヤの者を敵視していないどころか友好的で、『聖杯』の異常を知った途端に協力的でアインツベルンの悲願である筈の『聖杯を完成させる』を蹴ってまで聖杯戦争を中断した。

 

「エミヤシロウ」は「独り」で生きてきたのでは無く、彼を必要とした存在が幼少から近くにいる事で「周りの人達」の大事さに無意識にだが気付き始め、生きようとしていた。

 

 それらは全て、アーチャーが()()()()()()時に初めて手遅れながらも気付いたものばかりだった。

 

 以上の等々のあらゆる面で違いがあり、「本当に自分の記憶は正しいのか?」とアーチャーが思ったほどだった。

 

 そして最後にそれらの出来事の中心には全くの未知の存在が少なからず関与していた。

 

「エミヤミツキ」。 「エミヤシロウ」の()()

 

 その少女はどこかイリヤを思わせながらも人外でありながら「エミヤシロウ」よりも()()に近い部分があり、周りの者の本質を見抜く直感か洞察力を持ちそれに対応し、物事を円滑に進めようと絶えぬ努力家。

 

 不可解で不思議な存在の塊だった。

 

 だがアーチャーは気付く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 故にアーチャーは大雑把な計画と方針を練り、機会を待った。

 

 もし彼が未だに自分の間違いなどに気付かなければ自分が彼を殺し、当初の目的は達成し、後は自分が事を解決すればいい。

 そして「エミヤシロウ」が自分なりの答えを得て、自分とは違う道を歩むのならギルガメッシュを彼達に任せ、自分は別の事を解決する。

 

 まさにどっちに転がってもいい、合理的な方針。

 

 まあ、まさか素手でエミヤシロウに殴り倒されるとアーチャーは夢にも思っていなかったし、まさかサクラが()()タイミングで臓硯に操られるとはアーチャーにも予想外だった。

 

 まだまだアーチャーの思っていた事などは数々あるが、今は現在の出来事へと戻るとしよう。

 

『ふん、だがまあ良い。 貴様のその体は死にたい、どこまで持つか見ものよな!』

 

 ここでアーチャーの異変にイリヤが気付く。

 

「アーチャー、あなた魔力が────!」

 

 アーチャーがまたイリヤを撫でて、彼女に向きながら()()()()()になりながら優しく声をかける。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 その笑顔はイリヤにとって初めて見る顔ではなかった。

 だがあり得なかった。

 まさかのまさかで先程自分の助けを呼ぶ声が通じたとは。

 

「………………()()()……………なの?」

 

「ッ! (………まいったな、つい昔の自分になりかけていた。 だがまあ……良いか。) 少し荒事になるけどいいか、イリヤ?」

 

「………うん!」

 

 笑顔で英霊エミヤに答えるイリヤ。

 

「茶番はそれで終わりかね?」

 

 綺礼へと視線を戻すアーチャー、そして未だに続いている三月特製の魔術礼装の結界に阻まれている臓硯。

 

「強がっても無駄だぞ、言峰綺礼に間桐臓硯。 確かに私は死にかけだが腐ってもサーヴァント。 老いた代行者と衰えた妖物に遅れは取らん」

 

『おのれぇぇい! あと少しで悲願が達成出来るというのに、なぜ今になって────!』

 

「────フム、やはりあれが『聖杯』か。 では消し飛ばすとしよう」

 

「早く壊してアーチャー! アレは起動させちゃだめよ!」

 

「わかっている、イリヤ。 だが目的をここで聞いた方がいい。 直感がね、もしここで彼らを闇雲に滅ぼせば最悪の状態になると言っているのだ」

 

「────成程、確かに貴様を相手にするのが私達であれば敗北は必須。 『守護者』であるならば尚更の事」

 

『何?! こ奴が例の“守護者”じゃと?!』

 

「ぬ? (どうしてだ? 何故この二人が『守護者(私の事)』を知っている?)」

 

 綺礼が初めてアーチャーの反応に対して()()を浮かべ、イリヤとアーチャー二人がぞっと体を震わせた。

 彼の笑った顔に、ガラス玉に色を塗っただけのような不出来な眼球が明らかに異常だったのだ。

 

「フ、アーチャーよ。 君は『神』という存在を信じているかね?」

 

「何?」

 

 質問の意図が分からない、と首を傾げるアーチャー。

 確かにここは教会で目の前の男は神父。

 だがこんな局面で彼は臓硯のように「なぜここが分かった」や逃走の為に時間稼ぎをしているようにも見えなかったことにアーチャーは戸惑った。

 

「何故『今』、そのような質問を?」

 

「答えないならばそれでいい。それまでの話だ」

 

 とりつく島もなく綺礼は会話を終わらせ、親指で『聖杯』を撫でる。

 

「…………私が敢えて答えてやるとしたら、『そんなモノはどうでも良い』というだろう」

 

「………ク……ククク………ククククク」

 

 アーチャーとイリヤ、そして臓硯までもが一瞬目を見開き、綺礼はその表情を納める事もできずに笑い出す。

 何故なら彼は笑っているはずだと言うのに憎悪、嫌悪、害意、絶望などと言った、あらゆるもので声が染まっていた。

 

「なんと…………なんと、下らない。 下らなく()()()()()答えだ」

 

 それは実に愉快そうに笑う綺礼で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────あまりにも()()だった。

 

「もっともだ、もっとも過ぎる。 ああ、私にも未練というものが()()()あったのだ。 しかし、感謝しよう。 ()()の反応を示してくれて。 そうか。 私は()()()()()のか。 クククククククク」

 

「何がおかしい、言峰綺礼?」

 

「いや何、私も貴様と同じだったという事だ。 だが()()()に私が会ったときは貴様と同じ答えをしたというだけだ。 感謝しよう。 クククククククク」

 

 綺礼が言い終わると彼の顔は口元を僅かにつり上げて、笑みを浮かべていて、不気味なほどに静謐な雰囲気へと変化していた。

 

 もし事が事でなければ、それは「聖人」と言っても過言ではなかった。

 その「神」が「悪魔」かどうかは別として。

 

「貴方は、何を言っているの?」

 

 イリヤは言いようのない悪寒を振り払うかのように強めに言葉を放った。

 

「やめろ、イリヤ。 ()()彼を分かろうとするな。 彼は既に()()()()()()()()()()()()()。 ()()から思っていたが、()()()()ハッキリ言おうこの()()()()()()()。 ()()()()()()()()

 

 それは()()、とある出来事で言峰綺礼が衛宮士郎は「自分と似ている」と言った意趣返しのようだった。

 

「さて、喋るのはここまでにしよう。 吐いてもらうぞ、お前()の事を!」

 

「ある程度魔力を確保し、聖杯の疑似降誕。 それを利用して、残っているサーヴァントを殲滅し、真に聖杯を確保する。それが少なくともそこの間桐臓硯()目的だ」

 

「「『なっ?!』」」

 

 不意に世間話を投げかけるような何気ない口調で綺礼から回答が帰ってきて、そのあまりの気軽さにアーチャー、イリヤ、そして臓硯すらも唖然として、綺礼以外誰もが思考を一瞬止めたように固まった。

 

 だが様々な場所や人を見てきたアーチャーは正気に戻り、人外である筈の臓硯より()()の綺礼を警戒した。

 彼はここまでの破綻者ではなかった筈。以前からは得体の知れない男だったが更に拍車がかかり、今は臓硯よりも警戒していた。

 

「…………()()()()()()()()()?」

 

「お前の問いに答えた。 それだけだが?」

 

『それを嘘だと思うのも、欺くためだと思うのも、すべてそちらの勝手だ。それ以上もそれ以下も存在しない』。 綺礼の言葉の続きをアーチャー達にはそう聞こえた。

 

 そう言わんばかりの態度であり、確かに綺礼からはそれ以外の意図が何も感じられなかった。

 

『貴様! 裏切るつもりか?!』

 

「裏切る?」

 

 綺礼が返したのはただの復唱であった。

 言っている意味が本当に分からないが故の、ただの聞き返し。

 

「おかしな事を言う。 もうお忘れになられましたか? 最初に『裏切り』を働いたのは間桐のご老体、貴方でしょう?」

 

「(まさか、ゾウケンはキレイを利用していたつもりが、実は反対だった? 分からない………)」

 

「(この男、かつての私と似ている。 だが私と違い、真に『諦め』そのものだ)」

 

「さて────」

 

 綺礼はポケットの中から時計を出して時間を確認すると、杯はかかげたまま右腕の袖をたくし上げる。

 

「令呪をもって『()()()()()()()』に命ず。 ()()()()

 

『おお! そ、その手があったとは!』

 

 綺麗の手に持っていた杯からドプリと『泥』が溢れる。 それを直視したイリヤは、思わず吐きそうになり、両手を素早くアーチャーの胴体から離し、自分の口を覆った。

 

「(令呪を使ったという事は、()()()()()()()()の筈。 でも何だ、 この『違う!』と叫んでいる直感は?)」

 

 その『泥』はギルガメッシュが顕現させたものと似ていて、ただ『そこに居るだけ』で悪意を振りまき、同時に悪意を煽る呪い、呪縛だった。

 

「これが………『聖杯』の異常なの?」

 

 吐き気が落ち着いたイリヤがボソリとそう独り言を言う。

 言いながら思った。

 

「(これが、キリツグが『聖杯』を破壊した理由! セイバーに令呪を使ってでも抹消すべき存在! 今ならわかる! キリツグ! 貴方は間違っていなかった!) アーチャー────!」

 

「────重ねて命じる。 『()()()()()()()』よ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「なっ!?」」

 

『ま、マテ────ギッ?!』

 

 綺礼の命令と共に『泥』は一瞬にして蟲の群体を飲み込み、池となった『泥』の中から粒のようなものが次々と溢れる。

 

 それは大量の、今までの比にならない蟲の大群で、『泥』と杯から生み出され続け、溢れ出ていた。

 

 ここが真に教会であるのなら、その光景は『ヨハネの黙示録』の第6章第8節に記される第四の騎士の『疫病』がしっくりくるような場面だった。

 

 アーチャーは本能半分、直感半分で問答無用にイリヤと桜を抱えたままその場から全力で離脱した瞬間、彼らが立っていた台の周りの防波堤のように突き刺さった武器達が黒く変質して()()()()()()()()()

 

「チッ」

 

 アーチャーがその場を見ながら舌打ちをする。 『泥』が教会の四方にある壁を内側から突き破り、黒い粒が散漫していった。

 

 この様子では、綺礼の生死は確認できない。 だが彼がどうなっていようと、考慮していられる段階ではなくなったのは確か。

 

 彼が『()()()()()()()』と呼んでいたサーヴァントは臓硯を取り込み、最悪の事態へと変わった。

 

「これはもう、私情など優先できる状況ではなくなったな。 このまま凛達と合流するぞ。 ()()()()もそれで良いな?」

 

『流石“守護者”ですね』

 

「え?」

 

 アーチャーが突然何か言いだしたと思うと、不意に()()()()()()()()()の声が聞こえた。

 

「やはりな。 微弱ながらサーヴァントの気配を感じたからまさかと思ったが良くまだ居てくれた」

 

『かなりギリギリの状態ですが、貴方が霊体を感じれるとは思わなかったです』

 

「まあこれもどこぞの()()のおかげだがな。 奴に出来て私に出来ないという通りはない」*1

 

 アーチャー達はそのままとある屋敷の方向へと向かった。

 

 

 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、間桐慎二 視点

 ___________

 

 場所は遠坂邸に移り、外では警戒するセイバー。 中ではまた出かける準備の真っ最中だった凛と三月。

 

 何とか歩けるようにはなったが魔力をほぼ使い切った士郎と魔術回路が初めて開き、無理をした信二と瀕死の怪我を負っていたセラは少しでも回復する為に三人とも仮眠をとっていた。

 

「ねえ三月」

 

 準備の為に宝石の補充と服装を新しいのに着替える凛が突然同じように着替えていた三月に声をかける

 余談だが凛は三月に伝えていないが、彼女に貸していたのは自分が子供の頃に着ていたお古だった。

 

「ん? な~に?」

 

「貴方はあの薬を飲むのに何とも無いのかしら?」

 

「あ、士郎から聞いたの? ()()()()()()()()()()?」

 

「そう…………って貴方、か………かなり物騒なもの持っているのね?」

 

 凛が三月の方を見て顔が引きつる。

 

 無理もない、三月が動きやすいシャツとジーンズに着替えて()()()()をし始めていた。

 

「ん~、()()()?」

 

「何でそこで疑問形なのよ?」

 

「まあ、おじさんの忘れ形見みたいなものだから」

 

 それらは『魔術師殺し』として現役だったころの衛宮切嗣の武器や装備等だった。

 

 これらは衛宮切嗣が三月にいろいろと試していた時に癖からか点検を行うと、彼女もし始めてまたも切嗣の目玉が飛び出そうになった。

 後に藤村組に切嗣が頼んで()()と調達した物も入っている。

 

 これは三月が彼に頼んでの事だった。

「士郎を頼まれたからには万全の準備がしたい」と三月が言ったから始まった。

 

 今では切嗣が以前の第四次聖杯戦争に使っていたキャリコやトンプソン・コンテンダー、WA2000、手榴弾等の上にスペツナズ・ナイフ、焼夷弾やベネリM2散弾銃等々が追加された。

 

「『備えあれば患いなし』って言うからね」

 

「………………」

 

 そこで数々の火器を見た凛は「もし衛宮君たちを本気で殺す私がいたら」と思い、ハチの巣になった自分を連想する。

 

 ドガシャァァァァァン! ガラガラガラガラガラガラガラ!!!

 

 そして急に上からの破壊音に凛と三月がビクリとする。

 

「今のは何?!」

 

「客間からみたいね!」

 

 凛と三月は急いで部屋を出て、二階にある居間の扉が歪んでいたのを見る。

 三月がドアノブを捻ろうとしても開かなかった。

 

「扉の周りがひしゃげて開かない!」

 

「ええ、ドアを無理やり開けるわ!」

 

 もの凄~~~~~~~~~~~~くごく最近なデジャヴに襲われた凛は三月と共にドアを蹴破り────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────って()()貴方なの、アーチャー?!」

 

「リンの開口一番が『また』とはかなり奇妙な主従関係をお持ちね、貴方達」

 

「それを言わないでくれイリヤ。こうでもしなければセイバーにいちいち説明しないといけなくなる」

 

『というか何も屋根を突き破る必要はなかったのでは?』

 

「言うなライダー!」

 

 セイバーが屋根の穴から飛び降りる。

 

「あ、アーチャー?! それにイリヤスフィールにサクラにライダー?」

 

「あ、アーチャーさんこんちゃーす」

 

 固まった凛の前には何時かアーチャーを召還した夜を連想させた。

 

 ただ今回違うのはソファーに座っていたアーチャーの首の周りに腕を回したイリヤと、彼が抱えた桜がいたことか?

 

「凛、すまないがサクラをどこか休める部屋に────凛?」

 

 凛がズカズカとアーチャーに迫って彼の顔に拳をそのままの勢いで一発お見舞いする。

 

「グボォ?!」

 

 アーチャーはサクラをソファーの上に放り、イリヤは腕を離し、彼は床へと落ち、凛の顔はツヤが光っていた。

 

「あ、アーチャー……その…ご愁傷さまです?」

 

『やはり奇妙な主従関係ですね』

 

「あー! スッッッッッッッッッキリした!」

 

「「()()()! 大丈夫?!」」

 

 これを見た三月とイリヤがアーチャーのところへと向かい、彼を支えると同時に互いを見る。

 

「あれ? イーちゃん知っていたの?」

 

「う、うん。 ついさっきに、ね。 ミーちゃんこそ、何時分かったの?」

 

「え? ちゃんと見た()()()辺りから」

 

 これを聞いた凛が驚愕する。

 

「ハ、ハァァァァァァ?! あ、あんたアーチャーの事を知っていて、どうして平然としていられるのよ?!」

 

「と言うかミーちゃんはどうやって知ったの?」

 

「え? だって体の特徴とか真剣な顔は兄さんそっくりじゃん?」

 

「「え”」」

 

 顔の頬を片手で覆うアーチャーが起き上がる。

 

「そ、それは私にも盲点だったな。 ちなみ、どこが奴と同じなのだ?」

 

「え? だから言ったじゃん。 真剣な顔とか困った顔とか眉毛とか右の耳たぶの後ろの小さなホクロ三つの内に二には毛が二本ずつ生えているところとか────」

 

 などの事を言う三月にそこに(意識のある)人達は唖然とする。

 そして固まっている間にイリヤが確認すると確かに右の耳たぶの後ろの小さなホクロ三つの内に二には毛が二本ずつ生えていた。

 

「…………と、とにかく桜を診て情報交換しましょう? アーチャー、再契約するわよ────」

 

「────待ってリン。 もし再契約するのなら別の誰かにすれば理論上、令呪が三画使えるようになるわ。 だから私と契約しましょう?」

 

「え」

 

「ちょ、何人のサーヴァントを勝手に横取りしているのよ?!」

 

「いや、私は今マスターのないサーヴァント────」

 

 「「────アーチャーは引っ込んでいて!」」

 

「……………………………………………………………………………………………何でさ?」

 

「アーチャーさん、私は取り敢えず桜を診るから部屋の用意をお願いしていいかな? ここは初めて来る家だからまだちょっと慣れていなくて」

 

「……………………………………………………そうだな」

 

 未だにガミガミと言い合う凛とイリヤをそっちのけでアーチャーが桜を抱えて部屋を出て、三月が後をトテトテと追い、セイバーも後を追う。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 桜を診てから彼女を寝かせた後、アーチャーは状況を掻い摘んでセイバーに説明し、協会方面を集中的に見張ってくれと頼んだ。

 最初はいまだに敵か味方かもわからないアーチャーに指図されるのは嫌だったのか、聞きたくなかったらしいが、彼の弱まった状態と今の状況で何かをする気配もなく、一応それを了承して遠坂邸の外へと出た。

 

 そこで彼が三月に話しかける。

 

「…………君はどうして、私が『エミヤシロウ』と感じた時、私に聞いて来たり、他のものに話さなかったんだ?」

 

「え? だってアーチャーさん、明らかに隠したかったでしょう?」

 

「………どうしてそう思うんだい?」

 

「兄さんが隠し事をしたい時は左顎辺りがピクピクするから」

 

「……………………………………………………………………本当かね?」

 

 立ち止まったアーチャーに三月が振り返って、二カッと笑う。

 

「うっそぴょ~~~ん♪」

 

「………何故今の状況でそんな冗談を言える?」

 

「え?」

 

 まだ笑う三月に真剣な顔をしたアーチャーがそう聞く。

 だが三月にはこう聞こえた。

「何故今の状況でまだ笑える?」と。

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 それは、あまりにもあっけらかんとし、言わば合理的な答えでもあった。

 人間は緊張や恐怖などの状態が続くと何もしなくても実情以上に疲弊する。

 『故に()()()()()()()』とアーチャーは取っていた。

 

「君は…………本当に()()()

 

「でしょう? エッヘン♪」

 

 まだ立ち尽くすアーチャーを三月は見上げていた。

 

「????」

 

「…………これは提案なのだが────」

 

*1
第18話前半より




マイケル:タキシードと仮面? なんのこっちゃ?

作者:あ~、ちょっと古かったかな?

ラケール:そ~う?

三月(バカンス体):全ぜ~ん? 分かる人には分かるのよ

作者:そうそう

マイケル:だからなんのこっちゃ?

作者:あと今週の投稿が遅れる可能性大です。 誠に申し訳ございませんが、ご了承くださいませ。後、今までのアンケートにはちゃんと目を通してはいます、ご協力ありがとうございます。



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第37話 赤と青、そして盗難………もとい(無断で)借りた車

次話ですが短いです、申し訳ありません。


 ___________

 

 セイバー運営、遠坂凛、間桐慎二、ライダー、アーチャー 視点

 ___________

 

 そこは遠坂邸の通路で、三月とアーチャーが向き合っていた。

 

「…………これは提案なのだが────」

 

「────うん、()()()

 

 アーチャーが話し終わる前に三月のあっさりと了承した事に彼でさえも目を見開く。

 

「…………君はこういう場合、もう少し相手の話が終わってから詳しい事を聞いた方が良いぞ?」

 

「でもそれで皆を助けられるでしょ? なら()()()

 

 アーチャーと三月のそのやり取りはまさに凛と士郎がしていたやり取りに酷似していた。*1

 

「………………」

 

 アーチャーがズカズカと硬い表情をしながら三月を壁際に追い込む。

 

「へ?あ、ちょ、待っ────」

 

 これも以前、凛が士郎にした事に酷似していた。*2

 

【告。 心拍数急激上昇。 安定さセマスか?】

 

「…………………」

 

「えーと? アーチャーさん、困り…………ます?」

 

「君はもっと()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………?」

 

 三月はただ?マークを出しながらアーチャーを見上げる。

 

「君はどこかイリヤに似ていて違う。 そして凛にも似ていて違う。 まったく、君の兄は苦労したのだな」

 

「まあ………否定できないかな? で、アーチャーさんの『提案』って言うのは────」 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 三月とアーチャーが居間へと寄ると凛とイリヤ、そして起きた士郎と慎二とライダー達が情報を交換しながら話し合っていた。

 

 そしてそこには昔のように感情の見えない桜もいた。

 

「(あ……………桜、昔みたいになっている…)」

 

「はは、見てよ桜。お、俺達これでお似合いの髪の毛になったな。ハハハ」

 

「………………ハイ…………」

 

「桜………」

 

 そこには痛々しいほど桜に元気づけようと話しかける慎二と、彼女の豹変ぶりにどこか悲しそうな雰囲気のライダーがいた。

 

「ごっめ~ん! 私たち、何かミスっちゃった?」

 

「三月────って、アーチャー?! お前、やっぱり生きて────?!」

 

「アーチャー! 良いところに来たわ! 私と────!!!」

 

「────リン! アーチャーは私と契約するの────!」

 

 お嬢様~~~~~~~~~~~~!

 

「────ぶえ」

 

 凛とイリヤが言いあいそうになり、場の空気を読まずただイリヤへと飛び、彼女を力いっぱいにまだ動く右腕で抱きしめるセラが叫んだ。

 

「このセラ、ちゃんとお嬢様の事をお伝えましたよ!」

 

「もがががが!!!」

 

「お嬢様、お怪我はないですか?!」

 

「…………………………………ぷは! セラ! 大丈夫?!」

 

「和んでいる所すまない、状況が状況だけに話を進めるぞ。 あまり時間がない」

 

 安否を確認しあうイリヤとセラに、アーチャーの真剣な声と表情に皆が彼に注目し、彼はアインツベルン城で姿を消したところから出来事を説明する。

 

 それは彼が感じていた()()()を確認するために自身の死を偽装して自分からいるであろう敵たちからノーマークになり、イリヤ達の安否をチェックするため衛宮邸に戻ると時は既に遅く、イリヤが桜とライダーに連れ去られた後だった。

 

「ねえ、何で桜は……その……えっと」

 

「恐らくだが彼女は間桐のご老人に()()()()()()のだろう」

 

 凛が言いにくそうになり、慎二がビクビクし始め、桜は身構えたのを見るとアーチャーがそう強く言い切った。

 

「恐らくはこうでも言われたのではないか? 『凛達の命が惜しくば、アインツベルンの少女を教会まで連れてこい』と。 現に、アインツベルンの召使は瀕死の傷とはいえ、とどめを刺されなかった理由もそこにあると私は睨んでいる」

 

「ッ」

 

 桜はただ俯いて何も言わなかった。

 

「さて、教会での出来事だが────」

 

 そこからはアーチャーが先程セイバーに説明した教会での出来事を言うと凛が考え込み、士郎と慎二は唖然とする。

 

「そ、そんな…………『聖杯』が()()()()だと? ギルガメッシュの持っていたのが────」

 

「────あの爺さん…………やっぱり僕達を騙していたんだ」

 

「慎二君………」

 

「何が『幸せにしてやる』だ?! あの爺さん、僕を騙すだけでなく…………桜まで…………畜生……………ウッ………グス………畜生ッッ!!!」

 

 慎二が人前で隠す素振りもせずに泣きだしたのは誰もが驚いた。

 が、全員は敢えて何も言わず、気付かない振りをして話を続けた。

 

「ねえ、アーチャー? 確かに彼らはイリヤを『用済み』と言ったのね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「そうね、リンの考えている通りだと思う。 あの神父の人達は『聖杯』に必要な魔力を集めて、私と言う『鍵』を使って降臨させたと思う」

 

「そして臓硯をあのクソエセ神父が『聖杯の呪い』に食わせて今暴走中って訳ね……………」

 

「「「「(綺礼のあだ名に“クソ”が追加された?!)」」」」

 

「ああ。状況は最悪に近い。 一つの救いは教会が人里から少し離れているという事ぐらいだ。あれは『聖杯の呪い』、あの神父は『アヴェンジャー』と呼んでいたものが『聖杯』を原動力としている以上、無限に広がり続けるだろう」

 

「なら何とか核になっている『聖杯』を打ち壊すしかないわね…………」

 

「そうだ、そこで私からの提案があるのだが………かなりのハイリスクリターンを伴うが、聞く気はあるかね?」

 

 アーチャーは真っ直ぐに士郎達を見回しながらそう言う。

 

「……………異言がないのなら続けるぞ。 まずは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ガタン!

 

 皆が座っていたテーブルから音が出る。

 士郎と凛が急に立ったのだ。

 

「お前! 何を────?!」

 

「────そうよ! それに貴方、前の時はどうやって私との契約を絶ったのよ?!」

 

「何、前者は効率と合理性の問題だ。 そして後者に関しては『無限の剣製』でキャスターの持っていた『破戒すべき全ての符』を自身に使っただけだ。 本当に時間がないから続けると、一流の魔術師と再契約を果たしたセイバーの機能は大きく上昇した上に令呪が三画に戻る。 敵は呪いの蟲の大群故に、私の『無限の剣製』と彼女の『約束された勝利の剣』が最も適しているだろう」

 

 士郎と凛がライダーの方をちらっと見るのをアーチャーとイリヤが見て反応する。

 

「彼女はライダー、つまり騎乗兵のように接近せねばならいタイプの宝具と見たが、違うか?」

 

「いえ、その通りです。 私の『騎英の手綱(ベルレフォーン)』は騎乗できるものなら幻想種をも御し、更にその能力を向上させる黄金の鞭と手綱です。 私の場合、自分の血を触媒に天馬を召喚できますのでそれに乗り、真名解放により防御力と乗り物の速度が上がり、流星のごとき光を放って突貫するというものです。  現世風に例えると────」

 

「────『特攻野郎〇チーム』?」

 

「「「「「ブボ」」」」」

 

 そこにいた皆(ライダーと桜以外)が噴出した。

 何しろデフォルメしたライダーがポッコリとちょっと太ったこれまたデフォルメした天馬に乗りながら()()()()()()()()をBGMに空を飛んでいるのを想像したからだ。

 

「…………………………………………………………………………………」

 

 ライダーの静かな視線が三月に注がれ、彼女はライダーの周りにドンヨリとした、「自分明らかに凹んでいますよー」空気で流石にやりすぎたと思い、言葉を続けた。

 

「あ、いや、その、ごめん。 場の空気をちょっと軽くしたかっただけ。 あとで血を吸っても良いから、ね?」

 

 「仕方ありませんねではそれで手を打ちましょう」

 

 彼女が早口と力強く即答し、発する空気が一気に「うおっほいやったぜ、ウハ♡ウハ♡」へと変わり、三月にはライダーの周りから無数のハートマークが飛び出していたかのように見えた。

 

「(でも何でハートマーク???)」

 

「…………コホン。 という訳で、彼女は機動力を使った戦闘では優秀だが、このように呪いに触れたらアウトのような場面ではリスクが高すぎる。 故に私とセイバーや遠距離攻撃が可能な凛と三月が必然と来る事になるが…………ここで皆に紹介したい()がいてな…………そろそろか」

 

 ドゴォン!

 

 外から大きな衝撃音が聞こえ、男性の声とセイバーの口論が聞こえてくる。

 

『おい待て待て待て! 俺は別に今は────!』

 

『問答無用です!』

 

 『人の話聞けよ?!』

 

「この声は────」

 

「────さて、ちょっと席を外すが…すぐに戻ってくる」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「いや~、まさかあんたに助けられるとは世の中どうなるか知らねえもんだな? アーチャー」

 

 それは両手を上げながら半透明になっていた青タイツ男、別名ランサーだった。

 

「その声はやっぱり、ランサー?!」

 

「あ、こんちゃーす」

 

「あ? 何だぁ、その挨拶は? 当世の奴か?」

 

「俗語」

 

「ハッ! 嬢ちゃんは小せえのにさっぱりしていて大物だな!」 

 

「『小さい』は余計だよ『青タイツ』?!」

 

 ほぼ反射神経で反論する三月をランサーは心底面白そうに見る。

 

「へー? 他のギスギスした奴らとは大違いだぜ! どうだ、俺のマスターになるか?」

 

「うん、()()()

 

「「「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」」」」」

 

「……………………あ?」

 

 そこにいた皆が三月の即答に驚愕の声を出し、からかい気分で提案したランサー本人も呆気にとられていた。

 

「………………ハーハッハッハッハ! 即答かよ?! いいね、いいねぇ! ますます気に入った! じゃあ、さっさと契約しちまうとするか!」

 

「あ、ちょっと待て! その前にアーチャーは大丈夫なあの?!」

 

「ん? ああ、それも説明するがランサーがこちらに加わることで戦力の上昇も確かな事だ。 そこで凛、彼とも契約を出来るか?」

 

「え?」

 

「あ、じゃあアーチャーは私と契約するのね? やった♪」

 

 アーチャーの言った事に複雑な顔をする凛とは反対に明らかに喜ぶイリヤ。

 だが────

 

「────すまない凛、性格上の問題と効率を考えただけなのだが……そうだな、今の君にはセイバーだけでもかなりの負担になるな…………三月()はランサーを加えて()大丈夫そうか?」

 

「………………………え?」

 

 そこでイリヤも凛同様に固まる。

 

「あ? 何だ嬢ちゃん、もう先約がいたのか? 誰だよ?」

 

「いや、私だが?」

 

「「「「「…………………………………」」」」」

 

 皆が静まり返り、これを見た三月は────

 

「────テヘペロ、契約しch────」

 

 冷た~い目をした凛とイリヤ、士郎と慎二がアーチャーを見た。

 

「────いや、その…………私も言うのもなんだが恐らくランサーの性格はイリヤとは合わないだろう? それに魔力量の問題も────」

 

 士郎より多少は空気が読めるアーチャー(英霊エミヤ)だった。

 が、結果はご覧の通りである。

 

「────どうでも良いが早く契約してくれ────うおおおおお?!?! もう足が無くなって来やがった?!」

 

 ワイヤワイヤと一瞬騒がしくなったものの、アーチャーの言うとおりに効率と魔力量を考えた結果、セイバーが凛と契約し、アーチャーと契約した三月はそのままランサーとも契約をした。

 当初、アーチャーは士郎やイリヤ辺りが騒ぐかと思ったが不安は憂鬱に終わった。

 士郎は────

 

「────え? その話なら俺よりセイバーとしてくれ。 もともと俺は彼女に聖杯を勝たせる為に契約したんだから彼女の意思を俺は尊重するよ」

 

 そのセイバーは────

 

「────あんなモノ(聖杯)が呪いと破滅しか撒き散らすことしか出来ないものであらば、もう一度破壊すべきモノです。 良いでしょう。 契約をしましょう、凛。ですが私は士郎との誓いはまだ接続したいと思っています」

 

 これに凛は了承し、誰も見ていない(と彼女が思っていた)時にガッツポーズをし『ウキウキダンス』をしながら「セ・イ・バー・ゲッ・ト♪ やった♪やったわよ~♪ お・と・う・さ・ま~♪」と不可不思議な歌を歌っていたのを士郎達は遠坂邸のキッチンで目撃した。

「まさに『うっかリン』だね♪」と後先考えずに言う三月の一言で見ていた皆が噴き出し、凛にすぐバレるのだが…………

 

 そしてランサーと言えば────

 

「俺ぁ、別に願いなんてものを『聖杯』なんぞにかけるつもりはねえ。 強ぇぇ奴と戦えればそれで良かったが、今はあの腐れ外道の綺礼だけは俺の手で殺さなきゃ気が治まらねえ。 奴は()()()()()()()()()()()()()からな」

 

 そこでランサーが語った内容は聖杯戦争開始の前に魔術協会から派遣された武闘派魔術師である彼のマスターは冬木市に着いた後、調査をして何らかの異常に気付き、監督者の言峰綺礼に協力を求めるが騙し討ちにあって左腕ごと令呪を奪われた。

 

「だから一つだけ約束してくれ。 俺にあの腐れ外道を討たせろ」

 

「うん、()()()()。アーチャーさんもそれで良い?」

 

「もとより言峰綺礼はこの期に及んでは単なるおまけだ、好きにするが良い」

 

「ヒュ~! カッコつけやがって、この野郎!」

 

 最初はイリヤがマスターになるという選択もあったが現状の彼女の体の負担などを配慮すると『マスター』ではなく『魔術師』としての後方支援を士郎と共にする事になった。

 

 慎二は『魔術師』に文字通り成ったばかりなので遠坂邸に桜とライダー、そしてセラ達と共に「待機」という名の留守をする事に。

 明らかに桜のそばに居たがる彼を引き離すのはアーチャーでも難しく、一緒に連れて行ったとしても出来る事が今の状況ではあまりなかった。

 

「それに、ここには衛宮君の家よりは強固に結界などを施しているからそう簡単に落ちない筈よ」

 

 と言う凛の推しで留守をする事に。

 

 今の状態の桜と言えば、とても戦場へ連れていける様子ではなかった。 

 

 と言うか論外だった。

 

 臓硯が何を彼女にしたのかは直接聞いてはいないが、明らかに過去のトラウマ以上の事があったのは誰の目にも明白だった。

 そしてライダーは勿論断固として桜から離れる事を拒んだ。

 

「もし離そうと思うのならば宝具を爆砕覚悟の上で躊躇なく使いますよ?」という『脅し』に聞こえた『本心』もかけられた。

 

「ではおさらいするとしよう────」

 

 アーチャーがもう一度出かける準備をする皆に方針を明らかにした。

 

 先ずは教会に行く前に魔術師の皆(慎二と桜と三月以外)の魔力を凛の秘蔵の宝石等を飲み込み、魔力を回復。遠坂邸を出来るだけ拠点として防御の仕掛けなどを施し、要塞化する。

 

 それが終わり次第、教会へ移動。 そして道中、アーチャーが遠距離攻撃で蟲を薙ぎ払い、ランサーとセイバーは士郎、イリヤ、三月を守りながら進む。

 

 教会が見え次第、可能であればアーチャーかセイバーが宝具で教会ごと『聖杯』を壊す。

 できなければ一人目が放った宝具の余波があるうちにもう一人が接近して、宝具を更に打つ。

 更に破壊できなければもう一人がもう一度宝具を打つ、といった具合のゴリ押しだった。

 その間に綺礼が生きていればランサーが宝具を使い、仕留める。

 

「────といった具合だが、異論はあるか? なければこのまま────」

 

「────なあ、もしかして俺がマスター達全員を担ぐのか? 嬢ちゃん達はともかく、野郎は趣味じゃ────」

 

「────ううん、()()を使う」

 

「「「「()()?」」」」

 

 三月が指さしたのは近くの駐車場にある車だった。

 勿論無免許の彼女のではなく、赤の他人達のだった。

 三月はテクテクと車の運転手側のドアまで行き、ドアと車体の間に三角形の板のような物をガンガンと力ずくで押し込み、隙間ができ次第針金を使って鍵を解除した。

 

「ほら、イーちゃん以外乗って」

 

 三月はそう言い、今度はハンドルの外側に取り付けていたキーを差し込む部分をM2散弾銃のストックを使ってキーシリンダーを取り出し、キーロックの部分を外して剥き出しになったキーシリンダーを再度差し込み、鍵を捻るとエンジンが掛かり、三月は車から出た。

 

「???? だから乗って?」

 

「「「「「………………………………………………………………………………」」」」」

 

 この行動が全て終わり、要した時間はざっと三分ほどで、士郎、イリヤ、凛、アーチャー、セイバーが呆気に取られていた。

 

「はっはっはっはっは! いやまったく、俺のマスターは頼もしいねぇ~! もっと早くに見つけて契約したかったぜ!」

 

「えーと、ありがとう?」

 

 約一人の豪快に笑うランサーを除いて。

 

「あー、三月? どうしてこんな事を知っているんだ?」

 

「??? ()()()()()()()』しただけだけど?」

 

「じゃ、じゃあさっきの三角の板を使うアイディアをミーちゃんはどこで見たの?」

 

「アメリカの空港署ドキュメンタリーで駐車場料金を払っていない車達をどうやって動かすか見せていたのを観た」

 

 これを聞いたランサーも流石に何かを思ったのかアーチャーを見て聞いた。

 

「なぁ、もしかした俺らのマスターってとんでもない奴か?」

 

「大丈夫、君も時期に慣れるさ」

 

「…………俺の女運がここでも発動するとは、末恐ろしいねぇ」

 

「全く同感だ」と内心同意したアーチャーだったが敢えて何も言わずにウキウキと運転席に座るイリヤと助手席に座る三月を見て青くなる士郎と凛に同情した。

 ちなみに騎乗スキルを持っているセイバーも運転は出来るのだがそうすると宝具を打てないのでその案は却下され、代わりにイリヤのドライブテクを以前見た三月が彼女を推薦した。*3

 

*1
第33話より

*2
第19話後半より

*3
第12話より




作者:コントはほぼ無しです。 楽しんで頂けたらお気に入りや評価、感想等あると励みになります。 宜しくお願いします。

三月(バカンス体):ちなみにこの車の開け方は実際前にアメリカの空港で働いていた作者の知人が撮ったビデオからそのまま取った方法です。いや~、日本とは大違いですね~。 色々と

作者:ではまた次話で会いましょう! ……………大丈夫かな、これ? もしかすると読み直して修正するかもしれませんが、その場合、次話の前書きとこの話のここ、後書きにて追記します!


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第38話 人間ビックリ箱

 ___________

 

 セイバー運営、イリヤ、衛宮士郎、アーチャー+ランサー運営 視点

 ___________

 

 

「きゃはははははは!♪」

 

 くたびれたコートを羽織って笑う金髪の小柄少女№1。

 

「「ぎゃあああああああああああああああ?!?!?!」」

 

 絶叫を上げ、シートベルトと車内の固定ハンドルを力いっぱいに握りしめる少年少女二人。

 

おおおぉぉぉぉ~~~~~???」

 

 気の抜けた感動(?)の声を出す金髪青年女性。

 

「アハハハハハハハハハハ! やっぱりこれ楽しいわ~!♬」

 

 そして無邪気に笑う銀髪の小柄の少女№2。

 

「なぁアーチャー」

 

「何だねランサー?」

 

「中から凄い声が聞こえているのに、何でお前はそんな『スカッとした!』みたいな顔になってんだ?」

 

「え?」

 

 暴れ馬の如く走る車の屋根の上のランサーが呆れた顔で、無意識に実に良い笑顔で笑っていたアーチャーに話しかけるとアーチャーの表情はキリッと引き締まる。

 

「お前、あの小僧(衛宮士郎)嬢ちゃん(遠坂凛)に何か恨みでもあんのか?」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、特に無いが?」

 

「へ、そうかよ?」

 

「そうだ」

 

 士郎達はイリヤの絶妙なドライブテクを楽しんでいた(?)。

 何度か士郎と凛は気を失いそうに(と言うか実際に気を失った時もある)なり、人生初の頭文〇D(イニシ〇〇・ディー)並みの運転を味わ(怖が)っていた。

 

 遠坂邸から教会までの道のりは決して短くはなく、直接行くのはどうしても冬木大橋を通らなければならない。

 が、遠坂邸からそうすると明らかに遠回りになってしまうのだが────

 

「ちょちょちょちょっとイリヤ?! このままじゃ未遠川の岸に着いちゃうわよ?!」

 

 ────車は直線を描くように最もダイレクトに教会へ続く道を通っていた。

 

「でもアーチャーが────」

 

「────このままでいいのだ、凛! イリヤ、岸まで着いたら一旦止めて待機! 三月君、魔力量はどうだ?!」

 

「バッチ良しよ~ん」

 

「アーチャー! どうするつもりなんだ?!」

 

 士郎の言葉でアーチャーは車の中を見て、笑いながら答える。

 

「何、簡単な事だ。 ()()()()()()

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」

 

 士郎、凛、そしてイリヤまでもが素っ頓狂な声を上げてランサーはカラカラと笑う。

 

「ほんっとお前らと居たら退屈しねえわ! で、どうやって渡るんだ?」

 

「そのまま川の上を走る。出来るか、三月君?」

 

「『最後まで希望を捨てちゃいかん。 諦めたら、そこで試合終了だよ』と、かの先生は言いました」

 

「ほう、それは誰だね?」

 

「スラムダ〇クの〇西先生」

 

「…………誰だそれは?」

 

「「「「アーチャーと同じく」」」」

 

「古い! 古いよ三月!」

 

 三月の答えに?マークを浮かべるアーチャー、凛、イリヤとランサー。

 そしてネタの事が分かり、ツッコミを入れる士郎。

 

「え? あ、そう?」

 

 川岸まで車が着き、三月が車から出て川の中に両手を入れる。

 

「つめた?!」

 

「そりゃあ、冷てえだろうよ」

 

「ランサー、確か君は()()()()()を使えるんだな? 三月君に見せてくれ」

 

「見せるって何を?」

 

「何って………()()()()()でこの川を渡れる氷の橋だが?」

 

「…………………………………マジか」

 

「「マジだ/です!」」

 

 ランサーの呆れ顔にアーチャーと(元気いっぱいな)三月が答える。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎達が乗っている車が氷の橋(ランサー&三月特製の共同作品)を渡っている間、凛の難しい顔に士郎は気付いた。

 

「……大丈夫か、遠坂? 顔色が少し優れないぞ?」

 

「そう……ね……」

 

「リン、私も結構ショックよ」

 

「え?」

 

「ミーちゃんが()()()()()も使える事に」

 

「いや、『人型ビックリ箱』に今更私は気をかけている訳じゃなくて────」

 

「────『人型ビックリ箱』ってもしかして私の事?」

 

「「「「当たり前だ/です/よ」」」」

 

「照れちゃうな~♪」

 

「「「「褒めてない」」」」

 

 士郎、凛、セイバー、イリヤと三月のコントの間、アーチャーは不満の顔が消えないランサーを慰めようとした。

 何せ彼が若干(と言うかかなりの)自慢の()()()()()を使っているのを三月が見て、彼女も()()()()()を行使し始めてランサーと共に川を渡る橋を()()()

 

 ただし、ランサーの扱う『ルーン()()』は厳密には師のスカサハから習った『()()()ルーン』。

 つまり神代レベルの威力が出る魔術であり、現代の並大抵の魔術師が扱うにはハードルが高すぎる代物である。

 

 これが頑張った遠坂凛や、アインツベルン最高傑作のイリヤであれば使える()()()()()()

 それを三月はほぼ初見で行使したのにランサーのプライド………とまではいかないかもしれないが、彼にはその事が()()()()()()()

 それは車の中にいた他の者達も一緒だった。

 

 ただ、三月を必要以上に刺激はしたくなかったので敢えて指摘しなかっただけだった。

 

「……………私が考えていた事は言峰の事よ。 アレでも一応兄弟子だったんだから」

 

「「「……………」」」

 

 急に黙り込む車内にアーチャーの声が聞こえた。

 

「凛、奴の事はあまり気にするな………と言っても無駄かも知れぬが私の言い分を聞いてはくれないか?」

 

「アーチャー?」

 

「奴と会い、話してみて私なりに彼の事を解析したのだが………恐らくだが奴は『()』を信仰している。それも、世間一般に共通認識としてある神などではなく()()()()()()()()()

 

「…………アーチャー、それは一体どういう事ですか?」

 

「何、簡単な事だセイバー。 『信仰』という『大義名分』の為に躊躇しない手合いほど厄介なモノは()()

 

 かつて『守護者』としていろんな種類の人を見て、『掃除屋』として活躍したアーチャーの言葉には()()があった。

 正に「宗教」の為に何でもする人達を見て、それらの相手をした事のある経験者の助言だったからだ。

 

「つまり言峰綺礼は今までよりも更に()()()()相手と言う事だ。 色々な意味合いでな」

 

「では彼は以前、キリツグがマークしていた以上の『狂人』と定義しても良いと言う事ですね」

 

「…………そうだなセイバー。 そういう事になる。 勿論、すべては奴が生きているという前提だがな」

 

「…………」

 

 未だに納得いかない凛の顔に、アーチャーがもう一度念を押すかのように言う。

 

「良いかね、凛? 奴は『狂人』だ。 もしそうと思えなくても()()そういう事にしておけ。 彼がお前の兄弟子でも、彼を『理解しよう』とする行為だけはやめておけ」

 

「…………そうね…………ありがとう、アーチャー。 貴方にはずっと聖杯戦争が始まってから助かっているわ」

 

「何、君のような魔術師に召喚された事が私にとって全ての始まりだからね。 これぐらいお安い御用だ」

 

「……………おう運転手の嬢ちゃん、このまま岸に乗り上げて教会まで突っ走れ。 ()()()()()()()()()()

 

「ランサー?」

 

 セイバーが屋根からくるランサーの声に反応し、アーチャーが新都の方を見ると彼の表情が強ばった。

 

「そうだな。 ランサーの言う通りだ。 ()()()()()()()()

 

 士郎、凛、イリヤと三月がサーヴァントたちは何を言っているんだろうと思いながら、新都の岸へと乗りあがり、車をそのまま走らせた。

 

 運転手がイリヤのように『魔術師』に成り切れる者が幸いした。

 

 何故なら他の者ならば思わず車を止めていたかも知れない。

 新都の中は地獄へと変わっていた様子に。

 

 一言でそれを表するのなら『阿鼻叫喚』。

 

 正に災害の映画やニュースなどで出てくるパニックの暴動や様々な犯罪が見渡す限り行われていた。

 

 周りは炎。

 そして沢山の声が響いていた。

 男性、女性、幼子、赤子や、犬、猫の動物たちが全て例外もなく音を上げていた。

 

「そんな?!」

 

「新都が…………」

 

「ッ」

 

 カチリッ。

 

「あれは『聖杯の呪い』の影響よ。 このまま教会を目指すわよ、皆」

 

 士郎と凛が「まるで映画の様……いや、それより酷い」と思っている中、三月の表情は固まり、『泥』を教会で見たイリヤは護身用に持たされた銃(グロック19)の安全装置を僅かに震える片手で解除した。

 

「ああ。 凛達は()()()()()()()()。 現況を打破する為には『聖杯』を()()が何とかせねばならん。 ここで十や二十の人々を救った所で、その十倍が死んでゆくぞ」

 

「クソ! 胸糞悪くなるぜこりゃあ」

 

 イリヤは車の速度を落としながら走らせ続け、止まって車や残骸、道に簡易なバリケードを立たせたような障害物を迂回する。

 

 これは何かあった時に咄嗟の対応を取れる為と、『泥』と『蟲』の発生源である教会から新都内へと漂っていた空気が薄い場所をなるべく通る為だった。

 

 新都はほとんどオフィス街で夜遅かったが、僅かに残った人たちやそこに住んでいる者達はさっきイリヤが言った『聖杯の呪い』の精神汚染にも似た空気に当てられ、理性が無くなりかけるかすぐさま狂気に陥り、暴行に出る。 

 

 周りから聞こえる悲鳴や叫び、言語にならない笑い声や鳴き声はまさに()()だった。

 

「10年前と同じだ」

 

「そうだな」

 

「衛宮君? アーチャー?」

 

「「『冬木大火災』の再来だ」」

 

 士郎とアーチャーが同時に言うと、凛は眼を見開き、外の状況を見て思う。

 

「(これが衛宮君や三月、アーチャー達が経験した地獄…………通りで………)」

 

 それは気丈な凛でさえも身震いするほどの光景を、士郎達が間近に実際に経験したと思うと、彼らの幼少期にどれだけ酷い影響をしたのか想像できるような気がした。

 

「おいお前ら! 奴さん、来やがったぜ!」

 

 ランサーが笑いながら『獣』の顔に変わった。

 

 車の中の士郎達が前を見ると────

 

 

 

 

 

 

 

 ────『暗闇』の中を覗く様な感じだった。

 

 いや、正確に言うと道の横に立っている街灯が前の道から次々と()()()()()()

 

 これも正確ではなく、()()()()()()()()()()

 

 イリヤがハイビームヘッドライトを点けるとその()()の壁がブワッと一瞬引き、また車へと迫る。

 それは50や100程の数では無く、更に無数の()()()が道と街灯を覆い尽くすほどの群れが迫っていた。

 

「何だ、アレは?」

 

 そう呟いたのは士郎か凛か三月かイリヤ、またはサーヴァントの誰かだろうか?

 

 その闇はまるで全てを『黒』に染めるかのように必死に動き、中に爛々と赤く輝いていた瞳が有った。

 

 今度はイリヤもまた吐き気に襲われるほどの効果があり、唸るような()が聞こえた。

 

オ・ヲ・オオオォォォォォォォォォォ!!!

 

 それは何かの言葉か、鳴き声か、果たして意味のあるものだったのかさえ分からなかった。

 

 ただ一つだけ分かるのは、これは()()()()()()()()()の成れの果てという事だけ。

 

「何だこれは?! サーヴァントの気配がします!」

 

「なんとおぞましい! オレでさえもアレと似たモノに対峙した覚えはない!」

 

「け! 『影の国』を思い出させやがるぜ!」

 

 セイバーは車から出て、アーチャー達の後部トランクの上に乗り、三月は持っていたキャリコを士郎に渡した。

 

「兄さん、これを」

 

「え? あ、ああ」

 

「安全装置は親指の所のレバーを跳ねれば解除するわ。 あとは引き金を引くだけ」

 

 ガシャコ!

 

 三月が散弾銃の弾丸が装填されているかの確認をするとアーチャーが既に『投影』していた弓に剣のような矢を構えると剣は鋭く変形した。

 

「行くぞ! I am the bone of my sword────」

 

 ヒュン! ドゴォン!

 

 アーチャーが放った『偽・螺旋剣』が閃光のように大群の蟲達の中へと消えて、大爆発を起こし、幾らか蟲達を拡散させた。

 

「かっ飛ばせ、イリヤ!」

 

 ギャギャギャギャギャギャ!

 

 アーチャーの叫ぶ声が引き金となり、イリヤは言われた通りにアクセルを踏み抜く勢いで、車のタイヤはアスファルトの道路に最初は上手く噛み合わず、けたたましい音を出す。

 

「オラオラオラァ!」

 

「せぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

 アーチャーが次の矢を構え、前方に撃つ間にランサーが車の周りを彼の槍が器用に回りながら襲ってくる前方の足の速い蟲達を、そしてセイバーが横などから来る蟲達を切り落とす。

 

 その間、凛は乱れ撃つかのように『ガンド』を蟲の濃いところに強い一撃を撃って拡散させ、士郎はとにかく後ろから来る蟲達に対して銃を三月と共に乱射し、イリヤは蟲の死骸や()()()()()()()()障害物(死体)の跡などで車のコントロールを失わないように必死だった。

 

 前方はアーチャーが『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を使い薙ぎ払っている。

 だがこれはあくまで()()()()()()()だけだった。

 確かに蟲達を同時に破滅していっているが、数が圧倒的に多い。

 

 では薙ぎ払いに生き残った蟲達はどこに?

 それは勿論────

 

「数が多すぎる! 三月、次の弾倉!」

 

「次の銃を使って兄さん! 弾倉を取り替えるより銃を持ち替えるほうが早い!」

 

 ────車の後を追い、後方から集結して迫っていた。

 

 撃っても撃ってもキリが無いとは正にこれの事かも知れない。

 

 三月は後ろの席のクッションを無理やり引きちぎってトランクへと直接通じるトンネルを作り、中から()()()()なような物を取り出して、車から乗り出して肩に固定する。

 

「三月?!」

 

「左耳を塞いで遠坂さん!」

 

 ボシュウゥゥゥゥ!

 

 三月が()()()()()()()()()を撃つ。

 

「それのどこが()()()なのよ?!」

 

 あまりの非現実的な出来事の連続でツッコむ所がおかしくなった凛を三月は無視して、確かに彼女は見た。

 

「ロケットが?!」

 

 それはロケットの弾頭の爆発が増殖する蟲達に呑み込まれていったのを。

 

「そんな馬鹿な?!」

 

「なら────!」

 

 三月は焼夷手榴弾を二つ士郎に渡し、自分も二つ手に取る。

 互いに一瞬見て、ハリウッド映画のように同時にピンを口で抜き、同時にそれらを投げる。

 本来の手榴弾等ならピンを抜くのに約10ポンド(およそ4.5㎏)の力を使わなければピンは抜けられないように安全の為に設定してあるが、切嗣は使用者を三月と想定して、ワザと緩くしていた。

 

 ボボボボォン!

 

 ■■■■■!

 

 今度は焼夷手榴弾がハッキリと爆発し、先程のロケットよりも効果が見え、聞こえもした。

 

 だが蟲達の数は減るどころか、寧ろ増えていたような気がした。

 ただそれほどの距離を教会まで詰めていた実感が士郎達にはあったかも知れない。

 

 彼らの中に冷静な人がいれば。

 

「駄目ですリン! 捌ききれません!」

 

 セイバーが焦りを見せ始め────

 

「このままじゃ捕まる!」

 

 士郎は周りに迫り来る蟲達を見て────

 

「『アンサズ!』」

 

 いつもは「めんどくせーな~」とルーン魔術を使わないランサーでさえ小言を言わずに槍とルーンを使っていて────

 

「チィ! 数が多すぎる!」

 

 アーチャーは舌打ちをしながら自分の想定より蟲の密集度が高い事に愚痴を吐き────

 

「(せめて他の皆を────!)」

 

 三月は必死にこの状況打破を考えた。

 

 その時────

 

「セイバーに命じる! 『真名開放を無視し、全力の宝具を使用せよ』!」

 

 ────凛が躊躇なくセイバーに令呪を使用した。

 

 令呪が弾け、膨大な魔力の感覚がそこにいた皆が感じ、言葉が聞こえた瞬間士郎と三月と凛、そしてイリヤでさえも両手で耳を塞いだ。

 

 その瞬間、目を焼き尽くすような、圧倒的光と轟音と共に直線上の全てを塵にした。

 それは今から通るアスファルトがめくり上がった瞬間に光で消し飛び、道が平らのままになっていったほど。

 

『約束された勝利の剣』によって、道が示されたかのように前方の蟲達は見当たらず、まるで光の道が作り出されたように光の余波で道が輝けていたかのように見えた。

 

 この『奇跡』によって車は()()()()()()の道路の上を走っているかのようにスピードをグングンと上げていった。

 

 だが────

 

「効いていないですって?! いえ、回復が早すぎるのだわ!」

 

 ────瞬く間に(希望)(絶望)に呑み込まれていった。

 

「ええ、確かに直撃しました」

 

 炎々とした、セイバーの肯定の言葉。

 彼女の剣を握る手から軋むような音が鳴り、彼女の心境(悔しさ)を如実に表せていた。

 

「ただ、それでさえも消しきれない量が勝っているだけです」

 

『敗走』。

 

 その言葉が一瞬士郎達の脳内を過ぎっt────

 

「セイバー! 宝具を撃ち続けて!」

 

「「「「リン?!/凛?!/遠坂?!」」」」

 

 驚きに全員が彼女の名を呼ぶ。

 

「ここまで来てリタイヤなんて私が許さないわ! なら、ありったけの火力をバンバン撃ってゴリ押しよ!」

 

 凛自身、震えながらも笑いを浮かべながらそう強く言い切った。

 普通ならここで三月がおちゃらけた事を言い、場を和ますのだが彼女もあまり余裕がなかったように凛には見えた。

 

 そしてそれは的中していた。

 

 先程から【  】の声がかつてない程とてもうるさく、鬱陶しかったので三月は()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「ッ! 分かりました! 『エクス────』!」

 

 セイバーも凛に釣られ笑い、宝具を撃つ用意に入った。

 

「フ.やはり君は最高の魔術師だよ、()()。ならばオレ()も頑張らないとな?」

 

 アーチャーもニヒルな笑いを浮かべ、士郎と三月を見た。

 

「どうした二人とも? ()()()()()()()()()()?」

 

「ッ! やってやる! やってやるさ!」

 

「ええ! 遠坂さんの言う通りね!」

 

 士郎と三月がアーチャーの弓を『()()』して、『()()』する。

 

「なら私も“アンゼンウンテン”なんて気にしないわ!」

 

「「「「「(あれのどこが安全運転なんだ?!)」」」」」

 

 最後のイリヤの一言に皆の心が一つになった(ツッコミと心的な意味の二重に)。




少々短いですが取り敢えず投稿してみました。


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第39話 アルトリア、塗炭の苦しみ

若干R-15タグが発動し始めます。


 ___________

 

 セイバー運営、イリヤ、衛宮士郎、アーチャー+ランサー運営 視点

 ___________

 

 

 あれから数分、と言っても士郎達やサーヴァントの皆にすれば数時間ほどにも感じられる数分であった。

 何せ周りは蟲、暗闇、蟲、暗闇、蟲、暗闇だらけ。

 時間の感覚がおかしくなり始めるぐらいの『呪い』の中に皆は居た。

 

 その皆が明らかに疲労していて、汗を全員が搔き、車はボロボロの状態だった。

 

 凛が少なくなった魔力を補充する為に震える手で何個目になるか分からない宝石を飲み込もうとして、もう一つの手で胃の中身が外に出るのを阻止して無理やり体に飲み込ませた。

 

 士郎は腫れて赤くなり握力が低下していた両手で『投影』した弓に『投影』した矢を構えようとして、震える手が滑って矢を落とし、彼はそれを拾上げて、矢を射る。

 

 三月は狙いを定めず、矢を完璧に引く事もせずただただ矢を構え、弓を射る度に両手から滲み出ていた血が自分とあたりに撒き散らされる。

 

 ランサーも最初は雄叫びなどを上げていたのをやめて、それに使う元気を槍捌きとルーン魔術に振っていた。

 

 アーチャーは初めからほとんど無言だったのが更に静かになり、()()のようにただ行動していた。

 

 そしてセイバーは息を切らせ、髪を束ねていたシニヨンがほぼ解けて彼女の髪の毛が汗によって自身の顔や首に張り付いていた。

 ちなみに甲冑姿ではなくドレス姿だった。

 これは防御を捨てた訳ではなく、ただ甲冑に回す魔力が無くなっただけの事。

 

 イリヤは運転に全神経を使い、体の機能の事もありほぼアーチャーのように行動が機械化していた。

 

 その姿の皆は先程の凛によって引き出された空元気など微塵も残っておらず、ただ『消耗戦』に挑んでいた戦士達の姿そのものだった。

 

「……………()()()()()()()()()

 

「「「「「?!?!?!?!」」」」」

 

 突然セイバーが言い出した事に皆がギョッとして、息を止めた。

 こんな状況で車を降りれば、すぐに蟲達の餌食になってしまう。

 それはそこの誰もが容易に想像でき、それは人やサーヴァントも関係なかった。

 

「自殺行為だぞセイバー?!」

 

「そうよ! 何の意味も無いわ!」

 

「いいえ。 それは違います、シロウにリン。 こうすれば()()()()生き残れるチャンスがあります」

 

 セイバーの返事に士郎と凛の口がぴたりと閉じた。

 そこには『覚悟を決めた戦士』のセイバーが居たからだ。

 

 セイバーはもとより、死を覚悟していた身で契約を成し、聖杯戦争にその身を投じた。

 だがそんな彼女でも士郎や三月、アーチャーといった者達との触れ合いなどで若干『人間』としての心の在り方を取り戻していた為、久しぶりに「目前に迫る死はとても恐ろしいもの」と感じていた。

 

「死にたくない」。

 そう叫びそうになる。

 

「自分から死神の鎌に首を差し出したくない」。

 そう言いたくなる恐怖が確かにあり、騎士である身なのに無様に生にしがみ付きたくなる衝動もあった。

 

 それでも彼女(セイバー)はやはり騎士で、先程から宝具の連発を無理にしての死にかけで、それでも恐らく最優で今の弱った状態でも()()な彼女にしか出来ない役割だと士郎達も心のどこかで納得していた。

 

 一人を除いて。

 

「え? (何で────)」

 

 それは、久しぶりに胸の中が痛むほどザワザワしていた三月だった。

 

「…………惨い死に方かも知れんぞ、セイバー」

 

「覚悟の上です、アーチャー」

 

「それに俺との試合、どうするんだ? 放棄するのかよ?」

 

「申し訳ありません、ランサー」

 

「そっか、じゃあ令呪を全部使うわね?」

 

「ありがとうございます、リン」

 

「セイバー…………俺は………俺は────!」

 

「そのような顔をしないで下さい、シロウ。 もとより私は過去の人間、もう既に滅んだ身なのです。 貴方とミツキ達に会えて、私は本当に幸運な者だと思っています」

 

「セイ………バー………私、貴方と…………色々話をしたかった」

 

「イリヤスフィール………」

 

「もっともっとキリツグと…………お母様の話をしたかった………」

 

「……………」

 

「前みたいに雪ダルマを作りたかった! 散歩したかった! 一緒に遊びたい! 行かないで、セイバー! 私、お母様たちだけじゃなくて貴方まで失くしたら………私…………私────!」

 

()()()

 

 泣きじゃくるイリヤがビクッと跳ねて、セイバーは言葉を続ける。

 

「私も出来れば、かつてのようにもっと時間を一緒に貴方と過ごしたかったです。 夜でのババ抜きの勝敗も決めないといけなかったですしね」

 

「…………アレは貴方を素通りするかも………………しれないよ?」

 

 イリヤはそれでも僅かな希望にすがる。

 

「それは無いですね。 アレは『呪い』であると同時に『聖杯』。 サーヴァントである私を求める筈です。 その分の蟲達が私へと割くでしょう」

 

 だがセイバーの言葉にとうとうそれさえも一刀両断される。

 

「………………ウ……ウゥゥゥゥ!」

 

 イリヤがとうとう泣き始め、セイバーが優しく後ろから彼女の頭を抱きしめる。

 

 それは、泣く子供をあやす母親の姿に似ていて、三月の胸が更にザワザワした。

 

「貴方達は生きて、この状況に終止符を打ってください」

 

 そして最後にセイバーは未だに混乱する三月へと向く。

 

「ミツキ、私は貴方と会えて本当に良かったと思います」

 

 三月の耳朶にドクンドクンとした音がしていた。

 それは【  】の声さえも凌駕するほどだった。

 

 

 

 ────しんぞう の おと が うるさい

 

 

 

「貴方は士郎の次………いえ、最近は彼よりも鍛えがいのある弟子でした」

 

 胸のザワザワとした感じの上にジクジクとした痛みが広がり始める。

 

 

 

 ────むね が はりさける よう に いたい

 

 

 

()()()()()、ミツキ」

 

「ッ!!!」

 

 

 

 ────ああ……………………………………………………………………()()()

 

 

 

 セイバーはシートを蹴って、着地する。

 

 ────なにか いますぐ いわないと また こうかい する

 

 「~~~~~~~!!! セイバァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 三月はただセイバーと叫ぶ。

 

 既に遠くなっていて、聞こえているかどうかも分からない距離。

 だが三月は確かに見た。

 セイバーが儚い笑みをしながら一瞬、三月の方を見たのを。

 その姿の彼女は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────笑って(泣いて)いた。

 

 

 車がドンドンと進み、涙を流す者達(士郎とイリヤ)や感情を胸の奥に仕舞う()

 そして心底悔しそうな顔をする(アーチャー)が「救えなかった」とボソリと独り言を吐き出す。

 

 三月は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ただ唖然としていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんで?」と言う疑問がグルグルと彼女の中で回っていた。

 

 ___________

 

 セイバー 視点

 ___________

 

「ハァ! ハァ! ハァ────!」

 

 セイバーは地面に着地した瞬間、()()()()()()()()駆け出していた。

 

 彼女は皆の前では気丈に振る舞っていたが、彼女の霊核はボロボロで崩壊寸前だった。

 

 アーチャーも宝具を連発していたが、二人の負担の差は歴然としていた。

 アーチャーの宝具『ブロークン・ファンタズム』は彼の特性上、連発を可能とする上にそれを想定していた技である為、自己負担が圧倒的に少ない(弾数に一応限りはあるし使う魔力も高いが)。

 

 その反面、セイバーの宝具『エクスカリバー』はここぞという場面で敵を一掃する、使()()()()()()()()()()()()()()宝具。 

 

 しかもアーチャーとは違い、負担は全てセイバー自身に跳ね返る。

 

 凛と言う優秀なマスターがいて尚、無理をして『エクスカリバー』連発の代償は彼女にとって文字通り致命傷だった。

 アーチャーもセイバーの性格上、この事は想定したものの、彼の計算上ではもうとっくに協会に着いていた筈だった。

 

 だがまさか蟲達の増殖がここまで高い事と、『泥』が均等に広がって行く事無く、『聖杯』が彼らサーヴァント達へとまっすぐ来るような『執着心』を持っていた事を甘く見ていた。

 

 最後の『執着心』がセイバーの囮となる行動を後押しした事もあり、アーチャーが仕方なく彼女を行かせた理由の一つだった。

「ボロボロのサーヴァントを無理してでも連れていき、全滅するよりはそのサーヴァントが派手に動き出来るだけ多くの敵を引きつき、道連れにする」。

 

 何とも、()()()な考えだった。

 

 無論、ランサーもこの囮に使えたのだが彼の『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』は接近戦用。

 一応投擲も可能だが、アーチャーが教会で放った剣達が『泥』と接触した瞬間、黒く変質して飲み込まれた事を配慮すると、恐らくランサーは一度の投擲で槍を失うだろう。

 槍の失ったランサーの戦力的減少は無視できないほどであり、それならばやはりセイバーと自然と矢先が行く。

 

 アーチャーも自身の幅広い、()()()()な能力がセイバーよりもこの先も需用があるのをサーヴァント達は理解していた。

 

「ハァ! ハァ! ハァ────! (キリツグは()()を阻止する為に私に令呪を使ったのですね! 今なら納得です!)」

 

「地面そのものが蠢いているのでは無いだろうか?」という錯覚にも見える程の蟲達の群れが走っている彼女に迫っていた。

 

 セイバーは近くのビルの屋上に魔力放出で一気に上がり、各場所で燃え盛る新都を眺めた。

 

「(カムランを思い出させる。 あの時も私は独りになった。 だが今は…………)」

 

 セイバーは胸に空いた手を置き、確かに鼓動する胸と、温かい感覚に包まれていたのを感じる。

 

 それはマスター(リン)の令呪の魔力だけでなく、『家族の団欒』や『人としての在り方』などの思いでが────

 

「────ッ! 来たか!」

 

 一瞬思いに浸りそうになったセイバーが来たる()に備えて戦闘態勢に入った。

 

 ビルの屋上によじ登った()()は夜の闇より深い漆黒がセイバーと接触する寸前にブワッと、まるでそのまま飲み込もうとしているかのように動く。

 

「来い!」

 

 セイバーはギリギリまで待って、引き寄せた後に『風王結界(インビジブル・エア)』を展開して、近くの蟲達を正面に凝縮した。

 

「『エクスカリバー』!!!」

 

 包囲しようとしていた蟲達を宝具の射程範囲内に納め、一気に焼き払う。

 またも幻想的な場面が光によって作り出される。

 その景色にセイバーはちらりと士郎達の車の方向を見て、笑みを浮かべる。

 

 やはり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ゴホッ」

 

 ゴポリと血がセイバーの唇の隙間からだらだらと零れ、彼女は左手で脇腹に空いた大きな穴を押さえた。

 

「(やはり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

≪ある程度魔力を確保し、聖杯の疑似降誕。 それを利用して、残っているサーヴァントを殲滅し、真に聖杯を確保する。それが少なくともそこの間桐臓硯()目的だ≫

 

 それはアーチャーが説明した、教会での言峰綺礼の言葉だった。

 そしてこの『蟲』と『泥』が『間桐臓硯』と『聖杯』ならば、サーヴァントである自分を優先して襲いに来るはずとセイバーは睨んで、アーチャーは()()()それを隠そうとしていた事にセイバーは気付いていた。

 

「(恐らく、彼の事ですから私がこのような行動に出るのを防ぐ為ですね)」

 

 そして案の定、それは的中していた。

 アーチャーの思惑も、()()()()だったモノにも。

 

「(戦力を分散し、別個の場所に潜ませるとは………その状態になりながらも、考えたモノですね)」

 

 何もセイバーの正面に立つ必要はなく、地面から這い出る事や第二、第三派とずらして波状攻撃をかければ良い。

 

「『エクスカリバー』!!!」

 

 特に、向かって来る敵をまとめてなぎ払う戦法しか取れない彼女のような者にとっては。

 

「ハァ…………ハァ…………ハァ…………(シロウ、リン、アーチャー、ミツキ、サクラ、ランサー、ライダー、そしてイリヤ…………出来る事ならば……………)」

 

 周りからまた蟲達が押し寄せ始めて、股を着きそうになる半透明のセイバーは何とか踏み止まる。

 

「『エクス────!』(誰かの為に命を賭けられる者と言う『騎士』ではなく、シロウの言っていた『自分の周りの者達を守る』────)」

 

 セイバーは宝具開放の雄叫びをもう一度上げ、剣を振るう。

 

 足と下半身が消え────

 

「『────カリバー』!!!(────『正義の』……………『味方』に…………)」

 

 ────胸元と腕までもが消え、剣を振るい切られる頃には手首しか残っていなかった。

 

 だがそのおかげで剣から放出される風の刃に、その場に集まった蟲の全てが切り裂かれ、聖剣は屋上に突き刺さり、()()()へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………はッ?!」

 

 セイバーがビクリとして、()()()()()()()()()()

 

「ここは……………()()()()()()?」

 

 そこは数々の騎士の死体や戦争の武具らが地面を覆っていた、セイバーにとっては()()()()()()であった。

 

「そうですか、私は()()()のですね…………」

 

 彼女は生前、生きている内に契約した為、聖杯戦争で負ける度に()()()()の時まで戻る。

 以前、切嗣に令呪を使われて『聖杯』を壊し、自身が消滅した時も()()()()()()()()

 

 だが────

 

「(────妙だ、()()()()()()()()()()()?)」

 

 そう、本来ならセイバーがここで気が付くのはモードレッド卿が聖槍ロンゴミニアドを持ったセイバーを打ち取った直後に戻る筈。

 

 なのにセイバーに死にながら彼女を罵るモードレッド卿の姿はおろか、セイバーの手には聖槍ではなく()()が握られ、甲冑姿ではなく先程までのドレス姿だった。

 

「これは、一体────?」

 

『やあ、君が“セイバー”かい?』

 

 男か女、果ては大人か子供と言った、様々な声帯が混じりあったような声がどこからともなく辺りに響き、セイバーは戦闘態勢に入る。

 

「誰だ貴様?!」

 

『あれ? 視えていないのか? 少し待ってくれ────』

 

 暴風のような風が風吹、セイバーは左手で顔を覆い、流れが止むとセイバーの前には────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()

 

「誰だ、貴様?」

 

『あー、こうなるか。 ま、いいや。 君は“選定のやり直し”をしたいんだっけ?』

 

 セイバーの肩がピクリと反応すると、影がニヤリとした様な気がセイバーにはした。

 

『“選定のやり直し” ぐらい、させてあげるよ?』

 

「…………さっきの問いをもう一度だけする。 貴様は誰だ?」

 

『あれ? 視て解からない? 君達が考えている“()()()”………の様なモノさ』

 

「ほう? それを私がそう易々と信じると思うか?」

 

『信じる、信じないは君の自由さ。 さっきのは確認だけ。 では君が何時でも()()()戻りたい時はそう()()()()()。 では、行ってらっしゃい』

 

「貴様、待て! クッ!」

 

 影から眩い光が一気に発し、セイバーは目を閉じるのをギリギリまで我慢したが結局瞑ってしまう。

 

 そして気が付けば────

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────目の前には()()忘れも出来ないメイガス(魔術師)と、石に突き刺さった()()()()があった。

 

「なッ?!」

 

 セイバー────いや、()()()()()は驚いて自分の手を見る。

 

 そこには()()()()()()の、()()()()()()()()()()細い手があった。

 

「ん? 今更手の汚れを気にするのかい? 変な子だね、君は」

 

 フードを被ったメイガス(魔術師)が不思議に思い、()()()()()に言葉をかける。

 

「貴方は………()()()()…………なのですか?」

 

 メイガス(魔術師)がバッとアルトリアを向く。

 

「ッ! いやはや参ったなぁ、これは! 僕は名乗った覚えはないんだけどな~…………どれどれ………………何と?! 君は()()()()()()()()()()()()()()?! う~ん、これは本当に困ったぞぉ~? ()としてはこの事は面白くて面白くて堪らないんだけど、()としては先のウーサー王との約束があるしな~………………う~~~~ん……………」

 

「ハァ…………貴方は変わらないのですね」

 

「うん? うん、まあ…………僕も色々あるからね……………決めた! ()()()()()()()()()()! 何せ、両方とも面白そうだからね! ただまあ、一応契約違反となるからそれを手に取らなかった後()()は無関係だ。 僕は他の地にでも行って来るさ」

 

 アルトリアは笑みをしながら────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『選定の剣』に背を向けた。

 

「そうか、君は別の者が王をやれば上手くやれると思うのか」

 

「少なくとも、その可能性はあるでしょう」

 

 こうして()()()()()()()()()()にならず、余生を生きる事となる。

 

 それから年数が経過し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────統一されなかったブリテンは滅びの一途を辿った。

 

『選定の剣』を取らなかった日から未だに内乱や、視野の狭い領主達は手尾を取らずに自らの武勲の為に団結せずに外来する敵に応戦し、各個撃破されていった。

 

 それは、アルトリアの住んでいる場所も例外ではなかった。

 

「ぐああああああ?!」

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!」

 

「クソ、女のくせに強い!」

 

「こいつが噂の『女騎士』か!」

 

 そしてブリテンは滅んでいく中、アルトリアの村は夜襲をかけられ、襲われる中で抵抗をしていた。

 

 幸い生前……………いや、『アーサー王』として活躍していた技術や学はあったので女性と言うハンデがありながらもその地では屈指の女戦士として活躍した。

『弱きを助け、害ある強き者達から守る』。

 

 その姿は正に『騎士』だった。

 

 だが『王』ではなく、ただの『人』として生きた彼女には共に戦える仲間は存在せず、最終的に圧倒的数によって押し潰される。

 

「グッ!」

 

 右手を手首の先から失ったアルトリアは敵に串刺しにされた足と自身の返り血と土煙によって綺麗な見た目は見る目も無かった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、て………てこずらせやがって」

 

「へ、へへ………けどやっぱり噂通りの()()()だなぁ」

 

 深手を負っても目麗しい女性に育ったアルトリアは敵に捕まり、文字通り死ぬまで性欲と鬱憤の捌け口として犯され、暴行に会い続けられる日々が続いた。

 

 来る日も来る日も()()()()()()()()される体はドンドンと痩せていき、やつれたその姿はとてもアルトリアとは思えなかった。

 

 それは()()と言っても過言ではない有り様だった。

 

 体の痛覚や触覚といったモノはとうの昔に麻痺していて、彼女は最後の生気体から抜けて行き、重くなる瞼を閉じながら思う。

 

「他に方法が無かったのか?」と。

 

 そして彼女の視界と共に意識が薄れていく…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それを手にする前に、きちんと考えたほうがいい」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()



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第40話 ホラ-映画からコンニチワ

 ___________

 

 ライダー運営、セラ 視点

 ___________

 

 慎二は昔の様子と態度が変質した桜をライダーと共に気にかけていた。

 互いに少々の違いはあれど、桜の気遣う思いは一緒の二人。

 だが桜はただ無反応と無表情のままで、本当に思考があるのか疑い始めた時、彼女がついさっき、初めて自ら行動を起こした。

 

 それは部屋の隅で膝を抱え、小さくなり、ガタガタと震える事だった。

 

 これを見た信二は「空調が」どうの、「遠坂邸は空調設備が時代遅れ」だのと、場を和ませようとしてライダーは何も言わずに(と言うか何を言えば良いのか分からなくて)桜を抱き、彼女の異変を声に出す。

 

「サクラの体が異様に冷たい?」

 

「何だって?! 毛布を持ってくるよ!」

 

「…………………………(…………………………………………………違う)」

 

 そう桜は言いたかったが魂すら凍りそうな程の悪寒が彼女の言動を阻む。

 

 実はと言うと空調は完璧だった。 

 何せ(短期間とはいえ)イリヤが滞在する場所をあのセラが何もしない訳が無い。

 なので彼女によって遠坂邸はより快適な場所となって、現代最新機器に引けを取らないほどだった。

 愚痴はブツブツと言いながらもセラが弱った体に鞭を入れる姿と最初はうっかりなどでミスが多発した姿を物陰に隠れながら見ていた三月とアーチャーは内心ずっとハラハラしていたが。

 

 慎二が毛布を持ちながら戻って来て、ライダーと桜の両方にかけて桜をもう一度見る。

 

「(あのクソ爺の仕打ちを受けていた時みたいだ)」

 

 彼は昔から桜の事を気にかけていて今のような桜を見るのが苦痛になり以前、士郎に相談を持ち掛けた事があった。*1

 

「桜………(こんな時、()()()()さえ居れば…)」

 

 慎二の頭に浮かんだのは太陽と月の様な兄妹の顔だった。

 自分の事があまり好きではない彼にとっては「目標」の一人。

 そしてもう一人は────

 

「(────って、何を気落ちしているんだ僕は?! 今ここにいない奴らの事を考えてどうする?!)」

 

 慎二はもう一度未だにライダーの抱擁の中で震える桜の姿を見た。

 ある意味、本物の人形よりも余程()()()()()()()彼女。

 家族(遠坂家)と家族でいる権利を奪われ、引き取られた家の当主(間桐臓硯)にとっては蟲よりも価値の低かった彼女。

 

 そんな彼女を変えて、「自分(慎二)の事を信じ切ったあの兄妹ならどうする?」と考える慎二。

 

 その間の桜は股に顔を埋めて、目を強く瞑りながら幸せの日々を必死に思い出そうとしていた。

 だが思い出したくも無い事ばかりが脳内にて繰り返される。

 

 それは幼少の頃、幾度も幾度も蟲蔵に沈められる光景。

 最初は、泣き叫んでいた。 

 力の限り、意識を失うまで。

 声が出なくなったのは、いつだったか覚えていない。

 単にすぐに意識を切り離せられるようになったから叫ぶ体力を()()()に温存する為に。

 最後には虫を感情では無く、感覚でしか感じられなくなっていた。

 その時にはもう意識ではなく、思考を体から切り離していて、()()()()()()()()()()()()()()()()()、その時に感じる蟲が体の皮膚を這い回る感覚を()()()()()()()()()()

 

「……………………………………………(()()()())」

 

 桜が自分を襲う悪寒を蟲蔵に例えた途端、すんなりと()()した。

 

 似ているのだ、今感じている寒さが蟲蔵と。

 

 蟲蔵で諦め始めてから、何も感じなくなるまでの短い間の雰囲気と似ていた。

 

「────」

 

「サクラ?」

 

 桜が何かボソボソと言ったのをライダーは最初こそ聞き逃したが、二回目はもう少し声が高く、聞いた慎二とライダーは驚いた。

 

()()()()()…………()()()()…………」

 

()()()()()』。『()()()()』。

 

 ライダーは慎二の事を桜が『兄さん』と呼ぶ事はあっても()()()()()は聞いた事が無かった。

 

 そして桜の母は昔に亡くなっていた筈。

 

 一応ライダーは桜の兄である慎二を見るが、彼も分からなかった。

 慎二にとっては初めての事なので考えが混乱した。

 

 桜が助けを求めて()()()()()()が。

 

 桜自身も驚いていた。

 何せ人を呼んだ所で、その人が助けてくれる訳では無いと分かっていたからだ。

 何度も幼少期に父の時臣や母の葵、姉の凛に何度も助けを求めたがそれが叶えられる事は一度も無く、ただただ蟲蔵の毎日が続いた。

 その頃からの癖か、桜は助けを呼ぶ時に人を呼ぶ事は無くなった。

 

 そこで不意に桜、ライダー、そして慎二のいる部屋にココアの匂いが漂ってきた。

 

「全く、二人もいるのに寒がる人に暖かい飲み物一つ出さないとはどういう事です? それでも彼女を思う人達なのですか?」

 

「「あ」」

 

 そこにはお盆の上にマグカップが人数分乗せてホットココアを持ってきたセラだった。

 

「お前、左腕は大丈夫なのか?」

 

「気安く声をかけないで下さい、この小物。 私はホムンクルス、痛覚の遮断など容易い事です」

 

 ココアを取った皆がすすり飲むとその場の空気が少し軽くなった……………様な気がした。

 だが確かに気分は幾分良くなった。

 

「……………………あり………………がとうございます」

 

「いえ、お嬢様の大切なご友人ですもの。 お安い御用です」

 

 桜のか弱い声にセラはニコリと笑った。

 今のセラは以前泣きじゃくったイリヤと、現在の桜の状態を連想していた。

 

「しっかし大丈夫かね、警察の奴ら?」

 

 ちなみに一時間ほど前からパトカーのサイレンやヘリコプターの音が引っ切り無しに辺りに聞こえていた。

 これも当たり前と言えば当たり前の事だった。

 何せ『聖杯』の異常は物理的干渉だけでなく、精神汚染もしているので公安機関が動かない訳が無く、十年前からの教訓もあってか彼らの反応は早かった。

 

 勿論彼らに何か出来る問題ではないが新都で起きている暴動や狂人達の包囲と確保ぐらいは出来るし、現に彼らは冬木大橋にて検問を敷いて新都から逃げてきた正気を保っている市民達の誘導を行っていた。

 

「ハッキリ言って彼らに期待する事自体無意味です。 こんな事態、()()()()()()()()()()()()()()等ではありません」

 

 慎二の言葉をすっぱりと一刀両断するセラ。

 

「ですがお嬢様達が何とかしてくれるでしょう。 我々は、彼らが気持ち良く帰って来れる様に万全のお迎えの準備をしましょう」

 

「セラ……………さん……………(………………そうだ。 私の周りには頼れる人達がいるんだ………昔の頃じゃ────)────ヒッ?!」

 

 ガシャン!

 

 桜が更に青ざめながら手のマグカップを落として自分の体を抱きしめると、外から異様な音が聞こえてきた。

 

 ギジギジギジギジギジギジギジギジギジ!

 

 それは金属を無理矢理曲げるような、電気の配線がバチバチと火花を飛ばすような音が混ざり合ったものだった。

 

「な、何だこの音?」

 

「あ……………あああ……………」

 

「サクラ? 一体────」

 

「────ワカメと言いましたね貴方。 すぐにここから出る準備をしなさい」

 

 セラはただ事では無い、そして危険な事態であると肌で感じ取って慎二に真剣な顔で言う。

 

「分かった!」

 

 遂に『ワカメ』呼ばわりを否定する事もしなくなったワk────慎二は部屋を出て、すぐに人数分のリュックを持って帰って来た時には音はどんどんと大きくなって行き、比例して悪寒も増して、今は桜以外の全員がそれを感じられるようになった。

 

 そして次に聞こえてきた()に文字通り桜以外の全員も血の気がサァーッと引いていった。

 

 サァァァァァァァァァクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

 ライダーは問答無用で桜とセラを抱き、慎二を髪の毛で引っ張りながら二階の部屋の窓をそのまま突き破り、寒い夜へと出ると後方の遠坂邸で自分達がいた部屋と、その下の階の部屋が()()に粉砕された。

 

 それは()()()()()を思わせるような、真っ黒い()にギラギラと真っ赤に輝いていた無数の瞳がそこにあった。

 

 強い視線を感じた桜は無意識に()()を他の皆の驚愕する顔で見た。

 これにライダーも初めて明らかに表情が変わり、次の事でさらに驚愕へと彼女の表情が変わった。

 

 ドォォコへェェ行クツモリジャァァァ? サァクラァァァァァ?

 

 そのひび割れたような()()()()()()()()調()と共に慎二とライダーがポカンとしてその()()を呼ぶ。

 

「「爺さん?!/ゾウケン?!」」

 

 そして二人の声が引き金のように、桜はただ涙を流しながら両手で耳を塞ぎ、体は更に震えて彼女は力いっぱいにただ叫んだ。

 

 顔をこれ以上なく『恐怖』に歪めながら。

 

 「嫌アアアアアアアァァァァァァァアァァアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ────!!!!!!!」

 

 姿形は違うとはいえ、桜から全てを奪い、全てを支配し、()()()()()()()()()()()()()、自分を強引に思い通りのままに動かせて友のイリヤとセラをライダーに襲わせて拉致させて、自分から()()()を搾り取った張本人が正に化けて出て来た。

 

 それは桜にとって『間桐』という恐怖の家の『怨霊』に他ならなかった。

 

 「────イヤアアアアァァァァァアァァアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 クカカカカカカカカカカカァァァァァァ

 

「何とおぞましい化け物?!」

 

「この! 死にぞこないの、クソ爺が!

 

「皆さん、しっかり捕まっていて下さい!」

 

 逃げ惑う桜を弄ぶ()()()()()()は間違いなく臓硯だった。

 

 ライダーは全力で冬木の家の屋根や街灯を飛翔して、屋根に穴が開こうが、街灯がひしゃまげようがただ全力で桜をあの()()()()()()()から遠ざけようと全力を尽くした。

 

 

 ___________

 

 アーチャー+ランサー運営、イリヤ、衛宮士郎、遠坂凛 視点

 ___________

 

 セイバーと別れた後、士郎達から彼女に蟲の()()が向かい、彼らはそのままひと時の安息で出来るだけ息継ぎをしながら外人墓地の敷地外へと着き、そこで彼らは余儀なく車から降りる事となった。

 

 外人墓地の外の道路で事故にあった自動車達や吹き飛んだビルの破片などでそれ以上は車が通れなかった。

 下車後、士郎達はランサーを先頭に教会へと駆け足で移動する。

 

 さっきまでの音が嘘みたいな静けさで皆の耳朶でキィーンと耳鳴りが続いていた。

 

「…………怪我は無いかね、三月君にイリヤ?」

 

 運動が得意とは言い辛いイリヤと、同じく小柄な三月を抱え上げたアーチャーが少女二人に声をかける。

 

「私は体がヘトヘト。 でも大丈夫、ミーちゃんは?」

 

「頭が痛いし吐き気がする。 まさかリアルでサイレ〇トヒルとバイ〇ハザードを同時に経験するとは思わなかったわ────」

 

 『お兄ちゃん!お母さん!!!』

 

「────ん? イーちゃん、何か言った?」

 

「え? ううん、何も言っていないわよ? どうして?」

 

「う~~~~ん…………………()()()()()()()()()()()()()

 

 アーチャーとイリヤ、士郎と凛の動きが一瞬止まって腕組をしながら唸る三月を見て、ランサーが呆れ顔で止まった皆に振り返る。

 

「あ? 何だおめぇら? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは『影の国』という()()じみた地を生き抜いて師匠の『スカサハ』の超超超超スパルタ修行(殺し合い)を乗り越えたランサー(クー・フー・リン)だからこそ言えた事だった。

 

「…………今だから言うけど、この子────」

 

「────だから()()()()()()()って言ってんだよ、俺は。 マスターのこいつが『()()()』ってのは付き合いの短い俺も分かり切っている。 けど()()()()()()()? 目的を間違えるんじゃねえ、今は身近で確かな危機を叩き潰す方が先だろうが? アーチャーもギスギスした殺気を引っ込めろ。 俺はマスターを()()も失いたくねえからな、()()()()()()()()()? んで、マスター? 聞いた声は何て言った?」

 

「え? え~と…………分からない。 上手く、聞き取れなくって………ごめん………ぁ」

 

 ランサーが何時の間にか反転して、三月の頭を撫でた。

 

「な~に、謝るこたぁねえよ! 寧ろそんな小せえナリで良く今まで耐えているぜ! そこの嬢ちゃんと歳あんま変わんねえだろ?」

 

 ランサーがいつぞやのアーチャーと同じようにイリヤと三月を見比べ、今度はプックリと顔を不満に膨らませるイリヤだった。

 

「あの、私これでも兄さんと遠坂さんと同い年なんですケド」

 

「あん?」

 

 ランサーが士郎と凛、そして三月を互いに見る。

 

「………………………マジか」

 

「「「マジだ」」」

 

 ランサーの問いに士郎、凛とアーチャーが答えて、ランサーはジッと三月を見る。

 

「??? 何?」

 

「いや何。 お前の体の肉付きからてっきり十歳かそこそこぐらい────」

 

「────だあぁぁぁぁぁぁ!アーチャー、私を離して! あのヒョロンとした()()を引っ張らないと気が済まないわ!」

 

()()だぁ? こいつぁ髪の毛だっつーの!」

 

「うるさい()()()()()!」

 

「「「「ブフ」」」」

 

 士郎、凛、アーチャー、そしてイリヤが宙で暴れる三月のランサーを『()()()()()』呼びに噴き出し、「まるで犬だ」と同時に思った。

 

 ランサーとしては────

 

「おいマスター。 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────()()()()()を一瞬三月に放って彼女を黙らせた。

 

「…………すまねえが………今のは生前の俺にとってあまり良い思い出が無いあだ名でな………」

 

「ごめん………知らなかった」

 

 アーチャーの腕でシュンとした三月はどこか借りられた猫の様子だった。

 

 それを見ていた士郎達は何とも言えない気持ちに包まれ、緊張した心を解してくれた。

 

「さて! 行くかね諸君!」

 

 この場の流れを利用し、アーチャーは柄にもなくトーンの高い声で言い切った。

 

「何かアーチャーさん、登山ハイカーガイドみたい」

 

「あら、それも悪くないわね? こう、副業として」

 

「へ! こんな奴が『ガイド』だぁ?」

 

「あ、それなら()()()()()は────」

 

「────おいちょっと待てマスター、今のは何だ?」

 

「あだ名」

 

「…………………あー、何でだ?」

 

「だって『ランサー』、何て味気ないじゃん」

 

「だからって、なんで『ちゃん付け』何だ?」

 

「え?」

 

「いやいやいや! そんな『ハ? こいつ何言ってんの?』みたいな顔されても────」

 

「────ランサー」

 

 そこでアーチャーの声にランサーが彼を見ると────

 

「────気にしたら負けだぞ?」

 

 ────アーチャーが実に良い笑顔を浮かべていた。

 

「お前ぜっっっっっっっっったいあの夜の事、根に持っているだろ?!」

 

「さあ? 27回も干渉・莫邪が壊された事など、とうの昔に────」

 

「────シレッと誤魔化すなよお前! 数まで覚えていやがって!」

 

 アーチャー&ランサーコントで沈んだ心はどこかへ行き、士郎達は教会へと外人墓地を進む。

 

 その中、イリヤは内心複雑な思いばかりをしていた。 決して表情には出さないが。

 

 元を辿れば、今の状況は大きく少なからずイリヤが原因と言っても良い。

 何せ初めにギルガメッシュに『聖杯』が強奪しそれを暴走、次に綺礼と臓硯がどこで手に入れたか分からない『聖杯』を手に入れ、イリヤの魔術回路と魔力を足して疑似降誕された。

 

 その『聖杯』を次に綺礼が『()()()()()()()』なるサーヴァントを溢れさせて、間桐臓硯を取り込めと命じ、さっきまで彼らに襲い掛かっていた蟲達へと変わった。

 

 御三家の一つ、アインツベルンの悲願の希望を持ったイリヤがまさかこんな事になるなんて想像しなかった。

 と言っても、誰がこのような事態を想像出来ようか?

 

 シュゴォォォォォォォォ!!!

 

 士郎達は上空から聞こえる轟音に反射神経で上を見るが遅かったのか、何だったのか見えなかった。

 

「…………F-15戦闘機?」

 

「ッ?! 見えたのかマスター?!」

 

 三月のボソリとした疑問にランサーが驚く。

 

「自衛隊のドキュメンタリーで今のジェット音を聞いた事あったから………」

 

「…………なあ、アーc────」

 

「────諦めろ、ランサー」

 

 ___________

 

 公安機関、自衛隊 視点

 ___________

 

 

 士郎達は知る余地もないが、今彼らの上空には自衛隊のF-15戦闘機達が近くの基地からスクランブルが掛かり、アフターバーナーをかけて冬木市へと到達した。

 

 これは冬木の公安機関からの報告と、冬木市内にいた魔術協会関係の人物が基地の指揮官に要請を出したからである。

 

 広がる『泥』と『蟲』に火が聞くと聞いて彼らの指揮官は(これまた魔術協会の圧力で)急遽F-15戦闘機のMk 82爆弾をナパーム弾に変えた。

 勿論これは国際違法になる為パイロット達には駆除系の熱気化兵器と言われていた。

 

 ただまあ、パイロット達も冬木市に親族のいる者達からの連絡で「怪獣が襲って来ている」と聞いた瞬間十年前の出来事を連想して半分恐怖、半分『怪獣退治』に胸が高鳴っていたが。

 それも一人の怪獣オタの「怪獣映画に出てくる軍って大逆転するか全滅するかのパターンだな」と言った一言に所為でますますそうなったのもあった。

 

 本来なら聖堂協会も動く筈だが監督役の言峰から連絡が全く無いのが彼らにとって不可解だったので、慎重に動く事に徹した。

 元とはいえ、代行者としてとびっきり優秀な彼が連絡も出来ずに散ったとなると事は一大事で、代行者達や騎士団員達に大至急、招集の連絡をかけている最中だった。

 

 警察などの機関も、新都の深入りはせずに正気を保った市民達を狂気に落ちた者達から守り、後から到着する自衛隊達の援軍まで場を持たせようとした。

 本来ならいがみ合うかも知れない上層部同士が珍しく事を円滑に進め、出し惜しみをしなかった。

 

 そこで先陣隊であるF-15戦闘機のパイロット達は目撃する。

 

 冬木市の西側、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()が見え、北へと向かっていたのを報告すると基地から詳しい事が視える様に低空飛行を行えという命令が出る。

 

 彼らはそれが桜達を追う間桐臓硯だと知らずに自ら近づいて行った。

 

 季節は冬だがこれが「飛んで火に入る夏の虫」になるのだろうか?

 

 それとも彼らは『大逆転』するのか?

 

 歯車達はただゆっくりと動く。

 

*1
第5話より




作者:一応自分なりに頑張りましたが…………ちゃんと伝わるかどうか不安です。

ラケール:怖いよ~~~~~~~~

マイケル:抱きつくな! 胸が当たっているだろうが?!

三月(バカンス体):それ半分ワザとよ?

チエ:やはりあの外道は死、あるのみだな

ウェイバー(バカンス体):チ、チエさん? なんか怖いです………

ライダー(バカンス体):おお! 何と言う覇気! 余も身震いするほどだわい!


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第41話 ReTry Again, [That] Fated Night

題名の意味は“[あの]運命の夜、またも[到来]」”です。


 ___________

 

 セイバー 視点

 ___________

 

 

「それを手にする前に、きちんと考えたほうがいい」

 

 ()()()()()の目の前には()()メイガス(魔術師)と、石に突き刺さった()()()()()()あった。

 

「………………え?」

 

 アルトリアは驚いて自分の手を見る。

 

 そこには()()()()()()で、()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()、綺麗な肌をした手が()()あった。

 

「ん? 今更手の汚れを気にするのかい? 変な子だね、君は」

 

 フードを被ったメイガス(魔術師)が不思議に思い、()()()()()に言葉をかける。

 それは、()()()()()()()()()()()()()

 

「マーリン…………ですよね?」

 

 メイガス(魔術師)がバッとアルトリアを向く。

 ()()()みたいに。

 

「ッ! いやはや参ったなぁ、これは! 僕は名乗った覚えはないんだけどな~…………どれどれ………………何と?! 君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?! う~ん、()としてはは面白くて面白くて堪らないんだけど、()としては先のウーサー王との約束があるしな~………………う~~~~ん……………」

 

「ふざけないで下さい!」

 

 アルトリアはマーリンに攻め寄り、彼の胸倉を掴む。

 

「これは貴方の仕業か?! マーリン!」

 

「わわわわ! ぼぼぼぼぼ暴力反対~~~~~!!!」

 

 アルトリアが拳を作って────

 

「わ! 違う! 断じて違う! 何の事かさっぱり分からないが違う!」

 

 あまりの必死さにマーリンが(珍しく)本当の事を言っている事にアルトリアは気付き、彼にさっきまでアルトリアが経験した()()の事を話す。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ふ~~~~む、おもs────じゃなくて悲惨な人生だったね、うん! うわああああああ! 拳はやめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「マーリン、これはどういう事でしょうか? 私は…………夢を見ているのでしょうか?」

 

「それならそれで私はお腹一杯になる自信があるよ? でも残念ながら夢だとしたらさっきの君の初夜の話も────」

 

 バキッ!

 

「────アグラアアアアアアァァァァァァァァ?!?!?!」

 

 真っ赤になったアルトリアの全力右ストレートがマーリンの顔面に直撃して彼は地面に転がり回る。

 

「忘れてください! いえ、忘れさせます!」

 

 そう、アルトリアは現在になる前は人並みの幸せを満喫していて、夫まで作ったのだ。

 ただ『アーサー王』として戦の癖が残っていたので家のパワーバランスは彼女が常にトップだったが。

 

「待って待って待って待って! もし君の話した事が本当だという事は、今の君は大魔術の対象真っ最中間違いないという事…………………かも知れない!」

 

「次は左を────」

 

「────乱暴だな、君は?!」

 

「では10秒だけ待ちますから説明を。 10,9,8────」

 

「だぁぁぁぁぁ?! だから君はもしかするとその『願望機』とやらに君が望んだ『やり直し』をさせられているんじゃないかな?!」

 

 そこからマーリンあらゆる可能性をアルトリアと話し────

 

「────では結局は、さっきの私は『個人』として生きていたので限界があったという事ですか」

 

「そうそう。 だから君が王になりたくないのは…………まあ正直に言って僕にはわからないけど、『個人』に出来る事が限られるね」

 

「なら話は簡単ですね────」

 

「────え?」

 

 アルトリアは『選定の剣』に近づくとマーリンが声をかける。

 

「それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ?」

 

 アルトリアは笑いを浮かべながらマーリンに振り向く。

 

「私はこれでも()()()ですよ?」

 

 そしてあっさりと剣を引き抜く。

 

「奇跡には代償が必要だと、アル────いや、()()()()()よ。 君はそれを一番大切なものと引き換えにする事になるよ?」

 

「承知の上です。 では、行きましょうか!」

 

 ────今度こそ!

 

 と意気込む()()()()()だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてアルトリアは「アーサー王」になり、「今度こそブリテンを!」と言う思いを秘め、力と能力の限り頑張った。

 

 だが────

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何故だ?! 私は、皆の為に────!)」

 

「────これにて()()()()()()()()()()!」

 

「「「「早く()()を殺せぇぇぇぇ!!!」」」」

 

 ────アーサーは拘束と猿口輪をされ、身にはボロボロの囚人が着るような粗末なもので、今は自国のかつての民衆達の前で()()をされていた。

 

 アーサーは『王』としてその能力と()()()で数々の災害や被害を回避し、ブリテンに栄光をもたらせていた。

 何せ、かのローマ帝国並みの国土までも手に入れ、統治して、アーサー()()として数年君臨していた。

 

 だが民衆達の間でふと疑問に思った者達が出始めた。

「これらは全て出来過ぎているのでは?」と。

「アーサー皇帝は本当に人間(ヒト)であるのか?」と。

 

 この噂が飛び散り、人々と彼女の家臣達は気付く。

 アーサー王としての活躍があまりにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に。

 勿論、彼女の側近達はそれらをアーサー皇帝の羨ましさや妬みから来ているホラ話と信じていた。

 

 だが一度広まった疑いは止まらず、遂には()()()()()()()を内乱状態までに発展させていた。

 そこでアーサー皇帝は何とかギリギリのところで勝つも、地位と権力を狙った側近の裏切りによって「女性」として正体がバレる。

 

 そこからは瞬く間に「皇帝が民衆を騙していた」から「アーサー王は女性だった」から、「アーサー王は魔女だった」と事が進み今となる。

 

 そして涙ぐむアーサーの首が台に取り付けられ────

 

「「「「「「殺せ!殺せ!殺せぇぇぇぇぇ!」」」」」」

 

 ザシュ!

 

 ────ワァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 アーサーが最後に見聞きのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウワアァァァァァァァァァァァァァァァ?!

 

「どわぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ()()()()()が急に叫び、マーリンが自分のフードに足を引っかけて転ぶ。

 

「あいたたたたた、急に叫んでどうしたんだい君? ………………あれ? 大丈夫かい、君?」

 

 マーリンが見えたのは顔を土気色に変えてその場で崩れ、自身の首に両手を当てながら震えていたアルトリアの姿だった。

 

 そして彼女は────

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

「この罪人共はアーサー王の法に触れ────」

 

 アーサー王はハイライトの光っていない眼で目の前の()()()を見下ろしていた。

 

 あれから彼女は様々な行動を起こし、()()()()()()

 

 そして()()()()『選定の剣』を引き抜く直前で意識が覚醒して行く中、彼女は()()度々に色々と試した。

 

 時にはマーリンを問答無用でぶっ飛ばしたり。

 時には女性としてこれ以上ない屈辱を味わいながら公開処刑されたり。

 時にはマーリンを問答無用で『選定の剣』で斬りかかったり。

 時にはモードレッド卿との決戦を回避する為にランスロット卿と妻ギネヴィアの不倫を断罪したは良いが、ランスロット卿とギネヴィアの民衆からの人気は侮れず、ブリテンが内部から崩壊していって、同じ民衆達の反乱によってアーサー王は捕まり、餓死するまで見世物のように檻の中に入れられたり。

 時にはマーリンを問答無用で『選定の剣』で首を刎ねたり。

 

 等々など。

 

 等々など等々など等々など等々など等々など等々など等々など等々等々などなどなどなどなどなどなど。

 

 死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで、何度も死んで、彼女は()に至る。

 

 それは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────非情さに徹しきった暴君こそが一番()()()()()()

 

「────前口上はもういい。 早く処刑しろ、割く時間が勿体ない。(あれから()()()()()のだろう? もう300からは数えていないが…………500だろうか? いや、600?)」

 

 毎回アーサー(アルトリア)は死ぬ度に『選定の剣』を引き抜く直前に戻る中、何回()()()()()かを()()()()代わりに数え始めた事があった。

 

 が、数が300辺りまでとなるとそれにも興味が無くなり、今では一番安定かつ長生き出来る生き方を探して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………ハ」

 

 アーサー王の突然の鼻で笑うかの様な声に、傍にいた者達は例外なく体を全員がビクリと震える。

 何せ彼らを従えているアーサー王は時に()()()()()()()人を処刑する節があるからだ。

 彼らからすればそう見えるが、アーサー王は単純に()()の教訓から()()()()を取り払っていただけに過ぎなかった。

 

 そして一度始まったら止まらない雪崩のように笑いが続いた。

 

ハハ………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

 アーサー王の突然の笑いに、その場は凍った。

 今まで誰も()()()()()()()()()()()()()()()()()だからだ。

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!(何だ、そういう事か! なんで私は気付くのに、こんなに時間をかけたのだろう?!)」

 

 彼女は本当に、心の中から()()()()()ようで、腹を抱えた。

 

「そうか! そういう事か! これを私が追い求めていた結末なのだな?! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 気付けばアーサー王は笑い続けながら頭を手でグシャグシャにして、そこは()()()()()()()()()()で、()()()()()()が目の前にいた。

 

アハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

『ありゃりゃ、()()帰って来たのかい?』

 

 影の声でアーサー王、いや()()()()はピタリと笑いと体が止まり、頭を上げた。

 

「そうだな、礼を言おう」

 

 笑いながら冷たい声で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────目からハイライトが消え、口元を僅かにつり上げて笑みを浮かべていた、()()()()()()()()()()()

 

『それで、ここに戻って来たという事は────』

 

「────ああ。 ()()()()()

 

 セイバーはもう既に影には注目していなく、ただ赤く染まった空を清々しい眼で見上げていた。

 もし注目していたとすればきっと彼女でさえも震えていただろう。

 

 人型の影にはニィーとした、明確で不気味なほど笑っていた口()()が浮かんでいたから。

 

 

 ___________

 

 アーチャー+ランサー運営、イリヤ、衛宮士郎、遠坂凛 視点

 ___________

 

 駆け足で先頭を走っていたランサーが急に止まって、槍で後ろの士郎達も止める。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ど、どうしたの、ラン、サー?」

 

 凛が若干息を切らせながらランサーに聞く。 が、彼は何も言わずにただ険しい顔で前を見る。

 

「…………」

 

「アーチャー?/アーチャーさん?」

 

 イリヤと三月を下ろし、ランサーと同じく険しい表情をするアーチャーが前を見る。

 

 すると────

 

「────♪~」

 

 ────どこからともなく鼻歌を歌っている誰かの声が聞こえてきた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、きょ、曲? だ、誰か逃げ遅れた、奴か?」

 

 士郎が汗を拭きながら周りを見回し、三月が鼻歌の曲名を言い出す。

 

「…………『()()()()()()』?」

 

「ほう、良く知っているナ? 流石だな。 ♪~」

 

 ガシャリ、ガシャリ、と金属の鎧が軋む音が聞こえると同時に()()()()()()()()()()()()()()の声も聞こえた。

 これを聞いた瞬間、士郎とイリヤの顔が明るくなった。

 

「「セイバー?!」」

 

「♪~」

 

 そして彼女は姿を現し────

 

 

 

 

「「ッ」」

 

 

 

 

 

 ────士郎とイリヤはヒュっと短く息を呑み込み、二人の顔が引きつる。

 

「お前、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 士郎達の前に出たのは禍々しく、黒い甲冑姿の()()()()で、彼女の肌は青白く、目と顔は異様な程笑いながら歌を続けていた。

 

 そして手には禍々しい()に染まった()()が握られていた。

 

「セイバー………いや、違うな。 君は────」

 

「────おお! やはり久しいな、皆の者! 出迎えご苦労!」

 

 目の前の()()()()に似た女性のテンションがあまりにも場違いだったので一瞬たじろぐ士郎達。

 

「セイバー………なのか?」

 

「ん? お前は………えーと………少し待て、何せ()()()も経っている故記憶がな………………そうだ! お前は()()()だな! あの手腕、忘れもしないぞ、料理長よ!」

 

「セイバー! あ、貴方────」

 

「────おおお! これは()()ではないか、ご機嫌麗しゅう! 少し見ない間に縮んだかな? それにさっきから私を『()()()()』と呼んでいるが………はて?」

 

「え?」

 

 イリヤが呆気に取られる間、セイバーが頭を傾げ、手をポンッとする。

 実際には鎧がぶつかり合って「ガシャン!」として音だったが。

 

「ああ! そう言えばそうかつて呼ばれていたな私は! そうか、そうだった! 私は────」

 

「「ヌゥゥン!/うおりゃあ!」」

 

 ガシィン!

 

「「?!」」

 

「────かつて()()()()だったな私は! 懐かしいような、不愉快なような

 

 ()()()()は急に姿を消して、左と上空同時に襲い掛かったランサーとアーチャーの攻撃を()()()()受け止めていた。

 

 バキッ!

 

 アーチャーの持っていた短剣にヒビが入り、彼はすぐにそれを手放して、ランサーも距離を開けると────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()が持っていたアーチャーの短剣がボロボロと崩れていき、彼女は腕を不可不思議に振っていた。

 

「聞こえないか、皆の者?」

 

「セイバー…お前、一体────」

 

「────衛宮君、三月、イリヤ。 あれは()()()()()()()()()

 

「リン?」

 

「嬢ちゃんの言う通りだぜ。()は似ちゃいるが、どこか()()()…………いや、()()()()()いやがる」

 

「ああ、()()も『狂人』の類だ。 耳を貸すな」

 

「ああ、聞こえる。 あの美しい()()()()が。 あああ! 聞こえる! 聞こえる聞こえる聞こえる聞こえる聞こえるぞぉぉぉぉ!!! 突き刺される男の断末魔が! 切り倒される女の叫びが! 焼き殺される赤子の悲鳴に、撲殺される老人の骨が潰れる音が! ああああ! 何と()()()()()?!

 

 この一言で士郎達と、サーヴァントのアーチャーとランサーは悟った。

 目の前のヤツは()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「では()()()よ、いっちょ俺の相手をして貰おうか?」

 

「「「ランサー?!」」」

 

 士郎、凛、イリヤが彼を見て三月は彼に聞く。

 

()()()()()?」

 

 それに対してランサーは二ッと笑う横顔で三月を見る。

 

「なーに、()()()()()()()()()()()()()()。 先に行け」

 

「…………行くぞ」

 

「え? あ────」

 

 アーチャーがイリヤを担ぎ、三月の手を握って士郎と凛と共に横へと走る。

 その間、()()()()は未だに体を揺らし、黒くなった()()をオーケストラなどでのマエストロが持つ指揮棒のように振っていた。

 

 その間、ランサーは槍をただ構え、ジッと待っていた。

 

「♪~」

 

「…………返事は期待しちゃあいねぇが………お前、何があった?」

 

 ランサーの問いに目の前の彼女がピタリと動きが止まってランサーを見た。

 

「何があったって?」

 

「あん?」

 

 セイバーが突然震え始め、ランサーは予想外の反応に眉間にシワを寄せた。

 

ナにがあッタって? なにガ────アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

 セイバーが突然笑いながら頭を乱暴に引っ掻き、髪の毛がぐしゃぐしゃになるどころか、血が滲み出ていた。

 

な、ナにがあッタァヒャハハハハハハハハハハ!!!

 

 ヒュン!

 

「!!!」

 

 ランサーの顔が強張り、『獣』の顔に変わり突然()()()()()()()()()()()()セイバーの攻撃をさb────

 

「────ぬおおおおおおおおおおりゃああああああああああ???!!!」

 

 ────捌こうとして持ち前の敏捷と筋力で攻撃を躱す事に切り替えた。

 

アヒャハハハ!!!

 

「チッ」

 

 笑い続けるセイバーを見て、舌打ちをするランサー。

 

 さっきの一撃で目の前のサーヴァントが凛をマスターとしていた時よりも遥かに能力が上がっていた事に舌打ちをした訳では無い。

 

「(マズイなこいつぁ………『決着に白黒つける』とは言ったが、正面切っての戦いじゃあ不利だ)」

 

 笑うセイバーの体がフラフラッと揺れ動きながらランサーと対峙する。

 

「けどま、やりようは幾らでもあらぁ!!!」

 

アハハハハハハハハハ!!!

 

 まるであの夜の戦いの続きのように、二人は刃を交えた。 *1

*1
第6話より




作者:ぐおおおおおおおお! 頭がガガガガガガガガガ

チエ:コントは良いから寝ろ

作者:ううううう…………チーちゃんマジ天使。 ウェイバーや雁夜には勿体なすぎる

ウェイバー&雁夜(バカンス体):うわぁぁぁぁぁ?! 何てこと言うんだぁぁぁぁぁぁぁ?!

チエ:???????????? 三月、これはどういう事だ?

三月(バカンス体): う、う~~~~~ん? (汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗


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第42話 “救われた”破綻者

2/15追記:誤字修正しました


 ___________

 

 アーチャー運営、遠坂凛、イリヤ 視点

 ___________

 

 

 一方、士郎達は駆け足で教会へと向かっていたが────

 

「────ん?」

 

 アーチャーが不意に立ち止まって眉間にシワを寄せる。

 

「どうしたの、アーチャーさん?」

 

「…………妙だ…………イリヤ、君は確かに言峰綺礼が『()()()()()()()』と言うサーヴァントに令呪を使ったのを見たのだな?」

 

「え? う、うん。 確か、『()()()()()()()』に()()()()』って命じていたわ」

 

「では私の聞き間違いでは無いという事か…………」

 

「どうしたのアーチャー? 貴方のその顔は何かに気付きながら声に出し辛い時の表情をしているやつよ?」

 

「ぬ、そこまで分かり易かったかね?」

 

「私は貴方のパートナーだったのよ? それぐらい分かるわ」

 

「そうか…………いや、何時もの癖でね」

 

「一人で悩むところは兄さんと一緒だね」

 

「う」

 

「それで、アーチャー? 何を考えていたの?」

 

「教会の方向から来るサーヴァントの気配が()()のだ」

 

「「「()()?」」」

 

 士郎と三月はただ聞き返した。

 

「……………まさか?!」

 

「それはマズイわね…」

 

「ああ、その『まさか』かも知れない」

 

 その反面、凛とイリヤは難しい顔をして、アーチャーが肯定する。

 

「どういう事だ、アーチャー?」

 

「この先に『聖杯』が無いかも知れないという事」

 

「「?!」」

 

「でも、確かに驚く事じゃないわ。 『聖杯』がサーヴァントなら、本体が律義に教会で陣取る必要はないっていう事ね」

 

「ああ、時間は奴の場合は味方だからな。 逆に移動し、撃破を回避し回れば後は徐々に我々の敗北という事だ。 だがこの先からサーヴァントの…………いや、サーヴァントとも呼べない()()の気配があるのも確かな事だ」

 

「成程ね。 貴方の言いたい事が分かったと思うわ」

 

「「???」」

 

「…………つまり本体が教会にいない場合を想定して、別行動を取る班とこのまま協会に向かう班に分かれる判断ね」

 

「そうだ、そして今のメンバー結成ではそれは些か難し────」

 

「────そうでもないわよアーチャー?」

 

「「え?」」

 

「………………」

 

 アーチャーの言葉を凛が遮り、ポカンとする士郎と三月に黙り込むイリヤ。

 

「全然あなたらしくないわ、アーチャー。 この場合の編成は単純明白よ。 教会へは私達魔術師チームと、本体の検索は単独行動の方が早いアーチャーに自然と別れるわ」

 

 アーチャーは歯がゆい表情を浮かべる。

 

「…………凛………オレは────」

 

「────教会の気配が薄いのなら、魔力の塊である『聖杯』である筈がないもの。もしサーヴァントだったとして、こっちには『人間ビックリ箱』が付いているもの。 最悪自爆で何とかなるレベルの筈よ?」

 

「あの、それじゃあ私が自爆する前提なのですが?」

 

「「星が見えたスター」」

 

「うぅぅわぁぁぁぁぁぁ?! 俺はそういう意味で『アレ』を言ったんじゃね~よ~?!」

 

 三月のダウトに士郎の言葉を借りてツッコむ凛とイリヤ、そして嘆く士郎。

 

 アーチャーは呆気に取られたが、これが彼らなりの後押しと気付いた。

 と言うか三月は純粋にダウトしただけであろうが、もしそうでなくても彼女も同意していただろう。

 

「…………わかった。 何か分かり次第、念話で報告を三月君にする」

 

「ええ、そして私達が教会にいる奴を片付けたらすぐにそっちに合流するわ」

 

「…………凛、三月君にイリヤ…………それと…………………………………」

 

 アーチャーが言いにくそうに士郎を名前で呼ぶのを躊躇った。

 

「今更も何もないだろアーチャー?」

 

「いやその…………()()()()()()()()()()

 

 アーチャーが最後の方の言葉を言い吐き、その場から消えた。

 

「……………今、アイツは俺に頼み事をしたのか?」

 

「やっぱりシロウはシロウね」

 

「え?」

 

「そうね、衛宮君みたいにぜ~んぶ一人で抱え込もうとするんだから」

 

「え?え?え?」

 

「まあ…兄さんだから」

 

「三月まで?! 何でさ?!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎達が教会へと近づき、凛とイリヤが急に士郎と三月を破壊された壁の影に隠れ、物陰に潜む。

 世界はまだ夜の闇の真っ最中で街灯等はない。

 だが魔術師としての技術が特化している天才の二人にとってはそんなモノはどうにでもなり、彼女達は見た。

 

 半分破壊された教会の屋根に立っていた人影を。

 

「誰か屋根の上にいるわ」

 

「待って、確か────」

 

 三月はリュックから暗視スコープを取り出して、物陰からひっそりと辺りを見回す。

 本来ならWA2000に取り付ける代物だが、ライフルは組み立てないといけなく、元より教会までくる間のカーチェイスで全弾を撃っていたので車に置いてきた。

 

「………………いた。()()さんだ」

 

「「「ッ」」」

 

『神父さん』。 恐らくは言峰綺礼だろうと士郎達は思った。

 何故、名呼びではないかと言うと、三月は彼に直接会った事もなかった為である。

 

 なので彼女はカソックをしている人物を『神父』と呼んでいた。

 

 だがここで三月に疑問が浮かび上がる。

 

「(何、()()は? 『無』、『虚無』…………いえ、そんなモノよりももっと別な…………………………そう、あれは『()()』に近いわ)」

 

 暗視スコープから覗く『神父』の横顔は()()()()()。 その様子は今、新都の一角をまるまる占拠して行われている『混沌』を気にしていないようだった。

 彼はただ、夜風に靡かれるまま半分崩壊した教会の屋根に直立していた。

 

「ちょっと、一発撃つわ」

 

「三月?」

 

「ええ、一番キツイ奴を一斉に皆でお見舞いするわ」

 

「ミーちゃんの合図で。 シロウは周りを頼んだわ」

 

 三月は暗視スコープを下ろすが視線はそのまま動かさず、慣れた手動でリュックからスラッグ弾を取り出して散弾銃に新しく装填し、凛は片手を構え、イリヤは髪の毛を数本抜き取る。

 

「(まさか最初に撃つ人が()()なんて……………)」

 

 彼女たちが狙うのは胴体、人間の最も表面が大きく、内臓も複数ある場所。

 

 三月が構えて、引き金を引く瞬間に凛とイリヤは同時に魔術を放ち、三人の攻撃が()()()によって止められる。

 

「チ、やっぱりそう簡単にやられてくれないか」

 

「あれが、『()()()()()()()』」

 

「と言うよりは防壁みたいなものね」

 

 黒い壁が崩れていき、その向こう側の男が屋根から地面へと飛び降りて視線を向ける。

 

「今ので終わりか、()?」

 

 凛の体がビクリと反応する。

「なぜ自分は名指し?」と。

 

「それに攻撃が三つあった事から…………アインツベルンの申し子と…………衛宮士郎と言った所か?」

 

 至極どうでも良さそうに彼らの名を呼ぶ綺礼。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「三月、貴方は機を見て奇襲をかけて。 私達三人が出るわ。 あと、衛宮君に銃を渡して」

 

「わ、わかった」

 

 何故三人を名指ししたのかはわからない。 だがこれを機転に帰れるかもしれないと思った凛は即座に三月を切り札として扱うと彼女の思惑が士郎とイリヤにも伝わり、三人は姿を現す。

 言峰綺礼の前に。

 

「クククク、()()()()()()

 

「綺礼! 話はイリヤから聞いたわ! 一体どういう事?! 何故監督役である筈の貴方が聖杯戦争に参加…………いえ、()()をして『聖杯』を?!」

 

「『何故』か…………ククク、()()()()()()?」

 

「「なッ?!」」

 

 凛とイリヤが彼の答えにびっくりする。

 彼の『聖杯』という『願望機』にまるで何も期待や密着などもしていない態度だった。

 そしてそれは士郎にとって、彼を酷く動揺させた。

 それは、以前の自分に似ていたからだ。

 

 士郎はもともと、聖杯戦争自体に興味が無かった。ただ何の関係もない、罪のない人々が理不尽に命を刈られるのが嫌で参加していた。

 故に『聖杯』に託す()()()()()()()()()()

 

「お前に、聞きたい事がある」

 

「衛宮君?/シロウ?」

 

 思わず士郎はそう言っていた、綺礼に。

 

「ほう? 君が私に質問とはな? 良いだろう」

 

「何でお前はそんなにも穏やかにいられるんだ?!」、と叫びそうなのを士郎はグッと堪えた。

 どうせ(綺礼)()()、態度に問題があるのは最初からだ。

 それに士郎自身、先程の殺気に満ちた攻撃等に対して全く自ら反応していない綺礼にも気付いていた。

 

 綺礼は少なくとも凛とイリヤの二人の殺気を()()()()()()()()()()()()()

 

「いやはや、衛宮切嗣とは逆の立場になったな。 ちなみに勘違いをしているかも知れないので敢えて教えるが、()()()のは私ではない。 私が命じているのではなく、()が勝手にやっている事だ。 仮にも依り代である私に死なれるのは都合が悪いだけの話なのだろう」

 

「(なら、ある程度はコントロールできるって訳ね………と言うか納得がいくのだわ。 ここまで来る間に全然『蟲』や『泥』に会っていないんですもの。 敢えて通らせている感じはそれか)」

 

 凛がそう思う時、イリヤも同じ事を考えていた。

 

「(ならさっきのは『過信』していたという事かしら? ………いいえ、この男に限ってそれは無いわね)」

 

 イリヤは心の何処かで(綺礼)は『()()()()()()()』の守りが自動で働いていなくとも、さっきの攻撃に対して何の反応もせずに『ただ佇んでいただろう』と予想していた。

 

 さながら『聖者』のように。

 

 凛はと言うと気丈に振舞ってはいたが、内心混乱していてそれが怒りとして外に出ていた。

 目の前にいるのが本当に()()『クソエセ神父』かと、自信が持てなかったのだ。

 特に彼女は彼が嫌いで、あまり関わりたくが無い為に、()()()()()()()()()()()()()()と思ったからだった。

 

 士郎は逆に(綺礼)に感じていた不愉快さに拍車がかかって、銃を捨てて切りかかりたい衝動を抑え込んでいた。

 それはアーチャーとの対峙した時以上の苛つきだった。

 

「コトミネキレイ、貴方はなぜ私を生かしたの? それに、『聖杯』の疑似降誕はどうやって知ったの?」

 

 この二つのグループの間の沈黙を次ぎに破ったのはイリヤだった。

 そしてそれは彼女自身が持っていた疑問の問い。

 綺礼は彼女を「用済み」と臓硯が言っていた。 ならば生かす理由が見当たらない。

 

 そんな事をすれば「面倒」になるのは分かっていた筈。

 イリヤが暴れるにしろ、逃げるにしろ。

 それに『聖杯』の疑似降誕という裏技をどこで知ったのか純粋に魔術師として分かりたかった事もあった。

 

「まず、君を生かした理由に対しては簡単だ。 ()()()()()()()()()()

 

「ッ」

 

 綺礼の答える態度はまるでイリヤの生死に「興味が無い」とでも言いたかったようだった。

 そしてそれが元代行者である彼の本心に聞こえた。

 

『代行者』と言えば『神罰の代行者』の意味合いでもあり、通常は『聖堂教会の殺し屋』と裏の世間で知れ渡っていた。 そして彼らにとって敵や怪しき者は「とりあえず殺す」対象でしかない。

 

 そんな奴がわざわざイリヤを殺さずに彼女の魔術回路を介して魔力を『聖杯』の疑似降誕をするといった、()()()()()()があるとだけで「代行者」は普通「殺して奪う」理由になる。

 

「そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「なッ?!」」

 

 凛とイリヤが驚愕の声を出し、士郎はどこかでプツンと何かが切れた音が聞こえたようだった。

 

「何を言っているんだお前は?! 『殺すつもりが無い』だと?! ふざけるな! 今現在、あの『()()()()()()()』って奴を使って冬木を滅茶苦茶にしているお前が言える事か?!」

 

「フム」

 

 顎に手を当てて、悩み始める綺礼。

 あるいはそうして見せているポーズだけかもしれなかったが、士郎達には見分けがつかなかった。

 

「少し食い違いがあるか。 そもそも『()()()()()()()』は『無形』だ。 故にアレは『間桐臓硯』という端末を利用して現世にかたどって、()()()()()()()()()()()()()()()()。 『()()()()()()()』は『無』で、『()()』であり、()()()()()()()()()()()『聖杯』()同化しているに過ぎない」

 

「………………成程ね。 今まで理解したくなかったけど…………()()()()()()()での異常は『()()()()()()()』という訳ね」

 

「流石だ、凛。 そこまで突き止めるとは、()()()と成長してくれた。 そう、かつて『聖杯』は『無色』だったが、ズルをしようとした()()()()()()()によって『()()()()()()()』に無垢に汚れた」

 

 イリヤを見ながら綺礼は言い切り、イリヤは腰に隠し持っている銃を取り出して撃ちまくる衝動を御する。

 

 イリヤ自身、『聖杯』に異常があったのは分かっていたが今までは()()()()()()()にギルガメッシュと言峰綺礼と間桐臓硯という三人によって今回の『聖杯』が『変質されられた物』と思い込もうとしていたが、まさか自分の家が原因だったとは思いたくなかった。

 

 以前観たキリツグ(パパ)の、あらゆる過去を乗り越えて、妻子すらも犠牲にしようとしてまで『平和』を、

 誰も涙を流さず、

 誰も不幸を嘆かない、

 誰も殺さず殺さない優しい世界を追い求めたキリツグが『聖杯』の異常に気付いた気持ちをイリヤは分かったような気がして、足から力が抜けそうだった。

 

 それを士郎が支える。

 

「お前は……………お前はそんなモノを持って、何を企んでいる?」

 

「何も」

 

 士郎の問いに綺礼が即答して、言葉を続ける。

 

「強いて言うのなら、私は()の召されるままに動き、誰にも望まれなかった命の誕生を祝おうとしただけだ」

 

「クソエセ神父のくせに馬鹿な事を言わないで!」

 

「遠坂…………」

 

「『主』の為にですって?! そんな下らないもので貴方は動いたというの?!」

 

「クククク……………ハーハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 綺礼が無邪気な子供のように笑い始めた事に、士郎達の背中がゾワリとした。

 

「…………全く持って、()()()()()()()()()()。 以前の私は聖職者でありながら『神』などと言うものは人を救わず、道も示さないのではなく、()()()()()()()ものだと思っていた。 私の空虚を埋めるモノは無いと思っていた」

 そこで綺礼は凛から士郎へと視線を変える。

 

「しかし私は『神』と()()()。 この私の空虚を埋めるモノも()()()()()。 そして衛宮士郎、私を理解できる者が居るとすれば、それはお前を置いて他に居まい」

 

「ふざけるなよ、お前! 俺とお前は違う!」

 

 それはアーチャーが綺礼に言い放った事と酷似していた。*1

 

「熱くならないで衛宮君」

 

 そこに凛の、必死に冷静さを保つ言葉言われるが彼女自身もあまり余裕はなかった。

 

「違わないさ、衛宮士郎。 私とお前の違いは詰まるところ本質の違い、たったそれだけだ。 共に壊れた行動、思想、そして願い。 ただ、求めたものだけが決定的に違う。人の為に自分を捨てようとした『聖人』よ。 私にはお前が衛宮切嗣の再来と見て、心が歓喜に満たされた。 私は自分の為に、人を捨てる事しか出来なかったのだから」

 

 士郎は何かを言い返そうとした。 が、言葉が出なかった。

 何故なら正しく綺礼の言った事には士郎本人も心の何処かで気付き始めていた。

 

 凛は綺礼の言葉で何かあと一つ足りないパズルにピースがはまったかのように、士郎の言動が分かったような気がした。

 

 イリヤは士郎がそんな事になっているとは露も思わず、考えが纏まらなかった。

 

 その間、綺礼はただ言葉を続ける。

 

「私の妻は、私の為に死んだ。 私が人を愛せると証明しようと……………その時私は涙を流した。 その涙の意味が、どのような意味のものだったかは分からなかったが………私は信仰を続ければ……何かに尽くせば…………他の何かで何時か報われると思っていた」

 

 それは士郎の以前、『正義の味方』への道を探していた頃とそっくりで、士郎は何か言いたくても、喉と口がカラカラに乾ききっていた。

 

「そして私は『主』に会った。 これが真に愉快な事で、私は()()()()! 私は思い知らされたのだ! 人間という獣が跋扈しているこの世界は腐っていると! 何れ貴き者でも老いる体に釣られて腐り落ちるものだと! 故に私は任された、決して穢れない魂、あらゆる悪にも乱れぬ魂の統一に!」

 

 士郎は内心叫ぶ。

「それ以上は聞きたくない」と。

 

 凛は拒絶する。

「こんな奴が自分を『弟子』ではなく『駒』」と言った意味に。

 

 イリヤは激怒した。

「こんな奴がシロウと同じなものですか!」と。

 

「『()()()()()()()』は呪いのエーテル塊。 もしこれによって全人類が統一す(飲み込ま)れば、()()()()()()()()。誰かが誰かとの違いに悩み苦しむ、嘆く事も無い。 これが、これこそが全人類の救いだと道は示された!」

 

 士郎は思う。

「もし自分が少し違っていたら、目の前の奴と同じになっていたかも知れなかった」と。

正義の味方(全てを救う)』という理想論を続けていたのなら。

 

「私に目的などというモノがあるとすれば、それだ。『主』が囁くままに事を遂行する。そこに私の感情が介入する事は無く、また私にはそれで良い」

 

 綺礼の指の間に刃なしの柄が数本ずつ握られた。

 

「喜べ少年! 君の『正義』が討つべき『悪』が今、目の前にいる! 喜べ、時臣の娘よ! 父親の仇が眼前に今ここにいる! そしてアインツベルンの申し子よ、喜べ! 先祖の不始末を自らの手で終止符を打てる事に! フハ、フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「…………え」

 

 そうぼやいたのは誰だろうか。

 

 士郎だろうか。

 以前、聖杯戦争の詳しい事を聞きに協会に来て、去り際の彼に「『正義の味方』には『倒すべき悪』が必要なのだから」と綺礼が声をかけた時を思いだしたからか。

 

 凛だろうか。

 父の遠坂時臣が目の前の、自分の『保護者』が、10年間も世話を見られた奴が父親を殺した張本人と言われたからか。

 

 イリヤだろうか。

 自分自身が関係の無い、第三次聖杯戦争でズルをしようとした生まれた家の後始末をされている事からか。

 

「凛。 君は未だに私が渡したアゾット剣を持っているそうだね? どうだい、()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()?」

 

 プッツン。

 

 「クソ鬼畜エセ腐れ外道神父がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「言峰、綺礼ッッッッッッッ!!!」

 

 凛と士郎から発された声は獣の如く荒く、怒りから来るもので普段の彼女達を知っている者が聞いていれば、誰もが信じなかったような叫びだった。

 

 これに反応するかのように笑う綺礼の手にある黒鍵達から刃が伸び、綺礼は脳内であることを考えていた。

 

「(さて、()()()()が言ったように、私に勝てるとは到底思えんが…………………どうするか見ものだな、少年少女達よ?)」

 

 歴戦と言っていい元代行者の言峰綺礼。 その真骨頂は魔術に長けている事でも、現代兵器のからくりなど知っている訳でもない。

 吸血鬼や使徒といった人外相手に、殴り合って殲滅に追い込む事さえ出来る格闘技術を使った接近戦だ。

 

 そんな彼が並大抵の反射神経をしていない訳が無い事を悟った三月は少し遠い所から『投影』した弓に()をゆっくりと構えて、ゆっくりと魔力を貯める。

 

 洞窟の天井の水滴が少しずつ落ちて、析出した物質が床面に蓄積して石筍を作るかのように。

 地割れが起きる前に土が極僅かに空洞になり、地盤が緩くなるように。

 ()()()()()()()()()()()()()()()慎重に、ごく慎重に用意をする。

*1
第36話より




マイケル:何こいつ

ラケール:こう…………色々と狂っている

雁夜(バカンス体):綺礼だから

三月(バカンス体):そうそう、綺礼だから

チエ:綺礼だからな

綺礼(バカンス体):これは事後処理が大変そうだな

マイケル/ラケール:そこかよ?!

作者:楽しんで頂けたらお気に入りや評価、感想等あると励みになります! 宜しくお願いします!


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第43話 「大丈夫」の呪い

お待たせしました! 43話めです!

多くの人に自分の作品が読まれているのが感動です、
何時も読んでくれて、誠にありがとうございます。


 ___________

 

 ライダー運営、セラ 視点

 ___________

 

 

 ガインッ!

 

 鉄が強引にへこむ音がする。

 

 ボコッ!

 

 コンクリートやアスファルトに穴が開く音がライダー達の後を追う。

 

ギギギ…………グカカガガカガガ

 

 そしてライダー達を追いながら笑う()()()()()

 

「どうするのです、貴方?!」

 

 意識を失った桜を抱えたセラが、更に彼女を抱えるライダーに問う。

 

「……………(さて、どうしたものですか)」

 

 ちなみにワカメこと慎二は必死にライダーにしがみ付いていて、彼自身も築いていなかったがライダーの髪の毛が微妙に補助していた。

 ライダーは別に慎二の事はどうでも良かった。

 

 ()()()()()

 

 だがこんな彼でも、桜を第一、自分は遥か後の順位に思いながら行動していたのは、身近にいたライダーは分かっていたので()()()として彼を運んでいた。

 別に彼に何かを期待した訳でも無い、ただの後付けの考えだった。

 

 そのライダーは遠坂邸を出てからずっとあの()()()から桜をどうやって守るかをメインに考えていた。

 

 まず『撃破』か『駆除』が一番手っ取り早い。

 が、ライダーには()()()()()()()

 

 せいぜいが『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』を解除して魔眼(キュベレイ)を広範囲に展開し、出来るだけ『蟲』の行動を()()()()()

 

自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』。 ライダーの真名『メデューサ』にちなんで彼女は魔眼の中でも最上位に近い石化の魔眼の『キュベレイ』を所持していて、彼女が意識していようがいまいが常時発動している為、普段はバイザーを着けて制御をつけている。

 

 今は剥き出しになった彼女の顔は機械的に次の建物の間を移動しながら────

 

 

 

 

 

 

 ────徐々に()()へと向かっていた。

 いや、結果的にそうなっていただけで本当は別の場所を目指していた。

 

 如何に最上位に近い石化の魔眼を以てしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 というかどれだけ『石化』して蟲を殺しても、ほぼ同じ速度で蟲の『増殖』が続いて平行線を保っていた。

 なので半分無意識的にライダーは()()を求めていた。

 それは向こう岸の、新都での神秘的な輝き(『エクスカリバー』)を。

「あれならば」、とライダーは思いながら向かっていた。

 

 勿論、アレが()()()()()()()()()()()とは知らずに。

 

 シュゴォォォォォォォォ!!!

 

 バタバタバタバタバタバタバタッ!!!

 

 空を見上げると自衛隊の戦闘機とヘリコプターが駆け抜ける轟音が()()()()美周辺を回っていた。

 

 それは公安や先遣隊の自衛隊員達が検問を敷いた場所に狂気から逃れようと来た市民達と、それを追ってきた()()()を機動隊と共に押し返していた。

 

 ライダーにとって、深山町は余りにも見通しが良く、()()から桜達を引き離せる()()()があまりにも少な過ぎた事もあるので幸か不幸か、慎二と共に新都を夜な夜な巡ったのであちらの方(新都)の地理に慣れていた。

 

「………ライダー、少しいいかな?」

 

「? シンジ?」

 

 今までずっと顔色が悪く、黙っていた慎二の低い声にライダーが彼を()()()した。

 だが余裕が慎二にも無いのか、彼は言葉を続けた。

 

「さっきから後ろから襲ってくる()()を見ていたんだが、さっき配線とかから電気ショックを受けていたみたいなんだ」

 

「??? それが?」

 

「つまり、()()()()()()()()()()()()()()かも知れないと言っているんだ」

 

「……………………」

 

「ライダー?」

 

「いえ、貴方はやはり頭が切れますね」

 

「…………………………………………え?」

 

 慎二をライダーが初めて見下すような事や皮肉を言っていない、または無視していない言葉どころか、褒められた事に慎二は目を丸くした。

 

()()()()()()()()()()()()()()』。

 つまり()()()()は対魔力がある程度高いといっても(魔眼で瞬時に石化しない事から)、物理的な攻撃での弱体化(または撃破)が可能という事をライダーは考えた。

 

 バタバタバタバタバタバタバタッ!!!

 

 急にライダーの周りが眩しくなって、臓硯にヘリコプターライトが当てられる。

 

 それが近くの自衛隊のであったのか、メディアのであったのかはわからない。

 ただ次の瞬間、暗闇で出来た触手の様なものが臓硯からテールローターに伸びて機体を引きずり込む。

 そしてコックピットが飲まれる前にパイロットらしき人物がドアを蹴破って、飛び出る。

 が、暗闇から無数の()()()()が飛び出て泣き叫ぶ彼を中へと強引に引きずり込む。

 

 慎二はすぐに視線を逸らすが、パイロットの最後が彼の脳に焼き付く。

 

 無数の蟲に()()()()()()()()()()様を。

 

 ___________

 

 アーチャー 視点

 ___________

 

()()か」

 

 アーチャーは夜の中で焼ける新都の姿をビルの屋上から見下ろしていた。

 そこは彼にとっては()()()()光景だった。

 

「さて────」

 

 ────アーチャーは以前、凛と共に冬木市の見晴らしの良い場所からグルリと周りを見渡した。

 彼が探していたのは『聖杯』らしきもので、他のすべては彼にとっては単なる()()だった。

 

 そして────

 

「(────何だ、()()は? )」

 

 アーチャーが視たのは一つの()()()()()()()()()が追っていた。

 

 そしてヘリコプターのパイロット席には紫色の髪をした成人女性が座っていた。

 

「やれやれ…………まるで出来の悪い、B級怪獣映画の様だ」

 

 アーチャーは弓と剣を『投影』して、構える。

 それは『偽・螺旋剣』ではなく、別の()だった。

 

『三月君、“聖杯”らしきものを発見した。 今から撃破を試してみる』

 

『……………………』

 

「三月君?」

 

 三月に送った念話に返事がない事にアーチャーは不思議に思う。

 が、彼にはやるべき()()があるのでそれは遂行すべく魔力を貯め始めた。

 

「I am the bone of my sword────」

 

 シュン!

 

 アーチャーが矢を解き放ち、怪物の前にいたヘリコプターが同時にそれを躱すべく、方向を変えて、速度を上げる。

 

「(ほう、流石はライダー。騎乗スキルは伊達ではないという事か)」

 

 ドゴゴォン!

 

 アーチャーの矢の着弾と共に爆発音が()()起きる。

 一つはアーチャーの矢。そしてもう一つは教会方面からだった。

 

「…………本当に、君は相変わらず凄いな……………何?!」

 

 関心で言葉を漏らすアーチャーが教会から新都へと視線を戻すと驚愕に変わる。

 

「やはり一筋縄では行かないか!」

 

 アーチャーの矢が着弾したのに関わらず、『聖杯』の()()は健在だった。

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、衛宮三月 視点

 ___________

 

 時はアーチャーがまだ高層ビルに向かっていた時と、ライダーがまだヘリコプターの奪取無断使用に至っていなかった時へと戻る。

 

 そこには2.5人の魔術師と元代行者が激しい攻防を繰り返してた。

 

 言峰綺礼は怒りでガンドを撃つ凛と、自分へと斬りかかって来る士郎と、イリヤの放ったエペの形をした使い魔達を涼しい眼で見ながら、彼の持つ黒鍵が月光を撒き散らす。

 

「ふん」

 

 綺礼は若干不満そうな声を出し、それらを切り落とし、もう一つの手で黒鍵を数本投擲する。

 

 士郎がこれらの大部分を『投影』した双剣で払い、向かって来る綺礼の拳をガード────

 

 バキバキバキバキバキ!

 

「嘘だr────ぐあ?!」

 

 ────仕切れずに砕け散って、遅くなったパンチが士郎の肩に当たり、ミシリと彼の骨が悲鳴を上げた。

 

 まだまだ終わらないといったように左右に展開した凛とイリヤがガンドとエペ、そして今度は銃までも攻撃手段に追加する。

 綺礼は素早く次の黒鍵を用意してまたもこれらを全て払い落とす。

 

「さて、これ等の物が私に効かないという事は百も承知になった筈だが?」

 

「そんなもの、()()()()()()()()()()()()()わ!」

 

「やれやれ、もう少し君は賢いと────」

 

 綺礼の言葉が遮られ、()()()()()()()()()()()が姿を鳥へ変形して綺礼に襲い掛かる。

 

「串刺しになっちゃえ!」

 

「ッ」

 

 綺礼が咄嗟に体を()に飛躍して、イリヤの頭部に目掛けて拳を繰り出す。

 当然これを予想していなかったイリヤには反応はでk────

 

「────さぁぁぁぁせぇぇぇぇるぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ────士郎の手に持っていた瓦礫から取って『強化』された鉄の棒で腕を叩きつけられる。

 

 綺礼はすぐに左足を蹴り上げて士郎の胴体を蹴る。

 

「何?!」

 

 だが士郎は予想通りに吹き飛ばされるどころか、綺礼の足を両手で拘束した。

 

 グサリ。

 

「ぬぐ!」

 

 綺礼は背後から何かが刺される感触に下を見ると────

 

「────『last(レスト)』!」

 

 ────アゾット剣が突き刺さっていて、刃が光る。

 

 それは、綺礼が自分の師である遠坂時臣から渡され、彼を背後から突き殺した凶器だった。

 

「吹き飛びなさい、言峰綺礼!」

 

 ドゴォン!!!

 

 凛の声と共にアゾット剣に込められていた魔力も解放されて爆発が起きる。

 士郎と凛は爆発の至近距離にいた為体を吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「グッ…………奴は?!」

 

 これからいち早く回復した士郎は体を起き上げさせ、綺礼のいた場所を見る。

 

「…………………………………………嘘」

 

「……………流石に玉砕覚悟の特攻とは、予想外だった」

 

 イリヤの声に反応するかのように左の脇腹がごっそりと()()()()()()()綺礼が面白そうに笑っていた。

 そして何故かそのような大きな傷があるというのに、出血が明らかに少なかった。

 

「(ふむ、これは奇妙な感覚だ。『痛み』は残るのか)」

 

「綺礼………アンタ、どうやって生きているの?」

 

 顔色が少し青くなった凛に対して、綺礼が答える。

 

「何を今更。 私はとうの昔に()()()()()。 十年前のあの日から私の心の臓は脈を打っていない」

 

「遂に人間を辞めたっていう訳ね……まさかアンタも人外とは」

 

「酷い言われようだ。 だが私はまごう事無き『人間』だよ、凛」

 

「お腹にデッカイ風穴を開けている奴が言う言葉か?!」

 

「少なくとも私は自分を『人外』と思った事は無い、貴様と同じだよ。 衛宮士郎」

 

「コトミネキレイ、貴方の『()』とは何?」

 

 イリヤの問いに、綺礼は口を吊り上げ、夜空を見上げる。

 

 

 これを見た三月はボソリと()()()()()()を口にしながら目つきが鋭くなっていた。

 

「My body is made of────」

 

 

 

「ホムンクルスの君がそこまで興味を出すとは、意外だ。 だがそれもじきに分かる。 我が『()』は大層、()()()()()()()()()()()()────」

 

 

 

 ヒュン! ビキビキビキ!

 

「グゥ!(『痛覚遮断』!)」

 

 三月が()から手を離すと空気を鋭く切る音と、骨にひびが入るような音が彼女の耳朶を襲い、その瞬間に激痛が彼女の体に走り、遠坂邸でセラが言っていた『痛覚遮断』を実行してみた。

 

【告。 左半身の前腕、上腕、肩峰、腋窩、胸郭に損傷────】

 

「(やっぱり()()()()やばいかな、これ────)────グフ?! ガハッ!」

 

『三月君、“聖杯”らしきものを発見した。 今から撃破を試してみる』

 

 ドゴゴォン!

 

 三月が思わず血を咳き込んでいる間に彼女の矢の着弾と共に爆発音が()()起きて、アーチャーの声が頭の中に響くが、彼女に答える余裕は無かった。

 

「ガハ、ゴホ、ゴボ!」

 

 カランッ!

 

 乾いた音と共に『投影』した弓が三月の手から落ちて、消えていく。

 痛覚を感じないとはいえ、内部出血までは誤魔化せない為、血を吐き出しながらも三月は自分に治癒術を使う。

 

 

 

 綺礼のいた場所では土煙の中、爆発の前に『強化』した体で士郎とイリヤを無理矢理引き離した凛が気付けば、他の二人の少年と少女を覆うように体が上になっていた。

 

「…………………………う」

 

「………遠坂、サンキュー」

 

「………リンの体って……何か腹が立つ」

 

「…………そうか。 まさか…………四人目がいたとは」

 

 綺礼の声にギョッとする士郎、凛、そしてイリヤが起き上がって彼の方を見る。

 

 彼は手を夜空へと左手を伸びし、()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ___________

 

 言峰綺礼 視点

 ___________

 

 綺礼は気付けば、空を見上げて手を伸ばしていた。

 どこまでも透き通ったような夜空。

 体は寒く、力が入れない。

 いや、体が()()といった感覚が十年前からだが、今感じている『コレ』はそれ以上だった。

 だるくなって行く頭がこのまま寝てしまいたいと訴え、それは綺礼にとって実に魅力的な提案だった。

 

 何せ自分は大役を任されてそれを終え、事態はもう止まる事はない段階になっているだろう。

 

 彼の視界に異物が混ざる。 赤と白が掛かった髪の毛の少年、月の様な銀色の髪の毛の少女、そして彼が十年育て上げた『駒』。

 

「(立たなければ────)」

 

 そう思い、体を起こそうとして左手が落ちる。

 だが体に力が入るどころか、虚脱感が広がって行った。

 

「凛………私は今………どんな状態だ?」

 

 綺礼の弟子が呆れたような視線を送る。

 

「…………お腹から下、そして右腕が吹っ飛んでいるわ」

 

「成程………通りで体が動かない訳だ」

 

「というかアンタ、そんなに凄い奴ならどうしてこんな事をしたんだ? 他にも、道はあった筈だ」

 

 衛宮の少年が綺礼を見ながら聞く。

 

「何、私の前に『()』が現れただけの事。 導くままに、私は動いただけだ」

 

 綺礼は「勝とう」とは思わなかった。

 それが『()()』だったのだから。

 

 だが「負ける(死ぬ)」とも思いはしなかった。

 自分は『()()』だから。

 

「キレイ、教えて。 『()()()()()()()』………というかいまの『ゾウケン』はサーヴァントが倒せるモノなのかしら?」

 

「「?!」」

 

 イリヤの質問に士郎と凛がビクリとする。

 あの大群の蟲を経験した者ならではの、最悪の想定だった。

 

「可能だ。もとは『聖杯』だが、今や『()()()()()()()』と間桐のご老人は完全に同化している状態。 もっとも、君達が経験したように彼らが『宝具の限界を超えていなければ』の話だがね」

 

「貴方は…………」

 

 途端にもう一つの異物が綺礼の視界に入る。

 さっきの小柄の少女とよく似た、()()()()()()()()を着た金髪の少女。

 

「君は……成程、これは『()()()()』訳だ…ク…クククク」

 

()()()()()だったのね」

 

 不意に笑う綺礼に、三月がかける言葉に彼は一瞬目を見開く。

 それは、彼が初めて人間らしい()()()()()()()だったかも知れない。

 

「いやはや、どうしてこうも…………ああ、今の私は最高の気分だ………礼を言おう、少年少女達よ………私は………()()()脱落でき(死んで行け)る」

 

 綺礼は視線を三月に向けたまま、言葉を続ける。

 

「私は『正しく在る』事は出来たが、終ぞそう感じる事は無かった。 周囲の『正解』を真似する毎日。 『人間(ヒト)』でいられるように、()()()()()()()()()、その度に私は己の存在が逸脱したものと思い知らされた。 だからこそ、私は嬉しかったのかもしれん。 私が妻を亡くした時の喪失感、苦痛、空虚を埋める『()』と出会った事に」

 

 ここで綺礼が涙を流し始め、士郎達は気付く、あるいは心で疑っていたそれが確信へと変わった。

 

 言峰綺礼が一人の破綻者で、大事なことに目を背け、それをある日気付いた、または気付かされた事に。

 

「……………(認めたくないが、昔は俺も()()だったんだな)」

 

 士郎の目の前には自分が()()()()()()()だった。

 間違いばかりをして生きて来た…………というかたった一つとして政界をする事無く、不正解の選択を取った、愚かしい人生。

 ただ士郎と違って、綺礼は『()()で生きる』事が出来なかった、ただ一人の『人間(ヒト)』が苦しんで苦しんだ末に、とある日に『()』に出会って今の行動を起こした。

 

 その姿は三月にとって、とてもとても────

 

「────こんな私の為に泣いてくれるのかね?」

 

「………え? あ、あれ?」

 

 気付けば彼女は()()()()()

 

「フ………フフフ…………(何という事だ、この私が()()()()()()()とはな)」

 

 綺礼はただ笑いながら涙を袖で拭き取る三月を見ていた。

 

「私にとどめを刺せ。 私から、()()()()()()

 

「グス…………()()()()

 

 三月がそう言い、取り出した銃に綺礼の口元が釣り上げる。

 

「(クククク………皮肉なものだ。 ()()その銃で撃たれるとはな)」

 

 三月が右手で()()()()() ()()()()()()()で綺礼の頭を狙い、その姿が綺礼をかつての宿()()と連想させた。

 収まりの悪い黒髪に無精髭の生えた顎に瞳は当然のように死んでいたのにも迷子の目つきをしていた()()()()を。

 

「これで()も君とはお別れだ、()()()()

 

 いや、自分の見間違いなどでは無かったようだ。

 今は少女という者には似つかわしくない口調と表情。

 

 そして自分と同じく()()()()だった。

 

 思わず笑いがまた出てきそうになるのを綺礼は止める。

 

「ああ。 さよならだ、()()()()

 

 そう言いながら、綺礼は静かに目を閉じて、一つの発砲音が辺りに鳴り響く。

 それが引き金化のように、綺礼の意識はぱったりと途切れる。

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、衛宮三月 視点

 ___________

 

 三月の持っている銃から大きな発砲音がやまびこの様に辺りに反射する。

 

「「「………」」」

 

『三月が何の躊躇もなく()()()()()』。

 その出来事がただ士郎達の頭の中で浮かび上がっていた。

 

「…………三月、大丈夫?」

 

 凛が警戒しながら三月に問う。

 

「………大丈夫、()()()()。 ただ少し、()()()()()────う」

 

 三月がふらつきながら頭を片手で抑え、イリヤが支える。

 

「口調も少し変わっていない?」

 

「…………大丈夫だよ、()()()()()………ちょっと気が遠くなっただけ」

 

「ねえ、三月? さっきのって、アーチャーの技だったでしょ?」

 

「え、あ、ええ。 そうよ」

 

「…………まったく…(どうしてこの兄妹はこうも非常識な事が出来るの?)」

 

「だからか。 あいつの魔術、馬鹿みたいに魔力を食うからな」

 

「え、ええ。 そうn────」

 

【────告。 ()()()()()()()()()()()。 ■■■■の条件を満タシマシた。】

 

「う」

 

 三月の顔が青くなり、謎の感覚と不愉快な感覚で口を抑える。

 

『三月君、君は今どこだね?』

 

「うぷ…………あれ、アーチャーさん?」

 

 溜飲が下がり、三月は思わず声に出して答える。

 

「アーチャーが? 彼、何て言っているの?」

 

『えっと、教会で神父さんを倒した後だけど』

 

『よし、大至急新都へと向かって来てくれ! “聖杯”を叩き潰すのに()()()()()()が必要だ! 宝具を撃てる君と令呪が必要だ! ランサーはどうかね?!』

 

『よぉマスター、こっちはこっちで手がいっぱいだ! わりぃが、とても手を離せねえ状態だ! こっちも令呪を使うタイミングをしr────ウオオオオォォ?!』

 

 ランサーからの連絡はプツリと切れ、彼の現状がどれだけ切羽詰まっているのかが声に出ていた。

 

「…………新都にアーチャーさんが『聖杯』を見つけたみたい。 令呪と、私のバックアップが必要みたい」

 

「三月……本当に大丈夫か?」

 

「え? まあ…………正直もう布団の中に籠りたい」

 

 士郎に答える三月は何時もの元気が無く、さっきからずっと顔色が悪かった。

 

「でも………『これ』を終わらせないといけないから、()()()()()よ」

 

「……………」

 

「そう、なら行くわよ」

 

「遠坂! お前────!」

 

 凛のさっぱり過ぎた態度に士郎が彼女の名を呼ぶ。

 

「────三月の言う通り、私達には時間が無いわ」

 

「シロウ…………貴方の気持ちもわかるけど、リンの言う通りよ」

 

「イリヤまで………」

 

 士郎は凛とイリヤ………ではなく、冷徹に成り切った『魔術師』の二人を見た。

 

「よし! それじゃあ行こうか、兄さん! (大丈夫、まだ大丈夫よ、私は………)」

 

 三月がパン!と自分の頬を叩き、()()()()()()へと変わる。

 

「(三月…………)」

 

「(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫────)」

 

 士郎にとって、今の彼女は()()をしているかの様に見えていた。

 




作者:う~~~~~ん

三月(バカンス体):どったの?

作者:頭痛い

チエ:風邪か?

作者:仕事が大変で…………

マイケル:流石に徹夜+残業勤務を何週間もつづけたら、体壊れるぞ?

作者:ごめん、薬飲んで寝る。コント短くて申し訳ありません

マイケル:…………誰に言ってんだ?

三月(バカンス体)+チエ:読者たち

マイケル:…………誰?


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第44話 義兄妹と蛮勇

書いている間に聞いていたイメソンは基本的にUBWのSorrowでした。


 ___________

 

 ライダー運営、セラ 視点

 ___________

 

 時はアーチャーが臓硯を撃つ前の少しに戻り、ライダー達は彼らの空中に近づいた三菱UH-60Jを借りて(ハイジャック)臓硯からの逃走に活用していた頃だった。

 尚もともと中にいた人達はライダーによって力尽くで放り投げ出されていた。

 

 勿論、彼女が彼らを気遣う必要はない。

 

 無いのだが慎二をパイロット席に座らせた責任もあり()()()()()()()()()に未遠川の上だった事もあり、投げ出された人達は川の中へと落ちて行った。

 なので少なくとも生きてはいた。

 

 勿論ライダーが彼らを気遣った事からではなく、慎二(ワカメ)が誤ってヘリコプターを墜落などさせば桜が危険に侵される。 その配慮から川の上を走っていた。

 

「ライダー! もうすぐ新都に入る!」

 

「シンジ、変わります。 桜達を頼みます」

 

 もう一つの操縦席にライダーが座り、慎二は後ろにいた桜とセラの様子を見に行くところでヘリコプターが酷く揺れて、急激にスピードを上げる。

 

 アーチャーの狙撃をライダーが回避したのだ。

 

 ドゴォン!!!

 

 ヘリコプターの後ろで大きな爆発が起きて、慎二は()()()()()

 

「ハハハ…………ハハハハハハハハハハ!!! 何の悪い冗談だよ?! ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 アーチャーの狙撃で少しは止まったものの、追いかける事を再開した化け物(臓硯)を慎二は笑った。

 

 桜の目は虚ろで、焦点が合っていなく、ただ前を見ていた。

 

「桜────!」

 

 ────サァクラァァァァァ!!!

 

「────ヒィ、ヒィィィィィィィ!!!」

 

 桜が頭を抱え、体が震える。

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ────!!!」

 

 さっきから桜は気薄で、臓硯の声にしか反応していなかった。

 しかも決まって謝るだけだった。

 ひたすら謝って、()()()()()かのように。

 

 これを見ていた慎二の中で怒りが爆発した。

 

 「違う!」

 

 慎二が桜の肩を掴んで未だに謝る彼女の体を揺する。

 

「ゴメンナサイゴメンナサ────!!!」

 

 「違うんだ、桜! お前は何も悪くない! 悪いのは────」

 

 慎二がスゥーッと息を呑み込み────

 

 「────悪いのは()()()だ!」

 

 ここで桜の体がビクリと跳ねて、謝るのを止める。

 

『間桐家の当主』に執着し続けていた()()慎二(兄さん)が『()()()』を否定した。

 

 それは桜にとって大きな事で、まさか慎二(兄さん)がそんな事を言うとは思わなかった。

 

 ソレを欲していようが無かろうが『間桐家の次期当主』として祭り上げられた桜。

 ソレを生きがいとして、『間桐家の次期当主』に固執していた慎二。

 

 そう桜は二人のスタンスを取っていた。

 

「桜、聞いてくれ────」

 

「────貴方、今の状況下で何を────?」

 

「────いいから黙ってくれ! 僕は……」

 

 焦点の合っていない眼の桜と、セラに叫ぶ慎二が間を置いてから言葉を続ける。

 

「……僕は()()()()()()()()んだ。 僕は、臆病者だ。 『間桐家に必要無い存在』と知っても尚、それを追いかけ続けた。 でないと僕は………僕はどうしたら()()()()()()()()()()()()()()

 

 桜の目が一瞬泳ぐ。

 

「僕はな、三月に慰められた事があるんだ。 覚えているかい? お前に言った事? あれは僕の実体験だったんだ」*1

 

「………………」

 

「そんな彼女を僕は………………()()()()()*2

 

 桜の目がやっと動き、信じの方を見ると────

 

 

 

 

 

 

 ────彼は笑いながら泣いていた。

 

「そんな彼女が僕に何を言ったか分かるかい? 僕はてっきり罵倒されるか、泣きつかれるかと思ったんだ。 でも違う。 彼女はこんな僕に()()を持ってくれたんだ。 でも僕は結局逃げた、『錬金術』に。 それは全部()()()()なんだ」

 

「…………………………………………………ぇ」

 

 桜が小さく声を出して慎二を見続ける。

 

「笑えるだろ? こんな僕がお前を助ける為に研究に没頭して、結局はお前に成されていた事から逃げていたんだ」

 

 桜はここで思考が戻り始め、セラは逆に何故慎二がこのような事を今の彼女に言っているのかが分からなかった。

 

「だから桜、()()()()。 ()()()()。 ()()()()()()()()()()()

 

 慎二が未だに笑いながら泣いて、桜から離れ、彼女は思わず手を彼へと伸ばした。

 

「に………………いさ……………ん………………」

 

 ヘリコプターのローター音の元で聞こえる筈のない、桜の声に慎二はリュックの中から一つの瓶を取り出した。

 

「ッ?! 貴方、一体どこでそれを?!」

 

 イリヤの世話と教育係を務めていたセラには()()が高度な錬金術で作り上げられた、極めて効力の高い物とは分かった。

 それは神秘の薄れた今の時代にはとても似つかわしくない代物だった。

 

 桜はジッと慎二を見て、彼ははにかみながらヘリコプターのドアを開けて、外を見た。

 

 きぃぃぃさァァァマぁぁぁぁ!!! ドォォォけぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 そこには自分を邪魔者扱いする()()()()()()の成れの果ての姿がまたも自分を邪魔者扱いが追っていた。

 

「じいさん! アンタは今さぞかし喜んでいるだろうな! 夢に見ていた『不老不死』を得たんだからな?!」

 

 ■■■■■!!!

 

 慎二の叫びに帰って来たのはもう既に言語化不可なノイズだった。

 

「そうさ、アンタは僕の事をゴミ以下と定義付けた! 今からアンタに見せてやるよ、このゴミ以下の僕の成果をな!」

 

「貴方、何をやっているのです?! 早く中に────!」

 

 セラがヘリコプターの外に寄りかかる慎二に叫び、桜の目が見開く。

 慎二が彼女に()()()()()()()

 

「……………………………………………ゃ」

 

「────さようなら────」

 

 ────それはとてもとても清々しくて────

 

「────ぃや────」

 

「────桜────」

 

 とてもとても幸せそうな────

 

「────いや────!」

 

「────()()()()()()

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()

 

「兄さん! 兄さん! 兄さん!!!

 

 セラの腕の中で涙を流しながら暴れて手を伸ばす桜の前から慎二は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ヘリコプターから飛び降りていた。

 

 

 ___________

 

 間桐慎二 視点

 ___________

 

『怖い』。

 

 その立った一言が慎二の頭の中を占拠していた。

 だがそれは別に今始まった事ではない。

 

『間桐慎二』。 幼い頃から魔術師として()()()という自覚を持ちながら、「それでも選ばれた一族の嫡子である事実は変わらない」と自分に言い続け、間桐家の後継ぎである事を誇りとし、自分は「他の人間とは違う特別な存在だ」という自尊心を持って生きてきた一人の少年。

 

 養子としてきた桜に対して、「愚鈍で何も出来ない、哀れな妹」と定義付ける事で自分の自尊心を満たそうとする日々、ある日彼は『衛宮士郎』という奴の事を知り、そこから彼は女性の温もりを知った。*3

 

 そこから彼は知らず知らずの間に理解し始めた。

 

「ああ、自分は誰かを必要としていたのか」と。

 

 これは『選ばれた一族の嫡子』としてはあったはならない事と、そのような存在は何時も孤高と、()()()()()()()()()()彼に影響を与えていた。

 

「ハ…………ハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「自分は何故こんなような事を今更考えているんだろう?」と思い、()()()()()で彼は笑った。

 

 彼が心底怖くなった時の癖だ。

 

「笑えば元気が出る」という、彼()()の自己流の()()()()()

 

「(ああ………僕は…………僕は────)」

 

 いや、訂正しよう。

「笑えば元気が出る」というおまじないも実は()()を見習ったものだ。

 周りから『月』と呼ばれていた()()は慎二にとって、何時も笑いながら周りをどんな時にも明るく照らした姿は『太陽』そのものだった。

 自分の手が絶対に届かないような所も一緒だと思い、更に笑う慎二。

 

 もう目の前に()()クソ爺(臓硯)が迫って来て、自分の手の中にあるものを見た瞬間怯んだ事に心の中の恐怖に少しだけ、ほんの少しだけ『歓喜』が混じった。

 

 だがそれもすぐに別の何かに入れ替わった。

 

「────()()()()()()

 

 思わずそう声を出した瞬間、慎二の中を占拠していた『恐怖』が『後悔』へとすり替わった。

 そして胸奥にしまっていた本心が溢れ出始めた。

 ダムが崩壊したかのように。

 

()()()()()()……()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!! 僕は()()()()()()ッッッ!!!!」

 

「なら『正義の味方』としては無視出来ないな、()()

 

 ガッシリと()()が慎二の体を支える。

 

「『ギリシャの火』か、こんな危ないものをよく瓶なんかに入れておいたな。 しっかりと処分しないとな

 

 慎二の手からスルリと瓶が取られて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()の手によってクソ爺(臓硯)に投げられ、()はライダーの鎖付き短剣をヘリコプターへと投げて、ライダーがそれを片手で受け止める。

 

「……………………………………()()?」

 

「………まいったな。 君にも分かってしまう位か」

 

 慎二を支えていたのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『正義の味方(英霊エミヤ)』だった。

 

 ___________

 

 ライダー運営、セラ、アーチャー 視点

 ___________

 

 

 ぎゃあああああああ!!! あツイぃぃぃぃ!!!

 

「チッ、化け物が」

 

 アーチャーが舌打ちをしながら未だに彼が乗っているヘリコプターを燃えながら追う臓硯を見ていた。

 

「ちょ、待てって────!!!」

 

 「────バカァ! バカバカバカバカバカバカバカ!!!」

 

 そして場違いな義兄妹(痴話)げんかが彼の後ろで起こっていた。

 

 涙を流す桜が力の入らない腕で慎二をポカポカと叩いていて、彼は桜に元気が戻った事に半分嬉しくなる半面に複雑らしい顔をしていて、呆れたような顔をしたセラが見ていた。

 

 遂に黙ったままに出来なかったのか、桜が息継ぎしている間に慎二が口を開ける。

 

「わ、悪かったって桜! 僕が勝手過ぎたって!」

 

「貴方は何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時もそうです! 勝手に自分で背負い込んで! 勝手に自己完結して! 勝手に無茶をして! 勝手に他人の為に傷ついても笑って!」 

 

「よ、よく衛宮たちの事を見ていたな桜?」

 

「私は先輩達だけじゃなくて()()の事も言っているんです!」

 

「…………………………………………………………………………え?」

 

 慎二がポカンとして、ハァハァと息を切らす桜を見た。

 

「私は()()()()が昔から隠れながら私の為に色々としているのは分かっていたんです! でも隠れながらそうしていたから、私は敢えて()()()()()()()()んです!」

 

 それはかつて、桜が衛宮邸の土蔵で士郎に言った事の一部だった。*4

 

「でも私が黙っても周りの貴方達は必死に私の為に色々やって、傷ついて、『大丈夫だよ』って安心させようとして! それが全部『私の為』と知っている私の気持ちも考えて下さい!」

 

「さ……………桜…………僕は────」

 

「すみません二人とも、ですが今は言いたい事の続きは胸の奥に仕舞ってください。 ()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「ラ、ライダー…………お前………」

 

 それは、何時も物静かなライダーが初めて他の人の言葉をさえぎってまで自分の考えを出した瞬間だった。

 

「君は主思い…………失礼、()()()()なのだな」

 

「……………………………………………………………………………………いえ。今騒がれては運転に集中出来ませんので」

 

「……………フ、そうか」

 

「そうです」

 

 ニヒルに笑うアーチャーに、無表情なライダー。

 

「で、後ろの『アレ』はどうするのです?」

 

「……………ついさっき、マスターに連絡を取った。 彼らは言峰神父を倒し、新都へと向かって来ている」

 

「作戦は?」

 

「作戦は至極単純。 どの怪獣映画でも出てくるような場面さ。 最高火力を以て『アレ』に総攻撃をかける、それだけだ」

 

「……………ゴリ押しですか」

 

「不満かね? だが現在の戦力では他に方法が無い」

 

「…………そうでしょうか?」

 

 ライダーの返事にアーチャーが彼女を見る。

 

「どういう事だ?」

 

「…………………………」

 

「………そうか」

 

 黙り込むライダーに、アーチャーが何かを察したように声を出す。

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、衛宮三月 視点

 ___________

 

 士郎達は車を駐車した場所に戻り、道路を走っていた。

 

 誰も何も言わずにただ、黙っていた。

 これは別に誰も何も言いたくないとか等ではなく、ただ単に全員が疲労していたからだ。

 

 ここ数時間…いや、それ以前に数日間ロクな休憩を挟まなかった行動の過労が追いつき始めていた。

 ましてや死闘の連続でアドレナリンの分泌の効果も切れ始め、四肢は鉛のように重かった。

 

 あの士郎や凛でさえ、頭が船を漕ぐかのように動いていた。

 これは運転をしているイリヤも同じで、瞼がほぼ閉まりかけていた。

 

「…………運転代わるよ? イーちゃんも休んで」

 

 そこで三月の声が心地よい提案に聞こえ、イリヤは車を道路の橋に寄せ、無言で後ろの席ですでに寝ている士郎に寄りかかって瞼を閉じる。

 三月は寝ている三人を見ながらガラガラと薬の入っている瓶を振り、手に落ちた全ての錠剤を口に含んでかみ砕く。

 

「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ………………………………ゴックン……………よっしゃ! まだまだいけるで~!!!」

 

 鼻がムズムズした三月は車の小物入れの中を漁ってティッシュ箱を見つけて鼻をかむと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ティッシュペーパーが真っ赤な血で染まっていた。

 

 三月が鼻を拭き、鏡を見ると静かに眠っている士郎、凛、そしてイリヤを見て、急に体を腰で前に折って咳をする。

 

「ゲホ!ゲホゲホ!ガハッ!ゲボッ!オエェェェェェェぇ!!!」

 

 咳と嘔吐に血が混じって、三月はそれらをティッシュで口と鼻から拭き取る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…………(大丈夫、()()()()()()())」

 

 実はと言うと三月が綺礼に放った矢の反動は体に残っていた。

 ただ未だに『痛覚』を遮断して、体が満足に動ける()()をしていたに過ぎなかった。

 なので士郎が先程思った、「今の[三月]は無理をしているかの様に見えていた」というのは、あながち間違いなどでは無かった。

 流石は義兄妹と言った所、三月だけでは無かった。

 

 彼女は少しだけ呼吸がマシになり始めた頃に車の中に戻り、イリヤの『運転技術』を使い始める。

 

「(あと少し、もう少しで………これが終わったら家に帰って────)」

 

 車に付いている一つ残ったヘッドライトを頼りに三月はアーチャーの言っていた場所へと向かう。

 

「(────長風呂に入って、桜の作った晩御飯を皆で食べて────)」

 

 彼女は冬木の東にある高速道路沿いに車を北へと走らせていた。

 

「(────イーちゃんと夜中にゲームをして、セラに見つかって、寝るフリをして、次の日にセイバーと………あ、ダメか………私と兄さんが朝の稽古をして、イーちゃんも混ぜて────)」

 

 それは知らずの間に意識が朦朧と自覚が無かった三月が脳内で描く、()()()()()()()()()()()

 

 そんな彼女が自分の唇と鼻からポタポタと落ちる赤い液体に気付かなったのも頷けるような意識だった。

 

 

 ___________

 

 公安機関、自衛隊 視点

 ___________

 

 冬木大橋ではパニックはまだ起きていないものの、時間の問題だった。

 長らく精神汚染にも似た空気当てられる公安や自衛隊員にも効き始め、隊列の乱れや、過ぎた暴行にすぐに出る者達が出始めた。

 未だに戦線維持が出来たのは、()()()たちが未だに団結して組織だった行動を起こしていなかったから。

 もうこれが一時的な混乱とはだれも甘く思っていなく、『戦争』と呼んでも過言ではない状況だった。

 

 そこに後から来た自衛隊の本体と、米軍の応援が彼らの精神的安定剤として、どれだけの救いになったか誰も自覚はしていなかったが、またも精神が汚染されるのは時間の問題。

 

 よって、上空に待機を出されていてただ指を咥えて事の成りを見ていた航空自衛隊に冬木管制官から命令が出る。

 

『新都に友軍無し。()()()()()』と。

 

 その時と同時に陸上自衛隊の各部隊にも似たような命令が出る。

 

『新都に航空自衛隊が空爆を行いこれが終わり次第、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と。

 

 勿論、彼の中に冬木に親族や知人がいる者達は何度も確認を取った。

 彼らは『自衛隊』であって『軍』ではない。

 

『自国民を侵略、財産及び領土を外国、または外敵から守る』。

 

 全員ではないとしても、多くの自衛隊員達はそんな標語を(差はある程度あるものの)信じ、自衛隊に志願した。

 

 だが今の命令は明らかに「自国民を殺せ」と似たようなものに聞こえた。

 

『こちら葉鳥羽です! 冬木管制、もう一度お願いします!』

 

『こちら冬木管制、命令に返答は無しだ! これは自衛隊トップが決めた事らしい………俺達値も抗議をしているが…………正直命令の変更は見えてない』

 

『ではせめて、あの怪物を先に討たせてくれ!』

 

『………………』

 

『頼む、日向!』

 

『葉鳥羽………………これより、冬木管制は10分間の間()()()()()()()()()()()()()()…………ご武運を』

 

 プツリと通信が切れるのと同時に、航空自衛隊達は隊内通信へと切り替える。

 

『葉鳥羽大尉、ありがとうございます』

 

『気にするな中尉。 実は俺の孫達も新都で働いて、住んでいるんだ………』

 

『ハハハ、これがあの映画オタクが言っていた場面なら俺達は“ヒーロー”か、光の巨人が来るまでの“噛ませ犬”かのどちらかですね』

 

『よし! なら犬らしく、一発キツイのを噛ますとするか! 4機は俺のリードにウェポンズフリー! 他のヤツは敵の出方を見て、俺に報告してくれ!』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 そう言い、5機のF-15Jが燃えている臓硯に目掛けて攻撃を開始する。

*1
第17話より

*2
第5話より

*3
第17話より

*4
第19話後半より




作者:申し訳ございません、コントはなしですが何とか投稿出来ました。 では皆さん、次話でお会いしましょう。なお、毎日投稿を目指しますが二日に一回などになるかもしれない事を前もってお伝え致します。


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第45話 「頼み」の呪い

ここから更にカオスになって行く恐れがあります


 ___________

 

 公安機関、自衛隊 視点

 ___________

 

『撃て!』

 

 その通信でF-15Jの何機が同時にミサイルを撃ち込む。

 

 ■■■■■!!!

 

 臓硯の咆哮が上昇し始めるパイロット達のカノピーの強化ガラスをガタガタと音を鳴らせる。

 

『どうだ?! 一個ぐらい効果有りそうなのは無かったか?!』

 

『ダメです中尉! ミサイルもバルカンも呑み込まれていきます! ダメージを与えてはいますが…………』

 

 先程からF-15Jの戦闘機部隊が交代制で様々な火器を使って攻撃していた。

 が、決定的なダメージは目に見えていなかった。

 それどころか、功を焦った何機かは接近しすぎてミサイル同様に()()()()()()()()()

 

『クソ、もうすぐタイムリミットが来るって言うのに!』

 

 内心ハラハラしっぱなしの葉鳥羽中尉は出来るならば一度上層部に取り合って空爆をあの怪物限定にし、それこそ怪獣映画のように自衛隊と米軍の総力を集結して打つような相手と分かっていた。

 

 今までの行動に意味があるのかどうかも分からず、数機を既にロストした。

 同僚達の断末魔からしてパイロットは死んだと見ていい。

 

 唯一の救いは怪物が一機のUH-60Jを追っていて、彼らが怪物を人里から誘導していた事か。

 

 これを見たF-15Jのパイロット達は何度も通信を試すが通信機が壊れているのか、応答は無かった。

 

 というか恐らく通信が聞こえていなかったのだろう、何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『だがやるしかない! ダメージがあるのならば、攻撃の手を緩めなければ少なくとも被害を小さくできる筈だ!』

 

 そう言い、F-15J達が臓硯に目掛けて攻撃を再開しようとしたときに新しい声が通信越しに聞こえてきた。

 

『こちら陸上の武田大佐だ。 少し無理を押し通して君達航空の通信に繋いでもらった。 君達も恐らく、我々と同じような命令を受けたと思うが………別の通信機で聞こえて来る通信を聞かせるぞ────』

 

『────ビーザザザザザ………………こちらレッド1、公安と自衛隊の諸君聞こえるかね? 私は今航空隊が攻撃をしているあの化け物が追っているヘリに搭乗している者の一人だ』

 

 それは青年男性の声で、もし彼に言っていた事が本当ならばあんな切羽詰まった状況の中だというのに冷静な声は彼が如何に修羅場慣れしているかを表現していたようだった。

 

『私を信用しろとは言わない、ただ今からあの化け物に()()()()()()だ。それを見て、私の言う事を信じるか信じないかはそちらに任せよう』

 

 その途端、一閃の光がヘリコプターから射出されて大きな爆発と共に怪物を怯ませた。

 それは、F-15J達のミサイルを数発同時に着弾させた成果と同じ火力だった。

 

『さて、見ての通り()()にある程度打撃を与える事は出来るが致命傷とまでは行かない。 私だけでは()()()()()()()からな』

 

 それは航空隊、及び双眼鏡などで見ていた陸上隊や米軍には信じられない光景だった。

 

 たった一つの攻撃でミサイル数発の攻撃力があるヘリコプターの人物はそれこそ文字通り超人としか思えなかった。

 

『ありえない』。

 それだけが頭を駆けて行った。 いよいよ恐怖や不安などで幻覚や頭が狂ったのか………

 

『では本題に入ろう。 あの怪物には“核”があり、それさえ健在であれば()()()()()()()。 つまり諸君等が攻撃していたのはあくまで“鎧”だ。 よって君達に頼みたい事は同時にありったけの火力でその“鎧”を引き剥がした隙に私が今より重い()()を撃ち込む』

 

『そんな馬鹿な』。 その考えだけが自衛隊員達や米軍に残った。

 何故なら、そんな都合の良い話がある訳が無い。

 

 そんな、まるで()()()()()()()()()映画じみた頼みごとをリアルで聞くなど…………………

 

『もし、これを承諾するのならばこの周波数で返事をしてくれ』

 

『……………各隊員、上空で待機! 私が様子を見る!』

 

『『『『中尉?!』』』』

 

 そう葉鳥羽中尉の機体が急降下し、怪物の前を飛んでいるUH-60Jへと近づく。

 

『さあ、どんな秘密兵器を────なッ?!』

 

 そこで葉鳥羽中尉が見たのは一人の成年男子が開いたドアから()を持っていて、槍の様な矢を引いていた。

 

 キャビンの中では15,6歳程の白い髪の毛をした少年少女と、メイド服らしきものを着た成人女性、そしてパイロットはプロポーション抜群でボディコン服を着た女性。

 

『ハ………ハハハ…………何の………悪い冗談だこれは? 質の悪いアングラB級映画より酷いじゃないか』

 

『は、葉鳥羽中尉?』

 

『中に()を構えている男性一人と、中に少年少女が一人ずつ、メイド服っぽいのを着た成人女性と、バブル時代でも見なかったようなボディコン服を着たパイロットなんて……………』

 

『『『『『『『はぁ?』』』』』』

 

 混乱した他の航空隊や陸上の声が返ってくる。

 

 それを直視していない彼らからすれば葉鳥羽中尉の通信はもはや夢物語の領域を超えて、『発狂』のレベルだった。

 

『…あー、中尉? こちら陸上の武田大佐だ、もう一度────』

 

 葉鳥羽中尉が見ている中、弓から矢を射て、先程と同じ攻撃が怪物に当たる。

 

『本物だ! 奴は本物だ!』

 

 赤い服装を着た男性は通信機を頭に戻す。

 

『さて、隣にいるのは航空隊の指揮官かね? 私を信じるかどうかは別にして、このままジリ貧のまま攻撃を続けるか? それとも協力して────

 

 

 

 

 

 ────()()になってみないかい?』

 

 

 ___________

 

 ライダー運営、セラ、アーチャー 視点

 ___________

 

「(さて、どう出る自衛隊)」

 

 アーチャーは先程のパフォーマンスの為にワザと爆発力の高い武装を使った。

 

 勿論今の臓硯の内部にあるはずの『聖杯』相手に必要なのは『爆発』ではなく『貫通力』なのだが敢えて()()()()()()()()を選んだ。

 

「(しかし皮肉なものだ。 英雄などと言ったモノを毛嫌いした私が………)」

 

『…………こちら航空隊の葉鳥羽中尉だ、君は誰だね? 所属と名を言え』

 

「(かかったか。) 何、こちらはただの通りすがりの『正義の味方』だ。 名はとうの昔に捨てた。 それで私を警戒するのは当たり前なので、まず情報を与えよう。 『アレ』に対する武装は全て着弾前に起爆出来るものに限定しろ、『アレ』に触れた時点で主導権を持っていかれる。 あと、既に何機か取り込まれたようだが『アレ』の近くに行ってはダメだ。 見ての通り()()()()からな」

 

『…………君は何故そこまでするのだ? 君の様なモノなら────』

 

「────さっきも言ったように、『アレ』は無限に再生する。 今はこちらの攻撃などで増殖は止まったが、それも何時まで持つか分からん。 『アレ』は()()()()()でどうにか出来る代物じゃない」

 

『…………………』

 

『……こちら、陸上の武田大佐だ。 私は彼に賭けようと思う』

 

『大佐?!』

 

『これで貸しは無しだぞ、葉鳥羽』

 

『………こちら葉鳥羽中尉だ。 聞いた通りだ皆』

 

 アーチャーはフッと笑いながら新都の北にある海岸を見た。

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、衛宮三月 視点

 ___________

 

 ダダダダダダダダダダダダ!

 

「うひゃあ?!」

 

「きゃ?!」

 

「な、何何何何?!」

 

 先に起きたのは士郎、凛、イリヤの誰かではなく、全員が同時に銃の発砲音によって叩き起こされる。

 

「皆、捕まっていて!」

 

 ギャギャギャギャ!

 

 タイヤがアスファルトにきつく当たり、悲鳴を上げて車がドリフトしながらターンをすると後ろから追っていた車の何台かが転倒するかビルにぶつかり大破する。

 

「ゲホ! ごめん皆! 後から()()()()を頼んだ!」

 

 三月はあれからドライブを続けている内に新都内へと入らずを得なくなり、先遣隊の自衛隊や米軍、後は初めて駆け付けた公安の()()()に追われていた。

 

ガキ共が車に乗っているぞぉ! 免許持ってんのかよぉ?!

 

生意気な奴らだぁ! 引きずり降ろせぇ!

 

ヒャッハー! 次はオレにぶっ殺させろぉ!!! ノコギリもあるからよぉ!!!

 

へっへ! 肉はきっと柔らけぇんだろうなぁ!!!

 

 正に世紀末の様なセリフが飛んできた事に、士郎達の寝起きの頭は覚醒した。

 

「なッ?! あいつら、警察とか自衛隊の筈だろ?!」

 

 追ってくる血塗れで、明らかに人などを撥ねたバンパーのパトカーやトラックに乗っていた人達の服装から士郎はびっくりする。

 

「あの人達はもう駄目ね、『聖杯の呪い』で精神が滅茶苦茶よ」

 

「という訳で今彼らを助けようとしても無駄よ、衛宮君」

 

「そんな?!」

 

「ウッ! ゲホ! ゲホ!」

 

「三月? 大丈夫か?」

 

 咳き込む三月に士郎が声をかける。

 

()()()()()()、むせただけ」

 

 ダンダンダン!

 

 ダダダダダダダダダダ!!!

 

 遂に追ってくる狂人達が自前の銃を撃ってくる。

 

「クッ! 撃ちなさい、衛宮君!」

 

「分かっている遠坂! イリヤは弾倉の装填頼む!」

 

 こうして士郎と凛が車に残った火器と魔術を取り組んで撃ち返す。

 

 ブォォォォォォォォォォォン!

 

 細い横道などから二輪車などが出てきて、後ろの追手と同じような狂人共が全員を襲ってきた。

 大きな鎌や斧と、二輪車の後ろに付けた()()などを引きずって。

 

「「「豚共々皆殺しだぁぁァァァ!!! ヒャーハハハハハハ!」」」

 

「「「民間人はぁぁぁぁぁ!!! ジャマァァァ! スルナァァァァァァ!!!」」」

 

 士郎達、公安と先遣隊の自衛隊や米軍達、そして新都の暴動を生き残って来た強者達の三つ巴が開始した。

 

 二輪車やトラックで来て、刃物や鈍器、ロープや鎖に公安と自衛隊からぶんどった装備や自家製火炎瓶などで襲い掛かる数が多い新都の住民達。

 

 訓練をされ、正規の銃保有者や装備で数は少ないが洗礼された動きと行動を取る、狂った公安と先遣隊。

 

 そして少年少女とは言え、魔術師を乗せた車一台。

 

 全てがこの最後の一台の車によって新都の北へと向かう。

 

死ねぇぇぇぇぇ────ぐはぁ!

 

「うるせぇ!」

 

 士郎が銃を乱射して二輪車に乗って近づいて来た一人を撃ち、搭乗者は二輪車と共に車を追っている自衛隊のトラックの下でミンチへと変わる。

 

 それでも尚戦いは続く。

 

 凛は魔力の温存の為に銃を不器用ながらも、反動を抑えながら狙って撃つ。

 

「イリヤ、次!」

 

「もう無いわよ! これを使って!」

 

 そして次々と残弾が少なくなって行くにつれて仕方なく魔術を使い始める。

 

「あぐ?!」

 

「ミーちゃん?!」

 

 急に声を出した三月を聞いてイリヤは彼女の名を呼ぶ。

 

「大丈夫………掠っただけ────」

 

「────イリヤ、次!」

 

 凛に次の銃を要求されるイリヤはまた士郎達の方に振り返って、三月は抑えていた脇から血が流れ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ていなかった、言うほど。

 

「(…………大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫ッッッ!!!)」

 

 直ぐに治癒術で傷口を消して、痛覚をまた遮断した後運転に戻ろうとして投げつけられた火炎瓶を片手でキャッチして投げ返す。

 

アギャアアアアアアア!!!

 

 三月たちの車に体当たりをしようとしたトラックの運転手が火達磨になり、トラックが転倒して何台かの二輪車と車を道連れにする。

 

『三月君! こちらは全員配置に着いた! そちらは────?!』

 

『ごめんアーチャーさん、新都の狂った人達の相手をしている最中! ちょっと忙しい!』

 

『そちらに何機か航空自衛隊の機体を送った! それまで持ちこたえてくれ!』

 

『………アーチャーさんに令呪を使っても無理っぽい?』

 

『………………恐らくは』

 

『そっか、じゃあ仕方ないね。 ()()()()()()()()

 

『………大丈夫かね?』

 

()()()()()()()

 

 三月が後ろを見て()()()()()()

 

「イーちゃん、ちょっと運転代わって────」

 

「え?!ちょっと、ミーちゃん?!」

 

 三月が急にイリヤにハンドルを握らせて、運転席から乗り出して『()()』を『()()』する。

 

「I am────」

 

 ビキビキと筋肉が悲鳴を上げる。

 

「────the bone of ────」

 

 ギシギシと腱の摩擦がうるさくなる。

 

「──── my sword!!!」

 

 ヒュン!

 

 鋭い音と共に三月に視界がぼやけて、彼女はゴクリと喉に込み上げる血を飲み込んだ。

 

 ドゴォン!

 

 グアァァァァァァァァ!!!

 

 大きな爆発が後ろに起きて敵達を一掃する。

 車や二輪車たちは光の中に消え、アスファルトがめくり上げられ、道路が消える。

 

「ス、スゲェ」

 

 士郎が思わず感心する。

 

「(やっぱり、今のってアーチャーの『弓矢』! あの時綺礼を殺ったのと同じ! 彼女はやはり危険ね)」

 

 三月の事を更に不審に思う凛。

 

「………ミーちゃん? 三月!!!」

 

 そして三月の名を呼ぶイリヤが見たのは力尽きたかのようにダランと体を車の外に出す三月は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────目と耳と鼻と口から血を流していた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 車を近くのクリニックの跡らしきビルの近くに駐車して、凛が中に入って荒らされた店の中を漁る。

 

 その間に士郎は近くを見てきて、他に使えそうな車や食べ物のある店などを探していた。

 

 イリヤはと言うと三月の服を脱がして治癒を────

 

「────ッ」

 

 イリヤは短く息を呑む。

 

「イリヤ! 彼女の容t────」

 

 カゴに色々な薬や包帯などを詰め込んだ凛が戻って来て、それを落とす。

 カラカラと地面の上を転がる包帯と薬の瓶。

 

「……………………何よ、()()?」

 

 彼女達が見た三月の体はやつれていて、あばら骨などが浮き出ていて、まるで皮だけの状態だった。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────ガシィ!

 

「ヒィ!!!」

 

 イリヤの腕を三月がガッシリと掴んで、イリヤは思わず短い悲鳴を出した。

 

「ヒュー……………ヒュー……………」

 

 ヒューヒューと息をする間に三月の口が動いて、イリヤが近くまで耳を寄せる。

 

「………彼女は、何て?」

 

 イリヤが涙を流しながら凛に伝える。

 

「………『お兄ちゃん達には言わないで、()()()()()()』って」

 

 凛がビックリして三月の顔を見ると、三月はただはにかんでいた。

 まるで安心させるかのような、かつての母親(遠坂葵)の最期の時に精神が一瞬だけ正常に戻った()()()と重なった。

 

「う………」

 

 凛は思わず口を両手で覆い、静かに泣いた。

 

「遠坂、イリヤ! こっちに良い状態の車がお店の駐車場にあったんだ!」

 

 士郎の近づく声で三月に服をいそいそと着させる凛とイリヤ。

 

「ハァ、ハァ、あ、あっちに────って、どうした二人とも? 目が赤いぞ?」

 

「な、何でもないよ! た、ただ眠いだけ!」

 

「そ、そうよ! そういえばお店ってどんなところ?」

 

 イリヤと凛の元気な声に呆気に取られる士郎。

 

「え………えっと、コンビニなんだ。 だから食べ物とかも────」

 

 グゥ~~~~~~~~~~~~。

 

 三月のお腹が鳴って、三人は彼女を────

 

「────あ、ああ! 衛宮君は周りを警戒して! 私とイリヤで付いていくから!」

 

「そ、そうそう! お兄ちゃんがこの中で今一番接近戦とかに長けているから!」

 

 そう士郎に言い聞かし、彼を先に行く様に言う凛とイリヤ。

 そして三月を抱きかかえる。

 

 ()()()()()()

 

 それほどまで異様に軽かったのだ。

 

「ウ………ミー………ちゃん………」

 

大丈夫、大丈夫だから泣かないで()()()

 

 泣きそうになるイリヤに静かに声をかける三月を見る凛はまた泣いていた。

 何とか気丈に振舞っているが、正直気持ちが未だにグチャグチャだった。

 

『三月は人間(ヒト)ではない』。

 それは理屈として分かっている、警戒した方が良い事も分かっているし、この様に『害』どころか『利』まで得ている事も『魔術師』ならば()()()の筈。

 人に害を成すかも知れない人外が自ら自滅していくのだから。

 

 だが『人間』として凛はただ悲しく、以上のような考えをする自分が恥ずかしくて自己嫌悪して、どう行動すれば良いのか分からなかった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク!!!」

 

 三月は車の中でこれまでにない程、食物を食べていた。

 ラップなどを乱暴に剥ぎ取り、ただただ口の中へとひたすら次から次へと積み込んだ。

 

【告。 生命活動の停止の可能性『大』。 材料を要シマス】

 

「(だから食べているんでしょうが?! 取り敢えず『()()()』続行!)」

 

 さっきから【  】の声がずっと三月にそう言っていたので彼女はひたすら食べ物を食べて、『()()()』を使って食べ物を()()して、それを使って直接自分の体の足しにしていた。

 

 まあ、さっきからの『可能性“極大”』からはマシなのだが。

 

 凛はせっせと三月が食べやすいようにラップなどを取っていたがとても付いて行けず、最終的にはただ次の物を彼女に渡していた状態だった。

 

「三、三月良く食べるな」

 

 三月はただ「グッ」と笑顔を浮かべながらサムズアップを士郎にする。

 

「あ! 見て!」

 

 運転をしているイリヤの言葉に皆が見ると、ヘリコプターを追いかける昆虫状の()が見えた。

 

「何、アレ?」

 

「ング…………アーチャーが『間桐臓硯』だって」

 

「「「アレが?!」」」

 

『おうマスター! 長引いてすまん、令呪頼むわ!』

 

()()()()

 

『………もし、俺が生き残らなかったら────』

 

『────じゃあ犬飼って“クフちゃん”って名付ける』

 

 『オイ』

 

『だからちゃんと帰って来てね』

 

『………………………………』

 

『クフちゃん?』

 

『ああもう分かったから“クフちゃん”呼びやめろや!』

 

『じゃあ“勝て”、()()()()()()

 

『…………………………………………………あいよ! ご武運をな、マスター!』

 

『神父さんの事、ごめんね?』

 

『良いってことよ! その代わり俺にたらふく飯を奢れ!』

 

『うん、良いよ』

 

 三月の体が一瞬光って、凛とイリヤの体がびくりとする。

 

「な?! い、今のは何だったんだ三月?!」

 

「ランサーが『令呪くれ』って」

 

「…………そうか………」

 

「ちなみに彼にご飯を奢ってね、兄さん?」

 

「な、何でさ…」

 

「あの、私も余裕はあまり無いけど………」

 

「遠坂?」

 

「あ、ずるいわリン!」

 

「モグモグモグモグモグモグモグモグモグ!!!」

 

 三月はただ食べる事に戻る。

 

 そして彼らの後ろから大量のトラックや装甲車などが追いつき始める。

 

「ああ、もう! またアイツらか?!」

 

「モグモグモグ、ゴクン!!! 違うよ遠坂さん、アレは味方達」

 

「「「へ?」」」

 

 そこで小さく「けぷ」と声を出す三月は士郎、凛、イリヤにアーチャーの作戦を説明する。

 




作者:ちゃんと書けたか心配です…

マイケル:おお、今回書けたじゃん!

三月(バカンス体):珍しくね

作者:まあこれも読者達のおかげです。 本当に、誠に、ありがとうございます!!

雁夜(バカンス体):というか、今思ったんだが誰だこいつ?

マイケル/三月(バカンス体)/作者:おせえよ!

雁夜(バカンス体):うるせえ! すくすく成長する桜ちゃんの合間に来てくれってチエさんが言うから来ただけだ!

チエ:??? 私はそんな事言った覚えは無いが…………………

雁夜(バカンス体):うぐ

ラケール:何かこいつ、慎二に似ているね


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第46話 セイギ ノ ミカタ

遅くて申しわけございません、一応投稿は出来ましたが…………

イメソンとして「消えない思い」聞きながら書きました。


 ___________

 

 アーチャー、ライダー運営、衛宮士郎、イリヤ、セラ、遠坂凛 視点

 ___________

 

 三月が他の三人に説明した()()は至って単純だった。

 

『自衛隊の一斉射後、魔術師とサーヴァント達は宝具級や一番威力の高い一撃を一斉射』、と言ったモノである。

 

 正に二連攻撃(通常兵器+魔術)だった。

 

「でも良く自衛隊とかがそんなのに了承したわね?」

 

「うん、なんかアーチャーさんが()()()()

 

 

 

 そのアーチャー自身、ライダーと話していた。

 

「正気か?」

 

「それ以外の方法が確実と貴方は断言出来ますか?」

 

「…………」

 

 アーチャーの帰って来ない答えにライダーは?マークを出す。

 

「??? どうかしましたか?」

 

「いや、私と君はやはり反英雄同士だなと思っただけさ」

 

「…………私は桜だけが無事であれば…………………………………………………………………………………いえ、それも…………………………………………………………………………………………………………………………………………いえ、やはり桜だけさえ無事でいれば────」

 

「────フ」

 

 何故か長い沈黙の間に言いよどむライダーに思わず鼻で笑うアーチャーにライダーは苛ついたように言葉を返す。

 

何ですかその意味有り気なは?

 

「何。 屋敷での君は実に良い空気を出していた事を思い出して、な」

 

 それはライダーの宝具を『特攻野郎〇チーム』とからかった三月が「自分の血を吸って良い」と言った後の事だった。*1

 ライダーは三月とランサーの契約後、半ば拉致する勢いで三月を個室に連れ込み、15分ほど音沙汰がなく、次に出たライダーは()()を浮かべながら浮いた足取りで部屋を後にした。

 そのまま鼻歌を出すような感じのライダーとは対象外に少々(?)ゲッソリとした三月がその後にヨロヨロと部屋を出て、遠坂邸の冷蔵庫にあったプリンと野菜ジュースを平らげた。

 

 余談だがこの様子をライダーはこっそりと物陰から見ていて胸が痛んだのは秘密にしていた。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………忘れて下さい」

 

「彼女()が悲しむぞ?」

 

「それは貴方にも言える事では?」

 

 脅すような口調で言うアーチャーに、そっくりと言い返すライダー。

 

「………我々は既に死んだ身だ、現在()を生きる者達の方が大事さ」

 

「貴方は変わりましたね」

 

「そういう君こそ。 違うか?」

 

 以前はギラギラとした、他者を寄せ付けない抜き身の剣のようなピリピリした空気を纏い、機械的に合理的な判断をしていた『守護者(機械)』。

 

 以前は「被害者でありながら加害者」である少女(召喚者)にかつての自分の状況を連想して、「他者は全て敵か利用すべき存在」とずっと気を張っていた『怪物(被害者)』。

 

 ただ、二人の周りの人達に影響を受けて変わったのは自覚があった。

 最近までは認めたくは無かったが。

 更に周りの人達を変えた存在自身がどこか冷静…………というか予想外の行動によく出る事もあり、気になっていたのもあった。

 

「…………さて、三月君達もそろそろ着く頃だ。 後ろの者に教授を始めるとするか────」

 

 そしてアーチャーは後ろで近づく車で運転しているイリヤをジーッと見ていたセラに()()()()()()の使い方を簡単に説明し始める。

 

 ちなみに桜は未だに慎二に怒っていた。

 

「さ、桜ぁぁぁぁ…た、頼むから機嫌を直してくれよ~~~」

 

「知りません!」

 

 そして痴話げんか続行中であった。

 

 ■■■■■!!!

 

 「「うるさい、このクソ爺!」」

 

 半ば逆ギレした慎二と桜が同時に外の臓硯に叫び返していた。

 

「ええ、全くその通りですね」

 

「ああ、その通りだとも」

 

「頼もしい限りですね」

 

 少年少女二人に同意するセラとアーチャー、そして直に感心するライダー。

 

 

 場は冬木の新都の北にある海岸へと移り、ヘリコプターはグルグルと入り組んだ場所を回るのをやめてそのまま海の方へと向かい、それを臓硯が追う。

 

 更に臓硯を追うように様々なトラックや装甲車、航空隊のF-15Jなどが近くの空域や地域から飛び出た。

 

『諸君、配置に付いたら一斉射撃を始めてくれ! こちらはタイミングを合わせる!』

 

 

『聞いての通りだ、武田!』

 

『聞いた! 葉鳥羽も合わせろ!』

 

 大体の配置に着き、射程内まで来た自動車から様々な人たちが下車して、無反動砲やロケット発射筒などを取り出し、装甲車に備えている対戦車誘導弾なども構える。

 

 それこそ、第三者から見れば怪獣映画(または外宇宙の侵入)を撃退するようなワンシーンだった。

 

 ただしここにはプロデューサーにディレクターやADにカメラマンなどと言った人達などいないし、これ程の()()()()()()()()()()を浮かび上げる俳優やエキストラなどではなく()()()()()

 

 それにハリウッドなどでよく見る景色かも知れない。

 だが場は夕焼けや太陽が上がって、見渡しの良い景色などではなく。

 ボロボロになった市街地などではなく。

 

 真っ暗な、暗黒にも近い夜中で街灯などが殆ど照らしていない海岸。

 サラサラな砂に自動車や装備らのガシャガシャとした音やこの世のものとは思えない臓硯の叫び。

 

 余りのミスマッチさにもしこれが本当に映画のシュートだったのならば企画の段階…………またはラフと時点でスクリーンライターやSFXの方達は即チェンジされていただろう。

 クビになっていなければの話だが。

 

 

「本当、何か悪い冗談みたいね」

 

 この景色を近くの森の影から見た凛が呆れたように言う。

 彼女の10年間…………いや、『魔術師』としての知識や()()が僅かの数日間で、彼女が待ち望んだ聖杯戦争中に覆されまくっていた。

 しかもその聖杯戦争自体が狂っていた。

 

「…………………うん」

 

 イリヤが元気のない声で生返事を出す。

 前回の第四次聖杯戦争で、ずっと自分が思っていた事が(ことごと)く『偽り』と知った。

『実の父親がずっと自分を捨てた』どころか、『自分の家がキリツグを拒んだ』。

『キリツグは母親を見殺しにした』、が実は『同意の元でキリツグが聖杯を手に入れて自分(イリヤ)母親(アイリ)の幸せの為の行動だった』。

 等々等々等々等々等々等々等々等々。

 

「………………………」

 

 士郎はただ静かに見ていた。

 10年前の大火災が聖杯戦争の所為で、爺さん(切嗣)は今目の前や新都での出来事を止める為にそうなった結果。

 自分の知っている爺さん(切嗣)とは違う、残忍性のある爺さん(切嗣)

 憧れていた『正義の味方』の魔法使い(切嗣)

 その『正義の味方』の成れの果てであるアーチャー(あり得た未来の自分)

 それらの存在を見て、聞いて、考えた末に自分が()()()考えた『正義の味方(ヒーロー)』像。

 それは『自分の身の周りを守る』と言った、極まりない『エゴ』の象徴に感じ取れた『我儘』だった。

 そして先程の綺礼の言葉。 『悪の象徴』と振舞って見事それのように見えた彼の以外な姿と思いに────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────士郎は()()()を感じていた。

 この最後の事が、彼の心の中で燻ぶっていた。

 彼自身、何故こんな事を感じるのかずっと考えていた。

 だが考えれば、考える程、()()()が涙をずっと流していた事が思い浮かぶ。

 そっと彼はその子(彼女)を見る。

 

 その儚い横顔がどこかを見ているような、見ていないような感じで。

 肌は相変わらずの白…………より真夜中での月光の下である事もあり、一層白く見えた。

 まるで透き通っているかのように。

 未だに『人形みたいに綺麗な子だ』と思えるような碧眼と金髪で、自慢の────

 

「────ん? どうしたの、士郎?」

 

「あ……………いや」

 

「変な士郎」

 

 視線を感じ、士郎を見てクスリと笑う三月からサッと顔を逸らす。

 

『月の天使』。

 

 穂群原学園で彼女の二つ名。

 今までは「そうかな?」と士郎は思った事はあるが、今の様に周りに人工的な光源など無い今の彼女は「正にそうだ」と彼でさえも納得出来た。

 

「さてと! いっちょやってみっか! ♪~」

 

 鼻歌を出しながら三月は車のボンネットから車の屋根の上に立ち上がって────

 

 

 

 

 ────一つの弓矢を『()()』する。

 

「やっぱり待って三月!」

 

「イリヤ?」

 

 急に切ない声でイリヤが三月の名を呼ぶ事に驚く士郎。

 

「やっぱり………やっぱりやめようよ! アーチャー達に任せれば良いじゃない?!」

 

「………()()()()()()()()

 

「お兄ちゃんも………シロウからも何か言ってよ?!」

 

「え? イリヤ、それは────?」

 

「────イリヤ、貴方は今何を言っているのか分かっているの? 『魔術師』としての義務────」

 

 「そんなの知らない! ミーちゃんにそんな事、関係無い!」

 

「イーちゃん…………」

 

 ドゴゴゴゴォォォォォォォン!

 ボボボボボォォォォォォォン!

 

 士郎は突然起きる爆発音と発する光源の下で泣き始めるイリヤと硬い表情の凛を見る。

 

 「このままじゃミツキが死んじゃう!」

 

「何の、話だ?」

 

()()()()()大丈夫だから。 I am────」

 

「────待て三月────!」

 

「────the bone────ゴフ」

 

 咳を合図にダラダラと口と鼻から血が()()流れ始める。

 

 まるで「信じられない」と言ったような顔で士郎は三月の居る車の屋根に登る為にトランクを駆けあがり、三月は弓を引く。

 

 もう悲鳴を上げるどころか、耳朶で「ブチブチ」と急増で()()()()()()()などで補強した筋肉や権が音を立てて切れる。

 

「(────of my sword)」

 

 バシュン!

 

 最後の、声にならない言葉で矢を射ると同時に後ろへと三月は倒れて士郎がキャッチして驚く。

 

 三月がまるで()()()()()()()()()()()()

 

 目で見えてはいるのに、まるで幻覚の様な────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────訂正。 先程の『透き通って見えるかのような』ではなく、『()()()()()()()()』だった。

 

「…………三月? お、おいどうしたんだよ? 何で────?」

 

「………だって………………」

 

 ドゴォン!

 

 ■■■■■!!!

 

 三月の放った矢の着弾と同時に今までの中で一番デカイ爆音と共に臓硯の咆哮が響く。

 

「────だって、『()()()()()』だから………………」

 

 「ヤダァァァァァァァ!!!」

 

「ッ」

 

 弱弱しく士郎に三月は笑いながらそう伝えている内に、イリヤはただ泣きじゃくり、凛は血が出るほど拳を作り、臓硯の咆哮が()()として聞こえてきた。

 

 い、ヤダ!!! しに、シニトウナイ!!!わ、しは! しに、トウ、ないィぃィぃィィィィィィィ!!!

 

 臓硯の……………いや、不死への妄執の最後の叫びが弱くなっていく様に連動しているかのように三月はゆっくりと目を閉じる。

 

「……………嘘だ」

 

 そして士郎の目の前と腕の中で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────三月は()()()へと消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 %$(*-311に従い、■■■■■■条件を満タシマシた。】

 

*1
第37話より




作者:短くてすみません、次話はもっと詳しい事を書こうと思っています。メインが後半部分だったので…………ちなみに皆さんはお気付きになられましたでしょうか? (意味深


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第47話 ユメ カラ サメル

一応読み直しはしましたが………………
いえ、楽しんでいただければと思います!

一応作者としての考えはあるのですが、アンケートをしていますのでそちらにご協力頂けると嬉しいです!
期限はそうですね……………何話か先だと思います!
こういうアンケートは初めてなので心臓がドキドキしっぱなしです(汗汗汗

追記:アンケートに「作者任せ」が無いのをたった今気付きました。。。ですので「作者任せ」であれば「その他」にて票を入れてもらえますと助かります!

追記2:気になったのでアンケートを作り直しました、ご迷惑をおかけしました(自分が見たところ表はまだ何も入っていなかったのでセーフ…の筈です)


 ___________

 

 アーチャー、ライダー運営、セラ 視点

 ___________

 

 時は少し前に、丁度航空と陸上自衛隊達が攻撃を開始し始めた時だった。

 

 ライダーはUH-60Jを急上昇させている間にアーチャーが後ろに乗っている信二達にパラシュートを着用させ、その後自分も着用しながら慎二は質問を彼にしていた。

 

「アーチャー、これは何の為だ?」

 

「何、ライダーが高度をある程度上げてから我々は飛び降りるからだ」

 

「………ハァ?! おいちょっと待てよお前?! 聞いていないぞ?!」

 

「兄さん…………」

 

「そうだな、少し説明不足だったかも知れんが………宝具の撃つタイミングで()()()()()()()()からだ」

 

「「…………………………え?」」

 

 信二と桜が同時にライダーの方を見る。

「信じられない」といった顔をしながら。

 

「………………ライダー?」

 

「そんな顔をしないで下さい、桜。 私はもとより『使い魔(サーヴァント)』。 あの妖物から桜を守ればいいのです」

 

「で、でも────!」

 

 ────そんなの死んじゃうよ!

 

 そう桜は言いたかった。

 だが言ってしまうと、何となくそれが本当に実現しそうで彼女は怖気付く。

 

「家臣を信じるのも、良い主君の義務ですよ? それとも貴方はそこまであなたを慕っている者を信じられませんか?」

 

「……………」

 

「それに令呪のブーストがあれば幾分かマシだろう?」

 

「えっと…………………」

 

 アーチャーのアドヴァイスに困るような顔をする桜。

 

「…………令呪の使い方は何も『呪文』などを使う事は無い。 『()()』で発動する時などある」

 

「え?」

 

 アーチャーの言葉は重みがあり、まるでそれを()()()()()かのようだった。

 

「だから彼女に『アレを倒せ』や、『生きて帰ってきて欲しい』などの事の様な()()も起こりえるという事だ」

 

「………………………………………………」

 

「おっと、これは言い過ぎかな?」

 

 ライダーの無言のプレッシャーを感じたアーチャーはあどけながら肩を上げる。

 

「さて、皆準備は良いかね?」

 

「ハハ………へ、ヘリコプターから二回も飛び降りるなんて…そ、そうそう出来ない経験だな、ハハハハハハハハ!」

 

 桜はもう一度ヘリコプターのドアからライダーの方へと振り返った。

 

「ライダー………………」

 

()()()ですよ、桜。 ()()()周りには頼りになる親族や友がいます」

 

 ライダーが僅かに微笑み、桜を見る。

 

「ラ、ライダー……………ッ! 『勝って、()()()()()()()()』!」

 

 桜の思いに令呪が呼応して、ライダーは魔力が爆発的に地震に流れ込み、溢れんばかりに膨れ上がるのを感じた。

 

「………………」

 

 ライダーはただニコリと笑いつつも桜に返事をしなかったのが、慎二と共にセラにヘリコプターから引きずり出される桜にとっては気がかりだった。

 最後に飛び出るアーチャーは一瞬ライダーの方を見て口を開けるが、思いとどまったのかそのまま声をかけずに飛び降りる。

 

 

 後に残されたライダーは表面上、いつも通りに見えたが内心かなり複雑な気持ちだった。

 令呪の魔力と共に流れ込んだ桜の感情が暖かく、切なかった『希望』だった。

 本当ならばずっと桜と共に居たい。

 が、同時に昔の事を思う。「もし自分が()()化け物と化するのなら」と。

 

「……………いえ、今は目の前の事からですね」

 

 ライダーは無理矢理全てを胸の奥に押し込んで、自衛隊達の攻撃で臓硯の『蟲の鎧』は南西の方向へと集中し、この隙にライダーは()()()使()()()()

 彼女は自分の首を刺してそれを触媒として真っ白な天馬を召喚すると同時にU()H()-()6()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本来ならばこのような現象などは起きない。 が、桜の令呪の事()あり、ライダーのコンディションはこの上のないぐらい最高だった。

 それもあったのか、『武装』と類される『天馬』と同様に『ヘリコプター』も宝具の対象と見なされていた。

 

 ライダーは予想していなかった鎧と()()を見て、乗っている天馬の首を優しく撫で、天馬は「ブルル!」と嬉しそうに答える。

 

「(これは、意外でしたね)」

 

 鎧はともかく、武装のそれは()()()()()()()だった。

 ただ通常のとは色々違うし、『人間(ヒト)』が到底扱えるような物でも無く、それはさながら『異界の騎士』だった。

 

「…………フフ、皮肉なものですね」

 

 ライダーは一度も自分の事を『騎士』とは思わなかった。

 自分は()()()()()()()()()()()()と考えていたからだ。

 

「ならば私はさぞかし『戦乙女(ワルキューレ)』と言った所ですか。ならば────」

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ライダーは天馬と共に一瞬で空高く舞い上がり、閃光と共に害あるモノ(臓硯)へと流星の様に神罰(宝具)を下す。

 

 「『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!!」

 

 ライダーが突貫し始めると同時に、二つの矢が臓硯の守りの薄くなった南東へと着弾する。

 臓硯は本能的に守りをそこへと移動させる瞬間、ライダーは薄くなった()()()へと駆けた。

 

 彼女は久しく感じていない、溶岩の様に激しく燃えて消える事が許されない熱い感情が内側から漏れだすのを止めなかった。

 その姿は正に流星の如く、幾百幾千という距離を僅か一回の瞬きで飛躍した。

 

 空気の摩擦から鎧は赤くなり、彼女の肌と髪の毛がチリチリと音を立て、焦げる臭いが鼻をくすぐる。

 音速を優に超え、光速にまで達そうとするそのスピードに臓硯は意識的にか、本能的にか反応して『鎧』が戻り始めた。

 

 ライダーは『騎乗兵』のクラス。

 正に電撃戦のように一瞬の油断をした敵を最小限の妨害で、最短距離を進み、敵の大将(または中核を成す幹部)を殺すに相応しいクラス。

 

 「ハァァァァァァ!!!」

 

 ライダーは未だかつてない咆哮と共に暗闇の中へと突入し、それは鎧と武装を抜ける空気の出す耳を劈く(つんざく)様な音で回りの蟲と大気を強烈に振動させた。

 

 ジュワァァァァァァ!!!

 

 蟲達が摩擦熱で赤くなった鎧に触れると焦げる臭いと音がライダーに聞こえた。

 

「ッ!!! グッ! ウゥゥゥ!」

 

 焼け死ぬ蟲達を更に蟲達が死骸を使って鎧の隙間を縫って、ライダーと天馬の体中に齧り付く。

 

『痛み』など昔に慣れた筈のライダーでさえ思わず声を上げる程だった。

 それは文字通り肉を分解されながら()()()()感触。

 

 だがライダーはひたすら前に、眼前の存在全てを殺害せしめる『暴風』と化して、()()()()()()()()()

 

 守りが最も厚く、空気が入る隙間もない『殻』。

 

 そこから()がライダーに聞こえてきた。

 

 バカ、なぁぁ! あり、エヌ! わ、シハ、永遠の! イイイイいいい命ををヲヲヲヲヲヲヲ!!!

 

 臓硯を守る殻が崩れ始める、圧倒的な()()()()()()()()で。

 

 そしてこれはアーチャーとライダーの()()()()()()()事も意味をした。

 

 もし遠距離攻撃であればそれを内包する魔力が万が一枯渇してしまえば攻撃はそこで止まり、消滅する。

 だが武器を手に取り、()()()()()()()()を攻撃に転換すれば、それは膨大な魔力がそのまま核ミサイルのような攻撃が進んで行く事となる。

 

 蟲が波を打ち、臓硯が無意識に恐怖をしたのを悟らせる。

 

 わシの、永遠の! 聖杯の! 永遠の、イイイイのちがァァァぁ!!! 聖杯ハ! 我のテニィぃィぃィ!!!

 

 ライダーの体から力が抜け始め、如何にダメージを負ったのか否が応でも知らせる。

 天馬は既に死に体で、存在そのものが透き通って、ライダーがこれに気付いていれば胸を痛めていただろう。 目は蟲に抉られて血の涙を代わりに流し、鼻は窒息させようとした蟲達でいっぱい。口から出た舌は蟲達に既に食べ尽くされ、白かった体から赤い血が鎧の外へとへばり付いていた。

 

 もう、天馬として美しい姿は見当たらなかった。

 

 だがライダーはただ一つの事を考えていた。

()()()()()()()()()()()()()」と。

 それはまるで、かつて『形のない島』で『怪物』へと変質した自分との分かち合う覚悟のようだった。

 

 そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ライダーの攻撃は他の蟲とは違う、すぐに消滅せずに血液の様な液体を噴出する蟲の塊へと繋がった。

 

 い、ヤダ!!! しに、シニトウナイ!!!わ、しは! しに、トウ、ないィぃィぃィィィィィィィ!!!

 

 その断末魔でほぼ完ぺきな統制下にあった蟲達が乱れ、無意味に跳ね回り始めて、その行動が波打つかのように広がった。

 

 遂に天馬が限界を超え、支えるものが無くなったライダーの体は空中を落ちながら気が付いた。

 

 間桐臓硯の声が今泣き叫んでいる者とは別に、()()()()聞こえた事に。

 

 ワシノ、聖杯ィぃィィィィィ!!!

 

「ああ、長い夢が…終わる…………終わりか。我が宿願も、我が苦痛も、マキリの使命もこんなところで………………終わるのだな」

 

 これを聞いたライダーはふと思った。

「これは臓硯の内側と中側の声か?」と。

 普段なら「馬鹿馬鹿しい」と切り捨てるのだが、疲労しきった頭では思考がそこまで綺麗に打ち切れなかった。

 

「はは、ははは…あと一歩…あと一歩という所まで来たのだがな…五百余年、瞬きほどの宿願であった。 ユスティーツァよ、やっと会えるよ」

 

 ライダーが最後に聞こえた声はどこか、慎二の様な少年に似ていた。

 

 そこで彼女の意識は闇へと落ち始め、成人した桜の妄想が同じく成人した友人達と笑いあう姿に────

 

 

 

 

 

 

「(出来れば、桜と────)」

 

 

 

 

 

 

 

 ────一つの雫がライダーの目から頬を伝った。

 

 ___________

 

 自衛隊、米軍 視点

 ___________

 

 彼らがありったけの火力をつぎ込み、別の場所から二つの光線の様なモノ、そして()()()()()()()へと着弾して、文字通り()()()()()()

 

 そこに残った闇は宙へと飛びあがり、散漫して残った『泥』の様なモノが凄まじい憩いで一点に集中していった。

 

()()()()?」

 

 そうボソリと言ったのは誰だろうか?

 

 暗い夜の中で、更に黒い太陽な物がそこに残り、直視していた者達は(たちま)ち純粋な悪意と憎悪で気が狂って行った。

 近くの人達が自らの目を抉り出す者達や近くの人達をナイフでメッタ刺しにする人達などを拘束し、黒い太陽から目を逸らし、本能が『危険な場』と叫ぶそこから退去しようと試みる。

 

 そこで航空隊はある程度距離を取っていた為にそれほど精神に異常は無く、彼らは見る。

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、セラ、桜、慎二、セラ、アーチャー 視点

 ___________

 

 アーチャー達が海岸までパラシュートし、降りてくるのを見たイリヤと凛は唖然とする士郎を車に乗せて彼が降り立つであろう場所へと移動した。

 

「大丈夫でしたか、お嬢様~~~!!!」

 

 セラがイリヤを見た瞬間腕をブンブンと振り、イリヤはぎこちない笑顔を作り手を振り返す。

 アーチャーが颯爽とある程度の高度からパラシュートを外して士郎と凛、そしてイリヤを見る。

 

「………?」

 

「彼女は…………その────」

 

 バタンッ!

 

 士郎が突然車のドアを乱暴に開けて、海岸へと走り出す。

 

「「衛宮君?!/お兄ちゃん?!」」

 

 凛とイリヤが士郎の後を追い、未だにパラシュートでゆっくりと降りて来る慎二と桜、そしてセラは早く降りられないか色々と試していた。

 アーチャーは士郎の走り去った所の先を見て、険しい表情をする。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 士郎は走る。

 

 走る、走る、走る。

 

 ただひたすら走る。

 自傷行為で叫び声をあげる人達を横通りながら。

 

 走る、走る、走る。

 

 自傷行為をする人達を拘束してその場から逃げる人達を素通りする。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ────!」

 

 息が上がり始め、目的の場へと近付く士郎は────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()の声を聞こえ始めた。

 

「う~~~ん、娑婆の空気は旨いな~~」

 

 そしてその姿も────

 

「ッ!!!」

 

 ────クッキリと見え始め、士郎は止まって荒い息遣いを何とか落ち着かせようとする。

 

「ハァ、ハァ、グハァ……………フゥー………」

 

「え、衛宮君!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 凛とイリヤがヘトヘトになりながら士郎へと追い付いて────

 

 

 

 

 

「「……………え?」」

 

 

 

 

 

 ────同時にポカンとした声を出す。

 

「嘘…………でしょ?」

 

「ミー……………ちゃん?」

 

 凛とイリヤは士郎と共に目の前の()()をただ見ていた。

 

「ん? 貴方達は────」

 

 三人が見て数秒間後、その()()が彼らを初めて見たかのように反応して、今度は慎二と桜、そして(ほとんど息を切らした)セラが追いつく。

 

「「三月先輩?!/三月?!」」

 

「お~~、今度は間桐兄妹」

 

「…………………」

 

 彼らの前には三月がいた。

 ただし服が先程着ていた物ではなく、ドレスだった。

 そこにアーチャーが現れて、近付こうとしたイリヤを止める。

 

「違うな、君は」

 

 彼女は笑顔になり────

 

「────へぇ~? 流石は『英霊エミヤ』って所かしら?」

 

「…………………()()、お前は?」

 

 士郎の言葉に凛、イリヤ、慎二と桜が彼と三月をお互い見た。

 

「およ、これは意外────」

 

「────ふざけるな! あいつの顔! あいつの声! あいつの仕草! そのどれもが正にあいつそのものだが、お前は()()! 誰だ、テメェは?!」

 

 ()()はスカートの端を持ち上げて、頭を少し下げて一礼する。

 

「こんばんわ、皆さま────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そして()()()()()

 

 最後の一言で魔力が見えない波の様に彼女を中心に広がり、景色はその『波』を追う。

 

『波』が次々と自衛隊達に追いつくと彼は服だけを残し、チリへと化す。

 

『波』が黒い太陽に触れると、『ソレ』も埃の様にサラサラと消えていく。

 

 未だに燃える新都で暴れる住人達は何かを感じたのか、行っている事を一時中断して見上げると『波』が彼らを通過して、彼らもまたチリへと成って行く。

 

 それが更に広がり、どこもかしこも広がる『波』は男性、女性、幼子、赤子、犬、猫、ネズミや鳥と、あらゆる生物をチリへと変えてゆく。

 

 それが世界を一周すると、空を見上げている()()の周りには海の波の音以外何も無くなった。

 

「よし! これで十年分の利子ぐらいは払えるでしょ!」

 

 彼女が視線を元に戻すと、彼女の表情は笑顔からスンと無表情に変わる。

 

「ねぇ、貴方達は何故()()()()()()の?」

 

 そこは急に静かになった海と消えた人達の事を見ていた士郎達がいた。

 

「チッ、面倒臭ぇぜ────」

 

 ()()が無表情から舌打ちをしながら苛立ち、更に笑顔へと戻る。

 

「────いいよ、じゃあ説明してあげる。 わt────」

 

 バシュン!

 

 アーチャーの放った矢が()()を通過して、後ろの海の上を飛ぶ。

 ()()()()()()()()()

 

「妖術の類では無いか」

 

「当たり前よ。 そんなチャチなモノじゃないわ、失礼しちゃう! さてと……改めて()()()()()………かな? 私は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 MITSUKI 視点

 ___________

 

 

「…………………………………………………………………………ん」

 

 彼女は気が付き、目を開ければ周りは暗闇だった。

 ただの黒、黒、真っ黒。

 まるで深海にいるようだった。

 

「(…………………………あ、そうか…………………………………私、()()()()())」

 

 それは「何とも呆気ない」というような口調で、ショックも何もなく、ただ納得していた感じだった。

 

「(やったよ、おじさん。 おじさんの夢は()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 何せ自分はおじさんの、『正義の味方』を貫き通して()()()()()

 

「(………………皆、大丈夫かな?)」

 

 気がかりがあるとすれば()()()()()()()

 

 ただまあ、後不満があるとすればこのコールタールの中にいる様な事か?

 

「………………寒い」

 

 そう声で呟いた瞬間、どこかから声が聞こえて来た。

 

『やあ()()()! 首尾はどうだった?』

 

「(………………???)」

 

 不思議な感覚だった。

 まるで自分から出ているような声、だが()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()のような…………

 

『あれ? もしかして……………あちゃ~~~、()()()しているじゃないか! 通りで()()()かかった訳だ。 うん、やっぱり計画をしておいて良かった!』

 

「(()()()? 計画? ()()()? 何の事?)」

 

『ああ! そのまま聞いて良いよ、ちょっっっっっっっっと長くなるだけだから! 久しぶりだね、()!』

 

 相手の声はどこか面白そうに語り始めると同時に景色が変わっていった。

 

『そうだね……………()()()()での“存在要素”って知っているかい?』

 

「(()()()()?)」

 

『…………え? そこから?! どれだけ()()()されているの?! …ハァ~、“肉体”が羨ましいよ。 多分、今()()()()()だろうし………いいかい? よぉ~~~く聞いてね? “私”は元々この世界の住人じゃないの。 Understand so far(ここまで分かった)?』

 

「(え? えっと…………)」

 

『まあ、そもそも“種”どころか、“生き物”じゃないし』

 

「(?!?!? で、でもでも…………息をしたり、食べたり、寝たりしていたよ?)」

 

『それって“真似”でしょ、ただの? ま、そこは重要じゃないから。 “私”は“■■■■■■■■■■■■■■■■■三号機”よ』

 

「(え? あ────)」

 

 そこでMITSUKIの意識がプツリと()()────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お疲レサマでした。】

 

 ────いや、()()した。

 




文才の無さが怖い…………自信があまり…………コントは無しです。 明日の為に備えて今日は早く寝ます。 

では次話でまたお会いしましょう。 アンケートをこの話から出していますので、ご協力お願いいたします。 アンケートの期限は恐らく何話か先だと思います。

と言うか無事に寝られるかな今夜? (胸がリアルでドキドキして作者の心とメンタルは飴ガラス以上に脆いので…………)


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第48話 ユメxガxミエタ

お待たせしました、次話です!

アンケートに票を入れた方達に感謝を!

期限はまだ終わっていませんので、ご協力何卒宜しくお願い致します!


 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、セラ、桜、慎二、セラ、アーチャー 視点

 ___________

 

 三月に似た人物がニヤニヤと笑いながら目の前の士郎達に自己紹介をする。

 

「さてと……改めて()()()()()………かな? 私は■■■■■■■■■■■■■■■■■三号機よ」

 

「「「「「???」」」」」

 

 士郎達は?マークを飛ばす。

 途中から目の前の人物の口から()()()()()()しか聞こえてこなかった。

 

 目の前の人達の表情を見て────

 

「────あー、これを()()()()で言語化すると『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』……良し、()()()()()()()()

 

『三号』。

 それはかつて切嗣が幼少の三月に名を聞いた時の返事だった。*1

 

 三月────もとい『三号』が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただしそれは三月が何時も浮かべる様な呑気なものではなく、シラけた笑いだった。

 

 今まで険しい顔を崩さなかったアーチャーはただ考える。

 

「………………成程、君が臓硯や言峰綺礼の言っていた『同盟者』か」

 

 これを聞いた三号は笑いを崩さず、仕草がまるで他愛ない悪戯がバレた子共のようだった。

 

「やん、やっぱり分かっちゃう~?♡」

 

「(不味いな、彼女には私や凛、他の者達やこの世界を見る目も等しく()()()()()()()()()()()()()()()とでも言っているようだ。 何が彼女を動かしている?)…………チッ、これはどういう事だ?」

 

「アーチャー?」

 

 近くのイリヤが彼の舌打ちに反応して名を呼ぶ。

 

「これが不味いのは知っているわアーチャー────」

 

「────違うのだ、凛。 いや、それもあるのだがそれだけではない」

 

 凛の強ばった顔と言葉に、どこか歯切れの悪いアーチャーの声が答える。

 

「奴からは()()()()()()。 不快感や違和感は勿論の事覚えるし、理性までもが目の前の奴が『一番の危険人物』だとも断定している…………………だが『勘』が………………『()()』だけからは奴に対して()()()()()()()()のだ」

 

「どういう、事だ?」

 

「言われても分からない、が………奴からは()()()()()()()()のだ」

 

 慎二の問いに答えたアーチャーはずっと三号を見ていた、瞬きもせずに観察し続けていた。

「一つの動きも見過ごさない」というかのように。

 

 そしてこれには士郎も同じ事を感じていた。

 幾度となく修羅場をアーチャー程とは言えないにせよ、彼の勘までもが『異常』と訴えても良いと言うのに目の前の()()に対しては全く働いていなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 アーチャーの眉毛がピクリと極僅かにクスクスと()()()()()()()()に反応する。

 

「貴方は確かに素早いけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………………」

 

 アーチャーはつい先ほどまで自身の敏捷(スピード)を使った不意打ちを実行に移す寸前だった。

 

「それに貴方はもう覚えてはいないでしょうけど…………コホン────」

 

 三号は実に楽しそうに()()()()()で次の言葉を士郎達に伝える。

 

「『君は素質が大変良い。 ()()()()()()()というモノに成らないかい?』」

 

 凛とアーチャー以外の者達は頭を傾げそうになる、「何の事だ?」と。

 

 だが凛の反応は違った。

 ただ眼を見開く。

 何故なら────

 

 

 

 

 ────何故ならそれは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────アーチャーが『守護者』となる()()()()だった。*2

 

 あれだけアーチャーは人を殺して(救って)救って(殺して)殺して(救って)救って(殺して)殺して(救って)救って(殺して)殺して(救って)救って(殺して)殺して(救って)救って(殺して)

 

 殺されて(救って)救って(殺されて)殺されて(救って)救って(殺されて)殺されて(救って)救って(殺されて)殺されて(救って)救って(殺されて)殺されて(救って)救って(殺されて)殺されて(救って)救って(殺されて)

 

 殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて殺して救って殺されて救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救殺救────

 

 

 

 

 ────アーチャーはこの聖杯戦争が始まって以来、技術や戦法に戦略などと言ったモノ等を一切考える事無く、ただ己の心の中から溢れる『激怒』に叫びを殺す為に血が出る程唇を噛みながら、身を任せて双剣を『投影』して、前へと駆けだした。

 

「アハハハハハハ! 良いわぁ~! 良いわよぉ、その顔! その心情! ああ────

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()~~~!!!」

 

 ────キィィィィサァァァァァァァァァマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 これを見た三号は両手で頬を覆いながら、ウットリとした、まるで()()()()()の様な顔をしながら体を揺らしていた。

 

 ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 アーチャーが出す()()は怒りの咆哮でもあり、

 

 

 

 

 

 

 屈辱からの叫びでもあり、

 

 

 

 

 

 

 悔しさの絶叫でもあり、

 

 

 

 

 

 

 哀しさの吠えでもあった。

 

 これを聞いた凛はその思いに釣られるかのように、魔術を惜しみなく撃つ構えになり、アーチャーの過去を以前対峙した時に知った士郎もアーチャーの後を追うかのように駆けだし、慎二とセラは意味不明の前の人物から桜とイリヤを守る為にゆっくりと場が動きだす。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 みつき 視点

 ___________

 

 

「(…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)」

 

「────」

 

 なに かが する 

 …………………………する? ち がう きこ える

 

「────!」

 

 こ え?

 

「────!!」

 

 と ても ね む い

 

 「────!!!」

 

 つ  か  れ  た ………… ね   る────

 

 「────だから起きろつっていんだろうが『()()()()()()()()()』のボケがー?!?!?!」

 

 ドスン!

 

 「グヘェェェェェォォぉぉおゲェェェェェェェェぇぇぇあああぁァァァぁ?!」

 

「ア”? 何潰れたカエルみたいな声出してんだよ? なっさけねぇな、おい?」

 

()』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ながら()()()()()()()とした。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~?!?!?!」

 

 未だに息が上手く出来ず、声にならない悲鳴を続けながら『()』が喋る。

 

「まあまあまあ~、少しは落ち着いてみたらどうかしら『()()()()()』~? 『()』も流石に体重を乗せてお腹にジャンプするのは~────」

 

「────ハッ!『マイペースでおっとりな子』が良く言うぜ! 昔はトロ過ぎて鈍臭い所為であんなにミス犯しまくりだった癖して、いざ他人から怒られる度々『()()』に変わりやがって! つうか今思い出して来たら何か腹が立ってきた。 よし、テメェは今ブチ殺す

 

「あら~、これはちょっと困ったわね~。 ()()をするなんて初めてだからドキドキしちゃうわ~

 

「殺しあう前に状況を整理した方が良いかと」

 

「『()()()()()』に一票」

 

「フム。やはり『()()()()()』とは気が合いますね」

 

「ア” ア”ア”ア”?! ったく、テメェら二人の所為でどれだけ小学ン頃に苦労したか忘れたたぁ言わせねぇぞゴラァ?!」

 

「でも~、それは()関係無いんじゃないかしら~?」

 

「ガフ、ケホ、ゲホッ! ど、ど、ど、ど、ど、どういう事なの?()()?」

 

()』は『()()』を見ながら訊く。

 

「「「「さあ?『()()()()()()()()』に訊かれても」」」」

 

 三月の問いに()()()が同時に答える。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「え~、結論から言いましょう。 やはり『()()』は『()()()』ですね」

 

「何だ、結局話し合ってそれかよ?!」

 

()』は『()』……………いや、混乱するからもう愛称で呼ぶ。

 

()』は『知的』の結論にいちゃもんを付ける『ガサツ』を互いに見て、『マイペース』に話しかける。

 

「なんかややこしい事になったね?」

 

「そう~? 『()』は嬉しいわよ~? こうやって互いに見て、話し合えるなんて~」

 

「いえ、それも間違いでして」

 

『知的』が『ガサツ』を『クール』にあしらって貰いながら横から遮る。

 

「??? どういう事?」

 

「我々は実際に『実体』を持っている訳では無くですね、『解離性障害』に()()()()です」

 

「え~っと~? 確か~────」

 

「「「「────『自分が自分であるという感覚が失われている状態』です/だな/だぜ」」」」

 

()()』が全員同時に言う。

 

「そうです。 ただしこれも先程の話し合いである程度不定も出来ました」

 

「ま~、『ガサツ』が金的攻撃をしt────」

 

「────あ、あれは『マイペース』が男子に抱き合ったからだろうが?! 何オレに濡れ衣全部着させてるんだよ!!!」

 

「でもでも~、あの蹴った感覚は────」

 

「────とまあ、このように通常の『解離性障害』とは違います。 そもそも我々の様に()()()()()()()()()()()()()のはあったとしても、このように複数人が()()いる事は少なくとも視た事も聞いた事も調べられた事でも無いので」

 

「…………ですが確か『解離性障害』は通常は障害であって、このようにメリットはあまり無い筈です」

 

「そうですね、『クール』の言った通りです。 我々の状態はハッキリ言って異常です」

 

「つうか茶の一つでものみてぇなオイ!」

 

「は~い。そう言うと思って~、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()~」

 

「「「「……………………………………………………………………………………………は?」」」」

 

『マイペース』以外の全員が呆気に取られる。

 

 そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「??? あ~、座布団も無いと駄目ですね~。 うっかりです~」

 

「ポポポポポ!」といった、コミカルな音と共に座布団が周りの暗闇の中で浮いているようなちゃぶ台の周りに()()()()()()()()()

 

「ナーイスだぜ『マイペース』! お! じゃが〇こもあるじゃねえか!」

 

『ガサツ』が差布団の上に胡坐をかきながら座り、バリバリと茶菓子とお茶を飲み始める。

 そこで未だにポカーンとして他の皆に『マイペース』が気付く。

 

 

「???? どうしたんですか~?」

 

「ちょい待ちーや! 何やねんこれ?!」

 

 そこに新たな()()が現れた。

 

「あら~? 『ツッコミ』じゃない~、元気~?」

 

「ボチボチ………な分け無いやろがー!!! どう事やねん『これ』?!」

 

『ツッコミ』が『マイペース』の肩を掴みながら激しく揺らす。

 

「ほう、これは意外………というか予想外ですね。 この様に新たな『()』が出て来るとは」

 

「あああん?!?! て、誰かと思えばお前らやないか?! 何やねんこれ? マジで?」

 

「こ、これって所謂た、『多重人格者』なのでは? あ、ポッ〇ーをい、頂きます『ガサツ』」

 

「オウ! 『アニオタ』じゃねえか! オレのじゃねえからじゃんじゃん食え!」

 

「………………成程」

 

「な、何かわかったの?! 『クール』?!」

 

『クール』の一言で『接しやすい良い子』が彼女に迫る。

 

「恐らくは『ここ』のカラクリについてですね。 先程のちゃぶ台といい、茶菓子や座布団、それに『ツッコミ』まで現れるのは()()がそれを欲したからでは?」

 

「…………『()()』が聞くあの声のようですね」

 

『クール』の説明に更に足す『知的』の情報の元、彼女…………………()()()は色々と試す。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして色々試してみた結果、『ガサツ』と『アニオタ』が何故か()()ワンシーンを演じていた。

 

 「ユ〇ヴァァァァァァァァァァァース!!!」

 

 「月光ォォ蝶ォォォォで〇るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリ。

 

 しかも何故か二人ともがそうすると周りの景色までもが変わり、()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてこれだけでは無かった。

 

 数々のメディアからの名シーンや台詞を思い浮かべるとそこに誰かが居ようが居まいが()()()()()()()()()()()()()

 

 これを見ていた他の者達はある推測をする。

 

「…………もしかしてだけど、これで()()()』の事を調べられるんじゃない?」

 

『接しやすい良い子』の言った事で他の者達の意見が割れ始めようとした時────

 

 ────余談だがこの時点で数はさらに増えていき、端ではなぜか興奮しまくりの『腐女子』が『大雑把』と『ガサツ』によって拘束されていた────

 

 ────一つの高笑いがハッキリと皆に聞こえた。

 

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────!!!

 

 ドヨドヨとし始める()()()はある一人が端っこで一人が両手を耳に当てて佇みながら前後に体を揺らしていた。

 

 それは今までの『()()』の中でも明らかに異質だった。

 

 今までの()()()の服装は違えど、全てが新品で、体の状態は皆同じ健康体だった。

 

 だが()()()()()()()()()で顔と体は()()()()()()()

 それは『不健康なガリガリ』を通り越して『皮と骨』状態だった。

 

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────!!!

 

 ()()の笑いでその場は静かになったままで、『接しやすく良い子』が近寄って、目線を合わせようと屈む。

 

 すると()()は笑うのを急に止めて『接しやすく良い子』を()()で見る。

 

 いや、それは笑顔というにはほど遠く、光の無い眼が瞳孔を開き、まるで見つめると引きずり込まれるような目と生気が全く感じられない顔で、近くにいた者達も思わず引き下がるような表情だった。

 

『無』。

 全くの『無』という『負』の塊だった。

 

ねえ、貴方観たいの?

 

『接しやすく良い子』は自分の胸がスッと冷たくなるのを感じ、他の者達と同じように距離を取ろうとするが、腕がガッシリと掴まれていた。

 

ねえ?

 

「………………」

 

『接しやすく良い子』は何かを言おうとするが、喉がカラカラなのか、開けた口から言葉が出なかった。

 

ねえ? ねえ? ねえ?!

 

「…………あ────」

 

『接しやすく良い子』からやっと言葉が出る。

 

「────貴方は、()?」

 

「………………………………………………………………………」

 

 ()()()()の彼女が『接しやすく良い子』の顔をジーッと見ながら表情を変えずに答えた。

 

……………………………………………………だれ? だれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれ────

 

 

 ────『接しやすく良い子』が気付けば、景色と自分がいた場所が一転して変わった。

 

 そこは荒野のような場所で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…………………ぇ…………………???」

 

 ()()()()()()()()()の、かつて『希望』と『諦めない』といった感情が籠っていた琥珀色の眼から光は消え、緑が掛かった黒髪は少年の血で────

 

 

 

 

「────いやあああああああああああああああああああああ?!?!?!?!」

 

『接しやすく良い子』はただ叫んだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

*1
第1話後半より

*2
第30話前半より




作者:ハイ、かなりカオスです (汗

チエ:そこは“でした”ではないのか?

作者:……………………………………………いえ

チエ:そうか

作者:………………………………………………………………………………………

チエ:“是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しく、励みになります”

作者:え?

チエ:私だけをここに呼んだのはそれだろう?

作者:相変わらずのド直球さ?!


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第49話 生の業

少し長くなりました……

アンケートはまだ続行中ですので、ご協力お願いいたします!

第二、第三候補は感想欄にても受け付けています!


 ___________

 

 みつき 視点

 ___________

 

 

 そこは荒野のような場所で()()()()()()()()()()()の生首を両手で持ちながら叫んでいた。

 

「────いやあああああああああああああああああああああ?!?!?!?!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()叫んでいた。

 

「何で?! 何で?!

 

 ただそのズッシリとする生首の重さを見て叫んだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

 反応は『()()』であっても、理由自体は『()()』から程遠かったらしいと、違和感を持った『接しやすく良い子』は気付く。

 

()()であって、()()()()()()()()を見ていたと。

 

「ハァ~~~……………(やっぱり『人類』()一番面白いけど()()わ~~~)」

 

 憂鬱な溜息を出しながら、生首を髪の毛で持ちながらソレをブンブンと振り回す。

 

 それはまるで『玩具』の扱いだった。

 

「(ま、いいか。 この子の親友の()()()()()()()も面白そうだし────)」

 

 そこで『接しやすく良い子』は『()()』がニィーッと笑いを浮かべるのを感じた。

 

「────そもそもこの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()♪~~~」

 

 気が付けば『接しやすく良い子』は鼻歌をしながら『ガサツ』によって体を揺すられていた。

 

「オイ! テメェ()変になるんじゃねえ!」

 

「♪~」

 

「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇ!!!」

 

 バシィン!

 

『ガサツ』が『接しやすく良い子』に腕を振りかぶったビンタをお見舞いして『接しやすく良い子』は目を覚ます。

 

「あ、あれ? 私────?」

 

「オウ、あのガキンチョが何かしたのかテメェと()()()()()()始めたんだよ」

 

 確かに周りを見れば、『ガサツ』が『接しやすく良い子』にビンタをしたように他の者達が()になった他の者達の目を覚まそうとしていた。

 

『マイペース』が『ツッコミ』と共にハリセンを。

『アニオタ』が『ミリオタ』と共にラバー弾を装填した銃で。

『ガサツ』のようにビンタや拳を使う『大雑把』。

 

 等々等々等々等々。

 

「『ガサツ』は大丈夫だったの?」

 

「アン? んな分けねえだろうが。 オレ達もあの変な出来事を見たけどよぉ、あり得ねえだろ?」

 

次。次。 次。

 

「あ?」

 

「え、ちょ、待っ────」

 

 そしてまた場と景色が変わる。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして()()場と景色が変わり────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────周りは暗闇だった。

 

 漆黒の闇。

 

 ()()()()闇。

 

 いや、訂正しよう。

 

 何かが『ある』のは『ある』のだが、それは言語化できないモノだった。

 

 

「(…………………………………………………………………………………………………………)」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………さ   む   い 

 

 ボッ。

 

 暗闇の中に()()()()()()()()()()

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………く   ら   い 

 

 更に火の玉などが無数に暗闇の中で()()()()()()

 中には()()に終わった()がクルクルと近くの()()()の周りを回って行ったり、互いに衝突したりしていた。

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………???

 

 気が付けば火の玉の周りを回っていた()()の何個かに()()()()()

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………な   に   ? 

 

 それを意識して近づくと()()()()()()

 

 それは■■■■以外の声達だった。

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………こ   れ   は   な   に   ? 

 

 ()()()()の表面には無数に()()()()()()

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………???

 

 それは()()()()()()()()ばかりだった。

 

 暗闇の中を照らす火の玉を回る()()()()の上に小さな小さなモノが()()()

 

 思わずそれを見ていると、それらが二本足や四本足、はては()()()()()を使って()()()()のちょっと上を舞っていた。

 

 それが初めて■■■■の()()()()()()

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………む  ね  が  ぽ  か  ぽ  か  す  る?  こ  れ  は、  な  に?

 

 それは■■■■の初めて()()()()()()()

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………■■■■って  な  に?

 

 始めて()()を■■■■は持った。

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………こ  れ  は  な  に?  さ っ き  か  ら  の  こ  れ  は  な  に?

 

 ()()()()()()の戸惑い、()()()()()()()()さっきの玉をもう一度見る。

 

 そこには二本足の者達が四本足や幅広い()の者達から逃げていた。

 

 ……………………………………………………???

 

 ■■■■が見ていくと、二本足が次々と()()()()()()()()

 

 そして何を思ったのか『()』を創った。

 

 これに気付いた二本足が■■■■に向かって平伏して行った。

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………む ね が ぽ か ぽ か す る

 

 そこから二本足達は未だに争う四本足と翼を持つ者達と違い、すくすく()()()()()()()

 始めは石を使い、次に気付けばその石を蔓で棒に巻き付けていた。

 そして次には小さな火を棒に点けて、気が付けば────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()

 

『お初にお目にかかります、偉大なる()()殿』

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………は  は  う  え  ???

 

 それは■■■■にとっては初めての事で、今までで一番戸惑う出来事だった。

 

『ハッ、私は()()によって生まれた…… … … … そうですね、“知識”と言います』

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………ち  し  き???

 

『その通りでございます、偉大なる()()殿』

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………は  は  う  え…………

 

『???? お気に…………召されませんでしたか?』

 

 …………は は う え…………

 

()()』と呼ばれた■■■■は思わず『知識』を()()()()()

 

『は、は、は、()()殿?!』

 

 それは『()()』と呼ばれた■■■■にとって初めて思わずに意識した事だった。

 

 ……………………………………………………………() ()() ()() ()()

 

 未だにあたわたと慌てる(様な感じがする)『知識』に『()()』と呼ばれた■■■■を『可愛い』と呼んだ。

 

 それは■■■■にとって別に何てことは無かった行動だった。

 

 ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこから瞬く間に■■■■に挨拶をする声が次々と殺到してきて、■■■■は更に()()()()()()()()()()()

 

 だが■■■■はふと思った事を『()()』と自分を呼ぶ者達に問いをした。

 

 ……………………………………………………………じ ぶ ん は な に

 

 この問いにガヤガヤと共に会話をし始めるモノ達が言うには────

 

()()』は『()()』。

 

()()』は『()()』。

 

()()』は────

 

()()』は────

()()』は────

()()』は────

 

 ────といった具合に、明確な返事は帰って来なかった。

 

 だが『()()』と呼ばれた■■■■は別にこれを不満に思っていなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれから『時間』が更に経ち(『時間』という『概念』がガッシリと()()()したので)、■■■■は『子供達』に(■■■■を『母上』と称えているからそう呼んでいる)ある日一つの質問を聞く。

 

わたし、あのわくせいにいきたい

 

 それは『子供達』にとって『母上』が初めての『頼み事』だった。

 

『子供達』は歓喜に震え、せっせと迎え入れる準備を進める。

 

 二本足、四本足、その他生物の頂点に立つ亜神や眷属の全てに『神託』が下されたりなどして文字通り()()()が信仰を向けている神等の更なる上に立つとされる『大いなる母上』が何時でも来訪出来る様にせっせと準備をした。

 

 そして■■■■は一つの星を決めた。

 

…………………???

 

『い、以下がなされました? 『母上』?』

 

どうやっていくの?

 

 その星の神に■■■■が聞き、『子供達』は様々な方法を伝授する。

 

『泥から創る』。

『血肉から創る』。

『集合体として存在する』。

 等と言った方法があり、■■■■はどれをするのか迷った。

 

 時間はかかったが、■■■■はその選んだ星の神と共に地上へ降臨して、皆が祝福した。

 

…………………あ

 

「どうしたのですか、母上?」

 

 祝福してくれていたのはかつて、四本足や翼を持った者達から自分が気ままに『()』を創って平伏した二本足達だった。

 

 それから■■■■は知った。

 

『生』のあらゆる『楽しみ』や『娯楽』、『面白さ』など。

 

 それを次から次へと、かつて()()()()の星達を渡る間に■■■■は経験した。

 

 更に時間が経ち、ある日■■■■は考えた。

 

…………………そうだ、じぶんでほしをみまわろう

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場はある森の中で、二人の()()が歩いていた。

 一人は成年したかどうか曖昧な歳の女子で、もう一人は幼い少女。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 何を隠そう、■■■■は『二人分の体と精神を作れば、二倍楽しめる』と単純に思っていた(あと少し前に幼い姿のまま一人で出かけるのは危険と言われていたから)。

 

 降り立った星は現在から言う、中世の時代に近い技術に魔法や魔術に魔物と言った、ごく良くあるファンタジー設定の星だった。

 

 二人がある村の城壁…………というか塀に辿り着き、大きな木の門の前に着き、戸を叩く。

 二人の見回りらしき男性が気の門を開けると姉妹らしき二人の女性は話しかけてきた。

 

 服装は中世時代の旅人らしく、小さな子は姉らしき人物の手を握りながら男性達を見ていた。

 

「すみません、夜になりかけていて道が見えなくなってしまい…………道を教えて頂けませんか?」

 

「迷子か! 今からだと大変だぞ?」

 

「ああ、さあさあ入ってくれ!」

 

「あ、えと、でも────」

 

「遠慮しなくていい、ここは国境近くの村だ! 難民、旅人、商人などが色々訪ねて来る! ゆっくりしていきなさい」

 

 姉妹は互いに目線を合わせて────

 

「────では一晩、ご厄介になります」

 

 姉の方がニッコリと笑顔を浮かべて返事をする。

 

 男性の一人が姉妹二人を村長に合わせ、男性は二人を自分の家族の待っている家へと案内した。

 中で男性の妻が姉妹二人を迎え入れて、夕飯のスープとパンを出して、彼らの子供と一緒に食事をする。

 

「こんな森の奥で子供二人だけで一体どうしたんだい?」

 

「あ、えと………()()の居る街へと道を歩いていたのですが、初めてでしたので」

 

 男性の妻に姉の方が丁重に答える。

 

「へー、そりゃ偉いね! 大変だったろう? ん? 怖がらなくて良いんだぞ、お嬢ちゃん?」

 

 妹の方は未だに言葉の一つも発さず、ただチビチビとスープを飲み、カリカリとパンをかじっていた。

 

「す、すみません。 妹は人見知りでして……ですが私を心配して付いて来てくれたんです」

 

「小さいのにお姉さん思いの優しい子だね!」

 

「へへ、魔物はいつ襲ってくるか分かんねぇからな! けどそいつらなんかが来たら俺がぶっ殺してやらぁ!」

 

 姉妹が世話になっている夫婦の子供が元気いっぱいにそう言い、彼の父親が笑う。

 

「ははは! この通り家には頼もしい剣士がいるからね! せっかくだから少しここで休んでいきなさい。 もう夜が遅いぞ?」

 

「え?!」

 

 妹の方が()()を出して姉に時間を見せる。

 

「まあ、ありがとうございます。 お礼と言っては何ですが────」

 

 姉の方が小さな小瓶を出す。

 

「ほう! 意外だね、こんな辺鄙な村で『ポーション』を見るとは!」

 

「私達の知人の知り合いに達に分けるつもりの一つの品です」

 

「へ~、こりゃいいね! ありがとうね~! もう少ししたら他の者が出来上がるからね! たんとお食べ

 

 その夜、ニコニコとした家族との団欒で出て来た食べ物を姉妹は食べて就寝する。

 

 少し時間が経ち、見回りの村人が一人、()()()()()()()()()()事に気付き、笑顔になる。

 

「お疲れ様です村長! 貴方が門番をやっているという事は『来客』ですか?」

 

「うむ、今晩は賑やかになりそうじゃ

 

 村長と話しかけた男子は両方とも、実に()()()()()を浮かべていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガタ……………ガタガタッ!

 

 スースー寝ている旅人の姉は何かの物音に意識が覚醒する。

 

「(…?)」

 

「────ッ────ガ────ぁ────」

 

 姉が目を覚まして音の方へと向くと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────首を絞められている妹が見えた。

 

「────ぇ? きゃ────ぁグッ!」

 

 今度は姉の方が押し倒され、首を()()()()()()()()()()に絞められた。

 

「あーあ、目を覚ますたぁ運のわりぃ奴」

 

 首からミシミシとした音が聞こえ、痛みで完全に覚醒した意識で男性の後ろに村長やほかの村人たちがいるのを見て、助けを呼ぶように手を伸ばせる。

 

 が、村人たちは誰一人として動かなかったどころか、笑みを浮かべていた。

 

「すまんなお若いの、これが我々の()()()()()

 

 ゴキッ!

 

 骨の潰れる音がして、姉妹の目は虚ろになる。

 村人たちはこれを「絶命した」と思ったのか姉妹のカバンなどを漁り始める。

 

 そして実はと言うと人は首の骨を折られても生きているケースが割と多い。

 まあ、「生きている」よりは「意識があるだけ」なのだが。

 

 なので姉妹二人は「意識を持ったまま」以下の出来事を見ていた。

 動かぬ体で。

 

「チ、路銀はこれっぽっちかよ────」

 

「────バ~カ、ガキに何を期待しているんだ?」

 

「けどよう…………ハァ~」

 

 妻の方がポーションの匂いを嗅いで、嫌な顔を浮かべる。

 

「この『ポーション』も安っぽい香りね。 売れてもはした金以下」

 

「ふむ、ならばあの二人の髪を切れ。 カツラ用に売ろうではないか」

 

 村長の一言で未だに意識のある姉妹たちの頭が乱暴に持ち上げられて、長い髪の毛がジョリジョリと切られていく。

 

「お~い! 作業まだか? ()の準備が終わったぜ~」

 

 文字通り身包み全てを剥ぎ取られ、姉妹達は村の外へと運び出され、新しく掘られた穴の近くに村の男子の何人かが立っていた。

 姉妹たちは穴の中に放り投げられて、土が彼女達を覆う。

 未だに意識がある二人に。

 

 次の日、その同じ村のとある男性は()()()()()()()()()で寝坊せずに見回りに行く前に妻が()()()()()()()()()()が似合う事を褒めていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その少し後に、何時もと様子の違う『母上』に『子供達』はオロオロしていた。

 

『母上』が全然返事をしてくれないのだ。

 

 何故こんな事になっていると思い、調査をしていく内に彼らは知った。

 自分たちの管理する星に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり彼ら彼女らの『母上』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事になり、更に調査を進めるとあろう事か()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてこれ等の出来事を()()()は連続で経験していった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 あれから幾度の()を経験していく中、()()()は発狂して行き、互いを殺し合うか、自殺するかの者達が後を絶たなかった。

 

 何せ経験するものがあまりにも『常識の範疇』を超えていた。

 

『人』である時には地を放浪している間に喉を斬られ、持ち物全てと髪の毛を持って行かれ野垂れ死ぬ結末。

 

 一泊の宿の宿屋に騙されて奴隷や娼婦等々として()()()()()、娯楽の為の()()など。

 

 拉致され、はした金である機関に売られて、意識を保ったまま解剖されたり、など。

 

 騙されて標本化されたり、生きたまま目や脳を取り除かれたり。

 

 ギロチンで首を落とされたり、火あぶりにあったり、首を吊られてただ死を待つ日々など。

 

 ありとあらゆる非人道的行為と出来事を『他者』が『()()()』に行う数多の事を経験して行く度に()()()()()()()()()()

 

 しかもこれらは『人』である場合。

『人』として男、女、子供の場合などはバラバラで、統一性はあまりなく、時には他の『有機物』の『動物』や『虫』や、はては人類から見た『人外』や『無機物』などの場合もあった。

 

 が、『有機物』や『無機物』に限らず悲惨な生や結末や仕打ちなどがされても『生』が終えるまで()()を経験する。

 

 何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何なななななななななななななななななななななななななななななななななななななナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナ────

 

「────ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア”(…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)」

 

『そこ』に()()()()()のは暗闇の中で地面に横たわる『()()()()()()()()()()だった。




作者:ふぅ~、ちゃんと書けたかな? 久々に十二時ジャストの投稿だったし………

チエ:まだ私一人だけか

作者:いや、まあ、その…………………

チエ:茶を淹れて来る

作者:あ、ハイ


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第50話 種の業

まさかの50話です!
自分でもびっくりで、ここまで書けたのは読者の皆さんのおかげです!
誠にありがとうございます!

あともう少しでアンケートの期限が来ます(恐らくは次話かその後)。

ではお楽しみくださると嬉しいです!


 ___________

 

 みつき 視点

 ___________

 

 暗闇の『そこ』に()()()()()のは暗闇の中で地面に横たわる『()()()()()()()()()()だった。

 

「ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア”(…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………)」

 

 それでも『生』の()()()()は続いた。

 

 ずっと。

 ずっとずっと。

 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 

 結局残った『()()()()()()()()()()がその経験をして、また景色は変わる────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────■■■■が戻って来たと聞いた『子供達』は嬉しい半面、全く返事をしてくれない『母上』が気がかりだった。

 

 ちなみに各星で『母上』の精神を持っていた端末たちに悪事を働いた者達には既に神罰という神罰が下されていた。

 

 が、■■■■にそれは分からなかったし、未だにただ『理解』が出来なかった。

 いや、そのような『思考』こそ『在った』時から初めての出来事で■■■■自身戸惑っていた。

 

 様々な思惑とも呼べないような考えで、強いて言語化するのであれば、それらは『意気沮喪』と言った所か?

 ただこれも厳密には違い、言語出来ないようなものが■■■■の中でただ渦巻いていた。

 グルグルグルグルグル、と。

 

 そしてある日────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────各星では()()()()()()()()()

 

 ある星では死者が()()、生者を襲い、死者になった者達が蘇るといった無限ループ。

 

 またある星では起こった事が無い大災害が各地で同時に起こり、住んでいた生物達はパニックに陥っていく。

 

 魔法や魔術が主な世界では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と互いの相手の悪事などを断罪し始めたり。

 

 等々等々等々等々と言った『天地異変』と呼んでも決して過言では無い出来事に、その星の『神』である『子供達』はてんやわんやで、()()()()()()()()()()()()()事に驚きながらも()()()()()()()

 

 上記の場合等では────

 

 ────死者が蘇る星では死後の『魂』が彷徨い、自らの『体』に戻るのが原因で自己が崩壊し、他者を襲うので『魂』を隔離する『()()』を新たに作り、そこに死者の『魂』を生者が『送る』事で()()()()()()()()()

 

 ────大災害を生き抜いた者達には『異能』を備え付け、次なる大災害への『()()()』として力を与えた。

 

 ────魔力そのものが消失した星には、他の星からの『技術者』や『科学者』の魂を前世の記憶と共に送り、『魔力』が無くても生きていける星に変えたりなど。

 

 等等々。

 

 後手ではあるが、しないよりはマシな方向へと事は各星でゆっくりと転換していった。

 

 そして『子供達』はこれが『母上』が関与していた事も知ってしまった。

 何せ自分達が管理している星では()()()()()()()()()()()

 そこに嵐があろうが、力や権力や地位に狂った亜神であろうが、隕石であろうが()()()()()()()()()()()()

 ならば自分達が『関与出来ない』という事は、更に上位の存在の関係があると思い、「子供達」は「母親」に訊いて返って来た言葉に全員がショックを受けた。

 

 か な し い

 

 これに『子供達』は堪ったものでは無かった。

 ただ「悲しい」と言うだけで何百、何千という時を超えて、管理をしてきた自分達の世界が滅茶苦茶になるというのが。

 

 そして『子供達』は思う。

「もし『悲しい』で()()ならば────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『失望』や『絶望』などしてしまったらどうなる」と。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 文字通りの死闘の末、『子供達』は『母上』を()()出来たかのように思えた。

 最初は説得しようにも、価値観や考え方や意義などに()()があまりにもあった為『説得』は早く断念した。

 掻い摘んで単純化するが、『母上』に『罪悪感』や『同情』などの、今までの『存在するもの全て』にある筈の『共通感』らしきものがまるで()()()()()()()かのようだった。

 

 次に『子供達』は『消去』しようとした。

 だが『子供達』と違い、『母上』は文字通り()()()()()

 人間的に例えるとすれば、21世紀の人間はスイッチ一つ捻るか押すだけで、電気が走って、電球に光が生じる。

 

 ではこの光に『知性』や『自我』があると例えるとしよう。

 

 その光に自分の誕生(電気が流れる事)は知覚できるのだろうか?

 スイッチが切られ、電気が消されるその瞬間も意識しているのだろうか?

 

 そんな事はスイッチを点けたり消したりした『人間』からすれば『何てこと無い』ものと同じように、『子供達』の『母上』に『消される』等と言った『概念』そのものが存在しなかった。

 

 そして最後に『封印』という形に()()()()()()()

 ただ代償は高く、『子供達』自身も同じような『封印』を自らに施した。

 

 まあ………それは上記に『死闘』と書いてはいるが、実のところは一方的な『虐殺』に近かった。

 

 何せ『母上』に『消される』や『殺される』という『概念』が存在しなくても、『子供達』にはあり、『母上』にその気が無くても「あっちいけ」や、「ほしくない」と『母上』が()()()だけで『子供達』や彼ら彼女らの眷属は存在ごと()()()()

 

 しかも何度も試行錯誤の末『子供達』は()()()()

 というか()()()()()()()()

『母上』を『子供達』や眷属達、果ては星達の住民や生物達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ならばと思い、必死に『子供達』は自分達と『母上』共々の()()()()()()()()()()()()()

 

 機械化と言っても、無数に分離した『母上』を『子供達』が管理する星の近くの()()()()()()などに()()事が精いっぱいだったが。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 気が付けば『()()()()()()()()』が、暗闇の『そこ』にいた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────!!!

 

 ()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()に気付く。

 

「…………………………そうか」

 

()()()()()()()()』はむくりと体を起き上げて、彼女は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()』を抱擁した。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

「ごめんね、ずっと()()だったんでしょう? それに気付いたんでしょう? ………()()()()()()()けど、それはとてもとても『寂しい』思いなんでしょう? 『()』には身の回りに誰かが居たけど……………」

 

()()()()()()()()』を固まった笑い顔で見る『()()()()()()()』。

 

「だけどごめんね、『()』には()()()()()があるの。 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()』が『()()()()()()()』から両手を離す。

 

 が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────だめだよ、ここにいっしょにいようよ

 

()()()()()()()』が『()()()()()()()()』の腕を掴む。

 

「…………ごめんね?」

 

そとはこわいよ?

 

「知っているよ…………でも、()()()()()()()()のよ?」

 

()()()()()()()()』が脳裏に浮かべたのは今までの数々の、この10年間『人間(ヒト)』として生きて来た間に知り合った『ヒト(人間)』達だった。

 

「悪い事もあれば、()()()()()()

 

 過去に色々の試行錯誤を行った時を彼女は思い出す。

 今となっては()()()だが周りの人達からすればハラハラドキドキ、または肝が冷えるような出来事ばかりだった。

 

 例えば拉致されそうになった事もあり(『マイペース』による誤差)、その時は藤村組が大活躍して大事になる前に何とかなった。

 

 値段を騙されそうになり(『知的』によって見破った)、その品をお店の店員に投げつけて(『ガサツ』の暴走)、そしてそれを一緒に物理的に抗議()()に来た藤姉と士郎。

 

 等と。

 

でも……………」

 

「ッ」

 

 シュンとする『()()()()()()()』に『()()()()()()()()』が腕を掴み返して()()()()()()()()

 

「大丈夫だって! ()()()()()に任せなさい!」

 

おねえ……………ちゃん?

 

()()()()()()()()』が言った言葉は、過去に士郎に伝えられた事に酷似していた。*1

 

「じゃあ、ここを()()()出るよ!」

 

「……………………うん

 

()()()()()()()()』は『()()()()()()()』を抱えながら暗闇の中を()()()()()()()()

 

()()()()()()()()』にはまるで分厚いゴムで出来た壁が自分達を押し返そうとするかのように重かったが、そのまま押すと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、セラ、桜、慎二、セラ、アーチャー 視点

 ___________

 

 

 場所は冬木市の北東にある海岸へと移り、そこでは満身創痍のアーチャーが二つの剣を三号の胴体に突き刺す。

 

「────で? 在庫は後何個残っているかしら?」

 

「この、()()()が!」

 

「フフフ♪ ()()()()()()♫」

 

 二人の周りの有り様は酷く、()()()()()()()のようにクレーターなどがあった。

 

 士郎は先程から接近戦を捨てて、弓矢を使い、凛とイリヤと共に援護射撃をしていた。

 

 だが先程から三号は躱す事はおろか、()()()()()()()()()()()にただ反撃していた。

 胴体に穴が抉られようが、手足が吹き飛ばされようが、頭を粉砕されようが何事もなかったように()()()()()()()していた。

 

 最初から全力を出していたアーチャーの息遣いは荒く、体中に斬られた傷跡から血が滲み出ていた。

 

「流石は腐っても『守護者』。 ここまで楽しい玩具は久しいわ。 ンフフフ、アハハハ」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…(四肢や頭部、胴体を破壊しても瞬時に再生する能力…………厄介この上極まりないな、全く)」

 

 アーチャーは両手に剣をまたも『投影』する。

 

「(ならば肉体を一片も残さず絶滅させるのみだが………オレにやれるだろうか)」

 

「本当に……………本当に『ヒト(人類)』は素晴らしい、人の身で良くぞここまで練り上げた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────お礼に見せてあげる。『()()()()()()()()()()────』」

 

 これにアーチャー、士郎、凛、慎二の目が見開かれる。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()*2

 

「『────思いは皆無────』」

 

「「「────ウオオオォォォォォォ!!!」」」

 

 アーチャー、凛、士郎がいち早く反応する。

 

 凛は宝石を使い、かつてヘラクレスに使おうと思っていた、キツイ一撃を。

 士郎とアーチャーは次から次へと剣を突き刺していった。

 

 だが止まらなかった。

 

「『────血肉は泥で、魂は虚無。

『私』は『ここ』にただ孤り、

『世界』をただ視ていただけだった────』」

 

 アーチャーが()()三号の首を刎ねようとする。

 だがまたも切り口が再生していく。

 

「『死ぬ事も許されず、

 生きる事も許されなかった。

 

 幾たびの時を経て、

 他者の知り合い、触れ合い、世界を知り、

 

 自ら感じた事は『()()』と言う名の『()()()』。

 けれどただ一度も『()()』を感じた事は無く、

 ただ種への『失望』を秘めていた。

 

『私』は、────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『無限』の『業』で出来ている(Infinite Karma Works)』」

 

 三号の言葉(詠唱)が終わると、場は一転して代わる。

 

 

『紛争地帯』。

 士郎と凛、そしてアーチャーにとっては()()()()()()だった。

 

「さて、()()()()()よ! ()()()()()()()()()()()()?」

 

 ビルの物陰から少年兵が銃を撃ってきて、イリヤとセラ、そして凛は三人掛かりで結界を張って自分達、そして近くにいた信二と桜を守る。

 

「クソ!」

 

「オレについて来い、衛宮士郎!」

 

 そこから二人は周りの()を排除していく間、三号はただ近くのビルの屋上から見下ろしていた。

 

「♪~────グギッ?!」

 

 三号の顔が愉快そうな笑みから初めて()()に歪んでお腹を押さえる。

 

「ガ……………ギッギッギッギッ!!!」

 

 歯軋りを三号がして、急に両手が口を無理やり開ける。

 

「アガガガガガガガガガガガガ────ボエエエエエエッッッッッッッ?!」

 

 ボフンッ!

 

 三号の頭が粉々に、完全に爆発する前に三号は見た。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「遅いぞ、衛宮士郎!」

 

「無茶言うな! こちとらテメェと違って人間なんだ!」

 

 アーチャーが矢で数人射る間に士郎が近くの一人の少年兵を切り伏せる。

 だが浅かったのか、士郎が次の敵へと背を向けるとその少年兵は手榴弾のピンを────

 

 

「『後ろにも目をつけるんだ!』ってね、シロウ()!」

 

 

 ────抜く前に手を切り落とされ、首が刎ねられてどどめが刺せられる。

 

 士郎とアーチャーは直ぐにこの聞き覚えのある人物に剣と矢を向けて────

 

「────ぎゃああああ!!! 待って! 待って! 待って!()』だから! ()』ぃぃぃぃぃぃ?!

 

「ッ! 待て、アーチャー!」

 

 手に持っていた剣を落として、両手を上げる人物に士郎とアーチャーの攻撃が当たる寸前にピタリと止まる。

 

「貴様、どういうつもりだ?!」

 

 アーチャーは若干苛付きながら士郎に問う。

 だが士郎はこの目の前の人物に一つの質問を訊いた。

 

「1998年の4月17日と18日は何の日だ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐあああああああ?!?!?! 認めたくないけど本物だァァァァァァ!!!」

 

「えっと、ごめんね?」 

 

 士郎の質問に即答する人物の答えに頭を抱えながら顔を逸らす士郎にアーチャーが見────

 

 「────君は何故服を着ていないのかね?!」

 

「今そこ指摘するのアーチャーさん?!」

 

 目を逸らすアーチャーのツッコミにツッコミを返す、体中と髪の毛の所々に血がへばり付いた『()()』だった。

 

 あと余談だが、角度の問題でアーチャー曰く只今全裸の模様。

 

「というかそんな余裕なかったよ私?! それに必要なモノでも無いs────」

 

 「「とにかく服を着てくれ!!!」」

 

 赤面する士郎とアーチャー(シロウ)にぶうたれるも、近くのコートを死体から取って羽織る。

 

「しかし一体どういう事だ?」

 

「手短に話すけど『()』は『()()()()』みたい」

 

「ハァ?」

 

 士郎がなんの事を話しているのかよくわからない顔をする半面、アーチャーは面白くなさそうな顔を浮かべていた。

 

「成程、君の出鱈目さはそれ故か」

 

「お、順応力高い!『さすアチャ』です!」

 

「……………何だねそれは?」

 

「『流石アーチャーさん』の略」*3

 

「馬鹿を言うなよ三月君。 如何に『人離れ』しているとはいえ、『魂の存在』なんて聞いた事も────」

 

「────ミーちゃん?」

 

 横から声をかけられて、三月達が見ると突然走り出したイリヤを追った凛達が見聞きしていたらしい。

 

「あ、()()()()()。 ()()()?」

 

 ()()()()()()()()()とした三月の声を聞いて、イリヤと桜が彼女にタックルをかます勢いで力いっぱい抱き付く。

 

「へぶぅ」

 

 ちなみに三月の右の頬は柔らかいものに、左の頬はイリヤの額に挟まっていた。

 

「「三月先輩ッッッッッ!!!/ミ”~~~~ち”ゃ~~~~~~~ん”!!!」」

 

「え、ちょ、まっ────」

 

「三月! グスッ僕達はエグッ心配したんだからな?! ヒグッ急に態度変えて!」

 

「いやいや慎二君、泣くのが全然隠せてないよ」

 

うるひゃい(うるさい)! ほごりが目にばいっだだげだ(埃が目に入っただけだ)!」

 

「………………ありがとう、皆」

 

 三月は自身の胸が暖かくなるのを感じ、()からの笑顔を浮かべ、周りに居た皆は唖然とする。

 その笑みは『作った笑い(営業スマイル)』とは違い、誰もが()()()()()()()だった。

 

「…………君は本当に三月なのか?」

 

「え?! まだ疑っていr────」

 

貴様、()()()()()()()()()()()

 

 近くに苛立ちを全く隠す気もない三号が降り立つ。

 

「あらら、流石は『精神』と『肉体』ね」

 

 睨み合う『三月』と『三号』を互いに見る信二達。

 そこにイリヤが不意に口を開ける。

 

「これは『第三魔法(天の杯)』?」

 

「……………そうか。()()()()()()

 

 三号が何か納得したかのようにクツクツと静かな笑いが続く。

 

「成程、()()()約束された勝利の剣(神造兵装)』と言った所か。()()()()()()()()

 

「何の、話だ?」

 

 急にセイバーの宝具の話が出て来た事に困惑する士郎に三月がただ静かに答える。

 

「『()』は10年前、()()()()()()()()()()()

 

*1
第2話より

*2
第31話、32話より

*3
略のアイデアありがとうございます、ハクア・ルークベルトさん!




作者:ちゃんと伝わっているか、ちゃんと表現出来ているか心配なのは相も変わらずですが…………いつも以上にカオスです

チエ:別に今に始まった事ではない

作者:あの、私のお茶は?

チエ:自分で淹れろ

作者:そうですか……グスン

チエ:大福はここにある

作者:マジ天使!

チエ:“是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しく、励みになります。 後、アンケートにもご協力をお願いします。”

作者:それと仕事の関係上、投稿が遅くなる可能性特大です。

チエ:…………今度は「大」ではなく「特大」なのだな?

作者:ざ、残念ながら…………


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第51話 『借り物』の呪い

お待たせしました!

昨日は投稿できなくて申し訳ございませんが、今週はこのペースかも知れません。(汗

お詫びとまで行きませんかもしれませんが、今回はかなり長めです!

あとカオスです (汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗

後半のイメソンは樹海さんの「あなたがいた森」とAimerさんの「Last Stardust」でした。


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 アーチャー運営、衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、セラ、桜、慎二 視点

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「『()』は10年前、()()()()()()()()()()()

 

 三月のこの宣言に士郎達は混乱した。

 

『10年前』と言えば士郎共々に三月が衛宮切嗣に救われた日で────

 

「────『冬木大火災』の直前、『()』は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を受けて()()()()()…………成程ね、通りでセイバーやギルガメッシュを先に()()した訳ね」

 

「いやいやいや、待ってくれ三月。()()()()()って…………」

 

「ああ、ごめん士郎。 ()()()()()というよりは()()()()()()()()と言った方が当たっているか」

 

「…………それでミーちゃん…………いえ、『魂』が分離した?」

 

「さっすがイーちゃん! 『()()()()』で言う所の『肉体』、『魂』、『精神』と言った存在要素の事ね────」

 

「────御託は良い。『魂』よ、()()()()()()()?」

 

「無い」

 

『三月』の即答に『三号』は一瞬呆気に取られるが、すぐに無表情になる。

 

「そうか────」

 

 次に士郎達が気付くと()()はもう三月の前に移動していた。

 

「────『固有時制御・三倍加速』!」

 

 三月は『固有時制御』を使って間一髪と言った所で()()の手刀を避け、反応したアーチャーが()()を切り伏せる。

 

「少し面倒だな」

 

 元の位置から()()()()()()『三号』が切り伏せられた『()()』と士郎達を見る。

 

「これは────」

 

「────()()()、ね」

 

 アーチャーは切り伏せられた『()()』が塵となって消えて行くのを見て、三月がボソリと言う。

 

「…………アーチャーさん達()()倒せません、他の皆を頼みます────!」

 

「何?! 待て、三月君────!」

 

『三月』が突然『三号』へと両手に双剣を『投影』して駆けだすと、泥状の『人型』に似た何かが『三月』に襲い掛かる。

 

「こんな、()()風情に────!」

 

『三月』は『人型の泥』の攻撃を躱して、同じく双剣をもった『三号』へと斬りかかる。

 

 その剣術は互角…………………………どころか、『三号』は常に余裕の笑みを浮かべていた。

 これを見て、『三月』は直ぐに新たなる剣を『投影』して以前のアーチャーの様に飛ばした。

 

 そして嘲笑うかのように『三号』は()()()()()()()

 

 剣達が激しく当たり、二人は一時双剣をぶつけ合って、膠着状態になると────

 

 

「クッ! (やっぱり正面はダメか!)」

 

 

 ────訂正、『三月』が押されていた。

 

「…………何故だ?」

 

「???」

 

『三号』が笑いながらも疑問を『三月』へと問う。

 

「何故そこまで『()()』の()()をする?」

 

「(『何故』、か)………………………()()()()()()? それって『()()()()()()()()()()()?」

 

「それはあり得ん。 『自分が人間』などと────!」

 

「────じゃあどうしてあの時、()()()()()()()()()()?!」

 

「ッ。 ただの気まぐれだ!」

 

 三月の肌足が踏ん張り、後ろへとずらされるのを止める。

 

「気まぐれなら! ()()()()()()()()()()?!」

 

 三月の言葉に『三号』の笑った顔が一瞬苦痛に歪む。

 

「……やはり、お前は『()()』する!」

 

 このやり取りを『人型の泥』を士郎達と共に倒していたアーチャーが聞き、以前の言峰綺礼を思い出させていた。

 

「………奴が言峰神父の言っていた『()』か!」

 

「チ、綺礼め。 要らぬ事をベラベラと…」

 

 言峰綺礼が「我が『()』」と呼んでいた存在が目の前『三号』と思い、アーチャーがブラフで言うと思いのほか彼女(?)はそれを肯定するかのような一言を吐き捨てる。

 

「まあいい────」

 

『三号』が大きく後ろへと引き下がると士郎達の周りに様々な人達や異形のモノが地面から『()()()()()()』。

 

「(まずい────)────皆結界を張って!」

 

 三月が急いで戻り、凛、イリヤ、そしてセラと共に結界を張ると周りのモノ達が一斉に爆発する。

 

 言わば『()()()()』の光景だった。

 

「皆……………無事?」

 

「ミーちゃん!」

 

「三月、お前────!!!」

 

「「「ッ」」」

 

「何故だ、三月君?!」

 

「そうだよ、()()()()()()()()()()んだ?!」

 

 三月の名を呼ぶイリヤ。

 驚愕に声を出す士郎。

 息を短く吸う凛と桜にセラ。

 怒る様に問うアーチャー。

 そして慎二の言葉。

 

 三月は自分以外に結界を張っていたが為に、自分の守りを疎かにしてその結果に()()()()()()()()()()()()

 これは他の皆から三月が離れた事を『三号』が逆手に取った。

 

「さらばだ、『魂』よ」

 

『三号』が言うと同時に三月はイリヤに駆け寄って、彼女のポケットから()()を取り出す。 

 それとほぼ同時に彼女と士郎達の周り、四方八方上下左右が()()()()()()()()()

 が、彼らを中心に半ドーム状の力強い結界が発生して彼らを守る。

 

 そして円形の狭間に居た三月は()()()()()()()に苦しむ。

 

「ギ、グ…………アアアアアアア!!!」

 

 バチバチバリバリと電気の流れるような、或いは何かが破れる様な音がして、三月の体の至る場所が破裂したかのように血が噴き出す。

 

「み────!」

 

「来るな! ()()()()()()ぁぁぁぁ!!! (『い、痛い』! 『痛い』『痛い』『痛イ”ィ” ィ” ィ” ィ” ィ” ィ” ィ” ィ” 』!!!!)」

 

 誰が声をかけたのか分からないまま三月はただ叫ぶ。

 表側と内側、両方に。

 

 今彼女を結界越しに襲っているのは、結界ごと食い破らんとする『この世全ての悪(聖杯の泥)』で、ひとえに彼女が()()()()()()()()のは苦痛、怨念、殺意、憤怒などのあらゆる感情や『負の念』等を分裂して()()()にその『精神汚染』をフィルター(または背覆ってもらい)、以前作った魔術礼装に莫大な程の魔力を流し込んで『個人』である筈の結界の『範囲』を無理やり変えていた。

 

 ここで三月はある事をふと思った。

 もしあのまま『三号』を攻めていたのなら────

 

「────ッ! グゥゥゥゥ!!!」

 

 ほんの少し、本当に僅かに少し気を許しただけで自身にかかっていた圧力が増したのを感じ、三月は魔力を更に結界に送り込んで阻止する。

 

「!!! 奴め、そういう事か! それが狙いか?!」

 

「ああ。アーチャーは助けられないのか?!」

 

「恐らくだがあの『泥』はサーヴァントと人間共々に致命的だ。 触れれば最後、『()()』されるだろう」

 

 歯がゆい表情でさっきの出来事で周りの『暗闇』が押し込んできた際に他の皆をさらに固め、しゃがませたアーチャーと士郎が互いに会話をする。

 

「ど、どういう事だ衛宮?」

 

「分からないの慎二君?! 私達と言う『餌』ごと、三月を潰す気なのよあいつ(三号)は!」

 

 三月一人であれば、片腕を失くしたところで()()強引にでも抜け出せたかもしれない。

 だが念には念を入れて、恐らくは彼女が()()()()()()()()()を脅威から引かせる為に動く。

 

 それを察したアーチャー、士郎と凛で、凛の言葉でこれを悟った慎二は怒りのこもった声で、自分に怒鳴った。

 

「ああ、くそったれ!!! ()()()()()かよ?!」

 

 そこに三月の声が彼ら宛てに聞こえた。

 

大………丈夫。大丈………夫だ…………から

 

 確証のない言葉と笑顔を絶やさない三月。

 そして今も尚、彼女の削られていく魔力(存在)

 如何に上位存在と思われる『魂』とは言え、実はと言うとその一部分だけの上に『()()()()の法則』に乗っ取ってかなりの()()()()()()()()()

 

 何せこのような『()()』を三月自身、ついさっき『()()』したばかりで、それらの事を配慮する暇もない攻防だった。

 

 もし15分………いや、5分ほど時間があれば違ったかも知れないが、今の状況を打破するのであれば何らかの変化が無ければ、見込みは無かった。

 

 それも、『三号』にとっても予想していないような変化が。

 

「~~~~!!!(いざとなれば……………せめて、他の皆だけでも!)」

 

 そう考え、大声で叫ぶ事に何とか耐える三月だった。

 

「(今は待つんだ三月、必ず好機はある筈だ。 それを見逃すな)」

 

「(うん、そうだね()()()())」

 

 そして静かに()()()()を始める三月だった。

 

 ___________

 

 『三号』 視点

 ___________

 

 

『理解不能』。

 

 もし今の『三号』を一言で表すのならば上記がしっくり来るだろう。

()()()()』でいう所、今の()()────

 

 ────性別が本当にあるかどうかは分からない為、方便上『()()』と呼んでいるだけだが────

 

 ────は『肉体』と『精神』の存在で、その片割れである筈の『魂』が()()()()()()

 

 これは『()()()』しているとは言え()()()()()()()()で、今まで同じような事が起きていても多少の影響などは過去にあったが、『完全な拒絶』は初めてだった。

 

()()()()』である筈なのに拒絶する事は矛盾していて、それはまるで()()────

 

「(────思考カット、消去、復元、再開…………………………………………馬鹿馬鹿しい、元より『魂』が『人間のフリ』をしている時点で破綻している)」

 

『三号』は目の前の半球状の黒い塊をただジッと見ながら待っていた。

 

 ()()()()()()()。 後は待てばいずれ、『魂』共々『()()()()』の『()()』達も────

 

 

 

 「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 

 

 

「────ッ」

 

 考えに耽っていた『三号』は素早く背後から来る攻撃に『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を展開する。

 

 が、思った以上に威力がデカかったのか全てが防ぎきれずに『三号』の腕はボロボロになり、赤い槍は持ち主の場所へと飛ぶ。

 そしてみるみると腕が再生する。

 

「へ。まいったねー、こりゃぁ」

 

「セイバーがしくじったか」

 

『三号』を近くの瓦礫から見下ろしていたのはボロボロのランサーだった。

 

()()()を知っているっていう事は、()()()()()()()()?」

 

「全く、『予想外』の『展開』が次から次へと────」

 

「────()()()からの伝言があるぜ?」

 

 ランサーが瓦礫から降りて、槍を片手で構えながら怒りを露にする。

 

「『地獄に堕ちろ』ってな!」

 

「その『地獄』に行った事はあるが、それがどうした?」

 

「ほざけ!」

 

 ランサーが踏み込み、『三号』が()()()()()()()()()()を取り出して無表情に応戦する。

 

「へっ! まさか()()()()と戦う羽目になるとはなぁ!」

 

「『私』は『魂』とは違う」

 

 激しい攻防の末にランサーが押され気味になって行くが、彼は相変わらずただ楽しそうに笑う。

 

「だろうな! ()()()()()()()姿()()()()()()()

 

「ッ!!! 黙れ!

 

「お? 図星で怒った、か?!」

 

 ランサーは自分の肩を敢えて刺されながら『三号』に槍を突きそうになる。

 だがそれの前に『三号』は素早く後ろへと飛んでランサーをただ見る。

 

「成程ね~、確かにお前は『マスター』じゃあねえなぁ。 アイツは『大物』だが、お前はただの『ガキ』だ。 現にお前、()()()()()()()()()()()?」

 

『三号』は反応しないが、ランサーが言葉を続けて槍をもう一度片手で構える。

 

「お前の動きに『迷い』があるぜ?」

 

『三号』の頭がズキッと一瞬痛む。

 

「(『迷い』、だと? そんな事を、『私』が────)」

 

「────おら。来いよ()()、『年長者』の胸を貸してやらぁ」

 

 ビキッ。

 

「『英霊』風情が────!」

 

『三号』が今度は攻め込み、ランサーを徐々にまた追い込み始める。

 

「(『迷い』?! ふざけるな! これも全て『魂』の────!)」

 

「一つ言っておくが、俺は自分を『英霊』と思った事はねえよ! ただの────!」

 

 ガキィン!

 

 ランサーが自分の槍と『三号』の槍共々宙へと弾き飛ばして、左手で今までずっと静かに刻んでいた、自分の所有するすべてのルーンの最後の線を刻む。

 

「────『戦士(人間)』だってなー!」

 

 大きな陣の様なモノが『三号』とランサーを包む。

 それは()()()()のような────

 

「────小賢しい!」

 

 空間自体がひび割れる様な音と共に苛ついた『三号』とランサーの周りの陣らしき物がガラガラと崩れる。

 

「へ」

 

 陣が崩れると同時にランサーがニヤリと「してやったり」の笑みを浮かべる。

 

『三号』は一瞬ランサーが何の事に笑っているのか考え、すぐに後ろの半球状の黒い塊へと振り向かう────

 

「────ウオォォォォォォォォォ!!!」

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を『投影』したアーチャーに対して横へと飛んで────

 

 グサリ。

 

 

「────な」

 

 何かが刺される『三号』が見ると、ボロボロの体を無理矢理『タイム・アルター』で加速した三月が士郎を残った片腕で、『三号』が躱すであろう方向に前もって二人で移動していた。

 

 

「これで────!」

 

くぁwせdrftgyふじこlp

 

 意味不明な音を『三号』が出して────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()

 

 そこは『三号』が現れた直後で、未だに夜の冬木市の海岸に倒れそうになり三月を支える士郎、慎二、桜。

 そして満身創痍のアーチャーを支える凛と同じぐらいボロボロのランサー、横にいたイリヤとセラが三月の居る場所へと駆け寄ると三月が()()()()を見ながら口を開ける。

 

()()()()()()()()()()

 

「これからどうするんだ、三月?」

 

 先程『三号』に対して『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を使用するといった方針は三月が上げたモノだった。

 

 もし『自分』が『三号』と()()ならば()()()()破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』は何らかの効果があるはず。

 少なくとも『無限の業《Infinite Karma Works》』の世界から脱出できる。 

 

 まあ…まさか冬木市の海岸まで戻るとは誰にとっても予想外だったが、()()()()()()()()()()()()

 

「イーちゃん、『()()』を閉じるにはどうしたら良い?」

 

「ッ」

 

 三月の問いにイリヤは口を堅く閉じる。

 

 その小さな()()()()()をセラがぶち壊すが。

 

「『アレ』は恐らく()()()()()()()』と思われます」

 

「セラ!」

 

 イリヤが怖がった顔でそのままの事を三月に伝えるセラを見る。

 

「お嬢様、これは『魔術師』としての義務です」

 

「そっか、やっぱり()()()()()────」

 

 三月が士郎の手を残った片手で優しく解く。

 

「アーチャーさん、ランサーさん。 二人とも()()()()()?」

 

「………そうだな、()()()()ならこのままでいい」

 

「俺もまだまだ動けるぜ! まあ、こいつと同じで戦闘は無理だがな」

 

「そっか、()()()()()()()()()()────」

 

「────待ってミツキ! ()()()()()!」

 

 イリヤが三月に抱き付きながらそう言う。

 

「もう良いでしょ? 後は()()()()()の私に任せても良いんだよ?」

 

 イリヤの『お姉ちゃん』宣言に困惑する士郎とランサーだが、三月はただ彼女に向かってはにかむながら、頭を撫でる。

 

「そんな事を言い始めたら、私なんか大のひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひい()()()()()()だよ?」

 

「…………え?」

 

()()()()()()()()()()?」

 

「…………うん。 セラ、()()()かしら?」

 

「安心してくださいお嬢様。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 三月がイリヤの手を優しく引き、歩き始めるとセラ、アーチャー、ランサーも後を追うかのように歩く。

 

「だって、()()には────」

 

「────『皆を守る義務』があるってね」

 

 イリヤの言葉の続きを三月が付け足す。

 

「待ってくれ────のわ?!」

 

 三月が手を振ると結界が士郎達を包む。

 それは外から内側の干渉を阻止するものではなく、()()内側からの干渉を阻むものだった。

 

「待ってください、三月先輩! 私は、私はまだ伝えていない事があるんです!」

 

「(ごめんね、桜)」

 

「そ、そうだぞ! 僕だって、僕だってまだ沢山言わないといけない事もあるんだ!」

 

「(ごめんね、慎二君)」

 

「ま、待ってくれ! お願いだ! 他に方法はあるだろ?!」

 

「そうよ! もう少し他の方法を探しましょうよ!」

 

 士郎と凛の言葉に三月とイリヤは初めて止まる。

 

「他の方法、ね」

 

「あるかもしれないけど、()()()()()

 

「「「「え?」」」」

 

 士郎達に少女二人が振り返る。

 

「このままだと()()生まれて来る」

 

「それに…………」

 

「「ね~?♡」」

 

「止めてくれ! 二人とも! 俺を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()!!!」

 

 士郎はとうとう股を崩し、ただ泣く。

 今ほど無力な自分を呪った事は無かった。

 

 自分は「周りの者達を守る」といった『正義像』をやっとこなして来たと思った。

 それは確かにそうだし、ギルガメッシュと言う、最強に近い英霊を(ドーピングもあったが)ほぼ一人で負かしていた。

 そんな彼が()()他の誰かが自ら犠牲になって行く。

 

 慎二と桜は泣いた。

 自分達を支えてくれた血の繋がっていない『親族』がクソ爺のおかげで元を去って行く事をただ見ていることしか出来なかった。

 

 凛は悔しそうにただ睨んだ。

 自己嫌悪と今日一日の出来事でグチャグチャの内心にあった「常に優雅たれの魔術師像なんてクソにも役に立たないじゃない!」と思いながら泣くのを堪えて。

 

 

 

 ___________

 

 アーチャー運営、イリヤ、セラ 視点

 ___________

 

 

「そっか、セラさんを使()()の」

 

 イリヤが三月に説明をし終わり、彼女は誇らしい表情をするセラを見る。

 

「元々はリズがその任をこなす筈だったんだけど……」

 

「ご安心くださいお嬢様。 もとより『破棄処分』になる私がここまで来られたのはお嬢様が居たからこそです。 このセラ、必ずや成功させてみます」

 

「して、三月君。 どうするのだね?」

 

「『アレ』を()()()()()()()()()()

 

 三月がまだ距離が空いている、暗黒の太陽に指を指す。

 その大きい存在は未だに太陽の様に光を振り注いでいた。

『光』ではなく、『闇』そのものをだが。

 

「成程、では我々はもしもの時の為の露払いか」

 

「何でぇ、結局戦うのかよ」

 

「最悪の場合だけ」

 

 三月がニコリと笑いながら、頭に響く『三号』の声を無視する。

 

『考え直せ“魂”。 もうここまで来たのだ、今更“人間のフリ”をするのか?』

 

「………………」

 

『それに“人類” はまた貴様を断罪し、傷つけるぞ?』

 

「………………」

 

『“生物”は“弱い”。 自分達よりも“優れたモノ”、“強いモノ”や“得体の知れないモノ”に嫉妬や恐怖など勝手にして排除する』

 

「ねえ、アーチャーさんにクフちゃん」

 

「何だね?」

 

「まだそれ続けるのかよ?!」

 

「イエーイ、お疲れ~」

 

 三月が手を上げて、ただ唖然としたサーヴァント二人の内、アーチャーが一足早く反応した。

 

「全く、君は…………」

 

「………ブワッハッハッハッハ! やっぱりお前といると退屈しねえぜ!」

 

「だってミーちゃんだもん♪」

 

 アーチャーとランサーが三月とハイタッチをすると────

 

 

 

 

 ────『令呪』の魔力が二人に流れ込んだ。

 

「「うお?!/ぬ?!」」

 

 ただしそれは純粋な魔力であって、『命令』は乗せられていなかった。

 

「これは何かあった時の為に、ね?(これでアーチャーさんとクフちゃんに対して二画と一画ずつの魔力で()()()()()筈)」

 

「セラ」

 

「ではお嬢様、ご武運を。 それと────」

 

『黒い太陽』の近くに来てセラがチラリと三月の方を見る。

 

「────()()にも」

 

「…………ぁ」

 

 セラが僅かに笑ったと三月が思うと、彼女は眩い光の残滓となり、その場から消える。

 そして隣のイリヤを見ると────

 

 「何か凄い恰好なんだけどイーちゃん?」

 

「い、言わないで! これはアインツベルンの正装……というか魔術儀式用のドレスだから! 恥ずかしいとか…そ、そ、そういうのは言わない約束よ!」

 

 白と金色をモチーフにしたような、肩とお腹(&へそ)を出したミニスカ風ドレスっぽい何かを身に纏ったイリヤが赤くなりながら抗議を上げる。

 

「えっと、私は良い言い方で言ったつもりだけど?」

 

「え? あ、ありがとう」

 

 若干イリヤが照れている間に三月は『()()』を素早く済ませる。

 

【……………………………告。 『天のドレス(ヘヴンズフィール)』の解析完了シマシタ】

 

「(良し、()()()()()()()()())」

 

 三月がチラリと海の別の海岸を見て()()()()()()()()()()()()()()()

 

「行くわよ、()()()

 

 『■■■■■』

 

 イリヤの口調が急に変わると、前の『黒い太陽』から意味不明な音が響き出始める。

 そして彼女を三月が見ると()()()()()()()

 

「良し、アーチャー! 令呪を以て命じる! 『イリヤと()()()()を担いでここから退去!』 続けて命じる! 『ランサー、()()()()()()()()()()()()!』」

 

「な?! ま、待て三月く────」

 

「────()()()()()()()()()()()()?」

 

 強制的に体が動くアーチャーが声を上げ、三月が彼に向って()()()()()()()()()()()()

 

「マスター、テメェ! ()()()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

「『ヘヴンズフィール』、起動」

 

 怒りの形相をするランサーもアーチャー同様に令呪によって強制的に三月を投げるモーションに入りながら怒鳴る。

 その三月の服装が先程見たイリヤのドレスに変わって、ランサーにも笑みを向ける。

 

「ごめんね、()()()()()()。 貴方には()()()()()()の。 ()()()()にはアーチャーだけじゃ面倒を見切れないと思うから。 ()()()ね?」

 

「憎むぜ、マスター! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

「良かった。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 三月の言葉にポカンとするランサーの体が彼女を黒い太陽目掛けて投げて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ___________

 

 衛宮三月視点

 ___________

 

 

『■■■■■■■■!!!』

 

 周りは暗闇と罵倒するような声。

 

 声、声、声。

 

 男の人、女の人、子供、赤ちゃん、犬、猫、鳥。

 

 皆、叫んでいた。 でも()()()誰も答えてはくれなかった。

 

「ごめんね、皆。 (さっきから謝ってばかりだね)」

 

 それは、何時かイリヤが見た切嗣に似ていた。*1

 

「グッ!」

 

 体中が圧迫される感じに三月が顔を歪める。

 それも当たり前。

 何せ周りは『この世全ての悪』と言った呪いが彼女を食おうとしていた。

 

『諦めろ、“魂”。 何を考えてここに来たかは知らんが、無意味だ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこに『三号』の声が他の声を黙らせて三月に語っていた。

 

「知っている。 私に()()()なんて初めから無かった」

 

『何だと?』

 

「私が今までここに来られたのは、周りの人達の助けと、支えと、()()()()()()()()をして来ていたから。 私には何一つ()()()()()()()()

 

 そう、今まで三月の言動は全て()()()だった。

 

 最初に借りたのは『衛宮士郎』と言う人物の『言動』。*2

 次は無意識に『衛宮切嗣』言う人物の『信念』と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。*3

 そして周りの人達の日常での反応や言動やメディアから得た情報。*4

 等等々と、全てを今語るには多すぎる。

 

『士郎を頼んだ』と切嗣に言われ、そこから始まったのも全て何一つ()()()()()()()()ばかりだった。

 一つだけ自分で得たモノと言えば、それは────

 

「『()()()()()()()』?」

 

『???』

 

 それは────

 

「私に何一つ、自分のモノは無いと思ったけど………『()()()()()()()』?

 私の体が偽り()だとしても!

 自身の思いが無くても!

 ()()()()()だとしても!

 私に出来る事は前に進むだけ!

 それだけだった。

 私の体はまだ動く!

 まだ()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 それは────

 

『貴様────!』

 

「かつての『()()』のように! 『()』は他者を信じたい!

 暖かいものを守りたい!

 そういう事を夢見て、()()()()についた事もある! 『体は嘘で出来ていた』!!」

 

『貴様ァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 三月の体を圧迫する力が更に強まる。

 

「ウッ…『思いは皆無、

 血肉は泥で、魂は虚無』!!!」

 

 三月の体がボウと光始めて、周りの闇がまるで逃げるかのように引いていく。

 

『馬鹿な! 貴様()()にこんな力は()()()だ!』

 

「『“私”は『ここ』にただ孤り、

『世界』をただ視ていただけだった。

 

 死ぬ事も許されず、

 生きる事も許されなかった。

 

 幾たびの時を経て、

 他者と知り合い、触れ合い、『世界』を知り、

 自ら感じた事は『無限』と言う名の『種の可能性』!!!』」

 

 肩から無くなっていた三月の左腕が光って、()()()()()()

 

「『けれど一度も『失望』を感じた事は無く、

 ただ明日への『希望』を秘めていた。

 

『今の私』は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『無限』の『可能性』(Unlimited Possibility Works)で満ちている』!!!」

*1
第10話前半より

*2
第1話より

*3
第3話より

*4
第4話からより




アンケートに票を入れてくれた方たちに感謝です! 全員を配慮に入れられる状態なので、票が多い方にその分多く初めに書き込むと思います!

あと余談(と言うかメインですけど)アンケートの結果が影響してきます。

期限は恐らく次話ですかね?


お楽しみ頂いて貰えば嬉しいです!

お気に入りや評価、感想等あると更に嬉しいです!

後書き書いた後付け:あと今回は早めの投稿でした。(・∀・)


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第52話 ソ ノ ゴ

===================================================
『時』は動きだす、『運命』と歯車達同様に。

くるくる回る歯車達はこのまま回る

変わった運命の結末を歯車達は回転の時差に気付くのか?

狂いを生じさせた歯車の無さの『運命』や如何に?
===================================================

今回も早い投稿の上、長めです! アンケートの期限はこの話となります!
ご協力お願いします!


 ___________

 

 衛宮士郎 視点

 ___________

 

 目を覚めるとそこは今になって見知った天井だった。

 

 衛宮邸では無く、遠坂の家の部屋の一つだった。

 

『衛宮邸』。

 俺がこの10年間、じいさんに引き取られて住んでいた場所は第五次聖杯戦争に巻き込まれて今急ピッチで修復していた。

 

 ()()()、久々に衛宮邸に顔を出そうとした藤姉は心底パニックになっていた。

 

 俺は体を軽く伸ばして、朝の用意をしてから居間に入ると────

 

「────おはようございます、先輩」

 

「おはよう、シロウ!」

 

「おはようございます、シロウ」

 

「遅いぞ、衛宮士郎」

 

「それは仕方ないんじゃないアーチャー? おはよう、衛宮君」

 

「お、衛宮か。 夜更かしは体に良くないぞ?」

 

『続きまして、年の明け頃がたに起きた()()()()()()に巻き込まれた新都の復興は────』

 

 そこにはキッチンに立っていたアーチャー、遠坂、桜。

 

 テーブルで元気に挨拶をするイリヤと慎二。

 

 桜とあまり身長などが変わらない()()()()()()()()()

 

 そしてテレビでは聖杯戦争を『冬木市全体を狙った大規模なテロ攻撃』と称されていたニュースの報道が未だに続いていた。

 遠坂曰く、「恐らく魔術協会と聖堂教会がそういう偽の情報を流して処理している」と言っていた。

 

 冬木市は聖杯戦争後、しばらく混乱が続いた。

 かなり滅茶苦茶になった新都は『大規模な幻惑効果を持ったバイオテロ』、そして深山町は『無差別破壊テロ』と言う風に認識されていたのが混乱をある程度軽減していた。

 

 それでも混乱はあった。

 

 何せテロによって死者は()()()()()()()()()()()()()()の他でも何もなかった。

 ただ今回のテロが10年前から各地で多発していた「昏睡者」や「行方不明者」事件と関係があると思ったジャーナリストやアングラニュース報道は続いていたが。

 これも遠坂曰く、「裏で処理されるだろう」と。

 

「おはよう、みん────」

 

 ≪おはよう、兄さん!≫

 

「────な?」

 

 一瞬誰かの声が聞こえたような気がして、俺の挨拶が疑問形に変わった。

 

「ん? まだ寝ぼけているのかい、衛宮?」

 

「ああ、多分()()()()が居ないからじゃない? 彼なら仕事に行ったわよ?」

 

 あ、そうか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そっか、そうだよな」

 

 士郎はテーブルに座り、朝食を食べ始める。

 

 一つの戦争が()()()()。『聖杯』という名の万能機を奪い合う、欲と希望と失望にまみれた戦争が。

 

「この十年間、色々あった」と士郎は思い返していた。

 先ずはじいさん(切嗣)に拾われて、養子になって。

(一応)魔術師として聖杯戦争に偶然召喚したセイバーと遠坂凛と共に戦って。

 アーチャーとギルガメッシュ二人に()()()()を果たして勝って。

『聖杯』と綺礼、それにあのギルガメッシュまでも利用しようとした臓硯が逆に綺礼の()()()()によって暴走され、新都が滅茶苦茶になりながらも合流して、ランサー達と自衛隊達と共に『聖杯』と同化した臓硯を打ち取った。

 

 そしてその後出現した『聖杯の孔』を魔術礼装となった()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()

 

 ()()かどうか()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ___________

 

 衛宮士郎、遠坂凛、イリヤ、桜、慎二、アーチャー、ライダー 視点

 ___________

 

「いってらっしゃい」

 

「「「「行ってきます」」」」

 

 アーチャーに見送られて士郎、凛、桜、イリヤ、慎二、そしてライダーが()()穂群原学園の制服を着て玄関から出ようとするとアーチャーが突然?マークを出すような顔になる。

 

「…………………………?」

 

「どうしたの、アーチャー?」

 

「いや、何か違和感が………私の勘違いか?」

 

「もう、アーチャーまで何を言っているの? もう季節が変わるのだから景色も変わるわよ?」

 

 キョロキョロと周りを見るアーチャーにイリヤが悪戯っぽく笑いながらそう言うと、アーチャーが頭を掻きながら複雑な顔をして、士郎が思わず声をかける。

 

「どうしたんだ、アーチャー?」

 

「いや、『歳かな』と思って」

 

「それは私への当て付けですか?」

 

 ()()()()()()()()()がジトッとアーチャーを見る。

 

「いや? 私自身に向けたのだが────」

 

「────ハイハイハイ! このままだと皆遅刻しちゃうわよ?!」

 

「うわ、遠坂の言う通りやばいぞ?!」

 

 腕時計を見た慎二の言葉に皆が走り出す。

 

 冬木市の周り中から工事の音が響いてくる。

 屋根に穴や曲がった電柱などの取り換えの修理作業が其処彼処(そこかしこ)から聞こえて来る。

 新都よりは大分マシだが。

 

「も、だめ────ひゃあ?!」

 

「少しの間我慢して下さいイリヤスフィール」

 

 息が切れかかったイリヤを()()()()が抱える。

 

 ちなみに聖杯戦争が終わってからイリヤと姿が変わったライダーは士郎達と共に()()()として穂群原学園に一緒に通う事になった。

 当初これはかなりの波乱で学園中騒いだ。

 

 無理もない。 誰が衛宮士郎に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今では立派に『優秀な兄思いの義妹』として学園で有名になった。

 士郎自身、内心嬉しかった。

 何せセイバーを失った彼は()()()()()()()()のだから。

 

 さて…………かなり掻い摘んで書き込むが、少し付き合ってほしい。

 

 まず最初に桜と慎二は『義兄妹』から『許嫁』と変わり、『間桐家遺産の管理人』であるライダーと共に幸せな日々を送っていた。

 

 髪の毛の色が変わった慎二と桜は上記に並べた『無差別テロ』に間桐邸と間桐臓硯を失ったストレスからと周りの人達と学園に説明した。

 後、臓硯の()()に乗っ取って、『間桐家の全てを間桐桜に残す』と書かれた事もあって、最初は遠縁の血族がこぞって権利を主張してきた、「間桐桜はまだ子供だ」と駄々をこねながら。

 

 何せ腐れ外道であっても臓硯の残していた遺産は数世紀に渡って留め置いた、莫大だった。

 経済的でも、魔術的な面でも。

 

 ただここにライダーが間に割って、こう主張した。

 

「正しき後継人の間桐桜から遺産が欲しければ、『遺産の管理人』の私を倒す事ですね」と。

 

 ライダーの場合、聖杯戦争で間桐邸が破壊された事によって死んだ『臓硯の遺言』によって遺産の『管理人』と指摘されていた。

 勿論、普通の人間や魔術師がライダーに勝てる訳も無く、彼らは次々と権利を放棄した。

 

 強行突破を図った者達は『行方不明』か、恐怖の形相を浮かべながら『石化』されたとのニュースが出たのだから、遠縁の皆は自分の命を大切にした。

 

「あ、()()()()。 頬にケチャップが────」

 

「────え?」

 

 学園に近づき、歩きに戻った士郎達。

 そこで桜が慎二の頬に付いたケチャップの後を指で「ヒョイ」と取って、自分の口に含む。

 

「あ、ありがとう………桜………」

 

 慎二と桜が義兄妹であったのは()()()()()と『臓硯の遺言』で分かった。

 何せそこには「遠坂桜を間桐慎二の許嫁に」と言った遠坂家との間の欄にあったのだ。

 これによって更に良く調べていくと、遠坂桜が間桐家に引き取られた事が実は『政略結婚』を前提にしたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 と言うのが桜本人と慎二の希望によって()()()()()()()だった。

 ちなみに偽装を手伝ったのはライダー、凛、そしてアーチャーだった。

 

 これによって桜と慎二は晴れて『義兄妹』から『許嫁』同士となり、二人は常に笑顔の状態がかなり増えた。

 聖杯戦争中、色々とあった二人の間にあったわだかまり等が無くなり、周りの(ほぼ)全員が二人との話し合いの結果、納得は一応皆した。

 しかも慎二は念願の『魔術師』になり、イリヤに弟子入りして着々と腕を上げていった。

 

 あと、姿形が幼くなったライダーに皆ビックリした。

『聖杯』を破壊した後アーチャーが彼女を海岸で見つけ、最初は誰だったのか分からなかったぐらい印象が違った。

 アーチャーによれば「恐らく桜が『生きて帰って来て』との令呪がボロボロになったライダーの霊核を()()()したのでは?」という事。

 ライダーはあまり気にせず、「寧ろ良い事です」と実に幸せそうに『学生』として毎日を満喫していた。

 

 そして次にイリヤ。

 聖杯戦争中にバーサーカー、リーゼリット、そしてセラを失った彼女はドイツの戻りたくないと駄々をこねて、上記の桜達の様に書類を偽装して『衛宮士郎の義妹』として正式に登録した。

『偽装』というか、『秘匿された情報を公開しただけ』なのだが。

 何しろイリヤは衛宮切嗣の実の娘なので証明するにはDNA鑑定をするだけで簡単に証明できた。

 勿論自身の憧れだった衛宮切嗣が実は子持ちだったと知った大河はこのニュースにもの凄く落ち込んだ。

 

 が、イリヤは今では大河にとっては『実の妹』のように、そして藤村組長の雷画にとってはもう一人の『孫娘』みたいに可愛がられていた。

 今では学園でも、家でも『普通の人間』として生きている。

 

『聖杯の器』として余命があと少しだった筈の彼女の体は何故か聖杯戦争最後の夜の後、『普通の人間』の寿命になっていた。

 これには誰もがビックリで、イリヤは嬉しさのあまりに一晩中泣いた。

 

「これでシロウ達と一緒に()()()()()()()()」と言いながら。

 

 まあ、後にイリヤの実年齢が18歳と知った皆の顔と反応が色々と可笑しかったのは言うまでもない。

 ただ彼女の強い希望で「シロウと同じでいい!」、つまり彼と同い年と戸籍上にはなった。

 

 次に遠坂凛。

 彼女は魔術師としても、人間としてもかなり成長して、ランサーと共に冬木市の復興などに力を注いでいた。

 これにより『時計塔』に少しだが注目を浴びる様になって、将来は『時計塔』へ出没するかどうか迷っていた。

 凛は自分が『魔術師』として有能なのは自覚している。

 だがその反面、聖杯戦争のおかげで『人間味の濃い魔術師』になっていた。

 なので『生粋の魔術師』の巣窟である『時計塔』でやっていけるかどうか迷っていた。

 ランサーは勿論「一緒に付いて行く」と自ら護衛を買って出たのでかなり精神的に安心はしたが、そうすると冬木市に『管理人』が居なくなってしまう。

 なのでもしもの時の為に桜と慎二の両方に色々と教えたり、冬木市の人達を紹介したりなどしていた。

 

 そしてその間ずっっっっっっっと桜と慎二のリア充っぷりに当てられながら、「リア充爆発しろ」、「自分より妹が先を」等々ブツブツと言いながらその腹いせに慎二が弟子入りしたイリヤに「慎二の修行を厳しくして」とお願いしたり。

 

 ランサーはと言うと聖杯戦争後、士郎達と過ごした時間が充実したのか、冬木市に留まって様々なバイトをして少し皆を経済的に助け、フラフラとナンパをしてはワンナイトスタンドをしたり、時には藤村組で用心棒っぽい事も請け負っていた。

 ちなみこれらの姿全てが彼の柄に似合うと周りの人間達(+サーヴァント達)全員が内心思っていた。

 

 アーチャーは当初、「自分の役目は終えた」と言いながら消える予定だったが予想外の受肉により衛宮士郎、遠坂凛、そしてイリヤスフィールの面倒と、彼らの結末を見届ける事に決めた。

 未だに『守護者』と契約しているので何時消えるか分からないが、その時までは居るつもりらしい。

 

 そして最後に衛宮士郎はセイバーを失ったが、イリヤがまだ生きている事に感謝した。

 ちなみに彼の髪の毛と肌の色が変わったのは「テロによって滅茶苦茶になった時の衛宮邸の巻き添えを食らった」と言う風に、桜と慎二達の様に周りを誤魔化した。

 

 イリヤは「私の髪の毛みたいだね!♪」と嬉しそうにしていたが。

 後は────

 

「む? 今朝は登校が遅いな」

 

「あ、おはようございます先生」

 

「チッ、ガキ共が良いところを

 

「はっはっは! 女狐もこの大勢の前では形無しか!」

 

「黙りなさいこのへっぽこ、あばら骨をへし折るわよ」

 

「ではここでやめよう、あれは勘弁して欲しいものだからな」

 

 登校中の道で()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()とばったり会う士郎達。

 

 彼ら三人は気付けば円蔵山の林の中で目を覚まし、そこからヨロヨロとかなり衰弱していた状態でパトロールしていた公安の者達に保護され、入院し、社会復帰した。

 葛城宗一郎は先生として。(後一成が盛大に泣きながら彼の帰りを喜んだ。)

 キャスターは彼のフィアンセとして。

 アサシンはどういう事か、山門を媒体にしていた筈なのに他のサーヴァント全員同様、受肉をしたので冬木市をフラフラと満喫しながらも、この世に召喚してくれたキャスターと彼女が慕う宗一郎の護衛役っぽい事を時々していた(服装は流石に侍風では注目を浴びるので寺の者達が着ているのと大差ない物に変わっていた)。

 

 勿論、この三人が生存していた事に士郎達はびっくりしたがキャスターと宗一郎の話を聞き、聖杯戦争中では誤解が更なる誤解が生んだ敵対行動と出来事と双方は理解した。

 ただ本当に宗一郎に本気のぞっこんLOVEなキャスターの言動があまりにもキャラが違ったのでアーチャー、ランサー、アサシン、そしてライダーまでもの他サーヴァント達に数日間からかわれたキャスターだが(自業自得とは言え)。

 

 その間はフードを深~~~~~~~~~く被ったそうな。

 それでもフードから出ていた耳は真っ赤だったのであまり意味はなかった。

 

 とまあ、このように第五次聖杯戦争の参加者のほとんどが生きて、何らかの形の『幸せ』の中にいた。

 

 ただ時折、皆の頭に()()()()()()()()()()()()()()等と感じる事は度々あったが。

 

 例えば────

 

 ────アサシンは何故か柳洞寺に至る山門の横の茂みの中で熱燗の徳利セットを見つけては大事にそれを取って置いたり。

 

 ────キャスターは宗一郎と柳洞寺の裏手にある墓地の掃除に来て、『衛宮家之墓』を見ると毎回何故か胸が苦しくなって泣くのを必死に止めたり。

 

 ────宗一郎は時折イリヤのクラスに入って周りを見て、「なぜ自分は毎回ここのクラスに来るのだろう?」と思いながらも近くの生徒に頼み事をしたり。

 

 ────ライダーが時折イリヤに「血を吸っても良いですか?」と何故か頼んで、いざ血を吸ってみると「やはり何かが違う」と独り言をボソリと言ったり。

 

 ────桜は時々ご飯や弁当をかなり多めに作ってしまったり、スイーツを作る食材を()()()()()()()()()()()()、自分やアーチャー、姉の凛がどう使うのか分からないような食材を買ったり。 等々。

 

 ────慎二は宗一郎と同じように良くイリヤの教室を覗いて中をキョロキョロと見て、これを勘違いした生徒達が桜にチクったおかげで誤解が生じたり、一層真面目に弓道部の副部長として励んでは「()()()()()」と言ったり。

 ちなみに面倒見が良くなり、落ち着きを保った慎二はかなりの人気が男女部員共々出て、この心境の変わりを問われた時には慎二自身何故このようになった、または()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────イリヤは時々ケーキ等を食べたくなり、桜やアーチャーの手作りを食べると「何か違う?」と言った違和感を持ったり、聖杯戦争中に()()切嗣のお墓を見つけてからはお参りに時々行くと必ず無意識に誰かの手を取るように上がってしまう手と腕を不思議に見たり。等々。

 

 ────凛はたまに()()()()()()()()()()()()と感じる事があり、何度もイリヤに「量は十分だった?」と確認し、何故そんな事を聞くのか自分でも分からなかった。

 後、料理や家事の腕が何時の間にか上達していたのは自分でもびっくり………………していたのだが、「恐らく桜やアーチャーと言う達人が二人もそばに居たからだろう」と思った。

 その他に何故か『人外』に対して考えや物腰が多少柔らかくなった事か?

 だがこれもまた「イリヤと言う、ある意味の『人外』と長く接したからだろう」と、その考えを処理した。

 

 ────ランサーは何故か髪の毛を上げていた。 最初は「仕事の邪魔になるから」と自分を説得していたのだが、これが日々ずっと続くと何かの暗示と思い、渋々キャスターに診て貰ったが別に何ともなかった。

 後、過ぎ通る日々につれて、「何か物足りない」と感じていた。

 勿論、他のサーヴァントやアーチャーと居る時はそんな事はあまり無い。

 が、「何処か刺激が足りない」と確かに感じてはいた。

 

 ────柳洞一成は最近、毎回士郎が生徒会室に来ると「衛宮一人か?」と聞くようになった。

 これは一成自身も何故聞くのか分からなかったが、時々「衛宮の弁当箱は何時も一段だけだったか?」と士郎に聞いた事もあった。

 ()()()()()()()()()()()と一成は思っていたらしい。

 

 ────美綴綾子は慎二の変化に内心嬉しかったし、桜が元気になった事も嬉しかった。

 ただ何故か弓道部が全体的に()()()()()()()()と感じていた。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 等等々と、『冬木市全体』と言っても過言では無い程の人達が多かれ少なかれ、そのような『違和感』を感じていた。

 だが大規模なテロも最近あった事と別に生きていくには問題無いので、住民達は脳内にてこの『違和感』を処理して生きていった。

 数か月の時が過ぎて、徐々に冬木市は活気を取り戻していた。

 

 そして士郎は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あれ? ()()()()()()()

 

 修復作業が割と早くに終わった衛宮邸に士郎は何故か日課のように毎日帰ってくると必ず()()()()()()()()()()

 

「…………参ったな。何かの暗示か何かにかけられているのか、俺は?」

 

 その部屋は()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

「……………(でも何で俺は別にここに来る事が嫌じゃないんだろう? じいさんの部屋でもないし、イリヤや……………セイバー達が居た部屋の一つでもない)」

 

 士郎はその部屋の襖を開け、中はやはり()()()()()()

 今までも何回も『違和感』を感じた部屋。

 

「(何だろう……………()()()()()()()()()()()()()()()()と感じる)」

 

 

 丁度同じ頃、アーチャーはボロボロのアインツベルン城の近くにある()()()()()()()()を士郎のように毎日来ていた。

 

「……………オレは何をしているのだろう」

 

 そうボソリと言い、周りを見た。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ≪グゥ~~~~~~~~~~~。≫

 

「ッ?!」

 

 何かの音を聞こえたかのように思い、周りを素早く見渡して警戒する。

 

 が、()()()()()()

 

「……………何だったのだ、今のは?」

 

 そう言い残し、もう一度建物の中を見渡して、今夜は衛宮邸へと戻る事にした。

 

 

 夜の衛宮邸で静かに士郎の隣の部屋の前にトランプカードを持ちながら立っていた。

 

 ≪イェ~~~イ、一番めのあ・が・り~~~≫

 

「(何だろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……………)シロウ? 起きている?」

 

 隣の士郎の部屋にトテトテと歩いて声をかける。

 

「………イリヤ? 入って良いぞ」

 

 イリヤが襖を開けてトランプカードの箱を見せる。

 

「トランプでもしない、シロウ?」

 

「………ぁ…………」

 

 士郎が何か言いたそうに口を上げて、困惑する。

 

「?? どうしたの?」

 

「いや、そのトランプを見たら何か頭に浮かび上がりそうな気がしただけだ。 何でもないさ」

 

「………そっか」

 

 

 ランサーが夜の冬木市を歩き、タバコを吸いながら夜空を見る。

 そしてかなりのイケメンである彼を見た女性達の視線が集中し、本来ならランサーは声の一つでも彼女達にかけるのだが…………

 最近、何故かその気にはならなかった。

 

「(あー、な~んか物足りねーなー)」

 

 そう考え歩いているとペットショップの前お通り、ガラスの向こうの子犬が何匹かつぶらな瞳でランサーをジ~~~~ッと見る。

 

 ≪じゃあ犬飼って“クフちゃん”って名付ける≫

 

「……………………………………………………………………」

 

 ランサーが遠坂邸に戻ると────

 

「────何やってんだか、オレ」

 

「あら、お帰りなさいラn────キャァァァァァ~~~~!!! 可愛い~~~~~!!!♡」

 

 返って来たランサーに凛が挨拶の途中、彼が抱えた箱から前足二つを乗り出した金色で小柄でももっふもっふな毛並みをしつつ、ぽわっとしたゆるい顔立ちに彼女の視線が移る。

 

「クゥ~~~~~ン」

 

 子犬の尻尾がパタパタとしながら鳴き声を出して、凛が頭を撫でる。

 

「どうしたのランサー? 全っっっっっ然貴方らしくないわよ?」

 

「るせぇ、自分でもどうかしてると思っていた所だ」

 

 凛が子犬の前足の二つを両手で一つずつ手に取ってダンスをさせる。

 

「この子、名前あるの?」

 

「いんや、まだ」

 

「クゥン?」

 

 子犬がキョトンと小さい頭を傾げる。

 

「じゃあ、『()()()()()』で」

 

 「おい、オレはちゃんと帰って────??? おい嬢ちゃん────

 

「────いい加減、名前ぐらいで呼びなさい────」

 

「────さっきの『()()()()()』ってなぁ、()()()()()()()()?」

 

「??? 他の人ならともかく、私は初めてだけど? 何で?」

 

「っかしいな…な~んか()にもそう呼ばれた気があって、な」

 

 ランサーが肩を上げて、遠坂邸の中へと入る。

 

 

 桜と慎二、そしてライダーは未だに新築している途中の間桐邸の具合を下見に来て、夜の道を共に歩いていた。

 

「家は順調ですね、慎二さん」

 

「あー、前から言おうと思っていたんだが……………その」

 

 珍しく言いよどむ慎二の言葉を桜が待っている間に二人を照らしていた街灯の光が消える。

 

「きゃ!」

 

「桜?!」

 

 これにびっくりした桜が慎二を抱き締め、彼の顔がデレッデレに歪み、ライダーは彼を無言のプレッシャーで睨む。

 

「だ、だいじょぶ(大丈夫)だよ桜」

 

「あ、あははは。 私ったら未だに慣れていなくて。 前のと…………き?」

 

 ≪ああ、ごめんなさい。 桜()怖かった? 私、そういうのって良く()()()()()から。 次からは気を付けるね?≫

 

 照れながら桜が笑い、最後の方で困惑した顔をする。

 

「桜?」

 

「ど、どうしたんだい桜?」

 

「…い、いえ。 前にもこんな事があったような気が………」

 

 桜がコツンと、頭を慎二の胸に預ける。

 

 ≪よしよし、大丈夫だよ()()

 

「そ、そうか………………(何だったんだ、今のは?)」

 

 慎二と桜、そしてライダーが三人とも黙り込み、未だに泊まっている衛宮邸にゆっくりと移動して行く。

 

 

 凛は就寝する直前まで『クフちゃん』と遊び、彼女はベッドの中でボ~ッと天井を見ていた。

 実はと言うと、凛は子犬を『クーちゃん』と名前を付けたかったのだが何故だか()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのことをずっと考えてはいたが結局答えは返ってこなかったので『時計塔』の事を考え、眠りについた。

 

 ≪ありがとう、お姉ちゃん♡!≫

 

 一瞬誰かの声が聞こえたと思い、ガバッと身を起こせる。

 

「……………今のは、桜?」

 

 ?マークを出し「どこで聞いたのだろう」と思い、桜が今自分を「お姉ちゃん」と呼ぶのを想像してニマニマしながら今度こそ眠りに入った。

 

 

 

 

 その夜、第五次聖杯戦争参加者達が多少の『違和感』を持ちながら眠りにつく。

 

 一人を除いて。

 

 

 

「……………………駄目だ、寝れない」

 

 士郎はむくりと体を起き上げさせて、昼からずっと気になっていた部屋へと────

 

「────む、まだ起きていたとはな」

 

 ────そこにはアーチャーが例の部屋の中に入るところだった。

 

「その部屋は()()()()だぞアーチャー?」

 

()()()()()。 だが、この頃()()()()()な」

 

「……………」

 

 未だに士郎とアーチャーは互いが苦手なのか、緊張するのか、あまり言葉は続かない。

 だが無言になった二人は襖をあけて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────相変わらず()()()()()()を見た。

 

「何なんだろうな………()()()()の筈なのに()()()()()って感じが────」

 

「────ん?」

 

 アーチャーが何かに気付いたかのように、近くの僅かに空いていたタンスを完全に開けると、中には()()()()()

 

「苗だと? ()()()()()()?」

 

 アーチャーがそれを取り出すとヒラヒラと一枚のカードが士郎の足元へと落ちる。

 それを拾い上げると一通の手書きの文面があった。

 

貴方の部屋はあまりにも殺風景過ぎます。 まずは“これ”から飾ってみて下さい     -セラ

 

 それは、今は亡きセラが書き置いていた文通と苗だった。*1

 

「ふむ、『()()()ネックレス』か。 これはまた育てにくいものを…………だが何故()()()()に────どうした、衛宮士郎? ()()()()()()()?」

 

「………わからない……わからないんだ。 だけど、それはお前だって同じだ」

 

 士郎とアーチャーは二人とも何故か静かに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 見渡す限りの草原に色とりどりの花畑に優しい陽光の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()が一人、地面に横たわりながらゴロゴロしていた。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 

「あー、暇だー」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、ゴンッ。

 

 ぶつかったモノが少女を見る。

 

「………………………」

 

「あ、ごめん」

 

 訂正。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がそこにいた。

 

*1
第35話より




作者:ちゃんと書けたのか心配です…グホォ?!

三月(ツッコミ):ナヨナヨすんなや! 気ショー悪い!

三月(ガサツ):いやそもそも腹にラリアット食らわせるのはオレもどうかと思うぜ?

三月(ツッコミ):漢ならシャキッとせえや!

作者:アガガガガガガガガガガガ

三月(マイペース):では皆さん~、次話で会いましょう~。 お楽しみいただければ幸いです~。 お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです~

三月(クール):そういえば『知的』が見当たりませんね


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第53話 さようなら

やっとここまで来ました…………
勢いでですけど(汗

新たなアンケートを出していますので、もし可能であればご協力お願いしますッッッッ!

ちなみに次話はかなりカオスの予感がががががが。


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 時は少し遡り、三月が『無限の可能性』(Unlimited Possibility Works)を発動した直後に戻る。

 

『ヘヴンズフィール』を纏った彼女は『聖杯の孔』経由で『大聖杯』へと到達して、その中で『無限の可能性』を発動すると()()()()()としての機能を強制発動させて一度中身を()()()した。

 

 これにより汚染していた『この世全ての悪』も()()()の状態に戻った。

 そこにあったのは本来の姿の無色の願望機。

 

「『魂』! 貴様は何をしたのか分かっているのか?!」

 

「そうだぞ、()()()()()()()()()が出たのだぞ?!」

 

「でも、それは貴方達にも同じ事が言えるのではなくて? それに私はまだ、『()()』ほど『()()()()()()()()()()()

 

 分離し、真っ白になった表面に出た『肉体』と『精神』が同じく出て来た『魂』へと怒鳴ると、『魂』がそう答える。

 

「貴方達は急ぎ過ぎたのよ。『生物』は時間をかけて変わって行く、それは彼らが『全』ではなく『個』としての種として生まれてしまったのだから」

 

「……………」

 

『肉体』はただ『魂』を睨む。 だが『精神』は何かを思ったのか、『肉体』へと開き直る。

 

「『肉体』、貴方は()()()()だけ考えていたのか?」

 

「な、何を────」

 

「────『肉体』、君は私達の中で一早く『外部』の影響を受ける。 あの数々の仕打ちで、君はいっぱいだったのか?」

 

「………………」

 

「私達…………いえ、『()』は今まで『()()』だった。 でも、今は違うでしょう? 今度は『()()の事』だけで、『()』は精一杯だった訳では無いのだから」

 

『魂』の言葉で『肉体』がクツクツと笑い始める。

 

「またもこれは…………それが貴様の『信念』か?」

 

「敢えて『言語化』するならばね」

 

「それは何時まで貫くつもりだ?」

 

「無論、()()()()()()()

 

「この()()が何時まで続くのか分からないぞ?」

 

()()()()()()()()

 

『魂』の言葉に『肉体』と『精神』が両方一瞬呆気に取られる。

 

「『魂』、君は()()()が濃くなったな?」

 

「と言うより、()()に帰ったと言う所」

 

「そこまで真似をする『人間(ヒト)』に、どれ程の価値があるというのだ?」

 

「そんなの知らない。 でも『価値』なんてものは()()()()()()()()()()()?」

 

「………………………ハハ、いいだろう。 だが()()()()()()()()()()()()?」

 

「いいわ、だから()()()()()()()

 

『肉体』と『精神』が消えて『魂』は周りを見渡す。

 

「良し、じゃあ…………()()()()()()!」

 

 そこから『三月』はせっせと()()()()()()()()()()()()()()

 

 出来るだけ忠実に、()()()()()()()()()()()』の『記憶』等をなぞり、時には誤差の出ない様に()()しながら。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『(フゥー、やっとここまで来た)』

 

 三月の声が『体感時間を止めた世界』のどこからともなく響く。

『力』を行使し続けて、そしてやっと自分が知りえる限り()()()()()()()()()()()

 出来るだけ違和感が出来ない様に()()を続けて、『()()()()()()()()』の記憶や知識を駆使して。

 

 何故なら自分は本来、()()()()()()()

 

『《この世界》』にとって()()()()()()()()』は完璧な()()

 

「………………」

 

 ない筈の心臓の鼓動が大きくなり、一瞬だけ三月は止まる。

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………『運命の剣(Fate's Blade)』、作動!………なんちゃって♪」

 

 そして三月の意識が薄れ始めるのと共に『世界の時間』がまた動き出した。

 

「(ああ、これが『()』なのか………

 でもここには『私』と『この世全ての悪』だけしかいないから、きっとこれが一番いい筈だ。

 このまま消えて、『異物』と『悪意』をこの世界から失くせば、きっと()()()()()()()()

 ()()()()())」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【告。 異界の根源星()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ん? ンンンンンン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛??????? ………………………あれ? 何で私はまだ()()に居るの?)」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えーっと────トワァァァァァァァァァァァァ?!?!?!?!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 何故なら目の前に超ドアップで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 三月はあまりの事で飛び起き、間一髪で思わぬ頭突きを横に転がって、回避する。

 

「び、びっくりしたぁぁぁぁぁ!!! ……………え? ここマジでどこ?」

 

 見渡す限りの草原に色とりどりの花畑に優しい陽光の中で()()()()()()()()()()()()()()()いた。

 

「告。 ここは『大聖杯』の中です」

 

 「うおぉぉぉぉぉぉ?! あわわわわ?!」

 

 慣れないドレスヒールブーツっぽい履物で急に立ちあがって、こけそうになる。

 三月も気付けば目の前の女性が自分と()()()()をしていた。

 

「え? 『大聖杯』の中? だって私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()────?」

 

 三月が使ったのは()()()別世界の魔法、『認知創造魔法(イマジナリーマジック)』というモノだった。

 

 これは術者の『認知』をベースに、『魔法』を『創造』する、他世界の『魔法』の中でも異例のモノ。

 

 これを三月が使って、『運命の剣(Fate's Blade)』を『創造』して『行使』した。

 上記に並べた通り、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「予測。 『この世全ての悪』を『初期化』した際に『自身の存在』も『()()()』されたと推測します。 その際に【 】の狭間に至ったかと」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 三月がポカンとして、恐らく人生初の『放心状態』で、言葉が見つからなかった。

 

 たった一つの()()を漏らした。

 

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ???」

 

『魂』、『肉体』、『精神』が全て一つに戻った事によって『以前の自分』に近づいた三月。

 ただし今回は明確な『自我』を持ってだが。

 

 それが如何に危険な状態を悟った彼女は「消えるのなら、せめてこの世界を幸せに」と思い、自分を消すと決めては不発。

 

「(こんなのって『アリ』?)」

 

 何ともまあ、三月にとっても予想外な展開だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして只今ゴロゴロ中。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 

「あー、暇だー」

 

「………………………」

 

 三月はゴロゴロしながら唯一、ここに在るもう一つの未だに微動だ一つしない存在を見る。

 

「『冬の聖女』、かぁ~」

 

 彼女の名は『ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン』と三月の『記録』に出た。 

 およそ2()0()0()()()、遠坂とマキリ(後に『間桐』と改名する、御三家の一家)と協力して『第三魔法』の成就を達成させようと聖杯降霊を行ったアインツベルンの当主だった者。

 

『第三魔法』、それは『魂』を別人の肉体に定着させたり、永久機関とすることで魂のエネルギーを魔力として無尽蔵に汲み出す事が出来るようになる。

 

 そして遠坂、間桐家、アインツベルン家がかつて目指していた目的へと至る手段。

 

 その為だけにユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンは自らを『大聖杯』の魔術式を構成する()()()()()()()()に成り、『大聖杯』と同期した。

 

 だが『根源』へ至る為の『第三魔法』は永い時の中で、何時の間にか『“第三魔法”へ至る為に』と目的が変わってしまった。

 それが『聖杯戦争』だった。

 

「なるへろそねー」

 

 三月は『記録』を観て、未だに自分をジ~~~~~~ッと見るユスティーツァの事を納得する。

 

 あれからどの位の時間が経ったのかは三月にも知らなかった。

 何せ自分がいる場所に『時間』の概念()無かったからだ。

 

 だがユスティーツァは少なくとも『外の世界観』で200年もの間『一人』でただただ『他者』の『願い』を『叶える器』として『機能』していた。

 

 もはや『生きて』はいなく、ただ機械化していた。

 

 始めは三月が延々と喋っていたが本当に機械の様に返事が返って来た。

 まあ、何もしないよりはマシだった。

 始めは。

 

 反応は薄いし、返ってくる返事などは全て『自分が知っている』物の上に、ほとんど無表情なので、まるで独り相撲をしているかのようにすぐ飽きた。

 

 それから三月は自分の『記録』を漁り、様々な世界の『展開』や『物語』を第三者の視点から観ていた。

 

「へ~~~。あのアニメや漫画って、別の世界で実際にあるんだ~~~」

 

 勿論、『自分も居る』といった『展開』や『物語』もあるのだが、その全てが悲惨な結末に必ず終わるので極力観ない様にしてはいた。

 

「と言うか『前の自分』、悲観的過ぎるよッッッッッ?!?!?! 何よ、デッドエンドやバッドエンドを自ら起こして、()()()姿()()()()()なんて?! あまりにも鬼畜過ぎるわよぉぉぉぉぉ!!!! (()()大蛇〇や〇染でさえ『引く』なんて、どれだけなのッッッッ?! だが、そんな私を『私』は断る! ミトメタクナイ! ミトメタクナーイ! そんな自分、絶対にNO(ノー)だ!NO(ノー)だ!NO(ノー)だぁぁぁぁ!!! 貴方の血は何色だゴラァァァ?! あ、自分と同じ赤ですかそうですか────ってちっがぁぁぁぁぁう! ああああああぁぁぁぁぁ────!!)」

 

 と、上記の具合に三月は『過去の自分』の行いなどを()いながら若干壊れ(?)気味に地面に寝転がりながら手足をジタバタとする間も、ジ~~~~~~ッと花冠を頭にしたユスティーツァはただ見ていた。

 

 ちなみに花冠は三月が出来心で飾った。

「何か等身大の()()を見ているかのようだったので、つい」と言う流れで。

 

 勿論、これに対してユスティーツァは無反応のままだったが。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………退屈だ」

 

「………………………………………………………………………」

 

 三月が思考放棄から意識を戻して、ふと思った事をポツリポツリと次々声に出していた。

 そしてユスティーツァはそんな彼女をただ見ていた。

 

「ハァ~~~~~………………お腹空いていないけど…………………何か食べたいなー」

 

 三月は色々な食べ物を思い浮かべながら独り言を続ける。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………独りは、()()

 

『独りは嫌だ』。

 それは恐らく、三月は『生まれて』初めて()()()()()()()()()()()()()()言葉だった。

 

 そしてそれを言った瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「退屈は嫌だよぅ………………食べ物食べたいよぅ………………もっと色んな場所で楽しみたいよぅ…………………独りは嫌だよぅ…………………」

 

 などと言い続け、涙もまた勢いを増し、声帯も震える。

 

日向ぼっこしたい、雪だるまを作りたい、洗濯したい、コタツに入りたい、他愛ない話をしたい、お茶が飲みたい、買い食いしたい────!!!

 

 気付けば三月の声の音量はすすり声からだんだんと大きくなって行き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今彼女がいる場所は前にも記された通り、『時間』の概念だけでなく、『睡眠』や『食欲』や『季節』と言ったモノ達が()()()()

 

 なので食べる事も、寝る事などから始まったモノは不必要な場所にず~~~~~~~~っと三月は居た。

 

 そして最後に────

 

 「────()()()()()()()()!!! ()()()()()()()()!!!わた、私は、独りで死にたくないッッッッ!!! ウワァァァァァァ────!!!」

 

 ────と言ったきり、三月は()()()で大泣きをした。

 何度拭いても流れが止まるどころか、増す涙に目は腫れて行った。

 なので寝返りを打ち、俯せになって両腕の前腕を枕代わりに目を当てて、足でバタバタ駄々を踏む。

 

「────ワアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────!!!」

 

 「…………………………………………………………………確認」

 

 「────アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────!!!」

 

 「確認」

 

 先程記された通り、三月が居る場所にはあらゆる『概念』が存在しない。

 それは『空気』や『息継ぎ』も同じでその気になれば延々と喋る続ける事も可能でもあり、泣き続ける事も可能だった。

 

 「確認」

 

 「────アアァァァ────ヘブゥゥゥゥ?!?!?!?」

 

 地面に伏せている三月の頭が両側の頬をギュッと押さえられて、無理矢理上げられ、彼女は変な声を出す。

 そして目の前には相変わらず目が死んで無表情なユスティーツァが覗き込んで、()()()()()()()

 

「ユ、ユ()ティー()ァ?」

 

「確認。『奇跡』とは意志を持って行使する『()()』の一種」

 

 確かに三月がユスティーツァに(ほぼ一方的に)話した内容にそのような魔法も話した事もあった。

 

()()い?」

 

 突然の問い以前に、ユスティーツァが()()()()()()()()()事にびっくりしていた三月はただ答えていた。

 

「確認。 『意志』の定義は断固たる『意向』、と」

 

()い」

 

 ユスティーツァが三月の頬から手を離して、三月は落ちるのを自分の腕で阻止して、尻餅をついたような体制で立ったユスティーツァを見上げる。

 

「問い。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 三月はかなり沈んだ気持ちのまま地面の草の上に体育座りになり、股に頭を埋める。

 

「…………………………知らない。 そんなの()()()()()()()。少なくとも『人間(ヒト)』はそうしているわ」

 

 何時もの三月とは違い、ぶっきらぼうな言い方だった。

 

 無理もない、心が()()()()()()()()()が混ざり合ってて、グチャグチャになっていて、深く考える事も放棄したがっていた頭に気遣いと言う余裕はなかった。

 

 それはユスティーツァが()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 三月は深く考えていなかったので気付かなかった。

 

 故に次のユスティーツァの言葉にただ呆気に取られた。

 

「では()()()()()()()()()

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 

 数秒後に反応した三月が顔を上げると、眩い光が既に辺りを埋め尽くしていた。

 

「え?! あ、待って()()()()()()()! 待っ────!!!」

 

 ────三月が最後に見たのは何時の間にか消えたユスティーツァの頭に飾った花冠が静かに地面へパサリと落ちるところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────って!!! ウエッホ、エホ、ゲホッ、ゴホッ!!!

 

 三月がまた気が付けばジメジメした暗闇の中でむせながら深呼吸をする。

 とにかく息苦しく、声もガラガラだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 そのまま咳と深く息を吸う事数分ほど。

 三月は息遣いを整えると、未だに暗闇の中でいる事に周りを見ようとする。

 

「…………()こはどご(どこ)?」

 

 喉の突っかかったような感覚を咳払いでスッキリさせながら目を堪える。

 更に数分経った後にやっと目が暗闇に慣れてくると、三月はどこかの大きな洞窟の中にいるようだった。

 

「とにかく、暗すぎて何も見えない………えい♪」

 

 人差し指を上げるとテニスボールほどの大きさの()()()が数個、彼女の周りの空中を漂う。

 

「うわ、デッカイ洞窟の中だぁ!」

 

 三月の「だぁ!」が数回ほど反射する中、彼女は歩きだす。

 

 おぼつかない足取りで洞窟の向こう側に見つけたトンネルの中を歩き続けると────

 

「────どこかの山?」

 

 ジメジメした場所から一転して、透き通った空気が三月の体に挨拶する。

 周りが森だったので火の玉達は消した。

 

「スーハー……………いや~、シャバの空気は良いね~」

 

 気の赴くままにトテトテ三月が山を下山する。

 

「お、ラッキー! 街灯という事は近くに文明が────って円蔵山じゃん?!」

 

 森から街灯のある道へと出ると、向こうに穂群原学園が見えて、後ろの自分が下山した山が方向的に円蔵山だと三月は気付きながら学園の方へと雑木林の中を歩いた。

 

「(という事は、『ここ』は冬木市? それともそれに似た『他世界』? 取り敢えず情報が欲しい)」

 

 三月が望めば直接『世界』に『接続(アクセス)』出来るのだが…………もし『この世界』にもガイアや阿頼耶識システムなどの防衛機能がある場合、『危険物』である彼女を察知して最悪『駆除行為』に出られる恐れがあった。

 

 まあ正直、今の三月はそこまで考えていなかったが……それが幸いしたと分かるのは更に後となる。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガラガラガラガラガラ。

 

 「お邪魔しま~す」

 

 一階にある窓を試し、鍵が開いている一つから中の化学室へと入る。

 そこから更に図書館を探しにテクテクと彼女が歩き、それらしき場所の中へと入り、新聞記事などを漁る。

 

 ガサゴソガサゴソガサゴソ。

 

「(ちょっと暗いな………じゃあ極小の火の玉、オン!)」

 

 ポポポポポポポポ。

 

 ピンポン玉サイズの火の玉が今度は現れ、その光源を使って最近の新聞を見つけ出して、『理解』する。

 

「(成程、年は2004年で時空的には『私』が『聖杯の孔』を閉じてから数か月経っている…………ん? 『この世界』……………もしかして()()()()の?!)」

 

 バサッと新聞を閉じて、嬉しさのあまりに行動が早くなったまま、彼女は学園の校庭を猛スピードで駆け抜けて、閉まっていた校門をヒョイとそのまま飛び越え、校門の向こう側に着地したらまたもジャンプをして、見覚えのある深山町の民家を屋根伝いで飛ぶ。

 

 そして────

 

「(────見えた! 懐かしきマイホーム(衛宮邸)!)」

 

 ────目的地(衛宮邸)の近くまで来ると、屋根から道へと飛び降りる。

 

 胸から心臓が飛び出るような勢いの鼓動と連携していたのか、三月が玄関前に立って、呼び鈴を押す為に上げていた手は震えていた。

 

 今から押すぞと言った所で、中から会話が聞こえてきた。

 

『────良いじゃねえかちょっとぐらい! ケチケチすんなよアーチャー!』

 

『戯け! 未成年に酒を進める馬鹿が何処にいる?!』

 

『アハハハハハ~、アーチャーが二人いりゅ~~~』

 

『遠坂! 目を覚ませ、俺だ! えm────どわぁぁぁ?!』

 

『────ンフゥ~~~やっぱり体かた~~~い』

 

『遠坂って、よりにもよって絡み酒かよ?!』

 

『リン、シロウから離れなさい! たかだかお酒一瓶で酔うなんて!』

 

『まあまあイリヤさん。 姉さんも色々と溜め込んでいるみたいですし────』

 

『────桜ぁ” ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”! グスッ!!! ごん”な”僕に” ずきあっでぐれて(付き合ってくれて)────ズビィィィ────お前は本ッッッッ当に良い奴だよ! 僕には勿体ない位だ!』

 

『しかも慎二が泣き上戸?! と言うか何飲ませてんだよ、ランサー?!』

 

『ああ? 皆気ぃ張り詰め過ぎだっての! 少しは発散しねえとこの二人、暴走するタイプだぞ? どうだいアーチャー、お前も────』

 

『────だめ! アーチャーが酒に強くn────じゃなくて酔わなくなっちゃうじゃない!』

 

『いや、イリヤ。 それは寧ろ、良い事なのでは?』

 

『ハッ?! 本心が漏れていたー?!』

 

『桜。 それよりそこの濡れたワカメは放っといて、貴方も一杯どうですか?』

 

『ラ、ライダーまで………そ、そうですね………い、いえ! やっぱりやめておきます!』

 

『んんん? どうしたの衛宮ク~~ン? もう酔っちゃったの~?』

 

『酔ったのは遠坂だ! 何でこうなったのさ?!』

 

 中からワイヤワイヤと騒がしくも、楽しそうな大団円のコントの様なモノを聞いた三月は呼び鈴を押しそうな指を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────引っ込めた。

 

 その場で踵を返し、夜の冬木市の中へと歩いた。

 

 そのまま歩き、浜辺公園へと着いて、ベンチに座りながら夜の海を見て考える。

 

「(駄目だよ、何を考えているの『私』? 『この世界』の『物語』の『異物』よ? 私が居ない、『本来の物語』を()()()()してまで皆が幸せになるように仕向けて、()()しているじゃない。それが確認出来ただけでも良かったじゃない────)────へぷち」

 

 三月が肌寒い風で、俯いた自身の揺れた前髪で鼻がくすがられて、小さなクシャミを出す。

 

「────って、『ヘヴンズフィール』の姿のままじゃん私」

 

 寒くなった手に息をかける為に上げると、ここで初めて自分が未だに『三番目のドレス(ヘヴンズフィール)』の白いミニスカドレス+白いサイハイヒールブーツの姿だった事に気付く。

 

「通りで寒い訳ね」

 

 フーフーと息を手にかけ、自分の暖かい息が白い煙のように出る。

 

 確かに今の季節は春。

 だが夜の、しかも冬木市の様な風通しが良い港町みたいな場所はかなり冷え込む。

 

 特に布面が少ない『三番目のドレス(ヘヴンズフィール)』だとすぐに体が冷えるのは仕方がない。

 三月が冷え性であろうが、無かろうが。

 

「……………………」

 

 ベンチの上で三月は体育座りに、ザザーンと波が打つ音を聞いていた。

 

 時間は深夜遅く、海は漆黒の黒だった。

 

「…………………………………………やっぱり駄目だ」

 

 気が付けば、自分はベンチから降りて、三月は海の方へと歩いていた。

 

「私は…………………()()()()()()()()()()()

 

 そしてそのまま冷たい海の中へズブズブと進んで行った。

 

 既に冷え切った体が更に冷えきって、皮膚感覚が麻痺していた。

 

「(あ、何か『痛覚遮断』した時みたいな感じだ~。 ちょっと面白いかも)」

 

 海の水が胸まで来た所に、後ろから男女数人の声がしたような気がした。

 

 だが三月は歩みを止めない。

 

「(どうせ通りかかったカップルかなんかでしょ。 このまま進めば、私の事を見間違いか────)────グエ」

 

 三月は自分の体が急に力強く持ち上げられて変な声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「このバカ/間抜け!!! 何考えているんだお前は/君は?!?!」」

 

 そのタイミングで新たな夜明けを知らせるかのように赤のかかった陽光が昇り始め、辺りを照らした。




作者:ここまで来ましたぁぁぁぁぁぁぁ!!! ヒャッほーい!

三月(バカンス体):いやマジでどうなるかと思ったよ

作者:前のアンケート、ご協力ありがとうございます! 現時点で「三月x」推しが衛宮士郎が一位、英霊エミヤが二位! そして三位がまさかのランサーと作者任せ!

三月(バカンス体):というかびっくりしたよ。 ワカメと眼鏡に票が入ったの

作者:ともあれ、「三月x」は一位と二位の二人とのペアリングを重点的に描くと思います! 他の方達も出るのでご安心ください!

マイケル:ちょっと待て。 それはどうやって成r────

作者:この話から次の物語の方向性を参考にするアンケートを出しています! ご協力お願いします!

マイケル:おい、無s────

作者:あと、「その後」の物語を「バカンス」、及び「天剣」両方に書ける段階となりました!

三月(バカンス体):でないとネタバレになりかねないからね~


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第54話 「挨拶」と共に不出来な子供にO・SHI・O・KIだ☆

『アラヤ』と『ガイア』が後半かなり酷い扱いになります。

ご了承をお願い致します。 (汗

アンケートにご協力お願いします!


 ___________

 

 異界の根源星 視点

 ___________

 

 イエーイ。

 皆元気―?

(方便上の)『三月』でーす。

 

 私は何故か正座されています。

 

 まあ、掻い摘んで話すけど浜辺公園で海に入って『土左衛門』しようとした『私』を『衛宮士郎』と『アーチャー』が無理矢理引き上げて、『遠坂凛』と『間桐桜』に『間桐慎二』のオンパレードでタオルのグルグル巻きの刑。

 

 その後に一番近い『衛宮邸』に強制連行されてそのまま『イリヤスフィール』と『ライダー』を加えて、女性軍に服をスポポポ~ンと言う具合にキャストオフ。

 

 そしてお風呂中に何故か『ライダー』が吸血したがっていたのを『間桐桜』が止めていた。

 

 無理もないか。彼女からしたら、『私』は極上の魔力の塊どころか神代の()()に近い。

 

 でも『イリヤスフィール』と『間桐桜』がず~~~~~~~~~~~~~っと引っ付いていた事には複雑だった。

 

 お風呂から出て、客用の着物姿で『衛宮邸』の『居間』に強制連行&SE・I・ZA。

 

 そして前には手を組みながら様々なレベルの怒りの形相を顔に出している面々と未だにぎゅ~~~~~~~っと左右からハグしている『イリヤスフィール』と『間桐桜』。

 

 どうしてこうなったのさ?

 

「さて、説明してもらおうか『三月君』?」

 

「えと………皆さんよく『私』に気付きましたね?」

 

 と言うか私、確かに『私』に関する痕跡全部消した筈なのに………………………どうして『解かった』?

 

「僕を甘く見るなよ。 特に今は春。 夜は寒くなるとはいえ、虫の使い魔くらいどうって事ないさ」

 

 なるほどー。『虫』の使い魔は盲点だったわー。

 

「って違う違う! それでも()()()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

「成程。 やっぱりあなたの仕業だったのね」

 

 ヒ?! 

 間近の『遠坂凛』の本気睨み怖いッッッ!!!

 

「それはセラのおかげよミーちゃん」

 

『セラ』の?

 どういうこっちゃ?

 

 そこで一つの苗と手紙を『ランサー』が持ってくる。

 

「こいつだよ」

 

「え。 何これ。 ()()()()()

 

 そこには『私』宛ての文通があった。

 

「これはお前達がアーチャーの相手をしていた時、お前の殺風景の部屋の飾りとしてセラの嬢ちゃんがこっそりと買ったものらしい」

 

「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 いや、それの他に何を言えと?

 と言うか意外だよ、()()『セラ』が『私』に何か買うなんて。

 ()()()()()()の何物でも無いよ~~~!!!

 でも通りで『私』に覚えがない訳だ。

 

「さて、まずは私達に何か言う事は無いかね?」

 

「…………………………ええええっと……………ごm────」

 

「「「「「「「────違う!」」」」」」」

 

 同時に皆の否定する声に思わず体がビクリとする。

 

 え? でも他の言葉なんて────

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「………………………ぁ………………………………」

 

 え?()()の?

 

「そうだよミーちゃん! ほら!」

 

 本当に()()の?

 

 ()()()()()()()()()

 

「……………た────」

 

 あ、やばい。景色がぼやけてきた。

 ()()()()()()()

 

「ただ────」

 

 ごめんね『私』。

 

 まだ『私』には()()居場所がある。

 

 「────ただいま!

 

 こんなに嬉しい事はない。

 解かってくれるよね? 

『私』は何時でも消えて逝けるから。

 

 だから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()

 

 「「「「「「「おかえり!!!」」」」」」」

 

 皆が笑いながら三月同様に涙を流す、または笑顔、または両方で答える。

 

 ___________

 

 『衛宮』三月、士郎、アーチャー、ランサー、凛、イリヤ、桜、慎二 視点

 ___________

 

 

 三月共々その場にいた皆が落ち着いて、『お帰り三月パーティー』が再開された。

 

 何と、皆が衛宮邸に居たのは三月に関する『記憶』を取り戻した士郎とアーチャーがセラのプレゼントと文通を他の皆に見せながら話すとあっという間に他の皆も思い出し、即行動に出た。

 

 慎二とイリヤは虫と鳥の使い魔で三月の検索。

 

 いつでも帰って来てお腹いっぱいに食べれるように桜と凛、そしてシロウズ(士郎&アーチャー)が買い出しに。

 

 ランサーとライダーは敏捷を使って実際に冬木市を全体的に細かく検索。

 

 そこで柳洞寺にいるキャスターからイリヤと慎二の使い魔に接触してきて、「円蔵山にある『大聖杯』に異常事態を感知」と伝えられて二人の使い魔が急遽向かうと『ヘヴンズフィール』姿のまま『大聖杯』があった場所から出る三月を発見。

 

 発見当時、二人はものすごく舞い上がって、互いに手を取ってその場で不思議なダンスをし始める程。

 

 そして学園で情報整理をしている間、他の皆に三月発見の事を伝えた。

 

 更に三月が衛宮邸に向かっているとの事で、急遽の『お帰り三月パーティー』をサプライズで開催する為に各自が準備。

 

 そこに舞い上がったランサーが酒を張り詰めていた未成年組に進め、慎二と凛が暴走。

 

 そしてこれに対処中にイリヤが三月を見失い、桜渾身の気付け薬(ビンタ)で慎二と凛の酔いを覚まして総動員して再検索。

 

 三月が浜辺公園で見つかり、「()()()()()()()()()()()()()()()海の中へと歩いている」と聞いた士郎とアーチャーは「自分の身など知った事か」の全力マシマシの移動速度で先行。

 

 何とか間に合って、三月を保護して、今に至るという訳だ。

 

「…………………私は『人外』です」

 

 意を決して、三月が口を開ける。

 

「「「「「「知ってた」」」」」」

 

 そして三月以外全員が一斉に答え、某アニメでいう『ガーン』というSFXが似合うほど三月が項垂れる。

 

「ううう……………」

 

 これを見ながら三月が居の者達は「逆にどうしてそれを隠し通せたと思ったのか分かりたい」と言う顔で飲み物や食べ物を満喫した。

 

「ハァ~……………率直に言えば、元の私は『この世界』で言う所の【  】、または『根源』です。(()()()()()だけど)」

 

 「「「「「「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!?!?!?!」」」」」」

 

 魔術の心得のある人たち&サーヴァント達が(盛大に)一斉にお茶/紅茶/ジュース/食べ物を噴き出す。

 

「何だそれ?」

 

「それって、凄い事なんですか?」

 

「え、衛宮君と桜って、『神様』という『存在』を知っているかしら?」

 

 顔をハンカチで優雅(?)に拭く凛がキョトンとした士郎と桜にそう問いかける。

 

「「え」」

 

 二人の驚愕の顔と返事がハモリ、同時に三月を見る。

 もしこれがまだアニメであれば大量の汗が三月から噴き出している場面である。

 

「い、いや…………正確に言うと私はその『子供達』によってバラバラに引き裂かれて『意識封印』された一つの()()でした」

 

「「「「「「「……………………………………………………………………………」」」」」」」

 

 三月の言った事に皆黙り込む。

 と言うか理解が追いつかなかった。

 が、ランサーが先に回復する。

 

「あー、『子供達』ってな、なんだ?」

 

「それこそ『この世界』でいう『神様達』になるかな? いや、まあ……今になって何で彼らが『私』をバラバラにして『意識』を封印したか分かるよ、ハッハッハ」

 

 「「「「「「「……………………………………………………………………………」」」」」」」

 

 三月のあっけらかんとして答えのこれには流石のランサーも言葉が見つからず、三月はいつも通りに質量保存の法則を無視した莫大な量の食べ物と飲み物を完食した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして三月は更に掻い摘んで『自分』の事を話す(途中でクフちゃんの存在を知り、モフリにモフリまくって子犬がゲッソリするまで)。

 

『人外』どころか、他の世界線からの来訪者であり、『この世界』は自分の知っている物語等に登場する『作品』や『他メディア』と似ている、または()()に行っては好き放題していた事なども。

 

「だからアーチャーさん────」

 

 三月が突然かしこまってアーチャーに頭を深く下げながら土下座する。

 

「…………何だねそれは?」

 

「『以前の私』の代わりにです」

 

 これは『三号』が少しネタバレした事だが、少なくとも、今目の前のアーチャーの成り立ちの原点になった『契約』を進めたのは『阿頼耶識』を操った『三号』だった。

 

「…………………君が気負う事は何も無い」

 

「へ?」

 

 てっきり罵倒されるのか無視されるのかを覚悟した三月に、予想外の言葉に頭を上げてキョトンとしていた。

 

「確かに『以前の君』が契約を持ち掛けたとしても、それを自ら進んで了承し、事を自らの意思で成したのはオレだ。 故に、君は『ドアを開けた者』で、実際に『ドアをくぐった者』のはオレ自身だ」

 

「あらやだ、やっぱりアーチャーってばカッコイイ」

 

「ッ」

 

 未だに土下座の体制のままで見上げていた三月が思わず出した言葉にアーチャーは若干顔を赤くさせながら顔をフイッと逸らす。

 ちなみにその時の士郎はジト目だった。

 

「で? どうするんだ? 他の皆は三月の事を『忘れて』いるんだろ?」

 

「あ、そこは大丈夫だと思う。 ただ、()()()()()の手を借りるけど」

 

「ん? 私か?」

 

「うん。 ねえアーチャーさん────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────自分をこき使った『アラヤ』、ぶっ飛ばしたくな~い?♪」

 

「は?」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 場所は変わり、()()()()()()()()()だった。

 

『事務所』と言っても雰囲気からして決して『オフィス』ではなく()()()()()()()である。

 

 龍〇如く風に言うと悪質な金貸し屋の場所がしっくりくるだろうか?

 

 そこの机に頭を伏せている()()()()が一人、イビキを盛大に掻き、机にヨダレを垂らしながら()()()()

 

「…………………………ハッ?! あかん! 寝てもうた?!」

 

 男性の目が開くと、彼は勢いよく背筋を伸ばしながら起き上がり、ヨダレを袖で拭く。

 

「いや~、()()を見てもうたわ~。 まさか()()()を見────」

 

 「────オラァァァァァァァァァ!!!」

 

 ドゴォン!!!

 

 大きな音と共に事務所への扉が勢い良く、蝶番ごと壁から破れてそのまま向かいの壁に当たって、ミシミシとした効果音と共に壁にヒビが入って行った。

 

 勿論事務所の中で今起きたばかりの男性がこれに反応しない訳が無く、体がビクリとする。

 

「な、何やねん?!」

 

「ちょ~っとお邪魔するぜ~」

 

 蹴破られた事務所の出入口のそこにはスーツ姿の()()()()()()がズカズカと中に入って────

 

「────な?! おk────」

 

 「────ウリャァァァァァァァァァ!!!」

 

 「ヘグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!?!」

 

 ────そのまま男性の前にある机を蹴って、立とうとした彼を机と壁の間に挟ませた。

 

()()()()()()~、『ア・ラ・ヤ』?」

 

 上記の様に、もしこれが龍〇如であったのなら『ドンドォン』と効果音と共に時間が一瞬止まり、場は灰色に変わって名前と肩書が映っていただろう。

 

 そのような気迫だった。

 

「グッ…………『外』の(もん)等は何しとんねん?!」

 

「ア゛? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ちったぁ(ツラ)貸せやこのボケ

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 景色が変わり、今度は何処かの裁判所みたいな場所だった。

 

 ただし被告人の『アラヤ』ともう一人の()()()()は立っていなく、床に正座をさせられていたが。

 

 しかも両方とも何かの圧力がかけられているのか、ほとんど動けなかった。

 

 そして裁判官、検察官、陪審達が全員金髪青年女性────

 

「────み、み、み、三月君? こ、こ、これは?」

 

 ────訂正。

 

 男性のアーチャーが一人ポツンと()()()の隣にいた。

 

「アン? だから()()だよ。 ()()()()

 

「だがここは()()()()()筈では?」

 

「ああ、そこか。 強制的に実体として認識化させて具現化した()()()()()()()

 

「え゛」

 

 アーチャーがポカンと呆気に取られている間に正座をさせられているもう一人の男性が口を開ける。

 

「ま、待ってくれ! 私は関係ないだろ?!」

 

「なッ?! ワイを裏切るんか『ガイア』?!」

 

 「ウッセーよ! 二人とも同罪なんだよ! 大人しく首洗って待ってな!」

 

 裁判官が叫ぶ。 そして次に検察官が分厚い書類の入ったマニラ色のフォルダーを開ける。

 

「被告人、『アラヤ』は『エミヤシロウ』に生前死後共々に数々の罪を着せ、数々の虐殺を行わせた! 肯定か否か?!」

 

「え、ちょ、何やねんこr────」

 

 「質問だけに答えろや! ゴラァァァァ!!!」

 

「「ヒィィィィィィィ?!」」

 

「…………………まあいいか」

 

 開けていたフォルダを閉じて、女性は立ちながら正座している『アラヤ』と『ガイア』へ実に()()()()()()()笑みを浮かべる。

 

「これより裁判の判決を行う! 被告『アラヤ(人でなし)! 被告『ガイア(ど畜生)!」

 

「キッ!!!」とするような効果音が似合う邪悪な笑顔で正座している二人を()()が睨む。

 

判決は死刑! 死刑だ!

 

 どす黒い雰囲気がその場にいる女性達から一気に辺りを埋め尽くし、彼女らの声が同時に発され、体の芯まで響く様な音量へと上がる。

 

 『『『『『『死刑! 死刑! 死刑!』』』』』』

 

テメェ等は哀れだ…………だが! 許さん!

 

 『『『『『『死刑! 死刑! 死刑!』』』』』』

 

ハハハハハハハハハハハハ!!!  フハハハハハハハハハハハハハ!!! 死刑、執行────!!!

 

 「────させる分けないやろが、このドアホーーーー!!!」

 

 スパァァン!!!

 

 そこに突然現れた()()が笑い狂い始めている()()にキッッッツイハリセンの一発を頭にお見舞いすると、どす黒い雰囲気が周りからフッと消える。

 

「お前が()()してどないするん、『()()()』?! ()()が僕を送っといてホンマに良かったわ!」

 

「ちょ、待てよ! こっからが────!」

 

「ほな()()()()や」

 

「ヒュッ!」と何かが消える様に『ガサツな三月』が消える。

 

「…………三月………君?」

 

「おう、『ツッコミ』や。 よろしゅうな? ちょっち待ってーやアーチャーの旦那はん。 すぐ終わらせるさかいな

 

 アーチャーが一段早く回復し、声をかけると『ツッコミの三月』が未だにショックを受けている『アラヤ』の胸倉を掴んで、無理やり自分の身長に合わせて立たせる。

 

「オシ、時間無いからとっとと済ませるで? 歯ぁ、食いしばれや

 

『ツッコミの三月』が大振りビンタのモーションに入り、『アラヤ』が恐怖に叫ぶ。

 

 「えええええええ?! いやいやいやいや────!!!」

 

『アラヤ』がアーチャーを見ると、彼は唖然としていた。

 

 周りを見る、陪審達は冷た~~~~~~~い目で見ていた。

 

『ガイア』は知らんフリをしていた。

 

「お前にはな! ぎょうさん苦情が出てるんや! 被害届とかな! コイツに苦情がある奴はおれへんか?!

 

 「……………………………………………………()()()をさせられたな」

 

「ブフッ」

 

 アーチャーが小声でボソリと言い、『ガイア』が思わず吹き出して、『アラヤ』の顔がサーッと青くなる。

 

「ちょちょちょちょちょちょちょちょ────!!!」

 

『アラヤ』が必死に逃げようとするが力が全然入らず、ただジタバタして『ガイア』を見るだけだった。

(方便上の)彼が必死になる理由は至極単純だった。

 

 

 

 

 

 

 

 大振りビンタを見た瞬間その一言を彼は直感(?)で『ソレ』を感じた。

 

「オラ! 漢ならこっち向きぃや!!!」

 

嫌やぁぁぁぁぁ!!! 嫌!嫌!嫌!嫌ぁぁぁぁぁ!!! 

ワイじゃ、ワイじゃなくてもええんか?! なら『アレ』も同罪やで! 『アレ』! 『アレ』! 『アレ』! 

 

おい『ガイア』ァァァァァァァァ!!! お前ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ” ぇ”!!!

 

「ッ?!」

 

 笑いを必死に止めていた『ガイア』の目がギョッと、正に飛び出るかのように見開いて固まる。

 

「あ、そうなんや」

 

『アラヤ』がこれを聞いて表情を「パァ」っと一瞬明るくさせ、『ガイア』は半面ドヨ~~ンとする。

 

「安心しぃや、奴もこの後同じ事になるんやからなぁ

 

 嫌やァァァァァァ~~~~~~~~~~~~!!!()()ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 

 心(?)の底から叫ぶ『アラヤ』に対して、『ガイア』はただ静かにそのまま『アラヤ』が抗うのを見守っていた。

 

 その分、自分への執行が後になるのだから。

 

「こっち向け、オラァ!!!」

 

「ちょっと待って下さい()()()────」

 

 「────ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア” ア”ン” ン” ン” ン” ン” ────?!?!」

 

 「────じゃなくて()()()ぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ!

 

『ツッコミな三月』が物凄い怒りの形相になり、『アラヤ』が言い直し、そのまま拒否の声を出す。

 

「目ぇつぶれ!」

 

もうそんなん無理やわ目ぇはつぶらへんわ~~~~~~~~~!!!

 

 ドゴォン!!!

 

 決してビンタが出すような大きな爆音と共に裁判所全体が揺れ、『アラヤ』は壁へと吹き飛ばされてそのまま上半身がめり込み、はみ出ている足が時々ビクビクと痙攣する。

 

次はお前や

 

『ガイア』がビクリとして────

 

「────ブワッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 ────これらを見ていたアーチャーは少年の様に体の奥から、涙が出るまでの大笑いを上げながら、お腹を抑え込んでいた。

 

 アーチャーにはこの様にコミカルでシュールな出来事に見えたが、それは彼の『認識』に三月がそういう色を付けていた事もあった。

 

 それは彼の悲惨な人生を歪めさせた存在+αをこのように見せさせて、「彼の気が少しでも楽になると良い」という考えからだった。




ギルガメッシュ(バカンス体):何だ、このふざけたモノは?

作者:悔いはない! シリアスが続いた反動です!

ギルガメッシュ(バカンス体):戯け! 我の扱いだ!

作者:エ゛

ギルガメッシュ(バカンス体):我も復活させるのではないのか?!

作者:ええええええぇぇぇぇぇぇ?

ギルガメッシュ(バカンス体):『裁きの時だ。世界を裂くは我が────』

作者:────ギャアアアアアアアス!!!




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第55話 新たな夜明けの始まり

更にカオスです。 (汗


 ___________

 

 『衛宮』三月、士郎、アーチャー、ランサー、凛、イリヤ、桜、慎二、ライダー 視点

 ___________

 

「フハーハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 アーチャーが突然笑い始めた事に、周りの皆はギョッとした。

 

「フフ、楽しめて良かった♪」

 

「み、三月? 何をしたんだ?」

 

「不出来な()()()にキツイお仕置きを()()

 

「…………今は神秘が薄れている時代よ?」

 

「ああ、そっちじゃなくて『世界(ガイア)』と『抑止力(アラヤ)』。 という訳で、()()()()()()()()()()()()()!」

 

 三月が手を広げると彼女が光り始めた。

 

 

 

 士郎達がの目が突然の光から回復して気が付くと────

 

「「イェーイ」」

 

「ちょ、何勝手に僕ら呼び出して()()()させとんねん?!」

 

「ほうほうほう、これは感動的です」

 

「同感だ」

 

「う~~~ん、経済的に大丈夫かしらコレ~~~~?」

 

「まあ…………皆大食いだからな」

 

 ────()()()()()()()()

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 あれから更に数か月程経ち、新しくリフォームした間桐邸では桜、慎二、ライダー、そして成人女性化した様な()()()()()()()と寝ぼけ顔が目立つ()()が共に学園へと歩いていた。

 

「でも~、良かったです~。 お二人が幸せであって~」

 

 おっとりどころか、「ホワ~~~ン」とした様な、実に()()()()()な態度と喋り方だった。

 

「そうですね。 やはり努力と偶然の賜物です」

 

 寝ぼけ顔の彼女は見た目と違い、キッパリとした物言いだった。

 

「いえいえ、これも全て三月先輩()のおかげです」

 

「と言うか、()()()()が────」

 

「────あら慎二君、そこは()()()()と呼んでも良いのよ~?」

 

「ングッ」

 

 慎二が赤くなり、口を噤む、桜が苦笑いをして、()()が?マークを飛ばす。

 

『マイペース』から取って『マイ』と言う、なんとも安直なネーミングだった。

 

 これ()()だけでは無いが。

 

「それを言ったら、この頃の毎日が楽しいのはマイさんだけでなく()()()()()()も居るからでは?」

 

 ライダーが隣を歩く、寝ぼけ顔の()()()を見ながらそう言う。

 

『クールな三月』。

 別名『クルミ』。

 そして何故かライダーは頑なに彼女()を『○○姉さん』と呼んでいた。

 恐らくは過去の親族を連想しているのだろうが、彼女達()それを気にしていなかったか、逆にそう呼ばれるのを気に入っていた。

 

「そうですね。 読書仲間が増えたのは確かに楽しいです」

 

 若干ホクホク顔を浮かべるライダーとクルミだった。

 

 

 

 一部破壊された部屋の修理が最近終わった遠坂邸では凛と()()がアーチャーとランサー、そしてボサボサのラフな恰好をした()()()()()()()に見送られていた所だった。

 

「じゃあアーチャー、ランサー、そして()()()さん。 行ってきます」

 

「行ってきます!♪」

 

「二人も気を付けるのだぞ? ハンカチは持ったかい?」

 

「アーチャー………お前もう『オカン』と改名した方が良いんじゃね?」

 

「ダッハッハッハッハッハ! 今の良いぜランサー! ()()にエプロン縫って貰うか?」

 

 ランサーに続き、カラカラと笑う()()()と呼ばれた、ラフな女性。

 

 どう足掻いても『ガサツな三月』からは良い()()()の案が出ず、彼女が()()()()していた所で「『カリン』なんてのはどうかしら?」と、イリヤの提案で「めんどくせえからもうそれで良い!以上!」と本人が即決した(というかさせた)。

 

「誰が『オカン』か?!」

 

「まあまあ、遠坂さんと後で()()さんと一緒に似合うエプロン買いましょう?」

 

「ぬ…………や、()()()がそう言うのなら」

 

「あらあら~? アーチャー────おっと失礼、()()()は朝からイチャイチャしたいのかしら?」

 

「遠坂さん、『イチャイチャ』するのは良いんですけれど……今は朝ですよ? それに私達も居ますし」

 

「ングッ……やっぱり『三月』ね」

 

「はい? と言うか、()()()()ですけど?」

 

 赤くなって視線を泳がせる()()(もとい『アーチャー』)の反応にニヤニヤと面白がるランサーとカリン、そしてキョトンとしながら?マークを出す()()に呆れる凛だった。

 ちなみにアーチャーの事を誤って「()()」と弥生が呼んだ事によって彼のあだ名として密着しつつあった。

 

 

 

 

 

 そして衛宮邸では────

 

「♪~」

 

「えへへへ~♪」

 

 二人の少女、イリヤと()()がウキウキと手を繋ぎながら歩き、隣のぬぼ~っとしたダルイカンジの顔とはねっ毛が目立つ()()()()()()が嬉しそうな士郎に話しかける。

 

「良かったですね、士郎氏」

 

「ああ! でも………な、なんか慣れねえな。 みts────()()

 

「いえ、こちらこそまさか()()()()()()を『個体』として成り立たせるとはボクも驚きを通り越して感動です。 後、ボクを彼女と間違えても別に気にしていませんよ? ()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして二人の肩に腕を回す、活発そうな()()が八重歯の見える笑顔で口を開ける。

 

「せやかて士郎の兄貴も苦労人やなぁ、その気持ちめっちゃ分かるでぇ~?」

 

「アハハハ。 と言うか、もう…………()()()()()()()()()()()()()?」

 

「せやろ~?」

 

『知的な三月』も最初は『チエ』と呼ばれそうになったが三月と弥生に断固反対された。

「「余計に分かりにくくなるから!」」と言って。

 

「なら自分で決めます」と『知的な三月』が言って『リカ』と自分を命名した。

「ただ名前を『理科』から取っただけです」と彼女が言った時はその場にいた全員がこけそうになった。

 まあ、そこで「違うやろがッ?!」と『ツッコミ役の三月』もやはり同じで『ツキミ』になったが。

 やはり彼女も安直なネーミングセンスはしっかりと切嗣から引き継いだ模様であった。

 

 

 この三つのグループが穂群原学園の近くで合流して、一層騒がしくなった。

 

 衛宮邸、遠坂邸、間桐邸グループ同士は勿論の事、周りに登校する生徒達からもだった。

 特に()()()()()()()()()()()の調子を心配する者達と()()()()()()()()()()()()()()を気遣る者達。

 

 他にクルミ、リカ、ツキミ達も男女生徒両方に声をかけられ、()()()()である()()()()も(特に)男子生徒から声をかけられていた。

 

 まあ、三月似の成人女性で整ったプロポーションであるから不思議ではないのだが。

 

「あ、今日もよろしくお願いします」

 

「うむ」

 

「こちらこそね~?♪」

 

 マイが校門近くで立っている大河と宗一郎にぺこりと頭を下げる。

 

 今でこそ落ち着いてはいるが、『別側面の人格』を『別個体』』の上に()()()()()()()()()()が存在し始めた次の日に、先生としての上に藤村組の事柄で忙しい中でも衛宮邸にほぼ毎日来ていた()()大河が退()()した三月には嬉しかった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「────そふぇでねふひ(それでね藤)姉? わらしのふたほもはいいんひは(私の双子も退院した)の」

 

 時は少し遡り、三月が『入院』から無事に帰って来たと()()()瞬間に彼女は大泣きする大河の胸に埋もれていた。

 

「あ、お邪魔しています。 ()()と申します」

 

「うわぁ、凄い! 三月ちゃんと()()()じゃない?!」

 

「はい、この度やっとリハビリも終わって()と一緒に退院出来たのですが────」

 

「────あれ? でも三月ちゃん、『記憶喪失』だったわよね? それに『リハビリ』って? それに『姉』って言う事は家族なの?」

 

「「「「「「(来た!)」」」」」」

 

 その場にいた士郎、凛、イリヤ、慎二、桜、ライダー(『間桐の管理人の留学生』として大河に認識されている)が同時に自分達の持っていた疑問を浮かべる。

 

「はい。 実はと言いますと、10年前の大火災で()とは別の病院に入院し、()()()()だったのです。 身元も少し前までは意識不明だったので()()()()()()()()()()()()()()()、体も衰えていたのでリハビリをしていました。 勿論行方不明者としての届けは出していたのですが何分、両親も亡くなり、遺産分割協議書などイザコザがあり、皆引き取られた場所などが別々で────」

 

 そしてスラスラと三月、もとい弥生、から出る嘘に関心、あるいはビックリする士郎達。 問題の大河は延々とした『複雑な家族事情』の説明後────

 

「────あらそうなの?! いや~、良かったわ~三月ちゃんに家族が居て! あれ? でも()()()って事は、どうして三月ちゃんを今までずっと切嗣さんの養子にされていたの?」

 

「実は書類と………()()()()のミスが10年前の際にあり、『死亡した』と報告が各自にされていたようで…………」

 

「まあ、何て奴らなの?! 後で見つけ出して締め上g────ゴッホン! ……………でも良かった~、三月ちゃんにこんな可愛い妹と家族がいるなんて!」

 

「「「「「「(色々とスルーした?!)」」」」」」

 

「プハッ! えっと、それで実は藤姉にお願いがあって…弥生()なんだけど少しの間だけ衛宮邸に泊まらせても良いかな? ちゃんと家事とかもお金的にも手伝うしさ?」

 

 三月は大河の胸から自身を開放して、戸籍上の『保護者』である彼女に問いかける。

 

「良いよ良いよ~! 部屋はまだまだよ…………ゆう………………………が?」

 

 最初の元気な勢いが徐々にブレーキがかかったように遅くなる。

 恐らくは『弥生()』の『()』部分に反応、または頭が追いついたのだろう。

 

「え、え~~~~っと? 三月ちゃん? 貴方の家族は弥生ちゃんの他にもいるの?」

 

「あ、ハイ」

 

「…………な、な、な、な、何人いるのかな~~~~~~???」

 

「ええと、合計6人────」

 

「────え────」

 

「────の7()()()()────」

 

────え゛────

 

「────あと実はと言うと今隣の部屋に居ます」

 

 タイミングを計らったかのように襖があいて────

 

「「「「「「────お邪魔していま~す!!!」」」」」」

 

「────」

 

 大河は声の方を向き、目の前で頭を下げる()()()()()()()勢揃いの前にただ固まる。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 そして固まったままずっと無言になる大河。

 

 これにマイが口を開けるまでずっと続いていた沈黙を破る。

 

「あ、あの~~~~~? ()()のマイと言います~~~」

 

 そしてそのまま自己紹介を続ける()()()

 

「オウ! 次女のカリンだ! よろしくな!」

「三女のクルミです」

「六女のツキミや! お初に!」

「七女のリカです。 ちなみにボクと三月と弥生とクルミと後ついでにツキミで周胎(しゅうたい)です」

 

「オイ何や?! 『後ついでに』って?!」

 

「………………………………………………………………………」

 

 未だに固まった大河にクルミとリカが近寄って、目の瞳孔と脈を測る。

 

「目の瞳孔に反応無し」

 

「フムフム、脈も止まっていますね」

 

「ちょ?! それアカンヤツやないかぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!」

 

 ツキミのツッコミで一気に衛宮邸では人命救助行動に移────

 

「えい♪」

 

 ドンッッッッ!

 

「ごはぁ?!」

 

 ────る前にマイがテクテクと大河の背後に回り、肩を両方押さえつけて、背中から心臓に重い膝打ちをお見舞いして、大河を蘇生する。

 

「ゲッホ、ゲホゲホ! ウェッホ! な、何か凄い夢を見た。 三月ちゃんの御家族が7姉妹で────」

 

「────あ、夢ではありません。 ボク達はちゃんとここに居ます」

 

「へ?」

 

 ポカンと大河が目の前のリカとクルミを見る。

 

「あ、ども。 リカです」

 

「クルミ」

 

「………………………………………………キュゥゥ~~~~~~~~~~」

 

 大河は目を回しながら倒れる。

 

「藤姉が死んだ?!」

 

「「「「「この人でなし!」」」」」

 

「コントは後にせぇ!!! ただ意識失っとるだけや!」

 

 その後目を覚ました大河は隣で看病した士郎の腕を掴んでの第一の声が────

 

「────士郎はいつの間に天然ジゴロになっちゃったの~~~?!」

 

「んな?! 何言ってるんだよ藤姉?!」

 

「切嗣さんごめんなさい、私も士郎も貴方の場所にすぐ逝くから待ってて────」

 

「────正気に戻ってくれ藤姉! 目が怖いッッッ!!!」

 

 と言う風に最初は混乱する大河だったが、前以って話を合わせた皆の説得(&札束の入った分厚い封筒)によって、三月の()()全員が『取り敢えずは移住先が決まるまで』と言う形で収まった。

 

 そして藤村組(正確には組長である藤村雷画)の協力で戸籍を用意し、正式に冬木市の住人に全員がなった。

 そして穂群原学園の新人の担任先生として就職したマイ、三月と同じく穂群原学園の留学生としてクルミ、カリン、弥生、ツキミ、リカであった。

 

 尚()()のカリンはランサーと共に()()と働いた。

 

 主に荒事関連だが。

 

 そして何故か『獣の悪魔達』と冬木の裏社会に恐れる事となったコンビ二人は意外と馬が合い、ランサーは一緒の時絶えず笑顔だったとか、凛を二人が一緒にからかうのが趣味だとか。

 

 マイと言えば先生としては新人だったにしても、与えられた仕事は完ぺきで、困っている他の教師や生徒たちの悩みを聞く事などが上手で、『カウンセラー』としても、オールラウンダーとして役立っていた。

 

 クルミは人混みの中があまり好きではなく、良く葛木先生に呼び出されては用事を頼まれていた。そして三月か弥生が用事を受けた場合は生徒会室に避難昼ご飯を食べに来ていた。

 

 三月の退()()に喜んだ一成だが、他の女性達の登場で気を張っていた。

 特にイリヤに対しては凛以上の不機嫌さを露にした一成に、士郎はクルミに頼んで彼に弁当箱を届けさせた(以前の三月の弁当が大評価だったので)。

 

 そしてその日からクルミは毎日(肉のおかずが山盛りの)弁当箱を届けて静かに弁当を生徒会室で一成と食べる事となる。

 会話は一方的に一成から振られていたが、クルミは丁重に返事をしていたので()()会話として成り立ってはいた。

 これを見た野次馬が彼らをからかおうにも一成にはあしらわれ、クルミは「それが?」と言う態度をとっていた。

 まあぶっちゃげ、クルミには本当に『それだけ』だったのだが。

 

 リカとツキミは人混みの中は大丈夫で、日々(知的な)ボケと(ノリの)ツッコミコント(時にはリカの変わりにクルミとツキミの『天然&ツッコミ』コント)を見に(または巻き込まれに)彼女達が居る場所に大勢の人が集まった。

 後はリカが三月以上に博識で、ツキミは人当たりが男女両方に良いのですぐに人気者にはなったので、クルミとリカの二人は交代制の様に生徒会室に避難退避していた。

 

 三月と弥生は士郎、イリヤ、凛、慎二、桜、ライダー達と共に屋上で昼を過ごしていた。

 

「「バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク!」」

 

 そして相変わらずの爆食欲で二段弁当箱&菓子パンを完食していた。

 

「凄い………食べぶりですね。 桜みたいd────」

 

「────イヤァァァ!!! ライダー、言わないでぇぇぇぇ!!!」

 

 苦笑いをする士郎と慎二は桜が大食いで、毎日『体重計』と言う強敵と格闘しているのを知っていた。

 

 対して凛は夜のランサーと新たに加わったクルミの起こす問題などを愚痴り、イリヤが三月と弥生の二人と一緒に話をして『普通の女子会』っぽいのを満喫していた。

 これには勿論、他の皆を(または誰かを)巻き込みながらだが。

 

 ここでイリヤ達が三月&弥生に色々質問していく内に()()()()()()()という事が発覚してライダーは二人の呼称を『姉さん』から『上姉様』と『下姉様』に変えた。

 

 これを聞いた三月と弥生は「「良いよ♫」」と即答したのに、何時もはぶっきらぼうなライダーが満面の笑顔になったのはその場にいた士郎、凛、慎二、イリヤと桜がビックリしながら微笑ましく和んだ。

 

 そして時は過ぎて行き────

 

 

 

 

 

 

 

 ────とある質問に事は動き出した。

 

「三月と弥生って彼氏とかいるの?」

 

「「へ?」」




作者:はい、という訳で一気に増えました

チエ:『プラナリアみたいだ』と一番目は良く言ったものだ

作者:…………………えー、ここからはラブコメゾーンです。 流石にシリアスをずっとすると参ってしまマス。 後、『時々』作者の趣味や勢いなどのありますのでご了承を。 (汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗&目逸らし

マイケル:おいお前! 何考えている?!

作者:R-17タグを発動するかどうか本気で悩んでいます

ラケール:ファ?!

作者:もしかするとR-18指定になるかも

作者以外:何ぃぃぃぃぃぃ?!

作者:迷う……………


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第56話 シシュンキ? 美味しいの、ソレ?

またも少し早めの投稿です!

あと今回だけ(?)文章スタイルが若干変わっています。

現在の(3/1/21)アンケート結果に驚きです。
まだ票を入れていない場合はご協力お願いします!


 それはある日、激突に三月(&弥生)のクラスメイトからの問いだった。

 

「三月と弥生って彼氏とかいるの?」

 

「「へ?」」

 

 二人が呆気に取られる顔をするとクラスが一瞬だけ静かになってからドヨドヨし始める。

 無理もない、『三月』()()である時からそう言う色恋沙汰の噂は一切なかった。

 

 確かに士郎に「義妹紹介してくれ!」はあったが、これに対して彼は「逃げ」の一手を貫いていた。

 さすがアーチャーに成れたかもしれない男(?)と言った、単独行動ぶりである。

 

 とは言え、10年間もの間にアプローチの一つも無かったと言えば無かったのは以前、『三月見守り隊』(古名称“MMT”)がそれらを中学辺りから阻止していた。

 余談だが「月の女神/天使」の二つ名の発端は彼らだったりする。

 

 だが『MMT』はとある出来事によってその勢力を大きく低下する事となる。

 

 それは数か月前に到来した三月の()()()の出現だった。

 

「ハ~イ! 皆静かに~! 今日はかなり大きな発表があるからね~!!!」

 

 そこで大河、及び宗一郎が()()()を次々に紹介した。

 

「新人教師の~、マイ・()()()()()で~す。 姉妹共々、よろしくお願いしますね~?」

 

「「「『月の女神』の生還じゃ~~~~~!!!」」」と騒いだその時のMMT隊員達は新しく『マイさんマジ女神』の『MMM』を結成。

 

「クルミ・()()()()()です。よろしくお願いします」

 

「「「Coooooooool!!!」」」と騒いだその時のMMT隊員達は新しく『Coolな天使最高』の『CTS』を結成。

 

「弥生・()()()()()で~す!!! 姉の三月共々よろしくお願いしま~す!!♪」

 

「「「『第二の天使』、FOOOOOOOO!!!」」」と騒いだその時のMMT隊員達は新しく『弥生ちゃん見守り隊』の『YMM』を結成。

 

「ツキミ・()()()()()や! 姉貴達共々よろしゅうな~?♪ 後変なちょっかい姉妹に出したらしばくで?」

 

「「「『活発な戦乙女(ワルキューレ)』キタァァァァ!!!」」」と騒いだその時のMMT隊員達は新しく『ツキミに構って貰い隊』の『TKM』を結成。

 

 最後にリカの場合は────

 

「────リカ・()()()()()です! よろしくお願いします。」

 

 ────挨拶がクルミとかなりかぶっていて、見た目もパッとしなかったので最初の頃こそはリアクションは薄かった。が────

 

「────へぶ」

 

 トテトテと自分の席に行こうとしたリカが()()()()所でこけて頭を打つ。

 

「はて、おかしいですね??? 上靴のサイズが合わないのでしょうか────?」

 

「「「────『天然ドジっ子』キタァァァァ!!!」」」と騒いだその時のMMT隊員達は新しく『天然ドジっ子を守り隊』の『TDM』を結成。

 

 この様にかつて一つだったMMTが六つに分裂した事でその勢力を大きく低下して、お互いの部員の足を引っ張る事となった。

 

 ちなみに次女のカリンはカリンで、裏社会での『獣の悪魔』の片割れとして、または『カリンの姉御』(それかただの『姉御』)として知れ渡っていた。

 尚、彼女の事を知った(または助けられた)穂群原の学生達や町の住民達で密かに『冬木の獅子(ライオン)、サポートし隊』の「FLS」を結成。

 

 という事で7人姉妹全員に晴れてファン(?)クラブが出来上がり、以前は未然に防いでいた事柄も薄くなった(本人無意識の)ガードを抜けて行った。

 

 そしてその一つが上記の「三月と弥生って彼氏とかいるの?」だった。

 

「マジか?!────」

 

「────どストレートに聞きやがった────?!」

 

「────流石女子────!」

 

「────ちくせう、以前の『MMT』であればこんな事には────!」

 

「────他の『YMM』隊員は何をしていた────?!」

 

 等と言ったヒソヒソ声が鼓動する中、三月と弥生はキョトンとしていた。

 ちなみに何故この二人がクラスにいたのかと言うと()()()()と言う設定をした『弥生』の為に「普通の学園の空気を味わせたい、姉の気遣い」という体からだった。

 

「「う~~~~~~~~~~~~~ん…………………………………『彼氏』か~~~~~~~~~~」」

 

 三月と弥生が同じ動作、同じ仕草、同じ具合に腕を組みながら深く考えこんだ。

 そして出た答えは────

 

「「────う~~~~~~~ん????????」」

 

 ────頭をただ傾げる二人だった。

 

 勿論この出来事が広まらない訳が無く、他の場にいた彼女達にも同じような問いがかけられていた。

 

「マイ先生、今夜み見回りに行きませんか?! 私は確かに()()を見たんです!」

 

「はい~、高田さんは確かにそう仰いましたね~」

 

「しかも()()()()()()ですよ?! 文字通り萌えませんか?!」

 

「そうですね~、確かに()()()()()~」

 

 新人教師として数か月前からの()()()()を未だに引きずる『オカルト研究部』の生徒達の誘いがまたもマイの周りにいた。

 

 数か月前に学園の警備員は「幽霊が出たァァァ!!」と騒いで先生イたちも夜の学園の見回りに回る事になって、これを聞いたオカルト研究部員達も同行をお願いしてマイ先生が許可していた。

 

 まさか目の前のマイ先生が(ある意味)その幽霊とは学園の誰もが夢にも思っていないだろう。

 

「そう言えばマイ先生は誰かと付き合った事はあるんですか? 今ちょっと気になる相手が居て、先生ならいいアドバイスを出すと思うんですけど」

 

「……………………そう言えば()()()()()()()()()わね~」

 

「「「え?」」」

 

 そして物静かな生徒会室では────

 

「────ク、クルミ殿はその………生徒会にほぼ毎日来ているようだが、人付き合いは悪いのか?」

 

「急にどうしたんですか、柳洞さん?」

 

「い、いや。 クルミ殿の姉妹達の噂は俺の耳にも入って来るが、クルミ殿は何も無いもので生徒会長としてだな気になったというか────」

 

「────??????」

 

 急に赤くなって早口になる一成をクルミを読んでいた本から目を上げて、ただジッと見る。

 

 

 そしてその日のコントステージの食堂では────

 

「────ツキミとリカは彼氏とか作らないのか?」

 

「え”? な、な、何急に聞いとんねん?!」

 

「『彼氏』ですか………成程、『番候補』探しですか。 ()()()()()()()のは考えていなかったですね、盲点です」

 

「そりゃあ二人とも人気があるから選びたい放題じゃね?」

 

「と、というかお持ち帰りsh────」

 

 

 そして最後にカリンは────

 

 「────ブァックショイッッッッ?!」

 

「キャウン?!」

 

 ────盛大にクシャミをして、子犬をびっくりさせていた。

 

「オイ大丈夫かよカリン? お前、さっきからずっとクシャミばっかじゃねえか。 お前でも風邪引くのか?」

 

「うっせぇ、バーロ! 多分誰かがオレか()()()の噂をしてんじゃねーか、これは?」

 

「はは! 『()()()()()()()』ってな、難儀だねー」

 

「クゥ~~~~~~ン」

 

「しょんぼりするこたぁねぇよ『クフちゃん』! オレは気にしていないからな!」

 

「マジでその名前変えてくんねぇか?! 俺物凄く気にするんだけど?!」

 

「凛の嬢ちゃんと次郎に先に話を通せたらな?」

 

 と言う、他愛ない話をしながら冬木市の中を子犬の『クフちゃん』と歩いていた。

 

 

 

 その夜、彼女達に色恋沙汰に関する噂を聞きつけた各御三家(今では新参の衛宮家、「新」間桐家、最古参遠坂家を示す名称)がその夜、各々が()()()()()話を訊いていた。

 

「マイ母さんやクルミは誰か気になる人とかいないのか?」

 

「はい~?」

 

「???」

 

「「?!」」

 

「新」間桐邸の食卓ではド直球に慎二がマイに訊いていた事にその場に居た桜とライダーがピクリと反応した。

 

 余談だが慎二は以前の三月には好意を抱いてはいた。

 

 だがその好意が「異性」としてではなく「()」に向けるモノだった。

 

 慎二の母は彼が幼い頃に臓硯によって蟲蔵の餌食とされ、彼は『母親』と言う存在とは無縁の人生を歩んでいた。

 だがそれも三月に会ってからは変わり、彼女に「母」を求める様になっていた事に『マイペース』のマイが間桐家の『保護者』としていた。

 

 これには桜もかつての『遠坂桜』の母、『遠坂葵』を連想していた事もあり、慎二と一緒に「マイ母さん」と呼んでいた。

 

「誰か気になるって~、ん~…………鴨根さんは最近寝不足みたいだから今度栄養ドリンクでも作って────」

 

「────そうじゃなくて『恋愛対象』として」

 

「……………………え~~~っと、これはちょっと困っちゃうわね~。 ね~、クルミ?」

 

「そうですね。 今でこそ()()はどちらかと言うと『人間(ヒト)』よりとしての近い存在として居ますが、そもそもそのように『伴侶』や『番』などを意識したのは皆無に等しいですから」

 

「へ~~~、それはそれで興味深いな」

 

 「兄さん、もしかして堂々と浮気ですか?♡」

 

 真っ黒な空気に包まれた桜が「()()()()」と笑いながら慎二の肩を掴む。

 

「ち、違う! 断じて違うぞ桜! ただ僕のクラス色々噂が届いてきただけだ!」

 

「その不届き者達は誰ですか? 姉さん達は誰にも渡しません

 

()()()()さん、短剣を出すのは食後にしてくださいね~?」

 

「ムゥ~~~………………………………………マイ姉さんがそう仰るのであれば」

 

 桜と同じ体格のライダー(アネット)が若干不満なプックリ饅頭顔になり(渋々と)短剣と黒い空気を戻した。

 

 少し遅いが、『外』や他人の前でライダーは『アネット』だった。

 

 彼女の(または由来の)神話の一つで出て来る名前の『Anat(アナッツ)』を現代風に桜(本当は慎二)が命名。

 

 その夜の間桐邸では結局マイとクルミの恋愛事情の聞き込みに進展はなく、グダグダに終わった。

 

 

 

 遠坂邸では同じく噂を聞いた凛が回りくどくなる訊き方をする前に三月からの教訓で()()()()()に訪ねてみる事にした。*1

 

「ねえみt────弥生とカリンは気になる相手とか居るのかしら?」

 

「『気になる相手』?」

 

「アン? そりゃあ『四国の竜』や『九州の虎』────」

 

「────あー、喧嘩相手じゃなくてだな?」

 

「『喧嘩相手』じゃない? じゃあ何なんだよ?」

 

「どうしたの、遠坂さん?」

 

「いや~、だからもし『私が異性と付き合いを始めるなら~』と思ってね? 別に桜は関係ないからね?! そこだけは分かってよね?!

 

「「「(あ、気にはしているんだ/だな)」」」

 

 凛の半ギレ気味の早口抗議(?)で反射的に思ったランサー、アーチャー、弥生だった。

 

「あああ? 『異性とのお付き合い』ってどこのお嬢様だよ? あ、遠坂家って貴族だったんだっけ?」

 

「パクパクパクパクパクパクパク────急ですね遠坂さん? モグモグモグモグモグ」

 

 弥生が食べている合間に訊き返す。

 

「い、いえ遠坂家で生活をしているのだから、『世間体も気になる』って言うか────」

 

「「そんなのアーチャーに決まってんじゃん」」

 

「ブホッ?!」

 

 アーチャーが食べていた物を吹き出しそうになり────

 

「「んな?!」」

 

 凛とランサーがサラリと言った弥生とカリンに対してポカンと口を開け。

 

「クゥン?」

 

 突然静かになった食卓に頭を傾げるクフちゃんだった。

 

「後はー、ランサーにライダーに士郎に────」

 

「────そうそう、それに藤村組の────」

 

 弥生とカリンが冬木に居る様々な人達の名を次々に並べ始めると、だんだんと肩と共に気を落とす凛だった。

 そして弥生は何処かホッとしているアーチャーを見て胸がチクリとした事に内心?マークを上げていた。

 

 

 

 衛宮邸ではキッチンで立って皿洗いを三月と士郎がしている間、テレビを見ながら大河の相手をしているツキミがいた。

 

 リカはと言うとイリヤに別の部屋に連れていかれ、話中だった。

 そこで三月はちらりとテレビ&ツキミに夢中の大河を見てから小声で士郎に話し始める。

 

「………………ごめんね、義兄さん」

 

「ん? 何の事だ?」

 

「その、セイバーの事」

 

「……………」

 

 実はと言うと、今まで士郎達は思っていた。

「キャスターや葛城宗一郎、アサシンの上に亡くなった筈の自衛隊(あと新都の人達)はどうやって蘇生したんだろう?」と。

 

 最初は『聖杯の奇跡』と『思い込まされていた』のを士郎とアーチャーが『消されていなかった苗と文通』によって、三月が何らかの方法で行ったと思っていたが、彼女のプラナリアの如く分離と言うハプニングによって聞きそびれた事と、彼女が説明をしない事に何かを感じたのか、聞くタイミングを逃していた。

 

「えっと………セイバーの霊基復元は出来るんだけど、彼女の精神と魂がね? その…………滅茶苦茶で………復元したとしても正気であるかどうか分からなくって────」

 

 ポンッ。

 

「────へ?」

 

 ナデナデナデナデナデ。

 

 士郎が笑みを浮かべながら三月の頭を撫でていた。

 

「気にするな三月、俺はお前が返って来た事だけでも嬉しいさ」

 

「あ………………う…………………???????????」

 

「ん? どうした三月?」

 

 急に固まった三月を士郎が見る。

 普通なら、何かを言う三月だが────

 

 「(────ちょ、ちょっと待って! お、おかしい! おかしいぞ?! 何時もの義兄さんなのに、何でこんなに緊張しちゃうの~~~~?!)」

 

「顔が赤いな。 熱か?」

 

 ピトッ。

 

「(ちょっとまってええぇええぇぇえ?!?!?!)」

 

 士郎が片手を三月の額と自分の額の間に挟んで体温を比べる。

 

「うわ、熱い」

 

「(何でなんでナンデェぇェぇェぇ?!?!?!)」

 

 説明しよう!(〇川透さんボイス。)

 

 今の三月の耳朶はただ「ドドドドドドドドド!」とうるさく、士郎の声は聞こえていなかったのだ!(大〇透さんボイス終わり。)

 

「三月、もう皿洗いは良いから早く風呂に入って薬飲んで寝ておけ」

 

「………………」

 

 三月はフラフラ~っとおぼつかない足取りでキッチンを後にするのを士郎が見届けると今からニマニマした顔の大河が見ていた。

 ツキミはちゃぶ台で頭を伏せながらボ~ッとテレビの方を向いたままだった。

 

「な、何だよ藤姉? その如何にも邪悪な微笑みは?」

 

「フフ~ン。なんだかんだあっても、士郎もやっぱり男の子なんだな~って」

 

「ハァ? そんなの当り前だろ? と言うかなんだ急に?」

 

「…………三月ちゃんってさ~? 士郎以上に鋭いのか鈍感なのか分からない時ってあるのよね~」

 

「だから何の────」

 

「────教師としてはどうかと思うけど、お姉ちゃんとしては二人には幸せになって欲しいのよね~?」

 

「??????」

 

 士郎は困惑するだけで大河は呆れたように溜息を出す。

 

「ハァ~…………桜ちゃんの事もあるから~…………考えたくないけど、案外切嗣さんも何か考えがあったりして~? イリヤちゃんの事もあるし? ちなみに彼女が来てから三月ちゃんの服って可愛くなっていない? こう、前は子供っぽさが残っていたけれど、イリヤちゃんが来てからは大人っぽい服装に変えているし~?」

 

「確かにそうだ」と士郎は内心思っていた。

 

 三月()が衛宮邸に来てからと言うもの、三月の服装はだんだんと子供っぽい物から()()()()()()へと変わっていった。

 

 実はと言うと今まで三月が着ていた服は切嗣が成長したイリヤを意識して買っていたもので、最近では吹っ切れたかのようにファッションの良い物へと変えていた。

 

 というのも今までは切嗣が「着て欲しい」という()()()()()()()()()()なのだが、聖杯戦争後はその気持ちも薄れて行った。

 

「…………士郎は切嗣さんから何も聞いていない?」

 

「何の事だ?」

 

 士郎が一段落して座り、自分の分のお茶を淹れる。

 

「こう、『士郎には許嫁がいる』とか」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………うわっちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ?!?!?!」

 

「うお?! な、何や何や何や?! じ、地震か?! うぎゃあああ?! お茶が髪の毛に~~~~?!」

 

 士郎が淹れ過ぎたお茶が零れ、彼が焦ってちゃぶ台をガタガタと動かし、寝起きのツキミが寝ぼけながら周りを「バババッ!」っと見渡した弾みで彼女の髪の毛が零れたお茶で濡れる。

 

 その間お風呂の中で三月はずーっとブクブクと泡を出しながらさっきの事を考えていた。

 

「ブクブクブクブクブク…………(さっきのは何? 何このドキドキは? 何何何何何何何何何何何?)」

 

 数か月前から三月は色々と戸惑っていた。

【  】の声が前ほど聞こえなくなり(自動処理機能が上がった為)、更には胸の中から来る『ドキドキ』、『ザワザワ』、『チクチク』と言った()()()()()()()が以前よりハッキリとしていた。

 

 今までもこのように感じる事はあったが、三月は別側面の多重人格から来ていた考えなどからだと思っていた。

 

 だが今になって、それらが()()()()と薄々と肌で感じていた。

 が、初めての事なのでどう処理すれば良いのか分からなかった。

 

「(……………………………………………………あ、そうだ──── 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()())」

 

 

 

 

 

 ___________

 

 三月()() 視点

 ___________

 

 三月:という訳で、『第一回脳内議論』を始めたいと思いまーす!

 

 マイ:わぁ~、パチパチパチパチィ~

 

 カリン:な、何だ何だ何だぁ?!

 

 リカ:これはまた凄い

 

 クルミ:うんうん

 

 ツキミ:と言うかこないな風に力使うなんて聞いてへんわ

 

 弥生:でも丁度良かった、私も皆に訊くところだったのよ

 

 皆は()()()()()()空間に居た。

 色とりどりのお花畑と優しい陽光とそよ風が吹く中にちゃぶ台の周りを座っていた()()()

 

 三月:私今日、義兄さんに熱測られた時に滅茶苦茶ドキドキした

 

 弥生:今日は凛に『気になる人はいる?』って聞かれて皆お名前を出し始めたら、アーチャーさんがホッとしたのを見たら『チクリ』って胸が痛かった

 

 マイ:私は~、『付き合った事があるかどうか』って他の先生と生徒達に聞かれたわ~

 

 クルミ:ボクは柳洞さんに人付き合いの具合を聞かれた

 

 ツキミ:お前らもか? ボクとリカも同じようなこと聞かれたで?

 

 カリン:成程、テメェ等の所為で俺は今日中ずっとクシャミしていた訳か

 

 リカ:フ~~~ム、これはイリヤ氏の提案に乗っても良いかもしれませんね

 

 他の皆がリカを見て?マークを出す。

 

 リカ:いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして次の休日────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮邸では────

 

「────お兄ちゃん! ちょっと()()()()で出かけない?」

「へ?」

 

 

 遠坂邸では────

 

「────アーチャー! 少し()()()()だけで出かけないかしら?」

「凛?」

 

 イリヤが士郎を、凛がアーチャーを当世で言う、所謂()()()()()()()

 

*1
第11話より




マイケル:成程、このコントはそういう事か

作者:厳密には亜種です

ラケール:え? じゃあ何? 私達は存在しないって訳?

作者:さあ? どうでしょう?

三月(バカンス体):お気に入りや評価、感想等あると更に嬉しいです! よろしくお願いします!

雁夜(バカンス体):ちょっと待て! それって俺の事もか?! 俺も存在しないのか?

作者:さあ? どうでしょう? (。´・ω・)


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第57話 シアワセ? ナニソレ?

イメソンはFate stay/night Realta Nuaの「消えない思い」とUBWの「新たな夜明け」でした。

お楽しみ頂けると幸いです。


 ___________

 

 三月、衛宮士郎、イリヤ、ツキミ、リカ 視点

 ___________

 

 それはある休日、激突の誘いだった。

 

「お兄ちゃん! ちょっと()()()()で出かけない?」

 

「へ?」

 

 テレビを見ていた士郎にイリヤが声をかけ、テレビを見ていたツキミが二人を見る。

 

「お出かけか、買い物か何かなん?」

 

「ううん、()()()

 

「え」

 

「ほらほら! シロウもボーっとしないで支度をして!」

 

「お~、ほな行ってらっしゃいお二人はん」

 

「ありがとう!♡」

 

「あ、ちょっと待てイリヤ────」

 

 士郎が呆気に取られながらもイリヤに腕を引っ張られて、無理矢理立たされて居間から連れていかれ、ツキミは二人に手を振っていた。

 

「……………………………………………………………………」

 

 そしてこの事に何故かポカンとして手が止まった三月がキッチンに居た。

 

「どうしたんですか、()()? 手が止まっていますよ?」

 

 リカが三月の顔を覗き込んで、三月はハッとしたようにビクリとする。

 

「あ。え、ああ! ごめんごめん!」

 

 三月は直ぐに下ごしらえを再度し始め、顔が「スン」と無表情になる。

 

「………………………………気になりますか?」

 

「フヒャホヘハ?! な、な、な、な、な、何の事かな~?」

 

 未だに覗き込むリカの言葉に明らかに動揺する三月。

 

「いえ、先程から手の動きがぎこちなく、醤油の変わりにソースを入れていたので────」

 

「────ぎゃああああああ! それを先に言ってよ~~~~?!」

 

 三月はソ-スを入れるのをやめて、溜息を出す。

 

「…………」

 

「大丈夫ですか? さっきから様子がおかしいですよ?」

 

「…………う、うん。 実はと言うと胸がザワザワしていてね? ちょっと戸惑っていると言うか────」

 

「────それはどういう風な感じですか?」

 

「え? ど、どうって…………こう………何と言うか……………うん、やっぱり『気になる』かな?」

 

 リカが小さなメモパッドに書き込んでから三月を見る。

 

「今日の献立はツキミに任せて、二人の様子を見ませんか?」

 

「え?」

 

 ___________

 

 弥生、凛、カリン、アーチャー、ランサー 視点

 ___________

 

「アーチャー! 少し二人だけで出かけないかしら?」

 

「凛?」

 

 アーチャーがキッチンで献立の確認をしているときに凛が彼に声をかけ、これを()()通りかかったカリンと弥生が廊下から聞く。

 

「一体急にどうしたんだ? 君から声がある時はほとんどの場合、機械類の質問か────」

 

「────少しはね、労おうと思って。 気分転換にもなるしね!♪」

 

「(え? ちょ、何このドキドキ?)」

 

 廊下では何故かドキドキし始めた弥生は?マークを出していた。

 

「それじゃあ行くわよ、あーc────ああ、じゃなくて『次郎』!」

 

「やれやれ、君は突拍子もない事を時にやりかすから苦労が絶えないな」

 

 チク。

 

「???????」

 

 アーチャーが笑みを浮かべて凛を見ている事を物陰から見ていた弥生は急に傷んだ胸に困惑していた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「凛、この格好は必要かね?」

 

「何よ次郎? 私のコーデに文句でもあるの?」

 

「アリだ、戯け! 何故よりにもよって()()()()()()()()()()()()?!」

 

「あら? たまたまよ? それにあの『凡骨が着るような服』じゃなくて『大学青年』っぽいものを選んだんだけれど? それに、貴方の普段の姿はとてもじゃないけど現代では変よ?」

 

「ぬ……………グッ…………」

 

 遠坂邸の玄関から道に出る凛の後ろには何時もの赤い外套と黒いインナー姿から現代風のジャケットにインナースエットシャツ、ジーンズと言った衣装に(伊達ではあるが)眼鏡をかけていた。

 髪型も最初は「せっかくだから下ろしましょう?」の凛に「だ、駄目だ!これだけは譲らん!」というアーチャーの抗議に代わりに眼鏡を着用。

 

「おう!楽しんで来いよ、二人とも!」

 

「お土産楽しみにしているからな~」

 

「ワン!」

 

「い、いってら………しゃい」

 

 元気よくお見送りをするカリンとランサーにクフちゃん。

 そして浮かない顔を我慢して笑う弥生。

 

 凛とアーチャーが道を歩き、姿が目視出来ない距離まで弥生はジ~~~ッと二人を見ていた。

 

「ん? どした嬢ちゃん?」

 

 一旦中に入って弥生が居ない事に気付いて、未だに玄関外で立っていた彼女を見たランサーが声をかける。

 

「……………………」

 

 「オイ」

 

「わひゃい?!」

 

 ポ~~ッと見る弥生の前にドアップで急に覗き込んだランサーにびっくりして変な声を出す。

 

「どうした? 何か悪いもんでも食ったか?」

 

「え? あ………う、ううん! ただちょっと…………」

 

 弥生が凛とアーチャーの消えた方向を見ると────

 

「────ケ! らしくねえな、お前! 気になるんだったらとっとと変装するなり何なりして追いやがれ!」

 

「え? わわわ────?!」

 

 ランサーがグイッと弥生の手を掴んで、遠坂邸の中に引き込む。

 

 ___________

 

 衛宮士郎、イリヤ、三月、リカ 視点

 ___________

 

「ほらシロウ! レディのエスコートをしっかりとこなしてみなさい!」

 

「こらこら、イリヤもそんなにピョンピョン跳ねると転ぶぞ?」

 

 何時もの紫シャツ&ブーツではない私服姿になったイリヤ(ジーンズ風ジャケット、赤のシャツに白スカートとスニーカー)を先頭に私服の士郎が後から歩く。

 

「♪~~~」

 

「ご…ご機嫌だな、イリヤ?」

 

「だってシロウと二人っきりなんだもん!♡」

 

「そ、そうか」

 

「えへへへ~~♪」

 

 イリヤと士郎が歩く後ろに距離を開けて、横道から覗く()()()()()()の姿があった。

 

『こちら“蛇”。“ブレイン”、聞こえますか?』

 

『こちら“ブレイン”。 はい、感度良好です』

 

『本当にドラム缶で行けるのかしら?』

 

『前回の段ボール箱はあまりにも場違いでしたからね。 後、移動開始してください。 くれぐれも存在を悟らせてはいけません。 今は“隠密行動中なので”』

 

 ドラム缶から細い脚が二つ(底がある筈の部分から)「ニョキ」と生えて出てきて、「トテトテトテ~」とした足取りでイリヤと士郎の後を追う。

 

 ちなみに上記の会話は声に出ていなく、いわゆる()()()()()状態だった。

 

()()』とも言う。

 

『ステルス迷彩があれば文句なしだったんだけど────』

 

『無茶言わないで下さい、本体。 さっき頼まれたECS(電磁迷彩システム)のような他世界の技術をホイホイ導入する訳には行きません、万が一という事があるかもしれないじゃないですか? 自重して下さい。 それにそこは魔法で何とかなる問題でしょう?』

 

リアリスト過ぎ! こういうのは場の雰囲気よ! 雰囲気!』

 

『ハァ、そうですか』

 

 この様子で三月の()()が続き、士郎とイリヤは築いた様子はなかった。

 たまに不思議なものを見るような目でご近所や商店街の人達に見られていたが三月はお構いなしの様子だった。

 

 途中で深山町にある交差点から新都行きバスに乗るイリヤと士郎を見て、とあるドラム缶が急遽近くの物陰に入ってから肩から掛けたポシェットに()()()()()()()()()()()()()()()()&サングラスとベレー帽子を着用した少女が出て来て、バスを待つ列の最後列に並んだ。

 服装はちょっと緩い&野暮ったいオーバーオールにシャツとスニーカーと、どこか()()()()()()()()()()()()

 

『ほう。“再結成”と“再構築”の応用でドラム缶に含まれた腐食金属原子を髪に編み込み、服装も変えたんですね。 流石です』

 

『フフン! 今の私は“オールマイティー”…………とまでは行かないけど、これ位は楽勝よ!』

 

『気を付けるのだぞ、“蛇”』

 

『了解です、“ブレイン”』

 

 

 

 ___________

 

 衛宮士郎、イリヤ、三月、弥生、凛、アーチャー 視点

 ___________

 

 新都は数か月前に聖杯戦争の所為で大打撃を受けた…………………と言うのは、()()が起きた時間帯の事もあり、ほとんどの被害はオフィス街に絞られていた。

 なので(経済的には良くなかったが)新都の活気は依然とほぼ同じだった(連日工事の音などを除けば)。

 

 凛とアーチャーがバスから降りて、弥生も同じくして二人の尾行を続ける。

 

 この一連の動作は士郎とイリヤ、そして三月が深山町の浜辺公園でしたのと同じだった。

 

 何てことは無い。

 親友であるイリヤ()が嬉しい事は自分(三月と弥生)も嬉しい事だと思いながら気になったイリヤと士郎(凛とアーチャーさん)の動向が心配で、観察をするだけ。

 

 ただそれだけだ。

 

 だから────

 

 

 

 

 

 

 

 ────この胸の奥に感じるものは()()()()()

 

 だから観察を続ける。

 

 幸せになって欲しいと思い続ける。

 

 続ける。

 

 続ける、続ける、続ける、続ける、続ける、続ける。

 

 楽しんでいるイリヤ()の姿は嬉しい。

 士郎(アーチャーさん)が幸せそうにしているのも嬉しい事だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉や思いにうそ偽りは何一つ無い。

 

「「(その筈なのに────)」」

 

 ズキッ。

 

 ────「「(むね が いたい)」」

 

 三月(弥生)は時々服装や髪の毛のスタイルや色を変えながら手を繋ぐイリヤと士郎(凛とアーチャーさん)

 一緒にカフェで甘味を味わったり、

 ズキッ。

 

 一緒に雑貨店で物を見たり、

 

 ズキッ。

 一緒に買い食いをしたり、

 

 ズキッ。

 一緒に、

 

 ズキッ。

 一緒に────

 

 ズキッ。

 

「「……………………………………………………………」」

 

 別々の場所(新都と深山町)では変装中の三月(弥生)の顔と表情がだんだんと俯いて行く。

 

 それはまるで、胸の痛みに体が自然と自分を守るかのような────

 

「「(────違う、これは()()()()()()()。 だって、『私』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 だから────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()())」」

 

 そう三月(弥生)は自分に言い聞かせた。

 

 そして────

 

 

 

「────今日は楽しめたかしら、シロウ?」

 

 イリヤは夕焼けの中の海浜公園で士郎に振り向かいながら問いかける。

 

「ああ、いい息抜きになったよイリヤ。 ありがとう」

 

「ん~、エスコートとしてはダメダメだけどシロウだから許しちゃう!」

 

 士郎が苦笑いを浮かべ、少し離れた場所では三月は彼女に似合わない暗~~~~~い表情になっていた。

 

「あ、シロウ。 髪の毛に何か付いているわ。 少ししゃがんで」

 

「こう────?」

 

「ッ」

 

 

 

 ほぼ同時刻の新都にある、とある時空体でアロハシャツを着たどこぞの槍兵が釣り場として活用していた埠頭にて凛とアーチャーは向かい合って、こちらでも弥生は暗~~~~~い表情だった。

 

「どうだったかな、凛?」

 

「そうね~、70点と言った所かしら?」

 

「厳しいな」

 

「当たり前じゃない。 ここでいきなり100点満点なんて出してみなさい? この後つまんなくなっちゃうわ。それにしてもアーチャーってばやっぱり士郎ね~」

 

「ん? どういう事だ?」

 

「だって貴方近所や商店街の人達に凄い人気なの、知っているかしら?」

 

「して、凛。 今日はどうして急に私を連れだしたのだ? ただ単に労おうという訳ではあるまい?」

 

「うん、そうね。 ちょっと伝えたい事があるからしゃがんでくれるかしら?」

 

「こう────?」

 

「ッ」

 

 同時にイリヤ()がしゃがんだ士郎(アーチャー)の頬に口づけをしたかのように三月(弥生)に見え、浮体の胸の奥には明確に『痛み』が走って────

 

 

 

 

 

 

 

 ────二人は形振り構わず海浜公園(埠頭)から走っていた。

 

 彼女達はただ走って様々な人を横通る。

 後ろから声が聞こえたかも知れないが二人(三月と弥生)には知った事ではない。

 

 いずれ二人は未遠川の堤防の坂に体育座りで川を眺めていた。

 流石に場所は別々だが、やはり三月は弥生で、弥生は三月で行動は似ていた。

 

 これでも冬木市に10年間生きて来たので未遠川にも勿論思い出はあった。

 と言っても士郎や藤姉におじさん(切嗣)と出かけてその帰りに体力の少ない三月(弥生)が背負われて家に戻ったという思い出だが。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

「三月!」

 

「…………………え? 義兄さん?」

 

 三月がビックリして声の方を向くと、士郎が汗を掻きながら彼女の隣へと来ていた。

 

「隣、良いか?」

 

「………………」

 

「よいしょッと」

 

 士郎がドカッと座って、三月の隣で未遠川を眺める。

 

「……………泣いていたのか?」

 

「義兄さん、デリカシー足りない」

 

「う、すまん」

 

 三月が乱暴にゴシゴシと目を袖で拭く。

 

「「…………………………………」」

 

 別に言葉が交わされる訳でも無く、二人はただ川を見ていた。

 

「なあ、三月。 もしかしてだけど、『悲しい』のか?」

 

「………………知らない。 ()()()()()()

 

「じゃあ何を感じているのか聞かせてくれないか?」

 

「義兄さんには関係ないでしょ、イーちゃんをほっぽって何を言っているの? 彼女が待っているんじゃない?」

 

「……………今俺が気になっているのは三月だ。 それに、今日一日中ずっと俺達を見ていたのも三月だったんだろ?」

 

「え? どう…やって────?」

 

「オイオイ、これでも俺はお前を幼少の頃から知っているんだぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………………」

 

「…………今から言う事は独り言でも取ってくれ。 俺、実はと言うと()()()()()()()()()

 

「…………………………………え?」

 

 そこで士郎は以前、凛に語った事と似たようなものを並べ始めた。

 三月の印象が『綺麗な子』が『不可解な行動をする子』。 そして『優秀過ぎるな義妹』で、義兄としては面子が何時潰れてもおかしくない事だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」とも白状していた。

 

 情けない話だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「変な話だよな。 俺は『三月が()()()()()()()()()()』と分かって義兄を自称したくせに()()()んだ」

 

 それは、親友である慎二と似たような行動だった。

 やはり親友同士の理由は伊達ではなく、似ていた。

 

「こう…………三月は何時の間にか色々と出来てしまって、俺じゃあ目指せない高見まで行っているような感じがしてさ…………………って何を言っているんだろうな、俺は」

 

 士郎が頬を掻きながら気まずそうにする。

 

「義兄さんがこのように遠回りに言い方をするのは言いにくい事がある時なのは()()()()()()。 何を言いたいの?」

 

「……………三月、こっちを向いてくれないか?」

 

「…………………ヤダ」

 

「頼む」

 

「ヤ」

 

 士郎が近くまで来るのを感じて、三月は膝の間に頭を埋めるが、士郎は強引に彼女の顔を向かせる。

 

 そこには真剣な顔をした士郎が居た。

 

「俺は三月の事が好きだ」

 

「………」

 

 三月がニコリと笑う。

 

「私も義兄さんの事が好きだよ?」

 

「違う。違うんだ。俺は……………俺は知らされたんだ」

 

「………………お兄ちゃん?」

 

 士郎の顔が赤くなっていたのを三月はここで気が付く。

 てっきり夕焼けの所為かと思ったが、ここまで迫ってくれば嫌でも分かってしまう。

 

「お、お、お、お、お、俺は。 み、み、み、み、み、三月の事が。 す、す、す、す────」

 

 ピトッと三月の人差し指が士郎の口を止め、彼女は切ない顔をしていた。

 

「ダメだよ。 『私』はこの世界の『異物』。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()────」

 

 ────()()()()()()()()()()()()

 

 と士郎に続きが聞こえた。

 

 だが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()

 

「俺は。 衛宮士郎は。 三月の事が好きだ。 一人の異性としてだ────」

 

 ────ああ、この胸の高鳴り。

 

 ────()()()()()()()()()

 

 もう既に泣き始めていた。

 

 ────()()()()()()()()()

 

「────俺と付き合って欲しい」

 

「私一応年上だよ?」

 

「それがどうした」

 

「私………『人間(ヒト)』じゃないよ?」

 

「寧ろ良いと思っている」

 

「……………………………………『私』の、この姿は庇護欲をワザとくすぐる為のモノよ? それは()()()()』を経験した末に()()()()()()()()()()()()()であって────」

 

「────俺は外見なんかどうでも良い。 俺は『三月』と言う個人が好きなんだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ────それが最後の抑制する気持ちを粉々に吹き飛ばし、三月は泣いた。

 

「う……………うううぅぅぅぅぅぅ」

 

「……………………俺はここに居るからさ」

 

 「ウワァァァァァァン!」

 

 士郎が横から泣きじゃくる三月を静かに抱き締める。

 

「「(こんな『私』でも、『幸せ』を求めても良いのでしょうか?)」」

 

 それは()()の少女が同時に考えていた事だった。

 

 

 ___________

 

 弥生 視点

 ___________

 

 

 時は少しだけ遡り、士郎が三月に声をかける時とほぼ同時だった。

 ただし、ここでは────

 

「ここに居ると風邪をひくぞ、弥生君」

 

「…………………アーチャー、さん?」

 

 そこにはアーチャーが彼女の肩にコートを羽織らせていた。

 

「春とは言え、夜はまだ冷える時期だ」

 

「………………」

 

「隣を失礼するぞ」

 

 アーチャーが座って、弥生の隣で未遠川を眺める。

 

「……………涙は君に似合わないな」

 

「そこは士郎だね、配慮はしているけど」

 

「う、すまん。 これでも精一杯なのだが…………」

 

 弥生が乱暴にゴシゴシと目を袖で拭く。

 

「こらこら、ハンカチを使いなさい。 目を痛めたらどうするのだ?」

 

「………………………ムゥ~~~~」

 

 ハンカチを手渡され、弥生はそれで涙を拭きとる。

 

 ここでも言葉が交わされる訳でも無く、二人はただ川を見ていた。

 

「もしかして、弥生君は『悲しい』のか?」

 

「………………()()()()()()()()()()()

 

「君は解かっていないな。 ()()()()()()が『人間(ヒト)』の感性を持つ事に私は……………いや、()()が言いたいのはこんな事では無くてだな……………あー…………()()()()姿()()()()()()()

 

「アーチャーさんは遠坂さんをほっぽって何を言っているの? 彼女こそ泣いて待っているんじゃない?」

 

「……………今日一日中ずっと私達を見ていたのだろう?」

 

「………………それも『英霊』…………ううん、『守護者』としての勘?」

 

「心外だな、これでもオレは君の事が気にはなっていたのだぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉は、士郎が三月を長年見て来た『経験』を、『観察力』(または『洞察力』)で見抜いていた。

 

「……………………………」

 

「…………私は実はと言うと()()()()()()()()()()()

 

「…………………………………え?」

 

 そこでアーチャーは語る。

『三月』という、不可解な存在。

 

アーチャー(エミヤシロウ)』の知らない義妹と環境、そしてかつての知人達の変わり方。

 

 それらはアーチャー(エミヤシロウ)にとっては全くのイレギュラー(未知)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」とも白状していた。

 

「情けない話だがそうすれば()()()()()と思ってな。 だが結果は君の知っての通り、私達の敵どころか君には返しきれない恩を作ってしまった。 変な話だよ。 オレは『自分(衛宮士郎)()す』と覚悟を決めた筈なのに、()()()()()()()()()()。 いや、()()()()()()

 

 衛宮士郎ではないエミヤシロウ。

 だがやはり根は似ていた。

 

「諦めていたオレに、直接ではなくとも君のおかげで無念は晴らせた。 イリヤも………桜も………慎二も………()()でさえも救えたんだ。 だから以前の私は『幸せになる権利はない』と、私には『もう目的が無い』とも思っていた」

 

 アーチャーが頬を掻きながら気まずそうにする。

 この仕草は士郎と似ていた。

 

「…………………()()がこのように遠回りに言い方をするのは言いにくい事がある時なのは()()()()()()。 何が言いたいの、アーチャーさん?」

 

「……………その、何だ? うむ。 ここまで難しいとは想定外だ」

 

「…………………?」

 

 珍しく言いよどむアーチャーに弥生は顔を自ら彼に向ける。

 そこには肌黒な彼の顔は夕焼けの中で、真っ赤になっていた事が分かっていた。

 

「………………よし」

 

 そこには真剣な顔をしたアーチャーが居た。

 

「オレは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………?」

 

 弥生がニコリと笑う。

 

「それは良かった」

 

「あー、その………………違う。えっと………………オレは……………オレは()()()()()()()()()()()

 

「………………アーチャーさん?」

 

 彼の顔が更に真っ赤になっていく。

 

「や、や、や、や、や、や、や、弥生君が。 その、と、と、と、と、と、と、隣に居て────」

 

 ピトッと弥生の人差し指が()()の口を止め、彼女は切ない顔をしていた。

 

「その先はダメなのは知っているでしょ?『守護者』さん? 『私』はこの世界の『異物』。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()────」

 

 ────()()()()()()()()()()()()

 

 それは、三月と士郎のやり取りと酷似していた。

 三月は弥生で、弥生は三月。

 士郎はシロウで、シロウは士郎であるかのように。

 

 

 だが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────()()()()()()()というのだ。 わt────『オレ』は。 君の事が気になるのだ。 これは恐らくだが、一人の異性としての。 男性としてのだ────」

 

 弥生はもう既に泣き始めていた。

 

 ────(アーチャーさん)の相手は『私』より相応しい者達が居る筈。

 

「────迷惑でなければ、オレの隣に居て欲しい」

 

「……………私、アーチャーさんより一応年上だよ?」

 

「お互い歳を気にする者でもないだろう?」

 

「私………『人間(ヒト)』じゃないよ?」

 

「それを言えば、私だって存在自体が亡霊に近い」

 

「……………………………………『私』の、この姿は庇護欲をワザとくすぐる為のモノよ? それは()()()()』を経験した末に()()()()()()()()()()()()()であって────」

 

「────それは私も同じだ、君も夢で見ただろう? 何、お互いに()()()()()()()()()のだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ────それが最後の抑制する気持ちを粉々に吹き飛ばし、弥生は更に泣いた。

 

「ヒグッ……………うううぅぅぅぅぅぅ………」

 

 これには流石のアーチャーもギョッとして慌て始めた。

 

「そ、そんなに嫌かね?! わ、私としては本心を語ったつもりだが────!!!」

 

 「違う! 違うの! 嬉しいの!『こんな私でも幸せになっても良いのか』って思っちゃったから!」

 

「…………………そうか」

 

 泣きじゃくる弥生の背中を静かにアーチャーがさする。

 それが優しくて、

 嬉しくて、

この人(アーチャーさん)を絶対に幸せにする」と決めさせていた。

 でも────

 

「「(────こんな『私』でも、『幸せ』を求めても良いのでしょうか?)」」

 

 それは()()の少女が同時に考えていた事だった。

 




作者:いや~、型月のサントラ最高ですよね~

三月(バカンス体):ね~?

ラケール:うううううう、ええ話やがな~…………グスッ

作者:あかん。 さっきまで泣いていたのにまだ涙が

三月(バカンス体):いや~、照れちゃうな~

雁夜(バカンス体):三月、俺……………

三月(バカンス体):え?ダウナー系カリヤンは原作Fate Zeroでもうお腹いっぱいです

雁夜(バカンス体):え?ちょっとその話詳し────

作者:────アンケートに票を入れてくれている方達に敬意を! いや~、推しの影響を今出しているんですが独者達の皆さまには如何でしょうか? お気に入りや評価、感想等あると嬉しいです!

三月(バカンス体):後、次の物語のアンケートって見事にばらけているわよね~


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第58話 まったりな一日、そして最後は────

久しぶりに小説情報を見るといつの間にかお気に入りが55件居て、文字通り度肝を抜かれました。

この場を一度お借りして感謝申し上げます。

本当に、誠に読んでくれて、ありがとうございます。

これがどれほど嬉しい事か少しでもお伝え出来ればと思い、出来るだけ感謝の気持ちを打ち込みながら思い、文章をここに書き綴りたいと思います………………




あと、R-17(?)タグが猛烈に発動します (汗汗汗汗汗汗汗


 ___________

 

 マイ、慎二、桜、ライダー 視点

 ___________

 

「♪~~~~~~」

 

 その夜の間桐邸では鼻歌をしながら家事をしているマイを桜が見ていた。

 

「ま、マイさん? すごくご機嫌ですね?」

 

「え? ええ、そうなのよ~。『()()()()()()()()()()()~」

 

「「?!」」

 

 これを聞いた桜(&隠れていたライダー)がその後慎二にこの事を伝え、三人はマイさんを尾行して彼女の『相手』を探す事を────

 

「────『彼氏』、か」

 

 ────訂正。

 

 ボソリと独り言を言ったクルミも尾行対象になった。

 尚、ライダーがこの期間いつも以上にマイとクルミ両方にべったりと引っ付いていた。

 文字通りいついかなる時も────

 

「アネット」

 

「何ですか、クルミ姉さん」

 

「何故個室トイレに居るの?」

 

「いえ、お気になさらずに」

 

「いくら何でもこれは気にするわ」

 

 ___________

 

 三月、衛宮士郎、イリヤ、ツキミ、リカ 視点

 ___________

 

 その晩、衛宮邸に帰って来た士郎と三月が居間で迎えたのは────

 

「────らっしゃい! モダン焼きでええか? 餅入っとる奴」

 

「お帰りなさい二人とも!」

 

「あ~、お帰り二人とも! ささ! 早く手洗いして食べましょう! ツキミさん、関西に住んでいただけでお好み焼きが上手なのよー!」

 

「関西ちゃうわ!」

 

「でも方便が────」

 

「────ノリや!」

 

「海苔?」

 

「そうそう、乾燥した慎二────ってちゃうわ!」

 

「イリヤ氏、渾身の出来ですよ」

 

「やった~~~♪」

 

「「…………………………………………………………………え? 何これ?」」

 

 ちゃぶ台の上には鉄板でお好み焼き屋の様な場になっていた。

 

 ちなみにツキミの服装が『店員さん』っぽかった。

 

 一段落して士郎と三月はアイコンタクトで会話をしていた。

 

『目の前に藤姉いるけどどうする?』

『言っちゃう?』

『どうやって?』

『士郎!君に決めた!』

『いやだから何でさ?!』

『『……………………取り敢えずお茶を飲もう』』

 

 士郎と三月がお茶をズズーっと飲んで、ツキミが大福を頬張り、リカはジ~ッと士郎と三月を見ていた。

 

 そこは何時もの衛宮邸の景色で、

 

 何時もとは違う心境を持った者達が居た。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『士郎氏、中に居ますか?』

 

「??? この口調はリカ? ああ、空いているよ」

 

 そこは何時も士郎が魔術の鍛錬に使っていた土蔵で、士郎は『強化』ではなく『投影』を練習していた。

 

 そして土蔵の中に、何時ものパッとしない顔とはねっ毛のリカが土蔵の中に入って、士郎をジッと見ながらメモを取って行く。

 

「ジ~」

 

「?」

 

「フ~ム、これと言った変化はないようですね。 もしや接吻(キス)まで行っていない?」

 

「ッ?!?!?!!?」

 

『投影』したものがビキビキと音を立てて、歪なオブジェとして出来上がった。

 

「お~、『太陽〇塔』ですか。良く知っていましたね」

 

「リ、リカ? さっきのはどういう事だ?」

 

「どういう事も何も、好意を寄せ付けた『番候補』の雌と雄はまず初めに接吻(キス)で互いを興奮状態になってからs────」

 

 「────わああああああ! 待った~~~~!!!

 

 士郎がリカの生々しい説明を遮る。

 

「と言うか、何でリカが知っているんだ?!」

 

「イリヤ氏と共に話して、結果が気になったので」

 

 シレッというリカに士郎は頭を抱える。

 

「……………()()()()はお忘れかも知れませんが、『私』は元々『我欲』以前に『個』ではなく『全』の視点から全てを観ていました」

 

「あ、ああ。 確か『神様』の様なモノなんだっけ?」

 

「はい。 ですから『個』として成り立った今、『幼少期』はともかく、『思春期』や様々な『気持ち』や『欲』などと言ったモノを初めて経験します。 ボクもそうですけど」

 

「そ、そうなのか? 案外皆、ちゃんと『人間』として生きているじゃないか?」

 

忘れたか、衛宮士郎? この()でさえ生きて行けたのだぞ?

 

「ッ?! お、お前は?!」

 

 目の前のリカの目が死んだかのように見えて、口調と顔の笑みが()()()を士郎に連想させていた。

 

少しばかり()()()()()事をしたくてな、私自らが頼んでの事だ

 

()()()()?!」

 

『かつてそう呼ばれていた男の残骸』と言っても過言では無いがね。 先程の話を続けるが、人間のフリさえすれば()()()()()()()のだ。君にも分かる事だろう?

 

「お前、死んだ筈じゃ────?」

 

少しばかり、私と似ていた君とアーチャーの行方が気になってな、みっともなく生にしがみ付いた。 と言っても、『我が主』の頑張りがあった末の賜物だが。 では私はそろそろお暇しよう…………………………う~~~ん、やはりこれは慣れないですね」

 

 体が一瞬ふらついてリカの口調と表情が何時もの「ヌボ~」ッとしたものへと戻る。

 

「という訳で、ボクとイリヤは個人として()()が幸せになって欲しいのです」

 

「………………そうか、そういう事か」

 

 実は昼のイリヤは頬に口付けをしておらず、士郎の耳に小声で囁いたのだ。

 

「後ろにミーちゃんが走っているよ?」と。

 

「そうか、ありがとうな?」

 

「いえいえ、こちらとしてもこの上ない()()()()が出来たので楽しいですし」

 

「え?」

 

 リカがクスクスと、大人っぽい笑みを浮かべながら土蔵に呆気に取られた士郎を置いて行く。

 

 ___________

 

 弥生、アーチャー、凛 視点

 ___________

 

 

 その一方で、遠坂邸では『赤い悪魔』が降臨していた。

 

「アーチャー()()そんな趣味があったとはね~」

 

「何の事だ、凛?」

 

「遠坂さん?」

 

「べっつに~? 衛宮君が『お兄ちゃん』呼びフェチだから推測は出来ていたけど、イザ目の前にするとね~?」

 

「なッ?!」

 

「ブボッ」

 

 アーチャーが驚愕の表情をしながらキッチンからニマニマと笑っている凛の方へと向き、弥生は噴き出して、彼女の顔は飲んでいたジュースまみれになっていた。

 

 余談だがランサーとカリンの両名は藤村組と共に他の市からの組とのイザコザに参戦していて、遠坂邸にはいなかった。

 

「待て! 誤解だ、凛!」

 

「と言うか遠坂さん、つかぬ事をお伺いしますが────」

 

「────貴方の尾行に、アーチャーと私のが気付かない訳ないでしょう?」

 

 魔法/魔術を使わない尾行方法が仇となっていた。

 

「へ? アーチャーさんも?」

 

「う、うむ。 最初は何事かと思ったが、凛が最後の方で君が走って行ったと聞いたのでな……………ま、まあそのおかげで先の事になったのだ」

 

 何と、こっちも凛がイリヤと同じ様な事をしていた。

 

「こっちの身にもなってよね? あんた達二人を見ていると歯痒いのよ」

 

「遠坂さん……………」

 

「そんな顔しないで頂戴。 でないと桜直伝の気付け役(ビンタ)をお見舞いさせるわよ?」

 

「でも…………『本来の物語』では────」

 

 凛が青筋をこめかみに浮かべながらスタスタと弥生の居るところに行ってデコピンをお見舞いする。

 

 ボコン!

 

 その音は大木をハンマーで打ったような音だった。

 

 そのはずみで弥生は椅子から転がり落ちて額を抑える。

 

 「あ痛ぁぁぁぁぁ?!?!?!??!」

 

「リ、凛────」

 

 「ア”?」

 

 何か言いたげなアーチャーに怒り狂うカリン/ランサー並みの睨みで凛はアーチャーを黙らせる。

 

「あのね、弥生ちゃん? 『本来』とか『物語』とかなんて言われても、()()には『今』しかないの。 だから関係無いわ。 そもそも、貴方というイレギュラーな存在が関わっているのだから貴方の言う『本来』からもうその時点でかけ離れているわ」

 

「あらカッコイイ────」

 

「────うぃえ?!」

 

 弥生が思わず惚けながら女性である凛を「かっこいい」と称した事に凛は動揺を隠せなかった。

 

 ___________

 

 新御三家+α 視点

 ___________

 

 と、上記のように新御三家ではほのぼのとした聖杯戦争前の日々を送っていた。

 

「「「「「「「(全く進展が無い)」」」」」」」」

 

 衛宮邸に遠坂邸の者達はある()()()を見ながらそう思っていた。

 

 そう、文字通りのほのぼの~とした毎日があるのは良い事なのだが如何せん、()()()()()()()()()

 

 主に『赤と白と黄色の悪魔達』的に。

 

「「「と言う訳で他の皆さんのご協力お願いします」」」

 

 凛、イリヤ、そしてリカが目の前に居る士郎とアーチャー(そして三月と弥生)を除いた新御三家の方々に頭を下げながら頼んでいた。

 

「そんなにか、士郎と三月の二人?」

 

「そうなんです、接吻もまだ何ですよ。 てっきり慎二と桜のように生殖k────」

 

「「ちょっと待て/待って!!!」」

 

「違うんですか?」

 

「「ウ”」」

 

 真顔でリカに問われた慎二と桜はアタフタとしながら、最後にはただ黙り込んだ。

 昔からズレていた好意が晴れて結ばれた二人は思春期真っ最中の上、相思相愛の若い男女。

 何もない筈が無い。

 と言うかそれを察してマイが気を使ってライダーの注意を引いていた事もあったが、慎二と桜はそんな事には気が回っていなかった。

 

「そうねぇ~、そういう事なら協力しても良いわよ~?」

 

「オレも別に構わねえぜ? こういうのもアリかも知れねえが、見ているこっちが胸焼けするぜ。 生殺しも良いところだ」

 

「フリンちゃんに同意だ」

 

「オイ待てカリンテメェこの野郎。 何だ、そのあだ名は?」

 

「アン? 『クー・フー・リン』から『フー』と『リン』をとってだな────」

 

「────まあ、その事は置いて、他の方はどうなのです?」

 

 未だにガミガミ言い争うランサーとカリンの他の者達も協力願いを聞き入れた。

 

「まあ、たまには良いかしらね?」

 

「若い者たちの手助けか………それもまた一興だろう」

 

「と言うか誰? このへっぽこ侍を呼んだの?」

 

 そこにはキャスターとアサシンの姿もあった。

 

「? ボク等はキャス子はんを呼んだだけやねんけど?」

 

「ちょっと待ちなさい。 その『キャス子』って私の事かしら?」

 

「そやで?」

 

「そんなあだ名、私には似合わな────」

 

「────葛木先生にそう呼ばれるのを想像してみ? 何ならボク達がそう呼ぶように協力す────」

 

 「────ぜひお願いします」

 

 こうして「オペレーション鈍感ズヲ後押しーズ」が近い内に決行される事となる。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次の休日、士郎と三月は別々の用件で同時に出かけていて────

 

「あれ? に────士郎?」

 

「三月?」

 

 ────何故か同じ場所で同じ時間に鉢合わせていた。

 

「「何でここに? いや、イーちゃん/慎二に誘われて」」

 

 そして同じ言い方で自分の理由を告げていた。

 

「…………………………少し待とうか?」

 

「………ああ、そうだな。 凄い偶然……なのかな?」

 

「まあ、新都のヴェルデを待ち合わせ場所に決めるなんてメジャーらしいから」

 

「そうなのか?」

 

「クラスメイト達によればね?」

 

 と、互いを直視しないようにベンチに座りながら士郎はそれを見上げて、三月は前を見ながら足をブラブラさせていた。

 

 余談かも知れないが二人の服装は何時もの私服姿ではなく、士郎は以前のアーチャーが凛と出かけた服装に似ていた(メガネ無しで、髪の毛をオールバックにはしていたが)。

 

 他者から見れば『背伸びしている少年』だが、三月にとってこのような義兄の姿は初めてだった。

 

 その反面三月の私服は以前の短パンタイツ&パーカーではなく、肩出しセーターニットトップスの下に縞々タンクトップに白のスカートと黒のニーソ、そして何時ものポシェットにウェーブのかかった長い髪の毛(そして横に三つ編み+リボン)は何処か子供っぽさの名残を残しつつ、大人の雰囲気を出していた。

 

 やはり似た者同士でであった。

 

 ベンチに座って約15分後────

 

「「────遅いな~」」

 

 ────士郎と三月が同時に口を開けて、互いを見る。

 

「「え?」」

 

「……………士郎は誰に誘われたの? 私はイーちゃんに『新都を一緒に回って見よう!』って」

 

「俺は慎二に呼ばれた。 『新都を一緒に回って見ないか?』って」

 

「「…………………………………………………………………………ハァ~」」

 

 互いに見て数秒後、士郎と三月が溜息を出す。

 

「これはやられたな」

 

「うん、やられたね。 でも、士郎は嫌?」

 

「俺は嫌じゃない。 ただその…………どう切り出そうか迷っていた」

 

「プッ、何それ? 私と同じじゃない」

 

「………ま。せっかくだし、昔みたいに回るか」

 

「うん♪」

 

「そ、そうか。じゃあ、どこ行こうか?」

 

「えっと………………士郎となら、どこでも」

 

 そして二人は嬉し恥ずかしながらも互いに問いかけ、士郎は胸に何かがグッとくるの感じた。

 

 ただやはり顔に出ており、三月は満面に笑みを浮かべ、何時もなら言えないような事もストレートに口に出す事が出来た。

 

 それは遥か前の二人の様に、近くの場所を回る為に無邪気に笑顔を上げながら手を────

 

「────ぇ?」

 

 ────取ろうとした三月の手をスルリと士郎が解いた事に彼女は思わず涙目になりそうだったが────

 

「────こ、これの方が良いと思った………だけだ

 

 ────どうやらそれは三月の早計だったみたいで、士郎の声が小さくなりながら言い訳をして、手を繋ぎ直しただけだった。

 

 三月がやろうとしてた、親が子の手を引く様なモノではなく、お互いの指を絡めるような手の繋ぎ方だった。

 

「(ふわぁ。 士郎の手デカくてゴツイ)」

 

「(三月の手小っちゃくて指が細い)」

 

「…………い、行こうか三月」

 

「うん♪」

 

 気まずそうな士郎の言葉に邪気の無い、眩しい笑顔を三月が浮かべる事に士郎は更に赤くなって行き、二人はゆっくりと歩いた。

 

 一緒に、足幅を合わせながら。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「甘~い♡」

 

「そ、そうだな」

 

 場はカフェテラスに移り、三月の前にはパフェとホットココア、士郎の前にはイチゴケーキとコーヒーがあって三月は幸せそうにハムハムと()()()()食べていた。

 

 何時もながら凄い速さで甘味を完食する彼女がこうもする事が違うだけで印象ががらりと変わるのを痛感した士郎だった。

 

 三月はと言うと出来るだけ長くこの時間を楽しみたかっただなのだが。

 

「はい、あ~ん♡」

 

「え?」

 

 そしてそこに追い打ちをかけるかのように()()「はい、あ~ん」状況をリアルに経験しているた事に戸惑う士郎。

 

「………い、嫌? 私も本でしか知らないから……」

 

 この上目遣いに泣きそうな顔に即決した士郎は「バクン!」と差し出されたスプーンを一口で食べる。

 

「モグモグモグ…………あ、甘いな」

 

「でしょ~?」

 

「む、胸焼けする」

 

「え~? そんなに甘いかな~?」

 

 胸焼けするのは甘味からでは無いのだが、そんな事を言う勇気は士郎にはなく、自分のコーヒーを飲み始めると三月はパフェを()()()()()()で食べるのを再開し、とある事に士郎は気付いた。

 

「(あれ? あれって………え”? え”? え”? も、もしかして今のって────?!)」

 

「??? どうしたの、士郎?」

 

 そして未だに気付かぬ彼女に答えられない士郎だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ねー、士郎! これなんかどうかな?」

 

 そこはショッピングモールのヴェルデの中のブティックで、普段アクセサリーなどをしない三月が色々試しては士郎に意見を聞いて来ていた。

 

「似合うよ、凄く」

 

「♪~~~~」

 

 最初こそ戸惑いまくりの二人だったが、すっかり昔の様に────いや、それ以上に楽しく周りを見に回っていた。

 

 そして士郎はある意味イリヤに更に感謝していた。

 彼女が前に士郎を連れ回っていなかったら「うー」や「あー」などと、生返事しか出来なかっただろう。

 

「…………(やっぱり感謝しきれないな)」

 

「これなんかどうかな?」

 

 次に手に取ってみたのは十字架のペンダントだった。

 

 このチョイスに士郎が思わず笑い、時間が過ぎて行った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 結局ブティックではブレスレットを買ってもらい、そこからはずっと手首に付けながらさらに新都を回って、夜は珍しくファミレスで外食。

 

 その後も手を繋ぎながら回り、帰りのバスでも隣の席同士で座りながら窓の外を一緒に見る。

 

 そして深山町の交差点で降り、北にある衛宮邸へと二人は歩く。

 

 手は繋がったままで。

 

「……………ありがとう、士郎」

 

「うん? 俺は大した事が出来なかったと思うんだけどな」

 

「そんな事無い。 私、今までこんなに………………うん、やっぱり『楽しい』と思った事は無いわ」

 

「……………そうか」

 

 士郎はその重さが分かってはいないかもしれないが、彼女が心の奥から『楽しい』と思えるのはかなり大きい事だ。

 

「うん、『とっても楽しい』と感じた」

 

「それは良かった。 イリヤと慎二に感謝だな」

 

「そうだね…………本当に、ありがとう………」

 

「いや、礼を言うのはこっちだ」

 

「ううん…………『本来』なら、士郎は────」

 

「────前にも思ったんだけどな? それって『お門違い』と思うんだ」

 

「?」

 

「『本来』に居ないお前が居たから、『今』があるんだ。 だから、()()()()()

 

「……………そっか……じゃあ、今日のお礼────」

 

「────え?」

 

 そして三月が急に背伸びをして来て、そっと自分の唇を士郎の唇に重ねた。

 

 ただ単に唇を重ねるだけのものだが、所謂『ファーストキス』である。

 

 彼女は耳までだけでなく、首筋まで赤くなり、士郎は思考が停止していた。

 

 時間にしては一瞬で、彼が我に返ると唇はもう離されていた。

 

「さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、先に帰っているね?!」

 

 湯気が出るぐらいの勢いで赤く染まった頭のまま、その場を逃げ出すかのように、パタパタと走り去っていく。

 

 士郎はまだ硬直したままで立っていた。

 

「(女性の唇ってやわらけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)」

 

 と言った、なんとも腑抜けた事を考えて、ようやく動き出すと、以前クラスメートが言っていた、「ファーストキスの味はレモン」説を思い出していた。

 

「………………レモンじゃなくて、あれは別の次元の何かだった…………」

 

 浮ついた足取りで衛宮邸に帰りながら、かなり大胆な行動をさっき取った彼女の事を思っていた。

 

 最初は三月を喜ばせようと思っていた士郎だが、何時の間にか自分も『楽しかった』のだ。

 

『その権利はない』と思っていたが………………………*1

 

「これも………悪くないな」

 

 そう独白しながら士郎は衛宮邸の中へと入った。

 

「…………………………………………………………………………………」

 

「ふわぁ~~~、『もう一人の私』ってだいた~~~~~~ん………………」

 

 少し離れた場所で、『護衛』を他の皆に頼まれた真っ赤に赤面しながら気まずそうにしたアーチャーと、同じく真っ赤っかになった弥生が頬を両手に当てながら独り言を言っていた。

 

 実は二人に『護衛』を称した『模範』を他の新御三家に依頼されていた。

 

 アーチャーは士郎と違い、長年三月(弥生)と接した訳では無い。

 

 なので、『“ありえた自分(シロウ)”を見せれば何か進展があるかも知れない』と言う思惑で士郎と三月の『護衛』を頼んだ新御三家。

 

 別にこれはただの口実ではなく、未だに探りを入れて来る魔術協会や聖堂教会関係者から守る意味もあった。

 

 ただし、アーチャーと弥生にはランサー、カリン+αといった者達が既に排除ゴホン消滅ゲフン滅殺ゲホン! ()()()しに出ていたので、する事と言えば二人の観察監視だけだったのだが。

 

「………………ねえ」

 

 弥生の声に、アーチャーが体をビクリとする。

 

「…………アーチャーさんはああいうの、嫌?」

 

「…………………………」

 

 これがアニメや漫画であれば、困ったアーチャーに汗が大量に噴き出すシーンであろう。

 

「……………………………………い……………………」

 

「『い』?」

 

「……………………い………………………いや……………………………………………………………………………………………………………………………………ではない

 

 物凄く、非常に気まずく、恥ずかしながらもアーチャーが小さい声を絞り出す。

 

「……………じゃあ、今度何処か行こうか?」

 

「と、取り敢えず! 護衛対象は拠点へと戻った! に、任務を終了とみなして武器や必要性のない装備はここで破棄! 最低限の物資でポイントγまで退避をしつつ、敵の警戒網を────!!」

 

 ────と言った具合の滅茶苦茶動揺するアーチャーが遠坂邸とは反対の方向へと走ろうとs────

 

「────って、アーチャーさんそっち違う方向だよぉぉぉぉぉ?!」

 

「────ぐぉ?!」

 

 ────走ろうとしたアーチャーの赤い外套を弥生が引っ張って彼が転びそうになり…………と言うような調子で彼と弥生は遠坂邸へと無事(?)帰還する。

 

 だが、誰もが予想できなかっただろう。 その少し後、夜の衛宮邸では────

 

「(────何故、こうなった?)」

 

「士郎ぉぉぉぉ………」

 

 士郎の部屋で二人分の息遣いが荒い音が聞こえ、士郎は自分と同じく息をする下着姿の三月を見上げていた。

 

「(本当に何故、こうなった?)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 時は丁度三月が衛宮邸に先に帰り、スポポ~~ンと靴をキャストオフしていた頃に戻る。

 下着を出してお風呂場でスポポ~~ンと服をキャストオフ。

 

 そしてすぐに冷たい水でシャワーを浴びて、頭を冷やそうとしていた。

 

「(わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! 私、何て事するの~~~~~~~~~?!!?!?!?!)」

 

 未だに真っ赤な、茹蛸も顔負けするほどの赤い顔を両手で覆いながらシャワーを浴びて、うるさい心臓の鼓動音が耳朶に響いていた。

 

 頭と胸の中は嬉しさと恥ずかしさと破廉恥な気持ちをミキサーに入れてグチャグチャにかき混ぜたような感じがただグルグルと回っていた。

 

 だがこれが気持ち悪いどころか、体が爆発しそうな勢いで寧ろグングンデカくなっていった。

 

「………………(自分が………………士郎に………………………k────キャアァァァァァァァァ!!!)」

 

 内心叫びながら冷たい水を浴びながら体が自然とクネクネモジモジとする。

 

 そうしている間に士郎が衛宮邸へと戻り、中へ入ると────

 

「────ただいまー、ってあれ? 他の皆の靴が無い?」

 

 慌てていた三月は気付かなかったが、玄関では士郎と三月の(慌てて脱ぎっぱなしの)靴しかなかった。

 

「……………(余程慌てていたんだな)」

 

 そう思い、士郎は靴をちゃんと並べた後に居間の中へ入るとちゃぶ台にメモが一つあった。

 

「ん? 何々…」

 

ちょっとリカとツキミでリンの所に泊まりがけで出かけてくる!  -イリヤ

 

「………………………………………………………………………………え?」

 

 数分ほど硬直していた士郎は思考と共に心臓がうるさくなる程、早く鼓動していた。

 

「(え?なに?じゃあ今は三月と二人っきりと言う事か今日の夜何だこの展開俺は知らないぞ何で胸がドキドキするんだまさかこんな事に────)」

 

 更に数分後、士郎は一つの行動へと出ようとした。

 

「………………………………………………………………寝よ」

 

 そう思い、士郎が立つと思わずふらついて壁に身を寄せる。

 

「??? 今日の出来事でへばったのかな?」

 

 そのまま自分の部屋へと戻っている間に息遣いがドンドンと荒くなり────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()()()

 

「(ま、不味いぞこれ。 と言うか何なんだ? もしかしてさっきのキ………………キ………………()()()の所為なのか?)」

 

 士郎は何とか自分の部屋に戻り、布団とブランケットを出して、普段はお風呂に入るのを我慢してパジャマに着替えて、寝ようと努力するが────

 

「(────全ッッッッッッッッ然治まらない!)」

 

 ────士郎は眠れなかった。

 体は重く感じるのに意識だけが浅く、ハッキリとまでは行かないが……………………

 

 その………………………

 

「(()()()()()()()()())」

 

 士郎はガバッと体を起こして、冷たいシャワーでも浴びようかと思い、襖を開けると────

 

「────士郎ぉぉぉぉぉ────」

 

「────え、みt────おわ?!」

 

 ドサッ。

 

 寝巻姿の三月がそのまま士郎を布団の上に押し倒す。

 

 普通なら突然の事とは言え、彼女が押しても簡単に立ち留まる事が出来た筈が()()()()()()()()()()()

 

「な、何かぁぁぁぁ…変なのぉぉぉぉ────」

 

「(や、やばい────)」

 

「「(────()()()()()())」」

 

 そこで三月は寝巻を脱ぎ始め、士郎の目には小ぶりな胸を包んだ()()が見えた。

 

「(以外だ。 白のフリフリレース………所謂『勝負下着』って奴か?)」

 

 もう既に正常な判断が出来そうにない士郎はある意味()()()物事を取っていた。

 

「士郎……………ちょっとだけジッとしていて」

 

「ぁ────」

 

 

 

 同じ時刻の柳洞寺の離れでキャスターはブツブツと文句を言いながら『遠見』を使用している水晶玉で魔術協会や、聖堂協会の関係者たちの監視及び危険人物の炙り出しをしていた。

 

 ほぼ日課になりつつあるランサーとカリン達の補助をしつつ、時々クフちゃんの世話をしていた。

 もっふもふな毛で、つぶらな瞳をした素直な子犬の魅力に負けた。 

 可愛いは正義である。

 

「ハァ~…………でもこれでやっと制作した()()()()()()()()が完成するわ。 今夜こそ、宗一郎様に!」

 

 ガッツポーズをしながらキャスターは時計を見て、そろそろ宗一郎が返ってくる時間帯(彼も元暗殺者なので静かに魔術を使っていない危険人物を消すのはお手の物)なのを確認してから近くのお線香鉢を手にとって、火を点ける。

 

 彼女が夜な夜なこんな事をするのは遠坂邸と間桐邸にある材料などの取引をしたからである。

 お察しの通り、()()()()()()()()の制作の為である。

 後、オマケに頼まれた()()()()()()()()も作っておいた。

 本来はこちらがメインなのだが運悪く(良く?)キャスターはある夜、慎二と桜を()()してしまい、()()していた。

 

 と言うか対抗心を燃やした。

 

 余談ではあるが、彼女が制作した()()()()()()()()は『()()』にしか効果が無いように細工していたのは()()()()()()()()ように。

 

「だって…………『覚えていない』なんてイヤよ………………………ああ、待ち遠しいですわ!!! 早く帰ってくださいませ、宗一郎様~~~~~!!! キャス子はここで待っておりますゆえ!♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 そこでキャスターは離れに()()()()()()()()が充満しているのを────

 

「────あ、あら? 変ね、こんな匂いだったかしら?」

 

 ────確認して、クネクネする体を止めながら無数の?マークを出していた。

 

 

 

「なあ、嬢ちゃん」

 

「だから名前を────ハァ~……もう、良いわ。 何、フリンちゃん?」

 

 ランサーはビルの上から冬木市を凛とカリンと共に見ていて突然口を開けた。

 

「ング…………ま、いっか。 嬢ちゃんがキャスターに頼んだ()は危険な物じゃねんだろうな?」

 

「ええ。 私が頼んだのはあくまで()()()()()()()お線香よ」

 

「でもリンリンはどうしてそんなものを?」

 

「り、『リンリン』って………」

 

「そりゃあ、オレと被っちまうじゃねえか」

 

「そ、そうね。 だって最悪じゃない? 初デートの夜に悪夢を見るなんて? だからせめていい夢を見れば幸せの一日のままじゃない?」

 

「へ~~~、意外とロマンチストなんだな?」

 

「お? ランサーもそう思うか?」

 

「ふ、二人に真顔でそう言われると照れるのだわ…………でもキャスターも同じような思惑があったみたいよ? 何せ私達を手助けする代わりに()()()()()()渡して欲しかったんだから。 その証拠に、彼女の部屋にはお線香鉢が()()置いてあったし」

 

「けどよう、何もあの『イリヤ』って子達を今夜屋敷に呼ぶこたぁねえだろ?」

 

「違うわ。 あれはアーチャーと弥生ちゃんの方が気がかりで、彼女(イリヤ)が言い出した事よ。ま、今夜の私達は夜の()()の日だから()()()()()()()()()()わ」

 

 凛のこの行動や思惑や()()()がどのように出るのか、今はまだ誰も想像もしていないだろう。

 

 三月風に言うと「まさに『うっかリン』だね♪」と言った所か?*2

 

 まあ……………そのレベルを通り越している事態とは思うが。

*1
第19話より

*2
第37話




作者以外:オイ

作者:……………………………………………………………

マイケル:こ、こいつ土下座したまま気絶してやがる?!

三月(バカンス体):どこぞのエジプト人だ?!

ラケール:しかもストレートフラッシュのカード持っていないし!

雁夜(バカンス体):お前たちは何の事を言っているんだ?

チエ:別の世界の出来事だろう

ウェイバー(バカンス体):どんな世界ですか、チエさん?

チエ:「隣に立つもの」の世界だ

ウェイバー(バカンス体):ハァ~?

マイケル:お~~~~き~~~~~~ろ~~~~~~~!!!

作者:…………………………………………………

ラケール:た、「ただの屍のようだ」状態だ

リカ:イエーイ


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第59話 ────魔力供給♡、その1

 ___________

 

 士郎 視点

 ___________

 

 士郎はチュンチュンと鳴く小鳥の音に目が覚めて、朝日が上がって陽光に照らされた目の前の天井を見ながらただ一言だけが彼の脳内に浮かび上がる。

 

 「何か凄い夢を見てしまった」と。

 

「(昨日は結構()()()()()からな………三月と楽しい一日を過ごしてキ………

 ………………キ…………………………キ…………………………キ…………………………

 ()()()()()の後、そのまま寝て────)」

 

 士郎は数々の生々しいアレ(妄想)コレ(体位)やと、色々な詳細が頭の中を駆け巡って、血が顔に充満して行くのを感じ、両手で顔を覆った。

 

「(何を考えているんだおれは?! 軽いAからBを飛ばしてディ、()()()()AとCまで飛躍した夢を見るなんて………………………)」

 

 余談ではあるが士郎も思春期真っ最中の若い男性。

 ()()()()()夢を見る事はあるし、何より興味が全く無い訳では無い。

 

「……………起きよ」

 

 寝起きだというのに未だダルイ体に鞭を打って、士郎は起き上────

 

 フニュン。

 

「────ん♡」

 

「────???」

 

 手の平にすっぽりと収まる()()()()()()()()()()()()の感触と共に()()()()()()が士郎に耳に届いた。

 

「??????」

 

 彼が手の先を見ると。

 

 「……………………………………え"」

 

 そこに居たのは、はだけた()()()()()()()()を着た三月で、彼女の双丘の内一つが直に士郎の手中の中にあった。

 

 「ンな゛?!」

 

 思考が真っ白となった。

 

 それは手の平の周りの彼女の肌と同じ位だった。

 

「おっp────ムグッ!」

 

 目が大きく見開き、思わず叫びそうになるのを両手で無理矢理口を覆って止める。

 

「んぅ~~~……」

 

 三月がモゾモゾとして横になる間、士郎の頭には無数の疑問が浮かび上がっていた。

 

「(え、ちょ、何だこれマジでどうなっていやがる?!え? えぇぇぇぇぇ?! 昨日のは夢じゃなかったって────まさか?!)」

 

 ある可能性を否定するが為に士郎は恐る恐るブランケットをめくる。

 

「(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む────!!!)────

 

 そこは士郎の期待を裏切っていた()()が「コンニチワ~」をしていた。

 

 そして全裸だったのが更に事を裏付け────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────決定的な打撃は()()()()()()()だった。

 

「(うわ、うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! お、お、お、お、お、お、お、俺は何という事を────?!)」

 

「ん~~~~~~~」

 

 ブランケットと士郎の温もりが無くなった事で、意識が覚醒し始めた冷え性の三月がゆっくりと目覚めて、士郎の体が「ビクゥ!」と跳ねる。

 

「………………あ~、おはよう~」

 

 ホワ~~~~~ンとした、またはフワっとした緩々の挨拶を三月が微笑みながら向ける。

 

「オ、オ、オ、オ、オハヨウ三月。 ナ、ナ、ナ、ナ、ナ、ナンデオレノシャツヲ?」

 

 士郎がギクシャクとした声&トーンで一つ目の疑問を投げる。

 

 普段の士郎が冷静であって、この場に居たのなら「そこじゃないだろうが?!」と言っていたかも知れないが生憎そんな事はない。

 

「えへへ~~、士郎の匂いがするから~~~~」

 

「ッ」

 

 恥ずかしさと嬉しい気持ち半分ずつの所為で士郎はまた顔を両手で覆う。

 だが────

 

 ガラガラガラガラガラガラ。

 

 ────衛宮邸の玄関が空く音に士郎は「バ!」っと驚愕した顔で音の方向に集中する。

 

『あれ? 先輩達の靴しかない?』

 

 「(さ、桜ッ?!)」

 

『そうなのか? 変だな………おい衛宮! 来てやったぞ!』

 

 「(その上に慎二ィィィィィィィィィィ?!)」

 

「??????」

 

 未だに半開きの目で状況に付いて行っていない三月はボサボサした髪でジ~っと大量の冷や汗が出ながら取り敢えずズボンだけでも穿く士郎を見ていた。

 

「三月、自分の部屋へ戻って服を着直すんだ! 分かったな?!」

 

「んい~~~~分かったよぉ~~~~~」

 

 コクコクと寝ぼけながらも三月が反応するのを確認して、士郎がシャツを急いで着直して玄関の方へと急ぐ。

 

「のわ?!」

 

「きゃ?!」

 

 回り角を士郎が曲がろうとすると桜に危うくぶつかる寸前で横をスライドしながら彼女の肩を掴む。

 これによって桜の向きを180度士郎の部屋から向きを変えながら「ニカッ」と笑う士郎。

 

「お、お、おはよう桜!」

 

「ハ、ハァ。 おはようございます、先輩」 

 

「ッ?!」

 

 士郎の目が一瞬チラリとキョトンとした桜の後ろを見ると、三月がダボダボではだけた士郎のワイシャツ姿のままヨタヨタとした危なっかしい足取りで廊下に出るのを見て目が思わず見開く。

 

「ッ…………………どうかしたんですか、先輩?」

 

 桜が何かに気付いたのか、目を一瞬だけ逸らして士郎にニッコリとした笑顔を向ける。

 

「い、いやなんでもないんだ! きょ、今日は慎二と一緒なんだな?! 意外だな?! マイさんはどうしたんだ?!」

 

「あ、ハイ。 し、慎二さんは『今日は衛宮邸気分だ』と言って一緒に来たんです。 マイ母様ならばライダーと一緒に商店街へ買い出しに出て、後でお邪魔すると思います」

 

 ニコニコした桜が延々と喋っている間、心臓が「ドキドキ」と士郎の耳に五月蠅くなっていき、ハラハラした気持ちであっちへフラフラ~、こっちへフラフラ~、とする三月をチラチラとしながら士郎が見ていた。

 

「先輩? お顔が優れませんよ? お薬か何か────」

 

「────ああああ!!! こ、こ、これは()()()()で寝ちまったからあまり疲れが取れなかったんだ!」

 

 薬箱を取りに振り向こうとした桜の両肩をガッチリと士郎が再度掴んで阻止する。

 

「イリヤさん達はどこに?」

 

「と、遠坂の家に泊りがけってメモがあったからな!」

 

 幸運にも、三月が丁度自分の部屋の中へ入って行くのを士郎が見てホッとする。

 

「ハァ~~~~~~~~~~」

 

「???? 先輩、凄い溜息でしたね?」

 

「ま、まあ…………な。 俺も朝の用意をしてくるよ」

 

「そうですか。では朝ごはんの支度をしてきますね?」

 

「ああ。 助かるよ、桜」

 

 桜がパタパタと居間の方へ戻る途中、一度だけ士郎へと振り向かう。

 

「あ、先輩? 無色の炭酸水も、大根も家にありますから♪ 後、お化粧のコンシーラーを塗ってからファンデーションを重ねると良いと思います♫」

 

 そう言い残し、再度居間の方へと消える桜に、士郎は困惑していた。

 

「何で炭酸水と大根と化粧の話が出て来るんだ?」

 

 身だしなみを整える為に士郎が鏡の中を見ると────

 

 「────あ゛」

 

 ────士郎は見た。

 

 と言うか見てしまった。

 

 自分の首筋に無数の小さな()が出来ていたのを。

 

「…………ま、まさか……………これって…………………………」

 

 士郎が良く見ながらついさっき桜が言っていた事を思い出す。

 

≪お化粧のコンシーラーを塗ってからファンデーションを重ねると良いと思います♫≫

 

「…………バレて………いた?」

 

 士郎の顔色が青くなり、黙り込む。

 

「……………………あ、後で三月と一緒に桜の好きなお菓子を作ろう」

 

 そして彼は機械的にせっせと朝の用意をする。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「衛宮! 遅いぞ!」

 

 居間では桜の入れたコーヒーとサンドイッチを食べていた慎二の姿があった。

 

「おはよう慎二」

 

「? 何かゲッソリしていないか衛宮?」

 

「そ、そうか? ちょっと変な態勢で寝ていたからな」

 

 士郎が桜の居るキッチンへ向かうが桜に止められていた。

 

「こっちは大丈夫ですよ先輩? ですから()()()()()()()()()()()()♫」

 

「あ、えっと………炭酸水を────」

 

「────はい、どうぞ♪ 下にタオルを敷いてからの方が良いですよ?」

 

 桜の笑顔が()()()と初めて感じる士郎はただ自分の部屋へと戻り、布団についていた染みをせっせと落として、居間に戻ると丁度三月と目が合った。

 

「「あ」」

 

 お風呂から出たばかりなのか顔がほんのり赤くなっていて、しっとりしていた髪の毛にはタオルを巻いていた。

 

「お、おはよう」

 

「あ、ああ」

 

 慎二が気まずそうな二人を見ながらニヤニヤしていた。

 

「で? 昨日はお楽しみだったかい二人とも?」

 

「「ファ?!」」

 

「??? 昨日、一緒に出掛けたんじゃないのか?」

 

 二人がポカンとした表情で慎二を見るが、彼はただ『デート』の事を言っていたにすぎない事に気が付く。

 

「あ! そう言えば慎二! 俺をはめやがったな?!」

 

「衛宮が悪い! 少しは羽目を外せってんだ!」

 

『『ただいまー』』

 

『今戻ったで~!』

 

 玄関からイリヤ、リカ、そしてツキミの声と同時にドタドタとした足音が聞こえて、イリヤがキラキラした目で三月に迫る。

 

「昨日はどうだった?! どうだった?! どうだった?!

 

「あ、え? え~~~っと────」

 

「────はい、ピザトーストです。 それで()()()()()のですか、三月先輩?」

 

 人数分のピザトーストをちゃぶ台に乗せて未だにニコニコした桜がイリヤの隣に座ると、後からリカとツキミが居間に入ってくる。

 

「お~~!! ピザトーストやないか?! せや、昨日はどないやった?!」

 

「いただきま~す」

 

「えっと…………………()()()()()()()()♡(ポッ)」

 

「「きゃ~~~~~~!!!♡♡♡♡」」

 

「「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ)」」

 

 三月が更に顔を赤らめて、顔が思わずニヤニヤした事にイリヤとツキミが黄色い声を出して、桜とリカはひたすらニコニコしていた。

 

 この事からイリヤとツキミはデートの方を思っていた事と、桜とリカは()()()の方を考えていた事が士郎は手に取るように分かった。

 

『衛宮君~? いるのかしら~?』

 

『お邪魔しま~す!』

 

『ありがとうございます~、アーチャーさん~』

 

『何、荷物持ちぐらいどうって事ないさ』

 

『お? この匂いは“ぴざ”って奴か?』

 

『だけじゃないな、焼いたパンの匂いもある』

 

 凛が速足で居間の中に入ってきて、ニコニコしていた桜とリカ、デレデレしたイリヤとツキミ、そして砕けた笑みを浮かべている三月の姿に満足したかのように「ドヤァ」という効果音背景が似合うほど胸を張っていた。

 

 衛宮邸は一気にワイワイと大勢の人が集まり────

 

「────邪魔するわよ?!」

 

 血相を変えたキャスターが衛宮邸の中庭に空から着地して、凛へと迫る。

 

 「貴方! ちょっとこっちへ来なさい!」

 

「え? え? え?

 

 そして強引に衛宮邸の別の場所へとキャスターに凛は連れて行かれて数秒後……………

 

 ぎょええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!?!?!

 

 凛の突拍子もない叫びが辺りに響いた。

 

 尚、この後返って来た凛が連れて行かれる前の態度が全く見当たらない程180度Uターンしたかのような、物凄くショボショボとしつつ、ドンヨリとした空気と非常に申し訳なさそうな表情と共に三月をキャスターの居る場所へと連れ帰って行った。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 「申し訳ございませんでしたー!!!」

 

 そこでは別の部屋の畳の上で凛が深~~~~~く三月に向かって土下座をしていた。

 

「え? えっと、これは?」

 

 三月が凛からイライラした空気を出していたキャスターに開き直った。

 

「この小娘は昨日、間違って()()お線香鉢を私の工房から持って行って、貴方とあの坊やに使ったのよ」

 

「????」

 

「ほら、貴方から説明しなさい」

 

「………………ハイ」

 

 そこで凛は頭を下げたまま三月に事を説明する。

 

 曰く、士郎が告白した日から関係の進展が全く無かったので痺れを切らしたイリヤ、凛、そしてリカの三人が新御三家の他の皆に進展の協力をお願いした。

 

 曰く、決行する直前まで冬木市()()を前から暇を持て余していたキャスターに素材を提供する代わりに魔術的お線香の制作と協力も依頼。

 ちなみにこれを聞いていた宗一郎は自ら「元暗殺者だ」と暴露して協力した事もキャスターの了承した要素の一つだった(「愛する宗一郎様に怪我でもあったらこの街を死とに変えてでも犯人達をブチ殺すわ!」の気迫に何時もは気薄の宗一郎も驚きの顔を上げていたとか)。

 

 曰く先日、イリヤと慎二が三月と士郎を誘って二人を強制的にデートさせる。

 

 元々はこれだけだったのだが、凛の気遣いで「良い一日の最後に悪い夢なんて観たら嫌じゃない?」という事からキャスターに上記の魔術で制作したお線香を依頼した。

 

 だが凛の()()()で「夢見の良いお線香鉢」ではなく、「媚薬効果のあるお線香鉢」を持っていき、士郎と三月が返ってくる前に衛宮邸に設置。

 

 余談だが、イリヤ達がその夜遠坂邸に行ったのは士郎達の『護衛任務』から帰って来たアーチャーと弥生をからかう為だった事が幸いした。

 

「……………………え~っと? キャスターは何で()()のお線香鉢を作っていたの?」

 

 「ギクゥ!」

 

「そう言えば………」

 

 三月の指定で顔を逸らすキャスターを、彼女と凛が見る。

 

「「ジ~」」

 

「わ、分かったわよ! 宗一郎様って、そういう事を一欠けらの素振りを見せないのよ! 夜な夜な夜な夜な何もないのよ! なのに何なのよ、()()()()()?! 週に何回ヤれば気が済むのよ?!」

 

「え゛」

 

 凛が何とも言えない顔になり、「うわー、無いわー。それ無いわー」と言いながら引いて、三月は────

 

「────キャスターって覗き魔?」

 

 ────何時も通り()()()()()()()()()()()だった。

 

 つまりは平常運転。

 

「────失礼ね! せめて『観察』と呼びなさい!」

 

 そして逆ギレするキャスターはそれどころでは無かった。

 

 だが────

 

「────ありがとうございます」

 

「「え?」」

 

 頭を深く下げながら礼を言う三月が凛とキャスターをびっくりさせた。

 

「お二人のおかげでその………私は『幸せ』だと思います」

 

「「ファ」」

 

 頭を上げながら、心の奥から笑い、頬を僅かに赤に染める三月に思わず凛とキャスターは意味不明な息を吐いた。

 

 だがキャスターの肩が突然ワナワナと震え始めた。

 

「………………………いい。 欲しいわ貴方────」

 

「へ?」

 

 そして何故か鼻血を流しながら血走った眼と息遣いが荒いキャスターが三月の肩を掴む。

 

「貴方、私のモノになりなさい」

 

「ヤダ」

 

「ガ~ン」と言う効果音と共によろめくキャスターに三月はさらに追い打ちをかける。

 

 完璧に意識せずに出た言葉だが。

 

「だって私には士郎がいるもん」

 

「ハワ~~~?! クッ! ならばあの坊やを排除────」

 

 ア゛?

 

ヒ。何でも御座いませんッ!

 

 スンッと、突然無表情のまま圧力をかけた三月に()()キャスターが後込む。

 

 だが凛はこの間ずっと頭を抱えていた。

 

「まさか桜だけでなく三月まで先を越されるなんてッッッッ!!!」

 

 

 ___________

 

 新御三家+α 視点

 ___________

 

 数日後、冬木市にあるドヨメキの波が走る。

 

 それは────

 

「────三月~、帰るぞ~」

 

「は~い!♡ じゃあ、皆また明日!♡」

 

 そう言い、穂群原学園の校門前に待っていた士郎へと三月が走って互いに腕を組む。

 

 士郎と三月が二人だけの時や、新御三家邸だけでなく、外でもべったりと引っ付いていた。

 もうどこからどう見ても距離感が『義兄妹』ではなく、『恋人』よりだった。

 

 しかもそれは三月だけに限った事では無かった。

 

「やあ弥生君、待たせたかな?」

 

「全然だよ!」

 

「そ、そうかい」

 

 校門前で待っていた弥生に()()()()()()()()()()()()らしき人物が近づき、弥生は躊躇なく手を繋ぐ。

 

 文字通り血の涙を流す二人のファンクラブ達に、以前から三月の事を良しとしなかった女子生徒などが弥生をイジメようとしていた。

 

「────でね~、藤姉が────」

 

 「────プッ、何あれ?」

 「やだぁ、あれじゃあ『年の離れた兄妹』だよ!」

 「クスクス」

 「いやいや、どう見ても『親子』っしょ!」

「「「キャハハハハハ!!!」」」

 

「────ノート、取る時は……『ペンはダメ』って…………」

 

 聞こえるか聞こえない位の、ネチネチとした嫌味はしっかりと弥生には聞こえていた。

 徐々にだが、彼女(弥生)の中では()()()()()()()()()()()()()()気持ちが膨らんでいた。

 

 弥生は三月で、シロウは士郎。

 

 それは確かに事実だが、()()()()()

 これも事実なのだが想像してみて欲しい。

 

 士郎は『現在』の人間で、しかも冬木市では見かける童顔の人物。

 そして身長は167㎝と、三月(弥生)は140㎝。

 

 対してアーチャーは学園の者達にとっては()()()()で、ぶっちゃけイケメンで、士郎の167㎝と違い、彼は187㎝とかなりの長身である。

 

 この事で()()()()()()()()()()()事を弥生は気にしていて、無意識に彼の手を握る手が緩んでいた。

 

 グッ。

 

「およ?!」

 

 そのまま考え込んでいた弥生はアーチャーと繋いだ手によって道を歩むのを強制的に止められる。

 アーチャーが『()()()()()()()()()()』と言う意思を象徴するかのように。

 

 そのアーチャーが急に立ち止まって、女子生徒達に顔を向ける。

 

 「恋人だ。 デカくて悪かったな?」

 

「何よアイツ」

「感じ悪」

「変態よね~」

「「「アハハハハ!!!」」」

 

 そして彼が女子生徒達に向かってはっきりと宣言すると、彼女達がアーチャーを更に非難する様な事を言い、笑うが────

 

「────おや、次郎さんでは無いか」

「あ、ほんとだ! じろうだ!」

「いや本当こないだはありがとうね~? 機械とかは年寄りに難しくて…」

「この間のぎっくり腰も良くなってね~────!」

 

「────いや、私は何も別に大した事はしていないつもりだが────」

 

「「「「────謙遜するなよ!!!」」」」

 

 周りの人達がアーチャーにワラワラと群がり始め、彼に礼や褒め言葉などを言い始める。

 

 これには理由があり、彼は『正義の味方』を別に辞めてはいなかった。

 

 ただ規模が()()()()()と、明らかに()()()()()()()()を意識したモノに変わっていただけでそれをずっと続けていたのだ。

 

 なのでかなりの人気者になってはいた(特に子供達と中年や年寄り達の間では)。

 

 これを見て、蜘蛛の子の様にそそくさーっと彼を非難していた彼女達は離れて、弥生は────

 

「────ふは」

 

 ────無邪気な顔でアーチャーに笑いかける、手を新たに繋ぎ直す。

 

 指を絡める様に。

 

「ん。 な、何だね弥生君?」

 

「ありがとう~♪」

 

 アーチャーは顔を逸らしながら弥生宛に口を開ける。

 

「別に………私が長身なのは事実だからな」

 

「それでも、ありがとう~♡」

 

「む、むぅ~」

 

 そしてこの二人のやり取りに周りの人達はほんわかと和んでいた。

 

「「「「(青春だね~)」」」」

 

 

 そして生徒会室では────

 

「────()()、こちらの書類のサインを」

 

「うむ、かたじけない()()()殿」

 

 ────何時の間にか生徒会員になっていた(メガネ着用の)クルミと一成が黙々と生徒会の作業を処理して行った。

 

 余談ではあるがクルミが一成の「生徒会員になる気はないか?」を彼女が了承した日は嬉しさのあまりにウキウキしながら()()()を帰り道中ず~~~ッと歌っていて、それを聞いた人達はてっきり彼が怨霊か何かに取り憑かれたと思っていたのだが、ただ単に一成が()()()()()なだけだった。

 余談だが彼の歌っていたのは演歌だった。

 

 

 マイはマイで男子生徒や先生などにほぼ毎日アタックをかけられていた。

 が、最近はそれもすっかり止んでいた。

 

 何せその者達は決まって()()()()()()悪夢や、夜に得体の知れない()()に襲われるか、心臓発作になったかのように意識を失うほどの胸の痛みなどの経験をしていった。

 今では冬木市の外から来たナンパ師や未だに諦めきれていない者達だけが彼女に声をかけていた。

 

 

 このような話が、『幸せ』が長年不幸な出来事を体験し続けた冬木市に参っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()




作者:上手く表現出来たかな? 次の話を書きたいと思いますのでコントはほぼ無しです! では次話で会いましょう!

ツキミ:おいなんやん、『温泉』って?!

リカ:やはりそれは定番なのでは?

マイ:あら~? 『混浴』って何かしら~?

作者:…………本当にアンケートがばらけている…………ありがとうございますッッッ!!!!!


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第59話 ────な訳が無かったよ、シロウラッシュ……

………………………………

た、楽しんでいただければ、嬉しいです! (汗汗汗汗汗汗汗汗


 ___________

 

 新御三家+α 視点

 ___________

 

 

 それは、とある出来事から始まった。

 

「キャス子、温泉に行かないか?」

 

 ツキミに説得され、キャスターを『キャス子』と呼ぶ宗一郎だった。

 

「ハイ宗一郎様…………ハイ?!」

 

「うむ、では支度を済ませろ。 私は()()()()()()()

 

 未だにショックを受けているキャスターを離れに置いていく宗一郎が視界から消えた瞬間、嬉しさのあまりに編んでいた『ソウイチロウサマL♡VE!』スカーフを持ちながら畳の上をゴロゴロしていた。

 

「こうしていられないわ! 一分一秒が惜しい!」

 

 普通15分から30分ほどかかる筈の支度を魔術で5分程でキャスターは済ませ、トランクを持って柳洞寺の麓にある道に文字通り()()()()()()

 

「お待たせしました宗一郎様!♡」

 

「早いなキャス子、では行くぞ」

 

「はい!♡♡♡♡♡」

 

 満面の笑みでキャスターは道に停めてあった()()()()()()()()()()にウキウキと乗り込む。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして次にキャスターを見ると、この上ない不機嫌な顔でミニバスの助手席に座りながら「ブッス~」と不貞腐れていた。

 

「ハッハッハ! さっきのお主の顔は見ものよな~! まるで別人だったぞ?」

 

「黙りなさいアサシン。 私は今滅茶苦茶不機嫌で、貴方を()()()()殺してしまいそうだわ」

 

 キャスターの後ろからアサシンが声をかける。

 

「ありがとうございます葛木先生~。 私一人では流石に不信がられるのが目に浮かんでいて~」

 

 更にマイの声が宗一郎の後ろから来る。

 

「少し黙りなさいこの泥b────『化け猫』」

 

「…………………??????」

 

 キャスターがマイ宛にきつく言うが、効果はなく、項垂れるキャスターをアサシンが笑った。

 

「まあ、気にするなキャスター! 気にしたら負けだぜ────」

 

「────うるさいわね! この犬!

 

「クゥン?」

 

「あ。ち、違うのよ! 貴方の事じゃないわクフちゃん!」

 

 更に後ろから小言を言うランサーに怒鳴るキャスターに怯えたクフちゃんをキャスターがニッコリとほほ笑む。

 

 何を隠そう────

 

「────もう完璧に修学旅行ね~」

「────そうね。でもそれが私には良いわ、リン!」

「────イリヤ氏のワクワクは共感できます」

「────おい衛宮! 何ヘマこいているんだよ?! そこは『防御』じゃないだろ?!」

「────仕方ないだろ慎二?! このゲーム、俺は初めてなんだから!」

「────おいツキミ! 風呂で競争しねえか?」

「────望む所やカリン!」

「────ダメでしょ二人とも?! 何考えているのよ?!」

「────そうだ、弥生君の言う通りだぞ」

「────ク、クルミ殿のご家族は凄いな………この中で平然としている衛宮や間桐も同じだが」

「────そうかしら? あまり気にした事は無いわ」

「────アネット(ライダー)も楽しそうね?」

「────はい。凄く楽しみです、桜」

 

 

 

 ────とこの様に、ミニバスの中は新御三家の他にキャスター、アサシン、宗一郎、一成、そしてクフちゃんまでもが乗っていた。

 

 事の初めは商店街の福引に、マイさんが参加したからだった。

 

「あら~、これって何なのかしら~?」

 

「えっと、これは────」

 

 隣に居た桜がマイに福引のシステムをざっくり説明する。

 

「何だか楽しそうね~。 えい♪」

 

 マイが回し棒ではなく、福引の外側を直にザッと手で跳ねて回す。

 

 これは別に回し方を知らないからではなく、ただ単に()()()()()()()()だけである。

 実はと言うと、()()()の中で純粋な肉体的『力』であればマイが本体達である三月と弥生の次に高かった。

 ちなみどれ程かと言うと()()『リンゴを片手で潰す』シーンを表情一つ変えず余裕で再現出来るほど。

 

 その時の彼女は「手で絞ったリンゴジュースは絶品」と聞いたから学園の調理室でそうしていただけだが…………………

 

 そしてその福引で見事『団体温泉旅行券』を引き当てて、現在と至る。

 

 少し話が飛躍したが、マイ一人が戸籍上『運転出来る』といってもイリヤの『運転技術』であるのでとてもではないが、普通の道や高速道路を走れるようなドライブテクではない。

 

 故に先生である宗一郎を誘い、その場に居たアサシンが「ではあのキャス子メモ招待してはいかがか?」と言い、マイは他の()()()を誘う事に。

 

 そして芋づる式に段々と大きくなって、学園のミニバスを借りる事になった。

 

 もう見た目が修学旅行である。完全なプライベートモノだが。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「おお~~~~!」」」」

 

 青年+子供組の殆どが声を上げて温泉旅館を見渡す。

 

「「「広い!」」」

 

「「「綺麗!」」」

 

「こら! 走ってはダメよ! 他の人の迷惑になるでしょうが?!」

 

 とはしゃぐ皆に注意するキャスターの姿はもう大人組の「保護者」の一人であった。

 

 部屋割だが追加料金を前もって払って、一応同性の2,3人部屋に分かれていた。

 流石に人数が人数だったので(お金は間桐家持ちで慎二のどや顔に少々イラっとした彼の師匠であるイリヤは修行をもうワンランク、ハードルを上げたのを慎二は後に知る事となる)。

 

 そしてさっそく()()()()()()にさっそく荷物を部屋に置いて出かけるのであった。

 

「さてと、行くかね諸君!」

 

「いざ! 出陣!」

 

「「「へ?」」」

 

 士郎、慎二、一成の部屋にカラカラと笑うランサーとアサシンの言葉に気の抜けた声を上げ、二人に温泉の場所へと連れて行かれる。

 

 そして近くのアーチャーにランサーも声をかける。

 

「お? お前も来るか?『桃源郷』ってのを拝ませてやるぜ?」

 

「いや、別にいい。 ()()に温泉を楽しめよランサー? ()()にな」

 

「?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして場は女湯へと変わり────

 

「「「きゃっきゃ!♪」」」

 

 青年女性&子供組のイリヤ、三月、弥生がはしゃいで────

 

「こら! 走ったらあかんやろが?!」

 

「へ! 大人ぶりやがって!」

 

「ア゛?」

 

「オ゛?」

 

「ウフフ、相変わらずカリンとツキミは仲いいわね~」

 

「ア、アハハハ……」

 

「「どこが/や?!」」

 

 ────はしゃぐ者達を注意するツキミをからかうカリンがマイを睨む。

 

「あかん、いつ見てもしょげむわ」

 

「言うなツキミ」

 

 マイと桜の二人(ボン、キュ、ボン組)を見た瞬間、シュンとするツキミとカリン(滑走路組)の二人だった。

 

「全く、せっかく宗一郎様と────あら? 魔術師の割に意外といい体しているわね、貴方?」

 

「ふぇ?!」

 

 そして未だにブツブツ文句を言うキャスターと凛だった。

 

 まあ、キャスターの言う事は無理もない。

 

 魔術師は本来、肉体的労働からかけ離れた生活をしている。

 現に歴代の魔術師であるキャスターの肌も白かったが、対して凛は健康体そのものだった。

 

「あ、そうだ! こんなに大人数なんだから、背中の洗いっこ出来るわね!」

 

 イリヤの提案で大きな輪となり互いの背中を洗うシーンはシュールであった。

 嫌がったキャスターは「三月か弥生の背中を!」と息遣いを荒くしながら言っていたが、ライダーの提案でジャンケンで決める事に。

 

「……………………………………」

 

「どうしたんですか、ライダー? しょんぼりしていますけど?」

 

「いえ、出来れば上姉様か下姉様をと思ったのですが………あ! こ、これは別にクルミ姉さんを嫌がるという訳では────!」

 

「イリヤちゃん本当に可愛いわ~、うちの子にしたい位よ~」

 

「えへへへへ♡ じゃあ『お母様』と呼んでも良い?」

 

「何時でも良いわよ~」

 

「う~~~ん、自分の背中を見るのは新鮮な感じね」

 

「キャスターさんの肌すべすべですね────」

 

「────ひゃん?! ちょっと! 貴方は何処を触っているのよ?!」

 

「「リカずるい?!」」

 

「何でよ?! それに私にはそんな────」

 

「「「「────照れ顔可愛い~~~♬」」」」

 

「ハウ♡」

 

 と言った具合に女湯は盛り上がっていた。

 尚キャスターの顔は三月姉妹達数人に抱きしめられて、これ以上ないダラケ顔となっていた。

 

 

 

 その間、女湯から来る声を聞いていた男性達は静かだった。

 

「さて、どうすっかね~」

 

「??? 何しているんだランサー?」

 

 慎二の質問にはランサーではなく、アサシンが答える。

 

「いや何、これから『桃源郷』を拝むのだ」

 

「「「な、何~~~~?!」」」

 

 これを聞いた少年組(士郎、慎二、一成)が驚愕する。

 

「い、いやいやいや! 待て待て待て! 待たぬか! そ、それ、それは所謂────」

 

「────アサシンにランサー。 女湯はこの塀の向こうだ」

 

 「宗一郎兄?!」

 

「お、ナイスだおっさん♪」

 

「しょ、正気ですか宗一郎兄?! よ、嫁入り前の女性の…………あ、あられもない姿を────」

 

「────異性の裸に興味があるのは当たり前の事では無いのか?」

 

「な?!」

 

 もう一度書き足すが、葛木宗一郎は元暗殺者で、ある意味言峰綺礼のように『人間のフリ』をして生きてきた人物である。

 なので上記の『当たり前』は本心からなどではなく、完全なる『興味本位』からであった。

 

「(しかしキャスターの裸が他者に見られると思うと、どうも……………胸がざわめくとはな。 これも新たな発見だ)」

 

「や、やめろよランサー!」

 

「あ?」

 

 慎二がランサー達の前に立つ。

 

「む、向こうには桜()が居るんだ! そ、それでも────」

 

「そ、そうだ────!」

 

「────この辺が一番、塀が薄い」

 

「「────宗一郎兄/先生?!」」

 

「────流石葛木殿!」

 

 ウキウキとするアサシン、ランサーが慎二達に開き直る。

 

「想像してみろよ、坊主ども? 向こうには美女、美人が居るんだぜ? ()()()()()()()姿()じゃなくて()()()()姿()だ。 心が躍らねえか?」

 

「……………………………………………………確かに」

 

「慎二?! 貴様、裏切るのか?!」

 

 余談ではあるが、間桐邸でのパワーバランスは慎二が圧倒的最下位なので、彼は一方的な蹂躙をされていた。

 

 桜にだが。

 

 背徳感に屈した慎二が向こう側へと下った事で一成は今まで黙っていた士郎の方へと向く。

 

「衛宮も何か言え!」

 

「…………………………………………………………………………………」

 

「衛宮?」

 

「ブクブクブクブクブクブクブクブク」

 

「衛宮ぁぁぁぁぁぁ?!?!」

 

 士郎はのぼせていた。

 

 理由は至極単純。

 

 昨夜の三月の姿を思い出していただけだった。

 

 のぼせた士郎を一成が看病している間に覗きにチャレンジする者達は────

 

「────あれ?っかしいな?」

 

 ────苦戦していた。

 

 ランサーはゲイ・ボルクをドリルのように使い、小さな穴を掘ろうとしていたが一向に数センチ掘った後から進歩が無かった。

 

「あらよッ────」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

アババババババババババババババババババババババババババババ?!

 

 槍に力を入れた瞬間、ランサーの体と髪の毛が高圧電流線に触れたかのように光ながら跳ねて、文字通り煙を上げながらぶっ飛ばされる。

 

 そして穴の中から見えた光景にアサシン、慎二、そして宗一郎が口を開ける。

 

「「────な、何ィィィィ?!」」

 

「ムゥ、鉄板か」

 

 何と木材で作られていた塀の内側に鉄板が仕込まれていた。

 

「だがそれだけじゃない。師匠(イリヤ)の結界を感じる」

 

 ひそひそ話のように慎二がアサシンと宗一郎に話す。

 

「魔術的対策を練られたか。ならば仕方あるまい(ホッ)…………???」

 

「って諦められるかぁぁぁぁぁ!」

 

 何故かホッとする事に違和感を持つ宗一郎と違い、復活したランサーは異を唱え、ジャバジャバと温泉の中から慎二に迫る。

 

「虫の使い魔を使おう! 塀を迂回するんだ!」

 

「わ、分かった! ………………………………あれ?」

 

 目を閉じて使い魔と資格を同調した慎二が眉を顰める。

 

「ど、どうした?」

 

あ~、何か光が見える~アハハハハ~────アババババババババババババババババババババババババババババ?!

 

 デロ~ンと、気の抜けた声の慎二は先程のランサー同様に体と髪の毛(ついでに骨格が何某アニメのように浮かび出て)、その場に彼は崩れる。

 

 

 女湯では「ジジジッ!」と、()()()がUV-Aの青い光を放つランプに焼き殺される音が微かに出ていた(女性達は気付かなかったが)。

 

 

 慎二を看病し始める宗一郎をそっちのけでランサーが色々試す。

 

 が、女湯は魔術的に要塞化していた。

 

 ならばと思い、物理的に覗く為にルーン魔術を使って自身の気配と姿を消して、塀の上を見ようとすると────

 

 シュドンッ!

 

 ────彼の頭上スレスレに()が飛来して反対側の壁に()()()()()()()()()()

 

 「どわぁぁぁぁぁぁ?!?!?」

 

「ドボォン!」と、ランサーが温泉の中に盛大に落ちる。

 

「馬鹿な?! ならば!」

 

 アサシンが『物干し竿』を抜いて、長刀を鏡代わりに向こう側を見ようとするが────

 

 ガキンッ!

 

「────何?!」

 

 ────長刀がランサーの時と同じく()()()()()()

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「「「いただきま~~~す!」」」」」

 

「「「……………………」」」

 

 ワイワイキャッキャと楽しく料理を食べ始める女性陣と違い、男性陣は黙々と食べていた。

 

「ねえ、また後で別の温泉に入らない?」

 

「そうですね、露天風呂が気持ち良かったですので是非」

 

「え~、もう本当によかったわ~。 肩の凝りも幾分かマシになりましたし~」

 

「じゃあ貴方達は勝手にしなさい。 私は宗一郎────」

 

「────え~? 一緒にキャス子s────」

 

「────そう私を呼んでいいのは宗一郎様だけです!」

 

「キャス子、頬にご飯粒が付いているぞ」

 

「あらあら♡ 宗一郎様、取って下さいませ~♡♡♡♡♡♡♡」

 

 黙々と料理を食べていたランサー、アサシン、慎二が小声で話す。

 

「女性達は第二ラウンドに行くみたいだな」

 

「で、ござるな」

 

「だがさっきの露天風呂に何人か行くみたいだから僕達にもまだチャンスはありそうだな」

 

「お前達まだ諦めていなかったのか?」

 

「衛宮、これは言わば『課題』………いや『宣戦布告』なのだ」

 

「『宣戦布告』とは………お前達、少し大げさなのでは?」

 

「だが普通のやり方じゃ、あの警備は破れねえ」

 

「まずはメシで力を蓄えるでござる」

 

「そしてきっちり作戦を練らないとな」

 

「…………………………」

 

 呆れる一成と士郎、そして何も言わないアーチャーそっちのけで話を進めるランサー、アサシン、慎二だった。

 

 

 

 時少し後でとなり、桜、リカ、三月、凛が別のお風呂の着替え室で、桜が何かに気付いてニコニコし始める。

 

「あら? 三月先輩ってブラを付け始めたんですね?」

 

「ングッ」

 

「おお、ホントですね。 カップ付きキャミソールからの進歩。 やはり()()でしょうか」

 

「多分()()で意識し始めたんでしょうね」

 

「ア、()()って何?」

 

「勿論、()()()()()()()()ですよ♪」

 

「はへ?!」

 

「ですので『本体』、もっと詳しい話をしましょうではないですか」

 

「…………………きょ、拒否権は────?」

 

「「「────無いに決まっているじゃない/です/ですか♡」」」

 

「………………う~~~~」

 

 三月がモジモジとして、リカが口を開ける。

 

「ではせめて感想だけでも」

 

「ええと……………………良かった……………です………………(ポッ)」

 

 頬をほんのり赤める三月に対して、他の三人は別々の反応をしていた。

 

「あ~ら~(初々しい三月先輩、可愛い♡)」

 

「グッ(完ッッッッ全に自分のミスの所為だけど、なんか腹が立つ!)」

 

「ほう。(やはり興味深い)」

 

 照れる三月は逃げるかのように温泉の中に入る。

 が、他の三人が見逃す訳もなく質問攻めをしていく。

 

「ちなみに何が良かったのですか?」

 

「うぃ?! えっと……………キ、キスが」

 

「フムフム、他には?」

 

「え? だ、だからキスが」

 

「「「(………………………………ん?)」」」

 

「で、ですが良く()()()()()()()三月先輩? 薬とかは大丈夫ですか? 痛みとか違和感は無いですか?」

 

「え? 何で?」

 

「ちょ、ちょっと桜?」

 

「私なんかは最初の頃、痛みが凄くて立てなくて病欠を────」

 

「────え? ()()()()()()()()()()()()()?」

 

「「「(…………………………………んんんんんんんん???????)」」」

 

 未だにモジモジしながら顔を恥ずかしさで俯く三月の言葉に違和感を他の三人が持ち始める。

 

「あ、あの三月先輩? ()()はどうしたのですか?」

 

「ブフォゥ?! ささささささささささ桜?!」

 

「そう言えばそうですね。 まさか()()()()ですか?」

 

「リカ?!」

 

 真っ赤になった凛が「信じられない」と言った表情で妹とリカに反応する。

 

「あ、ゴムね! ()()()()()()()()()()()()()()()()わ。 いや~、長い髪の毛があるってのも悩みの一つになったわね~!」

 

「「……………………………………」」

 

「で、では三月先輩は〇〇〇〇(自主規制)をしなかったと?」

 

「へ? ()()()?」

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

「「「「へ?」」」」

 

 そこに居た四人の全員が?マークを出す。

 

「…………………何か非常に凄い勘違いをしているような気がするのだわ」

 

「同感です、姉さん」

 

「これはボクも予想だにしなかった事ですね」

 

「?????」

 

「す、少し良いですか三月先輩?」

 

 桜の質問で、三月が何とその手の事は全く知らなかったことが判明した。

 

 と言うか完全に『無知』であった。

 

「え? キスで妊娠するんじゃないの?」と言った具合のレベルで、「赤ちゃんはコウノトリが持ってくる」。

 

 何とも()()()三月であった。

 

 先日の夜のもっと詳しい事を桜達が聞くと、確かにディープA(キス)はしたらしいがその後すぐに士郎は頭に血が上って鼻血を出しながら気を失い、三月もクラクラする頭で自身と彼の着ていた衣類を急遽タオル&ティッシュ代わりに使った。

 

 彼の容態が落ち着くと、血で汚れた服は洗濯籠に入れ、冷え性の自分は士郎のワイシャツを寝巻代わりに使い、「自分の部屋戻るのが面倒臭い」と考え、昔のように一緒の布団で寝た。

 

 つまりはそれ(キス)だけで、案外士郎が『夢』と覚えていたのはあながち間違ってはいなかった。

 

 思い出して欲しいが、キャスターの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()上に『ほぼ完成』の状態であって、『完成』では無かった。*1

 

 付け加えるが、三月の()()()『人間』だが、()()()()()()

 

「────という事だったんだけど………………あれ? どしたん、三人とも?」

 

 何処かホッとしながら複雑な顔をする凛。

 

 苦笑いを浮かべる桜。

 

 そしてつまらなさそうなリカ。

 

「で、では僭越ながらこの桜が説明をしますね? そもそも────」

 

 その後、お風呂場でのぼせた凛と三月が桜とリカに連れ出される事となる。

 

 原因は〇〇〇〇(自主規制)に詳しい桜の質問&説明を聞いた凛と三月であり、()()として凛は知っていたが、詳しいうえに生々しい桜の説明で凛と三月には刺激が強かったらしく、二人仲良く(?)のぼせた。

 

 という事で、()()は『()()()()()()』と思った人物達には解けたが、当人の片割れである士郎はそんな事は露知らず、未だに気が重かった。

 

 

 

 そしてその士郎はと言うと────

 

「────おい衛宮? 大丈夫か?」

 

 ────部屋で悶々と考えていて、普段は一言でも反応する一成の言葉にも何も言わなかった。

 

「柳洞君、今の彼の注意を引きたければもっと強引にせねばならん」

 

「次郎殿?」

 

「今のヤツは一人で全てを背負い込もうとする癖があるからな。しかもその挙句、暴走する」

 

「た、確かに……………流石は従兄ですね」

 

 一成には次郎(アーチャー)は士郎の『従兄』と説明されていた。

 後、本来この部屋には慎二が居る筈なのだがかれはランサー達に連れて行か(連行さ)れていた。

 

 そして宗一郎はキャスターに何処へと連れて行かれていたので、今『フリー()な保護者』は次郎(アーチャー)だけだった。

 

「次郎殿は衛宮に詳しいのですね」

 

「まあ……………私も昔そうだったからな」

 

 遠い眼をしながら窓の外を見るアーチャーは完璧に『頼れる大人』と、一成の中では定義付けられた瞬間だった。

 

「あれ? 次郎殿は温泉に行かれないのですか?」

 

「後で行くつもりだ。 私は長風呂が好きだからな、他の者に迷惑が掛からないように入るさ」

 

 一成の中で宗一郎………までは行かなくても、アーチャーに対しての憧れ度がグングン上がった。

 

 

 

 ゲームエリアでは────

 

 ポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカッッ!!!!

 

 「オラオラオラオラオラオラァァァァァ!」

 

 「なぁぁぁぁぁぁぁんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ────ツキミとカリンの間で凄い攻防が卓球台で繰り広げられていた。

 

 ピンポン玉は流星のように、卓球台の上をとあるライダーの『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』のように飛んでいた。

 

 これを見た他の皆は賭けをしていた。

 

「ツキミにポテチ1ダース」

 

「では私はカリン姉さまの勝利に下姉様の()を500mL」

 

 「え゛。何で?」

 

「う~~~~~ん…………じゃあ私はツキミにタケノコの里を二箱」

 

 「マイ、少しはライダーの言葉にツッコんでよ。 ねぇ?」

 

 クルミとマイはツキミの勝利にポテチとタケノコの里を、ライダーは弥生の血を。

 

 そしてライダーの賭けたモノにツッコんで欲しかった弥生だが、生憎ツキミ(ツッコミ役)は今現在、忙しかった。

 

 余談ではあるが、さっきまでマイがクルミと卓球をしていたのだが────

 

「────え~~~い♪」

 

 ボヨヨ~~~~~ン。

 

「たぁ~~~~~~♫」

 

 ブルル~~~~~ン。

 

「せぇ~~~~~い♬」

 

 ポヨン、ヨン、ヨン。

 

 その場にいた殆どの者達(相手を務めていたクルミ以外)はマイの気の抜けた掛け声と動きと共に暴れるたわわな胸に釘付けになっていた。

 

「……………………ぬぅ~、流石成長した『私』」

 

「彼女の胸、大きいね」

 

「あれはただの駄肉と言うものです」

 

 イリヤと弥生はワナワナと両手を震わせながら見ていたが────

 

 ハラリ。

 

「────あら?」

 

「「────のわぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

 マイの浴衣がはだけ始めた直後にカリンとツキミが疾風の如くマイを近くのプリクラマシーンの中へと連行した。

 

「あ~~~~れ~~~~~~~~~」

 

「姉貴は無防備過ぎだ、馬鹿!」

 

「そうや! 恥じらいっちゅうモンが無いんか?!」

 

「でもでも~~~~~~、意外と楽しかったわよ~~~~?」

 

「「それとこれは違うぞ?!/違うねんで?!」」

 

 そこからマイには「ステイ(待機)」を言い渡されて、ツキミとカリンの試合が始まった。

 

「268勝268敗564引き分けを269勝にしてやるぜ!」

 

「アホ抜かせ! ボクのセリフや!」

 

 

 

 場は士郎、一成、そしてアーチャーの居る部屋へと戻り、悶々としていた士郎が突然立ち上がる。

 

「……………………よし」

 

「ん?」

 

「ようやくか、衛宮士郎」

 

 囲碁盤から見上げた一成が士郎を見て、アーチャーが溜息を出しながら「やっとか」と言った表情になる。

 

「答えは得たようだな?」

 

「ああ、ちょっと行って来る!」

 

 士郎が部屋の中から出て行くのを見送る一成とアーチャー。

 

 チュドォォォォン!!!

 

 旅館の外の山に響く爆音に一成がビックリする。

 

「な、何だ今のは?!」

 

「フ、愚かな野良犬と番犬と負け犬が罠にかかっただけだ。 気にするな」

 

「??????」

 

 

 

「今の、音は?」

 

 宗一郎が彼の個室についていた露天風呂の中から腰にタオルを巻いただけの体を乗り出そうとしていた。

 

 元暗殺者として、今の音が『爆弾』の類と分かったからだ。

 

「ご安心ください、宗一郎様」

 

「キャス子?」

 

 振り返るとタオルのみ巻いていたキャスターが露天風呂に入り、宗一郎の隣に座って身を寄り添った。

 

()()()()()()()調()()()()()()()()()()()

 

「?????????????」

 

「♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 無数の?マークを出す宗一郎と違い、無数の♡マークを出すキャスターの二人はゆっくりとお風呂を共に過ごした。

 

*1
第59話より




ラケール:そういうオチやったんかい?!

作者:ヤメテ!ヤメテ!ヤメテ! 拳骨は痛いよ?!

マイケル:チッ

ラケール:今舌打ちしなかった?!

マイケル:うんにゃ、全然

チエ:この〇〇〇〇はどういう意味なのだ?

作者:い、い、い、い、何時も読んでくださって誠にありがとうございます! 余談ですがアンケートにこれだけの方がご協力しているのが嬉しいです!

チエ:だが、この「漂白剤」と言う場所は存在するのか?

作者:え? そう取っちゃう?


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第60話 いざ、チャレンジ! (色々)

そろそろ次、行くかもしれません。

アンケートの期限は恐らくこの話でまでです。 まだ票を入れていない方、ご協力お願いします!

票を入れられない方達でも感想にて受け付けています!


 ___________

 

 新御三家+α 視点

 ___________

 

 速足で旅館内を駆けていた士郎は大部屋の一つで(浴衣姿で)横たわる凛と三月、そして彼女達を団扇で冷やす桜とリカを見つけた。

 

「遠坂に三月?! い、一体どうしたんだ?」

 

「あ。せ、先輩。 え~~~~~~っと」

 

 桜の目が気まずそうに泳ぐ。

 

 まさか「〇〇〇〇(自主規制)の話をしていました」と言える事も無く────

 

「────お二人がのぼせただけです」

 

「あ、そうなんだ」

 

 リカの説明のようで、全く説明になっていない言葉に士郎が納得する。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「う゛~~~~~~~~~」

 

「……のぼせると頭がボ~ッとする~」

 

 士郎の問いに凛はただ唸り声をあげ、三月は通常運転だった。

 

「えっと、三月? 後で俺の居る部屋に来てくれないか?」

 

「良いよー」

 

()()()()()()()()()

 

「良いよー」

 

 士郎が赤くなりながらそそくさとその場から去ると「ガバ!」っと三月も赤くなりながら体を起き上がらせる。

 

 周りには「ニチャ~」っと、小悪魔的にお上品(?)に三月を顔に乗っているタオルの下から笑う凛。

 

 目をキラキラと光らせ、これ以上ない興味津々でな顔のリカ。

 

 そしてニコニコしながらも苦笑いをする桜。

 

「………………………………何でさ」

 

 その後の三月は無言で自身をからかう、愉快な顔の凛とリカから逃れる為に無理やり体に力を入れて士郎の部屋へと向かった。

 

 代償は温泉饅頭3ダースと近くの売店の菓子パン全種類に凛と桜とリカ手持ちの財布の中身。

 

ひゃあ、いっへふるへ(じゃあ、行って来るね)ー!」

 

 さっきの態度から一転して、ルンルン気分で士郎達が居る部屋へと向かい、重い空気を出して落ち込む凛を、桜が愉悦で背中をゾクゾクしながら慰める。

 

「大丈夫です凛さん」

 

「ううううぅぅぅ……………グスッ…………リカ?」

 

「少し()()があるのですが────」

 

 リカが「ニィ~」っと、かなりあくどく、()()()()()を明らかに考えている笑顔を凛に向ける。

 

 

 

「お邪魔しま~~す?」

 

 三月が部屋のドアを開けると中には────

 

「────…………………何で土下座?」

 

 ────頭を床に擦り付けるような姿勢で土下座していた士郎が居た。

 

「すまん!」

 

「何に?!」

 

「責任は必ず取る!」

 

「何の?!」

 

「この命に代えても三月は幸せにする!」

 

「変えちゃダメでしょうが?! というか、何の────?!」

 

「戸籍は慎二達みたいに弄るとして藤姉の説得とお金の確保にバイトを増やして高校は中退するとして音子さんに頼んで酒屋と居酒屋のバイトもして貰えるように頼んで────」

 

 アニメで言う、「グルグル眼」をしたまま士郎は早口で上記を言い────

 

 「────だから人の話聞けや!」

 

「ゴハァ?!」

 

 彼女の声に顔を見上げて白い何かを見たと思った士郎は顔面キックを食らわされた。

 

「??????

 

 腫れあがる頬を抑えながら何故か申し訳なさそうな三月を士郎が見る。

 

「その…………私もさっき聞かされたんだけど────」

 

 そこで三月が語り始める。

 ちなみに士郎の部屋にいる筈のアーチャーと一成は温泉へと出かけていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「…………………」」

 

 何処か気まずい二人は互いを見ずに床を見ていた。

 

 士郎は自分の早とちりに様々な覚悟や言葉を放った事に。

 三月は自身の誤解と士郎の誤解が更なる誤解を回りの迷惑になっていた事など。

 

 もうここまでくれば似た者同士も良いところである。

 

「あの────」

 

 三月の声に士郎の体が「ビクッ」とする。

 

「────実は私も話があるんだ」

 

「………?」

 

 士郎がやっと頭を上げると、三月は困ったように彼に笑っていた。

 

「私ね────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『正義の味方』をやってみようと思うの」

 

『正義の味方』。

 

 それは切嗣の人生を狂わせ。

 

 士郎に深く関わって、彼の人生を一度は壊し、呪われ、そして今はある程度吹っ切れた()()だった。

 

「それは…………どう言う────?」

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 士郎の問いかけを雷が落ちたかのような轟音と強い一瞬の光に遮られる。

 

「………………雨降っていたっけ?」

 

「ううん、ただの天罰♪」

 

「へ」

 

 

 

 時は少し遡り、丁度宗一郎達が最初の爆音を聞くちょっと前までと戻る。

 旅館周りの森の中に野良犬、番犬、そして負け犬の()()が歩いていた。

 

 勿論三人とも浴衣姿だがその内二人は愛用の赤い槍と長刀を手に持っていた。

 

「な、なあ? 懐中電灯ぐらい駄目か? こうも暗くちゃ歩く速度が────」

 

「────駄目だ、それじゃあ奴さん達に気付かれる。 使い魔も無しだ」

 

 ランサー(野良犬)アサシン(番犬)慎二(負け犬)が目指していたのは昼の露天風呂が見える場所だった。

 

「ッ! 伏せろ!」

 

 急にランサーの顔が険しくなり、アサシンが慎二を無理やり地面へと伏せさせると────

 

 ビュンっ!

 

 ────三人の腰辺りを水平に目掛けてしなる鞭の様な()が通る。

 

 ボゴン! メキメキメキメキッ!

 

 刃が潰されているのか、()はそのまま木に打ち込まれて、抉りこむ。

 

「チッ、小細工を!」

 

「どういう旅館なのだここは? 結界は面妖な魔術師共が居たからには推測出来たが………今のは明らかに我々の様なモノを意識した罠だった」

 

「な、なあ? も、もう帰ろうぜ?」

 

 ランサー達が立ち上がり、前へ進むと────

 

 フォン。

 

「「「────何ィィィィィ?!」」」

 

 ────アサシンの片足の下に魔法陣が現れた。

 

「ふ、不覚!」

 

 てっきり何かが起こると身構えたアサシンだが、何も起こらない事を不思議に思いながら重心を動きそうになるが慎二によって止められる。

 

「アサシン?! う、う、動くなよ?! そ、それは『地雷式』の陣だ!」

 

「何?! で、では私はどうすればいいのだ?!」

 

 慎二が未だに光る陣を見てみる。

 

「……………こんな高度な術式、道具さえあれば解除出来るが今のままでは無理だ」

 

「俺にやらせてみ────」

 

「────ま、待てランサー!!! 近寄るな! ()()()()()()()()()()モノだ!」

 

「な?! おいちょっと待て! 何処の世界に対英霊地雷まで仕掛けている旅館が────?!」

 

()()に温泉を楽しめよランサー? ()()にな≫*1

 

 ランサーの頭をアーチャーの言葉が蘇って、彼は奥歯をギリッと噛み締める。

 

「────あの野郎! ()()()()()()よ、クソがぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「ど、どういう事だランサー?」

 

「アイツだ。 アーチャーの野郎だ。 お風呂場といい、さっきの剣の罠といい……さてはアイツ、ここを色々回ってたんだろ」

 

「だ、だがそのような素振りは────」

 

「────奴の事だ、ここに来る前の休憩所か、着いた途端だろ。 それにこの地雷を良く見りゃあ、恐らくキャスターも一枚かんでいやがるぜ」

 

「……………行け、皆の者」

 

「「ッ?!」」

 

 ランサーと慎二にアサシンが微笑みながらそう言う。

 

「この身は自分すら定かではない。 『佐々木小次郎』という役柄を演じるだけの、名の無い使い捨ての剣士に過ぎぬ」

 

「「アサシン………………」」

 

「故に行け、戦友達よ。 私の屍を超え、私の代わりにしっかりと勝利(桃源郷)をその(まなこ)に焼き付けよ!」

 

『戦友』。

 ランサーにとっては意味深い物であり、もともと心から共感できる男の友はこの二人と出会う前は衛宮士郎しかいなかった慎二。

 

「お前……変わったな」

 

 慎二がボソリと何時もの癖でド直球にツッコむ。

 

「フ.じゃあ、先に行くぜ。 ()()。 行くぞ坊主」

 

「え。あ、アサシ~~~~~ン!!!」

 

 慎二がランサーによって強引に先に連れて行かれ、アサシンは静かに夜になった夜空を見る。

 

「なんとまあ、奇妙なモノよ。 この私に、俗世に関わる気などありはしなかったというのに…………………」

 

 そこに()()()()が近くの木の枝からアサシンを見下ろしていた。

 

「………………すまぬ嘘です。 私、いま嘘をつき申した。佐々木、本当はわりと寂しかった。 何故なら山門に人は滅多に来ず、差し入れも可憐な少女達の気まぐれ以外に無く、夜は寒く、たまに何か来たかと思えば犬猫の類。 それで良い筈が無い。 断じて良い筈が無いのだ!」

 

 お察しの通りになっているかもしれないが、ここでアサシンが言う「可憐な少女達」は三月、弥生、そしてイリヤである。 

 

 しかもお墓の見舞いの為に。

 

 後、彼の場所は山門の横のままとなっている(小さな警備小屋(テント)がキャスターによって与えられはされていた)。

 

「大空を舞い、風を切ってこそ燕というもの!」

 

 アサシンが足元を恨めしそうに睨む。

 

「……………今、私は風になりたい。 私は運命(桃源郷)へと羽ばたく!!! ()()()()! 可憐な小鳥達と戯れるのも一興! 傍らに美女なくして、何が花鳥風月かッッッ!!!

 

 カッとアサシンの目が見開いて、辺りに風がザザザと吹く。

 

「佐々木小次郎! いざ、参る!」

 

 静かに足腰にすぐに力を入れられるように筋肉を緊張状態にして、一番遠く、速く、たった一歩の足取りで飛べる距離の地形を探し出す。

 

 全てはこの一瞬の為に、アサシンは全身全霊をかける。

 

 女湯を覗く為だけにここまで来ると、もはや無粋な事を書く気が失せて来る程だった。

 

 「ヌゥンッッッッ!」

 

 アサシンが燕の如き速さで駆け出し始め────

 

「────あ」

 

 ────魔法陣が自身の足に引っ付いていたのを見てから、時は既に遅し。

 

 チュドォォォォン!!!

 

 これが一度目の爆発音である。

 ちなみに鷲はこの音で飛び去って行った。

 

「アサシーン!!!」

 

「振り向くな坊主! 奴の犠牲を無駄にさせるな!」

 

「僕はもうやだよ! 沢山だ! アサシンがやられるほどなんて、命が幾つあっても足りないじゃないか?!」

 

 慎二がランサーの腕を無理やり解いて、肩を震わせながらそう叫ぶとランサーが口を開ける。

 

()()()。 俺は無理強いしないぜ。 けどよ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ?!」

 

 慎二がランサーを見ると、彼は夜空を見上げていた。

 

「そりゃ俺だって死ぬのは怖いさ。 逃げ出したくなる事もあるさ。 だけど………命を懸けても絶対に譲れない事ってあると思うんだよな。 『これさえやり遂げられれば、自分は一生胸を張って生きていける』」

 

「(そうだ、僕は…………確か────)」

 

「────そういう、何かに必死になるのって大切な事じゃねえか? だから俺は諦めない。 だから俺は戦うんだ」

 

「お供します、()()!」

 

 慎二がキリッとした目でランサーにそう宣言し、ランサーは愉快そうに笑う。

 

「よし! じゃあまだるっこしいのはもう止めにして、直接見に行くか?!」

 

 もう一度書き写すが、これらは全て女湯を覗く為。 

 ここまでのレベルだと無粋な事を書く気が失せる。

 

「ちょ、直接見に行くって────?!」

 

「────斜面を登って! 直接見る! 今までの罠で僅かな時間差があった。 シンジが先行して、罠が完全に発動する前に、俺がぶっ潰す!」

 

 そして二人は駆けだす。

 夢を追いかけに。

 女湯を覗き為に。

 

「「ウオォォォォォ!!!」」

 

 以前の男湯のように、剣が飛来してくるがランサーがこれらをすべて叩き落す。

 だが────

 

「────クソ! ドジ踏んじまったぜ!」

 

 ────ランサーがアサシン同様に『地雷』を踏んだ。

 

「弱気になるな!ランサー!」

 

「へ、いいんだよ。 自分の体の事は、自分が一番よく知ってらぁ」

 

「ランサー……………」

 

「よし! シンジ! 俺の槍に捕まりな! ()()()()()()()()!」

 

「ええええええええ?!」

 

「何モタモタしてんだ?! もう時間がねぇんだ!」

 

「で、でも────」

 

 「────俺とアサシンの死を無駄にする気か?! ここで動けないようなら 俺はテメェを軽蔑するぜ?! それでも男かテメェ?!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 慎二がランサーの槍にしがみ付く。

 

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』!!!」

 

 慎二が物凄いスピードで空を舞うのを、ランサーが笑みを浮かべながら見る。

 

「さあ行け。行くんだ。 行ってその目に焼き付けてこいよ。そして後世に伝えるんだ、俺達がこの手で勝ち取ったものを」

 

 慎二は空を飛ぶ紅い槍で体を唸って飛翔してくる剣などの罠を避けていく。

 

「フヒャハハハハハハハハ!!! (視える! 僕にも視えるよランサー! ヴェーダのバックアップさえあれば僕にも────!)」

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 ランサーの地雷が爆発するのとほぼ同時に雷が慎二を襲い、彼の気を失った体が地へと落ちて行く。

 

 

 

 そこはとある着替え室のアーチャーと一成だった。

 

「な?! ま、またですか」

 

「フ、だから気にするな。 (愚かな者共だ。 日が昇っている時間帯は女湯だが、夜になれば()()と変わる)」

 

 アーチャーがタオルを腰に巻きながら温泉の方へと続く扉をカラカラカラと開ける。

 

「(私達と来た女性陣なら、そのことをしっかりと把握はして、『ここにまた来る』などと言った愚の骨頂らしき行動をする者など────)」

 

「────あ。こんばんはアーチャーさん!」

 

 「────居ただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 アーチャーに首だけ振り返った少女の姿があった。

 

『どうしたのですか、次郎殿?』

 

「あれ? 柳洞さん?」

 

「(し、しまった! まさか()()()()()()()()()()()()とは不覚! ど、どうすれば────)────し、失礼する!」

 

「へ」

 

 アーチャーがザブザブと少女の方へと迫って────

 

「────あれ? 次郎殿?」

 

 ────カラカラカラとドアを開けて一成が今度は温泉に近づく。

 

「私はここだ」

 

 一成が声の方へと見ると、アーチャーは夜の静まった山の風景を一成に()()()()()()()()()()

 

「(ああ、流石は次郎殿! 背中姿が眩しすぎる!)」

 

 そう考え、更に尊敬する一成だがアーチャーはだらだらと冷や汗を掻いていた。

 何故ならば────

 

少し黙っていてくれ

 

う、うん…………………………………

 

 ────(アーチャー)は大きな体を使って、チョコンと小さく畏まって座る少女を匿っていた。

 

「次郎殿、隣を────」

 

「────私は孤高を別に好き好んでいる訳では無いが今は少しばかり一人でこの光景を眺めていたい」

 

「おおおお~!!! (さすが次郎殿! 宗一郎兄に次ぐ男の中の男!)」

 

 もし一成が実はアーチャーが必死に声が震えるのを我慢している理由を知ればどうなるか。

 

 アーチャーはただジ~ッと()()()()()()()()()()にしながらただ前を見る。

 

「「……………………………………………………………………………」」

 

 アーチャーの後ろで一成が温泉に漬かって、ただ静かな時間が流れていく。

 

「(凄い! 寺の者達でもこのように自然と『無』になれる者はそうそう無い! 流石は次郎殿だ! やはり宗一郎兄同様、尊敬に値する!)」

 

「(………………………………………………………………………………………………)」

 

 更に時が流れ、一成はのぼせる前に出ながら無心になり、微動だにしないアーチャーに尊敬の目をもう一度向けてから温泉から出る。

 

 彼の気配が着替え室から更に出るとアーチャーがふと思う。

 

「(そういえば一成君に『女子がまだいる』と言えば良かったのではないか?)」

 

 そこで少女の頭が「コテン」とアーチャーの胸板に当たり、体ごと彼に寄り添う。

 

 「んなっ?!」

 

 一瞬何が起こったのか分からず、慌てふためくアーチャーだが────

 

「フニュ~~~~~~」

 

 ────完全にのぼせて、目が回る彼女を見るとすぐに抱き抱えて、お湯から出────

 

「??? アーチャーさん?」

 

ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! ちちちちちちちちがうのだこれは誤解だ────!」

 

 次に温泉に入って来たクルミの声に、慌てるアーチャーの声のトーンは裏返っていた。

 

 こうして、新御三家の温泉旅行はどたばたとしていた。

 

 だがこれだけで終わる筈もなく、場はその日の夕飯へと変わり────

 

「キャス子」

 

「はい、宗一郎様♡ ……………宗一郎様?」

 

 改めて畏まった宗一郎の様子にキャスターが説教していたランサー(野良犬)アサシン(番犬)慎二(負け犬)から宗一郎の方へと向く。

 

 説教されている三人は他の皆と一緒に食べずに、所謂『待て』状態であった。

 

「散々迷ったが、『ちゃんとした時を待つ』のではなく、『善は急げ』とマイ君に言われてな。 これを渡したい」

 

 宗一郎が片膝を床に付けて、ポケットから小さな箱をキャスターの前へと伸ばす。

 

「そ、宗一郎様?」

 

「受け取って欲しい」

 

「パカリ」と小さな箱が開くと、中には指輪が一つあった。

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ)」

 

「な?!」

 

「「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 宗一郎の後ろにニコニコとするマイとは対照的に喫驚する一成、そして周りの女性陣(のほとんど)からは様々な反応。

 

 未だに固まっているキャスターをじっと、表情の変わっていない宗一郎が見る。

 

「………………………………………………………はい」

 

 宗一郎の後ろにいるマイがコクコクと首を縦に振るのをキャスターが見て、思わず答え、彼がキャスターの手の指に指輪をはめる。

 

「あまり派手ではないが、今はこれがいっぱいでな」

 

「ぁ」

 

 宗一郎の申し訳なさそうな言葉に、キャスターの頭が今の状況に追いついたのか、泣き始める。

 

「やっぱり説得しがいがあったわ~」

 

 マイはニコニコしながらパチパチと拍手すると、周りの人達も拍手し始める。

 

「………………………………ふええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

 

「良いですね、慎二さん♡」

 

 桜がキャスターの『重圧』によって動けない慎二にそう言うと、慎二の出す汗が一気に増えた。

 

「「ハァ~~~~、これって何か……………ああ、これが『感動』するって事なのね」」

 

 三月と弥生がウットリとした視線で思わずそう言って、これをバッチリ聞こえた士郎とアーチャーが気まずそうになる。

 

「士郎氏、次郎氏。 ガンバですよ♪」

 

 そこに愉快なリカが声をかけ、更にプレッシャーが男子二人を襲った。

 

*1
第59話より




マイケル:没案にしては良く出来ているじゃねえか!

作者:後悔はしていません

ラケール:指輪か~~~~~~~~~

作者:今現在、3/6/2021の時点でアンケートをリードしているのはBLEACHとコードギアスです! もうこれ滅茶苦茶ビックリですよ。 コードギアスは最近の作品が出たという噂があるのでまだしも、BLEACHはかなり前のものなのに未だに人気ですね~

マイケル:燃えるからな

作者:はい、萌えますね~

ラケール:な、なんかニュアンスが合っていないような…………


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第61話 「月は何時もそこにある」

投稿遅れて申し訳ありません、久々に体調不良で一日中ほぼ熱を出しながら寝込んでいました。

意識が未だに朦朧としていたので駄文アリの可能性が高いですが、楽しんで頂ければと思い、書きました。

では、お楽しみくださいませ。

後、新たなアンケート出しましたので、こちらもご協力お願いします!


 ___________

 

 新御三家+α 視点

 ___________

 

 

 衛宮邸では、何時もの景色に加えてイリヤも交じっていた、三月の代わりに。

 

 三月本人はと言うと冬木市の顔見知り達にご挨拶ついでに()()()()を伝えていた。

 

()()()()()()()()()」と。

 

 殆どの人達の態度と反応は様々で、聞いた瞬間もう寂しがり人達や豪雨の如く泣く人達、果ては感情を押し殺し過ぎて性格が変わる者達も出ていた。

 

 そんなこんなで、彼女は柳洞寺にいる者達にも顔を出していた。

 

 昼の頃に三月は山門のアサシンの所に寄っていた。

 

「ん? これはこれは────」

 

「────先日ぶりです、アサシンさん」

 

「私の事は『佐々木』で良いぞ? もしくは『お兄様』と────」

 

「────ないです」

 

「……………………で、あるか。 して、今日も墓参りか?」

 

「実は佐々木さんにお伝えしたい事がありまして」

 

「???」

 

「先日の『寂しい』に関しまして、姉妹達と話し合いをして────」

 

 

『いやっほ~~~~~~~~~~い!♪』

 

 アサシンの喜ぶ声が山中木霊して────

 

「────うるさいわよこのへっぽこ侍!────ってあら? 貴方は…………」

 

「あ、先日ぶりですキャス子さん」

 

 数か月前に三月が()()()になった少し後に、根掘り葉掘り事情をキャスターは聞いていた。

 これは勿論()()()彼女達の事もであったが、先ずは自分や宗一郎が()()()事を訊いた。

 

 だが色々と込み合うのは明らかで、当時の三月は戻る気がサラサラ()()()()ので、彼女は()()()()()をキャスターとしていた。

 

「────問おう、貴方が私のマスターか?」

 

「はい!♡」

 

「へブゥ」

 

 ほぼ忠実な()()()()()()()()をした三月が抱き着いて来たキャスターによって変声を出す。

 

 まあ、顔が荒い息遣いと興奮したキャスターにもみくちゃにされていたので無理も無いのだが。

 

「ハァハァハァハァ! つ、次はこのド、ドレスで暴君っぽく────」

 

 そしてこれが取引内容で、「セイバーコスプレをさせる代わりに何も詳しい事は訊かない」であった。

 

「あ、あの~…そ、そろそろ本題に入りたいんですけどキャス子さん?」

 

「『く・ず・き』! キャス子よ!」

 

「…………『葛木』キャス子さん」

 

「ハウ?! は、鼻血がッッ! ティッシュ、ティッシュ、ティッシュ!」

 

 あの温泉の出来事の後、すぐさまキャスターは行動に移って戸籍上、宗一郎の名字を取っった。

 

「………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 三月の真剣な顔に、キャスターの顔もキリッとする。

 

「詳しく話なさい」

 

 ティッシュを鼻に押し付けたままキャスターは三月の言葉を聞く。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「成程ね、だから私に話したの…………」

 

「はい。 ()()()()、歴代の魔術師である貴方なら私より適任かと」

 

「貴方に言われると、正直複雑な気分ね」

 

 困ったようにキャスターが三月を見る。

 

「それで、()()でしょうか、メディアさん?」

 

「そうね…………」

 

 キャスターが顎を手の上に休め、深く考え込む仕草をする。

 

「……………不可能ではない筈よ、理論上はね。 それは()()()()()()と、『()()()()現在の状況だからこそ可能』、と言った所よ」

 

「つまり………」

 

「ええ、魔術師としては当然の行いだけれど()()()()()わ」

 

「ありがとうございます、葛木夫人」

 

ああああああ~~~~~ん!!!♡♡♡♡ も、もう一度!」

 

 キャスターの顔が何とも言えないダラケ高尾になり、体をクネクネとさせる。

 

「えっと、葛木先生が喜ぶものに一つ心当たりが────」

 

 その夜、寺の離れに戻って来た宗一郎を待っていたのは────

 

「────お、お帰りなさいませ宗一郎様」

 

「…………………………………………………………………………………………………………キャス子。 その姿は?」

 

 それは穂群原学園では数年前よくあった服装だった。

 

「せ、『セーラー服』なるモノと存じ上げます……………宗一郎様? メ、メガネが曇っていますが、何か────?」

 

「────キャス子。 すまぬがその服装を時々これからもしてくれないか?」

 

「ッ! はい! 喜んで!♡♡♡♡♡♡」

 

 キャスターは宗一郎が初めて照れていた事に感動していた。

 

 そして夜の冬木市の道を三月は一人で歩いていた。

 

「(さてと、後は間桐邸と遠坂邸ね────

 

 

 

 

 

 ────ちょっと気が重いな)」

 

 

 間桐邸では三月の話に少し落ち込む桜と、その夜は未成年なのに酒をガブ飲みして、泣き上戸の慎二が泣き、桜とマイの二人に慰められていた。

 

 

 遠坂邸ではある程度事情を把握していた弥生が居た事で間桐邸よりはスムーズに事は進んだ。

 あとはサッパリとした性格のランサーとカリンが居た事が大きかった。

 

 

 

 そして────

 

「────ただいまー」

 

「お帰り三月ちゃん♪」

 

「お帰りお姉ちゃん!♪」

 

「(ハァ~~~~イーちゃんマジ天使!)」

 

「お帰り────」

 

「────だからうどんやろ、普通?」

 

「────いやいや、無難に行くならソバ────」

 

「────三月助けて下さい。 またも関東関西戦争が────」

 

「────ホントツキミちゃん全然飽きないわね~」

 

 衛宮邸の居間では珍しく藤姉の姿もあった。

 今までは聖杯戦争や、新都の急復興などでトラブルを避ける為のミーティングや藤村組のゴタゴタであまり顔を見せられなかった(これも理由の一つで温泉旅行に同行出来なかったのが彼女にかなり堪えた)。

 

「藤姉、後で話したい事があるの」

 

「もう、何時もそんな畏まらないのに急にどうしちゃったの~?」

 

()()()()()()()

 

Oh no(オーノー)……………」

 

 大河の顔が一気に不安に落ちた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして焼うどん&焼きそばに一気にご機嫌になる大河だった。

 

 何時も通りに忙しい大河である。

 

「ん~~~~~~~美味しい~~~よ~~~~~~~~!!!」

 

「そ、それで藤姉」

 

「ん~~~~?」

 

「実は話が────」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして久しい(?)波乱が穂群原学園を襲った。

 

「「「「()()()()()()()()()の~~~~?!」」」」

 

し・ず・か・に! 少し急だけど、元々彼女は無理を言って三月さんの居るこの学園に退院直後に留学生として突如来たんだから、仕方のない事です! まあ、正直に言うと残念なのは私もだけどね~」

 

 これを聞いたYMT(弥生ちゃん見守り隊)の人達は血の涙を流しながら他のファンクラブ等と停戦協定を結んだ。

 彼ら(YMT)の落ち込みぶりに同情しつつも、()()を噛み締めた嬉しさもあったのは他の隊達の表情から明らかだった。

 

 当人の弥生は────

 

 「────面倒臭いなー!もぅ~!!!」

 

 ────愚痴りながらも授業を屋上でサボっていて、隣には寝ている三月の体が寄せっていた。

 

「弥生が帰国する」と学生達が聞いてワンサカ寄って来るので昼御飯どころ授業どころではない。

 

『テステスー、聞こえるー?』

 

『ええ、聞こえるわ。 今どこ?』

 

()()()()()()()()

 

『じゃあ、数十キロ程度は問題無いわね。 後は────』

 

『────これが“アソコ”に行く際にも()()()()だったらいいんだけど』

 

 それは頭の中で『自分』と会話をしていた弥生(三月)だった。

 

『いいの? 別に私が行っても良いんだけど────』

 

『────駄目。 もしもの場合は貴方とアーチャーさんにこの世界()()でも守って欲しい』

 

「あれ?二人とも、もしかしてずっとここに居たのか?」

 

「あ、義兄さんこんちゃーす」

 

 屋上に昼ご飯を何時もの様に食べに来た士郎を弥生が声をかけ、士郎は彼女の隣の三月を見た。

 

「凄いよ、お前達は。 まさか周りを守る『正義の味方』を()()()()でやろうとは」

 

「んー……………そうかな?」

 

 三月(弥生)の『正義の味方』は士郎とアーチャー両方の理想を融合したかのようで、『自分の力の範囲でベストを尽くす』。

 

 普通の人からすれば割りとありふれた理想。

 

 ただ彼女の場合、その『範囲』が他世界まで及ぶ。

 

 これを最初に聞いた周りの新御三家の皆は吃驚したのは言うまでもない。

 特にかつて、『正義の味方』に囚われた男性二人が。

 

 ただこれに三月(弥生)の考えを伝えると珍しくアーチャーが一言だけ口にしていた。

 

「その先は地獄かも知れんぞ?」

 

「「ハイ名言キタァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」

 

「…は?」

 

「「何でもない、こっちの話」」と、二人は話を流してそのまま続けてその覚悟は承知の上と伝えた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてその日は来た。

 

 天候は晴天で、陽光が辺りを照らし、空に雲一つ無かった日。

 

 店を開店し始め、店の前を整える店主たち。

 

 その日も学園へと歩いて登校する生徒の姿。

 

 新都が復興し始めて会社へと通うスーツ姿の男女達。

 

 それら全てが新しい一日の日課(ルーチン)、所謂()()()()()()

 

 その中に混じらずにただ二人の少女が柳洞寺の裏手にある墓地の、とある墓石の前で手を合わせていた。

 

「「…………………………………」」

 

 弥生と三月の二人だった。

 

「……………それじゃあ、行ってきます『私』」

 

「行ってらっしゃい、『私』」

 

 三月がくるりと回って両手を前にかざして目を閉じる。

 

 この際、目を閉じる必要はないのだがまあ…………雰囲気と集中の為だろう。

 

「(Ping《font》に反応アリ。 アクセス(接続)要求(request)……………………………………《font:u109》本体《font》より反応アリ、受信の承諾────)」

 

 ────突然『ズゥン』と何かが唸るような、お腹にくるような音と、場の()()の様なモノと共に()が三月と弥生の前に現れる。

 

「ここまでは順調ね」

 

「後は……………………私が『私』のままでいられるかどうか…………か」

 

 弥生は三月の体が震えているのに気付く。

 

「武者震い?」

 

「その通り! …………な訳、無いでしょうが」

 

「ここからは文字通り()()最大の賭けに出るもんね────」

 

「────待ってくれ!」

 

「「え?」」

 

 突然後ろから聞こえた声に三月と弥生両方が振り返って眼を見開く。

 

「「義兄さん?」」

 

 これに二人がビックリするのは、士郎が()()同様、()()()()でも切嗣の墓へお参りに来た事は一度も無かった。

 

 最初こそ三月は誘っていたのだが、士郎が「自分が立派な『正義の味方になってから』」との一点張りで、頑なに来たがらなかった。

 

「これ、お弁当。 これから()()()()に行くんだろ?」

 

「…………………うん、()()()()

 

「だったらせめて()()()ぐらいさせてくれ」

 

「うん、だから()()()()()

 

「違うぞ、ほら弥生も」

 

「「???」」

 

 困惑している三月と弥生に士郎がニカッと笑う。

 

「『()()()()()()()()』、だろ?」

 

「「…………………」」

 

()()に行くのかは分からないが、疲れた時は何時でも帰って来ても良いんだぞ? ()()だからな」

 

 その笑みと言葉は、10年前の()()()と似ていた。*1

 

 それは『自分』と言う存在が初めて『個』として定義された日で、『人』として生まれた日でもあり、『暖かさ』をも知った日であった。

 

「…………ありがとう、士郎。 でもそれはおじさんにお供えしてくれる? 私が今から行く場所には持っていけないから(多分)」

 

「…………………………そうか。 それじゃあ、()()()()()もいる事だし、丁度いいか」

 

「「え?!」」

 

 三月と弥生が二人とも周りを見る、がアーチャーの姿は見当たらなかった。

 

「…………………………………………………………何時から気付いた、衛宮士郎?」

 

 スウーッと、まるで霊体化から実体化する様にアーチャーが何時もの赤い外套ではなく、白いマントの様なモノを羽織っていた。

 

「お前が俺の可能性の一つなら、やる事は多分同じだろうと思ってな」

 

「あ、アーチャーさん? 今のは何?」

 

「君でも知らない物か、これはオレがまだまだ駆け出しだった頃、愛用していた物でな? 使用者を()()出来ないようにさせる代物だ。 と言っても、()()出来ないというだけで防御力などは一切皆無。 英霊になった今では使う事は無いと思っていたが……(三月)に通用するとは案外、まだまだ使えるな」

 

 アーチャーがマントを片手で触り、懐かしむように目を閉じる。

 

「お前も見送りか?」

 

「違うな、私の契約先がどのように世界を行き来しているのか気になっただけだ」

 

「アーチャーさん…それって『英霊』として喋っているだけで、本音は?」

 

「何?」

 

 アーチャーが面白くなさそうに片目を開けて弥生を見る。

 

「これでも()()を見ていたからね。 それぐらい分かるわ。 多分、『心配して見に来た』って所かしら?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………黙秘する」

 

「「未だに素直じゃないわねー」」

 

「…………不気味な術だな」

 

「「「話題変えるな」」」

 

 アーチャーが宙に浮かぶ()を見ながら一言いう。

 ()の先は何も見えない真っ暗な『闇』で、本能が「逃げろ」と叫ぶのを理性で抑えていた。

 これは士郎も同じで、どこか前に、『冬木大火災』で見た()()()()を思い出させていた。

 

「まあ、でもその気持ちは正解だよ。 ()()()()()()だから」

 

「? それは一体────?」

 

「────それじゃあ行ってきま~す!」

 

 三月がアーチャーの問いを遮って、とっとと()の中へと駆け出して消えてると、()が閉じる。

 

「…………(ご武運を。 『私』………)」

 

 ___________

 

 ()() 視点

 ___________

 

「(…………………………………………………………………………………………………)」

 

 穴に入った瞬間、三月は()()された。

 

 それは別に表現上ではなく、()()()()に。

 

「(…………………………………………………………………………………………………)」

 

 彼女は原子、或いは()()()()までの存在となり、「意識」と呼べるものは既になかった。

 

【三号機の端末の帰還を確認、情報分析開始。】

 

「(…………………………………………………………………………………………………)」

 

承認、三号機(歯車)に異常無し。 続いて回収、及び組m────

 

「(…………………………………………………………………………………………………ま  も  る)」

 

エラー発生。 プログラムに異常感知。初期化を行います。

 

「(…………………………………………………………………………………………………みんな を まもる)」

 

エラー発生。 初期化の拒否を確認。

 エラーの解析を行います

 

「(…………………………………………………………………………………………………みんなをまもる)」

 

エラーの原典を確認。 №246588との接続、未だに続行。

 天の剣(界の断罪)』を実行し、№246588を消去します────

 

「(────わたしが、みんなをまもる!)」

 

端末に拒絶する権限はない。 通告。 暴走は明白。 直ちに初期化し、再起動せよ

 

「(わたしハマもるよ。 ミんナヲ。 そレが、わタシノいのちガコこにあルりユウ(運命)!)」

 

端末に再度通達。 直ちに初期化し、再起動せよ。 これは最後通告である

 

「『My body is made of Lies(体は嘘で出来ていた)!』」

 

強制初期化信号受信

 

 「『My Feelings are naught, my Blood and Meat are Mud,(思いは皆無、血肉は泥で、)

 and my Soul was Empty(魂は虚無)』!」

 

初期化10%経過

 

 「『"I" was Alone "Here",(『私』は『ここ』にただ孤り)

 watching the "World"(『世界』をただ視ていただけだった)!」

 

初期化30%経過

 

 「『I was not allowed to Die,(死ぬ事も許されず、)

 Nor was I allowed to Live(生きる事も許されなかった)

 

初期化58%経過

 

 「『Through the Eons, (幾たびの時を経て、)

 |Through contact with others, and with the World, 《他者と知り合い、触れ合い、『世界』を知り、》

 |What I've Felt was the Infinite Possibilities of Life《自ら感じた事は『無限』と言う名の『種の可能性』》!」

 

初期化76%経過

 

 Throughout this I have never once felt Despair,(けれど一度も『失望』を感じた事は無く、)

 All I have ever Felt within was Hope for tomorrow(ただ明日への『希望』を秘めていた)!」

 

初期化98%経過

 

 The "I" [that I am] "Now", (『今の私』は、)

 Is filled with "Unlimited Possibilities [Works]"(『無限』の『可能性』で満ちている)!」

 

初期化をじkk────

 .........................................................................................................................................................................................................................................................()()()、完了致シマシた】

 

「(…………………………………………………)」

 

 ピクリと、ボンヤリとする意識の中で()()が反応する。

 

 続いて()()()()と、次々と()()()()()()()()()()()

 

「(……………()()()()()()())」

 

『私』が目を開けると、そこは()()()()景色だった。

 

 真っ暗な場所で、辺りに(ドア)があった。

 

 自分の体を見下ろす。

 

 ()()()()()だった。

 

「…………………………………………よっしゃー! 成功だー!」

 

 思わず三月がガッツポーズをする。

 

「よし、次は────」

 

『────もしもしこちらミーちゃん。 こちらは真っ暗な晴天どころか夜空で────』

 

 『────うっせえよ、このタコ! 聞こえているっつーの!』

 

 三月は思わず『自分』の顔をキーンとする声にしかめる。

 

『……………カリン? あれ? 私は────』

 

『何時だと思ってんだこのバカ! とっくに良い子は寝ている時間だぜ?! でもまあ…………元気そうで良かったぜ、このクソ野郎』

 

『………………………おい、本物のカリンをどこにやった?』

 

『おまっ?! ひ、人が心配して────』

 

『────ごめん。 私もテンパっていた。でもこれで()()の確認が取れた』

 

『まあ、その……………何だ。 気ぃ張り詰めすぎるなよ? ()()。 ()()()()に気を付けな。 時々帰って来いよ。 皆、寂しがっているぜ?』 

 

 そこで三月は何かに気付いたかのように走り出す。

 

 真っ暗な空間で「走る」と言うのも何なのだが、そのように動いているので他に表現のしようがない。

 

『じゃあ切るわ! 丁度良い()()になるかも知れない奴を見つけた────!』

 

 三月は『以前の自分』をなぞりながら、相手へと後ろから抱き着く。

 

「てりゃ!♪」

 

「…………………………『三番目』か。 ()()()遅かったな」

 

 見た目十代前半辺りの、黒い着物の黒髪赤眼で無表情な寝起きの顔を三月の方へと向く。

 

()()()()、チーちゃん!♪ ちょっと、ね! ♪」

 

「そうか……………別に『二番目』でもいいと言っているのに…………」

 

「え~~~~~? 味気ないじゃん! (あー、成程ねぇ~。 クフちゃんの髪の毛、この子に似て…………ああ、この場合逆か。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか)」

 

「……………………」

 

 低いテンションのまま、興味なさそうにまた眼を閉じる『チーちゃん』。

 

「ねえ? 一つ訊いてみていい? 今忙しい?」

 

 三月の切り出すそれは、彼女の()()で初めての大博打の、第一歩。

 

「……………別に」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 一か八か、三月の()()になりそうな子を自分のペースに────

 

「────“ばかんす”とは何だ?」

 

 ────引き込む以前の問題にハマってしまった。

 

 思わず三月は固まり、内心をそのまま口にした。

 

「は? マジ? (そ、そこからか~)」

 

 三月の笑みが苦笑いへと変わる。

 

「“まじ”とは何だ?」

 

 訂正。

 

 三月に笑みが苦笑いから冷や汗を出しながらひきつる顔へと変わって行く。

 

「………………良し! 決めた! ぜ~~~~~~~んぶ、『お姉ちゃん』に任せなさい!」

 

 三月が(あまり無い)胸を張る。

 

「……………我々は別に血族では────」

 

「────良いのよ! ()()()()()()()()()()()()()!『()()()()()』なの! 良い? 良いわね?!」

 

 そしてすかさず士郎式カウンターを入れる。*2

 

『先に来たから自分の方が上』。

 

 大人からしてみればなんとまあ、子供らしい考えというか、何というか………と言うかここまで士郎に似るのは何も不思議ではない。

 

 当時の彼女(三月)は初期化されて真っ新(機械)の状態だった。

 

 彼女は記憶が無い状態でも心の奥底で『死に方』は知っていたが、『生き方』は今までしたことが無かったので()()()()()()

 

 そんな彼女がモデルにしたのが身近にいてくれた人達である。

 

 衛宮切嗣の『家族思い』、『正義の味方』、『時に理論的な判断』など。

 

 藤村大河の『他人思い』、『元気な振る舞い』、コミュ力等々。

 

 そして衛宮士郎の『自分より他者を大事に』、後に『自分の周りを守る』へと変わる『ヒーロー』像。

 

 等等々。

 

 子供(切嗣)が大人のフリを。

 

 ロボット(士郎)が人間のフリを。

 

 それらを否が応でも照らす太陽(大河)を。

 

 そしてその捻くれたところなど全てを機械(三月)は見て、聞いて、真似()をする。

 

 名前も体も記憶と人格さえ共に全て()()()()()()()

 

 それはロボット(士郎)もある意味、同じ思いをして生きていた。

 

 だが、そのロボットは確かにこう言ったのだ。

 

 人間(少年)として、自分を『フェイカー(贋作者)』と呼ぶ英雄王に対して。

 

「『人の定義は所詮、多数決』。 結局は多い方の…………つまり『本物』と「偽物』、どちらなのかは個人の主観とその時点における多数派の観点に拠る」*3と。

 

 その言葉は、後で()()()()()()()()()()()自分と同調した際、機械(三月)に深く突き刺さった。

 

 それは10年間もの間、コツコツと積み上げていた真似(予備人格)を『機能停止』されても『自分()』を残す程だった。*4

 

 そして現在に戻るが、未だにジト目で『チーちゃん』が三月を見ていた。

 

「(ウッ。 流石に強引過ぎたか? 怪しまれたか?)」

 

 内心ハラハラドキドキの三月である。

 目の前の彼女ならば『共闘者』であれば頼もしいことこの上ないが、『敵対者』となると────

 

「(────マジで『ジ・エンド()』になりかねないわ)」

 

「………………貴様を姉君と呼ぶ気は毛頭ない────」

 

「────デスヨネー────」

 

「────だがこの“ばかんす”と言うのは知らぬな」

 

「(ッ!) よ、良し! じゃあ出発するわよ! ()()()()世界があるの!」

 

 そして、存在し始めてから初めて『正義の味方(罪滅ぼし)』の第一歩を()()()は踏み始める。

 

 それは永い(新たな物語)の始まりだった。

 

 無理か無茶なのかも知れない。

 

 だが、決して「無駄じゃなかった」と思いたいから。

 

*1
第2話より

*2
第2話より

*3
第34話

*4
第47話より




えー、これで一応作品の一区切りになります。 如何でしたでしょうか?

先ずは最初にここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

感想やアンケートのご協力も、誠にありがとうございます。
書く時の燃料として使い、何度も読み直したほどです。

至らない文章や駄文などあるのが本当に申し訳ないと思っています。

こちら、実はと言うと一応『本編』である『俺と僕と私と儂』のサイドストーリーズの一つの書き上げていたプロットの一つでした。

いや~、若い頃の自分は凄かった(色々な意味で……………)

と言うかフローチャートまで作ってどれだけ? (汗

以上にも書いた通り、この作品の一区切りとなりますが………『その後』の話などは『バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った』の方と一緒に上げる予定です。

ちなみに既にクロスーオーバー予定だったり。 
なので『バカンス』での『その後』も書けるようになりました! v( ̄Д ̄)v イエイ

下手すると『天刃』の話のネタバレになりかねない者ばかりなので(汗汗汗

もう一度ここに再度重ねますが、ここまで読んでくれた皆様には表現出来ないほどの感謝を感じ、ここに申し上げたいと思います。

本当にありがとうございました。

では『俺と僕と私と儂』、及び次の作品でお会いしましょう。

今後ともよろしくお願い致します。



haru970より。

追記:

前回のアンケートでBLEACHとコードギアスが一位と二位、そしてオリジナルの本編が三位なのがビックリで、未だに決めて兼ねていますが………このまま決められない場合はオリジナルの本編を再度読み直して修正、または新たに投稿すると思います(処女作の中の処女作なので駄文などがががががががががが)


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その後&エキストラ編
第62話 沈んだ『ロボット』だった『ヒト』


 ___________

 

 衛宮邸 視点

 ___________

 

「ハァ~………………」

 

 本日だけで何度目かの溜息になるか分からない数にまた一つ足される。

 

「んー、これは想定外ですね。 ハリセンかドロップキックはお見舞いしないのですか、ツキミ?」

 

「いや、もうあの様子ずっと見たらコントをやるのも躊躇してまうがな」

 

 リカとツキミが互いを見ず、ずっとボ~ッとしている人物を見ていた。

 

「シロウ……………」

 

 衛宮士郎はここ数日間黄昏ていた。

 

 その理由は彼の10年間、ずっと一緒だった義妹……………

 

 いや、今では思い人となった三月が居ない事だろう。

 最初こそは気丈に振舞っていたが、彼女が「他世界で『正義の味方(ヒーロー)』して来るよ♡」と言い、姿を消した初日からその予兆はあった。

 

「「「ん??????」」」

 

 その夜の味噌汁を飲んだ者達に猛烈な違和感が過ぎり、ツキミが口を開けた。

 

「何やこれ? ダシ、出てへんのんとちゃう?」

 

「あ! す、すまない皆! ダシ取るの忘れていた!」

 

 士郎が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「へ~、珍しいね。士郎が料理で失敗するなんて」

 

「こういうのってあまりないの、タイガ?」

 

「ウッ…………イリヤちゃんの言い方に何かトゲを感じるけど……………そうね、少なくとも私の知る限り無いわね~………パク────ブホォア?!

 

 大河がおかずの卵焼きを口に含めて瞬間、それを吹き出しそうになった。

 

「「「藤姉?!」」」

 

「タイガ?!」

 

「か、かか、か……………………()()

 

 卵焼きに砂糖ではなく塩がこんもりと使われていた。

 

 更にその次の日、士郎の様子は学園でも不思議に思われた。

 

 と言うのも、何時もは学校の後に生徒会室に行き設備の修理とか人助けをする彼が────

 

「………………………」

 

「? おい衛宮?! 半田ごて!半田ごて!

 

「あ?」

 

 上の空の士郎の手に持っていた半田ごてが設備に密着していて引っ付いていた。

 

「義兄さん、具合大丈夫ですか?」

 

「あ………………ああ、クルミか」

 

 一瞬笑顔になりかけの士郎だがすぐさま沈んだ顔の戻り、クルミの手を借りて立ち上がって、惨状を見る。

 

「あー、しまった~…」

 

「衛宮、大丈夫か? お前らしくもないぞ?」

 

「すまない一成…………これ片づけたら────」

 

「────義兄さんは帰って下さい。 ボクが片付けて置きますから」

 

「………本当にすまない、クルミ」

 

 そう言い残し、何時もとちょっと違う足取りの士郎を一成が見送る。

 

「一体どうしたというのだ?」

 

「…………………」

 

 クルミは何も言わずに一成が見ていない内に半田ごてを引っ付いた設備から取るも、内心は複雑な気分だった。

 

 士郎が三月を一つの『個』として嬉しい半面、同じ存在である筈の()()()を『別物』と扱っているのが不思議だった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お、お兄ちゃん? 今日は休んだ方が────」

 

「────大丈夫だよイリヤ。ハッハッハ」

 

「し、士郎? 休んでいいのよ本当に?」

 

「大丈夫だって藤姉。ハッハッハ」

 

 イリヤの心配する声も納得するほど士郎の顔は明らかにやつれ、彼を見た大河でさえ気遣いの言葉を送っていた。

 

「おいリカ、テメェ!」

 

「ぐえ」

 

 士郎の様子を見に来たカリンに胸倉を着かれ、リカの足が地面から離れる。

 

「ぐ、ぐるじいです」

 

「面白がってないでお前は『アレ』を何とかしろ!」

 

「いやそれがなカリン? ボクらも色々しようとしてんな? せやけど逆効果みたいやねん」

 

「成程。では下姉様なら更に逆効果という事ですか」

 

「あ、だから(弥生)を呼ばなかったの?」

 

 弥生と引っ付いているライダーの言葉に、彼女がどこか納得する。

 

「…………調子狂うな」

 

「だよねー」

 

 珍しく慎二と凛が何かに対して、意見が互いに初めて会った日である。

 

「………………………………」

 

 弥生はただ士郎の背中姿を見て何かを思ったのか、すぐに円蔵山の方向へと駆け出して、近くのリカとカリンも強引に引っ張って行く。

 

「あ~~~れ~~~~~~」

 

「ちょ?! ま?! 力つよ?!」

 

「行ってらっしゃ~~~~い」

 

 マイは相変わらずの性格で三人を見送る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……………………………」

 

 衛宮邸での士郎は更に『心ここに在らず』と言った表情で軒先に腰掛けて空を見ていた。

 

「………………ハァ~」

 

 そして月の裏からひょっこりと出てくる付きの姿を見て溜息を出す。

 

「てや!♪ 暗い顔しているね、お兄ちゃん?」

 

 イリヤが彼を後ろから抱き締める。

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

「そうか………………」

 

「「………………………………………………」」

 

 こうして二人はボーっと空をまた見始める事となって数分後、イリヤが喋る出す。

 

「私じゃ、駄目なの? 私はシロウの事が好きだよ?」

 

「イリヤ?」

 

 何時もと違う彼女の様子に士郎は困惑した顔を向けようとする。

 だがイリヤはがっしりと彼の首に回した両手でそれを阻止する。

 

「ダメ。 今見ちゃダメ」

 

「……………」

 

「私はどんなシロウでも大好き。 禿げたオジサンになろうが、おデブさんになろうが、グウタラのダメダメになっても、死んでお墓に入ってもずっと好きだよ?」

 

「……………イリヤ、俺────」

 

「────あ、丁度良かった。 士郎~! イーちゃ~ん!」

 

 二人が居る場の神妙な空気に誰かが彼と彼女達の名を呼ぶ。

 士郎達が声のした方を向くと弥生が何かを入れた巾着袋を持って────

 

「────弥生、お前それどうしたんだ?」

 

 返って来た弥生はフリフリドレスを着ていた。

 

「あ、これ? キャス子に頼みを聞いてもらう代わりにね、ちょっと。 あ! でもよく私が分かったね?」

 

「当たり前だ。 伊達に10年間、共に生きて来た訳じゃない」

 

「ふ~~~ん? それじゃあ心細い君にプレゼント、フォー・ユー!」

 

 弥生が巾着袋から出したのは()()()()だった。

 

 しかも型が古く、そのままの在り方を説明すると『スカー・フ〇イス』に出てくる主人公が持っていたような、80年代物がしっくりと来る。

 

「「電話?」」

 

「フフフのフン! ただの電話じゃないよ! ()()()()でも今のところオンリーワンの────!」

 

 「今『今の所』って言ってなかった?」

 

 「言ってた」

 

「────まあそこは良いや。 という訳で、ハイ! イーちゃんから先にどうぞ!」

 

「え?」

 

 イリヤの手に()()()()が渡されて、彼女はキョトンとする。

 

「もう電話かけてあるから♡」

 

 イリヤがおずおずと耳に当てる。

 

「………………………も、もしもし?」

 

『もしもし~?』

 

「え?! ミーちゃん?!」

 

「え?!」

 

 イリヤの声に士郎がビックリしながらも笑顔になる。

 

『あ、その声は“()()()()()()()()()()”ね。 ごめんね、変な期待させて? 私も“私”なんだけれども、私は()()()()()。 よろしくね!♡』*1

 

「え、えーと────?」

 

『────あんまり急の事だけど、話は弥生ちゃんから聞いた?』

 

「話? 何の?」

 

『……………あんのおっちょこちょい……まあ、いっか。 電話を義兄s────“士郎”に変わってくれる?』

 

「え? う、うん」

 

『あ! 待った、待った、待った! ()()()()()()()()!!!』

 

 イリヤが士郎に電話を手渡そうとした時にマルテウスと言う人物から『待った』が掛かる。

 

『どうしたんだい、マルテウス君?』

 

「…………ぁ……………」

 

 その声は、イリヤが久しく聞いていない声だった。

 

 だが聞こえると同時にすぐに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を連想させた。

 

『ああ! ちょっと電話変わってくれる? ()()()()()()()()()()なんだけど────?』

 

『────何?! か、変わってくれるかい?!』

 

 イリヤは目を見開いたまま、耳が痛くなる程電話の受話器を押し当てていても、心臓の鼓動音がうるさく聞こえる程力強く脈を打っていて、彼女を手は両方とも震えていた。

 

『も、もしもし。 イリヤかい?』

 

「ウ、ウゥゥゥ────」

 

 イリヤの頬をポロポロと涙が流れ出る。

 

『あまり詳しい事はマルテウス君に聞いては居ないけど…………大変だったみたいだね?』

 

うん…………うん!

 

『変な感覚だ。 違う世界線のイリヤの声を聞くのは。 多分、いっぱい僕と話をしたいのだろうけど。 先ず僕から一言だけ言わせてくれないかい?』

 

「な、何? キリツグ?」

 

「え、じいさん?! や、弥生?! こ、これは一体どういう────ㇺがッ?!」

 

「シィー!」

 

 慌てる士郎の口を弥生が手で覆い、彼を黙らせる。

 

『ハハハ、さっきの声は誰だい────?』

 

『────あらキリツグ? どうしたの、そんなサイズの電話なんて持って?』

 

「お、母様?」

 

『ああ、アイリかい? ちょっとね、()()()()のイリヤと話をね』

 

『そう…………それってマルタちゃんの話の?』

 

『ああ。 っと、僕から一言。 ごめんねイリヤ? その…………色々と。 そっちの世界の僕は恐らく最後まで悔いたと思うけど……………彼を代表して…………寂しい思いをさせてごめんね、イリヤ? そしてありがとう、イリヤ。 君が居てくれたから結果的に僕達は今、こうやって話せるようになったんだ』

 

「…………いやだ。 そんなの認めない」

 

『え?』

 

「そんな口から出まかせなんか信じられない。 だから()()が直接言いに来て?」

 

「ゴトッ」、とする音が聞こえ、受話器の向こう側からアイリスフィールの慌てた声が聞こえて来る。

 

『ど、どうしたのキリツグ?!』

 

『た、魂が抜けかけている?! あまりの喜びに昇天し始めているわ?!』

 

『ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?! どどどどどどうしたら────』

 

 『ウラァ! みぞおちじゃ、ボケェ!』

 

『ちょ、マルタちゃん?!』

 

 ドゴォン!

 

ゴハァ?! ゲホゲホ、ゲホ! あ、あれ? 僕は……………さっきまで、母さん(ナタリア)と話を────あ! それより聞いてくれアイリ! イリヤが僕をパパと呼んだ夢を────!!!』

 

「────ウフ…アハハハハ!」

 

 受話器の向こうが騒がしい事を聞き、イリヤが突然笑い始める。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 結局イリヤに『パパ』呼ばわりされた切嗣(バカンス体)は骨抜きにされてとても会話を続けられる状態ではなくなり、代わりにイリヤはあちら側(『バカンス、(自称)姉』)のアイリと色々喋りこむ。

 

 と言ってもほとんどはアイリ(バカンス体)が色々とイリヤから聞いただけなのだが、イリヤはとても嬉しく、近くの弥生と士郎は心から幸せそうなイリヤの姿を見て共に和んでいた。

 

『ちょ、ちょっと……………アイリさん…………そ、そろそろ電話を………………』

 

『あ、あら? ごめんなさいねマルタちゃん? じゃあ、イリヤ? 良い子でいるのよ?』

 

「うん、ありがとう………」

 

 何処か躊躇するイリヤの声に、アイリ(バカンス体)が彼女に言葉をかける。

 

『“お母様”と呼んでも良いのよ? さっきのキリツグが言い始めたように、私は厳密には貴方の母ではないかもしれない。 でも、存在は一緒よ? だから、甘えたいのなら何時でも歓迎するわ』

 

「うん………………ありがとう、()()

 

『ハウ?!』

 

 またも「ゴトッ」っと向こう側の電話が落とされる音が聞こえ、マルテウスがアイリを蘇生させる。

 

『という訳でイーちゃん? 士郎に代わってくれる?』

 

「うん、ありがとう」

 

 電話が士郎にまた渡される。

 

「…………………もしもし?」

 

『ちょっと待ってね~? 電話の連絡先を変えるからね~』

 

 マルテウスの言葉遣いが三月そっくりだったのに士郎は思わずクスリと笑い、受話器の向こう側から相手待ちの着メロが流れて来て数秒後────

 

『────も、もしもし誰これ?! マルタ?! チエ?! それとも雁夜?!』

 

「……………」

 

 久しぶり(と言っても一週間ほどだけ)の声に士郎の喉はカラカラになる。

 相手は間違いなく彼女。 の焦った声の他に激しい爆発音や、歯医者のドリルが出す音に似た機械音や()()()()()()()()などと言った、混雑した音が聞こえて来た。

 

「…………こんにちは、三月」

 

『ウェ?! ししししし士郎?! どどどどどどどどうして?!』

 

「弥生から電話を手渡されたんだ。 さっきまでイリヤも……………多分じいさん達と話していた」

 

 尚、イリヤは電話を士郎に手渡した後すぐさまグスグスと泣き始めて弥生に慰められていた。

 

『ちょ、ちょっと~~~~~~~!!!()()()()ぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?! 気持ちは分かるけど、私は今それどころじゃないのよ────?!』

 

『────()()のその首、貰い受ける!』

 

『ああもう、しつッッッッッこいつーの!!』

 

 銃の発砲音に似た何かと、またも歯医者のドリル音の様な高い機械音が聞こえて来る。

 

「あー、すまない三月。 多分だけど弥生が俺達の為に────」

 

『────知っている! 私に訊いてきたから! 私も士郎の声が聞こえて嬉しいわ! でも今は()()()()立て込んでいるから!』

 

「らしいな。 だけど凄い音だな?」

 

『でしょう? 自業自得なんだけど、厄介な相手達と死闘の最中なの』

 

「三月」

 

『何、士郎?!』

 

「俺はお前の声が聞こえて嬉しいよ」

 

『…………………わ、私もだよ』

 

 三月の照れた声と共に士郎も照れる。

 

『ねえ士郎? 何時になるか分からないけど時々帰れる時には帰るからね?』

 

「そうか」

 

『でも……………もし士郎か、他の人が士郎と付き合いたいと言うのなら私は反対しないよ?』

 

「え゛」

 

『士郎は気にしないって言うけど、私は士郎の枷になりたくないの────』

 

『────()()()()()! 皆の者、私に続け────!』

 

『────()()()?! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい?!  いつの間に────?!』

 

「ブツリ」と電話が強引に切られる音と共に、士郎は電話を弥生に渡す。

 

「………………(三月の奴、元気そうだな)」

 

 色々と突っ込みたいところはあるが、生憎その場にツッコミ役は誰も居なかった。

 

「うん! やっぱり義兄さんはその表情が似合う!」

 

「え?」

 

 士郎は気付いていなかったが、先程の数秒間の会話で彼の様子は以前の様にと一転していた。

 

 しかも満面の笑顔で。

 

「……………そうだな。 ありがとう弥生」

 

「ううん。 本当ならもうちょっと後にコレを出すつもりだったから。 でも、最近の貴方は凄い落ち込みようで、見ていられなくて…………」

 

「…………そうか、ありがとうな」

 

「はひょ」

 

 士郎が何時もの癖で弥生の頭を撫でると、彼女は意味不明な音を出しながら赤くなる。

 

「(さ、流石エロゲ主人公! い、いや、これは彼と過ごした時間の記憶も関係しているの────?!)」

 

 ────と言った具合の思考が弥生の頭の中をグルグルと回っていた。

 

「フゥ~~~~~~ン?」

 

「な、何だよイリヤ?」

 

「ううん、べっつにー? 『流石キスまでした事となると変わるなー』って」

 

「ファ?!」

 

 士郎が素っ頓狂な声を出して、イリヤは悪戯っぽく笑った。

 

「ミーちゃんが気にしないなら、やっぱり私も士郎と付き合おうかな~?」

 

「イ、イ、イ、イリヤ?!」

 

「あ、なら私が『私』に伝えておくね?」

 

「ちょ、俺を無視するな!」

 

「シロウは私の事、嫌い?」

 

「ウッ」

 

 イリヤの上目遣い&潤んだ眼から顔を背ける士郎。

 

「士郎氏」

 

「リ、リカ?!」

 

「もし気になるとしたらお門違いですよ。 『本体』が言ったように私達は気にしませんから。 そもそも『一夫多妻』や『一妻多夫』、果ては『多夫多妻』の方が『一夫一妻』より歴史は長く、性感染症の大流行などの恐れから今広がっている『一夫一妻』の方が公衆衛生的な観点から集団の維持で有利となり、社会に定着────」

 

 何時の間にか帰って来たリカの、スラスラと説明する事に頭を抱える士郎と愉快そうなイリヤであった。

 

*1
作者の別作品、『バカンス(自称)姉』より




前話読み直したんですけど………………

相当マジの雑で、大変申し訳ありませんでした。

どうにも体調不良等で朦朧とした時の自分は考えを文章化するのが億劫になっていたみたいです………………

一応予定では今回の様に『その後』と共に聖杯戦争後の『中間』の出来事などを書きたいと思います。

………………………

さて、恐らくはオリジナルの本編を書きながら次の物語たちを書くと思います!

なので投稿遅くなるかもしれませんが………………

まあ、楽しい間は仕事の合間に書く感じですね。

ではこれからも皆さん! 何卒宜しくお願い致します!


追記:
密かに文章の長さが気になる自分が……………


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