ゆるく行こう~野クルの男子部員~ (Akila?)
しおりを挟む

ふじさんとスープと少女

ゆるキャン△書いてみました


「…さむ」

 

自転車のペダルを漕ぎながら呟いた独り言は、

近くに人がいれば聞こえていただろう

 

都会の雑音が無い周辺だからこそだが、

それに比例して人もいない

 

 

彼は、山道の上り坂を立ち漕ぎしながら

景色を眺めた

 

澄んだ空気と木々は、やはりとても気持ちが良い

 

これから向かう場所と行う事の高揚感が合間って

逸りそうになる気持ちを我慢しながら、漕ぎ続ける

 

途中あるトンネルの出口から差し込む光に入ると……

 

目的地が見えてきた

 

 

「…おお……」

それを見て、小声だが思わず歓声を上げる

 

青空を反射している湖……汚れも無くて、澄み切っている

 

感動した彼だが、顔を上げて少しだけ残念そうになった

 

 

「雲がかかって見えない……」

 

本来目の前に聳え立っているだろうそれが、

今日は雲がかかって見えないようだ

 

「…まぁ、良いか……」

残念だが、天気の事はどうしようもないと言い聞かせて、彼は最終的な目的地へと向かっていく

 

 

 

山梨県にある、『本栖湖』

 

彼はここにキャンプをしに来ていたのだ

 

 

 

「えっと、一泊お願いします」

「ではここに連絡先と名前を書いてください」

 

本栖湖のキャンプ場の受付場

 

眼鏡をかけた受付の男性に言われ、

彼は渡された用紙に連絡先と

 

"刈谷高彦(かりやたかひこ)"と自分の名前を書いた

 

注意事項等を説明され、高彦は外に止めた自転車に再び股がり、キャンプ場と案内された道へと入っていく

 

林道を降りて行くと、本栖湖が目の前に広がった

 

「…滅茶苦茶景色良いじゃん」

 

本日2回目の思わず出てきた感想

広大な湖が、味わった事が今まで無い解放感を覚えさせた

 

 

湖畔の一角に自転車を止めて、深呼吸を何回か

 

 

「…(やっほーー!!!)」

 

心の中でつい叫び、高彦は暫く本栖湖を眺めていた

 

 

「…さて、暗くなる前にテントとか張らないと……」

 

荷物を降ろし、買ったばかりのテントを組み立てていく

 

「えっと、これをこうして…あ、違うこうか……

あれ?あ、こうか……」

 

慣れないテント張りに悪戦苦闘する事30分……

 

 

「で、出来た………」

漸くテントを張り終えられたのは、

一時半を過ぎた頃だった

 

 

テント張りに時間がかかると計算して早めに来たが、

正解だったなぁ…そう思いながら、高彦は湖畔に隣接した林の中に入っていった

 

林の中に入った高彦は、焚き火に使うと薪を集めていた

 

「えっと…乾燥したのが良く燃えるんだよな」

事前に調べた通り、良く燃えそうな薪を探す

 

「あ、これ良さそう…これも」

探すのに苦労すると思っていたが、

意外にそこら辺にいっぱい良さそうな薪が転がっていた

 

「あと、松ぼっくりも」

 

松ぼっくりはマッチ1本で火が付く優秀な着火材と

聞いていたので、薪を集めつつ探す

 

「かさが開いてるのが乾燥して良く燃える…と」

 

これも沢山あり、そこそこ短時間で集めきる事が出来た

 

「で、集めた薪を切る……」

小さい持ち運び用の鉈で、薪を丁度良い長さと細さに切っていく

 

 

「…疲れた…でも出来た!」

 

一仕事終えた気分で

テントの前に敷いたシートに腰を降ろす

 

すると

 

「…あ、人が来た」

 

キャンプ場に1人、人が入ってきた

 

(女の子…1人か?

テント出してる……俺と同じでキャンプしに来た人か)

 

シーズンオフのこの寒い日なのに変わってる…と自分の事を棚に置きながら、何となく少女の方を見る

 

 

高彦が見ている中(凝視はしてない)少女は、

慣れた手付きでテントを張っていた

 

そして組立式の椅子…ローチェアをこれまたサクサクと組み立てていき

 

ものの数分で、完璧なキャンプ景色を完成させた

 

(は、早い……)

自分が30分以上かけていた事をサクサク済ませた少女に、高彦は素直に凄いと感じた

 

自分も慣れたらあんな風に出来るのかな…そう思いつつ、これ以上寒くなる前にと集めた松ぼっくりと薪で火を起こす

 

人生初の焚き火

 

「……これは…………良い」

本日3回目の心の声だった

 

 

 

 

キャンプ場にやって来た少女、

『志摩リン』

 

長い坂を苦労して登ってきた分、

景色と澄んだ空気が体に染み渡る気分に浸っていた

 

 

貸切状態、シーズンオフ最高…と思ったが

 

(あ、人がいた)

先客がいたことに気付く

 

シーズンオフに珍しいなと自分の事を棚に置くリン

 

(…まあ、ほぼ貸し切りって事で)

 

そう考えながら、

リンは自分のキャンプ設営を済ませていったのだった

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

(少し早いけど、ご飯作ろうか)

 

時刻は4時過ぎ

 

それまで焚き火を眺めながらボーッとしていた高彦だが、陽が陰ってきたのもあって早めながらご飯を作ることに

 

作ると言っても、具材は家を出る前に下拵えしてある

 

手提げ程のクーラーバックから

何個かの具材の入ったジッパーを取り出していく

 

まずカセットコンロを用意した

焚き火の直火を使うと鍋が煤だらけになると調べたときにあったので、家にある物を持ってきた

 

「地味にこれが一番の荷物だったな……もっと小さいのバイト代貯めて買わないと」

 

ぼやきを挟みつつ、小型の鍋にオリーブオイルを敷いて

コンロの火で温める

 

十分に温まったらサイコロ状に切ったベーコンを

良い香りが出るまで弱火で炒める

 

次に玉ねぎ、人参(これもサイコロ状)を炒め

玉ねぎがしんなりしたらジャガイモ(これもetc.)をサッと炒める(塩を入れると炒まりやすい)

 

ジャガイモに油が馴染んだら具材が浸る位の

水を加え、煮ていく

 

ジャガイモ、人参に火が通ったらトマト缶(ダイス)

のトマトとコンソメの素を入れ、もう少し煮込む

 

トマトの酸味が消えてきたら

塩、こしょうで味を整え、

チーズをお好みで入れて出来上がり

 

「ミネストローネスープ…外で作ったの初めてだけど、概ね良く出来たな」

 

自画自賛を挟み、早速出来上がったスープを器に盛り

一口

 

 

「…え、なにこれ

 

滅茶苦茶旨いぞ」

 

思っていた何倍も美味しく、驚いてしまった

 

「…これが、アウトドア飯効果………

最高………」

 

テンションを静かに上げながら、高彦はスープを

食べていく

 

 

「…満腹じゃ」

あれから何回もおかわりして、

気付けば満腹となっていた

 

「ちょっと作りすぎたな…まぁ、明日の朝御飯にすれば良いか。寒いし」

 

満腹となった高彦

 

くて~…と寛ぎながら、既に真っ暗になった景色を眺める

 

「…見事に何も見えないなぁ……月の光だけ………」

あるのは目の前の焚き火だけ

 

薄暗い…が、不思議と怖さなどは感じず

 

「…俺、暗がり好きだったんだな」

 

自分の新たな発見にホクホクした良く分からない感情に浸りながら、寛ぐ高彦

 

静かな時間を味わっていた彼

 

 

 

それに変化が起こったのは突然だった

 

 

────まっでよォー───

 

「は?」

 

何か遠くから、声が聞こえた気がした

 

気のせいか…と思っていると

 

"まっでぇーー!!"

 

再び聞こえた。今度はさっきよりしっかりと

 

「なんだ…?」

流石に気になり、懐中電灯を持って暗がりの

殆ど見えない中を進んでいく

 

 

懐中電灯の明かりを頼りに声のした方へ向かう

 

すると

 

「はっ、はっ…!!」「ぐす…まってぇ──」

 

暗がりの中で、2つの人影が見えた

 

「…なんだこれ?」

そう呟いてしまった程、良く分からない光景だ

 

どうやら誰かが誰かと追いかけっこ?、追われている?様なのだが………

 

 

ドシャアーー 「痛ぁっ!」

 

「あ、転んだ……」

追いかけていた方が、見事に転けた

 

「はぁ…!はぁ…!」

追いかけられた方は立ち止まり、全力疾走

だったのか荒くなった呼吸を必死で整えている

 

どっちも気になったが、取り敢えず見事に転倒した方へ近付く高彦

 

「あの、大丈夫」

 

ですか、と言う彼の言葉は止まった

 

俯せに倒れていた誰かが、

高彦のズボンの裾をガッシリ掴んだのだ

 

「へ?」

気の抜けた声を出す高彦

 

「───ヒゥゥゥゥ」

見下ろした彼の顔を、見上げる誰か

 

懐中電灯の明かりがその顔を照らした

 

 

涙と鼻水で顔を濡らし、転んだ拍子に乱れた髪

 

前髪が顔に張り付き、口元だけが見える

 

その見えた口から漏れ出た、空気が抜ける音

 

 

完全に貞◯だった

 

◯子以外の何物でも無かった

 

 

「タ……ダスケデェ─」「──ひ、ひぃ…ッ」

 

 

 

「でたぁぁぁぁぁぁぁ!!!??!?!?」

「な、なにがぁぁぁぁ!!!?!!?!?」

 

本栖湖に

 

 

2つの悲鳴が木霊した…………

 




明けましておめでとうございます

ゆるキャン△初投稿です
ゆるーく、書いていきたいと思います
気晴らしなどでどうぞ

オリキャラの高彦がトイレ前でなでしこに会ってないのは、なでしこがやって来る前にキャンプ場に着いたからと言うつもりです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月明かりの

「…今日山梨に引っ越してきて」

 

絶叫を上げてしまった高彦

 

今、彼は同じくキャンプをしていた少女リンのキャンプスペースで

 

 

「…えぐっ」

高彦が絶叫を上げた原因の少女と話をしていた

 

少女と話をしているのはリンで、

泣きながら嗚咽混じりの少女の話を纏めている

 

「自転車で富士山を見に来たんだけど」

 

何故に少女が一人でここにいるかと言えば、

富士山を見に来たのだと言う

 

何を隠そう、この本栖湖は山梨県の数ある富士山の絶景スポットの1つなのだ。

 

高彦も富士山を出来れば見たかったので、

何となくシンパシーを感じた

 

 

 

ああ、雲がかかってて落ち込んだだろうなと

 

さて、そうして富士山を見に来たのは良いが

 

 

「疲れて横になったら寝過ごしたと」

「へう゛」

 

そう言うことらしい

 

「あっちは坂道だし下まですぐだと思うけど」

「むりむりむりっ!、ちょうこわい!!」

(だろうな…俺でも怖いわ)

 

だが何時までもここで…とはいかないだろう

自分もだが彼女(リン)も寝袋があるだろうが、

少女は見たところ自転車以外なにも持っていない

 

「迎えに来て貰ったら?

携帯とか持ってません?」

 

高彦がそう聞くと、はっと少女は顔を上げた

 

「あ、そっか!!

スマホスマホ最近買ったスマホスマホ……

 

スマホス……マホっス」

そう言って取り出したのは

 

 

トランプ(52枚セット)だった……

 

何でだよ…そうツッコミそうになるのを抑えて

フォローしようとする高彦だったが

 

 

ぐうぅぅぅ~

 

誰かの腹から盛大な腹の虫の鳴き声が聞こえた

 

「…はぁぁ~………」

項垂れる少女から、

誰の腹からは直ぐに分かった

 

そんな少女を見て、リンは自分が持ってきた

カップラーメンを取り出して少女に差し出す

 

「ラーメン食べる?」「えっ!?くれるの!?」

 

 

「1500円」「「゜言゜」」

 

 

「…じゅっ、じゅうごかいばらいで

おねがいしまふぅ」

「ウソだよ…ウソだよ」

2回続けて言うリン

 

1回目は少女

 

2回目は…

「…わかってましたよ?」「………」

 

ジト目を高彦に向けながら、

リンは湯を沸かす準備を始めた

 

(へぇ…シングルバーナーか、良いな……

あ、そうだ)

 

何かを思い付いた高彦は、

自分のキャンプスペースへ戻っていった

 

 

戻った高彦が手に取ったのは、

先程作ったミネストローネスープの残り

 

「やっぱもう冷めてるよな」

高彦は再び、スープを火にかける

 

(…あの子、こんなに寒い所で

ずっと寝てたのか……

丈夫なのか鈍感なのか……)

 

そんなことを考えている間に、

スープが良い具合に温まってきた

 

「よし…あ、そうだ」

高彦は器を2個分用意し、

残りのスープを取り分ける

 

それらを持って、高彦はまた2人の所へ

戻っていった

 

 

「あの~」「ふぁい?」「?」

 

高彦が声をかけると2人は彼の方を向く

(少女の方は舌を火傷したのか少し舌足らず)

 

「良かったらどうですか?」

彼女達に、

高彦は器に入ったスープを差し出した

 

「え、良いんですか!?」

「作り過ぎたのだから」

 

ありがとうございます!、と受け取る少女

 

「あなたも良かったら」「え、わたしも?」

 

コクリと頷くと、リンは高彦からスープを

受け取った

 

2人はそれぞれスープを1すくい

 

「おいし~!」「…美味しい」

 

「良かった」

どうやら口にあったらしく、

家族以外で料理を振る舞ったのが初めてだったので、少し安心した

 

少女はカレーめんとスープを

テンションを上げながら食べていく

 

それは見事と言うべき食べっぷりだ

 

「…(旨そうに食べてくれるな……)

「あうっ!」!ど、どうしました?」

 

 

「…また火傷した~!!」

「…あ、そう…(何故嬉しそうなのだろう?)」

 

「…あの」「あ、はい?」

少女の食べっぷりに感心していると、

リンに声をかけられた

 

リンは少々抑え気味に言葉を発する

 

「…美味しいです。ありがとう」

「あ、うん。こちらこそ」

 

しかし抑え気味だが気持ちが

良く伝わってきて、高彦も一安心した

 

 

「ごくごく…ぷはぁ~!!

 

あっ!!」「?」

 

 

 

「…お、おいくらでしょうか……」

「良いから、それ」

 

焚き火とラーメンとスープで

温まったからか落ち着いてきた少女

 

リンは改めて、少女に話しかけた

 

「ねえ、あなた何処から来たの?」

「あたし?

ずーっと下の方、南部町ってとこ」

 

(南部町…ここまで結構遠いのに、

自転車でよく来たな……

見た目に反して体力があるのか)

 

 

「もとすこのふじさんは

千円札の絵にもなってる!

 

…ってお姉ちゃんに聞いて長い坂

上ってきたのに、曇ってて全然見えないんだもん」

「ああ…確かに。

俺も良かったら見たかったな……」

 

「ですよね!?

奥さんもそう思いますよね!」

 

 

 

 

 

 

 

「…見えないって、あれが?」

「「え?」」

 

「あれ。」

リンは少女の後ろを見ながらそう言った

 

「あれ?」

少女は後ろを振り返り、

高彦もリンの視線を辿って見た

 

 

 

そこにあったのは

 

 

本栖湖の向こうに聳え立つ、大きな山

 

かかっていた雲がいつの間にか

無くなったのだろう

 

 

月明かりに照らされた、

見事な富士山だ

 

 

「みえた…

ふじさん……」

 

少女と高彦は、その富士山の姿に見惚れた

 

高彦は山梨県在住で大きく見える富士山は

見たことはある

 

しかし月の光だけで照された夜の富士山は、

見たことが無かった

 

幻想的…そう思える見事過ぎる富士の山………

 

 

「あ」

沈黙の中声を発したのは少女であった

 

 

一時間程後

 

「このおバカ!」「へう゛っ!!」

 

やって来たのは少女の姉らしい女の人

 

どうやら少女は家の電話番号と自分の番号は

覚えていなかったが、姉の電話番号は知ってたようで……

 

その姉が乗ってきた車から降りてくるなり、

少女の頭に3連の拳骨をお見舞いしていた

 

「…うちのバカ妹が、

 

ほんっとーーーにお世話になりましたっ!」

「あ、いや…」「別に大した事は……」

 

 

「アンタ!

持ち歩かなきゃ携帯電話とは

言わないのよ!!」

「えぅ~、ごべんなざいぃっっ!!」

 

「おらぁっ!

さっさと乗れブタ野郎!!」

「いででで!!けらないで~

やめれ~、カレーめんとスープがでるぅ──」

 

…リンと並んで

 

何だか凄い光景を見ている気持ちになる……

 

 

見ている内に準備が整って、

少女を乗せた車のエンジンが付いた

 

「おやすみなさーい、

カゼひかないでねー」

「「おやすみなさい」」

 

車が少しずつ遠くなる

 

高彦とリンは、お詫びにと少女の姉に

貰ったビニール袋一杯のキウイを眺める

 

((…ラーメン(スープ)がキウイに化けた…)

お互い似た感想を心の中で述べる

 

変わった子だったな…と思いながら、

高彦は戻ろうと振り返る

 

 

 

その時

 

「ちょっとまってー!」

 

後ろから声が聞こえて、

同じように戻ろうとしていたリンと

共に振り返る

 

すると少女が駆けてきて、

軽く息を整えた後

 

「はいこれ!

あたしの番号!!」

とリン、そして高彦の手に紙を握らせた

 

「お姉ちゃんに聞いたんだー、

カレーめんとスープありがとっ!!」

 

少女は寒さで鼻を真っ赤にしながらも、

明るい笑顔を浮かべてそう言った

 

「今度はちゃんとキャンプ、

やろーねっ!!」

 

じゃーねーっ!!、と

車へ駆け戻る少女

 

 

今度こそ見えなくなった車を眺めて、

少女から渡された小さい紙を見る高彦とリン

 

そこには電話番号と

 

 

『各務原なでしこ』と、

名前が書かれていた

 

 

「…やっぱヘンな奴」「…だね」

 

 

「……まあ、登録だけしといてやるか」

「…はは……」

 

 

それから自分のテントへ戻った高彦

 

彼にとって初めてのキャンプだったが

 

 

 

 

 

 

 

「…また、やろう」

 

寝袋の中で呟いたその言葉が、

とても楽しかった事を裏付けていた

 

 

 

 

 

2日後

 

高彦は制服を来て、学校に来ていた

 

刈谷高彦、高校1年生

 

本栖高校の男子生徒である

 

「…(次のキャンプは何処へ行こうか……

それと何を作るかも決めないと…あ、その前にお金貯めた

方が良いのか?)」

 

校舎の階段を昇りながら

考えていたのは、キャンプの事

 

彼はあの本栖湖のキャンプから、

すっかりアウトドアにハマってしまった

 

元々は偶然本屋で見たアウトドア関連の雑誌を読んで、少しだけ興味が沸いて一回やってみようと思って行ったキャンプ

 

家にあったテント(両親が昔1度使ったらしい)

と寝袋を購入してキャンプに行ってみた

 

 

まさか1度でこんなにハマってしまうとは、

高彦も思ってなかった

 

大きな理由は、やはりあの富士山だ

 

夜の富士山……高彦を虜にするには、

十分過ぎる絶景だった

 

「…キウイ旨かったな」

次に思い出したのは、

キャンプで出会ったあの少女

 

各務原なでしこと言う名前らしい少女は、

とても変わった子であった

 

そして貰ったキウイはとても美味しかった

 

 

「…今度はちゃんとキャンプやろうって

言ってたけど……」

少女から貰った携帯電話は、一応登録してある

 

だが…態々かけるのは、少々憚られた

 

「またやる日なんて、あるのかねぇ」

 

そう呟きながら、

目的の階へ上り終えた高彦

 

 

 

 

「職員室は~、もう一個上か!」

「…ん?」

 

パタパタと自分の後ろを横切り、

上へ階段を駆け上っていく足音

 

 

再会は近い内にやって来る

それを今の高彦は想像もしなかった

 

 

 

 

まさかあんな再会になるとはも───

 

 

 

 

 

 

↓へやキャン△

 

「お前なぁ…こんな寒い時期に

キャンプなんかしねぇよ」

 

「あ、やっぱり?」

 

教室にて話す、高彦と友人何人か

 

話題…と言うか高彦がふった話は、

高彦が今度行くつもりのキャンプについてだ

 

高彦は友人も誘ってみた

 

返答は上の通りだったが

 

 

「お前も変わってんなぁ……

キャンプなら夏じゃないか?」

 

「いや~、なんか1回行こうと思ったら、

直ぐ行きたくなって」

 

「お前…そうだ、京都へ行こう

みたいな事を……」

 

「そんな変わってたら、

女の子と関わったり、青春出来ないぞ~」

 

 

「別に…俺女子と関わる気ないし」

 

その発言に襲われそうになったり

 

撃退したりと一悶着あったが、

高彦は予定を変わらず、初めてのキャンプ

 

 

本栖湖のキャンプへと、向かったのだった




「ブタ野郎!!」の所は書いてて思わず苦笑いして
自分のその時思った感想をそのまま文にしました


次はまた、近い内に
もしかしたらオリキャラの高彦の設定を書くかも……

では、読んでくださった方へありがとうございます!!
よろしければ次も、是非御覧下さいませ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会と久しぶり

ちょっと投稿をミスったのでハラハラしました
まだハーメルン投稿に慣れてません……




 

 

───それは、今よりも幼かった頃の思い出

 

「…ぅぇぇっ……」

 

「もう、なくなよ……」

 

「だってぇ………」

 

 

 

「…やくそく!」「へぇ…?」

 

「いつかぜったい、またあう!

ぜったい!!」

 

「…ほんと…?」「うん!ほんと!」

 

「………わかった………やくそくだよ?」

「やくそくだ」

 

 

 

「…グスン……うん…っ!」

「………じゃ、またな   なでしこ」

 

「うん、またね      たかちゃん」

 

 

 

 

「…んぁ?」

 

なでしこはムクリと起き上がる

 

今日は新しい学校へ初登校する日だ

 

 

「…また見たなぁ……あの日の夢

 

 

たかちゃん、どうしてるかなぁ……?」

 

なでしこはそう呟きながら、立ち上がる

 

 

新しい学校の制服

 

 

本栖高校の制服を手にとって

 

 

キーンコーン…

 

学校の鐘が鳴った

 

今日1日の最後の授業の鐘だ

 

帰りのホームルームを終えて、

本栖高校の生徒達が各々の

放課後の過ごし方をする

 

部活に行く生徒は活動場所に行き、

委員の仕事がある生徒はそれをこなしに行く

 

 

そして何も予定の無い生徒は家に帰ったり

 

 

学校に残って何かしらの事をしたりする

 

 

高彦は最後の生徒に該当した

 

「よし、っと…刈谷君、荷物運びありがとう。

多かったから助かったわ」

「いえいえ」

 

重そうで大変そうだった

歴史の田原と言う教師の手伝いで

校舎に残っていた

 

「…ふぅ」

「…田原先生大丈夫ですか?

もっと持った方が良かったです?」

 

「ああ、いや大丈夫だよ。

それよりお礼にお茶でも淹れるよ」

 

「お礼なんて良いですよ。

じゃ、さようなら」

 

高彦は田原に挨拶をして、

職員室から出ていった

 

「…最近田原先生疲れ気味なんだろうか……

深刻…って感じはしないけど」

 

呟きながら校舎の中を歩いていく

 

すると中庭の方で、

数人の女子生徒が集まっていた

 

「あれ…確か野外…活動サークルだっけ?」

 

記憶が正しければ同級生の女子が

立ち上げた物だ

 

高彦も興味を持ったが所属しているのが

女子だけと言うこともあって、場違いだと

断念したサークル

 

どうやらテントを張っているらしいが

 

 

「……あれ?3人いる…って、あの子…」

 

2人だけのサークルの筈だが、もう1人

彼女達とテント張りをしている女子

 

あの桃色の髪は、見覚えがあった

 

 

「本栖湖の……各務原なでしこ…だっけ?」

 

あの時の少女、

なでしこが彼女達と一緒だった。

 

「ここの生徒だったのか」

そう思いながら、何の気無しに

眺めていた高彦

 

テント張りは順調…だったのだが

 

「…ちょっと曲げ過ぎなんじゃ」

テントのスリーブにポールを通して、

端を本体の四隅にある穴に固定…の所で悪戦苦闘している

 

曲げ過ぎじゃないか──そう思った

 

 

ボキッ!

「あ……折れた」

 

…やはりポールが折れてしまった

 

3人共焦ってワタワタしている

 

そこへ助け船を渡しに来た、

1人の女子生徒

 

 

彼女はポールを直しに来たみたいで、

折れたそれをカバーの様な部品とテープで

修繕した

 

「へぇ…ああやって直すのか」

 

ポールが直り、改めてテント張りを

再会させている

 

 

…しかし、やはり上手く固定が

出来ないらしい

 

「…均等に通ってないからかな…?

だから穴に通す長さが足りない…?」

 

長さが合うように抑えながらなら………

…………………………

 

……………

 

 

「………おせっかいだね

俺も」

 

高彦は校舎から、

靴を履いて外へ出た

 

暖房が効いていない校舎の中よりも

冷えた空気で直ぐに寒くなる

 

白い息を吐きながら、

彼女達の方へ向かう

 

高彦はポールを固定しようと四苦八苦

している女子の、反対側のポールの

端にしゃがみこんだ。

 

「!あっ!

スープのお兄さん!!」

高彦に気が付いたなでしこが、

声を上げた

 

「(スープのお兄さん……)

こっち抑えてるから、やってみて」

「お、おう。分かった……」

 

高彦の言葉を受けて、再度ポールはめに

トライする眼鏡の少女

 

何とかポールを穴に通せ、

とても安心する4人と

面白そうに見ている1人

 

 

そして

 

 

「…あの人……」

その様子を見ていた、1人の少女

 

 

窓から中庭が見える図書室にて、

図書委員のリンは一連をずっと見ていた

 

 

ここの生徒だったのかと

なでしこを気にしつつ、面倒そうだと

見付からないようにしていたのだが……

 

やって来た高彦を見て、

なでしこと同じ日に同じ場所で出会った彼の事を思い出す

 

 

「あの人も同じ学校…先輩…か…?」

 

高彦の加わった一団は、

テント張りを続けていく

 

 

結局手伝いを続ける高彦と

なでしこ達は先程よりスムーズに

テントを組み立てていく

 

数分後

 

無事(?)、980円テントが完成した

 

両腕を上げて喜ぶ3人、

出しゃばった事をしたかもと思ったが、

まあ良いかと高彦は感じた

 

 

「あのっ!」

一通り人生初の建てたテントに

感動していたなでしこが、

高彦に話し掛ける。

 

「また助けてくれてありがとう!」

「…どういたしまして」

 

「斎藤さんもありがとね。助かったよー」

 

独特の関西弁を話す女子が、

ポールを直した少女にお礼を言う

 

 

「でもあんな事よー知っとったねー?

テント持っとるの?」

「あ、違う違う」

 

 

あそこの子に聞いたのよ、と

斎藤と言う少女が目を向ける

 

 

その先には図書室にいたリンがいた

 

「おい──」

思わず絶句するリン

 

ポールを直しに行った少女、斎藤恵那は

リンの友人

 

なでしこに見付からないようにと、

自分は隠れたかったのに───

 

残念ながら恵那にはその願いは届いて…

もしかしたら察していたのかもしれないが

 

 

「あーっ!」

なでしこは直ぐにリンの事に気付いた

 

「あ、しまリンじゃないか」

「ゆるキャラみたいな言い方止めぇや」

 

「しまリン?」

「志摩は名字、名前はリンだよ」

 

「リンちゃん……!」

恵那から名前を聞いたなでしこは、

満面の笑顔を向けて

 

 

「リンちゃーん!!」

と、駆けていった

 

リンに向かって

 

図書室の中にいるリンに向かって

 

「この間は、ありがへぶっ!?」

 

勢いよく駆けていったなでしこは

 

 

勢いよく窓ガラスに正面衝突した──

 

 

 

 

それから暫く

 

テントの片付けを終えたなでしこと

 

眼鏡の少女・大垣千明

 

関西弁の少女・犬山あおい

 

3人は野外活動サークル、略して

『野クル』の部室に帰っていった。

 

高彦も片付けまで手伝ったので、

下駄箱まで一緒に着いていく

 

道中

 

「…………」

なでしこは、目に見えて落ち込んでいた

 

幻覚だろうが、限界まで垂れ下がった

耳と尻尾が見えるくらいに

 

 

理由は先程

 

本栖湖にて助けて貰った恩人の

リンに会えてテンションが上がり

 

 

そのまま彼女に会いに行って、

上がったテンションのまま

 

「私たちと一緒に

野外活動サークルやろ──」

そう言った瞬間に

 

滅茶苦茶嫌そうな顔をされたのだ………

 

 

落ち込む彼女に、いち早く声をかけたのは

 

 

 

「…各務原ちゃん」あおいだった

 

 

「志摩さんはグループで

わいわいキャンプするより、

静かにする方が好きなんやないかな?」

 

にっこり微笑んでそう言うあおい

 

優しく告げられたその言葉に、

なでしこはハッとした顔をした

 

ついで

 

「…確かに、

キャンプって色んな楽しみ方があるから」

 

後ろを振り返り、なでしこと目を合わせて

高彦はそう言う

 

「人それぞれで、楽しみ方は違うんだよ」

「…楽しみ方……」

 

 

「…まあ、語るほど俺もキャンプしてないけど。

1回しか」

 

「え、じゃああの時が初キャンプだったの?

てっきりベテランさんかと思ってたよ」

「まだまだ初心者ですよ、お嬢さん」

 

高彦の言い方が面白かったのか、

声に出して笑うなでしこ

 

どうやら落ち込みが少なくなったらしく、

高彦とあおいはホッと胸を撫で下ろした

 

 

「…私ちゃんとリンちゃんに謝るね」

「せやな」「それが良い」

 

「ありがとね、犬山さん」

「あおいでええよ~」

 

「うん!じゃあ私もなでしこで良いよ!!」

 

すっかり元気を取り戻した様である

なでしこは、高彦の隣に駆け寄って

 

「スープのお兄さんもありがとう!!」

満面の笑顔でそう言った

 

「どういたしまして…ところで、

あの、お兄さんはちょっと………」

 

苦笑いを浮かべつつ、そう言う高彦

 

なでしこが同級生の同じ年と分かった為、

高彦はなでしこのお兄さん呼びが

気恥ずかしかったのだ

 

「…え~と……」「あ、そうか」

 

そういえば名前を名乗ってなかったなと

今更気付き、高彦は名前を名乗った

 

 

「刈谷。 刈谷高彦だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………たかちゃん?」「は?」

 

名乗った途端のなでしこの発した事に、

高彦は思わずすっとんきょうな声を出した

 

なでしこはそんな高彦に構わず…と言うか

居ても立ってもいられないと言った様子で

 

「わたし!各務原なでしこ!!」

「はい、存じてますが……」

 

 

「浜松の幼稚園で一緒だったなでしこ!!!」

「……浜松…?幼稚園………」

 

2つのキーワードを聞いて

 

高彦は忘れていた、子供の時の事を思い出した

 

 

実は高彦は、生まれは静岡の浜松だった

 

幼稚園5才の時に引っ越しをし、

色々あって今は山梨に住んでいる

 

 

その浜松で暮らしていた時

 

幼稚園に入る前から、

それこそ産まれてから

ずっと一緒に遊んでいた人物がいた

 

 

『たかちゃーん!!』

『そんなはしるとあぶないぞ

 

なでしこ』

 

 

 

 

「…………なでしこ…か?」

「そう! 今気付いたよ~!!」

 

 

また会う日が来るのかね?──そう思っていた

 

まさかこう言う形で再会となるとは

思ってもみなかった

 

「なんか、おもろい事になってきたな~」

あおいは何だか刺激のある日々が

来るんじゃと、わくわくしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんか微妙にあたし、

空気じゃね?」

 

少し空気になっている

大垣さん家の千明さんだった

 

 




直前までなでしこの幼馴染み設定は悩んだんですが、これからの話の流れからやっぱりそうしようと決めました。

高彦なのですが、浜松から他県に行って
中1から山梨にやって来た設定です

浜松から何処に行ってたかは
まだ決めてません(・・;)

もう少し高彦の事を書いたら
設定集みたいなのを投稿しようと思います

最後に、2話を少し訂正します

具体的には高彦がなでしことリンにスープを振る舞った所です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い出した記憶

後書きにて、高彦の設定を少し書きました


 

 

学校からの最寄りの駅は、身延線

 

身延線の電車に揺られながらボー…と

すること15分程で着いた塩之沢駅に、

高彦は降りた

 

駅から自宅までは自転車で10分

 

富士川に沿って何軒か並ぶ家の1つが、

彼の家である

 

 

自転車をガレージに停めて、

鍵を開け家に入ると

 

 

「ただいま」

 

「おかえり~」

台所から聞こえる母・刈谷美沙子の

出迎えの声を聞きながら高彦は靴を脱ぎ、

2階の自室に向かう

 

鞄などを置いて着替えてから再び1階に降り

リビングに入れば、母親は台所より顔だけを

覗かせて話し掛けてくる

 

 

「高彦、悪いんだけど

お米洗ってくれる?」

「うーい」

 

米を計って台所で美沙子と並ぶ

 

 

洗いながら高彦は、

今日あった事を話した

 

無論、彼女についてだ

 

 

「…母さん、浜松に住んでた時の

こと覚えてる?」

「うん?まあ、私の生まれ故郷だしね。

実家はもう無いけど」

 

母は静岡の浜松生まれだ。

だが母の両親、つまり高彦の祖父母は

刈谷家と一緒に県外に引っ越した

 

だがそれでも、

母にとって浜松は生まれ故郷に

変わりはない

 

きっと父の(いさむ)も同じだろう

 

「浜松がどうかしたの?」

「…なでしこ、って覚えてるか?」

 

「なでしこ?

…ああ、各務原なでしこちゃん?」

 

「うん、そのなでしこ

 

ほら、前本栖湖にキャンプ行った時に

遭難しかかってた子の話しただろ?

 

その子、今日学校で会ってさ」

 

「へえ!そんなんだ

あ、もしかして……」

 

「それ、なでしこだった」

「そうなんだ!

浜松から来たのかな?」

 

「そうらしい、

今日から転校してきたんだって」

 

「へぇ~、偶然ってあるのねぇ

 

私も会いたいなぁ~。

今度うちに誘いなよ」

 

「ダメに決まってんだろ

お互いもう高校生だぞ」

 

 

家に異性を、しかも同級生を

招くなどハードルが高すぎる

 

子供の時ならいざ知らず───

 

 

「…ねえ」「ん?」

 

 

「むかしのアルバムって、ある?」

 

 

 

翌日

 

土曜日の休日

高彦は家の中の押し入れの前にいた

 

 

「…ここら辺って言ってたよな」

 

襖を開けて、中にあった収納ボックス

を何個か出し物色する

 

探し初めて約30分後

 

 

目当ての物を見付けた

 

分厚い、アルバムを

 

 

高彦はアルバムを開け、中を見る

 

高彦がまだ幼かった時の写真が

沢山綴じられていた

 

それに若干の恥ずかしさを覚えつつ、

見続ける

 

 

 

「…いた……なでしこ」

 

高彦の目に止まったのは、

幼い自分と同じ年の幼子

 

なでしこの、子供の時の姿

自分とのツーショット

 

一緒に遊んでいる所や、

お互いの家にお邪魔して

ご飯を食べる所など……

 

幼稚園らしき所で一緒にいる所もある

 

 

「こうやって見ると、

俺となでしこ何時も一緒だったんだな」

 

人間とは不思議な物で、最近の事よりも

昔の事を覚えている事がある

 

高彦もなでしこの事を半ば忘れていたが、

再会してこうやってその時の写真を見ると、

この頃の事を思い出してくる

 

物思いに耽っていると、

高彦はまた何かに気付いた

 

それはなでしこと一緒に写っている写真に、

殆ど毎回一緒に写っている女の子

 

高彦はこの子供の事も思い出した

 

「確か…あやの、だっけ?」

その少女の事を思い出す高彦

 

 

引っ越しで別れる、直前の事も思い出した

 

 

「………………………………」

 

そっ…と目を閉じ、ついで眉間を抑える

 

 

そんな思い出した『最悪な記憶』に

溜め息を吐く

 

 

やや気まずい気持ちになりつつ、

アルバムを物色していく高彦

 

気付けば外は薄暗く、部屋は寒くなっていた

 

随分集中していた物だと苦笑いしていると

 

 

♪~♪~

彼のスマホが着信を知らせた

 

見てみると、

それは画像…写真付きのメッセージ

 

 

 

『リンちゃんと麓キャンプ中~!!』

 

満面の笑みのなでしこと、

困り顔の志摩リンの写真

 

『お鍋美味しいよ~(о´∀`о)』

 

2人共湯気の立っているお椀を持っており、

幸せそうであった

 

 

 

「…仲直りは出来たみたいだな」

小さくそう呟いて、高彦は返信をした

 

 

『風邪引くなよ』

 

何気になでしこに送る初メッセージ

 

それにしては梅雨ほどの青春も無いが……

 

 

『わかった~!!』

律儀にも、なでしこはそう返してきた

 

 

「全く…いちいち連絡なんかしなくて良いのに」

 

言った言葉に反して

 

穏やかに笑う、高彦だった

 

 

 

 

『たかちゃん!』

 

目の前になでしこがいる

 

幼い頃の、なでしこが

 

 

 

『たかちゃん、あのね……』

 

なでしこは意を決した様に

自分へ顔を向けて───

 

 

 

 

 

 

 

『にくまんとあんまん、

りょうほうたべたいんだ!!!』

 

 

 

 

「…夢か……」

 

ぼんやりした意識の中で、

高彦は独り呟いた

 

「なんちゅう夢見てんだよ………」

 

 

 

時計はまだ6時を過ぎた頃

 

カーテンから漏れでる陽の光が、

若干眩しい

 

 

「変な時間に目が覚めて……ん?」

 

耳元で鳴るスマホのバイブ音

 

 

どうやらこの音で起きてしまったらしく、

まだ覚醒しきれていない中、高彦は

スマホを掴んだ

 

こんな朝っぱらから誰が…そう顔をしかめて

見ると

 

 

直ぐに笑みが、彼の顔に浮かぶ

 

 

送ってきたのはなでしこ

 

送られたのは───

 

 

 

朝の陽が照らす、広大な富士山の写真

 

 

 

それは夜の富士とは全く違う、

けれどまた美しい光景

 

目映い程に輝く富士の山は、

写真越しでもとても綺麗だ

 

 

「……やっぱ良いな…富士山」

 

また1つ、富士山の魅力に高彦は

心を引かれた

 

 

 

↓へやキャン△

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」

 

各務原家にて、なでしこは姉の『桜』に

駆け寄った

 

 

「家の中で走るんじゃ無いわよ。

なに?」

 

「あのね!

この間本栖湖で助けてくれた子に

学校で会ったんだよ!」

 

「…へぇ…同じ学校だったんだ。

二人とも?」

 

「うん!女の子が志摩リンちゃん

 

でね、男の子の方は──」

 

 

 

「浜松の時のアンタの友達でしょ?

確か、たかひこ君」

「えっ!?

お姉ちゃん気付いてたの!?」

 

「本栖湖の時から気付いてたわ

と言うか、アンタも気付いてると思ってたわよ」

 

 

「えぇ~…だってぇ………」

 

 

「お友達忘れるなんて、薄情な女ねアンタ」

「うわぁぁ~ん!!!」

 

「……(さっき母さんと話してるの聞いてたのよ)」

 

 

 




高彦視点なので、ちょくちょくこうやってダイジェスト的な感じにしていこうと思います


オリキャラの高彦と両親の設定を少しだけ

刈谷高彦(15)

本栖高校1年の少年
突拍子も無く
思い立ったら行動してみたくなる性格

キャンプをしようとしたのも、本屋で偶々見付けたアウトドアの雑誌を読んで興味を持ったから

まさか一発でキャンプに填まるとは、
本人も思っていなかった

生まれは静岡の浜松で、なでしことは
幼稚園まで一緒の友達だった
(高彦曰く、幼馴染みと言うより昔馴染み)

同じく土岐綾乃とも仲が良かったが、
何かしらがあったようで………

派手さは無いが、顔立ちは良い
人畜無害とクラスメートの女子から見られている


刈谷美沙子(年齢⚫⚫⚫)

高彦の母親
ふくよかだが、美人に入る

穏やかで優しいが、怒ると鬼のように恐ろしい
それで高彦の反抗期は終わりを迎えた

料理上手で、高彦に手料理を教えた1人


刈谷勇

高彦の父親で、会社員
休日は妻の美沙子の手伝いをする等、
家族思いだが手際は良くない

負けず嫌いでたまに高彦とゲームをしたり、
運動するが、負けたら少し落ち込む

何事にも責任感を持つようにと高彦に教えた
本人も自分の仕事に責任を持ち、成し遂げている

本人には言わないが、高彦は勇を尊敬している


取り敢えず、大間かな設定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寝袋革命(?)

いつもの通学

 

駅まで自転車を漕ぎ、

電車に揺られる

 

今年の4月から、変わらない光景

 

 

しかし、今日からは

 

 

 

 

「おはよう!」

 

電車に乗ったら、既に乗っていた

少女に話し掛けられる

 

 

 

「…おはよう、なでしこ」

「うん!」

 

これが高彦の、新しい日常である

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て見てー!」

 

電車の中、隣に座る高彦に

自分のスマホを見せるなでしこ

 

「ふじさん撮ってきたよ~」

見せ付けるように、嬉しそうに見せたのは、

この間行ってきた富士山の麓キャンプ場の写真

 

志摩リンとのツーショットでの、富士山の写真

 

「スゴかったなぁ~、それからね!

その後道の駅行ってね!アイス食べてね!!」

 

「わかったから、落ち着けって」

「だってだって、楽しかったから!

誰かに言いたくて言いたくてムズムズするもん!」

 

朝からテンションがハイのなでしこに、

高彦も苦笑いする

 

 

こうやって二人で通学を共にしているのは、

他でもなく、なでしこが言い出した事だ

 

高彦が通学時同じ電車に乗っているのを知り、

なでしこは一緒に登校するのを提案した

 

同じように後2つ駅から、彼女の所属する

野クルの2人も合流する

 

態々乗り込む車両も指定する辺り、

なでしこはマメだ。

 

「と言うか、富士山好きなら登山部の人等と

行ってきたらどう?毎年登るみたいだし」

 

 

「そんな~!私がふじさんに登るなんて!!

 

わたしはね、遠くから見てるだけで満足なのよぅ」

「片思いの少女みたいに………」

 

「両思いになれるよう頑張ります!」

「なにをだよ」

 

 

「あ、これお土産の飲むヨーグルトだよ~」

「あぁ、ありがとう………うま」

 

 

「だよね!わたしももう10本飲んじゃった」

「飲み過ぎだろ」

 

 

そんなやり取りをしながら、電車に揺られる二人

 

高彦はまだまだテンションの収まらないなでしこを宥めつつ、毎日の通学が随分賑やかになったなぁと

 

 

うすボンヤリしながら、思っていたのだった

 

 

▽ ▽ ▽

 

本栖高校の1年の教室の1つ

 

自分の席に着いた高彦は鞄から諸々を取り出して、ホームルームが始まるまで寝るモードに入ろうとした

 

それに待ったをかけたのは、クラスメートの友人だ

 

 

「刈谷~、お前キャンプ行ったのか?」

「…行ったよ、一週間前に」

 

睡眠の邪魔しやがってと思ったが流石に邪険にするのも気が引けて、高彦は友人に応えた

 

「本当物好きだなぁ。

冬のキャンプなんて、滅茶苦茶寒いじゃねえかよ」

 

「…まあ、滅茶苦茶寒かったよ」「だろ?」

 

 

「でも、楽しかった」「?たとえば?」

 

 

「……景色が綺麗だった、人がいなかったから落ち着けた

焚き火が暖かくて

 

飯が滅茶苦茶旨かった」

 

「ふーん……俺はやっぱやりたいと思わんなぁ……

暖かくなったら大丈夫そうだが」

 

「なら、その時は行くか?」

「おう!頼むわ!!」

 

「言っとくが、お前も働けよ?」

「え~、俺初心者だし……」

 

 

「なら行く前に教える。

安心しろ、分かりやすく教えるから

 

当日までに完璧に仕上げてやるから」

「おまっ、なんか怖ぇんだけど……」

 

「サボったら飯抜きな」

「鬼か!貴様~!!」

 

教室でもそんな賑やかなやり取りをして、

結局そのままホームルームが始まった

 

 

キャンプの話題でも、これまでの日常が少しずつ変わり始めているのを、高彦はゆるく感じていた

 

 

 

放課後

 

本日日直だった高彦は学級日誌を書き、

帰ろうかと下駄箱へ向かう

 

 

そこにある意味見慣れた桃色の髪が見えた

 

「なでしこ?」「あ、たかちゃん!」

 

学校指定のジャージを着たなでしこが、高彦の方を向いて応える

 

何故か両手に段ボールを持って

 

「……なにしてんだ?」

「えっとね、これは…見た方が早いね!」

「はい?」

 

「さ、行こう」「えぇ~………」

なでしこに手を引かれて…と言うより連行されて

高彦は校庭へ連れていかれた

 

 

そこにあったのは

 

 

「もらってきた~っ」

「………なんだこれ」

 

良く分からないが、色々な何かで巻かれた大垣千明がいた

 

なでしこと同じくその場にいたあおいから

夏用のシュラフでも暖かく出来るように試行錯誤していることを聞く高彦

 

高彦が見てる前で、千明になでしこ、あおいの二人係りで段ボールを巻き付ける

 

 

「おおっ!!これマジで暖かいぞ!!」

どうやらとても暖かいらしく、嬉しそうな千明と

 

「「ほんとっ!?」」なでしことあおい

 

これなら夏シュラフでも大丈夫だと手を合わせ会うなでしことあおい

 

 

しかし、問題が1つ

 

「これトイレ行くときどうすんの?」

「「あ───」」

 

 

「………ていうか、バッチリ梱包されて

あたしはこれから何処へ発送されるんだ?」

「「…………………………………」」

 

とても微妙になる空気

 

 

 

加えて、高彦はもう1つの問題にも気付いていた

 

この空気の中でそれを言うのはどうかと思ったが、割りと重要だと思ったので言葉に発する

 

 

「…あの、さ。これ二人でここまでやったんだよね?」

「?そうだよ?」

 

 

「いや………最後の一人はどうするのかと………」

「「へ?」」「…あ」

 

ポカンとするなでしこと千明と、何かに気付いたあおい

 

 

「2人までは手助けがあるけど、1人になったら…」

「「…あ」」

 

なでしこと千明も気づいたらしい

 

暫し沈黙する一同

 

 

時間が少し経って

 

 

「……頑張って冬用買うか」

「せやね…」「そだね……」

 

意見が纏まった野クルガールズだった

 

 

 

因みに千明の梱包状態の写真をリンに送り

 

 

「………何やってんだ、あいつら」

 

静かに突っ込まれたのだった

 

 

 

 

 

千明の梱包を解いた後、野クルの面々は校庭で落葉の焚き火を行っていた

 

焚き火でココアを淹れて飲みながら、

暖まる野クルガールズ達

 

そこには梱包解きを手伝い、

お詫びにと好意に預かった(なでしこに連行された)

高彦の姿もあった

 

暖かなココアの温度とホッとする甘さに和む高彦

 

 

そうしてると、なでしこが高彦に話し掛ける

 

 

「ねぇ、たかちゃん。ちょっと相談なんだけど」

「?どした?」

 

 

「あのね、私リンちゃんに本栖湖のお礼が出来たんだけど、まだたかちゃんにはしてないじゃん?」

「別に気にしなくて良いよ」

 

「お礼がしたいんだ。

だから考えて……おもてなしキャンプをしようかなって」

 

「…おもてなしキャンプ?」

 

 

「うん!今度私たち野クル初のキャンプに行くんだ!

 

まあ、まだ場所とか決まってないけど………

 

たかちゃんもどうかなって」

 

 

 

「……いや、どうかなって………色々ダメだろ」

「え~、だってお礼したいもん!!」

 

「気にしなくて良いって………」

 

 

「でも……私たかちゃんとキャンプしたい……」

「………」

 

言葉に詰まる高彦

 

この間のことと良い、今と良い

 

どうやらこの各務原なでしこと言う女の子は超が付くほどのお人好しで、

 

こう言うことに関してはとことんマメらしい

 

高彦がやんわりと遠慮する度にシュンとするなでしこ

またしても垂れ下がる耳と尻尾が見える

 

 

高彦は千明とあおいに目を向ける

 

 

千明とあおいは既に『おもてなしキャンプ』の事を聞いていたらしく

 

 

「私達もちょっとどうかな思ったけど、

なでしこちゃんにメチャ頼まれてなぁ」

 

「まあ、良いんじゃねってなってな。

ただし、少しでも変なことしたら焚き火の中に放り込むけどな」

 

「そんな事しないけどさ………」

 

断る可能性のあった2人も承諾しており

 

なでしこに純粋にキャンプに着いてきてと言われ

 

高彦も遂に折れた

 

 

「…わかった」「!」

 

「お邪魔します」「やった!!!」

 

両手を上げるなでしこと、

微笑ましげな千明とあおい

 

 

 

少し困り顔の高彦だったが………

 

 

まぁ………良いかと悩むのを止めた

 

 

キャンプにまた行きたいと思っていたし

 

 

そう、ただ友人と知り合いとキャンプするだけ

 

 

そう言い聞かせ、高彦も野クルに混じり

 

 

行き先もまだ決まっていないが、

野クル初のキャンプの会議に参加するのだった

 

 

 

↓イヌイヌイヌ子さん

 

キャンプ会議にて

 

「飲み物も用意しないとな。

イヌ子ー、コーヒーってまだあったっけ?」

「あ、そろそろ無くなるわー。

次銘柄変えてみるー?」

 

千明とあおいの幼馴染み同士が話してるのを見て

 

 

「……………」

 

「たかちゃんどうしたの?」

「あ、いや…」

 

 

「面白い呼び方やから、気になったんと違う?」

「!…まあ、うん」

 

「会った頃から『イヌ子』やったんよ。

ちなみに私岐阜出身でな。

ここに引っ越す前は岐阜県の犬山市犬山て所で

カフェ犬山って言うドックカフェやっとったんよー」

 

「そうなんだ」「へぇ~そうだったんだ~」

 

 

「…なでしこ、刈谷」「「?」」

 

「良く見ろ……

 

あれがホラを付く時のイヌ子の目だ」

 

千明の視線に従って向いた先には

 

「イヌ繋がりで運命感じるわ~」

目の焦点が明後日に向いているあおいがいた………

 

 

 

「…と言うか、犬山市は愛知県じゃ?」

「゜言゜!」

       続く?

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ、キャンプへ!

本日、晴天なり

 

陽が出ており、気温は低いが出掛けるのには

もってこいの気象である

 

 

「行ってきます、母さん」

 

高彦は暖かい服装とリュックサックを背負い、

母の美沙子に声をかける

 

「行ってらっしゃい!気を付けていくのよ」

「うん」

 

 

「一緒に行く子達に迷惑をかけないように。

それと……」

 

「分かってる分かってる、じゃ」

 

 

 

「……楽しんでらっしゃい」

家から高彦が出ていった後、

美沙子はそう、微笑んで呟いた

 

 

 

 

本日、高彦はキャンプへ向かう

 

野クルの部員3人と一緒に

 

 

 

塩之沢駅まで歩いていく途中、

高彦は今日までの事に思いを馳せていた

 

 

 

思いを馳せていた…とは言ったが、

特別何か大きな事があったとかでは無い

 

同じ年の女の子3人とキャンプと言うのも十分過ぎな大きな事なのだが、高彦はもう気にしない様にしていた

 

勿論節度は弁えるつもりだ

彼方は好意で誘ってくれた。

 

ならば、少なくとも失礼の無いように

しなければならないだろうとは誘われたその日に決めた

 

高彦が考えていたのはそれではなく、

新しく買ったキャンプ用品である

 

ネットで買った、LEDのランタン

懐中電灯で灯りは確保できるが、

折角キャンプするならと高彦は新たに購入した

 

今度バイト代が入ったら、

高彦はシングルバーナーを買うつもりだ

 

ネットで買うか…それともキャンプグッズが売っている所で買うか

 

希望的には直接見て買いたいと思っている

 

(何処かにあるか……今度探してみよう)

 

実は結構近くにそれがあるのだが、

それはまた別の話で……

 

 

 

そんなこんな考えていると、

見慣れた駅が見えてきた

 

改札を通ってホームで待っていると、

乗り慣れた身延線がやって来る

 

そして車両に乗り込むと

 

 

「たかちゃーん!!」

 

何時もの光景が高彦を出迎える

 

 

「おはよー!」「ああ、おはよう。なでしこ」

 

 

 

なでしこと会話に花を咲かせながら、

電車に揺られていく

 

それは何時もと同じ日常…なのだが、

今日は少し違う

 

違うのは何時もに増してなでしこのテンションが高いこと

 

荷物が多いこと

 

 

そして何時もは降りる駅で降りず、

電車に留まることだ

 

向かうのは山梨市駅

ここで大垣千明と犬山あおい、

なでしこと同じ野クルメンバーと待ち合わせをしている

 

山梨市駅に行くのに、途中で甲府駅で

乗り換える必要がある

 

なでしこは山梨に来て間もないので、

多少慣れている高彦が案内係だ

 

「楽しみだねぃ~!」

「楽しみなのは分かるけど、

今からそんなにテンション上げすぎるとバテないか?」

 

さっきから上機嫌ではしゃぐ(騒がしいと言う意味ではない)なでしこに苦笑いする高彦に、なでしこは問題ないと言うようにニヘラと笑う

 

「大丈夫!別腹だもん!」「どういうこと?」

 

相変わらずで、こう言うところは何時もと変わらない

 

甲府駅に着くまで、なでしこはずっとそんな感じだった

 

 

そして着いた、甲府駅で一旦電車を降り

乗り換えるホームへと向かう

 

改札からは出なくても良いので、

次に乗る電車のホームは直ぐに着く

 

身延線ホームの階段を降りて…と、その時

 

 

「あ…」

なでしこは何かに気付いたのか、足を止めた

 

 

「なでしこ?」

それに気付いた高彦が声をかけると、

なでしこは

 

「っ!」

迷うそぶりを見せないで駆けていった

 

「へ?」

それに驚く高彦だが、直ぐにその行動の意味に気付く

 

階段の手前で立ち止まるお婆さん

正確には、重そうな荷物を持ったお婆さんが階段を降りるのに手間取っている

 

それになでしこは駆け寄っていった

 

そういうことか…高彦も彼女等に近寄った

 

 

「なでしこ」「あ、たかちゃん!あのね…」

 

 

「お婆ちゃん、荷物持ちますよ」「!」

 

「え、良いのかい?重たいよ?」

「大丈夫、これくらいなら」

 

高彦がそう言うとお婆さんは荷物を高彦に手渡した

 

それを担ぐ高彦を見て

 

「お婆ちゃん!わたしの手握って。

一緒に降りよ?」

なでしこが笑顔でお婆さんに手を差し出す

 

「ありがとう、お嬢ちゃん」

お婆さんはそれに微笑み、なでしこの手を取った

 

ゆっくりと時間をかけて階段を降りる3人

 

お婆さんはここで改札を出るらしく、階段を降りた所で別れる事に

 

「ありがとう、お若いのに親切で助かったよ」

「いえいえ」「気にしないで!」

 

ニコニコと手を降りながら離れていくお婆さんを見送る2人

 

「たかちゃん優しいねぇ」

姿が見えなくなるまで手を降っていたなでしこが、高彦にそう言った

 

「若いのに立派だねぇ」「お婆ちゃんか」

 

「えへへ~、リンちゃんにもおんなじ事言われたよ」

「…それは気の毒に。志摩さんが」

 

ほにゃりと笑うなでしこ

そんな彼女にお返しと

 

「て言うか、なでしこが最初に気付いたんだから。

なでしここそ偉いもんだねぇ」

「あ、おじいちゃんだ!」

 

あはは!と笑うなでしこと小さく笑む高彦

 

穏やかな空気が流れていく………

 

 

 

 

 

それで頭から抜けていた

 

 

 

『まもなく、塩山行の電車が発車します』

 

「!なでしこ!乗る電車だ!!」

「あえっ!?」

 

 

懸命に駆けた2人だったが

 

 

 

すんでで間に合わず、

次の電車を待つことになったのだった…………

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

山梨駅の改札を、慌てて出る2人

 

待ち合わせの場所には、既にもう2人が待っていた

 

 

「ごめん!!」

「二人とも遅れてごめんーっ!!」

走ってくる高彦となでしこに気付いた二人が、出迎えた

 

「おー来た来た」

 

「甲府駅で乗り遅れちゃって…」

息を切らすなでしこにあおいは笑って応えた

 

「えーよえーよ、まったり行こか~」

全く気にしていないらしい

見れば千明も気にせずに笑っている

 

色々あったが無事、合流した四人

 

この日までに冬用のシュラフを各自用意した

テントももう一個買い足した

 

 

準備は万端

 

号令を勤めるのは野クル部長の千明

 

「んじゃー今日の目的地

『イーストウッドキャンプ場』へ…しゅっぱーつ!」

「「おーっ!」」「…おー」

 

野クル(+1)が向かう初キャンプ地……

 

イーストウッドキャンプ場へ───

 

 

 

 

↓『わん』だふる

 

 

………目の前に広がるのは、広大な湖

 

汚れの無い湖面、それに逆さまに綺麗に写る立派な富士山

 

 

高彦は直ぐにここが何処だか理解した

 

そう、彼が初めてキャンプに訪れた場所

本栖湖だ

 

この綺麗な景色を見て、高彦はポツリと呟く

 

 

 

 

 

 

 

「…俺なんでここにいるんだろう?」

               続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

野クル+とソロキャンガール

高彦達がキャンプに行く、同日の早朝

 

 

リンはまだ陽が出ていない時間に、

防寒着を着込んで外へ出ていた

 

今日、リンはまたソロキャンへ行く

今回は長野だ

 

県を跨ぐのでかなりの距離

リンも初めての遠征である

 

 

そこまでどうやって行くか?

 

 

正解は───

 

 

 

ブロロ…

 

「免許取り立てなんだから、

車には気を付けなさいよ?」

 

リンを見送りに外に出ている母・志摩咲は、

娘にそう言った

 

 

原付に跨がる、リンに

 

リンはこの間、原付の免許を取ったばかりだ

 

今回が、初めての原付での旅になる

 

母として、心配になるのは当たり前であった

 

「分かってるよ」キュルルッ

 

 

 

「……あんまり危ない道は通っちゃダメよ?

それからね……」

 

「分かってるって。

じゃあ行ってくるね」

 

母親に見送られながら、リンは原付を発車させた

 

 

「…全く…」

それを見つつ、咲は小さく笑んだ

 

 

「誰に似たのかしら……」

『自分達』にそっくりな、娘に───

 

 

▽ ▽ ▽

 

イーストウッドキャンプ場は、山梨市駅から四キロ

 

徒歩で50分くらいなので、

ちょっとした遠足のような感じだ

 

因みにそのキャンプ場、薪がタダで温泉が近く、夜景が綺麗

 

 

極め付きは一泊1000円と言うお財布に優しい所らしく、各々楽しみでルンルンで歩いている

 

 

その途中、千明はなでしこへ話題を降った

 

「そうだ、『夕飯は任せて!!』

て言ってたけど何作んの?

言われた通りパックご飯は持ってきたぞ」

 

 

そう尋ねられらたなでしこはニコッと笑う

 

「ふっふっふっ…ズバリ!

キャンプっぽいごはんだよ!何かは夜のお楽しみ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カレーとか?」「…お お楽しみダヨ」

 

(カレーか)(カレーやな)(カレーか)

 

泳ぎまくった目でバレバレだった………

 

 

 

「ていうか、なでしこちゃん、刈谷くん」

ふと、あおいは2人に顔を向けて来た

 

「そんなに荷物持って大丈夫なん?」

 

あおいは、特になでしこに向けてそう言った

 

見ればなでしこは結構な荷物を、しかも肩に背負っている

高彦もなでしこ程では無いが、それなりの大きさのリュックを背負うスタイル

 

あおいと千明は荷車?の様な手引きに荷物を乗せているので、そこそこ楽だ

 

ここから先は上りが続くので、高彦は良いかもしれないが、なでしこは大丈夫なのか、あおいは心配していた

 

その心配がなでしこにも伝わり、「や、やばいかなぁ?」と本人も心配になってきた

 

 

「…しかたねぇなぁ」

と、ここで助け船を渡したのは我等が部長

 

「疲れたときはその荷物───あたしが背負ってやんよ」

 

男前の言葉に、なでしことあおいは歓声を上げた

 

「刈谷も遠慮無く言って良いぞ。

このあたしに、任せたまえよ」「あ、はい」

 

賑やかに会話をしながら、彼女達+は

暫くずっと続く上り坂に入っていった

 

 

 

その頃のリン

 

   ビィーン

原付を走らせ、冬の道路を走っていく

 

もうすぐで茅野市

信号で止まり、リンは手袋をした両手に息を吹き掛ける

 

(寒い…)

防寒はしっかりしてるが、やはり冬の道路は寒い

 

冬キャン大好きな彼女だが寒さに特別得意と言う訳では無いので、寒さをとても感じていた

 

 

と、その時

 

同じ信号で止まっている前の車のリアガラスから、犬が此方を見ているのにリンは気づく

 

(…すげー見てる…)

思いながら、信号が赤になり一緒に発車

 

 

暫く走ってると、また赤信号に

 

前は変わらず犬の車

 

リンは今度は車の右側に止まった

 

ヒョコッ

犬はリンの目の前に動く

 

また発車

暫くして赤信号

 

今度は最初と同じく左側に

 

ヒョコッ

犬はリンの目の前へ

 

 

(…かわええ……)

愛くるしいそれに、リンは内心で悶えていた

 

 

しかし、それも終わりのようで……

 

(あ、曲がっちゃうのか……)

どうやら、この信号を曲がってしまうらしい

 

車は左に曲がり、その間犬はずっとリンの方を見ていた

 

(バイバイ)

小さく手を振るリン

 

 

 

 

 

 

その前の車のリアガラスから、4匹の犬が此方を見ていた

 

「!!」

思わぬサプライズにビクッとするリン

 

暫く、4匹の愛くるしい視線を浴びながら運転をすることになったのだった…………

 

 

 

やがて、この車もリンとは別の方へと行くことに

 

(…行っちゃうか……)

ずっと向いていた4匹の視線が無くなっていく

 

 

(…次のも、もしかして……)

少しだけ期待するリン

 

4匹を乗せた車を見送って(正確には4匹の犬を見送って)、リンはまた前を走る車を見る

 

 

 

後ろから、犬は見えなかった

 

「…まぁ、そう何度も続かないよね……」

フゥ…と息を吐き、瞬きする

 

 

一瞬の内、目を開けると前の車から16匹の犬が此方をガン見していた

 

「うおっ!?」

これにはリンもとても驚いて声に出してしまう

 

「流石に多すぎだろ……」

 

リンもリンで、原付の旅を楽しんでいた

 

 

 

 

 

 

その頃の野クル+

 

 

「…なぁイヌ子…」「…なに?」

 

そこには疲れはてた姿があった

 

 

 

 

「あいつに荷物全部持ってもらわねーか…?」

千明とあおいの……

 

 

元気すぎる…と呟く千明の前には

 

「わーーい!!」

 

子供のようにはしゃぎながら楽しそうに駆けていくなでしこが写っていた

 

続く上り坂などなんのその、元気一杯のなでしこ

 

 

流石南部町から本栖湖まで自転車で行ってしまえる事はあるなぁと、高彦は思っていた(高彦も実は人の事が言えないが)

 

「1つずつ持とうか?」「「…お願いします…」」

高彦の好意に2人は甘えて、それぞれ1つずつ、高彦に手渡す

 

荷物は軽くなったが、しんどい事には変わりはない

 

「…笛吹公園まで600mやって……

あそこで一休みせーへん……?」

「……だな───」

 

後600m……そう視線を向けた先に、笛吹公園までの道が視界に写った

 

 

桁違いの傾斜の上り坂が───

 

 

 

(おーい、こっちだよー)

 

遠くからのなでしこの呼ぶ声を背中に

 

 

【笛吹公園まで乗せて下さい!!】と書いた紙を掲げる千明

 

そんな彼女の切な願いは──

 

ビュン─ビュン─

届かなかった──

 

 

「……も一個持とうか?」「…………うん」

 

 

 

それから数分後

 

 

無事、坂を登り終えて笛吹公園に着いた一同

 

 

「ふおおお───」

なでしこはそこから見える景色に、目を奪われていた

 

長い坂の上から見る、山梨の町並み──

 

そしてその奥に富士山も見える

 

「うわぁ~!すごい眺めだよここっ!!」

なでしこのテンションは爆上がりしていた

 

「まぁ…結構有名な夜景スポットだしなー……」

「納得って感じだな」

 

千明と高彦の説明を聞いて、元々テンションが高くて、この景色にプラスで高くなっており

 

更にテンションが限界突破したなでしこは

 

 

「あきちゃん!!あおいちゃん!!たかちゃん!!

写真撮ろ!!写真!!」カシャ

 

 

 

「こっちも絶景だよーっ!!!」

と、あっちにこっちに走りながら写真を撮りまくるなでしこ………

そこに疲れは全く見えない

 

「…ホントに元気な子じゃのう…」

「ワシらも昔はああじゃった…」

「大丈夫…?」

 

はしゃぐなでしこをしゃがんで見詰める千明とあおいに、高彦は心配する

 

 

しかし

 

「あ、中のカフェでスイーツも食べれるんだ~」

と言うなでしこの言葉を聞いて

 

 

「「うおおおお!!!」」

 

全力疾走で駆けていくのを見て

 

 

「……………………………」

呆然とするのだった………

 

 

 

 

カフェの中は暖房が程よく効いていて、

快適な空間だった

 

四人は売り場でそれぞれスイーツを買い、

四人掛けの席に座る

 

各々買ったスイーツを一口

 

 

「「「う───

 

んまぁ~~~~~~」」」

「…おいしい」

 

フニャッとした満面の笑みを浮かべるなでしこ達と、小さくだが微笑む高彦がスイーツの美味しさを物語っていた

 

「疲れとると甘いもんがウマ~やなぁ」

「暖房きいてる店内で食うアイスうま~」

 

「季節によっての果物使ってるのか」

「冬の味覚だねぃ」

 

「なでしこちゃん、あたしのちょっと食べる?」

「ほんとッ!?じゃ、私のもあげる~!」

「あたしのもやるぞ!」

 

それぞれ自分のをスプーンで取って、

お互いの口へと運ぶ

 

「「「ん~~~まぁ~~~~」」」

 

(…旨そうに食べるなぁ……)

食べさせ合いっこしている彼女達を見て、

高彦はそう感じていた

 

すると

 

「たかちゃん!私の食べる?」

なでしこがそう言って自分のリンゴソフトを差し出してきた。

 

「ああ、うん。それなら俺のレモンも…」

 

「ありがとう!」

そうお礼を言った後なでしこは対面に座る高彦に向かって身を乗り出した

 

自分のスプーンに掬った、リンゴソフトを差し出して

 

「…あ~、なでしこ?」「?どうしたの??」

 

「…あ、いや何でもないです」

高彦はなでしこが差し出したリンゴソフトをパクり

 

「おいしい?」「…旨いな」

 

「だよねっ!私も良いかな?」

「うん、良いけど…」

 

「わ~い!頂きま~す!」

なでしこも高彦からレモンのアイスを貰って食した

 

自分のスプーンで

 

(…何を意識してるんだか)

一瞬、意識してしまったが、

ただお互いのアイスを分けっこしただけ

 

高彦ももうそれ以上気にすることを止めた

 

「レモンも美味しいねぇ~」

「リンゴも旨かったよ」

 

やり取りを面白そうに眺めている二人分の視線も、高彦はスルーするのだった

 

 

スイーツ完食後

 

千明はスマホでキャンプ場までのマップを眺めていた

 

「キャンプ場まで1.7キロかー

温泉の方が近いけどどうする?」

 

「「おんせーん」」「欲望に正確でよろしい」

 

「……………あかん、尻に根が張ってもーた」

「……………わたしも~」

「分からんでもないけどさ~……」

 

「まあ、まだ時間もあるし。

ゆっくりで良いんじゃ無い?」

「…刈谷………」

 

 

 

 

「お前も尻に根が張ってるだけだろ」

「…バレたか」

 

 

 

 

野クル+達がマッタリしている時

 

なでしこから送られた写真を見ながら、

リンも一休みしようとしていた

 

途中で見付けたお店の中は、

とても落ち着く空間だった

 

木のテーブルに椅子

 

そして薪のストーブに外が良く見える大きな窓と、全力で人を落ち着かせる、そんな店内

 

(…なんかいいなここ……落ち着く…)

落ち着く空間が好きなリンは、直ぐにここを気に入っていた

 

折角だからここで昼でも…そう思ってメニューを眺めるリン

 

 

彼女の目は、【ボルシチ¥1300】に止まっていた

 

 

リンは高校1年生の、16才

普通の家庭の子で、懐事情も他と同じ

 

だからこそ、この間行ったキャンプ場の利用料2000円に怯み、薪代をケチった

 

 

…しかし、今はバイト代が入ったばかり

 

 

     ────金はあるんや!!────

 

…と、プチ贅沢を堪能するべく

リンはボルシチセットを注文した

 

 

ストーブの効いた店内で、湯気がたつボルシチを一口

 

 

冷えた体に、それは美味しすぎた

 

思わず涙が出るくらいに

 

 

ボルシチの写真をなでしこに送り、

セットのパンを1かじり

 

(…そうだ、お土産……)

 

プチ贅沢を堪能しつつ、リンはなでしこへのお土産をどうしようかと考えた

 

(雑貨……いや、食べ物の方が喜びそうだな)

 

なにかの食べ物を渡し、それを嬉しそうに受け取るなでしこの姿がはっきりリンの頭の中に思い浮かぶ

 

考えながらマッタリしていると、不意に彼女のスマホが鳴った

 

なでしこからのボルシチ美味しそう!、メールと

今日何処に行ってるの?、と言うメール

 

リンは文字で長野と書こうとして

 

 

「……!」

何か、思い浮かんだようだ

 

 

 

 

またまたその頃、なでしこ達は

温泉へとやって来ていた

 

『ほっとけや温泉』と言う面白い名前に笑みつつ、場内を歩く四人

 

大きい荷物を預ける為に、休憩所に向かう

 

そうして休憩所へと入ったのだが………

 

 

「…おお…」

中は広くて

 

誰もいなかった

 

圧倒的なくつろぎスペース……

 

そして、温泉に浸かり力の抜けた客達を完全に、そして確実にオトしにかかる悪魔の刺客達……

 

1度でも寛いだら……きっと2度と立ち上がれないだろう………その確定された未来予想に千明とあおいは冷や汗をかく

 

 

「ふぅ…流石に疲れたな」「「!」」

 

「よいしょっと…?どうかした?」

 

「だ、大丈夫か刈谷!?」「は?」

 

「『起き』上がられるかいなっ?」

「え、なんで?」

 

そんなコントをする3人を楽しそうに見ながら、

自分の荷物を下ろすなでしこ

 

と、その時彼女のスマホが着信を知らせた

 

リンからの、先程自分が送ったメッセージの返事

 

そこにはアドレスが掲載されていた

 

なでしこはそのアドレスをタップしてみる

 

 

そこに写ったのは

(霧ヶ峰カメラ?)

と表示された動画

 

ジッとそれを見るなでしこ

 

 

「…ん?」

その動画の左下に、何かを見付けた

 

小さく写るそれを凝視するなでしこ

 

やがてそれの正体が分かる

 

 

 

「あーーーっ!!

リンちゃんだこれーーーっ!!」

 

 

それは此方(カメラ)に手を降るリンだった

 

 

「どうした、なでしこ?」

突然大声を出すなでしこに、

千明が訪ねると

 

 

「り、リンちゃんが

 

 

テレビに映ってるんだよーーーっ!!」

 

なでしこはそれを3人に見せた

 

 

「…ああ、これテレビじゃなくて

ライブカメラだよ」「へ?」

 

 

「リアルタイムで、カメラを回してるんだ。

で、それをサイトに載せてるんだよ」

「あ、成る程……」

 

高彦の説明で理解したなでしこは、

此方に手を降り続けるリンを見詰める

 

「…霧ヶ峰…って何処にあるの?」

「長野の諏訪湖近くにある高原だな」

 

「そんな遠くまで…」

原付免許を取った事は知っていたが、

まさかそんな遠くまで行ってると思わなかったなでしこ

 

とても寒い筈だが、大丈夫なのだろうか……

さすがソロキャン少女……と、各自思う

 

面白いことするなぁとも感心した

 

 

一方、そのリンだが

 

 

(…見えてるよな?)

 

返事が全然来ず、

見てるかどうか分からないので困っていた

 

高彦がそれに気付いてなでしこが慌てて返事するまで、リンはカメラに向けて手を振り続けていたのだった………

 

 

 




『わん』だふる partⅡ

気が付けば、そこは本栖湖

目の前には、富士山が大きく聳え立っていた

何故自分はここにいるのだろう?、そうボンヤリしながら本栖湖と富士山を眺めていると

富士山の山頂から、ゆっくりと輝くものが昇ってきた

煌々と輝く、朝日
陽の光りが辺りを明るく照らす

写真では見たが、こうして自分の目で実際に見ると更に感動が増す様に感じる

ゆっくりと昇る朝日を眺める高彦

すると

朝日に………なにか黒い線があった

昇ってくる朝日に、途中から黒い線が出てきた

「…は?」

やがて黒い線は四角の形を作る
それはまるで、何かのフレームのような───


朝日は昇る

富士山の山頂から完全に昇る朝日


それは眼鏡をかけ、口を『H』にした

  ✴️
『◻️H◻️』
    
「……俺は頭が可笑しくなったのだろうか……
それか目が劇的に悪くなったのか?

朝日が………!」

ここで高彦は何かに気付いた

信じられない

嘘だと思いたい

目の前の富士山が───

「…気のせいだ……気のせいに決まってる………
いや、嘘でしょ」




『ホンマやでぇ~』

「…………」
言葉が、もう出なかった

良く分からなさ過ぎて、逆に冷静になってくる

ああ、そうかこれは───



「たかちゃーん!!」「!」

すると聞き覚えのある、自分の名を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた

ハツラツな、元気な声

間違う筈は万が一にも無い


高彦は振り変える

そこには最早見慣れた、桜色の────



「一緒にキャンプ、しよ!!」
「──────」

…毛並みの犬がいた
          ―カオスは続く―


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

温泉とボッチと山ごはん

お待たせいたしまして…すみません!


『ほっとけや温泉』の、あちちの湯

 

看板にはそう書かれているが、

決して入れないくらい熱すぎると言う訳ではない

 

 

「「「はぅ~~~」」」

 

特に露天風呂は外気が寒い分、

温泉の温かさが絶妙で快適であった

 

 

「やっぱり良い景色だね~」

「だなぁ~」「冬の温泉たまらんわ~」

 

なでしこ、千明、あおいの3人は

揃って露天風呂に浸かっていた

 

湯船からは山梨の街並み、そして富士山と、自然の絶景が一望出来る

 

ここまで歩いてきた疲れ(特に千明とあおい)もあり、非常に気持ち良さを体感していた

 

 

「あきちゃん、ここから

キャンプ場までどのくらいあるの?」

「んー、一キロ位だったかな

管理人さんには昼過ぎに行くって言ってあるから、まだまだここでノンビリ出来るぞ~」

「そっかぁ~」

 

「あかんわぁ…悪魔のささやきやぁ~」

「ぐへへー」

 

「…はふぅ(リンちゃんはいまごろ…

どうしてるかなぁ…)」

 

なでしこが温泉にとろけながら想う、

自分達とは違う所へとキャンプしにいっているリン

 

そんな今のリンはと言うと

 

 

ビィーン

(…あと…40キロか…)

 

寒い中、まだ原付を走らせていた

 

 

走りながら脳裏に浮かぶ、

先程届いたなでしこからの連絡

 

 

────温泉入ってくるー

 

 

(───私もむこうに着いたら

ぜっっったい温泉入る!!)

 

気合いを込めて心の中でそう叫び、

リンは原付を走らせ続けた

 

 

(さむいぃぃぃーーー!!!)

 

 

 

 

 

 

「…はぁ……気持ち良かったなぁ……」

ほっとけや温泉の敷地内

 

外にある木製の席で、

温泉から上がった高彦は寛いでいた

 

火照った体は外でも上着が要らない程で、

気温で程よく冷めていく

 

 

「あ、いたいた~」「ああ、みんな」

 

と、そこへ同じく温泉から出たなでしこ達が

やって来た

 

 

「たかちゃん、そっちはどうだった~?」

「めちゃくちゃ良かったよ。

そっちは…聞くまでもないか」

「ふへへ~」

 

なでしこ達は高彦が座る席に、同じようについた

 

 

「あったまったわぁー」「ふえー」

「うへへ~」

「…見事なまでの寛ぎぶりで」

 

高彦が苦笑いするほど、彼女達はぐで~っとなっている

 

そんな3人を見ていた高彦もその空気に当てられたのか、身体中が脱力していった

 

 

「ここでごはんもたべられるみたいだねぃ」

「…だなぁ」

なでしこが売店を見付け、返事を返す高彦は

既に出来上がっていた

 

 

のっそりと立ち上がった四人は売店の券売機へと歩いていく

 

「わたしつきみそば~」

「あたしはつきみうどーん」

「…あ、ほうとうもあるなぁ」

「あたしはぁ~………」

 

 

 

 

 

「………って、ここで食べたらあかんやん!」

「!そうだ、キャンプご飯食べられなくなる!!」

「「はっ!!」」

 

正気を取り戻したあおいと高彦の言葉に、

なでしこと千明もはっとなった

 

「温泉気持ちよすぎて

思考停止しちゃってたよ!!」

「小銭出してもうてたわ……」

「危なかった……これが温泉パワーか………」

 

温泉の力に恐々とする四人

 

 

しかし、温泉の恐ろしさはまだ続いていた

 

温泉には………悪魔が潜んでいたのだ!

 

 

 

「おんたま揚げおいしいよ~買ってって~」

「「「「……………」」」」

 

 

 

 

 

 

「おんたま揚げだけ買ってこ!!」

「せやな!!」「ん!!」

 

(…これが悪魔のささやきか……)

見事にささきに呑まれたなでしこ達を眺めながら、千明は改めて温泉の恐ろしさを体感するのだった

 

 

「あきちゃん、食べないの?」

「食べるに決まってるだろ!!」

…彼女も手遅れだった

 

 

さて、それぞれ一個ずつ温玉揚げを購入して

休憩所に移動する四人

 

座席に座って、買ったばかりの温玉揚げの包みを開いた

 

瞬間立ち上る湯気

湯気と一緒に揚げ物の匂いが、鼻をつつく

 

「「「いただきまーす」」」「…いただきます」

 

3人仲良く並んで(なでしこ、千明、あおい)

一斉に一口パクり

 

 

「「「ん~まぁ~~~」」」

「…うめぇ………」

 

「卵揚げただけなのにうますぎるぞこれ~」

「黄身がとろける~~~」

 

 

「あかんわぁ~…これ湯上がりに

食べたらあかんやつやぁ~~~~」

 

あおいは温玉揚げの美味しさに脱力しきって、

温玉揚げを持ったまま横になった

 

「うんあかんやつや!!」「あかんあかん!!」

 

それに便乗してなでしこと千明も寝っ転がる

 

あかんあかーん、と楽しそうに寝ながら食べる3人

 

それを向かいに座る高彦は微笑しながら、

また一口

 

 

「………あかんわ、これ」高彦も手遅れになっていた

 

 

そんな堪能しまくっている野クル+1

 

そしてその頃の志摩さん家のリンちゃんはと言うと

 

 

「おいまじか」

 

棒立ちしていた

 

 

 

 

そんな事態になっている原因は1つ

 

今回、リンがやって来たのは長野県の高ボッチ高原と呼ばれている場所

 

知る人ぞ知る超絶景スポットで、

頂上からは松本市、諏訪湖、富士山と言った景色三点盛りが味わえるまさに絶景スポット

 

山梨の自宅から150キロの長距離を走りきったリンは、達成感を覚えるままに温泉へと向かった

 

冷えきった身体に染み渡る温泉……それを楽しみに更にプラス6キロの山道を進んでいったリンを待っていたのが

 

 

 

【10月をもって閉店致しました】

無慈悲な現実だった………

 

そして冒頭へである

 

涙目でそのまま登っていき、松本市が見えるスポットまで行ったが

 

 

「………曇っててなんも見えねー…」

見事なまでに雲が覆っており、それも見えなかった

 

踏んだり蹴ったり…そう思いながらも、折角来たし一応と高ボッチの山頂へバイクを置いて登っていく

 

(…ぼっちでボッチ山登り…)

 

楽しみだった温泉と景色が見えず、こんな事なら近くでキャンプすれば良かったかも……と落ち込んだままリンは山頂へと行き着いた

 

 

そこに広がっていたのは見事なまでの絶景だった

 

話に聞いていた景色三点盛り

山頂から見えるのは、雲に邪魔されない自然と街並み

 

 

「…何だよ…

こっちはバッチリ見えてんじゃん…」

 

綺麗なその景色に、リンの心は奪われた

 

 

来て良かった──そう感じた

 

 

(…うん、温泉は帰りに入ればいい!!)

 

ポジティブな思考が甦ってきた彼女は、気を取り直して今日の晩御飯を作ることにした

 

今日は初の手作りご飯を作るつもりだ

 

(作るぞーっ!!)

 

絶景を前に気合いを入れたリンは、

ご飯作り+食べる場所を求めて近くを周った

 

バイクに乗って、高原等周りを見ながら

場所を探す

 

やがて牧場(動物はいない)に着いたリン

 

付近に見付けた少し細道を抜けると

 

「…お」

 

開けた場所に出た

 

落ち始めた夕日を眺められる中々に良い場所だ

 

ここがいいとリンは愛用のイス、そしてコンパクトタイプの机を出し

 

「……よし」

今日の晩御飯作りを始めた

 

 

さて、今日のリンちゃんの晩御飯の献立はコッヘル(小さな鍋)一つで出来る簡単スープパスタ

 

初キャンプ飯作りと言うことで、

リンはお手柄なそれを選んだ

 

予め切って持ってきた具材を炒め、コンソメスープで煮て2つ折りにした乾麺を

 

「…ていっ」パラパラ…

 

麺が水分を吸ってきたらスライスチーズ、

牛乳を加えてもう少し煮て

 

最後に黒胡椒とパセリを散らせば…

 

「できた(初めてのまともなキャンプごはん……)」

 

早速手を合わせて心の中でいただきますを言い、一口

 

 

更に一口、そしてスープをゴクリ……

 

 

「………は―――っ………」

 

色々なバタバタがあったものの

 

 

「うまっ」

 

リンのこの一言が、今回のキャンプの満足度を物語っているだろう……………

 

 

 

ヴーヴー

「?」

 

所は変わって山梨県

 

鳴った携帯の着信で起きたなでしこ

 

見ればそれはリンから

 

内容は「ボッチ山で食べるスープパスタうまー」のメッセージと絶景を背景に撮られた美味しそうなスープパスタ

 

 

 

りんちゃんスープパスタ作ったのかー

おいしそーと寝起きでぽわぽわしながらそれを見るなでしこ

 

 

 

 

 

しかし次第に彼女の顔が強張った

 

画面の左上、時間を見て

 

 

「……ん、あぁ寝ちゃってた………」

テーブルに突っ伏して寝ていた高彦がここで起きた

 

「(リラックスのオンパレードでついつい眠っちゃったんだな……)あ、なでしこ起きてたのか。今なんじ?」

 

 

 

 

 

 

「……4時」「…………はい?」

 

 

 

「16時………」「……………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

まじかっ!!?!?」

「あ、ああああきちゃん!!あおいちゃん!!

もう4時過ぎてるよっ!!」

「びゃっ!!?」

 

高彦となでしこの大声に飛び起きた千明

 

そして今が夕方4時だと知ると

 

「ギャーーー!!

思いっきり寝過ごしたぁーッ!!」

 

大慌てで飛び上がる

 

かくかく慌てる中

 

「あかんてあかーん………うふふふ………」

 

幸せな夢でも見てるのだろう……

微笑みながらぐっすりなあおい

 

「犬山さん!起きて!!

起きてくれーー!!」

高彦の声が、ほっとけや温泉に響いた────

 

 

 

その後

 

休憩所から大慌てで飛び出した四人

 

そのまま一キロ先のキャンプ場へ直行…………

 

 

 

 

「おんたま揚げ揚げたてだよー

買ってってー」

 

 

「「「「………………」」」」

 

暫し足を止める四人であった

 

 

 




『わん』だふる3

声に振り返ると
そこにいたのは桜色の毛の色をした




犬だった

「…………」



「たかちゃん?どうしたの??」
「…………えぇと………もしかしてなんだけど」「?」


「…なでしこか?」「?そだよ??」


「…なんで犬?」「ふえ?なにかへん?」

「いや何かって言うか…全部なんだけど」
「ええーー!!?」


「いや……犬だし…喋ってるし……」
「たかちゃん、私が分からなくなっちゃったの…?」

うるうるした目で、此方を見上げるなでしこ?

「そんな目で見られても………」
「うぅ……じゃ、じゃあさ!」

徐にお座りの状態から立ち上がったなでしこは、林の中へ走っていった

少しして

「ふぁふぁひゃーーん!!」
戻ってきたなでしこ
口に木の枝を咥えている

「はいこれ!」「へ?」

「投げて投げてーっ!」「え…こ、こうか?」

ポーンッ、と高彦は木の枝を投げる

「わーーいっ!」
なでしこ?がそれを追い掛けてダッシュ

トコトコトコーッと戻ってきて、高彦の足下に取ってきた木の枝を置く

そして此方を見上げてキラキラした目を向ける
尻尾はフリフリーッ

高彦は再度木の枝を投げた

なでしこ?はそれをまた追い掛け、取ってきて戻ってくる

投げる、取ってくる戻ってくる、またまた投げる───それを繰り返していく

「……(ああ……間違いないな………)」
高彦はループを繰り返しながら感じた

この犬は、なでしこだと


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次章予告

 

──それは突然やってきた

 

 

 

なでしこ「そんな……あんまりだよ……っ」

 

残酷な現実……

 

千明「あたし達には…どうすることも出来ないのかよっ…!」

 

胸に汲み上げる、怒り…そして何も出来ない悲しみ

 

 

無力感に苛まれ、普段の朗らかな

 

優しい光を、無くしていく

 

 

恵那「それでも私は

 

私たちは味方だよ」

 

しかしそれでも、変わらないことはある

 

かけがえのない、友情だけは───

 

 

 

リン「…本当に……行くのか?」

 

 

高彦「…みんな、俺の事を信じてくれてる。

それは凄く嬉しいんだ、感謝してるんだ。

 

…だからこそ……やっぱり俺は行かないといけない」

 

リン「…何も言わずに…行くつもりか…?」

高彦「言ったら絶対止められるから。

だから……志摩さん

 

後は頼んだよ」

 

 

 

 

リン「…丸投げかよ…託すくらいならっ

 

 

そんなに心配してるんなら、

行かなければ良いじゃないかっ!」

高彦「………」

 

 

 

 

 

 

高彦「守りたいから」リン「!」

 

 

高彦「みんなを……俺の友達を、家族を

 

守りたいと誓った、全てを」

 

 

───彼は一人で戦う道を選ぶ

 

大切な人を守るため

 

 

かけがえのない、未来を守るため

 

 

 

 

 

たとえそれで命を失ったとしても

 

一片の悔いなど、ありはしないのだ

 

 

 

 

何故ならば───それが

 

 

彼の『正義』なのだから

 

 

 

 

 

「わんわん!」

高彦「…まさか君と一緒に戦うことになるとはな」

 

「わん、わんわん!」

「わかってる…さあ行こう、ちくわ将軍!」

 

 

なでしこ「なんで…なんで一人で行っちゃうの…っ!?」

 

 

 

秘密結社テーブルクロス

「「「テーブルクロース、テーブルクロース──」」」

 

高彦「決着を着けよう……勝つのは俺達

 

ブランケットだぁっ!!!!」

 

なでしこ「たかちゃん────

たかちゃぁぁん!!!!」

 

 

 

 

──迫り来るかつてない脅威

 

それにただ一人(+)、立ち向かう少年と

少年が守りたいと想う存在達

 

 

少年は自らの誓いを守れるのか?

少女達の未来は──やって来るのか

 

 

 

絶望の先に……少女達はなにを見る?

 

 

【ゆるく行こう~野クルの男子部員~】

 

監督・新城肇

 

 

 

主演・ちくわ総統 

スペシャルサンクス・チョコ天皇

 

 

 

 

なでしこ「たかちゃん………目を開けて………」

 

 

高彦「…………」

 

なでしこ「こんなの…こんなの無いよ…っ

あんまりだよ…っ」

 

 

 

 

───おとずれる幸せに

 

 

 

(高彦)の姿は───

 

 

次章『決戦・ブランケットvsテーブルクロス

     絆と想いと富士山』

 

 

 

        近日公開

 

 

群青と青春と謳歌とその他諸々をその目に焼き付けろ

 

 

 

来場特典・ブランケット

 

特別前売り券特典・ブランケット

 

グッズ・ブランケット

 

 

※閲覧時はブランケットを巻かないと見られません

 

 

 

 

 

 

 

 

あおい「全部うそやでー」

 




と言うことでエイプリルフールネタでした
過ぎちゃいましたけれど

エイプリルフールじゃない日にエイプリルフール関連の事をすると口の中に出来物が出来て喋られなくなると言う噂があるみたいです。

それを回避できる方法が口の中を濯いで、塩を舐めながら謝罪の言葉を丸一日唱えると言うのがあるようなので、これから早速やっていきたいと思います



全部ウソですが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャンプスタート!

前回夜中のテンションでふざけすぎて変なの書いちゃいました。
思い付きとノリでああいうの時々書くかもしれません


後書きのミニストーリーも思い付きとノリなんですけど………


「…なー、あきー」

 

木々が道端に生い茂る、薄暗い道

 

あおいはスマホを見ながら歩く千明に問い掛けた

 

「こっちで合っとるん?さっきから下っとるよ?」

 

ほっとけや温泉で寝過ごしてしまったなでしこ等四人は、キャンプ場までの道を急いでいた

 

今日行くイーストウッドキャンプ場は展望キャンプ場と呼ばれる類で、高い場所にある

 

…のだが、下り道がさっきから続くので

本当にこの道なのか気になったのだ

 

 

「日ぃも暮れてきたし…」

「んー…地図ではこっちになってんだけどなぁ……」

そう言う千明も不安なのか、

地図アプリを開いたスマホを凝視する

 

「…わたし暗い森って苦手なんだよね…」

「林間キャンプ場全部NGじゃねぇか」

 

なでしこは今の環境自体が不安らしく、

先程からおどおどしながら歩いている

 

怖がるなでしこを見て

 

「大丈夫」「たかちゃん…」

高彦は落ち着いた口調で、そう伝えた

 

「直ぐに抜けるさ、きっと」「…うん」

高彦の声を聞いて落ち着いてきたのか、

なでしこは強張ってはいるが頷いた

 

「あ!!」

すると千明が何かを見付ける

 

「もしかしてあれじゃね?」

見付けたのは木で出来た看板だった

 

かなり廃れて文字も『ンプ場』しか見えないが、

間違いないだろう

 

そこから少し歩くと、やっと森の中から抜け出せて

目的地であるイーストウッドキャンプ場に辿り着いた

 

 

「チェックイン遅くなってすみません…」

「大丈夫ですよ」

 

キャンプ場の管理人のおじさんに千明が代表して謝ると、向こうは笑んで大丈夫と応えた

 

(さむえだ)(シブい…)

(寒くないのかなぁ…?)(格好いいな…)

 

それぞれそんなことを思いながら、

作務衣姿の管理人から諸々の説明を聞く四人

 

説明を終えた管理人が

野外のリビングスペースに戻っていく

四人の目は、それに向いた

 

「しかし管理人さんのリビングスペースええな~」

「超くつろぎ空間」

 

野外に建てられた解放感ある、

これぞテラス席と言う感じの空間

 

なでしこなどは目をキラキラさせて眺めている

 

「ご自分で作られたんですか?」

「ええ、見よう見まねだけどね」

高彦の問いに管理人のおじさんが笑みながら答えた

 

「こういうとこで余生を過ごしたいぜぇ」

そう千明が染々と呟く

 

 

 

「余生よりまず進路決めなあかん時期やわー」

「…………」

千明の目が少しだけ色をなくしたのだった

 

 

そんなこんなありつつ、四人はキャンプ場を歩いていく

 

「ねえあきちゃん、どこにテント立てるの?」

「おー、こっちこっち!

良いところ予約してあるぜ~!」

 

「テント張る場所も予約出来るのか…

結構助かるね、それ」

「キャンプ場によっては予約出来る所もあるらしいぞ」

 

へぇ、とまだまだキャンプについて知らない事が色々あるんだなと高彦は思った

 

対して千明、そしてあおいは今回が初キャンプ(こうして自分でプランを考えて)だが知識は豊富だ

 

きっと沢山、

キャンプ雑誌などの資料を見て調べたのだろう

 

それほどまでに、彼女達はキャンプが好きなのだ

 

 

(…変わった人達とか、思っててごめんね)

 

 

それから数分後

 

「ここここーっ!!」

千明が立ち止まった場所

 

「「おーーっ!!」」「…スゴいな、これ」

それはまさに絶景だった

 

 

「最高やないのーっ!!」

「だろ?ちっと高い方が見晴らしいいと思って

二段目にしたんだよ」

 

「むはーっ!!」

カシャカシャ──

 

「すっ───────ごく良い景色だねぃー!!!」

「お前はスゴいテンションだな」

 

テンションが限界突破しているなでしこに苦笑いの千明だが

 

こうして自分が考えて決めた場所にここまで喜んでくれていることに、嬉しそうに頬を緩める

 

 

 

さて、寝過ごしたせいで日も暮れてきた

 

暗くなる前にテントもろもろを設営していく

 

今回はちゃんとテントを張る練習をしてきた高彦は、本栖湖の時よりも早く設営が完了した

 

その後なでしこ達のテント張り等も手伝いながら、

皆で協力して、無事に設営は完了した

 

ちょうどその頃に、

管理人が水が入ったタンクを持ってくる

 

「水はここに置けばいいかい?」

「あ。ありがとうございます!」

 

管理人は水の使い方と、焚き火の注意点を説明

 

そして自由に使える薪の置き場に連れていって貰って、調子にのって薪をこれでとかと抱え込む千明を窘めつつ

 

「じゃあ説明はここまでで

夜は冷えるので、暖かくしてしてね

楽しんでください」

そう言って、管理人は戻っていった

 

 

管理人が戻っていって、早速焚き火の準備をする四人

 

そこで今回のキャンプの発案者兼、

野クル部長の千明が提案をする

 

「折角だからウッドキャンドルやろーぜ!!」

「ウッドキャンドル??」

 

「確か…丸太の断面に切れ込みを入れて、

そこに着火剤詰め込んで燃やす…って奴だっけ?」

 

「そのとうりだ!かりやん!!」「か、かりやん?」

 

「ろうそくみたいになるから、

ウッドキャンドルって名前が付いてるんだ」

 

「でもこれ全部割れちゃってるよ?」

「割れてるやつを束にするんだよ

こうやって、針金を使って纏めて……

中に着火剤入れれば……ほれ!」

「ほんとだー!!」「へぇ、考えたなあき」

 

 

千明は出来上がったウッドキャンドルに早速火を灯す

 

暗くなった辺りに、暖かな明かりが広がった

 

「普通の焚き火とはちょっと違った雰囲気で」

「いいねぇ~…」

 

「これ上に鍋直乗せして料理も出来るんだぜ」

「それすごいなぁ~」

 

「…真っ黒になっちゃうけどな」

「…それもそうだねぇ」

千明となでしこは野クル備品の煤で真っ黒になったポッドを思い浮かべて、苦笑いを浮かべた

 

 

 

パチパチ…

 

火がはぜる音が響く

 

雑音が一切ない、静かな時間

 

 

「…焚き火見てると

どうしてこんなに落ち着くのかなぁ……」

「せやなぁ…」

 

「…本栖湖で初めて火起こししたとき、

俺もそんなこと感じてたよ」

「そうなの?」

 

「うん…自分で薪拾って…それを切って

火が灯ったとき、良いなぁって」

高彦は目の前の夕日と、夕日に染まった景色を眺める

 

自然…あのときは富士山だった

テレビやネットで見る、画面越しのそれではなく

実際に自分の目の前に広がるもの

 

自分の手、自分の目…それの集大成のように、

高彦は感じたのだ

 

「あれ一発で、填まっちゃったんだよな」

たった一回…それだけで高彦はキャンプに魅せられた

 

照れ臭く笑う高彦に、なでしこと千明、あおいは

微笑んだ

 

 

和やかな時間……

 

………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

バカッ━━━

 

「「「「!!!?!?!」」」」

 

それをぶち壊したのは、ウッドキャンドルだった

 

束ねてあった薪が、急に倒れたのだ

 

あおいが使っていた針金を見ると

 

「これよー見たら細いアルミ線やないの」

「熱で切れちゃったのか」

 

 

「………なっ!!鍋乗せなくて良かっただろ!?」

「な!!じゃないわ。」

 

▽ ▽ ▽

 

「暗くなってきたし気を取り直して

 

晩御飯作るよー!!」「「「おーっ」」」

 

 

「今日は一味違う

 

煮込みカレーだよ☆」

「やっぱりカレーやー」「カレーやー」

 

「一味違うって?」

「ふっふっふっ…それは、出来上がってからの

お楽しみだよっ!

 

 

それまで待ってるんだよぉ~」

「田舎のおばあちゃんか」

 

ルンルンしながらカレーを作るなでしこ

 

具材は予め素揚げしてあったようなので、

後は煮込むだけの簡単な調理だった

 

 

…しかし、味の方は

 

「「うまぁ~!!」」「うまいなぁ」

 

外ご飯効果もあるが、とても美味しい

 

「うまいけどなんか不思議な味だな?」

 

何入れたんだ?と言う千明の問いに、なでしこは答えた

 

 

「これだよ!とんこつラーメンのスープ!」

「あー、ラーメン屋さんのとんこつカレーってやつか」

 

なでしこは、ラーメンを作った次の日に

余った粉末スープを使って良く作るらしい

 

「そのままだと辛いから小麦粉と水で薄めるの」

「変身カレーってやつやなー」

 

「美味しいよ、なでしこ」

「へへへ~、見直したでしょ?たかちゃん!」

 

「…そうだな

(別になでしこに見下す所なんて無いけどな)」

 

 

その後は我が家のカレーの話で盛り上がったり

 

 

マシュマロを焚き火で焼いて、

焼きマシュマロにして食べたり

 

各々持ってきた食べ物、飲み物

それらを片手に(時々両手に)兎に角盛り上がった

 

そうしているうちにあっという間に暗くなり

 

時間的に遅い時間になってきた

 

 

一日の余韻と言うか……一同が染々としている時

 

 

「…今日はありがとう」

高彦が、3人に向かってそう言葉を送った

 

「誘ってくれて…楽しかったよ」

 

誘われたときは、当然戸惑った

 

しかしこうして一日を過ごして、

やはり来て良かったと思った

 

それを企画して誘ってくれた3人に、

高彦は感謝したのだ

 

 

「…なぁ、かりやん」

すると礼を言われた一人である千明が、

何かを決めたようにして、口を開く

 

 

「良かったらだけど、野クルに入らないか?」

「え?」

 

「前々から思ってたけど、男子と一緒ってのはどうだろう…って感じだったけど。

今日一日お前がいて、大丈夫だって思ったんだ」

 

「…わたしも、刈谷くんやったら大丈夫って思うわ」

「………」

 

「たかちゃん入ってくれたら、

わたしスッゴく嬉しい!」「…………」

 

 

「もちろん、直ぐにとは言わないからさ。

ダメならダメでも良いし………一応、

考えてみて貰って良いか?」

 

 

 

「…分かった。ちょっと…考えさせて」

 

高彦の言葉に笑む3人

 

 

そのあと、先程と同じように楽しむ一同

 

 

高彦も楽しみながら

 

 

(……野クル…か)

誘われたことを、考えていた

 

ユラユラ揺れる、焚き火を見ながら───




『わん』だふるfinal

「どうどう!?わたしだって分かってくれた?」


「…うん、間違いなくなでしこだ」
「やった!やっと分かってくれた~」


「…でもさ」「うん?」



「なでしこ的には良いのか?判断基準それで」


「いいよ!」「いいんだ…」

「ほら、わたしって時々犬扱いされるし!」
「それ自分で言うんだ…て言うか自覚あったのか」

目の前のなでしこ(犬)と、高彦は会話していく中で
これは夢であると確信した

あまりにも見た目以外何時もと変わらない、なでしこと話していて逆に冷静になったからだ

冷静になった頭で、
ふと思ったことを高彦はなでしこに聞く

「なでしこ」「なに~?」

「それってどんな犬種なんだ?」

桜色の毛色の犬は聞いたことが高彦には無い
何犬なのか気になったのだ

なでしこ(犬)は自慢する様に胸を張って答える


「なでしこ犬です!」「ああ、そうですか」
そういうことらしい


「たかちゃんこそ、何犬なの?」
「いや、俺は人間だから」




「?なにいってるの?」「は?」


「何処からどうみても犬だよ」
「いや、なにいって………?」

そこで高彦は気付いた

先程まで見下ろしていたなでしこ(犬)が、
今は同じ目線にいるのだ

自分はしゃがんでなどはしていない
つまり───


「…ちょっと」
高彦は恐る恐る、
背後に広がる本栖湖の湖面に顔を覗かせた











そこに写ったのは『犬』だった


「───────
なんじゃこりゃぁぁっっ!!、?!!?」


「これでたかちゃんもわたしとおんなじだね!」
「ちょ、ちょっと待ってなでしこ───」


「大丈夫!わんちゃんライフもサイコーだよっ!」
「やめてっ!?これ以上ツッコミ処増やさないで…」


こうして、彼もまたわんちゃんとして生きていくことになったのだった……めでたしめでたし 
   以上斎藤恵那でした♪

「ストーリーテラー君かいっ!?
お願いだからおさまってくれ!」


────…諦めろ 諦めたら楽になる
   しまりんだんご ───

「諦めないで!?諦めたら試合終了だよっ!!」


さあ君も、レッツ『わん』derfulライフ!!
「お前誰だよ!?
頼むから───夢なら覚めてくれぇっっ!!!」













「夢や無いで」
       終わり






書き終わって一言

…なんだこれ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれのキャンプ、二つの景色

キャンプご飯とお喋りを楽しむ野クル+高彦

 

ほんわかした時間を過ごし、

日付が変わる頃に名残押しつつもそろそろ寝ることに

 

 

もちろん高彦は1人テントである

 

寝袋に入り、さあ寝ようか…と瞼を閉じる────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たかちゃん、一緒に寝させてぇ…」

「何を言ってんだ君は」

 

 

テントに顔を覗かせ、正気とは思えない要求をするなでしこにツッコミ

 

それに対して、なでしこは半泣き状態で訳を話した

 

 

どうやら1つのテントに、なでしこ、あおい、千明は入っていたらしい

 

理由は一人で寝るのは寂しい…と言った物だったのだが、3人で寝るのにはテントが狭かったのだ

 

 

なので誰かが1人テントに行かなくてはならない……

 

ここは1つ、公平に………

 

 

 

───ジャンケン

 

 

 

ポイ!!───

 

 

 

 

「…んで、一発負けしたと」「グスン……」コクコク…

 

 

「…理由は分かったけど、流石にダメだ」

「ぅぅぅ………」

 

 

 

「別々のテントだけど、離れてる訳じゃ無いんだし大丈夫だって。みんな近くにいるんだから」

「………うん………わかった…………」

 

項垂れながら、なでしこは去っていった

きちんと閉めていったなでしこに、

高彦はやはり律儀だと思いつつ

 

 

「…あいつは、俺を信用しすぎだ……」

少し心配になる、高彦だった───

 

▽ ▽ ▽

 

 

 

「……………」

 

寝袋にくるまった高彦

 

テントの天井を見ながら、今日の出来事を回想していた

 

 

2回目となるキャンプ

 

初めてのグループ(しかも異性と)キャンプ

 

 

綺麗な景色、美味しいご飯、みんなとの楽しい時間

 

 

そして────

 

 

『良かったらだけど、野クルに入らないか?』

「………野クル…か」

 

千明、そしてあおいとなでしこに誘われた

野外活動サークルへの勧誘

 

正直悪い話では無い

 

自由な時間が欲しくて部活には入らなかった高彦

 

だが野クルは、まったりした集まりであり、

忙しそうでは無い

 

なにより好きになったキャンプに携わる物だ、

嫌なわけが無い

 

 

…されど、やはり女子だけの集まりに

男一人入るのも気が引ける

 

誰か別の男子が入ればマシだろうが、

千明の口ぶりからそれはあまり望めないだろう

 

 

幸いにも千明は直ぐに答えてくれなくても言いと言ってくれた………が、なるべく待たせてしまうのも高彦は申し訳ないと感じる

 

 

 

考えを巡らせながら、ゆるりとやって来た睡魔に身を委ねようとした

 

 

その時

 

ゴソゴソ「…?」

 

「たかちゃん、起きてる…?」「……なでしこ?」

 

 

「あ、ごめん……起こしちゃった?」

「いや……どうした?」

 

「うん、実は───」

 

 

 

 

「…成る程な」

「あきちゃんとあおいちゃんはもう寝ちゃって……」

 

 

 

 

 

「…わかった、ちょっと待ってな」「!いいの…?」

 

 

「そう言うことなら…それにこんな真夜中に女の子1人行かせるのもな」

 

「…ありがと、たかちゃん」

ニコリと笑って、なでしこはテントを閉めた

 

「…さてと」

寝袋から出て、高彦は準備をする

 

外に出る準備を

 

 

▽ ▽ ▽

 

「たかちゃん来てくれて良かったぁ~」

テントの外でホッと胸を撫で下ろしたなでしこ

 

なでしこもこの暗闇の中、

一人で外を歩くのが怖かったのだ

 

なので高彦が一緒に来てくれることになってくれて、

なでしこは安心したのだ

 

 

「お待たせ」そうこうしていると、テントから高彦が出てくる

 

「ううん、全然待ってな………」

 

「?、どうしたんだ?」

「……………

 

どなたですか?」

 

 

「は?

高彦ですけど?」

 

「たかちゃん…?でも、眼鏡………」

 

「?……ああ、俺普段コンタクトだから」

「そうだったんだぁ~」

 

 

「…そんなことより、早く行こう。

待たせてるんだろ?」

「!そうだった!!じゃあ行こっか!!」

 

意気揚々と足を踏み出すなでしこ

 

 

 

 

 

 

その数分後

 

「ひいぃ…暗いよぉ…」

やはり怖がるなでしこだった

 

特に夕方も通った林の中は、ランタン二個分の明かりでは目の前が殆ど見えないくらい暗い

 

「大丈夫か?」「うぅ……怖い…けど……」

 

 

「…なでしこ」

 

高彦は、なでしこに手を差し伸べた

 

「たかちゃん…?」

「……ここ抜けるまで手を引くから。

着いてきな」

 

なでしこはおずおずと、その手を取った

 

途端に襲い掛かっていた恐怖が、

幾分か薄れていくのをなでしこは感じる

 

 

「…ありがとう……たかちゃん…」

「…ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサガサ 「ふェっ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひwj~mpa¥ぇひぐひqmdぃえあ!!?!?!?」

「おい落ち着けなでし──おわっ!?」

 

なでしこは高彦の手を引いて走り出した

 

全速力で

 

足元が見えにくい、暗闇の中を

 

 

「ひぃぃぃやぁぁぁ!!!?!」

「落ち着け!転ぶ、転ぶから、

怖いからぁァッッ!!!!」

 

 

 

それからまた数分後

 

「「はぁ…はぁ……」」

 

やっと林の中を抜けた二人

 

 

 

「ふーーっ……暗いとこ抜けたぁーー」

「…そだね」

 

荒くなった(全力疾走したから)息を整える高彦となでしこ

 

 

「はぁ………さて、行くか」パッ

 

「あっ………」「なでしこ?」

 

 

「あ、ううん!

リンちゃん待たせてるから早くしないとっ!!」

 

小走りするなでしこ、それを追う高彦

 

 

二人が向かう先は───

 

 

「ついた……よしっ」

 

         パシャリ

 

 

 

「…えへへ~」

なでしこはスマホで撮ったものを満足げに眺めた

 

「…………」

高彦はただ、目の前の光景に目を奪われていた

 

 

千明が夜景で有名と言っていた、

笛吹公園からの夜の町並み

 

山々に囲まれた町の明かりが、星のように輝いている

 

 

リンにこの光景を見せたくて、なでしこはここに写真を撮りに来たのだ

 

ヴーッヴーッ

「?たかちゃん、リンちゃんからちょっと待っててって………たかちゃん?」

 

 

「………………!あ、うん………」

 

 

「…綺麗だよね」「…うん」

 

 

 

 

「…普段住んでる場所が、違うところから見るとこんな綺麗なんて………不思議だな」

「そうだね………」

 

そうして暫くすると

 

 

ヴーッヴーッ

再びなでしこのスマホが鳴った

 

送り主はリンから

 

内容は「お返し。」のメッセージと

 

 

 

高ボッチからの夜の夜景だ

 

 

 

「たかちゃん、リンちゃんから」

「うん?……………」

高彦はまた、言葉を失った

 

 

高彦のその様子を微笑んで見ながら、

なでしこはリンに返事を送った

 

 

 

「ありがとう」

 

 

「………」

そのメッセージを、長野にいるリンは見て小さく笑んだ

 

 

 

山梨と長野は遠く離れている

 

 

 

だが、二人の気持ちは一緒だ

 

 

 

 

 

 

「「綺麗だね」」

 

同じ空の下、二人の景色…………

 

 

きっと自分達は───

 

 

「………ありがとう なでしこ」

 

 

繋がっている─────

 

 

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

次の日

 

 

「……ふわぁ………」

ぐっすり寝ていたなでしこが、目を覚ました

 

 

昨日はいろんなことがあった

 

初めての場所、美味しい食べ物に温泉

 

キャンプ、そして────

 

 

「…リンちゃん、喜んでくれて良かったな」

 

ニッコリ笑いながら、なでしこは寝袋から出る

 

朝御飯の準備しないと…とテントから出ると

 

 

「あ、おはよう」「へ?」

 

既に誰かが起きいた

 

千明じゃない、あおいでもない

 

 

「たかちゃん?」

 

 

「もうちょっとでご飯できるから、待ってて」

「あ、うん……え?」

 

呆けているなでしこ、その間に千明とあおいも起きてきてテントから出てきた

 

二人もなでしこと同じような反応を見せていて

高彦はそれを見て思わず笑ってしまう

 

 

「朝ごはん、食べようか」

 

高彦が作ったのは野菜たっぷりのコンソメスープ

 

そしてもう一品

 

平たい大きめの皿に卵(4つ)牛乳(適当)砂糖(適当)を混ぜて、一口大に千切った食パンを浸ける

 

少し置いて(その間にスープを作った)、ひっくり返して両面に調味液を染みらせる

 

家から持ってきた小さいフライパンにバターを溶かし、漬け込んだ食パンを弱火で焼く

 

両面に程よく焼き目がつけば…………

 

「外でやるのは初めてだけど出来たな

フレンチトースト」

 

不格好だが、正真正銘のフレンチトーストだ

 

「砂糖は少な目にしたから、ハチミツをお好みで。

みんな、コーヒーとココアどっちに……て」

 

「「「……………」」」

 

「…どした?」

 

「…刈谷くん、ホントに料理出来たんやな」

「ああ、うん……疑ってたの?」

 

「かりやん、お前……主夫だったのか?」

「いいえ、俺は高校生だよ」

 

 

それからなんやかんやあり、

四人は高彦が作った朝ごはんを囲む

 

 

「「「…………」」」

そしてフレンチトーストを一口

 

 

 

「…素朴だ……」「なんか…良いなこれ」

 

「優しい味がするよ~」「そりゃどうも」

 

それからコンソメスープも一口

 

これも素朴で、ホッとする味だった

 

「お母さんが作るご飯みたいやね」

「料理は母親から大体習ったからね。

味付けとかも似てるんだよ」

 

「…でも」なでしこが口を尖らせた

 

「…もしかして美味しくないか……?」

「ううん!そうじゃないんだ

 

…ただ」

 

 

「たかちゃんのおもてなしキャンプだったのに……

それらしいことあまりしてないから………」

「「ああ……」」

 

 

「いや、昨日カレー作ってくれたじゃないか」

「う~ん、でも………」

 

納得してない感じのなでしこ

 

 

それを見た高彦は、

じゃあ…と言葉を発し

 

 

 

 

「入部試験……て事で」「「「え?」」」

 

 

 

 

「俺は合格かな?」

小さく笑ってそう言った高彦

 

彼の言葉の意味を理解した3人

 

 

返事は決まっていた

 

 

「「「合格!」」」

 

わーっ、と盛り上がる3人

 

 

「……(十分すぎる程お返し貰ったよ)」

心の中で高彦は、そう呟いた……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで部員四人! 部活に昇進だぁ!!!」

「やったなぁ~」

「わあい!たかちゃんも一緒~!!」

 

 

「…それが目的ね」

少し苦笑いする高彦だった

 

 

 

そして翌日

 

学校にて山岳部顧問の大町にそれを伝えると

 

 

 

 

 

「ああ~…すまん。

実は金曜の会議で部活の昇格人数『5人』以上になってな………」「「「゜H゜」」」

    

 

 

「ははは……」

昨日に続いてまたまた苦笑いする高彦だった

 

 

 

どうやらまだ、極狭部室からの引っ越しは

遠そうである

 

 

 




イヌイヌイヌ子さん

前回までのあらすじ(あったっけ?あったはず多分ね)

今まで犬山は岐阜県だと思っていた犬山は


実は犬山は愛知だと知った犬山

犬山を絶体絶命のピンチが襲う!
どうする犬山!どうなる犬山!!


「───待って!」
と、そこに救いの手が現れた

「なんで犬山が岐阜じゃいけないの!?」「!?」


「わたし前は浜松の端に住んでたけど、
全然静岡感なかったもん!!
静岡らしさとかなかったもん!!」
「うん、怒られるぞ誰かに」

「あおいちゃん……良いんだよ………
犬山は………岐阜でも良いんだよ………だって考えてみて?

宇宙から見たら、日本に県境なんて無いんだから……」


「───なでしこ!!あたしが間違ってた!
そうだよな………愛知も岐阜も同じだよな!」
「わかってくれたんだね、あきちゃん………」
「怒られるぞ」


「犬山が何県でもええなら、北海道がええわー」
「「!?」」


「…作者は別に愛知と岐阜にアンチ持ってる訳じゃありません。愛知も岐阜も、良いところです。

以上、誰に言ってるのか分からない、〆でした」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お土産と放課後の焼き肉論

キーンコーン、カーンコーン…

 

 

学校のチャイムが鳴る

 

既に1日の授業は終了しており、これは放課後のチャイム

 

 

もう11月の終わりともあって、夕日が出始めている

 

 

 

図書室で本を読んでいたリンは、パタンと本を閉じた

 

彼女は図書委員

最後に図書室を閉めるまでが仕事、

もう閉めなくてはならない

 

 

 

 

 

…のだが

 

 

(暖かくて出られん…)

 

ストーブが暖かすぎ(快適)で、出るに出られなくなっていた

 

 

ぬくぬくしながら、何の気なしにカレンダーを見る

 

 

(…今年もあと1ヶ月ちょっとか…)

 

昨日一昨日と行ってきた、長野のソロキャン

 

初めての原付旅、訪れた場所、見た景色……

 

色々予想外の事が起こって大変だったが、頭に浮かぶそれらは、リンにとって良い思い出となっていた

 

初日に入れなかった温泉も、帰りに入ることが出来た

 

楽しかった…心からリンはそう想った

 

 

「………」

不意に自分の鞄を見詰めて、中を覗く

 

そこにはお菓子の箱が入っていた

 

 

リンが、なでしこへと買った長野の土産だ

 

渡そう…そう思って持ってきたが、もう放課後

 

(…クラス違うけど……何処かで見かけると思ったんだけどな……)

 

とはいえ生物なので、早めに渡したい……

 

ぅぅん…と悩んでいると、

お菓子の下に何かあるのに気付いた

 

 

なんだろう…?と取り出すと

 

 

「…なんだこれ?」

それは小包だ

 

こんなの入れたっけ…?と考えて

 

「…あ」

今日の朝の事を思い出す

 

 

今朝、リンは少し寝坊した

 

朝御飯を食べる時間も無かったので、支度を済ませて家を出ようとした

 

 

その時、母親からお弁当と

 

この小包を「あなた宛よ」と渡された

 

寝ぼけ気味でそれを受け取った自分はそれを、鞄の中に入れてしまって………

 

 

 

「…なんで出がけに渡すかな…」

 

鞄の中に入れたリンもリンだろう…そんな突っ込みをする者はここにいない………

 

 

▽ ▽ ▽

 

「またね、リン」「うい」

 

「明日のお昼はそれ使って

ここで焼き肉やろうね」「大惨事だわ」

 

あれからやって来た斎藤恵那に、リンはツッコミを入れた

 

恵那の言ったそれとは、小包の中身だ

 

 

中身はネットで注文したコンパクト焚き火グリルだった

 

これで焚き火や、炭火を使った料理を作れる

 

キャンプ飯の雑誌を見て、焼き肉のページをロックオンしたリンはキャンプで焼きたての焼き肉を想像してゴクリ……

 

 

 

そんな時に現れたのが恵那だった

 

グリルをメタル賽銭箱?と、ふざけなのか真剣なのかよく分からない恵那の問いにツッコミつつ、リンは恵那と話していた

 

 

グリルに付いている鉄板を使い、焼き肉を焼く……

 

自然に焼き肉論の話題となった

 

 

豚バラ カルビ 豚トロ ホルモン ハラミ タン ロース───

 

焼く順番、食べる想像……考えるだけでお腹が鳴りそうな焼き肉論

 

「お会計三万五千円となります」「たけえよ」

 

最後は恵那のボケで終わった

 

 

…その後恵那にお土産の事を指摘された

 

 

部室にまだいるんじゃない?と言う恵那に、リンは渋った

 

なでしことは親しくなったのだが、

まだリンはあの『ノリ』が苦手なのだ

 

 

リンは恵那に渡してきてと頼んだが、恵那はそれを断った

 

 

「リンが渡してあげなよ。

そっちの方が喜ぶと思うけどな」

 

恵那の言葉に、リンは何も言えない

 

リンだってそうしたい……と思っているから

 

 

 

「なでしこちゃんにお土産早く渡しなよ~」

そう言い、恵那は図書室から出ていった

 

 

 

「………」

また一人になるリン

 

静かになった図書室で、スマホを手に取る

 

 

長野にて、なでしこから送られてきた夜景の写真

 

長野と山梨……遠いその距離

されどこの夜空の下で繋がっている…そう想える写真

 

写真に映る満面の笑みのなでしこ

 

白い息を吐いて、鼻と頬を赤く染めて……

自分の為に、寒い中をこの光景を撮ってくれた

 

 

なでしこの優しさ、リンは分かっていた

 

しかし改めて…なでしこの優しさをリンは実感した

 

 

そして

 

「…………」

 

写真に映る、もう一人の姿

 

暗いのが苦手ななでしこに付き添った、彼

 

 

刈谷高彦、リンは高彦について殆ど知らない

 

しかし本栖湖にてスープを貰って、それが凄く美味しかったのを覚えている

 

なでしこの幼馴染みだったらしい彼、彼もまた寒い中を歩いていった

 

なでしこの為…そして自分の為に

 

 

「…お人好しカップルか………」

 

 

 

 

 

 

「失礼します…」「!?」

 

急に聞こえてきた声に、ビクンとなるリン

 

声の方を向くと……そこには高彦の姿があった

 

 

「あ、志摩さんお疲れ様」「あ、ああ…うん……」

 

 

 

「あのさ…なでしこここ来てないかな…?」「へ?」

 

 

「実はさっきまで部室にいたんだけど、急に『リンちゃんのとこに行ってくる~』…て出ていって」

「えぇぇ……」

 

「もう帰る時間になっても戻ってこないから、

ちょっと見に来たんだ」

「そう…でも私も見てないよ」

 

「そっか…何処行ったんだろ…?」

首を傾げる高彦

 

 

(…そう言えばこの人、入部したんだっけ)

 

なでしこから高彦が野クルに入ったことを、

メッセージで送られてきた

 

文面だけでもとても喜んでいたのが分かったものだ

 

 

「…電話してみたら?」

 

「う~ん…それが出なくて」

「なにやってんだアイツ…」

 

溜め息を吐くリンに、高彦は苦笑する

 

「一応もう一回かけてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪

 

 

 

着信音が鳴った

 

この図書室の中で

 

 

「「……………」」

高彦とリンは顔を見合せ、

音の鳴る方へ向かう

 

 

そこには───

 

 

本棚の影から伸びる、人の足……

 

息を飲み、近付いてみる二人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クゥ~……zzz」

 

「…いた」(こいつ、またか)

 

寝息を経てて幸せそうに眠るなでしこがいた……

 

 

「むにゃむにゃ……zzz」「いや起きろよ」

 

 

「zzz……」「おおい、なでしこ。そろそろ起きろ」

 

 

「…起きてるよぉ………zzzzzz………」

 

 

 

 

 

 

 

「…起きなかったら晩御飯抜き」「!」

 

高彦の一言でなでしこはカッ!と目を開き、

起き上がった

 

「おきた?」「…ふぇ?たひゃひゃん?」

 

「風邪引くぞ、全く……」

(…本当、どこででも寝る奴だ)

高彦が溜め息をつき、リンが本栖湖の時の事を思いだし呆れる

 

 

「…ねぇ、たかちゃん」「ん?」

 

 

 

 

「晩御飯は…?」「食べなさい」

 

▽ ▽ ▽

 

「いや~、二人が楽しそうに話してたから…

なんか入ってけなくて…」

 

「だとしてもあんな所で寝なさんなよ」

「えへへ…暖かくてつい……ところで、何話してたの?」

 

なでしこの問い掛けに、ハァ…と溜め息を1つ

 

 

「…これ、長野のお土産」

リンはなでしこに、買ってきたお土産を差し出した

 

 

それを見たなでしこは元々大きい目を更に大きくして

 

「えっ!!おみやげ!?わたしに!?」

「生菓子だから早く食べなよ」

 

 

 

「ありがとうリンちゃん!!」

花が咲いた様な笑顔を見せるなでしこ

 

その様子に、リンは漸く渡せたことと、喜んで貰えた事にホッとした

 

 

 

「大事にするよー!!」「「いや食えよ」」

リンと高彦のツッコミがハモった……

 

 

「おいしそ~!!」「………」

 

お土産の箱を大事そうに持って眺めながら、嬉しそうにしているなでしこに、リンは先程恵那に言われたことを思い出していた

 

 

『リンが渡してあげなよ』

 

『そっちの方が喜ぶと思うけどな』

 

そして同時に、なでしこなら食べ物の方が喜ぶかも……と思った時に想像していたなでしこの満面の笑み

 

今目の前の反応が、一切の違いがないリアクション

 

 

それにリンは小さく笑んだ

 

 

なでしこはちょっと食べてみて良い?とリンに聞き、勿論彼女は了承したので、封を開けてお菓子を1つ取る

 

包みを開けて出てきた真っ白なお饅頭になでしこはまたまたニコニコ

 

はむっ…と一口食べて

 

 

「ん~~~~~~~~~っ!!」

 

たまらない!!!とばかりにまたパクパク……

 

「すっっっごく美味しいよ!!

ありがとリンちゃん!!!」

「黙って食えよ」

 

バッサリと言ったリンだが、

少し赤くなっている頬が本心を物語っていた

 

美味しそうに食べるなでしこ、それを見るリン

 

穏やかな空気に、空気になっている高彦もほっこりする

 

「あむあむあむあむあむぅ…………む?」

中から生チョコが出てくる饅頭を夢中で食べていたなでしこ

 

リンの目の前に置かれた『ソレ』を、あむあむさせながら興味を持つ

 

 

「なにこれ? ミニ賽銭箱?」「おまえもか。」

 

リンは溜め息をつきつつ、それの説明をした

 

説明を聞いたなでしこはへぇ~、と更にそれ…グリルに興味を持ったようだ

 

これ一個で焚き火も、料理も出来る

 

しかも焼き肉も、キャンプで出来ると聞いて目をキラキラさせる

 

 

その食いつきっぷりを見て、リンはそれで今度肉焼いてみる?と尋ねる

 

すると

 

「うんやる!!

やろうよ!!焼き肉キャンプ!!」

 

「あ…いや、キャンプという訳じゃ…」「そうだ!!」

 

なでしこは水を得た魚…と言うかご褒美を得た犬のようにテンション高めに、リンに顔を近付ける

 

ずいっと急に顔を近付けられて恥ずかしそうにするリンを尻目になでしこは尋ねた

 

「リンちゃん、今週の土日ひま!?」

「え、まあ…バイトは無いけど…」

 

「今度はわたしがいいキャンプ場探してみるよ!!

野クルの名にかけて!!」

 

目を…全身をキラキラさせてVサインをするなでしこ

 

その勢いに負けて「…うい」とつい同意をしてしまった

 

「よーし!がんばるぞー!!」と完全に行く流れに持っていってしまったなでしこ

 

 

「何のお肉にしよっかなー…それと、暖かい物も……」

 

もうすぐ期末試験なのに…そう思いつつ

 

 

 

 

(………まあ   

     いいか)

 

しょうがないなぁ……となでしこに流されることを選んだリンであった

 

 

 

 

 

 

 

因みにお土産の生チョコ饅頭はこの間にほぼほぼ食べ終わっており

 

 

机の上にある空の包みにリン、そして高彦が苦笑するのであった

 

 

 




へやキャン△

(…YAKINIKU…✨)



(ロース…カルビ…トントロ……)


(キャンプで………YAKINIKU───)



「………………✨✨✨」







「……………」じーっ

恵那は全部見ていた







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏の特別編 『5人で来たのに…』

夏の番外編で、本編と時間軸がかなり進んでます

元にしたのは、ゆるキャンのアンソロの『4人で来たのに…』です


『━━━━◯×▲◻️▽※~!!!!!!━━━━━』

 

 

「おわっ…なんだ…?」

 

テントで寝ていた高彦は、

突然聞こえてきた大声に叩き起こされた

 

 

今高彦は、何時ものメンバーととあるキャンプ場でキャンプをしている

 

暗くなるまで皆とキャンプを楽しみ、ぐっすり寝ていたのだが………

 

 

「…隣の…なでしこと志摩さんのテントか…?」

 

のそりと寝袋から出て、外へ出た高彦

 

まだ暗く、真夜中なのが直ぐに分かる

 

風も強く、ヒヤリと冷える

 

腕を擦りながらテントに目を向けると

 

 

「犬山さん達も起きたのか」

既になでしこ達のテントの中を覗いているあおいと千明の姿が見えた

 

様子的に深刻そうな空気じゃ無いので一先ず安心し、高彦もテントへ近付く

 

「どうしたんだ、こんな夜中に──」

と声をかけると

 

 

「だがぢゃん!!!!!!」「おごあっ!!?!?」

テントからミサイルの如く飛び出してきたなでしこ(芋虫状態)に頭突きを腹に諸に食らい悶絶した

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

取り敢えず取り乱しているなでしこを宥め、テントの中へ入る3人(高彦、あおい、千明)

 

未だ怯えている様子のなでしこに、何があったか問うと

 

 

「実はリンちゃんがお化けになってる夢見ちゃって…」

「お化け?」

 

どうやらなでしこは、リンがお化けになって現れる夢を見てしまい、飛び起きてしまった様だ

 

怖くて眠れないよ!とリンに頭突きをかますなでしこと「それやめろ!」と抗議するリンとの漫才を見ながら

 

…なんで俺にも頭突きしたんだろう…?と疑問に高彦は思っていたら

 

その疑問は、直ぐに知れた

 

「お化けになったリンちゃんが、たかちゃんを食べてて…」「おい」

 

襲撃のカミングアウトをかますなでしこに、リンがチョップした

 

「…それはまた……」「ハードやな……」

「…俺はどんな反応をすれば……」

 

 

「…兎に角落ち着けよ、なでしこ。ただの夢じゃん…」

「だって今もこのテントの向こうに、

お化けがいるかもしれないんだよッ!!」

 

リンのフォローも、今のなでしこには通用しないらしい…

 

自分から恐怖度を増さしている所から分かるが……

 

「軍団でいるかもな」「ひえッ!?」

「あんま怖がらせなやーあきー…」

 

「わ、わたし…もう今日は寝れないよぅ……

リンぢゃん、朝までお話じでぇ…」

「寝させろよ…」

 

 

「あ、でもお化けって火とかに弱そうやんねぇ」

「なら火おこせば退治できるかも」

「そ、それだっ!

ありがとあおいちゃん、たかちゃん!!早速やって─」

 

 

「火属性のお化けだったらどーすんの?」

「そん時は水バッシャーかければええんよ」

 

((お化けに属性が…?))

 

属性について問答している千明とあおいに、心の中でツッコむ高彦とリンの隣で、なでしこは想像してみた

 

 

お化けがチラ見しているのを発見!

 

火が点いた松明を「くらえっ!」

 

 

ヒョーイと避けられout

 

ならば水を──ヒョーイ  out

 

 

 

          ━━終了━━

 

 

 

 

「─────リンぢゃん~~~」

「なんだよお前は…」

 

「…て言うかさ、

そもそもなんでお化けって怖いんだろう?」

 

「そんなの決まってるよたかちゃん!!

お化けだからだよ!」「答えになってなくないか」

 

「…でも、そこが分かれば克服できるんじゃないか?」

「そりゃしまリン、こっちに危害を加える可能性があるからだろ?例えば食べる・殴る

 

地獄へ連れていく──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────おっ 

おばけなんてほんまにおるわけないんやし!」

「そ、そうだよなッ!眠れないならトランプでもしようぜ!あたしもってきてんだよ!」

「いいねっ!大垣さんナイスアイディアだよ!!

じゃ、さっそくやろやろ───」

 

 

その時であった

 

 

ガサカザ…

 

テントの外から、物音が聞こえてきたのだ

 

 

「…………きょ……今日、風、強いから、その音かな…?」

「そ、そそうだよね!そうだよね!?そうにきま──」

 

なでしこがリンの言葉を肯定した、その直後

 

 

テントの壁地が、中に向かって窪んだのだ

 

風が当たったとかでは無い

 

まるで、なにか……テントにぶつかったように

 

 

 

 

その証拠に、小さな窪みが一ヶ所に浮かんだ

 

指の形──一同は直ぐにそう気付いた

 

そしてその一ヶ所とは、テントの入り口の付近だった

 

窪みは徐々に入り口へ近付いていき

 

 

そして────

 

 

 

「─アッ」誰が漏れ出たか、その声は

 

 

入り口から入り込んできた、手が見えた瞬間で

 

 

 

…なでしこは、ゆっくりと入り口の方を向いた

 

そこには───髪で顔が隠れた

 

 

「騒がしいけどなにかあっ「「「「ぎゃあああああああ!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…風が強くて髪の毛が……ってあらっ!!?

み、みんなどうしたの!!??」

 

テントの中に入ってきた野クル顧問の鳥羽先生が見たものは

 

 

倒れ込んだ女性陣の姿……

 

何がなんだか混乱した鳥羽先生は、唯一倒れずに座ったままの高彦に話し掛けた

 

 

「か、刈谷くん!?一体どうし──」

 

 

 

 

「…………」「…か、刈谷くん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高彦は、白目を向いて気絶していた────

 

 

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

「そ、そんなことがあったのね……怖がらせちゃったみたいで、なんかごめんなさい……」

 

「ああ、いや、鳥羽先生はなにも……

勝手に驚いてたの俺達だし………」

 

気が付いた一同は、鳥羽先生に事情を話していた

 

色々な偶然が重なって、起きた悲劇だったのだ

 

怖い夢を見て、外が風が強くて

 

 

みんなのテントの中が騒がしいのに気付いて起きた、野クル顧問の彼女が、様子を見に風の強い外に出て

 

 

 

しっかり雰囲気が出来上がっていた一同に驚かれた

 

そんな、悲しい事件だったのだ……………

 

 

「いや、元はと言えばお前のせいだろっ」

「はあ゛ぃ~ッ!」

 

 

「ははは……何は兎も角………一安心だね」「そやねぇ」

 

 

 

 

 

 

「…………刈谷くん───?」「?なんですか、先生?」

 

 

「………………………………………………………………」

「せ、先生…?どうし──」

 

 

 

 

 

「…あの、確か、なんですけど」「「「「?」」」」

 

 

 

 

 

 

「今日、用事ができて来れなかったんじゃなかったでしたっけ…………犬山さん」

 

「「「「ぇ……………」」」」

 

 

 

「……………」「い、イヌ子…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんのことやぁぁぁァァァ???????????????????」

 

「「「「「ぎゃあああああああァァァ!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ていう夢を見てさ」「見るなよ」

 

所変わって本栖高校

 

昨日見た夢を話す恵那に、リンがツッコミを入れた

 

「そんな夢見るなよ…」

「うん、私も後悔してるよ……」

 

 

「ったく……これからキャンプの打ち合わせだってのに」

 

今、彼女達は校庭に向かって歩いていた

 

来週の休日に行く予定の恒例のキャンプの打ち合わせを、野クルの面々+顧問と行うからだ

 

 

「あっ、お~いリンちゃーん、恵那ちゃーん!!」

 

二人が待ち合わせ場所に行くと、

既に野クルの四人と顧問の鳥羽先生がいた

 

リンと恵那を見付けて手を振るなでしこに、

二人は笑みながら一同のもとへ向かう

 

「ごめん、待たせた?」「ううん!待ってないよ~」

「俺達も今さっき来たとこだし」

 

「それじゃ、揃ったことだし早速始めっか……

 

と、行きたいところだが……」「「?」」

 

 

 

「…リン、恵那……二人に悲しいお知らせがあるのだよ……ああ、本当に悲しいのだが「大袈裟やで」」

 

そう千明にツッコむあおいが、リンと恵那に顔を向けた

 

あおいは申し訳なさそう顔で、言葉をかけた

 

 

「来週急用が出来てな

キャンプ行けなくなったんよ

だから私抜きで楽しんできてな~」

 

「「ぇ……………」」

 

 

 

 




夏時期過ぎちゃいましたが、夏の特別編でした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お肉と謎の湖

大変長らくお待たせしました!


晴れの日の土曜日

 

志摩家の家の前に、一台の車が止まっている

 

 

なでしこの姉、各務原桜が運転する車のトランクにはいくつかの荷物が入っており、更にそこに荷物が入れられていく

 

 

「これで全部?」「あと薪と炭」

 

なでしこはリンの荷物を入れ込むのを手伝う

 

 

今日は約束していた、

なでしことリンの焼肉キャンプの日だ

 

 

「お姉ちゃん、準備できました!」「はいはい」

 

 

「いってらっしゃい」「うん」

 

「お子さん、おかりします!」

「ふふ、はいどうぞ」

 

なでしこの元気一杯の言葉に、

リンの母親の志摩咲は微笑んだ

 

自分の母親となでしこのそんな会話を少し気恥ずかしく思いながら

 

 

「じゃ

しゅっぱーつ!!」

 

なでしこの掛け声と共に、一行を乗せた車が動き出す

 

 

それを咲は手を振って見送った

 

 

 

キャンプ場に行く前に、

食材を買いに『ゼブラ』と言うスーパーへ向かう

 

車快適…とリンはぬくぬくしながら

 

(…しかし…)

ふと運転席にいる桜に目を向けた

 

桜と会うのは、これで3回目

 

桜の運転する車に乗るのはこれで始めてで、こうして近い距離を長い時間過ごすのは始めてだ

 

 

(お姉さんって美人だよなぁ…)

目を少し細めながら、のんびりした様子で運転する横顔にリンはそんな感想を思いつつ

 

「あ~…うむうむ」もっちゃもっちゃ

 

その横を見れば、お徳用の大きい袋のグミを頬張る妹の姿に正直似てないなとリンは思ったのだった

 

 

 

数分後、お目当てのスーパーゼブラに付いた二人

 

来店するなでしことリンは、早速お肉コーナーへ向かう

 

 

なでしこもウキウキしているが、

実はリンも負けずにウキウキしていた

 

なんせただでさえ旨い肉を、備長炭で

 

しかもキャンプで食べられるのだ

 

 

直火火焼き、そして外ご飯……そんな上乗せ効果増し増しの肉だ

 

豚トロ、タン、カルビ………その他多々の肉肉パーティーが、もうすぐそこまでやって来ている…!

 

意気揚々とリンはお肉コーナーに向かっていって

 

 

 

 

 

 

 

「「…………………」」沈黙した

 

 

目の前に鎮座する様々なお肉たち

 

 

…を期待していたのに、売り場コーナーにはバラとカルビしか置いていなかったのだ……

 

なでしこはバーベキューは普通夏なので、冬の今はあまり焼肉用の肉は置かないんだと気付いた

 

 

そしてリンは

 

「………………」蹲って沈んでいた……

 

項垂れるリンに慌てたなでしこは当たりを見渡してみた

 

そしてあの物をみつけ、あっと気付く

 

「リンちゃん!豚串!!豚串とかならあるよっ!!」

「…豚串…?」「焼き鳥も!」

 

「…焼き鳥……?」

「うん!焼き鳥!!

炭焼だったら串物だっておいしいよ!!」

 

「そうか…炭焼と言ったらハンバーグとかも…」

「それもアリだよ、リンちゃん!!」

 

と、まあ当初の予定とは少しズレたが

 

無事にメインを選び終えて、リンはなでしこにタレは何味にするか聞こうとした

 

 

…そのなでしこはと言うと

 

「むはーーっ!!」(…出来立て惣菜トラップ…)

 

その後買ったメンチカツを出発した車内で食べたなでしこだったが

 

車内にメンチカツ臭が充満し、桜がなでしこが乗る助手席側の窓を容赦なく全開にしてワーワーしていたが

 

リンとなでしこは、今回向かうキャンプ場

 

四尾連湖キャンプ場に向かっていったのだった

 

 

さて、その道中なのだが   

 

「そういえば、

四尾連湖キャンプ場なんてよく知ってたね」

 

とリンはなでしこに聞いた

 

今回、キャンプ場を探して見付けたのはなでしこだ

 

最近越してきたなでしこが、四尾連湖を何処で知ったのか気になっていたのだ

 

その問いになでしこは実はと説明する

 

 

キャンプを何処でするか

 

いつもの部室で、なでしこは千明とあおいに良いキャンプ場を知っていないか聞いた

 

すると千明が提案してきた

 

それが四尾連湖……かつて富士八湖の1つと言われていた、富士山近くの湖である

 

そこは地元住民にもあまり知られていないらしく、湖には謎の巨大魚が、管理棟のテラスには謎の激ウマバーベキューがあるとか

 

 

ないとか

「謎のってなんだよ…」「いつもの事やで刈谷くん」

 

「各務原隊員!!現地調査を頼めるかね!?」

「わかりました隊長っ!!」

 

 

 

「『なんだその小芝居…』」

「えへへ…たかちゃんにも言われた〜」

 

「………あのさ、前から聞こうと思ってたんだけど」

「うん?」

 

「刈谷くんと幼馴染みだったんだよね?」

「うん!そうだよ?」

 

「本栖湖で会ったときは、分からなかったのか?」

 

「あ〜…うん、たかちゃん幼稚園にいた時に引っ越しちゃってね……あれから会ってなかったから一目じゃ分からなかったんだ」

 

「でも名前を聞いたら思い出したんだろ?

10年くらい前なのに、良く覚えてたな」

 

 

 

「見た目も声も変わってたから気付かなかったけど、たかちゃんを忘れた日なんて無いもん」

 

 

「………そういう事を平気で言えるんだな………」

「ふえ?」

 

 

「いいや、なんでもない

(無自覚か…?……いや、これはただの天然だな)」

 

そんなこんな話していると

 

3人を連れた車は、四尾連湖へと到着したのだった

 

 

 

 

その頃、スーパーゼブラに高彦が訪れていた

 

頼まれた買い物をかごに入れて、

レジに向かっていた

 

「いらっしゃいませ〜」「ん?」

 

と、そこに最近になって聞き覚えのある声が聞こえた

 

 

「あ、犬山さん」「どうも〜」

 

「犬山さん、ここでバイトしてるんだ」

あおいの服装がスーパーの制服なので、そう問い掛ける

 

「そうやよ、先週からな

刈谷くんはお買い物?」

 

「ああ、頼まれてね」

「そっかぁ…あ、そう言えばさっきなでしこちゃんと志摩さん来てたで」

 

「ここで買い物してたんだ」

「うん、お肉とか、野菜とか買ってたなぁ。プチ鍋も作るって張り切っとったわ」

 

「…楽しんできてくれると良いね」

「…そうやねぇ」

 

微笑み合う、高彦とあおい

 

そんな二人の願いの先であるリン、そしてなでしこは

 

 

 

 

 

 

キャンプ場内にて蹲っていた(なでしこが)

 

 




紅葉要素書けませんでした……

高彦不在なので、省略しつつ書きたい場面を書くという感じで次も行こうと思います

クリキャンまではそんな感じかもです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とあるキャンパーのキャンプ風景

自分で考えた設定盛り沢山ですので、お許しをm(_ _)m



某所の林間キャンプ場

 

そこの一角で焚き火に当たりながらキャンプを楽しむ、おじいちゃんが一人

 

 

 

 

とあるおじいちゃんキャンパーside

 

…今日は絶好のキャンプ日和だ

 

 

風は少なく、程よく空気が乾燥して焚き火の炎が安定している

 

無論悪天候には悪天候なりの楽しみ方があるが、コンディションが良いに越したことはない

 

 

…私の孫も、今日はキャンプに行っていると聞いている

 

なんでも友人と一緒らしく、それを聞いたときは思わず驚いてしまった

 

一人を好む、私の性格に似てしまったあの子はソロキャンプを常にしていた

 

友人…キャンプ仲間と共に過ごす事も楽しんで欲しいと思っていたから、大変嬉しい

 

…しょっちゅうこうやってあの子の事を思い浮かべるのだから、私は俗に言う孫ばかなのだろう

 

そんな事を考えていると、視線を感じた

 

見ると少女が一人、こちらを離れたところから見詰めている

 

視線の先からして、私のキャンプ道具と

 

今目の前で焼いている、『これ』に興味があるようだ

 

私と目があい、あちらは一瞬びくりとする

 

私は少女に手招きした

少女はゆっくりと近付いてきた

 

 

 

「…肉、喰うかい?」

 

 

 

「……いいんすか?」「………」

 

スキレット……鉄のフライパンで焼いていた肉を、一切れフォークに刺し、少女に差し出す

 

「…いただきます」

少女はぱくりと、肉を口に運んだ

 

 

「……!!!!」「………」

 

言葉はいらない

 

真に美味いか否かは、表情を見れば分かるものだ

 

 

 

 

「ごちそうさまでしたっ」「…うむ」

 

少女は深々と頭を下げ、それから去っていった

 

活発だが、礼儀正しい子だった

高校生くらいだと思うが、まだ若いのにこういう静かな所に休日に足を運ぶとは珍しい

 

…孫と案外話が合うのではないだろうか

 

 

……また孫のことを考えてしまったな

 

 

………………今頃あの子も、あの子と一緒にいる子も

 

キャンプを楽しんでいるだろうか─────

 

 

 

 

冬の陽は落ちるのが早い

 

すっかり辺は暗くなり、より静寂が包む

 

…やはり落ち着く

 

私がキャンプ……もとい旅に魅せられたのは、そのきっかけはこの時間だ

 

静まり返り、音は焚き火の炎がパチパチと爆ぜるのみ

 

月と、炎の明かりのみに包まれる

 

自然と一体となった感覚が、私は好きだ

 

いつしか生き甲斐となるほどに

 

 

 

 

…だが、家族が出来てから

 

『寂しさ』も、旅の中で感じ始めた

 

結婚してからは、妻と

 

子供が出来てからは娘と

 

その子供が巣立ち、新たな命を芽吹かせてからは孫と

 

 

時が進み、寂しさの素が増えてゆく

 

愛する人が増えてゆく───

 

矛盾とはこういうことを言うのだろう

 

一人になりたくて旅をしているのに、

一人が寂しくなる

 

相対する感情を持つ……されど、それも醍醐味なのかもしれないな

 

楽しみ方は、それぞれなのだから

 

 

…歳を取ると考え事が増えてしまうな

 

もうそろそろ寝よう……コップに残った、すっかり冷めたコーヒーの最後の一口を飲み

 

焚き火の始末などをし、テントへ入った

 

防寒をしっかりして、寝袋へ入る

 

 

…娘には呆れられるが、やはり止められない

 

この生き方はまだ終わらないだろう

 

私にとって、旅とは

 

キャンプとは、生き甲斐なのだから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番の生き甲斐は勿論、家族なのだけどね




キャンプと家族大好きおじいちゃんの話でした
誰のことなのでしょうね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四尾連湖の夜

 

…大昔のこと

 

牛鬼と呼ばれ恐れられた牛の化け物が四尾連湖に住んでいた

 

牛鬼はとある武士に倒され、湖に沈んだ

 

…しかし、その亡霊は未だこの世に掬っているのだという

 

いまでも、この四尾連湖には丑三つ時になると湖の湖面に牛鬼の亡霊が現れるという言い伝えがある──

 

 

 

 

とか無いとか

チャリン──

「お願いです今夜はでないで下さい

でないで下さい──」「何の石碑に拝んでるの?」

 

 

…とまあ怖い事が苦手ななでしこのドタバタがあったものの(この後リンの「心配なら丑三つ時より前に寝ればいい」というフォローで持ち直した………)

 

 

 

「わーーーい かしきりだーーーー!!!」

  ……今はこんなである

「バカな女だぜ」

 

 

(原作通りなので割愛しますm--m)

 

湖の水場近くのグリーンサイトにテントをたて、二人はキャンプを楽しむ

 

そこではリンがなでしこの姉で、ここまで送り迎えしてくれた各務原桜の事を考えたり

 

なでしこが、リンがキャンプをいつ頃から始めたのを聞いて

 

きっかけはリンが祖父よりキャンプ道具を貰ったことからと知ったり

 

 

…炭での火起こしに苦労し、なでしこが散歩で見かけた他のキャンパーのお兄さんに助けてもらったり

 

起こした炭火で焼いた豚串、鱈鍋をお礼に持っていって逆にジャンバラヤを貰ったり(同伴の彼女さん?はベロンベロンだった)

 

炭焼きプラス鱈鍋とジャンバラヤパーティーを楽しみ、

満腹となって…………

 

 

 

今は残った炭火で、焚き火中である

 

「備長炭は優秀だねぇ………

ひと粒で2度おいしい…………」

 

ブランケットに包まりながら、焚き火を囲むリンとなでしこ

 

和みながら、リンはなでしこに尋ねた

 

「…ねぇ、なでしこって

山梨来る前はどこに住んでたの?」「わたし?」

 

 

「浜松の端っこの町、浜名湖の近くだよ。

天気がいいとあそこからでも富士山見えるんだ〜

ちっちゃいけど」

「へぇー」

 

「…だから、本栖湖で初めて大きな富士山見れた時は

 

うれしかったなぁ」  

 

 

ポワ…「……あれ?山梨来る時、清水の辺りで

大きな富士山見えなかった………?」

「助手席で寝ちゃって…

だからがんばって自転車こいで見に行ったんだよー」

 

 

 

ポワポワ…(………じゃぁ来るとき富士山見てたら…

 

本栖湖来てなかったかもしれないのか……………)

 

 

「嬉しかったといえば、たかちゃんに会えたのもだね

まさか一番最初に来たキャンプ場にいるなんて思わなかったよ。

その時はお互い分かんなかったけど」

 

「…あのときのミネストローネ美味しかったな……」

「だねぇぃ〜」

 

「………幼稚園にいたとき、たかちゃん引っ越しちゃって

 

あのときは泣いたなぁ〜………」「…………」

 

「もう一人、仲良しの幼馴染の子がいてね。

その子ともう大泣きして………たかちゃんも泣いてて」

 

「もう会えないって思ってた

 

…だから嬉しかったよ。

 

 

キャンプは、大事な人とまた逢わせてくれたんだ」

 

「…そっか(なでしこはやっぱり………

        彼のことが──)」

 

 

 

 

「…………」「リンちゃん眠そうだね」

 

「…うん…だいぶ…」

 

 

 

…なでしことリンの、初めての二人だけのキャンプ

 

色々ドタバタがあったものの、それらも楽しいと想える

 

そんな良い時間になったのだった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

…これは、とある湖畔キャンプ場で女子高生S.Rさんが体験した実話である

 

 

女子キャンパーS.R side

 

…あの日、わたしは友人とそのキャンプ場でキャンプしに行ったんです

 

まあ………楽しかったんですけど  少し

 

それで、夜になって眠くなってそれぞれのテントで寝てて

 

わたしは途中、御手洗い行きたくなったのでテントから出ました

 

なにも音がしない、真夜中でした──

 

 

 

御手洗いを済ませて、なんとなく湖を見てたんです

 

 

…月の明かりに照らされた湖と、一面黄色の紅葉はとてもキレイでした……

 

湖畔のキャンプはやっぱり良いなと思いながら、

見惚れていました

 

 

 

…その時でした

 

   

 

─オ゛エエエ

何か音が聞こえたんです

 

 

 

 

ヴオ゛エ゛

 

ヴオ゛オ゛エ

 

音は近付いてきてわたしの隣で聞こえてきました

 

 

なのでなんだろうと思って隣を見たんです

 

 

…そこには

ヴオ゛ェ‥

 

……この世のものとは思えない不気味な音……声を出す大きな角が生えた影でした

 

わたしは怖くなって逃げて、自分のテントに飛び込んで

 

 

…震えながら、寝袋に入りました…………

 

 

 

…あれは何だったのか、よくわかりません

……でも

 

 

あの声は、今でも耳から離れていません───

 

 

 

 

   ヴオ゛エ゛エ゛エ゛ェ

 

 

 

 

 

 




映画3回見ました
また見たい……でも財布…………


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。