魔法科高校の劣等生~世界最強のアンチェイン~ (國靜 繋)
しおりを挟む

誕生という名のプロローグ

魔法、それが御伽噺や夢物語として語り継がれていた物が、現実の産物として早半世紀がたった。

特に最初の一年目は、あらゆる人々が喜び勇んだ。

自分達もあのようなことが出来るのだと。

しかし、そんな幻想は直ぐに打ち砕かれた。

必要だったのだ。

才能が。

魔法を操る才能が、必要だと分かった後は誰もが、魔法を使えると分かった人間に嫉妬した。

どうして、私が、僕が、俺が、自分が、負の連鎖は終わることはなく、永遠に続くだろう。

それこそ、人が一人としていなくなるまでは。

そして、在る人間が、気が付いたのだ。

使える人間がいないなら、”作ればいい”のだと。

それからが魔法が現実の産物となってから、一般人の知らない闇の部分の始まりだった。

望まぬ婚姻で、優れた血統を生み出すなど、当たり前。

倫理的に忌避されているクローン技術を使い、遺伝子配列を弄り、受精卵の状態から常時サイオンを浴びせることで馴染ませるなどをしてきた。

しかし、組織である以上物事を完全に隠し通せるわけもなく、内部からの情報リークにより10ほどあった、魔法研究施設の内大半がつぶれる事に為った。

その内の一つが第四研究施設。

死の研究所とまで言われる、最低最悪の研究施設で、道徳や倫理と言うものを総じて無視して研究している研究所だ。

そんな施設は、情報がばれた傍から形上、名目上ではあるが潰れている。

研究成果の身を残して――――

 

 

 

 

 

 

春、一つの家で新たな命が生まれ落ちた。

屋敷全体に響き渡る産声は、まさに生命を象徴しているかのようだ。

 

「元気な男の子ですよ。旦那様」

 

子供を取り上げた、助産婦は後ろでソワソワと落ち着きなく歩き回っている男性に声を掛けた。

 

「本当か!!」

 

男性は、一も二もなく駆け寄ると生まれたばかりの息子の顔を見ると、次に愛する妻の元へと駆け寄った。

 

「よくやった。よくやったぞ。元気な男の子だ」

 

「ええ、あなた」

 

男は、あまりの嬉しさに、厳つい顔に似つかぬほどの笑みを浮かべていた。

それが可笑しかったのか、男の妻は、ふふっと軽く笑った。

男も恥ずかしくなったのか、頭を掻いて誤魔化した。

日頃の彼を知っているものが見たら、誰だ!!と思ってしまうだろう。

それ程までに似つかわしくない光景だ。

特に、ここ”四葉家”では。

四葉家は、10ある研究所の内の第四研究所で生み出された家系だ。

第四研究所の研究テーマは、『精神干渉魔法を利用した精神改造による魔法能力の付与・向上』だ。

その研究成果が、四葉家であり、必然的に二つの系統の魔法を内包した魔法師を生み出すようになった。

一つは生まれながらに精神干渉系の異能を強化された者。

もう一つは強力で歪な魔法演算領域を備えて生まれた者。

この二つの系統が並立し、混ざり合い『四葉』を形成している。

そんな家系に生まれた新たな男児は、その二つをきちんと受け継いでいたのだ。

まさしく研究者たちが望んだもの以上で。

その事実を知るのは、両親としてもまだ後になるのだが、しかし世界各国の指導者やトップに立つべくして立った、本当のトップと言える存在達は密かに感じ取った。

これから、今以上に魔法の兵器的価値が上がると――

 

「そうだわ、この子に名前を付けてあげなきゃ」

 

「それなら、既に決まっている。この子の名前は、四葉終夜(しゅうや)。終わらぬ夜と書いて終夜だ」

 

「そう、終夜。私達の息子」

 

助産婦より、子供を抱かせて貰った子供は、女性にとってとても軽いが、だがとても重いものだった。

新たな命、それを改めて実感させられた女性は、愛する夫も我が子を抱くように言ったが、男は頑なに断った。

男は、自身の手が数多の血で汚れていることを知っているからだ。

 

「大丈夫ですよ。あなたが優しいことは私が良く知っていますから」

 

「そ、そうか」

 

日頃の威厳をこういった所でも発揮してほしいのにと、女性は思いながらも我が子を、愛する人に託した。

 

「奥様も出産直後ですので今日はもう休まれた方がいいですよ」

 

助産婦は、そう言うと女性を楽な体制にさせ、血で汚れたものを取り換えはじめた。

そこに一人の年輩の男性が襖を開け入って来た。

 

「元造殿、お生まれになられたか」

 

「これは、伯父殿。元気な男の子ですよ」

 

入って来たのは、元造の伯父だった。

 

「そうか、そうか」

 

頻りにうなずいた。

 

「私は、他の者達にも報告してきますので、今は奥方に付き添ってあげてください」

 

「ええ、そのつもりです」

 

そう言うと、伯父は直ぐに部屋を出て行った。

 

 

 

 

その日は、本家分家全てが集まって、盛大な宴が催された。

当主に子息が出来たのだ。

これで、四葉家の次代を継ぐ者が生まれた。

技術と知識、そして闇だ。

むろん、その子供がそれに相応しいかどうかは追々、図っていくところだが、子が居るのといないのでは、その意味合いが大きく違ってくる。

だからこそ、ここまで盛大な宴になったのだ。

 

「従兄殿おめでとうございます!」

 

「兄上おめでとうございます!」

 

「元造殿、おめでとうございます!」

 

「御当主おめでとうございます!」

 

「元造殿おめでとうございます!」

 

「当主おめでとうございます!」

 

宴が始まってから、元造は引っ切り無しに祝福の言葉をもらっていた。

妻と子供は、出産と生まれたばかりということで、この場にいないため難を逃れたが、この場にいたら、引っ切り無しに話され、休まる暇もなかっただろう。

幸せなことには違いないが、少し休ませてくれ、とついつい元造は内心吐露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二年後、終夜は二歳になり、二人の妹が出来た。

姉の深夜と妹の真夜だ。

双子だったそうだ。

歩きはじめ、好奇心旺盛な”魔の二歳児”だ。

冒険心や興味本位で、何をやらかすか分からない時だ。

想像力も養われ、決断力も徐々に育ってきている最も重要な時ともいえる。

そんな終夜は、産まれたばかりで二人そろってスヤスヤと寝ている妹を見に来ていた。

初めて自分より下の子を見た終夜は、とても興味深そうに観ていた。

四葉家が住んでいる集落は、元第四研究所の跡地ということもあり、四葉の者以外居ない。

終夜の周りには必然的に年上しかおらず同年代や、年下と関わる機会が一切なかった。

そんな中、妹が出来たのだ。

それも二人も、興味が湧かないはずもなく、終夜はトテトテと本人にとっての全力で、父の後を追って、妹たちの元へと来たのだ。

常日頃の元造なら、直ぐに気が付いただろうが、第二子、三子と双子ということもあり内心、ハラハラとしており、さらに自分の息子で殺気もないことから無意識下で警戒を解いていたというのもあるのだろう。

だから、終夜はあっさりと妹たちの元へと来られたのだ。

終夜は妹たちの柔らかな頬を軽く叩いたり、力の弱い手に自分の指を握らせたりと、年相応のことをして楽しんでいた。

一通りのことをやり終えた、終夜は満足気に襖を開けると出て行った。

 




完全に思いつきで書いた、悔いはない。
が、絶対批判着そうで怖い。
タグの通り、ヒロインは未定です。
暫くは、原作とは関係ない話が続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実はあったプロローグ

中々長文にならない……


死――

生きる者にとって、逃れえない事実。

始まりがあるように、終わりがある。

絶対的なまでに確定されたものだ。

そう、まさに自分がそうであるように――

 

 

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

いろんな物語で使われる、『知らない天井だ』ということはなかった。

そもそも天井と言うものが無いのだから、仕方ないともいえるが。

 

『ここは、どこでも無いし全てでもあるよ』

 

声のした方を見ると、そこには、男にも女にも見える。

年寄りにも見え、童子にも見える。

聖人にも見え、咎人にも見える。

悪い言い方をしたならば、チャラ男にも見、良い言い方をするなら淑女にも見える。

大よそ人という形の全てに”それ”は見えた。

果たしてこの中に答えが在るかさえ、甚だ疑問だ。

 

『俺のことは、見た目で判断しない方がいいって』

 

口調がチャライので、間違いなくチャラ男だなと結論付けた。

 

「で、あんた誰だよ」

 

『ふっ、聞いて驚け、俺は神だ』

 

どうやら、痛い人の様だった。

そもそも自分を神だと言い張るのは、余程の馬鹿か、取り返しのつかない精神疾患のどちらかだろう。

 

『そもそも自分を神だと言い張るのは、余程の馬鹿か、取り返しのつかない精神疾患のどちらかだろうって、今考えていただろ』

 

「地の文と見せかけた、人が思った事を言うとか……」

 

『そんなジト目で見なくてもいいじゃない』

 

どうやら、心が読める辺り神とまでは行かなくても、そこ出来る奴の様だ。

 

「で、自称神様が何の様だ?」

 

『おおっと、そうだった、そうだった。何と君は輪廻転生の中で好きな所に行くことが出来るようになりました』

 

パンパカパーンと、口に出しながら言い放った。

 

「へー」

 

『君、ノリが悪いね~。まあ、それは置いといて、君はそんな中でも願いを三つ叶えることが出来るようになりました!!』

 

おお!!と嬉しがるべきなのだろうが、どんな世界に行くのかも分からない以上変な願いは出来ない。

魔法が無い世界に行くのに、無限の魔力とか王の財宝や無限の剣製なんて、貰ってもどうしようもないしな。

なら――

 

「一つ、行く世界での、過去、未来、その時全ての技術と知識固有の能力の全てをノーリスクで使える様に、そしてその世界で最も有用な力を世界最高峰で十全に使えるようにしてくれ。二つ、絶対男で尚且つ幸運で。三つ、行く世界で最も理想的な存在にしてくれ」

 

TSだけは、絶対に勘弁願いたいからな。

 

『クールな表情で言った割に、結構がめつく願うのだね』

 

まあ、良いかとため息交じりに言った、自称神はリモコンを取り出すと、

 

『じゃあ、転生させるね』

 

スイッチを押した。

とっさにその場から飛び退くと自分のいた場所が開き落ちる仕組みになっていた。

 

「ぶね~」

 

『チッ、これだから最近の奴は何で手口を知ってやがる』

 

こいつ本当に神かと疑惑が尽きない。

そんなことを思っていた時だった。

いきなり四方に何かが落ちて来て囲まれてしまった。

 

「まさか――」

 

『と思うじゃん、残念でした正解は、これ』

 

天井知らずの上空より螺旋状に回って墜ちて来ていた――水が。

 

「流が――」

 

言い終わる前に水に飲まれ、最初に空いた穴に流されていった。

 

『ふう、さて作業するかな。そう言えば今流した奴記憶云々や生まれぬ年代については、言ってなかったから、記憶消せば、原作知識とか俺TUEEEEとかしないだろ』

 

そうと決まれば、消しとくか。

自称神は、スイッチ一つで転生させた奴の記憶を消去した。

 

『さて、次はどんな奴転生させようかな~』

 

自称神は、釣竿を持つとリモコンのスイッチを押した。

次の瞬間、自称神の周り意外が消滅した。

消滅した所を、自称神が覗き込むとそこには数多の魂が、混ざり融け合い、反発し合い、調和し合い、自己主張していたりしていた。

まさにカオスとは、この事だろう。

そんな中に、自称神は釣り糸を投げ込んだ。

すると、直ぐにヒットし新しい魂を釣り上げた。

まさか、こんな形で転生者を決めていたとは誰も知り得ないし、知ることはないだろう。

それが、当事者にとっては幸せなことと言うものだ。

 

 

 

『おめでとう、君は転生者に選ばれたよ』

 

今度は、釣り上げた転生者が何かを言う前に応えた。

毎度同じセリフを聞かされていたらつまらないから、常にいろんなパターンを考えているのだ。

だから、こう見えて自称神は神なりに忙しいのだ。

世界作ったり、新しい法則を作ったり、概念的なもとを考えたりというのは、神がやることではなく既に出来上がった物に対して神が生まれるのだ。

様は、人が考えているのとは逆なのだ。

在るからそこに神が生まれるのだ。

神が新たに生み出すということはしないし、出来ないのだ。

全知全能の神など、所詮は夢物語。

空想の産物でしかない。

精々出来るとして、人という存在を人の域を越さないならば何にでも成らせることが出来るのだ。

しかし、こんなこと誰かに説明しても無駄だということを既に自称神は知っているからしない。

 

「やっぱり、俺転生者になれるような気がしていたんだ」

 

見た目、メタボで典型的なオタクと言える姿の四十代は、最初に言い放った。

 

「それで、どこに転生できるの?」

 

『魔法科高校の劣等生だ』

 

「おお、あれか。あれは俺TUEEEEEしやすいからな――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わった、終わった』

 

そこそこの数を転生させると、自称神はリモコンのスイッチを押した。

すると、どこからともなく複数のテレビが出現した。

未だ映し出されているのは一つだけ。

他のテレビはノイズが走って全く見られない。

そして、映し出されている映像の中には、最初に転生させた奴が放送されていた。

それも丁度誕生シーンだ。

つまり、ノイズが走っているのは、転生者が誕生していないことを示している。

 

『さてさて、俺を楽しませてくれよ』

 

頬杖を突きながら、自称神は呟いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹っていいよね!!

転生から五年――

妹たち誕生から三年の月日が流れた。

妹たちも魔の二歳児を通り過ぎ、三歳児神話へと突入していた。

終夜も五歳児になったこともあり、礼儀作法を覚えさせられだした。

食事マナーに言葉使い等、簡単なものから難しいものまでを徹底的に覚えさせるという名の強制だったが。

こればかりは、前世の記憶の弊害もあり中々上手くならない。

前世の方が長かったから馴染みにくいというのと、徹底した食事のマナーが必要な所に行くほどの家の生まれではなかったというのが大きい。

という以前に、五歳児にやらせることではない。

僅かな作法のミス一つで一からやり直しだ。

気疲れこそすれ、癒される時間ではないのは確かだ。

ただ、礼儀作法を教えてもらう前の時間に合った魔法の訓練は転生特典の成果を確かめる意味と前世では存在しなかった全くの未知という興味の尽きないことも相嵌り、スポンジが水を吸う以上、それこそ砂漠に知識という水を垂らすと吸収すると同じくらいだ。

魔法師としての成長ぶりには、父元造を始め分家の大人たち全員が舌を巻いたほどだ。

 

「「にいにー!!」」

 

行儀教育から解放され、ようやく自由になった終夜を待っていたのは、目に入れても痛くないほど可愛らしい二人の妹たちだ。

十人が十人見ても可愛いと思うほどだ。

十人の中に、女に興味のないゲイやショタ好きでさえ振り返って見てしまうほどの可愛らしさで、その筋の者が見たら襲いかかってくること間違いなしだ。

そんな妹たちは、終夜に飛びつくようにして抱きついて来た。

終夜もきちんと受け止めてやりたかったが、身体の出来ていない身で二人分の突撃を抱きとめるのは無理があった。

そのまま、二人からの衝撃に身を任せる形で後ろに倒れようとした時だった。

不意に背中を何かで支えられるような感覚を感じた。

終夜は、振り返って見たが誰かがいたわけでもない。

 

「なんだったのだ?」

 

「どうしたのー?」

 

「したのー?」

 

可愛らしく小首を傾げる深夜と真夜。

それに対して、抱きついている深夜と真夜の頭を撫でながら、終夜は何でもないといった。

深夜と真夜と手をつなぎ、終夜は自分の部屋へと戻った。

その時の様子を誰かが見ているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室の扉が礼儀正しくノックされる音がした。

 

「入れ」

 

「失礼いたします」

 

「葉山か。で、どうだった」

 

「旦那様のご想像通りかと」

 

「そうか……」

 

元造は、葉山からの報告を聞くと僅かにため息を吐いた。

昔から僅かながらも兆しはあった。

それが、今日の訓練で確定してしまった。

 

「矢張り、終夜には効かなかったのか」

 

「はい、違和感は感じられておられましたが、それ以上でもそれ以下でもなく普通に魔法を発動されていました。キャストジャミングの中で」

 

キャストジャミング。

魔法式が対象物のエイドスに働きかけるのを妨害する無系統魔法で、無意味なサイオン波を大量に散布してそのプロセスを阻害するもので、それにはアンティナイトという希少鉱物が必要で、論理上はアンティナイトがなくても出来るが現在それが出来る魔法師は一人もいない。

そして、キャストジャミングは、対魔法師に対して有効な軍事手段だ。

それが効かない魔法師は、敵対する者にとって悪夢だろう。

 

「他には何かあったか?」

 

「無意識下での魔法の発現があった位かと。無意識下でとても細かく制御成されているのは、流石としか言いようがないですね」

 

終夜は未だ気づいていないが、その力はまさに現代魔法師の中でもトップクラスだ。

魔法師は、代を重ねるごとにその親和性を強めるというが、終夜は既に人の持ち得る限界にあると元造は思っている。

自分の息子がそれだけの才を持って生まれてくれたのは嬉しいが、一方で強すぎる力は周りに災いを齎すが、それ以上に本人を不幸にする。

それを元造は懸念している。

出来れば杞憂であってほしいと思うばかりだが、これだけはまさに神のみぞ知ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当事者である終夜はというと――

 

「にいにーひざのうえわたしがすわる!!」

 

「まやは、きのうすわったからきょうはわたし!!」

 

妹たちが、どちらが終夜の膝の上に座るか喧嘩しているのを見ていた。

前回下手に仲裁しようとした結果、二人に『にいになんてきらい』といわれ落ち込んだのは記憶に新しい。

何たって昨日の話なのだから古い訳がない。

だから、ここで永遠と傍観するしかないのだ、残念なことに。

 

「にいにーは、どっちにすわってほしい?」

 

「わたしだよね?きのうはまやだったし!!」

 

「みやは、おとといわたしがおひるねしているとき、ごほんよんでもらったじゃない!!わたしおしえてもらったんだからね!!」

 

だが、世の中には無情にも終夜へと決断を迫らせた。

終夜はどちらも平等に愛しているが、その平等こそが二人を傷つけてしまうこともまた知っている。

だからといって、差別する訳にもいかず何と答えるべきか大いに悩ませる事に為る結果となった。

身体が出来ていたならば、あるいは二人を一緒に膝の上に乗せられただろう。

しかしこの身は五歳児。

そこまでも体格差がない以上どうしようもない。

 

「さて、本当にどうしよう…………」

 

「にいにーはどっちがいいの?」

 

「まやだよね、にいにー!!」

 

「ちがう、みやだよね、にいにー!!」

 

四葉終夜、父の心配を他所に齢五歳にして実の妹二人相手に修羅場状態。

 




中々アイディアがまとまらずこんなに日が経つとは……
次も一気に日付が年単位で跳びます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

事前説明はあるべきだ

転生から十年――

終夜は現在十歳になり、深夜、真夜は七歳、ちょうど小学生になったばかりだとなった。

そんな終夜の悩みは、二人が第二次性徴の兆しが見えはじめて来た事だ。

思春期早発症の可能性があったが、まだ兆しということと、年齢のことを考慮するとそこまでも可笑しくないそうだ。

この調子で成長するならば第二次性徴は普通に来るそうで、問題はないと診断されて若干安心した。

そもそも何故こんなことを心配するかというと、身贔屓なしに見ても、文句のつけようのない美少女な二人だ。

そんな二人が女の体になり始める兆しが見え始めた。

これは、忌々しき事態だ。

もし思春期早発症だったなら最終的身長が小さくなるし、そうなればロリな人の需要にこたえる事に為ってしまう。

終夜としては二人には、健やかに育ってほしいし、そう言った輩の魔の手に置かされたくないからだ。

という建前があるが実際は、兆しだからいいが本格的に思春期に入って、二人から「兄さんなんて嫌い」や「兄さんあまり近づかないでくれますか?」、何て言われた日には、間違いなく塞ぎ込むこと必至という事情があったりする。

 

とまあ、こんなことを考えて現実逃避している終夜は現在、夏休みを利用して父である元造に連れられ十師族の一つである九島家へと向かっている、というよりは連れて行かれている。

九島家には、『世界最強の魔法師』であり最高にして最巧と謳われ、『トリックスター』の異名を持つ日本で最も有名な魔法師だ。

歳も四十の半ば程と今なお、国防軍で現役の魔法師部隊を指揮する軍人だ。

何故そんな人と何故会うかというと、それは終夜自身聞かされていなかった。

 

「父さん、なぜ九島殿の元へ」

 

「それは着いてから説明する」

 

昨日から帰ってくる返答はこればかりだ。

父が何を企んでいるのか、終夜はそればかりが気になって仕方がなかった。

それからは、九島家に着くまで永遠と車の中は沈黙で埋め尽くされていた。

暇をつぶす手段もなく、終夜は終始気まずい思いをするだけだった。

 

 

 

 

着いたのは、国防軍の富士演習場で九島家ではなかった。

そもそも奈良県に本宅を構えている九島家に向かうはずなのに、嫌に富士山が近づいていることに違和感を持つべきだったのだ。

そこを見落としていたのは、完全に終夜の失態としか言いようがない。

国防軍の基地につくと早々に降ろされた。

 

「ついてきなさい」

 

それだけを言うと有無も言わせずに父は歩き出した。

勝手知らない場所ということもあり、大人しく着いて行く終夜だったが、内心気にいらないと思っていた。

絶対いつの日か四葉の当主の席から引きずり降ろしてやるとその日終夜は決意した。

まあ、自分が当主になろうと思わない辺りが終夜らしいところだ。

暫く父の後を着いて行くと、急に立ち止まった。

コンコンコンときちんと三回ノックすると中から返事が返って来たので、父と一緒に入った。

 

「お久しぶりです烈殿」

 

「元造殿か」

 

中には、軍服を身に纏い書類仕事をしている九島烈その人が居た。

 

「すまんな、本来なら本宅でという話だったが」

 

「いえ、私どもと致しましてもこちらの方が近いので助かります」

 

「そう言っていただけると、こちらも助かる。それでそちらが件の息子か」

 

「ええ、終夜といいます」

 

「始めまして、烈殿。四葉終夜と申します。烈殿のお話は父からお伺いいたしており、お会い出来て光栄です」

 

習わされた作法通り、きちんとした言葉使い、礼をした。

最近は、何かといろいろなパーティに連れて行かれることもあるので、こういった話し方はもう慣れた。

 

「しっかりとしているな、元造殿」

 

「後のことは、お任せしても大丈夫ですか?」

 

「ああ、任せておきなさい」

 

何が任せておくのかと訊きたくなるのを終夜は、グッと我慢した。

むしろ聞いても教えてくれない可能性が高いから諦めたというのが適切だろう。

 

「では、一週間後に」

 

父はそれだけを言い残すと部屋から出て行った。

 

「って、え!?」

 

状況が全く呑み込めない終夜は、呆気にとられていた。

 

「呼び方は終夜と呼び捨てにするがよいか?」

 

「はい、かまいませんが?」

 

「では、行くとするか終夜」

 

「え、あ、はい」

 

とりあえず返事はしたものの、一週間後ってどういうことよ。

というか、何故こんなことに――

 

 

 

 

 

烈殿に連れられて来たのは、富士演習場の中でも国防軍の総合火力演習に使われている所だった。

無駄にだだっ広いだけで、ろくに舗装されている訳でもなく凸凹とした地面に手入れの行き届いていない草原が広がっているだけだった。

 

「では、終夜とりあえずこの場にある的を全て壊してみろ。無論魔法で、だ」

 

「分かりました」

 

この場に在る全て、つまり有視界外にもまとが在る可能性があるということか。

終夜は一度目を閉じると、精神を集中させた。

妖精の眼とマルチスコープという知覚系魔法を同時に併用することにより、イデアに直接アクセスしての存在認識とあらゆる死角となる場所を多元的に見ることによって、物理的、情報体的の両方から情報を得ることにより確実に的を見つけ出した。

この二つは知覚系魔法と呼ばれ先天的スキルとされているが、それさえも原理を教えてもらい終夜自身に合う様にチューニングしたため既存の物とは違うが本質的には同じだ。

それにより終夜は文字通りこの二つを同時に発動している時は死角が存在しない。

この二つで見つからないのは、矛盾した言い方をするならば文字通り存在しない存在だけだ。

 

「的は全部で62個」

 

「……」

 

烈はあくまでも無言で終夜を観察し続けた。

的を全て認識した終夜は、魔法を発動した。

加重と収束の複合魔法。

的の中心部に一気に膨大な加重が加わった。

地面を抉り取るようにしながら。

それが、62個同時なのだから烈は感心せずにはおれなかった。

特に興味を引いたのが、魔法に対して何の補助も入れず完全に自分一人であれだけのことをしたことだ。

 

「ふむ、あれはどんな魔法だ?私は見たことがないが」

 

「え?あれですか、いま思いついたものですが?」

 

「なんと!!」

 

これで合点がいった。

元造が、終夜にCADを買い与えなかったのは、その柔軟性と応用性、そしてそれらの規模が大きすぎてCADのストレージでは直ぐに溢れかえるからか。

そして生まれてから魔法の発動、規模、強度、サイオン量その全てが未だ発展し続けている、これが事実なら確かに四葉だけで育てるには技量が近しくなければならない。

あそこは、良くも悪くも兵器としての魔法師に特化し過ぎているためか、一点特化の者が多すぎて、終夜みたいな万能に近いものを育て上げるには向かない場所でもあった。

だからこそ元造が烈に終夜の教育を頼んだのだが。

 

「では、次をやるぞ」

 

「はい」

 

何故こんなことをしているのか未だに理解できてはいないが、好きにしていいというなら日頃構想止まりだった魔法を存分に使ってみようと思った終夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終夜は日が落ちるまでの間、永遠と魔法を使わされた。

流石に半日近く魔法を使い続けると、疲れを感じたが、疲れを感じる程度で収まった。

このことに烈はさらに驚いていた。

終夜が創り出した魔法や、使った魔法はどれもが難易度が高い代物だった。

それを使い続けて尚疲労を感じる止まりだけで、烈自身もあれだけの魔法を一切の無駄を省いて行使したとしても動けなくなるだろう。

それだけの代物を使ってこれだ。

その重大性を終夜が気づいていないことに烈は、呆れを感じていた。

 

「さて、終夜今日見させてもらった魔法だが、はっきり言って無駄が多すぎる。それを失くすのがお前の課題だ」

 

「分かりました」

 

流石にあんなに魔法を使わせられていたら終夜でも違和感に気付く。

何故こんなことをしているかと烈本人に訊いたら、一週間自分を教育するということではないか。

それも、深夜と真夜のいないこのむさ苦しい空間で。

その時の絶望は弱い十歳にして人生を諦めた様なものだったと烈は笑いながら言っていた。

 

「だが、私もお前に付きっきりというわけにもいかない。だから、明日からトレーニングメニューを渡す、それ通りにしておけ。私も暇が出来次第見に来るからサボるなよ」

 

それだけを言い残すと烈は部屋から出て行った。

 

「真夜、深夜。お兄ちゃん頑張るからね」

 

それだけを言うと娯楽の無い軍事施設だ。

残されたのは明日に疲労を残さないことなので早々にシャワーを浴びると寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の妹ズは――

 

「兄さん、一週間帰ってこないんだね、真夜」

 

「そうだね、姉さん」

 

明日は、父さんと出かけてくると聞いてはいたが、父さんが帰ってからも兄は帰ってこなかった。

何かあったのか心配ではあったが、父は「お前たちは知らなくていい」の一点張りだった。

だから、完全に他人行儀で「すみません元造さん、これから下着は別々に洗濯してください」とゴミを見るような目で言って去ろうとしたら、流石の元造もこれには応えたらしく、日ごろの威厳はどこへやら、二人にしがみついて、終夜のことを簡単にゲロったのだ。

 

「せっかく一緒にプールに行こうと思ったのにね」

 

「そうだね」

 

二人の手には、スクール水着が握られており、胸には「よつばみや」と「よつばまや」と書かれていた。

見る人が見たら発狂するだろうそれを終夜は見逃したのだ。

後日これを知った終夜は、無論さめざめと泣いたのだが。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一週間の訓練何てなかった。ただ夏休みを無駄にしただけ

あれから一週間が経ち今日の夕方頃に迎えが付くとのことだった。

途中妹成分が不足してまずいかと思ったが、何とか耐えきった。

というか、何なんだあの爺、十歳のガキに対してあのハードなメニュー。

絶対無理だから。

 

 

 

六時起床からのラジオ体操

確かに夏休みだけどさ、何でこんなところに来てまでやらされるのと思いつつも一人寂しく外でやった。

その間軍人さんたちは、点呼を取っていた。

 

七時朝食

 

これは軍人さんと一緒に隊員食堂で食べた。

先ほどから、ずっと何故こんなところに子供がいるのかと奇怪な目で見られている。

まあこればかりは、仕方がないことだと終夜自身割り切って入るが、こう言った事は事前に説明しておいてほしかったと思った。

 

八時十五分――

 

軍人さんたちは国旗掲揚・朝礼していた。

その間、終夜は烈に言われていた体育館に来ていた。

そこには、魔法師専用軍事教練用の機材がある場所だった。

烈が準備していたメニューには、指定された複合魔法を使用して機材で処理速度を計るといった単純なものだが、問題は複合魔法に合った。

単一系魔法ならば、簡単に指定速度に達することが出来るだろうが、複合となると中々そうはいかない。

それを指定速度内に収めると為ると、確かに無駄が在ったら無理だ。

事実、烈が指定した処理速度は理論上であれば一切の無駄なく発動できた場合出せる数値ではあった。

 

「烈殿、いやあのおっさん絶対腹黒いだろ」

 

一応誰にも聞こえない様に小声でだが、終夜が毒づいたのも仕方ないことだと思う。

そもそも理論上できる=可能かといわれたらそうではない。

それなら、机上の空論何てもの存在せずそれこそ、永久機関が今頃いくつも完成していることだろう。

 

「まあ、仕方ないやれと言われたらやるしかないだろ今の立場的に」

 

一週間、子供の夏休みは貴重だ。

それを失われるならせめてなくす以上の価値を見出さなければ意味はない。

それに現在の終夜は、軍の施設を使わせて貰っている立場だ。

何か言われたとしても烈殿に言われたからで何とかなるが。

 

「まあ、愚痴っていても始まらないか」

 

終夜は機材の準備を始めようとして、気が付いた。

あれ、使い方分からなくね?と。

 

 

十二時昼食。

機材の使い方は、訓練中の人に訊くわけにもいかないので渋々烈の元へと赴き教えてもらってからし始めた。

また、隊員食堂へと来ていた。

一日の時間が全てきちんと決められている軍人は、決められた時間内でしか食事が出来ないため、食堂は混雑していた。

 

「うわ……」

 

軍隊である以上女子率は低い。

それが意味することは、先ほどまで訓練していた筋骨隆々な男や細マッチョな汗臭い男どもが所狭しと居るのだ。

ハッキリ言おう、目が腐ると。

既に腐っている男や男色の気が在る奴からしたらご褒美だろうが。

終夜はノーマルだ。

ただ、チョッとばかり妹が好きすぎるくらいで至ってノーマルだ。

終夜は、昼食を貰うと端っこに座り急いで食べて体育館に戻った。

あそこにいたらキツイ。

そもそも子供があんな場所に一人ポツンとのいる光景自体が違和感だらけだ。

そこからは、永遠と出された課題をしていた。

 

夕方十七時

何とか、出された課題をクリアした。

額に汗を浮かべ、若干息を荒げていた。

一日を同じ作業に費やしていたのだ、かなりの集中力を要すものだ。

それを十歳の子がしたのだ、十分褒められる事柄だ。

 

「ほう、一日でそれをクリアしたか」

 

声がした方を振り返ると、入り口の所に烈がいた。

 

「ええ、おかげさまで何とかなりましたよ」

 

「そうかそうか、ならば明日からはこれをやっておけ」

 

そう言って渡されたのは、次の目標だった。

終夜は、引きつった笑みを浮かべながらも

 

「分かりました」

 

と答えるしかできなかった。

烈は満足げにこの場を後にした。

何をしに来たんだと思わなくもないが、そんなこと考えるだけ無駄だと思い機材を片付け夕食を食べに行った。

そして、またしても汗臭さが倍増していた食堂でさっさと食事をして部屋へと戻った。

 

これが一週間エンドレスでやらされるのだ。

主に癒しの時間のはずの食事に心折れそうになったことがあったので、常に自分の周りだけ新鮮な空気が入るように魔法を常時発動させることで何とかなった。

終夜自身、常時発動型魔法がどれだけ価値があるのか知らないため誰にも教えていない。

そもそもこの魔法が生み出された理由が、汗臭い中で食事をしたくないという生理的理由なのだから致し方ないだろう。

そして現在に至る訳だが、最終日ということで烈と簡単な模擬戦という名の死合をすることになったため態々演習場まで来ていた。

ルールは簡単、致命傷を与えたり、今後後遺症を残すような傷を与えたりすることは、禁止といった単純なものだ。

死合い時間は、二十分これは烈の仕事の関係もあるからだ。

 

「さて、どれほど腕を上げたかな」

 

「ははは、あなたのえげつない行為のおかげで十二分に上がりましたよ」

 

「そうかそうか、それは楽しみだ」

 

お互い表面上は楽しそうに、しかし目は一切笑っていないどころか、ハイライトさえ消えていた。

というのも、烈が見に来るたびに『偶然』にも『誤って』烈の方に魔法を飛ばしてしまうこと17回。

まあ、そんなことがあったのだ。

 

「それでは始めるか、糞餓鬼」

 

「そうですね、腹黒爺」

 

「「ははははははっ!!」」

 

「「ぶっ殺してやるクソガキ(ジジイ)」」

 

互いが宣戦布告すると同時に魔法を発動した。

烈はCADから魔法式を読み取る必要があるが、終夜は完全に感覚で魔法式を作り上げ発動させることが出来る。

ここに僅かながらも速度でアドバンテージを取ることが出来る。

 

「死にさらせクソジジイ!!」

 

終夜が発動させた魔法は、加速系移動魔法と収束系魔法の複合魔法。

一つ一つが単純なため特別な名前が付くような物でない単純なものだ。

収束系魔法により拳大にまで密度を集約させた土塊を上空へと打ち上げ、上空より加速させながら放つ魔法。

終夜はルール上の致命傷を与えない、今後支障を負う様な傷を負わせてはならないを早速破りにかかった。

密度を上げられた土塊は、情報体強化によりさらに丈夫にされそれが雨霰のごとく烈に降り注いだ。

 

「甘いな、小僧」

 

声のした方を避けながら振り返ると、背後に烈がいた。

あの爺、始まる前から魔法を使っていやがった。

精神干渉系は四葉の専売特許なためやられたら感知もしくは違和感を感じるだろうが、あの爺、虚像を作り上げて居場所を誤認させていやがった。

マルチスコープで全体を見ていなかったら本当にまずかった。

これが、経験の差か。

機械などだったならスペックの差がそのままイコールになるが、人間の場合はそうもいかない。

経験によって研ぎ澄まされた勘と経験によって得た物の二つがあり、これは機械は得られないものだ

 

「ほう、あれを避けるか」

 

「狡いだろジジイ始まる前から魔法を使っているとか」

 

「誰も使ってはいけないとは言っていないが?」

 

烈は恍けた様に言った。

イラッと来てしまった終夜は仕方がないと思う。

そもそも十歳の子供が煽り耐性を持っているはずもなく。

 

「潰れろ」

 

加重系単一魔法。

単純なものと侮るなかれ、一定領域内の重力をほぼ無限大に上げ続けるえげつない魔法だ。

簡単に想像すると、鉄板と鉄板に挟まれ徐々に徐々に狭められていき潰されていくのを。

終夜が発動した魔法はまさにそれだ。

しかし相手は最高にして最巧といわれている魔法師だ。

この魔法の穴に気が付いているかもしれない。

 

「ふむ、悪くないがまだまだ穴がるな」

 

チッ流石に気づくかと内心毒づくがそんな事は後にして、反撃される前に攻め立てた。

相手は腐っても現役の軍人で魔法師だ。

更に九島家の当主ということもあり、駆け引きに持ち込まれたらこちらに勝ち目がない。

そもそもこの場所も相手のテリトリー内で地の利は向こうにある。

終夜が勝っている部分は、処理速度、演算規模、干渉力、サイオン量だ。

ならばそれを活かさない手はない。

膨大なサイオン量を消費し、膨大な式を無意識領域内で処理する。

その魔法の名は『スーパーセル』――

加速・移動・振動・収束・発散・放出の複合魔法。

この魔法の難易度は桁違いに高いが、この魔法のもたらす破壊規模は想像を絶する。

何せ一度発動させてしまえば、それだけでいいのだ。

自然現象である『スーパーセル』を人工的に発動させてしまえば、後は自然現象として定着し、自然に収まるまでどうしようもないという欠陥も抱えている。

そして、終夜が発動しようとした時だった。

丁度、お昼休みのサイレンが鳴り、勝負時間でもあった二十分が経ったということだ。

 

「チッ、命拾いしたなクソジジイ」

 

「ほう、その割に私を傷つけることが叶わなかった様だが?」

 

確かにそうだ。

烈は終始逃げに徹していた。

それは、烈自身が自身に何が可能で何が不可能か理解しているからだ。

 

「ほら、行くぞクソガキ」

 

「へいへい」

 

烈に対してここまで砕けきった言い方が出来るのは、終夜だけだろう。

そこから終夜は、お昼を食べた後は部屋でゆっくりとくつろいでいた。

烈との戦いは思った以上にきつかったからだ。

ベッドに寝転がり、夕方まで寝ようと瞼を閉じた。

確りとアラームは設定して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「烈殿この度はお世話になりました」

 

「こちらも殆ど面倒を見ることが出来ずに申し訳ないくらいだ」

 

「いえいえ、終夜にもいい経験になったと思いますよ。では、これ以上長居するのも迷惑でしょうからこの辺りで失礼します」

 

元造は、烈にお礼を言うと、礼をした。

終夜も父の前では日頃のいい子ちゃんモードに入った。

 

「烈殿この度はお世話になりました。僕もとてもいい経験が出来て光栄でした」

 

「そうか、そう言ってもらえると私としても嬉しいよ」

 

父には見えない様に、しかし挑発しきった笑みを烈に向けていた。

 

「では、失礼します」

 

終夜は、頭を内心嫌々下げながら部屋を後にした。

そこからは、四葉本宅に着くまで無言の時間を過ごしていた。

内心深夜と真夜とに会いたくて仕方がなかったのは、いつもの終夜というところだろう。

 




更に次の話で時間が跳びます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

下調べは重要です※妹に恋人兼婚約者がいることは絶対許さない!!

あれから四年の月日が経ち、終夜は十四歳、深夜、真夜は十二歳になった。

 

深夜と真夜は終夜が受けた様にクソジジイじゃなかった、烈の元で短いながらも魔法を習った。

真夜の場合は魔法が特殊、というよりもそのものが前例がないものだ。

『精神構造干渉』魔法、世界でも禁忌とされる魔法だった。

終夜もその魔法を視ていたから使えなくもないが、特化型の深夜と比べたら若干見劣りするだろう。

それでも他の魔法と並列して使うと深夜を越えたことが出来なくもないが、疲労が半端ないことに為る。

まあ、この辺りまでは、問題ない。

そう、問題なのは、真夜に婚約者が出来てしまったことだ。

四葉の家として命令で、七草との仲を強固にするという意味では確かに良い選択だろう。

真夜は四葉の中でも歪なまでに強力な魔法力を持って生まれて来ている。

これは確かに七草としても嬉しいことだろう。

論理的な考え方でならば理解できる。

だが、感情がどうしても許せずにいた。

目に入れても痛くないほど可愛がってきた妹たちだ。

思春期に入っても、下着を別々に洗濯したり、何の理由もなく無視されたりしていない(父はされていたが)。

そして思春期とともにやって来るようになった、某女の子の日に真夜と深夜は卵子を幾つか採取された、らしい。

その辺りの詳しい事情は教えてもらっていないが、そんな妹が十二という若い身で婚約だ。

互いの仲はそこそこ良好のようだがからまだいいが、嫌々だったのなら間違いなく反乱している自身のある終夜だった。

そんな真夜の婚約者と今日、終夜は会うことになった。

会うといっても、少年少女魔法師交流会に参加するついで、ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年少女魔法師交流会、国際魔法協会アジア支部主流で行われるもので、態々旧台湾の台北まで来ていた。

そもそも第三次世界大戦といわれている戦争が終わっていない中、海外で少年少女魔法師交流会を行うこと自体がばかばかしいことだと思う。

そのことに何人が気づいている事か。

と、日ごろなら思いたいところだが今はそんなことどうでも良い。

何たって、目の前に我が愛しの妹である真夜の婚約者であり恋人である、七草弘一がいるのだから。

ハッキリ言おう気に喰わないと。

俺を差し置いて真夜と婚約など、血が繋がっていなかったらいや、繋がっていたとしてもいろいろやりたいけど。

 

「それで、彼が真夜の婚約者で恋人の七草弘一かい?」

 

「そうです。兄さん」

 

「初めまして七草弘一です。終也さんのことは真夜からいろいろと伺っています」

 

真夜だと、こいつ真夜を呼び捨てにしやがった。

しかしここで怒っては真夜の品格を貶めることになる。

あくまで笑顔で応えないとな。

そう思い完全な作り笑顔を作った終夜だが、見慣れた真夜からは『兄さん不機嫌になってる』とバレバレだった。

 

「そうか、よろしく。俺のことは終夜でいいよ」

 

「では、僕のことも弘一でいいですよ」

 

「分かったよろしく弘一」

 

「こちらこそ終夜」

 

表面上は全く問題ない状況だった。

しかしお互いの中身は違った。

終夜は、愛すべき妹を自分から盗った奴としか見ておらず、弘一は、七草家からそしてお世話になった九島烈から終夜のことを教えられていた。

現在最も危険な兵器として――

それも仕方がない事だろう。

魔法式を感覚だけで組み上げ、剰え環境を変化させる規模の魔法を使うのだ。

魔法には物理的制約はなく、その気になれば終夜は今いる場所から世界各国の環境を変化させ文字通りの天変地異を起こすことも出来なくはない。

まあ、そんなことをした日には終夜自身の体がもつかどうかわかったものではない。

 

「そういや、二人は烈殿の元で一時期、一緒に教えを受けていたそうだが」

 

「そうですが?」

 

「深夜も真夜も成長していたからね、どんなことを習ったのか気になってね」

 

「ああ、そういうことですか」

 

弘一は納得した様にうなずいた。

 

「そうですね。まずはやっぱりどんな系統魔法が得意か、から始まりましたね」

 

「あ、姉さんだけはちょっと違ったみたいです」

 

確かに、深夜の系統外魔法はいくら烈でも無理だろう。

そんな中でも深夜の力を伸ばすように出来たのは、素直に賞賛できる。

まああのジジイのことを気にいることは一生ないだろうがな。」

 

「他には、――」

 

 

暫く、弘一からどんな内容だったか聞いた結果。

あのクソジジイ、俺だけ無駄にきついメニューを組んでいた事が分かった。

 

「ありがとう。そうだ折角の少年少女魔法師交流会何だ、態々ここまで来て他の人と話さないのはもったいないからね。俺はここで」

 

話を切り上げ、二人と別れようとした。

序にあのジジイの嫌がるようなことを言いふらしてやろうとも思った。

 

「折角ですし僕らと一緒に回りませんか?」

 

「いや、遠慮しておくよ。他にやることが出来たから」

 

終夜は、あのジジイに対する嫌がらせの為に取った選択を後悔することになった。

 

 

 

 

 

真夜と弘一と別れてからは一人で会場内を回っていた。

少年少女魔法師交流会というだけあって、アジアのいろいろな国の人が来ていたので、あのクソジジイの嫌がりそうなことをついでに言いふらしていた。

スキャンダルになるようなことや、国にデメリットになるようなことはせずに、あくまでもあのジジイだけが嫌がることしかしなかった。

このくらいの報復はあってしかるべきだろう。

ただいろんな人と話して気になったのが大漢と大亜細亜連合の人も来ているということだ。

第三次世界大戦が始まってから、今まで溜まっていた鬱憤を晴らさんとばかりに急激に周りの国を呑み込んでいきこの戦争で一番膨れ上がった勢力と言って良いだろう。

そしてその二国は、同じ国が南北に分かれて成長した国という背景がある分、特段仲が悪いことで有名だ。

互いが常に牽制し合い、隙あらば呑み込もうとしているのが丸わかりだ。

しかしお互いの武力が拮抗しているが為に未だ決定打となることがなくずるずると引きずった状態で、今に至るわけだ。

そんな中、耳に挟んだのが大漢が日本の魔法師に目を着けているということだ。

大漢とは、大亜細亜連合を共通の敵とし、軍事同盟とまでは行かずとも協力関係にあるがその均衡は危うい。

その大漢が、大亜細亜連合高麗自治区軍が日本の対馬に侵攻したさい、九島烈をはじめとした二十八家の者達が目覚ましい功績を立てたというのは必然だったのだろう。

そしてどこで奴らが嗅ぎつけたか知らないが、その二十八家の者達が日本の魔法技術の集大成といってもいい兵器であることを知ってしまったようだ。

二十八家の者は基本的に国から出ない。

出るとしても行軍であり、戦闘で殺されたとしても死体は完全に焼却されるか持って帰られる徹底ぶりだ。

そこまで徹底して遺伝子管理をしているのも国も二十八家の力と魔法の兵器としての価値を見出しているからだ。

そんな魔法師の血族が国外に碌な護衛もつけずに出て来ているのだ。

それも子供ともなれば、なおのこと攫いやすいし洗脳もしやすい。

それを狙わない程、大漢も馬鹿ではない。

その中でも特に気を付けないといけないのは、真夜だ。

男の場合は、種を取ってしまえばおしまいだが、女の場合はいろんな意味で価値があるからという背景がある。

むろん終夜はそんなこと許す気はさらさらないが、何事にも不測の事態と言うものがある。

一応、弘一と真夜は烈のお墨付きだから心配ないと思うが不安がない訳では無い。

だから、念には念をということで真夜たちの元へと戻ろうとした時だった。

 

ドンッと、会場全体に破裂音が響き渡る。

その音に会場内はざわついた。

次の瞬間、扉が強く叩きつけられるように開かれるとアサルトライフルを装備し、ヘルメットにゴーグル口元をスカーフのような物で隠し、防弾チョッキの様なものを着込んだ奴らが雪崩れ込んで来た。

それを見て、交流会に来ていた子供たちは、一斉に反対方向へと逃げ出した。

 

「動くな!!」

 

最後に入って来た如何にも司令官と思われるものが、数人の護衛の元入って来た。

言語が中国……大陸の言葉だったので、間違いなく話を聞いていた大漢の連中だと当たりを付けることが出来た。

子供達もこの交流会に呼ばれるだけあって言語は達者だったので、皆一斉に動きを止めた。

くそ、せめてマルチスコープだけでも発動しておけばよかった。

今さら悔やんでも仕方ない、それにしてもこんなことが在れば支部の人が助けるなり抵抗するなりあってもいいはずだ。

展開しているマルチスコープで様子を見て見ると、可能性の中で一番最悪な光景を目にしてしまった。

最初に支部長として挨拶をした奴が、軍人から金をもらっていたのだ。

つまり、最初からこの支部自体がグルで、この交流会自体が罠だったということになる。

平和機関を自称する国際魔法協会の支部がこれだ。

舌打ちしたくなる気持ちを抑えながら、こいつらを一斉に鎮圧するための魔法を準備し始めた時だった。

 

「キャッ!!何するんですか」

 

「いいから着いて来い!!」

 

終夜のよく聞きなれた声の主を軍人が無理矢理引っ張りながら司令官と思わしき者の元へと連れて行っていた。

 

「これが、件の……連れて行け」

 

「はっ!!」

 

「放してください。放して」

 

真夜は、逃れようとジタバタと暴れるが、子供の力では大人の、それも軍人の力から脱出できるわけでもなく無理矢理連れ出されようとした。

それを大人しく見ている終夜ではない。

組み上げた魔法を発動し制圧しようとした時だった。

 

「真夜を放せ!!」

 

弘一が魔法を発動させながら真夜を引っ張っている軍人へと特攻した。

しかし軍人たちは慌てた様子はなかった。

むしろ子供が背伸びして頑張っているなといった風な目で見ていた。

その理由は、司令官が指にはめている真鍮色の指輪、アンティナイトといわれるサイオンノイズを作り出す金属だ。

それにサイオンを注入され、キャストジャミングが発生し、弘一が発動しようとした魔法はサイオンノイズによって阻害され発動することはなかった。

 

「あっ!?」

 

「やれ」

 

司令官の殺しの命令を下すのに慣れたような冷めきった一言で、弘一い照準を合わせられていた銃口が火を噴いた。

複数の銃口から連続的に発射された弾丸は、吸い込まれる様に弘一へと向かい周りにいる誰もが弘一の命がないと思った。

ただ一人以外は。

弘一の周りに対物防御魔法が展開され、弘一を貫くはずだった銃弾は、尽く対物防御魔法によって阻まれた。

 

「なに!!」

 

司令官の男は未だキャストジャミングを発動していた。

そんな中で魔法が発動されたのだ。

司令官は周りを見渡し魔法を発動した相手を探し、終夜と目が合い魔法を発動していることに気が付いたのだ。

 

「あの餓鬼にキャストジャミングを発動させて、魔法と使えないようにしてから殺せ!!」

 

司令官の男は怒気を放ちながら命令した、その命令が生涯最後の命令になるとも知らずに。

司令官はこの場では自分こそが絶対強者でありその命令は神の先刻にも等しいと思っていた。

実際その通りだろう、この場にいるのが本当に無力な少年少女たちならば。

司令官は、燃え尽き炭となり雪崩れ込んで来ていた兵隊は凍りつき彫刻と化していた。

対象エリアを二分し一方の振動、運動エネルギーを減速し、その余剰エネルギーをもう一方に逃がす魔法『氷炎地獄』。

この魔法により隣接するエリアに灼熱と極寒を同時に発生させることで司令官と兵隊を文字通り無力化した。

兵隊の場合は、きちんと解凍すればどうにかなるだろうが、司令官は完全に絶命した。

 

「弘一、俺は真夜を救出しに行くお前は、四葉と七草両方に救援を呼べ!!」

 

「僕も行くよ!!」

 

「駄目だ!!まだ残党がいるかもしれない」

 

「ぐっ、でも……いや分かった。真夜のことは頼んだ」

 

正論を言われては弘一も引き下がらずにはおれない、でもここで引き下がるのは自分が真夜を見捨てたのと同義になる。

それだけは、嫌だったがもし終夜に助けられなかったら弘一は、よくて重症、下手をしたら死んでいたことだ。

さらに一瞬で敵を文字通り無力化した終夜なら信用できると思った。

 

「じゃあ、俺は行くから後は頼むぞ」

 

終夜は弘一に後のことを任せると会場から飛び出し加速術式を展開し領域魔法で空気抵抗を限りなく零にすることでロスを極限にまで縮めて走った。

一分、一秒でも早く真夜の元へとたどり着けるように。

 

「いたぞ!!」

 

「俺の邪魔をするな――――」

 

加重・収束魔法『圧潰』対象または焦点を決めて範囲を指定することで焦点へと収束し続ける魔法。

これにより終夜の道を阻んだ者達は悉く肉塊へとなった。

建物の外へと出た終夜は、真夜を乗せ終わり飛び立ちだしたヘリを目撃した。

あれでは攻撃できない。

下手に中の人を殺しヘリが墜落したり、直接ヘリを撃墜させたら真夜が死んでしまう恐れがある。

流石の終夜といえど死者蘇生は不可能だ。

僅かなりにでも生きていれば可能だが。

 

「クソッ」

 

終夜は真夜を助け出せなかった己に憤りを感じずにはいられなかった。

なにが助けるだ、ただの傲りではないか。

だが終夜とて呑気に見送るだけではなかった。

未だ精霊の眼で真夜を乗せているヘリを認識し続けている。

その間に父に直接電話を掛けた。

 

「……終夜だが」

 

『話は七草の小僧から訊いた』

 

「真夜は今、大漢方面へと輸送されている。だから俺も今からそこへと向かう」

 

『貴様独りで何が出来る』

 

「出来るさ。一国をめちゃくちゃにするくらい」

 

抑制の効き過ぎた声で終夜は応えた。

 

『まて、貴様独りで先行させるわけにはいかない』

 

「では待て、と?はっ、その間に真夜の身に何かが在ったらどうする?じゃあな当主」

 

『待て終夜。話は――』

 

携帯を切った終夜は、真夜の連れ去られた方向。

海を跨いだ先に在る大漢を見据えていた。




次回無双回。
そして、評価に0が付いたせいでモチベーションが下がり投稿するのが遅くなりました。すみませんご迷惑をおかけしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスコンがキレる=ただの無双か……

文才がないことに絶望した作者でした。


終夜は今現在空を飛んでいた。

飛行魔法――加重系魔法の技術的三大難問といわれている代物だ。

それをなぜ終夜が使えるかというと終夜が論理で魔法式を組み立てる人間ではなく感覚で組み立てる人間だからだ。

だから、本人自身どんな魔法式が組み立ててあるか詳細まではきちんと理解できていない魔法も多々ある。

そんな魔法が何故きちんと機能しているのかは、終夜自身未だ分かっていないのだから他の人間に分かるはずもなく。

まあ、周りからはこれだから天才は、と嫉妬や妬みを通り超え呆れの域に入っていた。

閑話休題(それはさておき)、先ほどから二時間近く飛んでいていい加減疲れて来た。

かといってヘリを一気に追い越すだけの速度を出せるかというとそうでもない。

出せたとしてもどの道今追い越すだけのメリットがないから精霊の眼で常に認識しながら追いかけていた。

相手もまさかこんな形で尾行されているとは思わないだろう。

そう思っている内に相手側に変化がおきた。

ヘリがやっと降下しだしたのだ。

終夜も海を渡り切り相手に悟られないギリギリの距離で尚且つ相手が直接見渡せる建物の上に降り立った。

そこから見えた光景は、ヘリから意識の無い真夜が米俵みたいに担がれて建物内に連れていかれる光景だった。

 

「まさか、こことは」

 

真夜が連れていかれた建物は、大漢の魔法師開発機関『崑崙方院』だった。

今は詳しい情報が少しでも欲しい。

そう思い、終夜は振動系魔法『集音器』を使った。

名前こそそのままだが、軍事諜報用に開発されたものを終夜がアレンジしたものだ。

音は空気の振動によって伝えられるのは常識として知っているだろう。

これはその空気振動を単一方向からのみ増幅して聞き取るためのものだ。

この魔法を応用した魔法も存在し、それは単一方向へと指向性を持たせた振動を相手に当てることで、遠距離から共振破壊を狙う魔法がある。

そこから聞こえて来たのは、

 

『予定よりも遅かったな』

 

『はっ、本来でしたら移動中を失踪に見せかけて誘拐する予定でしたが、思った以上に警備が硬く、プランBの強硬作戦へと移ることになりました』

 

『それで今回、司令官をやっていた彼は?』

 

『殉職成されました』

 

『そうか、まあいい。良い素体が手に入ったんだ直ぐに研究室の方へと運んでくれ』

 

『分かりました』

 

聞き取れたのはこれ位で、あとは建物の奥に入って行ったためかこれ以上聞き取ることが出来なかった。

しかし外に残っている連中が聞き捨てならないことを発した。

 

『おい、訊いたか?』

 

『何を?』

 

『あの攫ってきたガキ、身体を弄繰り回した後好きに楽しんでいいんだとよ』

 

『はっ!!あんなガキの何が良いんだか』

 

『あれはあれでいいじゃねえか。見てくれも十二分に良いし下手な風俗よりも上玉だぞ』

 

『俺はガキには興味ないからパスだな』

 

『もったいないな』

 

それを聞いた瞬間、終夜の中で何かがキレた。

建物から飛び降り、地面に激突する寸前に減速し、一切の衝撃の無いように着地した。

崑崙方院は、大漢でも最先端の魔法師開発機関だ。

その警備も生半可なものではなく、例え大漢の国民でも敷地内に入ったら無警告で射殺される、そんな場所へと終夜は向かった。

終夜は、崑崙方院の敷地に入るための門の前にいた。

そこにも重装備とまでは行かずとも、暴徒程度なら制圧できる装備の警備員が四人もいた。

魔法師への対策のためか、アンティナイトの指をも全員が嵌めている徹底ぶりからして、支部でこれだから本部はどんなものか興味が湧いた。

その警備員内の一人が、門の前にいる終夜に声を掛けて来た。

 

「どうした、ここに何か用か?」

 

「いえいえ、最先端の魔法師開発機関ということで興味がありまして」

 

「ああ、そういうことか。だがここは一般人は入れないんだ。大人しく帰りなさい」

 

「ええ、そうします。大人しく連れて帰りますから」

 

終夜がそう言うと、終夜に話しかけていた警備員がいきなり、爆散した。

血飛沫が肉片とともに舞い散り、赤く汚い花火が出来た。

むろん終夜は、そんな汚いもので汚れたままで居たくないので発散系魔法で直ぐに汚れを落としたが。

 

「貴様何をした!?」

 

話を聞いた限りでは、問答無用で撃って来るということだったが警備員だからか直ぐには撃ってこなかった。

内部なら話は変わるのだろうか?まあ、そんなこと関係ないのだが。

 

「何ってただ液体が気化して爆散しただけだよ?」

 

「貴様!!」

 

激怒した警備員が発砲してきた。

だが、発砲された弾丸は一発たりとも終夜を貫かず、むしろ発砲した警備員とその銃を貫いた。

 

「なに……を…した」

 

痛みに呻きながら警備員が訊いて来た。

 

「お前、バカか?敵に手の内を見せるアホがどこにいる」

 

終夜は、呻いている警備員に鼻で笑いながらそう言うと、加重系魔法で押しつぶした。

後二人はと、見渡すと一人がどこかへ連絡しており、一人が連絡している奴を守るようにしておりアンティナイトにサイオンを流しキャストジャミングを発動させていた。

 

「は、これでお前も終わりだ!!」

 

キャストジャミングを発動させている警備員が勝った気で言った。

 

「仲間の仇だ。楽には殺さねえぞ」

 

「へー、それで勝った心算なんだ」

 

キャストジャミング効いた中終夜は、魔法を発動させた。

発散・移動魔法で、警備員たちの周囲の酸素にのみ作用し、警備員の周囲には酸素が一切ない状態にした。

警備員たちは急に呼吸が出来なくなり、慌てふためきだした。

こういった状況下では仕方ないことだと思うが、不測の事態に陥った時、本当にしないといけないのは、冷静になることなのだ。

警備員たちもそう言った訓練を受けているはずだが、不測の事態の中に急に呼吸が出来なくなるは含まれていなかったのだろう。

 

「死ね」

 

終夜は、苦しみのた打ち回っている警備員二人を爆散させると門の支柱を分解・消失させた。

支柱を失った門を蹴飛ばすことで、後は勝手に倒れてくれた。

その衝撃で裏でアサルトライフルを構えていた軍人たちの何人かは巻き込まれてしまった。

 

「見えていないと思ったか?ここは俺にとって仮にも敵地だぞ」

 

助かった軍人たちは、数人が救助活動をしており残りは全員が全員終夜へと銃口を向けていた。

 

「ここへ何をしに来た」

 

「はっ?何をしに来たかだと。人の妹を攫っておいて、何をしに来たと」

 

「こいつまさか、撃て撃ち殺せ」

 

やっと危機感を感じたのか一斉に射撃してきた。

だが、やはり弾丸は終夜には届かず撃った本人達へと戻って行った。

だが、軍人の中に混じっていた魔法師が守ったため一気に殲滅とまでは行かなかった。

 

「このガキ、ベクトルに干渉してやがる!!」

 

「あれ?気が付いたんだ。まあ、こんな簡単な事誰でも気が付くよね」

 

軍人たちはただのガキに虚仮にされていることだけは、理解できた。

 

「ガキが嘗めた様な口を!!」

 

銃が無理なら近接戦、全く単調なものだと終夜は呆れていた。

コンバットナイフを構え斬りかかって来た軍人に対し、終夜は加重系魔法で上から高圧力で押さえつけ、襲い掛かって来た軍人は地面に叩きつけられた。

 

「おいおい、あまり嘗めんなよゴミどもが。人の妹攫っておいてさ」

 

全く感情の籠っていない抑制の効いた声で言い放った。

この時だろう、この場にいた者達が初めて化け物を敵に回したと自覚したのは。

 

「あ、アンティナイトだ。キャストジャミングを使えば、いくら強力な魔法師だとはいえガキはガキだ、それで殺せるはずだ!!」

 

「おいおい、ガキ相手に殺すとか酷いな……まあ、そんなことできないんだけどね」

 

そう狂気的な笑みを浮かべて言うと、先ほどまで終夜に銃口を向けていた奴らの眼から光が消えた、まるで意識を失い人形になったかのように。

 

「さあ、劇の幕開けだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、未だ意識がおぼろげだからか、未だ状況を正しく認識できていない。

覚えていることといえば、交流会の場で軍人みたいな人に襲われ、無理矢理ヘリに押し込められ、暴れまわったせいで口に布のような物を当てられて――

そこでやっと真夜は、意識が覚醒した。

そうだ、私は誘拐されて。

周りを見渡そうとしたら首が何かで拘束されていて頭が持ち上がらない。

外そうとしても両手共が関節単位で拘束されていて文字通りビクともせず、感覚で何も来ていないことに気が付いた。

脚は大きく股を広げる形で拘束されていることに気づき更に羞恥で顔が熱くなった。

隠さないといけない部分が全て曝されている状態だ。

性と言うものを意識しだす年ごろには耐えがたい苦痛だろう。

 

「ああ、目が覚めたのか。もう少しで済むからね」

 

固定されているため今何をしているのか分からないが、足元の方から低い声が聞こえた。

声で男だということが分かり、そして中を弄繰り回されている不快感。

 

「な、なにしてるの」

 

「なに、ただ卵子を採取しているだけだよ」

 

その答えだけで自分が今何をされているか真夜は自覚してしまった。

 

「これが終わったらきちんと気持ち良くしてあげるからね」

 

そう言って、自分の身に何かをしている男は、生理的嫌悪を誘う下劣な笑い声をあげた。

 

「辞めて、やめて!!」

 

必至に逃げようと暴れるが、枷が強すぎてビクともしない。

 

「暴れない方がいいよ。子供が産めなくなるからね。といっても全く動けないだろうけどね。とそうこういってるうちに終わったよ、次は採血だよ」

 

男がそう言った時だった。

建物全体にサイレンが鳴り響き、備え付けられているのであろう電話が鳴りだした。

 

「せっかくこれからだというのに。ちょっと待っててね」

 

採血用に取り出した注射器を台に置き、男は電話に出た。

 

「全く何の用かな?せっかく楽しんでいたのに」

 

真夜からは電話の相手が何を言っているのか聞き取ることが出来なかったが、自分の中を弄繰り回し、身体を弄繰り回そうとした男の雰囲気が変わったことだけは感じ取れた。

 

「さっさと始末しろ。それは君たちの仕事だろ。何?裏切り、それがどうした!!ならば、そいつらも処分すればいいだろう!!」

 

男は受話器を叩きつけるようにすると、すぐさまこちらへと戻って来た。

 

「ごめんね。さあ、続きを始めよう」

 

真夜は嫌だと首は横に振りたいが、それさえも固定されていてできない。

必然的に残されたのは、涙を流すことだけしか出来なかった。

 

「助けて、兄さん」

 

「助けに来たよ真夜」

 

声のした方を見ることは叶わなかったが、優しげな声音は間違いなく私たちが大好きな兄の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門で自分を囲っていた軍人たちを五感を洗脳し、軍人たちの記憶の中に在る上官の立ち位置に終夜を置き換えることで手駒を増やした。

さしあたって、名称を付けるなら系統外魔法『即席軍隊(インスタント・アーミー)』とでもつけるべきだろう。

いくら近代兵器が自動化しようと、必ず人の手が入る場所がある。

この魔法が有れば、最後のICBM発射シーケンスや社会基盤を制御している制御基板、そしてあらゆる施設を簡単に則ることも破壊することも可能な、最も信頼しているものが裏切っているかもしれないといった疑心暗鬼にさえ陥れ、内部崩壊さえ可能とする集団でこそ力を発揮できる人間社会にとっての最凶の武器だろう。

 

「行け」

 

そう命じると、光を失った眼をしている軍人たちはアサルトライフルを構え直し支部へと突入していった。

その直後、途絶えることなく発砲される音が鳴り響き、人々の悲鳴が聞こえた。

支部のエントランスに入るとそこには職員たちの息絶えた姿や虫の息状態の職員がいた。

終夜に操られている軍人たちは、命令に忠実に奥へ奥へと勝手に突き進んでいった。

 

「さて、こういった場合大抵地下だよね……どこにあるかな」

 

無闇矢鱈に歩き回って探しても時間の無駄だと終夜は理解できているので、直ぐに精霊の眼を使った。

イデアにアクセスすることで、終夜を中心にどこに何があるのかが視えてきた。

そして誰かが拘束され、いかがわしいことをされていることが分かった。

若しかしたらと思うと終夜は、居てもたってもいられず最短コースで移動した。

即ち床を分解することだ。

終夜の足元の床を地下三階まで魔法により分解・消失したことでそのまま垂直落下した。

着地直前に減速し、衝撃を分散そのまま、真夜が拘束されている可能性のある部屋まで走り出した。

 

「C-2ブロックにて侵入者確認。すぐさま応援を頼む!!」

 

終夜の姿を確認した軍人は、すぐさま捜索している他の仲間へと救援を要請した。

こういった奴らは、Gのようにぞろぞろと湧き出て来るから嫌だ。

『一匹見かけたら、百匹はいると思え』と同じで『一人見かけたら、百人増えて一万発飛んでくると思え』だ。

まあ、どんなに弾丸が跳んできても、当らなければ話にならないが。

 

「邪魔だ」

 

そう言うと、連絡していた軍人は壁に叩きつけられ、壁に真っ赤な大輪を咲かせた。

終夜は文字通り邪魔な壁はぶち壊し、道を阻む軍人たちは天上、床、壁のいずれかに真っ赤な大輪を咲かせた。

そして目的の部屋の前画とたどり着くと。

 

「助けて、兄さん」

 

そう聞こえた。

訊き間違えるはずがない。

間違いなく真夜の声だ。

ならばやることは一つしかない。

壁を分解し、通気性を良くした。

 

「助けに来たよ真夜」

 

そう言うと、真夜に近づいていた男が壁に叩きつけられ、その衝撃だけで男は昏睡した。

どうやら完全に研究畑出身で、軍事訓練を受けたことがなかったのだろう。

ただの加重系魔法で男に掛かる重力をなくし、地球の自転によって吹き飛ばされただけでやられるとは、意気地の無い奴だ。

それと同時に真夜の枷を粉々に粉砕した。

 

「ごめんな真夜。直ぐに助けてやれずに」

 

終夜は、真夜の頭を撫でなから言った。

 

「ぐすっ……兄さん、恐かった。怖かったよ」

 

真夜は直ぐに立ち上がり、終夜の胸に抱きつき泣き出した。

終夜は抱きついている真夜が落ち着くまで優しく撫で続けた。

五分もすると真夜は泣き疲れて寝てしまった。

元々誘拐され、身体を弄繰り回され、強姦される予定だったのだ。

そんな状態で十二の子供の精神が耐えられるはずもなく、心身ともに限界だった。

そこを助けられた真夜は、緊張の糸も切れるのも致し方ないことだ。

寝てしまった真夜を御姫様抱っこしながら来た道を辿りだした。

この時ばかりは、真夜が寝てくれてよかったと常々思う。

こんな、肉片と血で彩られたものを真夜に魅せる訳にはいかないからだ。

その道を何の感情もなく悠々と歩ける終夜が異常だともいえるが。

そして外に出た終夜は、未だ中から疎らながらも銃声が聞こえる崑崙方院支部を睨んだ。

その時終夜の心情には、こんな組織があるから真夜がこんな目に、もしこの組織が存続し続けたら次は深夜が。

そう思うと、終夜の中に黒い何かが蠢きだした。

このままでいいのか?

駄目だ、このままでは何れ深夜に魔の手が迫る可能性がある。

壊せよ、そのための力はあるだろ?

ああ、そうだな壊そう、真夜をこんな目に合わせた崑崙方院を大漢を。

そんなことを考えている終夜は、無意識下に魔法を発動していた。

収束・発散・吸収・放出複合魔法『高電離気体球(プラズマ)』を作り出した。

頭上に大気を圧縮に圧縮を重ねた、青白く光り輝く球体はとても綺麗でありながら、その実何人も触れることの出来ないものだ。

その球体が、崑崙方院支部に落ちた。

摂氏一万℃もの熱量を受けた崑崙方院支部は文字通り消滅した。

支部内にいた生き残りは、何も感じることなく死ねたのだ。

ある意味で一番幸せだっただろう。

大量殺戮をした終夜はそれで尚、憤りを感じていた。

あと少し遅れていたら真夜は下手をしなくても壊れていた、そう思うと未だ背筋が凍りつく思いだ。

そんな中終夜は、決意を新たにした。

真夜をこんな目に合わせた奴らの仲間も同罪だ。

そしてこの事を計画した奴は生き地獄を味あわせてやると。

真夜を御姫様抱っこしたままの終夜はそのまま帰路についた。

 




終夜の子供を作ろうと思う、主に真夜と深夜の卵子を使って……性交渉ないから近親相姦にならないよね?っと思っている作者でした。

次回予告
大漢崩壊させます
以上


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

喧嘩を売られたので一国を滅ぼしました

感想を含めて思ったのが、近親相姦推奨勢多くね!?
でした。


真夜を救助してから二日が経ったその日、四葉家本宅で一族会議が開かれていた。

日頃は、表社会裏社会問はず仕事が在る分家の当主たちもが集まるほどの重要な会議だ。

議題はもちろん『真夜が誘拐された』件と『終夜が崑崙方院を壊滅させた』件の二つについてだ。

真夜が誘拐されたことは、その日の内に七草から四葉に伝えられていた。

それを聞いた元造はすぐさま救援部隊を送ろうとしたが、その後の弘一から来た連絡で救援部隊を送るのを早めることにした。

終夜の持つ潜在的資質とその特異性、そしてそれを十全に使える才覚の危険性は、父である元造が誰よりも理解していると元造自身、自負していた。

しかし、その才覚は元造が思っていた以上のもので救援部隊とともに駆けつけた時には既にことが終わった後だった。

崑崙方院支部があった場所は、完全に更地となっており、支部そのものは跡形もなく消滅していた。

その後直ぐに終夜を発見できたのは良かった。

あの時の終夜の眼は多くの人間を殺し、死というイメージを濃密に理解できている百戦錬磨の元造ですら背筋が凍りつき、死を覚悟する前に殺されると感じたほどだ。

 

「それで元造殿、ご子息は」

 

「終夜は今、部屋で謹慎させている。あのままだったらあいつは一人で大漢に攻め入ろうとするからな」

 

「そこまでですか」

 

「ああ、それに今回の件で、我々は我らの血統が諸外国に狙われていること、終夜の力の危険性の両方を少ない犠牲で再認識できたのは最良の結果といえよう」

 

少ない犠牲、それは真夜だ。

終夜に救出されたまでは良かった。

だが、目を覚ました真夜は極度の男性恐怖症に陥っていた。

父である元造にさえ、真夜は恐怖した表情を浮かべるのだ。

終夜には、救助してもらったということもあってか、幸いなことに恐怖した様子はない。

ただ、このままでは七草との婚約関係にも問題が出てくる。

しかしこの程度のことで深夜の系統外魔法『精神構造干渉』を使わせてエピソード記憶を意味記憶にしてまですることではない。

むしろこのことで、深夜が真夜に罪悪感を覚え、自身を追いつめさせる結果になることを元造は父として避けたいと思っている。

 

「しかし今回の一件で、大漢から軍事的協力関係を一方的に切られたことについて、国防軍から釈明の連絡を早く寄こせと来ていますが?」

 

「何が釈明だ!!奴らの方が先にやって来ていることを国防軍は知らないのか!!」

 

「そうだ、そもそも今回の交流会そのものが仕組まれていたらしいではないか!!」

 

「国際魔法協会からの連絡はどうなっている。それこそ奴らからの釈明を聞きたいわ!!」

 

一気に火が付いた大人たちは、口々に思ったことを吐き出した。

その内容は子供が癇癪を起して思った事を吐き出すのとは違い、真実が公にされない苛立ちからだった。

事実、国際魔法協会からはそんなことは知らないだの、そのような事実は存在しないといって来ており、崑崙方院本部からも、そのようなことはなかったといって来ている。

そのことに四葉家は全く納得していなかった。

あれだけ大規模なことをしておいて、我々は一切関与していません、でまかり通るはずがない。

そしてそのことに一番憤りを感じているのは、ほかならぬ終夜だった。

 

「お前たちの言い分は分かっている。だが一番の懸念は終夜だ」

 

「ご子息でしたら部屋におられるのでは?」

 

「ああ、だがあいつは見た目以上にフットワークが軽いからな」

 

「それでしたら杞憂でしょう。部屋と窓全てに二人体勢で監視を置いておりますから」

 

そう、黒羽家当主であり元造の義理の弟にあたる重蔵が、安心させようと微笑みながら言った。

 

「確かにそうだが……いや、これ以上このことを話しても無駄だな。それよりも国防軍には――」

 

元造が国防軍に対する対応を言おうとした時だった。

いきなり扉が開き、使用人が元造の元へと駆け寄って来た。

日頃では、何があっても礼節を弁えており、緊急を要することでも必ず許可を取ってから室内に入る徹底ぶりを見せている四葉家本宅の使用人が、だ。

そのことを分家の人間たちも重々承知のはずだ。

だからこそ、事が余程緊急を要する重要なことだと、内容を聞かずとも誰もが想像できた。

 

「何!!終夜、深夜、真夜の三人ともがか!!」

 

「どうなされたのですか?」

 

元造より十近く歳の離れた従妹が、この様な場で珍しく狼狽している元造へ訊ねた。

 

「終夜、深夜、真夜が書置きを残して居なくなったそうだ」

 

その言葉に、重蔵は固まった。

全ての入り口に黒羽でも選りすぐりの者達を監視に置いていたのだ。

その中から脱出など不可能に近い。

だが、それをやってのけるのが終夜クオリティーだ。

 

「そ、それで書置きには何と?」

 

「読むぞ。――

 

拝啓父上殿、これを読んでいると言う事は、俺と深夜と真夜の三人はいなくなっていることでしょう。ですが安心してください、俺達はただ”大漢”の奴らに復讐しに行くだけです。まあ、帰るのに一年は――」

 

そこで、元造は書置きを破り捨てた。

そのことを咎められる者は誰一人としていなかった。

むしろこの会議に出ていた者達は、誰もが呆然としていた。

それもそうだろう、誰もたった三人で一国相手に喧嘩を売ろうなどと思いもしなかったのだから。

 

「あの糞餓鬼どもが――」

 

その日、四葉家本宅で元造の怒りの咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃終夜たちはというと――

 

「よかったのですか兄さん?勝手に抜け出して来て」

 

「良いって、こうでもしないと俺の手で仕返すことが出来ないからね」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものだよ、深夜」

 

「それにしてもよくこんなもの手に入りましたね」

 

「ああ、お願いしたら快くプレゼントしてくれたよ。この飛行機」

 

そう、現在終夜たち一行は大漢に行くためのプロペラ飛行機の中だった。

プロペラ機の入手方法は、誰もが想像がつく魔法を使って向こうからくれるように差し向けたのだ。

そんなプロペラ機の運転は、一応ではあるが、一通りの操縦方法を終夜自身が知っているから問題はない……つもりだ。

 

「それにしても兄さんよく運転できますね」

 

「習ったからね」

 

「っと、そろそろだな」

 

「何がですか?」

 

真夜と深夜はそろって首を傾げたている、そんな二人を終夜は両脇で抱えた。

 

「きゃっ!!」

 

「に、兄さんいきなり何を」

 

「そ、操縦はどうするのですか」

 

「まあまあ、大丈夫だから」

 

「な、何が大丈夫なのですか?」

 

慌てふためく深夜と真夜を抱きかかえ三人分のキャリーバックを引きながら終夜はプロペラ機の窓を吹き飛ばし、そのまま飛び降りた。

 

「「キャ――――――――――――――」」

 

両脇から甲高い悲鳴が夕焼けの綺麗な大漢の空に響き渡った。

重力に従い自由落下する三人だが、急激に落下速度が緩み空中で停滞した。

墜ちる感覚がなくなったので、目を見開いた深夜と真夜は信じられない光景を目にした。

空中に留まっているのだ。

 

「兄さん、まさか!?」

 

「暫くは、空の散歩だね」

 

「飛行魔法を使えたのですか!!」

 

「まあ、感覚で作っているから皆が使えるか、といったらそうではないのだけどね」

 

若干苦笑いしながら終夜は言った。

それでも、深夜も真夜も終夜のことを尊敬の眼差しで見ていた。

そんなことをしている間に、パイロットも乗客もいなくなったプロペラ機は、自動操縦の指示通り高層マンションへと突っ込んでいった。

その階は丁度、大漢の高官が住んでいる場所でもあった。

プロペラ機が突っ込み、マンションは炎上し始め黒煙を出し始めた。

この時大漢の者達は事故だと思っていた……終夜たちによる復讐の狼煙とも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

その日から大漢は常に悪夢の日々が続いた。

崑崙方院の研究所が警備、研究者を含め一斉に消滅した日が在ったり、大漢軍の大規模演習の時味方を殺しだしたり、対地用ミサイルを市街地に向って一斉発射した日もあった。

政府役人が観衆の前で演説している時に暗殺されることもあれば、崑崙方院の支部で全員が酸欠に陥り死亡した姿が在ったり、支部そのものが人の血肉で真っ赤に染め上げる事態もあった。

そしてその事件が起きた日には必ず、高降水型スーパーセルが観測され、大雨による洪水、ダウンバースト、竜巻が発生し、雹による被害もあり、地上への落雷や雲間放電もあり一切の救援が呼べない状況に陥っていたのだ。

その災害だけでも被害は推して計るべきものだろう。

その間に終夜が、深夜と真夜に手を出したかは、別の話だが。

 

「兄さんもうすぐですね」

 

「これで全てが終わるのですね」

 

「ああ、そうだ。真夜をこんな目に合わせた親玉との完全決着だ」

 

今日、大漢の重鎮たちの秘密議会が崑崙方院本部で行われることを終夜たちは、あらゆる方法で裏取し、突き止めた。

この時は深夜の精神構造干渉魔法が有意義に働いた。

参加者の中に崑崙方院総院長、軍務長官も含まれていた。

これで復讐に一区切りつけられる、そう終夜は思った。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「「はいっ!!」」

 

真夜と深夜と手をつないだ終夜は、魔法を発動させながら歩き出した。

加速・移動・振動・収束・発散・放出の複合魔法『スーパーセル』。

大規模な災害を振りまく環境を作り出す悪夢の様な魔法。

一度動き出したなら、術式解体や術式解散でさえ、止めることは不可能だ。

発動前ならばそれでもいいだろうが、発動してしまった後は環境として定着し自然に消滅を待つことしかできないからだ。

本部の正門前には通常時の三倍以上の人間が警備にあたっていた。

しかしその程度の人数、終夜たちにとって物の数ではなかった。

 

「兄さん、ここは私が」

 

そう言って真夜が、得意な魔法『流星群』を発動した。

流星群は、光が100%透過する状態に改変させ、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ魔法だ。

それによって、警備にあたっていた者達は、全身を穿たれ、絶命した。

 

「聞こえているかいクズども。俺の名前は四葉終夜だ。俺の妹を誘拐し傷つけた罪お前らの命で償わせてもらう」

 

そう言うと、終夜は正門を破砕した。

本部から大量の警備にあたっていた大漢の魔法師、軍人が現れて来たがそれは終夜相手には悪手でしかない。

むしろ数が多ければ多い程、終夜に戦力を与えることになるからだ。

精神支配の系統外魔法『即席軍隊(インスタント・アーミー)』。

これによって支配された人間は、完全に終夜の支配下に入った。

支配下に入った者達に終夜が下した命令は常に一つ。

 

「自害しろ」

 

これだけだった。

終夜を上回る系統外魔法師はいないとは思うが、だからといって深夜や真夜といった守るべきものが居る状態で不確定要素を抱えるほど終夜は楽観主義者ではない。

終夜の命令を受けた者達は、標準装備で持っている拳銃で己の頭を撃ち貫いた。

深夜や真夜も一年近く目の前で人が死んでいく光景を見ていれば、嫌でもなれたようだ。

だが、真夜の男性恐怖症は治せず男性に対する攻撃は常に過剰とも言えるものだった。

 

「さ、行こうか」

 

深夜と真夜の手を引き本部の中へと入って行った。

本部の入り口は確かに頑丈で、建物自体も要塞化されていたが、そのような物終夜の前では濡れた障子紙と同じものだ。

待ち伏せも、精霊の眼とマルチスコープによって尽く見破り、仕掛けてあるトラップさえも無意味と化した。

偶に深夜や真夜がドジを踏んで作動させることもあったが、終夜が居る限り二人が傷を負うことは範馬勇次郎で構成されたアメリカの総軍を壊滅させることに等しいのだ。

まあ、一言で言うなら無理ということだな。

そして、三人は遂に大漢の重鎮たちが集まる部屋までたどり着いた。

終夜が扉を開くと案の定重鎮たちを守るために専用に守護している大漢でも屈指の魔法師たちがいた。

その各々が得意とする魔法が、終夜たちに向けられ放たれたが、その効力を発揮することはなかった。

魔法を放たれると理解するよりも早く終夜が、反射的に対物防御・領域魔法を発動し、終夜たちの周りに対物防御魔法が展開され終夜たちをすっぽりと覆う範囲に領域魔法が展開されることでその尽くを無効化した。

 

「所詮この程度か」

 

終夜の干渉力を上回ることが出来る者が居るのかさえ、そもそも存在するかも疑わしいのだ。

 

「邪魔」

 

その一言で大漢の重鎮たちを守護していた魔法師たちは爆散した。

血肉が飛び散る中、終夜たちだけは一切汚れることがなかった。

そのようなことが無意識下で出来る時点で、実力を推して計るべきなのだがそれが出来ないのが、大漢の重鎮たちだ。

 

「な、なんだね君たちは!!この様なことをして許されると思っているのか」

 

「うん?なんのことかな?俺はただゴミ掃除をしに来ただけだよ」

 

「ふざけているのか!!」

 

嘲笑いながら言い切った終夜に大漢の重鎮の一人がキレた。

どんなに考えても己の不利が覆るわけがないのに、だ。

 

「さあ、真夜お前の手で決着をつけるのだろう?」

 

「ええ、兄さん」

 

真夜は一歩前に出て、魔法を発動した。

その瞬間部屋が暗くなり天井に星空のように小さく光り輝く光源が出来ていた。

真夜の魔法である『流星群』は、そもそもこういった限られた室内の方が実力を発揮する。

そして、星が流れ落ちるように重鎮たちを撃ち貫いた。

真夜の瞳には一切の罪悪感も悲壮感もなく、むしろ復讐をやり遂げ生きる目的を失った虚無感を感じさせた。

 

「さ、帰ろうか。一年近く帰っていないのだ、間違いなく説教だろうね」

 

終夜が場の空気を壊すような発言をした。

その真意を深夜は理解してくれたのか、苦笑いをした。

 

「そうだね。兄さんが言い出したから兄さんが私たちの分も怒られてよね。ね、真夜」

 

「ええ、そうね」

 

真夜も終夜や深夜に心配を掛けまいとしてはいるが、精神構造干渉の魔法を使える二人は特に相手の心情に機敏である。

だが、そこを乗り越えるのは真夜であって、二人が外から干渉することではないと分かっていた。

 

「ささ、帰るよ」

 

二人の背を終夜が押しながら帰路についた。

本部の正門前まで来ると終夜は全てにけりをつけるべく、二度と真夜を誘拐しようと思わない様に原因である崑崙方院本部を跡形もなく消す魔法を組み上げだした。

幸いにも環境は作り上がっている。

崑崙方院本部の上空で空気の流れをある一定に調整し、移動魔法で強制的に回転を加える。

後は簡単だ、竜巻が起きやすいスーパーセルだ。

上空から何かがゆっくりと降りて来るかのように着弾した。

魔法による付加により、通常の竜巻では考えられない規模の竜巻で本部は跡形もなくすりつぶされた。

終夜たちはというと、やり過ぎたと思い竜巻の被害に自分たちが合わない様に急いで逃げていたりした。

 

 

 

 

この事件ののち大漢は、半年もしない内に大亜連合に吸収された。

むろんたった三人でことを起こしていたのだ、全ての人間を上手く抹殺できたわけではなく逃げ切れた人間も数える程度ではあるが居る。

しかしその者達は、この件について一切口を開こうとはしなかった。

それ程までに凄惨な事件であり、大漢での犠牲者は、軍人、魔法師、高級官僚などは五千六百人程度だが、一般人も合わせるとその人数は三十万人を超え、被害者だけでも五百万人を超えるとされる。

この件で、世界は日本のとりわけ四葉と言う一族の危険性を理解させられた。

たった三人でこれだけだ、一族総出となるどれ程のものになるか、そう考えると身の毛もよだつ話しだ。

自称世界最強国家である、USNAはこの件を非常に重く考えている。

元々竜巻が起きやすい環境であるということもあり、その被害は毎年のように出ておりその危険性も十二分に理解している国だ。

その竜巻を個人で作り出せるものが居る、それだけでも脅威に値し、何時それが自分達に向けられるのかと思うと枕を中々高くして寝ることが出来なかったらしい。

そもそもの原因が、大漢にある事を突き詰めたUSNAは非常に珍しく一つの家と条約を結んだのだ、それも公式の場で。

その内容は、たった一つであり簡単に要約すると、四葉の者と分かる者には一切干渉せず、四葉の関わりがある事にはこちらからは干渉しない。

その代りUSNAと敵対しないといった物だ。

まだ細かく内容は制定されているが、その詳しい内容を知る者は限られている。

むろんこの事を馬鹿にするものは、誰も居なかった。

それだけの事件であったのだから。

この件で更に終夜の危険性を世界に周知させることとなり、終夜は誰にも御することの出来ない存在として魔法と関わりのある者や裏に生きる人間たちからは口を揃えて『アンチェイン』、何者にも縛れぬ者、そう言われるようになった。

まあ、深夜や真夜が可愛らしくお願いしたら何でもお願いを聞いちゃう重度のシスコンなのだが。

 




とりあえず、今後の展開どうしようと思ってる。
母親となるのは真夜で、だけど深夜と真夜の卵子を使って人工授精をさせてって流れで、とりあえず二卵性双生児で娘でって言う流れになっていて。
何が言いたいかというと、双子の娘の名前大募集中です!!
あと、双子は誰と同年代にするかも募集中です!!
意見は、個人宛てにメッセージでお願いします。誰と同年代かも。
そして、次の話投稿するときに、あとがきに書いて集計したいと思います。


次の話は原作に細かく描写されていない大越紛争に終夜を参加させます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴミ掃除は忘れずに

大越紛争に参加させると言いながらまだそこまで行けませんでした。
すみませんでした……
そして、多くの意見ありがとうございました!!


大漢が併合され、一年がたった。

終夜は十六歳となり、深夜と真夜は十四歳となった。

大漢を実質攻め滅ぼした終夜たちは、帰って早々謹慎を言い渡された。

そもそも謹慎を言い渡されていながら、抜け出した終夜は一年間本宅の敷居から出してもらえなかった。

深夜と真夜は一週間で済んだらしい。

何だ、この差別!!、と密かに思ったりした、終夜だった。

終夜が謹慎されている間にも世界情勢は動き、抵抗する機能が瓦解している大漢に大亜細亜連合が攻め込み半年もかからず降伏したのは、記憶に新しいことだ。

むしろ抵抗する機能が瓦解している中粘ったことには、純粋に賞賛に値すると思っている。

大亜連合としては戦費に無駄な支出が増え、死にたいとなっている大漢の復興作業などで更に支出が増え、踏んだり蹴ったり状態となった。

第三次世界大戦自体も世界各国で人が死に過ぎ、九十億人近く居た人間が現在では三十億と全盛期の三分の一まで落ち込んでいる。

これによって、各国の軍の人材不足の加速化が進み、戦争の継続力が低下してきている。

この様子では、早くて半年遅くても一年後には終戦するだろうという意見が出始めている。

 

日本国内でもいろいろと情勢が変わった。

切っ掛けは、矢張り終夜たちだ。

たった三人で大漢を滅ぼしたといっても過言ではない戦績を叩きだしたと言うのもあるが、当時の日本と大漢とは軍事同盟を結んでいた間柄だった。

その同盟相手を日本の魔法師社会でも名家と言える家の出身者が滅ぼしたというのは国際社会上好ましいことではない。

しかし既に事が終わった後であり、尚且つUSNAと条約を結んでしまった家を目に見える形であろうと見えない形で在ろうと制裁行為をするということは、USNAを敵に回すことになる。

それは、日本としては好ましくはないが、それで納得しないと言うのが人間と言うものだ。

とりわけ政治家は、己の利権が侵されることには敏感だ。

今回の事件で利権を侵害された者と、反魔法師運動を助長させている政治家などが徒党を組んでしまったのだ。

特に政治家たちの中には、少年少女交流会に行く様にと催促した者達も含まれていた。

終夜たちが大漢に攻め入っている間に四葉の方でも独自に調べていくうちに、その政治家たちが大漢からいろいろと賄賂を貰う代わりに日本の魔法師を渡すということになっていた。

しかしそのことを十師族が許すはずがないのは誰にでも思いつくことであり、そのために少年少女交流会と言う名目で日本の方から十師族を送り込み、その時失踪に見せかけて誘拐する手はずだったらしい。

だがその目論見は終夜によって阻まれ、挙句国が崩壊するに至ったのだ。

この事だけは、政治家たちにとっても予想外だった。

いくら魔法師として強かろうと、それは戦時の戦略規模がせいぜいで一個人で一国家を崩壊させる規模だと誰が想像できようか。

そのことをネタに、自党内で勢力を大きく削がれた大物政治家もいたほどだ。

そんな者達が現在、とある場所に一同に会していた。

 

「よく集まってくれた、同志諸君」

 

スーツでキッチリと決めた壮年の男性が立ち上がって言った。

 

「さて、本来なら長々と集まってもらった理由を言わないといけないのだが、ここに集まってもらった者達は既に察しがついていると信じ、直ぐに本題に入りたいが構わないかね」

 

壮年の男性が、集まった者達を見渡し問題ないと判断するとすぐさま本題に入った。

議題はもちろん魔法師、それもとりわけ十師族の四葉家についてだ。

 

「そもそも魔法師は兵器だ、それは我等とて理解している。しかしそれを持っているのは個人だ。兵器を個人の自由意思で振るわれるべきではない」

 

「その意見には賛成しますが、人道派がいます。その派閥が在る限り、兵器として監禁するなり薬物漬けで洗脳するのは厳しいかと」

 

「確かにそうだな。だが、魔法師の殆どは見目麗しいものばかりではないか。そこを利用すれば人道派に付け入ることができると思うが?」

 

この場に集まっている者達は次々と意見を出した。

大漢の件で失脚した者達だが、その件がなければ未だにヘドロのように悪臭漂い、濁りきった政界を生きていただろう者達だ。

保身や危機管理は、一般人より大きく上回っている。

それで尚、失脚したのはあの事件が、あまりにも荒唐無稽で予想外過ぎただけだ。

 

「しかし四葉はあの事件以来警戒しています。そう、上手くいくでしょうか?」

 

「なに、魔法師と雖も、キャストジャミングの前ではただの人よ」

 

「なるほど」

 

あくどい顔をしながらそこから生まれる利益、利権を男たちは換算し始めた。

上手くやればまた、あの地位に舞戻れる。

誰もがそう思った。

 

「そうなるとアンティナイトですが、あれは軍事物資です。昔の我等ならばともかく今の我等では入手は到底不可能では?」

 

「そのために我らが居るのでしょう?」

 

「そうだとも、そのために君たちを招き入れたのだから」

 

「分かっていますとも」

 

お互いが、信頼し合っているのではなく利用し合う間からであることは、この場にいる全員が分かり切っている。

それだけ、現状の流れがお互いに好ましくない方へと向かっているのだ。

 

「既に我らはとある国と渡りをつなぐことに成功しており、アンティナイトを幾つか融通してくれることになっています」

 

「それは真か!!」

 

「ええ、しかし相手側もいくつか要求がありまして……」

 

利権を侵害されて尚、己の持ち得るコネクションを使い、渡りをつけた男は、言い辛そうにしていた。

 

「……何を要求されたのだ?」

 

「日本の持つ最新の魔法研究、その研究資料です」

 

「なっ!!」

 

最新の魔法研究、それが漏えいすることは国防の低下に直結している。

そのことは、この場にいる者達全員が理解している。

いくら魔法師のことを兵器としか見ていない者達でも、最新兵器の機密情報をばらしても大丈夫だと楽観視するほどの馬鹿共ではない。

むしろ己の保身にたけているからこそ、研究資料を渡したら最後二度と己が利権を手にすることの出来る立場に舞戻れないと理解できているのだ。

 

「それはあまりにも「いや、渡そう」」

 

国防に携わった事のある政治家が反論しようとしたが、場をまとめている壮年の男が割り込み、資料を渡すと言い切った。

そのことに、場は一瞬沈黙した。

 

「しかしそれでは、国防上の問題が」

 

「構わん、現在の資料など微々たるものだ。大局的な見地からすればまだ傷が浅く済む」

 

「……分かりました。貴方がそこまで言うならば従いましょう。ですが、その資料を閲覧するにしては、現在の私達の権限では」

 

「それならば、問題はない。何の為に今まで我々が懸命になってコネクションの意地をしてきたと思っている」

 

「まさか!!」

 

「この場にいるだけあって、察しが良いな。そうとも既に魔法協会内部に内通者を作ってある」

 

壮年の男の言葉に、この場の全員が驚いた。

特に魔法協会内部に内通者を作り上げるのは、生半可なものではない。

魔法協会は、十師族の支配下にあるといっても過言ではない。

そして、その十師族を裏切るということは、自国の魔法師を全て的に回すのと同義だ。

そんな自殺行為、ドが付くマゾヒストでもしないことだ。

それでもなお裏切るということは、裏切るだけの価値があると言うことになる。

 

「さすがですね」

 

「では、私は相手側に連絡を入れておきます」

 

「頼んだぞ」

 

後は計画を密に練り上げ、魔法師という兵器を鹵獲するだけだとこの場にいる誰もが思った。

特に鹵獲した魔法師、それも女の魔法師の体をどのように犯してくれようかと考えていた。

しかし、こう言った事はえてして上手くいかないものだ。

 

「やっぱりまだ諦めていなかったのか。いや、諦めきれていないだけか」

 

「誰だ!!」

 

この場に集まっている者達が声のした方を見るとそこには、この場の誰もが恨み、妬み、恐怖する存在。

四葉終夜が居た――

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで少し時間は遡る。

 

「兄さん、やっと謹慎が解けたのですね」

 

「一年はいくらなんでも長すぎだとお父様に進言したのですが……」

 

「まあ、それだけのことをしでかしたからね、仕方ないとしか言いようがないよ」

 

終夜は、深夜と真夜の頭を撫でながら言った。

二人とも十四歳と兄離れしないといけない年頃なのだが、未だ二人とも終夜にベッタリだ。

特に真夜を救出してからは、時間が許す限り、それこそ寝る時も終夜と一緒にいるほどだ。

流石に風呂はもう恥ずかしいらしい。

若干残念だったりする終夜だった。

 

「それにしても今からどこかに出かけられるのですか?」

 

「なんでだい?」

 

「使用人が車を入り口に回していましたから」

 

「そこで、父さんが出かけるとは考えなかったのか?」

 

「今日、お父様は家で誰かと会う約束があると言っておりましたから」

 

「そうなると、母さんはあまり出かけるような人ではないから、そうなると必然的に俺になるな」

 

いやはや、参ったなと頭を掻きながら終夜は思った。

今回のことは、終夜が内密に進めていたことで、深夜や真夜を捲き込むつもりはなかった。

そもそもこれだけは、終夜自身が片付けないといけない問題であり、自身でケリを付けて初めて真夜の誘拐事件が、終夜の中でようやく終わるのだ。

 

「まあ、ちょっとばかし用事がね」

 

「私達も着いて行くことは出来ないですか?」

 

「邪魔は致しません!!」

 

懇願してくる二人を突き放せるほど終夜は非道ではない。

むしろシスコン度数が高すぎる終夜が、断るはずがない……普段なら。

 

「ごめんな、今回だけはどうしても連れて行くことが出来ないな。帰ってから相手をしてあげるから」

 

優しげな表情で二人の頭を撫でた終夜は、そのまま本宅から出ると、使用人が車の前で待っていた。

 

「よろしかったのですか?」

 

「構わん、それより行くぞ」

 

使用人が開けてくれたドアから乗り込んだ。

使用人も終夜が乗り込んだドアを閉めると、すぐさま運転席に乗り込み出発させた。

目的地は、もちろん徒党を組んで自分の権威を復活させよとしている者達の集まっている場所であり、目的はゴミ掃除だ。

 

「それよりも頼んでいた情報はそろっているのか?」

 

「ええ、こちらに。そして今日秘密裏に集会を開くのは確実です」

 

「分かった。しかしこれだけまだ残っていたとは……」

 

使用人から渡されて資料をざっと見た終夜は、ため息を吐いた。

資料に乗っていた人物たちは、国の癌になり得る存在であり、暗殺対象でもあった。

しかし名前が有名すぎるがためだけに、未だに生き残れてきたという事実もある者達だ。

だが、終夜にそんなことは関係ない。

また深夜と真夜が危険にさらされることに比べたら、奴らの命の方が軽いに決まっている。

命は平等だとほざく奴らもいるが、本当に平等であるなら、何故今この瞬間快適な空間で快適な生活を送っている者と、この瞬間にも命を落とそうとしている悪環境で生活を送っている者とが居るのだと、そう言いたいものだ。

 

 

 

 

 

暫く資料に目を通していると、目的地へと着いた。

一見ありふれたビルに見えるが、中はそうではない。

妖精の眼で見ると中には幾重にも警戒網が敷かれており、集会のあっている所まで行くのに誰にも見つからずに、というのは不可能の様だ。

それがただの魔法師だったら、の話だ。

 

「では、三十分で戻る」

 

「分かりました」

 

そう言うと終夜は普通にビルの中へと入って行った。

ビルの中の内装は至って普通の様だ。

まあ、監視カメラが異常に多いくらいか。

しかし監視カメラなど、光を屈折させるだけで自身の姿を隠せる。

ゆっくりとした足取りで、進んでいく終夜。

時折警備をしている者とすれ違うが、奴らは一切終夜のことを妖しい奴だと認識できずスルーしていた。

系統外魔法で、視覚と聴覚を終夜に掌握されていては、それも仕方ないことだと思う。

思ったよりも簡単だったことに内心終夜は呆れていた。

いくら魔法師が嫌いだからといって、警備にさえ魔法師を利用しないとは頭がとうとういかれたのかと思ってしまうほどだ。

あっさりと目的地に来てしまった終夜は、中から漏れる言葉に内心呆れていた。

この国の魔法研究の成果である資料を渡すと言う事の重要性を、腐り切っても元は政治家理解していると思うが、それに何が大局的に見てだ、ミクロの視点からやっと一般人の視点に映った程度の視点で何が分かると言うのだ。

それで、さすがと思っている奴らも奴らだ。

呆れ切った様子で、終夜は扉を静かに分解し中に入った。

 

「やっぱりまだ諦めていなかったのか。いや、諦めきれていないだけか」

 

「誰だ!!」

 

集会に集まっていた者達は、一斉にこちらを見て来て、人の顔を見るなり顔色を真っ青にした。

失礼だと思わないのだろうかと、内心イラッとした。

 

「ああ、その表情でお前らが、俺が誰か察しがついたということが分かったよ。さて、さっさと済ませるか」

 

右手を前に出し魔法を発動した。

それだけで、この場を取り仕切りまとめていた壮年の男が爆散した。

飛び散る血飛沫が付着したことで、改めて現実を認識した者達は一斉に逃げ出した。

といっても、出入り口は終夜が塞いでいる場所ともしもの為に用意されていた隠し扉だけだ。

必然的に隠し扉の方へと一斉に逃げ出した。

 

「くそ、開かない!!」

 

扉をガシャガシャとノブを回し押したり引いたりするが、ビクともせず背後から迫る明確な死に全員が焦っていた。

一人、また一人と背後で爆散あるいは、押しつぶされ、燃やされ、凍てつかされ、分解される、お互いを利用し合うだけの関係だった、建前上は同志であった者たち。

 

「ったく、大人しく殺されてくれたら此方とて楽なのだけどね」

 

最後の一人を終夜はあっさりと潰した終夜は、一切の感情を感じさせない無表情でいた。

人を殺したという罪悪感は、真夜を救出したその日に失った、というよりかは切り捨てたと言うべきだろう。

 

「さて、あとは資料を回収するだけか」

 

この場に集まっていた者達の個人端末から全データを抜き出した終夜は、このビルを後にした。

後は、このビルの中にいる警備にあたっていた者達の抹殺だ。

それは、大漢に攻め入る時にも使った割と建物内にいる者達を抹殺するのに便利な魔法。

加重・収束魔法の大規模魔法により、建物全体の酸素の分圧と酸素濃度を過剰なまでにあげることによる毒殺。

中にいる者達は、激しい痙攣を発症しもがき助けを求めるが、誰もがその状態に陥った状態では助けを求めることなど不可能だ。

一人、また一人と意識を失いそのまま絶命した。

 

「時間ピッタリでございます、終夜様」

 

「当たり前だ。さ、帰るぞ。このまま遅くなったら深夜と真夜に怒られるからな」

 

苦笑い気味に終夜はそう言った。

 




アンケートは、活動報告に載せますので、そちらを見て下さい。
組み合わせが良いかは、メッセージにでも送ってください。



そして、次は、次こそは大越紛争について書きたいと思う。
その前に深夜と司波龍郎氏との結婚があるんだけど、結婚させたくないな。
籍入れだけさせて別居させるべきかな……
そうなると達也達生まれないしな。
次の話間違いなくその辺りも絡んで、更新遅くなりそうです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現状説明and娘が生まれたand大越紛争

娘の名前が決定し、年代も決定しました。
詳しくは内容で……

作者でさえ、タグの転生者が甥にいることを忘れかけてました;;


終夜がゴミ掃除をした時から、十五年の月日が流れた2079年春――

 

終夜、三十一歳となり深夜と真夜は二じゅ――これ以上書くと精神崩壊させられ全身を光で穿たれるので書けませんでした。

そんな終夜は、最近和服を好んで着るようになった、妹たちは相変わらず意匠の凝らしたドレスを好んで着ていたりするが、今は関係ないことだ。

特にこの十五年間はいろいろと濃密なものだった。

第三次世界大戦が終了後、人の数が減り過ぎ、魔法師の兵器としての価値を上げたため、魔法師の早婚化が求められるようになった。

人と言うのは、何かをするにしても必ずどこかの部分で関係してくるため減らすことの出来ないものだ。

特に戦争と言うものは人間同士が行うため、それは必然と言ってもいい。

そう、だからこそ人の数を増やすためには子が増えなければならない、早く結婚させなければならないという安直な考えを持つものが増え、社会的に早婚化が求められるようになった。

むろんそれは終夜にも言えたことで、結婚可能年齢になってからと言うものお見合いの話が引っ切り無しに来たものだ。

それは深夜にも言えてことで、終夜がお見合いを妨害した数は、両手足の指では足りない程だ。

真夜は、男性恐怖症が治る見通しがないということもあり、「何時までも待てない」と言う七草からの言い分で、婚約解消の話をこちらが飲むことになった。

その際終夜が、内心ガッツポーズをしたのはお約束だ。

それでも覆すことが出来ないこともある。

それが深夜の結婚だった。

これは、四葉家としての決定で深夜も諦めて受け入れた。

相手は『司波龍郎』という、規格外のサイオン量を保有しているもので、経営者としても優秀な男だ。

この結婚にはいくつか隠された思惑が含まれており、一つが司波龍郎と言う比較的魔法師として優秀な血統の入手だ。

終夜には一歩劣るものの、現役の優秀とされる魔法師と比較して尚規格外のサイオンを保有しており、魔法師の資質は遺伝するということに基づいてのことだ。

他に経営者としての資質だ。

これは、四葉以外の十師族や残りの十八家にも言えたことで、あらゆる場所に出資したり、会社を経営したりすることで収入を得る上で優秀な経営者は外せない、そう言った思惑がここにはあった。

最後にこれが重要だ。

四葉深夜としての子供を隠すということだ。

現在四葉は世界各国から目を着けられている。

終夜に子供が出来たとしても、誘拐したりして大漢の二の舞になりたくないのは各国当たり前のことだ。

だが、他はどうだろうか?

深夜や真夜が助けを求めたならば終夜は応じるだろうが、助けを求めなかったとして自主的に助けるだろうか?

半分は最愛の妹の血だが、もう半分は自分から妹を奪った憎き男の血が入った子だ。

そう考える上でも、四葉の姓より他姓になっておいた方が危険度はかなり下がる。

というのが四葉家の一族会議で出された結論だ。

むろん、こんな会議をする際に終夜が居たら、間違いなく妨害されることを予測しており、まだ当主をやっている元造は秘密裏に事を進めたのだ。

そして、あの手この手で終夜が深夜の結婚についての話を知ることを徹底的に妨害、隠蔽し何とか結婚までこじつけたのは、ある種の敬意を払ってもいいと一族の者達は思ったほどだ。

後でこの事を知った終夜は、予想通りキレたが。

まあ、結婚と言っても政略結婚も良い所なので、席を入れてからはほぼ別居中というか、合うのも月一あるか無いかだ。

深夜は、今も普通に四葉家本宅に居るし、司波龍郎氏は、元々愛し合っている恋人と会社近くのマンションに住んでいる。

家は一応用意されてはいるものの、使われていないのが実情だ。

それでも血統は入手するために、体外受精と言う手段が使われるとのことだ。

それで今年の四月に誕生したのが達也と鋼也だった。

二卵性双生児ではあるが、その容姿は似ても似つかないほど掛け離れていた。

片方は父である龍郎にどことなく似ているが、片方は銀髪オッドアイだった。

念のためDNA鑑定など徹底的に行ったが、結果は確実に二人の子供であった。

先祖返りにしては、四葉の方はあり得ず、司波家の方も純粋な日本人で海外の血が入った形跡は一切ない。

そのことに一部の研究者が、その謎を解明しようと熱を入れたのは関係ないことだが……

 

 

 

 

そして、もう一つ重大なことがあり、達也と鋼也が生まれる一年前、これも体外受精と言う方法だが、終夜と深夜と真夜の間に既に子供が生まれていたのだ。

終夜のものと深夜と真夜のものを使用しての体外受精という方法を使っての妊娠だった。

ただ、産んだのは真夜だ。

深夜は形式的には結婚しているため、違う男の子供を産んで品格を貶められるようなことが在ってはいけないため、真夜が代わりに産んだのだ。

名前は、深夜との間の子は深姫、真夜との間の子は真姫という。

終夜としても目に入れても痛くない程のかわいい娘を愛すべき妹たちとの間に出来たのだ、その時の喜びようと言ったら言葉に出来るものではなかった。

むろん”四葉終夜”の子供と言うだけで、世界中で取り上げられるレベルのニュースだが、ニュースになることはなく、終夜の存在を恐れる裏や一部の権力者たちの間でのみニュースとなった。

何故ニュースになることがなかったのかというと、大亜連がインドシナ半島へと南進していると言う事と、体外受精とはいえ、近親間の子供だからという二つの要因がある。

魔法師と言う存在が生まれてからと言うもの、近親間の忌避は比較的なくなりつつあり、近親間での子供が忌避されていた理由の遺伝子異常も現在の医療レベルで解決できるものとなっており一部の国では推奨さえされているほどだ。

だが、世間体と言うものがありまだ馴染みきれていないのが実情だ。

それでも近親の子供と言うだけで差別されることは、昔に比べて無くなりはしたが、未だ好まれてはいない。

終夜が近親で誹謗されようとも、そんなことを気にする終夜ではなかったが、もしそれが妹たちの誹謗中傷や娘たちの虐めに繋がったならば、間違いなくキレることを想像することは容易であり、戦略級など生温い、生きた災害の猛威に曝される恐れのある、日本はすぐさま一般大衆に馴染むように近親を推奨し始めた。

そんな娘たちが可愛くて仕方がない終夜に仕事が舞い込んできた。

その時の表情は、歴戦の古強者でさえ震え上がらせることが出来るほどだったという。

その仕事の内容と言うのが、大亜連のアホどもが大漢での損害を補うべくインドシナ半島へと南進し始めたことに対する介入だ。

この仕事は、USNAと新ソ連の二か国が決定したことであり、終夜にも同行してほしいと言うものだった。

ハッキリ言って、終夜はこの仕事乗り気ではなかった。

報酬は、先の二か国より莫大な金額が出るが生まれたばかりの子供がかわいくて仕方がない終夜は、片時たりとも離れたくないのだ。

安全面だけは、四葉家本宅にいる以上安全は保障されているが、それでも心配だ。

と、いろいろと文句を言って行きたがらない終夜だったが、結局実の妹であり、嫁に近いが嫁でない愛すべき妹たちである深夜と真夜に行って来いと言われたので渋々行くことにした。

 

 

 

 

そんな終夜は現在、USNAと新ソ連のインドシナ半島臨時合同参謀本部にいた。

過去の因縁と互いの利権もあり足を引っ張り合うと思っていた終夜だったが、非常に珍しく大亜連の勢力拡大阻止の為に表面上とはいえ一致団結していた。

 

「現状、ベトナムのゲリラ部隊と日本の義勇軍と思わしき部隊の奮闘もありギリギリ戦線を押し止めているのが現状です」

 

「しかし、現状が好ましくないのもまた事実、奴らは数だけは多いがその数を馬鹿にする事は出来ない」

 

「然り、そのために我らが来ているのだから。して今回のミッションだが――」

 

終夜は、先ほどから永遠と続く前上口を聞き流していた。

元来ベトナムからの救援要請があった訳では無い我らは、大義名分が不透明だ。

むしろUSNAと新ソ連はインドシナ半島の地理的条件などを目当てにしている、互いを牽制することこそが真の目的だ。

 

「結局大亜連を引かせればいいのだろ?」

 

今まで黙っていた終夜の一言に、この場にいる者達が一斉に振り向いた。

 

「ことは、そこまで単純なことではないのですよ」

 

「政治的問題も」

 

「軍人が政治のことを考えてどうする。今は目先の戦場のことだろ」

 

終夜の言っていることには、一理ある。

だが、軍事と政治は斬っても切れない関係にある以上、誰もが簡単にうなずく事は出来なかった。

そんな中終夜を援護した人が居た。

 

「確かに、我等は力を示してこそだ。それに我らが介入を決めてから日が経っている。こうしている間にも一般の者達が大亜連の者によって虐殺されているのだぞ!!」

 

「ウィリアム少佐」

 

USNAの方針は、この時点で確定した。

USNAの誇る最強の魔法師部隊であり、USNA最強の魔法師であるスターズ総隊長、ウィリアム・シリウスだった。

本来であるならば、この作戦にスターズは参加する予定ではなかった。

だが、終夜がこの紛争を収めるための参戦を要求し、その要求をのんだことで急遽決まったのだ。

ウィリアムに与えられた極秘任務は簡単で、終夜の実力の確認と新ソ連の牽制。

終夜と言う存在は、最早戦略級という言葉に収まる存在ではなくなり、裏社会や一部の高級官僚や権力者、大企業の役員たちからは既に自然災害の一つとして考えられるようになっていた。

味方であるならば恵みが、敵には滅びが待っている。

誰が言い出したかは、分からないが力ある者達が終夜を表すのに最も適した言葉だと思っている。

 

「分かりました。USNAと”終夜殿”の顔を立て今回は、即座に軍事介入いたしましょう」

 

新ソ連の参謀が折れる形に見せながらも、終夜の名を強調しながらいった。

 

そこからは本当に電撃的な決着だった。

USNAを右翼から新ソ連を左翼からの挟撃で、インドシナ方面へと突出した部隊を終夜が単体で叩くと言う至極簡単な作戦だった。

単純だからこそ難しく、戦力の調整も難しく右翼左翼どちらかに一点突破されてもダメで在り終夜と言う決戦戦力があったからこそ実行に移せたのだ。

そうでなければ、短期で解決させるのは困難だっただろう。

これ程までに短期で解決できたのは、やはり終夜だ。

可愛くて仕方がない娘たちに会いたいのと大亜連と言う一つの国家にまとめあがったが元は大漢が含まれている国だ。

終夜が一区切りついたとはいえ、過去の恨みが早々になくなるわけもなく、この進行で出兵していた大亜連の部隊は半壊してしまったのだ。

全滅しなかったのは、USNAと新ソ連が戦っていた部分であり、終夜と当った所は綺麗な赤い大地と化していた。

 

 

 

「矢張り、アンチェインの名は伊達ではありませんでした」

 

「……そうか、分かった。下がっていい」

 

「はっ!!」

 

終夜の戦いを陰ながら見ていたウィリアムは、上官へと今回の作戦の報告をした。

 

「少佐、お疲れ様です」

 

「大尉か」

 

「四葉終夜の実力はどうでしたか?やはり噂が誇張されただけでしたか?」

 

大尉と言われた男は、権力がある者達が恐れ慄く四葉終夜という者の実力が、誇張表現されただけのただの魔法師だと思っており嘲笑い気味に言った。

事実、終夜の力を目のあたりにしたことのない者達は、大漢の内部分裂と偶々重なったために誇張されていると思っている。

ウィリアムもそうであった。

終夜の実力をその目で直接見るまでは。

 

「あれは冗談や誇張で済まされるものではなかった。上が言っていた通りあれは化け物だった」

 

「冗談ではなさそうですね、少佐」

 

嘲笑い気味だった顔から一転、大尉は真面目な表情に切り替えた。

 

「正直な所、あれとは戦いたくないものだ。あれと戦うとなるとせめて二か国、我等が祖国と新ソ連、その二つ以上の軍事力をただの消耗品として扱うなら僅かばかり勝機が見えるが所詮理論上だ」

 

「少佐が差し違えての特攻をしたならばどうでしょう?少佐には分子間結合分割術式が有ります。その魔法ならば」

 

期待したような声音で大尉は訊ねたが、ウィリアムは頭を横に振った。

 

「その魔法を使う前にやられたら意味がない。あれは事象干渉の規模、強度ともに規格外だ」

 

「そうですか……」

 

そんな会話をしながらも、ウィリアムはどうしたら終夜を”足止めできるか”を考えた。

しかしその思考は無意味であり、ウィリアムが終夜と相見える(あいまみえる)ことは二度となかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の終夜はと言うと――

 

「ただ今帰りましたよ~」

 

「だあ~」

 

「う~」

 

ベビーベッドに寝かされている一歳になったばかりの深姫と真姫の頬を突いたり指を握らせたりと、帰宅してからと言うもの娘二人に付きっきりだった。

これを見たらウィリアムがどんな顔をすることか、お互い知らない方が良いこともあるものだ。




そして、批判はNGではなかったのですがNGと捉えられる分で書いていた作者に落ち度はあるとはいえ、それの所為で低評価がいっぱいに……という愚痴を書きつつも、次回やっと原作の話にしたいと思います。
若しかしたら違う可能性もあります。


そして、双子の名前の提案者である、すだい様にはこの場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。
ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

娘のことが心配し過ぎて唯の変態になったった

2092年――

終夜は、四十四歳となり深夜と真夜もそれなりの年齢になった。

なったはずなのに三人が三人とも年齢と見た目が合致せず、若々しさを保っており、三人ともが三人ともその容姿がずば抜けているため余計目立ってしまっている。

女性からしたら羨ましい限りだろう。

そんな終夜たちは、この十三年間いろいろな変化が起きていた。

一つは、真夜が四葉家の当主の座についたことだ。

この事には、四葉家内外で大いに驚かれることとなった。

四葉家と言うものを知って居る者達は、誰もが終夜こそが四葉家次期当主になると思っていたのだ。

それだけの力を終夜は示し続けてきた。

だが、元造が指名したのは真夜だった。

終夜自身は別段当主になりたいと思っていなかったため、本人達による内部分裂は起きることはなく、それ程問題にはならなかったものの、真夜が当主になることに不服に思った者達は、少なからずいた。

要因の一つとして、男性恐怖症だ。

当時から比べたら幾らか治ってはいるものの、男性恐怖症であるものが当主になるのは如何なものかと言う者たちもいた。

その言い分も分からなくもない。

四葉の当主と為るものが、恐怖症を患っていたら体面に関わるという、四葉一族を思ってこその内縁の者もいれば、今まで終夜が当主になると思っており、必死に取り入ろうとしていた、欲塗れの者もいた。

まあ、欲塗れの者は真夜を否定した翌日から見当たらなくなったのだが。

結局終夜が、正式に四葉の当主にならないことを表明することで一通りの収束は見せたが、真夜が四葉家当主になるにあたって元造の父心が含まれていた。

真夜は、拉致事件救出後男性恐怖症となり最初の内は誰もが優しく接していた。

しかしいつまでも治らない真夜に愛想尽きようとしていた時だった。

七草家からの婚約破棄願い、これが決定的となり次第に人々は真夜から遠ざかるようになり、自宅で在りながら真夜にとって居心地の悪い空間となりつつあった。

真夜の唯一の安らげる空間が、終夜と深夜三人で過ごす時だった。

そんな真夜を不憫に思った元造が、真夜に居場所を作るためにと言う意味も含まれていた。

だが、そんな事だけで真夜を当主にしたならば反感が在るのは誰の目から見ても明らかだった。

そのために元造が用意した建前が、終夜が進んで助けるのは深夜と真夜だけであり、深夜は既に嫁ぐ予定だからといった内容だった。

終夜の実力は、誰よりも四葉の者達が知って居るため、そういうことならと結果的にではあるが、真夜が当主と成ったのだ。

 

 

他にもいろいろあり、終夜の中でも一番エグイことをしたのは、甥の達也の強い情動を司る部分をフォーマットし、仮想魔法演算領域を植え付けたことだ。

現在の魔法師としての基準は、魔法式を構築する速さ(単一系統・単一工程の魔法を0.5秒で5段階行なえると実用レベル)キャパシティ(構築し得る魔法式の規模)魔法の干渉力(魔法式がエイドスを書き換える強さ)だ。

そんな中、達也はある二つの魔法を除いてそれらが大きく劣っていたのだ。

それを補うためにと言う名目で真夜が企画し、深夜の固有魔法で施術し、終夜が達也と深雪との間に枷を作り上げた。

何故深雪との間に枷を作り上げたかというと、達也には唯一『兄妹愛のみ』が残っているからだ。

そうする事で、達也は深雪が枷を解かない限り永遠に守護する存在とすることになり、達也自身にも四葉家での居場所を作り上げることが出来るのだ。

 

他には全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称九校戦が定例行事化したことで来賓として呼ばれるようになり挨拶をするようになったくらいだ。

クソジジイじゃなかった、九島烈のジジイも一緒に呼ばれており、毎回ジジイの後に挨拶なのが気に入らないため若干ジジイの株を落としているのが毎年の楽しみとなりつつあるくらいだ。

 

そんな終夜はと言うと、現在USNAに来ていた。

正確に言うならば、来させられていたが正しい。

残念なことにウィリアムに会う事は出来なかったが、合同での魔法研究はそこそこ有意義なものとすることが出来たのでよかった。

 

「って言うとでも思ったか―――――」

 

終夜は一人割り当てられた高級ホテルの最上層スイートルームのテラスから叫んでいた。

理由はどう考えても一つしかなく、今日から深夜は深姫と真姫、達也と鋼也、そして深雪の五人を連れて沖縄へと旅行しに行くのだ。

つまり何が言いたいかというとだ、深夜の柔肌を有象無象の塵芥どもが見てしまうと言うことになる。

そんな欲塗れの視線を深夜が浴びることは、終夜は看過できなかった。

まあ、現在位置から考えて、看過できないからと言って傍に居て守ることは物理的に不可能なのだが。

 

 

 

 

 

 

終夜が叫んでいる頃、深夜たち御一行は、ちょうど沖縄についていた。

 

「行きますよ、深雪さん、深姫さん、真姫さん」

 

「はい、お母様」

 

「「直ぐ参ります、母様(叔母様)」」

 

深夜は、二人の娘と姪を呼んだ。

二人の、と言うとなかなか難しい、何せ深姫は姪の真姫と双子でもありながらも、深夜自身の子でもあるからだ。

深雪とは違う父親であり、二人は同じ父親、母体は同じ母親、ただし使われた卵子は別の母の者と言った本来であれば、かなり立場が微妙なはずの深姫だが、そんなことはなく、むしろ深い愛情を注いで育ったため、歪みなどを抱えてしまうことはなかった。

しかしその歪みは、別の者で生まれており、その一人が達也で、もう一人が鋼也だ。

端的に理由を言うならば、二人のことを深夜が一切愛しておらず、鋼也に至っては産まれてこの方一度たりとも愛情を注いだことがなかったのだ。

 

「さ、行きますよ、三人とも」

 

深夜は、娘たちに声を掛けて出入り口へと向かった。

その間、達也と鋼也は完全な荷物持ちへと化していた。

達也はガーディアンであるため、問題ないとしても、鋼也は違った。

 

(何で、俺がこんなことしなければならないのだよ。まあ、いいか。このイベントで……)

 

内心不満だらけだったが、今回起きる事件を先に知って居るため、上手くやれば深雪との好感度が上がると思っている。

 

(さっきから、鋼也兄さんの視線が気持ち悪い、せっかく大好きなお母様と、お姉様方との旅行なのに)

 

実際そんなうまくいくわけではなく、既に深雪の中での鋼也の評価は、地中にめり込むどころか、そのまま突破して裏側にさえ到達していた。

 

「お母様、お姉様方は来ていますが、伯父様はどうなさったのですか?」

 

「兄さんは、USNAに急遽いかなければならなくなったらしいの。本人は楽しみにしていたみたいなのだけど残念ね」

 

そう言いながら空港から出ると、夏と言う事もあり、日差しが強かった。

 

「お待ちしておりました。深夜様、深姫お嬢様、真姫お嬢様、深雪様」

 

深夜たちが出て直ぐの所に、深々と頭を下げたのは、桜井香波。

形式上ではあるが、終夜のガーディアンとして務めているが、ほぼ秘書のようなことをしている、見た目は可愛らしいのにクールな性格のギャップ差が激しい人だ。

しかし実力は折り紙つきで、終夜が認める数少ない魔法師の一人だが、欠点もあり実力もないくせに偉ぶる男が、大嫌いなのだ。

 

「ご苦労様」

 

「いえいえ、主人に命令された事ですので。では、参りましょう」

 

そう言って、香波は用意しておいた専用のキャビネットに四人を乗せた。

 

「お二人は後ろの方に用意してあるのでお願いします」

 

それだけを言うと、香波は深夜たちを乗せたキャビネットに乗り込んだ。

 

「ちっ、さっさと荷物を載せろ達也」

 

「分かりました」

 

双子でありながら、片方は使い物のならないレッテルを張られ、片方の態度は大きく、人を見下したような性格なため、四葉家の使用人でさえ腫物を扱う様なものだ。

そのことに気づいていないのは本人だけだが。

 

 

 

 

 

 

着いたのは、新しく深夜の法律上の旦那が買った恩納瀬良垣にある別荘だ。

 

「お待ちしておりました」

 

出迎えてくれたのは、香波の姉で在り深夜のガーディアンでもある桜井穂波だ。

 

「穂波さん」

 

「ご苦労様、お掃除は終わっていて?」

 

「はい、午前中の内に済ませておきました」

 

穂波はにこやかに答えながら、深夜たちを迎え入れた。

 

「深夜様、お荷物は各人のお部屋に運んでおけばよろしいですか?」

 

「そうね、お願いするわ」

 

「畏まりました。深夜様たちの荷物は、私が持っていきますね」

 

「恐れ入ります」

 

香波は、達也から深夜たち女性陣の荷物を貰い受けると、そのまま各人の部屋へと持って行った。

 

「外は熱かったでしょう。麦茶を冷やしておりますがどうします?」

 

「ええ、いただくは」

 

「皆さんもそれで構いませんか?」

 

「お願いします」

 

「恐れ入ります」

 

と、皆穂波にお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

荷ほどきの為、各人それぞれの部屋へと向かった。

 

「それにしてもお父様残念がっていたね」

 

「そうだね、あ、香波さんその中身は開かなくていいから!!」

 

「分かりました。真姫お嬢様」

 

呑気に話している深姫と真姫だったが、香波が荷物の一つで態々他のと分けてある、”下着”入れを開けようとして真姫は慌てて止めた。

流石に思春期と言う事もあり、嫌がっているというわけではなく、香波は主人である終夜の命令で深姫と真姫がどんなものを穿いているのか調べて来てくれと言う事で調べ、報告した前科があるからだ。

深姫も真姫も流石に終夜と入るのは、生理的に嫌だからというわけではなく、純粋に恥ずかしいからだ。

まあ、娘が何を穿いているのか気になる終夜も十分変態だから嫌がっても仕方がないと思うが……。

 

「終夜様も年頃の娘のことが気になるのですよ」

 

「って、何開けているのですか香波さん!!」

 

「そっちは、私の!!」

 

ホッとしたのも束の間、香波にとって終夜の命令は絶対。

つまり、娘である二人のよりも優先順位が上なのだ。

 

「深姫お嬢様流石に黒は早いかと、真姫お嬢様もヒモパンツは早いかと」

 

「「きゃぁぁぁぁああああああああああ!!」」

 

二人が香波に飛び掛かるが、伊達に終夜のガーディアンをやっている訳では無く、二人の猛攻は軽くかわされてしまい、二人の下着事情が白日の下に晒されてしまった。

 

「お嬢様方、いくら背伸びしたいお年頃とはいえこれらは早いかと……」

 

この戦いは、騒ぎ過ぎて穂波が怒りに来るまで続いたという。

なお、怒られたのは香波だけだったとここに記する。

 

 

 

 

 

 

深夜たちが沖縄に来たその日の夜のことだった。

 

「お母様どうしてドレスに?本日は何もご用事はなかったと思いますが?」

 

「深雪さんたちがお散歩に行かれている時、貢さんから誕生日パーティーのお誘いがありました。貴方達も連れて行きますから直ぐにしたくなさい」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、私がお手伝いしますね」

 

「では、私はお嬢様方を」

 

そう言って各々着替えるために部屋へと戻った。

女性の着替えは総じて長く、達也や鋼也はスーツとはいえ五分と掛からなかったが、女性陣は軽く三十分は着替えや化粧に時間を費やしていた。

 

「やはり、深雪は何を着ても可愛いな」

 

「ありがとうございます。鋼也兄さん」

 

深雪は先ほど穂波に注意されたばかりだと言うのに、張り付いた笑顔の下に嬉しくないなという気持ちが滲み出ていた。

 

「深姫姉さんも真姫姉さんもきれいですね」

 

「ありがとう」

 

「どうも」

 

深姫も真姫もそれは、同じで普段は好きに繋がるようなことを徹底して失くしてきている二人でも気持ち悪いと言う気持ちでいっぱいだった。

特に深姫は終夜と深夜の血を引いている分、一種の勘の様なものだが人の心情に異常なまでに機敏であり、特に邪なものを感じ取るのに長けている。

 

「準備が出来たなら向かいますよ」

 

「お車は準備できております」

 

香波が玄関を全開にし、車もドアを開いた状態で待っていた。

それにみんな乗り込んで出発した。

 

 

パーティー会場であるホテルに着くと、穂波と香波はいち早く警備体制について自分の眼で見て確認した。

主人を守ることこそがガーディアンである彼女たちの役目であるから当たり前のことだ。

 

「やあ、待っていたよ」

 

出迎えてくれたのは、主催者である黒羽貢だ。

 

「パーティーのお誘いありがとうございます。貢さん」

 

「いえいえ、深夜さんたちも偶然沖縄に来られているとは」

 

「ええ、そうですね。事前に教えていただけたならばよかったのですけどね」

 

深夜は頬に手を置きながら言った。

 

「私も今日偶然知りましたから、事前に招待できなかったのはすみませんでした。既に家族旅行に行かれると訊いていたもので」

 

「そうでしたか」

 

「おおっと、こんな所で引きとめて済みません、中へどうぞ。亜夜子も文弥も楽しみに待っていましたよ」

 

貢に導かれる形で深夜たちは会場内へと入って行った。

身内だけのパーティーとはいえ、黒羽が主催するだけは有り豪勢なものであった。

 

「深姫姉様、真姫姉様、深雪姉様お久しぶりです」

 

「文弥君お久しぶりね」

 

「亜夜子も元気そうね」

 

「本日はお姉様方お二人だけですの?」

 

「お父様は今USNAの方に居るの」

 

「そうだったのですか。伯父様にしては珍しいですね」

 

「お父様は、残念がってましたね」

 

「それにしても、亜夜子さん文弥君その格好はこの時期熱くない?」

 

「僕だって黒羽の人間です。どんな時でも恥ずかしくない様にしなければなりませんので」

 

文弥の格好は、子供用のスーツにジャケットまで着ている、亜夜子はワンピースにフリルが大量にあしらわれている。

冷房が訊いているとはいえ、真夏の沖縄で着るには、観ている方が熱くなる格好だ。

 

「お美しいお姉様方が来られると訊いていましたので、私も見劣りせぬよう精いっぱい着飾らせていただきました」

 

亜夜子の背中からは、凄みのあるオーラが出ていた。

これがどこかの奇妙な冒険ならば、擬音を背に特殊な立ち方をしていただろう。

 

「そんなことしなくても亜夜子は可愛いじゃないか」

 

今まで一歩下がった位置に折り、どのタイミングで話の輪に入ろうかと悩んでいた鋼也が割り込み亜夜子の頭を撫でながら言った。

和気藹々と話していた空気が一瞬重くなった。

自然な笑みを浮かべ楽しく話していたみんなの表情が、一瞬にして作り笑顔へと変わったことに鋼也だけが気づなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーから帰宅した後のことだ。

リビングに在る電話から香波は終夜へと定期連絡を入れていた。

 

『そうか、分かった。引き続き深姫と真姫の警護を頼んだぞ』

 

「了解しております」

 

『俺も数日以内にそちらへと向かう。どうも大亜連の動きがキナ臭い』

 

「と、申しますと」

 

『奴らが沖縄か、福岡、佐賀、長崎、山口と広範囲ではあるがそのどこへでも攻め込んでくる可能性があるんだ』

 

「早めに本家の方に戻らせた方がよろしいのでは?」

 

『まだ確証が得ていない以上無闇に不安にさせたくはない。それにせっかくの旅行だ楽しんでほしいからな』

 

「……分かりました。では、警護の方は細心の注意を払っておきます」

 

『頼んだぞ』

 

それだけを言うと、通信が切れたので、受話器を元へと戻した。

 

この時は誰も知らなかった。

刻々と大亜連の手が迫って来ていることに。

 




踏み台転生者マジ使えない。
そもそもほとんど登場しないとか踏み台転生者の意味が皆無状態に。
次こそは出そう。

そして、終夜が娘のことが気になるあまりただの変態になってしまった。
名誉挽回を次辺りにさせたい。

次は、戦争・遅れての終夜登場。
その間にいろいろと達也の株が上がる。
使いづらい鋼也をどうしようかな……が、今現在考えている所です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊んでいたら襲われました。みんなも海で遊ぶときは気を付けよう!!

またしても、鋼也の描写が少なかったorz
次こそは、次こそは増やしてやりたいです。


「今日のご予定はお決まりですか?」

 

昨夜のパーティーのこともありみんな朝は、ぐったりと疲れ切った様子だった。

そんな中、深夜はパーティーと言うものになれていることも一人疲れを見せていなかった。

やはりこういった物には慣れが必要なのかと、一同感心していた、ただ一人を除いて。

 

(今日はクルーザーで出かけて、その際襲われたな。ここでみんなを助けたら……)

 

などと考えていた。

鋼也にとっての懸念材料は、二つ。

自分が転生したから事件が起きないこと。

そして終夜だ。

自分の伯父であり転生者なのではないかと疑っている、世界最強であることを自他共に認める戦略級など生易しい化け物だ。

あれが介入してきたら見せ場などあったものではない。

しかし転生者ならば、こういったイベントに参加しないはずがない、ならば何故と疑問が尽きないが、とりあえず目先のことから解決しようと短絡的な考えをしていた。

まあ、その終夜からは大事な娘に色目を使うゴミとしか見られていないのだが。

 

「そうね、特に決まってはいないわ」

 

「でしたら、クルーザーなどで沖に出るのは如何でしょうか?今日は熱さも和らいでいますので気持ちいいと思いますよ」

 

「そうね……あまり大きくなくていいわ」

 

「では、私が手配しておきます」

 

「そう?じゃあお願いね、香波」

 

「姉さんもお嬢様方を少しの間お願いします」

 

そう言って、香波はセーリングヨットの手配をする為に別荘を後にした。

 

「深雪さんたちもつかれているでしょう?ビーチにでも行って来たらどうです、寝転がるだけでもリフレッシュになりますよ」

 

「そうですね。そうします」

 

「ああ、達也を連れて行くのを忘れないようにね」

 

「分かっております。お母様」

 

深夜の冷めた声音に深雪は背筋が凍る思いだった。

実の息子にここまで冷たい感情を向けることが出来るのだろうか。

しかしその疑問を持つことを許されないことを知って居る深雪は、すぐさま考えを切り替えた。

 

「お姉様方もご一緒に行かれますか?」

 

「私はいくは、真姫はどうする?」

 

「私は遠慮しておくわ。まだ疲れが取れきっていないから」

 

「じゃあ、お二人は隅々まで日焼け止めを塗らないといけませんね!!」

 

部屋へと戻ろうとした深雪と深姫の背後にとても楽しそうな笑顔を浮かべた穂波がそこにいた。

 

「……穂波さん?」

 

「わ、私達で出来ますから大丈夫ですよ」

 

「駄目です!!塗り残しが在ったら奥様や終夜様に顔向けできません」

 

言っていることは正論だが、その表情がとてもウキウキ顔なため説得力がなかった。

そこから先は、男子禁制の百合百合しい花園が咲き乱れた。

ただの日焼け止めを塗る作業なはずなのに穂波は若返ったかのように肌が艶々しており、深姫と深雪は日焼け止めを塗られただけなはずなのに、頬を赤らめ息も絶え絶えで疲れ切った表情をしていたのは言うまでもない。

何があったかは、三人の口から一切聞かされることはなく想像するしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

遅めの昼食となったが、昼食を取り終え香波が用意したクルーザーにみんなで乗り込んだ。

十人乗りのクルーザーで、操舵主と助手、それに深夜たち八人で丁度定員だ。

もし終夜が着いて来ていたならもう一回り大きいのか誰かが置いて行かれることに為っただろう。

 

「思ったよりも気持ちいいものね」

 

「そうでしょう」

 

潮風を浴びながら遊覧の一時を楽しんでいた。

そんな時だった。

穂波と香波、達也の三人が沖合を訝しげな表情で睨んでいたのだ。

助手の人が無線機で必死に何かを語りかけている。

クルーザーは、陸へと引き返す為に急速旋回したため大きく揺れた。

 

「お嬢様、中へ」

 

「分かっています」

 

ここ数日で、深雪は達也のことをそれなりに兄妹としての仲が戻ったと思った。

だが、それは所詮真夜に命令されたからであって、達也の意志ではなかった。

そう思うと、何時になくショックを受け全く意味も必要もないのに深雪は高圧的な台詞を吐きながらも、達也が誘導するようにクルーザーの船室へと入った。

 

「鋼也君も中に入って、なにが在るか分からないのだから」

 

「俺は大丈夫です!!」

 

深夜や深姫、真姫、深雪は穂波や香波、達也の指示通りクルーザーの船室へと退避したが鋼也一人だけが言う事を聞かずにCADをスタンバイさせていた。

達也は虚空を見る様な目をし、右腕を海面へと向けていた。

 

(達也よりも先に俺がやれば)

 

まあ、そんなことを考えているから出番を失うわけで。

迫り来る二本の魚雷に対して達也がこの場にいる誰よりも早く魔法を発動した。

この一瞬のうちに起きたことを理解できるのは、達也の魔法を知っているごく一部の者だけだろう。

 

「達也、お前……」

 

穂波と香波の二人が水面下に魔法をいくつも発動し、大きな音を立てながら波飛沫がたっていたため誰も聞き取ることはなかったが、鋼也は一人悔しそうな表情をしていた。

しかしその表情は、香波にバッチリと見られてはいたが。

 

 

 

 

 

 

 

「被害は御座いませんが、終夜様が懸念されていた通り、本日クルージング中に潜水艦より魚雷で攻撃を受けました。」

 

『なにっ!!』

 

香波は、通話越しでも終夜が狼狽していることが分かった。

 

『被害はなかったからよかったが。犯人と特定できるようなものはあったか?』

 

「特定につながるものは何も……ご期待に沿えず申し訳ないです」

 

香波は主人の期待に沿えることが出来ず、表情や態度には現れないが内心落ち込んでしまっていた。

 

『いや、誰も被害はなかったのならば、お前は俺の命令を遂行している』

 

「そう言っていただけるだけで私は……」

 

『引き続き護衛を頼むぞ』

 

「はいっ!!」

 

香波には珍しく感情が籠った返事をした。

普段がクールなだけ、終夜もそれなりに驚いていた。

それなりにとは、いつも突拍子もないタイミングで香波が感情を露わにしているからだ。

例えば終夜に褒められたり、感謝されたり、怒られたりと、察しが良い人間ならばすぐに気が付くのだが、生憎終夜は、妹で始まり妹で終わっている完全に妹で完結しきっているのだ。

娘が生まれてからは五対五状態になっているのだが。

 

「それよりも、気になることが」

 

『気になること?』

 

「はい、終夜様の甥である鋼也様ですが。私達が襲撃を無事回避できた際、悔しそうな表情を成されていたのです」

 

『安堵ではなく、悔しそうか?』

 

「はいそうです」

 

助かったのならば、安堵の表情を浮かべるのが普通だ。

にも、関わらず悔しそうな表情をした。

 

『報告御苦労。俺も二、三日後には帰国するから、そちらに着くのは、帰国後の翌日になる』

 

「分かりました、到着お待ちしております」

 

そう言うと、終夜との通信が切れた。

終夜に信用され、期待されている。

それだけで香波は、心が満たされ期待を込められた言葉を反芻するだけで酔いしれてしまう。

ここまでくれば、最早狂信と言えるだろう。

ヤンデレ化してないのが、せめてもの救いだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲われた翌日のことだった。

国防軍の風間大尉と名乗る人物が昨日のことで話を聞きたいと言うことで深夜たちの滞在する別荘に来ていた。

何故当日ではなく、翌日かというと沿岸警備隊が来たときには既に不明潜水艦が去った後であり、その時事情聴取を受けようとしたが流石に襲われた直後ということもあり、心身ともに疲れ切っているから翌日に来てもらうことにしたのだ。

流石に四葉家の者であることを伏せている段階で、軍事施設で取り調べ、と言う訳に行かないから態々来てもらったのだ。

 

「ですから、何度も言っていますように私たちは何も知りません。むしろいきなりのことで動揺しているのです!!」

 

先ほどから訊かれることは、深夜が先に何かを下から攻撃して来たのでは?と訊いて来るばかりで、初めからこちらに非があるようないいかただった。

それには、さしもの穂波でも憤りを感じずにはいられず、ついつい声を荒げてしまっていた。

 

「ですが、何かしらの理由がない限りいきなり攻撃する様なことはないと思われるのですが?」

 

「相手から攻撃して来たから反撃したまでです。自衛での魔法は法律でも許可されています!!」

 

「それは、こちら側としても理解しています」

 

「でしたら、これ以上こちらから言えることはございません」

 

「わかりました。できれば、あの場にいた人全てとお話ししたいのですが、大丈夫ですか?」

 

「それは、国防軍の大尉として、ですか?」

 

今まで、ただ話を聞いていた香波が口を開いた。

 

「そうですが、何か問題でも?」

 

「問題はありませんが、お断りさせていただきます」

 

「理由をお聞かせいただけますか?」

 

「ここに大人が全員居るのにも関わらず、子供たちに何を聞くおつもりですか?」

 

香波が言っていることは正論だ。

大人に聞いて分からないことを子供に訊いたところで分かるはずがない。

それが、中学生ならばなおのことだ。

子供だからこそ分かることもあると言うが、そもそもいきなり雷撃されて何が分かると言うのだ。

という建前で、国防軍のあまり階級の高くない者が、深姫や真姫と面識がある、その事実を与えたくなかったのだ。

終夜は、自分の子供が国防軍の関わりを持つのをあまり好ましく思っていない、ならば出来うる限り関わりを持たせない様にするのが、終夜のガーディアンであり現在二人の警備にあたっている香波が出来ることだ。

 

「分かりました。ご協力感謝します」

 

大尉は立ち上がり敬礼しながら言った。

その後は、大尉を見送るために、穂波と香波、達也の三人が見送るために表へと出たら、初日達也達に絡んでいたらしい『レフト・ブラッド』が、達也に謝罪し国防軍基地に招待された事位だろう。

 

 

 

 

 

 

 

終夜が帰国したのは、深夜たちが話を聞かれに来た翌日だった。

USNAとの合同魔法研究で、新しい戦略級魔法を開発するには至らなかったが、基礎理論の構築までは行うことが出来た。

元々のベースとして考えられていたのが、大亜連合の戦略級魔法師、劉 雲徳の『霹靂塔』だ。

この戦略級魔法の魔法式を暴くことが出来れば、大漢の戦略級魔法に対策を打つことができ、高度に電脳化された都市はインフラ・都市機能、兵器を守ることが出るようになるからだ。

だが、流石に戦略級魔法を一月程度で暴くことは出来ず基礎理論を作るので、終夜の帰国の日が来てしまったのだ。

終夜ほどの魔法師が、こういった軍事機密に触れるのはあまり好ましくないが、完成したとしてもその魔法を発動することが出来なければ、その性能を確認する事も出来ない。

USNAとしても苦渋の決断だったのは言うまでもない。

まあ、その性能を確認するに至らなかったから言った意味がほぼないのだが。

そんな終夜はと言うと、久々に実家に帰って来て一息ついていた。

 

「お疲れの様ですね」

 

「ああ、流石に疲れたよ。一日ゆっくりしただけでは、行く意味もないのに毎回研究施設まで言って、出番が来るまで待機だった精神的疲労からは中々解放されなかったよ」

 

真夜とともにソファーに腰を掛け、テレビを見ながら言った。

そんな時だった、テレビから緊急速報が流れた。

 

『沖縄西方海域より、宣戦布告なしの侵攻。潜水ミサイル艦より慶良間諸島を攻撃。繰り返します――』

 

その瞬間、終夜の頭の中はとてもクリアになり何をすべきか瞬時に理解した。

真夜が誘拐された時と同じだ。

 

「真夜、国防軍に連絡。深夜たちを直ぐに保護させろ。俺も向かうから超音速巡航機を一つ用意させておけ」

 

「分かりました」

 

真夜はすぐさま電話を持ってこさせると国防軍へと連絡を掛けた。

終夜も直ぐに深夜たちの救援の為に準備に取り掛かった。

 




次回、追憶編最終話。
正義と書いて災害は遅れてやって来るものだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

災害と書いて終夜と読む、これがこの世界の常識

前回の予告通り今回で追憶編最終回です。
作者自身予告していたの忘れて居たため、徹夜で書き上げました。



終夜が緊急速報を聞いたのと同時刻のことだった。

深夜たちはいつも通り、朝食を取って居た時緊急警報が情報機器全てから聞こえてきた。

 

『沖縄西方海域より、宣戦布告なしの侵攻。潜水ミサイル艦より慶良間諸島を攻撃。繰り返します――』

 

いきなりの警報の意味を直ぐに理解できるものは、数少ないだろう。

最初に我に返ったのは穂波と香波だった。

 

「真夜様に便宜を図って頂けるようにご連絡します」

 

穂波はすぐさま、真夜に連絡を入れ国防軍のシェルターに保護してもらう様に連絡を入れに行った。

そのすぐ後に、達也の携帯端末に通信が入った。

相手は数日前に基地見学でお世話になった風間大尉からだった。

内容を要約するならば、国防軍のシェルター内に退避しないかという、申し出だった。

 

「奥様、真夜様からお電話です」

 

「分かったわ。変わって頂戴」

 

そう言って、深夜は穂波から電話を受け取った。

 

「変わったわ」

 

『国防軍の方に姉さんたちを保護するように連絡したわ』

 

「そう、あの子にあった連絡はそう言うことだったのね」

 

『後、こっちが重要なんだけど、兄さんが今そちらへ向かっているわ』

 

「兄さんが!?」

 

『国防軍の方に超音速巡航機を用意させたから、あと一時間もしない内にそちらへと着くと思うわ』

 

「分かったわ。ありがとう真夜」

 

『姉さんも気を付けてね。もし姉さんや深姫、真姫の身に何かあったらその場の人に兄さんを止めるすべがないのだから』

 

「分かっているわ真夜。兄さんには、私達が付いていないといけない事位」

 

『兄さんのこと、くれぐれもよろしく頼むわね』

 

「ええ、じゃあ、切るわね」

 

深夜は電話を切ると、受話器を穂波へと渡した。

 

「大尉にお申し出お受けします、と伝えてちょうだい。その際迎えもよこして貰える様に言ってちょうだい」

 

「畏まりました」

 

達也は恭しく礼をすると、通信端末を取り出し連絡を取りだした。

 

「奥様、真夜様などのように」

 

「兄さんが来るわ」

 

「しゅ、終夜様がですか!?」

 

深夜の口から言われた言葉に穂波は驚いた。

穂波自身、深夜のガーディアンと言うこともあり、終夜とよく顔を合わせる立場にいる。

だから終夜が魔法を使うところを間近で見る機会も四葉の中でも比較的多き事に為る。

終夜ほどの絶対的力を持つ魔法師になると、一種の崇拝に近い形で見られるのは四葉家だからこそだろ。

その熱狂的信者とでも言うべき者が、穂波の妹に当る香波なのは何という皮肉だろうか。

 

「お父様が参られるのですか?」

 

「ええ、今此方へ向かっているそうよ」

 

「しかし大丈夫でしょうか?」

 

深姫の発した、この大丈夫を的確に理解できなかったのは、深雪と鋼也だけだった。

穂波、香波、達也はガーディアンであるが故にその実力を知っており、深夜は真夜が誘拐された時、深姫と真姫の二人は父である終夜に魔法を教えてもらっている時に実力を見せてもらっている。

と言っても、本当の実力を見たことのあるのは、深夜だけでそれ以外は、実力の一部しか見たことがないのだ。

つまり、深姫が心配しているのは襲ってくる側が自分達に怪我などを負わせて文字通り殲滅される恐れがある事だ。

相手が既に国際条約を無視して侵攻して来ている以上、こちらも遵守する必要がないと言う訳では無い。

しかしそれは国と国の取り決めで在って、国と個人で適用されるかというと悩まなければならない。

既に終夜の恐ろしさは二度証明されている。

一度ならば偶然と言えなくもないが、二度証明されているならば既にそれは必然であり覆ることがない事実なのだ。

 

 

 

 

 

 

それから少しして、国防軍の方から迎えが来た。

迎えに来たのは桧垣上等兵だった。

達也とは、比較的打ち解けている様子で、話し方も初めに会った頃に比べたらフランクだ。

四葉のガーディアンである達也が国防軍の軍人と仲良くなるのを深夜はあまり快く思っていないようだが。

そんな桧垣上等兵の案内の元連れられたシェルターの中には、既に百に満たない程度だが、避難していた人たちもいた。

一切戦力にならない人間を保護して大丈夫なのだろうかと思う者もいるが、平常時は訓練するだけで多くの税金を消費しているのだ。

こういった時に役に立たなければ、この奇襲が終わった後のメディアが怖いのだ。

奴らは、ある事ないことを捏造したり、事実を着色したりすることで、とある国にとって都合のいいようにしているのだ。

とある軍人は言った、屈強な国を骨抜きにする近道は、歴史を捏造し、事実を捏造し、国民のより所を失くすことだ、と言った。

それが第三次世界大戦前の日本であり、第二次世界大戦で敗戦した大日本帝国である。

元々は、欧米諸国によるアジア圏内の植民地支配からの解放を目的とした戦争であった。

その時点では、某世界最大の戦力を保持し、世界の指導者を自称している国との決戦はまだ視野に入っていなかった。

だが、その国から事実上の最後通告(ハル・ノート)を言い渡されたが為に、某国と戦争をしなければならなくなったのだ。

その結果、敗北。

日本は憲法を変えさせられ、大東亜戦争という名前の使用を禁止し、本当の日本国民を見せしめの為に処刑し、反日精神の持ち主に政治、大学などの重要なポストへ着かせ、長い時間を掛けて都合のいい歴史を教育することで日本は第三次世界大戦が始まってからも危機感を抱くことが出来ずにいたのだ。

人によっては日本は戦争アレルギー、核アレルギーと言うが、そのアレルギーを持たせたのは他でもない戦後すぐの教育なのだから。

そのアレルギーを克服しようと思うようになったのが、他でもない大亜連合による対馬侵略され、対馬の島民を虐殺された。

この事実には、反日の開戦反対を押し黙らせられ、日本が第三次世界大戦に本格参戦することになったのだ。

 

 

 

 

国防軍のシェルターで他の人達と同じように待機していた時だった。

達也がいきなり立ち上がったのだ。

その一拍遅れて、穂波と香波も椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。

鋼也もハッと何かを思い出したかのように立ち上がった。

 

「姉さん聞こえた?」

 

「ええ、達也君も?」

 

「はい。間違いなくこれは――」

 

「銃声ですね。それも基地内部から」

 

「連続的に銃声が聞こえています。銃は、アサルトライフルかマシンガンと思われます」

 

鋼也のことを無視しながら、僅かな銃声から達也は、相手の装備を割り出した。

 

「状況は分かりますか?」

 

「いえここからでは……、この部屋には魔法を阻害する効果があるようです」

 

「部屋の中で魔法を使う分には問題はないようね」

 

香波が簡単な魔法を発動し、魔法が使えるか確認した。

魔法が使えるのと使えないのとでは、取れる行動が変わってくる。

現状を認識することは、それだけ大切なことなのだ。

そんな時だった。

 

「き、君たちは魔法師なのかね?」

 

仕立てのいいスーツを着込んだ、如何にも社会的地位が高いと思わせる壮年の男性が声を掛けて来た。

 

「そうですが、何か問題でも?」

 

訝しげな表情で穂波は訊き返し、冷めきった目で香波は見返した。

 

「だったら、何が起きているか見て来たまえ」

 

まるで使用人に命令するかのように男は言い放った。

 

「私達は基地関係者ではありません」

 

穂波の表情からいつもの柔和な笑みが消えていた。

 

「そんなことは関係なかろう。君たちは魔法師なんだろう」

 

「ですから、わたしたちは……」

 

壮年の男性は穂波の言葉に一切耳を傾けず、一方的に自分の言い分だけを言った。

 

「ならば、人間に奉仕するのは当然の義務だろう」

 

男がそう言った瞬間、シェルター内の空気が凍った。

それでも男は止まらない。

 

「そ、そもそも魔法師は、作られた『もの』だろう。ならば、軍属など関係ない。それにどうせそこにいる小娘共も魔法師なのだろう、ならば私達人間の言うことを聞くべきだ!!」

 

そう男が深姫や真姫、深雪を指しながら言った瞬間だった。

 

「グヘッ!!」

 

男は、首を握りしめられたまま、壁に押し付けられたため蛙が潰れた時のような鳴き声を上げた。

その様子に一同が唖然とし、反応できなかった。

 

「わ…わたしを……だれだとお……もってい……る」

 

掠れた声ながらも、男は虚勢を張り己を解放するように言った。

 

「貴方が誰なのか私には関係ありません。私は使える主人にお嬢様方をお守りするように良い使わされています。そしてお嬢様方に危害を加える者は、排除しても構わないと言われておりますので」

 

男の首を締め上げながら香波は言った。

男の顔色が真っ青になり、白目を剥いて意識が落ちようとした時だった。

 

「辞めなさい香波」

 

そう言って穂波が香波の手を払った。

 

「私にこんなことをして許されると思っているのか!!私は国防軍とも繋がりが深い企業の役員だぞ」

 

男は香波の手から解放され、ゲホゲホとせき込みながら香波を指さしながら言った。

しかし香波は男の言っていることなど一切気にしなかった。

 

「そうですか。ですが、私がこの場で貴方を殺したとしても罪には問われなかったでしょうね。一介の企業の役員と災害どちらを優先すべきか、それが分からない国ではありませんから」

 

見下したように香波は言い放ったが、そのせいでシェルター内での空気がより一層悪くなった。

 

「達也、外の様子を見てきなさい」

 

悪くなった空気を収集するために深夜は、冷淡にそして端的に命令した。

 

「しかし、状況が分からない以上この場に危険が及ばないとも限りません。今の自分の力量では深雪を護ることは……」

 

「深雪?」

 

達也が深雪のことを呼び捨てにした時だった。

深夜の絶対零度のごとく冷たい眼差しが、スッと細まった。

 

「達也、身の程を弁えなさい」

 

あくまで深雪のガーディアンである達也が深雪を呼び捨てすることを深夜は容認しない。

基地に行く際は、深雪と二人っきりだったからこそ特別に容認したのであって、今の達也は四葉家のガーディアンだ。

 

「――失礼しました」

 

そのことを理解している達也は、直ぐに頭を下げた。

 

「この場は私達が引き受けておきますね」

 

穂波が口を挿んだことで深夜は興味を失ったかのように達也から視線を外した。

 

「わかりました。様子を見てきます」

 

それだけを言い残すと、達也はシェルターから出て行った。

 

 

 

 

達也が外を見に出て行って十数分経ったくらいだった。

銃声がどんどんと近づき、軍靴の響き渡る音も聞き取れるほど近づき扉の前で停まった。

この場にいる者達は誰もが不安を隠せず表情に出していた。

そんな中行動を起こしたのは、穂波と香波だった。

二人は、それぞれ守るべき対象を背にCADを構えいつでも魔法を発動できるようにした。

 

「失礼します。空挺第二中隊の金城一等兵です」

 

扉が開かれ、敬礼している金城一等兵が言うと、誰もが安堵した。

事実穂波も緊張を緩ませていたが、香波と鋼也は違った。

香波は、純粋に男と言う者を信じていないからだが、鋼也は原作知識で奴らが裏切り者だと知って居たからだ。

深雪の魔法によって一人倒されるが、それに激昂して乱射してくる。

それを防ぐことで、好感度を上げようと画策していた。

 

「皆さん地下シェルターの方にお連れ致します。着いて来てください」

 

「すみません。連れが一人外の様子を見に行っておりまして」

 

「しかし既に敵の一部が基地の奥深くまで侵入しておりまして、ここに留まるのは危険です」

 

本来、基地の内部に侵入を許すこと自体あってはならないことだ。

それが奥深くと言うことは、下手をしたら陥落間近だと言っているようなものだ。

そんな状況で地下シェルターに向ったらそれこそ逃げ道を失う事に為る。

 

「では、あちらの方々をお先にお連れ下さいな。息子を見捨てるわけにはいきませんので」

 

その言葉に、穂波と深雪は無言で目を見合わせた。

あの母が、達也を心配している。

そのことが深雪にはとても信じられなかった。

 

「ほ、ほら君、あちらさんもそう言っていることだから我らを先に連れて行きたまえ」

 

香波に首を握りつぶされそうになった男は、そう言って早く避難したいと顔にありありと出ていた。

金城たちは、深夜の発現が予想外だったのか少し待ってくれと言うと小声で話し合いだした。

 

「……達也君でしたら風間大尉に頼めば後で合流できたのでは?」

 

僅かな隙をついて穂波は、深夜に問いかけた。

 

「別に達也のことを心配などしてはいないわ。あれは建前なのですから」

 

「では?」

 

「勘よ」

 

「勘、ですか?」

 

「ええ、あの人たちを信用すべきでないという直感ね」

 

そう聞いた瞬間、穂波は緊張感を取り戻した。

 

「やはり、この場に皆さんを残すわけには参りません。お連れの方は責任を持ってお連れ致しますので、ご一緒に着いて来てください」

 

言葉使いは同じだが、脅しつけるような雰囲気で言った。

そのさまは、まるで何かが近づいて来るのに焦っているかのようだった。

 

「ディック!!」

 

金城一等兵が、声の主である桧垣上等兵に向っていきなり発砲した。

マシンガンを装備していた金城一等兵の仲間も桧垣上等兵の居る方向へと発砲し、残りの者達は銃口をこちらへと向けていた。

穂波と香波が敵と認識し魔法を発動しようとした。

しかし魔法は、頭の中でガラスが引っ掻き回さたかの様な耳障りなノイズの所為で発動することが出来なかった。

 

「何故だ、何故群を裏切った!!」

 

「お前こそ何故群に義理立てする」

 

「日本は俺たちの祖国じゃないか」

 

金城一等兵と桧垣上等兵が言い争ってる時だった。

銃弾が切れたためか、銃声が止みマガジンを取り換えるために若干意識を外したため、キャストジャミングが弱まった。

この程度のことでキャストジャミングが弱まると言うことは、相手は非魔法師。

その僅かな隙をついて深雪は魔法を発動した。

精神凍結魔法『コキュートス』

それによって、アンティ・ナイトを持っていた兵士は永遠に動くことはなくなった。

人を止めてしまったと言う後悔、まだ中学生になったばかりの子供にはとても荷が重いものだ。

しかし今後悔するべきではなかった。

何せここは戦場なのだから。

仲間の異常を察知した金城の仲間がマシンガンで一掃射した。

香波はとっさに振り返ると深姫と真姫の頭を抱え込む形で押し倒した。

発砲と同じタイミングで鋼也と穂波は魔法を発動したが効果を示す前に霧散した。

深姫と真姫は、香波のおかげで手足を穿たれる程度ですんだが、香波は背中に数発銃弾を受けた。

深夜は穂波の背後に居たため無傷ではないにしても軽傷だった。

しかし、穂波と深雪、鋼也は銃弾に穿たれた。

穿たれたところからドクドクと血が流れ、命が削れていく。

 

「深雪!!」

 

達也は天井を分解し、反乱兵を分解し深雪の元へと急いだ。

そして深雪へと左手を差し出すと達也の魔法演算領域の大部分を占めている魔法の一つ『再生』を使った。

深雪の受けた痛みを何百、何千倍となり感じながらも顔を顰めることなくただただ、深雪の意識が回復するその時まで不安気で満たされていた。

 

「お兄様」

 

天井がなくなり青空が視界の端に捕えながら深雪は達也を見上げながら、呟いた。

 

「よかった……!!」

 

達也は確りと深雪を抱きしめながら呻く様に言った。

その時だった。

達也ははっと空を見上げ、それにつられる様に深雪も青空を見上げた。

空には、とても早く飛んでいる飛行機が有り、それから何かが落とされた。

 

(まさか、爆弾!!)

 

そう思っても仕方がなかっただろう。

何せここは国防軍の基地だ。

攻撃しない理由がない。

しかし達也は、その存在を認識すると握っていたCADの引き金から手を引いた。

降って来る膨大な存在感、だが何かを大声で言っているような気もしなくもない。

それの存在が何かを知るのに数秒と掛からなかった。

肉眼で視認できる距離になると、深雪はその正体を悟れた。

 

(お、伯父様!!)

 

パラシュートもつけず、いつもの高価な和服を着こなしている伯父、終夜だったのだ。

 

 

 

 

 

 

終夜が深夜たちのいるものへと着地し、その場を見渡した。

傷つけられた、妹、娘、部下。

これだけで、終夜が切れるには十分だ。

 

「大丈夫か、香波?」

 

「も、申し訳ございません。お嬢様方を護るように言われておりましたが」

 

「いや、お前は良くやってくれていた。何せ生きているのだから」

 

そう言うと、終夜は香波たちに右手を翳し、指を鳴らした。

簡単な動作だが、変化は劇的に表れた。

香波、深姫、真姫三人の傷が何事もなかった様に綺麗に消失したのだ。

達也の魔法が、外的な要因により損傷を受ける前のエイドスをフルコピーし、それを魔法式として現在のエイドスを上書きする魔法であるのに対し、終夜のは外的要因により受けた損傷そのものを削除し、なかったものとするのだ。

通常であれば復元力によって魔法による改変から元に戻ろうとする力が働くが、達也はエイドスそのものを上書きしたため復元力が働かず、終夜のは復元するべきエイドスそのものが消失しているため復元しようにも出来ないため、傷を治すことが出来るのだ。

終夜が三人を治している間に、達也は深夜と穂波を治していた。

鋼也を治す時は、あまり表情に出さない達也でさえ嫌々やったと言う表情であったが。

 

「さて、状況を説明してくださいますよね」

 

終夜はいつの間にか入り口に居た、風間大尉に向って言い放った。

 

「ええ、分かっております」

 

そう言うと風間大尉は連れて来た部下に一般人たちを地下シェルターに避難させ、終夜たちだけになると現状を説明しだした。

説明を聞いている間終夜は不気味なまでに静かに話を聞いていた。

 

「ふむ、その程度か」

 

敵方に上陸を許してなお、その程度と言えるのは実力に裏付けされた自身がある終夜だからだろう。

 

「まあいい、俺の目的は妹と娘たち、姪を護ることだけが目的だったが、奴らは傷つけた。ならば殲滅する。たとえ相手が戦意を失ったとしても最後の一兵まで殺し尽くすだけだ」

 

「しかし投降してきた者まで殺すのは国際条約で禁止されているはずです」

 

「何を言っている。俺は兵器で災害だ。人が天災に対し許しを請うたところで収まるはずがなかろう」

 

終夜はいつも通りの自然体で、だが体面にいる風間たちはその存在感に呑み込まれまいと意識を強く持つだけで精一杯だった。

風間はなまじ終夜の実力を見知っているからこそ受けるプレッシャーは、実力を聞き知った者以上に受けていた。

そんな中達也は一歩前に出て、風間の眼を見ながら言い放った。

 

「風間大尉お願いしたい事があります」

 

「こちらは、反逆者をだし君の身内を危険にさらすどころか傷つけ殺めかけたのだ、何なりと言ってくれ」

 

「でしたら、アーマードスーツと歩兵装備一式を貸してください。貸すと言っても消耗品はお返しできませんが」

 

「それは構わんが、何故かね?」

 

「彼らは深雪に手をかけました。その報いを受けさせなければなりません」

 

風間は、身内の恥もあったためか、簡単に達也の願いを許可した。

それを聞いた瞬間終夜は、大いに笑った。

自分も達也と同じ年頃の時に同じ無茶をした。

まあ、相手が一国そのものか、その国の軍隊かの違いでしかない。

 

「でしたら、俺もお願いします」

 

あくまでも下手の態度で鋼也もお願いした。

ここで、不遜な態度を取っては後々の関係に傷を付けることになるからだ。

 

「面白い、実に面白。若い頃は無茶を買ってでもやるべきだ。上が何か行って来たら俺の名を使っても構わん貸してやれ」

 

「分かりました。達也君、鋼也君、非戦闘員や投降してくる者に対する虐殺は認められない、そんなつもりはないだろう?」

 

「投降する暇を与えません」

 

「当たり前です」

 

「ならば良し、達也君、鋼也君、君たちを今から我らの戦列に加えよう。もとより我らの任務は侵略者の撃退、もしくは殲滅だ。降伏勧告してやる必要はない」

 

(よっし、これで見せ場を手に入れられた)

 

「よろしい。真田、アーマースーツと白兵戦装備をお貸ししろ。空挺隊は十分後に出撃する!!」

 

それだけを言い残すと風間大尉は出て行き、達也と鋼也は真田に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後、アーマースーツを身に纏った達也と鋼也が現れた。

空挺隊も全員アーマースーツを身に纏う中一人、和服のままの終夜は異常なまでに目立った。

 

「出撃する。第一第二中隊は、――」

 

風間は、すぐさま全部隊に指示を出した。

達也と鋼也は同じ小隊に割り振られた。

そんな中終夜のみ単騎でいや、それ以前に終夜に指示を出すべき立場の人間などこの世のどこにも存在しない以上、同じ戦場で共通の敵がいるだけで、国防軍の見方である訳では無かった。

だが、状況を把握するために国防軍の無線を受信できる専用の端末だけは借り受けたが。

 

「しかし、ぬるいな。これなら、まだ俺が大漢に攻め込んだ時の方が愉しめた」

 

終夜に襲い掛かる敵を潰し、破裂させ、穿ち、吹き飛ばし、窒息させ、毒に侵され、蒸発させた。

敵の攻撃は悉く、逸らされ、防がれ、跳ね返されると言うまさに悪夢としか言いようのない状況だった。

逃走も投降も許されず、ただただ目の前で仲間が殺され、次の瞬間には自分と言う一方的な虐殺。

 

「まるで、天災ではないか」

 

敵兵の中の誰かがそう呟いた瞬間、その身が炭化しボロボロに崩れ去った。

ワンサイドゲームと化した戦場は、無双ゲーの方がまだ楽しめると終夜は思ったそんな時だった。

 

『司令部より全部隊へ。敵艦隊と思われる艦影が粟国島より接近中。航空母艦一、高速ミサイル巡洋艦二、駆逐艦四。補給艦二、攻撃型潜水艦一による空母打撃艦隊、高速巡洋艦二、駆逐四の分隊一、僚軍の迎撃間に合わず、至急湾岸部より退避せよ。繰り返す――』

 

空母打撃艦隊の編成できている。

つまり相手は、本気で戦争を望んでいることに為る。

これが、ただの艦隊ならば軍の一部の暴走と言い訳する事も出来ただろうが、空母が出て来たと言うことは、余程上層部が首を突っ込んで来ていることになる。

そして、その空母を撃沈すると言うことは、そのまま両国間で戦争を開戦させることになるため高度な政治的決断が必要になる。

そんな中更に通信が入って来た。

 

『敵艦隊を破壊する手段があります。ただ、部隊の皆さんに見られたくはありません。ですので、真田中尉のデバイスを置いて、この場を移動していただけないでしょうか』

 

『……いいだろう。ただし、俺と真田は立ち会わさせてもらう』

 

『……分かりました』

 

その後直ぐ、また通信が入り全部隊に指示を送ると、柳と言う者に部隊指揮権を委譲した。

 

「……確か、アイツには」

 

いつの日か小耳にはさんだ情報だが、達也は戦略級と言って差し支えない魔法が使えたはずだ。

威力、性能はどちらとも実証実験を行っていないため論理上でしか存在しなものだ。

だが、この目で見るだけの価値はありそうだ。

そう思った瞬間、終夜は無線機に向って言い放った、「俺も行く、場所を教えろ」と。

 

 

 

 

 

 

 

終夜が射撃ポイントについた時には、丁度達也が一度試射を試した後だった。

 

「駄目です。二十キロが限界の様です」

 

「まだ無事でいたと言うことは、艦載機による爆撃は行われていないのか」

 

「!!……今御着きに?」

 

「ああ、そうだ。それで達也援護は必要か?」

 

あくまでも今回の目的は、達也の魔法が使い物になるのかの実証を兼ねているので終夜は裏方に徹することにしていた。

まあ、その後大亜連の空母打撃艦隊を殲滅する予定が在るのだが。

 

「ええ、出来れば敵の砲撃を防いでいただけ「そんな必要はない。俺が全部ぶち壊してやるからな!!」」

 

達也が、言い終わる前に鋼也が話に割り込んできた。

どうやら鋼也も着いて来ていたようだ。

 

「ほう、なら見せてもらおうか」

 

そう言うと、終夜は一歩引いた。

まあ、こちらに砲弾が来たら無条件で落とす予定なのだが、そんなことを気にする鋼也ではなかった。

 

(やっと見せ場だ。さっきは全部達也に持って行かれたが、ここで俺の力をアピールすれば)

 

そう思いながら、汎用型CADを操作し、詠唱しはじめた。

 

「契約により我に従え、高殿の王。来れ、巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆。百重千重と重なりて、走れよ稲妻。『千の雷』」

 

艦砲射撃によって打ち出された砲弾めがけ、鋼也は膨大な雷を広範囲に渡って放った。

 

(これが神から貰った力の一つよ。気と言う概念がないこの世界で虚空瞬動や無音拳は場違いだからな。精霊がいるって設定が在る以上ネギま!の魔法全部の方が全然違和感ないしな)

 

全く考えてないように見えて、古式魔法や精霊魔法が存在するこの世界で精霊を媒介にするネギまの魔法は規格外であっても異常ではなかった。

流石に仮契約は無理だったようだが。

 

「何と!!」

 

「ここまで大規模な精霊魔法があるとは……」

 

風間と真田は見た目はあれだが、ここまで実力があるとは思いもしなかったため、かなり驚くことになった。

それは、現状をモニターで見ている真夜たちも出会った。

いつも傲岸不遜で厚顔無恥、傲慢無礼、誇大妄想、自己顕示欲が強いと人に好かれ、褒められるような要素が一つとしてない精神の持ち主だった。

そのため誰もが見向きもせず、技量を知ろうとしなかったが為に、鋼也のことを誰もが侮っていたが、現実はそうではなかった。

この一件で鋼也の評価が、地中にめり込み、天元突破していた評価が地中にめり込む位置まで戻って来た。

まあ、地中を突破するギリギリの辺りだが。

その後射出された、銃弾は敵艦隊頭上にたどり着くのを確認した達也は、銃弾をエネルギーへと分解した。

 

質量分解魔法『マテリアル・バースト』が実践で初めて使用された瞬間でもあった。

 

水平線に閃光が生じ、爆音が轟いた。

それに一拍遅れて爆風が突風となり終夜たちへと襲い掛かった。

蒸発した海水を補うため、潮が引きそれが今度は津波として襲い掛かって来た。

 

「津波だ!!退避!」

 

激しい勢いで襲い来る津波に誰もが避難していく中、終夜のみ平然とした態度で右手を向けると、指をパチンッと鳴らした。

その音を合図にするかのように、終夜を中心に気温が下がり大気さえ凍りつき液体窒素を生み出し始めた。

振動・減速させる領域魔法『ニブルヘイム』

しかし、その範囲精度はばかげており、襲い掛かる津波全てを凍りつかせたのだ。

それも勢いがある所のみで生態系を崩さないためにも、凍りつかせた海は直ぐに振動系魔法で粉々に砕け散った。

 

「さて、ここからが俺の仕事だな」

 

そう言うと、終夜は崖から飛び降りるように跳ぶと、飛行魔法を発動させた。

目標は大亜連、空母打撃艦隊。

終夜としては、別段大亜連を滅ぼす名分が在ればそれでいい。

大義なんてものは、所詮国民を納得させるためにあるもので、実際には存在しないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

航空母艦内に置かれる指令室――

 

高波が襲い掛かり、しりもちをついた酷く太った男は立ち上がると行き成り地団太を踏んだ。

 

「くそ!!どういうことだ、敵の迎撃は間に合っていなかった。なのになぜ防空レーダーを破壊する筈がこちらの艦隊が壊滅させられている」

 

今回の作戦行動に必要な権限を与えられている少将は、この結果に歯噛みしていた。

このままおめおめ帰ったならば軍法会議者だ。

今まで得られていた、賞賛の数々、地位、名誉、そして膨大な富を失うことになる。

それだけは何としても阻止しなければならない。

 

「全艦に通達このまま作戦を実行する。艦載機は順次発進させ先制爆撃、防衛施設の破壊をさせろ」

 

「りょ、了解しました!!」

 

若い兵は、全艦に作戦実行の暗号を打電、空母ではサイレンが鳴り、艦載機のパイロットたちは慌ただしく自機に乗り込み、次々と発射していく。

攻撃型潜水艦は浮上し、巡航ミサイルを次々と陸地に向って発射し、高速ミサイル巡航艦も対地用ミサイルを次々と射出していく。

そんな中突如異変が起きた。

 

「み、ミサイル全弾消失、艦載機も応答がなくなりました」

 

レーダーで常時状況を監視していた兵が、強張る様な声で言った。

 

「どういうことだ!!」

 

「と、突如レーダーより反応が消失、通信にも一切応答が……!!レーダーに反応有、一機のみですが敵機と思われます!?」

 

「さっさと迎撃させろ!!」

 

少将が怒鳴るように言うが、そのような事言われずとも既に迎撃している。

しかし対艦、対空ミサイルは悉く落とされ、潜水艦は既に撃沈、空母を護衛するための陣形は崩れ艦隊は一隻、また一隻と確実に潰されてきている。

そんな情報を理解できない、いやしたくない少将は空母だけは死守する様に言った。

空母を撃沈させたなど、汚名どころではない。

下手をしたら死刑だ。

この時点で尚、自身は生き残れると思う辺り心臓に毛が生えているや神経が図太いと言う次元を超えている気がする。

 

「儂は何れなる身だぞ!!こんなところで死んで――」

 

それが最後の言葉となった。

 

「そこそこ楽しめたな」

 

空母が炎上し沈んでいくさまを見ながら、敵機、終夜は見下ろしながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

終夜が帰投すると深姫と真姫が走って来た。

出迎えのハグと思った終夜は、両手を広げ笑顔で待ち構えた……後悔するとも知らずに。

走ってくる娘たちはそのまま終夜の第二ボタンの近くにある急所を貫き、男の急所を蹴り抜いた。

空母打撃艦隊の防衛網を物理的に破壊突破し、艦隊を殲滅した男は娘たちの手によってあっさりと撃沈された。

これこそ、双子であって双子ではない、産まれた時から一緒に学び、育ち、鍛えあった、互いのことを知り抜いた二人だからこそできるコンビプレーだった。

 

「「お父様、お聞きしたい事があります」」

 

「お、おう。何を聞きたいんだ」

 

痛みを我慢しながら、終夜は聞いた。

余談ではあるが、終夜が蹴り抜かれるのを映像や直接見ていた、達也や鋼也、風間や真田たち軍基地に所属する男性は全員ある一部を覆ったと言う。

 

「達也のことについてです」

 

深姫がそう言った瞬間、終夜は真面目な顔つきに変わった。

ただ、内また状態であまり締まりはなかったが。

 

「誰から訊いた」

 

「叔母様からです」

 

「深夜が……」

 

終夜は、そうかと頷くことしかできなかった。

 

「やはり事実だったのですね。否定してほしかったのですが」

 

真姫は顔を俯かせながら言った。

 

「でしたら、お父様と暫く一緒にお風呂に入りません!!」

 

「私も暫くお父様と一緒に寝てあげません!!」

 

その瞬間空気が凍った。

終夜は、宣告により絶望し固まり、周りの者は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い気まずくなってしまったからだ。

後日終夜の手によって物理的に記憶を消される羽目になったものは大勢いたらしいが、それを知るのは今となっては終夜のみだ。

 

「「お父様、反省してください!!」」

 

そう言うと、固まった終夜を置いて行き基地内に戻って行った。

終夜は深夜が呼びに来るその瞬間まで固まっていたという。




次は一気に原作に入りたいと思います。
やっとここまで来たよ、パトラッシュ。
危うく二分割しようとしていたから、初めて一万文字超えたし、もう来週休んでも良いかな?と、思いつつも頑張って書きたいと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

PTAになるもんじゃなかった

久しぶりの更新です。
思った以上に原作でどういった立場で終夜を出すか悩み、中々書けませんでした。


春――

 

春、会社の転勤然り、学生の入学や進級然りと新しい年度に移り変わり慌ただしくなる時期だ。

むろんここ国立魔法大学付属第一高校もまた春の青空の元新たな門出を迎えようとしていた。

 

「納得いきません」

 

大亜連の沖縄侵略以来ブラコンを発症した深雪は達也が二科生であることに不満を隠せずにはいられなかった。

成績は間違いなくトップであり、魔法を利用した戦闘でもずば抜けた才能を持っている。

ただ学校の選定基準として使われている魔法技能試験が達也と合っていないが為に二科生であると評価された。

そのことが深雪はただただ許せずにはいられなかった。

敬愛する兄が周りの勝手な決めつけできちんと評価されない、そのようなことがあっていいはずがないと思いこそすれ口にはしなかった。

もし口にすれば、兄に迷惑がかかると分かっているからだ。

だが、それでも言いたいことはあった。

 

「入試の成績はお兄様がトップだったではありませんか。本来であれば私ではなくお兄様が……」

 

何処から入試の成績を知ったの普通ならば気になるところだが、自身の血族の特殊性。

さらに、異常なまでに娘と姪に甘い伯父、特に伯父の部分がネックだ。

あの人は、深姫や真姫、深雪の欲しいと言った物は基本的に買い与えて来ている。

教育上余りよろしくないことだが、その伯父を止めることが出来る人たちは基本的に伯父の味方である以上諦めるしかない。

これが、達也の今までの人生で学んだことだ。

 

「深雪、ここではペーパーテストより魔法実技が優先されるんだ。補欠とはいえ一校によく受かった……」

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!!」

 

達也が悲観するのも分からなくもないと深雪は思った。

達也が四葉の血を引いている以上どこに行っても正当な評価を受けることが出来ない。

唯一達也を四葉の人間としてではなく、司波達也として評価してくれる人たちとはあまり気軽に会える人達ではない。

 

「お兄様は、勉学も体術も誰よりも優れていることは深雪が一番知っております。本来なら魔法も……」

 

「深雪!!それは言っても仕方のないことだよ」

 

深雪が何かを口走ろうとした瞬間、達也は強めに深雪の名前を呼んで制した。

下手に何かを口走り知られてはいけないことを誰かに知られでもしたら、束の間の平穏を失いかねない。

大亜連の沖縄侵略は、深姫と真姫の機嫌取りなど諸々の事情があったため、終夜が一人で片を付けたので深夜や達也達が困るようなことはなかった。

まあ、しいて言えばその後達也が軍に所属した位だ。

 

「も、申し訳ございません」

 

達也に注意された深雪は、しゅんと落ち込んでしまった。

そんな落ち込んだ妹に達也は兄として、頭を撫でながら、

 

「お前は、俺のために怒ってくれる、その気持ちは嬉しいよ。俺はそれにいつも救われているんだ」

 

達也が言ったことは、ブラコンと化した深雪には十分すぎる殺し文句だった。

 

「うそです。いつもお兄様は私を叱ってばかり」

 

「うそじゃないって、お前が俺のことを考えてくれている用の俺もお前のことを思っているんだよ」

 

「そんな、思ってくれているだなんて」

 

深雪は敬愛する兄である達也に思ってもらえてることを心の底から喜んだ。

そんな深雪を見ている達也は何か誤解されてると気づいてはいたが、そこで訂正しようものなら余計面倒な事態になると感じ取り気にしないことにした。

そんな時だった。

 

「こんな所にいたのか」

 

太陽の光が反射し煌びやかに光り輝く銀髪、左右の虹彩が違う虹彩異色症俗に言うオッドアイを持ち、深雪同様十人が十人(ホモ含む)振り返る様なイケメンである達也の双子にして深雪のもう一人の兄である鋼也だ。

 

「深雪もう行きなさい。答辞楽しみにしているからな」

 

「分かりました。では、お兄様楽しみにしておいてください」

 

深雪はそれだけを言い残すと講堂へと走り出して行った。

 

「相変わらずつれないな深雪は」

 

嫌悪感丸出しだった深雪のことをポジティブに考えられる鋼也の性格は此処まで来ると長所と言ってもいいかもしれない。

そんな鋼也を完全に無視して達也は、時間をどうやって潰そうかと考えていた。

そもそも早く来る必要があったのは新入生代表である深雪だけだ。

それでも早く来たのは、深雪に懇願されたからに他ならない。

鋼也は深雪に頼まれた訳では無く、勝手について来ただけだ。

むしろ着いて来て欲しくなかったから黙っていたと言うのが正しい。

 

「さて、どこで時間を潰すか」

 

達也は、適当に時間を潰すことの出来る場所を探すために歩きはじめた、鋼也を置いて。

 

「ねえ見て、あの子ウィードじゃない?」

 

「こんなに早くから?補欠なのに張り切っちゃって」

 

通り過ぎ様に何処か憐れむように言う、一科生の上級生たち。

この学校には、ウィードつまり学校の校章を着けていない者達を指す、特有の差別の蔑称がある。

ちなみに校章を着けている者達はブルームと言い、自分達でウィードに勝っていると言う優越感に浸り、努力しない者達もいる。

むろんこの程度の差別で今さら何かを感じるほど達也は子供ではない。

 

「あ、達也だ」

 

達也が歩いていると、背後から呼ばれる声がしたので振り返ると、そこには腰の位置まで伸ばした夜を思わせるほどとても深い黒色の髪を靡かせ、幼さの中に持つ艶やかさ、大人の中に隠された可愛らしさが同居している双子の姉妹であり、隠されているが、達也の従姉であり姉でもある四葉深姫と四葉真姫がいた。

 

「深姫様、真姫様」

 

「ここでは様付けはいいですよ。せめてさん付けか先輩でお願いしますね。いきなり身分がばれるのはお父様たちの望むところではないですから」

 

「分かりました。深姫先輩、真姫先輩」

 

四葉家の身分で言えば、ほぼ最上位と言っても過言ではない雲上人である二人だが、あの夏の日以来二人は、達也のことを他の使用人と同じ扱いをしなくなった。

元々従姉弟なのだから、仲良くすること自体おかしなことではない、普通の家系であったのなら。

 

「あら、みーちゃんにまーちゃんじゃない!!」

 

いきなりあだ名で呼ばれた二人は、達也の後ろにいた第三者に苦い顔をした。

 

「七草先輩ですか。その呼び方はあずさともどもやめてくれと言っているでしょ!!」

 

「えぇ、良いじゃない。可愛いわよ?」

 

七草、十師族において四葉と並ぶとされる一族であり、元ではあるが真夜の婚約者であった弘一が現当主を務めている一族だ。

 

「って、あら新入生かしら?もしかしてお邪魔だった?」

 

「いえ、問題ありません」

 

「そう、ならよかった」

 

真由美は異性ならば見惚れる様な笑みを浮かべた。

まあ、妹しか目に入っていない重度のシスコンである達也には、全くと言って良い程効果を現さなかった。

 

「それで、えっと――」

 

「司波達也です」

 

「司波君ね。私は七草真由美、当校で生徒会長をしています。それで司波君、二人を狙っているなら気を付けてね。二人は学校内でも人気が高くてファンクラブ何て物もあるらしいから。最も本当に気を付けないといけないのは二人のお父さんの方なんだけど」

 

「七草先輩何を言っているんですか!!」

 

「そうです。それに何故お父様のことを!!」

 

真由美は、達也と深姫と真姫が初対面ではないにしても、精々知り合い程度の関係だと思い先輩として忠告したつもりだったのだが、深姫と真姫には違った意味で効果を表した余だった。

そんな時だった。

 

「会長、探しましたよ。リハーサルを始めるんですから早く来てくださいよ」

 

「あずさも大変ね」

 

「あ!!深姫さん真姫さんおはようございます。もう来られていたのですね」

 

「ええ、お父様が一緒に行こうとしまして、さすがにこの歳で一緒に向うのは……」

 

「ですから、私達は香波さんにお願いして先に連れて来てもらったのです」

 

「深姫さんと真姫さんのお父さんは二人のこと本当に好きですからね」

 

深姫と真姫は恥じらう様に顔を赤らめ、あずさはそんな二人をよそに素直に良いご家族ですねと言った意味合いで言った。

 

「それであずさ、七草先輩を探しに来たのではなかったのですか?」

 

「あ!!そうです、会長が来てくれないとリハーサルが進められないんですから!!」

 

「ごめんねあーちゃん。じゃあ、私はこれで」

 

そう言って、あずさは真由美の手を引きながら講堂へと向かった。

 

「それじゃあ、私達もこれでそろそろお父様が来られるから……」

 

流石に高校生ともなると父と一緒にと言うのは恥ずかしいのだろう二人は父、終夜と会わない為にか逃げるように去って行った。

この事を終夜が知ったら間違いなく落ち込むだろうがな。

 

 

 

 

 

 

「で、もう深姫と真姫は先に行ったと」

 

「はい。お二人は先に行ってやらないといけないことがあると言われましたので」

 

やられた、終夜は直ぐに二人が先に行った理由を悟ると内心悔やんだ。

去年は一緒に行って写真撮影もしたと言うのにそれがまずかったのか?それとも、数えればきりがないためこれ以上のことを考えるのはやめた。

 

「着替えを持ってきてくれ、俺も直ぐに行く」

 

「そう言われると思い既にスーツの準備は出来ております」

 

香波は、すかさず終夜にスーツを渡した。

今日は第一校の入学式だ。

ほぼ何もしていないが、一応PTA会長として新入生の祝辞なんていう面倒な役割をしなければいけない。

まあ、PTAの役員となり会長となったのも平日の学校に大義名分の元入ることが出来、深姫と真姫に会えるからだったりするがこれはまた別の話。

 

スーツへと着替えた終夜は、家の前に用意されていた専用の高級車へと乗り込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最近自分付の従者が厳しくなってきてる気がする……絶対気のせいじゃないと思うのだが

かなり久しぶりの投稿になります。
エタらせないので安心してください。
まあ、一気にお気に入り数が減りそうな気はしますが……
後半は、書き方が別の作品の影響を受けてる気がするのは、作者の気のせいでしょうかね……


新入生総代で、深雪が生徒会長である真由美の祝辞に対しての答辞を終え、檀上を下りて行くのが見えた。

 

「続きまして、PTA会長より祝辞。PTA会長、四葉終夜様お願いします」

 

四葉、魔法師として魔法を習う為に国立魔法科大学附属第一高校に入学した者達が、知らないはずがない魔法師のコミュニティーで一種のタブーとされている名前。

その四葉の中でさえも、更にタブー視されており、既に歴史にその名を既に残している、現在の歴史の教育、魔法師育成のカリキュラムの中に名前が出て来る男。

ある意味、一生涯で関わらなくて良いならば一生関わらない方を、権力者は皆迷わず選択したくなるような人物だ。

まあ、ただ単に妹と娘を愛しすぎているだけの変態とも言えなくもないが。

そんな終夜が壇上へと上がると、深雪の時とは違った意味で静まり返っていた。

世界最強の称号は伊達ではなく、そこにいるだけで放つ存在感と纏う風格が違い過ぎていたのだ。

圧倒的、絶対的と言った言葉以外に、何と言えば良いのかその場の誰もが思いつかないでいた。

一科生に入れたと言う優越感に浸っていた者達は現実に引き戻され、あの人の前では誰もが等しく劣っていると思い知らされていた。

そんな終夜は、端から端まで一通り目配せした。

深姫と真姫はどこにいるのかな、と探していたりするのは終夜としてはお約束だろう。

 

「まずは入学おめでとう。一校に入学できたことを心から祝おう」

 

本来こういった祝辞ならば敬語を使うべきなのだろうが、終夜は上から目線で言い放った。

だが、それが許されるのが四葉終夜と言う存在だ。

誰もが彼の前では等しく下にいる存在であり、彼の横に並び立つことが許されているのは、彼に許しを得られた本当に一握りの存在だけだ。

 

「この国立魔法大学付属第一高校に入学できたと言うそれだけで、諸君らは世間の者達とは違う特別な力を持った存在であると認識してもらいた。だが、それに傲り選民意識に囚われていてはいけない。既に諸君らの中には一科生、二科生、いやこの場合、君たちの言葉で言うならば、ウィードとブルームと言う蔑称で壁を作り選民意識を持っている者達がいるだろう。僕たち私達は、お前達に勝っている、そう思っている者達に言おう。そんなものは所詮幻想だ。確かに君らの胸にある校章が原因なのはわかるが、花は手入れを忘れ雑草が生えただけで枯れてしまう。それに比べ雑草はどのような環境でも育つ。何が言いたいか分かる者はいるか。この場で誰かを当ててもいいが、まだ高校生になったばかりの者ばかりだ、この様な場でいきなりあてられるのは酷だろうから、今回は誰にも当てないが、つまり一科生はこのまま傲っていては、何れ二科生にその座から引きずり降ろされ、奪われると。君たちは歴史を習っているはずだ。ならば、権力と言う力を持つ者達のまつろを。それの縮図が今の君たちだ。余裕が慢心へ、そして油断へと変わる。その油断が君たち特に一科生となった者達が持った時がまさに歴史の革命と同じ最後になる」

 

終夜が言い放つ言葉一つ一つが、この場で優越感に浸っていた者達に圧倒的重圧としてのしかかり、劣等感を抱いていた者達は一筋の希望を見いだせていた。

 

「それでなお、油断し、優越感に浸りたいならば己の力を示せ。誰もが認める力を示してこそ初めて認められ、その時優越感に浸ればいい。しかしその優越感が堕落に繋がってはいけない。この魔法師の世界は常に進化し続けている。一瞬の油断が君たちの横にいるこれから仲間になる者達の命を脅かすことになる。それだけは忘れるな。以上」

 

それだけを言い切ると、終夜は檀上を下りて行く時には、割れんばかりの拍手が講堂内に響き渡った。

本当ならば一拍置いて、「人の娘に手を出したらどうなるか分かってるだろうな?」とドスを効かせて言い放とうと思ったが、深姫と真姫に先に「そんなこと言わないでよね」と念押しされたので断念したのは余談んだ。

その後も式は粛々と予定通りに進んでいった。

深姫と真姫は、終夜が余計なことを言わなかったことに安堵し、胸を撫で下ろしていたりする。

 

 

 

 

式は無事に終わり生徒たちは、IDカードの交付があるため事務の窓口へと向かっていた。

その際も矢張りと言うべきだろうか、一科生と二科生で分かれていた。

差別意識や選民意識は簡単には無くならないようだ。

まあ、今の生徒会長である七草真由美や部活連会頭である十文字克人がそう言ったことを嫌うので表ざたにならずに済んでいる。

深姫や真姫も達也と言う、魔法師至上主義である四葉の闇の集大成を知っているがために、差別や選民意識と言ったものとは程遠い思想になっていることに、父親として喜ぶべきだろう。

四葉の人間として、やっていくには少し辛いだろうが……

そんなことを考えながら終夜は、着慣れないスーツをモデル以上に着こなしながら生徒会室へと向かった。

本来ならば、あいさつ回りなどしなければならない事が多くある終夜だが、『面倒だ』の一言で放りだして来ていた。

そのため面倒な仕事は総て香波に押し付けて、逃げて来た終夜は生徒会室である人物達と会う約束をしていた。

コンコンコンと三度礼儀としてきちんとノックした終夜は、中から『どうぞ』と言う声が聞こえてから開けてもらった。

国立魔法科大学附属第一高校の生徒会室と言うこともあり、セキュリティーは万全で専用のIDカードが必要だ。

終夜とて望めばその程度のこと容易に手に入るが、さして興味がないためIDを発行していない。

 

「お待ちしてました、四葉さん」

 

扉を開けて出迎えてくれたのは、第一校の生徒会にして四葉と因縁深い七草。

その息女である七草真由美であった。

 

「克人君もいるようだね」

 

中に入った終夜は、本当に高校生か?と初見の人ならば誰しも疑いたくなる巌のような男である、十師族が一つである十文字家当主”代行”である十文字克人と対面に位置する席に座った。

 

「さて、長々と前口上を言うつもりはない、いきなり本題に入らせてもらう。ブランシュが一校の内部に入り込んでいる。いや、これは正しくないな……正確には一校の生徒がブランシュに入ったか」

 

「……矢張りそうですか」

 

克人は僅かに間を置いて答えた。

 

「そうなの十文字君!!」

 

「克人君は気が付いていたようだな。いつ頃からか知っているか?」

 

「いえ、あくまでも仮説の段階でしたので、いつからと訊かれても答えかねます」

 

「そうか。ならば怪しいと思っている者の名簿があるならもらえるか」

 

「理由をお聞きしても」

 

「簡単なことだ。深夜に手伝ってもらい頭の中を洗う」

 

頭の中を洗うと言うのは、物理的なことを言っている訳でないことをこの場にいる二人は理解してる。

世界で終夜と深夜のみが使うことを許されている魔法。

世界で禁忌とされている精神構造干渉魔法を使うことができるのだ。

その魔法を応用すれば、いくらでも情報を吐き出させることができる。

主に人格を強制し、従順にして聞き出すなど。

そして、そのことに気が付かない程二人は愚かではない。

 

「でしたらお断りします」

 

克人がそう言って断った瞬間、終夜内からただならぬ気配が溢れ出した。

主に娘たちに対する接し方のせいで変態扱いをされている終夜だが、その実力は文字通り世界最強クラスであり一言で表すならば災害だ。

そんな災害に睨まれて毅然としていられるものは存在しない。

克人は十文字家を背負う身として表面上こそ毅然としているが、実際には全身から嫌な汗が出て来ており、真由美は無意識に一歩引いてしまっている。

 

「俺が娘たちに対する脅威を見す見す見逃すわけがなかろう。大人しく渡せ」

 

「先ほども言いました通りお断りさせてもらいます。これは当校の生徒の問題。ならばこれは既に当校の問題でありその問題を解決する力を我々は持っています」

 

「あくまでも自分達で解決すると?」

 

「ええ、何か問題でも」

 

克人はあくまでも自分達で解決したようで、終夜に強い意志を込めた瞳で見つめて来た。

終夜としては、野郎からそんな目で見られてくないと言うのが本心で、せめて真由美の方が見た目も良いんだからと思っていたりする。

 

「まあいいだろう。早めの実地練習と思ってやる。が、もし何かあった場合迷わず介入する」

 

「分かっております。そこまで断る理由はないですから。それに当校の生徒とて何かをやるなら相応の覚悟があるはずです。ですが殺しだけはくれぐれも、やらないようお願いします」

 

終夜とて娘の学友を殺める気は元々ない。

ただし娘に傷を負わせる様な真似をしなければ、が付くが。

もしそのような真似をしたならば、娘や妹のことに関して沸点がヘリウム並みに低い終夜だ。

何をしでかすか娘である深姫や真姫は無論、妹である深夜や真夜でさえ未だに分からないのだ。

唯願うならば、大漢のようなことにならないことそれのみだ。

 

「確認することはそれだけだ。俺はこれで失礼する。予定が詰まっているからな」

 

終夜はそれだけを言うと出て行った。

克人と真由美は、終夜が完全に出て行くのを確認すると、椅子の背もたれに体重を預けた。

 

「あれが四葉終夜か」

 

「よく十文字君は臆面もなく話せたわね。私なんて迫力に呑まれて何も言えなかったわよ」

 

「俺だって、あの迫力には呑まれてたさ」

 

「え?でもいつも通りに見えたけど……?」

 

「ひとえに慣れか。当主代理で何度かあの人に会っていたからこそだ。それにそう言うならば七草のお父上の方があの人相手に一歩も引かずに話せると思うが」

 

「……私もそこだけは、あの狸親父のことを素直に尊敬しているわ」

 

そう言いながら真由美は立ち上がると、生徒会室に備え付けられているお茶セットを使いお茶を淹れだした。

お茶と言っても緑茶などではなく、この場では紅茶を指すのはみんな分かっているだろう。

 

「はい、十文字君」

 

そう言って真由美は克人に居れたお茶を渡した。

 

「すまんな」

 

そうい言って克人は、一口口にし、一瞬固まるとそのまま全てを一気飲みした。

 

「俺はこれで失礼する。勧誘週間に向けて部活連で会議があるからな」

 

「そう?もう少しゆっくりして行けば良いと思ったけど、忙しそうだからこれ以上呼び止めておくのも迷惑ね」

 

「ではこれで失礼する」

 

克人はそう言って、生徒会室を後にした。

その時足跡が過ぎ去るのが徐々に早くなっていったのは真由美の勘違いだと思いたいものだ。

 

 

 

 

 

 

「それで言い訳はありますか」

 

克人と真由美に恐れられていた終夜は、面倒なことを全て押し付けた香波に怒られていた。

本来なら従者が主人を怒るなどあってはならないのだが、そこは二人の信頼関係もあって御咎めはない。

むしろ終夜付の香波に手を出そうなどと思うものは基本的に皆無だ。

稀に夜会で誰の従者でも関係なく顎で使う者もいるのだが、大抵そう言う奴は夜会に参加するような権力を失い、そのまま落ちる所まで落ちて初めて、高い買い物を借金してまで買ったこと気が付くのだ。

特に終夜の従者を顎で使ったものは、終夜に目を付けられ、終夜(災害)に目を付けられている者にすり寄ったり助けようと思うものは存在しない。

的確に分かりやすく言うならば、盗まれると分かっている美術品の保険を加入させてくれる保険屋がいない様なものだ。

 

「まあいいじゃん。思ったよりも面倒じゃなかった様だし」

 

「そう言う問題ではありません!!」

 

「まあまあ、それにせっかく姪が高校に進学したんだ入学祝でも渡しに行こう」

 

「って、話を逸らさないでください!!」

 

そんなことをしながら、運転手に運転されている車の中終夜は一時帰路に着いた。

しかし、そんな終夜の内心ではブランシュ、引いてはその背後にいる組織をどうするかを考えていた。

まあその横で未だに主人を想い過ぎる従者が、主人のために怒っているためあまり締まらなかったが。




次の話は一気に飛びます。
終夜関係するのって、次は襲撃された時くらいですから。
要望が有れば、深姫や真姫視点で書いてもいいかなと思いますけど、書ける自信が……

そしてまた更新が遅くなるんですよきっと……
全部卒論が悪い
すみません、若干愚痴が入りました。
可能な限り次も早く書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テロリストの襲撃……その割には、誰も怖がってないよね?

お久しぶりです。
最近アカメが斬る!!のSSばかり更新していて、こちらが疎かになっていました。
更新を待っていた方には本当に申し訳ないです……


入学式も終わり、生徒達も新しい学校生活に慣れ始めた頃だった。

何かいろいろあって、達也が風紀委員に選ばれたと深雪から連絡があり、深雪自身は生徒会に入ったと教えてもらった。

深姫と真姫はそう言った、目立つことに興味がないため、生徒会入りを断っている。

まあ去年の九校戦、その中でも一年生だけが出場できる新人戦で大暴れしているのだが……。

深姫は『ミラージ・バット』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』真姫は、『クラウド・ボール』と『バトル・ボード』で一位を取っている。

その時の映像は、自前で撮っていた分と大会委員が撮っている分を、深姫と真姫が出場している部分のみを編集してもらっている。

むろんその事を知っているのは、自分付である香波のみだ。

 

「それで、奴らの動きはどうだ?」

 

「今の所は大丈夫だと思われます。ですが、ブランシュに入っている学生は動きを活発化しているようで、先日放送室に立て籠もり事件をお越し、今日はその生徒達との対話のために討論会があるそうです」

 

また面白そうなことをしているな、終夜はそう思いながら香波が用意してくれたお茶を啜る。

終夜はこれでも四葉宗家の嫡男だ。

幼いころから、礼儀作法はもちろん味についても躾けられてきているため、終夜の舌はそこらの美食家以上に肥えている。

その終夜に美味いと感じさせる香波の腕は、相当なものだ。

 

「念のため監視を付けているが、そちらからの報告はどうなっている」

 

「今の所は何も報告が来ておりません。しかしブランシュに入っている学生が、何か行動を起こしたとなると、そろそろ本格的に動き出すと思われます」

 

「そうか、まあいい俺自ら動くとなると目立つからな。奴らが目に見えた形で動くか深姫と真姫に何らかのアクションをとらない限りは俺は動かない。それで深姫と真姫はどうしている?」

 

「お二人ならまだお帰りになっていません」

 

「……そうか」

 

香波は、いい加減娘離れすればいいのでは?と思いはしたが口には出さない出来たガーディアンだ。

例えそれを口に出したとしても、終夜は笑って流す程度には良好な関係を保っている。

言い換えればだけ長い付き合いであるとも言えるのだが。

 

 

 

 

 

所変わって、第一校にいる深姫と真姫はと言うと。

 

「なんだかすごく嫌な感じがする」

 

深姫がそう呟いた。

四葉においてさえ規格外の災害と称される終夜と終夜と言う例外を除いて唯一精神構造干渉を可能とする深夜の遺伝子を継いでいる深姫は、人の悪意に敏感だ。

 

「大丈夫よ深姫。お父様が、一校周辺に監視員を配置しているから」

 

終夜が配置した部下はあくまでも監視止まりであるため、荒事に向いていない。

向いていないと言っても、魔法の方向性がそう言う風に特化させられているだけであって、一般的警察組織に比べたら、何倍も役に立つ者達だ。

そんな中深姫の不安を他所に討論会が始まった。

二人は興味があったからと言うよりも、暇だから聞いていると言った部類に入る。

そもそも二人は一科生も二科生も差別していない。

確かにそう言った輩もいるだろうが、終夜と言う例外を生まれた日から知っている二人にとって魔法師は終夜か有象無象のどちらかに部類されているからだ。

 

「真姫、何か来る」

 

生徒会長である真由美の話が、粛々と進む中、深姫は悪意が近づいて来ていることを真姫に訴えた。

次の瞬間、轟音が行動の中に響き渡り、その音は講堂全体を震わせた。

それと連動するように、講堂内に何かが投げ込まれてきた。

それが、落ちると衝撃で起動するようになっていたのか、白い煙を吹き出し始めると、直ぐに逆再生するように煙は投げ込まれた物に戻って行った。

風紀委員は、マークしていたのであろう人物たちを一斉に取り押さえ出した。

 

「動ぐへっ!?」

 

講堂内にいきなり武装した者達が入り込んで来たが、真姫はとっさに空気の密度を上げ見えない壁を作り上げた。

勢いよく侵入してきた武装したテロリストであろう者達は、見えない壁にぶつかり後続の者達も勢いをつけていた所為で、前で牽制をしようとした者に全力でタックルする形になってしまい蛙が潰れた様な鳴き声を上げた。

ただ、CADもなしに実行したためあまり頑丈ではなかった。

そのため、直ぐに空気は拡散してしまいテロリストたちは、支えを失ったためそのまま倒れ込んでしまった。

 

「結構な人数が攻めて来ているみたいだね」

 

「あくまでも監視だからね。流石に全員を止めることは出来なかったみたい」

 

二人は、そのままCADを預けている事務室方面へと向かった。

 

「思った以上にかなりの人数みたいだね」

 

事務室方面へと駆ける中、校門周辺と実習棟から黒煙が上がっている。

実習棟は、先ほどの轟音の正体である携行型地対地ロケットランチャーによる砲撃のため黒煙が上がっているのは理解できる。

そうなると校門周辺の黒煙は、二人の父である終夜が手配した監視員がテロリストの車両を破壊したのだろうと当たりを付けた。

 

「それよりも急がないと。お父様が来るよりも早く制圧しないと」

 

「……そうね。テロリストのことを思うと私達で制圧してあげるのがせめてもの情けね」

 

二人が通っている学校にテロリストが攻め込んだと知れば、間違いなくテロリストが物理的に世界からいなくなってしまう。

監視員がいる以上、間違いなく既に知られているだろうが来るまでに時間がある。

その僅かな時間で全てを制圧しなければならないのだ。

幸い終夜が手配した監視員も制圧にかかっているから、思ったよりも早くケリがつくはずだ。

 

「すみません。2Aの四葉真姫です」

 

「と、2A四葉深姫ですCADの返却をお願いします」

 

「!?分かりました」

 

状況が状況なためか、事務員の人は声を掛けた時、ビクリと肩を震わせた。

そして生徒だと分かると、急いで二人のCADを持ってきた。

 

「だ、大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫ですよ。私達もいますから。それに元々父が監視員を派遣してましたから、そんなに時間が掛からない内に父が来ますよ」

 

不安気に聞いて来る事務員に励まそうと深姫が堪えた。

私達と言うよりも、父が来ると言う言葉の方で安堵の表情を浮かべる辺り、やはり十師族の四葉家直系で四葉終夜の嫡女と言う身分と、二人の父親であり世界最強であり軍事衛星で24時間365日監視されている災害(化物)である四葉終夜と言うネームバリューとでは矢張り信用に差があるようだ。

二人も四葉終夜(父親)に魔法の訓練を手伝ってもらっているから、その辺りの割り切りは出来ている。

 

「行くよ深姫」

 

「あ、待って真姫」

 

テロリストに学校が強襲されたと言うのに全く動じた様子を見せない二人を見ていた事務員は、何でこの学校の子達はあんなに嬉々としているのだろうか?と少し前にCADを取りに来た学生を思い出していた。

特に銀髪オッドアイとか。

 

「それで私達はどうするの?」

 

「テロリストがここを襲撃したのには理由があるはず。お父様も言っていた通りブランシュが絡んでいるのなら、欲しているのは魔法研究の最先端情報なはず」

 

「なら、アクセスできる図書館の方に向かうべきね」

 

深姫と真姫が図書館へ向かうと決めた時であった。

地上から雷が昇ったのだ。

空から雷が落ちると言うが、まさかその逆を見るとは二人も思いはしなかった。

しかしそれを可能とする人物を二人は知っているが、頭に思い浮かべる様な真似はしなかった。

DNA上では血縁であるが、見た目は誰がどう見ても同じ血縁であると分からない。

事実その子供を産んだ深夜や双子の兄である達也でさえ、血縁である事を否定しているのだから。

まあ、その事実について当の本人は全く気が付いていないのだが。

そして、二人にそんな風に罵倒されている本人はと言うと。

 

「ふははははは、どうだ『千の雷』の力は!!」

 

襲い掛かってくるテロリストに対し、周りに自分の実力を見せる様に立ち回る。

 

「ほら、どうしたどうした!!この程度か?来れ虚空の雷、薙ぎ払え。『雷の斧』」

 

テロリストを煽りながらも、確実に倒していく。

バカで人の神経を逆なでし、嫌悪感を抱かせることに関しては、間違いなくGの異名を取る生物を抜いて生物界一位なのは、覆しようのない事実だ。

 

「さて、そろそろ敵の本陣を潰しに行くか。確か場所は確か街外れのバイオ燃料の廃工場だったはずだ」

 

他の人達が自身の身を護り、敵を制圧するのに夢中な今こそが抜け出すチャンスと思った鋼也は、誰にも気づかれることなく学校を後にした。

これが事件を更に面倒なことに導くとは知らずに。

 

 

 

「あっ、達也君と深雪さん。えっとそちらは?」

 

「四葉先輩がた、こちらは千葉エリカです」

 

「始めました。千葉エリカです」

 

達也達も近くにエリカが居たためか、二人の心意を察して苗字、先輩付で呼んだ。

こんなところでボロを出すのはこの場の誰にとっても好ましいことではないからだ。

 

(ちょっと、達也君何でこの二人と知り合いなの)

 

(少し前に知り合ったんだよ)

 

(その割には仲がよさそうだけど?)

 

(その件についてはまた今度詳しく説明する)

 

(……分かったわ。この場は引いてあげる)

 

若干不服そうな表情だが、エリカはこの場での言及を辞めた。

この場で言及しているほど暇ではないからだ。

 

「それにしてもかなりの人数を倒したようですね」

 

「そう?真面目に訓練してきた様子もないからね。それにいきなり学生と連携を出来るほど優秀でもなかったから」

 

そう言って真姫は、死屍累々と横たわるテロリストとそれに加担した学生の山を見た。

流石に殺すことはしていないようだが、完全に後遺症がないかと訊かれたら二人は間違いなく押し黙るだろう。

 

「でも数だけはいたからね。殺せないって制約がある以上足止めはされたんだけどね」

 

戦争ではない以上、終夜のような個人と国家で条約を結ばない限り、殺したならば殺したなりに相応の理由が必要だ。

 

「でもまだ人数がいるみたいだから私達はそっちを片付けるから、奥の情報を得ようとしている奴らをお願い」

 

「分かりました」

 

三人は、そのまま図書館の奥の方へと駆けだすのを深姫と真姫は見送った。

 

「さて、続きでもやりましょうか」

 

「そうね。お父様の相手をしないで済むのだから私達の慈悲を受け止めるべきね」

 

真姫がCADを軽やかに、深姫が鮮やかに操作しながら言った。




次で、入学式編終わりです。
本番は、九校戦と横浜ですかね~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いとは対等であって初めて成り立つこと……世界最強にとっての悩みは、おおよそ戦いと言う展開に成りえないこと

終夜が監視員から連絡をもらい、第一校に着いた時には既にテロリストたちが制圧された後であった。

 

「お父様遅かったですね」

 

「いつもでしたら既に付いていらっしゃると言うのに」

 

娘たちが出迎えてくれたことに終夜は内心喜んでいたが、ふと疑問に思ったことがある。

あれ、何で俺に対して敬語?と。

 

「言い訳になるから言いたくないんだけど」

 

「お父様遅かったですね」

 

「いつもでしたら既に付いていらっしゃると言うのに」

 

あれもしかして、理由言うまでこの子達ループさせ続けるきか!!と終夜は戦慄した。

 

「監視員から報告は確かにあったらしいよ。でも俺の娘離れを促すためにって、香波が合えて連絡を遅らせたんだ……」

 

「いつも愛してるとか言っているのは嘘なんですか?遅れたのを香波さんのせいにして」

 

「お父様、私達信じていましたのに」

 

二人は、手で目元を隠しながら泣くふりをしながら言った。

凄くわざとらしいが、遅れてしまったのは事実であると終夜はその事実のみを真摯に受け止めた。

 

「はぁ、一応望みを聞こうじゃないか」

 

二人が何かを欲しているのは確定的だ。

そして、わざと連絡を遅らせた香波も間違いなく二人とグルであるのは確定的である。

 

「さすがお父様、話が早くて助かります」

 

「私達、今日から達也達の家で暮らしますね」

 

「そうか、今日から達也達の家で暮らすのか、まあその位なら…………」

 

終夜は、聞き流すように了承しようとした時であった。

どうせ何か欲しいものがあるのであろうと、終夜は高をくくっていた。

しかしその予想に反して、深姫と真姫が求めたのは、達也と深雪とその他一名が住んでいる家に一緒に住むと言うものであった。

さすがの終夜にとっても予想外の展開で、どの様に返答したものかと考えさせられる。

 

「まあその位ならと言うことは、了承と言うことで受け取っていいんですね?」

 

「あ、いやちょっと待て、年頃の娘が男と同棲何てお父さん認めないからな」

 

「でもお父様は、その位ならとおっしゃったではありませんか?」

 

「まさか、私達の話を聞かずに適当に答えた何ておっしゃらないですよね?」

 

はいそうですと、言えるわけがない。

それを分かっていてこの子達は言っている。

幸いなことに、話をしているのが車の中であるためこの会話が一般生徒や今回の事件のために集まった警官や公安に聞かれていないことだ。

出来れば、今の段階で達也と深雪が、四葉と関わりのあると知られるのは好ましくはない。

幸い一校内では、実際に四葉の名を持つ者が二人もいるため対外の目耳をそちらに集めることができているので、現状では探りを入れる様な真似はされていない。

 

「もし同棲したことで、達也と深雪が四葉と関わりがあると知られたらどうする気だ」

 

その他一名の名前が出ていない気もするが、そのことを気にする様な者は残念なことにこの場にはいなかった。

 

「それはお父様がどうにかしてくれるでしょう?」

 

「はぁ、どうも二人は楽観的すぎる。いいか、もし他の組織が何らかの理由で司波家を監視したとしよう、その監視員に何かがあれば、司波家には何かがあると逆に疑いを深めることになる」

 

「ですが、お父様の持つ魔法の中には確か人の記憶を操作するような物もあったはずですが?」

 

「確かにそれもある。が、そう言った魔法は濫りに使うものではない。ただでさえ俺の行動は、世界中が軍事衛星を使ってまで監視をしているのだ。さらに脅威度を上げる様な真似をすれば、お前達の暮らしさえ脅かされることになる。俺は、もう二度と誰かを失うかもしれない、という思いはしたくないんだ。分かってくれ」

 

過去に一度、真姫の母であり、深姫の異母であり、さらに終夜の妹である四葉真夜は一度、大亜連合が吸収した大漢に誘拐された経歴を持っている。

詳しいことは二人は教えてもらっていないが、当時十四歳であった終夜が単身大漢に乗り込み真夜を救出し、謹慎を脱けだし深夜と真夜の二人をつれ大漢に攻め入り魔法研究を行う研究機関をはじめ、事件にかかわった者達を一人も残らず殺害。

上層部の人間が一斉に死去したことで大漢内で内乱が発生し、その隙を突くように大亜連合が攻め込み吸収されたとのことだった。

その事件は三人が原因の様に思われているが、事実としてはほぼ終夜一人が殲滅や破壊活動をしているのだ。

どちらかというと深夜と真夜の二人の役割はやり過ぎようとする終夜のストッパーだったのだ。

その事実を知っている者達は、軍勢と言う分かりやすい物であれば、国の軍隊を動かしやすいが、個人を制圧するために軍隊を動かすとなると国民の反感を買う恐れがあるため、どの国の主導者たちも終夜と言う災害の矛先が自分達に向いていないか常に監視をしているのだ。

特に一度滅ぼされかけた事のある、大亜連合の中に居る大漢の者達は戦争アレルギーならぬ、災害(終夜)アレルギーを持っていたりする。

 

「……分かりました。確かに我儘が過ぎたようですね」

 

「そうか、分かってくれたか」

 

終夜は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「でしたら、家を一軒達也達の家の近くに買ってくれませんか?」

 

「まあ、その位ならばいいだろう」

 

家一軒を娘の我儘で買ってあげられる父親など、世界中探してもそう多くはないだろう。

 

「さて、娘の願いは買うにしても立てるにしても時間が掛かるだろうから話はこれまでだな。俺は別の用事があるからそろそろ行くとするよ」

 

「別の用事……ブランシュ日本支部だね?」

 

「きちんと覚えていたか」

 

「でも、場所は分かっているの?」

 

娘二人も終夜の気持ちを理解したのか、いつも通りの和気藹々とした雰囲気に戻り、口調も敬語からいつものものへと戻った。

 

「その程度の情報なら吐かせるまでもなく得ているよ」

 

情報元は教えるつもりはないがな、と付け加えようと思った終夜だが、そのことを口にはしなかった。

 

「そう言うことだから降りなさい。私達が今から始末をつけて来るから」

 

終夜は二人の頭を撫でて、降りるように促した。

二人もこの場で反抗するほど馬鹿ではない。

促された通り、車から降りた。

 

「後のことはすべてこちらで処理する。そのことを十文字と七草に伝えておいてくれ」

 

二人を降ろした終夜は、窓を下ろして二人に伝えた。

この場での十文字と七草は、克人と真由美のことを指していることを二人は察した。

二人を大事に思っている終夜が、十文字と七草の代表に連絡を入れろと無理を言うはずがないからだ。

 

「分かりました。先輩方には私達の方で伝えておきます」

 

「ああ、頼むよ」

 

二人に笑顔で答えた終夜は、スモークで外から中が窺えないようにしてある窓を上げ、外と完全に遮断すると二人に見せていた笑顔が嘘と思えるほど、ゾッと背筋を凍らせる表情で車を出発させるように言った。

 

「包囲はどうなっている」

 

「完了しております。命令があり次第即時殲滅可能です」

 

終夜が遅れた本当の理由はこれだ。

香波が二人とグルになっていたと言うは事実だが、連絡を遅らせる様な真似はしていない。

二人のお願いを基本的に優先するように終夜は伝えてはいるが、優先順位では二人の身を守るのが最優先に指定してある。

いくら二人が遅らせる様にお願いした所で、その情報が二人の身に危険が及ぶ場合直ぐ終夜に伝えられる。

ならば何故遅れたのか、ということになるが、終夜は連絡があった段階で敵の勢力を確認し、二人に害が及ばないと判断したからだ。

そのため終夜は、学校に急行するよりも先に敵本陣を抑えるための準備を優先したのだ。

いくら終夜と言えど不老不死ではない。

いつまでも二人を守る事は出来ないし、何時かは二人が政略にせよ恋愛にしろ結婚するのだ。

そのため自立させるために、今回はあえて二人を後回しにしたのだ。

終夜が二人から少しづつでも良いから離れられるようにするために。

流石にいきなりお願いで同棲は許容できなかったが。

 

「そうか、ならば俺が到着次第工場の裏口から突入、俺が正面から突入し、逃走者がいた場合即時捕縛だ。死なない程度ならば制限はなしだ」

 

娘たちの通う学校を襲ったのだ。

落とし前だけは確りと取らせるからな。

 

 

 

 

 

 

 

そう意気込んでいた、終夜だが突入するなり頭が痛くなっていた。

それと言うのも目の前の存在が原因だ。

 

「これはこれは、まさか世界最強の四葉終夜殿が直接来られるとは。事前に教えていただいていたならもっといいおもてなしが出来たのですが」

 

とても残念だと言いたげな表情で首を振る、ブランシュ日本支部支部長の司一。

そしてその背後には大量の銃口が終夜に向いている。

 

「ああ、彼ですか。彼は意気込んで『覚悟しろ悪党ども!!このオリ主である俺様が貴様らを倒してやる』などと言ってたのですが、直ぐに改心したのか我々の同志となってくれましたよ」

 

見慣れたくはないが、見慣れた銀髪に虹彩異色症によるオッドアイ。

骨格や見た目からして誰がどう見ても白人なのだが、デオキシリボ核酸による親子鑑定で残念なことに深夜と法律上の結婚相手である司波龍郎の子であることが証明された存在。

 

「鋼也君、君の力を私は疑ってはないのですがね。周りを認めさせるために実力を示してください」

 

司波鋼也が司一の横にいたのだ。

 

「あぁ、任せておけ。俺が最強なんだゴバッ!?」

 

終夜は言い終わらせる前に、さっさと鋼也を眠らせた。

ヒーローの変身や必殺技の溜めの瞬間に生まれる隙を悪役みたいに、態々待って見逃すような愚かな真似はしないスタンスの終夜は、CADの操作をしなくてもいいと言う他の人には真似できない利点を生かし、勝手に話し込んでいる隙に魔法式を構築し、どのタイミングでも発動できるようにしていたのだ。

 

「貴方と言う人は、学生に対しても容赦をしないのですか!?」

 

発動した魔法は、ただの空気圧縮弾だが、当った場所が悪かった。

鳩尾と顎の先端だ。

下手をしたら殺してしまう様な急所に終夜は躊躇いなく魔法を撃ち込んだため、司一を始めとしたブランシュのメンバーは驚いていた。

そもそも司一は、鋼也が使えるとは思っていなかった。

精々攻めて来るであろう者達に対する動揺を誘うか、動きを鈍らせる程度の役割しか期待していなかったのだ。

自己顕示欲が強すぎるため洗脳にもあっさりと掛かる程度の実力しかないと言うのも、期待していない一因でもあったが。

 

「はぁ、そもそも俺が学生だからと手加減をかけるとでも思ったのか?」

 

終夜にとっての身内とはかなり限定的だ。

深夜と真夜、深姫と真姫、ギリギリ深雪までが終夜の中で身内判定を出している。

次に両親や四葉の本家や分家に連なる者達が親族判定であり、この時点で終夜の庇護は存在しない。

ガーディアンである達也や身内に対して不快感を与える鋼也は、せいぜい男なんだから自分の身は自分で守れ程度の認識でしかなく、自身のミスは自身で取り換えさせるべきだと思っている。

他人の尻拭いなど面倒だと言うのが本音であるのだが。

 

「さて、何時までもお前達に構ってやる時間はないのでな」

 

直ぐに終わらせる、暗に終夜はそう言った次の瞬間だ。

 

「撃て、撃て撃て撃てうてぇええええ!!」

 

司一は、身の危険を感じたのか背後に控えさせている兵隊に対して、撃ち殺すようにヒステリック気味に命じた。

銃声が廃工場内に響き渡る。

フルオートで銃口から吐き出される銃声は、轟音となり耳を劈く。

しかし終夜にはかすり傷を付けるどころか届きさえしていなかった。

それどころか、弾丸は終夜の前で空中に停滞していたのだ。

 

「はぁ、舐められたものだな。この程度の物が俺にとどくとでも思ったのか?もし思っていたのなら、相当おめでたい思考をしているんだろうな」

 

そう言って、頭を掻いた終夜はパチンッ!!と指を鳴らした。

その音が鍵であったかのように、終夜にとどかず空中で停滞していた弾丸が一斉に銃を使っていた者達に襲い掛かかり、僅か一瞬にして司一が集めていた兵隊が無力化された。

 

「所詮この程度か」

 

そう言って、終夜は一歩近づく。

 

「く、来るなぁぁああああああ」

 

司一は、死屍累々と転がる兵隊に脇目も振らず逃げだした。

時には同志であり仲間であった兵隊を踏みつけてでも終夜から逃げた。

怖いのだ。

目の前にある明確な死の形を取った何かが。

裏口は既に終夜の集めた者達が押さえているため、司一にはどの道逃げ場はない。

 

「はぁはぁはぁはぁ、来るな来るな来るな来るな来るな」

 

扉を閉めては鍵を閉め、少しでも時間を稼ぐようにして逃げる。

逃げる逃げる逃げる、司一は自身の持つプライドをかなぐり捨てて、逃げる。

まるで閉まっていた地獄の釜の蓋を開けてしまい、魑魅魍魎や罪人たち、それらを呵責している鬼たちを出してしまったかのような恐怖。

この時になって初めて、一校に手を出すべきではなかったと司一は悟ったのだ。

 

「さて、鬼ごっこも飽きた。もう眠れ」

 

その言葉を最後に司一は意識を失った。

 

「逃走者はいるか?」

 

『いえ、現在一人も逃がしておりません』

 

「分かった。こっちは司一を掴まえた。あと正面入り口に転がっている奴らも回収しておいてくれ。鋼也に関しては回収後四葉の息のかかった病院に搬送しておけ。マインドコントロールを受けているからな、俺が面倒だが解いておく」

 

『分かりました。病院に関しては後程連絡します』

 

「分かった」

 

終夜は耳に差していたインカムを取ると、今年の九校戦に娘たちが間違いなく出場すると確信しているため今からカメラの準備をしないとなと、場違いなことを考えていた。




九校戦の話を書きたいがあまりかなり簡潔にまとめてしまいました。
九校戦は、深姫と真姫視点で書くからきっと長くなるはずです。
書き方が少し変わるかもしれませんが……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テストの結果とその裏で

今年も九校戦の時期が迫って来た。

九校戦が何かと聞かれたら場合、簡単にまとめて説明すると、全国にある魔法科大学校付属高校の代表者一同に集まり凌ぎを削る、学校の代表者による体育祭の様なものだ。

その前に魔法科高校とて例外ではない、どの時代の学生でも平等に嫌う定期テストがあるからだ。

 

「あずさテストの順位どうだった?」

 

「あっ、真姫さん!!私はいつも通りでしたよ。真姫さんはどうでした?」

 

「……私もいつも通りだった」

 

真姫も順位が低いと言う訳では無い。

むしろ学年全体で見ても上から数えた方が早い。

では、何故こうも落ち込んでいるかというと。

 

「今回も私の方の方が上だったな」

 

深姫に1点差で負けてしまったからだ。

去年も全ての定期テストで1点差で負け続けて来ているのだ。

むしろ去年全ての定期テストを1点差で負け続けていると言う事実が凄いとも言えるのだが。

もちろん、一教科だけが負けて、他の教科が同点と言う訳では無く、真姫が勝っている教科もあり実技では真姫の方が優に勝っていた。

しかし総合の合計で見ると毎回1点差で負けると言う不憫な思いをしているのだ。

 

「さ、今回も私が勝ったんだからケーキを奢ってもらうとするか」

 

「うぅぅぅぅ、仕方ない、約束だからね」

 

「真姫さん今回も賭けたんですか……賭け事はやめた方がいいですよ」

 

あずさが言っているのは、世間一般的常識から考えたら正論だ。

だが真姫にも引けない時がある。

何故なら、負けた方が奢ると言うのは、一か月のおこずかい全てを奢るのに費やさないといけないからだ。

それが定期テストの数だけあるとすると、今更後には引けないのだ。

 

「あずさ、人には引けない時もあるのよ」

 

かっこよく言っても、賭けの実態を知っているあずさには今さら感があるのだ。

 

「そもそも学校で賭け事自体がいけないと思うんですけど……」

 

あずさが、賭け事自体止めにした方がいいと至った時であった。

 

『一年E組司波達也君、一年E組司波達也君。至急生徒指導室まで来てください。繰り返します――』

 

「あれ、司波君が呼ばれているみたいですね?」

 

「何かあったのかな?」

 

「多分、一年のテストの順位じゃないかな?確かペーパーテストでは一位だったから……」

 

「さすが司波君ですね。でもテストの順位が一位だからという理由で呼び出されないと思うんですけど?」

 

「さすがにそこまでは分からないけど。表示されている順位はテストの点数だけだから……」

 

流石にどの教科が何点だったかというのは、深姫や真姫にも分からない。

個人情報の漏えいに厳しい昨今では、使用した問題用紙と解答用紙は、教員立会いの元専門業者によってシュレッターにかけることになっている徹底ぶりだ。

 

「そう言えば話変わるけど。あずさ今年はもう見つかった?」

 

「何がですか?」

 

「九校戦のエンジニア」

 

「それがまだなんですよ。会長たちが頑張っているみたいなんですけど中々……」

 

「あずさもエンジニアするんでしょ?」

 

「去年は観戦しかできなかったですから、九校戦事態初めてで……」

 

「緊張してるんだね。大丈夫、リラックス、リラックス」

 

「ううう、今からお腹が痛くなってきました」

 

「あずさ落ち着いて。意外と何とかなるから」

 

お父様の相手に比べたら、その言葉を深姫と真姫は必死に呑み込んだ。

終夜の所構わず発揮する親バカぶりで与えられる羞恥によるダメージを考えたならば、九校戦のプレッシャー程度どうということはない。

 

「そう言えば、選考段階ですから絶対とは言えないですけど、お二人とも今年も選手に選ばれると思いますよ」

 

「競技は去年と一緒?」

 

「多分そうなると思います。ですが、各部活動の人達もいますから……でもでも、会長や十文字会頭が調整してますから去年と一緒になると思いますよ!!」

 

何だかんだで、あずさも楽しみにしてるんだなと二人は思った。

あずさは、実技も高い成績を出しているがそれ以上に魔法技師としての資質が高い。

 

「何々何の話をしてるの?」

 

「九校戦のメンバーに付いての話だよ花音。そう言えば、今年は五十里くんも一緒に行けるんだったよね?」

 

「そうなのよ!!去年は一緒に行けなかったからその分今年で取り返すのよ!!」

 

去年の九校戦では、千代田花音自身はメンバーに選ばれた。

しかし花音の婚約者である五十里啓は、一年生ながら高い論理知識を有していたが一年生であると言う枷の所為でエンジニアになることができなかった。

むろん花音は反論したが、当時の生徒会長や部活連会頭が今の生徒会長や部活連会頭に比べて、今までの伝統を守る保守的な人間であったせいもありエンジニアになれなかったのだ。

その時の花音の荒れっぷりは未だに二年生の間で語り継がれる笑い種だ。

 

「そう言えば花音はテストどうだったの?」

 

「うっ!?……それを私に聞く深姫」

 

「その様子で分かったよ。もう聞かない」

 

「それなら聞かないでよぉ」

 

今回もテストの点数は芳しくなかった様で、花音は目に見える形で落ち込んでしまった。

一科生は、魔法技能による成績であるためペーパーテストはあまり反映されない。

だからと言って、内申点に反映されない訳では無いのだが。

 

「まあ、花音の場合五十里君に教えてもらえばいいからね。ペーパーテストの成績も良いし、何より花音の婚約者なんだし」

 

「ふっふん!!啓は頭も良いからね」

 

啓のことを褒められたからか、落ち込んでいたのが嘘のように花音は元気になった。

チョロイナ、話に加わっていなかった教室内にいた者達さえ内心思っていた。

それに気が付いていないのは、当の本人である花音だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所にある、円卓に数人の者達が集まっていた。

その全員が中華系の顔つきをしている。

そしてこの場にいる者達は、一人の例外もなくある組織の一員だ。

 

「オッズはどうなっている」

 

「予想通り一校が一番人気です。このままでは我々が一人負けになってしまいます」

 

「やはりそうなってしまったか」

 

「三年には七草に十文字、それに並ぶ渡辺選手にA級ライセンス相当の生徒が選手として選ばれている。さらに二年生にはあの四葉の姉妹がいる」

 

「優勝候補と目されるだけの盤石な布陣だな」

 

「しかしこのままでは、我々が」

 

「そのためには手段を選ぶ必要がある」

 

この場にいる者達は九校戦を使って賭けを取り仕切るブックメーカーたちだ。

だが同時に四葉終夜の恐ろしさを知っている者達でもある。

そのため四葉終夜(災害)の矛先が自身に向かないようにしなければならない。

 

「ジェネレーターを使おう」

 

「出来るだけ痕跡を消すために、一校の向かうバスに自爆特攻させればいい」

 

「そうだな。時限式の爆弾も仕掛けておけば、最悪失敗しても痕跡を消せる」

 

「では、その方法で一校に関しては出場不能になってもらおう」

 

男たちにとって恐ろしいのは、本部の粛清だ。

賭けに参加している客には何とでも言い訳をすることができる。

兵器ブローカーも客の中におり、総じて諸国の政府と大なり小なりパイプを有している。

そう言った輩が騒ぎ出されたら男たちとしても、不味いがそれでもいくらでも巻き返す手段が男たちには、いや男たちの組織は有している。

 

「失敗した所で、最悪競技で脱落してもらえばどうとでもなる」

 

「ならば、出来うる限り早い段階で脱落してもらわなければ困ることになる」

 

「……四葉か」

 

「そうだ!!あの災害(バケモノ)を含めあのイカれた一族が、一族の者を害して許すはずがない!!」

 

この場で一番立場が上であろう者が、円卓を強く叩いた。

終夜の手によって大漢が大打撃を受け大亜細亜連合に吸収される前のことだ。

この男は一度、まだ十代の頃の四葉終夜を目にしたことがある。

幸い、軍や魔法研究に関係のある施設に直接関わっていたわけではないため、生き残ることができていたが、災害(バケモノ)がたった一つの施設を殲滅するときの余波だけで街が蹂躙される様を覚えているのだ。

 

「協力者とも連絡は取れている」

 

「ならば、四葉の姉妹に関しては、直接害の及ぶ妨害ではなく、性能を発揮出来ない様に細工するようにでいいな」

 

「その程度ならば、今からでも電子金蚕のプログラムを変更できる」

 

「四葉に関してはその方向で進ませよう。協力者に我々のことを喋れない様にしているか?」

 

「抜かりなく」

 

「そうか」

 

「これで今日の会合は終了する。翌日の会合もいつも通りの時間に」

 

この場で一番立場が上であろう男が、そう言うと男たちは存在しないことになっている部屋から出て行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劣等生の技量確認をしよう!!

部活連本部において、九校戦準備会合が行われていた。

去年に続き九校戦に参加することになった二人はそれぞれ去年と同じ協議に出ることになった。

深姫は『ミラージ・バット』と『アイス・ピラーズ・ブレイク』に真姫は『クラウド・ボール』と『バトル・ボード』だ。

そんな二人だが、今年は一段と刺々しい雰囲気である事に気が付いていた。

原因は、二人と同じ内定メンバー用に用意されているオブザーバー席に座る一人の生徒。

その生徒には、一校の校章がない二科生、それも悪目立ちが過ぎると言って良い司波達也がいたのだ。

案の定と言うべきか、何故この場に一年のそれも二科生がいるのかと所から、会議がもつれて行った。

感情的理由から来た反論であるために、会議がダラダラと長続きしていった。

好意的または、達也を擁護する意見が出無かった訳では無い。

むしろそちらの方が多かったとさえ言える。

 

「要するに、司波の技能がどの程度のレベルであるか不明なのが問題であると理解した。それならば実際に確かめるのが一番だろう」

 

誰もが分かっていながら口に出来なかった解決策を十文字はあっさりと言ってのけた。

少なくないリスクが伴うのもあるが、それ以上に達也の実力を知らないからこそ言い出せなかった。

下手に擁護した結果、誰もが認めるだけの実力を持っていなかったのならば、擁護した者が批判を浴びることになる。

一年それも達也と仲がいい女子たちならばある程度の実力を知っているから擁護しやすかっただろうが、三連覇がかかっている今の一校の空気の中切っ掛けもなしに言い出せるほど図太い神経の持ち主はいなかった。

そんな中誰もが思っていた解決策を発言したのが、達也と日頃から仲がいい真由美や摩利ではなく十文字であったと言うこともあり、皆が押し黙る結果となった。

 

「……もっともな意見だが、具体的にはどうする」

 

「今から実際に調整させて見ればいい。何なら俺が実験台になるが」

 

CADのチューニングは同じ起動式であったとしても十人いれば十人とも変わってくる。

起動式の読み込みの円滑化、高速化するためのチューニング機能を近年のCADは備えており、それぞれ使用者の精神に対する影響が強くなっている。

下手なチューニングをされたならば、魔法効率の低下から始まり、目眩や吐き気、不快感などに陥り、酷い時は幻覚症状さえあると言われている。

それ程までに使用者に影響を及ぼすからこそ、魔工師もライセンス制になっているのだ。

 

「いえ、彼を推薦したのは私ですから、その役目は私がやります」

 

「いえ、その役目俺にやらせてください」

 

予想だにしなかった人物が立候補した。

深姫と真姫の二人とはクラスが違うが、二科生の壬生と付き合いだしたことで二年生の中では有名な桐原だった。

 

「良かったの深姫あなたが立候補しなくて?」

 

真姫が小声で深姫に聞いた。

 

「いいのよ。それにあまり関わり過ぎるのをお父様もお母様も嫌がられるから」

 

「そう、ね……仲のいい先輩後輩程度に止めておくのがお互いのためね」

 

「その分お父様には我儘を聞いてもらってるから」

 

「それもそうね」

 

二人がお願いした家は、家主の買収から始まり、土地の買い取り、既存の家を取り壊し建て直す必要がある。

そのため家が建つのはもう少し先になる予定だ。

 

「皆移動するみたいだから私達も移動しましょ」

 

二人は、他の人達に着いて行く様にCADの調整施設のある実験棟に向った。

調整するCADやCADを調整する設備は大会基準に基づいてい準備された物を使用する様だ。

 

「課題は、競技用CADに桐原先輩のCADの設定をコピーして、即時使用可能な状態に調整する。ただし起動式そのものには手を加えない、で間違いありませんね」

 

「ええ、それでお願い」

 

真由美が頷くのを確認すると、達也は首を小さな素振りで横に振った。

 

「……どうしたの?」

 

「スペックの違うCADの設定をコピーするのはお勧めしないのですが……仕方ありませんね、安全第一で行いましょう」

 

「?」

 

首を傾げたのは真由美だけではなかった。

エンジニア以外の者達の殆どが達也が何を言っているのか理解できていなかった。

CADの設定をコピーするのは、機種変更したりする際当たり前にされていることなので、何を問題視してるのか分かっていない。

達也の発言の意味を察することができたのは、エンジニアチームのメンバー位であった。

 

「ねえ、あずさ。達也君は何が言いたいの?」

 

「設定をコピーするのって、機種変更したりするとき普通にやっているみたいだけど」

 

「それはですね、昔みたいにCADが起動式の元データを記録するためだけのストレージ機器だったのならば然程問題ないと思うのですが、昨今のCADは魔法発動の高速化に力点が置かれています。CADには感応石が使われているのは知っていると思いますが、もしも今桐原君が使っているハイスペックなCADの設定を競技用のロースペックのCADにそのままコピーしたのならば、感応石によってサイオン信号と電気信号を相互間する際――――」

 

「ストップ、ストップ」

 

「ほら、あずさ達也君が何か凄いことをしているよ」

 

あずさがデバイスオタクである事を二人は知っているが、このまま説明させていたら間違いなく永遠と話し続ける。

それを察した深姫が無理矢理止め、真姫が話題を逸らした。

 

「ほへっ?」

 

あずさが一瞬呆けた様な声を上げた。

真姫に言われた通り達也の作業様子を覗き込んだ状態で固まっているあずさに、どうしたの?と声を掛けるのか悩んだ末、あずさの横で達也の作業様子を覗き込んだ真由美と摩利は、漏れかけた声を何とか呑み込むことができた。

高速で流れゆく膨大な数字の羅列を凝視した状態で固まっている達也は、数字が流れ終ると一気にキーボードを操作し始めた。

次々とウィンドウが開かれては閉じ、開かれては閉じていく。

傍から見たら何をしているのかさっぱりだが、デバイスオタクと名高い?あずさやある一定以上の技能を持つエンジニアメンバーは達也がやっているのが如何に一般的高校生が持つ技能から逸脱しているのかが分かった。

ハッキリ言って、この場にいる者達には不可能な技能だ。

特にあずさが凄いと思ったのは、想子(サイオン)波特性の測定結果をグラフや表ではなく、羅列されているだけの数字だけである原データから読み取っているのだ。

達也の正体を知っている者にとって、もしかして達也って割と自己顕示欲が強いのでは?と思ってしまうところがあった。

 

 

 

「桐原、感触はどうだ」

 

「問題ありませんね。自分のと比べて全く違和感がありません」

 

起動式に手を出さないと言う条件もあり、設定は直ぐに終わった。

速度自体は平均的なものであったが、達也の持つ技能が一般的エンジニアのそれを越えていたので、あずさはどうにか味方を増やして達也のエンジニア入りを果たそうと思った。

 

「深姫さん、真姫さん」

 

「どうしたのあずさ?」

 

「なに?なにかあった?」

 

「えっと、お二人にも司波君をエンジニア入りさせるの手伝ってもらえませんか?」

 

「何をしてたのかよく分からなかったから、明確に援護しづらいんけど」

 

「あれは、想子(サイオン)波特性の測定結果、その原データを直接利用して設定したんです!!」

 

CADに関しては、いつもの引っ込み思案な性格とは違い自分の意見をはっきり言えるんだよなぁ、と深姫や真姫を始めあずさとそれなりに親しい真由美や摩利は思っていた。

 

「私は別にかまわないけど?」

 

「本当ですか」

 

「真姫が賛成するなら私もいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

桐原が実際に達也が設定したCADを使い、動作を確認している中であずさは着々と達也をエンジニアにすべく仲間を増やしていった。

この場に深雪が居たのならば、さらなる化学反応が起きていたであろうことは目に見えているが、運が良い事に深雪は現在生徒会室で、別の作業をしている。

 

「……一応の技術力はあるようだが、仕上がりが平凡であるならば当校の代表となるレベルとは思えません」

 

「仕上がるタイムも平均的ですし、むしろあまり良い手際であるとは言えない」

 

「やり方があまりにも変則的過ぎますね。意味があるのでしょうが、それでは判断がし辛いですね」

 

思っていたよりも地味な結果なためか、否定的な評価が出て来た。

生徒会長である真由美の推薦と言うこともあり、皆無意識下に高い技能を持っているのであろうと思い込んでいたのだ。

その結果が、目に見え辛いものでは、誰も肯定的な評価を出し辛いのだ。

しかし予備知識が豊富にあるあずさは違った。

 

「私は司波君のチーム入りを支持します!!」

 

いつも弱気でクラスメイトから守ってあげたいランキング常に一位のあずさが猛反発して見せた。

そのことにこの場にいる誰もが驚いていた。

 

「彼が今見せてくれた技術は、高校生では考えられないほど高度なレベルのものです。オートアジャストを使わず全てマニュアル調整など少なくとも私にはできません」

 

「それは、高度な技術なのだろうけど出来上がりが平凡ではあまり意味がないのでは?」

 

「見かけは平凡かもしれませんが、中身は違います。あれだけ大きく安全マージンを取りながら効率を低下させないのは凄いことです」

 

「中条さん落ち着いて。不必要に安全マージンを取るより、その分効率アップに向けた方が僕はいいと思うけど?」

 

「それは、きっと、いきなりだったから……」

 

「貴方達は彼に与えられた課題を忘れたの?」

 

元々人前で話慣れている方ではないあずさのために深姫が、あずさの援護に入った。

 

「桐原のCADの設定をコピーして、即時使用可能な状態に調整する。ただし起動式そのものには手を加えない、だろ?」

 

「今あなたが言ったとおり、今回の課題はあくまでもCADの設定をコピーして即時可能な状態にすること。それに彼に調整させた理由も彼の持つ技能が分からなかったから。なら、彼の技能も確認でき、課題もクリアしたから問題ないのでは?」

 

「しかし、見た目が平凡ではないか?」

 

「はぁ、設定をコピーして即時可能な状態って言っているでしょう?なら今回不必要なまでに効率を上げるのをあなたはコピーしたとでも言うきなの?それに桐原君のCADは競技用に比べてハイスペックな物。なら違和感を感じさせなかったと桐原君が言ったことも評価するべきでは?」

 

「それは、そうだが……」

 

「会長、私達もあずさと同じで彼のエンジニア入りを支持します」

 

「みーちゃん!!それに私達もってことはまーちゃんも!!」

 

「みーちゃんはやめてくださいと言っているでしょう」

 

「まーちゃんもです」

 

真由美の顔は、”四葉”の二人が賛成派になったことに喜んでいた。

確固たる権力(暴力)武力(災害)を後ろ盾に持っている二人は、それだけ高い技能を持つ魔法師も魔工師も見て来ており、専門的な設定までは分からないまでも十分に目が肥えている。

その二人が太鼓判を押すのだ、達也の技能を疑う余地はない。

 

「私も司波のエンジニア入りを支持します」

 

「はんぞーくん!?」

 

あまり達也のことを好意的に思っていない服部が、達也のエンジニア入りを支持したことに真由美は意外感を感じていた。

まゆみとしては、また風紀委員入りする時と同じで反対すると思っていたのだ。

 

「九校戦は当校の威信をかけた大会です。肩書に拘らず、能力的にベストなメンバーを選ぶべきでしょう。エンジニアの仕事は選手が戦いやすいようにサポートすることです。桐原に『全く違和感がない』と言わせた技術は、中条が言う様に非常に高いレベルのものと判断せざるを得ない。候補者を上げる事に現段階ですら苦労するほどエンジニアが不足している現状では、一年生とか前例がないとか、そんなことに拘っている場合でも余裕も我々にはありません」

 

棘を感じる言葉だが、それは服部の本音であることを証明している。

しかし一科生と二科生に関する拘りが強いと自他共に認めている服部が、”拘らずに”と言うフレーズを使い達也のチーム入りを支持したのが場の雰囲気を変えた。

 

「服部の意見は俺も尤もだと思う。司波は当校を代償するに値する技量を皆の前で示した。ならば俺も司波のチーム入りを支持しよう」

 

未だ否定的な意見を抱える者達がいるが、克人が支持を表明したことで対局は決した。

十師族であり生徒会長でもある七草真由美が推薦し、最強(災害)を親に持つ姉妹が擁護し、部活連会頭が表明した。

この状態でなお反論できる者がいたのであれば、むしろこの場にいる皆が勇者(バカ)であると認めるところだが、残念ことにと言うべきか当たり前というべきか、そのような者はいなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

踏み台に対する処断

ちょっと、と言うよりも時系列的にかなり前の話ですね。




「ふざけるな!!」

 

四葉の屋敷内、その中でも序列の低い者には知らされていない場所で一人喚いている人物、ブランシュの件で一人先走り洗脳された鋼也が居た。

その場所は見た目はただの座敷牢だが、その作りが違った。

一切光の届かない地下に在り、壁にはウルツァイト窒化ホウ素で作られた厚さ50cmの鉄板が仕込まれており、仕切りもウルツァイト窒化ホウ素で作られている。

さらに石綿も壁に織り込まれているため、人が脱出するのは間違いなく不可能である場所であり、CADを取り上げられてなお精霊魔法が発動できる鋼也でも絶縁性が高い場所では無力となっている。

両手足にも枷が付けられており、それももちろん絶縁性である。

 

「ここから出せ!!俺はオリ主だぞ」

 

などと喚き続ける鋼也に対して四葉は決断を迫られていた。

元々四葉でありながら、歪なまでに強力な魔法力がある訳でも精神干渉系魔法に特化している訳でもない。

むしろ鋼也が使っているのは精霊を使っての魔法、古式魔法に部類されるものだ。

それが低いレベルであるならばまだよかったが、高い水準でそれも誰にも師事することなく習得しているのが問題だ。

九の家々や第九種魔法開発研究所、さらに古式は法師の伝統派やそれに敵対する派閥からいろいろと話が九島烈を通して入って来ている。

それが友好的な話であるならば良かったのだが、残念なことにと言うべきかやはりと言うべきか、棘のあるものであった。

明確に敵対的な言葉を言っている家もあるらしいのだが、それはやはり背後に四葉が控えていることを知らないからであろう。

何とも無知とは愚かで、恐いもの知らずなのか。

 

「さて、全員集まった所で話をしようか」

 

四葉家の本家に連なる者は総て、分家は当主のみが本宅に集められていた。

最も上座に座っているのは現当主である真夜、そして深夜に最も近い上座には終夜と深夜が座っていた。

前当主である元造も参加するべきであったのだろうが、病にこそ掛かっていないものの歳により満足に動くことが叶わないため欠席となっている。

分家の当主たちも既に代替わりが済んでいるため、顔ぶれも若い。

 

「古式魔術師の伝統派と伝統派に敵対している派閥、そして九に連なる者達から鋼也の存在について聞かれました」

 

「確かにあれは、四葉において異端」

 

「しかしDNAは間違いなく深夜様と司波龍郎氏のものであった」

 

「だが、見た目は失礼ながら深夜様にも龍郎氏にも似ていない」

 

「今は見た目の話ではない。あ奴が使う魔法だ」

 

「精霊が関係している段階で古式魔法に部類していいだろうが、規模が違い過ぎる」

 

「しかり、最早戦術級と言って差し支えないだろう。無論我々に見せていないだけで戦略級に迫るものを持っている可能性もある」

 

「ならば、こちら側に抱き込むべきではないのか?」

 

「対外的に秘しておけるならばそれも良かろう。しかしあ奴はよりにもよって一校が攻めて来たとき嬉々として魔法を使っている」

 

そう問題は鋼也が嬉々として人前で精霊魔法を使った所だ。

一般的な魔法であればここまで問題にはならなかった。

 

「それでだ。今回集まってもらった理由はこの場で採決を取るためだ」

 

今まで黙っていた終夜が口を開いたことで場が一気に静まり返った。

 

「今我々が選択すべきは、鋼也を文字通り抹殺する事。四葉に関する記憶の一切を消して九の家に養子として出す事。四葉に関する記憶の一切を消して伝統派または、それに敵対する派閥の家に養子として出すかだ」

 

「禍根を残す恐れのある養子は反対です」

 

「しかし抹殺となると、あ奴の背後に四葉が控えているのを知らない今いらぬ探りを入れられる恐れも」

 

「俺や深夜と真夜に一時とはいえ魔法を教えた九島烈(クソジジイ)ならば、背後に四葉が控えている事を知っているだろう。しかしだからこそ四葉が控えていることをあえて口にしないだろう」

 

「何故です?四葉が背後にいることを教えた方が無駄な諍いが起きないで済むと思いますが?」

 

「いや、逆だ。四葉が背後にいると分かれば九以外の家も口を出してくることは明白だ」

 

ただでさえ四葉は今、過剰な戦力である。

終夜が居なければ世界最強と言われたであろう『夜の女王』四葉真夜に禁忌とされ終夜と言う例外を除けば深夜のみが使える精神構造干渉魔法を使える。

人数こそ七草などと比べれば少ないが、その分質が高い四葉の分家筋、その分家の家々に仕える者達も一流の者達ばかりだ。

さらに四葉は秘匿している技術も多く、十師族という枠組みから頭一つ飛び出している。

そこに終夜が加われば、四葉は十師族という枠組みを超えた上位存在に成りえる。

しかしなぜ上位存在に成りえるで留まっているかというと、単に終夜と言う存在が押し上げると共に足を引っ張っているからだ。

抑止力としては良いだろうが、24時間365日各国の技術の粋を集めた最新の軍事衛星が居場所を常に監視しているのだ。

その状態で何かをしでかそうと思うほど四葉の人間は自惚れてはいない。

だからこそ、鋼也と言う新しい戦力と成りえるであろう人材の背後に四葉がいると分かれば他の十師族や師補十八家が黙ってはいない。

達也の場合は軍と言う守りが既に付いているから、そこまでも心配する必要はないのだが。

 

「ならば、精霊魔法と言う観点、そしてお三方と親交のある九島閣下の九島家に養子に」

 

「九島か、しかし九島の戦力強化につながるのではないか?」

 

「でしたら兄さん七草はどうでしょうか?」

 

「七草、確か真夜の……いや、ダメだな」

 

過去の件も含めて水に流すにはちょうどいい気もするが、今の当主である七草弘一はハッキリ言って詰めが甘く、黒幕になろうとして成りきれない小物と称していいほどだ。

そんな家に送りだしたら最後、何に使うか分かったものではない。

下手をしたら、対四葉などを他の十師族師補十八家と組んでその先兵にしそうなものだ。

そんなリスクを負うなど考えられない。

 

「ならばUSNAに送り出すのはどうでしょうか?」

 

そんな中黒羽現当主である貢が案を出した。

 

「USNAのスターズ元総隊長ウィリアム・シリウスとは大越戦争おり、親交があるとか」

 

「ああ、だが奴は既に他界しているぞ」

 

「確かにそこが問題ではありますが、スターズを含めUSNAには四葉終夜と言う名前が刻まれています。ならばそれを活かさない手はないと思いますが?」

 

「国内や十師族師補十八家ならば、今後のことを考えて関係強化と言う手を打てるでしょうが、状況次第ではそれが悪手にも成りえる」

 

「その点を考えるならば海外勢であっても四葉と手を組みたいまたは、関係を持ちたいと思う国家や機関、組織は多い」

 

「秘匿すべきは技術である。ならば奴はその手には一切手を出していないため、記憶を消すなどと言う面倒な作業をしなくて済むが……」

 

「USNAには確か九島烈の弟が根を下ろしていたと記憶していますが」

 

「そこまで問題にならないでしょう。いくら九島と言えど国内組織ではない海外、それもUSNAの組織や軍には影響を及ぼすことができないでしょうから」

 

「その点を考えるならば終夜殿は、軍部と面識もあります」

 

「奴も見た目は白人種に近いため差別も少ないと思います」

 

見た目だけを考えるならばそうであろうが、血縁は純日本人。

奴が誰かと結婚したりでもすれば、産まれた子の見た目次第では直ぐに分かるとおもうのだが。

 

「しかし奴をUSNAに送り出すとして、今度は国や他の家が文句を言ってくると思うが?他にも古式魔法使い連中も口を出してくるだろう。そこはどうするつもりだ?」

 

「それならば、九島と言う前例があるのでいくらでもこちらで対処できます」

 

「ならばその方向で話を進ませるとして、次に問題になるのは送り先だ。USNAには人間主義が多い州もあるそこの選定はどうするつもりだ?」

 

「それも問題ありません。奴をUSNAの軍属にすれば幾らか融通が利くはずです」

 

「スターズでなくとも戦略、戦術価値を見出されれば身の安全は保障されるはずです」

 

「そうですね。何か他に意見がある人はいません?」

 

真夜が一同を見渡すと、誰も意を唱える人が居ないのを確認した。

 

「では、USNAの受け入れなどの話を進めましょう。受け入れと国内においての調整の二つが終わった段階で、此方であの子に幾らか処置をして送り出すと言うことで」

 

「処置は俺が中心となってする」

 

「分かりました。では処置の方法は兄さんに一任しますが、内容はこちらで決めたものをお願いしますね」

 

「分かった」

 

こうして鋼也の処分と処置は決まって行った。

一般的な過程であるならば、悲しむべき内容であるのだろうがここは四葉。

特に対象が司波鋼也であると言う事実も相嵌り、悲しむどころか、裏で内々に処理しなければならない案件が減ると安堵する者が出る始末であった。

しかし誰も咎めない、誰もあれを愛していないのだから。

完全実力主義の四葉において、ガーディアンであると言う事実もあり、一部の人間が蔑んでいる達也のことを深夜の子である事だけは認めている家臣団でさえ、鋼也を深夜の子と認めていないのだから。

 

「ならば、対外的なことを考え、あれを早い段階で復学させておくか」

 

「手続きはこちらでしておくは兄さん」

 

真夜がそう言うと、手ものとベルを鳴らした。

ベルが鳴ると、何時から控えていたのか?と思うほど直ぐに葉山が入って来た。

 

「お呼びでしょうか?」

 

「あの子の謹慎を解いて、一校に復学できるようにしておいてちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

用件だけを聞くと葉山は直ぐに出て行った。

父であり四葉家前当主である元造の代から当主に仕えているのだ。

手際もさることながら、信用も家臣の中では群を抜いている。

そのためある程度重要な案件も任されることもしばしばある。

 

「じゃあ、重要(面倒)な案件も終わった事だし解散するか」

 

「ええ、そうね」

 

終夜が、立ち上がり扉へ向かうと扉が開いた。

自動ドアと言う訳では無い。

少年執事が待機しており、中の様子を察して開けたのだ。

終夜の後に続くように深夜と真夜が退出して、初めて分家の当主たちも退出しだした。

 

「それで兄さんは今年も行くの?」

 

「ん?九校戦か?」

 

「ええ、あそこには毎年九島先生が」

 

「ああ、九島烈(クソジジイ)も来るな。だが、丁度良いじゃないか。アポなしに会えるし」

 

「それは、そうですが」

 

「それにあのジジイもいい歳だしな」

 

「御歳を取られているからと言って油断ができる相手ではありませんよ?」

 

「一線を引いて尚軍部に影響力があるからな。だが、その程度ならばいいのだが、あれは魔法師を兵器から人にしたいらしいからな」

 

魔法師を兵器ではなく人に、その裏には九島の家にある問題が関わってくるだろうが、そのことを非難することを終夜にはできない。

近親間で生まれた子供が両者の家に存在するからだ。

研究の段階でも忌避されたそれを実行しているため、対外的にそのことを四葉は九島を避難できないし、するつもりもない。

何より差が生まれたのは、四葉の二人は健康体であるが九島の子は病弱である。

今後もないとは限らないため、常に体調確認が必要であり、そのための香波だ。

もし二人が二人暮らしを始めたら、終夜は香波を二人に付ける気でいる。

 

「人を兵器にすることは簡単だが、兵器を人にする事は出来ない。何故そのことが分からない、いや認めようとしない」

 

終夜の後を着いて来ている深夜と真夜には聞こえない小声、しかしこれ以上ない程悲痛な思いを込めて呟いた。

一時期、僅かな月日だけとはいえ、師となった相手の無様な姿は流石の終夜も見たくはなかった。

気に喰わないからこそ、他人ではなくせめて自分でいつかは引導を渡すべきだな。

終夜は改めてそのことを思い直した。

 

 

 

――――九校戦開催三か月前の話であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海上に向って出発します……過保護じゃないと書いたばかりで、どう見ても過保護な対応が有ったり……

八月一日――

発足式では達也のクラスメイト達だけが、壇上に近い位置を占拠していると言う面白いことをしていたり、達也がエンジニアの担当をするのが女子ばかりと一種のハーレムを築いたりと、話の種が尽きず中々見ものなことが続いていたりする。

そして現在、いよいよ九校戦へ出発する日になった。

八月と言う名の通り日差しも強いため、皆冷房の効いたバスの中で家の用事で遅れて来る一人を待っていた。

 

「深姫、真姫今年も来てるわね」

 

「ごめんね。私達はいらないと言ったんだけど」

 

「それなら一年に事情を説明してやってくれ。光井など目に見えて脅えていたからな」

 

「そうですね。そうしておきます渡辺先輩」

 

花音が来ていると指しているのは、バスの近くに止まっている二台の黒塗りの車のことだ。

フロントガラスを除いた全てが外部からの透過度0%と違法のスモックであり、近くにはサングラスを掛けた黒服が立っている。

何故そんな奴らが居るのかと聞かれたならば、単に深姫と真姫の護衛と遅れて会場に向かう終夜のために、事前に危険物が無いか確認する役割を追っているのだ。

軍の施設だからその心配はない、と当初は軍部の人間も断った。

しかし、三年前の大亜連合による沖縄侵攻。

それに伴う軍に所属する者の裏切り、そして四葉の人間に危害を加えていると言う事実。

そのことを持ち出されてなお、終夜を目の前にして大丈夫であると言い切れるものは誰もいなかった。

むろん年がら年中調べる訳では無く、九校戦に伴い終夜や一族の人間が入る時のみ事前に安全確認をするだけであるから、軍部の人間も許可をしたのだ。

 

「それにしても真由美の奴遅いな。そろそろ着いても良い頃だろうに」

 

「仕方ないですよ。会長は私達と違ってお見合いをしなければならないんですから」

 

「そう言うが、お前たちはどうなんだ?」

 

「私達の場合は、卒業まで待ってくれるそうですね」

 

「そうなのか?いやそうだろうな。四葉家と親密な関係を持ちたい者達は大勢いるからな」

 

国内外問わず四葉と親密になりたい者達は大勢いる。

それも個人で国を落せる魔法師の血筋ともなるとその価値は計り知れない。

そのため縁談も多く舞い込んで来ており、四葉としても今後のことや関係を考えると全てを無碍にするわけにはいかない。

しかし深姫も真姫も学生であり、学生の本分は学業であると言うこと。

四葉との関係強化または、親密になりたりあわよくば縁者になりたいと思っている者が大多数と言うこともあり、全ての縁談は高校卒業後か、二人の進路が決まり次第ということになっている。

その点を考えると遅れて来る七草は、社交的で娘の誕生日などでは多くの人を呼びホームパーティーを開いている。

社交的すぎるが故に縁談やお見合いをあまり断ることができないでいる。

 

「あ、会長来たみたいですよ」

 

「遅いぞ真由美」

 

「ごめんごめん」

 

今回真由美が急遽呼ばれたのは、正式なお見合いではなく、その話を受けることにしたので正式な日程や場所など細々とした話であった。

そのため、遅れて来るだけで済んだのだ。

正式なお見合いであったのならば、間違いなく懇親会が始まるギリギリになっていたことだろう

 

「全員そろったようなので、バスから出発してください」

 

達也はそれだけを言うとバスから降り、CADのチューニングする機材が乗った作業車に乗り込んで行った。

バスが閉まり、緩やかに進みだすのを確認した黒服たちも車に乗りこみ、バスの前と最後尾の作業車の後ろに付いた。

少ない護衛であるが、終夜自ら選出した指折りの者達ばかりだ。

十師族の当主やそれに等しい力を持つ者達であったとしても魔法だけに限らず、文字通り戦争の様になんでもありならば倒すことが可能な者達ばかりだ。

むろん四葉に牙を向けないように終夜直々に処置をしている。

 

「そう言えば今年は三校に一条と吉祥寺が入学したらしいね」

 

「一条って十師族の?でも吉祥寺って?」

 

「そう、一条将輝よ。私達は直接関わり合いがない家だからそこまで詳しくはないけど『クリムゾンプリンス』の二つ名は有名でしょ。吉祥寺のフルネームは吉祥寺真紅郎。カーディナル・ジョージの方が有名ね」

 

「カーディナル・ジョージどこかで聞いた気がするけど……」

 

「はぁ、花音いくらなんでもそれはないだろ」

 

席の前後で花音と真姫の会話に花音の横に座っていた摩利が呆れ声で割り込んできた。

 

「ちょっと度忘れしているだけです摩利さん!!」

 

「ほう、なら思い出すまで暇つぶしに舞ってみるとするか。リミットはバスが到着するまでだ」

 

「ちょっ!!」

 

摩利が意地悪そうな表情でそう言い、花音が慌てた表情をした。

 

「ついでに言うと、時間以内に思い出せなかったら五十里に言うからな。花音が覚えていなかったら勉強を教えた五十里もショックだろうなぁ」

 

「ちょっ!!摩利さん冗談ですよね!?」

 

五十里に言うと摩利が言った瞬間、本気で夏音は慌てだした。

啓に幻滅されたくないという、乙女心が働いた結果であるが、おかげで先ほどまで啓と一緒になれなかったと憂鬱そうな表情をしていた花音は日頃の自然体に戻っていた。

だからと言って思い出せるかどうかは別問題なのだが。

 

「さてどうだろうな」

 

「酷いですよ摩利さん」

 

花音が窓もたれ掛かり景色を見ることで逃避しようとした、その時だった。

 

「危ない!!」

 

対向車側の車が傾いた状態で路面を走行していた。

そしてその車がスピンを起し、どんな偶然かガード壁に衝突、宙返りを起しながら飛び込んで来たのだ。

バスに急ブレーキがかかり、全員が一斉につんのめり、シートベルトをしていなかったものは前の座席にぶつかった。

だがバスは停車し、直撃することを避けることができたが、進路上に落ちた車は勢いを落しながらではあるが、炎を巻き上げ滑ってくる。

しかし遅れてブレーキをかけた一校生徒を乗せたバスの前を進んでいた黒塗りの四葉の車にぶつかろうとした。

 

「吹っ飛べ!!」

 

「消えろ!!」

 

「止まって!!」

 

パニックを起こさなかったことは褒めるべきであろう。

しかし無差別に魔法を放ったことが帰って状況を悪化させてしまった。

無秩序に発動された魔法が、無秩序に事象改変を同一の物に働きかけてしまった。

その結果、バスの前方を走っていた車に乗り込んでいた終夜の手の物が魔法を発動しようとするが、魔法が相克をお越し事故回避を妨げることになってしまった。

 

「ぶつかる!!」

 

バスに乗っていた誰かが叫んだが、それが誰なのかを確かめる余裕を残している者は誰もいなかった。

嗢鉢羅、大きな声ではなかったのにもかかわらず、その声はバスの中にいる者全員が聞いた。

瞬間、炎を巻き上げながら滑って来た車が一瞬にして凍りつき氷が地面と車を縫い留めた。

想子(サイオン)が無秩序に荒れ狂う車周辺諸共を凍りつかることで、車にかかっていた魔法を無視したのだ。

 

「まさか今の」

 

「間違いない。お父様が彼を投入するなんて」

 

「二人はさっきの魔法が誰がしたものか知っているのか?」

 

「知っています。氷川仙志、お父様も認める指折りの実力者です。まあ何となく関わり合いになりたくはない人なんですけど」

 

「ただ、彼を投入して来たと言うことは今回の九校戦に何かあるか、彼を連れて行くほど重要な案件があるか」

 

氷川もまた、四葉に仕える調整体魔法師、『氷』シリーズの第一世代であり、『桜』シリーズが盾としての役割を持つ者達ならば、『氷』シリーズは矛としての役割を持つ。

攻撃こそが最大の防御を体現する存在で、敵性存在を狩ることこそが役割であり、氷川仙志は戦術級の力を持っている。

 

「そこまで信を置いているとは……」

 

摩利は、改めて氷漬けにされている車を見た。

 

 

 

 

「相変わらず凄い手際ですね仙志さん」

 

「そうでもありませんよ」

 

サングラスを掛けた黒服の男が件の男、氷川仙志に称賛の言葉を送ると、仙志は苦笑い気味に答えた。

目を閉じているかと思うほど細い目をして、常に作ったような笑顔を張りつかせている。

体型も大よそ要人警護に向かない線の細い体型をしている。

 

「しかし危なかったですね。私が居なければ今頃バスを捲き込んで爆発していましたよ」

 

「バスには深姫様や真姫様、それに深雪様も乗っておられますし、十文字家の当主いえ、代表代理でしたね。それに七草の長女も乗っておられますから事故に発展しなかったのでは?」

 

「確かにそれがただの自爆特攻であれば問題なかったでしょうが、誰も爆発物には気が付いていなかったようですからね。このまま人命救助や現場記録だのをやり始めていたら間違いなく人死にになっていたでしょうね」

 

「自爆特攻、誰かが四葉の者を?」

 

「いえ、それにしてはやり方が杜撰すぎますね。目的はもっと別の……そう、例えば九校戦に出場する選手が標的であったとしたら?」

 

「確かにそれならば、この程度の手口で十分でしょう。ならば何故爆発物を?学生程度ならばただの自爆特攻で十分では?」

 

「ええ、そうでしょうね。しかし相手も選手の中に四葉姓の者がいると事前に知っていたら?」

 

「まさか、九校戦の運営委員が外部に情報を洩らしたと」

 

「十分考えられますね。少し先を急いだ方がいいかもしれません。運営委員は後でいくらでも調べられますが、会場となると時間が掛かりますからね」

 

「そうですね。後続に後のことを任せて我々だけ先を急ぎましょう」

 

「連絡は私がしておきますね」

 

「お願いします」

 

仙志は、細い目を僅かに見開き窓の外にある氷図気になっている車を見据えると懐から連絡用の携帯電話を取り出した。

見た目こそ今では珍しいアナログ式ではあるが、目的が個人ではなく組織で運用する物。

それも連絡用ともなると、通信が如何に傍受されないか、またデータの暗号化書式が如何に丈夫であるかが求められた結果、今の物に落ち着いたのだ。

そこから連絡する相手の名前を見つけると、通信のボタンを押した。

ツーコール鳴らしてあえて一度通信を切、もう一度かけ直すとワンコールなった後直ぐに通信が繋がった。

 

『こちら二号車』

 

「こちら一号車、前方の氷漬けになっている車は見えますか?」

 

『いえ、こちらからはバスが死角となって見えません』

 

「分かりました。ではこちらの状況説明をします」

 

そう言うと、仙志は状況を簡単にまとめて伝えた。

対向車線にあるガードを乗り越え車が飛び込んできたこと。

その車に学生が一斉に魔法をかけた事。

相克を起した状態では、魔法が真面に発動しないやむを得ない状況と判断し、車諸共社内の運転手を瞬間凍結したと伝えた。

また、車内には時限式の爆発物があり、それも一緒に凍結しているため現状は大丈夫だが、いずれ解凍する可能性を考えると警察に連絡する際、爆発物処理班を呼び解体してもらう必要が有ることを伝えた。

時限式の爆発物が通常の車にあるのはおかしく、自爆特攻もしくは人為的なものの可能性が高いが計画があまりにも杜撰であり狙いが四葉ではなく九校戦に出場する一校生徒が標的の可能性が高いと考え、会場の確認を早めるために、警察などの事後処理を頼むことを伝えた。

 

『状況を理解した。あとはこちらで処理をしておく』

 

「分かりました。ではこちらは一足先に安全確認をしておきます」

 

それだけを言うと通信を切った。

 

「出してもらって結構です。あとは後続が諸手続きしていただけることになりましたから」

 

「分かりました」

 

仙志を乗せた車は、一校のバスを置いて先に進むことにした。

元々の役割が護衛よりも事前の安全確認が優先されているため、後々終夜から怒られると言うことはない。

それに後続が継続して護衛の任に着き、先ほどの一件もあるため警察から護衛も着くことが予想されるため、問題ないと仙志は考えた。




氷川仙志の人気があるようなら、今後も使って行きたいと思います。
元々使い捨て予定のキャラですから。



終夜にブラックホールクラスター使わせるのセーフですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分らしくないことを言うと自己嫌悪に陥るものだ

九校戦はそのあり方上、軍の施設を使っている。

十師族や師補十八家のような例外を除けば魔法師と言う性質上、殆どの生徒が軍人の道を進んでおり、軍としても将来優秀な魔法師が軍に進んでもらうために九校戦には全面的な協力をしている。

そのため、ホテルなども高官や外国の官僚が止まる様な高級なホテルを九校戦の期間限り貸し切ってくれている。

 

「ではやはり先ほどのは事故ではなかったと?」

 

「跳び方が不自然だったからね。ただ、時限式の爆発物が積まれていたから詳しくは調べさせてもらえなかったんだ。すまないな深雪、危険な相手がお前を狙っているかもしれないのに」

 

「いいえ、お兄様。お兄様が謝る必要はありません。それに何かあったらお兄様が守ってくれるではありませんか」

 

「そうだな。たとえどんなことがあろうと深雪だけは守って見せる」

 

「お兄様!!」

 

深雪が感激の視線を達也に向ける中、例え相手が誰であろうとも、そう達也は改めて決意を固めた。

しかしその決意が役立つことは今後永遠にないと本人はその時まで知ることはなかった。

 

「ただ、一つ分からないことがある」

 

「お兄様に分からないことですか?」

 

「分からないと言うよりも疑問と言うのが正しいかな。何故あの人がただの警備に駆り出されているのか」

 

「氷川さんですね」

 

「あの人が直接来たと言うことは、それだけの何かがあると言うことだ」

 

「伯父様も来られますから、きっと香波さんもご一緒になるはずです」

 

「矛と盾が揃うと言うことは、それだけこちらも注意しないといけない。深雪、何かあったらすぐに知らせるんだ」

 

「はい、お兄様」

 

そんな会話をしながら、達也と深雪は手荷物を持ってホテルの中に入って行った。

 

 

 

 

一校メンバーがホテルに着いた頃――

 

「思ったよりもありましたね」

 

「はい、一校の主力となる人物の部屋に死角なく隠しカメラと盗聴器を設置するとは思いもよりませんでした」

 

「特に深姫様と真姫様の部屋の数は異常でしたね」

 

「まさか、一部屋にあれだけの数を設置するとは、相手は隠す気があるのでしょうか?」

 

「どうでしょう。私では判断しかねますが、それだけ警戒していると言うことになりますね」

 

「そう考えたとしても数が異常だと思います。仮にも軍の施設ですからこれ出しかければ、ばれる可能性が高く為りますから」

 

「そこなんですよ、分からない所は。軍の施設に仕掛けるのもそうですが、仕掛けられているのにも関わらず、軍が未だに気付いていない、もしくは気づいていても取り除いていないことがおかしいのです」

 

「確かにそうですね。今が九校戦の時期ですからまだ被害が少なくて済みますが、これが平時ならば国際問題に発展しますから」

 

氷川を始めとした先行してホテル入りしたメンバーは、最初に一校生徒が入る各部屋を捜索した。

その結果、出るわ出るわと探した方が引いてしまう量の盗聴器に隠しカメラが出て来たのだ。

ただ解せないのが、これだけの量の物がありながら、軍が気が付いていないと言うところだ。

各国の要人も利用するホテルでこれだ、下手をしたら国際問題になるのが分かっているはずだ。

原因が軍の施設だからそのような物を設置する者がいないだろうと言う慢心からか、もしくは取り付けたのが軍なのか。

どちらが相手なのか、それとも両方なのかをはっきりする必要がある。

 

「そろそろ終夜様がお越しになる時間ですね」

 

仙志は徐に腕時計で時間を確認すると、終夜が付く予定時間を示していた。

 

「そうですね。この件も含めて報告しておく必要がありますね」

 

「報告は私がしておきますので、皆さんはその間に危険が起こり得るであろう競技の会場の確認を後続の者達と確認して来てください」

 

「分かりました」

 

会話をしながら仙志たちは、終夜が降りるホテル前へと向かった。

仙志たちがホテルの入り口で待つこと数分、黒塗りの一目で高級車と分かる車が入って来た。

その車がホテル前に停車すると、その扉を黒服の男が開けた。

最初に下りて来たのはスーツ姿の香波であった。

降りた瞬間狙撃などの危険性を考え、最初に香波が降りると、周囲を見回し安全確認をすると、念の為にと魔法で対物障壁を発動した。

 

「大丈夫です」

 

香波が、車の中に座っている和服姿の男に伝えると、その男、終夜も車から降りて来た。

 

「お待ちしておりました」

 

黒服の男たちが一斉に頭を下げている光景は、何も知らない人たちが見たら一昔のヤクザな人たちと勘違いするだろう。

 

「それで、何かあったか?」

 

「ここでは誰に聞かれるか分かりませんので詳しい話はお部屋で」

 

仙志がそう言うと、終夜のためにとってある部屋まで先導した。

他の黒服たちは、事前の打ち合わせ通り選手に危険が及ぶ競技の会場を確認をしに行った。

終夜に用意された部屋はVIP専用に用意された部屋で、用意されている椅子一つ見ても、一般的サラリーマンの年収を超える価値をしている。

普通の人ならば気後れして座れないであろう椅子に、終夜は臆面もなく座ると、足を組み仙志を見据えた。

 

「では、改めて報告を聞こう」

 

「はい。初めに護衛の員の報告からさせていただきます」

 

仙志はいつもと変わらない張り付いた笑みで、報告を始めた。

 

「まず初めに、一校のバスが襲撃にあいました」

 

「何!!下手人はどうした」

 

「自爆特攻であったこと、一校生徒が無差別に魔法を発動したため、私が車諸共氷漬けにしてしまいました。爆発物も搭載していたことを考えますと失敗した場合のことも考えていたようです」

 

「学生が無差別に発動して出来た想子の嵐程度ならば達也がどうにかしたのではないか?バスには深雪も乗っていたであろう」

 

「ここで達也殿の能力が露見するべきでないと愚考し、私が処理いたしました」

 

「いや、それは適切な判断だ。未だ次期当主が決まっていない段階で深雪と達也の正体が露見するのはあまり良い展開ではない。寧ろよくやった」

 

「ありがとうございます」

 

仙志は、張り付かせた笑みのまま礼を言うと頭を下げた。

 

「次に安全確認ですが競技施設は現在確認中ですが、ホテル内にて一校生との部屋全てに隠しカメラと盗聴器が仕掛けられていました」

 

「すべて取り除いたか?」

 

「はい、ひとつ残らず回収済みです」

 

「分かった、その件に関しては俺が直接軍に苦情をいれておこう。報告は以上か?」

 

「はい、ただ一つ私的に考えたことが」

 

「言ってみろ」

 

終夜が、足を組み直して言った。

 

「今回の隠しカメラや盗聴器は、襲撃したものとは別の組織であると考えられるのです」

 

「ほう、何故そう思う」

 

「九校に出場する選手しか利用しないとはいえ、ここは軍の施設。それも外国の官僚などが使用する場所です。そのような所に侵入された挙句何かを仕掛けられているのです。もしこれが外部の組織によるものならば怠慢が過ぎますが、これが内部の犯行ならば」

 

「氷川はこれらを設置したのが国防軍であると?」

 

終夜は、仙志たちが見つけ出し取り外した盗聴器や隠しカメラを掴み上げて訊いた。

 

「恐れながら、私はそうだと思います」

 

国防軍とて一枚岩ではない。

十師族の権力を軍から排斥しようとする派閥も有れば、大亜連合に強硬的姿勢を見せている派閥もある。

九島烈(クソジジイ)の息がかかった派閥も有れば、四葉が懇意にしている派閥もある。

七草はどちらかというと、公安と懇意にしていたりする。

仙志が考えた通り国防軍が設置したとするならば、十師族が同時に多数在籍している一校を監視、または弱みに繋がる情報を集めようとするのも肯けることだ。

 

「この事は黙っていろ。何れ向こうから尻尾を出すだろうからな。これだけの量を設置したのだ部屋だけとは考えにくい。氷川他の場所も念のために探させておけ」

 

「分かりました。では、私はこれで」

 

そう言うと氷川は部屋から出て行った。

 

「ふぅ、疲れた。やっぱり俺のキャラじゃないわ」

 

「お疲れ様です終夜様。ですが、日頃の終夜様を見慣れていると失笑を禁じ得ませんでした」

 

香波が口元を抑えながら答えた。

本来ならばそのような不敬な態度を取ること自体許されないが、二人の間にあるある種の信頼関係がそれを許していた。

 

「しかし氷川の報告が事実ならば、忌々しき事態だな」

 

「四葉に対する敵対、または諜報行為なのか、それとも十師族の存在に危機感を覚えている派閥の諜報行為のかをはっきりさせる必要があります」

 

「どちらにしろ四葉に害が及ぶのは確かだ。ここいらで一度釘をさす必要があるな」

 

「そうですね。九島閣下との面会はどうなさいますか?」

 

「懇親会の後なら十分時間を取れる。今急ぐ必要はない」

 

「分かりました。では、お部屋だけ準備しておきますね」

 

香波はそう言うと部屋から出て行った。

香波が出て行くのを確認した終夜は椅子から立ち上がると、大きくのびした。

そして窓から外を見た終夜は、大きくため息を吐いた。

何も考えていなかったのだ、懇親会でのスピーチの内容を。

今年も九島烈が無駄に肩の凝るような内容を言って、学生から多くの尊敬の情を受けるのは目に見えている。

どうせ、偉そうに「私は諸君の工夫を楽しみにしている」とか何とか言うのだろうと終夜は予想している。

何だかんだで、古い付き合いである。

僅かな時期だけではあるが、師弟でもあったのだ。

大よそ何かを教わった記憶はないのだが。

だからこそ、終夜は九島烈の人となりをそれなりにではあるが理解しているのだ。

そして、魔法師を兵器ではなく人であり続けさせたい理由も――

だが、それは終夜に引いては四葉には関係のないことだ。

 

「しかたない、今から考えるか」

 

面倒だと思いつつも終夜は、椅子に座るとタブレット型携帯情報端末を取り出すと内容を考え出した。

 

 

 

 

その日の夕方のことであった。

なぜ九校戦開催前々日に各校が集まり終わっているかとと言うと、懇親会と称した立食式のパーティがあるのだ。

実際にはパーティとしてよりも、プレ開会式としての意味合いが強いため和やかな雰囲気で行われることはなく、むしろ緊張感で空気が張り詰めている。

選手だけで三百六十名裏方を合わせたならば四百名を超えるが、その中でも一際目立つ存在が居た。

一校では、十文字克人、七草真由美、四葉深姫と真姫。

この面々が目立つのは仕方がない。

魔法師社会の象徴とも言える十師族の直系だからだ。

見た目も女性陣は華があるため尚のこと目立つ。

克人の場合は、その厳格さが人の形を取った巌のような男なため別な意味で目立っていた。

そう言った意味では正反対に目立つ存在が三校の一条将輝だ。

こちらも十師族の直系ではあり、その凛々しい顔立ちから同級生やお姉様方から熱いまなざしを受けている。

そして当の将輝はと言うと、表面上、個精気上では十師族ではない。

しかし、その容姿ゆえに目立つ深雪に只ならぬ視線を他の男どもと一緒に向けていた。

ついでに言うと、深姫や真姫に熱い視線が送られていないのは純粋に四葉終夜(親バカ)が原因だったりするのだが、それを知らない一年生たちは無知ゆえに熱い視線(尊敬の眼差し)を向けていたりする。

 

 

 

 

 

来賓の挨拶では、順調に祝辞や訓辞が述べられて行き、老子と多くの魔法師から尊敬の念を一手に集めている九島烈(クソジジイ)の話が終わると、それを聞いていた生徒達は今までの祝辞や訓辞を述べていた来賓の人達とは本質的な意味合いが違う拍手をした。

そして、やはりと言うべきか案の定と言うべきは、終夜の予想は的中し、九島烈は(終夜視点で)ドヤ顔で「私は諸君の工夫を楽しみにしている」と言ったのだ。

 

「相変わらず魔法師を人間として扱いたいようですね、クソジジイ」

 

「君たちは、無知な子供たちに兵器としての選択肢以外を与えないつもりかい?」

 

「これは手強い。ああ、それとこの後お暇で?出来れば直接お話ししたい事があるのですが」

 

「ふむ、君から直接話をしたいとは珍しい。だが、まあいいだろう。私もこの後は特にこれと言った用事はないのでな」

 

「そうですか、それは良かった。ではこの後、部屋はこちらで用意しているので迎えを寄こしますね」

 

すれ違い様に烈と終夜は、笑顔で話し合った。

しかしお互いの主義主張が正反対なためか、目が一切笑ってはいなかったが。

 

『続きまして、同じく魔法協会理事四葉終夜様より激励の言葉を賜りたいと存じます』

 

名前を呼ばれた終夜は、烈が出て来た場所から壇上へと向かった。

四葉終夜。

九島烈と並んで、魔法師社会においてその名を轟かせている既に歴史に名を遺した偉人が出て来ると言うことで学生の間で緊張感が高まっている。

 

「さて、クソジジイじゃなかった、九島烈の後と言うこともあり君たちがそれなりに俺に期待していることは分かった。ならば一つ九島烈が言った魔法の扱いを披露してやろう」

 

終夜が放った第一声はこれだった。

次の瞬間、生徒たちの目の前から終夜の姿が消えた。

 

「さて、今俺がどこにいるか分かる奴はいるか?」

 

声だけが聞こえる。

しかし肝心の姿が見当たらないため、生徒たちがざわめき立つ。

 

「どうやら誰も見つけられないようだな。一人位は見つけきれるかと期待していたのだが、流石に本当の戦場(地獄)を体験したことのない君たちには酷であった様だな」

 

終夜がそう言うと、マイクを持った終夜が会場のど真ん中に立っていたのだ。

僅かなうちに移動していたのも驚きだが、会場のど真ん中人目に付きやすい格好をした終夜に誰一人として気づいていなかったのだ。

 

「これは一切工夫も何もしていない魔法だ。種明かしをするならば君たちの脳に直接魔法を働きかけ俺を文字通り認識できなくしたのだ」

 

終夜から発せられた言葉で更に会場がざわめき立つ。

人の認識を本人から逸らせたり、意識させる対象をずらすことは思っている以上に魔法で簡単に実現する。

ただし、それにはいくつもの条件が付きまとう物であり一度違和感に気付かれたらバレてしまう様なものであり、決して完全に認識できなくするものではない。

 

「つまりこの一瞬のうちに君たちの殺傷与奪の権利は俺に有ったわけだが、本当に今君たちが認識している俺が本物であるかどうかだが……ふむ、流石にこの魔法に気付けと言うのは経験が浅い学生には酷だったようだな。先ほどの言葉は撤回しよう」

 

終夜がそう言うとパチンと指を鳴らした。

すると先ほどまで皆が注目していた、会場の中央にいたはずの終夜はその姿諸共霧散し、最初の時と変わらない壇上の位置にいた。

 

「この魔法だが、これは俺が君たちよりもまだ若い十四歳の頃によく使っていた魔法だ。この魔法は応用性が高く、先ほどの視覚や聴覚だけではなく触覚や臭覚にもその効果を及ぼし、大漢の命令系統をズタズタにしたものだ。無論これは序の口、本当に恐ろしい使い方は、今君たちの横にいる仲の良い友や仲間を、敵として認識させることで同士討ちさせた」

 

実体験からくる内容だけに、終夜の放つ言葉には凄味があった。

特に近代史においては、大漢の崩壊の原因でもある終夜の事は詳しく乗っている。

流石にどのようにして実行したのかまでは分かっていないため、詳しく乗っていたとしてもその内容は大亜連合からもたらされたものであり、細部まで補完するには至っていない。

それを今学生たちは身を持って体験したのだ。

得難いものではあるが、一生得たくない経験でもあった。

 

「さて、今ので俺が何を言いたいか理解できたものはいるかな?」

 

端から端までを一通り見回した終夜は、誰も理解できていないことに僅かながら残念に思った。

せめて、娘たちだけは気づいてほしかったなどと思っていたりもしている。

 

「ようは、常日頃から慢心や油断を持ってはならないと言うことだ。格下だからと侮れば足元をすくわれるのが戦場だ。そしてこれから始まる九校戦も見かたを変えたら学校の名誉を背負った代表戦役、詰まる所人数が制限された戦争だ。特に君たちは一般人にはない魔法と言う稀有な才能を有している。その分魔法師がどのようなものか知らない者達にとっては時として恐怖の対象ともなりえるのだ」

 

終夜の言っていることは、現在日本を含め世界中で問題になっている。

魔法師は人間にあらずと言う考えを持つ者達もおり、差別的な見方をされることもある。

どの時代どの国にも、教育などからその国に対する反社会性の人間を作ろうとする国は必ず存在する。

 

「噛砕いて言うならば、常に銃口を向けている者と誰も仲良くしがたいと言うことだ。銃を持つ者が信頼に値すると知っている者ならば良いだろう。しかし君たちの周りにいる者達が初対面でどのような人物か分からない。そして相手がいつ魔法を発動するか分からないと来た。さて、君たちらはそのような相手と仲良くできるか?出来ないであろう。それが反魔法師社会の考え方の一面だ」

 

もっと詳しく話をすると終夜に僅かばかり原因が有ったりするが、自分の弱みを自らばらす程終夜はマゾヒストではない。

 

「この話だけでは君らが街行く人々に疑心を持ってしまう可能性が出て来るな。警戒するに越した事はないが、それで疑心暗鬼に囚われてしまうようではだめだ。ならば如何するか、信頼できる人間を作ることだ。幸いにして今この場にいる者達は、各校の代表であり、将来名をはせる者達が出て来るかもしれない場だ。それを活かさない手はないと思わないか?俺の場合は既に前歴があるために友と言える人間がほとんどいない。君たちには俺の様になってほしくはない。君たちにはこの大会の優勝こそ目指すべきだろうが、俺としては大会は二の次三の次、信頼できる友を見つけ友情こそを深めてほしい。以上だ」

 

終夜は自身の言葉をらしくないな、と僅かばかりに自己嫌悪感を抱きながら壇上から降りて行った。

しかし終夜にとって真に問題なのはこの後のことだ――



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。