【ストパンVR】初見で最高難易度だけど超余裕 (Kkmn)
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キャラクリ

はい、今回は話題沸騰中のシリーズ最新作!フルダイブ式ゲーム「ワールドウィッチーズVR」のシナリオモードを初見でプレイしていきたいと思います!

しかも外国限定の無規制版なのでエログロばっちり!

 

 

あのストライクウィッチーズの世界をVRで完全再現!ウィッチとなって彼女たちと共に空を駆けよう!!

 

 

うっわオープニングのクオリティやっば。金かけすぎでしょ。

 

で、すんばらしいOPの後はメニュー画面。 『ニューゲーム』、『コンティニュー』、『設定』、『アルバム』、『オンライン』、etc…。

そらもうニューゲームよ!はよ!はよプレイさせておくれ!!

 

ん?『難易度を選択してください。初心者はEASYをオススメします』…?

 

 

…じゃあ最高難易度のインフェルノでwwww何とかなるでしょwwww

 

 

 

 

あ、でもまぁ・・・一応Twi〇terで情報収集だけでもしときましょうか。どれどれポチポチ…。

 

「序盤から超大型やら特異種ネウロイなどのオンパレード」?

 

「敵の攻撃がアホみたいに超痛くなります」?

 

「シールドはほぼ一撃で割られ、二期以降の坂本少佐の気分を味わいたい方にオススメ」

 

「普通のプレイではまずクリアできず、余裕で人類滅亡させちゃいました><」

 

「それどころか滅亡を見届ける間もなく普通に戦死してしまうので、生存重視のビルドで臨むのがいいでしょう」…へーなるほど。

 

 

 

 

 

さてそれじゃあまずはキャラクリエイトしていきましょうか。

一番最初に決めるのは…なになに?『年齢』…?

どんな影響あるんじゃろ、こういう時はネット掲示板のテンプレでも見ればええねん。

 

 

 

『Q.キャラクリの年齢は何に影響してくるの?

A.ウィッチは20代に差し掛かると基本的に上がりを迎え、魔力が減衰し前線で戦うことが難しくなります。

このゲームでもそれはもちろん再現されており、18歳程度を最盛期にその後はどんどん魔力の衰えが始まります。』

 

ははぁ~なるほど。さながらパ〇プロのマイライフで30代後半に差し掛かったプロ野球選手のような具合かな?

 

『なのでウィッチとして戦える年齢をわずかでも増やすため、可能な限り低い年齢でスタートするのが望ましいです。

しかし年齢を下げるとその分選択できる『経歴』が減ってしまいます。』

 

経歴って?

 

『例えば13,14歳で選べる「士官学校卒」ではウィッチの教育課程を完全に満了し、場合によれば幹部階級からのスタートも可能です。

もちろん初期能力値もかなりボーナスされた状態、最初から部下や良い装備を入手する機会に恵まれています。

さらに士官学校での交流で得た他ウィッチとのコネクションも最初から有していることもある盤石っぷり。

特別なプレイでもなければ、この「士官学校卒」を選んでおけばクリアまで困ることはないでしょう。

一方、「現地徴兵」や「ウィッチによる勧誘」などは初期ボーナスの恩恵が少なくオススメできません。』

 

 

ははぁ・・・なるほど。

 

 

『しかし一方、最低の10歳からのスタートで選べるのは…例えば「軍によるスカウト」

原作キャラクターだとルッキーニ等が同じような経歴ですね。

この『経歴』だと一般人が最低限の訓練で放り込まれるわけですから、良くて階級は軍曹からのスタート。

それに加え初期能力値、初期装備もかなり低水準での開始であり、到底序盤を生き残るのは難しいでしょう。』

 

 

なるほど、若ければそれだけ長い間戦えるけど、最初あたりが辛たんって感じなのか。

 

 

『「緊急徴兵」の経歴も似たようなモノで、進むルートや一部イベントでの選べる選択肢が増えるくらいでしょうか。

原作だと主人公の宮藤芳佳ちゃんがコレですね。』

 

 

ふーんなるほどなるほど。まぁ別に高難易度だけど初見だし、変にひねくれず無難に13歳で 「士官学校卒」……

 

 

 

 

 

 

 

670 名前:名無しのゲーム好き

なぁ、このゲーム開始時のウィッチの最低年齢って10歳だよな?

……なんかそれ以下の年齢でシナリオ始まっちゃったんだけど。

 

 

678 名前:名無しのゲーム好き

>>670

画像もなしにそんな

 

682 名前:名無しのゲーム好き

>>670

やり方!はよ!

 

709 名前:名無しのゲーム好き

httsps://i.imgor.com/kPdQxin.jp〇g

ほらよ

 

711 名前:名無しのゲーム好き

>>709

(´・ω・`)おほーっ!!詳細!!!kwsk!!

 

 

 

 

 

…えっなんだこの書き込みの画像…うわ、マジじゃん!!ステータス画面みたいなところに9歳って書いてる!!

 

 

 

 

765 名前:名無しのゲーム好き

>>711

推測でしかないし、バグか仕様かわからんけど。

多分特定のスキルを持った状態のキャラで特定の経歴でスタートしたらこうなるっぽい。

俺の場合9歳からスタートすることができたけど、再現性は微妙。

 

 

777 名前:名無しのゲーム好き

ルッキーニでも10歳スタートなのに一桁でウィッチはヤバイだろ

 

780 名前:名無しのゲーム好き

その現象こっちの環境でも再現できた。

多分これバグとか仕様じゃなくてルート分岐の一種じゃないかな?

 

 

 

 

ほうほうなるほどなるほど。あーしてこーすれば一桁ウィッチとして生を受けれるんだな…よし!

面白そうだからコレで始めて見るかwww何とかなるでしょwwww

 

 

じゃあ早速そのルートに突入する為に必要なスキルの割り振りをしていこう。

 

 

 

 

初期選択スキルですが・・・まずはバッドスキル、所謂『赤スキル』をこれでもかと言わんばかりに盛りまくりまーすwwww!!wwww

うおおおお「近視」「病弱」「疾病持ち」「トラウマ持ち」「臆病」「鳥目」「パニック癖」「打たれ強さX」「ガラスのハート」「スロースターター」「ケガしにくさ×」・・・あーもうめちゃくちゃだよ(他人事)

 

 

あ、これは決して縛りプレイじゃないよ?これにはちゃんと理由がありますwww視聴者兄貴安心してwww

 

今作の初期選択スキルの選択だけど、実はそのままでは選択不可能なスキルが幾つかあるらしく。

例えば《超再生》や《探知魔法》等の固有魔法・・・スキルは最初から選択できるらしいけど、《治癒魔法》や《魔眼》といった強力な魔法はそのままでは選べません!?へぇっ!?

その分、その強力さに見合ったバッドスキルを幾つかセットで入手しないと選択できないようになっているらしい。

そうしないと魔眼や治癒魔法のバーゲンセールになってしまうからね、しょうがないね。

 

 

・所持スキル

【銃器/G-】:銃器を扱う技術。G-は僅かの知識すらない。銃器の使用時、大幅なマイナス補正を得る。

【空中適正/G-】:航空兵器のパイロットや航空ウィッチに必須の素質。G-は生まれたての雛レベル。空中での機動に大幅なマイナス補正を得る。

 

【近視】:視力が低く遠距離の物体を正しく把握できない。武器の使用時、射程距離に大幅なマイナス補正。

【病弱】:生まれつき身体が弱く、病気がちである。疲労時、リロード速度・攻撃速度に大幅なマイナス補正。

【パニック癖】:あなたの心の器は突然の事態に対応できるほど大きくない。被弾時にスキルの効果・全ステータスに大幅なマイナス補正。

【スロースターター】あなたは今までいつも自分のペースで物事を進めてきた。戦闘開始から一定時間、素早さに大幅なマイナス補正。

…etcetc

 

 

うわぁ・・・見てくださいこの真っ赤に染まったスキル欄を。これ全部バッドスキルですよwwwww草もはえないwwww

で、今回この盛りに盛った代償の対価として得られるのがそう・・・あったあった。これですよ。

 

 

 

《 未 来 予 知 》 !!

 

: ウィッチが発現する固有の魔法。数秒先の未来をヴィジョンとして視認することが出来る。

 

 

 

そう、あのスオムスのスーパーエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネンの固有魔法ですよwwww

もちろんこのゲームにおいても最強スキル筆頭候補の強力なスキルらしい!勝ったな風呂入ってくる。

てかスレッドを読んだ限りだと、これくらいの強力スキルが無いと難易度インフェルノだとやってられないとのことwwwどれだけヤバイのwww

 

んでんでんで最後に年齢は13歳で経歴は・・・「士官学校卒」と。

え?8歳はどこ行った?タイトル詐欺?

 

いえいえ大丈夫だってwwwwちゃんとゲーム開始時まで待ってください安心してくださいよ。

 

で後の外見は・・・適当でいいや、黒髪ふわふわのお嬢様ヘアーで行きましょう。

13歳時点でのキャラクター外見になるから、多分これよりかは幼くなるんだろうけど・・・まぁ胸はスライダー最大で行くか。

 

 

よし、ちゃんと《病弱》で「士官学校卒」・・・よし、ダイジョーブですね!それじゃあ早速ゲームスタートしましょう!

 

『キャラクターメイキングを終了し、ゲームを開始します。よろしいですか?』

 

 

 

いえーすwwwww未来予知幼女ウィッチとしてプレイスタートwwwwww

 

 

 

あっ、意識ががががが。

 

 

 

 

 

 

870 名前:名無しのゲーム好き

待ってこれ、お前ら盛り上がってる所悪いけど公式サイトの告知みた?

 

873 名前:名無しのゲーム好き

(´・_・`)お?なんかアプデきた

 

874 名前:名無しのゲーム好き

緊急アプデ?深刻なバグの修正パッチだって('ω'`)

 

 

 

 

 

875 名前:名無しのゲーム好き

>>開発が予期していない未実装のルートに進行してしまうバグを修正しました。ウィッチとして想定以下の年齢で開始してしまうとこのバグが発生します。

>>該当するセーブデータでは絶対にプレイを継続しないで下さい。心身に重篤な影響を及ぼす可能性があります。

 

 



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OP

──June,1943

  Somewhere near isola-di-sicilia

  -(Civ) Miki Takeda

  Transport ship VIP room

 

 

「…お嬢様のご容態はどうだ。」

「はっ。今朝は多少船酔いで不調を訴えられてたご様子ですが、現在は安定されております。」

 

…うん?何このめっちゃ渋い良い声のオッサン達の会話、ここはどこでしょうか?

どうやら自キャラ…私はオフトゥンで横になっているようですね、首を動かしてあたりを確認してみましょう。

 

おぉ、THE☆和風な上に超高級そうな装飾や家具が小奇麗に並んだ何とも巨大な薄暗いお部屋。

壁にかけられた綺麗な花模様の提灯と、窓から零れる明かりだけが光源の寂しいカンジ。

 

ん?あれ?でもこの部屋揺れてない?どうなってるの?少し立ち上がって周囲を探索してみましょうか。

 

「んっ…あぅっ…!?」

 

うおおおっ!?立ち上がろうと体を起こしたとたん、とんでもない眩暈とダルさが襲ってきました!!

まるで屋上で先輩と日焼けしてて睡眠薬入りアイスティーを飲んだ後の後輩のように立っていられません、大人しく壁によりかかりましょう!

 

ぺたん、と手と身体全体を壁によりかかりますが…あれ?この壁、なんか凄い冷たいぞ?

んん?よくよく見ればこの壁、なんと無骨な鋼鉄ではありませんか!それもむき出しの!

 

お、てか隣に窓あるじゃん!

 

───ざざぁん…ざぶ…

 

海風に揺れる水面。そしてそれを静かに照らす綺麗な満月。

そして満点の星空に輝く無数の星々と、それを鏡のように反射する地平線まで広がる海原。

 

「おぉ…きれい…」

 

すっごい…凄まじい美麗なグラフィックです。

これには少し感動を漏らして呆然と見とれてしまってました。

 

あれ?そういえばさっきから耳元で聞こえるちょっと舌っ足らずで超甘い可愛いロ〇声は一体…!?

 

 

「お、お嬢様!?お目覚めになられていたのですか!?」

「…ふぇ?うわぁっ!?」

「いけません、まだご体調も優れぬ内にお身体を動かしては。」

 

 

うおおおっ!?い、いつの間にか背後に!背後に巨大な渋いおっさんがぁっっ!!

そしてその超デカいオッサンが私を両腕でにゅっと抱えてっ…うわー誘拐される!

 

…ってあれ?オフトゥンに私をそのまま優しく横たわらせて?このデカいオッサンいい人なの?味方?お嬢様?

 

「…このような窮屈な御部屋に何日も閉じ込められてしまっては、外が恋しくなるご心中もお察し致します。

 ですがもうしばらくだけ、ご辛抱下さい。」

 

そういって渋いデカいオッサンは恭しい正座して頭を深々下げて…超礼儀正しいやん!

 

「えっと…ううん、だいじょうぶ。ごめんね。」

 

とりあえず流石に深々とお辞儀されて無反応は良心が痛むので、それとなく流す返事をしてみましょう。

てかやば、このロ〇声自分の声ですか!?とんでもねぇ犯罪臭がしますね。

そのうえコレ凄いですね。口調補正が働いてるらしく、普通に『わかりました。』って返しただけなのに、辿々しい子供そのものの話し方になっちゃってますね。

 

「何を謝られることがありましょうか、こんな不便な船での御生活を強いているのは私どもだというのに…!

ですがご安心ください。ロマーニャに到着すれば、お嬢様のお身体はきっと良くなられます。」

 

───ロマーニャ?ですか?あのイタリアに近い立ち位置の、あの欧州の国?

 

はて、ますます分からなくなってきましたね。この部屋の和風な内装、さっきから視界にちらつく黒いふわふわ髪、サムラァイのようなおじさん。

どうやら間違いなくにほ…じゃねーや扶桑の人間なのは間違いないようです。

しかし、どうしてそれが遠く離れたロマーニャに向かっているのでしょうか?

 

「長きに渡ったこの船旅も今夜の夜明けにもロマーニャの港に寄港する予定です

 どうかそれまでは、このままお休みになられてください。」

 

ニコリ。とめちゃくちゃ優しい笑顔のオッサン。やだ、惚れそう。

 

というかあれですね、今気づいたけどコレ。オッサンとか部屋がデカいんじゃなくて…私が超ちっちゃい?

それこそキャラクリ時に言ってた、8歳くらいかそれくらいの年齢…?

 

「では私は失礼します。せめて少しでも空が見やすい位置に布団を移動させて頂きます。」

 

 

 

 

「お嬢様のご様子はどうでしたか?」

「いや、いつものように星空をご覧になられていたようだが…またお休みになられた。」

 

 

しばらくの後、あのオッサンは出て行ってしまいました。

あぁ、ですが何か安心した感じがする良いオジ様でしたね…包容力とパパみを感じました。

 

しかし今のイベント…会話で何となく大体情報収集できましたね。

どうやら自キャラはどこぞの扶桑のお嬢様、そしてあのオッサン達はそれの従者のような存在だということでしょうか?

で、ここは船の中で、さらに航海先は何と扶桑から遥かに離れたロマーニャですと?

 

 

はて、13歳の士官学校卒で始めたのにコレは一体どういうことでしょうかね?

…そうだメニューです!メニュー画面を念じて開いてみましょう!

 

簡易ステータスを表示します

 

竹田 美喜

Lv:1

HP:10/10

MP:10/10

装備:『和装寝巻』

状態:【疾病】

 

 

開いた、空中にパーッと表示できたのは良いですが…さ、さっぱり状況把握の役に立たねぇ…。

竹田…だれ?原作キャラの親族とか言うわけではなさそうだけど、うーん竹田なんてキャラたぶんウィッチでも主要人物にもいなかったよね?

竹井さんってウィッチは確か504とかに居たけども、うーん。

 

 

「…船の周りの様子は異常はないか?ここらあたりはもうネウロイの勢力下にかなり近い。ロマーニャにも頻繁にネウロイの襲撃があるという話だ。」

「はい、電探、目視ともに異常は確認できません。…しかし、ネウロイと遭遇する危険性があるのなら、ウィッチの一人も護衛にいないと言うのは心許ないのでは?」

 

「仕方あるまい。そもそもこのリベリオンとの取引は政府には極秘裏のモノなのだ。軍の輸送船一隻を動かした上に、ウィッチまでもとなると流石に感づかれる可能性がある。」

 

 

おう?扉の向こうから聞こえてくる声に耳をすましていると、何やら不思議な怪しいオジ様達の会話イベントが?

リベリオンと極秘裏の取引?宮菱?…宮藤なら分かるけど宮菱?ってなんでしょうね?

 

「忘れるな、名目上はこの船はただの欧州への物資輸送船だ。それも民間の船数隻を伴ったな。」

「承知しております。ただ…我らが技術の結晶である零式艦上戦闘脚を、異国にこう易々と譲り渡してしまうなど…!」

「仕方あるまい、俺とて悔しい気持ちが無いわけではない。しかしもう本社…いや竹田様が決定なされた事だ。覆らん。」

 

零式艦上戦闘脚?本社?…『竹田様』?

竹田って言えばこの自キャラと同じ苗字だけど、じゃあお父さんとかの親族の類なのかな?

 

「竹田様にとってはただ一人の可愛い孫娘なのだ、仕方あるまい。ロマーニャに駐屯しているリベリオンの軍医が美喜様の御病気を治せるというのなら、それに賭けられるお気持ちも分かる。」

 

「しかし…こうも言いなりでは。わざわざ地球の裏側まで美喜様共々、零戦の試作品まで持ってこさせるなどと…!

本当にリベリオンの人間など信用に値するのでしょうか?」

「それでも賭けるしか無いのだ。分かったらもうこの件について文句を口にするな。

お嬢様の治療と引き換えでのリベリオンへの機密提供…もし公になれば、宮菱という大木を揺るがす災いになりかねん。」

 

 

宮菱…戦闘脚!?あっ、そうだ思い出しました!アレですよ!零式艦上戦闘脚とかのストライカーを開発してる扶桑の大会社!!

そこが確か宮菱工業っていう名前の会社だったよね?そうか扶桑のストライカー開発企業かぁ。

我らが主人公、宮藤芳佳のお父さんである宮藤博士も確かそこに所属してる開発員とかだった気がする。

 

そうかつまり、そこの偉いさんがオジサマ達が言っている「竹田様」という人物。

そしてこの私はその「竹田様」の孫娘という事でしょうか?なるほどなるほど…。

 

で、この私は何らかの大きな病気に罹っていて、それを治療できるのはリベリオンのお医者さんだけ?

更にその人がいるのはリベリオンから更に離れたロマーニャ…だからこの船に乗って、宮菱工業のストライカーとかを手土産にそこへ向かっている最中。

 

あーなるほどね。多分そんな感じだよね?

 

しかしそういう事だと益々理解が難しくなってきますね。ここから一体どういう風にシナリオが展開するのでしょうか。

 

「──-心配はいらん。リベリアン達との取引場所の海域まではネウロイ共も来るまい。

ヴェネツィア、ロマーニャ本土を迂回してくるような物好きな進路の奴でもいない限りな。」

 

…スッゴい嫌な感じのするおっさんの声を聴きながら、少しお休みしましょうか。

私というかこの身体、さっきからすっごいダルくて…スヤァ。

 

 

 

 

「お会いできて光栄です。リベリオン空軍技術中佐、リリー・グラマンです。」

 

「宮菱のムラモトだ。…グラマン?では貴方が…」

「えぇ、そうです。まさかウィッチが来るとは思っていませんでしたか?扶桑のお侍様。」

 

 

見てください皆さん、今この目の前に広がっている光景を!

渋いおっさんと…ウィッチ!!ついに生ウィッチですよ!!さっき言ってた通り、多分リベリオンのだよね?

めっちゃ金髪綺麗で妖艶な美人さんのウィッチです!そのお方達が恭しく握手を交わしてる所です。

少し休んで目を覚ましたあと急にイベントが始まって録画を始めましたが、これはアレでしょうか。さっき言ってたリベリオンの人との秘密の取引…!!

 

で、それを車椅子に座って呑気に見ている私の周りには無数のスーツ姿の怖い巨大なおじ様達。

机を挟んで向こう側にはそのリベリオンの美人ウィッチお姉さんの付き人みたいなおじ様達と…彼女とは少し違う軍服を纏うウィッチ数名が!

 

 

「うぃっち…!!」

 

 

ぶふぉっwwwwwこのゲームヤヴァイっすねwwww思ったことが勝手に口から喋らされましちゃいましたwww

いやー行動とか口調とか仕草とか、そういうのをキャラに応じたモノに勝手に矯正してくれるって事前にスレで見たけど。

まさかここまで再現というか矯正されてしまうなんてwwwwやだ恥ずかしいwwww

 

 

「クス…初めまして、竹田美喜さま。

 そこまで嬉しそうな顔をされては微笑ましくなってしまいますね。ウィッチがお好きなのでしょうか?」

 

 

うおおおお!?リリーと名乗ったリベリオンのウィッチの少女…今では自分の方がもっと少女ですが。

彼女が優しく微笑みながら跪き、私の手を優しく握って……あわ、あわわわわ!!

 

 

「は、はじめましてっ…!う、うん。ウィッチ…カッコよくて…だいすき…!!」

 

 

顔が!!ほっぺたが真っ赤に!!熱い!うひゃああ、あ。

このゲームではリアルフィードバックシステムにより、キャラの【臆病】や【あがり症】が直接自身に反映されてしまうのです!

だからこれはセーフ!私…ウィッチに憧れる竹田ちゃん(8歳)の精神状態が直接反映されてるだけなのでセーフ!

 

 

「…グラマン中佐、我々はリベリオンのウィッチとの交流会にお嬢様を連れてきたわけではありません。

 早速本題に入らさせてもらっても良いでしょうか。」

「あら。ええ、勿論ですとも。それではまた後ほど、美喜さま♪」

 

「…あっ…」

 

 

踵を返し去って行ったリリー中佐さんの手が離れた途端、名残惜しそうなかわいいょぅじょの声が漏れてしまいましたね。

やばいwwwwこれ勝手に幼女の反応するの超恥ずかしすぎるんだけどwwww

背後に控えてるリベリオンのウィッチの少女たちもニコニコしながら私の様子を眺めてて…あわわわわわ///

 

「例の資料についてはこの中に。ご確認願います。」

「…ん。ほぅ…なるほど。これはこれは…素晴らしい。」

 

で、再開された怪しげな取引ですが…その様子はまさに『怪しげな取引』という言葉のイメージそのままですねコレ。

…うわぁ見てくださいあのリリー中佐と呼ばれたウィッチさんのあの顔!!

さっきまでのアイドルのような眩しい笑顔とはまるで対照的ですね…。

 

「…そんなに良いモノなのか?ソレ」

「ちょっと大将!!大事な話の最中なんですから水差しちゃ…!」

「えぇ、コレさえあれば我が社のストライカーの性能は…いえ、そんなレベルの話では済みません。リベリオンにおけるストライカーの供給は我が社が独占…!」

 

邪悪な笑みのまま、背後から肩に顎を載せてきた別のウィッチ…うわガム風船膨らませてポケットに両手突っ込んでるあの人!ヤンキーこわい(陰の者)

それを別の大人しそうなウィッチさんが止めたり…あぁもう画面中美少女まみれや。

ん?あれ?っていうかリリー中佐っていうウィッチさんはともかく、あの後ろの二人、見たことある気が…あ、多分アレ原作キャラじゃない!?

いやーでも多分、本編というか501や502のキャラじゃないですよね。うーんうーん。

 

 

「確認は出来た。ということで宜しいですね?」

「ん”ん”っ。コホン…えぇ。確かに、零式艦上戦闘脚の開発設計図、確かに頂戴しましたわ。

 ドミニカ大尉。これを。」

 

「んー?ああ。…なに?まさかコレの荷物持ちの為だけにわざわざ私とジェーンを呼んだのか?」

「まさか、出番はコレからです。宮菱のお方、もう一つのモノは?」

 

 

「…えぇ。もちろんです。おい。」

 

おっ?背後に控えていた別のオジ様達がガラガラと布に被せた何かを転がして来ましたね。

 

「こちらです。宮菱製航空ウィッチ用ストライカーユニット。 宮菱十二試艦上戦闘脚。零式艦上戦闘脚、五二型です。」

 

おおおおお!!予想通り取り払われた布の下には…ストライカーやっとキター!!

そしてしかも零戦!零戦ですよ皆さん!

 

「…ふむ。なるほど…。確認させて頂いても?」

「えぇ、どうぞ。お好きに拝見なさってください。」

 

あ、私の周りのオジ様たちがちょっと悔しそうな顔してますね…ごめんなさいね私のために。

彼らにとっては努力と技術の結晶ですものね、何とも言い難い気持ちなのでしょうか。

 

「……魔導エンジンは栄12型、タンクの規格、翼の形状も資料通り…。よし、ジェーン大尉、お願いしても?」

 

「了解です、中佐殿。大将、ちょっと履くの手伝って…ってどこ触ってるんですかー!!?」

 

───むにゅむにゅっ

 

「うるさいな、大事な話の最中なんだから静かにしないとダメだろう。」

「ぐ、ぐぬぬぬ…後で覚えていてくださいね…!!」

 

うおおおおおキマシタワー!!皆さん!見てますか!!目の前で可愛い綺麗なウィッチ達が百合の花を咲き乱れさせております!!

大将とよばれたヤンキー風貌のウィッチがもう一人のウィッチを支えながら胸部装甲をわしり、と…ふぉぉぉぉぉぉwwww///

それをまんざらでもなさそうに頬を赤らめ身をよじって…あーもうお腹いっぱいだよ。

 

 

「おぉ~…これは中々の出力ですね。速力とかは飛ばないと詳しくは分かりませんが、それにP-51Dと比べるとかなり融通が利きそうなエンジンですよ!」

「ふむ、なるほど、その感じだと術式さえリベリオンのものに変えてしまえば、すぐにでも運用試験は出来そうですね…よし、大丈夫です。

 助かりました、やはりベテランのウィッチの方でなければこの細やかな履き心地のフィードバックは聞けませんからね。

 確認できました、これは間違いなく零式艦上戦闘脚二一型そのものですね。」

 

「…では、こちらについてはロマーニャの軍港へ搬入する物資の中に。」

「えぇ、そうですね。事前の調整通りにお願いいたします。

 もちろん医官についても貴方がたの船が来るまで待機するように伝えております。

 後は彼に美喜様を預けていただければ手筈通りに…。」

 

 

おぉ…どんどん私を置いてけぼりに話が進んでいってしまいますね。

え?マジでコレどうなんのでしょうか、ホントにロマーニャでワクワク☆療養デイズが始まっちゃいます?

 

 

「それでは私達は一足お先にロマーニャにてお待ちしておりますわ。…それではまた会いましょう、美喜様。」

「んー…。」

「バイバイ、早く元気になれると良いね!」

「えっ…あっ…う、うん!!ばいばい、ウィッチのおねえちゃん…!!」

 

さようなら、ウィッチのおねえちゃん。ありがとう、ウィッチのおねえちゃん。

あなたがたが見せてくれた百合の花畑の映像を私は決して忘れないでしょう…(感涙)

 

「…ところでジェーン、あの子、どっかのお嬢様なのか?」

「…えぇっ!?もう大将、出発前に中佐殿が説明してくれてたじゃないですか~!!」

 

 

───▽▽───

 

 

いやー余裕っすわ、プレイ開始してまだノーダメよww何が難易度インフェルノよwwww

 

…ウソです。早くストライカー履かせてくださいお願いします(切実)

 

オープニングイベントなげーよー、もー。こーいネウロイこーい。

 

「…おい!その積み荷の器具はまだ外すな!!接舷の直前でいい!命令があるまで触るな!」

「誰だ車両のエンジンを入れてるのは!?輪留めもせずに何を考えてる!!降りさせろ!」

「コレどこに積んでた奴なんだ!!ボイラー室の目の前に荷物を置くんじゃない!!引火させたいのか!?」

 

わー大変大変。もうすぐ上陸だからかさっきからすっごいせわしなく乗組員さんたちがあっち行ったりこっち行ったりしててもーすごい。

まぁ私はお部屋で一人寂しく星空を眺めております…。はぁ、お星さまきれい()。

 

それにしても…綺麗だったなぁリベリオンのウィッチ達。

結局まぐわってたウィッチが原作キャラクターかどうかもあやふやですが…眼福でしたね。

二人とも楽しそうな人達でしたし、ウィッチになればもう一度出会う機会もあるかも知れませんね。

 

そんな思いを満天の星空に馳せていながらボーッと…数分くらいでしょうか。

いやあそれにしても星がいっぱいですね、海上だからというのもありますがこの時代だと明るい建物とかないですからね。

 

いやーキラキラ!見てくださいあの北極星に輝く北斗七星を……!

 

北斗七星…うん、あれ?()()()()()()()()()()()()()あったかなぁ?

もしかしたら現実の星空と少し錯誤があるのかもしれないですねww開発うっかりさんwwww

 

ってか何だあの星、何か輝きをどんどん増していってますねwwwwしかも色も赤っぽくて星っぽくないしwwww

もしかしてグラフィックのバグか何かでしょうか?まだ発売して間もないから細かいバグが残ってるかもですもんね。

 

「……んん?」

 

あれ?なんか騒がしかった船内の声が小さくなってません?

 

───ピカッ

 

んん?どうしたことでしょう、何故か窓の外がやけに明るく光輝いてますね。

しかもとっても赤いし、夜明けの暁の輝きでしょうか。

 

「お嬢様!!今すぐ窓から離れて下さ…!!」

 

突如として私に付いてくれてるオジ様が勢いよく扉を開け放つと同時に。

 

───爆裂音、破裂音、炸裂音、轟音、悲鳴。

 

それらが大きく叫んだ彼の声をたやすく掻き消しました。



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チ ュ ー ト リ ア ル

ウィッチに憧れる病弱◯リお嬢様が挑む難易度インフェルノストーリーモード初見動画、はーじまーるよー。

 

 

 

 

~前回の、あらすじ~

 

 

(♪某名探偵のテーマ)

私は扶桑でストライカーの製造開発をしている宮菱の重役のお嬢様病弱幼女 竹田美喜!

良い声でオジサマの従者さん達とロマーニャに船旅に行って、 美少女づくめのウィッチ達との怪しげな取り引き現場を目撃した。

(そのあと)星空を見るのに夢中になっていた私は、空から近付いて来るネウロイに気付かなかった!(無能)

私はオジサマに咄嗟に衝撃から庇われ、目が覚めたらょぅじょになっていた(元から)!!

 

 

 

 

「ひっ、いや、いやあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁっっっ!?!?!!!」

 

 

「ご覧になってはいけませんお嬢様!私の背中だけを見ておいでになってください!!....くっ!!」

 

 

 

 

従者のオジサマにおんぶされて部屋から出ると、そこはもう地獄もかくやと言う凄まじいセンシティブ映像でした。

死体、死体....さっきまで命だったものが当たり一面に散らばり、貨物に引火した炎がそれらを彩る最悪の光景。

赤い鮮血と赤い火、そして空には赤い閃光ーーーーー。

あぁ、そしてこの辺りに漂うニオイは・・・恐ろしくもハンバーガー屋さんの厨房から漂ってくるようなニオイをしてて・・・おげぇ、何もここまで再現しなくても。

ちょっと吐きそうです…無規制版買ったことをちょっと今更後悔してます…。

 

 

【スキルを獲得しました】

 

 

「トラウマ」: 自身の近くで戦闘の犠牲者が発生した場合、パニック状態に陥る。

 

 

あ、わーい。なんかゲットしましたね…(白目)

あといま私の精神は竹田ちゃん(8歳)に近くなっちゃっているので、そんな光景を見たら発狂寸前の悲鳴を上げてしまいます。

まぁでもこんなゾンビ映画でもここまでしないってくらいに真っ赤で悲惨で人間の投げ出された四肢を見れば、何も無くても叫んでたかも…。

 

 

「避難を!!待避を急げ!荷物など放っておけ!自分の命を最優先しろォォッ!!!」

「ロマーニャのウィッチは!?無線はどうしたんだ!早く救難を!」

「ムラモト様!美喜様は...良かった、ご無事なのですね!?」

 

 

軍人らしき人達の悲痛な叫びと怒号が爆音の合間を縫って飛び交ってます。

その中を私をおぶるオジ様を見た数人のスーツの男性達が、鬼気迫る表情で駆け寄って来ました。

うげぇ血まみれ....ってうわ、彼らの手を見てください皆さん。イカツイ銃が全員の手にしっかり握られているではありませんか。

 

「状況は!?襲撃してきたネウロイの数は!?」

「船の被害は甚大、これ以上の航行は不可能です!敵機は少数ですが、大型のモノが視認できるだけで5!高高度からの攻撃です!」

「随伴の民間船もまともに航行できる状態ではありません!ロマーニャの軍の動向は把握できていません!」

 

えっ...。コレ死ゾ。オイオイオイ死んだわ私。

てかコレもしかして選択肢とか行動かなにか間違えた?リベリオンのウィッチの女の子達にどうにかしてついていくべきだった?

これが難易度 インフェルノですか?もうちょっと勘弁してくださいよ。

それか無理矢理にでも引き留めて....

 

「避難挺が一隻あります!三人程度しか乗れませんが、すぐに美喜様を....ぎゃっ―――」

 

―――ビュンッ。

 

信じられないほど軽くあっけない、短い音が軽く鳴ったと思ったとたん―――目の前を赤い破壊の閃光、ネウロイのビームが頭上から貫きました。

そして次の瞬間には、今この瞬間まで呼吸し、言葉を発していた従者の男性が蒸発しました。

はい、蒸発ですよ?はっきりと見えてしまいました。

一人の人間が超高熱の光に晒されると、その身体が「キュッ」と胎児のように縮こまり、黒い影が点になって。

そしてやがて、真っ赤に染まって煙となってこの世から一片の欠片も残さず消え去ってしまうのを。

 

 

「えっ…あぁぁぁあああぁぁああっ!!?」

 

 

そして呆気に取られていた1秒の後、貫かれた船の船体から赤い炎が吹き上がりました。

その爆発的で暴力的な衝撃は軽々と、私を庇うように取り囲んでいた従者さん達をぶっ飛ばして…。

もちろん私も無事なわけがなく、私の画面は無事暗転しました。

 

 

 

―――▽▽―――

 

 

「…さま!…お…じょうさま!!…い、いかん、なんて怪我をっ!」

 

あ”あ”ー、づらい…。なにこれ?誰かに運ばれてるけど。よくわがん”ね”…。

 

「…避難艇ももはやこれでは無事ではあるまい。こうなればもはや覚悟を…」

 

…あ?なんでしょうか…コレ、マジでプレイヤーに容赦ないんですけど…怪我とか衝撃、痛みまで再現ってもうホント無理。

難易度インフェルノ舐めてました、ごめんなさい。

マジでちょっと一旦やめたい、QKしたい。お願いログアウトさせてぇ…マジ吐きそう、死んじゃう…。

 

「いや…こうなれば!宮菱の魂なれば、美喜様を救って見せろ、零式よ…!!」

 

 

―――▽▽―――

 

 

「うぇ…お、ぐっ…げぼっ…」

 

あ…やっと、なんか暗転が解除されましたね…。

お、おえぇ…口から何か溢れてくる…気持ち悪いし苦しいし、もうマジ無理。

目の前には血まみれ、いえそれ以上の、鉄の破片や誰かの…うわっ!?ほ、骨が…突き刺さったオジサン、が…。

それが、私と同じ視線でまっすぐと見据えていて、私の方に真っ赤に染まった手を添えてます。

 

え?なんで幼女になってる自分と、大人の彼が同じ目線…違う、自分が何かに乗ってる…?

 

「…大丈夫です。あなたは扶桑皇国が誇る戦闘脚企業、宮菱工業創業者、竹田信太郎様の血を受け継ぐ者、竹田美喜様です。」

 

へ?何?なに言ってるのこの人!?

ちょ、もう良いから。もうストライカーとかインフェルノとかどうでも良いから、一旦メニューを開いてゲームを終了を…。

 

 

《チュートリアル中はメニュー画面を開けません。》

 

 

「…へ?」

 

 

…は?は?は?

はぁぁぁぁああああぁぁぁ!?ウソ、何言ってんのコイツ!?ちょっとマジで、ダメだって!

 

「竹田様の魂が込められたこの零式なら、きっと貴方様を救ってくれるハズです。…ぐ、ふっ…。」

「ま、まって!!そんな!やだ、いや、まって!!」

 

 

《チュートリアル中はメニュー画面を開けません。》

 

 

焦ってパニクってばたばたと慌てふためく自分を、勘違いしてるのか血まみれの目の前のオジサンが微笑んで手を置いて!?

そして懐に震えるおぼつかない手を突っ込んだと思えば、そこから取り出されたのは血まみれの刀。

ってそんなのしてる場合じゃないんだって!?なんでセーフティ発動しないの!?は?は?ふざけないでって!!?

アゴの裏を舌で3回たたく緊急終了のプロトコルも機能しないし!?え、待って、待って、無理!!

 

「美喜…さま、どうか…ぅ…」

 

え?ちょっと待って、おじさん、そんな一際血を吐いて…しかもその姿勢のまま固まって…?

…うそ、死んじゃった、の?え?え?

この今にもネウロイの襲撃で沈没しそうな船の、燃え盛る甲板の上で、誰も守ってくれる大人も居ない一人きりの子供。

しかもありがたぁぁいことに、この打ち付けた頭から血が溢れてる痛覚も、どこか破裂したであろう内臓から口に溢れる鉄の味も。

そして脳天を金づちで何度も殴打されてるような頭痛と吐き気も、バッチリ再現してくるような殺人的なゲームの中で。

 

 

 

《――チュートリアルを開始します》

《足に力を入れるようにして魔力を込め、ストライカーユニットを起動してください》

 

 

「……は?」

 

血と炎で真っ赤に染まった視界に、軽い信号音と共にポップしたメッセージ。

一瞬呆気に取られるもののそれが意味するモノにハッと自身の下半身を見下ろすとそこにはーーーーあった。

ストライクウィッチーズの世界を象徴する飛行機の権化、ウィッチの翼。あのストライカーユニットが自らの両足にしっかりと履かされています!?

しかもこれは、あのリベリオンのウィッチとの取引の場にあった零式艦上戦闘脚!!

 

「いや…もういいから、ちょっと、きゅうけい…」

 

《チュートリアル中はメニュー画面を開けません。》

 

「あ” あ”あ”あ”あ”ぁぁぁ…」

 

何度試してみてもポップアップされるメッセージは変わらず、無慈悲に繰り返されるシステム表示。

もう無理だ。これやるしか無いのか…もう既に満身創痍、吐き気も痛みも十分に堪能してるのに。

傷だってそうだ、さっきから頭が割れるように…いや、傷で割れてるんだろうけど、その痛みをリアルに感じてるし。

そもそも!そもそも使い魔もいないのにストライカーとか起動でき…チュートリアル表示出るってことは出来るんだろうなぁ…。

意を決し、痛む頭を押さえながら大きく息を吸いこんで、言われた通りに脚に力をこめてみる。

 

「…ぎっ…ぎゃぁぁぁう”う”う”ぅぅぅ”ぅぅ…!!」

 

痛い痛い痛い痛い痛いヤヴァイ!!wwwww

うっそwwww力グッと込めると身体中の傷から血がプシャーって漫画みたいにwww草

ww

特に破片か何かが突き刺さった頭からはダラダラとケチャップみたいにドロリと粘度の高い血がwwちょ、目に染みちゃうwww

もう草しか生えないwwwもういいやさっさと終わらせましょうwww死んじゃうwww

もうゲームオーバーでもいいからさっさと終わらせましょうwふへへw

 

「いぎぃっ...あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あああッッ」

 

うわw喉奥から溢れる血のせいできったねぇ金切り声ww

でも気合いを入れたおかげで何とかストライカーが起動したみたいですねwぶわーって物凄い突風が下半身から溢れてwwwwww

やだwwwパンツ見えちゃうwww違うズボン丸見えなんだけどwwww恥ずかしいwww

でもズボンももうお腹からの血でぐしょぐしょに濡れてるwwwこれぞ赤ズボン隊wwだれうまww

 

「あ、がっ。....あが、って。」

 

あっーーー浮いた、浮いてる...けど浮遊感気持ち悪いwwwスピードおっそwww

しかも、これ、超フラつくんだけどwwwまともに制御できないwwハンドル握ってない自転車みたいwww

ちょw今のヤバイww海面に頭から普通に突っ込みそうになったww

 

 

《この戦闘はチュートリアルです。船を守り、ネウロイを撃退しましょう!》

 

 

ピロン、と軽快な効果音と共にポップされるメッセージ。

ぐるんぐるんとストライカーの制御が出来ずぶん回されてる視界の中でそんな『撃破しましょう!』って。

無理どすwwwwwwできるわけないwwww

 

おや、辛うじて浮いたおかげで海面に浮かぶ船団が見えましたが、これはひどいwww真っ二つに船体が割れてたり、今まさに大爆発が起きて火の海になってたりwwwオワタww

 

てかその頭上にいましたwww夜空で見にくいけど黒いおっきなヒラメ状の空飛ぶ物体、ネウロイさんチーッスチーッスwwww

うはwカスっただけで死ぬビームの嵐が船めがけてビュンビュンで草wwwクソゲーかなwww

あ、私はただの一般通過ょぅじょなんでwwスルーオネシャス!wwww

とか思ってたらなんかまた私の目の前のメッセージがピロリンしてきたんだけどwwwもうええっちゅうねんwww

 

 

《チュートリアル:【未来予知】》

《敵の攻撃方向をアラートによる警告で知らせてくれます。》

《前方への加速や旋回などを駆使し、ネウロイからの攻撃を回避しましょう!》

 

 

あーもう、何このメッセージの距離感腹立つんだけどwwwwしましょう!じゃねーよwwお前は友達かよww

はいはい未来予知ね未来予知、何でもいいから早くしても....う...?

 

 

巨大なヒラメ型のネウロイの一匹がギラリと赤く輝いたと思ったら。なんか何故か船への集中豪雨をやめて?

え?ちょっとまってアイツこっちみてない?やだやめて私か弱いょぅじょなのにwwww

 

 

ピロン。

 

 

あ、何か視界の上側に赤色の↓マークが。

おっおっおっこれはベテランゲーマーの私ならわかる攻撃アラートですね!!!

うおおおお結局全然操作も制御も出来ないけどインド人を右に!!wwww

あっ違う違うってwwww何で上昇しちゃうのwww草www

あ、視界端のアラートの点滅が激しくなって....何か赤いのが輝きを増して。

 

 

―――ビュンッ!!!

 

 

「ひ、ィィィッ?!あは、ふへ、へひゃ....」

 

 

何かすっごい熱い高速の物体がふらふら動く頭を掠めましたwwww髪の毛の焦げた匂いするwwww草ww

いや、もうやめてwwwもうマジで頭も全身もぱっくりお腹が割れた裂傷も刺さった傷も全部死ぬほど痛くて辛すぎるのにこれ以上はもういいでしょwww

焦ったらストライカーの操作が更にフラフラになってもう無理っすwww勘弁してwww

 

 

ピロン、ピロン。

 

 

↓↓やじるし...あーもういいっちゅうねんwwどうせ来るの分かってるんだから、余程じゃないとネウロイのびーむ攻撃じゃ死なないってwww

それよりもこのストライカーで海に突っ込んで死んじゃいそうなんだけどwww

 

 

ピロン、ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

 

「.........。.....え?」

 

 

え。ちょっとまって、なんか視界頭上が何か真っ赤に染まって前見えなくなったんだけど?

しかも何かシステム音バグってない?

え?え?だってこれ敵の攻撃のアラート音なんだよね?赤い矢印どこ?ねぇ上半分真っ赤に染まって見えないんだけど?

 

 

ピロロロロロロロロロロピロロロロロロロロロロピロロロロロロロロピロロロロロロロロロロ

 

 

「いや、ちょ、まっ。」

 

 

ピロロロロロロロロロロピロロロロロロロロロロピロロロロロロロロロロピロンピロロロロロロロロロロ

 

 

 

 

....視界、真っ赤wwww真っ赤...w...まっか....。

いや、草もはえない。

もう画面中アラートまみれや、もう気が狂う。

辛うじて見える視界の中央で上...どっちが上かもグルグルしてて分かんないけど多分上を見上げると、あれ?その視界の中央すら赤い光になって。

 

 

 

 

―――ビュンッ、ビュビュビュビュビュ

 

 

「へっ...こ、はッ...?」

 

 

何ででしょうか、急に肺の中から空気が無くなりました。不思議ですね~。

しかもそれと同時に全身に辛うじて入っていた僅かな力もすっぽりと抜け落ちて...ストライカーを履いた足も脱力してしまいました。

 

 

あ、何処からかハンバーガー屋さんの厨房で、お肉を焼いてるのとそっくりな匂いが近くでしますね。どこでしょうか。

 

 

 

 

ーーービュビュビュビュビュン

 

 

 

 

あ、そっか、これ。私なんですね。

熱い、熱い熱い熱い熱い。焼けた鉄とか熱湯とかそうじゃない、ただ、熱い、あついあついあついアツイアツイアツイ。

あー。胸を、胴体を、熱線が貫通してるのがはっきり見えました。

赤い光が赤い火の海と赤い血と赤い肉と赤いアラートが私の視界を埋め尽くして。

余りの激痛と苦しみと熱さに血でくぐもった金切り声すら、熱線に掻き消されました。

 

 

「...ぁ"...」

 

 

あれだけ踏ん張っていた力が抜けると、さっきまで足元で鳴り響いていたエンジン音が嘘のように消えました。

そしてそれと同時に、引力に従い海面へ身体がひきづられていきます。

あ、そっか、下ってそっちだったんですね。もうどっちが上下かすらわかりませんでした。

 

 

―――ざぶんっ....ビュビュビュビュビュン

 

 

何かが起こった瞬間、やけに辺りが静かになって、辺りが冷たくなりました。

あれだけ熱かくて熱くて熱くて熱くてあつくてあつくてあつくてあつくてあつくてあつくてアツクテ仕方なかったのに。

何故でしょうか。今度はその逆で、身体の奥底からつんざくような、まるでツララをえぐり突き立てられたように冷たくて。

きっと私は凍りついてしまったのでしょうか、さっきまで熱くて仕方なかった右腕の感覚や、両足の感覚が無いのもそのせいでしょう。

 

 

「......」

 

 

寒い、寒い。寒い。寒い。つめたい。

ーーーーー寒い寒い寒い冷たい冷たい冷たい冷たい。

震えが止まらない、あれ違う、震えてない?いやちがうやっぱり震えてない。寒いけど震えてない。だって震える腕も、足もないんだもの。

ああ、寒い。寒い。寒い。嫌だ、寒い誰か―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《スキル:【未来予知】が発動しました。》

《今までのプレイ経過を予知体験として、何度もミッションをリトライできます。》

 

 

「―――え」

 

 

おぞましいほどの寒さに絶望し、意識を手放した途端。

私の目の前ーーーいや、私の回りの全ての光景が変わり果てていた。

 

 

燃え盛る甲板、夜空を彩る無数の赤い閃光、散らばっている命だったもの。

そして目の前には、懐から刀を取り出した姿勢のまま事切れたスーツ姿の血まみれの男性。

そして私の足に履かされた、零式艦上戦闘脚ーーーストライカー。

 

 

「.....め、にゅー....」

 

 

《チュートリアル中はメニュー画面を開けません。》

 

 

《チュートリアル中はメニュー画面を開けません。》

 

 

 

 

《チュートリアル中は メニュー画面を 開けません。》

 

 

「あ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁ.....」

 

 

決して逃げ出せないインフェルノのチュートリアルに、自ら喜んで飛び込んでしまったのだとーーーこの時やっと気づいたのでした。

 

 

 

 

―――▼▼―――

 

 

 

 

満天の星空が輝く、穏やかなロマーニャの空。

20世紀の文明技術、そしてこんな夜間となればそこに輝くのは夜間哨戒のナイトウィッチか月のいずれかのみであった。

 

 

「....む~~~っ!!」

 

 

そんな夜に輝く小さな光が一つ、怒りのままに星空を駆けていた。

その光ーーーーいや、『彼女』はプンスコと怒っていた。

 

 

「あんなにおこんなくたってもいーじゃん!!ちょっと訓練サボってお昼寝してただけなのにー!!ごはん抜きなんてひどすぎー!!」

 

 

彼女はうんざりしていた。

つまらない訓練を押し付けられ、どっちを向いても年上ばかり。

ご飯だってママの手料理に比べたら全然美味しくない、ベッドだって固くて狭いし。

楽しいことと言えば自由にストライカーを履いて空を飛んでいる間だけ。

 

 

それに何より、大好きで大好きで大好きなママに会えないんだから。

だから私は悪くないもん。

 

 

そんな年相応、少し悪く言えば身勝手な考えで彼女は軍事兵器であるストライカーを無断使用しての脱柵を繰り返していた。

 

 

「うじゅ?」

 

 

その狭苦しい基地からの逃飛行のさなか、視界の端でちらりと閃く光が覗いたのを、彼女が見逃すことはなかった。

 

 

「なんだろ、あれ?」

 

 

彼女―――ロマーニャ公国空軍第4航空団のウィッチ、フランチェスカ・ルッキーニは、静寂の夜の海上に輝く光に首を傾げた。




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チ  ュ  ー  ト  リ  ア  ル

「あ"あ"...もう...」

 

最初にこの地獄に囚われたのって、もう何日前、いや何十日前だっただろうか。

バカみたいに動画の挨拶を喋りながらプレイしてて...本当にもう....。

いや、もう今さら、本当に今さらだ。

 

顔を上げると燃え盛る甲板、死体、刀を取り出して果てた従者。

そして重傷の小さな少女の身体に履かされた、零戦ストライカー。

 

「....もう、実家みたい...はは」

 

また帰ってきた、この場所に。

何度死んでも死ねない。

何度ネウロイの赤い熱線に貫かれ、何度海の中に溺れ、何度失血して、何度ストライカーが爆発して死んだだろうか。

その度におぞましい死の寒さにうち震え、あの恐怖に苛まれるのだ。

 

「もう、なれちゃったなぁ...げおっ...」

 

軽く息を吸い込み、ぐっと力を込めエンジンを稼働させる。

血にまみれた白い病衣が、肩まである黒髪が舞い上がりはためく。

もはやこれも慣れた光景だ。飛行回数だけなら私はもう百回はまず余裕で越えているだろう。

 

「―――ふっ。」

 

小さく息を吐き出し、従者の死体から短刀を奪い取ると、たったひとりで地獄の星空へ飛び立つ。

 

初めの内は、ストライカーで飛ぶことすらままならなかった。

20回を越えたあたりでやっと上下、30回くらいでやっとそれに加えて前後、そして左右に羽ばたけるようになった。

40回を越えたころにはもう、ゆっくりとなら自在に空を駆けられるほどにまで上達していた。

 

その頃だっただろうか、一度逃げることに成功したのは。

離陸して、即離脱。燃え盛る船とネウロイ達をちらりとも振り返らず、ただひたすらに逃げ出した。

勿論簡単に見逃してくれる訳もなく、嵐のような暴力的な熱線は当然降り注がれる。

ただこの頃になると、やっと数十発程度の攻撃の未来予知にはまともに対応できる程度の操縦が可能になっていた。

そのおかげで…もちろん無傷とは程遠い満身創痍にはなったものの、ネウロイ達の射程内から遠く離れることが出来たのだ。

 

その時はもう…それはもう喜んだものだ。

血がドバドバ溢れ出す大量の傷も忘れ、両手を広げて涙すら流したのをしっかりと覚えている。

そしてそのあとに表示された、絶望的なメッセージも。

 

 

《―――護衛目標が全滅してしまいました。》

 

「……は?」

 

そしてその文言の意味さえ理解できず、また再び燃え盛る甲板に連れ戻されて―――。

 

 

「ぁぎゃぁ”ぁ”ぁ”……ぐぅぅぅぅっ…!!」

 

それからだった。

従者の死体から刀を剥ぎ取り、ネウロイ達をーーーそう、5体の大型で、ただ逃げるだけでも50回近くリトライした相手達。

それらを倒す為の更なる地獄の周回がスタートしたのは。

そうして恐らく100回目をもうとっくに超えただろうが、進捗は絶望的と言ってもよかった。

 

今回もいつも通り、とにかく海面スレスレを、とにかくネウロイと並行になるように全速力で飛びまわる。

3次元的な空中戦闘では、縦、横、奥の軸のいずれか一つでも、攻撃する側と合ってしまってはダメだった。

空のはるか高くから撃ち下ろされてる位置関係上、のんきに上昇や下降なんてしようものなら相手から見れば動かない的も同然なのだ。

 

吹き付ける風圧が、跳ねる海水が、かすめた破壊の熱線がどんどん身体を蝕み、激痛に苦悶の声が漏れる。

 

「やんだっ…上昇、今…」

 

雨の勢いが僅かに緩んだ間隙を縫い、機首を上げて上昇する。

これももうお決まりのパターン…と言うよりこれ以外に方法がない。

だって自らの武器はこんな短刀一本だけ。銃なんて便利なモノありやしない。

近づかなければあのネウロイ達を倒せない。この地獄から抜け出せないのだ。

 

70回目くらいでやっと、攻撃がパターン的になっていることに気づき。

80回目あたりでようやく、リロードというか、数十秒ほどの砲撃の後にはしばらく空白の時間があることに気づいた。

 

―――ピロン、ピロロロロロロロロロ

 

でもそれはもちろん、大型ネウロイ一匹だけの話で。

たとえ一匹が休憩時間に入ろうが、他4匹はそんなこと知ったことではない。

私を狙いすまし、降り注ぐ無数の閃光のアラートのカーテン。

あぁ、でもまだ2方向しか真っ赤になってないだけ今回は運がいいなぁ。

 

「ぐぎぃぃっ…!?いぁ、ぁぐぅぅっ…」

 

片側の脚にだけ力を込め、出力を思い切り上げて空中でロール機動を繰り返し、狙いを散らす。

100回目くらいでこんな動きも出来るようになったが、強烈なGは傷口を無遠慮に引き裂いた。

自分が動いた軌跡に沿って鮮血が撒き散らされ、そのたびにあの恐ろしい寒さが近づいてくる。

 

「はや、く…はやく、ころさないと…」

 

失血死も何度も経験したし、のんびりとチャンスを伺うなんてことは出来ないようだった。

やっとの想いで何とか一番近い大型ネウロイの懐に潜り込み、刀を抜き放つ。

この一番高度の低いネウロイのコアの位置は尾びれの裏側。ここまでたどり着けれるのは10回目くらいだ。

 

「……死ねッッ……!!」

 

両手で思い切り、逆手で持った短刀を忌々しく輝く赤い球体に叩きつける。

ガキン、という小気味良い音と同時に、辛うじて分かる位の小さなヒビが入った。

…そう、当然なのだがこんな刀で、こんな子供の小さな細腕。

そのうえ傷だらけで満身創痍の状態では、むき出しの弱点さえ破壊するのに非常に時間がかかった。

 

「はやくっ…はやくっ…!!」

 

―――ガキンッ、ガキッ……ピキピキッ

 

およそ10数回に渡る叩きつけの末、やっとその時は訪れた。

一際大きく刃が食い込んだかと思えば、細かい亀裂がコア全体にいきわたり、粉々に砕け散る。

その瞬間ついにやり遂げたのだ。あの大型ネウロイのうちの一匹を、こんな最悪の状態で倒してのけた。

 

ここまで来れたのは、まだほんの数回目だった。

思わず頬が緩み、体中に達成感がみなぎるのが感じられる。

だが、それがいけなかったのだろう。

 

「あっ…!?しまっ…ぁ…」

 

コアが粉々に砕け散り、死体と化したネウロイの巨体が次にどうなるかなど、分かりきってたハズだったのに。

遠目から見たら白い粒子と化し霧散するようなその現象は。

至近距離では無数の鋭利な白化した装甲の破片の雨となり、思い切り私の体に降り注いだ。

 

無論、視界に未来予知によるアラートは表れた。

でも考えてみて欲しい、大雨の日に雨粒の落下先が表示されたとして、果たして全て避けれるだろうか。

当然、できるわけがない。

 

―――ぐしゃり、ぶしゅっ、ぐごぎゃ、ん”み”じぃ

 

聞いたことのない、何かが何度も抉られ突き刺さる音が耳に響き渡った。

どこに刺さったかすら、目視で確認することができない。

だってもう目にも、細かいナニカが突き刺さって何も見えなくて。

いや、血の赤だけだ。見えるの。

 

―――ピロン、ピロロロロロロロロロ

 

身体から熱がどんどん失われ、奇跡的にまだ聞こえてた耳には無常なアラート音がつんざいた。

そしてただ落下するだけの哀れな死に体の私の体は、次の瞬間巨大な閃光の中の黒い影と化し、消えた。

 

 

 

 

 

140回目。

1体目を撃破したけど腕が千切れたせいで失血死した。

 

162回目。

2体目に近づけたものの船が全滅した。

 

211回目。

2体目の懐に潜り込めたが、刀が折れて胸に刺さって死んだ。

 

247回目。

やっと2体目のコアの場所が分かった。背中の装甲の奥深くだった。

 

289回目。

どうやっても2体目のコアまで装甲を剝がせない。刀以外の武器を探す。

 

290回目。

この世界の拳銃はカス。

 

299回目。

何度理由を説明して銃を貸してもらおうとしても、話を聞いてくれない。

 

302回目。

兵士を殺して銃を奪おうとしたら撃たれて殺された。

 

332回目。

やっと一隻なら兵士を全員殺せるようになった。でも銃の弾は私の体の中に全部撃ち込まれてしまった。

 

358回目。

ついにやった、弾を残して兵士を全滅させれた。

でも失血していた所を隣の船の兵士に撃ち殺された。

 

370回目。

久しぶりにネウロイと戦った。1体目はもう簡単に殺せるが、やっぱり2体目のコアが見えない。

 

452回目。

疲れたので星空を眺めてた。そのまま沈んで死んだ。

 

571回目。

ビームを誤射させて2体目のコアを初めて露出させた。でも私ごと貫いて死んだ。

 

641回目。

シールドの存在を思い出して練習してみたが上手くいかない。発狂した兵士に撃ち殺された。

 

688回目。

シールドは諦めた。鳥が目に刺さって死んだ。

 

745回目。

一切被弾せず無傷で2体目のネウロイのコアを壊した。でも失血でそのあとすぐ死んだ。

 

 

943回目。

死ぬ原因がほとんど失血になってきた。

 

 

1221回目。

もうネウロイの攻撃はしばらく当たってない。でも時間が足りない。すぐに失血死してしまう。

 

 

1459回目。

傷を焼いて塞ごうとしたら焼け死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「つかれた」

 

疲れは綺麗さっぱり消えてくれる。

ちゃんと元通り破片でお腹が切り裂かれ、打ち付けられた頭はきちんと血が溢れたままだ。

 

目覚めてすぐ、いつものように短刀を剥ぎ取り、すぐに甲板の炎に近づいてお腹を捲る。

 

「ぅぎゅぁ」

 

皮膚の表面を炙って溶かし、傷口を塞ぐ。

もちろんすっごく痛いけどもう声を上げるのもめんどくさい。

頭の傷も焼いて塞ごうとしたが、上手くいった試が無いので放置で。

 

じゃあ死にに行きましょう。

脚に力を込めてストライカーのエンジンを吹かし、短刀の鞘を投げ捨てる。

逆手で柄を握り、地獄の夜空へと駆け上っていった。

 

数百mほど高度を上げると、いつも通りにネウロイから熱線の雨あられの歓迎が出迎えてくれた。

カスるだけで命を落とす、代り映えのしない直線的なビームの嵐。

でも今はもうこれに当たって死ぬことはほとんどない。

だってこんなの、ロール回転と軽い旋回を交えつつ上下左右に機体を振って狙いを散らしながらランダムな加減速しつつ曲線的な軌道で動いて、誤射を誘導しつつ死角に潜り込めば滅多にあたらない。

それに加えて事前にアラートと射線まで教えてくれるんだから、何でこんなのに当たってたのか今では理解できない。

 

「・・・ぐ、ぼぉっ・・・!!」

 

でも回避だけで勝てるならこんなに私は苦しんでない。

激しい回避行動は風圧で傷口をぱっくりと開かせ、身体にかかるGは潰れた内臓から血を絞り出す。

それにあの巨体に接近するためには、どうしても避けきれない攻撃だって出てくる。

 

ビュンッ―――バシュゥッ

 

だからどうしても受けざるを得ない攻撃は―――この短刀で弾く。

予め射線とタイミングを教えてくれてる以上、難しいことではなかった。

でもこれだって弾いた閃光がそのまま身体を貫いて殺されたりしたし。

ビームの太さを見誤って弾けずそのまま心臓を溶かされたりした。

ここ数十回はそういったことも無くなったが、今度は代わりに刀が折れだして。はぁ。

 

「……はい一匹目。」

 

ストライカーの勢いをそのまま乗せた逆手持ちの刃が、むき出しのコアを抉り砕いた。

ここまではもう飽きるほど繰り返した。この後この死体を欠片に巻き込まれないように盾にしつつ、2体目に接近する。

 

「…はぁ。」

 

ここからが面倒なのだ。

今まで散漫だったネウロイの砲火が露骨にこちらを意識したものに変わってくるし。

そのうえ今までほぼ停止状態だった他の4匹の動きが、こちらから逃れようと距離を取り始めるのだ。

 

これがもう、死ぬほどどうしようもない。

回避だけでも血はどんどん溢れるのに、奴らに追いつく為に加速するとそれだけ風圧とGで更に血が流れる。

そもそももう、この時点で既に身体は冷たくなり始めているのだと言うのに。

 

「…。」

 

―――ピロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

こうなってしまうと、取り囲むように四方八方から包囲射撃が始まってしまう。

だから奴らの中央当たりに陣取って、そこでひたすら誤射を誘導するしかない。

自らの血をまき散らしながら、ネウロイ達の前で空中でひたすらダンスするのだ。飛来する死の閃光のヤジを避けながら。

 

最小限の機動でビームを避け、ひたすら焦れた相手が近づいてくるのを待つ。

これもまたお決まりのパターンだ。コアが分厚い装甲に覆われた2体目のネウロイを始末するにはコレしか考えられない。

五月蠅いハエを仕留めようと躍起にさせて接近するように仕向け、味方の攻撃を被弾させる。

 

「…いま。」

 

予知した攻撃の射線が目的のネウロイと重なった瞬間、緩めていたエンジンを引き締めて吹かしなおす。

いくつかの予知の射線が自らの胴体と重なるのも無視し、コアの位置に向かって全力で加速。

2発、4発と息の根を止めんと放たれる赤い閃光を刃で弾き、頭上に飛び込んだ。

 

―――ビュグンッ!!

 

次の瞬間、遥か遠くから放たれた赤い閃光が目の前の大型のネウロイの装甲を貫通し抉りぬいた。

辛うじてコアからは逸れたものの、その弱点は目の前の私にむき出しに晒されていて。

 

「…死ね。」

 

自らの血が滴る赤い刃をその結晶に突き立て、捻じ込むように抉り砕き散らした。

最後のあがきだろうか、私を呪うように砕けるコアの周りの黒い装甲がギラリと赤く瞬き、そこから赤い閃光が放たれる。

でもそんなの予知で分かっているので当たるわけがない。

身体の限界も近いので、首だけ軽く傾げて避けるがーーーその行方を予知で知らされた私はすぐにそのビームの後を追った。

 

―――ビュグンッ!!

 

何という幸運だろうか。その最後のあがきのビームの放たれた先には、さっきから私を一方的に打ち下ろしていた3体目が居たのだ。

見てみると尾翼あたりから白い粒子の破片を吹き出し、バランスを崩しこちらに墜ちてきている。

 

「は、ぁ…ぁぁ”…」

 

ストライカーのエンジンの音に、カラカラと空回りするような音が混じり始める。

視界の明暗が激しくなり、さっきまでカラーだった景色が白黒の殺風景なモノにいつの間に代わっている。

もう最初に溢れていた血も赤黒く変色し始め、眩暈とふらつきが酷い有様でうまく目を開けていられず、呼吸も難しい。

何より一番酷いのが、全身を包み込む、どうしようもない孤独で絶望的な寒さ。

あぁーーー寒い、そう、寒いのだ。寒い寒い寒い寒いさむいさむいさむいさむいさむい。

 

「ひ…ぃ、げ、ぼ……ぁ…」

 

それでも・・・諦める訳にはいかない。こんな幸運はもう滅多にないのかもしれないのだから。

幸運にも3体目のコアの位置は1体目と同じく裏側、この位置関係だと直接狙える位置なのだ。

 

ーーーピロロロロロ

 

かつてなく必死になってビームの嵐を弾く、避ける。

この終わらない地獄にようやく見えかけた光明なのだ、決してこの奇跡をふいにしたくはなかった。

だが気合と願いだけで壊れた身体が動いてくれるなら、そんな楽な話もない。

ふらついた機動のせいで見えていた閃光が幾度もかすり、新たな裂傷が白い肌に刻まれていく。

 

「ぁ”…ぉ”…!」

 

―――ガギン

 

そして、ついにその時はやってきた。

ついに、数千回という繰り返しの地獄の中でついに、5体中3体目のネウロイのコアに刃を突き立てたのだ。

それもしっかりと、根本まで。―――だが。

 

「…ぁ…」

 

ずるり、と力なく血まみれの柄を握っていた手が離れていく。

咄嗟に握りなおそうと力を籠めようとしても無駄だった。

それどころかその刀はどんどん伸ばした手から離れていき、遠ざかっていく。

 

「あ”ぁ”…も、う”…」

 

はっきりと、はっきりと見えてしまった。

貫いたコアに亀裂は入ったものの、それは決して致命傷にはなっていなかったことを。

ここまでの幸運と死に物狂いの力と、絶望する時間を尽くしてもなお、半分にも届かない現実を。

 

そして怒りを孕んだようなネウロイの赤い瞬きが、暴力的な熱線となって自らに降り注ぐ未来を。

 

「もう…やだ…」

 

最後に流したのは何百回前だっただろうか、そんな涙を今更になってまた再び流していた。

 

「だれ、か……だれか…」

 

どうしようもない苦痛と絶望と恐怖の中で、すがるように血まみれで破片まみれの手を伸ばした。

 

 

「…おねがい、たすけて……!!」

 

 

自らを貫く閃光を放たんと、頭上のネウロイのコアが光輝いて―――。

 

 

 

 

「うりゃーーーーッッッ!!!!!」

 

 

 

 

勢いの良い少女の掛け声と共に、爆散し粉々に砕け散った。

そして夜空に映える深紅の爆炎の中から飛び出してきたその影は、虚空に救いを求めた手をしっかりと。

 

死の冷たさに呑まれ、絶望に沈み、血まみれの手を強く、固く握って。

 

「もう、だいじょーぶだからね!!ぜったい離さないから!!」

 

その幼い顔に輝く笑みを浮かべたウィッチ、フランチェスカ・ルッキーニの手は、どこまでも勇気に満ちた温かさが溢れていた。



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フランチェスカ・ルッキーニ

その少女、フランチェスカ・ルッキーニは激しい後悔の念を抱いていた。

自らの腕の中で弱々しく涙を流す瀕死の幼いウィッチ―――それもチビっ子と毎日のように揶揄される自分よりも、遥かに幼い年齢のだ。

 

その細く小さすぎる身体は余りにも悲惨で痛ましい状態で、握ったその手は自身の血で真っ赤に染まっている。

頭からぶかぶかのストライカ―を履いたそのつま先まで、無事なところなど何処にも無いという余りにも酷い状態で。

何よりも最も恐ろしかったのは、その凄惨な幼い肢体は氷のように冷たく、今まさに命が失われようとしているのが伝わってきたことだ。

 

(なんで、もっとはやく来てあげられなかったんだろ…あたしのバカーっ!!)

 

ストライカーを用いての夜間の脱柵のさなか、海上に不審に輝く光点がちらちらと見えたのはつい数分前のことだった。

脱走する前の基地はいつもどおりで、特に慌ただしい様子など無かった。

だからそれが何なのかを確認するために接近したのは、彼女の純粋な幼い好奇心からだ。

 

「うじゅっ!?なにあれ、すっごいピカピカしてる・・・!!」

 

大型らしきネウロイがいるのは遠目からでも確認できたが、その戦闘規模は彼女の予想を遥かに超えていた。

狂気的な程の無数の赤い閃光が、強烈な嵐となって海の夜空を飛び狂うその凄まじい光景は、エースである彼女ですら近づくのを躊躇させるに十分だった。

どこの大部隊が戦闘してるんだろう、何の作戦なんだろう。と思案すると同時に

 

(ヤば!もし戦闘してるのがロマーニャの軍だったら、連れもどされておこられちゃう…)

 

それは最愛のママと再び引き離されるどころか、ついさっき上官に叱られたばかりの彼女にとって最悪の未来だった。

あの遊び相手も優しい人も全然いないつまらない基地に連れ戻されて、もう一度キツいお説教やお仕置きがまっているかもしれない。

それを考えてしまうと、そのネウロイとの戦闘場所へ向かう気持ちを逡巡させてしまっていた。

 

ママに会いにこのまま見なかったフリをするか?それともあそこに飛び込むか?

命令違反をして出した戦果なんて、今までの経験で認められないどころか怒られると分かっている彼女にとって、その気持ちは非常に前者に揺らいでいた所だった。

そうでなくとも銃すら持ってないウィッチが一人参戦したところで、戦況が変わることなんて――――。

 

「…たす、けて……」

 

ピクリ、と魔力で聴力の強化された黒猫耳が辛うじて捉えたそのか細く、弱り切った声。

それがどこから聞こえたのか?誰が言ったのか?自分に向けられた言葉なのか?

でも、そんな無数の疑問は彼女にとってどうでも良く、関係ないことだった。

 

「……っ!!」

 

その声を聴いた瞬間、彼女はアイドリング状態にしていたストライカーのエンジンを一気に吹かし、目の前の光の雨の飛び交う戦場に飛び込んだ。

その表情は優しい母親に甘え、規律にうるさい上官に怯える少女のモノではない。

今そこにいる助けを求める者の声に応え、その手を掴もうとする一人の気高く、勇敢なウィッチのモノだった。

 

 

―――▽▽―――

 

 

「もうだいじょーぶだからねっ!!私がきたからっ!!」

 

腕の中でぐったりとしているウィッチに呼びかけながら、片手でシ―ルドを展開する。

その青い強固な盾は分厚い鉄板すら貫き、一瞬で数百の命を葬る死の熱線の嵐を易々と防いで見せた。

しかし彼女、ルッキーニの意識はシ―ルドよりも目の前の自らより遥かに幼いウィッチに向けられていた。

 

(あーもー!ちゃんときゅーめー?くんれん、聞いておけばよかった!!)

 

冷たい手を力強く握り、意識が途切れないように何度も声をかけ続ける。

辛うじて軍の救命訓練の中で覚えていた『声をかけ続ける』を、その命を救おうと必死に実行していた。

だがここは海上のはるか上空、その小さな体躯に刻まれた大量の裂傷から噴き出す血を止血することは出来ない。

辛うじて儚く、弱弱しい呼吸をしているのは確認できたが、その体からは今この瞬間にもどんどん熱が失われていっていた。

 

「がんばって!!あなたのママのことを思いだすのっ!!…そうだっ!!」

 

彼女はその細く血まみれの身体を、自らの身体が血まみれになることも構わず強く抱きしめた。

その氷のような冷たさに恐怖すらも覚えながらも、彼女はその命を救うために魔力を全身に漲らせる。

身体から魔力が溢れ―――それと同時に、熱く滾るほどの熱量が彼女の身体から発せられ始めた。

極寒の上空で、白い湯気が身体から沸き立つ程のその溢れた熱は彼女を通し、幼いウィッチへと伝えられる。

―――これこそが彼女固有の魔法、《光熱》を発動させた結果だった。

 

「…ぁ……」

 

命の温もりが、今まさに現世を離れようとしていた幼いウィッチの魂を繋ぎとめた。

文字通り生気を失っていた目にか細い光が戻り、青白い唇から掠れた声が漏れる。

どこまでも優しく、勇気に満ちたその少女の命の温もり。

それを本能的に求めるように幼いウィッチは、震える手ですがるように彼女を抱きしめ返した。

 

―――寒くない、寒くない。温かい。死なない。怖くない。あんしんする。

 

その絶望と恐怖で固まっていた幼い顔に、どこか柔和なモノが宿るのを笑顔で確認すると。

ルッキーニの顔は優しく美しい聖母のような慈愛の顔から、目の前の敵を倒すウィッチの顔になった。

 

(他にウィッチはいないし、どこにも軍のゴツゴツの船もいないよね?――――もしかして。)

 

この少女は、たった一人であの海上にいる船たちを守ろうと?

その考えに至った時、彼女は「うじゅじゅぅっ・・・!!」と上官に怒られるのを恐れ足踏みしていた過去の自分を激しく恥じた。

こんな小さな、どこの軍かは分からないが、自分よりも幼い少女が命を散らして孤軍奮闘しているのに。

そのうえ見れば使い魔すら失って、怪我の治療もせず血まみれの状態で戦っていたのに。

なのに私は寂しさにママに会いに脱走するどころか、目の前の戦いすらも見ないふりをしようとして――――。

 

「うじゅじゅじゅじゅっ……!!うやぁ―――っっっ!!!」

 

生まれて初めて感じるほどの、自身に対する激しい怒りとやるせなさ。

全身から魔力が溢れ、青白い輝きが全身を纏い、長い蒼髪が逆立つ。

マグマの噴火の如く胸の奥底から湧き出したソレを、彼女は目の前で未だこの幼いウィッチを殺さんとするネウロイ達にぶつけることに決めた。

 

――――ドゥルルンッ!!

 

「ホントにごめんねっ――――!!あんなヤツら、すぐにやっつけちゃうんだからっ!!」

 

かつてここまで、ネウロイとの戦いに彼女が意欲を見せたことはなかった。

ストライカ―の魔導エンジンがかつてない程の出力を見せ、とてつもない激しい加速を始める。

それはまるで世界最速のウィッチと名高い、リベリオンのシャーロット・E・イェーガーを彷彿とさせるほどの凄まじいブ―ストだった。

 

―――ビュンッ、ビュビュビュビュビュビュ

 

突然のその加速に戸惑ったように、残された2体の大型ネウロイ達は砲撃の嵐を見舞う。

しかしその余りにも激しい加速とスピ―ドに、その閃光は残像すら捉えられていないようだった。

だがもし仮に真正面から狙いを定められたとして、今の彼女のシ―ルドにはキズ一つ残すことは叶わなかっただろう。

二人分の重量、そして二人分の魔力によるGや風圧からの保護、そして二人を覆う程の大きなシ―ルド。更には傷つき凍える幼いウィッチの身体を温めることさえ続け。

そこまでの負担と無理を強いられてもなお、エースウィッチであるフランチェスカ・ルッキーニには、ネウロイ達は傷を負わすことが出来なかった。

 

「うりゃぁぁぁあああああ―――――――――ッッッ!!!」

 

そして一匹の大型ネウロイの懐に飛び込んだ次の瞬間、展開したシールドの先端から発せられた強力な《光熱》がそのコアを貫いた。

その腕の中でうなだれる幼いウィッチが、何回、いや何千回も試行して辛うじて成し遂げたその偉業を。

彼女は素手で、しかも負傷者を抱えた状態という大きなハンデを背負った状態でたった数秒で成し遂げたのだ。

そして貫かれたネウロイはまるで撃破されたことにやっと気づいたかのように、今になって白い破片への霧散を始める。

 

しかし、エ―スである彼女は撃破したことによる感慨や呆けなど微塵たりとも見せることはない。

一切スピードを殺すことなく周囲を見渡し、残された最後の一匹に意識を集中させた。

そしてその相手が、高高度から自分達を見下ろし撃ち降ろさんとしているのを一瞬も掛からず直観で把握した。

更にその大型ネウロイが、こちらから距離をとろうと加速を始めたことも。

 

「―――ふんっ!!」

 

再び魔導エンジンを全開稼働させ、再び超スピードで空を駆ける。

触れれば死ぬ閃光を見極めシールドで防ぎながら、全速力で加速し、同時に腕の中のケガ人を気遣い、左右の《光熱》の温度を調整し続ける。

そんな常人には到底出来ない複数の平行作業を、戦場という極限状態において彼女は一切のミスなくその全てを完璧にこなしていた。

その事実は彼女のウィッチとして天賦の才を雄大に物語り、エースという名前に彼女が相応しいことを証明していた。

 

しかし彼女の今の心の中にはそんな考えなど微塵も浮かぶことは無かった。

ただ目の前のこの少女を救いたい。この子を守りたいという勇気が、ルッキーニを突き動かしていたのだ。

 

「いっけぇぇぇぇぇええええ――――――ッッッ!!!!」

 

悲鳴のように大型ネウロイが狂気的な量の光線を彼女に浴びせかける。

しかしその全てを真正面から受けてもなお彼女の突進は微塵たりとも緩まる気配はない。

全速力で逃れようと、背を向けるネウロイとの距離がみるみる内に縮まりそしてついに。

 

――――バリバリバリ、ピギンッ!!!

 

銃すら寄せ付けず、鉄壁の固さを誇る装甲に厚く覆われたそのコアめがけ突撃したその一つ流星。

それはまるで飴細工のように容易く黒き巨体を貫き、その奥底に厳重に守られた弱点を打ち砕いた。

 

「ぁ…ぁぁ…」

 

そしてそのネウロイの身体が白化と崩壊を始め、霧散していく光景を。

それを今まさに成し遂げて見せたウィッチの腕の中で、シールド越しに幼い少女は涙を浮かべ見つめていた。

この目の前の光景をどれほど追い続けただろうか。

どれだけの地獄と苦しみと絶望と恐怖と死を繰り返しただろうか。それがついに、終わりを告げたのだ。

彼女…フランチェスカ・ルッキーニの手によって。

 

「もーだいじょーぶだよ。ひとりぼっちで、よくがんばったね。」

 

久しく長い間自分より幼い存在と接していなかった彼女は一瞬言葉に迷ったものの、すぐに慰めの言葉をかけた。

するとしばらく呆けたような顔をして彼女の顔を見つめていたが、やがて顔を歪めボロボロと涙と嗚咽を溢れさせ始めた。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだからねっ。」

「ひぐっ…うぇ、ぐす…」

 

自身が泣いている時に、大好きなママがそうしてくれるように。

その小さな震える冷たい、傷だらけの身体を優しく抱きしめ、そっと頭に手を添えた。

―――でも、まだちゃんとこのコの血、とまってないよね。

怒られるとか、ママに会えなくなるとか関係ない。

一刻も早くこの子を基地に連れて帰り、治療を受けさせなければならない。

そしてこの戦闘のことも伝えて、海上にいる燃え盛る船の人たちも助けてもらわないと―――。

 

 

「―――えっ。あ、うそ…。」

「んにゃ?」

 

ふと、か細い聞こえてきた呟きに、震えが止まった腕の中の少女の顔を覗き込む。

何か体調に異変があったのかと思い心配そうにその表情を伺ったが。

 

その顔はさっきまでの安堵の涙とはかけ離れた、最初に浮かんでいた絶望と恐怖の顔で。

 

「――――ダメっ!!狙われてるッッ!!!」

 

そして次の瞬間、完全に停止していた彼女のストライカーが音が鳴り響き。

とてつもない加速でルッキーニの身体ごと急激な機動を始め―――――。

 

――――ズ、キュゥゥン

 

一瞬前まで彼女たちが居た箇所に無数の死の閃光が降りそそぎ。

その幼いウィッチの左腕は、その閃光の中の黒い影となって消えた。

 

 

―――▽▽―――

 

 

何だったんだろうか、今までの時間は。

何だったんだろうか、今までの奇跡は。

幾千回にも渡る終わりのない地獄に現れた、もう忘れかけてすらいた原作の存在、フランチェスカ・ルッキーニ。

その彼女が伸ばしてくれた手は、繋いでくれた手は、この地獄の中で何よりも輝く尊いモノだった。

そしてその女神がもたらしてくれた勝利によって、この地獄の旅は終わりを告げたハズだったのに。

なんで、どうして。

 

遠い空から現れた"7体"もの大型ネウロイ達は、閃光を煌めかせているのだろうか。

 

「―――くぅぅっ!!うじゅじゅじゅーっ!!」

 

左腕の肘から先を失い、もはや死に体の私を未だ見捨てずシ―ルドで守ってくれている彼女にも、さすがに限界はあるようだった。

2体の大型ネウロイの集中砲火をものともせず防いで見せた彼女も、流石にこの量には顔を歪めている。

でもその顔には未だ戦意が消えてない、こんな絶望的な状況でも未だ諦めていないのだ。

 

「もぅ…にげて」

「やだ!!!!!!!」

 

覇気の籠った大声で一蹴される。

その声には微塵も迷いなど感じさせない、固く強い意志が覗いて見て取れた。

 

「・・・すくわれた、から・・・うれしかった、から、もぅ・・・」

 

ビームの嵐は一向に収まる気配は無い。攻撃予知のアラートはつんざくように鳴り響き、視界の警告も赤一色に染まっている。

しかしルッキーニは、彼女は私というお荷物があるせいで両手でシールドも張れず、満足に回避行動もとることが出来ない。

だというのに未だ彼女は私の手を決して放そうとせず、未だに死にゆく私の身体を温め続けてくれているのだ。

 

「ぉねがい…しんでほしくなぃ…げ、ぼっ…」

「やーだー!!!!!!!!!!」

 

再びの懇願を、また強く一蹴される。

――――あぁ、なんて強く、優しく、勇敢な人間なんだろうか。

こんな彼女を、死なせる訳にはいかない。私はどうせまた無限の地獄に囚われるだろうが、せめて彼女には生きていて欲しい。

そうでなければ、私はきっと、永遠に後悔し続けるコトになってしまうから――――。

 

「ぜったい、ぜったい助けるの!ぜったい私が守るんだから!!」

 

離そうとした手を、強く握りしめられる。

その手はやはり優しい温もりと、どこまでも気高い勇気に満ちていて。

 

 

「―――ぜったい!この手を諦めないんだから――――ッッ!!」

 

 

 

「良く言ったわ、それでこそロマーニャのウィッチよッ!!」

 

 

 

次の瞬間、赤い閃光の嵐の向こう側で、大きな白い爆発が複数繰り返された。

 

 

―――▽▽―――

 

 

「こちら赤ズボン隊(パンタローニ・ロッシ)のフェルナンディア・マルヴェッツィ中尉よ。…良く持ちこたえたわね、加勢するわ。行くわよ!ルチアナ、マルチナ!!」

「えっ、あの子達だけですか?他のウィッチや船はどこに…?」

「そんなのあとあと!さっ、僕らだけじゃないんだし、早くしないとスコア取られちゃうよ?」

 

その空域に現れた3人のウィッチ達は意識外からの息を合わせた集中砲火であっという間も無く2匹の大型ネウロイを仕留めて見せた。

残るネウロイ達が矛先を変え彼女たちに砲火を向けたが、フェルナンディアを中心とした3人の機動にはとても追いつけていない。

狙いを絞らせず、かといって無視をさせない絶妙な間合いを保ちつつ繰り返される攻撃に、残り5体のネウロイは完全に翻弄されていた。

その無数の戦線をくぐり抜け、洗練された彼女たちの連携による攻撃についに耐え切れなくなり、一匹のコアが露出した。

 

「フェル隊長ッ!!」

「えぇ、まかせなさ―――――」

 

――――パリン。

 

その露出した赤い結晶は、真横から飛来してきた小さな銃弾の雨を浴びて粉々に砕け散った。

 

「見たかジェーン。一匹やったぞ。」

「大将っ!?あーもう、こちらリベリオンの欧州派遣部隊のウィッチです!!赤ズボン隊の方ごめんなさい!!」

 

それを撃ち放った2丁の拳銃をクルクルと回転させたガラの悪いウィッチと、それに追随するウィッチまでもが参戦し。

無力な獲物を弄ぶ側だったネウロイが、完全に弄ばれる側になるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

そしてその目の前で繰り広げられる光景を、二人の幼いウィッチ達はしっかりと目に焼き付けていた。

 

「きゃはっ♪よかった!!ねぇ見てみて!!あんなにウィッチがい―――っぱいっ!助かったんだよわたしたちー!!…うじゅ?」

「…ぅん、よかった。ほんとに…。」

 

幼い血まみれのウィッチは、本当に、心の底からの真の安堵を浮かべた。

この繋がれた、私の冷たく血で汚れた手を握ってくれた、本当に優しく温かい、勇気ある手。

その彼女が、私と同じような辛い運命を辿るようなコトが無くて、本当に良かった。

 

「…ぁ…」

 

こちらを覗き込む、大きく、海のように深いエメラルド色の瞳。

その瞳に、今の私に出来うる限りの感謝のほほ笑みを返すと――――。

 

私は、意識を手放した。

 




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ロマーニャの魔女
リリー


「お疲れさまですフェルナンディア中尉。ご多忙の中わざわざご足労頂き恐縮です。」

「ぷっ…!『ご多忙』だって、ルチアナ?」

「ちょっともう、フェル隊長に聞こえますって…!!」

 

 

ロマーニャの南西に位置するティレニア海に接する軍港、その医務室に赤ズボン隊の3人のウィッチ達は訪れていた。

 

その目的は先日のシチリア島遠洋で発生した、大規模なネウロイの群れとの戦闘。

そこでフェルナンディアが救助、治療をおこなったウィッチの一人がここで治療を受けているからだ。

幸いネウロイ襲撃の予報もなく―――ある方が稀なのだが―――こうして本来の勤務地から離れた基地まで3人そろってやってきたのだ。

 

「幸いにもフェルナンディア中尉の治癒魔法のおかげで一命はとりとめましたが…なにぶん、酷すぎる状態だった上に、それに…」

「…えぇ、あんな小さな子供だものね。」

フェルナンディアはその時の事を思い出していた。

 

血まみれの二人の少女、涙を浮かべ叫び、必死に腕の中のもう一人に声をかけ続けるロマーニャの幼いウィッチ。

全身どこを見ても無事なとこなど微塵も見つけれない、凄惨な状態の幼い少女。

裂傷、火傷、痣、突き刺さった無数の破片、更には使い魔すら消え去り、左腕に至ってはその肘から先が失われていた。

――――マルチナとルチアナが彼女達のその惨状に気付き、ネウロイに集中していた私に伝えてくれていなかったら。

――――その治療のさなか、リベリオンのあのウィッチ2人がそれに気付いて援護してくれていなかったら。

 

 

「それにしてもさぁ、あの子があの噂のルッキーニ曹長だったなんてねー!問題児って聞いてたけど、すっごく良い子じゃん!」

「えぇ、あの小さなウィッチを助けようと銃も持たずに駆けつけて…。私達が最初に観測した5体のネウロイも、うち3体は彼女が倒していたそうですよ。」

「へぇ~!?やるじゃんあのチビっ子!ねーフェル隊長、ドッリオ少佐に頼んで赤ズボン隊に誘おうよ!実力もあるみたいだしさ!」

 

そんな静かな独白をしていたフェルナンディアの肩を、元気よくパンパンと叩くマルチナに彼女はため息を漏らす。

 

「チビッ子って…あなたと階級は一緒よ?それに銃を持ってなかったのは脱柵してたからで、いち早く駆けつけたのもそのせいらしいわ。…まぁ、確かに実力とその勇敢さは認められるモノだけど。」

「え"っ"?脱柵って、まさか、ストライカーを勝手に使ってですか!?」

「そうよ、噂になる訳が分かったでしょ。」

 

 

コツ、コツ、コツと、案内を始められて3分ほどが経った後、彼女達は一つの扉の前にたどり着いた。

そこは厳重に鍵で管理されており、どうみても普通の病人の治療をおこなう部屋に対する処置ではない。

 

「...聞いてはいたけど、ここまでする必要があるのかしらねぇ」

「申し訳ありません、彼女の軍属と素性が未だ確認できていない以上、上からの命令で...」

 

ガチャガチャと鍵を開けていく医務官の背を見つめながら、彼女はふむ、と独りごちた。

―――やはりこちらでもまだ確認できていないのね。

やがて開けられたドアの中に踏み込み、その広々とした殺風景な部屋の中央に――――彼女はいた。

 

 

 

 

―――▽▽―――

 

 

 

 

――――いやぁ、まさかこんなことになろうとは。

 

「・・・なるほど、目覚めてからずっとこんな状態で、こちらの呼びかけにも一切応じないと?」

「えぇ、怪我自体はフェル隊長の治癒魔法でほとんど塞ぐことは出来ているので、恐らく精神的なモノではないかと思われます。」

「だからバルバロッサ作戦やペデスタル作戦で精神医としても活躍なされたアナタの力を借りたいの…リリー・グラマン技術中佐。」

 

ふむ、とロマーニャ軍のとある基地に招待されたリベリオンのウィッチ、リリー・グラマンは顎に手を添えた。

自身と親交の深いウィッチ、ドッリオ少佐率いる赤ズボン隊のウィッチらから連絡を受けた時は何事かと思ったが、まさかこんなコトになるとは思っていなかった。

 

あのシチリア近郊の戦闘で、生き残った幼い扶桑人らしきウィッチがいる―――よもや裏取引の場で出会った幼い少女だとは。

 

「戦場で破損した数多のストライカーを修繕・改修しただけでなく、傷ついたウィッチや兵士の心までもを癒して再び戦線へと立たせた"天使"。

カウンセラーとしてあなたより優れた戦場医を、私は聞いたことがないわ。」

「…………」

 

自身の目の前のベッドには、呆然とこちらを光の失われた目で見つめる一人の包帯とギブスまみれの幼いウィッチ。

切除出来なかったのだろうか、額に深く刺さったままの鉄の破片がその痛々しさと悲惨さを物語っていた。

 

「事情は把握しました。・・・まさか、こんな所でこの子と再会するコトになるとは思いませんでしたわね。」

「・・・え!?中佐さん、この子知ってるの!?」

 

マルチナが並びから一歩踏み出し、食い入るように彼女に詰め寄る。

 

「えぇ、あの戦闘の後ずっと私も探していたのです。まさかストライカーで空を駆け、ネウロイを倒しているなど思いもよりませんでした。」

 

無論、あの後生き残った船団の残りの船はロマーニャの海軍に保護され、港まで送り届けられた。

その中にあの少女の姿や宮菱の人間の姿がないかは、極秘裏の取引を行った彼女にとっても重要な確認事項だった。

思わぬハプニングに見舞われた彼らが、口を滑らせ取引の事が漏れる危険性があったからだ。

しかし当然、皆令嬢である美喜を守る為に命を散らし、事実彼女も今この瞬間までは全員死んだものだと思っていたのだ。

 

「この子、扶桑のウィッチじゃないの?扶桑の軍に履いてた零戦の機体番号とか、容姿を照会してみても『そんなウィッチはいない』の一点張りで」

「詳しくは後で説明します。今はとにかくこの子を正気に戻してあげないと・・・しばらく二人きりにさせて頂けますか?」

 

にっこりと赤ズボン隊の3人に微笑みかけ、退出を促す。

 

「ええ、わかったわ。行くわよ、二人とも。」

「うーん。ちゃんと後で説明してねッ!」

 

バタバタと病室を後にする3人組の背を見送りながら、その豊かな金髪の魔女は口角をにんまりと吊り上げた。

 

 

―――▽▽―――

 

 

ガチャン、と重く厳重な扉が占められ、固く閉ざされた密室の中には二人の少女達だけになる。

これでもう外へとこの中で起こった事は伝わらない。

精神治療にも使用されるこの部屋は、強力な防音処置が施されており決して内部の音が外に漏れることもない。

 

「クスッ……まぁ、なんと惨めで滑稽で無様な御姿ですわねェ、扶桑のお姫様?」

 

リリー・グラマンはその美麗で整った顔を邪悪そのものに歪め、未だ死んだ目で呆ける哀れな少女を見下した。

その表情には先ほどまで覗いていた慈愛や寛容さなどといったものは微塵も感じられない。

ただ目の前の相手の悲惨な有様をあざ笑い、必死に口を押えて笑いをかみ殺していた。

 

「あのまま死んでいてくれていたら、何も憂うことなくコーヒーを楽しめていたものを。なんともまぁしぶといゴキブリのようですわね。扶桑人は潔いのがお好きなのでは?」

 

少女が伏せるベッドの縁に腰掛け、火傷と裂傷の傷跡が色濃く残る白く幼い頬に手を添える。

何を言っても、何をしてもその表情は一切変わることなく、感情というモノが完全に失われているのが見て取れた。

こういう顔をしているウィッチをバルバロッサ作戦末期の時にはよく診たものだ。

極限の環境に長く身を置きすぎて、そこに耐える為に精神が防衛措置をとった結果すべての反応を拒絶した状態。

 

あぁ、良かった。と、それを見てリリーは心の奥底から安堵した。

このお嬢様が生きてるという情報を聞いた時は、背筋をゾッとさせ破滅さえ覚悟したものだが。

この様子なら誰かに取引のことすら、ましてや自身の素性すら話せていないだろう。

 

「くふふっ、よもやこうも上手く見逃した群れが綺麗に扶桑人共の船を襲ってくれるなんて。あぁ、ストライカーの需要増加といい、お父様と私のグラマン社にとってネウロイは商の神様ですわねぇ♪」

 

そう、彼女は―――知っていたのだ、ネウロイの群れがあの近辺に存在したことを。

そしてその予測進路が、取引を行った扶桑の船団の航行進路とクロスすることも―――――。

だが乗船していた軍船の艦長は彼女の息がかかった人間、その情報をどこにも伝えないようにさせるのはそう難しいコトではなかった。

 

「設計図さえあれば本体など無くても構いません。それよりもリスクヘッジの方が遥かに大切なのです・・・。さて、あなたはどうしてくれましょうかね。」

 

目の前にいるのは、遠い異国の地で一人、従者もいなければ助けもいない哀れなボロボロのみすぼらしいお嬢様。

別にその無防備な細首をこの手でへし折り、死体を処理するくらい造作も無いことだが。

彼女は少し、一人のウィッチとして彼女の事に興味を持っていた。

 

聞くところによれば、彼女はロマーニャ空軍のフランチェスカ・ルッキーニ曹長が到着するまでの間、たった一人で5体のネウロイを相手に大立ち回りを演じたというではないか。

しかもその内2体を、単独で撃破していたとまで証言では聞いている。

そんなこと並のウィッチどころか、ベテランのウィッチでもそうそう出来る事ではない。

それこそ『アフリカの星』や『黒い悪魔』のような理外のウルトラエースでも無ければ困難であろう。

しかして一体どうして、病弱の素人のお嬢様にそんな事が出来たのか?それに非常に興味をそそられたのだ。

 

「さて、それでは早速アナタの口から直接教えて頂きましょうか・・・《催眠》」

 

リリー・グラマンの全身を青白い魔力の光が包み、金髪の頭から三角の耳が、そして腰から二対の被膜の翼がバサリと羽ばたいた。

コウモリを使い魔に持つ彼女の固有魔法、それは瞳を合わせたモノの精神に働きかけ、何らかの影響を与える事ができるのだ。

小さく丸く、幼い少女の頬に両手を添え、無理やり自らの虹色に光彩を放つ眼と向き合わさせる。

やはりその眼には意志や感情といったものは存在しない。好都合だ。

 

「使い魔すらおらず、心身ともに瀕死寸前、しかも幼い子供など・・・これ以上《催眠》が効きやすい相手など居ませんわねェ♪」

「…ぁ…ぁ?」

 

向かい合った幼い瞳がゆっくりと同じような光彩に染まっていき、心が支配されていく。

植え付けられた心と感情に、停止していた彼女の思考は小さな声を漏らした

 

「『答えなさい、どうしてあなたは死ななかったのですか?どうやって生き延びたのです?』」

 

さながら蝙蝠の超音波のように、もしくは波のさざめきのように、特殊な響きを孕んだその言葉は彼女の脳に染みわたっていく。

気付けば目覚めてから一度たりとも開くことが無かったその唇が僅かに開かれ、言葉を紡ぎだそうとしていた。

 

「ぁ…みらいよち…。なんども、みらいを、みて。ずっと…くりかえして…」

「・・・ッッ!《未来予知》?《未来予知》と言いましたか?あのスオムスのスーパーエースの・・・」

 

ウィッチであれば知らないものはいない。一度たりとも被弾したことが無いと言われるスオムスの生ける伝説のウィッチ。

彼女と同じ固有魔法を、今この目の前の幼い少女は持っていると言ってのけたのだ。

なるほど、それならこの素人の彼女が生き延びたのも頷ける。

 

しかしこれは面白い。始末しようかと思っていたが使いようによっては便利なペットにできるかもしれない。

この哀れなお嬢様をエースウィッチに仕立て上げ、裏から操ってやれば色々と痒い所に手が届きそうだ。

 

「ふぅん・・・なるほど。他には?『アナタが隠している一番大きな事を言いなさい』」

 

その答えに満足した彼女は、問いかけの内容を本来ここに来た目的にシフトさせた。

もしこのお嬢様があの取引のコトを事細かに、詳細に覚えているとしたら自身の脅威になりうる。

そうなるなら、例え未来のスーパーエースとなる素質のある少女だろうが躊躇いなく殺す気だった。

その考えのまま、彼女の首に添える力にそっと力を込めて―――。

 

 

 

「…この世界は、物語の世界。」

 

 

 

「…へぇ」

 

その幼い少女の口から紡がれた余りにも突拍子もない言葉に、彼女はひどく興味を惹かれた。

 

 

―――▽▽―――

 

 

その幼い傷だらけの少女がボソボソと掠れた声で謳う物語を、リリー・グラマン中佐は愉快な世迷言として聞いていた。

 

曰く、失敗部隊として有名な統合戦闘航空団501部隊にある扶桑のウィッチが加わること。

それをきっかけにして501は部隊としての頭角をめきめきと発揮し、ついには人類史上初となるネウロイの巣の撃破を成し遂げること。そしてガリアの解放へと繋がること。

更にはそれらの出来事の中心ではすべて、その扶桑のウィッチが活躍していたと言うこと。

 

ここまで聞いていた彼女は、そんな化け物じみたウィッチなどありえないと一笑に付した所を、それ以上にありえないエース達が現実にはありふれていることを思い出し苦笑した。

深層心理まで狂ってしまっているのか。と哀れんで適当に聞き流し続けていた彼女。

しかしその幼い口からある言葉が語られ始めた時、彼女は目を見開いてその顔を覗き込むことになった

 

その少女の口から出てきた「ウォーロック」という名前。

それは彼女の属する、リベリオン最大手の兵器メーカーグラマン社も関わっている、超極秘の統合政府主導の魔導兵器開発プロジェクトの名前だったからだ。

兵器開発の分野ではその名を轟かせるフィクサーである自分さえ、深くは知らない極秘中の極秘。

グラマン社の創業者にして社長である父ですら僅かにしか関与出来ていないほどの深すぎる闇。

その兵器の性能・詳細を事細かに言ってのけ、その顛末すら語られた話に彼女はただただ聴き入っていた。

 

そして続く502部隊の話。今はまだ存在しない504というロマーニャに属する部隊の話。そしてヴェネツィア上空に新型のネウロイが現れ、再び501の物語が始まって−−−。

 

「.....ふぅ。なんとまぁ...まぁ。」

 

時間にして一時間以上は過ぎただろうか。

流石に集中力が切れたのと、少女の声がかすれ切ってしまったのを見て水差しから水を飲むように命令してやった。

無表情でんく、んく。と小動物のように水を喉を鳴らして必死に飲む幼い少女。

しかしその実態はとてつもない威力を持つ爆弾のような危険で恐ろしい存在だったのだ。

 

「ふむ...」

 

顎に手を添え思案の海に沈む。

最初に物語の世界だと何だの言い出したのは、恐らく未来予知を彼女自身で制御できていない事と、ボロボロの精神が重なりあって発せられた妄言だろう。

きっとその未来予知で見てきた遥か先の光景を、本か何かの物語だと思いこんでしまったに違いない。

 

だが自分ですら名前くらいしか知らない「ウォーロック」のコトや、その他のウィッチについての余りにも鮮明すぎる情報。

これらは一笑に付すには余りにも無視し難く、彼女の話の信憑性を非常に高めていた。

 

「手放す訳には参りませんわね。アナタさえ手に入れれば、我がグラマン社は、いいえ、リベリオンは世界の頂点にさえ手が届く....!」

「.....?」

 

口元から溢れた水を軽く指先でぬぐってやると、光のない幼い顔は静かに首を傾げた。

殺す訳にはいかない、この未来予知の力は例のスオムスのウィッチのモノの比ではない。遥か先の未来をここまで詳細まで見通せるとなれば、その力は余りにも強大過ぎる。失うには惜しすぎるのだ。

かと言ってこのままここで治療を受けさせ続けても、きっとこの子供の身柄はロマーニャ軍の物になってしまうだろう。

そうなればある程度欧州にも影響力を持つ自分とはいえ、流石に彼女の力を独占するという事は出来ない。

いや、最悪ロマーニャがこの未来予知を使って世界に覇を唱えようとさえしてもおかしくはないのだ。

 

「ならば。答えは一つ。」

 

そのリベリオンにとっての女神たりうる幼い少女。

心が壊れかけたその顔にそっと手を添え、ぐっと自らの顔を近づけ、瞳を覗き込む。

全身に魔力を漲らせ、青白い輝きが身体を覆い使い魔のコウモリの翼がバサリと一際大きくはためいた。

 

「....『今話した全てを完全に忘れなさい』」

 

その瞳が眩いばかりの虹彩を放ち、幼い少女の深層心理にまで毒牙を伸ばしていく。

 

「『今までの記憶を全て忘れなさい』『あなたの名前を忘れなさい』『あなたの親も、家も、全てを忘れなさい』『あなたが何者なのか、忘れなさい』」

「....ぇ...ぁ....?」

 

彼女の《催眠》は特別強力な魔法ではない。

簡単な暗示こそ大抵誰にでもかけることは出来るが、記憶や人格へ影響を及ぼさんとするとウィッチや普通の兵士相手には到底無理な話だった。

しかし、その相手が精神的に衰弱していたり、年齢が未熟であったり、魔力にほとんど抵抗もないとなれば話は別である。

 

「いいですか?言ってごらんなさい、あなたの名前は?」

「な、まえ....ぁ....わたし、なまぇ...?」

 

虚ろな儚い声を漏らし僅かに戸惑う哀れな少女に、満足げに頷く魔女。

 

「やはり弱っているニンゲンは良いですねぇ、純粋で単純で御しやすい...続けましょうか。」

 

コホンと軽く咳を払うと、怯えと戸惑いが色濃く浮かび上がり始めた大きな瞳を再び見つめる。

 

「『私の言葉を何よりも優先しなさい』『絶対にです』」

「.....ひ....ぁ...」

「『口答えも反論も許しません』『あなたは私の言葉に従順な下僕です』『一切の疑問を持つことも許しません』」

 

都合のいい道具に仕立て上げる為に刻みつけられる、無数の言葉。

それらは間違いなく彼女の心の奥底まで蝕み、既にあやふやになっている彼女にとっての『現実』の境界線すら書き換えていった。

疲弊しきった心が本能的に危機感を覚え、僅かに身じろぎをしたがまるで無駄だった。

 

「ぃ"ぁ"....ゃ"め"...」

「...重ねて言いましょうか。『私の言葉は絶対です』『反論も疑問も一切許しません』『全てを忘れなさい』」

「...ぁ"、ぁ...」

 

頭にメスをつき立てられ、脳をぐちゅぐちゅとかき回されているような感覚。

見開かれた目から涙が溢れ、あんなにも無感情だったその表情は、未だ正気は戻っていないというのに深い絶望に染まっていった。




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赤ズボン隊

「はぁーつまんないの.」

「みゃぁ?」

「ねー。アナタもそー思うよね?」

 

膝に載せた黒い仔猫───本当は幼い黒豹なのだが、気づいていない───を撫でながら、彼女、フランチェスカ・ルッキーニはいつものように訓練をサボり広大な基地内で暇を持て余していた。

こんな時、普段ならその小さなお供と一緒にお昼寝(シエスタ)と洒落こむのが日常なのだが、どうにも今日の彼女にはそんな気分になれなかった。

 

「あーあ、あの子どこ行っちゃったんだろ。ケガ、大丈夫かなぁ」

「うみゃぁ」

 

眠りの世界に旅立とうとしても、どうしても忘れられない浮かんでくるあの顔。

つい先日、脱柵のさなか遭遇した大規模なネウロイの戦闘。

そしてそこで出会った”チビっ子”である自分よりも遥かに幼い、黒髪の傷だらけのウィッチ。

儚く、絶望と悲しみが色濃く刻まれた血まみれのその顔は、目を閉じると今でも彼女の瞼裏に鮮明に浮かんでくるのだ。

 

「誰にきいたって教えてくんないし。名前も聞いてないのになぁ…うじゅぅ」

 

駆けつけてきてくれた赤ズボン隊(バンタローニ・ロッシ)のウィッチによって一命は取り留めたが、それ以降のことは聞いていない。

そのあと迎えに来た原隊のウィッチ隊の隊長に連れて帰られてしまったため例の少女とはあれ以来会えていないのだ。

幸い、たくさんの人命を救助したと言う事と多大な戦果を挙げたことを鑑み、軽いお説教で済んだのは良かったが。

 

「…?みゃぅみゃぁぁっ」

「あっ、こらぁっ!!どこいくのー!?」

 

ぼんやりと虚空を眺めていた飼い主の膝上でむにゃむにゃと寝ぼけていた仔猫。

それが突然何かを見つけたかのように駆け出し、慌てて彼女は追いかけるハメになってしまった。

 

その子猫はかつて、基地内に迷い込んできた二匹の幼い猫の姉妹だった。

お気に入りの昼寝場所で眠る彼女達を見つけたルッキーニは、それはもう大はしゃぎでその世話を始め。

いつしか大層甘えられ懐かれたころ、気づけば大きい方の猫は彼女の使い魔として共に空を駆けていたのだ。

だから今でもその妹の仔猫はずっと、何をするにしても彼女と一緒だった。

 

「…にゃにゃ。うみゃうみゃ」

「ひーっひゃーっ…!もーっ!今日はもういっぱい遊んであげたでs…」

 

さしもの俊敏さを誇る彼女でも息を切らすほどの距離を走り、やっと追いついた。

 

「……」

「にぅ、なーお」

 

そして子猫がある人物の足元に、見たことが無いほど纏わりつき身体をこすり付けているのを発見して───。

 

「……?」

「…あっ。あーーーっっっっ!!!!?」

 

仔猫をまるで初めて見るかのような無機質な目で見つめる───その幼い少女は。

そう、忘れるはずもない。あの子は────。

 

 

───▽▽───

 

 

ここは、どこなんだろう。

私はなんで、ここにいるんだろう。

 

「……」

 

ぼんやりと、空を見上げる。

分からない。何もわからない。ただ何か、とってもやりたかったことがあった気がする。

早く、ずっとしたかったことのはずなのに。何も思い出せない。

 

ただ思い出せるのは、何度も繰り返した地獄のコトだけ。

ストライカーと呼ばれる翼で空を駆け、死んで。

ネウロイと呼ばれる怪異と戦い、死んで。

そしてそれを何度も繰り返し、死んで。

死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。死んで。

 

そのしたかった何かの為に、ずっと繰り返して、死に続けたはずなのに。

なのに、それが思い出せない。

 

目が覚めたら、大きな女の人が目の前にいた。

けれどその人は、何度も私から大切な何かを奪っていって。

だから怖くなって、目を盗んでこっそり逃げだしてしまった。

 

「……」

 

空を、見上げる。

ふと何故か、その空が星空ではない、青く雲がたゆたい、太陽が輝く空であることが酷く安心して。

ここはもう、地獄の中ではないのだろうかと、ぼんやりと考えた。

 

「にぅにゃあ」

 

ふと、足元からかけられたその声に意識が連れ戻される。

みると小さな黒い毛むくじゃらの塊が素足のままの足にじゃれつき、すりすりと身体をこすり付けていた。

 

「……?」

 

これはなんだっただろう。なんで私に近づいてるんだろう。

首をかしげて、歩くこともできないからどうしようと考えていると──────。

 

 

「えへへ~っ!よかったぁ!すっごく会いたかったんだからぁっ!!にひひ~っ♪」

「にぅにぅ」

 

「…………」

 

私は、気が付けばその黒い塊と一緒に、大きな女の人より小さな人に膝に座らされていた。

 

「ねぇねぇっ!!もうケガは大丈夫なの?あなた扶桑のウィッチ?何歳なのっ!?あたし、自分よりちっちゃなウィッチって初めて見るんだーっ!!にゃはー♪」

 

その人は、とても不思議な人で。

とても大きな元気な声で、その声を聴いてるだけでどこか心がぽかぽかしてくる。

こうやって優しく身体を包まれてると、とても穏やかでほっとする気持ちにもなるし。

でも、その言っていることは何一つ意味が理解できなくて。

 

「……ありぇ?もしかして…わたしのコト、覚えてなぁい?」

 

わかりやすいほど泣きそうな顔でそう覗き込まれて言われると、私はすこし、首を傾げて思案した。

そして数秒経った後───私の右手を、その人の温かく、大きな手が優しく握ってくれると。

 

────もう、だいじょーぶだからね!!ぜったい離さないから!!

 

────ぜったい!この手を諦めないんだから────ッッ!

 

「……あ…」

 

脳裏にフラッシュバックする、あの記憶。

暗くどこまでも深い、無限に続く絶望の地獄の夜空。

そこで虚空に伸ばした救いを求める手を握ってくれた────どこまでも温かく、勇気に満ちたその手。

そうだ、この手は。どうして忘れてしまっていたんだろうか。

 

「…おぼえ…てる…。たすけて、くれた…」

 

添えられたその手を、私は強く、強く握り返した。

地獄から、ネウロイから、そして死の寒さから私を救い、そして守ってくれたウィッチの手。

それが今再び、こうして私の手を握ってくれている。

それが────余りにも嬉しくて、本当に、嬉しくて。温かくて。

何か熱く、堪えきれないモノが私の眼から、とめどなく溢れるのを止められなかった。

 

「───にゃはっ♪よかったぁ~!!あたしもず~っと覚えてたんだよーっ!!」

 

そういって、あの時のように再び強く、私の冷たい身体を抱きしめてくれると。

さっきまであれほど私の心を支配していた、言いようのない不安や、ぼんやりとした焦りが消え去って。

ただその優しく心地よい温かさに身を任せ、うっとりと目を閉じていた。

 

「…にゃあにぅ」

「んにゃ?あ~ごめんねエイミー?この子を見つけてくれてありがとーっ♪」

 

私の膝の上で漏らされたその不満げな鳴き声に、私の頭をなでてくれていた手が取られてしまうと。

少しだけ嫉妬心のようなモノがそのエイミーと呼ばれた黒い毛玉に沸いてしまった。

 

「んねぇ、あなたお名前は?どこから来たの?ロマーニャの子じゃないよね?」

「……ぁ、ぇっ…と」

 

私の名前。私がどこから来たのか。

頭の中を必死に探してみる。何度も、額をおさえて必死に。

───でも、何一つ浮かんでこない。欠片も、それに繋がるようなことも。

思い出すのは、あの無限に駆け続けた絶望の夜空でのことだけ。

 

「わか…らなぃ」

「ふぇっ?自分の、お名前も!?…じゃあどうしてネウロイと戦ってたとかは?」

「…それも、わからない」

 

思い出せない。

何かの為にずっと苦しんでいたのだけは覚えてる。

それの為だけに、それだけを救いに繰り返していたはずなのに────。

 

「そっかぁ…じゃあ迷子なんだぁ。だいじょーぶ!きっとすぐにパパやママに会えるからね!!」

「…うん」

 

そういってまた優しく手を握られ、抱きしめられると。

一瞬前まで思い出していた地獄から救われ、安心する気持ちに包まれていった。

 

 

 

 

 

「…ぅぅん…その、ごめんねっ。あなたのその…ウデ」

「……?」

 

しかし、不意に頭上からかけられたその歯切れの悪く暗い言葉に、私は意識を向けた。

その人の───大きな女の人の、悲しげで泣きそうな顔に、私は理由も分からず少し悲しくなった。

私の着ていた白くゆったりとした服の左腕の部分を。

何もなく、ただ袖布だけが力なく垂れ下がっているのをそっと持ち上げられた。

 

「あたしっ、ほんとはもっと早く助けに行けたの。だけど…だけど、あんなに遅くなっちゃって」

 

私の右手を握るその手が、わずかにぷるぷると震え始める。

 

「もっとっ、もっと早く行ってたら…!!きっと、ちゃんとあなたを守れてたのにぃっ…!!!」

 

────ぽろ、ぽろ。

 

見上げる私の顔に、熱い彼女の涙が滴った。

嗚咽を漏らし、後悔の言葉を呟く彼女に───私はとても悲しく、つらくなったけど。

なんていえばいいか、どうすれば良いかがまったく分からなくて。

せめて、その手を抱きしめようと力をぎゅっと込めて─────。

 

 

ウ"────ッッ!!ウ"─────ッッ!!

 

 

けたたましい、つんざくようなサイレンの音が辺りに鳴り響き。

 

「─────ネウロイだ──ッ!!」

 

何処からか聞こえてきた男の人の声が、私を目の前の現実に引き戻した。

 

 

―――▽▽―――

 

 

「良い?あぶないから、ちゃーんとここでエイミーと一緒に待っててね?」

 

先程まで感情のままに涙を流していた彼女、フランチェスカ・ルッキーニの顔は打って変わり、戦いに赴く一人のウィッチの顔へとなっていた。

その手を載せているのは自身より遥かに幼く、傷跡だらけの少女の小さな肩。

こんな小さな子に、ましてや先日酷いケガを追った状態の子に、たとえウィッチであろうとも戦わせるなんて訳にはいかない。

 

「....ねうろい。ねうろ、い?」

「−−−ぅじゅっ。だいじょーぶ!お姉ちゃんがすぐにやっつけて来てあげるからねっ!」

 

僅かに狼狽えるような、どこか怯えているようにも見えた彼女の震える手をぎゅっと握る。

その余りの氷のような冷たさに一瞬戸惑いを漏らしてしまったものの、すぐに固く両手で包み込んで微笑みかけた。

 

「おねぇ、ちゃん....」

「...!そっ!おねえちゃんにまっかせなさーいっ!」

 

お姉ちゃん、と呼ばれた舌足らずな幼い声に一瞬ドキリとしてしまったが。

すぐに顔を引き締め、彼女の大好きなママがそうしてくれるように優しく頭をぽんぽんと叩いた。

そしてくるりと身を翻し、急いで自身の愛機が待つ格納庫へと駆け出し−−−。

 

−−−ぐいっ

 

「う、じゅっ?」

 

しかし勢いよく走ろうとした彼女の服が本当に小さな、まるでヒヨコが啄んでいるかのようかか細い力で引っ張られる。

一体何が引っかかったんだろうと振り向くとそこには。

 

「ぁ...ゃ...」

 

今にも溢れそうな涙を大きな瞳に浮かべながら、袖をぎゅっと握るその幼い少女が。

震える口をぱくぱくと開閉させて、必死に何かを訴えていた。

 

「いっちゃ...やだ...。」

「ぅにゃぉ?」

 

肩に載った仔猫が、その顔を除き込み首を傾げる。

その光景に、行かないでと涙目で上目遣いで懇願してくるその子供の姿に、彼女は喉から「うんっ!!」と飛び出そうになる声をぐっと堪えた。

 

「...うじゅじゅっ!!」

 

ぶんぶんと長いツインテールと共に首を振り、ぱんぱんとほっぺたを叩き自らを厳しく戒める。

それは上官から"チビっ子"と呼ばれ、周りから問題児と称される自由気ままな普段の彼女では考えられない行動であった。

意を決したように息を深く吸い込み、目の前の幼い少女と目線を合わせて瞳を覗きこむ。

 

「だいじょーぶ!きっとすぐに帰ってくるからぁ!...だから、それまではエイミーと一緒にいてあげて?ねっ?」

「....うん。」

 

わずかの逡巡があったものの、その彼女の強い意志が伝わったのか、やがてその少女はおずおずと静かに頷く。

そしてその様子に満足げに聖母のような微笑みを返した彼女は、次の瞬間には一人のウィッチとしての顔に戻りその身を翻したのだった。

 

 

−−−▼▼−−−

 

 

「ルチアナッ、状況はっ!!」

「数は確認できただけで中型3。ナポリの部隊がスクランブルをかけましたが...」

「多分沿岸上陸までには間に合わないだろうねー」

 

沿岸の基地に来隊していた赤ズボン隊のフェルナンディア中尉は突然のネウロイの襲撃の対応に奔走していた。

バンカーに飛び込み、もう既に出撃準備を整えている二人のウィッチを内心できた部下だと褒めながら、状況の確認を行う。

 

「...ボクらだけでやる?この間の夜の群れの規模考えたらちょっと怖いけど」

「ここのウィッチ隊はどうしたのよ!?第5航空隊の分隊がいるはずでしょ!」

「先日からマルタ島への支援派遣に出動しているようです。残っているのは戦闘機だけで...」

「なんて間の悪さよッ...!!」

 

小さく舌打ちを鳴らし、ストライカーへと飛び乗る。

マルチナの言うとおり、つい先日シチリア遠洋で起こった扶桑からの物資輸送船への襲撃の規模は()()()()()()だった。

考えられる原因はいくつかあるが、どちらにせよ今回のこの襲撃も確認できている数のネウロイだけとは考えにくい。

陽動の可能性だってあるし、伏兵の形で確認できていない敵が潜んでいるかもしれない。

それらの可能性を考えると幾ら精鋭を自負する赤ズボン隊であろうとも、自分達だけというのは不安は拭いきれなかった。

最悪でも不足の事態に動けるウィッチがもう二人、いや一人でもいいから居てくれれば...。

 

「そうだっ!リリー中佐もストライカーを持って来てるのよね?手を貸してくれれば...!!」

「バカ言わないで下さいフェル隊長!治療中の患者を投げ出してこっちに来れるワケないじゃないですかー!!」

「うわーっ...そうね。あーもう仕方ないわ!私達だけでやるわy...」

 

半ば諦め、悪く言えば言えばヤケクソにも近い気持ちで出撃を宣言しようと手を振り上げた瞬間。

 

−−−−−バタンッ!!

 

バンカーの重い鉄扉が、その軍人でも数人がかりで開閉を行う扉が勢いよく開かれた。

そして開いたドアの中央にいたのは、逆光を背に青白い魔力の輝きを漲らせる、一人のウィッチ。

 

「アタシも出撃するーっ!!!!」

 

蒼いツインテールをたなびかせ、突然飛び込んできたその小さなウィッチは堂々と赤ズボン隊の面々にそう宣言してのけた。

その特徴的な幼い声音と溢れんばかりの元気良さは忘れるわけもない。

つい先日シチリア遠洋での襲撃の際に、共闘した幼いウィッチ−−−フランチェスカ・ルッキーニ曹長その人だ。

 

「おっ、この前のチビっ子じゃん!なんで基地に残ってんのさ?」

「うじゅーっ!怒られたバツで置いて行かれたとかじゃないもんーっ!!」

「あぁ、なるほど。そういうコトですか…。」

 

尻尾を逆立ててプンプンと怒りながら、彼女はくるりと飛び跳ねて曲芸師のようにそのままストライカーに収まる。

なるほど、使われてないストライカーが幾つかあると思っていたがそういうことだったのか。

 

「でも良かったですねフェル隊長ッ、この子が一緒なら私たちも心強いですよ!」

「へっへーん♪まかせてっ、スグにやっつけてエイミーとあのコの所に戻るんだかr」

「―――ダメよ。認められないわ。」

 

空気がピシリと凍る。

マルチナ、ルチアナも見開いてこっちを見ているが当然のコトだ。

 

「置いて行かれたって、つまりは謹慎でしょう?そんなウィッチを出撃させるなんてとても容認できないわね。」

「えっ…えーっ!?!?!」

「ちょ、ちょっとフェル隊長ッ、今は猫の手も借りたいんだからさ…」

「今ここでこの子を見過ごせば私達の監督責任に成りかねないわ。赤ズボン隊の名に傷をつけるつもり?」

「そ、それはそうですけど。隊長…。」

 

わなわなと震えた驚愕の顔でこちらを見てくるルッキーニ曹長だが仕方がない。

万が一この出撃を見ないふりをして、彼女が撃墜でもしよう物ならそれは完全に私たちの責任になってしまうのだ。

そうなれば赤ズボン隊を率いるここにはいないドッリオ少佐にまで多大な迷惑をかけてしまう。

そんなことだけは絶対に避けねばならないのだから。

 

 

「ッ…お願いッ!!アタシ、行かなきゃっ!!アタシ、ウィッチだからっ!」

「…下がりなさい、離陸に巻き込まれるわよ。」

 

その幼い顔に、無邪気とさえ言える顔に固く強い意志が宿るのが見て取れた。

しかし、それでも変える訳にはいかない。私達はウィッチである前に軍人なのだ。

 

―――例え自分の意志を通す時でも、そこだけは忘れないでね。

かつて敬愛する自由奔放な上司、ドッリオ少佐に教えられた事が頭に反芻する。

 

「アタシっ…あの子を守りたい!!ちかったんだもん!ゼッタイに守るんだ、って!」

「…チビッ子。」

 

そのエメラルドの純粋な瞳に嘘はない。心の底からの言葉だとフェルナンディアははっきりと理解できた。

その瞳に宿る覚悟はまさしくウィッチだ。とても問題児と揶揄されるような少女のモノには思えない。

 

「だからっだからっ…えと、んっとぉ・・・お、おねがい、しましゅっ!!ちゅーい!!」

 

そして―――ついには、何という事だろうか。

あの問題行動を繰り返し、上官にも敬意を払わず、訓練もサボり遊んで昼寝を楽しんでいた彼女が。

そのフランチェスカ・ルッキーニが――――生まれて数度目の敬語を使い、上官を階級名で呼んだのだ。

きっとこの場に彼女の直属の上官が居れば、卒倒するか頬をつねっていたであろう行動。

それが彼女にとってどれ程の熱意と情熱が成せる業なのかを理解した瞬間、フェルナンディアの熱きロマーニャのウィッチ魂は揺さぶり、燃え上がり、興奮し、そして―――。

 

「…分かったわっルッキーニ曹長!!私達の直掩として出撃なさいっ!!()()()()()()()()()!!!!気兼ねなく戦いに集中しなさい、いいわねっ!?」

 

「…わぁ!!うんっ!!ありがとーフェルッ!!」

「フェ、フェルぅ!?ちょっと、さっきはちゃんと中尉って言ってたじゃないですかぁ!?」

「あははは♪いーじゃんルチアナ、ボクたちの未来の後輩なんだしさ♪」

 

どうやら彼女を赤ズボン隊に誘おうと言い出したマルチナとルチアナの眼は正しかったようだ。

この子はきっと、エースと呼ばれる今以上にもっと大きなウィッチになれるだろう。

その未来ある彼女のことを思えば、私一人がバツを受けるくらい大したことではない。

魔導エンジンの火をかけ、使い魔を顕現させ、全身に魔法力をみなぎらせる。

 

「さぁ行くわよ―――マルチナ、ルチアナ、この子に恥ずかしい所は見せられないわよっ!!赤ズボン隊(パンタローニ・ロッシ)、出撃ッッ!!!」

「「「了解(ヴァ・ヴェーネ)!!!」」」

 

 

そして3人の赤ズボンの少女と、()()()()()()()()()()()()()()ズボンの少女は、ロマーニャの空へと駆け昇った。

 

 

―――▽▽―――

 

 

「…おねえ、ちゃん?」

 

見上げた青空を駆けていった、4つの遠く小さな光。

その中にきっと私を救ってくれた、守ってくれたお姉ちゃんがいることが不思議と理解できた。

 

「にゃぁ」

「…うん、わたし、まってなきゃ。やくそくしたもん。」

 

足元にまとわりついてくる、エイミーという名前の子猫。お姉ちゃんの友達みたい。

その子はまるでどこかに行こうとして見えた私を引き止めたようだった。

でも私には行く場所なんてない。

あの人しか―――お姉ちゃんしかこの世界には知っている人は居ないから。

そう思って私は再びお姉ちゃんと一緒に座ってた石垣に、エイミーと一緒に座り込むと―――。

 

 

《ミッションを開始します。防衛目標:アンツィオ軍港》

 

 

――――ぞく、り。

 

虚空を見つめていた時だった。

急にピロリ、と不可思議で奇妙な音が鳴ったかと思えば。

次の瞬間、私の視界の中央になにか奇妙な文字列が浮かんできたのだ。

 

「…な、に…これ…。」

 

そこに書かれてる文の意味はまったく分からない。

そもそもこんな現象が意味がわからないし、何もかも分からなくてもコレがおかしいという事は理解できた。

そして同時に何故か感じた、ひどく奇妙な恐ろしさと悪寒に背筋が勝手に震えたのだった。

 

「え、えぃみー、だっけ…みえ、る?」

「…?ふみゃぁ。」

 

急にビクリと震えてしまった私を何事かとニオイを嗅いでいた子猫に聴いてみても。

なんのこと?という風に小さく鳴き声を返されてしまった。

なんだっただろうかコレは。何処かで見たことがある気がする。それも何度も。

ただ…ただこれは、何か良くないモノだったと思う。そんな気がする。

 

「や…やだ…いや…」

「うみゃ?みゃっ、なーぅ」

 

言いようのない恐怖に私は思わず誰もいない筈の隣に手をのばす。

だけどそこには、あの暖かく優しい、私を守ってくれる手はなくて。

しかし代わりに肩に飛び乗ってきた子猫がほっぺたにじゃれつき、私を慰めてくれた。

そしてくいくいと私の首元の白い服をひっぱり、私を何処かへ連れて行こうとし始めたのだ。

 

「ふぇっ…ど、どうしたの…あっ」

「にゃむにゃむ」

 

すると雑木林を少しかき分け入ったところに、少し開けた空間が。

そしてそこに雑多に並べられた、お菓子、毛布、板、その他よくわからないモノいっぱい――――。

なんだろうここは、この子は私をどうしてここに連れてきたんだろう。

 

「…ここ、は?」

 

まるでベットとシーツのように重ねられた、木の板と数枚の毛布。

そこの上にちょこん、と座ってみると。何処か暖かく優しい、幸せな心地よさがポカポカと湧いてきて。

私はあっという間にその毛布の山から離れる気が起きなくなってしまった。

こんな暖かくて、おひさまみたいないい匂いがする人なんて決まってる。

きっとここはあのカッコいい、ウィッチのお姉ちゃんが居た場所なんだ。

 

「…ん、えへへ…♪」

「にぅ…ごろごろ♪」

 

嬉しくなって、エイミーと一緒になって毛布の中で丸くなる。

この子も気持ちがいいのか、ごろごろと心地よさそうに喉を鳴らし喜んでいた。

まるであのウィッチのお姉ちゃんの膝に座って、抱きしめられてた時のように。

身体がふわふわして、さっきまでたくさん浮かんでたイヤなコトや不安なコトが忘れていく。

 

「…んにゃ…ふぁ…」

 

あのウィッチのお姉ちゃんが何処かへ…ネウロイ?と戦いに行ってしまった時、すごくこわかった。

不安と怖さでガマンできなくなってしまいそうだったけど…この子猫が一緒にいてくれてよかった。

 

 

――――ピロロロロロロロ。

 

「ぁ……ふぇ…?」

「ふみゃ?」

 

何処からか鳴り響いてきた、さっきにもまして奇妙で不可思議な音。

それが何故かとても―――この上なくイヤな感じがして、私は毛布の中から顔を覗かせた。

 

 

ゴツゴツとしたおっきな建物と、レンガ造りの倉庫?…っていうのかな。

それと確か海には、あのずっと繰り返した夜の時に海に浮いてたのと似た、たくさんの船。

 

―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えい、みー。」

「んにゃ?」

 

私は咄嗟に―――なんで自分でもそうしたかまったく分からないけど。

エイミーの小さな黒い身体を右手で抱えて、それらから離れるように駆け出した。

すごく辛くて痛くて、口から何かが溢れそうになったけど止まらなかった。

だって、だってアレは――――。

 

 

 

次の瞬間。一瞬の静寂の後、背後で世界がひっくり返ったかのような大轟音が鳴り響いた。




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悪夢

───ガコンッ、パシュンッ

 

MG42機関銃から放たれた幾多の銃弾の嵐がネウロイのコアを貫き、その存在を消滅させた。

これでさっきマルチナが出会い頭に仕留めた一匹を合わせ、2体のネウロイを撃破したことになる。

事前に捕捉できていたのは3体、出来れば残りの一体を撃破して終わりと行きたいところなのだが。

 

しかしやはりというか悪い予感は当たっているらしい。

どうにも先程から遠く離れたこちらの索敵範囲外からこちらへ向けてビームの狙撃が放たれているのだ。

精度こそ悪くまるでカスリもしないものの、これほどの距離からの砲撃が可能なネウロイなどそうそう遭遇したことはなかった。

 

「やっぱりコイツらマルタから…?ん?」

「うーりゃりゃりゃりゃ───ッッッ!!!」

 

独特な咆哮と共にまっすぐ一直線にネウロイに突撃する青い流星。

無理を通し、急遽赤ズボン隊と共に出撃した彼女、フランチェスカ・ルッキーニ曹長だ。

 

「いいねっ!そこまで分かりやすい動きだとコッチも合わせやすいよっ!!」

「もー!マルチナみたいな子がもう一人〜!!」

 

単調で直情的な軌道だが、それゆえ支援射撃やその行動によって生じる敵のリアクションが予測しやすい。

そのおかげもあり、初めての共同戦線とは思えぬスムーズな立ち回りと戦闘を部下達と共に彼女は展開させていた。

そしてそれだけの無茶と無理な突撃を何度も繰り返しながらも、完璧に結果を出しつつ一度の被弾すら受けていないその技量の高さにフェルナンディアは舌を巻いた。

 

魔法力、機動力、判断力、その全てにおいてどれも一級品だ。

その無邪気な口調や滲み出る幼さからは到底信じられないほどの的確で柔軟な状況判断力はベテランのウィッチにも引けを取らないだろう。

 

「うじゅじゅじゅじゅーっっ!」

 

あれだけの速度で縦横無尽にネウロイの周囲を駆け回りながらも、完璧に敵と味方のすべての位置と状況を把握している。

その証拠に彼女から一歩引いた所で分散し編隊攻撃を繰り返す私達の射線の前に、彼女は一度たりとも重なることはなかったのだ。

 

「これが本当のエースってワケね.!面白いじゃないッ!!」

 

「アフリカの星」「ダイヤのエース」「黒い悪魔」「地上攻撃女王」

 

自らもエースの名を冠してはいるものの、その中でも別格の存在たち。

それらと近しい領域の存在であろうその小さなウィッチを前に、彼女の熱いロマーニャ魂は燃え滾る。

それに応えるように一際大きく愛機ファロットの魔導エンジンも鳴り響いた。

 

「負けてられないわ!赤ズボン隊の名にかけてッッ!!」

 

彼女に負けじと、ストライカーを加速させ敵との距離を縮めながら放火を浴びせかける。

 

その時ちらりと、あの遠距離砲撃の事が頭をよぎったが。

あんな距離からでは到底陸までに狙いを絞ることは出来ないだろうとすぐに打ち消した。

 

 

───▼▼───

 

 

《防衛目標が破壊されてしまいました》

《スキル:【未来予知】が発動しました》

 

「…」

「にゃっ、みゃう?」

 

あの響きわたった轟音と共に発生した、背後から叩きつけられるような暴力的な爆発。

その衝撃波に私はなす術もなく地面にうちのめされ、意識を失ってから、そして。

 

いま目の前に広がっているのは平和で穏やかとさえ言える風景。

出払っているのか人気もなく、ちゅんちゅんと鳥のさえずりさえ聞こえる建物たち。

そして石垣に座る私の膝の上にはキョロキョロと不思議そうに当りを見渡す黒い仔猫、エイミー。

 

「もう、おわっ、た、んじゃ.」

 

ああ、何故忘れかけていたのだろう、どうして朧気になってしまっていたんだろう。

あの絶望の永遠の地獄、何度も何度も死に続け、あのウィッチのお姉ちゃんが終わらせてくれたハズのあの悪夢の監獄に。

私は今再び囚われたのだと、自分でも奇妙なほどにはっきりと知覚した。できてしまった。

あの何度味わっても恐ろしくて恐ろしくて仕方ない、自らの命を蝕む死の寒さ。

脳裏にこびり付いたそれを一度思い出してしまうと、どうやっても振り払うことはできなかった。

 

さっきまであやふやだった自意識が急激に覚醒を始める。あの悪夢の中で歪に育まれた経験が警鐘を鳴らす。

ネウロイ──あの黒い悪夢たちをこの手で滅ぼさなければ、私はまた同じ時間に閉じ込められ続けるのだ。

 

「っ」

「なぉお?」

 

湧いてくるパニックと恐怖と絶望で、あのウィッチのお姉ちゃんに泣いて助けを叫びそうになるのをぐっと堪えた。

あの人はきっと戻ってきてくれる、そう約束したんだから。

だからそれまでは、その時まで辿り着かないといけない。

 

「ネウロイ、さがさなきゃッ!!」

「にーぅー」

 

だからまずは敵を把握する所から始めなければならなかった。

さっき、あの青い空にはどこにもそんなような黒い影は見当たらなかった。

だと言うのにこの建物、そうだ、たしか基地?って言うんだ。それと海に並んでる船達に攻撃のアラート…あらーと、ってなんだっけ?

ううん、とにかく矢印が見えたんだ。

あれがどこからの攻撃なのか、それを見極めないといけない。

確かめる方法なら、確実で間違いない方法があるけど.

 

「ぜったいにすぐもどって…『戻って』くるから。ここでいいこにしててね?」

「ん、にゃぁ」

 

舌足らずになってしまう声に何故か違和感を覚えながら、足元の仔猫をそっと撫でつける。

気持ち良さそうにその手にゴロゴロと額を擦り付けてくる姿に微笑みを返し、石垣の上に静かに座りつけた。

──―たとえ戻ってこられるとしても、お姉ちゃんに任されたこの子が傷つくなんてイヤだ。

傷はふさがっているし血も出ていないとはいえ、いまだ重たく鈍い身体で私は必死に駆け出した。

 

 

走って走って走りつづけ、さっき赤い矢印が降り注いでいた建物や船の近くまでやってくる。

まさか片腕がないだけでこんなにも走りづらくなるなんて思ってなかった。

それにどうしてか、周りの建物や車、モノがとてつもなく巨大に見えてしまうのに違和感を感じる。

しかし、上、左右、下、どこを見てみたってネウロイらしき影も形もない。

僅かに何かの作業に追われているような大人の人たちが、ドタバタと駆け回っているのくらいしか見つけれなかった。

何故か大人の人には見つかっちゃいけない気がしたから、少ないのはありがたかったけど。

 

「はやく、さがさなきゃ.」

 

しかしネウロイと言ったって私が知っているのはあの黒いエイ型の巨大な形なモノのみ。

今ここにいるであろうネウロイがどんな姿なのか、どんな攻撃をする相手なのか、まるでわからない。

もしかなり小さくて建物の影にでも隠れられていたら、探すだけでも何度も繰り返すハメになってしまう。

キョロキョロと首を回し、必死に周囲を見渡していた時。

 

────ビュォォォォンッッッ!!!!

 

轟く風切り音と共に、遥か遠い頭上に太陽よりも眩く輝く不気味な紅い閃光の群れが煌めいた。

 

「!?」

 

その余りの光量に、咄嗟に見上げたもののまともに直視することもできなかった。

太陽以上に眩しく輝く閃光に、地上と海上の全てが紅く照らされる。

これだけの攻撃の規模なのに気づかなかった。余りにも空高く、離れた場所の攻撃だったせいで矢印も見えなかったのだろうか。

 

「観測範囲外遠距離からの砲撃だと!?馬鹿な、ありえない!」

「落ち着けって若いの。そんな遠くから撃ったのがそうそう当たると思うか?」

「そうさ、呑気に当たらない砲撃を繰り返してる間にウィッチ達にやられちまうだろうよ」

「ハハハ、ネウロイ達もこのロマーニャの陽気にやられちまったのかもな」

「ハハハ違いねぇや」

 

遠距離からの攻撃。

さっき爆発で粉々に崩壊したであろう船の上で、そんな大人の人たちの冗談混じりの会話が大声で聞こえてきた。

遠く離れたその閃光でさえドキドキと汗が吹き出してしまったのに、笑い飛ばすなんて大人はすごいなぁ。

でも、当たるわけがない?それがホントならどうしてさっきあんなコトが起きたんだろうか。

もしかしたらさっきはたまたま当たってしまっただけで、今回は当たらずにどこかへ飛んでいってしまったと言うことだろうか?

だったらもうこのまま何もしなくても…

 

「あ、おい、何だよアイツ…」

「えっ、あ、ああ!?なんだぁっ、ありゃあ」

 

不意に、頭上から聞こえてきた声。

それがさっきの船の上から聞こえてきたモノだとわかった時、もしかして私のコトを言っているのかと思ったがどうやら違った。

見れば真逆の、私とは全然違う方向を見てボソボソ呟いているようだ。

釣られて私も同じ方向を見てみると。

そこに、ちょうど海上に停まってある船の近くの陸上にソレはいた──―いや、あった?

 

「──────」

 

何と形容すればいいのか、かなり言葉に迷う。

そう真っ黒で大きなカメラの三脚…あれ、カメラってなんだったっけ?

ううん、とにかく3本の足を地面に根ざして、頭部らしき赤い物体をピコンピコンと点滅させている異様な謎の物体。

恐らく。いやきっとアレがネウロイに違いないのは理解できる。

ただ何だろうアレは。前後がまるで分からないどころかどこにも攻撃を知らせる矢印が、未来予知が発動しない。

 

「お、おい、ドコから入ってきやがったんだアレ.!」

「レーダーをすり抜けて来たのか!?たっ、退避しろッ陸上ウィッチが到着するまで持ちこたえ.」

「超遠距離からのネウロイの砲撃ッ!!!再び来ますッッ!!」

 

その声にハッと意識を遠い空に戻す。

でもやはりさっきと同じように、その行き先はまるで見当違いの虚空だ。建物になんかカスリもしてない。

 

?????

まったくわからない、どういう事だろう?

突然現れたものの、攻撃の気配も見せず棒立ちでピカピカ光るだけのネウロイ。

そして遠い場所からまるで当たる気配のない虚しい砲撃を繰り返すネウロイ。

これらによって一体、どうしてさっき未来予知で体験したような惨事が引き起こされるというんだろう。

 

考えていても仕方がない、もっと調べてみないと。

そう思って点滅を繰り返すネウロイの方に走って近づいてみる。

私に気づいた大人の人達が何かを叫んでるようだけど気にしない。

 

「…ちっちゃい」

 

足元までにやってきて最初に浮かんだ感想がそれだった、あくまであの黒いエイのネウロイに比べれば。だが。

しかしこんなにも近づいても、触れてもまったく攻撃の予知どころか反応もない。

もしかしてホントに、さっきの大爆発はたまたまで───。

 

────ピロロロロロロロロ。

 

突如私の耳に鳴り響く不吉で不気味で、そして聞き飽きたとさえ言える音。

ただでも、今の私にとっては待ちわびていた音。

───さぁどこから?

 

そして振り向いた途端、私の視界は上半分が真っ赤に塗りあげられた。

私を狙っている?これは全部私に向けられている?

さっきまで空に浮かんでた矢印は───え?

 

「あぁ、そっか。そういう、こと」

 

さっきまで空の遥か彼方へ向いていた矢印たちのその先端が、ある位置から曲がりくねってコチラへ向きを変えていたのだ。

そしてその延長線上にいるのは私。いや、違う。

 

そしてその時私はやっと理解できた。

この棒立ちの無害なネウロイは、遠く離れた場所からその攻撃を誘導する為の目印で────。

 

それを理解できた途端、私は一瞬で煌めいた紅い閃光の中に飲み込まれて。

肌が、皮膚が、肉が、骨が。

ドロドロに溶けて熱さの中に消えていくのをはっきりと感じながら、意識は死の寒さに呑み込まれていった。

 

 

───▼▼───

 

「っっっふぅっ!!!?はぁっ、ひぃっ、あ、あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ!」

 

寒い、寒い、寒い、寒い、寒い、さむいさむいさむいさむいさむいさむいさむいサムイさむいさむいさむいさむい

目の前が真っ暗になって、すがるように震える両手──ちがうもう私に左腕はない。を伸ばす。

あの暖かさを、私を救ってくれた手を求めて必死に無我夢中でもだえる。

お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、たすけて、こわいよ、さむい。

そして地面に突っ伏して、気が狂ってしまったかのように暴れる私の頬をざらざらした柔らかなモノがなでた。

 

「えい、みー」

「にゃ」

 

その小さな黒猫は、どこか心配するような眼差しで私を見つめて。

そして私の懐に潜り込んで、身体をこすり付けてきたのだ。

それはまるで体の奥底まであのおぞましい寒さに冷え切った私を温めようとしているようで。

 

「…だい、じょうぶ…。うん、へいき…」

 

黒くあたたかな毛並みを抱きしめると、少しだけパニックが落ち着いてきた気がする。

必死に息を整えて、思考を整理する。

おびえてる場合じゃない。この地獄から脱出してもう一度、あの優しいお姉ちゃんに会うんだから。

 

「そっ、か、もどって、きて…」

 

辺りを見渡せば、そこは先ほどとまったく同じ平和な光景。

石垣にはまだウィッチのお姉ちゃんの温かさが残ってるし、建物も無事だ。

 

「にゃあにゃあ」

「えっ、な、なに?えいみー、どうしたの?」

 

私の着ている白い服、きっと病気の人が着るための服の裾をくわえてグイグイと引っ張る仔猫。

たったそれだけの力にもよろめいてしまい、私は彼女の方へ寄せられてしまう。

 

「にうにー」

 

────こっちへきて。

 

何故か私にはその子猫がそう言っているような気がした。

もちろん根拠なんてない。もしかしたらまたあのお姉ちゃんの寝床に連れて行こうとしてるのかもと思ったが、そうではないみたい。

むしろさっきとは反対側、建物がいっぱいある方へ──―

 

「えいみー、これ、どこへいってるの?」

 

私が最初に目を覚ましたあの建物に近づいてる、できればあそこには近づきたくないけど。

でもエイミーが入っていったのは違う建物。大きな大きな鉄の扉が開かれたひんやりとした所。

そしてその中を覗いてみると、どうやら彼女は布が被せられた何かをめくろうと必死に試みているようだった。

 

「なに?これ?」

 

エイミーが咥えて躍起になってる布を一緒になって引っ張ってあげた。

 

────バサァッ

 

「───ぁ」

 

そして、その布をめくった下にあったのは。

見間違うはずもない、何度も、何百回も、いや何千回も繰り返したあの悪夢。

その悪夢の中で唯一、ただずっと私を裏切らずに共にあの絶望の夜空を飛び続けた相棒。

 

 

──―名すら知らないあのストライカーが、幾重にも鎖を巻かれ静かに佇んでいた。

 

 

―――▽▽―――

 

 

幼いウィッチは唯一自身に残っていた僅かな記憶を頼りにストライカーへと傷だらけの素足を潜り込ませた。

その隣でにゃあにゃあと黒い仔猫、いや仔豹が応援するかのようにこれまた幼い鳴き声で訴えかけている。

 

「…」

 

到底そこまで幼い少女が装備することを想定されていないにも関わらず、円筒状のその航空機は綺麗に彼女の足へフィットした。

なんとも形容し難いその感覚に、彼女のあの温かい手ほどではないにせよ不思議とどこか安心感を感じた。

 

その零戦が彼女自身の翼となると言う形で彼女の命を救う事になるとは、宮菱の誰もが思ってなかっただろう。

 

「…っ」

 

しかしその性能は十分に発揮されることはなく、厳重に施された鎖すら外せないでいた。

無論本来の零戦の性能なら鎖の5本や10本引きちぎっても飛び立てる。

だが悲しいかな、それを纏う幼いウィッチの未熟な魔法力がそれにまったく追いついていないのだ。

 

「...くっ、うぅぅ!!」

 

──―いかなきゃ。この悪夢をおわらせて、またあのお姉ちゃんにあうんだから。だからはやくネウロイをやっつけなきゃ。

閉じた傷口が開きかけるほど踏ん張り、必死になけなしの魔法力をストライカーに注ぎつづけ。

 

そしてある一瞬を超えたとき、急に爆発的な暴風がそのバンカー内を駆け巡った。それもその突風の中心である彼女さえビクリと震えるほどのだ。

はっと足元を見下ろすと、そこには鎖どころかストライカーを格納していた発進ユニットさえ遠く吹き飛ばしている有様で。

 

「な、なにこれ…あっ!?えいみー!!?」

 

そんな暴風のすぐそばにいたであろう仔猫がただで済むわけがない。

すぐにその考えに至った彼女は必死にその姿を探すが、影も形も見当たらない。

 

──にゃあ。

 

「…どこ!?どこにいるn…えっ?」

 

そして首を振り回しその鳴き声の主を探しているときにふと、視界におかしなモノが映り込んできた。

黒い、猫のような艶やかな毛並みの尻尾。無論それはエイミーのモノだったが問題はそれがある場所だった。

なんで、どうしてそれが自分のお尻の上から生えてるの?

どうしてエイミーの鳴き声が、私の頭の中に響くように聞こえるのだろう?

 

──使い魔。

 

そんな単語がふと彼女の脳裏をよぎり、恐る恐る傷跡だらけの右手を頭上へと伸ばすと。

そこには確かに三角状のもふもふとした手触りの猫のような耳の感覚と、ナニカが手に触られる初めての感覚。

軽いパニックを起こしそうになる心を必死に落ち着かせ、それらの出来事を受け入れようとゆっくりと咀嚼を試みる。

 

「…っ、あり、がとう、えいみー」

 

にゃあ。と頭の中でそれに返事が返される。

その声を聞きながら、彼女は身体の奥から沸き上がってくる魔法力の奔流に身を任せた。

 

何千回と繰り返した中でもかつてないほどストライカーが勢いよく離陸する。

今までとは比べ物にならないほど速い、その余りの加速に風圧で目が開けないのではと思ったが、不思議とそんなこともなかった。

 

彼女は知らざることだがウィッチにとっての使い魔のサポートとはそれほど重要なモノなのだ。

武器への魔力供給、風圧やGからの保護、視力聴力筋力の強化、姿勢の制御など担ってくれるなどその役割は枚挙にいとまがない。

つまり本来使い魔なしでストライカーで飛ぶことなど、チェーンが切れ錆びきってパンクしたブレーキのない自転車を目を閉じて手放し運転するような愚行に等しいのだ。

 

「…す、ごいっ…!」

 

そんな状態で、しかも視界が極端に制限される夜間、その上大怪我までしていた状態という最悪とまで言えるコンディションでしか飛んだことのない彼女にとって。

使い魔がいる、血が出ていない、しかも目の前に広がるのは明るい青空などという状態での飛行は、それはもう生まれ変わったほどの衝撃だったのだ。

 

多段ロール、旋回、急制動と、難なくベテラン以上の技量を要求される高等な機動を繰り返す彼女の表情にはどこか高揚感のようなものが見て取れた。

 

「…よし」

 

大分時間を取られてしまったが、もはや関係ない。今ならあの遠くに見える山の向こうにだって一瞬で飛んでいける。

くるりと急旋回をこなしてみせて、さっき未来で見た港へ向かう。

身体が軽すぎる、風だって全然痛くない。と心踊らせる彼女の幼い顔は紅く高調していた。

 

そして10秒も経たない内にさっきの場所の上空まで飛んでみると、そこにはちょうどあの三脚型のネウロイがやはり瀬戸際に鎮座していた。

そしてその時やっと自分が素手であることを思い出し───ちょうどあそこに良さげなモノが転がっているじゃないか。

彼女はそのまま地面ぎりぎりまで高度を下げ、スピードを一切殺さず『ソレ』を逆手で握りしめて。

 

「ぁ"ぁぁ"ぁ"あ"ああ"あッッッ!!!」

 

──―ドグシャアッッ

 

相も変わらずピコンピコンと点滅するだけのその棒立ちのネウロイの頭に────その辺に落ちてたビンをとてつもない勢いで叩きつけた。

彼女自身でも知らぬ間に魔力を纏っていたソレは信じられないくらいに破滅的な硬度と威力を発揮し。

バリンッ!!と良い音と共に粉々に砕けたのがネウロイの方だと彼女自身が気づくのに遅れたほどだった。

 

「…す、ごぃ…」

 

 

何十回、何百回を繰り返すことを覚悟していたハズの悪夢が、たったこれだけの事で終わってしまったのだ。

もしこの仔猫があの夜居てくれれば──と、もの思いにふけていた彼女の思考は、ピロロピロロと再び鳴り響いた未来予知の音に中断させられた。

 

 

──▼▼──

 

 

「う──じゅ───っっ!!!」

 

幼いウィッチが陸上でネウロイを殴り消し飛ばした頃、離れた海上では別のウィッチが猛加速でストライカーをふかしていた。

 

赤ズボン隊との協力の甲斐もあり、無事3体の中型ネウロイを撃破したは良かったものの。

その後現れた大型の、それも遠距離砲撃が可能なタイプのネウロイ。

そしてそれに付随する形で現れた護衛のようなイカ型のネウロイ達への対応に追われる事となった。

しかしそれでも優勢に戦いを進めていたが、情勢が悪いと見るや否やイカ形の護衛達はなんと大型を見捨て、ロマーニャ沿岸のアンツィオ軍港の方へ猛スピードで逃げ始めたのだ。

これに対し赤ズボン隊のフェルナンディア中尉はその追撃を彼女、フランチェスカ・ルッキーニに任せ、自分達は大型の対処に当たったのだ。

 

「あーもーっ!!速すぎだってーうじゅーっ!!!」

 

しかしその追撃は中々に困難な任務だった。

そのイカ型のネウロイは口に当たる部分から紅い粒子をジェットのように噴出させ、彼女のストライカーを上回る速度で加速していたのだ。

このままでは守ると約束したあの子が待つ基地にまで到達してしまう、と内心冷や汗をかいた時。

 

バリンッッという音が鳴り響いた瞬間、先頭の一体が急にバランスを崩したのだ。

くるくると回転しながら失速する哀れなソレをルッキーニは片手間で撃ち仕留め、何が起こったのかと目をこらした。

 

「おねえちゃんっっっ!!!」

「えっ。えええ────ーぇぇぇっっっつ!?!?!」

 

そしてネウロイ達とすれ違う形でこっちに向かって直進してきたその姿に素っ頓狂な声を上げた。

なにせ目の前に飛んできたのは、あの迷子の幼い、良い子にして待っててねと基地に残してきたあの少女だったのだから──―!

咄嗟にその小さな身体を抱き止めて受け止めるものの、余りの出来事、そしてそのふわふわもふもふの黒髪から覗くエイミーそっくりの猫耳。

それらの多すぎる情報量に彼女の決して大きくはない脳は爆発しそうになった。

 

「ふぇぇっ!?も、もしかしてエイミーなの!?なんでぇ、そのストライカーどこにあったのーっ!?」

「ご、ごめんね.わたし、どうしてもおねえちゃんにあいたくて.」

 

怒れば良いのか褒めれば良いのかグルグルとショート寸前になっていた彼女だったが──―とりあえず涙で上目遣いをしてくる彼女が可愛くて仕方なかったので満面の笑みで抱きしめた。

 

──―ピロロロピロロロ

 

しかしその至福の時間は奇妙な電子音によって中断させられることとなった。

そう、()()()()()()()()()()()()()()そのピロピロという不思議な音に。

 

「んじゅじゅ?んにゃにあれぇっ?」

 

その幼くかわいい甘えん坊のウィッチを抱きしめ愛でたまま、首だけを反らして音の方を見てみると。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

そしていつの間にか逃走していたネウロイ達が反転し、一転攻勢に打って出たことも。

 

「っ!おねえちゃんごめんっ!!」

「ぉぉぉぉうジュぁああああぁぁぁ!!!??」

 

ぽけーっと謎の矢印に頭がうじゅうじゅと知恵熱を上げオーバーヒートしていた彼女の胸に、その中でゴロゴロと猫なで声で甘えていた幼いウィッチが突っ込んだ。

その結果彼女たち二人は光線から難なく逃れ、ルッキーニはくるりと空中回転して姿勢を難なく立て直し再びその身体を抱きしめた。

 

「んねぇ、あのへんな矢印みえりゅ?なんだろーねーあれ」

「ふぇっ.!?えぇっ!!おねえちゃん、どうしてみえるのっ!?だってそれ.」

 

再び彼女たち二人を狙うイカ型ネウロイ達の放火。

その彼女たちの周囲を縦横無尽に、それも彼女達のストライカーを遥かに上回るスピードで高速移動しながらという尋常ならざる攻撃にも関わらず。

彼女たち、と言うよりルッキーニはそれらを一切シールドを展開することなく躱してみせた。

 

「ひょいっ!んにゃっ!あはは、ハッずれ〜♪なにこれおもしろーいっ♪」

「う、うそっ、なんで?どうしておねえちゃんにもみえて.?」

 

最初こそ首を傾げたものの、すぐに彼女はその柔軟な思考でその不思議な矢印が意味することを完璧に理解してみせた。

その結果ただでさえ第六感と判断力に優れるエースウィッチである彼女に、未来予知が加わるという異常事態に。

周りをせわしなく駆け回るネウロイもどこか戸惑いの雰囲気を見せ、もはやビームが当たらないと悟るや突撃攻撃へと移行しはじめた。

 

「ふっふーん♪ミエミエだもんねーっ♪」

 

そして彼女が完璧にそれに対応してみせたものだから、ネウロイにとっては絶望の光景だっただろう。

振り返ることなく背後のネウロイに銃弾の嵐を浴びせ、音速に近い速さで飛び込んできたネウロイを片手で熱線で消滅させてみせたのだから。

その余りの一方的とさえ言える戦闘に、その腕の中で抱かれていたウィッチはただ呆然と口を開けるしか無かった。

 

やがて最後の一匹になった哀れなイカ型のネウロイは狂ったようにビームの雨を二人の黒豹のウィッチに浴びせ始める。

しかしそれもやはりというべきか、今度は拳大の小さなシールドだけでその全てをいなされてしまい、もはや特攻以外の道は残されていなかった。

その生命をかけたような隕石のような突撃にはどこか迫力が感じられ、流石の幼いウィッチも服を握る手に力が籠もる。

 

「…大丈夫、今度はちゃんとまもるから」

 

そしてその少女に、どこまでも気高い決意と優しさに満ちた微笑みを返し頬を撫でる。

その顔は慈愛の母性に満ちていて、とても普段の彼女の幼さとはかけ離れたモノだった。

 

────パリィィィン!!

 

亜音速のネウロイの突撃、それを返り討ちにしてみせたのは彼女が展開した多重シールドだった。

腕の中の幼い命を守るために広げたソレは、まるでキズ一つ受けることなく、ネウロイから完璧に彼女を守ってみせた。

 

「…また、たすけてくれた…」

「あれぇ~?やじるし消えちゃったぁ?うじゅ~楽しかったのにぃ」

 

キラキラと煌めくネウロイの残骸に照らされながら、二人の黒豹のウィッチはロマーニャの空で抱き合う。

再び絶望の悪夢に囚われようとしていた小さなウィッチを助けた、幼いウィッチ。

その自身にとっては女神、救世主、いや、そんな言葉でも足りない。

私を守ってくれて、助けてくれて、温めてくれて────あぁ、ああ…!!

 

「…フランチェスカ・ルッキーニ!!!!!」

「ふぇ?」

 

突如涙で滲んだ瞳をまっすぐと見据えられ、大声で宣言された名前。

 

「いひひ、あたしのなまえーっ!フランカってよんでもいーよ!!」

「…るっきーに…フランカ…おねえちゃん…」

 

──―フランチェスカ・ルッキーニ、フランカ。お姉ちゃん。

何度もその名前を胸の中で繰り返し唱え、うっとりと反芻する。

 

「…フランカ、おねえちゃん…♪」

「おねえちゃんっ…///わーわーわー///あーもー!カワイイんだかりゃ──ーッッ♪」

 

胸の奥底から溢れてくる初めて感じる感情──―母性にその心を支配されたルッキーニは。

その猫耳と尻尾をピコピコとはしゃがせ甘えてくる「妹」に、思い切り抱きしめ、頬ずりし、そして──―。

 

──―チュッ♪

 

その丸くあどけないキズだらけの頬に、口づけを落とした。

 



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フェデリカ

――――カチャリ、ゴリッ、ピチャ、ピチャ。

 

「…あなたが逃げたりしなければまぁ、ここまでする必要も無かったのですがね。」

 

薄暗く締め切られ、分厚い防音と防護の壁に包まれた密室の空間。

乾いた体液や薬、ロクに掃除すらされていないその部屋が『治療室』などと知ったらさほどの人間が驚くだろう。

そんな酷い環境におよそ似つかわしくない美麗な少女が二人、その部屋には存在していた。

 

一人は豊かな金髪をたゆたわせ、不機嫌そうに眉をひそめ溜息を吐く少女。リベリオンのウィッチ、リリー・グラマン中佐。

その右手で弄ぶ注射器の先端で、手持無沙汰のように薬品の入ったビンをコンコンと叩き続ける。

彼女は酷く苛立ち、また同時に悩んでいた。

 

「……ぁ"…っぁ"…」

「チッ…やはり効きが薄い。一体どこでそんな薄汚い野良猫を捕まえてきたのですか?せっかくみすぼらしいアナタにお似合いな家畜の豚でも使い魔にしてやろうと思っていたのに。」

 

催眠による調教の最中、突如消えたかと思えばこのお嬢様はまさかネウロイを撃破してきたなどというではないか。

それもどうやって見つけたのかは分からないがロマーニャ軍によって接収、保管されていたあの零式艦上戦闘脚まで持ち出して。

しかも挙句の果てには黒猫、いや恐らくクロヒョウだがどうだっていい。それを使い魔にまでしているではないか。

 

「はぁ…面倒ですわねぇ、リカに話をつけに行かねば。…それにしてもあの目障りなウィッチも鬱陶しい…。」

 

あぁ思い出すだけでも面倒くさい。

この子供を迎えに行ったとき、目の前に立ちふさがった一人の幼いウィッチ。

青い髪に翠の瞳を輝かせ、まるで白馬の王子様を気取るかのように自分からこの子供をかばったその相手。

その陰に隠れ怯えながらコチラを見つめる姿など、まるで本当の姉妹のようで微笑ましくて面倒くさい。

 

「…ぉ"ね"…だす、げ…」

 

ああ、それでこのザマだ。最初はすんなり上手く刷り込み出来ていたハズなのに、その途中であの青い子供ウィッチに強烈な印象を植え付けられてしまったらしい。

それに使い魔も無駄に優秀だ。その結果暗示は薄れ、魔法力による保護もあり、数時間前にかけた催眠はどんどん解け始めて行ってしまっている。

 

しかし椅子に縛り付けられ後ろ手を拘束されている姿はまさしく拷問といった様相だが、コレは治療だ。

隣のトレーに並べられてある薬品も皆催眠に導入しやすくする為の精神安定、または不安定にさせる薬で人体にスグには影響はない、きっと恐らく。

しかし、もう何回も注射器を空にしているが思ったよりもかなりしぶとい。

瞳の光も未だ消えず、いや、おそらくは記憶だってもう戻ってしまっているかも知れない。

 

「ぁ"...ろぐ、ぁぅ…ばゃ、ぐ…」

「あぁ?何ですか?言いたいことがあるなら行ってごらんなさい。お嬢様。」

 

イラつきが限界を超えてしまいそうだったからか、ふいにその幼い子供が漏らした意味のありそうな単語を聞き返す。

 

「ろぐ、ぁぅと…めにゅー、ひらぃて……」

「『何ですかそれは?』『私に説明しなさい』」

 

あぁくそ、こんなにも単純な命令すらかなり魔力を籠めないといけないとは。

内心酷く舌打ちをしながら、その震えて汗まみれの細いおとがいを掴みあげる。

 

「…ここ、から。この世界から、にげて。」

「へー、ああそうですか。自殺か何かですかぁ?ダメですよ、貴方にはまだやってもらわないといけない事があるのですから。……『あなたは今言ったことを、絶対にしない、出来ない。これから先永遠に。』」

「…ァ"ァ"――――」

 

再びもう一度、キツめに魔法力を込めて念入りに催眠を押しておく。

少なくとも今回は念には念を入れてある、半年程度なら間違いなく効き目が切れる事態にはならないだろう。

あぁしかし半年後にまたコレをしなければならないのか。面倒くさい。

 

しかし、とリリー・グラマンは背後のベッドに乱雑に撒き散らされたモノをちらりと眺めた。

そこにはリベリオンの下士官服、それもかなり小さく、まるで幼い子供にしか着られないようなモノ。

そしてその上には義手が、これも同じく小さく、その制服に袖を通すような子供にしか着けられないだろう。

またその隣には「Amanda Michael Plummer」と名前が書かれたリベリオン軍の身分証。

 

あれらを用意するのにもそれなりの手間とコストをかけたのだ、今更無駄にはできない。

 

「まぁ構いません。時間はあるのですから、ゆっくり時間をかけてじっくりと行きましょう…じっくりと、ね。」

「――――ひ、ぃっ」

 

仕事でもあり、同時に趣味の一環でもある精神治療の哀れな患者を前に、リリー・グラマン中佐は静かに歪んだ微笑みで囁いた。

 

 

 

 

―――▽▽―――

 

 

 

ロマーニャ国内でのかなりの外れにある、とある軍港―――いや、もはやこれを基地とすら呼ぶのも憚れるほどの、小さな基地。

まるで軍備など備わってなく、いるまともな兵士もウィッチ一人という有様のその基地に彼女は訪れていた。

 

「あれぇ、来るなら来るって言いなさいよ~、日焼けオイル切らしちゃってるわよ今。」

「…今日はのんびり日向ぼっこでも釣りに来たわけでもありませんわ、リカ。」

 

そんな辺鄙な基地で真昼間から裸同然の姿で日焼けをしているウィッチが、ロマーニャ軍の中で最も権威と発言力を持つフェデリカ・N・ドッリオ少佐だと、初めて見る誰もが思わないであろう。

ロマーニャ、いや欧州における交易の要であるマルタ、そこでの激しい第二次防衛戦で華々しい活躍とともに守り切った彼女は代償に重傷を負い。

その結果一線を退いた今、こんな僻地の基地―――否、もはや彼女の別荘で一人優雅に療養生活を送っていた。

だが未だその人望は厚く根広く、その清濁併せのむ大らかな性格はウィッチ兵士問わずかなりの人気を集め、ロマーニャ公爵とさえパイプを持っているウィッチなのだ。

だから後に504統合戦闘航空団を率いる事となるのも必然といえる事だった。

 

「ふーん?じゃあなになに、またロマーニャの新型を解析したいから2個ほど融通してくれって話?それとも…」

 

そしてそんな彼女の目の前に現れたリベリオン欧州派遣隊のウィッチ、リリー・グラマン中佐は。

その彼女の併せのむ清濁の内、濁の部分の9割程を占める、それはもう濁りに濁ったもはや泥水のような存在―――少なくともドッリオ自身はそう心の中で密かに考えていた。

まあ、軍ではそういう部分も避けては通れないため、ある意味では助かっているともいえるが…。

 

「まさか扶桑の迷子の子供を自分のモノにしたいから、手を貸してってハナシ?」

「……話が早くて助かります、と、言っておきましょうか。」

 

そしてその考えが間違っていないということは、その返事で証明されてしまった。

 

「ん、ごほん…彼女は扶桑系2世のリベリアンです、孤児だった所をわが社が出資しているウィッチ養成校がその才能を見出して、飛び級で軍に入った素晴らしく優秀な新人ウィッチなのですよ。欧州派遣の際に事故に巻き込まれて記憶の混乱が生じていますが。」

「……で、ホントの所は?」

「今日はいい天気ですねぇ。」

「はぁ…フェル達からちゃんとバッチリ聞いてるわよ、何でも未来予知が使えるちっちゃなウィッチがいるって。

 未来のスーパーエースだーなんて!すごく面白そうよねぇ~気になっちゃうなぁ~調べに行きたくなっちゃうなぁ~」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべなが顎に指をあてて見せると、さしものヘルキャット(性悪女)と噂される彼女も溜息を吐いて眉をひそめて見せた。

 

「…じゃあ今わが社からロマーニャへ支援している統制補給系品目の物資を3倍にします。」

「ん~そそられないわね~。もっと面白いのがいいわ♪」

「なら、この間言っていたターボチャージャーを搭載して高空性能を上げた戦闘脚のプロトを。」

「イマイチ」

「…なら、試作中の試作もいいところですがジェットタイプのストライカーは。」

「それもイイんだけどね~もっと刺激的なのがいいわねぇ♪た、と、え、ばぁ♪」

 

ちらりと彼女の方に目をやり、今日はいないもののいつも御付きのように傍に付き従っている二人のウィッチを思い出し――――。

「…アナタの部下の、ジェンタイル大尉とゴッドフリー大尉とk「イヤです。」

驚くほどに厳しい声で、食い気味に強い拒否の言葉が放たれた。

 

「この間のシチリア海上の大規模戦闘で、すっごく良い動きをしてたってウチの子達が言ってたのよ!

ワタシだって噂には聞いてるし、ちょうどウィッチが欲しい事情もあったからね~♪」

「ぜーーーったいイヤです。あのバカップル二人を手に入れるのがどれだけ面倒臭かったと思ってるんですか!?

 本国の連中があの二人をあの手この手で連れ戻そうとするのをどれだけ邪魔したことか!!」

「だったら良いじゃない、今日からアタシがその仕事を代わりにやってあげるって言ってるのよ?

 それにもう公の場でイチャイチャラブラブするのを止めなくてもよくなるのよ?」

「それは魅力的ですが…うーん。」

 

まさか――――欧州においての自分の右腕と左腕ともいえる部下二人を要求されるとは。

あの二人は人目を憚らずキスやハグやそれ以上のコトをすることさえ目をつむれば、これ以上ないほど優秀で扱いやすいウィッチなのだ。

それに政治的なコトにまったく興味がないのも便利で扱いやすい。

銃とストライカーを与え、二人のイチャイチャできる時間と空間さえ提供しておけば満足するのも便利だし。

あの二人には欧州での活動において今までどれだけ助けられてきたことか―――それは彼女も知っているはずなのに。

さすがドッリオ少佐、考える事が大胆で無遠慮にも程がある、如何にもロマーニャ人だ。

まぁこの明るさや、ガリア人のような陰気臭さが無い分、欧州嫌いの自分でも接ししやすいのはありがたいが。

 

「…フランチェスカ・ルッキーニ曹長…じゃない少尉になられたのですね。

 追加であのウィッチを私に下さい。」

 

3分ほど深く目をつぶり思考した結果、彼女の口から出てきたのはその言葉だった。

 

「…ん?確かその子ってフェル達が赤ズボン隊にぜひって頼んできた…なんでまた。あなた問題児でも集めてるわけ?」

「その例の扶桑の子供が懐いてるのですよ、まったく忌々しい…引きはがそうにも面倒ですしね。」

「ふぅん。ん、いいよ、フェル達には悪いけどじゃあルッキーニちゃんも追加で。」

「助かります。…はぁ。」

 

まさかあの二人を手放すことになろうとは、とグラマンは酷く溜息を吐いて嘆いた。

しかしあの幼い魔女にはそれだけの価値があるのだ、仕方のないことだと割り切らねばならない。

それに恐らく彼女の未来予知は今回のことも見通していたのだから。

 

「ジェーンとドミニカの二人は、504に?」

「……驚いた、どうして504を知ってるの?まだ設立は構想段階で将官達の頭の中だけの話のはずなのに。」

「別に。ただの考察ですよ。昨今のロマーニャへ来るネウロイは明らかに異常ですからね。

 それこそ、ここを守護するためだけの特殊な部隊が必要なほどに。」

 

やはりあのお嬢様の言っていた未来の話。

そう、ロマーニャ防衛を任務とする504部隊に、彼女たち二人が参加することになるというのは、どうやら今こうして現実となったのだ。

また一つその有用性と信憑性を確信できたことに、内心彼女はほくそ笑んだ。

 

「…じゃあもしかしてマルタで変な動きがあることも、知ってたりするのかしら」

「んん?マルタが一体どうしたと言うのです?あぁ、もしかして最近の異常なネウロイ達はマルタ方面から来てるかもしれないから、支援部隊の増援をすると言う話ですか?」

「逆なのよ、マルタから部隊を引き揚げさせる話が出てるのよね」

「はぁ?馬鹿を言わないでください、どうしてそんな。」

 

そう、そんな馬鹿な話はない。

ロマーニャ南端に位置するマルタ島は、面積こそ小さいもののそれはもうロマーニャどころか欧州全体の航路の要と言っていい。

もしそこが失われれば欧州の航路の大半が失われる上、更にはアフリカへの物資の供給が完全に停止してしまう。

そうなれば今、アフリカで奮戦してる数多の陸上部隊やウィッチ達はたちまちネウロイに駆逐されてしまうだろう。

だからネウロイ達も過去何度も大規模な襲撃をしかけ、彼女、ドッリオはウィッチとしての命を懸けてまでその防衛の任務を果たしたのだ。

そんな要所中の要所と言っていい場所から、どうして部隊を減らすなんて真似を。

 

「…ブリタニアが『()()()()()()()()()()()()()()』って言ってきてね。今駐屯してる部隊は異常発生してるネウロイから本国ロマーニャを守られたし、なんてね。」

「はあぁ!?目と鼻の先までネウロイが来てるブリタニアにそんな戦力ある訳ないでしょう!?ただでさえウィッチの数がいなくて各国に頭を下げてかき集めてるザマなのに!」

「そう、その筈なのよねぇ…あなたほどじゃないけど、どうにも胡散臭すぎるわ。ガリアみたいな裏政治のニオイがね。」

「はぁ…ホントに、これだから脳みそにカビの生えた古臭い欧州人共はッッ…!!!」

 

怒りのままに地面をドスリ、と蹴りつける。

その表情はかつてないほど憎しみと怒りに打ち振るえ、欧州の人間達への憎悪に満ちていた。

 

「マルタをッッ!!あんな要所さえも政治駆け引きの場にしようと言うのですかッッ!?こうも馬鹿ばかりなら欧州など滅んでしまえばいい!!オラーシャやスオムスと言い、ネウロイを前にして領土の奪い合いをするような愚か者共など!!」

「…アタシから見ればアナタも似たようなモノだけど。」

「馬鹿を言わないで下さい!!私はリベリオンのことを考えこそすれ、他国の足を引っ張るような見苦しいマネはしませんッッ!!」

「あー、ごめんごめんってぇ…で、この件ちょっと調べてほしいんだけど、頼んでいいかな?()()()()()()()()()()()()として。」

 

ふぅ、ふぅ、と荒げた息を落ち着かせ、彼女のその願いに耳を傾ける。

取引の話なしでこういった話をしてくるのは珍しいが、自身が命を懸けてまで守ったマルタのこととなると流石に黙っている訳にもいかないのだろう。

 

「…ええ。504の設立がある以上あなたは派手に動けないでしょう。承りましたわ。」

「お願いね、リリー。私達が命をかけて守ったマルタを、くだらない政治工作で失うなんて面白くないもの。」

「まったく…!!これだから欧州は!!やはりこれからの世界を担うのはリベリオンしか考えられませんね。…では。」

 

 

 

身をひるがえし、早速基地に戻りこれからの段取りを考えようと思考を巡らせると―――。

 

「あ、そうだ、最後にリリー。」

「うん?なんです。リカ。」

 

その背中に旧友からかけられた声に、足を止める。

 

 

「…もし幼い命を粗末にするような真似をしたら、アナタでも許さないわよ。」

 

その声にしばらく立ち止まり、無表情でちらりとドッリオに振り向いたものの、彼女は返事をすることは最後までなかった。

 

 




リリー中佐は自社のストライカーのデータ収集や宣伝のため、大体の欧州での大規模作戦には参加していました。
第二次マルタ防衛戦(ペデスタル作戦)にも参加し、そこで後の504アルダーウィッチーズの面々とも面識があります。


・マルタ島
ロマーニャのシチリア島の真下に位置する小さな島。
地中海輸送の要であり、何度もネウロイの襲撃に見舞われている。
第二次マルタ防衛戦では、ブリタニア海軍サイフリート中将率いるマルタ支援部隊が出撃。リベリオン海軍と扶桑海軍の助けを得て、ロマーニャのウィッチ達と共にマルタを守り抜いた。


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第三次マルタ防衛戦
マルタの魔女


――July,1943

  Romagna Malta island

  Sgt. Amanda Michael Plummer

  Rebellion Malta Detachment

 

   "Operation Bellows"

 

 

 

はい皆様こんにちわ。

凄まじいアクシデントとクソゲーに見舞われながらも生存を目指すプレイ動画(予定)始まります。

つい昨日までお姉ちゃんお姉ちゃんしてたょぅじょと化していたコトは忘れて下さい、いいね?

あと突然ですが私、リベリオンのウィッチになりました。

『いきなり何いってんだコイツ』?

『なろうと思って簡単になれるモノじゃないぞ』?

 

安心して下さい。怪しい謎の金髪お姉さんの催眠術と裏工作により今や私のステータスは完璧にリベリオン軍ウィッチになってしまいました。

あゝあはれ竹田美喜ちゃん…まぁしょうがないよね頼れる大人も居ない遠い異国で一人ぼっちなんて、生き残れるわけないんだもの。

 

で、私がまだこんなクs…げふんげふん神ゲーからログアウトしてない理由ですが…これですね。

メニュー画面からゲーム内ブラウザで見れる開発からのお知らせなんですが、どうにも今バグがあるようでして。

 

 

不具合情報一覧

【システム】20XX/12/23(対応中)

・NPC専用ステータス異常『催眠』がプレイヤーキャラクターにも適応されてしまう不具合。

・上記不具合発生時、正常にログアウトが完了しない不具合。

 

 

…で、まぁかい摘んで言うと、あの金髪お姉さんに頂いたバッドステータスのせいでログアウトを選択してもログアウトできないという状態なのですよね。

それじゃあこのバッドステータスを消せばいいじゃんアゼルバイジャンと言う話なんですが。まぁこれがですね。

 

《簡易ステータスを表示します》

 

Amanda Michael Plummer

Lv:3

HP:30/30

MP:10/10

装備:『リベリオン下士官服』

状態:【疾病】

   【催眠】94:14:58

 

おっあと解除まで94時間かな?しょうがないゆっくり待ったろと思ってたら。

いやー94日だったよね...やべぇよやべぇよ...朝飯食ったから...。

これ何が絶望かって、多分また未来予知ループ入るとこれの時間も進まなさそうなんですよねぇ。

だからボーッとこの世界でおねえちゃん...じゃない危ないルッキーニちゃんと戯れているだけでは永遠に閉じ込められてるわけで。

のんきに暮らしてたらまたそのうち《ミッションを開始します》とか出そうだし…。

多分こうなってしまった以上ウィッチとしてネウロイと戦うのは避けられなさそうですね(他人事)

 

多分修整パッチ来ても再起動出来ないから意味ないし...。

攻略wiki見ても中身スッカラカンの企業wikiしかないから役に立たないし。

まぁ辛うじての救いは、このゲー厶も最近のVRゲームの例に漏れず時間知覚機能のおかげで現実時間ではまだ1時間も経っていないらしいことでしょうか。

 

「きのおよりーつーよいー、わたーしーになーれー」

 

で、今は何をしてるかと言うとマルゲリータを作っておりますはい。

何故リベリオンのウィッチとなった私が、その上病弱でょぅじょな私が料理なんざしてるかと言うと。

現在実は私はロマーニャのマルタ島に来ております。

原作でも『コイツらいっつもマルタ島奪還作戦してんな』って思うくらいにはネウロイが結構来るらしい危険地帯。

 

なのに何故かここの軍基地にはなんとウィッチが現在3名しかおりません。はい、3名です。

 

優しいお姉さんだと思ったら割かしヤベーやつだったリベリオンのリリー・グラマン中佐。

で、今はその部下であるウィッチの私。

で、残りのもう一人はなんとおねえちゃ…フランチェスカ・ルッキーニ少尉。

 

結構大きめのウィッチ用の隊舎にも関わらず何故かそんな3人しかいないので。

リリー中佐はなんか色々手が離せないしご飯もいらないそうですし。

お姉ちゃんはお料理が苦手らしいので仕方なく私が二人分のご飯を作っております。

それにしても飲み食いの感覚まで完璧に再現してるって最近のゲームってしゅごい。

 

「ん。しょ…よしっ、えへへ、おねえちゃん、よろこんでくれるかなぁ…♪ごほんごほん。」

 

あー…やばいですね。大分精神汚染が進んでおります。

とはいうもののあの地獄の未来予知ループと、中佐の調きょ…さいみん。そして原作キャラであるルッキーニさんに何度もイケメン王子様ムーブを決められてしまったので。

私のキャラはそれはもうすっかりお姉ちゃんすきすき大好きなょぅじょウィッチと化してしまっているのです。

で、ゲームの没入感を深めるためのフィードバック機能で、本当に思考や行動が引きずられちゃうんですよねー。

 

 

でも私はこんな機能なんかに絶対負けません!!

私は見た目は今はょぅじょでも、れっきとした成人です!!

お姉ちゃんなんかに絶対屈しません!!!!!!!(キリッ

 

 

―――バタムッ

 

「うにゃーいい匂い~♪わっ、マルゲリータだぁしゅごーい!!これエイミーがつくったの!?」

「あぁっ♪おねえちゃぁぁぁんっっ♪うんっ!!おねえちゃんにね!!たべてほしくってぇ…♪」

 

バタンと勢いよく扉を開け放ち台所に入ってきたのは―――私の大好きなフランカお姉ちゃん♪

カッコよくて綺麗で、つよくって優しくてあったかくて元気な。ああもう言い切れない!

今日もツインテールはとってもきれいだし、八重歯だって素敵だし…。

 

「にゃはー♪あーもーエイミーは可愛いなぁ~うりゃうりゃりゃ~~♪」

「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ……♪いへへ♪」

 

あぁ、足踏み台に乗った私を抱きしめて、むぎゅ~ってして大好きなお姉ちゃんのニオイにつつまれてぇ…♪

それだけで幸せで幸せでたまらなくて、ストライカーも無いのに猫耳と尻尾が生えてきてピョコピョコ揺れちゃうよぉ♪

えへへぇ♪もう一生このままログアウトできなくてもいい、ずっとお姉ちゃんと一緒にいるぅ…♪

 

「…ふぁっ!?ご、ごめんおねえちゃん、おなかすいてるのにっ。はやくたべよっ!!」

「はにぇ?うんっ、たべりゅたべりゅーっ!!」

 

墜ちてたな(確信)

やばいアブナイ所だった。またお姉ちゃん大好き大好きで暴走してしまう所だった…いかん危ない危ない(レ)

 

 

―――▽▽―――

 

「はい、エイミー♪あーん、してあげりゅーっ!!」

「ふぇっ、え、じ、じぶんでたべれるよぉ…」

「いいからいいからー♪ほら、あーんっ♪」

「あ、あーん・・・・・///」

 

はむっ。ああ何してるんでしょうかね私…ああでも美味しい…///

あ、ちなみにエイミーというのは私の使い魔になった黒豹の子供の名前でもあり、同時に今の私の名前でもあります。

アマンダ・M・プラマー軍曹。それが今のリベリオン軍のウィッチとなった私に与えられた名前らしいです。

そしてアマンダの略称がエイミー。偶然らしいですがお姉ちゃんが呼びやすくてよかったですね。

 

「んむぐむぐ。それにしてもさーあ?昨日のネウロイちょーつよかったねー」

「んぐ。…うん、すっごくはやくて、ビームもすごかったね。」

 

語るのは昨日遭遇したネウロイの話。

なんかジェット戦闘機みたいなシュッとした近代的なフォルムで、性能もその外見に相応しいモノでした。

私が引き付けてお姉ちゃんが背後から光熱ワンパンしてくれたおかげで8回くらい死ぬだけであっさり勝てたけど…。

 

「前にいたウィッチも、さいごはず~っと負け続けだったんだってぇ。にひひ、あたし達さいっきょ~♪」

「もー…がんばってくれたヒトたちなんだから、そんなこといっちゃダメだよ。」

 

ええ今でもはっきりと覚えてます…。

ここのマルタの基地に初めて訪れた時、私とお姉ちゃんをそれはもう哀れで仕方ないような目で見つめてきた、やつれた兵士や整備士達を。

おまけになんか哀れんだ目でにお菓子や美味しいモノやぬいぐるみやら、子供が喜びそうなモノをたくさんくれるし。

初めてネウロイが出て出撃した時なんか大変でしたね…『出撃させるなー!』とか叫んで取り押さえられる人とかいたし…泣きながら『なんて俺達は無力なんだ』とか言って敬礼してくる兵士さんとか。

まぁその後ネウロイを倒して無傷で帰ってきた私達を見る目の方がヤバかったですが。

 

というのも、やっぱりここ最近のマルタ島を襲撃するネウロイの量と質はもうとてつもなかったらしいですね。

フランカお姉ちゃんの言う通り、私達が来る前くらいはそれはもう末期の日本軍もかくやの惨状だったらしいです。

2部隊いたウィッチ隊は敗北続き、帰還率もかなり低くなってストライカーの損耗もひどかったらしく。

今ロマーニャ本国では私もお世話になった(意味深)あのフェル隊長も治癒魔法で大忙しだそうな。

 

そうつまりここマルタ島は現在、欧州の中でも屈指の激しく厳しい戦闘が繰り返されている激戦地区!!!!

501がいるブリタニアのドーバー海峡!!502がいるオラーシャのペテルブルグに並ぶネウロイとの最前線!!!

戦わなければ生き残れない!!!!

 

 

「あ、エイミー、こっちむいて?おくちふいてあげりゅー」

「ん~///」

 

あー。きょーもへーわですね~。

 

 

チュートリアルこそクソゲーでしたがフランカお姉ちゃんと出会ってからは割かしイージーモードな気がします。

私だってあの数千回にわたるクソゲーのおかげで足を引っ張らないですむくらいのプレイスキルをゲットできましたし。

それになんか私とお姉ちゃんの使い魔が姉妹のおかげか、手を繋げば未来予知の情報も伝えられますし。

何より最強ですし…これが原作キャラ…。

あと合法的にお姉ちゃんの優しくて温かい手をぎゅってできますし…///

 

あ~このままイージーモードでログアウトできるまで過ごせないかなぁ~。

 

―――ウ"ゥ"ーーーッ!!ウ"ゥ"ーーーッ!!

 

 

「―――――うじゅ!!」

「…ねうろい。」

 

基地内に鳴り響く、けたたましいサイレンの音。

私達二人は瞬時にウィッチの顔になって、咄嗟に椅子から立ち上がり格納庫へ―――!!

――――ひょいっ。…ひょい?

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?フランカおねえちゃんおろしてぇぇぇぇえええ」

「きゃはははははっ♪エイミーかるーい!!!」

 

うわあああ攫われてます!誘拐されています!助けてー!単独美少女ウィッチに誘拐されてまーす!!

あぁまさか原作でよくルッキーニがシャーロットさんに担がれてるシーンはあったけど、まさか自分が担がれるとは…。

あーでも楽ですね、この身体一応病弱なのですっごい助かります。

 

 

―――▽▽―――

 

 

「ルッキーニっ、いっきまぁぁぁーーーっしゅっ!!!!!」

「…えと、プラマー機、でます。」

 

仲良く手を繋いで二人でストライカーを離陸させ、マルタの空へと駆け昇ります。

真新しくてだいぶ袖がダボってるリベリオン軍の制服がはためいて割と邪魔ですね。

あとリリー中佐が用意してくれた義手もまだ慣れないし、担いだ銃とかクッッッッッソ飛ぶのに邪魔です。あー捨ててぇ…。

 

「…うじゅ。今日は銃ポイ捨てしちゃダメだかんねーっ!」

「だってこれ、ジャマだし…」

 

だって私の銃のイメージってもうアレなんですよ、あのクソg…チュートリアルでまったく役に立たないところか撃たれたりしましたからね。もう最悪ですよ。

しかも私のキャラ、飛行力はともかく魔法力がカスで…確かG-だもんね、弾への魔力供給がまったく出来ません。

 

――――ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

「―――んにゃ。」

 

森林地帯の上空を飛んでいた私達二人ですが。これはどっちからの攻撃予知ですかね…下?

手を繋いでフランカにも見えていたようで、急いで手を放して散開します。

すると数秒後、私達のいた空間を数十本の激しく太い赤いビームの嵐が襲い掛かりますが、当たらなければどうということはない(赤い彗星並の感想)

しかしそのビームの太さや激しさは明らかに異常でした。なんかビームの周りに赤いバチバチみたいな火花が散ってたり、空間が歪んで見えましたし。

 

「どっちから撃ってきたのー!?エイミー見えた!?」

「ううん…まさか木の下にいるのかも…!!」

「うっそー!陸上ネウロイーっ!?」

 

攻撃された方向を、地面を見下ろしてもどこにもそのネウロイの姿はない。あるのは広がる森林だけ。

考えられるのは陸上ネウロイだけど、今までマルタにそのタイプが現れたことはないらしいですが…?

 

―――ピロロロロロロロロロロロ

 

「…えっ!?ちょ、なんでっ!?うえェ!?」

「ふぇぇ?…わにゃーーー!!!?」

 

い、意味が分かりません。

地面から撃ってきたと思ったら今度は私達の遥か上空から同じくらいの規模のアラートが鳴っているではありませんか!

幸い私を狙ってくれたおかげで普通に回避できましたが…教授、これは一体!?

で、上を見て探してみてもその姿は影も形もやっぱりありません!?

 

「えーーーっ!?何コレ、ずるいずるいずるいーっ!!ぜんぜん見えないじゃんっっ!!…そこっ!?」

 

と、言いながら予測射撃でフランカお姉ちゃんが空に向かって銃を放つと…なんか当たりましたね。マジですか。

い、言ってるコトとやってるコトが違う…これがエースですかゲームこわれる。

何かが空中で被弾したのを良く見てみると…うん!?ひ、被弾した虚無からネウロイが現れましたぁ!?

 

「こ、こうがくめいさい……?」

「うにゃにゃにゃにゃにゃーーーーッッ!!」

 

私もそれに続けと言わんばかりにライフルを乱射しますが、やった、1マガジン撃ち切って2発くらいカスりましたね(無能)

そしてお姉ちゃんが距離を詰めて追撃をかけようとしますが…あっまた消えました!?

うーわウッソ…こんな奴のコアを破壊しなきゃいけないの?別のベクトルでクソゲーじゃないですか、誰かサーニャさん呼んできて…。

 

―――ピロロロロロロロロロロロ

 

「おねえちゃんっ、みぎーっ!!!」

「みぎってどっちだっけーっ!!!?…わにゃー!!」

「うそでしょー!?」

 

その一瞬の迷い?が命とりになってしまったらしく…いや本来なら間に合っているはずの回避でしたたが、明らかに今回のネウロイのビームが強力すぎました。

なんと完全にカスリもせずに避けたはずなのに、そのビームによって生じた猛烈な衝撃だけでお姉ちゃんは体勢を崩して――――。

やばいっ!!あんな所を追撃されたら流石のフランカでもマズい気がする!!

 

急いでその手を掴もうとストライカーを加速させましたが、これは……!

 

 

「そこのウィッチッッ!!!地面に退避しろッッッ!!!」

 

 

突如として通信機から鳴り響いたその声は、凛とした女性のモノ。

何がなんやらで軽くパニックになりながらも、お姉ちゃんの手を取ってその言葉の通りに急いで地面スレスレまで急降下すると。

 

「私の眼にそんな手品が通用すると思うなぁぁぁーーーーッッッッ!!!!」

 

見上げた上空から降下してくる小さな黒い点、それが大きくなって人の形だと分かっていき―――――。

勢いよくナニカを振りかぶり、叩き切った瞬間。その背後に真っ二つに割れたネウロイが虚空から姿を現した。

そして真っ白に爆散したネウロイの破片を背に、彼女は私達の目の前に降りてきて。

 

 

 

「いやはや、よもやマルタを守っているのがこんなにも幼いウィッチ達だとはな!!その年で見事な腕だ!はーっはっはっはっはっは!!!!」

 

「…うじゅー?おねーさん、だーれ?」

 

彼女――――白い扶桑海軍の士官服を纏い、紅い魔眼を輝かせながら大声で高笑いする少女。

そう、本来ブリタニアの501にいるはずの扶桑のウィッチ。坂本少佐が扶桑刀を担いで満面の笑みを浮かべていました。




本来なら時系列的にルッキーニは501に入っています。


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扶桑の魔女

胸を抉られるようなとある最高のストパン二次小説が最近の生きる糧です。
私も見習わなきゃ。


「お待ちしてましたわ。ブリタニアからはるばるようこそ、坂本少佐。まさか501の戦闘隊長、"リバウのサムライ"がお越しくださるとは思ってもいませんでしたが。」

「こちらこそ、"バルバロッサの天使"と共に戦えるとは光栄だ。ヴィルケ中佐からも貴官の話は伺っている。」

 

「あら、あのヴィルケ中佐からですか...どんなお話なのでしょうか。気になりますわねぇ♪」

「はーっはっはっは!!それもまた機会があれば是非一度話しましょう!!」

 

 

おぉ...見てください、お腹の探り合いというかすっごいオトナの会話が繰り広げられておりますよ。

現在あのあと一緒に基地まで帰還した坂本少佐を出迎えたのはリリー中佐さんです。

 

いやーでもついに出会いましたね、お姉ちゃん以外の501の人物。

近くで見ると凛としてスラッとしてて...やだイケメン///

でもどうして彼女がマルタにいらっしゃるんでしょうか....いや、待てよ?

何か原作開始前、上層部の嫌がらせでどっか別の場所に無理やり坂本少佐だけ異動させられてた時期があるって何かに載ってましたね?

それが原因で我らが宮藤さんが来る前はすっごい501はギスギスしてたって...うーむ何にせよ今は彼女達の会話を詳しく聴きましょうそうしましょう。

 

あーフランカお姉ちゃん...暇だからって私の髪で遊ばないでぇ。

 

「....ところで坂本少佐、早急にどうしても質問したいことがあるのですが。」

「はっはっは、奇遇ですな。私も是非お聞きしたいことがあります。」

「....ではお先にどうぞ。それとわたくしは技術士官です、敬語を使っていただく必要はございませんわ。」

「む、そうか、それはありがたい。では―――――」

 

おや、坂本少佐が巨大なミーティングルームの中を見渡してますね。

もちろん居るのは少佐中佐のお二人と、さっきから私の髪を結って...あっ、お姉ちゃんとお揃いの髪型だぁ♪うれしいよぉ♪

じゃない危ない、その私とお姉ちゃんの二人、以上合計4名だけですね、はい

 

「...他のウィッチは、何処に?」

 

はい、至極まっとうなご質問頂きましたー。

 

「今は訓練で不在にしているのか?それとも部隊の交代などの一時的な不在か?なんにせよ現在激戦区であるマルタで、いっときにせよこんなもぬけの殻の状態を―――」

 

「ご安心下さい、マルタのウィッチは私と彼女ら含め3人です。」

 

 

―――ピシッ。

 

みたいな音が聞こえてきそうなくらい、坂本少佐の表情と身体が固まっちゃいました。固くなってんぜ?

 

 

「今、なんと?」

「私、そこにいるプラマー軍曹、ルッキーニ少尉。以上が数週間前からの現在のマルタのウィッチの全名ですね。」

「はっはっは!!参ったな!!これが本場のリベリオンジョークか!まったくシャーリーから勉強しておくべきだったな!!」

「....ヴィルケ中佐は、私がこんなつまらないジョークを言う人間だと仰ったのですか?」

 

坂本さん大笑いしてるけど、まぁそうだよね普通そんな反応しますよね。

こんな激戦区にいるウィッチが3人だけなんて、自慢じゃないけど未来予知できる私と、エースでカッコよくてキレイで頼りになっていつも私を優しく守ってくれる大好きなフランカお姉ちゃんじゃないとやってられません。

 

「...本当なのか。信じられん。来る前の話ではウィッチの部隊が2つ防衛に当たっているという話だったはずだが。」

「それも数週間前までの話です。彼女達はもう限界を迎えてロマーニャ本国へ戻ってしまいました。」

「だと言っても代わりが来るはずだ。ロマーニャにとってマルタは要だろう、こんな空き家同然の状態を軍上層部が見過ごす訳がない。」

「ええ、そのとおりです。だから『ブリタニアから派遣される精鋭のウィッチ隊』に頼ろうとしていたのですが――――」

 

え?そんなこと教えられてたんですかリリーさん。

やった、そんな凄いウィッチ達が来るならもう安心ですね!!勝ったなガハハお姉ちゃんと一緒にオフロ入ってきます。

で、その精鋭のウィッチ隊とやらは今どこに?坂本少佐だけ一足先にやって来たのでしょうか。

 

 

 

「...ブリタニアから派遣されたのは、私、だけだが...」

 

 

 

「......殺してやる、糞ブリティッシュ野郎共が...」

 

え?リリーさん?今あなたヤバい形相でボソッとスゴいこと呟きませんでした?

や、やばい、見てはいけないモノを...いや今更だったわ元からヤベー人だったわ。

 

「お、おねえちゃん、いまのみt...」

「うえーエイミーのコーヒーにがーい!!」

「あっごめんね、はい、ミルクとおさとう。」

 

ああコーヒーをブラックで飲めないお姉ちゃん可愛い...♪

じゃない、え、来たのが坂本さん一人だけってどういうことですか?

 

 

「あ"あ"クソ、面倒な....ゴホン、失礼しました。なるほど、どうやら私達はブリタニアにまんまと踊らされていたというワケですね。」

「....っ、そうだな。迂闊過ぎた、何か裏があるかとは思っていたのだが...!!」

「こんなくだらないコトを考えるのは。彼らの仕業でしょうね。」

「ああ、ブリタニア空軍...それもウィッチ嫌いのタカ派の連中だろう、501にいた私を無理矢理ここに送り込んだのも奴らだ。」

 

あーなるほど、あの原作でも有名なマカロニ大将率いるブリタニア空軍。

そこからの嫌がらせと言うか裏工作があったみたいですね...ぅぇぇマジですか...。

それにより年長のベテランウィッチ二人がすっげぇ嫌そうな顔を浮かべて頭を抱えています、大変ですねぇ(他人事)

 

「すまない中佐、私のせいだ。501のゴタゴタをロマーニャにまで持ち込んでしまうとは。とんだ疫病神だな...。」

「いえ...どうして少佐が謝られますか...はぁ...」

 

やべぇお通夜みたいなとんでもない雰囲気になってまいりました。

あゝ坂本少佐、貴方の高笑いはいずこへ....。

 

 

「仕方がない、ドタバタしてるだろうがロマーニャ本国に増援を乞うしかない。私から頭を下げよう。」

「....それが、そうも行かないのですよね。少しこの地図をご覧ください。」

 

と言って4人の卓上に広げられたのはロマーニャの地図。

そこには何やらロマーニャを取り囲むように赤い大量の矢印が書かれていて。

 

「これは…ここ1カ月のロマーニャへのネウロイの襲撃か?」

「ええ、この頻度と量は尋常ではありません、過去類を見ない程といっていいでしょう。そのうえ現在ロマーニャを防衛する新たな統合戦闘航空団を結成するための部隊再編も行っていますし。恐らく今ロマーニャ軍に支援を求めてもロクに対応して頂く事はできないでしょうね。」

「…しかし、だとしてもこんな人数でマルタを防衛し続けるなど困難だ。ロマーニャがダメなら他の欧州の国に要請してでも――――」

「これが一つ。そしてもう一つの理由があります。……エイミー、ルッキーニ少尉。」

 

うお、完全に蚊帳の外だったのにいきなり呼ばれましたね。

私のほっぺたをふにふにしてたお姉ちゃんも「んにゃ?」と反応しました。

 

 

「あなた達にもこの際伝えておかねばなりませんね。このマルタ島の真実を。」

 

 

そう言って彼女は更に大きな地図…これはマルタ島?

いやでも何でしょうこれ、今私達がいる基地とは真逆の方向にあるもう一つの基地の周辺が真っ赤に染められていますが?

 

「…グラマン中佐、これは。」

「結論から言いましょうか。もう既に、()()()()()()()()()()()()()

 

はっ……えぇぇぇえええええええ!?!?

 

「えぇぇっ!?どゆことー!?だってあたし達、毎日ちゃんとネウロイ倒してるじゃんっ!!」

「…詳しい説明を頼む。」

「ええ、まずこの図示した赤い地域、これは全てネウロイの支配下にあると思ってもらって構いません。」

 

え?でもこの赤い場所、結構広くないですか?今も人が住んでる所にまで及んでいますが。

 

「まさか、地下か!!」

「ええ、この島には地理上比較的大きめの空洞がいくつも存在しています。これらはネウロイの大きな反応があった地点と、その空洞の地図を重ねたモノです。

ご覧の通り凄まじい数と規模の反応です。恐らくは…「巣」とまではいかなくとも、新たな個体がここで生まれてるのは間違いないでしょう。」

「えっ、じゃあわたし達が毎日倒してるネウロイって、もしかしてっ。」

「オラーシャやアフリカからじゃなく、このしまの、ちかから…!!」

 

と、とんでもない話になってきましたね。うそ、マルタにそこまで大規模なネウロイがいたなんて原作にありませんでしたよね?

なんだとっても嫌な予感がしますが…。

 

「混乱によるネウロイへの刺激を避けるために、まだ避難勧告は出せていませんが。こんなのが下にある状態で、助けを待っていれば。」

「…っ、マルタは完全に陥落するな。」

 

 

あぁ、年長のお二人が天を見上げてしまいました…まさしくお手上げといった感じですね。

私も一緒に見上げましょう。ほらお姉ちゃんも。

いやでもコレマジでどうするんでしょう。もう逃げるか撤退作戦するかしかなくないですか?

 

「…マルタが堕ちれば、アフリカは。」

「一ヶ月も持たないだろう。ただでさえ補給が滞ってるらしいしな。」

 

えっ?それヤバくないですか?

アフリカって今だとマルセイユさんがいるストームウィッチーズとかが戦ってる激戦区ですよね。

そこが負けるって結構人類側にとって大ピンチなのでは。

インフェルノで開始する前に「余裕で人類滅亡させちゃいました><」ってプレイ感想がありましたけど、もしや現実になっちゃいます?

 

 

 

「ねぇねぇ。ちゅーさたちの言ってることわかりゅ?」

「ん、だいたい。」

「わぁ~すごーいっ!!さっすがエイミー♪えらいえらいっ♪」

「んみゃっ///ごろごろ…///」

 

あっ、ふぁぁぁっ♪えへへぇ♪フランカお姉ちゃんになでなでしてもらってるぅ…///

しかもまた尻尾と猫耳出ちゃったぁ…やだ、その上ごろごろ喉まで鳴っちゃってぇ♪

おねえちゃんっ♪おねえちゃんっ♪すきっ♪もっとなでなでしてぇ…♪

 

 

「…初めて見るな。前線で戦うコレほど幼いウィッチ、それも二人とはな。」

「ええ。ですがプラマー軍曹は未来予知の魔女。そしてルッキーニ少尉はロマーニャが誇る最高峰のエースです。彼女達が居なければ既にマルタは堕ちていたでしょうね。」

「うじゅーっ!!」

「未来予知…!?なるほど凄まじい動きをしていたと思ったが、そういうコトか。」

 

ふにゃぁ…?あ、やだ。わたし、見られてるぅ…///

だいすきなおねえちゃんに、ぎゅ~ってされて、なでなでされてるの見られてるよぉ…///

 

「なら尚更何か手を考えなくてはなるまい。若い素晴らしい才能達をこんな所で散らす訳にはいかんからな。」

「…ひとつだけ、プランB。予備プランは用意してありますわ。コレを。」

「うじゅじゅ?ぷらんびー?なにこりぇー。」

 

…はぁっ、はぁっ?りりーさまが、なにか・・・せっけいず?みたいなの、ひろげてぇ…。

だ、だめ、あたま、まわんにゃい…///おねえちゃんのて、きもちいいよぉ・・・♪

 

 

「我が社…ごほん、グラマン社の欧州工場で開発、試作している兵器です。名を『対ネウロイ用気化爆弾』」

「ん?わがしゃ?…気化爆弾とは、聞いたことがないな。」

「従来の爆弾は火薬を用いても最終的には破片をぶつけて損傷を与えますが、これは違います。強烈な爆風そのものによる損傷…少しネウロイのビームに近いモノです。」

「…ほう。」

 

…まずい、きっと大切な話なのに。まったく頭に入らないよぉ…///

 

「うじゅじゅ??うじゅうじゃ…?」

 

あ、やばい。おねえちゃんの頭が知恵熱で光熱を発動させてる!!!

 

「今までの兵器とは全く種類の違う損傷、恐らく魔力なしでもネウロイにかなりダメージを与えられるはず。」

「・・・・学習されるまでは、か?」

「えぇ…だから本来完成しきっていない今、使うべきではありませんが、仕方ありません。」

 

 

そこまで行って話は一段落ついたのでしょうか。

私がやっと理性を取り戻した時には二人共うーんと伸びをし始めましたね。

では結局なんかその新兵器を使って私達だけで何とかするってことでFA?

 

「…申し訳ございません。移動でお疲れの所こんな話を。」

「気にしないでくれ。私こそ厄介事を持ち込んですまない、出来うる限り力にならせてもらおう、リリー・グラマン中佐。」

 

そう言って握手を交わす二人はとっても大人びて見えますね、私が幼女になったからでしょうか。

 

 

 

「さ!!辛気臭い話はここまでだ!!これから肩を並べ共に戦う戦友なのだから、まずはお互いの事をもっと知らねばな!」

「…うじゅぅ?しょーさのこと、おしえてくれりゅの?」

「あ。それだったらわたし、ごはんのよういしてきます。せっかくだから、みなでたべながら…」

 

さっそく皆の分を、そうだ、どうせなら今日くらいリリー中佐の分も用意しよう。

 

「はっはっは!!プラマー軍曹、分かってないな!!」

 

しかしそれを手で制されてしまって?

 

 

「同じ釜の飯を食べるのも素晴らしいが、もっと互いに打ち解けあえるモノがある!!そう―――」

 

 

そういって仁王立ちで両腕を組み、胸をはり高らかにこう宣言しました。

 

 

「風呂だ!!ここにいる皆で入るぞっ!!」




明日はお風呂回ナンダナ(・×・)

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お風呂の魔女たち

「うーじゅじゅじゅじゅじゅじゅーっっ!!」

「はーっはっはっは!!素晴らしいぞルッキーニ少尉!貴官は扶桑に来れば冬場は英雄になれるな!!」

「おねえちゃんがんばってぇ...」

 

お風呂、お風呂です!坂本少佐とお姉ちゃんとでお風呂です!リリーさんは後から来るみたいですよ。

え?ロマーニャにお風呂なんかあるわけ無いだろいい加減にしろ?

はい、仰るとおりです。なので現在私達が入ってるのは基地内に備えられたプールなんですよね。

で、最初坂本少佐は焼いた石を大量に入れてお風呂にしようとしてたみたいですが、そこに私が余計なコトを呟いてしまって...

 

 

「おねえちゃん、まほーでおゆ、わかせないの?」

 

 

はい、その結果ご覧の有様というかお姉ちゃんが光熱魔法でめっちゃ頑張ってます。

ごめんね...それにしてもこの坂本少佐、それを見てウキウキである。

 

「うむ!湯加減も完璧だ!少しぬるいが悪くない!欧州に来て以来こんな広々とした風呂に入れるのは久しぶりだな!はっはっはっはっは!!」

 

見てくださいあのキラキラの満面の笑顔、さっきまでの「コレどうするんだ」みたいな絶望顔とは真逆ですよ。

 

「うじゅーちかれたぁ〜...えいみー成分ほきゅー!!!」

「きゃああ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あっっ!!!?おねえちゃんダメ!いつもいってるけどハダカはだめぇ!!!」

「うぇへへぇ♪くちではそーいってもカラダはしょーじきだにゃー?ミミとシッポでちゃってるよ?」

 

はっ!?い、いつの間に!?しかもまるで甘えるみたいにお姉ちゃんの小麦色の細い足に絡み付いちゃってます///

ああああああでもマズイですよハダカはマジでダメだってぇ!!

しかもフランカおねえちゃん、お願いだからタオル羽織ってぇぇ...///

すっぽんぽんはホントにマジで目のやり場に困りますぅ...///

 

「はっはっは!そうか、もう二人は裸のつきあいも経験している仲か!ペアを組んでからは長いのか?」

「ひゃっ、ひゃだかの、つきあい...って...///」

「んー、一ヶ月とぉ...2週間前くりゃい?だったよねぇエイミー」

 

ひゃぁっ...///わ、わたし、裸のおねえちゃんの、膝の上に、のせられてぇ...///

だめっ、すはだ、どうしが、こすれて....こそばゆくて...あぁもう...///

 

「ほう?一月足らずでよくそこまで気を許し合える仲になれたものだ、素晴らしい!!私も色んなウィッチ達を見てきたが、やはり異国のウィッチ同士となると上手くいかないコトが多くてな...」

「ふぇっ...そう、なんですか?」

 

そう語る坂本少佐の顔はどこか陰りというか、暗いものが見て取れますね。

 

「...うむ、例えば私がいた501、通称ストライクウィッチーズだが...各国から選りすぐりのエースを集めた混合隊だ。しかし、その部隊の雰囲気は...まぁ最悪と言っても良いかも知れん。」

「さいあくぅ?」

 

うむ、と坂本さんが頷きます。

 

「国も、軍も、規則も、気風も、何もかもが違うウィッチ達が一堂に集うのだ。当然軋轢は生じるさ。しかもエースとなるとみな曲者ぞろい、なおさらだ。私もミーナ...隊長と共に何とか現状を変えようとしてたんたが...その前にココに飛ばされてしまってな。」

「???へんなのー、みんな仲良くすればいいのに。ね、エイミー♪」

「....そう、だね。そうできれば、いいのにね。」

 

ああなるほど、やっぱり原作開始前というか、宮藤さんが来る前って501は余りよろしくない雰囲気だったんですね...。

それを溜息交じりに語る坂本さんの顔...あ、ヤバいめっちゃイケメンですね///

 

「ふふ、そうだな。みな仲良くすればいいのだがな。お前達のような明るいウィッチでも来てくれれば部隊の雰囲気も変わるかも知れんのだが―――――」

 

「はいそこまでです。今はまだこの子達を手放すつもりはありませんよ。」

 

突如背後からかけられた声に振り向くとそこにはバスタオルを巻いたふわふわ金髪ヤバ美少女リリーさんのお姿が。

てか...でかっ。デカァァァァい説明不要!?リリーさん着痩せするタイプなんですね。

 

「まったく...ウィッチはすぐに引き抜こうとする方ばかりですね。リカといいラル少佐といい...」

「はっはっは!!すまんすまん!ただ彼女達のようなウィッチがいれば賑やかになるなと思っただけだ、他意はない。」

 

「それならいいのですが―――はにゃぁっ!!?」

 

 

――――もにゅっ、ふみゅりっ♪

 

 

「ほうほうほう...!!!うにゃにゃ〜おっきー!!しかもすべすべ〜♪やわらか〜い♪♪」

 

オイオイオイ死んだわアイツ。

ぎゃあああああ!?フランカおねえちゃん!?ダメぇぇぇええ殺されるぅぅぅさすがにリリーさん相手にそれはアカンってぇええええ!?

 

「はぁ...まったく、ドミニカとジェーンといい、どうして私の部下にはこう破廉恥なウィッチが集うのでしょうね…。」

「うひひひ♪ちゅーさのおっぱいふかふか~♪むーにむーに♪」

 

お、おわぁ。溜息を吐いて何事もなかったかのように動じない。流石リリーさんやで。

あぁ、でもヤバイってこの光景。少女がおっきな少女の布一枚で覆われた乳房をむにむにもにもにして…///

お姉ちゃんの指が食い込んで、むにむにって形を変えて…はわわ…///

 

 

――――ぐいっ。むにゅっ。

 

 

え?()()()()()()()

 

「はっはっは!!どうしたそんなに物欲しそうな目をして!!ほら、人肌が恋しいのなら私もいるだろう!!」

 

「ふぇっ……ふぇにゃ"ぁ"ぁ"ぁ""あ"ああ"あぁッッッッ!!!?///」

 

ぎゃああああ!?!さ、坂本少佐にぃぃぃっ!?真っ白い素肌に、やわらかいふにゅっとしたモノに顔が挟まれてぇぇぇ!!?!?

ちょっと待って!?この頬っぺたを優しく包み込んでるのはぁぁっ!?このすっごい爽やかで温かい香りは!?

 

「あ、あわ…にゃ…」

「ははは、気にするな、風呂の中では階級などない、無礼講だ。」

 

そ、そういって固まってる私の小さな身体を、真っ白な腕が包み込んでぇ…///

は、はふぇ…///だめ、ほっぺたにあたるむにむにのせいで、何も考えられないぃぃ///

 

「…しかし、この年でこれだけの傷とはな。扶桑ならまだウィッチ養成学校に入学すら出来ん年齢だろうに。」

 

見上げた坂本少佐の顔は凄く優しくて、凛々しくて、とても美しいですね…。

原作でも色んなキャラクターをタラしていましたが、なるほど、タラされそうです…///

 

「…ネウロイとの戦いは、怖くはないか?」

「もう、なれちゃいました。」

「…っ、そうか。」

 

反射的に普通に、何千回も繰り返したことを前提の答えを言ってしまいましたが、マズかったでしょうか。

だってこの年で、8歳で戦争に慣れましたってちょっとアレですものね…。

 

 

「うじゅ?ねーねーちゅーさぁ、このキズどーしたの?」

「ん?ああこれは確か、バルバロッサの時の傷ですね。」

 

あれ?いつの間にか湯舟の中でお姉ちゃんが真正面からリリーさんに抱き着いてますね。はだかで。

で、お姉ちゃんが言っているのはどうやら…あ、ホントだ、リリー中佐のお腹当たりに大きなキズ痕が…。

 

「という事は、もしかしてあの孤立したウィッチ隊を救ったという時に?」

「え"、なんでソレを知ってるのですか…」

「はっはっは!!有名な話だぞ!"()()()()()()()()使()"リリー・グラマンを語る上では外せん逸話としてな!!」

「うっわ…本当ですか…まさか扶桑のウィッチにまで知られてるなんて…。」

 

うわ、リリーさんがすっごい恥ずかしそうというか、ばつの悪そうな顔をしております?赤くなってんぜ?

 

「なにそれなにそれー!!天使ー!?ちゅーさが!?」

「うむ、それはもうあの戦いを経験した者達の間では知らぬ者はいないほどだ。中佐、話して構わないだろうか?」

「…どんな風に伝わっているのか、私も知りたいです。どうぞ…。」

 

溜息を吐いて仕方ないといった風に答えるリリーさん。

 

「今から2年前か。カールスラントが主導したスオムスからオラーシャ北部のネウロイ支配地域への一大反抗作戦。それがバルバロッサ作戦だ。」

「…もうそんなに経つのですね、まるでつい先日のように感じますが。」

「ああ、私もその頃はリバウに…いや、そして上陸した部隊はペテルブルグに駐屯し、ネウロイの巣の場所を突き止める為の強行偵察を行った。」

「???どおして?あんなおっきいの、遠くからでもわかるじゃん。」

 

むむ、お姉ちゃんが疑問を挟みますがそうですよね?そんなわざわざ出向いて探す必要あるんでしょうか?

 

「いや、そのころネウロイの巣はオラーシャ方面にあるというのが人類の共通認識だったのだが…それが見つからなかったんだ。」

「そうですね。しかも何処から来たか不明なネウロイ達からの襲撃もあり。」

「ああ、急遽ウィッチ達を主力とする偵察部隊による捜索が行われた。…ネウロイの支配地域のど真ん中をな。」

「そ、そんなの、できたの…?」

 

えぇ…流石にそれは無謀すぎでは…。

 

「結果…今は502、ブレイブウィッチーズと呼ばれているとある部隊が、カールスラントとオストマルクの国境付近に大量の巣があることを発見したのです。」

「…だが、彼女達はソレを発見したはいいが、ネウロイの支配地域の中で孤立してしまったんだ。」

「えーどーしてぇ?行ったんなら帰ってくるのもできるんじゃないのー?」

「それがな、数名の隊員のストライカーが完全に飛行不能となり、もはや全員での帰還は不可能とその隊長も判断したほどだ。」

 

あ、誰のストライカーが壊れてたのかは何となくわかる気がする…。

 

「…隊長はそれはもう悩んだそうだ、巣の情報を持ち帰るコトは重要だが、部下を見捨て帰るなどできない、とな。」

「うじゅぅぅ…。」

 

あ、お姉ちゃんが悲しそうな顔を…だからおっぱい揉む手一旦とめない?

 

「だが――――そんな窮地の彼女達に"()使()"が舞い降りた!」

「…おぉぉぉっ!!?」

「そう、単身ネウロイの包囲網を切り抜け、その身一つで駆けつけたウィッチこそ当時前線の主任整備長だったリリー中佐だ!!」

「きたぁぁぁーーーっっ!!カッコいいちゅーさぁーーーっっっっ!!!」

 

「やめて…ころして……///」

 

あっ、リリーさんが顔を真っ赤にして苦しんでます!!これは私を洗脳調教した罰ですよ罰!!

 

「中佐は他の整備士やウィッチの制止を振りきり、自身の工具箱だけを携えてストライカーで救助へ向かった!そしてその最中重傷を負うも、その治療すら放置して彼女達のストライカーを全てその場で飛べる状態にまで修理して見せたんだ!!」

「えぇっ!?じゃあこのおなかのケガってその時のぉ!?」

「ちがいます…///これは操縦が下手すぎて流れ弾が当たっただけで…///」

 

あははは!!いい気味ですね!!どうですか一方的に心を弄ばれる弱者の気分は!!!

 

「結果、人類は貴重なウィッチも誰一人失わず、ネウロイの巣の場所という貴重な情報を入手出来たのだ。…だな、中佐?」

「うじゅじゅー!!ちゅーさってしゅごいウィッチだったんだー!!」

「ごめんなさい…私が悪かったです…ゆるしてください…///」

 

ふへへへ!!そうだもっと苦しむがいい!!いいぞ坂本さんお姉ちゃんもっとやれー!!

 

 

―――▽▽―――

 

 

「ふぅ、随分な長風呂になってしまったな。」

 

彼女、坂本美緒は満足気な顔でロマーニャの夜風を浴びていた。

思い出すのは先ほどの風呂での戯れと交流。

赴任早々思わぬアクシデントと事故に見舞われたが、打ち解けられそうなウィッチ達で良かったと安堵していた。

 

「ふふ、噂もアテにはならんな。どこが『欧州嫌いのヘルキャット(性悪女)』だ、部下にも慕われている良きウィッチではないか。」

 

ブリタニアの501の事、残してきた部下やミーナの事が心配だが…彼女達なら何とかするだろう。

そんな物思いにふけっていた時、ふと視界の端でもぞりと小さな影が動いたのが見えた。

 

 

「…プラマー軍曹、か?」

 

「……ん…あ…」

「まったく、こんな所で寝たら風邪をひくぞ、自室はどこだ?」

 

なんとマルタの3人の魔女の中で最も幼い―――その年齢たるやなんと8歳だという――その彼女がうずくまり横たわっていたのだ。

しかもズボンとシャツを羽織っただけ、どうやら着替えてる最中に椅子でうとうとと眠りこけてしまったらしい。

 

「―――――さ、むい。」

「…ん?」

「さむい、寒い寒い寒い、さむいさむいさむいさむいさむい…ぁ"ぁ"…やだ…」

 

しかしその様子は明らかにおかしかった。

うわごとのように同じ言葉を繰り返し、ガチガチと歯を鳴らし身体を震わせている。

唇は青白く、そこからは苦しげな嗚咽と喘ぎが漏れ出して…。

 

「…っ!!?おい!しっかりしろ!プラマー軍曹!!どうしたんだ!?」

 

「――――エイミーッッッッ!!!!」

 

「!ルッキーニ少尉!これはっ!?」

 

その時―――どこから来たのだろうか、はるか空高くからルッキーニ少尉がこの場に降りてきたではないか。

そのプラマー軍曹ほどでは幼い顔は、さっきまでの影が無いほど険しく染まっている。

 

「…エイミー、だいじょうぶだよ、お姉ちゃんはここにいるから。」

「おえっ。はぁ、ぁ"ぁ”……いやぁ…もう、しにたく、ない…」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだからね。」

 

そして彼女は魔力を顕現させ、その小さく震える身体をそっと抱きしめた。

そうすると僅かにその震えや動悸が収まった具合が見えるが、まだそれは続いている。

 

「…エイミー、またですか。」

「…!!ちゅーさっ!!」

「少尉、その子の顔をこちらに。」

 

更にその場にもう一人のウィッチ、リリー中佐まで現れたとなれば、さすがの坂本も黙って成り行きを見届けるしかなかった。

ルッキーニ少尉だけでなく、彼女までもが使い魔を顕現させてコウモリの耳と翼をはためかせている。

 

「ふぅ…『落ち着きなさい』『静かに眠りなさい』『あなたは死にません』」

「ぃ"……ぁ"……」

 

そしてその瞳同士が数秒間見つめあったのち、ついにプラマー軍曹は平穏を取り戻し眠りについた。

目の前で繰り広げられた一連の、余りにも異様な光景はそれによりついに幕を閉じた。

 

「…さいきん、へーきだったのにね。」

「ん。そうですね…。ルッキーニ少尉、今夜は。」

「うん、だんろのへやで一緒にねりゅ。」

「……お願いします。坂本少佐、少しお話があります、こちらへ。」

 

「……ああ。」

 

 

 

―――▽▽―――

 

 

ブリタニアから来た扶桑のウィッチ、坂本少佐を連れリリー・グラマンは人気のないウィッチ隊舎の廊下を歩いていた。

 

「ブリタニアのドーバー海峡基地のヴィルケ中佐よりお電話がありました、あなたに大事なお話があると。」

「…あの子は――――」

「私の黒い噂くらい、欧州にいれば幾らでも耳に入るでしょう。」

 

彼女に、エミリーについて言及する言葉を食い気味に制す。

そうだ、わざわざ私の口から話すことなど何も無い。

どうせそれらのほとんどは事実なのだから。

 

「こちらです。どうぞ。」

「…ああ。――――もしもし、ミーナか?ああ、一応な。…何?」

 

電話を取った時に聞いたヴィルケ中佐の声はバルバロッサ以来となる久しぶりだった。

私と違い、相も変わらず優秀で活躍しているようだ。きっと私の噂もそれはもう聞き飽きているだろう。

ああ…懐かしい。あの頃の私はまだ真の意味で少女だった。

少なくとも、戦死者の数より、壊れて新たに注文される装備の数を気にする父を唾棄していたのは覚えている。

 

 

 

「馬鹿なッッッ!?ふざけるなっっ!!!そんなコトが――――!!!」

 

 

そしてその思考は、坂本少佐の怒気を孕んだ叫びでかき消されてしまう事となる。

 

 

「…っ!!すまない、わかった…。連絡に感謝する…ああ。」

 

―――がちゃり、と電話機を切る彼女の顔は、それはもう酷く…ああもう聞きたくもない。

 

「…ブリタニア空軍が、ロマーニャ軍に助言をしたらしい。ここのコトについてだ。」

「……聞きたくないですが、どうぞ。」

 

そしてその重々しい唇が開かれ。

 

「『ネウロイに奪取されるなら、奪回する時のことを考え基地は無傷のまま放棄するべき』だ。と。」

「ははぁ、なるほど。つまり―――――――。」

 

 

私は思い切り、肺が空になるほどの大きなため息を吐き。

 

 

「『爆弾の、使用を禁ずる』と?」

「………ああ、そうだ。」

 

 

その日私は久しぶりに激しい運動をこなしました。

窓に向かって椅子を思い切り感情のまま投げつけるという運動を。




・バルバロッサ作戦
ビフレスト作戦(カールスラント撤退戦)の残存部隊とウラル方面の部隊で連携、スオムスより東西からオラーシャ北部へ侵攻する作戦。ペテルブルグ奪還には成功したが新たな巣により補給が難しくなり同年の冬に作戦中止となった。ペテルブルグは将来の反攻拠点の1つとされ、現地の防衛部隊を元に502、ブレイブウィッチーズが結成される。



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ベローズ作戦

ちょっと短いですごめんなんダナ。


――――もし幼い命を粗末にするような真似をしたら、アナタでも許さないわよ。

 

 

いつか友人であり戦友でもあるリカ、ドッリオ少佐に言われた事を思い出す。

今思い返せばあの時面倒臭がって適当な返事を返さなくてよかったと、心の底から彼女は安堵した。

 

「...リカに後ろから撃たれても、文句は言えませんわね。」

 

目下に広げたマルタ島の地図、そこに示された作戦の内容を確認しながら彼女は独りごちた。

島内部に巣食うネウロイからのマルタ島解放作戦、"ベローズ作戦"と名付けられた作戦。

その余りにも無謀すぎる内容に発案者である彼女自身さえ天を仰ぐほどだった。

 

 

『...こちら坂本だ、現在の時刻を以て住民の避難を開始した。続けて避難誘導の現場の指揮と護衛を開始する。』

「ええ了解しました。どうかご無事に、少佐。」

 

無線から聞こえてくる凛とした扶桑の魔女の声。

ああ、ついに賽を投げてしまった。もう後戻りはできない。

マルタ島南部の住民の大規模な避難、それに伴う大量の船や車の移動。無論混乱を抑制する為に統制と指揮はするが、どうしたって地下にいる大量のネウロイへの刺激は避けられない。

 

「少尉、エイミー、聞きましたか?」

『うじゅっ!!』

『はい、リリー様』

 

格納庫で出撃準備を済ませているであろう二人の幼いウィッチ達ヘと通信を繋げ、そこから返ってきたのは幼く未だ舌足らずでさえある少女達の声。

そんな彼女たちがマルタの、否、ロマーニャの、アフリカの、ひいては欧州の命運を握っていると言っても過言ではない。

もし彼女たちが失敗するようなことになれば欧州が墜ちるのは目に見えている、そうなれば次の戦場は我がリベリオンかもしれないのだ。

それは少女二人に背負わすには余りにも重すぎる責任だと言うのはわかっている。

そんな幼いウィッチ達に重役を押し付け、私は一人安全な作戦室で地図と睨み合いするのか。と不意に湧き出た自嘲をいまさらだと鼻で笑う。

 

『...ちゅーさ?』

「―――っ、いえ、ごめんなさい。聞いての通りです。民間人の避難が開始されました、出撃準備はよろしいですか?」

『うんっ、ばっちりぃー!!』

『はい、わたしもばっちり、です。』

 

いや、余計なコトを考えるな、今はリベリオンの為にこの作戦をなんとしても完遂することだけを考えるのだ。

そうだ、たとえ無知で弱い子供達を、自身の都合の為に利用してでも―――。

 

 

『グラマ...いや、リリー中佐』

 

再び思索の海に沈もうとした意識を呼び戻す、坂本少佐の凛とした声。

 

『この作戦の立案者は貴官だが、それに同意して詳細を組み立てたのは私だ。』

「....それが、どうかしましたか」

 

なぜ今になってそんな事を言うのだろうか。

 

『年端も行かぬ子供達を利用した汚い大人という誹りなら、私も共に甘んじて受ける。だから気負うな。』

 

なんとまあ、このウィッチの《魔眼》は心の内までも読み通すことができるのだろうか。

 

『こうして言葉を交えてみて分かった。お前はこの欧州で誰よりも欧州の行く末を深く案じているウィッチだ。たとえその手法ややり方が清廉と呼べるモノではなかったとしても、お前のその志には一点の曇りもない、私が保証しよう。』

 

「....たった数日の付き合いだと言うのに、よくそこまで言い切れますわね。」

 

『はっはっはっは!!そんな寂しい事を言うな!もう裸の付き合いをした仲ではないか!!』

 

まったく何と言う清々しいウィッチだろうか。欧州に漂う粘っこくジメジメとした陰湿な政治の空気とはまるで対極の存在だ。

その雄大な西部開拓時代のような気持ちのいい性格は、きっとリベリオンに行っても誰からも好かれることだろう。

 

「...ありがとう、坂本。」

『気にするな、互いに為すべきことを為そう。』

 

そこまで言われ、無線が切られる。

面白いウィッチだ、どうやら"人たらし"の噂は本当らしい。どうせなら直接本人の口からもっと詳しく聞きたいものだ。

 

「ふふっ...坂本美緒、ですか。」

 

私がここまで他のウィッチに興味を持つなど何時以来だっただろうか。

息を飲み、各種基地や通信班への通信スイッチを入れる。

 

 

 

「これよりベローズ作戦を開始します。ロマーニャ、そしてアフリカ戦線への補給の要所であるマルタをなんとしても守り抜かねばなりません。皆さんの健闘を期待します...!」

 

 

 

 

 

 

ついに始まってしまいました。

恐らくはチュートリアルに匹敵するかそれ以上の地獄になるであろうベローズ作戦。

 

作戦の流れはリリー中佐が総指揮、坂本少佐が住民の避難と護衛、フランカお姉ちゃんが巣から現れるであろうネウロイの群れの迎撃。

そしてこの私エイミーはとんでもない大役ですよ。

なんと島内部の空洞に単身突入し、最も巨大なコアの反応がある所へ向かい破壊することが任務です!!

 

...はぁ、マジやべぇっす...。

 

フランカお姉ちゃんではなく私が選ばれた理由は2つ。私では現れるであろう大量のネウロイに絶対勝てないから。それと空洞へのルートがかなり狭く、身体の小さな私が適しているからです!

 

「ふふふんふ〜ん♪」

 

目的地の途中まで一緒に飛んでるお姉ちゃんは全然緊張してない。

ああ今日もたなびくツインテールかわいいしキレイだし翠色の猫目もカッコいいしやっぱり素敵...今のうちにたくさんお姉ちゃニウムを摂取しておかないと(使命感)

 

「よーしっ、こっからは別々だけどだいじょうぶ?」

「うん、へいき。」

 

ああ、このゲームを始める前はお姉ちゃ...フランチェスカ・ルッキーニっていうキャラクターにここまで深く関わるとは思ってなかったですね。

まさか冗談じゃなく命を救われることになるとは思ってもいなかったですが。

しかしでも、まさかお姉ちゃ...彼女の妹ポジションとしての存在に収まるなんて、逆ならわかりますが今更だけどびっくりですね。

 

「....エイミー」

 

――――ちゅっ。

 

「は、わっ....///」

 

あ、またお姉t、ルッキーニ....ううん、お姉ちゃんにほっぺにキスされちゃいました...///

こうやってよく寝起きとか出撃の前とかにはぎゅ〜って強くハグしながらほっぺにキスしてくるのがお姉ちゃんです///

そのたびに私はもう気が狂いそうになるほど照れて...すごく嬉しくて、胸のあたりがぽわぽわするけど...♪

 

「...んー、はいっ」

「....??へ?」

 

あれ?お姉ちゃんがそのぷにぷにの丸いほっぺたを突き出してきまして?

 

「ん〜!!エイミーだけいっつもずるーいっ!!私だってキスされたいんだもんっっ!!」

「えっ...えええぇぇぇえぇっっっ!?」

 

う、うそぉぉ!?だめ、だめだってぇ!私からフランカお姉ちゃんのかわいいキレイなほっぺたに…き、き、きす、だなんてぇ///

 

「ほーらっ、はやくぅー」

「う、うぅぅ~……///」

 

――――ちゅっ...///

 

ふわぁぁぁっ///ふ、フランカおねえちゃんのほっぺ、やわらかくて、ふにふにで…はわわわ///

 

「んひひひ~♪エイミーに初めてキスされちゃったぁ~♪」

「う、うぅ…はずかしぃよぉ…」

「よぉーしっわたし、今ならとーーってもがんばれちゃうきがすりゅーーっっ!!うにゃぁぁーー!!」

 

――――だきっ。

 

ひゃっ!?お、お姉ちゃんがまた私のちっちゃな身体を包み込んでハグしてぇっ…♪

 

「この作戦が終わったらね、ちゅうさがママに会いに帰ってもいいよって言ってたの。」

「…おねえちゃんの、ママ?」

「うんっ!だから一緒にママに会いにいこーねっ!とーっても優しくてきれーで、おっぱいもおっきいんだぁー!!」

 

そこは重要なのでしょうか、いや、重要です(反語)

あーでも気持ちいい…お姉ちゃんにハグされ抱きしめられて幸せ…♪

 

「だからね、約束だよ。かならずお姉ちゃんの所にかえってきてね?」

「…うん、やくそく。」

 

そう言ってハグが解かれると、物欲しげな声が漏れるのを必死にこらえました。

はぁ…つまりどうやらここでフランカお姉ちゃんとはお別れみたいです。

しかし甘えたことを言ってる場合ではありません。だって本来私より子供なハズのルッキ…ううん、お姉ちゃんはキリッとした顔で、不安そうな顔一つ見せないんですから。

 

「じゃあ、いくね。」

「うんっ。」

 

そう言って背を向けて小さくなっていくお姉ちゃんの背中を、私はただ不安げに見つめてました。

ただその軌跡に、数滴の雫のようなモノがキラキラと輝いてたことに私は気づいていませんでした。

 

 

 

 

 

彼女、フランチェスカ・ルッキーニは泣きそうになる心を必死に自制していた。

本当なら泣きたい。不安で心がいっぱいで押しつぶされそうだった。

すぐに此処から逃げ出して、大好きなママの元に帰って思い切り甘えたい。

 

―――でも、そんな訳には絶対にいかない。私はお姉ちゃんなんだから。

 

「ぐすっ…ううん!!エイミーに見られちゃったら…がんばらなきゃ!!」

 

不安でいっぱいだ。この作戦の内容自体、ウィッチとなって以来参加する作戦では最も規模が大きい。

そのうえその重大さも桁が違う、負ければマルタは墜ち、そうすれば故郷であるロマーニャはかつてないネウロイの危機に晒されることになる。

そのうえあの夜空で出会って以来、ずっと一緒にいたエイミーと別れてしまい、彼女のことが頭から離れない。

 

『エイミー…プラマー軍曹が突入場所へ到着しました。ルッキーニ少尉、行けますか?』

「…うじゅっ!!うんっ、まっかせてぇー!!」

 

しかし彼女はエースだ。

一瞬のうちにその不安を振り払い、聞こえてきた命令にすぐに意識を集中させる。

ストライカーの魔導エンジンに意識を集中させ、その最大速力での直進の準備をする。

 

『爆弾が使えない以上、基地付近に巣食うネウロイを一掃するにはコレしかありません。』

 

事前に受けた説明通りの方法を実践するため、思い切り高度を上げてマルタの海上に飛び出る。

そしてくるりと反転し、全速力で向かうは地下にネウロイが潜む基地――――その手前の海面。

 

「うぅぅ…りゃぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁーーーーッッッ!!!!」

 

最大加速と同時に前方に持ちうる魔力の全てでシールドを展開する。

その大きさと分厚さたるや、ウィッチ数十人を覆いつくせるほどの巨大さで。

そんなモノを展開したまま、とてつもないスピードで海面に激突したとなれば、引き起こされる現象は一つだけだった。

 

 

――――――ズゴゴゴゴゴゴゴッッ!!ザバァァッ!!

 

 

その海岸に面したマルタのロマーニャ軍基地、そこを吞み込んでもなお余りある巨大な津波の壁が生まれたのだ。

それは岩肌や亀裂から島内部の空洞、ネウロイ達が巣食うそこに染み込み、どんどんと侵食していく。

丈夫なつくりの建物の基礎や滑走路をほとんど傷つけることなく、それらは基地に覆いかぶさった。

 

「うぇー…ぺっぺっ!!」

 

ネウロイは何よりも水を嫌う。川や湖でさえロクに通れない彼らにとって、その津波はまさに青天の霹靂に等しい。

まるで巣穴に煙をいぶされたモグラやハチのように、たまらないと言った様子で慌てて大き目の岩の隙間から顔を覗かせた途端――――。

 

――――パンッパンッ!!

 

「うひひ、おっそーい♪」

 

大量の海水をまさしく浴びるように被ったネウロイ達の動きは明らかに遅く、精細を欠いたモノだった。

そのうえ装甲まで脆く崩れ去り、あれほど人類が倒すのに苦労した大型や中型さえ2、3発で沈められる有様なのだ。

 

『ふっ…ルッキーニ少尉、存分にスコアを稼ぎなさい!カールスラントの牙城を崩し、あなたの名を撃墜数ランキングに連ねるのです!!』

「うじゅじゅーっっ!!まっかせてぇー!!」

 

部下となってから初めて聞く、普段は冷静なそのリリー中佐のはしゃぐような声に、ルッキーニは釣られてその幼い顔に笑みを浮かべ引き金を引くのだった。

 




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イムディーナ

地獄です。

 

これはマジモンのクソゲーです、このゲームと言うか洞窟ステージを作った人はマジで気が狂ってるとしか思いません。

某ACのロ○ヴァイセとか某FF14のアレキ零式をソロで挑戦した時を思い出すほどのクソゲーっぷりです、今何回目?これまだ150回目くらい?

 

とにもかくにも何も見えません、事前に空洞の地形図は見せてもらいましたが現在地すら分かりません。

零戦ストライカーが壊れるわ真正面から岩にぶつかって自分の頭蓋骨が弾ける音が聞こえるわ尖った岩に貫かれて失血するまで数分そのままだわでホンマ。

自分の大腸がお腹からぷらんぷらんしてるところなんか初めて見たよね。

まだネウロイの影も見えずに銃なんて自殺用にしか使ってないザマですしおすし。

 

どうにかなんねーかなと思ってゲーム内ブラウザから攻略情報を探して見たんですが何と!!このミッションのプレイ動画があったんですよ!!!

勝ったなガハハあばよクソステージ!二度とこねぇよぺっ、と思ったらですね。

このミッションプレイしてる人達のウィッチ、皆《探知魔法》とか《魔道針》とか持ってたよね...。

一部持ってないウィッチの動画も上がってたけど、ナイトウィッチであるハイデマリーさんとか502の視力強化魔法持ちの下原さんとペアで飛んでましたね...。

しかも『大丈夫、私がアナタの眼になります(手ギュッ』とか『一緒に帰ろうね、今夜はあなたの為に美味しいご飯作るから!(ニコッ』とか羨ましけしからんイベントまであるし!!

 

その上皆さんアレなんですよ。このステージ攻略してるのプレイ終盤あたりなんですよね...。

ストームウィッチーズだったりそれこそ501とか506とかに所属してる方ばっかりで、誰一人ウィッチ4人での作戦とかしてないんですよ、どぼじで?

 

 

で、死亡200回目くらいですね。やっと洞窟内ではぐれネウロイに遭遇しましたが。

完全に油断してた上に自殺用の拳銃しか持ってなかったので詰みです、お疲れ様でした。

 

はい死亡240回目ぇーっ!まさか銃持ったら邪魔すぎてさっきのネウロイの所に行けなくなったよね。やっぱ銃ってクソだわ。

 

DEATH300回目ぇ。私のK/Dレート酷いことになってそう。やっと銃持ってネウロイの所まで行けたけど、よく考えなくてもただでさえクソAIMなのに暗闇で当てれるワケ無かったわガハハw

 

33-4回目。開始地点にある武器から別のやつ選んでみましょう。ここはモン○ンで愛用してたヘビーボウガ...マシンガンで!!

 

335回目、二度と使わねぇなんだこのクソ武器、ぺっ!!

 

597回目、お姉ちゃニウムが不足してきた...お姉ちゃんに会いたい...。違う私は大人なんだから…うぅ、おねえちゃん....ぐすっ。

 

840回目、M1897とかいうショットガン楽しいれす^p^

とつげきー^^

 

841回目、わたしは しょうきに もどった ▼

 

1023回目。なんか実績解除した。『リビングデッド』?3000回以上死亡する?取得率1%未満?うるせぇ煽ってんのかフランカお姉ちゃんから貰ったズボン投げつけるぞ。

 

1421回目。新しくアップされたプレイ動画見てたら初期地点に置いてる武器の中にクナイがあることが気づいた。第2次マルタ防衛戦に参戦した扶桑のウィッチのものだそうな。

....え?これめちゃ強いの?

 

1422回目。クナイYOEEEEEEEタダのナイフのがマシじゃないですかー

 

1783回目。クナイTUEEEEEEE!!!!

魔力載せたらネウロイがバターですぞwwwwwんんwwこれは勝ったなwwwもう多分半分以上は空洞進んだしイケますぞwwwww

 

 

 

 

1903回目。だからと言って広い空洞にアリンコみたいにびっしりと詰められてたら勝てる訳ねーだろふざけてんのか。

 

2130回目。無理。どうやってもあの場所を突破できる気がしない。入った瞬間にハチの巣にされて終わる。

 

2200回目。多分もう一週間くらい経った。正直まったくクリアできる気がしない。もう正直疲れた。

この前の地獄の夜は何回目でクリアしたんだっけ。

 

 

2578回目。お姉ちゃんの事が頭から離れない。あの優しくて暖かい手。あれが今目の前に現れてくれたら、どれだけ私は嬉しいだろうか。

でも今はお姉ちゃんはここにはいない。今はだって別の所で頑張ってるんだから。

 

2918回目。ショットガンとクナイで空洞に埋まってる半分くらいは潰せるようになった。

ビームももうほとんどクナイで弾けるけどストライカーに当たるのを防げない。シールドが張れないのが恨めしい。

 

3142回目。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。

会いたいよ、会いたい。つらいよ、たすけて。おねえちゃん。

 

 

4617かいめ。つかれた。おねえちゃん、どこだろう。おねえちゃんのことしかもう、おもいだせない。

 

 

7214回目。一周30分くらいだとしたら120000分くらい。多分もう140日くらい。

 

 

13076回目。大きな空洞のネウロイを全滅させた。でもこれで終わりじゃなかったのを思い出した。

 

 

17601回目。見つけた。巨大な蛇、いやヒルみたいなネウロイの主。ソイツが巨大な空洞に鎮座してた。こんなの動画になかったぞ。

 

18973回目。ふざけるな。近づくだけでストライカーがネウロイに侵食されて機能不全になった。どうしろと言うんだ。

 

19369回目。強めに魔法力を展開し続ければいい。そうしたら今度はアイツはウィッチそのものの赤いシールドを張り出しやがった。ショットガンですらまるで効かない。

 

21604回目。クナイで切らないとシールドを割れない。でも近づくと魔法力を展開しててもストライカーが侵食される。そうでなくとも私は壁で蠢く無数のネウロイの的なのに。

 

29097回目。何千回目なんだ。未だアイツのコアすら見つけられてないんだぞ。ふざけてるのか。

 

37159回目。曲がるビームなんてビームじゃないだろ。いい加減にしろ。なんであのウィッチ達はこんな役目を私に押し付けたんだ。殺してやる。あの二人とも殺してやる。リリーも坂本も二人ともぐちゃぐちゃにして絶対に殺してやる。後悔させてやる。

 

42170回目。たかがシールドとかビームが曲がるくらいで何を混乱してたんだろうか。死ね雑魚。まだコアも見えないんだぞ。私は何か間違っているのか?ううん、違うよね。

 

59260回目。壁のゴミネウロイ共を全部片づけてヒル型ネウロイの身体をほとんど切り裂いてやった。そしたら急に背中が爆発して死んだ。

 

64240回目。フランカお姉ちゃんのことを思い出して一人で慰めてた。間違えてお姉ちゃんが私のズボンと自分のを取り換えてくれてよかった。

 

77151回目。意味が分からない。何度やっても、何回やっても良いとこまで行くたびに何かが爆発して死ぬ。ネウロイのビームじゃない。

 

79810回目。フランカお姉ちゃんの声、聴きたい。

 

82601回目。分かった。火薬だ。アイツは私の手榴弾や銃の火薬を爆発させるんだ。ふざけるなそんなコトできるんだったら勝てるワケないだろ。こんな撃ちあいしなくていいだろ。あぁ、どうしろって言うんだ。

 

 

88914回目。ショットガンはアイツと会う前に撃ち尽くすことにした。2本のクナイだけでアイツを殺さないといけない。ああだけどなんだかアイツがかわいく見えてきた。もう殺さなくてもいいんじゃないだろうか。

 

 

94315回目。行けた。コアが見えた。コアが見えた。コアが見えた。コアが見えた。アイツのコアは身体の中をバカみたいな速度でウネウネ動いていた。しかも適当に動いてるんじゃない、ちゃんと私から逃げようとしているんだ。

 

 

 

98118回目。もう少し、もう少しなんだ。もう少し私に魔法力があれば、もう少し私に体力があれば。いけるはずなんだ。お願いだから。頼むから。殺させてくれ。頼むから。死んでくれ。

 

 

 

 

今、99999回目。いける。もう少しなんだ。何も見えないし、耳も聞こえない。アラートだけだし。クナイも折れた一本しかない。でもいけるはず。相手ももう無事な所なんてない。傷しかないんだから。

近づいて、偽シールドを割って、コアに、コアに、右手のクナイを、思い切り突き立てて。

刺さった刺さった刺さった刺さった刺さった刺さった刺さった!!!!死ね死ね死ね死ね死ね!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!頼むから死んで―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

100000回目。

私はあきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

100001回目。

 

フランカお姉ちゃんに会いに行った。

 

凄く驚いていた。どうしたのって。何でいるのって。

 

私はいつぶりかに会うお姉ちゃんの声に、姿に泣きじゃくって、思い切り抱き着いた。

フランカお姉ちゃんは何も言わずに、私を抱きしめてくれた。

それが嬉しくてうれしくて、辛くて。ずっと大声を上げて泣き続けていた。

 

 

次に気付いた時、私とお姉ちゃんはどこかの町の中に降り立っていた。

何かを叫んでいる通信機を私の耳から外して、ずっと私の頭を優しく撫でてくれていた。

私の涙を拭いて、鼻水をぬぐって、何度も嗚咽を漏らして震える背中をさすってくれて。

何も言わずに、何も聞かずに、いきなり全てを投げ出して現れた私を慰めてくれて。

 

私の手を優しく引いて、マルタの島の無人の町の中を二人ゆっくりと歩き出した。

空に飛ぶ無数のネウロイ達と、あちこちから立ち上る煙を眺めながら、ふたりで。

 

 

 

 

―――あたしね、マルタって一度きてみたいと思ってたんだぁ。

 

凄く綺麗な、まるでおとぎ話のような白い石造りの街並み。

イムディーナという名前の町だって、お姉ちゃんは私の手を引きながら教えてくれた。

高台にあるカフェのケーキがすごく美味しいコトや、テラス席からの景色が絶景なこととかも。

その高台を見ると、上半分がちょうどネウロイのビームで焼かれるのが見えた。

 

 

 

―――ウサギの料理がおいしいんだって、ちょっとかわいそーだけど、たべてみたいよねぇ。

 

誰もいない町の、誰もいないカフェの席。

そこでお姉ちゃんが勝手にお店のキッチンを使って、コーヒーを入れてくれた。

砂糖をどうするか聞かれたから、お姉ちゃんと一緒がいいって答えると、たくさんのお砂糖とミルクをいれてくれた。

とってもあたたかくて、とてもおいしかった。

一緒にキッチンから持ってきてくれたハニーリングという変わったパンは、マルタの伝統のオヤツらしい。

でもとってもおかしな味がしたから、二人で大声で笑いあった。

お会計の硬貨をテーブルに置いて一緒に手を繋いでお店を出た。

しばらくして、さっきのコーヒーの味を思い出して振り返ってみると、お店は消えていた。

 

 

 

―――ここね、すっごく有名な大聖堂?なんだってぇ、よくわかんにゃいよねぇ。

 

どれだけ、おねえちゃんと一緒に歩いただろうか。

10分くらいだったか、それとも何時間も歩いてた気もする。

でもその間の時間は間違いなくとっても幸せで、久しぶりだった。

 

その大聖堂に足を踏み入れると、その美しい光景に圧巻された。

様々な物語が描かれた色とりどりのフレスコ画、繊細で美しい色づかいに心を奪われそうになる。

まるで中央の祭壇を照らすように天井を彩るクーポラ。

そこから差し込んでくる一筋の光はまるで、空の向こうにある神の国に繋がっているかに見えた。

 

手を引かれるまま、私とフランカおねえちゃんは一緒に椅子に腰かけた。

こうしたのは何時以来だっただろうか。なんで私は、どうして。いつから、つかれて、ああ。

 

 

―――あたしねぇ、よくわかんなかったんだぁ。才能があるから、って言われて。ウィッチになって。

 

 

目の前が見えない。隣におねえちゃんが居るのが嬉しくて。おねえちゃんの声が聞こえるのが嬉しくて。

胸の奥から熱い物が溢れてきて止まらない。

 

 

―――つまんなくてさーぁ?ママとも会えないし、ネウロイだって…こわかったし。友達なんていなかったし。

 

―――でもね、はじめてだったの。"飛びたい"ってあのときね、初めて思ったの。

 

 

私の両手を取って、私の眼を覗き込む。

 

 

―――やっとわかったんだぁ。あたしが飛ぶ理由。

 

 

おねえちゃんが、飛ぶ理由?

 

 

―――あたしね、守りたいの。ロマーニャを、みんなを。あなたを。

 

―――だからっ、あたしが守るから、もうエイミーはくりかえさなくていいんだよ?

 

私はその言葉に、声すらも出せなかった。

なんで…?どうして、それを。しってるの?

 

―――ヘンなユメを見たの。エイミーが、なんどもなんどもしんじゃう悲しいユメ。

 

―――でもね、もういいのっ。おねーちゃんがまもってあげるからっ。

 

 

次の瞬間、私たちがいた大聖堂の天井は大きな音を立てて崩れ去った。

私は何もできず、ただお姉ちゃんに庇われていただけで。

 

…だから数秒した後にお姉ちゃんが背を向けて、真っ暗な空を見上げているのにも、何もできなくて。

 

―――にげよう

 

そう投げかけた私の言葉に、おねえちゃんは優しく微笑んで。

 

 

「行かなきゃ、あたしウィッチだから、だからロマーニャを守らなきゃ。」

 

 

そういって、お姉ちゃんは黒い空に飛び立って。そして―――――――――。

 

 

 

 

 

100002回目。

 

―――空を見上げる。真っ黒の空だった。

愛用のクナイとM1897を背負って、相棒の零にそっと手を這わせた。

 

 

―――――行かなきゃ。私ウィッチだから。だから。

 

 

 

おねえちゃんを、守らなきゃ。




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姉妹

「....もう良いです、早く、こんなゴミは投げ捨ててください」

「はっはっは!!!何を言うかお前一人くらい軽いモノだ!ちゃんと飯は食ってるのか?」

「いいから…!もう、足手まといになってまで生き恥を晒すなど…!!」

「何を言う。こうして私に銃を持ってきてくれただろう、足手まといなどではない!!」

 

腹部からあふれ出す血が私をおぶる坂本の扶桑の白い士官服を汚していく。

あぁくそ、久しぶりの戦場の空だと思ったらこれだ。

こんな無様な姿を晒し、他人の足を引っ張ることしかできないのだ。

 

「アナタだけでも逃げなさい、坂本。この後マルタを奪回するには、あなたの力が…げほっ」

「喋るな!それにまだ奪われてはいないぞ、もうすぐプラマー軍曹が本懐を成し遂げてくれる筈だ!」

 

 

あの子は、エイミーはどうなっただろうか。

万に一つの可能性を賭けた彼女からの通信は数時間前から途絶している。

やはり未来予知の魔女であろうと無謀が過ぎたか、数も種類も分からぬ敵の巣窟に送り込むなど。

しかし仕方がなかったのだ。マルタが堕ちればアフリカ、そして欧州は間違いなく陥落する。そうなれば次の戦場は我が祖国リベリオンだ。

恐らく糞ブリテン野郎どもは魔導兵器のウォーロックさえあれば何処が堕ちようとも知った事ではないと考えているのだろうか。

まったく、それが欠陥兵器だと知らされているこっちの身にもなってほしい。

 

「ルッキーニ少尉もまだ彼女を信じて戦っている!!諦めるn――――なっ!!?」

 

 

私を背負う坂本が急に体勢を崩す。見るとストライカーが…なんだこれは!?先端から黒く染まっていき、魔法翼の回転とエンジンが止まっている!?

しかもそれだけではない、その遥か下には――――。

 

「なんだ、あのネウロイは…!!?」

 

マルタ島の大地を割き、そこから現れたヒル型――――いや、それはもはや"大蛇"と表現しても憚られない程の巨大さの規格外のネウロイ。

それが頭をもたげ、こちらにおぞましく蠢く赤い口を向けていたのだ。

 

「ぐっ…なっ。私の、ストライカーもっ…!?」

 

見れば自身のストライカーさえ黒く染まり、その翼をもがれていた。

咄嗟に坂本の身体を支えようとするもそれすらも出来ず、ただ高度を失い墜ちていく二人。

 

 

「―――シールドを展開して不時着する!!私にしがみつけッッ!!」

「ダメです!下で待ち受けられています!!」

 

 

あぁクソ、なんてことだ、忌々しい巨大なネウロイがビームを撃とうとしてるのがはっきり見えてしまった。

ドッリオに、リカに謝っておくべきだった。あの面白いウィッチの行く末を見届けたかったのに。

リカは悲しんでくれるだろうか、それとも薄汚いウィッチが消えて喜ぶだろうか。

 

「…ごめんね、リカ。約束、守れなかったよ。」

 

友達の頼みなど聞いてしまったのが間違いだったのだろうか。

ああでも、こんな死に方なら悪くない。恨みを買った誰かに背後から撃たれるよりは。

 

「諦めるな!!この程度の窮地などウィッチなら乗り越えて見せろ!!」

 

いいや、無理だ。もう助かる訳がない。

もとよりこんなの最初から不可能だったのだ。

 

 

「ウィッチにッ、不可能はないッッッ!!!」

 

 

そして、そのネウロイの紅い亀裂から破壊の閃光が放たれて―――。

 

 

―――――パリンッッ。

 

 

紅い閃光が何処から投げられた短刀に切り裂かれ、そのまま赤いコアを刺し穿った。

 

 

「――――リリー、さま。ごぶじですか。」

 

 

とっくに死んだと諦めていた幼い舌足らずな声が耳朶に響いた。

 

 

 

 

「…では、洞窟で確認された反応のネウロイは。」

「はい、たおしました。」

「そうか…!!よくやった!!だがこの空の模様。これはまるで―――。ッッ!?」

 

「巣」という単語を続ける前に、地上へ降下していた彼女達の上空を大型のネウロイが通過する。

 

「だいじょうぶ。もうしんでます。」

「――――あ。」

 

次の瞬間、その言葉の通りにその巨体はサラサラと白い粒子になり解けていく。

そしてその光の吹雪の中をかき分け現れたのは。

 

「……おねえちゃん。」

「!!!ルッキーニ少尉、無事だったか!!」

 

「…………。」

 

まったくの無表情を張り付けたまま、彼女は静かに()の元へと駆け寄る。

そしてその傷だらけの顔をじっと見つめ――――

 

「よく、がんばったね。」

「…うん。」

 

その同じく傷だらけの頬に一筋の涙を流し、その幼い姉妹は熱く、堅く抱き合った。

短く、簡潔な言葉だけでも、その二人の間には他に何も要らなかった。

 

 

「…二人とも、まだ飛べるな?早急にマルタから退避しろ。恐らくここに新たな「巣」が生まれる。」

 

その言葉に抱き合っていた二人は視線を坂本少佐に向ける。

 

「もはやこれは我々の当初の想定を遥かに超えている。プラマー軍曹が破壊した巨大なコア反応の代わりになるかのように、残存ネウロイが一か所に集結―――1つの超大型ネウロイ、「巣」になろうとしている。」

 

見上げた紅い魔眼に釣られ同じく空を見上げる。

空を覆うのは渦巻く黒い雲、紅い閃光と雷。

 

 

「…げほっ、アナタ達はこれを何としてもリカに…ロマーニャに伝えなさい。そして生き延びなさい。」

 

 

そう告げて血反吐を吐くリリーの横に、エミリーは姉の手を引いて膝をついた。

 

「リリーさま、すこしいたいですが、ガマンしてください。」

「…なに、を?……がぁぁっ!!?ぎゃ、ァァ…ッッ!!!?」

 

――――ジュ、ァァァァアア…

 

リリーの血まみれの腹部の怪我に添えられた小さな手が、淡く輝き激しく熱せられる。

そしてその魔法―――()()()()()《光熱》により焼かれた患部は塞がれ、溢れさせていた血を止めた。

 

「ッッがぁぁっ…それ、は少尉のっ…熱ぃぃッッ!!!」

「りりーさま、しずかに。」

「は、はは…本当に、面白い子たち…ギィィぁぁぁ……!!」

 

 

傷が一通り塞がったコトを確認すると幼い姉妹は立ち上がり空を見上げた。

その視線の先にあるのは、黒く赤く轟く、マルタを覆う破壊の怪異。

 

「…行く、のか。ならコイツを持っていけ。」

 

坂本からルッキーニへと手渡されたのは、自身の魂とも言える扶桑刀。

数秒の間、まじまじと鞘から抜いた刃を見つめていた彼女はふと小さな笑みを浮かべた。

 

「エイミーのとちょっとだけ、おそろいかなぁ?」

 

自身の妹が義手で逆手に握るクナイを覗き込み、そんな風にクスリとほほ笑んで見せた。

 

「エイミー。」

「…なぁに?」

 

そしてフランチェスカ・ルッキーニは、最愛の妹の頬に手を添えて。

 

 

 

()()()()、いこうね。イムディーナに。」

「……うんっ。」

 

 

 

二人の約束を翼に乗せ、二人のウィッチは大きく羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

その光景は、今まで見てきた戦場での戦いの中でも最も熾烈で激しかった。

ベルリンの撤退戦で見た名だたるエースの戦いよりも。

バルバロッサで見た勇猛なエース達の戦いよりも。

そしてマルタで見た、誇り高く洗練されたロマーニャの魔女達の戦いよりも。

 

「見ている事しか出来んとはな。」

「…あがりを迎えると、いつもこんな気持ちになってしまうのでしょうか。」

「かもな。」

 

渦巻いた雲の中央から現れた巨大な"龍"の姿をしたネウロイと幼いウィッチ二人の戦闘。

正直言うと意味が分からなかった、ビームが曲がり、ネウロイがシールドを展開などし始めたのだから。

しかしそれに相対するウィッチ二人もさらに異常だった。

降り注ぐビームの嵐を刃だけで弾き、シールドもどきを《光熱》を纏わせた扶桑刀で切り裂き、規格外のネウロイ相手に一歩も退かない。

挙句もはやそのマニューバは尋常ではない、曲芸飛行の域に達しているソレはネウロイも力任せの乱射でしか対応できていない。

 

「ほぅ!燃ゆる刃とはなんとも心をくすぐってくれるな、ルッキーニ少尉!!」

「……」

 

薄暗い空が、昼間に見える程の強烈で猛烈な赤い閃光の嵐。

その中を二人の流星が何度も搔い潜り、禍々しい龍の黒い肌に裂傷を刻み付けていく。

ネウロイの不気味な紅とは違う、温かく美しい《光熱》による炎の煌めきが二人のウィッチの軌跡を彩る。

 

 

 

「…私は、どうして、こんな所に…来てしまったのでしょうね。」

「ん?」

 

幼い二人のウィッチが、自らの謀略の手駒でしかない彼女達が、何故か酷く羨ましく輝いて見えた。

 

「…羨ましい。もし私が変わらなければ、私は今でもあの子の…リカの隣に居れたのに…。」

 

ウィッチとなって欧州に来て以来、姉同然に慕っていたロマーニャのウィッチを。

いつも一緒に出撃して、いつも一緒に居て、何をするにも二人だった彼女を。

いつからだっただろうか、見下し、都合の良い存在だと認識し始めたのは。

しょせん薄汚い欧州の連中と同じだと、蔑み始めたのは。

 

「…中佐。」

 

そんな遠い日の自分とリカの幻視を彼女達に重ね、目から堪え切れない激情が溢れ―――。

 

 

 

「……ッッ!!?待て、何だアレは!!?海の方から…馬鹿なッッッッ!!!」

 

その坂本の怒号に、意識を引き戻された。

 

「ば、バカなっ…どうなってるんだッ…!!」

「…坂本?」

「ッッ!!プラマー軍曹!ルッキーニ少尉!!くっ、繋がらないか!!」

 

一瞬前までの落ち着きが嘘のように消え去った彼女の向いている方向に目をやると――――。

 

「…は…?」

 

そこには―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それも大型と中型が入り混じった、ウィッチ一個部隊でも到底対処できないような巨大な群れ。

 

「はっはっは…流石に万策尽きたな。」

「…方角的に、アフリカからはるばるやってきたのでしょうね。マルタまで。」

 

 

 

『―――――と、少佐。聞こえますか!!リリー中佐、聞こえますか!!』

 

もはやただ呆然とソレを見つめていた彼女の耳朶を、不意に兵士の声が打った。

 

『増援です!!増援ですっ!増援が来ました!!』

「…ええ、こちらでも確認できました。かなりの規模の群れですね。あなたも早く逃げなさい。」

 

ゆっくりとした、余裕たっぷりといった速度でじわじわと接近してくるネウロイ達。

今ならまだ、船か飛行機に乗れれば逃げられる可能性は僅かにはあるかもしれない。

 

『違います!!そうではありません、増援とは―――――!!』

 

次の瞬間、遠い空に浮かぶネウロイの群れの大半が弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

『マルタのウィッチ!聞こえるか!!随分とハデな大物を釣り上げてるじゃないか!こちらストームウィッチーズのマルセイユだ!!そのデカブツは私に残して置いてもいいぞ!!』

『まさかネウロイを追ってココまで飛んでくるハメになるとはね…第31統合戦闘飛行隊の加藤大尉よ。これより私達も同作戦に参戦します。』

 

「マルセイユ…ストームウィッチーズ!?アフリカの部隊ですか!?」

 

唐突に通信機から鳴り響いたその名前に驚愕するのもつかの間。

すぐに今度は別の部隊からの通信が彼女達の耳に届いてきたのだ。

 

 

『ちょっとリリー!!無事なの!?返事して!!ってあれ?私達以外の増援なんて聞いてないわよ?』

『待って下さいドッリオ隊長!!…もう、あら?あれは何処の部隊…?こちら本日ロマーニャにて結成された第504統合戦闘航空団、アルダーウィッチーズ戦闘隊長、竹井大尉です。…え、嘘っ、美緒!?』

 

「なっ…醇子!?どうしてロマーニャにいるんだ!?」

「リカっ!!ええ、無事ですが…どうして…!!」

 

しかもその相手がリリー、そして坂本のお互いの旧友で合ったから驚きもひとしおだ。

「リバウの三羽烏」のうち一人、「リバウの貴婦人」こと竹井醇子の声に坂本の顔はみるみる明るさを取り戻した。

 

『よう中佐、しばらくぶり。戦場に出てるなんてどうしたんだい?明日は雨が降るな。』

『もー大将!!ホントですけど失礼ですってー!!』

「くっ…ふふ、相変わらず礼儀を知りませんね、二人とも…。」

 

更にかつての部下の声までも聞こえてきたとなっては、さしもの冷酷な彼女でも涙ぐむのを押えられなかった。

 

『504…?噂では聞いていましたが、ついに実現したのですね。将官達の夢物語だとばかり・・・』

『はぁ!?誰か知らないけど聞こえてるわよーっ!!』

『ははは!そう言ってやるなライーサ』

『ちょっとフェル隊長!?相手はアフリカの星有する部隊ですよ!?そんな言葉遣い…』

『えぇ?こっちだってロマーニャの精鋭赤ズボン隊有する504だしぃ?』

『あーもーはいはい!話は後!今はマルタ島のネウロイを協力して排除するのが先!いいわね!?』

『は、はいっ!戦闘隊長っ!』

 

一気に賑やかになった無線に、死を覚悟していたリリーは何処か胸が温かくなるのを感じた。

 

「…ふふ、面白い部隊ですね、リカ。」

『でしょお?あなたに自慢できる面子を集めたらこうなっちゃったのよ、面白いでしょ?』

「ええ、本当に……本当に……」

 

 

 

 

「エイミー!コア見えるーっ!?」

「うんっ!!くびもとのアレだよね!?」

 

そして数多のウィッチが飛び交い始めた戦場の中心では、ついに巣の核と言える龍型ネウロイと二人のウィッチ達の決着が付こうとしていた。

もはやネウロイもウィッチもそのどちらもが満身創痍であり、いつ力尽きてもおかしくない状態だった。

 

「手ッッ!!ぜったいにッッ、はなさないでーっっ!!」

「うんっ!!ぜったい、はなさないっっ!!」

 

二人の小さな手が固く強く結ばれ、お互いの姉妹の黒豹の使い魔が共鳴し合う。

一匹は未来の景色を誘い、もう一匹は光と熱を誘った。

二人の眼に移るのはそのコアまでのルートが、そして二人の握る刃には眩く輝く熱が宿る。

 

―――ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

最後のあがきと言わんばかりに、狂気的な閃光の嵐が彼女たちに見舞われるが無駄だった。

その全ては妹の、エイミーの手のクナイにより弾かれ明後日の方向へ飛んでいき。

辛うじてカスる軌道のビームも全てルッキーニのシールドにより完全に塞がれた。

 

「――――うりゃああああああぁぁぁぁっ!!!」

「――――りゃあああぁぁぁぁあああっっっ!!!」

 

そしてついに、ついに。

数十時間にもわたった長きに渡る戦いの果て、彼女達の刃はその根源に突き立てられた。

紅く燃ゆる二つの刃、扶桑刀とクナイがそのネウロイのコアを切り裂き―――そして。

 

 

 

 

 

――――淀んだマルタの空は、どこまでも澄んだ青い色に塗り替えられた。




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姉妹と姉妹

「あはははははは!!!どうしたぁ!?ロマーニャの精鋭赤ズボン隊(パンタローニ・ロッシ)はそんなもんかぁ!?私はまだ飲みたりんぞぉ!!」

「ティナ…ああもう酒癖の悪さも世界1…」

 

「はぁー!?負けてないわよッ!ほらルチアナ!さっさと次のビンを持ってきなさいッッ!!」

「いいぞーっフェル隊長ーっ!!負けるな負けるなー!!!ロマーニャの星ーっ!!」

「ちょっと、明日には本国に帰るんですよ!?大丈夫なんですかもー!!」

 

 

マルタが解放された正にその日。

防衛部隊と各地から増援に訪れたウィッチ達はその晩、会食―――と言う名の祝勝会に戯れていた。

 

 

「た、大将、私の服にワインかかっちゃったんですけど…」

「おっとすまない。すぐ拭くから動くなよ…んっ」

「きゃー!!?ばかばかばかこんな人目のあるとこでどこ舐めてるんですか~!!///」

 

――――パシャパシャ

 

「あ~いいわね~♪噂には聞いていたけどアツアツのカップルね、素敵だわ~♡あ、真美、予備のフィルムを…」

 

「ぎゃー!!撮られてます!!私達撮られてますってぇぇぇ!!」

「何を恥ずかしがる必要がある、燃えてきただろ?もっと私達を見せつけてやろう。ジェーン」

「た、たいしょぉ……////」

 

「…はいどうぞ、隊長。しかし、鳥のウィッチの人って皆さんこんな変な方ばかりなのでしょうか…」

 

 

 

それを傍で聞いていたコウモリを使い魔に持つウィッチはなんて風評被害だとため息を吐く。

 

「撃墜数10超えたんだってぇ?エース祝いの乾杯といきましょ♪――――ほら」

「はっ。本当、今更ですわね―――ありがとう、乾杯。」

 

ぐい、と透明なグラスに注がれた酒を一気に流し込む。

テキーラ・オールドファッションにビール少々と唐辛子を入れたお気に入りのカクテル。

昔は良く目の前の彼女、フェデリカ・N・ドッリオと一緒にこうして飲みまくったモノだ。

 

「ふぅ…強くなったわねぇ~。昔はすぐに潰れて『リカおねえちゃぁぁん…///』なんてベロンベロンになってたのに♪」

「や、やめてください…///この程度で潰れてては酒の席で取引や商談など出来ないですから」

 

あぁ、やはりこの意地の悪い子供みたいな笑みを見ると、どこか安心してしまう。

 

 

 

「…じゃあブリタニア空軍が裏で手を…?」

「ああ、恐らくは目障りな私への嫌がらせが目的だろうがな。―――ん、中佐が呼んでる。」

 

そこに扶桑海軍の白い士官服が二つ並んで談笑しているのを見つけ、手招きする。

 

「やぁ中佐、すまないな忙しいだろうにこんな席を設けてくれて…礼を言う。」

「グラマン中佐、初めまして、先日より第504統合戦闘航空団に配属されました竹井醇子大尉です。ドッリオ隊長からお話は伺っております。」

 

こんな酒の席だと言うのに礼儀を怠らないあたりはさすが扶桑の軍人、いや『リバウの貴婦人』といったところか。

 

「構いませんよそんな固い挨拶など。それにどうせ明日には皆さん帰られるのですから、そのままお別れなど寂しいでしょう。」

「…で、ホントのとこはぁ?」

「コレです、皆さんが帰る前にどうしても渡しておきたかったので。」

 

胸元から取り出したのは複数のマイクロフィルム、映写機で移せばその詳細が読み取れるはずだ。

 

「…これは?」

「ここマルタで出現した異常なタイプのネウロイ達のデータ、そしてそれとの戦闘記録です。もちろん上級部隊に報告しますがアナタ達の所まで降りるのは半年後くらいになりそうなので。」

 

「えぇ!?い、良いのですか、そんなモノを…。」

「…待ちなさい竹井。リリー、コレいくら?」

「……はぁ、タダで良いですよ、助けに来てくれたお礼ですから。」

「ホントッ!?ほら竹井早くしまいなさい!はいおそいー!もー返してくれって言っても遅いからね!!」

「わ、私を何だと思ってるのですか…。」

 

その旧友の余りにも余りな態度に少し手が出そうになったのをぐっと堪えた。

 

 

 

「わははは!久しぶりだな赤ズボンのボスと性悪女(ヘルキャット)!!えらくしんみり飲んでるじゃないか!!」

「うわ世界1がきたわよリリー。」

「フェル達には荷が重かったですね…任せましたリカおねえちゃん。」

「はははははは!!!そうだ私は世界1だー!!そう言えばあのチビっ子達はどうしたんだ、あんなウルトラエース達をドコに隠してたんだ!?ハルトマンを思い出したぞ、チビでぺったんこだしな!!ははははははは!!!」

 

折角仕事の話が終わりさぁもう一杯と思った所に割り込んできたのは世界1のエースウィッチ、マルセイユ。

飲んだくれで有名だし、一緒の戦場で戦ったこともあるのでその酒癖の悪さは既に知っていたが…面倒くさい。

 

「あの子達は疲れ果てて休んでますよ、間違いなく今回のMVPは彼女達でしょうしね」

「ルッキーニちゃんが48体、エイミーちゃんが13体だっけ?…凄いわよねぇ、一回の出撃の撃墜数なら世界最多かも。あ~勿体無いことしちゃったかもなぁ~」

 

「なぁにぃ?聞き捨てならんなぁっ!!世界1は私だ!!私がナンバーワンだ!!!」

「はいはいなんばーわんですねーすごいですねー」

「…ケイ呼んできてよ。この世界1を引き取ってもらいましょ。」

「あはははははははは!!ナンバーワン!!ナンバーワン!!」

 

 

 

しばらくしてクッソ面倒くさい世界1位がライーサ少尉に引きずられていくのを見送り、ようやく落ち着いて話せる雰囲気になった。

 

「…すごい借りができちゃったわね。リリー。」

「ん。別に構いませんよ、あなたとの約束の為ではありませんし。それにこうして来てくれたでしょう。」

 

「ふふっ、すっごい大変だったのよ~?必死に人員を搔き集めてさぁ、無理やり部隊の体を作ってね。」

「他には?ペデスタルで一緒だったアンジーやパティには声をかけてないのですか?」

「もちろん呼んだわよ。まぁ今回のには間に合わなかったけどね。」

 

 

カラン、とグラスの氷が静かに鳴る。

 

 

「私の忠告、守ってくれたのね。」

 

 

「…守ってませんよ、彼女達の実力が予想以上だっただけで、作戦自体は死にに行けと命じたようなモノです。」

「そうかしら。でもあなたを支えて連れて帰るあの子達の顔、とっても笑顔だったわよぉ?」

「………。」

 

少しだけ、胸の奥で何かがズキリと痛む。

 

 

「本当は黙っておくつもりだったんだけど、忠告と…マルタを守ってくれたお礼に教えてあげる、耳を貸して。」

 

 

リカが私の耳にそっと唇を近づけ――――。

 

 

「………宮菱の人間が、ロマーニャであの子を探してるわ。」

 

「――――――っ。そう、ですか。」

 

 

もしかして、と思っていたがやはりそうか。

気化爆弾がブリタニアに知られたコトと言い、やはり私の仕事は何処か詰めが甘い。

 

「ならあの子達をロマーニャに置いておく訳にはいきませんね…私もしばらく離れなければ。」

「でもアテはあるの?私の所で預かってもいいけど、出撃なんて目立つことはさせられないわよ。」

「うーん…」

 

 

顎に手を当て欧州の知り合いを適当に考えてみるが…。

 

 

「それなら!!私達ストームウィッチーズに預けてみないかしら?」

「…いつから聞いていらっしゃったのですか?」

 

と、そんな思考の海に沈んでいたところをJG31の隊長、加東圭子の顔がズィッと割り込んでくる。

 

「あのルッキーニちゃん?達だっけ、その子達を預けるところを探してるんでしょ?私達アフリカはいつでも人員不足だからね、とっても助かるわ~♪」

「ふむ、アフリカですか…。」

 

「そう!しかも昼間の戦いのあの子達の動き、あのマルセイユが手を止めて見惚れていたのよ!?あのマルセイユが!!あんな顔初めて見たわ!それもライーサが悔しそうな顔するくらいにね♪」

「でしょうね、私の自慢の部下ですもの。」

「悪いようにはしないわよ。二人とも世界一のウルトラエースの元でしっかり教育してあげる!あの子達は将来カールスラント4強にも匹敵するほどのウィッチになるに違いないわ!きっと二人のためにもなるし!」

「………。」

 

なるほど、それは正直魅力的で惹かれるモノがある。

本来そもそもあのエイミーに関しては操れるエースを作る目的で催眠した所もあったのだし、そういう意味では一番理に適っているかもしれない。

 

 

「まーちーなーさーいー!!あの子達はねぇ!私達がいーちばん最初に目をかけてたのよ!!問題児扱いされてたのを見出したのも私だし!他所から口出しされる覚えはないわぁ!!」

「そーだそーだぁ!!ルッキーニちゃんとエイミーちゃんはボク達のものだぁー!!」

「あぁ…もう…完全に二人ともできちゃってるぅ…」

 

「こーらフェールぅ。アンタ達ちょっと酔いすぎよ~」

 

で、そこに赤ズボン隊のフェルナンディア中尉達まで割り込んできたものだからもう。

…まぁ何を言われようが、私の中ではすでに答えは決まっているのだが。

 

 

 

「はっはっは、随分と賑やかだなリリー中佐。」

 

そこに現れた扶桑のウィッチ、坂本少佐。どうやら酒は飲んでいないようだが丁度いい。

 

「…坂本。ちょうどよかった、頼みがあります。」

「んん?どうした、今更私に出来る事なんてもうあるまい。」

「いいえ、アナタにしか頼めないコトです。」

 

息を軽く吸い、その凛とした透き通った目をまっすぐに見据える。

 

 

「――――エイミー軍曹とルッキーニ少尉、彼女たちを501で面倒を見てやってくれませんか。」

 

 

「えっ」「はっ!?」

 

アフリカの隊長とフェル中尉が一斉にこっちを向いたが知ったことではない。

 

「…ふむ、どうしてまた。あのマルセイユがいるアフリカ部隊を蹴ってまで選ぶ理由があるのか?」

「信頼できる相手が――――アナタがいる。それでは足りませんか。」

「お前と出会って数日の私が、それだけの信頼に足ると?」

 

「寂しいことを言いますね、私たちはもう裸の付き合いをした仲ではなかったのですか?」

「ふっ、はっはっはっはっはっは!!!これは一本取られたな!!はっはっはっは!!!」

「ふふっ……はははははははは!!はー…。」

 

 

いつぶりかに声をあげて笑う。中々に気持ちのいいモノだった。

 

 

「…いいだろう承った。未来のウルトラエース達の教育、任せてもらおう!」

「ありがとう、坂本。このお礼はいつか必ず。」

「はっはっは!!礼を言うならコチラの方だ!あんな優秀なエースを二人も迎えさせてくれるのだからな!!」

 

相変わらず気持ちのいいウィッチだ。

この彼女の元ならきっと彼女達もまっすぐ育っていってくれるだろう。

まかり間違っても私とリカのようなことにはならないはずだ。

 

 

「はぁぁっ!!?おい、聞いていたぞ!!あのチビっ子二人は私の所で飛ばせる!!ハルトマンそっくりに育てあげてやるんだ!!!」

「はっはっは!残念だったなマルセイユ大尉!だが安心しろ、彼女達はハルトマン本人がいる部隊でしっかりエースに育て上げてやる!!」

「クソッ!!ふざけるな!!リバウのサムライッ、酒を持て!こうなればあの二人を賭けて飲み比べだ!!」

「ほう?いいのか?私は()()()()()()()()()()()ほどの強さだぞ?」

「あっ美緒ちゃんダメだよ!!?アナタは絶対お酒飲んじゃだめぇっ!!取返しがつかなくなるからぁぁぁ!!」

 

そこに現れたマルセイユと坂本少佐の飲み比べが始まろうとしていた所に更に竹井大尉まで割り込んできて、結局そのまましっちゃかめっちゃかになってしまって――――――。

 

 

 

 

 

 

「……すぅ、ぅにゃ。エイミー…」

「おねえ、ちゃん……むにゃ…」

 

「………」

 

宴会の場を抜け出し、彼女が訪れたのは静まり返ったミーティングルーム。

人もいない隊舎では、あらゆる部屋が彼女達の遊び場兼寝床として使われていた。

 

 

「……お疲れ様、二人とも。」

 

その二人が寝息を立てるソファーの前に跪づき、二つの幼い頬を撫でる。

 

 

「…ふふっ、仲がいいわねぇ♪」

「ええ、二人まとめて手に入れたのは正解でした。」

 

背後からかけられるリカの声。

その声にはどこか穏やかで昔を懐かしむような声音が混じっていた。

 

 

「思い出すわね、これくらい小っちゃいアナタが私の小隊に入ってきた時の事。」

「ええ、あの頃はまさか貴方の階級を追い抜かすなど思っていませんでしたが。」

 

二人の幼い魔女を眺めながら、静かに微笑む二人の魔女。

 

 

「……あなたは、これからどうするの。」

「今回のコトで色々な情報が手に入りました。しばらくはコレで遊びますよ。…ブリタニアに()()もしないといけませんし。」

「…そう。」

 

その返事に籠っていたのは、何処か寂しく、悲しい色。

そう、もはやあの頃リカを姉と慕って後ろを付いて行っていた自分はもういないのだ。

いくら幼いこの子達を見て、あの頃をうらやんでしまっても。

 

 

「――――504には、副隊長の席があるの。探してるけど良いウィッチが見つからないのよね。」

 

 

不意に、背後からかけられた声。

 

 

「当分見つかりそうに無いわ~…はぁ、困ったわねぇ。どこかにいないかしら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ねぇ?」

「……リカ」

「いつでも来なさい。会社が潰れようが、軍から追い出されようが歓迎してあげる。私の隣はアナタじゃないと面白くないわ、リリー♪」

「………」

 

 

その声に返事を返さないまま部屋を足早に去った彼女の頬。

そこに一筋の涙が溢れていたのを見て、フェデリカは昔と変わらない優しい姉の微笑みを浮かべた。




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501st JFW
魔女達の夜空


――October,1943

  Britannia Strait of Dover

  Sgt. Amanda Michael Plummer

  501st . JFW

 

 

「エイミー、さむくにゃい?」

「ん、おねえちゃんのて、あったかいからへいき」

「いひひ♪じゃーあー、もっとあったかくしてあげりゅーっ!!!」

 

―――ぎゅーっ♪

 

「ふみゃ...///んん、ごろごろぉ...♪えへへぇ♪」

 

 

使い魔が守ってくれるとはいえ、やっぱり夜空の上は結構寒いですね。

寒さを言い訳にして合法的にフランカお姉ちゃんとまぐわいましょう///

 

 

と言うわけで皆さんこんにちは。

フランカお姉ちゃんを何があろうとも絶対に幸せにするプレイ動画、始まります。

地獄の果てすら乗り越えて、ついに来ましたブリタニア。

あと突然ですが私、第501統合航空戦闘団の所属ウィッチになりました。

『いきなり何言ってんだコイツ』?

『なろうと思って簡単になれるものじゃないぞ』?

うるせぇ簡単な訳なかったでしょうが死にもの狂いでしたわ。

 

地中海航路の要所、マルタを無事守り抜いた私達。

するとなんとその功績を認められ、リベリオンとロマーニャからそれぞれ私達がエース揃いの第501航空戦闘団に派遣されることになったそうな。

まぁもちろんリリー様が何やら裏で手を回されたようですが...。

リリー様曰く『存分に知見を広めてきなさい、あと良い子にするのですよ』とか...託児所に預けられる子供かな?

そんなこんなでリリー様とは一旦お別れみたいです、割りかし諸悪の根源ですがフランカお姉ちゃんと出会わせてくれた恩人なのでちょっと寂しいです。

 

 

「あっエイミーお鼻でてりゅ、はい、ちーん♪」

「...///ち、ちーん...///」

 

 

私を抱きかかえ飛んでるフランカお姉ちゃんが、ハンカチで鼻をかませてくれて....///

ストライカーだって履いてるのにお姉ちゃんが抱っこしてくれてるから飛ばなくていいし、ホントもう...おねえちゃんったらぁ...///

 

「イムディーナたのしかったねーっ。またいこーねっ!」

「うん。おねえちゃんのママもすっごくやさしくて、たのしかったぁ」

「にゃひひぃ♪でしょでしょー?きっとママもエイミーのことすっごく気に入ってたよ!また会いにおいでーって言ってたしぃ♪」

 

目を閉じると瞼に映るのはつい先日行ったマルタへの旅行。

無理な日程での旅行になったため、着任予定日に間に合わずこんな夜中をストライカーで飛んで行くハメになったけど後悔はなかった。

フランカお姉ちゃんとそのママ、そして私の3人で行ったそれは、本当に幸せで楽しかった。

ママが抱きしめてくれたことも、美味しい喫茶店やウサギ料理を食べたこと、そしてキレイな大聖堂も素敵だった。

でも何より一番嬉しかったのはフランカお姉ちゃんが幸せそうな顔をしていたことですね。

 

 

「…でも、おねえちゃん、よかったの?ロマーニャからはなれて…」

「んー?だいじょーぶっ!アタシはエイミーがいればどこにだっていくんだから!!」

 

 

はい、この返事です。

私はもう決めました。ログアウトを第一目標にしてた私はもういません。

ゲームだろうが物語の世界だろうが知ったこっちゃありません。

 

 

私はこの世界でフランチェスカ・ルッキーニを。フランカお姉ちゃんを幸せにします。

 

 

それが今の私の生きる理由です。

何があろうと、原作をぶち壊そうが、このゲームからログアウトできなくなろうが。

お姉ちゃんだけはこの命にかえても幸せに、笑顔にしてみせます。

 

「どんな部隊なんだろーねー!さかもとしょーさみたいな『わっはっはー!!』みたいな変な人ばっかりなのかにゃぁ?」

「ふふっ、だいじょうぶ、おねえちゃんなら誰とでもなかよくなれるよ。――――ッ!!おねえちゃんっ!!! 」

 

 

―――――ピロロロロロロ

 

 

二人っきりの静寂の夜空デートを邪魔してくれたのは、ああもうこんな夜中にネウロイですか!?

んでもアレですね、マルタを守っていた時に比べれば矢印の大きさや規模がしょぼいですな。

 

「―――みえりゅ?エイミー」

「ん―…みえない。とうめいのヤツかも。」

 

ちなみに自慢じゃな…思いっきり自慢ですが私の眼は暗くても超見えます。

って言うか見えるようになりました。だって私暗闇を飛んでる時間の方が長いですもん。

夜空といい洞窟といいホンマもう…。

 

「なんか武器になりそーなものあったっけー!?みんな先に送っちゃったぁーっ!!」

「……マルタのおみやげの、おいしくないパンなら。」

「それでたたかえってぇーっ!!?んもーっどーしよー!!」

 

ひょいひょいひょいっと身を翻して躱します。

まぁそのビームの遅いことショボイこと、やっぱマルタにいたのってインフェルノ仕様だったのでしょうか。

しかしさしものお姉ちゃんと私でも、多分透明仕様のネウロイ相手は素手はしんどいです。

 

「ビンない?たたきつけてたおす。」

「アレあぶないってぇーっ!!拾ったビンでなぐりゅのきんしぃーっっ!!!」

 

あぁもうお姉ちゃんは優しいんだから。落ちてるビンはクナイを見つけるまで最高の武器だったのに。

 

 

 

『――――そこのウィッチたち。ネウロイから離れてください。』

『サーニャ、多分アイツらには見えてないゾ。』

 

 

 

と、そんな時。

聞き覚えのある透き通った美しい声と、どこか棒読みだが綺麗な声。

それらが急に私と、それとフランカお姉ちゃんの耳朶を打ちました。

お?お?お?この声はもしや?まぎれもなく?

 

「おねえちゃん、下ににげよ。」

「えっ…うんっ!!」

 

一瞬戸惑った様子なもののすぐに私の眼を見て理解してくれたおねえちゃん流石。

きっと私達を追ってきた様子の透明なネウロイはその背後から迫ってくる「弾頭」に気付かず―――。

 

 

――――ドゴォォォォォンッ!!

 

 

「……わぁっ……!!!」

「……この、ばくはつは…」

 

そして月と星だけが瞬く夜空に、ひときわ大きな爆発の光球が輝きました。

この爆発とあの声。

 

そして青白く輝く満月に浮かぶ二人のウィッチのシルエット。

ん?この孤独なシルエットはまさか…?

 

はい、それは紛れもなく彼女達です。

 

 

美しい銀髪をたなびかせ、凛とした風貌でもう一人の手を引くウィッチ。

そして淡い緑色に輝く魔導針を纏い、"百合"と称される美しい風貌が満月に映えるウィッチ。

 

 

『…エイラ、あのコたちって、もしかして。』

『オー?エラいチビっこたちダナ。ん?リベリオンとロマーニャの軍服…もしかしてミーナ隊長が言ってた。』

 

 

そこにいたのはあの501の二人のウィッチ。

エイラ・イルマタル・ユーティライネン。そしてサーニャ・V・リトヴャクの二人が、私とお姉ちゃんを僅かに驚きを含んだ目で見つめていました。

 

 

 

 

 

 

「にへへ~♪コレはなかなかのおっぱいですなぁ♪ふっかふか~♪」

「んナァァァアア!?ワタシの胸をソンナテデサワンナー!!!!!」

 

「…それじゃああなたは、ブリタニアは初めて?」

「はい、りりーさまから、おはなしはきいてますが。」

 

はい、無事保護…というか基地まで連行なうです。

フランカお姉ちゃん、坂本少佐の次はエイラーニャさんのお二人でしたか。

赤ズボン隊や504、ストームウィッチーズの方たちとも一足お先に会っちゃいましたが。

 

 

「話には聞いてたケド、ホントにチビっこダナ~。ホントにオマエが『マルタの女神』なのカ~?」

「んにぇ?にゃにそれぇ?」

「人類初のネウロイの巣の破壊、そして一出撃でのネウロイ撃破世界最多記録更新…。」

「そーだゾー、『マルタの女神』フランチェスカ・ルッキーニ少尉がお前みたいなおっぱい星人なモンカ。ホントのコトを言うんダナ!!」

「お、おっぱいせいじん…おねえちゃん…」

 

嗚呼なんという不名誉な称号…わたしがょぅじょでなければ、私におっぱいがあればこんなことには…。

てかお姉ちゃんもマルタで自分のグッズ売られてたんだから気付こうよ!!

 

「めがみぃ~?アタシが?エイミーしってた?」

「お、おねえちゃん…ホントにしらなかったの…?」

 

な、なんという穢れの無い純粋な目…ああきれい…♪

一カ月前のマルタでの活躍は結構有名になったらしく、私達が載ってる新聞とかも見せてもらいました///

だというのに…そのころのお姉ちゃんと言えば季節の変わり目だからと虫捕りに夢中で。

え?私ですか?もちろんその後ろを付いて行っておおはしゃぎして一緒に泥まみれになってました。

違うんです、もうかなり精神が汚染されて、子供の遊びでも凄く楽しく感じちゃうんです…///

 

今ではお姉ちゃんの猫じゃらしにさえ大喜びで尻尾振って飛び跳ねちゃう有様で…///げふんげふん。

 

「どうやらマジみたいダナ…じゃあ隣のもっとチビっ子がまさカ!!」

「も、もっとチビっ子って、エイラ……」

 

「はい、アマンダ・ミシェル・プラマーぐんそうです。よろしくおねがいします。」

 

こういうのは第一印象が大事です。きっちりアイサツしておきましょう。

アイサツは大事!!古事記にもそう書かれて――――――

 

 

「オマエか!!オマエが『ニンジャ』カ!!」

 

 

「…は?」

 

 

何か今、すっごい意味不明なコト言われませんでしたか?

 

 

「おおおおお!!スゴイぞサーニャ!!本物のニンジャだ!ワタシ初めて見たゾ!!なぁ"ニンポ"っていうスゴイ魔法が使えるってホントなのカ!?見せてくれヨ!!!」

「エイラ…気持ちは分かるけどはしゃぎすぎ…///」

「んにゃ?にんじゃ…?」

 

アイエエエエエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?!?

ヤバイです!私がなんかとんでもない勘違いをされてる気がします!

しかもエイラさんの棒読み具合と混ざってなんか余計に勘違いしてる具合が増してます!!

 

「…マルタの防衛戦、たった一人でネウロイの住処に潜入、そして大型のコアを次々と撃破。」

「しかも"ニンポ"で炎の剣を生み出して、『マルタの女神』と共に巣を破壊したんダナ!!まさかこんなチビっ子達とは思わなかったけどナ」

 

事実が!事実がなんかねじ曲がってます!!これが歪曲報道ですか!?

 

「お、おねえちゃん…いまのはなし、だれのこt」

「すごーい! !エイミーってニンジャだったんだぁ!!なんでおしえてくれなかったのぉーっっ!!?」

「フランカおねえちゃぁぁぁーーーん!!?」

 

あぁっもう終わりだぁ…(レ)

私はなんか変な勘違いニンジャとしてこれから先永遠に扱われるんです…終わりました。

 

 

『…エイラさん、サーニャさん、聞こえる?ネウロイの反応があったと聞いたのだけれど…』

 

 

そんな絶望的な所に聞こえてきたのは、お二人とは別の女性の声。

 

「…ぁ、はい、大丈夫です、もう撃破しました。」

「オウ。ついでに近くをウロついてた新入り達も保護したゾ。今連れて帰ってるンダナ。」

『あら、もう皆増援に…いえちょうど良いわ、皆で出迎えましょう。私達の新しい家族だもの。』

 

そこまで言ってプツリと切られる通信、い、今の落ち着いた声音、今のお方はもしや…。

 

 

「…プラマー軍曹、ルッキーニ少尉、あそこが…」

「ハハ、夜間哨戒をこんな大人数で出迎えてくれるなんて初めてダナ。」

 

 

ブリタニアのドーバー海峡。そこにある海に囲まれた大きなお城のような建物。

そこに蛍のように淡く輝き周囲を旋回するいくつかの光――――ウィッチ達。

そうか、あそこが――――。

ついにやってきたのだ、この世界に来てからどれだけの時間が経ったかわからないが、ついに。

 

「……だいじょうぶだよ、エイミー。」

 

繋いだ手から緊張が伝わってしまったのだろうか、勇気づけるようにお姉ちゃんがそっと肩を抱いてくれる。

その温かな手が私の心を溶かし、優しい気持ちが満たされていく。

 

「…ほら。」

 

お姉ちゃんが私の手を引き、その建物へと高度を下げていく。

 

そしてその私達に様々な視線を向ける――――空に浮かぶ501の、ウィッチ達。

 

 

私達の背中を見送る、スオムスとオラーシャのウィッチ。

不安げな眼差しを見せる、ブリタニアのウィッチ。

奇異なモノを見る眼差しの、ガリアのウィッチ。

興味深そうに眼を光らせる、カールスラントのウィッチ。

 

―――驚きと、そして言いようのない何かが宿る眼の、カールスラントのウィッチ。

 

―――楽しそうなモノへの眼差しを見せる、リベリオンのウィッチ。

 

 

空を舞う彼女達の視線を受けながら、私とお姉ちゃんはゆっくりと基地へ降り立った。

 

 

「…待ってたわ、アマンダ・M・プラマー軍曹。フランチェスカ・ルッキーニ少尉。」

 

地上で待っていた、優しげな声音の赤髪のカールスラントのウィッチ。

 

「はっはっはっは!!よく来たな!二人とも、歓迎するぞ!!」

 

そして高らかに笑い声を張り上げ固く手を繋ぐ私達の前に現れたのは、マルタ以来のあの懐かしい扶桑のウィッチ。

 

 

「―――――ようこそ!第501統合戦闘航空団へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…中佐殿。行先はブリタニアですか?」

「ん、最終的にはそうですが、その前に一度寄って頂く所があります。」

 

駆逐艦の艦長の席の背もたれに肘を乗せ、軽く言葉を交わす。

この船は彼女の脚だ、船長も乗員も、その全てがグラマン社の息がかかった者で構成されている。

 

「さて…久しぶりに欧州のネウロイの瘴気混じりの空気から解放されますね。」

 

慣れ親しんだロマーニャから。親友であるフェデリカの元から離れるのは少し不満だが仕方ない。

私にはこれから成すべきことがたくさん用意されてるのだから。

 

 

 

「目的地は――――――扶桑です。」

 

 

 

さぁ、『主人公』を舞台に上がらせなければ。




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憂鬱の姉

ドーモ、シチョーシャ=サン。

ネウロイスレイヤーです、ネウロイ死すべし慈悲はない、イヤーッ!!

 

はい現在私とお姉ちゃんがいるのはあの原作でも出てきたミーティングルームです。

そう、これからあの我らが主人公宮藤さんも通過した儀礼、自己紹介が始まるのを待っているなうです!

 

「えっと...『女帝』のぎゃくと『悪魔』のせいいち...?」

「オイオイロクなカードひかないナ、オマエ。ホントに未来見えてるのカ〜?」

「これってどういういみなんでしょうか。」

「んー...そうダナこれだと...。性根の悪い女の企みに巻き込まれる、とカ?なんか心当たりナイカ?」

 

そして現在早めに部屋に来たエイラーニャのお二人とお姉ちゃんとでタロット占いなうです。

なんでも『未来予知の先輩として色々教えてやるんダナ!!!(フンス』とのことで。

なんか初期のエイラさんって『サーニャ以外シラネー』みたいなイメージがあったんですが、同じ固有魔法持ちということでちょっと距離感近めなのかな嬉しいなぁ。

で、結果ですが性根の悪い女の企みですか....いやーまったく思い浮かばないですね!!一体何リリーグラマン中佐のことを言ってるんでしょうか...謎は深まるばかりです。

 

「....あえーっとその。わたし、アブナイのはわかるけど未来はみえないんです。」

「ン〜?どういうことダ?だってネウロイの攻撃とかは見えるんだロ?」

「んと、あっちからコレくらいのこーげきがくる、とかはわかりますけど。未来そのものがみえるわけじゃないんです。」

「へぇ〜、同じ未来予知なのに随分不便ダナァ。じゃあネウロイが次にどこに移動するとかもわかんないノカ?」

 

うーん、フランカお姉ちゃんはアラートの矢印だけ見て軌道予測僅差射撃とか背面射撃を余裕でしてますけど、アレはお姉ちゃんがおかしいだけです。

それに頷いてみせると...おや?なんかスゴい満足げな顔でうんうんと頷いて?

 

「へへ、聞いたかサーニャ!!やっぱり隣でサーニャのことを守ってあげられるのはワタシだけナンダナ!これからもずっとワタシが一緒に飛んでやるかんn....ナァァァアアア!!!??」

 

エイラさんが目を飛び出してやベェ声を張り上げたその先には

 

 

「うじゅじゅ〜♪サーニャってすっごくいいニオイする〜っ♪お花畑に飛び込んだみたーい!!!」

「んっ...///ルッキーニちゃん...くすぐったぃ...///」

 

 

ひょげえええええええお姉ちゃんが取られてましたぁぁぁぁ私にもしてえええええ!!!?

そ、そんなサーニャさんの胸に顔をうずめて...あ、あんな幸せそうにほっぺたをすりすりと!!

 

「アア"ア""ア""ア"ア"ア!!?!?ナニシテンダオマエェェェ!!サーニャからハナレロォォォォオオ!!!」

「ああぁんっ」

 

で、すんげぇ形相で引きががされるお姉ちゃん。あの顔やべー。

てかヤバかったです、今私の心の中にもなんかドス黒いモノがちらっと顔を覗かせました。はっこれがNTR!?まさか私に素質があったなんて!?

 

「んにゃ、なにこりぇタロットぉ?おねえちゃんがエイミーをうらなってあげるっ!うじゅーっ!!」

「ええぇ...ぜ、ぜったいわかんないでしょ...」

 

あいも変わらず地上では無邪気で元気いっぱいで良い意味で子供っぽいお姉ちゃん。

これが空の上ではあんなに力強く私の手を引いてくれるカッコ良い女神になってくれるギャップが....はぁ....///

やばいこの間のループで血迷った時に犯した過ちをまた犯してしまいそう...私の女の子のところがキュンキュンしてる...///

 

「えーっとにゃにこれ?『恋人』?『運命』?うーん、えーっと、つまりぃ....」

「う、うん。つまり?」

 

―――がばっ、ぎゅむぅ〜〜♪

 

「エイミーはあたしの世界一かわいい妹ってコトぉーっっっ!!うにゃにゃ〜♪」

「やっ、やだ、おねえちゃんっ///ひ、ひとまえだよぉ...///」

 

ああああああああああいcjrpxmそdyっ///

フランカお姉ちゃんが私の小さな身体をむぎゅーって...♪私、全身をお姉ちゃんのニオイと暖かさに包まれてぇ...ふにゃぁ///

だっ、だめぇっ///わたし、また、おねえちゃんのコトいがい何もかんがえられなくなっちゃうぅぅ///

 

「...んっみゃぁ♪ふにゃぁっ♪」

「きゃははは!!くすぐったいよぉエイミー、またネコみたいになっちゃてりゅ〜♪」

 

ふぇ...?あ、だめ、わたし、うれしくて...また、ネコみたいにお姉ちゃんのかお、ぺろぺろしちゃってぇ...///

しっぽも、ねこみみも、しまえなくて...かんぜんに、ほんのうに、ひっぱられてぇ...♪

とめられない...すりすりって、わたしのニオイをおねえちゃんにすりつけるの、やめられないよぉ...///

 

―――ちゅっ♪

 

「あーもふもふでふかふかでいいニオイっ♪ん〜みみもぴこぴこ動いてかわい〜っ♪」

 

そこにさらにほっぺたに、キスなんかされたものだから...わたし、わたしもう...///

 

「...///ロマーニャの人は情熱的って聞いてたけど、ホントなんだ...///」

「...あ、あわわ...///み、みちゃダメだサーニャー!!」

 

あ、ヘタレがいる。

あぁでも、みられてる、見られてて恥ずかしいのに、おねえちゃんにあまえるのとめられないよぉ...///

おねえちゃんっ♡おねえちゃんっ♡すきっ♡もっとなでなでしてぇっ♡

 

 

 

 

「はい、みんな集まってるわね。それじゃあこれから私達と共に戦うことになる新しい仲間を紹介するわ。」

「うじゅっ!!」

「....」

 

やべぇやっちまいました。

何が第一印象は大事ですか、結局集まってきた全員にシッポ振りながら甘えてる姿を見られてしまいました^p^

しかもシッポと猫耳をしまえませぇん...。使い魔の制御すらロクにできないなんて…。

あ、やべぇペリーヌさんが何だアイツみたいな顔でこっち見てます。やば一瞬中佐に見えたHAHAHA

 

「まず、この子がロマーニャ空軍から派遣されたフランチェスカ・ルッキーニ少尉よ。」

「うーじゅーっ!!」

 

ああ...///元気一杯で意味不明なかけ声のお姉ちゃん可愛い...素敵だよぉ///

 

「へぇぇ、あの小っちゃいのにマルセイユがご執心なんだ〜」

「あははは!!なんだエラい賑やかな奴が来たなぁ!!うじゅーってなんだうじゅーって!!はははは!!」

「わ、私よりちっちゃいのに...すごいなぁ....」

 

って言うかフランカお姉ちゃんの501加入シーンなんて初めて見たよね。

しかもなんか事前にマルタの活躍があったからか概ね好印象な感じかな?

って言うかあのおっぱい!シャーリーさんいるじゃん!!ぜひともこれは後でお姉ちゃんとお近づきになってもらわねば!!

 

「こほん、もちろん皆も知っていると思うけど...彼女はあの欧州の要であるマルタを守り抜き、人類初のネウロイの巣の破壊、そして1出撃でのネウロイ撃破最多記録を更新したロマーニャで最高と言っても過言ではないウィッチよ!年齢こそ若いけどその実力は本物、きっと私達の力になってくれるわ!」

「えへへぇぇ、エイミーのおかげだもんねぇ~?」

 

あっ照れて小麦色のほっぺたをピンクに染めてるお姉ちゃん可愛すぎません?

ちょっこのゲームスクリーンショットボタンどこ!!??おい早くあああああああクソがああああああ終わったあああ

 

 

「そしてもう一人、隣のこの子がリベリオンから来たアマンダ・M・プラマー曹長よ。ええ、皆の言いたい事は分かるわ。こんな幼いウィッチなんて他に例を見ないもの。でも彼女の実力は本物よ、ねぇ美緒?」

 

おー、ついに始まりました私の紹介。wktk!!…って言うかアレだよね、今どきの子wktkなんてどういう意味か分かるのかな…。

あ、って言うかちょっとやっぱりザワついてる感じしますね。まぁ流石に8歳のウィッチなんて他にいないだろうし多少はね?

 

「ああ、ルッキーニ少尉もそうだがプラマー曹長も私と共に熾烈なマルタを戦い抜いた優秀なウィッチだ!しかもエイラ、こいつはお前と同じ未来予知の魔法を持っている。きっと将来は素晴らしいエースになるはずだ!!」

 

ざわ…みたいな驚く声がちょっとだけ聞こえました。

ふふふ期待の目線が心地いいですなぁ、まぁ実態は地獄生産クソカスデメリット能力なんですがね!!

いやーまさかあのチュートリアルが負けイベントだったなんて・・・プレイ動画見るまで知らなかったよね…。

 

 

 

―――――ガタンッ!!!!!

 

 

 

「――――ミーナ。お前は性悪女に何を吹き込まれたんだ?」

 

 

…え?

あ…忘れてました、ずっと腕を組んで某ゲン〇ウ司令官のポーズで黙っていた彼女が。

501のカールスラントのウィッチ、ゲルトルート・バルクホルンが立ち上がっていました。

 

「…おい、バルクホルーーーー」

「アナタにはきいてない少佐、ミーナ、お前に聞いてるんだ。」

 

ぴしゃり、と一言の元に言い伏せる彼女。な、なんだかヤバげな雰囲気がひしひしと伝わってきます…。

 

「…お前たち、何も、誰もおかしいとは思わないのか?百歩譲ってルッキーニ少尉はいい、11歳ならまだウィッチの候補生にも僅かだがいる。だが―――――。」

 

そして彼女が真っすぐ、何処かどす黒い眼で見据えたのは…私ですか?

 

「8歳、と聞いた。8歳だぞ!?ふざけるな、ここは戦場だ!最前線だ!!子供の託児所ではないのだぞ!!そんな幼い子供が居て良い訳がないだろうッッッ!!!!」

「トゥルーデ…いったん落ち着きなよ」

「黙れハルトマンッ!!オマエは何もおかしいとは思わないのか!!?あんな子供が、こんなとこに居て良い訳がないッッ!!それに彼女達が501へ来たのは、裏であの性悪女が手を回していると聞いた、そうだろミーナッッ!!!!」

 

す、凄まじい剣幕、です……。

離れてるはずなのに、ここまでピリピリとした刺激が伝わってきて…。

 

「…否定はしないわ。彼女の…リベリオンのリリー中佐、彼女がこの子達の派遣に手を貸してくれたのは事実よ。」

「『手を貸してくれた』!?アイツのコトはお前も知っているだろう!!きっとソイツらも、無理やり戦わされて良いように謀略の駒にさせられてるだけだ!!今すぐにでも銃とストライカーを取り上げて二人とも本国へ送り返すべきだ!いや、違う、ノイエ・カールスラントに送ってリベリアン共の悪だくみから解放してやるべき―――――」

 

「―――いい加減にしなよ、アンタ。」

 

バルクホルンさんの怒涛の言葉を遮ったのは――――その前に座る…シャーロット・E・イェーガーさんの一声。

 

「…はぁっ…はぁ…。なんだ、リベリアン…?」

「その性悪女中佐の話はアタシもしってるけどさぁ、それとコイツらとは別の話だろ?それに無理やり戦わされてるような奴らがさっきみたいに笑顔でじゃれ合うか?」

 

あ、あ、あ、み、みられてたんですねぇ…やっぱり…。

 

「…はっ、なるほどなぁ。さすが愛国者が多いリベリオンだ。同胞のした事なら子供を騙して戦わせる謀略さえも擁護するというわけか。見上げた仲間意識だ…!」

「は?…なんだと?もういっぺん言ってみろ!!」

「ああ何度でもいってやる!!貴様らリベリアンは、ネウロイを利用して欧州での影響力拡大を狙う薄汚い連中の集まりだッッッ!!その傷だらけの子供がその証拠だ!!」

 

「――――トゥルーデッッ!!!」

 

ヒートアップした議論をぴしゃりと終わらせたのは、ミーナ中佐のその制止でした。

…ですが未だ息を荒げた二人が見つめ合ってて一触即発で…こ、こわい…。

 

「…ミーナ。失望したぞ。」

 

そう一言ボソリと言い残し、彼女は、ゲルトルート・バルクホルン大尉は部屋を去って行ってしまいました。

…で、残された部屋の雰囲気はと言うと、割かしヤバくて…。

 

「はぁ…ごめんなさいねルッキーニさん、プラマーさん。こんな形の紹介になってしまって…」

「…いいえ、ミーナちゅうさは、わるくありません。」

「………うじゅ。」

 

 

結局私達はバツの悪い何とも言えない雰囲気のまま、その場は解散しました。

流石のお姉ちゃんもこの時ばかりはちょっとしょんぼりしてて、私がお昼ごはんにピッツァを作るまでずっと笑顔を見せてくれませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

「あーのーでーすーねー。いえ、わざわざこんな海の上までストライカーで来てくれたことは嬉しいですよ?」

 

はぁ、と溜息を吐き、目の前の友人に堪えきれない苦言を漏らす。

少し常識が抜けてる所があるとは思っていたが、こんな所で発揮してくれなくてもいいのに。

 

「…私がアナタに資金提供してるのはタダの趣味です。一技術者としてアナタの開発品が興味深くて面白いからです。」

 

船の広い甲板で転がる謎の円筒状の謎の物体、そしてそれをゴロゴロと転がすぼんやりした目の金髪のウィッチ。

 

「だからといってぇ…!!こんなガラクタをわざわざ自慢しに来る感性だけはどうしても理解し難いのです!!わかりますかウルスラ・ハルトマン!!!!」

「んまっ。この対ネウロイ用自律移動爆撃兵器―――『パンジャンドラム』をガラクタと仰いますか?」

 

わざわざ扶桑まで行く船の上までストライカーで飛んできたカールスラントのウィッチ。

無駄に多い給料の半分くらいを研究費用として彼女に提供している身としては、その開発や発明品を見せてもらう権利と義務はもちろんあるが。

だからと言って一体何なのだコレは、ふざけているのか。

 

「せめてッ!!せめて移動する方向をマトモに制御できるようになってから持ってきなさい!!何で私の方に転がってくるのですかッッ!!」

「あれおかしいですねぇ、屋内での実験時にはまっすぐ転がったはずですが。」

「…その実験、まさか爆薬を載せる前で重量が今とは違ったとか言いませんよね?」

「あ、多分ソレですね、さすがグラマン技術中佐。」

「あーなーたーッッッッッ!!?この前の"刺突地雷"といい本当にふざけているのですかぁァッ!?どうして自爆するような武器ばかり作るのですッッ!!!」

 

そう、あの地雷を槍の先端にくっつけて突撃するという何とも使用者の人命を無視し過ぎている馬鹿な兵器。

あんなモノ使った日にはもれなく敵ごと自分も吹き飛んでしまうではないか。

 

「…え、でもアレ、扶桑の陸軍でこの間採用されましたよ?」

 

…え?

 

 

「…Really?」

「oh.yeah.」

 

「………。」

「………。」

 

何とも気まずい沈黙が私達の間に流れます。

 

 

扶桑、行くの…ちょっと怖くなってきましたね…。




いちゃラブシーン書いてたら全然展開進まなかった…^p^

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姉と姉

「…すぅ…ぅん…」

「………」

 

うらやかなブリタニアの陽射しが照りつけ、海風の静かなさざなみだけが聞こえる海岸。

そのぽかぽかとした暖かな陽気に誘われた見たこともないキレイな蝶が、膝の上で寝息をたてるエイミーの頬に降り立つ。

普段の彼女、ルッキーニなら目の色を変え大はしゃぎでそれに飛びかかっていただろうがその日は違った。

 

何かを憂うような、どこがぼんやりとした目で妹の頬ではためく蒼い羽を静かに眺めているだけだ。

 

 

 

―――その子は良いように騙されて戦わされてるだけだッッ!!!

 

「……うじゅ…」

 

 

 

脳裏で鳴り響くのは、彼女がきのう出会ったあのカールスラントの名も知らぬウィッチの言葉。

 

『騙されて戦わされている』

 

彼女自身もまったくそれを疑ってなかったと言えばそうではない。

事実ロマーニャの基地で再会した時のあの酷く戸惑い、名前すら覚えてなかった時の様子は今でも色濃く覚えている。

だが、ずっと一人ぼっちで飛んでいた自分に出来た初めてのウィッチの友達。

そして大事な守るべき妹が出来たという嬉しさの方が圧倒的に勝ってしまっていたのだ。

 

 

『エイミーは、どうしてウィッチになったの?』

『…このせかいに、あこがれてたから。』

『ウィッチの世界に、ってこと?』

『んー……うん』

 

 

『やめたいとかって思ったコトないの?』

『…ずっと、やめたかったんだけど、もういいの。やめられないし。それに――――』

 

『おねえちゃんのそばに、いられるから。』

 

 

数週間前に病院のベッドの上のエイミーから聞いたあの言葉。

その時はその言葉が嬉しくて感極まり抱きしめて眠り果てるまでずっと可愛がっただけだったが。

その言葉が今更になって泡のように思い浮かんできて仕方がない。

 

 

『...あなたの妹をしっかり守ってあげなさい、フランチェスカ・ルッキーニ』

 

 

ブリタニアへと発つ直前、最後にリリー・グラマンから彼女へと告げられた言葉。

あの言葉が、あの笑顔が嘘だとは思えなかったし思いたくもなかった。

出会った当初こそ本能的に何か嫌なモノの感じ取り警戒していたものの、その後の数週間に渡るマルタでの生活では彼女の前でその暗い部分を見せることはほとんどなかった。

その上マルタでの戦いが終わった後は二人に一ヶ月もの療養休暇を与え、その間彼女達に降り注がれた様々な褒章授与や式典への出席依頼などの様々な邪魔を跳ね除けてくれたのだから。

 

 

「…うじゅ…」

 

 

次に浮かんできたのは、つい最近こそ見ることが少なくなったあの悪夢。

何度も何度も夜空をエイミーが駆け、ネウロイと戦い、そして死んでしまう夢。

それがエイミーと一緒に寝ている時にだけ見るものだと気づいたのはいつだっただろうか。

そしてそれが、夢ではなく彼女が本当に体験し、苦しんだものだと気づいたのも。

 

「…ぉね、ぇちゃ…」

 

いっそのこと―――全てを投げ出してここから逃げ出させてあげた方がエイミーにとっては幸せなのだろうか。

そうすればもうこの子は戦わなくていい、苦しまなくて済むのだから。

 

でも、そうすればもう自分はエイミーとは一緒にはいられない。

だって、だって。

 

 

 

―――あたし、ウィッチだから…だから、みんなを守らなきゃ。

 

 

 

そんな悲痛な覚悟と、大事で愛おしい妹への思いが彼女の心の中でせめぎあって。

 

 

 

「…具合でも悪くなったのか、こんな所で眠るなど。」

 

「んにゃー、ううん、おひるねしてるだk…に"ゃ"っっっ!!!!?」

 

 

不意に背後からかけられたその声に、普通に反応したルッキーニはその声の主の正体に小さな悲鳴をあげた。

なにせ腕を組みそこに立っていてたのはあのカールスラントの。

自己紹介の場で恐ろしい形相で怒号を放ち、怒りのままにその場を後にしたあのウィッチ。

ゲルトルート・バルクホルン大尉が、静かな表情で佇んでいたのだから。

 

 

「…え、えっとぉ…」

 

「………」

 

 

これにはさしものルッキーニも何と言葉を紡げばいいのか分からなかった。

なんせ彼女は相手の名前すら分からず、その上第一印象は最悪と言っていい。

そんな相手から声をかけられては一体何と返せば良いのか、その問は11歳の少女には余りに重すぎた。

 

「…昨日は、すまなかったな。」

 

「んにゃ…」

 

しかし意に反し彼女から次に告げられた言葉は怒鳴り声でも嫌味でもなく、静かな謝罪の言葉だった。

彼女も思わずあっけにとられポカンとした顔をバルクホルンに向ける。

 

「ん、うんと、ううん。いいよ。ええと、その……」

「ゲルトルート・バルクホルン大尉だ。」

「…うん、大尉、大丈夫っ。あたしもエイミーも気にしてないからっ!」

 

にぱーといつも通りの満面の笑みを向けたルッキーニだったが、それを見た彼女の反応は芳しくなかった。

どこか暗く落ち込んでいるようにさえ見える表情で歩を進め、彼女達の隣までやってくる。

 

「……」

「…ぁ。」

 

そして―――次に膝の上で寝息を立てるエイミーを見たその表情に、彼女は酷く驚くこととなった。

それはまるで昨日やさっきまでとは考えられない、まるで絵画に描かれた聖母のような優し気な笑顔だったのだから。

 

「…お前たちは、ずっと二人で飛んできたのか?」

「え、えと。ううんっ。あったのはうーんと3カ月?くらい前なんだぁ。出会ったのはロマーニャにゃんだけどぉ、隣で飛ぶようになったのはマルタにいってから!!」

 

「そうか、まるで姉妹のように仲が良いんだな。」

「ん、えへっ、そうでしょ~♪エイミーはね!!とってもかわいくてスゴイんだから!使い魔だって姉妹なんだ~♪」

「…ならルッキーニ少尉はこの子の姉と言うわけか。」

「うんっ!!そう!あたしはお姉ちゃんっっ!」

 

そしてその妹の話を嬉しそうにするルッキーニを微笑ましく眺める様子は、とても昨日狂ったかのように怒声をあげていた姿からは想像できない。

ただ穏やかに小さな子供の話に相槌を打つ、優しい姉そのものだった。

 

「…この子の、プラマー軍曹のこのケガは…」

 

しかし流石にその失った左腕に取り付けられた義手に彼女が視線を向けると、その声音は暗くなった。

それに釣られるように、ルッキーニも明るかった目を伏せて幾分かしょぼんとした表情になる。

 

 

「うじゅ…それは…あたしの、せいなの。」

「…どういうことだ。」

 

 

そうして彼女はポツポツと、語りだした。

あの星空の夜、初めてエイミーと出会った日の出来事を。

 

かつて自分がロマーニャの空軍で独りぼっちで居たこと。

問題行動を繰り返し、怒られてばかりで、基地をストライカーで抜け出したこと。

そしてそのさなか、ネウロイと何者かの戦闘を見つけてしまったこと。

その戦闘をしていたのは、使い魔もいない血まみれのエイミー一人だけだったこと。

 

―――そして、そして。

 

『怒られるのが怖い』というくだらない理由で、そこに飛び込むのが遅れてしまったこと。

そのせいで。そんなことのせいで。

自分は救えたハズの民間人の命を、救えたはずの彼女の左腕を失わせてしまったこと。

 

「…ずっとね、ずっと後悔してるの。」

 

自らの膝ですやすやと寝息を立てるエイミー。

その幼い顔には治癒魔法でも治療でも未だ消せない傷跡や火傷の跡が無数に残っている。

あの坂本少佐ですらマルタで初めて一緒にフロに入った時思わずその全身の有様に息を呑んだ程なのだから。

そして何より一番痛々しいのは、額から角のように突き出た鉄の破片だった。

脳にまで深く突き刺さっているというそれは抜くわけにもいかず、未だその少女の顔に刺さったままだ。

 

「あたしにもっと勇気があれば…。あたしがもっと強かったら――――」

 

 

「―――私にも、妹がいる。」

 

「…えっ?」

 

彼女の後悔の言葉を遮ったのは、静かなバルクホルンの独白だった。

今までずっと黙ってただ聞きに徹していた彼女が、口を開き語り始めた。

 

「クリスという名の…ほとんどプラマー軍曹と同じ年齢の子だ。今はブリタニアの病院で入院している。」

「うじゅ、びょーいん?どっかわるいの?」

「………ああ。」

 

その声音が、表情がより一層暗くなったのを彼女が見逃すことはなかった。

 

「クリスがカールスラントから避難する船に乗っていた時のことだ。運悪く海上にいたネウロイに狙われてな。…私はすぐ傍を飛んでいたというのに、何も出来なかった。」

「…う、じゃ……」

「…命は、幸いにして取り留めたが…未だ意識は戻らない。眠ったままだ。」

 

そう言って空を見上げるバルクホルンの表情は、悲痛な思いが込められていた。

 

「いつ目覚めるかは分からない…最悪、一生このままの可能性も覚悟しろと医者は言ってたよ」

「そ、そんなことないってぇ!!だいじょーぶ、きっとクリスはおきるよっ、たいいっ!!」

「…そう、だな。そう願うしかない。もう私には、それしかできないんだ。ただ、願うしかッッ……!!」

 

膝の上で強く、強く握られた彼女の拳から血が溢れ、嚙み締められた唇からは一滴の赤い涙が溢れた。

 

 

「―――だが、お前は違う。まだお前の腕の中には、守るべき存在がいる。」

「……ぁ…。」

 

 

力強く、覇気と、そして悲しみの籠もった瞳がまっすぐにフランチェスカの翠の宝石のような瞳を見据える。

その迫力に気おされ、彼女は思わず静かな声を漏らしていた。

 

 

「私のようにはなるな。フランチェスカ・ルッキーニ少尉。妹一人守れず、ただ毎日後悔だけを続け、もう神に祈ることしか出来なくなった弱く惨めな私のようには。」

 

「………じゅ…」

 

「…守りたいか、プラマー軍曹を、その子を、お前の妹を。」

 

 

僅かな沈黙ののち、彼女は静かにコクリと、確かに力強く頷いた。

 

 

「なら――――守りたければ、強くなれッッッッ!!」

 

 

彼女の叫びは大きなさざ波となり、木々を揺らし、鳥達が一斉に空へ飛び立った。

 

「誰よりもッ、何よりもッ!!ネウロイだけではない、彼女を利用しようとする悪意からもッッ!!」

「…!!」

「マルタでの活躍は聞いていてる。だが撃破数のほとんどは海水で弱体化したネウロイ。そしてお前が破壊した巣は出来たばかりの不完全なモノだ!!お前の実力を証明するモノでは決してないッ!!!」

「う、じゅ…」

 

彼女自身は決して自惚れもしなければ慢心していた訳でもない。

ただあの戦い以来今まで叱られてばかりだった環境が一変し、彼女を持て囃す声ばかりになっていたのは事実だった。

 

 

「…守りたいという言葉が嘘で無ければ。ついて来い。ルッキーニ少尉。」

 

 

 

 

 

 

 

「ミーナ、模擬戦をしたい。今すぐにだ。」

「えっ、ちょっと、トゥルーデ?もう調子は……えぇぇっ、ル、ルッキーニさんっ!!?」

 

執務室で新たなウィッチ二人の転入に関する書類を取りまとめていた隊長、ミーナは不意にやってきたその訪問者達に驚愕した。

なんせ昨日最悪な雰囲気で別れたバルクホルンと、それをぶつけられていた少女達のうち一人が揃ってやってきたのだから。

 

「午後から飛行訓練の枠は空いてるな?ルッキーニ少尉のストライカーの整備も…」

「ま、待って!どういうことなの?まさかあなた、この子を無理やり模擬戦で!!?」

「そんなことする訳ないだろう、ただ彼女の実力を把握したいだけだ。」

 

そして更にその二人の顔が神妙なモノだったから混乱もひとしおだ。

挙句その口から出てきたのは着任したばかりの新人と突然の模擬戦などという突拍子もないモノだったのだから。

 

「そんなこと今すぐ焦ってやる必要はないでしょ?それに彼女の訓練は…」

「私が担当する。彼女もそれで了承している。」

 

??どういうことなのだろうか?

お世辞にも悪いとしか言えなかったあの自己紹介からどういう事を経たらこのようなコトになるのだ?

まさか…。

 

「…理由を、教えてくれるかしらルッキーニさん。これはトゥルーデの…バルクホルン大尉の一存よ、断ってもいいの。もし断っても決して怒ったりなんかしないわ。私が約束します。」

 

考えうる最悪のパターン。まさかバルクホルンに限ってないとは思うが、上司としての立場を利用して無理やり彼女に返事を強要しているのでは――――。

 

「……あたし、強くなりたいのっ!!エイミーを守らなきゃいけないからっ!もっと、もっと強くなりたい!!だからッッ!!」

 

だがその予想が違う事は、凛とした翠の瞳。そしてツインテールを強くたなびかせながら口にした言葉で証明された。

そしてその幼く可愛らしいとさえ言える顔に刻まれていたのは、固く険しい覚悟。

 

「……ルッキーニさん。」

「良いな、ミーナ。」

 

「…ええ、でもお願い。無理だけは決してさせないで。」

「……。」

 

新たに入隊したばかりの幼いウィッチを連れ、彼女の親友であるバルクホルンは言葉を返さず背を向けてしまった。

そしてその背中を見つめるルッキーニ少尉の目が、どうしても何故か彼女の不安の心を煽るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この船いつ扶桑に着くんでしょう」

「んー…もうすぐですね、あと2、3日程度でしょうね…あと美味しいですか?私のコーヒーは。」

「ええ、カールスラントのタンポポの根で作った代用コーヒーよりかは遥かに。」

「そうでしょうそうでしょう。だって私がリベリオンから取り寄せた特級品ですもの。」

 

…そうだ。特級品だ。コーヒーは欧州や退屈な海の上での唯一の至福の時間とも言っていい。

だからそれにこだわるのは当然だ。

特に戦時中である今となっては本物のコーヒー豆などかなり希少で、その高級さと言ったらもう。

 

「…で、どうして隠していた私のコーヒー豆を勝手に挽いてるのでしょうかァ??」

「あ、このチョコバー美味しいです。さすがリベリオンは油モノに関しては一級品ですね。」

「ええ、甘いモノは疲れには最適ですから…って違うウルスラぁぁッ!!!」

「しかしリベリオンの食べ物は美味しいですが後が怖いですね、腹部装甲が増設されそうです。」

 

それを、いやそれだけではない。

面倒で面倒でイライラする書類仕事や電話での交渉事のさなか、休憩の為に通常の食料とは別に保管させていたモノを!!

それを目の前のこのウィッチはぁ…。

 

「だ、だったら船の訓練に交じってくればどうですか?ちょうどこの間どっかの誰かが甲板で爆発事故を起こしたせいで消火訓練が増えてるようですし。」

「あぁ、あれは事故じゃなくて正常な動作ですよ。安心してください。」

「何一つ安心出来ません。」

 

って言うか何でこのウィッチは一向に帰る気配が無いのだ。

いやそもそももう座標的にノイエ・カールスラントまではどうあがいてもストライカーでは帰れないが。

それなのにどうして私の執務室の一角を占領し謎兵器の開発研究を始めだしたのだろうか。

 

 

「あーそういえばこの間の扶桑の刺突地雷ですが…あれやっぱり問題があったみたいですね。対策が取られたようです。」

「…そうですか、良かった、扶桑にもまともな人間が居たのですね。」

 

あぁそうか良かった。流石にあんな馬鹿兵器にストップをかける普通の人間がいたのだ。

 

「いえ、潜水服と一緒に使うことで安全な水の中からネウロイを待ち伏せ攻撃するのに使用するつもりらしいです。その名も刺突爆雷っ。」

「…は?は?」

「なんでも伏龍部隊とか言ってそれだけで部隊を作るとか。」

 

 

「……ネウロイを撃破できるだけの爆発なんて起こせば、隣の爆雷が誘爆するでしょうが。」

「あ。」

 

 

「………。」

「………。」

 

 

「扶桑に電話しますか?」

「……いえ、やめときましょう。関わりたくないです。」

 

 

…扶桑…。例の彼女はまともな人間なのだろうか…。

 

 




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姉だから

―――トントントン、コトコトコト

 

 

どうも皆さんこんにちわ。エイミーの3分間お料理教室なうです。

まぁアレですよね、私はゲーム内ブラウザでクック○ッドを見れるのである意味料理チートです。

材料で検索するだけで簡単に美味しいレシピが見れちゃう!えぇっこんな神サイトが今なら月額500円(税抜)で人気順検索まで出来ちゃうんです!?

 

「ごしょうわくださいわたしのなを〜♪…うるt…おっとっと」

 

あっもう幼女の、8歳の身体って不便すぎません?腕も短いし手先もなんか思い通りに動いてくれないし。

あ〜台から落ちちゃうリリーさんがくれたウィッチ用義手がぁーーっ!!

 

 

―――ぼふんっ、むにゅっ

 

 

「おいおいあぶないぞーちっこいの。ったく隊長も一人でやらせんなよなぁ」

 

「ぁ…///ぇ、と、イェーガーたいい…ごめんなさい…///」

 

足踏み台から落ちそうになった私の身体を優しくキャッチしてくれたのは聖母シャーリーさん!…の、おっぱい(重要)

なんて大きさ、そして包容力…殺人的な胸だ(ZKS並の感想)

 

「今日も相棒は一緒じゃないのか?」

「うん…じゃない、はい、まだおへやでねてます。」

「そうか、アイツ何でかあの堅物に気に入られちまってるからなぁ、同情するよ。朝から晩まで…いや、この間なんか夜中まで訓練してたぜ?」

 

はいそうなんですよね、ここ最近なんだかお姉ちゃんの様子が変なのです。

マルタでの事や私の存在のせいで原作と多少ズレがあるとは思ってましたが、それにしたって。

 

 

「何かアタシ、あっちのロマーニャのチビっ子にはすっげぇ避けられてるんだよ。なんか気に入らない事でもしたかなぁ…」

 

はい、特に一番大きいのがコレです。

なんとあのシャーリーさんが、フランカお姉ちゃんの相棒であるはずの彼女が避けられているのです。

その代わりになるかのように最近いつも一緒にいるのが何とこの時期凄いアレなはずのバルクホルンさんという…どおして?

 

「まっいいか。ところでアンタこの間言ったこと考えたか?あのリベリオンに帰らせてやるってハナシ。お前が頷けばミーナ中佐や少佐も裏で手回ししてくれるってよ。」

 

「…(ふるふる)」

 

「んーそっか、ならいいんだ。けど辛かったり逃げだしたかったらいつでも言いなよ、アンタはまだ甘えたって良い年齢だし、無理はしなくていい、遠慮なくみんなに頼りな。もうアタシらは家族なんだからさ」

 

「…ぅん…」

 

あれ?なんか目から汗が出てきそうに…おかしいな、早起きしたからかな?

ああでも私をなでなでしてくれるシャーリーさんの手、あったかい…尊い…///

 

 

―――ばたむっ

 

 

「ん…あっ、フランカおねえ…ちゃ、ん?」

「んにゃ…ぅじゅー…」

 

そして元気なくゆっくりと開かれた廊下のドアから入ってきたのは…私の大好きなフランカお姉ちゃん、だけど。

何か過去最低ってくらいに元気がなくて、フラフラで疲れ果てていて。

 

「だ、だいじょぉぶっ?もうすこしやすんでたら…」

「ふぁ…うじゅぁ、だいじょー…」

 

 

―――ふらっ

 

 

「お、おいチビっ子!!」

 

ふらり、と地面に倒れ込みそうになったのをシャーリーさんが咄嗟に支えてくれましたが、やはりその顔色は…見たことないくらいひどくて。

 

「…あの堅物ッ!また夜中まで訓練させてやがったな!?それもこんな毎日毎日…!!」

「っはぁ、ぅ…」

「ぁぁ…ぉねぇちゃん…」

 

お姉ちゃんの額に浮かんだ大粒の汗をシャーリーさんがぬぐってくれます。

見るとほっぺたもどこか赤く見え、もしかしたら風邪も引いているかもしれません。

 

「おい、ロマーニャのチビっ子!!いいか、あんな堅物規律バカ軍人に付き合う必要なんてない、もっと自分の身体を大事にしな。訓練だってアイツが勝手にお前に押し付けてるだけだ、隊長や坂本少佐に言えばすぐにやめさせられる。」

 

「…じゅ…」

 

「アンタだってそっちの相棒ほどじゃないがまだ子供なんだから、こんなになるまで焦んなくたっていいんだ。な?」

 

その声音は本当に、心の底からフランカお姉ちゃんのことを心配して慈しんでいるモノでした。

あれ、この光景は見覚えがあります。

あそうだ。マルタの後の休暇、お姉ちゃんを優しく抱きしめて、よく頑張ったね、えらいね、と暖かく囁くお姉ちゃんのママの姿―――。

 

 

「―――やーーだぁっ!!!」

 

―――パシッ

 

「…あっおいっ!!」

 

 

一瞬、目の前で起こったことへの理解が追いつきませんでした。

あのフランカお姉ちゃんが、ルッキーニお姉ちゃんがシャーリーさんの手を払って逃げ出したのですから。

 

「…ダレかしんないけどっ、子供あつかいしないでよっ!!あなた、キライだもんっ!!」

 

しかも毛を逆立てて猫のようにフーッと威嚇まで始めてはさしもの私もあ然とするしかありません。

どうして?なんで原作と違ってフランカお姉ちゃんがシャーリーさんをこんなに避けてるんですか?

 

「お、おい…」

「うじゃーっ!!さわんにゃいでぇっ!!!」

 

な、なんという事でしょうか。あのフランカお姉ちゃんがシャーリーさんから逃げ回ってる…これは夢でしょうか。

 

 

「なんだ、こんなとこにいたのか少尉。訓練の続きだ、格納庫へ行くぞ。」

 

 

「…っお前…」

「っ…たいい。うんっ。」

 

そしてそこに現れたのはそう、あのゲルトルート・バルクホルン大尉。

この間の怖い雰囲気こそ収まってますが…どこかその目には何か恐ろしいモノが宿ってる気がします。

 

「お前何考えてんだよ!?昨日だって夜中まで訓練してたんだろ、隊長達の許可も取らずにッッ!!それにソイツの顔色見ろよ、これ以上無理させると本当にどうにかなっちまうぞ!!」

「黙れ、貴様に口出しされる筋合いはない。これは私と少尉の話だ。…それとプラマー軍曹」

 

突然話しかけられたモノだからちょっとびっくりしてしまった…。

 

「えっ…あっ、はい…ひゃぁっ!?」

「そんな手で包丁など持つな。料理などそこのリベリアンにでもさせておけばいい。いいな。」

 

あ、足踏み台から降ろされて、包丁も取り上げられてしまいました…まだジャガイモ切ってる最中なのに。

 

「行くぞルッキー少尉」

「…うんっ、エイミー、またあとで、ねっ」

 

そう言ってフラフラのまま出ていってしまう大尉と…フランカお姉ちゃん。

 

「ったくっ…クソ、あいつホントに潰れちまうぞっ…!」

「…おねえちゃん……」

 

溜息を吐くシャーリーさんの後ろで、私はただ黙っては消えていったお姉ちゃんの背中を見つめ続けることしかできませんでした。

 

 

 

 

「…ねぇ、もうやめなよ」

 

「そこをどけ、ハルトマン。」

「ん、じゃ…?」

 

格納庫へと向かう二人のウィッチ。その前に塞がるようにあらわれたのは彼女の同僚、エーリカ・ハルトマン。

 

「トゥルーデ、お願いだよ…。今の調子だと」

「なんだ、またその話か?もう私は大丈夫だ、いつまでもクリスの事でウジウジ悩んでいた私はもういない。今の私が為すべきことがわかったからな。」

 

「大丈夫じゃないから言ってるんだよ。それにトゥルーデだけじゃない。その子まで…」

「この程度で潰れるようなウィッチなど前線には不要だ、お前も覚えてるだろう。第52戦闘航空団にいた頃はこの程度で倒れる奴など一人も居なかった!」

 

まるで取り付く島もない頑ななその言葉に、ハルトマンは目を伏せた。

 

「…自分を重ねるのはやめなよ、その二人はトゥルーデとクリスとは違う。」

「――――ッッ!!!」

 

お前に何がわかる、という言葉が喉まで溢れそうになったとき

 

 

―――どさっ

 

 

「…うじゅ…」

 

言葉をぶつけ合う彼女たちの後ろで、それを黙って聞いていたルッキーニは力なく倒れ込んだ。

 

 

 

 

次に目覚めた時、彼女の目前に広がっていたのは初めて見る天井だった。

何の音もせず、わずかに消毒液のニオイだけが彼女の鋭敏な鼻をついた。

 

「…起きたか、ルッキーニ少尉」

 

声のした方に首を動かすと、そこには沈痛な面持ちのバルクホルンが彼女の横たわるベッドの縁に腰掛けていた。

 

「ぁ…うじゅ、その…ごめんなさぃ…」

「いい。お前が謝ることなどない。」

 

倒れてしまった不甲斐ない自分を責めるかと思いきや、かけられたのは逆の言葉。

 

 

「…すまなかった…アイツの、ハルトマンの言うとおりだ、私はただ過去の情けない自分をお前に重ね、行き場のない怒りと後悔をぶつけていただけだ。」

 

 

「え…」

 

 

「お前を聞こえの良い言葉で欺き、こんなになるまで自分の都合で弄ぶ…これでは、私が唾棄したリベリアン共と変わらないな…はは…」

 

 

「…たい、い…」

 

バルクホルンは静かに立ち上がり、扉へ足を運んだ。

その背中には先日見た覇気らしきモノはとても感じられない。

 

「――――私のことは、忘れてくれ。すまなかった。」

「あ……」

 

力なく去るその姿を追いかけることもできず、しばらく呆然としていたのち。

 

 

 

 

 

 

「フランカおねえちゃんっ!!」

「おいチビっ子、だから言っただろうがまったくっ…」

 

「エイミーっ!!と…うじゅぅ……」

 

入れ替わりになるかのように彼女が休む医務室に飛び込んできた愛しい妹と、苦手な長身のウィッチの姿に顔をしかめた。

 

「…おねえちゃん…ぐすっ…うぇぇ…ひぐっ……」

「わにゃっ。ご、ごめん、ごめんね、エイミー…なかないでっ…」

 

自らの胸元に飛び込み、その小さな身体を嗚咽で震わす妹の姿に、彼女はただ背中をさすってやるしかできない。

せめて釣られて泣きそうになってしまうのを必死で堪えることしか、今のルッキーニにはできなかった。

 

 

「…もういいだろ、つまんない意地なんか張るな。お前はそこまで頑張んなくていい。」

 

 

だがそれも、シャーロット・E・イェーガーが優しい言葉と共に幼い彼女達の頭を撫でるまでだった。

大好きな大好きな”ママ”の姿が、その姿に重なって見えてしまい咄嗟に目をつぶった。

 

「…勝手に子供扱いして悪かったな。お前はそんなちっこいのに凄いウィッチだ。アタシなんか足元にも及ばないくらいのな。」

「うじゃ…」

 

「でもな、いつだって頑張りすぎちまったらいつか壊れちまう。…だから、たまには思いっきり甘えていいんだ。」

 

ぶわり、と胸の奥から何か熱いモノが溢れそうになるのをルッキーニは必至で堪える。

今にも崩壊しそうなそれをぐっと抑えながら、目の前のウィッチを見上げた。

 

 

 

「…だって。だってぇ…ひぐっ。あたし、エイミーの…おねえちゃんなんだもん…!」

 

 

 

「ふぇ…?」

 

そしてついにそれは決壊し、その翠の瞳からはとめどない熱い思いが流れ出した。

 

 

「あたしっ…あたし…しっかりしなきゃ、ちゃんと、しなきゃ…エイミーが、こわがっちゃうから…だからぁ…!!」

「…あぁ、そうか。そういうことだったんだな。」

 

 

「ひぐっ、うぇぇぇぇっ…ぐすっ、だからぁ、あまえちゃ、ダメなのっ!うじゅっ、ぐすっ。」

「おねえ、ちゃん…」

 

一度切られた枷は止めることは出来ない。

大粒の涙を流し、悲痛な覚悟を吐き出すその少女の痛ましい姿を――――シャーリーはそっと優しく抱きしめた。

その大きく柔らかな母性の象徴にその震える、未だ幼い身体をぎゅっと包み込む。

 

「―――そっか。今までずっと頑張ってたんだなぁ…。お前はスゴイよ…。」

「うぇぇ…ぐじゅっ…」

 

「もう良いんだよ。好きなだけ泣いていい、好きなだけ甘えて良い…だって…。」

 

 

その涙と鼻水でぐしょぐしょに乱れた幼い顔を、優しい穏やかな青い瞳が覗き込む。

 

 

「―――だって、ワタシ達はもう家族なんだから。な?ルッキーニ。」

 

「…ぅん…ぅわぁぁぁぁぁぁぁあああんっ…!!!」

 

 

枷を切ったかのように、ルッキーニは大声を上げてその首元に思い切り抱き着いた。

その姿がまさしく、彼女が大好きなママに甘えていた時の姿そのものに見え、エイミーは心の底から安堵の笑みを浮かべた。

 

「…ぐずっ…あり、がど…ええぇと……。」

 

「シャーロット・E・イェーガー中尉だ。アタシのこともエイミーみたいにシャーリーって呼んでくれな。」

 

「ひぐっ…うん、ありがと――――シャーリーーーッッッ!!」

 

 

 

「あ"ぁ"…よがっだ…どう"な"る"ごどがど…ぐずっ、ひぐっ…」

 

もしやこのまま親友となるはずの二人が疎遠なままになってしまうのかもと。

そうなれば自らの大好きなフランカお姉ちゃんは幸せになれないのではないかと。

そう酷く不安になっていたエイミーは、その目の前の光景に心の底から安堵の涙を流していた。

 

「お、おいおい、お前もひでー顔だな…あーほらほらお前も来な。」

「ぐずっ、ぁ"り"がどぉぉ…ジャ"ーリ"ーざん……」

 

 

そのまま幼い姉妹は泣き疲れて眠り果てるまで、ずっとシャーリーのその暖かな腕と胸に優しく包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

私は、何をしていたのだろうか。

あの幼い姉妹に過去の自分を勝手に重ね、無理やり過去への後悔を押し付け。

挙句の果てにその二人に自らと同じ苦しみを味わわせてしまうところだったのだ。

 

もしあんな酷く疲れ果てた状態で、出撃が必要なほどのネウロイが現れたりしていたら。

きっと彼女は、ルッキーニ少尉は――――。

 

「………」

 

ふと、建物の窓の中に見えた景色。

そこには――――あの忌々しいリベリアンに、あの幼い姉妹が泣きながら抱き着いている姿があった。

しかしその表情は決して悲しさなど微塵も浮かんでいない。

幸せで、嬉しくて、心の底からお互いを愛し合っている事が見て取れて―――――――。

 

 

「クリス…わたし………は………」

 

 

すがるように呟いたその言葉に、返事してくれる者は誰もいない。

ただ、その代わりと言うかのように。

 

 

 

ウ"ゥ"ゥ"――――ッッ!!!ウ"ゥ"ゥ"――――ッッ!!!

 

 

「………」

 

あの幼い姉妹が来て以来初めてとなる、黒い破壊の怪異の襲来を知らせるサイレンが基地に鳴り響いた。




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家族

「悪い隊長!遅れたッッ!」

「シャーリーさん!エイミーさんも…ルッキーニさんは?」

「魔力も体力も使い果たしてる、無理だな。」

「…っ、そう、分かったわ。」

 

はいシャーリーさんのムリダナ頂きました。これはレアですよ!目指せ全員のムリダナ制覇!

 

「反応があったのは3つよ。――――パ・ド・カレー、ダンケルク、ベルク方面から。

このうちベルク以外から来た二つには皆に出撃、迎撃にあたってもらってるわ。

アナタ達は早急にベルク方面からのネウロイへの対処をお願い。」

「待て、コイツも出すのか?アタシ一人でも…」

「シャーリーさん一人でも大丈夫だから出すの、ここの空での戦闘に少しでも慣れて欲しいのよ。」

「んー…わかった。いくぞエイミー!」

 

あ、ちょっ、肩に担いでくれてるのは良いけど早いんですけどぉぉぉぉぉ…。

 

 

 

 

「シャーリーさん…ひ、ひとりでとべますよ?」

「気にすんなって。ちょっとでもネウロイとの戦いに回す魔法力を残しとけ、いいな?」

「は、はぃぃ…。」

 

空で連行なうです。8歳とは言えほんま皆さん過保護やでぇ。

 

「ん?ミーナ隊長?ああ、今出撃して…はぁぁぁっ!?」

 

え?何でしょう、耳に手を当てて叫んでいますね、通信内容が気になります。

 

「クソッ、アイツさっき見たけどひでぇ顔だったぞ!?あんなんで……あークソッ!!」

 

と、思ったらシャーリーさんはいきなり私を手放してぇぇぇあぶねぇぇぇ墜ちるぅぅっ!!?

 

「わりぃエイミー!!後から追いかけてくれ!先に行かなきゃいけなくなったッッ!!!」

「えっあっ。はいっ!!…ってはやっ!?」

 

その声に返事をした時にはもうとんでもない加速音と共にシャーリーさんの姿は遥か彼方に。

一体どうしたんでしょうか。ちょっと嫌な予感がします。

流石にこんな来て最初の出撃で死にループ地獄に陥らないとは思いますが…。

 

 

 

 

 

 

「……クソッ…」

 

一体、何なのだコイツは。

待機命令を無視して出撃したのは良い。私はウィッチだ。ネウロイが現れれば戦いに赴くのは当然だ。

だがこのザマはなんだ。いや、このネウロイは一体なんだ。

 

―――なぜネウロイがシールドなどを展開しているのだ。

見た目こそ一般的な航空中型だが、その能力は今までの戦いで見たことがない。

シールドの術式が意味不明な文字なのと色が禍々しい赤色なことを除けばほとんどウィッチのモノと同じだ。

無論その強固さも。

 

結果私の機関銃の銃弾もまったくダメージを与えることが出来ず、辛うじて装甲を傷つけてもすぐに再生されてしまった。

挙句勝負を焦りシールドの内側に潜り込もうとした結果がこのザマだ。

無理な機動がたたりストライカーが不調をきたし、私は地面に墜落しネウロイに撃ち殺されるのを待つだけとなった。

逃げようにもシールドを下に貼れないまま不時着した衝撃のせいか身体が動かない。意識が朦朧と霞む。

 

「クリス…」

 

これは罰なのだろうか、大事な妹一人守れなかった無力な己への。

そしてその後悔を関係のない姉妹二人へとぶつけ、同じ悲しみに突き落とそうとした愚かな己への。

 

「ごめん…な…」

 

 

―――――ビュグンッ

 

 

頭上のネウロイより放たれた暴力的な殺戮の閃光。

それが今まさに自らを焼こうとしているのが、魔力により強化された眼ではっきと見えて―――。

 

「馬鹿野郎ーーーーーーッッッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

「あぶねぇーっ!!マジで危機一髪ってヤツだったなコレ!!」

「ぁ…お前…?」

 

ぐったりと腕の中で力なく項垂れるその堅物の様子からいつものバカうるさい姿は見る影もない。

こんな調子なのに出撃しようとは、ホント規律バカじゃなくタダのバカだ。

 

「しっかりしろ堅物ッ!アンタこんなの一匹程度にくたばるタマじゃないだろッ!!」

「…もう、良い…やめろ、生き恥を晒した上に、リベリアンなどに助けられるなど…」

「はぁ!?まだんなコト言ってんのか…うぉっと!!」

 

相変わらずネウロイは空気を読みやしない。

下品な赤色をしたビームの雨をシールドで防ぐが、大した量じゃない。これならアタシ一人でも楽勝じゃないか?

と、思って仕返しとばかりに銃弾の嵐を浴びせてやると―――。

 

 

―――ガキィン、ガキンッ。

 

 

「は、はぁぁ!!?なんだありゃあぁ!?」

「見ればわかるだろう…シールドだ、私の銃でも無理だった…」

 

コイツの銃はアタシのよりデカくて火力もある…それで無理ならどうしようもないじゃないか!?

 

「逃げろ、リベリアン。これをミーナ達に伝え…ぐ、ぅ…」

「馬鹿言うな!アンタ見捨てて隊長にどの面下げてそんなコト言えばいいんだよっっ!!」

「たのむ…もう、私など…生きていても…」

 

―――ごつんッ!!

 

情けなく泣き言だけを呟くその堅物の顔に、思い切りヘッドバッドをかましてやった。

これで正気に戻るかと思ったが相も変わらずポカンとした顔でこっちを見つめてきやがって。

 

「…アンタに伝言だ。ロマーニャのちb…ルッキーニからな。」

「しょうい…が…?」

「もしお前に会ったら言ってくれってさ。『大尉のせいじゃない、落ち込まないで。お願い』だってよ。…あと訓練してくれてありがとう、ともな。」

「…あ…ああ…」

 

 

―――ビュグンッ!!

 

 

ああもう、話の途中だろうが馬鹿ネウロイ!

コイツを抱えてるから流石に動きにくいのにっ…クソっ!!

 

「――――あっ、ヤバっ!!!!」

 

しまった!しくじったッッ、この堅物が肩に掛けたままの重機関銃のせいでバランス崩したッッ!?

あ、無理だヤバイこれ、真っ赤な光が視界いっぱいに広がって――――!!

 

 

 

 

ーーーどこからか飛んできた変な形の短い刃物が、その光を弾き飛ばした。

 

 

 

『シャーリーさんっ、ソイツはわたしがやりますっ!!』

 

唖然とする私を正気に引き戻したのは耳に響いてきた舌足らずな幼い声だった。

 

 

 

 

 

 

丸太、じゃないマルタにいましたねコイツ。

シールド展開してくる中型ですがお姉ちゃんが突撃瞬殺した記憶があります。

でもコイツにはM1897は効きませんね、一旦捨てましょう。

 

『気をつけろエイミーッッ!!そいつはシールドを…』

「だいじょうぶですっ!!マルタでいちどたおしてましゅっ!!…ぁっかんだ」

 

ピロロロロと未来予知のアラート音が鳴り響くがその規模はしょぼくカスカスだ。

そのグルーポンおせちビームを避けつつ思い切りクナイをシールドにたたきつけます。

このシールド、銃にはめちゃくちゃ強いですが近接攻撃には滅法弱いです。

弱…あれ?

 

「うっ…か、かたぃぃっっ…!!ふんすっ!!」

 

一枚割り砕けましたが、思ったよりシールドが固かったです。

新聞紙とダンボールくらい違いがあります。これが1枚2枚なら大した差ではないですが大量ですからまぁ大変。

 

「フランカおねえちゃんがいればっ…」

 

そう、お姉ちゃんがいれば手を繋いで火を貸してもらえる…なんかタバコみたいですねアブナイ。

光熱魔法を貸してもらって燃えるクナイが出来て多分簡単に切れるんですが。

 

―――ピロロロロ

 

ああもう、これ相手のシールド生成の速度に追いついているんでしょうか。

くっそお姉ちゃんがいればこんな奴相手に苦戦なんか…びくんびくん。

 

 

『あんな、クリスのような子供が戦っているのに…見ている事しかッ…やはり私なんて…』

『……おい、堅物。もういいだろ。もう一人で肩張るのはやめろって…』

 

 

お?これはアレですね!ずっと憧れてたシチュエーションですよきっと!

会話イベントを背後に流しつつ、大空で戦闘するステージですよコレ!!!

うおおぉぉぉぉ燃えてきたぁぁぁネウロイがなんぼのもんじゃぁぁぁ!!

 

 

『ッッ!!?貴様に何が……なにがわかるぅッッ!!』

『はぁ…姉ってのは皆こうなのか?ルッキーニもお前と同じだったよ。』

『な…少尉が?』

 

うおおお三回転半宙返りぃぃ!!左捻り込み!!剣一閃!!…はムリダナ。

 

 

『アイツもお前と一緒でずっと一人で悩んでたんだ…妹の為に、妹の為にってずっと不安も、恐怖も一人で抱え込んでな』

『……違う、私は彼女のような姉では…』

『違うもんかよ、一緒だ。どっちも優しくて、どっちも妹のことを大事にしてるけど…どっちも不器用なだけさ。』

『リベ…リアン…』

 

って言うかマルタから強奪してきたクナイが残り一本しかないんですけど折れそう。

そういえば坂本さんが扶桑からお姉ちゃん用の扶桑刀と私のクナイを取り寄せてくれてるらしいです楽しみ~。

 

 

『だが…もう、私には、何もできない…』

『はっ、アンタ一人ならな。でも違うだろ?ほらミーナ隊長がしょっちゅう言ってるじゃないか。』

『…「私達は家族」。か?』

『なんだ、よくわかってんじゃん。……アタシで良ければ手伝うぜ、堅物。』

『…はは、十分だッッ!!』

 

 

―――ガキンッ!!

 

ん、やばいですね、ついに最後のクナイが折れました。もう武器がありません。

後はもう救援が来るまでコイツを引き付けるしかないですね。

まぁそれまで魔法力が続けばの話ですが…今回は何回死ぬかな。

 

 

『エイミー!!悪いがソイツを引き付けてくれッ!!』

 

 

ん、シャーリーさんの声…お話が終わったのでしょうか。

 

『コイツの戦い方は見させてもらった!!まさか殴る斬るが攻略法とはなッッ!!』

 

地上から…す、凄まじい通常の3倍くらいの速さで駆けあがってくる…シャーリーさん!!

そしてそれに抱えられているのは凛とした顔のバルクホルンさんっ!!

 

『最大加速でぶつかるぞっ!!思い切りその拳骨を叩き込んでやれッッ!!』

 

見れば二人とも銃も投げ捨てて身軽な状態です。

そして凄まじいスピードを殺さないまま振り上げられた拳が。

幾重にも重ねられたシールド越しに、ネウロイのどてっぱらに思い切り叩きつけられて――――。

 

 

 

『『うおおおおぉぉぉおおおおッッッッッ―――――!!!!』』

 

 

――――ブゲメグジャアァァァッッ!!!

 

 

 

なんかもう、それはそれはスゴイ光景でした。

多分6重くらいシールドで防がれてたのをティッシュかのように豪快に消し飛ばし。

更にはその装甲すら一瞬で飴細工のように砕け散り―――露出したコアなんてもうその衝撃波だけで粉々になったのですから。

 

「しゅご…い…」

 

思わず舌足らずな声で驚いてしまうほどそれはすんごい光景で…。

 

 

『ははははは!!!今のスッゲー気持ちよかったな!!風船みたいに弾き飛んじまったよ!!』

『ははっ…まぁ、悪くなかったな…』

 

 

そしてその白いネウロイの残骸の雨の向こうには、大声を上げるシャーリーさんとバルクホルンさんの笑顔。

 

ーーーそこには先日散らし合っていた火花など見えず、どこまでも清々しい爽やかな空気が満ちていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…扶桑の空気は良いですね。古臭く埃かぶったモノだと思ってましたが。」

 

美しい緑の木々に埋められた扶桑の山の光景。

それをさっき港町で買った馬で駆けながらぼんやりと眺めていた。

 

「馬なんてよく乗れますねぇ、ソレお股が痛くなっちゃいません?」

「…あなたがそのストライカーを除けてくれれば私もそのジープに乗れるのですがァ?」

「ストライカーはウィッチの魂です、手放すなんてとんでもない(キリッ)」

 

こんの隣で運転する金髪眼鏡は何を思ってわざわざ付いてきたと言うのだ。

勿論私が扶桑に何しに来たかなど伝えてないし、エイミーが言った未来のことも教えてないのに。

もしや扶桑の謎兵器に釣られてやって来たとでも言うのか。

 

 

「ん…中佐中佐、なんでしょうアレ」

「はぁ?また焼きポテト屋でも見つけましたか」

「違いますよ。女の子が熊に襲われそうになってません?」

「……ウルスラ、止まってなさい。」

 

 

見れば何だあれは。

扶桑の独特な学生服を着た少女二人が...熊の前で小さな熊を捕まえようとしている?

何を馬鹿で阿呆なことを。命が惜しくないのか。

 

「グルルルルゥゥゥ...」

「あ、わわ、危ないよよしかちゃん...」

「ううん、でもこの子のケガを治してあげなきゃ...!!」

 

よく分からない事を呟いてるがこの少女達には目の前のクマが見えてないのか?

 

「グギャァァァ――――」

「!!きゃああぁぁ―――」

 

 

 

「―――『止まりなさい』」

 

 

「...え...」

 

 

使い魔を顕現させ、その熊の前に立ち塞がり《催眠》の眼で相手を見据える。

 

「ぐ...る」

「…『落ち着きなさい。』『静かになりなさい。』」

 

さっさと荒ぶる熊を鎮静化させると、後ろで子熊の元に跪く少女達を見据えた。

 

「まったく何をして……おや?」

「くぅん……まぅっまぅ♪」

「あはっ、良かったぁ…!!ちゃんとなおせたぁ!!」

 

血だまり、今塞がれたばかりの傷跡。そして目の前の少女に懐く子熊。

そして犬の耳と尻尾を生やした、何とも地味で大人しめな少女――――。

 

なるほどそういうコトか。

どうやらこの子は中々珍しいとされる治癒魔法の使い手らしい。

それで傷ついた子熊を治そうと近づいたのをこの親熊に勘違いされたといった所か。

 

 

「あ、あのっ、助けて頂いてありがとうございます。リベリオンのウィッチさんっ!!」

「ん…良く知っていますね。この制服がリベリオンだと。」

「はい、私、ウィッチに憧れてて…えへへ」

 

青みがかった長髪の少女が笑顔で嬉しそうに語りかけてくる。

 

 

「…あなた、治癒魔法が使えるのですね、珍しい。だったら尚の事命を大事にしなさい。まったく。」

「あ、あはは…ごめんなさい。私、傷ついてる人を見るとどうしてもじっとしてられなくて…。」

 

犬耳の大人しそうな少女は立ち上がり、こっちを向いて笑顔を向けた。

 

 

 

 

「ありがとうございます!わたしっ、宮藤芳佳と言いますっ!!」

 

 

 

 

「……みやふじ、よしか…?」

 

 

…何という偶然だろうか。

まさかこの大人しそうな地味な少女は、私が探している扶桑のウィッチと同じ名前だったとは。

 

まぁ、こんなどこにでもいそうな少女がネウロイの巣を破壊するような天才な訳がないか。

きっと偶々同名なだけだろう。

 

 

「なるほど宮藤さんですか。ところで私、〇〇と言う村を探しているのですが…」




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黒い天使/性悪天使

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「おいおいジッとしてろってルッキーニ、あらえねぇだろ」

「うじゃじゃー!!くすぐったいー!!」

 

「ほらエイミー、しっかりぎゅっと目をつぶってろ、染みてしまうだろ」

「は…はい///」

 

私の頭をわしゃわしゃと洗ってくれるトゥルーデお姉ちゃ…げふんげふん!トゥルーデさん!

そして隣では貴重な髪下ろしお姉ちゃんを洗うシャーリーマm…シャーリーさん!!!!

 

「えへへ~!!洗われるの久しぶりー!最近いっつもエイミーのカラダ洗ってばっかだったから~♪」

「おいリベリアン、そっちのブラシを貸してくれ」

「んっ、ほらよ。…はははおいエイミー!!耳と尻尾でちまってんぞ!!」

「ひゃっ、えぇぇっ!?使い魔がかってにぃ…」

 

あぁ4人でのお風呂楽しい…幸せ…。

あの初めてこの基地で出撃して以来、私とお姉ちゃんはシャーリーさんとバルクホルンさんにお世話されることが増えました。

お姉ちゃんも前にも増して無邪気そうに笑う事が増えて私も幸せですっ。

シャーリーさんとバルクホルンさんのお二人の仲も大分よくなったようで…あぁよかったぁ。

 

「おーい頭乾かすからじっとしてろよー」

「うにゃー!!光熱まほーでかわかしゅー!!」

「ほら足を上げろ、ズボン穿かせてやるから」

「////……ぅ、ん…///」

 

なんかもう、トゥルーデお姉ち…違う!!バルクホルンさんが超過保護で恥ずかしい///

 

「あははートゥルーデとシャーリー。二人そろってママみたいだねぇ」

 

そんな無邪気に私達の姿を笑うのはすっぽんぽんのハルトマンさん。

いや脱衣所だから別に間違ってはないんですけどぉ。

 

「おいハルトマンッッ!!この子達に悪影響だろうが、タオルを巻けぇっ!!」

「このセクシーギャルのスーパーボディーはちょっと子供には刺激が強すぎるかな?あははー♪」

 

そのぺったんこの身体をくるくる回転させ近づいてきたハルトマンさんが私に近づいてきて。

 

 

「――――ありがとね。トゥルーデを守ってくれて。」

 

 

そう耳元で小さく囁きました。

 

「……ううん。わたし、なにもしてません。」

 

その返事にニコリと天使のような笑みを返してくれると、彼女は浴場へ駆けて行ってしまいました。

そしてそれを…どこか穏やかな目で見送るバルクホルンさん。

 

「…もしかしてきこえてました?」

「ふっ、さぁな。…さあ、さっさと服を着るぞ、風邪でも引いたら身体に障るからな。ほらバンザイしろ。」

「だ、だからひとりで着られますってぇ///」

 

結局また今日のお風呂も、着替えから何まで全部優しいトゥルーデお姉ち…トゥルーデさんにされるがままでした…///

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃ…わ、わわ…」

「…絶対に声を出すな。無理そうなら私に顔を押し付けておきなさい」

 

あぁ畜生、面倒くさい面倒くさい。

私は今扶桑の田舎のどこともしれない森の奥で宮藤芳佳を胸に抱きしめ息を潜めている。

視線の先にいるのは―――誰とも知れぬコート姿の男たち。それも4,5人。

 

(やはり狙いは私か。下手な尾行だとは思ったが)

 

あの後わたしは学生の少女二人を連れて目的のウィッチがいる村まで道案内を頼んでいた。

片方の少女がウィッチに詳しく、私のコトを知っていてくれたから話も早かった。

しかしそれも遠くからつけてくる車に気付くまでだったが。

 

「…絶対に逃がすな。そして生け捕りにしろ。殺さなければ銃を使っても構わん」

「はっ。」

 

コイツらは恐らく宮菱だろうか、何ともまぁ平和な扶桑で手荒な手段を選んだものだ。

二手に分かれたウルスラの方には目もくれずコッチに来た辺り、やはり目的は私。

 

「ふっ…んんっ///んふぅ…♪はぅぅん…///」

 

まったくこの少女には申し訳ないことをした。

見るとどこか興奮した様子で頬を赤らめ私の胸の中でもぞもぞしているではないか。

まぁこんな状況に陥ればパニックになるのも無理はない。さっさと片づけるか。

 

―――ガサッ。

 

「んおっ!?動くなッッーーーーーふげらっ!」

「へぇっ?―――おごぉっ!?」

 

投石の音を勘違いしたマヌケ二人の膝を蹴り跪いたところで首を捩じる。ゴキッとか聞こえたが知ったことか。

それになんだコイツらの銃?…二十六年式拳銃か?オモチャですね。

 

「おっ、い、いたぞっ!!うごく…へぎゃぁぁっ!?」

「おぎぃぃっ!?」

 

―――ドンッ。ドンッ。

 

派手な音の割には低い威力の弾を膝に撃ち込む。

しかしなんだこのトロさは、多分まともに訓練されてる奴らではありませんね。

 

「ひっ、きゃあああぁぁっ!!やめてぇっ、はなしてっっ!!」

 

残りの一人を探していたが、聞こえてきたのはさっきの宮藤芳佳の悲鳴…は?

見れば何と彼女を肩に抱えた男が逃げ出そうとしているではないか。

 

「はは!!あばよクソリベリアーーーーぎゃぁぁっ!!?」

 

は?は?意味が分からない。そしたら次の瞬間にはその男の悲鳴が…。

 

 

「ぐるるぅっ…ぎゃう。」

「わっ…ありがとう!!助けてくれたの!?」

 

茂みを掻き分けるとそこには何と先ほどのあの熊と…彼女が命を助けた子熊がいたではないか。

見れば二匹とも宮藤芳佳のニオイをかいだり舐めたりしてて微笑ましい。

 

「はぁ良かった。ちょうどいい、ちょっとその熊の近くにいなさ…って何をしてるのです!?」

 

―――パァァァ。

 

折角熊が気絶させ血を流し倒れている男を、なんと彼女は治癒し始めたではないか!?

 

「ちょ、ちょっとやめなさい!ソイツはあなたを理由は知りませんが誘拐しようと―――」

「わかってます、でも私、目の前で傷ついてる人を放ってなんておけません!!」

「………。」

 

凄まじい。平和ボケもここまで来たら寧ろ尊敬さえ覚える。

薄汚い私とは真逆のタイプの人間だ…はぁもう好きにしなさい。

 

「まぁ巻き込んだのは私ですからね。好きになさい…どれどれ。」

 

きっとこの子が私の関係者だと勘違いしてさらったのだろうか。

まぁ何にせよまずはコイツらの持ち物を漁って何処の人間かの手がかりを探さねば…。

おや内ポケットに何かが…写真か。

 

 

一体どんな私の顔が撮られてるのか見てやろう――――――は?

 

 

「…ふぅっ、これで血は…あれ?どうかしたんですか?」

 

宮藤芳佳の顔を何度も見る。

そして次に()()()()()()()()()()()を何度も見る。

 

「あ、あのぅ…わたしの顔、何かついてますか?」

 

何度も何度も見る。念のため魔力まで使って。

いやでも間違いない、間違っていない…!!

 

 

「――――どうして()()()()()()をコイツらが持っているのです?宮藤芳佳。」

 

 

その写真に写っていたのは、満面の笑みを浮かべる扶桑の少女のあどけない姿だった。

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございます。芳佳を助けてくださり。なんとお礼を言えばよいか…」

「いいえ、お気になさらず。私のような者といたせいで目立ってしまったからかも知れませんし」

 

あの後迎えに来てくれたウルスラと共に彼女の家であるらしい診療所まで足を運んだ。

しかしまぁ妙齢になっても魔力を失わない家系とは…ウルスラが変な道具取り出したのを慌てて制しましたが。

それよりも一番の驚きは私が探していた最強のウィッチ。

あのネウロイの巣を何度も撃破するというウィッチこそこの目の前の大人しい少女、宮藤芳佳だったのだ。

 

「心当たりはありませんか?宮藤芳佳さんを誘拐するような人間達や組織に。」

「いえ…まったく。特にこの辺りで今まで怪しい人間も見かけたことは…」

「ふぅむ…。一体全体私ならともかく何故彼女を。」

 

未来の事は、エイミーの語った事はこの世界で知るのは私だけだ。

つまり彼女を狙う理由がある存在など私くらいしかいない。

 

「私も宮藤芳佳さんのことを探して扶桑まで来たのです。実は私は欧州でウィッチ用兵装の研究をしており、ぜひ彼女の治癒魔法を一度見せて頂けないかと。」

「えっそうだったんですk…そうなんですよ。」

 

「話合わせろ」と殺意を込めた視線を送ると、出されたお茶を飲んでたウルスラが同意する。

 

「えぇえええっ!?そ、そんな…私なんかの為にわざわざ外国から!?」

「はい、しかしそれどころでは無くなってしまいましたね…。」

 

今回は彼女をウィッチ養成学校にでも誘導し、適当に育ったところに息をかけようと企んでたのだ。

それだけなのにどうしてこうなった。

遠い眼でぼんやりと扶桑の民家の中に視線を這わせ――――一通の手紙が転がっていた。

 

「その手紙…宮藤一郎!?あの宮藤博士から!?」

「えっ…はい、昨日いきなり届いて…おかしいですよね。お父さんはもう、ブリタニアで…もう。」

「きっと昔に出されたのが検閲で遅れたんだと思います。だって一郎さんは…。」

 

そう、偉大な研究を成し遂げた彼はブリタニアでの共同研究の際、戦火の犠牲になったはず。

 

 

「―――今、思いつきました。宮藤芳佳さんを誘拐しようとする相手に心当たりがあります。」

「ええっ!?ほ、ホントにこんな私なんかを?」

「本当ですか?」

「…言いなさい、ウルスラ。」

 

ずず、とお茶を飲み一呼吸してから言葉を続ける。

 

「こんな噂をご存じですか?―――『宮藤博士は生き延び、欧州の何処かで今もストライカーを研究している』」

「…ッッッ!!おとうさんが、生きてる!!?詳しく教えて下さいッッ!!」

 

それなら私も少し聞いたことがある。余りにも意味不明でつまらない噂だったため調べもしていなかったが。

 

「いえ、本当にただそれだけの噂です。真偽はおろか何処から出た話かすらも分かりません。」

「…っ。お父さん…。」

 

なるほど、つまりウルスラはこう言いたいのか。

 

「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と?」

「宮藤博士は間違いなく世紀の科学者です。もし生きているのなら手に入れようとする勢力は幾らでもあるのではないでしょうか。」

 

ふむ、と顎に手を添える。

オラーシャか?いや彼らのやり方はもっとスマートだ。今回の手法はずさんすぎる。

だったらブリタニア、ガリア、ダキア…いや最悪リベリオンの勢力の可能性すらある。

 

―――こうなれば仕方ない。欧州に行って探ってみるか。

 

「ウルスラ、帰りますよ。ブリタニアまでは行くからそっからは自分で戻りなさい。」

「あ、そこまでは送って下さるんですね。」

 

立ち上がりお茶の礼をすると、ウルスラを連れて扉まで向かう。

 

「あの!芳佳を助けて頂き本当にありがとうございました…大したお礼も出来ずに…」

「構いません。それよりもしばらくは遠出を控えてください、警察も買収されてないとは限りません。あと私の部下も数名扶桑に置いておくので何かあればそちらまで。」

 

深々と頭を下げる宮藤芳佳の母と祖母。

何ともまぁこんな寂しい所に住んでいるというのに礼儀が素晴らしい。

二人とも穏やかで質素な物腰の中にも凛とした貴族のような品位が感じられる、これが扶桑か。

 

 

「―――あっ、あのっ。待って下さいリリーさんッッ!!」

 

 

そこに背後からかけられる、宮藤芳佳の声。

 

「お願いがあるんですっ!あの、こんなことを頼んでしまうのはおかしいかも知れないんですけどっ!!」

「…出来る事なら構いませんよ、言ってごらんなさい。」

 

そうだ、この子に恩を売っておくのも悪くない。もともと繋がりを持つ目的で来たのだから。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!?」

 

 

 

「…え?」

 

だからと言って、流石にこれは予想外でしたが。

 

 

 

 

 

 

 

『…予想外だった。まさか我々に先んじてリベリアン風情が彼女に目をつけるなど』

『しかも例の薄汚いコウモリ…性悪女の仕業とはまったく穢らわしい!!』

 

耳に当てた無線の向こうでは欧州にいる上の人間の苛立った声が聞こえる。

 

 

―――恐らく彼女はリベリアンに連れられ、欧州に向かうものと思われます。

『行き先は…』

『恐らくはロマーニャかブリタニアだろう。だがブリタニアに向かわれれば我々も派手には動けん。』

 

―――ブリタニアにいる同志は。

『ブリタニアに魂を売った逆賊など信用に足り得るものか!』

『そうだ、我らこそが正当であるにも関わらず、アイツらは自分たちこそ正当だと騙る売国奴だ。』

 

―――なら私達がブリタニアに向かいます。そこで彼女を。

『ああ、そうしろ。これは義務だ。我々の手で為されてこそ意義がある。』

『下品なリベリアンや家無しのカールスラント人に頼るわけにはいかん。祖国奪還は我々の手で為さねばならんのだ。』

『そのためにはどんな手段も肯定される。大義の前の犠牲だよ。』

 

 

 

 

 

―――ええ。()()()()()()()




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謀略の欧州
撮影会


「…ん…えっと、この翠色のをまぶたに…」

「そうそう、指で摘まむようにして…うん、上手よ」

 

おめかしって難しい、女の子っていつもこんなに大変なんですね?

はい、どうも皆さんこんにちは。アマンダ・M・プラマー軍曹ですっ!

 

現在私は501の隊長にして現上司であるミーナ隊長から、絶賛メイクのご指導中でございます。

 

「まったくリリー中佐も子煩悩というか…素顔で写真NGなんて。」

 

はい!実はなんと私、ブリタニア空軍広報からの命により全世界デビューすることになりました!

ところで察しの良い方はお気づきになるかと思いますが、私の元々の正体ってなんでしたっけ?

 

そうです宮菱工業のご令嬢、創業者竹田…なんとかさんのお孫さん、竹田美喜が本来の私です!

結構顔まで傷や火傷跡まみれといえ、見る人が見れば『ん?』となること請け負いなので。

今扶桑から帰ってきてるリリー様から『メイクしろ、髪染めろ、見えづらい夜空撮影にしろ!』との条件を提示されました。

 

 

「しかしわたしの写真なんていまさら見たがる人いるんでしょうか?」

 

実はマルタ防衛戦での報道の際、私に関しては一切写真が公開されてませんでした。

『ルッキーニ少尉と共に戦った幼いウィッチ』として名前は大量に出てたもののリリー様が全部もみ消してたみたいです。

 

あとストームウィッチーズの隊長の…たしかケイさん?が撮った写真も全部補給物資と取引したみたいですし。

 

 

「きっとたくさん居るわ。ルッキーニさんとエイミーさん…あなた達二人は人類にとっての希望だもの。」

「でも、わたし達よりスゴいエースの人なんていっぱいいます。世界1位(マルセイユさん)とか、黒い悪魔(ハルトマンさん)とか。」

 

前者はマルタの最後、後者はここでの訓練で飛行を見たが正直意味☆不明でした。

お姉ちゃんの機動でさえ目ですら追えない時あるのにその二人なんてもう…うん。

 

 

「…ビフレスト作戦、末期のカールスラントにはその凄いエースのウィッチ達がたくさんいたの。彼女達はそれはもう素晴らしい活躍をしたわ」

 

どこか遠い眼で語るミーナさん。

 

「でもね、彼女達がどれだけ凄まじい戦果を挙げても結局ベルリンを守ることは出来なかった。」

「あ…。」

 

そう呟くミーナさんの目はここではない何処か。きっと奪われた故郷を見ているのでしょうか。

 

「だからこそ人類にとっての希望の象徴なのよ。ネウロイの侵略から人類の領土を守り抜いて撃退したアナタ達は。」

 

私のインナーカラーを入れた長髪をそっと撫でる優しい手。

 

「そんな二人を501に迎え入れられて本当に誇らしいわ、ありがとう。エイミーさん。」

「は、はい、写真撮影もがんばりますっ」

「ふふ、張り切りすぎないようにね。」

 

き、希望の象徴ですか…///

なんだかフランカお姉ちゃんの後ろを付いてきただけなのに凄いところまで来てしまいましたね。

 

 

 

あ、メイク終わりましたね。顔の表面をブラシで撫でられる感触はこそばゆかったです///

 

「わ、うわぁぁ///」

「あら…素敵よエイミーさん♪このままお嬢様達の舞踏会に出席できるわね♪」

 

美少女…美ょうじょがその姿見に向こうにいました。

 

綺麗で整ったロングヘアーの裏側には翠色のインナーカラーが入れられて。

何か不思議な目薬をさされた大きな幼い瞳はお姉ちゃんのとおそろいのエメラルドのような宝石色に。

ぱっちりとした目元には瞳、髪と同じ翠色のアイシャドウが少し濃いめに入れられていますし。

キッチリと整えられたシャーリーさんと御揃いのリベリオン軍服ですが、胸元がネクタイではなく可愛らしいリボンに。

 

そしていつもスースーして羞恥心がすごかったズボンの上は薄い黒タイツ…じゃないサーニャさんのようなベルト。

でもこれ上からズボンのラインと、()()()()()()()()()()()()()()の縞々模様が浮き出て….///

 

 

「は、はわぁ…///これ、が…わたしぃ…/////」

 

ゲームの機能により思考や口調、そして姿が幼女そのものになってるとはいえ…私は本来は成人で男性です…///

なのにこんな、こんなお人形さんみたいなぁ…///

 

「よしっ、それじゃあ折角おめかししたんだし、皆に見てもらいにいきましょうか♪」

「…え?」

 

ちょっと待って下さい、夜空で写真撮影するだけじゃないんですか?

 

「何言ってるの、そんな可愛らしくなったんだから勿体ないでしょ?ほらっ♪」

 

――――がしぃぃっ

 

ぎゃあああ!!!助けてー!!担がれたら後ろからズボン丸見えなんですけどぉぉぉぉ////

 

 

 

 

 

 

今頃きっとエイミーは夜空で広報ウィッチに囲まれながらパシャパシャされているに違いない。

あの幼い割には恥ずかしがりやなウィッチがどんな反応をしてるか見てみたかったが。

 

「そういえば今夜はプラマー軍曹のお披露目会でしたね。楽しみですか?」

「ええ、きっと今頃501基地には世界中のマスコミが押しかけていることでしょう。英雄である『マルタの女神』の相棒、素顔すら明かされていない『ニンジャ』を取材できる機会ですもの。」

 

ああ本当に人の噂とは面白い。

まさか写真をもみ消したら『彼女はニンジャだ。だから素顔を見せないんだ』なんて言う噂に変わるとは。

 

「えっ、ニンジャのウィッチなんているんですかっ!?すごいっ、みっちゃんなら知ってるのかなぁ!」

 

無邪気に輸送機の窓から空をキラキラした目で見てた彼女、宮藤芳佳が振り向く。

大したタマだ、初めて乗った者は大抵震えて窓の景色など見れやしないのだが。

 

「…随分と楽しそうですねぇ。空は怖くないのですか?」

「あ、いえ、むしろちょっとワクワクするっていうか…えへへ」

「宮藤さんはウィッチに向いているかもしれませんね。」

 

ウルスラが呟いた言葉にぎょっとした風に反応する彼女。

 

「わ、私が、ウィッチにっ!?」

「ええ、魔法力も申し分ありませんし、その治癒魔法はきっと何処の戦場でも必要とされるはずです。どうでしょう、ぜひ我がカールスラントで―――」

 

「―――ごめんなさい、私ウィッチにはなりません。戦争は、イヤです…」

 

おや、何か思う所があったのだろうか。その言葉は今までで一番強い意思が感じられた。

しかしこんな考えを持っていたか。エイミーの言ったとおりウィッチにするには坂本少佐に会わせなければならないかもしれない。

 

「そうでしたか、こちらこそ失礼でしたね。申し訳ありません。」

「い、いえっ!そんな、でも私なんかがウィッチになっても、何も出来ないと思います。」

 

ふん。扶桑人は自分を卑下する悪癖持ちが多いと聞いたがどうやら本当のようだ。

 

「無理に勧める気はありませんが、ウィッチになりたければいつでも言いなさい。アナタにできることは必ずあるはずです。」

「わたしに、できること…?」

「それくらい自分で考えなさい。」

 

―――ガタンッ。

 

「ん。」「お。」

「うわぁぁぁっ!?―――んむぐぅぅぅ///ほわぁ…♪」

 

おや乱気流にでもひっかかったか。輸送機が少しだけ揺れてバランスが。

その結果半立ちだった宮藤芳佳は私の胸に倒れ込んでしまい、もがいて混乱している。

 

「やれやれ、この程度でパニックになっていてはウィッチなど無理そうですね」

「え、えへへぇ…♪ごめんなさぃぃ…///ふがふが♡」

 

窓に映る夜空に目をやる。

この夜空の下を、今も私の今の部下達はきっと駆けていることだろう。

 

 

 

―――しかし何だ。このイヤな感じは。

 

 

 

 

 

 

 

「うじゃ~…ねみゅいよぉ…」

「お姉ちゃん…私に抱きついて寝る気まんまんでしょ…」

 

はい、フランカお姉ちゃんと夜空の撮影会なうです。

ですが二人っきりではありません。大量の報道者を乗せた輸送機が数機、そしてソレを護衛するためにペリーヌさん。

そして総合監視としてナイトウィッチのサーニャさん、そしてその補佐のエイラさんが離れた所で飛んでいます。

 

「でもかわいいぃぃ!!お人形さんみたいだしいいにおいすりゅーっっ♪♪」

「ふやぁ///くしゅぐったいよぉ…///」

 

お姉ちゃんがおめかしした私に抱きつきスリスリしてきます…ああ生きててよかった…♪

おひさまのようなニオイに包まれてよだれがたれそうですあぶない。

 

―――パシャパシャ!

 

あーやばいっ!!お姉ちゃんとの百合百合が写真に収められてしまうっ!?

 

「んねぇエイミー。こうやって夜空をとんでるとさーぁ、はじめてあった時のこと思い出さにゃい?」

「シチリア上空のこと?うん、あの時のお姉ちゃん、ホントにカッコよかったぁ…♪あ、ううん!今でもすごくカッコいいよ!?」

「にゃははははははは!!」

 

抱きついてじゃれついてくるフランカお姉ちゃんの体温。

それは何度も死の直前の寒さを味わってる私にとってはホントに尊いモノです。

 

「勇気だして飛び込んでよかったぁ、だってエイミーにあえたんだもん。」

 

その無邪気な八重歯を覗かせる笑顔は本当に最高にカッコよくて綺麗で…はぁルッキーニお姉ちゃんしか勝たん。

 

 

 

『すいません、二人揃っての笑顔をお願いしてもよろしいでしょうか?』

 

不意にかけられる声。これは輸送機の報道者からだろうか。

その声に答えるようにお姉ちゃんは私を抱きしめ「いぇいっ♪」とピースサインを決めたので私もそれに倣う。

ほっぺたが密着するその感覚に赤くなりながら、パシャパシャとフラッシュが炊かれた…ああこれが全世界に見られるんだぁ…///

 

『次はプラマー軍曹の単独での写真を撮らせてもらっていいですか?満月をバックに!!』

『―――待て。私達から離れすぎダ。許容できないんダナ。』

 

そこに待ったをかけるエイラさん。見るともう結構離れた所にいるらしい。

 

『お願いします!せっかくの『夜空のニンジャ』の写真なのですから、せめて一枚だけでも!!』

 

 

 

「にひひ♪()()()()()()()だってぇ~♪よかったねぇかっくいい名前もらえて!!」

 

それを悪意0の笑顔でお姉ちゃんは言いますけど…ニンジャじゃないんですけどぉ。

っていうか一緒に居て分かりましたが結構お姉ちゃん、少年心的なモノを持っていてボーイッシュな所もありますよね。推せる。

 

『…一枚だけです。撮影次第すぐに反転して下さい。この空域はもうネウロイが現れてもおかしくありません。』

 

お、サーニャさんからお許しが出ました。

えっなに?『クナイを構えてる姿を撮らせてくれ』?ま、マジすかぁ。

 

「フランカおねえちゃん、ちょっといってくるね。」

「カッコよくねーっ!!あたしもあとでもらうんだから~っ!!」

 

さて、夜間用に黒く塗装された零を浮上させて満月の近くにでます。

しかし流石にちょっと寒いですね、シャーリーさんとバルクホルンさんが編んでくれたマフラーが無ければガクブルでした。

 

身を翻しポーズを取ります。とは言ってもキリっとしたものではありません。

普通にクナイを懐から抜刀し、満月を背にいつも通り逆手で構えるだけです。

 

―――パシャ。パシャ。ビュグンッッ!!

 

黒いマフラーがたなびいてるのが丁度いいカンジになってくれてそうですなぁ。写真がちょっと楽しみです。

 

おやそれにしてもこの時代のカメラって変な音するんですね。

それに何かフラッシュも赤いしこれはまるで―――――。

 

 

『―――ネウロイですわッッ!!!』

 

 

…うそでしょ?

 

 

 

 

 

撮影は上手くいっているだろうか。

501の隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは基地に押しかけるマスコミの対応に追われる一般兵達を眺めながらふと思った。

 

(サーニャさんとエイラさんがいるし、ペリーヌさんまでいるのだから最悪の事態はないと思うけど…)

 

それだけでなく、撮影対象のルッキーニとエイミーはあの幼い年にして夜間飛行に習熟している。

特にエイミーに関してはその慣れの程は凄まじい、寧ろその動きは昼間より生き生きとさえしているのだから。

 

 

「どうかしたのかねヴィルケ中佐?栄えある501がここまで注目される事に嬉しくて言葉も出ずといったところかな?」

 

 

このねっとりとした厭らしく、纏わり付く蛇のような声は―――。

 

「…わざわざこんな深夜にご足労頂き恐縮です、マロニー空軍大将」

 

「はは。私もぜひ英雄のウィッチたちの晴れ舞台に立ち会いたくてねぇ。しかし凄い数の報道陣だ。」

 

「ええ。そうですね。」

 

まったく―――どの口が言っているのだろうか。

各国からの彼女達宛の支援物資を言い訳に予算の削減を示してきたのはその口だっただろうに。

 

 

「しかし流石あの高名なリリー技術中佐の愛子達だ、ここまでブリタニアにリベリオンのマスコミが殺到するとは信じられん。」

 

撮影後の取材に備え基地の滑走路付近を埋め尽くす報道陣達。

その国の比率は当然ブリタニアが多いが、この国では余り快く思われていないリベリオンが多いのも意外だった。

 

 

「ああそうだ。事後報告になってしまってすまないが……。」

「なんでしょうか?」

「私の新しい友人達に()()()()()()()()()()がいてね。入り口で止められていたのを入れてしまったのだよ。」

「…分かりました。後ほど確認しておきます。」

 

ガリアの?…まぁ基地の警備と秘密保全は万全にしてある。

少しくらい記者が増えたところで余り大勢に影響はないはずだ。

 

 

そう、基地の警備に関しては。だが。

 

「…美緒、聞こえる?ええ、サーニャさんに連絡してほしいの、内容は――――」

 

何故かざわめく胸を押さえ、早足でその場を去る。

 

 

――――こういう嫌な予感は、当たりがちなのよね。

 

 

 

 

 

 

『こっちの2つは守るから、そっちの1こはおねがいーっっ!!』

「だいじょうぶ、まかせて。」

 

降り注ぐビームの嵐をいなしながら無線に応答を返す。

思ったよりも数が多い、サーニャさんやペリーヌさん達も目前のネウロイの対処に手こずっているらしい。

 

「…チュートリアルみたい」

 

投擲したクナイが輸送機に放たれた閃光を弾き飛ばす。

しかしもっさん…ごほん坂本さんが扶桑から取り寄せてくれたクナイは素晴らしい。

よほど腕の良い職人が作ってくれたのか微塵も割れたり折れる気配もない。

 

これなら負ける気がしない。クナイだって大量にあるし。

 

この万全の体制がもっと前から揃ってれば…。

 

 

―――ピロピロ。

 

「…ん?」

 

親のアラートより聞いた未来予知アラートの音。

しかし方向がおかしい、どうして輸送機のある背後から?

 

でも大丈夫だ。この矢印の大きさならきっと細いビームだ、いなせる。

 

 

 

 

――――――パンッ。パンッ。

 

 

 

 

「…え」

 

でも、その攻撃はビームではなかった。

ビームならば確実に逸らせていたハズのパリィ。

しかし私に背後から撃ち込まれたのは、()()だった。

 

びしゅっ、ぐしゅっ。と、かつてあのチュートリアルで数回だけ味わった、銃弾が身体の肉に抉りこむ感覚。

 

「あ……」

 

せっかくの卸したての軍服が、ミーナ隊長が綺麗に施してくれたメイクが赤い血にまみれていく。

 

そして久しぶりに味わう。夜空から海面へ叩きつけられる奇妙な浮遊感を味わい――――。

 

 

 

私の意識は、冷たい眠りにゆっくりと包まれていった。




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ヘルキャット

TS作品に低評価を付けて回ってる方々に何故か大変ご注目頂いてるようで、最近☆1や☆2の低評価をたくさん頂いてちょっと悲しいです...
もしよろしければページ下部から皆様の評価お願いします…


格納庫で帰還したサーニャとエイラ両名からミーナへと告げられた報告は、予想していたモノよりも遥かに酷いモノだった。

プラマー軍曹が行方不明、更には彼女に守られていた輸送機の行方まで分からないとは。

 

「ごめんなさい、私のせいです。私がもっと早くネウロイに気づけていれば...」

「っ、サーニャのせいじゃナイ!アイツらが止めたのに勝手に離れたからダ!」

 

クロステルマン中尉とルッキーニ少尉が引き続き捜索に当たってくれているがネウロイも多い地域な上、暗闇では困難を極めるだろう。

坂本少佐とビショップ軍曹がたった今捜索隊の増援として出撃したが...。

 

 

「離せっリベリアン!!貴様は何とも思わんのか、エイミーがMIAなんだぞ!!?」

「落ち着けよ!アイツには未来予知があるんだ、最悪のことにはなってねーって。なぁハルトマン」

「大丈夫だってトゥルーデ、私達だって墜落の1回や2回してきたじゃん。あの子ならきっと平気だよ。」

 

先程から荒ぶるバルクホルンを必死に抑制してくれているシャーリーとハルトマンには言葉もない。

そうだ、たとえ家族の捜索とはいえここは最前線の基地。

万が一の為にこれ以上ここからウィッチを割くわけにはいかない。

 

 

 

 

「英雄も所詮は子供か、これだから私はアレほど反対したのだ。若い命をこんな最前線に配置するなど...」

 

滑走路に集うウィッチ達の元に聞こえてきた陰険な声―――マロニー空軍大将とそのお供。

見ればその顔達はこんな時だと言うのに醜くニヤついていた。

 

「失態だなミーナ中佐、君の部下のエースウィッチともあろう者が輸送機一つ守れずたかが小規模のネウロイに殺されるとは。」

「―――ッッッ!!!!」

 

バルクホルンが今にもそのニヤけた顔をぶん殴ろうとしたのを必死にシャーリーが抑えている。

 

「お言葉ですが。まだ彼女は死んだと決まったわけではありません。必ず見つけ出してみせます。」

 

 

―――ブロロロッ

 

厭らしく粘っこい雰囲気が満ちた格納庫の中に飛び込んできたエンジン音。

この音は...ペリーヌ・クロステルマン中尉、それも見れば二人ほど水浸しの男性を担いでいるではないか。

 

 

「―――輸送機は行方不明になったのではありません、ハイジャックされたようですわっ!!!」

 

 

そしてその2名を駆け寄ってきた作業員に預け、彼女は語り始めた。

 

ネウロイとの戦闘が始まるや否や、二人組の記者がいきなり伴兵から銃を奪い輸送機を乗っ取り、他の記者を海へ落としたこと。

そしてネウロイとの戦闘に気を取られていたプラマー軍曹が―――――背後から撃たれたこと。

更に極めつけは、その墜落した海面近くに―――どこの国のものとも知れない()()()()()()()を見たらしいこと。

 

以上の事が彼女が救助した記者達から話された真相だった。

 

「ふざけるなっっ!!一体どこの誰が、ウィッチの背中を撃つと言うんだっっ!?」

「ホ、ホントかよ...それ、そりゃあいきなり後ろから銃なんかで撃たれタラ...いくら未来が見えててもナ...」

「ウソ...そんな...」

 

あまりに突拍子もないその話にウィッチ達は皆憤り、そして困惑しているが当然だ。

ウィッチに対し快くない者達は確かに存在するが、ここまで明確に直接悪意の牙を向けたことはない。

 

「すぐに基地へ入った記者達の一覧を寄越して!!それと不明になった輸送機に乗っていた人物の洗い出しを!そしてその記者の人が見たという潜水艦の調査を―――」

 

 

「ああ、それなら()()()()()()()()()()()だろう。捜索も彼らに任したまえ。」

 

 

すると今まで黙っていたその男が、マロニー大将がそんなことをのたまい始めたではないか。

 

「...あんなネウロイの支配地域にですか?それに今日そんな訓練や動きがあるなど聞いておりませんが!」

「君が聞きそびれただけだろう。とにかく輸送機...そしてプラマー軍曹の捜索は彼らがやる。君たちはもう無駄な出撃を控え、いつも通りネウロイを警戒していたまえ。いいな?」

 

まるで有無を言わさぬ一方的な物言いに、さすがにまだ食いかかろうとするが―――。

 

「それとだ、今回の件は余りにも影響が大きすぎる。決して外部にこの事は漏らしてはならん。」

 

「―――はぁっ!!!?」

 

その言葉に全員の意思を代表するかのように、シャーリーが大声を荒げた。

それにちらりと一瞥することもなく淡々と言葉は続けられる。

 

「当然だろう。後日調整してからこちらで公式に発表する。まったく...無駄な仕事を増やしてくれるな。」

 

 

 

話は終わりと言うように最後にそう告げると、男たちはコツコツとわざとらしく軍靴の踵を鳴らしながら背中を向け去っていった。

そして残された彼女達のその表情は―――それはもう言い表せない程の怒りと困惑に満ちていた。

 

「アイツっっ!!アイツ絶対ナニカ知ってるゾ!!いや、エイミーを撃ったのもアイツらの仲間なんじゃないカ!?」

「わかんないけど、なにかウラがあるのは間違いないよ。私の直感がそう言ってる。」

 

途轍もない鋭利な目で去った背中を見つめるエイラとハルトマン達。

 

 

「おいミーナ!!勿論このまま指を咥えて待ってる訳にはいかないだろう!!」

「アタシならスグに墜落した場所まで飛んでいける!逃げられる前に奴らの尻尾を―――」

 

「落ち着いてッ!そんなことしたらきっと待ってましたとばかりに良いように言われるわ!!」

 

 

鼻息荒く近づいてきた彼女達を必死に制する。

そうだ、悔しい気持ちも、腸が煮えくり返るような気持ちも理解できる。

 

ただ今のこの状況はミーナがウィッチとして戦ってきた中でも最も異常で際立っているものだ。

敵の正体も掴めぬまま闇雲に動いても犠牲者を増やす結果にしかならない。

探索隊の報告を待ち、信用できる誰かに助けを乞うか、それとも...。

 

 

「...持ちうる手は尽くすわ、家族を見捨てるものですか...!!!」

 

 

未だ暗く、月明かりさえ雲に遮られた夜空を見上げる。

 

化粧すら知らず、自らの着飾った姿に幼い目を輝かせていた傷だらけの少女。

彼女の無事を心の底から祈りながら、ミーナは執務室へとその身を翻した。

 

 

 

 

 

 

...死んだと思いましたが、どうやら違うようですね。

見渡すと懐かしい感じがします、だって数ヶ月前にリリー様に催眠調教された部屋にそっくりなんですもの。

その上椅子に縛り付けられてるとなれば連想するなというのが無理なもの。

 

はてさてどういうことでしょうか。

えっとたしか...そう、夜空でネウロイと戦ってた私は何者かに背後から撃たれたんですっけね。

で、目が覚めたらこの有様と。

 

「ぃっっ....」

 

撃たれた脇腹と太腿が激痛が走ります。一応治療はされてはいるみたいですが。

誘拐された?…もしかして、宮菱工業の人だったりします?

しかしどうしましょうか、何時間経ってるか知りませんが、今死んでも多分あの空には帰れないですね。

 

 

―――ガチャ。

 

 

「おや、起きていたのか。やはり子供とは言え流石ウィッチだ。」

 

突然部屋に入ってきたのは…誰?多分ウィッチの金髪の少女と初老のおじさん。

そして彼女らのお供と思わしきスーツの男性らがぞろぞろと…?

 

「…哀れな子供だ。下衆なリベリアンの道具にされた成れの果てがこれか。」

「まったくですね。」

 

私の身体をマジマジと…って私何も着てない!?裸じゃん、やだーえっちー。

あ、もちろん私まだブラすらつけてないし、はえてないですよ。はい。

そんなぺったんこ傷だらけボデーを眺めていたおっさんが指を鳴らすと。

なんか薬が大量に載せられたトレーがゴロゴロと転がってきて!?いや量多くない!?

 

「あなたたちっ…だれ…」

 

舌足らずな幼い声を必死に張り上げて問いかけますが、全然迫力の欠片もないですね。

 

「くすっ…我々は愛国者さ。君の飼い主と同じね。」

 

愛国者?は?飼い主ってリリー様のことでしょうか。

そう言うと初老のオジサマは注射器で薬瓶をコンコンと叩き…ああ懐かしー!拷問する人って皆これしがちなのかなー!!

 

「…この子は()()()()を手に入れる為の取引材料ですよ、教授」

「無論そうだ。ただもしこの子供が私達に協力してくれれば心強いだろう?」

 

…え?今この人宮藤芳佳って言いました!?

宮藤芳佳ってあの宮藤芳佳ですよね!?主人公で魔法力チートでおっぱい星人の!!

えでも、まだこの時だとただの一般人で軍属ですらないですよね?一体どういうことですか!

 

 

「あの性悪女(ヘルキャット)と第501統合戦闘航空団、そしてブリタニア…それらの情報を提供してくれるよき協力者となってくれるだろう。」

「…わかりました。それでは私に任せてください。しっかりと彼女を『教育』してみせます。」

 

ニコリとそれに良い笑顔で頷いてその注射器を金髪のウィッチさんに手渡すと、オジサマは去ってしまいました。

残ったのは彼女と数名のスーツさん…ああうそ、もしかしてまた私調教されちゃいます?

 

 

「アマンダ・ミシェル・プラマー…私も人の子だ。キミのような幼児に手荒な真似はしたくない。君が良い子になってくれれば、なあぁにも…痛いことはしないよ。」

 

 

私の肌をねっとりと撫でる女の人のその声は、あの出会った当初のリリー様とそっくりでした。

しかもその表情も、声音も。

ただ少しだけ違うのは、もう片方の手でトレー上の拳銃や薬をチラつかせていたところでしたが。

 

「……あなた達は、もしかしてガリアのひと、王とうは、ですか」

「!!!…ほう、これはこれは。性悪女は部下の教育はしっかりとしているようだね。」

 

あーやっぱりそうでしたか…。

今はまだ存在しない506部隊、ノーブルウィッチーズの因縁深い宿敵―――()()()()()()

ネウロイを前にして争う頭やべぇ奴らなんてブリタニア空軍やソレくらいしか無いと思ってましたが、ビンゴでしたね。

 

「…どうして?ガリアはまだネウロイの支配下なのに。こんなことして、何の意味が…」

「意味ぃ?ははは、分かってないなぁ。君たちの行為こそ無意味だというのに。」

「…?」

 

なんか話がかみ合いません。まぁまともな相手だとは思ってませんが…。

 

「リベリアンやカールスラント人、扶桑人混じりの部隊に解放されたガリアに意味なんてあると思うかい?

いいや。ない。恐らく彼らは恩着せがましくその後の内政にまで干渉するだろう。」

 

なんか両腕を広げて演劇役者みたいな仕草。

 

「そうなればネウロイから解放されたところでガリアは本来のあるべき姿とならない…。分かるかい。」

「ガリアのかいほーは、ガリア人だけですべきだと?」

「…やはり君は賢い子だ。そんな君なら『私達に協力するか』という問いにどう答えるべきか、分かるだろう?」

 

 

―――カチャリ。

 

 

おっと、眉間に拳銃を突き付けられました。

しかし何万回も死んでる私にとっては今更です。寧ろ即死できるのでラッキーまでありますから。

 

「うつなら、どうぞ。」

「…さすが『マルタの女神』と肩を並べ戦ったウィッチだ。眼の色一つ変えないなんてその幼さで信じられん度胸だよ。

それとも噂の《未来予知》とやらで予め分かっていたのかな?」

 

銃口で額をぐりぐりされますが、どうぞどうぞと言った具合だ。

しかし一向に撃つ様子がないあたりもしかして空砲だったり?

 

 

 

「ふっ、ところで話は変わるが、君は性悪女(ヘルキャット)の―――リリー・グラマン中佐のカウンセリングについて知っているのかな?」

 

?はぁ、どうして急にリリー様のお話に移るのでしょうか。

 

「彼女の催眠療法を交えたカウンセリングは有名でね。その手法について同胞が詳しく調査したことがあるんだ。」

「…。」

「彼女は一度治療した相手に『ワード』を設定するらしい。次に治療をする時にその言葉だけで催眠状態に出来るのだと。」

 

…初めて聞きましたが。

 

「ところで君の素性を組織総出で調査した時、さすがは性悪女(ヘルキャット)というべきかまったく粗も尻尾も見つからなくてね。

挙句数十人もの同胞を捕らえられて…ただ『仲良くなった』ロマーニャのある看護師から面白い言葉を聞いたのさ。」

 

 

 

にんまりとした笑みを浮かべた顔が、息がかかるほど私に近づいてきます。

 

 

 

「 『 () () () () 』という言葉をリリ―――佐は―――言っ―――らし―――おや―――ど―――」

 

 

…え。

 

 

あ。

 

 

 

 

 

 

「…お願いしますっ、私を探索に出させてください…!プラマーさんを必ず…!!」

「サッ、サーニャが行くならワタシモっ!!」

「……ダメだ。今ミーナがブリタニアの知り合いのウィッチに掛け合っている。それを待て。」

「でもっ!!」

 

隊長室の前で、嘆願に来たサーニャとエイラの二名は坂本に制止されていた。

居ても立ってもいられないのは皆同じだが、今の彼女達にできることはない。

それを自覚しているからこそ二人を止める坂本もぎり、と歯を鳴らしていた。

 

 

―――ああ。あの彼女に託された少女を、こんなに呆気なく失ってしまうなど…!

 

 

 

「いやぁやはり欧州はいい、なんて芳しく吐き気のする香りでしょうか」

 

 

 

―――コツ。コツ。コツ。

 

わざとらしく鳴らされた軍靴の音。

 

 

 

 

「肥溜めに吐瀉物と腐った死体をブチ込んで煮詰めたような最高のニオイ―――」

 

 

 

 

何処かウキウキとさえ感じられる、ねっとりとした蛇のようなその声は、間違いない。

 

 

 

 

「―――燃えてきました…ココこそ私の戦場です!」

 

 

 

リベリオンの性悪女(ヘルキャット)。リリー・グラマン技術中佐が、見慣れない扶桑の少女を伴い悠然と佇んでいた。




・ヘルキャット
直訳において「地獄の猫」と和訳できる英語であるが、用法上は専ら「性悪女」を意味する慣用句である。



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悪女の戦場

先日は皆様の温かい評価とコメント、本当にありがとうございました。
もう少し頑張って書こうと思わせて頂いて感謝の言葉もありません。
これからも更新がんばります。


人気の少ない夜のブリタニアを駆ける。

運転しているのはリベリオンから武器貸与(レンドリース)された小型四輪駆動だ、馬も良かったがやはりコレがいい。

 

「貴様には聞きたいことが腐るほどあるが、今は黙っておいてやる」

「お元気そうで何よりですわ、バルクホルン大尉」

 

助手席に座るダイナモ作戦以来となるウィッチに微笑み返す。

後部座席にはリベリオンのイェーガー中尉、そして扶桑から連れてきた子犬のような少女、宮藤芳佳。

 

「なぁ大将。これどこへ行ってんだ?」

「犯人の一味は特定出来てるので直接インタビューしに行こうかと。」

「えっ。はぁぁぁ!?なんで基地にもいなかったアンタが知ってんだよ!!?」

 

 

左手を空に静かに掲げ、使い魔を顕現させる。

するとソレを待っていたかのように車と並行して飛んでいた鳩の群れが我先にと掌に群がった。

 

―――そして彼らの首に掛けられていたカメラのレンズをそっと指で撫でる。

 

 

「エイミー軍曹とルッキーニ少尉を預ける時、悪いとは思いましたがこの辺りの鳥はほぼ全て催眠して『()』にしました。

 この街はもう、私の掌の上です。」

「マジ…かよ」

「わっかわいいっ…!!」

 

現像したこの鳩達の写真の中に居た、不審なガリア人の記者達。

ソイツらの顔はもうこの子達に覚えさせて捜索させている最中だ。

 

 

「…ウルスラ、写真の複写は」

『予想より早く完成しそうです。ありがとうございます、お姉さま、ビショップさん。』

『いーのいーの、トゥルーデぇ、そっちもがんばってねー!!』

『えへへ、写真ってちょっと楽しいですね。』

 

よし、大量に写真が出来れば最悪人海戦術に移行もできる。

しかしやはり彼女は優秀だ、ノイエ・カールスラントまでの足くらいは用意してやるか。

 

 

「待て、もう既に逃げている可能性はないのか?あれから数時間は経っているんだぞ。」

「無いですね。港や駅には私の部下を露骨にバレるように見張りに立たせていますから。

 あたかも『()()()()()()()()()()()()』という顔をしてね。」

 

「…しかしマロニー大将達…ブリタニア空軍タカ派が犯人達を匿っているのでは」

「ああ、さっき基地職員にタカ派のスパイが居たので一人買収しましたが、彼らも行方は把握してないようです。」

 

 

ぎょっとした風な反応をするがコレが普通か、やはりウィッチは馬鹿正直と言うか疑う事を知らない者が多すぎる。

と言うか私のスパイだってあの基地に居るということも知らなさそうだ。

 

「なぁ、コイツは一体何の為に連れてきたんだ?相手はウィッチ相手に銃を撃つような危険な奴らだぞ。」

「ぅぅ…」

 

ちらりと背後を見ると、鳩と戯れていた宮藤芳佳がその言葉にしゅんと落ち込んでいる。

 

「だからこそですよ、その子は一流の治癒魔法の使い手です。おかげで私達は安心して銃で撃たれられます。」

「えぇぇぇえっ!!じゅ、じゅう…うたれる!?」

「冗談ですよ。…ほら、アナタも一応持っておきなさい。」

 

そう言って座席の下にあったM1911を彼女に手渡そうとする。

多分使わないだろうが念の為だ。

 

「あっ…その、わたし、これは…」

「―――必要ない。この子は私が守る、それで良いだろう。」

 

しかしそれを遮ったのはバルクホルン大尉。

ふむ、まぁ彼女程の歴戦のウィッチがそう言うなら心配ないか。

 

「あ、ありがとうございます!え、えっと…」

「バルクホルンだ。」

「バルクホルンさんっ!!ありがとうございますっ!!」

「あ…ああ///」

 

…助手席に座るバルクホルン大尉の顔が少し赤い、調子が悪くなければいいのだが。

 

 

―――バサバサバサッッッ!!

 

頭上で鳴り響く大量の翼のはばたき。

それが意味することをスグに理解してハンドルを切りアクセルを吹かす。

 

「おわっ!?」

「きゃぁぁっ!!」

「どうやら何かを見つけてくれたようですね。行きましょう。」

 

 

そして静寂のブリタニアの夜空を舞う鳩達に導かれ、車を走らせること数十分―――。

鳩たちは街の外れにある海に面した小さな一軒家の屋根へと次々と降り立っていった。

 

「ここか?…おい、裏に泊まっているアレは」

「…ええ、最近ここにやって来た船でしょうね。」

 

明かりもついてなければ物音もしない、だがもし潜伏しているならそれくらい隠すだろう。

 

「ドアをピッキングします、周囲を警戒しt….」

「 ど い て ろ ッ ッ!!!!」

 

 

―――ドグォォォッッ!!!

 

 

…何という事をしてくれたのでしょう。

もしかして彼女はドアというモノを存じ上げてなかったりするのでしょうか。

 

 

「―――何だっ!?戦車がやってきたのか!!」

「ウィッチ!?馬鹿な、軍は動かないハズじゃなかったのか!!」

 

 

…この慌てぶりからすると、多分こちらにはまだ気づいてなかったでしょうね。

しかし二人だけか、これならスグに片付きそうだと銃をホルスターから抜くと。

 

―――ビュンッッ!!

 

背後から飛び出してきた影が突風と共に駆け抜け、男達の背後に一瞬で回り込む。

無論その正体は《超加速》を持つウィッチ、シャーロット・E・イェーガー中尉だ。

 

「リベリアンッッ!!」

「わーってるっ!!」

 

それにより生まれた男達の隙を見逃さず、彼女たちはそれぞれ一瞬でラリアットを決めて―――。

 

 

―――ドグシャァァッ…!!

 

 

「きゃぁっ…!?」

 

一部始終を震えて見ていた宮藤芳佳が顔を伏せ目を覆うほどの嫌な音が響く。

血は出てないところを見ると多分死んではないだろうが…。

何やりきったみたいな清々しい顔で頷き合ってるんでしょうかこのウィッチ達はぁぁぁぁ!!

 

「み、宮藤芳佳、出番ですよ。治すのは犯人の方ですが」

「は、はぃぃぃ…」

 

―――パァァァ

 

 

使い道は全然違うが連れてきて良かった…。

さて縛り上げた男達の意識が戻るのを確認すると、銃で頬を叩きながら目を覗き込む。

 

 

 

「さて、まあ察しはついてますが『あなた達は何者ですか』?」

 

さっきウィッチ二人に頭をかち割られたのが余程恐ろしかったらしい。

驚くほどすんなりと催眠に導入させることができた。

 

「―――わ、我々は、真なるガリアの為に動くモノ….」

 

「真なるガリア…?まさか、ガリア王党派か!?」

「??なんだっけなそれ?」

「お、お前…それくらい知っておけ!貴族主義を主張して、祖国が奪われるその瞬間まで足の引っ張り合いをしていたガリアの連中の一派だっ!!」

 

やはりそうか、マルタ以降私を嗅ぎ回るネズミはそれはもう大量に増えたが、その中でも動きが特に活発で顕著だったのが各地に散らばったガリア王党派の連中だ。

恐らく次に欧州で何かしでかすならコイツらだとは思っていたが。

 

 

「『エイミーは何処です?』どうせ死んではいないのでしょう?」

「ど、同胞の潜水艦が回収した…行き先は、ブローニュ…。」

「ブっ、ブローニュ!?ガリアのか!?」

 

しかしその次の言葉は流石に少し予想外だった。

まさかガリアの海沿いの街、それもネウロイの支配下にある所に行くなどとは正気の沙汰ではない。

ネウロイに狙われる危険性はもちろん瘴気のせいで普通の人間なら5分も持たず死に至るのだから。

 

 

「『なぜブローニュに?あそこに何があるのです』」

「我らの。アジト、そこに…」

 

そこまで聞いて銃底で頭を叩き気絶させる。

ふむ、どうしたものか。

 

「信じられん、まさかあんな場所に人が居れる訳が…」

「だからこそアジトには最適なのかもしれませんね…ちょうど船がありますし拝借しましょうか。」

 

 

――――ブロロロッ

 

 

おや、このエンジンは少し懐かしい。マルタでよく聞いた()()のモノだ。

 

「シャーーリーーッ!!たいいっ!!…ちゅうさもぉっ!!!」

 

ああ、懐かしい。こんな時だが元気そうな顔を見れて少しほっとしてしまった。

フランチェスカ・ルッキーニが今にも涙を溢れそうな顔をしながら、イェーガー中尉の胸元に飛び込んできた。

 

 

 

 

「ぐすっ…わだじ、ぢがぐにいだのにぃ…エイミーのごど、だずげれだのにぃぃぃっ…!!!」

「大丈夫だ、落ち着け。お前のせいじゃない。」

「そうだ、それにまだエイミーは死んではいない!!泣いてる場合ではないぞ。」

 

遥かに年上で国すら違うウィッチ達に囲まれ慰められるその光景に、どこか安堵する自分がいた。

良かった、この子は良い上司に恵まれているらしい。

坂本に託したのは決して間違いではなかったのだ。

 

「…傷もそのままで捜索に参加したのですね。宮藤芳佳、彼女を治療して貰っても構いませんか?」

「はいっ!!もちろんですっ!!…えと、ルッキーニ、さん?ちょっとくすぐったいですよ。」

 

 

―――パァァァァ…ジリリリ

 

 

車の無線機のアラートが鳴り響く。恐らくは基地からだろうか。

 

『リリーか!?今何者かから無線が来て、お前に繋げと!!一体どこでお前が来たことを…!?』

「ああ、基地職員が空軍上層部経由で数人買収されてるみたいですよ、後で使うので泳がしておいて下さい」

『なっ…なんだとっ!?しかし、放っておいたらこちらの情報がっ!!』

「それまでに()()()()()()。無線をこちらに…ああそうだ。ウルスラに一言伝えてください。」

 

 

こほん、と咳ばらいをして演技の準備をする。

さぁ、決してコチラが相手の正体にとっくに気付いてると感づかれないようにしなければ。

 

 

「えーこほんこほんっ…も、もしもし!?」

『ふふふ、始めましてグラマン中佐。その様子だと君の大事な部下に起きた不幸な事故についてはもう存じ上げてるのかな?』

 

まぁまぁ、何とも楽しそうな愉快なおじ様のお声だこと。

もう既に正体が看過されてるなど微塵も思ってなさそうだ。

 

「なっ…!?ど、どうしてそれをっ!!?あなたたちは一体…!!」

『まぁ落ち着きたまえ。彼女は私達が救助した、だが君の返答次第では命の保証はない。』

「くっ…!!何が望みです。」

 

ああ辛い…辛すぎる。

こみあげてくる笑いを嚙み殺すのはいつも大変だ。

 

『そうだなぁ…?まずは501を解散にでも追い込んでもらおうかな?君ならできる筈だ。

 そうすれば宮藤博士の娘とプラマー軍曹の交換を考えてやってもいいぞ?』

「…くっ…w」

『君が断ればどうなるかわかるだろう?次はルッキーニ少尉を狙ってもいい。

 賢い選択を期待しているよ、リリー・グマラン中佐…』

 

 

―――ガチャ。

 

 

「ふふっw…あははははははっっ!!!あはははは!!あーおかしい…!!ウルスラッ!!」

 

『―――はい。バッチリですよ。ブローニュ方面からの通信位置。

 サーニャさんが協力してくれたおかげで細かい位置まで分りました。』

「よし。ではその地点を港の部下へ知らせなさい。民間籍の船を向かわせ救難信号を出させます。それを理由にあなた達はスクランブルで出撃を。」

 

必要なことを無線の向こうを伝え終わると、涙を拭う幼いウィッチの頭をそっと撫でる。

 

「行きますよルッキーニ少尉、あなたの妹(エイミー)を取り返しに。」

「――――うんっ!!」

 

力強く頷いたその瞳に宿る光は、あのマルタの決戦で見た時と寸分も違わなかった。

 

 

 

 

「ふふ、性悪女は自らが謀略の的になることには慣れていないらしいな。声が震えていたよ。」

「あははははッッ!!ええ、まるで言葉すら出てこず…何と惨めで滑稽なザマでしょうか」

 

王党派の首領とも言える彼、"教授"は部下である金髪のウィッチと忌々しいリベリアンの無様に頬を歪めていた。

心底彼は狂喜していた。

ロマーニャにおいて潜伏していた組織員のほとんどを捕らえた憎き相手を、ここまで弄ぶことが出来るなど。

 

「…ブローニュへの上陸準備を開始。浮上を開始します。」

 

よし、これでもう何があろうと手出しはされない。

あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()さえあれば、あの場所でも我々は活動が―――。

 

 

――――ドゴォォォンッッ!!

 

「なぁ!なんだっ!?」

「…機雷か!?まさか!!」

 

突如船体を襲った凄まじい轟音と衝撃。

それが一体何によるモノなのか、彼らにはまるで想像すらつかず―――。

 

 

 

 

「ぷはぁっ…へへ!!どーだぁ、やってやったぜ!!」

「よくやったぞリベリアンっ!!」

「ありがとうございますイェーガー中尉、さ、早く船へ上がって下さい。」

 

魔法力を展開し、深海に潜っていたウィッチの手を引き船へと戻す。

しかし酷い役目を任せてしまった、彼女には今度埋め合わせをしなければ。

 

「しかしなんなんだぁ?この棒の機雷、シールド張んなきゃアタシまでぶっ飛んでたぞ!!」

「………()()()()()()()()()《刺突爆雷》ですよ……。

 さて機関部をやれたなら浮いてくるはずですが。」

 

…どうやら予想は当たっているらしい、海面を見ると巨大な影が浮上しようとしてくるのが見える。

 

「バルクホルン大尉!ルッキーニ少尉!!ストライカーを!!」

「ああ!!」

「まっかせてー!!」

 

潜水できない潜水艦など、ストライカーを装備したウィッチに為す術もない。

もうこれで私達の勝ちは決まったようなモノだ。

よもや…あのウルスラのポンコツ兵器が決め手になるとは。

 

「あっあの!二人とも気をつけて下さい!」

「ふっ、ああ。」

「ありがとね、よしかっ!」

 

ウィッチ達を見送る宮藤芳佳に返す顔は二人とも笑顔だ。

 

―――さて、それでは私も最後にもう一煽りしておこうか。

 

 

 

 

『メインエンジン出力低下!』

『浸水止まりません!内部の空気も漏れ出しています!』

 

"教授"と呼ばれるそのスーツ姿の初老の男性は、パニックになりそうな心を必死で自制していた。

唇を痛いほど噛み締めマヒする頭を何とか回転させる。

 

―――ジリリリッ

 

「だ、誰だッ…はぁ!?」

 

もしや同胞からの救援か、とすがるような思いで応じた無線の向こうから聞こえてきた声に彼は絶望した。

 

『―――こんにちわ王党派のみなさまぁ♪どうしますゥ?あなた達のお相手は世界最高峰のエース部隊、ストライクウィッチーズですよォ?』

「ふざけるなふざけるな、あのガキを殺すぞォッ!!!?」

『はっ、私の何を調べたのです?性悪女(ヘルキャット)がそんな事で躊躇うようなお人よしだと誰か言ってましたかァ?』

 

―――ガシャンッッ!!

 

怒りに任せ無線機を地面に思い切り叩きつける。

そうか、コイツは初めから全てコチラの事を看過していたのか。

その上でここまでこっちの話に付き合い、演技していたと言うのか!?

 

「全員、道連れだッッ例の兵器を誘引モードで稼働させろ!!ガリアのネウロイを誘き寄せるんだっ!!」

 

ならばもういい。あの忌々しいウィッチ共も全員地獄へ送ってやる。

ブリタニア空軍から提供された試作段階の、『あの兵器』の奇怪な異音が鳴り響く。

 

そしてそれと同時に、船に搭載されていたレーダーに映る()()()()()()()

 

 

「―――ガリア、我が喜びッッッ!!!」

 

 

 

 

 

海上に鳴り響くけたたましい異音と共に現れた無数のネウロイ達。

無論支配地域の近くなのだからその出現は予想の範疇だが―――その数は余りにも異常だった。

空を埋め尽くさんばかりに沸いて現れるそれは、ざっと見ただけでも中型大型交じって20匹程はいる。

 

「あたしが――「いいや、ネウロイは私がやる」

 

飛び込もうとしたルッキーニを制する、静かな上官の声。

 

「ルッキーニ!!お前はお前の手で、妹を絶対に救えッッ!!いいな!!」

「…うんっ。わかった、大尉っ!!」

 

尊敬し、自らを鍛えてくれる上官のウィッチの言葉に力強く頷くと。

彼女は目下の開口した潜水艦目掛け急降下を――――。

 

「…ふぇっ!!?」

 

―――しようとしたのを遮ったのは、目の前に飛び出してきた小さな影。

 

 

「…………。」

 

 

血に汚れた、翠のインナーカラーを入れた豊かな黒髪。

煤で穢された、リベリオンの小さな軍服。

そして、光を失った、幼い翠の大きな瞳。

そう、それは見紛うはずもない、彼女が探し求めていた()()()()

 

 

「…()()()()…?」

 

 

 

 

「―――ガリア、わがよろこび…」

 

 

 

《ミッションを開始します》

 

《撃破目標:()()()()()()()()()()()()()




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死してなお

―――パァン、パァンッ!!

 

「ああクソッ!宮藤芳佳ッ無事ですか!!」

「はっ、はい!!だいじょ...ひゃあっ!」

 

開けた潜水艦からウィッチ達やこちらへ放たれる銃弾の嵐。

それを掻い潜りながらライフルで一人ずつ無力化していくが数が多すぎる。

 

「エイミー...!」

 

あの様子、恐らく催眠か調教を再び彼らから施されたか。

しかしこの短時間でやるとは中々腕のいい調教師か...いや待てまさか『ワード』か?

 

「頭を下げてなさいッ!絶対に―――はっ!?」

 

性悪女(ヘルキャット)ォォォオオ!!」

 

意識外だった船の背後にいたのは激怒した様子の金髪のウィッチ。

そいつが銃を向けてるのは良い、私の方が早い。

だがその銃口の向きはマズイ!どうして宮藤芳佳の方を向いているのだッ!!

 

「伏せなさい芳佳ァァァ―――ッッ!!!」

 

銃の引き金を引くがシールドはもう間に合わない。

いや彼女をここで死なせたら欧州が終わる、それだけは避けなくてはならない。

 

 

「―――ぐ、ぅぅっ...!!?」

 

 

咄嗟に覆いかぶさった身体の内部から、パジュ、ぐじゅり、と嫌な音が響き渡る。

 

「ガリア...わが、よろこ...」

 

確認は出来ないがどうやら王党派のウィッチは仕留めれたらしい。

それとどうやら身を挺して庇った宮藤芳佳も無事そうだ。

 

「イヤだッリリーさん!!死なないで下さい....!絶対に、助けます!!!」

 

―――パァァァ

 

昨日までただの一般人だった少女がこんなショッキングな出来事に直面したと言うのに、まるで彼女のその治癒魔法には困惑による動揺が微塵も感じられない。

 

ああ...よく分かる。私もバルバロッサの時にはそんな顔をして整備や治療にあたっていたから。

そういえばあの頃のリカはよく私の部屋で一緒に寝てて―――ああ、そうか。

 

これは走馬灯か。

 

 

 

 

 

 

殺さないと。

だって殺せと言われたのだから。だから殺そうとしてるのに。

なのにコイツにはどれだけ撃っても弾が当たらない。

まるでゴキブリのようにカサカサとすばしっこく動き回る。

 

「エイミーッッ!!?うじゅぁっ!!あたしだよっルッキーニ、フランカお姉ちゃんだよーっ!!」

 

さっきからずっと相手が何かを叫んでいるが耳障りで仕方がない。

それが更に私を腹立たせ、引き金を引く指に力がこもる。

 

―――ぐじゅり、プスップスッ...

 

あるじ様達が治療してくださった銃創が開いて血が溢れ出す。

あるじ様が与えてくださったストライカーが異音を立てて煙を吹いている。

 

その上銃ももう弾切れだ、だったらナイフで直接殺すしかない。

急加速してあの忌々しいウィッチに接近する。

 

「エイミー!!動いちゃダメぇっ!!怪我が!!」

「…だまれっ―――うぐぅっ!!」

 

何なのだコイツは、私のナイフを紙一重でかわして見せた上その上両腕で抱きしめてくるなんて。

 

「やだよぉっこんなのっ!!おねがい、ダメだってぇ!!おねえちゃんのこと忘れちゃったの!?」

 

ああくそ、何なんだこのコイツの声は。

頭に響いて痛くて仕方ない。

 

「し、ねぇぇぇぇぇえええッッッ!!!」

 

―――グジュ、リッ

 

無理やりもがいて抜け出した右手で思い切りナイフの刃をその無防備な背中に突き立ててやった。

眼を見開いて驚いている、ざまぁみrrrrrrrr

 

「―――あ?」

 

視界が揺らぐ、意識が揺らぐ。

まるで思い切り脳天を金づちで叩かれたように、世界が揺れる。

私は一体何をしたんだ?何をしているんだ?

 

胸奥から溢れ出す途方もない吐き気。正気を保っていられないような眩暈。

 

「…えい、みぃぃ……」

 

目の前のウィッおねえちチからシボリダサレたコエ。

ワタシhaちまみれになった、私の両手をををを見てまっかででウィttの手で真っ赤ニニニニニニ。

 

 

―――――ずぐゅむ。

 

気が付けば私は自らの胸にナイフを突き立てていて。

何でそんなことをしたのか、なぜそんなことをしたんだろう。

だけどそうしないといけない気がして。

 

「―――――あ」

 

胸から何か熱いモノが溢れ出す感覚と共に、私の意識は冷たさに呑み込まれていった。

 

 

 

 

気付けば何故かまたあの忌々しい青髪のウィッチが目の前にいた。

良かった、きっともう一度あるじ様達の命を果たす機会を天が与えて下さったのだ。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ―――!!?」

 

なのにどうして、私はこんなにも息を荒げているんだ。

どうしてこんなにも震え、吐き気が止まらない。

 

「…エイミーっ!?…あれ?()()()()…あれぇっ!?」

「―――ああああッッッ!!!」

 

今度こそ殺してやる。私を何度も弄びやがって。

あるじ様達の邪魔をする奴は誰だって殺してやる。

 

 

「…覚えてにゃい!?シチリアの夜空で初めて会ったことっ!イムディーナでデートもしたことっ!!」

 

ふざけるな、私は今までずっとあるじ様達と一緒にいたんだ。

 

「マルタで戦った時ね、あたしほんとはこわかったんだーっ!!だけどエイミーがいたからがんばったんだからー!!」

 

そんなのうそだ、だっておねえチャんはいつモかっこ違うウルサイ喋るなその口を閉じろ。

 

「その後もねっ!!あたし、ウィッチやめたいって思ってたのー!でもあなたがいたからっ!!」

 

うるさいお姉ちゃんうるさいうるさいうるさいうるさい気持ち悪いヤメロ。

ああ動かない、どうしてストライカーが動かないんだ、使い魔がいう事を聞かない。

どうして、どうして。

 

――――ガガガガガッッッ

 

「…あ…」

 

 

私の身体を貫いた銃撃。でもそれは目の前のウィッチからじゃない。

潜水艦から。ああそうか、あるじ様達だ。

私がいつまでたってもお姉ちウィッチを殺せないから。

 

不思議と懐かしい、海の中の世界に沈んでいく。

もう一度、これもまた懐かしい冷たい眠りに誘われていく。

海面の向こう側にいるウィッチが何かを叫んでいるが聞こえない。

 

「……」

 

そうして私の意識はまた、途方もない冷たさに呑み込まれた。

 

 

 

その次は、別のウィッチ達が戦っていたネウロイが抜け出してきて殺された。

次は、煙を吹いたストライカーが動かなくなって死んだ。

 

別の時はおねえ青髪のウィッチに連れ去られた。

でもしばらくしたらまた元の場所に戻ってきていた。

そしたら次はウィッチは驚いた顔をしていた。

 

失血して死んだ。傷が開いて死んだ。銃が暴発して死んだ。

その間一度もウィッチに銃を当てることは出来なかった。

 

何度も死んだ。

何度も何度も、数えきれない程に。

 

別のリベリオンやカールスラントのウィッチがやってきたこともあったが、ソイツらの声も耳障りで聞いていられなかった。

泣きながらそいつらに撃たれることもあった。

そいつらに連れ去られることもあったが無意味だった。

頼むから私をこれ以上苛立たせるな。

 

 

 

でも、だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

何回目だろうか、何百回目、いや、何千回目だろうか。

もう。疲れた。でもやらなきゃ殺さなきゃ、だってあるじ様の命令なんだから。

 

「……?」

 

何故、だろうか。

 

今まで何度も、何回も見たその青髪のウィッチが無防備に佇んでいる。

見れば銃さえ構えることもせず、ただじっと、何もせずに静かな目でこちらを見ている。

 

 

――――パァン、パァン

 

 

私は大喜びでそれを撃った。

あンなにも当たらなかった弾が面白いヨうに当たru。

 

何発も何発も、その身体に撃ち込んでエエe 絵えe?

 

そうすると当然、ウィッチは何もせず、ただ静かに墜落していった。

 

「―――――――」

 

私は何故か、それを必死に追いかけて手を掴んだ。

その行為の意味も、それが何をなすのかもまったく分からずに。

 

――――ぎゅっ。

 

私の身体を抱きしめるあたたか―――いや、つめたいて。

 

 

 

「…もう、つかれたよね。もういいんだよ」

 

 

 

みみもとでささやかれる、やさしいこえ。

 

 

「もう、おわりにしよ?」

 

 

―――わたしをつきとばす、つめたいて。

 

そうして、そのひとはうみのなかへ、ひとりでおちていって。

ぶくぶくとあわが、そこからでてきて。

 

わたしはそれを、じっと、みていて。

あたまのなかが、ぐるぐるになって。

 

わたしはじぶんのあたまをうった。

 

 

 

 

また、戻ってきた。

だから、すぐにまた自分の頭を撃った。

 

何度も。

何度も。

何度も。

 

何度も戻って、何度も死んだ。

 

ぐちゃぐちゃに泣きながら。

収まることのない嗚咽を漏らしながら。

 

何度も何度も、引き金を引いた。

何度も何度も、頭の中を銃弾でえぐった。

 

 

それを、それだけをずっと無限に繰り返した。

 

 

―――パァン。

 

私の何度も頭に向けていた銃が、弾かれる。

海面の向こうに消えていってしまう。

 

 

「―――エイミー。」

 

 

それをしたのは、目の前のあの青髪のウィッチ。

そして彼女がどんどんゆっくりと近づいてくる。

 

やめろ、来るな、近づくな、ごめんなさい。くるな、こわい。

 

―――ぎゅっ。

 

「ごめんね、こわいおもい、させちゃったね。」

 

吐き気がする。安心する。気持ちが悪い、温かい。

身体の内側を大量の虫が這いずりまわる感覚。

お母さんの腕の中にいる感覚。

 

脳みそが、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられる感覚。

 

 

「………いいの、おねえちゃんは、大丈夫だから。」

 

爪がはがれるほど強くたてた指で、頭を掻きむしる。

そこから血が溢れ、口からこみあげてくる胃液を吐き出す。

それが目の前のウィおねえちゃんッチの服を穢す。

 

ぼろぼろと、止めることのできない。涙が溢れる。

 

 

―――ぱんっぱんっ

 

 

下から銃声が聞こえてきたのと。

ウィッチが私の身体を強く抱きしめたのは同じ瞬間だった。

 

そしてその身体が赤く染まり、潜水艦の上に墜ちていって――――。

 

 

私達二人は、爆発の光の中に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「流石に…ふざけてるだろこんな数っ!!」

「泣き言を言うなッ!!早く片付けてエイミー達をッッッ!!」

 

分かってはいる、それはシャーリーも勿論妹のような存在であるエイミーの異常に早く駆けつけたい。

だが余りにもネウロイの数が異常すぎるのだ。

 

「船が狙われてるぞっ!!大将がっっ!!!」

 

しかしそれでも食らいついてたエース達を掻い潜り、一匹のネウロイがその防衛線を越えてしまう。

そして放たれた赤い殺戮の閃光がついに浮かんでいた無防備の船を貫こうとした時。

 

 

「―――私がっ、私が守りますッッ!!」

 

 

彼女達にとっても初めて見る程の巨大な大きさのシールドがそれを遮る。

 

「宮藤芳佳ッ!?…なんというシールドの大きさだ…!!」

 

その余りにも現実離れした光景に奪われていた意識を呼び戻したのは、無線から響いてきた声。

 

『バルクホルン大尉、イェーガー中尉、聞こえますか!?ウルスラです!』

「ああ!聞こえるぞ、どうした!」

『…あの潜水艦には恐らくネウロイを誘引する兵器が積まれてます。それを破壊してください!』

「馬鹿な、そんなものが…!?…いや、アレか!?」

 

 

彼女が見下ろすと、開口された潜水艦から掲げられた赤く光るビーコンのようなものが見てとれた。

咄嗟にそれを銃撃したものの―――それは展開された赤いシールドに阻まれてしまう。

 

「―――潜水艦がネウロイに侵食されている!?しかもあのタイプは…くぅっ!!?」

 

その間にも容赦なく周りのネウロイは嵐のような集中砲火を浴びせてくる。

 

くそっ、こうしている間にもあの二人は――――!!!

 

 

 

 

 

爆炎と充満する煙の中。

その少女、フランチェスカ・ルッキーニは最愛の妹を力強く抱きしめていた。

庇った無数の破片が突き刺さり、大量の血でその身を染めながら。

 

「…うじゅ、だいじょうぶ?けがにゃい?」

 

それを抱きしめられながら、腕の中の幼女は呆然とした表情で見つめていた。

 

 

「…だいじょうぶ、だからね。…がふっ!!」

 

 

血まみれの手が、震える頭を優しく撫でる。

口から吐き出された血が少女の固まった顔に飛び散る。

 

 

―――――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

 

 

ガチガチと震える幼い手が握られたナイフを包み込む胸に突き立てようとする。

 

それを見ていたルッキーニは止めることもせず、ただ真っ赤な手を静かに添えた。

 

 

 

「―――いいよ…。」

 

 

 

その幼い顔に浮かべたのは、いつも彼女の前で浮かべてきた優しい姉の顔。

 

 

 

「―――エイミーがもどらないなら、いきてたってしょうがないもん。」

 

 

 

そう、静かに告げられた幼女は。

 

氷のように凍てついた表情が溶かし、静かに瞳から感情を溢れさせた。

 

 

 

「…『()()()()』、エイミー。」

 

「―――――――。」

 

 

ルッキーニが呟いたその言葉は、心の底から彼女へ告げたその言葉は。

かつて『決して言われる事がないだろう』とリリーが設定した『()()()』は。

 

 

「―――――おねえ、ちゃん…」

 

 

その腕の中の少女(エイミー)は、涙を流し自らの最愛の姉に抱き着いた。

静かに嗚咽を漏らし、震えるその小さく儚い身体を、ルッキーニはただ静かに愛おしく撫でた。

 

このまま最愛の妹を抱きしめたまま、眠ることが出来たらどれだけ幸せだろう。

だがそれはまだ叶わない。だってまだ自らにはやらねばならないことがあるのだから。

 

 

―――シュインッ

 

 

出撃前に坂本から託されたばかりの扶桑刀を、初めて抜刀する。

その抜き身の刀が眩いばかりの焔を纏い、暁のような輝きを放つ。

 

 

そしてそれを眼前にある潜水艦を侵食したネウロイ、そのコアに―――思い切り突き刺した。

 

 

「う、じゅ……にゃ…」

 

しかしもう、彼女の身体は辛うじて気合だけで保っている状態だったのだ。

そんな状態で魔法力を発動し、その上身体を支えることなど―――。

 

 

「おねぇっ……ちゃんっっ!!!」

 

 

ただ、それを支える人間が居れば別だった。

ルッキーニの身体を支え、刀を握る血まみれの手に重ねられたその手。

それらは彼女にそれ以上の何かを与え、意識を固く、強く繋ぎとめた。

 

 

「えいみー…て、ぜっったいに…はにゃさ、ないでぇぇっ…!!」

「わかってる…!!ぜったい!!ぜったい、もうはなさないから!!!ぜったい!」

 

 

二人の力強く握られた手に支えられた扶桑刀は、そのコアを貫き、そして。

 

 

 

 

―――――長い、長い夜の夜明けを告げる暁が、水平線に輝いた。




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天使の悔恨

短くなってごめんなさい…明日からはちゃんと通常投稿に戻ります。


「はい皆さんどうぞ。粗茶ですが。」

「...私のコーヒー勝手に淹れて言うセリフですかウルスラァァッッ!!」

 

 

ミーナ中佐ら501の中でも年長のウィッチ達、そして宮藤芳佳が集った執務室。

なのに、ああくそ彼女がいたら真剣な雰囲気で話せる気がしないぞ。

 

「あら...!すごく美味しいわこれ!」

「んん?そうか?私はコーヒーをあまり飲まないからよく分からん」

 

「―――ごほん....早速ですけどお話に入ってよろしいでしょうか?」

 

「さっさとしろ、わざわざ付き合ってやってるのだからな」

「うぅぅっ!苦い、苦いですわ...やはりワタクシは紅茶の方が」

「あの、よかったら私淹れてきましょうか?」

「Zzz...Zzz」

「いぇーいサーニャんまくらぁー」

「あーこらハルトマン!!サーニャがおきるダロー!!」

 

 

帰ってやろうかもう。

 

 

「ん"ん"っ、まずエイミーを誘拐したガリア王党派の連中の身柄ですが、自由ガリア政府に引き渡されました。

 クロステルマン中尉、政府への手引き感謝いたします。」

「当然の事をしたまでですわ。まったく、同じガリアの民として恥ずかしい限りです!!厳正な処罰を望みますわ」

 

正直ガリア政府とは余りコネクションを持ってなかったためガリアのウィッチである彼女の存在は非常に助かった。

 

 

「彼らの目的はこうです。ガリア解放はガリア人の使命、それを横取りする501は目障りだと。」

「...はぁ、祖国を失いながらなんて高尚な使命感だ」

「なんて身勝手な...一体どれだけの人々が今も苦しんでると...!!」

 

 

「それと宮藤博士の娘である彼女、宮藤芳佳です...これは私のせいですが。」

「なに?宮藤博士の!?...お前がか?」

「は、はいっ!!」

 

そういえば坂本少佐はかつて宮藤博士の研究に協力していたはずだ。

なるほどそういう縁があって本来は出会うはずだったのかも知れない。

 

「ええ、治癒魔法の研究の為会いに行ったところを勘違いされて...私からこの子とエイミーを取引しようとしたらしいです。」

「しかしどうして、宮藤博士はもう...」

「はい、行方不明です。ですが何の確証もなしに行動を起こしたとは考えにくい。」

 

その言葉に数名が目を見開いて驚くがその気持ちも無理はない。

 

「この件については調査を続行しますが、何か分かれば共有します。こんなところですかね...」

「ええありがとうグラマン中佐、では―――」

「待てミーナ、ルッキーニ少尉とプラマー軍曹についての話が先だ。」

 

 

そう遮ったのはは険しい顔つきのバルクホルン大尉。

やはりしっかり聞いてくるか。

 

「...ええわかったわ。グラマン中佐、あの子達...せめてエイミーさんだけでも本国に戻すつもりはない?」

「仰る事はわかります。ですがここまで有名になってしまった以上、本国でも様々な思惑に狙われてしまうでしょう。ネウロイ込みで考えてもここの方が安全です。」

 

 

コーヒーを一口飲む。

もう既に何度か一部のリベリオン軍幹部は彼女をペテルブルグやアフリカへと送ろうと画策したことがある。

もちろん言い出した奴らは全員失脚左遷させてやったが。

 

 

「...リリー、マルタでは敢えて聞かなかったが...あの子達の経歴は本当なのか?」

「本当ですよ。ルッキーニ少尉に関しては、ですが。」

「ならやはり...プラマー軍曹は...」

 

コーヒーを飲み干す。少し苦みが強く感じた。

 

「...始まりは違いましたが、今は彼女達のことを愛しています、祖国と同じくらいには。今はこの答えで許してくれませんか。」

 

その答えを聞いた坂本は目を瞑り静かに黙り込んでしまった。

不安だ、この扶桑の魔女は恐ろしいほどに鋭いのだから。

 

 

―――ガタッ

 

 

「一つだけ聞かせろ、あの二人がウィッチになったのは自身の意思か?それとも....」

 

怒りを露にした彼女、バルクホルン大尉が私の目を見据え覇気の籠もった声で問いかける。

 

「お前が裏で手を引いたのか?」

「...あの子達が今ウィッチであり続けているのは紛れもない彼女達の意思です。」

「はぐらかすなよ大将。そんなのは見りゃわかるさ。私達はそのキッカケを聞いてるんだよ」

 

 

見ればいつの間にかイェーガー中尉まで後ろに立っているではないか。

どうやら私に逃げ場はないようだ。

 

ああ、せっかく拾った命だが殺されても文句は言えない。

 

 

「―――エイミーは...()()、ウィッチにしました。」

 

 

ゴグシャァと、鈍い音と共に私の身体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

口の中にじんわりと鉄の味が広がり、鼻から赤い血が滴った。

口内が切れただけではない、何本か歯も折れているようだ。

 

「....トゥルーデ...!」

 

彼女達が息を呑む空気が伝わってくる。

ああ、これのせいであの子達が部隊の中で避けられたりしないだろうか。

 

 

「...貴様がビフレスト作戦でしたコトは決して忘れていない、性悪女...!!」

 

ぐったりと項垂れる私の前に、手が差し伸べられる。

 

「だが...この件についてはこれで黙ってやる。民間人とあの二人を助けたことに免じてだ。次はないと思え。」

「.....ごめんなさい。」

「謝るならあの二人だ。私ではない。」

 

乱暴に手を解き椅子に座り込むと、彼女は沈黙を決め込んでしまった。

宮藤芳佳が治療しようとするのを制し私も黙ってハンカチで血を拭った。

 

この傷は、治さなくていい。

 

 

 

 

―――どうしてその年齢でウィッチになろうと思ったのですか?

 

「えと、あの、ウィッチに、あこがれてたからですっ!」

 

―――お二人は姉妹なのですか?

 

「えへへっ、使い魔は姉妹なんです。それにフランカおねえちゃんとはとっても仲良しでっ」

 

パシャパシャと鳴り響くフラッシュ音。

それに照れくさそうに答える可愛い妹をルッキーニは優しく撫でつけた。

昨日まで病室にいた彼女を気遣うように、優しく背中をさすりながら。

 

 

―――マルタで共に戦ったリリー中佐のことをお伺いしても良いですか?

 

「??うん、わかりました。」

 

―――彼女はアナタ達にとってどんな人ですか?

 

「んっと…ママ、みたいなひと、です!!」

「にひひ、ちょっと怖いけど、ママみたいにとってもおっぱいおっきいのー!うじゅーっ!!」

 

 

 

 

「…なるほど、アレをやってたからあの子達は来れなかったのですね」

「ええ、最近とっても多くて…。あ、勿論マスコミはしっかり事前にこちらで調査してあるわ。安心して。」

 

私とヴィルケ中佐、そして見送りに来てくれた坂本の視線の先にはインタビューを受ける二人。

もう調子はすっかり戻ったようだ、安心した。

 

 

「それでねーぇ!マルタだとご飯もたまに作ってくれてぇ…すっごくオイしいんだー!!」

「うんっ!あと、すっごく暖かくて、優しくて…」

 

 

…アレは本当に私のコトを言っているのだろうか。あの子達の将来が心配になってきた。

 

 

「あとねぇ、リリー中佐ってねぇ?なんかわるいヒト?みたいに言われてるーって聞いたんだけど。」

「―――そんなことないんです、すごく、いいひとなんです。」

 

そう言葉を続ける彼女達は私が聞いていることなどまったく気づいていない。

その上表情は無邪気そのものだ、嘘などついている様子もない。

 

「わたしとお姉ちゃんをずっとまもってくれてる―――ママみたいな人ですっ!」

 

そう、嘘などついている様子もなくて。

 

 

―――ズキリ、と、胸の奥が今までに無いほど酷く痛んだ。

 

 

余りにも痛くて立っていられず、眩暈すら覚えるほどの痛み、苦しみ。

思わず壁にもたれかかり息を落ち着かせる。

 

「…グラマン中佐、これを。」

 

そういってヴィルケ中佐が差し出してきたのは、一枚の写真。

 

「これ、は?」

「あの子達が、あなたが来たら渡してほしいと。」

 

受け取ったその写真の日付は、あの先日エイミーが攫われる事件があった日。

それを裏返すとそこにあったのは。

 

「…あぁ…」

 

そしてそこに写っていたのを見て、彼女は何時ぶりか思い出せない程の心の底からの優しい笑みを浮かべた。

 

―――無邪気に頬を寄せ合い笑いあう、二人のリベリオンとロマーニャの幼いウィッチ。

 

遠い昔、かつてフェデリカと自身がそうしたようにじゃれ合う二人の姿。

尊くて、愛おしく感じられて仕方ないその写真に、静かに彼女は涙を流していた。

 

「……」

 

リベリオンの為に、グラマン社の為にと誓ったその日から久しくしていなかった後悔を。

いまこの瞬間、彼女は酷く、重く心の奥底からしていた。

 

「リリー…私は、お前があの子達に何をしたのかは知らない。」

 

その悲哀に満ちたリリーの姿を、坂本少佐は静かに悟り言葉を告げた。

 

「だが後悔するなら今のあの子達を見守ってやるべきだ。違うか?」

 

 

 

マルタの絶望的な状況ですら涙一つ流さなかった少女が嗚咽を漏らし泣き崩れる。

先刻バルクホルンに殴られた頬の痛みが、唯一彼女にとって縋れるものだった。




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魔女の休日
猫のさんぽ


ブリタニアのドーバー海峡基地にある501部隊の朝は早い。

なんせ朝4時半程から坂本少佐、それとその弟子であるルッキーニの素振りが始まるのだから。

 

「はーっはっはっは!!はーっはっはっは!!」

「うじゅじゅじゅー!!うにゃー!うりゃりゃー!」

 

奇声を叫びながら扶桑刀を海原に振りかざす少女二人。

そこから少し離れたハンガーの梁に眠る幼いウィッチがいた。

 

「Zzz…Zzz…」

 

アマンダ・M・プラマーである。

大好きな姉であるルッキーニは一足先に目覚め、彼女はいつもその毛布の残り香に顔を埋め眠っていた。

 

「う…にゃぁ?」

 

寝ぼけたように眠気眼を擦る彼女から漏れた声は、仔猫のような鳴き声。

 

「うにゃ…みぅ…」

 

ぴょこん、という気の抜ける音ともに顕現する使い魔の尻尾と耳。

四つん這いのままぐいっとしなやかに幼い身体を伸ばす仕草。

 

そう、今の彼女は()()()()()()()()()()()ではなく、その使()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「うみゃぅみゃ」

 

耐えられない程の辛いコトが襲った時、本来の意識が朧気な時。

彼女はあろうことか使い魔に主従を逆転され、その身体の主導権を使い魔に奪われるコトがしばしばあった。

 

「…うにゃ?」

 

大好きなお姉ちゃんを求め、ハンガーから抜け出し辺りをさ迷い歩く。

すると海岸の方で師と共に扶桑刀を振る姿を見つけ、落胆の声を漏らした。

 

「にぃ…みぅみぅ」

 

アレをしている時は邪魔はしてはいけない。

仔猫は大好きなお姉ちゃんの温もりを諦め、自らの縄張りの見回りに赴くことにした。

 

 

 

 

―――カチャ。

 

「…ああもう、また来ましたの?折角の坂本少佐を眺めてのモーニングティーですのに」

「にゃぁぅ」

 

早朝から敬愛する上司の姿を肴に紅茶を嗜んでいたペリーヌ・クロステルマンは、今朝も自部屋に訪れた珍客に溜息を吐いた。

 

「なーぉ」

「はいはい、少しお待ちなさい。まったく使い魔に呑まれるなどウィッチ失格ですわよ。」

 

ぶつくさと小言と文句を呟きながらも、嫌な顔一つせず彼女の為にハーブティーを淹れ始める。

むしろその四つん這いの猫耳の少女に微笑ましい顔すら見せて。

 

「ほら、ふーふーしてさしあげますから、ゆっくり飲みなさい」

「んみぃ……ぺろぺろ」

 

そのままの猫の姿勢でも飲みやすいよう、積まれたタオルの上にカップを載せる。

熱いのが苦手な猫舌でも味わいやすいよう、しっかりと冷ますことも忘れずに。

 

「…んぅ」

「こーら、ワタクシの服が濡れてしまうでしょう?ほんとにもう…」

 

ぴちゃぴちゃと舌を這わせ紅茶を飲む仔猫の口元をそっと拭う。

それに抗議するかのように彼女は手や袖に幼い顔をこすり付けた。

 

「にむ、にゃー」

「まったく。ワタクシは構いませんが、まだ寝ている皆さんを起こしちゃだめですわよ?」

 

美味しい紅茶を飲んで満足した仔猫は礼を言うように小さく鳴くと。

満足したかのように、その不思議と安心する()()()()()()()()()()の部屋を後にした。

 

 

 

 

―――キィ

 

「…んぅ?なに…からだが、おもい…?」

 

リリー・グラマンより父の情報が分かるまで、と501に預けられた扶桑の少女。

宮藤芳佳は身体の上に感じる奇妙な感覚に目を覚ました。

 

―――ふみ、ふみ。

 

「え…ふぁぁぁっ!?」

「にぁ、んなぁー」

 

視界いっぱいに広がる、黒いベルト越しに浮き出た縞々柄のズボン。

ソレが501最年少のウィッチのモノだと、お腹がふみふみされる感覚で彼女は理解した。

 

「んにゃ?……ぺろぺろ」

「ひゃわぁっ。く、くすぐったいよぅ、エイミーちゃんっ」

 

目覚めた彼女に気付き、ふみふみからその顔を舐めることにシフトする仔猫。

冷たく、心なしかざらざらとする小っちゃな舌のくすぐったさに彼女は笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、今日も起こしにきてくれたの?ありがとう」

「んみぃ、ごろごろごろ…♪」

 

美しい翠のインナーカラーが入ったその髪を優しく撫でると、仔猫はごろごろと喉を鳴らしじゃれついた。

甘え切ったその声に微笑む宮藤芳佳はもっと彼女を愛でようと―――。

 

「―――んにゃ、みー。」

「あっちょっとエイミーちゃ……エイミーちゃんッッッッ!!??」

 

 

―――ふみ、ふみ、むにゅんっ///

 

 

気まぐれな仔猫が次に興味を持ったのは、彼女の隣で眠るもう一人の少女の大きな双丘だった。

まるで餅やうどんをこねるかのような仕草の幼い手を、豊満な乳房がやんわりと押し返す。

 

「ん…みゃぁ」

「あ、ふぅ…ぅぅん…///」

「あ、あわわ…///あわわわわwawawa」

 

その光景を、先日仲良くなり相室になったそのブリタニアのウィッチの胸の様子を。

宮藤芳佳はそれはもう凄まじい剣幕でまじまじと眺め続けていた。

 

「ぅに、んーなぁ」

 

猫のこの仕草は、仔猫が母猫の母乳を刺激してミルクをねだる時の名残。

つまり柔らかくふかふかなモノに惹かれるのは生物としての本能だ。

 

そうだよ、だから私のこれだっておかしくない!!

 

そう発想の飛躍で自らを納得させ、彼女は仔猫にこねられるその乳房に手を伸ばし――――。

 

 

「芳佳…ちゃん…?」

 

 

寝返りをうったリネット・ビショップと真正面から目があった。

 

「はぅぅぅぅっ!!?ち、違うの、ちがうのリーネちゃん!これは、そのぉ…」

「さっきからずっと寝たふりしてたんだよ…?まさか芳佳ちゃんが、寝ている人の胸を弄ぶような人だったなんて…」

 

「ご、誤解だよぉっ!今までリーネちゃんをふみふみしてたのはエイミーちゃ…いないぃぃぃっ!!?」

「…あの、近づかないでください、宮藤さん…」

「いやあああ!!ごめんね!ちがうのぉぉぉ!!許してぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 

 

 

 

存分に柔らかい胸をふみふみし、うどん職人として満足した仔猫は再び見回りに戻っていた。

 

「……ぁ、えいみー、ちゃん?」

「にゃ」

 

不意にその四つん這いの背中にかけられるか細い透き通る声。

夜間哨戒から帰還したばかりで眠気と疲労が溜まり切ったサーニャ・V・リトヴャクだ。

 

「あ、そっか、ねこの、エイミーちゃん…ふぁぁ…」

「…ふみゃぁっ?」

 

その彼女が大きなあくびと同時に倒れ込んで来たのだから流石の仔猫も少し驚いた。

さらにその上彼女の幼く小さな身体を抱き枕にし始めたのだからもう。

 

「…んみぃ」

 

―――カリカリ。

 

だが流石にこんな廊下で寝かすわけにはいかない。

目の前の部屋の扉をカリカリと爪でひっかき、中の住人を起こす。

 

「ンモー、なんなんダこんな朝っぱらカラ…ってサーニャー!!?」

「にゃーにゃ」

「おーエイミー…ってかお前また使い魔モードカヨ、まぁ教えてくれてアリガトナ。」

「みぃー」

 

エイラがサーニャをお姫様だっこでベッドまで運ぶのを、行儀よくお座りして見届ける。

 

「ほら、遊んでヤルヨ。お前コレ好きだもんナ。猫じゃらし。」

「んにゃっ!!にゃふっにぅ!!」

 

―――てしっ、てしっ♪

 

目の前で左右にふりふりと跳ね回るふわふわを、彼女は必死になって叩いた。

そして夢中になってはしゃぐその遊びに、横から割り込んでくる影が一人。

 

「ハハハ、ほーれホーラ...ンナッ!?」

「....ぅにゃ」

 

――ぴょこり。

 

寝ぼけて使い魔の猫耳を顕現させたサーニャである。

愛しの彼女があられもなく下着姿で自身の目の前に飛びかかってきたものだから、それはもう酷い狼狽え方で。

 

「あわわわ!!ダメだサーニャ、そ、そんナナナ!!!」

「に…」

「なーぉ?ふみぅ」

 

初対面の猫がそうするように、くんくんと顔どうしが密着するほど近づきニオイを確かめ合う猫二匹。

それを何とかしてやめさせようとエイラは大慌てで猫じゃらしをパタパタと振りかざした。

 

「ほら、サーニャ!!こっち、こっちなんダナ!……アワー!!!」

「…みゃぁっ♪」

 

自身より格上だと判断した黒猫がそのツガイに飛びつくのを見送りながら、子猫はそそくさと部屋を後にした。

 

 

 

 

―――カチャリ

 

次に訪れたのは、それはもう凄惨で悲惨で、悍ましい部屋だった。

大量に積まれたナニカ、ナニカ、ナニカ。

足の踏み場さえないゴミだらけのその部屋も、ネコにとっては遊び場の多い楽しいお部屋で。

 

「…くんくん」

 

芽が生え、変色したじゃがいもを確認した後、その中で横たわる部屋の主の顔に近づく。

 

「うんにゃぁ」

「…ん~……?ふぁ……いらっしゃい………」

 

そのゴミ部屋の主、エーリカ・ハルトマンは突然目の前に現れた猫耳の抱き枕をこれ幸いと抱きしめた。

フルーツのような爽やかな香りのその黒髪に顔を埋めると、気持ちよく眠りの世界にいざなってくれるのだ。

 

「ぅみぅ、ぺろぺろ。」

 

しかし子猫もやられっぱなしではない、その口元についた寝る前に食べたお菓子の食べかすを舌で舐め取って抵抗するが。

すぐに満足してうとうと眠気に誘われ、しばらくの間ハルトマンと共にベッドで眠りはじめた。

 

―――ぴょんっ、ぴょんっ。

 

しかしこれだけモノがあれば、そこに虫の1匹や2匹当然現れるワケで。

その跳ねるサマはウトウトとしていた彼女を大喜びで興味を惹かせるに十分だった。

 

「ふーっっ!!にゃぁぁっ……ふみ?」

 

―――がらがら、どすんっ!!

 

そして更に、そんな所を駆け回ればゴミ山が崩れるのもまた当然なワケで。

早朝からそんな騒音を聞かされた隣人が怒鳴り込んでくるのもまた必然だった。

 

「こんな朝早くから何を騒いで――――!!ん、エイミー…ああ、またか。」

「にーぅ」

「ほら、こんな所で遊ぶと危ないぞ、私の部屋に来い。」

 

そしてそのままひょい、と幼い猫耳少女の身体を抱えあげると、そのまま部屋の外へと連れ出されてしまうのだった。

 

 

 

 

「こら、じっとしてろ。綺麗にしないと病気になるぞ」

「にぁ…」

 

四つん這いで歩いてきた彼女の手足を優しい手付きで拭き上げるバルクホルン。

それが嫌なのか少しぐずるような仕草を見せるが、結局なされるがままの子猫。

 

「まったく、ミーナやルッキーニにされても嫌がらないのに何故私は嫌がられるのだ?」

「ふみぃ」

 

次に髪の毛のブラッシングまで始められたとなれば、さしものエイミーも諦めて身体を完全に投げ出した。

猫耳の裏をくしくしと解かれると、少しだけ心地よさげな声が漏れる。

 

「んごろ…へみゃぁ」

「こらぁ!ズボンを擦りつけてくるな!女の子がはしたないだろう!」

 

自分のお気に入りのものに自分のニオイをこすり付ける仕草。

それをたしなめられた子猫は逃げるように扉へと逃げようとした。

 

「はいおしまい、よく良い子にできたな偉いぞ。…そうだ、危ないから鈴をつけていけ。」

「にゃー」

 

ちりんちりんと首元でリボンと共に揺れる鈴を鳴らしながら、子猫は再び見回りに戻るのだった。

 

 

 

そして再びハンガーへと戻ってきた彼女は大好きな姉の相棒ファロット G55にすりすりと頬を擦りつけていた。

 

「んみぃ…♪」

 

しばらくそうした後に満足したのか、次は自らの相棒である黒い零の傍へと歩み寄りうずくまる。

 

「……」

 

不思議な感覚。

姉やリリー中佐とも違う、何処か懐かしい安心感を零から感じ再び子猫は瞳を閉じようとした。

 

「んっ、おー、エイミー早起きだn…ああ、まだ寝てんのか。」

「…んにゃっ!」

 

そしてそこに現れた人物に気付くと、彼女は大喜びでその胸の中に飛び込んだ。

それを微笑ましくわしゃわしゃと撫でながら、朝のストライカー弄りに来ていたシャーリーはその隣の零をまじまじと見つめる。

 

「…相変わらず良いストライカーだな。アタシらのとはモノが違うよ。あの大将が直々に整備してんだもんなぁ」

「うみゃっ」

 

まるで自慢するかのようにふんす、と胸をはる仔猫。

 

「しかし何だ、扶桑の技術研究のための零戦のデッドコピーだったか?

 にしてはホント良く出来てるよなぁ、ホンモノより零戦らしい気がするよ」

 

それが創業者直々のハンドメイドである事を知らぬまま、彼女はその精巧さに舌を巻く。

 

「……なぁエイミー!!これちょっとだけ!!一回バラしてみていいか!!!?」

「―――ふしゃぁぁぁぁッッッッ!!!」

 

猫撫で声から一変し全身の毛を逆立てて威嚇の声を上げた仔猫の剣幕に、さしものシャーリーも慌ててその言葉を撤回するのだった。

 

 

 

 

―――キィッ

 

そして最後の部屋、縄張りの見回りを終えた仔猫が最後に訪れる場所。

 

「…にゃむ」

 

そのベッドの毛布の上で未だ眠っている部屋の主の上に飛び乗り、布団に潜り込む。

大好きなフランカお姉ちゃんとはまた違う、包み込まれているような優し気な香りと暖かさ。

 

「……あら、おはよう。エイミーさん…♪」

「みゃーぉ」

 

寝床へと潜り込んできた可愛らしい侵入者を抱きしめ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは目覚めた。

目覚めれば疎ましい書類仕事や管理業務が待つ彼女。

そんな彼女が最近気持ちよく朝を迎えれるようになったのは、ひとえにこの子猫の存在があったからだろう。

 

「いつもありがとう、助かるわ。」

「んにゃ。」

 

ベッドの上に腰掛け、膝の上にその子猫を載せる。

心地よさそうに全身を擦り付けてくる甘えたがりな仕草がたまらなく愛おしい。

猫耳をくしゅくしゅと撫で揉んでやると、ごろごろと喉を鳴らし始める。

 

「じっとしていてね、ちょっとくすぐったいけども。」

 

これも日課だ。

目覚めてまず最初にやることは、エイミーのメイクを施し髪を整えてやること。

何時どこで写真を撮られても良いようにというリリーの頼みのもと、彼女はこうして毎朝エイミーの世話をしていた。

 

「…んみ。」

「んふふ、じっと出来てえらいわ。眠たかったらそのまま寝ちゃってもいいのよ?」

 

心地よい温もりと安心するニオイに包まれているが故、仔猫の意識は急速に眠気に包まれていく。

 

 

「―――ありがとうね、501に来てくれて。」

 

 

「んにゃ?」

 

少しだけ声音が変わった部屋の主の声に首を傾げる。

 

「あなたが来て、ルッキーニさんが来て、皆変わってくれたのよ。トゥルーデだって、シャーリーさんだって…フラウだって。」

「……」

「もちろん他の皆もよ、それに宮藤さんも来てくれてから唯一気がかりだったリーネさんも何処か笑う事が多くなって…」

 

猫耳の少女を優しく撫でる、温かい手。

 

「それに―――あら?寝ちゃったかしら…ふふ。」

「…すぅ…にゅぅ…」

 

自らの膝の上で静かに寝息を立て始めた幼いウィッチをベッドで丸まらせ、ミーナはその頬を愛おしく撫でた。

 

 

 

 

「ちゅーさ、エイミーきてな―――あっ」

「しーっ…」

 

そしてもう一人の幼い来客が訪れ、彼女も部屋へと招き入れた。

幼いにも関わらず、坂本やバルクホルンに師事し訓練熱心なウィッチ、フランチェスカ・ルッキーニ。

 

ロマーニャではかつて問題児とまで言われていたらしい。

しかしミーナからはそんな姿など想像できないほど、彼女はエイミーの前ではしっかりした姉として振舞っていた。

 

「あなたも疲れているでしょう、休んでいきなさい。」

「うじゅ…いーの?」

 

「いいのよ、ルッキーニさんはいつも頑張っているんですもの、それにエイミーさんも一人じゃ寂しいでしょ?」

「…うんっ!!ありがと、ちゅーさっ!!」

 

 

だが彼女は未だ11歳の若年すぎるウィッチだという事を、決してミーナは忘れていなかった。

エイミーだけでなく彼女に対しても同様に愛を持って接し、優しく労わった。

 

 

「…すぅ…おねぇ、ちゃん……」

「んふふー、なになにー?…おねえちゃんはここにいるよー?…んにゃ…」

 

 

そうしてスグに二人仲良くベッドの上で抱き合い、寝息を立て始めた二人の魔女。

 

彼女達の存在に心の底から感謝をしながら、ミーナは明るい気持ちで朝の執務へと部屋を後にした。




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天使の在りし日

「隊長、どうしたんですかそんなニヤニヤ新聞を眺めて」

 

執見室にて新聞を片手にコーヒーを飲んでいるところに、部下であるアレクサンドラ・I・ポクルイーシキンがそんな横やりを入れてくる。

 

「面白いぞ、サーシャも見ろ。」

 

机に投げ出してみせた新聞には先日マルタにて行われた戦闘。

そしてその中で偉業を成し遂げた幼いウィッチの写真が一面を飾っていた。

 

 

「『マルタを救った女神、フランチェスカ・ルッキーニ』『人類初のネウロイの巣撃破』『トドメを刺した扶桑の剣とは』『作戦を裏で支えたリベリオンのウィッチ』『リバウのサムライ』……最近は彼女達の話題で持ち切りですね。」

 

「ああ、あのリリーも上手くやったらしいな。あの整備バカのお気楽娘がよくあんなタマになったものだ。」

 

 

眼を閉じれば今でも思い出せる。

かつて共にバルバロッサ作戦でこの基地に駐屯していた頃のリリーを。

 

「でもお元気でそうで何よりですね、あの天使様」

「ふふ、知ってるか?アイツ今片っ端から各国の剣や刀を売りさばいてるんだぞ?」

「え?う、売り払う…?」

 

困惑した顔で首を傾げる彼女に頷く。

 

「ああ、何でも今世界中でこのルッキーニ少尉の真似をして剣を振り回すウィッチが増えているらしい。」

「ぶッッ!!?え、ウソですよね?」

 

「本当だ。何せ人類初のネウロイの巣を撃破した英雄だからな。真似したくなる気持ちも正直わかる。」

「やめてくださいね隊長!!?」

 

きっと今頃各部隊の予算担当はサーシャのように頭を抱えていることだろう。

恐らくは慣れない近接戦闘でストライカーを壊すウィッチが続出するに違いない。

 

 

「それにしても何だか想像できませんね、あのリリーさんの商魂逞しい姿なんて。」

「そうだな…あの頃の彼女はな。」

 

 

「…隊長は彼女に何があったのか。ご存じなのですか?」

 

 

 

ぐい、と残っていたコーヒーを全て呑み込む。

 

 

「あんなコトがあれば、ああなる気持ちも分かる気がするよ。」

 

 

 

 

 

格納庫の外に積もる大量の雪を眺めながら、不味い軍の支給品のタバコに火を点ける。

お姉ちゃんにバレたらまた怒られる。しかし寒い時で吸うタバコって不思議と楽しいんだよね。

 

「―――ふーっ」

 

ただでさえ白い煙が寒いから猶更白くなるのがちょっと面白い。

スパナを手で弄びながら口の中にその香りを酒で流し込む。

 

「あー…お酒ないじゃん、もらいにいかなきゃ。」

 

死ぬほど寒い格納庫から、悶える程度に寒い隊舎内の廊下へ移る。

お目当ての部屋のドアをノックもせずに開け放つ。

 

「んねぇー、おさけちょーだーい。おねーちゃん。」

「ぅぅん…そこ、タンスの下に転がってるのならおっけー…」

「あいあーい」

 

未だ布団でうずくまる部屋の主に手を振り、乱雑に転がってる酒瓶をくすねる。

 

 

「…あんた最後に身体洗ったのいつ?」

「えーと一緒にはいったじゃんこのあいだ。ほら三日前」

 

「んもー!!お姉ちゃんがいないとサウナも一人ではいれないのねこの妹はー!!!」

 

ばさり、と毛布を払いのけ一糸まとわぬ姿の褐色の素肌を晒したウィッチ。

 

「アンタも大尉になったんだからまともなカッコしなきゃ!サウナいくわよサウナ!!」

「あ"あ"~ゆうかいさ"れ"る"~……」

 

彼女に首根っこを掴まれた、整備油まみれのタンクトップとズボンだけのウィッチ。

その気だるげな表情と、豊かな金髪をボサボサに乱れさせた彼女は技術大尉の階級らしい。

 

リリー・グラマン技術大尉とフェデリカ・N・ドッリオ大尉。

 

バルバロッサ作戦へロマーニャそしてリベリオンから派遣された彼女達は、今日も兵士の目を憚らない姿で廊下を駆けだした。

 

 

 

 

「あぁ~いいわぁー♪お姉ちゃんの毎日の育乳の成果が出てるわね~」

「むー、これ以上大きくなったら整備の邪魔なんだけどぉ…」

 

「相変わらず仲が良いことだな、二人とも」

 

サウナにて真っ白な双丘に顔を埋めるフェデリカのあられもない姿。

それをニヤついた顔で横やりを入れるのはグンドュラ・ラル少佐だった。

 

「あらラルっちじゃん、もー予算会議終わったの?」

「ああ、辛うじて施設整備費をぶん取るコトが出来た。コレでしばらくは私達の首も繋がったよ」

 

「む…」

 

折角の姉との二人きりの時間、そこに割り込んできた何処か湿った雰囲気を感じリリーは顔を歪めた。

 

「リリーのおかげで奇跡的に部品や予備に余裕があるとは言え、こうも補給が滞ってるとな…」

「でも今度大規模な偵察作戦あるんでしょ、それ関係の特別予算を上と交渉できないの?」

 

 

 

「うがー!!アタシの前でゴチャゴチャした話だめーっっ!!!」

「―――うひゃあああ!?ダメよリリー!ここはベッドじゃないわ!!」

 

 

ついに彼女はガマンの限界を迎え、姉に飛び掛かる。

そう、もうとにかく補給だの予算だの交渉だの、そういった話は彼女は大っ嫌いだった。

 

 

「アタシ、おうちのジメジメした雰囲気がヤだから欧州に来たのっ!!

 だからやだー!!おかねのはなしやだやだー!!うわーん!!」

 

 

「フェデリカ、コイツは今年で確か。」

「じゅーごっ!!」

「5歳の間違いじゃないのか。」

 

姉のような存在であるフェデリカに抱きつき駄々をこねるその姿は正に幼児そのもので。

 

「余り固いコトは言いたくないがお前も整備隊長だろう。予算や補給の話くらい」

「やーだー!!そーゆーのはリカねえがやってくれるもん!!」

「そーそー!私がやってあげるからね~♪かわいいリリーのためだもん♪」

 

「…私の副官がサーシャで良かった。」

 

自身の副官、弱冠14歳にも関わらず予算や補給管理業務を任せられるオラーシャのウィッチ。

彼女のありがたさを目の前の幼児を見ながら痛感し、今度休暇でもやろうとラルは独りごちた。

 

 

 

 

1サウナ決めた清々しい後、気持ちよくし整備でもしようかとハンガーへ向かうと

 

「ちょ、ちょっとリリー整備隊長、なんて恰好をしてるんですかぁ!!」

「んぇー…おー新入りクンじゃん、どったのさそんな慌てて」

 

見ればその新入りの少年整備士は、顔を真っ赤に染めて顔を覆ってるではないか。

 

「隊長!!隊長は女性なんですし!ここは男性整備士しかいないのですから!!そんな、そんな恰好!!」

「しょーがないじゃーん、リカねえが服洗濯しちゃってコレしかなかったんだもん」

 

そうだ、このリカ姉が何枚も何故か持ってるバニー服がそんなにおかしいだろうか。

あーでもこれお尻の食い込みが…あ、直したら更に新入りクンが真っ赤になった。

 

「姐さん!言われた通りの作業申請書、纏めておきやした!」

「ん~…勝手に私のハンコおしといてー」

 

「ボス、今日のストライカー部品の日日点検終わりました、異常ありません」

「姐御、明日の輸送支援についての事前調整は…」

 

あぁ部下の整備士達はホント優秀で助かる。

アタシがただ修理整備以外なーんにも出来ないアホなのにしっかり介護してくれてるのだから。

 

ただ何も考えずこうやって工具箱で遊ばさせてくれるのは彼らのおかげだ。

 

 

 

「やぁやぁ随分煽情的な格好だねぇ、もしかしてボクを誘ってる?」

「…たすけてリカー!!アタシナンパされてるぅー!!」

「うわぁぁごめんって!ごめんごめん、お願いだからソレだけは勘弁してよ」

 

ストライカーの下に潜り込んだところにひょっこりと顔を出してきたのはカールスラントのウィッチ。

その整った顔立ちは偽伯爵ことヴァルトルート・クルピンスキー中尉だ。

 

「まったくキミのお姉ちゃんは怒らすと先生みたいにおっかないんだから…」

「んもぉー分かってるなら邪魔しないでよほら、部外者はしっしっ!!」

 

 

「…こほん、ところでここにラル隊長の部屋からくすねて来た高級ぶどうジュースがあるんだけど?」

 

「飲むわよやろーどもー!!アタシがゆるすー!!!!」

 

<うおーさすが俺達のリリー隊長だー!!

<そこにシビれる憧れるー!!

 

酒、と言う言葉を察知した瞬間、リリーは拳を高く突き上げ勝鬨を挙げた。

 

「ははは♪ボク、君のそういう所好きだなぁ」

「ほらさっさと開ける!!お酒は待ってはくれないのよォ!!」

 

そうして真昼間にも関わらず整備隊長公認のもと、格納庫では酒宴が開催されて。

 

 

 

 

「…なんだこの有様は。おいニパ、誰か生きてる奴いるか?」

「み、みんな死んでる…酷いよこんなの、一体だれがこんなこと…」

 

プスプスといつも通りストライカーから黒煙を巻き上げ帰還した菅野とニパを歓迎したのは、酔いつぶれた整備士達の死体の山だった。

 

 

「やぁおかえりニパ君ナオちゃん、今日も良い壊しっぷりだね。リリーちゃんも喜ぶよ。」

「てめぇぇぇの仕業かぁぁぁぁ!!!」

 

 

諸悪の根源が殴り飛ばされた扉から現れたもう一人の金髪のウィッチ。

 

「…はぁ、変な声がすると思ってきてみたらやっぱりこんなコトに…」

 

溜息を吐きながら足元の偽伯爵を踏んづけ、二人を一瞥する彼女。

アレクサンドラ・I・ポクルイーシキンはその惨状を見て頭を抱え込んだ。

 

 

「もう何から怒れば…とりあえず菅野さん、ニパさん…ストライカーは」

「壊れてる」「壊れてます」

 

「…明日、出撃があるのは?」

「知ってるよ」「知ってます」

 

「…予備の機体は」

「あるわけねーだろ」「壊しちゃってます」

 

 

その2名のブレイクウィッチーズの清々しい返答にサーシャは満面の笑みでうんうんと頷き。

 

 

「――――うがあああああああああ!!!!」

 

「やべぇキレた!逃げるぞニパ!!」

「あっちょっ待ってって!!あーコケたー!!」

 

 

ストライカーを脱ぎすて、逃げ出したニパに踏んづけられた何か柔らかいモノ。

リリー・グラマンは寝起きで涎を零しながらサーシャの噴火する様を面白そうに見つめていた。

 

「…ああ、またこわしたの…」

「リリーさんッッ!起きているなら正座しなさいッ!いや違うもう良いから皆起こして―――ああもう間に合わないじゃない明日の出撃どうすれば…!」

 

 

 

「―――アタシが起きてるから余裕よ。」

 

 

 

頭を抱え涙さえ浮かべるサーシャに静かに語りかける声。

その声には技術者としての絶対的な自信、そして確信に満ちていた。

 

 

「…なら私も手伝います、何としても明日までに二人のストライカーを」

「いらない。アタシの腕はアナタが一番よく知ってるでしょー?」

 

 

「…わかりました、ただお願いなのでせめて服を。」

「え、なんでぇ」

「貴方が風邪をひいたらどうするのですか!あなた一人で整備を回しているのに!!いいですね!!」

 

プンスコと怒りながら偽伯爵の首根っこを引きずり去っていくサーシャ。

うーん風邪か。確かに酒があるとは言えちょっと肌寒い。

どこかになんか服みたいなの…お?

 

「う、ううん…たいちょう…」

 

ちょうどいい、この酔っぱらって潰れた少年兵を湯たんぽにして作業しよう。

うんあったかい!!あたしてんさい!!

 

 

 

 

「おい。おいリリー、起きろ。」

「ううん…なぁにぃ…?」

 

少年兵を枕にして眠りについていたアタシを起こす声。

見上げるとそこにはここの司令、グンドュラ・ラル少佐が見下ろしていた。

 

「修理の進捗はどうだ?」

「とっくに。」

「…流石だ、お前が居てくれなかったらと思うと肝が冷える。」

 

しかしどうしたのだろうか。彼女が直接アタシの所にくるなど。

予算や会計のことは全部リカや部下がやるし、それ以外の用件など―――ああアレか。

 

「3人ほど診てやってほしい。お前でなくては無理だ」

「んー、おっけー…ちょっと久しぶりだね」

 

 

 

 

連れてこられたのは医務室、その中に並べられた無機質なベッドに寝ている数人の兵士。

皆一様に包帯を巻き、疲労困憊な様子が見て取れた。

 

「彼だ。」

「…あーなるほど、ちょっと待ってねー。」

 

―――フォォォン…ぴょこり

 

魔法力を解放し、使い魔を顕現させる。

頭上からコウモリの耳。背中からバサリと禍々しい翼がはためく。

 

 

「……《催眠》」

 

 

光彩を輝かせ、そのうつろな兵士の瞳をじっと覗き込む。

どうも完全に正気を失ってしまっているらしい、可哀そうに。

 

「…『何があったの?』辛いだろうけど話してくれない?」

 

 

そう、これが整備士としてのアタシではない、もうひとつのアタシの顔。

アタシの固有魔法である催眠を使い、戦いで精神を消耗してしまった彼らの心の傷を癒す。

機械と人間、まったく違う存在とはいえモノを治すという点においてやりがいはどちらも大きかった。

 

「そう…そうだったの…うん、それは辛かったね…。」

 

この目の前の兵士は、陸上ネウロイの巨体に踏みつぶされ動けなくなった仲間。

それを助けられなかったコトが強烈なトラウマになってしまったらしい。

 

 

「今でも毎日夢に見るんだ…助けてくれ!!助けてくれって…!!」

 

 

ボロボロと涙を流しながら悔やむ兵士の姿。

それが痛々しく、そっと抱きしめ背中を優しくさすった。

 

「もういいんだよ、貴方は十分苦しんだから…『その人のことは、忘れて』」

「ぁ…ぁ…」

 

もう一度光彩を輝かせ、彼に暗示をかける。

これが良かったのか、悪かったのかは分からない。

ただこうしなければきっと彼は永遠に死ぬまで苦しんでしまっただろうから。

 

「…」

 

静かに瞼を閉じ、眠りの世界へ旅立つ彼の顔は穏やかだった。

 

 

「…すまないな、整備士に頼むことではないのだが」

「んーん、いいの。」

 

「彼はもう大丈夫だろう、次は…」

 

その後もまた別の兵士を催眠カウンセリングを実施し、心の傷を塞いだ。

 

 

 

そして次に案内された相手の姿を見て、ちょっとだけアタシは驚いた。

 

「…この子の制服、カールスラントのウィッチ?」

「ああ」

「驚いたぁ、カールスラントってアンタとか偽伯爵みたいな変人ばっかだと思ってた。」

「ははは、お前にだけは言われたくないな」

 

その子のベッドに腰掛ける、完全に正気を失いその瞳は光が灯っていない。

 

「大丈夫?アタシのこと、見えてる?」

 

「…あなた、は…?」

 

あーそりゃちょっと驚くよね、医務官でもない変なヤツがいきなり来たら。

 

 

「あー…えっとぉ、アタシ、リベリオンのリリー・グラマンって言うの。」

 

「…リリー・グラマン?」

 

「そーそー、もしかして知って――――」

 

 

――――ごすんっ

 

 

不意に、頬に衝撃と激痛が走る。

それが目の前の呆然としていたウィッチの殴打によるモノだと気づいたのは、倒れてからで。

 

 

「―――お前のっ!!お前のせいでカールスラントはっ!!この性悪女(ヘルキャット)ッッ!!!」

 

 

どこまでもドス黒い憎しみに染まったその瞳は、アタシが生まれて初めて見るものだった。




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天使が堕ちた日

「…はぁ…」

 

不味いタバコの煙を酒で流し込む。

いつもならそれで全てがスッキリするのに、今は少しも心が晴れない。

 

 

―――この性悪女(ヘルキャット)がッッ!!

 

 

つい先刻カールスラントのウィッチに叫ばれたその言葉。

その意味がまったく理解できず、ただずっと心に貼りついていた。

 

10歳の頃だ。

お嬢様お嬢様と持て囃され、ジメジメした湿っぽい父とその会社の人間に嫌気が差し、リベリオン欧州派遣隊の船に潜り込んだのは。

言葉すら通じず、その身一つでロマーニャにやってきたアタシを救ってくれたのは当時まだストライカーのテストパイロットだったフェデリカで。

 

それからアタシはずっと彼女の下でストライカーを弄り続け、彼女が軍に入隊すればその後ろを付いていった。

 

自分で言うのも何だけど、ずっと頑張ってきた。

あんな金と権力のコトしか考えていない会社や父のようにはなるまいと、自分の腕だけを信じて戦場に身を投じてきた。

それがどうして、なんで"性悪女"なんて言われるんだろうか。

 

 

 

「お嬢様。御父上様からのお手紙をお持ち致しました。」

 

そうそう、性悪女(ヘルキャット)というのはこういう奴のコトを言うのだ。

 

「あなたもしつこいなぁ。アタシのコトなんかほっといてよ。」

「そうは参りません、貴方様はグラマン社の次期社長となるお方なのですかr―――」

「ほっといてって言ってるでしょ!!消えて!!」

 

欧州に来てから、ずっとハエのように纏わりつく父と会社からの使いの名も知らぬウィッチ。

彼女から香り立つあのジメジメした欲望と権力のニオイが、どうしても嫌いで仕方なかった。

 

「またお伺いします、どうかお身体に大事になさってください。お嬢様。」

「…チッ…」

 

そのニオイをかき消そうと、新たなタバコに火を点けて思い切り吸い込む。

くそ気分が悪い気分が悪い。

ああそうだ、こんな時には―――。

 

 

 

「ほら嫌なコトがあったんでしょう。飲んでください」

「構いません、明日の作業は俺達がやりますから、どんどんお飲みになって下さい!」

 

「…ごめんね、はぁ…」

 

その夜、整備士達と共に酒盛りをしても心の底から楽しむことは出来なかった。

皆に気を使わせてしまって申し訳ない。これではせっかくの酒も不味くなってしまうだろう。

 

「安心してください、姉御は姉御ですよ。金儲けしか考えてないクズとは違います」

「そうですよ!ボスの下で働けて俺達も幸せです!」

 

ああ…この子達はホントにいい人間ばかりだ。

こんなアタシを心の底から慕ってくれる上に皆優秀なのだから。

 

「ありがとうね皆…こんなアタシについてきてくれて…」

 

彼らはほとんどみんな、欧州の各戦線でずっと一緒にやってきた仲だ。

共に数多の戦場で数多の航空機やストライカーを修理、整備してきた大切な半身。

 

気持ち悪い会社や父の力など一切借りていない、リリー・グラマンというアタシ一人の力で手に入れて培ってきた大切な仲間。

…欧州に来てからのアタシの軌跡そのものと言っても、過言ではない。

 

「何水臭いこと言ってるんですか!ボスらしくないですよ!」

「そうですよホラ、もっといつもみたいに馬鹿騒ぎしましょうよっ!!」

 

「あ"ー!!さすがアタシの部下共よ!!今日は全員吐き潰れるまで終わらせなーい!!!」

 

あーもういいもういい!!

どーせアタシはバカなんだからこんなの考えたってしょうがない!

呑めのめー!!ほらそこの新入りクンにも無理やり飲ませるのよ!いえー!!

 

 

 

 

「サーシャ、コレを見てくれ、コイツをどう思う」

「すごく…おかしいです。」

 

現実逃避の酒盛りにリリーが興じてる頃、執務室では二人ラルとその部下のサーシャがとある紙について話を交わしていた。

 

「ある時期を境に、ここへの補給物資や予算が一切減らなくなっています。それも全て整備や修理に関連するものばかり…」

「何か恣意的なモノを感じるな」

 

その紙に書かれていたのはこの基地の部隊への予算。

過去数カ月のデータを洗い出しまとめたものを見た結果、見る者が見れば分かる異常な事態が起こっていたことを彼女達は見つけてしまっていた。

 

「…リリーさんに、聞いてみますか?」

「いや、聞くならフェデリカだ。…呼んできてくれ」

「…はい。」

 

その去っていくサーシャの背中を見ながらラルは独りごちた。

 

「ビフレストでの噂は…こういうコトだったのか…」

 

 

 

 

「コッチの3つはアタシがすぐにやる!アンタ達でソレを急いで修理なさい!」

「はい分かりました隊長!」

「流石だぁ…」「やはり隊長に敵う整備士など居る訳が…」

 

予定通り行われたウィッチ部隊による強硬偵察作戦。

その最中整備士達は目まぐるしい整備と修理と点検に追われていた。

ウィッチ隊のバックアップとして待機しているフェデリカもそれを手伝い、リリーと共に駆けまわっている。

 

 

「―――ダレだお前ら!ココは今状況中――――」

 

 

「お嬢様、私達とご同行願います。」

「…はぁ?」

 

その慌ただしいトコに現れたのは、あの忌々しい父の使いのウィッチ達。

しかも今日は複数人、銃で武装した男たちまで引き連れているではないか。

 

「うるせぇ!今は作戦行動中なんだぞ!誰かは知らねぇが早く出ていk―――」

 

 

―――パァン

 

 

何かが弾け散らばる音。

それが目の前の自分の部下の整備兵の脳天が弾けとんだ音だと気づいたのは数秒経ってからで。

 

 

「…ご同行、願えますね?フェデリカ大尉、あなたもです。」

 

―――パンパンパンッ!!

 

ソイツらが威嚇射撃のように銃を乱射し始めたのだから、もう私にはどうすることも出来なくて。

 

「分かったわ!だからもう良いでしょ!…リリー…今はとりあえず…!」

「何なの…?何でアタシの邪魔をするのよ、アンタ達は…」

「リリー!!」

 

強引に手を引かれ、リカ共々その薄汚いジメジメしたウィッチ達に連れていかれるアタシ達。

背中に突き刺さる整備士達の不安げな視線がどうしようもなく辛く、痛かった。

 

 

 

 

「アンタ達…この子の父親の手下でしょ!?この子はもうグラマン社とかリベリオンとかとは関係ないのよ!もうこんなコトやめなさい!!」

「……!!リカぁっ!!アレ、なにっ!?」

 

輸送機の中、リカねえの腕の中で震えていたアタシは窓越しに、さっきまでいた基地が轟音を上げ大爆発するのが見えてしまった。

その衝撃はすさまじくこの機体まで震えるほどで。

 

―――だとしたら、そこにいる整備兵たちはどうなって!!!?

 

「もどれぇぇぇっ!!みんなが居るのよ!!早くもどりなさいよぉぉぉっ!!!」

「申し訳ありませんが、承りかねます。」

「あああああああぁぁぁっ!!もどれっ!!もどれぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

狂いそうになるほどに目を見開きながら叫ぶ。

リカが抑えてくれていなければきっと殺していたにしまって違いなかった。

 

「ラル…!!みんな…!!?」

 

薄く吹いてきた吹雪越しに見える窓の向こうの景色にいる、ウィッチ達も整備士達も。

今のアタシには、どうすることも出来ない。

何も、いやーーーー。

 

 

「―――アンタ達の顔、全部覚えたから…」

 

 

心の底から憎悪を込めて、目の前のウィッチと男たちを睨みつける。

 

 

「もし戻らないなら全員……アンタ達をクソオヤジに言いつけてやる…!!」

 

 

初めてその無表情を貼り付けたような顔達に、怯えの色が浮かんだ。

 

 

「アタシはリベリオンのグラマン社の社長、()()()()()()()()()()()だぞっ!!逆らったらどうなるか、分かってるんだろうなッッッ!!!」

 

 

「…リ、リリー…」

 

私はこの日生まれて初めて、父の名前を出して人を脅した。

そしてその結果は――――。

 

 

 

 

雪がふぶくなか、ロマーニャとリベリオンのウィッチはストライカーで空を駆ける。

 

「…ねぇ、さっきから様子が変だよ?大丈夫?」

 

隣を飛ぶリリーの震える背中を撫で、静かに問いかける。

輸送機から飛んでからずっとこんな調子だ、言葉一つ離さずずっと俯いている。

 

 

「――ーアタシ…アタシ…さいていだ…」

「…え?」

 

そして彼女は嗚咽と共に、大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。

 

「あんだけ嫌いで、クソ扱いしてた親父の名前で威張り散らかすなんてッッ……!!

 こんなの、あんなのまるで、嫌いだった会社やオヤジの人間と一緒だよ…!!!」

 

「リリー…」

 

フェデリカは絶望し顔を覆う妹の身体を、ただそっと優しく抱きしめる以外の術を持たなかった。

 

 

 

 

 

そして基地に舞い戻った彼女達を出迎えたのは、凄惨な光景だった。

辺りに散らばる建物だったモノ、武器だったモノ、命だったモノ。

 

そして幸か不幸か、施設に精通していたリリーには、格納庫がどこかその惨状からでもすぐに理解してしまって。

 

「ぇ…ぁぁ…ぁぁ………」

 

彼女が欧州に来てから、自分ひとりで築き上げきた部隊。

あの新入りの少年整備士も、気さくに話しかけてきてくれた整備士達も。

大事に使い続けてきた工具も、何もかもが。

 

 

全て、黒い炭へと変わり果てていて。

 

 

「ぅそ…みんな…」

 

「リリー!!危ないっ!!後ろっっ!!」

 

 

呆然としている彼女の背後で何かが墜落し、大爆発が起こる。

さっき僅かにあったネウロイ反応にでもやられたのか。

それがあの彼女とリカを連れ去った輸送機だと分かった時、彼女は心の中でざまぁみろと呟いた。

 

「あぁくそっ!!動かないでね!すぐにそっちにいくからー!!」

 

「…」

 

その墜落した輸送機に近づくと、その中にはあのウィッチ達が血を流して死んでいた。

ふと、その手に握られていた分厚い本が酷く気になり、その手からはぎ取った。

 

ついでにその頭を思い切り踏みつけながら。

 

 

 

 

 

「…」

 

自室は半壊していた。窓が拡張されて解放感が溢れている。

机に腰掛け、パラパラとはぎ取った本を開くと――――。

 

 

「――――――は?」

 

 

そこにはアタシの欧州に来てからの一挙一同が全て書かれていた。

それはいい、それくらいは想定内だ。

 

だがその全ての事柄に対し、何かが書きこまれていた。

 

 

―――アタシが入隊した後は、配属される先を安全な部隊に父が指定していたこと。

 

―――しかも配属先の隊長を買収、贔屓優遇するように会社が指示していたこと。

 

―――補給物資をアタシの部隊に横流し。優秀な人員の強奪。

 

―――カールスラントで最前線の部隊の優秀な整備人員や物資を強奪していたこと。

 

―――そのせいで補給系統がめちゃくちゃになって、幾つかの部隊が戦わず崩壊していたこと。

 

 

―――そしてそれら全てが、アタシの知らない所で行われていたこと。

 

 

そして、それらだけでもアタシは吐き気と眩暈と、涙が止まらなかったのに。

なのに、最初のページには。

 

私をもっと追い詰めるコトが書かれてあって。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()。テストパイロットとして所属していた企業経由で買収。

 欧州にてリリー様の身辺の世話をさせる。』

 

 

 

「は…はは……」

 

昔から慕い、ずっと後ろを付いていっていた大好きなお姉ちゃん。

そんな彼女が、そうか、そうだったんだ。

 

「あははは……ははははははは……」

 

思い浮かんでくる幸せで楽しかった日々。

会社や父の力じゃない、アタシ自身の力で積み上げてきた日々。

 

 

「そっか、ぜんぶ、うそ、だったんだ。」

 

 

アタシが今まで自分の力で築き上げてきたものは。全部会社と父の力だったんだ。

 

いや違う、それ以下だ。周りの迷人たちに迷惑と不幸をまき散らしていただけで。

 

 

「あははははははあははは!!!あはは…ひひっ……!!」

 

 

ふと、ヒビが入った鏡の中の自分と目が合う。

その顔は毛嫌いしていた父や、会社の人間達そっくりにニヤついている。

 

 

「ふふふっ…あはぁ…♪」

 

―――ぴょこん。

 

 

親への反逆、自由が欲しいという意味から使い魔に選んだ蝙蝠。

でも違う、薄汚く周りの人をだまし続けていたアタシにはぴったりだ。

 

 

―――ガグュッ、ゴギァッ。

 

 

その鏡が忌々しくて、何度も頭を叩きつける。何度も何度も。何度も何度も。

 

『…リリー!?そこにいるの!?ねぇ開けてっ!!』

 

ガラスの破片が頭に刺さり、まるで角のようだ。

大量に溢れ出る鮮血が、醜く笑う顔をメイクしていく。

 

 

「―――『お前はゴミだ、クズだ、最低の人間だ』」

 

 

鏡の中の自分の光彩が輝き、アタシを見据える。

頭がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。そうか、皆こんな感じだったんだ。

 

 

「『消えろ、死んでしまえ、救いようのない汚物』」

 

 

アタシが消えていく。

脳にナイフを突き立てられて、えぐり回されているような吐き気が襲う。

 

 

―――お前のっ!!お前のせいでカールスラントはっ!!

 

 

アタシの後ろで、私に向かってカールスラントのウィッチが叫ぶ。

 

 

 

「―――『この性悪女(ヘルキャット)が』。」

 

 

 

アタシは、もう疲れて意識を手放した。

 

 

 

 

 

「ねぇっ!!どうしたの!!お願い開けて…リリー!!」

 

「……」

 

自室の扉から出てきたリベリオンのウィッチ。

それに飛びつこうとしたフェデリカの身体は虚しく空を切った。

 

 

「…リリー…?どう、したの?」

 

 

「―――()に話しかけないでくれますか?汚らわしい欧州人が。」

 

 

「…え?」

 

 

呆然と佇むロマーニャのウィッチに一瞥もくれることなく、彼女は歩き出す。

 

 

―――ああよかった。やっと私は目覚めれたのだ。

 

 

空を見上げる。

何て気持ち悪く下品でドブの臭いがする青空だろうか。

 

 

「ああ……吐き気がする…♪」

 

 

血まみれの少女は、憎悪と欲望に塗れ、歪みきった笑みをにっこりと浮かべた。




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北部ロマーニャ戦線
トリノ脱出 part1


数日お休みを頂いてしまい申し訳ありませんでした。


1943年10月、ロマーニャの一部がネウロイにより陥落しました。

…マジですか?早すぎません?ヴェネツィア陥落って確か2期の出来事ですよね。

 

 

陥落したのはイタリア半島の付け根(南側)にして、大都市ミラノの南部に位置する大港町ジェノヴァ。

ガリア方面より海経由で侵攻してきたマルタにいたタイプ───つまりインフェルノ仕様のネウロイ達は瞬く間に駐屯していたロマーニャ軍及びヴェネツィア海軍の戦艦3隻を殲滅。

地中海及び北アフリカ方面からのシチリア半島への侵攻に対処していたロマーニャ空軍及び504部隊はそれの対応に遅れてしまったらしいです。

 

 

「もう少しで到着します、プラマー軍曹」

 

 

…私はそして現在なんと、ロマーニャ北部の山岳基地へと装甲トラックで移動している最中です。

しかもフランチェスカ・ルッキーニ少尉───フランカお姉ちゃんと別れて。

そのうえなんとあのリリー中佐すらいません。

 

 

事の成り行きはこうです。

大陸側欧州の最後の砦であるロマーニャへの侵攻。

その重大事案に対し地中海方面統合軍総司令部、およびロマーニャ政府は各地へ派遣していた自国の戦力を慌てて招集。

それに伴い501へも、マルタを救った英雄であるフランカお姉ちゃんの原隊復帰を非常に強く要望。

同時にリベリオン、ブリタニアの両海軍のロマーニャ南部への派遣が決定。

それのリベリオン側のウィッチ隊の総指揮を、マルタで指揮を執ったリリー技術中佐にと強く推薦があったみたいです。

 

 

『絶対にまた会いましょう、私達は離れていても家族よ』

『待ってるぞ!戻って来いよチビ共!』

 

 

悲しそうな、不安げな気持ちを滲ませつつも温かな笑顔で送り出してくれた501の皆さま。

この人らが来てくれれば楽勝じゃね?と思いましたがブリタニア防衛の要ですものね…ダメですよね。

 

で、私です。

本来ならフランカお姉ちゃんに付いていき、504部隊らと共同しミラノからジェノヴァを奪還するルートか。

もしくはリリー中佐に付いていき、リベリオン、ブリタニア混合部隊でシチリア島を防衛するルートか。

 

 

だと思ってたんですけど、まさかの第3のルートです。

 

 

 

「──プラマー軍曹、ご覧ください、アレがかの有名なアルプス山脈です」

 

 

私は二人と離れロマーニャ北部のアルプス山脈の麓、トリノの基地へ向かっています。

ガリアから海を経由してのジェノヴァへの侵攻。

北アフリカからロマーニャ南部シチリア半島への侵攻。

そして同時に小規模ではあるものの、なんとネウロイがアルプスを越えてロマーニャ北部へ出没するようになってしまったとのことです。

それもあの、マルタにいたインフェルノ仕様のネウロイが。

 

 

さらに他の様々な要因も重なり合ってその北部戦線は非常に厳しいモノがあり、私はリベリオンからの支援人員の一人として現地部隊から強く要望され、加わるコトになりました。

その役割はマルタ仕様のネウロイとの戦闘の助言、アドバイザーみたいなモノです。

シールド張ったり透明になったりするネウロイとの交戦記録はリリー中佐が記した『マルタ・レポート』として出回っているようですが、実際に何度も交戦し帰還したウィッチとなると私かお姉ちゃんくらいです。

それ故ウィッチとしての能力ではなく、その過去の経験と知識を買われての抜擢と言った所でしょうか。

 

 

私を絶対に一人で危険に晒させまい、とするリリー中佐とフランカお姉ちゃんの強い意志が反映されてますね…。

その証拠に相棒である零戦五二型も、M1897ショットガンも持って来させてくれませんでした。

 

 

 

――November,1943

  Romagna Near Turin

  Sgt. Amanda Michael Plummer

  Rebellion Romagna Detachment

 

 

おやおやおや!テロップさんちーっすちーっす。

そういえばこの独白テロップ?って大きく戦う場所が変わる度に出てますよね。

Sgtってことはまだ私ぐんそーなんですねー…昇進したいですなぁ。

 

 

ん?ドライバーさんが何かボヤいてますね…『なんだか道が騒がしい』?

確かに外を見てみれば、なんだかトリノ方面からこっちに向かって走ってくる人や車が多いですね?

しかも何かみんな慌ただしいような、ハダシの人までいます。

ガリアやカールスラントからの難民さんでしょうか、そんな身なりのような人たちも混ざってて…。

 

 

『少し急ぎます、しっかり捕まっていてください』

うぎゃあああ!?トラックがインド人を右に!!シェイクされちゃう!!

 

 

…で、結局トリノまでかなり近づきましたが、近づく程に向こうから走ってくる人や車の量が増えてますね。

後部の貨物部分に乗っている兵士の方や隣のドライバーの方が慌ただしくなっています。

どうやらトリノに駐屯しているあらゆる部隊とまったく無線による連絡がつかないらしいですね。

 

 

まぁ先程からトリノ方面から聞こえてくる爆音や轟音、そして上空に広がりつつある黒い雲を見れば原因は火を見るより明らかですが。

間違いなくコレ、街の中央までネウロイ来ちゃってません?

でも待って下さいトリノって結構な大都市ですよね?それがここまで侵攻されるほど厳しい戦況だなんて話じゃなかったはずです。

それにしたってアレもしかして『巣』なんかワケないですよね、早すぎますもんね。

 

 

え?『このまま状況確認のために目的地まで行く』?大丈夫ですかそれ。

でも戦闘してる可能性がある以上兵士としては行かなくちゃ行けないんでしょうね。黙って従いましょう。

 

 

 

…で到着しましたが街中は酷い惨状ですね、悲鳴、倒壊、抉れた地面、命だったものが辺り一面に転がってます(AMZNZ)

某ラクーンシティのような状態ですね。

薄暗い空ではネウロイと十数名のウィッチ隊らしき影が戦っていますがお世辞にも渡り合えてる様には見えません。

 

 

───ガコンッッ!!

 

 

そして次の瞬間、私の搭乗していたトラックは倒壊した建物の陰から現れたナニカ。

不幸にも黒塗りの地上型ネウロイに追突し、凄まじい衝撃と共に私は身を車から投げ出されました。

 

 

 

 

──▽▽──

 

 

《目標:トリノからの脱出》

《防衛目標:避難民》

 

 

死体クッションのおかげで無事だった私はその恩人の瞼をそっと閉じさせると、燃え盛る装甲トラックと視界にポップアップする文字を眺めました。

はー!まぁ、でしょうね!なんかそんな気がしてましたもん!

 

 

《僚機を選択してください》

いつもフランカお姉ちゃん固定だった為無視していたポップアップですが、今日はその枠がカラッポですね。

 

 

《武器を選択してください》

懐にしまってたクナイ二本だけですね。持ってた拳銃は原型がないあの運転席の中です。

 

 

《ストライカーを選択してください》

ねぇよばかやろう。

 

 

《ミッションを開始します》

はいはい。

 

 

とりあえず眼の前でグチャグチャになって横転したトラックの物資を確認してみましょうか。

なにかしら銃くらいはあってくれれば嬉しいですが。

 

 

…荷台のカバーをめくるとそこには散乱した荷物と…荷台座席にはツキジめいたネギトロ祭りがががが…

 

 

《『トラウマ』が発動しました。》

 

 

げ、やばいですね。

唐突に吐き気と激しい頭痛と、あの懐かしいチュートリアルの惨劇のキツイ幻覚が襲ってきました。

フランカお姉ちゃん、もしくはリリーさんがいればすぐに落ち着くのですが…今は一人ぼっちです。

仕方ありません、こんな状態では脱出どころではありませんし苦肉の策を使いましょう。

 

 

震える手でリベリオン下士官服の内ポケットから小瓶を取り出し、手に内容物をぶち撒けて無理やり喉に押し込みます。

 

 

───ふぅ…おちつきました。

 

 

リリーさんから預かった…ちょっとラベルからヤバそうな雰囲気がするおクスリです。

飲むとHPが減るとかバッドステータスが付くとかはないですが…《催眠》のタダでさえ長い時間が更に伸びちゃいます。

できればもう飲みたくないですね、気をつけましょう。

 

 

さてトラックの中身はっと…使い物になりそうな銃はありませんね。

でも血まみれの医療キットは見つけました、中はキレイですし使えそうです。持っていきましょう。

 

 

───バコンッ!!

 

 

と、それを雑嚢にしまうとトラック前方からそんな嫌な音が聞こえてきました。

あー…やっぱりさっきの不幸にも追突した黒塗りの地上型ネウロイ、どうやらまだ生きているみたいですね。

咄嗟に後ろに駆け出した数秒後、トラックを私に向かって弾き飛ばしてきました。

が、私だってもうチュートリアルごときでアホほど死んでたニュービーではありません、インフェルノ初心者は卒業しました。

 

 

使い魔の黒豹エイミーの猫耳と尻尾を顕現させてクナイを居合めいた抜刀で振りかぶります。

はい、鉄の塊ごときネウロイの装甲に比べればトーフ同然ですね、真っ二つですよ真っ二つ。

そのまま駆け出して唖然としてるかの如く固まっているネウロイの懐に潜り込み、魔法力を乗せた両手の刃を抉りこませました。

舐めないで下さい。大口径弾すら弾く装甲のネウロイをどれだけこのクナイで切り裂いてきたコトか。

ですが恐らくコアなしだったのでしょうね、それだけでネウロイは白化ののち霧散してしまいました。

 

 

さて、しかしコアなしでもやはり地上型はしぶといですね、大型トラックに突撃されてもピンピンしてるとは。

先行きが不安ですが考えても仕方ありません、とにかく何かしらの足を見つけてここから逃げないと。

 

 

 

 

──と、思ってましたが全然使えそうな車は見つかりません。

さっきから見つかるのは小型ネウロイ、または怪我して動けなくなっている街の人や避難民の人だけです。

もちろんそんな人にはさっき拾った医療箱で応急処置や添え木等を施してますが…逃げられるのでしょうか。

泣いてお礼を言ってくれるのは気分的に嬉しいのですが、私が助けた内の何名がこの街から生きて逃げれるんでしょうか?

 

 

《防衛目標:61%》

 

 

視界の端にチラチラ出てくる不穏な表示。

最初99%とかだったので…多分これ犠牲になった避難民の割合みたいな感じ?

だったらちょっとまずいですね、きっと私はコレが減らないようにしなきゃいけないんでしょうけども。

 

 

空の旗色も相変わらず悪そうです、恐らくさっきチラッとシールド持ちネウロイが見えたのでそれに苦戦しているのでしょうか。

──と、思ってたら空からなんかコッチに落ちてきますね?

親方!空から女の子が!!

 

 

形容しがたい轟音を立てて眼の前の民家に墜落した───ウィッチさん、私のニンジャ動体視力で見た限りシールド張ってたっぽいので大丈夫だと思いますが。

見に行きましょうか、何かしらの突破口になるかも知れません。

 

 

おーい生きてますかー?

…ロマーニャのウィッチさんですね、しかも何か制服とかが真新しく折り目とかもキッチリしてますし、色白な上ちょっとぽっちゃ…ふとまs…アレです。

なので見た感じ多分新兵さんですね、可哀想に。お目々グルグルさせてます。

あ、頭と背中から出血してますね、でも大した怪我じゃなさそうです、サクッと治療してあげましょう。

おっスキルチェックでグレート連発出来ました、一瞬で治療完了ですよ!

 

 

──La strega della ribellione …?

 

 

あ、どうやら私に気づいたらしいですがー。

やばいこの人、ブリタニア語話せないウィッチさんや!!すまねぇロマーニャ語はさっぱりなんだ。

忍殺語じゃダメでしょうか、ダメですよね。

空を浮かぶネウロイを睨みながら青い魔法力を輝かせ踏ん張ってますが、どうやら彼女はもう魔力切れのようです。

 

 

なら任せてください。代わって代わって!とジェスチャーしますがまったく伝わりません。

どけおらぁ!私のグラ〇フで培った乗り物強奪能力が輝きますよ!

 

 

Ayeeeee!?」

 

 

すぽーん、とストライカーを脱がせて自身の足を滑り込ませます、あっこら背中にしがみつかれました!!

仕方ありません、このまま出撃しちゃいましょう。機関銃だってこのウィッチさんが持っていますし、クソエイムの私よりマシでしょ。

 

 

《MC.202 フォルゴーレ》

ロマーニャ製のストライカーであるマッキMC.200”サエッタ”にカールスラント製魔導エンジンへの換装およびそれに伴う各種の改修を施した機体。

良好な運動性と優れた最高速度を誇る。

 

 

お、簡易説明文が。

はーん?良好な運動性?でも何か履いた感じ零戦よりちょっと重いというか鈍い感じが…まぁいいや離陸!!

 

 

Aspetta, cosa seiiiiii!?

 

 

ぎゃああああ猫耳元で叫ばないでえぇぇぇええ!!

あ、でもこのストライカーボチボチいけますね、悪くありません。

ちょっと運動性は零戦には流石に構いませんが、それでも7割程度くらいはイケます。

 

 

──ピロン

 

 

おや、今度は彼女の持ってる機関銃についての説明文が出ましたね、どれどれ。

 

 

《ブレダM30軽機関銃》

ロマーニャ国産の機関銃。褒めるところを探すのが困難なほど性能が悪く、ロマーニャ兵は複数の装備を選択する余地があった場合は、迷わずほかの火器を選んだほどの性能。

 

 

 

 

………。

チラッと後ろのウィッチを見ます。

汚れのない純粋な新兵の目ですね。

嗚呼…今回の戦場もロクでもなさそうです。




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トリノ脱出 part2

正真正銘欧州最後の防衛戦線、はーじまってまーす!!

アルプスをはるばる越えてきたネウロイさん達と現在交戦中です。

マップを見る限り遠くでちらほら交戦してるっぽい反応はあるものの、基本もう蹂躙され尽くした後ですね。

 

背中に背負っている新兵っぽいウィッチさんもさっきから震えていますね。おっぱいふよんふよんで草。

お、また小型地上ネウロイが居ますよ、ほら撃って撃って!!

指さして促したものの…あー全然当たってない、もしかして君クソエイマーの同士?

あーほら撃ち返され始めると叫んで慌てちゃってます、大丈夫こんなん当たりませんて。

すいすいーっとな、はい、急降下斬撃どーん。撃破撃破。

あ、びっくりしてますね。どうですか君も銃なんか捨ててクナイ持たない?

 

『──Dammi rinforzi!!』

 

おや?どっかから無線が来ましたね、しかしこれまたロマーニャ語。

 

『── aiutami! Strega dell'aviazione!』

 

すまねぇロマーニャ語はさっぱりなんだ。

どうやら女の子の声なのでウィッチ?しかも大分切羽詰まってる感じです。

やっべぇもしかして救援くれって感じ?でも場所も分かんないよ。

と思ったらぐいぐいと引っ張ってあっちあっち!って指差してくれますね、有能!

私としても独りぼっちで空を飛ぶのはアレなので、他のウィッチと合流したいですしおすし。

よし、では道すがらネウロイを狩りつつレッツゴーです!

 

 

──▽▽──

 

 

いやー楽しいですね、さっきからおぶったウィッチさんが撃ちやすいように飛んでるのですが。

これがすんげぇ当たるようになって、しかも一匹倒す毎に超大喜びしてくれます。

そういえばエースの定義って一人で5つ撃破でしたっけ?

今4体目ですし、どうせならこの新兵ウィッチさんをエースにしてあげませう!

 

というわけで手ごろ…と思ったけど反応あったの中型、しかも航空ネウロイですね。

(ぐいぐい)

え?逃げよう?見つからないようにしよう?

うるせぇ!ネウロイ殺すべし慈悲はない!イヤーッッ!!

と思って突っ込みましたがやべぇコイツシールド持ちじゃないですか(笑)

 

「Ayeeee!!?」

 

叫んでないで撃ってください。しかし彼女にやらせるとなるとどうしましょう。

クナイでシールドは切れますが、うーん…。

よし『この距離ならバリアは張れないな』戦法で行きましょう。

 

相手のビームの嵐を真正面から掻い潜りながら追突しないようにしつつ零距離に接近し。

しかもそれをお互い時速数百㎞の世界で数秒でやらないといけませんが、私なら大分余裕です。

 

はいビームの中に突っ込みます、クナイでパリィくらいで叫んでぎゅーってするのやめて!

んですれ違う瞬間に180度ロール、ピッチアップして更に180度ループ、して縦Uターンします。

はい、これで相手の背後を取れました、訓練してくれたハルトマンさん感謝。

ほら吐きそうな顔してる場合じゃありませんよ、銃構えてほら。

 

よしよしズババと無力な背中に銃弾の嵐ですよ、当たりますねぇ。

で、遅れて可愛いお尻に赤いシールドが展開されましたがもう遅い。

それをクナイで切り裂いてぴったりとネウロイの上部に取り付きます。

手を伸ばせばもう触れる距離です。あとはご自由に料理してくださいな。

 

「VOLA VIAAAAAAAA!!!」

 

おお、気持ちのいい雄叫びですね!!

銃弾が至近距離でネウロイの装甲に悲惨な穴を開けまくってます。

んでコアが見えて…え、どうしたの、どぼじで撃つのやめちゃったの?

え?ジャムった?ウソでしょ?この肝心な時に!?そのクソ銃投げ捨てよ!?

ほらアナタ、その腰のナイフ!なんのためにあるんですか!はやくはやく!

 

「──VATTENEEEEEE!!!」

 

多分くそったれ!みたいなニュアンスなんでしょうね、なんかそんな掛け声でナイフをコアに突き立てました。

はいこれで撃破5ですね、エースの世界へようこそ名も知らぬロマーニャの新兵さん。

感慨に打ち震えてるのか両手を見つめてなんか呟いてます、可愛いですね。

 

《僚機のレベルが上がりました》

《僚機の魔法力、射撃力が成長しました》

《僚機がスキル『近接戦闘lv1』を獲得しました》

《僚機が称号【エース】を獲得しました》

 

お、おお?これはこのゲーム開始以来初めてみるポップアップですね?

いやたまに出てたのかな?何にせよフランカお姉ちゃんと飛んでた時にはほとんど出なかったです。

ほぇーこんな要素あったんですねぇ、お姉ちゃんは出会った時からもうカンストしてたんでしょうか。

 

(…どさっ)

えっ、どさっ?と思ったら銃とかナイフに籠めてた魔法力が尽きたみたいですね。

結構ぐったりして疲労困憊みたいですね、お疲れ様です。

あとは私に任せてください、早くさっきの救難通信の元へ向かいましょう。

 

──▽▽──

 

 

居ました、街の本当に中央です。

何やら大きな建物を中心に陣取った兵士さん達が…いえ、もう囲まれてますね。

しかもほとんど皆さん遺体です、生きているのは何処?って言うかウィッチいなくない?

 

あ、いましたが…そうか、ウィッチと合流できたら嬉しいと言いましたがこういうことでしたか。

なんとその建物の入り口を守っていたのは──陸戦ウィッチさん達の部隊でした。

私達みたいな空飛ぶウィッチでは考えられないような重武装で重装甲。

それがバリケードを築いて必死にネウロイと砲火を交えています。

 

しかし辛うじて生き残ってるのが彼女らだけというのがもう、その戦況を表してますね。

ここまで来る最中に航空ネウロイを退治してなければ、もうやられてたかも知れないです。

さて、手伝ってあげましょう。

まずウィッチさんから預かったM30機関銃で地上ネウロイを掃射します。

背中のウィッチさんはもう魔力を込めることすら出来ないので私が撃ちますよ。

装甲の固い地上型には決定打にはなりませんが、それでもバランスを崩したり注意を逸らしたりは出来ます。

お、流石ですね、そのわずかなスキを見逃さずに合わせて攻撃してくれました。

うひょーすんごい威力の砲撃ですね…これが陸戦ウィッチですかこえぇ…。

 

『Urrà!』

『rinforzi!È arrivato il rinforzi!!』

 

おー!皆さんめっちゃ満面の笑顔で嬉しそうに手を振って叫んでくれてます!

私も振り返しましょう、お、皆さんあっちあっちと指さしてますね。

今度は逆方向ですか、よーし任せてくださいよ。

 

…で。スムーズに陸戦ウィッチさんとの連携で地上に蔓延る小型ネウロイは粗方潰しました。

多分20体くらい退治できましたね、いやー凄い光景でしたよ。

 

(ぐいぐい)

あ、起きてたんですか背中のウィッチさん。

ん ?あっち?あっちに何が…うーわおわぁ。

大型ネウロイ。しかも地上型ですかぁ、さらにゆっくりとこっちに向かってきます。

巨大なクモの形です、中心部にはおっきな球体と大砲らしきモノがあります、どんなデザインですかこれ。

 

『VIAAAAAAA!!!』

 

隊長らしきウィッチさんの掛け声で地上の陸戦ウィッチが一斉掃射を始めます。

おわぁやべぇ、こんなん絶対オーバーキルですよ。

凄まじい爆炎と煙で敵の姿が見えません、やったか!?

…やってません。ごめんなさい私がフラグ立てたせいですね。

というのは冗談でコイツシールド持ちみたいです、紅い巨大なシールドが完全に身体を覆ってます。

 

怯むことなく果敢に陸戦ウィッチさん達は砲撃を続けますが。

うーん航空ネウロイでさえ高射砲を弾くシールドを張るのに、陸戦ネウロイだとめちゃ硬そうです。

 

『Non aver paura!Continua a sparare!Finché il corpo della pistola non brucia!』

 

もう弾も残ってない私に出来る事は無さそうです。

それにクナイ近接戦もこのウィッチさんを背負ってると危険ですし。

 

おや、隊長さんらしきお方が何か部下の皆さんに指示をしていますね。

皆叫んでそれに応えていますが…皆さん泣いてます?

えっとどういうコトでしょうか。

 

と思ったらなんと言うことでしょうか、隊長の陸戦ウィッチさんが一人で突っ込んでます!?

他の皆さんは建物の中へ…あ、よく見るとこの中、避難してきた民間人さんがいる!

もしかして避難民と部下を助ける為にあのウィッチさん、一人で囮に!?

やっばめっちゃカッコよすぎませんか、漢ですねあの人。

あっ、でも…隊長を一人で行かせまいと、追随するウィッチがたくさん居ます。

 

『Stupido!perché mi segui!?』

『Se abbandoni il capitano, è meglio morire!!』

『Ti servirò fino alla morte!』

 

(ぐいぐい)

ああ、それを見せつけられた背中のウィッチさんはやる気まんまんですね。

仕方ありません、相棒の零ではないですし銃もありません。

そのうえ陸上大型インフェルノネウロイなんて初めてですがやってみましょう。

 

「──(コクリ)」

 

言葉は通じませんが私もそれに頷いて、それぞれナイフとクナイを構えます。

かっ飛ばしますよ、しっかり掴まっていてくださいね。

うっお!とんでもねぇ巨大なビーム…あれもうビームマグナムですね。

それを陸戦ウィッチさんに放ちますが、マジですかシールドで防いだしゅごい!

初めて見ましたがやはり餅は餅屋、陸戦ネウロイの相手は爆撃ウィッチか陸戦ウィッチですね。

 

しかしそうは言っておれません。

彼女達も防いだものの疲労の色が見て取れます、そのうえストライカーから煙も出ています。

紅いシールドも未だ突破できず、攻撃は一切通っていません。

 

しかし背後を取りました、あの見るからに弱点の脚の中心、球体を狙います。

全力全速力でクナイを突き立てましたが、うーん流石に硬い。

しかもデカすぎて恐らく装甲を貫けてないですね、マズイです。

背中ウィッチさんもナイフをえいやえいやと振り回してますがノーダメっぽいですね。

 

球体の砲台がぐるりとコッチを向きました。

未来予知のアラートも出ましたし一旦離れましょう。

──ん?今砲台の中になんか赤い輝くヤツが見えませんでしたか?

 

「C'è un nucleo laggiù!」

 

どうやら背中のウィッチさんにも見えたみたいです、アレがコアですね。

しかしちょっとアレは骨が折れそうです、二度目の接近は警戒されるでしょうし。

 

『inteso!Strega della ribellione da sostenere!』

 

ん?今リベリオンって言いました?もしや私に何か言っていますか?

すると陸戦ウィッチさんの一撃がクモネウロイの脚に直撃しました。

どうやら私達が気を逸らしたおかげでシールドが明後日を向いてたようですね。

 

更にシールドを展開する前にもう一発別のウィッチさんが撃ち込みます。

流石の火力です、馬力が違いますね。

おお?しかも4本脚のうち、どうやら同じ足を集中狙いしたみたいです。

これには流石の大型ネウロイも堪らずバランスを崩し、跪いてしまいました。

しかしそれでも辛うじてシールドを張ったのは最後の意地でしょうか。

 

まぁ無駄ですけどね。

その哀れなネウロイが崩れた姿勢で撃つビームを易々と回避し接近します。

凄い威力ですが当たらなければどうという事はありません。

砲台部分をクナイ二刀流で思い切り真っ二つにしてくれてやります。

さ、後は皮の剥かれたミカンの如くむき出しのコアが残るのみです。

 

「(ぐっb)」

「──VATTENEEEEEE!!!」

 

親指を立てて合図すると、気持ち良い雄叫びを上げてナイフが振り下ろされました。

さしもの強固な装甲とシールドを誇る大型地上ネウロイといえど、コアの脆弱さは同じみたいです。

ナイフを突き立てられたその身体は次々と白化し、粉々に霧散していきました。

 

咄嗟に離脱し破片から逃げると、大声を上げて私の背中に抱き着いてくるではありませんか!

しかもうわんうわん泣いています!私多分あなたより5歳以上年下ですよ!?

 

《僚機のレベルが大幅に上がりました》

《僚機の好感度が大幅に上がりました》

《僚機の魔法力が大幅に成長しました》

《僚機がスキル『近接戦闘lv3』を獲得しました》

 

お、また出ましたねこのポップアップ、新兵さんだから成長も早いんでしょうか。

しかし私のおかg…せいでどんどん近接への道を進んじゃってるみたいですが。

うん、私は悪くありません。

悪いのは全部ネウロイです、おのれネウロイ!

 

 

「──Strega della ribellione!!!」

 

 

お、陸戦ウィッチの皆さんが大きく手を振っています。

よく見れば向こうの建物に居る避難民の人や陸戦ウィッチさんまで。

 

いやー気持ちいいですね、まだ反応的にネウロイは多分いそうですけども。

今はちょっとだけこの気持ちいい声援に手を振って応えましょう!




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トリノ脱出 part3

ラクーン〇ティ脱出RTAはーじまーってまーす。

あの後私達は陸戦ウィッチさんたちに熱烈な大歓迎を受け、建物に一時避難なうです。

ぐえーめっちゃぬいぐるみの如くむぎゅむぎゅキャッキャされてますね。

もう上下左右どっち向いてもロマーニャ美少女まみれですよ!フィーヒヒヒ!

あ~もう一人の背中にいたウィッチさんももみくちゃに。ナムアミダブツ!

 

あ、なんかおかし貰いました、もぐもぐ。魔法力が回復しますね。

 

 

《チェックポイントに到達しました》

 

 

お?何ですか何ですかなんか急に親切になりましたね?

それともここから先地獄ですよというアラートでしょうか(人間不信)

 

「Bambina!Sono stato salvato!」

 

お、先ほど一人で勇敢な囮役を買って出た陸戦ウィッチの隊長さんが来ました。

やはりロマーニャの人ですね、見た目からして明るそうな上に大らかそうです。

しかしやはりというか、ロマーニャ語はさっぱりですねぇ。

スキル『ロマーニャ語』か、ロマーニャ語とブリタニア語できる僚機。

いずれかがあれば字幕が出るらしいですが。

 

「Va bene?Sei ferito?」

 

しゃがんで目線を合わせてくれて首を傾げられます。

しかも周りのウィッチさんからも同じように撫でられ抱かれぷにぷにされてます。

 

「A , Aspettare!Non parla romagnolo!!」

 

お、もう一人もみくちゃにされて胴上げされてたあの僚機さんが助け舟を。

どうやら私に代わり何やら必死に説明してくれてる見たいですね。

かくかくしかじか…ふむふむなるほどといった具合みたいです。

 

──ガシッ。

 

と思ったら次の瞬間には私を肩車して皆で大笑いし始めましたぁ!?

やばい前後の行動に一切因果関係がない!まさにフランカお姉ちゃんだ!

つまりこの人たちは全員頭フランカお姉ちゃん!?やべぇです!!

 

あ、避難民の子供達が私に手を振っていますね、ノシ。

え、何をしたいんですかこの陸戦ウィッチさん達…ここって多分戦場ですよね?

 

 

 

で、その後私は汚れた服を拭ったり水やお菓子を食べさせて貰いました。

完全に扱いがペットかぬいぐるみのソレでしたがHPMP共にフル回復です。

んで今は大きな地図が広げられた机に座らされています…膝の上に!

そう、あの僚機のウィッチさんの膝の上です。おっぱいが頭に、フィーヒヒヒ!

彼女も休んで英気を養ったのか顔にも元気が戻っていますね。

 

で、しばらく待っていると陸戦ウィッチの人達もぞろぞろと現れました。

どうやら今から何かミーティングのイベントでも始まるみたいですね。

 

「La nostra situazione è la peggiore. Ma abbiamo gli angeli!!」

 

隊長さんが私達を指して笑顔で何かを叫んで…それに皆さんも拍手してます。

僚機さんも照れてますし、何か褒められてるんでしょうかね。

 

 

で、何かこの街の地図を棒で説明しだしました。

なるほど?町の中央のこの建物に避難民と私達がいますー。

それを何とか南西にあるピネロロという町の基地までこの人達を守りながら撤退しようという事ですか?

 

「…撤退。ひとびと。まもる。…おーけー?」

 

さっきから金髪の陸戦ウィッチさんが辞書を片手にブリタニア語で意思疎通を試みてくれてます。

おっけーおっけー!べねべね!と伝えると頭を撫でられました///

すると隊長さんがその金髪さんに何か命令し、辞書を引き始めます。

 

「…はいぞく、なまえ、しる?」

 

ほにゃ?えーっと…もしかして所属と名前を教えろってコトでしょうか?

 

「私は…」

 

 

→『アマンダ・M・プラマー。です』

 『扶桑の魔女、竹田美喜、です《催眠》の為選択不可』

 『ドーモ、ロマーニャウィッチ=サン。ネウロイスレイヤーです。』

 

 

一番下の誘惑をぐっと堪え一番上を選びます。

ここまで来たのに最初からリトライとか勘弁なので許して!

 

「Plummer?Ribellione…」

「Capitano!è una NINJA di Malta!」

 

あ、何か初めてエイラさんとエンカウントした時の気配を感じます。

ニンジャって言ってますね…おや、どうしました僚機さんそんなに震えて。

 

「Ayeeeee!!!?」

 

おっどうしましたどうしました。ん?辞書を奪ってペラペラしだしましたね。

なになに?『マルタ』『部隊』『いた』『前に』?

あ、もしかして私とフランカお姉ちゃんが行く前にいたって言うウィッチ部隊に居たのでしょうか。

だとしたら中々の巡り合わせですね。なんて偶然でしょう。

 

「Volevo vederti!!Volevo dire grazie♪!!」

 

おぎゃぁ!?抱きしめられておっきなおっぱいで窒息してしまいます!!

宮藤さんか彼女が持つスキル『おっぱい星人』があればバフを得られそうなイベントですがありません!

 

「「「Ninja!!Washoi!Washoi!」」」

 

あー…しかも次はその上皆さんにもみくちゃ胴上げされてまーす。

フランカお姉ちゃんって、ロマーニャ人の中だと割と標準的な性格だったんですねぇ。

 

 

 

──▼▼──

 

 

《僚機を選択してください》

はい僚機さんしかいませんね。

陸戦ウィッチさん達が航空ストライカーを持ってくれてたおかげで二人で飛べます。

しかしこの新兵さん、ステータスの上がり幅が凄いですね。

さっきチラっと見た時より近接とか魔法力が倍の値になってますよ。

あとこの人階級一緒なんですね今気づきました。

 

《武器を選択してください》

んー、さっきのM30とかいうポンコツ機関銃しかありませんね。

陸戦ウィッチさんの持ってるマトモそうな重機関銃や山砲はステータス不足で使用できません。

あとサブウェポンにクナイと、あと演奏隊のラッパをお借りしましょう。

 

《ストライカーを選択してください》

はいこれも同じですね。MC.202フォルゴーレです。

僚機さんは申し訳ないですが陸戦ウィッチさんが回収した旧式のMC.200サエッタです。

守ってあげるので許して。

 

《ミッションを再開します》

んあーい。

 

 

 

さてさて、建物から出てくるのは避難民を乗せたトラックです。

ざっと4台ほど、これを何としてもロマーニャの陸戦ウィッチさん、僚機さんと共同し守ります。

しかし防衛ミッションですかぁ、私苦手なんですよねぇ。

皆さんもわかるでしょ?何か防衛ミッション苦手な人って多いと思うんですよ。

 

「Farò del mio meglio~!!」

 

私の後ろをぴったりと追随してくれている僚機さんが手を振ってます。

なんだか新鮮ですね、私いつも誰かの後ろか一人きりでしたから。

 

《防衛目標:40%》

 

陸戦ウィッチさん達とトラックが地上で作戦通りのルートを進行しています。

出来れば私が先行し、僚機さんは彼女達を護衛してほしいのですが。

そういう細かい命令は言葉が通じないせいで出来ないみたいですね、もどかしー。

 

 

なので付かず離れずの位置から遠くを偵察していましたが、あ。

大きな群れが居ましたね。しかも街から出られる唯一の大きな橋の前に陣取っています。

完全に街から逃げる奴を待ち伏せする姿勢ですね、数は多分10程ですか。

 

僚機さんが地上の部隊に連絡してくれてますが、他の道ではあの大型トラックは出られません。

仕方ありません、私がオトリになって強行突破しましょう。

懐から辞書をパラパラ開いて『囮』『突撃』の単語を指さします。おーけー?

眼を白黒させながらもコクコクと頷いてくれました、よし、やりましょう。

 

 

えーっとインベントリから首に装備してたマフラーを選択して、たなびくようにします。

こうすることで地上からの視認性がアップするらしいです。囮だから目立たないとね!

 

──ドゥルルドゥルルンッッ

 

僚機さんが隊長さんに通信を入れたのを確認すると、一気にフォルゴーレの魔導エンジンを加速させます。

さて、忍ばないニンジャのエントリーです。

ロールしながらのM30型機関スリケン雨嵐で戦闘の火ぶたを切り落としました。

ネウロイ達は中型ばかり、でも先手を取れたおかげでダメージは少なからず入ったようです。

 

あれ反撃のビームが来ない…あ!!コイツらシールド持ちじゃないですかーやだー!!

やっべぇタダでさえ戦闘機で戦車を相手取るようなモンなのに、シールドまで出されるとちょっと。

シールドが消えると同時に反撃の激しいビームの雨嵐が来ますが、まぁ当たりません。

 

と思ってましたが僚機さんは悲鳴を上げて逃げ回ってますね、離れすぎですよ?

まぁタダでさえ地上ネウロイのビームは威力がヤバイですからこの反応が普通ですよね。

 

──パーパラッパラーッッ!!!

 

仕方ないので思いっきりラッパを装備し、吹きならしながら低空飛行を始めます。

付いてきそうになる僚機さんを手で制して地上部隊の方を指さして促します。

おっけーどうやらそれで理解してくれたみたいです、ゆーのーな味方ですねぇ。

 

目論見どおりネウロイさん達はうっさい私目掛けてビュンビュンと凄まじい雨嵐ですね。

しかしまぁ未来予知魔女を舐めてはいけません、私に当てたいなら後5倍の量は要りますね。

そして超低空スレスレでプップー!!と鳴らしてやればお顔真っ赤で追いかけてきます。

よしよし良いですね、上手く橋の方から遠くに誘導できています。

 

Um...ひなん!いま!もうすこし!』

 

あの建物でもらったロマーニャのインカムに声が。

ブリタニア語なので私宛でしょうか、橋の方を見る余裕はないのでありがたいですね。

しかしコイツらもしつこいです。初期位置からもう2kmくらい離れますよ?

でもそろそろ良いでしょうか。適当にクナイで切り刻んで離脱しましょう。

 

──ピロロロ

 

と思ったらあーあー何か嫌な音がたくさん聞こえてきますねー。

はい増援きました。しかも結構な数の中、大の航空ネウロイですか。

で、更に──さっき倒した地上大型のクモ型ネウロイ、しかもその群れとか草生えるww

ヤバいですね、この街はもう完全に終わりです。一刻も早く逃げないと。

でもコイツらを連れて防衛目標の下に戻ることは出来ません、何とかしないと!

 

──▼▼──

 

うーん誤射誘導でちょっとは数を減らせましたが結構厳しいですね。

流石に上下左右から無数のアラートを鳴らされれば避けるので手一杯です。

この機体も良い機体なのですが零ほど無理は利きませんし…。

それにもう燃料(エーテル)がほぼ0です。

 

 

『Stai lontano da lei!!』

 

 

次の瞬間、航空ネウロイの群れが大爆発しました。

おぉ地上を見ればなんと数名の陸戦ウィッチさん達が援護に来てくれてるじゃないですか!

これは何とありがたい。ループ入るの覚悟してたので超助かりますね。

 

身振り手振りで『今のうちに戻って来い』と言うので大人しく戻りましょう。

去り際に2、3匹の中型を切り裂いて彼女らの下に降り立つと小脇に抱えられました。

 

「Raccolto!Lo corro via!」

 

こんな他国のウィッチ一人くらい見捨てて逃げればいいものを。

わざわざこんな危険地帯まで戻ってきてくれるなんて、ほんとこの陸戦ウィッチさん達優しいですねぇ。

 

後退しながら凄まじい威力の砲撃をネウロイに浴びせます。

げほっげほっ煙と音もすごいですげっほっほヴォェェェしぬぅ。

よし、でも煙と砲撃のおかげで何とか後方のネウロイは撒けたみたいですね。

後はもうすぐ橋が見えてきて──。

 

「──Mamma mia…!!」

 

うおマジですか、別の地上大型ネウロイ達が今まさに橋を渡ってる最中ではありませんか。

流石にコレは無理です。一体倒すのにアレほど手間取ったのにこの数は。

インフェルノさんマジぱねぇっすね、未来予知ループ無かったらこんなん絶対クリア不可ですやん。

 

「──Assicurati di darlo al capitano!!!」

「Va bene!!」

 

しかし僅かたりとも陸戦ウィッチさん達は加速を緩めません。

いや、違いますね、私のキャラを抱きかかえてるウィッチさんだけ猛烈に加速しています。

 

「──Viaaaaaaa!!!」

 

凄まじい砲撃が大型ネウロイに浴びせられ、一瞬だけできた隙でその隣を駆け抜けました。

 

しかしそんな私達を逃がすわけもありません。

橋を通り過ぎた私達にその砲塔がゆっくりと向けられ──。

 

──バコンッッッ

 

そのまま彼らの身体は、遥か谷底の真っ逆さまに橋ごと墜ちていきました。

一瞬???となりましたがすぐにわかりました。

向こう岸、まだ街に取り残されている陸戦ウィッチさん達が橋を落としてくれたのですね。

 

 

『──Arrivederci』

 

 

彼女達はこっちに向けて静かに敬礼をしました。

アリーヴェデルチ、さようなら、ですね。返礼しましょう。

 

そして反転し、背後まで迫ってるネウロイの群れに砲撃を浴びせ。

やがてその砲煙でその姿も見えなくなってしまいました。

あれはもう助からないでしょう、谷底に墜ちるかネウロイに殺されるか。

 

「…Anna、Beatrice…」

 

私を抱えていた陸戦ウィッチさんが呟いたのはその人たちの名前だったのでしょうか。

涙の雫を振り払うように街から撤退し、本隊に追いつく為に走り出します。

 

流石にもうネウロイの反応はありません。

どうやらネウロイが蔓延るトリノからの脱出は何とか成功したらしいです。

 

しかしこれにて欧州最後の砦ロマーニャの、その主要な都市がもう一つ陥落したことになりますね。

 

 

…ロマーニャの…いえ、人類の終わりが少し現実味を帯びてきました。




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奪還への道

不思議とココ数日だけで☆2や☆1評価をたくさん頂いてて少しムリダナ(・×・)モードに突入しそうです。


ロマーニャ陥落が見えてきちゃったストライクウィッチーズ、はーじまーるよー。

はい、私達は現在トリノから避難民、陸戦ウィッチと共に南西に位置するピネロロ基地に撤退してきました。

しかしこの基地も人員はほとんどトリノから戻ってきていないため、ほとんどカラッポです。

 

あ、僚機さんがいます、彼女も無事だったんですね良かった。

あれ、でも私を見るや否や涙を浮かべて走り去ってしまいました。

後から知った話なんですが、彼女の属していたウィッチ部隊が全滅していたことを知らされていたようです。

それなら仕方ありませんね、それなら隊長さんに会いに行きましょう。

 

…こちらも皆さん泣いておられます、しかし隊長さんだけは私に気づいて抱きしめて出迎えてくれました。

そしてそのままもう一度地図を広げて状況説明をしてくれます。

 

トリノ、ジェノヴァが陥落。

その2都市間にもう一つ街があるとは言え、私達がいるピネロロはイタリア本土から切り離されかけているようです。

さらに救援を要請しているようですが望み薄だと言うこと。

沿岸部にも赤点が付けられていることから海ルートでの撤退や支援も難しいそうです。

 

まさに前門のタイガー、後門のバッファローだ!

おおなんたるマッポー的窮地!!ブッダよ寝ておられるのですか!?

 

 

で、これからどうするかですが。

今から約一週間後トリノの西にあるリボリと言う少し小さな街、ここをネウロイから奪回するらしいです。

その後東側、つまりロマーニャ本国側の部隊と共同してトリノを挟み撃ちの形で包囲、奪還作戦を行うみたいですね。

 

で、君は三日後来る補給部隊と一緒にロマーニャ本土側へ帰れと?

ありがたい申し出ですが無論拒否します、このまま逃げれば多分人類滅亡エンディングまっしぐらですし。

 

その返事を聞いた隊長さん達は私を取り囲んで泣きながら抱きしめてくれました。

あっあっあっ陸戦ウィッチさん力強すぎませんかアババアバーッ!!しめやかに爆発肢散しちゃうーッッ!!

 

 

 

で、ですよ。

あの量の新型ネウロイを相手取るのに航空ウィッチ二人と陸戦ウィッチ1部隊ではまぁ少しキツイですよね。

この辺りにいたカールスラントやガリアのウィッチ部隊はほとんどジェノヴァ奪還のため不在ですし。

 

 

まず考えないといけないのがシールドネウロイの対処です、アレがあるせいで陸戦ウィッチさん達の絶大な突破力破壊力が活かせません。

 

しかしアレは近接武器でなければ破壊できません、じゃあ皆持てば良いじゃん。

って前にミーナさんに言ったことがあるんですが。

 

そもそもネウロイのビームを掻い潜り懐に飛び込むなど一部のエースでないと難しく。

その上デッドウェイトとなる近接武器を持つ為に余分な魔力が必要ですし。

さらに近接武器の扱いに慣れたウィッチが少ないですし、そんな訓練してる国もごく僅かです。

故にそんな航空戦闘を経験してるウィッチなどほとんどなく、研究もされていない…。

 

そんな様々な理由からシールド持ちへの有効な対策だと周知されても近接ウィッチは少ないようです。

 

 

という訳で早速。

 

 

「ぜぇぜぇぜぇ…ひぃぃ!!」

 

踏み込みが甘い!!いけないぞ僚機=サン、そんなことでは!!

さっきこのゲームのRTA動画をゲーム内ブラウザで視聴しましたが、どうやら一緒に訓練すれば仲間のウィッチの能力を成長させれるらしいじゃないですか。

 

という訳で僚機さんと近接特訓重点です。

作戦までにこの子(めっちゃ年上)を一人前のニンジ…剣士に育て上げましょう!!イヤーッ!!

 

 

「──Ayeee!?」

 

 

カラテです!カラテあるのみ!

布を巻いたナイフで延々と模擬イクサを繰り返します!

何事も暴力で解決するのが一番です!

 

しかしこの僚機さん新兵にも関わらず中々のワザマエです、さっきからピロンピロン《僚機が成長しました》ポップアップがうるさいです。

あとそのバストは豊満であった。私やフランカお姉ちゃんが近接できてる理由ってもしや。

 

 

「IYAAAAAA!!」

 

 

あっやべフザけた掛け声出してたら僚機さんがインストラクションしてしまった。おのれネウロイ。

 

で、結局撤退直後で疲れ果ててた所なのに夜遅くまで特訓しました。

しかし凄まじい能力の上がり幅ですね...ん?

 

 

《僚機が『近接格闘Lv41』を獲得しました》

 

 

おっふなんか凄まじい数値になってますね。

え?まだやりたい?最後にもう一回だけ?しょうがにゃいにゃぁ…。

 

──はいナイフを弾いて勝ちです、私は魔力を出してませんし片手しか使ってません。

 

えっワンモア?しょうがにゃいにゃぁ。

はい踏み込んで来た所をジュー・ジツでカウンターして勝ちです。

 

もう一回?え、ええ、いいですけども。

と舐めてたら反射的に使い魔出して魔法力使っちゃいました…これは私の反則負けです。

 

大喜びきゃっきゃしてますぐぬぬ。

と思ったら次は薬が切れたみたいにぶっ倒れましたぁ!?

 

はぁお疲れさまです、しかし末恐ろしいですね、言っちゃ悪いですがモブキャラNPCだと思ってたのに凄いステータスになりました。

これを一週間続けて背中を預けれる僚機にしなきゃ!!

 

 

──▽▽──

 

 

さてついに一週間がたち、出撃の日です。

リボリを奪還し、トリノ解放までの糸口を掴まねけねばなりません。

 

「Sono preoccupato…(大丈夫かなぁ…)」

 

あ、不安がってますね。簡単なロマーニャ語ならなんとか分かるようになりましたよ。

航空部隊(2人)の指揮を執るのは私です、指揮官は初めてなんでドキドキしますね。

 

そうだ少し緊張を解してあげましょう、可愛い部下の特訓後の晴れ舞台なので。

かつてバルクホルンさんが編んでくれたマフラー2本のうち、予備の方をその首に巻いてあげました。

私と御揃いです、首元を隠し、ニンジャっぽさが3割増しですね。

 

あ、めちゃくちゃ目を見開いてウルウル感動してくれてます、そんなに?

やばいちょっと嬉しくなってしまいました、追撃の一撃を食らわせましょう。

 

はい、私の持ってるクナイのうち1本を差し出してそのおっきな手に握らせます。

 

「se…sensei!!!」

 

あっ感極まって抱きしめられました…先生ですか、私めっちゃ年下なんだけどなぁ。

しかし可愛いことこの上ありませんね、この子は大事に守ってあげましょう。

 

よし、離陸、出撃です!ついてきなさい我が愛弟子!

 

 

 

うーん、もう既にリボリ周囲に陸戦ウィッチさん達が展開してますが…これ私達いります?

街の入り口を包囲し、出てくるネウロイを集中砲火してますがまぁ一方的です。

 

建物や地形に隠れたと思ったら、それごと貫いて吹き飛ばして一撃で倒しますし。

直撃なんかしなくてもカスめるだけで中型のネウロイがコアごと消滅しますし。

街を回り込んで来た奴らも重機関銃で一瞬でハチの巣です。

更には飛び出てきた航空ネウロイさえ高射砲らしき装備で一瞬で吹き飛びます。

 

…あー今日もいい天気ですね…。

 

あ、また地上ネウロイのえげつない威力ビームの雨が…ですが陸戦ウィッチのシールドはビクともしてません。

ちょっとネウロイが可哀そうになってくるほどですね。私も陸戦ウィッチになろうかな…。

 

 

『──C'è uno scudo!(盾持ちだ!)』

 

 

しかし、シールド持ちネウロイ達が満を持して現れると状況は変わります。

あの1撃で無数のネウロイを蹴散らしていた砲撃も、そのシールドには容易く防がれてしまいます。

しかもコイツらは頭も良いのか、一方向にしか張れないシールドの死角を防ごうと編隊を組んでいますね。

 

あ、しかもトリノ方面から来たらしき航空ネウロイの群れも遠くに見えますね、うーん。

ダメですね、ジリー・プアー(徐々に不利)です、ジワジワと接近してくる盾持ちに陸戦ウィッチさん達は成す術がありません。

 

なら、出番ですね。僚機さん行きますよ。

力強い頷き、うーん見違えました、一週間前泣きながらナイフを振り回してた頃とは別人の顔つきです。

 

 

地上ネウロイの編隊に真正面から飛び込みます。

無論えげつない量の閃光の雨嵐ですが、全部パリィするので効きません。

お、僚機さん怖がらずにぴったりと私の背後についていますね、よきかなよきかな。

 

はい、すれ違い様にクナイで2体の腹を切り刻みます。シールドももう張れないでしょう。

続いてすぐに反転して他の黒虫の脚を切り捨ててバランスを崩します。

そこをすかさず僚機さんがナイフを突き立てトドメを刺します、良いワザマエ!!

 

私とは違い未来予知が無いのによくやれていますね。もしかしてこの子天才なのでは。

そんな感じでデュオで敵の編隊をぐちゃぐちゃにかき乱してやると、やがて陸戦ウィッチさんの攻撃も通るようになり。

一度崩れた態勢を立て直すことも出来ず、ネウロイ達は順調にその数をただ減らしていきました。

 

「Ninja wasshoi!!(いいぞニンジャたち!) 」

「Ti do Margherita quando torno a casa!(帰ったらとびっきりのマルゲリータを御馳走してやるよ!)」

 

よぉしよーし。

こうなってしまえばあの航空ネウロイ達も簡単に撃破出来ましたし、僚機さんもしっかり守れました。

何とか町も奪還成功です、これでトリノへの道が何とか切り開けましたね。

 

 

「Sensei...!?」

 

 

あ、やっぱりまだ増援がいますか、さて何がくるのk…やべぇのが来ました!?

あの気持ち悪い巨大なヒル型!忘れもしないマルタの悪夢!!しかも2たーい!!?

あのマルタの洞窟ループで死ぬほど苦しめられたあの超大型ネウロイが、アルプス山脈の方からこっちに向かっています。

おおブッダ…寝ているのですか…。

 

通信機で疎いロマーニャ語で死ぬほど叫びます。

『撤退して』『近づかないで』『死ぬ』『絶対に』『私がやる』と。

 

アイツの性質はリリー中佐のマルタ戦闘リポートにも僅かしか書いてません、私しか戦ってないからです。

爆発するから銃は捨てていきます、僚機を手で制し、『銃』『爆発』と言いますが伝わるかどうか。

 

 

思い切り死ぬほど魔力を全身に展開し、ネウロイの浸食からストライカーを守ります。

あぁくそこれメッチャ死ぬほどつらいんですよー!!

 

ドーモ、ご無沙汰してます、ヒル・ネウロイ=サン。ザッケンナコラー!

 

───ガキィンッ

 

私だってあれからかなり強くなっています、魔法力も機動力も未来予知も。

だからといって前章のラスボス2体を持ってくるバカがいますかあなた?ネオサイタマいい加減にしろよ。

 

あーやばいやばい未来予知がマジでずっとなってて画面が真っ赤です。

零なら避けれますがこのストライカーではキツイし2刀流では無理ですね。

 

あむっ。うおおおこれが両手と口と黒豹の尻尾でクナイを構えた4刀流だああああああ!!

ふははははこれでウォーズマン理論で私の戦闘力は4倍!しかも魔力の消費量も4倍です!うわああ。

あー渡り合えてますよ私、あのアホクソゲー仕様のボスネウロイ2体と渡り合えてますよ!

 

かといって倒せるとは言ってませんがぁぁ…あーつれぇこれ休憩してぇ。

せめて一瞬でもスキがあればなぁ、せめて次のループの為に情報収集を…お?

 

 

「IYAAAAAAAAA!!!!!」

 

 

───ガキィィィンッッ!!

 

おお、出来た愛弟子です!銃を捨ててクナイのみで助けに来てくれました!

しかも片方の胴体を真っ二つに!しかもコア見えるじゃんゴウランガ!!

すかさずクナイ・ダートでそれを打ち抜きます!イヤーッ!!グワーッ(アフレコ)!

 

サラサラ量子になっていきますね、おお数の力ってすごい…あんなに苦戦したのをこんな簡単に。

と思ったらアレ?僚機さんどうした…あああアナタ魔法力展開してないじゃん!

そらストライカーが侵食されて墜落していっています!助けに…あっクソネウロイ邪魔!!

 

「──GUWAAAA!!」

 

ヤバイ、ネウロイからの攻撃をシールドしてるせいでクッションシールドが張れてない!!

やばいっ!嫌な落下音がした、アレ怪我してるんじゃないの!?

しかも狙われてる!!早く起きて!!ああああああああマジでダメだってぇぇぇ!!

 

「──Ninja.Stai bene!?(ニンジャ、無事か!?)」

 

彼女を踏みつぶそうとしたネウロイの巨体を弾け飛ばしたのは一人の陸戦ウィッチさんです。

ああありがとー!ほんとにありがとー!私の愛弟子を…。

おらああテメェ何してくれとんじゃあああ!!スッゾコラー!!

 

しかしクナイで無騒乱舞の如く切り刻みますがコアが中々見えません。

そういえばコイツのコアってヌルヌル移動してるんですよね…あーもう面倒くさい。

それにもう限界が近いです、魔力がもうマジでヤバイです。

だってあのマルタの時の倍以上の戦闘時間は経過しておりますもん。

 

 

 

陸戦ウィッチさん達が遠くから撃ってくれてますが、浸蝕を受けないあの距離だと当たってません。

それに私達が巻き込まれそうなのを察してか満足に打ててません。

 

あ、やべ。ついに魔力が完全に切れました、左手の義手が侵食されだしたので投げ捨てます。

げほっ、やっば吐血も久々ですね、眩暈もしてきましたしちょっともう。

 

 

「È abbastanza!(もういい、よくやってくれた!)」

 

 

駆けつけてくれた陸戦ウィッチさんが下がるよう促してくれます。

しかしだって、愛弟子がまだ居るのに見捨てたくはないです。

 

 

「────Salva la Romagna(ロマーニャを頼んだぞ)」

 

 

その言葉とともに彼女が陸戦ストライカーに触れると、異音と黒煙が立ち上りました。

しかもおかしいです、その足元に青白いとてつもない規模の魔法陣が輝いて、まさか。

 

次の瞬間、彼女はネウロイの懐に飛び込んで──光になりました。

 

壮絶で凄まじい、とてつもない爆発が彼女を中心に生まれました。

それをただ、僚機さんの隣でただ茫然と見ていることしか出来ず。

 

 

だからその煙の中からぬっ、と半壊し、コアをむき出しにしたネウロイが現れた時は、久しぶりにマジ切れしそうになりました。

そこは死んどきましょうよKY。

 

その誰よりも勇敢な陸戦ウィッチさんが残してくれた山砲を構え、標準を合わせます。

 

《魔法力が足りません》《魔法力が足りません》

 

知りません撃ちます。

 

 

放たれた弾丸は虫の息だったネウロイに完全にトドメを刺し、消滅させました。

あー…でもこの大砲、まじでえげつない魔法量をドレインされました…死んじゃう…。

 

 

 

次に起きたのは野営地のベッドでした。

あ、隣のベッドで僚機さんが起きてますね、ちっすちっす…おや、目に光がないですね。

 

するとそこにあの隊長が垂れ幕をめくり現れてくれました。

不思議と勝ったはずなのに、暗く渋い顔で。

 

 

「──Asti è caduta.È un comune tra Genova e Torino.(アスティが、トリノとジェノヴァの間の都市が、墜ちた)」

 

は?

 

「Siamo stati isolati.(私達は、完全に孤立した)」

 

…こんなのってないぞ、ネオサイタマいい加減にしろよ。

 

 

 

「E ancora uno.(それと)」

 

 

 

「A Torino è nato un nido Neuri.(トリノに、ネウロイの巣が生まれた)」

 

 

…次回、ロマーニャ死す。デュエルスタンバイ()




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トリノ奪還戦

皆さんの暖かな評価とコメント、あとお気に入り1000overありがとうございます。
感謝の言葉もありません…更新がんばります。


欧州陥落が見えてきたストライクウィッチーズはーじまーるーよー。

 

はい、今現在私は僚機さんと正座で向かい合いインストラクションを授けている最中です。

分離顕現した仔猫エイミーが膝の上でスヤスヤしてますね。カワイイヤッター!

 

激戦に渡る激戦、戦友を失いつづけたこと、その上マッポー的窮地で彼女のメンタルがヤバい重点です!

このままではデスノボリ重点なので会話イベントで持ち上げましょう。

 

何を話す?

「自身の過去」

 「フランカお姉ちゃんの可愛さについて」

 「パンツという概念について」

 

 

うーん。悩みますね。

 

 

 「自身の過去」

 「フランカお姉ちゃんの可愛さについて」

「パンツという概念について」

 

自身の過去について話しましょう。

未来予知ループやフランカお姉ちゃんとの出会い、マルタの死闘などを語りましょう。

あれはシチリアスゴイクライヨルの事でした…私はネウロイへの憎しみに支配されネウロイスレイヤーとしてかくかくしかじか。

 

「…Ayeee…グスッ」

 

その怪しいロマーニャ語の話を泣きながら聞いてくれました。奥ゆかしさ重点。

…アバーッ!?なんたるウカツ!私の体は僚機=サンのその豊満なバストで拘束されたではないか!!だが淫猥は一切ない!

逃げようにも今片手しか無いので無理です!!グエー苦しいンゴ。

 

 

え?辛くなかったか?

そりゃあ辛かったですよぉフランカお姉ちゃんが居ないともう死んでましたね。

 

良いですか、私が何十年ループして得た技術を一週間で習得したアナタは天才です。いずれスーパーエースとなるウィッチです。

だからシャンとしなさい、私の片腕が無い今まともに戦える航空ウィッチはアナタだけなのですから。

 

おーよしよしメンタル値がどんどん回復していってますね、コレでトリノ奪還作戦もイケそうです。

 

 

はい実は一週間後、ボロボロの私達はトリノ奪還作戦を行います。

 

え?いやカミカゼ・アタックじゃないですよ、隊長さんと熟議しての結果です。

 

トリノに現れたネウロイの巣、あれは出来たばかり故かは知りませんが凄く小さいらしいです。

ですがこれがジェノヴァ方面のネウロイ達と合流すれば巨大化してロマーニャを呑み込むのは間違いないとのこと。

 

ですから今の内に叩くしかありません。

たとえ勝算が薄かろうが、挑まない時点で欧州崩壊人類滅亡まったナシですよ。

 

 

お、隊長さんちっすちっす、皆さんお集まりですね、何してるんでしょう。

おお何ですか私と僚機さんをミコシの如く担いで!グワーッ誘拐されるー!

 

と思ったら何ですか皆さんで写真とるんですか良いですよ。

いぇーいぴーすぴーす、ほら僚機さんも笑顔重点ですよ。

あ、あの私をトリノから脱出させてくれた方や、先日命がけで助けてくれた方の写真も。

 

それを見てしゅんとなってる僚機=サンのほっぺたをむにむにします。

おおゴウランガ!なんたるマシュマロめいたプニプニさか!

 

ああん怒らないで、元気出して。

あ、何か陸戦ウィッチさんさんたちがたくさんロマーニャ料理を作ってくれていますね!

私もエントリーしましょう!ピッツァならまかせて!

 

はふはふ美味しいですね!ああ笑顔が戻ってくれて安心ですわ。

ん、隊長=サンが来ましたね。

 

え?『巻き込んでしまってすまない』?

何を言ってるんですか、私達仲間でしょうが最後まで一緒ですよ。

 

と答えたら再び私の身体はしめやかに隊長さんたちにもみくちゃにグワーッ!!

あっ僚機=サンまで加わっているではないか!おおブッダよ寝ているのですか!?

 

──▽▽──

 

はーい、一週間後です。

出撃を控えた僚機=サンは私のあげたクナイを握りしめて震えています。

 

なになに?『私一人で大丈夫かな?』

 

まったく、こっちむいてしゃがみなさい。ほらいいから。

はい、マフラー巻いてあげました。これで怖くありません、アナタは一人前のニンジ…ウィッチです。

 

「sen…sei…」

 

背伸びしてその頭を撫でてあげます。

シャンとしなさい未来のスーパーエース。

 

おおみよ彼女の力強い決断的頷きを!

その顔は正しくイクサに赴くニンジャだ!カラダニキヲツケテネ!

 

「Prego per la sicurezza dell'insegnante...(先生もどうかご無事で…)」

 

おっけおっけありがとね。私は死なないから大丈夫ですよ。

よっしゃ出撃です、ロマーニャを救いにいきましょう。

 

 

 

トリノの空は暗黒メガネウロイがひしめき合い、まさにマッポーカリプスです。

視界中ネウロイまみれです、空も地上も。多分100体くらいですね。ハハハ。

 

────パッパラッパーッッ!!

 

陸戦ウィッチさんと僚機=サンが配置に着いたのを確認し、私は一人だけ決断的エントリーだ!!

義手を失った私に銃は使えません、ですから敵の中央に突っ込んで囮になります。

 

ネウロイ殺すべし、イヤーッ!!大声で叫び出来るだけ多くの注意を引く!

 

失った義手の代わりに僚機=サンと陸戦ウィッチさん達が作ってくれた瞳と同じ翠色の肩マントをたなびかせています。

これは超貴重な対ビーム試作塗料が施された衣類です。

大佐である隊長が自らの制服を切って作ってくれました!ポエット!

 

『In bocca al lupo!(がんばって!)』

『NINJA!Ritorno!(ニンジャ!死ぬなよ!)』

 

数十、数百、いや数千にも及ぶビームの雨嵐は正にカーテン。いやハリネズミのハリジゴクめいています!ブッダ!

 

しかし私の心には今もジェノヴァで戦っているフランカお姉ちゃん。

さらにはシチリアで戦っている母のような存在、リリー中佐。

そして私の命を救ってくれた陸戦ウィッチさん達の魂が共にあります。

 

それを思うとこんなビーム、幾ら撃たれようがこんなモノで死んでる場合ではありません!

それにエイミーも頑張ってくれています、尻尾のクナイは彼女が勝手に動かしてくれています!

 

『Viaaaaaaaaaa!!!』

 

────ドゴォォォンッッ!!

 

 

おお!ワザマエ!

飛び込んだ私というハエを払うコトに夢中になっていたネウロイ達は、地上に迫る陸戦ウィッチさん達に気付けなかった!ウカツ!

まさにフライング・サマーインセクト・イン・ファイヤーです!

 

『Continua a sparare!(撃ち続けろ!!)』

 

陸戦ウィッチさん達の凄まじい砲弾の嵐は止まりません!

ネウロイ達がそれに反応する前に集中砲火を浴びせます!

 

実に100体近く居たネウロイの3割程は撃破できたでしょう、ゴウランガ!

 

しかしついにネウロイ達も報復のビームの雨嵐を放ち始め、ついにトリノの街は砲弾とビームの豪雨に晒されます。

 

───凄まじい戦闘です。私が経験してきた戦いの中で間違いなく最も大規模な戦闘でしょう。

 

『IYAAAAAAAAA!!IYAAAAAA!!』

 

私のインストラクションを継承した僚機さんは見事なクナイの腕前でシールドを切り続けています。

なんたるワザマエでしょうか…古代の剣豪ウィッチ、ミヤモトマサシがその光景を見れば『テンカムソウ』とハイクを詠んだことコトでしょう。

 

凄まじいです。

陸戦ウィッチさん達への支援を彼女一人に任せたのは不安でしたが、安心重点ですね。

 

しかし、その活躍と陸戦ウィッチさん達の凄まじい破壊力を以てしても戦況はゴブ・ゴブ(五分五分)です。

 

ただもうそれを見守る余裕もそろそろありません。

私も目の前の戦闘に集中し、一匹でも多くのネウロイを殺さなければ!

 

 

──▽▽──

 

 

数時間に渡る凄まじい、凄惨な激闘でした。

その均衡を破られる時が訪れたのは突然です。

 

『…Cap…itano…』

『Michelaaaaaaa!!!!!』

 

1人、2人、3人と。

ついに数時間に渡る激戦の疲労が精神と肉体の限界を超えた陸戦ウィッチさん達が現れました。

 

当然でしょう。寧ろここまで一歩も退かずに数時間も戦えたのは彼女らの超人的ロマーニャ魂が成せた奇跡でしょう。

 

しかし、それを無情にも踏みにじるのが憎きネウロイ、しかし助けに行く余裕もない!

私はこのビームの針の山で踊りながら、それを空から見ていることしか出来ないんでしょうか?

 

『IYAAAAAAA!!』

 

待っていた!その崩れ始めた陸戦ウィッチさん達の元に駆けつけたのは私の愛弟子です!

 

『Mi è stato affidato!(私は託された!)Quindi proteggerò!(だから、私が守る!)』

 

ああ…なんて姿でしょうか、彼女とて傷だらけで疲労困憊なのは見て分かります。

なのに大声で胸を張り、堂々と宣言する姿は正にエース、戦場の希望そのものです。

 

おお見てください!なんたる光溢れる光景でしょうか!

それを見た陸戦ウィッチさん達が呼応するかのように覇気を取り戻していくではありませんか!

 

崩れかけていた陸戦ウィッチさん達の陣形が、次々と持ち直しネウロイ達に反撃していきます!

…でも、その数は少ないです。

 

何故ならもう事切れてしまったウィッチさんは、立ち上がるコトは出来ないからです。

出会った当初20名ほど居た彼女達はもう、今や8名ほど。

 

しかし戦場は無情です、勝つのは数の多い暴力です。

私ももう限界が近い、しかしまだ巣の本体にすら辿り着けていない!これでは───!

 

 

「ひとつ、人の世の生き血をすすり……」

 

 

!?ワッザ!?

陸戦ウィッチさん達の相対していた地上ネウロイの群れが、どこからか飛んできたウィッチの一薙ぎにより壊滅したではありませんか!

 

 

「ふたつ、不埒な悪行三昧」

 

 

なんたることでしょう、次はその謎のウィッチが放った弾丸により精確無比にコアを貫かれ、私の相対していたネウロイの数匹が爆発します。

 

 

「みっつ、醜い浮世のネウロイ退治してくれよう!」

 

 

そして彼女はネウロイ達の前に立ちはだかり、その扶桑刀をキラリと煌めかせます。

 

 

「──西沢義子、見参!!助太刀するわ!ロマーニャのウィッチ達!!」

 

 

扶桑海軍のセーラー服に陸軍の袴。

そうその独特な出で立ちは紛うコトなき扶桑の魔女、欧州を流浪しているという「リバウの魔王」です!

 

なんたる幸運でしょうか!

事前に調べていたプレイ動画で彼女の増援がランダムイベントで発生するという事は知っていましたが!

まさかこんな窮地にヒーローめいて参上してくれるとは!

 

「地上は任せな!リベリオンのニンジャ!」

 

私はその声に決断的信頼を寄せ、雲の中央からついに出現したその「巣」の主と相まみえます。

 

───その姿、表現するなら『傘』です。

 

恐らくは海で取り込んだのであろう、無数の軍艦、戦艦、駆逐艦。

それらが傘のように展開され、その無数の巨大な砲塔はこちらを向いています。

 

しかしそれが何だと言うのだ!ネウロイは全て殺す!!

 

その無数の砲塔から放たれた、まるで雷の如く激しいビームの嵐。

衝撃波だけですら死に至る凄まじい威力のソレに臆するコトなく私は突貫します!

 

もうこんなチャンスはきっとありません!ループしても彼女がまた現れるとは限らないですから!

 

イヤーッ!!その中心に突貫し、クナイで無数の切り傷を浴びせます。

 

しかし、私はもう魔力がほとんど、いや、まったくありません。そのクナイに籠めれた魔力も微量です。

いけません私、こんなことでは!!ネウロイを殺せない!

 

────にゃあ。

 

殺さないと!ネウロイを!殺さなければ!

 

────…みゃあ。

 

次の瞬間、私の身体は私の主導権を外れ、別の意志に支配されました。

 

 

──▽▽──

 

 

「グルァァァァァッッ───!!」

 

喉から張り出す獣の咆哮!でもこれは私が出したモノではありません。

 

私の右腕と尻尾に構えたクナイが凄まじく眩い輝き、魔法力を纏います!

その眩さたるや、この暗黒ネウロイ暗雲が覆う夜空に輝く暁の如く輝きめいています!

 

その輝きが切り裂く幾百の閃光により、巣の主の傘型ネウロイは悲鳴の如くビームの叫びをあげます!

しかしなんたることでしょうか!?

その凄まじいビームも今の私の身体はハエを落とすように易々とパリィしたではありませんか。

 

「グルルルルル…フシャアアアアアァァァァッッ!!!」

 

私の身体が纏っているのは間違いなく魔法力の光。しかし私に魔法力はもう微塵も残ってません。

しかもその身体を操っているのはプレイヤー、いやエイミーたる私ではありません。

では如何にして?

…その答えは単純明快です。

 

───使い魔のエイミーが私の身体を奪い、彼女自身の命そのものを燃やして魔法力へと変えているのです!

 

心の中で何度も制止を試みますがまったく止まる気配はありません。

目の前のネウロイを破壊し、殺戮することしか考えていないのでしょう。

 

やめてくださいエイミー!こんなコトでクリアしたって、私は自殺してループしますよ!?

そう叫んだって彼女は止まりません。ああお願いダメだって、やめて。

 

 

『──◎△$♪×¥●&%#?!!』

 

 

!?なんたる轟音でしょうか!?

目の前の巣の主が狂った叫びと輝きを放ちました!!

すると身体を傾け、トリノの街の中央から北側へと尻尾を巻いて急いで逃げ出しています!

 

「ふ…みゃゃぁぁぁ…」

 

ああ、もういいんですエイミー…アナタはよくがんばったから…もういいんですよ。

 

限界を超え、私から分離顕現したエイミーを抱きかかえながら地上へ降り立ちます。

もう無理です。これ以上はもう。

 

隊長さん達、そして僚機さん、窮地に現れた西沢さん。

彼女たちに抱き留められながら、さすがに私は意識を手放しました。

フユコ…トチノキ…。

 

 

 

 

次に私が起きたのは、トリノ基地のベッドの上でした。

 

隣では私のベッドに蹲り眠る僚機さんと、そして私の顔を見て泣きながら抱きしめてくれる隊長さんが。

 

「──Grazie(今までありがとう)non ti dimenticherò mai(お前のことは忘れない)」

 

???どういうことでしょうか?首を傾げます。

 

Probabilmente veniva dall'Helvetia.(アイツは元々アルプスから来たんだろう、恐らくヘルウェティアから)

 Se ti manca ora, le persone saranno sacrificate(今逃せばまた多くの人々が犠牲になる)

 

あー…そういうことですか。

つまり、あなた達は追撃すると?

 

 

力強く頷かれます。

 

 

はぁ、この人は一体私の何を見てきたと言うんでしょうか?

 

 

 

付き合うに決まってんでしょうが!!!!!!!!!!!

準備するぞ起きなさい愛弟子!!!!!!!!!




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怪異ヲ屠ル魔女

はーい、血を吐きながら続ける悲しいマラソン、はーじまーるよー。

 

インフェルノ攻略ログとして撮っているこの動画、いつかアップロードされる日は来るのでしょうか?

 

まぁいいや現在ネウロイの巣追撃の為、雪降るアルプス山脈をトラックで駆け抜けています。

 

 

「È stato davvero buono(本当に、良かったのか)」

 

 

隣に座る隊長さんちゃおちゃお。

私だけ休んでる訳にはいかないですからね、使い魔エイミーはちょっと…アレなので分離して僚機さんの膝の上で寝てますが。

 

 

「Anche tu stai davvero bene(本当にいいのか、お前も)」

「Va bene!Va bene!(いーのいーの)Perché è la nave su cui sto(乗りかかった船なんだしさ)」

 

 

ケラケラと笑う「リバウの魔王」西沢さん!なんと彼女までこのネウロイの巣との決戦に参戦してくれるみたいです!

なんと心強いのでしょうか、前回の戦闘でもその活躍がなければ───

 

───ゲッホゲヴォ、やべまた発作が。

 

激しく咳き込み震える私を僚機さんが抱きしめます、あーもうリリーさんから貰った薬ないんですよねぇ。

結構マズいです、意識が無くなる時間があからさまに増えてるんですもん。

 

「sensei...!!」

 

ああそんな心配そうな顔しないで。

ほら鼻水出てますよ、マフラーしないと風邪ひきますよ。

 

 

──いいですか?もし私が戦えなくなったら、あなたが代わりにこのロマーニャを救いなさい。

 

 

え?『そんなの無理』?

無理じゃねぇやるんだよ。と言うのは冗談ですが。

その手を握ります、わぁあったかい。

 

たぶん未来予知ループでこの戦いをクリアできたとしてもロクな結果にはならないでしょう。

だって使い魔が瀕死、私も片腕ないしこのザマ、ストライカーだって零じゃないし。

 

 

しかしストライクウィッチーズはたしか『継承』が一つのテーマだったはずです。

もしこの戦いで私が戦えなくなったりして不本意なエンディングを迎えてしまったとしても、せめて希望は天才の彼女に託しておきましょう。

…後味が、悪いですものね。

 

 

──フランカお姉ちゃんに戦闘を教えてもらいなさい。何か困ったことがあればリリー中佐に頼りなさい、悪い人ですが根は多分きっと良い人です。

 

 

その後も私はずっと寄りかかりながら、彼女に託すモノを話し続けました。

僚機さんは泣いて嗚咽を漏らしながら、うんうんと何度も必死に頷いてくれました。

 

え?なんで周りの隊長さんたちまで泣いてるんですか?

 

なに?『絶対死なせない』?『私達が守る』?

 

──もちろんです、私も皆さんは死なせません。

 

あああまたハグ来ると思ってましたぁぁぁ!

かかってこいやああ返り討ちにしてくまs…グワーッ!!(即死)

 

 

ああでもあったかい...死の冷たさとは真逆の、フランカお姉ちゃんのような温もり…。

皆さんで生きて帰ってまたロマーニャ料理パーティしましょうね、次はお姉ちゃんやリリー中佐も交ぜて。

 

 

 

──▽▽──

 

 

吹雪の向こう側にうっすら見える不気味な傘型の大きな影。

 

仔豹のエイミーはついに目を覚ましませんでした。彼女はもう安全なトラックの座席で待ってて貰いましょう。

彼女のおかげでトリノは解放できましたし、もう十分頑張ってくれました。

 

でも使い魔なしで飛ぶのは久々ですねぇ、まぁ何とかなるでしょ。

 

『Questa è l'ultima.(これが最後だ)』

 

隊長さんからの無線です、配置に付き終わったのでしょうか。

 

『Ciò che è stato affidato a un compagno morto(散っていった仲間たちに託されたもの)

 Dobbiamo ereditarlo e procedere(私達はそれを継承し進まなくてはならない)』

 

 

私の手を握る僚機さんの手が震えてます。だいじょうぶだいじょうぶ。

 

 

『──Grazie a tutti(皆、本当にありがとう)

 Sono orgoglioso di poter combattere con le coraggiose streghe(勇敢な魔女達と共に戦えた事を誇りに思う)』

 

 

私もです。

何か嬉しくなってきたので僚機さんの頭を撫でましょう。かわいいですね。

 

 

「…ねぇ、人に教えるのって楽しいの?」

 

西沢さん?そういえば彼女はたしか本国からの教官の誘いを蹴ってましたよね。

 

「あんた達見てるとなんだか師弟って面白そうね!私も弟子でも探してみようかな〜」

 

おーいいですねぇ。

502の菅野さんとかどうですか、きっと気が合いますよ。

 

「へーえ、じゃあこの戦いが終わったら会いに行って見ようかな?…ん」

 

───遠くで炸裂する爆発音と閃光

 

どうやら陸戦ウィッチさんたちのアンブッシュ(不意打ち)は決まったようですね。

 

 

さて行きましょう二人とも、ロマーニャを救いに。

 

──▽▽──

 

わたしの眼の前を悠然と飛ぶ、小さくて儚いけど、大きくて大きな背中。

出会ってまだ一ヶ月程度の彼女はもう、わたしにとっての姉も同然だった。

 

吹雪の中を降り注ぐ破滅的な紅い閃光の嵐、それを傘になるかのように易易と振り払うセンセイ。

 

私もそれに倣って張り巡らされたシールドを切り刻み、そこに間髪入れず扶桑の魔女さんや陸戦のウィッチの方々が攻撃を打ち込む。

それらを続ける私達全員を、センセイはたった一人でビームの雨から守ってくれていた。

 

しかし、この巣の主のシールド、装甲ともに明らかに桁違いに硬い、一枚斬るのにも大変な体力と魔法力を消耗してしまう。

悪辣な気候もあり未熟なわたしはもう既に息を乱してしまっていた。

こうなれば構えを変え、魔法力の出力を上げて───

 

 

『よいですか、10回の斬撃を防がれたからと言って、1回の斬撃に頼ってはいけません。1()0()0()()()()()を放ちなさい。』

 

 

しかし、かつてセンセイに授けられたインストラクションが頭をよぎる。

なんて無茶苦茶なぁ…と、その時は思ったけども今ならその意味が理解できる。

 

目先の不利有利に釣られて自らの戦術をブレさすな、貫き通せ!

 

「IYAAAAAA!!」

 

センセイが教えてくれた近接戦闘術、彼女は何度も褒めてくれるけども。

わたしはまだその足元すら見えていない。

 

 

だから、だからまだ、もっと色んなコトを教えてもらいたいから───!!

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

その一心で数十分…いや、数時間を死と隣合わせの戦場を戦い続けたわたしは。

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

 

凄まじい死闘の果てに魔法力を使い切り、空高くから墜ちるセンセイの姿を────。

 

 

 

 

──▽▽──

 

 

「…ごめんね、あなたを死なせる訳にはいかないのよ。()()()()()()()から。」

 

朧気な意識に聞こえる西沢さんの声。

ああ、そうか…わたしは、魔法力が切れて…。

でも、へいきですよ。どうせまた、繰り返すから。

 

しかし、彼女が何かの小瓶を開き、私の口にそれを流し込み。

 

 

「…あなたの、()()()()。」

 

 

その声を最後に、私の意識は───。

 

 

──▽▽──

 

 

…何処ですかここ、なんで私フートンでスヤァしてるんでしょう。

 

おやここは…懐かしい、忘れもしませんよ。

 

このゲームを始めた時の開始地点──あの輸送船の一室じゃないですか。

なっつかしー、ほら和風な内装や窓から見える星空。

 

 

そして()()()()()()()()()()()()()()()()とその膝で眠る黒豹...はて?どなたでしょうか。

 

 

「──どうも、はじめまして、エイミーさん。」

 

 

幼くて舌足らずですけど、凛とした声。

扶桑の寝間着にふんわりとした黒髪のその姿はそう、まさに。

 

 

 

「──()()()()()、です。」

 

 

 

──▽▽──

 

 

…言いたいことは色々ありますが、アイサツはされれば、返さなければなりません。

 

 

「どうも、はじめまして、竹田美喜さん。アマンダ・M・プラマーです。」

 

「…にゃあ」

 

 

あ、仔猫エイミーが起きましたね。元気そうですよかった。

竹田美喜ちゃんの顔を嬉しそうにぺろぺろ舐め始め、それを微笑ましく撫で返されています。

 

 

「…ずっとみてました、あなたを。」

 

 

静かに語り始めます。

 

「フランチェスカおねぇちゃんも、りりーさんも。…501のひとも」

 

あっ、仔猫エイミーがこっちにきました。

 

 

「──ありがとう、わたしのかわりに生きてくれて」

 

 

垂れ下がる私のリベリオン下士官服の左袖を見られます。

 

 

「──ごめんね、わたしのかわりに、そんなにくるしんで」

 

 

私を優しく抱きしめてくれる小さな身体。

なんだか新鮮ですね、いつも大きな人ばかりに抱きしめられてましたから。

 

 

「もうすぐ、わたしはおきてしまいます。」

 

 

...はて、起きる?

ああ、もしかしてそういうことですか。

 

「リリーさんの催眠が、解けると?」

「…うん」

 

あーさっき西沢さんに飲まされた薬、アレはもしかして。

しかしふむ、そうなればどうなってしまうのでしょうか。

 

エイミーとしての私は…ああ、そうか。

『催眠がある間はログアウトできない』とはそういうことなのでしょうか?

 

──逆にいえば、催眠が解ければログアウトしてしまうと。

 

 

「でもだいじょうぶ、()()()がきえればいいの。」

「え。」

 

 

静かに、彼女は夜空を見上げました。

 

 

「わたしも、フランチェスカおねえちゃんや、りりーさん…501のひとたちも、りょうきさんも。だいすきだから。」

 

舌足らずな声が紡ぐ、悲しげな言葉。

 

「おかあさまや、おとうさま…じゅうしゃのみんな、おじいさまと、おなじくらいに。」

 

それは寂しく、儚くて。

 

「でも、わたしがエイミーじゃなくなったら…きっとみんな、かなしんじゃうから。」

 

 

そう震えて告げる瞳には涙が浮かんでいて。

 

…どうせなら本来の意思である彼女も幸せにしてあげたいです。

それがたとえこの世界から逃げ出す絶好の機会をふいにしたとしても。

 

 

「それに、わたしは…なにもできないから。なにも、まもれないから。」

 

「そんなことありませんよ。」

 

「え?」

 

 

だって、私はあなたなのですもの。

飛べますとも。

 

何がしたいですか。

何をしますか。あなたは。

 

「わたしは…」

 

 

────次の瞬間、窓の夜空が紅く輝きました。

 

 

そして私達二人と一匹の世界は赤い炎に包まれて。

 

その周りには命だったものが、あの夜私を、私達を守ってくれた大人の人達だったものが散らばっています。

 

 

「…ネウロイ…!!」

「…うん」

 

 

命を奪うもの、穢すもの、破壊と殺戮を繰り返す醜い破壊の権化。

 

 

「むらもと....みん、な...」

 

かつて命をかけて私をストライカーまで導いてくれた従者のおじ様。

わたしを命がけで守ってくれた従者のみなさん。

ああそうか、竹田美喜にとって、彼らは生まれた時から守ってくれていた家族も同然だったのですね…。

 

 

「わたしは…」

 

 

その幼い少女が紡ぎだす次の言葉をただ待ちました。

 

 

「──ウィッチになりたい…ううん、みんなのかたきを、とりたい。...」

 

 

()()()は、()との自答めいた対話の果てに、一つの答えをみました。

 

 

「ネウロイたちを、たおしたい...!このてで!ころしたいっっ!!エイミー!!」

 

 

()()()の中に宿った異質な意思に隷属することでもなく。

 

()が上塗りし、支配することでもなく。

 

 

「私も…同じだよ、美喜。」

 

 

ただそれぞれの大切な人々との記憶と同じように共に在ること。

 

 

それこそが、きっと────。

 

 

 

 

──▽▽──

 

 

センセイは、無事だろうか。

吹きすさぶ吹雪にもう既に感覚を失い、もはや飛んでいることですら精一杯だった。

 

ビームの雨を避けたせいで墜落しかけたワタシを隊長が抱きとめる。

しかしもう、彼女だって限界が近い。

陸戦ウィッチで生きているのは──彼女だけ。しかもその片方のストライカーは動いていない。

 

「Non morire!(死ぬな!)Non dovresti mai morire!(お前だけはっ!!)」

 

しかし──ネウロイの雷雨のようなビームは止まない。

ワタシを抱きかかえる隊長のシールドが、大きくヒビが入り、綻び、崩れ、割れて。

 

 

そして───

 

 

次の瞬間、突如吹き荒んだ"()()"が。

 

そのネウロイの傘の一部を粉微塵に切り裂き、爆発四散させた。

 

 

 

──▽▽──

 

 

「…どうも。()()()()()()、ネウロイさん。」

 

そのウィッチは、言葉も介さぬ黒い怪異に対し静かに言葉を告げた。

かつて戦国の時代に生きた偉大な竹田の先祖は、殺し合いの前にも礼を欠かさなかったと彼女の祖父は言っていた。

 

扶桑陸軍の巫女服、その藤色の袴は華族にしか穿くことを許されぬ高位なモノだ。

 

扶桑が誇る最大ストライカーメーカー宮菱の最新鋭試作機「烈風」が、その彼女の足に纏われ魔導エンジンを高らかに鳴らしている。

 

そのボディと彼女が装着する義手には製作者の名が、()()()()()()()()が記されていた。

 

 

わたし()は────」

 

 

吹きすさぶ雪の向こう、微かに望む月光に襟巻きが揺らめく。

 

2対の苦無刀を構え、その魔法少女は眼の前の絶望の権化を見下す。

 

 

(わたし)は───」

 

 

あの頃を思いだす。

初めて零で飛んだあの絶望の夜空を。

 

 

あの頃とは余りにも多くのものが違う。

 

 

場所も。時も。状況も。

戦う理由も。環境も。周りの人々も。

属する国も。名前さえも。

 

 

だが、ただ一つだけ絶対に不変のコトがあった。

 

 

「────お前達を、殺す魔女(ネウロイスレイヤー)

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

確固たる意思をその翠と黒の双眸に宿した殺戮の魔女は、アルプスの夜空に烈風を吹き鳴らした。




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継承の物語

──なんたる魔女(ウィッチ)だ。

 

リバウの魔王、西沢義子はたった一人で極大の怪異の巣と渡り合う扶桑の幼き魔女の姿に驚嘆していた。

 

そのマニューバ技術、刀術、状況判断力、どれを取ろうがまるで彼女が師と仰ぐ偉大な扶桑の魔女、横川を彷彿とさせる。

 

 

『孫娘の目を覚まさせてやって欲しい。そして扶桑へ連れ戻してくれ。』

 

 

宮菱の創業者が自らの筆でしたためたその書簡は、部隊に属さず欧州をさすらう一匹狼の彼女の心さえも動かしてみせた。

 

 

『だがもし…美喜自身が修羅の道を選ぶ事があれば、止めずともよい。あれとて竹田の末裔だ、武士(もののふ)の定めに殉じるのならそれも良かろう。』

 

 

「───イヤアアアアーーッッ!!」

 

 

吹き荒ぶ夜吹雪に、幾千の雷鳴が轟き響く。

その一発一発が世界最大の戦艦、大和の46cm砲もかくやたると言う凄まじい規模だ。

 

しかし、それに立ち向かう魔女のその決意に満ちた表情は、微塵たりとも恐怖や怯えの色がちらりとも覗かない。

 

蟻と戦車の如き影の大きさの差があろうとも、その戦いの天秤は彼女に傾いていた。

 

 

「───ん」

 

その凄まじい情景に意識を奪われることなくそれを察知できたのは、数多の歴戦を生き抜いた魔女のなせる技だ。

 

彼女の研ぎ澄まされた第六感は、遥か彼方ヘルウェティアから到来する無数のネウロイの群れを捉えていた。

 

 

「やれやれね。」

 

 

今の竹田美喜…エイミー、否、殺戮の魔女であればその増援すらも容易く蹴散らせるかも知れない。

 

だが西沢は彼女を託されたのだ。

遠く離れた扶桑から孫娘を心から案じる、彼女の祖父に。

 

 

「いざ───西沢義子、参る!!」

 

 

──▽▽──

 

 

夜吹雪の中を舞う一陣の烈風。

その凄まじきスピードは、相まみえるネウロイが到底反応できる領域を遥かに超えていた。

 

《エイミー!!こんどは、あのあかい船からビームがくる!よけれるよね!?》

 

「無論!!」

 

彼女の脳裏に住まうもう一人の声。

その声こそ彼女本来の魂にして、今やもう一人のアマンダ・M・プラマーである竹田美喜のものだ。

 

 

「イヤアァァーーッッ!!」

 

 

怪異が飲み込んだ数多の軍艦、ハリネズミめいたそれらから放たれた無情な閃光は、正確無比に彼女の身体を───貫かない。

 

その理由は単純明快である。

今や殺戮の魔女が見ている景色は、()()()()()()()()ではなく()()()()()()()()()()だからだ。

 

 

《気をつけて!つぎにくるビームはまがるよ!あとちっちゃなひこうきも!》

 

「承知した!!」

 

 

まさに武器庫。

兵器の集合体である軍艦を取り込んだ巣の主の攻撃手段は正真正銘、無限だ。

今やネウロイの傀儡となった哀れな空母達の甲板から、無数の自爆特攻型の小型ネウロイが放たれようとしていた。

 

一度放たれれば喰らいつくまで永遠に追い続ける爆弾は、銃を持たぬ彼女には為す術もない。

 

 

「イヤアアァァァーーッ!!」

 

 

しかしなんたることか。

彼女の音速を超えた苦無刀の居合は、魔力を纏ったソニック・ブームとなり、ネウロイに襲いかかる!

 

甲板上で無数の爆弾を炸裂させられたネウロイ空母は、自らの攻撃でその身を砕けさせた。

 

だが忘れてはいけない。その空母一隻さえも針地獄の内の一本に過ぎないコトを。

その間にも並行し、カーテンめいた無数のビームが放たれる。

 

これでは幾ら攻撃を捌こうとも彼女の苦無刀をコアに届かせるのは至難の業だ。

 

 

《わたしとエイミーがふせぐ!あなたはつっこんで!!》

 

「頼んだ!!」

 

 

幼い魔女の周りに青く輝く盾は──扶桑の術式のシールドだ。

ウィッチとなって以来一度たりとも展開し得なかったそれを、彼女に宿る竹田美喜の魂は容易く成し得たのだ。

 

さらに盾となるのは彼女だけではない、その黒き豹の尾が振るう一振りのクナイもまた、自らの意思で降り掛かる火の粉を払いのける。

 

 

「UraaAAAAAA!!」

 

 

ついに針地獄の本体が、魔女に喉元への接近を許した。

 

南無三!本体に密着している彼女を狙いビームを撃つなど、自殺となんら変わりがない!

これではネウロイは彼女に指一本すら手出しができない!

 

その幾千を誇る砲塔が混乱に陥り、ただ回転している!なんたる無様な姿か!

 

 

『──◎△$♪×¥●&%#?!』

 

 

ネウロイが悲鳴にも似た甲高い叫びをあげ、閃光弾めいた輝きを放つ。

 

何という明るさか。

その太陽めいた輝きを直視すれば、失明はもちろんニューロンまで焼き切れてしまうことは想像に難くない!

 

 

「──これが真の魔女(ウィッチ)の世界だッッ!!イヤアアァァーーッッ!!」

 

 

だが殺戮の魔女は裏拳の如く背中を見せたまま苦無刀でネウロイを切り裂く!

当然だ、目が背中についている人間はいない!

 

真なる意味での未来予知を得た今の魔女の前に、そんな搦手など通じるわけも無いのだ。

 

 

「イヤアアァァーーッッ!!イヤアアァァーーッッ!!イヤアアァァーーッッ!」

 

 

幾万のビームの雨、ミサイル、金属への侵食、火薬の遠隔爆破、目眩まし、精神攻撃、形状を変形しての物理攻撃。

 

その全てを破られた地獄の怪異(インフェルノネウロイ)はもはや、ボーナスステージのサンドバックも同然だ。

 

扶桑の名匠に鍛えあげられた2対の苦無刀が豆腐に箸をいれるが如く装甲を削り取っていく!

 

 

《───いけない!!あれをみて!エイミー!!》

 

「───あれは!!?」

 

 

何という迂闊だ、エイミーは心の中で叫んだ。

 

自爆を恐れ無様に狼狽えていた砲塔達が、破壊的な光を溜め込み放たんとしているではないか。

その狙いは殺戮の魔女───ではなく。

 

 

「僚機さんっ!!隊長さんっ!!逃げて!!」

 

《だめ!!ゆきにあしがとられてるっ!!》

 

 

何という卑劣で冷酷無比な選択か。

その怪異が狙いをつけたのは、魔力と体力を消耗し、ストライカーすら機能していない僚機と陸戦ウィッチの隊長だ。

 

その上ここは、雪ふぶくアルプスの険しい山岳の斜面。ストライカーなしでの移動など困難極まりない!

 

もしネウロイに顔があれば、醜く下劣な笑みを浮かべていたことだろう!

 

 

「くっ、まにあわ───まにあわせるッッ!!」

 

《美喜!?何をして!?》

 

 

意識を共有してるエイミーと美喜の会話はコンマ一秒にも満たない。

その僅かな一瞬で身体の主導権を奪った美喜は、持ちうる限りの魔法力を展開しシールドへ注いだ。

 

 

「Sen…sei...!?」

「だいじょうぶ、ぜったいにしなせないからッッッ!!」

 

 

──なんたる光景だろうか。

幾百──いや幾千の砲塔から放たれる轟雷はその一発一発が戦艦の主砲に匹敵する。

だと言うのに、殺戮の魔女のシールドは僅かたりとも揺るぐことはない!

 

 

「いやあああぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!」

 

 

凄まじい魔法力とビームの応酬。

それを背後で見ているだけの僚機は、その激しすぎる魔法力の余波だけで意識を奪われそうになった程だ。

 

なんたる堅牢にして強固な鋼の盾だろうか、しかしネウロイも為す術なく棒立ちしているだけではない!

 

 

《美喜!あいつが変形している!ビームの威力を上げる気だ!!》

 

「──!?へーきっ!!!」

 

《無理をしなくていい!私が!!》

 

「かんがえがあるの!!しんじてエイミー!!」

 

 

無数の船が溶けあい歪に混ざり、一つの巨大な砲塔にならんとしている !

威力を集約させ、そのシールドを力任せに打ち砕こうとしているのだ。

 

「Sensei…?」

 

「わたしと、いっしょにたたかってくれてありがとう。ほんとうに、しあわせでした。」

 

殺戮の魔女が見せた、年相応の穏やかな笑み。

だがそれは一瞬で険しい殺戮者のモノに戻り、シールドを押し返し始めた!

 

 

「───いやあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

信じがたい光景だ。

その破滅的なビームを防ぐだけでなく彼女は、それを押し返し始めたのだ!

 

烈風の魔導エンジンが激しく唸り始める。

 

 

《美喜!待って!そんなことをすれば!》

 

「…エイミー!ネウロイを、かならず────っっ!!!」

 

 

それはまさに、トリノでの使い魔エイミーの暴走の再現だ。

彼女という竹田美喜がその自身の魂を燃料に、魔法力と言う炎を燃やしていた。

 

やがてその閃光を根本まで押し返され、シールドという蓋をされたその砲台の辿る運命は────自爆だ!

 

 

「──イヤアアアァァァァーーーーーッッッ!!!!」

 

 

そして同時に、その神がかり的な奇跡を支え続けた烈風も限界を迎えた。

しかし彼女の意志はなんら揺るがない、咆哮と共に、その中心へと身を投じ───!!

 

 

 

──▽▽──

 

 

「うっ…ぐぅっ…?」

 

 

満身創痍となった殺戮の魔女(ウィッチ)が辿り着いた場所。

そこは巣の主の中心、文字通り"コア"が鎮座する小さな空間だった。

 

その紅く輝く石の、なんとちっぽけなコトか。

この醜い光を放つ石ころひとつの為に、幾万という罪なき人間が犠牲になってきたのだ。

 

 

「……ネウロイは、全て殺す。」

 

 

苦無刀を構える彼女の両の眼はどちらも宝石のような翠色。

もう一人の自分に全てを託した竹田美喜の声は、今や聞こえてこない。

 

『──Ninja,Stai bene!?(ニンジャ、無事か!?)

 Sei a Neuri!?(ネウロイの中に行ったのか!?)』

 

隊長の声だ。

 

『…Già buono!!Bbastanza!(もういい!もう良いんだ!)

 Non devi morire!!(お前まで死ぬことはない!!)』

 

 

──▽▽──

 

 

「Anche striker si è rotto!?(ストライカーも壊れたのだろう!?)

 Tornerò e questo sarà andato!(そんな状態でトドメを刺せば、帰ってこれなくなるぞ!!)」

 

 

あらん限りの残りの体力を、全てその声に籠める。

 

 

「Tutti hanno lasciato i loro pensieri a te e sono morti!!!

 (みんな!お前に希望を託して死んでいったんだ!みな…みんな…!!)」

 

 

「Non morire!Non vale la pena uccidere finché non perdi la speranza come te!!

 (死なないでくれ!お前のような希望を失ってまで!!そんなやつを殺す価値はない!!)」

 

 

「Fai qualcosa!! Farò quello che vuoi!Per...fav...ore…

 (なんでもする!!お前の望むものを、なんでもやるから!!お願い、だから……もどって、きて…)」

 

『私の……望むもの…?』

 

 

──▽▽──

 

 

思い浮かぶ情景。

 

優しくて色んな事を教えてくれたおとうさま。

優しくてきれいなおかあさま。

従者のみんな。

厳しいけど、本当は優しいおじいさまと過ごした、竹田美喜としての記憶。

 

 

フランチェスカ・ルッキーニ。

フランカお姉ちゃんと一緒に過ごした日々。

 

出会った夜空。

再会した基地。

共に飛んだマルタ。

 

 

私の絶望と諦めさえも受け入れてくれた、イムディーナ。

 

 

私の呪いと痛みさえも受け入れてくれたあの海での地獄。

 

 

怪しいけど、心を開いてくれるようになったリリーさん。

501の優しく、強く、誇り高きウィッチのひとたち。

マルタに駆けつけてくれた、魔女達。

 

共に絶望のロマーニャを駆けた、可愛い愛弟子である僚機さん。

そして、命を散らし、私に全てを託していった陸戦ウィッチの皆さん。

 

エイミーとして生き抜き、出会ってきた人たち。

 

 

その人々のかけがえのない思い出が、わたしと私に微笑みを向ける───。

 

 

 

───そして、それらを蹂躙し、穢し、壊し、破り、燃やし、踏み躙り、弄ぶ、破滅の怪異。

 

 

 

「────コイツのッッ!!命だああああああああぁぁぁぁぁぁあァァァァあああああああアアアア!!!!!!」

 

 

 

殺戮の魔女の一撃が、怪異の心臓を貫いた。

 

 

 

──▽▽──

 

 

「ネウロイはッッ!!!全てッッ!!!!!殺すッッ!!!!!イヤアアアアァァァァァーーーーーッッッッ!!!!」

 

 

殺人的で破滅的で壊滅的な苦無刀の斬撃により、数多の命を貪った怪異の命に幕が降ろされた。

 

 

『────◎△$♪×¥●&%#?!!!?fw8う!』

 

 

そして、そのコアが意味不明な奇声と共に、崩壊の閃光を放って───。

 

 

 

彼女の意識もまた、閃光に潰えた。

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

 

 

────────。

 

────────。

 

 

せんせい?きこますか?

 

…わたし、ずっと後悔してたんです。

 

何にも守れずに、何にもできずに、何でウィッチ何かになったのかなって。

 

でも、センセイに出会って、見つけられたんです。

 

わたしの、したいこと。

わたしに、できること。

 

でも…もうすこし、はやく見つけたかったな。

 

センセイ、言ってくれましたよね、『継承』することが大切だって。

 

いまのわたし、それがよく分かるんです。

 

だから。

 

 

センセイ、継承してくれますか。

 

わたしの、したい…。

 

 

────したかった、こと。

 

 

 

──▽▽──

 

 

北部ロマーニャ防衛線。報告。

 

残存した航空・陸戦ウィッチ部隊の類まれなる活躍により、陥落したトリノは奪還された。

更にはヘルウェティア連邦を覆っていたネウロイの巣を撃破。

これによりヘルウェティアは、解放された。

 

この史上初の偉業を成し遂げた彼女らはロマーニャ公から表彰され、『偉大な魔女達』の称号を与えられた。

 

 

生存者は2名。

一人は陸戦ウィッチ部隊の隊長。

 

もう一人は航空ウィッチ。

 

生存した魔女を抱えていたもう一人のウィッチは、その身体を強く抱きしめ、救助部隊が来るまで吹雪から彼女を守り続けていたという。

 

救助隊が到着した時には、既に彼女は死亡していた。

 

 

その手には、扶桑の刀剣の一種である、"クナイ"と言う名の短刀が固く握られていたらしい。

 

 

報告、終わり。

 

 

 

──▽▽──

 

 

《アイテムを入手しました:僚機のクナイ》

 

 

《実績を解除しました:【継承の物語】》



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血と家族
お母様


お休み頂いてしまって申し訳ありません。
これからまた更新していきたいと思います。


ヘルウェティアの空。

 

 

つい先日までネウロイに支配されてたなどとは考えられぬ程の澄み切った青空。

そこを一人、長い襟巻きと雲をたなびかせ駆ける魔女がいた。

 

 

襟巻きで口元を隠し、冷たい翠の瞳で地肌を見つめるのは殺戮の魔女、アマンダ・M・プラマーだ。

鳥一匹すら気配を見せない空、彼女は一人で解放されたヘルウェティアの山地を訪れていた。

 

 

 

 

 

 

「んー…?」

 

 

ストライカーの修理に注いでいた集中が、近づいてきたエンジン音に遮られる。

窓を見るとそこに居たのは、扶桑陸軍の巫女服を纏った一人の魔女。

 

 

「どうも、先日はお世話になりました。───西沢義子さん。」

「…驚いた、どうやって見つけてくれたの!?無線の類は全部壊れてたのに!!」

 

 

西沢の疑問は当然である。

ここはネウロイから解放されたばかりのヘルウェティア、ましてや人里離れた山脈。

広大な山地から手がかりもなしに人間一人を見つけるなど、砂漠で砂金を探すに等しい。

しかし現にエイミーはこうして彼女の前に現れたのだ、探知魔法すら持たない魔女が。いかにして?

 

 

その答えは単純だ。

あの巣の主との決戦の際、もう一人の彼女である竹田美喜がその遠い未来のビジョンを見ていたのだ。

 

 

──生き抜いたものの帰還不可になり山小屋で途方にくれる西沢義子

 

 

そしてこれは既に防いだが──生き残った自責の念に駆られ、自室で果てようとする隊長

 

 

私とわたし、どちらかがもし消えても必ず防ごう。

その美喜と交わした約束を果たしに、彼女は一人ヘルウェティアまでやって来たのだ。

 

 

 

 

「助かったわぁ〜もうヘビの味に飽きてた所だったのよ!それにほらアタシ胃腸が弱くって新鮮な野菜じゃないと───あら?」

 

 

ふと、西沢は自分を背負う魔女が履く機械の箒が、先日届けた《烈風》では無いことに気がついた。

 

 

「あなた、烈風は?」

「故障しました、修理も並の整備士ではできないと」

 

 

それに直ったとて今の私には動かせない、と彼女は心の中で付け足した。

あの時彼女の内から噴火するマグマの如く湧き出ていた魔法力は、今や欠片も感じられない。

その原因は分かりきっている。その源泉となる彼女の不在のせいだ。

 

 

「ふーん...ごめんね、そこまではアタシも何ともできないわ」

「お気になさらず。」

 

 

遥かかなた、無人の町並みが見える。

あの寂れた街にもしばらくすれば活気が、人が戻ってくるだろう。

 

 

「そういえばあの後どうなったの?隊長さんやあなたの僚機さんは」

「隊長さんはご無事です。」

「…そっか」

 

 

西沢はその短い一言だけで全てを悟り、それ以上は語らなかった。

 

 

 

 

 

 

数十分後、二人はとある基地に降下する。

解放されたヘルウェティアで現在唯一活動している、ロマーニャとの国境近郊に位置する小さな航空基地だ。

ここには現在、世界各地に散らばったヘルウェティア軍が戻りつつある。

 

 

「ひゅー、今回もまた生き残っちゃったわぁー」

 

 

待ち構えていた衛生班のヘルウェティア兵達の担架に載せられた西沢がけらけらと笑う。

悲哀とは程遠い笑顔に、エイミーはしばらくぶりに人の心に触れたような感じがしていた。

 

 

「でもしばらくは病院生活かなぁ、あなたは?」

「ネウロイを殺します。」

「…そう」

 

 

西沢の目が静かに閉じられる。

流石にもう疲労を隠せなくなったのだ。

 

 

「無理は、しないでね。助けが欲しかったらいつでもリバウの魔王を呼びなさい。」

「……」

 

 

自らを撫でる手の温もり。

遠い地で闘う二人の姉のような存在を思い出してる内に、彼女は運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「美喜様。」

 

 

背後からかけられる無骨で無機質とも言える声。

 

 

「彼女は。」

「ええ、医師を手配しています。この戦時下にあるロマーニャで見つけるのは困難でしたが、ガリアから逃れてきた───」

「分かった。それならいいです。」

 

 

ふぅ、と安堵と疎ましさを籠めた感情の溜息がエイミーから漏れた。

 

 

「私のワガママはもう終わりです。後は好きにしてください。」

 

 

背後に立ち並ぶ黒スーツ姿の男達。

その顔立ちはリベリアンでもなくロマーニャ人でもない。

そう、彼らは皆一様に扶桑人だ。

 

 

「どうぞ」

 

 

いつの間にか背後に回ってきていた黒塗りの車がドアを開ける。

その中から漂う空気は、自分をどこか遠い世界に連れて行くのではないかとエイミーには感じられた。

 

 

「……ありが、とう」

 

 

寂れ、まだ半壊の建物ばかりのヘルウェティアの基地の中で輝くその黒の真新しい車体。

彼女はそれにツバを吐きたくなる衝動をぐっと堪え、黙ってその中に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――December,1943

  Romagna

  CV. Miki Takeda

  No affiliation

 

 

 

 

ロマーニャ首都の首相以下高官が御用達の、ある高級ホテル。

その一室にエイミーの姿はあった。

 

 

「…お嬢様のご様子は」

「変わらんよ、あれからずっと黙り込んで正座されてる。まるで座禅だ。」

「侍女達が何を話してもあの調子らしい。昔はよくウィッチの話を楽しんでおられたらしいが…」

 

 

 

 

ドア越しに聞こえる男達の話。

それを彼女は綺羅びやかな極まりない部屋の中心で座し、黙って聞いていた。

 

 

「……」

 

 

彼女が着せられているのはまるでこれから写真でも取るのかと言う程に美しい女袴。

髪はキレイに結われ、後頭部で纏めあげられている。

額から突き出た破片を隠すように添えられた大きく派手な花飾りが邪魔で鬱陶しい。

 

 

「……すぅーっ……はぁーっ…」

 

 

呼吸を整え、精神の海に沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは言霊めいた、精神世界のような所だろうか。

あの絶望の夜空、エイミーが始まった場所、あの船の一室だ。

 

 

「……」

 

 

その中心では精神の布団に横たわり眠りにについている幼い少女。

そしてその布団の上で丸まる一匹の小さな黒豹がいた。

 

 

「美喜、エイミー」

 

 

二人は起きない。

先の激しすぎる死闘で力を使い果たした彼女達は、未だ目覚めぬ深い眠りについていた。

使い魔のエイミーだけは無意識に魔法力をまだ貸してくれてはいるが。

 

 

 

 

「西沢さんは助かりました。美喜のおかげで」

「……」

「隊長さんも、前に進むことを決めてくれたみたいです。怪我が癒えればまた陸戦ウィッチに復帰するそうで。」

「……」

 

 

 

 

返事はない。

そうだ、彼女達を救う為には、どうしても宮菱の人間の助けを借りる必要があった。

ロマーニャのリベリオン軍はほぼ皆リリーの元へ、僅かに残った者も死んでしまった。

更にヘルウェティア解放のゴタゴタにも巻き込まれそうになり、彼女には自由に動く足がどうしても必要だったのだ。

 

 

そうでなければ自らを付け狙っていた彼らに身を差し出し、こんなフザけた女袴を着せられるはずもない。

 

 

 

 

「……このあと、お母さまが来るそうですよ。」

「……」

「そこで伝えます、ロマーニャに来てからの全部を。私の為すべきことを。」

 

 

 

 

二人の決意に一切の揺るぎはない。

ネウロイは全て殺す。

託されたのだから。

 

 

ジェノヴァは504のウィッチ達、そして『マルタの女神』...彼女の姉の活躍により無事奪還されたらしい。

生憎原作とは異なりエースを集約して運用する有用性は504が501に先んじて実証した形になる。

今頃ブリタニアのウィッチ反対派は苦い顔をしているに違いない。

 

 

ならば次はロマーニャ南部戦線だ、今すぐにでもこんなヒラヒラした服を脱ぎ捨て零で駆けつけるべきだ。

 

 

 

 

───だが、だがである。

 

 

 

 

エイミーの翠の瞳が、眠る美喜の顔を見据えた。

 

 

「あなたには、その後の人生があります」

「……」

 

 

無論、生き残れればの話だ。

それに彼女には関係ない。

 

 

なぜなら戦いが終わればこの世界から弾き出されるのかもしれないのだから。

だがもはやエイミーにとってこの世界はただの仮想のモノ以上の意味を持っているのだ。

 

 

「だから、美喜の為にもせめて両親に別れの言葉くらいは───」

 

 

 

 

次の瞬間、ぐにゃりとその空間が崩れる。

 

 

「……じょうさま、お嬢様」

 

 

「───っ、なんでしょう」

 

 

ドアの向こうから投げかけられた声にエイミーは集中を切らし、言霊の世界から追い出される。

 

 

 

 

「お母様がおいでになられました。こちらへ」

「…わかりました」

 

 

相も変わらず重く動きにくい袴を引きずり、黙ってその従者の後を付いていった。

 

 

 

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

 

殺風景とも言える和装の部屋に座していたのは、凛とした一人の女性だった。

 

 

どこか竹田美喜、エイミーと似通った風貌のその女性は───何ということだ、彼女が纏っているその衣服を見てエイミーは愕然とした。

 

 

その白く輝かしい程に整えられた軍服は、間違いない、扶桑海軍の士官服ではないか。

 

 

「…美喜」

「はい」

 

 

静かで透き通った響きだ。

しかしそこには確かに威圧感とでも言うべきモノが存在している。

 

 

 

 

──彼女がこの女性こそが竹田美喜の母親にして宮菱創業者 竹田信太郎の一人娘、竹田亮子であった。

 

 

 

 

(…美喜が目覚めた時、彼女の記憶をはっきりと見れた。しかしその中のお母様は…)

 

 

いつも優しく微笑み、軍人であったなどとは微塵も聞いたことがない。

 

 

 

 

「………よく頑張りました。遠い異国の地で一人生き延びるのは容易い事では無かったはず。」

 

 

重い。

その声のなんと重みに満ちた事か。

 

 

「病も癒えたようですね。僥倖、これで憂いなく扶桑へ戻れるというもの。」

 

 

こんな人だったか?

美喜の記憶の母親はもっと柔らかく優しさに満ちていた気がする。

 

 

否、だがたとえどのような人物であろうと関係ない。

自分がここに来たのは彼女に別れを告げるためなのだから。

 

 

 

 

「…お母さま。私は扶桑に戻るつもりはありません」

 

 

エイミーは声を絞り出す。

 

 

「…」

 

 

「まだここで、欧州でなすべき事が残っています。…ご覧になられませんでしたか、このまちにも無数にいる、ガリアやカールスラント、オストマルク、ダキアからの難民を」

 

 

 

 

 

 

「────ああ、見ましたとも。あの薄汚いボロ布を被った浮浪者ども」

 

 

 

 

 

 

その告げられた言葉は余りにも軽く、何でもないとでも言うような声だった。

 

 

「それが美喜、あなたと何の関係があるのです?海を挟み大陸を挟んだ遠い異国の人間を、なぜ憐れむ必要がありますか」

 

 

何を、お母様は何を言っているんだ?

エイミーの思考は完全に固まっていた。

 

 

「…その為にまたリベリアンの操り人形として命を賭けて戦うと?愚か極まりない」

 

 

「お母…さま…?」

 

 

「もうお前も分別のつく年齢、ましてや魔女ともなれば竹田の人間としての自覚を持ちなさい。」

 

 

 

 

彼女が語るその言葉に、心の奥底で眠りにつく美喜の魂が確かに震えるのをエイミーは感じていた。

有無を言わさぬその威圧感に押しつぶされそうになる。

 

 

「ヘルウェティア?マルタ?ロマーニャ?バカバカしい、そんなもの幾ら怪異に滅ぼされようが────」

 

 

次の瞬間、竹田亮子は言葉を続けることができなかった。

 

 

 

 

その部屋に満ちていた空気が、眼の前の自らの幼い娘の発した殺気により塗り替えられたのだ。

 

 

「………」

 

 

エイミーの脳裏には共に翔び、戦ってきた魔女と兵士達の姿が走馬灯めいて駆け巡る。

誰もが皆、誇りと命をかけ自分の国の為に戦っていたのだ。

 

 

──それを見てもいない人間に馬鹿にされる謂れはない!!

 

 

 

 

だがさらに次の瞬間、その部屋に満ちた殺気も霧散することとなる。

 

 

 

 

 

 

───ガキィンッッ!!

 

 

 

 

「……母に殺気を向けるとは。リベリアンやロマーニャの人間に一体何を吹き込まれたのです」

 

 

「……ッッ!」

 

 

自らの僅か右を掠める軌道の扶桑刀、それをエイミーは半ば無意識に、懐の苦無刀で受け止めた。

 

 

──ぴょこん

 

 

魔法力を展開、使い魔を顕現させ距離を取る。

 

 

「良いでしょう。あなたも魔女となったのなら、もう子供ではない。

 技前を見せなさい。美喜」

 

 

そしてそこに佇む扶桑の軍人の姿を見、エイミーは本日何度目かも分からぬ驚愕に襲われた。

そこには二対の扶桑刀を構え、鷹の翼を頭上に顕現させた母親の威圧溢れる姿があった。

 

 

「お母さま!?なにを考えてるんですか!?」

「見苦しい…竹田の魔女ともあろうものが、そんな脆弱な使い魔と契を交わすなど」

 

 

三度、激しい刃の応酬が室内で繰り広げられる!

それをしているのは血の繋がった正真正銘の母娘だ!

 

 

「やめて!おかあさまっ...!!」

「なんですかその太刀筋は、なんですかその構えは!!そんな軟弱な剣、誰に教えられたのです!!」

 

 

交えた数太刀だけでわかる。

その母親の太刀筋は、かつて最も優れた刀の使い手と感じた坂本美緒のそれに匹敵、いや、それ以上まである。

さらにはその刃が纏う魔法力の凄まじさたるや!

 

 

エイミーは無意識の内に、美喜が持つあの膨大な魔法力に納得していた。

 

 

「そんなに魔女でありたいのなら!扶桑海軍で幹部教育でも受けさせてやりましょう!リベリアンの手先になり、どこの馬の骨と分からぬ野良猫のロマーニャ人と肩を並べ戦うなど!」

 

 

「──そんなの、それに何年かかるの!?そのあいだに何人の人達が…」

 

 

「勝手に死なせておきなさい、あなたの命に比べれば欧州の人間が幾ら死のうが」

 

 

──ぞわり

 

 

その身勝手極まりない言葉に、エイミーの怒りと殺意は、母親に刃を向けられる戸惑いを上回った。

 

 

 

 

「イヤァァァアアーーーッッッ!!」

 

 

 

 

次の瞬間、戸惑いに顔を歪めたのは今度は母親の番だ。

横薙ぎの一閃を肘と膝で白刃取りし、強烈なチョップが刀の腹に浴びせられる!

 

 

「ぬぅっ…!?」

 

 

すかさずもう一振りの刃が払われるが、未来予知の魔女に直線的な攻撃など、パリィの餌でしかない。

 

 

 

「あなたが…いいやお前が野良猫とのたまうロマーニャの魔女の皆さんに、私は救われたんです…!!」

 

 

2対の扶桑刀と相対する二振りの苦無刀が煌めく。

 

 

 

「こんな刀!!坂本さんや!!!」

 

 

二度、チョップが刃に放たれる。

 

 

「──僚機さんのッッッ!!!」

 

 

三度、拳が刃に叩きつけられる。

 

 

 

「──フランカお姉ちゃんのッ!!足元にすら及ぶものかァァああッッ!!」

 

 

 

四度、苦無刀による斬打の応酬に晒された竹田亮子の扶桑刀は、ついに限界を超え砕け散った。

 

「美喜ぃぃッッッ!!」

「違うっ!私は、アマンダ・ミシェル・プラマー!!」

 

殺戮の魔女は一切の殺意を隠さず、怪異に向けるのと同じ敵意を眼の前の相手に向ける。

 

 

 

「…なるほど、竹田の魔女に恥じぬ程度の技前は身につけたと見ます。良いでしょう。ならばもはや、お前は私の娘ではない!」

 

「……!!」

 

 

自分の殺意を上塗りするかのように眼の前の女性から放たれた敵意と魔法力。

彼女が今まで手を抜いていたのだとエイミーは今になって気づいた。

 

 

───おかあさまぁぁっ!!

 

 

「…ぐっ…!?」

 

 

不意に脳裏に響く叫び声、揺らぐ意識。

彼女は堪えきれず膝をつく。

 

 

「みき…!?まさか、おきて…!!」

 

 

しかしその頭上に振り下ろされる扶桑刀に、対応することができない!

 

 

 

──カキィィン

 

 

 

だがその扶桑刀が彼女に届くことは無かった。

 

 

「……アナタは」

 

 

渾身の一振りを容易く防いだのは、扉から飛び出した小さな影。

青いツインテールをたなびかせ、赤く燃ゆる扶桑刀を構えるその姿を、一体誰が見紛おうものか。

 

 

「…エイミーに!わたしの妹にっ!!手をださないでーっ!!!」

 

 

その瞳に宿るのは、出会った時と何ら変わらない硬い決意の光。

ロマーニャの魔女、フランチェスカ・ルッキーニは毅然と言い放った。




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深淵が覗く

ユナフロでルッキーニ親密度ランキングTOP10入しました!
はいごめんなさい。


「良い、素晴らしい太刀筋ですロマーニャの幼き魔女!!お前の師は誰だ、いいや言わなくとも良いです、言い当てましょう。この流麗かつ大胆な剣使いは───」

 

「うじゅーっっ!!うにゃにゃにゃぁぁあぁあっっ!!」

 

あーつら。

ぐらぐらする意識を保ちながらお母さまとお姉ちゃんの凄まじい剣舞を見守ります。

何とか助太刀したいですがこれでは無理ですね。

 

これやっぱり美喜が起きようとしてますね、そのせいで影響が。

 

「横川、いや、北郷か!!」

「人に刃物向けちゃダメなんだよ!よしかにいーつけてやるんだから!」

「否、あの魔女の刀より気合が練られてる…そうか、まさか北郷の弟子、なら若本!」

「うにゃーっ!だぁれーっ!?そもそもおばさん誰なのーっっ!!」

 

ああ、お姉ちゃんまったく変わってなくて安心しました。

 

「いや、あの小娘の剣はもっと理知的で冴えていた。ああ、もしやあの泣き虫眼帯の?」

「んえー?なきむし…?」

 

ニコリと微笑むお母さま。

 

「そうか坂本、坂本美緒か!はははは!ならば北郷の孫弟子か!面白い、遠い異国の地で曾孫弟子の刃を味わえるとはな!」

「おばさん何言ってるのぉ!?もーやめてってばぁ!!」

 

瞬間、大振りの一薙を放ったお姉ちゃんが私の手を握り駆け出しました───窓へ。

 

「エイミー!手、離さないでね!」

「えっ、ちょっ……うん!!」

 

躊躇いますがお姉ちゃんが間違う訳がありません。私はその手を信じぎゅっと握ります。

 

───パリィィン!!

 

「美喜!!」

 

遠ざかるお母さまの声とストライカーで何度も感じた浮遊感。

ですが今の私達には機械の箒(ストライカー)はありません、このままではネギトロ重点ですね。

 

「お姉ちゃんのからだぎゅーってしててね!ぜったいだよ!!!」

 

言われた通りそのおっきな胸の中に顔を埋めて抱きつきます。

あ、よく見れば地面に待ち構えてる人が居ますね、あれはリベリオンの士官服?

 

「わっわっわ、なんでそんなことになったんですかぁぁぁ!!」

「来るぞジェーン、かまえろ」

 

「ジェーンーっっ!!ドミニカーっっ!!」

 

ああ、どなたかと思ったら504のリベリオン魔女のお二人でしたか。

魔法力を纏いシールドを展開した二人の腕の中にどすん、と私達の身体が受け止められます。

 

「何があったんだ、囚われのお姫様の救出劇だなんて聞いてないぞ」

「なんかねなんかね!!こっわーい刀を持ったおばさんがエイミーに襲いかかってて───」

 

───ドスンッ

 

もう一つ、遥か上空から堕ちてきた影が私達の隣に落下してきました。

ああもしかしてガラスの破片かな?

 

「…美喜、まだ母の話は終わってませんよ」

 

…マジですか?

スーパーヒーロー着地を決め鷹の翼を生やしたお母様が、ドスの聞いた声で私に語りかけます。

 

「───コイツはヤバいな、車に急げ」

「えっ、お母さま?エイミーちゃんって孤児院にいたんじゃ...?」

「早く!!」

 

言うや否やドミニカさんは駆けながら懐からホルスターを取り出し頭上の──吊り下げられた鉄骨の束を撃ち抜いて。

おお、これならお母さまは私達を追う事は出来ませんね。

 

「小賢しい」

 

それらをお母さまは見すらせずに一閃のもとに真っ二つに切り捨ててましたぁ!?

 

「やややヤバいですよ大将!!早く出して!!」

「分かってる、喋るな噛むぞ!」

 

「美喜、怪異を殺戮する修羅と為るなら止めはしません。ですが殺す相手は身近にいるのではありませんか」

 

額を抑える私に刃を向け、静かに語りかけるお母さま。

 

「リリー・グラマン。あのリベリアンは取引の後にお前の船へ向かうネウロイを知りながら見殺しにした、忌むべき女。」

「…!!?」

 

お姉ちゃんが息を呑んだような表情を見せますが、私も同じような表情になっていることでしょう。

リリーさんが…見殺しに?あの夜のネウロイを知っていた?

 

「そんな矮小な悪党の元で、復讐が果たせられるとは思いません。お前も竹田の魔女なれば、刃を向ける相手を違わぬこと」

 

話は終わりとばかりに刃は降ろされ、背を翻します。

そして入れ代わりのように、その向こうからは黒スーツの扶桑人の男性達が!

 

「…大将!」

「わかってる!!」

 

四輪駆動のエンジンが唸りを上げ、猛烈なスピードでその場を走り去る。

あっという間に母の背中は小さくなり、やがて点になった。

 

「…おかあさまぁっ……はっ?」

「だいじょう…あっ?」

 

口から気付かず漏れ出た、悲哀が込められた幼い声。

はっと塞いだ両手に滴ってきた水滴が、目から溢れた涙だと気づくのに時間はかからなかった。

 

「ひぐっ…うわぁ、おかあざまぁ…」

 

おかしいですね、一抹の寂しさこそ感じたものの、嗚咽を漏らすほど悲しい感情はないはずなのに。

ああならやっぱりコレは美喜の感情が私に浸食してきて──

 

「…えいみー…」

 

泣きじゃくる私の頬を、お姉ちゃんの温かい手とロマーニャの冬の風が撫でました。

 

──▽▽──

 

ローマにある504統合戦闘航空団の基地。

ロマーニャ軍再編により新たに建設されたその航空基地には現在、在する魔女は少ない。

ジェノヴァ奪還作戦、またシチリア島の防衛線からその504所属の多くの魔女達が帰還していないからだ。

 

「そう、ならひとまずはエイミーさんの身柄と安全は確保できたと言う訳ね」

「ああ。いま姉妹仲良くフロに入ってるよ」

 

その人気の無い庁舎の一室、504の戦闘隊長の竹井大尉。

彼女は執務机を挟みリベリオンの魔女二人と向かい合っていた。

 

「とにかく、これでフェデリカ隊長にも、リリー中佐にも良い報告が出来るわ。」

「しかし難儀だったなぁ。行方をどこの軍に聞いても知らぬ存ぜぬで」

「仕方ないですよ…どこの軍も大混乱だったんですから」

 

上司の前でポケットに手を突っ込みながら呟くドミニカ。

それを視線でジェーンがたしなめるがおくびにも出さない。

 

「まぁ私らも驚いたけどな、トリノが陥落したと思ったら数週間後に奪い返したって聞かされて、その上ヘルウェティアから来た巣を返り討ちにして解放した。なんてな」

「ええ…とんでもないことよ。今大戦が始まって以来の快挙、偉業と言っても過言じゃないわ」

「そのせいで私達の活躍が話題に昇らない」

「それは言わない約束よ」

 

肩をすくめ冗談めかして言うドミニカに竹井が微笑む。

そう、ジェノヴァ奪還作戦の中核を担った504の魔女たちの面々の活躍は凄まじいものだった。

ルッキーニというロマーニャ随一のエースの働きもあったにせよ、その功は間違いなく偉大で誇られるものなのだ。

現にロマーニャの戦況を伝える欧州各地の新聞では(トリノが解放されるまでは)彼女達が連日一面を飾り“紅の魔女達(アルダーウィッチーズ)"の名は欧州中に知れ渡った。

 

「チビ達はどうする?」

「隊長達がシチリアから戻るまでは保護します。今のあの二人の立場は複雑ですから」

 

思案を巡らすように竹井は目を閉じる。

 

「…特にエイミーちゃんはね。」

 

それにつられるようにドミニカも腕を組み逡巡した。

 

「…本国は連れ戻そうとしてるぞ。今やアイツは英雄だ、“怪異を殺す魔女(ネウロイスレイヤー)”、“災禍への災禍(ベインオブネウロイ)”…そんな大層な異名まで付けられて。そんな戦意高揚に絶好の象徴を、危険な欧州に置いておく訳がない。」

 

ジェーンがそれに同意する。

事実彼女たち二人も同じような理由で本国へ何度も連れ戻されそうになっていた。

その度に当時上司だったリリーが阻んでいたが。

 

「…フェデリカ隊長から聞いた話だけど」

 

前置きし、竹井は言葉を続ける。

 

「ロマーニャ公から直接あの子達に褒賞、勲章授与して赤ズボン隊に入隊させようって話よ。国を何度も救った英雄の魔女姉妹だもの、当然といえば当然だけど…」

「他国の魔女を赤ズボン隊に?」

「前例が無いわけじゃないわ。アンジーだってそうよ」

 

アンジーは504の新人、ヒスパニア出身の魔女だ。

ヒスパニア戦役のさいロマーニャ義勇軍で活躍した彼女は、その出身に関わらず赤ズボン隊への入隊を認められた。

現在彼女は赤ズボン隊の面々と共に南部防衛線に赴いている。

 

「…ヘルウェティアも黙ってないだろうな、自国解放の英雄だ。再建の為の象徴としては喉から手が出る程欲しいに違いない。」

「それを言うならガリアやカールスラント欧州各国もよ、もう既に『ルッキーニ少尉とプラマー軍曹を501に原隊復帰させろ』って言い出してるわ」

「モテモテですね、あの子達」

「ああ、代わってやりたいくらいだ」

 

ドミニカが戯れにジェーンの肩を抱き寄せる。

それに満更でもなく頬を染める彼女たちの姿に、竹井はあの幼い魔女達の行く末を僅かに案じた。

 

「…話は変わるが竹井、扶桑の海軍について聴きたい」

「え?」

 

その目からは一瞬前のおどけた様子は消え、真剣そのものだった。

向かい合う竹井も自然に指を組み直す。

 

「…どうせ後でチビ達が話すだろうから隠さないが、エイミーを匿ってた奴らは扶桑海軍だ。しかも首魁は元ウィッチのエライさんだ、知らないか?」

「何ですって?そんな話…扶桑からは何も聞いていないけれど」

「ですが、あの服は確かに扶桑海軍の士官服でした。階級章ははっきりとは見えませんでしたが、恐らくはそれなりの階級の方だと」

 

ジェーンもドミニカの言葉を肯定する。

事の次第を知らない竹井は天を仰ぎ言葉を失った。

なぜここで扶桑が出てくる?しかも自身と同じ海軍だと?

 

「追い打ちをかけるようで心苦しいが続けていいか?」

「まだあるの?」

「ああ、それも多分ヤバい。爆弾だ」

「爆弾…ね」

「それも2つ」

「……」

 

竹井は再び頭を抱え天を仰ぎ、手の平を差し出して言葉を促した。

対するドミニカは相も変わらず飄々とした涼しい顔だ。

 

「そのエライさんの元ウィッチのことを、エイミーは『お母様』と呼んでた」

「えっ」

 

目をぱちくりと点滅させ呆然と口を開ける。

 

「…あの子、リベリオンの孤児院出身じゃ」

「公にはそうなってる、記録もな」

 

竹井は目をつぶりコブ茶を一口喉に流し込んだ。

大丈夫、私は冷静だ。

たとえ何か恐ろしい事の裏側を覗き込もうとしていても、冷静さは失ってはいけない。

 

「大将。アレは…」

「ジェーン、私達の今の上司は竹井、そしてフェデリカ隊長だ。中佐殿への義理はあるが別の話だ。」

「??」

 

小声で言葉を交わすドミニカ達に竹井は首を傾げる。

何の話をしようとしているのか、竹井には皆目検討つかない。

 

「…これは私は真偽は知らない、ただその扶桑の女性士官が言っていただけだ。『リリー中佐がエイミーの乗ってた船を見殺しにした』ってな」

 

「……」

「…何をゴソゴソしてるんだ」

「この部屋、盗聴器とかないわよね?」

「ビビりすぎだ、とは言うが一応調べるか」

 

一通り机の下やジェーンの衣服の下の飽満な肢体を執拗にボディチェックした後、ドミニカ達は話を再開した。

 

「……」

「……」

「……」

 

しかし、誰一人として言葉を発そうとはしない。

気まずい沈黙と居心地の悪い空気が部屋に満ちる。

 

「…『リリー中佐の黒い噂はほとんど事実』って本当なの?」

「例えば。」

 

「グラマン社の製品の導入を拒否するリベリオン政府高官を暗殺したとか…それも数名」

「…」

「それを知って寝首を掻こうとした部下のウィッチを自ら手に掛けたとか」

「…」

「そう…」

 

その無言の意味を竹井は無言で噛み締め、傍らのジェーンは頭に疑問符を浮かべ慌てていた。

ドミニカは何でもないという顔でポケットからガムを取り出し、口に放り込む。

 

「私らがどうしてあんなに長い間アイツの下にいれたと思う」

 

窓を見やる、少し冷たく透き通ってきたロマーニャの風がカサマツを撫でていた。

 

 

「アイツのやることに興味が無かったからだ。」

「……」

 

竹井は黙って冷め切ったコブ茶を飲み干した、味はしなかった。

額を抑え、声にならぬ声を漏らす。

 

「もう興味がないでは済ませられないわ。今の彼女は世界的英雄よ、その出自に何か裏があったと知れたら」

「愉快なことになるな、はは」

「…リベリオンと扶桑の関係に大きな亀裂が入りかねない。そうなれば統合政府は」

「瓦解もあり得る?」

「過言じゃないわ…。これは、とんでもない爆弾よ、ドミニカさん」

 

 

竹井はおもむろに卓上の電話を取り、通信手に連絡先を伝えた。

「どこへ」と尋ねたドミニカに「隊長」と短く返し、呼吸を整える。

これはもう彼女一人の手には余り過ぎる。信用できる相手に相談しなければならない。

 

「…行くぞ、ジェーン」

「えっ大将!もう良いんですか?」

「今話すべきことは話した。私達の役目は終わりだ」

「で、でも」

「行くぞ」

「…はい」

 

有無を言わさぬそのドミニカの態度に、ジェーンも黙って後を追い退出するしかなかった。

 

そのせいだろう。

その後竹井の部屋から聞こえてくる、悲鳴にも似た大声に二人が気付かなかったのは。

 

 

 

 

「リリー中佐が…撃墜された!?」

 

 

──▽▽──

 

「め、しみない?」

「ん…だいじょう、ぶ」

 

髪を洗い流され、ネコのように震え水を切るのはエイミーだ。

浴場の洗い場に腰掛ける彼女は、姉のような存在であるルッキーニになされるがまま洗われていた。

 

その小さく幼い手が、幼くもそれよりも大きな手にひかれる。

 

───ぽちゃん。

 

竹井の一存によって作られた504基地のこの大浴場は、今や彼女達だけの貸し切りだ。

立ち込める湯気が白く霞み、彼女達の起伏に乏しい裸体を隠している。

 

「……気持ちいーねー」

「…うん」

 

暖かく、心地の良い湯の中の段差に二人腰掛け、身体をより合わせる。

彼女達の年の差は3歳、成長期の少女達にとってその年の差は余りにも大きい。

ルッキーニの肩にもたれ掛かるエイミーの背は、その胸元あたりまでしかなかった。

 

「……」

「……」

 

沈黙が続き、静寂と湯気だけが広い浴場を包む。

だがそれは決して居心地の悪いモノではない。穏やかで、心が癒される無言の静寂なのだ。

 

「……ふふ」

 

数多の戦場を、数多の地獄を手を握り合い駆けてきた彼女達の心の繋がり。

互いの使い魔さえも姉妹の絆で繋がっている二人のその間に言葉などいらないのだ。

 

こうして静かに手を握り合い、温もりを伝え合う。

それだけで十分以上に尊く、かけがえのない交わりであるのだ。

 

「エイミー」

「…ん」

「つかれてるでしょ?」

「……そうかも」

 

その小さい肩を抱き寄せる。

 

この小さな肩に、今回の戦いでどれだけのモノが背負われたのだろうか?

一緒に居られることは出来なかったのだろうか?

いや、それよりもさっきの扶桑人に言っていた『お母様』とは────。

 

彼女はそれらの疑問を、一瞬の瞬きの内に全て消し去った。

目の前にこの子が、エイミーがいる。

それだけで、良いのだ。それ以上に何が必要なのだろう?

 

「…」

 

ちゃぷり。

風呂の水面から伸びた手がエイミーの小さな、小さな身体を抱き包む。

 

「よく、がんばったね」

「……ぅん」

 

この時、初めて彼女は自身が疲労に疲労を重ね、疲れ果てていたことに気付いた。

精神的にも、肉体的にも。

 

それも仕方あるまい。あのアルプスでの決戦以降、彼女はなおもたった一人で戦い続けていたのだ。

救助隊の兵士達をネウロイから守り抜き、ヘルウェティアの廃棄された基地にたどり着いたと思えば。

連絡手段もなく、再び決死の山岳突破を試み、ロマーニャへ舞い戻り、再びアルプスを越えた。

 

『(私しかいないんだ、私しか)』

 

隊長は心身の限界を超え伏せ、戦える魔女は自分だけ。

基地の周りに現れるはぐれネウロイを駆逐し、ヘルウェティアへ来る部隊を守り続けた。

共に戦った魔女達を帰らせるため、死体を背負ったまま戦ったこともあった。

本国との連絡や、各国の部隊との調整も自身がやった。

 

ヘルウェティアのウィッチを教導もした、指揮もした。司令官の真似事までやった。

 

ずっと一人で。

全ては、死んだ者達から継承したモノを無駄にしないため。

 

 

「休んでもいいんだよ」

「……」

 

両の翠の瞳が薄れ、濁っていた。

501に居た頃、ミーナが微笑みながら染めてくれた翠のインナーカラーももう掠れている。

 

「だいじょうぶ、お姉ちゃんがいるから、ね」

 

そうして見つめ合い、どれだけの時が二人の間に流れただろうか。

やがてエイミーはその瞳を閉じ、力なくルッキーニの胸の中へと身を預けた。

 

その顔は穏やかで、幼かった。

 

 

 

「のぼせたのか?」

 

不意に背後からかけられた声に、ルッキーニはエイミーを起こさぬよう静かに振り向いた。

 

「ドミニカ。ジェーン、ううん、ちょっとねてるだけだから」

「そうか」

「…ふふ、かわいい寝顔ですね」

 

タオルを巻いたグラマラスな肢体を持つ二人のリベリオンの魔女がそこには立っていた。

明るいその情熱的な性格(そしてそのスタイル)故、彼女達はすっかりルッキーニと打ち解けている。

 

「聞いてた通り仲が良いな。で、どこまでやったんだ二人とも」

「…うじゅ?どこまでって?」

「た、大将…何を聞いてんです────んむぅっ!!?」

 

「んちゅむっ──ぷふっ♪これのことに決まってるだろ。私のジェーン。」

 

その一連の熱く情熱的で蠱惑的な交わりを、ルッキーニは頭に疑問符を浮かべ見つめていた。

 

「ねぇねぇ?それってなぁに?」

 

「んー…これか?そうだな、教えてやろう、これはな────」

 

そういってドミニカは伝え始めた。

 

 

魔女同士が深く熱く激しく────愛し合い、交わりあう方法を。



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『過去が今、私の人生を収穫に来た』 #1

ユナフロにのめり込み過ぎた結果がコレです。
ごめんなさいこれからまた更新しますぅ


数日前、南部ロマーニャ防衛戦線の前哨基地にて。

 

「……?」

 

自室のシャワーで汚れを洗い流してる最中、リリーはふと他者の気配を感じた。

ノックもなし、声もなし、軽い足音だ。

ちらりと脱衣所のM1911をドア越しに見やり、音を立てずドアを開く。

 

シャワーは流したまま、濡れた手で銃のグリップを握りしめ部屋に向かい構えた。

そのベッドに腰掛けていた侵入者はぎょっとした表情を見せるも、すぐに怪訝な視線をリリーに向ける。

 

「…呆れた、あなたシャワーの時までそんなもの持ってるの?」

「リカ」

 

銃を下ろし、パタパタと脚をばたつかせるロマーニャの魔女に怪訝な視線を返す。

見れば彼女の隣には資料が四散している、代行してくれた部隊指揮業に関しての資料だろう。

 

「ああ、ありがとうございます。さっきお願いしたばかりなのに、流石ですね」

「そりゃあ何年もやってるからね。これに関しては貴方にも負けないわよ?」

 

タオルを羽織り、さっきまで着ていた服──血にまみれている──をこっそり隠し、フェデリカの横に腰掛ける。

 

「実際大助かりです。しかし何を考えて私みたいなのを部隊指揮に選んだんだか」

「アナタを選んだのってたしか」

「本国の反戦派ですよ。ネウロイを見たことも無い軍人様方です」

「でもリベリオンってネウロイを見たこと無い人の方が多いんでしょ?」

「ええ、だから馬鹿ばっかりなんですよ。そのおかげで私は欧州で好き勝手できてますが」

 

貰った資料に目を通す。

必要最小限の資料に、重要な所には印が丁寧に打たれてある。

補給状態、充足率、稼働率、スカーミッシュの状況、ストライカーの状態。

 

読んでいる最中、ふいにフェデリカがリリーの鎖骨あたりに顔を近づけた。

すんすんと鼻を鳴らし、その次には黙ってリリーの蒼い瞳を覗き込む。

 

「…血の匂い」

「生理です生理」

 

さっき暴漢を装ったリベリオン本国の親ウィッチ派の活動家を返り討ちにしただけだ。

恐らくはエイミーとルッキーニを無理やり戦わせてると言う根も葉もない噂のせいだろう。

取り立てて特別なことはない、日常の些事に過ぎない。

 

「ウソ、ここ血のシミ残ってるわよ」

「え?そんなはずは…あ」

 

してやられた、と思った次の瞬間には視界がぐるりと回転し、視界いっぱいにフェデリカの褐色の顔が写り込んだ。

ベッドに押し倒され、肩を押さえつけられる。

 

「いつまでそんなコト続けるの?」

「はて、そんなコトとは?」

「リリー」

 

逸らした目を、半ば無理やりフェデリカの目に合わせられる。

綺麗な目に写り込んだ薄汚い女の瞳は淀んで見えた。

 

「心配なのよ、わかるでしょ?もう嫌なのよ、アナタが何処かへ行くのが」

「嬉しい事を言ってくれますね」

「本気よ、もうバルバロッサの時みたいなのはこりごりなの。折角こうして仲直り出来たのに…また…」

 

フェデリカは自分がどれだけ子供じみた事を言っているのかを言い切ってから気づき、溜息を吐く。

どこうとした彼女の腕を、リリーが掴んで止めた。

少し驚いたような顔を向けられる。

 

「エイミーとルッキーニに、毒されましたね。私たち」

「…そうね、あの子達のおかげね」

 

顔が近い。

 

「リカ、この前言ってくれたこと、まだ間に合いますか?」

「…この前って?」

 

「504の副隊長、あなたの隣」

 

フェデリカの目が見開かれる。

バルバロッサで離別して以来、ここまで露骨に感情を見せたことがあっただろうか。

 

「もうちょっと、もうちょっとで終わるの、リカ姉。だからそれまで待って」

 

さらに目の前のリリーから昔の口調が飛び出せば、さしもの504の隊長、フェデリカもその表情を固まらせ、次の瞬間破顔した。

 

「リリーーーッッ!!お姉ちゃんは信じてたわぁー!!」

「あぁ…もう待ってって。もうちょっとでアタシ、欧州で自由になれるの。マルタの誘致さえ終われば…」

 

昔と変わらぬ勢いで自らに抱き着く姉の頭を撫でながら、リリーは言葉を続ける。

マルタのロマーニャ基地ににリベリオンの一部の軍を駐在させる計画が進んでいること。

そして同時に、彼女の在するグラマン社の工場、および支社をそこに建立すること。

それも全て───彼女の息のかかった人間達によって。

 

「それが出来ればアタシはもう、本国とは関係ない権力が手に入る」

 

さながらかつてリベリオンがガリアから独立した過去の再現だ。

リリーはグラマンとリベリオンという呪縛から独立し、欧州での確固たる地位と力が手に入る。

 

「もう誰にも、アタシの人生を操らせない」

 

その声には固い決意と憎悪が滲み出ている。

 

「…そう」

 

それを最後まで聞き終わったフェデリカは、リリーの頭をそっと抱きしめた。

不意打ちの形だった彼女は戸惑うが、すぐにそれを受け入れる。

 

「…お姉ちゃんに手伝えるコト、ある?何でも言いなさい。」

「ん…んーん。もう十分に助けてくれてるじゃん」

 

抱きしめ合い、微笑みあい、語り合う。

昔のように、夢にまでみた、在りし日の幸せな過去の日々のように。

その時間はフェデリカにとっても、リリーにとっても甘美で尊いモノだった。

 

「あの子達は?どうするの?」

「…一生かけて、償う。許されるワケないけど」

「そっか」

 

自分達の過去の幻、幼いロマーニャとリベリオン…否、扶桑の魔女の二人。

 

「私も一緒に償うから」

「…なに言って」

「アナタを止めなかったんだもの、同罪よ、私も」

 

リリーの頬を撫でる、大きく優しく、温かい手。

 

「ごめん、おねえちゃん」

「良いのよ、可愛い妹のためだもの」

 

そう言って二人は顔を近づけ、艶やかな二つの唇を重ね合わせ────。

 

その部屋にネウロイ発見の報と共に飛び込んできた赤ズボン隊のルチアナにその現場を見られ、二人して必死に嘘で取り繕った。

その最中でさえも二人は無邪気な笑顔だった。

 

 

いずれその過去が、清算を求めにやってくるとも露も知らずに。

 

 

──▽▽──

 

 

アマンダ・M・プラマーの意識は深い夢の中にあった。

悲鳴と怒声、轟音と破裂音。鼻につくのは肉が焼けるハンバーガー屋の厨房めいた香り。

辺り一面の血と炎の海に、命だった物が散らかり果てた惨状。

 

もはや見慣れた光景である。彼女は長い時を経てなお、未来予知という名の呪縛に囚われたあの夜空の悪夢を追体験していたのだ。

 

「……」

 

『親の顔より見た光景』と言うのはネット空間では良く用いられる比喩ではあるが、彼女にとっては比喩ではない。

 

『...なんで、どうして…』

 

その時エイミーは、血塗れの零を履いた自分の向こう、血の海に蹲る一人の少女を見た。

 

『やっと、あえたのに…ずっと、あいたかったのに…』

 

少女は顔もあげず、従者達の死体…だったものを幼い手でかき集めながら、呪詛めいた言葉を漏らす。

その異様な光景に、エイミーは声をかけることも出来ず凝視し続けた。

 

『ずっと、さびしかったのにっ…ずっと、ずっと、ずっと、おかあさま…おかあさま…』

 

少女が立ち上がる。

血まみれの病衣には散乱した血肉と内臓がこびりつき、血とも分からない液体が滴った。

 

『おきなきゃ…』

「───ッッ!?」

 

瞬間、エイミーは絶句、いや、悲鳴をあげようとしたが声が出なかった。

少女の白い肌から黒いヘドロのような物体が溢れ出し、洪水のように周りを呑み込んだ。

 

『おきる、おきなきゃ。おきて、おかあさまに、あいにいかなきゃ』

 

零の魔導エンジンを起動させ逃げようと試みる。しかし離陸を行う前に彼女の下半身はすべて黒い液体に呑み込まれた。

感覚が消える。まるで元から存在しなかったかのように、腰から下の感覚がない。

 

『おきる…おきる…おきる!!おきる!!おきなきゃだめなの!!』

「美喜ッッ!!落ち着いてっっ!!話を…」

『おきる!わたしが、わたしがおきる!!!!おかあさまぁっっ!!』

 

黒い泥の中から手を伸ばした美喜の顔。

その瞳は子供特有の純粋な───純粋な、狂気だった。

 

 

 

「っはぁ!?…はぁ…はー…」

 

目が覚める、そこは勿論現実のベッドの上だった。

全身が汗だくでじとじとしている。心臓さえもうるさい程に鳴っている。

 

「はぁ…ふぅーっ…」

 

息を整え、身を起こそうとした時、彼女は自身が誰かの胸元に抱きしめられてるのに気がついた。

暖かでかつ、大きな身体だ。

そして自身を包むお日さまのような香りに、その主が誰なのかを察し、ほっと息を吐き目を細めた。

 

「……」

 

ルッキーニは何も言わず、ただ静かに彼女の背中をさすり、柔らかな黒髪を撫でていた。

僅かにみじろぎするエイミーの様子に、彼女も目が覚めたことを察し顔を覗き込む。

 

「…うじゅじゅー」

「…うじゅ?」

 

にぱー、と満面の無邪気な笑みを向けられると、エイミーの心を覆っていた焦燥や黒い気持ちはゆっくりと消え去っていく。

頭を撫でる大好きなお姉ちゃんの手に、甘えきった猫なで声が漏れてしまう。

 

「ふふっ、にゃーにゃー♪」

「にゃっ…みゃぁぁ…///」

 

───ぴょこんっ

 

戦場ですらないのに、無意識に使い魔の猫耳と尻尾を出してしまう感覚。

それを彼女はいつぶりだろうかと思いながら、心地よい甘い感覚に身を委ねた。

もしその姿をかつて彼女を先生と仰ぎ師事したロマーニャのとある魔女が見れば、何と言っただろうか。

 

「えーいみーっ…♪」

 

その後も二人の幼い魔女達は、ただ無邪気に戯れる。

ほっぺたをすり付け合い、頬にキスを交わし合い、顔をうずめあい、お互いの尻尾を絡ませあい。

耳をはみあい、指を絡ませ合い、耳元で大好きな。お互いの名を甘く囁き合った。

 

「えへへ…♪」

 

その稚拙な戯れで伝わってくる大好きなお姉ちゃんの暖かさに、彼女はうっとりと目を閉じた。

その尊い温もりに心の奥底から安堵を感じると共に、かつてトリノで、あの地で同じ温もりを与えてくれた仲間達の顔が脳裏に浮かんだ。

アルプスの果て、エイミーの身体を吹雪から守り続けた年上の弟子の温もり、陽気でおおらかな陸戦ウィッチ達の温もり。

もう二度と触れる事は叶わない、思い出の中だけの残滓。

 

彼女のくすんだ翠の瞳から、後悔と悲哀がほろりと溢れる。

それを指ですくい取るように拭い、ルッキーニはそっと涙の筋が滲む頬を包み込む。

 

「エーイミぃ」

「…」

 

エメラルドの瞳と、翠の瞳が向き合う。

片方は曇りなく無邪気で真っ直ぐだが、もう片方はくすみ、奥底にはどす黒い淀みが覗く。

 

「あたし、どこにも行かないよ」

「…」

「だからそんな顔しちゃだーめっ」

 

幼い魔女は数秒黙った後、返事の代わりにルッキーニの胸元へ顔を埋めた。

その冷たく細く、儚い身体をそっと抱きしめる彼女の頭に一つの疑問が泡のように湧いて出た。

 

──あたしは何処にも行かない。でもこの子は?

 

それは声に出した疑問ではない、ただ頭の中に呟いただけだ。誰も返事を返してはくれない。

 

『ソイツ、そんなんじゃ長生きしないぞ』

 

ただ代わりにその問いに答えるかのように、先程風呂で話したリベリオンの魔女ドミニカの声が脳裏で反芻する。

 

『子供がしていい顔じゃない。死が目前に来ても『あぁ、自分の番か』って黙って死ぬ奴の顔だ』

 

ドミニカの声が続く。

 

『きっと慣れすぎたんだな、人が死ぬことに。私も昔そんなんだったから分かる』

 

心配げな面立ちでその顔を覗き込むジェーン。

ルッキーニは11歳という若すぎる頭脳で必死にそのドミニカの言葉を理解しようと咀嚼した。

 

『でもな、そんなだった私に、生きる意思をくれたモノがあったんだ。分かるか?フランチェスカ』

『…うーん』

 

どことなく抽象的で感傷的な彼女の話は、どことなく捉えがたい。

それでも彼女は必死の脳細胞が知恵熱を発する程に激しく思考した。

愛しい大事な妹のために。

 

『…自分の故郷を守りたいってこと?』

『それも少なからずある、でも違うな』

 

ドミニカは隣に腰掛けるもう一人の魔女の腰に手を回し、抱き寄せた。

そして恍惚とした表情で、その白く艶やかな頬を撫でる。

 

『───愛だよ。お前達にも教えてやろう』

 

そう言って彼女はルッキーニに自分達がいかにして愛し合っているのか語りだした。

 

 

 

「あたしね、エイミーともっと、もーーーっと仲良くなりたいの」

 

ルッキーニがエイミーの瞳を覗き込む。

エメラルド色の瞳同士が見つめ合う。

 

「…ドミニカにね、教えてもらったの。ウィッチ同士が、女の子どうしが、一緒になれる方法」

 

幼い、日に焼けた肌の頬に朱が刺す。

触れ合った素肌が熱を帯びて、鼓動が伝わってくる。

 

「…おんなのこ同士で、一緒に…」

 

エイミーは少女だ。それも年端も行かないあどけない、幼女とさえ言っていい。

だがそれは見てくれの話、彼女の意志は本来成人、その上男性だ。

無論、彼女がその言葉の意味する真の意味をわからないはずもない。

 

「わたし、エイミーと、いっしょになりたい。もっと、つながりたい」

 

フランカの柔らかい手が、エイミーの肩に添えられる。

鎖骨にかかる息が温かい。珍しくルッキーニが緊張しているのが伝わってくる。

 

「……」

 

少し、逡巡する。

だが、それもすぐに終わった。

 

 

「エイ────んっ」

「……────ぷはっ」

 

僅かに、愛する妹に嫌われるのではないかという恐怖が滲み出ていた声が漏れた唇を、エイミーはそっと塞いだ。

自らの唇で。

大好きで大好きで憧れの姉の唇は、やわらかく、滑らかで、甘かった。

 

「おねえちゃん、だいすき」

 

二人の幼い魔女の唇の間に、唾液の糸の橋がかけられる。

心臓が痛いほどに鳴り響き、触れ合った胸からお互いの鼓動が甘く響き合う。

 

「…こわくなったら、すぐに言ってね?」

「うん」

 

そうしてルッキーニはたどたどしい手で、エイミーのワイシャツのボタンを外し始めた。

 

 

 

──▽▽──

 

「ふ…やぁっ…!!ぅくぅんっ…!!」

「なに、これぇぇっ…!おなか、きゅんってしてぇ…にゃぁぁぁ!」

 

──▽▽──

 

「やっ、おね、ぇちゃぁぁ…!!そんなとこ、きたなっ…ふにゃゃぁぁ……!!」

「ちろっ…にへへー♪エイミー、かわいい…♪」

 

──▽▽──

 

「にぅ…ぺろ、れろれろっ…ふみ、ふにゅぅ…」

「そうそう…じょうずだよ、エイミー」

 

──▽▽──

 

「じゃじゃーん!これ凄いでしょー!ドミニカがかしてくれたんだぁー!」

「へ…へ?な、なにそれ…ちょっ、まっ…ふみゃあぁぁぁぁ!!?」

 

──▽▽──

 

「すきっ♪だいすきっ!!フランカお姉ちゃん!!どこにもいかないでっ♪ずっと私といてぇぇ!!」

「うん…♪おねえちゃんは何処にもいかないよ。だから…♪」

 

──▽▽──

 

 

「…凄い声でしたね」

「ああ、まさかアタシらの部屋まで聞こえてくるとは思わなかったよ」

 

ジェーンとドミニカは自室でお互いの身体を貪り合いながら、幼い魔女達の情事の矯声を聴いていた。

 

「でも幸せそうな声だったな」

「んー…まぁそれはそうですけど…良かったんでしょうか、あんなに小さな子達に」

「良いに決まってるだろ」

 

ドミニカはその頭をぽんぽんと叩くと、ジェーンは猫のようにその手で縋り付き甘えた。

 

「明日死んでもおかしくない魔女(わたしたち)だ。限界まで愛し合わなきゃ死にきれないだろ。それに」

 

ロマーニャの空を見上げ、彼女は黄昏るように呟く。

 

「愛する奴の一人でも心にいなきゃ、この空は寂しすぎるのさ」

「────────」

 

その窓を見つめ、凛々しく美しい横顔。

それに心を奪われたジェーンは、未だ聞こえてくる幼い魔女達の嬌声をBGMに、再びドミニカを愛し始めた。



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『過去が今、私の人生を収穫に来た』 #2

いやホント申し訳ありませんでした...


「...『ヘルウェティア軍の帰還、進まず』『ガリア難民、またもオストマルク難民と衝突』...『長引く防衛戦、ロマーニャの冬、未だ明けず』...」

 

 

うわぁーつらいつらいつらい、もっと明るい話題ないんですかー!?

 

 

はい、プラマー軍曹でーす。

ここはロマーニャ軍ローマ基地のウィッチ隊舎の一室ですよ。

同室のフランカお姉ちゃん(はだか)が寝静まった頃、私は夜中にふっかふかソファーで新聞に目を這わせてました。

 

 

いやね〜起きてるお姉ちゃんの前で読んでるとちょっかい出されるんですよぉ…。

在宅仕事中に構ってくる猫みたいに可愛い尻尾をフリフリしてきたり、急に私の耳をはみはみっ♡てしてきたり...///

それからそれから、私がじっとお姉ちゃんに無言でおねだりすると…何も言わなくてもそっとキスを落としてくれて───♡

 

 

───しゅるるんっ♡ぴょこんっ♪

 

 

あっやばい、思い出しただけで猫耳と尻尾出ちゃいましたね。もう終わりですよ私。完全にフランカお姉ちゃんの妹堕ちしてます。

 

 

もう後ろのソファーで寝てる吐息を聞いただけでお腹の奥の女の子の部分がきゅんきゅん♡ってしてますもん。

あぁ…お姉ちゃん…わたしのフランカお姉ちゃん…♡

 

 

「にゃあ」

「みぅみぅ、なーお」

 

 

分離顕現し、剥き出しのふとももをふみふみし始めた黒豹達が可愛く鳴きます。

仲睦まじくじゃれあってる彼女達はもちろん私の使い魔エイミーと…フランカお姉ちゃんの使い魔ちゃん。

 

 

まだ少し元気のないエイミーの顔を、ぺろぺろとお姉ちゃん猫が丹念に舐めていて微笑ましいですなぁ。

しかし使い魔とウィッチは似るのか、昨夜のベッドの上の私達と同z....げふんげふん。

 

 

「にゃあにゃあ、なーご」

「こら、おねえちゃん起こしちゃダメ」

 

 

寝てるフランカお姉ちゃんの方へ逃げようとするエイミーを制し、濃いコーヒーを口につけます。

リストレットと呼ばれるこの濃いエスプレッソは、南ロマーニャの方で盛んに飲まれているコーヒーだそうな。

お姉ちゃんのママさんが手紙に私のために、貴重なコーヒー豆を添えて送ってくださったんですよ。

 

 

そう今現在、ママさんの暮らしているシチリアでは、戦いが起こっているにも関わらず────。

 

 

「…シチリアですかぁ」

 

 

お姉ちゃんの故郷、その南ロマーニャに位置するシチリア島では未だ防衛戦が続いています。

リベリオンの陸空混合のウィッチ大隊が主力となり熾烈な上陸阻止作戦を展開しているようですが…。

 

 

しかし、開戦当初こそ優勢だったものの、次第にアフリカからの新型のネウロイが増えるにつれ戦況は芳しくなくなってきているらしく。

まぁトリノにいたような、あんな化け物大型集団が出ればそりゃあ辛いでしょ…。

 

 

「早く行かないとですねぇ」

「にゃぁ」

 

 

指揮を執ってるらしいリリーさんのことも気になりますし。

なにより大事で大好きなフランカお姉ちゃんの故郷です、絶対に守らないと。

 

 

「…僚機さん達の分も、戦わなきゃ」

 

 

それにもしロマーニャを守れないような事があれば、アルプスやトリノで死んでいった魔女達の命も慰められません。

まぁ、美喜の…というかお母様のことは少し気がかりですが、今はもうどうしようもありません。話も通じなさそうですし。

 

 

「お母さまの言ってたことも、リリーさんに聞いてみたいですしねー」

「にゃー」

 

 

温くなったコーヒーを飲み干し、カップを軽く洗って乾かします。

あっお揃いのお姉ちゃんのカップ...♡スリスリしたい...間接キスしたい...♡

はっ!駄目だ鎮まれ静まり給え私の妹魂...!!

 

 

新聞も読み終えましたしさっさと私もオフトゥンにInしましょう。

そうです明日こそきっと南部ロマーニャへの出撃命令が出るはずですよ、何やかんやゴタゴタはあっても私達はエース姉妹ですもの〜。

 

 

「Zzz…むにゃ…」

「…♪おねえちゃんっ…♡」

 

 

羽織っていたシャツと義手を机に放り投げ、お姉ちゃんの寝てるソファーの中にもぞもぞと入り込みます。

ほぁ...息が掛かる距離まで顔が近づきます…///

お姉ちゃんの素肌と素肌がすれあって、こそばゆくて温かくて幸せ…。

 

 

結構わたし、性格とか変わった気がするんですが、それでもやっぱりお姉ちゃんは大好きです…♡

 

 

「…くぅ、くぅ…」

 

 

体温とニオイが染みついた、あったかな毛布にうっとりとしそうです。

その幸せな感触を全身で感じながら、ぼんやりと私は思いを馳せました。

 

 

もうこの地獄の中に囚われてから、体感時間で何百年経ったでしょうか。

搭載されてる謎システムのおかげで現実時間では未だ半日すら経っていないでしょうけども。

私は…あぁ、もう自分のこともすっかり「私」だなんて言っちゃって。

もう私、完全にアマンダ・ミシェル・プラマーなんですね。

 

 

「えいみぃ……」

 

 

ピンクの唇から漏れる、鳥のさえずりのような優しげな囁き。

この地獄の世界の中で、私を愛してくれる天使。救ってくれた光。大好きな家族。

 

 

「フランチェスカ……ルッキーニ」

 

 

長く青い睫毛、零れた口元から覗く八重歯、可愛らしく幼い、無邪気な顔立ち。

ストライクウィッチーズ…501部隊の中の最年少の、無邪気で天真爛漫なウィッチ────。

この地獄を始める前の彼女というキャラクターへの印象は、それくらいでしかありませんでしたが…。

 

 

「ぜったい、ぜったいに、あなただけは幸せに...」

 

 

決意を静かに呟いて、私の意識は急速に暗闇へと沈んでいきました。

…心なしか、最近すぐ疲れて寝ちゃうんですよね。

 

 

 

 

 

 

そうまるで、昔まだこの身体が病に侵されていたころみたいに──────。

 

 

 

 

 

 

──▽▽──

 

 

 

 

 

 

「あー…もう面倒くさいですねぇ」

 

 

靴底が土だらけになったブーツを引っ繰り返しながら、リリーはぼんやりと夜空を見上げる。

静寂の綺麗な夜空…もうどうやら今回の戦闘は無事終わったらしい。

 

 

真夜中、夜間哨戒に出撃してた魔女と敵小型機の接触から始まったスカーミッシュ。

増援として出撃したこちらの部隊に示し合わせるように現れた複数のネウロイだったが、さしたる相手では無かった。

まぁあのリカが直々に前頭指揮を執ったのだ、そうそう負ける訳もない。

 

 

「面倒事を押し付ける形になりましたが…まぁ、後で謝りましょう」

 

 

そう、私は墜落した。

無論わざと。防衛部隊の総指揮などという不自由極まりない地位を放り投げる為だ。

 

 

「仕方ありませんもの、あの子達が狙われてるとあっては……」

 

 

煙を上げ、バチバチと火花を上げる自身の戦闘脚の外装を外す。

よし、見た目こそ派手に壊れてるが飛行にさしたる影響はない、エイミー達のいるロマーニャへと飛んでいけるはずだ。

 

 

今、あの子達…というより彼女の右腕たるエイミーは非常に複雑な立場にある。

 

 

 

 

傷だらけの少女を反戦の象徴に仕立て上げようとするリベリオンの反戦派。

同胞の仇を取らんと躍起になっているガリア王党派残党。

救国の英雄たるウィッチに、何とか再建まで引きとどめようとするヘルウェティア暫定政府。

大エースを欧州戦線に留めておきたい連合政府。

 

 

更にそこに、彼女本来の素性を知る扶桑の大企業、宮藤までもが加わっていて…。

 

 

「バカみたいな話ですわね」

 

 

ふっと鼻で笑い、一瞬だけ彼女をこんな立場に追いやった自分に責任を感じかけるが、すぐに首を振った。

一体誰が助言役に送った弱冠8歳のウィッチが、ネウロイの巣を破壊し一つの国を解放するなんて思うだろうか?

スパナを片手で弄びながら、彼女は頭の中で取り得る手段を模索する。

 

 

「はぁ…フランチェスカには流石に荷が重すぎますわね、きっと今頃泣いて────」

 

 

 

 

「────リリィィィィイイイイイイ!!!??!!!」

 

 

 

 

何か叫び声が聞こえてきたと思えば、次の瞬間思い切りカラダが地面に叩き付けられる。

あぁマズイ、この声とこの身体に触れる柔らかさ。これは紛れもなく。

 

 

「馬鹿っ!!バカっ!!ばかー!!どうして連絡しないのよーー!!!どれだけ心配したと思ってるのよー!!!!」

「リカ姉…骨折れますってば…」

 

 

わんわんと涙を零しながら喚き叫ぶ幼い褐色のウィッチ。

自身にぎゅうとしがみ付く彼女を抱きしめ返し、リリーはため息を漏らした。

周りに追随のウィッチがいる様子はない、恐らくは周囲の反対を押し切って一人で私の探索をしていたのだろう。

 

 

いやぁ悪いことをした。

だからと言って私の胸元でぐいぐいと涙と鼻水を拭うのはやめてほしいのですが。

 

 

「ごめんなさいリカ。いや、これには深い理由があるんd」

「もー…わかってるわよ、エイミーちゃんでしょ?」

 

 

あれ?という風な顔でその顔を見返すと、フェデリカはニンマリとした表情でこちらを見下ろしていた。

面倒を避けるために部下はおろか誰にも言ってはいないはずだったのだが…。

 

 

「…分かってたんですか?」

「当然でしょ!妹のコトは、お姉ちゃんは何でもお見通しなんだから!!…でーも」

 

 

むにゅりっ、と彼女の温かい両手が私の頬に添えられる。

 

 

「ワタシに一言くらい言っていきなさーい!!!もぉ~!!このこのこの~~~!!!!」

「ちょっ…ほへーひゃん…ひゃめ…」

 

 

もちもちと私のほっぺたをむにむにと思う存分堪能されてしまう。

うざったい、くすぐったい、でも何故か少し安心する。振り払う気が自然と起きない。

 

 

「まったく…ほら、リリー」

 

 

起き上がったお姉ちゃんが私に手を差し伸べる。

いつも通り、見慣れたその満面の笑顔に少しホッとしながらその手を握り返す。

少しの間離れてしまっていたその無邪気な表情に、私は少し見とれてしまって。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんを少しは頼りなさ────」

 

 

 

 

────パン、パン、パン。

 

 

 

 

 

 

乾いた音が夜の静寂に響いた。

それと同時だっただろうか、私の視界は真っ赤に染まって。

顔に飛び散ってきた生暖かい液体が、何かすらわからない。

 

 

「…え?」

 

 

気の抜けた、フェデリカの────お姉ちゃんの声。

その胸元に赤い大きなシミがいくつも出来ていて、今なおジャケットに広がっていっていた。

それをお姉ちゃんは、呆然と、何が起こったのか理解してないような顔で。

 

 

「──────」

 

 

咄嗟にその身体を抱きしめ、射線を自らの身体で切る。

そして腰のホルスターから取り出したM1911を狙いもロクに付けず乱射した。

 

 

弾倉が空になるまで無我夢中で撃ち切ったが、何発かは手ごたえがあった。

小さく呻く男の声を耳朶に捉え、私はリカの身体を───その重たい、血みどろの身体を手放し、その声の主を抑えつけた。

仕立てのいいコート、深く被られたトレンチ帽。どう見てもただの賊ではない。

誰かに雇われた───いや、誰かの手先か。

 

 

「おまえっ!おまえぇぇっ!!おまぇぇぇぇぇっっ!!!!」

 

 

怒りのままに銃底で何度も何度も力のままに殴りつける。

魔力で強化されたウィッチの暴力に、やがて男が反抗のそぶりもなく、ぐったりとするのに時間はかからなかった。

 

 

「どこだ!!どこのヤツらだ!!言え!!殺してやるッ!!絶対に────」

 

 

 

 

「────お父様…のご命令、です…」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

その男が口にした言葉を理解するのに、彼女は数十秒の時を要した。

 

 

「その女は…お嬢様のコトを知り過ぎた…。あなたの、邪魔になる。あなたのために、と…」

 

 

は?は?

お父様が?リカ姉を?わたしの、ために?なんで?どうして?

呆然と、ただそいつを、私は見下ろすしか出来ずに…。

 

 

「で、ですから…だから…私は…」

 

 

その言葉を言い終える前に、私はそいつの額に銃口を押し当てて引き金を引いた。

顔の筋肉が痙攣しビクリと肉の塊になった男だったモノが震えた。

 

 

「………リ、カ…」

 

 

力なく横たわる、大好きで優しい姉のもとへ駆け寄る。

その身体をそっと支えると、手のひらに伝わる血のぬるみと冷たさに────何度も経験しているモノなのに、恐ろしさに酷く吐き気を覚えた。

 

 

「…あはは……もー…」

 

 

なのにリカお姉ちゃんは、いつもと変わらない笑顔をその顔に浮かべて。

いつもなら酷く安心するはずの笑顔が、どうしようもなく恐ろしいモノに感じた。

 

 

「…ごめんね、リリー…せっかく、仲直りできたのに…」

「黙ってよ!!!!喋らないで!!!!!!!」

 

 

私は何故か溢れてくる嗚咽と涙をそのままに、必死にその止血を試みた。

冷静な部分では、もう手遅れだと分かっているくせに。

 

 

 

 

「……ありがと…私に、お姉ちゃんをさせてくれて……」

 

 

 

 

大好きなお姉ちゃんの手が、血まみれの震える手が、私をゆっくりと抱きしめる。

 

 

 

 

「リリー、だいすき。」

 

 

 

 

その言葉に、私もだよ。と。

返した言葉は────お姉ちゃんに、届いたのだろうか。

 

 

 

「────────」



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『過去が今、私の人生を収穫に来た』 #3

毎日投稿してる時はもっとすらすら書けてた気がするんですがががががが



「ですから…どうにかしてあなたに戻って来て頂きたいのです!アマンダ・ミシェル・プラマー軍曹!!」

「……うぅん」

 

はいどうも皆さんこんにちわ~。エイミーでっす(キラッ☆

ってやってる場合じゃねぇです、はい。

現在私が保護…って言うか半ば軟禁状態のロマーニャ基地にはるばるやってきてくれた、ヘルウェティアの偉い人達からの相談を受けてる所なうですよ。

 

狭い会議室、魔女2人と偉い人の数人きり…何も起こらないはずもなく…。

 

「あなたが解放したヘルウェティアは…未だネウロイが散発的に出現している状態です。今この瞬間にも、防衛部隊が交戦しているかも知れません」

「ええ…それはわたしも存じ上げてます」

だって私、この間までそこの部隊長(仮)してましたものー。

ドミニカさんが入れてくれたコーヒーを一口すすり、喉を湿らせます。

あ、同席はしてませんが、ドアの後ろで聞き耳を立ててくれていますよ。

 

「しかしご存じの通り、欧州に散らばった我がヘルウェティア軍の本国への帰還は遅々として進んでおらず…その防衛の大半を駐留している統合政府軍に頼っている次第です」

 

初老のスーツ姿の軍人さん…なんか勲章みたいなのつけてるし軍人さんだよね?が俯きながら語ります。

うんうん、わかってるんです。すごい大変なのは凄いわかってるんですよ…。

 

「ですがそれも、先のロマーニャ北部戦線でどの軍も激しく疲弊しているのです…!早急にヘルウェティアの守りを硬めなければならないこの窮地ですが、これ以上の増援はスグには望めない!!」

「今ヘルウェティアに出現している特殊タイプのネウロイ達も、日に日に数を増すばかりで…」

 

握りこぶしを作られて大汗を浮かべながらオジサマ達に熱弁されます。

うーん、皆さんも必死なのでしょう。分かるんですよ、仰ってることは。

でも私、今ロマーニャを離れる訳にはいきません。……正直、お姉ちゃんともう二度と離れたくないですし。

 

「わたし一人がもどった所で、何にもならないと思うんですけど…」

 

黙りこくってしまった私を、オジサンたちが狼狽えながら顔を見合わせてます。

でもダメなんですよねぇ、お姉ちゃんの故郷の危機な上、竹田美喜(本来の人格)関連でゴッタゴタしてる時にここを離れられませんよ。

うーん、と私も濃いコーヒーの水面に映る私とにらめっこしていた所────。

 

「……そんなことはないさ、皆お前に帰ってきてほしいと思ってるよ」

 

そんな中、静寂を破って投げかけられる女性の…というかウィッチの声。

それもロマーニャ語ですね。

 

「お前が必要なんだ。あのアルプスを飛んだ魔女が。」

 

私より下手をすれば10歳以上年上の彼女───元陸戦ウィッチ部隊の隊長、現ヘルウェティアのアルプス国境基地の司令さんです。

そう、あのアルプスの地獄で共に戦い、二人だけ死神に置いてけぼりにされた『隊長さん』こと、彼女です。

 

「みんな、ですか?」

「うん。ダキアやスオムス…カールスラントの、ヘルウェティアに駆け付けてくれたウィッチから有志を集って、お前が対特殊ネウロイ戦闘を教えた奴らがいただろう?」

「あぁ…!みなさん、お元気ですか?」

「それはもうな。"センセイ"を早く連れて帰って来い!!って見送る私の背中に文句をぶつけるくらいにはな」

「ふふふ、それは良かったです」

 

懐かしい…アルプスでの戦闘の後、司令官の真似事をしてる時に航空近接戦闘術を教えたウィッチさん達が数名いたんですよ~。

一カ月足らずにも関わらず皆さん凄い優秀でした!全員めっちゃ年上でしたけども。

 

…まぁ、僚機さんに匹敵する程の天才の方は流石にいませんでしたけどね…でも皆さん本当に優しい方でした。

 

「私が曲がりなりにもヘルウェティアを守り抜けているのは…お前が残してくれた彼女達のおかげだよ」

「いえいえ、隊長さんのおかげですよ。…勝手に消えたわたしの後始末は大変だったでしょう?」

「ははは!気にしてないさ!誰にだって色々事情はあるものな!」

 

笑い飛ばしてくれる隊長さん。

一時は心を病んでしまっていましたが、もうすっかり元のロマーニャ魔女の明るい気性に戻ってくれたようですね…良かった良かった。

心の奥底でうとうとしてる美喜も、ちょっとほっとしているのが伝わってきます。

 

「わかった…君にも深く難解な事情があるのは十分に承知している。今日の所は我々も諦めよう」

「本当に、申し訳ないです」

深々とお辞儀をします。遠路はるばる来てくれたのにマジごめんなさい…。

「あ、頭など下げないでくれ!」

「そうだ、統合政府軍属でもない、リベリオン軍配下の軍人である君を直接他国に引き抜こうなど…無茶な頼みをしているのはコチラの方なのだから」

手を制すように差し伸べられてオジサンたちが謝り返してくれます。

 

「しかし、これだけは覚えておいてくれ。…ヘルウェティアは君の味方だ。」

「復興途上の我々が出来る事は少ないだろうが、何か力になれる事があれば何でも言ってくれ」

差し伸べられた手を握り返し、義手じゃない方の手で握手を交わします。

 

すっごいありがたいですけど…それと同じことロマーニャの将軍さんにも昨日言われたんですよねぇ…。

何かその言葉の裏には「ぜひ我々についてくれ」って意味がありそうな気がして────あぁもうこんな疑心暗鬼ダメですよダメダメ。

 

 

 

────バタムッ!!

 

「こら!入るなって言って……あーもう!!!」

「エーーーーイーーーーミーーーーー!!!!みてみてぇー!ピッツァつくったのピッツァぁ!!!」

 

突如締め切られた応接室の扉が勢いよく開け放たれ、そこから飛び込んできたのは……ケチャップまみれになったフランカお姉ちゃん。と止めようとしたドミニカさん…。

しかもその手には焼きたてホカホカのピザのお皿が。お姉ちゃんパスタ以外に料理できたんだ!!?

 

「わぁっ…♡お姉ちゃんのぴざ…♪じゃなくて!ちょっとまってお姉ちゃん!」

「ほぅらぁ~!!見てみて!!すっごいでしょ!?美味しそうでしょっ!?……んにゃ?」

 

まるで偉い人達のことなど眼中にないかのように私をくるりと膝の上にのせていつもの姉妹モードに入ったお姉ちゃん。

それにつられて私も完全にお姉ちゃん大好きな妹モードに入りかけますが、何とか堪えます!!!

 

「そうか…その子がフランチェスカ・ルッキーニか。」

「んじゅぁー?お姉さん、だぁれ?わたしのコトしってるのぉ?」

「ふふっ、ああ。そいつから『大好きなお姉ちゃんの話』を何度も聞かされたからなぁ…♪」

「ああああああああ!!!///隊長さんやめて!!///お願いですからどうかそれはお姉ちゃんの前では/////」

 

真っ赤になってるであろう顔を両手で覆いながら懇願します!

いやマジで無意識のうちにホント色んな人にお姉ちゃんとの惚気話ばっかり喋ってたみたいで私…はわわ///

 

「姉妹の邪魔をしては悪いですし、私達はそろそろお暇しましょうか。」

「ああ、そうだな…。」

 

そ、そうです!私の理性がちょっとでも残っているうちに早くここから離れてください!!

あっ…お姉ちゃんのほっぺに、ケチャップついてる…舐めとりたい…♪はっダメです気を強く持たないと!!!!

 

 

 

「しかし、エーゲ海の女神達がこんな幼い少女達とは……」

「うむ…」

「こんな幼い少女達を、リベリオンは本気で────」

 

「────リベリオンが何か?」

 

仔猫のように微笑ましくじゃれ合う二人の幼い魔女の姿を前に、小声でつぶやき合うヘルウェティア高官達の言葉を、ドミニカが遮った。

少し眉をひそめ、怪訝な表情を浮かべている。

「えっ…あ、ああ、いや!少し良くない噂を最近耳にしたモノでね」

「ああ、他愛もない、ただの噂さ」

「…?」

ドミニカの眉間の皺が、更に深くなる。

そのリベリオン士官服の彼女の反応を見て、高官達は慌てたように目を配り合わせ額に汗を浮かべた。

「…もしかして、本国で反戦派の野党がエイミーに関して嗅ぎまわっているって話のことか?」

「いや!そのコトでは…ううむ」

高官が額の汗をぬぐう。

「アンタ達はさっき、エイミーの味方だと言っていただろ。」

「………」

そう告げると高官の男性は腕を組み低くうなると、辺りを憚るように見回した後に黙り込んでしまった。

 

「違う…反戦派だけじゃない。もっと大きなモノがエイミーを…消そうとしてる。」

 

その背後から、元陸戦ウィッチの隊長の声が言葉を続け、ぎょっと男たちはそれに振り向いた。

 

「…??は?もっと大きな…何が?」

「わからない、それこそ噂でしかないんだ。」

 

戦場を知る険しい魔女同士の冷たい目が、静かに交わりあう。

 

「…この子の直属の上司は、()()()()()()()に精通していると聞いた。生憎、コチラからは連絡が取れなかったが」

「その噂は、どこから?」

「ヘルウェティアに駆けつけてくれた統合政府軍のブリタニアのとある佐官だ。……何やらリベリオンが何やら"キナ臭い"ことの準備をしている、と。」

「………」

 

ドミニカは天井を見上げ、心の中で溜息をついた。

こんなコトならばもっとあの性悪女中佐の元でもっと勉強をしておくべきだった、と。

 

 

 

──▽▽──

 

 

────ほくほく。

 

食後、湯上りの気持ちのいい体にバスタオルを片手だけで羽織りながら、エイミーはルッキーニの部屋のドアを開けた。

余り荷物はない、質素なベッドとドレッサーがある程度の部屋。各地を転々とするウィッチは、余り荷物を持たない。

自分だってそう、ヘルウェティアに残してきた烈風や巫女服が、今日やっとついでにと持ってきてくれたくらいなのだから。

 

「……ん」

 

部屋の主はいまだお風呂で着替えの最中だ。自分だけ先にやってきた。

ベッドのランプの付け、半裸の姿のまま縁に腰掛ける。

もうすっかり外は薄暗い。星が映える欧州の夜空は美しいが、どこか嫌な思い出が浮かびそうだった。

ふと、ベッドの端に目をやると、ルッキーニが脱ぎ散らかしたのであろうロマーニャの軍服と下着と、リボンがたたまれもせずに放り投げられていた。

 

「もう、お姉ちゃんったら」

 

その縞々模様の下着をそっと片手できれいに畳み、ワイシャツを手に取る。

まだ温もりがあった。

そして大好きな姉に一日中触れ続けていたその布は、大好きな姉のニオイをふわりと漂わせていた。

 

「……ふらんか、お姉ちゃん」

 

太陽のような優しく暖かな香り。

どこか切なげで儚い表情を浮かべた扶桑の少女は、その衣服にそのあどけない顔をそっと埋めた。

 

「なぁに、えいみー」

「…わっ…」

 

そして次の瞬間には、そうしていた自分が背後から抱きしめられて。

そのうなじのあたりに、風呂から上がり髪すら結っていないルッキーニが顔を埋めていた。

まるでエイミーが彼女の服に対しそうしていたように、愛しむように、ニオイを堪能するように。

首筋にかけられる暖かい吐息のこそばゆさと、ルッキーニの長い髪が柔肌をくすぐる感覚にエイミーは僅かに身をくねらせた。

 

「…つめたい」

 

けれども、ルッキーニが妹の身体を抱きしめて漏らした最初の感想はそれだった。

風呂あがりだというのに、湯気さえ上っている自身の身体とは対照的に、彼女の体温はひどく低かった。

 

「さむくにゃい?」

「ううん、お姉ちゃんといっしょなら。あったかいから」

「そっか」

 

その言葉に嘘はないのだろう。

事実、エイミーはもう猫耳と尻尾をぴょこりと生やし、それをルッキーニの太ももに擦り付けている。

彼女にはそれがどうしようもなく微笑ましく、また愛おしく感じられた。

 

「んっ……♪」

 

────ぴょこんっ♪

 

フランチェスカ・ルッキーニは未熟なウィッチでは決してない。感情の昂ぶりで、自らの使い魔を制御できなくなるような、そんなコトはありはしない。

彼女が今こうして妹とお揃いの猫耳と尻尾を生やしたのは、自らの意思によるものだ。

 

────すりすりっ♪しゅるんっ♪

 

二本の黒豹の尻尾が絡み合い、無邪気に幸せそうにじゃれつきあう。

ルッキーニは大事な妹の小さすぎる肩をそっと抱くと、自らに向い合せた。

 

「────ん」

 

その額に、一生消えないだろう傷が生々しく残る儚げなその顔に、そっと口づけを落とした。

身長差、そして恥じらいからか俯いたその表情は伺いしることは出来ない。

でもそのふわふわな黒髪の上で、ぴょこぴょこと跳ね喜ぶ猫耳がその歓びようを雄弁に語っていた。

 

「……くち、にも…」

「んにゃ?」

「え、あ……その…」

 

細いおとがいにルッキーニの指が添えられ、上を向けさせる。

 

「もう、ほんとかわいいんだから、エイミーは」

 

驚きに目を見開く暇もなく、その幼い妹は大好きな姉に唇を乱暴に奪われた。

それも唇を重ね合わせるだけではない、深く、深く、熱い口づけ。

 

そしてそのままルッキーニはその幼すぎる、小さすぎる身体を。

容易くベッドの上に押し倒し、その上に覆いかぶさる姿勢となり。

 

「…しよっか…♡」

「ぷはぁっ………はぁ……♪」

 

どこかとろんとした、ともすれば退廃的とさえ言える笑みを、二人してその幼い顔に浮かべ。

 

────エイミー、ずっと、私と一緒に・・・・。

 

その妹の身に迫る手に、何もできないやるせなさをぶつけるように。

ルッキーニはその思いの丈と深い情愛を、エイミーの身体に深く、熱く、刻み込んだ。



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たのしいデート

ロマーニャのある空軍基地の一角に、その隊舎はあった。

古めかしくもこじゃれた時計が深夜の時刻を指し示している。

秒針が時を刻む音だけが響くルッキーニの部屋、その部屋主の腕の中でもぞりと動く小さな影。

その息は荒く、頭を押さえ小さく唸った。

 

──...29711...ちがう。29713…。

 

疲れ果てた目でルッキーニのその腕からからすり抜ける。

そしてサイドテーブルにリベリオンの緋色のジャケットと共に置かれた義手に目もくれず、机に向かった。

 

「…」

 

万年筆を小さな左手で握りしめ、白紙に何かを流れるように書き殴る。

そして窓の外に目をやると、木の枝から部屋内を見つめていた一匹の鳩と目があった。

なんのことはない普通の鳩だ。

その首元にカメラがかけられているコトを除いては、だが。

 

────キィ

 

軋む窓を開け放ち、エイミーはその鳩を室内に迎え入れた。

 

「おねがい」

「ポッ」

 

肩に止まったその頭を人差し指で撫でてやると、丸めた紙を足で掴んでハトは去っていった。

 

「────」

 

ロマーニャの夜空に消えていく鳥の姿。

それを窓越しに静かにエイミーは色の無い瞳で見つめていた。

 

やがてそれが完全に見えなくなると、くるりと踵を返した。

ふと、ずり落ちかけていた縞模様のズボンの縁にゆびをひっかけてきゅっと持ち上げる。

 

「...」

 

随分前に貰ったお姉ちゃんのお古。

もうゴムが伸びてストッキング…違うベルトを着てないとすぐにこうして上げ直さないといけなくなる。

 

黒い光沢のストッキング(ベルト)にほっそりとした傷だらけの脚を包み、彼女が次に現れたのは医務室だった。

まるで《何千回も訪れた事があるかのよう》にビンや木箱が納められた棚を見渡すと。

おもむろにその中の一つのビンを開け、まるで菓子でも慾る(むさぼる)ようにボリボリと中身の錠剤を噛み砕いだ。

それを一切躊躇うことなく、喉の奥に流し込む。

 

「…まッッッッず」

 

元の棚に戻された空のビンのラベルには《鎮痛剤》という文字が記されていた。

 

 

 

 

 

「すごいすっごいすっごーーーーーい!!!ホントにエイミーが運転してりゅーーーっ!!!うにゃーーーッッ!!!」

「…お姉ちゃん。めだつから叫んじゃダメ」

 

ロマーニャの深夜のローマ。

古めかしくも何処か爽やかなその街並みの中を走るジープ。

その運転席には届きにくいアクセルに顔をしかめているエイミーと、その隣の助手席にはツインテールのウィッチが幼い顔を爛々と輝かせていた。

 

「いつ!?いつとってたのぉ!?どこでぇー!?わたしも運転していいかな!?」

「ヘルウェティアにいた時だよ。あとぜったいお姉ちゃんはだめ。」

 

さすがに運転中とあっては大好きなお姉ちゃんだろうと抱き着かれては冷たくあしらわざるを得ない。

 

竹井中尉に拝みこみ、リベリオンより武装貸与されたこの四輪駆動を貸し出させて貰うのは容易かった。

エイミーの免許は軍免許であるので民間の車を私用で使うということは出来ない。

むしろ少し大変だったのは今回の『デート』の許可を貰うことだった。

何しろ彼女達は今、得体も知れぬ何かに狙われているかもしれないのだから。

 

『ぐすっ…おねがいします…。

 わたし、どうしても、おねえちゃんといっしょにおでかけしたくて…ひぐっ…』

『え、えいみぃー…うぇぇぇぇぇん……』

 

その幼い幼い年齢と、傷だらけの身体。

そして大好きな姉と何カ月も離れ離れにさせられていたという境遇をフルに活用したその涙乞いは、多感な年齢の魔女達には効果抜群であった。

現在の彼女達の実質的な預かり主である竹井大尉も、泣いてその小さな姉妹達を抱きしめながら承諾したのだった。

 

『────』にぱー♪

『────』にこっ♪

 

その抱きしめられた幼い二人は、悪戯が成功したような笑みを浮かべて視線を交し合ったのだが。

 

「はい、あ~ん♡」

「んあ…あむ…あれ?レモン味ってお姉ちゃんたべれたの?」

「うじぇじぇ~♪エイミーと一緒のもの食べたかったから食べれるようになったんだ~♡」

「えっ…じゃあ、今の食べかけのジェラートって…はわわ//////」

「にゃははーーー!!ほっぺたまっかーーーーー!!」

 

そんな竹井の思いも露知らず、彼女達は久方ぶりのシャバの空気をそれはもう楽しそうに満喫していた。

頻繁な定時報告、行先、行動ルートの明示など与えられた条件は多かったが、それでも二人の少女にとっては幸せなデートだった。

 

視界の後方に流れていくローマ市街、その外れにある小さな広場がふと目に映った。

石畳で舗装されたその広場は、街灯もなく暗闇に包まれていた。

 

「……………」

「んにゃ?」

 

夜の帳を切り裂くように、無数のビームの閃光が飛び散った。

そして数秒後、その閃光が消えた後には、ただ黒焦げになった広場だった瓦礫だけが残されている。

 

「……!!」

 

ブンブンと首を振り、もう一度見てみると、そこには変わらない平和な広場があった。

 

「…………はぁ」

 

…額の汗をぬぐい、ふぅっと溜息を吐く。ダメだ落ち着け。今はお姉ちゃんとのデートなんだから。

ポンッ。頭に手を置かれた感覚。見ると、お姉ちゃんが自分の頭を撫でてくれていた。

優しい手つきで何度も頭に触れられるたび、自分の中の不安や恐怖心が少しずつ消えていった。

 

「エイミー」

「ん…」

 

私が運転中じゃなければ、うっとりとして目を閉じていただろう心地良さ。

そして私の頭を撫でるお姉ちゃんの手は、そのままゆっくりと頬へ滑り、やがて顎の下へと伸びた。

そのまま手を優しく添えられ、私の耳元に近づいて────。

 

 

 

「────何回目?」

 

 

…ハンドルを思い切り切って、事故を起こさなかったことを褒めてほしい。

それくらいに私はその言葉を囁かれた時、心臓が飛び跳ねたのだから。

 

 

 

 

 

 

夜も深い時間。

さしものローマといえどこの時間になると開いている店などほとんどない。

でも中には『国を守ってくれてるウィッチのためならば』と、無理を受け入れ、こんな時間でも客として迎えてくれる店はあった。

 

店内を歩き回るエイミーとルッキーニは───好みのアクセサリーをお互いに付け合いっこするという甘い空間を形成していた。

ちなみに今ルッキーニが身に着けている、妹の瞳と同じエメラルドをあしらったネックレスを選んだのは彼女自身であり、その事に気が付いたエイミーは顔を真っ赤にして俯いていた。

その様子に微笑みながら、今度はエイミーが選んだサファイアのイヤリングを付けてあげると、エイミーは嬉しさのあまり泣き出してしまい、それを慌てて宥めるという一幕もあったりした。

 

そのあと…お揃いの指輪を買ってあげようと提案されるも、さすがに恥ずかしく少しためらってしまった。

でも結局押し切られてプレゼントされると、私は本当の子供のように顔を輝かせてしまった。

お姉ちゃんの瞳の色をした宝石がついたそれを大事に握りしめ、お姉ちゃんに指にはめてもらうと…。

 

────私は、こみあげてくる何かを瞳から零してしまった。

 

そんなエイミーを抱きしめ、よしよーしとあやしながら、姉妹達は仲良く店を出た。

 

 

ジュエリー屋さんを後にした私達は、きれいなブティックを訪れた。

もちろん、お客さんは私達しかいない。

こんな高級そうなお店に入るのは初めてで、私はすこし足がすくみ、お姉ちゃんの背に隠れたくなる。

その服を掴むと、大丈夫だよ、と優しくはにかみ、声をかけてくれた。

お姉ちゃんの大きな背中から顔を出すと、店員さんの笑顔に迎え入れられた。

 

私に似合う可愛いお洋服を着せてもらっている間も、お姉ちゃんはずっと隣に座って、私に話しかけてくれる。

その元気で明るい声が、大好きなお日様みたいな匂いがすぐそばにあって、すごく幸せ。

 

選んでくれた華やかなフリルのワンピースを着て、鏡の前でくるりと回ってみる。

お姉ちゃんはとってもうれしそうな顔をしてくれて…合わせて買ってくれた赤いリボンの帽子を被ってお礼を言うと、ぎゅっと抱きしめてくれた。

お姉ちゃんの胸の中に抱かれて、その温もりを感じてると、とくんとくんと心臓の音が聞こえてきて、安心して眠たくなった。

 

────このまま寝ちゃおうかな。

 

でも今度はエイミーにわたしの服を選んでほしいの!と言われ、私はお姉ちゃんに着せる服を見繕うことになる。

色とりどりの可愛らしいドレスが並ぶ中、ふと目に入った白いワンピースを手に取る。

裾にあしらわれたレースがお姉ちゃんにぴったりで、これを着たお姉ちゃんを想像して、思わず笑みがこぼれる。

そんなお姉ちゃんの喜ぶ姿を見たくて、試着室で着替えてもらった。

 

…カーテンの向こう側で聴こえる、布が擦れる音。

 

それが妙に艶めかしく感じられて、どきどきと鼓動が高鳴ってしまう。

しばらくして、お姉ちゃんが姿を現した。

 

────にひひ♪どう?

 

……まるで天使のように可憐で、それでいて妖精のような神秘的な雰囲気に、一瞬で魅了されてしまった。

お姉ちゃんの輝くような小麦色の肌によく映えて、とても綺麗だと思った。

 

私はしばらくぼうっとして、お姉ちゃんに見惚れてしまっていた。

お姉ちゃんはそんな私の反応に、少しだけ頬を染め、照れたように笑った。

その仕草がとってもかわいらしくて、私はお姉ちゃんに抱きついてしまいそうになる。

でもいけない、ここはお店の中だ。

 

────エイミーってば、わかりやすいなぁ

 

そういうと腕がにゅっと伸びてきて────私は試着室の中に引っ張られて。

そのままその胸の中に、抱きすくめられた。

お姉ちゃんの甘い香りに包まれて…柔らかな感触に包まれていると、頭がくらくらして何も考えられなくなる。

 

その大きな胸に抱かれていると、とくんとくんと心臓の音が聞こえる。

お姉ちゃんも、ドキドキしてるんだ。

触れているほっぺたから、薄い布地を一枚挟んでお姉ちゃんの体温が伝わってくる。

その心臓の音は、私のよりももっと速くて、そのリズムに合わせるかのように、私の心臓もどんどん早くなってゆく。

 

────とくんとくんと、とくんとくんと。

 

とっくに限界を超えてるはずなのに、まだ早い。

もっともっと感じたい。

もっと近くに行きたくて、その大きな身体に強くしがみつく。

すると、さらに強く抱きしめられた。

身体を締め付ける強い圧迫感が心地よくて、お姉ちゃんの身体に溺れるように、意識が薄れてゆく。

ふと気が付くと、目の前にはお姉ちゃんの顔があって、唇には柔らかいものが当たっていた。

何が起きたのか分からず混乱していると、お姉ちゃんはにっこり笑って、もう一度キスしてくれた。

 

……そして今度は舌まで入れてきた。

口の中でお姉ちゃんの舌が暴れまわって、息が出来なくて苦しい。

けれどお姉ちゃんの吐息を感じるたびに、脳が蕩けていくようだった。

 

……ああ、気持ちいい。

 

お姉ちゃんに食べられちゃってるみたいで、嬉しい。

お姉ちゃんの唾液が喉の奥に流れ込んできて、それを飲み込む度に、お腹が熱くなっていく。

いつの間にか私からも求めていて、お互いの吐息が絡み合って、頭がくらくらとしてきた。

 

────もう、だめ。

 

私の思考はどろどろになってしまって、もう、なにも考えられない。

 

私は幸せの絶頂に追いやられ────そのままお姉ちゃんの胸の中で意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

私が次に目覚めたのは、薄暗い無人の教会だった。

月光が華やかなステンドグラスを彩り、幻想的で不思議な雰囲気が満ちてる。

お姉ちゃんの膝枕が気持ちよかったから寝たふりをしたかったけど、お姉ちゃんに気付かれちゃった。

 

──────エイミー。

 

なあに?

 

────結婚しよ!

 

ちょっとなに言ってるかわからない。

覗き込まれてそう言ってきた眩しい笑顔は、無邪気だけど王子様みたいにカッコよかった。

私は本当に意味が分からなかったけど、頷く以外の選択肢はなかった。

 

私達は二人だけの教会で、結婚式を挙げた。

神父さんも、観客も、指輪もないけれど。

お姉ちゃんは私の手を握り、誓いの言葉を読み上げてくれる。

 

 

────私、フランチェスカ・ルッキーニはやめるときもすこやかなる時も、ともにあゆみ愛することをちかいます。

 

 

難しい言葉なのに、きっといっぱい練習したんだな、と私は心の中で苦笑します。

お姉ちゃんの手を握り返し、その言葉に応える。

 

 

 

「死がふたりを分かつ時まで、わたしも永遠に────」

 

 

────タァン

 

 

何かが弾けるような音。何かが割れるような音。

戦場で幾度と嗅いだ硝煙の香り、そして同じく戦場で何度も嗅いだ、『血の匂い』

 

「──────」

 

ルッキーニは自分の顔が濡れていることに気付き、手を触れた。

じっとりと生温かいそれは、これ以上ないほど真っ赤で。

 

 

 

たった今目の間で愛を誓った最愛の妹が、その華やかなワンピースを胸から溢れ出た鮮血で染めていた。



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