鬼祓いと花嫁 『諸人奇譚録』 (水谷幽愁(現在停止中))
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第壱話

みなさん、はじめまして。
水谷 幽愁(みずのや ゆうしゅう)と申します。
筆者はあらすじにあるように小説投稿ど素人ですが読者様にこの小説を読み終えたのちに「いい作品だったな」と思っていただけるように精進しますのでぜひ応援よろしくお願いします。
では、記念すべき第壱話どうぞ!


夢を見ていた。恐ろしく鮮明で予知夢じみた不思議な夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと俺は肩で息をしていた。

咄嗟に首に手をやる。よかった、と胸を撫で下ろした。

 

しかし震えがまったく止まらない。

夢の中で明らかに俺は首を斬られた。あまりにも鮮明だったために本当に首を斬られたのではないかと錯覚してしまったのだ。

 

そして自分の体を見て驚いた。全身汗だくなのだ。俺はあまり寝汗はかかないほうだ。原因は恐らく…というか確実に夢だ。

 

などと考えていると震えが収まってきた。背後のカーテンの隙間から日差しが差し込んでくる。俺にとっては邪魔な存在であるのになぜか愛着があり生まれつきある灰髪は恐らく、この日差しと汗によって鈍く光っていることだろう。

 

そう思った直後、廊下がどたどたと音が立て音がこちらに近づいてくる。そしてノックもなしに俺の部屋に飛び込んできて

 

「兄ちゃん、大丈夫!?」

 

と安否を尋ねてくる女性がいる。

2歳下の妹、真田幸恵(さなだゆきえ)だ。

 

そして「兄ちゃん」と呼ばれた俺の名は

真田幸志郎(さなだこうしろう)

 

先祖は大坂夏の陣※

※当時の地名は大阪ではなく大坂だった。

において天下人徳川家康を「切腹やむなし」と喚かせるほど追い込み日ノ本一の兵(ひのもといちのつわもの)と天下に名を轟かせた真田幸村(さなだゆきむら)

 

ちなみに彼の本名は幸村ではなく信繁(のぶしげ)。実は彼が幸村と名乗っていた証拠は今の所ないらしい。ただし、幸村という名前の方があまりにも有名なためこの小説では幸村という名で通すことにする。

 

なお、俺には幸玖(ゆきひさ)という名があるが、儀式などの特別な状況でしか使われない名で普段は幸志郎と名乗っている。

 

さて、話を戻そう。

 

兄ちゃんと呼ばれた俺、幸志郎は

「大丈夫だ、幸恵。ちょっと怖い夢見ただけだ」

 

と妹になにもないことを伝える。

 

…正直、全然大丈夫じゃない。自分の未来を示すかのようなあの夢を見て大丈夫なわけがないのだが、つい虚勢を張ってしまった。するとそんな考えを見抜いたのか

 

「大丈夫なわけないでしょ!汗だくだし、あんな叫び声あげるし!!」

 

と顔を林檎(りんご)のように真っ赤にして捲し立てる。

 

幸恵の怒声を浴びる中、俺は顎に手を当てる。これは俺が思案に(ふけ)っているときの癖だ。

 

汗だく。それは見ればわかる。叫び声?なんのことだ?

 

と考え込んでいると、俺の癖を知っている妹が捲くし立てるのをやめ、

「兄ちゃん、どうしたの?」

 

と尋ねてくる。俺は顎から手を離し、

 

「叫び声ってなんのことだ??」

 

と返すと妹は心底驚いた表情で

 

「え!?知らないの!?」

 

と言いつつ俺の叫び声について話してくれた。

 

ちょうどその時、幸恵は朝ごはんを作っている最中だったようで、鼻歌を歌いながら調理していると突然、家中に響くほどの大絶叫が聞こえ、幸恵は腰を抜かしかけたものの大急ぎで駆けつけてくれた…といった経緯である。

 

「ああ、なにもなくてよかった」

 

と幸恵が安心した様子で胸を撫で下ろした。

 

「来てくれてありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当たり前でしょ。家族だもん

 

と弾けるような笑顔で応じた。そして

 

「さあ、朝ごはんがじきにできるから行こう」

と手を差し伸べる。

 

「あぁ」

 

と微笑みながら妹の差し伸べられた手を掴み、立ち上がり兄妹(けいまい)揃って俺の部屋を出た。

 

そんな兄妹を幸志郎愛用のPC機材が見送った。




改めまして、水谷幽愁です。
第壱話いかがでしたでしょうか?
五等分の花嫁要素一切ありませんでしたが、いずれ登場させますのでもうしばらくお待ちください。

以下、この作品を読む上でお伝えしたいことです。

・筆者が見落とした誤字脱字や間違った使い回しなどは見つけ次第ご指摘いただけると幸いです。ご協力よろしくお願いします。

・誹謗中傷的なコメントや感想は筆者のみならず他の読者様の不快を招きますので絶対にやめてください。

・その逆で応援や励まし「小説のここがよかった」などのコメントや感想はむしろどんどんいただけると嬉しいです。
 応援や励ましを受ければ筆者も嬉しいですし、執筆のモチベーション上昇にもなると思いますのでその点よろしくお願いします。

・この作品には主人公がそうであるように戦国的な人物がこれからどんどん登場します。戦国時代の知識がある読者様もそうでない読者様も楽しんでいただけるよう尽力いたします。が、戦国時代の知識があれば倍楽しめるようにもしようと思ってもいます。
 もし、戦国的なことがわからないといった質問コメントがあれば対応致しますのでわからないことがあればどんどん質問してください。

・この作品の投稿を筆者はスマホとタブレットで行っており、閲覧する機種によっては文章の列がおかしくなっているかも知れませんが、ご理解お願いします。

以上がお伝えしたいことです。


ここから下は読んでも読まなくても作品に影響する事はないのでここでブラウザバックしていただいても構いません。
ここでブラウザバックする読者様へ
第壱話を読んでくださりありがとうございました。
次回話を楽しみにしていただけると幸いです。


続きを読んでくださる読者様へ
このまま下にスライドしてください。





























ここまでお読みの読者様、誠にありがとうございます。

さて、筆者がここで語りたいのは「筆者のペンネームの由来」についてです。

まず、筆者は読者好きで、主人公が真田幸村の子孫であることからもわかるように戦国好きでもあります。
そんな筆者はある時、こう思いました。

「小説書いてみたいな。」と。

そう思った頃、このハーメルンの存在も「五等分の花嫁」を通じて知っていたので、
「そうだ。五等分の花嫁を原作にしてオリキャラを登場させよう」と思い立った次第でございます。

…が、そう思い立ったはいいものの、ハーメルンにおける名前が決まりませんでした。
ゲームのハンドルネームのような名前を名乗ってもよかったのですがどうせなら立派な名前を名乗りたいと思い

水谷幽愁と名乗ることにしました。

さて、ここからが本題です。

幽愁とは幽愁暗根(ゆうしゅうあんこん)という四字熟語から元です。
そして、幽愁とは
「人知れぬ深い憂い・深い悲しみや嘆き」などの意味。まさに自分自身を表しているなと思ったので採用しました

そもそもの四字熟語をペンネームにするというアイデアはある文豪から思いつきました。
その文豪とは、「吾輩は猫である」や「こころ」が有名な夏目漱石です。

彼の本名は夏目金之助といい、漱石とは
「漱石枕流」(そうせきちんりゅう)という故事から元のようです。そして漱石枕流とは
「自分の失敗を認めず屁理屈を並べて言い逃れする」という意味。

きっと夏目漱石も「この故事、まさに自分だな。」と思ったに違いありません。彼自身、頑固な人だったそうですし。(笑)

以上が筆者が後書きでも語りたかったことです。

いやぁ、長引いてしまった。
記念すべき第壱話だったというのもあり色々語りたかったのもあって本文の文字数を超えた。(苦笑)

でもこれで本当に後書きは終わりです。
ここまで読んでくださった読者様には心の底から感謝いたします。本当にありがとうございました。
次回話お楽しみに!


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第弐話

どうも、おはこんばんにちは。
正月の食いすぎでトイレという名の底なし沼にはまりかけました。
水谷幽愁です。
いや~あのときはマジでやばかった。(苦笑)
まあ、 なんとか脱出できたんですけどね。
さて、沼の話は置いていて第二話でございます。
今回の話では真田ファミリーが登場し、
さらに後書きにてイメージCVキャストを発表します!
では、第二話どうぞ!


場所は変わり、リビング。

机には妹が作った朝ごはんが並んでいる。

ごはん・目玉焼き&ベーコン・味噌汁・お新香といったメニューだ。

 

「「いただきます」」

 

と合わせていた手を離し、左手に箸、右手に茶碗を持ち朝食を食べ始める。

 

テレビのニュース番組では最新の人工知能を搭載した人型ロボット「CD」の全国配備が進みつつあるという話で持ち切りになっていた。

 

製造しているのは日ノ本一、いや、日ノ本一どころか

世界の数多の大企業と肩を並べる世界指折りクラスの大企業徳永財閥(とくながざいばつ)という会社だ。

 

本社があるのは九州は肥前国(ひぜんのくに)。(現実における長崎県および佐賀県の一部)

日ノ本のさまざまな産業を牛耳っており、日ノ本中の会社の約6割はこの「徳永財閥」の支配下にあると言われているほど。

 

そんな「徳永財閥」が多額の資金を投下して計画を進めていたのがロボット技術。計画をスタートしたのは、15年も前の話で10年前に試作品を挟みながら長き試行錯誤の末、ついに今年完成。

 

15年という長き時をかけて完成したこのロボットの注目点はこれまでの人型ロボットと比べ物にならないほど人間の姿形や動作を再現していることである。

 

テレビのVTRではアナウンサーがこのロボットと会話しているが、もはや人間だ。

会話しているのみならず、喜怒哀楽の表情もしっかり再現されており、VTRを見ている出演者達がどよめきの声をあげている。

 

ロボット技術も進歩したもんだなぁと思いながら味噌汁をすすっていると、

 

「「ただいま」」

 

と玄関から2つの声が聞こえる。

父の声と我が真田家に戦国の世から受け継がれているという名刀「村正」の付喪神、喜兵衛(きへえ)さんの声だ。

 

俺と幸恵も

「「おかえり」」

 

と返す。しばらくすると、父と喜兵衛さんの声が聞こえてきた。

 

「いや~喜兵衛さんは体力が無尽蔵で大変だよ」

とぼやいている。それに対して喜兵衛さんは、

 

「いやいや、幸多郎の体力がなさすぎなんだよ。そろそろいい歳なんだし、ジムに行ったらどうだ?」

とジム入りを勧めている。

 

「ジムか…。そろそろ老後のこと考えないとだめなのかなぁ」

 

なんて会話が廊下から聞こえて来る。リビングのスライドアを開け、2人がリビングに入る。

 

先に入ってきたのは父、幸多郎(こうたろう)だ。

 

「いい汗かいたなぁ」

 

と首にかけたタオルで額の汗をぬぐっている。次に入ってきた喜兵衛さんは、

 

「う~ん朝ごはんのいい匂いだ。ちょっと早いが俺もいただくとするかね」

 

とキッチンへ飛んでいき、さっそく、ごはんを茶碗によそっている。

 

片や父はテレビに写っている「シーディー」を見て、苦い顔で、

 

「便利だとは言うが俺は欲しくないなぁ。このロボット」

 

なぜかというと、父は大の機械音痴だからである。

携帯はいまだにガラケーだし、パソコンも俺が教えるまで、文字を打つのが亀の足並みに遅かった。

そんな父だ。「シーディー」を家に導入するのが嫌のようだ。

 

「幸多郎はありえんぐらい機械音痴だもんな」

 

喜兵衛さんが大笑いしながらトレーに乗せた朝ごはんを持ってきている。食事を終え手を合わせ、喜兵衛さんと入れ替わるようにキッチンへ向かい食器を洗う。食器を洗う幸志郎の視界には家族団欒があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べながら父の機械音痴をいじる喜兵衛。

口に手を添え笑う妹、幸恵。

喜兵衛のいじりに苦笑いしている父、幸多郎。

 

こんな風景がいつまでも続いてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、母さん

今は亡き母に想いを馳せる幸志郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな穏やかな世界に

もうすでに破壊の魔の手が迫っていたなど

この時は知る由もなかったのである。




どうも。水谷幽愁です。

第弐話いかがでしたでしょうか?
最後に意味深な三行がありましたが…
まあ、いずれわかりますよ。いずれね。

さて、前書きで述べた通り、この小説のキャラクターのイメージCVを発表します!!(※あくまで、筆者の脳内再生CVです。)










真田幸志郎→杉田智和さん
「銀魂」坂田銀時役
「鬼滅の刃」悲鳴嶼行冥役など

真田幸恵→東山奈央さん
「ニセコイ」桐崎千棘役
「艦隊これくしょん -艦これ-」金剛役など

真田幸多郎→井上和彦さん
「銀魂」朧役
「NARUTO」はたけカカシ役など

喜兵衛→諏訪部順一さん
「呪術廻戦」両面宿儺役
「鬼滅の刃」響凱役など


…といった脳内CVキャストになっております。

いやいや…豪華すぎぃ!!

自分で考えておいてなんですが改めて見てみると豪華だなぁと思いました。

この物語に登場するすべて(モブは除く)にイメージCVキャストを用意する予定です。
(原作のCVキャストはそのままです。)

話は変わりますが筆者は小説の筋書きを想像し、
それを文字で書き、
さらにそれをスマホなりタブレットなりで打ち込むという作業でこの小説を作成・投稿しています。

で、小説を投稿する前に次の話を文字で書いてから投稿しております。

…なにが言いたいのかと言いますと、
そもそもの文字化ができなければ、つまり筆者の小説の筋書きの想像ができなければ、この小説の進行はめっちゃ遅いということです。それを承知の上でこの小説を読んでいただきたいということです。

これは本来、壱話でお伝えするべきなのですがお恥ずかしい話、完全に忘れておりました。
申し訳ございません。

それでもこの小説をご愛読していただけば幸いです。

といった感じで後書きを終えようと思います。

次回はこの小説の副主人公を登場させる予定です。
主人公が真田幸村の子孫なので副主人公は…さぁ誰の子孫でしょうねぇ?

次回話お楽しみに!


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第参話

どうも、おはこんばんにちは。
高校からの自動車学校入学の許可をとるため
東奔西走(とうほんせいそう)し、なんとか
許可を勝ち取った水谷幽愁です。
いや~学校中を走り回った甲斐がありました(笑)

さて、今回は前の話の後書きで宣言したように
この物語の副主人公が登場し、イメージCVも発表します!
そして、幸志郎が見た夢の真相とは!?
それでは第三話どうぞ!


朝食を終え、歯を磨き、顔を洗う。

 

朝の水はやはり冷たい、という考えよりも脳の

端々まで焼き付いたあの夢のことを思い起こしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夢における視点主は自分自身で、目の前に

広がる風景はまるで某SOS団が有名なアニメの

閉鎖空間のようで、風景に色がない世界だった。

 

そんな風景の中、俺はこの夢に叩き起こされた時

のように肩で息をしていて左手に刀。右手に鞘を

持っている。そして数メートル先には

異形のなにかがいる。

 

だが、夢の中の自分は疲労しているからか、

目が霞んで前方がよく見えなくなっている。

すると、突然異形のなにかが姿をふっと消した。

 

だが、その残像が見え、顔を多方向に向け異形のなにかを追おうとする。

 

しかし、体がまったく動かず、さらになぜか体から湯気が出ていて思うように顔を動かせずにいると

 

誰かがなにかを叫んでいる。が、なんと聞こえないと感じたその瞬間、異形のなにかが真裏に接近し刀のようなものを振り上げている。

 

夢の中の自分は顔を少ししか動かせず一瞬、異形のなにかの顔を見ることしかできなかった。

そして、首を斬られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…という夢だった。

 

一体、あの夢はなんだったんだろうか。

 

夢は、見た人のその時の心理状態を表した幻だと聞いたことがあるが

今回の夢は内容があれなので

【あの夢=心理状態の幻】説はなさそうだ。

 

なぜならもし、あれが心理状態を表した幻だったならば俺の心は、よほど追い込まれた状態ということになるが、実際そんなことはまったくないからだ。

 

だとするとなにか?もしかしたら予知夢なんてことも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいや、そんなわけがない。

なにがどうなったら、俺があの異形のなにかと刀で戦うことになるのだ。

「○滅の刃」の竈門○治郎じゃあるまいし。

 

俺はどこにでもいる高校生、真田幸志郎だ。

…生まれつき灰髪って人はよほどいないかもしれんが。

ともかく、あの夢のことは当分忘れなさそうだが時間と共に忘れるとしよう。

 

そう決めた頃には俺は高校の制服であるカッターシャツの上に天鵞絨(びろーど)色のブレザーを着ていた。

 

ちょうどその時、1階から父、幸多郎の声が聞こえた。

 

「幸志郎、伊達君が来たぞ!」

 

父の言う伊達君とは、俺の幼馴染で小中高が同じの親友で「独眼竜」伊達政宗の子孫、伊達政寿郎(だてせいじゅろう)のことだ。

 

なお、政寿郎にも俺と同じように本名として、舜宗(としむね)という名前があるが、これも俺と同じように特別な状況でしか使われないため、政寿郎と名乗っている。

 

話を戻そう。

 

俺の家は、政寿郎が高校に通学するルートに

ちょうど入っているため、迎えに来るよう頼んである。

 

「あーい!」

 

と父に返事をする。

 

学校用のかばんを背負い部屋を出て、階段を降り玄関に向かう。

その途中で周囲に自称419歳と吹聴している付喪神、喜兵衛さんに会った。

 

「おっ、今から学校か。道、気をつけろよ。いってらっしゃい」

とすれ違いざまに

俺の右肩をぽんぽんと叩き、リビングに入っていった。

 

それを見届け、俺は再び玄関に向かい靴を履く。ドアノブに手をかけ、

「行ってきます」

 

と声を発すると

 

「「いってらっしゃい!」」

 

と2つの声が返ってきた。それを聞き俺はドアを開けた。すると

 

「よぉ、幸志郎」

と、俺の親友の伊達君こと政寿郎がスマホをいじりながら待っていた。

 

「待たせたな、政寿郎」

 

俺たちは2人並んで歩いて学校に向かう。

それにしても朝とはいえ寒いな、と思いながら両手をすり合わせていると、

 

「今日はいつもに増して寒いな。なぁ、幸志郎」

 

と、政寿郎がその整った顔に寒くてたまんねぇ、とでもいいたげな苦笑いを浮かべつつ、こちらを向きながら言った。

 

改めて見ると政寿郎の見た目は普通の高校生には見えない見た目だ。

 

髪は金髪。

 

右目には眼帯。

 

肌を晒さぬよう作られた特注品の制服。

 

寒いとはいえまだ必要でもない手袋。

 

そして極めつけは眼帯からはみ出、上は眉毛を焼き貫き右額(みぎびたい)まで、下は右頬まで伸びている火傷の痣のような傷。

 

とても反社会勢力に属していそうな見た目だが、

政寿郎はこんな見た目になってしまったのは、

かつて起きたとある事故が原因なのだ。

一時は彼が生死を彷徨(さまよ)った程の大事故。

なんとか一命を取り留めたものの当時幼かった彼の体には大きな傷が焼き付いた。

 

以降、その風貌故にその容姿のせいで街中を歩いていたら、職務質問されたこともある。さらに俺も共に行動していたため、巻き添えを食ってしまった。その後、なんとか誤解は解けたからいいものの…。

 

たしかに理由を知らない警察官から見れば、

金髪(事故による)のやつと灰髪(生まれつき)のやつが一緒に街中歩いていたら、怪しく見えるのも事実なのだが…。

 

以上の理由で我が親友、政寿郎はあの事故 以来、ずっとその見た目が故に周囲からの冷たく鋭い視線を氷雨を浴びるかのように、浴び続けているのである。

 

「ああ、寒いな」

と俺は手をすり合わせるのをやめた。




改めて、水谷幽愁です。
第参話いかがでしたでしょうか?

この物語の主人公である幸志郎の親友、伊達政寿郎が登場しました。
実は政寿郎は筆者がこの物語の登場人物の中でも
早く登場させたかった登場人物で登場させることができ、筆者は非常に満足です。

さて、前書きでのように副主人公、伊達政寿郎の
イメージCVを発表します!














伊達政寿郎→中村悠一さん
「呪術廻戦」五条悟役
「銀魂」坂田金時役など














ああ、やっと発表できた!(笑)
筆者が政寿郎を登場させたかった理由のひとつとして
中村悠一さんの声と演じるキャラクターが大好きだからです!
特に「呪術廻戦」の五条先生がたまんねぇ!!!
うおぉあああああああああああああああ!!













ふぅ、失礼しました。

副主人公、伊達政寿郎のイメージCVに中村悠一さんを選んだ理由として、

・この物語の主人公、幸志郎のイメージCV杉田智和さんとプライベートでも仲がいいと知ったから。

・お二方が「銀魂」で演じられた坂田銀時VS坂田金時のような対になる構図を作りたかったから。

・シンプルに中村悠一さんの声が政寿郎とマッチすると思ったから。

といった理由です。

これから先に登場する登場人物のイメージCVは迷うこともあったのですが、幸志郎のイメージCVを杉田智和さんに選んだ瞬間、中村悠一さんに確定しました。

これからの予定としては、杉田智和さんCVの幸志郎と中村悠一さんCVの政寿郎、そして次回話に登場(名前のみですが)するオリキャラヒロイン、次次回(次の次)に登場予定の原作キャラを軸とした、
「笑いあり・恋あり・修羅場あり・感動あり」の
オリキャラ×原作キャラのオリジナル物語を執筆していく予定です。

投稿スピードは卒業試験やそのあとに控える自動車免許所得や専門学校通学により遅くなってしまうかもしれませんが、必ずや完成させてみせます。

読者の皆様、この水谷幽愁が作り出す物語にお付き合いよろしくお願いします。

次回話お楽しみに!


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第肆話

どうも、おはこんばんにちは。
自動車学校で初めて車を運転し、心身共にガクブルになった水谷幽愁です。運転マジで怖かった…。
自動車学校通学や卒業試験など、ここ最近めっちゃ忙しく執筆に時間がかかってしまいました。申し訳ないです。
今回はオリキャラヒロインが登場し(名前だけですが)、イメージCVも発表します。
では第四話どうぞ!


しばらく雑談しながら歩いていると校門が見えてきた。俺達が通う貞山(ていざん)高校である。

 

※宮城県には実際に「宮城県貞山高等学校」という高校がありますがこの高校と、この作品に登場する「貞山高校」は 

 

一切関係ありません。

 

それをご理解していただき、本作品をご愛読していただきたいと思います。では、話を戻します。

 

俺達が通う「貞山高校」は俺達が住んでいる「陸前国」(現実での宮城県大半と岩手県南部)における進学校の内の一つでOB達の大半は難関大学へ進学していたり一流企業に就職している。そんな高校である。

 

ちなみに高校の名前にある「貞山」とは政寿郎の先祖である伊達政宗の諡号(しごう)(貴人や高徳な人に死後おくる名前のこと)だ。

 

校門を通り過ぎ、前方を見る。校舎に繋がる道はまるで道路のようだ。

道の真ん中には植木鉢が数mおきに置かれていて、道の両端には欅の木が植えられている。欅の木が夏ならば心地がよいが、今の季節ではむしろ逆効果である木陰を作っている並木道を抜けると校舎が見えてくる。

 

構造としては、1・2年生の教室+PC教室をはじめとする教室外授業(理科室や音楽室など)の教室で構成されたA棟。(3階構成)

3年生の教室・職員室・食堂・図書室などその他諸々で構成されたB棟。(3階構成)

そしてその両棟を繋ぐ両棟の各階中央にある渡り廊下。

 

要するに、上から見たらH型になっている、と言ったらわかりやすいだろうか。

 

校舎に入る。

他の高校と違う点としてはこの高校には下駄箱がないことだ。その理由として

 

1.そもそも、この高校の床は板ではないため普段履いている靴でも大丈夫なため。 

 

2.災害が起きた時、靴を履き替える手間をなくすため。 

 

3.いじめによる上履きを盗む・隠すなどの行為を防ぐため。

…といった上記の理由からこの高校には下駄箱がないのだ。

 

俺達のクラスである2-2の教室へ向かおうとすると女子達が群がってきた。無論、俺にではない。政寿郎に、である。

 

「きゃ―!政寿郎君だわ―!」

 

「政寿郎君今日もかっこいいわ―!」

 

…と、まるでアイドルのような人気ぶりである。 

 

第三話で触れたように、金髪に眼帯、特注品の制服に顔にある大きな火傷の痣のような傷。 

 

端から見れば不良に見られがちな政寿郎だが、それらをチャラにできるほどのイケメンでもある。

故に学年問わず女子達が群がってくるのだ。

 

すごい日にはなんと、1日でラブレターを30通もらったことがあるらしい。

 

そして、さらにすごいのが政寿郎はそれら一つ一つ全てに目を通し、全てに対してご丁寧に断りの返事を返していることだ。

 

しかし、むしろそれが女子達のハートを射抜き、ラブレターが絶えないそうな。

 

そんな女子達の群れをなんとか通り抜け、なんとか2階の2-2の教室に到着した。

 

「ふぅ。毎朝大変だなぁ。邪魔だと思わんのか?政寿郎?」

と、この高校の女子などまるで興味がない俺がうんざりげに言う。すると政寿郎は

 

「大変だとは思うが、彼女達を否定したくはないんでな」

 

ラブレターやプレゼントで両手を埋め尽くされながらも女子達を労う政寿郎。

 

きっとこのセリフを先程の女子達が聞いていたら全員まとめて感動死してんだろうな。

 

と、思っているとまたもや群れができた。だが先程と違うのは群れをなしているのは男であり、俺もその群れに囲まれていることだ。

 

「おいおい2人ともすげーな!大会優勝したんだろ?どうしたらそんなに強くなるか教えてくれよ~」

 

と、男子の群れが詰め寄ってくる。

 

実は幸志郎と政寿郎は人気オンラインゲーム

「○ォートナイト」でチームを組んでいて、男子達の言う通り、少し前に行われた大会において優勝を成し遂げた。 

 

で、幸志郎と政寿郎の人気は高まり、勝つためのコツをこうして聞きにこられているわけだ。

 

ちなみに幸志郎は配信者でもあり、「フォー○ナイト」や「○長の野望」の配信をしていて、配信者としての人気はそこそこ高い。 

 

「教えたいところだが、もうそろそろチャイムも鳴るし席に戻ったらどうだ?」

 

と、苦笑いしながら、詰め寄る男子の群れをを躱《かわ》す政寿郎に対し、

 

「話せば、お前らのメンタルがバキバキにへし折れることになるがそれでもいいなら教えるぞ?」

 

と、幸志郎が真顔で返すと男子の群れはまるで引き波の如く、さーっと自分の席に戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは高校の屋上。今は昼食の時間だ。え?授業?スルーですよ、スルー。どうせ需要ないし。

ちなみに今、屋上には幸志郎と政寿郎の2人しかいない。

 

「対応が面倒なのはわかるが、もっとまともな躱し方ないのかよお前は」

 

と、朝のことをネタに出し呆れ顔で弁当を食べる政寿郎。

 

それに対して俺は、

「これが俺なりの躱し方なんでな。」それに、と言葉を続けた。 

 

「自分の勝ちやすい方法は自分で編み出すもんさ。そりゃあ、人の意見も大事だろうけどよ。」

と、大会を優勝した者らしく答え、喉を水筒の水で潤した。

 

すると政寿郎が、溜め息をつきながら、

 

「そう思ってんならそう言ってやればいいじゃねぇかよ。」

と苦笑いしている。

 

俺が「…たしかにな。」とつぶやき、2人で顔を合わせる。「「…ぷっ!」」と2人揃って吹き出し高らかに笑った。

 

太陽も2人の笑い声に釣られたのか今まで空を覆っていた雲を吹き飛ばし、笑うように燦々(さんさん)と陽光を降り注いだ。

 

………

 

そういえばお前、と俺は口の中のご飯を飲み込み、話を切り出した。

 

「名古屋辺りで突然降ってきた落下物から通行人を守ったって話じゃねぇか。その中に5人とも顔がそっくりな女子高生がいたっていう。」

 

「そうなんだよ。それとその5人の女子高生、五つ子らしいぞ。」

 

「五つ子!?」

 

「そう、五つ子。」

 

俺は、超常現象でも見たかのような顔をしているに違いない。当然だ。双子や三つ子は見聞きしたことがあっても五つ子など見たことも聞いたこともないからだ。

 

一方、その事件以降、その五つ子達から大いに感謝され、連絡を取り合うようになっているという政寿郎は五つ子というパワーワードが出ても平然としている。

 

「そりゃあ、最初は俺も驚いたさ。でもまぁ、テレビ電話越しにだが話してたら…なんか慣れた。」

 

と、経験談を語る政寿郎が思い出したように付け足した。

 

「…そうそう、その五つ子達、話じゃあ、事情あって転校したらしくてな。今頃、転校先の高校で飯でも食ってんじゃないかな?」

 

「ほーん。」

 

だからなんだというのだ。五つ子だというのは驚いたがその五つ子達がなにをしてようと興味はない。

 

俺が意に介さず弁当を食べていると政寿郎がにやっと笑ったとかと思えば俺に近づき、

 

「転校先は八重さんのいる高校だ。それでも興味ないのか?」

 

とからかい顔で囁いた。

 

「っ!?」

 

俺の顔は政寿郎の言葉を聞くなり熱を持ち真っ赤に染まった。

 

政寿郎の言う八重さんとは、尾張柳生家初代当主にして、「柳生新陰流」の後継者※柳生利厳(やぎゅうとしとし)の子孫である柳生八重(やぎゅうやえ)のことだ。

 

※柳生利厳は元々名を、「としよし」と名乗っていたが彼が仕えた尾張徳川家初代当主徳川義直(とくがわよしなお)(はばか)って「としとし」と名乗った。事実、現在の柳生新陰流二十二世宗家(そうけ)である柳生厳信氏も「としのぶ」と名乗っておられます。

 

それに従いこの作品でも柳生利厳の名を「としとし」と表記し、その子孫という設定の創作人物の名の「厳」の読みも「とし」とします。

 

俺と政寿郎と八重は柳生道場で出会いそれ以降、性別を越えた親友になって三人で一緒に色々なことをした。

 

あるときは柳生屋敷でお泊り会をした。あるときは夏の夜に花火をした。またあるときはいたずらをして八重の父、つまり、柳生新陰流現宗家直々の拳骨を落とされ説教されたこともある。

 

まぁ、ようするに俺達は楽しい思い出を三人で作り、共有しあってきた竹馬の友なのだ。

 

しかし、実は俺は八重に対して恋心を抱いているのだ。顔を真っ赤にしたのはそのためである。

 

その感情に気がついたのはいつだっただろう。

あれはそう、中学一年生の頃だ。

 

竹馬の友だった俺達だが俺達が小学生3年生だった年を境にしばらく疎遠になっていた。

 

その後再び中学一年生の時に再会した。八重の家である柳生屋敷に遊びに行き約4年ぶりに八重に再会した。

 

当初は疎遠になる前同様、遊んでいたのだが少しずつ感情が変化していった。親愛だと思っていたそれはいつしか恋に変わっていたのである。

 

そんなこんなで数年経った現在も八重のことが好きだ。だが、俺はまだ八重に告白できていない。

 

好きなのは間違いないが、いざ告白すると考えるととても緊張する。緊張は配信者としていくらでもしたことがあるが告白(これ)に関してはその緊張度は配信の比ではない。

 

…といった感じである。

 

「…突然八重の名を出すんじゃねぇよ。」

 

想い人の名を突然出された俺はそっぽを向いた。

 

相手が政寿郎とはいえ想い人の話を突然持ち出されたことで真っ赤になった顔を見せるのは恥ずかしい。

 

ふと耳に触れてみると耳の端まで熱を持ちとても熱い。さぞ真っ赤になっていることだろう。

 

俺をからかい笑っている政寿郎だったが右腕につけた時計を見て真顔になり

 

「やべえ!あと3分で授業始まるぞ!!」

 

と血相を変えている。俺はポケットからスマホを取り出し起動。スマホの時計は…

 

13:37を示していた。

(13:40から次の授業開始)

 

「おいマジじゃねぇか!急ぐぞ!!」

弁当や水筒を即座に持ち、2人は屋上入り口のドアに駆け込み、教室まで突っ走った。

 

その後、なんとか授業にはギリギリで間に合ったものの、全力疾走したため先生に叱られ、その罰として

 

その授業の先生からの指名に2人はことごとく標的になったそうな。




どうも、水谷幽愁です。
第肆話いかがでしたでしょうか?
筆者の高校は屋上で昼食を食べることができなかったため描写に違和感があったかもしれませんが優しい目で見ていただけると幸いです。

さて、では前書きに宣言した通りオリキャラヒロイン、柳生八重のイメージCVを発表します!






















柳生八重→茅野愛衣さん
「SAO」アリス・シンセシス・サーティ役
「さくら荘のペットな彼女」椎名ましろ役など

はい。というわけで柳生八重役は茅野愛衣さんでございます。

理由としては第一に茅野愛衣さんの声がドンピシャだと思ったから。「SAO」のアリスや「このすば」のダクネスのような低い声のキャラクターとイメージしました。

第二の理由として、原作キャラ達と大いに絡むと思われるから。
そりゃあ、原作キャラのCVにあの人がいますからねぇ…。
…といった感じですね。

さて、次回話についてですが、先に宣言しておきます。
原作キャラがついに登場します!
これまで登場させなかったのには理由はとしては…











































 














「五等分の花嫁というタイトルなんだからせっかくなら第伍話に登場させよう」
という理由です。

























え?それだけ?と思われた読者様もいらっしゃるかもしれませんが、マジでそれだけの理由です。
…まあ、ここらで終わっときます。
次回話お楽しみに!


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第伍話

どうも、おはこんばんにちは。
You Tubeで杉田智和さんが真田幸村を演じている舞台を見て、運命に近い何かを感じた水谷幽愁です。何分、その舞台の存在を知らずにイメージCVを考えたもんですから。

さて、お待たせいたしました。この第五話にて原作キャラとオリキャラヒロインが登場します!では第五話どうぞ!


少々時を遡り、場所が変わる。

 

(おわりのくに)

尾張国(現実における愛知県西部)は旭高校。

この高校の食堂にて昼食を注文する女子生徒がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、柳生八重は

 

「ささみカツ定食でお願いします。」

とお気に入りの定食を注文する。やがて、ささみカツ定食がトレーに乗ってやって来た。

 

「お代は450円ね。」

と差し出された手に財布からきっちり450円を取り出し代金を支払い、トレーを持っていつも座っている席へ向かう。すると背後から

 

「焼肉定食焼肉抜きで」

 

という意味不明な注文をしている生徒の声が聞こえた。振り返り見ると頭の上に子葉のようなくせ毛?を生やした青年。彼の名前は確か…そうだ、思い出した。

 

彼の名は上杉風太郎

私と同じクラスの彼はテストで毎回全教科100点を取っており、順位は常に1位。

 

しかし、その見事なまでの成績の彼は周囲からあまりいい目で見られていないようだ。普通、テストで常に1位になっている人物ならば嫉妬はあれど慕われていても不思議ではないのに…。

 

なんて思いながらいつもの席に座り手を合わせ、箸を持とうとしたその時、左方からトレーとトレーがぶつかる音がした。

 

何事かと見てみると先程の上杉君とこの高校の制服ではない制服を着ている赤髪に星形の髪飾りを付け、アホ毛を生やした女子生徒がいる。

 

というかあの女子生徒もしかして…

 

「隣の席が空いています。移ってください。」

 

「ここは毎日俺が座っている席だ。あんたが移れ。」

 

と、どうやら席の取り合いが始まっている。

結果、上杉君と女子生徒は相席になったようだが。

 

ちなみに席の配置は以下のようになっています。 

テーブル→□

 

  風太郎    空 席    空 席

   □      □      □ 

  女子生徒   空 席    八 重

 

八重が座っている席は本来ないと思われますが都合上あることにします。

 

すると周囲から

 

「上杉君が女子と飯食ってるぜ」

 

などと冷やかしが聞こえてくる。

 

くだらない。彼が一体何をしたと言うのだ。

彼が周囲に嫌われるような言動をしている、というのならともかく、そうでもないのに冷やかしを受ける理由がない。まったくもってくだらないものだ、と思いながら声がする方向をじろっと睥睨(へいげい)すると冷やかしがぴたりと止んだ。

 

さて、気を取り直して、昼食を食べるとしよう。

う〜ん、やはりささみカツは美味しい!揚げ物である故に油が多いがそれでも肉はささみ。

お腹いっぱい食べることができ、かつ、ダイエットにも気を配れる。なんと優秀な定食であろうか!

 

と、定食を半ば食べ進めていると上杉君が昼食を食べ終わったのかトレーを持って去って行く。そしてそれを追うように、

 

「あなたみたいな無神経な人は初めてです!もうなにもあげません!」

 

と女子生徒が顔を赤くして怒っている。

 

上杉君…女子生徒になにをしたのだ。

…そうだ!彼女に近づくには今がチャンス!

赤髪にあんなアホ毛を生やした人物はよほどいない。

トレーを持って先程まで上杉君が座っていた席へと向かう。

 

「すみません、相席よろしいですか?」

 

と問うと、

 

「ああ…どうぞ。」

 

と怒りが収まっていないのか不機嫌な口調で答える。私は席に座り、

 

「人違いだったらすみません。あなたもしかして…五月さんではないですか?」

 

と、聞くと彼女は、はっと顔を上げ、

「もしかして…八重さん?」

 

と一転、顔を明るくし聞いてきた。私は笑顔を浮かべ、

 

「はい。八重です。」

 

とにこやかに返すと

 

「あぁ!この高校に八重さんがいることは知っていましたが、まさかここで出会えるとは!」

 

と五月さんはさっきまでの不機嫌さがなかったかのように私との再会を喜んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読者様はこう思われたでしょう。そもそもなぜ、八重が五月のことを知っているのか、と。

 

理由は第四話で触れられた、政寿郎が落下物から通行人を守った事件。

実はその場に政寿郎と共に守る側として八重もいたからなのだ。

 

結果、政寿郎同様、五つ子達から親しくなり、

五つ子達が事情あってこの高校に転校してくることも知っていた、というわけだ。

 

「テレビ電話ではたくさんお話しましたが直接お会いするのは初めてですね。」

 

と、すっかりご機嫌よくなり、にこにこしながら五月さんが言う。

 

「えぇ。直接会うのは初めて。そういえば、他の四人はどこに?」

 

「それが、運悪くクラスがバラバラになってしまったようで…」

 

どうやら行動が別々になってしまったようだ。

 

「そうですか…。ところで先程怒っていましたが、上杉君となにがあったんですか?」

 

「…あぁ。彼のことは思い出したくなかったのですが…」

 

と言いつつも、なにがあったか話してくれた。

 

時は上杉君と五月さんが相席することになった場面まで遡る。

 

五月さんが昼食のうどんを食べていると、上杉君はごはんを食べながら単語帳を見ていたようで

 

「行儀が悪いですよ。」

と注意したところ

 

「テストの復習をしてるんだ。」

 

と返ってきたという。

五月さんはてっきり上杉君が成績が悪い人だと思ったらしく

 

「へぇ、よっぽど追い込まれているんですね」

 

そう言いながら上杉君のトレーにあった答案用紙を奪って見てみると、そのテストの点数は100点だったようだ。

…ですよね。彼のことですし。

 

すると、上杉君は

「あーめっちゃ恥ずかしい」

 

なんて恥ずかしくもないくせにそう言ったようで

 

「わざと見せましたね!」

 

とそれに怒る五月さん。

いや、五月さんが勝手に見たんでしょうよ…。

 

自分があまり勉強が得意ではないと自覚している五月さんが

「せっかく相席になったんです。勉強教えてくださいよ。」

 

と頼むと、上杉君は、

 

「ごちそうさまでした。」

 

とその場を去ろうとする。上杉君の昼食が少ないのを見て自分の分を少し分けましょうか?と提案すると上杉君は、

 

「むしろ、あんたが頼みすぎなんだよ。太るぞ。

 

と去りに際言い放ったという。

 

で、先程聞いた「あなたみたいな(以下略)」のくだりに繋がったわけだ。

 

「ああ、なるほど。」

 

私は苦笑いした。いや、せざるをえなかった。

上杉君、女の子に「太るぞ」は禁句ですよ…。

 

やがて私達は昼食を終え、トレーをトレー返却口に持っていく。その道すがら、

 

「そういえば八重さんのクラスはどこなんですか?」

 

と五月さんが聞いてくる。

「私のクラスは2-1ですよ。」

 

と返すと

 

「あぁ。まさかクラスまで同じとは!改めてよろしくお願いしますね八重さん。」

 

とにこやかに会釈する五月さん。

 

「まさかとは思いますが、あの無神経な彼とは同じクラスではないですよね?八重さん?」

 

と念を押すように五月さんが聞いてくる。

 

「さ、さぁ。どうでしょうねぇ?」

 

と私は苦笑いして有耶無耶にしながら2人で食堂を後にした。

 

その少し前、風太郎が妹のらいはから彼らの父、勇也《いさなり》が持ち込んだという家庭教師のバイトがあるということと、その家庭教師をする生徒がどんな人物であるかを聞かされていた。

 

場所は変わり教室。

 

風太郎と八重が属している2-1の教室だ。

 

「中野五月です。どうぞよろしくお願いします。」

 

転校生である五月が自己紹介すると教室中が

 

「普通にかわいい」 

        (ばら)

「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」

 

「マジかよ超金持ち!」

 

など、それぞれの反応でざわめく。

そんな中、風太郎は、

「この人知ってる!」と

 

妹、らいはとの会話を思い出していた。

 

「最近転校してきたお金持ちの高校生の人で名前はたしか中野さんって言ってたかな。」

 

と、らいはが言っていたが…。

どうやら自分の家庭教師の生徒となるのは、食堂で「太るぞ」と言って怒らせたあいつ、五月のようだ。

 

先生に座る席を指示された五月はこちらに向かってくる。

「どーも」

 

と挨拶するも、ふん、と顔を背け行ってしまった。

 

「よろしくお願いします。」

 

と自分の周囲の席の生徒に挨拶する五月。

 

「ま…まずい」

 

と自分が家庭教師をするであろう転校生、五月をそうとも知らず怒らせてしまったことを悔やむ風太郎であった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後八重は、五つ子たちと帰る約束をしていた。

昇降口で五つ子たちを待っていると

「あ!柳生さんだ!」

 

と、こちらに向かってくる女子生徒。中野姉妹の四女、四葉さんだ。

 

「テレビ電話ではたくさんお話しましたが直接会うのは初めてですね!嬉しいです!」

 

と、特徴的なうさ耳リボンをひょこひょこさせている。

 

すると、

「おーい、八重ちゃん!四葉!」

 

と手を振りながらやって来る女子生徒。

 

中野姉妹の長女、一花さんだ。

特徴としては薄いピンク色の頭髪に右耳のピアスだろうか。

 

「テレビ電話でたくさんお話したけど直接会うのは初めてだね!」

 

と右耳のピアスをキラリと光らせながらにこにこしている。

 

「あっ、五月が来たよ!」

 

と四葉さんが指を差した。

 

その方を向くと五月さんがいた。

 

「八重さんに一花、四葉も来てたんですね。」

 

と、中野姉妹の五女、五月さんは彼女の特徴であるアホ毛を揺らしながらこちらにやってくる。見るとその手には購買で買ったのだろう。あんぱんを持っている。昼食であんなに食っておきながらまだ食うのかと上杉君ならいいそうだなと思っていると

 

「ヤエもみんなも来てたんだ。」

 

とセミロングで顔の右目が隠れている髪型と首に髪を挟むようにしてかけている青いヘッドホンが特徴の中野姉妹の三女、三玖さんが、

 

「テレビ電話でたくさん話したけど直接会うのは初めてだね。」

 

と眠そうな目をした顔に微笑を浮かべた。

 

そして最後に、

「私を忘れてもらっちゃ困るわよ」

 

とやや高圧的な口調でやって来たのは中野姉妹の次女、二乃さんだ。ぱっつん前髪で姉妹たちの中で一番長いロングヘアーに黒い蝶の髪飾りを左右に付けたツーサイドアップが特徴だ。

「テレビ電話で色々話したけど直に会うのは初めてね。」

 

…さすが五つ子。「テレビ電話で(以下略)」のくだりが全員ほとんど同じだ。

 

ちなみにだが、私は見た目の特徴としては

・生まれつきある銅色の髪のストレート(背中中央まで伸びていて、髪ゴムで結んでいる。)

・茶色のセーター

・金色のロケットペンダント

…といった感じである。

さて、話を戻そう。

 

一「じゃあ、みんな揃ったし帰ろうか」

 

四「せっかく柳生さんもいることですし、どこか寄って行きませんか?」

 

ニ「いいわね。スイーツでも食べに行かない?」

 

五「それなら、このお店はどうでしょう?パフェが美味しいと評判だそうですよ。」

 

五月さんが○oogleマップである店を示すと

 

すると一花さんがにやにやしながら、

            (メイ)

「さすが有名レビュアー、MAYさんだね〜。」

 

とからかっている。すると五月さんが、

 

「一花!それは内緒だって言ったじゃないですかー!」

 

顔を彼女の髪色のように真っ赤にしている。

なるほど。五月を英訳してMAYというわけか。

 

それにしてもレビュアーの件の暴露は五月さんにとって大事《おおごと》だったようで早くも涙目になってしまっている。…レビュアーの件は聞かなかったことにしてあげよう。それが五月さんのためだ。

 

三「とりあえず、そのお店に行こう。抹茶パフェあるかな?」

 

そう三玖さんに促され私達6人は雑談しながらそのお店に向かい到着。席に座りそれぞれの注文をした。ちなみに三玖さんご所望の抹茶パフェはあったようで三玖さんはご満悦の様子だ。

 

「ねぇ八重、まだ政寿郎君のメアド教えてくれないの?」

 

と二乃さんが険しい顔で聞いてくる。

どうやらテレビ電話越しにだが一目見た瞬間、惚れてしまったらしいのだ。

二乃さんいわく、「ワイルドで素敵♡」とのことである。

 

本来なら別にメアドを教えてもかまわないのだが教えないのには理由がある。それは二乃さんの考え方である。どうも二乃さんは私を恩人としては感謝していながらもどこか一線を引いている節がある。それがなぜかはわからないが。

 

そんな二乃さんにとって私はおそらく、政寿郎君と自分とを繋ぐパイプだと思っているのだと思う。その二乃さんにメアドを教えてしまったらどうなるか?

 

私の立場であるパイプが不要となり、最悪お払い箱になりかねない。それはまずい。私にはお父様と中野医院長に任された任務がある。それを果たすまでは…

 

 

「八重!」

 

びっくりし、顔を声の主に向ける。二乃さんだ。

 

「どうかしたの?すごく険しい顔してたけど?」

 

とさすがの二乃さんも心配してくれているようだ。ほかの姉妹たちも同様である。どうやら、自らの思考に閉じ籠もっていたために姉妹たちの声が聞こえていなかったようだ。

 

「ああ、すみません。少し考え事をしていたもので。」

 

と謝り、テーブルを見るとすでに6人分のパフェが届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、陸前国。灰髪の学生と金髪の学生が下校している。無論、幸志郎と政寿郎である。

 

なにやら下校前から風が強く、空が雲に覆われていく。そういえば10日ほど前に、

 

上総国(かずさのくに)(現実の千葉県中央部)

下総国(しもうさのくに)(現実の千葉県北部)

安房国(あわのくに)(現実の千葉県南部)

 

に、巨大台風が来襲し壊滅的な被害を出しており、現在復旧作業に追われているとか。

 

その台風とは関係ない普通の雲だが、空を覆っているその雲は、ことごとく灰色で今にも雨が降ってきそうだ。

 

なので二人は走って下校している。

 

政「雨が降ってくる前にさっさと帰らねぇと!」

 

幸「濡れるのはごめんだぁ!」

 

 

並んで走っているとスマホが鳴る。政寿郎がポケットからスマホを取り出す。白い機種で裏側には伊達家の家紋である「竹に雀」が描かれている。

 

『あー、もしもし?俺です。…うん…うん…おぉ!五つ子に接触できましたか!じゃあ、さっそく直接会いに行く段取りを……ほぉ、家庭教師ねぇ。すんません、詳しい話はあとで頼みます。今走りながら通話してるもんでね。…あぁ、二乃がやっぱり…。打ち合わせた通りメアドは教えないでください。教えたら二乃は八重さんになにをしでかすかわかりませんから。…うん…うん…あとで連絡はこっちからします。……うん…じゃあ、また。…はーい。』

 

「八重となに話してたんだ?」

 

「昼に言った五つ子の話さ。なんだ?俺と八重さんが話してるの見て嫉妬したのか?」

通話を切った政寿郎がにやにやしながら幸志郎をからかう。

 

「そ…そうじゃねぇよ…。」

 

曇天(どんてん)の中でも、昼食の時のような会話を走りながらもする二人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、幸志郎の家の前に到着した。その頃にはぽつぽつと雨が降り始めていた。

 

「雨降り始めたし傘貸そうか?」

 

「いやいや、こんな小雨どうってことねぇよ。走って帰るさ。」

 

「そうか。じゃあ、明日な。気をつけて帰れよ。」

 

「あ~い。」

 

幸志郎が、家に入っていくのを見届けると、政寿郎は今までしていた笑顔をスッと消し、家に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…背後から気配がする。それも幸志郎と帰って来てた時からずっと。俺の走る道の右手にあまり人気《ひとけ》のない小道がある。俺はその小道に入る。なお、相手を一瞬でも油断させるため、俺は気配に気づいていないふりをして気配の主に背を向け歩き続けている。

 

すると気配の主も少し時間を空け同じ小道に入ってきた。その瞬間、俺は右手首を手を添え、今まで来ていた制服から幕末の志士が着ていたような黒い羽織袴に瞬時に姿を変えた。羽織の背には雷の刺繍(ししゅう)が施されており、腰には刀の大小を帯びている。

 

気配の主がこれから起きるであろう未来を予感したのか、逃れようとする。

 

「無駄だ!」

 

と低く鋭い声を発した刹那、その場で左足を軸に時計回りで気配の主に体を向け、右足を地を揺るがすほど大きく踏み込みと同時に腰に帯びていた刀を瞬時に抜き、上から叩きつけるようにして気配の主を頭から股まで、まるで薪(まき)でも割るかのように叩き斬った。

 

 

しばらく斬ったままの体勢でいたが刀を払い鞘《さや》に納め、袴羽織の懐中を探る。懐中から黒いスマホを取り出し、電話をかける。 

 

 

 

『…ああ、俺だ。記録係に伝えてくれ。リストの1074番は消しておいてくれと。…ああ。たった今祓ったところさ。…まぁまぁ、そうかっかしなさんな。

…え?名古屋支局長様からお呼びがかかった?日曜日に?…ああ、わかった。承った、と伝えておいてくれ。……おう、じゃあな。』

 

俺は通話を切り、黒いスマホを懐中に戻し、先程斬った気配の主を見た。真っ二つになったそれは紫色の炎を俺の腰の高さまで燃え上がっているが、しばらくすれば燃え尽きるだろう。小道へ冷たい風がびゅうびゅう音を立て、入り込んでくる。

 

 

政寿郎は紫色の炎に背を向け、小道が作り出している薄闇(うすやみ)の中に右手首に手を添え、瞬時に制服姿に戻りながら消えて行った。




改めてどうも、水谷幽愁です。
伍話目にしてようやく原作キャラが登場しました。
まぁ、くそどうでもいい理由で登場させなかったのは筆者自身なんですけれども(笑)

必要ないかもしれませんが一応、原作キャラの声優陣を確認しておきましょう。


















上杉風太郎→松岡禎丞さん
「SAO」キリト役
「鬼滅の刃」嘴平伊之助役など

中野一花→花澤香菜さん
「ニセコイ」小野寺小咲役
「化物語」千石撫子役など

中野二乃→竹達彩奈さん
「けいおん!」中野梓役
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」高坂桐乃役 など

中野三玖→伊藤美来さん
「BanG Dream!」弦巻こころ役
「安達としまむら」島村抱月役など

中野四葉→佐倉綾音さん
「ご注文はうさぎですか?」ココア役
「僕のヒーローアカデミア」麗目お茶子役 など

中野五月→水瀬いのりさん
「リゼロ」レム役
「心が叫びたがってるんだ」成瀬順役など

といったおなじみの声優陣ですね。…これ必要かな?

さて、初めてオリキャラと原作キャラが出会いました。この先どんな展開になっていくんでしょうねぇ?
次回話お楽しみに!


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第陸話

どうも、おはこんばんにちは。
五等分の花嫁の最新話、三玖のあのシーンを見て感動のあまり過呼吸になりかけた三玖推しの水谷幽愁です。

いやぁ、あのシーンはマジで神ですよ神!
テレビで見なかったことを心の底から後悔しました。

さて、今回は風太郎が五月に接近しようと目論む話ですね。
では、第陸話どうぞ!


翌日俺、上杉風太郎は食堂でいつも通り「焼肉定食焼肉抜き」を注文し、それが乗ったトレーを持って席に向かいながら思案に暮れていた。

 

何について思案しているのかというと、

昨日この食堂で「太るぞ」と言って怒らせてしまった転校生、中野五月についてだ。

 

出会った当初はどうとも思っていなかったが、そうも言ってられなくなってしまった。

 

なぜか?

 

昨日、親父が持ち込んだという家庭教師のアルバイト。家庭教師をする生徒というのがその中野五月だったからである。しかも、今日が初仕事の日。

 

今の冷え切った関係のまま家庭教師をしようとしたとしても拒否されるのが目に見えている。

故に関係を急ぎ修復せねばならない。

 

これは俺個人の問題ではない。家族全体の問題だ。

 

俺の家には借金がある。

親父は昼夜問わず汗水流しながら働いてくれているし、らいはも自分のしたいであろうことを我慢して家事を頑張ってくれている。俺もこれまで色々なバイトをこなしてきたが、高額な借金はびくともしなかった。

 

そんなところに舞い込んで来たのが、このバイト。

らいはによれば相場の五倍の給料がもらえるのだという。

 

これ以上いいバイトはないだろう。他人に勉強を教えたことがないため、少々不安ではあるがうまくいけば

少しでも親父やらいはに楽をさせることができ、借金返済にも貢献できるだろう。

だから絶対に諦めるわけにはいかないのだ。

 

周囲を見回していると……見つけた!五月だ。

なんとか彼女のご機嫌をとらねば。

作戦も考えてきた。

 

※以下、風太郎の作戦イメージです。 

(風太郎→風  五月→五)

 

風「また君と机を並べたくて来てしまったよ。もちろんご飯だけではなく勉強もね!」

 

五「まぁ!なんてロマンチック☆」

 

以上。

 

完璧だ。これ以上の作戦はないだろう。

会心の笑みを浮かべていると五月が席に着いた。

 

何!?友達と食べているだと!?

 

「友達と食べてる!」

すると五月が俺に気づいたようで昨日の仕返しとばかりに

 

「すみません。席は埋まっていますよ。」

ときらっきらした笑顔で言った。

 

くそ!友達と食べているのでは接触しようがない。

とりあえず、自分の席に行こう。

 

そう思い背を向けると、

「ちょっと君、行っちゃうの?」

 

と、声をかけてくる五月の友達。

 

「五月ちゃんが狙いなんでしょ?ん?」

と外してある第二ボタンから見える胸元を強調しながら問いかけてくる。

 

「狙ってるわけじゃ…」

と前髪をいじる。

 

「えっ!?本当に五月ちゃんなんだ!」

と口を手で覆い驚いている。

 

「ずばり、決め手はなんだったんですか〜?真面目なとこ?好きそうだもんね」

いやだから狙ってるわけじゃないんだって。

 

「あ、そうだ。私が呼んできてあげるよ。」

 

「待て。余計なお世話だ。自分のことは自分でなんとかする。」

 

と五月の友達の腕を掴みながら言うと

「ガリ勉君のくせに男らしいこと言うじゃん!」

 

と背中をぶっ叩かれた。めっちゃ痛てぇ。

 

「困ったらこの一花お姉さんに相談するんだぞ。なんか面白そうだし。」

と言って去っていった。

 

お姉さんって…同学年だろ?多分。まぁ、いいや。

 

いつも座っている席に座り考える。

あの様子では五月は昨日の件を完全に根に持ってるな。

余計なこと言うんじゃなかったな。

 

「上杉さーん」

 

また接触できる機会があればいいんだが…。

 

「うーえーすーぎーさーん」

 

ん?なんだ?顔を上げるとうさ耳リボンを付けた女子生徒がほとんど顔が接する距離にいた。

「うぉっ!誰!?」

 

びっくりした!いつの間に!?

「あはは。やっとこっち見た。」

 

と両手で頬杖をつきながらにこやかに笑っている。

 

そういえば、このうさ耳リボンさっき五月のテーブルにいたな。こいつも五月の友達か?

 

というかそもそも…

 

「なんで俺の名前を知ってるんだ?」

 

と聞くと、

「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました」

 

まってました、とばかりに2枚の解答用紙を取り出し、

 

「あなたが落としたのはこの100点のテスト?それともこの0点のテスト?」

 

左手に100点の解答用紙。右手に0点の解答用紙を持っている。お前は泉の女神か?

 

ってか、なんで俺の解答用紙持ってんの?

 

「右だ。」

俺から見て右側に100点の解答用紙がある。

 

「正直者ですね。両方セットで差し上げます。」

 

と、両方の解答用紙を渡された。

0点のテストの名前の記入欄には「よつば」とある。

 

「いらねぇよ。この0点のテスト誰のだよ?」

 

「私のものです。」

 

「よく差し上げる気になったな!」

0点のテストなんて初めて見たぞ、まったく…。

トレーを返却口に持っていこうとすると「よつば」が

 

「上杉さんの第一印象は『根暗』『友達いなそう』でしたが『天才』を加えておきますね」

 

「全然嬉しくない。」

そういえば、次の授業は体育だったな。戻ったら着替えねば。

 

「いつまで付いてくるの!?」

 

「よつば」は俺が着替えている教室まで付いてきていた。顔を半分だけ出し、

 

「まだお礼を言われてません」

と口をへの字に曲げ、こちらを見ている。

 

「落とし物を拾ってもらったら『ありがとう』天才なのにそんなことも知らないですか?」

 

「…」

 

先程渡された、「よつば」と書かれた解答用紙を返す。

 

「え?私の…」

 

「たまたま拾った。これで貸し借りなしだな。」

 

「…そっか!ありがとうございますっ!」

 

と満面の笑みの「よつば」。

「お礼言っちゃったよ。」

 

「そうだ…お前…あの中野五月と仲いいんだろ?俺が謝ってたってあいつに伝えてくれないかな?」

 

こうなったら友達伝いに謝る作戦に変更だ。

 

「よくわかりませんがダメですよ。そういうことは五月本人に直接言わないと!」

 

えぇ…マジか…。

 

放課後とりあえず五月に付いていくことにした。

…まではよかったのだが、五月はどうやら友達と帰っているようだ。

 

くそ!帰り道なら一人になると思ったのに…

五月は右目が髪で隠れていてヘッドホンをつけている友達と髪の左右に黒い蝶の髪飾りをつけた友達といる。

 

五月はというと肉まんを食べている。

…まだ食うの?おっといけない。こんなだから昨日みたいなことが起きるんだ。

 

「五月食いすぎじゃない?」

 

髪飾りの友達よ、ごもっともだ。

 

「そうですか?まだ2個目ですが…」

 

2個目なの!?しかもまだって…。

そんなことはどうでもいい。謝るタイミングがねぇな…。

 

ちなみに俺は顔出し看板からこの様子を見ている。

前を通った親子に変な目で見られたが、今はそれどころではない。

 

「この肉まんおばけ!男にモテねーぞ」

 

と髪飾りの友達が五月のお腹をプニプニしている。

「わ、私だって昨日、男子生徒とランチしたんですからね!」

 

根に持ってるくせになにが「ランチしたんですからね!」だ!あの野郎!

 

「マジ!?」

 

髪飾りの友達がめっちゃ食い付いている。

それにしても髪飾りの友達邪魔だな…。

あれ?ヘッドホンの友達どこ行った?

 

「一人で楽しい?」

 

「あ」

しまった!ヘッドホンの友達にばれてしまった!

どうしよう…なにか言い訳を…そうだ!

 

「割とね…こういうのが趣味なんだ。」

 

「ふぅん。女子高生を眺める趣味…予備軍…」

 

「あ、そっちじゃなくてね。」

見るとヘッドホンの友達は通報しようとしている。

 

「無言で通報するのやめて。あと友達の五月ちゃんにも言うなよ?」

 

「…わかった。でも、あの子は友達じゃない。」

 

えぇ…仲良く見えるんだけどな。女子も友達事情は大変なんだな。ますます人付き合いめんどくさくなったな。

 

しばらく五月一行についていくと山のように高いマンションが見えてきた。

まさかあれが五月の家!?マジもんの金持ちじゃねーか。

 

「なに?君、ストーカー?用があるならあたしらが聞くけど?」

 

「げっ…」

 

しまった…髪飾りの友達に捕まってしまった…。

「お前たちじゃ話にならない。どいてくれ。」

 

「しつこい。君、モテないっしょ。早く帰れよ。」

 

こいつ…初対面の人に対して辛辣《しんらつ》すぎない?

 

「帰るも何もここ、僕の家ですけど?」

 

「え!?マジ?ごめん…」

 

よし、嘘にうまく引っかかったな。

 

「焼肉定食焼肉抜き、ダイエット中?」

 

と、ヘッドホンの友達。やべっ!聞かれてたのか!だが行くのは今しかない!

 

「あ!ここの住人じゃないだろ!」

 

と裏から聞こえたが知ったことか。

 

見つけた!五月!!五月がエレベーターに乗ろうとしている。

 

ここが声をかけるラストチャンス。ここで謝れなかったら家庭教師の話がなくなっちまう!間に合ってくれ!

 

まったくない体力を振り絞り走るが無情にもエレベーターはガシャンと音を立て閉まってしまった。

こうなったら…階段上るしかねぇだろ!!

 

「うぉおおおおおお!!」

 

階段を駆け上り続けながら心中、五月を罵る。

 

全部あいつのせいだ!

他人の顔色を窺《うかが》う居心地の悪さも

学校帰りにこんなところで汗だくになって走ってるのも

 

見透かしたような眼のアイツに絡まれたのも

 

しつこい単純バカのアイツに付き纏(まと)われたのも

 

何を考えているのか理解不能なアイツに警戒されたのも

 

正義ヅラしたアイツに因縁つけられたのも

 

全部こいつのせいだ!

 

「待て!」

 

よかった!なんとか追いついた!

「なんですか?私に何か用ですか?」

 

「…き、昨日は…」

 

「え?なんて?というかなぜあなたがここにいるのですか?」

 

なぜ言えない!謝るだけだろ!

 

「昨日は…わ、悪…」

 

「用がないなら私はこれで」

「わー待て待て!」

 

「何がしたいのですかあなたは!?今から家庭教師の先生が来てくださるので「それ俺。」」

 

「…はい?」

 

「家庭教師、俺。」

 

というと五月は「ガーン」と○ャイアンの「ボエー」の如く

言葉が立体化していそうな顔をした。

 

「だ、断固拒否します!」

 

ふざけんじゃねぇ。それはこっちのセリフだ!

 

「俺だって嫌だ!俺の方が嫌だね!だが諦めるわけにもいかない。昨日のことは全面的に俺が悪かった!謝る!」

 

「今日から俺がお前のパートナーだ!!」

 

…うまく言ったはいいけどこの体勢、傍から見たら、らいはが言ってた「壁ドン」とかいうやつに見られるのかな…。

 

「そんな…無理…こんな人が私たちの家庭教師だなんて」

 

…膝《ひざ》から崩れ落ちんなよ…。というかこいつ、今なんて言った?

 

「私たち?」

 

そのときエレベーターがこの階に到着し、見覚えある奴らが出てきた。

 

「あれ?優踏生くん?」

 

「いたー!こいつがストーカーよ!!」

 

「上杉さんがストーカー?」

 

「二乃、早とちりしすぎ」

 

え?なんでこいつらがここにいるんだ!?

 

「なんでこいつらがいるんだ?」

 

「なんでって…住んでるからに決まってるじゃないですか。」

 

そう言われ、家の表札を見てみると

 

         「NAKANO」

 

は?どういうことだ?余計に謎が深まったんだが?

…そうか!シェアハウスだ。こいつらはきっと友達同士でシェアハウスをしているに違いない。

 

「へ、へぇ…同級生の友達五人でシェアハウスか。」

 

この時、急激な負荷を負った俺の脳は限界を越えた高速回転により一つの答えを導きだした。

 

夢だ。これは夢に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違います。私たち、五つ子の姉妹です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式場の教会の扉の前に立つ風太郎と花嫁

 

花嫁「夢のような日ってふふっ。風太郎が私たちに会った日でしょ?夢のようだなんて見えなかったけど?」

 

風太郎「そうだね。俺はあの瞬間を大人になってからも夢に見る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもない悪夢だ。




改めて、水谷幽愁です。
ようやく風太郎と五つ子が出会いましたね。
これからどうなっていくのでしょうかねぇ?
早くオリキャラと原作キャラの絡みをもっと描きたいです!
今回は…話すネタがありません。(苦笑)
次回話お楽しみに!


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第漆話

どうも、おはこんばんにちは。
五等分の花嫁の最終話の一花の「全部嘘」のあのシーン、推しではないけれど、嗚咽した水谷幽愁です。
前回の投稿から約1ヶ月ほど経ってしまいました。申し訳ございません。
自動車学校が思った以上に忙しく、難航してしまったためです。
そんな忙しい合間に少しずつ執筆し、ようやく完成しました。
これからは少しはましになると思いますので頑張っていこうと思います。

それから、UAが2100を突破しました。これからも本作をご愛読していただければ幸いです。
では、第七話どうぞ! 



『五つ子!?』

 

『ああ。彼女たちは正真正銘、一卵性の五つ子だ。君には卒業まで導いてやってほしい。もちろん報酬は5人分払おう。』

 

なるほど。相場の5倍の給料ってそういうことだったのか。

…っていうか一卵性の五つ子なんているのか!?

ざっと計算しても……5500万分の1の確率だぞ!?

○ャンボ宝くじ1等が当たる確率や人に雷が直撃する確率ですら1000万分の1だというのに…。

 

かくいう俺はあの五つ子たちにとりあえず家に上げてもらい彼女たちの父親から電話越しに色々聞かされていた。

五つ子であるのもなかなかだがあの関係性では家庭教師などろくにできないのではないか?

それなのに卒業まで導いてやってほしい、とか言われても…

 

『そ…それはちょっと自信ないかなー…とか言って』

 

『そうかい。君のお父さんに押し切られてしまったが仕方がない。残念だがこの話はなかったことに…』

 

『自信がみなぎってきました!! 

娘さん全員を卒業させてみせます!』 

 

『…』

 

『期待しているよ。ところで娘たちはそこにいるかい?』

 

『ええ。事情を説明して部屋に集まってもらっています。』

 

嘘だ。事情を説明する以前に部屋には五つ子は誰一人としていない。

 

『どうかしたのかい?』

 

『ま、全く問題ありません。おいおい押すんじゃないよ。全く困った生徒たちだ!ははは!』

 

ぴっ、と通話を切る。

 

「はぁ…あいつらいったいどこに…」

 

「はいはーい!私がいまーす!」

振り返って見るとうさ耳リボンが特徴的な…

「四葉…だっけ?0点の…」

 

えへへと頭の裏に手をやり笑う四葉。

いや、まったく笑いごとじゃないからね…。

 

「お父さんとは話せましたか?」

 

「あぁ。お前らが本当に五つ子とは…。そうだ。ちょっと眉間にしわを寄せてみてくれ。」

 

「こ、こうですか?」

四葉が眉間にしわを寄せた表情を作った。

その顔が五月に瓜二つだ。いや、こいつらの場合、瓜五つか。

 

「ってか、なんでお前は逃げてないの?」

 

「し、心外です!上杉さんの授業を受けるために決まってるじゃないですか。」

 

「!」

おぉ!一人でもやる気を示してくれるやつがいるとは!

 

「怖い先生が来るかと思って嫌だったんですが同級生の上杉さんとなら楽しそうです!」

 

おぉ!マジで嬉しい!感動で泣きそう…。

 

「四葉、抱きしめてもいいか?」

 

「さー、他のみんなを呼びに行きましょう!」

 

階段を昇り四葉が姉妹たちの部屋を案内した。

 

「手前から五月、私、三玖、二乃、一花の順です。」

と各部屋を指差した。

 

「五人集めるところから始まるとはな…」

 

「大丈夫ですって。五月は凄く真面目な子です。余程のことがない限り協力してくれますよ!」

と五月の部屋のドアをノックした。

 

「嫌です!」

即答かよ…。

 

「あれー!?」

と四葉がびっくりしている。

 

「そもそもなぜ同級生のあなたなのですか?この町にはまともな家庭教師は一人もいないのでしょうか。」

 

「なんだよ。昨日は勉強教えてほしいって行ってただろ。」

 

「気の迷いです。忘れてください。」

 

バタンと大きな音を立ててドアを閉められた。

 

「…」

…四葉の言ってた余程のことがあったな。そういえば。

 

「あはは、五人いれば一人くらいこうなりますよ。」

 

「次行きましょう。三玖は私たちの中で一番頭がいいんです。上杉さんと気が合うのでは?」

 

「…」

 

嫌な予感がする…。

 

……………

 

「嫌」

 

ですよね…。

 

三玖の和風的な部屋に入れてもらったはいいものの、なぜか俺と四葉は正座させられている。

 

「なんで同級生のあなたなの?この町にはまともな家庭…」

 

「わかった!さっきも聞いたそれ!」

 

「つ、次行きましょう。」

と四葉が苦笑いしながら促す。

 

「二乃は人付き合いがとても上手なんです。上杉さんともすぐ仲良くなれますよ。」

 

………………………

 

「部屋にもいないってどういうこと!?」

部屋に二乃の姿はなかった。

 

「なんか自信なくなってきた…」

 

「大丈夫です!まだ一花が残ってます!一花は…………」

 

「何?その間?」

 

「驚かないでくださいね。」

と言い、一花の部屋のドアを開けた。

 

そこに広がっていたのは、いわゆるゴミ屋敷だった。いや、これはゴミ屋敷ならぬ服屋敷だな。

 

「…ここに人が住んでるのか?」

 

俺が服屋敷が圧倒されていると

 

「人の部屋を未開の地扱いしてほしくないなぁ。」

と、一花があくびをしながら布団から出てきた。

 

「もー、この前片付けたばかりなのに…」

えぇ…これで片付けたばかりなの?

 

「まさか君が私たちの先生とはね〜。それで五月ちゃんを見てたわけだ。」

 

「いいから居間に行くぞ。」

と一花から布団を剥がそうとすると、

 

「あーだめだめ!服着てないから照れる。」

 

「なんでだよ!」

俺は前髪をいじる。

 

「ほら、私って寝る時基本裸《ら》じゃん?あ、ショーツは穿いてるから安心して」

 

「…」

そういう問題じゃねぇんだよ…。

 

「あれー?脱いだ服どこだー?四葉そこら辺にある服適当にちょうだい。」

着てた服の場所ぐらい覚えとけよ…。

 

一花の机を見ると色々な物が散乱している。

「はぁ…この机なんて最後に勉強したのはいつのことやら」

 

「もー、勉強勉強ってせっかく同級生の女の子の部屋に来たのにそれでいいの?」

と誘惑するような体勢で問いかけてくる。

 

「…」

こいつ…わざとやっているのか?

 

「うわっ、一花…こんなの持ってるの?お…大人…」

 

どうやら一花の服を探していた四葉が一花の大人びた下着を見つけたようだ。

 

「同じ顔だし四葉でもいけるんじゃない?」

 

「えええ!?」

 

「小学校の頃のパンツはもう捨てないとね。」

 

「わーっ!上杉さんがいるからシー!!シー!!」

…俺は今、どんな顔をしているだろうか…。

 

四葉が一花の下着を自分に重ね、

「う~ん…う、上杉さんはどう思いま…あれぇ!?」

もうそこには俺はおらんぞ。

 

「早く着替えて居間に来てくれ。」

と一花の部屋を出ながら言うと

 

「ふん!上杉さんのオシャレ下級者!」

と言われたが知ったことか。服は最低限あればいい。

 

一花の部屋を出るとそこには三玖がいた。

 

「フータロー…だっけ?聞きたいことがあるの。」

 

「なんだ?」

 

「私の体操服が無くなったの。赤のジャージ。」

 

「そうか、見てないな。」

 

「さっきまであったの。フータローが来る前はね。」

 

「…。」

あ、これ、俺が疑われているパターンか…。

 

「盗…」

 

「ってない!」

 

即座に否定する。すると、

 

「おーい!クッキー作りすぎちゃった。食べる?」

と、髪の左右に髪飾りをつけた二乃が作りすぎたというクッキーと共に現れた。

 

「二乃、今はそれどころじゃ…。」

 

「あ!あのジャージって…。」

と四葉。

 

目を凝らして見てみると二乃が着ているジャージには

「中野 三」と名前が縫われてある。

…よかったな三玖。犯人見つかったぞ。

 

………………………

 

「よし、これで四人だ。五月はいないが始めてしまおう。まずは実力を測るために小テストを…」

 

「「「「いただきまーす」」」」

テーブルには先程、二乃が作ったクッキーやお菓子が広げられている。

 

「…」

小テストやる気ないなこいつら…。

 

「おいし〜。これ何味?」

と一花。

 

おい、お菓子食ってる暇はねぇぞ。

 

「なんで私のジャージ着てたの?」

 

「えー?だって料理で汚れたら嫌じゃん。」

 

「今すぐ脱いで。」

 

「ちょ!やめて!」

 

二乃と三玖はジャージの件でもめている。

 

「上杉さんご心配なく!私はもう始めてます!」

 

四葉はやる気のようだ。どれどれ?……

 

「名前しか書けてないが!?」

 

やる気あるのかないのかどっちなんだこいつは…。

 

「あ〜食べたら眠くなってきた。」

 

と一花。

 

「さっきまで寝てただろ!」

 

どんだけ寝れば気が済むんだこいつは…。

 

「三玖!体操服見つかったんだからやってくれよ」

 

「勉強するなんて言ってない」

 

ぐぬぬ…こいつもか!

 

「ねーねーせっかくの土曜日だし遊びに行かない?」

 

「絶対ダメー!!」

 

こいつに関しては勉強以前の問題だな。

 

こいつら…どうしようもねぇ…。

 

「クッキー嫌い?」

 

「いや…そういう気分じゃ…。」

 

「警戒しなくてもクッキーに薬なんて盛ってないから。食べてくれたら勉強してもいいよ。」

 

さっきの辛辣な態度と打って変わって…こいつ何を企んでやがるんだ?仕方ない。ここは俺の誠意を見せるか。

 

 

「もりもり食べてる!おいしい?」

 

「あ、ああ…うまいな。」

 

普通にうまいなこのクッキー。

 

「嬉しいな。あ、そうだ。ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよね。」

 

「…」

 

やはり、それがお前の本性か。こいつがマンション前で因縁つけてきたときのあの表情だ。

 

「なんてね。はい、お水。」

 

「お…おう。サンキュー。」

 

こいつ…表情をころころ変えやがるな。

しかし、こいつらからしたら当然の反応か。だが五人を卒業させるしか俺には道がない!

 

水を一気に飲み干すと

 

「ばいばーい」

 

と二乃が小さく手を振っている。

 

ん?…意識が…………。

 

……………………………………

 

お客さん、お客さん着きましたよ。」

 

「え?」

 

「ここ、お客さんの家ですよね?」

 

ほんとだ。俺の家だ。

 

「なぜ…。」

 

「お乗りになる前からぐっすり眠られてましたよ。」

 

「…」

 

お乗りになる前から?…まさか、あのときの水か!?

あの野郎…そこまでするか…。

 

「運賃4800円になります。」

 

「え!?金!?」

 

家が貧しい俺の持ち金に4800円なんて大金あるわけが…

 

「カードで。」

 

「まいど。」

 

助手席には五月がいた。なぜこいつが俺の家を…

 

「住所は生徒手帳を見させていただきました。」

 

なるほど。だから俺の家を……じゃねぇ!!生徒手帳を見たってことは……

 

「え…しゃ、写真見た?」

 

「いいえ。見ていません。にしても一泡吹かされましたね。これに懲りたら私たちの家庭教師は諦めることです。」

 

「それはできない。」

 

「なぜそこまで…」

 

「あ、やっぱお兄ちゃんだ!」

 

妹のらいはがひょこっと現れた。

 

「らいは!」

 

「その人って、もしかして生徒さん?」

 

タクシーに乗っている五月を見て言った。

 

「な、なんでもない人だ。帰るぞ!」

 

らいは、早く帰るぞ。見てみろ、五月もきょとんとなっちまってるから!

 

「よかったらうちでご飯食べていきませんか?」

 

などと、らいはが言いだした。

 

「え!?」

と驚く五月。

 

そりゃそうだ。姉に眠らされた家庭教師をそいつの家まで送ったら、そいつの妹にうちでご飯食べていきませんか、などと言われたら驚くのが当たり前である。

 

「それは…ほら!このお姉さん忙しいらしいから!」

 

と、なんとかごまかそうとしたが

 

「嫌……ですか?」

 

と、らいはが妹パワーを発動した!

え?五月?今、ハート打ち抜かれたような効果音聞こえたぞ!?

 

……………………………………………

 

結局、五月はうちでご飯を食っていくことになったわけだが…。

 

「まさか風太郎が風太郎が女の子を連れてくる日が来るとはな!ガハハハ!」

 

と、どこぞで責務を全うしてそうな声をした高笑いが響く。

かくいう俺も猪突猛進してそうな声をしているが…。

 

俺の親父、勇也(いさなり)だ。

 

「お?この牛乳、消費期限が一週間前じゃねーか!危うく飲めなくなるところだったぜ」

 

と紙パックの牛乳をごくごく飲んでいる。

 

「親父…。」

 

五月の前でそんなことするんじゃねぇよ!五月ドン引きしてるから!

 

しかし…俺の家がこうだとはこいつだけには知られたくなかったな…。

 

「家庭教師ちゃんとやってきた?」

 

とカレーを作りながららいはが聞いてくる。

 

「「!!」」

 

俺と五月は同時に硬直した。

 

「「…………。」」

 

「その件ですが…」

 

「もちろんバッチグーよ!!」

 

「…何を…」

 

「いいから!らいはが悲しむ!」

 

「そーなんだ。安心したよー。これで借金問題も解決だね。」

 

「らいは、お客さんの前だぞ。」

 

「あ、ごめん…。」

 

………………

 

「はーい、上杉家特製カレーと卵焼きでーす。」

 

と、しばらくして、晩ご飯がやってきた。

 

「お口に合うといいんだけど」

 

「ふん、お嬢様に庶民の味がわかるかね。」

 

「こら!」

 

らいはにお盆で叩かれた。

 

「痛って!!」

 

「そういう嫌味なところ直した方がいいよ!」

 

そんな兄妹のやり取りを見ながら粛々と五月はカレーを食べた。

 

………………………………………

 

「今日は御馳走様でした。」

 

「おう、風太郎、通りまで送っていってやんな。」

 

「えー…。」

 

結局、通りまで五月を送ることになった。

 

「五月さん」

 

とらいはが俺と五月が家を出ようとしたところで話しかけた。

 

「お兄ちゃんはクズで…自己中な最低な人間だけど…」

 

えぇ〜…。らいはからそんなに酷評されるとは…。

 

「良いところもいっぱいあるんだ!」

 

「だから…その…また食べに来て来くれる?」

 

「もちろん。頭を使うとお腹が空きますから、またご馳走してください。」

 

……………………………………

 

 

「勘違いしないでください。あなたの事情は察しがつきましたが協力はできません。」

 

先程のらいはとの表情とは打って変わって笑顔など一切ない表情だ。

 

「そうかよ。」

 

「勉強はしますが教えは乞いません。あなたの手を借りずともやり遂げてみせます。」

 

ふん、そういうだろうと思ったぜ。

 

……ん?まてよ?「あなたの手を借りずとも」

 

「そうか!それで良いのか!条件は卒業なんだ!五月サイコー!」

 

「???」

 

五月はなにがなんだかわからない顔をしている。

 

「な、なんのつもりですか?」

 

「いいアイディアがある。明日同じ時間にまた行く。他の四人を集めておいてくれ。」

 

いける。このアイディアがうまくいけばこの家庭教師、案外楽かもしれんぞ!

 

そんな俺の心情とは裏腹に今まで俺たちを照らしていた満月は厚い雲に覆われていった。

 

…………………………………………

 

翌日、俺は予告通り五つ子たちのマンションを訪れていた。

 

「今日はよく集まってくれた!」

 

五つ子たちの反応はというと…

 

四「まあ、私たちの家ですし。」

 

一「ZZZ」

 

三「まだ諦めてなかったんだ。」

 

五「…………。」

 

ニ「友達と遊ぶ予定だったんだけどー?」

 

各々、こんな反応である。

 

ニ「家庭教師はいらないって言わなかったっけ?」

 

「だったらそれを証明してくれ。」

 

ニ「証明?」

 

「昨日できなかったテストだ。合格ラインを超えた奴には金輪際近づかないと約束しよう。」

と昨日のテストを五つ子たちの前に出した。

 

「勝手に卒業していってくれ。」

 

そうさ。馬鹿正直に五人全員を相手にする必要なんてない!赤点候補の奴にだけ教えてやればいいんだ!

 

 

ニ「…なんであたしがめんどーなことしなきゃ…」

 

五「わかりました。受けましょう。」

 

ニ「は?五月あんた本気?」

 

五「合格すればいいんです。これであなたの顔を見なくて済みます。」

と眼鏡をかけ挑戦的な五月。

 

まあ、理由が理由だが受けてくれるだけありがたい。

 

一「そういうことならやりますか。」

 

と、今さっきまで寝ていた一花。

 

四「みんな!頑張ろ!」

 

いや、多分だけど一番頑張らないといけないのお前だぞ?

 

三「合格ラインは?」

 

「60、いや、50点あればそれでいい。」

 

ニ「別に受ける義理はないんだけどあまり私達を侮らないでよね。」

 

…………………………

 

各々がテストを終え、採点をした。

「採点終わったぞ!凄え100点だ!!…

 

一花→12点

二乃→20点

三玖→32点

四葉→8点

五月→28点

 

全員合わせてな!!」

 

「お前ら…まさか…」

…嘘だろ?

 

ニ「逃げろ!」

 

「あ!待て!」

五つ子たちは階段を昇っていく。

 

四「あはは!なんか前の学校思い出すね!」

 

一「厳しいところだったもんねー」

 

三「思い出したくもない。」

 

五「おかしい…勉強したはずなのに…」

 

ニ「あいつ知ってんのかな?私達が落第しかけて転校して来たって。」

 

こいつら…五人揃って赤点候補かよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風太郎が五つ子たちの学力に絶望しているちょうどその頃…

 

「これください。」

と、これから向かうお呼び主への手土産に喜久福をのんきに購入している政寿郎であった。




改めてどうも、水谷幽愁です。
今回は原作の二話ですね。

さて、原作キャラのCV…まあ、ご存知の読者様が大方でしょうが、一応載せておきます。

上杉らいは→高森奈津美さん
「グランクレスト戦記」プリシラ役
「ありすorありす」マコ役など

中野父(マルオ)→黒田崇矢さん
「呪術廻戦」夜蛾正道役
「ヒプノシスマイク 」天谷奴零役など

上杉勇也→日野聡さん
「鬼滅の刃」煉獄杏寿郎役
「斉木楠雄のΨ難」灰呂杵志役など




…といったところでしょうか。

にしても、煉獄さんめっちゃかっこいいですよね。映画をかなり前に見に行きましたが、感動のシーンがいっぱいで涙が止まらなかった…。LiSAさんの「炎」がより、感動を引き立てるんですよね。

はい。煉獄さん話はここらにして、次回話の予告です。
次回話はなんとオリジナルの話です!
今回の投稿が遅れてしまったのはこのオリジナル話をまず、文章にするのに手間がかかってしまったのが理由のひとつです。
いや~オリジナル話大変だった。(苦笑)
オリジナル話をたくさん投稿していらっしゃる投稿者の方々が改めてすごいなと思いました。

では、次回話お楽しみに!


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第捌話

どうも、おはこんばんにちは。
水谷幽愁です。
いかに専門学校と自動車学校の両立が大変とはいえど、前の投稿から一ヶ月経ってしまった…。申し訳ないです。
まぁ、投稿が遅れたのは、両学校の両立だけが原因じゃないんですけどね(苦笑)
え?ランパート?知らない子ですね(棒)

まぁ、そんなこんなで第八話でございます。
今回の第八話は前話の後書きで宣言した通りオリジナル話でございます!
いや〜物語を無から構成するの大変ですね。良いストーリー展開がなかなか浮かばず、頭がどうにかなりそうでした(苦笑)
その末になんとか完成しました。
では、そんな四苦八苦し執筆した第八話どうぞ!


風太郎が五つ子たちの学力に絶望した日の夜中、政寿郎はある人物の屋敷の門前に立っていた。

政寿郎が住んでいる仙台から新幹線に乗って約3時間。遥々やってきたのは例のお呼び主「名古屋支局長」の屋敷である。

 

いや、屋敷というよりもはや城ではないか、と何度思ったかわからない。

というのも眼前には10mはあるであろう橋。

その下には水いっぱい満たされた奥幅長い水堀。

そして、見る者を圧倒する黒い門と塀。

見ると塀には狭間《さま》※もある。

 

※おもに日本の城の天守や櫓の壁面、塀などに開けてある防御用の穴や窓のこと。銃眼、砲門とも。内側から外側に向かって円形・三角形・正角形・長方形などの穴が開けられており、戦闘の際はそこから弓矢や鉄砲などで攻撃した(Wikipedia引用)

 

かくいう政寿郎も圧倒されながら推定10mの橋を渡り門の前に立つ。すると小門※から

 

※大きな門の脇にある小さな門のこと

 

「よぉ。親父殿に会いに来たんだろ?入んな。」

 

と、身長が180cm程あり道着の上からでもそれとわかる筋骨隆々の銅色の髪をした男が現れた。男の言うとおり小門から屋敷に入る。

 

「しかし、親父殿も悪い御人《おひと》だなぁ。なにもこんな時間に呼ばなくてもいいってのに…。」

 

「まあ、内容が内容ですからね。」

 

「たしかにな。あぁ…にしても眠ぃわ…。」

 

今年27歳になるこの筋骨隆々の男は大事な密談前だというのに眠いらしい。

 

「なら、眠気覚ましに一稽古どうですか?」

 

と政寿郎が眼前にある道場を示した。

 

「おぉ、いいぞ!望むところだ!」

 

二人は道場に入り道場に常備されている蟇肌竹刀《ひきはだしない》※を手に取り約10分程竹刀を交えた。

 

 

※蟇肌竹刀とは…

午の革で作った袋に漆を塗り三尺二寸〜三尺三寸(96cm〜99cm)のまっすぐな破竹に被せた道具で現代に於(お)ける竹刀の原形。ちなみに「蟇肌」という名称は、漆を塗った革に出来る皺《しわ》があたかもヒキガエルの肌の模様に見えることから命名されたという。

 

「ふぅ。腕を上げたな。政寿郎。」

 

と筋骨隆々の男は額の汗を拭った。

 

「せんさんこそ、ますます磨き掛かってますね。」

 

政寿郎も汗を拭いつつ筋骨隆々の男、せんさんこと千雄(せんゆう)の腕を讃(たた)えた。

 

「眠気は覚めましたか?かずさん。」

 

「あぁ。眠気なんて吹っ飛んださ。なんなら、ずっと稽古してたいくらいだ。」

 

「俺もそうしていたいですが、そうもいきません。俺がわざわざ仙台から来たのは密談が本題ですからね。」

 

「だよな。じゃあ、続きはまたの機会にな。」

 

「えぇ。じゃあ、行きましょうか。」

 

「あぁ。」

 

いい汗を流し、眠気をふっ飛ばした弥三郎とともに政寿郎はお呼び主の元に向かった。

 

その後、密談は約6〜7時間程続き政寿郎は朝日が昇った頃にようやく眠りにつくことができたという。

 

それからまたさらに約8時間後…

 

……………………

 

「お邪魔します。」

 

「ようこそ伊達さん!お待ちしてましたよ!」

 

政寿郎は五つ子の住むマンションを訪れていた。

実は八重が五つ子たちとともにパフェを食べに行ったあの日、五つ子宅訪問の約束を取り付けていたのである。

 

そんな政寿郎を四葉がうさ耳リボンをひょこひょこさせながら迎え、リビングに話しながら向かった。

 

「伊達さん、右手に持っているそれはなんですか?」

 

「あぁ、これは扇子です。特注品なんでレアですよ。」

と、純金製の扇子をばっと開いてみせた。

「おー!ゴージャスな扇子ですね。このマークはなんですか?」

四葉に見せた面には伊達家の家紋である「竹に雀」が金地《きんじ》の上に黒で描かれている。

「これは俺の家の家紋。遠いご先祖様から受け継がれているその家を示す紋章ですよ。」

 

「なるほど。じゃあ裏にはなにか描かれてるんですか?」

 

「…いや、裏にはなにも描かれてませんよ。」

と、扇子をぱちんと閉じ、赤い房紐《ふさひも》がふわっと揺れた。

 

「みんなー伊達さんが来たよー!」

政寿郎が四葉とともにリビングに現れると各々の反応が迎えた。

 

一「いらっしゃいセージュロー君。遥々仙台から来てくれてありがとね。」

 

二「…いらっしゃい政寿郎君。」(政寿郎君、かっこいいわぁ♡)

 

三「いらっしゃいセージュロー。たくさんお話聞かせてね。」

 

五「ようこそいらっしゃいました。伊達君。遠路お疲れでしょう。ゆっくりしていってくださいね。」

 

といった感じである。そして、

「お待ちしてましたよ。政寿郎くん。」

八重もいる。

 

「いやー盛大なお迎えありがとうございます。しかし、とんでもないくらいでかいマンションっすね。驚きましたよ。…にしても、すいません。用事が突然できたとはいえ招かれた俺が遅れてしまって。」

 

「いえいえ。どうしても外せない用事だったとお聞きしてます。そちらを優先すべきです。」

 

と五月。

 

それを聞いた政寿郎は八重に向かって小さく頷き八重も同様に返す。

 

「そうですか。そう言ってもらえると助かります。」

 

と安堵する政寿郎。

 

「さ、さぁ、伊達さんもいらっしゃったことですし盛り上がりましょう!」

 

と、場を明るくする四葉。他の姉妹たちもうんうんと頷きにぎやかになった。すると、

 

「パンケーキできたわよ!」

 

と、キッチンからパンケーキを人数分トレーに乗せて現れた。

 

それから七人はお互いについて話したりボードゲームで盛り上がったりしていた。

 

「二乃はセージュロー君と話さなくていいの?」

 

と、にやにやしながら妹を肘でつっつく一花。

 

「…。」

 

二乃は頬を仄(ほの)かに赤らめ黙りこんでいる。

 

(生の政寿郎君かっこよすぎだわ♡テレビ電話越しのときはなんとか話せたけど、いざ直に会うとうまく話せない…。)

 

と、人付き合いがとても上手(四葉評)な二乃といえどタイプの異性を前にするとうまく会話できないようだ。

 

(なにを話せば……そうだ!)

 

「政寿郎君は身長いくつ?」

 

政「四月の身体測定の時点でたしか…174cmだったかな。」

 

四「身長高っ!!」

 

二「そ、そうなのね。」

 

一「テレビ電話越しにだとわかりにくかったけど身長高いんだね〜。」

 

八「…身長また伸びましたね。政寿郎くん。少し前まで私の方が上だったのに…。」

 

※八重の身長は172cmです。

 

五「…いや、八重さんも十分身長高いですよ?」

 

政「それでもあいつの方が身長高いんだよな〜。」

 

三「あいつって?」

 

政「あぁ、俺の幼なじみの幸志郎のことです。あいつは同じタイミングで177cmだったらしいんで。」

 

八「ぐぬぬ…。」

 

四「…もはや争うレベルが違うね。」

 

一「よかったじゃん。二乃。セージュロー君の身長174cmだって。」

 

「…うん。」

 

と政寿郎の身長が174cmであることに秘かに喜ぶ身長159cmの二乃であった。

 

 

「セージュロー」

 

次は三玖が政寿郎に話しかけた。

 

「お願いした物撮ってきた?」

 

と、政寿郎に近づき小声で話す三玖。

 

「もちろんばっちり撮って来たぜ。」

 

政寿郎も小声で返し、スマホのアルバムの中にあるとある写真を見せる。すると

 

「すごい…。」

 

と、三玖が目を輝かせた。

政寿郎が三玖に見せた写真というのは、政寿郎の先祖である政宗が江戸時代に築いた仙台城とその跡地に建てられている伊達政宗騎馬像※の写真である。

 

「この石垣すごい。重機もなにもない時代にこんな石垣を作れるなんて。」

 

「そうなんすよね。この写真の石垣は高さ17mあるみたいですよ。」

 

「おぉ!」

 

と仙台城の石垣に目を輝かせる三玖。彼女は実は戦国武将好き。そんな彼女にとって、この写真に収まっている城の建造者の子孫である政寿郎や柳生新陰流継承者の子孫である八重はそれこそ神のように崇拝し、拝みたいような存在。

 

そんな三玖にとっては神同然の政寿郎がスマホをスライドし次の写真を三玖に見せた。

 

「次は…これだな。」

 

「伊達政宗騎馬像だ。かっこいい!」

 

 

※伊達政宗騎馬像とは…

仙台城本丸跡に建立されている名の通り馬に乗った甲冑姿の伊達政宗の像のことである。ちなみにこの伊達政宗騎馬像は現在2代目。理由はここで述べるとえらく長文になってしまうので各々で調べていただきたい。

 

 

「さて、突然だが三玖に問題だ!」

 

「うん。受けて立つよ!」

 

「では、問題。この騎馬像含め政宗公の姿を模した肖像画や像などには眼帯がなく、ないはずの右目があります。それはなぜでしょう?」

 

と政寿郎が先祖、政宗についての問題を三玖に出題する。すると、三玖が

 

「ふふん。私を見くびっちゃだめだよ。」

 

と、笑みを浮かべ、ある逸話を語り始めた。その逸話はというのは・・・

 

ある時、晩年の政宗は

「私の姿を描かせるときは右目も描かせよ。」

 

と言った。家臣達がなぜ、と返すと政宗はその理由としてこう言ったという。

 

「我が右目は使い物にならなくなってしまったとはいえ、右目が描かれていないのは目を授けてくださった親に申し訳ない。故に両目がある私を描かせよ。」

 

・・・という逸話である。

「正解!さすがだな。」

 

「やった。」

 

と、三玖がにこやかに微笑む。

それからしばらく政寿郎と三玖の歴史トークが続いた。

 

四「伊達さんと三玖何を話してるんだろう。」

 

一「さぁ~。」

 

五「何を話してるかはわかりませんがとても楽しそうですよ。三玖。」

 

二「…。」

 

しばらくして政寿郎との歴史トークを楽しめ、ご満悦の三玖が姉妹の下に戻った。

 

四「三玖、伊達さんと何話してたの~?」

 

三「ひ、秘密…。」

と三玖は黙ってしまった。

 

政(三玖は自分が歴女であることを姉妹に言ってないらしいからな。それに三玖は自尊心が低い節がある。その理由さえわかればな…。)

 

と、思いながら政寿郎が自分に用意された緑茶を飲む。

 

すると四葉が

 

「そういえば伊達さんと柳生さん関係進展しましたか~?」

と爆弾発言を投下した。

 

政「んんっ!?」

 

八「ごふっ!」

 

緑茶を飲んでいた政寿郎は緑茶を吹き出しかけ、二乃が作ったクッキーを食べていたクッキーを詰まらせかける。

 

八「前にも言いましたよね!私達はそういう関係ではないと!」

 

と、八重が咳込みながら政寿郎との関係を否定する。

 

四「ごめんなさい。でもお二人共仲がいいことはまちがいないですよね?」

 

八「そ、それはもう、10年程の付き合いですから…。」

 

と八重が顔を赤らめる。

 

八「私と政寿郎くん、そして先程名が挙がった幸志郎くん。私達三人でずっと苦楽を共にしたものです。ねぇ、政寿郎くん。」 

 

政「えぇ。俺ら三人ほとんどずっと行動を共にしてるからか、どうも関係が進みも退きもしないようで。」

 

と政寿郎が付け足した。

 

四「そうなんですか。すみません。野暮なこと聞いちゃって…。」

 

八「いやいや、誤解させたこちらもこちらですから。」

 

「「「「「「「………」」」」」」」

 

話題が話題だっただけに空気が気まずくなってしまう。そんな中、

 

政「ちょっとベランダ借りていいですか?電話したいので。」

 

と切り出した。

 

五「えぇ。構いませんが。」

 

政「あざっす。」

 

と、政寿郎はベランダに向かいながら八重の方を向き小さく頷き八重もまた同様に返す。

 

政寿郎はベランダに出ると、とある人物に電話を掛けた。

 

『……もしもし、伊達です。』

 

『久しぶりだね伊達君。元気にしていたかい?』

 

『えぇ。ぴんぴんしてますよ。』

 

『それはなによりだ。ところで、なぜ突然僕に電話してきたんだい?』

 

『実は今、先生の娘さんたちの家にお邪魔していましてね。』

 

『……ほう。』

 

『娘さんたちが事故に巻き込まれたこと、ご存知ですよね?』

 

『もちろんだ。大きくニュースになっていたからね。』

 

『その事故で落下物から娘さんたち含む通行人の方々を守ったのが僕と八重さんであることは?』

 

『それは初耳だね。そういえばニュースには「男女二人が」とあったね。で、娘たちの家に招かれたと?』

 

『そんなところです。』

 

『なるほど。ところで八重君はそこにいるかな?』

 

『えぇ、いますよ。八重さんと一緒に来ましたからね。』

 

『そうかい。なら八重君に伝言を頼みたいのだが…』

 

『………。』

 

『…どうかしたのかい?』

 

『…中野先生、お仕事柄お忙しいんでしょうが娘さんの管理しっかりしたほうがいいと思いますよ?』

 

『なにかあったのかい?』

 

『それは本人に聞くべきだと思いますよ。使い方と量を誤れば人を殺しかねなかった馬鹿娘にね。』

 

『…おそらく二乃君かな?』

 

『そうです。心当たりでも?』

 

『最近寝不足だと聞いていたから渡したがまさか…。』

 

『……』

 

『親が親なら子も子だな、とでも思ってないかい?伊達君。』

 

『よくわかりましたね。喉まで出かかってましたよ。』

 

『…そんな娘だが、程々に仲良くしてやってくれないか?』

 

『えぇ、程々にね。』

 

『『……』』

 

『では、また御用があれば連絡します。』

 

『あぁ。…ところで伊達君。』

 

『なんですか?』

 

『君は娘たちにあの件は話すつもりはあるのかい?』

 

『さぁ…。娘さんたちとはそこそこ仲良くなったと感じておりますが、それでもまだあの件について話すにはまだ日が浅すぎます。それに、あの件について話せば娘さんたちにトラウマを植え付ける可能性も十分ありえますからね。今のところ話すつもりはありません。』

 

『…そうかい。では失礼するよ。』

 

『はい。ではまた。』

通話終了ボタンを押しスマホを懐に収め、リビングに戻る。

 

五「な、長電話でしたね。伊達君。」

 

政「まぁ、久しぶりの通話相手だったものでね。」

 

一「そ、そうだったんだー。」

 

政「…。」

 

二「…。」

 

政「お、ちょうどいい感じの時間だ。そろそろ帰りますか、八重さん。」

 

と、二乃を一瞥《いちべつ》しリビングにある17時を示した時計を見て、八重に帰宅を促した。

 

八「そうですね。帰りましょうか。」

 

四「で、ではまた遊びに来てくださいねお二人とも。」

 

政「えぇ。また機会があれば。」

 

八「私は家がそこそこ近いのでまた遊びに来ますね。」

 

三「そ、そっか。また来てね。ヤエ。」

 

八「えぇ。また来させていただきます。」

 

五「じゃ、じゃあ、お二人を玄関まで送りましょうか。」

 

一三四「「「そ、そうしようかー。」

 

二「…。」

 

……………

 

一「じゃ、じゃあね二人とも。」

 

政「はーい。」

 

八「ではまた。」

 

政寿郎と八重がドアを閉めると同時に玄関まで二人を送っていた、一花・三玖・四葉・五月はへなへなっと膝から崩れ落ちた。

 

三「あの時のセージュロー、すごく怖かった。」

 

四「にこにこしててやさしかった伊達さんがあんな顔をするなんて…。」

 

五「あのときたしか、上杉君の話が出てましたよね。」

 

一「もしかして、二乃の薬の件が気に障ったとか…。」

 

一三四五「「「「………。」」」」

 

四「二乃大丈夫かな?お二人が帰る時も動けてなかったし…。」

 

一「そうだね。様子見に行ってあげよう。」

 

四人が二乃の様子を見に行こうとリビングに行くと…二乃はリビングにいなかった。

三「二乃、部屋にいるのかな?」

 

五「私が様子見てきます。」

 

五月が二乃の部屋の前まで行き、ドアをノックした。

 

五「二乃、大丈夫ですか?」

 

二「ごめん。今は一人にして…。

 

と、今にも消えてしまいそうな二乃の声が帰ってきた。

五「…わかりました。」

 

五月は姉妹たちが待つリビングに戻った。

 

…………………

 

一方、政寿郎と八重はというと政寿郎は名古屋駅へ、八重は近鉄名古屋駅に向かうため、人々が賑わう名古屋の街を一緒に歩いていた。

 

八「あれは少々やりすぎですよ政寿郎くん。二乃さん震えてましたよ?」

 

八重が政寿郎を注意する。

 

政「いや、あれぐらいがちょうどいいと思いますよ。おそらく二乃はその薬の件をだしに上杉君とやらの家庭教師を邪魔するはずですからね。薬の件をだしにしようとする二乃にさっきのを思い出させて射竦《いすく》ませる。それにはそれ相応の衝撃を与えなければならない。その衝撃があれです。二乃が出過ぎた真似をしない方が後々八重さんも楽でしょ?」

 

八「それはそうでしょうけど…。」

 

八重がそれはいくらなんでもと思っていると、それにね、と政寿郎が続ける。

 

政「八重さんもご存知でしょうけど、ああいうタイプの女は嫌いなんですよ。二乃個人が、ではなくてね。」

 

政八「………。」

 

八「…そういえば、顔に付いているそのテープ状のそれはなんですか?」

 

政「おっと、ばれましたか?」

 

八「初めは何を貼ってるんだろうと思ってましたが、それ、もしかして…。」

 

政「あぁ、これはね…」

 

と右頬のテープ状の物を少し剝がす。そこから現れたのは、今なお、痛々しく残る火傷のような傷だった。

 

政「中野先生にも話しましたが、あの姉妹たちにこの傷の件を話すにはまだ日が浅すぎるし…」

 

八「トラウマを植え付ける可能性もありえる…でしょう?」

 

八重は政寿郎と姉妹たちの父、マルオとの通話を聞いていたのである。

 

政「さすがですね。」

 

と、八重の聴力に感嘆しながらテープを元に戻す。

 

八「ふん。ガラスごときではわたしの聴力は妨げられませんよ?」

 

と、自慢げの八重。

 

政「…まあ、八重さんに聞かれること前提で話してたんですけどね。」

 

と、にやにやしながら八重を見ると

 

八「むぅ。」

 

と頬を膨らませている。それに、と政寿郎は追い打ちをかける。

 

政「幸志郎くんってなんすか!いつも幸志郎って呼んでるのに。」

 

とにやにやしながらからかう。

 

八「うぅ…。」

 

と顔を赤らめている。

 

八「こ、この辺りで分かれましょう!ここらが名古屋駅と近鉄名古屋駅へ分かれるタイミングですよ!」

 

と、八重が顔を赤らめたまま、名古屋駅への道と近鉄名古屋駅への道を交互に指を指す。

 

政「じゃあ、そうしますか。」

 

八「で、ではまた!」

 

と八重は近鉄名古屋駅の方へとずんずん歩いていき、やがて見えなくなった。

 

それを見届けた政寿郎もまた、人々が賑わう名古屋駅への道へ消えていった。

 

一方その頃、四話以降登場してすらいない今作の主人公、幸志郎はというと……

 

      

          (アスラ)

「どうもこんばんは。ASURAです。今回から大坂の陣シナリオの豊臣家で遊んでいこうと思います。なにやら、ifイベントがあるみたいですね。きっと僕のご先祖様である真田信繫(幸村)公が活躍するんでしょうねぇ。では、始めていこうと思います。」

 

動画配信者「ASURA」になっていた。




改めてどうも、水谷幽愁です。
第捌話いかがでしたか?
筆者自身の意見はというと全て文章を書いた後読んだとき、情報過多だな。と思いましたが読者の皆様はどう思われたでしょうか?ご意見お待ちしております。
さて、次回話は原作の三話に当たる場面からスタートします。
筆者はというと第玖話を原本に書いた後改めて原作と比べてみるとまだ三話だったのか、と真夜中に驚いたのが記憶に新しいです。

では次回話お楽しみに!


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第玖話

どうも、おはこんばんにちは。
水谷幽愁です。

活動報告で宣言した通り第九話完成しました。
どういう展開になっていくのでしょうか?

ちなみに第九話はかなり詰め込んだため、他の話よりも長くなっております。なので時間に余裕があるときにお読みすることを推奨します。

では第九話どうぞ!


太陽がじりじりと照りつける。俺は汗だらけになりながら高校にたどり着いた。

風「ギリギリセーフ。」

 

家庭教師と自分の勉強の両立が思っていたより厳しく遅刻しかけていたのだ。

そんな俺の横を真っ黒な車が通って行った。

 

風「おぉ。見たこともない外国の車だ。かっけー。100万円はするだろうな。」

 

※100万円では中古車しか買えません。

 

と、外国の車に見惚れていると車のドアが開いた。

出てきたのは……あの五つ子たちだった。

 

四「おはようございまーす。」

 

五「な、なんですか。ジロジロと不躾な。」

 

風「お前ら一昨日はよくも逃げて…」

五つ子たちは俺を認識するやいなや逃げていく。

 

風「ああっ!また!よく見ろ!俺は手ぶらだ!害はない!!」

 

ニ「騙されねーぞ。」

 

一「参考書とか隠してない?」

 

三「油断させて勉強教えてくるかも。」

こいつら俺をなんだと思ってるんだ…。あ、そうだ。

 

風「五月…うちのことだが…。」

我が家の事情を知っている五月とは話しておきたかったのだ。

 

五「全部妹さんのためですよね。口外はしません。」

よし。それが聞ければいい。

 

五「私たちの力不足は認めましょう。ですが、自分の問題は自分で解決します。」

 

三「勉強は一人でもできる。」

 

ニ「そうそう、余計なお世話ってこと。」

 

あの点数の奴らがなにを偉そうなことを…

 

風「そうか。じゃあ、一昨日のテストの復習はしたよな?」

 

「「「「「……………」」」」」

 

風「…」

返事が返ってこねぇ…。

 

風「問一  厳島《いつくしま》の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ。」

 

ちなみにこの問の答えは陶晴賢《すえ はるかた》。さぁ、答えられるか?

 

すると、五月がふっと笑みを浮かべる。おっ!これは

「復習したからわかりますよ。」的な笑みか!

 

と、思ったら…

五「…………」

 

と、五月は悔しそうにぷるぷる震えだした。

いやわからんのかい!さっきの笑みはなんだったんだよ!

他の姉妹はというと…似たような様子である。

 

風「やっぱり…」

 

もしかしたら、と思ったがやはりそんなわけがないか…。

 

………

 

校舎に入り、教室に向かう。

この三日間でわかったことがある。この五人は極度の勉強嫌いだ。そして…俺のことも嫌いっぽい。

 

実際、俺と前を歩く五つ子たちとの間がかなり広い。

一人ずつ信頼関係を築くところから始めるしかないのか。俺の最も苦手な分野だ。誰か代わってくれないかな…。

 

一昨日の五人合わせて100点だったテストの解答をまとめたノートを見てみる。

 

風「あれ?三玖のやつ、一昨日のテストの一問目正解してる。だったらなんでさっき答えなかったんだ?」

 

………

 

しばらくして、授業が始まった。

 

授業を受けていると突然、俺の席に丁寧に畳まれた紙が飛んできた。何事かとその紙を見てみると

 

?『隣の席の者です。』

 

と、これまた丁寧な字で書かれている。

隣の席を見てみると、金色のロケットペンダントをつけた女子生徒もこちらを向き、紙を開くジェスチャーをしている。

 

それを見て渋々、丁寧に折り畳まれた紙を開くと…

 

?『あなたと話したいことがあります。まずはこの紙でやり取りしませんか?』

 

と書かれている。

 

正直言って付き合う義理もないのだが、付き合ってやるか。どうせ、今やっている授業の内容はもうとっくに予習済みだし。適当に対応してやるか。

 

…というか、この高校の校則どうなってんだ?

こいつのロケットペンダントといい、一花のピアスといい、校則緩すぎだろ…。まぁいいや。どうでもいい話だ。

 

風『わかった。だがまず、あんた誰だ?』

 

と書き、女子生徒の席にひょいと投げる。

女子生徒は俺の返答を見るなり小さく苦笑いしている。やがてまた、紙が飛んできた。

 

八『私の名前は柳生八重です。隣の席の生徒の名前くらい覚えておいてくださいよ。』

 

風『そりゃすまんな。で、なんの用だ?柳生。』

 

八『色々やり取りを交えたかったのですがまぁ、そういうことなら単刀直入に用件に入りますか。上杉くん、あなた最近家庭教師のアルバイトを始めましたよね?五つ子さんたちの。』

 

…え?なんでこいつ家庭教師のことを…

 

風『お前、なぜそれを知ってる?』

 

八『あの五つ子さんたちとは少々ご縁がありましてね。少し前に起きた、突然落下物が落ちてきて多くの通行人の方々が巻き込まれた事故のこと、ご存知ですか?』

 

あぁ、ラジオで流れてたあの事故のことか。多くの通行人が巻き込まれたが奇跡的に全員無傷だったっていう。

 

風『ああ。知ってるぞ。ラジオでも大きく取り上げられてたからな。』

 

八『実はその事故にその五つ子さんたちが巻き込まれていたんですよ。』

 

風『ほう、そうなのか。で、それとお前となんの関係が?』

 

八『その事故から通行人の方々を守ったという男女二人、それが私なんですよ。もう一人は私の友人です。』

 

なるほど、そういうことか。

 

風『なるほどな。おそらく、それであいつらから感謝され仲良くなった、ってところか?』

 

八『さすがですね、そのとおりです。それでなんですが、よければ私があなたの家庭教師の補佐をさせてもらえませんか?』

 

補佐だと?こいつが?字の丁寧さから察するに馬鹿ではないんだろうが。

 

風『補佐だと?お前がか?いらん世話だ。』

 

八『そうですか?今のあなたにとって私は得難い人材だと思いますが。それに、五つ子さんたちと関係をよくしないとまた眠らされて強制送還されかねませんよ?』

 

言われてみればこいつは得難い人材だな。しかし俺が眠らされた話まで知っているとは。

 

風『なんでもお見通しってわけか。』

 

八『えぇ。』

 

たしかにこいつは補佐にうってつけかもな。いや待て。肝心なことを確かめねば。

 

風『関係築きはいいとしてお前、成績は?』

 

八『あなたほどではありませんが、成績には自信がありますよ?』

 

ほう、自信ありか。こいつの成績を確かめるいい方法は…そうだ。

 

風『じゃあ、これ解いてみろ。授業時間があとちょうど20分くらいあるからな。このテストで70点以上あったら採用しよう。』

 

八『了解。』

 

※ちなみにこのテストは五つ子たちが全員合わせて100点だった、あのテストです。(1問4点制の25問)

 

…15分後…

 

八『できましたよ。』

 

風『おう。』

 

…採点中…

 

風『採点終わったぞ。88点だった。約束通りお前を補佐として採用しよう。』

 

八『ありがとうございます。』

 

風『さて、さっそくだが補佐のお前に頼みがある。』

 

八『なんでしょう?』

 

風『俺とあいつらをどうにかして繋いでくれんか?』

 

あいつらと仲が良いという柳生にまず、頼むことと言ったらそれだろう。俺は勉強はできても信頼築きは苦手だからな。

 

八『だめですよ。』

 

風『え!?』

 

八『私はあくまで補佐。五つ子さんたちとの信頼関係構築は彼女たちの教師である、上杉くんがやらないと。もちろん橋渡しはしますけど丸投げはだめですよ。』

 

風『まじかぁ。』

えぇ…ただでさえあいつら俺に拒否的なやつらが多いのに…。

 

八『まじです。』

 

と、柳生にど正論を叩き込まれたその時、授業終了のチャイムが鳴った。

 

「続きは次の授業で。」

 

「あぁ。」

 

 

その後、俺たちは昼食までの時間を使い、いかにあの五つ子たちと信頼関係を築くか協議した。

 

………

 

風「よ、よう。三玖。」

 

昼食の時間になり、食堂で三玖を見かけので話しかける。と、同時に柳生の言葉を思い出していた。

 

八『いいですか?信頼関係を築くには、より多くの苦楽を共にしなければなりません。しかし、現段階では苦楽以前の問題です。なのでまずは日常的な会話から始めましょう。たとえば…』

 

風「350円のサンドイッチに…なんだ?その飲み物…」

 

三「抹茶ソーダ。」

 

風「ぎゃ、逆に味が気になるなぁ。」

やべぇ…話すネタがなさすぎる…。

 

八『昼食時間がチャンスです。五つ子さんたちを見つけ、彼女たちが食べている昼食を話のネタにしてみては?』

と、八重は言っていたが…

 

三「いじわるするフータローには飲ませてあげない。」

 

風「いじわる…」

やっぱりこいつはなにを考えてるかわかんねぇ。柳生ヘルプ!…そうだ。話すネタあったわ!

 

風「一つ聞いていいか?今朝の問題の件だが…」

 

「上杉さんいっしょにお昼食べませんか?」

 

風「うおっ!!」

 

四葉が突然大声でやってきた。

 

風「なんだ四葉か。」

 

まったく…いきなり裏から大声で来んなよ。びっくりしたじゃねぇか…。

 

四「あはは!朝逃げちゃってすみません〜。」

 

風「それで三玖…」

 

「見てくださいこの英語の宿題」

 

風「さっきの話…」

 

「全部間違えてました!」

 

風「…………」

 

全部間違えていたという宿題を見せてくる四葉。そんな宿題よく披露できたな。ばっちり勉強叩き込んでやるから覚悟しとけよ…。

 

一「ごめんね〜邪魔しちゃって。」

 

と、どこからか一花が現れ、四葉を連れて行く。

 

四「一花も勉強見てもらおうよー。」

 

一「うーん、パスかな。私たちほら、バカだし。」

 

えぇ…そういう問題?

 

風「お前だからってなぁ…」

 

一「それにさ、高校生活勉強だけってどうなの?もっと青春エンジョイしようよ。とか!」

 

は?こいつは今…なんて言った?

 

風「恋?あれは学業からかけ離れた愚かな行為。したい奴はすればいい。だがそいつの人生のピークは学生時代となるだろう。」

 

一「この拗《こじ》らせ方手遅れだわ…。」

 

ふん。なんとでも言え。これが俺のやり方だ。

 

四「あはは…恋愛したくても相手がいないんですけどね。三玖はどう?好きな男子とかできた?」

 

三「えっ?い、いないよ!」

と、三玖が顔を赤らめ去って行った。

 

風「急にどうしたんだ?」

 

と、俺が三玖が去って行ったのを疑問に思っていると四葉が

 

四「あの表情、姉妹の私にはわかります。三玖は恋しています。」

 

…は?

 

……………

 

その後、教室に戻ってきた。

にしても、三玖が恋だと?四葉の思い過ごしならいいんだが。良くない流れだ。三玖にも勉強してもらわないと困るのに…。

 

八「成果はどうでしたか?上杉くん。」

 

風「おぉ、柳生か。成果は…」

 

…成果説明中…

 

八「なるほど。…そうそう、三玖さんからこれを預かってますよ。」

 

と、柳生から折り畳まれた紙を受けとる。それには…

 

三『昼休みに屋上に来て。フータローに伝えたいことがある。どうしてもこの気持ちが抑えられないの。』

 

…と書かれてある。

 

俺かーい!!

これ、ラブレターだよな?まだ会って3日目ですけど!?

 

八「なんと書かれていたんですか?」

と柳生が聞いてくるので三玖からのラブレター?を渡す。

 

八「どれどれ……なるほど。上杉くんがにやけている理由がわかりましたよ。」

 

と、からかい顔の柳生。

 

は?俺にやけてた!?

 

風「に、にやついてねーし!!」

 

八「いや、明らかににやついてましたよ〜?」

 

柳生がからかい顔で俺の腕を指で突っついてくる。

 

風「真顔すぎるほど真顔だ!」

 

これはいたずら。クールになれ上杉風太郎。こんなことに付き合ってやる必要はない!柳生にも三玖にもな!

 

八「ともあれ、いたずらにしても本当に三玖さんが文面のことを伝えようとしているにしても行かないとだめですよ?」

 

突然柳生がいつもの真面目な顔に戻って言った。

 

風「えぇ…?」

 

なにこいつエスパーかなんかなの?表情変わるの早すぎだろ。ていうかこいつ…ついさっき関わり始めた関係なのになんでもうこんなに距離が近いんだ?テンションを抑えた四葉みたいなやつだな。

 

そんな俺と柳生のやり取りを五月が首を傾げながら見ていた、と知るのは後日のことである。

 

……………

 

結局、俺は屋上に来ていた。

しかし、屋上には俺以外誰もいない。

 

風「ほらね!!程度の低いいたずらに乗っかっちまったぜ。まあ、本当に来られても困るんだが…」

 

その時、屋上のドアが開き出てきたのは…

 

風「み、三玖!!」

 

三玖の奴、マジで来やがった!!

 

三「良かった。ヤエ、フータローに手紙渡してくれたんだ。」

 

ま、まずい。本当に来るとは…。

 

三「食堂で言えたらよかったんだけど、誰にも聞かれたくなかったから。」

 

あれ…この雰囲気やばくない?

 

四『あの表情、姉妹の私にはわかります。三玖は恋をしています。』

 

四葉の台詞がフラッシュバックしてるし!!

 

三「フータロー、あのね、ずっと言いたかったの。

………す………す…陶晴賢。」

 

風「陶晴賢………」

 

三「よし!言えた。スッキリ。」

 

スッキリした様子の三玖はさっそく首にかけたヘッドホンを装置し、去ろうとしている。

 

風「ちょ、ちょっと待て!捻《ひね》った告白…じゃないよな!?」

 

三「うるさいなぁ。問題の答えだけど。」

 

問題?……今朝五人に出したあの問題のことか!

 

風「待てって!それをなぜこのタイミングで!?」

 

三「あ!」

 

三玖を止めようと腕を掴むと、その拍子に三玖が持っていたスマホを落としてしまった。

 

風「す、すまん!」

 

落ちた三玖のスマホのホーム画面には、武田信玄の旗印にもなっている「風林火山」と同じく武田信玄の家紋である武田菱のイラストが表示されていた。

 

風「武田菱…武田信玄の…」

 

三「見た?」

 

三玖が親を殺されたかのような目を向けてくる。

 

風「あ…ああ。」

 

すると顔を手で覆い、

 

三「…だ…誰にも言わないで。戦国武将好きなの。」

 

風「なるほどな…。なんで好きなんだ?」

 

いわゆる歴女ってやつか。それであの問題も正解できたわけだ。

 

三「きっかけは四葉から借りたゲーム。野心溢《あふ》れる武将たちに惹かれてたくさん本も読んだ。それに同じゲームを配信してるASURAさんって人がより戦国武将に詳しくなれる本を紹介してくれたおかげでよりたくさんのことを知ることができた。でも、クラスのみんなが好きな人はイケメン俳優や美人なモデル。私は髭のおじさん…変だよ。」

 

確かに変な奴、と切り捨てるのは簡単。だが、これはチャンスだ。

 

風「変じゃない!自分が好きになったものを信じろよ。…そういえば、前回の日本史は満点だったな。」 

 

三「そうなの!?」

よし、食いついたな。

 

風「これが学年一位の力だ。俺の授業を受ければ三玖の知らない武将の話もしてやれるぜ。」

どうだ三玖。これで授業受けてくれるはず!

 

三「それって…私より詳しいってこと?」

 

風「え?」

 

三、三玖さん?

 

三「じゃあ問題ね。信長が秀吉を『猿』って呼んでたのは有名な話だけど、この逸話は間違いなの。本当はなんて呼ばれてた?」

 

と、これまでほとんど言葉を発していなかった三玖がすごい勢いで喋り問題を出題してくる。

 

めっちゃ喋る!

秀吉のあだ名…確か歴史の先生が言ってたような………脳裏に浮かんだのはハゲで出っ歯の先生だった。

 

風「ハゲ…ネズミ…。」

 

三「…正解。」

 

ありがとう先生!まさかあの先生の顔がこんなところで役に立つとは!

 

風「それにしてもハゲネズミはひどいな。」

 

三「うん。かわいそう。知ってると思うけど私が好きな逸話は…」

 

と、三玖が好きだという逸話を語りだした。

 

三「謙信が女だったって説もあって。」

 

風「うんうん。それな!」

 

三「三成は柿を食べなかったんだ。」

 

風「あーそれな!」

 

三「信長が頭蓋骨にお酒を入れたとか…。」

 

風「そ…それな!」

 

三「柳生石舟斎《やぎゅう せきしゅうさい》が真っ二つに斬ったっていう8mもある岩※が現存してて…」

 

※ちなみに「○滅の刃」で竈門〇治郎が斬った岩のモデルがこの岩だという説があるそうな。

 

風「たしかにすげぇよなぁー」

8mの岩!?

 

三「片倉小十郎が子供を殺そうとしてたとか…」

 

風「あぁ、あの話ねぇー」

鬼か小十郎!

 

三「政宗が敵である幸村の子どもたちを匿《かくま》って生き延びた幸村の次男の子孫がさっき言ったASURAさんだったり。」

 

風「子孫が残ってるのすごいよなー」

幸村の子孫だったんかい!ASURA!!

 

はぁ…はぁ…情報量が多すぎる…。特に後半3つ!!

 

8mの岩を斬ったとかいう柳生石舟斎って人…もしかして柳生の先祖とかなのかな?後で本人に聞いてみよう。

 

小十郎鬼かよ…。いくら親子で争う時代とは言えどなぁ。

 

というか1番の衝撃はASURAだ。幸村の子孫なんていたんだな。豊臣家と一緒に滅んだと思ってた。

 

だがまぁ、少しずつ三玖のことがわかった気がする。

武将は勉強から逃げているこいつと日本史を繋ぐ唯一の欠点。このチャンス生かしてみせる!

 

すると次の授業開始が迫っている事を知らせる予鈴が鳴った。

 

三「あ、もう授業開始を始まっちゃう。」

 

風「そうだな。な、なんか話し足りないないな。うーん、この話三玖は聞きたいだろうなぁ…そうだ。次の家庭教師の内容は日本史を中心にしよう。三玖受けてくれるか?」

 

正直、三玖が話した逸話の情報量(特に後半3つ)ですでに脳がオーバーヒートしそうなのだが物足りないふりをする。

 

三「………そこまで言うなら、いいよ。」

 

勝った!場さえ整えばあとはどうにでもできる。八重の支援も得られるだろうし。三玖には気の毒だが俺も生活がかかってるんだ。悪く思わんでくれよ。

 

俺と三玖は校舎に戻る。

三玖が屋上入り口すぐにある自販機で飲み物を購入し、俺に手渡した。

 

三「これ、友好の印。飲んでみて。」

それは先程、食堂で三玖がトレイに乗せていた抹茶ソーダだった。

 

風「えぇー……」

 

三「気になるって言ってたじゃん。大丈夫だって。鼻水なんて入ってないよ、なんちゃって。」

 

…え?今なんて?鼻水?鼻水って言った?なんちゃって?どういうことだ?俺が三玖の「鼻水入ってない」発言に困惑していると

 

三「あれ?もしかして、この逸話知らないの?」

と、友好の印だという抹茶ソーダを手渡すのをやめ、

 

三「そっか。頭いいって言ってたけどこんなもんなんだ。やっぱり教わることなさそう。バイバイ。」

と言って去って行った。

 

………

 

放課後、俺の足は図書室に向かっていた。

山ほど積んだ戦国関連の本を貸し出しまで持っていく。

 

風「全部貸し出しで!」

 

貸し出し口までの道中、他の生徒の奴らが山積みの本にドン引きしていたが、知ったことではない。

 

三玖の奴…こんなもんとか言いやがったな。許さねぇ!意地でも俺が勉強を教えてやる!!

 

…2日後…

 

風「三玖、お前が来るのを待っていたぞ。」

 

三「何か用?フータロー。」

 

風「お前が得意な戦国クイズ、今度こそ全て答えてやる。」

 

三「…やだよ。懲りないんだね。」

 

風「ふん。2日前の俺と一緒にしてもらっては困る。それとも唯一の特技で負けるのが怖いか?」

 

すると三玖はむっとした後、

 

三「武田信玄の風林火山、その『風』を意味することは?」

と問題を出した。

 

どんな問題が来るかと思ったら…そんなの初歩の初歩じゃないか。…2日前の俺にとっては初歩ではなかったが。

 

風「そんな簡単な…」

 

すると三玖が

 

三「正解は『疾《はや》きこと風の如し』。」

 

と言いながら階段の手すりを伝って滑り、走り去って行った。

 

風「あいつ…また逃げやがった。」

あいつらは逃げ続けている。俺からも勉強からも。

もう逃がさねぇ。

 

三玖の跡を追い、走っていき、道を曲がるとぽふっと柔らかいなにかに顔がダイブしてしまった。

 

四「わぉ、上杉さん!」

 

風「よ、四葉!?」

 

どうやら俺は四葉の胸にダイブしてしまったようだ。

 

四「ちゃんと前向いてなきゃダメですよー」

 

風「三玖が通らなかったか?」

 

四「あっちに走っていきましたよ。」

と三玖が走っていったという方向を指差した。

 

風「サンキュー。」

と四葉に礼を言いながら四葉が指差した方向へ走る。

 

すると校舎から

四「わぉ!上杉さん!」

と荷物を抱えた四葉の声が聞こえた。

 

 

四「ちゃんと前向いてないとダメですよー」

 

…え?四葉が2人!?

 

ばっと背後を振り返ると、俺に三玖が走っていった方向を教えてくれた四葉?が同じ場所にいる。

ま、まさか…これが世にいうドッペルゲンガーってやつなのか!?

 

風「すまん…四葉…落ち着いて聞いてくれ…。お前のドッペルゲンガーがそこにいる。お前死ぬぞ。」

 

と四葉のドッペルゲンガーに指を差す。

 

四「えええ!?死にたくないです〜!!!」

 

と自分のドッペルゲンガーを見た四葉は半泣きになっている。

 

四「最後に食べるご飯は何にしよう…。」

 

いや、もっと考えることあるだろ、と心の中で四葉にツッコミを入れながら四葉のドッペルゲンガーを見ていると…

 

風「あれ?あの四葉少し髪長くね?」

 

四葉とそのドッペルゲンガーの違いに気がついた。

 

風「リボン取っちゃったし、ヘッドホン付けて……お前三玖だろ!」

 

四「よかったです…。」

 

と、ドッペルゲンガーの正体が三玖だったことを知り、安堵する四葉を尻目に俺は三玖を追いかける。

くそ…トリッキーな技使いやがって…。

 

風「三玖、この前は騙して悪かった。俺はこの2日間で図書室にある戦国関連の本全てに目を通した。今ならお前と対等に会話できる自身がある!」

 

三「嘘ばっかり…。」

三玖はそのまま走り続けている。

 

あまり走っていないはずなのだが体力の消費が尋常ではなく汗が滝のように流れている。

き…きつい…。不要だと切り捨てたはずの運動能力がこんなところで必要になるとは…。三玖はこんなに走って平気なのか?

 

すると三玖が

三「武将しりとり。龍造寺隆信《りゅうぞうじ たかのぶ》。」

 

と言い出した。

 

龍造寺隆信…「ぶ」…「ふ」もありだよな。

 

風「福島正則《ふくしま まさのり》。賤ヶ岳の七本槍として名高い武将だ!」

 

三玖が驚いたのか一瞬振り返った。

どうだ。これが2日間の努力の賜物だ!

 

その後も走りながらの武将しりとりが続いた。

 

三「龍造寺政家《りゅうぞうじ まさいえ》。」

 

風「え…え…江戸重通《えど しげみち》!」

 

しりとりが続くにつれて体力の限界が近づき、息遣いも荒くなる。

 

三「はぁ…長宗我部元親《ちょうそかべ もとちか》。」

 

風「か…金森長近《かなもり ながちか》。」

 

三「はぁ…かっ河尻秀隆《かわじり ひでたか》。」

 

風「またか…か…片倉小十郎!!」

 

三「上杉け…上杉…景勝《うえすぎ かげかつ》。」

 

風「くそっ津田信澄《つだ のぶずみ》。」

 

三「三好…長慶《みよし ながよし》……。」

 

風「し…しま…島津…豊久《しまづ とよひさ》…。」

 

三「真田…幸村…もうだめっ…。」

 

風「ら!?ら……ら……。」

 

三「ねぇ…なんで…そんなに必死…なの?」

 

俺と三玖は揃って芝生に倒れ込む。

ああ、疲れた…。ここ最近で1番走った気がする。

 

風「俺のスピードに張り合えるなんてやるじゃん。」

 

三「私、クラスで1番足遅かったんだけど。」

 

え?その三玖より遅いの?俺。これを気に体力つけようかな。なんて思っていると

 

三「暑い。」

三玖がストッキングを脱ぎ始めた。…俺の目の前で。

 

風「のど乾いたな。飲み物買うか…。」

 

と自販機に向かう。

にしてもあいつの羞恥心はどうなっているのやら…。

なんて思いながら自販機を見ると……

 

………

 

三玖の頬に買ってきた飲み物を当てると

 

三「ひゃっ!」

 

と驚く三玖。

 

風「す、すまん!」

 

三「………。」

 

三玖はぷくっと頬を膨らませている。

 

風「これ、好きなんだろ?110円は手痛い出費だが、もちろん鼻水は入ってない。」

 

そう、俺が買ってきたのはあの抹茶ソーダだ。

 

風「石田三成《いしだ みつなり》が大谷吉継《おおたに よしつぐ》の鼻水の入った茶を飲んだエピソードから取ったんだろ?」

 

三「ふーん、ちゃんと調べてはいるんだね。」

 

風「この逸話にたどり着くまでに何冊読んだことか…。さっきのしりとりにも出てきた片倉小十郎の逸話もな。」

 

三「!」

 

屋上で初めて片倉小十郎が子供を殺そうとしていたという逸話を聞いたとき、なぜそれが好きな逸話なのかと引っかかっていたが色々な本を調べてみてその理由がわかった。

 

というのもその逸話というのが…

 

あるとき、小十郎の妻が小十郎の子を身籠ったのだが、その頃まだ主君である政宗はまだ子供がいなかった。

 

すると小十郎が

「主である政宗様にまだ子がいないのに自分が子を持つのは憚《はばか》りがある。子が産まれたら殺す。」

 

と言い出したといいそれに驚いた政宗が小十郎を説得しなんとか留まらせた。

 

…という逸話。

 

ここでこの逸話について余談を挟みたい。

政宗の説得で守られ、無事誕生した子供はのちに重長《しげなが》と名乗り、

政宗が匿った幸村の娘、阿梅《おうめ》を妻に迎え、幸村の次男、大八《だいはち》を江戸幕府の目から守るため、片倉守信《かたくら もりのぶ》と名乗らせたりしている。

 

そして片倉守信と名乗った大八の血筋は仙台真田家として今作の主人公、幸志郎にも受け継がれている。

 

さて、話を戻そう。

 

調べてみてわかったのがこの逸話が小十郎が政宗に対する忠義心がいかに厚いかということ。

 

きっと、三玖もそんな小十郎に惹かれたからこの逸話が好きなんだろうな。

 

風「最後は偶然居合わせた四葉に携帯で調べてもらったんだがな。」

 

三「四葉?私が武将好きって四葉に言ったの?」

 

ん?俺、地雷踏むようなこと言ったか?

 

風「いや、言ってないが姉妹にも秘密にする必要があるのか?むしろ誇るべき特技だ。」

 

三「姉妹だから言えないんだよ。」

 

風「なんでだよ?」

 

三「五人の中で私が一番落ちこぼれだから。」

 

そうだったのか…。三玖のことを少しはわかった気でいたんだが。こいつは自分が好きなものに自信がないのではなく自分に自信がないんだ。

 

風「あいつらの中じゃお前は優秀だ。ほら、この前のテストだって一番上だったろ?」

 

三「フータローは優しいね。」

 

風「ど、どんぐりの背比べには変わらんがな。」

 

三「…でも、なんとなくわかるんだよ。私程度にできること、他の四人にもできるに決まってる。五つ子だもん。」

 

私程度にできること?…待てよ?三玖の言うことが正しければあの結果はもしかして…

 

三「だからフータローも私なんか諦めて…」

 

風「それはできない。俺は五人の家庭教師だ。あいつらも、そしてお前にも勉強させる。それが俺の仕事だ。お前たちには五人揃って笑顔で卒業してもらう。」

 

三「勝手だね。でも無理だよ。私たち五人合わせて100点なんだよ?」

 

風「そうだな。まさか五人とも問題児とは思わなかった。こんな奴らに教えなきゃいけないのかって。絶対にできっこない。そう思っていた。今日まで。」

 

三「え?」

 

風「三玖の言葉を聞いて自信がついたぜ。五つ子だから三玖にできることは他の四人にもできる。言い換えれば、他の四人にもできることは三玖にもできるということだ。」

 

三「!」

 

風「見てくれ、この前のテスト結果だ。何か気がつかないか?」

 

と、テストをまとめたものを取り出し、三玖に見せる。

 

三「あ、正解した問題が一問も被ってない。」

 

そう。俺が目をつけたのはそこなのだ。

 

風「確かにまだ平均20点の問題児。だが俺はここに可能性を見た。一人ができることは全員できる。一花も、二乃も、四葉も、五月も、そして三玖、お前も。全員が100点の潜在能力があると俺は信じている。」

 

三「何それ。屁理屈。」

 

と言いながら抹茶ソーダの蓋を開ける。

 

三「…本当に…五つ子を過信しすぎ。」

 

………

 

翌日、俺は図書室で四葉に勉強を教えていた。のだが

 

風「だから何回言ったらわかるんだ…ライスはLじゃなくてR!お前シラミ食うのか!」

 

四「あわわわ!」

 

…こんな状態である。

四葉はこういう類いのイージーミスが多い。まずそれを直すのが課題だな。と、考えていると四葉は怒られているのに笑っている。四葉お前…マゾか?

 

風「四葉…なんで怒られてんのにニコニコしてんだ?」

 

四「家庭教師の日でもないのに上杉さんが宿題を見てくれるのがうれしくって。」

 

なるほどな。そう思ってくれてるのはまぁ、ありがたいことだな。

 

風「残りの四人もお前くらいやる気があると助かるんだがなぁ…。」

 

四「声はかけたんですけどね。あ、でも四人じゃなくて三人ですよ。ね?三玖。」

 

四葉の視線の先には三玖がいた。

 

風「三玖来てくれたのか。」

 

声をかけるも三玖は俺を素通りしていき、戦国関連の本を探り始めた。もしかして本読みに来ただけなのか?と落胆していると

 

八「調子はどうですか?」

裏から柳生が突然現れた。

 

風「うぉ!…なんだ柳生か。びっくりさせんなよ。」

 

ちなみに屋上での三玖の好きな逸話のマシンガントークの中に出てきた柳生石舟斎《やぎゅう せきしゅうさい》。あの後柳生に確認したところ、やはり、彼女の先祖だったようだ。

 

四「柳生さん!なぜここに?」

 

八「こんにちは。四葉さん。私がここに来た理由は後で話しますね。」

 

風「もしかして、お前が三玖を連れてきてくれたのか?」

 

八「いいえ、三玖さんがここに来たのは三玖さん自身の意志ですよ。私は付き添いで来ただけです。」

 

風「そ、そうなのか。」

 

再び三玖の方を見ると三玖はそれぞれの本に付けられている貸し出し表を見ていた。

 

三「フータローのせいで考えちゃった。ほんのちょっとだけ。私にもできるんじゃないかって。だから…

責任取ってよね。」

 

風「任せろ。」

 

四「み、三玖もしかして…」

 

と、リボンをぴーんと伸ばし、三玖に近づいていく。

 

「この前隠してた三玖の好きな人って上杉さんじゃ…」

 

三「ないない。」

 

風「?」

 

 

 

新たな感情が芽生えた三玖となにがなんだかわからず首を傾げる風太郎であった。




改めてどうも。水谷幽愁です。

第玖話いかがでしたでしょうか?
今回の話は原作での3話から4話に当たり、八重の補佐就任と三玖の仲間入り、といった内容でしたね。

個人的な話をすると筆者が三玖推しになったのは「責任取ってよね。」のシーンをアニメで見たからなんです。

厳密に言うとこのシーンに至るまでに戦国武将好きである三玖に歴史好きな筆者はすでに好感を持っていたのですが
「責任取ってよね。」のシーンでトドメを刺されました。(笑)

よくアニメの描写でハートを撃ち抜かれる「ズキューン!」みたいなシーンありますが、実際あれが筆者の身に起きていました(笑)
なんてかわいいキャラクターなんだ!…となったわけです。

さて、筆者の三玖推しになったきっかけ談は置いといて(笑)

次の第十話の話ですが、先に宣言しておきます。
一気に話を動かします。

…どういうこと?
と、お思いの読者様が大半でしょう。
そんな読者様のために簡潔に言うと、
この作品の題名らしいことが始まります。

…とだけ、お伝えしておきます。
どんなことが起きるか楽しみにしていただけると幸いです。

では次回話お楽しみに!


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第拾話

どうも、おはこんばんにちは。
水谷幽愁です。

さぁ、第拾話でございます!
筆者としては早く投稿したかった話です!

前話のあとがきにて「この作品の題名らしいことが起きる」と、宣言しました。

起きます!この話で起きますよ!

さぁ、筆者が真夜中に半ばハイになりながら執筆した第十話どうぞ!

※第玖話同様第拾話は文章量がそこそこ多いのでゆっくり読みたい、という読者様は時間に余裕がある時にお読みになるか、しおりを挟みつつお読みください。


今日は土曜日。

俺は五つ子たちの家庭教師をすべく五つ子たちが住むマンションに来ていた。来たはいいのだが…

 

風「なんだこれ!センサー反応しろ!くそぉ…。あの五人だけではなくお前も俺の邪魔をするのか!」

 

開かずのガラス扉に阻まれていた。

なにか手はないかと辺を見回していると監視カメラを見つけた。

 

風「あのー、30階の中野さんの家庭教師をしている上杉と申します。そこのドア壊れてますよ。」

 

監視カメラを通してマンションの管理人に気づいてもらう作戦なのだが…全く無反応だ。

 

三「独りで何してるの?」

 

そこへ、買い物でもしてきたのかレジ袋を持った三玖が現れた。その三玖に立ち往生していた理由を話すと…

 

三「今時オートロックも知らないんだ。ここで私たちの部屋番入れてくれば繋がるから。」

 

マンションの出入り口の脇にある機械を指差し、開かずのガラス扉の開け方を教えてくれた。

 

風「ま、まあ知ってたがな。」

 

俺は少し顔を赤くしながら虚勢を張る。

扉の開け方がわからなかったからとはいえ、無意味にも監視カメラに向かってしゃべっていたり、案外開け方が簡単だったりと色々恥ずかしい。数分前の俺を殴りたい…。

俺が虚勢を張っていると

 

八「こんにちは。上杉くん、三玖さん。」

 

と首にかけたロケットペンダントを揺らしながら私服姿の柳生が現れた。

 

三「どうしてヤエが…あ、そうか。」

 

昨日、図書室で柳生に俺の家庭教師の補佐をすることになったことを聞かされたのを思い出したのだろう。

 

風「おお、柳生。来てくれたか。」

 

八「さっそくの初仕事ですからね。頑張りますよ。」

 

三「家庭教師よろしくね。二人とも。」

 

風「おう。」

 

八「お任せあれ。…あ、そうだ。上杉くん、ちょっといいですか?」

 

柳生が俺と三玖から少し離れた場所に移動し、手招きする。

 

風「なんだ?」

 

と八重のいる場所に移動しながら聞くと

 

八「昨日話した件についてですが…」

 

風「そうだな。まずは…」

 

………

 

八重との会議を手早く終え、五つ子たちの部屋へ向かう。

 

四「おはようございまーす!」

 

一「あれ?なんで八重ちゃんがいるの?」

 

五「同意見です。なぜ八重さんが?」

 

まぁ、そうなるわな。事情を知らない一花と五月にとっては。

 

風「ああ、それはだな…」

 

…説明中…

 

五「なるほど。だからあの時、二人で話してたんですね。」

 

一「へえ〜。八重ちゃんがフータロー君の補佐か〜。」

 

四「上杉さんと柳生さんに教えていただけるなら怖いものなしですね!頑張りますよ!」

 

一「私もまぁ見てよっかな。」

 

五「…教えてくださるのが八重さんなら。」

 

三「約束通り日本史教えてね。」

 

なんだ、今日は柔順じゃないか。こいつらだって人の子。優しく接すれば理解しあえるんだ。

 

八「では、はじめましょうか。」

 

と言った後、八重が俺の方を向き、小さく親指を立てる。

おそらく…

 

「マンション前で話し合った通りになりましたね。」

 

…という意味のグッドサインなのだろう。

というのも…

 

…数分前…

 

風『そうだな。まず…五月はお前に任せていいんだよな?』

 

八『はい。五月さんは私にお任せを。』

 

風『俺は三玖と四葉をやろう。あの二人なら勉強会に参加してくれるはずだからな。』

 

八「そうですね。今挙げた三人はいいとして…』

 

風『一花の奴が不確定要素だな。どうするんだ?』

 

八『一花さんは、そうですね…のらりくらりと躱《かわ》される可能性もありえますが、場の流れがよければ一花さんも参加してくれるかもしれません。それを信じましょう。』

 

風『そうだな。』

 

…という会議が先程あったのだ。

しかしまぁ、こうも八重の言う通りに進むとはな。まあいいや。

 

風「よーしやるか!!」

 

と、勉強会を始めようとしたその時、

 

ニ「なーに?また懲《こ》りずに来たの?」

 

風「二乃…」

 

五つ子の中でも最も難物である二乃が現れた。

五つ子たちと仲がいいという八重ですら、

 

八『申し訳ありませんが二乃さんは私にも手に負えません。』

 

なんて言うぐらいだからな。だが、こんなことも言ってたな。

 

八『二乃さんは……大丈夫だと思います。授業には参加してくれないでしょうが、妨害されはしないと思いますよ。』

 

あの二乃が妨害しないはずがないというのに。八重になにか策があるんだろうか。

 

二「この前みたいに寝ちゃわなきゃ……」

 

二乃は俺が初めてここに来たときに二乃に薬を盛られ寝てしまったことをネタに妨害しようとしていたようだが突然口籠ってしまった。さらに二乃はみるみる顔が青ざめていき、頭を抱えしゃがみこんでしまう。

 

風「二、二乃どうしたんだ?」

 

悪態をつかれそうになっていたとはいえ、その本人があんな状態ではさすがに心配になり声をかける。

 

二「ひぃい!嫌ぁああああ!!」

 

と、なにかに怯《おび》えながら後ずさり逃げ込むように自分の部屋に入ってしまった。

 

風「あ、あいつなんかあったのか?」

 

と他の姉妹たちの方を振り返り見ると他の四人も二乃程ではないが、顔色が変わってしまっている。八重は顔色こそ変えていないが眉間に皺《しわ》を寄せ、考え込むような顔をしている。

 

一「い、色々あってねぇ…。」

 

いやなんだよ色々って…。

 

一「あ、そうだ。私二時からバイトがあったんだった。ごめんね。二人とも。」

 

と、気まずい空気から逃れるようにバイトに行ってしまう。

 

「……………」

 

リビングが静寂に包まれる。

ほんとになにがあったんだ?二乃の奴。

八重が言ってた、

『妨害されはしないと思いますよ。』

って、このことだったのか。

八重は二乃があんな風になると予測していたから、そう言えたのだろうか。

 

風「と、とりあえず、勉強会始めるか。」

 

三「う、うん。」

 

四「そ、そうですね。」

 

五「…えぇ。」

 

風「柳生、五月はお前に任せる。俺は三玖と四葉に勉強教えるから。」

 

八「了解。」

 

気まずい空気だったが、なんとか切り替えて勉強会を始めることにした。

 

…数時間後…

 

勉強会が終わり八重とお互い成果を話し合い、色々わかったことがある。

 

まず、三玖。

三玖は戦国武将についての造詣《ぞうけい》が深いためか社会、特に日本史の理解力がいい。それが三玖の長所。これからもどんどん伸ばすべきだな。

だが、他の四教科が短所。特に英語。急ぎ改善が必要だな。

 

次に五月。

柳生によると五月は理科のできがそこそこいいものの、他の四教科が危うく、かつ、テスト形式で問題を出した所、一問に時間をかけすぎていたようだ。わからなければ次の問題に移ればいいものを、と思っていると柳生は、おそらく五月は真面目で不器用故に一問にこだわってしまっているのでは、と指摘した。

 

柳生の観察眼に感服し、しきりにうなずいていると、その性格をプラスに捉えると五月は勉強に取り組む姿勢がよく、いずれ五月と和解することができたならば五月は強力な味方になるだろう、とも語った。

 

たしかにいつまでも柳生に任せきりというわけにはいかないからな。いずれ俺自ら、五月に教鞭を執ることができるようにしないとな。

 

さて、最後に、二乃とはまた別の意味で姉妹最大の問題児、四葉はというと…

 

問題点が多すぎてどこからか挙げればいいかわからない。

三玖や五月のようにこの教科が優れている、という教科がなく、全ての教科が壊滅的。

強いて言うならば、国語がまだいい方。

 

これには柳生も苦笑いするばかりでなにも言葉を発さない。この状態に加えさらに一花と二乃の勉強も教えねばならないとは…。あの二人の教科の得意不得意はわからんが、今回勉強会に参加してくれた三人同様壊滅的なのは間違いないだろう。

 

あぁ…こいつらを全員卒業させることなどできるのだろうか。にしても柳生を補佐にしてよかった。俺一人だったらどうなっていたことか…。想像しただけでめまいがしそうだ。

 

柳生と意見交換し、その内容に苦い顔をしながらマンションの出入口に向かう。

 

八「二乃さんをいかに勉強会に参加させることができるか、ですね。」

 

風「そうだな…。」

 

成績が壊滅的な四葉とはまた違う問題児、二乃。

なぜかはわからんがあいつは俺に特別な悪意を持っている。

 

風「あいつとわかり合える日が来るとは思えん。」

 

三「誠実に向き合えばわかってくれるよ。」

 

と、俺たちを出入口まで見送る、とついてきた三玖。

ちなみに四葉と五月は勉強会が終わった瞬間、コンビニにダッシュしていった。なにしてんだよあいつら。

 

風「誠実にって…どうすりゃいいんだよ。」

 

八「右に同じ。」

 

三「私に言われてもわかんない。」

 

えぇ…。わかんないのに誠実に、とか言われても…。

 

三「それを考えるのがフータローとヤエの仕事でしょ?」

 

風八「「誠実に向き合う…か。」」

 

「ハモった…」

 

俺と柳生がガラス扉を通過した所で俺はあることに気づく。

 

風「あ、単語帳忘れた。」

 

八「えっ?」

 

反射的にまだ開いているはずのガラス扉にばっと振り返る。

しかし、ガラス扉はガシャンと閉まってしまう。

 

風八「…」

 

俺は勉強会に来たときに三玖に教えてもらった通りに出入口脇にある機械を操作しガラス扉を開ける。

 

三「どうしたの?」

 

と部屋に戻ろうとしていた三玖が振り返る。

 

風「部屋に単語帳忘れちまってな。」

 

三「なるほど。」

 

八「では、私はこれで。」

 

風「あぁ。じゃあな。」

 

三「じゃあね。ヤエ。」

 

八「さようなら。」

 

………

 

俺と三玖は柳生が帰って行くのを見届け、部屋に忘れた単語帳を取りに戻る。

…というか柳生の歩く速度が速すぎて驚いた。競歩選手になれるんじゃないか、ぐらいのレベルで速かった。

 

俺と三玖は柳生の歩く速度に半ば呆然としたのち、エレベーターに乗り込んだ。

 

視点チェンジ 風太郎→二乃

 

ん?あぁ…私はいつの間にか寝てしまったようだ。

リビングから声が聞こえない。一花はバイトでいない。それは知ってる。あいつの勉強会に参加した三玖と四葉と五月はどこに行ったんだろう。もう勉強会は終わったのかしら?

 

それにしてもまさか、八重があいつの補佐として来るなんて。なんであいつの補佐になんてなったのよ…。

パパに命令されたからって勝手に入ってくるあいつに向ける感情を八重には向けたくない。

私たちを助けてくれた恩人で私と政寿郎君を繋いでくれる大切な友達。

ただ、それだけであってほしかった。

 

政寿郎君、という名を思い浮かべた瞬間肌が粟立っていき、体がぶるっと震える。

 

ああ…八重が繋いでくれたとしてもまた、政寿郎君と話せられるかな…。

 

先週の日曜日、つまり、政寿郎君と八重が我が家に遊びに来たあの日、それは起きた。

 

四葉が政寿郎君と八重に関係は進展しましたか?と爆弾発言を投下したことで空気が気まずくなり、政寿郎君が電話をしてくるとベランダに行ったあと、残った六人で上杉の話になった。上杉に薬を盛り、眠らせて強制送還したという話になったそのとき、今まで私たちに背を向け誰かと通話していた政寿郎君がスマホを耳から離し、こちらを見た。

 

私はきっと、あのときの政寿郎君の表情を生涯忘れることができないだろう。

 

そのときの政寿郎君の表情は無だった。

怒りに青筋を立てているわけでも、

侮蔑の表情を浮かべているわけでもなく、

ただただ、無表情。

 

私はあの表情を見た瞬間、総毛立った。

なぜならあのとき、無表情だった政寿郎君は明らかに私に向かって殺気を放っていたからだ。

 

世界を覆い尽くしない程どす黒く、体全体を思いっきり押さえつけられるような重圧とともに。

 

そして無数の雷が落ちてもいた。

『先生の雷が落ちる』

といった表現という意味でなく、実際に。

 

一花たちもあのとき雷が落ちていた、と口を揃えて言う。しかし、その時の天気からして雷など落ちるような様子ではなかった。不思議なこともあるものね。

 

それは置いといて、政寿郎君と八重が帰ったあとなにが、政寿郎君にとても人が放ってはいけないような殺気を放たせる程に怒らせたのだろうとずっと考えた。

 

まずすぐに思い浮かんだのが政寿郎君が殺気を放ったちょうどそのときにしていた、上杉を眠らせ、強制送還した話。

 

おそらく過去に政寿郎君も同じような経験をしており、それがトラウマになっていて、自分がされたようなことをしたという私に怒ったでは、と考えた。

 

もし、そうなのだとしたら私は知らなかったとはいえ、政寿郎君を傷つけたことになる。

 

私が彼の立場なら即座に絶交を突きつけるだろう。

不幸中の幸い、それをされることはなかったが…。

 

そんな不確定な恐怖に怯える心を、

あれは勝手に私たち、五人の輪を乱そうとする上杉から姉妹を守るためにやったのだ、と励ましてみたが、あのどす黒い殺気を拭い去ることはできなかった。

 

あぁ…もう……どれもこれも全てあいつのせいだ!

 

「私たち五人の家にあいつの入る余地なんてないんだから。」

 

風二「「え?」」

 

三「………」

 

私が恨み節をつぶやきながら部屋を出ると、そこにはいないはずの上杉と三玖がいた…。

 

風「今の…もしかして……」

 

二「なんでまだあんたがいるのよ。勉強会は終わったんじゃなかったの?」

 

三「勉強会は終わった。でもフータローはここに忘れた単語帳を取りに来ただけで…」

 

と三玖が上杉が忘れたという単語帳を示した。

四葉だけじゃなくて三玖まで…。

なんでそいつの味方するの?

 

二「あんたら、いつからそんなに仲良くなったわけ?こういう冴えない顔の男が好みだったの?」

 

と言いながら階段を降り二人に近づく。

 

風「こいつ今酷いこと言った。」

 

三「二乃は面食いだから。」

 

風「お前も地味に酷いな。」

 

面食い。たしかに否定はできない。金髪でアウトローな見た目の政寿郎君を好きになっている時点で。

違う違う。今は政寿郎君から離れよう。

 

二「はぁ?面食いのなにがいけないんですか?イケメンに越したことはないでしょ?」

 

改めて見ると三玖は地味な服を着ている。もっと女の子らしい服を着れば三玖もかわいいはずなのに…。

 

二「なるほど。外見気にしないからこんなダサい服で出かけられるんだ。」

 

三「この尖《とが》った爪がオシャレなの?」

 

二「あんたにはわかんないかなー」

 

三「わかりたくもない。」

 

思えば、私と三玖は正反対だわ。

外交的な私と内向的な三玖。

同じママのお腹から産まれた姉妹なのにここまで違うのはなぜなんだろう。

 

風「お前ら、姉妹なんだから仲良くしろよ。」

 

うるさい。知ったような口を…。

 

二「みんなバカばっかり嫌いよ。あんたみたいな得体の知れない男を招き入れるなんてどうかしてるわ。私たちの…」

 

風「五人の家にあいつが入る余地なんてない。さっきお前はそう言ったな。」

 

こいつ…さっきの聞こえて…。

 

風「俺のことが嫌いってだけじゃ説明付かないんだよ。お前はみんなバカばっかりで嫌い、と言ったがそれは姉妹のこともか?それは嘘だろ。」

 

二「嘘じゃない!もういい。黙って!!」

 

三「二乃…」

 

風「姉妹のことが嫌い?むしろ逆じゃないのか?五人の姉妹が大好きなんじゃないのか?だから異分子の俺が気に入らないんだ。」

 

三「!!」

 

二「何それ…見当違いも甚《はなは》だしいわ。人のことわかった気になっちゃって。そんなのありえないわ。キモ。」

 

なんでわかるのよ…。冴えない勉強野郎のくせに…。

 

三「ねぇ、二人とも……あれ……なに?」

 

と、三玖が震えながらベランダの方を指差している。

 

風「なんだ?三玖…………」

 

ニ「なによ、三……玖………」

 

三玖が指差す方向を見た瞬間、私の思考は停止した。

なぜって?

 

三玖が指差したベランダの方には身長が私の2倍ほどあり、体全体が灰色で細長く、手の指の長さが成人男性の腕の太さはゆうにあるSF映画に出てくるエイリアンのような化け物がいたからだ。

 

「あ、あいつなんなのよ!上杉!!」

 

「知らねぇよ!こっちが聞きたいわ!!」

 

三「………」

 

三玖は恐怖のあまり固まってしまっている。

 

化「美味《うま》そうな…女…が二人。男の方は……殺すか。」

 

この化け物、言葉を!ほんとになんなのよこの化け物!!

 

そう思った瞬間、化け物が手の指全てを伸ばし私たちに襲いかかる。化け物の歯は肉食動物の…いや、それ以上に鋭い。それにあの大きさ。あの指に捕まったら最後。私たちなど簡単に喰われてしまうだろう。

 

嫌だ。私はまだ死にたくない。お願い!誰か助けて!!

自分の体を抱きながらしゃがみ込み目を瞑《つぶ》る。

その瞬間、私の横を風が通り抜ける。

 

…あれ?化け物の指が届いてない?

と思い、恐る恐るゆっくり目を開けるとそこには、右手に持った刀で化け物の指全てを斬り落とした和風の黒い服を着た人物………八重がいた。

 

視点チェンジ 二乃→八重

 

数分前、私が上杉くんと三玖さんと分かれ、しばらく歩いていると突然体がぞわっとした。

 

まさか!と今来た道をばっと振り返る。

その気配は五つ子たちが住むマンションに近づいている。

 

まずい!マンションには部屋に忘れた単語帳を取りに戻った上杉くんと三玖さん、二乃さんがいるはず!

 

すぐさま踵《きびす》を返し、マンションに向かう。

 

走りながら右手首に触れ、今まで着ていた服装から黒い羽織袴姿に姿を変える。今まで着ていた服より断然走りやすい。

             

               

にしても、五つ子たちのもとにまた鬼憑人《きつきびと》が現れるとは。こんな短期間で2度同じ人々の元に鬼憑人が現れるなど、ほとんどありえない。

 

となると、やはり、御金《おこがね》様が睨んでおられた通り、奴らが糸を引いているとしか…。

 

ああ…腹立たしい。父の腕を奪い先祖代々受け継がれてきた伝統を絶たんとした塵《ごみ》共め…。

 

だめだだめだ。今は奴らよりマンションにいるであろう三人のことを考えねば。

 

問題はあのガラス扉。最悪、叩き割って入るしかないだろうが、それでは後々面倒。しかし…時間を掛けるわけには…。

 

そう考えながら風を切り、走っていると五つ子のマンションが見えてきた。しかも運のいいことにマンションの他の住人がマンションに入るべくガラス扉を開けている。

 

チャンスだ!あれに滑り込むことができれば一瞬だが時間を短縮できる。だが間に合うか?

 

まずい!ガラス扉が閉まってしまう!

 

私は走る速度をさらに上げ、ガラス扉が人一人ぎりぎり入れるかどうかまで閉まっていたガラス扉に向かってスライディングし、なんとか入り込めた。が、

 

「こら!なんなんだ君は!」

 

とガラス扉を開けた白髪のおじいさんに怒られてしまう。

突然入って来て大変申し訳無い。でも、それどころではないのだ。

 

「ごめんなさい!」

 

とおじいさんに顔を向け、謝り、再び前に顔を前に向け階段を駆け上がる。

 

やがて五つ子たちの部屋がある30階にたどり着く。

その瞬間再び、体がぞわっとした。しかもさっきよりも強い。急がねば。

 

五つ子の部屋のドアを開け、リビングに入る。

ちょうど鬼憑人がなぜか揃っている三人に襲い掛かろうとしている所だった。

よかった。なんとか間に合ったようだ。…なんて安心している暇はない。

 

しゃがみ込んでいる二乃さんの横を通り過ぎながら左腰に帯びた刀を抜き、三人に迫っていた全ての指を刀一振りで斬り落とし、今に至る。

 

八「ふぅ。間に合ってよかった。」

 

と、ようやくずっと張り詰めいてた心を少し緩めていると

 

風「…え?柳生?柳生なのか?」

 

と上杉くんがひどく驚いた様子で私に問いかける。

 

無理もないだろう。

突然わけのわからない化け物が現れ、殺されそうになったかと思えば帰ったはずの同級生が羽織袴姿になって突然戻ってきて成人男性の腕ほどある化け物の指を全て斬り落としていた、というカオスな状況に身を置かれているのだから。

 

八「えぇ、そうですよ。上杉くん。」

 

風「なにが…どうなってんだ?……」

 

学年一位の頭脳を持つ上杉くんといえどこのカオスな状況を理解しきれていないようだ。

 

二乃さんと三玖さんは言葉を発さない。

おそらく二乃さんは上杉くん同様、驚きで。

 

三玖さんは………なんか目がキラキラしてる…。

歴女の三玖さんにとってはこの姿がかっこよく見えているのだろう。当然、驚きもあるだろうけど、かっこよさが勝っているのだろうか。

 

鬼「く…くそぉ…。小娘よくもおぉぉぉ!!」

(化→鬼に変更)

と私が斬った指を再生させ私に指全てを伸ばしてきた。

 

風「柳生!!」

 

自分たちの方を向いている私に指が迫っていることを伝えたいのだろう。

だが…心配無用。

 

柳生鬼祓型 弐の型(やぎゅうきふつけい にのかた)

 

襲いかかる無数の指を刀と鞘《さや》を使って、指の軌道を逸し、全ての指を受け流し、で指を糸のように絡ませた。

 

柳風の舞(りゅうふうのまい)

 

指を全て受け流し絡ませた瞬間前に小さく飛び、前にあるソファーを踏み台にして真上に飛び、五つ子たちの部屋の前にある手すり柵の上に飛び移る。

 

鬼「おのれちょこまかとおぉぉ!!」

 

絡まった指を解いた鬼憑人は手すり柵に飛び移った私に再び全ての指を伸ばしてくる。

 

しかし、先程の指と違うのは今伸びてきている指は鬼の棍棒のように指の至るところに、イガイガが生えており灰色だった指は真っ黒になっていることだ。

 

おそらく、肌を硬化《こうか》させたのだろう。もしあれに当たれば、当たりどころによってはただではすまないだろうな。

 

それにどれだけ硬いかわからないが柔《やわ》な攻撃ではあの指はびくともしないだろう。と、なれば…

 

 

捌の型  破竹・烈割(はちのかた はちく・れっかつ)

 

手すり柵から鬼憑人の方へ飛び、1番近い指に斬りかかる。

やはり、この指は硬化されたものだったか。

先程斬ったときの指とは硬さが比べ物にならない。

だが、一太刀目が決まれば私の勝ちだ。

 

黒曜石のように黒くなった鬼憑人の指を斬り落とす。

そこから鬼憑人の硬いはずの指をまるで豆腐でも斬るかのように勢いよく、すぱすぱ斬っていく。

 

なぜ、硬いはずの鬼憑人の指をここまで容易に斬る事ができるのか?それは今、実行している型、破竹・烈割の特性にある。

 

まず、この型の名にある『破竹』とは、『破竹の勢い』の略。そしてその『破竹の勢い』とは…

 

竹が最初の一節を割るとあとは一気に割れるように、勢いが激しくてとどめがたいこと。

 

…という意味である。

この意味を型に置き換えるとどうなるか?

 

最初の一節→最初の一太刀

 

あとはもう、察しがつくだろう。

この型は最初の一太刀を決めることができれば二太刀《ふたたち》目からは勢いや威力をとどめることなく連続攻撃を繰り出すことができる型なのだ。

故に、硬いはずの鬼憑人の指を容易に斬る事ができる、というわけだ。

 

やがて、鬼憑人の首が届く距離まで間合いを詰める。

 

鬼「くそっ!くそおぉぉぉ!!」

 

八「…哀れ。」

 

最後の一振りで首を斬り、鬼憑人の背後に着地する。

 

首を斬られた鬼憑人は紫色の炎を発し、燃え尽きていく。

その炎で家が燃えないか、と心配されるだろうが問題ない。鬼憑人が燃え尽きる際に発する炎は周りには燃え移らないのだ。

 

鬼憑人が燃え尽きるなりいきなり、二乃さんが詰め寄ってくる。

 

二「ちょっと八重どういうこと!?あいつ何!?その格好は!?」

 

二乃さんからすれば突然一気に来た情報量が多すぎて処理しできないのだろう。

 

まぁ、その反応が普通だ。

さて、後始末を始めるとしよう。

 

八「ごめんなさい。それを話すわけにはいきません。」

 

と言いながら懐からサングラスと銀色の扇を取り出す。サングラスをかけながら扇を開き、それぞれの反応をしている三人に扇を向け、扇の要にあるボタンを押すと三人に向けた面が光を放つ。そして光が放たれた瞬間、扇を一気にバチン、と閉じる。

 

光を浴びた三人は魂が抜けたような顔をしている。

 

「ごめんなさい。今はまだ鬼憑人の存在を知られるわけにはいかないのです。」

 

とサングラスを外し、右手首に触れ、最初ここに来たときの服装に戻りながら、小さく謝罪した。

 

 

視点チェンジ 八重→風太郎

 

…にしても今日は大変だった。

勉強会をやろうとしたら二乃に邪魔されかけるし、勉強会に三玖・四葉・五月が参加してくれたのはよかったものの三人とも壊滅的な学力だし、柳生が仲裁に入ってくれたからよかったものの二乃と喧嘩になりかけたし。

 

俺は三玖と柳生と分かれたのち、エレベーターに乗る。

するとメールが届いた。見るとらいはからだった。

 

ら『はーい。ごはんできてるよー。今日はなんとお兄ちゃんの好きなカレーうどんです!』

とのこと。

 

あぁ、俺はらいはの笑顔があるから、俺は頑張れるんだろうな。これからも困難がたくさんあるだろうがらいはのために、と思えばずっと頑張れるだろう。

 

それに、二乃が俺に悪意を持っている理由がわかった気がする。

 

勉強会が終わり、帰ろうとしたとき、部屋から出てきた二乃はこう言った。

 

二「私たち五人の家にあいつが入る余地なんてないのよ。」

 

きっと、五人の家で大切な姉妹たちと共にいるのが二乃にとっての幸せなんだろう。

そしてその家に入ってくる俺は二乃にとって異分子。

だから、気に入らない。

 

これがおそらく二乃が俺に悪意を持っている理由なんだと思う。

 

ただ、一つ引っかかることがあるとすれば、二乃のそれは柳生にあまり向けられていないことだ。

 

俺と違い柳生は同性だからとか、事故から自分たちを救ってくれた恩人だから、とかだろうか。 

 

俺が推測したものが二乃の真意なら、これからも二乃は俺を排除しようとするはず。

 

また厳しくなりそうだな…。これだから過度な干渉は嫌いなんだ。

 

………

 

八「御金様、お伝えしたいことがございます。」

 

御「なんだ?」

 

八「例の五つ子たちの元に再び鬼憑人が現れました。」

 

御「またか…。」

 

八「……」

 

御金様と呼ばれた壮年の男は歯をぎりっと鳴らし、眉間に青筋を立てている。

 

八「やはり…奴らのしわざでしょうか?」

 

御「だろうな。小賢《こざか》しい塵共め…」

 

八重は男が放つ殺気に体をぶるっと震わせた。

 

男の殺気に男が住んでいる屋敷全体が地震が起きたかのようにがたがたと揺れている。

 

御「ふぅ…。いかんな、熱くなっては。熱くなりすぎるとろくなことがない。」

 

と男は殺気を収めた。同時に屋敷の揺れも止んだ。

 

八「それで…いかがいたしましょう?おそらく奴らはより強い毒牙を用意して五つ子たちに迫ってくるはずですが。」

 

御「高校にいる間や今回のように家庭教師補佐をしている時の奴らへの対処は八重、お前に一任している。もし、手に余るのであれば局員たちを使うのも手だ。」

 

八「はい。」

 

御「もし、さらに手が余るならば私や千雄に助けを求めるもよし。あるいは政寿郎に助けを求めるもよし。」

 

八重は無言でうなずく。

 

御「とにかくお前に命じることはただ一つ。五つ子たちを絶対に奴らに渡すな。なにがなんでも守れ。いいな?」

 

八「承知。…ところで、明日の件は問題ないのですか?」 

 

御「あぁ。諸方と連絡を重ね準備は万全。あとは奴らを謀《はかりごと》の底なし沼に嵌《は》めるだけだ。」

 

と、男は不敵な笑みを浮かべながら顎髭《あごひげ》を撫でている。

 

御「明日は八重にも働いてもらわねばならん。休めるときはしっかり休め。」

 

八「はい。では、失礼します。」

 

八重が男の部屋から退出したのち、男は天井を眺めながら眉間に皺《しわ》を寄せていた。

 

御「奴らはどこまで奪えば気が済むのだ。もうなにも奪わせはしない。」

 

男は右手に持った金の扇を強く握り締めた。




改めてどうも。水谷幽愁です。

起きました!起きましたね!この作品の題名らしいことが!!

筆者は早くこの話を投稿したく、うずうずしてました(笑)

とはいえ、まぁ、筆者は小説投稿ド素人なのでうまく戦闘シーンが描けたかはどうかはわかりません。が、成長していこうと思います。

さて、新たに色々な言葉が登場しました。「鬼憑人」とか「型」とか色々。

なんとなく察していただけたと思いますがこの作品の戦闘面に関することは「鬼滅の刃」をイメージしながら執筆しています。「型」とか出てきましたし(笑)

ですが真面目な話、「型」を連発する気は今の所、ありません。

あくまで「鬼滅の刃」はイメージの元ってだけですし、八重にこの「型」を使わせたのは長きに渡る伝統を受け継ぐ剣術一家出身の八重だから、という権限?で型を使用させました。

…と、言った所ですかね。

ここから五等分の花嫁に戦闘的な戦闘要素を少しずつ加えて行こうと思います。

では、次回話お楽しみに!


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第拾壱話

どうも、おはこんばんにちは。
専門学校からの帰り道に現在放送中の日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室』の撮影現場に遭遇し、主演の鈴木亮平さんを生で見たことを家族や友人に自慢しまくった水谷幽愁です。

後で調べて見たところ、筆者が遭遇したのは第3話の撮影だったようです。…これで薄々筆者の在住地が察せてしまいますね。(苦笑)

さて、自慢話は置いといて、今回は第十一話。
今回から少し時を遡ります。といっても一週間程ですが。

なかなか登場せず本当に主人公?と筆者すら思い始めている幸志郎について触れていこうと思います。多分、二話ぐらいで元の時間軸に戻ります。

一週間遡り編で色々発覚しますので脳のオーバーヒートご注意です。

では第拾壱話どうぞ!


風太郎が五つ子たちや八重に出会い、そんなこんながあったその頃、今作の主人公、真田幸志郎はなにをしていたか触れていこうと思う。

 

時は風太郎が五人の少女たちが五つ子だったと知った日まで遡《さかのぼ》る。

 

………

 

金曜日。いつも通り授業が終わり家に帰ってくると俺宛に封筒が届いていた。俺の配信を見てくれている視聴者さんからか、と思ったが違った。

 

治安維持局からだった。

 

…は?

俺は驚きのあまり固まってしまった。

 

そもそも、その治安維持局とはどういう機関なのかというと、名の通り治安維持を目的とした機関で自衛隊のように銃火器による装備が許可されている機関でもある。

 

活動内容はというと…デモや暴動の鎮圧。自衛隊のように被災地の支援。さらには武装した犯人が建物に立て籠もった際の突入時の精鋭部隊として活躍している、とも聞いたことがある。

 

そんな治安維持局から俺のような者になぜ封筒が送られてくるのだ、となっているわけだ。

 

しかも、封筒に入っていた書類によると明日、治安維持局に来るように、とのことだった。

 

…なぜ俺が?その考えが頭を埋め尽くす。

俺に戦闘能力などほぼ無である。柳生新陰流を学んでこそいたが、それも銃の前では焼け石に水…いや、溶岩に水滴といったほうがいいだろう。

 

仮に俺が治安維持局に所属することになったとして、突入部隊にでもなったらそれこそ終わりだ。

RPGゲームでラスボスに初期装備で戦いを挑むようなものである。

 

なぜ俺が?

ずっとそう考えながら翌日を迎えた。

 

………

 

封筒に同封されていた地図を頼りに治安維持局に向かう。

 

あぁ、今日は政寿郎と遊びたかった。なのにあいつ、

 

政『明日、五つ子たちに会いにちょっくら名古屋に行ってくるからその準備で無理。お土産は期待するなよ。』

 

とかぬかしやがって…。

 

まぁ、あいつの話は置いといて。

なぜ俺が治安維持局から呼ばれるのだろうか。

その考えが頭から離れない。

故にこう、解釈することにした。

 

俺は戦闘部隊として呼ばれたのではなく、戦闘部隊を支援する者として呼ばれたのだと。

 

聞いた話、治安維持局には特殊なスパイウェアを使ってデモを起こす実行犯達の情報を抜き取り貢献する人々や、ドローンを使って犯人が建物で立て籠った際、犯人や人質にされている人がいる場所を炙《あぶ》り出す人々がいるという。

 

きっとそれだ。戦闘部隊としてよりは支援役のほうがよっぽどマシだろう。そうだ、それだ。俺は戦闘部隊としてではなく支援役として呼ばれたのだ。そうに違いない。

そう自分に言い聞かせながら治安維持局に向かった。

 

そういえば…封筒に入ってたあの金の札はなんなんだろうか。

 

やがて歩いていると目的の治安維持局に到着した。

灰色の建物で窓の位置や数から察するに10階ぐらいはあるだろうか。校門のような入り口から敷地に入り、自動ドアを通って建物に入る。

 

建物に入って正面にある受付に向かう。

 

「どんなご用でしょうか?」

 

幸「僕宛にこの封筒が届いたのですが…」 

 

「拝見いたします。」

 

受付の女性は俺が手渡した封筒を開け、俺がここに来るように命じられた書類を一読し、なぜか入っている金の札を見て、

 

 

「ふむ。一応確認しますがあなたは

 

     (ゆきひさ)

真田幸志郎 幸玖様で間違いありませんね?」

 

幸「はい。」

 

「では、案内の者を手配しますのでそちらでお待ちください。」

 

そう言われ、女性が示した椅子に座り待つこと3分程経った後、

 

「おまたせしました。私がご案内いたします。」

と案内の女性が現れた。

 

案内の女性についていくと

 

【関係者以外立入禁止】

 

と貼り紙が貼られていて数字を入力する機械が付いている重厚な扉にたどり着いた。

 

「パスワードを入力しますので目を逸していただけますか?」

 

幸「あ、はい。」

 

さすが治安維持局。万が一扉を開けるパスワードが漏洩《ろうえい》でもしたらまずいのだろう。【関係者以外立入禁止】なんて貼り紙が貼られてるぐらいだし。

 

案内の女性がパスワードを入力すると重厚な扉が独りでに開いた。その先は真っ暗でなにも見えない。が、案内の女性が扉の裏にあるボタンを押すとなにも見えなかった空間に光が灯り、真っ暗なエレベーターが現れた。

 

「そちらのエレベーターにお乗りになれば自動的に目的の場所に到着しますのでなにも操作する必要はありません。」

 

幸「は、はい。」

 

目的の場所に自動的に到着する?どういうことだ?

と思いながら扉が開いたエレベーターに乗り込むと

 

「では、私がご案内できるのはここまででございます。真田様のご武運をお祈りいたします。」

 

と案内の女性がおじぎする。

ん?ご武運?

 

幸「えっ!?ご武運ってどういう…」

 

咄嗟《とっさ》に案内の女性に問いかけようとするもそれを拒むようにエレベーターはガシャンと閉まってしまう。

 

目的の場所とやらに向かうエレベーターの天井を眺めながら様々な考えを巡らせるも多くの謎が頭の中で糸のように絡まり、余計こんがらがってしまう。

 

やがてエレベーターは目的の場所とやらに到着したようで扉が開いた。エレベーターを出て辺りを見回していると

 

?「ん?あんた誰?」

 

と少女の声が飛んでくる。

その声の方を向くと胡桃《くるみ》色の髪を毛虫のようにわたわたした黒ゴムで束ね、黒い羽織袴を着た少女がいる。

年は俺と同じくらいだろうか。

 

?「ここに来たってことはただの一般人じゃないはずよね。あんた、名前は?」

 

目の虹彩《こうさい》が茜《あかね》色の少女が俺の名前を問いかけてくる。

 

幸「俺は真田幸志郎といいます。」

 

?「真田君ねぇ…。う〜む、私が呼んだわけじゃないし…もしかしてあいつが呼んだのかも…。あぁ、私も名乗っておくわ。私は伊達 巴《だて ともえ》。よろしくね。」 

 

幸「よろしくです。巴さん。」

 

苗字が伊達?あいつの親戚にこんな子いたっけ?

 

巴「さっそくだけど、ここからから送られてきた封筒に札が入ってたと思うんだけどそれを出してくれる?」

 

幸「わかりました。たしかに入ってましたよ、札。金色の。」

 

巴「へぇー。金色の札ねぇ………はぁ!?

 

幸「えぇ!!なに!?」

 

俺が封筒を出すべく鞄《かばん》を探っていると突然巴さんが大声上げるもんだからびっくりしてしまった。

 

巴「え!?金の札持ってるの本当なの!?」

 

幸「え、えぇ。…ほら、この通り。」

 

と、封筒から金色の札を取り出し巴さんに手渡す。

 

巴「…たしかに本物だわ…。」

 

金色の札を色々な向きから見て本物だと知る巴さん。

 

幸「あの〜この札ってなんの意味があるんですか?」

 

巴「あぁ、この札はね…」

 

と巴さんが話そうとすると、

 

?「おい、なにを騒いでる?巴。」

 

と、奥から白髪で俺と同じくらいの身長の男性が現れた。

 

巴「なによ、白のっぽ」

 

名を呼ばれた巴さんが男性に鋭い目を向ける。

 

おそらく、巴さんが男性を白のっぽと呼ぶのは男性が白髪で身長が高く、スマートな体格をしているからなんだろう。

 

?「黙れうり坊。俺はこの金の札の少年と話がしたい。」

 

巴「うぐぅ…。あんたあとで覚悟しときなさいよ。」

 

と、男性の裏に引っ込む。

 

男性が巴さんのことをうり坊と呼ぶのはおそらく巴さんの髪が胡桃色で背が150cm程だからなんだろう。

 

?「さて、話をしようか。まず、君の名前を教えてくれ。」

 

幸「真田幸志郎といいます。」

 

?「真田…金の札……あぁ、そういうことか。」

 

一人でも納得されても困るんだが…。

 

幸「あの…この金の札ってなんの意味があるんですか?」

 

?「そうだな…招集状、というのが妥当だな。」

 

これが…招集状?

 

幸「招集状ってどういう…」

                                     

         (きふつ)

?「招集状さ。我ら【鬼祓】に加入するためのな。」

 

なんか新しい言葉が出てきた。なにその鬼祓って。

『○滅の刃』の○殺隊みたいな感じのやつなのか?

 

?「で、君にはその鬼祓に加入するに本当にふさわしいかどうか試験をしたいのだが…」

 

幸「ちょっとまってください。そもそも鬼祓ってなんですか?それにお二人とも何者なんですか?」

 

小「ふむ。まぁ、そうなるのが当然か。あぁ、名乗っておこう。俺は片倉 景忠《かたくら かげただ》。だが、周囲から本名ではなく日常的に名乗っている小十郎と呼ばれているから君もそう呼んでくれればいい。」

 

あと、と片倉景忠と名乗った男性が巴さんを指差し、

 

小「こいつの名は聞いたな?こいつは少々生意気な奴だが、まぁ、鬼祓に加入できた暁《あかつき》にはそこそこ仲良くしてやってくれ。」

 

巴「誰が生意気じゃ!白のっぽぉおお!!」

 

生意気と言われた巴さんが小十郎さんの肩を悔しげにぼこぼこ殴っているが小十郎さんは全く動じずに話を続ける。

 

小「まずは真田君、閻魔《えんま》草を知っているか?」

 

幸「はい。日ノ本に室町時代頃からあるっていうどんな病気も怪我も治せる薬を作れる植物のことですよね?」

 

小「そうだ。」

 

幸「その閻魔草と鬼祓となんの関係が?」

 

小「万病奇病を癒やす閻魔草だが非医学的に使えてしまうんだ。」

 

幸「え?」

 

小「閻魔草を非医学的に調合して人に飲ませることで人を怪物の化け物のような姿に変えてしまうことが可能だ。」

 

幸「…。」

 

あの閻魔草にそんな使い方が…。

 

小「その化け物のような姿になってしまった人のことを【鬼憑人】。そしてその鬼憑人を祓うことを活動としている秘密組織が我ら鬼祓だ。」

 

幸「…。」

 

情報量が多すぎるのとそんな組織があったのかという驚きで言葉がなくってしまう。

 

幸「そんな組織に…俺はなんで招集されたんでしょう?俺、加入できたとしても足手まといになるだけですよ?」

 

小「生憎《あいにく》、君が招集された理由を知っているのはこの金の札を君に送った御金(おこがね)様…この仙台支局の長のみ。なにも俺は知らないのだ。巴、お前もそうだろう?」

 

巴「えぇ。てっきり真田君を呼んだのあんただと思ってたし…。あぁ、あと御金様っていうのはここを含めて全国に5ヶ所ある鬼祓の拠点である支局の長の敬称のことよ。」

 

なるほど。その御金様から送られてきたから金の札だったんだな。

 

幸「で、その御金様とやらはどこに?」

 

小「御金様は今、出張の準備をしておられる。明日、名古屋で重要な密談があるのだとか。」

 

幸小巴「………。」

 

3人で黙っていると小十郎さんの携帯が鳴る。

 

小「…はい。私です。……えぇ、ちょうどその真田君と話をしていたところです。…………承知しました。彼にそう伝えればいいんですね?では、私と巴のみで試験を行いますが……あぁ、よろしいので。了解しました。では、失礼します。」

 

小十郎さんがぷつっと通話を切る。

 

小「ちょうどその御金様からの伝言だ。『お前を招集したのはお前にしかできない仕事があるから』…だそうだ。」

 

幸「…え?」

 

その御金様とやらは俺に近い人物なんだろう。でなければ知らないはずの俺をお前、とは呼ばないはず。

 

俺が御金様の正体について顎《あご》に手を当て思案していると巴さんがやれやれ、といった様子で自分の肩を銀色の扇でぽんぽん叩いている。小十郎さんも同じ銀色の扇を羽織袴の帯に挟んでいる。

 

そういえば、あいつもお二人と似たような金の扇を持ってたな。

 

…まてよ?

御金様という敬称。

 

あいつが持っていた金の扇とお二人が持つ銀の扇。

 

お二人の姓である、片倉と伊達。

 

名古屋に出張。

 

俺をお前と呼ぶほどの関係。

 

………そんなことがありえるのか?そんなことが…

 

幸「巴さん!!」

と巴さんの肩を掴む。

 

巴「えっ!?なに!?」

 

幸「巴さんのご先祖様を教えてください!!」

 

巴「いきなりなんなのよ!!」

 

幸「どうしても知りたいんです。お願いします!」

 

巴「わかった!わかったから離して!!」

 

俺は巴さんの肩を離す。

巴さんはしばらく息を整えたのち、

 

巴「私のご先祖様は亘理(わたり)伊達家初代当主、  伊達 成実(だて しげざね)公よ。それがなに?」

 

小「まさか…」

 

小十郎さんも俺がなぜ巴さんのご先祖様が誰なのか聞いたのか察したのだろう。

 

俺が御金様の正体について気づいたのだと。

 

まず、お二人のご先祖様について触れていこう。

 

お二人のご先祖様である、

片倉 景綱(かたくら かげつな)公と伊達成実公。

 

このお二方はとある人物に仕え、その活躍ぶりから

【伊達の双璧】と称されるほどの人物。

 

そしてそのお二方の子孫である小十郎さんと巴さん。

そのお二人が持つ銀の扇とあいつが持つ金の扇。

 

おそらく鬼祓においては聖徳太子の冠位十二階のように色で階級が分けられているのだと思う。…さすがに聖徳太子のように十二分割ということはないだろうが。

 

とすれば、銀色の扇を持つお二人は幹部的な立場なんだろう。なんせ、長が御金様、なんていうぐらいだし。

 

そんなお二人を部下とする人物は…過去と現在を照らし合わせれば自《おの》ずとわかる。

 

お二人のご先祖様である、片倉景綱公と伊達成実公の主の子孫にして、御金様であることを示す金の扇を持っており、明日名古屋に行くという、俺をお前、と呼ぶ人物。

 

そんな奴はこの世に一人しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

    だて   せいじゅろう   としむね

   伊達  政寿郎  舜宗

 

 

 

あいつしかありえないのだ。




改めてどうも。水谷幽愁です。
さぁ、色々発覚しましたね。
政寿郎の正体・鬼祓・人が鬼憑人になる理由・御金様の意味。
さらに新キャラも登場しました。
ですので新脳内キャストも発表したいと思います!

























片倉小十郎(景忠)→鈴村健一さん
「銀魂」沖田総悟役
「鬼滅の刃」伊黒小芭内役など

伊達巴→釘宮理恵さん 
「銀魂」神楽役
「とらドラ!」逢坂大河役など


といったキャストになっております。

この2人も悩むことなく瞬時にきまった脳内キャストです。
なぜこのキャストなのか銀魂好きなら察していただけるでしょう。

さて、脳内キャスト発表はここで終えといて。

第拾壱話についてでございます。

色々発覚し、脳がオーバーヒートし、後書きどころではない読書様がもしかしたらいらっしゃるかもしれませんね(苦笑)

筆者自身も自分で考えた内容のくせにオーバーヒートしかけました(苦笑)

それぐらい内容が濃かったと思いますので今回は文章量を少なめにしてあります。

代わりに次回話で一週間遡り編を終えたのち、話を大きく盛り上げようと考えております。

楽しみにお待ちしていただけると幸いです。

では、次回話お楽しみに!


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第拾弐話

どうも、おはこんばんにちは。
周囲の友人達がワクチン接種したという話を聞く中、自分のワクチンが全く来ないことに嘆いている水谷幽愁です。

(ワクチン関連については後書きで語ろうと思うので前書きでは省略。)

さて、第拾弐話でございます。
今回で一週間遡り編は終了。次回から再び現在に戻ろうと思います。

では、第拾弐話どうぞ!


その後、俺は鬼祓に加入できるかどうかの試験を受けた。

 

刀や銃を用いた試験やコンピュータやドローンを用いた試験だった。今日中に結果が出るとのことなのでそれまで待たせてもらうことにした。

 

試験をしていただける時の記憶が朧《おぼろ》げだ。

力を尽くせたのかすらあやふやだ。理由は一つしかない。

 

政寿郎がここ、仙台支局の長であることだ。

自分で推理しておいてなんだが、とても信じられない。いや、信じたくない。

 

政寿郎とは幼い頃から友達というより兄弟のように過ごしてきた間柄だ。

 

ある時は最高のコンビネーションを発揮し、ゲーム大会に優勝した。

 

またある時は俺が食うはずだったプリンを政寿郎が食った、とかいう今考えればくそしょうもない理由で殴り合いの大喧嘩もした。

 

またある時は…………

 

政寿郎とともに過ごした色々な思い出を思い出していると頬を涙が伝っていく。

 

苦楽問わず数えきれない程の時間を過ごした政寿郎が鬼祓とかいう秘密組織の支局長になっていた。

 

いつも隣を歩いていた奴が気づいてみれば到底追いつけない遥か先にいた、そんな感覚だ。

 

政寿郎がいつから鬼祓に所属し、いつから支局長になっていたかはわからない。だが、一つだけ明らかなことがある。

 

隣で笑い合っていた政寿郎はどこかのタイミングで鬼祓に所属し、その後も何食わぬ顔で所属前と変わらず俺の隣で笑っていた、ということだ。

 

そのことに対して俺はこれまで抱いたことのないような激しい怒りを覚えた。

 

だが、それも一瞬だった。

 

政寿郎の立場になってよくよく考えてみると政寿郎が鬼祓に所属してから俺への言動が所属前となんの変化もなかったのは至極当然だ、と思ったからだ。

 

鬼祓は秘密組織。

政寿郎からしてみれば俺がどんなに長い時間を共にした存在だったとしても鬼祓のことを話すことなどできるわけがなかったのだ。

 

秘密組織なのに自らその秘密を開示するなど馬鹿以前の問題。支局長になってからは尚更。

 

そう考えると、政寿郎を責める気は起きない。むしろよく今まで言動になんの変化もなかったと褒めたいぐらいだ。

 

小十郎さん曰《いわ》く

『鬼憑人を祓うという名分があるものの、やっていることは人殺しと同じだ。鬼憑人になってしまったとはいえ、鬼憑人になる前は自分たちと同じ人間だったのだからな。』

と。

 

支局長まで上り詰めた政寿郎のことだ。これまでにさぞ多くの鬼憑人を祓ってきたに違いない。

 

つまりそれは多くの人々に手を掛けた、ということ。

いくら、鬼憑人から罪なき人々を守るという大義名分を掲げようとやっていることは人殺しなのだ。

それを繰り返していて心が傷つかないわけがない。

 

しかも鬼祓が秘密組織故に心の内を吐露《とろ》できる相手が限られる。元からの知り合いがいればいいものの、そうでなければ様々な思いを自分一人の胸に納めねばならない。

俺が政寿郎の立場なら罪悪感で病んでしまいそうだ。

 

…というかもしかしたらその病みそうな組織に所属するかもしれない俺がそんなのんきなこと言ってられないか。

 

この先あり得る未来を想像していると、かつんかつん、という足音とともに誰かが近づいてくる。

 

小「真田君、試験結果を伝えに来たぞ。」

 

足音の正体は小十郎さんだった。

 

幸「で…結果どうだったんですか?」

 

小「うむ。結論から言うと君は合格だ。」

 

…え?合格…したのか?俺。

 

幸「…冗談ですよね?」

 

小「俺は冗談は言わん質《たち》だ。」

 

幸「…。」

まぁ、そういう人な気はしてたが…。

 

小「まず、太刀捌《さば》きが見事だった。柳生道場での修練の賜物《たまもの》かな?」

 

幸「えぇ。おそらく。」

 

小「次に銃だが…銃はそこそこだった。銃の腕が絶人的なのは画面の中だけだな。」

 

幸「…でしょうね。」

 

…むしろ銃の扱い素人の俺が絶人的だったらそれはそれでやばいだろ…。

 

小「最後にコンピュータ技術とドローン技術だが、俺が最も評価したいのはその二つだ。」

 

幸「え?」

 

最も評価高いのそこ!?…待てよ?ということは俺は戦闘部隊にならなくて済むのでは?…いや、それはここが治安維持局だと思ってた時の想像か。どうなるんだろうな。鬼憑人相手だと。

 

小「君のコンピュータ技術とドローン技術は称賛に値する。仙台支局広しといえどもあれ程の技術者そうはいない。その点、自信を持っていい。」

 

マジか…そこまで褒められるとは。たしかに俺は運動できんからほとんどパソコンにへばりついてはいたが。

 

幸「あ、ありがとうございます。」

 

小「晴れて君も鬼祓の一員。困ったことがあったらなんでも相談してくれ。」

 

幸「はい。…ところで巴さんは?」

 

小「あいつなら…おぉ、ちょうど来たぞ。」

 

巴さんは腕時計と銅色の扇子とスマホを持って現れた。

 

巴「はい。これが真田君が鬼祓の一員としての必需品よ。」

 

と、持っていた扇子と黒いスマホを俺に手渡す。

 

巴「そのスマホは鬼祓としての君が使うスマホ。」

 

次に、と巴さんが言葉を続ける。

 

巴「この腕時計は…実践した方が早いか。とりあえず、その腕時計を付けてくれる?」

 

言われた通り腕時計を付ける。

 

巴「次に、腕時計のケースの部分を触れて。」

 

なぜだろう、と思いながら腕時計のケースに振れる。

 

すると、今まで着ていた服が一瞬にして小十郎さんと巴さんが着ている黒い袴羽織に変わった。

 

幸「おぉ、すげぇ!!ヒーローみたいだ!」

 

と俺が子供のようにはしゃいでいると

 

巴「その腕時計は【腕時計型変身装置】。あ、普通に腕時計としても使えるからね。それ。」

 

あと、と巴さんがさらに付け足す。

 

巴「その袴羽織は【鬼祓】においての制服。対鬼憑人用に作られてるから弱い鬼憑人相手の攻撃ならびくともしないわ。」

 

幸「おぉ!…で、この扇子は?」

 

巴「この扇子はね…○ューラライザーと同じ役割の物よ。」

 

え?○ューラライザー?あの?

 

幸「巴さん…『○ン・イン・ブラック』知ってるんですね。」

 

巴「うるさい!他にいい例えがないのよ!!」

 

と、巴さんは恥ずかしそうに顔を赤くし、じたばたしている。

 

恥ずかしがる必要ないと思うけどな。めっちゃ面白いし、あの映画。え?四作目?知りませんよそんな奴は。

 

 

『メン・イン・ブラック』をご存知ない読書様の為にざっと説明すると、そもそも、『メン・イン・ブラック』とはアメリカの都市伝説で、UFOや宇宙人の目撃者・遭遇者のもとに現れ、脅迫的な圧力をかけるとされる黒ずくめの衣装の男たちのこと。(Wikipedia参照)

 

これがもし、存在したら?という内容の映画です。

 

主演は『アラジン』のジーニー役をはじめとして名だたる映画に出演している大スター、ウィル・スミスさん。

 

そしてBOSSの缶コーヒーのCMで地球人として地球に潜入しているという宇宙人、という設定の役が有名で同じく大スターのトミー・リー・ジョーンズさん。

 

このコンビがかっこいいんです!

筆者オススメの映画の一つです!

 

そしてその二人をはじめ『メン・イン・ブラック』のメンバーが一般人の宇宙人を見た記憶を消すための装置が○ューラライザー、というわけです。

 

ちなみに『メン・イン・ブラック』はこの作品のモデルでもあります。この作品は『メン・イン・ブラック』の和風版、というイメージで執筆しています。

 

 

さて、話を戻しましょう。

 

 

巴「…話を戻すわ。この扇子は【扇子型記憶消去装置】よ。」

 

幸「ほぉ〜。だから○ューラライザー同じ役割なんですね。」

 

巴「ぬぅ…まぁいいや。続けるわ。試験前に白のっぽが言ったように鬼祓は秘密組織。鬼祓の存在もなかったことにしなきゃいけない。そこでこれを使うってわけ。」

 

幸「なるほど。」

 

巴「使い方を教えるわ。まずは記憶を消したい相手にプロビデンスの目が、彫刻されている面を相手に向ける。」

 

※プロビデンスの目とはフリー○イソンのシンボルで有名なピラミッドに目が描かれているあのマークのことです。

 

幸「ふむ。」

 

巴「次に扇子の要の部分にボタンがあるからこれを押す。そしたら相手に向けてる面が明るく光る。」

 

巴さんの言うとおりプロビデンスの目が彫刻されて要る面が明るく光っている。

 

巴「で、光った瞬間に勢いよく…」

 

小「待て。サングラス付けろ。ほら、真田君も。」

 

と、俺に手渡す小十郎さん。

 

巴「あ!やばっ!」

 

巴さんが慌てて要にあるボタンを押し、光を消す。

 

巴「肝心なことを話すの忘れてた。このサングラスかけなきゃいけないの。」

 

…大体想像は付くが聞いておこう。

 

幸「なんでですか?」

 

巴「この特殊なサングラスには記憶を消去する光から自分を保護する役割があるからよ。」

 

想像通りだったわ。

 

幸「つまり…サングラス付けてなきゃ自分の記憶も消えると?」

 

巴「そう。」

 

小「まったく。肝心なことを忘れてどうする。俺が言わなければ気づかなかっただろう。」

 

と小十郎さんが巴さんを冷ややかな目で見下ろす。

 

巴「うるさいわよ白のっぽ。そう思ってんならもっと早く言いなさいよ。」

 

それに対抗するように眉間に皺《しわ》を寄せた巴さんが小十郎さんを見上げる。

 

小「人に言われて気付くのではなく自分で気付けるようにならんとな、うり坊。」

 

…お二人のご先祖である片倉景綱公と伊達成実公の関係性ってもしかしたら、こんな感じだったのではないだろうか。そう思わざるをえない。

 

あらゆる知恵を駆使し政宗公を支えた景綱公と自慢の武勇を持って政宗公を東北地方屈指の大名まで押し上げた成実公。

 

得意分野が違ってもいただろうし、対立したこともあっただろう。そしてその様子は今、お二人がしているような衝突だったのだろう。そんな気がする。

 

巴「ちっ。歳が離れてるからって先輩ぶりやがって。」

 

幸「あの…巴さんと小十郎さん、おいくつで?」

 

巴「…あいつが27歳で私が16歳。」

 

と、不貞腐《ふてくさ》れた顔で答えた。

 

幸「あぁ、小十郎さん、俺のちょうど10歳上なんですね。」 

 

…さっきの説、余計信憑性増したわ…。

 

巴「話戻すわ。扇子の要にあるボタンを押したらプロビデンスの目が彫刻されてる面が光る。ここまでOK?」

 

幸「はい。」

 

巴「で、光った瞬間に勢いよく閉じる。そしたら光った面を向けた方にいる人の記憶が消える。…これで使い方は終わり。質問は?」

 

ないな。でもやっぱり気になるのが…

 

幸「質問は特にないですけど本当に記憶消えるんですか?」

 

やはり、その点だ。記憶を消せる、というが本当に消えるのだろうか。

 

巴「じゃあ、私の記憶消してみる?」

 

幸「え?」

 

巴「私が真田君の秘密を聞いて君がその記憶を消すって流れ。どうせなかったことになるんだしなんでも話していいのよ?なにがいいかしら?……そうだ!真田君の好きな人教えてよ!いるでしょ?同じクラスの子?それとも憧れの先輩?もしかして可愛い後輩とか?」

 

幸「えぇ…」

 

いくらなかったことになるとはいえ、恥ずかしい。

 

巴「ほらほら!どうせなかったことになるんだし!」

 

巴さんがにやにやしながら問い詰めてくる。

 

幸「…わかった、わかりました。言いますよ。」

 

巴「やった!」

 

子どものようにはしゃぐ巴さん。…そんなに嬉しいか?

 

幸「いいですけど小十郎さんは…」

 

というと、小十郎さんは無言でワイヤレスイヤホンとスマホを接続し、耳にはめ、OKサインを示した。音楽かけて聞こえないから言っていいぞ、って意味なんだろう。

 

幸「じゃあ…言いますよ。」

 

巴「OK。ばっち来い!」

 

幸「…八重って奴なんですけど…」

 

というと、今までノリノリだった巴さんの顔が険しくなっていく。

 

巴「もしかしてその八重って苗字、柳生?」

 

幸「ええ。そうですか。」

 

巴「…そう。」

 

と巴さんは興醒めした様子だ。

 

巴「忠告しておくわ。真田君があいつを好きでいるのは自由だけど程々にね。真田君も痛い目見るわよ?」

 

…もしかして…巴さんもあの事故の関係者なのか?

 

幸「…8年前の件ですか?」

 

巴「そう。」

 

…やはりな。それで八重のことを…

 

幸巴「「………」」

 

幸「では…記憶消しますか?」

 

巴「えぇ。」

 

幸「じゃあ…」

 

と、俺が先程、巴さんに渡された銅色の扇子を取り出すと察した様子の小十郎さんがサングラスを付け、自分のサングラスを指刺した。サングラスをつけろよ、って意味だろう。

 

小十郎さんに頷き、サングラスを付け、巴さんに教えられた通りに操作し、巴さんの記憶を消した。

 

幸「どうですか?巴さん。」

 

巴「なにが?」

 

俺の好きな人が八重と知った時の表情とは打って変わって普段の明るい表情だ。

 

幸「俺の好きな人…わかります?」

 

巴「ううん。知らないわ。」

 

幸「マジですか?」

 

巴「マジよ。」

 

幸「ついさっきまで険しい顔してたのは?」

 

巴「険しい顔?知らないし、私ほとんどしないわよ。…あいつ以外には。」

 

と、小十郎さんを指指す。

 

幸「…」

本当なんだな。この扇子。

 

小「さて、この扇子で記憶が消せるのがわかったところで説明続けるぞ。」

 

幸「はい。」

 

そこから小十郎さんの様々な説明を聞いた。

 

鬼祓のことはたとえ家族であろうとも話してはならない。

 

鬼憑人を祓った時は必ず報告すること。

 

万が一、学生として学校にいるときや社会人として職場にいるときに鬼憑人を祓うよう命が下りた場合はよほど人員が不足している場合を除いて本来の立場を優先すること。

 

などなど。

 

それから、刀の大小(打刀《うちがたな》と、脇差)と木刀を渡された。刀は普通の刀ではなく、より厳選された玉鋼を選りすぐりの刀匠《とうしょう》が作成した刀で、木刀も同様により材質のいい木から作られた木刀なんだとか。

 

お二人曰く、ほとんど折れたり欠けたりしないらしい。

…どんだけ質がいいんだよ。

 

小「これで説明は終わりだ。他に質問は?」

 

幸「今頂いた刀と木刀って常に携帯はできないですよね。どうすればいいんですか?」

 

これが最大の謎。常に携帯しろ、と言われてもこれらだけは不可能。どうすればいいんだろう?

 

小「ああ、それはだな…」

 

と、説明を始めた。

 

鬼祓の制服である袴羽織に姿を変えることができる、腕時計型変身装置。実は、変身した時の姿を保存できるのだそう。

 

例えば…  私服→袴羽織の場合は私服が保存。

      袴羽織→私服の場合は袴羽織が保存。

 

というように変身した時の前の姿が保存される。

 

つまり、袴羽織姿の時に刀一式を装備しておき、私服に戻れば刀一式は袴羽織とともに保存され、持ち運ばずに済む、というわけだ。

 

幸「なるほど。」

 

小「他にはないか?」

 

幸「はい。大丈夫です。」

 

小「そうか。では、これで説明は終わりだ。明日は休みでいいが明後日からはここに来て訓練に参加してもらうぞ。」

 

…だよな。体保つかな…。

 

幸「その訓練とやらはいつ参加すればいいですか?」

 

小「訓練は学校が終わってからでいい。真田君、部活は?」

 

幸「してないです。」

 

小「そうか。なら好都合だ。学校が終わり次第来てくれ。」

 

幸「わかりました。…あ、そうだ。」

 

小「どうした?」

 

幸「政寿郎と話ができる時間を作りたいんです。学校でここの話をするわけにはいきませんし。」

 

これからは政寿郎とはただの親友としては話せないだろう。

だから仙台支局長としての政寿郎と話したいのだ。

 

小「うむ…。たしかに君にとっては御金様と話をしたいだろうな。だが…うまく時間が割けるかどうか…。どう思う?巴。」

 

巴「う〜ん…そのとき次第でしょうね。そのときに鬼憑人が出現したら話なんてまずできないし。でもまぁ、彼なら真田君と話をする時間作ってくれるんじゃない?」

 

幸「だといいんですが…」

 

小「うむ。結論今、決めることはできない、と言った所だな。この件は俺が御金様に話しておこう。」

 

…親友と話すだけなのに取り次ぎが必要とは悲しいもんだなぁ。

 

幸「…お願いします。ではこれで失礼していいので?」

 

巴「そうよ。お疲れ様。気をつけて帰ってね。」

 

幸「あ、はい。」

 

 

と、そんなこんなで説明が終わり、俺は家に帰った。それにしても今日は大変な一日だった。秘密組織の一員になるわ、色々暴露されるわで。とりあえず、明日は休みだと言うから明日はゆっくり休もう。…気が向いたら配信しようかな。

 

結局、翌日休んだら意外と気力が治ったため、配信することにした。○長の野望を配信したのだがその配信の視聴者さんの中にかつて俺のおかげで戦国武将を好きになった、というコメントをくれた人もいた。

 

いやー嬉しい。こういう視聴者さんがいてくれると俺のやる気も増すというものだ。いつか、この視聴者さんに会いたいな。

 

 

みたいな感じで休日を終え、月曜日になった。

そこからが大変だった。訓練につぐ訓練。

 

ただ、ひたすら刀を振る毎日。木刀のときもあったが刀を振る時間が多かった。

 

いくら柳生新陰流を学んでいてそのときの経験が少なからず体に残っているとはいえ、きつかった。第一、柳生新陰流は稽古のときは木刀じゃなかったし。

 

その訓練中に教えてもらったことなのだが、鬼憑人は刀でないと祓えないわけではないらしい。力の弱い鬼憑人は木刀で充分なんだとか。

 

それからドローン操作の訓練もした。話によるとドローンでの役割はもちろん索敵なのだがどうやらそのドローンに対鬼憑人用のEMP(電磁パルスの略)発生装置を搭載できないかと、鬼祓のお偉い様達が議論しているらしい。

 

…それ、大丈夫か?EMPといえばそれを発動させればあらゆる電子機器が使用不能となり、電子機器に依存している現代社会を一瞬で崩壊させることができるとも言われているあのEMPである。

 

いくら対鬼憑人用と言っても大丈夫なんだろうか。

にしてもドローンからEMPを発動させるとは。

 

近々、○PEXでドローンを操り、EMPを発動させることができるクリプトとかいうレジェンドが追加されるらしいがそんな感じなんだろうか。

 

やがてそんな一週間は終わりを告げるのだが、このときの俺は知るわけもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先俺が日ノ本中を震撼させる大事件に巻き込まれていくなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和国某所

 

 

?「いよいよですな。父上。」

 

?「うむ。計画通りこの五つ子を捕らえてまいれ。手段は任せる。」

 

?「承知いたしました。では、失礼いたします。」

 

?「奴らはどこまで阻めば気が済むのだ。もう阻わせはしない。五つ子は我が手に。」




改めてどうも。水谷幽愁です。

いやぁ…ワクチン来いよおぉぉぉぉぉ!!!

…失礼しました。心の叫びが漏れました。

もう夏休みが終わるというのにワクチンのワの字も現れません。

読者の皆様はどうですか?ワクチン接種できましたか?
筆者はまだ一回目すら接種できておりません(泣)

もうワクチンを二回接種した友人曰く一回目はもちろん、やはり二回目の副作用がきついのだとか。高熱出るわ、立ったら頭ぐらぐらするわ、なんならその状態でテスト勉強&テストをしなければならなかったで大変だったそうです。


友人…ドンマイ。


と、近況報告はこんな所ですね。
しかしまぁ、今更ですが物騒な世の中になってしまったもんですね。いつになったら今の状況が打開されるのやら、なんて日々思います。

医療は崩壊。国民の不満は爆発。某国はクーデターで大惨事。その他諸々。

本当に未来、どうなってしまうんでしょうか…。

読書様の中には一生に一度、あるいはそれに近いイベントを潰され、憤りを感じている読書様が大勢いらっしゃると思います。筆者もその一人です。

今更聞き飽きた言葉ではありますが今が踏ん張り時。それが第一。そしていつか、そんなときもあったな、なんて笑い合えるようにしようじゃないですか。

…と言ったところですね。
これが筆者の思いです。

さて、これからの作品の展開について一言で言いますと、R15的な要素が増えます。

そういう要素が好きではない読書様には申し訳ないですがこの作品はそういう作品であることをご承知ください。

…こんな感じで後書きを終えようと思います。
では、次回話お楽しみに!


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第拾参話

どうも、おはこんばんにちは。
とうとうワクチン一回目を接種したものの、ほとんど副作用がなく、平然としていた水谷幽愁です。

まぁ、当然全く副作用がなかったわけではなかったですけども。(軽い腕・肩の痛みで済みました。)

前話の後書きに登場した友人は腕が全く上げられなかったそうなのでどうなるのやらと心配していたんですが軽く済んでよかったです。

まあ、筆者の近況報告はこの辺にしといて。

では、第十三話どうぞ!


『9月29日日曜日。………』

 

ラジオが言うとおり今日は日曜日。

俺はこの日をずっと待っていた。

 

今日は丸一日休み!五つ子のことは忘れて思う存分勉強できるぞ!

 

風「お?この公式、教科書には乗ってないがあいつらに教えておいた方がいいな。」

 

風「それにこの問題もよくできている。これなら四葉も理解できるかも。」

 

風「この問題は三玖が喜びそうだ。………って何やってんだ俺!!立派な家庭教師か!!」

 

あいつらのせいで勉強が進まねぇ。いなくても俺の邪魔をするのか!だめだだめだ。切り替えていこう。

 

風「集中集中。」

 

勉強を再開しようと瞬間、家のチャイムがピンポーンと鳴った。

 

風「…」

 

くそぉ…切り替えようとしたそばから。

借金取りか?金ならないぞ。なんて思いながら玄関に向かう。

 

風「はい。」

 

と家のドアを開けるとそこには…五月がいた。

 

すぐさまドアをバタンと閉じる。

知らない。俺は五月など見なかった。

 

五「なんで閉めるんですか!開けてください!!」

 

とドアをどんどん叩く五月。

仕方ない。開けるか。

 

風「すまん。つい反射で…。そういえばお前はうちを知ってるんだったな。」

 

五「えぇ。実はあなたにお渡しする物が…」

 

ら「ただいまー。って、あ!五月さんいらっしゃーい!」

 

ちょうど買い物に行っていたらいはが帰ってきた。

 

ら「中にどうぞー」

 

風「お、おい!」

 

五「…そうですね。外で渡すものでもないので」

 

………

 

五「父から預かった上杉君のお給料です。」

 

なにを渡されるのかと思ったら俺の給料だった。

しかしなぁ…。

 

ら「すごーい!頑張ったね。」

 

風「と言っても今月は2回しか行ってないし期待しないほうが…」

 

と給与と書かれた封筒を開ける。

 

…すると封筒から福沢諭吉が姿を現した。

 

…え?

 

五「1日5000円を5人分。計2回で5万円だそうです。」

 

給料高っ!!

想像していた以上に給料を高く、体ががくがくと震え、汗が流れ出る。

 

ら「お兄ちゃんの汗で諭吉さんがしわしわに!お母さん、お兄ちゃんがやりました。」

 

らいはが俺同様、諭吉に驚いた後、亡き母の写真に手を合わせている。

 

それにしてもこんなに給料をもらえるとは!

 

風「すげぇ…。これなら借金もあっという間に…。」

 

……あ、そうだった。

 

風「受け取れねぇ。」

 

と、諭吉を封筒に戻し、机に置く。

 

五「え?」

 

風「俺はたしかに2回行った。だが1回目は何もしてねぇし、2回目は一花と二乃がいなかった。さらに言えば柳生が補佐になってくれてなかったら2回目もままならなかったはずだ。だから、全額は受け取れねぇ。」

 

五「そうでしょうか。何もしてないことはないと思いますよ。あなたと八重さんの存在は五人の何かを変え始めています。」

 

風「…五人って?」

 

五「間違えました。四人です。と、とにかく返金は受けつけません。どう使おうがあなたの自由です。」

 

そんなこと言われてもなぁ………そうだ。

 

風「らいは、何か欲しい物はあるか?」

 

………

 

ら「わー!こんなところがあるんだ!」

 

俺はゲームセンターにらいはと遊びに来ていた。あと…

 

風「なんでお前もいるんだよ。」

 

五「仕方ないでしょう…」

 

五月も。

 

というのも家にて………

 

 

ら「私、ゲームセンターに行ってみたい!五月さんももちろん行くよね?ダメ?」

 

と、発動されたらいはの妹パワーに屈したようだ。

 

風「断れよ。」

 

五「断れませんよ。可愛いすぎます!」

 

風「わかる。」

 

かくいう俺もそんな五月の気持ちがわかるから人のことは言えんな。

 

ら「お兄ちゃんこれやろ!」

 

と、らいはが指差すのは祭りにあるような射的のゲームだ。

 

風「ふっ。こんなゲームで満足できるんだからまだまだ子供だな。」

 

…数分後…

 

風「おかしい。今の衝撃で落ちないのは物理の法則に反してる!あと1回あれば…」

 

ら「お兄ちゃんもうやめとこ!」

 

五「………」

 

らいはに止められ五月から苦い顔をされるほど夢中になっていた。

 

風「五月、まだ玉が残ってるだろ。あれを狙え。そして不正を暴くんだ!」

 

五「私ですか。そう言われてもあんな小さい物…」

 

?「あら?射的に苦戦中?お嬢ちゃん。」

 

五「え?」

 

声の方を向くとそこには黒髪のショートヘアにパーマをかけ、全身を黒いエレガントな服をまとい、赤いサングラスをかけた身長が俺と同じくらいある女性がいた。

 

風「あんた誰?」

                  (さやか)

沙「おっと。名乗ってなかったね。私は沙也香。ところでどうだい?お嬢ちゃん達が苦戦してるその射的、私に任せてもらえないか?」

 

五「でも…あんなに小さい物ですよ?」

 

沙「任せなって。」

 

…というわけで、沙也香と名乗る女性が五月から射的の銃を受け取り玉を装填《そうてん》しながら、らいはになにが欲しい?と親しく話している。

 

その話を聞くと俺が落とせなかった物を落とすと同時に俺たちと女性の分、計四つのキーホルダーをなんと一発の玉で落としてみせると言ってのけた。

そんなことできるわけが…

 

五「あの女性何者なんでしょうか?」

 

風「さぁ。」

 

マジで何者なんだ?この人。

 

沙「さて、狙うとするか。」

 

と女性が銃を構えたのだが、その様子が異様だった。

狙いを定めたという俺が落とせなかった物の真反対の方向に銃を向けているのだ。

 

沙「…さて。」

 

女性が射的の銃の引き金を引いた。

すると女性が撃った玉は案の定、あらぬ方向へ飛んでいった。と思った瞬間、壁に当たって跳ね返りまず、俺が落とせなかった物を撃ち落とした。さらにそこから様々な方向に跳弾《ちょうだん》し、他の物は一切落とさず、四つのキーホルダーのみを撃ち落としてみせた。

 

風五ら「「「………」」」

 

それを見ていた俺達は驚きのあまり、あんぐりと口を開けるしかなかった。

 

沙「よ~し。取れたよ。」

 

沙也香と名乗った女性はいまだ驚きを隠せない俺たちにそれぞれ、ゴリラのキーホルダー・カンガルーのキーホルダー・猫がモチーフ?のキーホルダーを手渡し、自分は烏のキーホルダーを持ち

 

沙「じゃあな。お嬢ちゃん達。デート楽しみなよ。」

 

と言いながら去っていった。

 

ら「…すごかったね。あのお姉さん。」

 

風「…あぁ。」

 

五「…ですね。」

 

謎の射的姉さんこと、沙也香さんが去った後、俺達は再び遊んでいた。

 

ら「次こっちだよー!」

 

五「らいはちゃん前を見ないと危ないですよ!」

 

風「なんか付き合わせちゃって悪いな。らいはには家の事情でいつも不便かけてる。本当はやりたいことがもっとあるはずだ。あいつの望みは全て叶えてやりたい。」

 

らいはは小学生ながら家事をほとんどほぼ一人で頑張ってくれてる。そんならいはには労を労《ねぎら》ってやりたいな。

 

ら「お兄ちゃん。五月さん。最後に三人であれやってみたいな!」

 

と、らいはが指を差す。

その指差す先には…プリクラ機があった。

 

いやいや、労を労ってやりたいがさすがにあれは…

 

風「そ、それよりあっちの方が…」

 

と、らいはの意識をプリクラ機から逸らそうとしたそのとき

 

五「全て叶える…でしょう?」

 

と五月。

 

風「……」

 

さっきの俺を殴りたい…。

 

【モードを選択してね】

 

【プリティモード】

 

【素敵な笑顔でキメちゃお☆】

 

くそぉ…プリクラなんて撮る羽目になるとは。

 

ら「二人とも顔が硬いよー」

 

五「こ、こういうのは苦手で…」

 

だろうな。五月のことだからそうだと思ったよ。

 

風「やっぱりお前らだけで…」

 

とプリクラ機から出ようとするが

 

ら「逃さないよ。」

 

と手を掴まれた。

 

くそぉ…俺も撮らないといけないのか…

 

【カメラを向いてね】

 

ら「ほら、五月さんも。」

 

五「あ、はい。」

 

とらいはが五月の手も掴む。

 

【3・2】

 

ら「なんかこれ、家族写真みたいだね。」

 

……

 

撮れた写真は散々な物で俺も五月も無理矢理作った笑顔だ。

 

風「お前なんて顔してんだよ。」

 

五「あなたこそ負けず劣らずの酷さですよ。」

 

と、お互いの顔の酷さを笑い合っていると

 

ら「お兄ちゃん、五月さん。ありがとう。一生の宝物にするね!」

 

と、らいはが満点の笑顔。

 

そうだ。この笑顔。勉強する時間もらいはの笑顔に変えられるなら悪くないかもしれないな。

 

風「五月、今日は来てくれてありがとな。」

 

……

 

俺たちはゲームセンターを後にし、帰路に就いていた。

 

あぁ…さっきはらいはの笑顔が見れたからああ思ったのかもしれないが、いざ勉強する時間が潰れたと考えると悲しいな。

 

風「結局日曜日が潰れちまった。…いや、まだ夜がある。お前らも夜は勉強しろよ。」

 

五「…あ。わ、私はここで…」

 

風「?」

 

急にどうしたんだ?さては宿題やるの忘れてた、ってところか?

 

風「なんだよ怪しいな。宿題は出てるだろ?済ませたのか?」

 

五「わーっ!付いてこないでください!」

 

やはりそうだ。今度こそはガツンと…

 

ら「お兄ちゃん、五月さんが四人いる。」

 

風「え?」

 

五月が四人?まさか、と振り返る。

案の定、一花・二乃・三玖・四葉がいた。

 

四「おぉ!上杉さん!」

 

二「なんでそいつといるのよ五月!」

 

一「もしかしてデート中?ごめんねー」

 

五「違います!」

 

四「わー上杉さんの妹ちゃんですか?」

 

ら「はい。」

 

四「これから一緒に花火大会に行きましょう!」

 

風「あっ!」

 

なんか花火大会に行く流れになってる!こいつらに宿題をやらせねば。

 

風「ちょっと待て。俺には勉強する予定があるし、お前らも宿題が…」

 

一二三四五「「「「「うっ…」」」」」

 

ら「お兄ちゃん、ダメ?」

 

うっ!らいはの妹パワーが発動された!

屈する…わけには…

 

風「…もちろんいいさ。」

 

結局、俺の日曜日は潰れたのであった。

 

 

その後、五つ子たちのマンションに行き、宿題をさせた。

 

ニ「もう花火大会始まっちゃうわよ!なんで私たち家で宿題してんのよ!」

 

風「週末なのに宿題終わられせてないからだ!片付けるまで絶対祭りには行かせねー!!」

 

 

やがて宿題が終わり五つ子たちと俺とらいはは、祭り会場に来ていた。

 

四「やっと終わったー!!」

 

ら「みんなおつかれさまー。」

 

二「花火って何時から?」

 

三「19時から20時まで。」

 

一「じゃあまだ一時間あるし屋台行こー!!」

 

四「上杉さん早く早くー!」

 

風「はぁ…」

 

こいつらにしては宿題もすんなりやってたし、そこまでして花火が見たいかねぇ…。

 

五「なんですか、その祭りにふさわしくない顔は。」

 

そう言われた方を向くと牛串を頬張っていて…

 

五「あ…あんまり見ないでください。」

 

なぜか恥ずかしがっているこいつは…

 

風「誰だ?ただでさえ顔が同じでややこしいんだから髪型を変えるんじゃない。」

 

五「五月です!どんなヘアスタイルにしようと私の勝手でしょう!」

 

なんだ、五月だったのか。

 

一「あーあーだめだなぁ。女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ。」

 

と一花が言いながらこちらにやってきた。

と思ったら…

 

一「ほら、浴衣は本当に下着を着ないのか興味ない?」

 

とかいうどうでもいい事を言いに来ただけだった。

 

風「それは昔の話な。知ってる。」

 

と素っ気なく返すと

 

一「本当にそうかな〜?」

 

と浴衣をめくり胸元ぎりぎりまで見せてきた。

 

五「一花!」

 

一「なーんて冗談でーす!」

 

風「うざっ!」

 

こいつら妙にテンション高いな。祭りだからか?

 

一「どう?少しはドキドキした?」

 

しねぇよ。そう思っていると一花のスマホが鳴る。

 

二「あんたたちこんなとこで何してんのよ。一花、行くよ。」

 

一「ごめん。ちょっと電話。」

 

と一花が電話に出るため少し離れる。

 

風「そういえば、お前らとよくいる柳生はどうしたんだ?誘わなかったのか?」

 

三「このお祭り会場の警備を急にやることになったみたい。会場のどこかにはいますからもしかしたら会えるかもしれませんね、って。」

 

なるほど、それでいなかったのか。にしてもなんで柳生は警備なんてすることになったんだ?それにここに来るまでに見た警備の人たちが警備の人らしくない和風の服を着てたのも謎だな。お祭り仕様か?

 

二「八重は別にいいでしょ。ていうか、今日は五人で花火を見に来たのになんであんたもいるのよ。」

 

来たくて来たんじゃねえ。本当なら今頃家で勉強してるはずなんだ。ここにいるのはらいはの妹パワーに屈したからだ。

 

風「俺は妹と来てるだけだ。」

 

すると

 

ら「お兄ちゃーん」

 

と、らいはが四葉とともに帰ってきた。そして、

 

ら「見て見て!四葉さんが取ってくれたの!」

 

らいはが見せてきたのは金魚が大量に入っている袋だった。

…きもっ!!(伊之助風)

 

金魚が嫌いなわけではないがこんなに入っているのではさすがに…。

 

風「もう少し加減はできなかったのか…」

 

四「あはは…。らいはちゃんを見ていると不思議とプレゼントしたくなっちゃいます。」

 

と四葉が頭の後ろに手をやる。

 

いや、だからってなぁ。

 

ら「あ!これも買ってもらったんだ!」

 

次にらいはが見せてきたのは花火セットだった。

 

風「今日それ一番いらないやつ!」

 

ら「だって待ちきれなかったんだもーん。」

 

風「いつやるんだよ…。四葉のお姉さんにちゃんとお礼言ったか?」

 

するとらいはが

 

ら「四葉さんありがと。大好きっ!」

 

と抱きついた。

そのらいはの言動に四葉は心奪われたようで

 

四「らいはちゃん可愛いすぎます!私の妹にしたいです!」

 

と、らいはに頬ずりしている。

 

かと思えば

 

四「ちょっと待ってくださいよ?私が上杉さんと結婚すれば合法的に義妹(いもうと)にできるのでは…?」

 

などと言い出した。

 

これには二乃も

 

二「自分で何言ってるかわかってる?」

 

と呆れている。

 

これは二乃と同意見だ。四葉の奴なに言ってんだか…。

そういえば四葉がこの会場に入った瞬間、静電気のような小さな痛みを感じたって言ってたがどういうことなんだろうな。

なんて考えていると

 

二「あんたも四葉に変な気起こさないでよ!」

 

と釘を刺される。

 

風「ねぇよ!」

 

そもそも恋愛なんぞどうでもいいからな。気を起こす以前の問題だ。

すると、二乃に釘を刺され、後退したことで三玖とぶつかってしまった。

 

風「すまん。」

 

三「い…いい。」

 

一「お待たせ。さぁ、行こう。」

 

電話をしに少し離れていた一花が戻ってきた。

 

風「ん?どこか行くのか?」

 

三「二乃がお店の屋上を貸し切ってるから。」

 

風「貸し切るだと!?ブルジョワか!!」

 

さすが金持ちはやることが違うな。

 

二「待ちなさい。」

 

と二乃が移動しようとした俺たちを呼び止める。

 

二「せっかくお祭りに来たのにアレも買わずに行くわけ?」

 

一二三四「「「「ああ!」」」」

 

三「そういえばアレ買ってない…」

 

一「もしかしてアレの話?」

 

五「アレやってる店ありましたっけ?」

 

四「早くアレ食べたいなー」

 

と各々が二乃の言うアレに反応している。

 

風「なんだよ…アレって。」

 

一二三四五「「「「「せーの」」」」」

 

一「かき氷」

二「りんご飴《あめ》」

三「人形焼き」

四「チョコバナナ」

五「焼きそば」

 

風「えぇ…」

 

一二三四五「「「「「全部買いに行こー!」」」」」

 

風「お前らが本当の五つ子か疑わしくなってきたぞ。」

 

二乃が貸し切っているという店に向かう道中、五月が頬を膨らませ不機嫌でいて、その五月を一花が宥《なだ》めている。

 

どうやら、一花と五月が人形焼きを買いに行ったところ、屋台の店主が一花には可愛いからとおまけしたのだが五月には何もなかったらしく、それで不機嫌のようだ。

 

五月も言っているがたしかに同じ顔なのになんでなんだろうな。

…まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。

 

店に向かう道はたくさんの人で溢《あふ》れて少しでも目を離せば離れ離れになってしまいそうだ。

 

俺の近くには一花・三玖・五月がおり、少し前を四葉とらいは。そしてさらに先に

 

二「あんたたち遅い!!」

 

と、やたら大きな声で催促する二乃がいる。

 

風「二乃の奴、気合入ってんな。お前らもテンション高いし花火なんて毎年やってるだろ。」

 

そこが疑問だった。勉強嫌いなこいつらが宿題をするまでに花火は見たいものだろうか。そう思っていると

 

三「花火はお母さんとの思い出なんだ。」

 

と三玖。さらに続け

 

三「お母さんが花火が好きだったから毎年揃って見に行ってた。お母さんがいなくなってからも毎年揃って。私たちにとって花火ってそういうもの。」

 

と語った。

 

そういうことか。こいつらにとって花火は家族の象徴なんだろうな。どうりであいつが張り切るわけだ。

 

風太郎視点→二乃視点

 

今日は待ちに待った花火大会の日。

毎年のように姉妹みんな揃って花火を見に来ていた。

 

…のだが、なんやかんやあって上杉と上杉の妹ちゃんも来ていた。

 

今日は五人で見に来たのに…。

来るなら上杉じゃなくて政寿郎君ならよかったのになぁ。

 

なんて思っていると通行人とぶつかってしまう。

 

二「ったく、鬱陶《うっとう》しいわね。」

 

そうだ、みんなは追いついたかな。

 

二「あんたたち…あれ?」

 

と後ろを見ると

 

二「四葉と妹ちゃんは…」

 

四葉と妹ちゃんがいない。

そういえば、四葉と妹ちゃんが輪投げの話をしてたような。

すると

 

「大変長らくお待たせしました。まもなく開始いたします。」

 

とアナウンスが流れる。

 

それを聞いた人波が

 

「どっちだっけ?」

 

「もう上がってる?」

 

などの声とともに一気に動き始めた。

文字通り波のように動く人波に足を踏まれてしまう。

 

二「痛っ。足踏んだの誰よ。」

 

そして再びみんながいる方を見るも人波でみんなが見えない。

 

二「みんなどこ!?四葉!一花!五月!三玖!」

 

と呼びかけた瞬間人波に押され、体のバランスを崩し前に転びそうになってしまう。

 

が、そこに黒い手袋をした手が伸びてきて私の右手首を掴《つか》み、転ばないように支えてくれた。

誰か知らないけどお礼を言わないと。

 

二「すみません。ありがとうございま…」

 

お礼を言いながら頭を上げるとそこには…

政寿郎君がいた。

 

政「大丈夫か?二乃。」

 

一週間前のあの無表情をした人物とは思えないほど優しい表情と声音《こわね》で私の心配をしてくれた。

 

二「う、うん。ありがとう…」

 

なぜ、政寿郎君がここにいるのかと困惑しながら返事をした。

…っていうかなにこのドラマみたいな展開!!

 

政「その様子だと他の四人とはぐれたってところか?」

 

二「そうなの。ついさっきみんなを見失っちゃって…」

 

政「そうか。とりあえずこの人波から抜けて広いところに行くか。」

 

二「うん。そうだ。実は…」

 

と私がお店の屋上を貸し切っていることを伝え、その店に向かうことになった。

 

店に向かいながら話していてわかったことなのだが、もともと政寿郎君は仙台牛の屋台で働いていたけれど機を見て抜け出し、今着ている服に着替え、やって来たのだとか。

そして、彼が仙台牛の屋台で働いていた証拠に彼から肉を焼いた匂いがする。

 

五月が食べてた牛串は政寿郎君が働いていた屋台で買ったのかしら?政寿郎君がいたらいたと言ってくれればいいのに…。

 

しばらく歩いていると人波を抜け、目的のお店に辿《たど》り着いた。

 

政「この店か?」

 

二「そう。ここの屋上。きっとみんな集まってるわ。」

 

政寿郎君とともに屋上への階段を昇る。

そして屋上に着いた瞬間、空に大きな花火が打ち上がった。

と、同時にとんでもないことを思い出した。

 

二「あっ…」

 

政「どうした?」

 

二「よく考えたらこのお店の場所、私しか知らない…」

 

政「マジかよぉ…」

 

花火大会終了まで

 

         00:59:51

 




改めてどうも。水谷幽愁です。

第拾参話いかがでしたでしょうか?

後に繋がるヒントを各所にばら撒いて置いたのでそれがどう繋がるのか楽しみにしていただけると幸いです。

今回は特に話すことは特にございません。

では、次回話お楽しみに!


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第拾肆話

どうも、おはこんばんにちは。
水谷幽愁です。

10月分の投稿が消えてしまい申し訳ございません。
10月〜11月は忙しく、筆者のモチベーションが全く起きませんでした。

それでも11月半ばからなんとか盛り返し執筆したものの、ようやく投稿できると思ってみれば既に12月になっていました。
情けないものです。

ともあれようやく投稿できました。
再びこの作品をご愛読していただければ幸いです。

では、第十肆話どうぞ!


政「さて、どうしたものか…」

 

二「うーん…」

 

政寿郎と二乃は五つ子たちが花火を見るために貸し切ったという店の屋上に到着したものの、二乃しか店の場所を知らない、という事実に困り果てていた。

 

二「…ねぇ、政寿郎君、一つ聞いていい?」

 

政「なんだ?」

 

政寿郎が地上を見下ろしながら返した。

 

二「政寿郎君と八重が遊びに来たあの日…政寿郎君に悪いことしちゃったかな…?」

 

政「というと?」

 

ニ「私たちが上杉を眠らして追い返したって話してたとき、政寿郎君怖い顔してたでしょ?だから…」

 

政「あぁ、そのことか。」

 

ニ「うん。」

 

政「おそらく二乃は睡眠薬が俺のトラウマになっててそれで俺を傷つけた、とでも思ってんだろ?」

 

ニ「…うん。そう思った。」

 

政「俺があの時怒ったのは事実だが理由が違う。」

 

ニ「え?」

 

会場を見下ろしていた政寿郎が二乃と顔を向け、続けた。

その顔は眉間に皺を寄せている。

 

政「二乃、聞いたことないか?睡眠薬飲んで自殺したっていう人のニュース。」

 

二「あるけど…あっ…」

 

なぜニュースの話を聞かれたか疑問を抱いたがすぐさまその意味を理解した二乃の顔が白くなっていく。

 

政「睡眠薬は自殺の手段として用いられるくらいだ。その量によっては人が死ぬんだよ。」

 

二「あ…あぁ…」

 

政「お前言ってただろ?夢は自分の店を持つことだって。」

 

二「…」

 

政「もし、睡眠薬入りの水を飲んだ上杉がその場で死んでたらどうなる?お前は殺人犯だ。」

 

二「…」

 

政「檻(おり)から出られたとしても世間はいい顔をしないだろう。一度ついたイメージや貼られたレッテルは容易には剥(は)がれないからな。夢どころかまともに生きられもしないだろうな。」

 

二「…」

 

政「要するに俺が怒ってたのはそんな事実があるにもかかわらず、睡眠薬を飲ませて追い返したことを然(さ)も当たり前であるかのようにしていたからだ。俺はそれが許せなかった。」

 

二「そんなことも知らずに私は…」

 

今まで政寿郎の話を体を震わせ聞いていた二乃が口を開いた。

 

政「ニ乃、上杉の存在が気に入らないと思うのはお前の勝手だ。だが、これだけは言っておく。」

 

ニ「うん。」

 

政「勉強していい成績取れ、なんて保護者面はしねぇが最低限の成績と一般常識は身に着けろ。そうすれば死ぬかもしれない睡眠薬入りの水飲ませて追い返すということがいかに馬鹿かわかるだろう。それに一般常識がなけりゃ店も持てん。中卒から社長まで上り詰めた人達もいるがそんなやり方はよほどの努力家じゃないとできない。今の二乃にその人達のようなポテンシャルがあるとは思えんからな。」

 

二「わかった。ありがとう。」

 

二人の話が終わったそのとき、二乃の携帯が鳴った。

四葉からだ。

 

二「四葉!妹ちゃんも一緒?もう花火始まってるけどどこにいるの?……え?時計台?迎えに行くからそこにいなさい!」

 

政「四葉の居場所がわかったみたいだな。」

 

と政寿郎は屋上から会場を見下ろしながら返す。そんな政寿郎越しに赤色の牡丹花火が打ち上がっている。

 

二「うん。四葉は上杉の妹ちゃんと一緒にいるみたい。…ってどうしたの?政寿郎君ちょっと顔青いけど大丈夫?」

 

政「あぁ、大丈夫だ。それよりあそこにいるの一花じゃないか?」

 

鼻を掻きながら指を差す政寿郎。その先にはたしかに一花がいる。

 

二「え!?あ、ほんとだ!!それに上杉と…あのおっさん誰かしら?」

 

政寿郎にもそれは見えていた。一花と上杉の間にいて上杉の手首を掴んでいるおっさんがいる。どういう状況なんだろうか。

 

政「さぁな。とりあえず姉妹達と合流しよう。行くぞ。」

 

ニ「えぇ。」

 

屋上に昇った階段を降り地上に降りる。

 

政「そうだ。姉妹達がこの店の場所わからないならこの店の写真撮って送ればいいんじゃないか?」

 

ニ「それ名案!待ってて。写真撮るから。」

 

二乃が背を向け店にスマホを向けていると政寿郎が

 

政「ちっ、今来たか。」

 

と頬を歪ませた。

 

ニ「え?どうしたの?…」

 

店を撮り終えた二乃が政寿郎の方を向くと

 

男「おっ、やっぱりそうだ。例の5人の子達の中の一人だぜ。」

 

男「金髪の兄ちゃんどいてくんねぇか?俺達はその子に用があるんだわ。」

 

茶髪で耳のほか、舌や顎にピアスを開けているいかにもガラの悪い男達がいた。その手にはそれぞれ木刀と鉄パイプが握られている。

 

ニ「政寿郎君…」

 

二乃は怯えながら政寿郎の裏に隠れた。

そしてその瞬間思い出した。

 

この祭りに限らず、祭りには必ずこういう輩(やから)がいることを。

 

最近見たニュースではとある地域の祭りで男女がこういう輩に襲われのだという。男性は集団リンチに遭った挙げ句金銭を奪われ、女性は輪姦(りんかん)され精神を病み、自殺してしまったとのこと。

 

今まではニュースで聞くだけの話だったが今まさに現実に起きようとしている。

 

男「てめぇ、どけってのが聞こえねぇのか!!」

 

男の一人が怒声を上げた。

花火を見ていた人々がこちらを見て眉をひそめている。

おそらく不良同士の喧嘩とでも思っているのだろう。俺も不良みたいな見た目だし。

なんて思いながら政寿郎がにやっと笑った。

 

男「なに笑ってんだ!」

 

政「あんた達恥ずかしくねぇのか?」

 

男「なにっ!?」

 

政「歯向かいできない女の子に手ぇ出して恥ずかしくねぇのかって聞いてんだよ!!

 

男「「っ!?」」

 

先程の男の声よりもさらに大きな、まるで雷のような政寿郎の大喝が会場に響く。

 

男「くっ…クソガキがぁああ!!」

 

木刀を持った男が政寿郎の大喝に顔を歪ませながら突進してきた。

 

政「二乃、下がってろ。」

 

二「うん!」

 

暴漢が突進してきているというのに政寿郎は至って冷静で二乃に後ろに下がるよう指示をする。

 

政寿郎の指示を聞いた二乃が後退した瞬間、男が木刀を政寿郎に振り下ろす。

 

振り下ろされた木刀を左に避けて躱(かわ)し右手で木刀を掴む。

 

と同時に左手の平手を男の胸部(きょうぶ)に突き出し吹き飛ばした。

その姿勢はいわゆる半身(はんみ)の姿勢と呼ばれるものだ。

 

5m程吹き飛ばされた男は仰向けに倒れ、ぴくついている。

 

男「てめぇなにしやがった!!」

 

鉄パイプ男がそう喚きながら木刀の男同様突進してきた。

 

それを見た政寿郎は右手に持っていた木刀を持ち直し、居合の構えを取った。

 

その構えをを見て二乃は恐怖も忘れて見入っていた。

なんと美しい構えだろう。

 

流れるような手の所作。

岩のようにどっしりした足腰。

そして後ろからは見えないが男を見据えているであろう目。

 

八重の生家の道場で学んだという剣術の賜物(たまもの)だろうか。

 

なんて見入っている場合じゃない。

鉄パイプ男が迫って来ているというのに政寿郎は居合の構えのまま、微動(びどう)にしていない。

 

とうとう男が政寿郎との間合いに入り鉄パイプを振り下ろした。

 

その瞬間、岩のようにどっしりし微動だにしなかった政寿郎が突然動き出した。

 

いや、気づいたときにはすでに政寿郎の木刀は半月を描き、男の鉄パイプを撥(は)ね上げ鉄パイプは宙を舞っていた。

 

二「…え?」

 

二乃は自分の目を疑い目を擦(こす)った。

今…なにが起きた?

瞬きする間に、とはまさにこのことだろう。

 

政寿郎はほんの一瞬で岩から突風になり、男の鉄パイプを撥ね上げてみせた。

 

と思えば政寿郎は男の背後に回り込み鉄パイプ男の首に手刀を打ち込んでいた。

 

政寿郎の手刀を受けた男は白目(しらめ)を剥(む)き、うつ伏せに倒れ、ちょうどそこに宙に舞ったパイプが戻ってきて鉄パイプ男の横にカランと音を立て、落ちた。

 

二乃や始めは不良同士の喧嘩と思っていた花火を見ていた人々もぽかんとしている。

 

政「おい、二乃行くぞ」

 

二「えっ?う、うん。」

 

どうやら二乃がぽかんとしている間に政寿郎はちょうどやって来た祭りの警備の人に事情を説明し男達の凶器である木刀と鉄パイプを渡し男達が連行されていくのを見届けた後、二乃に声を掛けたのだとか。

 

二「うん。」

 

二乃が政寿郎の声に応え、政寿郎の元に駆け寄ると政寿郎が体をぶるっと震わせた。

 

突然震えた政寿郎に二乃が心配して声を掛けると政寿郎は虫の羽音のような声で呟いた。

 

二「え?なんて?」

 

政「なんでもねぇ。ほら、行くぞ。」

 

と左腕をすっと二乃に突きだす。

 

二「うん。」

 

ここに来たとき同様、はぐれないように腕を掴ませ政寿郎と二乃は再び人波の中に入って行った。

 

そして政寿郎は人波の中でもう一度呟いた。

 

政「あいつを焚(た)きつけすぎたな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、政寿郎と二乃から少し離れた場所に一組の男女と灰色の髪をした男がいた。

 

風太郎と三玖、そして幸志郎である。

 

三「………え?」

 

風「………」

 

風太郎と三玖は前方で起きていることに驚愕(きょうがく)していた。

 

幸「なぁ、さっきまでの威勢はどこに行ったんだ?塵(ごみ)共。」

 

青筋を立て憤怒を通り越し、むしろ冷ややかで冷酷な目と木刀を塵に向ける幸志郎に?

 

否(いな)。

 

男1「ひいぃぃぃ!!」

 

男2「やめろ!!こっちに来るな!!」

 

三玖を二乃同様連れ去ろうとしたガラの悪い男達が幸志郎の手によって襲われそうになっているから?

 

否。

 

では、理由は何か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三「火を…纏(まと)ってる…?




改めてどうも。水谷幽愁です。

あぁ、ようやく投稿できる…。

ただいま、かなりの眠気と戦いながら後書きを書いております(苦笑)

モチベーションがようやく戻り始めたのでモチベーションがある内にやっておかないと、という使命感故です。

今回は原作要素どこ!?という話でしたね。

これからも原作要素がかき消えるくらいに戦闘シーンを起こしていこうと思うのでこれからもご愛読よろしくおねがいします。

では、次回話お楽しみに!


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