中間管理職のオッサンが褐色美女な悪魔に憑依転生してしまった話 (とんこつラーメン)
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ここはどこ? 私はだぁれ?

アンチとかは無しで、基本的に大人の女性ののんびりとした日常を描ければいいと思っています。

原作に介入するかは不明ですが、仮に介入しても滅茶苦茶になる可能性が大です。












「…………ん?」

 

 えっと……あれ?

 なんか目が覚めると、いきなり全く見覚えのない天井が見えてるんですけど。

 

「……ここは何処よ?」

 

 …ちょい待ち。今の綺麗な声って誰のだ?

 なんか、めっちゃ近くから聞こえてきたような気が……。

 

「あー…あー…うん。間違いない。これ、私の声だわ」

 

 うおっ!? 手が細くなってるっ!? しかも、肌の色も変わってるっ!?

 褐色になってるけど凄い綺麗なんですけどッ!?

 

「私の肌って、こんなにもスベスベしてたっけ…?」

 

 二十歳で実家を出てからこっち、ずっと働いてばかりで浮いた話なんて微塵も無かった私には女性の肌なんて滅多に見られるもんじゃない。

 それこそ、レンタルで借りて見てるAVぐらいでしか見れないから、思わず自分のものだと分っていても夢中になって触ってしまった。

 

「いやいやいや…ちょっとまて自分。全く状況が分からないのに自分の肌を夢中になって触るとかバカか」

 

 まずは、今の自分の姿を確認しなくては。

 どこかに鏡とかはないかな~…っと。

 

「なによ、この部屋は……」

 

 まるでテレビで見た一昔前の英国貴族とかが暮らしてそうな豪華で広い部屋。

 私のような人種が最も嫌う、見るからに金持ちの部屋だ。

 

「お…落ち着かないな……」

 

 上京してからずっと6畳一間のアパートで生活してきた独身中年男からすれば、こんな部屋は落ち着かない事この上ない。

 今すぐにでも室内に仕切りを作ってから区切りたいとすら思ってしまう。

 

「お?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡していたら、壁際に化粧用と思わしき大きな鏡があった。

 こーゆーのってなんていうんだっけ……忘れた。知らん。

 

「………マジで? 何の冗談だ?」

 

 やたらと無駄にデカいベッドから這い出て鏡の傍まで行って自分の顔を見てみると、そこには今までに見た事も無いような褐色の美人(しかも、超グラマースタイル)が映っていた。

 

「よく見たら髪も長っ! 道理で視界の端にさっきからチラチラと何かが映ると思ったわ」

 

 長い髪に憧れを抱かない訳じゃないが、ここまで長いと普通に鬱陶しいな…。

 だからと言って切ろうとは思わないけど。

 

「…夢…だよな?」

 

 じゃないとおかしすぎる。

 いきなり中年のオッサンが、こんな美人に変身してるなんて有り得ない。

 

「今着てる、えっと…ネグリジェ? だったけ? これも肌が露出し過ぎだろ…。こんなんじゃ普通に風邪を引くだろうが。それ以前に、女性がみだりに肌を出すもんじゃない!」

 

 全く…幾ら夢だからって、これは無いだろ!

 一体どれだけ普段から性欲が溜まってるんだよ!

 ちゃんと溜まりすぎないように発散はしてるつもりなんだが?

 

「……えい」

 

 アニメとかでよくあるように、試しに自分の頬を強く引っ張ってみた。

 すると、見事に摘まんだ感触と痛みが走る。

 これ……本当に現実? 冗談だろ?

 

「……疲れてるのかな」

 

 昨夜も終電ギリギリまで残業してたし、家に帰ってからも死んだように倒れて、そのまま……。

 

「……まさか……」

 

 これって…少し前から流行り始めてる漫画とかのジャンルの『異世界転生』ってやつじゃ……。

 思い出してみると、倒れた後の記憶って全く無いぞっ!?

 もしかして、あのまま私は過労死でもしたのかっ!?

 いや、確かに過労死してもおかしくないような仕事量だったけどさ!

 

「って、んなわけないでしょ! フィクションと現実を混同するとか、どんだけ疲れてんだよ私は!!」

 

 思わず頭を抱えてその場に蹲ってしまう。

 うぅぅ……もう本気で訳が分からない……。

 こんな時は、綺麗な青空でも見て気分を落ち着かせよう……。

 ほら、部屋のカーテンを開けば、そこには眩しい太陽と青空が見えて……。

 

「なんじゃこりゃあっ!? 空が紫になってるっ! 凄く毒々しいっ!」

 

 …………体から感じる感触は紛れも無く本物で、空は見事に紫色。

 冗談抜きで異世界に転生してる…?

 

「………胸…大きいな……」

 

 さっきから動く度に揺れてる……。

 美人で胸が大きくて、恐らくはお尻も大きくて……。

 

「…見た目だけなら絶対に勝ち組ね」

 

 いや…何を現実逃避してるんだ私は。

 まずはここがどこなのか、自分が…というか、この体の持ち主が誰なのかを調べないと!

 

「こんだけ広い家(屋敷という言葉が出てこない)なんだ! きっと、使用人の一人や二人ぐらいは必ずいる筈! その人達に聞けば!」

 

 そうと決まれば善は急げだ! 誰かいませんか~!

 …その前に、ちゃんと上着は着ていこうね。

 

 

 

 

 

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 家の中を全部探し回ったが、自分以外には見事に誰もいなかった。

 そのくせ、無駄に広かったりするし……。

 肉体的よりも精神的に疲れた私は、リビングと思わしき広い場所にあるソファに横になって休憩していた。

 

「寂しいのには慣れてるけど……広い場所に一人でいるのは精神的にキツい……」

 

 全く慣れない状況にストレスががががが……!

 

「しかも…見た事も聞いたことも無いような文字がいっぱいあるし……」

 

 なんなんだよアレは……。

 英語じゃないし、かといって他の言語でもないし……。

 色々と調べたくても、文字が読めないんじゃそれすらも出来ない……。

 

「ちくしょー……外国人の取引先相手にも対応出来るようにと、頑張って通って身に付けた英会話も無駄になっちゃった……」

 

 授業料…凄く高かったんだぞ……返せよ…クソ……。

 もう二度と使わないような教材まで買わせやがって……。

 

「…腹減った」

 

 チラっと壁掛け時計を見ると、朝の8時を指していた。

 不幸中の幸いなのは、数字だけは同じだったという事。

 それすらも違っていたら、完全にここで詰んでいた。

 

「…そういえば、さっきキッチンみたいな所があったわね」

 

 何か食材でもあるだろうか。

 あれば一人で勝手に作って食べるんだがな。

 面倒くさい時はコンビニ弁当を食っているが、可能な限りは自炊をするように心掛けている。

 流石に凝った料理は作れないが、それ相応の物は作れる…と思う。

 

 

 

 

 

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 どうも。無駄に広いリビングにて自分の作ったハムエッグとトーストを一人で寂しく食べてる、以前は中間管理職をしていた元オッサンの美女です。

 

 …異世界なのに食パンとかハムとかあるのが、中途半端に現実感あるんだよな。

 やるなら徹底的に異世界っぽさを感じさせてくれよ…夢が壊れるだろうが。

 

「醤油が恋しい……」

 

 私は目玉焼きにはソースでも塩でもなく醤油派なのだ。

 けれど、こんな西洋一色の場所に日本伝統の醤油なんてあるわけも無く、仕方なく塩を掛けて味わっている。

 これもこれで美味しいけど…やっぱり醤油がいい……。

 

「腹ごしらえを済ませたら、改めてこの中を調べないとな……」

 

 全く情報が無いのは不安しかない。

 文字を勉強するにも、まずは辞書的な物が必須だし……。

 

「せめて、英語訳の辞書でもあれば、なんとかなるんだけどな……」

 

 さっきはパッとしか探ってないし、今度は細かな所まで徹底的に捜索してみるか。

 資料探しは得意中の得意だからな。中間管理職を舐めんなよ?

 

 あー…何もつけてないトースト美味しいなー(泣)

 どうして、バターもマヨネーズも無いんだよ……しくしく……。

 

 

 

 

 

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「あった!! ダメ元で探してみたら本当にあった!!」

 

 書庫と思わしき場所の片隅に、英語で書かれた辞書のような物があった。

 中身を確認してみると、ちゃんと英語と謎の文字との比較が表記されている。

 これでやっと事態が少しだけ進展する!

 そう思った私は意気揚々と色んな場所を調べ始める。

 そうして、ようやく様々な事が判明した。

 

 まず、今の自分…というか、この体の持ち主の名前は『カテレア・レヴィアタン』といって、なんでも嘗ての魔王の血を引く継ぐ悪魔…らしい。

 そういや、確かの今の私は魔性な妖艶さがあるよな……。

 意識をしたら、背中から蝙蝠みたいな羽と、腰から尻尾が出てきたし。

 これらを自分の意志で動かせるんだから、なんとも気味が悪い。

 

 んで、今いる場所は『冥界』で、ここはその片隅にある屋敷らしい。

 …屋敷って単語がすぐに出てこない辺り、なんとも悲しいなぁ……。

 

 今は別の魔王さんが四人もいて、それぞれで協力し合って冥界を統治していて、前までの魔王の血を継ぐ私達は今の世には邪魔となるようで、今みたいに首都からも離れた場所に追いやられているようだ。

 っていうか、冥界にも『都市』なんてあるんだな…。

 だって、冥界ってあの世だろ? なんであの世に街があるんだよって話。

 矛盾してないか?

 

 一通りの事が分かってから、今度は自分の体についても調べてみることにした。

 色々な文献を調べたら、レヴィアタンの家系に連なる者は、水や氷系の魔法が使えるようだ。

 魔法…誰もが一度は憧れる言葉……。

 よもや、この歳でそれが本当に使えるようになるとは……。

 

 流石に家の中で魔法をぶっ放すわけにはいかないから、誰もいない裏庭にて試してみる事に。

 

「こうして手を翳して……どうすればいいのかしら?」

 

 イメージでもすればいいのかな? えっと…ドラクエやFFの魔法でいいかな……。

 

「ヒャ…ヒャドッ!」

 

 私が適当に叫ぶと、青白いオーラみたいのが放出されて、目の前にある岩を凍らせた。

 わぉ……本当に出来たよ……。

 

「んじゃ……ブリザド?」

 

 今度も強い冷気が放出され、別の岩を凍らせる。

 …変に難しいイメージをせずに、適当に漫画やゲームの魔法や技を出す感じでいればいいのか?

 ちゃんと制御を出来るようにしなくちゃと思って頑張る気でいたが、なんかその心配はなさそうだな……。

 不思議と身体が覚えている感じだ。

 このカテレアという人物は凄い人…じゃなくて、悪魔だったんだな。

 

 それと、どうでもいい事だけど、私がどれだけ男口調で話そうとしても、なんでか強制的に中性的、もしくは女性口調に変換されてしまう。

 特に『俺』と言おうとすると『私』に変えられる。

 さっきからずっと一人称が『私』だった部分は、本当は『俺』と言おうとしていたのだ。

 

「…こんな落ち着かない場所には一分一秒も居たくは無いけど、その前に知識を身に着けないといけないわね……」

 

 まずは冥界の言語をマスターしないと。

 全てはそれからだ。

 後、現在の自分の資産とかも調べておかないと。

 何をするにしても、先立つものが無いと話にならないからな。

 

 

 

 

 

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 私が転生(?)をしてから、早くも数週間が経過した。

 嘗ての英会話習得時の感覚がまだ残っていたお蔭で、冥界の言語は思ったよりも早く最低限は習得出来た。

 食料も思ったよりも沢山あったので、買い物とか行かなくてもなんとかなった。

 そして、最も大事な現在の我が家の財政状況を調べてみた結果、驚くべき事が判明した。

 

 なんと、円に換算すると軽く一生は遊んで暮らせる程の金があった。

 魔王の血筋ってのは伊達じゃないみたいだな……。

 以前の私が一生働いても稼げない程の資産を持ってやがる……。

 でも、幾ら金を持っていても私自身は完全な庶民派だ。

 こんな場所でこれからも暮らすなんて絶対に御免被る。

 腕を伸ばして物に手が届く。それぐらいが一番いいんだよ。

 だから、私はある一大決心をした。

 

「…ここで合ってる…わよね?」

 

 今、私の目の前にあるのは、地上に行く為の電車がある駅みたいな場所。

 こんな所まで妙に現代チックなのが、またげんなりする。

 ここから特別製の電車に乗って、人間達の住む世界へと行けるらしい。

 事実、私の他にもちらほらと悪魔たちが構内にいた。

 

 そう…あの家を捨て、私は人間達が住む世界…私の本来のホームである日本に戻るのだ!

 最低限の荷物は全て鞄やアタッシュケースとかに入れてきたし、資産の方は根性で発見した銀行にて全て日本円に両替して、向こうでも使用出来る御都合主義全開な万能な通帳に入れた。

 

 調べたところによると、今の人間世界は21世紀初頭ぐらいで、私が人間として生きていた頃と同じぐらいみたい。

 それなら、住むには何の支障も無い。日本語は完璧だしね。

 名前とかは…そのまんまでいいかな。

 偽名なんてそう簡単に思う付かないし、仮に使っても簡単にバレるだろうしね。

 でも、国籍とかはどうしよう? まぁ…行ってから考えますか。

 ちゃんと市役所とかに行って身分を証明する物を作らないといけないしな~。

 私に合った部屋も借りないといけないし、家電とかも買い揃えないといけないし。

 はぁ…やることが一杯だ。けど、これもまた自分自身の未来の為だと思えば辛くは無い。

 国家公務員を甘く見ちゃいけない。

 寧ろ、この手の仕事は得意分野を通り越してルーチンワークになってるから。

 完全に頭と体が覚えてるんだよな~……悲しい……。

 

「…今の格好…変じゃない…よね?」

 

 念には念を入れて、Tシャツにデニムのジャケット、ジーパンとラフな格好に加え、髪型をポニーテールにしてから帽子を被って、サングラスのおまけ付き。

 仮にも魔王の血筋って事で有名人なんじゃないかという懸念を感じ、半ば有名人の変装染みた格好で出てきたけど、今のところは問題無いみたい。

 

「あ…来た」

 

 電車ってよりは汽車って感じだな……。

 別にこれに乗らなくても魔方陣的なもので転移も出来るらしいが、私的にはこっちの方が性に合っている。

 あの頃は朝はギュウギュウ詰めで、帰りは疲れ果てて殆ど寝てたけど。

 正直、いい思い出は殆どありはしないが、それでも人間だった頃の感覚だけは失いたくない。

 

 車内は思っている以上に空いていて、好きな所に座る事が出来た。

 途中で車掌さんに妙な機械でスキャニングされた時は驚いたな。

 ハイテクなのかレトロなのか、どっちだよって感じで。

 私の事を見てめっちゃ驚いてたけど、すぐに表情を戻してスルーしてくれた。

 職務に忠実な男は好感が持てるよ。

 

 そうして、次元の壁とやらを越えて辿り着いた場所は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気紛れに更新していきます。

次回から憑依転生カテレアの金にものをいわせたグータラ生活が幕を開ける?






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昼間に飲む酒は至高の一杯

エンジンを吹かすのは今日まで。

明日からは去年から更新が出来ていない作品を頑張っていきます。









 冥界 グレモリー領 グレモリー邸 書斎

 

 そこでは、赤い髪の男性が一人、机に座って書類仕事に精を出していた。

 彼の名は『サーゼクス・ルシファー』。

 旧姓は『グレモリー』で、ルシファーの名を継承して冥界を治める四大魔王の一角を担っている悪魔だ。

 

「ふぅ…あと少し……」

 

 少し凝ってしまった肩を回しながら小休止をし、再び仕事に取り掛かろうとすると、数回のノックの後に書斎の扉が開いて、メイド服を着た女性が入ってくる。

 彼女は『グレイフィア・ルキフグス』。

 グレモリー家のメイド長にして、サーゼクスの妻でもある。

 同時に、公私に渡る右腕でもあるのだ。

 

「少しよろしいでしょうか」

「グレイフィアか。どうしたんだい?」

「実は、ご報告すべき事がございまして……」

 

 サーゼクスの傍まで歩いていき、グレイフィアはその『ご報告すべきこと』を話した。

 

「なんだって? あのカテレア・レヴィアタンが人間界へと向かった…だって?」

「はい。地上行きの列車の車掌から連絡がありまして、格好から推察するにお忍びである可能性が高いと……」

「そうか……」

 

 旧魔王の血筋であるとはいえ、同族を冥界の辺境に追い遣るような真似をしている事に、サーゼクスは少なからず心を痛めていた。

 今はまだ難しいが、いずれは頑固頭の元老院を説得し、必ずや彼女達とも友好な関係を築きたいと考えているのだ。

 そんな矢先に、旧魔王の子孫の一人であるカテレアの地上行き。

 彼でなくても、何かあるのではと勘ぐってしまう。

 

「いかがいたしますか?」

「…考え方は過激ではあるが、それでも彼女もまた僕達と同じように冥界と悪魔たちの未来を真剣に考えている。少なくとも、人間達をどうこうする為に向かったわけじゃないだろうと思う」

「では?」

「今は使い魔を使っての監視程度に留めておこう。念の為に、人間界にいる悪魔たちに連絡をして、カテレアの身分証明をする手続きもやっておく」

「分かりました。では、そのように手配を致します」

「頼むよ」

「それと、紅茶と茶請けの菓子を持ってきました。少し休憩をなさってください」

「ありがとう。では、お言葉に甘える事にするよ」

 

 丁寧に頭を下げてから、グレイフィアは書斎を後にした。

 

「…もしや、カテレアは自分の従姉妹のような存在であるソーナさんや、リアスが地上にいる事を知って、それを密かに手伝う為に…? いや、流石にそれは考え過ぎか……」

 

 グレイフィアが持って来てくれた紅茶を一口飲んでから、窓の外に視線を移し、背凭れに体を預けて楽な体勢になるサーゼクスであった。

 

 

 

 

 

 

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「ん…ん…ん…ん……ぷはぁ~♡ うまぁ~い♡♡」

 

 皆が仕事をしている平日の真昼間に飲むビールが、こんなにも美味しかっただなんて~!

 こんな事なら、前世でももっと早く退職してたのにぃ~!

 

 私が人間達のいる世界にやってきてから、早くも数ヶ月が経過した。

 今いる街は『駒王町』という場所で、私はその真ん中辺りにあるそこそこ綺麗なアパートの一室に住んでいる。勿論、六畳一間。

 

 こっちに住むに辺り、市役所とかで色々と手続きをしなくちゃいけなくて、なんて説明しようかな~なんて考えていると、なんと密かに人間社会に潜り込んでいる悪魔さんがやってきてくれて、パッパッパッと私がこっちで住む為に必要な書類一式を用意してくれた。

 名前はそのままで、名目上はアメリカから日本に住むために来たって事になっている。

 どうやって用意をしたのか、パスポートや戸籍に住民票、その他諸々に必要な物を全部揃えてくれた。

 昔は、お役所仕事なんて無駄に遅くて言い訳ばかりをしていたから大嫌いだったが、今回の一件で印象が一気に変わった。

 やっぱ、契約云々の仕事って人間よりも悪魔の方が得意だったりするのかしら?

 

 住居の方も探しましょうかと言ってくれたけど、流石にそこまでお世話になるわけにもいかなかったので、『それぐらいは自分で探す』と言って断った。

 こーゆーのは、不動産屋に入ってから相談するのもまた楽しかったりするしね。

 

 んで、割と呆気なく私の理想とする部屋が見つかって、すぐに契約をして、その日に住む事にした。

 それからは、商店街やデパートとかで必要な家電や家具とかを買い揃えた。

 異世界に転生しても、やっぱり100円ショップは最強だ。

 

「手の届く所にパソコンがある…スマホがある…テレビのリモコンもある……。お酒は飲み放題だし……さ・い・こ・う♡」

 

 なんて堕落的な生活! これこそ悪魔の本来の姿でしょ!(言い訳)

 しかも、一人部屋で誰も見てないから、好きな格好でいられるしね!

 この体で少し過ごしたことで、前世の知識を基にブラのつけ方とかは習得したけど、それでも楽な格好でいられるなら、それに越したことは無い。

 実際、今の私の格好はタンクトップに黒のパンツという絶対に人には見せられない姿になっている。

 勿論、ブラなんてつけていない。

 

「醤油がある…ラーメンがある…ご飯がある…日本サイコ~~~~♡♡」

 

 カロリーなんて知った事か! 美味しい物を食べて何が悪い!

 悪魔だって和食を食べてもいいじゃない!!

 

「あ…無くなった。もう一本…もう一本……」

 

 部屋の隅にある小さめの冷蔵庫にギッシリと入っている缶ビールを出して、間髪入れずに開けてゴクリ。

 

「はぁ~…♡ …今思ったけど、日本に駒王町なんて場所、あったっけ?」

 

 ここは異世界の日本だから、私の知らない場所があっても不思議じゃない。

 それに、私が知らないだけで元いた世界の日本にも駒王町って地があったかもしれない。

 日本は狭いようで広い国だから。島国だからってバカにしちゃいけない。

 

「お金は潤沢にあるし、少なくとも私が満足するまでは今の生活を続けるぞ~」

 

 前世ではしたくても出来なかったグータラ生活を思い切り満喫してやる!

 こっちに来てから暫くは新生活の準備に追われていたけれど、もうそれも終わったから遠慮はしない。

 悪魔らしく、自分の欲求に従って好き放題に生きよう!

 勿論、他人様に迷惑を掛けないように気を付けながらね?

 幾ら今の私が悪魔だからといって、ちゃんとマナーは守りますよ?

 ご近所付き合いは大切だからね。

 

「まだ太陽が真上にある時間帯に見るニュース…内容はどうでもいいけど、この言葉に出来ない優越感……溜まらないわねぇ~…♡」

 

 はぁ~…これが本当に贅沢ってやつなのかしらね……。

 

「ん?」

 

 ふと、窓の外を見てみると、楽しそうに下校をしている小学生たちの列が。

 懐かしいわねぇ~…私にもあんな頃があったんだよなぁ~……。

 子供の頃は、何にも考えずに遊び回ってたっけ……。

 

「ある意味、今の私って童心に帰ってるのかしら」

 

 それはそれでいいと思うけどね。

 大人だって時には頭を空っぽにして遊びたい時があるんだから。

 

「さて…と。いい気分のままでガチャを回しますかね…っと」

 

 スマホの画面を軽くタップをしつつ、おつまみの唐揚げを一口。

 そこからすぐにビールをぐぐ~!

 

「この組み合わせ……最強……♡」

 

 私が男で社畜だった頃は、酒なんてストレス発散の為に飲んでたから味なんてよく分からなかったけど、今はこんなにも美味しくてたまらない……。

 これこそが本当の幸せなのね……。

 

「んっ!? なんか幸せに耽っていたら10連でいきなりSSRが三つも来たんですけどッ!?」

 

 これは幸先よくないっ!? 悪魔なのに幸運の神様が付いてるのっ!?

 

「む…昔は出来なかった課金とか…勇気を出してしてみようかな~……」

 

 以前は課金否定派だったけど、それは単純に金銭的余裕が無かっただけであって、今ならば……。

 

「ま…まずは2000円ぐらいからしてみようかしら……」

 

 後でコンビニに行ってこようかな……。

 そのついでに、缶チューハイやつまみとかも買って……。

 

 こうして、悪魔の美女になった私の第二の人生(?)が本当の意味で幕を開けたのだった。

 それと、一応言っておくけど、私は決してニートじゃないからね!

 ちゃんと外出とかはするんだから、あんな自宅警備員と一緒にしないでよね!

 そこんところ重要だから! よろしく!!

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は例のエロ主人公やらを出していこうと思います。

アンチは無いので、良好な関係になるでしょう。


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酒好きなお姉さんは好きですか?

今回はFGOから、とあるキャラが登場。

実装されたのはつい最近で、割と衝撃的だったサーヴァント。

この作品でも超チートですが、それ以上にお気楽能天気な美人のお姉さんです。







「あぁ~……もう朝ぁ~…?」

 

 枕元にあるスマホを引き寄せて時間を確認する。

 現在の時刻は朝の八時半。

 ……まだまだ社畜だった頃の癖が完全には抜け切ってないな。

 私の中にある体内時計が自動的に朝には起床させてしまう。

 

「……本当は二度寝したいけど、なんか目が覚めちゃってるから起きますか」

 

 別にグータラ生活をしているからと言って、必ず二度寝しなくちゃいけないって訳じゃない。

 早起きをしたっていいじゃないか。人間だもの。

 あ、今の私は悪魔だった。

 

「ん~……」

 

 目を擦りながら玄関まで行き、郵便受けに入っている新聞や広告を取り出す。

 これもまた前世からの癖の一つだ。

 いつもならば、新聞は適当にそこら辺に放り投げて、広告は燃えるごみ行き確定だけど、今日だけは違った。

 

「こ…これは……!?」

 

 とある広告を見た時、私は衝撃で一気に目が覚めた。

 

「…早起きは三文の徳って言うけど…本当だったわね……」

 

 よもや、昔の癖に助けられるなんてね……なんでも経験しておくもんね。

 

「よし! 今日の予定決定! まだまだ開店時間には早いけど、今から並んでおかないと良い場所が取れない! 善は急げよ!」

 

 決まるが早いが、私は歯を磨いて顔を洗い、髪を整えながら私服に着替える。

 化粧? そんなことしなくても十分に美人だから問題無いでしょ。

 完全に女としての生き方に慣れつつある自分への違和感が無くなりつつある事も忘れて、私は外出の準備に勤しんだ。

 

「…よし! 完璧! 今日の私も綺麗!」

 

 全ての準備が完了してから、ハンドバックに貴重品なんかを全部入れてから玄関のドアを開ける。

 

「いってきまーす。誰もいないけど」

 

 どれでも言ってしまうのは、私の中身が日本人だからか。

 誰にも迷惑かけてないから大丈夫だよね。

 様式美ってのは大事だからね。

 

 

 

 

 

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「さて…と。今からなら歩いても十分に間に合って……あれ?」

 

 鍵を閉めてから階段を降りようとすると、隣の部屋からも同じタイミングで誰かが出てきた。

 褐色肌でスタイル抜群の超美人。

 白の縦セーターと黒いロングスカートを着たお姉さん。

 

「カテレアちゃんっ!?」

「ブッキーっ!?」

「「もしかして、あの広告を見たのっ!? え?」」

 

 そんな彼女の名前は『伊吹童子』

 詳しい事は知らないけど、どうやら鬼に属する人っぽい。

 少し前までは京都で暮らしていたらしいが、気紛れでこっちに来て、ほぼ同時期に同じアパートの隣の部屋に引っ越してきている。

 本当は角やら尻尾やらがあるらしいけど、魔力で隠しているとの事。

 私も悪魔の尻尾や羽を隠しているから、魔力って本当に万能。

 因みに、一目見て私が悪魔であることや魔王の血筋であることを見抜き、その後に引っ越し祝いと称して酒盛りをしたら一発で意気投合。

 あっという間に大親友になった。

 

「やっぱカテレアちゃんもパチンコ行くんだ~!」

「当たり前じゃない! なんたって今日は……」

「「新台入れ替えの日!」」

 

 考えている事は同じだったみたい。

 やっぱり、ブッキーこそが私のパートナー!

 

「そうよね~! アレを聞いて行かないのは有り得ないわよね~!」

「うんうん! 早く行って良い台を確保しておかないとね!」

「最近は目ざといおじさん達も増えたしね~」

「まだパチプロは駒王町に来てないみたいだけど、このままじゃ時間の問題かもしれないわね~」

「「ま、仮に来たとしても私達で返り討ちにするんだけど!」」

 

 私とブッキーの腕を舐めるなよ?

 駒王町に来てからこっち、一度も負けたことが無いんだから!

 

「んじゃ、とっとと行きましょうか」

「そうね。朝ご飯はどうしようか?」

「行く途中でコンビニにでも寄ればいいんじゃない?」

「賛成ー!」

 

 

 

 

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 パチンコ屋『カジノ・キャメロット』。

 店名に『カジノ』と銘打ってはいるが、実際にはパチンコしか置いてない。

 店員さん曰く『金髪でバニーな店長の趣味』らしい。意味が分からない。

 

「「…………」」

 

 煙草を咥えながら、私とブッキーは静かに目の前の台に集中する。

 パチンコとは即ち、己との戦いと心得たり。

 この時ばかりはお互いに超真剣モードになって何にも話さない…勝利の瞬間までは。

 

「ん……?」

 

 こ…これは…もしかして……!?

 

「ブッキー……」

「どったの?」

「私…今日一番の当たりが来たかもしれない」

「マジで?」

 

 自分の台をから体を伸ばしてこっちを見る。

 もう既にリーチが掛かっていて、動きがゆっくりになっていた。

 

「来い…来い…来い…来い…!」

「そこ…そう…ここ…そこ!」

 

 そ…そ…そ…そ…!

 

「「揃った――――――――――――――!!!」」

 

 私の台が一気に輝き出して、派手な音と共に大量の玉を吐き出してくる。

 はっはっはっ~! 今日も大漁じゃ~!

 

「って、ブッキー! ブッキー! そっちも来てる! マリンちゃん来てる!!」

「わっ!? ホントだ! わわわわわわわわわ~!!」

 

 隣でブッキーも大当たりをして、同じように玉を大量ゲット。

 早くに来て大正解だったわね!

 まさか、二人揃って大当たりするなんて!

 

「ちっくしょ~…今日も伊吹とカテレアのねーちゃん達の大勝かよ~…」

「本当に強いよな~…あの二人……」

「しかも、美人でスタイルもいい!」

 

 どうだ、ご近所のおじさん達! 羨ましいだろ~!

 けどね、私達はこの程度じゃ満足しないのだよ!

 

「まだまだ、勝負はここからよ!」

「もっともっと稼ぐんだから! いっくわよ~!」

「「お~!」」

 

 

 

 

 

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・・

 

 

 

 

 

「「勝った勝った~♡」」

 

 あれからずっと、お昼ご飯を食べる事すら忘れて没頭して、気が付けば午後の四時ごろになっていた。

 けど、空腹なんてどうでもいい。私達はそれ以上に大きな物を手に入れたのだから。

 

「よし! 今晩は戦勝会しましょ!」

「いいわね~! どこでする?」

「カテレアちゃんの部屋!」

「ウチ? 別にいいけど…散らかってるわよ?」

「いいって! 私の部屋も人の事言えないし!」

「「ははははははは!」」

 

 今日は本当に気分がいい! 私達が手に持っている紙袋には交換した戦利品が大量に入っている。

 お菓子とかもあるけど、その殆どが酒ばかりだ。

 今日はこれで飲み明かそう。絶対にそうしよう。

 

「あれ? あの子は……」

 

 ブッキーと一緒に歩いていると、目の前の歩道を横切る見覚えのある男子高校生が友達と思わしき男の子たちと一緒に歩いていた。

 そっか。今は丁度、下校時間なのか。

 完全に時間の感覚が無くなってたわ~…。

 

「どうしたの?」

「あそこ歩いてる男の子たちの一人ね、アパートの近くに住んでる男の子なのよ。引っ越してきた時に近所に挨拶回りをした時に会った事があるわ」

「カテレアちゃん…律儀な性格してるわね~…」

「癖みたいなものよ。それに、ご近所さんとは仲良くしたいしね」

「そうね。私もしとけばよかったな~」

 

 テンションが上がっていた私は、ブッキーを誘って小走りで彼らの所に向かった。

 なんとなく、彼らの驚く顔が見たくなった。

 

「やっほー! 学校からの帰りかな? イッセーくん!」

「うぉっ!? カ…カテレアさんッ!? なんで通学路にっ!?」

 

 予想通りのリアクションをしてくれてありがとう。

 

「パチンコの帰りに君達を見かけてね。ちょっと声を掛けてみようかと思って」

「そ…そうだったんスか……相変わらずッスね……」

 

 この子は私の生活習慣の一部を知ってるからな~。

 そんな感想が出ても仕方がないか。

 

「このツンツンヘアーの子がカテレアちゃんの知り合い?」

「そ。兵藤一誠くんっていうの」

「へ~…」

 

 あ。ブッキーの目が完全に捕食者になってる。

 めっちゃ舌なめずりしてるし。

 

「い…一誠!! 一体誰だ!? この凄いスタイルのお姉さまはっ!?」

「お前だけズルいぞ! こんな素敵な美人とお知り合いだなんて!!」

「く…くるじい……」

 

 ははははは! お友達の子達もなんか面白いわね~!

 類は友を呼ぶって本当だったのね!

 

「ゲホッ…ゲホッ…。この人はうちの近所のアパートに住んでるカテレアさんって言って、アメリカから来てる人なんだよ」

「「アメリカ美女!!」」

 

 あ。そこに反応するんだ。流石は男子高校生、色んな意味で素直だ。

 

「ぼ…僕が一誠の『大親友』の元浜です!」

「同じく『大親友』の松田です! よろしくお願いします!」

「なんで『大親友』の部分を強調するんだよ…」

 

 ふむふむ…この眼鏡君が元浜君で、坊主頭の子が松田君ね。

 はい、もう覚えました。

 前世の職業柄、人の名前を覚えるのは得意中の得意なのよね。

 

「そ…それでカテレアさん。そちらの人は……」

「この子は私の隣に住んでる伊吹ちゃん。私は『ブッキー』って呼んでる」

「はぁ~い♡ カテレアちゃんの大親友のブッキーで~す♡ よろしくね!」

「「「よ…よろしくお願いします!」」」

 

 わぉ…早速、純情な男の子たちを誘惑してるよ……。

 私も初対面の時にイッセー君に似たような事をしてるから何も言えないんだけど。

 なんつーのかな…女悪魔としての性ってやつ?

 年下の男の子は誘惑せずにはいられないと言いますか。

 

「ふ…二人揃って凄い美人……」

「こんな人達が近所に住んでいる生活…羨ましすぎる……!」

「ま…まぁな!」

 

 ホントに面白い反応するなー…この子達。

 高校生って言えば丁度、色んな意味で性に飢えてる頃だから無理も無いけど。

 私にも覚えあるな~…。

 

「そだ。三人にこれあげる」

 

 紙袋の中からお菓子を三人に手渡す。

 まだまだ沢山あるから、少しぐらいあげても問題無い。

 

「いいんですか? これ、パチンコの景品って奴じゃ……」

「だいじょぶよ。今日はめっちゃ勝ったから、まだまだ一杯あるのよ」

「だから、遠慮なく持っていって頂戴な」

「「「あ…ありがとうございます!」」」

 

 うんうん。ちゃんとお礼を言えるのは偉いぞ~!

 だから、三人の頭を撫でてあげよ~。なでなで。

 

「「「…………」」」

 

 ありゃ? なんか急に黙った? なんで?

 

「それじゃあねぇ~」

「寄り道しちゃダメよ~」

 

 ずっと引き止めてちゃアレだから、ここらでおさらばすることに。

 さ~て…帰ったら祝杯じゃ~!

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 カテレアと伊吹が去って行ってからも、三人は手を振る体勢のままジッとしていた。

 

「俺…あんな美人、初めて見た……」

「同じく……すっげーいい匂いがした……」

「だな……やっぱいいよな……おっぱいも超大きいし……」

 

 ここでようやく我に返り、元浜と松田は一誠に詰め寄る。

 

「と…ところで一誠君や……」

「お…お前はその…カテレアさんのお部屋に行った事はあるのか? ご近所さんなんだろ?」

「い…一応な。一回だけ……」

「「マジかッ!?」」

 

 他の学生たちの視線なんて全く気にせず、三人は怪しさ全開でコソコソ話を始めた。

 

「前にウチの母さんが夕飯のおかずを作りすぎた事があってさ、それでカテレアさんに御裾分けしようって事になったんだ」

「よくある話だよな。ウチも似たような事はしたことある」

「で、その時にお邪魔したんだけど……」

「けど? どうだったんだ?」

「……その時のカテレアさん…タンクトップに黒いパンティーだけだったんだ」

 

 その一言だけで想像してしまったのか、元浜と松田は急いで鼻を押さえる。

 指からは赤い何かがはみ出ていた。

 

「しかも…ブラはつけてなかった。つまり、タンクトップの下にはあの巨大なおっぱいがそのまま……」

「「!!!!!」」

 

 今度は二人揃って股間を抑える。

 どうしてなのかは、男性諸君ならば分かるだろう。

 

「めっちゃ揺れてた…つーか、実は隙間から少しだけ見えてたんだよな……」

「「な…何が…?」」

「……真ん中にあるピンク色のアレが」

 

 ここで遂に二人はその場に座り込んだ。

 一誠も当時の事を思い出したのか、同じように座り込んだ。

 

「その日の事は今でも鮮明に覚えてる……何度も何度も頭の中で再生してる」

「近所に住む美人のお姉さん……」

「俺も欲しい……!」

 

 カテレア達からすれば日常における些細な出来事の一つだったが、一誠たちにとっては忘れる事の出来ない一日となった。

 

 余談だが、この日の夜、三人の夢の中にカテレアと伊吹が登場して裸で誘惑をしてきた。

 勿論、彼女達は何もしていない。

 単純に、あの三バカの脳裏に二人の存在が深く刻み込まれただけの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ある意味で似た者同士の伊吹童子、登場。

彼女は今後も頻繁に登場するレギュラーキャラです。

そして、一誠たちもついでに登場。

あの三人が年上の美人なお姉さん二人に勝てる道理がありません。





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お姉さん達に任せなさい!

今回は今までとは違って続きものになります。

まずは前菜からですね。

メインディッシュは次からです。



















「はぁ……」

 

 机に座りながら大きな溜息を吐いているのは、駒王学園の生徒会長であり、四大魔王の紅一点でもある『セラフォルー・レヴィアタン』の妹である『ソーナ・シトリー』こと『支取蒼那』。

 彼女は目の前に広がっている生徒達の嘆願書を見て頭を悩ませていた。

 

『あの三バカの覗きをどうにかしてください! 安心して着替えも出来ません!』

『本気で助けてください! 我慢の限界なんてとっくに過ぎてます!』

『駒王学園に通っている全ての女子を救ってください!! お願いします!!』

 

 この他にも数多くの女子達の必死の声が生徒会に届けられている。

 実際、これによって学園の評判も落ちていっている。

 このままでは、来年度の入学希望者もかなり減ってしまう事になりかねない。

 生徒会長として、そんな事態だけは絶対に避けねばならない。

 自分の次の担う生徒会長に最高のバトンを渡したいから。

 

「私だって…どうにか出来ればどうにかしたいわよ……」

 

 別にこれまでに何もしなかったわけではない。

 生徒会に呼び出して説教もしたし、先生達にもお願いしている。

 だが、それでも全く犯行は収まる気配はない。

 それどころか、最近では段々とエスカレートし始めている。

 

「本当にどうしたら……はぁ……」

 

 もう一回、大きな溜息。

 それを見て、生徒会のメンバーたちも心配そうしていた。

 

「会長…大丈夫かな…」

「私達でどうにか出来ればいいんだけどね……」

 

 この問題はソーナだけでなく、学園全体の問題になりつつあった。

 どうにかして打開策を見出さなければ、本当に駒王学園は終わりかもしれない。

 大袈裟かもしれないが、決して楽観視は出来ないのだ。

 

「そういえば……」

 

 ふと、ソーナは机の引き出しに入っている一枚のメモを取り出す。

 それは、彼女の姉が少し前に渡してくれたものだ。

 

「何か困ったことがあれば、この場所に住んでいる人物に相談してみるといいってお姉さまが言っていたけど……」

 

 メモに書かれているのは、とあるアパートの住所と部屋番号。

 藁にも縋りたいソーナは、思い切ってこの場所に行ってみることにした。

 

 因みに、最初に『親友』であるオカルト研究部の部長には全く相談しようとは思わなかったという。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、私はお部屋でお酒を飲んでま~す。

 今回は大親友のブッキーも一緒に部屋酒を楽しんでいる。

 

「あ~…なんでそこで押し倒さないのよ~。もっと強気に攻めれば絶対にイチコロなのに~」

「ドラマのこーゆーシーンを見てると、本当にイライラするわよね~。台本に書かれてるからって言えばそれまでなんだけどさ~」

 

 女二人でビールを飲みながらドラマの再放送を見る。

 偶にはこんなのもいいわよね。

 

「あ。おつまみ無くなっちゃった」

「私が適当になんか作るわよ。台所と食材を借りるわね?」

「いいけど…ブッキーって料理で来たんだ」

「そりゃ出来るわよ。伊達に一人暮らしはしてないってね」

 

 ピンポーン

 

「「ん?」」

 

 おやおや。ブッキー以外でこの家に用事がある人なんて珍しい。

 家賃の徴収…にはまだ早いし、ってことは新聞かしら?

 

「はいはーい。今出ますよーっと」

 

 酔っていても、ちゃんと覗き穴から外を確認することは忘れない。

 どれどれ~…誰が来たのかな~?

 

「……え?」

 

 玄関前にいたのは、全く顔も知らない女子高生。

 眼鏡でセミロングな感じから、めっちゃ真面目っぽい子だ。

 

「いや……マジで誰?」

 

 誰かは知らないけど、このまま放置ってのも可哀想だ。

 仕方がない。まずは話を聞いてみよう。

 ガチャっと扉を開けて、こんにちわ~っと。

 

「あ…あの……カテレア・レヴィアタン様…でしょうか……」

「いかにも。私はカテレア・レヴィアタンだけど…アナタはだぁれ?」

「わ…私はソーナ・シトリーと申します。こちらでは『支取蒼那』と名乗っています」

「ソーナ・シトリー……」

 

 どっかで聞いたことがあるような……どこだったっけ?

 

(あ。思い出した。確か、四人いる現魔王の一人の妹ちゃんがそんな名前だったような気が……)

 

 同じ『レヴィアタン』だったから、妙に記憶に残ってたわ。

 

「それで、そのソーナちゃんが私に何の御用かしら?」

「差し出がましいとは思いますが…私の相談に乗って頂きたいのです!」

「そ…そーだん…?」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 悪い子じゃないっぽいし、あのまま立たせておくのも不憫だったから、取り敢えずは部屋の中に入れることに。

 

「ごめんね~。さっきまで飲んでたから散らかってて~」

「い…いえ。こちらこそ、突然に訪問して申し訳ありません」

 

 うわ…めっちゃ礼儀正しい子じゃん。

 いまどき、こんな子っているのね……。

 

「あれ? その子誰?」

「さっきのチャイムを鳴らした子。私に相談があるんだって」

「ふ~ん…」

 

 もうお摘みを作ってしまったのか、ブッキーも私の隣に座った。

 お? テーブルの上には美味しそうな肉野菜炒めが。

 ブッキー…かなり女子力が高いと見た。

 

「そ…そちらの方は……」

「私の親友。一緒に飲んでたの」

「し…親友……」

 

 ありゃ? なんか萎縮してる?

 まぁ…大人二人と向き合ってれば無理も無いけど。

 

「貴女…悪魔でしょ?」

「は…はい! 現魔王の一角であるセラフォルー・レヴィアタンの妹のソーナ・シトリーと申します!」

「レヴィアタン? え? カテレアちゃんの親戚とか?」

「あ……カテレア様と私に血の繋がりはありません。姉がレヴィアタンを名乗っているのは襲名したからというか……」

「あぁ~…はいはい。成る程ね。なんとなく分かったわ」

 

 こういう時、ブッキーは頭の回転が早いから助かる。

 アルコールが回っている時はアレだけど。

 

「私は伊吹童子。これだけで私が何者かは分かると思うけど」

「い…伊吹童子様ッ!? 貴女様がっ!?」

 

 お~お。面白いぐらいに驚いてるわ。

 やっぱ、ブッキーってかなりのビッグネームだったんだ。

 

(い…伊吹童子っ!? 日本三大化生の一角である八岐大蛇の分御霊である神霊っ!? 鬼でありながら神でもある最強の超越者の一人! そ…そんな人物が前魔王の血族であるカテレア様と一緒にいるっ!? カ…カオスだわ……この二人だけで下手をすれば一勢力と対等に戦える戦力なのに……)

 

 あ…あれ? 今度はめっちゃ冷や汗掻いてない?

 だ…大丈夫かしら……。

 

「あ…あの…つかぬ事をお伺いしますが…カテレア様は一体どこでこの方とお知り合いに…?」

「普通にお隣さんだったから仲良くなったんだけど?」

(なんで魔王の子孫の隣に神が住んでるのよ~っ!?)

 

 あの顔は…心の中で何かに対してツッコんだな?

 さっきからすっごい表情がくるくると変わってるし。

 

「さっきからずっと気になってたんだけど、どうやってこの場所を知ったの?」

「私の姉が『困ったことがあればカテレア様に相談してみるといい』と言って、このメモを……」

「どれどれ?」

 

 ソーナちゃんが出したメモを見てみると、そこにはウチのアパートの住所が書かれていた。

 流石は魔王…既にこっちの住所も調べがついていたのか。

 

「成る程ね。で、相談って何かしら?」

「聞いてあげるの?」

「まぁね。ここまで来て追い返すのも可哀想だし、私を頼ってきてくれてるんだから、せめて話だけでも聞いてあげないと」

「カテレアちゃんってばやっさし~!」

「ブッキーはどうする?」

「私も一緒に聞く~。なんか興味出てきたし」

 

 興味があるのは相談ごとじゃなくてソーナちゃんの方だったりして。

 ブッキーって基本的に両刀使いだからな~。

 美少年も美少女もめっちゃ大好きだし。

 

「という訳だから、お話を聞かせてくれるかしら?」

「は…はい! 実は……」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「ふむふむ…男子生徒の覗き…ねぇ……」

 

 ソーナちゃんの話を簡単に要約するとこうだ。

 

 毎日のように女子更衣室を覗く困った男子生徒が三人いる。

 それだけ注意をしても改善する余地が全く無く、本当に困っている。

 このままでは本気で学校存続の危機にもなりかねない。

 因みに、ソーナちゃんは生徒会長らしい。

 地味にメッチャ凄かったよ、この子。

 

「もう私にはどうしたら……」

「どうやら本当に困ってるみたいね。なんとかして助けてあげたいけど…」

 

 学校の事に部外者である私達が介入する訳にもいかないしな~。

 さてはて、一体全体どうしたもんやら。

 

(覗きをする三人の男子高校生…ねぇ~…)

 

 …なんか該当しそうな子達に心当たりがあるんだけど…まさかね?

 試しに聞いてみようか。

 

「ソーナちゃん。その覗きをする子達の一人の名前って、もしかして兵藤一誠くんって言うんじゃ……」

「ど…どうしてカテレア様が彼の事を知っているんですかッ!?」

「やっぱりか……」

 

 前に余ったおかずを持って来てくれた時に、私の胸とかをすっごい凝視してたのよね~。

 女になったせいか、男達のそれ系の視線には敏感になったっていうか。

 この前会った松田君と元浜君も私やブッキーの胸を見まくってたし。

 

「…彼の家とはご近所さんなのよ。私も過去に何度も話したことあるわ」

「そう…だったのですか……カテレア様と彼が……」

 

 う~ん…知り合いとして、彼が誰かに迷惑を掛けているのは見過ごせないな~。

 

「ねぇ…ちょっと思った事があるんだけど」

「なぁ~に? ブッキー」

「もしかしてだけど、イッセー君達は人並み以上に性欲が溜まってるんじゃない?」

「せ…性欲…ですか?」

「そ。性欲」

 

 溜まってる…ねぇ~。

 確かに、あの頃の男の子は色々と妄想して悶々していても不思議じゃないけど。

 私だって全く覚えが無いわけじゃないし。

 

「女の子が多い学校に数少ない男子として入学をすれば、そりゃ否が応でも色々と溜まるでしょ。人間だけに限らず、私達も含めた全ての生き物は三大欲求には抗えないんだし。だから……」

「覗きをしていると?」

「そうなるわね。そんな中途半端なやり方で発散出来てるとは思えないけど」

「そうよね~。そのやり方じゃ精々、覗いた時の事を思い出しながら夜中一人で自分の部屋で寂しくオナニーするぐらいしかないし」

「オ…オナ……!?」

 

 …私、何か変な事でも言った?

 ソーナちゃんの顔が真っ赤になってるんだけど。

 

「か…彼らの場合はかなり異常だと思えるのですが……」

「確かにね~。一回や二回なら笑って許せるんだけど、常習犯っていうのはねぇ~……」

 

 一瞬、癖で煙草を吸おうとしたけど、すぐにソーナちゃんがいる事を思い出して止めた。

 幾ら悪魔とはいえ、未成年の前で煙草は良くないわよね。

 

「それだけ溜まってるって事なのかしらね」

「だったら話は単純じゃない。その溜まった性欲を思い切り発散させてあげればいい」

「「どうやって?」」

「それは秘密。今は…ね」

 

 秘密ね~……ブッキーの事だから、確実にエロいことを考えてそうだけど。

 

「とにかく、その子達に関しては私達に任せて。上手くいけば、もう二度と覗きなんてしないと思うから」

「ほ…本当ですかッ!?」

「確証は無いけどね。最低でも、堂々とエッチィことはしなくなるんじゃないかしら。多分だけどね」

 

 多分って……絶対とは言わないんだ。

 

「お姉さんたちが何とかしてあげるから安心して。ね?」

「は…はい…ありがとうございます……」

 

 おぉ~…ブッキーがお姉さんしてる……。

 しかも、凄く絵になってる……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ソーナちゃんが帰った後、私はブッキーに詰め寄った。

 

「ねぇ、本当にイッセー君達を更生させられるの?」

「さぁ?」

「さぁって……」

「でも、方法はあるわ。シンプルで確実な方法が」

「それは?」

「私達の『体』を使って発散させるの♡ しかも、中途半端じゃなくて徹底的にね♡」

「……ブッキーが言わんとしてることが分かったわ」

 

 もしもまだ昔の感覚が残っているのなら、ここで気持ち悪くなったりするんだろうけど、今ではもう完全に身も心も女になりつつある。

 しかも、そこに女悪魔としての性質も加わっているから、いい男や年下の可愛い男の子を見たりするとこう思ってしまうのだ。

 

 あの子を食べてみたい…♡

 

 ぶっちゃけ言って、それに関する抵抗感は全く無い。

 それどころか、自分からリードすらする事が出来ると思う。

 まだ一度もしたことは無いけど、知識だけなら豊富にあるし、本能に従えは問題無いでしょ。

 

「カテレアちゃんも好きでしょ? こーゆーの」

「大好物です」

「だと思った。何気に似た者同士よね、私達って」

「かもね。だからこそ仲良くなれたんだけど」

 

 類は友を呼ぶ…か。

 悪魔と鬼って時点でも、既に仲良くなる要素はあったのかもしれない。

 

「んじゃ、早速呼び出す? 私、イッセー君の番号知ってるわよ?」

「マジで? お願いできる? 善は急げって言うし。皆が気持ちよくなって、同時に学校も救われるなんて最高じゃない? うわ~…私ってば今、めっちゃ善行しようとしてる?」

「ある意味、私達も自分の欲求に素直なだけだけどね。あ、もしもしイッセー君? 今って暇~?」

 

 さぁ……エッチな男の子たち。

 お姉さん達と一緒に、とっても気持ちがいい『大人の課外授業』の時間をしましょうね~♡

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、楽しい楽しい課外授業の時間です。

勿論、描写はしませんが、ギリギリは攻めていきたいですね。


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男達の夢、今ここに

若い頃、男ならば誰もが夢見た事。

さぁ……大人の階段を昇ろう。








「「「…………」」」

 

 そわそわした様子で私達の目の前で正座をしているイッセー君達三人。

 ブッキーがソーナちゃんに話したことを実行する為に、携帯で彼らを私の部屋へと呼び出したのだ。

 

「なんで呼ばれたのか分らないって顔をしてるわね?」

「まぁ…その…はい」

「あ…その前に一つだけ確認いいですか?」

「なぁに?」

 

 徐に松田君が挙手をして質問をしてきた。

 なんだか先生にでもなった気分ね。

 

「…一誠の奴はカテレアさんと番号交換してるんですか?」

「してるけど? それがどうかしたの?」

「いえ…ちょっと気になったんで」

 

 なんか松田君と元浜君…怒ってない? なんで?

 

「一誠…どうして俺達にカテレアさんの番号を知っている事を言わなかった…!」

「こんな美人なお姉さんと番号交換とか……このリア充め…!」

「いやいやいや! 別に番号交換に深い意味とかねぇから! 単純にお互いに知ってた方が何かと便利だからって理由で交換しただけだから!」

「なら、俺達も知ってても問題無いよなっ!?」

「そ…そうなんじゃねぇの?」

「よし決まり! カテレアさん! 伊吹さん!」

「俺達と番号交換してください!!」

「あっ!? 伊吹さんとはまだ交換してないッつーの! 俺もお願いします!」

「「はいはい」」

 

 そんな事で怒ってたのね……。

 別に、携帯の番号ぐらい、言ってくれれば幾らでも教えてあげるのに。

 

「はい終わり」

「「「よっしゃぁっ!」」」

 

 三人してガッツポーズで大喜び…そこまでか。

 これが若さか……。

 

「本題に入ってもいい?」

「「「あ…はい」」」

 

 はしゃいでいた彼らはまた、背筋を伸ばして正座をした。

 

「そういや…女の人の部屋に入ったのってこれが初めてかも……」

「同じく。しかも、魅惑の大人の女性……」

 

 緊張しているのか、してないのか。

 やっぱ、男子高校生特有のエロに対する強い興味があるみたいね。

 

「君達三人、学校でよく女の子の着替えを覗いてるんですってね?」

「ギクッ!?」

「な…なんでそれをっ!?」

 

 いや…隠そうとはしないのかよ。

 根っこは素直でいい子達なんだろうけど、かなりエロが先行し過ぎてるみたいね。

 

「ついさっきまで、君達の学校の生徒会長ちゃんがカテレアちゃんに相談をしにココに来てたのよ」

「せ…生徒会長がッ!? なんでっ!?」

「詳しく話すと長いんだけどー…」

 

 流石にそのまま説明する訳にはいかないしな~。

 

「会長ちゃん…蒼那ちゃんにはお姉さんがいるんだけど、そのお姉さんと私が従姉妹同士なのよね」

「「「マジでッ!?」」」

「マジ。で、そのお姉さんが『何か困ったことがあれば、私に相談すればいい』って彼女に言ってたみたいでね。それでここまで来てたって訳」

「世間って俺達が思っている以上に……」

「狭いんだな……」

 

 そうね。それだけは凄く同調するわ。

 

「あ…別に私達は君達に対して説教をしようとか思ってる訳じゃないからね?」

「そうそう。今回、君達を此処に呼び出した理由…それは……」

「「「それは…? ゴクリ……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お姉さん達が、君達の欲求不満を解消してあげようと思って♡」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ…欲求不満ッ!?」

「その通り。君達が覗きなんてするのは、人並み以上に性欲が溜まっているから。私達はそう判断しました」

「だから、今までに溜りに溜まった性欲を一気に解消させて、賢者モードで真っ白になるまで気持ちいい思いをさせてあげようと」

 

 なんて言ってるけど、本当は自分達も楽しみたいからなのよね。

 想像しただけで濡れちゃう…♡

 

「き…気持ちいい思いって……?」

「「そんなの、筆下しに決まってるじゃない」」

「「「ふ…筆下しっ!?」」」

 

 なんて初々しい反応。増々、気にいっちゃうじゃない♡

 

「そ。覗きなんてやってるんだから、どうせ三人ともまだ童貞なんでしょ?」

「だから普段から悶々として着替えなんて覗いちゃうのよ」

「今までしてきたことが小さく、馬鹿らしく思えるような体験をすれば……」

「覗きなんて二度としようとは思わないでしょ?」

「「「…………」」」

 

 余りの衝撃で完全に固まっちゃったみたい。

 でも、下半身は素直みたいね~。

 

「ほーら。そうと決まれば……」

「制服を脱ぎ脱ぎしまちょうね~?」

「「「お…おわぁっ!?」」」

 

 私はイッセー君に抱き着いて、ブッキーは元浜君と松田君に抱き着いて、上の服を脱がせにかかる。

 物凄く狼狽えているけど全く抵抗する素振りが無い。

 私達が女だから何もしないのか、それとも大人の女性に抱き着かれてガチガチになっているのか。

 彼らの事だから両方だろう。実際、下半身はもう固くなってるし。

 

「へぇ~…思ったよりも鍛えてるんだぁ~……」

「カ…カテレアさん……俺…俺……」

 

 あぁ~もう! 本当に可愛い~♡

 ヤバ…こっちも我慢出来なくなってきたかも……。

 

「イッセーくん……こっちを見て」

「え……? んぐっ!?」

 

 隙だらけだったので、大きく口を開いてイッセー君にキスをした。

 勿論、最初から舌を入れて彼の口の中を掻き回している。

 

「ファーストキスのお味はどう?」

「しゃ…しゃいこうれしゅ……」

「そう、よかった♡ んんっ♡」

 

 間髪入れずに二回目のキス。

 今度は彼の膨らんだ部分を優しく撫で回しながら二人の舌を絡ませ合う。

 

(向こうはどうなってるかな~?)

 

 横目で様子を見てみると、ブッキーも松田君と元浜君の唇を交互に貪っている。

 器用に足で股間を愛撫しながら。

 あの感じ…絶対に慣れてますな。予想以上に経験が多いと見た。

 

「そういえばイッセー君は、おっぱいが大好きだったわね~…えいっ♡」

 

 ぷにょん♡

 

「おぉぉぉぉっ!?」

「どう? 気持ちいい?」

 

 彼の手を掴んでから、服越しに私の胸を鷲掴みさせる。

 なんだか手付きがエロい…絶対に私の事もオナペットにしてたわね?

 

「イッセーくんってハーレム願望があったわよね?」

「ひゃ…ひゃい……」

「それなら、こんな事で緊張なんてしてちゃダメよ? いい? ハーレムを手に入れたいなら、全ての女の子を満足させるぐらいの事は軽く出来るようにならないと」

「し…幸せにする…じゃ…ないんですか…?」

「この場合、『幸せにする』と『満足させる』はイコールよ」

「イ…イコール…」

「いい? 『幸せ』だから『満足』できる。『満足』したから『幸せ』になる。ほらね、一緒でしょ?」

「おおおぉぉぉぉぉ……!」

 

 もうまともに頭も働かなくなってきてる?

 そろそろいいかしらね……こっちも出来上がってきたし…。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…♡ お姉さん達も、もう我慢の限界かも……」

「それじゃあ、本番行きましょうか?」

「「「本番…!」」」

「君達、さっき電話した時に私が言ったように、親御さんに連絡はしてるわよね?」

「は…はい。今日は友達の家に泊まってAV鑑賞会をするって……」

「…そこはせめて『勉強会』にしましょうよ…仮にも学生なんだから……」

 

 割と今、普通にこの子達の学力が心配になったわ……。

 けど、それはそれ。これはこれ。

 

「それは横に置いといて。今のが意味することは…分かるわよね?」

「今日は絶対に帰さないから…ね♡」

 

 そんなわけで、イッセー君達のズボンもスポポポーン!

 あっという間にトランクス姿の男の子たちの一丁あがり~!

 

「大丈夫。痛くしないから♡」

「一生忘れられない、最高の一日にしてあげるわ♡」

「最高の童貞卒業式にしましょうね♡」

「天国にも昇る気分ってのを体験させて…あ・げ・る♡」

「「「お…お手柔らかにお願いします…」」」

「「は~い♡ うふふ……それじゃあ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いっただきま~す♡」」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝

 

 いつも通りに通学路を歩く一誠達三人の姿があった。

 別にそれ自体はどうでもいいのだが、問題は彼らの表情にあった。

 

「はぁ……どうして、空はあんなにも青くて澄み切っているのだろう……」

「きっとそれは…世界中の人々の心が空のように綺麗だからさ……」

「なんて素晴らしい朝なんだ……今日も一日頑張ろう!」

 

 まるで別人のように爽やかな顔になって語り合っていたから。

 何かに例えるならば、悟りを開いた聖人のような、そんな顔。

 さっきからずっと微笑みばかりを浮かべ、心なしか彼らの周りにはキラキラと輝くエフェクトまで見える。

 

「ちょ…どうしちゃったの? あの三人組……」

「いつもなら、朝っぱらから人の目も気にせずに変態話ばかりしてるのに……」

 

 普段から彼らの被害に遭っている女子達も驚きを隠せない。

 顔だけそっくりの別人を言われた方が、まだ幾分か納得出来る。

 

「おはよう! 今日もいい朝だな!」

「「お…おはよう…」」

「おいおい! 元気が無いぞ! 今日という朝は今日しか過ごせないんだぜっ!」

「ず…随分と朝から元気ね……」

「朝から元気なのは当たり前だろ?」

「俺なんて、思わず朝から家の大掃除をしちまったよ!」

「こっちは久し振りに母さんを手伝って一緒に朝ご飯を作ったり、洗濯をしたぜ!」

「「「はっはっはっ!」」」

 

 因みに、あれから三人は朝早くに家に帰って風呂に入ったり登校の準備をしているので、別に話に矛盾は無い。

 その代償として睡眠時間はかなり削っているだろうが。

 

 彼らのテンションは全く変わらず、それは学校にいる時も同じだった。

 余りの変貌ぶりに担任が本気で心配になって彼らに話を聞いたが……。

 

「ひょ…兵藤…松田…元浜…お前達、本当に大丈夫か?」

「当たり前だろ先生!」

「もうマジで、今まで何をやってたんだって感じだぜ!」

「これからは、勉強に部活と頑張るって三人で決めたからな!」

「な…なんだとッ!?」

 

 未だ嘗て見たことが無い程の爽やかな笑顔に、宝石のように光り輝き決意に満ちた瞳。

 まさか、教師をしている間に彼らのこんな姿を見られる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

「せ…先生は…先生は…猛烈に感動している~!!」

「「「先生~!!」」」

「よく…よく改心したな…兵藤…松田…元浜……お前達ならきっとやれると信じていた! 先生は全力でお前達の事を応援するぞ!!」

「今まで本当にすみませんでした!」

「これからは今までの分を取り戻す為に頑張ります!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ~!!(泣)」

 

 担任を嬉し泣きさせるというウルトラCをぶちかました三人。

 そんな彼らに驚かされたのは同性の同級生たちも同様だった。

 

 教室で三人が楽しくお喋り(話の内容は最近の政治経済について)をしていると、ふとクラスメイトの男子が三人に話しかけてきた。

 

「お前ら、今日は覗きにはいかないのか? 次は4組が体育の授業だぞ?」

「覗き? 何言ってんだ?」

「俺達はもう高校二年生なんだぞ? そんな幼稚な事をしている暇があれば、一つでも多くの英単語を覚えていた方がずっと有意義だろ」

「全くだ。お前達も、そろそろ大人になった方がいいぞ?」

「なっ……!?」

 

 天地がひっくり返っても有り得ないと思っていた現象が目の前で発生した。

 覗きの常習犯にしてエロい話しかしたことのない三人から、絶対に有り得ない言葉が次々と飛び出してきた。

 

 急にざわめき始める中、一人の女子生徒が三人に近づいて行った。

 彼女の名は『桐生藍華』。

 三人にとって数少ない異性の知り合いで悪友とも言うべき存在だ。

 

「ねぇ…あんたら。少し聞いてもいい?」

「なんだ?」

「もしかして……童貞を卒業した?」

 

 ガタタッ!!

 藍華の一言に教室中が騒然となった。

 まさか…そんな馬鹿な事が。

 よりにもよって、自分達よりもあいつ等が先に大人になったなんて信じられない。

 否、信じたくない。

 だが、現実は非情だった。

 

「ふっ……よく分かったな」

「その通り。俺達は三人揃って大人の階段を上り、最高の『卒業式』を迎えられた」

「故に、もう昔みたいなガキっぽい事はしないんだよ。俺達はお前達とは別の次元に立っているんだからな」

 

 女子達は顔を真っ赤にし、男子達は涙を流しながら膝をついた。

 今までずっとバカにしていた連中が、自分達の先を行ってしまったのだから。

 

「因みに、相手は誰?」

「「「「「それ聞いちゃうのッ!?」」」」」

「うちの近所に住んでいる美人で年上のお姉さんだ!」

「しかも、アメリカ人!!」

「ついでに言うと、その人の親友の京美人なお姉さんも一緒だった!」

「「「「「チクショ――――――――――――――ッ!!!!!」」」」」

 

 全ての男子が憧れるシチュエーション。

 年上のお姉さんに筆下しをして貰う。

 それを、この三人は経験したのだ。

 この時、全ての男子は理解した。

 彼らはもう遠い世界の人間になってしまったのだと。

 

「さぁ、次の授業の予習でもしようぜ!」

「「おう!」」

 

 三人は鞄から教科書とノートを出して勉強を始める。

 これが経験者の余裕なのか。

 大人の階段を昇るとはこういうことなのか。

 ここまで人を変えてしまうものなのか。

 

 だが、彼らは知らない。

 一誠たちが経験したのは普通の初体験ではない。

 人間相手では絶対に経験出来ない極上の初体験だった事を。

 ソープ? 風俗? AV?

 そんな段階なんて一足飛びした彼らにもう怖いものなんてない。

 世界の全てが輝いて見える。

 自分の中にある性的欲求を根こそぎ吐き出す事が、こんなにも気持ち良くて素晴らしい事だったなんて。

 

 この日以降、一誠達三人は二度と覗き行為はしなくなり、女子達は安心して着替えが出来るようになったという。

 それどころか、一誠達が他に覗こうとしている連中を捕まえる大快挙をする始末。

 

 こうして、大悪魔な美女と鬼で神な美女の働きにより、駒王学園に平和が戻った。

 

 余談だが、それから松田は写真部を辞めてから野球部に入り直してメキメキと才能を発揮、この年に駒王学園野球部を甲子園まで連れて行った。

 元浜は、今まで以上に勉学に励み、テストでは学年一位になり、その後の学内での態度や貢献度によって二年の時点でとある有名大学の推薦を勝ち取り、両親を喜ばせた。

 

 一誠もまた彼らと同様にこれまでの評判を完璧に覆し、徐々にではあるが人気も出始める。

 だが、本当の意味で彼の物語が始まるのはこれからだった。

 

 更に余談だが、この出来事により一誠達の好きなタイプが完全に『年上の女性』に上書きされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出すもの全部出して、彼らは生まれ変わりました。

そして、ここから原作に繋がっていく…?





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年上のお姉さんは最高だぜ!

まだ完全にR-18のプロットは出来ていないのですが、予想以上にリクエストが多かったので、なんとか頑張ってみようと思います。

そして、今回は三馬鹿トリオのがある意味で生まれ変わった後の話。

つまりは原作突入ですね。

果たして、エロエロお姉さんSはどのように介入していくのか?











 私とブッキーがイッセー君達の筆下しをしてから数日後。

 時折、街中で聞く噂によると、彼ら三人はあれから人が変わったかのように真面目になって、勉強や部活などを一生懸命に頑張っているらしい。

 うんうん。ブッキーの言ってたことは正しかったみたいね。

 素人童貞な男子高校生三人にハード系AVすらも越えるプレイを味あわせたんだから、そりゃ誰だって賢者タイムに強制移行して爽やか少年にジョブチェンジするわよね。

 

 因みに、彼らには『またセックスがしたくなったら、いつでも遊びに来ていい』と言ってあるので、前の状態に逆戻りするなんてことも無い筈だ。

 私達は気持ちいい思いが出来るし、あの子達はギリギリのところで自分の人生を台無しにせずに済んだ。

 これこそまさにWin Winの関係ってやつよね?

 

「いや~…本当に良かったわね~」

「全くね。これで、私達も心置きなく飲む事が出来る……」

 

 ピンポーン

 

「「……誰?」」

 

 なんか最近、矢鱈と私の部屋に来る人が多くない?

 そんなにもここって知られてるのかしら?

 

「だ~れ~で~す~か~ね~…っと。あら」

「どうしたの?」

「ソーナちゃんだ。また何かあったのかしら?」

 

 今度は何の御用かしらん?

 なんか手に紙袋をぶら下げてるけど。

 

「取り敢えず、中に入れたら?」

「それもそうね。今、開けますよ~」

 

 玄関の扉を開けると、すぐさまソーナちゃんがお辞儀をしてきた。

 

「カテレア様! 伊吹童子様! この度は学園の危機を救って貰っただけでなく、生徒達の更生までしていただいて、本当にありがとうございました!!」

「「あー…うん。どういたしまして」」

 

 ソーナちゃんの凄い剣幕に、思わず私達も素面になって反応してしまった。

 

「えっと…まずは入って? ご近所さんの目もあるし…ね?」

「は…はい。では、お邪魔します」

 

 前と同じようにソーナちゃんを中に入れて、同じ所に座らせた。

 

「で、あれから彼らはどうしてる? 一応、私達も噂で色々と聞いてはいるけど……」

「そうですね。兵藤君も元浜君も松田君も、まるで人が変わったかのように色んな事に頑張っています。特に、前々から危ぶまれていた三人の成績がぐんぐん上がって行っているようで、このままでは留年すらも危ぶまれていたのに、今では自分達から積極的に図書室に通って勉強会をしているようです」

「「ほぇ~…」」

 

 なんか、想像以上に凄い事になってる?

 やだ…私達ってば、めっちゃ偉い?

 

「先生方からの評判も鰻上りで、このままの生活態度が続けば、大学への推薦も考えると言っているそうです」

「わぉ……」

「な…なんか、話が大きくなってきちゃったわね……」

 

 本当に、そこまで大したことはしてないつもりなのにね…。

 余計な物が無くなったお蔭で、彼らの内に秘めていた本領が存分に発揮されるようになっただけだと思うんだけど……。

 

「本日は、その事に対するお礼を言いに来ました。もう一度言わせて下さい。本当にありがとうございました」

「ちょ…もういいって!」

「貴女の気持ちはよ~く分かったから!」

 

 正座をしている状態から頭を下げているので、まるで土下座でもさせているような体勢になった。

 自分よりもずっと年下の女の子にそんな姿をさせるのは、流石の私達もかなり気が引ける。

 

「本来ならば、生徒会長である私がしなくてはいけない事なのに……」

「いや~…アレはソーナちゃんじゃ無理だと思うな~…」

 

 きっと、あの日の晩の事を説明したら、顔を真っ赤にして倒れるかもしれない。

 だって彼女、悪魔なのにすっごく初心そうなんだもん。

 

「えっと…余りこのような事を聞くにはよくないと承知してはいるのですが…その…本当に……シたのですよね…?」

「まぁね。その結果が『今』なんだし」

「そうです…よね……」

 

 ほらぁ~…今の会話だけで恥ずかしそうにしてるし~。

 根っからの真面目ちゃんなのね、きっと。

 

「ソッチの事は余り気にしないで。それよりも、ソーナちゃんにはソーナちゃんにしか出来ない事があるでしょ? 今はそれを頑張りなさいな」

「はい! 分かりました!」

 

 うんうん。いいお返事。

 

「それから、一つだけ私達と約束して欲しい事があるの」

「約束…? なんでしょうか?」

「これから先も、何か困ったことがあったら私達に相談する事」

「よ…よろしいのですか…?」

「もちのロン。若い子が困っている時に手を差し伸べてアドバイスをするのも、年長者の立派な役目だもの」

「カテレア様……伊吹童子様……」

 

 …ここまで純粋で真っ直ぐな目で見つめられると、不思議と罪悪感が湧くわね……。

 実は『悪魔の相談事だから、暇な毎日に適度なスパイスを加えられるかも~』なんて思ってたなんて口が裂けても言えない……。

 

「そんな訳だから、まずはお姉さん達と連絡先を交換しましょ?」

「分かりました」

 

 はい。ちゃちゃっとね。

 これで完了…っと。

 

(うわぁ~…前魔王の子孫であるカテレア様と、神でもある伊吹童子様の番号を知ってる悪魔なんて、絶対に私だけよね……ふふ…♡)

 

 あれ? なんか嬉しそうにしてる?

 そんなにも私達の番号が知りたかったのかしら?

 

「あ…っと。そうだ。本日はお二人にお礼の品を持ってきましたので、どうか受け取ってくださると嬉しいです」

 

 お礼の品…ソーナちゃんの傍に置いてある紙袋の事?

 なんだか重量感がありそうだったけど…何が入ってるのかしら?

 

「どれどれ…?」

 

 渡された紙袋をブッキーと一緒に覗いてみると、そこには驚きの代物が!

 

「こ…これはっ!?」

「『あきたごころ』の『粕誉れ』じゃないのっ!?』

 

 秋田で生まれた絶品おつまみ!

 三種類の発酵食品を組み合わせて完成したと言われている最高の一品!

 半年間寝かせた大吟醸の酒粕にクリームチーズを漬け込んで、更にそこに味噌まで加えた異色のコラボレーション!

 確か、クリーミーでまろやかな味わいが楽しめて、日本酒やワインとの相性が抜群だって!

 

「ブ…ブッキー! ワインか日本酒ってあったっけっ!?」

「あっ!? 日本酒は昨日飲みきってる!」

「ワインはっ!?」

「ワイン…ワイン…ワイン……あった! まだ空けてないのが一本だけあった!」

「よし!!」

 

 えっと…ワイングラスってあったっけ……って、んな洒落たもんウチには最初から無かったわ!

 いつもワインを飲む時って、其処らにあるコップで適当に飲んでたわ!

 

「ま…まぁ…重要なのは粕誉れの方だし? ワインは主役じゃないし?」

「そ…そうよね。んじゃ、ワインを注いで…っと」

 

 紙袋から粕誉れの入っている箱を出してから、慎重に封を開ける。

 すると、中から濃厚ないい香りが部屋中に広がって……。

 

「ブッキー…」

「カテレアちゃん…」

「「いただきます!!」」

 

 まずは粕誉れを適当な大きさに切ってから…フォークで刺してパクリ!

 

「「んんん~♡♡」」

 

 お…美味しい~~~~~♡♡

 口に入れた途端にとろけるわ~♡

 そこに、すかさずワインを一口!

 

「「最……っ高…♡」」

 

 あぁ……マジでたまらないわ……。

 生きてるって素晴らしい……(大袈裟)

 

「お気に召したようでなによりです」

「「こちらこそ、ありがとう!!」」

 

 年下の男の子たちを性的な意味で食べる事が出来ただけでなく、こんな極上な一品を味わえるなんて……地上に来てマジで正解だわ……。

 

「では、私はこの辺で失礼致します」

「気を付けて帰るのよ~」

「またね~」

 

 最後まで丁寧な態度を崩さなかったソーナちゃんに感謝と敬意を感じつつ、私達は彼女が持って来てくれた粕誉れを味わい続けるのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 カテレア&伊吹童子の褐色お姉さんコンビによる最高の筆下しを経験してから数日後。

 今日も今日とて、一誠は二人の親友と一緒に真面目に過ごしていた。

 だが、今日の彼は珍しく一人。

 何故ならば、二人はそれぞれに部活に行って忙しいから。

 一誠も何か部活に入ろうと模索しているのだが、どれがいいのか迷っていた。

 これまでずっとエロい趣味しか持っていなかった彼が、いきなり別の趣味を持てと言われても難しかった。

 一誠は今、危機的な意味では無い意味で人生の岐路に立っていた。

 

「サッカー部…は、なんか違う気がするんだよなぁ~…。そもそも、今の今まで碌に運動とかしてこなかった俺がいきなり運動部に入ってのも違う気がするんだよなぁ~…」

 

 真剣に自分の事について悩む一誠。

 学業に励みながらも自分探しをする彼の姿は、まさに『青春』をしていると言える。

 

「帰ったら、母さんや父さんに相談してみようかな…。いや、カテレアさんや伊吹さんに相談するのもいいかもな」

 

 彼の両親は、一誠がエロを捨て去って真面目になった事に対して心から嬉しがっていた。

 それに尽力してくれたのがカテレアだと知ると、彼女の事を家に招待してお礼を言いたいと言っているらしい。

 実際、今の一誠の部屋にはエロ本を初めとするグッズは一切置いてない。

 本は全て廃品回収に出して、DVDなどは中古ショップに売って金に換えてから、その足で本屋へと向かって参考書などを買った。

 

 カテレア達ともあれから何度も会っていて、彼女達の好意で何度もセックスをしたり、時には純粋に相談をしに行ったりもしている。

 それにより、一誠の中でカテレアの存在が非常に大きくなり、無意識の内にセックスフレンド以上に見ていた。

 

「兎に角、今は勉強を頑張って、カテレアさんの隣に立てるような立派な男になるんだ! よし!」

 

 下駄箱で靴に履き替えた一誠は、そのまま校門へと向かっていく。

 その先に自分の運命を変える人物が立っているとも知らずに。

 

「さて…と。帰ったらまずは小休止をしてから今日の授業の復習をして、それから……」

「あ…あの! 兵藤一誠君ですよねッ!?」

「ん?」

 

 校門を出た瞬間に自分の名前を呼ばれ、ふと横を向くと、そこには黒い髪を靡かせている一人の少女が立っていた。

 歳の頃は一誠と同じぐらいのようだが、着ている制服が違った。

 一誠も見覚えがあるその制服は、隣町の学校の物だった。

 

「わ…私、天野夕麻っていいます! えっと…ずっと前から兵藤君の事が好きでした! 私と付き合って下さい!」

 

 いきなり現れた少女からの突然の告白。

 しかも、相手はかなりの美少女。

 普通の男ならば少々怪しみつつも、返事をしてしまいそうになるだろうが、ここで一誠は彼女にとって衝撃の発言をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ゴメン。俺さ、年上の大人の女性が好きで、同年代の子には興味ないんだよね」

 

 

 

 

 




原作一番最初の死亡フラグがバッキリと折れました。

けど、別に悪魔になるフラグが消えたわけじゃありません。







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女のプライド

少し間が開きましたが更新です。

この作品にはしんみりとしたムードはあっても、シリアスは基本的に無いと思います。

主人公が主人公ですし、周りも周りですからね。








「…………はい?」

 

 天野夕麻は一誠が言った言葉を一瞬、本気で理解が出来なかった。

 頭の中が真っ白になりつつも、震える唇でなんとか聞き直してみる。

 

「え…えっと……今のはどういう意味……」

「そのまんまの意味だよ。君の気持ちは本当に嬉しいし、光栄に思ってるけど、ダメなんだ」

「ダ…ダメ……」

「大丈夫。君の程の美少女なら、きっと俺以上にいい男に巡り合えるさ!」

 

 彼女の肩をポンと軽く叩いてから、実に爽やかな笑顔を見える一誠。

 以前の彼からは想像も出来ない表情だった。

 

(こ…この私が振られた…? 至高の堕天使(予定)となる私が…!?)

 

 この心の声でもうお分かり頂いたとは思うが、この『天野夕麻』と名乗る少女の正体は人間ではない。

 彼女の本来の名前は『レイナーレ』と言って、その種族は堕天使である。

 とある事情でレイナーレは人間に化けて一誠に近づき、油断をしたところで彼を殺害するつもりでいたのだが、あろうことか作戦の第一段階で躓いてしまった。

 

(ど…どういう事なのよッ!? 情報では、女に飢えているエロガキなんじゃなかったのッ!? それなのに…それなのに! どうして普通に振られてるのよ~!! っていうか、冷静に考えたら堕天使である私だって十分にこいつよりも年上じゃないの!!)

 

 レイナーレは自分の美貌にかなりの自信があった。

 傍から見ても十分に美人だと思うし、スタイルだって抜群だ。

 そこら辺の男共ならば簡単に自分の魅力で骨抜きに出来ると思っている。

 が、その自信と無駄に高いプライドに今、確かな罅が入った。

 

 思わず激高しそうになって衝動的に一誠を殺害しようとなってしまうが、ギリギリのところで理性でソレを抑え込んだ。

 

(…確かに、ここでこいつを殺す事は簡単かもしれない…。けど、それだとまるで私が振られた腹いせに男を殺したヒステリックな女みたいになるじゃない!! そんなのは私のキャラじゃないし、なによりも私の女としてのプライドが許さない!!)

 

 この時、レイナーレの怒りは完全に別のベクトルへと向かった。

 

(コイツを本気で私に惚れさせて、それから堂々と殺してやる!! フフフ…命拾いをしたわね…人間!!)

 

 なんて強がっているが、要は単純に悔しかっただけだ。

 

「ふ…ふふふ……」

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 

 いきなり俯いて不敵な笑みを浮かべれば、一誠でなくても怪しんでしまう。

 彼女の顔を覗き込もうとしてみると、突如としてレイナーレは顔を上げて、一誠の事を指差してから高らかに宣言をした。

 

「兵藤一誠!!」

「な…なんだっ!?」

「この私を振るだなんて、いい度胸をしてるじゃない! 見てなさいよ…この私の全力で必ず惚れさせてみせるんだから!! 首を洗って待ってなさい!!」

「えぇ~…」

 

 往来で変な宣戦布告をされた一誠は色んな意味で戸惑うばかり。

 彼からすれば完全な羞恥プレイである。

 

「そうと決まれば、早速帰って作戦を立てなくては!」

「き…気を付けてなー…」

 

 レイナーレは高笑いをしながら全力ダッシュで去って行ってしまった。

 出会った時は清楚な感じの少女だったのに、僅か十数秒でイメージが完全に変わった。

 

「……マジで何だったんだ?」

 

 何も知らない一誠からしたら、本気で意味不明な事ばかりだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 駒王町の町外れにある廃教会。

 レイナーレは部下達と一緒にここを仮の拠点としている。

 

 駒王学園から帰ってきたレイナーレは、制服を脱ぐ間もなく帰り道でコンビニで買ってきた多数の雑誌を開いて何かを熱心に読んでいた。

 

「あ…あの…レイナーレさま…?」

「例の人間に近づくことは出来たんスか…?」

「残念ながら、それは失敗に終わったわ」

 

 上司のいきなりの奇行に驚きを隠せないでいる二人の女性堕天使。

 ゴスロリな服装のミッテルトに、ボディコンスーツを着たカラワーナ。

 そして、コートを着た男性堕天使のドーナシーク。

 この三人がレイナーレの部下になる者達だ。

 

「けど、まだ全てを諦めるには早すぎる! 変に猫を被っていくのはもう止めよ! 正面から堂々と近づいて、私の魅力でメロメロにしてから殺す事にする!」

「それは良いですが……」

「それと女子高生向けの雑誌と、どう関係するんスか?」

「決まってるじゃない! この私の女子力を最大限まで上げてから、あの人間を魅了しまくるのよ! もう私抜きじゃ生きていられないようにしてあげるわ! あはははははははっ!」

 

 完全に自分の勝利を確信した大笑い。

 威厳に何もあったもんじゃない。

 

「適当に人気のない所に誘導して、そこで殺害をすれば良かったのでは……」

「だまらっしゃい!! うしゃしゃい!!」

「う…うしゃしゃい?」

「ドーナシーク…アンタは女心ってのを全く理解してないわね」

「女心?」

「いいこと? このまま普通に殺しても意味が無いの。それだと目的は果たせても、私は女として負けたままに終わってしまう」

「別にそれでもいいのでは……」

「いいわけないでしょうが!! 振られたのよ? この私が!! このレイナーレが!! このままで全てを終わらせるだなんて事、女としてのプライドが絶対に許さないのよ!!」

 

 レイナーレの必死の訴えに、ドーナシークは助け舟を求めて他の二人の方を見るが、カラワーナとミッテルトもまた軽蔑するような視線を見せていた。

 

「ドーナシーク…今のはダメだろ……」

「カラワーナに同感っス。そんなんだから、その歳になっても独り身なんスよ」

「そ…それとこれとは関係ないだろうが!!」

「女心が理解出来てない時点で関係大ありッスよ」

「いい機会だから、お前も少しは女心を勉強するんだな」

「くそ……これだから女って奴は……」

 

 男一人だからこその肩身の狭さ。

 なんとも悲しい立場のドーナシークだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私とブッキーは今、目の前で繰り広げられている真剣勝負に集中していた。

 これまでに数多くの名勝負を切り広げていた選ばれた英雄達の夢の競演。

 誰も彼もが手に汗を握って、その勝負の結末を見守っていた。

 

「お願い…お願い…お願い…!」

「来て…来て…来て…来て!!」

 

 一頭の雄々しき体躯を誇る白馬が先頭で駆け抜け、その差が広がる度に会場は大いに盛り上っていく。

 

「「いっけー!! マオウソンダイウセン――――!!」」

 

 そして遂に、白馬…マオウソンダイセンがぶっちぎりのトップでゴールした。

 それから少ししてから二着以降がゴールイン。

 私とブッキーは言葉に出来ない感動に包まれていた。

 

「はぁ……感無量……」

「全くね……」

 

 もうここまで来れば分かると思うけど、今日の私とブッキーは競馬場に来ています。

 んで、レースが終了して結果を待つばかりになっている。

 

「二着は…シャナオーリューリタンね。三着がアカラシマカゼ…か」

「見事に予想的中ね。いや~…感動的なレースを見られた上に大当たりまでするなんてね。今日も今日とて充実してるわー」

「本当ね。んじゃ、稼ぐだけ稼いだし、もうそろそろ帰りましょっか」

「さんせー」

 

 万馬券を払い戻ししてから、私達は競馬場を後にした。

 因みに、大当たりはしたものの、そこまで大きな金を賭けてはいないので、実際の儲けはそこまでじゃない。

 その気になれば一気に凄い額を儲けられるけど、競馬って払い戻しの際に50万円以上の金額が当たると税金が掛かっちゃうんだもん。

 そーゆー手続きって面倒くさいのよね~。

 確定申告も必要だって話だし、なんとも悲しい世の中になったもんね。

 競馬すら満足に楽しめないなんて。

 

 バスに乗ってアパートの近くまで移動して、後は道沿いに歩くだけ。

 いつもは通学路になっている場所だけど、この時間帯だと人気も疎らだ。

 

「夕食はどうしよっか?」

「折角、競馬で一儲けしたんだし、パーッとやっちゃう?」

「いいわね~…んじゃ、いつものお店で…って、あれ?」

 

 ふと、道端の生垣が視界に入って、そこに弱々しく倒れている一匹の黒猫がいた。

 昔から動物は大好きで、特に猫は一番好きな動物だ。

 見ているだけで癒されるのよね~。

 

「どうしたの、カテレアちゃん?」

「あそこ…猫ちゃんが倒れてる」

「猫?」

「ほら、あそこ」

 

 指差しで教えてあげると、ブッキーも猫ちゃんの事を見つけた。

 なんだか気になったので近づいてみると、これといった外傷はないようだ。

 

「あ…この子。普通の猫じゃないわ」

「え?」

「この尻尾を見てみて」

 

 ブッキーがそっと猫ちゃんを抱き上げて、その尻尾を私に見せてくる。

 そこで私も、この子が普通じゃない事に気が付いた。

 

「尻尾が二本…?」

「そ。この猫は恐らく『猫又』ね」

「それって確か、長い年月を生きた猫が妖怪化した奴…だっけ?」

「大体はそんな所ね。けど、この子は違うみたい」

「っていうと?」

「恐らくだけど、この子は生まれた時から猫又だったのよ。猫又の両親から生まれたんでしょうね」

「なるへそ……」

 

 普通の猫が妖怪変化したんじゃなく、生粋の猫又だって事か。

 妖怪の事には余り詳しくは無いけど、それって珍しいのかな?

 

「普通ならすぐにでも気が付いてたけど、かなり弱ってるみたいね。魔力や妖力まで減少してる」

「どうする?」

「私も日本出身の(あやかし)だしねー。流石に見過ごせないかな~」

「なら、連れて帰りましょ」

「いいの?」

「勿論。私も猫は好きだし、それに…」

「それに?」

「大切な親友の意志は尊重したいしね」

「カテレアちゃん…♡ だから大好き! マジで愛してる!」

「私も大好きよ」

 

 取り敢えず、いつものお店でパーッとすることは止めにして、今日はこの子の事を診てあげる事にした。

 まずは薬局に行って包帯とか買った方が良いわよね…。

 それとも、その前に動物病院に連れて行くべき?

 いやいやいや…尻尾が二本もある猫ちゃんをどう説明するのよ私。

 突然変異ですーなんて言えるわけもないし。

 

 仕方がないので、自分達で薬とかを買って帰る事にした。

 それと、ついでに私達の分の夕食も買って行くことに。

 …猫又って何を食べるのかしら?

 キャットフード…は流石に可哀想よね……。

 そもそも、猫又の生体とか全く分らないし。

 ブッキーに頼るしかないか~…とほほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだかレイナーレが楽しいキャラに。
 
因みに、彼女は原作のように死んだりはしません。
やっぱ、皆で楽しく過ごすのが一番ですよね。

そして、謎の黒猫又の正体は……言わなくてもいいですよね?

次回は、残念レイナーレの続きと、新たなキャラの登場です。




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時には泣くことも大事

前回、とある黒猫を拾った美女二人。

あれからどうなったのでしょうか?








 黒歌は驚きの余り、全く身動きが取れないでいた。

 体力が限界になって、少しでも節約をする為に猫の状態になって移動をしていると、いきなり意識がブラックアウトする。

 で、それから暫くして意識が回復すると、そこは全く知らない部屋の中で、自分の事を覗き込むようにして見つめている二人の美女が。

 

(な…なんなのにゃぁぁぁっ!? 全く状況が掴めないにゃっ! しかも、この二人……)

 

 二人して褐色肌なのが共通点だが、そこは別に問題点ではない。

 問題なのは、二人の身体から凄まじく強大な魔力を感じている事だった。

 

(あ…明らかに普通じゃないにゃ……。一人からは濃密な悪魔の気配がするし、もう片方からは最上位の妖怪の気配がする……)

 

 動物的な本能で理解出来る。

 下手な動きをすれば確実に死ぬと。

 

「ねぇ、ブッキー。この子、なんか目を覚ましたっぽいけど、普通の猫ちゃんと同じようにミルクとかあげてればいいのかな?」

「それで大丈夫だと思うわよ? けど、ミルクなんてあったっけ?」

「よく焼酎の牛乳割りとか作って飲んでるし、あるとは思うけど……」

 

 部屋の隅に置いてある酒類専用の小さな冷蔵庫を開けて確かめてみる。

 すると、辛うじて一本だけ牛乳パックが残されていた。

 

「あ~…あったあった。けど、問題は何に注ぐか…よね。いい感じのお皿ってあったかな……」

 

 カテレアの部屋には食器棚なんて洒落た物は存在していない。

 基本的に使った食器は、洗った後に洗面台横にあるプラスチックの籠に放置してあるのだ。

 

「ちょっと待って」

「どったの?」

 

 ミルクを皿に入れようとしたカテレアを静止させ、伊吹がジ~っと黒歌の事を見つめた。

 最強格の鬼の睨みを受けて冷や汗ダラダラになる。

 一体何をさせられるのか不安で不安で仕方がない。

 

「あなた……人型になれるでしょ?」

(ギクッ!? バ…バレてるっ!?)

 

 ここで下手に誤魔化せば、それこそ自分の命が無い。

 生き別れた大切な妹と再び再開するまで、泥水を啜ってでも自分は生き延びなければいけないのだ。

 その為ならば、幾らでも勇気を振り絞ってみせよう。

 

 畳の上で横たわっていた体を起き上がらせて、少しだけ後ろに下がってから姿勢を正す。

 すると、彼女の体が徐々に猫の状態から人間の女性の形へと変化していく。

 

 着崩した黒い着物を着て、黒く長い髪と猫耳と尻尾を持つ美女。

 これこそが黒歌の真の姿だった。

 

「やっぱりね」

「あらまぁ。それなら、お皿じゃなくてコップの方が良いわね」

 

 そっちかい。

 中身が元人間の転生者とはいえ、身近に鬼神がいることで超常現象的な事に対して大きな耐性が付いてしまっているのかもしれない。

 

「…まずは、私の事を助けてくださって、本当にありがとうございます」

 

 相手は自分よりも遥かに強者。

 しかも、命の恩人ときている。

 両手を畳の上に置いて、深々と頭を下げて礼を言った。

 

「別に、そこまで畏まらなくてもいいわよ?」

「そうそう。助けたのだって、単なる気紛れだったし」

「それでも、この命を救って頂いたのは事実ですので」

 

 ここで調子に乗ってはいけない。

 片方だけでも圧倒的なのに、そんなのが目の前に二人もいる。

 ここで機嫌を取っておかないと、完全に終わりだ(と黒歌は考えている)。

 

「頑なそうね。分かったわ、その言葉は受け取りましょう」

「ありがとうございます」

 

 まずは第一関門を突破。

 けど、まだまだ全く油断は出来ない。

 

「で、なんで貴女は…って、まだ名前を聞いてなかったわね」

「私は『黒歌』と申します。ご存じの通り、しがない猫又にございます」

「猫又…ね。その割には、なんだか悪魔っぽい気配も感じるのだけれど?」

「そ…それは……」

 

 絶対に聞かれるとは思っていた。

 素直に話した方が良いのだろうか?

 それとも誤魔化すか?

 けど、この二人に下手な小細工は通用しないような気もするし。

 

「まぁまぁ、ブッキー。ついさっき会ったばかりの女の子に、そこまで聞くのも酷ってもんでしょ。ね?」

「…それもそうね。誰にだって聞かれたくない事の一つや二つはある…か。ごめんなさいね」

「い…いえ…大丈夫…です」

 

 危機一髪。予想外の助け舟に救われた。

 こんなにもホッとしたのはいつ以来か。

 

「それよりも、まだ私達の自己紹介をしてないでしょ?」

「そうだったわね」

 

 これより数秒後。

 彼女達の正体を知った黒歌は、顎が外れて心臓が破裂しそうな程に驚愕する事になる。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「い…いいいいいいいいい伊吹童子さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「そうだけど…そこまで驚くことは無いんじゃない? お姉さん、ちょっと傷つくなぁ~」

 

 先程までの殊勝な態度から一変、もう滝のように顔から冷や汗を流しまくる。

 自分なんかでは絶対に敵う訳がない、それどころか、こうして会うだけでも非常に恐れ多い伝説級の大妖怪が、あろうことか自分の目の前にいるのだ。

 一介の猫又に過ぎない黒歌からすれば、光栄過ぎて眩しいやら、恐れ多すぎて恐縮するやらで、さっき以上の大混乱に陥っていた。

 

「い…伊吹童子さまと言えば、あの『日本三大化生』の一体であらせられる『八岐大蛇』さまのご息女であり、分御霊である神霊……そんなお方に助けて頂けたなんて……」

「う~ん…確かにそうなんだけどさぁ~……そこまで畏まれると、流石にドン引きって言うか……」

 

 自分の事を正しく認識はしているが、かといって目の前で恐れられるのはどうにも苦手。

 伊吹童子自身は、他の妖怪たちや人間達とも楽しく和気藹々とした関係を築きたいだけなのだ。

 

「し…しかも、伊吹童子様のご友人が、まさか先代魔王の血筋のお方だったなんて……」

「いや…確かにウチの家は凄かったかもだけど、私自身はどこまでも、お酒やギャンブルが好きなだけの女よ?」

 

 自分が間違いなく『貴族』と呼ばれる存在なのは承知していたが、だからと言ってそれらしい生活や態度なんて取れる筈も無い。

 何故なら、前世では貴族どころか底辺も底辺の一般人の社畜で、死因だって過労死だったのだから。

 どれだけ金を持っても、どれだけ強大な力を持とうと、庶民の感覚や視点を辞められないカテレアだった。

 

「あ…あの…お二人はどのような事が切っ掛けでお知り合いに…?」

「「単純に部屋が隣同士だったから」」

「そんにゃ理由っ!?」

 

 これも以前に言ったかもしれないが、魔王の子孫と最上級クラスの神霊がアパートの隣同士で暮らしているだなんて誰が想像するだろうか。

 少なくとも、三大勢力の重鎮たちが知れば、胃に穴を空けつつ卒倒するのは間違いない。

 

「ところで黒歌ちゃん」

「ひゃ…ひゃいっ!?」

「…そんなに怯えなくてもいいわよ。別に取って食おうってわけじゃないんだから」

「も…申し訳ございません…」

 

 分かっていても怯えてしまうのは、完全な本能によるもの。

 どれだけ頭で理解していても、恐怖と生存本能がどうしても勝ってしまう。

 

「どうして駒王町に…とか、どうしてあんなにも疲弊していたのか…とか、そんな事は今は聞かないわ。けど、これだけは答えて頂戴」

「な…なんでしょうか…?」

「貴女、これからどうする気?」

「それは……」

 

 正直、行く宛てなんて何処にも無い。

 妹を探そうにも、どこにいるのかなんて全く分からないし。

 無我夢中で逃げてきて、完全に自分が八方塞な状況なのは理解していた。

 

「やっぱし、何にも考えてなかったのね。というか、考える余裕が無かったって言う方が正しいのかしら」

「……………」

 

 何も言えない。まさにその通りだから。

 

「もぉ~…そんな顔をしないでよ~。まるで、お姉さんが苛めてるみたいじゃないのよぉ~」

「にゃはは…ブッキー。弱い者いじめはダメよ~?」

「カテレアちゃんまでぇ~…って、いつの間にかもう飲んでるっ!?」

 

 カテレアの手には日本酒の入ったコップが握られていて、その顔は真っ赤になっていた。

 テーブルの上にも、いつの間にか用意されている炙りイカが。

 

「まぁ……困っている女の子をこのまま放りだすのも目覚めが悪いしねぇ~。黒歌ちゃん」

「は…はい。なんでしょうか?」

「あなたって…お料理って出来る?」

「い…一応…一通りは……」

「他の家事は?」

「出来ますけど……」

 

 一体何を聞いているのだろうか?

 カテレアの真意が全く分からず、さっきとは別の意味で困惑していた。

 

「…よし! それじゃあ、黒歌ちゃん。私の部屋に住みなさいな」

「…………へ?」

 

 一瞬、呆然として頭が真っ白になる。

 カテレアの言葉が正しく理解出来なかった。

 

「本当はブッキーの所の方がいいとも思ったんだけど、それだとすっごく萎縮しちゃいそうだし。それだったら、まだ私の方がマシかな~って思ったんだけど。どうかしら?」

 

 本音を言えば、カテレアの申し出は非常に有り難かった。

 これまでずっと夜空を天井にして野宿という名のアウトドア生活をしてきた身としては、まさに地獄に仏な言葉だった。

 だが、同時にこうも思ってしまう。

 どうしてこの方々は自分に対して、こんなにも親切にしてくれるのだろうかと。

 これまでもずっと周囲を警戒しながら生きてきた黒歌は、無意識の内に他人を疑う癖がついていた。

 

「私は良いと思うわよ? どうせ部屋は隣なんだし、様子を見に行こうと思えばいつでも行けるし」

「その代り、ウチの家事全般をお願いしたいのよね。いやね? 別にやろうと思えば出来るのよ? でも、どうしてもやる気が起きないと言いますか……」

 

 完全にダメ女の言い分だ。

 成る程。それならば納得だ。

 彼女達は自分の身の安全を保障し、その対価として自分は二人の普段の生活をサポートする。

 ギブ&テイク。それならば多少は気が楽になる。

 あくまで多少だが。

 

「…ほ…本当によろしいんですか?」

「全然構わないわよ~。女の子の一人や二人、その気になれば幾らでも守れるから。いざとなれば『知り合い』に相談するし」

 

 ここでカテレアの言う『知り合い』とはソーナの事である。

 確かに悪魔の中では相当な地位にいるカテレアであるが、転生してからこっち、同じ悪魔たちと全く会話らしい会話なんて一度もしたことが無い。

 そんな中、彼女が唯一親しいと思っている悪魔がソーナだったのだ。

 故に、彼女が頼る悪魔となれば必然的にソーナしかいなくなる。

 

「だから、安心していいわよ。それに……」

 

 ポン…と、黒歌の頭の上に手を置いて、そっと撫でる。

 

「そんな顔をした女の子を、このままになんてしておけないでしょ」

「同感ね。今までどんな事があったのかは知らないけど、偶には誰かに頼るのも悪くは無いと思うわよ? 大丈夫、鬼は嘘はつかないから」

 

 その言葉を聞いて、不思議な安心感に包まれる。

 それが黒歌の涙腺を崩壊させ、その目から大粒の涙を零させた。

 

「う…うぅぅぅ……」

「よしよし。今までよく頑張ったわね、えらい、えらい」

「はい……はい……」

 

 カテレアに抱きしめられながら、その胸の中で泣き続ける黒歌を見ながら、伊吹童子は優しく微笑みながら、いつの間にか開けた缶ビールを口に含むのだった。

 

 こうして、保護された黒歌はカテレアの部屋にて世話になる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は、今回の話を考えている途中で、黒歌をとあるキャラのヒロインにしようと思い至り、その方向で進めていこうと思います。
原作とは違う形で、彼女には女のとしての幸せを手にして貰いましょう。

そして、次回はレイナーレと一誠のその後の話。
一誠を振り向かせる決意を固めたレイナーレが取った行動とは…?






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ちょっとしつこいよっ!?

無事にカテレア&伊吹童子に保護された黒歌。

一方その頃、一誠を惚れさせると決意を固めたレイナーレは…?








 裏で色んな事があった次の日。

 一誠のクラスはとある噂によって騒々しくなっていた。

 

「例の噂、もう聞いたかっ!?」

「聞いた聞いた! なんでも、このクラスに転校生が来るんだろっ!?」

「そう! しかも、すっごい美少女らしいぞ!」

「どんな子だろうなぁ~…今から楽しみだぜ!」

 

 一体どこから、そんな情報を入手したのかは不明だが、男子達は完全に浮き足立っていた。一部を除いては。

 

「こんな時期に転校生だなんて珍しいな」

「だな。何か家庭の事情的なやつなのか?」

「他の連中はなんか騒いでるけど、俺達には関係ないな」

 

 前ならば他の男子達以上に騒々しかった一誠、元浜、松田の三人は、傍観者の立場になって教室の様子を伺っていた。

 完全に立場が逆転してしまった事になるが、だからと言って被害が拡大している訳でもない。

 他の男子達は覗きなんて全くしないから。

 

「そうだ一誠。桐生の奴から聞いたぞ。お前、隣町の学校の子に告白されたんだって?」

「まぁな。普通に断ったけど」

「だと思ったよ。なんでだ?」

「んん~…別にあの子の事が嫌いって訳でもないし、俺から見ても凄く可愛い子だとは思った。けど…なんつーのかな。まだ碌に自分の本当にやりたい事も見つけられていない自分に彼女なんて出来ても、幸せに出来る気が全くしないんだ。だから、『年上の女性が好きだから』って言って断った」

「成る程な。お前らしいよ」

「半分だけ嘘をつく所なんか特にな」

 

 これだけの話だけで、一誠の抱えている悩みや、彼の身上などを理解した松田と元浜。

 伊達に親友同士と言う訳ではないようだ。

 

「何かあればいつでも相談しろよな」

「お前の為なら、幾らでも力になってやるよ。カテレアさんや伊吹さんもきっと同じ筈だぜ」

「元浜…松田…ありがとな」

 

 自分は最高の親友たちを持った。

 思わず涙ぐんだ一誠は改めて思った。

 この友情だけは永久不変であると。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 担任が教室にやってきて、朝のHRが始まる。

 そこで案の定、男子達が噂していた通り、女子の転校生がやって来た旨を伝えた。

 

「もう知っている奴等もいるようだが、実はこのクラスに転校生がやって来る事になった。入って来てくれ」

「はい」

 

 担任の言葉に約三名を除いた男子全員が『おぉ~!』となり、女子達はそんな様子にげんなりとしていた。

 結果として、相対的に『約三名』の評価が上がって行くのだが。

 

 教室の扉を静かに開けて入って来たのは、黒く長い髪を靡かせた美少女。

 ぶっちゃけてしまえば、人間に化けて偽名を使っているレイナーレだ。

 今までは偽りの情報として『隣町の学校に通っている』事にしていたが、少しでも一誠に近づくために、本当に学生として潜入してきたのだ。

 因みに、転校の手続きなどは全て黒一点であるドーナシークが行った。

 そんな彼は今、ストレス発散の為に居酒屋で酒を飲んでいる。

 

「隣町から来ました、天野夕麻です! よろしくお願いします!」

 

 以前とは打って変わって、元気な口調で自己紹介をした。

 その眩しい笑顔に、男子達は興奮しまくっている。

 

(よし! 最初の掴みはバッチリね! これでアイツも少しは私の事を……)

 

 そう思って一誠がいる場所を見ていると、その本人は窓の外を呆然と眺めながら物思いに耽っていた。

 

(って、全く私の事に気が付いてないやないか~い!!)

 

 なんでそこで関西弁?

 

 自分を振るだけに飽き足らず、今度は無視までされた。

 流石にキレたレイナーレは、ズカズカと一誠の元まで歩いて行って、彼の机をバンッ! っと叩いてから一誠の目を自分に向けさせる。

 

「ちょっとアンタ!」

「ん? って…なんで君がここにいるんだ?」

「この制服を見ればわかるでしょ! 私がこの学校に転校してきたからよ!!」

「そうなのか。これからよろしくな」

「え…えぇ…こっちこそよろしく。じゃなくて!」

「なんだよ?」

「この私を振った事を心から後悔させてあげるから! 覚悟してなさいよ! 私の魅力でアンタを全力で惚れさせてみせるわ!!」

「あ~…はいはい。そうか、それはよかったな~」

「適当に流すな! こっちを見~な~さ~い~よ~!」

「揺らすなよ~。制服が伸びちゃうだろうが~」

 

 完全に会話がジャンプ系ラブコメになっている二人を見て男子達は察する。

 この勝負…最初から勝ち目無くね?

 レイナーレは一誠の事しか見ておらず、その一誠は彼女の事を鬱陶しくしながらも、彼女の事を気遣って好き放題させている。

 そして、女子達は理解をする。

 この二人……めっちゃ面白いと。

 影ながら応援しつつ、その様子を観察して楽しめると。

 

「なんだ兵藤。天野と知り合いなのか?」

「知り合いと言えば知り合いだけど……」

「なら、校舎の案内とかを任せてもいいか?」

「別にいいですよ。それぐらいならお安い御用です」

 

 今の一誠は基本的に先生の頼み事は絶対に断らない。

 そのお蔭で、内申は鰻登りである。

 

「ア…アンタに案内される!? ってことは、もしかして二人っきりに…?」

「そうなるな。それがどうかしたのか?」

(二人っきりになれば、ダイレクトに私の魅力を見せつける事が出来る! ふふ…どうやら、思った以上に目的を果たせそうね…!)

 

 なにやら都合のいい事を考えているようだが、それが出来れば誰も苦労なんてしないのだ。

 

 因みに、そんな一誠の様子を見て、元浜と松田の二人は、他の女子達と同様に影ながら見守ることを決めた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 担任に言われた通り、放課後にレイナーレに各校舎を案内する一誠。

 隣り合わせになってから一誠が各教室の軽い説明をしていくのだが……。

 

「あそこが音楽室で、その向かい側にあるのが色んな楽器を収納している倉庫な。で、この先に軽音楽部の部室があって……」

「……………」

 

 レイナーレはずっと、一誠の横顔ばかりを見て説明は右から横に受け流されていた。

 別に彼の話を意図的に無視している訳ではない。

 無意識の内に、その横顔から目が離せなくなってしまったのだ。

 

「ちゃんと聞いてるか?」

「えっ!? あ…あぁ! 聞いてるわよッ!? うん! あそこが音楽室なのよねっ!?」

「そこは軽音楽部の部室だ」

「し…知ってるわよッ! ちょっとアンタの事を試しただけよ!」

「あっそ」

 

 呆れながらも案内を続ける一誠を見て、思わずレイナーレは自分の胸を抑え込んだ。

 

(な…なんなのよ一体! どうしてこんなにも胸がドキドキするわけっ!? 相手は人間なのよッ!? 私達よりもずっと寿命が短くて脆弱な人間…なのに…なんで……)

 

 思わず目を逸らし、顔だけじゃなくて耳まで真っ赤に染める。

 

(こんなにも…カッコよく見えちゃうのよ……バカぁ……)

 

 そんな二人を見ていた道行く生徒達は、ピンク色の空気を感じ取ったのか、全員揃って自販機のある場所へと向かって歩いて行った。

 目的はただ一つ。ブラックコーヒーを飲む事だ。

 

「あれ? いつの間にか人気が無くなってる。どこに行ったんだ?」

 

 一通り案内し終えてから、二人は渡り廊下を使って下駄箱へと向かう事に。

 その間、ずっとレイナーレは一誠の顔を直視できないでいた。

 

 途中、ふと視界に映った古めかしい建物を見つけたレイナーレは、思わず一誠に尋ねた。

 

「ねぇ、あの建物は何なの? 妙に古いけど……」

「あれは旧校舎だな。今の校舎は新築で、昔はあっちの方を使ってたんだ」

「それじゃあ、今はもう使ってないの? それとも、倉庫みたいにしているとか?」

「うんにゃ。確か、あそこも部活棟として使われてた筈だ。オカルト研究部…だったっけ?」

「ふ~ん……」

 

 自分自身が堕天使な身であるレイナーレからすれば、オカルトなんて言われても反応に困る。

 その気になれば、この世界はオカルト的な事で溢れ返っているのだから。

 

 そんな二人を背後から密かに覗いている人物達がいた。

 

「あの女の子…堕天使の気配がするわね」

「みたいですわね」

 

 真っ赤な髪を持つ少女『リアス・グレモリー』と、彼女の親友である大和撫子な感じの少女『姫島朱乃』。

 駒王学園の三年生にして、さっき一誠が説明をした『オカルト研究部』の部長と副部長をしている生徒達だ。

 

「少し事情を聞いてみる必要があるみたいn…」

「リアス。幾らなんでも、それは流石に無粋なんじゃなくて?」

「へ? なんでよ?」

 

 二人に近づこうとしたリアスの腕を掴んで、朱乃が彼女の事を静止させる。

 その顔は完全にニコニコ笑顔になっている。

 

「あの二人を見て御覧なさいな。完全にデートよ? 仮にも最上級生である貴女がそこに突っ込んでいったらどうなるか、分からないリアスじゃないでしょ?」

「そ…それはそうだけど…それじゃあ、どうするのよ?」

「今は様子を見るだけに留めておきましょう? 何かアクションがあれば、その時に改めて動けばいいんだし」

「…朱乃がそこまで言うなら……」

 

 一応の納得はしてくれたのか、リアスは渋々ながらも引っ込んだ。

 

(人間の男の子に惚れてしまった堕天使の女の子が、わざわざ人間に化けてまでして学校にやって来る……まるで、一昔前の少女マンガみたいね。頑張って、お姉さんは二人の事を応援してるから。似たような身の上として…ね)

 

 今はまだ朱乃の考えは勘違いの段階なのだが、それが真実になる日は意外と近いかもしれない。

 その日こそが、一誠が本当の意味で一皮剥ける日なのかもしれない。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 下駄箱で靴に履き替え、一緒に校門を出る…までは良かったが、レイナーレはまだ一誠の隣にいた。

 

「なんで着いて来るんだよ……」

「か…勘違いをするんじゃないわよ! べ…別にアンタと一緒に帰りたくて着いて来てる訳じゃないんだからね! 私も帰り道がこっちなだけなんだから!」

「誰もそこまで言ってねぇだろ……」

 

 本日何回目になるか分らない溜息を吐きながら、一誠とレイナーレは帰路に付く。

 一誠の方は何にも思ってないが、レイナーレは心の中でガッツポーズをしていた。

 

(よっしゃ! あの教会を拠点にして大正解だった! まさか、偶然にも帰り道が同じ方向だったなんて!)

 

 その後、特にこれといった会話も無いまま並んで歩いていく二人だが、逆にその光景が傍から見るとカップルのように見えてしまう。

 

(リア充だ)

(リア充がいる)

(あの子って確か、今日来たって言う転校生だよな?)

(そういや、まだ転校する前に、あの子が校門の前で兵藤に告白してるのを見てる奴がいたぞ)

(マジでッ!? ってことは、惚れた男の為に転校してきたって事かよ……)

(チクショウ……! なんて羨ましい奴……!)

 

 道行く女子達からは生暖かい眼差しで、男子達からは嫉妬が込められた視線を向かられていた。

 

「気のせいか? 妙に背筋がゾクゾクってするんだが……」

「なによ。もしかして冷えたの? 暖かくなってきたとはいえ、まだこの時間帯は冷えるものね。仕方がないわね……」

 

 何を思ったのか、レイナーレはいきなり一誠の腕に抱き着いてきて体を寄せてきたのだ。

 彼の体温を服越しに感じ、一誠もまた彼女の体温を服越しに感じる。

 自分でも何をやってるんだと思った。

 けど、やってしまった以上はもう後戻りは出来ない。

 実際、レイナーレの顔は沸騰しそうな程に真っ赤になっている。

 

「いきなりなんだよ?」

「わ…私も急に寒くなってきちゃったのよ! 文句あるっ!?」

「文句っつーか…普通に歩きにくい」

「なんですってっ!? こんな美人と腕を組んで歩けてるのよっ!? 少しは男らしく喜びなさいよね!」

「ンな事を言われてもな……」

 

 レイナーレがグイグイと体を寄せてきて、一誠が離れようと体を動かす。

 不安定ながらも仲睦まじく歩く二人の様子は、完全に恋人同士のようだった。

 

 結局、途中で帰り道が分かれるまで、ずっと二人は腕を組んで歩き続けた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 余談だが、この様子を使い魔を通して見ていたリアスと朱乃はというと…。

 

「「あま―――――――――――――――――――――――――――い!!」」

 

 二人して、紅茶の代わりにブラックコーヒーを飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初から全開で飛ばしてみました。

主役が登場しない代わりに、完全なアオハルなお話に。

次回はちゃんと登場させますのでご安心を。

カテレアを中心とした大人の恋物語も描きたいですね~。


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時代に取り残されてる私

今回は、カテレア姉さんが無意識の内に猫姉妹の仲直りの切っ掛けを作ります。

それは同時に、ある事へのフラグにもなっていたりするかも…?







 黒歌ちゃんが私の部屋に居候するようになってから数日。

 信頼出来る誰かに留守番を任せられるというのは、それだけで心置きなく外出が出来る訳で。

 

「いやぁ~…今日も勝った! 勝った!」

「間違いなく大勝ね! 今夜のお酒も美味しいわよ~♡」

 

 私とブッキーは、パンパンの紙袋片手に街中を行進。

 意気揚々とアパートへの帰り道の途中なのです。

 

「そうだ。黒歌ちゃんに買い物を頼まれてるんだった」

「マジで? 何を買って来いって?」

「お醤油とお砂糖。それから小麦粉も」

「それだけで、今度の夕飯のメニューが幾つか想像出来るわね。んじゃ、行きましょーか。付き合うわよ」

「ありがとね。いつもの所でいいでしょ」

 

 手荷物がある状態だけど、私達の腕力は普通じゃないので、これぐらいなら楽勝だ。

 重さとは関係なく、ちょっち持ちにくくはあるけど、それは自分達の工夫次第だから気にしない。

 

「ついでだし、何か黒歌ちゃんにお土産でも買って行こうかな? ケーキとかいいかも」

「偶にはいいわね~。個人的にはお饅頭とかの方が好きだけど、久しく食べてないと無性に恋しくなるのよね」

「それ分かる~!」

 

 なんて話ながら歩いていくと、目的地のスーパーが見えてきた。

 よく見たら、出入り口の所に『本日特売日!』の旗が立っていた。

 成る程、黒歌ちゃんはこれを知っていて私達にお使いを頼んだのね。

 中々に策士じゃない……気に入ったわ。

 

「あれ?」

「あら?」

 

 どうやらブッキーも気が付いたようで、二人で顔を見合わせてからお目目をぱちくり。

 

「あのスーパーって…ビラ配りのバイトとか雇ってたっけ?」

「さぁ…? 今までにそんなのは聞いたことないけど……」

 

 スーパーの近くで、明らかに男受けを狙っている衣装(ミニスカ&バニー)でチラシを配っている女の子がいた。

 常にニコニコ笑顔で、なんだか作り笑いのようで気味が悪い。

 私達が気が付いた理由はそれじゃなくて、単純にその子から奇妙な気配…簡単に言うと魔力的な物を感じたから。

 それだけで明らかに普通じゃない事が理解出来る。

 

「ちょっち近づいてみる?」

「そうね。なんだか気になるし、私達なら全然大丈夫でしょ」

 

 だって私達、超強いもん。比喩や誇張じゃなくマジで。

 余り警戒されてもアレなので、気軽な感じで接近していった。

 

「よろしくお願いしまーす」

 

 こっちの正体に気が付いていないのか。

 それとも、機械的にチラシを配っているのか。

 私達に全く気圧されることなくチラシを手渡してきた。

 

「えーっと…? 『あなたのお願い叶えます』…だって」

「なにそれ?」

 

 渡されたチラシには、単調なゴシック体でそう書かれていた。

 明らかに怪しい……今時、どこぞの新興宗教でも、もっと回りくどい言い方をするのに、これは余りにもストレートだ。

 

「電話番号とかメールアドレスの類は書いてない…わね」

「一体どうやって願いを叶えるつもりなのかしら?」

「さぁ…?」

 

 紙自体からも非常に微弱ではあるけれど魔力を感じた。

 これにも何か仕掛けが施されているのかな?

 色々と謎は残るけど、取り敢えずチラシは綺麗に折り畳んでからポケットに仕舞い、目的のブツを買う為にスーパーの中へと入っていった。

 

 因みに、三つの買い物のうちの二つ…お醤油とお砂糖は『一人一個まで』のヤツだったので、私とブッキーで合計二個ずつ買って帰った。

 こーゆーのは、買える時に買っておかないと後で損するもんね。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「これは多分、若手悪魔が人間と契約をする時に使うチラシだと思いますにゃ」

「「へぇ~…」」

 

 その日の夕食時。

 私とブッキーは黒歌ちゃんが何か知っていないかと思って、スーパーの前で貰ったチラシを見せてみると、予想通り知っていた。

 

「っていうか、カテレアちゃんは知らなかったの? 同じ悪魔でしょ?」

「いやいや。悪魔って言っても千差万別だし。今時の若い子達のやってる事なんて知らないってば」

 

 つーか、若い子達がこんなバイト染みた事をしていること自体、今日初めて知ったぐらいだし。

 

「契約と言っても、そこまで仰々しいものじゃなくて、人間の頼みを聞いて、それを叶えてあげた後に契約の証として何かをあげたりするものらしいですにゃ」

「結構、サッパリとしてるのね~。てっきり、代価として命でも差し出すものとばかり思ってたわ」

「それはもうめっちゃ昔の悪魔の話ですにゃ……」

「悪魔社会も、現代に合わせて進化して行ってるのねぇ~…」

 

 仮にも魔王の子孫である私が言っても微塵も説得力ないと思うけど。

 

「恐らく、チラシを配っていたのは使い魔の類ではないかと…」

「「使い魔」」

 

 そういや、それっぽい事は実家の文献にも書いてあったっけ~。

 大抵の悪魔は使い魔と契約をして使役しているとななんとか。

 

「カテレアちゃんは使い魔とかいないの?」

「いないわね~」

 

 大抵の使い魔は動物とからしいけど、私ってば前世の時からペットなんて一度も飼ったことが無いから難しいでしょうね~。興味も無いけど。

 

「カテレアさんほどの大悪魔なら、それこそ凄い使い魔を持ってそうなのに…意外ですにゃ」

「そう? もぐもぐ……」

 

 そんなに大層な悪魔じゃないわよ?

 血筋は確かに凄いかもしれないけど、私なんてそれだけだし。

 今はこうして友達と一緒にニート生活を満喫している、ごく普通のお姉さんな訳だし。

 それはそれとして、黒歌ちゃんの作ってくれた卵焼き、ふわふわでめっちゃ美味しんですけど。凄いご飯が進むんですけど。

 

「ブッキーは使い魔っていないの?」

「こっちもいないわね。というか、それ系の従者を持ってる妖怪って一人もいないと思うわよ? ねぇ?」

「そうですね。私も、日本妖怪が使い魔を持っているという話は聞いたことがありませんにゃ」

「へぇ~…」

 

 そこら辺が、西洋と東洋の違いなのかしらね。知らんけど。

 

「でもこれって、一体どうやって使うのかしら? 見たところ、この『あなたのお願い叶えます』以外には何も書いてないのよね」

「そのチラシは所謂『発信機』のような役割をしているんですにゃ。その紙に向かって念じると、向こう側でそれを感知して、転移魔法でやって来る…的な感じで」

「…やってる事自体は完全にデリヘルのソレよね……」

「中には如何わしい事を目的としてチラシを使う人間もいるらしいですけど…」

「仮にも悪魔だし、そっち系の願いもアリっちゃアリなんでしょうけどね」

 

 けど、あのソーナちゃんとかは同じ悪魔でも相当に初心な感じがしたな~。

 言葉一つで顔を真っ赤にしてたし。

 最近の若い悪魔の子達って、皆が皆、似たり寄ったりなのかしら?

 

「それはそれとして、今日のご飯も美味しいわ~♡ 特に、この出し巻き卵とかマジで最高。醤油とかかけなくても味が濃くてガンガンご飯が食べれちゃう」

「このお味噌汁も美味しいわ~。体だけじゃなくて、心までほっこりとしちゃう」

「そ…そんな…大したことはしてませんにゃ……」

 

 そして、可愛く照れてる猫耳美少女が傍にいる!

 これを役得と言わずしてなんとする!

 

「けど、カテレアちゃんが最近の悪魔事情に詳しくなかったのは意外だったわね」

「そうでもないわよ? 私の屋敷があった場所って、冥界でもめっちゃ端っこの方にある田舎だったし。静かなのはいいけど、それは同時に不便って事でもあるのよね。買い物行くのにも都会まで転移しないといけないし。それだって完全ノーコストって訳じゃないし」

「だから、冥界から出て地上で暮らすようにしたんですかにゃ?」

「そーゆーこと。明らかにこっちの生活の方が便利だし、性に合ってるもの。コンビニが近所にある事の素晴らしさは、分かる奴にしか分からない」

 

 ぶっちゃけ、他に色んなお店があってもコンビニ一つないだけで不便に感じちゃうのよね。

 それだけコンビニが万能だって証拠なんだけど。

 

「カテレアちゃんの気持ち…超分かるわ~! 私も同じだったもの」

「ブッキーも?」

「うん! 私が京都から来たって事は前にも話したでしょ?」

「まぁね」

「同じ京都でも、私が住んでるのって妖怪たちが隠れ住んでる秘匿された土地だから、買い物に行くだけでも一苦労なのよ。冥界とは違って簡単に転移とか出来ないし」

「でしょうね」

 

 もしも転移なんかして、それを万が一にでも誰かに目撃でもされたら一大事だ。

 裏事情にそこまで詳しくない私でも、それぐらいは簡単に分かる。

 

「ずっと、都会で暮らす事に憧れてて…それで一念発起してやって来たって訳。本当はそれだけじゃないんだけど……」

「っていうと?」

 

 急にブッキーの表情が暗くなる。

 何か聞いてはいけない事でも聞いてしまったのだろうか。

 

「実は私ね…妹って言うか…正確には『妹分』的な女の子たちがいるのよ」

「「妹分?」」

 

 実際に血の繋がりは無いけど凄く仲がいい…って解釈でいいのかな?

 

「一人は『酒呑童子』っていって…黒歌ちゃんには、これだけで分かってくれると思うけど」

「は…はい。けれど、酒呑童子さまといえば、伊吹童子様の別側面では……」

「その通り。けど、なんでか肉体を持ったまま分離をして、しかもお互いに認識まで出来ちゃってるのよね~。ま、そこまで気にはしてないんだけど」

 

 いや、割と深刻な事なのでは?

 

「もう一人は『茨木童子』っていって、良くも悪くも天然で子供っぽい女の子なのよ」

「黒歌ちゃん知ってる?」

「はい。大江山の支配していた鬼達の頭目の一人と伝えられてますけど…」

「その認識で間違ってないわ。詳しく話していけば長くなるから、今は置いておくけど」

 

 そうれがいい。私も全部を聞いて頭の中に入れられる自信が無い。

 

「二人とも…体が小さくて可愛くて……目に入れても痛くない程に溺愛してたんだけど……」

「「だけど?」」

「…時の流れって…残酷なのよ」

「「へ?」」

 

 こ…今度は急に黄昏始めた?

 一体ブッキーに何があったの…?

 

「二人にはね……惚れてる男の子がいたの」

「「ほほぅ?」」

 

 黒歌ちゃんと一緒に目を光らせる。

 これはコイバナの予感?

 

「酒呑ちゃんは坂田金時くんって言って…金髪碧眼のイケメンで、めっちゃ筋骨隆々なのね。性格も『ザ・主人公!』って感じの好青年でさぁ~…そこら辺の女の子なら一発でノックアウトだと思う」

「それはまた……」

「絵に描いたような勝ち組にゃ……」

 

 そりゃ~…惚れても無理は無いわ。

 

「ばらきーちゃんの方は『渡辺綱』っていって、クールな感じのイケメンで、ちょっと天然入ってる天才剣士。ばらきーちゃんとは幼馴染的な関係なのよね」

「幼馴染同士の恋……」

「青春ですにゃ……」

 

 酒の肴には最高のネタね……。

 

「その二人がね……少し前に結婚しちゃったのよ~!!」

「「おぉ~!」」

 

 そりゃまためでたいですな!

 けど、どうしてブッキーは悲しそう?

 

「結婚式じゃ酒呑ちゃんはデッレデレだったし……ばらきーちゃんに至ってはツンデレ大爆発させて来賓している連中全員の口から砂糖吐き出させてたし~!」

「「でしょうねぇ~」」

 

 その光景…簡単に思い浮かべられるわ~…。

 きっと、すっごく幸せそうにしてたんでしょうねぇ~。

 

「うわ~ん! 坂田ぁ~! 渡辺ぇ~! 私の可愛い妹達を泣かせたら承知しないんだからね~!」

(ぶっきーの意外な一面を……)

(垣間見てしまったにゃ……)

 

 彼女って…実はシスコンだったのね…。

 人だけじゃなく、鬼も見た目じゃ分からないって事かしら。

 

「そしたら、お付きの妖怪たちが『伊吹童子様はいつご結婚なされるので?』なんて言ってきて……人間で数少ない知り合いである『頼光ちゃん』も『貴女もそろそろ落ち着いたらいかがですか?』って! アンタにだけは絶対に言われたくはないッつーの! あの子達の結婚の時は最後まで渋っていて、いざ結婚式の時になれば誰よりも号泣してた癖に~!」

 

 なんか、完全にブッキーの愚痴大会になってる気がする。

 まだ酒も入ってないのに。

 

「余りにもしつこいから……置手紙だけおいてコッチに来ちゃった♡」

「なんともまぁ大胆な……」

「その置手紙にはなんて書いたんですかにゃ?」

「『いい人探しに都会まで行ってきま~す♡』って」

「「適当にも程があるっ!?」」

 

 それでいいのかブッキーさんよ……。

 確実に京都の方じゃ大パニックになってるでしょ。

 その『頼光さん』とやらは激怒してるでしょ。

 

「何の音沙汰も無いから、きっと問題無いでしょ。多分」

「楽観的にも程がある……私も人の事は言えないけど」

 

 こうして、ブッキーの意外な過去と交友関係、それから性格を知った私達なのでした。

 これが変なフラグになってないといいんだけど……。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ある日の昼下がり。

 黒歌は台所にて夕飯の下ごしらえに勤しんでいた。

 

「今日の夕飯は何にするかにゃ~……あれ?」

 

 ふと冷蔵庫を覗くと、料理酒の容器が空っぽになっていた。

 

「あちゃ~…買い足すのをすっかりと忘れてたニャ~…」

 

 またこの前のようにカテレア達に買い出しを頼むか?

 今日もまたいつものように出かけているから、それが一番妥当かもしれないが。

 

「どうせなら、無くなりかけてる物も見つけ出して、買ってきてくれるようにお願いしようかにゃ?」

 

 そうと決まれば早速、黒歌はいそいそと調味料の残りを調べていく。

 しかし、この時の彼女は気が付いていなかった。

 この前、二人が持って帰ってきて、そのまま棚の上に放置しっぱなしになっているチラシが淡い光を放っている事に。

 

「ん? なんだか妙な気配が……って、なんにゃっ!?」

 

 部屋の中央で、どこかで見た事のあるような魔方陣が展開され、そこから誰かが転移してきた。

 それは、彼女がずっと会いたいと願っていた相手であり、たった一人の血の繋がった家族。

 

「お待たせしました。グレモリー眷属の者です…って……え?」

「し…白音…っ!?」

「黒歌…姉さま……?」

 

 生き別れになった猫又姉妹。

 誰もが予想しなかった形で再会する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんとも言えない形で再会した姉妹。

次回は二人が主軸になるかも?

それと、ブッキーと酒呑とばらきーちゃんとかに関しては、完全にこの作品のオリジナルなので、そこまで気にしなくても大丈夫です。




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