『残火の太刀』る (たわーおぶてらー)
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切掛



個人的に『旭日刃』が一番好みです




 

 

 

 

 

 

 世界は悪意に満ちている。

 

 

 

 天使も悪魔も堕天使も、人も神も。皆総じて碌でなし。

 

 

 山本重國の人生において、彼ら人外とはそういうもので、人とはそういうものだった。

 

 日本にて生まれ育ち、死した後に山本重國として二度目の生を受けた彼は、前世にて出会うことのなかった人外たちを嫌悪する。

 

 悪魔は父母を陥れ、兄妹を奪われた。

 天使の下僕は理不尽に刃を振りかざし、堕天使もまた同じく。

 

 

 故に、彼はその全てを殺し尽くした。

 

 人ならざる者へと変貌させられ、父母をころして狂った兄妹を。

 それを行なった下劣な悪魔を。

 悪魔に魅入られた者の血縁だと騒ぎ、刃を向けてきた祓魔師を。

 お前は危険だと襲いかかる堕天使を。

 眷属になれと近づく悪魔を。

 正義がどうのと叫ぶ天使の下僕を。

 闘争を求める堕天使を。

 今や、唯一の家族となった黒猫を害そうとする者を。

 

 彼はその悉くを。立ち塞がったあらゆる敵対者を殺し尽くした。

 

 山本重國にはそれを成し得るだけの才能があり、それを成し遂げさせるだけの激情があった。

 

 だからこそ、彼を放置することは出来なくなっていた。

 三大勢力と呼ばれる聖書に記された三つの人外たちは、その鏖殺を無視することができない。

 

 それぞれの勢力における善悪も関係なく、山本重國という男に関わった彼らの配下は彼らの知る限り誰一人として生存していないからだ。

 悪魔の陣営ならば上級悪魔が。天使の陣営ならば高位の祓魔師が。堕天使の陣営ならば複数の中級堕天使が。

 彼らは皆一様に欠片すら残らず、灰となって発見されている。

 

 それは明らかな異常だった。

 炎に類する『神器』を保有しているにしろ、あまりにも強過ぎるのだ。

 ただの人間が上級悪魔を容易く灰に変えてしまうなど、如何に『神器』といえども尋常ではない。

 

 数ある『神器』の中でも頂点に存在する『神滅具』ならばまだしも、堕天使の長が秘密裏に調べた限りではそうではない。

 更にいえば、『神器』ですらない可能性すら存在するというのが彼の調査結果だった。

 

 明確な異端。露骨な異常性。

 尋常ならざる人間を前に、堕天使の長は接触することを選んだ。

 

 

 

 ──選んで、しまった。

 

 

 

 

 その日、山本重國は一人で暮らしているにしては少し量の多い買い物をして、自宅のある山に向かって歩を進めていた。

 両手は食料によって塞がれ、秋の黄昏空を背負って彼はいつもの様に人気のない路を歩いていた。

 

 そんな普通の光景に、異物が混ざる。

 

 彼の知覚範囲内で行使された何らかの力、場を区切るようなものの出現から結界を張られたことを理解するのに一秒も必要としなかった。

 そして、溜め息を吐く。

 ああ、またか、と。また、お前たちは死にに来るのか、とうんざりした。

 

「……山本重國だな?」

 

「お前が先に名乗れ、塵屑」

 

「ち、塵屑ときたか……」

 

 不快そうな態度を隠そうともせず、両手に提げた買いもの袋を地面に下ろした。

 既に戦うことを想定している姿に、背中から六対の翼を生やした堕天使は頬を引き攣らせた。

 

「俺はアザゼルだ。先に言っとくが今回は戦いに来たわけじゃねぇ」

 

「それで? なんだ、死にに来たか?」

 

「どうしてそうなるんだよ」

 

「騙し討ちは常套手段だろう?」

 

 なにを言ってるのか心底理解できないといった様子で、重國はアザゼルと名乗った男に告げた。

 そのことに内心で舌打ちしつつも、アザゼルはそれを表には出さない。

 争うよりも、話し合いで協力に近い関係を築く方が利益になると対峙した瞬間から感じているからだ。

 

 遠距離からこそこそと観察するだけでは分からない、対峙して初めてわかるその存在感。

 堕天使の長、魔王に比肩する実力を持つが故に感じ取れる異常な気配。

 上級悪魔などでは相手にならないはずだ、とアザゼルは得心した。

 

「……今回は本気の交渉だ。堕天使からお前個人に対しての、な」

 

「信用ならん」

 

 取り付く島もないとはこの事だろう。

 冷たい目でアザゼルを見る重國からは警戒と殺気が溢れており、言葉一つ違えればその時点で殺し合いに発展するのが丸わかりだ。

 

「鬱陶しいから教えてやるが、俺はお前たちに関わりたくないんだ。殺してるのも絡んでくるからで、こちらから殺したのは精々一度だろう」

 

「ああ、うちの部下が襲ったことについては詫びさせてもらう」

 

「……部下?」

 

「俺のこと知らねぇのかよ……」

 

「知らん」

 

 敵だから殺す。ただそれだけのことだ。

 相手がその勢力内でどんな立場にあるかなぞ、彼には関係の無い話である。

 故にどこの誰かなぞ知らんとアザゼルも理解して、ある程度の説明を挟んで説得する流れへと変えた。

 

「じゃあ改めて自己紹介してやるよ。俺はアザゼル。『神の子を見張る者』の総督を務めるアザゼルだ。単純に堕天使でいちばん偉い奴って思ってくれていい」

 

「……そうか」

 

「今回は、三大勢力で密かに有名なお前さんと相互不可侵にしておきたいと思って直接出向いたんだが……三大勢力は分かるか?」

 

「理解している」

 

「よし、それなら少し楽だな。これで知らないって言われたら困ってたわ」

 

 ははは、と乾いた笑いを零すが重國は無反応だ。

 欠片の隙もなく、アザゼルの挙動を観察している。

 

「既に理解していると思うが、俺たちはお前を警戒している。特に俺は、直接出向くことを選ぶくらいには警戒してるし評価もしてる」

 

「殺し過ぎた、というわけか」

 

「その通りだ。どの勢力もお前のことを警戒している」

 

 数の暴力でぶつかれば殺せるだろう、というのはアザゼルたちの共通の見解だ。人である以上、時間と数で押し切れる。

 だが、それをしてまで殺しにかかる必要がないのも事実。

 更にいえば、彼の存在を正確に把握しているのもアザゼルたち各勢力の長と一部だけ。

 とはいえ大々的に示してしまえば間違いなく問題が起きるため、アザゼルはここで不可侵を結んで周辺一帯への立ち入りを禁止するつもりだった。

 

 三大勢力の首脳陣で秘密裏の相談を行っている上での、アザゼルによる独断専行。

 後になって問題が出る可能性もあるが、彼は事を急がねば手遅れになりかねないと考えていた。

 彼の知る限りの情報を照らし合わせれば、山本重國から交渉の席に着こうという気が完全に喪失するのも十分に有り得るからだ。

 

「ただまあ、俺はここら辺を三大勢力は基本的に立ち入り禁止にすることで、お前さんの平穏を維持しようと思ってな」

 

「堕天使の長が敵対勢力にも強制力を発揮出来るとは初めて聞くが?」

 

「そりゃああれだよ、トップは裏で繋がってるってやつだ。こいつは極秘も極秘だがな」

 

「……思ったよりくだらない話だったか」

 

 トップは裏で繋がりを持ちつつ、下っ端は昼夜を問わず血で血を洗う争いを繰り広げている。

 どうしようもない背景があるが故の事態だが、そんなことは関係のない重國の中で彼らの評価はまた一段と低下した。

 それと同時に、それが真実かどうかは定かではないにしろ、その極秘を明かしてでも交渉をしたいという姿勢を理解する。

 

「……まあいい、続きを話せ」

 

「お、乗り気になったか? 話がわかるやつは好きだぜ」

 

「早くしろ、晩飯が遅くなる」

 

 交渉の席に着く姿勢は見せるが、内容次第であるということに変わりはない。

 欠片でも納得のいくものがなければ、彼は躊躇いもなくその力を振るうだろう。

 

「まず一つ、この周辺での三大勢力への積極的敵対は禁止。こちら側もお前への積極的敵対を禁止する」

 

「相互不可侵なら当たり前だな」

 

「二つ、定期的に連絡を取り合うこと」

 

「……まあ、悪くは無いか」

 

 連絡を取り合うことには明確な利益がある。

 互いに約定を違えていないかを確認できるし、何らかの問題があれば会話が行える連絡先というのは重宝するものだ。

 特に、悪魔には『はぐれ』が存在することを重國は知っていて、それが悪魔からはみ出した彼らにとってのあくであることも理解していた。

 

「最後に三つ目だが、俺にお前の刀を少し調べさせて欲しい。これについてはここから更に交渉したい」

 

「それは拒否する。お前たちに預けたくない」

 

「いや、その信頼をここからだな」

 

「知らん。それを受けろというなら話はなしだ」

 

「…………ちくしょう、調べたかったが仕方ねぇな!」

 

 胡乱な目で見られているのも気にせず、残念そうに頭を掻いて声を荒らげる。

 重國の目で見る限りは嘘を吐いていない以上、これもまたこの堕天使の本心なのだろう。

 

「あー、あとあれだ。言い忘れてたんだが、悪魔側が今度はぐれを討伐したいらしくてな」

 

「はぐれを?」

 

「ああ、この交渉が上手くいったらお前と敵対しないように縛った上でお前と交渉。対価を差し出してはぐれを狩らせてもらうって算段らしい」

 

「…………」

 

「かなり有名らしくてな。名前はなんだったか、あのはぐれ。あー、たしか……」

 

 

 

 

 

「『主人殺し』の黒歌だったか?」

 

「………………」

 

「なんでも、ここらで確認されて以降は行方知れずだから、隠れてるんじゃねぇかって話だ。猫又の上位種だったらしいし、案外猫に化けてたりしてな?」

 

「……そうか」

 

「ああ、そういやお前って猫飼ってんだったか? そこの袋にマタタビ入ってるな」

 

「あいつは可愛いぞ」

 

「ははは、そうかい」

 

「ああ、だからまあ──」

 

 そこで、アザゼルの背筋に悪寒が走った。

 言いようのない寒気。久しく感じていない感覚。焼け付くような気配。凍えるような殺意。

 彼はその瞬間、確かに死を予感した。

 

「お前は殺すよ」

 

「訳が分からねぇぞクソッタレ!!」

 

 刹那の内に握られた刀が鞘から奔る。

 長らく戦争は無かったとはいえ、完全に鈍っているわけでもないアザゼルはそれを上空に逃れることで回避するが、いきなり敵対したことへの困惑は隠せない。

 そして、堕天使の長に死を予感させる異常性。

 

 引き金は不明。実力は未知数。

 ただ、必要な会話を行っていたら急に殺意を剥き出しにした。

 確実になにかあるが、狂人の類である可能性も彼の立場からすれば捨てきれない。

 

 真実は飼い猫を狙う悪魔に対し、堕天使の長を殺すことで警戒を高めて付近に近づけないようにする為なのだが、アザゼルがそれを知るはずもない。

 そして、彼がそれを語ることも無いだろう。

 山本重國は人外の敵。触れれば灼け死ぬ業火であれば、今はそれでいい。

 

 空中を踏んで接近してくる重國を光の槍で迎撃しつつ、殺意を剥き出しにしながらも冷静に詰めてくるその戦い方に舌を巻く。

 

 決して無理をせず、無茶をしない。確実に一手一手を積み上げ、いつか現れる詰みを逃さない戦い方だ。

 歩法も剣技も隙がなく、鍛え上げられたそれは天賦の才を磨き上げたものだ。

 それは、戦いを積み重ねて初めて到達できるはずのもの。

 道場稽古では決して身につかないものだった。

 

「随分と、戦いなれてやがるなぁ!」

 

「お蔭さまでな」

 

 皮肉混じりの叫びも軽く返され、白刃が閃く。

 お互いに未だ全力では無いものの、肉体性能は測られている。

 そして堕天使の長として優れた身体を持つアザゼルだが、重國はそれに容易く肉薄していた。

 打ち合う毎に明白になっていくその強さに、アザゼルは背筋を冷たい汗が伝うのを感じる。

 

 このまま正面からバカ正直に打ち合えば、いつか殺されるのは自分だという確信があった。

 それほどまでに近接戦闘において重國は突き抜けており、明確に区別人という枠組みを飛び越えた武勇を誇っていた。

 

 そして数十合を重ねた後、自然と彼我の距離が開いた。どちらともなく後方に跳躍し、生じた逃してはならない好機。

 瞬時に光槍の弾幕を形成。

 飛び道具を持たない重國に対する、これまでの観察結果から導かれた『神器』の有効射程を出た位置からの攻撃。

 

「ここらで引き分けってのはどうだ?」

 

「ぬかせ、鳥もどき」

 

 もはやまともに会話を行う気もないらしい。

 距離を取ろうとするアザゼルに空を駆けて追い縋る重國へと、遂に百を優に超える光槍の弾幕が放たれた。

 

 加えて、放たれる端から次弾を形成。発射。

 弾幕を以て動作を封じ、その手数と距離の有利を最大限に活用して仕留める。

 念の為に用意した強力な結界が軋むが、手応えがある以上は結界が壊れてでも攻撃し続ける必要がある。

 

 今はまだ耐えられても、人間である以上その限界は堕天使であるアザゼルよりも先に来る。

 器用にも刀一本で捌き続けているようだが、秒間百発を超える弾幕をいつまでもそれで耐えられるはずもない。

 有効打にはなり得ていないが、確かに直撃しているのをアザゼルは感じていた。

 

「俺はこのまま押し切って殺すからな! 後悔しても遅せぇぞ!!」

 

 ただ、どうしてか。

 得体の知れない感覚が拭えない。

 心に根付いた不安が拭えない。

 このまま時間をかければ殺しきれるはずなのに、そんな気が欠片もしない。

 次の瞬間には全てを覆されているような、そんな予感。

 

 それを実現するかのごとく、重國の言葉がアザゼルの耳朶を打つ。

 

 

 

 

「万象一切灰燼と為せ」

 

 

 それは終わりを告げる刀の解号。

 言葉と共に高まる力の波涛は刹那の間にアザゼルを凌駕し、結界を粉砕する。

 

 光槍も何もかも、それの前には無為と化す。

 

 解き放たれるのは一つの窮極。

 

 

 

 全てを燃やし、灼き尽くす豪火。

 

 

 

 

 

 

 その恐ろしき刀の名を。

 

 

 

 

 

「────『流刃若火』」

 

 

 

 

 



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面倒事①

これ書いてたら何故かユーハバッハ風味の純血悪魔主人公の話の原型が出来ていた。謎い



 

 

 

 

 

 山本重國は気がついた時には山本重國だった。

 そして、山本重國は山本重國であるが『山本重國』とは違う。

 

 そう表現するのは奇妙と言わざるを得ないが、これ以上ない程に的を射てもいる。

 脳裏に焼き付いた男の人生。かつて『流刃若火』を振るっていた男の生涯の記録。

 気がついた時にはその男と同じ名前であり、それ以外の何もかもが異なる人間だった。

 

 いつその記録が流入したのかは不明。

 だが、それが人間が個人として形成する人格に多大な影響を及ぼしたのは語るまでもないだろう。

 未熟な肉体と未熟な精神に欠けているとはいえ死に至るまでの膨大な記録。

 そして、人間の肉体に宿った膨大な力。

 

 その身に備わった力を自覚しながら、しかし関わりのない事だと封じて十数年。

 少年は〝浅打〟を握り、遂には記憶にある『流刃若火』を解き放つことになった。

 それを解き放つ契機は家族との死別という最悪の形で訪れ、それを機に始まった人外との敵対は遂に、堕天使の長を斬るに及んだ。

 

 堕天使の長。聖書に記された者。

 彼がこれまで斬ってきた人外の中でも頭一つ抜けた存在であるそれは、しかし山本重國にとって強敵とはなり得なかった。

 

 いいや、彼が初めて取り逃したという点を踏まえ、やはり正当に評価をし直すべきか。

 鮮やかな逃走であったと重國は内心で讃えつつ、警戒を高めるだけに終わってしまったことを気にしていた。

 

「初めて仕留め損ねた……」

 

 千年を超えて生きた老人としての記録が彼を老成させて見せるものの、その本質は生まれてから二十一年しか経ていない若造のもの。

 かつての老人が積み重ねた戦闘経験はもはや白紙に等しく、その〝斬魄刀〟は性質上、地上において全力で振るうことは出来ない。

 

 記録にある〝始解〟が使用の限界であり、それすらも長時間の解放は周囲の環境を灼き尽くしかねない為に制限がある。

 其れを突かれて逃走を許したわけだが、どれだけ言い訳を重ねても忸怩たる思いがあった。

 

 記録の最後、自らに〝元柳斎〟を名付けた老兵の死に様を知っている以上、彼は妥協を許せない。

 彼が己の目的を必ず果たすと決めた以上、その為に必要な行為であるならばどれだけ冷徹でもやり通さなくてはならない。

 

 そのために敵意のないアザゼルに斬り掛かったが、仕留め損なったということはそれが足りていなかったということである。

 それすなわち、人間を犠牲にすることを厭うなということだ。

 それを許容すればあらゆる制限なく力を振るえるが、そう簡単に許容することが出来るはずもない。

 

 それをしてしまえば最後、彼は忌まわしい人外と同じ外道に堕ちる。

 決して外道ではない正義を持つ者である重國は、無意味ではないその線引きを越えられない。

 

 覚悟ある味方を犠牲にする行為ならばまだしも、見ず知らずの誰かを犠牲にする行為は受け入れられない。

 その結果として数多の人外を討滅出来るのだとしても、彼はその一線を越えられない。

 

 つまり、『流刃若火』を扱うのにも周囲に気を配り続けなくてはならず、その先にある〝卍解〟など使用すら許されない。

 その枷を自ら受け入れているのが、彼の実情だった。

 

 そういった無意味な悩みを抱えながら、彼は今日も禅を組む。

 雑念を払うのではなく整理するために行うそれはもはや意味を成していないに等しいが、長く続けてきた習慣は自然と彼にそうさせていた。

 

「にゃあ」

 

 猫が鳴いた。

 

「黒歌か」

 

 呼ばれ、首輪についた鈴を鳴らしながら、黒猫が膝に飛び乗った。

 彼は閉じていた眼を開き、手を動かして喉を擽る。

 人型よりも猫の姿で過ごすことが多い黒歌に構うのも慣れたもので、あっという間に転がして腹を撫で回している。

 

 ただ、彼女は猫は猫でも猫魈である。

 絵面は完全に猫と戯れているだけなのだが、その正体を考えると微妙な心境にならざるを得ない重國だった。

 

 

 

 

 

「……それほどの傷だったのか、アザゼル」

 

「コカビエルか。まあ半分治ったし大したもんじゃねぇよ」

 

 堕天使の本拠、『神の子を見張る者』の幹部であるコカビエルは明らかに重傷ですという様子のアザゼルを見て驚愕していた。

 アザゼルがバラキエルと共に手傷を負ったという話は幹部には共有されていることだが、包帯で全身を覆うほどとまでは話されていない。

 

 明らかに弱っているアザゼルを見て、コカビエルはその下手人として資料に書いてあった『人間』の規格外さを思い知る。

 戦争狂であり、隙さえあれば火種を撒いて戦争を再開させたい彼だが、アザゼルはそれに気づいていながらその『人間』の情報を手渡した。

 

 その意味を推測できないコカビエルではないし、アザゼルも相応のリスクは承知の上での行動だ。

 だからこそ、コカビエルの顔に狂喜が浮かんでもアザゼルは諦めたように溜め息を吐くだけに留めた。

 

「アザゼル」

 

「放置だ。通達したがあれには関わるな。『主人殺し』にもな」

 

「上手く利用すればいいだろう」

 

「失敗した時のことを考えろ、コカビエル。あの野郎、バラキエルを一撃で瀕死にしておいて全く本気じゃなかったんだぞ!!」

 

 アザゼルの記憶に焼き付いた光景を、彼は忘れることは無いだろう。

 何らかの力を解放した瞬間に溢れた炎。数秒にも満たない程度で行使される主神級の出力。

 その余波で魔王級の戦闘行為にも耐えられる結界は砕け、周辺の木々が燃え上がり金属は溶解した。

 

 その姿から感じられただけのものでも魔王数人分。間違いなく余力を余した様子から、山本重國の戦闘能力は主神級の中でも中位には食い込むほどのものだとアザゼルは断じている。

 何より、得体が知れないにもほどがある。

 

 バラキエルを一振で全身を焼いて瀕死にし、続く一太刀でアザゼルに重傷を負わせた。

 それも全く、欠片も本気ではない手抜きで。

 殺す気はあるし力は尽くしているが、それでも本気は感じられないし手を抜いているような奇妙な確信。

 

 周囲への被害を気にしたが故の結果だが、それが伝わらないことで彼の不気味さはいっそう際立っていた。

 結論としては、落ち着いて考えれば良くも悪くも分かりやすいタイプだが、人間らしい奇妙な足枷を持っている。

 正体不明、戦力は単騎で勢力間の均衡を破壊してしまうほど。

 だから放置する他ないとアザゼルは断じているし、コカビエルとて戦争への執着がある故に一先ずは関わるまいという結論を出せる。

 

 それが出来ない者が、果たしてどれほどいるのか。

 

 組織の長の指示を無視して突撃するような者に、果たしてアザゼルは心当たりがあった。

 コカビエルよりもなお質の悪い戦闘狂。ただ強い者と戦いたがる、ある意味純粋な少年。

 

 不用意に伝えてしまえば最後、あれに挑み、そして敗れるだろう。

 だが、懇切丁寧な理由さえあればある程度の自重は出来る。

 故に総督命令としてヴァーリに接触を禁じたアザゼルだが、常ならばそれでよかった対応も裏目に出ることを彼は測りきれなかった。

 

 今代の白龍皇。『神滅具』を宿す半人半魔。アザゼルが拾い、()()()()()()()()()少年。

 今や青年となりつつある彼は自他ともに認める戦闘狂であるが、それに肉親としてアザゼルに抱く情が欠片もないはずもない。

 

 本人が自覚していなかろうとも、それは衝動という形で現れるだろう。

 父親代わりのような男をあわや殺しかけ、魔王すら凌駕する実力者であるというのならば是非もなし。

 己の糧とするに相応しい実力者だと彼は飛び出した。

 

 アザゼルの耳にヴァーリの独断出撃が知らされるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 どれほど強大な存在であろうとも、山本重國はただの人間に過ぎない。

 

 食事を摂らねばならないし、睡眠も必須。誤魔化すことは出来ても解決することは出来ず、無理をした先に良いことは無い。

 大学に通っているとはいえ、それ以外は特に何もしていない重國は基本的に早くに眠り、朝日に合わせて起床する。

 

 起きたら軽く素振りを行い、朝食を用意。

 食べ終えた後、必要があれば大学や買い出しに。なければ屋敷を出ずに素振り、刃禅、黒歌による授業などを行う。

 昼食後も同じであり、夕飯を食べ終えたら風呂に入って寛いで寝る。

 

 現代人らしい娯楽に触れることもあるが同年代に比べれば圧倒的に少なく、ともすれば武士か何かのような生活だ。

 人外が絡めば多少なりとも変動するが、それでもそれを大きく変えることはこれまでなかった。

 

 悪く言えば平坦であり、良く言えば穏やかな生活だ。

 

 彼が黒歌をただの黒猫だと思って拾った時から変わらない生活は、彼女にとっても好ましいものだった。

 護られる申し訳なさこそあれど、己を家族と言って憚らない不器用ながらも真っ直ぐな男。

 主人を殺めたことで追われ続けるだけだった生活ではなく、穏やかに過ぎてゆく何の変哲もない日々。

 

 生き別れてしまった妹を気にかけるものの、彼女は彼女で名前を変えて生きていると知ってしまっている。

 ならばその平穏を脅かす必要もないと判断してしまえば、あとは己の欲望に一直線。

 

 かつてボロボロだった黒猫は今や艶やかな女として無骨な青年の傍らにあり、女として共に暮らしている。

 黒猫の姿であることが多いものの、それは好いた男の趣味に合わせてのこと。

 自称猫好きである重國は猫の姿で擦り寄れば相好を緩ませて構ってくれるし、彼女がそれに味を占めるのは当然の結末だろう。

 

 今日もまた、彼女は黒猫の姿で重國の肩に張り付いている。

 

「んなぁ……」

 

「ふむ、よしよし。落ちるなよ」

 

 彼は歩いて山から街に降り、街から山へと戻る。所謂、散歩という行為を肩に猫を乗せて行うという、パッと見奇行と思われかねないことをやっていた。

 普通、肩に猫は乗せない。乗ってもそのまま歩く人間に張り付くようなことはしない。

 

 よって割と目立っているのだが、今どき珍しい着流しで肩に猫を乗せて散歩する姿も長く住んでいる者たちからすれば見慣れたもの。

 近所というには些か遠いが、近所付き合いによって、山の屋敷に住む者として認知されている。

 

 そうして特に姿を隠していない為に、ヴァーリが彼らを見つけるのは容易かった。

 帰路に就く姿を視界に捉え、逸る心を何とか抑えながらも誘われるようにして彼らの屋敷の前へと到達する。

 

 そこまで来てようやく振り返った重國の表情は険しく、黒猫は肩から飛び降りて屋敷の中へと姿を消した。

 

「何か用か、悪魔と龍の気配を纏う少年」

 

 見抜かれている、とヴァーリは感じた。

 己の裡にある力の根源を初見で見抜く慧眼。流石であると、内心で感心した。

 現実は肩に乗せていた黒猫に教えてもらっただけだが、世の中には知らなくてもいいことがあるのである。

 

「……なに、ちょっと腕試しをしたいと思ってね。噂によれば、あのアザゼルを倒したそうじゃないか」

 

「……面倒な」

 

 心底面倒だと吐き捨てるように告げた重國の左手に、鞘に納まったままの刀が現れる。

 外見に特別目立ったところはない。しかし、ひと目でわかるほどの存在感。

 尋常の武器ではないとヴァーリは構え、屋敷の奥から放たれた力の波動が強固な結界を構築した。

 

 

「一先ず半殺しだ。死なないように足掻けよ、小童」

 

 

 

 

 

 

 



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面倒事②



ユーハバッハテイストの書いてたら更新遅れました謝りません、勝つまでは




 

 

 

 

 

 

 

 半人半魔。今代の『白龍皇』ヴァーリ。本名をヴァーリ・ルシファー。

 

 古き悪魔の血筋と強力な神器の組み合わせはこの上ない才覚と可能性を彼に与えたと同時に、一つの制限を生んでしまっている。

 強力だからこそ存在するデメリットではなく、彼の頼りとする力が力であるが故の欠点。

 

 すなわち、『禁手』を行わなければ全力で戦闘出来ないというこの一点。

 

 世界の均衡を破壊するほどの力ではあるが、必然発動までにほんの僅かだがラグがある。

 その隙間、僅かな間隙に入り込むようにして腕が伸びた。

 

「なん……ッ!?」

 

「緩いぞ、童」

 

 伸ばされた右の掌が顔を掴み、ヴァーリは上空へと放り出された。

 その時点で膂力の差を認め、空という半魔にして白龍皇に有利な場所へと己を放り出した愚かさを突きつけてやろうとする。

 

 空とは翼あるものの領域。飛行の術はないことも無いが、翼を持つ種族の方が優れているのは道理。

 それ故に僅かな緩みが生まれるが、躊躇なく空中に追撃してきた拳に顔を撃ち抜かれた。

 

「ぐ、ゥ……」

 

「手緩いと言っている」

 

 まともに受けるのはギリギリで回避したが、無傷では済まなかった。

 距離を瞬く間に詰める速度に驚嘆したヴァーリだが、体勢を立て直して直視した空中に立つ男が視界に映る。

 

「───」

 

 翼あるものの有利など関係ない。

 まるで大地に立つが如く空を踏み締め、刀を抜く素振りすら見せない男は明らかに手を抜いている。

 

 致命的な隙を晒したヴァーリを葬らず、致命となる一撃もない。

 今もこうして追撃せずに待っている様は、手緩いと言われるのはどちらかという話である。

 

 故に、彼は心の底から憤怒した。

 

 

「──『禁手化(バランス・ブレイク)』!!!」

 

 ──『Vanishing Dragon Balance Breaker』──

 

 十三の『神滅具』の一つ、『白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 二天龍の片割れ、白き龍の封じられた『神器』。半減という特異かつ強力な能力を保有するそれは、触れたものの力を半分にして獲得するという凶悪な性能を誇る。

 

 その禁手、『白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)』の能力は当然その延長線にある。

 半減という特性をそのままに、対象への接触という制限を取り払い、半減対象の上限も底上げされる。

 

 その気になれば空間すら半減によって圧縮可能なそれは、人間を相手にするには明らかに過剰。

 

 増してや、ヴァーリは魔王ルシファーの血を引く者。その最大出力は過去最高であり、当然のように重國の肉体を捻じ切らんとヴァーリを中心として空間が縮小する。

 

「──効かん」

 

「ああ、そうだろうさ!!」

 

 だが当然のように半減の枷を引きちぎり、外部へと出力された白龍皇の力を重國は霊圧で捩じ伏せた。

 そこには些かの痛苦もなく、あるのは悠然と佇む人の姿。圧倒的な力を放つ、高すぎる壁。

 

 なにせ、半減して減ったから増やして対応しているのではなく、そもそも干渉仕切れていないから減っていない。

 それはつまり、ヴァーリの干渉成し得ぬ神の領域に重國があるということであり、厳然とした実力の差が横たわっているということ。

 

「だがそれでこそ、挑む価値があるッ!!」

 

 その程度で衰える闘志はなく、即座に音を置き去りにして突撃。

 目視困難な速度までノータイムで加速した拳を正面から叩き付け、差し込まれた掌に受け止められる。

 

 直接接触したことにより半減をより強く作用させるが、膨大過ぎる総量と干渉を許さない制御力によって無視される。

 次いで、重國が動作を行う前に側頭部へと爪先を叩き込み、半身をそらして回避された。

 

 伸びた足を掴まれ、引き寄せられる。

 抵抗するヴァーリだが、膂力の差は歴然だ。そのまますれ違うように引かれ、交差の瞬間に離された腕がヴァーリの顔面を交差した腕の上から殴打した。

 

 鎧は砕けこそしないものの尋常ならざる衝撃が彼の腕を貫き、広範囲に張られた結界に衝突するほど吹き飛ばされて漸く停止した。

 

『……ヴァーリ』

 

「っ、問題ないさ」

 

 余りの規格外に『神器』に宿る龍が口を挟むが、何を言わせるでもなく黙らせた。

 元より格上であることは承知している。これを超え、さらなる高みへ至るのだと闘志を燃やして彼は飛ぶ。

 

 未だ刀を抜く気配のない重國を必ず本気にさせるのだと奮起する。

 その気配を察知したが故に、彼はそれを手折ろうと踏み込んだ。

 

「速いッ──!?」

 

 何らかの歩法か。視認すら能わぬ速度を以て懐へと踏み込み、拳骨を腹部に当てる。

 

 ただの正拳突き、あるいは拳骨。

 しかし発生するのは砲弾の如き轟音と大気を震わす衝撃。

 

 

「『一骨』」

 

「──────!!?!?」

 

 痛みによる叫びすら溢れない。

 強過ぎる衝撃がヴァーリを鎧越しに打ち据え、呼吸を無視して息を全て絞り出させた。

 

 鎧は砕け、内臓は破裂さえしなかったものの、幾つかは傷ついたのだろう。

 フルフェイスの内側は血の味と匂いで満たされている。もし鎧がなければ、今の一撃で死んでいた。

 

「存外に頑丈だな、小童」

 

「……そういう、君はっ、ずいぶんと……手緩いじゃないか」

 

「半殺しにすると言った。捕らえて吐かせるんだ、死なないように気をつけろ」

 

 アザゼルとバラキエルを瀕死にした炎は、その片鱗すら見せていない。

 ヴァーリは鞘で殴打されることも無く、ただ片手で払われているだけだ。

 

 多少は戦うという行為を行っているが、もはや真っ当な戦闘として成立しているかも怪しい。

 本気になられればその時点で敗北が確定する。

 

 そして、今のヴァーリではその本気を引き出すことは出来ない。

 皮肉にも、彼はこの場でそれを誰よりも理解していた。

 

 鎧で直接接触し半減を作用させようとしたからこそ、山本重國という人間の内側にある力の総量を感じ取ったヴァーリは、彼我の差を正確に把握出来ている。

 

 三大勢力の悪魔に当て嵌めた魔王級などという枠組みでは測れない。

 四大魔王程度では測れないと、身近にそういう存在がいるヴァーリは痛感している。

 

「ああ、堪らない。忌々しいほど強く、清々しいほどに圧倒的だ」

 

 今も泰然とヴァーリの動作を待ち受ける姿は、聳え立つ山の如く。吹き出す力は火山を思わせ、押し潰されそうな重さと焼け死んでしまいそうな熱さを感じる。

 アザゼルを相手にしてもこうはならない。重國はヴァーリの記憶にある誰よりも強烈で、鮮烈だった。

 

「我、目覚めるは───」

 

 だからこそ、傷ついた肉体での行使は確実に後に障ること理解しながら、ヴァーリは奥の手を行使することを決意する。

 全霊を尽くし、命を振り絞って戦わねばならないと強く思う。せめて、刀を抜かせる程度は成してみせると。

 

『やめろ、ヴァーリ! 徒に命を削るだけだ!!』

 

「覇の理に────!?」

 

「それを使われるのは困る」

 

 止めてくれるな、と相棒たる白き龍のアルビオンへと心の内で言いながら詠唱を紡ごうとしたヴァーリだが、それはさせんと脚部に突き刺さった拳によって強制的にそれを中断させられる。

 

「きさ、ま……!」

 

「練られる力を見たところ、かなりの技だ。結界が壊れてはいけないから、禁止にさせてもらおう」

 

 それはヴァーリに全力を出させないと宣言したのと同義だった。

 ドラゴン系神器の持つ奥の手。命を対価として一時的に莫大な力を得る『覇龍』は、黒歌の張った結界程度であれば発動の余波で破壊しかねない。

 

 そう判断した重國がそれを使用することを許すはずはなく、そうなれば最後、ヴァーリは死力を尽くすことすら許されない。

 

 諦めて投降するか、戦意を消失するまで嬲られるか、意識を失って囚われるかの三択である。

 

「いい加減に分かったか、半魔の小童」

 

 勝ち目などない。彼の求める戦いなど成立しない。彼我の差を覆すような覚醒などありはしない。

 万が一、億が一を起こす奥の手など使えない。

 

 内臓を直接掻き回されるような痛みに苛まれながら、ヴァーリは体力を失って倒れる時まで甚振られる。

 

「まだ……!」

 

「哀れな」

 

 吐き捨てると同時、拳がフルフェイスの兜を砕いて顔面を殴打する。その場で堪えたが、顔面を鷲掴みにされて結界に投げつけられた。

 

 未だ意識を保つヴァーリを見て、鳩尾に拳を捻り込む。

 それも、ただ当てるのではなく抉り込むように。

 

「──ぐ、ぅ」

 

「終いだ、眠れ」

 

「俺、は…………」

 

 失血と痛みによってヴァーリの意識が飛ぶ。呆気なく終わったが、しかしよく保った方だろう。

 嬲り殺しのような状況でも諦めない精神には重國も感じるものがある。

 

 鎧が消滅して脱力し、落下していくヴァーリの服を掴んで屋敷へと向かう。

 彼は衣服に解れすらなく、肌にかすり傷の一つもなかった。

 

 

 

 

 

「捨ててきなさい」

 

 ヴァーリを連れ帰った重國を見た黒歌は、開口一番そう言い放った。

 犬猫じゃあるまいし、と返した重國だったが、犬猫じゃないんだから拾ってくんなよというのが黒歌の主張だった。

 

 ド正論だった。反論の余地が欠片もなく、捕虜にして情報を取ろうと言えば、土蔵に押し込んで封印しとけばいいと返される。

 捕虜の扱いとしてどうなんだろうと悩んだ重國だったが、まあ放り捨てるよりは戦果有りの方がいいかと、気絶したヴァーリを土蔵に叩き込んで封印させた。

 

 一応、死なないように多少の治療は施されたので死ぬことは無いだろう。

 次に土蔵を開けた時に死体になってたらやだなぁ、と思う重國だったが、その懸念が翌朝に訪れる堕天使によって解決されるとは夢に思っていない。

 

「……ねぇ、なんで殺さなかったの?」

 

 そして当然、初めて敵を生け捕りにして帰ってきたことに黒歌は疑問を抱いている。

 これまでの敵対者は黒歌の結界の範囲に誘い込むか相手の誘いに乗るかして、例外なく殺してきた。

 

 それをいきなり覆すのにはそれなりの理由があるのは間違いないのだが、今度はその理由がわからない。

 とはいえ、こんなことで隠し事をするような仲ではない。重國は真面目な表情で口を開く。

 

「あの『白龍皇』は悪魔かどこかの陣営に所属しているはずだ。身柄を使えばお前に関することで役に立つかもしれない」

 

 白龍皇が襲ってきたタイミングは奇妙という他ない。アザゼルとの戦闘を悪魔に察知された可能性も高いが、それにしてはこれまでと毛色が違った。

 

 そうなれば考えられるのは野良かどこぞの勢力の所属というところだが、強大な『神滅具』である『白龍皇の光翼』の所有者の身柄を渡すといえば多くの勢力がそれを欲するだろう。

 

 その対価をせしめることも決して不可能ではないし、悪魔にも会話ができる存在はいるにはいる。

 なんなら堕天使に売りつけてもいいな、と重國は考えていた。いずれにせよ、黒歌の為になにかしてやれるだろう、とも。

 

 出会ってから数年経って、ひっそりと二人で暮らすことに慣れてきても重國が黒歌の為に悪魔とすら交渉するつもりだと分かって、彼女はなんとなく居心地が悪くなった。

 

 決して嫌では無いのだけれど、なんというか顔を見れない。そんな心境で口を開く。

 

「…………別に、いいのに」

 

「ただのお節介だ。受け取ってくれ」

 

 微妙な表情をする黒歌の頭を乱雑に撫でたので、彼女は拗ねたようにそっぽを向いた。それに彼は苦笑しつつも、撫でるのをやめようとしない。

 

 無言で頭を撫でる光景は重國の腹が音を鳴らして空腹を訴えるまで続いた。

 

 

 



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面倒事③



気づいたらお気に入り4500超えててめんたま飛び出しました。このような駄作にお付き合いいただき感謝します




 

 

 

 

 

 堕天使の長アザゼルは、目の前で胡座をかいて座る男に頭を抱えたいのを堪えながら対面していた。

 座布団の上に胡座の重國に対し、アザゼルに直座りを強制したのは猫魈の女だったが、何も言わなかったあたりから察するところもある。

 

 ヴァーリが独断で仕掛け、それを捕縛しているとは門の前で聞かされたことだが、これは相当絞られるか最悪死んだな、と一周回って冷静な思考は判断していた。

 

 何せ敵意を抱く理由はあっても友好的になる理由はアザゼルの知る限り一欠片も無いのである。ダメ元で訪問した瞬間に殺されなかっただけマシというもの。最悪首一つで襲撃回避だったが、話が出来そうなのはよかった。

 もしやと思っていたはぐれ悪魔もいるし、完全に地雷を踏み抜いてたんだなぁ、と今更肝が冷えていた。

 

 あの時斬りかかってきたのは、今も朝食を用意すると言って台所であれこれしている悪魔が理由で間違いない。掛け合いを見ている感じ、相当に親しいのだろう。敵には苛烈、中立には普通、身内には甘いタイプだと分析する。

 

 そうなると、お互い不干渉にするのは悪くない提案だと思っていたアザゼルだったが、彼女についた『はぐれ』を取り下げさせない限り完全な和解は出来る気がしない。今は穏やかな空気を纏っているが、つい先日の警戒丸出しの姿と苛烈な気配はその皮一枚隔てた裏側にある。

 

 正直絶対に争いたくないので悪魔側が彼女を狙うのを妨害してもいいのだが、そんなことをすれば戦争に向けて一直線。取れる手段は魔王に連絡して取り下げさせることくらいだが、それはそれで不可能だろう。

 

 一応、上位の堕天使がこの辺りで蹴散らされたことで一帯を悪魔側が立ち入り禁止にする口実は出来ているのだが、欲をかいた愚か者は出てくるだろう。もし仮に、万が一だが女に何かあった場合、どういう手段に出るか全く分からないのが恐ろしい。悪魔に矛先が向いて開戦した場合、堕天使の過激派を抑えられる保証はない。

 

 最近舞い込んだ新たな『神器』の保持者のことも重なり、アザゼルの胃には今にも大穴が出来そうだ。

 

「……さて、あの半魔の小童についてだったか」

 

「完全に俺の落ち度だ、申し訳ない……!」

 

「……組織の長が素直に頭を下げるとは」

 

 所々古臭い空気を纏いながら告げた重國は湯呑みを傾け、机を挟んだ先で畳に額を付けた堕天使の長を見る。間違いなく交戦を避けるためであろうし、少しでも心証を良くしたいという意図からだろう。

 

 だが、一組織の長として軽々と頭を下げていいものでは無いだろうに、躊躇なく頭を下げて謝罪する姿勢には重國も思うところがないでもない。多くの命と未来を背負う者である以上、一介の人間に頭を下げることがどれほど大きなことか理解していないはずもない。

 

 それでもなお頭を下げて額を畳に付けたという事実は、とても大きな意味のある事だった。

 

「いつまでも頭を下げていても始まらないだろう。ひとまず楽にしろ」

 

「すまねぇ……」

 

 先日の遭遇時の態度が嘘だったかのように大人しい堕天使の様子に、内心で僅かに動揺する。これは『流刃若火』が効いているな、と黒歌が絡んでカッとした過去を全肯定した。

 

 実際のところはそれに加えてヴァーリがやらかしたこともあっての態度なのだが、重國は捕らえた少年がそんなにまともに扱われているとは知らない。

 アザゼルを生かして招き入れた用件へと話を進めるべく、有利を失わないように会話を進めていく。

 

「改めて聞くが、捕らえた小童は堕天使の所属で間違いないと?」

 

「その通りだ。手を出さないように通達したんだが、逆効果だったらしく飛び出しちまってな……」

 

「ふむ」

 

「都合のいいことを言ってるのは分かってる。対価を差し出せってんなら差し出す。だからどうか、あいつの身柄を返して欲しい。この通りだ……」

 

 勢いよく頭を下げ、再び土下座に移行したアザゼルに、重國は内心で「む?」と首を傾げた。どうにも、誘導したかったところに勝手に向かっていくくらいにはあの少年は大切な者だったらしい。

 

 いくら『神滅具』の所有者とはいえ、たかが『神器』所有者の一人にそこまでするのかと思った重國だったが、この点に関しては彼の価値観が些かおかしいという他はない。

 

 どの勢力も『神滅具』が手に入るなら喉から手が出るほど欲しいし、ヴァーリに関してはアザゼルからすればこんな所で失うわけにはいかない存在だ。それが重國からはそれほどまでに強力な『神器』なのかという感想である。そして、確かに、最後に見せようとした力は凄まじいものだったと思い返した。

 

 この世界の存在の強さの基準があやふやな重國と、魔王や神といったものを明確な基準とするアザゼルの差でもあった。とはいえ、重國に関しては仕方の無い認識のズレではある。一手間あるにも拘わらず最初から『神』を相手に出来るような力を持って生まれた彼は、その感覚の狂いを自覚できる環境にはいなかったのだ。

 

 そして、そうしたすれ違いが結果として良い方向に事を運んだ。重國からすれば本気になれば容易く殺せる相手に『神滅具』を返したところで問題は無いし、アザゼルからすればそれで返して貰えるなら組織としても多少の対価は安いものだった。

 

 果たして、重國はそのまま頷いて答えを出す。

 

「下げられた頭に免じ、幾つかの条件を飲むならば、身柄を返してやってもいい」

 

「ほ、ほんとうかッ!?」

 

「お、おう。分かったから身を乗り出さないでくれ、そっちの気はない」

 

 急に元気になって身を乗り出したアザゼルの姿に失敗したかなぁ、と不安になりつつもそれを押し隠した。顔を押し返して元の位置に戻し、予め考えておいた条件を提示する。多少順序は狂ったが、早送りできたので良しである。

 

「まず、最低条件としてあの『白龍皇』と同価値のものを差し出せ。物でもいいし人でも許してやる。ああ、人の場合は生活費も忘れずにな」

 

「…………『同価値』だと?」

 

「そうだ。もう『神滅具』は持っていないのか? ……まあ、十三しかないなら仕方ないことか」

 

「…………」

 

 アザゼルの内心の葛藤を無視して、最低条件として『同価値』の存在を要求したまま譲る気は無いらしい。どうするのかと問いかけてくる瞳は鋭く、拒否すれば間違いなく決裂するだろう。

 

 それは避けねばならないと強く思うが、かといって差し出せるものはない。確かに『神滅具』を保有する存在はいるが、彼の身柄を預けるのも大きな問題がある。

 そうなれば『同価値』のもの、存在など該当するのは一つしか残らないのだが、かといってその手段を選ぶのならば確認しなくてはならないこともある。

 

「……仮に人を差し出した場合、どう扱うつもりだ?」

 

「客人として丁重に扱う。そのくらいの優しさはある」

 

「優しさ、ね……」

 

 嘘を言っているようには見えないし、本当に手酷く扱うつもりはないのだろう。そうであるなら預けるのも吝かではないのだが、こればかりは本人の確認も必要となる為に即断は出来ないところでもある。だが、ここで答えを持ち帰らせてくれと言う訳にもいかないだろう。

 

 何せ不興を買って決裂すれば最後、アザゼルの首はこの場で宙を舞う可能性がある。内密にシェムハザに有事の際のあとは任せたとはいえ、それは最悪の場合を想定してのこと。皮一枚剥ければ現れるであろう苛烈な側面が出てくる前に話をつけれるならばつけてしまいたいところだった。

 

 特に近年は三大勢力にとっては非常にデリケートな状況が続いており、ここでアザゼルが失われるのはあまりにも痛い。そのリスクを敢えて抱えながらこうして来た以上、あの『少女』を彼に預けてしまうのも悪くない選択なのだ。

 

 ただ、アザゼルに芽生えてしまった、『神器』によってその人生を狂わされた『少女』への良心が痛むだけで。

 

「……話を飲もう。明日にでも連れてくる」

 

「左様か」

 

「…………」

 

 とある筋から身柄を渡された一人の少女の未来を決めてしまったことに罪悪感を感じ、大切にしてやってくれと言おうとして口を噤む。どの口で言うんだろうなと内心で自嘲して、組織の長としてより利益を獲得出来るものを選んだことを心に刻みつける。

 

 きっと、重國がその内心の全てを知れば、悪党になりきれない悪党だと評価しただろう。だがそんなことはなく、彼は組織の長として()()()判断が出来るのだろうなと思われるにとどまった。

 

 アザゼルの苦々しい顔から始まった取引だが、これはあくまでも最低条件。堕天使側、アザゼル側に対する重國からの担保の要求でしかない。身柄を返して重國が獲得したいものは別にある。

 

「先に聞くが、彼女の『はぐれ』の認定は取り消せるか?」

 

「無理だ。悪いがそればかりは魔王の管轄になる。その上、悪魔社会は転生悪魔に対してあまり良いとは言えない環境だ。魔王が取り消したくても難しいとは思うぜ」

 

「……まあ、凡そ予想通りか」

 

「……どうするつもりだ?」

 

「いや、別に? お前に言っても無理だろうとは思っていたからな、地道にやる。それにお前は堕天使だろう?」

 

「それはそうなんだが……」

 

 いまいち釈然としなが、思っていたよりも軽い反応にアザゼルは安堵した。これで『はぐれ』認定を取り消すように働きかけろと言われていたらと思うと気が遠くなる。思っていたよりも理知的というか、理解があるというか。

 

 どうにも、初見の時の印象と噛み合わないチグハグさを感じて仕方がなかった。だが、感情の制御が未成熟であると仮定すれば無理のない話でもないとアザゼルは一人で納得する。かなり入れ込んでいるようだし、味方する空気を出せばいいのではとすら思う。

 

「あんまり言いたくねぇが、悪魔は間違いなく狙ってくるぞ?」

 

「承知の上だ。その上でお前に要求することがある」

 

「……おう」

 

「可能な限りでいい、この一帯に近づくな」

 

 極めて軽い要求に、アザゼルは拍子抜けしてしまった。そんな要求を飲む程度は難しいことでは無いし、好き好んでこんな爆弾に関わりたくもない。あのコカビエルであってもリスクとリターンを考慮すれば関わらないだろう。

 

 アザゼルが目をまん丸にしているのを見つつ、重國は次々と要求を重ねていくことを決めた。

 

「連れてくるということは、こちらに預けるのは人なんだろう?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「その人の食費を毎月、指定した口座に振り込め。二、三万もあれば足りるだろう」

 

「……お、おう。割と金に困ってんのか?」

 

「預金はあるが節約は基本だ」

 

「……仕事、回してやろうか?」

 

「…………………………」

 

 長い沈黙が降りた。目は見開かれ、驚愕したと顔全体で表現して硬直している。その様は完全に予想外の出来事に遭遇した時のそれで、冷静で穏やかだった気配は動転して荒れ狂ってすらいた。余程お金について悩んでいるらしい。

 

 内心で印象が二転三転していくアザゼルだったが、同時に山本重國という青年の性格が見えてきた。長い経験から導かれた思考と垣間見えたその本質に、思わず頭を抱えたくなる衝動が湧き上がるのを抑えられない。

 

「………………次の要求の話だ」

 

「いいのか?」

 

「次の要求の話だ」

 

 たっぷり五分ほど唸っていたが、無かったことにしたらしい。仏頂面で無理矢理話を切り上げた姿にアザゼルももはや何も言わず、次の要求を飲む構えを取った。

 

「魔王と会いたい。場を整えろ」

 

「なんだと?」

 

「魔王に会うと言っている」

 

「いや、それはわかるが……」

 

 何故だ、という思いが強い。直談判してどうこうなる問題でもないだろうし、この辺りに近寄らないようにしろと言えば対価を要求されるのは分かっているだろう。だからこそ会おうとする理由が不明なわけだが、会わせること自体は可能なために断ることはない。

 

 全くもって解せない。会って話が拗れて険悪になりました、なんて洒落にならない。魔王は愚かではないが、為政者として譲れないものもある。噛み合わなくて戦闘、なんてオチは避けねばならない。だからせめて理由を聞こうとアザゼルが決めれば、それよりも先に重國の口が動いた。

 

「まあなに、少し話をしておこうと思ってな?」

 

「…………」

 

「愚物ならばまあ、堕天使の代わりに滅ぼしてやっても良い。悪い話ではないと思うが」

 

 恐ろしいことをしれっと述べる姿に怖気がした。出来る出来ないの話をしようとしても、喉元までせり上がったそれを口に出すことは出来ない。心のどこかで、この男ならやりかねないと思ってしまったから。

 

 ただの人間。神の領域に踏み込んだ力を持つとはいえ、冥界という広大な土地に住む悪魔を滅ぼすことなど不可能なはずなのに。何故か。アザゼルにはそう思うことは出来なかった。

 

「最後の要求だ」

 

「おう」

 

 そんなアザゼルの心境を推し量るつもりもないのか、或いは推し量ったからこそ畳み掛けているのか。仏頂面を崩さない重國は湯呑みを一度傾け、その後に湯呑みが机に置かれる音が妙に響いた。

 

「三大勢力とやらで何かあれば俺に伝えろ。時と場合によっては手を貸してやる。特に悪魔絡みか、弱みになる案件ならなお良い」

 

「……は?」

 

「曲がりなりにも均衡とかいうのを保ってきたんだろう。俺が手を貸してやってもいいと言っているんだ」

 

 例えば、これが三つ巴の戦時下であったとして。果たして、各勢力がこれほど穏当な部類に入る手段で人を自陣に加えようと動くだろうかと考えた時、重國の脳内でそれは即座に否定される。

 

 無理矢理転生させて悪魔にする乱雑なやり口は増えていただろうし、堕天使は『神器』を宿した者を容赦なく殺して手に入れていただろう。天使もまた同じく。それに何より、それで最も困るのは何も悪くない無関係の人間だ。

 

 いつの日かの、山本重國の家族のような。争いなどと無縁の存在が、今よりももっと多く傷つくことになる。それならば、今を維持しながら改善に向かわせた方がいい。重國にとって多くが悪である彼らにも罪なき命はあり、無垢なる子はいることを知ってしまっているから。そういった感情と多数の利益の天秤を計り、彼は折り合いをつけている。

 

 それはそれとして黒歌は家族なので別枠なのだが、重國という傘が大きくなればなるほど彼女を守ることも出来るようになるだろう。要は三大勢力への『貸し』の押しつけだ。悪魔に手を貸して返済として『はぐれ』を取り消させたり、黒歌から聞いた主人だった悪魔の調査だったりをさせればいい。

 

 そういった次の打算に繋がる最後の要求だが、そうであるとは知らずとも、その裏側に何らかの要求があることはアザゼルにも伝わった。それが黒歌に関することだろうとも直ぐに予想できる。そして彼らにとって大きな利益になることも理解出来るが故に、断る道理はない。

 

 何よりも、山本重國という『力』は強烈だ。

 

「ハッ、そこまで体張ってあの悪魔を庇いてぇのか」

 

「『家族』だからな。当然だ」

 

 茶菓子に手を伸ばす重國は心底からそう思っているのだろう。答えに淀みはなく、声には相応の重みがあった。

 

「全ての要求を飲んだなら一度帰るといい。あの小童は土蔵から出しておこう」

 

 煎餅を片手にさっさと行けと手を振る姿に完璧に毒気を抜かれ、来る前と後で百八十度変わってしまった印象に思わず溜息を吐いた。取引とは名ばかりの要求の押し付けだったが、アザゼルとしては得難い収穫となった。

 

 彼が『山本重國』という人間を少なからず理解したことは、間違いなくプラスに働く。

 

 積極的に争いを好むのではなく、必要な争いを必要だから行うだけ。敵には苛烈に、味方には甘く。会話の場ではそれなりに。それらも全て()()()()()。結局のところ、アザゼルとバラキエルを殺しかけたのも必要だと感じて行った効率のいい手段に過ぎない。ヴァーリを生け捕りにしたのだってそうだ。

 

 そして、その行動の起点は『家族』と呼ぶ猫魈の悪魔だ。ドラゴンの逆鱗に等しいそれにさえ触れなければ、意外と付き合うのは楽そうだとアザゼルは認識した。それが正解かどうかは別として、彼はまずまずの成果を得ることは出来た。

 

 後に互いがどのような結末になろうとも、今この瞬間において、彼らはきっと最善を選べたのだと信じていた。

 

 

 



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